木組みの街の探偵さん (アユムーン)
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依頼その1、道案内→オリジナルブレンド

某仮面ライダーアニメの影響を受けまして・・・とはいってもやることはわちゃわちゃどたばたな物語!・・・の予定です!

どうかご一読ください


朝日と共にたくさんの喫茶店から仕込みのコーヒー、お茶、紅茶などの匂いが立ち上るこの『木組みの街』

 

まだどこのお店も開いていない道を黒のハットを目深に被った人物が歩く

 

「~♪今日もこの町はいいね。なにかが始まりそうな気がするよ」

 

まだ大人とはいえない年頃のその人物は道を進み、一軒の事務所の前にたどり着き、中へ入る

 

「朝の見回り終わりっ!・・・っとと、忘れてた」

 

その前に一度ドアの前に戻り、ドアにかけてある看板を裏返した

 

「よしっ!さて今日はどんな依頼が来るかな?」

 

ワクワクしながら再びその少年か少女は事務所の中へ、先ほど裏返された看板に書かれたその事務所の名は『木組みの街探偵事務所』

 

今日も営業開始です

 

・・・

 

春真っ只中の季節、風に乗って桜が舞います

 

「えーと今日の依頼はこれでおしまいだね・・・皆ありがとう!」

 

黒のハットを被り、カジュアルなスーツに身を包んだ冒頭で話した人物が依頼を手伝ってくれた野良兎達にお礼を言う

 

今日の依頼は行きつけの和風喫茶の看板兎の捜索で、先ほどその兎を無事に見つけて送り届けて報酬をいただいたところなのだ

 

「やっぱりこの街のことを知るなら兎に聞くのが一番だね・・・ん?」

 

そうして自分も事務所に戻ろうと視線を上げるとなにやら道に迷っているような女の子を発見

 

「この街で困ってる人は見過ごせないね。すみません!そこの貴女!」

 

早速その女の子に声をかけた

 

「?、私かな?」

 

「そうそうそこの貴女!もしかして道に迷ってますか?それからもしかしてこれからこの街に下宿される方ですか?」

 

「!、すごい!なんで分かったの!?」

 

どうやら予想通りだったようで花の髪飾りを着けた髪を揺らしながらその女の子は驚く、それに対して

 

「ふふん、なんてったって『探偵』ですから」

 

と、どや顔で答えたのだった

 

・・・で、

 

「お名前は保登心愛さん、今年からこの街に下宿して高校に通う予定なんですね」

 

「うん、けど道に迷っちゃったみたいで」

 

近くのベンチに座り、どこからか取り出した手帳に情報を書いていく

 

探偵が知り合ったこの少女の名前は保登心愛(ほとここあ)、今年からこの街に住む予定であるが、その下宿先を探す途中で道に迷ったらしい

 

「そういうことならご安心を!この街で私が知らない所はありませんので」

 

「!もしかして案内してくれるの!」

 

「もちろん!そのご依頼お受けします」

 

「ありがとう!えーと、探偵さん?」

 

「おっと、申し遅れました私は義良露(ぎよくあらわ)、露とでもお呼びください。こちら名刺になります」

 

そうして差し出した名刺には『木組みの街探偵事務所、探偵 義良露』と書かれていた

 

「うん!私はココアでいいよ!えっと・・・露君?露ちゃん?」

 

恐らく年代は近いと踏んだココアが親しみを込めて名前を呼ぼうとして呼び方に少し悩む

 

「ふふっ、好きな方でいいですよ。それじゃあいきましょうか!」

 

それに微笑みで返してココアの前を歩く、目的地は行きつけのコーヒーの美味しい喫茶店だ

 

・・・

 

「はい、到着ですよ」

 

「ありがとう!・・・えっと、喫茶店ラビットハウス?」

 

ココアを引き連れてたどり着いた喫茶店、ラビットハウス

 

「露ちゃん、私香風さんって人のお家に行きたいの」

 

「いいからいいから♪中に入りましょ?」

 

そう言ってココアの背を押してお店に進む

 

「(ん~どうしよう?露ちゃん悪い子じゃないと思うけどでもラビットハウスかぁ~きっとウサギがいっぱいいるお店だよね!!)」

 

注意!普通ならここで来店を拒否、逃げるか通報するかが正しいです!!・・・オホン、気を取り直して

 

少しだけ露のことを疑ったが、それ以上に目前に迫るお店への楽しみが勝ったココアはドアを潜って来店、後を追うように露も店内へ

 

カランカラン♪ドアのベルが気持ち良く鳴り「いらっしゃいませ」・・・また別の少女の声が響いた

 

水色のロングヘアーのなにやら白い毛玉を乗せた露やココアよりもいくつか年下の少女、制服を着ていることからこの喫茶店の店員なのだろう

 

「こんにちは香風さん♪」

「!、露さん、お久しぶりです」

 

親しげに話す二人、既知の関係のようだ

 

「あれ?二人はお知り合い?」

 

「何度か依頼を受けた仲です。香風さん、この方は保登心愛さん、私の依頼人です」

 

「そうでしたか、ということは今日は依頼料をとるためにこの店に?」

 

「依頼料!?」

 

初耳な言葉に驚くココアだったが・・・

 

「それもありますけど、依頼のためですよ。さて保登さん、先ほどから私は彼女のことをなんと呼んでいるでしょうか?」

 

「へ?あの子のこと?えっと香風さん・・・ってえぇ!?」

 

「(なんだこの客)露さん、そろそろ事情を」

 

「ごめんなさい、とりあえず席についてから話しましょうか」

 

案内された席に座る

 

「さて、保登さんの依頼である『下宿先の香風さんの家に案内してほしいという』という依頼はその香風さんのご実家でもあるここ『喫茶店ラビットハウス』に案内させていただいたということで解決ということでよろしいでしょうか?」

 

「うん!ありがとう!!」

 

「それではこちらにサインを」

 

手帳の空いた部分にココアのサインを求める露

 

「ここだね・・・はい!」

 

「はい、では早速報酬の方になります」

 

「!、そうだ!私そんなにお金もってない・・・」

 

「そこはご安心を!香風さ~ん」

 

露の声に対してすぐにカップを持った先ほどの店員がやってきて

 

「はい、もうできています。いつもの、どうぞ」

 

「流石♪」

 

置かれたカップには湯気の立つあの飲み物

 

「コーヒー?」

 

「はい、私ここのオリジナルが好きなんです」

 

そう言って一度香ってから早速一口飲む

 

「うん、美味しい」

 

「ありがとうございます。これが依頼料なんですよ」

 

「え?」

 

「露さんへの依頼料は行きつけのお店の飲み物を一杯、もしくは食べ物を一品をご馳走することなんですよ」

 

「そうなんだ!良心的~♪」

 

「とはいっても今回は正式な依頼ではないのでお代はいいですよ。ただ今度からはいただきますね?」

 

「うん!それにしてもここってラビットハウスだよね?」

 

「?そうですが・・・」

 

そうしてキョロキョロの店内を見回したココアが一言

 

「ウサギがいない!」

 

「(本当になんだこの客)」

 

「ふふふっ、実はそこにいますよ」

 

「え?」

 

「ほら、香風さんの頭の上」

 

露が指差す先は店員の頭の上、白い毛玉がいる

 

「このもじゃもじゃ?」

 

「これはティッピーです。一応うさぎです。それでご注文は?「じゃあそのうさぎさん」非売品です」

 

そうして目の前で広げられる店員・・・香風智乃(かふうちの)とココアの漫才のようなやりとり

 

それを微笑ましく見守っていると・・・のしっ

 

「!、ティッピーさん」

 

膝に重みを感じたので見てみるとティッピーが乗っかっていた

 

「ワシの気配に気づけんとは、まだまだのようじゃの」

 

「あはは、そうですね」

 

どこからか響くおじいさんのような声に答えながら帽子を取ってティッピーに被せる

 

「まだ『アイツ』のことを追っかけておるのか?」

 

『アイツ』、それは露にとって大切な人

人生の道標となってくれた・・・今はいないあの人

 

「いえ、追いかけるのはやめました」

 

子どもだった頃はいなくなったその人を探して街中を探し回った、それだけどうしても会いたかった

 

それでも見つからなかった

 

「・・・諦めたのか?」

 

「いえ、ただいつか帰ってくるかもしれない場所を守りたいなって思ってます」

 

まだ子どもの自分では辿り着けないと悟り、せめて残してくれたあの事務所を守りたいと思った

 

それが今露が探偵を続ける理由

 

「それで今に至るか・・・そっくりじゃの」

 

「えっ?」

 

「あの娘に勘づかれる前に帰れ、またの」

 

その声が聞こえるや否や膝の上に乗っていたティッピーがぴょんと降り、その拍子に帽子が地面に落ちた

 

「・・・」

 

少し毛のついた帽子を手で軽く払ってから被り直した

 

お金を机の上に置いて、ティッピーを捕まえてモフモフしているココア・・・を眺めているチノに声をかける

 

「香風さん、お代はここに置いておきますね」

 

「あ、もう帰られるんですか?」

 

「はい、もしかしたら依頼が来てるかもなので」

 

「そうですか・・・あの」

 

「はい?」

 

「その・・・っと、いえ!あの・・・また来てください」

 

「!」

 

探偵は僅かな行動、表情、そして言葉を聞き漏らさない

 

口下手で恥ずかしがりやなチノが溢した『もっと』という言葉を拾い上げた

 

「はい、また依頼があれば」

 

その誤魔化されてチノのお願いに少し微笑み・・・店内を後にした

 

露が去った後のラビットハウスでは、

 

「あれ!?露ちゃんは!?」

 

ティッピーをモフモフしていたため露が帰ったことに気づかなかったココアがようやく気づいた

 

「もう帰られましたよ・・・あれ?」

 

そんなココアに早速ため息をつきながら置かれたお金を数える

 

「(お金が多い、もしかしてココアさんの分まで?)」

 

「ん?どうしたのチノちゃん?」

 

「いえ、なんでもありません。それよりココアさん」

 

黙ってやったことをわざわざ言及することではないだろうと、チノはお金をレジスターに入れておいた

 

「なぁに?」

 

「早速働いてください」

 

「いきなりだね!?ってそうだ働く前に一ついいかな?」

 

「?なんですか?」

 

「露ちゃんって男の子?女の子?」

 

「・・・私もそれなりに長い付き合いなのですが未だに分かっていません」

 

「えぇ!?」

 

そんなココアの叫びを背に露は帰路を進む・・・これからあのお店は賑やかになりそうだなと感じながら、ボソリと一人言を溢した

 

「早く、帰ってこないかな・・・お父さん」

 

帰ってこないあの人の名を溢した

 

しかし寂しげなその一言を拾う者は誰もいなかった




今回の報告書!

ココア「露ちゃん、道案内してくれてありがとう!」

露「いえいえ!今回は短めでしたがこれからバンバン依頼をこなしていきますよ!」

ココア「それでなんだけど露ちゃんって男の子?女の「それではまた次回!」あ!逃げた!!」


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依頼その2 メイド代行→キャラメルマキアートの以下略(いつかそのうち)

木組みの探偵事務所詳細

依頼は基本お電話か本人に直接お願いします(時々仕事を探して徘徊してます)

依頼をお受けするかはお話ししてから決めます(非人道的なことは悪いことはもちろん×!そんなことすれば探偵のバックについている人達がやってきます)

報酬は探偵がその時望む喫茶店の飲み物か食べ物一品(できればその時一緒にお茶ができれば嬉しいです)

基本どんなことでもやりますのでどんなかたでもお気軽にどうぞ(依頼は先着順となりますのであしからず)


露がココアを案内した日の夜

 

とあるお屋敷のお嬢様が寝巻き姿で髪を乾かしてくれているメイドに話をしていた

 

「聞いてくれよ、今日新人が入って来てなー」

 

そのお嬢様の名は天々座理世(てでざりぜ)、お嬢様ではあるが本人曰く軍人の父がいてちょっと護身術ができる普通の女子高生・・・とのこと

 

どうやらリゼがバイトをしている喫茶店に新人が来たらしい、それに対して

 

「えぇ存じていますよ」

 

メイドは自然にそう返した

 

「なんで知ってる・・・って当たり前か、お前だもんな」

 

髪が乾いたのを確認して次は櫛をもって髪を梳かしていく

 

「それでどうでしたか?」

 

「中々変わったやつでさ、練習用のラテアートが余りまくって大変だったよ」

 

「あらあら、それはお嬢様がおはしゃぎになられたのですね」

 

「なっ!、なにを根拠に」

 

「お嬢様がその新人さんにラテアートの見本を見せる→誉められる→調子づいてお嬢様が量産→その新人さんや香風さんも作る・・・といった具合では?」

 

「はぁ、流石だな」

 

「お嬢様のお褒めに預かり光栄です」

 

髪を梳かし終わったのを察してリゼは振り向き、先ほどから世話をしてくれているメイドの顔を見て、その名を口にする

 

「なぁ・・・露」

 

「はい?どうしましたかお嬢様?」

 

リゼが口にしたその名は『露』、昼頃までスーツを着ていたその身に今はクラシカルなメイド服を着ていた

 

「お嬢様はやめろよ・・・幼馴染みだろ?」

 

「とはいっても私は雇われの身ですし」

 

探偵の依頼がない時は基本このお屋敷でメイドとして、時に執事として働いているのだ

 

「本業はここじゃないだろうに」

 

「あら、私はどちらも本業のつもりですよ?」

 

「その心意気は感心するけどさぁー・・・ほらユラはそんなんじゃないだろ?」

 

「狩手様はあのようなお人柄ですのでなんとも、一応私も再三注意はしたのですがね・・・」ヤレヤレ

 

「そ、そうなのか、苦労してるんだなお前も」

 

「そんな狩手様は今日はお休みですので今日は私が泊まり込みとなったわけです」

 

「そっか、久々だな」

 

「そうですね、それではそろそろお休みになってください。明日も学校でございますよ」

 

「あぁお前もな・・・って話をはぐらかすな!!」

 

「お嬢様、今は夜でございます。お静かに」

 

「あ、ごめん・・・ってだから!」

 

「ふふふっ」

 

そんな風にリゼと露の夜は過ぎていく

 

・・・翌朝

 

「結局またはぐらかされたし」

「まだまだ負けませんよ」

 

二人揃って登校するリゼと露であったが・・・

 

「そういえば朝いなかったけどどこにいたんだ?」

 

リゼが起きた時にはおらず、登校するため家の門を出たところで合流した

 

「日課の見回りと制服などを取りに一度事務所に帰りましたよ」

 

「なるほど、なぁもうウチに住めよ。部屋余ってるし」

 

「あの事務所が私の帰る場所なので「おはよー!リゼちゃーん!」あら?」

 

二人の会話に割り込む大きな声、その声の主は

 

「目立つからやめろ!」

「保登さん「あ!!露ちゃん!!」おはようございます」

 

ピカピカの制服を着たココア、どうやら初登校のようだ

 

「え?お前ら知り合い?」

「?リゼちゃんこそ知り合いなの?」

「ふふっ、遠からずこうなると思ってました」

 

予想通りの展開に微笑みながら、互いに互いの関係を説明した

 

「ココアがこの街で迷ってるところを案内したのか」

「露ちゃんは依頼がない時はリゼちゃんのお家で働いてるんだね!」

「おおまかにいえばそうなりますね」

 

「それにしても二人とも違う学校なんだね、ブレザーもいいな~」

 

「そうか?普通だろ?」

 

「保登さんもよく似合ってますよ」

 

「そうかな~?今度制服交換しようね!」

 

「えぇ、是非機会があれば。それより時間は大丈夫ですか?」

 

「あ、そうだね。じゃあまたお店でね!」

 

「あぁ迷子になるなよー」

「いつでも依頼待ってますね~」

 

そう言ってココアと別れてから五分おきに再開を繰り返した二人だった

 

・・・そうして無事に学校に到着

 

二人が通う学校はお嬢様学校、そこかしこでごきげんようと挨拶が飛び交う

 

「それではお嬢様、お気をつけて」

 

「あぁ・・・ってだから!お嬢様はやめろって!」

 

クラスが違うため、二人は別れる

 

このやりとりはほぼ毎日行われているため、周囲からは二人が主従関係にあることはもちろん知られているが

 

片や学校でスポーツ万能成績優秀で憧れられているリゼと諸事情で時々スカート、時々ズボンで登校し紳士で淑女的な立ち振舞いの露の二人はただごとではない関係なのだと周囲の女の子達は日々妄想を募らせるのであった

 

・・・

 

「・・・ふぅ」

 

席について一息ついたところでコンッ

 

机の上に缶コーヒーが置かれた

 

「昨日は変わってくれてありがと、これ依頼料ね」

 

「その前にこちらにサインを、後報酬は私が決めるのでこちらは受け取れませんよ」

 

手帳を取り出して差し出した相手は昨日露がメイドの仕事を代行したユラこと狩手結良

 

「ならこれは友人からってことで、それで報酬はなにがいいの?」

 

「では最近人気のチェーン店のキャラメルラテをホイップやらチョコソースやらマシマシで」

 

「それ都会まで行かないとないやつじゃ~ん。この辺にできたらね?」

 

「言いましたね?記録しておきますからね?」

 

「うわ~めんどくさ」

 

「仕事なので」

 

そんなやりとりをする二人は共にリゼと幼馴染みである(リゼとユラは腐れ縁だと言うが・・・)

 

ユラは親の関係で昔からリゼの屋敷にメイドとして住み込みで働いており、露も昔からお屋敷に預けられることが多かったので二人もまた昔からの知り合いではあるが・・・

 

「それで昨日は一体どちらに?」

 

「あれ?依頼人のプライベートに口出しするの?」

 

「悪いことしてるなら止めないといけないので」

 

「探偵みたい」

「探偵ですから」

 

二人の関係は割りとあっさりとしていた

 

「ならリゼを狙う刺客を始末してたってことで」

 

「そういうことにしておきましょうか」

 

カシュッ、と缶コーヒーを開けて一口

 

「不味い、とは言いませんがやっぱりコーヒーならラビットハウスですね」

 

「なら報酬そこでいいじゃん」

 

元来の性格なのかどこか軽くふざけた様子のユラ、その様子を見て

 

「・・・」ハァー

「・・・なにそのため息」

 

これ見よがしにため息をついた

 

「別に私だって・・・『友人』からのお願いなら報酬は要りませんでしたよ」

 

そう言って一気に缶コーヒーを煽り、ゴミ箱に歩いていく

 

「え?」

 

ユラの疑問の声に一度足を止めて、振り返る

 

ユラはなんというか、素直じゃない

 

もっと仲良くしたいくせに

普通の幼馴染みに憧れてるくせに

 

こんなことが分かるのは探偵だからではない

 

「狩手さんが勝手に『依頼』してきたから『探偵』として仕事をしただけですよ。報酬払うのが面倒なら今度からは普通に『友人』としてお願いしてくださいね。」

 

そしたら報酬なんていりませんよ、そう言ってからユラに見えるように缶を振りながらまたゴミ箱に向かって歩く

 

あの缶コーヒーを渡した時にユラは『友人から』と言った、そしてそれを受け取ったということは・・・

 

「っ!・・・もう反則じゃん」

 

露の行動に面食らって思わず赤面するユラ、ストレートの好意を返されるのは苦手なのだ

 

・・・だけど言われっぱなしは気に食わないので

 

「でもメイドの代行って探偵の仕事っていうか、もはや何でも屋さんだよね」

 

「う゛ぐっ・・・」ピシッ

 

地味に気にしていることを指摘されてゴミ箱に入れようとした缶が落ちて、カラカラ・・・と転がっていった

 




今回の報告書!

