ゆうきのうた (勇者ああああ)
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ゆうきのうたー1




ダンまちは12巻までしか読んでないので、ロキファミリア結成時の時系列でおこったあれやこれやについては認識が曖昧だったり、そもそも知らんかったりします。

ドラクエも4,5,8,9,11しかやったことないです。それでも良ければ読んでやってください。

まあ短編だし、矛盾やなんやらは広い心で許して頂けると……


 

 

 

ロキファミリア、ホーム、“黄昏の館”の一室。様々な資料と書籍が納められた書庫のような役割をもつ空間で、アイズは大きく伸びをした。星の光を閉じ込めたような金色の瞳が、退屈に彩られている。勉強嫌い、ダンジョン一筋で知られる彼女にとっては、この叡智の蔵に抱く興味が一粒たりともなかった。

 

同ファミリア所属の幹部メンバー、ハイエルフのリヴェリア・リヨス・アールヴの付き添いで、アイズは滅多に来ることもないこの場所に訪れていた。目的は、次回遠征に必要な資料を探し出すこと。

 

アイズにしてみれば、なぜそのようなことを自分が……という気持ちが無い訳ではなかったが、いつもお世話になっているリヴェリアの頼みとあれば、無下になどできなかった。中庭で剣でも振っていたい気持ちをぐっと抑えて、棚の中の紙束を一つ一つ改めていた。

 

「──全く、久しぶりに来てみれば、整理整頓がなっとらんな」

 

アイズからは少し離れたところで、リヴェリアがひとりごちる。この書庫はファミリアメンバーなら誰もが出入りできる場所なだけに、マナーのなっていない者が使用すれば、こうして後の者がその分の苦労をすることになる。ちなみに普段であればアイズは前者であり、リヴェリアは後者であった。

 

アイズはリヴェリアの言葉を聞いて、今度からもしこの場所を使うことがあれば、取り出したものはちゃんと元の場所に戻そうと誓った。そうでなければまたこうして退屈な手伝いを頼まれてしまうかもしれないからだ。

 

とにもかくにも、資料捜索である。紙の束が乱雑に突っ込まれた棚の一つ目をようやく調べ終わったアイズ。もう紙を捲り続ける作業に飽き飽きしたためか、気分転換にと書庫の奥へと向かう。左右に連なったいくつもの棚を潜り抜けたその先、埃をかぶった木箱がいくつも積みあがった一角である。

 

アイズにとって、中身の分からない木箱を開封するという行為は、本棚から本を取り出すよりはなんとなく面白そうに感じた。どうせ出てくるのは紙でしかないが、そうではない可能性も万が一あるかもしれない。冒険者は分かり切った結果よりも、予測不能の未知こそを尊ぶのだ。

 

「軽い……」

 

山の頂上に鎮座する木箱を抱えると、思わずそんな言葉がアイズの口からこぼれる。第一級冒険者が紙の入った木箱の整理をしているのだから、それは当然軽いに決まっているのだが、そんなことを言ってしまうくらいには退屈な作業だったのである。

 

日焼けした木目にそって降り積もった灰色の埃をさっと払って、アイズは木箱の蓋に手をかける。かぱりと開ければ、今までと同様に紙束まみれの空間がお出迎えである。アイズは一目見てげんなりした──のだが。

 

「──楽譜?」

 

そこに詰まっているものは、モンスターが沸きにくいスポットや、金になる希少素材の採取地一覧といったものが羅列されていた今までの紙とは、少し趣が異なっていた。

 

横に引かれたいくつもの平行な線の間に、子供のころに遊んだ池で見かけたオタマジャクシにそっくりの記号たちが踊っている。それの本当の意味を解することは音楽に造詣のないアイズには不可能であったが、それが“楽譜”と呼ばれるものであるということぐらいは分かった。

 

なぜこのようなものが書庫におさめられているのか、アイズにはとんと心当たりが無かった。もしかしたら、他の場所にあるべきものがここに間違って置かれているのかもしれない。そう思ったアイズは、楽譜を片手に自然とリヴェリアの元へ向かっていた。書庫のことに詳しい人が近くにいるのだから、当然頼りにすべきということだった。

 

「なんだ、アイズ。もう飽きたのか」

 

「うん、飽きた」

 

「……はあ、正直者め。だが出ていくのはダメだ、もう少し付き合え」

 

「ううん、もうやめたいって言いに来たわけじゃない。これについて聞きたくて……」

 

アイズが近づいてきた理由について勘違いしているリヴェリアに、アイズはちょっとだけムッとしながらも、片手にもった楽譜を差し出した。リヴェリアはそれを眼にすると、呆れたような表情を少し虚を突かれたようなものに変えた。

 

「──これは“()()”の」

 

「序曲……?」

 

「ああ。お前も知っている曲の楽譜だ。我々が遠征に赴く前に、いつも奏でられる曲があるだろう。あれを“序曲”と言って、これはその曲の旋律を示したものだ」

 

その言葉に、アイズは遠征前の光景を思い描く。確かに、ロキファミリアには他のファミリアには無い珍しい風習がある。遠征などの大きな冒険に出発する前に、都市の音楽隊を招き、あるいはファミリアの中で楽器を嗜む者たちを集めて、ある曲を演奏するのである。

 

世間に知られている有名な曲という訳ではないそれは、しかしロキファミリアの面々にとっては慣れ親しんだものであり、出発の合図そのものであった。

 

アイズという個人からしても、その曲はとても素晴らしいものであると思っていた。なんというか、未知の冒険へ挑むときに誰もが抱く高揚と恐怖という相反した感情を揺さぶる曲であった。高揚は掻き立てられて、恐怖は霧散し勇気へと変わる。その性質は、まさに旅立ちの歌に相応しいものだ。

 

アイズはこのとき初めて、その素晴らしい曲の名前を今までに知ろうともしてこなかったということに気づいた。むくむくと、アイズの中の好奇心が膨張した。

 

「序曲、ってことは“始めの曲”とか、“最初の曲”って意味だよね? じゃあ、その続きがあったりするの?」

 

「む……いや、それは──」

 

アイズが投げかけたのは当然の疑問であった。“序”という字は“序章”や“序盤”といった言葉に見られるように、物事の始まり、最初を表す。であれば、“序曲”とはアイズが言ったような意味であり、それに続く、連なる曲があると想像するものだろう。

 

しかしそれに対してリヴェリアは、幼子に「りんごはなんでりんごって呼ぶの?」というような答えにくい質問をされた時に似た、微妙な表情を見せた。

 

「続きなどはない。だが、これは“序曲”と呼ばれる。正直に言えば、これがなぜそう呼ばれるのかの理由は知らん。作曲者……の様な者がそう呼んでいたから、私もそれに倣っているだけでな」

 

「ふーん……残念だね。続きがあれば聴いてみたかったのに」

 

「そうだな……私も、そう思うよ」

 

何とはなしにつぶやいたアイズの言葉に、リヴェリアは悲しそうな、寂しそうな様子を見せた。彼女と長くを共にしてきたアイズからしても、その表情は滅多に見ないものだった。

 

「まあ、他の団員にとっては、“序曲”ではなく“()()()()()()”の名前がなじみ深いだろうな。“序曲”という名前は、私やフィン、ガレスなどの古参だけが知っているもので──」

 

「リヴェリア?」

 

何かを思いついたように途中で言葉を切ったリヴェリア。アイズが不思議そうに首をかしげると、リヴェリアは手に持っていた“序曲”の楽譜を丁寧に箱にしまい、アイズの手を引いた。

 

「ちょうどいい機会だ。この作業に飽きたなら、気分転換にしよう。お茶でも飲みながら、昔話でもしようじゃないか」

 

「──昔話?」

 

「ああ。このファミリアができたばかりの頃。私と、フィンと、ガレスと、ロキ──そして()()()()。ロキファミリアが今のように最大派閥の一つではなく、構成員が神を含めたった5人だった頃の話を──」

 

 

 

 

 

 

 

 

その酒場に漂うのは、品のない騒ぎ声と、安っぽくて粗悪な酒の匂い。そのどちらもが彼女にとって今までに経験したことのない──するはずもなかったもので、だからこそ不快な様子を隠せていない。

 

たとえそれが、王族としての責務を投げ出して出奔したエルフの姫の自業自得であるとしても。徹底的にこうした俗世の一般的な価値観から遠ざけられてきた彼女にとって、この席で食事をするなどという行為は、耐え難いものであった。眉をひそめるだけで済ませているのが奇跡といってよいくらいには。

 

「──ったく、酒がまずくなるのぉ。お高く留まったエルフの姫には、酒の席では笑うものだという常識すらないらしい」

 

その女が端正な顔を歪めたまま、はや30分ともなろう。祝いの席だからといつものケンカを売るような絡み方を自重していた同席者、筋骨隆々のドワーフは、流石にとうとう我慢できなくなったらしい。上記のようなセリフを向かい側のエルフに投げつけた。

 

それに対してさらに彼女の眉は急な角度を作る。有り体に言って、非常に不機嫌である。

 

「野蛮なドワーフにとっては、この程度の食卓でも笑顔を見せるに値するのだな。知らなかったよ、勉強になった」

 

「こら、()()()()()。いくら何でもその言いぐさは──はぁ、まあいいや」

 

“この程度”という言葉を聞きつけた厨房に立つ酒場の主人から()()()と視線が向けられたのも一瞬の事。主人はその失礼極まりない言葉を放ったのが宝石のように美麗な唇だと認識するやいなや、機嫌を悪くするどころか“目の保養ができてラッキー”と言わんばかりの表情を浮かべる。

 

そんな様子を目の前にして。全く持って美人は得だなと、目に余る言動を注意しようとした金髪の小人族(パルゥム)は吐きかけた叱責を引っ込める。

 

ドワーフとエルフ。二つの種族の折り合いが悪いのは広く知られていることだ。それが近くで実害を伴って起こり、さらに巻き込まれるとなれば、酷く憂鬱な気分になるのは当然。

 

