蒼き拳神は平和が恋しい (ロシアよ永遠に)
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第一話『かつての決着』

長い間スランプ状態です。
息抜きがてら書いてます。

スパロボA最終話のオリジナルを加えています。



「殺し合い、壊し合い、奪い合う世界を維持しようという理論…間違っているのさ、たぶんな。」

 

「●●●●………!!」

 

「初めから、この世界に俺たちの居場所なんてなかった……!だから!」

 

地球の衛星軌道上で、二つの巨人がぶつかり合う。

方や蒼く、筋肉質な見た目。マッシブな外観の通り、近接戦に重きを置いたもので、左手は機体色の延長の色合いだが、右手は『黄金の装飾が施された腕』となっており、一際目を引く。これは一度自爆したあと、修理を兼ねて新しく装備したものだ。

方や先述の機体よりも暗い蒼で、マッシブさに加えて機体各所から突き出した突起が多数あり、攻撃的かつ禍々しさすら感じられる。

相対して満身創痍。肩やボディ、頭部はひしゃげ、中に乗るパイロット達もボロボロ。駆動するたびに軋む音がコクピットに響き、スパークが走る。

だが、後方から地球に落下線と迫る衛星要塞を止めるために、やつを倒さねばならない。倒した上で、あれを止める。そのためには。

 

「なぁ、●●●●●、俺達は…『向こう側』でずっと、同じ部隊で戦場を生き抜いてきたよな…。」

 

「いきなりなんだというのだ…!藪から棒に…戦闘中だぞ!?」

 

「俺は、当時お前を共感できる理想を持つ上官であるとともに、戦友としての思いを持っていた。」

 

「それは私も変わらん。貴様は優秀な部下であり、同志(とも)であった。」

 

「俺と●●●も…似たようなもんさ。お前の言う理想は、味方だった、友だった、家族だった、恋人だった者が敵となり、命を奪い合う日常なんだ。こんな気持ちに…胸を締め付けられる様な感覚に見舞われるから、間違っているのさ。これがな。」

 

かつての友を思うからこそ、その理想は否と答える。既に討ってしまった。だからこそ、それが間違いと言える。

そんな彼の言葉に、上官であり戦友の男は、呆気取られながらも、直ぐに口元を釣り上げる。

 

「ならば我が理想なくして、世界の腐敗を止める術はあるのか?情を取り、世界を捨てると?」

 

「情があるなら、互いに認め、支え、生きていける。戦わなくてもな。そんな光景を、俺は奴らと見てきたのさ。この…俺たちの世界とは、極めて近く、限りなく遠い世界でな。」

 

「絆されたか、貴様ほどの男が。」

 

「かもしれん。だが不思議と、悪くないと思ってしまうのさ、これがな。」

 

救える敵を救い、味方のために命を張る。

そんなお人好しの集まりだった。

だが、そんな彼等だからこそ強かった。

尽く迫る敵を退ける彼らの強さの根本は、恐らくは戦闘能力から来るものではない。

きっと、守るために強くあろうとした果ての姿なのだ。そして戦うことで、奪われるものと得られるもの。その不等を知るからこそ、平和を願い、それを守ろうとした。

本来の彼なら、そんな連中とは反りが合わず、唾棄していただろう。

だが『とある事情と環境で』彼らに接触し、ともに過ごしたことで、彼らの戦う理由に感化され、自分たちの目指した世界の間違いに気付かされたのだ。

平和による世界の堕落と腐敗を憂うからこそ、彼は闘争を日常とした世界を望んだ。彼なりに世界を思っての行動だろうが、しかしその過程で失われるものは計り知れない。

平和を望み戦うもの。

腐敗を止めるために戦い続けるもの。

恐らくは根本の更に根本は同じなのかもしれないが。

 

「ならば、せめて我が手で貴様を屠ろう。それが戦友たる私からの手向けだ。」

 

「その俺を憂う気持ちがあるなら…!」

 

「憂うからこそ間違っているのだ!」

 

ぶつかる拳と拳。機体は満身創痍。互いに特殊な装甲材を用いているので、ある程度の自己修復は備えてはいるが、その限界を超えつつある。残るは気力と気力のぶつかり合い。

 

「「リミット解除!!」」

 

「コード麒麟!」

 

「コード麒麟・極!」

 

残るエネルギーは枯渇寸前。この一撃で終わらなければ、敗北あるのみ。

 

「この一撃で()める!!」

 

「この一撃で冥府魔道へと堕ちよ!!」

 

片や拳に、

片や肘のブレードに、

残るエネルギーを集中させ、決着の一撃に勝負をかける。

 

(■■■■■■よ……俺を、勝たせてくれぇっ!)

