欲望のロストロギア (創作好き)
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守りたいもの

これは本編が始まる数日前の話です。魔法とメダルに関わるのは1話目からです。


「■■くーん!あそぼー!」

 

くすんでいて顔がよく見えないが、小さな女の子が手を振りながら誰かの名前を呼んでいる。

 

「うん!■■■!」

 

女の子に元気よく返す男の子の顔も、くすんでいてよく見えない。2人は走り回って遊んでいる。表情はわからない。

でも、2人は笑顔なのだろう。だってこんなにも楽しそう・・・違う。あんなにも、幸せだったんだ。それだけは間違いない。

 

 

 

 

目覚ましの音が頭に響いている。寝ぼけた頭で時計を見ると、針を見るといつも通り6時30分を示していた。

 

「ん・・・朝か・・・」

 

何か夢を見ていた気がするが、気のせいだろう。

着替えず部屋から出て洗面所で歯を磨く。その後、1人分の朝食を作ってニュースをつけた。因みに朝はパン派だ。

ニュースでは様々な話題を取り上げている。最近流行りのファッションだとか、鴻上ファウンデーションが新事業に手を伸ばしているだとか。

取り敢えず目的の天気予報を確認し、残り一口のトーストを口に放り込む。そして学生服に着替えて家を出る。

 

「行ってきます」

 

戸締りをして俺は学校に向かった。これが、『聖 悠』の一日の始まりだ。

 

 

 

 

家から30分ほど歩いた場所に、俺が通っている私立聖祥大付属中学校はある。この学校はエレベーター式で、小学校から高校まで通える。私立だけあってお金がかかるのに、しっかり通わせてくれている両親には感謝だ。

俺が教室に入るといつも通り、俺の隣の席に座っている紫髪の少女、月村すずかがいた。

 

「おはよう月村さん。今日も早いね」

 

「おはよう聖君。聖君だってそうだよ」

 

時間は7時50分。人がほとんどいないこの時間はいつも2人で会話をしている。話題は昨日のテレビどうだったなど、簡単なものだ。

月村さんは五大天使と呼ばれている学園のアイドルなのだが、小学校の頃から俺に話しかけてくれた。俺はあまり人と関わろうとしなかったのだが、ずっと気にしてくれた。そのお陰で朝は退屈しなかったし、2人で話す機会は多かった。

 

「まあ、暇だしな。いつも早く登校しちゃうんだよ」

 

「それは圭君達に会うのが毎日楽しみで早く来ちゃうってこと?」

 

「違う、全然違う」

 

全力で否定する。ちゃんと否定しないと月村さんの中での俺が、遠足が楽しみな小学生になりかねない。

 

「ふふ、そういうことにしておくね」

 

聞く耳がなかった。どうしたものかと悩んでいると、教室のドアが開いた。

 

「おはよう悠、すずか!今日もいい天気だな!」

 

テンション高めに入ってきたのは、俺の親友の圭だ。

『最上 圭』銀色の髪、右目は赤く、左目は青いオッドアイの上容姿端麗と、外見は文句のつけようがない正真正銘のイケメンだ。そのうえ成績優秀で運動神経も抜群だ。完璧だ、外見は。

 

「おはよう圭君。今日も元気そうだね」

 

「ふ、当然だ。朝から嫁の顔を見ればこうもなるさ」

 

「私は君のお嫁さんじゃないからね」

 

これだ。こいつは五大天使、つまり学園の5人の美女たちを全員嫁発言している。だから男子生徒全員を敵に回しているのだが、全く意に介していない。

 

「全く、照れるなよ」

 

「アリサちゃんに嫌われるよ?」

 

「・・・はっはっは。ア、アリサが俺を嫌うわけがないじゃないか。そういうことは言ってはいけないぞ?」

 

そしてこれである。実際こいつが好きなのはアリサ・バニングスという五大天使の一人である。本人はばれてないと思っているらしいが、クラスメイトは全員、本命はバニングスさん一人だと知っている。

 

「圭、もういい加減そのキャラやめなよ、見てるこっちが恥ずかしい。悠とすずかさんおはよう」

 

「高志うるさい!」

 

圭の後ろから出てきたのは高志だった。『山田 高志』俺の友達だ。こいつがいたおかげで俺の小学校生活は楽しくなった。高志には感謝しかない。

 

「アンタ達、教室の前で何やってんのよ」

 

「ア、アリサ!」

 

現れたのはアリサ・バニングス。五大天使の1人で、金髪のロングの美人で成績優秀、その上お嬢様とてんこ盛りだ。成績1,2を圭と争っている。周りを見ると、もう一つのドアから他のクラスメイトが入ってきていた。

 

「おはようアリサちゃん。ちょっと圭君がしつこかっただけだよ」

 

「すずか!?」

 

「け~い~!!あんたまたすずかにちょっかいだして!!」

 

「いだだだ!アリサ痛い!痛いから!」

 

圭がバニングスさんに耳をつねられている。いつもの光景だ。

 

「アリサさんおはよう!」

 

「おはよう」

 

「2人ともおはよう。ちょっと待ってて、今こいつをしばいてるところだから」

 

俺は肘をつきながらその光景を眺めていた。

 

「みんなおはよう。って、圭はまたアリサちゃんにしばかれてるん?」

 

途中で八神が教室に入ってきた。八神はやて、こいつも五大天使で俺の元推しだ。そう、元推しだ。

なぜ元になったのか・・・正直言いたくないので割愛させてもらう。それより、八神が来たということは・・・

 

「みんなおはよう。アリサちゃんと圭君は今日も仲がいいね」

 

「どこがよ!」

 

「アリサ、落ち着いて・・・」

 

五大天使の高町なのは、フェイト・T・ハラオウンが入室してくる。彼女たちは別のクラスだが、月村さんとバニングスさんに朝の挨拶をするため、交互に互いの教室行くのだ。そして今日はあちらがこちらの教室に来る番ということだ。

 

「圭、踏み台やめなよ」

 

「誰が踏み台だ誰が!」

 

圭が翔に噛みつく。『秋月 翔』こいつも俺の友達だ。みんなには王子様なんて言われているが、仲のいい奴には言葉が悪くなる。

 

これがいつも通りの朝。最近はこの中で何人か欠けていることもあるが、大差はない。俺の好きな光景だ。

 

「悠君もおはよう」

 

「・・・おはよう、高町さん」

 

俺は少し遅れて、遠慮気味にあいさつを返した。

 

 

 

 

全ての授業を終え、下校している最中だった。

 

「捕まえて!ひったくりよ!」

 

振り向くと、後ろから女性もののバックを持った男がこちらに走ってくる。

 

「邪魔だどけぇ!」

 

動きが単調で助かる。俺は男に向かって走り出し、腹に一発決めて気絶させた。倒れた男からバックを取り返し、走ってきた女性に手渡す。

 

「どうそ。次は気を付けてください。それから警察にちゃんと通報しといてくださいねり。それじゃあ」

 

「ま、待って!えと、ありがとう!」

 

これ以上ごたごたに巻き込まれないように俺はその場から急いで去った。これもいつもの日常だ。別にこの町の治安が悪いという意味ではない。

俺は昔から困っている人に関わることが多いのだ。複数の不良に絡まれている人を助けたこともある。まあ、俺はそういう星の下に生まれたのだろう。もう慣れた。

 

 

 

 

夕食と筋トレ、風呂を終えて眠りにつく。今度の休日は高志と出かける約束をしている。最初は圭と翔も一緒に行く予定だったのだが、急な用事が入ってしまったらしい。

それどころか2人はよく学校を早退したり休んだりしている。あの二人が何をしているのかは知らない。でも、2人ともその何かを本気で頑張っているのはわかっている。だから、2人から話してくれるまでは聞かないことにしている。

そして俺は大したものは何も置いていない、殺風景な部屋で眠りについた。

 



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オーズ誕生編
メダルと服と青い球


初投稿です。楽しんでもらえれば幸いです。

*2023/5/8 一部修正


 ある日、時空が歪んだ。歪みが発生した海鳴市の上空から現れたのは,9つの蒼い宝石。その一つ一つが世界を滅ぼす力を持つ。それらは、真っすぐとある施設の地下に引き寄せられていく。たどり着いた先は石でできた棺桶。蒼い宝石『ジュエルシード』によって、石櫃の封印は解かれる。

 

 

 

 

「悠、やっぱり五大天使最強はなのはさんだよ!」

 

土曜の昼時、ファミレスで自身の推しについてそう力説する、この緑がかった黒髪の青年は俺の友達の武村高志。小学校からの付き合いだ。

 

そして俺の名前は悠、人助けが趣味のごく普通な中学2年生だ。

 

今日も俺たちが通っている学園の5人の美少女の話をしている。確かに全員可愛いけど、何度もその話題について話し続ける高志には流石に呆れた。ちなみに俺の推しは母性があると話題の八神はやて、だった。とはいえ、このままだと昼食中の会話がまた五大天使になってしまう。話題を変えないと。

 

「またその話かよ、もう全員可愛いでいいじゃん。それよりお前課題終わらせた?」

「いやーやってないね!」

「・・・今日勉強みようか?」

「助かる!」

 

助け船が出たことに喜ぶ高志。すぐ助ける俺も悪いけどこいつも悪いなこれ。話題を変えてこれである。こいつの将来が心配になった。俺は思わず頭を抱えた。

 

「それはそうと圭のやつ、昨日も早退したよな。それにはやてさんも」

 

唐突に話題が変わるなあと思いながらその言葉に頷く。圭というのは俺の親友、銀髪で右目は赤く、左目は青のオッドアイズ・イケメン男子だ。頭もよく、学年テストも1、2を争うほどだ。

 

「あいつ曰く家庭の事情らしいけど、確かにそうゆうの増えたよな、しかも5人」

 

「おかしいだろ!なんで圭だけじゃなく、なのはさんやフェイトさん、はやてさんについでに翔なんだよ!」

「その言い方聞いたら翔のやつ泣くぞ」

 

翔も小学生からの友達で、茶髪のイケメンで優しくて王子様みたいなやつだ。あいつ大人っぽいからそれも相まってモテるんだよな。ちなみに名前が挙がった他の3人は五大天使の美少女達だ。

 

「なんだよ、お前はあいつらのことを疑ってるのか?」

「違う違う。あいつらのことだから、なのはさん達と人に言えないようなことをしてるわけじゃないのはわかってるけど、それでも心配になるじゃん。まあ全員成績優秀だけど」

 

気持ちはわかる。早退どころか休んでる日もあるから少し心配にもなる。でもあの二人は将来に繋がることをしているらしいし、あんまり口出ししない方がいいと思う。そんな会話をしながら食事を続けた。

 

 

 

 

 石櫃があった施設が爆破される。

 

 「ハッピバースデイテューユー」

 

 施設から復活した五体の怪物が現れる。

 

 「ハッピバースデイテューユー」

 

 怪物達を倒すために結成された部隊、ライドベンダー隊が全滅する。

 

 「ハッピバースデイディア・・・」

 

 とある会社の最上階でケーキを作る男は怪物たちの目覚めを祝う。

 

 「グリード。ハッピバースデイテューユーー!!」

 

 

 

 

「良いのが買えてよかったなー」

 

ファミレスを後にし、デパートで俺は高志が選んでくれた今季の服を購入した。今年のトレンドらしい。高志はこうゆうのに詳しいから助かる。

 

「いつも誘ってくれてありがと」

「お前こうやって誘わないと新しい服全然買わないからな。せっかく元がいいのに」

「でも誕プレでもらった服あるし、あんまり家でないし」

「だからと言ってタンスの中の密度の低さは異常だろ。ここぞって時後悔するぞ」

 

でも着ないからなー。自分で買いに行くのはその時期の服が着れなくなってからだけど、上と下2つずつ買うだけで済むし。家出るときは基本的にトレーニングのためのジャージを着ているし。高志、圭、翔と出かける以外だとほとんど着ない。

 

「お前一人で買う服、安くて地味な服ばっかりだし」

「シンプルイズベストだ」

 

そんな会話を続けながらデパートから出る。目的は達成したので、折角だから帰宅する前に近くの大きな広場にある、おいしいクレープを販売している屋台に行こうという話になった。俺は友達と過ごす、こんな幸せな日々がずっと続くことを信じて疑わなかった。

 

 

 

 

「きゃー―――!!」

「ば、化け物だ!!」

 

クレープの屋台の近くまで来て、悲鳴が聞こえた。多くの人がこちらに走ってくる。みんなパニック状態だ。

 

「え、なにこれ?なんかのショー、じゃないよな」

「・・・高志、俺たちもここから離れよう」

 

自分たちを通り過ぎていく人たちを見て、高志は困惑していた。なんだか嫌な予感がする。俺は逃げるよう高志を促した。

 

「見つけた、ウヴァ様のメダル」

 

全身の毛が逆立った。唐突にカマキリのような怪物が現れた。さっきまで前方にこんな怪物はいなかった。それが今こちらを、いや高志を睨んでいる。

 

「・・・悠、なにあれ」

「バカ!逃げるぞ!」

 

高志の腕を掴み後ろに逃げる。あれはヤバい!自分の中で危険信号が鳴り響いている。だが怪物は電撃を俺たちの逃げた先に放出し、俺たちの足が止まる。無茶苦茶だろあいつ!!

 

「がっ!」

「悠!うぐっ」

 

怪物はあっという間にこちらに近づき俺は弾き飛ばされ、高志の首が掴まれる。全身が痛いが、そんなことに構っている場合じゃない。高志が危ない!

 

「高志から離れろ!!」

 

俺はすぐさま立ち上がり、近くにあった外で食事をするために設置されていたカフェの椅子をもって怪物に突っ込む。

 

「邪魔だ!」

「ぐわっ」

 

今度は地面ではなく壁に叩きつけられる。再び全身に激痛が走るがそれどころじゃない。まずい、本当にまずい。高志が危ない。なのにまるで歯が立たない。また助けられない。目の前で助けを求める誰かがいるのにまた手が届かない。また俺は何もできずに、誰かが傷つけられる姿を見るだけなのか?

 

「・・・今度こそ助けるって決めたんだ」

 

もう一度、立ち上がる。あんな思い、もう二度としたくない。

 

絶対に助ける、命に代えても!

 

【異常事態発生 レイジングスピリット緊急起動】

 

助ける決意を固めた時、自分の体の内側から機械音が聞こえた。そして自分の胸元が光り、青い球と青い線の模様があしらわれた謎の小物が飛び出した。

 

『こんにちは、マスター!』

「えっ」

 

ピカピカ光りながら球が話しかけてくる・・・え?なあにこれえ?

・・・じゃなくて!意味が分からなすぎて今一瞬完全に馬鹿になってた。

 

「そ、それは!」

「が、げほっげほっ」

 

怪物の注意が謎の小物に移り、高志を落とす。もう訳が分からない。

 

『とりあえずこのドライバーを付けてっと』

「えちょなになに⁉」

 

先ほどまで浮遊していた小物が腰に当てられ、ベルトが出現。腰に巻きつく。なんかしっくりくるなこれ。じゃなくて!

 

『マスター、コアメダルをセットして変身してください!』

「え、なにこれ見た目玩具だけど。というかマスター?」

 

謎の青い球から赤、黄色、緑のコインが飛び出す。困惑しながらその3枚のメダルを受け取ると、なぜか体が勝手に動いた。三枚のメダルを謎の小物、いや、バックルにセットする。懐かしい。

 

「ま、まて!そんなものに手を出すな!後悔するぞ!」

 

怪物が叫ぶ。黙れ、これはもともと俺のものだ。怪物の言葉に苛立ちながらその警告を無視してバックルを傾ける。ベルトの横に付いていたオースキャナーを手に持ち俺は叫んだ。

 

「変身!!」

 

オースキャナーをバックルに通しメダルを認識させる。オースキャナーからコイン同士がぶつかったような甲高い音が三度、広場に鳴り響た。

 

《タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ、タトバ、タ・ト・バ!》

 

自分の感覚が研ぎ澄まされていく。自分の体が一瞬で変化していくのがわかる。

 

今ここに、新たな王が誕生した。

 




ユカウントメダル1,2and3 ライフゴーズオンエニシングゴーズ カミングアップオーズ!


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それはとっても不思議な出会いなの?

UAが200!?ありがとうございます!!

感想、高評価をお願いします。励みになります。


         グリード復活一日前

 

 

「今からでも二人に追いつくかな?」

 

私、高町なのは14歳。親友が5人もいる中学二年生です。ある日、傷つき倒れていたフェレット、ユーノ君を助けてから私の人生は大きく変わりました。魔法の力を手に入れて魔法使いになった私は、ジュエルシード事件、闇の書事件を解決して魔法使いとして大きく成長しました。新たな出会い、そして別れを繰り返し今の私がいます。

 

「フェイトちゃん、はやてちゃん、おはよう!」

「なのは、おはよう」

「なのはちゃんおはよう」

 

なんとか二人に追いつきあいさつができた。金髪のロングの娘がフェイト・T・ハラオウンちゃん。ジュエルシード事件解決後友達になった、私の親友です!茶髪のショートの娘が八神はやてちゃん。闇の書事件を一緒に解決した、私のもう一人の親友です!

 

「明日は休日だね、久しぶりにアリサちゃんやすずかちゃんを誘って何処かに遊びにいかない?」

「あー、わたしは今日早退して仕事があるからなあ。それが今日中に終わらんとなんともなあ」

 

そっかあ、と私はしょんぼりしてしまう。最近はお仕事が増えてみんな揃って何かをするのが難しくなっている。

 

「今は大変だけどそろそろ三人揃って休みが取れるはずだから、その時までがんばろ?」

「うん!」

 

フェイトちゃんに励まされちゃった。頑張らないと!そうやって私の学生としての一日が始まった。

 

 

 

 

学校から帰宅して、私は時空管理局・東京臨時支部から呼び出されて向かった。なにかあったのかもしれない。支部に到着すると、フェイトちゃんと翔君が会議室で待っていた。

 

「二人とも来てくれてありがとう。それで話なんだけど、最近世界と世界を繋ぐ次元空間が揺らいでいるらしい。僕たちの任務は原因の捜査と解決だ。そしてこれはロストロギアが原因の可能性が高い」

 

「次元空間が揺らぐ!?」

「そんなものが!?」

 

フェイトちゃんも驚いてる。それもそうだ、次元空間が大きく揺らぐということは、下手をしたら世界が一つ消えてしまうかもしれないのだ。早く解決しないといけない。そのロストロギアも早く回収しないと。ロストロギアとは、滅んだ異世界の遺物だ。様々なものがあるけど、特に危険なのが次元世界を破壊するようなS級相当のロストロギア。次元空間を揺るがすようなものがあるとしたら、間違いなくS級だ。

 

「ああ、明日までにはクロノ、じゃない局長がはやてと圭と一緒に戻ってくるからこの支部全員で取り掛かる」

 

翔君がクロノ君のことを頑張って局長呼びしようとしてる。クロノ君も今更気にしてないのに、真面目だなあ。

 

「「了解」」

 

心の中でそんなことを考えながら、返事をする。明日から頑張らないと!

 

「後、なのははまだ本調子じゃないから、無茶しないように」

「は、はい・・・」

 

注意されてしまった。うう、そんなぁ~。

 

 

 

 

土曜のお昼、また連絡がきた。緊急事態らしい。私はまた急いで支部に向かった。支部に着いた時には、フェイトちゃんとはやてちゃん、翔君に圭君、クロノ君と東京支部の主力がだいたい揃っていた。

 

「全員揃ったな。ヴォルケンリッター達には先に調査に向かってもらっている。まずは状況報告だ」

 

黒髪の青年、クロノ君が話始める。いったい何が起きたんだろう。

 

「まず始めに、次元空間が揺らいでいた原因が判明した。過去に次元空間に消えた9つのジュエルシードが原因だ」

「そんな!」

 

フェイトちゃんが動揺する。

 

「フェイト、気持ちはわかるが落ち着いてくれ。問題はこのあとなんだ」

 

クロノ君がフェイトちゃんを宥める。フェイトちゃんは頷いたけど、大丈夫かな・・・。

 

「ジュエルシードはこの地球の海鳴市に現れ、その数分後、謎の怪物が現れた。報道規制が行われているが、被害が出ている」

 

会議室に緊張が走った。もう被害が出てるなんて!

 

「早く倒さないと!」

「待てなのは。厄介なことにその怪物は魔力探知に引っかからない。だからまずは海鳴市中を徹底的に捜索しないといけないんだ」

 

そうして私たちはジュエルシードを確保するために主力は一人ずつ、それ以外の魔導士は3人ずつに分かれた。これ以上被害を出すわけにはいかない!私は赤い球、変身するための道具である私のデバイス、レイジングハートで変身して空を駆けた。

 

「急がないと・・・この反応は!」

 

時間は掛かったけど見つけた。とても微弱だけど魔力反応がある!

 

「スピードを出すよ、レイジングハート!」

 

『了解、マイマスター』

 

 

 

 

「これって・・・」

 

魔力反応があった場所に到着した。そこは高度な結界魔法が張られていた。並の魔導士では気づかないほどだ。つまりここには、魔導士として実力が高い人がいることになる。それがわかると疑問がわく。なぜ魔法が普及していないこの世界でそんな人が、それもこんなタイミングでいるのか。

 

「そんなこと考えてる場合じゃない!クロノ君、結界が張られてる場所を見つけました!今からそこに侵入します!」

『ま、待てなのは!近くの魔導士を呼んでから・・・』

 

私はクロノ君の言葉を最後まで聞かず結界内に侵入した。そこで私が目にしたのは・・・

 

 

 

 

異物だった。魔法による変身じゃない。頭は赤、胴体は黄色、下半身は緑色の人間のような何かがそこに立っていた。その何かの足元には、多くの銀色のメダルが散乱していた。

 

 

 

 

運命は彼をほっとかない。彼はもう、進むしかない。

 

 




高町なのはには本来、幼馴染などいない。彼女は孤独、そのはずだった。



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戦いと爪と逃亡

UA500突破!皆さん、ありがとうございます!
1話の描写を増やしました。気が向いた時に読んでくれれば嬉しいです。
今回は初めての戦闘回です。それではどうぞ!


自分の体が変化した。頭はタカの力を。胴体はトラの力を。そして下半身はバッタの力を手に入れた。今の俺の肉体は並の人間の比ではない。足に力を込め、怪物に肉薄する。先ほど怪物に吹っ飛ばされ、数メートルは離れていた距離が一瞬で埋まる。俺は怪物に拳を振りかぶる。

 

「なっ!ぐはあっ!!」

 

怪物の胸元に拳がぶつかり、怪物は大きく吹っ飛んだ。怪物は上手く着地し倒れはしなかったが、胸元を抑え呼吸を繰り返していた。そして何より、まるで人間が出血するかのように、胸元から銀色のメダルが数枚こぼれていた。

 

倒せる、そう思った。一方的に、確実に。この私に歯向かったことを後悔させる。私は全身に力を込め、怪物を始末しようと動き始め・・・

 

「ゆ、う?」

 

横から声がした。聞きなれた声だ。振り向くと、高志がいた。そう、高志だ。先ほどまで助けようとしていた高志を私は、違う。俺は何で、忘れて・・・

 

「大丈夫、なのか?さっき俺を助けようとして吹っ飛ばされてたのに・・・もう、痛くないのか?」

 

高志が俺の体の心配をしてくる。ああ、本当に高志は優しいな。今の俺の姿はとても人間には見えないっていうのに。守らなきゃいけない、この大切な友達を。例え、これほど守ることに執着している理由を思い出すことが出来なくても。

 

「レイジングスピリッツって言ったっけ。高志を守ってくれないか?あれは俺が倒す」

『イエス、マイマスター。そのために一度、レイジングスピリッツ、セットアップと言ってもらえますか?』

 

今も宙に浮いている青い球、レイジングスピリッツに頼んだら、逆に頼まれ返されてしまった。だが高志を守るのに必要ならと、言われたようにする。

 

「レイジングスピリッツ、セットアップ」

 

変化はすぐに訪れた。レイジングスピリッツは光の粒子になり再び俺の中に入っていく。するとまるで、透明で重さのない服を着ているような感覚がした。

 

「これは・・・」

『バリアジャケットです。本来はマスター本人が服の形状と性能を決めるのですが、今回は時間もないですし、マスターの全身を覆うバリアということで』

 

自分の頭の中にレイジングスピリッツの声が響く。なるほど、ありがたい。そう思っていると、公園の様子がおかしい。いつの間にか、薄い膜のようなものが公園を覆っていた。そしてへたり込んでいる高志を守るように、ドーム状のバリアのようなものが張られていた。

 

『結界とシールドを張りました。これで外にもご友人にも被害は出ません。それに、あちらの怪物も逃げられません』

 

なるほど、さっきのセットアップというのは、この魔法のようなことをするために必要だったのか。そしてそれらを一瞬でこいつはやったのか。優秀だな。・・・いやすごすぎない?というか何で俺は上から目線?

 

「と、取り敢えずありがとう。これで安心して戦える」

 

レイジングスピリッツにお礼を言って、もう一度怪物に向き合う。もう息切れをしていないし、メダルもこぼれていない。先ほどから大人しいなとは思っていたが、なるほど。あちらも想定外の事態が連続で起きていて、警戒してこちらの様子を伺っていたのか。わかるよ、その気持ち。正直俺もさっきから意味不明だし、自分が自分じゃなくなるような感覚に陥ってるから結構困惑してる。・・・いや本当に意味不明だなこれ。

 

「悠、逃げないのか?」

「・・・ああ!大丈夫、勝ってくるから」

 

高志が心配してこちらを伺う。俺はその不安を取り除こうと強気な宣言をした。

 

「さあ、第二ラウンドを始めようか!」

「はあっ!!」

 

俺の言葉を合図に、俺と怪物は走った。互いの敵を討つために。怪物は自身の腕についているカマキリが持っているような刃物で戦うらしい。それならこちらは爪を使わせてもらおう。俺はこの姿に変わってから、自分の体のことがなぜか手に取るようにわかる。つまり、この姿の能力を理解しているということだ。

 

俺と怪物の距離が近づく。そして互いの間合いに入った。互いに腕を振りかぶる。

 

「はっ!」

「があっ!」

 

俺は怪物が切り付けてくるよりも速く、爪状の武器“トラクロー”を展開し切り付けた。それにより、怪物からまたもメダルがこぼれ落ちる。だが、メダルの量は先ほどの拳より多い。怪物はこれ以上ダメージを受けまいと、後方に跳躍した。

 

「すげえ、頑張れ悠!」

 

高志が応援してくれるのは嬉しいが、めっちゃむずがゆい。たぶんあれだ、授業参観の時の子供の気持ちだこれ。

 

「ぐ、ならばこれでどうだ!」

 

怪物が両手を向かい合わせにしてエネルギーの刃物をいくつも作り出す。でもあれ、何処かで見たことがあるような・・・

 

「八つ裂き〇輪じゃねえか!」

「ブフォッ」

 

高志がツッコむ。俺は思わず吹き出してしまった。だ・・・駄目だ、今は笑うな。こらえるんだ・・・戦闘中だぞ。で・・・でも・・・

 

「フフッ」

「バカにしているだろお前ら!」

 

流石に怒った怪物が、八つ裂き・・・じゃなかった。エネルギーの光輪を飛ばしてきた。スイッチを切り替え、俺はもう一度正面から怪物に接近戦を仕掛ける。光輪がそれを阻もうとするが、俺はトラクローで全てはじき返しながら接近していく。

 

「この、化け物があ!!」

 

光輪を連射しながら怪物が電撃をこちらに打ち込もうとしていた。お前には言われたくねえ、そうつぶやきながら回避しようとするが・・・

 

『プロテクション』

 

レイジングスピリッツの声が聞こえ、そのまま突っ込むことにした。予想どうり、電撃を全て藍色のバリアーが防いだ。ありがとう、と心の中でお礼をしながら怪物を間合いに入れた。

 

「しまっ」

「はあっ!!」

 

怪物を4連撃、流れるように切り付ける。大量のメダルを零しながら怪物はもう一度後ろに下がるが、遂に膝を着いた。

 

「トドメだ」

 

俺はもう一度バックルにオースキャナーを通す。

 

《スキャニングチャージ!》

 

オースキャナーから声が響く。俺の足はバッタのような足“バッタレッグ”に変形し、空高く飛び上がる!

 

「せいっやあー!」

 

そして上から怪物に向かって急降下し、突如出現した赤・黄・緑のエネルギーのリングを通過し、怪物にキックを炸裂させた!

 

「がああああああ!!!!」

 

怪物は爆散し、メダルとなって辺り散らばる。全身メダルでできてたんだな、あいつ。

 

「う、うおー――――!!!やったな、悠!!」

 

プロテクションが解除され、高志がこっちにすっ飛んできた。すげえ速さだった。

 

『喜んでいるところ申し訳ないのですが、緊急事態なので失礼します』

「へ?ふにゃあ~」

 

レイジングスピリッツはそういうと、高志に向かい魔方陣を展開。すると高志は眠るように倒れた。

 

「なっ!レイジングスピリッツ、何するんだ!!」

『マスター、すみません。ですが事態は急を要します。あなたの命を狙う組織がこちらに向かっています』

 

そう告げると、またも魔方陣を展開。今度は高志が透明になろうとしていた。俺は慌てて高志の腕を掴む。

 

『そのままご友人を掴んでいてください。マスターにも隠ぺい魔法をかけ、一度この世界から離れます』

 

レイジングスピリッツが魔方陣をもう一度展開しようとするが、俺は慌てて止めた。

 

「ま、待ってくれ!一体何が何だか、少しは説め・・・」

 

説明してくれ、そう言い終わる前に広場に変化が起きた。見上げると、結界に穴が空き、誰かが入ってきていた。その人物の顔を見て、俺は固まった。

 

茶色の髪に、髪型はツインテール。服は全体的に白がメイン、それに青のラインが入っていてとてもきれいだった。だが何よりも、その顔を見て驚いた。なぜなら・・・

 

 

「動かないでください。私は時空管理局所属、高町なのはです。お話を聞かせてください」

 

 

なぜなら、彼女は俺が通っている学校の五大天使の一人、高町なのはだったからだ。

 

『え!?お姉ちゃん!?何で!?ナンデ・オネエチャンガ=ココニ!?』

 

あ、駄目だこれ。レイジングスピリッツさん壊れちゃった。と思ったら『いや、まだ気づかれてないから大丈夫』とか言ってる。こんな時に大丈夫なんだろうかこいつは。

 

 

「こちらの指示に従ってついてきてくださるなら、危害は加えません」

『マスター、彼女の言葉、いえ、管理局を信じてはいけません。お願いです、一緒に逃げてください』

 

レイジングスピリッツの立ち直りのスピードは凄まじかった。いや、今は真面目なことを考えよう。・・・俺は本来、ここは高町さんの言葉に従うべきなのだろう。でも何故か、ここはレイジングスピリッツの方を信じるべきだと即座に判断した。

 

「逃げるぞ!」

『!イエス、マイマスター!』

「待って!」

 

レイジングスピリッツは魔方陣を展開。高町さんは凄まじいスピードでこちらに向かうが、あと一歩の所で広場から、正確には地球から俺たちの姿が消えた。

 

 

 

 

 

彼はいつも部屋の片隅で、膝を抱えて震えていた。なぜなら、真実(ほんとう)を知ることが怖かったから。

 




戦闘描写を書き終わった後に、「あれ、タトバ強くね?」って思いました。

皆さんの感想・高評価、お待ちしてます!


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街に新たな危険なの?

UA900突破!ありがとうございます!

今回も戦闘回です。それではどうぞ!


小さな女の子が、公園で泣いている。えんえん、えんえん。1人で泣き続けている。あれは私だ。

 

お母さんの言う通り、いい子にしていないといけないのに、ずっと1人で泣き続けている。理由は何だったか、今では思い出せない。

 

小さな男の子が近づいてくる。あれは翔くんだ。翔くんとはこの時初めて会ったんだ。

 

翔くんが私を心配している。えんえん、えんえん。私は泣き続けている。

 

翔くんが泣き止ませようと必死に頑張っている。えんえん、えんえん。それでも私は泣き続けている。

 

そうだ、あの時私は寂しかったんだ。だからずっと、私は公園で誰かを待ち続けてたんだ。その誰かに会いたかったから。心の何処かで、泣いていれば助けに来てくれると、信じていたから。

 

でもその後も、その誰かが来ることはなくて、翔くんは慰めようと頑張っても私は泣き続けて…

 

 

《プテラ!トリケラ!ティラノ!》

 

 

 

「キャアーーー!」

 

月曜の朝、私は飛び起きた。さっきまで懐かしくて悲しい夢を見ていた筈なのに、突然悪夢に切り替わった気がする。背中が汗でびっしょりだった。

 

学校の制服に着替えて一階のリビングに降りる。私の悲鳴を聞いて、家族みんなが心配していた。怖い夢見たと言ったら、お兄ちゃんに「今日は1人で夜にトイレに行けるか?」ってからかわれてしまった。言っていいことと悪いことがあると私は思います!

 

お母さんが作ってくれた朝食を食べて、家を出る。通学中、私は一昨日の出来事を思い返していた。

 

 

 

 

結界に侵入後、私は謎の魔道士を取り逃がしてしまった。広場に残っているのは、何者かと戦闘を行った跡と、足下にばら撒かれた大量の銀色のメダルだけだった。

 

「さっきのは、次元跳躍?だとしたらもう追えないかも…」

 

私が落ち込んでいると、クロノ君から連絡が来る。結界が解け始めてることに気がついて、私は慌てて人よけの結界を張って連絡にでた。

 

「なのは、無事か!?さっきから繋がらなくて焦ったぞ!」

「私は大丈夫。でも、怪しい人物に逃げられちゃって…」

「…わかった。とりあえずその件は置いておく。現在こちらで3体の怪物発見、翔達主力がそれぞれ3人ずつで2体、ヴォルケンリッター4人で一体に対処に当たるつもりだ。僕ももうじき現場に着く。なのははフェイトと圭のいるところに向かってくれ。すでに戦闘を開始しているが、苦戦しているらしい」

「っ!了解!」

 

フェイトちゃんと圭君の2人掛かりで苦戦する相手、それだけで相手がどれ程強敵なのかが分かる。フェイトちゃんは私と互角、圭君はクロノ君とヴォルケンリッターのシグナムさんとも対等に渡り合える程だ。私は2人のもとに急いで向かった。

この時私は気づかなかった。私が去ったあと、結界を突き抜けてメダルを回収していく赤い鳥の存在に・・・

 

 

 

 

現場に到着する。森の上空で3つの影が戦いの火花を散らしていた。フェイトちゃんに圭君、そしてフクロウのような人型の怪物がいた。

 

「おぅらっ!」

 

圭君にが怪物の顔に、魔力を纏った拳を直撃させていた。そのまま落下・・・することはなく、すぐさま飛翔し直して空を舞った。

 

「く、やっぱりダメージを大して与えられてる気がしない!」

「うん。魔法の効きも悪い。でも、手応えがあったときは体からコインみたいのが零れてたから、何も効かないわけじゃないね」

「二人共お待たせ!」

「「なのは!」」

 

2人が私に気付く。2人の会話から察するに、あの怪物はとっても硬いらしい。それなら私の砲撃魔法で撃ち抜く!

 

「なのはは援護にまわって。まだ本調子じゃないでしょ?」

「いや、なのはの魔砲が今は必要だ。どうしても火力が足りない」

 

フェイトちゃんは私を下がらせようとする。でも圭君は私を戦力として数えるらしい。でも今すごい失礼なことを言われた気がする。方向性の違いが起きてるけど、あっちは待つつもりがなかった。

 

怪物の口から火球、そして翼から羽がこちらに殺到してきた。

 

「ちぃっ!弾幕の連射速度と数、特に硬い翼を活かした近接攻撃。おまけに俺とフェイトと同等の飛行速度。盛り込みすぎだろあいつ!」

「でもその分、動きは単純だから読みやすいね。だけど、あれほど攻撃を繰り返してるのに疲れる様子が一向に見えない」

 

2人は攻撃を回避しながら怪物の能力を分析する。私も回避しながら怪物の対抗策を考える。

 

「でもなのはが来たんならあの手が使える!」

「え?」

 

私とフェイトちゃんは回避と迎撃をしながら、念話越しにその作戦の内容を聞いた。

 

 

 

 

「圭、本気なの!?」

「あぁ、未来の嫁達にいいところを魅せないとな!」

「・・・今の言葉、アリサちゃんに言いつけるよ?」

「え、いやいや。それで怒られたって俺は平気・・・すみません、やっぱり言わないでいただけませんか?」

 

圭君が低姿勢になる。フェイトちゃんはそんな姿の圭君を見て苦笑していた。よろしい、ならば黙っててあげよう。後でフェイトちゃんと私のケーキでも用意でもしてもらえるかな?なんて考えた。冗談だけど。

 

ところでアリサちゃんについて何だけど。名前はアリサ・バニングスちゃん。私の親友で、この子の髪の色はフェイトちゃんとは少し違うんだけど、金髪ロングの天才お嬢様なんだ。ちなみに圭君の好きな娘でもあるの。それなのに私達に対してプレイボーイみたいな言動をとるんだ。変わってるよね。

 

「と、とにかく!なのはは魔法に集中!フェイト、行くぞ!」

「分かった、合わせる!」

 

2人は気持ちを切り替え、戦闘に入った。

 

 

 

 

圭は真っすぐ怪物に向かう。怪物の動きは速い。ならば怪物に向かって真っすぐ向かい、怪物の動きより速く動けば追いつく。簡単なことだ。だが以前、友達でありライバルである翔に同じことを言ったら「それが出来たら苦労しないんだよバカ、それでも成績トップランカーかお前は」と言われたらしい。全くもってその通りだ。

 

怪物が火球による迎撃を試みる。先ほどまで回避に専念していたため、これが有効と判断していたからだ。だが・・・

 

「ヤマト!」

『ラウンドシールド』

 

その目論見はあっさりと破れた。バリアーを前方に展開して、そのまま突っ込んで火球を砕いたからだ。当然の結果だ。確かに怪物が放った火球は、並の魔導士のバリアーを砕き、バリアジャケットをも破壊することが可能だろう。だが圭のバリアーは違う。かの魔砲少女と名高い高町なのはの砲撃魔法すらも凌ぐことが可能なのだ。

 

「うおー----!!!」

「!?」

 

火球を砕いてなお接近してくる脳筋()に、怪物は驚愕し回避行動を取ろうとする。だがそれを妨害するものがいた。

 

「はあっ!!」

 

フェイトが魔法による攻撃を始めたからだ。フェイトは怪物の動きに合わせ絶え間なく攻撃を続けた。ダメージはないが、衝撃がないわけではない。それにより、少しずつ怪物の動きが悪くなり、シールドを張っている圭が迫ってくる。

 

「ぎいやぁー!」

 

怪物は圭への攻撃を止め、火球と羽の弾幕を全て金色の魔導士に向ける。あれさえ落とせば十分逃げられる。その選択が間違いだと気づかずに。

 

「ふ、やあ!はあっ!」

 

フェイトは全ての弾幕を躱し、切り裂き、いなし続けた。生半可な攻撃では、金色の死神にかすり傷すら与えられない。そして圭に対して攻撃を止めたということは、圭を邪魔するものは無くなったということだ。

 

「会いに来たぜベイビー!」

 

速度が上がったことで、あっという間に怪物は圭の間合いに入った。

 

「ヤマト!」

『ギガントクラッシャー』

 

圭の言葉に、デバイスのヤマトが応える。圭の拳に膨大な魔力が込められ、怪物の胸に目掛けて拳を振りかぶった!

 

「ぎいイヤー-!?」

 

一枚コインが体から森に落下し、怪物は後方に吹っ飛んだ。その先に先回りしていたフェイトの姿があった。

 

「バルディッシュ!」

『バインド』

 

フェイトの拘束魔法により、怪物の首、両手首、両足首を拘束する。怪物は抵抗するが、フェイトの全力のバインドを破ることができない。

 

「今だよ、なのは!圭!」

 

 

 

「行くよ、レイジングハート!」

『了解です、マスター』

 

予めレイジングハートをバスターカノンモード、つまり砲撃魔法を撃つことが得意な形態に変化させて、私は魔力を大気中から収束して貯めていた。圭君が怪物を飛ばしたのは、私がいた方向だったのだ。フェイトちゃんが私と怪物の間から退避する。後は私と圭君が撃ち込むだけ!

 

『シューティングメテオ』

「ひっさーつ!!シューティングゥー!」

 

圭君のナックル型のデバイス、ヤマトからチャージ短縮と威力増加のため、魔力が予め込められた弾薬型の道具、カートリッジを5本使用して排出。圭君が怪物に向かって加速する。

 

『スターライトブレイカー』

「全力全開!スターライトォー!」

 

レイジングハートからも威力増加の為に、3本のカートリッジが排出され、魔法が放たれる。

 

 

「メテオォー!!」

「ブレイカァー!!」

 

全てを破壊する隕石と、星の力で打ち砕く2つ魔法が怪物に激突する。問題はここからだ。攻撃がほとんど効かない怪物を倒す方法とは、私と圭君の魔法ですり潰すというものだった。この場合、突撃型の魔法を使う圭君が危険のはずだが、私の心配は不要だった。

 

あれはまさしく隕石だった。こうしている間も、気を抜くと押し返されそうになる。でも、負けない!

 

「はあぁー--!!」

 

私の魔力をさらに上乗せする。そして・・・

 

パリーン、そんな音が聞こえた。その後、2つの魔法は激突した。

 

 

 

 

転んだり、迷ったりしても、あなたさえいてくれれば、私は笑顔でいられたのに。

 




最近オーズとなのはの音楽を聴くのが趣味になってます。どれも歌詞がいいですよね。


皆さんの感想・高評価、お待ちしてます!


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街に新たな危険なの?2

UA1600突破!皆さんありがとうございます!
なのはの資料漁っていたら遅くなりました。すみません。
(movie1,2面白かったな~)


爆発によって起きた煙が晴れる。そこには、空中で仁王立ちしていた圭君の姿があった。

 

「はっはっは!見たか、これが俺の実力だ!」

「圭、大丈夫?なのはの魔法が直撃だったけど・・・」

 

フェイトちゃんが圭君に近寄る。

 

「心配ご無用!この程度、朝飯前さ!」

 

 

嘘である。この男、なのはが以前と比べ威力が落ちている前提で作戦を練っていたが、途中で魔法の威力が上がった時、一瞬死を予感したし、もう二度とこんな作戦は立てないと心に決めた。

 

 

「それにしてもさっきの怪物、何だったんだろう?」

 

傷を与えた際に手にしたメダルを眺めながらフェイトが疑問に思う。管理局でそれなりに働いているが、体がメダルで作られた生き物?なんてもの、見たことがなかった。

 

「取り敢えず、そのメダルは鑑定に出さないとね」

 

私はそんなことを言った。この時、圭君が「メダル・・・それじゃあ間違いなく」とつぶやいたのを私もフェイトちゃんも聞いていなかった。

 

 

 

「取り敢えず・・・さあ!勝利の祝いのハグを!」

「えっと、それはちょっと・・・」

「そっか、元気そうでよかった。じゃあ他にもこんな怪物がいるらしいから、他のみんながまだ戦ってたらまたよろしくね?」

「え?」

 

 なのはは残酷な宣言をした!  圭に10のダメージ!

 

「あ、ああ!他のみんながまだ戦っていたらな!」

 

 

この時圭は(助けて悠、アリサ。オレコロサレチャウ)と,ここにはいない二人に助けを求めていた。

 

圭達はクロノに連絡をとり、全員無事撃破して支部に戻ると聞いて自分たちも戻ることにした。その時、圭はたいそう喜んでいたそうな。

 

 

 

 

支部に戻ると、クロノ君を除いたみんながいた。全員大したけがはないように見えたが、疲れているのがわかった。

 

「おかえりぃ三人とも」

「はやてちゃんもお疲れ様」

 

はやてちゃんがねぎらってくれたので私もそう返す。

 

「そういえば、みんなはどうやってあの怪物を倒したの?」

 

興味本位で尋ねてみる。なにか参考になるかもしれない。

 

「わたしと翔くんとクロノくんが戦ってたのは、一体ずつが弱い代わりにたくさんいる、人型のサメみたいな奴やったんやけど、全員硬くてなあ。クロノくんが氷結魔法でまとめて動きを止めて、その間にわたしと翔くんが一体ずつ消し炭になるように倒していったんよ」

 

参考にならなかった。結構脳筋だった。次、次にいこう!

 

「シ、シグナムさん達はどうやったんですか?」

 

私が質問した相手は、はやてちゃんを守る四人の騎士の一人、ピンク色の髪にポニーテールが特徴のシグナムさん。クロノ君と同じくらい強いんだ。

 

「私たちの相手は人型の太った猫だったな。柔らかいのに切りにくくてな。シャマルとザフィーラに動きを止めてもらって、私が何とか腕と足の関節を切り付けた瞬間に、ヴィータの攻撃で体を上から潰した」

 

ダメでした。みんな力技でした。今のところ高火力で消し炭にするか、形がとどめられなくなるほどの力で潰すしかないらしいです。

 

「なのはちゃんはどうしたん?」

「私たちの所は人型のフクロウで、とっても速かったの。だからフェイトちゃんに動きをとめてもらって、私と圭君の魔法でその・・・すり潰しました。」

「うわ、かわいそうに・・・」

 

はやてちゃんが若干引いてる!どうしよう・・・

 

「・・・ちなみにその作戦を提案したのは?」

 

翔君が聞いてきたので、私は正直に答えようとしたけど、圭君が割り込んできた。

 

「もちろんこの俺だ!」

「「「「「やっぱり(やはり)・・・」」」」」

「なんでだー-!」

 

そんな会話を続けていたら、クロノ君が不満そうな顔をしながら会議室に入ってきた。

 

「みんなに話がある。僕たちは今日から、地球のとある企業と共同でこの任務に就くことになった」

 

「!局長、どういうことですか!」

「・・・それはこれから、彼が説明する」

 

翔君が反応するけど、クロノ君は会議室のテレビをつけた。するとテレビには、優しそうで、いかにも社長のような男性が映った。

 

「初めまして、魔導士諸君。私の名は鴻上光生。鴻上ファウンデーションの会長だ」

 

鴻上ファウンデーションって確か、アリサちゃんの家の会社のライバル会社って言ってたような・・・

 

「君たちの上司の指示で、私と君たち東京支部でグリードとヤミーに対処することが決まった」

「ちょっと待ってくれ、なにがどうしてそうなるんだ。それにグリードとヤミーって・・・」

「今から一つずつ語ろう。まずは聞くことに徹してもらっても?」

 

翔君が口を出すけど、すぐに口をつぐんだ。まずはこの人の話を聞くことにしたらしい。

 

「今朝、ジュエルシードというロストロギアがこの世界に来たのは知っているね。それが私が所有している施設に侵入し、石櫃の封印を解いた。その中から出てきたのが5体のグリードだ」

 

「そして君たちが倒したのがヤミー。グリードが人の欲望から生み出した別の怪物だ。どちらもセルメダルという欲望で作られたメダルで構成されているが、グリードとヤミーの違いはコアメダルの有無だ」

 

「セルメダルが肉体で、コアメダルが魂といえばわかりやすいだろうか。コアメダルは5色に分類され、さらに三種類に分けられる。一色9枚、合計で45枚だ。君たちには9つのジュエルシードと残りのコアメダル40枚を回収してほしい」

 

ここまで話を聞いたけど、そのあとの質問は上手いこと躱されてしまった。最後まであの人の独壇場だった。クロノ君曰く、上層部と鴻上さんは繋がっているらしい。

 

 

 

 

そんな出来事を思い出して月曜日。昨日は久しぶりの実戦で体調を崩していました。クロノ君にも叱られたけど、みんながかばってくれました。みんなありがとう!でも心配もされました。気を付けないと。

 

そして今日もフェイトちゃんとはやてちゃんと一緒に登校。はやてちゃん、圭君にアリサちゃん、そして私の5人目の親友、紫髪のお嬢様のすずかちゃん。この4人とは別の教室なんです。残念。なのでこうやって朝に、お互いの教室に交互に挨拶してるんだ。そして今日は私たちがはやてちゃんたちの教室に行く番!三人揃って教室に入る。

 

「すずかちゃん、アリサちゃん、圭君おはよう!」

 

私は3人に挨拶する。その時、その3人と会話をしていた人の顔が目に入った。

 

「悠君、おはよう」

「・・・おはよう、高町さん」

 

悠君は何故か、顔が若干引きつっていた。

 

 

 

 

あの日出会った奇跡は、誰も知らない物語のプロローグに繋がったことを、彼らはまだ知らない。

 




コメンタリーがついた状態で観て、戦闘描写をなにも付けずもう一度見るのが好みです。

皆さんの感想・高評価、お待ちしてます!


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説明と謎と嘘

遂に、UA2000突破!ありがとうございます!!
ああ、鴻上社長に「その欲望、素晴らしい!!」と言われてしまう。


俺と高志、そしてレイジングスピリッツは、学園のアイドルの高町なのはから逃げるため、ワールドツアーをした。文字通り、様々な世界に飛んでは着地を数回繰り返した。見たことのない生き物や植物が、数秒ずつしか見れなかったがそこそこ面白かった。そして現在、俺たちは俺の家のリビングにいる。なぜそうなる。

 

「なぁ、目的地が俺の家なのに、どうして色んな世界を飛びまわったんだ?」

『管理局の追跡を逃れるためです。手間がかかりますけど、これが一番確実なので』

 

レイジングスピリッツが答えてくれる。それじゃあこれも聞こう。

 

「どうして高志を眠らせたんだ?」

「うんうん」

『私が次元跳躍・・・世界を渡るために使用した道具は特殊でして。耐性がない人が使うと酔うんです。下手をしたら数日寝込む程に。ですので安全面を考慮し、仮死状態にしました』

「ふむふむ、なるほど。え?俺さらっと殺されてね?」

 

衝撃の事実を知り、驚く高志。でもすまん高志、そこで色々言うと話が進まないから飛ばさせてもらう。

 

「とりあえずそれは置いといて」

「置いとくの?!」

「あの怪物とかお前とか、管理局って何なんだ?今日一日で起きたことが多すぎる」

『わかりました。まずは私がそれぞれ説明します。まずは聞くことに専念してもらっても構いませんか?』

「わかった」

 

レイジングスピリッツの提案を受ける。

 

「俺も聞いていいの?」

『はい。マスターがそれを望むのなら』

 

俺は頷いた。正直1人で抱えきれないからなこれ。高志も巻き込まれてるっぽいし。

 

『では、最初は私について。私はレイジングシリーズNo3、レイジングスピリッツです。私はデバイスという機械で、簡単に言うなら機械で作られた魔法の杖です。』

 

・・・まじか。魔法の杖ときたか。確かに魔法みたいなことをしてるなー、なんて思ってたけど、マジだったのか。

 

「レイジングスピリッツが何か凄いことしてるのはわかってたけど、魔法の杖だったのか。そんなにペラペラ喋る機械ってことはあれだろ、高性能AIって奴だろ?」

 

思わずそんなことを言ったら、空中に浮遊していたレイジングスピリッツが一瞬ピタっと止まった。そして饒舌に喋りだす。

 

『そうなんです!私こそがかの天才アイオーンの最高傑作にしてインテリジェントデバイスの決・定・版!使用者が予め魔力を込めていれば私単体でもある程度の魔法を使用することが可能!私が完成したことによりユニゾンデバイスの制作の足掛かりになったと言っても過言ではありません!まあ結局量産されることはありませんでした、しょうがありませんねいくら何でも使用者を選びすぎですしあれ。さらに私は・・・』

「すとーぷっ!!途中どころか最初からわけわかんないから!!」

 

こいつやべぇ。何言ってるかわかんなかったけど、いきなり自慢大会始めたのだけは分かった。専門用語が多すぎだお前!

 

「・・・失礼しました。取り敢えず私のことは、昔異世界で作られた、現代基準でもオーバースペックな魔法の杖と覚えていただければ」

「お、おう」

 

そういえば高志が静かだなと思って隣を見たら、宇宙を眺めていた。当分こっちに戻ってこないなこれ。

 

「それで、なんでそんなものが俺の中に?」

『聖家は代々魔導士の家系で、長男には非常事態に備えて、私を体に収めていたのです』

「ここにきて一番の爆弾発言来たなおい」

 

全然知らなかった。そんな話聞いたことないんだけど。驚きすぎて一周回って落ち着いちゃったんだけどどうしてくれんの?(混乱中)

 

『マスターの両親はあなたを普通の人として育てるつもりだったのです。魔法は便利ですが、あんな出来事にはあまり関わりたくはないでしょう?』

「それは・・・そうだけど」

 

いやそれでも教えてほしかったというか、なんというか。というか魔法使ってるとあんな怪物に襲われるものなのか・・・

 

『そして今回、あの怪物がマスターに触れたことで、私が異常なエネルギーを感知。それにより私が起動したというわけです』

「触れないと起動しなかったのはなんでだ?」

『それを説明するために、次はあの怪物について話しましょう』

 

俺は聞く姿勢を整えた。高志は宇宙観測に勤しんでいた。

 

「あれは、彗星かな?でも彗星はもっとぱあーっと光るもんな」

 

こいつ本当は意識戻ってきてるだろこれ。

 

『あの怪物はヤミー。グリードという怪物が、人間の欲望から作り出したセルメダルの集合体です。ヤミーは基本的に、元となった人間の欲望を満たそうと行動します。なぜなら、それによって自分の体の中のセルメダルが増えるからです』

 

『あ、セルメダルというのは、人間の欲望を変化させたものです。まあ小型エネルギータンクといえば分かりやすいでしょうか。それを増やしてグリードの下に戻り、その全てをグリードに捧げます』

 

『次はグリードについて。グリードはコアメダルという特別なメダルを核としてもった上位存在です。マスターが使っていたあの3枚がコアメダルです』

「ちょっと待てぇいー!!」

 

じゃああれ滅茶苦茶あぶねえじゃねえか!玩具とか言ってすみませんでした。

 

『心配はいりませんよ。コアメダルは1色につき9枚ありまして、そのうちの1枚にだけグリードの意識が入っています。それ以外の8枚は特別なメダルという認識で大丈夫です』

「え、そうなの?」

 

それじゃあ、ほっといたら別人格的なものが生まれて、新たな怪物とかが生まれたりしないのか。よかった。

 

『まあグリードにとってコアメダルは体の一部そのものなので、このまま持っていたら間違いなく襲ってきますね』

「だめじゃねえか!」

 

そんなもん俺は使ってたのか。?ちょっと待て。

 

「レイジングスピリッツ、2つ聞きたいことがある」

『何でしょうか?』

「1つは何で高志が襲われたのか、もう1つはその・・・1色につきって所なんだけど」

『1つ目の質問はわかりませんが、2つ目なら』

 

すっごい嫌な予感しかしないけど、聞くしかなかった。

 

『コアメダルは5色あり、グリードもまた、5体います』

 

うわあ、予想的中~。ヤミーを作り出せて、ヤミーより強い奴が5体かー。やばいなこれ。

 

「怪物のことはわかった。でも高志が襲われた理由はわからずじまいか・・・」

「・・・もしかしたらこれのせいかも」

 

そう言って高志が俺の手に乗せたのは、カマキリが描かれた緑色のメダルだった。

 

『間違いなくこれが原因ですね』

「なんで持ってんだよ!?」

「小さいころ、森で拾ったんだよ。それ以来何故か手放せなくて、ずっと持ち歩いてた。今思うと呪いのアイテムみたいだなそれ」

 

取り敢えず高志の件もわかった。それじゃあ次だ。

 

「あの変身ベルトは何?」

『聖家に代々受け継がれた魔道具です』

「怪物の核を使ってるのにか?」

「800年前のグリード制作には聖家も関わっているので」

 

なんか、これ以上聞くの怖くなってきたんだけど・・・俺の先祖なにやってんの?

 

『この辺の話をすると長くなるのでまた今度にしませんか?』

「・・・そうする」

 

そうだ、物事には順序ってものがある。だからこれは逃げではない、断じて。

 

『それでは最後に管理局について。悪の掃き溜め組織、以上です』

「いやちゃんと説明しろ!」

「レイジングスピリッツちゃん、めっちゃ嫌ってるじゃん」

 

そこちゃんと説明してもらわないと、これからどう動けばわからないんだからちゃんとしろ!

 

『・・・様々な世界を管理・統括する巨大組織です。警察と裁判所としての役割を持っています。また、ロストロギアを回収・管理する役目を持ったクソ組織です』

「・・・ロストロギアって?」

 

もう話を進めることを優先させることにした。

 

『滅んだ異世界の遺産です。主に兵器や技術ですね。特に危険なものは、世界を滅ぼしますね』

「今のところ管理局の悪いところがわからないんだけど、なんでそんなに恨んでるの?」

『その話を始めると日にちが変わりますが構いませんか?』

「やっぱやめとく」

 

聞きたいことも聞けたし、これ以上はやめとこう。ちょっと疲れた。

 

『それでは最後に、マスターに質問したいことがあります』

「なんだ、改まって」

『マスターはこれから、グリード達と戦いますか?』

「戦う」

 

悩む必要はなかった。当然だ、こっちには戦う手段があるんだから。

 

『管理局が対処します。先ほど会った魔導士はとても強いですし、他にも仲間もいるでしょう。マスターが捕まった場合、彼女はともかく、上層部があなたは何をされるかわかりません。それ程聖家は特別なんです。それでもですか?』

 

なるほど、だからあんなに管理局から遠ざけたかったのか。それでも・・・

 

「やるよ。目の前に傷ついている人がいるのに手を伸ばさなかったら、死ぬほど後悔するだろうから」

 

まあ、今まで俺が助けられなかったことなんてないんだけど。

 

『・・・わかりました。なら、私が全力でサポートしますね!』

「俺にも手伝えることがあったら言ってくれよ!協力するからさ!」

「2人とも・・・ありがとう」

 

2人には感謝しかない。よし、方針が決まったところで、これからどう動こうか?

 

『まずはとある人物に会いに行きましょう。うまくいけば、協力してもらえるかもしれません』

 

その言葉に従い、次の日にそのある人物に会ったり、魔法の練習をしたため、俺の2日間の休日はあっという間に終わった。そうして月曜日を迎えた。

 

 

 

 

どうかマスターが 真実に気づきませんように

 

 

 

 

「聖君、顔色悪いけど大丈夫?」

 

そう尋ねてくるのは、五大天使の一人、紫髪のウェーブがかかったお嬢様、月村すずか。小学校の頃から何故か話かけてくる。なぜなんだ。

 

「高志と服買ってきたんじゃねーのかよ?」

 

俺の親友、圭だ。レイジングスピリッツ曰く、魔力を大量に持っているらしく、間違いなく管理局員らしい。嘘だ!

 

「体調悪いんか?あんまり無理しないようにな?」

 

元推しの八神はやて。彼女には弱みを握られている、悲しいね。彼女を見た途端、内なるレイジングスピリッツが『闇の書!?なんで!?ナンデ・ヤミノショガ=ココニ!?』と言っていた。デジャブである。

 

「そうよ、もしもの時は保健室に行きなさいよ?」

 

同じく心配してくれているのはアリサ・バニングス。彼女も五大天使の一人だ。

 

あの、俺の身近の人、魔法関連の人多すぎません?

 

そして遂に、彼女が現れた。

 

「すずかちゃん、アリサちゃん、圭君おはよう!」

 

茶髪のサイドテール、五大天使の一人、そして管理局員の高町なのはだ。

 

「おはよう、悠君」

 

「・・・おはよう、高町さん」

 

俺の明日はどっちだ!?

 

 

 

 

優しい嘘によって、彼は居場所を手に入れた。

 




皆さんは、なにが嘘だと思いますか?

