心を塞いだ少女と心が焼け墜ちた少年 (まふゆに狂い始めた少年)
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深夜2時の邂逅
都合のいいおもちゃは使い尽くしてから焼きましょう。
そうすればみんな仲良し。
メラメラと、もえるおとがきこえる。
あれほど当たり前に存在していた自分の居場所も、帰る場所も。
あれほど楽しかった思い出も。
そして家族も――
みんなみんな燃えて、朽ちて、そして消えていく。
――はて、
俺はぼんやりとその燃える様を眺める。
そこで決まって人型だったモノたちが燃え墜ちた瓦礫からどろりと、ぬめりと起き上がり彼らは俺に問いかける。
なんでおまえが生きている?
死ぬのはあんたの方なのに
顔のない骸がそう問いかける。
――そんなこと、俺の方が聞きたい。
お前のせいだ。お前のせいだ。
ウジのように湧き出る骸は叫ぶ。
そこで、溶け墜ちた腕が俺の脚を掴もうとしようとしたところで
目の前に最近ようやく見慣れてきた天井だけが視界に広がっていることから、さっきのは夢であったと自覚して目を覚ます。
「また、この夢か……」
これでこの夢を見るのは二十四回目になる。
まったく嫌になっちゃうね。
ふと、辺りを見渡し、そばに置いてあった時計を見ると短針はまだ2時と中途半端な時間を示していた。
あーもう、寝ようにも寝にくい。
訳あって
「……寝るにしてもだし、外の空気でも吸おう」
仕方がないので隣の部屋で寝ているであろう
涼しくも過ごしやすい空気が肺に行き渡る。
――うん、やっぱ夜の空気は澄んでいて落ち着くね。
この埋まらない洞を満たしてくれる。
「そろそろ戻ろう……ん……?」
いい感じに落ち着いたから二度寝と行こうと部屋の方を見ると、
どうやら人らしいけど暗くてよく見えない。
――ねぇ、キミ。
部屋の方から、正確には人型の影から女性的な声が聞こえた。
「ッ!?」
思わず叫びそうになるが、深夜なので死ぬ気で堪える。
人型の何かがしゃべった……いや、しゃべるというよりはテレパシーに近い感じだ。
――その通りだよ、初めまして■■■くん。
私は
「はじめ……まして、未来さん……」
この謎な人影は初音ミクという人らしい。
よく見ると髪がツインテールみたいだ、長い。
俺はその姿をちゃんと見るために部屋に近づこうとする。
が、何故か体が動かない。
――まだ来ちゃだめ。まだちゃんとした出会い方をしてないから。今回は私が気になったからこうして会いにちゃっただけだから
「それはどういう……」
事だ、と言おうしたときには既に初音らしき人影は消えていた。
同時に耳元を風と共に声が響いた。
――すぐにまた会えるよ、■■■くん。君の
「……何だったんだ、今の」
きっと寝不足が見せている幻覚だろう、と片付け、無機質な
見切り発車短篇です。
続きは作者が知識を蓄えたら出るかも。
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登校、そして目撃
消えるはずの命を救ってもらってしまったのならこの使い道など一つしかないだろう。
そうでなければ、この命の価値はないに等しい。
『──君の
その言葉を言ってミクとか言うあの人影は最初からいなかったかのように消えた。
──あのセリフはいったいどういう意味なのだろうか。
今じゃあもう殆ど覚えちゃいないが、小学校の時からまふゆとはよく
まぁいいか、あの言い回し的にそのうちわかる時が来るだろうし。
昨日見たいつもの夢と謎の人物との会話で疲れた俺はそのまますぐに眠りについた。
それからウトウト寝ていると、何やら布団をゆさゆさと揺らされている感じがする。
「ん……おはよう、
「うん、おはよう
そう言いながら少しだけ
本歳17歳、だったはず。
「もうそんな時間か……今起きるよ」
「うん、……先に学校行ってるね?」
「ん。わかった」
まふゆはそう言って俺の部屋を閉じた。
……起こしてもらったし準備しよう。
眠たい瞼を擦りながらようやく慣れてきた神山高校の制服に袖を通す。
「……やっぱり、気が重いなぁ」
でも、これが今の俺やるべきことなんだしがんばろう。
そうだな、
「あら、おはよう夏人くん。よく眠れたかしら?」
部屋から階段を降りるとまふゆのお母さんが呼びかけてきた。
俺は15歳の三月、つい先月にある事情で家も家族も消えてしまった時、ほぼ死にかけだったところをまふゆのお父さんに助けられて以来、御厚意でこうして居候させてもらっている。
ただ、
──助けられたのなら、それ以上に恩を返さないといけないのだから。
「はい、それなりにはちゃんと眠れましたよ」
「それはよかったわ~」
うふふ、とまふゆのお母さんが笑う。
「夏人くんはうちでの暮らしにはそろそろ慣れた?」
「そうですね、そろそろ二ヶ月位も経ったのでだいぶ慣れてきました」
当たり障りのない会話をベラベラとしつつ、お母さまが作ってもらった朝ごはんの食パンとハムエッグを頬張ると旨味が口の中に広がり幸福感を運び込む。
つまり、美味いってことだ。
しばしのモグモグタイムを堪能していると、まふゆのお母さんが
「ところで夏人くんは学校生活と上手くいってるのかしら?」
「まぁ……上々、ですかね」
ここ最近、特に高校入学してからというもの、しつこいぐらいに『友達とはうまくいっているか』『勉強は問題ないか』と聞いてくる。
特に問題は何もないので上々と答えはしたが……恐らくこの人の実の娘であるまふゆにはもっとしつこく聞いているかもな……
さっきのまふゆといい、なんか俺がまだ覚えてる頃のまふゆとさっき俺を起こしてきた時のまふゆとは何かが違う。
あまりそういうのを気にしなくとも大丈夫な問題とはいえ、この奥につっかえる感じのとっかかりが気になる。
……今の生活に余裕が出て来たら少し探ってみるか。
「それじゃ、そろそろ学校に行ってきます」
「はぁい、いってらっしゃい」
ガチャりと家のドアを開けて学校へ向かった。
トコトコと歩くこと二十分、五月特有のちょうどいいくらいの暖かい風に吹かれながら歩く。
人の波に揉まれつつ、昨日の怪現象の事を考えながらぼんやりと歩いていると見覚えのある濃紺と暗めな水色のツートンカラーの少年を見つけると、向こうも同時に気づいたようで呼びながら近寄ってくる。
