SSS級駆逐対象『ダスト』 (サンサソー)
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SSS級駆逐対象『ダスト』

イラストとか、依頼がたくさんあって辛い。疲れた。だから一話ぐらい後先考えずこんなの書いてもいいよね?

息抜きだよ息抜き。ははは。
次話書くかは……わからん!書いて欲しい人いたら感想ください!


「兄ちゃん!絵本読んで!絵本!」

「ほーい。赤ずきんでもいいか?」

「昨日の昨日に読んだよ!明日の明日の明日にお願い!」

「奏斗は康介にベッタリだなぁ」

「そうね。でも私たちに頼んでくれないのはちょっと寂しいかな」

 

暖かな親。懐いてくれる弟。幸せな家庭に康介は産まれ落ちた。

 

その様は他人ですら微笑ましく、胸がホッコリ温まるような睦まじさで。本来素性を考えれば、ありえないような平和と幸せを享受している家族だった。

 

この世には、人を喰らう存在がいる。名を『喰種(グール)』。Rc細胞と呼ばれる特殊な細胞によって、人間とはかけ離れた身体能力と『赫子』と呼ばれる捕食器官を持つ。

 

この家庭にも喰種がいた。父、三塗是孝がそれだ。しかし珍しいことに、母の三塗美子は人間であった。

 

喰種と人間という異質な夫婦。当然産まれた子供もただの子供ではなかった。

 

しかしそれでも、皆は幸せだった。世論を越え、種を越え。手にした家族はそんなものよりも余程大事なものであり。手放すなど断じて有り得ぬと、その絆の糸は固く強いものだった。

 

 

 

しかし、喰種も人間も変わらず食糧は必須。特に喰種は人間の食べ物を摂取できない。例外はあるが、人間の肉しか身体は受け付けないのだ。

 

生きるだけなら一ヶ月程であれば食わずとも良いが、喰種の空腹は幻視や幻聴を伴う凄まじい苦しみが襲う。

 

腹を満たすには人間の肉が必要だ。それが生者であれ死者であれ、人間の身体一つが消えるのは充分過ぎるほどに情報を与えるものだ。

 

捕食痕、地面の抉れ方、赫子の分泌液……挙げればキリがない。それらは如実に凄惨な捕食劇を物語り、彼らへと喰種の存在をほのめかすのだ。

 

そう、彼ら。対喰種機関『喰種対策局』、通称『CCG』へと。

 

まるで鼻の効く警察犬と猟犬を合わせたような。それでいてハイエナの如き執着性を持つ『喰種を狩る人間』。

 

彼らは例え数週間に一度の捕食であろうと、着実に喰種の痕跡を辿り駆逐を行うのだ。

 

故にこの幸せな家庭が続くことなど、初めからありえなかったのだ。

 

 

 

 

 

「逃げろ康介!奏斗を連れて行け!」

「早くしなさい!ここは私たちが抑えるから!」

 

「『赫眼』を確認。喰種対策法12条一項に基づき、目前の男性を『喰種』と判別する」

「喰種を蔵匿・隠避すれば非常に重い罰があります。投降しなさい」

 

是孝は『赫子』を形成し喰種捜査官へと襲いかかる。さらには人間である美子もまた包丁を手に取った。

 

「父ちゃん!母ちゃん!」

「〜〜〜ッ!来い奏斗!」

「やだ!父ちゃん!母ちゃぁあん!」

 

康介は身体の小さい奏斗を抱え上げ窓から逃げ出す。顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、泣き叫ぶ奏斗を抱いて裸足のままに夜の住宅街を走った。

 

 

 

喰種は人間の4〜7倍の筋力と凄まじい再生力、そして『赫子』を有する凄まじい戦闘能力。とても常人が太刀打ちできる存在ではない。

 

しかしそれも充分な食事、つまりは人間の肉を喰らわなければ発揮できない。喰種捜査官の目から逃れるために数週間に一度という食事の頻度であれば、人間を簡単に引きちぎる膂力も、銃弾をものともしない鋼鉄の身体も機能しない。赫子を出すだけで精一杯。

 

そんな状態で複数の喰種捜査官を相手取れるはずもない。そして包丁という凶器を持とうがただの人間の女性。喰種と日々戦っている捜査官に通じるわけがない。

 