ココア「リゼちゃんと露ちゃん幼馴染みだったんだね」

リゼ「私はココアと露が知り合いなのが驚いたけどな」

ココア「けど分かったよ。リゼちゃんと一緒の学校ってことは露ちゃんは女の子だ!!」

リゼ「でもアイツ時々ズボンで登校してるぞ?諸事情で特例で認められてるんだ」

ココア「えぇ!?・・・ってそうだ!リゼちゃんは知ってるの!?」

リゼ「そりゃもちろん!・・・あれ?どっちだっけ?」

ココア「えぇ!!?」


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依頼その3 パン作り補助→試作パンともてなしラテアート

新学期が始まり学校があるせいで最近は依頼を受けにくくなり(まだ高校生のため深夜の活動ができないため)、依頼自体も皆忙しいのか最近はなかった

 

したがってメイドの仕事が少し増えたそんなある日の事務所でのこと

 

「今日も依頼ないな~」

 

事務所のポストにも、探偵用の携帯にも依頼はなくとりあえず事務所で待機することに

 

「これは今日もお嬢様のところかな」

 

とはいえ行くまでにはまだまだ時間があるのでソファに腰を下ろし、報告書を打っていく

 

「保登さんの案内、メイド代行、それから・・・」

 

カタカタカタ・・・とパソコンに文字を打っていく

 

このパソコンは自分の目標である父が使っていたものだ

 

「この間修理に出してよかったな、サクサク動くし」

 

そもそもこの事務所自体、元々は父が使っていたものだ、それを今は露が引き継ぐ形で使っている

 

「・・・」

 

少し手が止まる、最近依頼がなくここに一人でいるとどうしても父のことを思い出してしまう

 

ふぅ、と目頭を押さえて少し強めに瞳を閉じる

 

そうして瞳を閉るとさらに思い出すのは父との思い出

 

探偵としてこの街の平和を守っていた父、自分は助手なんだ!と言ってついていけるような依頼には着いていった

 

どうしてもダメだった時には昔馴染みであるというリゼの父の元に預けられていた

 

街の皆の為に働くそんな父が誇りだった

 

そうしていつだったか・・・『留守番を頼むぞ小さな助手』と言って優しい手で頭を撫でて事務所を出ていった父は帰ってこなかった

 

何日も帰ってこなくて、泣いて眠って、起きて泣いて泣いて泣いて・・・疲れきった頃、リゼの父が来てくれた

 

それから高校に入るまで屋敷で面倒をみてもらい、入学と共にここに帰ってきて、探偵になった

 

自分はまだ一人前じゃないのでちゃんとした報酬はもらえないから飲み物と食べ物をもらうという形で探偵を続けていた

 

リゼのお家にはこの事務所の維持等で恩があるので労働と共に仕え続け、そしてそれを続けてきた

 

子どもの遊びだと馬鹿にされても、やめなかった

 

いつかひょっこり、父が帰ってきても大丈夫なようにこの場所を守るために・・・「わ君・・・露君!!」

 

ッ!

「!?お父さん!!」

 

突然かけられた声に驚き、目を覚ました

 

「?、お父さん?、お父さんの夢でも見てたの?」

 

いつの間にか眠っていたようで、机の上のパソコンには書きかけの報告書が写っていた

 

「?、お父さん?、お父さんの夢でも見てたの?」

 

「あ、え?・・・宇治松さん?」

 

「えぇ、宇治松さんちの千夜よ」

 

そして露に声をかけたのはこの探偵事務所の常連である宇治松 千夜(うじまつ ちや)、どうやら勝手に入ってきたらしい

 

「勝手に入らないでっていつも「今日はちゃんとチャイム鳴らしたわ」!」

 

「なのに出てこないから心配で・・・」

 

「あー・・・ごめんなさい」

 

「いいのよ、それより差し入れ持ってきたの。お茶にしない?」

 

そういう千夜の手には実家の喫茶店で作った栗羊羹がある

 

「!はい、是非」

 

・・・

 

千夜との付き合いは昔からの付き合いだ

 

父を探していた途中であんこを探していた千夜と出会い一緒にあんこを探したのがきっかけ

 

それ以来あんこの捜索の依頼やこうして差し入れを持ってきてくれている露にとってユラとは違った形の大切な友人だ

 

後もう一人昔馴染みがいるのだが…それはまた別のお話で

 

・・・

 

羊羮なら緑茶だろうと、千夜に以前貰った茶葉でお茶を淹れる

 

「どうぞ」

 

「どうも・・・うん、美味しいわ」

 

「さっきはごめんなさい、ちょっとその、夢見が悪くて」

 

「見れば分かるわ・・・お父さんの夢?」

 

「はい、お恥ずかしながら」

 

「そう・・・相変わらず連絡もなにもないの?」

 

「はい、いったいどこにいるのやらで・・・」

 

「そう・・・早くなにか分かるといいわね」

 

「ありがとうございます」

 

「あっ、そうだ依頼があるんだけど今いけるかしら?」

 

「そうでしたか、暇だったので大丈夫です!またあんこの捜索ですか?」

 

以前依頼された和風喫茶の看板兎ことあんこの捜索の依頼はこの千夜からだった

 

このあんこの捜索の依頼は昔から何度も受けているのでまたそれかと思ったのだが

 

「今回は違うの」

 

「そうなんですか、ならどんなご依頼ですか?」

 

「あのね・・・」

 

・・・そうして数日後、ラビットハウスにて

 

「というわけで、私と同じクラスの千夜ちゃんだよ」

 

「今日はよろしくね。でこちらが今回のパン作りのお手伝いを依頼した探偵の露君よ」

 

「どうも露君です」

 

「「露/さん!?」」

 

実は千夜と同じクラスだったココアが千夜を紹介し、千夜が露を紹介したところで紹介されたリゼとチノが驚く

 

「さて!それでは今回の宇治松千夜さんからのご依頼『パン作りのお手伝いをしてほしい』を始めさせていただきますね!」

 

露の口から語られた今回の千夜からの依頼、ココアの提案でラビットハウスの新メニュー作りでパン作りを行うこととなった、そしてそれに誘われた千夜だったが本人に体力の自信がないので助けて欲しい・・・という依頼

 

「なるほどそういうことか・・・露この展開いつから予想していた」

 

「宇治松さんからパン作りの話を聞いて・・・いえ、それより前に保登さんのご実家がベーカリーだと知った時くらいからでしょうか?」

「!?いつ知ったの!?」

「この間です」

「どうやって!?」

「企業秘密です」

「探偵みたい!!」

「探偵ですから!」

「ほら、そこ早く始めるぞー」

 

早速調理場へ移動、各々エプロンを着て準備万端・・・かと思いきや

 

「あれ?露ちゃんは着ないの?」

 

「今回私は宇治松さんのサポートなので、作業で危なそうなところがあれば手伝いますね」

 

いつも通りのカジュアルスーツで調理場の隅に立つ

 

「材料はあるから露ちゃんもやろうよ~」

「いえ、お仕事なので」

 

「露君も参加してって依頼にすればよかったかしら・・・」

「変なところで頑固だもんな」

 

昔からの知り合いである千夜とリゼは露がこうなると梃子でも動かないな・・・と思っていると

 

「あの、露さん・・・」

「香風さん?」

 

チノがおずおずと露に近づいた

 

「一緒にパン作り・・・してくれませんか?」ウルウル

「う゛ぐっ・・・」ズキィッ

 

「おぉ!チノちゃんの涙目おねだりが露ちゃんに突き刺さってる!」

「珍しい・・・」

「あいつが感情を乱す相手なんてユラ以外で始めてだ・・・」

 

「露さんとパン作りしたいです・・・」ウルウル

 

「ついこの間まで甘えるの苦手でしたよね・・・はぁ、これは保登さんの影響ですかね」

 

「いい影響だよね!」

 

「良くも悪くもな」

 

リゼの冷静なツッコミはさておき

 

「それで?露君どうするの?」

 

「そ、それは…」

 

「露さん…」ウルウル

「露ちゃん…」ウルウル

 

「う゛っ・・・はぁ…分かりました。少しだけなら」

 

「!エプロン持ってきます!!」

 

「ほらほら!帽子と上着はあっちに置いてこっちで手を洗うよー!」

 

一瞬で笑顔になって露の分のエプロンを取りに行くチノと露を引っ張り案内するココア

 

「あいつ年下に弱いのか」

 

「意外な弱点ね」

 

一部始終を見ていたリゼと千夜、二人は露の昔からの知り合いだが初対面だ

 

だからこそリゼは気になることを聞いた

 

「なぁ宇治松さんは「千夜でいいわよ」ありがと、千夜は露といつから知り合いなんだ?」

 

「んー…かれこれ小学生くらいの頃からの付き合いかしら」

 

「そっか、私と大体同じくらいなんだな。ならあいつの家のことは?」

 

「…ある程度は知ってるわ」

 

「!、ってことは今回の依頼も?」

 

「えぇ、最近お仕事がなかったみたいだったから」

 

「ありがとな、ウチに来てる時に黙って食えばいいのに」

 

「ってことは露君が昔から仕事してるって言ってた場所ってリゼちゃんのところなのね」

 

「あぁ、ウチでメイドをな」

 

「そのせいで露君はウチの従業員にはなってくれないのね…」

 

「あ、なんかごめん…」

 

「ううん、むしろリゼちゃんのお家が露君のことをずっと支えててくれてたのね。ありがとう」

 

「気にしないでくれ。それに雇ってるのは親父なんだし、私も家以外で露のこと気にかけてくれてるところがあって安心したよ」

 

「私もおばあちゃんがあの探偵に差し入れてやんな!って言ってくれるからできてるだけだから…だからリゼちゃん今日の報酬は…」

 

「分かってる、私からも渡す」

 

「ありがとう!」

 

などと二人が話していると、準備ができたのかエプロンを着て三角巾も着けた露がやってきた

 

「お待たせしました。早速始めましょうか!」

 

 

今日は新メニューの開発ということもあり、それぞれパンにいれたい食材を持ってきた

 

「あっ、ごめんなさい。私今なにも持ってないです」

 

「気にしないで!私が持ってきたの分けてあげる!」ココア→E焼きうどん

 

「家の冷蔵庫の食材でよければ」

チノ→Eいくら、鮭、納豆、ごま昆布

 

「食べる方のあんこもあるわよ~」

千夜→E自家製あずき…後梅と海苔

 

「…」

 

三人の持ってきたものを見てろくな食材がねぇ…と内心毒づいていたところに

 

「今日ってパン作りだよな?」

リゼ→Eジャム一式 

 

「流石お嬢様!!けどそれ結構高いやつですからね!?一般家庭ではあんまないやつですからね!?」

 

「うぉ!?そ、そうだったのか?」

 

救世主リゼに歓喜する露だった

 

そんなこんなで皆で生地をコネコネ、これがそれなりに体力を使う作業なので

 

「ほら、宇治松さん一旦変わりますよ」

 

「い、いいわ!まだ、まだ、大丈、夫!!」

 

「いや息絶え絶えにそれ言われても…」

 

「まぁまぁ、健気ってやつだよ」

 

「んーけどこれじゃあ依頼の意味が…そうだ!」

 

なにを閃いたのか頑張って生地を捏ねる千夜の背後に回り肩に手を置く

 

「露さん?一体なにを?」

 

「これをこうします」

 

グッ、グッと千夜の肩を揉んでいく

 

「あ、気持ちいいわ」

 

「露のマッサージ効くもんな」

 

「なるほど、千夜ちゃんのダメージを即座に回復していく作戦だね!」

 

「作戦なんですかそれ?」

 

「チノも受けてみれば分かるさ」

 

この後ココアとチノもほぐした

 

「千夜の肩を捏ねるのはいいけどお前のはできたのか?」

 

「はい、できましたよ。そこにあります」

 

指差すトレーの先には…三角形にされた生地に海苔が巻かれたものが置いてあった

 

「これは…なんだ?」

 

「おにぎりです。最近お米食べてなくて」

 

「いや、それなら米食えよ…」

 

「中身は鮭です」

「!、私の食材を使ってくれたんですか!」

「チノちゃん良かったね!!」

「いやそこじゃないだろ!?」

 

何だかんだで出来上がった生地達をオーブンにIN、焼き上がりを待つ間に…

 

「はい!千夜ちゃんと露ちゃんにおもてなしのラテアートだよ!!」

 

かわいいうさぎがイラストされたラテアートを二人に振る舞うココア

 

「まあすてき!」

 

「今日のは会心の出来なんだ」

 

「味わっていただくわ「美味しかったです」あら早い」

「傑作が一瞬で!!?」

 

ラテアートを五秒ほど見つめてから一気に飲んだ

 

「コーヒー飲むの久し振りで、美味しかったです」

 

「なんで久し振りなの?露ちゃんコーヒー好きだよね?」

 

「それはしばらく依頼がなかったからですね」

 

「「?」」

「「「あっ」」」

 

首をかしげるココアとチノを他所にリゼと千夜の声が重なる

 

「?依頼がないとコーヒー飲めないの?」

 

「まぁそうなりますね」

 

「そういえばウチのブレンドが好きとおっしゃってくれてるのにあまり来てくれないのはなんでなんですか?」

 

「報酬を気分で決めてるのと最近は依頼がないからですね」

 

「露ちゃんコーヒー好きだよね?なんで依頼がないと飲めないの?」

 

「お金がないからですよ」

 

「?リゼさんのお家で働いているのでは?」

 

「働くというより私はあのお屋敷に仕えているので、生活に必要なお金以外はいただいてません」

 

「つまり貧乏ってこと?」

 

「まぁそうなりますね」

 

割りと失礼なことをバッサリ聞くココアとざっくり答える露

 

一同「…」

 

奇妙な沈黙が一同を包んだところで『チーン!』オーブンが焼き上がりを告げた

 

「あっ、焼き上がった!!早速食べよー!!」

「いい匂い、おにぎりパンはどうでしょうか?」

 

それを聞いて即座に切り替えてパンの方に向き直ったココアと露

 

「いやいやいや!!?待て待て!?」

「「?」」ハテ?