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世界の歪み

おかしいな、小説を書けば書くほどコメディ要素が強くなってる・・・


ヤミーとの戦闘があった土曜、とある2人がファミレスで夕食をとっていた。片方はまるで王子様のような爽やかなイケメン、翔。もう片方は、美しい銀髪に赤と青のオッドアイを持つイケメン、圭だった。2人食事を終えて、無言で見つめ合っていた。その様子を、女性たちは熱い視線で見守っていた。

 

(それで?話ってなんだい?)

(あの怪物達、ヤミーとグリードについてだ)

 

2人は周りに話を聞かれないように念話を使っている。だが、傍から見たら無言で見つめ合うイケメン達という構図になることに気付いていなかった。

 

(奴らは本来、仮面ライダーオーズという作品に出てくる怪物だ)

(!観たことはないけど、名前は知ってるよ。有名だったからね。でもちょっと待ってくれ。何でそんなのがこのリリカルなのはの世界にいるんだ)

 

翔の目が力強くなる。貴腐人達の視線も力強くなる。

 

そう、何を隠そうこの2人は転生者なのである。圭は元からリリカルなのはが好きでよく知っていたが、翔は知らなかったので転生する際に神から原作知識与えられているという違いはあるが。

 

(ああ、それに俺が知っている原作との違いも気になる。というか違いが多すぎる)

(わかった。とりあえず原作との違いを教えてくれ)

 

圭は頷くと、予め情報をまとめておいた紙を取り出した。

 

(オーズの原作だと、まず赤いメダルを核としたグリード、アンクが右腕だけ復活して石棺の封印を解く。その後変身ベルトと他のグリードのメダルを奪って逃走、主人公火野英司にベルトとメダルを渡して仮面ライダーが誕生する。ちなみに、アンクは右腕だけが浮遊してるって感じだ)

(カオスだな)

(ああ、1話目のインパクトが強かったのを今でも覚えているよ)

 

最初の出来事を語り終わり、圭はコーヒーを口に含んだ。ミルクと砂糖を入れて。

 

(それじゃあ何が違うのか。それはアンクが他のグリードと共に行動していること、そして何より、オーズが魔法を使っているということだ)

 

遂に、この世界の歪みに2人の転生者達が触れる。

貴腐人達もこの展開に目が離せないでいた。

 

(なのはのレイジングハートの映像に映ってた人間みたいななにか、あれがオーズだ)

(やっぱりか。隠蔽能力が高い結界、そして今の地球から跳ぶことができる次元跳躍魔法・・・。よっぽどの手練れがオーズになったらしいな)

 

そう、現在地球から別の世界から移動することが不可能になっている。なぜなら、地球がある次元世界の周りの次元空間が大きく揺らいでいるからだ。それにより、世界を渡る船アースラでも外の世界との行き来が出来なくなっていた。管理局本部とは連絡が精一杯で、増援は望めないらしい。

 

(そしてもう一つ、原作と違いがある)

(・・・鴻上って奴だろ?)

 

翔の問いに圭が頷く。その緊張感に周りの女性は固唾を飲む。

 

(鴻上会長が管理局上層部と繋がりがある設定なんてないのもそうだけど、グリードについてなんだ)

(それはどんな?)

(グリードってのは800年前、とある王様が錬金術師に作らせた存在なんだ。多くのセルメダルと10枚のコアメダルを用意し、コアメダルを一枚取り除く。そうして9枚になって欠けた状態になったことでそれを満たしたいという欲望が生まれたことによって、誕生したんだ)

(おい、それって!)

 

翔が思わず立ち上がる。貴婦人達のボルテージも上がる。

 

(考えられるのは2つ。一つはそもそも9枚に変わったのか、もう一つは、それぞれ10枚目を鴻上会長が所持してるということだ)

(あの時の発言では、残り40枚、つまり5枚は持っているということ!)

(鴻上会長が今10枚のコアメダルを持っていることになる。それを隠しているということは・・・)

 

2人の顔が近くなる。

 

「お母さん、私もう無理・・・」

「ばか!そういうことは本当の母親にいいなさい!!」

 

周りは阿鼻叫喚だ!

 

(ぜってー碌なこと考えてねーよあの人。原作でも事件の原因、だいたいあの人が関わってるし)

 

 

 

 

とある山の中、鳥の王[アンク]、昆虫の王[ウヴァ]、猫の王[カザリ]、水棲生物の王[メズール]、重量生物の王[ガメル]の五体のグリードが集まっていた。

 

「俺たちのヤミーが全滅したな」

「これからどうするの?相手はかなり大きな組織らしいし、オーズもいるわ」

「クソ、俺のメダルが見つかった報告が来た途端オーズが現れただと!ふざけるな!」

 

彼らは新たな敵が現れたことで、これからの自分たちの方針を見つめ直していた。復活した直後は、足りないコアメダルを探すため動いていたが、自分たちを打倒しうる勢力がいることで状況が変わったのだ。

 

「まあ落ち着きなよウヴァ、僕たちにはこれがあるじゃないか」

 

そう言ってカザリが取り出したのは、ジュエルシードだった。現在彼らはそれぞれ一つずつそれを所持していた。

 

「確かにこいつは得体が知れないが使える。ヤミーが一気に成体になったしな」

 

アンクが自身のジュエルシードを眺める。本来ヤミーは、ミイラのような姿で誕生し、宿主の欲望がある程度満たされてから成体、つまり戦力として数えられるようになるのだが、ジュエルシードの力で幼体を飛ばすことができたのだ。だが、生まれた直後では体内に持つセルメダルは少ない。宿主が生きている限りセルメダルが増え続ける特性を得たが。

 

「だが、他のはどこ行ったんだ。一瞬しか見えなかったが、4つほどどこかに行ったぞ」

「考えられるのはそうだね・・・紫のメダル」

 

ウヴァの問いにカザリが答える。

 

「王がたしか、ギルって名づけるっていってたあの?」

「そうよ、よく覚えてたわねガメル」

「えへへ」

 

メズールに褒められ喜ぶガメル。その姿はまるで、母親に褒められ喜ぶ子供のようだった。

 

「まさか今になって生まれるとはな」

「まあ、とりあえずそっちはいいんじゃない?こっちは全部で5つ、対立しても問題ないでしょ。それに後からこっちに味方をする可能性の方が高いだろうし。それよりあの組織だよ。ヤミー一体に3人がかりで苦戦してたけど、僕たちを倒す手段があるのは確かだ。かなり脳筋だったけど」

「それこそこいつでどうにかなる」

 

そう言ってアンクはジュエルシードを自身の体内に仕舞った。ジュエルシードを完全に使いこなすために。

 




今回はグリードの初会話です。こいつら喋りすぎると大変だから扱い難しい・・・

みなさんの感想・高評価、お待ちしてます!


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新しい出会い、です

UA3000突破・・・? 皆さん、ありがとうございます!!遂にここまでくるなんて・・・

リアルが忙しくて投稿が遅くなりました。すみません。(リフレクションとデトネーション、面白かったな~)

前回の話、ネタに走ってたのに凄い評判よくて驚きました。翔と圭の絡み、需要あるのかな・・・




こんにちは、フェイト・T・ハラオウンです。今日は学校の帰りに、母さんから買い物を頼まれて近くのスーパーにいます。

 

「?あれって・・・」

 

野菜を手に入れるため、野菜コーナーに向かうと、見覚えのある背中を見つけました。彼はなすを籠に入れているところでした。

 

「こんにちは、聖君」

「?こんにち・・・」

 

声を掛けたら、私の顔を見て固まってしまった。

 

「え、どうしたの?私の顔に何かついてる?」

「あっいや、そうじゃなくて。ちょっと驚いただけです。こんにちは、ハラオウンさん」

 

聖君に尋ねると、若干引きつった顔でそう返してくれた。そんなに驚くことかな?

 

「・・・もしかして、私がスーパーにいることがおかしいって思われてる?」

「えちょ、違います違います!いやほら、そもそも俺たちってあんまり会話とかしないですし!」

「それは・・・確かにそうだね」

 

言われてみると、二日に一回は顔を合わせて挨拶をしているのに、小学校から今までほとんど会話をしたことがなかった。同じクラスになったこともほとんどなかったし。

 

「ところでハラオウンさんも買い物だよね?自分で料理作ったりするんですか?」

「ううん、私はお使い。聖君もじゃないの?」

「違います。自炊してるんですよ。ちなみに今日は豚肉の味噌炒めです」

 

そう言って、聖君は籠を持ち上げる。

 

「え!料理作れるの?」

「まあ、一応。でもたまに面倒くさくてお昼を購買のパンにすることもあるんですけどね」

 

衝撃だった。男の子も料理するんだ・・・?そういえば翔も作れるって言ってた。あれ?そう考えると、カレーとか家庭の授業で習ったようなものしか作れない私って・・・

 

「私も料理の練習した方がいいのかな・・・」

「もしかして、翔に振舞うんですか?確かにあいつ、結婚するなら料理が美味しい人がいいって前に言ってましたけど」

「けっこ・・・!?ち、違うから!確かに翔に感謝してることは多いけど、そういうのじゃないから!」

 

聖君が「ふーん」と、疑いの目を向けてくる。うぅ、本当に違うのに・・・

 

「じゃあけi」「違います」

 

それは本当に違います。すると「かわいそうな圭・・・」と、ここにはいない彼に同情していた。

 

「ま、まあ理由はともかく、料理ができて困ることはないですし。頑張ってください!」

「うん、ありがとう」

 

聖君は応援してくれると、その場を後にしようとする。あ、そうだ!

 

「ねえ聖君、もしよかったら「お断りします」まだ言ってないよ!?」

 

ひどい、せめて内容を聞いてからでも・・・

 

「料理の作り方を教えて、ですよね?」

「え、すごい!聖君ってエスパーなの?」

「いや話の流れでわかるでしょ・・・」

 

そうかな?言われてみればそうかも。いやそうじゃなくて・・・

 

「わかってたのにどうして断ったの?」

「いや、逆になんで俺に頼むんですか・・・」

 

確かにもっと親しい人に頼んだ方がいいのはわかってる。でも私の周りの人はみんな多忙で、私もそうだから予定を合わせるのが難しいのです。確かに今は事件の調査の最中だけど、そういったものは全て鴻上コーポレーションが引き受けてくれるらしい。でも書類仕事は別にあるし、管理局側も交代で調査をしているので前よりも忙しくなくなっただけで、それでも仕事は多いのです。

 

「お願い、私の周りの人は予定を合わせにくくって、頼れる人がいないの。だからその、お礼とかも用意するから、お願いします!」

「えちょ、ハラオウンさん頭上げてください!人、人が見てますから!」

 

頭を上げて聖君を見つめると、顔を逸らして悩みだした。そして意を決したようにこちらに向き直った。

 

「えっと、週に1回なら・・・」

「ほんとお!」

「いやでも、俺の家は無理ですからね」

「それなら、私の家だね」

「え、軽・・・」

 

そうして私たちは、週に一度、お料理教室を開くことになった。

 

 

 

 

「管理局員に連絡!ヤミーが出現した、今すぐ出撃を!」

 

そんなある日、4日ぶりにヤミーが出現した。明日の料理教室に備えて、私は買い物に出かけていた。連絡を受けて私は近くに出現したヤミーの下へ向かった。

 

「きゃー-!!」

「見つけた!バルディッシュ!」

『Yes sir』

 

私は結界を展開した。そうしてもう一度ヤミーを見る。それにしても・・・

 

「なんて大きさ・・・」

 

見た目はなにかの昆虫なのはわかる。でもビルと同じ大きさ、あれが急に現れたというのが信じられない。ヤミーがこちらに気付いた。バリアジャケットを装備して戦闘態勢入る。私一人じゃ倒せないから、時間稼ぎをしないといけない。そう考えていると、ヤミーの指が

光って・・・

 

「!」

 

急いで空に逃げた。直後、私がいた場所に爆発が起きた。今のは間違いない。

 

「魔力弾・・・」

 

前回戦ったヤミーは火球を使っていたけど、それとは違う。今のは魔力による攻撃だ。つまりあのヤミーは、魔力を内包しているということだ。

そう考察している間に、巨大ヤミーは次々と魔力弾を連射した。

 

「く、近づけない!」

 

このままだと被害が!こっちの攻撃は通じないし、私のバインドでは止められない。どうすれば・・・

すると結界の中に誰かが入ってきた。救援と思ったけど、その連絡は来ていない。考えられるのは2つ。一つは別のヤミー、またはグリードの敵の増援。これが一番最悪だ。今の私に2体同時に対応する術はない。そしてもう一つ。前回、この事件に関わっている可能性が高く、状況を見るとたった1人で、結界を張って5分にも満たない時間にヤミーを撃破したと考えられる人物・・・

 

『ディバインバスター』

「シュート」

 

藍色の光が、巨大ヤミーに直撃する。するとヤミーの体から多くのセルメダルがばら撒かれた。私はその魔法の発生源を見る。そこにいたのは・・・

 

「リト、ナイスアシストだ。それから、結界の張り直しを頼む」

 

映像で見たとおりだ。赤い頭に黄色の胴体、緑色の下半身をした奇抜な姿をした人物が、バイクにまたがってなのはのレイジングハートの砲撃形態、カノンモードに似たデバイスを構えながら現れた。

 

「あなたは・・・」

「私の名は、オーズ。助太刀に入った」

 

オーズと名乗るその人物の声は、明らかに加工されたものだった。

 

「オーズ、さん。ご協力感謝します。私の魔法はあの怪物、ヤミーには通じません。ですので・・・」

「ああ、私が倒す。君は援護を頼む」

 

私は頷いて、空中で巨大ヤミーに向き直る。オーズさんもバイクから降りて・・・

 

「確かこうか」

 

そう言って、バイクを自動販売機に変形させていた。え?

 

「えっと、なにを・・・」

「たこたこ・・・これか」

 

ピッ、と自動販売機特有の音がなると、大量の青い缶が溢れだした。

 

「本当になにやってるんですか!?」

「え、いや違うんだよ、のど渇いたとかじゃなくて」

 

そんな言いわけをしながら缶の1つを手に持つと、栓を開けた。やっぱりのどが渇いてるんじゃ・・・すると、缶が変形して青いタコに変形した。え?

 

「なるほど、これがカンドロイド・・・うわ、ちょ、まっ」

 

1つがタコに変形したのに連動するように、他の缶もタコに変形した。え?

 

「え?あの・・・」

 

そうして大量の機械のタコが、宙に舞った。

 




前の話の修正したりフリガナ振ったりするのって意外と楽しかったです。でも意外と間違い多くてちょっと驚いてます・・・
ここ好きを教えてもらえると助かります。

皆さんの感想・高評価、お待ちしています!


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会長と格好とケーキ

データが一度消えて作り直すのが大変でした。次から気を付けないと・・・


ヤミーに襲われた次の日、日曜日にとある人に会いに行った時の話をしようと思う。その日朝、俺はレイジングスピリッツに起こされた。

 

『おはようございますマスター、今日もいい天気ですね』

 

「・・・おはよう」

 

休日の朝に目覚めたら、青い球にモーニングコールされる俺の身にもなって欲しい。朝から疲れるよこんなの。非日常を味わい、これからは新しい日常になるんだなあと思いながら俺は起床した。

 

 

 

 

『それでは本日の予定を確認します』

 

「おう」

 

朝食を終え、これからに備えての準備をするために、とある人に会う、だったはずだ。

 

『まず始めに、鴻上ファウンデーション本社に侵入し鴻上光生にコンタクトをとります。次に・・・』

 

「ちょいまて!」

 

さらっと流したなおい!

 

『何でしょうか?なにかおかしなところがありましたか?』

 

「侵入することをおかしなことと認識していない時点でお前頭おかしいよ」

 

こいつの場合頭じゃなくて思考回路とかだろうけど。

 

『あのですねぇ、私達が会いに行くのは会社の会長ですよ。ただの学生が会いに行こうとしたって門前払いされるに決まってます。それに、管理局がどこで見てるかわからないんです。自分がオーズだと名乗って入れたとしても、管理局に見つかる可能性もあるんですよ?』

 

「俺はそもそも会う相手が会長というのも聞いてないし、そもそもお前、侵入することがおかしいという質問に答えてないよな?」

 

『・・・話を続けます』

 

逃げやがった、このポンコツAI。

 

『鴻上光生と会う理由、それは彼が先代オーズの子孫だからです。私は昨日お話した以上のメダルについての話は知りません。ですのでその辺の話を聞き出します。それから、協力の要請ですね。ハッキングしたところ、色んなものを作ってるらしいです』

 

「あれ?ベルトは聖家が作ったとか言ってなかったっけ?それに今ハッキングって言った?」

 

『ハッキングに関してはマスターが寝ている間に済ませました。勿論痕跡は残していません』

 

怖すぎんだろ・・・

 

『メダルに関してはその、私が作られるよりずっと昔に作られたものなので、あまり知らないんです』

 

「昨日若干勿体ぶってたのに?」

 

『はい・・・』

 

大丈夫なのだろうかこいつ・・・

 

『話を戻しますね。鴻上光生とは私が交渉します。マスターは見てるだけで大丈夫です。残った時間は魔法の特訓をします』

 

「遂に来たか・・・」

 

『チョロい・・・』

 

「聞こえてんぞポンコツAI」

 

『!?!?』

 

魔法、魔法かぁ。俺も炎出したり雷出したり、高町さんみたく空も飛べるようになるのかぁ。これなら俺、もっと強くなれるなぁ。

 

『・・・と、とりあえず、鴻上光生の下へ向かいましょうか』

 

「おう!」

 

こうして俺達は、鴻上ファウンデーションに侵入することになった。

 

 

 

 

「・・・すげぇなこれ、本当に気づかれてないな」

 

『当然です!これは天才アイオーンが作った隠蔽魔導具、その名もインビシブル!対象を覆い外へのあらゆる情報を漏らさない優れものです!覆う対象を結界にすることで隠蔽性の高い結界を作ることも可能なんですよ。まぁ、対象が大きいほど効果は薄まるんですが。前回も管理局員に気づかれてしまいましたし』

 

今俺達は、鴻上ファウンデーションに侵入していた。さっきから社員や警備員とすれ違ったり、監視カメラの前を通ったりしているのに全く呼び掛けられる気配がない。エレベーターはレイジングスピリッツがさらっとハッキングして乗れるようにしてくれたり、電子系の扉もあっさり開けたりと、あっという間に偉い人が居そうな部屋の前まで着いてしまった。

 

「完全犯罪とかできそうなレベルだなこれ」

 

『できそうというか確実に成功させますよ?』

 

怖っ。ハイスペック過ぎるだろこいつ。手のひらをクルクル変えていると、ふとある疑問が湧いた。

 

「なぁレイジングスピリッツ、1ついいか?」

 

『何でしょう?答えられることなら』

 

「まず確認として、お前とインビシブル、それに昨日の世界を飛び回る魔導具、確かリーブの3つ全部アイオーンって人が作ったんだよな?」

 

『そうですよ?』

 

「お前のいた世界ってその、もう滅んだみたいなことを昨日言ってたよな?」

 

これは高志が帰った後、軽い気持ちで質問したらもう滅んでますよーと軽く返され、それ以上聞けなかった。

 

『そうですが?』

 

「じゃあお前含めてそれらって、ロストロギアってのに該当するんじゃないのか?」

 

『・・・』

 

いや、ぶっちゃけ全部どう考えてもオーバースペック過ぎるし、ちょっとヤバいなとは思ってたんだけど・・・え?そこで黙り込むの?あのレイジングスピリッツさん?

 

『・・・マスター、この世の中には知らないほうが幸せな事が沢山あるんですよ?』

 

こいつ管理局に突き出した方がいいんじゃないのかな?ちょっと世界滅ぼしそうじゃない?

 

『そんなことより、ほら行きますよ』

 

「お、おう」

 

レイジングスピリッツはインビシブルを解除して俺に部屋に入るよう促した。俺は現実と向き合うことをやめながら、鴻上光生という人物がいるであろう部屋の扉を開けた。

 

 

 

 

部屋に入ると、机の上でちょうどなにかの箱を閉じる男性の姿が目に入った。赤いスーツの上にエプロンを着るという奇抜な格好をしていたため、ちょっと引いた。

 

ここで俺の今の格好について話そう。上は白いシャツに下は黒ズボン。そして黒いコートを羽織っており、さらに顔には認識阻害の魔法が掛かっている狐の面を被っているという暑そうで変人丸出しの格好をしていた。まさかこの格好に張り合える人間がいたとは・・・

 

「やぁ、始めして。君が新しいオーズだね?わかっているとは思うが名乗ろう。私の名前は鴻上光生だ」

 

不審者が前触れもなく部屋に入ってきたというのに、慌てた様子どころかまるでわかっていたような素振りをするこの男、鴻上光生から思わず一歩後ずさる。オーズとは変身した姿のことを言っているのだろうか?

 

『マスター、ここは私が』

 

レイジングスピリッツが念話で呼びかける。そうだ、ここはレイジングスピリッツに任せよう。俺は聞くことに専念することにした。

 

「そうだ。私がオーズだ」

 

『マスター!?』

 

レイジングスピリッツが胸ポケットから飛び出す前に、何故か口が勝手に動いた。止めるべきなんだろうけど、黙る気が起きなかった。

 

「ならば祝おう。一日遅れだがね。ハッピバースデイオーズ!!新しい王の誕生だ!」

 

すると鴻上は机の下からケーキを取り出した。そのケーキのプレートにはハッピバースデーという文字と3つの円が描かれていた。あれはオーズと読むんだろうか?

 

「お前に交渉を持ち掛けに来た」

 

「ほう、それはどんな?」

「俺の目的はグリードの壊滅だ。その援助を求めたい。こちらは体を張って戦うことを考えると、セルメダルの配分は8:2でどうだ?」

 

こいつがセルメダルを集めていることはレイジングスピリッツから聞いている。

 

「いやいや、それでは破産してしまうよ。2:8でどうだい?」

 

「論外だ。だがこちらの要求をさらに飲むのなら、6:4でも構わない」

 

「ほう、その要求とは何かね?」

 

食いついた。

 

「要求は3つ。メダルに関する情報を全てこちらに開示すること。管理局から匿うこと。後からメダルを要求しないことだ」

 

さぁ、どう来る?

 

「欲張るじゃないか。君はなかなか強欲のようだね。それに管理局と繋がりがあることも知っているのは予想外だよ」

 

これもレイジングスピリッツから聞いたことだ。

 

「だがその要求を飲むには6:4では全く足りない。それこそ2:8が妥当だろう」

 

「ならば、オーズとしての戦闘データをそちらに提供しよう」

 

「なぜそれを私が欲しがると思うのかね?」

 

ラストだ。

 

「作っているんだろう?対グリード、または対ヤミーの兵器を」

 

その言葉を聞き、鴻上は声を出して笑った。とても愉快そうだ。

 

「いいだろう。5:5で手を打とう」

 

「いや、全ての要求を飲むのなら4:6で構わない」

 

「ほう、それはなぜだい?」

 

「そちらとは今後とも仲良くやっていきたいということだ」

 

それを聞きまたも鴻上は笑った。

 

「それでは、まずこのメモリーを渡そう。これにはメダルに関する情報が全て入っている。援助に関しては戦闘の際に行おう。管理局も私に任せたまえ。それからこれも君に渡そう」

 

鴻上は入室した際にふたをしていた箱を開けるそこにはプレートに4:6と書かれたケーキが入っていた。予め用意していたメモリーにしてもケーキにしても、この状況を読んでいたのか。この狸め。

 

「・・・では私はこれで失礼する」

 

私はメモリーを受け取り2つのケーキが入った箱を両手に持った後、インビシブルを起動させて部屋から去った。

 

「まさかここまで要求を飲まされるとは・・・」

 

部屋には1人の男だけが残った。

 

 

 

 

『マスター?』

 

「えっと・・・ごめんなさい?」

 

『なんで勝手に色々決めてるんですかー!』

 

こうして俺はレイジングスピリッツに叱られた後、魔法の練習をして1日を終えた。それから数日たった後、ハラオウンさんに料理を教えることになった。明日はハラオウンさんの家に行くことになっている。

 

「いやそうはならんやろ、特に最後」

 

「俺もそう思う」

 

今日までの出来事を、俺の家でケーキを2人でつつきながら高志に話していた。これ結構うまいな。ハラオウンさんの件については、レイジングスピリッツが「管理局の情報を盗むチャンスです!」と言っていたので了承した。悪く思うなよ管理局。

 

『マスター、鴻上ファウンデーションから連絡です』

 

「?わかった。ちょっと電話にでてくる」

 

高志にそう言って浮遊してきたケータイを受け取り電話に出た。その光景を見て高志は苦笑していた。

 

「ヤミーを4体発見した、そのうち3体は管理局が対応している。お前は巨大ヤミーの相手をしろ。場所は既に送ってある。俺はその場所で先に待っている」

 

それだけ言って電話を切られた。まずはそこに行こう。

 

「高志、悪いけどヤミーを倒してくる!」

 

「まじか。頑張れよ!」

 

俺は頷くと、レイジングスピリッツからベルトと3枚のコアメダルを受け取る。

 

「変身!」

 

《タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ、タトバ、タ・ト・バ!》

 

家の中で変身した俺はインビシブルを起動させると、巨大ヤミーがいる場所に向かった。

 

 

 

 

誰も知らない展開の中、彼は力を求めた。その理由を思い出すこともなく。

 




この主人公、9話目にしてようやく2回目の変身!

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タコと剣とチーター

UA4000突破! ありがとうございます!

念話のセリフは()に変えました。
久しぶりの戦闘回です。楽しんで頂ければ幸いです。


連絡を受けた俺は、魔法で足を強化して家やビルの上を跳び回っていた。何故空を飛ばないのかと言うと、レイジングスピリッツ曰く、飛行魔法の才能が絶望的なため、俺は飛ぶより走ったり跳んだ方が速いらしい。俺は泣いた。レイジングスピリッツの補助があれば一応は飛べるものの、その間は他の魔法をまともに使えないため、空中戦も絶望的らしい。俺は二度泣いた。

 

『もうすぐ目的地に着きます』

 

「了解。あの人か?」

 

鴻上ファウンデーションの使いの人が待っているという話だったけど、黒い戦闘服のような服を着ているバイク乗りを見つけた。あからさまだった。俺はインビシブルを解除してバイクに並走しながら声をかけた。ちなみに声は魔法で加工されている。言葉遣いは威厳があるようにだ。鴻上さんに対してなぜかあんな態度をしてしまった為、今更キャラを崩せない。なんであんなことしたんだ、俺!

 

「お前が使いか?」

 

「!?」

 

突如現れた俺に驚き、よろめきながらもバイクを止めてくれた。悪いことしたな・・・

 

「いきなり出てくるな!危ないだろう!」

 

「す、すまない、驚かせるつもりは、なかった」

 

少しきょどりながらもなんとか謝罪をする。人見知り気味なんだよ俺。初対面の、それも年上に敬語なしは正直きつい。

 

「早速ですまないが、贈り物とはなんだ?」

 

時間が惜しいので手短にお願いします!そう思っているとバイクから降りてケースを開けた。その中には一本の剣が入っていた。

 

「これはメダジャリバー。セルメダルを三枚セットして使え。そしてもう一つ」

 

男がバイクのボタンを押すと、バイクが変形して自動販売機なった。え?

 

「この順序でボタンを押せばタコのカンドロイド、戦いを補助するメカが大量に出てくる。見た目は缶だが、缶を開ける要領で変形する。おい、聞いているのか」

 

「無茶言うな、突っ込みどころが多すぎて捌ききれず固まっていたんだ」

 

「は?」

 

あ、やべ。思わず本音が出てしまった。いやだってしょうがないじゃん。何がどうしたらバイクが自動販売機に変形してそこから缶型のメカが出てくるって話になるんだよ。これ作ったの誰だよ。

 

『マスター、使い方は私が覚えていますから、とにかく話を進めてください』

 

(レイジングスピリッツ、今ほどお前が俺のデバイスでよかったと思ったことはないよ)

 

『そうですか!えへへ・・・?今まで私のことを何だと思っていたのですか?』

 

念話でレイジングスピリッツを褒めたが、なんか気に入らなかったらしい。

 

「・・・これが最後の贈り物だ」

 

そういって男は黄色のメダル渡してきた。これは・・・

 

「コアメダルか・・・」

 

以前もらったメモリーの内容ざっくり言うと、グリードがどのように誕生したのか、なぜグリードが今復活したのか、全てのコアメダルの種類と能力、同じ色で揃えて変身した時になれるというコンボについてだった。最後には、全50枚中10枚は鴻上さんが持ってると書いてあったけど、こんなポンと渡していいのだろうか・・・というか、気前が良すぎる。

 

「それから、これはお前の能力を測る機械だ。腕につけていろ。戦闘終了後にそのデータをこちらに送れ、以上だ」

 

その言葉を最後に、男は歩いて去っていった。あ、そっか。このバイクというか自動販売機は俺が持っていくからあの人は帰りは歩きなのか。本当にすみません・・・というか俺、

 

「バイク、乗ったことないんだけど・・・」

 

『それは私に任せてください』

 

すると自動販売機がバイクに変形、乗れと言っているかのようにエンジン音を鳴らした。

 

『私が運転するのでマスターは乗っているだけで構いません』

 

「ありがとうリツ」

 

リツというのは、外でこいつを呼ぶときの名前だ。何でも姉妹機がいるらしく、それにばれないようにしてほしいらしい。その時俺がリツと呼ぶのはどうかと提案したのだ。でもその時レイジングスピリッツが一瞬固まった。あれは何だったんだろうか・・・

 

 

 

 

バイクにまたがりハンドルを握っている俺は周りから見れば立派なライダーだが、その実態は補助輪が付いた13歳児という少しどころか物凄くみっともないものだった。情けなさすぎる・・・

 

『結界を確認、管理局員が張ったものと思われます。』

 

「侵入できるか?」

 

『問題ありません!』

 

そしてレイジングスピリッツ、ここではリツと呼ぼう。リツは練習の時に見せたカノンモードというビーム砲を撃てる形態になった。持ち手は白から黒に、ビームを撃つ先は金から銀になっていた。姉妹機というのに気づかれないように、練習時とは色を変えているらしい。

 

『狙いは私がつけるので、マスターは引き金を引くだけで問題ありません。それにオーズの姿なら魔力にメダルの力が込められているため魔法も効きます!』

 

「了解」

 

リツによって結界に侵入し、俺は補助輪付きバイクにまたがりながら自動で狙いをつけるビーム砲の引き金を引いた。

 

『ディバインバスター』

 

藍色の砲撃が、巨大ヤミーに直撃した。まずい、俺今のところ引き金しか引いてないぞ。

 

 

 

 

そうして現在、ハラオウンさんと協力関係を結び、カンドロイドというのを起動した。思ってたよりもたくさん出た。

 

「すごい数・・・」

 

ハラオウンさんも驚いている。と、そんなことを気にしている場合じゃない。俺は先ほどもらったコアメダルを腰についているコインケースから取り出してバックルにセットする。カマキリ、お前はまた今度だ。そうしてバックルにオースキャナーを通した。

 

「一体何を・・・」

 

ハラオウンさんの声を遮るように、コイン同士がぶつかったような音が3度、その場所に鳴り響いた。

 

《タカ!トラ!チーター!》

 

次の瞬間、俺の体に変化が訪れる。足が緑から黄色に変わったのだ。その見た目もどこかチーターを連想させるものだった。

 

「姿が変わった?!それに今の音楽は・・・」

 

「それについては私も知らない」

 

いや、ほんとなんだろうねこれ。ちょっと恥ずかしいんだけど。そうしていると、タコのカンドロイド達がビルによじ登っている巨大ヤミーに続く空飛ぶ道を、その身を挺して作ってくれた。

 

「行くぞ!」

 

「は、はい!」

 

そして俺はメダジャリバーを携えながらタコの上を駆けた。このチーターの力は足を速くするものだ。バッタの時も早かったが、この足はその比ではない。目にも止まらぬ速さとはこのことだろう。それにしても・・・

 

(ハラオウンさん、速くね?)

 

『何でついて来れてるんですか彼女?』

 

リツも驚いて・・・いや引いてるなこれは。そんなことを考えていると巨大ヤミーの指がこちらに向いて光だした。

 

『カンドロイドの制御は私がします、マスターはイメージするだけで足場を自由に操れます』

 

(了解)

 

ここで一つ疑問に思うことがあると思う。なぜ最初の一撃のように魔法で遠距離から戦わないのか。それはダメージが通りにくいからだ。ヤミーに対してはメダルの力で攻撃しなければまともに傷も与えることができないらしい。リツ曰く、ヤミーに対してメダルを使わず傷を与えたり、ましてや倒すことができるような人間はよっぽどの狂人か変態らしい。そこまでか。なのでメダルの力が込められている魔法より、メダルの力を直接引き出しているオーズの攻撃が有効らしい。なので、直接殴ったり蹴ったり切るために近づいているのだ。

 

「来るぞ!」

 

「はい!」

 

俺がイメージすることで、タコの道は思った通りにグニャグニャと動いて攻撃を躱していく。巨大ヤミーの近くにいる先端のタコたちは、リツが操っているのか跳んだり跳ねたりしてうまく躱していた。ハラオウンさんも問題なく躱せている。そして俺はメダジャリバーにメダルを三枚セットしておく。そうしてあっという間に巨大ヤミーの目の前に来た。俺はタコの道から飛び出し、巨大ヤミーに切りかかる。

 

「はぁっ!」

 

「!?」

 

巨大ヤミーを切り付けると、大量のメダルが噴き出した。確かにさっきの魔法より効いていた。だが巨大ヤミーは倒れない。俺を振り落とすべく、体を大きく振り回す。

 

「こ、のお!」

 

俺は振り落とされまいと、メダジャリバーを巨大ヤミーの体に突き刺して踏ん張る。だが、いくらオーズの身体能力でも、このままではビルの上から落とされかねない。

 

『『バインド』』

 

リツの声と重なるように機械の声が聞こえると、巨大ヤミーの動きが止まった。巨大ヤミーの体を見ると、手足が藍色のリングと黄色のキューブで固定されていた。さらにタコのカンドロイド達も巨大ヤミーに張り付いていた。

 

「今です!」

 

ハラオウンさんに言われて俺は足を動かした。メダジャリバーを突き刺したままその場で足で巨大ヤミーを連続で蹴りだしたのだ。するとそこからまたも大量のメダルが飛び出し、巨大ヤミーが苦しみ始めた。今なら確実に決めきれる!

 

『マスター!もう一度メダジャリバーにメダルをセットしてバックルにオースキャナーを通してください!それで倒しきれます!』

 

「了解!」

 

俺は巨大ヤミーから飛び降りる勢いでメダジャリバーを引き抜く。ビルの屋上に散らばっていたセルメダルを三枚拾ってメダジャリバーをセットする。そのタイミングで巨大ヤミーがバインドを壊し始めた。タコのカンドロイド達も剝がされていく。

 

「はぁっ!」

 

すると金色の閃光が巨大ヤミーに直撃する。ダメージは入っていないが、動きは止まった。その隙に俺はバックルにオースキャナーを通した。

 

《スキャニングチャージ!》

 

軽快な声が屋上に響く。俺はメダジャリバーを構え、巨大ヤミーに振りかぶった!

 

「セイッヤァー-!!」

 

俺の掛け声とともに空間ごと巨大ヤミーは切断。空間が切られる前に戻った瞬間、巨大ヤミーは爆散した。ビルの屋上には、おびただしい数のセルメダルが残った。

 

「す、すごい・・・」

 

ハラオウンさんがメダジャリバーの性能に驚いている。俺も空間がぶった切れるとは思わなかった。それはそうと、メダルを回収しないと。どうしよう、想像よりずっと多いんだけど・・・

 

『マスター!管理局が来ます!』

 

頑張って拾うか、などと考えていると、緊張感のあるリツの声と共に結界の外から多くの魔導士が現れ、ビルの屋上を取り囲んだ。あ、やばいなこれ。そして次の瞬間、青いリングによって俺の両手は拘束された。

 

「管理局だ!投降しろ!」

 

これは、本当にやばいかもしれない。

 




オーズドライバーとコアメダルって一応ロストロギアに該当するので、下手したらここで豚小屋エンドなんです。だから鴻上会長に会いに行く必要があったんですね。
今回は詩はつけません。毎話つけると重要な回の時に足りなくなるので・・・

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憎しみと立場と家族愛

なのは視点を書こうとしたんですけど、しっくりこなくて書き直してました。最初は主人公サイドと魔導士サイドを交互にやろうとしていたのに、どうしてこうなった・・・
キャラの性格が合っているか少し自信がないので、意見があればぜひお願いします。


俺の周りに30㎝程の長さがある、細長い白い光が大量に出現する。それは全て、リーダーと思わしき人物に向いていた。

現在、10名程の魔導士が俺を取り囲んでいる。その中には高町さんもいた。俺の両手を拘束しているのは、あのイケメンでリーダーっぽい人だろうか?

 

『バインド』

 

「なっ!」

 

すると、急に俺の両手のバインドが解除された。それと同時に魔導士全員の両手にバインドで拘束される。今の、リツがやったのか・・・?

 

『ブレイクランス』

 

 

『シュート』

 

「「クロノ(君)!」」

 

リツの合図と共に、それらは直進するか右と左と上に分かれてリーダーらしき人物に殺到した。高町さんとハラオウンさんが叫ぶも、彼は成すすべもなくハチの巣に・・・

 

「やめろ」

 

なることはなく、俺の一言で全てが停止していた。クロノという人物も、咄嗟に左手のバインドを解除してシールドを張っていた。だが先ほどのブレイクランス、魔法の特訓で俺も教わっている最中なのだが、シールドとバリアジャケットを貫通するのだ。彼の実力は知らないが、あの程度のシールドなら容易に貫くだろう。俺一人で使おうとしたとき、一つ作るだけでも手間が掛かる上に、攻撃範囲も狭いし軌道も曲げにくいのだが、貫通力と速度が高いのだ。それを一人の人間にあの数をぶつけようとしていたということは・・・

 

(リツ、彼を殺すつもりだっただろう)

 

(なぜ止めたのですか!あいつはマスターに無礼を働いたのですよ!)

 

(何のために鴻上会長に会ったと思っている)

 

クロノさんの顔を見ると、冷や汗をかいていた。すると、ビルの屋上に魔力で作られたスクリーンが現れた。SF作品を彷彿させるそれに映し出されたのは、鴻上会長だった。

 

「魔導士諸君、そしてオーズ!ヤミーの撃退に感謝する。ところで悪いのだがクロノ君、彼は私が雇った傭兵でね。開放してくれないかね?君も頼む」

 

(リツ)

 

(はい・・・)

 

そう言うと、ブレイクランスが全て溶けるように消えていく。バインドも同様だ。魔導士達もこちらに武器を向けなくたった。クロノさんは画面に映し出された鴻上会長の方を向いた。

 

「鴻上、どういうことだ?そんな話、僕たちは聞いていないぞ」

 

傭兵というのはいい設定だと思うが、伝えていないのはダメだろ。何のためにお前に会いに行ったと思ってるんだこのケーキ職人!美味しかったぞ!!

 

「悪かったね。彼と契約を結んだのは遂最近なんだ。報告が遅れて申し訳ないと思っている。こちらも武装の用意で忙しくてね」

 

ぜってー噓だ。こいつ自身はケーキ作りに勤しんでいる。この感じからして、俺の管理局に対するリアクションを見ていたな。対応によっては切られてた可能性もあったなこれ。

 

「それだけじゃない。彼が使っているのはコアメダルじゃないのか?」

 

バックルにセットされたコアメダルを指さす。だが鴻上会長は動じなかった。

 

「そうだ。前回のヤミー襲撃時に彼の実力は確認した。彼はコアメダルを使いヤミーに致命傷を与えることができる。だからスカウトしたんだ」

 

「何を言っているんだ。コアメダルはロストロギアに該当する危険なものだ。それはあなたが言ったことだ」

 

「だが彼は結果を出している。そこにいる君も、彼の戦いぶりを見ていただろう?」

 

鴻上会長がハラオウンさんに問う。ハラオウンさんが一瞬こちらを見たが、意を決したように言った。

 

「はい、確かに彼ならヤミーとの戦いを有利に進められます。ですがコアメダルを使っている事実は変わりません!」

 

「そうだね。だが彼がいなかったらさらに被害が拡大していたとは考えられないかい?それに前回のヤミー襲撃時も彼が1人でそのうち一体を倒していたから、民間人に死傷者がでなかったのではないのかい?」

 

「それは・・・」

 

鴻上会長つえぇ。ハラオウンさんが可哀そうなんだけど・・・

 

「それでもだ!彼がロストロギアを所持している事実は変わらない。それに、あなたと管理局が今回手を組んでいるのはそのヤミーに対する武装を鴻上ファウンデーションが作るからでしょう」

 

あ、そうだったんだ。メモリーの中にはその話は無かったから知らなかった。

 

「あぁ、わかっているとも。だが現在、本局からの増援は望めない。魔法もあまり効果はない。ならば、手段があるのに使わないのは愚かなことではないかね?それに決定権は私にあるはずだ」

 

「くっ・・・」

 

そこからは流れるように話が進んだ。取り敢えず管理局が手に入れたコアメダルは俺に送られるらしい。それから逮捕もされないそうだ。最後に、この事件が終わったらコアメダルとジュエルシードっていう別のロストロギアは全て管理局に渡すという話になった。

 

まあ、それはしょうがないかな。言ってしまえばこれ、爆弾みたいなものだし、それを没収するのが管理局の仕事らしいし。それに俺には魔法がある!まだド三流だけど・・・

 

ところで、鴻上会長が電話を切ってからクロノさんが睨みつけてくるんだけど、攻撃したの俺じゃないんだけどなぁ、むしろ止めたんだけどなぁ。というかあの状況傍から見れば、自分で攻撃したのに自分で止めるとかいう意味が解らない状況なのか。・・・普通に頭おかしい奴だな。

 

「あの、オーズさん!」

 

「なんだ」

 

インビシブルを起動させてリーブでワールドツアーを始める前に、ハラオウンさんが話しかけてきた。態度悪くてごめん。

 

「先ほどは、協力してくださってありがとうございます。でも、やっぱり私の気持ちは変わりません」

 

「だろうな」

 

それが正しいだろうしな。でも俺としてはこの事件が解決しない限りこの力を手放すつもりはない。

 

「でも、もし何か困っていることがあったら、相談して下さい。何か力になれるかもしれません」

 

「・・・そうか」

 

いや、特にないです。人助けしたいだけなんです・・・

 

「あの・・・」

 

高町さんが話しかけてきた。次は何だ、こちとら人見知りだぞ、いい加減にしろ!

 

「なんだ」

 

「えっと、どこかでお会いしませんでしたか?」

 

心臓がドクンと飛び跳ねた。え、嘘、ばれた?俺あなたとそんなに話したことないし、口調も全然違うよね?なんで?

 

「・・・数日前にあったはずだが」

 

「えっと、そうじゃなくて、もっと前とかに・・・」

 

「記憶にない。それ以外に用がないのなら帰らせてもらう」

 

いけない、早く切り上げないと。

 

「待ってください!最後に一つだけ!」

 

「ッ!な、なんだ」

 

びっくりした。頼むからこれで最後にしてくれ、ボロが出る前に。

 

「どうしてオーズさんは戦っているんですか?」

 

「?人が死ぬかもしれないんだぞ?戦うに決まってるだろ」

 

即答した。ちょっと素が出たけど、まあしょうがない。すると、目の前の2人の目が見開いたと思ったら、ほほ笑んだ。

 

「・・・なんだその顔は」

 

「えっと、オーズさんが優しい人でよかったなって思って」

 

「次もよろしくお願いします」

 

高町さんとハラオウンさんは俺を仲間として歓迎してくれるらしい。まあ、そうしてくれるとありがたいけど・・・

 

「あ、そうだ!最後に自己紹介だけさせてください。私は高町なのはって言います。なのはってよんでください」

 

「私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。フェイトと呼んでください」

 

「・・・高町にハラオウンだな、覚えた。それでは失礼する」

 

(リツ頼んだ!)

 

(わかりました)

 

「ま、待ってくだ・・・」

 

高町さんの呼び止める声を最後まで聞かず俺はその場から去った。いやだっていきなり名前呼びは無理だって。勘弁してくれ。

 

 

 

 

巨大ヤミーの戦いから帰宅した俺は、リビングで仁王立ちしてレイジングスピリッツを見下ろしていた。その様子を、残りのケーキを食べ終えた高志が見守ってる。2つ目もあいつにあげようかな・・・

 

「レイジングスピリッツ、どうしてクロノさんを殺そうとした?」

 

「俺の知らない間に殺人未遂が起きてたの!?」

 

俺は今、レイジングスピリッツを問い詰めていた。俺は人助けをするために戦っているのに、人殺しをしようとしたこいつの行動を見過ごすわけにはいかなかった。

 

『あの状況ではあれが最善だと考えました。マスターのDNAや素性を調べられた場合、マスターだけでなくご両親も危険にさらされていました。』

 

「それでもだ!俺にだって譲れないものがある!」

 

『私だって、マスターの安全だけは譲れません!』

 

レイジングスピリッツは俺が思っているよりも過保護だった。

 

「・・・レイジングスピリッツが俺を大事にしてくれているのはよくわかった。でも、危険という意味では今更管理局の有無は関係ないだろ?」

 

『それは・・・』

 

「俺もできるだけお前の言う通りにする。だがら頼む。誰かを傷つけようとしないでくれ」

 

レイジングスピリッツは俺にとって家族同然だ。短い付き合いだけど、それくらい大事な存在になっていた。

 

『・・・わかりました。マスターに危害を加えようとしない限り、私も手は出しません。ですが!場合によってはわかっていますね?』

 

「あぁ!そうならないように俺が振舞えばいいだろう?」

 

『本当にわかっているんですかね・・・』

 

取り敢えずこれでいきなり襲うことは無くなっただろう。ひとまず安心だ。

 

「じゃあ、2人とも仲直りってわけだな。よーし、それじゃあこのケーキで祝勝会だ!」

 

「夕飯入らなくなるだろ・・・」

 

こうして俺の1日が終わった。ケーキは高志に譲った。俺一人じゃ食べきれないからな。そして明日は、ハラオウンさんの家に行かないといけない。今後の活動のため、ハラオウンさんの家から管理局の情報を抜かせてもらおう。・・・罪悪感がすごいなこれ。

 




あぁ、早くはやても喋らせてあげたい・・・


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脅威は突然になの

UA5000,お気に入り50突破!! ありがとうございます!!
私の好きなものをミキサーにぶち込んで混ぜたような作品を読んでくださって、本当にありがとうございます!これからも頑張ります!


オーズさんに逃げられた後、これまでの情報をまとめるために会議室集まることになりました。屋上に散らばったセルメダルは全て、カンドロイドという赤い鳥のようなメカが回収していきました。

 

「それではまず、グリードとヤミーについて話したいと思う」

 

クロノ君の言葉にみんなが耳を傾けた。

 

「グリードは鴻上の情報によると計5体。鳥の王、アンク。昆虫の王、ウヴァ。ネコ科の王、カザリ。水棲生物の王、メズール。重量生物の王、ガメルだ。体が人間の欲望から作られたセルメダルで作られていて、さらにコアメダルという特別なメダルを核としている。さらにコアメダルは一色につき三種類のメダルが三枚ずつだ。こいつらは800年前に封印されたらしいが、ジュエルシードがこの町に戻ってきて、その封印を解いたらしい。現在、9つのジュエルシードはグリード達が所持していると踏んでいる。

 

次にヤミーだ。こいつらはグリード達が人間にセルメダルを入れることで生み出すことができるらしい。前触れもなくヤミーが現れるのはこの性質のせいだな。本来の役目は、セルメダルを入れた宿主の欲望を満たすことで体内のセルメダルを増やし、それをグリードに還元することらしい。だがここからが鴻上も知らなかった情報だ。・・・どうした圭」

 

鴻上さんが知らなかった情報という言葉を聞いて、圭君がなにか引っかかったような顔をした。

 

「いや、あの人ヤミーとかグリードの専門家っぽかったから意外っていうか・・・」

 

「本人も大抵のことは知っていると言っていたからその気持ちもわかるが、今回は鴻上も予想していなかったことが起きているらしい。ヤミーは本来、白ヤミーというゾンビのような形態を挟んでからあの姿になるらしい。そして魔力弾も撃つことはなかったそうだ。グリード達がジュエルシードの力を使ってヤミー達を強化していると僕たちは読んでいる。次も能力が強化されるかもしれない。よって一刻も早くグリード達を発見して撃破する必要がある。

 

次にセルメダルについてだ。エイミー達の解析によると、先程も言ったように欲望から作られているらしいが、原理がまるでわからないらしい」

 

エイミーさんという方は昔から私たちをサポートしてくれている方で、最近クロノ君とお付き合いを始めました。

 

「だが、セルメダルの一つ一つが内側に膨大なエネルギーを封じ込めたカプセルのようなものということはわかった。この性質のせいで魔法の効きが悪くなっている。また、魔力でジュエルシードを追えないのは、グリード達がジュエルシードを体内にいれて、セルメダルが魔力を体内に完全に封じ込めているからと予測している。最後にオーズについてだ」

 

先程まではみんながある程度わかっていたことだ。だけど、オーズさんについては謎が多い。翔君と圭君の目が鋭くなった気がした。

 

「オーズは最初のヤミー襲撃時に唐突に現れた魔導士だ。攻撃した後に自分で止めていたところから、あの攻撃は彼のデバイスが行ったと予測している。あの精度の魔法を自力でできるデバイスだ。かなり高性能のデバイス所持している。そして鴻上は彼とは数日前に接触してスカウトしたと言っていたが、はっきり言って信用ならない。なにより、彼は最初からコアメダルを所持していた。鴻上が予めコアメダルをオーズに渡していてもおかしくない。そう考えると、もしかしたら鴻上はグリードが復活することを知っていたのかもしれない」

 

「ちょっと待ってクロノ、それって・・・」

 

フェイトちゃんがクロノ君に問う。

 

「鴻上とオーズは、ジュエルシードがこの町に来ることも知っていたのかもしれない。そう考えると辻褄が合うんだ。ヤミー達に対する準備の良さ、管理局の上層部との繋がりを考慮すると、この事態を予測していた方が自然だ」

 

会議室がどよめいた。でも圭君だけは「ゑ?」って言いたげな顔をしてた。

 

「ちょっと待ってくださいクロノ隊長。些か話が飛躍しすぎでは?余計な先入観は思考を鈍らせます。それはあくまでもそういう可能性があるというだけでしょう?」

 

圭君も首を縦に振っている。

 

「・・・そうだな、すまない。確証がないこと言った。次からは気を付ける」

 

でもクロノ君の考えもわかる。グリードが復活したタイミングで鴻上さんやオーズさんは動き出した。流石にタイミングが良すぎる。でも私には、オーズさんが悪い人には思えなかった。

 

「なぁなのは、フェイト。2人はオーズと話したんだよな?どんな人物だったんだ?」

 

翔君が私たちに聞いてきた。

 

「私は優しい人に感じたかな。話しかけたら言葉は固いのにどこか軽く感じるんだ。でも話したといっても、戦ってる最中だったからそんなに話してはないよ。なのはの方が話してると思う」

 

「なのははどんなことを話したんだ?」

 

「えっと、実はオーズさんとは初めて会った気がしなくて、どこかで会いませんでしたかって聞いたんだけど・・・」

 

「はあぁ?!?!」

 

圭君がすごい形相で近づいてきた。

 

「いやどこで!?」

 

「えっいや、そんな気がするなぁと思っただけで、オーズさんも知らないって言ってたんだけど、えとあの」

 

「圭、きもいから下がれ」

 

「流れるような暴言やめろ!」

 

翔君のおかげで止まってくれた。怖かった・・・でも、どうして会ったことがあるように感じたんだろう?

 

「ごめんなのは、続けてくれ」

 

翔君が話の続きを促した。

 

「うん。その後、何で戦ってるか聞いたんだけど、人が死ぬかもしれないんだぞ、戦うに決まってるだろ、て。私、この言葉を聞いて、オーズさんが悪い人とは思えなくって」

 

「・・・そうか」

 

翔君はそれから考え事を始めた。こうして、現在の情報を共有して会議は終了した。

 

 

 

 

(圭、オーズについてどう思う?)

 

現在、翔と圭は再びファミレスで食事を取っていた。今回は周りに貴腐人達はいないらしく、静かな食事だった。

 

(別にどうも?ただの人助けが趣味の人なんじゃないかなーって)

 

(・・・そんなわけないだろ)

 

圭は翔と違いオーズの原作知識を持っている。だからこうして仮面ライダーオーズという作品を知るために会っている。

 

(まぁ、オーズが何を考えているかは今のところは後回しだな。メタ読みできるお前ならわかると思ったんだが、わからないんならしょうがない)

 

(お前もわからなかったんだ?)

 

(・・・まあな。話を変えるぞ。俺のデバイス、アマテラスに神に連絡を取ってもらったんだが、一向に応答がないらしい)

 

(ヤマトも同じだ。あの神様、転生するときに世界によっぽどの異常事態がない限りこっちに干渉しないって言ってたから、つまりオーズがこの世界にいることは異常事態じゃない、てことでいいんだよな、ヤマト?)

 

(あぁ、合ってるぜマスター)

 

圭の問いかけに、ヤマトと呼ばれたデバイスが低めのイケボで返す。

 

(ですが私たちも他作品が混ざっている話は聞いていません)

 

続けて翔のデバイス、アマテラスが美しい声で続けた。

 

この2機のデバイスは、2人が転生した際に神からもらったものだ。2人の家系は魔導士であり、どちらも蔵の中にしまわれていたという設定を持っている。

 

(魔法少女リリカルなのはという作品にもとからオーズに関連する要素が入っていたということか?)

 

(んなわけあるか。オーズがなのはの何年先の作品だと思ってんだ)

 

その後も2人は話し合ったが、それらしい答えが見つかることはなかった。

 

(今はオーズ本人を見つけないといけないということか)

 

(結局そこにたどり着くのか。まあ、鴻上会長に手を出すわけにはいかないからな。それで?見つけるあてはあるのか?)

 

(・・・はっきり言って微妙だ。お互い地道に探そう)

 

「了解。会計行くか」

 

2人の会談はここで終わる。だが圭と別れた翔の目には、覚悟が決めた闘志の炎が映っていた。

 

 

 

 

とある施設にて

 

「準備はどう?」

 

金髪にウェーブが掛かった美しき女性が、とある人物に電話越しに問いかける。

 

「問題ねぇよ。たく、面倒ったらありゃしねえよ。なんで小遣い稼ぎにこんなところに来なきゃならないんだよ。戦う相手は魔導士じゃねぇから勝負にもならねえし、それに管理局の中でもトップクラスの実力者がわんさかいるのに、そいつらと戦うのが禁止ってどんな拷問だ」

 

電話から聞こえる男の声は、不満そうだった。

 

「文句言わない。金羽振りがいいんだからちゃんと仕事をこなしなさい。それにあの世界で何が起きているのか確かめなきゃいけないんだから。今回あなたがやることはなに?」

 

女性に問われ、男は渋々答えた。

 

「依頼された内容は吸血鬼の捕獲と追手の迎撃。その後、地球に何が起きているのか、そしてメダルの調査、だろ?」

 




管理局に追われる主人公、見た目踏み台転生者なのに主人公の親友でなのは達の頼れる仲間と、ここまで魔法少女リリカルなのはの二次創作テンプレを盛大に外してきたこの作品ですが、遂にテンプレ展開、悪党からのヒロインの救出ですよ!(嘘は言っていない)

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新しい日常と友達とハラオウン

UA6000、ありがとうございます!

それから、11話の悠を取り囲んだ管理局員の数を30から10に修正しました。本局から増援が来ないこと、S級魔導士が多くいることを考えると、30は多すぎました。

今回はいつもより長めです。


『マスター、朝ですよー』

 

「・・・ん、おはよ」

 

魔導士兼オーズになってから、俺の一日はレイジングスピリッツに起こされて始まるようになった。今の時間は5時だ。ジャージに着替えてからリビングの扉を開くと、チーズが乗ったトースト、バターの香りが漂うトースト、そしてスープが1人分用意されていた。

 

レイジングスピリッツは毎朝朝食を作ってくれる。誰かが作ってくれたご飯は、自分で作ったものより美味しい。去年までは忘れていた。それにしても、念力でここまでちゃんとしたものを作れるのはすげぇな。試しに教わってみたが、ブレイクランスよりも難しかったぞ。

 

「んぐんぐ、ふぅ。ごちそうさま。レイジングスピリッツ、今日のメニューは?」

 

『今日は魔力弾でひたすら空き缶に連続で当て続ける特訓です。空き缶が地面に落下しないようにするために集中力が求められるので、頑張ってください』

 

俺が毎日早起きしている理由は、朝から山で魔法の特訓をするためだ。制服とカバン、そして今日は菓子折りも持って行って、特訓が終わったら制服に着替えるようにしている。だから以前より学校に着くのが遅くなってる。

 

同じクラスの圭とか八神とか、月村さんに、

 

「お前、どうしたんだよ。最近遅いけど、もしかして遂にグレたのか?」

 

「体調が悪いんか?看病しよか?」

 

「何かあったのなら相談してね?」

 

と心配されてしまった。朝に筋トレを始めたとは言っといたが、それよりも八神の発言に俺はハラハラした。クラスの男子全員が一瞬振り返ったんだからな。まじで怖かった。自分の発言には気をつけろ。死ぬぞ、俺が。

 

その光景を高志は机に顔を伏せて笑っていた。まあ、後でアイアンクローしてやったんだが。

 

そうそう、昨日倒したヤミーのセルメダルだけど、次会ったときにまとめて渡してくれるらしい。昨日の夜にレイジングスピリッツが戦闘データを送るついでに連絡を取ったらしい。それから念のため、海外のサーバー?を経由したりとかなんかして、家の場所が特定されないようにもしていたそうだ。頼りになります。

 

 

 

 

特訓を終え、制服に着替えてジャージをカバンにしまった俺は、学校に向かって走り出した。特訓の結果は、五回が限界だった。学校に到着し教室前にたどり着いた俺は教室の扉を開けた。

 

「あ、悠おはよう。今日も遅いなぁ」

 

「聖君おはよう。少し疲れてるの?」

 

「おはよう2人とも。学校に着くまで走ってたからね」

 

八神と月村さんが挨拶してきた。圭と高志とバニングスさんの姿が見えなかったが、席にカバンはあったので、まだ隣の教室にいるのだろう。高志の奴、圭に便乗して高町さんに会いに行っているのだ。あいつの最推し、高町さんだからな。となるとこの2人だけは先に教室に戻ってきたんだな。

 

「毎日頑張っててえらいなぁ。頭撫でてあげよか?」

 

「やめろやめてくださいお願いします」

 

そんなことしたら黒歴史の記憶が蘇るだろうが!そして他の男子の視線、怖い!

 

「もうはやてちゃん、あんまり聖君をからかっちゃだめだよ?」

 

月村さんが助けてくれた。ありがとう月村さん、なぜかいつも助けてくれて。君は真の天使だ。そこの天使の皮をかぶった悪魔から俺を守ってくれ!

 

「でもすずかちゃん、あたふたした悠って可愛いやろ?」

 

「それは・・・そうだね」

 

「月村さん・・・?」

 

月村さんがおもちゃを見るような目で俺を見る。ちくしょう、お前を信じた俺がバカだったよ!絶体絶命だ。すると、教室の扉が開いた。

 

「嫁達よ、さっきぶりだ!あ、悠来てたのか。おはよう」

 

圭がいつもの挨拶をして入ってきた。ナイスタイミングだ。

 

「圭・・・今日ほどお前が親友でよかったと思ったことはないよ」

 

「なにをどうしたらそんな返事が出てくるんだ・・・」

 

「圭・・・本当に間が悪いわアンタ」

 

「圭君はいつもそうだよね」

 

「そっちは何で辛辣!?」

 

いつもの圭イジリが始まった。あんなこと言ってるけど、嫌われてるわけじゃないうえにただ流されるんじゃなくむしろいじられるのはすごいと思う。いじめじゃないからね。本人も楽しいって言ってたし。ドMかな?

