きっと同じ気持ちだから (ララランドはカラダ探し楽しみ)
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愛してくれた貴方に白色の湯煙を
「ううん……あぁ、朝か」
脳が動きたくないと体に訴えかけてくる朝、いつものよう2度寝をすることは今日に限って無く、のそっと身体を起こしあくびをしてから体を伸ばす
「あ、起きた?おはよう」
久しぶりにあったはずの彼女はまるでいつもいるかのような返事を返す
「お前いつ鍵開けたんだよ、ってかよく気づかないように開けられたもんだな」
彼女に向かってそう言うと少し誇らしげに
「ふふん、君の彼女を侮っちゃあいけませんよ!それくらいチョチョイのチョイです!」
なんて返してくる。
「朝ごはん食べるけど、いる?」
「ううん、いらない、それよりもさ〜久しぶりに貴方の可愛い彼女帰ってきたんだよ!?もっと甘やかしても良くない!?」
かわいい顔をしながら甘えたいと願ってくる、そんな彼女のことがとても愛らしく見えた。
「自分で可愛いとか言うな、それじゃ勝手にいただきます」
話しながら淹れていたコーヒーと冷蔵庫に入れておいた作り置きのサンドイッチを頬張りながら彼女の方へ視線を向ける、膨れっ面をしながらむ〜と言っている彼女の頭を少し撫でてあげると少し恥ずかしそうにこちらへと身を委ねてくれる、猫だったらゴロゴロと喉が鳴るんだろうなぁと考えていた。
「今日、どっかいこっか?」
そう問いかけると彼女は目を輝かせながら
「キャンプしようよキャンプ!一緒に夜を過ごそうぜ!」
とか言ってきた、うちにはテントなんてものがないから無理だな、なんて考えていたら彼女は
「テントとかはいらないよ、ほらこれにコーヒーカップとか必要なもの全部入れて、あ、私のもやっておいて〜」
なんて言うもんだから少し頭をぐりぐりしてやった、彼女はキャーなんて言いながら笑顔でいてくれる、そんな彼女のことを見ているとこちらもなんだが許してしまう。
「しょうがないなぁ、とりあえずご飯食べ終わってから用意するから、それまで待ってて」
「ありがと〜!大好きだよ〜❤️」
「はいはい俺も大好き」
そんなふうに返すと彼女に心がこもってな〜いなんて少しむつけられてしまった、ごめんってと苦笑しながら食べ終わったサンドイッチを巻いていたラップを捨て、コーヒーカップを洗ってから乾かしてバッグに入れる、引き出しの奥の方に入っていた彼女のコーヒーカップを引きずり出しこれもバッグに入れる。
「これ昔使ってたペアの奴じゃ〜ん!遠距離になっても浮気していないようでなによりじゃぞ」
「おばあちゃんか、まぁ今じゃあ全然遊びに来ないせいで引き出しの中で引きこもりしてるけどな、昔のお前みたいに」
「なんだと!?貴様それは禁句だろ〜」
キャッキャしながら言っているが昔こいつは引きこもってた。今はどんなことやっているかはあまり詳しく教えてはくれないがちゃんとやってるよとは返ってくる。
「少し時間があるし暇だね〜お昼寝でもしよっか!」
「まだ9時くらいなんだけど」
「まぁまぁいいじゃないどうせ5時くらいからしか外でないんだし、ほらおいで?」
そう言って先に布団に入っているあいつ、まぁいいかと思いながら誘い通りに布団に入った、久しぶりに感じた彼女の体温は冷たくて、でも心が温かい気持ちになるような感覚だった。
「起きて〜ほら起きて〜、む〜こんなに起きないんだったらキスしちゃうぞ?」
「うわぁ、きも!」
ごちんとゲンコツが落ちてくる、痛みは感じないほど弱いゲンコツ。
「もう!最低なんだから、ほら5時の鐘がなったよ?早く行こ」