「二人して首かしげるな!?割りと重めの話してただろ!?」

 

同じリアクションをとる二人に怒涛のツッコミをかけるリゼ

 

「別に私が貧乏なの真実ですし」

「露ちゃんが気にしてないならそれでいいんじゃないかな?」

「そんなことより焼きたてパンが気になりますし」

「そうそう!この魅力には何事も勝てないよ!!」

 

あっけらかんと答える二人、皿にパンを盛っていく

 

「え、えぇー…」

「これは1本獲られたわね~」

「ココアさんがすごいのか露さんがすごいのか…」

 

「ほら!はやく食べよー!!」

「飲み物なににします?」

 

出来立てが冷めてしまっては勿体ないので早速実食

 

「おにぎりパン割りといけますよ」

「そうなの?一口ちょうだい!!」

「はい」

 

大口開けたココアの口にパンを差し出す

 

「!、外はカリカリにしたんだね!」

「食感の違いがいいでしょう?」

 

「な、なんか二人すごい仲良くなってないか?」

「波長が合うのかしら?」

「ココアさんずるいです…露さん私のもどうぞ」

 

差し出されたチノのパンを一口

 

「ん、いくらパンですか…!、おにぎりパンと合わせたら」

 

「!海鮮親子丼の完成だね!」 

 

「パンですけどね」

 

和気あいあいと話す二人に…

 

「むー!!」ビシッバシッ

 

「あいたっ、なんで叩くのチノちゃん!?」

 

「もう!ココアさんはもうっ!」

 

「?香風さんどうしたんでしょうか?」

 

「自分のパンが会話の出汁に使われたのが腹立ったんだろ」

 

「チノちゃんも露君のこと好きなのねー、露君こっちのはどう?」

 

「あむっ、やっぱり甘兎のあんこは美味しいですね」

 

「ふふっ?ウチに来ればいつでも食べられるわよ?」

 

「非常に魅力的ですが私は探偵なので」

 

「(梅干しパンのネタに走らず王道のあんぱん進めた辺り千夜も妬いてるなこれは…)」

 

「?お嬢様どうかしましたか?」

 

「あっ、いや…ジャムパンも食えよ」

 

「むぐっ、おいしい」

 

「そっか」

 

「「(リゼさん/ちゃん、貴女もね/です)」」

 

賑やかな試食会でしたがいくら美味しくても大量に作ったパンを食べきるのは難しかったため、それぞれで持ち帰ることとなりました

 

「それじゃあまたバイトでな」

「パン作りでお世話になったお礼に今度はウチの店に招待するわ」

「お土産たくさんありがとうございます」

 

「うん!またね!、ほらチノちゃん!」

 

「わ!分かってます!、露さんこれを」

 

「?、これは?」

 

おずおずとチノから手渡されたのは魔法瓶

 

「中身はコーヒーだよ!さっきチノちゃんが淹れたの!」

「流石に今日中に飲まないと美味しくはありませんが…味は保証します」

 

「ありがとうございます。あの、でもこういうのは」

 

身の上を話したがあれは施しが欲しくて言ったわけではないと告げようとしたが

 

「これからは露さんが毎回報酬でラビットハウスのコーヒーが飲みたいと思えるコーヒーを作ります。だから時々試飲をお願いします。これはその第一段です」

 

「そういうことなら…ありがとうございます」

 

露が受け取りやすいように、理由をくれたのだろう…その心遣いを断れなかった

 

「それから私からはティッピーパンおまけであげちゃう!コーヒーと食べてね!」

 

「!、いいんですか?」

 

「うん、これも会心の出来だよ!!…このパンは私のワガママに付き合ってくれてお礼とそれからもっと仲良くなりたいからプレゼント!!」

 

「!」

 

「今日で露ちゃんと皆が昔からの付き合いで、とっても仲良しって分かったよ。

 

けど私も負けない、皆に負けないくらいにこれから露ちゃんと仲良しになってみせるよ!!だから受け取ってくれるかな?」

 

「!…ありがとう、ございます」

 

「うん!」

 

そうしてココアとチノと別れて三人は帰路に着く

 

「よかったな、露」

「は、はい」

「ふふふ、珍しく顔真っ赤。普段は探偵はポーカーフェイスでないとって言ってるのに」

「い、今は見ないでください」

 

施しや同情ではなく、露を想って仲良くなりたいという想いからのプレゼント、それがとっても嬉しくて

 

「エヘヘ…」ニコニコ

 

思わず笑みが溢れた

 

「「…」」

 

それを見て先ほどまで茶化していたが、なんだか面白くなくなってきたリゼと千夜 

 

あの二人に下心がないのは分かってるし、そうしたくなった理由だってよく分かる…だけどなまじ付き合いが長いせいで自分たちはそれをしても最近は受け取ってくれなくなってきているのだ

 

私たちだってそう思ってるのに…私たちだってそのくらいいくらでもやってあげるのに!

 

「そうだ、エリアくん報酬の話なんだけど」

 

「今回は試食のパンでいいですよ。美味しかったですし」

 

「そんなのダメ!私の持ち帰るパンあげる…ってもうたくさん持ってるのね。!、それなら今日は家に泊まって?晩御飯ご馳走するから!」

 

先手をとる千夜!

 

「おおっと!?残念ながら今日は家に泊まり込みの予定だ!!ウチでユラのご飯を食べるんだ!」

 

負けじと雇い主という特権を使うリゼ!

 

「?どうしたんですか?二人とも?別にご飯なんていいですよ?」

 

「「…」」ジトッ

 

「?お二人とも?」

 

ジト目の二人に若干引きながら後退り

 

「露、最近…違う、何日食ってない?」

 

「!」ギクッ

 

「最近お仕事ないのは聞いてたけど、少し痩せたわよね」

 

「…」フイッ

 

二人の視線に耐えきれず視線をそらす

 

「お前のことだから無駄遣いはしてないと思うけど何かあったのか?」

 

「…パソコンが、壊れまして」

 

「修理に出したの?」

 

「…はい」

 

「結構かかったと?」

 

「…はい」

 

「それでしばらく依頼がなく?」

「食費削ったのね?」

 

「…はい、その通りです」

 

全く打ち合わせはしてないのに、示し合わせたように二人で露を責める…それは本来探偵の仕事だというのに

 

ここで露の収入について説明すると、まず探偵の仕事は現物支給なので収入はない…が露にとっては食い繋ぐためには必要なこと

 

リゼのお家にはあくまでも仕えている関係上収入はほとんどなく、一月なんとか生活できるレベルの給金しかもらっていない(本人曰く事務所の維持費出してもらってるだけありがたいのにこれ以上は…とのこと)

 

しかしこれらはあくまでも露の希望に基づいたものであり、後継人でもあるリゼの父からは生活が厳しくなったら正直に話すことを前提条件に通してもらっている…というわけで

 

「「はぁ…」」

 

「ふ、二人してため息つかなくても…」

 

「ため息もつきたくなる」

「これで怒るの何度目かしら?」

 

その通り、この件はリゼにも千夜にも何度か怒られていることなのだ

 

「で、でも「でももなにもないだろ」っ!」

 

「親父に伝えるからな」

「お婆ちゃんに伝えておくわね」

 

それはどうしても勘弁してほしいこと

 

「ま、待っ「「嫌なら今日は(うち)に来い!/来て!」」…はい」

 

二人の剣幕に従うしかない露

 

「はぁ…もう本気で家にこいよ」

「はぁ…うちの子になればいいのに」

 

おんなじことを呟くリゼと千夜…その頃のラビットハウスでも

 

「決めた!露ちゃんも私の妹にしてみせるよ!」

「そうしたら露さんは長男?長女?どちらでしょうか?」

 

おんなじようなことを話し合っていた

 




今回の報告書!

ココア「リゼちゃんと千夜ちゃんは昔からの露ちゃんと仲良しなんだね」

リゼ「そうだなチノはどうなんだっけ?」

チノ「おじいちゃんが亡くなる二年前からなので三年ほどでしょうか?」

千夜「(実はまだ一人いるんだけど…黙ってましょう)」

ココア「けどパン作りの時が二人は初対面だったんだよね?露ちゃんから紹介とかされなかったの?」

リゼ「和風喫茶店のお得意様ができたとは聞いてたけど千夜は?」

千夜「キュート&ナイスバディのお嬢様のメイドしてると聞いてたわ」

リゼ「!、あいつはぁ!!」


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依頼その4 一時休業→復活のいちご飴

今日の物語はいつもの探偵事務所から始まる…のではなく、別の場所から始まります

 

カランカラーン♪、ドアが開かれベルを鳴らしながら…お客さんが来店した

 

それを迎えるのは

 

「いらっしゃいませー」

 

黒い着物に白いエプロンを着た露だ

 

ここは喫茶店『甘兎庵』

 

「やっぱり私の見立て通り、和服も似合うわね!!」

 

カウンターからサムズアップする千夜の働く喫茶店である

 

今露がここに入るのは依頼ではありません…なぜこうなったかというと

 

パン作りの後、今日はどっちの家にいくかのリゼVS千夜のじゃんけん対決が行われ、その日はリゼが勝利して後日千夜のところでご馳走されるということになりました

 

リゼ宅でご飯をいただき、泊まるように言われたが依頼が来るかもしれないということでなんとか帰ってきた

 

そして後日約束通り甘兎庵に向かった時のことです

 

「こんにちは、ご相伴をあずかりに来ましたー」

 

「いらっしゃい、一旦こっちに座って待っててくれるかしら?」

 

いつものカジュアルスーツで来店し、そのままカウンター席に通される途中

 

「あんこもこんにちは」

「…」

 

店内の中心に置かれているお立ち台にいる甘兎庵の看板兎のあんこを撫でる

 

瞳を閉じて気持ち良さそうに撫でられたあんこはそのまま露の胸元に飛び込み、抱っこされたまま座席に向かう

 

「最近はどうですか?」ナデナデ

「…」

「なるほど、裏の界隈はまだまだ不安定と…いつもお疲れ様です」ナデナデ

 

などというあんことの会話を楽しみながら千夜を待っていると…

 

「あんた、また痩せたね」ズボッ

「はひゃぁ!?」ビックゥ!!

 

背後から腰周りを触られ奇声を上げる(なんとかあんこは落とさなかった)

 

「ただでさえひょろいもやしがこれ以上痩せてどうする気だい!?」

「ど、どうもしませんよ…店主さん」

 

腰周りに手を突っ込んだのは甘兎庵の店主であり千夜のお婆ちゃん

 

「店主?お婆ちゃんと呼びな!」

「お、お婆ちゃん」

「それで?ここに来たってことは遂にウチの従業員のなる気になったってことかい?」

 

間違いなく千夜の圧しの強さはこのお婆ちゃんからの遺伝だと思いつつも反論する

 

「ち、違います!私は探偵ですっ」

 

「ふん、毎日食い繋ぐこともできないのにかい?」

 

「!なぜそれを」

 

「あんたがここに来るって時は大抵千夜があんたが痩せてるって気づいた時さ」

 

「た、探偵ばりの推理力…」

 

※ただの経験故です…などと話していると

 

「そうなのよお婆ちゃん!また露君ったらご飯食べれなくなってるの!」

 

用事を済ませた千夜が帰ってきた

 

「う、宇治松さん…言わないでって言ったのに」

 

「あら?今さらでしょう?」

 

「うぅ…」

 

「それにリゼちゃんのお家でもバレたって連絡もらってるわよ」

 

ちゃっと取り出した携帯にはリゼからのメッセージで『逃げたからそっちで頼む』という連絡が写されていた

 

「いつの間にそんなに仲良く」

「露君関係で意気投合したのよ」

「えぇ…それにしてもそっちで頼むっていうのは?」

 

困惑する露を他所に千夜は携帯をいじりながら言いはなった

 

「露君しばらくここに泊まってね」

 

「えぇ!?でも!依頼があるかもしれないの「はいこれ」えっ?」

 

リゼの所と同じ言い訳で逃げようと思った露の目前に携帯がつき出された

 

「!、これって」

 

写し出された画面はメール画面で宛名はリゼだが

 

『再三の忠告を破ったお前に罰を与える

 

 ウチかその甘兎庵で最低でも体重が戻るまで泊まり込め 

 

 万が一逃げたり、拒否した場合今後一切事務所への援助は打ち切る

 

 分かったら事務所の鍵をリゼかそこのお嬢ちゃんに渡せ』

 

という文が…これは

 

「だ、旦那様…」

 

露の雇い主であるリゼの父からのメールだ

 

「ここまでなるまでに何度も注意はしたわよ。鍵渡してくれるわね?」

 

「…はい」チャリ

 

きゅっと唇を噛み締めながら鍵を渡す

 

「…ごめんね」

 

流石に少し罪悪感を感じたがここは心を鬼にして鍵を受け取る

 

「着替えや制服なんかは後で持ってきてくれるそうよ。だから暫くはウチから学校に通ってちょうだい」

 

「はい…」

 

今にも泣きそうな声色で俯く露…当然だ、露にとって探偵の仕事は生き甲斐であり、それを行う事務所は大切な場所、それを取り上げられたのだから

 

しかし

 

「とはいえなにもしないやつを家に置く気はないからね!とっとと着替えてきな!」グイッ

 

「えぇっ!!?」

 

店主は悲しむ露のことなど気にしないかの如く、その背を押して従業員スペースに続く扉に押し込み、ロッカールームへ

 

「一番奥のロッカーに制服が入ってる着付けはできるね?着替えたら店に出な!」

 

「は、働くんですか!?」

 

「当たり前さね」

 

というわけで、ここ最近は甘兎庵で働いているのだ

 

学校ではリゼから毎日健康チェックされ、ユラから「大変だね~」と笑われながらお弁当をもらい、放課後は甘兎庵で働く日々

 

体重もそんなすぐに戻ることはなく、多少増えた程度だ

 

「…はぁ」

 

毎日増えてくため息、自業自得とはいえ流石に堪えてきた

 

はやく太ろうと思っても買い食いやらするためのお金はなく、毎日のご飯も健康を考えられたメニューのため多量にカロリーをとることもできないし、お店のお手伝いも忙しいので毎日疲れてすぐに眠るという健康的な生活

 

太るということは痩せると同じくらいに大変なことなんだなぁと実感していたそんなある日のこと

 

「こんにちはー!」

 

元気な声と共にお客さんが来た

 

「!、いらっしゃいま「みんな!いらっしゃい!」!、保登さんに香風さんにお嬢様!」

 

俯いていた露がそちらを向いたところで千夜が先に出迎えた。お客さんの顔を見るとラビットハウスの三人が来ていた

 

「よう、ちゃんと働いてるみたいだな」

 

「確認に来たんですか?」

 

「違う、千夜から招待されたから来たんだ」

 

「リゼさんから話は聞いていました。露さんその制服お似合いですよ」

 

「ありがとうございます香風さん」

 

「そうですよねココアさん「…」ココアさん?」

 

ココアに同意を求めたチノだったが、当のココアからの反応はなく、じーっと露の顔を見てから

 

ガシッ!  

 

背の高い露の頬を掴んで自身の方へ引き寄せた

 

「?保登さ「露ちゃん、大丈夫?」!」

 

目線を合わせて露のことを案ずるココア

 

「そりゃ仕事で忙しいからな、しんどそうにみえ「それだけじゃないよ」え?」

 

リゼの言葉を遮る

 

「それだけじゃない、露ちゃん…泣きそうになってるから」

 

「!」

 

「やっぱりお家帰れないの寂しい?」

 

「…はい」

 

「(そっか、ココアは家を出てここにいるから…)」

 

リゼの思った通り、似た悲しみを感じたのだろう…だが

 

「そうだよね…けど、それだけじゃないよね?」

 

「!!」

 

ココアに更に核心をつかれて驚いた

 

帰れないことに加えて露の心に影を落としていることがもうひとつあった…だけどそれは

 

「なにか別のことで悩んでるみたいに見えたんだ」

 

「!!、なんで分かったんですか?」

 

「お姉ちゃんだからね!…でもそれは言えないかな?」  

 

「…はい」

 

よく分からない理由はさておき、その理由はあまり声を大にして言いたいことではない、それに対してココアは

 

「そっか、なら聞かない!」

 

あっけらかんとそう答えた

 

「!、いいんですか?」

 

「うん、無理に聞いちゃったら露ちゃんもっと辛いと思うから」

 

「…」

 

「早くまた探偵のお仕事できるといいね」

 

「はい、ありがとうございます…それじゃあ席にご案内しますね」

 

そして席に進む二人…の後ろ姿を眺める残された三人は

 

「なんか、美味しいところもってかれた気分だ…」

 

「でも私たちも気づけなかった露君の気持ちをココアちゃんは気付いたのね」

 

「あぁ、すごいな、ココアは」

 

「はい…けどやっぱりココアさんずるい」

 

「そうだな/そうね」

 

そして三人も二人を追いかけた

 

 

甘兎庵の珍妙なメニューに驚きつつも、各々注文したメニューに舌鼓を打っていると…カランカラーン♪お店のドアが開かれた

 

「あの、すみません」

 

来店したのは幼い女の子、とてもここに一人で来る年代ではない

 

「いらっしゃいませ!…お父さんかお母さんは一緒じゃないですか?」

 

しゃがんで女の子と目線を合わせ、ココア達と話している千夜の代わりに露が対応する

 

「あの、ここに探偵さんがいるって、お姫様みたいなお姉さんに聞いたの」

 

「?誰だろ?」

 

お嬢様なら仕えているがリゼな訳がないので一瞬首をかしげたが、すぐに女の子の方を向き直す

 

「えっととにかく探偵は私ですがどうしたんですか?」

 

「私のぬいぐるみがなくなっちゃったの…それで探してたらお姉さんが探偵にお願いしてみればいいって、ちゃんおこづかいもあるの!だからお願いします!」

 

「!」

 

差し出されたポシェットには女の子の大切なものがたくさん詰まっていた

 

おもちゃの指輪、クッキーや飴玉といった中にちょこちょこ小銭が入っているようだ

 

「…ごめんなさい今は「行ってあげて露君」!」

 

申し訳ないが今探偵業は禁止されている…なので断ろうとした時、後ろから千夜が声をかける

 

「こんな小さな女の子のお願いを断れないでしょ?…はい」

 

そうして千夜から事務所の鍵を返された

 

「!、いいんですか?」

 

「依頼が来たのなら、仕方がないわ。リゼちゃんも黙っててくれるでしょ?」

 

「あぁ、私は今ぜんざいしか見ていないしな」

「私も今はあんみつに夢中です」

「私はあんこをモフモフしてるから知らなーい」

 

顔を見せずに答えてくれた三人

 

「…」グッ

 

鍵を強く握り、女の子の方を向き直り…ポシェットから飴玉を一つ取る

 

「今回の依頼『迷子のぬいぐるみを見つける』報酬はこの飴、その依頼お受けします!早速ぬいぐるみの特徴をおしえてもらってもいいですか?」

 

甘兎庵の制服でも常に持ち続けてきた愛用の手帳を取り出して、早速調査に乗り出した

 

…その後露は女の子を連れてぬいぐるみを探しに出かけ、残された面々は

 

「露ちゃん嬉しそうだったね!」

 

「そうですね、生き生きしていました」

 