「おはよう、ナツ」
「ん、おはよー……ふぁぁ」
すこしウトウトしながら生返事をすると俺と同じクラスのツートンカラーの少年、青柳冬弥は少し心配そうな表情を浮かべた。
「……昨日は寝れなかったのか?」
──まぁ、よく寝れはしなかったな。
「まぁ変な夢を見ちゃってな……」
嘘は言ってないからいいだろう。
それからは特にたわいのない会話をしていると、目的地である都立神山高校に着いた。
相変わらずでけぇな、ここ。(個人の感想)
下駄箱で靴を履き替えていると、何やら廊下の方が騒がしい。
どうでもいいけど見てみようか……
「さっきから向こうの廊下あたりが騒がしいけどなんかあったのか?」
「わからない、ただ、一度見に行く価値はありそうだ」
その騒がしい人だかりを覗くと、その喧騒は廊下の先で生徒と話しているある一人の
「あ、久しぶり瑞希! 珍しいね~」
「おっひさー! いやー担任にさぼってんだからちゃんと補講受けなさいって言われっちゃってさ~」
「あーね! がんばってね瑞希」
「……うん!」
そう言って女子生徒にはにかんでいる瑞希という少女の目が一瞬こちらを見た気がした。
いや、そんなはずはないな。
でも。
無性に何故かそうだとは言い切れない自分がいた。
「……どうしたナツ?」
「いや……気のせいだよ」
「だといいが……」
冬弥は少し引っかかるような反応だったのを他所に俺は今日の教科をカバンから机に流し込んだ。
「へぇ……あれが
少女は得物を見つけたように笑う。
続いたねぇ……朝比奈ァ!が可愛すぎるのと奏の覚悟のガンギマリ具合に戦慄したりよりどっぷりニーゴに沼りましたねぇ……
次回ものんびり待ってもらえると嬉しいです。
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尋問、理解、噂の判明。
その道に行くのならその最期まで救う方法を探し出せ。
大丈夫、俺たちの自慢の■■なんだから。
徐々にお腹の空腹虫が声を上げ始める四時間目。
「えーこの公式は○○が○○であるからとして……」
カリカリと黒板の板書と大事なところをノートに書き込みながら、俺はここ最近にあった出来事を振り返る。
まず昨日の深夜の出来事。
あれはいったい何だったのだろうか、あの人影のようなものはいつあそこに現れたのかも不明。
しかもまふゆの秘密を知っているような口ぶりで『彼女をよく理解しろ』と来たもんだ、ますます解らん。
そしてあの人影の名前、『初音ミク』とか言った存在。
朝のSTの時にこっそりと調べたところ、今流行りのヴァーチャルシンガーというもののキャラクターの一人らしい。
だが、ヴァーチャルシンガーというのは所謂人によって人工的に創られた存在。
──この世に肉体として実在する、なんて事は本来あってはならない事象の筈だ。
それと今日の朝の一件、あの少女を見た時に感じた、
あれは一体何だったのか。
遠くから冬弥と見ていたはずなのに彼女と目線が合ったような気がしたのは多分勘違いな筈が無い……
それに、あの目を、表情を何処かで見た気がしてならない。
一体彼女は何者なのかとぼんやりと考えつつノートを書いていると、生徒達には嬉しいお昼休みを告げるチャイムが響き、四限の授業が終わる。
皆張り詰めた風船が抜けたように談笑する。
「はぁぁ終わったぁ……やっと飯の時間だ」
「お前今日の昼何よ?」
「俺はカツサンド、そっちは?」
「ふっ、俺は特大ツナマヨおにぎりだッ! 重量500グラムのバズーカに驚くがいい!!」
隣の席の男子の会話が耳に入る。
カツサンドも羨ましいけどなんだよそのバズーカおにぎり、旨そうじゃねぇか。
さて、茶番を見るのはやめにしてご飯を食べようか、という時に何やら視線を感じたので顔を上げると、今日の朝見た女子生徒がいた、なんでさ。
よくよく見ると一年のスカーフ? っぽいのをつけているので同い年だろう。
わざわざ直接来るとか厄日なんか今日は?
「ええと、何か用事でしょうか?」
「うん! ちょっと聞きたいことがあってさ。今から出良いならちょっと付いてきて」
「は、はぁ……まぁいいですけど」
俺が困惑していると隣にいた冬弥がじーっとこっちを見て言う。
「……なんか悪いことでもしたのか、ナツ」
「そんなのこっちが聞きてぇ……」
俺はがっくしと項垂れながらその女子生徒に付いて行った。
「……よしっ、ここなら誰かに聞かれる心配もないね」
そのまま少女に連れられるまま付いて行くとそこはうちの学校の屋上だった、ちなみに結構高いから少し怖い。
「……それで? なんで屋上までくる必要があったんですか?」
「んー、それぐらい大事な話だから」
「そんなに大事なのは分かりましたけど、俺はまず君の名前すら知らないんだ。自己紹介ぐらい無いと困る」
正確には下の名前は
ただいきなり下の名前を呼ぶのは失礼すぎるだろうと言う観点から聞いている。
決して話すのが苦手だから定型文が必要だからと言うワケではない。
「おっと……そういえば忘れてたね、ボクは
暁山瑞希、まだ中間テストすら始まってないのに補講があると噂の少女がいると冬弥とC組の彰人から聞いていたが、こいつが……
「自己紹介感謝するよ、俺は夏人、気軽にナツと呼んでくれ」
「うん、それじゃあよろしく、ナツくん。さっそくなんだけど、『
目の前の少女、瑞希が質問してきたのは解ったが内容がいまいちピンと来ない。
「……? 、すまん。雪って一体だれの事なんだ?」
「あっ、えっとね……ボクは君の幼馴染の
アハハ……と気まずさを誤魔化すように瑞希は笑いながらそう言った。
あいつ、ちゃんと
──
まぁ気のせいだろう、と納得しようとした時、ズキリと頭の隅で何か錨のようなものが突き刺さる感覚がした。
それに、わざわざそのためだけのために俺をここまで連れ出したりするのか?
多分違う。もっと別の
「……なるほど。でも、本当にそれだけか?」
俺は意を決し、足をコンクリートの地面に踏みしめ、はっきりとした目つきで瑞希にそれを訊ねた。
「まぁーやっぱそう思うよね……お願いがあるんだ」
「
「あの子を、まふゆの
「────」
まふゆを助ける?