 

「でぃぃぃぃやッ!!」

 

「ぬぉぉぉおおッ!!」

 

迸るプラズマが、その威力を物語るに相応しい。

互いに満身創痍。

しかし、その闘志は機体のダメージを思わせない程に何処までも大きく猛る。

互いに拮抗し、押しも押されもしない。

だが、

 

「■■■■■……俺の、勝ちだッ!」

 

「っ!?!?」

 

破れたのは深蒼。振り上げられた肘のブレード。その切っ先は、突き出した深蒼の機体の右腕。それを見事に両断し、その肩までを真っ二つに斬り飛ばした。

右腕が方まで持っていかれたことで、いよいよ勝負の行方は明白となってきた。

 

「ぬぅっっ!!ならば……次元転移で……!」

 

「そいつを待っていた!これがな!」

 

不利と見るや、奥の手たる跳躍で逃れようとするヤツを逃すまいと、ブースターを吹かしてその腰をホールドする。とっさの行動に、かく言うやつも驚きを隠せないでいた。

 

「くっ!■■■■!!」

 

「俺の機体の自爆装置はなくなってしまったが、貴様の機体を代わりにさせてもらうぞ…!」

 

「貴様……何を!?」

 

「お前の機体そのものが次元転移弾のようなものだ!その威力ならば!皆!10秒以内に離脱しろ!阻止限界点付近まで下がれぇっ!」

 

残る推進剤など知ったことではない。

加速につく加速。

頭部を掴むと、迫る衛星要塞の壁面に思い切りめり込ませた。

男の立てた作戦通り、敵隊長機を黙らせた。

その後の動きをどうするべきか、共に戦ってきた仲間たちが彼に問う。

その返答と言わんばかりに、奴の機体は次元転移のエネルギーを膨張させ、そのフィールドは衛星要塞を包み込んでいく。

彼がやろうとしていること、それは奴の次元転移のエネルギーを暴発させることで、衛星要塞諸共吹き飛ばす………所謂自爆だ。

それをエネルギー反応で察した仲間たちは阻止しようと声を上げる。しかし、現状を冷静に察している連中は違った。

地球に落ちんとする衛星要塞を止める方法が他にあるのか?と。

 

「………そういうことだ。下がってくれ。もう皆の仕事は終わった。…後は…俺が落とし前をつける。」

 

エネルギーが膨れ上がっていく。

次元爆発の前兆か、地球が………いや、世界が歪んでいくのが実感できる。

もう時間は…すぐそこまで来ていた。

 

「この世界に…俺の居場所はない。

 

 

 

 

 

 

じゃあな。」

 

瞬間、

 

彼の視界は黒に包まれた。



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第二話『女神様?』

「う………ここは…?」

 

妙な浮遊感に包まれていた事に違和感を感じ、目を見開いた。

 

「モニターは………一応、生きているか。」

 

所々ひび割れているものの、外の景色を確認することくらいはできるようだ。

ぼやける視界を修正しながら、モニターに映し出されたそれを見て、彼は息を呑んだ。

周囲に映し出されたもの。

それは青くも暗い宇宙の色とは異なったものだった。

 

「……何なんだ?この景色は…。」

 

それは周りすべてがマーブルに彩られた異様な空間。あの暗がりの宇宙とはまるでかけ離れた色だった。

その異様さに思わず目を見開いてしまうが、すぐに目を閉じて一息吐き出す。

 

「ここがどこだろうが……関係はないか。しかし…●●●●●●、思ったより丈夫だったらしい。」

 

あれだけボロボロの状態で戦って、次元転移の爆発に巻き込まれたにも関わらず、こうしてコクピットのエアーが保てるほどまでに耐えていたのだ。愛機の堅牢さには舌を巻く以外ない。

 

「システムの再起動は……無理か。手動での脱出は……ダメだ。装甲がひしゃげて引っ掛かってるな。………フッ…出られたからと言ってどうなるわけでもないが。」

 

明らかに異様なこの空間。どう考えても普通の空間ではない。恐らくは、次元転移のショックで異空間にでも飛ばされたのだろう。

諦めた彼は、力を抜き、浮遊感に見を預ける。

妙な心地よさだった。

なんのお供しない。ただただ静寂が支配する世界。

 

「静かだ。世界はこれくらい静かな方が良いのかもしれん。………静寂が日常である世界、案外悪くはないようだ。」

 

闘争をかつて望んでいた自分たちだったが、

闘争もない、

戦争もない、

そんな世界をその身で感じ、それは意外にも満たされていた。

これが平和を望み戦うものが得られる特権なのかもしれない。

 

「酸素残量は…後20分前後か。それまでは生きていられるか。………あの部隊は全滅。後は残った俺がいなくなれば、すべて終わる。…終わるときは…まともな死に方をするとは思っていなかったが…フッ、俺は贅沢ものだな。」

 

けたたましい銃声鳴り響く戦場で戦死することもなく、

ただただ静寂の中で一人で、ゆっくりと………

自分がまさかそんな最期を迎えることができようとは、夢に思わなかった。

 

「この訳のわからん空間が俺の墓場っていうのが気に食わんが、それも贅沢、というものか。だが………

 

もっと贅沢を言うなら、

 

平和という甘い世界を………見て、歩いて、感じてみたいというのは、欲張りなのだろうな。」

 

【そんな貴方の願い、私が叶えてあげますの。】

 

「!?!?」

 

独り言に応じるように頭に響く声。閉じていた目を開き、何事にも応じれるように身構える。

 

「…誰だ?」

 

【私は今、巷で流行りの転生の女神ですの。今、貴方が言っていた平和な世界で過ごしてみたい。その願いを叶えられますの。】

 

「女神…?ふざけているのか?」

 

【マジもマジ。大マジですのよ?】

 

…どうにもこのヒトを食ったような声に懐かしさを覚えつつも、警戒を怠ることはない。

 

「仮にお前が女神として、ここはどこだ?あの世、というやつなのか?」

 

【そうでもあって、そうでもないですの。ここは所謂、次元の狭間ですの。】

 

「次元の狭間…だと?」

 

【その名の通り、あまねく世界の間にある場所ですのよ。あの世もこの世もその世もどの世も行けますの。】

 