「本当に探偵のお仕事が好きなのね」

 

「そうだな…そっか、そういうことか」

 

「?どうしたの?」

 

「ココアが言ってた露が悲しそうな理由なんとなく分かったんだよ」

 

「!、本当に!?」

 

「アイツここ最近依頼がなかったことで堪えてたんだ…親父さんみたいにできないから」

 

「露君のお父さん?」

 

「露ちゃんのお父さんも探偵だったの?」

 

「そうなんだ。ほぼ毎日依頼はきてたみたいだった。

 

それから露の親父さんは私の親父と昔馴染みで、それで仕事が忙しい時はウチに預けられてたんだ」

 

「そうだったのね…けど露君のお父さんって」

 

「…あぁ、ある日仕事に行ったきり帰ってこなかった」

 

「「!」」

 

知らなかったココアとチノが驚く

 

「なにがあったのかは知らないけどある日突然親父が露が連れてきて、これからここに住むって言ってな…それからしばらくの間のアイツは正直見てられなかった」

 

ろくに食事もとらず部屋に籠りきりで以前会った時とはまったく様子の違う露の姿は当時のリゼにとってのトラウマなのだ

 

「露ちゃん…」

 

「だから私も親父もユラっていう家のメイドもアイツが少しでも弱ってそうだったらどうしても過保護になるんだけどな…千夜もか?」

 

「私は露君が本格的に探偵を初めてから時々フラフラしてるのに気づいて、聞いて知ったの…けどそんなことがあったなんて知らなかったわ。でもお父さんのことはその時聞いてたわ」

 

「そうなのか…!そうか!」バッ

 

顔を上げて千夜の方を見るリゼ

 

「!?どうしたんですか?」

 

「昔そんな弱ってた露が突然いなくなったんだ」

 

「えぇ!?」

「大丈夫だったんですか!?」

 

「大丈夫、なにごともなく帰ってきたよ。でもその日は今まで露を怒らなかった親父もめちゃくちゃ怒って、私もユラも泣いて怒って…それでどこに行ってたんだ?って聞いたんだ…そしたら

 

『和風喫茶店のお得意様ができた』って」

 

「!!」

 

「!!、それってもしかして」

 

「うん、それからアイツ将来は探偵になるって言って元気になったんだ…そのお得意様は千夜なんだな」

 

「えぇ…まだあんこが家に来たばっかりの時でカラスの拐われてどこかに行っちゃって」

 

そうして千夜は幼馴染みと共に泣きながらあんこを探していた、その時に露に声をかけられたのだ

 

「あんこがいなくなったって言ったら自分も探すって、遠慮してたら…僕は探偵だからって言って」

 

そして日が暮れるまで一緒に探してくれて、遂にあんこを見つけたのだった

 

「それから一緒にここに帰ってきたの」

 

店主から怒られて、その後に大福をもらって

 

「大福食べてる時にちゃんとお礼を言おうとしたら報酬はもうもらったからいいって言って、その日はそこで別れたの」

 

それからは露はよく千夜の元に顔を出すようにしていた

 

「あんこ、ちゃんといる?って言ってお店に来てたわ」

 

その時あんこがいなくなっていたら一緒に探して、いたら一緒に遊んでいた…楽しい思い出

 

「そうなんだ…じゃあ千夜ちゃんが一番最初の依頼人なんだね」

 

「そうですね」

 

「そうだな、それから探偵『義良露』を生み出した張本人ってワケだ」

 

「!!、そうかもしれないわね」

 

いつも助けてくれた大切な友だち、その友だちの大切な物が生まれるきっかけに自分が関わっている…それがとても嬉しかった

 

 

そして日が暮れた頃…近くのゴミ収集所にて

 

「!!、あったー!!」

 

くまのぬいぐるみを見つけた露が喜びの声を上げて、一緒に探してくれた収集所の職員にお礼を言ってから出る

 

「ちゃんと見つかってよかった…」

 

初めは女の子がぬいぐるみを持っていたことをはっきり覚えている公園を探したがみつからず、日が暮れそうだったので女の子に必ず見つけると約束をして家へと送った

 

その時ちょうど女の子のお母さんと会って話を聞くことができた

 

女の子は家にちゃんとぬいぐるみを持って帰っていたがなんとお母さんがボロボロだったので捨ててしまったという衝撃の詳言を得た

 

露は涙を流す女の子の頭を優しく撫でてからゴミに出した日を聞き、頭で日数を計算してからすぐに走りだし、ここにたどり着いた

 

「ゴミに出したのが最近でよかった」

 

見つけたぬいぐるみは少し汚れてしまって、腕がちぎれそうになっているがこれなら洗えるし、直せる

 

大切なお友だちの元にちゃんと帰してあげられる

 

「ちゃんとあの子の所に送ってあげますね!」

 

久々のお仕事が上手くいき、思わず人形を持ち上げて弾むようにスキップで帰路を進む露

 

そんな姿を少しはなれたところから見る人影が一人

 

「上手くいったみたいね、まったく世話が焼けるんだから…っていけない!そろそろタイムセールがっ!!」

 

リゼと同じ制服を着たふわふわの金髪にリボンのようなカチューシャをつけたお姫様のような人は露の姿に安堵の息を吐いてから、忙しなく駆けていったのだった

 

 

 

 

 

 




今回の報告書!

露「というわけで復活です!」

ココア「イエーイ!おめでとう!」
チノ「おめでとうございます」
リゼ「ったく、次やったらまたおんなじことするからな?」

露「あはは…肝に命じます」

千夜「それにしても女の子に露君のことを教えてくれたお姫様って誰かしら?」

露「んー?近くにいる気がするんですけど…」

スーパー内
???「へっくし!」



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依頼その5 潜入任務→抹茶鯛焼きパフェ

探偵事務所休業事件から少し経ちました

 

露も今回のことはかなり堪えたようで、生活が色々と変わったようです

 

…まず食生活は、

 

「どうぞお嬢様」

 

今日は執事の服でリゼに夕食の配膳する露

 

「ありがとう、一緒に食べないか?」

 

「折角ですがこの後狩手さんに賄いをつくってもらう予定なので」

 

「ユラと食べるのか?」

 

「夕飯をご一緒するのが作ってもらう条件なので」

 

「最近お弁当も作ってもらってたよな」

 

「食材が余ってもったいないとのことなので、ありがたく」

 

「お前もユラにお弁当作ってるよな」

 

「狩手さんに比べれば簡単なものですがそれでもいいからとのことなので、食材も好きに使ってもいいと旦那様から許可を貰えましたので」

 

「そのまま昼飯も一緒に食べてるよな」

 

「互いに感想が聞きたいので」

 

「…」

 

つまり、ユラと露は最近二人で昼と夕を一緒に食べてるというわけで…

 

「お嬢様?」

 

「そこにっ!私も!!いれろよ!!!」  

 

ユラの思惑通りに事が進んでいる部分がありますが、食生活は改善されました

 

依頼の方もまたそれなりに来るようになりました

 

「探偵さんありがとうねぇ」

 

「いえ、探偵ですので」

 

近所のお婆ちゃんからの依頼で庭の掃除をして、報酬に緑茶とそれからご厚意の羊羹をいただく

 

「もうすっかり暖かくなりましたねー」

 

「そうだねぇ、桜も散ったしこれから暑くなってくるのかねぇ」

 

「そうなったら大変ですね。なにかあったらいつでも言ってくださいね」

 

「ありがとうねぇ」

 

「いえいえ」

 

そうして学校、依頼、屋敷の仕事、を繰り返すそんなある日のこと

 

その日の依頼である『ウ○ーリーがどうしても見つからないので手伝ってほしい(報酬→う○い棒コンポタ味)』を達成し、事務所に帰ってきた

 

「ふぅ…あぁ眠い…」

 

二時間に渡る大捜索の末に遂に発見、その疲労感は凄まじく、ソファに座って一息つくと

 

今日は屋敷での仕事はないので後はもう休むだけだが…

 

「(今日は疲れた、ご飯作るのめんどくさい…食べなくてもいいかな…)」

 

明日からちゃんと食べるから…と心の中のリゼと千夜に言い訳しながら眠りに落ちようとしたその時

 

バンッ!!!

「露君大変!事件よ!!!」

「!!?」

 

サスペンスの導入のような展開かのように千夜が事務所のドアを開けました

 

「ドアもう結構ボロいので優しく…ってそれより事件!?」

 

「そう!事件なの!」

 

「!!」

 

千夜の慌てぶりからこれはただごとではないと覚悟したと共に…

 

「つ、遂に事件!兎探しに探し物や悩み相談ばっかりだったこの事務所に!!」

 

事件というTHE探偵な仕事に浮き足立つ露、こうしてはいられないと千夜をソファに座らせていつかすごい依頼が来た時用にととっておいたとっておきの茶葉でお茶を入れて、庭掃除のお婆ちゃんからお土産に持って帰りなさいねぇともらった羊羮を出しました

 

「す、すごい至れり尽くせりね」

 

「それでそれで!?事件って何なんですか!?空き巣!人探し!?それともさつじ「それで喜ぶのは流石にダメよ」むぐっ」

 

滅多なことを口にしようとした露の口に羊羮を突っ込み、話を一度途切る

 

「話を聞いてもらう前にこれを見て」

 

「もぐもぐ?」

 

羊羮を頬張りながら千夜が机の上に置いたチラシを見る

 

「ごくっ、『~心も体も癒します~フルールドラパン』…ってこれ最近オープンしたハーブティーのお店ですね」

 

それは露の言う通りハーブティーの喫茶店のチラシ、ただすこーしだけ露出多いメイドさんの写真が写っている

 

「流石露君既に知っているのね」

 

「まぁ探偵ですので。それでここがどうしたんですか?」

 

「今度ここでシャロちゃんがバイトするって!!」

 

シャロちゃんというのは千夜の幼馴染みである桐間紗路ことで露とも幼馴染みの関係にあたる人物のことだ

 

そのシャロがこのフルールドラパンで働くらしい…のだが

 

「あれ?知らなかったんですか?」

 

羊羮で甘くなった口をリセットするために緑茶を一口…美味しい

 

「そう!知らなかったの!!…え?」

 

「だから、桐間さんがここで働くこと、知らなかったんですか?」

 

「知ってたの!?」

 

「知ってますよ。むしろバイトに誘われましたし」

 

「えぇ!?いつ!?」

 

「丁度宇治松さんの所に住ませてもらってた時ですね」

 

数日前、甘兎庵にて

 

「こんにちわー、千夜いますか…って露?」

 

「あ、桐間さんいらっしゃいませ」

 

千夜を訪ねて甘兎庵にやって来たシャロだったが迎えたのは露

 

「なにして…あっなるほど」

 

「お察しの通りでして、宇治松さんは今買い出しに出掛けてますよ」

 

長い付き合いだからこそ現状即座に把握した

 

「まぁいい薬ね。これを機に真っ当に生きなさい」

 

「いや別に恥ずかしい生き方はしてないはずなんですけど」

 

「一人前じゃないからちゃんとした報酬も貰えないのに続けてこの先で生きていけるの?」

 

「っ、それは…」

 

「露が探偵の仕事に誇りをもってることも分かってる。だけどそれだけじゃ生きていけない…ちゃんと生きていくために働くことって大切だと思うの。お屋敷の仕事もちゃんとこなしてるのは知ってるけどね」

 

とある事情で働く、稼ぐことに関して敏感なシャロは探偵の仕事を始めた時点から露のことを心配していた

 

「…」

 

「今度会った時は病院でしたなんて笑えない。でも露を見てるとそうならないとは思えない…だからこれ渡しておくわ」

 

渡されたのはフルールドラパンのチラシ

 

「今度ここでバイトするんだけどまだまだ人手が要るみたいだから…もし良かったらどうかしら?お屋敷の仕事の合間でもいいし」

 

「ありがとうございます…」

 

「いい返事を待ってるわ」

 

「はい…無銭飲食の桐間さん…」

 

「じゃあね…ってなんでそれ知ってるのよ!?」

 

「この街のことで知らないことはあんまりないです」

 

「っ!揚げ足取るんだから!!」

 

「いや自業自得でしょう。財布の中身足りないのに来店するから…」

 

会計でお金が足りなかった→無銭飲食になりかけた→お皿洗いで労働返し→それきっかけでバイト決定、の流れである

 

「気づかなかったのよ!!」

 

「せめて宇治松さんに連絡するとか」

 

「そんなことで借りを作りたくない…」

 

「私もいますし」

 

「私よりもお金がない人に言いたくない…」

 

「とても失礼ですね」

 

…などというやりとりがあったのだ

 

「まぁ結局この間のことがあって結局探偵を続けることにしたので、桐間さんとはそれっきりですね」

 

「そうなのね…けどこのお店大丈夫?いかがわしかったりしない?」

 

「んー、ハーブティーは美味しいらしいですけど制服が私のメイド服の2倍肌の露出が多いですかね」←普段は長袖&ロングスカートのクラシカルメイド

 

「そんな!?」

 

「そんなに心配ですか?」

 

「そりゃもう」

 

「ふむ…」

 

露の説明を聞いてもまだまだ心配の様子

 

千夜とシャロは互いに過保護だと常々思っているがこれほどとは(お前もな)と思いつつその気持ちを汲んであげたいので

 

「…こうなったら「潜入しましょうか?」え?」

 

「勧めてもらったのに一度も行かないのはどうかと思って一回くらい行こうと店長さんに聞いたら一日体験してもいいとのことで」

 

「!」

 

「『シャロさんの様子を探るためにフルールドラパンに潜入しての極秘調査』、期間はバイト終了まで、報酬は甘兎庵の黄金の鯱スペシャルでどうですか?」

 

「それでお願い!私もお客側で様子を伺うから!」  

 

「それではその依頼、お受けしましょう!!日程はいつにしますか?」

 

「そうね、ならこのくらいで」

 

というわけでトントン拍子に予定が決まっていき、いざ当日

 

「ってわけで今日だけ体験バイトの義良ちゃんでーす」

 

「よろしくお願いします」スッ

 

フルールドラパンの店長からの紹介を受け両手でスカートの裾を掴み少しあげて軽くお辞儀をする露、見た目は完璧メイドである

 

「露!?」

 

「あ、桐間さん。御呼ばれにあずかり参りました。」

 

「結局探偵続けるって聞いてたから来ないと思ってたわ」

 

「一度も来ないのは不義理かと思ったので来ました。

 

制服は覚悟してたんですけどサイズがないみたいなので自前です」

 

他女子に比べると身長が高いため、本日はリゼの屋敷で使っているメイド服を着て来た

 

「そうなのね、やっぱりそれ似合ってるわね。早速案内するわよ」

 

「ありがとうございます」

 

…そうしてシャロに店内の案内や仕事の内容を教えてもらい、一時間後

 

スッスッ…トレーを片手に音もなく歩き、来店したお客様の元へ向かい

 

「いらっしゃいませお嬢様、お席にご案内します」

 

そして席に案内して即座に水とメニューを渡す

 

「お待たせしました。こちらメニューとなります。

 

 本日のおすすめは…えっ?注文するから是非私の連絡先を?いけませんよお嬢様」

 

スッと人差し指を口許に当てて…

 

「メイドとそういった関係になるなどいけません…なので後で他の皆には内密に…ね?」

 

色気を感じさせる笑みを浮かべてそう答えると共に…

 

「「「キャァァァァ!!!!」」」

 

露の接客でフロアが沸く、その歓声を背にシャロがいる厨房へと帰る

 

「こんなもんですかね?」

 

配膳やマナーといったものは昔からやってきたことなので身に付いており、学校での生活で自分の容姿をいかす方法は熟知しているからできる接客

 

「完璧すぎて逆に怖い」

 

「やってることはメイドと同じですし、探偵ですから」

 

「なんでもかんでも探偵だからで済むと思ってない?」

 

「さぁどうでしょう…ん?」

 

ふと見た窓の向こう…そこには千夜とラビットハウスのメンバーが来ていた 

 

こっそり入ると千夜は言っていたがバレバレだ、更にお供まで着いてきていることに一瞬困惑したが、直ぐに思考を立て直す

 

「どうしたの?」

 

「いえ、それでは私はお皿洗いの方に入りますのでフロアの方をお願いします」

 

「?、分かったわ、よろしく」

 

逃げるかのように厨房に戻り、宣言通りになれた手つきで皿を洗っていると「なんでいるのー!!」背後からシャロの絶叫が聞こえた

 

「(宇治松さんが見つかったのかな、それじゃあこのままバイト終了まで私は厨房の業務をしますか)」

 

後はサボらず適度に仕事をすればいいか、と頭の中で結論付けてその日のうちにハーブティーの淹れ方を習得し、そうして体験バイト終了時間になると共にシャロにみつからないように退出したのだった

 

その日の夜、リゼの屋敷

 

「お嬢様、寝る前にもしよければこちらをどうぞ」

 

「ありがと、これって」

 

「ご厚意でいただいたハーブティーでございます」

 

「そっか、やっぱりお前もいたんだな」

 

「お気づきでしたか」

 

どうやら千夜は露がフルールドラパンに居たことを話していなかったようだが、リゼは察したようだ

 

まぁ店でもらってハーブティーを出してる時点で露もばらしているようなものだが

 

「言いたくないなら聞かないさ」

 

この依頼は極秘調査、つまりシャロにばれてしまってはいけないが、調査期間は期間は今日のバイト終了まで

 

バイトが終了してしまえば後はバレても適当にごまかしてしまえばいい、なのでその時間稼ぎのためにシャロがフロアに立ち、自分が厨房に入るように仕向けたのだ

 

「お前が裏方に回ったのって時間稼ぎだけじゃなくてシャロがフロアに出て私たちの接客にあたれるようにしてくれたんだろ?」

 