何をどうしたら
どうりで、家でも俺や家族に浮かべる笑顔に違和感があるわけだ。
恐らくだけど、あの人たちが原因だろう。
だからといって……
「すこし……質問いいか?」
「うん、いいよ」
「あいつは、まふゆはどういう状態だ?」
「今のまふゆは味覚が感じられないのと、痛覚も鈍ってるのと、好き嫌いとかのそう言う感覚的なのが解らなくなってる。正直、どうすればいいのか私にはよくわかんない」
つまり、今のまふゆは過度のストレスからくる防衛本能で味覚障害と痛覚の鈍化etc……が起こっていると。
こういう知識は
「なるほど。それと話は変わるがあんたとまふゆはどこで知り合ったんだ?」
俺がそう聞くと気まずそうにうっ、と言葉を漏らす。
「あー、えーその……誰にも言っちゃダメだよ?」
「言わねーよ、もしくはそういうフラグか?」
「フラグじゃないよ!? ……その前に、ナツって
ニーゴ、その言葉にはなんとなく聞き覚えがある。
ここ最近、クラスメイトの中でも話に上がる噂のグループ。
正式名は、25時、ナイトコードで。
四人で構成されたグループらしいが正体不明……との話、まさかな。
「まぁ、噂程度にはよく聞くよ。割と世間でも人気らしいし」
「そうなんだ……もし、そのグループにボクと雪が入ってるって言ったら?」
「……マジで?」
「マジのマジ!」
「Oh……真相はここにあったかぁ」
なんてこった、冗談がマジになるなんてあるんだな、と思っていると瑞希が話を続ける。
「それでお願いがあるんだけどさ、ボクたちのお手伝いさんになってもらいたいんだ」
君の知らないまふゆが見れるかもしれないよ?とからかう瑞希。
本当ならここで拒否すればそれで安泰なはずだ、でもそれは正しい選択なのか?
うだうだと迷っていると。
――――
誰の声か解らないけど、無性に腹が立つ声が俺をあざけ嗤った気がした。
……うるせぇ。
救えるはずの命を見捨てるのか?
……うるせぇッ。
逃げるのか、
うるせぇッ!!やってやるよ!!
そんなに言うんだったらやってやるさ、
「……分かった。引き受けるよ、ただし、俺はそんなに音楽の才能はないからそういうのには期待するなよ?」
「ぜんぜん大丈夫だよ!それより、そろそろご飯食べよっか」
「ぜんぜん脈絡なく言うなぁ……そうしようか」
俺と瑞希は青空が見える屋上の下で昼飯の焼きそばパンをモグモグと頬張ることにした。
更新したいのよりこっちの方が筆が進むのつらいんご……
と言うワケで三話目です。
瑞希が登場しましたね、これから彼はどんな風に巻き込まれるのかお楽しみに。
それと、今のうちはこのペースでも影響はないですが来年はリアル事情で恐らく執筆の時間が取れる気がしないっすね()
なので今年のうちに完結できるといいなぁ…
と言うワケで次回までゆっくりお待ちくださいませ~
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ナイトコードと噂話
意味、無意識に誰かを助けないといけないという強迫観念に苛まれている状態。
また、自己肯定感の低さや罪悪感を払拭しようとする精神状態の事を指す。
モグモグと学校の屋上で焼きそばパンを頬張っていると、俺の隣でゴロゴロと寝転んでいる瑞希がそういえばという感じでじーっと俺の顔を覗き込んでいる。
「……なんか俺の顔についてんのか?」
「あっ、そういうのじゃなくて……ちょっと
「なるほど……?」
知り合いって事はさっき聞いたニーゴのメンバーの事なんかね? 知らんけど。
浮かんだ疑問を夏人は焼きそばパンと共に飲み込んだ。
「用事も済んだ訳やし、教室に戻るか」
「あ、ちょっと待って!」
瑞希が待ったをかけて呼び止める。
「せっかく知り合ったんだしナイトコード登録しておかない? どのみち後で必要だし。はい、これボクのね」
「そうだな……ほい、これでいいか」
そう言って俺は瑞希にスマホを渡す。
「ありがとナツ、へぇ……?
うりうり~と俺の腹を小突きながら瑞希がからかってきた、かっこいいからいいだろ、ヘリオス。
なんて事を考えていると無事に友達申請が終わったんで瑞希からスマホを受け取る。
「よし、それじゃナイトコードも交換したし続きは家帰ってからにしよっか! ナツもそれでいいよね?
「ん、分かった。そんじゃ俺は先に教室戻ってるわ」
次の時間の用意とかしないといけないんでな、と言いながら俺は屋上の戸を閉じた。
階段を降りると冬弥と彰人が待っていた。
「よ、何の話してたんだ?」
「何か脅されたりしてないか……?」
「あー……なんか向こうが俺の幼馴染と知り合いだったらしくてな。その幼馴染が俺の話をよくしてたんで、実際に会って聞きに来たって感じなんだと。あと脅されてねえから冬弥は安心してくれ」
「なるほど……その幼馴染というのは
「いや、宮女に通ってる。たしか今二年生のはず」
俺があいつの通い先が宮女だというとそういえばと言った感じの表情で彰人が話し出した。
「宮女かぁ……確かあそこの弓道部の一人が入部以来、ずっと
「割とマジで否定できない……、
──まぁ、どれくらいできるやつだったかは思い出せないんだがな。
「まじかよ、割と冗談のつもりだったんだけどな……」
本当なのかと軽く表情を引きつらせながら彰人はそう言った。
正直その反応は正しいと思う、なんやねん全射中心必中て。
何処ぞの一航戦のクール担当なんか?
思わず関西弁出るわ。
そんな会話をしつつ、途中で彰人と別れて自分たちの教室に戻って次の時間の準備をしながらさっきの一件を自分なりに分かりやすくまとめるとしよう。
先ず、俺を呼び出した少女の
彼女はまふゆと知り合いだと言っていたがいったいどこでまふゆと知り合ったのだろうという問い。
あの時に彼女自身が話していたように『ナイトコード』で知り合ったらしい。
そして瑞希やまふゆが関わっているらしい
正直言って厄ネタを拾ってしまった感は今更押し寄せてきているがそれはもうしょうがねぇ。
今度こそ、
そこまで考えたところで準備が終わったから俺は次の時間の予習を始めた。
りんごんかんこん。
やっと面倒な古文の授業の終わりをチャイムが知らせる。
特に授業中にDMを送られるハプニングがあるわけでもなく、何もないまま終了した。
いや何もない方がいいのは確かなんだけどな……
「あぁー終わったぁ……」
「ほんとナツは古文系苦手だね」
俺がぐでーんと伸びながら呟いた呻きに対してやや呆れながらそう言ったのは冬弥。
しょうがないだろ古文はどうにも解りにくいんじゃあ、古文さえなければ学年一桁か一位いける自信があるレベルで古文が苦手だ。(それでも70後半は取れる模様)
「おまっ……俺よりもできるクセにそれは性格が悪いぜ……?」
そう言って苦い顔をしている彰人は俺以上にげっそりしている、そうか。ならこう言ってやろう。
「性格も何も日頃から予習復習をしないからだと思うが」
グサッと効果音が聞こえそうなぐらいに判りやすく彰人が撃沈した。
「誰かのせいにしたいが自分の姿しか浮かばねぇ……」
「日頃の行いだね」
横から冬弥の追撃でもう一回撃沈、哀れなり、彰人……
と、ふと制服のポッケに入れていたスマホがぶんぶんと揺れて通知が来た事を俺に教える。
「ん、なんか通知来たわ。何々……」
ポッケからスマホを取り出し、電源を付けるとどうやらナイトコードからの通知らしい。
この場合の送り主と言えば恐らく
Aima ホームルーム終わったら正門で待ってるね~!