 

「察するに、またいじられてたのかお前」

 

「・・・ところで、高志とバニングスさんはどうした?」

 

こいつと同種と思われるのは嫌だな。よし、はぐらかそう。

 

「今なのは達と話してる。振られるに決まってるのに健気に頑張ってるよ」

 

「ひどいなぁ、自分の友達を信じてあげへんの?」

 

「何人もの男子生徒を振ってきた女のセリフか?」

 

「そういうお前は見向きもされてないけどな」

 

「そんなこと言うなよ、泣くぞ」

 

五大天使全員嫁発言野郎の言葉は無視しよう。八神に関してはモテるからな。振った男子は多い。そして八神の隣で苦笑いしてる月村さん、あなたもですよ。

 

そんないつも通りの会話を続けていれば、朝のホームルームまでの時間はあっという間になくなった。まあ、俺が来るのが遅いから、前よりさらに時間は短くなってるけど。

 

 

 

 

全ての授業を終え、俺はとある場所に向かって歩きだした。圭に遊びに誘われたが断った。真っすぐ帰るふりをして、遠回りしながら辿りついた場所は綺麗な一軒家だった。

 

「ここだな・・・」

覚悟を決め、チャイムのボタンを押した。

 

「はーい」

 

少し待つと扉が開いて、出迎えてくれた私服姿の美少女が1人。ハラオウンさんだ。今日は約束の料理教室を開くのだ。わざわざ遠回りした理由は、ハラオウンさんと接触するところを誰かに見られないためだ。住所も予め教えてもらっといた。もし誰かにこのことがばれたら、確実につるされるからな。

 

「いらっしゃい。どうぞあがって」

 

「あ、はい」

 

ハラオウンさんに促され、靴を脱いで中に入る。

 

「あの、菓子折りをどうぞ。」

 

「ありがとう。でも私教わる立場だから次は持って来なくて大丈夫だよ。」

 

それにしても、人の気配がしないな・・・

 

「ハラオウンさん、ご家族は?」

 

「えっと、ちょうど家族はみんな家にいないんだ。だから私たちと私が飼ってる犬だけだよ」

 

「ゑ?」

 

衝撃の発言を聞きながらリビングに入ると、茶色の子犬が目に入った。

 

「かわいい・・・」

 

「・・・わん!」

 

こっちをじっと見ると、まるで歓迎するかのように鳴いた。

 

「ありがとうだって。この子、アルフっていうんだ」

 

「アルフって言うんですね。こっちおいで~」

 

そういうと、トテトテとこちらに近づいてきた。不用心な奴め、頭をなでてやろう。手を伸ばすと、そのまま頭を少し下げて撫でやすくしてくれた。賢いなこの子。

 

「ふふ、聖君は犬が好きなんだね」

 

ハッとして振り向くと、ハラオウンさんが微笑んでいた。俺はわざとらしく咳払いして立ち上がる。

 

「さ、さて、料理を始めましょうねー」

 

「はい!」

 

 

 

 

今回作ったのはライスとコンソメスープだ。最初ということで簡単なものを選んだのだが、中々苦戦した。ライスは米を研いで炊飯器を使えば終わるが、コンソメスープの具材を切る作業、つまり包丁使いが問題だった。

 

「ハラオウンさん、猫の手、猫の手ですよ」

 

「ね、猫の手、猫の手・・・はうっ!」

 

「ハラオウンさぁーん!!」

 

いやー凄かったね。猫の手出来てると思ったら指関節切るんだもん。1人で練習してたら指ぶった切ってたよあれ。

 

それから、レイジングスピリッツは料理中に管理局のデータを盗み見できたらしい。何でも、ハラオウンのご家族は結構お偉いさんらしく、データも沢山あったらしい。ざ、罪悪感が・・・。

 

「聖君、どうしたの?」

 

そんなことを食後に考えていたら、ハラオウンさんに心配されてしまった。さらに罪悪感が・・・。因みに料理は美味しくいただきました。

 

「な、何でもないです。ちょっと考え事を・・・」

 

「そっか。ねえ聖君、ちょっといいかな?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「その、私達って同級生だし、敬語で話すのやめないかなって。それにさん付けも」

 

気にしてたんだ。気づかなかった。

 

「確かにそうですね。じゃなくて、そうだな、ハラオウン・・・なんだろう、違和感がすごい」

 

基本的に俺、友達以外は敬語だからな。八神は例外な。初対面の相手も当然敬語だし。・・・あれ?レイジングスピリッツの時はどうだったっけ?

 

「ねえ、聖君」

 

「あ、なに?」

 

思考の海に入る前に呼び戻される。ハラオウンさん、じゃなくハラオウンが何だかもじもじしていた。

 

「あの、折角の機会なのでその、私と、お友達になりませんか・・・?」

 

「友達、ですか・・・」

 

なぜ、この人は俺にそんなことを言うんだろう?

 

「うん。私達って今まで顔を合わせてただけでしょ?私、君のことは人助けする姿しかあまり知らないんだ。だから、友達になるために、お互い名前を呼ばないかな?」

 

「嫌だ」

 

空気が凍った。ハラオウンさんはその返答を予想していなかったのか、固まっている。

 

「え・・・どうして・・・?」

 

「さっきハラオウンが言っていたのと同じように、俺もハラオウンさんのことを何も知らないからだ」

 

ソファーの上でくつろいでいたアルフが唸っている。

 

「だから、これからお互いを知るために・・・」

 

「悪いけど、これだけは譲れない」

 

そう。これだけは嫌なのだ。ハラオウンさんは友達になる手段として名前を呼ぶらしいが、俺の中で名前を呼ぶことは、友達として認めた相手だけと決めている。

 

「・・・そっか。ごめんね。私のこと、もしかして嫌いだった?」

 

ハラオウンが悲しそうな顔をしている。あ、これアカン奴だ。

 

「あ、いやそういうわけじゃなくて!勘違いさせたならごめん。俺はただ、友達じゃない人を名前で呼ぶのが嫌なだけなんだ。ハラオウンと仲良くしたくないわけじゃなくて、なんというかその、俺の中のルールみたいなもの、なんだ・・・」

 

これは昔からずっと続いているものだ。理由は俺自身にもわからない。でも、物心ついた時には既に身についていたものだった。

 

「ほ、本当?」

 

「ほんとほんと!だからその、当分は名前で呼ぶのは遠慮させてもらえないか・・・?」

 

ハラオウンは少し考える素振りを見せると、何か思いついたのか再びこちらを向いた。

 

「わかった。君から名前を呼んでもらえるくらい仲良くなればいいんだね?」

 

「う、うん。確かにそうではあるけど・・・」

 

「でも私から君の名前を呼ぶのはいいよね?悠」

 

「え」

 

噓でしょ、不穏な雰囲気になったのになんでこんなに距離を詰められるの?これが、コミュ力のお化けというものか・・・。

 

「そっちもダメだった?はやてが名前で呼んでたから大丈夫と思ってたんだけど・・・」

 

「い、いや。そっちは大丈夫。ハラオウンはすごいな。どうしてそんなに人と距離を詰められるんだ?」

 

「うーん。なのはの影響、かな?」

 

「あー・・・」

 

すごい納得した。あの人どう見ても陽の者だもんな。誰とでも仲良くなれるし、モテるし。そういえば、ハラオウンは転校したばかりはここまでフレンドリーじゃなかった気がする。あんな人とずっと近くにいればこうなるのか。

 

「そうだ。悠もなのはとあまり話したことないよね?今度なのはと話してみようよ。2人とも後先考えず人助けをするところが似てるし、気も合うと思うよ」

 

「そうだな・・・機会があったらな」

 

高町さんには、実は距離を置くようにしている。理由は・・・

 

「あ、そろそろ母さん達が帰ってくるかも」

 

「それなら、俺帰るよ」

 

椅子に掛けていた学生服の上着を着る。

 

「うん、わかった」

 

そういって、ハラオウンは玄関まで見送ってくれた。俺は扉を開ける。

 

「それじゃあ、また明日」

 

俺に向かって手を振ってくれた。可愛い。

 

「・・・ああ、また明日」

 

俺は思わずドキドキしながら、ハラオウン家から出発した。

 




今回でオーズ誕生編終了です。次は第二章を始めるべきか、現在公開可能な情報をまとめた設定集を作るべきか、本編開始前の0話を書くべきか悩んでます。なので、初めての投票をしてみようと思います!


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設定集

聖 悠

今作の主人公。人助けが趣味のどこにでもいる中学二年生。小さいころから困っている人が寄りやすい性質で、その人達を助けるために独学で鍛えた。不良に絡まれている人を助けたこともある。その時は3対1だったが圧勝だった。

 

レイジングスピリッツに出会ってから魔導士として順調に成長中。ただ、さすがになのは程の速度ではない。勘違いしてほしくないのは、彼女の成長速度が早すぎるだけであって、悠も早い。最近はブレイクランスを扱えるようになったが、まだ1つずつしか作れない。因みに、ブレイクランスの習得難易度はAだが、悠は3日で習得した。

 

名前呼びに謎のこだわりがある。最近好きになった食べ物は卵のリゾット。苦手な食べ物はクッキー。なのはとは昔から距離をとるようにしている。最近は感情の起伏が大きくなったため、笑うことが多くなった。

 

 

レイジングスピリッツ

謎が多い自称超高スペックインテリジェントデバイス。昔アイオーンという人物が作ったらしくロストロギアの可能性が高い。褒めるとすぐに調子に乗る。そして管理局をとことん嫌う。悠の幸せを何よりも願っており、悠を守るためなら手段を選ばない。

 

インテリジェントデバイスだが単体で魔法を扱うことが可能。不意を突けば原作でなのはやフェイトよりも強いクロノを瞬殺することが可能。控えめに言ってチートである。また、存在を完璧に隠蔽するインビシブル、次元跳躍ができるリーブをその中にしまっている。そのため、悠はこの2つを見たことがない。

 

性能が高すぎるように感じるだろうがよく考えてほしい。管理局側にはS級魔導士が10人以上、グリード側にはコンボではない状態のオーズを追い込んだグリード5体がそれぞれジュエルシードを所持している。それに比べオーズ側は戦闘経験の浅い悠が1人である。チートでも使わない限り勝負にすらならないのである。

 

 

高町 なのは

魔法少女リリカルなのはの主人公。バリアジャケットは映画As版。本編開始前に大怪我をしており、今回が久しぶりの戦闘らしい。原作とあまり差異は無いが、最近は色んな夢を見るらしい。だが、毎回その内容を思い出せない。悠から距離をとられているのは察しているので、挨拶をするだけで済ましているが、機会があれば話したいと考えている。OHANASIではない。

 

 

最上 圭

銀髪赤眼青眼オッドアイズの転生者。見た目は典型的な踏み台転生者だが、周りとの仲は良好である。普段はふざけた態度をとるが、真面目に振舞うこともできる。転生前は高校生。趣味はアニメ鑑賞で、好きな作品は魔法少女リリカルなのは、仮面ライダーオーズ、僕のヒーローアカデミア、Fareである。また、前世では友達がいなかった。

 

魔法少女リリカルなのはの物語を変えようとしていたが全て失敗に終わった。最近は次期エースオブエースと呼ばれ始め遂に原作が変わり始めたと思っていた時に今回の事件が起きた。グリード達の姿を見たとき、驚きすぎて声が出なかった。

 

 

秋月 翔

もう一人の転生者。紳士的に振舞うが、気を許した相手には口が悪くなる。なのは達に気を許していないわけではないが、本人曰く「それはそれ、これはこれ」らしい。転生前は社会人。趣味はドラマ鑑賞。また、咄嗟に嘘をつくときに癖があるらしい。

 

 

山田 高志

悠の2人目の友達。小学校から悠の友達でムードメーカー。友達も多い。基本的に悠、圭、翔とつるむ。小学校の頃の悠と友達になるのは難易度が高く、ギャルゲーの世界なら主人公になれる。高志が悠と友達になっていないと1話目で詰むので一番の功労者。

 

初めてオーズに変身した日、自分の突っ込みを聞いて笑っていた悠に少し驚いたが、前と比べて明るく感じているのであまり気にしないことにした。

 

 

フェイト・T・ハラオウン

ジュエルシードのことを聞き、少し動揺したが持ち直した。悠と友達になろうと頑張っている。

 

八神はやて

悠とため口で話している。少し前に何かあったらしく、仲もいい。

 

月村すずか

小学校の頃から悠に話し続けている。

 

 

アリサ・バニングス

圭の想い人。圭にアプローチされても適当にあしらい、なのは達にちょっかいを出したら耳をつねっている。なのは達曰く、「満更でもないんじゃないかな」らしい。

 

 

鴻上光生

原作では間接的にだいたいこの人が悪い。目的は不明。

 

 

グリード達

アンクが何故か他のグリード達と共に復活している。また、ジュエルシードを使い何かを試しているらしいが・・・?

 

 

恐竜グリード

正体不明。他のグリードからはギルと呼ばれている。グリード達以外はその存在に築いていない。彼・彼女の目的は不明。4つのジュエルシードを所持している。

 

 

事件の内容

9つのジュエルシードが鳴海に戻ってきた。その後、石櫃の封印を解きグリード達が町を荒らしている。宿主とみられる人物たちに被害は無いが町の被害は大きい。今のところは4体のヤミーが同時に襲ってくる。

 

 

各陣営

オーズ

管理局と手を組んだ方がいいと考えているが、レイジングスピリッツの意見を何故か無視できない。取り敢えず距離をとり、互いにヤミーとグリードを撃退しようと考えている。

 

 

管理局

オーズが現れたタイミングが良すぎたこと、また鴻上がオーズに手を貸しているため、ジュエルシードが現れたことにこの2人が関与していると考えている。

 

 

転生者

二つの作品が混ざり始めている原因を探している。神に連絡を取ろうとしたがつながらないため、オーズという存在が元から魔法少女リリカルなのはの世界にいたと考えている。

 

 

鴻上

ジュエルシードが現れたことは予想外だったらしいが・・・?

 

 

グリード

コアメダルを集め完全復活を目論んでいる。現在はジュエルシードで様々なことを試している。

 



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王の片鱗編
フラグと格上と吸血鬼


仮面ライダーオーズ。前回までの3つの出来事。
1つ、突如現れたジュエルシードにより、グリードが復活。
2つ、聖悠が仮面ライダーオーズに変身。
そして3つ、聖悠は管理局と交わらない道を選ぶ!



カウントメダル。現在、オーズが使えるメダルは・・・

 

 

 

 

「赤はタカ、黄色がトラとチーター。緑はカマキリとバッタか」

 

俺は今、自分の部屋でコアメダルと鴻上さんからもらったデータを確認していた。変身した時に感覚で能力がわかるとはいえ、事前準備は大事だ。ぶっつけ本番なんてシャレにならない。

 

「黄色と緑はあと一枚でコンボか・・・」

 

『コンボはダメです。データにも危険だと書いていたでしょう?』

 

レイジングスピリッツが俺に注意してくる。

 

「わかってるよ。使わなきゃいけないような相手からは逃げる、だよな」

 

『覚えていてよかったです』

 

本当にレイジングスピリッツは心配性だな。そう思いながらメダルを片付ける。

 

『さて、それでは昨日伝えた通り、明後日まで私は動けません。なので絶対に戦わないように!』

 

そう、今からレイジングスピリッツは動かなくなる。何でも、管理局のデータをみたら、メダルの力を使わずにヤミーを倒す魔導士がこの町に多くいるらしく、その対策のためにメダジャリバーを使い、自身を強化するらしい。管理局は狂人と変態の集団だった・・・?

 

因みに、レイジングスピリッツが特に警戒しているのは圭にクロノさん、シグナムという女騎士らしい。圭、お前が変人なのは知っていたが、まさか狂人と変態の上位種だったなんて。いや納得だな。

 

「了解。まあ、お前がいないタイミングでオーズになっても勝てない相手にかち合うことなんて、早々ないだろ」

 

『そうですね』

 

「『ハハハハハッ!』」

 

 

 

 

そんなことを考えている時期が私にもありました。それでは現在に至るまでの状況をダイジェストに説明しよう!

 

俺、聖 悠!人助けが趣味の中学2年生!ある日、1人で下校しているとき怪しい集団を発見。後をつけると月村さんが銃を突き付けられ拘束されていた!通報してから助けに入ろうとした俺は背後に近づく男に気づかなかった。気絶させられた俺は、目が覚めると・・・体が縛られていた!月村さんに「どうしているの?」と聞かれた俺は咄嗟に「君を助けに来た」といい、どこかの廃工場に転がっている。見た目は学生、中身も学生。その名は、オーズ!

 

・・・とまあ、助けるどころか助けられる立場になりました、はい。後ろの人の気配全く気づかなかった。俺背後取られると咄嗟に振り返る癖があるんだけどな・・・。

 

今俺と月村さんがいるのは何処かの廃工場。俺たちは両手両足を縛られた状態でその隅で転がされている。そして俺たちを囲むように5人ほどの武装した男たちが立っていた。

 

「聖君は、また・・・」

 

「全く、処理が面倒になった」

 

月村さんが何か言おうとすると、奥から眼鏡をかけた高身長で細見の男がやってきた。だがあの歩き方は武術を嗜んでいる。如何にもボスという感じだ。

 

「・・・何でこんな真似をしたんだ」

 

「あなたは質問できる立場ではないでしょう。でもまあ、答えてあげましょう。私はハンター。異形を狩ることが仕事です。ですが、今回はそこの吸血鬼にようがあって誘拐という形をとりました。」

 

「は・・・?」

 

吸血鬼。こいつ今そう言ったのか?誰がと思ったが、まさかと思い月村さんの方に振り返る。月村さんは下を向いていたが、少し震えていた。この反応を見るに、真実だということなのだろうか・・・。

 

「最近この町には、不可解なことが起きています。計8体の怪物が突然現れて暴れたと思えば、突然消えた。私は異能を持った怪物を見たことがあります。ですから、私はこの事件を解決するためにこの町に来ました。そこで、情報を手に入れるために・・・」

 

「月村さんを攫ったのか」

 

「そうです。呑み込みが早くて助かります」

 

男は嬉しそうに笑う。どう見ても作り物の笑顔だったが。

 

「それではそこの吸血鬼、知っていることを洗いざらい話しなさい」

 

「な、なにも知りません」

 

男は月村さんに問うが、月村さんは知らないと答えた。当然だ。こいつが聞くべきなのは月村さんじゃない。隣にいる俺だ。吸血鬼かどうかはわからないけど、少なからずヤミー達は月村さんとは何も関係がないのだから。

 

「・・・」

 

男は無表情で懐から何かを取り出そうとし・・・!!

 

「危ない!」

 

俺は咄嗟に月村さんに体当たりして大きく動く。その瞬間、廃工場で銃声が鳴り響いた。

 

「よく躱しましたね。その状態で吸血鬼を庇うとは。あなた、ハンターに興味はありませんか?弟子にしますよ」

 

「ふざけんな!殺す気かお前!」

 

俺が叫ぶと、男は眼鏡を押し上げる。

 

「安心してください、急所を外すよう狙いましたから」

 

「そんな問題じゃねえ!怪我させんなって言ってんだ!」

 

「はあ。そいつは吸血鬼ですよ。銃で撃たれてもすぐ再生しますよ。ですので邪魔をしないでください」

 

「見過ごすなんて死んでもヤダね!!」

 

「聖君・・・」

 

俺は月村さんを背に男と対峙する。

 

「しょうがない。吸血鬼から情報を聞き出せたら逃がしてあげるつもりでしたが、しょうがない・・・」

 

男は俺に拳銃を向ける。俺は動かず睨みつける。

 

「死になさい」

 

「聖君!!」

 

引き金引いた。狙ったのは俺の頭。当たれば即死だろう。当たれば、だが。

 

拳銃から飛び出した弾丸は、藍色のシールドに弾かれた。

 

「なにっ!!」

 

「うおおお!!」

 

俺は魔力を刃の形状にしたもので縄を切り、男に向かっていく。男は距離を取ろうとするがもう遅い。俺は拳に力を入れ、顔面に殴りつけた。

 

「であああ!!」

 

「ぐおっ!」

 

「ボス!!」

 

咄嗟のことで反応が遅れた男たちが俺に銃を向けようとする。

 

「シュート!」

 

「がっ」

 

「かはっ」

 

だが、俺はそれよりも速く魔力弾を発射。その場にいた全員を制圧した。

 

「はあ、はあ、はあ・・・」

 

「すごい・・・」

 

 

息が上がっているが、一刻も早くここから月村さんを逃がさないといけない。他の奴らが

来る前に!

 

「へえ、やるなお前」

 

その声を聞いた瞬間、全身の毛が逆立った。大柄な男が外から歩いてくる。あれは、やばい。

 

「魔法コントロールはまあまあ。だが、格闘技のレベルが高いな」

 

男の金色の瞳が、俺を見ている。この感覚、初めてヤミーと会ったときにもあったが、今回はその比じゃない。あれとは格が違う。

 

「資料にお前の顔は無かった。つまり、野良の魔導士か?それも察するに、吸血鬼の嬢ちゃんのボディーガードってところか。だが、それだと微妙だな。俺の不意打ちにすら反応できないんだからな」

 

ここで俺を気絶させた人物がわかった。納得だ。俺は刃物状の魔力弾を操り月村さんの縄を切る。

 

「・・・あんた、魔導士か?」

 

「そうだ。そこに転がってる眼鏡の依頼でな、後から助けに来る奴を迎撃する仕事だったんだが、それどころじゃなくなっているな」

 

「あんたの依頼主はもう倒した。だから逃がしてもらえると助かる」

 

「それは無理があるだろ坊主。お前をぶったおして嬢ちゃんをもう一度捕まえないといけないんだからな」

 

まあ、そうだよな。ダメもとだったし。

 

「だが坊主、お前魔導士になってまだ日が浅いだろ。だから特別に手加減してやる」

 

「・・・手加減って?」

 

「ああ。俺はバリアジャケットを纏わず、魔力弾も使わねえ。こいつだけで戦ってやる」

 

そういうと、男の胸に下げられていたアクセサリーが光り、形を成していく。最終的に大剣になった。

 

「こいつは試作品でな。俺の愛剣はメンテナンス中だ。ハンデとしてはこれで十分だろ。さあ、そっちも早く準備をしろ」

 

「・・・ああ」

 

今レイジングスピリッツは俺の家にいる。そのうえ呼びかけても動けない。つまり、もう俺はオーズになるしかない。

 

「聖君、もういいよ。私が捕まれば聖君が怪我をすることもないよ!」

 

月村さんは不安なのだろう。それもそうだ。こっちはただの学生。あっちはどうみても格上。でも、だからって引くわけにはいかない。俺は月村さん安心させるために声をかける。

 

「大丈夫。今度は、ちゃんと守るから」

 

「・・・!」

 

自然と、そんな言葉がでた。自分でも意味はわからない。でも覚悟は決まった。

 

「月村さん。悪いんだけど、これから見るものは誰にも話さないでね」

 

「え・・・?」

 

俺は胸元からオーズドライバーを取り出して装着する。

 

「なっ、それは!」

 

3枚のメダルをセットする。バックルを傾け、オーズスキャナーを掴む。俺の心臓の鼓動ように鳴っている。

 

「変身!!」

 

バックルにオースキャナーを通した。

 

《タカ!カマキリ!チーター!》

 

体が変化していく。男は驚愕の表情していた。

 

「お前・・・それをどこで手に入れた」

 

男は驚きながらも、質問してきた。

 

「教える義理は無い」

 

この反応、もしかしてオーズについてなにか知っているのかもしれない。

 

「そうか。ならお前を連れ帰って頭をいじくるしかねえなあ!」

 

この場にレイジングスピリッツはいない。今、【聖 悠】の強さが試される。

 

 

 

 

とある会社の一室、そこで鴻上は1人の部下の報告を聞いていた。

 

「永久機関がオーズと接触、戦闘を開始しました」

 

「報告ご苦労。君も彼の戦いを見てみるかい?」

 

鴻上は男にそう問う。だが男の顔は曇っていた。

 

「・・・会長、本当に助けに行かなくてよろしいんですか?」

 

「ああ、必要ない。彼を助けるのはあくまでグリード達との戦いだけだからね」

 

そう答えるが、男は納得しない。

 

「ですが!彼は、聖悠はただの学生です。確かに一般人よりは強いですが、それはあくまで喧嘩の話です。ですから・・・」

 

「彼にオーズとして戦うことを止めさせろと?」

 

男は頷く。

 

「君がそう思うのも無理はない。だがね後藤君。彼が無理なら、この世界にオーズになれる人間はいないんだよ」

 

「それは、どういうことですか」

 

後藤と呼ばれた男は再び問う。

 

「彼、聖悠は、オーズの器になるべくして生まれた存在だ」

 

鴻上は笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

彼は思い出す。その心が熱く滾り、満たされるものを。

 



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ずたぼろと記憶と灼熱コンボ

この作品を書く前から書きたかったところなので今まで一番気合入ってます。自信作なので面白いと思ったら感想と高評価をください!そしたら後三年は書き続けられます!!


あの男はオーズに変身した俺を少しは警戒したが、バリアジャケットを着ていない。なぜなら、それでも俺に勝てると思っているからだ。俺に勝機があるとしたらそこしかない。それほどまでに、俺とあいつとは実力が離れている。

 

俺は構える。男は傍観の構えだ。チャンスは一度。失敗したら月村さんは捕まるのだろう。そうしたら、何をされるかわからない。握っている拳に力が入る。

 

俺は飛び出した。チーターレッグによりその速さはバッタの時とは比べ物にならない。男の横を通り過ぎる際にカマキリソードで切り付ける。

 

「はっ!」

 

「よっと」

 

いなされたが想定内だ。速いだけで倒せる相手だとは思っていない。速さを生かし、さらに二、三、四度通り過ぎながら切り付ける。

 

「流石チーター、速さは一級品だな。だが!」

 

五度目の連撃を与えようとしたところで、男は大剣を軽々と振りかぶる。その軌道とタイミングは俺が通り抜ける軌道とタイミングにピッタリだった。

 

「くっ!」

 

ガキンッ!と大きな音をたててカマキリソードと大剣が衝突する。だが真正面からぶつかったわけではない。俺は自分の速さを殺さないように大剣の軌道を逸らした。男の横を通り過ぎた後、俺は男から少し離れた位置で男の周りを回る。

 

「やっぱり格闘技のレベルが高いな。とても一般人のものじゃねえ。戦い慣れている奴の動きだ。このレベルならそれなりに名が通ってるはずなんだがな」

 

男が何か言っているが聞く余裕はない。俺は回りながら指に魔力を込めた。

 

「シュート!」

 

高速移動を活かした全方位からの一斉攻撃。さあ、こい。

 

「ほいっ」

 

男は大剣を振り回し、魔力弾を一振りで全て薙ぎ払った。やっぱりこいつはむちゃくちゃだ。でも・・・

 

「それを待っていた!」

 

「なっ」

 

薙ぎ払った魔力弾が爆発し、男が煙で包まれる。あの魔力弾の中にいくつか煙を発生させるものを混ぜていたのだ。そして視界がふさがれたら、それを解決しようするよなあ!

 

初めて変身した日と同じように、口角が上がる。

 

「我が敵を貫け」

 

「このっ!」

 

男がもう一度大剣を振り回し、煙を払う。終わりだ!

 

「ブレイクランス!!」

 

「やばっ」

 

男は左腕を向け、シールドを張る。大剣を振り回したから、咄嗟にシールドを選択したのだろう。だがそれが失敗だった。

 

藍色の光槍は、男のシールドと拮抗することなく貫き、男の左腕に直撃した。

 

「があっ!」

 

男の左腕は後ろに弾け、それにつられて男の体も後方に吹っ飛んだ。この魔法、ブレイクランスが俺の切り札だ。

 

作戦は簡単だ。男の隙を突き、ブレイクランスを直撃させる。この魔法の威力は凄まじい。木に当てたらそのまま貫通したからな。男の腕が吹き飛ばなかったのは非殺傷設定というものを使ったからだ。これは魔法による人体へのダメージなくし、魔力と精神にのみダメージを与えるというもの。ブレイクランスの威力を考えるなら、あの男はもう立ち上がれないはずだ。

 

「・・・勝ったよ、月村さん」

 

謎の達成感がある。俺はずっと、これを言いたかった気がする。

振り返ると、ぼーっとしてこちらを見ている月村さんの姿があった。

 

「月村さん?」

 

「・・・はっ!あ、えと、す、凄かったです!」

 

「えっと、ありがとう?」

 

なんか変な会話をしてしまったが、まあいい。とにかくこれで、一分にも満たない攻防は幕を閉じたのだ。

 

 

 

 

「痛ってえなあ」

 

「!?」

 

吹っ飛んだ男が立ち上がった。嘘だろこいつ、人間か・・・?

 

「ますますわからねえ。今の魔法、見た目の割にその内容は複雑だ。俺の腕が動かなくなるほどの威力だ。そのくせ非殺傷設定をデバイス無しで並行してやがる」

 

「お前、痛覚がないのか」

 

痛みで気絶するだろ普通。

 

「一応あるが、他の人間と比べれば感じにくい体質なんだよ。とにかく、今の魔法はとても素人が使えるような代物じゃねえ。なのにお前は、魔導士としてはその程度のお前が使えたのがわからねえ」

 

男が近寄ってくる。どうする?月村さんを抱えて逃げるか?そんなことができるような相手なら最初からやってるだろうが。

 

「なあ、お前。一体誰から魔法を教わった?それ程までに歪な成長をしているのに、師が気が付かないはずがねえ」

 

「・・・お前に話すことは、何もない」

 

少し気になったが、俺がこいつに返す言葉は同じだ。

 

「まあ、いいか。ここからは手加減はしねえ。クリスタルソウル、セットアップ」

 

その一言で男の姿は変わった。先程のラフな格好と違い、警察の戦闘服のような格好になった。

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

男が大地を蹴った瞬間、地面が凹むような音が鳴ったと同時に俺の眼前に大剣が迫っていた。

 

「があっ!」

 

「きゃあっ!」

 

咄嗟にカマキリソードで防いだが俺は後ろに吹っ飛び、月村さんの横を通り過ぎてそのまま壁を破って外に出た。クソいてえ。

 

「気分はどうだ?」

 

「・・・最悪だよ」

 

俺によって開けられた穴から男も出てくる。口は軽いが目がやばい。隙もねえ。ここで俺はあることに気が付く。

 

「これは・・・」

 

「結界だ。実は最初から張っておいたんだ。吸血鬼の嬢ちゃんを助けに来るのは同じ人外らしいからな。そいつらからも情報をとって狩りたかったんだとよ。そんで部外者が入ってこれないように張っといたんだ」

 

なるほど、道理で管理局が来ないわけだ。

 

「そしてこれは俺を倒さなきゃ消えねえ」

 

「本当に最悪だな」

 

もう一度構える。

 

「クリスタルソウル」

 

『ファイアエンチャント』

 

男の大剣が炎を纏う。だが今の俺には、攻めるしか方法がない。俺は大地を蹴った。

 

「であああ!!」

 

「甘え!」

 

加速した勢いを使い高速で切りかかるが、あっさり返され俺は空に弾き飛ばされた。

 

「くっ、我が敵を・・・」

 

「遅え!」

 

「があっ!」

 

空中で詠唱が終わる前に、跳躍した男に叩き落とされる。防御がギリギリ間に合ったが、衝撃を全く流せなかった。というか、さっきからあいつの攻撃が熱い。火傷しそうだ。さっきよりも明らかにパワーが違う。

 

「これで終わりだ」

 

男の大剣から何か音がしたと思ったら、弾薬らしきものが3つ降ってきた。

 

『スターパニッシャー』

 

「やば、ぐっ!」

 

男から先程までとは比べ物にならないほどの魔力を感じる。その場から離れようとしたが、痛みで動けなかった。

 

「ら、ラウンドシールド!!」

 

「スターパニッシャー!!」

 

俺はシールドを空中にいる男に向けて三枚展開する。だが、その内二枚はあっさりと破られる。

 

「ぐ、がああああああああ!!」

 

必死の思いで、残り一枚を維持する。耐えている間、色んな記憶が頭を過った。

 

 

『俺、高志って言うんだ。君の名前を教えて!』

 

『聖君って、意外と甘えん坊さんなんやなあ』

 

『また、一緒に遊ぼう!と、友達だから!』

 

『悠、また無理したのか?たく、気をつけろよ?』

 

『聖、アンタも手伝いなさい!』

 

『それじゃあ、また明日』

 

『聖君もこの本、よっ読んでみる?』

 

 

ああ、どれも懐かしい。シールドにひびが入る。

 

 

『ゆうくん、明日も遊ぼうね』

 

 

あれ、今の娘は誰だっけ?

 

 

パリッ。嫌な音が聞こえる。

 

「聖君!!」

 

最後に聞こえたのは、月村さんの悲痛な叫び声だった。

 

 

 

 

「お前はよくやったよ、坊主」

 

男はすずかが悠に泣きついている姿を眺めている。バックルからはタカとカマキリのメダルが外れており、変身が解けていた。

 

「聖君!聖君!!」

 

「吸血鬼の嬢ちゃん、離れな。別に死んじゃいねえ。まあ、連れ帰ったらほぼ間違いなく殺されるだろうがな」

 

男はすずかを悠から引き離そうとする。

 

「離して!」

 

「そうはいかねえ。というか、嬢ちゃんもそこでまだ寝てるやつらに引き渡すのが、本来の俺の仕事だ」

 

男により、すずかが離れた瞬間、変化は起きた。

 

「a・・・」

 

「!!」

 

男はすずかの腕を掴み、悠から離れる。それは反射的な行動だった。あの場所にいたら殺されるという強いイメージを感じたのだ。

 

「a・・・aaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!」

 

悠は声を上げながら立ち上がる。いや。飛び起き、地面から浮いていた。彼の目は焦点が合っていない。そして先ほどまでの傷が塞がっていく。

 

「なんだ、この馬鹿魔力は・・・」

 

「聖君・・・?」

 

やがてそのなにかは、男に焦点を合わせた。

 

「貴様か。この小僧を倒したのは」

 

「・・・おい、まさかアンタは!」

 

なにかに対して男は問う。

 

「無礼者。だが、褒美に名乗ってやる。私の名h「ブレイクランス!!ごえええええ!!」」

 

「は?」「え?」

 

何が起きたのか。なにかが名乗ろうとした瞬間、なにかが自分で詠唱し、自分の腹に向かって攻撃したのだ。

 

「おええ。滅茶苦茶いてえ・・・」

 

「聖、君・・・?」

 

すずかは動揺しながらもなにか、悠に問う。

 

「あ、うん。一応そう」

 

「・・・坊主、今なにをした」

 

「何って、邪魔だったから取り敢えずぶっ飛ばした」

 

悠がそう言うと、悠の胸が光り、黄色いメダルが飛び出す。それを悠は掴んだ。

 

「まさか!」

 

男が動こうとする。

 

「フラッシュ!」

 

「くそっ!」

 

悠は光を発生させ男の視界を潰した。悠はバックルにトラ、そして新たに手にしたライオンのコアメダルをセットし、オースキャナーを手に取り叫んだ。

 

「変身!!」

 

その場に三度、コインがぶつかる音が響いた。

 

《ライオン!トラ!チーター!ラタラタ~ラトラーター!》

 

 

 

 

彼が本気を出して戦うことができれば、もう誰にも負けることはない。なぜなら、彼は勝利するために生まれてきたのだから。

 




皆さんの感想・高評価、お待ちしてます!


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過去と覚悟と裁きの星

お気に入り、70人突破!!100まであと30人!!皆さんありがとうございます!!!

今回も戦闘回です。


《ライオン!トラ!チーター!ラタラタ~ラトラーター!》

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

金色の戦士となった聖君が叫んでいる。可視化できるほどのエネルギーを放出しているその姿は、どこか神秘的なものすら感じさせる。

 

・・・あんなに傷ついたのに、聖君はまた立ち上がった。聖君はいつもそうだ。誰かを助けるためにいつも無茶ばかりしてる。私は聖君にもう・・・

 

 

 

 

私がまだ小学校にも通っていない程小さいころ、ハンターに攫われたことがある。ハンター達は私をすぐには殺さず、私の家族も一緒に殺すための餌にしたんだ。

 

体を押さえつけられた時、本当に怖かった。自分がこの後何をされるのかわからない程鈍くもなかった。でも・・・

 

「やあああああああ!」

 

同い年くらいの、小さな男の子が私の下に駆けつけてくれたのです。

 

「なんだこのガキ」

 

「誰か捕まえろ」

 

あの日、10人のハンターがいたけど、その内2人は彼が倒した。

 

「やあ!」

 

「ぶべえ!」

 

「こいつやべえ!吸血鬼の仲間か!?」

 

「早く撃て!!」

 

でも彼は足を撃たれて動けなくなってしまった。そこから先は、あまり思い出したくない。

 

「ふざけやがって!!」

 

「があっ!」

 

「なにしてくれてんだこのクソガキ!!」

 

「おえっ!」

 

彼は必要以上に殴られ、蹴られ続けた。でも彼は、ずっと私を見てた。

 

「だ・・・ぶよ・・・たす、け・・・があっ!」

 

ずっと、私を安心さえようとしくれた。痛いのも辛いのも、全部彼が引き受けてくれたのに。私は彼が傷つけられる姿を泣きながら見続けることしかできなかった。

 

「やめろおー!!」

 

その時助けてくれたのが翔君だった。翔君はハンター達を瞬く間に倒して、聖君の傷も治した。

 

「念のため病院に連れて行ってあげて。後、今見たことは誰にも言わないでもらえると助かる」

 

「う、うん」

 

「それじゃあ」

 

翔君とはそれ以降、小学校まで会わなかった。

 

「う・・・」

 

聖君が目を覚ました。

 

「!大丈夫、痛くない?」

 

「ごめ、んね」

 

「え・・・?」

 

「助けられなくて・・・ごめんね」

 

目から涙を流し続けるその顔を、今でも覚えてる。あの時、確かに助けてくれたのは翔君だけど、守ってくれたのは、君だよ?でも、私もつられて泣いてしまった。緊張の糸が切れてしまったのだ。

 

その後、お母さんたちが来てくれた。帰ってこない私を心配したのだ。そして、聖君の記憶から、今日の出来事を消したのだ。

 

わかってる。私たちのことは誰にも知られてはいけない。ハンターたちは何度か吸血鬼という単語を言っていたし、消すのも当然だ。でも、私には一つ、後悔がある。

 

小学校に入学して、なのはちゃんとアリサちゃんと友達になった次の日、私は聖君に再開した。隣のクラスにいたのだ。どうやって声をかけよう思っていた時、彼を見て気が付いた。

 

笑わないのだ。何をしても無反応。興味も示さない。一つの例外を除いて。それは誰かが助けを求めた時だ。彼は誰かを助けようとするとき、一瞬だけ、焦った顔になる。

 

ある日、私は勇気を出して、廊下を歩いていた聖君に質問した。

 

「あの!わっ私、月村すずかって言います。ど、どうしていつも人助けをしてるんですか!」

 

聖君からしたら初対面なのに、我ながらひどいファーストコンタクトだった。でも彼は、答えてくれた。

 

「そうしないといけないって思ったから。よく覚えてないけど、何もできなくて誰かを泣かせた気がするんだ」

 

私はそれを聞いてひどく後悔した。どうしてあの時、「守ってくれてありがとう」って言えなかったんだろう。それが言えていたら、聖君はこんなにも、傷ついていなかったのに。

 

もう彼はその時のことを覚えていない。他の誰かが同じ質問をしたとき、「困ってる人は見過ごせない」と言っていた。

 

でも、私はこの出来事を忘れない。だって、聖君にはもう・・・

 

 

 

 

体中からエネルギーが溢れる。この万能感。もう誰も、俺を止められない。

 

俺は走った。方向はもちろん、男に一直線。トラクローによる突きを繰り出すと、男は反応に一瞬遅れて大剣で防いだが、数メートル程後ろに跳んだ。

 

「・・・おいおい、嘘だろ。さっきのは、あいつで間違いないはずだ。なのに、強引にねじ伏せただと?そのうえコンボにも適応した?・・・お前マジか!あいつがここ十年以上目撃されてねえのは、そういうことだったのか!ははは!!」

 

男が嬉しそうにこちらを見ている。

 

「月村さん、ここから離れて。今度は、ちゃんと勝つから」

 

月村さんに声をかける。もう負ける気がしない。

 

「もういい!」

 

「え・・・?」

 

月村さんが叫ぶ。その顔は、今にも泣きそうだった。

 

「もういいから、聖君だけでも逃げてよ!」

 

「なんで急にそんなこと・・・」

 

「急じゃない!さっきからずっと言ってた!聞かなかったのは聖君!」

 

あれ?えっと、そうだっけ?

 

「いっつも無茶ばっかりして、心配かけて、こっちの身にもなってよ!」

 

「なっ!別に心配してくれなんて頼んでないだろ!」

 

「心配しないなんて無理だよ!だって、だって・・・」

 

月村さんが俯く。

 

「聖君が傷ついてるのは、私のせいだもん・・・」

 

そんな言葉が出てくるなんて、想像もしていなかった。月村さんは優しいのだ。彼女は悪くない。悪いのは全部、月村さんを襲ったやつらなのに。

 

「私は・・・私はもう、聖君に傷ついてほしくないの!!」

 

懇願するような声がその場に響いた。でも、それはちょっと難しかった。

 

「・・・ごめん月村さん、それはちょっと難しいかな」

 

「なんで・・・」

 

「俺が君を助けたいから」

 

「だから、私のことはもう・・・」

 

「違うよ」

 

彼女の目を見る。綺麗な瞳だ。

 

「俺は君と明日も明後日も、何年も後でも直接会って、色んなことを話したいんだ。だから頑張れるんだ」

 

「え・・・?」

 

月村さんが驚いた顔をした。

 

「さっきのは撤回。見てて。ちゃんと勝って、戻ってくるから」

 

最後にそう告げ、男に向き直る。

 

「終わったか?」

 

律儀に待っていてくれたらしい。見た目に反して気が利く。もう会いたくはないけど。

 

「ああ、後はお前に勝つだけだ」

 

俺は構える。男は左腕が動かずぶら下がっているが、右腕だけでも様になっていた。

 

「お前は俺が名乗る相手にふさわしい。俺は永久機関三星、破壊のバルバトスだ。行くぜ、今代の器・・・いや、新たな魔王!」

 

「魔王じゃない、オーズだ!」

 

「それはその姿の名前だろうが魔王様よお!!」

 

俺とバルバトスは互いに一直線に跳んだ。その距離は一瞬でゼロになった。

 

「ぜあっ!」

 

「おらあ!」

 

トラクローと大剣が衝突する。その衝撃は凄まじいものだった。だが・・・

 

「くそっ!」

 

打ち勝ったのは俺だった。バルバトスは後ろに跳んだ。

 

「クリスタルソウル、二段階目いくぞ!」

 

『ファイアエンチャントツヴァイ』

 

大剣が纏っていた炎がさらに激しくなった。あれとまともに打ちあったらただでは済まないだろう。だがこちらにも、先程とは違い手段がある。

 

「はあっ!」

 

「んなばかな!そこまで使いこなしてんのか!」

 

俺は全身に溢れるこのエネルギーを両腕に集中させた。これであれとも打ち合える。

 

「おおおお!」

 

「このっ!」

 

バルバトスの着地を狙い、切り込む。だが、バルバトスは俺の斬撃を弾き再び高くうち上がった。そして空中に留まり、こちらを見下ろしている。

 

「悪いが、仕事を優先させてもらう。さっきからの戦いからしてお前、飛べないんだろ?」

 

確かに俺は飛べない。でも・・・

 

「走れるぜ!ウイングロード!」

 

「なっ」

 

俺はトラクローを地面に突き付けると、そこから藍色に光る道が空中に向けて展開される。その道は多く枝分かれしていて俺が走る道を予測させにくい。

 

「まあ、最短距離で走るんだけどな!」

 

「このっ!」

 

再び両者の武器が交差する。今のところ俺が圧倒している。だが、正直この体があとどれくらい持つかはわからなかった。

 

「おら!」

 

「があっ!」

 

だから、速攻で決めさせてもらう。俺は空いている左わき腹に蹴りを決め、ウイングロードに叩きつける。

 

「バインド!」

 

「しまった!」

 

両腕と両足を固定して詠唱を開始し、バックルにオースキャナーを通した。

 

「我 純白の裁きの星 汝の罪を裁く星 今ここに 」

 

《スキャニングチャージ!》

 

俺の体が白い光に包まれる。

 

「クリスタルソウル!!」

 

『スターパニッシャー』

 

大剣から三つの弾薬らしきものが落ち、バルバトスが右腕のバインドを引きちぎる。互いに準備はできた。俺は新たにバルバトスにつながるウイングロードを展開する。そして三つのリングが形成され、走った。

 

「イノセントー!!」

 

「スター!!」

 

「スター!!!!」「パニッシャー!!!!」

 

二つの眩い光が、激突した。

 




皆さんの感想・高評価、お待ちしてます!


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誕生と中の人と絶体絶命

後2~4話したら日常回を入れようと考えています。そこで、アンケート上位のキャラとの話にしようと思います。皆さんの投票をお待ちしてます!

今回は鴻上会長の会話が終わったら、opが流れる雰囲気で作りました!


「素晴らしい!!新たなる王の誕生だ!!」

 

バッタのカンドロイドから送られる映像を見て鴻上は歓喜した。その映像には、強者を退け、その場で立っているラトラーターコンボのオーズが映っていた。

 

「彼が現れたときは冷や汗を掻いたが、聖君の適性率は彼を上回っていた!それを再認識できたよ。やはり聖君は素晴らしい才能の持ち主だ」

 

上機嫌でケーキを作り始める。彼は今回の件を祝わずにはいられなかった。

 

「これが、コンボ・・・」

 

後藤はオーズの力に驚いていた。あれ程の実力者を圧倒する力。自分にもあの力があれば・・・。そう思ってはいるものの、自分にはあの力を使いこなせる自信がなかった。

 

「会長、お電話です」

 

そこで、ソファーで事務をしていた秘書が鴻上に声をかける。

 

「繋げたまえ」

 

指示に従い、鴻上の前に置いてあるパソコンに眼鏡をかけた男が映った。

 

「調子はどうかね、ドクター真木!」

 

「滞りなく。会長は機嫌がよさそうですね」

 

淡々と返答する。

 

「何と言っても、聖君の成長を見られたからね」

 

「それは何よりです。それではそろそろ、本題に入らせてもらっても?」

 

「ああ、すまなかったね。それで要件は何だい?」

 

「例のシステムがもうじき完成します」

 

それを聞き、鴻上はまたも声を上げて喜んだ。

 

「素晴らしい!!本来の予定より納期が早まったというのにそれに合わせるその手腕、流石だ!!」

 

「ありがとうございます。しかし、急造の為にセルメダルに特化させているため、グリード戦は厳しいかと。ロストロギアというのは厄介なものですね」

 

真木の顔をよく見ると、隈ができていた。

 

「ああ。ジュエルシードが戻って来なければ、もっと余裕があったのだがね。しかし!ジュエルシードはグリードの手に渡り、グリードに大きな影響を与えている!これはきっと彼らを大きく変化させるはずだ!私はジュエルシードが戻ってきてくれて感謝しているよ」

 

「そうですか。それでは私はこれで失礼します」

 

「そういえば今度、奥さんの店でイベントがあると言っていたね」

 

「まあ、はい。この後その手伝いをしなければならないので。それでは」

 

そう言って連絡を切った。

 

「愛の為に働く君の欲望も素晴らしいよ、ドクター真木」

 

「会長」

 

後藤が声をかける。

 

「力を求める君の欲望、素晴らしい!だが、君にはまだ荷が重いよ、後藤君。自分の実力は理解しているだろう?」

 

「それは・・・」

 

だが、その内容を理解していた鴻上は諫める。

 

「それに、候補は既に絞ってある」

 

鴻上がパソコンを操作し、倒れて変身が解けた悠にすずかが駆け寄る映像を閉じると、そこには圭と翔が映っていた。

 

 

 

 

「起きろ、悠」

 

声がする。若い男の声だ。20代前半だろうか。

 

「悲しいことだ。どれだけ声を枯らせば、私の声はお前に届く。・・・いやそろそろ起きてくれまじで」

 

瞼を開ける。真っ白な空間にいた。何もない殺風景な場所に、俺は倒れていた。

 

「どこだここは・・・」

 

「起きたか」

 

その声に合わせ、風が舞う。振り返ると、黒いマントをはためかせた茶髪のロン毛の若い男が立っていた。目元はバイザーをかけていてよく見えない。なんだろう、この格好。どこかで見たことがある。というかコスプレ感がすごい。

 

だがここで俺は思い出した。俺は成すすべもなく大剣を持つあの男に倒されたことを。

 

俺は冷静になる。目の前にいる男には聞きたいことは多くある。あの後どうなったのか、ここはどこなのか。でも、突っ込まなければなるまい。

 

「・・・カツラ、ずれてますよ」

 

「え?あ、やべ」

 

ずれたカツラから金髪が見えた。ほんとなんだろう、この人。取り敢えず俺は立ち上がった。

 

「こほん。悪いが時間がない。手短に話す」

 

「今のを流せと・・・!?」

 

まじでなんなんだよこの人。

 

「お前が倒されたことで、お前の中に封じられていた、魔王が世界を滅ぼそうと動き出した」

 

「え?ちょ、え?」

 

「取り敢えず体を取り戻せ。少し時間がたてば勝手に体を取り戻せるだろうが、待っていたら町が地図から消えるからな。意識が浮上したらブレイクランスを自分にぶつけろ。そうすればあいつは引っ込む」

 

「ま、待ってくだ・・・」

 

「いいから聞け。私の魔法を三つお前の頭に送る。その内一つ以外は無詠唱で使えるから、それを使って隙を作りコンボを使え。そうすればお前を倒したあの男に勝てるだろう。以上だ」

 

自分が言いたいことを言って満足したらしい。呑み込み切れないけど、何となくわかった。俺の中にはレイジングスピリッツとオーズドライバーだけでなく、なんかやばいのも一緒に入っていたと。

 

なるほどなるほど。これもご先祖様関連かな?だとしたら今度墓石に卵でも投げつけておこう。文句を添えて。

 

「・・・取り敢えずあなたが伝えようとしている内容はわかりました。それでは質問です。どうやってコンボになれと?」

 

一つ目はこれ。俺は黄色と緑のコアメダルを2枚ずつしか持っていない。でもこの人の言葉はまるで俺が3枚持っているかのようだ。

 

「そういえば言っていなかったな。ライオンのコアメダルをイメージしながら自分の体から取り出してみろ。感覚はレイジングスピリッツとオーズドライバーが飛び出した時と同じだ。いいか、ライオンだぞ。クワガタじゃないからな」

 

・・・さらっとライオンだけじゃなく、クワガタのコアメダルが俺の中にあるとカミングアウトされたが、次に行こう。

 

「ここはどこですか?」

 

「そうだな・・・厳密には違うが、お前の精神世界のようなものだな」

 

厳密には、というのは気になったがわかった。アニメや漫画でよく見るあれだろう。次の質問に行こう。

 

「あなたは誰ですか?」

 

「私はお前の先祖にあたる者だ」

 

「卵投げつけていいですか?」

 

「なんでそうなる!?」

 

先祖いたわ、目の前に。石ないかな石。でも投げつけられるものもここには何ないからな・・・。

 

どうしようかと悩んでいると、俺の体が光の粒子になり始めていた。

 

「これは・・・」

 

「意識が浮上し始めたな」

 

まじか。この人にはまだ聞きたいことがあるのに。でも、月村さんも心配だ。優先順位を間違えてはいけない。

 

「今度こそあの女の子を守ってやれよ」

 

さっきから言葉がフランクだ。こっちが素なんだろうか?すると、3つの魔法が頭に浮かんだ。さっき言っていたのはこれか。

 

「・・・はい。今度は守ります。あなたからもらったこの魔法を使って!」

 

体の半分以上が無くなった。

 

「最後に伝えておくことがある」

 

「何ですか?」

 

こんな戻る直前になんだろうか?

 

「最近お前の思考がおかしくなることがあっただろう。それ、オレの記憶が混ざったせいだ」

 

「え?」

 

思考?なんのことd・・・

 

『だ・・・駄目だ、今は笑うな。こらえるんだ・・・戦闘中だぞ。で・・・でも・・・』

 

『君は真の天使だ。そこの天使の皮をかぶった悪魔から俺を守ってくれ!』

 

『俺、聖 悠!人助けが趣味の中学2年生!ある日、1人で下校しているとき怪しい集団を発見。後をつけると月村さんが銃を突き付けられ拘束されていた!通報してから助けに入ろうとした俺は背後に近づく男に気づかなかった。気絶させられた俺は、目が覚めると・・・体が縛られていた!月村さんに「どうしているの?」と聞かれた俺は咄嗟に「君を助けに来た」といい、どこかの廃工場に転がっている。見た目は学生、中身も学生。その名は、オーズ!』

 

「お前の仕業かー―――!!!」

 

無自覚だったけど、確かに前の俺じゃあこんな変なこと考えねえ!

 

「わるいわるい。それじゃ頑張れよ、当代の正統なる聖王にして、新たなるオーズよ」

 

そして俺は真っ白な世界から姿を消した。

 

 

 

 

「ここは・・・」

 

瞼を開けると、目の前にモニターのようなものがあった。それ以外は真っ暗だ。そのモニターにはあの男と月村さんが映っている。人の視界を映画館で観てるみたいだ。

 

「なるほど、こういうことか」

 

なんか俺の体を使って喋ってるっぽいな。よし、やるか。

 

『叫べ!その魔法の名は・・・』

 

なんか声がするけど無視!

 

「私の名h『ブレイクランス!!ごええええ!!』」

 

俺にもダメージがあるのは聞いてねえ!

 

 

 

 

目が覚める。最初に見たものは綺麗な天井だった。なんというか、豪邸の天井というか。

 

「知らない天井だ」

 

よし。名言は言ったし、現状確認だな。なんか、悪夢を見てた気がするけど。いや悪夢じゃねえ現実に起こったことだこれ。

 

「んっ・・・」

 

体を少し起こす。温もりを感じると思ったら月村さんが俺が寝ているベッドの隣に椅子に座って、腕を枕にして俺の横で寝ていた。なるほど道理であったかいと思った。

 

・・・

 

「へあっ!!」

 

思わず変な声が出てしまった。

 

「んう・・・?」

 

月村さんが起きてしまった。目を擦っている。可愛い。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「「・・・」」

 

お互い見つめ合っている。だが、月村さんの表情が徐々に変化した。

 

「・・・!」

 

この沈黙を先に破ったのは、眠気が去った月村さんだった。

 

「聖君!!」

 

月村さんが抱き着いてきたたたたたた!!!

 

「ギブ!ギブ月村さん!俺怪我人だから!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「あ、いや、大丈夫だから。気にしないで」

 

謝りながら解放してくれた。フォロー入れたけど、ちょっとだめそう。というか今更だが、俺の腹には包帯が巻かれていた。見るからに重症だ

 

再び静寂が訪れる。いや、ここは俺から話しかけるべきだな。よし!

 

「えっと、ここはどこなの?」

 

「あ、ここは私の家だよ。傷がまた開いてて、治療しないといけなかったから・・・」

 

「また?」

 

「うん。聖君が別人みたいになった時、傷が塞がってたんだけど、覚えてない?」

 

そういえばそうだった気がする。傷が開いたのはコンボの影響だろうか?

 

「傷はまたすぐに治ったんだ。でもお腹の痣はそうじゃなくて・・・」

 

「一番のダメージがまさかの自傷!?いでで」

 

「大丈夫?」

 

いや、よりにもよってこの腹の奴かよ。めっちゃ恥ずかしいじゃん・・・。よし、切り替えて話を続けよう。現実逃避じゃないぞ?

 

「だ、大丈夫。それより、何が起きたか教えてくれないか?あいつに大技ぶつけた後の記憶がなくて」

 

「う、うん。聖君がバルバトスって人を吹き飛ばした後、聖君が倒れちゃったんだ。そしたらそのタイミングでお姉ちゃん達が来てくれて、そのまま聖君を家に連れてったんだ」

 

なるほど、状況は理解した。じゃあ次の質問だ。

 

「俺のことは・・・」

 

「私達と同じで特別な力を持ってるって言ってそれ以上は話してないよ。本当は一般人って言えればよかったんだけど、クレーターとかがすごくって誤魔化せるような状況じゃなかったから・・・あ、でも魔導士ってことは言ってないよ?困ると思ったから」

 

「ほんと助かる。いやマジでありがとう」

 

よかったー、可能な限り誤魔化してくれてて。・・・?

 

「魔導士という存在をご存じ?」

 

「うん。私の家に管理局が使ってる時空転送装置があるんだ」

 

「ゑ?」

 

変な声が出てしまった。いや、だって、え?

 

「えっとね?私とアリサちゃんはなのはちゃん達が魔導士ってこと知ってるよ?」

 

「まじか・・・」

 

ここにきて、衝撃の新事実が明かされた。いや、高町さん達と親友の時点で察することができたかもしれないが。

 

ここで、扉がノックされた。

 

「すずか、入るわよ。あら、悠君も起きてたの」

 

入ってきたのは、月村さんを成長させたかのような美人だった。さっき言っていたお姉さんだろうか?

 

「失礼する。そうか、起きたのか。体の調子はどうだ?」

 

後ろから黒髪の男性が入ってきた。イケメンだなー。彼氏さんかな?

 

「えっと、お二人は・・・?」

 

「自己紹介がまだだったわね。私は月村忍。すずかの姉よ」

 

こっちは予想通りだな。

 

「俺は高町恭也。忍の・・・彼氏だ」

 

ちょっと照れくさそうに言う。いやそれよりも・・・

 

「あの、高町って・・・」

 

「君も聖祥というのはすずかから聞いているよ。君の予想通り、俺はなのはの兄だ」

 

「え」

 

俺は今、管理局の高町さんにオーズの正体がばれかねない事態に陥っていた。

 




今までの中で文字数が最大になっていた・・・だと・・・?

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友達と謝罪と許し

お久しぶりです。長らくお待たせして申し訳ございません。
何とか小説を書く習慣を取り戻せたので、これからはもっと早く投稿できるよう頑張ります。


「君の予想通り、俺はなのはの兄だ」

 

「え」

 

まずい。もしこの人に俺がオーズとばれたら、その情報がそのまま高町さん伝わりかねない。どうすればいい!?お、落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ。素数は孤独の数字・・・黙れ先祖!!今度の元ネタはなんだ!?取り敢えず、会話だ。

 

「た、高町さんってご兄弟がいらっしゃったんですね。知りませんでした」

 

「俺だけじゃなく、長女に美由紀って妹もいるんだ。家は三兄妹なんだ」

 

「そうなんですね」

 

他愛ない会話をして心を落ち着かせる。

 

「お話の途中に悪いんだけど、そろそろいい?」

 

月村さんのお姉さんが声をかける。

 

ここからが本番だ。きっと俺の正体の話をするのだろう。月村さんは俺が何かしらの異能を持っていると話したらしい。なら、何も話すことはできません、と押しきれないかなー。一族の掟みたいな感じで。・・・無理だろうな。

 

「まずは御礼を。妹のすずかを助けてくれてありがとうございます。あなたのお陰ですずかは怪我もせずにすみました」

 

そう言って月村さんのお姉さんと高町さんのお兄さんが頭を下げる。

 

「頭を上げてください。俺はあたり前のことをしただけです」

 

御礼を言われるようなことはしていない。月村さんは何も悪くない。あのハンター?はヤミーを追っていたし、確かバルバトスと言う人も魔導師だったからな。あれ?月村さん完全に俺達魔導師に巻き込まれた被害者じゃね?

