俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 (鴨山兄助)
しおりを挟む

【ネタバレ注意】カードリスト
モンスター・サモナーの基本ルール&天川ツルギ(1月13日更新)


●用意するもの
・デッキ(40枚以上上限なし)
→同名カードは3枚まで。
・召喚器

●ゲーム開始の準備
・初期手札5枚
・初期ライフ10点

●勝利条件
 以下のいずれかを満たせば勝利。
・相手のライフを0にする
・相手のスタートフェイズ開始に、相手のデッキが0枚である。
・一部のカード効果

●場(フィールド)
・モンスターを召喚する場所。
 モンスターは最大で3体まで召喚できる。


●ゲームの大まかな流れ

・スタートフェイズ
 ターンの開始。疲労状態の自分のモンスターを全て回復させる。
 また、スタートフェイズ開始時にデッキが0枚のプレイヤーはゲームに敗北する。



・ドローフェイズ
 デッキからカードを1枚ドローする。
 選考1ターン目は行えない。



・メインフェイズ
 モンスターの召喚や、魔法カード発動を行う。



・アタックフェイズ
 モンスターで攻撃を行う。
 攻撃宣言を受けたプレイヤーは、その攻撃を回復状態のモンスターでブロックするか、自分のライフで受けるかを選べる。
 アタックをしたモンスターは疲労状態となり、動けなくなる。



・エンドフェイズ
 ターンの終了。一部カードの効果はここで処理する。



・相手のターンへ



●カードの種類

・モンスターカード

 ファイトの基本となるカード。
 モンスター同士の戦闘ではPの数値を参照し、高い方が勝利する。同じ場合は相打ち。
 プレイヤーへの攻撃時にはヒットという数値を参照する。ダメージを受けるプレイヤーは、攻撃モンスターのヒット数分のライフを失う。


・進化モンスター

 一部特殊なモンスターカード。
 進化条件によって指定された自分の場のモンスターを素材にして、召喚する。


・魔法カード

 使い切りの効果カード。
 主にファイトを補助する役割を持つ。


・アームド
コストを払う事で、モンスターゾーンに顕現できるカード。
単体ではパワーもヒットも持っていない。
条件を満たしたモンスターに武装(アームド)する事で、モンスターを強化する事ができる。





使用者:天川(てんかわ)ツルギ

系統:幻想獣(げんそうじゅう)

系統が持つ専用能力:なし

 

◆モンスターカード

 

紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル

系統:幻想獣

P500 ヒット1

効果①:このカードが破壊された場合、墓地に置く代わりに手札に戻す。

効果②:このカードの戦闘によって【貫通】のダメージは発生しない。

 

 

トリオ・スライム

系統:幻想獣

P1000 ヒット1

効果:このカードの召喚に成功した時に発動する。自分のデッキから『トリオ・スライム』を1枚手札に加える。

 

 

コボルト・ウォリアー

系統:幻想獣

P3000 ヒット2

効果:このカードの攻撃時に発動する。このカードのパワーは、墓地の系統 《幻想獣》のモンスター1体につき+1000される。

 

 

コボルト・ウィザード

系統:幻想獣

P2000 ヒット1

効果:このカードの召喚に成功した時に発動する。デッキからカードを1枚ドローする。

 

 

ケリュケイオン

系統:幻想獣

P3000 ヒット1

効果:このカードが場に存在する限り、魔法カードの効果によって自分が受けるダメージは1点減る。

 

 

スナイプ・ガルーダ

系統:幻想獣

P3000 ヒット1

効果:自分の場の系統:〈幻想獣〉を持つモンスター全てに【指定アタック】を与える。

(【指定アタック】を得たモンスターは、相手モンスター1体を選んで攻撃できる。)

 

 

アサルト・ユニコーン

系統:幻想獣

P10000 ヒット0

召喚コスト:ライフ3点を払う。

効果①:このカード以外の系統:〈幻想獣〉を持つモンスターが召喚された時、それを破壊する。

このターンの間、このカードのヒットは破壊したモンスターのヒット数分上がる。

効果②:【貫通】(このカードが相手モンスターだけを戦闘で破壊した時、このカードのヒット数分のダメージを相手に与える。)

 

 

コボルト・マジシャン

系統:幻想獣

P2000 ヒット1

効果:このカードを疲労させる事で発動する。

このターンの間、自分の場のモンスター1体のヒットを+1する。

 

 

コボルト・ガードナー

系統:幻想獣

P6000 ヒット0

召喚コスト:ライフ1点を払う。

効果①:このカードは攻撃できない。

効果②:相手ターンに1度発動できる。

このカードを回復させる。

 

 

 

ドッペルスライム

系統:幻想獣

P4000 ヒット1

効果:このカードが破壊された時に発動できる。

このカードを墓地から召喚する。

『ドッペルスライム』の効果はゲーム中1度しか発動できない。

 

 

 

コボルト・エイダー

系統:幻想獣

P4000 ヒット1

効果:相手モンスターの攻撃宣言時に、自分の墓地に系統:〈幻想獣〉を持つカードが存在するなら、このカードを手札から捨てて発動できる。

自分のライフを3点回復し、デッキからカードを1枚ドローする。

『コボルト・エイダー』の効果はゲーム中1度しか発動できない。

 

 

 

 

◆進化モンスター

 

ファブニール

系統:幻想獣

P10000 ヒット?

進化条件:自分のP3000以下のモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動する。相手モンスター1体を破壊する。このカードのヒット数は、この効果で破壊したモンスターのヒット数と同じになる。

効果②:【ライフガード】(このカードはゲーム中1度だけ、場を離れる場合、代わりに回復状態で場に残る。)

 

 

ジャバウォック

系統:幻想獣

P8000 ヒット3

進化条件:自分の場の系統:〈幻想獣〉を持つモンスター1体上重ねる。

効果①:このカードが破壊された時、カードを1枚ドローしてもよい。

効果②:このカードが進化モンスターから進化しているなら、このカードは【2回攻撃】を得る。

 

 

グウィバー

系統:幻想獣

P3000 ヒット1

進化条件:自分の場の系統:〈幻想獣〉を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動する。

自分のデッキから系統:〈幻想獣〉を持つカードを1枚選び、手札に加える。この効果は1ターンに1度しか発動できない。

効果②:このカードを進化元にしたモンスターは、ヒットを+1する。

 

 

 

幻蒼竜(げんそうりゅう)】カーバンクル・ドラゴン

系統:幻想獣、夢幻

P20000  ヒット3

進化条件:自分のライフが3以下の場合に、自分の系統:〈幻想獣〉を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードが『【紅玉獣】カーバンクル』から進化している場合、自分のアタックフェイズ中に相手は魔法カードを発動できない。

効果②:【無限槍(むげんそう)】(このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手に3点のダメージを与える。その後、相手の場にモンスターが存在するなら、このカードは回復する。)

効果③:【ライフガード】

 

 

 

 

 

 

◆アームド

 

【王の幻槍(げんそう)】グングニル

系統:幻想獣、夢幻

顕現コスト:手札を1枚捨てて、ライフ1点を払う。

【武装条件:系統:〈幻想獣〉を持つモンスター】

武装時効果①:自分のデッキを上から8枚除外する事で、1ターンに1度、このカードは回復する。

武装時効果②:【指定アタック】

 

//制限カード

 

 

 

 

 

 

◆魔法カード

 

バックキャンセル

系統:幻想獣、召喚、防御

発動コスト:ライフ1点を払う。

効果:このターンの間、自分の系統 :〈幻想獣〉を持つモンスターがフィールドから手札に戻った場合、そのモンスターと同名のモンスター1体を手札から召喚できる。

 

 

召喚爆撃《しょうかんばくげき》!

系統:幻想獣、火力

発動コスト:次の自分のバトルフェイズを放棄する。

効果:このターンの間、自分が系統:〈幻想獣〉を持つモンスターを召喚した時、そのモンスターを破壊する。

その後、お互いのプレイヤーは1点のダメージを受ける。『召喚爆撃』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

リブート!

系統:回復

効果:自分のモンスター1体を回復状態にする。

『リブート!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

トリックゲート

系統:トリック、防御

効果:相手モンスターの攻撃時に発動できる。

その攻撃対象を任意のモンスターに移し替える。

 

 

トリックボックス

系統:トリック、召喚

効果:自分のモンスターがカード効果の対象、または相手モンスターと戦闘を行う場合に発動できる。

デッキからカードを1枚ドローする。

その後、自分のモンスター1体を手札に戻し、手札からカード名の異なるモンスター1体を召喚して、戦闘または効果の対象を移し替える。

 

 

エルダーサイン

系統:蘇生、召喚

発動コスト:手札1枚を捨てる。

効果:自分、または相手の墓地からモンスター1体を選び発動する。

選んだモンスターを自分の場に召喚する。

『エルダーサイン』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

ギャンビットドロー!

系統:チェス、ドロー

発動コスト:自分のモンスター1体を破壊する。

効果:デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

フューチャードロー

系統:ドロー

発動コスト:ライフ2点を払う。

効果:自分のターンで数えて2ターン後のスタートフェイズに、デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

トリニティオーラ!

系統:強化、オーラ

効果:自分の場にモンスターが3体存在する場合に発動できる。

自分の場のモンスター全てのパワーを+4000する。

その後、自分の場のモンスターが全てカード名が同じであれば、パワーを+5000する。

 

 

デストロイポーション

系統:回復、粉砕

効果:自分のデッキを上から5枚破棄する。

この効果で破棄されたモンスターカード1枚につき、自分のライフを1点回復する。

 

 

逆転の一手!

系統:ドロー

効果:自分のライフが4以下の場合に発動できる。

手札が3枚になるようにデッキからカードをドローする。

 

 

グラビトントラップ

系統:戦闘

効果:相手モンスター1体を疲労させる。

 

 

ファブニールの呪い

系統:破壊

発動コスト:手札から系統 :〈幻想獣〉を持つカードを1枚捨てる。

効果:自分のメインフェイズに発動できる。

モンスター1体を選んで破壊する。

 

 

千手連撃(せんじゅれんげき)

系統:オーラ

発動コスト:ライフ2点を払う。

効果:自分の場のモンスター1体を選んで発動する。

このターンの間、選んだモンスターが戦闘で相手モンスターだけを破壊した時、そのモンスターを回復させる。

このターンの間、選んだモンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。

 

 

トリックカプセル

系統:トリック

発動コスト:ライフ2点を払う。

効果:自分のデッキから、カードを1枚選びゲームから除外する。自分のターンで数えて2ターン後のスタートフェイズに、除外したカードを手札に加える。(相手は除外したカードを確認できない)

 

//実は前の世界では制限カード。

 

 

トライアングル・バースト

系統:破壊

効果:自分の場にモンスターが3体存在する場合に発動できる。

相手モンスター1体を選んで破壊する。

自分の場にカード名が同じモンスターが3体存在する場合、代わりに相手の場のモンスターを全て破壊する。

 

 

ザ・トリオ・ドロー!

系統:ドロー

効果:自分の場にカード名が同じモンスターが3体存在する場合に発動できる。デッキからカードを3枚ドローする。

『ザ・トリオ・ドロー!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

エヴォ・リブート!

系統:回復、強化

効果:自分のモンスター1体を回復させる。

それが進化モンスターであった場合、ヒットを+1する。

このカード発動するターン、自分は進化モンスター以外で攻撃できない。

『エヴォ』リブート!』は1ターンに1枚しか発動できない

 

 

ダイヤモンドボックス

系統:ドロー

発動コスト:カード効果で、このカードを手札に加える。

効果:デッキからカードを3枚ドローする。その後、このカードをデッキの一番下に戻す。

『ダイヤモンドボックス』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

トリックドーピング

系統:トリック、強化、オーラ

効果:自分のモンスターが相手モンスターと戦闘を行う時に発動できる。

戦闘を行っている自分のモンスター1体を、この戦闘中のみパワー+8000する。

 

 

ダイレクトウォール

系統:防御

効果:自分の場にモンスターが存在しない場合に、相手モンスターが攻撃してきた時に発動できる。

相手のアタックフェイズをただちに終了させる。

 

 

ザ・ファンタジーゲート

系統:幻想獣

効果:自分のデッキから系統:〈幻想獣〉を持つモンスターカードを1枚選び、手札に加える。

『ザ・ファンタジーゲート』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

ルビー・イリュージョン

系統:幻想獣

効果:このカードは、自分の場に『【紅玉獣】カーバンクル』が存在する時のみ発動できる。

相手の場に存在するモンスター全てのパワーを−∞する。

このターン、自分の『【紅玉獣】カーバンクル』以外のモンスターは攻撃ができない。

 

 

幻想の継承

系統:オーラ、強化

発動コスト:デッキを上から5枚除外し、ライフ2点を払う。

効果:自分の墓地から進化モンスター1体以上含む、系統:〈幻想獣〉を持つモンスターを2体除外する。

このターンの間、自分の場のモンスター1体のヒットを、除外したモンスターヒット数合計分上げる。

このターンの間、自分はモンスター1体でしか攻撃できない。

『幻想の継承』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

トリックミラージュ

系統:トリック、火力

発動コスト:自分の場のモンスターを1体破壊する。

効果:このターンの間、自分が受けるダメージは全て、代わりに相手が受ける。

『トリックミラージュ』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

魂喰らいの呪術

系統:オーラ、強化

効果:自分のモンスター1体をP−4000する。

このターンの間、そのモンスターの攻撃に対して相手は魔法カードを発動できない。

『魂喰らいの呪術』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

ゼロバリア!