このパルゥムにとってもその“当然”は適用される──とはいえ、彼も彼で常識人ぶったツラで二人とは違うと言わんばかりにため息など吐いているが、聞くに堪えない口喧嘩をこのドワーフとエルフ相手に盛大に勃発させた過去がある。(それもたった2日前に)

 

というわけで、本人たちがどう思いどう感じているにしろ。傍から見ればなんとも五十歩百歩なトリオであった。今日はたまたま、本当に一年に何度あるかわからない奇跡として、パルゥムの常識度が高かっただけであって。

 

「ほらほら、ケンカはやめぇ。今日は初めてのクエスト成功記念なんやろ? ちょっとは仲良くしいや。──ま、ここでおっぱじめるなら? それはそれで? おもろいけど?」

 

「「「黙れ()()」」」

 

「んふふ──はぁい」

 

火花を散らし合う三人の新米冒険者(ニュービー)たち──それぞれの名前を、パルゥムのフィン・ディムナ、ドワーフのガレス・ランドロック、ハイエルフのリヴェリア・リヨス・アールヴという──を肴に飲みながら、今のようにして不用意に茶々を入れるのが、彼らの主神。天界きってのトリックスター、ロキである。

 

そう、この友情度0の凸凹トリオは、なんの間違いか同じファミリアの所属の冒険者なのである。この酒場で今夜初めて出会った者同士であるならば、それはどれほどの救いであったことか。

 

残念ながら現実は非情! 実際のところはひと月の間パーティーとして共に行動した関係である。しかも今日はクエストまで一緒にクリアしてきた間柄。そのクエストの中でどれほどお互いの足の引っ張り合いがあったかは彼らの名誉のためにも伏せておくが。

 

とにかく、お互いの価値感すらバラバラ、かといって歩み寄る気も全くない我の強い3人組(ロキを罵倒するときだけ心が一致するものとする)は、イマドキこの世界で毎日掃いて捨てるほどに生まれている“新興ファミリア”という奴なのである。

 

それぞれに輝かんばかりの才能があり、そのくせにお互いの足を引っ張り合うせいでそのポテンシャルを台無しにしている一党。新興のファミリアにしては有名である。そうした不名誉な理由で。

 

「──ともかく! この油でギトギトの肉も、塩っ辛い揚げ芋も、のどにへばりつくだけの蜂蜜酒(ミード)も、全部不快でしかたない。もっといい店は無かったのか。お前に任せたのは間違いだったな、ドワーフ」

 

「なにおう? ワシから言わせれば、お前らほそっこいエルフの食事は薄っぺらな味で食う価値もないわい。なにより酒と合わん! その一点だけで無理じゃ」

 

「二人ともさあ、祝いの席でそんな口論するもんじゃないよ。もっと知性ある会話をしないと、まったく野蛮だな」

 

「知性? はっ、お前のそれは知性などと大層なものじゃのうて小賢しいというんじゃ。背も心も誇りも小さいちびすけに言われとうないわい!」

 

「そのご自慢の知性とやらで考えているのは、どうやって身の丈に合わない虚飾を繕うかという涙ぐましい悪あがきだろう。全くもって品のない」

 

「──言っていいことと言ってはだめなことの区別ぐらいつくと期待した僕が馬鹿だったよ。僕より背は大きくても、()()()はそうじゃないらしい」

 

「一触即発ぅ! これはこれでおもろいけど、ずーーーーーっとこれじゃ食傷気味や! どっかに天の助けはないんかー! このとがった三人組をマイルドにしてくれる潤滑油のような存在を、我がファミリアは募集しておりますぅ!」

 

売り言葉に買い言葉、あっという間に修羅場に変化した食卓。女心や秋の空よりもうつろいやすい(しかもいつだって悪い方向に)空気に、天下のトリックスターもお手上げである。

 

いずれ3人が信頼し合う仲間になってくれることを信じているロキは、今しか見れないだろうこうした口論を楽しむ反面、そろそろ代り映えしない光景にも飽き始めていた。神ロキ ──(ピー) 歳。飽き性なお年頃なのだ。というか、飽き性でなくともこんな状況が改善の余地見られず1カ月も続くのはごめんだろう。

 

非人間的な神々であるはずのロキは、いまこの時だけは愛する子供たちと同等の感性を享受していた。絶対に嬉しくはないだろうけど。

 

──なんにせよ、ロキのボヤキとも嘆きともつかないその叫びに、いかなる運命といかなる機会が絡まったのか。それを紐解き終わるのはもう少し先の話になるだろう。

 

 

 

 

 

 

「──なあなあ、そこの三人組さん! そしてその三人の主神さん!」

 

「──んぁ、なんや自分」

 

「見たところ戦士に魔法使い──そしてそこのパルゥムさんは、えーと?、僧侶か武闘家か旅芸人か、はたまたスーパースターか……ま、なんにせよ! バランスよさそうであと一歩足りない!的なパーティー編成してらっしゃいませんか!?」

 

「なんだお前は。いきなり現れて騒々しいぞ」

 

「胡散臭い奴じゃのう」

 

「……旅芸人? スーパースター? それって僕の事? だとしたら苛つくな」

 

決して余裕があるわけではない、なんなら食事と酒でパンパンのテーブルに、無理やりジョッキを滑り込ませてきた陽気な男。勢いがつきすぎてジョッキから零れ落ちた酒に手のひらを濡らされながらも、そんなことを気にせず笑っている。

 

テーブルの主たち4人の内3人から冷たいまなざしを向けられながらもひるまないその様子には、非常に大物めいたものを感じる……やっぱり感じないかもしれない。ただ酔っぱらって周り見えていないだけだこれ。

 

酒が入っているためか明らかに気が大きい(テンション25くらいの)その人間族(ヒューマン)は、赤ら顔が浮き彫りになるほど白い肌と、琥珀を火で炙ったような橙の瞳、夜空のような濃紺の髪をしていた。

 

ふにゃふにゃの表情筋のせいで顔面偏差値の測定こそできなかったものの。美男美女に鋭いロキは「酔ってわけわからん感じでさえなければウチ好みの美形や!」と、心の中で直感した。なんなら半分ほど口に出した。酒に飲まれた神は口が緩かった。

 

「美形だってぇ、えへへぇ、嬉しーなー! ありがとー、かみさまー!」

 

「おおう、おおおう。酔ってるとはいえ(ちっか)いねんな自分。酒臭いせいで役得とは思え……思え……思えるなあ」

 

喜色を浮かべながらロキの肩を組んでくる男。神に対する態度としていささか以上に無礼だが、ロキはその器の大きさからそれを不問とした。ぶっちゃけイケメンと美人ならほとんどのことを許せる器だった。たとえそれが酒クサ残念イケメンでも。顔は正義なのだ。

 

「で、本題はなんや。まさかウチのこと口説きにきたわけちゃうやろ」

 

「──そうそう、そうだった。ねえ凸凹トリオファミリアさん、このオレを新人として迎え入れてはくれませんか!ってね。つまりそういうことなんだよ」

 

「ほーん、ファミリアの入団希望か。そりゃまたウチを選ぶとは剛毅なやっちゃな……」

 

実際、新興ファミリアの中でも特に(悪い意味で)有名なロキファミリアに入ろうなんてもの好きがいるとは思わなんだ、とロキは素直に驚いた。なんなら酔いがちょっとさめるレベルで。

 

「一応聞くけど、なんでウチなん?」

 

「え、だってさっきもう一人欲しいなー、みたいなこと言ってたから」

 

「ああ……」

 

険悪な3人を上手く中和できるやつ欲しい!と叫んでいたのは確かだが、まさか本当に来るなんて。

 

「あとは、そうだね、さっき言ったけども、なんかあと一歩足りない編成してんじゃん?」

 

「どういうことや」

 

「前衛物理のドワーフさん、後衛魔法のエルフさん、多分中衛遊撃のパルゥムさん。バランスがいいけど、物足りなくないかーい? 君たちが不仲そうで互いに足引っ張ってそうなのを差し引いてもさあ!」

 

「……確かに最近の探索では行き詰っているが。それはこいつらが不甲斐ないせいだ」

 

「なんじゃと! ワシではなくお前らが貧弱じゃから──」

 

「いいや、君たちが考え無しだから足を止める羽目になってるんだろう」

 

男の指摘にぎゃいぎゃいと反論するトリオ。なんなら責任転嫁し合う始末。ちょっと余りに不仲すぎひんか、とロキは人知れず涙を流した。

 

とはいえ酔った勢いで喋っているだけの癖に、男の指摘は決して的外れでも無かった。冒険を始めて一か月。恩恵授けたての初心者ボーナス期間が終わり、ステイタスの伸びが鈍ってくる頃だ。つまり個のチカラが成長しにくくなってくる時期にトリオは差し掛かっている。

 

なまじ才能があったためお互いの足を引っ張り合いながらでもダンジョンを攻略してきたが、それは(この時期の新人にしては)圧倒的高水準の個人技が圧倒的低水準の連携を補っていたから。これからはそうもいかない。

 

というか普通、この時期にはパーティー内での連携が固まってきて、伸びにくくなってきた個人力を連携でカバーしながら冒険するすべを新人冒険者は学ぶのである。こと凸凹トリオにおいてそれは望めないだろうが。前衛・中衛・後衛でバランスが取れてるくせに、連携がゴミカスのせいでまったく活かせていないのである。

 

つまりロキファミリアは行き詰まりを感じていた。どんな手段にせよテコ入れは急務だった。そのテコ入れの一種として、メンバーの追加は悪い手ではない。それこそ、ロキがぼやいていたように潤滑油になる人材ならなおさら良い。

 

「──つまりは自分、自分ならこの3人を仲良う連携させられる自信があるってことか?」

 

「まさかあ、そんな話しとらんが」

 

「あっれぇ?」

 

そういう話だったのでは? ロキは訝しんだ。

 

「まま、でもこうしてお誂え向きな感じで役職が被らない3()()がいるわけだし、オレが加われば4()()。運命感じるよねー。やっぱパーティーって4人じゃないとさ!」

 

「???」

 

「というわけで!、オレもファミリアにいれて!」

 

「どういうわけやねん!?」

 

ロキは長い長い神生(じんせい)の中でもトップレベルに振り回されていた。初体験だった。ロキの初めては奪われてしまった。

 

「つまりはさあ、このオレが、この()()()()()()()が、君たち3人を栄光へと導いて見せるってコト! だってオレは──

 

 

 

 

 

 

──いつかきっと、勇者になる男だからね!」

 

 

 

琥珀の瞳に希望と夢を滲ませて。

 

()()勇者の少年は、そんなバカげた夢物語を語った。

 

とにもかくにも。駆け出し冒険者たちの集う、場末の大衆酒場の一席で。将来に迷宮都市オラリオの両翼と呼ばれることとなる最強派閥、ロキファミリアは。

 

3人から4人へと、人数を増やすことになったのである。

 

 

 

 

 

 

そして でんせつが はじまった!