「流石お嬢様です」

 

普段忙しくてあまり皆と関われていないシャロのための気遣いもリゼは気づいてくれていたようだ

 

「お前もくればよかったのに」

 

「皆様のティータイムにお邪魔するわけにはいかないので」

 

「はぁ…お前は相変わらずだな」

 

「はて?なんのことでしょうか?」

 

「別に、それより時計見てみろよ」

 

「はい?…あら、もうこんな時間ですか」

 

時計は既に露のメイド業の終了時間を指していた

 

「仕事の時間が過ぎたから、今お前はメイドではないわけだ」

 

「?まぁ一応」

 

時間が過ぎたら後は帰るだけだが…

 

「だからお前の友人として誘うよ。一緒にお茶にしないか?」

 

「えっ?」

 

「最近ずっとユラにお前をとられてたんだ。お茶くらい付き合え」

 

「…ふふっ、ではお言葉に甘えて。着替えてきましょうか?」

 

「そのままでいいよ。お茶菓子も出してくる。後ユラも暇そうなら誘うか」

 

「そうですね」

 

その日のお茶会は少し夜更かしするくらいに楽しいものとなった

 

…翌朝

 

「んんっ、んー!」ノビーッ

 

お茶会の後そのまま泊まってしまったので、日課の見回りと共に帰宅、残念ながら今日は学校なので放課後に調査報告書を作成して千夜に渡す予定だったのだが…

 

「あ、桐間さん」

「おはよう」ブスッ

 

頬を膨らませてぶすくれている露と同じ学校の制服を着たシャロが事務所の前に立っていた

 

「おはようございます。こんな朝早くからどうしたんですか?依頼ですか?」

 

大方千夜の依頼の件で怒っているのだろうと予想はついている

 

だがこの件については何を言われてもはぐらすと決めているのではぐらかす

 

「なんで来たのか分かってて聞いてるでしょ?」

 

「さて?なんのことでしょう?」

 

「依頼人の情報は漏らさないってこと?」

 

「ご存じならなによりです」

 

いつもと変わらぬ笑みを浮かべて平然と答える露、こうなればなにを言ってもはぐらかされるのは今までの経験からよく知っている

 

「はぁ…もういいわよ」

 

ため息をついて諦める、このままでは暖簾に腕倒しだ

 

「ありがとうございます。ところで桐間さん朝御飯食べました?」

 

「食べたわよ…うっ」グー…

 

言いきる前にシャロのお腹が空腹を訴える

 

「早起きしたから食べてないってところですか?」

 

「流石探偵ね」

 

「もしよければ今から朝ご飯なんていかがです?メイド先から美味しいジャム持ってきましたし」

 

「…今回はそれで許してあげるわよ」

 

「ありがとうございます♪」

 

そうして二人は事務所に入り、後に一緒に登校する…その光景をみたリゼが驚くまで後数時間

 




今回の報告書!

リゼ「まさかシャロと露も幼馴染みだったとはな…」

千夜「あの二人は昔から仲良しなのよ~」

リゼ「私のアイデンティティーが…」

ココア「出会いは千夜ちゃんと一緒だよね?」

千夜「そうね、あんこ探しで、でもあの二人は…ふふっ」

チノ「謎の笑み!?」

ココア「なにがあったの!?」

また次回!


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依頼その6 お嬢様のお迎え→無効になったので報酬なし

お気に入り数が10人を突破しました!
評価にも点数をつけてくださった方もありがとうございます!!

これからももっと頑張るのでよろしくお願いいたします!!

後自分承認欲求オバケなので感想はずっと待ってます!!よろしくお願いします!!




冷たいフローリングの上で横になっているままで露が目覚めた…それと同時にこれは夢だと理解する

 

昔からこの夢を何度も見ているのだから分かる

 

視界に映る部屋は物と写真があちこちに散らばっている部屋

 

そしてその部屋の中心にある机に座り、楽しげに話す女性がいる

 

しかし、その女性の向かい側には誰もいない、机の上にはすっかり冷めた料理が並べられていた

 

そして、女性がこちらを向いて言い放った

 

『あなたじゃない』

 

それと同時に視界が暗転し、身体は暗闇の中を落ちていく

 

 

「ッ!!…痛ッ…」

 

そんな夢見の悪い夢から今度こそ本当に目覚めると同時に痛みに顔をしかめ、右肩を抑える

 

「…そうか、雨」

 

窓の向こうから見える天気は大雨、雨の日はこうして古傷が痛む

 

それに加えて先ほどの夢、気が落ちるのも無理はない

 

「あれは一体…あ、時間が」

 

古傷が痛もうが、気分が落ちようが起きなくてはならないし、学校には行かなくてはならない

 

今日の気分的にズボン型の制服に着替え、左手に鞄を持ち、右手に傘を指し、気分と共に落ち込む姿勢で向かうは学校…その途中

 

「露!」

「桐間さん」

 

水溜まりを避けながらシャロがやって来た

 

「どうしたんですか」

 

「別になんでもないわよ…はい」スッ

 

「?」

 

なんでもないと言いながら傘の持ってない方の手を差し出すシャロ、当然なんのことか分からないので

 

「足りないかもしれませんが」チャリン♪

「なんでお金よ!?」パシンッ!

 

とりあえずポケットの中にあった小銭を渡したが違うようだ

 

「いや、募金でもしてるのかと」

「なんの募金よ!?」

「恵まれない桐間さんへの」

「アンタに言われたくなーい!」

 

…で

 

「なんの手なんですかそれは」

 

「傘か荷物貸しなさいよ…腕痛むんでしょ?」

 

「!よく分かりましたね」

 

「分かるわよ…何年の付き合いと思ってるの?」

 

「…そうですね」

 

そんな会話をする二人の脳裏に…ある日の記憶が甦る

 

あれは昔のこと

 

いつも通りあんこを探している時、突然降ってきた雨から逃れるために近くの公園の遊具で雨宿りしている時のことだった

 

「どうしよう…このままじゃお家に帰れない」

 

雷まで落ちそうな天気を見て不安なシャロ

 

千夜とは途中ではぐれてしまったのでそちらのことも心配だ

 

「千夜も大丈夫かな?ねぇ露…露?」

 

ここまで手を引いてくれた露に話かけるが返事がない、振り返り露の方を見ると

 

「ッ!…痛い…」

 

腕を抑えて痛みを必死に堪える露がいた

 

「露っ!!どうしたの!?痛いの!?」

 

「だい、丈夫、いつも、だから」

 

「い、いつも?こんなに痛そうなのに?」

 

額に汗が浮かべ、息も荒くなっていく姿に瞳に涙が浮かび始める

 

だって、大切でいつも助けてくれる友達がこんなに苦しんでるのになにもできないことが、辛かった

 

だからこそ

 

「露…ッ!!」ダッ!!

 

「!?シャロ!?」

 

シャロが遊具から飛び出す

 

露は慌てて雨宿りしていた遊具の少し前で雨に打たれながらそのシャロを止めたが、それでも走ろうとするのを必死で止める

 

「どこ、いくの!?」

 

「おばあちゃん呼んでくるの!それか私のママ!」

 

「でも、雨」

 

「でもだって、このままじゃ!露が…露がぁぁ!!!」

 

そのままついに泣き出したシャロ、それに対して露は腕は痛いわ雨に濡れるはそれでも慰めなくてはならないと四苦八苦

 

結局千夜のお父さんが迎えに来てくれて、シャロと露は揃って風邪をひく羽目になった

 

…そんな記憶と共に、もう一度シャロと向き合う

 

「もう昔ほど痛いわけじゃないですよ」

 

確かに痛むのは痛むが、昔ほどではない

 

ありがたい申し出を断ろうとしたが

 

「それでも、よ」

 

露の手から傘を取り、代わりに差す

 

「それこそ昔からやってることじゃない」

 

そう、あの日から雨の日はこうしてシャロが世話を焼いてくれるようになった

 

ある時はカイロを持ってきてくれたり、痛み止めをくれたり、痛む腕を抱き締めてくれたり…本当に昔から変わらない

 

こうなったら梃子でも動かない!と、言わんばかりのシャロを見て思わず顔を伏せ、ため息が溢れた…が

 

「…」ニッ

 

ため息を溢れて後の頬には笑みが浮かんでいた

 

「なら、ありがたくお願いしま…」

 

ガサッ、姿勢を正してお礼を言おうとした言葉を遮った音は露の頭から聞こえた

 

シャロ→身長151センチ「…」

露→身長170センチ「…」

 

※身長差から露が背筋を伸ばしたことで傘に頭を突っ込んだ 

 

「…傘持つので鞄お願いしても」

「そのほうがいいわね…」

 

なんとも微妙な空気となってしまったが幼馴染み二人、仲良く登校することにした

 

…が、そんな二人の姿を見たお嬢様学校の皆は新たにシャロと露の関係について色めき立つのであった

 

 

帰りも送るから!とシャロは言ってくれていたが今日シャロは千夜とラビットハウスに向かうと聞いていたので断り、それでも来そうだったので強行手段として全力ダッシュで帰った

 

リゼは今日バイトなので屋敷にはいないが、それでも今日は依頼が入っていないのでメイド服に変身し、掃除をしていたのだが

 

「はい回収~」

「狩手さん!?」

 

本棚の埃を落としていたら、はたきをユラに盗られた

 

「リゼのお父さんから伝言、今日は休めって~」

 

「皆さん心配しすぎですよ」

 

この屋敷の皆は露のことを知っているので皆心配しているのだ

 

「来た時から右腕かばって動いてるんだからバレバレなんだよね~」

 

「!、私もまだまだですね」

 

「そういうこと、それでも働きたいなら依頼してもいい?」

 

「依頼ですか?」

 

「そ、友人としてお願いしたいところだけど流石にこの件に関しては正式に依頼しないとね」

 

「狩手さんがそこまで言うとは…依頼内容は?」

 

「それは…」

 

 

ザーザーと雨が降りしきる中

 

「…」ザッザッザッ

 

傘をさして露は歩く、向かう先はラビットハウス

 

ユラからの依頼は『リゼを迎えに行ってほしい』

 

『まぁリゼも傘は持ってるけどこの大雨だからそれだけじゃ不安だし、一応仕えてる立場の人間を迎えに行くわけだから友人の頼みごとじゃなダメでしょ~』

 

報酬は後で聞くから考えながら帰ってきて、と言われて傘と共に屋敷から追い出されたのだ

 

「(まぁ依頼として筋は通ってるし、この大雨の中で一人で帰らせるのも不安ですしね)」

 

慣れた道を進むと見えてきた見慣れたお店についた

 

いつものように店内のドアを開けて入店、そこにはいつものチノ達ではなく

 

「やぁいらっしゃい、露君」

 

「お久し振りですタカヒロさん」

 

チノの父、タカヒロが露を出迎えてくれた

 

傍らにはティッピーもいる

 

「バータイムに来るのも久しぶりです」

 

そのままカウンター席に座る。お客も今は少ないのだから少し位話してもいいだろう

 

ラビットハウスは昼は喫茶店だが、夜はバーに変わり、当然提供するのはコーヒーからお酒に変わるのだが露は以前ここに訪れていた

 

「そうだね、君がまだまだ小さい頃はよく晩御飯を食べにアイツと来ていた」

 

「…はい」

 

タカヒロの言うアイツ…父に連れられて露はこのバータイムのラビットハウスには訪れていた

 

「アイツから連絡は?」

 

「なにもありません」

 

「…そうか」

 

この口ぶりから分かるようにタカヒロと露の父は昔馴染みらしい

 

昔気になったので聞いてみたが「色々とあってね」とはぐらかされてしまったのでそれ以来聞いていない

 

「君があの屋敷の世話になってだいぶ経つ…どっちが君を引き取るかどうかでケンカになったがね」

 

「ははは…ありがとうございます」

 

タカヒロと露の主人でもあるリゼの父も昔の親友で、露の父も当然親友だ

 

朧気に覚えている父が二人と話している時はいつも楽しそうだったと記憶している

 

「それで今日はどうしたんだい?注文があるなら聞くが?」

 

「じゃあギムレットを」

 

「こらこら未成年だろう」

 

「後少しで飲めますし、それに前から探偵の仕事で飲ん「今のは聞かなかったことにしておこう」あっ、どうも」

 

「それで?本当の用事は?」

 

「お嬢様いますか?」

 

「あぁ、今はチノの部屋にいるよ。いくかい?」

 

「はい、迎えに来たので」

 

スタッ、席を立ってラビットハウスの住居スペースに進む

 

その露の背中を見て…

 

「少し見ない間に随分と似てきたと思わないか?なぁ親父」

 

コップを拭きながら語りかけるタカヒロ、その声に答える人はいないはずなのだが…

 

「全くじゃ、後を追ってるようじゃの」

 

いつかのダンディな声が答えた

 

「止める気はないんだろう」

 

「お前もな」

 

「止まらないだろうしな」

 

「分かっておるじゃないか」

 

アイツそっくりのあの子が俺達の制止を聞くわけがないんだよなぁ、珍しく酔ったリゼの父がこの店で愚痴ったこと

 

その時はからかい半分に答えていたが、こうして見ると間違いない

 

父に憧れて探偵となった露はいつか…

 

「…野暮な話はやめるか」

 

「じゃの、なるようになれじゃ」

 

結局のところ見守るしかないのだと、大人達は切り替えるのだった

 

…一方その頃露は

 

「あらお嬢様童心に帰られ過ぎでは?」

 

訪れたチノの部屋、そこにらチノとココアと件のリゼがいたわけなのだが…

 

「んなっ!?こ、これはジャンケンで負けただけだ!?」

 

なぜかチノの中学の制服に身を包んでいた

 

「いやでもあちこちパッツパ「それ以上言うなぁ!?」おっと」

 

余計な一言を言おうとした露に怒りのCQCを仕掛けたリゼを軽く回避して

 

「え?今日はお泊まりなんですか?」

 

「あぁ、さっきウチに連絡した時にユラからお前のことは聞いてたよ」

 

今日はこの大雨でラビットハウスの三人+遊びに来ていて今は風呂に入っている千夜とシャロでお泊まりとなったそうだ

 

「そうですか、それじゃあ私帰ります」

 

「えぇ!?露ちゃん!?」

「この大雨ですよ!?」

 

立ち上がって回れ右、ドアに向かって歩くところをココアとチノに止められる

 

「露ちゃんも泊まっていきなよ!」

「着替えもお貸し…できませんが父のならありますよ!」

 

当然露のことも誘ってくれる二人だが…

 

「もう知ってるでしょうが狩手さんにこのことを報告しなければ行けないので」

 

「そっか、お仕事だもんね」

「なら仕方ありませんが次は是非」

 

そう言って断る

 

露の仕事への頑固さを知っているのでこれほどれだけ誘っても乗ってこないと理解して諦めた

 

「それに皆さんのお邪魔はできませんよ。ではそういうことで」

 

そう言ってから今度こそ帰ろうと振り返った、その時

 

パシッ

 

「!、お嬢様?どうかなさいましたか?」

 

リゼがその手を掴んだ

 

「邪魔じゃないからな」

 

「え?」

 

「私たちはお前がいたって邪魔じゃない。むしろお前がいないと落ち着かないくらいなんだからな」

 

「!」

 

「この間は相変わらず何て言ったけどこれからはお前がそう言う度に私は邪魔じゃないって言い続けてやる。

 

今日は見逃すけど今度からはこういかないからな!」

 

パッと手が離された

 

「それじゃおやすみ」

「おやすみー!」

「おやすみなさい」

 

「…はい、おやすみなさい」

 

そうして傘をさしてもう一度すっかり暗くなった街を進む

 

露が去った後のチノの部屋では、

 

「リゼさんがあんなこと言うなんて意外です」

 

「そうか?…いや、そうかもな」

 

リゼはココアに視線を移す

 

「?私がどうかしたの?」

 

「千夜にシャロにユラ…それからなによりココア…ライバルが増えて私もウカウカしてられないってとこだよ。最近出し抜かれることも多いし」

 

「えぇ!?私!?」

 

「そうですね…私も頑張ります!!」

 

「そうだな、互いに頑張ろう!」

 

「チノちゃんまで!?っていうかライバルってなんの!?」

 

結託する二人に困惑するココア、リゼはそんなココアを見て

 

「(露の傍は心地がいいこと、それがココアにも分かる日が来るよ…けど)その時は負けないからな」

 

「宣戦布告された!?ますます何!?」

 

そう思ったけど、きっと言ったらココアは強敵になるから言わない

 

 

結局その後屋敷に戻り、ユラに今回のことを伝え依頼は無効となり、その日はユラの作ったご飯を食べて事務所に帰った。  

 

それから数日して皆…露を除いたメンバーが温泉プールに行くこととなったらしくリゼが屋敷を留守にしていたある日のこと

 

「リゼは後輩連れてプールいったらしいけど露は行かないの?」

 

スッ、パサッ…ユラが露の手からトランプを抜き、数字の揃ったカードを捨てる

 

「それ分かってて聞いてるんですよね」

 

スッ、パサッ、今度は露がカードを抜き、捨てる

 

屋敷の仕事があらかた終わったので暇潰しに二人でババ抜きをしているのだ

 

もちろん二人なのですぐにカードが揃い、どんどん捨てていく

 

「だとしたら少々性格が悪いかと」

 

「別に~ただ気にしてるんだなと思っただけ」

 

続いてユラがカードを抜く…前に露の右肩を指差す

 

「見て気持ちのいいものじゃないでしょう」

 

ズイッ、早く引けと手札を前に出す

 

「それならそれで水着あるんだからそれ着ればいいのに」

 