 

「中々そんなことを言える人はいないわ。それを実行できる人もね」

 

いい話風にまとめようとしてくれてるけど違うんです。巻き込んでごめんなさい理由も話せなくてごめんなさいほんとごめんなさい。

 

「そしてもう一つ大事な話があるの」

 

動揺を顔に出さないようにしていると、真剣な表情になった。遂に俺の正体について切り出すのか・・・

 

「私達吸血鬼、夜の一族について、あなたに話すわ」

 

そっちかーい。

 

 

 

「・・・つまり、月村さん達の家系は代々すごい吸血鬼で、正体がばれたら記憶を消さなきゃならない、と」

 

「そうそう」

 

さっき聞いた内容を自分なりにかみ砕いて問う。その質問に気軽に答えてくれた。

 

「じゃあ今から俺、廃人になるんですか・・・?」

 

「まさか全ての記憶を消すと思ってるの・・・?」

 

恐る恐る聞いてみたが、一番恐れている事態にはならないらしい。よかったよかった。

 

「さて、それでは聖君に質問です」

 

「はい?」

 

改まってなんだろう。

 

「あなたには二つの選択肢があります。一つは私達夜の一族についての記憶を消して穏やかな生活に戻るか、そしてもう一つは・・・」

 

「お姉ちゃん!」

 

さっきまで喋らなかった月村さんが声を荒げる。だが月村さんのお姉さんは月村さんの顔の前に手を出し静止させる。

 

「彼は恩人。だから、彼にちゃんと聞かないと」

 

月村さんは顔を俯かせ、座り直す。高町さんのお兄さんは静かにその様子を見守っていた。

月村さんのお姉さんがこちらに向き直る。

 

「・・・もう一つは記憶を消さず、生涯秘密を守り、すずかの友達、もしくは家族になること。あなたはどうしたい?」

 

「月村さんと、友達・・・」

 

「家族ってところはスルーなのね・・・」

 

月村さんとは小学校の頃からの付き合いだ。気に入った本の話をしたり、勉強を教わったこともあった。何かと助けられることもある。でも八神と絡むと小悪魔化するんだよな。おしとやかに見えてS毛がある。それが、俺が知っている月村すずかだ。

 

いいのだろうか。あの日、彼女を助けられなかった俺が友達になっても。

 

月村さんの顔を見ようとするが、俯いていてよく見えない。だが、体がわずかに震えていた。あれはきっと怯えているのだ。何に?

 

知っている。あの姿を俺は何度も見た。理由は今も思い出せない。でもあの頃の少年(聖悠)は、また拒絶されることに怯えていた。

 

ここで大事なのは、俺の気持ちだ。俺が月村さんと友達になりたいか、そうじゃないか。深呼吸をする。

 

「月村すずかさん」

 

月村さんの体がビクッと跳ねた。恐る恐る顔を上げた。

 

「なん、でしょうか」

 

「俺と、お友達になってください」

 

目を見て、はっきり言う。俺の言葉を聞いて、月村さんの表情は不安そうなものからわずかに笑っていた。

 

「はい。今後とも、よろしくお願いします」

 

月村さんの瞳から、一滴の涙が流れた。

 

「よかったねすずか、友達になれて。まあこの雰囲気は友達というより恋人になる感じだけどね」

 

「お、お姉ちゃん!そんなんじゃないから!」

 

月村さんのお姉さんがからかう。そこはからかっちゃダメでしょ。折角新たな友情が育まれたというのに。

 

「そうですよ。恋人じゃなくて友達です」

 

しっかり友達という部分を強調する。すると一瞬で部屋が静まり返った。

 

「え、何ですか」

 

高町さんのお兄さんと月村さんのお姉さんが『まじかこいつ』と言いたげな目で見てくるし、月村さんも「あはは、そうだよね。それが聖君だもんね・・・」と言って目が死んでいる。なぜだ?

 

「聖、流石にそれは色々と駄目だと思うぞ、男として」

 

「え」

 

この時、『王は人の心がわからない!』というセリフが頭を過った。

 

 

 

 

悠とバルバトスが戦った少し後、人気のない場所でバルバトスは仲間と連絡をとっていた。

 

「あー、聞こえるかー」

 

「何よもう、仕事は終わったの?」

 

「わりい、しくじった。体中傷だらけでやばいから回収しに来てくれ」

 

「・・・ごめんなさい。もう一度言ってもらえる?」

 

「邪魔が入って任務失敗。自力で帰還できない程の大けがをしたから回収してくれ」

 

バルバトスは痛みに顔を歪めながら木に寄りかかる。

 

「管理局に見つかったの?じゃあ見捨てるしかないけど。それに怪我って、あなた時間と魔力があれば腕も生えるじゃない」

 

「管理局には気取られてない。オーズに変身した魔王が吸血鬼の嬢ちゃんを助けに来てボコボコにされただけだ。変な魔法食らってから体の魔力の流れもおかしいし」

 

「ごめんちょっと何言ってるかわからない。もっとわかりやすく説明してくれない?」

 

「魔王のってところか?」

 

「いやオーズってところもなんだけど。というか大丈夫?地球無くならない?」

 

女性はひどく心配していた。地球で調べたいことはまだ多くあり、魔王の存在でこれまでの計画が全て台無しになりかけていたからだ。

 

「無くならないと思うから安心しろ。詳しい話は帰ってからするからよ」

 

そういうと、バルバトスは木にもたれかかりながら座り込んだ。

 

「あなたね、簡単そうに言うけど、リーブのレプリカがあると言っても、本物より魔力消費が多いんだからね!それに管理局の目をかい潜らないといけな・・・」

 

「取り敢えず俺は寝る。後は頼んだ」

 

「ちょっと!」

 

通話を切り、目を閉じる。思い浮かべるのは先ほどまでの戦いの光景。謎の魔法を受けてから本調子ではなかったうえに、愛機もなかったとはいえ負けは負け。そもそも油断していなければあの謎の魔法も受けずに済んだだろう。

「次に戦うのが楽しみだ」

 

そう呟いた彼は、深い眠りについた。

 

 

 

 

気まずい雰囲気を乗り切り少し遅めの昼食を取った俺は、制服に着替えた。何でも、事件当日から丸一日眠っていたらしく、今は日曜の3時。急いで帰らないといけない。レイジングスピリッツが心配しているだろう。

 

「もう行くの?」

 

着替え終わった後、月村さんが入室して様子を見に来た。少し寂しそうだ。

 

「ああ。傷の治療は家で待ってる家族に頼めばすぐ直るし、何より事情を説明しないと。もちろん月村さん達のことは内緒にして」

 

そう。急いで帰らないとレイジングスピリッツがなにするかわからない。下手したら管理局の地球支部とやらに殴りこんで、マスターはどこだ!とかやりそうだし。何かと理由つけて管理局を叩き潰そうとしそうで怖いんだよあいつ。

 

でもその前に、やるべきことがある。

 

「月村さん、帰る前に少しいいか」

 

「改まってどうしたの?」

 

月村さんがキョトンとする。

 

「謝りたいことがあるんだ。小学校に入る前。君が攫われそうになった時、助けられなくてごめん」

 

頭下げる。あの時の記憶を思い出した時、謝らないといけないと思ったんだ。

 

「ま、待って!あの時聖君は何も悪くない!今も感謝しているし、寧ろ私が謝らないといけないと思ってて・・・あれ?聖君、どうして覚えてるの?」

 

「さっきの友達になる話の時にすっと思い出した」

 

「え、そんなことがあるの・・・?」

 

「いや、わからん」

 

何なら記憶消されたことも思い出した。なんか俺の中に先祖いたり魔王なんていうよくわからん奴もいるし、俺の体どうなってるの・・・

 

「と、とにかく頭を上げて!聖君が悪いところは何もない!私はずっと感謝していたの!だからお願い、頭を上げて!」

 

「・・・わかった」

 

頭を上げて月村さんを見る。

 

「謝らないといけないのは私なの。あの時お礼を言えなかったこと、そして記憶を消したこと。本当にごめんさない」

 

「いや君も頭上げて!?人にやるなと言ったことを言った直後にやらないで!?」

 

「・・・うん」

 

何とか頭を上げてくれたが、若干納得してない様子だ。

 

「記憶を消されたのは別にいいよ。さっきのお姉さんの説明で納得してるし。それに・・・」

 

「それに?」

 

「さっき謝った奴が何言ってんだと思うだろうけど、謝れるよりお礼言われる方がうれしい」

 

なんだろう、さっきからお互いの言葉が見事に返ってきてブーメランが突き刺さってるな。

 

「・・・うん、わかった。聖君、昔も今も私を助けに来てくれて、守ってくれてありがとう」

 

「・・・なあ、本当に恨んでないのか?助けたのは結局翔だったし・・・」

 

「助けてくれたのは翔君だったけど、それまで守ってくれたのは聖君だよ。私はずっと感謝していたの。だから、あまり自分を責めないで」

 

月村さんは俺の目をしっかり見てそう言う。そうか、月村さんは助けられなかった俺のことを恨んでなかったし、俺が守ったと思ってくれていたのか。そっか、俺はあの日、彼女を守れていたのか。

 

「・・・何もできない役立たずって思っていたのは、俺だけだったのか」

 

「聖君?」

 

「月村さん」

 

「は、はい!」

 

急に声をかけたので月村さんが少し驚く。

 

「ありがとう。それから、どういたしまして」

 

「! うん!」

 

これでいい。いや、これがいい。ちょっとだけあの頃の自分を許せる気がしてきた。

 

「ねえ聖君。私からも一ついい?」

 

「? 何?」

 

尋ねると、月村さんは深呼吸をして心を落ち着かせた。こちらも思わずちょっと身構える。

 

「私、これからは聖君のことを名前で呼びます。だから聖君も、私のことは名前で呼んで。敬語も無しで」

 

「あ・・・」

 

そうだ。俺と彼女はもう友達だ。寧ろ名前で呼ばないと失礼じゃないか。

 

「わかった。これからもよろしくな、すずか」

 

名前を呼ぶと、すずかは笑顔になった。その笑顔は、まるで彼女の周りに花が咲き乱れたかと思ってしまうほど美しかった。

 

「末永く、よろしくお願いします。悠君」

 

あまりの美しさと名前を呼ばれた気恥ずかしさに顔をそらしてしまう。

 

「・・・?」

 

「そ、それじゃあ!俺は帰るよ」

 

ドアノブに手をかけるがそこで止まる。

 

「・・・また明日、すずか」

 

「うん!」

 

別れを告げて俺は部屋を出た。その後、外ではすずかのお父さんとお母さんが待ち構えており、今回の件のお礼と幼少期の件で記憶を消したことの謝罪を車の中でされた。家で行わなかったのは、すずかのお姉さんは次期当主なのでこういった件の対処を学ばせるためらしい。

 

それからすずかとはどういった関係だとか、どう思っているだとかを主にお母さんに聞かれたから「大事な友達です」と答えたらさっきの気まずい雰囲気になってしまった。お母さんに至っては「すずかの道のりはまだまだながいわね・・・」とか言っていたけど、なんのことだろうか?

 

それと俺のことを聞かないのかと質問してみたら、「話かったら聞くけど、できれば誰にも話したくないのでしょう?」と言われた。今更だけど、滅茶苦茶気を使ってくれてたんだな。

 

そんなこんなで、俺は無事ではないが家に帰ることができたのだった。

 




誤字報告いつも助かっています。ありがとうございます。

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帰宅とウィルスと信じたい気持ち

やっとできた・・・お待たせしました!


「ただいまー・・・」

 

慎重に帰宅する。あちらの反応を窺わなければならないからだ。なんせ学校からは帰って来ず、そのまま丸一日たっていたのだ。正直怒っててもおかしくない。後、このボロボロの姿を見られたらどうなるかもわからない。トチクるって何も知らない管理局に特攻かましかねない。怖い。

 

『・・・マスター?』

 

玄関の向こうからひょこっと青い球体が現れる。

 

「えっと、今帰ったよ?」

 

「・・・マスター―!!」

 

「グボアッ!」

 

その小さな体からは信じられない程のスピードを出して俺の腹に特攻をかます。俺の方は体がボロボロなのでまともに動けずに直撃。よりにもよって自傷したところに当たったため、今にも膝から崩れ落ちそうだ。

 

『ほんとにどこ行ってたんですか心配してたんですよ!改造が終わって夜になってたのに家に帰ってきていないから慌てて外にでて飛び回って探したんですよ!姿を見られるわけにもいかないから魔力探知も使えなくて全然見つけられなくてずっと不安だったんですからね!』

 

レイジングスピリッツが俺の懐(自傷した痣の真上)にくっつきながら早口で喋る。喋るたびに音で腹が震えるため滅茶苦茶痛い。これが球体じゃなく人なら上目遣いしてきているみたいで可愛いんだろうな。

 

「そ、それならインビシブ・・・」

 

「インビシブル使ってる最中に魔法使ったら効果が切れちゃうの忘れたんですか!結界などの予め魔力で作ったものを対象にしたものならそれ自体に魔力による変化がなければ効果は持続しますが私自身を対象にしているとき魔法を使ったら丸見えですよ!というか今はマスターの体の中に入れてるので手元にもありませんでしたよ!あれ、マスター大丈夫ですか?顔色悪いですよ」

 

遊戯王のルールみたいな難解な効果説明を終えて俺の様子にようやく気付いたらしい。

 

「ちょっと怪我してて・・・」

 

『いや全然ちょっとじゃないですねボロボロですしなんなら生まれたての小鹿みたいに足が震えてます』

 

「いやそうなったのはお前の突撃のせい」

 

『い、いやそれはマスター帰ってこないうえに連絡もくれないからで・・・』

 

「それは。そうなんだが・・・」

 

いやしょうがないじゃん。だってあんな二足歩行して服着てる化け物が襲ってくるとは思わないじゃん? あ、そろそろ限界だ。

 

「と、取り敢えず治療、頼ん、だ・・・」

 

『マスター?マスター!?』

 

言葉を遺し、俺は息絶えた。

 

 

 

 

「え、いやおま、え?」

 

目が覚めると、真っ白な空間にいた。すっごいデジャブだ。取り敢えず目の前にいるサングラスをかけた金髪の男に声をかける。

 

「えっと・・・へっへい大将、やってるぅ?」

 

「いや軽っ。というか何でまた来ちゃうかなお前・・・」

 

子孫が会いに来たっていうのになんかすげえ迷惑そうにするなこの先祖。ちょっとイラっときた。

 

「何でそんなに嫌がるんだよ。孫が会いに来たようなもんだろ?丁重に扱え」

 

「なんでふんぞり返るんだよ!というか敬語はどうしたんだよ敬語は!」

 

全く、敬語が何なのかもわかってないのかこいつは。しょうがない、教えてやろう。

 

「敬語ってのは尊敬に値する相手に使うものだろ?」

 

「俺はそうじゃないって言いたいのか」

 

なんだ、わかってるじゃないか。

 

「おいそのわかってるじゃないか顔止めろ!はったおすぞ!というか何で尊敬できないんだよ」

 

「いやだって管理局とうちの家系が敵対関係にあるのは先祖達のせいだろうし、魔王なんていうのが俺の中にいるのも先祖達のせいだろう?何よりグリードがいるのも先祖たちのせいだろうが」

 

「くそ、微妙に否定しきれないことを・・・」

 

何で微妙になんだよ。完全に否定しきれないだろこれは。こっちはそのせいで迷惑かぶってるんだからな。コアメダル製作に1人の魔導士が関わってるって鴻上さんの情報にあった。多分というかほぼ間違いなくうちの先祖の一人なんだろうなーと思ってたけど、それ以上情報がなかったんだよな。後でレイジングスピリッツに聞いても知らないと言われたし。

 

「あ」

 

「どうした?」

 

大事なことを思い出した。迷惑かけられているとはいえこれはちゃんと言わなきゃな。

 

「あの時助けてくれてありがとう。おかげで友達が怪我せずにすんだよ」

 

「はあ・・・おまえさあ」

 

呆れてる雰囲気を出してきた。

 

「なんだよ」

 

「・・・いや、言ったところでお前は変わらねえか」

 

・・・?まるで意味がわからんぞ。でも答える気もなさそうだしな。・・・そういえば

 

「なあ、俺うっかり気絶したけど、魔王って出てくるの?」

 

ここでちょっと冷静になったので質問してみる。もしそうならもう一度自分の腹にブレイクランスを撃ち込まないといけないうえに、下手したらレイジングスピリッツに危害が加わるかもしれない。・・・いや、やっぱあいつが負ける姿が思いつかないわ。

 

「ん?あーそれなら大丈夫だ。前のブレイクランスで今もあいつはダウンしてるし、万が一起きても近くにレイジングスピリッツがいるからお前の体が痣だらけになるだけで済む」

 

「一体どこが大丈夫なんだよ!?今あれ食らったら死ぬぞ!」

 

やっぱりレイジングスピリッツじゃなくて自分の心配をするべきだった。冗談じゃねえ、俺は自分の体の中に帰らせてもらう!・・・またか!

 

「なあ、ちょいちょい知らないセリフが俺の頭の中を過るんだけど、どうにかならないかこれ」

 

「無理。俺の記憶が既にお前の中にインプットされてるからな」

 

「ウイルスに感染したパソコンの気分だ・・・」

 

「誰がウイルスだ誰が」

 

ここで俺は違和感に気付く。

 

「ちょっと待て、何であんたがパソコンを知ってるんだ?パソコンができて100年もたってないだろ」

 

先祖って言うと、そもそも電子機器の類がないレベルの時代の人間を連想していたんだけど。そういえば前にレイジングスピリッツが他の世界には地球より文明がずっと進んでるところがあるって言ってたな。あれ、もしかして聖家って地球生まれじゃない・・・?

 

「ああ、実はちょいちょい外の様子を見てたんだ。とは言っても、長時間見れるようになったのはお前からだけど」

 

「ふーん・・・ん?」

 

おい今こいつなんつった?

 

「お、もう時間切れらしいな」

 

体が光の粒子になっていく。

 

「待て、俺からってどういうことだ?」

 

「言ってなかったか?先祖代々俺の精神は次の世代に移っていくんだ」

 

「気持ち悪!?それじゃああの魔王ってのも!?」

 

「お前ほんと容赦ないな!・・・まあそれはしょうがないか、俺も同じ立場だったら嫌だし。それとあいつに関してはお前が産まれたときに入ってきたから先祖云々は関係ない」

 

「はあ!?」

 

「んじゃ、できればもう来るなよー」

 

「ちょっとまてぇー-!!」

 

白の世界から、1人の青年が姿を消した。

 

「にしてもあいつ、変なところがあいつに似てきたな。一応俺の子孫なのに」

 

 

 

 

「待ちやがれスパム野郎!!」

 

『きゃあ!』

 

大声を出しながら飛び起きる。あの野郎、あの感じから俺の体に何が起こってるのかわかってそうなのに全然説明しなかった。いや聞かなかった俺も悪いんだけど!・・・やっぱこれまでの諸々考えると別に尊敬に値しないな、次会ってもため口でいいだろ。

 

『マ、マスター?』

 

考え事をしていると横から声を掛けられる。青い球体が心配そうに俺の様子を窺っていた。

 

「あ、ごめんレイジングスピリッツ。ちょっと変な夢見てて。って、それよりすげえな、さっきから体が全然痛くない」

 

『もちろんです!専門は戦闘ですが、私に使えない魔法はありませんよ』

 

ピカピカ光りながら自慢げに答えてくる。顔があったらドヤ顔してそうだ。

 

『それじゃあ治療も終わりましたし、そろそろ・・・マスターがなぜ帰ってこなかったのか、大けがをしていたのかを説明してください』

 

レイジングスピリッツが真面目な口調で聞いてきた。

 

「わかった。でも長くなるからな」

 

それから俺は、一つずつ話していった。すずかが誘拐されたこと、物陰からその現場を見た俺がかなり強い魔導士に不意打ちをくらって一緒に連れられて行ったこと、そして誘拐犯達を撃破後、魔導士と戦闘し辛くも勝利したことを話した。

 

話していないことはすずかが吸血鬼であること。誘拐された理由は金銭目的と言っておいた。

 

そして二つ目、俺の中で先祖にあったこと。話さない理由は三つ目の存在にある。

 

三つ目、コアメダル、そして魔王と呼ばれている何かが、俺の中にいることに俺自身が気付いていること。

 

レイジングスピリッツは確実に何かを隠している。隠したかったのは魔王って存在のことなのか。というかそもそも、俺の体は今どうなっているのかまるでわからない。今冷静に考えれば、人間の中にポンポン異物が入るものなのか?レイジングスピリッツが俺の体から飛び出した時におかしいと思うべきだったかもしれない。でも・・・

 

『マスターがそんな大変な時に傍居なくて、申し訳ございません』

 

でも俺は、彼女の言葉を疑いたくなかったんだ。

 

「謝らないでくれ、不要に近づいた俺も悪い。それに、そんな終わったことより、レイジングスピリッツがどんなパワーアップしたかが聞きたいかな」

 

これ以上レイジングスピリッツが気を落とさないように話題を逸らす。正直、今はまだレイジングスピリッツのこと信じきれていない。だけど、レイジングスピリッツが俺を利用したり、陥れようとしているようには思えない。

 

だから、いつか話してくれるまで待ってみることにした。

 

『・・・聞きたいんですか?』

 

「もちろん」

 

レイジングスピリッツがパァーっと光る。喜んでいるのはわかるけど、絵面が面白いな。

 

そして俺は後悔することになる。忘れていたんだ、自分語りになると話がなることを。レイジングスピリッツが満足して話し終えるのに1時間はかかった。話し終えた時には俺は屍になっていた。

 

 




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大事件なの!

まずい、日常回を書きたいのに他に書きたいものが多すぎて日常回にたどり着かない。後2話、後2話書いたら日常回書くので楽しみに待っててください!


土曜の休日、とある喫茶店で2人の美少女が向かい合っていた。一方は茶髪のサイドテールが特徴的な少女、高町なのは。もう一方は長髪の金髪、そして両サイドの髪留めが特徴的な少女、アリサバニングスがいた。

 

「それで?わざわざ翠屋じゃなくて別の喫茶店で呼び出したのか、話してくれない?」

 

アリサが切り出す。なのはの実家は翠屋という喫茶店を営んでいる。そこのデザートが絶品なのだが、今回はその話を割愛する。

 

「うん。これはあまり他の人には聞かれたくなかったんだ。家の店はいつも人が多いから安心して話せなくて・・・」

 

「だから人がいない寂しい雰囲気のこの店を選んだと」

 

「人聞きが悪いよ!ここは夜のバーとして賑わってて、昼は知る人ぞ知る名店なんだよ!」

 

「わかった、わかったから。確かにこのケーキも桃子さんのケーキとも見劣りしないレベルで私も驚いてるわよ」

 

そう言ってまた一口ケーキを口に運ぶ。

 

「話を折って悪かったわね。それで話って?」

 

「えと、その・・・」

 

なのはが俯きながら指をいじりだす。

 

「ああもう!ここまできてなに言い淀んでんのよ!」

 

アリサがここで痺れを切らした。

 

「フェイトちゃんに・・・」

 

なのはが口を開く。

 

「フェイトに?」

 

「・・・フェイトちゃんに、彼氏ができたかもしれないの・・・」

 

「・・・え? え―――!!!」

 

驚きのあまり大声を出して立ち上がってしまい、店のマスターが何事かとこちらを見やる。それに気づいたアリサは「すみません、なんでもありません」と伝えて座り直す。

 

「フェイトに?彼氏が?」

 

その言葉になのははこくんと頷く。

 

「その根拠は?」

 

「異変に気付いたのは今週の水曜日。その日は大きなヤミーを倒したんだ。」

 

「ああ、ニュースになってたビルに張り付いてたのに急に姿が消えたっていうあれね」

 

アリサの問いにぽつぽつと答えていく。

 

「報告書を書き終えた時に買い物袋を持ってることに気付いたの。おつかいの帰りに戦ったのって聞いたら、なぜか歯切れが悪かったんだ」

 

「・・・どんな感じに?」

 

「こう、『そ、そうなんだ、おつかいなんだこれ』ていう感じ」

 

「確かに怪しいわね・・・」

 

「そして昨日、新しく作った海鳴市の管理局支部で会った時、フェイトちゃんは指を怪我していたの」

 

「・・・ねえそれってただ隠れて料理の練習してるだけj「それだけじゃないの!!」」

 

ダンッと机を叩く。その音を聞きつけてマスターがまた様子を見に来るが、「ご、ごめんさなさい」となのはが謝り、カウンターに戻っていく。

 

「その怪我はどうしたのって慌てて聞いたんだ」

 

この時、なのはは戦闘による怪我なのかを心配していた。それもそのはず。左手の指をあちこち絆創膏で巻いていたのだ。

 

「確かに昨日フェイトは休んでたわね。見回りしてたのね」

 

金曜はフェイトが見回りの当番だったため、学校に来ていなかった。海鳴市から離れた町でも見回りを行っているため、どうしても人手が足りないのだ。

 

「うん。それで、帰ってきた言葉が『えっと、内緒』だったの!」

 

「さっきからモノマネうまいわね」

 

「アリサちゃん、ちゃんと聞いてる?」

 

アリサは若干集中力が切れていた。今の段階で既になのはの勘違いと考えている。

 

「あーはいはい、聞いてるわよ。それで、内緒にされたからってどうして彼氏がいるって話になるのよ」

 

面倒なことになりそうなので適当に話の続きを促す。再びなのはは語りだした。

 

「その時の顔がね、なんだかうれしそうだったんだ。だから何となく、昨日何かいいことでもあったの?って聞いたの」

 

「なんか浮気を疑う彼女みたいね」

 

アリサの突っ込みを気にせず早口で続ける。

 

「そしたら『うん。あ、えっと、昨日は料理を作ってね、おいしいって言ってもらえたんだ』って言ったから、誰に作ったのって聞いたの。そしたらちょっと挙動がおかしくなって『えっと、母さんとクロノだよ?』って目を合わせずに言ったの!絶対あれは第三者の存在があるよ!」

 

「私は何を聞かされてるのかしら・・・」

 

ここにはやてがここにいたら「たぶんこれは彼氏の行動に不満を持つ彼女の愚痴やと思うよ」と言っていただろう。

 

「取り敢えず、これでフェイトちゃんに彼氏ができたかもしれないというのは伝わった?」

 

「まあ、確かにフェイトの言動的に明らかに何かを隠してるわね。でも、どうしてこのことを私だけに話したの?」

 

この場にいない親友のすずかとはやてを呼ばない理由がわからなかった。正直目の前の親友の暴走を自分一人で抑えるのには骨が折れる。

 

「すずかちゃんは何か用事があるらしくて、電話越しに断られちゃった。はやてちゃんは今日はお仕事」

 

この時アリサは、この場にいない2人を少しだけ恨んだ。

 

「成程。取り敢えずは様子見でいいんじゃない?」

 

あっけらかんと答える。

 

「どうして!?アリサちゃんは気にならないの?」

 

なのはとしては、アリサがここで興味を無くす理由がわからなかった。

 

「あのねえ、フェイトだって中学生なのよ?それにフェイトはあんたと1、2を争うほどモテるのよ?彼氏がいてもおかしくないわよ」

 

「それは、そうだけど・・・」

 

なのはも自身がモテていることに自覚はある。だが、彼氏どうこうは碌に考えたことがなかった。嫁だなんだと言ってくる変人は身近にいるがあれは例外だ。あれは彼なりの挨拶だと思って流している。

 

「ま、どうせ彼氏なんていないだろうけど」

 

「どうしてそう思うの?」

 

自分でいるかもと言っておいて速攻で手のひら返しをされる。

 

「今うちの学校で一番会員数が多いグループを知ってる?」

 

なのはは首を振る。

 

「2位がなの派とフェイ党が同数。そして1位がなのフェイ守護団よ」

 

「待って待って待って」

 

受け入れがたい話を聞いてしまい、そこで話を止める。

 

「なにがわからなかったのかしら」

 

「最初から最後までだよ!?」

 

なのはは自分たちが五大天使と呼ばれていることは知っていたが、そんなヘンテコグループが存在していたこと、そして1位のグループ名が意味不明なことに理解が追いついていなかった。

 

アリサは少し冷めた紅茶に口をつける。

 

「なの派とフェイ党はそれぞれ、あんたとフェイトを最推しにしている生徒が集まったグループよ」

 

「さいおし?」

 

「簡単に言うと、五大天使がアイドルグループだとして、その中で一番好きなアイドルを指す言葉よ」

 

「へえー」

 

なのはにオタク知識が追加された。

 

「続けるわよ。なのフェイ守護団はあんたとフェイトのカップリングを推す集団よ」

 

「かっぷりんぐ?」

 

「まあ、女の子同士が仲よくしてる様子を見るのが好きな連中が、その女の子のお気に入りの組み合わせに対していうものよ。これを百合ともいうわ」

 

なのはがわかるように丁寧に説明していく。

 

「そうなんだ。でもどうしてそれがフェイトちゃんに彼氏がいない理由になるの?」

 

ここまで聞いたが、それらから自分が提唱した『フェイトに彼氏がいる説』が覆るようには感じなかった。

 

覆らない場合、これをクロノに話すつもりである。その場合、誰の命が危ぶまれるか論じる価値もない。

 

「なのフェイ守護団体はアンタたちが仲よくしている光景を眺めていたいの。だからそこに男が挟まろうとしたらその男は確実に殺されるわ」

 

「ころっ・・・!」

 

サラッと答えるアリサの答えは、なのはが想像していたものの10倍は重かった。

 

「だから彼氏なんてものがいたら、粛清されてるのよ」

 

そう言ってアリサはケーキを食べ進める。

 

「そんな怖い集団がいたんだね。知らなかったよ・・・」

 

「作ったのは圭よ」

 

「圭君なにやってるの!?」

 

創設者が友人で思わずツッコむ。

 

「アンタ達が仲よくしてる様子に癒される男子生徒がいたらしいの。そいつに百合という概念を教えたらしいの。そいつから周りに百合という概念が広がっていったの。因みに圭はなのフェイ守護体に命を狙われているわ」

 

「何で!?」

 

「私達に嫁になれとか言ってるからよ。一から百まで自業自得よ」

 

そう、圭はまさしく百合の間に挟まろうとする男である。確かに始祖だが極刑対象である。慈悲はない。

 

「さて、アンタの相談に乗ったんだから、こっちの質問にも答えてもらうわよ」

 

「質問?」

 

どんな質問をされるかわからず首をかしげる。

 

「アンタ、最近気になる男ができたでしょ」

 

「!?」

 

げほげほとむせる。

 

「な、なんでそんな話に・・・」

 

「お昼食べてるときにたまにぼーっとしてることがあったから。それでどうなのよ」

 

なのははオーズと初めて会った日以来、オーズのことを考えることがある。アリサ以外もそのことには気づいているが触れないでいた。が、それが一週間も続いているため、アリサは遂に切り出すことにした。

 

「気になるっていうか、何と言いますか・・・」

 

「いるのね。その人はどんな人なの?」

 

あやふやではなく、はっきりと答えさせようとする。アリサは少しノリノリであった。

 

「オーズさんって言って、顔もまだ見たこともないんだけど、凄く強くて・・・」

 

「自分より強いことが条件なのね」

 

「誰かのために一生懸命なれて・・・」

 

「優しいのが好みなのね」

 

「ロストロギアを所持してるの」

 

「アウトよ!!」

 

思わず大声を出してしまう。マスターが近寄ってきて「一応聞くが大丈夫かい?」と問われるが「「すみません大丈夫です」」と答え、またカウンターに帰っていく。

 

「ちょっと待って、ロストロギアって確か危険な兵器とかじゃなかった?」

 

「うん。持ってるだけでも法律で禁止されてるよ」

 

自分の記憶が正しいことを確認し、大きくため息をつく。そして紅茶に口をつけ心を落ち着かせる。

 

「なのはが犯罪者に恋するなんて。人生何が起きるかわからないものね・・・」

 

アリサは親友の将来が心配になっていた。

 

「だから違うよ!気になるっていうのは、なんといいますか、会ったことがあるような気がすると言いますか・・・」

 

何とか誤解を解こうとするが、それによりさらに疑問がわくことになる。

 

「? 顔も見たこともないのに?」

 

「ちょっと待ってね、顔を書くから」

予定を記録するメモ帳を取り出し、そこにオーズの頭を書いてアリサに見せる。

 

「これ、顔?というか人間じゃないわよね」

 

親友が人外に恋している可能性が浮上し、さらに心配になる。

 

「えっと、バリアジャケットをかなり改造してるんじゃないかってエイミィさんが」

 

「成程。そしてこの顔、というより仮面に見覚えがあると」

 

「うん」

 

「いやどこで」

 

「それがわからないんだよね・・・」

 

「えー・・・」

 

取り敢えず相手が人間であることはわかったが、親友が変な格好をする人物に夢中になっていることに心配になった。結局心配が尽きなかった。

 

「まあ、本人がわからないんだったらしょうがないわね。進展があったら教えてちょうだい」

 

「もー、面白がってるでしょ!それにオーズさんから壁を感じるし・・・」

 

「聖みたいに?」

 

「聖君は今関係ないよ・・・」

 

わかりやすくしゅんと落ち込む。

 

「ごめんごめん。前に相談されたことを思い出してつい」

 

小学校の頃から悠はなのはと距離をとっている。とは言っても、無視をしたりしているわけではなく、自分から関わろうとは絶対にしようとしないだけであり、挨拶をされたら返しはする。だが、悠からはしないが。

 

「なんで避けられてるんだろう。私、何かしたかな・・・」

 

「ほんと謎なのよね。前に問い詰めたことがあるけど、本人自覚なさそうだったし」

 

自分の親友が避けられていることを知りアリサも動いたが、悠本人がその自覚がなく、なのはに何か直接嫌がらせをしているわけでもないうえに、悠がそのようなことをする人間ではないことがわかったため、さじを投げた。

 

だが、これはなのはが隣のクラスにいる親友たち、そして男友達2人と会いに行くために起きた悲劇ともいえる。なのはの友達と悠の友達と話し相手が被った結果、悠が無意識になのはとの間に壁を作っていることが露呈したのである。

 

「無自覚に避けられる私って・・・」

 

この後、落ち込んだなのはを慰めるためにアリサが四苦八苦することになる。

 

 

 

 

「それで?なにかわかったことがあったのかい?」

 

「うん。ヤミーが現れる場所がどうして海鳴市にだけなのかなんだけど、魔力の膜のようなものがあることがわかったんだ」

 

エイミィは新たに判明した事実を伝えるためにクロノを海鳴支部に呼び出した。よく見ると、エイミィにはクマが出来ていた。

 

「魔力の膜のようなもの?」

 

「存在に気付いたのは三日前。オーズが空間を切り裂いた後に感知できたんだ。それからようやく解析が終わったんだけど、海鳴市全体を覆うように微弱な魔力の膜のようなものがあることがわかったんだ」

 

「そんなものがあったのか。全く気付かなかった」

 

「人体には全く影響がないんだけど、少しセルメダルの反応も混ざってるんだ」

 

「それがあることでグリード達はここから離れることができないのか。でもそんなもの、一体だれが・・・」

 

「そう、そこなの」

 

ビシッとクロノを指さす。

 

「空間に亀裂が入るまで感知すらできなかった魔力の膜、もとい結界。もしかしたら、私たちがまだ気づいてない第三者が作ったものかもしれないの」

 

 

 

 




久しぶりに魔導士サイドを書いたらすごい指が乗ってしまった・・・。

魔導士サイドの話が前より面白いと感じたら、感想・高評価、よろしくお願いいたします!


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学校と疑いと暴かれるもの

お待たせしました。今回のは少し長めです。(7000文字越え)

今回は初めて魔法少女リリカルなのは、オーズ、転生、オリジナルそれぞれの要素が全て出てきます。


屍になった次の日、俺は何とか無事に登校することができた。気づいたらベッドの上に寝ていて朝になっていたことを無事と言っていいのかわからないが、とにかく無事だ。因みに朝の訓練はなかった。病み上がりだからと7時まで起こされなかったのだ。

時計を見た時「遅刻だ!」と思わず言ってしまったが、よくよく考えたらこの時間から家を出ても間に合うし、朝ごはんはレイジングスピリッツが作ってくれていたため問題はなかった。

というか、焦って飛び上がった姿をレイジングスピリッツに見られたのが恥ずかしかった。その様子を見て笑いやがって。お前のせいじゃろがい!

 

校門を過ぎると、丁度そこに、高町さんにハラオウン、八神の三人がいた。学校に着く時間がいつもと違うからか、初めて校門の前でこのグループと会った。

 

「あれ?悠や。おはよう悠、この時間に登校なんて珍しいな。朝練はどうしたん?」

 

八神が声をかけてきた。まあ、確かに朝練してたらもうちょっと遅いしな。

 

「おはよう八神。今日は寝坊したんだよ」

 

「悠、そういうの、三日坊主って言うんよ?」

 

前かがみになってからかう口調で言ってくる。

 

「今日だけだ今日だけ。昨日ちょっと具合が悪かっただけだよ」

 

「ふーん?」

 

怪しむようにこちらを見つめてきたと思ったら、唐突に接近してくる。

 

「な、なんだよ」

 

「・・・また、看病しにいこか?」

 

「だああー!!」

 

耳元で囁いてきた八神を振り払う。こいつ、ほんとこいつ!

 

「あはは、ごめんごめん」

 

その謝罪には全く誠意がこもってなかった。このたぬき、丸焼きにしてやろうか。

 

「聖君、おはよう」

 

「あ、高町さん。おはよう」

 

たぬきをどうやって調理するか思案していると、高町さんが挨拶してくれた。

 

「体調悪いの?」

 

「いえ、もう治ったんで大丈夫です」

 

「そっか、それならよかった」

 

何故か「にゃはは・・・」といいながら苦笑いをしていた。どうしたんだ?

 

「悠、おはよう。その様子だと大丈夫そうだね」

 

「おはようハラオウン。さっきからそう言ってるだろ?」

 

そう言ってハラオウンに挨拶し返す。

 

「そうだね。それじゃあ、明日からまた朝練?」

 

「ああ。朝練をするようになってから健康的になってる気がするよ」

 

「でも病み上がりなんでしょ?体調には気を付けてね」

 

「わかってるわかってる」

 

「そういってるけど、それで昨日具合が悪くなったんじゃない?」

 

なんか、ハラオウンが段々と詰めてくる。なんだろう、こいつの中で俺は無茶をする人間として認定されてるっぽいな。というかなんだろうこの問い詰め方、手慣れてる感じがするんだけど。ハラオウンの近くに無茶する人間でもいるのか?

そしてここで、視線に気づく。

 

「えっと、2人とも、なに?」

 

高町さんと八神が目を見開いていた。とんでもないものを見てしまったかのようだ。

 

「なあ悠。一体いつからフェイトちゃんのこと呼び捨てにしたん?」

 

「・・・あっ」

 

「それにフェイトちゃん、どうして聖君のことを名前で呼んでるの?」

 

「それは、えっと・・・」

 

ハラオウンがこちらの様子を窺う。そうハラオウンさんには俺達の関係は他言無用と頼んである。理由はもちろん俺の命を守るためだ。でもどうしようこれ、どうやって誤魔化せばいいんだ・・・。

 

「そっか、聖君だったんだね」

 

返答に悩んでいる(この間3秒)と、高町さんの目のハイライトが消えた。何だろう、すごく嫌な気がする。

 

「フェイトちゃんの彼氏って、聖君なんでしょ?」

 

空気が凍った。発生源は高町さん・・・いや、もしかしたら学校全体かもしれない。

明らかに高町さんの様子がおかしい。これがいわゆるキャラ崩壊というやつなのだろう。

 

・・・現実を見よう。今俺たちがいる場所をもう一度確認する。校門を過ぎた先、つまり学校の中だ。ここは多くの学生が通り過ぎていく場所であり、今になって気が付いたが、こんな所で立ち話なんてしていたら目立つ。それも五大天使がいたら尚更だ。

 

さて、それを踏まえてこの状況を整理しよう。

俺、「聖 悠」が、公衆の面前で、学校のアイドル「高町なのは」に、もう一人の学校のアイドル「フェイト・T・ハラオウン」の彼氏疑惑をかけられていると。

 

おいおいおい、死んだわ俺。

 

「な、なのはちゃん、それってどういう・・・」

 

「ちょっと待ってほしい。それは誤解です」

 

全力で弁明する、命にかけて!・・・いや命を守るためだから命かけちゃだめだわ。

 

「誤解?」

 

高町さんの目に光が宿っていなくって滅茶苦茶怖い。でもここで怖気づいている場合ではない。俺は意を決して口を開いた。

 

「・・・どうしてハラオウンの彼氏疑惑を掛けたのかは知らないが、前提としてそれは断じてないです。ハラオウンが俺を名前で呼んでいるのは、以前その、町でバッタリ会って、会話をしているうちに敬語は止めようって話になったんです。なっ!」

 

ハラオウンに話を合わせるように目で訴える。

 

「う、うん!折角の機会だからと思って私から提案したんだ!」

 

よし、取り敢えずこれでなんとか・・・

 

「フェイトちゃんがね、金曜日に指を怪我していたんだ」

 

心臓がドクンと跳ねる。なんだかわからんが、凄くまずい。

 

「ねえ、2人とも」

 

光なき眼が、俺達を貫いた。

 

「まだ隠していること、あるでしょ?」

 

俺は即座にハラオウンを抱えて学校に逃走した。あれはヤバい。今俺達が何を言ってもまともに取り合わないし、的確に真実を見抜いてくるだろう。

俺がハラオウンに料理を教えていることを周りにばらされた場合、ハラオウンはともかく俺が殺される。教室にいる俺の友達に助けを求めるしかない。

 

「悠、こ、これお姫様・・・」

 

「話は後!」

 

下駄箱に到着した。俺はハラオウンを上に放り投げ、直後に見事な足さばきで靴を宙に蹴り上げた。ハラオウンと靴が落下中に上履き取り出して履く。そして落下してきたハラオウンを抱きかかえ、靴を間髪入れず蹴りで下駄箱の中に叩きいれた。この間僅か3秒。

 

「フェイトちゃんを返して!」

 

「きゃあ!」

 

「っぶな!!」

 

靴を履き替えた直後に、俺の顔面目掛けて手刀が飛んできた。ぎりぎりで躱すことができたが、ハラオウンを抱えながらそう何度も躱せるものではない。後ろに跳躍し距離を取る。

殺意がたけえ。そんなんだから白い悪魔とか呼ばれるんだぞ。

・・・なんだそれ。そんなこと考えてる場合じゃなかった。早く逃げないと。

 

「な、なのは落ち着いて。まずは話を・・・」

 

気づいたらハラオウンが高町さんを説得しようとしていた。

 

「じゃあ聖君から離れてこっちに来て!」

 

「断る!今ハラオウン渡しても俺の命が保証されない!」

 

あんな公衆の面前であんなこと言われたため、このままでは明日から俺の居場所がなくなる。そうならないようにするためには、まず高町さんの誤解を解かなければならないのだが、同時にハラオウンに料理を教えていることを隠さなければならない。

 

だが今の彼女は的確に真実を見抜く。おまけに人前で、大きな声でそれを言うだろう。そうなったらもうお終いだ。とにかくここは全力で逃げる!

 

廊下を駆ける。本来廊下で走ってはいけないが、今回は見逃してほしい。わき目もふらずに階段を駆け上がる。そして教室が見えた。

 

「待て聖!さっきの話はどういう「どけぇ!!」ぐえっ!」

 

「田所ォ!!」

 

「田所を踏み台にしただと!?」

 

教室から高町さん達を眺めていただろう連中の一人を踏み台にして飛び越える。というか三階からなんで会話がわかるんだよこえーよ。

 

そして自分の教室に辿り着いた。勝った!(勝ってない)

見せてやる、オーズのウイニングロードをな!

 

教室を開け放ち、叫んだ。

 

「助けてくれ圭、高志、すずか!このままだと危険が危ない!!」

 

咄嗟のことで日本語がおかしなことになってしまった。

 

「なんだよ急にって、何でフェイト抱えてるんだお前!」

 

「高町さんを止めてくれ!頼む!」

 

「えぇ・・・」

 

なんかすごくいやそうな反応だ。ダメかもしれない。

 

「じゃあ高志!」

 

「パス。俺の勘が関わるべきじゃないと言ってる」

 

この裏切り者お!高町さんが推しだったんじゃないのかよ!

 

「す、すずかぁ・・・」

 

最後の頼みの綱に縋ろうとすずかを見た。見てしまった。

 

「聖君」

 

「ヒッ」

 

恐怖のあまり小さな悲鳴がでる。

ヤバい、バルバト・・・名前で呼びたくないから怪物くんと呼ぼう。怪物くんと初めて会った時より恐怖を感じる。高町さんと同じように目に光がない。何?それ流行ってるの?

 

「どうしてフェイトちゃんを抱きかかえてるの?」

 

「あ、いや、これは咄嗟のことで・・・」

 

「す、ずずか落ち着い「落ち着いてるから大丈夫」・・・聖、頑張りなさい」

 

バニングスさんがなだめようとしてくれたが、そのままフェードアウトしてしまった。

取り敢えずハラオウンを降ろす。降ろすときにハラオウンが少し残念そうにしたのかはわかららん。それよりすずかのことだ。理由はわからないが、すずかはハラオウンを抱きかかえていることが不満らしい。

はっ!つまり、以前高志が言っていたカップリング『アリすず』は回りが言っているだけで、すずかが本当に好きなのはハラオウンということか!

 

「違うよ」

 

「ヒッ!」

 

思考を読まれた!?

 

「聖!これで終わ・・・」

 

「ちょっと待っててもらえる?」

 

「あ、はい」

 

追手たちが人睨みで引っ込んだ!?やべえ、こえーよすずか。というか何で怒ってるのかもわからないし・・・。

 

「追いついたよ」

 

「な、なのは」

 

背筋が凍った。振り向くと、魔王がいた。もう俺はダメかもしれない。

 

「なのはちゃん、ちょっと待ってもらえる?」

 

魔王による断罪が始まるその時、待ったをかけたのは、後ろにいた女王だった。

 

「ごめんすずかちゃん、それはできないかな。今すぐにも2人に問いただしたいことがあるから」

 

「私もなんだ。でも二人同時はできないだろうから、順番は私に譲ってくれないかな?」

 

俺とハラオウンを挟んで会話を始める2人。一瞬助かったと思ったけどこれ、勝った方に俺が殺されるだけじゃね?

 

「何だろうこれ、何処かで見覚えが・・・」

 

「あ!これあれだよ、二股がばれた男の図だよ」

 

「いやこれは男と女、それぞれの彼氏彼女の浮気がばれた現場じゃないかしら」

 

圭と高志、バニングスさんは離れた位置から観戦していた。いやそこは助けろよ!

 

「・・・お前ら何やってんの?」

 

その時、翔がやってきた。今登校してきたのだろう。

 

「翔、助けてくれ」

 

「えー・・・」

 

その後、高町さんとすずかの仲裁に入った翔は、今回の件は一旦放課後まで保留にすることになった。放課後に俺、翔、すずか、ハラオウン、高町さんで集まり話し合うことになった。こんなに綺麗に話をまとめる手腕は圧巻の一言に尽きた。いや、本当にすごかった。

 

「翔。本当に、ほんっとうにありがとう!」

 

「あーはいはい。貸し一つな」

 

「ああ!」

 

「いやー無事解決してよかったなあ」

 

「ほんとほんと」

 

俺が翔に感謝を告げると、圭と高志がやってきた。よし!

 

「ああ、ほんとだよ。見捨てられた時はどうなることかと思ったよ」

 

2人に笑顔で近づく。

 

「悠?目が全然笑ってないぞぞぞぞぞ!」

 

「ギャアアアアアアア!!!」

 

頭を鷲掴みされた男二人の断末魔が、チャイムより少し早くに鳴り響いた。

 

 

 

 

四限目、体育の時間。授業中、後ろの席にいるすずかからの視線が刺さっていたが、なんとかここまで乗り切った。だがまだ5限目も6限目もあるとなると気が滅入る。

 

「それじゃあお前ら、ペア作れー」

 

準備運動のためのペア作りを教師が促す。俺のペアはもちろん圭だ。なぜかって?圭は大体の男子生徒に目の敵にされてるからな。

言動はあれだけど、見た目よし、頭は学力的によしで普通にモテる。まあ、あいつにあまり関わっていない女子からだけど。

 

「んじゃやるか」

 

「おう」

 

圭に声を掛けられて準備体操を始めた。

 

「なあ悠」

 

「なんだ?」

 

前屈中、俺の背中を押しながら声をかけてきた。

 

「最近なにかあったか?」

 

「なにかって?」

 

「いや、最近のお前を見てると、なんか楽しそうだなーって」

 

楽しそうか。最近の出来事を振り返ると、死にかけてることばっかりな気がするんだけど。

 

「そこまで楽しいと思った記憶はないんだけど・・・」

 

「そうなのか?」

 

「あ、でも、いいことはあったかな」

 

「いいこと?」

 

レイジングスピリッツに出会って、魔法とオーズの力を手に入れて、戦う力を手に入れた。大事なものを守る力を手に入れた。そして、すずかと友達になれた。

 

「そう、いいこと」

 

「そっか。ならよかった」

 

「?」

 

「ほら、次は俺の番だ。変わってくれ」

 

「お、おう」

 

結局、圭が知りたいことはよくわからなかった。

 

 

 

 

「つまり、フェイトちゃんは聖君から料理を教わっていて」

 

「それが周りに知られると大変なことになるから隠していたと」

 

現在俺達は、有名チェーン店『ワック』に集まっていた。アイスコーヒーを飲んでからもう一度口を開く。

 

「そう。それであの時の高町さん、場所を考えずその秘密を暴きそうだったから、咄嗟にハラオウンを連れて逃げたんだ」

 

「えっと、つまり、状況がややこしくなったのって・・・」

 

「聞く限りだと、なのはが原因だろうな」

 

「ご、ごめんなさーい!」

 

このように、無事話し合いで全て解決した。ハラオウンが俺に料理を教わっていることも黙っててくれるらしいし、いやー本当によかったよかった。

 

「ところでずっと気になってたんだけど、なんで悠はすずかのことを名前で呼んでるんだ?」

 

まだ終わってなかった。今度は俺とすずかの関係を問われる。

 

「ああ、すずかとは昨日友達になったんだよ」

 

「「友達に!?」」

 

高町さんとハラオウンが食いついてきた。凄い勢いだな。

 

「一体どういう経緯で!?」

 

「ハラオウンストップ。落ち着いてくれ」

 

テーブルを乗り出してくる。近い近い。

 

「聖くんとは昨日バッタリ会って、家に招待したの。それで私が友達になりませんかって、ね?」

 

「そうそう」

 

見事な嘘に乗っかっておく。半分くらい真実だから違和感がない。凄いな。

 

「えっと、私はもう家に呼んでるから、お友達になれますか!」

 

「お引き取りください」

 

「はうう」

 

「ざっぱりいったな」

 

当たり前だ。話すようになってから一週間も経ってないぞ。というかそこまで仲良くなったつもりもないし。

 

「えっと、一応私も友達に立候補していい?」

 

「え、何でですか」

 

高町さんから唐突な申し出。この人とは碌に関わってもないと思うんだけど。

 

「これから仲よくするために、かな?」

 

「順序逆じゃありませんかそれ」

 

友達っていうのは、本当に信頼できる相手じゃなきゃなれないもんだと思うんだけど。

 

「それじゃあ、名前で呼んでもいい?」

 

そう言われた途端、心が少し、キュッと締め付けられたような気がした。

 

「・・・高町さんのお好きなように」

 

「! それじゃあこれからよろしくね、悠くん!」

 

高町さんは嬉しそうに俺の名前を呼んだ。

名前で呼ばれることが嫌なんじゃない。彼女に、俺の名前を呼ばせるのがなんだか、すごく申し訳ないんだ。

 

 

 

 

そうして俺たちの話し合いは終わり、それぞれが帰路に着こうとした。

 

「悠、少しいいか」

 

「どうした?」

 

「ちょっと来てほしい場所があるんだけどいいか?」

 

珍しく翔から誘ってきた。折角なので俺は帰らずそのまま翔についていくことにした。

翔の後をついていくと、林が生い茂っている場所まで歩いて行った。

 

「なあ、来てほしい場所ってどこだよ。そろそろ教えてくれよ」

 

「いや、今着いたよ」

 

「え?」

 

あたりを見回す。やはり周りに木々があるだけだ。人もいない。言ってしまえば何もない場所だ。

 

「ここが一体何だって・・・」

 

「封時結界」

 

何だって言うんだ、そういい終える前に俺たちの世界の様子は変わった。

結界だと即座に気付く。そして、それを張ったのは・・・

 

「翔、なんで・・・」

 

「昔から、ずっと不思議だったんだよ」

 

翔が唐突に語りだす。

 

「俺が初めて圭と会った時、あいつはあんな風じゃなかった。如何にも踏み台転生者みたいな奴だった」

 

「急になにを・・・」

 

「小学校の頃から、すずかはずっとお前を気にしていた」

 

翔は喋ることをやめない。

 

「中学に入ってからは、はやてがお前を気にするようになった」

 

「遂にはフェイト、そしてなのはまで・・・」

 

ここでようやく翔はこちらに振り返った。

 

「なあ、『聖 悠』」

 

その目は、疑惑をはらんでいて、

 

「お前は一体、何者なんだ?」

 

その疑いは、俺に向いていた。

 

『ブレイクランス』

 

俺が動揺しているその時、俺の周りから数十の光の柱が顕現し、翔に向かって飛んで行った。

 

「な、翔!」

 

「アマテラス」

 

瞬間、光の柱は光に飲まれ消し炭となった。

 

「いい加減姿現せよ、主が死んじまうぞ」

 

『よっぽど殺されたいようだな』

 

レイジングスピリッツが胸ポケットから出てくる。今にも戦闘が始まりそうな雰囲気だった。

 

「待ってくれ!なんで戦うことになってんだよ、意味わかんねえよ!」

 

「決まってる。お前がオーズで、そいつがロストロギアだからだよ」

 

「え・・・」

 

なんで、なんでばれてる?ど、どういうことだ?さっきから全然わからない・・・。

 

『あなたはここで、確実に殺します』

 

「レイジングスピリッツ、まっ・・・ぐっ!」

 

レイジングスピリッツが光り輝く。その眩しさのあまり思わず目をつぶる。

光が弱くなったと感じ、目を開けると、1人の女性がいた。

 

「レイジング・・・スピリッツ・・・?」

 

後ろ姿からわかったのは、金色の長髪に騎士を連想させるような白い服、背中には4つの羽が生えていた。

 

「赤と緑のオッドアイ、そしてアインスによく似たその姿。間違いない」

 

翔が確かめるように、真実を暴く。

 

「教えられていないようだから代わりに教えてやる。世界を混乱に陥れたロストロギアをいくつもつくった魔導士、『アイオーン』その代表的なロストロギアの一つ」

 

「レイジングハートの姉妹機、完全自立型対魔導士デバイス『レイジングスピリッツ』」

 

「そいつはかつて、多くの魔導士を殺してきた、殺戮人形だ」

 




やっと書き終えた・・・長かった・・・。

皆さんの感想・高評価、お待ちしてます!