系統:防御

効果①:次に自分が受ける、カード効果によるダメージを0に減らす。

効果②:自分のドローフェイズ開始時に発動できる。

通常のドローをする代わりに、墓地に存在するこのカードを手札に加える。

 

 

メテオディザスター!

系統:防御、火力

発動コスト:自分の場のモンスターを全て、デッキに戻す。

効果:自分のライフが5以下であれば、次に自分が受けるダメージを倍にして、お互いのプレイヤーに与える。

『メテオディザスター!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

トリックプレゼント!

系統:トリック

発動コスト:自分の手札を1枚選んで、相手プレイヤーの手札に加える。

効果:次の中から一つを選んで発動する。

『トリックプレゼント!』は1ターンに1枚しか発動できない。

●自分のライフを1点回復して、デッキからカードを1枚ドローする。

●自分の墓地に存在する魔法カードを1枚選んで、手札に加える。ただしそのカードと同名のカードは、このターン発動できない。

 

 

ルビー・バリア!

系統:幻想獣

効果:このカードは、自分の場に系統:〈幻想獣〉を持つモンスターが存在する時のみ発動できる。

次に自分が受けるダメージを0にする。

自分の場に『【紅玉獣】カーバンクル』が存在する場合、代わりに次の自分のターン開始時まで、自分が受ける全てのダメージを0にする。

 

 

フューチャースティール

系統:ドロー、破壊

発動コスト:ライフ3点を払う。このターン終了後、相手は追加ターンを得る。

効果:以下の効果から一つを選んで発動する。

●相手の場のモンスターを全て破壊する。

●デッキからカードを2枚ドローする。

『フューチャースティール』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

 

トリックエスケープ

系統:トリック、回収

効果:自分の場のモンスターを好きな数手札に戻す。

その後、戻したモンスター1体につき、ライフを1点回復する。

『トリックエスケープ』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

トリックリサイクル

系統:トリック、回収

効果:自分の墓地に存在する『トリックリサイクル』以外の、系統:〈トリック〉を持つカードを1枚選び、手札に戻す。

『トリックリサイクル』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

ファイナルトリック・エクスプロージョンフィナーレ

系統:トリック

発動コスト:自分の墓地から系統:〈トリック〉を持つ、カード名が異なるカードを6枚除外して、手札を2枚捨てる。

効果:相手に5点のダメージを与える。

このカードの発動と効果は無効化されず、ダメージは減らない。

『ファイナルトリック・エクスプロージョンフィナーレ』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

 

ディスペルイリュージョン

系統:幻想獣、解呪

発動コスト:手札を1枚捨てて、ライフ2点を払う。

効果:自分の場に系統:〈幻想獣〉を持つモンスターが存在する場合に発動できる。

相手が発動した魔法カード1枚を無効にする。

自分の場にカード名に「カーバンクル」を含むモンスターが存在するなら、このカードは発動コストを払わずに発動できる。

『ディスペルイリュージョン』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

赤翼ソラ(11月9日更新)

使用者:赤翼(あかばね) ソラ

系統:聖天使(せいてんし)

系統が持つ専用能力:【天罰(てんばつ)

 

●モンスター

 

キュアピット

系統:聖天使

P3000 ヒット1

効果①:このカードを召喚した時、自分のライフを2点回復する。

効果②:【天罰】(自分のライフが相手より多い場合に、このカードは以下の効果を得る。)

◆このカードをパワー+6000する。

 

 

シールドエンジェル

系統:聖天使

P7000 ヒット2

効果①:アタックフェイズ終了時に発動する。

自分のライフを1点回復してもよい。

効果②:【天罰】

◆自分のエンドフェイズ開始時に発動する。

自分の場のモンスターを全て回復させる。

 

 

ジャスティスエンジェル

系統:聖天使

P5000 ヒット2

召喚コスト:手札を1枚捨て、ライフ1点を払う。

効果①:自分の場のモンスター全てを、パワー+2000する。

効果②:【天罰】

◆自分の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスター全てに【2回攻撃】を与える。

 

 

ヒーラーエンジェル

系統:聖天使

P4000 ヒット1

効果①:このカードを召喚した時に発動できる。

自分の墓地から系統:〈回復〉を持つ魔法カード1枚を除外する。

その後、除外した魔法カードの効果を、コストを払わずに発動する。

効果②:【天罰】

◆このカードの攻撃時に発動する。

デッキからカードを1枚ドローする。

 

//ヒーラーエンジェルで魔法カードの効果をコピーした場合、その効果はヒーラーエンジェルの効果として発動されます。

その為〈ホーリーポーション〉等の同名ターン1制限を無視して、効果をコピーする事も可能です。

 

 

アクエリアスエンジェル

系統:聖天使

P4000 ヒット2

効果①:このカードは相手の魔法カードの効果で破壊されない。

効果②:【天罰】

◆このカード召喚に成功した時に発動する。

相手の場に存在するパワーが一番小さいモンスターを疲労させる。(複数存在する場合は全て疲労させる)

 

 

ジェミニエンジェル

系統:聖天使

P5000 ヒット2

効果①:自分ライフが相手よりも上の場合のみ、このカードは攻撃できる。

効果②:【2回攻撃】

効果③:【天罰】

◆このカードのパワーを+5000する。

 

 

アンカーエンジェル

系統:聖天使

P1000 ヒット0

効果①:【天罰】

◆このカード召喚に成功した時に発動する。

自分の墓地から系統:〈聖天使〉を持つモンスター1体を手札に加える。

 

 

アリエスエンジェル

系統:聖天使

P7000 ヒット1

効果①:ブロック中、このカードはパワー+2000される。

効果②:【天罰】

◆このカードは、相手の効果では破壊されない。

 

 

サジットエンジェル

系統:聖天使

P4000 ヒット1

効果:【天罰】

◆このカード召喚に成功した時に発動する。

相手の場に存在するパワーが一番低いモンスター1体を選び、破壊する。

 

 

ソードエンジェル

系統:聖天使

P5000 ヒット3

効果①:このカードの攻撃で相手にダメージを与えた時に発動する。

このカードのヒット数だけ、自分のライフを回復する。

効果②:【天罰】

◆このカードは、このカードよりパワーの低いモンスターからブロックされない。

 

 

ピスケスエンジェル

系統:聖天使

P5000 ヒット2

効果①:【指定アタック】

効果②:【天罰】

◆このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動する。

デッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 

 

●進化モンスター

 

【天翼神】エオストーレ

系統:聖天使

P11000 ヒット3

進化条件:自分の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動する。

次の自分のスタートフェイズ開始時まで、自分の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスターは魔法カードの効果では破壊されない。

効果②:【天罰】(自分のライフが相手より多い場合に、このカードは以下の効果を得る。)

◆このカードの攻撃時、相手は自身のモンスターを2体選び、デッキの一番下に送る。

効果③:【ライフガード】

 

 

 

●魔法

 

再臨

系統:聖天使、召喚、蘇生

発動コスト:手札を1枚捨てる。

効果:自分の墓地から系統:〈聖天使〉を持つモンスター1体を選んで、自分の場に召喚する。

【天罰】

◆ 自分の墓地から系統:〈聖天使〉を持つモンスター1体を選んで、自分の場に召喚する。

『再臨』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

天聖剣舞

系統:聖天使、オーラ

効果:【天罰】

◆このターンの間、自分の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスターは全て、自身よりもパワーの低い相手モンスターからブロックされない。

 

 

エンジェルオーラ

系統:聖天使、オーラ

効果:自分の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスターは全て、パワー+2000される。

【天罰】

◆自分の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスターは全て、パワー+3000される。

 

 

エンジェルドロー

系統:聖天使、ドロー

発動コスト:手札から系統:〈聖天使〉を持つカード1枚を捨てる。

効果:デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

痛み分けの反射鏡

系統;防御、火力

発動コスト:相手にカードを1枚ドローさせる。

効果:次に自分が受ける戦闘ダメージは、代わりに相手が受ける。

 

 

スーパーポーション

系統:回復

発動コスト:自分のモンスター1体を破壊する。

効果:ライフを5点回復する。

 

 

ホーリーポーション

系統:聖天使、回復、ドロー

発動コスト:手札の系統:〈聖天使〉を持つカード1枚を相手に見せる。

効果:ライフを3点回復する。その後、デッキからカードを1枚ドローする。

『ホーリーポーション』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

リボーンギフト

系統:ドロー

効果:このカードは自分の墓地からモンスターを召喚したターンでのみ、発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

その後、このカードを除外する。

『リボーンギフト』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

オーバーライフドロー

系統:ドロー

発動コスト:ライフ2点を払う。

効果:自分のライフが相手より4点以上多い場合に発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

ヒーリングウォール

系統:聖天使、防御、回復

効果:相手モンスターの攻撃宣言時に、自分の場に系統:〈聖天使〉を持つモンスターが存在するなら、以下の効果から1つを選んで発動する。

●自分の場のモンスター1体を回復させる。

●相手モンスター1体の攻撃を無効化する。

その後、自分のライフを2点回復する。

 

 

シールドキャンセル!

系統:解呪

発動コスト:自分のモンスター1体を疲労させる。

効果:相手が発動した、系統:〈防御〉を持つ魔法カード1枚を無効にする。

『シールドキャンセル!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

フェイカーポーション

系統:回復

効果:自分のライフを5点回復する。

このターンのエンドフェイズ開始時に、自分はライフを5点失う。

『フェイカーポーション』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

エンジェルドロー

系統:聖天使、ドロー

発動コスト:手札から系統:〈聖天使〉を持つカード1枚を捨てる。

効果:デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 

パニッシュメントポーション

系統:聖天使、破壊、回復

発動コスト:手札から系統:〈聖天使〉を持つカードを1枚捨てる。

効果:相手の場のモンスター1体を選んで破壊する。

その後、破壊したモンスターのヒット数分だけ、自分のライフを回復する。

 

 

Reキューピット

系統:聖天使、召喚、蘇生、ドロー

発動コスト:手札の系統:〈聖天使〉を持つカード1枚を相手に見せる。

効果:自分の墓地から〈キュアピッド〉を1体選んで、自分の場に召喚する。

ただしその召喚時効果は使えない。

その後、デッキからカードを1枚ドローする。

『Reキューピット』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

オーバーライフドロー

系統:ドロー

発動コスト:ライフ2点を払う。

効果:自分のライフが相手より4点以上多い場合に発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宮田愛梨(アイ)(11月12日更新)

使用者:宮田(みやた) 愛梨(あいり) (アイ)

系統:樹精(じゅせい)

系統が持つ専用能力:【再花(さいか)

 

 

 

●モンスター

 

ベビーシード

系統:樹精

P1000 ヒット0

効果①:このカードを手札から捨ててもよい。

効果②:ドローフェイズ開始時に、ライフを2点払って発動する。

通常ドローをする代わりに、墓地のこのカードを手札に加える。

 

//制限カード

 

 

パンジープラント

系統:樹精

P3000 ヒット2

効果①:このカードが手札から召喚に成功した時に発動する。

カードを1枚ドローして、手札を1枚捨てる。

効果②:【再花】(自分の手札が捨てられた時、このカードを墓地から召喚してもよい。)

 

 

ナルキッソスプラント

系統:樹精

P5000 ヒット0

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動する。

自分のデッキを上から4枚墓地に送る。

効果②:【再花】

 

 

ローズプラント

系統:樹精

P7000 ヒット2

召喚コスト:デッキ上から5枚除外して、ライフ2点を払う。

効果①:自分の手札が捨てられた時に発動する。

自分の場の系統:〈樹精〉を持つモンスターのヒットを+1する。この効果は1ターンに1度しか発動しない。

効果②:【再花】

 

 