「それでも、ですよ」

 

「なんか棘のある言い方、最近誰かに言われたの?」

 

「幼馴染みに少々」

 

「ふーん、噂のもう一組の幼馴染みね。この浮気者」

 

互いのカードはもう残り少なく、露の手札は2枚、ユラが3枚

 

スッ、パサッ、その露の手札からユラがカードを抜き…手札を捨てる

 

露、残り1枚、ユラ残り2枚

 

「誰が浮気者ですか」

 

この時点でジョーカーをユラが持っているのは確定なので慎重に選ぶ

 

「…私はリゼもだけど露のことも独り占めしたいと思ってるから」

 

ピタッ、カードを選んでいた露の手が止まる

 

「きっとみーんな思ってるよ。露ともっと一緒にいたいって…露がそれに気づいてないわけないよね」

 

「…なんでそんなに」

 

「それは露にたくさんもらってるからじゃないかな。少なくとも私とリゼはね」

 

出会った頃は自分の主人の知り合いの子だった…けどそんな子が自分が護衛として仕えていたリゼと自分を繋いでくれて、親同士の立場なんて忘れさせて自分達を幼馴染みにしてくれた

 

今でこそ照れもあってそのことを隠すかのように茶化してしまうけど…そのことにすごく感謝している

 

そしてここに住み始めて傷ついて弱っていたあの頃を知っているからいつだって心配してしまう…いなくなったあの時のことを思い出すから

 

中学の頃に露が自分と同じリゼに仕えるメイドとなった時はお揃いのようで嬉しかった、それは他の人にはないユラだけの特権だった

 

なのに高校に上がると屋敷を出て探偵になった。ここに帰ってくる時間は減ったし、時折露は弱るし…正直気が気じゃない

 

だけど、今も昔も自分が困ったら、頼ったら、絶対に力になってくれるそんな露のことが大好きだから

 

「そんなの独り占めしたいなと、思っちゃうのは無理なくない?」

 

おやつのように仲良くわけあうことはできないから、手に入れようと画策する

 

けどそのことで傷つけ合うのはほかでもない露が嫌がるから絶対にしないし、したくない

 

だから時折周りを出し抜いて少しだけ独り占めする

 

「けど最近はそんなの気にせずガンガン行く子が来たみたいだからね。私もリゼも焦って「私が」ん?」

 

ユラの言葉を遮るように閉じていた口を開く

 

「私がお嬢様や狩手さんになにかしたとしたら…だとしたらそれは探偵としてです」

 

スッ、止めた手を動かしてカード抜く

 

それはハートのA、手札のダイアのAと合わせて捨てる

 

「だからそのことに見返りなんていりません。報酬としてなにか一品ご馳走してくれるだけで十分です。ただ友人からの頼みとなれば多少のことなら無償で助ける…それだけのことですよ」

 

まだジョーカーを持ったままのユラを真っ直ぐに見つめて答える

 

「だから、独り占めとかやめてください。私はこの街の皆の探偵なんです」

 

露は縛られたくない、この街で生きる人全てのために…そんな父を見て育ったからそんな風に生きたいのだ

 

「私たちは露と仲良くしたいだけなのに、ひどいなぁ」

 

「なんとでもどうぞ、私がどれだけ探偵の仕事に執着してるかは知ってるでしょう?」

 

「まぁね、ただ…」

 

ユラは手元のカードを裏返し、口許に当てた

 

「私は露にならお腹の底まで見せてもいいって思ってるってことは…覚えおいてほしいな」

 

いつかのように恥ずかしがることなく本心を告げた

 

そこに描かれているジョーカーが怪しくこちらを見てほくそ笑んでいるように見えた

 

「さて、そろそろリゼが帰ってくるし夕飯の仕上げしないとね…トランプの片付けよろしく~」

 

「なっ…狩手さん!?」

 

「そろそろその名字呼びやめなよ。それここに仕えてから始めたけど違和感あるから」

 

「今そんな話は「これからはユラって呼ばないと返事しないから」えっ」

 

「頑固なのは仕事だけにしてね。それじゃ」

 

「あっ狩手さんっ!」

 

それから何度か名前を呼んだが本当に一度も振り返らずに歩いていった

 

仕方なくトランプを片付けている最中ずっと露の心にはなにか靄がかかっていたことは言うまでもない

 

 

 




今回の報告書!

リゼ「やはりというかお前今回結構本性出してきたな」

ユラ「リゼに言われたくないかも、それにあの金髪の子も結構攻めてるね」

リゼ「シャロの場合は昔のこともあったかららしいけどな、それに千夜は店主さんと手を組んで甘兎庵に引き込もうとしてるしチノは自覚はないけど露を姉みたいに甘えてるしココアとはなにか不思議な縁があるっぽいし…」

ユラ「ライバル多…これは激戦の予感するねぇ」

リゼ「負けないぞ」
ユラ「私だって」

待ってて次回!!


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依頼その7 お悩み相談→ブレンドコーヒー

「それでは今回の依頼はこれで完了とさせてもらいます!そこちらにサインをよろしくお願いします!」

 

今日の依頼『好きなあの子に告白したい』を見事達成(告白の結果は惨敗)した露、サインをもらって意気揚々と事務所に戻る…その途中で

 

ピリリリリ♪

 

「!、はい!露です」

 

携帯が鳴ったので出た

 

今鳴ったのは仕事用の携帯ではなく私用の携帯電話で、その電話の相手はチノだった

 

「なにかありましたか?香風さん?」

 

『突然連絡してすみません。露さんに依頼があるのですが』

 

「分かりました!それじゃあ今から向かいますね!」

 

連続で依頼が入るのは慣れているので早速ラビットハウスへと向かった

 

カランカラーン♪

 

「いらっしゃいま、あ!露ちゃんだ!」

 

「こんにちは保登さん」

 

来店したラビットハウスで露を出迎えたのはココアで、リゼが今日休みなのは当然把握済みである

 

「もうっ!ココアでいいって言ってるのに~、もしくはお姉ちゃんでも可だよ!」

 

「いや、どっちも呼びませんよ。今日は香風さんの依頼できたのですが…」

 

店内を見回してすぐにチノを発見、熱心にコーヒーミルを回している

 

「すみません、コーヒーを淹れるのでカウンターに来てくれますか?」

 

「!、ならそれが報酬ということで」

 

「よろしくお願いします」

 

「!、チノちゃんが依頼だしたの!?どんな内容!?」

 

「依頼人の情報はなにがあっても漏らしませんので言いません」

 

「と言うわけでココアさんは暇なら店前の掃除をしてきてください」

 

「チノちゃんが冷たい!?」

 

カウンターに座り、渋々箒片手に出ていくココアを見送ってから本題にはいる

 

「それで今日の依頼はどうしますか?以前の続きですか?」

 

「そっ、それはまた今度お願いします。実は今回は相談したいことがあって…」

 

そうして今回の依頼『チノのお悩み相談』が始まる…その内容とは

 

「成長が止まった?」

 

「…はい、私の身長は小さいのではないかと最近…それにここも…」

 

そういってソッと胸に手を当てるチノ

 

「あー…」

 

その様子から悩みについてよく分かった

 

正直見た目だけなら完全に小学生くらいに見えてしまうチノ

 

身体についての悩みは誰にでもあること…

 

身近に下着がまた小さくなったというお嬢様と幼馴染みその1やどうせ身も心も財布も貧相よ!と嘆く幼馴染みその2がいたりするのでこの手の話しはよく聞いている

 

ちなみに露はというと…

 

「露さんは背が高いですよね」

 

「まぁ周りの皆さんに比べればそうかもしれませんね」

 

「ちなみに私くらいの頃はどうでしたか?」

 

「中2の頃はお嬢様より低かったですよ?」

 

「そうなんですか!?」

 

「はい、確か155センチ位でしたし」

 

「それでも今の私より高いです…」

 

「あらら、でも中3から現在にかけて伸びまして今は確か170センチ位です」

 

「そうなんですか!?」

 

「はい」

 

「なにか秘訣があるんですか?」

 

「秘訣ですか?…んー」

 

食生活…言われるまでもなく酷いときは酷い

 

睡眠時間…依頼が立て込んだりすると事務作業が重なるので日によってバラバラだし休日は夜中まで起きて昼間まで寝る

 

生活環境…お屋敷は言わずもがな事務所も空調や寝具や家具なんかもいいものが揃っているので(インフラ関係も)生活においてストレスはあんまりない…が

 

結論、そこまで気にしたことない、勝手に大きくなった

 

「別に…はい、なかったですよ?」

 

「すごく間がありますよ!?」

 

「あー…でも父の遺伝はあるかもしれません」

 

「お父さんのですか?」

 

「はい、すごく背が高かったんですよ。よく頭ぶつけてました。それにこのスーツもまだまだ大きいですから」

 

「そのスーツお父さんのものなんですか?でもぴったりに見えますが…」

 

「はい…といってもクローゼットにあったのを勝手に着てるだけです。サイズの方はこれ手直ししてるんですよ。ほら」

 

いつも仕事で着ているジャケットを脱いで裏地にある縫い目を見せる

 

「本当です…これは露さんが?」

 

「いえ、これはお嬢様と狩手…ユラさんが」

 

「リゼさん達がしてくれたんですね」

 

「はい。探偵始める時に姿見の前でこれを着てみたんですけど、ブカブカだったのを見たお二人が私たちからの祝いだって」

 

「そうだったんですね。その帽子もお父さんからですか?」

 

スーツはちょくちょく違うものを着ているのは知っているが帽子だけはいつも変わらないハット帽を被っている

 

その事から余程大切なものなのだろうと聞いたのだが

 

「これは父の助手になった時に私がせがんでもらったものなんです」

 

「露さんがですか?」

 

「はい、初めて依頼についていった時に私も帽子がほしいって、お願いしたんです」

 

そうして父は苦笑しながらその時被っていた帽子を被せてくれた

 

「『この帽子がぴったりになったら一人前だな』ってそう言って」

 

「そうなんですね…でももう帽子はぴったりですから露さんは一人前ですね」

 

そうしてはい、どうぞと露の前にコーヒーを置いたチノ

 

「どうですかねぇ…」

 

少し前払いの報酬としてそのコーヒーを1口飲み、ホッと一息つき…

 

「でもまだ解決してない依頼あるんですよね」

 

「あっ、それは」

 

ニヤリと笑ってそう呟くと共にチノは慌てる

 

「もうっ露さん!」

 

「あははっでもどうですか?そろそろあの時の「あの時ってどの時の!?」!?保登さんっ!?」

 

露の座ってる席のすぐ横に下からススッと現れたココア

 

露もチノも全く気づかなかったので驚く

 

「いつからそこに!?」

 

「驚かせようとしてこっそり入ってきたの!!」

 

「なんのサプライズですか…」

 

「それで?なんの時の依頼なの?」

 

「依頼人の情報は…って内容言わなければ別に大丈夫かな」

 

「露さんっ!?」

 

「実は私が今までに受けた依頼の中で一つだけ達成できなかった依頼があるんです」

 

「!、露ちゃんに解決できなかったの!?」

 

「はい…ね?香風さん?」

 

「うぅ…」

 

露の目配せに顔を真っ赤にして頬を押えるチノ

 

「もしかしてその依頼人ってチノちゃんなの!?どんな依頼なの!?」

 

言うまでもなくその通りなのだが…

 

「これ以上は情報に関わるので言えません」

 

これ以上はなにも言わないことにした

 

「えぇー、気になるよ~!ねぇチノちゃん教えてー!!」

 

「い、嫌です!それより仕事してください!!」

 

「そんな~!お姉ちゃんに教えてよー!!」

 

「嫌です!!」

 

探偵を始めた頃にチノから受けた依頼、今まで受けた依頼でそれだけは解決できなかった

 

だからいつかその依頼にリベンジしたいと露は思いながら、ドタバタと店内でおいかけっこをする二人を微笑ましく見た時に気づいた

 

「!、そっか」

 

心残りの依頼…それを解決する鍵はココアだ

 

「んん?どうしたの露ちゃん?」

 

「保登さん、私からお願い…依頼してもいいですか?」

 

「えぇ!?露ちゃんが私に!?」

 

「はい、保登さんに依頼です」

 

「どんなの!?なんだってやっちゃうよ!!」

 

「簡単な依頼ですよ」

 

露からの依頼に大興奮のココア

 

それに対して露は自分の帽子をとり、ココアに被せる

 

「??」

 

「私ができなかった依頼を保登さんに託しますね。もちろん協力は惜しみませんから」

 

「!、分かった!チノちゃんの依頼がなにか全く分からないけど分かったよ!まかせて!!」

 

「(発言が支離滅裂…!!)」

 

やる気十分のココアと驚嘆のチノを余所に露はにっこりと笑いながら帽子を取って被り直す

 

「頼みますね。報酬は「お姉ちゃんって呼んで!!」そんなことでいいんですか!?」

 

「私にとってはなによりの報酬だよ」

 

「ならよろしくお願いしますね…さて、そろそろ今回の香風さんの依頼に取りかかりましょうか」

 

「!、はい!よろしくお願いします!」

 

色々と話し合った結果、最終的に早寝早起きとしっかり栄養をとる!という結論に至りましたとさ♪




今回の報告書!

ココア「身長はともかくお胸の方はどうしようか?」

チノ「ここも遺伝的に考えると母は…あぁ…」

露「んー乳製品を多く食べるとかバストアップのストレッチをするとかですかね?」

ココア「リゼちゃんや千夜ちゃんもしたのかな?」

露「お嬢様と宇治松さんは私が育てたからですかね」

ココア、チノ「!?」

露「あーけど桐間さんは育たなかったからやっぱり個人差なんですかね~」ワシワシ

ココア「待って!?軽い衝撃発言と擬音を残して次の話題に行かないで…って違う!?話題が変わってない!別の衝撃が来た!?「露さん!!お願いします!!」チノちゃんっ!!?」


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メイド業 お嬢様の送迎→晩御飯用意

露が解決できなかったチノからの依頼をココアに託してからしばらく経ちました

 

もちろんその間に色々と依頼(失せ物探しやペット探しなど)がありました。

 

リゼ達も色々あったそうですが…それは割愛

 

「お待たせしましたお嬢様」

 

そして今日は執事の服でリゼの元に夕食の配膳を行う

 

ユラ特製の晩御飯はとても美味しそう…だが

 

「あ、ありがとう」

 

それを今から食べるリゼはどこか浮かない顔

 

「?どこか具合でも悪いのですか?」

 

「い、いや!?なんでもないぞ!?いただきます」

 

露に心配され、誤魔化すように慌てて食べ出したが…

 

「…」ジーッ

 

「な、なんだよ」

 

「いつもより食べるの遅いなと思いまして」

 

「うっ、じ、実はダイエット中「ウエスト変わってないのになんのご冗談ですか?」なんで分かるんだよ!?」

 

「探偵だからですよ…それよりお嬢様」

 

探偵であっても分かるわけがないということはさておき、今だけは主従関係を少しだけ捨てて手を後ろに組み、視線はギロリとリゼを睨む

 

「正直に仰ってください」

 

「うっ…か、仮にも仕えている相手にお前「私を雇っているのはあくまでもご主人様なので」うぐっ」

 

「無駄口叩くのはやめて早く答えてください…質問は既に拷問に変わっていますよ」

 

「ご、拷問!?なにするつも「ここで私のでばーん♪」ユラ!?いつの間に!?」ガシッ

 

リゼの背後にいつの間にか現れたユラがリゼを羽交い締めする

 

「追加の料理持ってきたら露が後ろ手でハンドサイン送ってたから~♪」

 

手を後ろ組んだのは、背後にいるユラの存在に向かってリゼにバレないようにサインを送るためだった

 

「ハンドサイン!?お前らいつの間にそんなものを!?」

 

「私と狩「露?」…ユラさんのハンドサインです…最近暇潰しに考えまして」

 

「即興だというのに見事な連携だっ!それでもはーなーせー!!!」ジタバタ

 

「おっとっとっ5分…3分ともたないから早めにお願い」

 

リゼの必死の抵抗になんとか耐えるユラ

 

「はい、準備完了」ガシッ

「んが!?」

 

どこからか取り出したビニール手袋を装着し、その手でリゼの頬を抑え、親指を口内に入れる

 

しっかり抑えられていて尚且つ指を入れられているため閉じることもできない

 

そしてそのままリゼの口内をジッと見る露

 

「あっ、あぅ…」カァァ

「うわっ、これなんてプレイ?」

 

羞恥によりどんどん赤面していくリゼに目もくれず露はなにかを探し…遂に

 

「あった、右上七番」

「!?」

「おっけ、予約とるね」バッ

 

その言葉と共にユラは拘束を解除し、スマホを取り出す

 

「お前ら何を「何時にする?」おい!」

「なるべく早い方がいいので明日のバイト後に」

「了解、迎えはどうする?」

「私が行きます。幸い依頼もありませんので」

「もしも入った時は私が行くね」

「よろしくお願いします」

 

淡々と交わされる二人の会話…それを聞いたリゼは今度を顔を青ざめる

 

「待て、予約ってまさか…」

 

「決まっているでしょう」

「決まってるよね」

 

しかしそんなリゼに容赦なく二人は宣告した

 

「「歯医者さん」」

「くっ!!」

「「虫歯」」

「ぐっ!!」

 

容赦ない口撃に口元を抑えて苦しむリゼ

 

そう、先ほど露が探していたのはリゼの虫歯になってしまった歯である

 

症状的に最近できた様子だが…

 

「どうせ歯医者さん怖いからすぐにいかなかったんだろうね」

「そうですね、全くもう高校生だというのに…」

「うぅ…そんなに言わなくても…」

 

リゼは歯医者さんが苦手なようだが…それでも二人は口撃の口を緩めない

 

「巨乳」

「ツンデレ」

「ミリタリー好き」

「実は可愛い物好き」

 

「ぐはぁっ!?…ってもう関係ない!?」

 

そうして容赦ない連続口撃与えてから…

 

「冗談はこのくらいにして、明日お迎えに行きますので…お覚悟を」ゴォォ

 

「ひぃぃ!!」ガタブル

 

「こうなった露はマジだね~」

 

逃げないように軽く脅しをかけておき…で翌日、ラビットハウス

 

「お嬢様~、少し早いですがお迎えに上がりましたよ」

 

昨日と変わらず執事の服装で来店した露だったが…

 

「あっ露ちゃん!いつものスーツとメイド服も似合ってるけど今日の格好も素敵だね!!それから聞いて!!2人が無理してるの!!」

 

ココアがリゼとチノに向かってなにやら説教していたようだったが、来店した露に向かってマシンガントークを放つ

 

「こんにちは保登さん、お褒めに預かりどうもあの服は全部気に入ってるものなので嬉しいです。それからお嬢様の無理は自業自得なのですが香風さんはなにかあったんですか?」

 

そのマシンガントークに一切怯むことなく答えた

 

「すごいです露さん」

 

「まぁ職業柄話を聞くことは多いので…それで?なにかあったんですか?」

 

「あのね!チノちゃんもリゼちゃんもお腹鳴らしながら虫歯の我慢とダイエットしてるんだよ!」

 

「へぇ…」ジトッ

「うっ」

 

「露ちゃんからも言ってあげて!リゼちゃんは痩せてるしチノちゃんは早く歯医者さんに行きなさいって!」

 

どうやらココアは勘違いしているようで、露はそれを一瞬で理解した

 

「なるほど、そういうことでしたか「リゼ先輩!」桐間さん」

 

勘違いを解こうと口を開いた露を遮って店にやってきたのはシャロ

 

どうやらリゼに手作りの低カロリーお菓子を持ってきたようだが…?