 

 

 

 

 

 

「──で、自分それだけ自信満々ってことは、名の知れた冒険者だったりするん? 改宗(コンバージョン)の手続きとかせんでええんか?」

 

「まっさかあ、そんなのいらないよ。だって初めてファミリアに所属するからね!

 

「どないやねん!」

 

 

 

 

 

 

でんせつが、はじまった……?

 

 

 







最後まで読んでくれてありがとうございます!

一応次の話まで投稿してるので、見てやってください。



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ゆうきのうたー2

 

 

 

後から思い返してみれば。リヴェリア・リヨス・アールヴは、あの男のことを仲間として、友として、そしてひょっとすれば異性として、大切に思っていたのだと思う。

 

第一印象はどうしようもない男だった。いや、彼の良いところに気づかずにいたから、どうしようもないと思いこんでいたというのが正しいか。

 

出会った当初は彼のことが率直に言って嫌いであった。理由はいくつもあった。

 

例えばそれは、その軽い態度。箱入りを脱したばかりの彼女にとっては、彼のように気安くパーソナルスペースを詰めてくる人物は、当時種族的に毛嫌いしていたガレスとは違った意味で生理的に不快であった。

 

例えばそれは、その自信家なところ。特にぱっとしたステイタスも功績もない人間が、堂々と“勇者になる”などと嘯くさまは軽蔑に値した。

 

例えばそれは、どこかでこちらのことを見下しているようなところ。一番新人のくせして自分がリーダーであることを疑わずにいる態度は癪に障った。

 

──例えばそれは、いつもダンジョンアタック前の集合に際して、恥ずかしい程大音量で壮大な()を鳴らしながら集合場所に現れること。目立ちたがり屋なのかなんなのか、彼が新人の中で唯一他と違う(けっして()()()()()とは言わない)部分であったところの“スキル”を惜しげもなく使って登場する非常識な姿に何度ため息をつきたくなったかわからない。

 

総じてロキファミリア4人目の冒険者となったユーキ・カナデは。リヴェリアというハイエルフの女にとっては。軽薄でバカで無能で非常識で気遣いが足りなくて視界に入れるだけでため息や舌打ちが出てしまうような。

 

ロキが期待していた“潤滑油”には到底なりえないどころか、3つの火種のなかに新たに放り込まれた、今にも爆発する火薬のようなものだった。

 

 

 

 

 

 

聞きなれない管楽器の音色が青空へと吸い込まれていく。そびえたつバベルの塔のてっぺんまでも届いているのではないかと思うほどに、その音色は大きかった。

 

周りの冒険者たちがいきなりの騒音にビクッと驚いた様子を示したのもつかの間、「ああ、いつものあれね」と言わんばかりに慣れた様子で歩みを再開する。それを横目に、リヴェリアは大きく大きくため息をついた。

 

「毎度毎度、人の忠告を聞かん奴だ。お前の頭は飾りなのか人間(ヒューマン)!」

 

「ああ、おっはよー、リヴェリア。今日も綺麗だね、ご機嫌は麗しくないみたいだけど。あと、オレにはユーキっていうちゃんとした名前があるんだから、そっちで呼んでくれないかな、失礼だよ」

 

「こちらの忠告を聞き入れずに毎朝このわけわからん曲を鳴らすお前の方が失礼だ!」

 

夜空のような髪をまるでハリネズミのように爆発させたまま、どう見ても寝起きですと言わんばかりの姿で現れた男──いちおうの同ファミリアメンバーであるユーキにリヴェリアは叱責した。

 

ちなみにその間にも例の曲は鳴り続けている。むしろ入りの部分が終わったからなのか、メロディがより壮大な盛り上がりをみせているような気さえする。

 

その発生源であるところのユーキはなんら悪びれた様子はなく、むしろそのリズムに乗りに乗って体を揺らしながら、リヴェリアの横に腰かけた。何も言わずリヴェリアはそっと3mほどの間隔をあけた。

 

「……なーんではなれるの」

 

「お前がその騒々しい曲を止めないからだ」

 

「いいじゃないか別に、これのおかげで毎日ちゃんと迷わずみんなが集合出来ているだろ?」

 

「それを補って余りあるデメリットがあるな、私たちが非常識な集団だとみられるという被害が」

 

「いまさらあ? オレが入る前から評判最悪だったくせに。お互いに最低限の協力すらできない、なんでパーティーを組んでいるかも分からない一党だってさ」

 

「そ、それとこれとは別問題だ!」

 

図星といった風にリヴェリアが髪を振り乱してがなり立てるも、ユーキは相手にせず曲に耳を傾けている。なんならまるで指揮者のようにして指を空中でくねらせている。王族で音楽のたしなみのあるリヴェリアからしても堂に入ったその指揮者の真似事に、感嘆するより先に苛立ちを覚えた。

 

どう考えたってはた迷惑な行為でしかないくせに、響く曲自体が自分の知る中でも五指に入る良曲であったことも、なんだかリヴェリアにとっては悔しいものであった。

 

「……全く。フィンのことを旅芸人だかなんだか言っていたが、お前の方がそれにふさわしいんじゃないか?」

 

「うーん、主人公の職業が“旅芸人”から始まるドラクエ(ドラゴンクエストⅨ)もなかったわけではないから、それでも別にいいけどさあ。旅芸人って器用貧乏だし転職先もあまりよくないしで、個人的にはちょっと嫌かなあ」

 

「お前はいつも、訳の分からないことを言うな」

 

「こっちの話だから分からなくていいよー。あ、そこのお姉さん、おひねりどーも」

 

誤魔化すように笑うユーキの目の前には幾らかのヴァリス硬貨が投げられている。これでは冒険者ではなく大道芸人だ。この硬貨がその曲の良さに対してか、ユーキの顔面の良さに対してか、どちらの理由で投げられているかは定かではない。しかしながら冒険者たちが多くダンジョンに向かう時間帯に起こる突発的な一人演奏会は、ここひと月ほどでオラリオのちょっとした名物になっていたのであった。

 

本来秘するべきスキルを惜しげもなく晒す冒険者は多くない。ましてやバベルの目の前という衆人監視の中ではなおさら。そんな風潮でスキルを大道芸替わりにするのはユーキぐらいのものだろう。

 

そのスキルを、ロキは“ゆうきのうた”と呼んでいた。ユーキという人物の魂に刻まれた、勇気を奮い立たせるに一番ふさわしい曲がスキルとして発現したのだと。当の本人はその“ゆうきのうた”をもっぱら“序曲”と呼んでいたが。

 

「おお、そこの少年も太っ腹だねえ。やあ、そこのアマゾネスさんもありがとー、この曲は冒険の始まりに相応しいだろう? 君たちのコインは、払った分だけこれからの君たちの勇気に還元されるだろう。じゃあ、今日も頑張って~」

 

「……そうやって小銭をさもしく稼ぐのはいいが、その前にお前はもっとパーティーに貢献できるようになれ」

 

「さもしいて。酷い言いぐさだこと。けどまあ、耳が痛い話だねえ」

 

「事実、お前が加入してから階層は一つとて更新できていない。もう二週は経とうというのにだ。酒場でのあれは大言壮語だったのか?」

 

「うーん、まあ確かに、自分が思ってたより弱かったのは認めるけども。ただ、どんな勇者も最初は“剣すらまともに振れない(ひのきのぼうを装備する)”し、“うたれ弱い(HP20前後)”し、“魔法も使えない(ホイミすら未習得)”のさ」

 

「自分の無能を棚に上げるのだけは得意らしいが」

 

「口が悪いねー、せっかく綺麗な顔してるのにもったいない……ともかく、別にオレ自身が弱くたって、それはいずれ強くなればいい。そしてすぐに強く成れないなら、その不足は誰かと補いあえばいいのさ。勇者は決して、()()()()()()()()()()()()()()

 

「つまり、私にあいつらやお前と協力しろと?」

 

「実際そうしない手はないだろう? ステイタスの伸びが良いのは最初だけ。これからは連携を高めないと到達階層は伸ばせない、ってロキやアドバイザーさんに言われたよね」

 

「自分より劣る者たちと手を取り合う利点を感じないな」

 

「まるで自分から進んで()()()()んだとでも言いたげだけど、実のところくだらないプライドが邪魔して手を取ることが()()()()だけだろう? 全く子供じゃないんだから」

 

「──なあ!?」

 

「それともやり方を知らないのかな? 手とり足取り合わせて導いてもらうほうが趣味かい、お姫様? そうでないなら自分で歩み寄る努力をすることだねえ。知っているだろう? 少なくともオレは君以外となら連携できている。そこが君とオレとの格差だ」

 

「──く……お姫様などど呼ぶな、不愉快だ」

 

「こうやって実力が下の者から諫められるのが嫌なら、さっさとつまらない意地は捨てなよ。別に友情を育めって言ってるんじゃないだろ? ビジネスライクでもいいから、お互いもっと歩みよろーぜ」

 

「……びじねすらいく?」

 

「おっと、また変なこと言っちゃったかな。忘れてくれー」

 