シスタスプラント

系統:樹精

P8000 ヒット2

召喚コスト:デッキ上から5枚除外して、ライフ1点を払う。

効果①:このカードを含む自分のモンスターが【再花】によって召喚された時に発動する。

相手に1点のダメージを与える。

効果②:【再花】

 

 

ピーアニープラント

系統:樹精

P4000 ヒット2

効果①:自分の手札が捨てられた時に発動する。

このターンの間、自分の場の系統:〈樹精〉を持つモンスターは全て、パワー+3000される。

効果②:【再花】

 

 

チューリッププラント

系統:樹精

P4000 ヒット1

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動する。

相手モンスター1体を選び、疲労させる。

効果②:【再花】

 

 

キャクタスプラント

系統:樹精

P7000 ヒット2

召喚コスト:ライフ1点を払う。

効果①:このカードが墓地から召喚された場合、以下の効果から1つを選んで発動する。

●ヒット2以下の相手モンスター1体を選んで破壊する。

●このターンの間、このカードは【貫通】得る。

効果②:【再花】

 

 

アルストロメリアプラント

系統:樹精

P6000 ヒット2

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動する。

ライフを2点回復する。

効果②:【再花】

 

 

ラフレシアプラント

系統:樹精

P9000 ヒット5

召喚コスト:ライフ2点を払い、自分の場のモンスター2体を破壊する。

効果:【再花】

 

 

 

 

●進化モンスター

 

 

獣神樹(じゅうしんじゅ)】セフィロタウラス

系統:樹精

P13000 ヒット3

進化条件:自分の墓地にモンスターが5枚以上存在する場合に、自分の場の系統:〈樹精〉を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:自分の【再花】で召喚されるモンスターは、召喚コストを払わなくてもよい。

効果②:自分の場の系統:〈樹精〉を持つ他のモンスターは、パワー+2000される。

効果③:このカードが場を離れる時、代わりに自分の手札を1枚捨ててもよい。そうした場合このカードは回復する。

 

 

 

●魔法

 

 

プラントウォール

系統:防御、樹精、回復、粉砕

発動コスト:自分の手札を1枚捨ててもよい。

効果:自分の場に系統:〈樹精〉を持つモンスターが2体以上存在する場合に発動できる。

相手のアタックフェイズをただちに終了させる。

その後、以下の効果を1つ選んで発動する。

●ライフを2点回復する。

●自分のデッキを上から3枚、墓地に送る。

 

 

 

プラントドロー

系統:樹精、ドロー

発動コスト:手札または場から系統:〈樹精〉を持つカードを1枚破壊する。

効果:デッキからカードを2枚ドローする。

『プラントドロー』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

//捨てるではないので【再花】は使えない。

 

 

ガトリングシード!

系統:樹精、火力

発動コスト:自分のライフが5以下の時、自分の場の系統:〈樹精〉を持つモンスターを全て破壊する。

効果:発動時に破壊した進化モンスター、または【再花】を持つモンスターのヒット数を合計した数値分、相手にダメージを与える。

『ガトリングシード!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

不平等契約

系統:粉砕

発動コスト:ライフ3点を払う。

効果:自分のデッキを上から8枚墓地に送る。

その後、自分の場のモンスターの数が相手より少ない場合、墓地からモンスター1体を選んで手札に加える。

『不平等契約』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

//制限カード→禁止カード

 

 

ポイズンパラン!

系統:樹精、解呪

発動コスト:自分の場の系統:〈樹精〉を持つモンスター1体を破壊する。

効果:相手が発動した魔法カード1枚を無効にする。

『ポイズンパラン』は1ターンに1度しか発動できない。

 

 

ジェノサイドソーン!

系統:樹精、強化

発動コスト:手札を1枚捨ててもよい。

効果:このターンの間、自分の場の系統:〈樹精〉を持つモンスター1体に【貫通】を与える。

このターンのエンドフェイズ開始時に、そのモンスターを破壊する。

『ジェノサイドソーン』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

ポイズン・オア・ヒーリング

系統:樹精、防御、回復、ドロー

効果:自分の場に系統:〈樹精〉を持つモンスターが存在する場合に、以下の効果から1つを選んで発動する。

●自分のライフを2点回復する。

●このターン、次に相手が回復するライフを0にする。

●お互いに手札を1枚捨てて、デッキから1枚ドローする。

 

 

 

ダブルハリケーン !

系統:旋風

効果:自分の場のモンスター1体を破壊する。

その後、相手は自身の場のモンスター1体を選び、破壊する。

 

 

エヴォジャベリン

系統:強化

効果:自分の場に存在する進化モンスター1体のヒットを+1。更にこのターンの間【貫通】を与える。

このターンのエンドフェイズ開始時に、そのモンスターは破壊される。

『エヴォジャベリン』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

速水学人(11月20日更新)

使用者:速水(はやみ) 学人(がくと)

系統:元素(げんそ)

系統が持つ専用能力:【合成(ごうせい)

 

 

●モンスター

 

ウォーター・プレシオン

系統:元素、水

P3000 ヒット1

効果①:【合成】で召喚された場合に発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。

効果②:【合成】で召喚されたこのカードが存在する限り、自分の場の系統:〈元素〉を持つモンスターはパワー+2000される。

 

 

タイフーン・ブラキオ

系統:元素、水、風

P10000 ヒット2

効果①:このカードは【合成】でのみ召喚できる。

効果②:このカードを召喚した時、相手モンスターを全て疲労させる。

 

 

ダイヤモンド・パキケファロ

系統:元素、土

P6000 ヒット2

効果①:このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。

効果②:【合成】で召喚されたこのカードのヒット数は+2される。

 

 

スチーム・レックス

系統:元素、火、水

P9000 ヒット3

召喚コスト:ライフ1点を払う。

効果①:このカードは【合成】でのみ召喚できる。

効果②:このカードは効果では破壊されない。

効果③:【貫通】

 

 

サイクロン・プテラ

系統:元素、風

P6000 ヒット2

効果①:【合成】で召喚された場合に発動できる。相手モンスター1体をデッキの一番上に戻す。

効果②:【合成】で召喚されたこのカードは、【2回攻撃】を得る。

 

 

●進化モンスター

 

蒸気竜王(じょうきりゅうおう)】スチームパンク・ドラゴン

系統:元素、火、水

P13000 ヒット3

進化条件:自分の場に存在する、【合成】によって召喚されたモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードは戦闘と効果では破壊されない。

効果②:このカードの攻撃時に、自分の墓地に存在する系統:〈元素〉を持つ魔法カードを1枚選んで発動する。そのカードの効果を発動する。

効果③:【2回攻撃】

 

 

●魔法

 

 

ウォーターエレメント

系統:元素、水

効果①:デッキからカードを1枚ドローする。

効果②:【合成】(手札のこのカードと系統:〈元素〉を持つ魔法カードを1枚捨てる事で、捨てたカードと同じ系統を全て持つモンスター1体をデッキ・手札から召喚する)

 

 

バブルエレメント

系統:元素、水

効果①:相手モンスター1体の攻撃を無効にする。

効果②:【合成】

 

 

エアロエレメント

系統:元素、風

効果①:疲労状態の相手モンスター1体を、持ち主の手札に戻す。

効果②:【合成】

 

 

元素再生

系統:元素、回収

発動コスト:ライフを2点払う。

効果:自分の墓地から、系統:〈元素〉を持つカードを2枚まで選び、手札に戻す。

『元素再生』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

エレメンタルポーション

系統:元素、回復

効果:自分の墓地に存在する系統:〈元素〉を持つカードを4枚までデッキに戻す。

この効果で戻したカードの数だけ、自分はライフを1点回復する。

 

 

ディフェンスシフト

系統:回復、防御

効果:自分の場のモンスターを全て回復させる。

このターンの間、自分のモンスターは攻撃できない。

 

 

エレメンタルポーション

系統:元素、回復

効果:自分の墓地に存在する系統:〈元素〉を持つカードを4枚までデッキに戻す。

この効果で戻したカードの数だけ、自分はライフを1点回復する。

 

 

ヴォルカニックエレメント

系統:元素、火

効果①:このターンの間、自分の場の系統:〈元素〉を持つモンスターと戦闘を行った相手モンスターは、戦闘後に除外される。

効果②:【合成】

 

 

アースエレメント

系統:元素、土

効果①:自分の場の系統:〈元素〉を持つモンスター1体を回復させる。このターンの間、そのモンスターをパワー+3000する。

効果②:【合成】

 

 

シーエレメント

系統:元素、水

効果①:次に自分が受けるダメージを6点減らす。

効果②:【合成】

 

 

デストロイウォール

系統:防御、粉砕

効果:相手モンスターの攻撃時に、発動できる。

相手の場に存在するモンスターのヒット数の合計と同じ枚数、自分のデッキを上から破棄する。

その後、このターン自分が戦闘で受けるダメージを0にする。

『デストロイウォール』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

元素交換

系統:元素、ドロー

発動コスト:自分の手札から系統:〈元素〉を持つカードを2枚デッキに戻す。

効果:デッキからカードを3枚ドローする。

『元素交換』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

エレメント・バックドロー

系統:元素、ドロー、回復

発動コスト:自分の場に存在する【合成】によって召喚されたモンスター1体をデッキに戻す。

効果:デッキからカードを2枚ドローする。

その後自分のライフを2点回復する。

 

 

 

緊急合成!

系統:元素、召喚

効果:自分のライフが5以下場合にのみ発動できる。

自分の墓地に存在する系統:〈元素〉を持つモンスター1体を、【合成】扱いで召喚する。

この効果で召喚したモンスターは攻撃できず、このターンのエンドフェイズ開始時に墓地に送られる。

『緊急合成!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

//制限カード

 

 

ファイナルセキュリティ!

系統:防御

効果:自分のライフが5以下の時に、自分のライフ以上の数値を持つダメージを受ける場合に発動できる。

このターンの間、自分のライフは1以下にはならない。

 

//制限カード

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その他男性キャラクター(1月13日更新)

使用者:財前(ざいぜん) 小太郎(こたろう) & 財前 半蔵(はんぞう)

系統:機械

系統が持つ専用能力:【オーバーロード】

 

◆モンスターカード

 

ディフェンダー・マンモス

系統:機械

P10000 ヒット0

召喚コスト:自分のデッキを上から8枚除外する。

効果①:このカードは攻撃できない。

効果②:自分のスタートフェイズ開始時に発動できる。このカードを破壊する。

効果③:このカードが破壊された時、デッキからカードを1枚ドローする。

 

 

メカゴブリン

系統:機械

P6000 ヒット1

効果①:【オーバーロード】(このカードの召喚時に、手札を1枚捨ててもよい。そうしたらこのターンの間、このカードの元々のパワーとヒットを2倍にする)

効果②:自分の場にパワー10000以上のモンスターがいて、このカードが相手モンスターを戦闘で破壊した時に発動する。相手に2点のダメージを与える。

 

 

ダブルランサーロボ

系統:機械

P6500 ヒット2

効果①:【オーバーロード】

効果②:このカードのパワーが13000以上の場合、自分の場の【オーバーロード】を持つモンスター全てに【二回攻撃】を与える。

 

 

ギフトキャリアー

系統:機械

P2000 ヒット1

効果①:【オーバーロード】

効果②:このカードが除外された時、デッキからカードを1枚ドローする。

 

 

ディフェンダー・コング

系統:機械

P8000 ヒット0

効果①:このカードは攻撃できない。

効果②:このカードのブロックで相手モンスターを破壊した時に発動する。このカードを回復させる。

 

 

ギアバーサーカー

系統:機械

P5000 ヒット1

効果①:このカードのパワーが10000以上の場合、以下の効果を得る。

●自分の系統:〈機械〉を持つモンスターが攻撃した場合、相手は可能であれば必ずブロックしなければならない。

効果②:【オーバーロード】

 

 

 

●進化モンスター

 

重装将軍(じゅうそうしょうぐん)】アヴァランチ

系統:機械

P15000 ヒット4

進化条件:パワー10000以上の系統 :〈機械〉のモンスター1体の上に重ねる。

効果①:【オーバーロード】

効果②:自分のアタックフェイズ開始時に、手札を1枚捨てて発動できる。自分の場の系統 :〈機械〉を持つモンスターの【オーバーロード】を、コストを払わずに全て発動する。

効果③:【貫通】

 

 

◆魔法カード

 

オイルチャージ

系統:機械、ドロー

効果:自分の場に系統 :〈機械〉のモンスターが2体以上存在するなら発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

『オイルチャージ』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

シェルターウォール

系統:機械、防御

効果:自分の墓地に系統 :〈機械〉を持つカードが3種類以上存在するなら、以下の効果から一つを選んで発動する。

●相手のアタックフェイズをただちに終了させる。

●このターン自分が受ける全てのダメージを1点減らす。

 

 

スペルコピー

系統:複製、魔術

発動コスト:ライフを2点払う。

効果:自分または相手の墓地から、魔法カードを1枚選び除外する。

このカードは除外したカードと同じ効果を得る。

『スペルコピー』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

追尾ミサイル

系統:機械、戦闘

効果:このターンの間、自分の場の系統 :〈機械〉を持つモンスター全てに【指定アタック】を与える。

【指定アタック】を得たモンスターは、相手モンスター1体を指定して攻撃できる。

 

 

ブレインリセット

系統:回収

効果①:このカードと、自分の墓地に存在するカードを全てデッキに戻して、シャッフルする。

効果②:このカードが効果によってデッキから墓地に送られた場合に発動する。このカードの効果①を発動する。

 

 

斬撃歯車!