耳を澄ますといつものように5時の鐘の音が聞こえてくる、さっき用意しておいた鞄を手元に持ってきて忘れ物がないか確認してから二人で家を出る。
「とりあえず電車乗ってちょっと遠くいくぞ」
「わぁ、私のためにそんなに考えてくれていたんだね、嬉しい」
時々そんな可愛い顔してくるの本当にずるいと思う、そんなことを口にできるわけもなく駅までくだらないことを話しながら歩いた。
「じゃあ乗るか、前みたいに電車間違えるなよ」
「そんなことしません〜!もう意地悪なんだから」
そう言いながら電車に乗る、ここ自体があまり都市のように栄えていないこともあり俺が乗った電車にはまだ定時にすら社会人はなっていないのか誰もいなかった。
電車が動き出す、少し揺れながらガタンゴトンと音を鳴らす、夕日が綺麗に写りながらもその景色は窓の汚れによって半減していた。
「なんかこの感じお姫様と庶民みたいだね〜」
「俺が庶民かよ、まぁ、さながら逃避行だな」
「あれやってよ、あれ!僕と一緒に来てくれませんか?ってやつ」
「ヤダ、そんな柄にもない事やりたくない、だからこれで我慢して」
そう言って彼女の頭を肩に寄せる。
「……ずるい人、そんなことやられたら恥ずかしくなっちゃうじゃん」
「いつものお返しだよ」
そうじゃれているとお目当ての駅に着いたらしいアナウンスが聞こえてきた。
「降りるぞ、足元気を付けろ」
「なに急に、イケメンじゃん」
手を掴んで駅からで出て行く、目的の場所まで少し歩くため指を絡め合わせながら土手を歩く。
「なんでさっきあんなかっこいいことしてくれたの〜、やっぱり私のこと大好きだから〜?」
ニヤニヤしながら腹をつついてくる、年に2回くらいしか会えないんだし色んな表情を拝ませてもらおう。
「大好きな人が怪我したら悲しいから、それじゃダメ?」
「キュン」
「自分で言う人初めて見た、可愛いよ」
「本当にさ、私のこと大好きだよね」
本気で照れている時にだけ見せてくれる仕草、手で顔を隠そうとする癖。きっとこれからも治らないんだろうなぁ
「もうすぐ着くよ、足元危ないから気をつけて。」
「ん、大丈夫、それよりはやく手離して」
「ごめん無理」
さっきから顔を隠そうとしている、綺麗な顔をみていたいから少しだけ意地悪。
手を繋いだまま坂を下る、そこは開北橋の下にある河川敷、石巻駅から降りて歩くと20分程度かかる場所。
「なんだ昔よく来た場所じゃん、もうちょっと面白そうなところだと思ったのに」
「しょうがないだろ、夜が越える時の絶景はここが一番なんだから、それにあんまりいろんなとこ行かなくなったんだよ」
「……そっか、まぁここは楽しいしね!今でもあるかな……ん!あったよ、へい!パス!」
そう言って投げ渡してきたのは一本の竹のようなものに紐とその先端に石がついてるもの。
これを使って時間を潰すのが大好き
「それにしてもよく残ってたな、こんなの
「もう、いつもと同じで口悪いな、早くいつもみたいにそれ投げてよ」
「はいよ」
いつも通り石の方を川面に投げ落とす、その場所からぽちゃんと音がなった後はなにも浮いてくるわけでもなくただ水の中に紐だけが繋がっていた。
「今日は何か釣れるかな〜…ジャーン!私が釣れました〜」
そう言って後ろから抱きついてくる。
「毎回そうやってくれるけど自分が好きなことしていいんだぞ、俺は嬉しいけど」
「じゃあいいじゃん、これが私のやりたいことだよ、ねぇねぇそれよりもさ、少しお金ないかな?私サンドイッチか何か買ってくるから二人で食べようよ」
「そう言うけどお前うちに来たときなにも口にしねぇじゃねぇかよ、まぁいいけど」
そう言っている彼女に少しばかりのお金を渡すと彼女はサンドイッチを買ってきてくれた。