正直眉唾ものだった。女神だの何だのオカルトを信じる程、彼は信心深くはない。だが、この空間を他に説明できないのも事実だ。

 

「仮に俺を平和な世界へ飛ばすとして…お前に何のメリットが有る?平和な世界で何をさせるつもりだ?」

 

【疑り深いですのねぇ。私、悲しいですの。しくしく。】

 

「取って付けたような泣き真似はやめろ。ばればれだぞ、これがな。」

 

【…ホントに泣きますのよ?…まぁ見返りとして、その壊れかけの機体。その特殊な力を借りたいですの。】

 

「特殊な…?」

 

【正確に言えば、その装甲材質ですの。】

 

用途はわからないが、この機体の装甲にはある程度の自己修復機能が備わっている。それをご所望らしい。

 

「…幾度となく俺を救ってくれた相棒だ。このまま朽ちていくよりも、何らかの役に立てれるなら、それに越したことはないだろう。」

 

【契約、成立ですのね?】

 

「あぁ。貴様の好きにしろ。」

 

【ありがとうですの。………これで私は………私自身になる方法を…。】

 

「………?」

 

何やら後半が聞き取れなかったが、どうせここで切れる縁だ、と彼は気には止めなかった。

兎にも角にも、これで平和な世界へとシフトとなる。不安もないわけではないが、期待もないわけではなかった。

 

【では、これから貴方をかの世界へ誘いますの。準備はいいですの?】

 

「いつでも構わん。好きなときにやれ。」

 

【了解ですの。】

 

そう応じるやいなや、彼の体が淡い光りに包まれる。不可思議な光景だが、考察するより先に、次は体が透け始めた。いよいよ異世界へ飛ぶことが現実味を帯びてきた。

 

【そうそう、言い忘れましたの。】

 

「なんだ?」

 

【これから次元をぬけることになりますの。つまり強いショックに晒されますの。衝撃で記憶がブッ飛ぶかもしれませんので、了承お願いしますの。】

 

「なん……だと……?」

 

以前、彼は一度次元転移を体験し、記憶を失ったことがあった。

その時の自身の性格を思い出し、背筋に薄ら寒いものが走る。

 

「アレが…まだ起きるかもしれないのか!?」

 

【起きるかもしれませんし、起きないかもしれませんの。】

 

「どっちだ!?」

 

【それは神のみぞ知る、というやつですのよ。】

 

「貴様!さっき自分で女神と言っただろう!?」

 

【記憶にございませんの。】

 

体の感覚がなくなってきた。いよいよその時が来たらしい。

 

「くそっ!分の悪い賭けになったもんだ!」

 

【分の悪い賭け……好きではありませんの?】

 

「ここまで嫌な賭けは好まん!」

 

体がもはやここにあるかすらわからない状態へと変わってきた。もう喋ることすらままならない。

 

【時間ですの。】

 

「………!………!」

 

何かを訴えようにも声が出ない。

そんな焦りのさなか、やっぱとんでもないことを最後に口走った。

 

【では、向こうで会いましょうですの。】




転生の女神様………一体何者なんだ(棒)


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第三話『流れ着いた異邦人』

「ぅ………!」

 

目を覚ましたときに目に飛び込んできたのは、見知らぬ天井だった。白く、清潔感のあるそれと、容赦なく目に差し込むLEDライトは、寝起きにとっては苦悶以外何者でもなかった。

 

「ここは…?」

 

ゆっくりと体を起こす。ベッドがギジリと軋み、長い間横になっていたのか、体の関節も悲鳴を上げる。

 

「ようやく起きたか。侵入者め。」

 

「んぉ?」

 

予期せぬ低い女性の声に、随分と間抜けな声が出てしまった。

声の方を見れば、まるで鷹が鷲と形容するにふさわしい、黒髪の女性がガイナ立ちしていた。

 

「え、えと………。」

 

「………。」

 

「おはようございました?」

 

「なぜ尋ねる?」

 

「で、ですよね〜。」

 

愛想笑いを浮かべる男。対し女性は鋭い視線を崩すことなく備え付けの丸椅子に座り、変わらず睨みつけてくる。

 

「それで?お前は何者だ?どうしてココの敷地内の浜辺に倒れていた?」

 

「………俺…?俺は……。…?……??」

 

「どうした?まさか記憶喪失などと言うまいな?」

 

「………もし、もしだけど。そのまさかだったら……。」

 

「信じる、とでも?」

 

そのような茶番は通用しないとばかりに圧を強められた。

ありとあらゆる汗腺から嫌な汗が吹き出てくる。

 

「まさか本当に記憶喪失とでも言うつもりか?」

 

「………ハイ。」

 

絞り出した二文字の返事に、女性は大きなため息一つとともに頭を抱えた。

 

「名前は?せめてそれくらいは思い出せんか?」

 

「名前………名前…。」

 

靄がかかった頭の中を必死に探し求める。その中でようやく見つけた陽光を掴み取った。

 

「アクセル………アクセル…アルマー………。」

 

妙にしっくり来た。呼び慣れた記憶が蘇ってくる感覚が、妙に心地よく感じる。

 

「そうか………ならばアクセル。思い出せることが少しでもあるなら、話してもらいたい。例えば、ここに来た経緯とかな?」

 

「う〜ん…それができたら楽なんだけど…。そうだな……君のような美人にキスされたら思い出…」

 

鋭く風を切る音が部屋に響いた。

ほんの一瞬でアクセルの頬に当たる既のところで、刀が止まっていたのだ。

 