どうやら待ち合わせ場所の連絡だったらしい、俺はそれに『了承した』、と返信してスマホをポッケにしまった。
「なんかあったのか?」
横にいた冬弥が不思議そうな表情をして聞いて来た。
「まぁちょっとな、昼間の
「ふーん……」
先程の二連射から立ち直った彰人がジト目で反応する。
なんだその反応は。
「……一応言っとくがそんな色恋のあれじゃないからな、彰人?」
「いやそれは解り切ったことだろ」
「おーどういう事やコラ」
「お前が
「まぁ大体あってるよ畜生めぇ……」
確かにお人好しであることは認めるがそこまで言う必要はないだろう……
とまぁそんなこんなでホームルームが終わったんで俺は彰人と冬弥にまた明日な~と言って正門に向かった。
正門前に着くと瑞希の姿があった。
待たせてしまったようだ……
「悪い、待たせたか?」
「ううん、大丈夫だよ」
「そうかい」
「うん。さっそくだけど、今からナツ君にちょっとついてきて欲しいところがあるんだけど、いいかな?」
今日は特に用事もなかった筈なので問題ないと答えると、瑞希はよし来た! といった感じにガッツポーズをしている、なんでさ。
「それじゃれっつごー!」
俺はなんかご機嫌? そうな瑞希に言われるがまま付いて行くことにした。
「……まじかよ」
俺と瑞希は目的の場所に着いたらしい。
だがこれは何の冗談なのだろうか……?
「付いてきてほしいのは
「待てやいろいろとおかしい、まずなんだこの豪邸はっ!?」
「それも後で話すからほらほらはやくはやくー」
「あーもうわぁったから待てぇ!!」
目の前に映るのは如何にも豪邸ですと言った感じのでっかい家だった。
拝啓、まふゆのお母さま。どうやらとんでもないところに俺はやってきてしまったようです。
お久しぶりでございます。
最近真面目にプロセカをしているのですが、エキスパートのAMARAが難しすぎて親指勢の僕にはクリアできないです(白目)
とまぁそんな訳でちょっと話の都合上少し設定を追加?しました。
まだイベストを全部見切れていないのでどっかしらで矛盾が出た時はそん時にまぁどーにか辻褄合わせますかねぇ…
次回はようやっと『あの場所』に行かせる予定です。
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それは悔やむと書いてミライ
瑞希に言われるがままに彼女の家に上がり込む。
すると大層豪華な装飾で飾られた玄関が俺を出迎えた、コイツの家ってもしや金持ちなんか……?
「でっけぇ……」
「へっへーん、実はボクの家は
「べっ……」
何を言われたのか一瞬理解できなかった。
なんだよ別荘て、これのどこがちょっと金持ちなんだ?
大体、別荘がある時点で大富豪だって。
「おー驚いてる驚いてる♪ 、それは兎も角、入って入って~♪」
瑞希が口元に手を添えながらニヤニヤしている、はっ倒したろうかワレ。
俺は渋々瑞希に言われるがままリビングに入ると、さっき感じたままの豪華絢爛な内装が姿を現す。
どう見ても何万もお金が飛びそうなテーブルや椅子、ソファ等が置かれており、デカデカと鎮座する60型以上はありそうなテレビを見れるようになっている。
マジでコイツの家ちょっとどころじゃないくらい大金持ちだな……
「お、お邪魔する」
少し緊張しつつ一応会釈する夏人をみた瑞希がニヨニヨと揶揄う様に笑う。
「ふっふふ、緊張しちゃってる?」
「うっせ、こんな豪華な建物と内装みて緊張しねぇわけねぇだろ」
「まーそれもそうだよねー、ボクはもう
瑞希は肩をすくめて俺に言った。
「んで? 俺をここに呼んで結局何をするんだ?」
「それはだねぇ……」
待ってましたと笑みを瑞希は浮かべながら懐のポッケからスマートフォンを取り出し、音楽アプリを立ち上げてある曲を俺に見せる。
「なんだ? 『悔やむと書いてミライ』……?」
その曲名を視界に捉えた途端にスマホから発する眩しい光に包まれた。
「やっとキミに会えるね、ナツ」
────その時、誰かの声が聞こえた気がした。
三秒か五秒経ったぐらいか。
フラッシュバンを炊かれたような眩しさが漸く落ち着いてくる感覚がする。
俺が瞼を開けるとそこには何処までも続き、終わりのない無の世界が映り込む。
まるで真っ新なキャンバスをそのまま作り上げたような無機質かつ殺風景だ。
まぁいいか、これでまふゆにつながる何かが知れるならそれでいい。
「う……あ、ここは……何処だ?」
まだ少しグラグラする感覚を我慢しつつ周りをキョロキョロと見まわすと
誰だろうか、瑞希の知り合いか?
正常になりつつある頭で考えていると、すぐそばに気配を感じた。
「落ち着いた? 此処はセカイ。誰かの願いが元になってできた場所、長い間キミを待ってたよ、ナツ」
ふと声が聞こえた方を振り向くと、この前の深夜に目撃したヒトガタのシルエットがより明瞭となって現れる。
その姿は巷でもよく耳にする初音ミクの姿をしていた、正確には若干俺が知っているミクよりは髪の色素が薄いが。
ただ、あれは紛れもなく本人であると本能的に俺は理解した。
「お前、もしかしてミク……なのか?」
「うん、キミに会いたかった」
少し言葉詰まりではあるものの、ミクは無表情気味で少し嬉しそうに答えてくれた。
「……二次元上にしか存在しないと思ってたんだけどな……まさか実在するとは」
「私は、みんなの願いがあればどこにでも現れる事ができるから」
ちょっとだけえっへんとした感じでミクが言う、可愛い。
もしかしたら
だとしたら……きっと何かそれほどまでに大事なことだったのかもしれないな。
俺が口元に右手を当て、よくどこぞのちっちゃい名探偵がしてそうなポーズで考えていると、聞き覚えがある中性的な声が俺の背後の方向から聞こえてきた。
「お、いたいたー! 説明もなしに連れてきちゃってごめんねー」
振り返るとそこにはやはりと言うべきか、俺をこの世界に連れ込んだ張本人の瑞希がテヘペロ顔して立ってた。
「いや、それは何となく予想してたからそれはいい」
正直あの話し方するやつはこういう事ぐらいは解り切ってたからなぁ……悪戯好きなのが顔に出てるし。
「そっかぁ、それで今ボク達がいるこの世界についてなんだけど、ってミク!? 何時の間にナツと話してたの!?」
「ついさっき、それより奏と絵名達に説明とかしたの?」
ミクにそう聞かれた瑞希はハッとした表情を見せたと思えば冷や汗をダラダラと流し始めた、おいまさか。
「瑞希……まさかとは思うがお前、何も言ってないとか抜かさないよな?」
「あ、アハハ……その通りです……」
「何やってんだお前ぇぇぇぇ!!」
「ぎにゃあぁぁぁぁ!!?」
俺はその場で瑞希に拳骨をお見舞いした、これはオレ、ワルクナイ。
「それで? こっからどう説明するんですか?」
「ハイ……えななんは今の時間は学校だから今日は無理だから、Kは多分今なら起きてるはずだから今から読んで説明するね。雪は……最後にしておこうか」
「おう、そうしてくれると助かる」
という訳で、5分経ったぐらいにポンッと俺と瑞希の目の前にやや青みがかった白髪の少女が現れた。
まじでこのセカイとやらは何なのだろうか?