「まだお腹空いてないからもう少しこうしてていいか?」
「ん、いいよ、寒くないようにいつもより強くギュッとしてあげる」
少しいつもよりも強めにだきしめてくれる。
「こんな風に気遣いできるところ、いいところなんだけどなぁ」
「お!?久しぶりにあったからデレデレじゃないか、いいんだぞこの可愛い彼女にもっと甘えても」
「そういう自意識過剰なところは直した方がいいと思う」
「やっぱりその毒舌はいつまで経っても治らんね」
少し遠くを見ると川で遊んでいる子供が見える、土手の上を見るとランニングしている男の人、手を繋いデートしているような若い二人組。
俺は水面に集中する、何かが釣れるのを待っているわけではなくこれが一番落ち着くから。
あたりはもう暗くなっていて時計を見るともう30分もすれば年越しだ
「お前と遠距離になってから何年だっけ、3年?」
「ブッブ〜!正解は2年でした〜、私がこっちに戻ってきたのは4回、1年に2回くらいしか帰れないから2年だよ」
「そっか……明日はなにしようか?」
「いや〜明日には帰らないといけないから、今日いっぱいまで居れるけどさ」
「そういえば免許取ったんだよ、明日は初めてドライブするんだけどお前も一緒にいられない?」
「だから私は明日には帰らないといけないの、いつものことでしょ」
「そういえば遠距離になったせいで一度も行けてなかった旅行今なら行けるよな、前行きたがってた北海道行こうぜ」
「だから」
「北海道行ったらなに食べようか、今ならビールも飲めるからビール園に行って_____」
「無理だって知ってるじゃん、私明日になったら消えちゃう幽霊だって」
彼女がいつもより強く抱きしめてくる、ずっと我慢して気丈に振る舞っていた声も次第に嗚咽が混じり始める。
もう嗚咽と涙声で声は切れ切れだ。
「無理って…そんなこと…あるわけ…ないじゃん」
顔から止めどなく涙が流れてくる。
止めようとしても止まらない、ずっと涙が溢れてくる。
ずっと分かってた、彼女が死んでいることも、彼女が1日しか居れないことも
「しょうがないじゃん、お盆と命日の2日、その2日だけは現世に入れるんだからむしろ他の人よりも恵まれているよ私たち」
「そうなんだけどさぁ!」
「ごめんね」
「謝るなよ…なんであんな若さで死ななきゃいけなかったんだよ…あんなに元気だったのに…なんで…?」
「しょうがないよ、天命だったんだから」
「それでもあんな死に方ねぇだろ…」
………………………………
もともと俺らは接点のない有象無象の一人だった、それが変わったのはありきたりな出来事、俺がよくここに遊びにきていた時たまたま隣でお菓子を食べていた時に話しかけられた。
「ねぇそれなんて言うお菓子?」
「ヒョエ!?えっとその…ラムネです。」
「え、なんて?て言うか君よくここにきてるよね、ここ君も好きなの?」
完璧に陽キャだ、絶対に住む世界線が違う人間だ。
第一印象はこんな感じ、あまりにも会話がマシンガンすぎてついていけなかった。
だけど、なんか嫌いになれなかった。住む世界が違うと思ってたけどなんかまた話したいと思った、ただそれだけ。
次の日もまた話しかけてくれた、
「ねぇねぇ今日はなんのお菓子食べてるの?」
「今日はさきイカですね」
「やっぱり聞こえない!なに食べてるの〜」
「さ、さきイカです!」
緊張しすぎてすごく大きな声が出てしまった、あんまりにも大きな声だったからまらりの子供達にも聞こえてしまった。
「あはははは!そんなに大きな声で言わなくてもよかったのに、あ〜おかし、ねぇ君名前なんて言うの?私は雪城真白、貴方は?」
「俺は…夏風、夏風赤谷…よろしく」
「よろしくね」