「私が……なんだって?」

 

「イエ……ナンデモナイデス……。」

 

「全く……!」

 

刀をどこかへ収めながらも、彼女の中では一つ疑問が浮かび上がっていた。

 

(こいつ……私の剣戟にある程度反応していた。)

 

彼女…織斑千冬は人間離れした身体能力の持ち主だ。こと剣術においては、世界最高峰と言われるほどの。そんな彼女が放った…ある程度手加減し、寸止めの腹積もりだったとはいえ、こちらが動いた瞬間に体を反らし、身構えたのだ。

 

(…なるほど、ただの記憶喪失の男と言うには惜しいな。)

 

にやりと口元を緩める千冬は、ポケットに忍ばせていたとあるものを引っ掴むと、アクセルに投げ付ける。それを難なく掴み、投げ渡された物を見たアクセルは疑問符を浮かべる。

 

「なんだい?これは。」

 

「発見した当初、お前が握りしめていたものだ。覚えはあるか?」

 

「う〜ん…ある様な無い様な………なんかもやっとはするんだがねぇ。」

 

「曖昧だな。」

 

「こればっかりはどうしようもなくてね。」

 

だが…投げ渡されたもの…翠水晶のネックレスに妙な引っ掛かりを感じずには居られなかった。

 

(なんだ…?俺はこいつを知っている…?)

 

だが先程とは違い、その正体を掴むには至らず、もどかしさだけが残る。

だがどことなく…一押し、あと一押しでなにか思い出せそうな…そんな予感がする。

 

「軽く解析して見たところ…大まかにそれはISであることがわかったんだが…。」

 

「あいえす?」

 

「…まさか、IS…インフィニット・ストラトスをも知らんというのか?」

 

「そりゃ記憶喪失だからな。PTとかAMとかなら………ん?」

 

「ぴーてぃー?えーえむ?それはなんだ?」

 

(なんだ…?俺はこの言葉を知っているのか…?)

 

また頭を靄が覆う。断片的すぎる記憶のおかげで、何もかもが中途半端だ。そのせいで、もどかしさばかりが支配してくる。

 

「悪い…。ふらっと頭を過ぎったんだ。俺の記憶となんか関係があるのかね、こいつは。」

 

「ふむ…、まぁ思い出せたらで構わん。…因みに、そのISのデータ。それで解析できたのは名前だけだ。全く、持ち主と同じで、名前しかわからんとは…皮肉なものだな。」

 

「は……はは…。」

 

もはや苦笑いが関の山だ。こればかりはISを造ったやつに言って欲しいものだ。

 

「そんで…ISの名前は…?」

 

「名は…

 

 

 

 

 

ソウルゲイン。」

 

「ソウル…ゲイン………?ぐっ………ぉっ!!」

 

瞬間、

アクセルの脳裏に電流のような痛みが迸った。

先程とは全く違った痛みに、思わず頭を抱えて呻き出す。

 

「アクセル!?どうしたというのだ!?」

 

「ソウル…ゲイン…!」

 

再び己が『相棒』の名を呟く。

瞬間、頭に自身の記憶だろうか?何らかの映像が断片的にフラッシュバックしてきた。 

 

『お前達は…望まれない…世界を作る……。』

 

『勝利…敗北……そこに意味はない…。破壊されるか…創り出されるか…。創造は破壊…破壊の創造…。お前は方舟と共に朽ちよ…。』

 

「ベーオ……ウルフゥ……!」

 

孤狼

その意味を指す、獰猛な蒼き狼の姿の名を浮かべる。

なぜかはわからない。だが、この名は自身にとって忘れてはならない、そして忌むべき名であることは確かなものがあった。

 

「ベーオウルフ…?孤狼だと?それは何なのだ?」

 

「わからない……ただ、俺にとってはただの言葉じゃないことは確かだ、これがな。」

 

「ふむ…お前のその表情を見るに、余程の言葉なのだろうな。」

 

「表情?」

 

「お前、人を射殺せそうなほどの顔をしているぞ?」

 

「うぇ…。」

 

一体どれほどの思いがこもっていたのか?

そう言わしめるだけの何かがこの言葉にあるのか?

今はない記憶の中で、自身の本能がそうさせているのだろうか?

 

「とにかく…そのISはソウルゲインで、所持者はお前で登録しておく。それで構わんな?」

 

「あぁ、構わんぜ。って、ノリと勢いでそう言ったけど、いいのか?これは。」

 

「そうだな。良くないな。」

 

「おぃ。」

 

曰く、

世界に五百とないコアを用いたISを所持すること、即ち世界中で喉から手の出る程の物であり、また、女性しか操れないISを操れる男性ともなれば、更に厄介な連中(行き過ぎた女性権利団体とか研究機関)に狙われるであろうこと。

 

「どうする?このままソウルゲインに登録し我々の保護の元で生活をするか、ソウルゲインを手放し自由を手に入れるかの2択だ。」

 

「それ、選択があってないようなもんだろ。」

 

「それが世界の状勢だ。そこは受け入れてもらうよりないな。」

 

「マジかよ……。」

 

がっくり項垂れる。

保護されれば衣食住は保証されるが、監視下で過ごさざるを得なくなる。

逆に自由を選べば、監視はなくなるものの、戸籍もなにもない根無し草の自分が食っていけるのかわからない。

答えはほぼほぼ決まっている。いや、決められていた。

 