 

「駆逐完了。妻と思われる隠匿者は駆逐対象を庇い重傷を負っています。恐らく助からないでしょう」

「心苦しいが、喰種なんぞと一緒にいるような奴だ。居なくなった方が世のためだろう」

「報告!子供2名を発見、そのうちの一人に『赫眼』を確認したとの事!」

「そうか。こちらもすぐに向かう。殺れるようであれば両名殺せ。『赫眼』が出ていない方も喰種の可能性が高い」

「はっ!」

 

捜査官らは転がった死体をそのままに康介と奏斗を追う。折り重なった死体はやはりものも言わず。血に染まった家は幸せの香りなど微塵も残しはしなかった。

 

 

 

 

 

「上等から許可が出た。駆逐するぞ!」

 

どうしてこうなった。

 

康介は奏斗を後ろへ隠しながらも、捜査官にジリジリと間を詰められていた。対喰種武器『クインケ』。喰種の『赫子』を用いて作られるそれは、喰種の鋼鉄の身体も易々と傷つけることが可能だ。

 

それを前にして、康介が感じたのは恐怖でも絶望でもない。

 

疑問と、怒り。

 

人、確かに殺した。反撃されたし藻掻かれもした。でも、食糧になった。

 

 

それって悪いことか?

 

 

人間は高度な文明を持っているけれど、それって他の生物からしたら高度でもなんでもない。ご立派な論理を持ってるけど、それって本当は立派でもなんでもない。

 

それって、押し付けるような事?いざ駆られる側になったら、正義だのなんだの語るような事なのか?

 

「……お前ら、そんなに偉いのか?人間なんて、所詮は狩られる側の弱者だろうが!!」

「兄ちゃん!」

「え……あ…」

 

自然と口から出た言葉。それは人間への侮辱。

 

別に捜査官を刺激してしまったとかそういうことを危惧したわかさではない。だが、彼は思い出したのだ。

 

自分の母も、人間だ。それを彼は貶してしまった。

 

大好きな母を貶して、自己嫌悪に陥ると共にふと疑問が浮かぶ。

 

母は、喰種を受け入れた。でもこの人間たちは喰種を殺そうとしている。

 

この違いって、何?

 

「たかが喰種如きが。しかも子供。それでも尚このような言葉を口にするとは……やはり喰種は悪しき存在だ」

 

見下すのって、何?

 

「駆逐開始!即殺しろ!」

 

その善悪って、何?

 

 

何もかもがわからなくて、なんだかどうでも良くなった。なんで人間と喰種がいるんだ?なんでこんなことになるの?なんで、なんで、なんでなんでなんで。

 

ああ、たぶんそうやって蕩けてたから気づかなかった。

 

「兄…ちゃ……」

 

いつの間にか後ろにいたはずの奏斗が前にいて。

 

捜査官のクインケに貫かれてた。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

奏斗からクインケが引き抜かれ、康介に倒れかかる。血は吹き出して止まらない。奏斗はゆっくりと脱力し、康介を血で染め上げた。

 

人間と喰種、それらが交合い、子供ができたとする。しかし母体が人間だと、人間の肉しか摂取できない子供は餓死するしかない。母体が喰種だと、お腹の中の子供を餌と認識し吸収してしまう。

 

だからこそ、母は人間の肉を喰らい『半喰種』の康介を産んだ。奏斗も同じようにしたが、産まれたのはRc細胞を多量に含むものの他は人間と遜色ない赤ん坊だった。

 

大抵の場合、『半喰種』が産まれる確率は低く奏斗のようになることが多い。そして互いに完全な喰種でないためRc細胞によって老化が早まったりすると是孝は康介に聞かしていた。

 

しかし、それでも奏斗は、人間だった。

 

Rc値が高い人間などそこら中にいる。でも奏斗の事を捜査官たちは知らない。『赫眼』すら出せない、本当にただの人間である奏斗が。

 

冷たくなっていく。奏斗の命が、その火が消えていく。

 

「兄……ちゃ…」

「………………」

「生……て……」

 

奏斗は目をゆっくりと閉じ、もう開くことはなくなった。

 

 

「なんだお前たち。まだ一体残ってるじゃないか」

「草加上等」

「あの夫婦は死んだ。後はソレを片付ければ終わりだ」

 

上等捜査官がクインケを振り上げる。それは無慈悲にも、康介へと振り落とされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か聞こえる。

 

サイレンか?火事でも起きたのか?