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翔と過去と嫌われる覚悟

後一話で終わりませんでした、本当にすみません。
代わりに次の戦闘はかなり気合入れて急いで作ります。


俺は前世で気に入らない上司をぶん殴った次の日、辞表を出した帰りにトラックに轢かれて死んだ。

あっけない最期だった。

 

今頃殴った上司に馬鹿にされてるんだろうなーと考えながら、神を名乗る女性の話を聞いていた。

どうやら俺は魔法少女リリカルなのはというアニメ作品の世界に転生させられるらしい。

原作知識をもらった後、危なそうだし原作に関わらないように生きようと思ったのに、「魔力資質高めにするから、Asで間違いなく関わるよ」「無印でもジュエルシードに襲われて死ぬ可能性もあるよ」と言われてぶん殴ってやりたくなった。

自称神の方針で、世界観を壊すチートは与えられないらしいので、生存能力が高まる能力をもらって転生した。そして翔という人間になったのだ。

 

幼少期、小さくなった体になれて1人で公園に遊びに行った俺は、ブランコで寂しそうにしていた女の子を見つけた。

心配になったので声をかけようとしたら、俺とは別の子供がその女の子に声をかけた。

 

「見つけたぞなのは!未来の俺の嫁よ!」

 

やべー奴だった。

 

銀髪で赤と青のオッドアイの美少年が、小学校にすら入っていない女の子をナンパし始めた。

そういえばクソ神がもう一人転生者がいると言っていたのを思い出した。

試しに声をかけてみる。

 

「何だお前?まさかお前がもう一人の転生者か!」

 

マジだった。

 

あのゴミ神はとんでもねえモンスターチャイルドを生み出しやがった。

女の子が逃げ出し、モンスターチャイルドが追いかけようとしたので止めた。

理由は簡単、一応同じ転生者なので、身内の恥はこれ以上さらしたくなかった。

 

「主人公の俺を邪魔するだと?上等だ脇役、ぶっ倒してやる!」

 

それから俺たちは一か月、ほぼ毎日戦った。

公園に行くルートを読んであの女の子にあう前にモンスターチャイルドを潰した。

もちろん封時結界を張ってだ。

モンスターチャイルド曰く、あの女の子が高町なのはで、嫁にしたいと。

さらに他の女の子も嫁にしてハーレムを作ると言った。

それを聞いた日は念入りにボコボコにしたが次の日もピンピンしていた。

家でGを見つけた気分になった。

 

そして一か月が経ち、前触れもなく公園に現れなくなった。

とは言っても、初めて会った日からなのはも公園に来なくなっていた。

でも途中からあいつは俺を倒すために公園に行こうとしていた。

 

嫌な予感がした。

高町家近辺や翠屋近辺を見に行ったが、なのはも変態も見つからなかった。

 

次の日、公園でなのはが泣いていた。

俺は慌てて駆け寄った。

何度も声をかけたが、中々泣き止まなかった。

 

ようやく泣き止んだ彼女に、泣いていた理由を尋ねた。

 

「会いたい子がいるの。でも、その子のことが、思い出せないの」

 

結局、彼女の顔は暗いままだった。

 

3日後、変態を見つけた。

彼女について何か知っていると思い、近づいた。

 

「今までごめん」

 

急に謝ってきた。

 

本人曰く、今までの行動を反省しているらしく、主人公のような本当にかっこいい人間になると宣言してきた。

少し見直した俺は許すことにした。

それとは別に、ハーレムは目指すらしい。

取り敢えず腹に拳を入れといた。

 

そして俺達はこの日初めてお互いの名前を知ったのだ。

お互い名乗らず戦ってたからな。

一応なのはについて聞いたが何も知らなかった。

 

子供を複数人でボコボコにするクソ野郎共などをリンチにしたりして過ごしていたある日、圭が1人の男の子を紹介してきた。

 

「えと、こんにちは」

 

人見知りする、よくいる普通の子だった。

リンカーコアすらない、本当に普通の子。

圭は彼を親友だといった。

 

彼が圭を変えたのだと、瞬時に理解した。

 

俺達は三人でよく遊ぶようになった。

精神は体に引っ張られるらしく、それはもう思いっきり。中身は大人なのに結構楽しかった。

 

小学校に入り、高志も俺たちのグループに混ざるようになった。

悠も高志に少しずつ心を開くようになった。

正確には、高志がガンガン関わろうとして強引に心の扉をこじ開けた感は否めないが、結果的に前より明るくなったと思う。

 

すずかがずっと悠のことを気にしている。原作にそんな描写はないが、まあ、描かれていなかっただけだろう。

 

時が経って原作が始まった。

圭がプレシアを改心させようと色々と頑張っていたが、大して変わらなかった。

強いて言うなら、最後に圭とプレシアが戦ったくらいだ。

 

Asの物語は少しだけ変えられた。

原作よりも俺と圭という戦力がいるためか、リインフォースが力を使い過ぎてしまい、防衛システムが蘇らないほど弱ったため、自殺まがいのことをせずにすんだ。

一年という短い寿命だったが、はやて達と幸せそうに暮らしていた。圭はゲームのストーリーが始まるかもと言っていたが、そんなことはなかった。

 

そしてユーノに会うために無限書庫に訪れたあの日、俺は一冊の本を見つけてしまった。

きっかけは偶然。本棚に体をぶつけてしまい、いくつか本が宙を舞った。慌てて取ろうとしたとき、開いたページに見覚えのあるものを見つけた。レイジングハートだった。

 

内容は本というよりは手記だった。表紙はわざわざ全く関係ないものを被せてあった。その時はまだ無限書庫は整理されておらず、黙って持って行った。少し嫌な予感がしたからだ。

 

本の内容はアイオーンという人物が作った魔道具について、筆者の視点から考察したものだ。俺はこの時、レイジングスピリッツという存在を知ることとなる。

それ以降アイオーンという人物が記されている本を探したのだが、あまりなかった。

わかったことは、聖王統一戦争より前にいた人物だったこと、多くのロストロギアを作った危険人物だったこと、大魔導士であったことくらいだ。

 

時が経ち、なのはの墜落を防げずに中学二年生になった。

 

はやてが悠と話すようになった。でも俺はそんなこともあると気にしないふりをした。

 

圭が次期エースオブエースと呼ばれ始めていた頃、今回の事件が始まった。始まりは次元空間の揺れ。そこから連鎖するように立て続けに事件は起きた。

ジュエルシードの出現、グリードの復活。おまけに次元跳躍もできないときた。

そして、オーズが現れた。

初めて見た時は驚いた。クロスオーバーじゃねえかよと。圭も驚いていた。

そして正体を確かめようとした。

手がかりが掴めず巨大ヤミーをフェイトとオーズが倒したあの日、なのはが言っていた言葉、それによってオーズの正体がわかった。

 

「何で戦ってるか聞いたんだけど、人が死ぬかもしれないんだぞ、戦うにに決まってるだろ、って」

 

無茶をして似たようなこと言った馬鹿を1人知っている。そしてオーズが持っていたデバイスが手記に載っているものとよく似ていた。

 

情報まとめて俺なりに考察した結果、2つ候補が挙がった。1つは悠がレイジングスピリッツにより洗脳または脅しによりオーズとして戦わされている。2つ目は悠が元からこの世界でのオーズという存在に深く関わっていて、自分の意志で戦っているということ。

 

前者なら理由はわからなくてもレイジングスピリッツという悪人、というよりロストロギアを倒せば全てうまくいく。悠は解放され、危ない目に合わなくなる。だが、もし後者なら・・・

 

 

 

 

空を縦横無尽に飛び回る。理由は簡単、このえげつない量の攻撃を躱すためだ。

奴の主な攻撃魔法は3つ。

自在にコントロール可能なアクセルシューター、誘導性は低いがシールドを貫通するブレイクランス、そして決め技のディバインバスター。

でも、ブレイクランスの危険度がたまにディバインバスターを超える。

なぜなら俺のレアスキルがそう訴えているからだ。

 

「すばしっこいっ!」

 

『ディバインシューター』

 

「シュート!」

 

誘導操作ができる魔法で相手の魔法を迎撃と攻撃を行う。

今のところは被弾0。だが相手も全てこちらの魔法を防ぎ切ったうえでこの量の魔法を放ってきている。アクセルシューターとブレイクランスでこちらを動かし、隙あればディバインバスターである。なんだあのバリエーション豊富な固定要塞。

いやまあ、最初から簡単に勝てる相手じゃないのはわかっていたが。

 

あの化け物相手にまともに戦闘を続けられる要因は3つ。

俺のレアスキル危機察知、大量のトラップ、悠の存在だ。

 

俺のレアスキルは文字通り自身に対する危険を察知する能力。この能力のおかげで俺は一度も撃墜されたことがない。トラップは数日前から用意していた仕込みだ。

設置型バインドのディレイドバインド、指示を出すことで砲撃魔法を放つサテライトスフィア、触れたら爆発するサイレントボム。どれもオプティックハイドを使い見えなくしている。そして俺の位置は常に悠で奴を挟むようにしており、躱しにくくしている。もちろん万が一にも悠には当たらないようにしているが。

 

「ディバイン・・・」

 

「ファイア!」

 

流石に砲撃魔法を完全無詠唱は無理らしく、一瞬だけ弾幕が薄くなる。本当に一瞬だけだが。その隙を突いてサテライトスフィアを起動し砲撃魔法を即座に発射する。

その砲撃は直撃し、大きな爆発風と爆発音が響く。

 

「アマテラス!」

 

杖型デバイス、アマテラスがカートリッジ4本を使用する。

 

『サンライトブレイザー』

 

俺が即座に使える魔法の中で最大火力の魔法をぶつける。

サテライトスフィアの砲撃で倒せたなんて生ぬるい考えは持たない。

俺の全力をぶつける!

 

「焼き尽くせ!サンライトォー、ブレイザー!!」

 

茜色の極光が、未だ煙に包まれた強敵に向けて放たれる。

直後、再び爆風と爆発音がその周辺に響いた。

 

「直撃・・・アマテラス、カートリッジ残り段数は?」

 

カートリッジを収納しているマガジンを取り出しながら、4本のカートリッジと熱を排出するアマテラスに残りカートリッジを確認する。

 

「マガジンが6本、カートリッジが36本です」

 

「今あるもの全部持ってきたのに、足りない気がするんだが」

 

マガジンをアマテラスにセットしながら悪態をつく。

 

『私とマスターなら倒せます』

 

「頼もしい限りだ」

 

危機察知が反応する。

首を右に傾ければ、頭があった場所をブレイクランスが通り抜ける。

それと同時に、先程砲撃したサテライトスフィアがブレイクランスによって破壊される。

 

「認めてやる。お前は強い。だが、マスターのため、お前はここで確実に殺す」

 

煙から現れたのは、少し焦げた程度で大したダメージを受けていないロストロギア。

 

「悠のため、ね」

 

アマテラスを強く握る。今ある武器を全て使ってこの怪物を倒す。

 

「行くぞアマテラス」

 

『マスターに勝利を』

 

 

 

 

今俺の頭上では凄まじい空中戦が繰り広げられている。先日の死闘がお遊びに思えてしまうほどの戦いだ。

 

「どうして・・・」

 

わからない。2人はあの後、空へと飛翔して戦い始めた。

 

わからない。あいつは俺たちのことを知っていた。

 

わからない。どうして、俺の大事な人たちが殺し合っている?

 

「クソ・・・クソッ!」

 

今の俺じゃあ、2人に割って入ることすらできない。

 

ラトラーターをもう一度使う?無理だ、ウイニングロードではあの二人の戦いについていけない。

もう一つのコンボ、ガタキリバを使う?却下だ。増えて跳ねるだけでは無意味だ。

 

このままではどちらかが死んでしまう。

 

足りない。2人の戦いを止める力が足りなさすぎる。

手が届く場所にいるのに、俺はまた何もできないのか?

嫌だ。いやだ!いやだいやだいやだ!!

 

考えろ、あの2人の戦いに割って入るには何が必要か。

欲しいのは空を自由に駆ける手段。

 

想像しろ、翼がなくても空で戦える魔法を。

願ったのは自在に足場を作り出す魔法。

 

創造しろ、無限に道を構築する魔法を。

手に入れたのはこの空間の上位者になる魔法。

 

魔法は完成した。この魔法を維持するには莫大な魔力が必要。

ベルトを装着し、3つの黄色のコアメダルをセットする。

そしてバックルを傾けた。

 

「変身」

 

オースキャナーをバックルに通す。

 

《ライオン!トラ!チーター!ラタラタ~ラトラーター!》

 

そして私の体は光に包まれたのだった。

 

 

 

 

「はああー!!」

 

「しつこい!」

 

砲撃魔法を放つも片手で防がれ、砲撃の維持を放棄した途端にブレイクランスが飛んでくるが、最小限の動きで躱す。

 

ダメージは無いが魔力を消費し、体力も尽きそうなこちらに対し、あっちはダメージを負いながらもまだピンピンしてる。

クソッ、明らかにアインス強えじゃねえか。

 

残りカートリッジ丸々一本。相打ち覚悟で突っ込むか考えたその時、異変は起きた。

 

「何だこの馬鹿魔力・・・」

 

悠がいた場所が光り、そこから強大な魔力を感じる。これは・・・

 

「誘え、ロードオブラビリンス」

 

悠の声が聞こえた瞬間、俺の結界の内側に新たに結界が張られた。

そして空中に藍色の光の道があちこちに出現した。

 

「なんだこれ・・・」

 

『マスター、残りの罠が次々と破壊されていきます!』

 

展開されていく光の道に轢かれて罠が爆発していく。この魔法は多分ウイニングロードだろうけど、規模が桁違いだ。流石にサイレントボムがぶつかったところは粉々に崩れているが、すぐさま直って展開しだす。この魔法、一体どれだけの魔力を消費しているんだ・・・。

 

「マスター!この魔法は一体何ですか!それにその姿は・・・」

 

「黙っていろ」

 

レイジングスピリッツのいる方に意識を向ければ、レイジングスピリッツの隣で展開を止めたウイニングロードの上に、黄金のオーズが立っていた。

 

これは圭が言っていたコンボという強化フォームなんだろう。

ふざけんなどう見ても最終フォームだろこれ。なんかエネルギーが漏れ出ててるし。

 

恐らくこのエネルギーを魔力の代わりにしているのだろう。

なんでそんなことができるのかはわからんが。

だってこれ、やってることは未知のエネルギーで電化製品を動かしてるようなもんだろ。

 

「翔、降参してくれ。お前とは戦いたくない」

 

目の前のやべー奴、オーズが降伏するよう促してくる。

 

「じゃあ質問させてくれ。内容次第ではお前たちにもう危害は加えない」

 

まあ、状況的に俺が降伏することはないだろうけど。

 

「本当か!一体なんだ!」

 

声だけでうれしいのかがわかる。取り敢えず一言。

 

「今までオーズとして戦ってきたのはお前の意志か?」

 

「そうだけど?」

 

そっか。そっかそっか。まあそんな気はしてたよ。

 

「答えてくれてありがとう」

 

「それじゃあ!」

 

アマテラスを強く握り直し、その先端を馬鹿に向ける。

 

「てめぇをぶっ飛ばして、この世界の舞台から引きずり下ろす!」

 

俺達はもう、友達には戻れない。

 




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喧嘩と虹と見透かす瞳

魔法少女リリカルなのはStrikersをアベマで観ました。
面白かったですね。

でも見た後にこの回書いたらこの主人公の異色さが際立つ際立つ。


翔が宣戦布告してきた。なんでそうなる?

 

「いや、待ってくれ!何がどうしてそうなるんだよ!」

 

「お前みたいなイレギュラーがいると、現場が困るって言ってるんだ。いきなりオーズと名乗って、傭兵として戦いに協力する?馬鹿じゃねぇの。お前つい最近までリンカーコアの反応すらなかったじゃねえか。そんなんで今までどうやって戦ってきたんだよ」

 

傭兵っていうのは鴻上会長が言っていたことだ。それに関してはあの場を乗り切るためのでっち上げ。リンカーコアって確か魔力の源だっけ?リンカーコアの反応云々に関しては知らない。最近魔法を知ったからな。今まで俺の体がどうなってたなんてわかるわけがない。・・・じゃあ今の俺の体ってどうなってんだろう。いや、それについては置いておこう。正直考えたくないし。先祖と魔王が住んでて、色んな道具がinしてるだけでも突っ込み所満載なのにこれ以上は本当にやめてほしい。

 

でもなんだろう、翔の今言葉、言いがかり感が否めない。取りあえず質問に答えておくべきかな?

 

「えっと、オーズっていうのはこの姿の名前らしい。魔法に触れたのは先週の土曜からだから、一週間とちょっとかな」

 

それを聞いて翔がポカーンとしたと思ったら、みるみると鬼の形相になった。

 

「マジのド素人じゃねぇかぁー!!」

 

「うわぁっ!」

 

思わず後ずさる。

今日すずかが起こってたのも怖かったけど、それに負けないくらいこえぇ!

 

「ぜえ、ぜえ」

 

「あの、翔さん?」

 

敬語で会話を試みる。今のところ翔がどうして俺と戦おうとするのか、なんで怒ってるのかがわからない。とにかく聞き出さないと。

 

「・・・なんだ」

 

ぶっきらぼうに返してくれた。

 

「なんでそんなに怒っているんでしょうか・・・」

 

そう聞くと、翔は一回、二回深呼吸した。ど、どした?

 

「・・・戦闘の素人が、命がけ戦いに割って入ってきたら迷惑なんだよ。いいか、よく聞け。魔法の力とオーズの力を捨てろ。そしてもう二度と俺達魔導士の戦いに、グリード達との戦いに介入しないと今誓え。そうしたらお前たちには二度と危害を加えない」

 

・・・なんでだよ。

 

「なんでだよ、オーズとして俺は戦えてる。ヤミーも二体倒した。それにこのコンボっていう力、凄いだろ?これも使いこなせるんだぜ。それにメダルの力があればグリードって奴らとの戦いはスムーズになるし、後、えっと、そう!この前なんか超強い奴も・・・」

 

「悠」

 

体がビクッとした。翔の鋭いまなざしが俺に向けられている。

 

「邪魔だ」

 

頭をぶん殴られたような衝撃だった。

今まで翔にここまで敵意を向けられたことなんてない。拒絶されたこともない。

 

「さあ決めろ、力を全て捨てるか、俺にぶっ飛ばされて頭冷やすか」

 

・・・俺はただ、沢山の人を助けたい。その一心で戦ってきた。

今まで結果を出してきたはずだ。でも、翔にとってはそれでも邪魔らしい。

ヤミーに襲われたあの日、俺は魔法とオーズの力を手に入れた。ずっと望んでいた力。

手に届く場所なら絶対に守れる力。これを、捨てる?

 

絶対、いやだ。

 

俺は・・・

 

「貴様、いい加減に・・・」

 

「レイジングスピリッツ、静かにしていろ」

 

「!?」

 

自分でもびっくりするくらい冷たい声が出た。心がぐちゃぐちゃだったけど、なんか、急に頭が冷えて冷静になった。

 

「俺、昔からずっと力が欲しかったんだ。どんなことがあっても戦って勝つ力が」

 

冷静に翔に語り掛ける。

 

「それで?」

 

「だからこの力は捨てたくない。それにやっぱ俺のこの力はこれからの戦いに必要になると思うんだ。だから翔、俺達を見逃してくれないか?」

 

「断る」

 

だろうな、予想通り。それじゃあ・・・

 

「なら喧嘩だ!」

 

「は?」

 

翔の顔がポカーンっとした。

 

「お前が勝ったら、俺を管理局に連れていくなりこのベルトを持っていくなりして構わない!魔法も二度と使わない。あ、レイジングスピリッツに手を出すのは無しね。戦うって決めたのは俺で、あいつは巻き込まれたようなもんだから」

 

「いや待・・・」

 

翔がこっちのペースに飲まれている間に、俺が一番言いたいことを言う。

 

「だから俺が勝ったら、翔には俺達に寝返ってもらう!」

 

「えっ」

 

『はい?』

 

「・・・はあああ!?」

 

この場にいる全員ついて来れていないな、よし!

言葉もすらすら出た。

 

「もしこの勝負を受けなかったら、自害してお前が一般市民に魔法で危害加えたように見せかける!レイジングスピリッツが!」

 

「嫌ですよ!?」

 

嫌でもやるんだよ、お前が。というか出来ないじゃなくて嫌って言ってるあたり本当にできるんだな、こわ。

 

「さあどうする!俺と喧嘩するか、一緒に破滅するか!」

 

まあ翔は優しいから、俺が死ぬ道は選ばないと思うけど。

 

「ほんと最悪だよお前・・・」

 

少し頭を抱えている。可愛そうに、一体誰のせいやら。

 

「わかった、その勝負乗ってやる」

 

「ありがとう翔!」

 

よかった、心中してやる!て言われたらどうしようかと・・・

 

「ありがとう?馬鹿かお前。俺にとっちゃ結局、お前をぶっ潰すのには変わんないんだからな」

 

まあそうだけども。さて、レイジングスピリッツには下がっていてもらいますか。

 

「レイジングスピリッツ、降りて待機しててくれ」

 

「急になにを・・・」

 

何を言われても意見を変えるつもりのない俺は、レイジングスピリッツの肩に手を置いた。

 

「下で待機していろ。手は出すな」

 

「! は、はい・・・」

 

これでレイジングスピリッツは絶対に手を出してこない。

邪魔が入らないようにした後、翔を見る。

 

「どういうつもりだ」

 

「友達との喧嘩にあいつを連れるのは野暮だろ」

 

というか、多分レイジングスピリッツだけでも勝てるだろう。

でもそれじゃあ駄目だから下がってもらった。

 

「俺たちのこと、なめ腐ってるようだな」

 

『完膚なきまでに叩きのめしましょう』

 

「いくぞ、翔!」

 

「泣かす!」

 

戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

走り出すモーションを取るも走り出さず左右隣にウイニングロードを展開、翔に向かって展開しだした。

 

「そこは走れよ!?」

 

いちゃもんをつけながらも翔はウイニングロードを躱す。

2人が戦っているのを見ていたが、翔は予めどこから攻撃が来るのかがわかっているかのように感じた。原理はわからない。でも、わからないから倒せませんでしたじゃ話にならない。だからこの戦いの中で、その能力を暴く!

 

『アクセルシューター』

 

「シュ・・・っ!」

 

翔が躱した2つのウイニングロードが、今度は軌道を曲げて後ろから襲い掛かる。翔は即座に後ろを確認し、空へと上昇した。その隙を見逃すつもりはない。

 

「だああああ!!」

 

足元のウイニングロードを展開しながら走り出す。立体的に空間を使った三次元飛行では俺は戦いについていけないだろう。だが、直線でのスピードなら、俺の方が速い。

 

一瞬で翔に距離を詰めた。だがトラクローが届くより前に翔は最小限の動きで躱し、お返しと言わんばかりに脇腹に蹴りを入れてきた。

 

「があっ!」

 

ウイニングロードからはじき出され、自由落下を始める。この一瞬、俺はウイニングロードの操作を手放してしまい、下から翔を追っていた2つのウイニングロードが止まってしまう。

 

「アマテラス!」

 

体勢を戻し、ウイニングロードを足元に展開して上を見たとき、見えたのは落ちていく弾薬のようなものと、茜色の光。

 

「っ!プロテクションッ!」

 

回避は間に合わない。シールドを張った瞬間、俺の全身を包む程の大きさの光がシールドに激突した。

 

「だああああ!!」

 

凌ぎ切り、光が消える。砲撃魔法を食らうのはこれで2回目。でもバルさんより威力が小さく感じた。というより、翔はレイジングスピリッツとの戦いで魔力をかなり消耗しているはず。それで威力が低いのかもしれない。なら、そこに勝機があるはず。

 

「なら耐久戦で・・・いない!?」

 

「後ろだ馬鹿」

 

直後、俺は振り向いて両手で防御するが、魔力を込めた翔の右ストレートによって大きく吹っ飛ばされた。

クソッ、速い!

 

「このっ!」

 

すぐさまウイニングロードを足元に展開、吹っ飛ばされた方向に駆けだす。

背中をみせることになるが、距離を取らなくてはならない。

 

「それは悪手だろ」

 

『アクセルシューター』

 

「シュート!」

 

翔の周りに12のスフィアが出現、レーザーのように俺に襲い掛かってきた。

 

「うおおおお!!!」

 

全力で逃げる。迎撃するにしても数が多すぎる。

 

この結界を張った時に展開したウイニングロードが走り出した方向にあったが、ぶつからることなく俺の体がすり抜ける。

 

スフィアはウイニングロードを避けながら俺を追いかける。

 

障害物があり、速度も俺の方が速いため、スフィアが当たることはない。そのうえあの魔法を使っている間は動けないらしい。このまま魔力を使わせ続ければ・・・

 

「アクセル」

 

「っぶねえ!」

 

一部のスフィアの弾速が急に上がった。

やばい、翔の魔力が尽きるより先に俺が落ちるなこれ。

 

そんな時一瞬、地上にいるレイジングスピリッツの顔が見えた。心配そうにしている。

 

・・・このままじゃ、ダメだ。

 

「消えろっ!」

 

イメージ通りにウイニングロードが展開し、纏わりついていた弾幕を一掃した。

ウイニングロードを固くするイメージをしながら魔力を込めて展開したらうまくいった。これならいける!

 

レイジングスピリッツが言っていた通り、魔法に大事なのはイメージだ。

イメージさえあれば、どんな魔法だって使えるはずだ!

 

 

 

 

「絶対その魔法の使い方違うだろ・・・」

 

さっきから悠のウイニングロードがおかしい。ノーモーションで発動したり、攻撃に転用したり。まあ、それくらいなら大した問題じゃない。

 

問題はこっちの残存魔力。あのオーズの姿は生半可な魔法ではまともにダメージを与えることすらできない。残った魔力であいつを倒しきれなければ、その時点で勝ち目が無くなる。

 

『カートリッジ三本を使用した砲撃魔法なら、あのシールドを突破できます』

 

「了解」

 

短期戦で仕留める。あの魔力お化けにはそれしかない。

 

作戦の方向が決まった所で、悠がこちらに駆けだしてきた。

直線のその速さはフェイトや圭にも並ぶ。こちらが飛行するとウイニングロードが邪魔になるのに対し、あちらはそれを無視して移動してくるのが厄介。恐らくこの魔法は原作通りのものではなく、結界魔法に改造されている。

ノーモーションでウイニングロードをいくつも展開するからくりがこれだ。砲撃魔法でこの結界ごと壊すことも可能だが、その場合俺の結界も壊れかねない。それはダメだ。

だから直接あいつを殴って結界を利用する隙を与えないようにする。それに今のあいつにはデバイスがない。他の魔法を使おうとすれば隙ができるはずだ。

 

「ディバインシューター、シュート!」

 

2つのウイニングロードと5つのスフィアが詠唱無しで飛んできた。

・・・予想は外れたらしい。迎撃しよう。

 

『アクセルシューター』

 

「シュート!」

 

12のスフィアがそれぞれ藍色のスフィアとウイニングロードを潰し、残りが悠に殺到、するはずだった。

 

「なっ!」

 

破壊されたスフィアは爆発を起こし、悠の姿が煙で見えなくなる。

狙いは姿を隠すことだったらしい。だが・・・

 

「その煙から出た瞬間を狙えばいいだけだ」

 

アマテラスを構え、バインドの準備をする。

その後バインドを重ね掛けして砲撃魔法をぶつけて決める。

 

『エネルギー反応、来ます!』

 

煙から出てきたのは5人の悠だった。

 

「!」

 

『リングバインド』

 

咄嗟のバインドにより捕まえられたのは2人。それぞれ腕と足を捕らえるが、瞬間姿が消えた。間違いなくこれは幻影魔法。魔導士一週間目の奴が覚える魔法じゃねえ。

 

「あのロストロギア、どんなトレーニングメニュー出してんだ馬鹿か!」

 

『アクセルシューター』

 

全て撃ち落とす。12のスフィアを用意、6つのスフィアで攻撃を試みる。

 

「せい!」

 

「とりゃ!」

 

「よっと!」

 

幻影は一つ目のスフィアを見事に躱した。見事な操作技術だ、デバイス無しでよくやる。だが2つ目はどうだ?

 

「たか!」

 

「とら!」

 

「ばった!」

 

迎撃成功、さて本体は・・・

 

「まだ煙の中だな?」

 

「クソお邪魔します」

 

危機察知が発動、即座に振り返り殴りかかってきていた悠に向かって残り6発を発射した。正直驚いたが、相手が悪かったな。不意打ちは無意味だ。

 

その6発のスフィアは悠に衝突、そして・・・貫通した。

 

「これも幻え・・・」

 

「アクセル」

 

瞬間、幻影が振りかぶっていた右こぶしから藍色のスフィアが飛び出し、俺の顔面目掛けて飛んできた。

 

「ぶおっ!!」

 

完璧な不意打ち、防ぐことも躱すこともできなかった俺は、後ろに大きく吹き飛んだ。

 

「っ!」

 

後ろに危機察知が発動、すぐに体制を整える。

 

「でああああ!!」

 

『プロテクション』

 

悠のかぎ爪による攻撃をシールドで受け止める。

 

「ぶっ壊れろおおお!!」

 

「このおおお!!」

 

ピキっと嫌な音がなった。危機察知が全開で危機を知らせてくる。

 

「マズ・・・」

 

「だああああ!!」

 

シールドは引き裂かれ、両足による連続キックが腹に突き刺さった。

 

「ごあっ!!」

 

再び後方に吹き飛ばされる。追撃に備えようとするが・・・

 

『マスター後ろです!』

 

「がっ!」

 

背中を何かに打ち付ける。危機察知が発動しなかった。一体何が・・・

 

「ウイニング、ロードか」

 

「ロードプリズン!」

 

「しまっ・・・」

 

悠の声と共に俺の周りをウイニングロードが囲う。

危機察知は敵意などを察知し感じとる直感を強化したような能力だ。地形にぶつかることなどの意志が関与していないことでは発動しない。まさか、それをわかったうえで・・・

 

「能力はわかんなかったけど、この状態なら攻撃は躱せないな!」

 

「ふざけんなこの脳筋野郎!!」

 

外からバカみたいな解答が聞こえたよこんちきしょう!

 

この後来る攻撃は・・・

 

 

 

 

「これで、決める!」

 

翔の下にウイニングロードを展開、バックルにオースキャナーを通し、3度コインがぶつかったかのような甲高い音が鳴り響く。

 

「我 純白の裁きの星 汝の罪を裁く星 今ここに 」

 

俺の体が白い光に包まれる。

 

「イノセントォー!」

 

《スキャニングチャージ!》

 

 

 

 

「アマテラス!」

 

『サンライトブレイザー』

 

このウイニングロードを打ち抜くには魔力を多く消耗する。そうしたらあいつを倒す魔力が残らない可能性が高い。だが、この状況を逆に利用する。あいつはウイニングロードをすり抜けてくる。だから、ラトラーターの必殺技で突っ込んでくるはず。あいつがこの空間に入ってきた瞬間、俺の残り全魔力を込めて倒す!

 

アマテラスから5つのカートリッジが飛び出る。

 

「あ、これぎり間に合わねえな」

 

危機察知の反応からして後3秒、対してこっちは5秒。でも・・・

 

「ファイア!」

 

サテライトスフィアは後1つ、残しておいた。

 

 

 

 

「! プロテクション!」

 

横から砲撃魔法が飛んできた。

間一髪で防ぐが、威力も低いし放射時間も短い。つまりこれは時間稼ぎ。待ち構えてるな。だけど!

 

「イノセントスター!!」

 

真正面から打ち破る!

 

ウイニングロードの上を黄金と白の光が駆ける。

その姿は傍から見れば美しく輝く流星だろう。

 

だが実態は眼前にあるもの無差別に破壊する悪魔の光。罪とは、この星の前に立ちはだかったこと。罰は破壊、それのみである。

 

「サンライトォー!」

 

監獄の中から声が聞こえる。それは太陽のごとき光で全てを焼き尽くす魔法。

罪人が今持ちうる最大化力。これをもって裁きの一撃を迎え撃つ。

 

「せいやー―――!!!」

 

裁きの星が監獄に侵入する。だが罪人は能力によってそのタイミングすら読み切る。

 

「ブレイザァーー!!!」

 

ゼロ距離で行われる砲撃魔法。茜色の極光が裁きの星を燃やし尽くさんと襲い掛かる。

 

「が、ぐ、ぐああああああ!!!」

 

「もえつきろおおおおおお!!!」

 

一瞬の拮抗。だが、その一瞬はもう終わりを告げる。

 

「ぐっ!」

 

この勝負、最初から裁きの星に、悠に勝ち目はなかった。

理由は明白、純粋に翔が悠より強いからだ。当然だ。翔は小学生の頃から実践を繰り返している。対して悠の戦闘経験は皆無と言っていい。だから・・・

 

「・・・イノセント」

 

『魔力増大、これは・・・』

 

そもそも本来は、この戦いは勝負にすらならない。だが、彼には先祖から受け取った魔法があった。空を駆ける魔法と、代償に体を壊し、強者を倒すことに特化させた魔法が。

 

「その魔法は、なんだ!」

 

「スター!!!」

 

背中に大きな藍色の三角の魔方陣が現れ、裁きの星が纏っていた魔力が跳ね上がる。

押されつつあった状況が、ひっくり返った。

 

「イノセントォー!」

 

もう一つ、背中に虹色の三角の魔方陣が現れる。

 

「悠、お前!」

 

止めようとする声は届かない。ただまっすぐ突き進む。

 

「スタァーー-!!!」

 

太陽の光は、裁きの星の前に砕け散った。

 

 

 

 

俺達は今、地面に寝転がっている。吹っ飛ばされた俺はアマテラスお陰で地面にキスすることなく無事着地できた。だが損傷が激しいためそのまま眠ってしまった。

 

悠は俺がいるところに降りてきて、「勝ったぞ」と言って倒れた。寝息まで立ててやがる。こっちは指一本動かせないってのに呑気なもんだ。

 

「マスター!」

 

ロストロギア、レイジングスピリッツが悠に駆け寄る。さて、どうしたもんか。多分俺、殺されるよな。

 

「静かなる癒し」

 

悠の怪我がみるみると治っていく。シャマルの魔法も使えるんだなこいつ。

 

そんなことを考えていたら立ち上がってこちらに向かってくる。死んだな、これ。

 

「・・・インクリースタイプ」

 

「え?」

 

今度は俺の怪我を治した。なぜだ?

 

「どういうつもりだ」

 

レイジングスピリッツが睨みつけてくる。

 

「マスターを傷つけたお前を治療するのは気が乗らない。だが・・・」

 

悠の方を見ながら語る。

 

「マスターにとってお前は命より大切なのだろう。そして」

 

赤と緑の瞳と目が合った。

 

「お前は最初から、マスターの為に戦っていた。だから治療した」

 

その瞳は、俺の心を見透かしていた。

 




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ドキドキ! ハラオウン家

お久しぶりです。お待たせしてすみませんでした。
今回は投票で2位だったフェイトとの日常回を書かせていただきました。
投票ありがとうございました。

日常回2つはどちらも前回より少し後の話です。


今日はハラオウンとの料理教室の日。翔との激闘で昨日は学校を休んでしまったが、今日は復活した。『突撃、子狸!』があって大変だったが、なんとか乗り切った。外聞では男が1人暮らしの家に気軽に来ないでほしいんだけど・・・。

それに、レイジングスピリッツが「闇の書、じゃない。夜天の書の主!?ばれた!?どしましょどしましょ、えっと、とりあえず始末しますか!?」と大混乱だったのでヤバかった。とりあえずレイジングスピリッツは引っ込ませて、八神は適当に帰らせた。

・・・別に手料理が食べれなくて残念とかは思っていない。

 

さて、そんなこんなハラオウン家に到着。インターホンを鳴らす。今日もハラオウンのご家族はいないらしい。不用心過ぎるとは思うが、個人的には知らない人と会話せず済むならありがたい。

 

「はーい」

 

家の中から声がした。したんだけど、あれ、おかしいな。知らない人の声だぞ?

 

「ま、待って母さん私が出・・・」

 

「あら、どちら様?」

 

緑の長髪美人が出迎えてくれた。さて・・・

 

「すみませんどうやら家を間違えたようですさようなら」

 

回れ右をして歩き出そうとする。

 

「ちょっと待ってね」

 

残念ながら肩を掴まれてしまった。

 

「あなたのその制服、フェイトの学校のよね?」

 

「そう、ですね」

 

「実はね、今日は仕事で私達、家にいないはずだったんだけど、休みになって帰ってきてたの」

 

ほう、つまりこの人はハラオウンのお姉さんかな?

 

「そしてそんな日にフェイトと同じ学校の、それも男の子がうちにやってきた」

 

あ、やばい。呑気にこの人が誰だとか考えてる場合じゃなかった。これ質問が途中から尋問に変わってるやつだ。

 

「いやほんとに間違えただけで、ハラオウンとはあまり話したこともないんですよ・・・」

 

「へえ、呼び捨てなのに?」

 

やべ、ヘマした。

 

「用事があるので失礼します!」

 

全力で逃げだ・・・せない!?力つよっ!?ていうか魔力こもってますよ!?

 

「あらあら、遠慮しないで上がってね。学校でのフェイトのお話、聞かせてね?」

 

「あはは・・・」

 

近くにハラオウンがいるため念話でレイジングスピリッツに相談することもできない。

帰りたい・・・

 

 

 

 

流されるようにリビングに連れられ、ソファに座らされる。右には先程の美人、向かい側には黒上の男性、その隣には茶髪ショートの女性がいた。ハラオウン座らずあわあわしてる。子犬はそれを離れた位置で見守っていた。

 

「・・・母さん、彼は?」

 

男性、以前俺をバインドで捕まえたクロノという人が女性に尋ねる。何でこの人ハラオウンの家に居るんだ?それに、母さん?

 

「母さん・・・母さん!?」

 

こんな大きな人の母!?若すぎる・・・

 

「あら、どうしたの?」

 

「えと、お若いなと思って・・・」

 

「あらあら、ありがとう」

 

すっごいニコニコしている。よし、このまま褒めたたえて話題をずらして・・・

 

「それで彼は?」

 

「フェイトと逢引きしようとしていた子よ」

 

「母さん!?」

 

「おー、フェイトちゃんやるー」

 

「違いますから!」

 

茶髪の女性が捲し立てるので慌てて訂正する。とんでもないこと言い出したよこの人達!

 

「娘さんには料理を教えてるだけです。それでここキッチンをお借りしてて・・・あれ?聞いてないんですか?」

 

「初耳よ?」

 

え?何でこの人たちそのこと知らないんだ?ハラオウンの方を見る。

 

「このこと、説明してなかったの?」

 

「その、料理が上手くなったのを驚かせたくて・・・」

 

サプライズ狙ってたのか。

 

「成程、事情は大体わかった。それでも、こういうのは伝えておくべきだ。アルフもだ」

 

「ごめんなさい・・・」

 

(ごめんねクロノ、この子別に悪い子じゃなかったから大丈夫かなって)

 

ハラオウンとアルフが俯く。にしても犬も叱るって変わってるなこの人。

 

「事情もわかったことだし、お互い自己紹介しないかしら」

 

美人さんが提案してくれた。

 

「あ、はい。聖祥中等部二年、聖悠です。えっと、ハラオウンのお母さん、でしょうか?」

 

「ええ。フェイトとクロノの母のリンディ・ハラオウンです。娘がいつもお世話になっています」

 

「い、いえ、そんなことは・・・」

 

なんだか優しそうな人だな。でもなんか、怒ったら怖そうな雰囲気もする。

 

「次はクロノよ」

 

「フェイトの兄のクロノ・ハラオウンだ。今後とも妹と仲良くしてやってくれ」

 

「はい、それはもちろんです」

 

この人、ハラオウンのお兄さんだったんだな。正直、初めて会った時レイジングスピリッツが殺しかけたからすごい申し訳ないと思ってる。

 

「最後は私だね。私はエイミィ・リミエッタ。クロノ君の彼女でーす」

 

「エイミィ、やめないか」

 

リミエッタさんがハラオウンのお兄さんの腕に抱き着く。なんか目の前いちゃづき始めたぞこの人たち。

ハラオウンのお兄さんは流石にはずかしいのかリミエッタさんを引きはがす。

 

「すまない、見苦しいものを見せた」

 

「い、いえ別に」

 

いや確かにやるなら他所でやれとは少し思ったけど。

 

「それにしても、フェイトに新しく友達ができてうれしいよ。相手が男だったのは意外だったが」

 

「妹さんとは友達じゃありませんよ?」

 

的外れなことを言ったので訂正したら空気が少し凍った気がする。

 

「それは、どういうことだい?」

 

「妹さんとはあくまで同学年っていうだけですし、関わるようになったのも本当につい最近ですから」

 

ハラオウンのお兄さんの顔が少し険しくなっているが、俺は淡々と事実を述べていく。

 

「聖君、少しいいかしら」

 

ハラオウンのお母さんが訪ねてきた。

 

「なんでしょう?」

 

「友達になるのに時間は関係ないと思うの。私としてはフェイトと仲良くしてくれると嬉しいわ。でも、あなたはフェイトとは友達にはなりたくないのかしら」

 

「違います」

 

それは根本的に間違っている。

 

「その、ですね。俺にとって友達っていうのは、すごい大事なもので、うまく言えないんですけど、命を預けてもいい人、ですかね」

 

この時初めて、自分にとって友達とはなにかを言語化していく。

 

「何も知らない相手に俺は命を預けられません。そして、俺は彼女のことをよく知りません。だから、俺は彼女とまだ友達にはなれません」

 

言いたいことは全て言った。ハラオウンのお母さんは俺が話している間、俺の目をしっかり見ながら聞いてくれていた。

 

「・・・なぜそこまで友達という存在を特別視しているのかはわかりませんが、あなたがフェイトのことを友達と思えない理由はわかりました」

 

すると、両手を合わせて微笑む。

 

「まだ、ということはあなたの基準で信用できるようになったら、寧ろあなたの方から友達に誘ってくれるのよね?」

 

「え、それは・・・」

 

「誘ってくれるのよね?」

 

「あ、はい」

 

有無を言わせず頷かされる。こ、怖え・・・

 

「ちょっと待ってくれ母さん、どう考えても彼はまずいだろ。どんな友情だそれは。重いとかそんな次元じゃないぞ」

 

こうやって自分の考えを言葉にしたことがなかったからわからなかったけど、客観的にみて俺のこの思想は自分でもヤバいと思う。いや、俺友達のことそういう風に見てたんだな。全然知らなかった。

俺に兄弟はいないからわからないけど、俺も自分の弟か妹がこんな奴と友達になろうとしてたら全力で止めると思う。

 

「私も聞いた時は少し驚いたけど、言い方を変えれば友達を絶対に大事にするってことよ。それに、フェイトが友達になりたいと頑張ってる。少なからず、悪い子ではないわ」

 

なんと、俺の思想をプラスに捉えただけでなく、娘への全幅の信頼で俺のことも信じてくれるらしい。や、優しすぎる・・・

 

「ただ、聖君。もしフェイトを泣かせるようなことがあったら、容赦しませんから」

 

笑顔で忠告され、すぐに何度も頷く。やっぱりこの人怖い!

 

「それじゃあ、これからも娘と仲良くしてね?」

 

それに関しては勿論。

 

「はい!」

 

俺の返事を聞いて嬉しそうにハラオウンのお母さんは頷いた。

 

「安心したわ。さて、それじゃあせっかくだし、2人に料理を作ってもらいましょうか」

 

「「え」」

 

ハラオウンと声が重なる。

 

「あの、この状況でですか?」

 

「ええ。2人の料理、楽しみにしているわ」

 

 

 

 

「ハラオウン、ジャガイモの皮を剝くときは包丁じゃなくてジャガイモを動かすんだ」

 

「うん・・・はう!」

 

「ば、絆創膏!」

 

ハラオウンは何度も指を切り、包丁を赤く染め・・・

 

「それでは切った食材を鍋で炒めます」

 

「私の血で少し赤くなっちゃね・・・」

 

「・・・洗ったからセーフ!さあ、火を点けて。始めるよ」

 

コンロに火を点けてハラオウンに炒めるように指示する。

 

「うん。食材を動かして・・・はう!」

 

「わあー-!水、水で冷やして!!」

 

人参が宙を舞い、ハラオウンの腕に突撃したり・・・

 

「それでは牛乳をいれます」

 

「はい!」

 

「えー、それでは私が持ってきたこの測定カップを使い・・・ハラオウンストップストップ!」

 

「え?」

 

牛乳を入れすぎたりしながらも、料理は完成した。

 

 

 

 

「なぜだ、前回より悪化している・・・」

 

「ごめんなさい・・・」

 

ハラオウンが俯いてしまう。

 

「ああいや、前回と状況も違うからしょうがないって!ちょっと緊張しただけだろ?」

 

「そうそう、味は美味しいよ。ちょっと甘いけど」

 

「エイミィ・・・」

 

「あ、甘いのもいいなあと私は思うよ?」

 

畜生、余計なこと言わないでくれ。その後のフォローもへたくそか。

 

「フェイト。料理で大切なのは、作る相手への想いだと思うの」

 

「母さん・・・」

 

ハラオウンのお母さんの言葉にハラオウンが耳を傾ける。

 

「確かに今回は失敗が多かったかもしれない。でも、とっても美味しいわ。それはフェイトが私たちのために一生懸命に作ってくれたからよ」

 

ハラオウンのお母さんがハラオウンの手を取る。

 

「こんなに手に怪我ができても料理の勉強をしているのは、私たちに手料理を振舞いたかったからなんでしょう?」

 

「うん・・・」

 

「ありがとう。本当にうれしいわ」

 

「!!私、もっと頑張ります」

 

ハラオウンが息を吹き返した。よかった、料理が嫌にならなくて。

 

「そういうことで、これからもフェイトのことをよろしくね、聖君」

 

「あ、はい」

 

今の一瞬忘れていたが、彼女の料理の腕を上げる役目は俺だった。ちょっと自信なくなってきたな・・・

 

「それじゃあ、冷めないうちに食べましょうか」

 

 

 

 

そんなハラオウン自信喪失事変を乗り越え、楽しい夕食を終えて俺のハラオウン呼びの話になった。

 

「ねえ聖君、フェイトのことをハラオウンって呼ぶけれど、私達もいるときは不便じゃないかしら?」

 

きっかけはこの一言。確かにそうだけど、それでも譲りたくないものはある。

 

「すみません、友達以外は名前で呼びたくないんです」

 

「すまないが君、何かの宗教にでも入っているのかい?」

 

「いえ、これに関してはもの心ついていたときからです」

 

「つまり、教祖ってこと・・・?」

 

「冷やかさないでください・・・」

 

これに関してはどうしようもないのだ。高志と知り合った頃、頑張って名前で呼ぼうとしたら拒絶反応がでて気分が悪くなったほどである。重症だな。

 

「とりあえず、みなさんのことはハラオウンのお母さん、ハラオウンのお兄さん、リミエッタさんでいいですか?」

 

「いや、それだと長いだろ」

 

「そもそもその呼び方だと私の疎外感が凄いんだよね」

 

むむ、これだと不評らしい。どうしたものか・・・

 

「ハラオウン呼びだとややこしくなる・・・」

 

「でもさっきのだと長くなっちゃう・・・」

 

ハラオウンも一緒に悩んでくれてる。うーん・・・

 

「「はっ!」」

 

「2人とも何か思いついたの?」

 

リミエッタさんが訪ねてくる。ハラオウンの顔を見ると、彼女も同じ考えに到達したらしい。

 

「なんだろう、嫌な予感がする」

 

「ふふ、なにかしら?」

 

2人は勘づいているらしいが、折角なのでハラオウンとせーので言おう。

 

「ハラオウン、俺達が思いついたのをせーので言おう。多分同じものを思いついたと思う」

 

「うん」

 

ハラオウンと呼吸を合わせる。

 

「「せーの、お母さんとお兄さん!」」

 

「ダメに決まってるだろ!?」

 

速攻でダメ出しをくらってしまった。何で?

 

「ハラオウン呼びでもないうえに長くもないんですよ。何が問題だというんですか」

 

隣でハラオウン頷いている。かわいい。

 

「・・・フェイトは兎も角、聖。お前のそれは素か?」

 

「え、酢?」

 

何で急に酢?

 

「似たもの同士は引かれるというが・・・」

 

お兄さんが溜息をつくと、今度はお母さんが懐からメモを取り出して何か書いている。

 

「2人とも、おかあさんとおにいさんに漢字を用いるとき、二種類あるのは知っているかしら?」

 

「ええ」

 

「それがどうしたの?」

 

書き終えたメモを俺達2人に見せてくれた。そこには[お義母さん お義兄さん]と書かれていた。

 

「聖君は私の息子ではありません。つまりおかあさんと呼ぶとき、この字になります」

 

「それがどうし・・・あ」

 

完全に駄目だこれ。

 

「どうしたの?」

 

ここまで聞いてもわからなかったらしく、ハラオウンが訪ねてくる。

 

「やめてくれハラオウン、そんな純粋な目で聞かないでくれ・・・」

 

「?」

 

「フェイト」

 

おか・・・ハラオウンのお母さんが意味を伝えるらしい。娘になんてむごいことを言おうするんだこの母親は・・・

 

「他所の、それも異性の子がお義母さん呼びしたら、まるで嫁ぐように聞こえない?」

 

「え、あ・・・」

 

ここまで聞いてようやく理解できたらしく、ハラオウンは顔を真っ赤にした。

 

「ち、違うの!そういう意味で言ったわけじゃなくて・・・」

 

「落ち着け、わかってる、わかってるから」

 

「うう・・・ごめんね・・・」

 

やめて、俺も同じこと言ってるから謝らないでくれ・・・

 

「それじゃあ、あだ名なんてどうかしら?これなら名前呼びにもならずに済むんじゃないかしら?」

 

俺達の状況を見かねて、ハラオウンのお母さんが案を出してくれた。

あだ名・・・

 

「・・・なるほど、それならできるかもしれません!」

 

どうして今まで思いつかなかったんだろう。これなら、いける!

 

「あだ名で呼ぶほうが友達らしくないか?」

 

「クロノ君、しー」

 

あだ名、あだ名か。どんなのがいいんだろう?リンディだから、リーちゃん?クロノは、クロさん?

 

「聖、今思いついたのを正直に言ってくれないか」

 

「リーちゃんにクロさんですね」

 

「なるほど・・・」

 

「あらあら」

 

「クロちゃんだって。かわいいねえー」

 

女性陣には好評らしい。もしや俺には、名づけの才能があるのかもしれない。

 

「却下だ」

 

「なんでですか!」

 

「百歩譲ってクロさんはいいとして、自分の母親がリーちゃんと呼ばれるという事実に耐え切れない」

 

真顔でそう返されてしまう。・・・うん、確かに自分の母親がそんな風に呼ばれたら恥ずかしいな。

 

「むむ、それじゃあお兄さんをクーさん、お母さんをリンさんでどうですか?」

 

「なんと言うか、背中がムズムズするな」

 

「私としてはどちらでも構わないんだけど」

 

我々はあだ名付けに難航していた。く、一体どうすれば・・・

 

「あ」

 

そうだ、ハラオウンの名前を思い出せ!

 

「どうしたの?」

 

ハラオウンが訪ねてくる

 

「ハラオウン、お前のフルネームってフェイト・T・ハラオウンだよな!」

 

「そうだけど・・・」

 

「じゃあお母さんをハラオウンさんって呼んで、お前をテスタロッサって呼べばいいんじゃないか?」

 

逆転の発想だ。ハラオウンと呼ぶとややこしいのなら、ハラオウンと呼ばなければいいんじゃない。我ながら完璧だ!

 

「待って聖君、それは・・・」

 

リミエッタさんが何か言おうとして、クロさん(仮)が止めた。あ、あれ?なんか、お通夜状態になってる?空気がすごく重い・・・

 

すると意を決したようにハラオウンが口を開いた。

 

「いいよ。じゃあこれからはテスタロッサって呼んでね」

 

「う、うん」

 

なぜ、苗字の一部を呼ぶだけでこんな重い空気になるんだろうか・・・

 

「いいのか、フェイト」

 

「うん。私は大丈夫だから」

 

「そうか」

 

だ、ダメだ。まるで状況についていけていない。もしかして、俺は何か地雷を踏んだのか・・・?

 

「それじゃあフェイトのことはテスタロッサ、私のことはハラオウン、エイミィのことはリミエッタ、クロノのことはクロと呼ぶことに決定ね」

 

「これだと結局、僕だけあだ名じゃないか?」

 

「はいはいクロさん、細かいことは気にしないの」

 

「エイミィ!」

 

少し笑いが起こる。黒さん(断定)は少し不満そうだったが、これといった案もなさそうだし問題ないだろう。

でも、やっぱり引っかかる。結局テスタロッサという名前に何の問題があるのだろうか。聞いてもいい内容なのか。いつか、聞かせてもらえるのだろうか。俺はまだ、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンのことを何も知らない。

 

 

 

 

帰宅中、俺は今までの自分について考えていた。俺は信頼できる人しか友達にはなれないと言いながら、自分から誰かに関わろうとしてこなかったと思う。

圭との出会いは偶然、翔は圭に紹介されたし高志はあっちから関わってきた。すずかも毎日声をかけていたのは俺じゃない。俺は誰かと強く繋がっていたいと願っていながら、いつも誰かと関わるのが怖いと思っているんだ。

 

(大丈夫ですかマスター?もしやお腹が・・・)

 

「平気。ちょっと考え事してただけだから。テスタロッサのご飯はおいしかったから安心しろ」

 

どうやら顔に出ていたらしい。早めにテスタロッサのご飯に対する疑いを晴らす。

 

(考え事とは?)

 

「俺って友達少ないなーって」

 

(いつか増えますよ)

 

ちょっと同情も入ってそうな返答はやめろレイジングスピリッツ、それは俺に効く。

 

ここでふと思う。どうしてテスタロッサは俺と友達になろうとしてくれているんだろうか。控えめに言って俺はすごく面倒くさいと思う。友達になるのに条件つけるし、割と我儘だ。翔を味方につけたのだって俺の我儘を翔が受け入れてくれたからだ。あいつよくこんな奴の友達続けてくれてるな、神か?

 

そんな奴と今も友達になろうとするテスタロッサの考えがわからない。というか何でフェイト・T・ハラオウンのTってなんだ?今更だけどハラオウンさん達にはテスタロッサってつけてなかった。

 

「だーめだ、全然わかんねー」

 

(友達が増えない理由なら明確だと思うんですが)

 

「ちょっと黙っててくれない?」

 

隙あらば俺の心をえぐらないでほしい。

 

(マスター、後方から魔力反応です)

 

「ヤミーか?」

 

レイジングスピリッツの真面目な声色ですぐにスイッチが入る。後方からということは、ハラオウン家の方から・・・?

 

(いえ、この反応は・・・)

 

「いた、悠!」

 

「テスタロッサ?」

 

振り向くとテスタロッサが駆け足でこちらに近寄ってきた。右手には見覚えのあるハンカチが握られている。

 

「間に合ってよかった。廊下に落としてたから急いで探したんだ」

 

「わざわざありがとう。でも、明日学校で渡してもよかったんじゃないか?」

 

「あ」

 

俺の為に届けに来てくれたのはうれしいが、そこまで頭が回らなかったらしい。少しあわあわしているのがかわいらしい。

 

「確かに、そうだね・・・」

 

「ああでも、おかげで今日中に洗濯物に出せて助かった、よ?」

 

なぜ疑問形にした俺!テスタロッサをみろ、若干小さくなっていくように見えるだろうが!

 

「今日の私、ダメダメだね・・・」

 

アカン、本気で落ち込み始めている。わ、話題をずらさなければ・・・

 

「えっと、夜中に1人で戻るのも危ないから、送っていくよ」

 

「そんな、聖君からしたら二度手間でしょ?」

 

「そんなこと言ったらテスタロッサだってわざわざハンカチを届けに来てくれたじゃないか」

 

「それは私が考えずに家を出たからで・・・」

 

「じゃあ俺も考えず送っていく」

 

「でも・・・」

 

「送っていく」

 

「あ、はい」

 

俺の高等交渉術によりテスタロッサを送ることに成功した。女の子1人で帰らせるわけにもいかないからな。ここからゆっくり歩いても家まで10分もしないけど。

それに、聞きたいこともある。

 

「テスタロッサ、一つ聞いてもいいか?」

 

歩きながら尋ねる。

 

「なに?」

 

テスタロッサはきょとんと首をかしげた。

 

「どうしてテスタロッサは、その、俺と友達になろうとしてくれるんだ?」

 

ずっと疑問だった。まともに会話するようになったのは数日前。きっかけは料理教室。でも、わざわざ友達になろうとしなくても料理だけ教わってしまえばいい。だって、テスタロッサには俺と仲良くする必要はないのだから。

 

「・・・きっかけは去年かな」

 

なんかテスタロッサが懐かしむような顔しながら過去回想入ったぞ。

 

「川で溺れかけてた小さな男の子を君が助けた所を見たんだ」

 

「・・・すうー」

 

「どうしたの?」

 

「問題ない、続けて」

 

話の内容的に狸に弱み握られた話に繋がるやつだった。あまり思い出したくないが、止めるわけにもいかず続きを促す。

 

「それでね、躊躇なく川に飛び込んだ君の姿を見て、なのはと少し重なったんだ」

 

「高町さんと?」

 

ここで彼女の親友の名前が出てきた。重なったということは、プールに飛び込むフォームが同じだったっとか?

 

「なのはもね、誰かを助けるとき、自分のことを顧みないところがあるんだ。そういうところがそっくりだから印象に残ったんだ。小学校の頃から聖の噂は聞いてたけど、無茶して誰かを助けるところを見るのはその時が初めてだったんだけど」

 

「噂?」

 

テスタロッサの話の途中だが、気になるワードが出たので思わず訪ねてしまう。

 

「助けを求めるとどこからともなく表れて、強靭的な運動能力を使って一瞬で解決する優しい王子様みたいな、閃光の王子様っていう2つ名を持つ男の子」

 

「まって何かがおかしい」

 

なんだその2つ名は。なんかかぼちゃマスクを被ったテニスプレイヤーが頭を過ったんだが。

 

「何がおかしいの?」

 

「いやなにがおかしいと言われると返答に困るけど、強いて言うなら2つ名をつけられていたことだな」

 

その2つ名初めて聞いたんだけど?なに?じゃあ今まで俺色んな人に「閃光の王子様だー」とか思われてたの?嘘でしょ・・・

 

「圭がつけたらしいんだけど、聞いてなかったの?」

 

「おーけー理解した、明日窓の外に逆さで吊ろう」

 

「危ないからダメだよ!?」

 

奴はこの手で確実に仕留める。血祭りにあげてやる。

 

「まあ、それは明日のことだ。話を脱線させた本人が言うのもなんだけど、さっきの話に戻ってもいいか?」

 

「え、うん・・・」

 

「圭、ごめんね」と小さな声で謝ってるテスタロッサの姿を見て優しいなと思いながら話を聞く。

 

「それでね、その時は急いでいたし、はやてが聖の傍にいたからその場を去ったんだけど、その次の日からはやてから聖のことを聞くようになったの。それでね、話を聞くほど無茶をする人なんだなあと思ってたら、何だかほっとけないなって思ってきて」

 

「え、俺が心配ってだけで関わろうとしてくれてたの?」

 

「そう、かも」

 

優しすぎないこの娘?将来詐欺とかに引っかからないか心配になるんだけど。

 

「そんな優しい理由なのに友達になれないとか言ってごめん・・・」

 

「大丈夫」

 

そういうと、テスタロッサは隣から飛び出して俺の前に立った。

 

「君が私に頼ってくれるよう、頑張るから」

 

俺に優しく微笑んでくれた。

 

「テスタロッサは優しいな」

 

頑張るべきなのはテスタロッサじゃないなんて明らかなのに。

 

「そ、そんなことないよ」

 

照れたのか前を向いて歩きだした。

 

「あ、ついたね」

 

「それじゃあ、また明日」

 

「うん、また明日」

 

テスタロッサは手を振って見送ってくれた。

俺はいつか、彼女に何か返せるのだろうか。色々考えたが、何も思いつかずに家に着いてしまった。

 




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吸血鬼も恋をする 前編

お気に入り登録160人突破!!高評価バーも赤になりました!!
皆さん本当にありがとうございます!!

今回は日常回第二弾!投票第一位のすずかとのお話です。
ただ、投稿を早めるために前編・後編で分けます。
フェイトの話とは文字数はあまり変わらない、はずです。


自分の紫色の髪を整える。服は最近流行りのもの組み合わせた。最後にカチューシャをつけて身支度は完成。立ち鏡の前に立つ。

 

「変じゃない、よね」

 

昨日の夜、悠君からメールが届いた。内容は明日の土曜は空いているかの確認だった。話があるらしく、できれば直接会いたいとのこと。私は二つ返事で了承し、急いで明日の服装を考えた。

 

「可愛いって、言ってもらえるかな・・・」

 

彼のことだ。話というのはきっと魔法やあのオーズという姿のことについてで、話も1時間程で終わるのだろう。彼は映画や遊園地などには自分から行こうとしない。いつも圭君達に誘ってもらってついていくらしい。話が終わったらすぐにでも解散かもしれない。でも・・・

 

「私だって・・・」

 

最近、彼はフェイトちゃんの呼び方を変えた。なんでもリンディさん達と呼び方が被るらしく、みんなで考えた結果テスタロッサと呼ぶことにしたらしい。それだけならよかったけど、それ以来、フェイトちゃんとの距離が近くなった気がする。物理的に近いんじゃなくて、お互いのことを理解しようしている感じだ。その様子を見ていて、ずっと気持ちがモヤモヤいていた。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

私と彼は友達だ。だからこそ、彼は私のことをあまり異性として見ていないと思う。だから、今日は少しでもその認識を変えて見せようと決意をしていた。

 

 

 

 

予定より30分早く集合場所に着いた。場所はいい雰囲気のカフェの前。時間は11時。お昼を一緒に食べようという話だったので、恐らくここで食べるんだと思う。

 

「あれ、すずか?」

 

待ち人の声がした。振り向くとそこには彼がいた。

 

「悠君」

 

胸が高鳴る。彼も早くに来たらしい。同じ考えなのがなんだかうれしい。

 

「ごめん、もしかして待った?」

 

「ううん、丁度今来たところ。でも悠君も早いね。まだ30分前だよ?」

 

「いや、呼んだ本人が待たせたらまずいから、念のためにかなり早くに来たんだ」

 

「そうなんだ」

 

悠君は昔から真面目だ。遅れないように早い時間に登校していたのもそういうところからきている。でも、最近は魔法の練習で早い時間に登校しないから、中々2人の時間ができていない。

 

「あのさ、すずか」

 

「なに?」

 

悠君が少し照れくさそうに言う。

 

「その服、似合ってる」

 

私はそれを聞いて思わず手に持っていたカバンを落としてしまった。

 

「すずか?」

 

悠君が心配そうにこちらを窺う。でもごめんね悠君、だって・・・

 

「悠君って、女の子の服装を褒められたんだ・・・」

 

「一体何に驚いてんだよ!?」

 

「だって、今まで自分の服にも頓着がなかったし、それに人のおしゃれなんてもっと興味がなかったでしょう?」

 

「何一つ言い返せない・・・」

 

私の言葉に落ち込む悠君。落ち込む姿もかわいいなあ。

 

「すずかさん?あの、目が怖いんですけど。完全に捕食者の目になってるんですけど」

 

「女の子に目が怖いなんて言っちゃだめだよ?」

 

「あ、はい」

 

またシュンとしてしまう。こんなにかわいい人が、ここぞというときには誰よりもかっこよくなるのだから不思議だ。それにしても、似合ってるんだ。そっかぁ。

 

「ねえ悠君」

 

今日の私の目的は、少しでも意識してもらうこと。

 

「な、なに?」

 

少し怯えながら聞き返す悠君に近づき、後ろに手を組んで、少しかがんで上目遣いをする。この前読んだ雑誌に書いてあった、男の子をドキドキさせるポーズだ。

 

「似合ってるってことは、可愛いってこと?」

 

家で少し練習したこのポーズ、決まったと確信した。でも、悠君の反応はポカーンとしていた。

 

「えーと・・・」

 

もしかして、かわいいと思われなかったのだろうか。そう思った瞬間、恥ずかしくなって顔が真っ赤になったのを感じた。そしてその体制のまま固まってしまう。

 

「すみません、忘れてください・・・」

 

そう言いながら姿勢を正す。調子に乗って変なポーズをして醜態を晒した事実が私を襲う。最期の方は声が小さくなって聞こえていなかったと思う。穴があったら入りたい・・・

 

「あ、ちが、違くて、その、えっと・・・」

 

ああ、頑張ってフォローしようとしてくれている。やめて、これ以上みじめにしないで・・・

すると、悠君が深呼吸を始めた。

 

「・・・少し、見惚れてた」

 

そう短く彼は言った。

 

「・・・ほんとう?」

 

俯かせていた顔を少し上げると、彼は顔を逸らしていて表情が見えなかったが、耳が赤くなっていた。

 

「知らない、二回も言わない。店の中入るよ」

 

「ま、まって」

 

歩き出した彼を追いかける私の顔はきっと、今まで見たことがないほど笑顔なんだろうなと思った。

 

 

 

 

「マスター、コーヒーのブラックをください」

 

「俺にもお願いします、とびきり苦い奴」

 

俺がコーヒーを頼むと、高志もコーヒーを頼んだ。まさか昼からとんでもないものを見せられるとは思っていなかったのだ。

 

俺、翔はグリードへの対応並びに、悠の正体を知っている人物を集めて情報を共有する会に呼ばれた。悠から高志とすずかが来ることは聞いていたので、高志を予定の時間より1時間早く呼んで、高志と少し話をしていたのだ。

 

諸々話し終えると、すずかがカフェの前に着いたのが窓から見えた。声をかけようと店を出ようとすると悠がすずかと合流した。

 

2人が会話をし始めたので、温かい目で俺達は見守っていたのだが、結果がこれである。

 

「口が甘ったるいよ、ケーキ頼もうと思ってたのにどうしてくれんだよ・・・」

 

「見てるこっちが恥ずかしかった・・・」

 

すると店の扉が開き、悠と目が合った。

 

「あれ、2人とも早くない?」

 

「高志と話をするために早めに呼んだんだよ。ほら、早く座れ」

 

悠を促すとすずかも店に入ってきて、俺達を見て固まった。どうしたんだ?