 

「保登さん、桐間さんになにか言いました?」

 

「うん。最近チノちゃんとリゼちゃんの様子がおかしいって相談して、そしたらチノちゃんが虫歯なんじゃないかって」

 

なにがきっかけかは分からないがチノとリゼの様子の変化に気づいたココアがシャロに相談して、チノ=虫歯ということに行き着いたようだ

 

「…ってことは宇治松さんにも?」

 

そうすると当然ココアと仲良しの千夜も浮かんできたので聞いてみる

 

「うん、もしかしたらリゼちゃんがダイエットしてるんじゃないかって」

 

「なるほどなるほど…はぁ…」

 

その相談の結果リゼ=ダイエットに行き着いたのだ

 

ため息を一つこぼしそして目の前で繰り広げられる

 

「貧乳ぽっちゃりは去りますー!」「なんだそれ!?」「待ってくださいシャロさんは太ってないです!!」…というてんやわんやなやり取りを見て

 

「ウチの幼馴染みがごめんなさい」

「なんで露ちゃんが謝るの!?」

 

とりあえずココアに謝ったのだった

 

 

騒ぐ一同をなんとか治め、全員座らせて露が説明する

 

「まず保登さん、貴女は昨日香風さんとお嬢様がパンの試食を行ってくれないことに違和感を覚え、宇治松さんと桐間さんに相談してそれぞれ虫歯とダイエットに悩んでいると判断したんですね?」

 

「うん!だから色々したんだけど…」

 

「その心は間違っていませんよ。続いて桐間さん、保登さんからの相談を受けてお嬢様の身を案じてお菓子を持ってきたと?」

 

「えぇ、先輩に無理してほしくなくて…」

 

「お嬢様に優しい心遣いをありがとうございます」

 

情報をまとめ、事実確認を行っていく姿を見て…

 

「露さん探偵みたいです」コソコソ

「いや、アイツ一応探偵だからな」コソコソ

 

コソコソ話をする2人

 

「保登さんと桐間さんの証言と私の情報を合わせて考えるに保登さんの考えは半分合ってますね」

 

「ほんとに!?」

 

「えぇ、ただお悩みは反対…違いますか?」

 

「っ…その通り、です…」

「そりゃあ隠せないよな」

 

「ちゃんと自分達のお口で言ってください?お二人に振り回された保登さん、桐間さん、私の前でさぁどうぞ?」ゴゴゴ

 

「私がダイエットしていました…」

「私は虫歯になりました…」

 

正直に話したダイエットをしていたチノと虫歯になってしまったリゼ

 

「えぇ!?逆だったの!?」

「そういうことだったのね」

 

その真実に驚くココアとシャロ

 

「お嬢様に関しては私も昨日気づいたばかりですが…香風さんがなぜダイエットを?」

 

ついこの間きちんと栄養をとると話ばかりだというのに…

 

「ごめんなさい…でもココアさんが私のことをふわふわふかふかだと…」

 

「ふわふわふかふか?」

 

「それココアがチノにハグする時によく言ってることだな」

 

「なるほど、それで自分が太ったと?」

 

「はい…」

 

「あれはそういう意味じゃ…!私のせいだぁー!!」

 

自分がチノの悩みの発端だと気付き悶絶するココアを余所に露は…

 

「…ふむ」

 

「?露さ「よっと」!!?」ヒョイッ

 

チノの前に進み、そのまま抱き上げる(お姫様抱っこで)

 

「あ、露さん!?」

 

「ほら、香風さんはこんなに軽いですよ」

 

チノを抱き上げたまま、くるりと一回転

 

「子ども扱いはやめてくださいっ」

 

「子ども扱いではなく女の子扱いですよ。そして女の子だからこそそんなこと言われたら気にしますよね。けど無理なダイエットで香風さんが倒れたりしたら悲しいです」

 

「露さん…」ドキドキ

 

見た目は完全に少女漫画のソレ、更に今までにないほどの露からのスキンシップ&甘い言葉にチノの胸が高鳴る

 

「今はとにかく栄養を沢山蓄える時期です。大丈夫、絶対に素敵な女性になれますよ。」

 

「なんでそんなこと分かるんですか?」

 

「だって…」

 

スッとチノの耳元に顔を近づけて囁く

 

「今ですら香風さんは可愛いですから…ね?」

 

「!!!」ズキューンッ!!

 

その言葉でチノは完全に射貫かれたようで、顔を真っ赤にしながら口許を抑える

 

「だからもうダイエットはしない、もしもするなら是非ウチに依頼する…約束してくれますね?」

 

「は、はい」

 

しれっと探偵業を宣伝しつつ、チノを下ろす

 

「はぅぅ…」フラフラァ

「チノちゃーん!?」

 

そのまま倒れてしまいそうになったチノをココアが支えたのを確認してからリゼに視線を移す

 

「さて、それじゃあお嬢様行きますか」

 

「お前そういうとこあるよな…」

 

「話そらさない、ほら早く着替えてきてください」

 

「分かったよ…行ってくる」

 

更衣室に向かったリゼを見送るとシャロがため息をつく

 

「はぁ…大騒ぎしたけど蓋を開けてみればこういうことだったのね」

 

「そういうことになりますね。お疲れ様です」

 

「でも今回は私の一言もきっかけの一つになったみたいだし、少し反省だわ」

 

「別に反省しなくても…あ、そうだこれから桐間さんも歯医者さんいきます?」

 

「?なんで私も?」

 

「後輩がいた方がお嬢様は逃げないと思うので」

 

「どういう理屈よ…そういえば今さらだけど露は本当にリゼ先輩のメイドなのよね」

 

この前に千夜から聞いたそうです

 

「兼執事でございますが」

 

「ぐっ、羨ましい…」

 

「?なんでですか?」

 

「シャロちゃんは前にリゼちゃんに危ないところを助けてもらったんだって」

 

ココアの説明で大体理解した

 

「もしかしてうさぎですか?」

 

「えぇ、あの時のリゼしぇんぱいは…本当に…えへへ…」

 

「ふーん…ならウチに就職します?」

 

「え?えぇ!?」

 

「ウチなら三食おやつつきですよ~」

 

「そ、それはつまりリゼ先輩とずっと一緒!?」

 

「ほぼほぼそうですね~」

 

「ぜ、是非…って違う!そんなの幸せすぎて耐えられない!!」

 

「そうですか」

 

「幸せも過剰にとっちゃいけないんだね~…あ、そうだ」

 

ちょっと待っててとココアも一度裏に引っ込み、なにかを持ってすぐに戻ってきた

 

「これこの間撮ったんだ。家に手紙と一緒に送ろうと思って」

 

それは写真で、そこに映っているのはラビットハウスの面々だけでなく甘兎庵やラパンでの皆の姿だった

 

「今度露ちゃんの写真も撮らせてね!」

 

「構いませんよ。それにしてもいい写真ばっかり…ん?」

 

そのうちの一枚を見て手が止まる

 

「?どうかしたの?」

 

「この写真は?」

 

「それは笑顔のチノちゃんの写真だよ!」

 

その写真には明らかに笑顔ではなく嘲笑の笑みを浮かべたチノだったが…これ見て露は確信する

 

「保登さん」

 

「なぁに?」

 

「貴女をお姉ちゃんって呼ぶ日はそんなに遠くないのかもしれませんね」

 

「え?」

 

「この調子でよろしくお願いします」

 

「ちょっと待って!この写真がチノちゃんの依頼と関わってるの!?」

 

「それは「おまたせー」さていきましょう」

 

リゼが戻ってきたので会話を切ってそのまま店を出ていく

 

「お、おい!先にいくなよ!」

「あっ先輩!待ってください!!」

 

それを追いかけるリゼとシャロと

 

「待ってよ露ちゃーん!」

「はぅぅ…」フラフラ

 

取り残されるココアとチノだった

 

…そうしてやってきた歯医者

 

リゼか治療中につき、受付で待つ二人

 

「そういえば露が虫歯になったとかって話はあんまり聞かないわね」

 

「んー、記憶の限りではないですね」

 

「でもまぁなりにくい体質ってのもあるみたいだからそうなのかもね」

 

毎日歯を磨いていても虫歯になったり、逆に疎かなのに虫歯にならなかったりと個人差がある…が

 

「あー、けど奥歯は差し歯ですよ。昔治療したみたいで」

 

「?そうなの?」

 

「はい、見ます?」

 

「いや見ないけど…なにかあったの?」

 

「ん?んー…あれ?なんでしたっけ?」

 

「覚えてないの?」

 

「んー…はい、あれ?そもそも何時そんな怪我したっけ?」

 

「覚えてないくらい昔ってことね」

 

「そういうことなんでしょうか?…でも、うーん…」

 

思い出せないことにモヤモヤしていると…

 

「た、ただいま」ゲッソリ

 

「おかえりなさいです先輩!」

「おかえりなさいませお嬢様」

 

「こ、これで終わりで大丈夫だそうだ…私はやりきった…ぞ…」

 

「はいはい、今日はユラさんはお休みですから明日にでもごちそうにしましょうね」

 

「それなら今日はお前のご飯が食べたい」

 

「!、ユラさんの方が美味しいでしょうに」

 

「たまにはいいだろ。今日私頑張ったんだし」

 

「…はぁ、帰り買い物付き合ってくださいね」

 

「あぁ!荷物持ちは任せろ!」

 

「あ、そうだ。桐間さんも来ます?」

 

「いいの!?」

 

「手伝ってくれると助かります」

 

「へぇシャロの手料理か、楽しみだな」

 

「はい!喜んで!!」

 

「それじゃあ帰りましょうか」

 

そうして三人は仲良くスーパーへと向かうのだった

 




今回の報告書!

ユラ「ふーん、私がお休みの日に限ってそんな楽しいことをしてたんだ」

露「お休みなんだから仕方ないじゃないですか。それにユラさんに悪いと思ってこうしておやつ用意してますし」

ユラ「おやつっていってもホットケーキじゃない」

露「嫌いですか?」

ユラ「混ぜて焼くだけじゃ「へぇーならこのハチミツはいりませんね?」!」→お屋敷にあった高そうなハチミツ

露「チョコソースにホイップクリーム、それに美味しい紅茶も用意したんですけどいりませんか?」

ユラ「うわぁ、カロリーエッグ」カタカタ

露「たまにはいいでしょう。今日はお嬢様もいませんし…昔みたいで」

ユラ「!、なつかしいね」

露「でしょう?」

この後めちゃくちゃホットケーキ焼いた


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依頼その8 人物調査→輸送委託

皆さん明けましておめでとうございます!

これからもよろしくお願いします!!


もうすぐ父の日!日頃の感謝をお父さんに伝えるためにプレゼントを探したり、お手紙を書いたりと皆忙しそうです

 

「ふぁー…あぁ…眠い」

 

訂正…義良露、この人を除いた皆が忙しいそうです

 

今日はメイドの仕事がないので、事務所で依頼を待っています

 

「こんな日に限って依頼はないんですよね~」

 

事務作業もないので先ほどまで宿題を片付けていたのですがそれも終わってしまい、暇をもて余していました

 

なんとなしに点けたテレビでは情報番組がやっており父の日プレゼント特集!というコーナーがやっていました

 

そしてそれを見て思い出します

 

「あ、そういえばもうすぐ給料日だ」

 

以前のこと(依頼その4参照)があってからメイド兼執事のお給料もちゃんと貰うようになった露

 

最近はラビットハウスに私用で行くことも増えました(甘兎庵とラパンにも来なさい!と千夜とシャロには怒られていますが…)

 

まぁとにかく給料日が楽しみなことは確かなので…

 

「今度はドアの修理…いや、そろそろスーツの新調を…でも机もボロくなってきたし…」

 

早速使い道を考えていたその時です

 

ジリリリリリリンッ♪

 

「!依頼!」

 

事務所の電話が鳴ったので早速出ました

 

「はいっ!こちら木組みの町探偵事務所、探偵の義良露ですっ!」

 

電話で依頼内容を聞き…早速今回の依頼人の元へと向かいました

 

コンコン♪

「失礼します」

 

ドアを開け、依頼人の部屋に入るその露の姿は探偵用のスーツ…ではなく、メイド服

 

「木組みの町探偵事務所、探偵の義良露です。今回はご利用いただきありがとうございます」

 

スカートの端を持ち、片足を引き、もう片足の膝を少し曲げて会釈する

 

「おう、よく来てくれたな」

 

依頼人のその声を受けて顔を上げて姿勢を戻す

 

「それでは今回のご依頼について詳しいお話をよろしくお願いします…ご主人様」

 

戻した視線の先にいる依頼人は露にとって恩人であり雇い主であるリゼの父だ

 

「コーヒーと紅茶、どちらになさいますか?」

 

「お前の好きな方でいい」

 

「では紅茶を」

 

慣れた手付きで紅茶を入れていき、机に置く。そしてその机を挟んでソファに座る

 

「それではまずご依頼の方を改めて確認させていただきます」

 

「あぁ」

 

折角淹れた紅茶にどちらも手を着けず緊迫した雰囲気で告げられるその依頼とは…!!