「仕方ねえ。登録する意外にねぇか。ま、なるようにならぁね。」

 

「殊勝な判断だな。」

 

「そりゃどうも。まぁ、生活の保証もあるけど、なんとなくこいつを手放したくないっていうのもあってね。」

 

「ともすれば、記憶を失う前のお前は…なぜISを持っていたのか気になるな。」

 

「記憶が戻らねぇとわかりようがないな、これは。」

 

「わかっているさ。だが、なるべく早く戻ってくれるとありがたいな。」

 

「善処はするぜ。あとは…まぁ保護と同時に監視の意味もあるんだろ?こんな素性もわからない色男をほっぽりだすのも危険だろうしな。」

 

「色男かどうかは別として、お前の予想は間違ってはいない。」

 

そんな感じで尋問だか事情聴取だかを終わらせると、退室しようとする千冬。

 

「そうだ。アンタの名前聞いてなかったな。俺だけ名乗るってのもフェアじゃなくないか?」

 

「そういえば名乗っていなかったな。私は織斑 千冬。ここ、IS学園で教師をしている。」

 

「は?学園?教師?」

 

「IS学園は、その名の通り、ISの使い方を学ぶところだ。この部屋から無闇に出歩くなよ?」

 

「なんでだよ?」

 

「ISは元来女性にしか動かせん。そしてそのISの操縦を学びに来るのは100%女子だ。つまり、この学園には…」

 

「女の子だらけ…ってわけね。」

 

「そうだ、お前はいわゆる女学園のど真ん中にいる男ということだな。」

 

理解したアクセルの顔色が悪くなる。

これで下手に外を出歩いて生徒に見つかりでもしたら、学園とは別口の機関…さしずめ国家権力の名のもとに、牢屋で保護されることになるだろう。

そんなのまっぴらごめんだ。

 

「りょ〜かい。ここで大人しくしとくよ。シチュエーションはハーレムなんだがな。」

 

「止めておけ。今の御時世ISという存在で、女尊男卑の思考を持つものが少なからず居る。お前の想像するような男の理想郷などとは程遠いぞ。」

 

「うげ……。」

 

「想像して、より実感できたようで何よりだ。まぁおとなしく数日待てば、今ほど不自由な生活はさせんよ。」

 

頼もしい言葉を残し、千冬はようやく退室した。

再び静寂に包まれた部屋で、話し相手がいなくなったアクセルは、再びベッドに身を預けた。

 

「何だって、記憶喪失なのかねぇ……。」

 

そのボヤキに誰も応じてはくれない。ただただ静かに、夜の月明かりが窓から差し込んでいるだけ。

 

「ま、なるようにならぁね。そうだろ?ソウルゲイン。」

 

その問いに答えるように、翠の相棒は月明かりに照らされて、幻想的に輝くのだった。



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第四話『お勉強』

今回、場面切り替え多いです


「食事だ。食え。」

 

「なんか扱いが囚人ぽいんだな、これが。」

 

翌朝

目が覚め、思えば昨晩は何も食べなかったことを思い出して空腹感に打ちひしがれていると、渡りに船と言わんばかりに千冬が朝食を持ってきてくれた。

言い方は少しアレだが、これも彼女なりのユーモアなのだろうか。

シンプルにBLTサンドイッチにスープといったメニューだ。

 

「うめぇな、これは。」

 

「ここは世界最高峰の学園だからな。それ相応の料理人を古今東西雇っている。」

 

「いいねぇ、まさにセレブってやつか。」

 

成人男性の食欲を侮るなかれ、空腹も相俟った美味で、あっという間に平らげたアクセルは一息入れる。

 

「さて、昨日の今日だが、お前の処遇が決まったのでな。伝えるぞ。」

 

「うへぇ…。」

 

「そう嫌そうな顔をするな。別に悪い話じゃない。」

 

どんっ!と言う物々しい音とともにテーブルに置かれたもの。それは広辞苑か何かを思わせる本と、何かの参考書のようなもの。

 

(……どっから出したんだよ!?さっき両手には何も持ってなかったよな!?)

 

「今からお前にはこの本の内容を全て頭に叩き込んでもらう。期限は一週間だ。」

 

「は…?」

 

「聞こえなかったのか?一週間でこの本の内容を覚えろと言ってるんだ。」

 

明らかに分厚いそれを、一週間で覚えるなど、明らかに無理難題だ。これのどこが悪い話じゃないのか?明らかに悪い話だ。

 

「どうせこの部屋からしばらく出られんのだ。ならば勉強でもして、少しでも記憶を戻す努力をしておけ。」

 

「………。」

 

「わかったか?YESかハイかで答えろ。」

 

「…ハイ。」

 

「よろしい。食事や着替えは持ってきてやる。せいぜい励め。」

 

言うだけ言って、早々と出ていった千冬。残されたのは分厚い紙の束。

先ずは薄っぺらい冊子のようなものから片付けようと手に取る。

 

『記憶喪失でもわかる!ISのアレコレ!』

 

そんな題名の本だった。

 

「ハァ……ま、保護される身だ。何もせずにおんぶにだっこは嫌だからな。いっちょやってるぜ。」

 

これも自身が平穏に暮らすための一助だ。

恐らくはハイスクール等以降の勉強だろう。備え付けの机に資料を広げると、どこから取り出したのかわからないがハチマキを締め、ノルマをこなすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後

 