「どうしたのAmia……!? 誰、その人?」
目の前の少女が俺を見た途端にぎょっとした顔でまるで信じられないものでも見たような目で見てきたんですが。
これまたやったな?
「おい瑞希ぃ、明らかに目の前の方驚いてるが何言ったんだ?」
「え? ちょっと話したいことがあるからセカイに来てって……」
大事な話なのは間違ってねぇけどさぁ! もっとなんか言うべきことあるだろい!!
「それで伝わるわけないだろうが!?」
「しょうがないでしょそれしか浮かばなかったんだもん!」
俺と瑞希が言い合ってるのを少女はポカンとした顔で見つめた後、少しだけ俺たちに近づいて言った。
「ええっと……この人はAmiaの知り合いってことでいいの、かな?」
「ええとまぁそんなところだ、そこにいる
「そう、なんだ……ええと、うちのAmiaがすみません、私はK……です、ニーゴの音楽担当をやってます」
ペコペコと会社の社交辞令みたいにな挨拶は程々にして、どうアプローチしたものか。
……いっちょやってみるか。
「いえいえこちらこそ、俺は夏人って言います、気軽にナツとお呼びください。苗字はちょっと諸事情で今は戸籍上は
「あの雪がよく話してた幼馴染さん……!?よろしくお願いします」
「よろしくね、Kさん」
改めてKさんをよく見ると、何となくだが栄養が足りてない人の様な色白さがする。
音楽を創るのにはそれぐらい労力を要するのだろう。
「すごい日本語おかしい気がするのはボクだけかな?」
「気にすんな、きっと気のせいだ」
「たぶんそこまで変じゃない、と思うよ?」
そんなこんなでK……宵崎さんとの挨拶はどうにかなった訳だが、残りの二人にはどう説明すんだろうか。
あ、そろそろ帰んねぇとやべぇや。
「なぁ瑞……Amia、そろそろ門限やばめだから帰ろうと思うんだがどう帰ればいいんだ?」
「ああそのこと?はい、ボクにつかまっててね~♪」
「?わかっ……」
分かったと言い切る前にまた俺の視界は真っ白な眩しい光に包まれた。
待たせたなぁ!!
という訳でナツが初めてセカイに行く回でした。
えななんとまふゆにセカイで会うのは一応次回の予定です。
まふえなって……いいね(遺言)
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深夜25時、ナイトコードにて。
だから。
ずっと一緒にいてくれる?
(今回のサブタイトルは意図的ですので間違いではないです。)
さっき経験した眩しさを再び体験して瞼を開けると、セカイに行く前にみた豪華な装飾や高級そうな家具がでかでかと主張しているのが見える。
どうやらあの場所から無事に瑞希の家に戻ってこれたらしい。(本人曰く別荘だそうだが)
「無事に戻って来れた……」
「そうだね~。で、初めてのセカイはどうだった?」
感慨に浸っていると横から瑞希が話しかけてきた。
「そうだな、正直滅茶苦茶驚いた。初音ミクが実在するなんて知らなかったし、なによりあの場所は
「ッ!?」
俺がそう言った時、僅かに瑞希の瞳が揺らいだようにも感じたけど多分気のせいだろう。
「……初めてなのにそこに気付けるとはやるねぇナツ」
「……幾ら初めての経験で気が動転してても
──正直、あの場所はこの世の歪みを全部混ぜた様な異質さが肌に感じるレベルのナニカが確かに存在した。
一体何が起きればあんな風に変わるんだろうか?
あの時、確かミクが言っていた事といえば……
『セカイは誰かの願いが元になって出来ている』
「おーい、そろそろ帰らないといけないんじゃないの?」
そう、彼女は誰かの願いによって創られていると言っていた事を思い出していると俺の右横から瑞希がプクーと見つめてくる。
「ん、どうした瑞希?」
「やっとこっち見た! そろそろ帰らないとなんでしょ?」
あ、そうだった。
「ああ、そうだった。ありがとう瑞希」
「それは大丈夫だよ~(なんというか天然って程ではないけど抜けてるなぁ……)、それとナツは今日の夜って空いてる?」
今日の夜か。
多分夜の十時までは
「今日の夜は深夜なら義親の目をごまかせば空いてるが……」
「よし来た! それじゃ時間になったらニーゴのナイトコードに招待するね~」
「了解した、それじゃまた夜に」
「うん、またねー」
俺は瑞希に手を振られながら瑞希邸(別荘)を後にした。
「……それにしても、まふゆから聞いてはいたけどナツって何者なんだろう。あのセカイの異質さに直ぐに気付けるなんてね……少し調べてみようかな」
「はっ、はッ……」
ちょっとだけ急ぎ足で家まで駆けて行く。
すれ違う人達が皆制服なことから今は学生の帰宅ラッシュなのだろうと、走りながらスマホを取り出す。
門限は五時、現在の時刻は午後四時三十分、そしてここから家までは大体二十分。
これから推察される答えは……
「もうちっとだけ飛ばさないと余裕が無いなぁ!」
トモに力を入れて風を切る様にかっ飛ばした俺は一応我が家である朝比奈家に走った。
「た、ただいま……」
息切れ切れだけど何とか門限までに帰宅できたぜやっほいといった感じで玄関を開ける。
いつも通り手洗いうがいしてリビングに行くと、まふゆのお母様は台所で晩御飯の準備をしてるらしい。
どうやら遠目からちらっと見たところ今日の晩御飯はカレーらしいので今日はちょっと元気になれそうだ。
扉を開けた音に気が付いたのか、まふゆのお母様が料理の手を止め振り向く。
「あら、お帰りなさい夏人くん。今日は珍しく遅かったけど……なにかあったりした?」
──またか。
いつもこの人は少しでも帰宅がいつもより遅めだと過剰に理由を聞いてくる。
「今日は学校に居残って友達と勉強してたら結構遅くなってしまっただけなのでお気になさらず」
俺はそう言いつつソファの傍に一旦荷物を置きつつ返す。
「そう……ならいいけど、
そしてよく枕詞のように言ってくるこの一言。
「もう今年で16歳になるんですから、その辺はきっちりわきまえてますので大丈夫ですよ」
ケラケラと笑いながら夏人が誤魔化すとまふゆのお母様は一瞬反応に遅れたような感じはしたが、それもそうねと言ってまふゆのお母様は笑った。
まぁ目は笑っているようにはとても見えないが。
まるで子供を都合のいい
全くもって反吐が出る。
まぁそんなことは置いといてだ。
「今日はカレーですか?」
「ええ、今日はカレーの気分なのよ~」