俺の目の前には手が差し出された、その手に優しく触れると握り返してくれた。
周りの小さな子供達は
「ヒューヒュー、お幸せに〜」
なんて口笛を吹いてくる、その様が少し恥ずかしいなと思い、彼女の方に視線を向けると手で顔を隠していた。
「なんで手で隠してるの?」
「…恥ずかしい、私君と話すのも緊張したんだよ!?あんまり話すの得意じゃないから話すの早くて聞き取りづらかったかなと思って今日はちゃんとゆっくり話せるようにしたんだよ!」
「そうだったんだ…なんか嬉しいな、でもなんで俺なんかに声をかけてくれたんだ?」
「ヒョエ!?えーとそれはその私と同じで学校行ってないのかなって思って、よく平日からいるでしょ、ここに」
「あ〜…ごめんそれは病院の日、むしろいける日は毎日通ってる」
「え…えとごめんなさい!そんなに重たいもの持ってると思ってなくて、
「え、いやいやそんなことないよ、むしろズル休みだとか言われていじめられてる」
「へ?」
とにかく言われた言葉ややられたこと全部を放り投げた、聞いてほしかたのかもしれないし全部他の人に投げ捨ててしまいたかったのかもしれない、彼女はうんうんと頷いてくれていた。
あまり関わりのないような人だったから全部言えたのかもしれない、とにかく全部吐き出してスッキリさせた、でも彼女は違ったようで
「私も同じだよぉぉぉぉ!こういうところが好きだからいつもいると、キモイとか女じゃないとか言われて、髪も切られたり、花瓶が置かれてたこともあったよぉぉぉ!」
泣き始めた、人と話すことが苦手だった彼女にとっては土手のような人と話させなくても落ち着けるようなところが良かったのだろう、だけどそれを否定されたのだ、それでいじめられて、不登校になった。
学校に行くか行かないかはそこまで重要じゃない、大事なのはいじめが起きているってことだ。
「それは先生に相談したりしたのか?」
「ううん、そんなことあるはずがないって話を聞いてもらえなくて…」
聞けば聞くほどクソなクラスだった、いじめの黙認、それによって生徒が勘違いを起こしヒートアップ。
これに対して俺らができることはあまりにも少なかった、でもあまりにもイライラするようなものだったから責任は全て俺持ちで解決しようと思った、周りからしたら一番クソな方法で
「じゃあさ、明日1日だけ学校に行ってよ、それだけでいじめを解決して見せるから」
「え、嫌だな、わたしあそこが本当に苦手」
「じゃあ交渉、俺も一緒に行くから明日一緒に学校に行こう?」
「いっつも言ってるんだから交渉にならなくない?」
苦笑しながら返してくる、この頃の俺は非常に頭が悪かったな、
「たしかに…」
「ふふふ…ほんとうにお馬鹿さんだね、いいよ、行ってあげる」
本当に今思うとアホなことだ、なんの交渉にもなっていないことだったのだけど彼女は了承してくれた。
そのあとはカメラで取った映像を配信サイトに投稿、学校側は保護者説明、加害者というかあのクラスのほとんどの生徒は転校していった。
彼女のためにやったことなのだがこれによって俺もいじめられていたことが分かり、俺の周りの加害者も転校していった、今となってはいい思い出だ
これが俺たちの最初の出会い、2歳差なのが分かったけどそんなことどうでもよかった。
この一件のせいで友達ができなかった俺のためなのかはわからないが休み時間はよくきてくれた。
そして時間がたって年越しの日、1月1日が誕生日の俺は20歳の彼女からのプロポーズを受けて結婚することになった、市役所に紙を出しに行くと
「おじちゃんがちゃんと年越しに受け取ったことにするから、二人で年越し楽しみな、それじゃあ結婚おめでとう」