約束の日だ。

やるだけやった。

何度も資料を読み直し、重要なところや難しいところは付箋を貼り、その様相はさながら受験生のそれだ。余程根を詰めたのか、目の下には若干のクマがあり、額には千冬に注文しておいた冷えピタを貼っている。

 

「さて…約束の日だ。今から一週間の成果を見せてもらおうか。…余程気合を入れたようだな?」

 

「ま、何もしないでいるよりはってね。それよりも始めようぜ。覚えた内容が飛び出ないうちによ。」

 

「いい覚悟だ。ならばどれ程の知識を詰め込んだのか、見ものだな。」

 

配られるは、一枚の答案用紙と、問題用紙数枚。まるで中間テストか期末テストのようだ。だが、千冬の言葉を聞くに、効果測定に近いものなのだろう。

 

「では……始めっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後 IS学園職員室

 

「先輩、お疲れさまです。」

 

丁度アクセルの答案を採点し終えたとき、おっとりとした声が千冬に掛かる。その正体は山田真耶。千冬の後輩であり、そのバストは豊満であった。

 

「あぁ、山田君。お疲れ様だな。部屋わけの仕事、頼んで申し訳なかった。」

 

「いえ。ちょうど手が空いてましたので。……それが例の男の人の?」

 

「あぁ。一般常識や科目はすっぱ抜いて、IS関連のみテストしてみた。」

 

「凄いですね。合格ライン超えてますよ!これで一週間の詰め込みなんですか?」

 

「あぁ。詰め込みによる付け焼き刃かも知れんが、結果としては合格だ。」

 

IS学園は世界最高峰の高等学校であるため、そこに入るまでの試験はとても狭いものだ。なにせ国際学校なので、全世界からISのノウハウを学ぼうと試験を受けるのだ。その中で限られた人数に絞り込むとなれば、世界トップクラスの頭脳である証ともなる。その合格ラインに一週間の勉強で見事掛かったアクセルの学力、そして学習力は眼を見張るものだった。

 

「今年は大変な年になりそうですね。何せ『二人目』ですし。」

 

「全くだ…。最初に『アイツ』がISを動かしたことで2回目は少し慣れたよ。」

 

「見たところ…彼、明らかにティーンエージャー…には見えません、よね。それでも学生として通ってもらうんですか?」

 

「仕方なかろう。適正ある男ともなれば、いくつであってもここに入ってもらわなければ、様々な連中に狙われかねん。」

 

ニ枚の男性入学者の写真を見ながら、千冬は大きくため息をつく。

今年は厄年かもしれない。

 

「山田君、第8アリーナは最短でいつ空く?」

 

「えっと……そうですね。明日のお昼過ぎから夕方迄空いてます。なにか用事でもあるんですかる」

 

「なに、学力の次は実技試験と思ってな。」

 

「え?」

 

「少しやつの力を確かめたい。」

 

ここまでくれば、彼の実力を『自分自身で確かめたい』。

そんな欲望が出てくるのは、教師としてか、はたまた元世界チャンピオンとしてか?

それはさて置いても、少しばかりここ最近の多忙によるストレス発散に付き合ってもらおう。

千冬の中でちょっとばかり黒い感情が芽生えた。



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第五話『実技試験』

翌日

昼食を終えて一服している中、千冬の『来い。』の一言で記憶喪失後に初めて外に出ることができたアクセル。何処のマダオだろうかと言わんばかりの言葉少なさだが、外に出られることに変わりなく、狭くはないが、閉鎖的な部屋から出られたことがアクセルにとっては僥倖だった。

 

「ここだ。」

 

部屋から歩くこと十分程。

辿り着いたのは『第8アリーナ ピットエリア』

自動ドアを抜けた先は薄暗く、見えにくくない程度に内部が照らされている。構わず歩いていく千冬に、何がなんやらわからぬ状態でついて行くことしかできいアクセル。

 

「今日はお前の実力を見せてもらう。所謂実技試験だ。」

 

「戦う?俺が?誰と?」

 

「それはその時のお楽しみだ。その方がサプライズで良いだろう?」

 

「……そんなサプライズ、遠慮したいんだが…。無理な話、だよな?」

 

「わかっているじゃないか。では、ソウルゲインとやらを起動してここで待っていろ。その後は追って通信で話す。」

 

返事は聞かぬまま、千冬はピットから出ていってしまった。

呆れるアクセルだが、これ以上はどうしようもない。今は千冬の指示に従う意外に、何の選択肢はないのだから。

 

「やるしかねぇか。…やるぞ、ソウルゲイン。」

 

念じれば、その言葉に呼応するかのように、アクセルの体は蒼い閃光に包まれていく。

次の瞬間には光は収まり、アクセルは自身の体の感覚を確かめる。

その見た目は正に断片的な記憶に焼き付いて離れない、長年の相棒だろうと確信が持てる姿だ。体の各所には丸みを帯びた蒼い装甲による全身装甲(フルスキン)と、ペンダントと同じ翠のクリスタル。右腕は左腕とは非対称で、左は肘のブレードを含めシルバー、右はゴールドだ。極めつけは額と頬から伸びたブレードアンテナのような突起。

普段の体より若干重い感じはある。だがこれがISのパワーアシストからか、見た目ほどの重さは感じられない。

 

『装着完了。これより最適化(フィッティング)を開始しちゃいますのです。』

 

「ん……?」

 

一頻りソウルゲインをまとった実感を味わったあたりで、妙な機械音声が流れた。

 

一次移行(ファーストシフト)まで、しばらくお待ちやがりくださいませ。』

 

