万能キャラは最強なので全ステータス平等に振りたいと思います (錆びた氷)
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配信開始とその前に。

「ここの青ブロックを五時方向に、束ねた帯を全力で断ち切るみたいに殴り飛ばして……ココだッ!!」

 

『角度ピッタリ!!』『イケー!!』『やっぱり例えが独特すぎて草』『いけるか!?』『全ステージ初見クリアまであと一歩!!』『ぶちかませオラー!!』

 

視界の端に映るチャット欄を横目に、止めどなく飛んでくる妨害ギミックを躱して逸して時には飛び越える。

相対している《覚醒キュービック・第四形態》は最終ステージのボスなだけあって、ちょっとやそっとでは崩れない防御力と恥じることはない攻撃力を兼ね備えていた。

武器やアビリティに加えて持ち前のPS(プレイヤースキル)を存分に発揮しながら目標のブロックへ到達──息を一瞬だけ整え、タイミングを合わせて拳を振り抜いた。

 

ボギャン!とまず現実で聞くことのない──例えるならばバットでホームランコース一直線に振り抜かれた水風船が割れることなく力を加えられたような──音を響かせ、殴られた反動によって高速で移動し始める。

向かう先ではぶつかったブロックを消滅させながら跳ね回る姿。消えた穴埋めをするため新たに上にあったブロックが落下するが、それすらも連鎖、消滅して攻撃力の糧になっていった。

 

最後に残ったブロック数は……ゼロ。全消し成功の合図だ。

 

「ヨッシャァ、成功ォ!! 最後に、たまりに溜まったこの攻撃力を全部、今回の動画をゲーム耐久配信にしやがった忌まわしきラスボス野郎にぶつければ!!」

 

『おい』『完全に私怨じゃねぇかwww』『感動返しやがれ』

 

手のひらをラスボスに向けて翳し、更に今まで使用しなかった攻撃時専用のアビリティを起動させて追加効果を発揮した基本攻撃のレーザーが、無機質なラスボスを穿つ。

いくら初期に覚える攻撃といえどもその他アクションで限界まで、ダメージが膨れ上がった現時点での理論上最高値。

 

穴の空いたボスから光が漏れ、グラッフィックが崩壊して歪な形へと変化する。そして、キュン、とアナログテレビの電源が落とされるようなサウンドと共に掻き消えた。

 

 

報酬とリザルト画面も程々に、一度配信を待機画面に変更する。新感覚格闘VRパズルゲーム『ナックル・パズル』のエリア選択エリアへと戻りゲームを終了。配信者のために作られたVR本体の基本ダウンロードコンテンツ『LIVER HOME』を起動し「配信者:暁月スイレン」としてのアバターで降り立った。

手頃なフリーBGMを右手側のホログラムで表示されたキーボードを操作して流し、空中浮遊するカメラを左手側の同様のキーボードで出現させ、続けて配信待機を解除する。

 

「ただいま、早速だけど、今回プレイした『ナックル・パズル』はどうだった? 僕としては楽しめたかな。殴ったブロックをふっ飛ばしたり、消してブロックを落下させてから連鎖させる、なんてコンセプトは珍しかったし。どうだった?」

 

『良かったぞ』『ゲームクリア乙』『あのバグさえなけりゃ良ゲー』『アビリティ効果でブロックが四散するのは腹抱えて笑った』『え、ブロック貫通とか謳っときながら全ブロック消失させたあのバグじゃないの?』『1ダメでも与えたら即死させられる反撃ギミックステージとかどうクリアすんだよ』『それはバグじゃなくて仕様定期』『さて、次はどのゲームを?』

 

視界に映るチャット欄にクリア祝の褒め言葉とゲームのグチや感想、それと普段のゲームプレイ時のような煽りが全て等しく高速で流れていく様に少しニヤッとする。

 

「はい、とりあえずお祝いコメありがとー。今回のゲームは基礎がしっかりしてる分だけまだバグっても良識の範囲内……と言うかむしろバトル難易度を破綻させずにちょうどいい塩梅のが多かった印象かな。ブロック固定化バグとかアビリティ化させて実装したら悪巧み──もとい小手先の技が増えて面白そうだし、正式採用されたりしない? 反撃ステージは五色に分けられてる属性の内の一個をガラ空きにして相当するブロックだけ連鎖すれば与ダメゼロになるから試してみて。ええと、次のゲームはまだ決まってないんだよね、オススメ教えてよ」

 

コメントの返事を主に駄弁っている間にも、欄には新しいものが通過していく。

ついでに最後に配信で何のゲームをやって欲しいか問いかけ募集してみれば、数秒後には今までの比ではない目まぐるしい量の応募が並び立てられた。

 

「えっと、なになに……『ホーネスト・バタフライ』『ゾンビ大感染』『アニマルファイターズⅡ』……リスナーの皆はなんでそんなに人外アバターを推してくるのかな?」

 