 

 

ああ、いや違うな。わかってる、わかってたよ。

 

 

 

これ、俺の笑い声だ。

 

 

「ははははは、ははははははははアッハハハはっははハハヒヒヒははははきゃははハハウヒヒぎゃはははは、ブフッははははハハハハハハアーハハハハハハギャハハハハハハはははははははははははははははは、あはははははハハハハハハハハギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

 

血溜まりに沈む死体、手足の無い死体、グチャグチャになった死体。

 

そして食いちぎられた奏斗。

 

 

ごめんなぁ、兄ちゃん、もう何もわかんなくなっちまったあ。

 

 

 

 

某日、駆逐対象『折り鶴』の駆逐作戦が決行され、駆逐成功。しかし『折り鶴』の子である喰種によって草加上等捜査官率いる駆逐班は壊滅。草加上等捜査官を含む7名の捜査官が殺害された。情報も少ないため、対象を駆逐対象『D』と呼称する。『D』は上等捜査官を凌ぐ戦闘力を持つことからA級駆逐対象に指定される。

 

24区にて『モグラ叩き』敢行中の喰種捜査官を襲撃。現場の指揮を執った特等捜査官含む16名の捜査官が殺害される。謎の喰種を駆逐対象『S』と呼称する。並の特等捜査官を凌ぐ戦闘能力を有することからS級駆逐対象に指定される。

 

次の出現では『モグラ叩き』敢行中の捜査官を襲った『隻眼の梟』との戦闘中に乱入し複数名の捜査官を殺害、その後『梟』と戦闘に入る。『S』は『梟』と同じく片方のみの『赫眼』を持つことが確認された。その姿は上等捜査官らを殺害した駆逐対象『D』と一致、同一人物であるとされる。捜査官らは撤退したためその後の詳細は不明。『赫包』は5つ〜7つほど確認され、『羽赫』の喰種とされる。

 

23区所在の喰種収容所を『梟』と共に襲撃。多数の捜査官が殺害、捕食された。その際に『羽赫』の攻撃により捜査官の死体が残らず灰化したことから『S』の呼称を『ダスト』と改める。これにより『ダスト』はS級駆逐対象からSS級駆逐対象へ繰り上げられる。

 

『梟』との2区襲撃。CCG本局対策Ⅰ課、特別編成チーム構成員である黒磐巌上等捜査官(当時29歳)のクインケによる一撃で『梟』の『赫包』に致命的なダメージを与えることに成功するも、『ダスト』によって重傷を負わされる。この際『ダスト』のレートはSS級からSS+級に繰り上げられた。

 

『ダスト』単体の1区襲撃。全力を以て駆逐にあたるが前線に出た特等全員が戦闘不能。しかし、当時19歳の有馬貴将上等捜査官がこれを討ち取り、隻眼の梟の情報収集およびクインケ作成素材としてコクリアに投獄された。

 

一週間後、廃棄が決定。廃棄場所へ移送中、極度の飢餓状態になっていた『ダスト』はRc細胞を覚醒させ捜査官及びコクリア職員を殺害。コクリアの天井ゲートを『赫子』によって破壊し脱獄した。これによりついに『ダスト』のレートはSS+級からSSS級駆逐対象に繰り上げられた。

 

━━━『ダスト』捜査記録より抜粋

 




三塗康介
特級駆逐対象『ダスト』
身長:161cm
体重:57kg
足のサイズ:24

Rate:SSS
Rc type:羽赫
Unique Status:赫者


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''喰種''の始末屋

お久しぶりです。いい塩梅に気分が沈んでるのでこちらを更新。やっぱり東京喰種は沈んだ気分の方が書きやすいです。
原作と同じくグロ注意。


日も沈みきり、夜の帳が満ちる。

 

人知れず人が消え、人でないものが敏感にその匂いを嗅ぎ分ける。

 

微かな()()は食欲を刺激し、本能が遺伝子レベルで慣れ親しみを感じる優しい香り。

 