「なんだこりゃ?バグってるのか?」

 

『バグっておりませんのことよ。アホですか?』

 

何だコイツは、喧嘩を売っているのか?と、アクセルの怒りのボルテージ(気力)がモリモリ上がっていく。

しばらくして、一次移行(ファーストシフト)完了したあたりで千冬から通信が入る。

 

『準備はできたか?』

 

「お、おう。」

 

『よし、ならばカタパルトに進め。そこからはガイド音声が案内してくれる。』

 

「りょ〜かい。」

 

ガションガションと、いかにもメカメカしい音を鳴らしながら、カタパルトと思しき装置の前に移動する。

懐かしい

そんな感覚が蘇ってくる。

何度も何度も体験したような。

ガイド音声など聞こえないのかとばかりに、体に染み込んだ動きがカタパルトへと誘う。射出装置に脚部を固定。これから射出のための加速に備え、膝を曲げ、やや前傾になり、足を踏ん張る。

 

『進路クリア。発進は、搭乗者の音声認識にて行います。どうぞ。』

 

「よし!アクセル・アルマー。ソウルゲイン!行くぜ!!」

 

瞬間、蒼き拳神は、アリーナ上空へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出てきたか、アクセル・アルマー。」

 

アリーナに降り立ったアクセル。それをガイナ立ちで待っていたのは、第二世代の打鉄を纏った知った千冬。その佇まいは、もはや一種の芸術と言わんばかりに雄々しかった。

 

「もしかして、千冬ちゃんが対戦相手なのか?」

 

「その通りだ。手加減はいらん。お前の全力を私に見せろ。それだけだ。」

 

そう言うと、打鉄の拡張領域(パススロット)から近接戦用ブレードである『葵』を展開。構える。

その圧たるや、記憶の断片にあるお下げのジジィに親しいものを感じる。思わず身震いするが、さりとてアクセルという男は、それで気圧されて竦み上がるほど、気の小さい男ではなかった。

 

「いいね。シンプルなのは嫌いじゃないんだな、これが。」

 

応じるようにアクセルも徒手空拳の構え。武器展開しないアクセルに、千冬は怪訝な表情を浮かべる。

 

「武器は使わんのか?」

 

「使わない…というより、拳で戦うのがしっくりくる気がしてな、コイツは。」

 

「確かに、近接戦用の雰囲気ではあるが…まさか素手とはな。やれるのか?」

 

「記憶がなくても武器の威力は変わらんぜ?」

 

「違いないな。…そろそろ始めるか。山田君、ブザーを頼む。」

 

『わかりました!それでは、実技試験……

 

 

 

始め!』

 

開始と同時。

千冬はIS戦闘技能の基本でもある瞬時加速(イグニッションブースト)を発動し、一気に間合いを詰める。ISを起動するのも、動かすのも、ましてや戦うのも初めてのアクセルは面食らう。

だが、身体がとっさに動いた。

上段から振り下ろされるブレードを、ソウルゲインの肘部ブレードを交差し、噛むように受け止める。

 

「お、重っ!」

 

打鉄のパワーアシストだけではない。恐らくは千冬の基礎身体能力を増幅させた一撃。まともに受け止めてしまった事で、思わずアクセルは顔を歪める。

 

「やはり私の動きに反応するか!」

 

「いや、勝手に体が動いたんだな、これが。」

 

「ならば身体に戦い方はが染み付いているのだろうな!」

 

「ぐっ!」

 

脚部による蹴りを脇腹に食らう。シールドエネルギーに加え、装甲越しとは言えども衝撃は多少なりとも響くものだ。蹴りがクリーンヒットした事で、シールドエネルギーが微量だが減少してしまった。初手は譲ってしまったが、アクセルとしてもこのままやられっぱなしというのは性に合わない。

しかし、

 

(えぇっと…どうやって武装を使うんだ?)

 

アクセルは困惑していた。

本による前情報で、ISの操作法や、拡張領域(パススロット)にある量子化された武器はイメージで呼び出せる、という知識はあるものの、自身の機体は武器が量子化格納されたものがない。呼び出せたなら、剣や銃のように扱えるのだろうが、あいにくとそんなものはなかった。

 

『お前も想像力が足りなかったか。』

 

「ちょっ!さっきから何なのお前!?」

 

ちょくちょく茶々を入れるこの声は何なのか。

だが

想像力

そのワードに引っかかったアクセルは、両拳に力を貯めるイメージを浮かべる。

するとどうだろう。手の甲のクリスタルが反応し、両拳に淡い蒼のエネルギーを帯びる。

 

「これは…!よし!こいつで殴れってことだな!」

 

「ほう…!拳を武器にする、というのは強ち間違ってはいないようだな!」

 

「こっからが本番ってね!」

 

開いた距離を互いに踏み込む。

突き出した右拳と振り下ろされたブレードが克ち合い、二人をスパークが包み込んでいく。

弾かれた右拳の勢いそのままに、左でボディブローを打ち込む。右手は弾かれたが、左手はまだある。それは千冬のブレードも同じだが、あいにくと手数はこちらは2倍だ。優位性はこちらにある。

 

(そう思っていた時期が、俺にもありました。)

 

武装の使い方をマスターし、ここから俺のターン!と思っていたアクセルだったが、両拳の手数においてなお、千冬はブレード一本で立ち回り、そして捌いていた。決して遅くも軽い一撃ではない。にもかかわらず、攻めきれていない状態だった。