系統:機械、破壊

効果:自分の場に系統:〈機械〉を持つモンスターが存在する場合に発動できる。

相手モンスター1体を選んで破壊する。

『斬撃歯車!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

 

 

使用者:入試職員(聖徳寺学園職員)

系統:守護兵(しゅごへい)

系統が持つ専用能力:【鉄壁(てっぺき)

 

●モンスター

 

ガーディアン・ビッグゴーレム

系統:守護兵

P9000 ヒット0

召喚コスト:ライフを1点払う。

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動できる。自分のデッキから『ガーディアン・ビッグゴーレム』好きな枚数選んで召喚する。

効果②:【鉄壁】(このカードは相手のカード効果では破壊されない。)

 

 

ガーディアン・ケンタウロス

系統:守護兵

P5000 ヒット2

効果①:相手モンスターとの戦闘中、このカードのパワーを+3000する。

効果②:【鉄壁】

 

 

ガーディアン・ミドルゴーレム

系統:守護兵

P6000 ヒット1

効果①:ブロック中、このカードのパワーは+2000する。

効果②:【鉄壁】

 

 

 

●進化モンスター

 

 

守護兵長(しゅごへいちょう)】マスターグリフォン

系統:守護兵

P11000 ヒット3

進化条件:自分の場の系統:〈守護兵〉を持つモンスター1体上に重ねる。

効果①:このカードがブロックで相手モンスターを破壊した時に発動する。このカードを回復させる。

効果②:自分のエンドフェイズ開始時に発動する。自分の場の系統:〈守護兵〉を持つモンスターを全て回復させる。

効果③:【鉄壁】

 

 

 

●魔法

 

 

ガーディアンリバイバル

系統:守護兵、蘇生、召喚

発動コスト:自分の手札を1枚捨てる。

効果:自分の墓地から系統:〈守護兵〉を持つモンスター1体を選び、自分の場に召喚する。

その後、自分の場に系統:〈守護兵〉を持つモンスターが2体以上存在するなら、デッキからカードを1枚ドローしてもよい。

『ガーディアンリバイバル』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

守護兵強襲

系統:守護兵、強化

効果:このターンの間、自分の場の系統:〈守護兵〉を持つモンスターは全て、ヒットを1上げる。

このターンのエンドフェイズ開始時に、このターン攻撃をしなかった自分のモンスターは全てデッキに戻る。

『守護兵強襲』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

守護兵の解呪儀式

系統:守護兵、解呪

発動コスト:手札から系統:〈守護兵〉を持つカードを1枚捨てる。

効果:相手の魔法カード1枚の発動を無効にする。

 

 

 

使用者:伊達(だて)権左衛門(ごんざえもん)

系統:(さむらい)

系統が持つ専用能力:【居合(いあい)

 

 

 

●モンスター

 

ウイノタチ

系統:侍

P6000 ヒット2

効果①:このカードを疲労状態で召喚してもよい。

効果②:【居合】(このカードが効果によって疲労状態から回復した時、以下の効果発動する。)

●ヒット1以下の相手モンスターを1体選んで破壊する。

 

ニノタチ

系統:侍

P5000 ヒット1

効果:このカードが破壊された時、自分の場の系統:〈侍〉を持つモンスターを全て回復させる。

 

 

サンノタチ

系統:侍

P6000 ヒット2

効果①:このカードを疲労状態で召喚してもよい。

効果②:【居合】

●デッキからカードを1枚ドローする。

 

 

イチバンランサー

系統:侍

P2000 ヒット1

効果:このカードの召喚に成功した時、ライフを1点払ってもよい。そうした場合、デッキから系統:〈侍〉を持つモンスターを1体選んでデッキの1番上に置く。

 

 

●進化モンスター

 

 

大剣豪(だいけんごう)】ムサシ

系統:侍

P11000 ヒット4

進化条件:自分の系統:〈侍〉を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードが相手モンスター戦闘で破壊した時、このカードは回復する。

効果②:【居合】

●相手の手札をランダムに1枚選んで墓地に捨てる。

効果③:【ライフガード】

 

 

 

●魔法

 

 

サムライドロー

系統:侍、ドロー

発動コスト:ライフを2点払う。

効果:デッキからカードを1枚ドローする。

その後、自分の場の系統:〈侍〉を持つモンスター1体を疲労させてもよい。

そうした場合、デッキからカードを1枚ドローする。

『サムライドロー』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

セップク!

系統:侍、破壊

効果:自分の場のモンスター1体選んで、破壊する。または疲労させる。

自分場に系統:〈侍〉を持つモンスターが存在する場合、代わりに相手モンスター1体を疲労させてもよい。

 

 

 

 

 

 

使用者:武井(ぶい)炎神(えんじん)

系統:勝利

系統が持つ専用能力:【Vギア】

 

 

●モンスター

 

勝利竜(しょうりりゅう)】ブイドラ

系統:勝利

P5000 ヒット2

効果①:【指定アタック】

効果②:【Vギア】(自分のライフが5以下であれば、以下の効果を適用する)

●【2回攻撃】

 

 

 

ブイバード

系統:勝利

P4000 ヒット2

効果①:自分の場の系統:〈勝利〉を持つモンスターのパワーを+1000する。

効果②:【Vギア】

● 自分の場の系統:〈勝利〉を持つモンスターのパワーを+2000する。

 

 

ブイドッグ

系統:勝利

P3000 ヒット1

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動する。

このカードよりパワーの低い相手モンスター1体を選んで破壊する。

効果②:【Vギア】

●このカードのパワーを+5000する。

 

 

ブイモンキー

系統:勝利

P5000 ヒット3

召喚コスト:ライフを1点払う。

効果①:このカードは相手の魔法カードの効果では選ばれない。

効果②:【Vギア】

●【貫通】

 

ブイゴールドベアー

系統:勝利

P7000 ヒット2

召喚コスト:ライフを1点払う。

効果①:このカードが相手モンスターを戦闘で破壊した時、または相手にダメージを与えた時に発動する。自分か相手に1点のダメージを与える。

効果②:【Vギア】

●自分がカード効果によるダメージを受けた時に発動する。

相手モンスターを1体選んで破壊する。

 

 

 

●進化モンスター

 

 

 

●魔法

 

ビクトリーオーラ

系統:勝利、強化

効果①:自分の場に存在する系統:〈勝利〉を持つモンスター1体を、このターンの間パワー+5000する。

効果②:【Vギア】

●このターンの間、自分の系統:〈勝利〉を持つモンスターが、戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動する。

破壊したモンスターのヒット分のダメージを相手に与える。

 

 

ビクトリードロー

系統:勝利、ドロー

効果①:デッキの1番上のカードをオープンする。

それが系統:〈勝利〉を持つカードであれば手札に加える。

効果②:【Vギア】

●自分の場に系統:〈勝利〉を持つモンスターが存在するなら、デッキからカードを2枚ドローする。

『ビクトリードロー』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

イージーガード

系統:防御

効果:相手モンスター1体の攻撃を無効にする。

 

 

 

ブイファイアー!

系統:勝利、破壊

効果:自分の場に系統:〈勝利〉を持つモンスター存在するなら発動できる。

相手の場に存在するヒット2以下のモンスターを1体選んで破壊する。

その後、破壊したモンスターのヒット数分のダメージを、自分か相手に与える。

『ブイファイアー!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

ビクトリーウォール!

系統:勝利、防御

効果:相手モンスター1体攻撃を無効にする。

【Vギア】

●代わりに相手のアタックフェイズ終了させる。

 

 

 

 

●アームド

 

ビクトリーセイバー

系統:勝利

顕現コスト:ライフを1点払う。

このカードは『キングダムセイバー』を武装しているモンスターに、武装上限を無視して武装できる。

【武装条件:系統:〈勝利〉を持つモンスター】

武装時効果①:このカードの攻撃中、このカードのパワーを+10000する。

武装時効果②:このカードが『キングダムセイバー』を武装しているなら、このカードの攻撃時に発動する。このターンの間、相手モンスターは効果で場に残れず、墓地から召喚できない。

 

 

 

 

 

 

使用者:九頭竜(くずりゅう)ルーク

系統:王竜(おうりゅう)輝士(きし)

系統が持つ専用能力:【王波(おうは)】【ロードストライク】

 

 

●モンスター

 

王子竜(おうじりゅう)】シルドラ

系統:王竜

P6000 ヒット2

効果①:【王波】(このカードの攻撃時、このカードよりパワーの低い相手モンスター1体を選んで破壊する。この効果は相手の効果で防げない。)

効果②:相手モンスターを2体以上破壊したターンに1度だけ発動できる。このカードを回復させる。

 

 

フレイムナイト

系統:輝士

P7000 ヒット3

召喚条件:ライフを1点払う。

効果①:自分の場の系統:〈王竜〉を持つモンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊できる。

効果②:【ロードストライク】(自分の場に系統:〈王竜〉を持つモンスターが存在する場合、このカードは以下の効果を得る。)

◆自分の場のモンスター全てのパワーを+3000する。

 

 

 

バレルナイト

系統:輝士

P3000 ヒット1

効果①:自分の場の系統:〈王竜〉を持つモンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊できる。

効果②:【ロードストライク】

◆相手モンスターが破壊される度に、相手に2点のダメージを与える。

 

 

 

ビッグディフェンドナイト

系統:輝士

P8000 ヒット2

効果①:自分の場の系統:〈王竜〉を持つモンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊できる。

効果②:【ロードストライク】

◆ 自分のエンドフェイズ開始時に、このカードは回復する。

 

 

 

●進化モンスター

 

 

 

●魔法

 

キングダムドロー

系統:王竜、輝士、ドロー

効果:自分のデッキを上から3枚オープンする。

その中に系統:〈王竜〉または〈輝士〉を持つカードがあれば、全て手札に加える。残りのカードは全て墓地に送る。

『キングダムドロー』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

ディスペルスラッシュ!

系統:輝士、解呪

発動コスト:ライフを2点払う。

効果:自分の場に系統:〈輝士〉を持つモンスターが存在するなら発動できる。

相手の魔法カード1枚の発動を無効にする。

 

 

輝士生還

系統:輝士、回収

効果:自分の墓地から系統:〈輝士〉を持つモンスターカードを1枚まで選んで、手札に加える。

『輝士生還』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

キングダムウォール!

系統:王竜、防御

効果:相手モンスター1体の攻撃を無効にする。

自分の場に存在するモンスターが、系統:〈王竜〉を持つモンスターだけならば、代わりに相手のアタックフェイズを終了させる。

 

 

 

 

 

●アームド

 

 

キングダムセイバー

系統:王竜

顕現コスト:自分のデッキを上から5枚除外する。

このカードは『ビクトリーセイバー』を武装しているモンスターに、武装上限を無視して武装できる。

【武装条件:系統:〈王竜〉を持つモンスター】

武装時効果①:【指定アタック】

武装時効果②:このカードが『ビクトリーセイバー』を武装しているなら、このカードの攻撃は無効化されず、相手は効果でアタックフェイズを終了できない。

 

 

 

 

 

 

使用者:三神(みかみ)当真(とうま)

系統:起源(?)