口から絶え間なく唾液を溢れさせ、はしたなく鼻をひくつかせて、無意識にも足は香りの出処目掛けて進んでいく。

ゆらりゆらりと幽鬼の如く。人目を惜しみ、気配の少ない路地裏を一歩、また一歩。

 

 

もうおわかりだろう。

 

 

今宵は悲しい事件がありました。一人の男性は儚くも残酷にその命を散らしたのです。人を貪る卑しい悪鬼、人の世に潜む''喰種(グール)''によって。

 

その芳ばしい『血』の香りは瞬く間に人間(エサ)にありついた輩が現れたことを、他の''喰種''たちに報せるだろう。

 

だがこの男、静かに一歩、また一歩と歩みを進める''喰種(グール)''にとって重要なのはそんなものではない。

 

食欲を唆る死の香りではなく、それに混じった吐き気を催す()()()()()()()()()を嗅ぐたびに。男は唾液を夜道に垂らし、爛々と片側のみの赤目(隻眼)を輝かせた。

 

 

 

 

争っているのだろう。食い物か、喧嘩か、はたまた''喰場''の奪い合いか。少女は青年の四肢を浅くも切り裂き、劣勢な青年は逃走を図る模様だ。

 

だがそれも、彼にとってはどうでもいい事だった。

 

「!??だッッれだお前ッ!?邪魔だクソがッ!」

 

いつの間にか現れていた彼に、後ろを気にしていた青年は激しく衝突する。普段なら突っかかっていただろう青年は、自分が置かれた状況のために構う暇はなかったが暴言だけは残していった。

 

それによってようやく少女と地面に尻もちをついていた若者は彼に気付いた。音も無く現れた第三者に警戒の目が向けられるが、彼が誰かを理解すれば構えは解かれた。その代わりに嫌悪感丸出しの視線が彼に突き刺さることになったが。

 

「アンタ……ホントに死体がある所に湧くんだね。どうせ釣られたのも人間じゃなくて、コイツの匂いなんでしょ?」

 

「……やめろ、トーカ」

 

少女''トーカ''が頭を吹き飛ばされた''喰種(グール)''を足蹴にすると、彼は初めて反応を示した。彼は頭部の無い死体の傍に腰を下ろすと、まじまじと首の切断面などの死体の状態を観察し始める。

 

「…なっちゃいない。蹴りもがれたか、首には砂利が付いているし……状態は悪いが早めに手をつければ手遅れではないか」

 

「え……いったい何を…」

 

尻もちを着いたままの青年は恐る恐るといった様子で彼へと問いかける。しかし彼はそれを無視し、転がっていた頭部を拾い上げた。

 

「アンタ、見ない方がいいよ。そもそもコイツにはあんま関わるべきじゃない」

 

未だ不思議そうに首を傾げる青年の前で、疑問の答え合わせが為された。

 

 

彼は顔に付着した血を舐めとると、大口を開けて齧り付いたのだ。

 

 

「━━━━ッ!!?」

 

吹き出す血が彼の顔を濡らしていく。骨を噛み砕く硬い音と何かを吸い上げる音。汚らしく醜い咀嚼音が路地裏に響き渡った。

 

気の弱そうな青年は、その光景を何物で遮断せず直視してしまう。耐えられるわけはなかった。

 

「おっ…ぐ……げえええええええッッ」

 

既に空っぽのはずの胃から必死に胃液を絞り出す。その横で、彼は一切気にせぬ顔で''食事''を続けた。頭部が無くなれば、今度は死体の腕をもいでまるで骨付きチキンを齧るかのように貪っていく。

 

彼の知るところではないが、''()()''()()()()()()()の彼にはあまりにもおぞましい、冒涜的な光景だろう。

 

「………だよ。何だよ…これ……」

 

恐怖はどこへやら、青年は狂気にも似た感情を口から零していく。ボソボソとした呟きのような音は、やがてヒステリックな叫びへと変わっていった。

 

「何なんだよ''喰種(グール)''って……人は殺す…仲間だってお構い無しに殺す…挙句の果てには、殺した仲間の死体を喰べる……」

 

異常な空腹も合わさり、もう精神的に限界なのだろう。夜の路地裏は青年の困惑と疑問の叫びをよく響かせた。

 

「こんなのッ……道徳も秩序も何も無いッ!こんなの…こんな世界、地獄だッ!最悪だッッ!!」

 