道に散らばった何枚ものヴァリス硬貨を拾い集めながら、ユーキはおどけたように言った。リヴェリアはそんな彼を横目にため息をついた。フィンとガレスが合流する5分前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

いつも通りの道中。ガレスは戦闘狂じみた動きで周りのことを考えずに突貫して。リヴェリアは避けない方が悪いとでも言いたげに気遣いのない魔法を展開する。フィンはそんな二人をフォローするでもなく離れた場所で槍を振るっているし。ユーキはといえばそんな3人を見てため息を吐いていた。

 

「勇者パーティーって、もうちょっと人間的にまともなもんだと思っていたけどなあ」

 

「ぶつぶつうるさいわい小僧、お前もはようモンスターを殺さんか」

 

「へいへい、いきますよーっと」

 

ガレスに急かされてユーキはモンスター、新人殺しの異名で知られる怪物キラーアントを片手剣で両断する。もちろんガレスを手伝う形で横に並ぶ──わけではなく、3人から離れた場所に構えて。朝方、ユーキはリヴェリア以外となら連携できているなどと言っていたが、実際のところそれはよほど敵が多い時などの、明らかに個人の手に余る状況に限られるのだった。

 

4人パーティーがルームに散り散りになって一人でモンスターを屠っている光景は異常だ。しかしこれがロキファミリアにとっての日常光景なのであしからず。なんなら彼らは、それぞれの討伐数を競い合って賭けを行ってすらいる。

 

負けた者はその日の冒険で消費した消耗品──主にポーションなど──の代金を全員分払う必要がある。そして新加入者があってからの2週間、その賭けに負けているのはもっぱらユーキであった。勇者勇者と嘯く割に、彼の戦闘能力は平均的で、才能も特別ない。当然彼より才能にあふれた先達3人に勝てる道理はなく。敗者確定である。

 

実のところ朝の“序曲”によるバカ騒ぎには、この賭けの負けを補填するためという一つの理由が存在している。(大きな理由はユーキが怒るリヴェリアの顔を見たがっているからだが)

 

 

 

ともかくとして、こうしていつも通りの冒険を行っていたロキファミリアであったが──ダンジョンというのは残酷だ。

 

普段と変わらない道中、変わらない戦闘、そこからくる体力や魔力の余裕。

 

もはやなんの心配もないだろう、と、気が緩む冒険者たちに。

 

ひっそりと忍び寄り、背に突き立てるようにして牙を剥く。

 

 

 

最初に気づいたのは、今日も結局勝てないからやる気がでないなあ、と手を抜きながらキラーアントを掃討していたユーキであった。

 

ひやりと、首筋に氷を当てられたかのような感覚を覚えた彼は、なんとはなしに後ろを振り返る。ちょうどそこでは、ハイエルフの魔導士様が有り余る精神力(マインド)の暴力で蟻どもを蹂躙していたのだが──

 

その頭上に。苔むした岩肌の天蓋に。ぴきりと一つ、亀裂が走った。

 

「リヴェリア!」

 

「はッ──!?」

 

ダンジョンにおいて、壁面や天井が崩壊する原因とは、大きく二つに分けられる。冒険者やモンスターの物理攻撃・魔法などの衝撃によって崩れる時。そしてもう一つは──

 

──母なるダンジョンが新たな怪物(こども)を産み落とすとき。

 

鼓膜を引き裂くような咆哮(ハウル)が決して狭くはないルームの空気を爆発させるように揺らした。べちゃりべちゃりと、開ききった怪物の(あぎと)からねばついた唾液が垂れ落ちる。それは竦んで動けない()()()()()自慢の翡翠の髪に滴り、汚していく。

 

ガレスの腕5本を束ねたかというくらい太い前脚の先には、岩くらいならバターのように切ってしまうであろう乳白色の爪がぎらついている。氷を凝縮したような青い瞳からはこちらへの殺意と強者故の余裕があふれている。緑色にきら光るうろこは隙間なく並び、鋼の鎧に包まれたかのような堅牢さをあの巨体にもたらしているであろう。

 

──それは、初心者用階層において生態系の頂点に立つ竜種(ドラゴン)の一角。インファントドラゴンの強化種であった。それがなんの冗談か、キラーアントが我が物顔でのさばるような階層で、まだ冒険者なりたてだけが所属しているパーティーの頭上に、今まさに、生まれ落ちようとしている。

 

誰もが動けない。インファントドラゴンの咆哮(ハウル)強制停止(リストレイト)の効果は本来ない。それなのに4人は指一本すらも動かせないでいた。それが強化種特有の能力によるものなのか──はたまたただの恐怖によるものなのかは分からない。

 

すくなくとも確実なのは。瞬きの間には、天上の岩肌に埋まったあのドラゴンの半身が引き抜かれるということ。

 

そして、解き放たれたドラゴンはまず、真下にいるリヴェリアを問答無用で、一切の慈悲なく、可能な限り惨たらしく、想像以上に無慈悲な手段で、殺すということだ。

 

 

 

 

 

 

「リヴェリア、手を!」

 

「──っあ、」

 

だからこれは、偉大な一歩だった。

 

4人の中でも最弱と言われたユーキが、最も早く体を動かし、ハイエルフの姫をかばったというのは。

 

間違いなく、偉大な一歩であった。

 

 

 

 

 

 

誰かに護られることには慣れている。

 

リヴェリアは王族として、身体も心も、多くの人々に護られてきた。それは彼女にとっては、得難いことであったし、有難いことであったし、窮屈なことであった。

 

庇護は時として、過保護と表裏一体だ。危険なもの、汚れたものから遠ざけられ続ける人生。そんなものを、リヴェリアはつまらないと思った。

 

広い世界を見たかった。故郷の森に閉じこもり王族としての何たるかを叩きこまれる日々が苦痛だった。だから、出奔して諸国を漫遊し、いつしかオラリオへと流れついた。

 

そこは冒険者の街だった。冒険者とは、ダンジョンという未知に挑む者たちの名前だった。誰も解明したことのない、踏破したことのない大地の空洞。リヴェリアはこの街をいつの間にか止まり木にすると決めていた。

 

その止まり木では出会いがあった。生意気で小賢しいパルゥム、そりが合わない粗暴なドワーフ、セクハラの酷い主神、そして身の丈に合わない夢を謳うヒューマン。決して気分のいい出会いではなかった。むしろ毎日苛立ちっぱなしだ。

 

それでもきっと、それは運命であったと。ちょっと先の未来、都市内最大派閥の幹部になったリヴェリアは笑顔で回顧した。

 

この日のことは、間違いなく、リヴェリアという個人にとって、重要な転換期(ターニングポイント)であった。

 

 

 

 

 

 

瞬きを一度するくらいの時間に、様々なことが起こった。極上の得物にかぶりつくのを邪魔建てされたドラゴンは、まずその邪魔者──ユーキをその大木の幹のように太い前脚で弾き飛ばした。当然軽装かつ低ステイタスの冒険者の身体は難なく弾き飛ばされ、その体は水風船のように壁に叩きつけられた瞬間にべちゃりと潰れた。体のそこかしこから血が噴き出し、もはや死一歩手前の様相だった。

 

続いてリヴェリアが動いた。極限の状態で、彼女はなんとこの土壇場で奇跡的に“平行詠唱”を発動させた。敏捷や耐久のステイタスが低いなかでも持ち前の才を生かしてドラゴンの攻撃を回避し、回復魔法を練り上げた。無事に発動したそれはユーキの元へ届き、彼が死の淵へ歩むのをなんとかとどまらせた。

 

次にガレスが動いた。今まで動かなかった体を恥じるようにして震わせながら、ドワーフらしい剛腕で両刃戦斧(バトルアックス)をしっぽに向けて豪快に振り下ろした。渾身の一撃は、しかし竜鱗を何枚かそぎ落とすだけであった。

 

その光景を見て、フィンは思案した。“知恵者”を自称する彼はこの非常事態においてどうするべきかの判断を巡らせた。すなわち“立ち向かう”のか“逃げ出す”のか。その答えは一瞬で決まった。

 

「──ユーキを置いて逃げよう」

 

「────」

 

杖を構えて戦闘態勢をとっていたリヴェリアは、呆けたような顔でフィンを見たあと、その言葉の意味を理解して激昂した。

 

「乱心したか、臆病者のパルゥムめ!」

 

「──ああ、なんとでも言え! でもこれは最善の判断だ! 僕たちの中で最も火力の高いガレスの攻撃であのダメージだ。君の魔法ならあるいは鱗を貫く可能性はあるが、詠唱を守ってやれるほどの戦力的余裕はない! じゃあどうする、このまま全員でこのドラゴンに食われて死ぬのか!? そうじゃないだろう!」

 

「敵わぬことを認めて、潔く退くのも、冒険者として当然の判断。確かにそう、ギルドのアドバイザーは言っておったのう」

 

「ああ! ユーキを連れてこのドラゴンから逃げるのは無理だ。ならおとりにして逃げる。そうすれば、僕たち3人は、助かる」

 

「認めるものか、そんなもの。それでおめおめと生き延びるくらいなら、ここで死ね! このドラゴンの餌となればいい!」

 

「僕には命に代えても成し遂げるべき使命がある。そのために()()生き延びなければならない。例え臆病者の誹りを受けようと──」

 

実のところ、フィンの判断は良心の観点から言えば落第かもしれないが、ファミリアの団長として、パーティーのリーダーとして言えば大正解であった。

 

駆け出し4人の目の前に上層の階層主とも呼ばれるインファントドラゴン、しかも強化種が現れた。それだけで何もかもを捨てて一斉に逃げ出すべきところである。冒険者とは時に命を省みず冒険をしなければならないときがあるが、その冒険とは絶対に敵わない壁に特攻し玉砕することを言うのではない。

 

今全員で逃げ出して3人で生き残ったところで、他の冒険者たちやギルドの職員たちは何と言うとお思いだろうか。彼ら3人を“仲間を見捨てた薄情者、非人間”と罵倒する? いいや、それはあり得ない。正解はこう──