「なるほど……(そこは気分なのか……)」
そんな感じでたわいのない話をしばらくして、俺は自室に荷物を持って行った。
「それじゃ、今日もちゃっちゃと終わらせよう」
いつも通りの
机の横に鞄を掛けて、数学の用意と今日の宿題をほとんど飾りっ気がない机の上に引っ張り出す。
宿題と予習をするためにノートを広げた。
小一時間後……
宿題を十分程度で片付け、明日の授業の数学の予習をしている。
「えーと……これはこの計算式を当て嵌めて、んでこの解をここに代入すれば……よし、ビンゴだ」
……俺の生みの親はさぞ頭が良かったんだろう、会うことは少なくとも今世では絶対できないのが少し残念だけど。
まぁいっか、今は目先の事に集中しよう。
後は明日の用意をすれば今日はもう寝る準備完了だ。
「もう終わってしまった……骨がないというか何というか……」
俺がそう言ったタイミングでコンコンと扉をノックする音が。
「夏人くんごはんよー!」
どうやら声の主はまふゆのお母様のようだ。
ふと時計の方に視線を向けるともうすぐ19時になろうかというところだった。
「あ、はい今行きます!」
トテトテと二階の階段を降りるとリビングにまふゆのお母様とお父様、そしてまふゆもいた。
「それじゃあ夏人くんも降りてきたことだし、ご飯にしましょうか」
「ああ、頂きます」
「いただきます♪」
「頂きます」
上から順にまふゆのお母様、父親、まふゆ、そして俺である。
食器に盛られたカレーライスをスプーンで掬い、そして口にほおる。
美味い、美味すぎる。
こういうところは一流の料理人並みの腕前なのがなぁ、
才能の塊という面ではまふゆは母親に似たんだろう、とぼんやりとモグモグしながら時々まふゆをちらっと見つつ思う。
とにかくこの美味すぎるカレーライスをガツガツと食べた。
「ご馳走様でしたッ!!!」
結局お代わりを二回して食い切りました。
俺が食べ終わる頃には既にまふゆのお父様は自分の部屋に戻っていた、早すぎんだろ……
「ご馳走様、美味しかったよお母さん♪」
まふゆが席を立ちながら
まぁ? 可愛いのは変りねぇから俺個人としては悪くはないなと思う。
「お粗末様でした~、夏人くんがいっぱい食べてくれて
「……っ、大変美味しかったのでつい手が止まりませんでした」
「あらあら、お世辞が上手なのね~」
「夏人ってあんなに沢山食べるなんて知らなかったな、なんだか可愛かったよ♪」
だまらっしゃい、その顔の良さで笑うんじゃねえ恥ずかしい。
本心なのかその場の誤魔化しなのか分からんから困る。
俺は後ろでニヤニヤしている母娘達から逃げる様に自分に部屋に逃げ込んだ。
「……ナツ」
リビングの扉を閉める直前にまふゆに呼ばれたような気もするが気のせいだと思っておこう。
「あの顔の良さで揶揄われるのは心臓に悪いんだよ……」
部屋の扉を閉めて一息つく。
さて、25時まで何をしようか。まぁ22時までには風呂に入らないとだが。
コンコン。
優しめのノック音、多分まふゆだな。
「夏人、ちょっといい?」
「ん……入ってもいいぞ」
その返事を聞き切る前にガチャリとドアが開けられると同時にさっき笑顔で揶揄ったまふゆが
なんだ、これは。
俺の
「ねぇ……今日誰かと会った?」
思い返せば、これは昼休みの時に瑞希が言ってた事と符合する。
「まぁ……会ってないかと聞かれたら会ってるが……、なんか問題があるのか?」
俺が疑問を抱いているニュアンスで答えるとズンズンと俺に近づいてくる、無言で。
「待て、何故無言で近づいてくる。なんかまずいこt」
「問題ではない、けど知ってる人の匂いがした。それと」
「貴方、瑞希に何か言われた? 」
それを聞いた瞬間、ぞわっと背筋が凍った。
知ってる筈の声なのだが。
どこか底冷えしているようにも見えた。
「さぁ……確かに瑞希ってやつに目は付けられたが……って待てや。なんで瑞希って知ってんだ」
「昨日瑞希が話しに行くって言ってたから」
あんのポンがぁ……
やるなら見つからんようにやるとか思わなかったのか……?
「……そういうことだから、25時になったら私の部屋に来て」
「お、おう……分かった」
何がなんだか分からんがとりあえず約束の時間になったらまふゆの部屋に行く約束を取り付けられた。
頭使って飯食った後のお風呂は気持ちいいぜぇ!! ーFooooooooo!!
と言う訳で、あの後ちょっと休んでから速攻で風呂でスッキリした後、記憶がない俺に残っている数少ない習慣の瞑想をして約束の時間になりました。
戸籍上は家族とはいえ、女子の部屋に入るのは凄く緊張するなとプルプルしながらもまふゆのお母様に感づかれないように扉をノックする。
「……入るぞ」
「……鍵は開いてる」
俺はガチャリとまふゆの部屋に入った。
俺の部屋とは違ってかわいらしい家具などが色々置いてあり、部屋らしい部屋である。
まぁ俺が欲が薄いからこれ買ってとも言わないからなのは言わない約束。(そもそも居候させてもらってる身でそんなもんねだれないが。)
「……待ってた」
まふゆはさっきと同じく無表情で俺に言った。
さっきの一件と言い違和感のオンパレードもいいとこだ。
「さいですか、それで俺をここに呼んでどうするんだ」
「多分、瑞希が一度やってるとは思うけどこの曲で
ああ、今日行ったセカイの事か。
「分かった」
「けど。その前に……ねぇ、
何時もは使わない呼び名でまふゆは問いかける。
「瑞希が多分言ってるだろうけど、今の私は味も感情も良く分からないの」
「っ、そうらしいな」
何が原因かは今なら十中八九判るが、ホント何してくれてんだまふゆのお母さんは。
「それでね、ナツにお願いしたいことがあるの」
まふゆはおもむろに俺の傍に近づき、手を繋いで俺の紅い髪越しから眼をじっと見つめながら語る。
「私を、助けて。
彼女の目から声なき苦しみがありありと伝わってくる。
――だから、今度こそ。
「どれだけ時間がかかってでも、お前を助け出す。必ずだ」
それを聞いたまふゆはどこか満足そうというか嬉しそうな雰囲気だった、女の子の気持ちは良く分からん。
「それじゃ、行くよ」
「ちょっ…」
有無を言わさず俺は再びあの真っ白い光に覆われた。
「はっ、はぁ……二度目でもまだ慣れないな……」
という訳でやって来たこのセカイ。
フラッシュバン喰らったような眩しさから急に異世界に飛ばされんのはどうにかならんかったのだろうか?