 

「今回の依頼は『娘が急にバイトを増やしたのでその理由を探ってほしい』ですね」

 

娘、つまりリゼが最近バイトを増やしたらしい…その理由を探ってほしいとのこと

 

「…お言葉ですが直接お聞きになさってはいかがでしょうか?」

 

「それができたら苦労しねーよ!」

 

先ほどまでの雰囲気がぶっ壊れてギャクの雰囲気へと成り代わる

 

眼帯にいかついスーツを着ている元軍人のリゼ父、でかい豪邸に住み、これまた厳つい若い連中を引き連れている男だが娘のことになると普通の親父だ

 

「金が必要ならいくらでも工面するが聞いても答えずで…しかも最近俺のワイン叩き割ったし…」

 

「あー…あれは悲しい事件でしたね」

 

リゼが父のワインを叩き割ったのはゴキブリが出たから(応戦にワインの瓶を使うのはどうかと思うが…)である

 

それの掃除したのはもちろん露だし、結局ゴキブリ退治したのも露だし、リゼに誤魔化しといてくれと頼まれたのも露である

 

ただゴキブリの応戦に使った…とは言えないし、ご主人様相手に嘘をつくわけにはいかなかったので

 

「リゼがカッとして割った、後悔はしてなかったって…お前から聞いた時どれだけショックだったか…」

 

「(誤魔化し方間違えたかな…)」

 

なんかもう色々めんどくさくなって適当に誤魔化したのがより事態をややこしくしたようだ…

 

「そしたら今度はバイト増やしただと!?もしかしたら家出のための軍資金を集めているんじゃないのか!?」

 

「いやそれはないかと」

 

「なぜ言いきれる!?」

 

「それは…」

 

そうして思い出すのは数日前、依頼を終えてからラビットハウスでコーヒーを飲んでいた時のこと

 

「今日も来てくださって嬉しいです」

 

「少しだけ懐が豊かになったので」

 

元々ここの常連の父と共に通っていたのだから頻繁に来たいくらいだったので、今割りと充実していると実感していた

 

「私も露ちゃんが来てくれて嬉しいな♪」

 

「保登さんに託した依頼がどうなってるかも気になりますし」

 

「本当に!?今どんな感じ!?」

 

「まだ達成率20%ってところですかね」

 

「そんな!?うーん、道のりは長いね」

 

「っていうか今更ですけど依頼の内容聞かなくていいんですか?」

 

「んー…チノちゃんが関係してる依頼なんだよね?」

 

「そうですね」

 

「それならなにも聞かずとも察してみせてこそお姉ちゃんだよね!!」

 

「えぇー…」

「露さん、これがどうしようもないココアさんです」

 

「それに下手に聞いちゃったら意識しちゃいそうだから、聞かないでおくよ」

 

「そうですね。ありのままの保登さんであればすぐに達成できますよ」

 

「ありのままの私?」

 

「その素敵な笑顔を振り撒き続けていただければ、きっと…ね?香風さん?」

 

「うっ…露さんは過剰に評価しすぎです!ココアさんにはできません!!」

 

「そんなー!!」

 

その時、バンッ

 

スタッフオンリーのドアが開き、リゼがやってきて開口一番で

 

「明日から私は短期で他店でもバイトすることにした!」

 

上記の宣言をした

 

ココア「リゼちゃんが軍人から企業スパイに!」

チノ「スパイなんて頼んでませんよ」

リゼ「軍人じゃないしスパイでもない」

露「そうなんですか!?」

リゼ「なんでお前が驚くんだよ!?」

 

…で

 

「それでなんでバイト増やすんですか?」

 

「いや、この間親父のワイン台無しにしただろ?」

 

「あー」

 

「それで父の日とお詫びを兼ねてそのワインをプレゼントしようと思ってな」

 

「なるほど、頑張ってくださいね」

 

…ということがあった

 

つまりリゼがバイトを増やしたのはご主人様兼今回の依頼人のためなのだが…

 

「(んー、こういうのはサプライズがいいと思うんですけど)」

 

ここで告げてしまうのは簡単だがそれでは意味がない、さてどうしたものかと頭を抱える

 

「とにかく頼む!報酬は望むものを出す!」

 

「そんな大人の財力をみせられても…とにかくお受けしますから」

 

とりあえず時間を作って上手く誤魔化すための方法を考えることにした

 

…次の日

 

「さて準備しましょうか」

 

事務所の住居スペースにある姿見鏡の前で髪を纏めて、ウィッグを着けて地毛の黒髪から茶髪にチェンジ

 

更にメガネをかけて普段はあまり着ないタイプの服を複数用意した

 

これから暫く潜入という形でリゼの臨時の短期バイト先に行くことにした

 

それなりに大変ではあるが今回の依頼でかかるお金は報酬とは別でリゼ父が出してくれることとなったので頑張ることにした

 

「(これから先探偵として食っていくならこういった費用のやりとりなんかは絶対に必要だから今のうちに練習しとけって言っていただきましたし)とにかく頑張るか」

 

…まずは甘兎庵から

 

隅の席に座り雑誌を開き、本日限定らしい抹茶の迷彩ラテアートを飲む

 

遠目で見るリゼはどうやら甘兎庵独特のメニュー名に苦戦していた※露はなんなく読めます

 

「(お嬢様頑張れ!)」

 

心の中でエールを送っておいた

 

次の日はフルールドラパンへ向かう

 

「いらっしゃいませー」

 

ラビットハウスでは見られない仕草と共にリゼが挨拶をしてくれた

 

若干恥じらいをもちながらも持ち前の抜群のプロポーションでラパンの制服を着こなすリゼ、そんなリゼに

 

「(やだ、このお嬢様かわいいっ)」キュンッ

「ってお前が照れてどうする!」

「すみません、なぜかいけないものを見た気がして…」

 

リゼと同じく顔を真っ赤にして照れるシャロ

 

「同意…」

「お客さま!?」

 

そして露は尊みを感じていた

 

そんなこんなで普執事&メイドとして働きつつ、時々バイト先に顔を出すという数週間を過ごしていた

 

もちろんリゼは真面目にバイトに行っており、露もまた真面目に調査しつつ、リゼ父になんと伝えるかを考え…遂に調査結果を報告する日となった

 

「なるほどな」

 

前日に作成した調査報告書を見るリゼ父

 

対する露の服装はスーツに帽子の探偵スタイル

 

「これを読む限りリゼには今欲しいものがあり、それを買うための金を用意するためにバイトを増やしたと?」

 

報告書にはバイト先とバイトでの様子と隠し撮りした写真を添付し、そしてバイトの目的について記してある

 

「はい」

 

「その欲しい物について書かれていないのは分からなかったのか、それとも故意か?」

 

「!…故意でございます」

 

リゼの調査の間ずっと考えていた今回のことを依頼人であるリゼ父にどう伝えるかということ

 

依頼という形で引き受けた以上露には真相を伝える責任があるが、それでも

 

「『依頼人に嘘はつかない』、よく守れていて結構だな」

 

「…」

 

依頼人に嘘はついてはいけない、それは父が探偵の仕事において破ってはならない定め

 

それに則って露も正直に告げた

 

「だがこうも言ったいただろう…『調査結果に一切の隠し事はしない』ってな」

 

「『どんな結果であっても探偵には伝える義務があり、依頼人には知る権利がある』です」

 

「そこを分かった上でこの調査報告書を出したのか?」

 

「いえ、それを読んだいただいた上で旦那様にお願いがあります」

 

「お願い?」

 

「後数日…18日まで待ってくださいませんか?」

 

「待つ?」

 

「はい、その日になればリゼお嬢様の欲しいものも、旦那様の依頼の答えも明らかとなります」

 

露が選んだ答えは時間をもらうことだった

 

もちろんここで話してしまっても遅かれ早かれ分かることではあるが、それでもやはりなにも知らないほうがリゼ父の喜びも大きく、リゼもその方が嬉しいと思うだろうと判断した上での答え

 

二人が大切だから選んだ答えだ…だが

 

「…お前はそんな甘い考えで探偵をやってきたのか?」キッ

 

「!!」

 

リゼ父の眼光が強くなり、露に向けられる

 

「今回の依頼人が俺で調査対象がリゼだから待ってほしいと言ったのか?

 

いいや?お前が人を選んでそんなことを言うとは思えないきっとなにか理由があるんだろうな

 

だが…もしもこれからの依頼で同じ理由あったとしたらお前はどうするんだ?」

 

「ッ!」

 

今回の場合はリゼのため、リゼ父のためにこのような

 

「俺がなぜ怒っているのかは分かるよな?」

 

「…」

 

分からないわけがない

 

例え大切な二人のために真相を伝えないという考えは父の教えに背くこととなる

 

そしてそれはリゼ父からすれば大切な友が守ってきた探偵を汚されたことに等しかった…それが例えその友の子であったとしてもだ

 

「…」

 

「…今真相を語れば今回の件はなかったことにしてやる」

 

この誘いはもうリゼ父が真相を知りたいからだけではなく、露にやり直しのチャンスを設けているのだろう

 

今後探偵を続けていくであろう露に向けてのリゼ父なりのこんなことを続けていてはいけないという警告だ、ここで真相を語ってしまえばすべてなかったことにできる

 

思わず口が開きそうになった時

 

「!」

 

露の脳裏に悲しい顔をしたリゼが甦る

 

きっとここで真相を伝えればリゼ父も納得してくれるだろう

 

仮にリゼがこの事を知ったって少し怒って許してくれる、悲しい顔を露の前で見せることはない

 

お嬢様…リゼにそんな顔をさせてはいけない、二度とさせないとあの日決めたのだから

 

「それでもやはり真相を今伝えることはできません

 

待っていただいた結果旦那様がご満足いただけなかったのなら今回の依頼料やかかった経費はいただきません」

 

「そういう問題じゃ「それから」」

 

「これを賭けましょう」スッ

 

そのために露は自らの誇りをかける

 

「!?お前、これは!?」

 

言葉と共にリゼの父の前に差し出したのは父からもらった帽子

 

「この帽子は私の探偵としての魂そのもの…それを賭ける覚悟と意味、貴方ならお分かりのはずだ」

 

それを賭け、賭けに負けた時には探偵を辞する覚悟を見せる

 

「そして父が私だけに伝えてくれたことがあります」

 

「なに?」

 

父の仕事の猫探しを手伝った時だった

 

見つけた猫は既に亡くなっていた

 

野生の猫にやられたであろう傷だらけのその猫を父はちゃんと処理して依頼人に送り届けた

 

その時の依頼人の悲しい顔をよく覚えている

 

そして父は『どんな結果であっても探偵には伝える義務があり、依頼人には知る権利がある』と、泣いていた自分の頭を撫でながら教えてくれた

 

だけどそれで終わりではなかった

 

『だけど、もしも真相を隠すことで依頼人を幸せにできる…そうなったら露はどうしたい?ちなみに父さんならそれでも伝える』

 

そう問いかけた

 

…いつもなら父がそうするならそうすると答えていただろう、だけどあの時だけはその問いに自分の気持ちを答えた…その後に言ってくれたこと

 

「父は私に『自分の真似ではなく、自分が思う最高の探偵であれ』と言ってくれた」

 

「!」

 

「私が思う最高の探偵とは依頼人にとって100パーセントの利益と笑顔を届ける探偵であり、私はそれを追求していきたい

 

そのためなら私は父の教えにも背きます」

 

自分なら隠す、そう答えた時父はそれでもいいと、ただ嘘だけはつくなと言った

 

だから露は探偵の仕事においては嘘をついたことはない

 

ただ真相を知ることが悲劇になると判断した時は伝えるのをやめたことはある

 

例え偽善だと、独裁だと、邪道だと、探偵失格だと言われたとしても…この道を貫くと決めたのだ

 

「そこまで賭けるのか」

 

リゼのこともあるが…それと同じくらいに恩人に自らの誇りの証明のために全てを駆ける

 

「そしてこれには探偵だけではなくここに支えるものとしての矜持も乗せています」

 

「!」

 

それは単に尽くすべき主人とリゼのために…メイドとして、執事としてのプライドも賭けて、露はこの賭けに出た

 

「この二つは私の全てともいえるもの…さぁどうしますか?これでもまだ話せと仰いますか?」

 

自分の全てを賭けて、リゼと主人の笑顔を守ること選んだ露…その姿は

 

「(!?、アイツと同じ目!?)」

 

相手を射殺すかのような眼差し、だがその奥にあるのは絶対的な自信、露の父も同じ眼差しを浮かべていた

 

それは戦場で最も頼りになり、恐怖でもあったもの

 

「父からの教えにはこんなものもあるんです…『探偵が賭けに出る時は確実に勝てる時、それ以外は全て敗け』って」

 

「つまり、勝てる自信しかないってか?」

 

「えぇ、絶対に私が勝ちますよ」

 

眼差しと共に声も態度も探偵として切り替わり、先程からあった微妙な声の震えは一切ない

 

もう敗ける気も引く気もない

 

「はぁ…分かったよ」

 

「!」

 

「お前の…お前自身の探偵のプライドもな認めるしかねぇな」

 

「では待っていただけますね?」

 

「あぁ…ったく変なところまで似やがって」

 

「?」

 

「あーもういい、とにかく18日なったらもう一回来い」

 

「?、はい、それでは失礼します」

 

そうして露は部屋を後にし、一人になったリゼ父は…

 

「あーーくそ、久し振りにブルッちまった…あんなガキだったのによぉ」

 

そう一人呟くのだった

 

…そして18日、父の日…の夜

 

紙袋を持ち、氷の入ったバケツにワインの瓶をワゴンに乗せて露は予定通りリゼ父の部屋に入る

 

「失礼します」

 

「おう、今日もメイドか」

 

「えぇ、仕事後なので」

 

「そうか、まぁ座れ」

 

「失礼いたします…その前に」

 

ワインの入ったバケツをリゼ父の前に出す

 

「!、お前これ」

 

そのワインはリゼがゴキブリ退治のために割ったワイン

 

「タカヒロ様からでございます。親父秘蔵のワインだから大切に飲めよ、とのことです」

 

「ははっ、アイツも粋なことを」

 

「…そのグラス(・・・)にぴったりでございますね。お入れしましょうか?」

 

そういって指差す先には二つのワイングラスがあった

 

「!…いや、これはリゼと使う時までとっとくよ」

 

そう、これこそがリゼからのプレゼント

 

今日リゼがシャロと共にワインを見に行ったが目標であるワインが学生では手が届かず、シャロの提案によりこのワイングラスを購入したという情報を露はとある筋から得ていた

 

「そうですか…では今回の依頼についてご主人様のお答えをお聞きしたいのですが」

 

そうしてメイド用の愛嬌のある笑顔を浮かべる

 

「ったく、もう分かりきってるだろ?」

 

「ご主人様のお口から聞いて依頼完了でございます♪」

 

「ハァ…最高だよ。知らなくてよかった」

 

「それはよかったです。ではこちらに」

 

依頼の完了のサインをもらい、ワインと共に持ってきたいつものグラスにワインを注ぐ

 

「リゼからあんなプレゼントもらったのも驚きだが、お前がこんなこともできるようになったとはな」

 

ワインを注ぐにあたっての様々なマナーを全て守りながらワインを注ぐその姿に成長を感じた

 

「色々と勉強しましたので。あ、後それから」

 

「ん?」

 

続いて持ってきた紙袋から小さな紙の箱をを取り出してそれを開く

 

「こちらは私からです」

 

箱の中身には様々な種類のチーズが入っており、それを皿に盛りワインに添える

 

「お前…これ」

 

「父の日のプレゼントです…ご迷惑でしたか?」

 

リゼがワインを贈ると聞いてから自分はおつまみを用意しようと考えており、準備していたのだ

 

「!?そんなわけねぇだろ!、でもお前、アイツは」

 

「父さんは父さんで、ご主人様にはここまで育てていただきましたので」

 

「それに今までこんなことしなかっただろ…なんで急に」

 

「あー…その、最近になってやっと懐にも余裕ができはじめたのでちゃんと渡そうと思ったんです

 

だからえっと、その…いつもありがとうございます」

 

今は仕える身ではありますが、露はもう一人の父のような存在にプレゼントを贈りたいとずっと思っていたのだ

 

「!!!」

 

あんなに小さくて、傷だらけだったあの子どもがこんなに大きくなったことを改めて実感、思わず目頭が熱くなる

 

それを誤魔化すようにワインを一気に煽り、チーズをつまむ

 

「あぁもったいな「お前も飲め!」えぇ!?」

 

「こんな嬉しい日はねぇ!!宴だ!!」

 

「それはもちろん付き合いますがその前に今回の依頼の報酬をいただきたいです」

 

「それなら今度リゼとユラもつれて飯でも「お願いがあるんです」あん?」

 

そういって紙袋から今度は薄く細長い箱を取り出した

 

今度は包装されていて中身は分からないそれをリゼ父の手渡す

 

「?これは?「これを父さん(・・・)に渡してくれませんか」!?」

 

先ほどとは違う父の呼び方

 

それを指すのは実の父のこと

 

「!?「ご主人様は父さんの居場所知ってますよね」!!…なんで俺が知ってると?」

 

「まず父さんが私を置いていくとして頼りにするとすればご主人様かタカヒロ様です。以前どちらが私を引き取るかでケンカをしたとお聞きしたので間違いないでしょう」

 

「…あぁ」

 

「次にご主人様とタカヒロ様のどちらでも私を預かるのは構わないとしても、父自身の所在や連絡先を聞かないわけがありませんよね

 

私の知っているご主人様なら大切なご友人のことを心配しないわけがありませんから」

 

「だがそれだけで俺がアイツの居場所を知っているってなんで分かったんだ?」

 

「今カマをかけたら見事に引っ掛かってくれましたので」

 

「!?」

 

先ほどの「父さんに渡してくれませんか?」、「父さんの居場所を知っていますよね?」の二つの台詞はブラフであり、リゼ父のリアクションから確信に変わった

 

少しとはいえリゼ父に酒を飲ませ、露からのプレゼントという気分をあげさせる行動をとり、とらせたのだ

 

気分の良い人間は聞き出したいことをあっさりと話してくれるから、露はよくこの手を使っている

 

「はぁ…降参だ、その通り俺はアイツの居場所を知ってる。だが「ではよろしくお願いします」おいっ!?」

 

そのままワゴンを押してスタスタと部屋を出ていこうとしたところを止められる

 

「?、なにか?」

 

「いや、聞かないのか…アイツの居場所を」

 

なんなら今回の報酬として聞き出すという手もあるというのに露は聞かなかった

 

「…父さんが私に居場所を明かさず、連絡もしないということにはなにか理由があるんでしょう。なら聞きません

 

それから父さんも私に言わないように口封じしてたんではないですか?」

 

「その通りだが…お前会いたくないのか?」

 

「会いたいですよ。その気持ちだけは昔も今も変わりません。だけど私はこの町の探偵だから、離れるわけにはいきません。

 

それに私がいなくなったらお嬢様が悲しむでしょう?」

 

父を探して自分がいなくなったあの日

 

帰ってきた自分を思い切りビンタしてから抱きついて離れなかったリゼの顔が忘れられない

 

もうそんな顔をさせないと、あの日決めた

 

「!、お前あの時のこと」

 

「…とにかく私は待つと決めたんです。あの場所を守ると決めたんです。それでは」

 

そうしてワゴンを押して今度こそ部屋を出た

 

進む廊下の途中で誰に聞かれることなく…露は一人言を溢した

 

「父の日おめでとう…父さん」

 




今回の報告書!

今回の依頼から翌日のこと

リ「露、昨日お前親父の部屋から出てこなかったか?」

露「えぇ、少し用事がありまして」

リ「なんの用事か聞いてもいいか?」

露「タカヒロさんからお預かりしたものをお届けしたついでに私からの父の日のプレゼントを贈っただけですよ?」

リ「ふーん…この数週間いろんな所でバイトしてたら妙に視線を感じてさ」

露「!」

リ「妙に知ってる感じ…そう、幼い頃からの付き合いみたいなそんな感じがしてさぁ…だからユラに聞いても知らないって言っててさなぁ露…詳しく聞かせてもらおうか」

露「逃げます!!!」

リ「待てぇぇ!!!」

なんとか撒けました☆


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