 

 

 

──“たった一人で済んだのは、運が良かったな、新人”である。

 

 

 

「言っておくが! 僕はあのまま君が噛まれていても同じ判断を下したし、僕が犠牲となる立場であったとしても、きっと仲間にそうして欲しいと願う! なぜなら、それが冒険者だからだ」

 

「──それは、しかし、くっ」

 

口論をしている間にも、インファントドラゴンの猛攻はやまない。防戦に専念するのであれば、あと数分はもつだろう。しかし攻勢に転じたとすれば、勝ち目はないに等しい。

 

明確な脅威を前にして、内乱じみたこと起こすのは悪手である。何とか時間を繋いでいられるこの数分に、意思統一を行う必要があった。

 

だが、リヴェリアは自分の命を救ったユーキを犠牲にすることに承服しかねる態度をとっており。

 

ガレスはなにを考えているのか、ドラゴンの攻撃をさばきながら終始無言であるし。

 

フィンはどうにかここからユーキ以外の全員を生還させようと必死で撤退を主張している。

 

この期に及んで、同じ道化師のエンブレムの元に集った三人は、全く歩みがそろっていなかった。

 

 

 

「……リヴェリア、分かってくれ。あとでどんな言葉も制裁も甘んじて受ける。だから従ってくれ。どんなに嫌いあっていても、同じファミリアのメンバーなら、より多くを生きて地上に返す。それが、団長としての務めだからだ」

 

「────」

 

リヴェリアは絶対に嫌だった。恩人を見捨て自分はのうのうと生きるなどどいう非道な行為に手を染めるのも。また護られる立場に甘んじたままにダンジョンを去るのも。しかしその考えに、フィンとガレスの二人を巻き込んでみすみす死なせるというのがいかに道理の通らないことかというのもわかっていた。だから、いざとなれば。二人だけを撤退させ、自分だけが残るつもりだった。前衛を失った魔法使いが、どれだけ脆弱かを知っていても。

 

それをフィンに伝えようとした、刹那。今まで黙り込んでいたガレスが、口を開いた。

 

「──お前らは、なんでこのオラリオへと来たのじゃったか」

 

「なんだガレス、いまそんな話に付き合っていられる余裕は──」

 

「まあ、いいではないか、フィン、()()()()()じゃ」

 

「──ッ、聞いてなかったのかガレス! 僕たちは今から撤退すると言ってるんだ」

 

()()()()()

 

「~~~~~ッッ、脳みそまで筋肉でできているのか君は! 自分が、何を言っているのか、」

 

()()()()()、お前の判断が正解なのじゃろうが。儂はその前に、()()()()()()()()()()()!! 強き者と熱い戦いをするために、このオラリオへと来た! お前らの誇りはなんじゃ! 告げるがいい、生意気なパルゥム! お高く留まったハイエルフ!」

 

「──冒険者である前に……だって?」

 

ロキファミリアの3人組は、今まで互いのことをこれっぽっちも理解してこなかった。それは彼らが皆才能にあふれる者ばかりで、今までに自分が人より優れているという認識を正してこなかった傲慢が招いたことであり。

 

そして同時に、彼らが自分自身の種族になによりも誇りを持ち、自分こそが種族の代表であるという自負していたからこそ生じた、種族間の軋轢が招いたことである。

 

ならば、少なくとも3人にとっては。冒険者として何たるかではなく。自分が、自分の種族として、どのような誇りを胸に生きているかこそが、最も肝要なことなのではないかと。

 

ガレスは、2人に、そう問うた。

 

「──私は、旧態依然としたエルフの価値観に嫌気がさして里を飛び出した。誇り高きエルフの王族として、世界中の新しいものを見て、知って、その上で自分が、エルフがこれからどうあるべきかを考えたくて。だから私は、オラリオにきた」

 

「そうかそうか、お高く留まったと思っていた姫様は、実はお転婆の姫だったわけじゃ。そう思えば、まあ、あれほどまで嫌わずともよかったかのう!」

 

「……ふん。私も、あのドラゴンを前に一歩も退かぬ誇り高さとその闘志だけは、認めてやってもいい」

 

「──さて、生意気なパルゥムよ。もしやお前はまだ、儂ら二人に舐められたままの、いけ好かない小人なのかのう?」

 

インファントドラゴンの前に並び立つ二人の誇り高き冒険者。それを前にして、フィンは拳をきつく握る。理性は訴えている。ここで勝てる可能性など皆無に等しい。立ち向かうなど無謀。無駄死にの極みである。

 

──だが。

 

「僕は──僕は!」

 

例えば仮に、ここで逃げ出したとして。3人で逃げようと提案したことすらも撤回して、一人で逃げて生き延びたとして。フィン・ディムナは胸を張って、夢を叶える事ができるだろうかと。

 

この身が、パルゥムの象徴たりえる存在に、なることができるだろうかと。フィン・ディムナの心が、雄たけびを上げた。

 

「──僕は、誇り高きパルゥム! 誰よりも勇気ある一族の一員、僕の望みは──腑抜けた同胞に、もう一度、フィアナと同じような希望を魅せる事!」

 

「よう吼えた、小人の英雄よ! ならばお主は、どうする! この凶暴な竜を前にして!」

 

「やってやるさ! ちいさなトカゲの一匹や二匹! 殺して帰る! ユーキも一緒に、4人で帰るぞ!」

 

冒険者たちの、無謀な冒険が始まった合図であった。

 

 

 

 

 

 

3人の冒険者たちが立ち上がった後ろで、朦朧とした意識の中で、ユーキはその光景を見ていた。足りない血が頭の回転を鈍らせる。いくつもの折れた骨が、立ち上がることを許さない。 

 

ユーキは、しかし、その光景を目に焼き付けていた。確かに尊く、輝かしい、()()()()()()の瞬間を。

 

ならば、と。ユーキは手を伸ばした。この身、立ち上がることができなくても、仲間のために背を押すことくらいはできるだろう。

 

数多の勇者たちが、その旅路の始まりに聴いた曲を。魂に刻まれた“ゆうきのうた”を。

 

伝説の始まり、その“序曲”を奏でよう。彼らの旅路が、勇気に満ちたものになりますように。

 

 

 

 

 

 

管楽器による盛大なファンファーレ。

 

王族たるリヴェリアが、今までに聞いた曲の中でも五指に数えられると認めた素晴らしき曲。

 

毎朝聞いているであろうそれが、この緊迫した局面において、なぜかこれ以上なく頼もしい。

 

立ち上がった勇者たち3人、その背後から。“ゆうきのうた”が、響いた。

 

インファントドラゴンが、その大顎を広げて、大地を揺らすほどの咆哮をする。喉奥からはちりりと火の粉が立ち上り、竜種特有のブレスまでもを吐けることが直感的に感じ取れる。

 

これで戦力差はさらに開いた。まさに絶望。どうやって勝ち目を拾おうかなんて、考えることすらおこがましい明らかな格の違い。

 

それでも不思議と、心の奥底から、あたたかな勇気が湧いてくる。絶望に立ち向かう希望の剣。理不尽をはねのける、光の感情が!

 

3人は通じ合ったように頷き合った。ドラゴンの口から、大砲のようにして煉獄の炎が発射される。

 

それを開始の合図代わりに、3人は駆けだした。

 

 

 

 

 

 

「まだなんか。まだなんかあ……」

 

時は深夜、月の光すらない新月の夜。人っ子一人いないバベルのロビー、ダンジョンへ続く大穴を目の前に、ロキはうろうろと落ち着かない様子を見せていた。

 

ロキがここにいる理由は一つ。いつもは夕方、晩餐の頃には戻ってくる可愛い眷属(こども)たちが、未だに帰還していないからである。神の力(アルカナム)を通して生存を確認できてはいるが、それは心配しない理由にはならない。

 

ダンジョン内のどこかで動けない状態にあるのだとすれば、命がいつまで続くかも定かではない。今も怪物たちと戦っているのであれば、次の瞬間に死んでもおかしくはない。宿で待っているだけでは嫌な想像ばかりをしてしまい、居ても立っても居られずこんなところに来たというわけである。

 

「こういうとき、ウチらは無力やなあ。待っとくことしかできん……」

 

不変の神は、不変の日常に飽いて、その全能を封印して不便を楽しむために地上へと降りた。そんな神々の中には、下界のこどもたちをまるで玩具のように適当に扱う者もいるが──ロキにとっては、4人全員がかけがえのない家族(ファミリア)であった。

 

今も命の危険に身を置いていると思えば、身が張り裂けるような気持ちになる。不変の神も、心だけはうつろい変化するものだ。その変化が心地よく、痛みを感じるものでもある。

 

ロキは大穴へ降りていく螺旋階段の一段に腰かけた。眼下に広がる吸い込まれるような深淵の闇に、背筋が寒くなる。冒険者たちはよくこの穴に意気揚々と降りていけるものだ、と感心すら覚えた。

 

今夜を過ぎても帰ってこないようなら、なけなしの金でギルドに捜索依頼を出そう。最も、そうした依頼で対象が生還した状態で見つかることはほとんどないが──

 

と、ロキがそんな諦観に飲まれ始めた時である。

 

「まったく軽すぎるの、ユーキの奴は。こんど鍛えてやらねば」

 

「あまりやりすぎないようにしなよ、ガレス。君の本気の訓練についてこられるほど、ユーキは精強な人間じゃない」

 

「まだケガも治らないうちから鍛錬の話か。筋肉信仰者にはついていけんな」

 

「──おお……おお!」

 

階下かひそかに聞こえてくる会話に、ロキの顔が喜色に彩られる。思わず立ち上がって、転がるように下へ下へと降りていく。

 

「なにおう? その筋肉が此度の勝利を引き寄せたのだろう!」

 

「とどめを刺したのは私の魔法だがな」

 

「それを上手く指揮して有効なものにしたのは僕だよ」

 

いつも通り、お互いを罵倒し合うような物騒な会話。だが、確かな信頼と絆がそこには感じられる。

 

どうやら大きな冒険を乗り越えたのだろうという事を、ロキは直感した。

 

色々と聞きたいことがある、下界の未知、子供たちの可能性。彼らの足跡、物語を辿るのが神にとっての最高の娯楽なのだから。

 

──しかし、その前に。まずいうべきことがある。

 

闇の中から浮かび上がってきた愛しの子供たち。装備はぼろぼろ、露出した肌は泥と血にまみれている。しかし、3人はしっかりと立って歩いている。唯一気を失っているユーキも、五体満足であり、命に係わる様子でもない。

 

ロキは飛び上がる。抑えきれない衝動に従って、彼らの所へとダイブし、きつく抱擁しながら、大きな声で()()を告げた。

 

「──おかえりぃ!!!」

 

 

 






おお ユーキよ しんでしまうとは なさけない!(死んでない)

ドラクエでも序盤でドラゴンに会ったら全滅確定なところ。

今回は4人生きて(一人は死にかけだけど)帰れたから、ロキファミリアは化け物ってことで。

最後まで読んでくれてありがとう!