「ナツは何時もこの時間にはもう寝てるから仕方ない」
横からド正論をぶっこんでくるまふゆに何も反論ができない、ちくせう。
「まぁこの時間は一応寝てるのは事実だな」
基本悪夢見てるから厳密には寝れてないから、
と駄弁っていると見覚えのあるピンク髪と白よりの銀髪の少女が話し合っているのが見えた。
「あー!やっと来た!」
遅いぞーとやや不貞腐れた?感じに訴える瑞希。
「今度なんか奢るから許せ」
そういうことならと言わんばかりの表情で瑞希は納得したポーズを取った、絶対高いやつ奢らせてやると思ってそうな表情で。
……あんま高いのじゃなきゃいいな…
「んで、夕方ぶりですね、Kさん」
放課後に来た時に話したKさんにぺこりとお辞儀する。
「ど、どうも……」
何故かどこかよそよそしい感じで挨拶するKさんの視線の先を見ると、俺の後ろにまふゆが立ってた。
凄みのある笑顔で。
ありゃ誰が見てもびっくりするって。
「うわぁ……、がっつり威嚇してるじゃん。で、アンタが噂のまふゆの幼馴染?私は東雲絵名。えななんでいいわよ」
と何気ない感じで初めて見る人、東雲さんが話しかけてくる。
「俺は夏人だ、気軽にナツと呼んでくれ、えななんさん」
……握手をとも思ったが、後ろからのプレッシャーもとい圧がシャレにならんので置くことにした。
「……絵名?」
ほらな?
「だぁー!その圧を掛ける話し方で寄るんじゃない!アンタの幼馴染を取って食おうなんと思ってないからそんなに怖い顔しないの!」
「分かってるなら、いい」
スンッ、とあふれ出てた圧が霧散した。
関和休題。
「それで?ナツをニーゴ加入させるのは別にどっちでもいいわ、やるんだったら何かしら手伝ってもらうことになるけど、まふゆ達は異論はない?」
絵名が奏達(まふゆからこっそり教えてもらった)に聞くと全員特に反論は無かった。
「んでナツ。アンタには聞いておかないといけないことがあるわ、この先どんなことがあっても
そんなもの。
とっくに決まってる――!
「当たり前だ、やってやるさ存分に」
「……合格よ、こき使ってあげるから覚悟なさい!」
「お手柔らかにお願いします……」
とまぁそんな感じでメンバーに自己紹介を終えた。
それからは瑞希達のそれぞれの役割などを聞いたりして今日はお開きになった。
お待たせいたしました、えななんとまふゆサンにエンカウントしました。
補足ですが、何故まふゆが原作よりよくしゃべっているのかと言うと幼少期にナツがあることをしたためであります。
因みに今回作家人生で最も文字数が多い回となっております。
お楽しみくださいませ!
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おかしな夢
残されたチップはこの身一つのみ。
それでも、あの時に躊躇してしまった後悔を晴らさねば。
この後悔晴らさずに死ぬことなど許されてなるものか。
どれだけ死にたいと思っていてもこの忘れ形見の願いだけは。
ニーゴのメンバーとご挨拶をした後に現実に戻って来た後、俺はまふゆに寝てくると言って自分の部屋に戻った。
部屋に戻ればいつもの必要なもの以外が漂白されたように空っぽな部屋が目に映る。
まるで白紙のノート様に薄っぺらく、軽く、無味な部屋だ。
まるで牢屋だな相棒。だが白紙ならいかようにも物語は生み出せるぜ?
……そうだな。
今度何か部屋に装飾を置いてみるの良いかもしれないな、と愕然とまふゆの部屋を思い出しながら思った。
「……寝るか」
もう深夜二時近かったため今日はさっさと眠る様に目を閉じた。
視界に光すらない夜が深く、覆いつくして来る。
暗いのは嫌いだ、嫌なものを思い出すから。
暗闇、それは物理的な暗さでもどんなことであってもマイナスなイメージがあるから。
そもそも夜ってのはろくでもない
ヴァンパイア然り、鬼も然りってことだ。
鼻に激しく主張してくる焦げ付いた臭いで意識が覚める、正しくは夢の中だが。
何時ものように真っ暗、いや黒煙と薄汚れた満月の空の中、黒い泥みたいな沼の表面に俺は横たわっていた。周りを見なくてもあの場所が傍にあることは覚えている、そこにはオレの両親の死体があることも。
最初に見たときは驚き叫んだものだ。
どうしてって。
今回も俺の周りの沼から黒い手の大群が俺を引きずり落としてくる。
大きな波が意志を持ってこの
どうせ夢の中なんだから誰も助けなんて来ないよな、と諦めていつも通り目を閉じようとした。
「
ここには本来決して現れる事のないはずの声。
そしてそれは酷く前から知っている声、されど芯の籠った叫びが俺の前方から聞こえると共に、俺を引きずり落とそうとするそれを天からやって来る無数の矢が叩き落としていく、しかもそれは俺には当たらない軌道で飛来する。
ドスリ、グサリと俺を掴んでくる得体の知れない何かに矢が刺さっていく、次第にその数は加速度的に増えていき銃弾の雨みたいな豪雨だ。
どうやら今日はいつも通りの悪夢ではないらしい。
「なにが起こってるんだ……?」
「今引っ張り上げるから待ってて!」
まるで雨の様だとぼんやりとした意識の中でなんとなく思っていると、その声の主の姿がだんだんと、加速度的に近づいてきてより明白になっていく。
「やっと会えた。ひさしぶりだね、ナツ」
黒煙が晴れ、陰っていた満月が輝きを取り戻し、風になびく彼女の菫色の髪と顔を照らす。
「一体……」
どうやって、と聞く前に彼女は俺をひょいと簡単に持ち上げ
「ぐぎぎぎっ!? 急に飛ぶなぁぁぁ!!」
「高いところが苦手なんだよぉぉ!!!」
そう、俺は結構……いやかなり高いところが苦手だ。
あの浮遊感がホント怖くてしょうがない。
「ふふっ、そういえば小学校の時ジェットコースターで失神してたもんね♪」
「わかってんなら一言言って欲しかったなぁ!?」
ニコニコしながら言ってんじゃないよお前……てか今の
──あれ? どうして俺は
まぁいっか、どっか時間ができた時にでも考えればいいか。
「……私を助けるならまずは貴方自身が生きたいと願ってくれないとね」
「なんか言ったか?」
良く聞こえなかったので俺がそう聞くと彼女は何でもないよ、と言って明るさが増していく満月に向かって飛んでいく。
そこで意識は途切れた。
光がまぶしい、どうやら朝になったようだ。
「……う」
いつもとは変わった不思議な夢を見たおかげか、ぐっすり眠れた。
おかげで身体の感覚がいつもより軽いような気がする、寝起きでぼんやりとした意識で時計を見やると大体朝の六時を回るぐらいだというのが解る。
何はともあれ、起きて準備をしなければ。
むくりとまだ半分覚醒状態の身体を起こしてみると、一人で寝ていたはずの布団にふくらみが見えると同時に、何かが俺のそばにいるのが感覚的に伝わった。
「……まさかな」
そんなはずはないと言い聞かせ、静かに布団を捲るとすぅすぅと静かに眠っているまふゆの姿があった。
もう一度言う。
黙ってりゃ誰よりも可愛いというか綺麗なんだよな……いや、黙ってなくても美人なのはそうなのだけども。
「なにやってんだ……」
それはもう安らかな顔で眠っているが、何を考えてやがりますこの方は?