 

 

 

 

今、4人席に座っている俺達の間には、非常に気まずい雰囲気が漂っている。

この状況になったのには、3つの原因がある。

1つ、悠がすずかに俺と高志が来ることを伝えていなかった。

すずかは二人っきりと思っていたため、色々アピールしようとしていたのだ。すずかが悠に気があるのは気づいている。いやだって、朝早くに登校して二人っきりの時間を作っていた時点で確定だろ。

2つ、先程のラブコメシーンにより、すずかの気持ちが高ぶっていた。

まあ、天国にいたのに店に入ったら地獄にポイ捨てされるレベルの衝撃だったろうな。

そして3つ、そのラブコメシーンを俺達に見られていた。

これが致命的だな。あんなもん知人に見られたらそりゃ恥ずかしいだろう。見ていたのがなぜばれたって?位置的にさっきのやりとりの真ん前にいたんだもん俺達。見られてたって、すぐわかる。

 

あのワンシーンを見てしまったのは俺が高志を早い時間に呼んでしまったからだ。それが俺の罪だ。

だがそれ以外は大体悠が悪い。報連相ができていなかったし、カフェの前でラブコメ始まったのは、まあ、悠せいだろう、多分。

俺は罪を認めた。さあ悠、お前の罪を自覚しろ。

 

「パスタの種類結構あるなぁ、何にしよう?」

 

お目々キラッキラしていらっしゃる!?

空気読めよお前!読めない人間じゃないだろ!

 

「ここのケーキ美味しいらしいんだぁ。お昼食べた後にみんなで食べない?」

 

あ、ダメだ。恐らく奴の頭は「わーいみんなで外食だやったー」とはしゃぎ散らしているんだろう。お前みんなと一緒にご飯食べるの好きだもんなぁ。

理由が理由だから責められねぇ・・・

 

「・・・パスタだけじゃなくて、パンケーキもあるらしいから、ケーキを頼まずにそっちにするのもいいかも」

 

「なるほどぉ」

 

すずかが悠の空気に乗っかっただと!?

よく見ると目に光が戻っている。あの感じからして「しょうがないなあ」みたいな感じだろうか。こうなったら乗るしかねえ、このビッグウェーブに!

 

「俺は折角だからミートスパゲッティにしてケーキも頼もうかな」

 

「俺はこのミニケーキ付のハンバーグセットってのにしようかな。それぞれは小さいけど好きなもの全部詰め合わせてる感がいいな」

 

高志も乗ってき・・・いや素だなこれ。お腹空いたからって遠慮なさすぎだろこいつ。

 

「コーヒー2つ、どうぞ」

 

「あ、どうも」

 

マスターが持ってきてくれた。にしてもここ、ウェイトレスとか雇わないのか?

 

「あの、注文いいですか」

 

「伺います」

 

悠が恐る恐る尋ね、マスターが伝票を懐から取り出す。

 

「カルボナーラとショートケーキを1つ。はいすずか」

 

メニューを指さし終えた後、メニュー表をすずかに手渡す。いや、甘くない?カルボナーラってそこそこ甘いけどそのあとにケーキも食べるのは甘くない?というか普段お前食後のデザートとか頼まないよね?

 

「私は昼ランチのパンケーキをお願いします」

 

すずかはさっき言っていたものを注文していた。まあ、ご飯食べた後にケーキ食べたらカロリー凄いもんな。

 

「俺はミニケーキ付ハンバーグセットをお願いします。翔はミートスパゲッティだっけ?」

 

「ああ。マスター、ショコラケーキもお願いします」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

全員注文し終えてマスターが立ち去る。個人経営の店にしてはメニューが多い。それ全部をこなせるあのマスターがどれだけ超人かはそれだけでわかる。

 

「みんないつもこれくらい頼むの?」

 

あの人ウェイトレス雇わないのかなーと考えていたら、すずかが俺達の食べる量について尋ねてきた。

 

「いや、普段は一品位しか頼まないかな」

 

「言われてみれば確かに。2人とも今日はなんで?」

 

「「おめーがケーキおいしいって言ったからだよ」」

 

珍しくお前が人に何か勧めたから乗っかったんだよ。頭鶏かこいつ。

 

 

 

 

全員食事を終え、情報共有を行い、コーヒーを飲んで一息つく。様々な情報が出されて凄まじかったが、今回は会話の内容を割愛する。今はそれよりも重要なことがあるからだ。

 

「よし、それじゃあさっき言った通りカラオケに・・・」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

「なに?」

 

悠は情報共有が始まる前に、この会が終わった後遊ぶ予定を立てていた。確かに全員予定を空けているし、悠が初めて主導で計画を立てていたのは成長を感じた。内容がゲームセンターに行って水族館に行って、さらにカラオケに行くというダメダメなものだったことは置いといてだ。

今回、すずかは2人きりになって色々やろうとしていたはずだ。それがこの恋愛知識小学生レベルのこいつに通じるかどうかは別として。だからせめて、残りの時間はすずかに譲りたい。

 

「今思ったんだが、お前とすずかは2人で遊んだことないだろ?なら、今回は2人だけで遊びに行ったらどうだ?」

 

「え、でも折角だし・・・」

 

「そうだぐっ!?」

 

(騒いだら殺す)

 

賛同しようとした高志の脚を踏み抜き、念話で忠告する。

 

「高志どうした?」

 

「な、なんでもないなんでもなーい。ちょっとゲップしかけただけ」

 

うまいこと誤魔化したな。えらいえらい。

 

「みんなで遊ぶなら圭も誘うべきだろ?あいついないと省いてるみたいでなんか嫌じゃん」

 

「言われてみれば確かに・・・」

 

「とにかく、みんなで遊ぶのはまた今度にして、今日はお前とすずかの親睦を深める日ということで」

 

悠は悩みだし、高志は悶絶、すずかは目を輝かせていた。

因みに現在圭|(あのバカ)は風都という町を探しているらしい。何でも、その町がオーズの映画に少し出たらしく、これから俺達に関係するかもしれないと調べるらしい。ネットで検索しても見つからなかったが、似たような町がないとも言い切れないため、足で探しに行くと言っていた。

 

 

「見つけてどうするんだよ。というかない可能性の方が高いだろ」

 

「なかったらなかったでいいんだよ。寧ろない方が安心だわあんな魔境」

 

 

何でも殺人事件がしょっちゅう起こる町とのこと。怖すぎんだろ・・・

 

「えっと、すずかは俺とだけでいいの?」

 

「私は折角だから、悠君と一緒に遊びたいな」

 

すずかはそれはもう嬉しそうに答えた。

 

「じゃあ、どこ行く?」

 

「うーん・・・」

 

「2人で行くなら水族館でいいんじゃないか?あそこ男女二人で行くと割引されるぞ」

 

ナイスだ高志、十中八九カップル割のことだろうが、それを言ったらすずかは顔を赤くして別のを選ぶだろう。

悠は・・・どうなんだろうなこいつ。恋のこの字どころかローマ字の頭文字のKもわかってなさそうだもんな。

ともかく、水族館ならデートにピッタリだ。初デートに丁度いい。

 

「じゃあそうするか?」

 

「うん」

 

「あ、俺らはまだだべってるから先行ってていいぞ」

 

「それじゃあお金置いとくから、会計は頼んだ」

 

「お願いします」

 

2人は料金を置いていくと店を出て行った。

 

「2人とも、いつか付き合うのかな?」

 

高志がまるで巣立っていく我が子を見守る目をしながら感慨深げに呟く。一体何目線なんだそれは。

 

「どうだろうな。悠がすずかを恋愛対象として見てるかどうかも怪しい」

 

「それは・・・うん」

 

高志も俺と同意見らしい。

 

「でもまあ、悠の彼女がすずかなら安心できるんだけどなぁ」

 

あいつは結構面倒くさいところがあるから、それを受け入れられる女性じゃなきゃダメだ。いや確かに悠はいい奴だよ?でも放っておくとすぐ面倒ごとに首ツッコむし、そのくせ人見知りだし、親しくなった相手には我がままを言うこともある。

取り敢えず安心して任せられそうなのはすずかとはやてだな。「悠はや」も悪くないんだが、小学校から見守ってきた身としては「悠すず」派だ。それにはやてが悠に対して抱いてる感情が恋愛感情かどうか怪しいしな。

 

「誰目線だよそれ」

 

「お兄ちゃん?」

 

「お前みたいに毒吐いてくる兄を持つ弟が可哀そうだ」

 

「お前も弟にしてやろうか?」

 

「何言っていんだお前」

 

今日もそんなバカみたいな内容を友達と喋りながらコーヒーに口を付けた。

 




悠がすずかだけを誘って遊びに行く図が想像できなかったのでこうなりました。
後半翔目線になっているのは悠がテンション上がってあほの子なってるからです。
それから翔は特撮のことはあまり知りません。翔が見覚えのあることを言っていたとしてもそれは偶然です。


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吸血鬼も恋をする 後編

まずは謝罪を。私にはラブコメはこれが限界でした。申し訳ございません。
純粋なラブコメ書きたかったのに、気づいたら本編に近いものになっていた・・・



水族館のチケットを買うために券売機に寄る。でも、高志の言っていた男女割というのが見つからない。おかしいな?

 

「ねえ悠君」

 

「どうした?」

 

すずかが少し言いにくそうに声をかけてきた。

 

「多分、これのことなんじゃないかな・・・」

 

すずかがタッチパネルを指さすと、そこにはカップル割と書かれていた。

 

「高志君が言ってたのは、このか、カップル割、のことだと思う・・・」

 

「じゃあ全然違うじゃん。俺達カップルじゃなくて友達なのに、おっちょこちょいすぎるよ。なあ?」

 

高志の奴、とんだおっちょこちょいだな。すずかに同意を求めると、ダメージを受けてそうな顔をしていた。

 

「そ、そうだね・・・」

 

どうしたんだろうか?

 

「その、折角だからこのカップル割にしないかな?安く済むし」

 

「いいのかな、カップルじゃなないのに」

 

「男友達とどこか行くときにカップル割を使うって、クラスメイトに聞いたことがあるよ」

 

そういうものなのか、知らなかった。すずかの言葉に従ってカップル割のチケットを買う。

 

(マスターはわかってるんですか?)

 

(何が?)

 

(彼女の言動の数々ですよ)

 

(言動の数々?)

 

(なるほどわかりました。私は黙ってます)

 

急に話しかけてきたと思ったらすぐ黙ってしまった。何かあるならちゃんと言ってほしいんだけど・・・

 

「悠君?」

 

俺が足を止めたため、すずかが俺の様子を窺ってきた。待たせちゃだめだな。

 

「ごめん、ちょっとぼーっとしてた。行こう」

 

そう言って受付の場所まで歩いた。

 

 

 

 

「おおー・・・」

 

大きな水槽の中で、色んな魚が泳いでいた。見覚えのあるものがあるものから全く知らないものまでさまざまだ。

 

「あのオレンジ色の魚何だっけ?えーと・・・」

 

「確かカクレクマノミじゃなかったかな?ほら、あそこに魚の説明が書いてあるよ」

 

すずかの指さす方を見ると、水槽の中を泳いでいるそれぞれの魚について書かれている大があった。

 

「ほんとだ。すずかは水族館詳しいの?」

 

「人並だよ。最後に行ったのは小学5年生の夏休みにみんなと行った時以来かな」

 

小5の夏だと、確か大きなテーマパークができた時かな?あのテーマパーク広すぎて、圭達に連れられた時はまわりきれなかったんだよなぁ。

そういや圭の奴、「あそこのジェットコースター、ロケットに改造されて宇宙に飛んでいくはずだったんだよなぁ」とか、テーマパーク内の広場で「カノン、撃ちます!・・・どう?似てる?」とか意味わかんないことを翔に言ってたな。翔の奴は迷惑そうだったけど。あれ結局元ネタ何だったんだろう?

 

「悠君は水族館初めて?」

 

「ああ」

 

種類によって群れたり一匹だけで泳いでいたりしていて、その違いを見ているだけで面白い。

 

「でもこんなに面白いならもっと早くに・・・」

 

来ればよかった、と続けようとして、口を閉じた。

それは違うと思い、苦笑いする。

 

「悠君?」

 

「何でもない。あっちも見に行こう」

 

すずかと一緒に、水族館を歩いた。

 

 

 

 

「ペンギン可愛かったなー」

 

「うん。飼育員さんの後をついていくところが可愛かったよね」

 

水族館のショーを見終えて、トイレ休憩を入れた後に帰路に着いた。外はもう日が落ちている。

 

「悠君は水族館で何が一番気にいったの?

 

「一番か・・・」

 

ペンギンもイルカも可愛かったけど、サメも見ごたえがあった。ちっちゃいサメも意外と可愛かったし、どれも見ていて飽きなかったしなぁ。

 

「ちょっと決められないな」

 

「ふふ、悠君は昔から生き物が好きだもんね」

 

「そうかな?」

 

「だって、犬や猫を見ると目がキラキラしてるよ」

 

自覚がなかったけど、そうだったんだ。俺って生き物が好きだったんだな。

 

「ねえ悠君。今日はどうして、みんなを遊びに誘ったの?」

 

「それは・・・」

 

すずかの問いかけに言葉が詰まる。今日を思いっきり楽しんで、忘れようとしていたことだ。

レイジングスピリッツにも相談できなかったことだ。

 

「ちょっと、不安になったんだ」

 

「不安?」

 

「俺って何なんだろうなって」

 

少しずつ、心に留めていたことを出していく。

 

「俺さ、小さいころから誰かを守れる自分になりたかったんだ」

 

「それは・・・」

 

「すずかの件は強くなりたいと思うきっかけだけど、守ろうとした気持ちはそれより前にあったんだ」

 

すずかはきっと、あの件がきっかけで俺がずっと思い詰めていたことを言おうとしたのですぐ止める。今回の件はそれとは違うし。

思い詰めすぎた結果、記憶消去されてるのにも関わらず幼いすずかに俺が弱くて助けられなかった恨まれてるんじゃないかって飛躍した考えをしてたからな。今となっては黒歴史に近い。まあ、結果強くなろうとしたんだが。

 

「色んな鍛錬をして強くなった。沢山の人を助けてきた。そして色んな力を手に入れた」

 

「それじゃあ、何が不安なの?」

 

すずかは答えがわからず答えを直接訊ねてきた。

 

「肝心の力だよ」

 

俺はこの後すずかが出す答えに少し怯えながら話す。

 

「昨日、グリードと戦ったって言っただろう?」

 

「そしたらさ、カザリって奴に、君のような怪物を僕は知らない。君は一体誰なのって聞かれたんだ」

 

そう問われた時、俺は何も答えられなかった。自分が何なのかすら正しく認識できていなかったから?

違う。自分を怪物と認めたくなかったから。

 

「俺さ、怖いんだ。俺からみんなが離れていくのが」

 

大事な人を助けるためにどれだけ傷ついても平気だ。でも、自分の力を怖がられて拒絶されたら耐えられない。

 

「俺の手元には色んな力がある。オーズの力、先祖の魔法、そして俺の中に入ってきたのに出てこれなくなってる魔王」

 

にしてもこれ、完全にBLE〇CHの〇護だな。そんなくだらないことを考えながら続ける。

 

「これ全部がかなり危険な力なのに、全部持ってる俺は何なんだろうって。そもそも、喧嘩くらいしかしたことがないのに、今までまともに戦えていたことがわからないんだよ。おかしいだろ?」

 

確かに今までそれなりに鍛えてきた。不良を撃退したのも一度や二度じゃない。だからと言って、命が掛かってる戦いで、あれ程戦えているのか、俺は知らない。あまりに自然に戦えていたから今まで気づかなかった。

 

「自分のこともわからないのに、色んな力をいつかを間違って使って、みんなが俺のことを怖がって、離れていったらどうしようって思ったら、メール送ってた」

 

少しでも気を紛らすために、みんなとはしゃぎたかった。そんな自分勝手な理由でみんなを、友達を使った。

これを聞いてすずかはどう思ったか聞くのが怖かった。見限られるんじゃないか、怪物として見られるんじゃないか。

怖くて顔を上げられない。

 

「悠君はさ、私があの男の人から普通の人間じゃないって聞いてどう思った?」

 

軽い口調で、とんでもなく重い話題が飛んできた。

 

「えっと、あの時は少し混乱してたから、そうなんだ程度にしか思っていなかったと言いますか、何と言いますか・・・」

 

咄嗟に答えるが、慌てて答えたため思ったことをそのままいい、途中で気づくも時すでに遅く、最後は敬語になっていた。

 

「つまり私の悩みの種は、悠君にとってはその程度のものだった、ということ?」

 

「いえ、あの、決してそういうわけじゃなくて、その・・・」

 

完全にやらかしたと思った。見捨てられると、思った。

 

「ふふ、よかった。悠君にとってどうでもいいことで」

 

「え?」

 

あまりに予想外の答えが返ってきて、思わず顔を上げた。そこには優しく微笑んでいたすずかがいた。

 

「私ね、嬉しかったんだ。普通の人間じゃないってわかっても、守るっていってくれたことが」

 

すずかは1つずつ、丁寧に語っていく。

 

「知られたら拒絶されるかもしれないって思ってた。昔のことも、思い出したら嫌われるんじゃないかって何となく思ってた」

 

そんなわけはないと思ったが、自分もそうだったので共感できた。

 

「でもあなたは、私を拒絶するどころか、真正面から受け入れてくれた。それが本当に嬉しかった」

 

すずかが俺の両手を包む。

 

「聖悠、聖祥中学二年。好きなことは人助けと生き物。嫌いなことは悪いことを見逃すこととパセリ。普段大人っぽくて落ち着いているように見えるのに、結構子供っぽいよね」

 

「すずか・・・」

 

すずかは、俺が何者かを定義していく。

 

「強くて優しくて、それでいてどんな時でも、どれだけ傷ついても真っすぐ助けに来てくれる。それが、私が知ってるあなた。」

 

手を包む力が少し強くなった

 

「私はあなたに傷ついて欲しくない。でも、今までのあなたを見てきて、それは無理だとわかっているから・・・」

 

俺の目を、真っすぐ見てくる。

 

「だからせめて、あなたの傍に居続けるよ」

 

その瞳は噓偽りのない、綺麗なものだった。その瞳に映る顔は、少し不安が消えかけていた。

 

「すずかは、俺がいつか君を傷つけると思わないの?」

 

あまりに真っすぐな答えに、俺は聞きたくなった。

 

「思わない。今までちゃんとその力を間違って使ったことはないんでしょ?なら、これからも大丈夫」

 

「じゃあもし間違って、すずかやみんなを傷つけそうになったら・・・」

 

「それこそ、そうならないように守ってくれるんでしょ?」

 

無茶苦茶だ。俺が傷つけるかもしれないという話なのに、それを俺が守ると言っている。でも、言いたいことはわかった。

友達がここまで言ってくれているんだ。なら、俺も覚悟を決めるべきだ。

 

「・・・すずか、俺、何があってもお前を、みんなを守る。まずはこのグリードの事件を終わらせて、自分の力について考えてみる」

 

「うん。煮詰まったりしたら、相談に来てね。力になるから」

 

そう言って、すずかはまた優しく微笑んでくれた。

 

 

 

 

「悠君、これ」

 

「これは?」

 

メイドが来るという場所で、別れ際に小さな紙包みを渡された。

 

「さっきお土産コーナーで買ったの。悠君には青いペンギン、私には水色のペンギン」

 

「それもはやペンギンじゃなくね?」

 

「いいの、こういうのは本物に忠実なんじゃなくて、可愛いかどうかなんだから」

 

そういんもんか。

 

「そっか。大事にするよ」

 

後で筆箱にでもつけておこうかな。

 

「悠君」

 

「なに?」

 

今度はなにかとペンギンから目を離すと、すずかが目の前まで来ていた。そして耳元で囁いてきた。

 

「私、いつかあなたに血を吸ってもいいと言われるように頑張るからね」

 

「何言うのかと思ったら。非常事態の時なら俺は全然かまわないけど・・・」

 

流石に命に関わることだろうから全然かまわないんだけど・・・

 

「意味は、自分で考えてね。他の人にも聞いちゃだめだよ?レイジングスピリッツさんもいいですか?」

 

(任されました)

 

「え、なん・・・」

 

「それじゃあ、また学校で!」

 

そう言って駆け足で離れていった。最後のはよくわからなかったけど、まあ、いっか。

 

「ところでレイジングスピリッツ、最後の、わかるの?」

 

(予想はついてますが、答えは自分でたどり着いてあげてください)

 

結局最後までわからなかった。わからないといえば、もう一つ。

 

「そういや、火野英司って結局、誰なんだろう」

 

カザリが出したこの名前が、まだ頭に残っていた。

 

 

 

家に帰ったすずかは、自身の行動を思い出し1人悶絶していたそうな。

 




トラハの吸血鬼は生涯を共にする人から血を吸うらしいです。


新章に突入するにあたり、「この作品はフィーリングだ!」や「新しい要素多いからまとめてほしい」など意見が別れると思うので設定集を挟むかどうかアンケートを取ります。

今回設定集を作ることになったらこれからも新章に入るたびに作ります。


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ロストロギア争奪編
友のためと厄災セットと始まり


前回アンケートが正しく表示されていませんでした。申し訳ございません。

今回から新章が始まるので、この話を設定集がいるかどうかの判断材料にしていただければ幸いです。
アンケートは三日で締め切ります。

それから、ここすきありがとうございます!どんなネタを入れれば楽しんでいただけるかわかるので助かります!


仮面ライダーオーズ、これまでに起こった3つの出来事。

1つ、一時の魔王復活するも、数秒で返品。

2つ、聖悠がラトラーターコンボに変身し、謎の魔導士を撃退。

そして3つ、翔に正体を看破されるも、戦って勝利し寝返らせた!

 

 

 

 

なぜ、俺が命をかけてレイジングスピリッツに戦いを挑んだか。

俺の目的はただ一つ、悠をこの戦いから遠ざけることだ。昔から悠を見ていればわかる。力さえあればこいつは普段の比じゃない程の無茶をするだろう。だからリンカーコアがないことが1つの安心材料になっていた。

 

でもグリード達が現れて、オーズの言動が悠に似ていると気づいた時、俺は焦った。オーズの魔力保有量を確認したところ、AAAは下らない。

それがどれくらいすごいかって?管理局のエースを狙えるくらいヤバい。

とにかく、オーズの正体が本当に悠で、この事件が終わった後、悠が他の世界に目を向けたら?管理局に入って魔導士になったら?と考えた。

 

きっと死ぬなと思った。

 

オーズのデバイスが使っていた魔法、それは俺が持っていた本に書かれていたデバイスがよく使っていたとされている魔法によく似ていた。

 

対魔導士射撃魔法ブレイクランス。魔法発動にかける処理を変えることで性能を上げ、最も威力を高めたものはどんな魔力障壁をも貫くと書かれていた。管理局のデータベースを見たがそんなものはなかったため存在すら怪しんだが、現実としてあった。となるともう、見た目が違くてもデバイスの正体はわかったようなもんだ。本にも大抵のことはできるデタラメなデバイスと書かれてたしな。見た目も変えられんだろうと予想した。

 

もしオーズの正体が悠だった場合、レイジングスピリッツに脅されて無理やり戦わされているか、いつものように人を助けるために戦っているかの2つが考えられた。

 

前者ならレイジングスピリッツを、後者ならもう二度と魔導士の道に交わらないように完膚なきまでに悠を叩き潰そうと考えた。だが、オーズの正体が悠という証拠はない。それに証拠もなしにオーズに戦いを挑んだらあの会長がどう動くかわからない。

 

だから賭けにでた。

 

管理局の見回りスケジュールを確認し、二時間ほど管理局の魔導士がこない場所に罠と遅延型結界魔法を設置。魔導士が来ない時間に悠をおびき出す。

 

「後は簡単。封じ結界を張ったと同時に内外の情報を遮断する遅延型結界も発動して、お前がオーズなのかーってハッタリをかけた後に、悠に躱しきれない量の魔力弾を発射。もちろん当たっても大して痛みも感じないこけおどしの魔力弾だ。その魔力弾に対する反応を見るつもりだったんだが・・・」

 

「その前にこのポンコツが攻撃を仕掛けたから秒で疑惑が確信になったと」

 

「ああ」

 

俺の予想を肯定して翔は水を飲む。今度客人用にコーヒーとか用意しないとな。

大喧嘩を繰り広げた俺達は、インビシブルを使うことで自分たちの姿を隠しながら俺の家でここまでの経緯を聞いていた。

ちなみに、家にたどり着くまで肩を組んで支え合いながら歩いた。傷は治っても痛みは残ってるからな。特に俺が酷かった。全身が未だに悲鳴を上げている。

今回の件でわかったのだが、俺の怪我の主な原因はコンボではなく、先祖からもらったあの魔法だ。レイジングスピリッツ曰く、「これオーズになったうえで、コンボで体が滅茶苦茶強化されてなかったら体が爆散してますね」とか言ってたんだけど、まじでとんでもないもの渡してくれたなあの野郎。でも、気絶したのに夢に出てこなかったんだよな。何でだろう?

 

『あのマスター、ポンコツ呼ばわりは流石にひど・・・』

 

「お前が焦って攻撃しなければ戦わずに誤魔化せたって言ってんだ型落ち」

 

『あ“あ”あ“あ”!言っちゃいけないこと言った!一番言っちゃいけないこと言った!』

 

型落ち呼びがよっぽど嫌だったのだろうか、青い球体が抗議を入れてきたがスルーする。

 

「天才の最高傑作の姿か?これが・・・」

 

「天才も人の子だったということだよ」

 

翔曰く、レイジングスピリッツ自体はベルカという国の戦争で多くの魔導士やら騎士やらを多く殺したという伝説の兵器らしいのだが、正直俺は全く信じてない。だって、これだぜ?

 

「私、凄いのに!現代のデバイスよりもスペックは上なのに!」

 

『見苦しいですよ型落ちさん。これ以上無様を晒すのはおやめになったらどうです?』

 

『黙れ役立たず。自身のマスターも碌に守れないデブリ風情にものを言われる筋合いはない』

 

『上等です叩き潰してあげましょう』

 

なんかレイジングスピリッツを見たら、黄色の球体の姿をした翔のデバイスと喧嘩し始めたんだけど・・・

 

「何やってんだよアマテラス!修復したとはいえ病み上がりなんだから大人しくしろ」

 

「レイジングスピリッツも、仲よくしろよ」

 

2人で二機を諫める。何で人間の俺達が機械であるこいつらをなだめてんだろう?

 

「ごめん翔、うちのポンコツが迷惑をかけた。話を戻そう」

 

「こっちもすまない。後で反省させる」

 

さて、取り敢えず聞きたいことを1つ。

 

「俺がオーズじゃなかったらどうしてたんだ?」

 

さっきの説明を聞く限り、確かに周りの人間には今回の件が漏れるようなことはないだろう。でも、仮に俺がオーズじゃなかったらまずかっただろう。それに魔導士って正体がばれたらいけないというイメージがあるけど、どうなんだろう?

 

「そこはあれだ・・・ア、アイス一年分で黙ってもらうとか・・・?」

 

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

 

夏だと嬉しいけど冬なら地獄だぞ。アイスを毎日食べる奴なんて人間じゃねえよ。

 

「しょうがねえだろ。一刻も早く確認したかったんだ。それに、俺の予想は当たってたらしいしな。それも最悪な方が」

 

「それは・・・はい。これからお世話になります」

 

素直に頭を下げる。翔が言う最悪な方、俺がレイジングスピリッツに協力させてオーズとして戦っている場合だ。そっちだと俺の心を徹底的に折って2度と魔導士になろうと思わないようにしないといけないかららしい。そこまでやる?とは思ったが、言いたいことはわかる。

 

「ああ。負けたからには情報を流すなり鍛えてやるが、お前が危険な状況になったら首根っこ掴んでその場から追い出すから」

 

サラッと管理局を裏切ると言っているあたり、翔は俺のことが心配でしょうがないらしい。レイジングスピリッツは傍で手伝おうとしてくれているが、翔は危ないことから離そうとしてくれていたんだ。

 

「・・・ありがとう」

 

「おう」

 

ちょっと気まずい雰囲気になった。戦う前に色々言われて結構ショックだったけど、滅茶苦茶大事にされていたことがわかると、すごく照れる。

 

「にしてもお前、コンボも使えたんだな。驚いたよ」

 

「ああ、あれは先祖に体から出す方法を教わって・・・」

 

ここまで言って失言に気づいた。俺の中に魔王と先祖が入っていることに気づいていることをレイジングスピリッツに秘密にしていなければいけなかったのに、盛大にやらかした。恐る恐るレイジングスピリッツを見やる。

 

「あの、マスター」

 

「あ、はい」

 

『先祖って、どういうことですか?』

 

「え?」

 

思わず翔を見る。

 

「いやこっち見るな。俺が知るわけないだろ」

 

だよな、落ち着こう。今レイジングスピリッツに聞くべきことは・・・

 

「魔王のことは知ってるよな?」

 

全く落ち着いていなかった。

 

『何で知ってるんですか!?』

 

あ、そっちは知ってるんだな。

 

「魔王ってなんだ?」

 

『え、知らなかったんですか?』

 

「え?」

 

『え?』

 

「え?」

 

『「「え?」」』

 

2人と一機の考えは、びっくりするほどかみ合っていなかった。

 

『皆さん、一度情報のすり合わせをした方がよろしいのでは?』

 

翔のデバイス、アマテラスさんが場を収めようと動き出した。

 

「・・・そうだな。取り敢えず俺は先祖と魔王云々はまるで知らない」

 

翔が何も知らないことを表明してくれた。じゃあ俺だな。

 

「俺は自分の中に先祖が住み着いていて、魔王っていうヤバいのが封印されてるのを知ってる。はいレイジングスピリッツ」

 

『えと、魔王は知ってますけど、先祖が住み着いているって何ですか?というか、翔さんは魔王のことにも気づいていて強硬手段に出たのだとてっきり・・・』

 

この感じからして、全員の思惑が交差しまくった結果、ごちゃごちゃになったんだな。

 

「ちょっといいか?」

 

翔が恐る恐る手を上げる。

 

「俺達が衝突した時、虹色の魔力光が出てたよな。それに、お前の苗字・・・その先祖っていうのは、まさかとは思うが聖王じゃないよな?」

 

「聖王?なにそれ」

 

虹色の魔力光とやらが何のことかはわからないが、それより初めて聞く聖王というのが気になった。いかにも王族っていう感じの名前だけど・・・

 

「お前は知らないのか。ざっくりいうと、自分たちのいる世界だけじゃなく、周りの色んな次元世界を征服しようとしたヤバい国の王様だ」

 

想像以上にやばかった。やってること完全にゲームの魔王じゃん。俺の中にいる魔王が霞むんだけど・・・

 

「それでレイジングスピリッツ、どうなんだ?」

 

俺が自分の先祖について碌に知らないとわかった翔はレイジングスピリッツに問う。レイジングスピリッツは俺の中に先祖(あれ)がいることは知らなかったらしいが、コアメダル製作に先祖が関わっていることを知っているということから先祖についてある程度知っているはずだ。できれば、さっきの聖王とやらが俺の先祖ではないことを祈る。

 

『それは・・・えーっと・・・』

 

すげえ、目がないのに目が泳ぎまくってるのがよくわかる。ていうかマジで蛮族の末裔なの俺、嘘でしょ!?

 

「これ以上面倒ごと増えるのかよ、嘘だろおい・・・」

 

翔が頭を抱えだした。

 

「・・・なあ翔、面倒ごとって?」

 

なんだろう、嫌な予感がする。

 

「お前の存在が聖王教会っていう組織にばれるとお前が祭り上げられる可能性がある、またはいくつもの次元世界を征服できる聖王のゆりかごっていうロストロギアのパーツにされかねない、エトセトラエトセトラだ。よかったな悠、世界の垣根を越えて人気者になれるぞ」

 

「喜べる要素が1つもねえよ!?」

 

え、なに?俺の血筋ってそんなにヤバいの?祭り上げられるって何?教会ってことだから神として扱われるの?蛮族の末裔が?Why?

それにロストロギアパーツにされるって何?何をどうしたらそうなるんだよ!

 

「なぁレイジングスピリッツ。お前が俺を管理局に関わらせたくないのって・・・」

 

『半分は私情ですが、もう半分は彼の言った通りです』

 

うん、そりゃ関わらせたくないよね。正体がばれたら世界が動く。レイジングスピリッツは俺を大事に思ってるから命がけで守ってくれてるけど、ちょっと世界云々ていう理由もあるよねこれ。

 

「それになんだっけか、魔王っていうのもあるんだろ?そっちはどんなのだ?」

 

聖王家については一旦置いとくことにしたのか、はたまた目を逸らすことにしたのか、魔王のことについてレイジングスピリッツに聞き始めた。今更だけど、そっちについてもよく知らないんだよな俺。

 

『適性のある人間の体に入り込み、肉体を奪い終えた後は世界を食らいつくす。破壊されても転生プログラムで再生し、別の次元世界の適性のある人間の体に入り込む存在・・・』

 

「おい待て、それは・・・」

 

『わかりやすくに言いますと、闇の書の亜種ですね』

 

「ふざけんなよクソッたれ!!」

 

翔が机を叩く。闇の書、前にもそんな単語を聞いた覚えがあるがそれより、今の説明を聞く限り、つまり俺は・・・

 

「なんでそんなものが悠の中に、またベルカか!」

 

「なあ、レイジングスピリッツ」

 

翔の動きが止まる。少し、悔しそうな顔をしていた。

 

「俺、死んで世界を壊すのか・・・?」

 

『いえそんなことはないと思います』

 

「「は?」」

 

翔と声が被る。さっきの説明を聞く限り、俺の意識が消えて、俺の体を使って魔王が世界を滅ぼすって聞こえたんだけど・・・

 

「いやどういうことだよ」

 

『その、理由はわからないんですけど、あの人マスターの体に入った後全く身動きが取れてないんですよね・・・』

 

それを聞き、翔がこっちを見る。

 

「いや、俺に聞かれても何も知らな・・・」

 

魔王関連で1つ、とある魔導士の言葉を思い出す。

 

 

「新たな魔王!」

 

 

「あ」

 

「おいなんだその“あ”は!絶対なんかあったろ!なあ!」

 

俺の胸倉をつかみ、前後に揺らしてくる

 

「いやなんかあったというか、さっき強い魔導士に勝ったって言っただろう?」

 

「・・・そういやそんなこと言ってたな」

 

俺の言葉を聞き、落ち着いたのか手を放す。俺はそれを確認して話を続ける。

 

「でも一回そいつに倒されちゃって、そしたら一回その魔王ってのが出てきたんだよ」

 

『サラッととんでもないこと言いましたよこの人!?』

 

「まあその後魔王黙らせて体を取り戻したらその魔導士にお前は新しい魔王だーとかなんとか」

 

「・・・絶対そいつこの話のキーパーソンじゃん。そいつどうした」

 

黙って聞いていた翔がバルさんの所在を聞いてきた。正直今の今まで忘れてた。

 

「俺も必死に戦ってたからわかんないけど・・・もしかしたら木っ端微塵になってるかもしれない・・・」

 

「『えー・・・』」

 

2人ともドン引きしていた。いや、俺も死にかけてたから配慮する余裕がなかったというか、何となくあいつ死んでなさそうというか・・・と説明したらお前にそこまで言わせる奴がこの世界にいるんだよ聞かれたが、すずかとの約束があったのでオーズについて知ろうとしていたと言って誤魔化した。まあ嘘は言っていない。それを聞いたら2人とも頭を抱えだしたけど。

 

「今日はもう疲れた・・・俺は帰る」

 

「え、わからないことだらけのこの状況で?」

 

「誰かさんのせいで心身ともに限界なんだよ察しろ!」

 

「いやほんとごめん、まじごめん」

 

 

 

 

俺達は疲労が既にピークに達したため、今日はお開きにして休むことにした。途中から頭が回っていたとはいえなかったからな。取り敢えずまた別の日に話し合おうということになった。いわゆる、明日の自分に丸投げしよう!である。

そして次の日・・・

 

「あ“あ”あ“あ”!!」

 

『筋肉痛、ですかね』

 

俺は激痛に悶えていた。傷は見事なまでに塞がっている。跡さえない。でも滅茶苦茶痛い。冷静になれば体に負荷がかかるコンボを使ったうえ、本来なら体が爆散する魔法を使えばこうなるのも納得だ。よく生きてんな俺。

 

『学校は休んだ方がいいですね』

 

「今年こそは皆勤賞取ろうと思ってたのに・・・」

 

去年は風邪をひいて取り損ねたから、今度こそと思っていたのに・・・

 

『喋るのもつらそうですね・・・私が代わりに学校に電話しますね』

 

「いや、俺一人暮らしだからお前が連絡したら不自然だろ・・・」

 

俺が1人暮らしなのは担任も知っている。それなのに女性が俺の家の番号で休む連絡をしたらどうなるか。考えるだけでも恐ろしい。

 

『大丈夫です』

 

レイジングスピリッツが少し黙ったかと思うと・・・

 

「これで問題なしです」

 

「うわ、俺の声そっくりだ気持ち悪っ」

 

「オブラートに包むとかしてくださいよ!」

 

レイジングスピリッツが俺の声で、レイジングスピリッツの口調で喋っているこの違和感が凄まじいため拒否反応が凄まじかった。

 

「それでは、電話しに行きますね」

 

「おう、頼んだ」

 

その後、鴻上会長に呼び出しを食らった為レイジングスピリッツが俺の代わりに行って大量のセルメダルを持ってきたり、はやてが看病を名乗り出て家に乗り込もうとしたりしてきたのはまた別の話。

 

次の日にはテスタロッサと料理教室をしたり、更に次の日には圭をデストロイして高町さ

んにドン引きされたりと色々あったが、今回は流させてもらう。ここ最近は色んな事があり

すぎて大変だった。だからこの期間はある意味休憩期間とも言えた。それ以降俺の、俺達の

戦いは更に激化していくことになる。

 

 

 

 

「奴らの戦力はある程度把握した」

 

「次は情報だね」

 

「今この世界で何が起こっているのか、そして、このふざけた結界を張ったであろうギルを

見つけ出して、このエネルギーの結晶体を奪う」

 

「そのために、直接彼らの脳から聞き出さないとね」

 

「オレ、頑張る」

 

欲望によって生み出された怪物達が今、動き出す。

 




「フィーリング!圧倒的フィーリング!」か、
「2つの作品とオリジナルが絡まりすぎてわけわからんくなった設定を、お前の頭から奪い取る!」かでお願いします。


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特訓と人形と自動販売機

アンケート結果!多くの人がフィーリングでした。

設定集を作らない分、魔法少女リリカルなのはと仮面ライダーオーズ、どちらかしか知らない人向けに、これからは後書きに簡単な補足説明を書こうと考えています。
皆さんが楽しく読めるように頑張ります!


レイジングスピリッツ曰く、魔法に一番大事なのはイメージらしい。自分がどうしたいと想像することで魔法は形を得る。俺はその言葉を信じた。結果、翔と戦っている最中、自分の幻を作り出す魔法を使えたのだ。修行している時はピンと来ていなかったが、なるほど。イメージさえできればどんな魔法も使えるのかと俺は納得した。

なぜ幻を作れたのかとレイジングスピリッツに問われた時、レイジングスピリッツ言った通り、イメージしたら魔法が思いついて使えたと答えたら・・・

 

『え、何それ知りません。怖・・・』

 

普通、知らない魔法を突然使えるようになったりしないらしい。翔にもレイジングスピリッツと同じ質問をされた時、同じように答えたが・・・

 

「すまん、ちょっと何言ってるのかわからない」

 

もうわけがわからないよ。

それに、もう一度俺が使った魔法、幻影魔法というのを使おうとしたが、点でダメだった。あの時何で使えたのかが全く分からず、取り敢えず幻影魔法は使えないものとして扱うことにした。レイジングスピリッツに幻影魔法を一から教わろうとも思ったのだが、上級者向けの魔法で、教えるのはずっと先らしい。いやほんと何で使えたんだよ俺。

それに、そこそこ戦えるようになってきたと思っていたが、冷静に考えたらオーズの能力でごり押すか、体を壊す前提の魔法で死にかけながらの勝利しかしていない。魔導士としての実力はからっきしなのだ。

なので魔法初心者の俺は今日も今日とて基礎トレーニング中。朝の6時、山の中で魔力球を空き缶に当て続け、地面に落ちないようにしている。

 

『11,12,13』

 

目をつぶって集中している俺の代わりに、レイジングスピリッツが空き缶に当てた回数を数えてくれている。

 

『16,17…18』

 

集中が途切れてきて、魔力球の動きが大振りになってきた。

 

「う・・・」

 

『20…21……22』

 

首筋に汗が流れる。魔力球を操作するために伸ばしていた腕が震え始めた。

『23……24,25』

 

「・・・だああああ!!」

 

空き缶を空中に維持することに限界を感じ、少しでもスコアが高くなるようにと足掻く。

 

『26,27,28,29・・・』

 

29回目で空き缶が大きく上に飛んだ。

 

「せいやー!!」

 

最後の一撃、30回目で魔力球を全力で動かし、空き缶よりも早く上に移動。そして空き缶を上からごみ籠に向けて弾き飛ばした。弾かれた空き缶は狙いを大きく外れ、茂みへと飛んで行った。ちっ、仕留めそこなったか。

 

『おめでとうございますマスター。新記録です』

 

空き缶を拾い、捨てる俺をレイジングスピリッツが褒めながらフワフワと近寄ってくる。そして念力でスポーツドリンクとタオルを渡してきた。

 

「ありがとうレイジングスピリッツ。・・・あー、美味い」

 

渡されたスポーツドリンクをごくごくと飲み干す。疲れた後と言えばやっぱこれだよな。

 

『最初は5回でしたのに、2週間足らずでこれはもう天才ですね』

 

「全く、褒めても何も出ねーよ」

 

『顔、にやけてますよ』

 

そりゃまあ、おだてられて悪い気はしないからな。

 

『・・・本当に、才能だけならよかったんですけどね』

 

「レイジングスピリッツ、何か言ったか?」

 

『いいえ。それでは休憩もこれくらいにして、記録を伸ばしますよ』

 

「え、まだやるの!?」

 

褒めたと思ったらこれである。もういいじゃん、もっとこう、新しい魔法を覚えるとかやろうよと言ったのだが・・・

 

『ダメです。マスターの使える魔法はディバインシューター、ディバインバスター、ブレイクランス、プロテクション、ラウンドシールド、後何故か使えるようになってるアクセルシューターとウイニングロードにイノセントスター(自爆魔法)です。寧ろ、魔導士の卵がデバイス無しでこんなに魔法を使える方が珍しいですよ。まずはこれらを使いこなせるようになるまでひたすら練習です』

 

付け焼刃より基礎を高めた方が成長も早いですからね、と付け加えられて押し黙る。

アクセルシューター、これも翔との戦いで使えた魔法である。その場から動けなくなる代わりにディバインシューターより威力もスピードも上の射撃魔法だ。煙幕の中、動かずに幻影魔法で作った自分に重ねて動かしていたのがこれだ。あの時の戦い、なぜこれを翔の背後に設置出来たのか、それは幻影魔法にさらに幻影魔法を重ねて透明にしていたのだ。それをレイジングスピリッツと翔とアマテラスさんに話したら・・・

 

『何サラッと魔法を三つ同時に並行処理してるんですか怖いですよ』

 

「デバイス無しでそれができてたのがほんと意味わかんねえな。人間かお前」

 

『戦っていた時から薄々思っていましたが、あなた人間やめてますね?』

 

酷い言われようである。泣くぞ。

・・・話を戻そう。取り敢えず、これ以上新しい魔法には手を出さず、今ある手札を磨こうという話になった。

 

『それでは、張り切っていきますよー?』

 

「おー」

 

俺はレイジングスピリッツの教えに従い、練習を再開した。

 

 

 

 

「すいません先生、今日は早退します」

 

「私も早退します」

 

昼休み、翔と八神が担任に早退することを伝えていた。これは・・・

 

(マスター、鴻上から連絡です)

 

翔たちが教室から出て行ったのを確認してから、レイジングスピリッツが念話で語り掛けてきた。

 

(内容は?)

 

(小型のヤミーが100体程、そして通常固体が一体、意図的に広範囲に散りばめられているそうです)

 

(100!?それに、小型?)

 

(空飛ぶ小魚らしいです)

 

(軽くホラーだな)

 

そんなに多くいるなら、急いで現場に急行しなければならない。俺は席を立つ。

 

「行くのか?」

 

高志は勘づいたのか、心配そうに俺を見ていた。ここは、安心させなければならない。

 

「ああ、ちょっとばかし。大丈夫、すぐ終わる」

 

そう返すと、すずかも立ち上がって俺に近寄ってきた。やはり心配そうにこちらを窺っている。

 

「気を付けてね。無茶しちゃだめだよ」

 

「ああ、全力でいってくる」

 

もう俺は振り返らない。俺は真っすぐ、目的地に駆けだした!

 

「トイレに行くだけで、なんでこんなに壮大な雰囲気になるのよ・・・」

 

圭は学校休んでるからもう行ってるはず!と考えながらトイレに向かって走り出した俺には、アリサの突っ込みは聞こえていなかった。

 

 

 

 

トイレの個室に入り、レイジングスピリッツを胸ポケットから取り出す。

 

(それじゃあ頼んだ)

 

(はい)

 

レイジングスピリッツはインビシブルをこの個室トイレを対象にして展開、この中の音は外からは聞き取れなくなった。そしてレイジングスピリッツの体、つまり小さな青い球から大量のセルメダルがわんさか出てきた。

 

『それじゃあ形どりますよー。さん、はい!』

 

大量のセルメダルは盛り上がっていき、やがて人型になった。その人型のセルメダルの山に魔方陣を書くとあら不思議、俺そっくりの人形が出来上がった。

 

「何度見てもすげえなこれ。そっくりじゃん」

 

「だろ?でも偽装することに特化させてるから魔法は全く使えないし近接戦で戦おうにもそこまで動けない上、強い衝撃を受けたら崩れるけどな」

 

俺そっくりのメダル人形がそう語る。そう、これはレイジングスピリッツが新たに作り出した魔法[レプリカドール]だ。使うのは大量のセルメダルとまねさせる対象の情報を内包した魔方陣と動かすための少しの魔力だけ。これで俺が戦いに行っている間に学校にいてもらうのだ。

 

『後はインビシブルでこれの情報を隠せば完成です』

 

さっきからこいつから感じていた魔力は感じなくなった。これで安心して戦いに行ける。

 

「それじゃ、そっちは頼んだ」

 

「おう、任された」

 

レイジングスピリッツがインビシブルを起動し、俺の姿を消してトイレの扉を開けて駆けだした。

 

その後、メダル人形が悠の代わりに教室に戻った。因みにすずかと高志はこの事を知っている。

 

(首筋のほくろの位置が数ミリ違う!ここも、あそこも!これを作ったっていうレイジングスピリッツさんに教えないと・・・この人形、もう一つ作ってもらえないかな)

 

すずかは欲望にまみれていた。

 

 

 

 

姿を消して走った俺は、レイジングスピリッツの指示通り、自動販売機がある学校に近い工場に到着した。

 

『マスター、変身を』

 

「?わかった」

 

ここで変身する理由がわからず一瞬戸惑うが、俺はタカとトラとバッタのコアメダルをベルトにセットし、バックルを傾けた。

 

「変身!」

 

オースキャナーをバックルに通す。甲高い音が三度鳴り響く。

 

《タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ タトバ タ・ト・バ!》

 

肉体は変化し、俺は超人となった。結果、その溢れるエネルギーを隠しきれず、インビシブルの効果は切れてその姿が露になった。

 

「うわ見えてる見えてる!」

 

『大丈夫です。周りに人はいません』

 

そういうと、自動販売機に近づいた。

 

「何してるんだ?」

 

『ちょっと待ってくださいね・・・これでよし。マスター、セルメダルを入れてみてください』

 

「おっと」

 

自動販売機から僅かに機械音がしたと思ったら、レイジングスピリッツがセルメダルを一枚、俺めがけて飛ばしてきた。それをキャッチしてよく見てみるが、やはりただのセルメダルだ。自動販売機にセルメダルなんて、そんなあのヘンテコバイクじゃあるまいし・・・

 

「あれ、なんか見覚えのある自販機に変わってね?」

 

『はい、ライドベンダーです』

 

なんということでしょう。レイジングスピリッツ()の手にかかれば、あの一見ごく普通の自動販売機が、あっという間にヘンテコ自動販売機になっているではありませんか。

 

「元の姿に戻しなさい!」

 

『逆ですよ逆!さっきのが偽装でこっちがホントの姿です!もう時間ないので早くバイクに変形させてください。走りながら説明しますから』

 

仕方ないので俺はヘンテコ自動販売機を変形、インビシブルで姿を隠してレイジングスピリッツという名の補助輪を付けて走り出した。

 

匠・・・失礼。レイジングスピリッツによると、この町、海鳴市の自販機の多くは鴻上コーポレーション製で、普段は通常の自販機に偽装しているらしい。その自販機に向けて鴻上コーポレーション製のリモコンを向ければあら不思議。ヘンテコ自動販売機、ライドベンダーに早変わりというわけだ。

ではなぜライドベンダーをわざわざ使っているのか。今回は広範囲にヤミーがいるため足が必要と判断したらしい。走って跳べばいいし、なんなら飛翔魔法使えばいいじゃないかと言ったが・・・

 

『戦力を分散させようという魂胆が見え見えなのに、移動で魔力と体力を使っていてはいざという時に対応できません。後、飛翔魔法はあきらめてください。スビートを出したら頭からぶつかるくらい下手なんですから』

 

「最後に心を抉るのをやめろ」

 

なので俺達は鴻上さんの指示もあり、道中の小魚ヤミーに出会うその都度結界を展開、アクセルシューター使い速攻で撃破しながら通常のヤミーがいる川へと向かった。

アクセルシューターを使っていて思ったこと。俺一人だとスフィア一つしか作れないのに、レイジングスピリッツが補助してくれると10になるの凄すぎんだろ・・・

俺は改めてレイジングスピリッツの凄さに驚いたのだった。

 




レプリカドール:グリードは人の姿に擬態する能力を持っており、その設定から着想を得たオリジナル魔法。セルメダルは魔法を通しにくい設定と食い違うように感じるかもしれないが、それはあくまで魔法によってセルメダルを破壊しにくいだけであって、この魔法はセルメダルを操っている。

皆さんの感想・高評価、お待ちしてます!


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グリードの襲撃なの

総合UAが遂に20000を突破しました!皆さん、ありがとうございます!!


木曜日の早朝、学校への通学路にサイドテールを揺らしながら1人で登校する美少女の姿があった。彼女の名前は高町なのは。管理局の魔導士にして、この世界の主人公である。

 

「やっぱりちょっと、眠いかも」

 

あくびをしながら登校する。彼女は朝に弱い。普段ならこの時間に家を出ることはないのだが、時間を少し遡る。

今日は携帯のアラームが鳴るよりも早くに目が覚めた。二度寝をするには短いので着替えて一階にあるリビングに向かうと、朝食を作っている母がいた。

 

「あら?なのはおはよう。今日は早いわね」

 

「おはよう。目が覚めちゃって」

 

そう言っていつも自分が座る席に着く。だがいつもより早い時間のため、朝食まで時間がある。それに、家族全員で食べるには、父と兄と姉の武術の朝練が終わっていないはずだ。それまではこの空っぽの胃袋が満たされることはないだろう。

 

「ねえ、お母さん」

 

「どうしたの?」

 

なのはの母、桃子は声をかけられ、手を止めた。

 

「今日、早めに学校に行っていい?」

 

「珍しいわね。どうしたの?」

 

「なんとなく、早く学校に行きたい気分なの」

 

そんな娘の唐突な要望に桃子は快く引き受け、なのはの朝食を急いで作って弁当と共に送り出した。

 

時間はいつもと違うが、いつもと同じ通学路を歩くだけだ。大した変化はない。違いを強いていうなら、人がいつもより少ないくらいか。

 

「寄り道は・・・別にいいかな」

 

いつもより早くに出発した分、授業が始まるまでコンビニで時間を潰そうかと考えるが、真っすぐ学校に向かうことにした。なんとなく、早く学校に着きたい気分だった。

 

学校に着き、自分の教室の前に着いたが当然友人たちはまだいない。教室で待つのも一つだが、なんとなく、自分の教室を通り過ぎて隣の教室の前に足を運んだ。

 

なのはが悠を襲撃したのは月曜日、その次の日の火曜日に、悠は学校を休んでいる。さらにその次の日である水曜日には、なのはが新装備のテストをしていたため休んでいた。つまり、なのはと悠は二日あっていない。なのはと悠は今まで交流があったわけではない。なんなら、まともに会話をしたのは月曜の放課後くらいではないだろうか。

 

「学校休んだのもやっぱり気になるし、後・・・」

 

もう一度、ちゃんと謝らないといけない。なのははそう考えていた。水曜日に悠と同じクラスのはやてから元気であることは既に聞いている。だが、なのはからすれば、自分が襲い掛かった次の日に悠が休んでいるのだ。学校を休みたくなるほど嫌な思いをさせてしまったのではないかと考えていた。

 

実際は、友人が自分を守るために危険から遠ざけようとしてくれたのにも関わらず駄々をこねて拒否した挙句、暴力でねじ伏せた上に管理局を裏切らせるという最低コンボを決めた代償に寝込んでいただけである。

 

扉の前に立つ。扉の向こうはなんだか騒がしい。その騒がしい音の中に、彼の声が混ざっていた。少し前まで、悠は朝早く登校することはすずかから聞いていた。最近は遅くに登校しているらしいが、彼が向こうにいる、そんな予感がした。今日はなんとなくでここまで来たが、今日こそは彼に会えると無意識に思っていたのだろう。

 

なのはは扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜〇旋風脚!」

 

「ゴパアッ!!」

 

なのははそっと扉を閉じた。

 

「き、気のせいだよね・・・?」

 

悠が片足を上げながら空中でコマのように回転し、圭を弾き飛ばすなどという非現実的な光景は見ていないと自分を落ち着かせる。そう、きっと気のせいなのだ。普段と違う行動をしたため、幻覚を見てしまったのだと自分に言い聞かせた。

 

「今度は大丈夫」

 

そうして、意を決して扉をもう一度開いた。

 

「ダメだよ悠君!それ以上は圭君が死んじゃう!」

 

すずかが悠に向かい大きな声で訴える。

 

「すずか、俺は圭を信じてるんだ」

 

悠は圭を逆さにし、両腕を巻き込みながら上半身を抱きかかえていた。

 

「圭は、俺の親友は!この程度じゃ死にはしないって!!」

 

「悠君・・・」

 

「いや殺そうとしてる奴のセリフじゃないよねそれ。感動の名シーンみたいになってるけど状況と合わせて聞いてみるとマジで意味不明だからな?」

 

逆さまになりながらも、圭は冷静にツッコむ。

 

「ごめんすずか、圭。俺は、行くよ」

 

「お前じゃなくて俺が逝くんだよ!?」

 

「受けるがいい!これが俺の、全力全開!!

 

「ま、まて!それは色々とまずい!」

 

拘束から逃れようと体を捻り暴れるが、拘束が解けることはなかった。

 

「スターライトォ――!!」

 

「や“め”ろ“お”―――!!」

 

悠は圭を持ちながら天(井に)高く飛び上がろうと足に力を貯めた!