喚き散らす青年に反応したのはトーカ。青年の言う''最悪な世界''を必死に生きてきた彼女にとって、平穏な人間社会というぬるま湯につかり続けてきた青年の叫びは癪に障るどころの話ではない。

 

地雷原の上でタップダンスを踊るかのような愚挙、逆鱗を触るどころか深々と槍を突き刺すが如き暴挙であった。

 

だが先に動いたのは意外なことに彼の方。片腕を喰い終わったことで空いた手で青年の首を掴み上げると、逃げた方の青年とのいざこざによるものであろうヒビの入った壁に叩き付けた。

 

出鼻をくじかれたトーカは身体を硬直させる。首を掴み挙げられている青年は呼吸が満足にいかず掠れた声を喉から零すことしかできなかった。

 

 

「……お前さん、よぉ〜〜くわかってるな」

 

 

しかし意外なことに、彼の口から出たのは肯定の言葉。彼は首から手を離し、地面に崩れ落ちた青年の前に笑顔で屈みその顔を覗きこんだ。

 

「どいつもこいつもわかっちゃいないんだ。道徳も秩序も無い。それが''喰種(グール)''の世界だ。だが、''喰種(グール)''はなお前さん。''人間の社会''に住んでるんだぜ。つまりはそう、もともと''人間の社会''に道徳も秩序もハナから存在なんざしてねぇのさ」

 

「……アンタ、何言ってんの」

 

意味のわからない、無茶苦茶な自論を振りかざし始めた彼にトーカは言葉を投げかける。しかし彼は青年にしか興味が無いようで、彼女を無視して続けた。

 

「『命を大切にしましょう』。『人に嫌がることをしてはいけません、殺人なんて以ての外です』。矛盾してるよな?人間は動物を殺し、死体を裂いてちぎって切って潰して焼いて食しているんだ。''生きるため''にだ、わかるだろ?''生きるためなら道徳や秩序なんか律儀に守らなくていい''んだ」

 

「人と食用動物を一緒にするのがおかしいだろ!料理するのだって、人が食べやすいようにしてるだけ、道徳に反してなんかいない!」

 

「それだ。人間は根本で自分たちが一番だと思ってる。自分たちが頂点捕食者だからだ。食用の家畜の気持ちなんて知ったこっちゃない。なのにいざ喰われる側に回れば、人間は''喰種(グール)''を()()するんだってよ。笑っちゃうぜまったく……人間(お前)たちの上辺ばかりの嘘なんてウンザリなんだ。いくら取り繕ったって、自分たちを他の何より優先しているくせに。しかもその嘘を嘘だとも感じず信じ続けてる馬鹿さ加減には万雷の拍手を送りたいね」

 

彼の目は青年を見ていない。焦点が合わず妄言を垂れ流すその様子は正に狂人。その異様な圧に当てられた青年は何も言えなくなってしまう。もし何かを言えば即座に首が飛んでしまうような、危険な予感に身体が動かなくなってしまったから。

 

散々文句を口から紡ぎ続けた彼は不意に立ち上がると、まだ残っている''喰種(グール)''の死体の脚を掴み路地裏の闇へと去っていく。

 

やっと粘り着いた空気に解放され息ができるようになった青年のそばに、トーカは半ば同情するかのように近付き声をかけた。

 

「アイツの言ってることは忘れときな。頭が支離滅裂なヤツなんだ。この前なんか、今言ってたのとは真逆の話を店長に長々と話してたし。しかもアイツ自身、自分が変なことを話してるって自覚しているみたいなのも気持ち悪い」

 

「……なんなんだ…アレ…」

 

「''喰種(グール)''の死体があるところには頻繁に現れて、死体を持っていく『共喰い』野郎だよ。気色悪いヤツだけど、アイツのおかげで''白鳩(ハト)に嗅ぎつけられる前に死体を処理できるし……だからここらの''喰種(グール)''はアイツのことを『''喰種(グール)''の死神』、『始末屋』だなんて呼んでる」

 

「『始末屋』………」

 

 

夜はさらに深けていく。食い足りなかったのだろうか、今夜の20区ではさらに居合わせたであろう人間が一人、そして''喰種(グール)''が一人消えることになった。

 

 




感想・登録・評価ありがとうございました。見ぬうちに赤なっててビックリ。


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