この時はおじちゃんの計らいにすごく感謝した、でもこれがなかったら、ちゃんと待っていたらと俺は永遠に悔やむことになる
残り3分で年越しという時、幸せの絶頂の時、
しっかりと信号確認をして青信号の時に渡った、そんなときに信号無視したトラックがこちらに向かってきた、手を繋いでいた俺らの彼女の方だけを引いた、咄嗟に手が離れてしまったがその後に当てた車は壁に衝突、それで求めることなくアクセルをふみ続けた。
ぶつかってきたのはいじめてきた主犯格で、今でもそのことを言われていて人生がめちゃくちゃにされたからだと言っていた。
それが起きたのは婚姻届が出される3分前、俺たちの結婚は認められず永遠に引き離された。
そして彼の裁判の日、彼が裁判所に現れないと思ったら、彼は死んだと言われた。
人生をめちゃくちゃにされたのにそいつは罪を償わずに死んで逃げた
それでも裁判で実刑判決を受けたが死んだ相手に罪を言い渡されても一向に気持ちが晴れない
死んだ相手に対して無理矢理刑を言い渡されても納得できない、だけど納得しなきゃいけなくされたんだ。
俺は彼女が死んだ影響でほぼ引きこもりの鬱になった、そもそも18歳でちょうど高校を卒業し仕事に着く直前だったのだが仕事に行けるような状態ではなくやめることになった、高校はこちらの状態を考え年越し後に学校に来なくても十分な学力があるということで卒業させてくれることになった。
そしてお盆の季節がやってきた、大学にも行かず部屋に閉じこもっている俺に対して親はあまりなにも言わなかった。
このまま死んでしまおうかと考えていたら突然誰もいないはずのリビングから音がした。
「あはは〜…その、久しぶり」
そこには死んだはずの彼女がいた、これが初めての現世帰り、この先来るかもわからない奇跡に俺はより縋った、ずっと近くにいたしずっと悲しかったことも打ち明けた。
「そっかぁ、やっぱり私がいないとダメダメだよね〜、これからもお盆は帰ってくると思うよ、だからさその日は一緒にいよう?」
そう言われた俺は一人である目標を決めた
彼女が結婚してよかったと思う人になろうと
そう思ってからは早く、職場を探して求人をして、そこからは少し遠かったので一人暮らしをした。
親からは
「辛くなったらいつでも帰ってきていいからね」
と言われたが結局帰ることはないだろう。
あの時に実は一つだけ聞いたことがある、今住んでいるところはどんなところか
聞けば彼女がいる世界は天国も地獄もなくただ虚無らしい、自分の望んでいる姿が反映されるらしくないものは死ぬ前の姿が反映されるらしい。
彼女は死ぬ前の美しい姿を保っていたのは自分で望んだのかなにも思い浮かばなかったからなのかは教えてくれなかった。
それなら美しい姿で彼女の元へいきたい、彼女と永遠に一緒にいたい。そう考えるようになっていた。そして2度目の現世帰りは年越しの日、大晦日だった、彼女は年越しの瞬間までは一緒にいてくれたがそれ以降は霧のようになって消えてしまい19歳になった喜びを伝えたい相手が消えた喪失感だけが残ってしまった。
次にあったのはまたお盆
「やっほ〜元気してた?」
そう問いかけてくる彼女に飛びついた、あのときの悲しさを埋めるように、彼女はなにも言わずに頭撫でてくれた。
そしてまた彼女と遊んだ、ゲームをしに行ったり誰もいないようなデパートにもいってクレーンゲームも楽しんだ。
そしてまたくるお別れの日
「じゃあね、そういえば19歳の誕生日おめでとう」
そう言ってまた霧のように消えていった。
それでもお盆はあの日のように悲しくはなかった、きっとお祝い事の時に一緒に喜んでくれていた人が隣からいなくなっていた感覚が嫌なのだろう