まふゆのお母さまに見つかったらシャレにならんのだよ、主に俺が。
具体的には家内のカーストがめっちゃ下がるし眼つきと監視が厳しくなる。
「おい、はよ起きい」
ゆさゆさと肩を揺らす。
「ん……おはよう、ナツ」
まふゆは気の抜けるようなぽわぽわした表情で瞼を擦りつつではあるが、目は覚めたらしい。
なんて惚けたツラしてんだかなぁ、多分学校では絶対に見せない一面だよなぁ。
俺にだけ見せる姿……なんてのは都合がよすぎるよな。
十中八九偶然の出来事だろう。
こういうとこが惚れた理由でもある。
「よっ……なんで俺の布団で寝てるのかは知らんけどお前の
「……わかった」
まふゆは渋々という感じのイントネーションでモソモソしながら布団から起き上がった。
おい、なぜぶーたれてんだまふゆよ。顔の表情がほとんど変わんなくても声色で分かんだからな?
「……それじゃあ朝ごはん食べてくるね」
「ん、いてらー」
いささか腑に落ちなさそうな言い方でまふゆは一旦自身の部屋に戻った後、一階に降りて行った。
「それにしても……」
なんでアイツが俺の布団に潜り込んできたんだ?
さっきのもそうだが、感情や味覚が分からないにしては
……さっさと準備するか。
モソリモソリと俺も起き上がって制服に袖を通し、いつも通りに朝ご飯を頂き、俺とまふゆは学校に行った。
最近頭の中のテスカトポリカがずっとFooooooo!!!と叫んでいてどうしたものかと考えています。
という訳でちょっとした回想もとい夢でのお話でした。
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駆り出されそうになる彰人と見つけたい先輩
布団にまふゆが潜り込んできたこと以外は特になかった朝を過ごし、いつも通りに学校に行く。
教室の扉をガラリと引くと、彰人がなにやらゲッソリとした表情でうなだれているのが目に映った。
一体どうしたんだ?
「よっ、どうしたんだそんな死んだ顔して。また姉さんにシュークリーム食われたんか?」
「ああ……ナツか、実は天馬先輩に面倒事頼まれそうになっててな……あとシュークリームじゃなくてカスタードケーキだ」
「なるほどなぁ、ニアピンだったか。それはともかくこの時期で呼ばれるとなると……体育祭か?」
俺が問いかけると彰人は首を縦に振って肯定した。
天馬先輩かぁ、確かフェニックスワンダーランドにあるショーステージの一つ、ワンダーステージのキャストで、ワンダーランズ×ショウタイムというグループ?の座長をやってるとこの前自慢していた。
あとものすごーく、声が大きい。
具体的には106㏈ぐらい(電車のガード下よりも少しうるさい程度)。
悪い人ではないのは確かだと思うが、落ち着いて欲しいなと内心思ってる。
彰人とそんな会話をしてると、ガラガラと教室の扉を開ける音が。
「失礼するッ!!ここに東雲彰人はいるかー!!」
噂をすればなんとやら、天馬先輩が来た。
その瞬間に彰人がシュンと音もなく静かに隠れた、そんなに見つかりたくないんかお前。
ちらっと視線だけ彰人の方を見るとどうにか誤魔化してくれとのジェスチャー、このまま突き出した方が楽なのは確かだが……後で彰人にどやされるのはちょっとアレだし乗っておくか。
「彰人はまだ来てないっぽいですー!!」
「そうか!!ではまた後で聞きに行かせてもらおう!!」
一瞬表情が変わったような気もするが、ハッハッハー!!と陽気な表情で司先輩は笑いながら去って行った。
ホント嵐みたいな人だ、俺個人としての主観は
なんでそう思うのかと聞かれれば、頑固なまでの自己肯定感の高さと
ちらりと彰人の方に視線を移せばマジ感謝と言わんばかりに手を合わせている、俺は仏か何かかいな?
(助かったわ……)
(気にすんな、ただ今度おいしいケーキ屋行く時は奢りな。)
(うぐっ、…わかった)
(合わせてやったんだからぐうたれんじゃない。どっかでお菓子作ってやるから)
そんなこんなで何時もよりは少しだけ愉快な朝だった。
それから時間が過ぎてお昼時。 何時ものように彰人と冬弥達でお昼ご飯を食べていると、俺の左隣でもぐもぐと甘ったるそうなメロンパンをほおばっている彰人がふと話し出した。
「むぐ……そういやナツ。お前昨日放課後何してたんだ?」
「そういえば昨日はナツは早めに帰ってたな、おそらく昼間の女子関係なんだと思う」
俺の横で聞いていた冬弥は的を射たことを零した。
「その通りだよ冬弥、まぁあの後色々あって大変だったわ……」
冬弥と彰人にはセカイなどの事やニーゴのことは伏せて起きたことを話した。
「……なるほどな、随分と厄ネタの予感しかしないが大丈夫なのか?」
俺を気遣ったのか、彰人がすこし心配そうな声色で言う。
「そうだな。それに関しては俺も同意だ」
冬弥も不安げに俺の顔を見ている。
「大丈夫だからそんな心配せんでも大丈夫だよ、まぁ引き受けちまった以上はちゃんとやりきるさ」
これはやらなきゃいけない罪の清算だからな。
「お前がそう言うんなら大丈夫だとは思うが……」
彰人は何処か納得はいかないと言った表情で渋々飲み込んだらしい。
冬弥も同様ではあるが、当人が納得しているのならそれ以上は言わないと言った感じだ。
まぁどうにかしないと
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