『だってオモロイじゃん、今回のが人型であったことに感謝しろ』『草www』『前に配信した『剣と魔物の交響曲(シンフォニー)』を忘れたとは言わせねーぞ』

 

「うっ……あーあー聞こえなーい。次回もゲーム途中でそういう選択肢が出ない限り人型でやるんでよろしく」

 

あれは反響すごかったもんなぁ、と心の中でぼやく。

『剣と魔物の交響曲(シンフォニー)』、よくあるRPGタイプのゲームで、僕が有名なったキッカケの作品。そのプレイ内容は偶然見つかったバグを活用したもの。

 

『勇者(スライム)でやるなとあれほど煽ったのに止めなかったテメェが悪いw』『這い寄る勇者(スライム)』『捕食する勇者(スライム)』『不定形の勇者(スライム)』『明らかに勇者っぽくない言われようなの恥ずかしくないの?』

 

僕が見つけ名付けた、仮称「勇者=モンスターバグ」というバグがある。

全編勇者が主人公として展開されるストーリーモード全クリ後に開放される、モンスター側に主軸を置いた魔王軍参戦モードでモンスターを選択し、特定のアイテムを使用しながらセーブからのバックアップ後データ削除をして、バックアップデータを復元。すると、最後に使用していたモンスターが勇者と置換されたままストーリーモードを進めることができる、といったバグだ。

 

その状態でスライムを選択してゲームを配信してみれば、笑ってしまうくらいバズった。途中からは独自のスライム論を語る呟きで溢れたが、ツブヤイターで「スライム勇者」のワードでトレンド5位くらいに位置つけていたくらいに。

そりゃあ王様がスライム召喚して「おお、勇者よ。よく召喚に応じてくれた!」とか言うし、スライムに剣を渡した瞬間に装備……なんてするはずもなく消化してレベルアップするし、不定形だから僕もそこそこに好き放題できたからやりたいようにやったし。ストーリーモードよりこっちの方がギャグになってむしろ売れるんじゃないか?と思うくらいには面白かった。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

「さて、そろそろ決めないとね。えっと『ギルティヒーロー』『ボマーテンタクルス』『ジャンジャンジャンパー!』……モンスター諦めてもダーティプレイさせる気満々じゃんか、自重って言葉知ってる?」

 

穴を突く気しかないじゃないか、とマイクに向かい煽ってみれば、決まって『そりゃあそう』『ザマァ』などと当然のように煽り返される。

加速するコメントを尻目に、そろそろ引き伸ばしてもだれてくる頃と判断し本格的にゲームを探すためホログラムキーボードへと手を伸ばした。その時、一瞬で通り過ぎたが気になる文面を見つけ声が漏れる。

 

「『そろそろ参加型のゲームでもやってみたら? 最近だと『NewWorld Onlin』とかMMOタイプのゲームもあるし』……確かにアリかもね、じゃあ次はそのゲームをやってみるかな」

 

『LIVER HOME』のカスタム画面をノールックのまま手早く操作し、《次回「わたくしスイレンは、遂にMMOへと挑戦します!?」》と派手に編集した立体テロップを表示する。

 

『マジで!?』『私も始めようかな』『やってる』『あれってどういうゲームだっけ』『確かスキルと装備制のファンタジー、民度が大変良いことで有名』『もし始めたらボコボコにするぞ、もちろんゲーム内で』『一コメで矛盾してて草』『←ゲーム内じゃないからセーフ』

 

コメント欄も予定が決まったからか、それとも次やるゲームに関心を見せたからかは分からないが加速を見せ、比較的好意的な反応が多かった。自分でも軽く調べて予算も範囲内、内容もなかなかで興味を傾けるには充分、と判断する。

 

「うん、それなら決まりだね。次回の配信は『NewWorld Onlin』で決定! あと僕をボコるとか言ったやつ覚えたからな、返り討ちにしてやるよ」

 

部屋にカスタムしてある時計を見てみると、ちょうど10時半。カメラに時計も映るよう位置を操作する。

 

「いい時間だし、今日はこの辺りで配信を終わろうかな。諸々慣らしてから配信すると思うから……一週間後くらい、またツブヤイターで告知するからよろしく。配信前には編集したプレイ動画も投稿するからお楽しみに」

 

『乙』『お疲れ様』『バイバーイ』『お疲れ様でした』『またな』『お疲れ様』

 

「では配信終わります、お疲れ様!」

 

数秒待ってから配信の音声を切り、配信待機の画面に戻す。疎らに動くコメントを眺めながら、10分後に配信が終わるよう設定した。




初投稿の二次創作なのに、一話目で原作ゲームの名前しか出ない作品があるってマジ?
注意:これは防振りの二次創作であってます

一週間に一話くらい投稿できればいいなぁ……
評価感想くれると嬉しいですよね


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配信準備と初ログイン。

「へぇー、ログイン設定のためだけの空間なのに凝ってるし、これは『NewWorld Online』への期待も自然と高まるってものだよね」

 