 

 

●モンスター

 

ピリオド・リザードマン

系統:終焉

P10000 ヒット0

召喚コスト:手札を1枚捨てる。

効果①:このカード召喚成功した時、デッキからカードを1枚ドローしてもよい。

効果②:このカードは攻撃できない。

効果③:自分のエンドフェイズ開始時に発動する。このカードを墓地に送る。

 

 

●進化モンスター

 

起源武装竜(きげんぶそうりゅう)】ソードマスター・ドラゴン

系統:起源

P13000 ヒット3

進化条件:自分のライフが5以下の場合に、自分のP10000以上のモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードの召喚に成功した時に発動できる。自分の手札からアームドカード1枚を、顕現コスト払わずに顕現させる。

効果②:このカードのアタック終了後に発動する。このカードが武装しているなら、ターン中1度だけ回復する。

効果③:【貫通】

 

 

●アームド

 

黎明剣(れいめいけん)】ビギニング

系統:起源

顕現コスト:ライフを2点払う。

【武装条件:P10000以上のモンスター】

武装時効果①:このカードの攻撃時に発動する。相手は可能であれば、このカードをブロックしなければならない。

武装時効果②:このカードのパワーを+3000する。

 

 

 

 

 

 

 

使用者:その他モブ

◆モンスター

 

灼熱超人

系統:超熱、火力

P6000 ヒット2

効果:このカードが場に存在する限り、系統:〈火力〉を持つカードが与える効果ダメージを+2する。

 

 

 

 

試練獣一型(しれんじゅういちがた)】スキルキャンセラー

系統:試練獣

P11000 ヒット3

効果①:このカードが場に存在する限り、相手の場に存在するモンスターの効果は全て無効化される。

効果②:このカードが破壊または除外された場合に発動する。次のスタートステップ開始時に、このカードを召喚する。

効果③:自分のエンドフェイズ開始時に、このカードを回復させる。

 

 

 

 

◆進化モンスター

 

 

 

 

 

◆魔法

 

 

ファイアボルト

系統:火力

効果:相手プレイヤーに2点のダメージを与える。

 

 

 

お前が壁になれ!

系統:極悪、防御

効果:次に自分が受けるダメージは、変わりに相手が受ける。

 

 

 

 

 

破壊の試練

系統:試練獣、破壊

効果:相手の場に存在するモンスター1体を選んで発動する。

選んだモンスターを破壊する。

 

 

知恵の試練

系統:試練獣、回収、ドロー

効果:以下の中から一つを選んで発動する。

●自分の墓地から系統:〈試練獣〉を持つカードを2枚選んで手札に加える。

●相手の場に存在するモンスターと同じ数だけ、デッキからカードをドローする。

 

 

防壁の試練

系統:試練獣、防御

効果:相手のアタックフェイズを終了させる。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その他女性キャラクター(11月23日更新)

使用者:天川(てんかわ) 卯月(うづき)

系統:蛇竜(じゃりゅう)

系統が持つ専用能力:【溶解(ようかい)

 

●モンスター

 

 

ポイズンサーペント

系統:蛇竜

P1000 ヒット1

効果:このカードの召喚に成功した時、【溶解:3】を行う。(相手のデッキを上から3枚墓地に送る。)

 

 

ナーガウィザード

系統:蛇竜

P3000 ヒット1

効果:自分のカードが発動した【溶解】の効果で、墓地に送るカードの枚数を+1枚する。

 

 

ナーガガーディアン

系統:蛇竜

P11000 ヒット3

召喚コスト:ライフを12点払う。

効果①:〈ナーガガーディアン〉は1体しか自分の場に存在できない。

効果②:相手の墓地に存在するカード1枚につき、このカードの召喚コストで支払うライフを−1する。

効果③:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、【溶解:4】を行う。

 

 

トラップスネーク

系統:蛇竜

P1000 ヒット0

効果①:相手ターン中、このカードは相手の効果では破壊されない。

効果②:このカードが破壊された時、【溶解:3】を行う。

 

 

ナーガナイト

系統:蛇竜

P5000 ヒット1

召喚コスト:ライフを1点払う。

効果①:このカードの攻撃時に【溶解:3】を行う。

 

 

バリアスネーク

系統:蛇竜

P1000 ヒット0

効果①:自分のライフが5以下で、相手モンスターが攻撃した時に発動できる。

このカードを手札から召喚する。

その後【溶解:4】行い、次に自分が受けるダメージは0になる。

 

 

●進化モンスター

 

 

蛇竜皇(じゃりゅうおう)】シュヴァルツシュランゲ

系統:蛇竜

P10000 ヒット3

進化条件:相手の墓地にカードが10枚以上ある場合に、自分の場の系統:蛇竜を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードの攻撃時に発動する。【溶解:10】を行う。

効果②:相手の墓地にカードが20枚以上存在する場合、このカードは相手の効果によって選ばれない。

効果③:相手の墓地にカードが30枚以上存在する場合、このカードは【2回攻撃】を得る。

 

 

蛇影竜帝(じゃえいりゅうてい)】ミドガルズ・オロチドラゴン

系統:蛇竜

P9000 ヒット0

進化条件:墓地にカードが10枚以上あるプレイヤーが存在する場合に、自分の場の系統:〈蛇竜〉を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:このカードが場に存在する限り、自分の【溶解】で相手のデッキを墓地に送る場合、代わりに自分のデッキを墓地に送る。

効果②:このカードが相手によって破壊される場合、代わりに【溶解:8】を行う。

効果③:【影牢(かげろう)】(自分か相手のエンドフェイズ開始時に、自分のデッキが0枚であれば、自分はゲームに勝利する。)

 

//制限カード

 

 

 

●魔法

 

スネークウォール

系統:蛇竜、防御、粉砕

効果:相手モンスターの攻撃時に、自分の場に系統:蛇竜を持つモンスターが存在するなら使える。

相手モンスター1体の攻撃を無効化する。

その後【溶解:2】を行う。

 

 

ナーガドロー!

系統:蛇竜、ドロー

効果:自分の場に系統:蛇竜を持つモンスターが存在する場合に発動できる。

デッキからカードを1枚ドローする。

その後、相手の墓地にカードが10枚以上存在するなら、もう1枚ドローする。

 

 

爆裂感染(ばくれつかんせん)

系統:蛇竜、粉砕

発動コスト:自分の場の系統:蛇竜を持つモンスター1体を破壊する。

効果:【溶解:5】を行う。

発動コストで破壊したカードが進化モンスターだった場合、代わりに【溶解:10】を行う。

 

 

ザ・ナーガゲート

系統:蛇竜

発動コスト:自分のデッキを上から5枚墓地に送る。

効果:自分のデッキから系統:〈蛇竜〉を持つモンスターカードを1枚選んで、手札に加える。

『ザ・ナーガゲート』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

リセットドロー

系統:ドロー

効果:お互いに手札を全て墓地に送る。

その後墓地に送った枚数+1枚だけ、お互いにデッキからカードをドローする。

『リセットドロー』は1ターンに1枚しか発動できない

 

 

槍砕き!

系統:防御

効果:以下の効果から1つ選んで発動する。

●このターンの間、自分は【貫通】によってダメージを受けない。

●次に自分が受ける戦闘ダメージを2減らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

使用者:舞

系統:?

系統が持つ専用能力;?

 

●モンスター

 

●進化モンスター

 

●魔法

 

 

 

 

使用者:智代

系統:?

系統が持つ専用能力;?

 

●モンスター

 

●進化モンスター

 

●魔法

 

 

 

 

 

使用者:天川(てんかわ)やよい

系統:炎獣(えんじゅう)

系統が持つ専用能力:【爆炎(ばくえん)

 

 

●モンスター

 

 

タイガーボンバー

系統:炎獣

P5000 ヒット1

効果①:このカードが攻撃した場合、攻撃終了時に、このカードは破壊される。

効果②:このカードが破壊された場合に発動する。デッキからカードを1枚ドローする。

効果③:【爆炎:2】(このカードが破壊された場合に発動する。相手に2点のダメージを与える。)

 

 

パグボンバー

系統:炎獣

P1000 ヒット1

効果①:このカードが攻撃した場合、攻撃終了時に、このカードは破壊される。

効果②:【爆炎:2】

 

 

ヒポポボンバー

系統:炎獣

P10000 ヒット2

召喚コスト:手札を1枚捨てる。

効果①:このカードが攻撃した場合、攻撃終了時に、このカードは破壊される。

効果②:【爆炎:3】

 

 

 

●進化モンスター

 

 

炎獣皇(えんじゅうおう)】レグルスボンバー

系統:炎獣

P12000 ヒット3

進化条件:自分の場に存在する、系統:〈炎獣〉を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:自分の手札が2枚以上ある場合、このカードは攻撃できない。

効果②:このカードの攻撃終了時に発動する。このカードを破壊して、このターン中に破壊された系統:〈炎獣〉を持つ進化ではないモンスターを可能な限り墓地から召喚する。

効果③:【爆炎:3】

 

 

 

 

●魔法

 

ボンバーディフェンス!

系統:炎獣、召喚、蘇生

効果:相手モンスターの攻撃時に、自分の場にモンスターが存在しないなら発動できる。

自分の墓地から系統:〈炎獣〉を持つモンスターを3体まで選び、召喚する。

このターンの間、自分は【爆炎】を使う事ができない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使用者:日高(ひだか)ミオ、佐倉夢子(さくら ゆめこ)、宮田愛梨

系統:妖精(ようせい)

系統が持つ専用能力:【悪戯(いたずら)

 

※ユニットメンバー全員ほぼ同じ内容のデッキを使っている。

 

●モンスター

 

ウインドピクシー

系統:妖精

P2000 ヒット1

効果:1ターンに1度、このカード以外の自分の場のモンスターが手札に戻った時に発動する。

デッキを上から2枚確認する。その中から1枚を手札に加えて、残りを墓地に送る。その後ライフを1点回復する。

 

 

 

ヒートフェアリー

系統:妖精

P3000 ヒット1

召喚コスト:自分のライフを3点払う。

効果①:自分の手札1枚につき、このカードのパワーは+1000される。

効果②:自分の系統:〈妖精〉を持つモンスターが場から手札に戻る度に、このカードのヒットを+1する。

効果③:【貫通】

 

 

臆病なシルフ

系統:妖精

P2000 ヒット1

効果①:『臆病なシルフ』は1ターンに1度しか召喚できない。

効果②:このカードの召喚に成功した時に、相手の場にこのカードよりパワーの高いモンスターが存在するなら発動する。【悪戯】を行ってもよい。(【悪戯】は自分の系統:〈妖精〉を持つモンスターを好きなだけ手札に戻す。)

 

 

トリックフェアリー

系統:妖精

P3000 ヒット2

効果:このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合に発動できる。

このカードを手札に戻す。

 

 

シャインフェアリー

系統:妖精

P8000 ヒット3

召喚コスト:自分の場のモンスター1体を手札に戻す。

効果①:このカードが攻撃する時、【悪戯】を行ってもよい。

効果②:このカード以外のモンスターが、手札に戻る度に発動する。

ライフを1点回復する。その後、相手モンスター全てのパワーを−2000する。

 

 

トラップピクシー

系統:妖精

P1000 ヒット1

効果①:このカードが場から手札に戻った時に発動できる。

相手モンスター1体のパワーを−6000する。

効果②:場のこのカードは相手のモンスター効果で選ばれない。

 

 

 

●進化モンスター

 

クイーンフェアリー

系統:妖精

P9000 ヒット3

進化条件:自分の場の系統:〈妖精〉を持つモンスター1体の上に重ねる。

効果①:自分のターンに1度、【悪戯】を行ってもよい。

効果②:自分のモンスターが場から手札に戻る度に発動する。

相手モンスター全てのパワーを−3000する。

 

 

 

●魔法

 

いたずらオバケ!

系統:妖精、強化、回収

発動コスト:自分の場から系統:〈妖精〉を持つモンスターを1体、手札に戻してもよい。

効果:自分の場に存在する系統:〈妖精〉を持つモンスター1体のヒットを+1する。

発動コストでカードを手札に戻していたなら、更にヒット+1する、

 

 

ピクシーガード

系統:妖精、防御、回収

効果①:次に自分が受けるダメージを5点減らす。

【悪戯】を行ってもよい。そうした場合、代わりに次に自分が受けるダメージを0にする。

 

 

トリック・トリック

系統:妖精

発動コスト:自分の場から系統:〈妖精〉を持つモンスターを1体、手札に戻す。

効果:このターンの間、相手の場に存在するモンスター全ての効果を無効にする。

 

 

かくれんぼ!

系統:妖精、回収

効果:【悪戯】を行う。

この効果で手札に戻したモンスター1体につき、相手モンスター1体を疲労させる。

 

 

サルベージサルベージ!

系統:回収

発動コスト:手札を1枚捨てる。

効果:自分の墓地から『サルベージサルベージ!』以外の、系統:〈回収〉を持つカードを1枚選んで手札に加える。

 

 

フェアリーカーニバル!

系統:妖精、強化

発動コスト:手札を2枚捨てる

効果:自分の場に存在する系統:〈妖精〉を持つモンスター1体を選んで発動する。

選んだモンスターのヒットをこのターンの間2倍にする。

このターン、選んだモンスター以外のモンスターは攻撃できない。

『フェアリーカーニバル!』は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使用者:その他モブ

 

●モンスター

 

フリントロックソルジャー

系統:華麗、火力

P4000 ヒット1

効果:このカードの召喚に成功した時に発動する。相手プレイヤーに1点のダメージを与える。

 

 

 

●進化モンスター

 

●魔法

 

超加熱!