需要があったら続くんじゃ。





《スキル》 
序曲(ゆうきのうた)
任意発動(アクティブトリガー)
・ゆうきをうたう
・聴いた者の勇気を奮い立てる。




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ハイエルフの“賢者”



お待たせしました。お待たせしすぎたのかもしれません。




 

 

 

インファントドラゴンの一件。あの絶望そのものともいえる冒険を一丸となって乗り越えたロキファミリアの冒険者4人は、ランクアップこそしなかったものの、異例のステイタス成長を見せた。一度の更新でステイタスの数値が合計1000以上伸びたと聞けば、どんな冒険者も口が開いてふさがらないだろう。

 

あの試練を乗り越えてから、4人の仲は加速度的に改善されて、今までの酷い姿の面影もなく、むしろ熟練の冒険者のように連携を見せるようになった。優れた才能を持つ彼らが完ぺきな連携まで覚えてしまっては、到達階層を更新できないはずがない。ロキファミリアは他の追随を許さない破竹の勢いで攻略を進めていった。

 

そして、インファントドラゴンの一件から、およそ一年と半年ほど。ついに4人は同タイミングでのランクアップを果たしたのである。冒険者登録からおよそ2年が経っていた。最速記録(レコード)にこそ届かなかったが、オラリオの歴史上においては上澄みも上澄みの速度でのランクアップであった。

 

ランクアップした本人たちはもちろんの事、主神のロキはことさら喜びをあらわにして、宴を催した。ロキファミリアの面々は自身の努力が実ったことを喜び、それぞれの健闘を称え合い、これからの冒険への意気込みをあらわにしながら、その時間を過ごした。

 

その後は、今までにためた資金でもって5人が暮らすには十分な広さのホームを購入したり、それぞれが専属鍛冶師を見つけて装備を更新したりなどといったイベントが続いた。

 

こうしてダンジョンではなく地上で忙しくするというのは、冒険者にとっては一種の憧れである。それは、日銭を稼ぐのに精一杯の新人から脱して、一人前の存在になったことを意味するからだ。当然、そうした感覚は4人にもあり、彼らは自分を誇らしく思いながらその時間を楽しんでいた。

 

 

──そして、よが あけた!

 

 

 

 

 

 

本日のオラリオの天気は快晴。目を上げれば無限に広がる青空と、そこに吸い込まれるように飛んでいく渡り鳥の群れ。鼻を広げれば眠気を誘う暖かな空気と、からっと乾いた土の匂い。そして、耳をすませば朝日の訪れと共に鳴り響く()()()()()()()()()()。そのどれもが、欠ける事のない平和の証明。今日もまた、オラリオに朝が来る。

 

「【翼を授けよ。果てなき大空を飛ぶ、白き翼を】」

 

琥珀の瞳を朝日にさらして輝かせ、夜空の髪を朝の陽気にたなびかせて、その薄い唇から朗々とした詠唱が響いた。

 

「【ルーラ】」

 

一人の少年が空へと一直線に飛び上がる。目指すは世界で最も高き建造物、オラリオの富と繁栄の象徴、バベルの先端。いつからか、少年にとってはこの場所こそが日課となった演奏会の開催地となっていた。いつだってその音色は、オラリオの冒険者たちを、勇気ある旅路へと送り出す。虚空から響くその曲の演奏者こそが少年──Lv.2冒険者、二つ名『勇奏(ファンファーレ)』を神から授けられた“ユーキ・カナデ”である。

 

新人冒険者にありがちな洗礼、神々の悪ふざけによる命名を回避するという珍しい存在となったユーキを含むロキファミリア4名。そのために奔走していたロキに散々「恩に着ろ」とまさに恩着せがましい態度をとられたのはまだ記憶に新しい。

 

確かに、例えば『勇気百倍(アンパンマン)』とか付けられるよりはマシだな、とユーキ本人としてもロキにある程度の感謝を持ったのは必然であったが、しかし。ひそかに(と本人は思っているが周りにはバレバレ)二つ名に『勇者』を希望していた身としては、なんだかなあと微妙な気分になるユーキなのである。

 

しかもその希望していた名前が仲間の方に配られてしまったというのだからまた複雑だ。とはいえ、小学生のように「これ(勇奏)それ(勇者)、とりかえっこしよーよ」とはいかない問題なのだから、ひとまず諦めるしかない。

 

 

 

──そんなことを考えながらも、ユーキは自身の象徴たる“うた”を奏でることを止めない。当初バベルの広場にだけ届いていたこの音色は、いつしかオラリオ全体へとその効果範囲を伸ばすようになっていた。ユーキはそれを知ってからは、自身がダンジョンアタックをするときはもちろんの事、休日だって毎日同じ時間に“うた”を奏でるようになった。

 

その動機として、目立ちたいという彼生来の気質が大半を占めていたというのは事実だが、それと同時に──

 

「おーい、『勇奏(ファンファーレ)』ー!」

 

下から野太い叫び声。目を凝らしてみれば、いつだったかに一緒に酒場で飲んだ冒険者の男だ。名前も所属ファミリアも知らないが、そのガタイの割に裁縫が得意だと言っていて、それが意外で強く印象に残ったのを覚えている。

 

「やあ! 今日もダンジョンかい? 精が出るね!」

 

「あたぼうよ、今日こそ到達階層の更新をキメてやるさ! お前の演奏を聞くと、頑張ろうって気持ちになってくるよ!」

 

「──そう」

 

がはは、と笑いながら手を振って、その男はバベルの中へと消えていった。今日も彼は、未知のダンジョンへと“冒険”をするだろう。そこにあるのは希望だけではなくて、きっと膝を折りたくなる絶望が当たり前の顔をして蔓延っている。もしそれに彼が出くわしたとして、それを乗り越えたいと思ったとき。少しでもその一助に、自分の“うた”がなるというのなら。

 

そんなこっぱずかしい想いが沸いてきて、ついにやにやとユーキは笑ってしまった。

 

 

 

毎日の演奏会。どんなに天気が悪くても、体調が悪くても、ユーキはLv.2になった日から、それを欠かさず行ってきた。

 

その動機として、目立ちたいという彼生来の気質が大半を占めていたというのは事実だ。

 

しかし、それと同時に──

 

 

 

──まさに“勇者”を自称するものらしく。彼は誰かの笑顔が好きだった。

 

 

 

 

 

 

「今日の稼ぎはなんヴァリス~ 1,2,3,4~」

 

「──はぁ、全く」

 

と、それはそれとして。同時に俗物らしくお金も好きなユーキ。今日も今日とて演奏会に投げられたおひねりをホームのエントランス床にぶちまけては、満面の笑みで数えている。そんな彼にリヴェリアは深くため息をついた。そんなんだから『勇者』の称号を奪われるのだ、とは言わなかった。それを言うのは可哀そうであったし、言っても聞かないだろうなとも思ったからだ。

 

「リヴェリア、ため息をつくと幸せが逃げるって知らないの?」

 

「迷信は信じない質だ」

 

「へー、じゃあ“伝説の~”とか“幻の~”が枕詞についた話を聞いても、ワクワクしないってこと? それはずごく、もったいないなあ」

 

「“伝説”とはそれに足る理由があってこその“伝説”だ。“幻”もな。確固たる理由があれば、自ずと付く類のもので、それに対してなら私は敬意と畏怖を持つだろう」

 

「──はいはい、迷信と真実の違いってことね」

 

「そうだ。眉唾なものを簡単に信じることほど、愚かな行為は無い」

 

今日は休日。フィン・ディムナは山へ芝刈りに、ガレス・ランドロックは川へ洗濯に──というわけではないが、それぞれの用事を済ませるためにホームをあけている。昨日の深酒によって自室で潰れているロキを除いて、このホームにいるのはユーキとリヴェリアの二人だけ。特に用事もないためか、リヴェリアは珍しくもユーキの益体もない話に付き合っていた。

 

「“伝説”はそれに足る理由があってこその“伝説”ねぇ……」

 

リヴェリアの堅物じみた返答に、ユーキは珍しくも真剣な顔で考えるようすをみせた。それは、もう2年近くの付き合いとなるリヴェリアにとっても滅多に見ない、内側に潜ませたユーキの心の発露であった。

 

「──まあ、そうだね。眉唾は眉唾。そう思うべきだっていうのには、うん。オレも賛成かな」

 

粗悪なつくりの1ヴァリス金貨を、剣だこの目立つ冒険者らしい手で弄びながらそう零した横顔が。どうしてか、リヴェリアの頭からその後何年たっても消えなかった程に印象深いものだった。

 

 

 

 

 

 

「──と、いう訳で、いっちょよろしく!」

 

「はあ……」

 

──少し時をさかのぼるとすれば。

 

あのあとなんとなくお互いに話しづらい空気が続いたためか、無言の空間の中。ユーキがおひねりを神妙な顔でカウントし終わったところで、気まずい気分のリヴェリアは自室にそそくさと退散しようとしていたのだが、ユーキがそれを呼び止めた。