ずっと一緒にいると思ってたのに、明日が来れば結婚してから○年目だねって言い合えるはずだったのに、前日までいてくれる愛しい君とは永遠に叶えられないことを知ってしまったから
…………
元々あまりお祝い事で盛り上がるようなタイプじゃなかった、でも幸せだったのだろう。
今まで気づかなかった穴がたくさん開いている、彼女の誕生日も、お祭りも、仕事が上手くいったときのお祝い会も、全部が楽しかったんだ。
でも今はそれが叶えられない、ずっとずっとやりたいと思ってもそれが叶うわけじゃない。
「なんでお前が死ななきゃいけなかったんだ、あの日を今でもずっと後悔してるんだよ…ちゃんと待っていればあんなことにはならなかったのかなって、でも悔やんでも意味なくて…空の回答だけが満たされない心を隠していったんだよ」
「ううん、それは関係ないよ、きっと、だってあの人は多分私たちが市役所に入った時からずっと殺そうとしてたんだと思う」
「だったら俺とあわなかっ_____」
「それはもっと違う、貴方がいてくれなかったら私はもっと早く死んでいたし絶望しかしてなかったと思う」
そう言って彼女はぐしゃぐしゃになった顔を胸に埋めて頭を撫でてくれた。
「でもさ…もうずっと会えないんだよ…来年のお盆まで…俺もう嫌だよ」
「そんなに泣かないでよ、私もあっちに未練残していかなきゃいけなくなるじゃん」
「そんなこというのはずるいだろ…」
彼女に未練を残さないように必死で涙を止める、涙が止まってもヒックヒックと声が鳴る
「俺さ、お前に高校の卒業式も見にきて欲しかった、誰のお母さんあの可愛い人って友達がはしゃいでるのさ、実は俺の奥さんとか言って茶化したりしてさ」
「うん」
「あとご飯作るの実はこっそり練習しててさ、お前が疲れた〜って言いながら帰ってきた時にご飯作ってみたかったな、掃除も洗濯も一緒に暮らしてて片方だけの苦労にならないようにって」
「うん」
「………なんか言いたいことはいっぱいあるはずなのになにも思い浮かばないわ」
「…そっか、じゃあまた来年も聴きに来るよ」
そう言って今度は彼女が口を開いた
「正直さ、お盆に貴方の家に行ったときもう私のことなんて忘れて楽しく生きてるのかなって思ったよ、でも違った、貴方の中で私の存在はとても大きいものだった」
「ねぇ、あの時は冗談で聞いちゃったけどさ、今は彼女いないの?私のためとかだったらそんなことやめてすぐにでも作って幸せになってよ、そっちの方が嬉しいからさ」
「違うよ、今でも彼女はいないし、彼女がいないのは単にお前よりいい女見てけれてないだけ」
「そっか、なら安心だな」
周りの年越しムードが高まってくる、周りには人がいないが楽しそうな声が聞こえてくる、ジューという音も聞こえているからきっと外でバーベキューでもしているのだろう。
「やっぱり誕生日の瞬間にいなくなるなんて嫌なタイミングだな、それに周りは楽しいタイミングだし」
「…こんな時に言うのはなんだけどさ、さっき買ったサンドイッチ食べようよ、買って残したらもったいないよ」
そういえば買ってたなそんなもの、彼女はさっき買ってきたサンドイッチを一つ渡すともう一つを自分の口に運んだ。
「う〜ん、やっぱり久しぶりに食べる現世のご飯は美味しいね〜ほっぺたが落ちちゃうよ」
「そう言ってるけど今のいままで食べなかったのはなんでだよ、ダイエットでもしてたのか?」
「うーんとね、それは君が私の分を用意したりしなくてもいいようにかな、ほらなんかさ、私の分まで用意させちゃうと今度自分一人の時にも二人分作っちゃったとかやりそうじゃん、抜けてるところあるしさ」