 

「ブレ・・・」

 

「ちょっと待ってぇ!?」

 

飛び上がろうとする直前に意識を取り戻したなのは全力で止めた。自分の切り札と同じ名前の技で友人が1人酷い目にあいかけていたためである。

 

 

 

 

「それで、どうしてあんなことしてたの?」

 

現在、悠は教室の隅で正座をさせられていた。そしてなのはと悠の様子を圭とすずかは見守る。圭によると、いつも通りの挨拶(おは嫁)をしたら、悠が最初からクライマックス?で仕留めに掛かってきたらしい。

 

「別に、高町さんには関係な・・・」

 

「言って?」

 

なのはの顔は笑顔だ。それも怖いタイプの。悠が圭に行おうとしていた技は傍目から見ても大変危険だとわかる。圭なら死ぬことはまずないだろうが、友達が傷つくことをよしとしないのが彼女だ。

 

「圭が、その・・・」

 

悠が非常に言いずらそうにしているが、なのはは容赦しない。

 

「圭君が?」

 

「俺に、変なあだ名を・・・」

 

「あ」

 

ここで圭は殺されかけた理由を察し、体が硬直する。

 

「あだ名?」

 

「・・・閃光の、王子様」

 

観念したのか、非常に言いずらそうにあだ名を言った。

 

「そこまで悪いあだ名じゃないと思うけど・・・」

 

なのはからしてみれば、閃光の王子様などというプラスの意味にしか捉えられないあだ名ならまだマシだ。親友のフェイトとはやては金色の死神、歩くロストロギア、自分なんて管理局の白い悪魔などという、どちらかと言えば悪役に着けられそうな2つ名を持っている。寧ろ閃光の王子様というあだ名と交換してほしいくらいだ。

 

「嫌だよ!考えてもみてよ、このあだ名を知っている人に俺は会うたびに『あ、この人閃光の王子様だ』とか思われてたんだよ!?それにこれわりと浸透されてるらしいし最悪だよ!」

 

「お、落ち着いて・・・」

 

すずかがあらぶっている悠を宥めようと努める。なのはは悠に関わるのは最近だったため、遠目から見た時のキャラと違っていて少し戸惑っていた。

 

「悠君ってこんなに声を荒げる人だったっけ・・・?」

 

「テンション高い時いつもこんな感じだぞ?」

 

「そうだったんだ・・・」

 

今まで知らなかった一面を見て驚きつつも、悠の言い分を認めるわけにはいかない。なのはは悠の言い分を否定しにかかった。

 

「と、とにかく!暴力はいけません。人に嫌なことをされたとしても、それを力で解決しようとするのはいけないんだよ?」

 

「説得力ェ・・・」

 

圭がつぶやく。彼がそう言ってしまうのも無理はない。なのはは今まで言葉で分かり合えない人達とは戦って解決してきた。人はこれをO☆HA☆NA☆SI☆という。

 

「何か言った?」

 

「いえ、何も」

 

圭もO☆HA☆NA☆SI☆を食らいたくないため大人しくすることにした。

 

「ほら、仲直りの握手」

 

なのはが悠と圭の手首を掴んでお互いに掴ませる。

 

「その、ちょっとやり過ぎた。ごめん」

 

「いや、俺もあのあだ名をそこまで嫌がるとは思わなかった。ごめん。次はもうちょっといいのを考える」

 

「え、悪意無しであれ?嘘でしょ?」

 

仲直りしたと思ったら、またやいやい言い始めた。なのははそれをしばらく眺めていたのだが、ふと気になることができた。

 

「そういえば、さっき悠君が使おうとしてた技ってなんていうの?」

 

「スターライトブレイカー。その場で考えてつけた」

 

「そうなんだ・・・」

 

自分と切り札と同じ名前でえげつない技を親友によくかけようと思ったなと内心引いていた。あのままだと一般人なら首がへし折れてたのではないかと。なお、なのははなのはで昔親友と最初で最後の本気の勝負した時、消耗したところをバインドで動きを完全に止めてスターライトブレイカーで仕留めているので、あまり人のことは言えない。

 

「私としては、フィニッシャーマンズ・スープレックス・ホールドを使ってみてほしかったな・・・」

 

「すずか、中の人出てるぞ」

 

すずかが何かぼやいていたが、なのはと悠には聞こえなかった。

 

 

 

 

「はああっ!!」

 

1人の騎士が眼前の敵を両断せんと剣を振り下ろし、ピンクのポニーテールが揺れる。

 

「はあっ!」

 

だが、その敵は腕についているかぎ爪でそれを弾き返した。

剣を弾かれた剣の騎士・シグナムはその勢いを利用し、後方へと飛んだ。

 

「やはりヤミーとは違うか」

 

「当然だ」

 

頭にはクワガタを連想させる角。緑の鎧でできた胴体。そして右腕に着いたかぎ爪が特徴のグリード、ウヴァが鼻を鳴らて答えた。

金曜の昼時、海鳴市周辺を見回りしていたシグナムは突如として現れた大量の小型ヤミーの対応に追われていた。そんな時、突如として飛翔魔法が正常に機能しなくなり地面に着地するも、そこをウヴァに襲撃された。

 

「もう一度言う。大人しく投降すればこちらもこれ以上危害は加えない。反省の意志が認められれば、管理局員として働くことで罪を軽くすることも認められるぞ」

 

「断る。俺の目的は完全復活。そしてこの世界を食うことだ。それとも何か?お前らは俺が世界を食うことを許すのか?」

 

グリードとは欲望から生まれた存在。永遠に満たされることのない欲を満たすために活動している。欠けた体はコアメダルを九枚集めることで復活し、その後は人を食らい、そして世界すらも食らう欲望の申し子達。悪事を辞めさせ、更生させることは不可能だ。何故なら、欲望を満たすために世界を食らう、それがグリードの生まれた時から決められた運命だからだ。

 

「そうか。ならば後2つ程聞こう。飛翔魔法が使えなくなったのはお前たちの仕業か。そして今まで姿を隠していたというのに、何故今になって姿を現した?」

 

地面に着地したタイミングを見計らって攻撃を仕掛けてきたこと。

今まで二度ヤミーを作り、セルメダルを体内で作らせようとするだけで行動を起こさなかった。それだというのに今になって動き出したのは・・・

 

「1つ目はその通り、と答えてやろう。そして2つ目は、お前たちを叩き潰す準備ができたからだ!!」

 

ウヴァはそう答えると、角に雷を発生させシグナムに向けて放出した。だがシグナムはそれを横へと駆けて躱していく。疾走するシグナムを雷は追尾するが、シグナムに追いつかない。

 

「ならばその自身、へし折るまで!レヴァンティン!」

 

『シュランゲフォルム』

 

シグナムのデバイス、レヴァンティンを一度鞘に納めると、レヴァンティンが音を鳴らしてカートリッジを装填し、排莢を行う。

 

「魔力が増大する奴か!」

 

ウヴァは雷による攻撃を止め、シグナムの攻撃に対応できるように構え直す。グリードの1人、カザリのヤミーからの情報によると、目の前の騎士の武器から空気が抜ける音がすると何かしら強力な魔法を使ってくることを知っていたからだ。

 

「はあっ!」

 

だがその場で動かず受けの体制でいることが裏目に出た。シグナムが抜刀すると、それは剣ではなかった。ワイヤーによって連結された刃が伸び、鞭のようにウヴァを襲った。カートリッジを1つ使用することで変形する蛇腹剣型の姿。シュランゲフォルムだ。

 

「うお、何だこれは!?離せ!」

 

初見のため対応できなかったウヴァは蛇腹剣に体を絡めとられ、力で解こうと足掻くが解ける様子はない。

 

「はあーっ!!」

 

「ぬおわあ!!」

 

シグナムはレヴァンティンを後ろに大きく振りかぶり、縛られていたウヴァは先程とは反対側の地面に叩きつけられた。

 

「この、よくm・・・」

 

「はあっ!」

 

「もわああ!!」

 

ウヴァの言葉が最後まで言い切る間もなくもう一度反対側へと叩きつける。

 

「がっ!くっ!だっ!ぐわっ!」

 

一度や二度ではない。シグナムはウヴァに何もさせまいと何度も何度も地面に叩きつけた。シグナムは好きでこのようなことをしているのではない。自分一人ではグリードに決定的な一撃を与えることはできないことをわかっていた。だから新装備を携えた仲間が来るまで時間稼ぎをすることにしたのだ。

 

「いい、加減に・・・」

 

「!!」

 

嫌な予感がしたシグナムが拘束を解除した。

 

「しろぉー!」

 

怒号と共にウヴァの体から純粋で、膨大な魔力が爆発的に解放された。それにより寸での所で拘束を解除したレヴァンティンが大きく弾かれた。拘束をしたままだったら、レヴァンティンを破壊されていたかもしれない。レヴァンティンを鞘に収納しながらそんな考えが過ったシグナムはウヴァへの警戒を更に高める。

 

「舐めたマネしやがって!タダで済むと思うな!」

 

シグナムはレヴァンティンの形態を戻し、抜刀の構えを取る。

そして立ち上がったウヴァがシグナムへと歩を進めた、次の瞬間、何処からか何かを装填するような音がした。

 

『テートリヒ・シュラーク』

 

「でああー!」

 

「な、ぐああ!!」

 

男勝りな少女の掛け声と共に、ウヴァ目掛けて空から大槌を振りかざされた。不意打ちに対応できなかったウヴァは、血しぶきのように体からセルメダルをばら撒いきながら吹き飛んだ。そして大槌は魔法使用後排莢を行う。

 

「大丈夫かシグナム!」

 

「ああ、問題ない」

 

赤みがかったオレンジ色の髪に、のろうさと呼ばれるぬいぐるみをつけた帽子を被り、機械の大槌を担ぎながらシグナムに駆け寄るおさげの少女。彼女こそ、鉄槌の騎士・ヴィータである。

 

「間に合ったようだな」

 

「遅れてごめんなさい。シグナム、怪我はない?」

 

「ザフィーラ、シャマル、お前たちも来たのか」

 

後から続くように、青い大型の狼・・・いや、盾の守護獣・ザフィーラがビルの上から、金髪でおっとりとした優し気な女性、湖の騎士・シャマルが走って現れた。

 

「少し遠くをヴィータと見回りを行っていたのだが、飛翔魔法が急に使えなくなってな。走ってここまで来たため遅くなった。すまない」

 

「いや、寧ろ思ったより早く来てくれて助かった。ヴィータ、デバイスの方は?」

 

「ああ。カートリッジの方は問題なく機能してる。それどころか、あいつの作ったカートリッジを使うとアイゼンもなんか調子がいいんだ。ムカつくけどあの眼鏡、腕はいいらしい」

 

彼女が眼鏡と呼ぶ人物、真木と名乗った人物かとあたりを付ける。管理局の整備士がデバイスを、真木がカートリッジを改造し、セルメダルの力を籠めるとの話だったが、上手くいったようだ。

 

「よし。ヴィータをメインにし、それを私達三人がサポートする。ヴィータ、今はお前の攻撃が頼りだ。いけるか?」

 

「問題ねぇ!こいつはここで仕留める!」

 

ここに夜天の守護騎士・ヴォルケンリッターが揃う。この4人が揃った時、もう誰も、彼女たちを止められない。

 

「4対1は卑怯だろ・・・まあいい。情報を取れる奴は多ければ多いほどいいしな」

 

「なっ!」

 

誰が驚愕の声をあげたのか。シグナムか、ヴィータか。シャマルだったのかもしれないしザフィーラかもしれない。もしくは、その全員か。

 

「三人に増えた・・・!?」

 

ウヴァの姿がいくつにも重なって見えたかと思ったら、それらが横にずれて二つに増えたのだ。

 

「これこそ、この石の力で俺が手に入れた能力、分身だ」

 

ウヴァは自慢するかのように自身の体から青い宝石を取り出して見せた。その宝石からは莫大な魔力を内包していることが感じられた。

 

「ジュエルシードか・・・」

 

「ほう、こいつはジュエルシードというのか」

 

名前を知って少し嬉しそうにする。敵が目の前にいるというのに、油断するのは自分に己惚れているのか、またはよっぽどの自信があるのか。ウヴァはジュエルシードを大事そうに胸の中に入れるとシグナム達に向き合う。

 

「さて、数の不利はこれである程度解決したな。それじゃあ・・・」

 

殺気がシグナム達を襲う。本体はジュエルシードを仕舞った真ん中だろう。そいつを倒せば勝てるはず。だが、こちらの攻撃が通じるのはヴィータのみ。苦戦は必然。

 

「後はお前らを蹴散らすだけだな、虫けら共!!」

 

昆虫の王とヴォルケンリッターが衝突する。

 




ウヴァ:原作よりパワーアップして分身を覚えた。魔法は攻撃系より防御系の方が得意。シグナムのデバイスがまだ改造していないためダメージを与えられず苦戦を強いられているが、ヴィータと同じように改造すれば話は変わる。だが、ウヴァの方にも成長性が見られるため、倒すのが長引くほど魔導士側が厳しくなるだろう。

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川とリクガメと赤い羽根なの?

今回は前半をオーズ視点、後半を魔導士視点にしています。


バイクを走らせ、敵を蹴散らし、ようやく目的地である土手に着いた。そこには情報通り、川の中に一体のヤミーがいた。川と言っても、かなり浅く、膝にも届いていなかった。

 

『二足歩行する大型の亀・・・というより、リクガメですかね。恐らく重量生物のヤミーです』

 

「亀って重量生物なの?」

 

コアメダルの種類には、灰色のメダルにサイとゴリラとゾウがあるらしい。でも亀、亀か・・・。

あのヤミーはいかにも重量生物って感じがしてわかるんだけど、亀に重量生物ってイメージ持ったことないから違和感が凄い。

 

『ほら、海外には大型の亀がいますし、それこそ他の世界には亀に似た怪物もいますから。誤差ですよ誤差』

 

誤差というのには無理があるような気がするが、そんなことを気にしている場合ではなかった。こうしている間にも、他の場所では小型ヤミーが暴れているのだ。ヤミーを倒すことに最も向いている俺がこのヤミーを急いで倒さなければならない。そしてすぐにでも小型ヤミーをせん滅しなくてはならないのだ。俺はバイクから降りて、レイジングスピリッツを魔法の杖にする。

 

「それじゃ行くぞ、リツ」

 

『・・・待ってください』

 

「どうした急に?」

 

レイジングスピリッツが待ったをかけた。出鼻をくじかれた形になるが、レイジングスピリッツの言葉を待つことにする。なぜならレイジングスピリッツは基本的に無駄なことはしないからだ。

 

『やっぱり、おかしくないですか?』

 

「時間がない、端的に言ってくれ」

 

『ヤミーは宿主の欲望を満たすために行動するか、グリードに命じられて行動します。なのになぜ、こんな何もない川で棒立ちをしているんでしょう?』

 

「あら、気づいちゃったかしら?」

 

俺でもレイジングスピリッツでもない第三者の声を聞き取った瞬間、俺は跳躍し、空中で身を翻しながら杖となったレイジングスピリッツを構える。そして俺のいた場所の後ろであり、声の発生源であろうそれに標準を合わせる。最近背後がお留守だな俺。

 

『アクセルシューター』

 

「シュート!!」

 

レイジングスピリッツが即座に展開した4つのスフィア。俺は落下が始まる前に発射し目標に直撃させた。それにより爆風でバイクが軽く吹っ飛んでしまう。鴻上さんに後で謝っておこう。

 

「!」

 

『プロテクション』

 

俺は殺気を感じ取り、足元にシールドを展開。それを踏み場にして川の方へと跳躍した。その直後、煙から高速で飛び出た何かによって、踏み場にしたシールドは粉々になった。そして何かが飛び出てきた煙の穴からは、薄青いシールド越しに怪物の青い目が見えた。

 

『ヤミーがこちらに気づいて着地を狙ってきます!』

 

間一髪で躱して川に向けて落下している最中にヤミーと目が合う。嫌な予感がする。

 

『ブレイクランス』

 

落下しながらもブレイクランスを6つ展開。動き出す前にヤミーに向けて発射した。だが、亀のヤミーは頭と手足を甲羅に収納し、その場で回転して攻撃を全て弾き飛ばした。

 

「は?」

 

あまりの出来事に一瞬思考が止まってしまった。その隙を狙うかのように、ヤミーは回転しながらこちらに飛んできた。そう、飛んでいるのである。

 

「なっ!」

 

『プロテクション』

 

俺の意志とは別にレイジングスピリッツがシールドを展開しヤミーの特攻を伏せぐ。だが即座にシールドを打ち破った。

 

「ぐっ!」

 

咄嗟に両腕でガードするも、大きく吹っ飛ばされて川に顔からダイブすることになった。

 

『大丈夫ですかマスター!』

 

「ぷふぁっ!ああ。おかげ直撃せずに済んだ。ありがとう」

 

すぐに川から顔を上げ、レイジングスピリッツに礼を言う。

 

「余所見はいけないわ」

 

立ち上がろうとするところを見逃してくれるはずもなく、人型の怪物は何かを飛ばしてきた。俺は勢いをつけて川のそこを強く押して跳ぶことで回避する。

 

「あらあら、逃げ回るのが得意なのね」

 

着地しようやく体勢を整えることができた。土手の上を見上げる。そこには、何処かシャチを連想させるような頭部、タコの吸盤のような何かがついた足に、青いマントを羽織ったグリード。メズールがいた。

 

「名前は確か、メズールか」

 

「あら?私のことはもう知っているのね。嬉しいわ」

 

土手をゆっくり下ってくる。

 

「水を操るのが得意だとか。なら、さっきの攻撃は水か?」

 

「正解。私の主な攻撃は水を使ったものよ。でも、人間じゃ見てからじゃ遅いくらいの速さなのに、あなたよく躱せたわね?」

 

「培ってきた勘というやつだ」

 

これは半分本当で半分嘘だ。勘を培ってきたことなんてない。タカヘッドによって視力が高くなった。それによって些細な動きが見えて、後は嫌な予感がしたら動いていただけだ。正直かなりギリギリだ。

 

「そう。でもその勘、いつまで続くかしらね?」

 

こちらを見下しているメズールは、愉快そうに近づいてくる。先程まで足を止めていた亀のヤミーも歩き始めた。

 

(マスター、ここは脱出を。少し時間を稼いで下さい)

 

(却下。ここでこいつらを逃がしたら被害が拡大する)

 

レイジングスピリッツの提案を即座に切る。レイジングスピリッツの判断は正しい。あいつらの様子からして俺は嵌められたのだろう。小型ヤミーが町を襲っている間、他は手がいっぱいになる。そんな中通常のヤミーがいれば、ヤミーを1人で倒せる俺があてがわれる。それを狙っての2対1。グリード達からすれば、自分たちを倒せる可能性が一番高い俺を狙うよなそりゃ。

メズールの攻撃は厄介だし、ヤミーの方はブレイクランスを弾かれた。いくら中途半端な威力のものとはいえ、全弾弾くか普通? 1体だけでも手が余るのに、なんだこのハードモード。・・・それでも。

 

「やるしかない!リツ!!」

 

『ああもう!無茶な選択ばっかりして! カリバーフォーム』

 

レイジングスピリッツから何かを装填する音がして弾薬のようなものが飛び出ると、レイジングスピリッツは魔法の杖から剣へと姿を変えた。その見た目はメダジャリバーに似ており、違いは柄の部分にレイジングスピリッツの本体である緑に偽装した石が付いていることと、メダルを装填する場所が無くなった代わりに、何かマガジンのようなものを装填できるようになっていた。

 

「形が変わった・・・面白い武器ね」

 

メズールは面白いものをみたと愉快そうだ。

カリバーフォーム。レイジングスピリッツが先週、メダジャリバーを使って自身を改造した新形態。そしてセルメダルを装填する代わりに、セルメダル1枚分のエネルギーと俺(から毎日寝た後に勝手に吸収して貯めていた)魔力を圧縮して込めたカートリッジという弾薬状のもの装填するカートリッジシステム。バルさんや翔が使っていた魔力を一時的に爆発的に上昇させるものがこれだ。これを使ってあの2体の装甲をぶち抜く。

本当はラトラーターコンボを使いたいところだが、あれを使うと後がない。俺はここで勝つだけでなく、外の戦いにも参加しないといけない。体力は残しつつ、速やかに目の前の敵を倒す。俺は左手のトラクローを展開して構える。

 

「準備はいいようね。それじゃあ・・・行くわよ!」

 

『左右から魔力反応多数!待ち伏せ!?』

 

直後、土手の向こう側から30程の小型の魚ヤミーが現れた。

 

「カートリッジ!!」

 

一本のカートリッジを消費し、小型ヤミーの群体に向けて斬撃を飛ばす。それがヤミーに当たることは無かったが、魔力で作られたその斬撃は爆発した。

 

 

 

 

『アクセルシューター』

 

「シュート!」

 

ピンクの光体が小型ヤミーをセルメダルへと変えていく。その魔法の使い手は白の

バリアジャケットに身を包んだ高町なのはだった。

 

「この辺りのヤミーはこれで全部かな?」

 

『はい。次は別の局員が被害を抑えている場所に案内します』

 

「お願い」

 

新型カートリッジを搭載しているレイジングハートを持つなのはは、1人で町を駆けまわっていた。

 

ドクター真木が開発した対ヤミー武装カートリッジシステム『セルメダルバーストチャージカートリッジシステム』、通称『SBC』。本来魔力を圧縮して込めるカートリッジに、魔力の代わりにセルメダル5枚分のエネルギーを込めることに成功したものだ。使用することで一時的に魔力の代わりにセルメダルのエネルギーを代用することが可能になり、通常通り魔法を使ってもヤミーにダメージを与えることが可能になった。

だがSBCを使用するためには、デバイスがセルメダルのエネルギーを計算して魔法を行使できるよう調整する他、デバイスのフレームがセルメダルのエネルギーに耐えられるように強化しなければならない。

現在SBCに対応できるデバイスは、ヴィータが所有するグラーフアイゼンとなのはが所有するレイジングハートの2機。汎用的な射撃魔法を得意とするミッドチルダ式の魔法を扱うデバイスを代表してレイジングハートが、近距離線に特化したベルカ式を扱うデバイスを代表してグラーフアイゼンが前日に実験していたのだ。実験は見事に成功し、後日には主戦力となる魔導士を優先的に実装する予定だ。

 

『アクセルフィン』

 

カートリッジを一本使用し、ピンクの光翼を足首に展開して飛び立つ。

ヤミーが出現してからは、SBCを使用しなければ飛翔魔法が使えなくなっていた。SBCを使用しても、なのは本来の高速飛行もできなくなっていて、移動に時間が掛かっていた。

魔法を阻害するフィールドを展開する兵器『AMF』の使用が疑われたが飛翔魔法以外は問題なく使用できているため原因はまだわかっていない。

 

魔導士の足である飛翔魔法が使えない以上、被害が拡大する。その穴を塞ぐため、なのはは人一倍戦っていた。

 

そして、強風と共に彼女の下に何かが降ってきた。

 

「赤い、羽根?」

 

「お前、何で飛べてるんだ?」

 

見上げると、鷹のような頭部、コンドルの爪の脚部。そして何より、最も目につく赤く大きな翼を生やした怪物が現れた。

 

「いつの間に・・・」

 

グリードを察知する手段を管理局は手にしていない。魔力を使った時か目視でのみ発見できる。なのはがここまで距離を詰められたのは遠くから超高速で移動してきたからだ。

 

「ここら辺は範囲内のはずだ。それで飛べてるってことは・・・お前、メダルを使ってるな。殺すか」

 

赤い怪物は結論を出すと、即座に攻撃を決定する。なのはに手を向けると、魔力を感じた。

 

『プロテクション』

 

なのはは咄嗟に左手を突き出し、シールドを展開した。直後、なのはを炎の濁流が襲う。

 

「くううっ・・・」

 

炎が彼女を焦がすことはないが、堅牢なシールドを僅かにだが押し込む程の威力はあった。

やがて炎が止まり、なのはが怪物を見やると、表情筋がないのか表情はわからないが多少驚いているように感じた。

 

「今のを完全に防ぐか。イカれた硬さだな」

 

「・・・アンクさん、ですよね?」

 

自身が知る外見と合致したことで名前を確認する。鴻上コーポレーションに渡された情報には高速で飛翔し、炎を扱うことが記されていた。

 

「私たちはあなた達を倒す手段をもう持っています。投降してください。ちゃんとお話、聞きますから」

 

なのはは赤い怪物、アンクに投降するよう促す。彼女としては戦わずに済むのに越したことは無い。

 

「んなことするわけねえだろ、馬鹿かお前。俺達の目的は完全復活だ。手段を選ぶつもりも、ましてやモルモットになるつもりもねえ」

 

「モルモットって・・・そんなことは!」

 

「あるだろ?お前の後ろの組織がどの程度の規模かは知らないが、その装備からして今の時代の文明とはかけ離れている。そんな異常な組織にノコノコ着いていったら、俺達みたいな珍しい奴は拘束されてよくて飼い犬、最悪実験体だ。」

 

そういうと、アンクは羽根を大きく羽ばたかせ、なのはに殴りかかる。それは暗になのはと話すつもりがないという意思表示であった。

 

『プロテクション』

 

それを再びシールドで受け止めるが、アンクは左手の指をシールドにかけると、シールドを引きちぎるかのように破壊した。

 

だがなのはもやられっぱなしではない。即座に杖であるレイジングハートを魔力で硬さを強化し、もう一度振りかぶってきたアンクの右腕に叩きつけた。腕を弾かれたアンクは舌打ちをすると、後方に下がった。

 

「見た目に反して、そこそこ肉弾戦もいける口か」

 

アンクが今相手をしているのはただの少女ではない。数々の修羅場をくぐってきた魔導士だ。なのははレイジングハートを構える。

 

「私が勝ったら、私の話、ちゃんと聞いてもらいますから!」

 

そうして、白い悪魔は羽撃いた。

 




前回の補足
ヴィータも空は飛べたが不測の事態に備えてザフィーラと行動を共にするために、空を飛ばすにザフィーラの背中に乗って移動していた。

AMF:「魔法少女リリカルなのは StrikerS」に登場する魔法を無効化するAAAクラスのフィールド系魔法防御。魔導士にとっての天敵。StrikerSではこれを展開できるガジェットドローンというロボットが主な敵なのだが、今作では登場予定はない。

皆さんの感想・高評価、お待ちしてます!


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新戦力と絶望と王の魂

今回はオーズの戦闘回です。

今までの戦闘回で一番自身があるので楽しんで頂けたら幸いです!


オーズがメズールと戦闘を開始する少し前、鴻上コーポレーションの実験施設では一人の魔導士が待機していた。

 

「真木さん、まだか」

 

「もう少し待って下さい。本来明日完成させるものを今日に前倒しているんですから」

 

圭は急かすがドクター真木は冷静に返す。

 

現在彼のデバイスであるヤマトはとある機械を取り込んでいた。それは本来明日完成させ、動作確認をした上で実践投入するはずだったのだが、突如としてグリード達が管理局員、正確に言えばエース級の魔導士を狙うように現れたのだ。

最初、圭は新装備を断念してデバイスを取り出して出撃しようとしたのだが、鴻上がそれを電話越しに止め、ドクター真木に急遽完成させるよう指示した。

 

「・・・完成です。これで君のデバイスは完全にあれを制御できるようになるはずです。確約はできませんが」

 

「ぶっつけ本番なのはわかってるよ。間に合わせてくれてありがとう。いけるか、ヤマト?」

 

『俺を誰だと思ってんだ?』

 

ドクター真木からスサノオを受け取り、ヤマトから心強い返答を受けると、外へと駆けだそうとし・・・

 

「待って下さい」

 

「え、急いでんだけど・・・」

 

今にも走り出そうと足踏みしながら首だけドクター真木の方に向ける。

 

「昼間から空を飛んで出撃するつもりですか?目立ちますよ」

 

「姿を隠す魔法くらいヤマトに入れてるよ」

 

『すまん圭、アップグレードの際に魔法術式のデータが邪魔だったから今別のメモリーに移してる』

 

「マジ?」

 

想定外の事態に圭は止まる。

 

デバイス。それは魔導士が魔法を使うのに必須となる道具、ではない。デバイス無しでも魔法は行使できる。ではなぜ多くの魔導士がデバイスを使うのか。それは詠唱短縮とストレージ機能があるからだ。

 

魔法とは科学の延長線上にあるもので、魔力を使いその現象を引き起こしている。デバイスはそれを行うための演算機だ。魔導士が一々計算する代わりに魔法という解答をだすことが役目だ。

 

更にデバイスには魔法術式を記憶する機能がある。簡単に言えば問題を解くための公式をデータとして残している。

 

この2つの機能を使うことで、戦闘時に即座に魔法を使用することが可能なのだ。

 

圭はこの機能を利用し難易度が高い補助魔法はヤマトに記録させて、自分は戦闘系の魔法ばかり覚えている。つまり、ただ戦うだけならデバイス無しでもいけるが、それ以外はあまり期待できないと言える。

 

「今からデータを、って時間かかるな。ど、どうしたら・・・」

 

「ということなので、彼に来ていただきました」

 

「失礼します」

 

研究室に1人の男が入室してくる。

 

「ファッ!?」

 

圭は驚いた。無理もない。入ってきたのはオーズ原作に登場する後藤だったのだ。今のところオーズ原作キャラで仮面ライダー関連の人物が登場していなかったのできょどってしまった。

 

「・・・なんだ?」

 

「あ、いえ、何でも・・・」

 

あなたが好きです!とは正直に言えない。後藤からすれば初対面相手にファンアピールされても困惑するだけだろう。

 

「それでその、真木さん?どうしてこの人を・・・」

 

「彼にはあなたのサポート役として動いてもらいます。その一つ目の仕事がバイクでの運搬です」

 

「ファッ!?!?」

 

素っ頓狂な声が再び研究室に響いた。

 

 

 

 

土手の中で水飛沫が上がっていた。

 

メズールが放った水の弾丸が対象の体を貫かんと飛んだ。それを最小の動きで致命傷になるものだけを躱し、剣かかぎ爪で弾き、いくつか体にかすらせ、当たった場所に火花が飛んでも体がブレない人物が1人。オーズだ。

 

水の弾丸を捌き切った直後、休む暇を与えぬと言わんばかりに鎖が付いた鉄球がオーズを襲う。しかしオーズはそれをしゃがんで躱し、水中でしゃがむことで足に力を溜める。バッタの力ですぐさま鉄球が飛んできた方向へ、水から飛び出して水面ギリギリを真っすぐに跳躍した。鎖が伸びた先にはリクガメヤミーの右腕があった。

隙ができていたリクガメヤミーを切り結ぼうとするも、前に小魚ヤミーの大群が壁となって立ちはだかる。

 

『プロテクション』

 

だが跳躍した勢いを無理に殺さず、足元にプロテクションを展開して跳躍。目の前の数体を切り上げ、更に他の小魚ヤミーを踏み台にして大群の壁を越えた。その間に傷をつけられようとも止まらない。超えた先にはあと少しで鉄球を腕に戻せる・・・否、まだ鉄球を戻せていないリクガメヤミーの姿があった。

 

隙を晒していたリクガメヤミー目掛けて手にしていた剣を重力に従って上から降り下げようとした時、それを阻止すべく水の弾丸がオーズを襲った。

空中のため、オーズには躱す手段がない。メズールは直撃を確信する。

 

『プロテクション』

 

まるで撃たれるタイミングがわかっていたかのように藍色のシールドが展開され、水の弾丸は弾かれ、リクガメヤミーは切り付けられた。

 

メズールは苛立っていた。彼女の役目は他の人間と分断されたオーズを倒し、所有している全てのメダルとオーズドライバーを奪うことだ。

 

ウヴァのヤミーの情報では、オーズに変身しているのは成り行きで変身したただの子供で、少し戦闘センスがいいのと高性能なデバイスを所有しているとのことだった。

戦闘センスがいい?力を手に入れたばかりの子供に自分が負ける通りは無い。高性能のデバイス?自分たちには魔法は碌に効かない。そんなこと、800年前から知っている。

 

だから、自分一人だけで戦っても拮抗、ましてや負けることもないだろうと考えていた。これは驕りでも慢心でもなく、客観的に実力差を考えてのことだ。でも念のためとガメルからヤミーを借り、自身のヤミーを待機させていた。

 

だから彼女は焦り、苛ついた。

 

「いい加減にしなさい!」

 

川から水でできた三本のタコ足が現れる。これはジュエルシードによって新たに手にいれた力。水で形成されたタコ足を出現させる能力だ。水できているからといって柔らかいわけではない。しなやかに動き、分厚いそれはコンクリートを易々と砕く威力があった。それらは一斉にオーズを潰さんと殺到する。

 

「カートリッジ」

 

小さく、しかしはっきりそういうと、剣からカートリッジが飛び出しオーズの魔力が高まる。そして剣を振りかぶることでその魔力は斬撃に変換され、メズールとリクガメヤミーを巻き込むようにタコ足へと飛ばされる。メズールは跳躍し、リクガメヤミーはシールドを展開して斬撃を凌いだ。

 

メズールは苛立っていた。自身がただの子供に手こずっていることに。彼女には切り札もある。それを使えば押し切れるだろうがそれには多くの魔力とセルメダルを使う。出来ればここぞという時に残しておきたい。そしてその切り札は開発したばかりであまり安定するものではなかった。万が一それで仕留めきれないようなことがあれば一巻の終わりだ。だがなによりも、ただの子供に切り札を使いたくないというプライドがあった。

 

だが、彼女はダメージを与えられても未だに攻撃をまともに直撃させることも出来ておらず、それどころかオーズの動きは戦うほどに良くなり、リクガメヤミーにダメージを与え、小魚ヤミーの数を1つずつ削っていた。

 

 

 

 

悠は焦っていた。

 

彼が今すべきことは即座に目の前のグリードとヤミー達を倒し、外で戦っている魔導士たちの手助けをすることだ。だが相手は手ごわく、そう簡単に倒されてはくれない。それどころか、1つでも判断を誤れば命を落としかねない状況だった。

 

カートリッジを使うことでタコ足を切り払い、リクガメヤミーに突撃する。2つあったマガジンは既に1つ使い切り、残るカートリッジは後5本。カートリッジの扱いは難しく、レイジングスピリッツは実戦で1,2本使わせるくらいの心持だったのでマガジンをあまり用意していなかった。寧ろ1本使いきることはないだろうと思っていたし、作れたのもマガジン2つまでだったので、それしか用意していなかった。

 

悠はコンボを使わない代わりに大量の魔力を消費して身体能力を強化する魔法をしていた。「アクセルウィング」。レイジングスピリッツが新たに開発したカリバーフォーム用の魔法で、特徴は両手首と両足首から小さな翼を生やすことだ。身体能力が大幅に上がり、細かい所作でも高速と言える速度で行える。欠点は魔力のコスパはあまりよくないことだ。原作で似ている姿といえばフェイトのソニックフォームだろう。

 

カリバーフォームは魔法が有効打にならないグリードに対し、致命傷を与えられるメダジャリバーをレイジングスピリッツが取り込んで作られたものだ。カリバーフォームの特徴は遠距離・中距離の攻撃魔法を完全に捨てた近距離特化であることだ。刀身魔力で強化し、レイジングスピリッツが補助をしつつ「」で身体能力を強化して格闘技で押し切る。これがカリバーフォームの戦い方だ。

 

そしてこの姿はグリードやヤミーに対抗できる代わりに一対一の戦いに特化させている姿でもある。つまり、本来は複数の相手にこの姿を使うべきではないのだ。

 

だが今回の相手は高い強度を誇るリクガメヤミー、そして実力が未知数のメズールである。カリバーフォームでなければダメージは期待できない。

更に追い打ちをかけるように小魚ヤミーの大群。戦況は苦しくなるばかりだ。

 

それでも、ここで逃げるわけにはいかないと悠は自信を奮い立たせる。こいつらがフリーになれば全体的な戦況はより悪くなる。自分一人でこいつらを引き付けていることで他が思い切り動けているはずだ、とプラスに考える。

 

事実、ここで悠が撤退すればメズールは悠からメダルを奪うことを諦め、他の魔導士の下へと向かう。その場合、戦線は維持できなくなるだろう。だから彼に逃げるという選択肢は最初から無かった。彼にできることはただ一つ。

 

『ウイニングロード』

 

一秒でも早く、目の前の敵を全て倒すことだけだった。

 

「芸がないわね」

 

悠、いやオーズはウイングロードを複数展開し、空中に足場を作って走り出す。行先は全てリクガメヤミーだ。だが既に何度も使っているため、メズールにとっては既知の魔法。オーズを魔法の道から落とそうと水の弾丸と魔力球を飛ばす。

 

「お前がな」

 

『アクセルフィン』

 

攻撃が当たると思った直後、突如として空へと消え、メズールの攻撃は通り過ぎていった。

 

「飛んだ!?」

 

『バインド』

 

「これは!?」

 

「かかった!」

 

メズールが驚愕した瞬間、メズールの両手首と両足首が藍色リングに縛られる。オーズは少し前からバインドを仕掛けるためにスフィアを飛ばしていて、その機会を伺っていたのだ。

 

「決めるぞ、カートリッジ!!」

 

飛んでいるのではなく、正確にはただ浮いているだけのオーズは、トラクローを仕舞いカートリッジが三本飛び出したレイジングスピリッツを構える。

 

「私を守りなさい!」

 

メズールの声に反応し、リクガメヤミーは頭と両手両足を甲羅に収納、高速回転してオーズへと飛んでいく。小魚ヤミーの大群もオーズの攻撃を阻止すべく、リクガメヤミーより少し遅れながらもオーズの真下から襲い掛かった。

 

「ウイニングロード!!」

 

だが、オーズはそれも読んでいた。飛んできたリクガメヤミーは回転の軸である甲羅の中心へとウイニングロードを直撃され、吹き飛んだ。その方向は小魚ヤミーの大群。振ってきたリクガメヤミーを避けるように隊列に穴をあける。

 

「落とせ!」

 

『了解』

 

その隊列の穴に入るように、オーズは落下した。そして落下しながらレイジングスピリッツを振り回す。

 

「うおりゃあああああああああ!!!」

 

小魚ヤミーの大群の中でレイジングスピリッツを振り回し、大量の小魚ヤミーは切り裂かれ、セルメダルへと変わり、辺りに散らばっていく。その様相はまるで、セルメダルのハリケーンのようだった。

 

「っし、ラスト!!」

 

川の底に足を付け、レイジングスピリッツを構える。目の前にはひっくり返ったリクガメヤミー。その先には体の自由を奪われたメズールがいた。

 

「このっ!」

 

バインドを破壊しようとするも上手くいかない。このバインドがただの魔導士が作ったものだったら、彼女は体をメダルの集合体に変えて脱出することは容易だっただろう。だが、オーズのバインドはメダルの力が込められている特別性。バインドに掛かっているグリードはセルメダルの集合体に成れなくなっていた。因みにオーズ本人はこのことを知らない。

 

《スキャニングチャージ!》

 

「はあ“あ”あ“・・・」

 

バックルにオースキャナーを通し、全身に力を籠めてレイジングスピリッツを構える。バックルとオースキャナーを使うことでコアメダルの力を更に高めてより強力な一撃へと昇華させる。リクガメヤミーが攻撃を防ごうとやっとの思いで立ち上がった次の瞬間・・・

 

「セイヤ――!!」

 

リクガメヤミーレイジングスピリッツに斜めに切り付けられ、その斬撃は空間をも断ち切った。

やがて断ち切られた空間は元に戻り、リクガメヤミーの体は爆散して一枚のセルメダルだけが残った。

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・」

 

オーズはリクガメヤミーとメズールがいないことを確認すると、遂に膝をついた。

 

『今回復します! 静かなる癒し』

 

レイジングスピリッツの詠唱と共にオーズの傷が癒えていく。

 

「ありがとう、リツ。おかげで痛みはだいぶ引いた。それじゃあ、残りのヤミーを倒そうか」

 

オーズはメズールがいなくなったことで、空中でウロウロして動揺している小魚ヤミーを見上げる。

 

『駄目ですよ!もう魔力もほとんど残ってないのにどうやって戦うつもりですか!』

 

「何のためにコンボを残してたと思ってんだよ」

 

『なっ、ほんとに使うつもりだったんですか!?』

 

オーズは疲労こそ残っているものの、既に肉体的ダメージは無くなっている。後は枯渇した魔力を補えば戦闘の継続は可能だった。

 

「ここまで来たんだ。やるからには最後までやりきる。それに、今もまだ戦ってる人がいるんだ。俺は、その人たちを助けに行きたい」

 

『で、でも・・・』

 

「頼むよ」

 

手元で反対気味なレイジングスピリッツを説得する。そのオーズの折れないだろう瞳を見て、渋々承諾することにする。

 

『・・・はあ、わかりました。コンボを使うなら使ってみたいものがあるのでそれとセットで使いましょう』

 

「了解。それじゃあまずは、こいつらを蹴散らそうか」

 

レイジングスピリッツを説得したオーズは立ち上がり、そして・・・

 

大音量で命の危機を知らせる直感に従い、レイジングスピリッツを後ろに振りぬいた。

 

「あら、気づくのね」

 

全力で振りぬかれた剣は止まった。剣の先は片手で止められており、動かない。

 

「なん、で・・・」

 

「返すわね」

 

剣を掴んでいたそれは、剣を軽く投げた。剣を強く握っていたオーズは剣と共に大きく吹き飛ばされて川に叩きつけられた。

 

「認めるわ、オーズの坊や。あなたは強い。私達の想定を遥かに超えるほどに」

 

怪物が歩いてくる。オーズ、悠が思い浮かべるのは初めてコンボに変身したあの日、あの男に会った時のこと。

 

「あなたはきっとこれからもっと強くなるんでしょう。だから確実に、ここで殺すわ」

 

絶対的な絶望が、歩いてくる。

 

「!! ウイニングロード!!」

 

『ブレイクランス』

 

藍色の道と藍色の光の槍が絶望へと飛んでいく。

オーズはできるだけ距離を取るため、レイジングスピリッツは牽制のために攻撃を行う。

この稼いだ時間を使い、ラトラーターコンボに変身するために。

 

「邪魔よ」

 

手の一振りで薙ぎ払われた。そうして、もう一度その姿を見た。

 

青く輝いていたマントは黒く輝き、タコの吸盤をあしらっていた足も青黒くなっていた。そして肉体は以前よりも強靭となっていることが一目でわかった。

 

「早く・・・」

 

『プロテクション』

 

即座に立ち上がろうとしたオーズの前にシールドが展開される。次の瞬間、死が目の前にいた。

 

「死んでちょうだい」

 

シールド砕き、そのままオーズへと伸びる。両腕でガードするも、衝突した瞬間、強い衝撃が全身に響き、吹き飛んだ。

 

 

 

 

自分が吹き飛ばされたのがわかる。スローモーションで景色が動く。これ、コンボに変身しても勝てるかなぁ、なんて、弱気なことを思ってしまった。

 

バルさんの時はブレイクランスが当たったから弱体化したうえで、コンボに変身して勝てた。翔の時も、レイジングスピリッツと戦って疲れて消耗したうえでコンボに変身して勝てた。こうやって考えると、今まで強い相手に真正面から買った覚えがない。

 

でも、勝たなきゃいけない。こいつが暴れれば、沢山の人が傷つく。それは嫌だ。

なのに、体は思う通りに動いてくれない。ダメなのに、勝たなきゃいけないのに、俺は弱くて、また何も守れなくて・・・

 

意識が、飛んで・・・

 

 

 

 

「・・・まだだあ!!」

 

空中で身を翻し、頭から落下しそうなのを足で着地する。何故か自然と体が動いた。

/空中で身を翻すことで頭から落下することを防ぐ。やはり体は重い。まあ、あれ程の戦いを繰り広げばそうもなるか。

 

オーズが唐突に息を吹き返した様子を見て、メズールは距離を取った。

 

何だろう、この感覚。不思議だ。自分の体が自分の物じゃないような不思議な感覚。

/何だこれ?悠の意識が引っ込まずに、それでいて俺の意識が浮上したせいでおかしなことになってるな。というか、何であいつじゃなくて俺が・・・あ。あいつ前々回で魂にダイレクトアタックされて、前回で酷使無双されたからまだへばってんのか。それで悠が気絶して俺の方が優先順位が上がったと。でもって悠の意識が息を吹き返して同居してると。・・・俺の孫、地味におかしいな。なーんで気絶せず俺と意識を融合させてるんですかねぇ。というか、意識の融合って人格に影響でそうで怖いんだけど。前回もあいつと意識が少し混ざってそうな気がしたからマジで怖いんだけど。

 

これならきっと、コンボに変身すれば勝てる。そんな気がした。

/でも取り敢えず、この状況をどうにかしないとだよな。よし、状況確認!敵、あいつが作ったらしいなんかやべー奴!魔力、空っぽ!カートリッジ、二本!肉体、限界ギリギリ!どうしろと?

 

でもまあ、可愛い(?)孫の為だ。じいちゃんが人肌脱ごうじゃないか。

 

メズールは背筋が凍った。何故なら、目の前の少年の姿を重ねてしまったからだ。かの王の姿に・・・

 

 

 

 

彼に襲いかかる脅威によって

内に秘めた聖王の魂が蘇る

 




祖 父 を 名 乗 る 不 審 者 (伏線)

頑張ってかっこいい戦闘シーンを考えて、文字に起こして、色んな表現やセリフを書き加えて、どうしてギャグに到着するんだ・・・?

ということで、次回も戦闘回です。よろしくお願いします!


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夢見心地とデタラメと聖王の魂

遂にお気に入り登録180人突破!あと少しで200人!皆さんいつもありがとうございます!!
それでは出来たてほやほやをどうぞ!

前回のあらすじ
「グリードとヤミー、撃破!」
「馬鹿め!私には第二形態があるのよ、死ねぃ!!」
「孫の敵!俺に任せろ!」
「俺は、勝ちたいィィィ!」
「ゑ?」
融 合 召 喚 ☆



頭がフワフワする。さっきの一撃で気絶しかけたせいだろうか?意識がはっきりとしない。まるで夢の中にいるような、そんな感じ。そんな状態で戦えるのか?そう思ったけど、何だろう。いつもより動ける・・・というより、上手く戦える気がする。

/あまりスッキリしない。何というか、朝起きて寝ぼけてるって感じか?でも意識ははっきりしてる。うーん、わからん。今まで俺は体の持ち主が外部からの攻撃で意識を失うと出てきてたんだけど、こんな事は初めてだ。正直、上手く戦える気はしないんだが・・・

 

 

 

俺の戦意を感じ取ったのか、メズールが警戒を高めた。そして、両手を掲げた。

 

「残ったヤミー達、そしてセルメダル。私の下に集まりなさい!」

 

その呼びかけに答えるように、小魚ヤミーと川の中に散らばっていたセルメダルがメズールの体に取り込まれていく。メズールは自分の直感を信じた。このまま突っ込めば、手痛い反撃を食らいかねないという直感を。だから確実にすり潰すために、セルメダルを吸収する。

 

『マスター、撤退を!』

 

「あれは放っておけない。ここで倒す。そのためにこれを使う」

 

そう言って取り出したのは二枚の黄色のコアメダル。タカとバッタのコアメダルをバックルから取り外した。

 

「いつの間にカザリのメダルを揃えていたのね。でも、あなたはコンボを受け止められるだけの器かしら?」

 

セルメダルを吸収しながら挑発するようにメズールは問いかける。いくら戦闘センスが高くとも、オーズの器に相応しいかは別だ。コンボとは、常に暴走の危険が付きまとう。最悪、ベルトの力によって封印されるのだ。

 

だが、彼女のその言葉には僅かに、器に相応しくないことを願う気持ちが籠っていた。

 

 

今、あいつを倒すのにはこれしかない。あいつをここで倒さなければ、きっと沢山の人が

傷つくことになる。その中には、俺の大事な人達もいるかもしれない。だから、どんなに痛くても、苦しくても構わない!ここで、倒す!

その覚悟と共に、二枚のコアメダルをセットする。

/この状況であいつを倒すにはコンボを使うしかない。でもどう考えてもこのコンボっていうのは危険だし、ここは逃げるのが正しいんだけど、悠と意識が混ざっているせいか逃げようとは思わない。

これは正義感・・・いやこれは義務感か?それと少しの恐怖。あの怪物に対して?違うな。これは自分が逃げる、もしくは敗れることで周りに被害が及ぶことに怯えてるのか。なーんか拗らせてる気がするなぁ。リツの奴、メンタルケアとかは・・・してないだろうなぁ。まだ16にも満たない子供が、何をどうしたらこんな覚悟ガンギマリになるんだよ。周りの大人は何してんだよたく・・・周りに大人、いないんだった。

・・・しゃーない、今は俺が悠にしてあげられることをしよう。悠の体に負担がかからないように速攻であいつを倒す!コンボは今のところ二回変身して倒れるだけで済んでるし、三回目もいけるいける。

俺は結構軽い気持ちで二枚のコアメダルをセットした。

 

 

『マスター、それはまだだめ・・・』

 

レイジングスピリッツの静止を振り切り、三枚の黄色のコアメダルセットしたバックルを傾ける。右手には、心臓の鼓動のように鳴るオースキャナーが握られていた。

 

「まさか本気・・・!?」

 

「変身!!」

 

バックルにオースキャナーを通し、コインがぶつかったかのような甲高い音が3度、鳴り響く。

 

《ライオン!トラ!チーター!ラタラタ~ラトラーター!》

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

眩い光を放ちながらそれは現れた。ライオンの鬣を模したライオンヘッド。敵を引き裂かんとトラクローが展開されたトラアームズ。高速で移動し、時には強力な蹴り技を放つチーターレッグ。限界を超え、ラトラーターコンボに変身し、高温のエネルギーが放出され、そのあまりの高熱に川の水が蒸発した。

 

「この姿になっていなければ危なかったわね・・・」

 

メズールは自身の体が弱っていないことを確認する。メズールとメズールの作り出すヤミーはカザリのメダルとは相性が悪い。本来なら今のエネルギーで彼女はコアメダルを失うほどのダメージを受けていただろう。だがジュエルシードの力は、彼女に究極の肉体を与えた。通常時とは比べ物にならない程の運動能力、頑強さ、そして技の威力の底上げすらもされている。この姿を長時間維持するにはセルメダルの燃費が悪い上に、この姿での戦闘は今回が初めて。自分にどんな影響があるかは未知数だった。

 

だからこの場にいる者の意見は一致した。少しでも早く、相手を倒す。

 

右手には剣を。左手にはトラクローが展開されている。更に、剣とトラクローには、本来常時全身にみなぎっているエネルギーを収束させていた。これにより、切れ味を向上させつつ、体への負担を軽減させていた。

 

『うわめっちゃ漲る・・・魔力じゃないのに魔法も使えそうだしどうなってるんですかこれ、こわ・・・』

 

レイジングスピリッツが気味悪がっていたが、スルーした。

準備はできた。互いに構える

 

蒸発した水を補うように、川に水が流れてきた。それと同時に2人は駆けだした。

 

先手を取ったのはオーズ。剣によるシンブルな突きだ。だが、チーターレッグによる加速、そして高温エネルギーを剣に収束させたことによって、音速すらもを超えた速度で放たれる必殺の一撃となった。

 

対してメズールは、先手を取られることは予想していた。想定外だったのは想定より速い速度くらいか。頭を狙った一撃を紙一重で躱しながら、左足からカウンターを繰り出した。人間が食らえば上半身と下半身がきれいに別れる程の威力。回避は不可能。直撃を確信した。

 

「え?」

 

だが次の瞬間、メズールは宙を舞っていた。理解が遅れ、困惑のあまり言葉が漏れた。

そのまま体を川に叩きつける・・・ことはなく、体をひねって華麗に着地する。一体何があったのか。オーズを見るとカウンターを受けた様子はない。自分もカウンターが決まった感触はなかった。なぜか?自分の左足をみた。

 

ポロポロと、セルメダルがこぼれていた。

 

そして理解した。カウンターが決まる瞬間、オーズは左手のトラクローをカウンターに合わせて自分の左足に突き刺したのだ。そして突きとカウンター返しの勢いを利用し、体を右回転させ自分を投げ飛ばしたのだと。

 

「意味がわからないわ・・・」

 

自分で考察して困惑していた。状況から見て一番可能性があるのがそれだと思うのだが、正直納得できなかった。剣の突きが空を切っていたのは目視していたので、投げ飛ばしたということは自分の足を貫いた左腕だけで、ということなのだろう。

 

だが、自分はその、それなりに・・・人間と比べれば!重い、とは思う。人間と比べれば。

それを片腕だけで、それも無茶な体勢から投げ飛ばせるものなのだろうか?

そもそもあのカウンター返しだ。あの投げが決まるにはカウンター返しが決まっているのが条件だ。そんなあの一瞬で、そこまでの判断ができるわけ・・・

 

「余裕あるな?」

 

トラクローの斬撃を左腕で弾く。思考に浸っている暇はなかった。目も前の敵に集中する。

今度は左足から蹴りが放たれる。その蹴りを防ごうと右腕を盾にして・・・

 

「なっ」

 

衝撃は来なかった。蹴りは空を切り、そのまま体を回転させながら体をメズールの足元まで落下させ、足を薙ぎ払った。

バランスを崩して頭が水に触れる直前、姿勢を低くしたオーズと目の高さ揃い、目があった。

 

「せーのっ!」

 

その瞬間、川底に左手をついて体を支えながら腹目掛けて蹴りが放たれた。ガードは間に合わず、水切りのように吹っ飛んでいく。

 

「この・・・!!」

 

すぐさま立ち上がる。あれに隙を見せてはいけない。それに、格闘戦はあっちが上。それなら・・・。 ポロポロとメダルがこぼれる腹を抑える。

 

 

 

 

 

すごい。すごいすごい!自分の体じゃないみたいに力が入る!いや、力が入るというより、力の籠め方がわかるって感じかな。さっきまでとは動きが段違いだ!それに、不思議とあいつの動きが読める!もっと強く!もっと速く!

/何あれ、あの蹴りで普通死ぬんだけど?ちゃんと軸合ってたから岩を砕ける威力の上にオーズの力も合わさってるのに何であの程度のダメージしか受けてないの?怖・・・。でもだとしたらどうやって倒そうか?今のところ戦闘は成り立ってる。身体スペックはあっちが上だが、技術では圧倒的にこっちが上。流石俺!まあ自画自賛はここまでにして、どうやって倒すだが・・・

 

問題はあいつの硬さ。普通の攻撃じゃあ倒せない。長期戦になるほどこっちが不利になる。レイジングスピリッツの次元切り(仮名)はもうカートリッジが足りなくて使えない。なら、スキャニングチャージで一撃必殺しかない。

/孫の思考が来た。おけおけ、『すきゃにんぐちゃーじ』ね。それを使うのには少しタイムラグがあると。なら一瞬でも動きを止められれば一気に片を付けられるな。

 

(リツ、残りカートリッジを身体強化に使え。後、指示したタイミングにバインドをかけられるように準備しろ。俺が動いてこっちに注意を引くようにするからその隙に仕掛けろ)

 

(りょ、了解です・・・?)

 

何故か疑問形で返事をされた。こんな時にシャキっとしてもらわないと困るんだけどな・・・

/ほんとだよ全く。真面目そうに見えてその実ただのドジっ子だからなコイツ。

まあ、俺が頑張ればいいか。

 

作戦はある。それを可能にする力もある。なら後は実行するだけだ。足に力を籠める。

考える時間があったため、あちらも作戦を立て終えたのかすぐにでも襲い掛かってきそうな雰囲気を醸し出していた。

 

先手をうったのはメズール。土手のあちこちから水で形成されたタコ足が生えてきた。狙いは全てこちらに向けられている。俺に最も近かった二本のタコ足が襲い掛かった。

 

それと同時にメズールに向けて駆けだし、タコ足の叩きつけは川を叩きつけるだけに終わる。だがそれだけでは終わらない。進んだ先には更に多くのタコ足が叩きつけ、薙ぎ払い、絡みつこうとしていた。

 

 ウイングロードの神髄、見せてやるよ。

 

「ウイングロードネクスト!」

 

土手に現れたのは、無数の藍色に光る道。直線に伸びているもの、曲がりくねったもの、中には走らせる気があるのかわからない一回転しているものまであった。そしてそれらは全て片足が乗る程度の幅しかなかった。

そして俺は足元に展開したウイングロードネクストに左足を前に、右足を後ろに置いて滑走した。そしてタコ足の連撃を滑らかに全て躱した。

 

『あのゴミクソの魔法を、何で・・・』

 

何かすごいディスられてるけど、今回は見逃してやろう。次会ったら土に埋めて一週間放置する程度で許してやる。

 

「!? 落ちなさい!!」

 

高速で接近する俺をウイングロードネクストから落とそうと、無数の水の弾丸と水色のスフィアを展開して発射してきた。

 

「ファーー-!甘い甘い」

 

剣を逆手に持ち、両手で構えた。

 

「旋衝破!」

 

俺に殺到してきた弾幕は俺から逸れ、そして俺の周りを流れるように漂った。

 

「『は?』」

 

メズールと手元の剣から声が漏れた。

 

「クーリングオフ!!」

 

俺はメズールの周りの空中に展開されていたウイングロードネクストに飛び移って滑走し、メズールの周りのタコ足に向けて弾幕を返却した。やはりというべきか、グリードの攻撃は効くらしくタコ足は次々と破壊されていく。

 

「ここにきて意味がわからないことを連続でしないで頂戴!!」

 

射撃は止め、代わりにスケールダウンして先程よりもサイズを小さくし、小回りが利きそうな細長いタコ足を先程の倍生やしてきた。正直さっきよりキツイ。

 

「はあっ!!」

 

そしてタコ足が槍のように伸びて俺を貫こうとする。それを全て紙一重で躱し、トラクローで切り裂く。だが数が多いため、手数が足りない。つまり攻めにいけない。

 

と、いうわけで、そろそろ準備はできただろうから決めに行くか。

 

「うおおおおおおお!!」

 

「くっ!」

 

ライオンフラッシャーの力を全力で開放し、タコ足をまとめて蒸発させる。少し体に負担がかかるけど、これくらいなら想定内!