 

話を聞けば、なんでも、暇なら魔法の練習に付き合ってほしいとのことだった。ロキファミリア構成員のうち、まともに魔法を使うのはリヴェリアだけ。そういう意味では師事する相手として全く間違ってはいないのだが、あの空気感の中で悪びれもせずに頼みごとをする精神には少々呆れたリヴェリアなのであった。

 

とにもかくにも、魔導士たるリヴェリアとしては教えるならまずは理論からという気持ちだったが、ほかならぬ教育対象のユーキが見た目や態度に似合わず勤勉であったことを思い出した。彼はその適当そうな態度と裏腹に知識の吸収に余念がない人だった。エントランスで様々な本を開いているのをよく見かけるほどに。

 

リヴェリアは訓練を実戦形式に即座に切り替えることにした。そうして二人は訓練にちょうどいい程度の敵がいるダンジョン10階層へと足を運び──ということで最初のセリフに戻るのである。

 

「よろしくと言われてもだ。まずは何を教えて欲しいのかについて詳しく話せ」

 

「おっけー、じゃあ、まずはオレの魔法についておさらいしておこうか。オレの魔法は()()ある。まず一つ目が飛翔魔法こと【ルーラ】だね。ダンジョンでは役に立たないから忘れてください。はい次──」

 

「まてまて、まずそこから気にかかるのだが」

 

まるで触れて欲しくないという心内が透けて見えるような早口で流そうとするユーキに、待ったをかけるリヴェリア。

 

平均的な特徴を持つヒューマン、つまり特に魔法敵性が高い訳でもないのに魔法を一気に2つも発現した時はロキファミリアの全員が驚嘆したものだが、リヴェリアはその魔法のうち1つしか実際に目にしたことがなかった。理由は、ユーキの言ったように一つ目の魔法がダンジョン攻略において()()()()だから。これは、発現した初日に共に試し打ちをしに行ったユーキとフィンが出した結論である。

 

フィンも言うのだから役立たずという評価は正当なものなのだろうが、とはいえ“飛翔魔法”という触れ込みそんなわけがあるか? とリヴェリアはずっと疑問だった。こっちがうんざりするほどキラキラした顔で試し打ちに出発したユーキが、戻ってきた時には露骨にがっかりした様子だったから、触れるのもためらわれて今まであえて触れてこなかったが──せっかくの機会だ、とリヴェリアの中の好奇心がうずいた。

 

「なにが?」

 

「飛翔魔法なのだろう? ダンジョンは狭い場所も多くて自由に飛ぶのは難しいだろうが、とはいえ地表からちょっと浮けるだけでも大きな利を得ると思う。それが、役に立たない? なんの間違いなのかとずっと疑問だったのだ。詳細に話せ」

 

「……えっとー、フィンからもこの魔法は役立たずだって聞いてるはずだよね?」

 

「聞いているが、逆にそれだけしか聞いていない。別にそれで困らないから流していたが、こうして知る機会が訪れたなら知っておきたい。私は実際に自分の眼と耳で見聞きしたことこそを信頼する」

 

「つまり好奇心と? 発動すると痛いから見せたくないです、でいい?」

 

「ダメだ。発動したら死ぬわけでもあるまい。少しの傷くらいなら治してやるし、今日の指導の報酬としてでいいから、見せろ」

 

「それを言われるとなあ、はあ……」

 

渋々といった風にユーキはため息をつくと、精神力(マインド)の練り上げを始める。本職魔導士のリヴェリアからすればまだまだお粗末な精神力(マインド)操作だったが、日ごろから魔法理論の本なんかを読み漁っているだけあって、基本に忠実な悪くはない練り上げだった。

 

「【翼を授けよ。果てなき大空に飛ぶ、白き翼を】」

 

そうして魔法は完成し、ユーキの背中に精神力(マインド)が収束し始める。白い奔流が瞬きの間に翼を形作り、それがばさりとひとつ羽ばたきを見せた直後、

 

「【ルーラ】!!」

 

その叫び声と同時に、ユーキの身体は垂直に高く高く飛び──いやむしろそれは()()と言ってもいいほどの勢いだったが──上がり、そうして当たり前のように、

 

天井にものすごい速さで頭をぶつけた。

 

 

 

 

 

 

ユーキ は てんじょうに あたまを ぶつけた !

 

 

 

 

 

 

「わ、悪かった。まさかあんなことになるとは……」

 

「……ぐすん」

 

頭に大きなたんこぶを作って涙目のユーキに、リヴェリアはいたたまれない気持ちだった。自分の我儘で酷い痛みを味合わせてしまったし、何よりそれをみて「ああ確かに役立たずだ」と即座に考えてしまったことにもなんだか気まずいものを抱いていた。

 

「まあ、わかったと思うけど、【ルーラ】は一度真っすぐ上に飛び上がってから発動する魔法なんだよね。この飛び上がりには一定の高さが必要で、途中に障害物があると──今みたいになる」

 

「ああ。まあ、確かにそういうことならダンジョンでは使わない方がいいかもな……」

 

下には数階層分が貫通した穴が開いている地形があるというらしいから、そういうところであれば役立つかもしれないが、今のロキファミリアにはまだ先の話だ。その時まで残念ながら死蔵することになりそうだ。

「だよねー、はあ、頭ぶつけ損じゃん」

 

「う……いや、実際に見てみてちょっとくらいは助言できるところもあるぞ」

 

「え、そうなの?」

 

「お前は精神力(マインド)を基本に忠実な形でしか使っていないが、込める量を少なくして発動できるようになれば、飛び上がりに必要な高さも低くなり、頭をぶつけなくなるかもしれん。あくまで可能性の話ではあるが──」

 

「なるほど? つまり“メラゾーマ”じゃなくて“メラ”でも火をつけるには十分だって話ね。MP少なく済ませろってことだ」

 

リヴェリアにとって、ユーキのたまに発する言葉には全く意味の見当がつかないものが多くあった。そういう言葉を聞くと、ユーキという少年の過去に対して当然興味が向く。しかし、以前からそうだが、ユーキという少年は自身の過去や故郷について話すことをしないし、聞かれてものらりくらりと躱す癖があった。

 

だからリヴェリアは今回も、彼の言葉に深くは突っ込まなかった。

 

「何を言っているのかは分からんが、納得したならいい。しかし込める魔力を操作するのは魔力暴発(イグニス・ファトゥス)の危険を常に孕むから、気を付けたほうが良いぞ」

 

「……つまり、痛い思いをしないために、痛い思いしながら練習しろって? 気が重い話だね」

 

うへえ、と言いたげなユーキの言葉に「研鑽とはえてしてそういうものだ」と返すリヴェリア。「わかっているけどさぁ」と唇を尖らせているユーキに対し【ルーラ】の魔法をダンジョン内で使えるようになる日はまだまだ先な予感がするリヴェリアであった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、本題に入ろうか」

 

「ああ」

 

気づけばダンジョンに入って随分な時間が経っていた。このままでは役立たずな魔法について時間を使っただけで日が暮れてしまうだろう。気を取り直して、二人は()()()の魔法の修練に移った。

 

「二つ目の魔法は【フォース】……俗に言う付与魔法(エンチャント)だけど、普通と違うのは付与できる属性が()()()()()、だね」

 

ユーキの二つ目の魔法【フォース】は、彼の言う通り付与魔法(エンチャント)に分類される魔法である。先の【ルーラ】と違い使いやすく、汎用性に優れる良い魔法だ。リヴェリアのように派手で豪快な砲撃じみた魔法ではないが、堅実に自分の有利を築くことができ、小回りが利く。

 

さらに彼の魔法は付与魔法(エンチャント)としては珍しく他人や物にも付与でき、付与された側に負担やデメリットなどが少ない。フィンは戦術に組み込みやすい上にシンプルに強いこの魔法を絶賛していた。リヴェリアもこの魔法には幾度となく助けられてきた。

 

加えて、この魔法にはもう一つ、他にはない特徴がある。リヴェリアはそれこそがユーキの悩みなのだろうと思い至った。

 

「ロキが言っていたな、お前のそれは、()()()()()()だと。複数属性というのがそれか?」

 

「うん、今はまだ『炎』と『氷』だけだけど、多分、これからはもっと増える。それは手札が増えて良いことだけど、その分発動が安定しなくなってる」

 

「全く違う属性を同じ詠唱で操る魔法だったな──つまり精神力(マインド)の操作が上手くいっていないのか?」

 

「そうだね。炎と氷じゃ込める精神力(マインド)の質が全然違って、だからその質を臨機応変に切り替えるのが難しくなってきてる。もう一つ属性が増えたら、戦闘中に魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こす可能性もあると思う」

 

「なるほどな」

 

「リヴェリアも炎と氷の魔法を使うだろう? なにかいいアドバイスをもらいたくてね。やっぱり君みたいにもっと魔法に詳しくなるべきなのかな」

 

「そうだな……理論を学ぶべきというのはそうだが、私はやはり、大事なのは『心』のありようだろうと思う」

 

「心?」

 

「ああ。私は魔術師に必要な心を『大木の心』と呼ぶ。いかなる時にも精神を乱さない、大木のような安定と不動。もちろんそれは、私のような後衛魔術師の心得であり、お前のような魔法剣士型の者にそのまま適応されるわけではないが──ん、なんだその顔は?」

 

「あ、いや。リヴェリアは結構な理論派だと思っていたから、一番大事なものが『心』なんて曖昧なものだというのが、何だか意外でさ」

 

惚けた顔をしていたユーキにリヴェリアが問いかけると、ユーキはそんなことを言った。リヴェリアはその返答に、朝にホームのエントランスでした会話を思い出した。

 

「確かに朝もそういうような話はした。しかしこれは決して根拠のない“眉唾”の話ではない。なぜ魔法の発動に必要なチカラが一般に“魔法力”や“魔術力”ではなく“精神力”と呼ばれるのか。私は、その理由こそが、魔法発動にゆるぎない“心”が必要とされるからだと思っている。しかしなにより──」