「そんなことやんねーよ、むしろいつか作って欲しいって言われるのかなって思ってたわ、現世帰り最初の飯くらい作らせて欲しいと思ったのに最初の飯近所のスーパーのサインド一致になっちまったじゃねぇかよ」
「それは申し訳ないや、それじゃあ今度こっちにきた時は3食振舞ってくれるかな、私も手伝うからさ」
「3食?まぁいいけどお前後悔すんなよ全部食ってもらうからな、練習はしたがどれだけ不味くても3日間、3食」
そう言うと彼女の顔は少し青ざめた。
「いや〜ちょっとそれは厳しいかな〜ほら!私幽霊だからそんなにいっぱい食べられないかもなんだよね〜」
「え、認めないけど」
空になったサンドイッチの包みをゴミ袋に入れる。
「ひど!?まぁ私が手伝うんだから大丈夫だよ!大船に乗った気持ちでドーンと構えなさい!」
「お前高校の家庭科の成績は?」
あまり彼女が料理が得意でないことは知っていたので少し意地悪をしてみた。
「そこ聞くのは良くないと思う、ほんとに」
そう言ってこっちをデコピンしてくる、普通に痛い
「ごめんごめん、でもやっぱり一人で作るよ」
「私の家庭科の料理の実技1、2を行き来してたから?」
いつ聞いてもこの成績はひどいな、なんでそんなに料理が苦手なんだろう。
「そうじゃなくてさ、どれだけ成長したかみてほしいから、一人でここまでやれるんだぞってところさ」
「そっか、じゃあお言葉に甘えて食べるだけやらせてもらおうかな!」
「おう、そうした方がいいと思うぜ」
あたりからの声も少なくなってきた、時刻を見ればあと2分で年越し、こいつとはバイバイだ。
「本当に終わりだな、これで」
「そうだね、でもきっと来年が私達にはあるさ」
「それがもし来なかったら?俺はお前の所に後追いでもすれば良いのか?」
冗談めかしく言ってみる、半分嘘で半分本当、もし来年彼女が来なくなったら後追いでもしてあの世で幸せにでもなろうか…
「それはダメ〜、君には私が生きられなかった分一生私の命を背負ってもらいま〜す」
「重すぎるだろ、まぁ元からそのつもりだったけどさ、必死に生きてみるよ」
「ありがとう、それじゃあご褒美兼誕生日プレゼントあげなきゃね、こっち向いて」
そう言って彼女は俺の顔の向きを変えて唇にキスをした、脳の整理がついていないのだが彼女はニヤニヤしていた。彼女の体がだんだん霧になっていく。
「じゃあね、また来年…あそうそう」
「誕生日、おめでとう!また来年も来るからね!」
そう言って彼女は完全に霧になって消えていった。
本当にずるい、そんなことされたら待っていないといけなくなるじゃないか、さっき言った言葉を全て事実にしないといけないじゃないか。
袋に入っている彼女と自分のコーヒーカップを取り出す、そこにインスタントコーヒーを入れた、
彼女と飲むつもりで入れたカップ、だけど飲む相手がいないのだからとしょうがなく彼女が先ほどまでいた場所にカップを置く
「意味わかんねぇよ、よく考えたら彼女いるのに元カノのカップ残すとか、どんだけ元カノに未練あんだよ」
彼女がいた方向に向かって苦笑いをする、もし隣に彼女がいたら本当だよな!私だったらそんな奴にはなりたくないね!と笑い飛ばしてくれていたんだろうな、途端に彼女が恋しくなる、もういっそ目の前の川に飛び込んで後追いでもしてやろうか…
そんな考えがふと頭の中をよぎったがそんなことできるわけがない、だって臆病な人間だから。
コーヒー少しずつ口に入れる、さっきのキスのせいで苦さも味もわからない。
ふと目を彼女のコーヒーカップに向けると彼女の行った天に登っていく白い煙が見えた、彼女と今度はなにを話そうか、きっと来年またきてくれるはずだから。
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