系統:火力、強化

効果:系統:〈火力〉を持つ魔法カードが発動した時に、発動できる。

そのカードで与えるダメージを2倍にする。

『超加熱!』は、1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

ロイヤルウォール

系統:華麗、防御

効果:次に受けるダメージを0に減らす。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章:中学生編①
第一話:普通の日常でした


「〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉で直接攻撃」

「……負けました」

「ありがとうございました」

 

 近所のカードショップで繰り広げられた、フリー対戦。

 それに勝利したのは俺、天川(てんかわ)ツルギ。

 

「いやぁ~、カードを使うタイミングが上手いですね」

「長年の実戦経験の賜物ですよ」

 

 対戦後の感想戦で褒められるのは、悪い気分がしない。

 それらも含めて、俺の日常の光景。

 

 大学の成績もパッとせず、何かすごい特技がある訳でもない。

 そんな俺の数少ない趣味がカードゲーム。

 特に十年近くやっている『モンスター・サモナー』(通称:サモン)の大ファンだ。

 今日やったのもサモンのフリー対戦。

 残念な事に、大学や家には強い対戦相手がいないので、こうしてショップで狩りをしているのだ。

 とは言っても、負ける時は負けるのだが。

 

「(でも逆転劇もカードゲームの醍醐味だからなぁ)」

 

 長い事サモンで遊んでいるが、特別ガチプレイヤーという訳ではない。

 割とファンデッカー寄りだと自負している。

 やっぱり好きなカードで勝つのは気持ちがいいのだ。

 

 それはさておき。

 

 俺は対戦相手にお礼と挨拶をして、カードショップを後にした。

 

 十一月の午後六時。

 外はすっかり暗くなっている。

 そんな暗闇を見ていると、何故か自然とネガティブな思考をしてしまう自分がいた。

 

「才能主義ってのは、面倒なもんだよなー」

 

 世界と自分に対して愚痴を零す。

 十九年生きて来て分かった事。それはこの世が才能主義だという事だ。

 それも評価される才能に限るという注釈がつく。

 

 ハッキリ言って俺には評価されるような才能は無い。

 特別学力が秀でた訳でもなければ、運動神経もイマイチ。

 あるのはせいぜい、長年培ってきたサモンの技術くらいだ。

 

「遊びで飯が食えたらいいのにな~」

 

 そんな無意味な願望を漏らしながら、俺は家へと歩く。

 

「あっ、お兄おかえり。晩ご飯できてるよ」

 

 家に帰ると、妹の卯月(うづき)が迎えてくれた。

 嬉しい事に夕飯も出来ているらしいが、俺は今日疲れていた。

 

「後で食う。今日は眠いんだ」

「あっそ。冷めたからって文句言わないでよね」

 

 唇を突き出して軽く叱ってくる我が妹。

 だが今日は本当に疲れているのだ。

 

 俺は自室に荷物を置くと、ベッドに転がりスマホをつけた。

 

「あっ、今日最新話の更新日か」

 

 いつも巡回している動画サイトを見ると、アニメの最新話が出てくる。

 小学生の頃から俺が追い続けているアニメ『モンスター・サモナー』だ。

 タイトルの通り、今日遊んでいたカードゲームのメディアミックス作品である。

 内容はいたって王道。

 カードゲームで世界存亡の危機が描かれる、超展開が売りだ。

 

「今回も語録になりそうなセリフが出てるなぁ」

 

 スマホの画面には、異形と化したライバルキャラをサモンファイトで元に戻そうと奮闘する主人公が描かれている。

 カードゲームで人間が異形と化すってなんだよ。

 まぁこのアニメシリーズは、十年近くそういうのばかりやっているのだが。

 

「……」

 

 俺は無言でアニメを見続ける。

 それと同時に、このアニメにおける世界を思い返していた。

 

 アニメの世界。それはサモンが全てを決めるカードゲーム至上主義世界。

 あたり前のようにプロシーンが存在し、政界財界にまでカードゲームの影響がでている。

 劇中では一枚のカードを作り出すのに数十億をかけるキャラクターが出たシーンもあった。

 

 きっとまともな人間からすればトチ狂った世界。

 だけど今の俺には、それが羨ましく思えていた。

 

「……いいなぁ」

 

 無意識に呟く。

 自分の大好きなカードゲームで成り上がれる世界。

 アニメのキャラクター達のように、カードで繋がれる友人が沢山できる世界。

 カードでヒーローになれる世界。

 それが羨ましくて堪らなかった。

 

「とは言っても。この世界のカードを持ち込めないんじゃ、たいして活躍もできないんだろうけどな」

 

 スマホを置いて、ベッドに沈む俺。

 アニメ世界ではレアカードの価値が高過ぎるのだ。

 きっとカードを持たずにあの世界に行ったら、碌なデッキを作れない。

 デッキの強さとカードプールは命に直結するからな。

 

「(だけど……もしもだ、あのアニメの世界に行けるのなら)」

 

 俺は大喜びで行くだろう。

 だから神様……

 

「(目を覚ましたら、アニメの世界に送り込んでください……なんてな)」

 

 そんな事を願いながら、俺は意識を闇に落とした。

 

 そう……願ってしまったのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話:タイムスリップ? いいえ、異世界転移です

 目が覚めると、窓から朝日が射しこんでいた。

 

「……あの後爆睡したのかよ、俺」

 

 我ながら不健康な生活をしている。

 晩飯も食べずに翌朝までぐっすりとは、今日が日曜日じゃなかったら大罪である。

 まぁそれはさておき、起きたのだから朝飯でも食べに行こうと思った――その時だった。

 

「……ん?」

 

 部屋の様子が何かおかしい。

 物の配置が変わってる。

 部屋にかけてあった筈のジャケットが無い。

 代わりにあるのは、何故か学ラン。

 

「えっ? なんで学ラン? 誰かの悪戯?」

 

 にしては手が込み過ぎているような気がする。

 俺はとりあえずベッドから降り、部屋をぐるりと見回った。

 

「やっぱり配置が変わってるよな?」

 

 重い机の位置まで変わっている。

 だが重要なのはそこではない。

 俺が一番驚いたのは、壁にかけてあった学ランだ。

 

「これ……俺が中学の時に使ってたやつだ」

 

 中学在学中に彫刻刀で切ったせいでついた、特徴的な補修跡もある。

 だがおかしい。

 なにがおかしいって、この制服は中学卒業と同時に処分して、もうこの世には存在しない筈だ。

 

「わざわざ再現? んなアホな」

 

 どう考えても労力がかかり過ぎる。

 というかそもそも、ここは本当に俺の部屋なのか?

 

 俺は恐る恐る窓の外を見る。

 そこには見慣れた光景が広がっていた。

 

「……間違いなく俺ん家の俺の部屋だ」

 

 じゃあ何が起きたのか。

 机の棚に目をやると、大学で使っていた教科書が全て無い。

 代わりにあるのは、懐かしき中学校の教科書だ。

 

 そこでふと、俺はある事に気づく。

 

「俺……こんなパジャマ着てたか?」

 

 よく見れば中学時代に着ていたような気もするパジャマ。

 まさかと思い、俺は部屋にある姿鏡の前に立った。

 

「な……なぁ!?」

 

 鏡に映った俺は鬚が一本も生えておらず、背が少し縮んでいた。

 

「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」

 

 明らかに身体に異変が起きている。

 というか身体以外にも異変が起きている。

 

「……まさか」

 

 俺はベッドに置いてあった筈のスマホを探す。

 だがそこには、去年買い替えたばかりのスマホはなく、代わりに一つ前に使っていたスマホが置かれていた。

 それも大概動揺したが、俺の受けた衝撃のピークはこの直後だった。

 

「この日付、五年前だ」

 

 スマホに表示された日付を見て、俺は愕然とする。

 念のため机に置いてあったミニカレンダーも見たが、やはりそれは五年前のものだった。

 

 これは、間違いない。

 

「俺、中学時代にタイムスリップしたのか」

 

 そうとしか考えられない。

 だがどうせ異変が起きるのなら異世界転移がよかったとも思う。

 だって中学時代に戻ったところで、学力イマイチ、社会情勢も覚えていない俺には大したチートできないもん!

 

「はぁ……これからどうしよう」

 

 項垂れる。

 だけど特に事態が好転する訳ではない。

 腹の虫もぐぅぅぅと鳴ってきた。

 

「とりあえず朝飯食うか」

 

 腹が減っては戦はできぬ。

 先の事は、腹を満たしてから考えよう。

 

 二階の自室から一階に降りると、そこには五年前、十一歳の我が妹がいた。

 急に過去の身内と鉢会わせるのは、妙な感じがする。

 とりあえず俺は平然を装って、声をかけた。

 

卯月(うづき)、お、おはよう」

 

 少し声が震えた。

 当の卯月はそれを怪しんだのか、ジッとこちらを見つめてくる。

 

「ど、どうした我が妹よ」

「お兄が……お兄が若返ってる!?」

 

 俺は顔面から床に転げ落ちた。

 え、なんですと?

 

「いや若返ってるのはお前もだろ」

「えっ?」

「えっ?」

「……お兄、自分の年齢言ってみて」

「十九」

「アタシ十六」

 

 妙な沈黙がダイニングを支配する。

 

「卯月も、タイムスリップしてたのか」

「まさかお兄も巻き戻っているとは」

 

 突然の事に気が抜ける反面、俺は少し安心していた。

 流石に一人だけで過去の世界になど行きたくない。

 しかしだ、そうなると「もしかして」という可能性を感じてしまう。

 丁度タイミングよく、二階から階段を降りる足音が聞こえてきた。

 

「ふわぁ、おはよう二人とも」

「……」

「……」

「どうしたの?」

「お、お母さんが!」

「若返ってる!?」

 

 二回から下りてきたのは俺と卯月の母だった。

 明らかに若返っていたので二人同時に驚いてしまう。

 

「あらぁ、そんなに若く見える? というか二人ともなんか縮んでない?」

「……お兄、これって」

「母さん、今年で何歳か言ってみて」

「四十だけど」

「お兄、これ一家三人全員タイムスリップしてる」

「みたいだな」

 

 納得する俺達に対して、母さんはまだ状況を理解できていないようだった。

 とりあえず二人で、五年前にタイムスリップしている事を説明した。

 母さんののほほんとした性格のせいか、理解させるのに三十分ほどかかったが。

 

「という事は。こっちは中学生のツルギでぇ、こっちは小学生の卯月なのね」

「そしてお母さんは三十五歳よ」

「やーん若返れるなんて夢みたい」

「(母さん本当に状況を分かってるのか?)」

 

 まぁとりあえずタイムスリップをした事を理解して貰えただけよしとしよう。

 問題はここからだ。

 

「さて、これからどうするかだな」

「学校とかどうしよう」

「タイムスリップしたんだから、昔の学校に通えばいいんじゃない?」

「そ、それは……」

「なんか抵抗あるんだよなぁ」

 

 身体は中学生とはいえ、精神年齢は大学生だぞ。

 卯月は女子高生の魂で、小学校に行く事になるんだぞ。

 流石に抵抗がある。

 

「まぁどうせ今日は日曜日なんだから。一日かけてゆっくり考えましょう」

「お母さん、ちょっと呑気すぎない?」

「余裕があると言って欲しいわ」

 

 一応、母さんが言うことも一理ある。

 とりあえずは朝飯のパンとカップスープでも食いながら、今後の事を考えよう。

 

「あっ、そう言えば」

「どうした卯月?」

「五年前の今頃って何があったっけ?」

「テレビつければいいだろ。どうせ朝のニュースやってる時間帯なんだし」

「お兄、つけてー」

 

 人使いの荒い妹である。

 俺は近くにあったリモコンを取って、テレビをつけた。

 

 流れてくるのは今日の星座占いと、朝のバラエティ番組のエンディング。

 ゲストが少し懐かしいアーティストだったので、改めてタイムスリップしたのだと俺は実感した。

 

 そしてエンディングが終わり、朝のニュースが始まる。

 

『おはようございます。今日のニュースは――』

 

 テレビの向こうに見慣れた女性キャスターが映っている。

 やはり若い。本当に五年前なのだな。

 俺はニュースを見ながら必死に五年前の記憶を手繰り寄せるが……出てくるのはカードゲーム関係のニュースばかり。

 大人気パックの詳細な発売日とか要らないんだよ!