 

「リツ!」

 

『バインド』

 

俺の掛け声に反応し、メズールの両腕を拘束する。

 

「しまった!?」

 

動きが止まったこの瞬間、メズールの周りを滑走していた俺はウイングロードネクストから飛び降りながらバックルにオースキャナーを通す。

 

《スキャニングチャージ!》

 

目の前に現れたのは三つの黄色のリング。その先には身動きが取れなくなったメズール。

 

「はあああああ!!」

 

「まだよ!!」

 

最後の抵抗。無数のタコ足が出現し、俺を叩き潰そうと襲ってくる。そんなものでは止まらないというのに。

 

俺は駆けだした。横に薙ぎ払うとしたタコ足は突進して破壊した。一つ目のリングを通る。

 

水の弾丸と水の刃が飛んできたが全てトラクローで弾いた。二つ目のリングを通る。

 

真正面に俺を貫こうとタコ足が、上空には俺を貫こうと無数の弾丸が俺を襲う。

 

ライオンフラッシャーで水の弾丸を蒸発させ、ライオンフラッシャーでも蒸発しなかったタコ足は真正面から切り裂いた。三つ目のリングを通る。

 

「はあああああ!!」

 

最後。メズールが展開したシールドに剣が衝突する。

 

メズールを拘束していたバインドにひびが入る。そしてシールドにもひびが入った。

 

「はあああああ!!」

 

「うおおおおお!!」

 

僅かな拮抗。永遠とも思える一瞬。それを、左手のトラクローが引き裂いた。

 

「せいやあああああー――!!」

 

その一撃は、メズールの体を引き裂いた。

 




旋衝破
魔法少女リリカルなのはvividに登場するラインハルトという少女が使用した技。弾殻を壊さずに受け止めて投げ返す。勿論悠の技ではなく祖父の技。


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命令とバインドと新ライダー

今回はクロノの戦闘回です。
クロノはあまり戦闘描写がないので作者なりに想像を入れて書いています。
解釈違いだったらすみません。


「あ”あ”あ”あ”あ”!!」

 

悲痛な叫びが土手に響く。トラクローによって引き裂かれた箇所から、セルメダルが血しぶきのように飛び出す。その中には、3枚の青いメダルが混ざっていた。

 

「あ”あ・・・」

 

メズールは数歩後ずさると膝をついた。そして足のタコの吸盤のような模様がセルメダルと共にはじけ飛んだ。

 

「よくも・・・!」

 

オーズを睨みつけるが、仕返しをする余裕もない。ジュエルシードを酷使し、セルメダルを大量に失っただけでなく、コアメダルも失った。彼女に立ち上がるだけの力も残っていない。

 

「はあ、はあ」

 

オーズの息は荒い。彼は既に限界を何度も超えていた。だがまだ、弱っているグリードに止めを刺すだけの力が残っていた。

 

剣を振り上げた、その時だった。

 

『魔力反応!何か来ます!』

 

「メズールー!!」

 

即座に後方に跳ぶと、メズールを横からかっさらう影があった。

 

オーズから離れた場所には、メズールを抱きかかえる銀色の何かがいた。

 

「メズール!メズール!」

 

その何かは、必死にメズールの名を呼ぶ。

 

「ガメル・・・私を連れて逃げて・・・」

 

「わかった!!」

 

その影は腕を川に向けて振り下げた。すると川の水は吹き飛び、川の底には大きな穴ができた。そしてガメルと呼ばれたそれは、メズールと共にその中へと飛び込んだ。

 

「ま・・・て・・・」

 

追いかけようとするも、膝をつく。オーズにはもう、立ち上がる力も残っていない。

 

『マスター!!今治療を・・・て、怪我はしてないんだった!!ど、どうすれば・・・』

 

そうしている間に穴は塞がり、川の水は正常に流れ出した。

 

「クソ、取り逃がした・・・!」

 

川に拳を打ち付ける。あの一瞬で動けなかった自分を恨む。倒すチャンスはここしかなかったというのに、何をしているのだと。

 

「・・・せめて、残りのヤミーを・・・」

 

『言いたいことは山ほどありますけど、とにかくもう体が限界です!!マスターはもう頑張りましたよ!ヤミー一体に小型ヤミーの大群、更にはグリードですよ、これで倒れても誰も口を出しませんよ!!』

 

オーズを、悠を説得しようとレイジングスピリッツが叫ぶ。実際、悠の体はもう限界だった。魔力を使い切り、体力が尽きかけていた時にコンボを使って更に体に負担をかけた。いかに先祖の戦闘技術で体への負担を減らそうとも、最早立ち上がることすらできない。

 

「・・・なあ、リツ。さっき、試したいものがあるって、言ってたよな・・・?」

 

『・・・!ダメです!もう本当に駄目です!!マスターが死んじゃいます!!』

 

「他の場所・・・」

 

『え・・・?』

 

「他の場所ではまだ、戦闘は続いているか・・・?」

 

『それは・・・』

 

「答えろ」

 

その圧力に、その力に、レイジングスピリッツは逆らえない。

 

『グ、グリードと戦闘している箇所が三ヵ所・・・他にも、小型ヤミーと戦闘中の魔導士もいます・・・』

 

「行くぞ、試したいものってやつを使って・・・」

 

彼に、魔王に逆らえるものは、存在しない。

 

「はい・・・」

 

レイジングスピリッツは自身から銀に黄色があしらわれた缶型の何かを出した。

 

 

 

 

「ぐわっ!」

 

「大丈夫か!?」

 

「気張れよ!隊長がグリードを抑えている間に、俺達が何とかしないと・・・」

 

海鳴市とある一角。そこは地獄のような光景だった。小型ヤミーが密集し、人型のトラヤミー、更にはグリードの一体、カザリがいた。

 

「くっ・・・」

 

「君本当に強いね。氷の魔法が効かなくて、空も飛べないっていうのに、ここまで食い下がれるとは思わなかったよ」

 

そんな中、SBCを持たず、1人でカザリを抑えるクロノの姿があった。

 

「お前たちは一体、何が目的なんだ!」

 

「答える義理は無いよ。強いて言うなら、君たち魔導士を殺すことかな?」

 

そう言って、カザリは高速で接近・・・しようとするも、クロノにかぎ爪が届く距離になって急に方向転換する。するとバインドが発生した。

 

「ほんとこういうのばっかりだよね!」

 

今度は後ろにまわり、蹴りを放つ。クロノはそれをデバイスでいなし、手をかざす。

 

『ブレイクインパルス』

 

手から発生する振動エネルギーがカザリの胸に直撃し、片足で立っていたカザリはその衝撃を踏ん張れずに後方に飛んでいった。

 

「この・・・」

 

『ブレイズキャノン』

 

威力を下げる代わりに早さを優先したショートバスタ―。それが倒れたカザリに向けて放たれた。煙により姿が見えなくなる。

 

「はあ、はあ」

 

手ごたえはあった。そう確信するが、クロノにはあまり効いていないという予感があった。

煙が晴れた先には、平然と立っているカザリと、その周りに僅かに散らばっているセルメダルがあった。それを見てクロノは内心舌打ちする。

 

「ほんといやになるよ。魔法が大して効かない僕が、僅かでもセルメダルが欠けるんだもん。どうやってるのそれ?」

 

カザリのダメージは僅か。対してクロノは少しずつだが長時間の戦闘でダメージが蓄積していた。

 

クロノは魔法少女リリカルなのはという世界で、間違いなくトップクラスの実力者だ。それも、主人公であるなのはやフェイトに勝るほどの。

 

だがやはり、そんな彼でも魔法が通じず、魔力に限りが見えない相手との戦闘は厳しいものだった。氷結魔法で拘束しようにもすぐさま熱線で溶かされ、バインドも段々と慣れてきている。

だが、彼は諦めない。彼には切り札があった。それも、とっておきのが。

 

『クロノ君、あともう少しで圭君が来るから、もう少しだけ持ちこたえて!』

 

エイミィの念話が届いた。

 

「お前たちの体の元になっているセルメダルは、確かに魔法を通しにくくしている。でもお前たちはセルメダルの集合体だ!セルメダルを壊そうとするんじゃなく、セルメダルをばらけるようにすれば体は崩れる!」

 

カザリの質問に敢えて答える。いつしかばれることでもあり、もうじきそんな小細工もいらなくなる。だから可能な限り時間を稼ぐことを優先した。

 

「なるほど。至近距離であの鋭い魔法で僕の体に窪みを作って、確か砲撃魔法だっけ?それを窪み目掛けて撃てば表面のセルメダルは削れるね」

 

納得したのか、カザリの姿はどこか満足気だった。

 

「魔導士の強さもわかったし、結構楽しめた。それじゃあそろそろ・・・」

 

獲物を狙う肉食獣のごとき鋭い視線を、クロノに向けた。

 

「殺しに行くね」

 

カザリは走り出した。目にも止まらぬその速さはまさしく電光石火。今までの比ではない。

 

『ディレイドバインド』

 

だがクロノは冷静に設置型バインドを仕掛ける。

 

「それはもう飽きた!」

 

クロノの周りを一瞬でぐるっと一周し、通った後には風の弾丸が設置されていた。

 

「シュート」

 

『プロテクション』

 

全方位からの攻撃。カザリの声と共に放たれたそれを、跳躍し下に向けてシールドを展開することで爆風から身を守りつつ、空高く舞い上がった。

 

『スティンガーレイ』

 

「貫け!」

 

高所からカザリに向けて槍の雨が降り注ぐ。当たっても大してダメージは負わないが、それでも一枚のセルメダルだって惜しい。避けようと走り出す。

 

「なっ!」

 

「かかった!」

 

予め設置しておいたバインドが作動する。

 

 

「この程度!」

 

すぐさまバインドを破りその場から離れる。

 

「また!?」

 

戦闘中、クロノはあちこちにバインドを設置していた。この場所はもう、クロノ以外は自由に動けない。

 

『チェーンバインド』

 

今度は鎖型のバインドがカザリに巻き付く。

 

「君はさっき、僕は君と相性が悪いと言っていたね」

 

さらにチェーンバインドを重ね掛けていく。

 

「悪いけど、僕が一番得意な魔法は氷結魔法じゃなくて拘束魔法なんだ。他の魔導士がくるまで拘束させてもらう」

 

カザリは全身をぐるぐる巻きにされて、もはや身動きが全く取れなかった。クロノは内心切り札が到着する前に決着がついたのは良いことか少し悩んだ。正直期待していたのに自分一人で解決してしまったので何とも言えない気持ちだ。

 

まあ、ぶっつけ本番で戦わせて何かあったら大変だしいいか。

 

そう考え、圭にはまた今度活躍してもらおうと考えた。そして氷を溶かすカザリを拘束したので、まだ暴れているヤミーを制圧しようと歩き出した。

 

「やっぱり、これなしだと厳しいか」

 

直後、後ろに暴風が発生した。振り向くと、バインドを全て破壊し、全身にエネルギーを漲らせたカザリの姿があった。

 

「まだ本気じゃなかったのか・・・」

 

「全力じゃなかったけど、魔力なしでの本気だったよ。君たち魔導士に魔法を使わずに僕がどれほど戦えるか試す実験だったんだけど、まさか完全に拘束されるとは思わなかったよ。正直、これがなかったら危なかったかも」

 

そういうと、胸から1つ、蒼く輝く宝石を取り出した。

 

「ジュエルシード・・・!」

 

「これ、ジュエルシードって言うんだ。これのお陰で高熱エネルギーの放射や風で弾丸を作ったり色々できるようになったんだよ。便利だよねこれ」

 

「ジュエルシードはそんな都合のいいものじゃない、とても危険なものなんだ!それを渡せ!」

 

「嫌だね。これを使って僕は、完全体を超えた更なる進化をするんだ」

 

ジュエルシードを胸にしまい再び構える。

 

「それじゃ今度こそ、命と記憶をもらうね」

 

『プロテクション』

 

咄嗟にシールドを展開するも、シールドは破られ、かぎ爪をデバイスのデュランダルで受け止めるが嫌な音をたてながらクロノは吹き飛ばされた。

 

速い!それに力もさっきと比べて段違いだ!

 

『ストラグルバインド』

 

起き上がりながら強化魔法を強制解除させるバインドで試しに拘束を試みるが、気にする様子もなく歩く動作だけで破壊する。

 

「SBC無しでの拘束は無理か・・・!」

 

逃げて時間を稼ごうと走り出そうとする。

 

「逃がさないよ」

 

カザリの手から暴風が発生し、クロノは吹き飛び、倒れ伏す。

 

「ぐ・・・」

 

「それじゃ、バイバイ」

 

残酷にも、その鋭いかぎ爪がクロノに向けて振り下ろされた。

 

 

 

 

「ファイヤー!!」

 

「!?」

 

突如、振り下ろされるはずの腕は撃たれ、弾かれた。そして当たった箇所にはセルメダルがこぼれた。

 

「一体誰が・・・」

 

撃たれた方向には、1人の男がいた。銀の髪、服装はどこかの会社のものだろうか?薄茶色のスーツを着ていて、グレネードランチャーのような何かを抱えた中学生程の背丈の少年が、仰向けに倒れていた。

というか伸びていた。

 

「え、いや、え・・・?」

 

想定外過ぎる状況に頭がついていけていないカザリとは対照的に、クロノは冷静に状況を分析した。

 

あれは確かバースバスター。セルメダルを使ったエネルギー弾を放てる代わりに反動が大きかったはず。そして近くに緑色の軍用の車が一台。あいつの性格も考慮して考えると、走っていたあの車から高く飛び出しながらバースバスターを使用、想定以上の反動に対応できず、空中の為足の踏ん張りも効かずに後方に吹き飛んだ、と。

馬鹿かあいつは?馬鹿だった・・・

 

さっきまであんなのを切り札扱いしていた自分が情けないと、本気で後悔していた。

 

「いてて・・・反動でかいの忘れてた」

 

「本当に何をやっているんだお前は・・・」

 

起き上がった圭に車から降りてきた男が呆れながら手を貸した。

 

「すみません、うちの上司が危ないところだったので咄嗟に・・・」

 

「気持ちはわかるが・・・」

 

「理由の半分はそうだろうが、もう半分はかっこつけたかっただけだと思うぞ」

 

クロノの告げ口を聞いて男、後藤は振り向く。圭は顔を背けていた。

 

「いや、違うんですよ。車に乗りながらだと反動で車が危ないだろうし、かと言って降りてから撃ってたら間に合わなかったんですよ。別に跳躍して射撃しながらの登場がかっこいいだろうなとか、これっぽっちも考えてないですよ?」

 

「それを俺の目を見てからもう一度言ってみろ」

 

圭が後藤に顔を合わせることは無かった。

 

「ねえ、そろそろ僕も話に入っていいかな」

 

「あ、ごめん。律儀に待っててくれてありがとなカザリ」

 

タイミングを見計らって声をかけてきたカザリに、圭は待っていたことについて礼を言う。それを聞いてカザリはやりずらそうだった。

 

そして圭はカザリへと歩き出す。

 

「クロノ、まだ戦えそうか?」

 

「・・・ああ」

 

「それじゃ、カザリの相手は俺がやるから、クロノは後藤さんと一緒にヤミーの方を頼む」

 

「1人で大丈夫か?」

 

「ああ。俺、エースオブエースだから!」

 

クロノにサムズアップすると、その言葉を信じて立ち上がったクロノはヤミーの下へと向かった。

 

「無理するなよ」

 

「必要がなかったらしません」

 

その言葉に一言言いたかったのをぐっと抑え、リモコンを操作した。すると車から大量のタカの缶ドロイドが飛び立ち、走り去る後藤の後を追った。

 

その間、カザリは何もしなかった。否、圭から目を離さなかったのだ。勘とでもいうべきものがこの男を警戒しろと告げていた。

 

2人が立ち去るのを確認すると、圭はセルメダルを一枚コイントスの要領で飛ばし、落ちてきたセルメダルを掴む。よく見ると、圭の腰には何かベルトのようなものが巻き付いていた。

 

「変身」

 

セルメダルを謎のベルトにセットし、機械の右についていたハンドルを回した。

 

《カポーン》

 

カプセルが開いたような軽快な音と共に緑のカプセルのようなものがいくつも展開。そして光と共に現れたのは、先程の少年ではなく、スーツに身を包んだ戦士だった。

 

「君、何者?」

 

「そうだな、強いて言うなら・・・」

 

敢えて悩む仕草をしてから、こう答えた。

 

「仮面ライダーバースだ!」

 

ここに新たなる仮面ライダーが誕生した。その名を仮面ライダーバース。

 

「さぁて、稼ぎますか!お仕事お仕事」

 

バースは新たなる一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

『圭、お前がそれを言うと何故か腹が立つからもう言わないでもらえるか?』

 

「あ、はい。すみませんでした・・・」

 

バース装着車の声は後藤のインカムに繋がっていた。そして後藤から抗議の電話がかかり、即座に謝る。

何とも閉まらない一歩目だった。

 




皆さんの感想お待ちしてます!


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知ってはいけないこと

遅れてすみませんでした。
中々納得できるものができなかったので時間が掛かりました…


「うおおおお!!」

 

バースはセルレンダーの中のセルメダルを一枚消費してバースバスターをカザリに向けて連射する。今度は吹っ飛ばされていないようだった。

バースバスターから放たれたのはセルメダルのエネルギーと使用者の魔力が混ぜられているメダル状のエネルギー魔力弾。媒体にバースバスターが必要だが、SBCを使うためにはデバイスを大きく改造しなければならない他、こちらはセルメダルの力を最大限引き上げることに特化させているため、対ヤミー・グリード戦においてはバースバスターに軍配が上がることが見込まれている。

後藤が所有している魔力を使わずセルメダルのみを消費するバースバスターもあるが、魔力を混ぜることでセルメダルの消費を抑えられるため、ドクター真木は魔導士達には魔力装填型のバースバスターを配備する予定だ。

このバースバスターの問題点は、使用時の反動が大きすぎて鍛えている人間でも吹っ飛んでしまうことだろう。いずれカートリッジシステムを使用していない魔導士にバースバスターを配備する予定だが、一般魔導士達の運命は如何に。

 

「そんな攻撃、当たらないよ」

 

高速で連射されるエネルギー弾をカザリは余裕をもって躱していた。俊敏に動けるカザリにとってはこの程度の速さなら当然のことだが。

 

「ま、そうだよな。というわけでヤマト、サポート任した」

 

『任された』

 

「え、そのベルト喋るの?アンクから聞いてたナックルはどうしたんだろうと思ってたけど、まさかそれになったの?」

 

バースの頼みにベルトが答えたのを見て、カザリは一発で答えにたどり着いた。そう、このベルト、正式名称『バースドライバーヤマト』は圭のデバイスであるヤマトを接続し、魔法プログラムとバースシステムを一括で行うことが可能になった最新の超高性能ベルト型デバイスなのだ。

 

「その通り!それじゃあ、ヤマトの新しい力を見せてやるよ!」

 

そう言うとバースバスターのセルレンダーの中のセルメダルが一枚消費された。

 

『チャージ』

 

「そんじゃもう一回!」

 

再びバースバスターを連射する。

 

「だからあたらないって・・・!」

 

言葉を途中で区切り、カザリは動き回った。それはエネルギー弾がカザリを追尾しだしたからだ。ただ直線に発射されていた先程とは違い、エネルギー弾の一つ一つが動き、カザリを捕らえようと追い詰める。

そのうえ、次々にエネルギー弾を発射し、速度を維持し数を増やしながらも、その全てのエネルギー弾をコントロールしているのだ。

 

「この!!」

 

前後に挟まれ、咄嗟に前のエネルギー弾を爪で弾く。すぐさま振り向き手から暴風を発生させて薙ぎ払った。が・・・

 

「ぐああっ!!」

 

暴風を発生させた一瞬をついて上からセルメダルのエネルギーが込められた魔力弾がカザリを襲う。シールドもガードも間に合わず直撃し、全身からセルメダルが飛び散る。

 

「ハイ次」

 

『クレーンアームズ』

 

バースバスターを左に持ち直した後にセルレンダーのメダルが消費されると、バースの右腕に人のサイズに合わせた小型のクレーンが出現・装着された。

 

「ほい!」

 

そして右腕を大きく振りかぶると、クレーンの部分が右腕から離れ、カザリに向けて飛んで行った。

 

「ぐっ!」

 

カザリがこぼしたセルメダルを引き寄せながら飛んで行ったクレーンは、今度はシールドによる防御が間に合い防がれた。だが、その威力は凄まじく、カザリは踏ん張ることはできたものの、地面をガリガリと削りながら後ろに押し出された。

 

「どんな馬鹿力して・・・」

 

「俺に釣られてみる?」

 

カザリはシールドを展開したままで、クレーンはシールドに張り付いていた。いや、正確にはシールドの向こう側にいるカザリに引き寄されている。もっと正確に言うと、カザリの体もクレーンに引き寄されていた。

そしてクレーンには鉄線が繋がれており、それはバースの右腕に繋がれている。

もしここで、カザリの体が急に強くクレーンに引き寄せられてシールドに密着し、バースが体を後ろに振り替えりながら右腕を振りかぶったら、どうなるだろうか?

 

「なっ!」

 

強い力に引き寄せられ、体がシールドに密着する。

 

「そおい!」

 

そしてバースが体ごと右腕を振りかぶった。

この時、バース達の近くではバッタのカンドロイドを掴んでいたタカのカンドロイドが飛んでいた。その戦いの様子をみた者はみな、その光景を同じように言った。

 

「うわああああああ!!」

 

見事な一本釣りだったと。

 

「ごあっ!」

 

釣られた魚(カザリ)はそのまま反対方向に叩きつけられた。

 

「まだ奥の手見せたくないし、まともにやるべきじゃないか・・・」

 

カザリはバースのスペックを測ってから確実に倒そうと考えていたが、想像よりも強いバースに様子見はしてられないと判断し、立ち上がる。

 

「大量大量」

 

バースはクレーンを車に向けて振り、クレーンの吸引力を失ったことでクレーンにくっついていたセルメダルは車へと飛んで行った。そして散らばったセルメダルを、三体程の小さい何かが車の中へと放り投げていた。

 

「ナイスゴリ」

 

小さい何かに礼を言うバース。三体の正体はゴリラのカンドロイド。力があるのが特徴だ。

 

「他の所にも行かないとだから、速攻で行くぞ」

 

『リリース』

 

デバイスの声と共にクレーンが消失する。

 

「次くれ」

 

『ほいよ』

 

使用されたことにより粉々になったセルメダルが入っているセルパレットをポイ捨てすると、ヤマトに収納されていた予備のセルパレッドポッドがバースの目の前に出現し、それを手に取る。

 

「はあっ!」

 

そこにカザリの手から発生した暴風が襲い掛かる。だがそれをすぐさま右に避けながら  をバースバスターのセルダンパーにセルパレットをセット。セルパレットの中のセルメダルがセルレンダーに装填され、セルパレットをジャンクションフレームにセットする。

 

「そこ!」

 

回避を予測していたカザリが爪による高速の突きを繰り出した。

 

「マッハストライク!!」

 

「ぐっ!」

 

肘から魔力を噴出し、超高速で放たれた拳はカザリの突きと微かに擦れ、軌道をずらしながら正確にカザリの顎を捕らえて吹っ飛ばした。

 

『ドリルアームズ』

 

ポッドのメダルが消費されると、クレーンが消えて今度はドリルが出現・装着された。そして急速にドリルが回りだす。

 

『バインド』

 

今度はバインドによりカザリの両手が拘束される。クロノにかけられたバインドと同じように引きちぎろうとするも、かなり固い。体を崩しセルメダルの集合体にしようとしたが、それもできなかった。

 

「・・・これ、もしかしてまずい?」

 

「いぐざくとりー!」

 

仮面でどんな顔をしているかわからないが、ドリルを回しながらこちらに向けようとしている男の仮面の向こうは笑顔だろうなと冷静に分析した。

 

『メテオインパクト』

 

「ひっさーつ!」

 

左手に持っていたバースバスターの  が三回前後に動き、左手から姿を消した。止めを刺すのに邪魔なため、ヤマトが自身の中に収納したのだ。

そして、バースの体にエネルギーが溢れた。

 

「メテオー・・・」

 

そして一歩目を踏み出し、一気に加速した。

 

「インパクト!!」

 

「う、うわああああ!!」

 

情けない声を出すカザリにドリルがカザリに届く、その時だった。

 

「・・・なーんてね」

 

「圭、後ろだ!!」

 

カザリに向かって走った際の加速は忽然と消えてバースはその場に停止し、振り返りながらドリルを突き出した。するとバースに飛び掛かってきたトラヤミーにドリルが突き刺さり、ドリルからエネルギーが放出された。それによりトラヤミーは体に一気に注ぎ込まれたセルメダル入りのエネルギーに耐え切れず爆散し、辺りにセルメダルが散らばった。

 

「やっと隙ができたね」

 

バースは技を決める直前、カザリの目の前で背を向けてしまっていた。危機を回避したと一瞬でも気を緩めてしまい、隙を突かれて後ろから頭を掴まる。

 

「セイントスラッシャー!」

 

万力で頭を掴まれ振り返ることができなかったがそれでもバースは諦めず、左腕を掲げ、左手に魔力で構成した刃を纏わせながら後ろに向かって振り下げた。

 

「ほんっと、ただでは転ばないね君・・・」

 

振り下げ、約315度回転した手刀はカザリの体を切り付けるが、痛覚のないグリードにとってコアメダルさえ無事ならば、それは大したダメージにならない。手刀はカザリの中にあるコアメダルがはじけ飛ぶには傷が浅かった。

 

「でも、記憶は覗かせてもらうね?」

 

「う、うがあああああああああ!!!!」

 

「圭!!」「最上!!」

 

カザリの手が光った瞬間、バースは凄まじい頭痛に襲われる。それと同時に、前世の自分が少し過った。何もできなくて情けない、世界で一番嫌いな人間の顔を思い出す。

 

そして圭、いやバースはすぐにカザリの万力から解放され、膝と手を着いた。

方向感覚を失いかける頭痛で気持ち悪く、すぐには立ち上がれそうにはなかった。あまりにも隙だらけだった。後ろにいるカザリならばクロノ達が止める間もなく致命傷を与えることができるであろう。だがカザリは攻撃をしなかった。

 

「魔法少女リリカルなのは、仮面ライダーオーズ・・・?」

 

「!?」

 

否、しなかったのではない。する余裕がなかったのだ。

うわ言のように呟いたカザリの言葉にバースは思わず振り向く。そこには頭を抱えて困惑しているカザリの姿があった。

 

「圭から離れろ!!」

 

『スティンガースナイプ』

 

「この!!」

 

クロノと後藤はそれぞれ魔法とバースバスターで攻撃を行うが、シールドを展開して全て不正だ。クロノ達はそれでも追撃を行おうとするが・・・

 

「ふふ、ふはは!!」

 

カザリが嗤った。大声で嗤った。だが圭にはどこか、悲しそうに見えた。

 

「何をやっても世界は変わらず、元の世界と同じに結末になって!君、それでよく狂わなかったね?」

 

「!!」

 

「この!」

 

後藤がカザリに向けてエネルギー弾を乱射するも、それらを全て避けて近くの屋根に着地する。

 

「アハハハハ!」

 

「何がおかしい!!」

 

仲間を、友人を傷つけられ怒りを露にしているクロノがカザリに問う。

 

「ふふ、いやだって、笑っちゃうよこんなの。こんなこと知ったら、今までやってきたことが全部馬鹿馬鹿しく思うよ!あ、ごめん。君は知らないもんね。気にしないでいいよ」

 

何がおかしいのか、クロノにはわからなかった。カザリはただ、自分一人で納得して話しているだけなのだからしょうがないが。

 

「それじゃ、僕は寄るところがあるからこれで。また会おうね、仮面ライダーバース」

 

そう言って、高く飛び上がり何処かへと去っていった。

 

「済まない圭、僕がヤミーを抑えられなかったばっかりに・・・怪我はないか?すぐに医療班に・・・」

 

「なんで、どうして、まさかそんな・・・」

 

「どうしたんだ・・・?」

 

クロノはぶつぶつと呟く圭の顔色を窺う。仮面越しなので顔は見えないが、心なしか動揺しているように見えた。

 

「い、いや、俺は大丈夫。残りのヤミーは?」

 

呼びかけによって意識を浮上させ、状況を確認しようとする。

 

「それなら、君が連れてきた彼と共に殲滅して、数体は氷結魔法で捕獲している」

 

「了解。なら、俺はアイツを追う」

 

「正気か!?君は何をされたのかわからない。ここで安静に・・・」

 

「却下。現状グリードと戦えるのは俺となのはとヴィータ、そしてオーズだけだ。そしてグリードは五体。どうやっても手が足りない。そんな状況で俺が戦わなかったらそれこそ終わりだ。それに俺はもう平気だ、全然戦える。それに休むべきなのはクロノの方なんじゃないの?」

 

「・・・わかった。僕は残りのヤミーを、圭とあなたにはグリードを頼みたい。いいですか」

 

「わかった。こいつのことは俺に任せろ」

 

バースに説得されたクロノは後藤にバースを任せることにし、後藤も了承した。

 

「何だろうこの扱い、ちょっと納得いかない・・・」

 

まるで子供を預けるみたいなやり取りに若干の不満があるバースであった。

 

 

 

 

狙いをつけられないように不規則に動きながらビルの間を高速で飛翔する白のバリアジャケットを纏った少女、なのはと、それを追う大きな翼を羽ばたかせる赤い怪物、アンクがいた。

後ろから追尾する赤い羽根、弾速の速い直射型の魔力弾、そして砲撃魔法が次々と襲い掛かるが、なのははそれを全て躱しきる。

 

『リロード』

 

なのはが持つデバイスからカートリッジが飛び出し、なのはの魔力が一時的に跳ね上がり、セルメダルの力を得る。

それと共に一気に加速しながら上に上昇、そのまま円を描くように下降してアンクの背後を取った。

 

『ディバインシューター』

 

「シュート!」

 

なのはの周りに10のスフィアが展開され、そこから魔力弾が放出される。アンクは躱そうと飛翔するが、放たれた魔力弾はなのはが全てコントロールしているのでそう簡単には引き離せない。 

 

「いけ!」

 

そこでアンクは追尾する魔力弾に羽根を、なのはに向けて魔力弾を放つ。前者は迎撃のため、後者は隙を作るために。

なのはは魔力弾を最小の動きで躱しつつ、魔力弾のコントロールの維持を離さずアンクを追い詰める。

 

「こい」

 

その言葉と共に、アンクが放った魔力弾の1つがUターンしてなのはの背中を狙う。アンクは直射型の中に一つだけ誘導型の魔力弾を混ぜていたのだ。

 

なのははそれを無詠唱で左手にシールドを展開して防ぐ。

だがその直後、アンクが魔力弾を振り切ってなのはに殴りかかった。

 

『プロテクション・パワード』

 

すぐさまシールドを展開。アンクの拳を受け止めた。

 

『バリアバースト』

 

「ちいぃっ!」

 

そしてアンク側のシールドの表面が爆発。アンクは直前に離れたが僅かにだが爆発に巻き込まれ、腕からメダルがこぼれた。

 

「だがこの距離なら!」

 

すぐさま反撃しようと手をなのはに向けて炎を発生させようとした。

 

「そこ!」

 

「なっ!?」

 

だがなのはのバインドが発動し、両手が拘束された。そしてレイジングハートから二つのカートリッジが飛び出した。

 

『ディバインバスター』

 

「シュート!!」

 

カートリッジ二本を消費して威力を底上げしたショートバスタ―が直撃し、アンクはビルに突っ込んだ。それを見届けるとレイジングハートは  した。

 

「残りマガジンが一本、カートリッジは6本。エクセリオンモードで押し切れるかな・・・」

 

『頑張りましょう』

 

現在、なのはは窮地に立たされていた。グリードに有効打を与えることができるSBCの弾数が底を尽きかけているのだ。

アンクはジュエルシードを最大限利用して魔力を引き出し、高火力の魔法を連発し続けていた。技術はまだ爪が甘いところが多いが、それでも湧き水のように溢れる魔力と、そこから連発される高火力魔法に対抗するにはこちらもそれ相応に魔力を消費しなくてはならない。

渡されていたマガジンは4本だったのだが、この短時間でほとんどを使わされてしまった。

なのはに残された手段は二つ。1つは一時撤退。他の魔導士と合流してアンクを撃破する。2つ目はエクセリオンモードでの短期決戦だ。

 

前者は一番現実的だが、アンクの飛行速度を考えると厳しい。なら残されているのは後者の身だった。エクセリオンモードは体に大きな負担がかかるが、そんなことを言っている状況ではなかった。

 

『なのはちゃんストップ!オーズさんとフェイトちゃん、翔君がもうすぐ到着するからエクセリオンモードは無しで!

「え!」

 

一か八か、ここで勝負を決める。そう覚悟し、新しいマガジンをレイジングハートにセットし終えてレイジングハートをエクセリオンモードに変形させようとした時、エイミィから朗報が届いた。

 

「オーズさんとフェイトちゃん達は無事にヤミーを倒したんですね!」

 

「オーズさんもフェイトちゃん達も取り逃がしちゃったみたい。でも飛翔魔法を阻害していたグリードがいなくなったからすぐにそっちに向かってるよ。フェイトちゃん達の方は怪我をしてないけど、オーズさんは無事・・・なのかなこれ。今カメラ越しに彼を見てるんだけど、ちょっと、いや全然無事そうに見えないんだよね・・・」

 

「え!?」

 

だが喜ぶのも束の間、オーズの状態を聞かされてさらに驚く。なのはの認識では、ヤミーを単騎で倒したり、空間を引き裂いたりなどからオーズは優秀な魔導士となっている。対ヤミーに置いての重要戦力であるオーズが重症ならばそれは緊急事態だった。

 

「実はオーズさんの所にグリードと小型ヤミーの大群が待ち伏せしてて・・・」

 

オーズがいた場所には結界が張られていたため、カメラによる視認はしていないがヤミーから僅かに漏れる魔力反応から状況を推察していたため、それを話すエイミィ。

 

「オーズさんは大丈夫なんですか!?」

 

「状況的に追い払ったみたいなんだけど、フェイトちゃん達から見ても辛そうに見えたみたいで、体に鞭打ってそっちに向かってる・・・」

 

「止めないとダメじゃないですか!」

 

「フェイトちゃん達も止めようとしてるんだけど、追いつけないの。それになんていうかその、カメラ越しからでも気迫が凄くて・・・」

 

「談笑か。舐められたもんだな」

 

そんな中、アンクは復帰してなのはのいる高度まで上がってきた。

 

「だが、そろそろネタが尽きてきたみたいだな。なら後は押し切るだけだ」

 

心配事はあるが、時間を稼ぐことに専念することにしたなのははレイジングハートを構え、アンクが無数のスフィアを展開した、その時だった。

 

『うわもう着くの!?』

 

エイミィの通信が耳に響き・・・

 

「んなのはああ”あ”あ”あ”!!」

 

『誰か止めてえええええ!!』

 

「・・・え?」

 

それは唐突に結界を突き抜け、藍色の光の道を空に敷きながら現れた。

太陽のように輝いたライオンのたてがみのような頭部。両手には大きな黄色の爪。チータのような柄がついた細く美しい足。トラのようなバイクにまたがっているオーズのその姿には神々しささえもあった

 

・・・全身をチェーンバインドでそのバイクに括り付けて神々しさを盛大に台無しにしていなければ。

 

こうして、オーズはなのはの予想、到着時間や繪面などを色々と裏切って現れたのだった。

 

 

 

 

寂しくても この想いだけは捨てなかった

持っていることで痛くて苦しくなっても この想いが全ての始まりだから

 




シリアス?ああ、あいつは良い奴だったよ。
バースの設定は次回の後書きに書きます。


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明鏡止水 ~太陽を添えて~

お久しぶりです。モチベーションが下がっていて投稿するまで時間が掛かってしまいました。これからはスローペースでもちょっとずつ投稿しようと思います。


オーズがなのはの場所へ到着する、少し前。

町中を突き進む怪物とそれを追いかける2人の魔導士の姿があった。

 

「メズールー!!」

 

『ディバインシューター』

 

『フォトンランサー』

 

「シュート!」

 

「ファイア!」

 

それはガメルと翔とフェイトだった。

彼らは先程まで、飛翔魔法を使えなくなった原因と見られるガメル遭遇し、戦闘を開始。だが戦闘の最中、急にうろたえたかと思ったら、何処かに走りだしたのだ。

 

「クソ、なんで急に・・・」

 

「発言からして、メズールってグリードに何かあったと思うけど・・・」

 

2人が持っている情報だけでは答えはわからない。2人でガメルを撃破しようにも魔法の効きが悪いため決定打を与えられず、せめてSBCを持つなのはかヴィータ、バースに変身する圭かオーズが来るまで抑えようとしていたのだが、こちらの攻撃も無視して走っている。

おまけに飛翔魔法を妨害する効果も継続しているうえに、ガメルに近づく程に体が重くなるのだ。その二つが相まって、中々追いつけずにいた。

 

「エイミィ、この先には何がある?」

 

翔が全体を把握しているエイミィに尋ねる。何かガメルの足を止める方法か、目的地をしることで先回りできないか考えたためだ。

 

『ちょっと待ってね。・・・このまま進むと、オーズさんがヤミーと戦ってる土手に着くはず。でも、カンパニーからの情報だとヤミーが一体発見されただけらしいけど・・・』

 

「そういうことか、クソッ!」

 

「翔!」

 

翔はさらに加速する。足を魔力で強化し、建物の上を飛び回ることでガメルより先に土手に着こうとしていた。

 

「お前はあっちいけ!!」

 

ガメルを抜かしそうになった翔に気づくと、走りながら手を翔に向ける。すると手の先から波動のようななにかが出た。それをレアスキルによって翔が後ろに回避すると、翔がいた屋根が削り取られていた。

 

「またこれか、クソ!」

 

回避のために動きが止まったため加速が消え、またも距離を離された翔は今ある情報を整理する。

 

 

『重量生物の王 ガメル』完全体になった時の能力は重力を操る。圭からはそう聞いていた。だがガメルは既にその能力を駆使して俺達と戦った。先程のように一定方向に重力波を発生させて押し出したり、純粋に重力を倍にして押しつぶしたり、一撃でも食らえば重傷は免れない不可視の攻撃を連発してくる。攻撃を事前に回避する俺と、地上でも高速で動き、回避が得意なフェイトだった為攻撃を食らってはないが、油断ならない相手だ。

その上、ガメルの体は今まで戦ったヤミーよりも固い。SBCを持たない俺達ではセルメダル一枚も崩せなかった。バインドによる拘束も試みたが、フィジカルで破壊された。となると今できるのはグリードと戦える他の戦力と合流してそれのサポートをすること。だったんだが・・・

 

エイミィからもたらされた情報、ガメルの様子から考えられるのは、『水棲生物の王 メズール』とヤミーとの二対一、もしくはそれ以上の不利な戦いを悠が強いられていたこと。そして悠がメズールを追い詰めていることだ。

それだけ聞けばいいことのように聞こえる。不利な状況もひっくり返したのだと。だが俺は悠の実力を知っている。あいつは魔力が枯渇気味な自分にギリギリで勝利する程度の実力なのだ。確かにあいつにはあのレイジングスピリッツがいる。だがレイジングスピリッツはあくまで魔導士との戦いが強いのであってグリードとの戦いにおいてはその限りではない。それなのにグリードを追い詰めている?

絶対無茶をしている。それしか考えられない。他人の為なら自分を顧みない、デバイスの方も止めるよりそれを支える方だしマジで止まらない。なのはとレイジングハートかよ勘弁しろよ心配するこっちの気持ちにもなれこんちくしょう。

 

最後らへんの愚痴を、首を振って頭から追いやって今自分ができることを考える。

現状ガメルの足を止めることは不可能。なら、ガメルの妨害を全て躱し、ガメルより先にオーズの、悠の下へ辿り着いて救出する他ない。

 

(フェイト、俺は先行してガメルより先にオーズの下へ向かう。そのサポートを頼む)

 

(待って、多分オーズさんが勝ってるんだよね?どうしてそんなに急ぐ必要が・・・)

 

(嫌な予感がするんだ。頼む)

 

本当は確信しているし理由もあるのだが、それを言うわけにはいかない。だからここはフェイトの自分への信頼にかけるしかなかった。

 

(わかった。できる限り気を引けばいいんだね)

 

(頼む)

 

フェイトの説得に成功し、足に魔力を籠めて再び飛び出した。今度は建物の上ではなく真っすぐ。これ以上町への被害を出してはいけないと判断したためだ。

 

『フォトンランサー』

 

「ファイア!」

 

フェイトは走りながら六つのスフィアを展開。そこから繰り出された魔力弾がガメルにではなく、ガメルの足元の地面を削った。それにより、ガメルが何度かこけそうになる。

 

「お前ら、じゃま!」

 

またも自分に追いつきそうになっている俺に気づき、ガメルは自分の額にセルメダルを入れた。

 

 

「一体何を・・・」

 

するとガメルの背中から現れ、俺に飛び掛かったのは、太く銀に輝く二本の腕が特徴のゴリラヤミーであった。

 

「うがあああああ!!!」

 

「ちぃぃぃ!」

 

上から振り下ろされた拳を飛びのいて躱すと、拳は地面を砕いた。

 

「翔!」

 

「平気だ。それよりあの野郎、よりにもよってヤミーを残していきやがった!!」

 

駆け寄るフェイトに自分の無事を伝えるとともに最悪の置き土産をくらったことを重く見る。

ガメルと違ってこいつを振り切るのは可能。だがその場合町の被害が拡大する恐れがある。自分もしくはフェイトがこのヤミーの相手をして、もう片方がガメルを追う?だめだ、1人ではガメルに追いつけない。なら選択肢は1つ。

 

「速攻でヤミーを倒す!足止めするからとどめは任せた!」

 

「了解!」

 

ゴリラヤミーに向かって駆けだす。するとゴリラヤミーは両手の指をこちらに向け、指先から魔力弾が連射される。だがその前に翔はシールドを展開していた。

 

「アマテラス!」

 

『ブレイドフォーム』

 

カートリッジを一本使用した音と共にシールドが破られた。それと同時に翔は高く飛び上がる。その手には、刃が魔力で構成された片手剣に変形したアマテラスがあった。

 

『フラッシュソード』

 

「だああああ!!」

 

地面に垂直なシールドを展開し、それを踏み台にして光のごとき速さでゴリラヤミーの胸を切り、火花が散った。だが後ろによろける程度で倒れはしない。お返しと言わんばかりに拳が繰り出されるがそれも回避し切る、切る、切る。何もさせず、ただひたすらに切り刻む。ただ何度切ってもよろけはするが倒せない。攻撃が効いていないわけではないが時間が掛かることはわかる。

 

(準備は?)

 

(いつでも!)

 

返事を聞き、合図と共に翔はその場から飛びのいた。

 

『ザンバーフォーム』

 

「はあっ!」

 

ソニックフォームとなりフェイトの愛機バルディッシュが光の刃を持つ大剣を振り下ろした。だが、ゴリラヤミーもただではやられない。振り下ろされた魔力の刃を両手で掴み、耐えて見せた。

 

『サンライトフォール』

 

それでも結果は変わらない。その隙だらけの胴体を翔が眩い光を纏った斬撃によって切り裂いたからだ。

斜めと縦に切り裂かれたゴリラヤミーは爆散し、その場には一枚のセルメダルだけが残った。

 

「思ったよりあっさり・・・?」

 

今まで戦ったヤミー達と比べ強さは兎も角、耐久力が圧倒的に低いことに違和感を覚える。

 

「フェイト、走るぞ!」

 

手ごたえのなさに戸惑って立ち止まっていたフェイトを翔が呼ぶ。翔が今にも走り出しそうなので、フェイトも急いで駆けだした。

 

 

 

 

『2人とも気を付けて!結界が動いてる!』

 

しばらく走り、ガメルが先に結界に入ったという情報を聞いて更に焦っていた翔だったが、すぐにまた新しい通信が入った。

 

『術者は結界の中にいると思うんだけど、どういう原理なの・・・?』

 

信じがたい情報だったが、翔は知っている。意味不明な結界魔法を行使する友人を。

 

「その結界はどこに向かってる!」

 

『向かってる方向は他のグリードの場所。マップに表示したけど、解析がまだ終わってないからまだ結界の中には・・・』

 

「そんなことをしている時間はない!結界の中に入る許可をくれ!」

 

「・・・わかった。結界の中に入れたとしても、中はどうなっているかわからないから慎重に行動して」

 

「了解!」

 

そう言って通信を切り、方向を変えて飛翔魔法を行使する。翔の予想通りガメルがいなくなったことにより、問題なく飛翔魔法を行使することができた。

 

「エイミィさん、翔に着いて行っていいですか?今日の翔、何だかおかしくて・・・」

 

『うん、お願い。私も何だか、嫌な予感がするんだ』

 

エイミィの許可を貰い、フェイトも飛翔魔法を行使して空へと高く飛んで行った。

 

 

 

 

幻影魔法で姿を隠しながら自分が出せる最高速度で空を駆ける。途中でカートリッジも消費して更に加速した。

 

「無事なんだろうな・・・」

 

こっちの心配を無視して無茶ばかりするのは本当にやめてほしい。何かあってからでは遅いのだ。

 

もう嫌なんだよ。自分の近くで誰かが傷つくのは。

あの日、近くにいたはずなのに俺はなのはを守れなかった。その結果、彼女は飛べなくなった。あの日の事は今も夢に見る。だから悠は遠くに置くことで傷つかないようにしたんだ。でもそれも上手くいかなくて、だからもう一度、傍で守ることにしたんだ。

やめてくれよもう。無茶しないでくれ。心配させないでくれ。俺の目の前で、傷つかないでくれ。次にあんな事があったらもう、立ち直れる気がしないんだ。

 

そうして俺は様子を見ることに怯えながらも、結界の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界にの中心には、ウイニングロードを展開しながらバイクのような何かにまたがり、全身をチェーンバインドによってそのバイクのようなものに固定しつつ爆走する金ぴかのオーズがいた。

 

「・・・」

 

『マスター、戻ってきてください!』

 

「・・・はっ!」

 

あまりの光景に動きが止まってしまった。アマテラスの声で意識が戻り、慌ててオーズ、もとい悠の下へと飛翔する。

 

「ゆ・・・オーズ!」

 

通信を切り、フェイトも振り切ってるので悠の名前で呼んでも問題ないが念のため。俺の声に気づいたのかバイクのようなものを緩やかなスピードにしたが、なぜかこちらを振り向かない。

 

(翔、どうしてここに?)

 

言葉ではなく、念話で話し始めた。取り敢えず悠の目の前まで飛んでから話す。

 

「お前の所にグリードが来た、はずなんだが・・・」

 

辺りを見回してもグリードは何処にもいない。ここにいるのは俺とこの珍妙な姿をしている悠だけだった。

 

(あのゴツイの?あいつなら俺が相手してたグリードを連れてすぐどっかにいったよ)

 

それはつまり、あと一歩で倒せていたはずのメズールをガメルの乱入によって取り逃がしてしまった、ということなのだろう。

 

「あいつの相手をしていたのは俺なんだ。俺がお前の手助けをする立場なのに迷惑をかけた。本当にすまない」

 

頭を下げて謝罪する。俺の実力不足で悠を危険な目に合わせてしまっただけでなく、足すら引っ張った。こんなことはあってはいけないのに・・・

 

(気にしないでいいよ。それより翔が無事そうでよかった)

 

「・・・そうか」

 

自分が情けない。今は魔法を扱いオーズに変身して戦ってはいるが、ついこの前まではただの一般人だ。

それに比べ、多くの実戦を積んだ自分は1人でヤミーを満足に倒せず、あろうことか足を引っ張っている。力不足だからと戦わせるのを止めさせようとしていたなどと、聞いてあきれる。

 

(ところでさ、俺今から他のグリードの所に行こうと思ってるんだけどさ。翔も一緒に来る?)

 

「行くけど・・・それよりお前、何で体を縛ってるんだ。危ないぞ。後何で念話で話してるんだ?」

 

内心を悟られないよう、平静を装いつつ悠の格好について注意と疑問を投げかける。

 

(実は今声を出すのも辛いくらい体ガタガタなんだぁ)

 

「なんだじゃねえ帰れ馬鹿!!」

 

俺の時より限界突破してんじゃねえかそれ!ていうかチェーンバインド(それ)ギブス代わりかよ!!

 

「おいレイジングスピリッツ、早くこの馬鹿帰らせろ!もしくは治療しろ!」

 

外界とは遮断されているものの、冷静さをかいて悠の中にいるであろうレイジングスピリッツの名前をガッツリ呼ぶ。

 

『治療はもうした。マスターの場合は疲労の究極系みたいなものだ。だから治療魔法ではどうにもならん。帰還は諸事情によりできない』

 

「ポンコツがよぉ・・・」

 

『使えないデバイスですねえ~』

 

『お前ら後で覚えてろよ』

 

ポンコツの殺気を無視し、並走していた悠の肩を掴んで止める。

 

「後は俺達で何とかするからお前は帰れ。な?」

 

(痛い。翔、マジで痛いから離して?痛い)

 

体がピクピクしだしたので手を離す。いやこれ戦うの無理だろ。なんでまだ戦おうとしてるのこいつ。

 

「そんな状態で戦えるわけないだろ?ここは任せて俺達に・・・」

 

ザザ・・・ザ・・・

 

なんとか説得しようとした時、画面が現れエイミィの顔が映された。

 

『翔君、結界の中はどうなっ・・・どうなってるのそれ!?』

 

音質は悪いが、エイミィの声がはっきりと聞こえた。悠の姿に驚いているのがわかる。

 

(うわすげえ結界の中に通信繋げてきたんだけどこの人化け物か?)

 

悠がエイミィのことを化け物呼ばわりしていてエイミィが少し可哀そうだった。まあ中に俺がいることでつなぎやすくなったからだと思うけど、それでも画面が荒れてるってどんだけこの結界通信妨害強いんだよ。エイミィ滅茶苦茶優秀なんだけどそれでこれって・・・

 

「えっと、もう限界らしいから帰還するそうだ」

 

(言ってねえ!!)

 

念話で訴えてくるがそれ以外は何もできていない。はは、首を振ることすらできないようだな。休めばか!

 

「え、でも他のグリードの下に行こうとしてたんじゃ・・・」

 

「帰るそうだ」

 

喋れないことをいいことに馬鹿を帰らせる方向にシフトする。これで大丈夫なはずだ。勝ったな。

 

『そ、そっか。それじゃあ、翔君はこのまま真っすぐなのはちゃん所に向かって。ちょっとまずいかもしれない』

 

「なのはが?SLBを持ってるはずだろう?」

 

『今のところは互角に戦えているんだけど、もうSLBを使い切りそうなの』

 

エイミィの様子から見るに、SLBが無くなる前に倒しきることは難しそうだった。そうなると、なのは以外の魔導士でグリードの動きを止めて、なのはには残りのSLBによる攻撃で倒してもらうほかないだろう。

 

「了解、今すぐ現場に向かう」

 

通信を切る。とにかく悠には帰ってもらって行こうと、もう一度声をかけることにした。

 

「・・・冗談じゃねえ」

 

「悠?」

 

加工されていたものの、念話ではなく確かに声が聞こえた。それ上、怒りがにじみ出ていた。

乗っているバイク?のエンジン音が鳴る。今に走り出しそうだった。

 

「おい待て、何度も言うがお前はかえ・・・」

 

「ぶち抜けええええ!!!」

 

「眩しっア”ッ”ツ”ッ”!!」

 

悠の体が黄金に輝き、俺を置いてアクセル全開で走り出した。ついでにバリアジャケットが少し焦げた。

この場に圭がいたら「ア〇セルシンク〇じゃねえか!」とか言っていただろう。

 

「えちょ、止まればかああああ!!!」

 

大声を出すもあっという間に悠は離れていき、俺は結界から弾かれた。幸いにもそれなりに高度が高いため下からは見えにくいだろう。

 

「翔、どうしたの!?中で一体何が・・・」

 

結界から弾き飛ばされ、少し焦げた俺を見たフェイトが声をかけてきたが、今はそれどころではない。

 

「あの野郎・・・取り敢えず燃やす」

 

「燃や!?」

 

殴るためにもまずは追いつかなければならない。俺達は再び空を駆けた。

 



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トライドベンダーと相乗りと繋がり

今回はちょっと短めです。


ウイニングロードを足場にしながら一台のバイクのようなものが空を駆ける。

それに搭乗しているのはチェーンバインドをギブス代わりにしている黄金の魔導士だった。

 

 

 

コアメダルから溢れ出すエネルギーをバイクと結界の維持コストに当てる。結界のサイズを先程より小さくすることで更にバイクへとエネルギーをまわした。

 

本当は結界など張らずにエネルギーを全てバイクにまわしたかったが、結界を解くとこの姿が外から丸見えとなる。インビジブルを使おうにもコンボ状態は流石に隠し切れないらしい。なら変身を解けばいいじゃないかという話になるが、現在俺の魔力は底を尽き、コアメダルのエネルギーがなければバイクに跨ることすらもままならない。結果、非効率ではあるが結界を張りながらの移動となった。

 

『目標地点まで、残り5秒』

 

レイジングスピリッツによるカウントダウンが始まる。

 

『4,3,2,1』

 

目的地に張られている結界とこちらの結界が衝突する直前にこちらの結界を解除、そのまま結界に突入した。

 

「なのはぁー――――――!!」

 

大声と共に結界に侵入し状況を確認する。俺から見て左下方になのはが、そして更に下方に位置する右側には赤い翼を生やした人型の怪物がいた。

 

「ぶっ放せ!」

 

「オーズ!?」

 

俺の叫びに呼応するように、ライドベンダーの口から光輪が赤い怪物に向けて発射された。

赤い怪物『アンク』はそれらを舌打ちしながらも全て躱す。

だがこちらの目的、高町なのはに近づくことも完了した。

 

「乗れ!」

 

「オーズさんそのバインド、それに名前・・・」

 

「早く!」

 

有無も言わせず捲し立てると、なのはは戸惑いながらも後ろに乗り、そのままライドベンダーを発進させた。それと同時に先程までいた場所に赤い魔力弾が殺到した。

 

(悪いがマルチタスクで頼む。回避と防御はこちらが行う、そちらは弾幕の迎撃をしてくれ。その間に作戦をたてる)

 

「は、はい!」

 

結構無理にバイクにライドベンダーに乗せたのに、素直に言うことを聞いてくれるなのはに心の中で感謝する。と、その前に・・・

 

(リツ、なのはに回復魔法)

 

(イエス、マイマスター)

 

レイジングスピリッツに指示を出し、後ろのなのはの傷とバリアジャケットの損傷が消える。

 

「すごい・・・治癒魔法も使えるんですね」

 

治したのはレイジングスピリッツなので勘違いです。因みに、一応俺も治癒魔法が使えるか試したんだが、『まあ予想通りと言いますか・・・ほら、人には向き不向きってあるじゃないですか。だからその・・・ね?』と言われた。空も飛べず治癒も出来ない俺の心情を察してほしい。

 

(・・・そんなことより、まずはあれを倒すことを考えるべきだ。確かSBCだったか。それはまだ残っているか?)

 

頭の中の余計な考えをダストシュートしつつ、なのはが持つグリードに対抗する手段の数を確認する。俺がメズールと戦った時はマガジン2つ。カートリッジの合計は12本だ。だからせめてそれ以上欲しいが・・・

 

「カートリッジは残り6つです」

 

「ダメかもしれねえ・・・」

 

「諦めないでください!?」

 

痛いから喋らないようにしていたのに思わず本音が漏れた。いやだって6て・・・レイジングスピリッツが作ったカートリッジと似た性質だし中身が同じだと仮定すると絶対足んないって・・・いやだって相性のいいコンボを使ってカートリッジ12でギリギリだったんだぞ、どうすんのあれ。

さっきからこっちの尻を追いかけてくるグリードをバックミラー越しにチラ見する。特に疲れた様子はなく、元気に追いかけてきていた。クソが。

 

言い忘れていたが、現在進行形でアンクとアンクから大量に発射される翼と魔力弾の雨から逃げ回っている最中だ。俺(の補助輪をしてくれているレイジングスピリッツ)のドライブテクニックとなのはの射撃魔法が火を噴いてるぜ!俺?無限に溢れるエネルギーを使ってシールドを展開してるけど?それに展開したウイニングロードを(レイジングスピリッツに補助される前提で)大きくしならせることで鞭のように攻撃してるけど?そこ、頭全く使ってないとか言わない。

 

(真っ向からは無理だな。少なくともSBCを使った魔法を全てぶつけて、更に俺の奥の手でギリギリ倒しきれるかどうかだな)

 

「奥の手・・・そんなものが」

 

もちろんスキャニングチャージの事だ。あれ火力高いけど溜めが長いしその間無防備だし今のこの体だとそれ使ったらもう動けなくなる。それなら溜めの間にシールドを展開すればいいじゃないかって?スキャニングチャージはオーメダルの力を最大限引き出す技。だからエネルギーのコントロールに集中が必要だ。ふふ、全神経集中している時にマルチタスクなんてできるわけないだろ?因みに訓練の時にやろうとして全身のメダルエネルギーを制御できなくなって体から火花がでて吹っ飛んだぜ!死ぬかと思った。

 

(だがそれを使うと後が無くなる。出来ればそれ以外で何とかしたい。だから、理想はなのはのゼロ距離砲撃による一撃必殺だ。・・・!)

 

バックミラー越しに見ていたアンクが加速して距離を詰めてきた。なのはは少しでも動きを止めるために立ち上がり、デバイスを砲撃形態変えて迎え撃つ。俺は少しでも撃ちやすくなるようにチェーンバインドでなのはの足を固定した。それに対しなのはは微笑みで返してくれた。やっぱり可愛いな。

 

『ディバインバスター』

 

「シュート!!」

 

放たれたのは桜色の極光。触れるものを塵芥へと変える破滅の光である。溜めがない分威力とか放出時間とかは低下しているだろうけど、当たったら死ぬという謎の確信がある。

それを難なく躱すアンク。更に距離を詰めようとした次の瞬間、バインドが発動して奴の両腕を拘束する。

 

「っ!!」

 

なのはの砲撃魔法によってコースが絞られたことによってバインドが掛けやすかった。

アンクは即座に破壊しようとするが脱出できない。何故ならそれは俺が作ったバインドだからだ。そして急ブレーキと共にバイクのハンドルを切り、方向を反対にいるアンクへと合わせる。

 

(ゼロ距離砲撃用意!)

 

ここまで完全なるアドリブ。だが恐ろしいほど上手くいった。これはなのはが俺に合わせるのがうますぎると言うほかない。

そして訪れたこのチャンスを逃すわけにはいかない。エンジンを吹かせながらなのはにかけたチェーンバインドを解除し、念話による指示をするとカートリッジ使用時特有の音が3度した。

 

『ディバインバスター』

 

デバイスの声と共に走り出す。

 

「ディバイーン――」

 

アンクがこちらの攻撃を妨害しようと弾幕を張るが、ライドベンダーによる光輪によって真正面の攻撃を全て弾き飛ばしながら接近する。

 

「ならこれでー―」

 

アンクも即座に砲撃魔法に切り替えた。チャージもとんでもなく早い。なのはとほぼ同時か。俺ができるのは少しでもダメージを受けないようにシールドを展開することだ。記憶の底から一つの魔法を引っ張り出す。

後はなのはを信じるだけだ。俺はアンクの目の前に止まるようにブレーキをかけた。それと共にデバイスを掲げていたなのはがデバイスをアンクへと振り下げる。

 

そして、時はきた。

 

「オーロラシールド!!」

「バスター―!!」

「消えろ!!」

 

なのはのデバイスはバイクの頭より先に飛び出していた。だから砲撃魔法を放つ先端より後ろ七色がかった膜のような透明のシールドを展開。そのシールド展開の一秒にも満たない間に2つの砲撃魔法が衝突する。

 

「くぅ、っ!」

 

現状少ない手段で確実にダメージを与えるためのゼロ距離砲撃。だが、それでも倒しきれない。オーロラシールドによって衝撃を最大限減らしているが、それでも足りない。

さっきから俺もアクセルシューターで横から撃つという卑怯極まりない攻撃をしているが、さっきから相手の魔法の威力が下がっているようには見えない。

目の前がピンク一色で何も見えないのではっきりとは言えないが、多分体全体を覆うようにシールドを張って身を守っているのだろう。ブレイクランスを使おうにも俺は真正面からしか撃てない。唯一全方位射撃したり曲げたりできるレイジングスピリッツも、バイクが惜し負けないようにするのに手いっぱいだ。

 

つまり、今この状況を打開出来るのは俺だけだ。

 

無い頭を必死に捻る。今俺の手札はアクセルシューター、ディバインシューター、ディバインバスター、そしてブレイクランス。

 

アクセルシューターとブレイクランスは既に失敗。ディバインシューターはアクセルシューターより優れているのは移動しながらも撃てることだけなので除外。ディバインバスターはなのはの邪魔になる。・・・やばい、何もできない。

 

「これなら・・・どうだ!!」

 

そして見てしまった。頭上にあるのは魔方陣。恐らく、砲撃魔法。先程の砲撃魔法の発射速度を考えると時間は大してかからないだろう。

 

シールドを展開したとしてもって数秒か。その間になのは押し勝たなければ敗北する。

無理だ。押し勝つには時間が足りない。どうする。どうすればいい。考えろ。

シールドを展開し続けて気合で持たせる?却下、俺のシールドの強度じゃ焼け石に水だ。

砲撃魔法で迎え撃つ?無理だ、撃ったとしてなのはの邪魔になるし俺はこのバイクから動けない。

 

クソッ、少しは役に立てこのエネルギータンク!!

 

・・・エネルギータンク!!!

 

予想砲撃開始時間まで残り10秒。

 

想像する。想像するのは自身の力を他者と共有し、魔法演算処理を手助けする繋がる力。

残り8秒。

創造する。創造するのはディバイドエナジーを参考にし、リンカーコアを繋げて魔力・メダルのエネルギーを共有し、念話を応用した思考リンクを行うことで魔法演算処理を補助する魔法。

残り5秒

今ここに、新たなる魔法が誕生する。祝え!その魔法の名は――

 

「ソウル、コネクト!!」

 

 




アンクがあまり喋っていないことに言い訳させてください。
原作だとアンクって戦闘描写が少ない上に、味方サイドとしての描写がメインじゃないですか。だからこういう時にどんな会話をするのか想像がつかなかったんです。それに戦闘中だと無駄口叩かずに頭の中で考えて即実行ってイメージですしペラペラ喋ってるとイメージ違うなーって。(早口)
後正直アンク強くし過ぎたなって思ってるんですけどグリードの中で一番強いらしいですしいいかなって。空戦魔導士S級とそれと同等以上のロストロギアとグリード特攻が入るオーズ三人がかりでこれとかこれからの扱いに困るんですけどアンクだから激強でいいかなってとういうか激強であってほしい(願望)
以上、作者の欲望と言い訳でした。閲覧頂きありがとうございました。


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