青白いバーチャル空間で、誰か聞かれるわけでもない独り言を呟きながら彼──奥瀬 連理は「配信者:暁月 スイレン」としてのアバターで立っていた。

投稿用の動画撮影や、難易度高めのゲーム実況中はリスナーからの反応を見られないこともある。退屈させないよう何か話し続けることが多く、若干癖になりつつあるのだった。

 

昨日の配信後は大手通販サイトで『NewWorld Online』をポチり、最初に手を付けたのは攻略サイトや掲示板。まだサービス開始から間もないからかトップ勢との差も少なく、かつスキルや装備も自由自在なため選択の幅も広い、というのが初見の印象。

 

そして通販も発達したこの時代様様でもうソフトが届いたためさっそくログインし、できる限りのキャラクタークリエイトを済ませたところだった。

 

その姿は、多少長めに遊ばせ残りは後ろで括った浅葱色の長髪と、ラピスラズリの青を埋め込んだような眼が特徴の好青年。

その手足を慣らすために頻りに動かしながら、その他の設定も決定していく。

 

「ええと次は……プレイヤーネームか。それはもう決まってるし」

 

彼の手は迷いなく「スイレン」と文字列を打ち込む。

普段からゲームでのニックネームは統一する派のスイレンにとって、配信でも個人でのゲームでも使用するのはこの名前だった。

 

「……武器かー。正直どれでもいいんだよね、てかこのゲーム選んだ武器で初期HPとMPが変動するみたいだし……あ、選ばずに進めたりしないかな?」

 

思いついたように、試しに事前に観ていたゲームのプレイ動画を思い出しながら手をかざすと、ステータス選択のためのウィンドウが出現する。

見回すと周囲で初期武器が旋回したまま、ステータスを振っていなくても『OK』のボタンは光っていた。

 

「これ、初期武器とかステータス選択しないままでも行けるぽいね、ラッキー。一応ステータスは予定通り振っときますかね?」

 

ピピピピ、とゲームらしい軽快な音と共に数値が割り振られる。

全ての項目を14ずつ押して、指が止まる。

 

「完了、っと。さて、ゲームすたーと!」

 

そして『OK』のボタンを押しスイレンのアバターが光に包まれた。

 

 

 

☆ミ

 

 

初期リスポーン地点、第一の町の活気あふれる広場にスイレンが舞い降りた。

いかにもなファンタジーな世界が目に飛び込んできてまばたき一つ惚けるが、すぐに気を取り直すスイレン。

軽く地面をつつき、一歩踏み出したりジャンプをしたり、軽く動作確認をする。安全を確認して、勢いをつけ側転からのバク転。新人プレイヤーを見守り声をかけなかったプレイヤー達からも拍手が送られ、スイレンも片手をあげて応えてから森に続く門へと足を運ぶ。

その途中で、ほう、と感嘆の息を漏らした。

 

「さすが人気のVRゲーム、割とリアルに近い形で収まってるみたいだね。反応とかも想像以上だし、この分だとAGIが低くても割と動けそうかな」

 

手をかざして、ウィンドウが開く。

 

 

スイレン

Lv1

HP 220/220

MP 220/220

 

【STR 14】

【VIT 14】

【AGI 14】

【DEX 14】

【INT 14】

残りステータスポイント 2

 

装備

頭  【空欄】

体  【空欄】

右手 【空欄】

左手 【空欄】

足  【空欄】

靴  【空欄】

装飾品 【空欄】

    【空欄】

    【空欄】

 

スキル

なし

 

 

「スキルはなし、装備も見事なまでにすっからかん。まあ先ずは所持金を集めるところから始めないとね」

 

最初から所持していたのはたったの3000G。近くの森で狩りをする消耗品程度なら問題はないが、オーダーメイドの武器を依頼したりスキルを大量に購入したり、その他やりこみ要素のアイテムを買うには到底叶わない額。

 

街付近では他の初心者も思い思いに戦闘を行っていて、邪魔しないよう更に森の奥へと進んでいく。そこそこやり込んでいるであろうプレイヤーが心配そうに見つめていたが、会釈だけを返し足早に駆けていった。

門からしばらく離れてみれば強力なモンスターともエンカウントするだろう、などという淡い期待も込めて森を彷徨うスイレン。

 

鳥のさえずりや風で葉がこすれる環境音の中で、目の前の草むらがガサッと音を立てて揺れる。

バックステップで距離を取り拳を構えていると、飛び出してきたのはカットりんごにでも似た兎であった。

 

「初エンカは兎……兎? うん、まあいいか。対戦よろしくお願いします!てね」




スキルと装備制のファンタジーゲームで、スキルなし装備なしで戦闘に行く主人公くん
一週間後には次回投稿したいとか言って、一ヶ月以上ブッチしたやつがいるってよ
私の文体は基本三人称の、偶に一人称が入ってしまう形になると思います……地の文ムズイ
まだ一話しか投稿していなかったのにお気に入りしてくれた方々に感謝です


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