 

「良い戦いぶりだ。心が躍る!」

 

「涼しい顔して捌いて、よく言うぜ!」

 

「これでもそこそこ本気なんだがな!」

 

「冗談きついっての!」

 

正直、体が覚えている限りの本気なのだが、それを全力ではない状態で捌かれたとあっては、ますます千冬の本気というものが恐ろしい。

 

「そろそろ応酬で体が温まって(気力が上がって)来ただろう?ギアを上げていこうか!」

 

「勘弁してくれ!」

 

更に剣戟の速度を上げた千冬。そのスピードに攻勢に出られず、防戦一方に移っていく。どうにか打開しなければ、このまま押し切られるのが目に見えていた。

ならば、

 

「ウロコ砲!」

 

咄嗟に浮かんだ攻撃法。

拳にまとっていたエネルギーを、振り下ろしてきたブレード目掛けて打ち出した。意表をついた一撃に、千冬は思わず目を見開く。

 

「覇!!」

 

あろうことか、千冬はブレードの縦一閃にて、ウロコ砲…正式名称『青龍鱗』を真っ二つに引き裂いた。

 

「うっそだろオイ!?そうはならねぇだろ!?」

 

「なっているだろうが、現に。しかし、エネルギーを射出するとは…中々面白い戦い方もあるな。次はどんな引き出しを見せてくれる?」

 

「鬼が悪魔だな、こいつは。」

 

千冬が浮かべる獰猛な笑みに、アクセルの口元が思わず引きつる。だが、気圧されはしない。青龍鱗によって生まれた一瞬の間隙を縫い、間合いを取ることに成功する。

 

(どうする?まだ思い出した武装はある。だが、外せば敗色濃厚。かと言って使わねぇと、それもジリ貧。だったら一瞬の隙を狙っていくしかない。)

 

相手は見るからに達人の域。それこそ、記憶の片隅にある、『連邦の白い悪魔』や『赤い彗星』、それこそ『オサゲの不敗』に及ぶほどの。

 

(ん?何か違う気がするが…気にしないほうがいいな、これは。)

 

『大草原でありんす。』

 

そんな腕前の相手だからこそ、勝負は一瞬。それこそ、針の穴に高速移動しながら糸を通すかのような、至難以前の難易度だ。

だが、やるしかない。

 

「ただの博打なんだな、こいつは!」

 

「ほう?何かしら奇策でもあるのか?」

 

「スマートじゃねぇけどな!」

 

「ならばそれを受けるのみだ!来い!」

 

再び瞬時加速(イグニッションブースト)で間合いを詰めてくる千冬。対しアクセルは、迎え撃つつもりなのか、それとも牽制のつもりなのか、左掌から再び青龍鱗を放つ。

 

「その攻撃、既に見切った!」

 

再度、切り払われる青龍鱗。だが、その一瞬の隙が、アクセルにとっては値千金だった。

千冬はソウルゲインとアクセルの力を試すべく、恐らくはあるはずの射撃武器を使わず、近接戦のみをしかけてきている。それがアクセルにとって付け入る隙であり、好機だ。

切り裂いた青龍鱗は、一瞬とは言えども千冬の視界を遮った。そしてソウルゲインの突き出した左手と胴体、それらが死角となって見えなかった右手。それが本命ということに千冬は遅れて気づいた。

肘のゴールドのブレードが分割し、右の前腕部が空気を渦巻かせる程に高速で回転していたことに。

 

「強化型ロケット・ソウルパンチ!!」

 

振り抜かれた右手。同時にソウルゲインの右肘から先がロケット噴射し、千冬に肉薄した。

 

「なんとぉっ!!」

 

振り抜いたブレードを返し、受け止めんとする。

しかしそれが悪手だった。

ブレード一本でエネルギーを纏った両拳の応酬(白虎咬)、更に青龍鱗を2発受けてしまったのだ。ソウルゲインの出力は正直高い。それこそ打鉄を有に上回る。ブレードも、ある程度の硬度があるとはいえ、量産物。近接戦用にして、重装甲高出力のソウルゲインの打撃を何度もまともに受けてしまえば…

 

「まさかっ!?」

 

摩耗していたブレードに亀裂が入り、瞬く間に刀身が真っ二つに砕け散った。更に、強化型ロケット・ソウルパンチ(玄武金剛弾)は勢いは留まらず、千冬目掛けて突っ込んで来る。

 

「ちいっ!?」

 

思わず半身ずらす。だが避けきれず、左の固定浮遊部位(アンロックユニット)の盾が、突き抜けるそれに巻き込まれ、豪快な音と共に吹き飛んでしまった。

まともに当たっていたら、シールドエネルギーがどれ程削られていたか…。それどころか、どれほどの衝撃に襲われていたかを想像し、嫌な汗が吹き出てくる。

 

「まさか、腕を飛ばすとはな。」

 

「え?飛ばしてナンボだろ?」

 

「知らん、お前の価値観だ。」

 

しかし、と千冬は言葉を繋げる。

 

「右腕は、射出したらこのあとどうするんだ?」

 

「………………。」

 

言葉を無くしたアクセル。

弾道の先に視線をやれば、アリーナの壁。そこに見事に突き刺さった玄武金剛弾の姿。リターン機能はないのだろうか?

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「リタイアで。」

 

「…わかった。」

 

実技試験。アクセル、世界最強に食い下がるも、なんとも拍子抜けな結果で終わってしまった。



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