 

「なにより?」

 

「──私自身が、『大木の心』による魔法能力の向上を実際に肌で感じ、経験してきたから。私は『心』こそが魔法発動において最も大切なものだと考えるし、そう信じている」

 

「“私は実際に自分の眼と耳で見聞きしたことこそを信頼する”だっけ。なるほどねえ……」

 

ユーキはリヴェリアの言葉に対して、何事かを考えているようだった。その横顔は、朝のホーム、エントランスでヴァリス硬貨を数えていたときの彼と似ていた。

 

遠くのもう帰れない場所、なにか特別な夢と希望を夢想し、しかしそこには至れないことを知っているかのような。そんな寂しい表情だ。細められた瞼から覗く琥珀色の瞳が、まるで夕焼けのようで、リヴェリアはそれに寂寥感を覚えた。

 

 

 

「せっかくアドバイスをもらったし、試してみようかな!」

 

「ちょっと試してみよう、で『大木の心』を会得されたとしたら、私の立つ瀬がないがな……」

 

「いやいや、要は、心を安定させろって話でしょ? キミはそれを『大木』をイメージしてやってる訳なんだよね。奇遇なことに、うん、()()()()()()()()

 

「どういうことだ?」

 

「オレにとって、心を安定させるのに最も適したイメージは、キミと同じ『大木』だったってことを、思い出したんだ」

 

そんなことを言いながら、ユーキはマインドの練り上げを始めた。リヴェリアはエルフらしい鋭敏な精神力(マインド)感知能力により、その様子を詳細に把握し──息をのんだ。

 

先ほど見た【ルーラ】発動の時とは比べ物にならないほど、その操作は繊細で、緻密で、静謐だった。まるで凪いだ水面に水滴が一つだけ落ちて波紋が広がるかのような、美しい力の動きだった。

 

「【剣に鋭く、盾に硬く、力よ集え】」

 

「──」

 

リヴェリアはその光景に見惚れた。まるで物語の一項のように、幻想的な、芸術的な、魔法の発動だった。きっとそれは、魔法適性の強いハイエルフであり、同時に卓越した魔術師であるリヴェリアだからこそ感じ取れたことなのだろうけど。

 

「【アイス・フォース】」

 

発動と同時に彼の身体に霜が降りた。ダイヤモンドにも似た輝きの氷がキラキラと光り、彼の髪と合わさってまるで星夜の空のようだった。はあ、と彼が息を吐くと、雲がかかるように白い色が宙を舞った。劇的な魔法発動技術の変化に、リヴェリアは言葉を失った。

 

「──驚いた。私が教えて欲しいくらいの精神力(マインド)操作だった。一体何をイメージした」

 

「『大木』──いいや、『大樹』かな」

 

彼は、焦がれるような表情でそう言った。

 

「ずっと夢見ていた。この世界のどこかには、どんな建物よりも高い大樹(世界樹)があって、その樹のてっぺんにはこの世の何よりも美しい花が咲いているって。そしてその花には──」

 

「……その花には?」

 

「んーん、なんでもない。これこそ眉唾だからね。いや、眉唾どころか(フィクション)だって確定している話で、そんなものがあるなんて誰も、オレだって信じていなかった」

 

でも、とユーキは言った。

 

「オレは、きっと嘘だってわかっていても、その花が欲しかった。それが夢だった。だからきっと──それを想像するだけでも強くなれるんだ」

 

おかしい話だよね、とユーキはリヴェリアの方を見た。リヴェリアは彼が実際のところ何を言いたかったのかは分からなかった。だが、ユーキという少年が誰にも信じられていないような何かを信じていて、それを思えば、先ほどの夢のような魔法を発動できるのだということは理解した。

 

確かに、リヴェリアは根拠のない話が嫌いだ。市井に出回る噂話の類には忌避感すら覚える。だから、ユーキが今のような顔をしているのだと理解していた。

 

しかし。

 

「──それを確かめた者はいるのか?」

 

「え?」

 

「この世に、何よりも高い大樹があって、そこに……()()()()()()美しい花が咲いている。それを、確かめた者がいるのか?」

 

「いいや、いない。けど、そう──それこそ()()のお話だからね。きっと無い可能性の方が高いだろうさ」

 

「私は、自分で見聞きしたものこそを尊ぶ。だから、その話も、自分自身の眼と耳で確かめない限りは()()()()()()()()と考える」

 

リヴェリアは、このとき自分でも自分が何を言いたいのか分からなかった。しかし、数年後にこの場面を回想した彼女は、己がユーキを勿体ないと思ったのだと気づいた。

 

あれほどまでに幻想的で美しい魔法を生み出す彼の心が、無価値なもののはずがないと思った。だから、自分の心を、信じるものを卑下するユーキが悲しかった。

 

「──そう」

 

ユーキはリヴェリアの言葉を聞いて、微笑んだ。ユーキにとってその言葉は、なんだか人肌のようにじんわりと暖かい、安心をもたらすものだった。

 

「オレは、キミのことを“魔法使い”だと思っていたんだけど、違ったね」

 

「ん?」

 

「キミは“賢者”だ。賢き者、それはきっと知識量の話ではなくて、未知に向き合う姿勢なんだと思ったよ」

 

「褒めてくれているのか」

 

「ああ、おめでとう! キミは今から上級職だ!」

 

「なんだそれは、わからない言葉をつかうな」

 

いつも通り適当で明るい様子に戻ったユーキに、リヴェリアは安心して微笑んだ。ユーキは「う、」と思わず声を漏らした。その理由は──それこそ未知のままでいいだろう。

 

 

 

「こ、この世には確かに、まだ未知の場所がいっぱいある! リヴェリアの言うとおり、いつか確かめる時がくるかもしれないね」

 

「ああ。もしかすればそれはダンジョンにあるのかもしれないし、地上のどこかにあるのかもしれないな」

 

「じゃあオレたちはまずは、ダンジョンの完全制覇を目指さなきゃだ」

 

「ああ。もしそれを確かめるまでにお前が寿命で死んでしまっても、安心しろ。私がそれを引き継いでやる──エルフには、時間が多くあるからな」

 

「そうだね。じゃあ、その時はお任せするよ」

 

「言っておくが、寿命以外の死因は認めないからな」

 

「ふふ、そうか。キミは厳しいね(やさしいね)

 

そんなことを言いながら、二人は笑った。もうすぐ陽が沈む、夕方のダンジョンでのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、結局その花とはどういうものなんだ? 知っていないとお前の代わりに探せないだろう」

 

「死んだ人すら蘇らせる花らしいよ」

 

「──! なんとまあ。まさに()()らしい。でもそういうことなら、見つけた暁には死んでしまったお前をその花で叩き起こしてやろうか」

 

「ヒトに無理やり起こされるのは苦手だから、そうならないように自分で見つけるよ」

 

「ふふ、そうしろ……ついでに聞くが、その花について他に何か手がかりはないのか?」

 

「あるよ」

 

「ほう?」

 

「ニワトリとタマゴがね、ケンカしてるんだ」

 

は?

 

「どっちがより偉いかって何年もケンカしてるんだって」

 

は??????

 

 

 

 

 

 






《発展アビリティ》

理力(フォース):E



【ルーラ】

・飛翔転移魔法

・詠唱式【翼を授けよ。果てなき大空に飛ぶ、白き翼を】

 

【フォース】

・属性付与魔法

・発展アビリティ【理力】の成長によって効果追加

・属性複合魔法(炎、氷)

・詠唱式【剣に鋭く、盾に硬く、力よ集え】






【ドラクエ用語コーナー】

・そして よが あけた!
DQシリーズで宿屋に泊まった際に表示されるテキスト。これを見るとおなじみのBGMが頭に流れる人も多いだろう。

ちなみにDQ宿屋といえばの名物テキスト「ゆうべは おたのしみでしたね」がこの小説で表示される予定はない

ないったらない。


・ルーラ
言わずと知れた有名な飛翔(転移?)魔法。屋内で使うと天井に頭をぶつけるのはオリジナル設定ではなくて原作準拠。ナンバリングによっては屋内使用でも頭をぶつけない。

屋内なのにうっかりルーラを使って「○○は てんじょうに あたまを ぶつけた!」と表示されたことが、誰しも一度はあるだろう。

作者はDQ8プレイ時に、これが起こるとキャラクターたちが表情豊かな反応を見せてくれると気づき、わざとやってみたことが何度もある。

ちなみにどのキャラも大体はテキストの通り頭をぶつけるのだが、ゼシカを先頭にしてこれをやるとなぜか横になった姿勢で身体全体を天井にぶつける。そのとき衣装がスカートだと……


・フォース
初登場はDQ9(だと思う)。職業:魔法戦士で取得できるスキルであり、使うだけで付与されたキャラは与ダメージが問答無用で1.1倍になる他、敵の弱点属性のフォースを纏えばさらに火力が上がる。しかも敵の使用する攻撃属性に合わせたフォースを使えばダメージ軽減の効果もあるという、攻守ともに優れたまさにぶっ壊れのスキル。

余談だが、DQ9では魔法戦士に転職するためのクエストとして、『魔結界を貼ったキャラがメタルスライムに3回とどめをさす』という課題を課されるが、メタルスライムに中々出会えない&結界を貼っている間に逃げられるという点から、達成が難しい(というか面倒)で、スルーした人も多いはず。しかし最速で転職して全属性のフォースを習得出来れば、その後の冒険がぐっと楽になるだろう。


・「花」
ネタバレになるので詳細は伏せるが、ユーキが言っているのはDQ4に出てくるとあるイベントアイテムのこと。


・ニワトリとタマゴ
同じくDQ4から。裏ボスとして戦うことになる二人のケンカ自慢のこと。ニワトリが偉いかタマゴが偉いかという議論(というかケンカ)をずっと続けている。実に意味不明な話なのだが、彼らに勝つことによって上記の「花」への道が拓けることになる。彼らが何者なのかは最後までよく分からない。






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