 

「真面目にニュースを見てこなかった、自分が憎い」

「ごめんお兄、アタシも同じ事考えてた」

「これじゃあ未来視チートもできない……俺は、弱いッ!」

「はいはい」

 

 せっかくボケたのに、妹には軽くあしらわれてしまった。

 お兄ちゃんは悲しいぞ。

 

『続いてのニュースです。昨日午後二時頃、国会議事堂内のファイトステージで、イギリス首相との友好サモンファイトが――』

「……は?」

「えっ、お兄。今テレビでなんて言った?」

 

 すまない卯月、俺もよく分からなかった。

 俺は食い入るようにテレビを見る。

 そこには日本とイギリスのお偉いさんが、広い競技場で向かい合って、立体映像のモンスターを戦わせている映像が流れていた。

 いやぁ最近の立体映像はすごいんだなぁ……いやそうじゃない!

 

「ねぇお兄。なんか見た事あるモンスターが映ってたんだけど」

「奇遇だな。俺も同じ事思ってた」

 

 俺の目がおかしくなっていなければ、映っていたのは『モンスター・サモナー』に登場するモンスターだ。

 そしてお偉いさん方がやっていたのは、サモンファイトだ。

 

『次のニュースです。アメリカのプロサモンファイター、トーキョー・ファルコン選手が、日本円にして総額十億円をかけて開発した新カードをお披露目しました』

「……ねぇお兄。サモンってプロ選手いたっけ?」

 

 俺は無言で首を横に振る。

 『モンスター・サモナー』は大人気カードゲームではあったが、テレビで大々的に紹介されるようなプロプレイヤーはいなかった筈だ。

 

『CMの後は、日本のプロサモンのニュースです』

 

 そして始まったCM。

 普通の懐かしいCMもあったが、それ以上に驚いたのは『モンスター・サモナー』のパックCMに大人気タレントが起用されていた事だ。

 だが一番度肝を抜かれたのは……

 

『ハイスペックかつ軽量で持ちやすい! 新型召喚器! 12万円!』

 

 『召喚器』のCMが流れていた事だ。

 

「お兄……召喚器って確か」

「サモンのアニメで、モンスターの立体映像を出すのに使われていたデッキケースだな」

「玩具、売ってたよね? 1万円くらいで」

「おまけカードつきの、プラデッキケースだったけどな」

「あれも?」

「まさか。12万もするプラデッキケースがあってたまるか」

 

 段々嫌な予感がしてきた。

 俺はパジャマのポケットに入れていたスマホを取り出し、ネットニュースを開いた。

 そこにあったニュースジャンルは「国内」「政治」「経済」「IT」「スポーツ」、そして……「サモン」だった。

 

「いや、まだだ。そんな筈は!」

 

 俺は大急ぎである会社の名前をスマホの検索欄に入力した。

 あれは架空の会社の筈。ヒットするのはせいぜいウィキくらいの筈だ。

 だが俺の考えは、一瞬にして打ち砕かれた。

 俺は無言でスマホの画面を卯月に見せる。

 

「これ『ユニバーサル・ファンタジー・コーポレーション』って、確か……」

「アニメのサモンで『モンスター・サモナー』を作ってた会社だ。しかも本社ビルが電車で行ける範囲にある」

「ファ、ファンメイドのサイトじゃないの?」

「ストリートビューもあるけど、見るか?」

 

 とてもフェイクとは思えない写真を見て、卯月も愕然とする。

 

 決まりだ。

 俺達はタイムスリップをしたのではない。

 

「お兄……アタシ達って」

「あぁ、異世界転移してる」

 

 ここは、アニメ『モンスター・サモナー』の世界だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話:状況を確認しよう

 素早く朝食を食べ終えたら、すぐに行動する。

 俺はたまたま机に置いてあったサモンのデッキを握って、外の様子を見に行った。

 

 軽く見回す限り、街の建物の配置に変化は見られない。

 道を歩く人も特に変わりない。

 異世界転移というのは俺の考えすぎだったのだろうか?

 いや、そんな事はなかった。

 

「カ、カードショップがデカくなってる……」

 

 昨日行ったばかりの近所のカードショップ。

 小さなビルの一階にあった店が、何故か巨大なビルの大型カードショップに変化していた。

 

「一階がパックコーナーで、二階がシングルコーナー……三階より上は全部フリーファイトコーナー!?」

 

 どんな構成だよとツッコミたい気持ちを、必死に堪える。

 とりあえずショップの詳細は後だ。他にも変化している箇所があるはず。

 

「……モンスター・サモナー専門学校の過去問集ってなんだよ」

 

 近所の本屋にあったのは、赤い表紙の過去問集。

 普通の学校のものもあるが、半数以上がサモン専門学校の過去問集だった。

 

「確かにカードゲームは複雑だけどさぁ……」

 

 専門学校を必要とするかね?

 流石にこれ以上の衝撃はないだろう。

 だが帰り道、近所の公園にたどり着いた瞬間、そんな甘い考えは叩き壊された。

 

「ボクのターン! 〈レッドマジシャン〉を召喚! アタックフェイズ、いっけー〈レッドマジシャン〉!」

「〈ヒノコ竜〉でブロックだ!」

 

 公園に響くのは小学校低学年くらいの子供達の声。

 そして、子供達の間に召喚されている、立体映像モンスターの声だ。

 

 俺はその光景を唖然としながら見つめる。

 子供達がやっているのが『モンスター・サモナー』だということを理解したのは、彼らの対戦が終盤を迎えてからだった。

 妙なくらい弱いバニラモンスターばかり使っている気がするが、あれは間違いなくサモンファイトだ。

 そして、アニメ世界では当たり前に存在していたシステム、立体映像と衝撃波が発生するファイトだ。

 

 俺はその美しい映像を見ながら、一筋の涙を流す。

 感動したんだ。前の世界では夢のまた夢であった、立体映像を使ったファイトがこの世界ではできるんだ。

 今すぐにでも飛び込みで対戦したい。

 だけどその気持ちをグッと堪える。

 今優先すべきは、家族への報告だ。

 俺は重い足取りで自宅へと帰った。

 

「おかえり。どうだったお兄?」

「普通の皮を被った、とんでもないカオスだった」

 

 帰宅した俺は街で見た変化を二人に伝えた。

 

「あらぁ、じゃあスーパーとかはそのままなのね。よかった」

「お母さん、気にする所そこじゃない」

「とりあえず結論を述べるな。この世界は間違いなく、アニメ『モンスター・サモナー』の世界だ」

「やっぱり」

 

 がくりと項垂れる卯月。

 正直気持ちはわかる。この世界は色々とぶっ飛んでいるのだ。

 

「卯月、アニメの世界はそんなに嫌なの?」

「アニメの世界じゃなくてサモンの世界が嫌なの!」

「どうして? カードゲームが流行ってるだけの世界でしょ?」

「母さん、流行っているだけじゃないんだ」

 

 俺は何も知らない母さんに、アニメ『モンスター・サモナー』の世界観を伝えた。

 

「この世界は良くも悪くもモンスター・サモナー至上主義なんだ」

「トラブルは何でもかんでもサモンファイトで解決してたわよね?」

「しかもカードゲームが関係してないような、政治や仕事にもサモンが関わってくる」

「確か昔見たアニメでこんなセリフがあったわね『デッキは命より重い!』って」

「そのセリフの通り。この世界ではサモンのデッキを持ち、サモンファイトを嗜むのが常識なんだ」

「あら〜、そうなの」

 

 状況を理解したのか、少し困った顔をする母さん。

 実際は少しでなく困った状況なのだが。

 

「お母さんカードゲームなんて持ってないわよ?」

「それは俺がデッキを作って渡す。母さんの場合、絶対仕事でも必要になるだろうし。卯月には昔お前が使ってたデッキを渡すな」

「いいけど……お兄、カードあるの?」

「へ?」

「異世界転移でカードも持ち越せてるのかってこと」

 

 卯月の言葉を聞いて、俺は猛ダッシュで自室へと向かった。

 勢いよく扉を開けて、サモンのカードをしまっていた棚を開ける。

 そこには前の世界と姿変わらず、俺の愛するカード達が眠っていた。

 

「よ、よかったぁ〜」

 

 命の次に大切なカード達だ。

 異世界転移で持ち越せていなかったら、ショックで寝込むところだ。

 一応確認のため、カードの内訳を確認する。

 ダブりも含めて全部ある。

 レアリティごとに綺麗に整理しておいて良かったと、これほど思った事はない。

 

「……あれ? 今五年前だよな」

 

 カードを見ていて気が付いた。

 五年前には存在しなかったカードも持ち越している。

 正直かなり嬉しかった。

 実際の試合で使えるかは分からないけど、未来のカードがあるのはとてつもないアドバンテージになる筈。

 

 まぁそれについては、ひとまず置いておいて。

 俺は幾つかのカードを抱えて、二人の待つ一階へと戻った。

 

「あっ、お兄どうだった?」

「大丈夫。カード全部残ってた」

「やった! これでなんとかなる!」

「とりあえずこのカードを使って、母さんはサモンのルールを覚える。卯月はルールのおさらいな」

「あらあら。お手柔らかにね、ツルギ」

「りょーかい、お兄」

 

 俺は卯月と実際に対戦しながら、母さんにルールを教える。

 幸いにして『モンスター・サモナー』は基本はシンプルなので、母さんも基本ルールはすぐに理解してくれた。

 問題は応用編だ。

 

「ねぇツルギ。このカードは今使えるの?」

「使えるけど、まだライフが残ってるから今は使わない方がいい」

「でもライフが無くなると負けるわよ?」

「考えなしにライフを守っても意味がないんだ。それも含めての戦略が大事」

「うーん、難しいのね〜」

 

 そう、これがカードゲームの常。

 基本はシンプルな癖に、応用編に入った途端難しくなる。

 だけどこれを覚えないと、安心して母さんを外に出せない。

 

「卯月の方はどうだ?」

「とりあえず回し方は思い出せた。後でもう一回対戦して」

「オーケー」

 

 卯月は以前、俺と対戦していた事もあるので、サモンのルールもある程度覚えていた。

 使っていたデッキもそれなりに強い。これなら安心して外に出られるだろう。

 

「ところでさ、お兄。アレどうすんの?」

「アレ?」

「召喚器」

 

 卯月に言われてハッとした。

 そういえば我が家にはカードはあったが、召喚器が一つもない。

 

「ねぇツルギ。召喚器ってなに?」

「簡単に言えば、この世界では必須のデバイス」

「でもアレ高かったわよね……さっきCMで12万とか言ってたでしょ」

「それは高いわね〜、ちょっとウチでは難しいかも」

 

 悲しいかな、我が家は母子家庭。

 そこまでお金が無いのだ。

 

「とは言っても、とりあえず母さんは買ってよ。多分仕事で使うだろうし」

「アタシらの分は後でなんとかしましょ」

「あ〜、お金が欲しい」

 

 切実な願いだ。

 せっかくサモンのカードは持ち越せたのに、肝心要の召喚器無くては味気ないにも程がある。

 俺だって男の子なんだ! 立体映像のある迫力ファイトがしたいよー!

 

「なんか金策ないかな〜」

「お兄、宝くじの当選番号とか都合よく覚えてない?」

「覚えてるわけねーだろ」

「じゃあ株とかどう? 有名な株価の変動とかは覚えてるでしょ?」

「そもそも株を買う金がない」

 

 残念ながら、未来視チートで金儲けは無理そうだ。

 頑張って新聞配達のバイトでもするか。

 俺がそう考えた時だった。

 

「……ん?」

「どうしたのお兄?」

「これ、SRのカード」

 

 俺が手に取ったのは、もう何年も使っていない古いSRカード。

 ちなみにモンスター・サモナーのカードレアリティは、下から「コモン<アンコモン<レア<スーパーレア」である。

 レアリティが高いからといって、必ずしも強いという訳ではない。中には悲しいくらい弱いレアカードもある。

 だが今回の重要ポイントからは少しだけズレる。

 

「(確かアニメのサモン世界ではSRが結構な値段で取引されていた筈)」

 

 俺はスマホを手に取り、オンラインのカードショップサイトを開いた。

 大量のカードが画面に表示される中、俺はレアリティでカードを絞り込み検索する。

 そして出てきたのはこれまた大量のSRカード。

 その値段達を見た瞬間、俺の顎が外れんばかりに落ちた。

 

「……カード一枚に100万とか、マジ?」

「え!? お兄、ちょっと見せて」

 

 俺のスマホを覗き込む卯月。

 同じくSRカードの値段を見て、目玉が飛び出していた。

 

「おおおおおお兄! これ、このカード持ってないの!?」

「落ち着け卯月! とりあえず確認したい事がある」

 

 俺が探しているもの、それは前の世界ではハズレアと呼ばれていたカードだ。

 もしもそれらが、レアリティを理由に高額取引されているのだとしたら……

 

「……なぁ卯月、ちょっとそこの女神様とってくれ」

「女神様ってこれ? 〈ゴッデス・マザー〉」

「あぁ、大ハズレSRだ」

 

 俺は卯月から一枚のカードを受け取り、よく観察する。

 そしてスマホの画面を確認。

 画面に表示されているのは〈ゴッデス・マザー〉の買取価格だ。

 

「ハ……」

「は?」

「ハズレSRの買取価格が一枚100万円超えてるとかウソだろ!?」

「はぁ!? これ100万円するの!?」

「正確には105万と8000円」

「十分すごいって!」

 

 あまりのカード価値に手が震え始める。

 いや、それ以上に俺を動揺させているのは

 

「なぁ、俺このカード十枚くらい持ってるんだけど」

「……なんでそんなに持ってるの?」

「その、カードショップのくじとかで、ハズレ枠に沢山いらっしゃったので……」

「あぁ、そういう」

 

 あまりにも弱すぎて女神様と呼ばれているカードだが、かつての俺からしたら邪神以外の何者でもなかった。

 まぁ今はマジもんの女神様なんだけど。

 

「卯月、母さん。この後の行動はわかってるな?」

「もちろん」

「カードのルール教えてくれるのよね〜」

「「違う!」」

「あら〜、じゃあ何するの?」

 

 それは決まっている。

 

「カードショップに、カードを売りに行くぞ!」

「お兄、目が¥になってるわよ」

 

 未知の大金が目の前にあるのだ、許せ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話:カードの価値とお買い物

 とりあえず、今後絶対に使わないであろうレアカードを十枚ほど持って、俺達家族は家を出た。

 行き先は当然、俺の馴染みだった近所のカードショップ。

 今となっては外観が別物と化しているが、この際気にしないようにしよう。

 

 徒歩二十分程で、カードショップに着く。

 先程は軽く外から見ただけなので、中に入るのはこれが初めてだ。

 なんだかドキドキする。

 

「あら〜、人が多いのね〜」

「前の世界では考えられない盛況っぷりだな」

 

 自動ドアをくぐり、ショップの中に入る。

 店内は人がまばらだった前の世界とは打って変わって、週末のショッピングモールのような人混みだった。

 

 すると卯月が何かに気づいたように、俺に話しかけてきた。

 

「ねぇお兄。気づいた?」

「なにが?」

「お客さんのバリエーション」

 

 言われて俺も、辺りを見回す。

 確かによく見れば、カードショップだというのに、その客層は老若男女様々だった。

 言い方は悪いが、ムサい男しかいなかった前の世界では考えられない光景。

 だがこの光景もまた、サモンが広がっている世界の象徴でもあるのだろう。

 

「いい事の筈なんだけどなぁ……異世界と考えると複雑な気持ちだ」

「買取カウンターどこだろ?」

「さっき見たけど二階だってさ。でもその前に少し市場調査をしたい」

「市場調査?」

 

 母さんと卯月の頭上に疑問符が浮かんでいる。

 なぁに簡単な事だ。

 パック売り場を少し見て、パックを幾つか買うだけ。

 

「1パック8枚入りで300円。ここは前の世界と変わらないんだな」

 

 強いて上げるとすれば、パックの種類がすごく多い事くらいだ。

 俺は目についたパックを適当に十個ほど手にして、レジに行く。

 

「パックなんか買って、追加のレアカードでも当てるつもり?」

「違う違う、ちょっとした調査だ。とりあえず上に行こうぜ」

 

 二階に上がると、そこにはショーケースに入れられたシングルカードが大量に並べられていた。

 俺は適当に目についたカードの値段を確認する。

 

「……優良アンコモンが5000円ってマジかよ」

 

 前の世界ならトップレアと言っても過言ではない値段設定だ。

 他のショーケースも見てみる。

 優良アンコモンは3000円〜8000円。

 レアのカードは1万円〜10万円。

 そしてスーパーレアに至っては……

 

「……傷有り特価品で80万円ってなんだよ」

 

 もはや数字が未知の領域である。

 極一部の限定カードならともかく、普通のSRカードが特価品で数十万円するとか、完全に異世界の価値観だ。

 

 しかし、ここで一つの疑問が俺の中で浮かんでくる。

 そもそも何故こうもレアカードの価値が高いのか。

 いくら希少性が高いといっても、前の世界の感覚からすればたかが知れてる。

 すると俺の中で、ある一つの可能性が浮かんできた。

 

 俺はフロアの隅に移動して、先程購入した十個のパックを開封する。

 前の世界の期待値なら、十個も開ければSRは一枚くらい出てくる筈だ。そうでなくとも、パックにはRが確定で封入されていた。

 だがこのパック開封のおかげで、俺はこの世界におけるカードの価値の意味を知った。

 

「あぁ……なるほどね」

「どうだったのお兄?」

「見れば分かる」

 

 俺は引き当てたカードを全て卯月に渡す。

 全部でパック十個分。最低でもRが十枚はある筈だった。

 だけど実際に引き当てたRは二枚。

 それ以外はほとんどコモンカードである。

 

「うわぁ……光ものゼロ枚じゃん」

「それだけじゃない。コモンカードのテキスト見てみ」

「……バニラだらけじゃん」

 

 そうなのだ。

 Rが二枚しか出なかったどころか、当てたコモンカードですら、特殊効果を持たないバニラカードがほとんどなのだ。

 しかもステータスも低い。

 

「そりゃシングル価格高騰するわな」

 

 要するにこの世界では、実用的な効果を持つカードが中々出ないのだ。

 しかも俺が覚えている限り『モンスター・サモナー』というカードゲームには、所謂バニラサポートがほとんどない。

 ハッキリ言ってステータスの低いバニラは、一部の例外を除いて全て戦力外だ。

 まぁそれを考慮しても、SRにあの値段つけるのは正気とは思えないが。

 

「市場調査はこれでお終い。ささっとカード売りに行こう」

「ささっとで済めばいいんだけどね」

 

 卯月が不穏な事を言ったが、気にしない事にする。

 とりあえず今回持ってきたカードは全てダブりのSR。

 しかも前の世界だと買取価格10円とかのやつだ。

 

「希少価値で高く買い取ってくれればいいんだけど」

 

 100万とか言わないから、1万くらいになって欲しい。

 

 そんな下らない事を考えながら、俺達は買取カウンターに到着した。

 

「すみませーん。カードの買取をお願いしたいんですが」

「はーい、少々お待ちください」

 

 忙しそうに店の奥から、店員が出てくる。

 若い塩顔の店員……て言うか前の世界で顔馴染みだった店員さんじゃないか!

 

「お待たせしました。カードの買取でよろしいでしょうか?」

「はい。このカードお願いします」

 

 そう言って俺は持参した十枚のカードを店員さんに渡した。

 にこやかにしていた店員さんだったが、光るSRカードを見た瞬間、ギョッと目を見開いた。

 若干震えながらも、横にあるパソコンを操作して何か確認する。

 次のカードもSRカードなので、また店員さんの目が見開いた。もうそのまま目玉が落ちるんじゃないか?

 その後のカードにも目を通していく店員さんだが、捲るたびにSRが出てきたせいか、顔芸がすごい事になっていた。

 

 一通りのカードを見終えると、店員さんは「少々お待ちください」と言って何処かへ行ってしまった。

 

「……これ、ちゃんと買取してもらえるよな?」

「実は偽物でした判定が下って警察を呼ばれるとか勘弁してね」

「大丈夫よ〜。いざとなったらお母さんなんとかするから」

「「一番頼りにならない!」」

 

 とは言うものの、少し不安にはなってくる。

 偽物判定はないと信じたいが、大量のSRカードは流石に怪しまれたか?

 盗品か何かと勘違いされたら面倒だな。せめて最初はRのカードで試すべきだったか。

 

 俺がそんな事を考えていると、店員さんが中年の男性を連れて戻ってきた。

 

「(あっ、店長さんだ)」

 

 俺はこの中年男性を知っている。

 新パックの入荷情報を気前よく教えてくれた、顔馴染みの店長さんだ。

 

「お客様、お待たせいたしました。こちらのカードは高価買取となりますので、別室へのご案内となるのですが、よろしいでしょうか?」

 

 ニコニコといかにもな営業スマイルを浮かべながら、別室に案内しようとする店長さん。

 特に断る理由もないので、俺達はそのまま別室という所へ移動した。

 

「お手数おかけしました。では改めましてカードの買取についてなのですが――」

 

 店長さんは別室に置かれていたパソコンの画面を、こちらに見せてくる。

 

 【勝利の女神】ゴッデス・マザー 106万円×3枚

 【蒼き狼王】ハーンロボ 200万円×2枚

 【水の支配者】マリン・エンペラー 102万円×2枚

 【硫酸闘牛】アシッドバイソン 170万円

 【寄生生物】パラスワーム 138万円

 ブルームーン・インパクト 100万円

 

「な、なんかすごい値段が見えるんだけど」

「あら〜すごいわね」

 

 画面の買取金額に驚く卯月と、呑気な母さん。

 一方の俺は驚愕のあまり、上手く声が出せずにいた。

 全部三桁万円って、なんなんだよ。

 

「そして買取の合計金額なのですが……」

 

 店長さんが画面の一番下に表示された金額を指さす。

 

 合計買取金額:1330万円

 

「せ、せんさんびゃくさんじゅうまんえん!?」

 

 驚くのあまり変な声が出てしまった。

 一度深呼吸をして、もう一度パソコンの画面を見る。

 うん間違いない、1330万円って表示されてる。

 

「あのぉ、本当にこんなに高く買っていただいていいんでしょうか?」

「もちろんですよ奥様。SRカードは非常に希少な品ですから。これが妥当な値段です」

「そうなんですか〜」

 

 のほほんとした母さん。

 卯月と俺はあまりの値段に、まだ空いた口が塞がっていない。

 

「それで、いかがいたしましょう? こちらの買取金額でよろしいでしょうか?」

「お願いします!」

「はい。それでは買取の書類等をお持ちしますね」

 

 俺は即答で売却を決めた。

 だって1000万円越えよ。

 金の誘惑が強すぎるよ。

 

 少し待つと店長さんが買取書類と、大きな機械を持ってきた。

 確か紙幣カウンターだった筈。昔テレビで見たことがある。

 

 保護者である母さんが書類を書き終えると、店長さんは1000万以上ある紙幣の束を機械に入れて枚数を数え始めた。

 

「アタシ、あんないっぱいのお札初めて見たかも」

「俺もだよ」

 

 1330万円分の紙幣数え終えると、帯でまとめて、こちらに差し出された。

 流石に財布には入り切らないので、全部鞄に詰め込む。

 

「なんか……急激に不安感が増したな」

「鞄に大金って……お母さん絶対落とさないでよね」

「大丈夫よ〜」

 

 いざとなったら俺が持とう。

 にこやかな店長に見送られながら別室を後にする俺達。

 

「お兄、お母さん。今日は寄り道せずに帰ろうね」

「悪いけど卯月。その前に大事な買い物がある」

「こんな大金持ちながら!?」

「その大金を使ってだ」

 

 そう言いながら俺は二人を一階に連れていく。

 一階で販売しているのはパックとサプライ。

 そして……召喚器だ。

 

「こんだけあれば三人分買えるだろ」

「そうね〜。この世界じゃ必須アイテムなんでしょ?」

「そういうこと。という訳で買うぞ、召喚器」

 

 幼い頃から夢にみたアイテムが手に入る。

 そう考えると、俺はワクワクが止まらなかった。

 

 ここから俺の、異世界カードライフが始まる。

 召喚器を使って、派手に戦えるんだ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話:学校へ行こう! でもなんか変?

 カードショップから帰ってきて小一時間。

 俺は今までにない期待感に胸を膨らませていた。

 

 目の前にあるのはゴツい機械でできた四角いデッキケース。

 前の世界では子供たちの憧れで、この世界ではサモンファイターの必需品。

 

「これが……召喚器」

 

 立体映像と衝撃波を出して、サモンを迫力あるものにする夢のマシン。

 それが今、自分の眼の前にある。

 まさに感無量。涙も出てきた。

 

「えーっと、電源を入れて……ユーザー登録?」

 

 説明書を読みながら、召喚器を操作してみる。

 立体映像のモニターが出てきた。どうやらこの仮想モニターを操作すればいいらしい。科学の力ってスゲー。

 とりあえずユーザー登録をするのだが……個人番号を要求するとかスゲーな、流石はサモン至上主義世界。

 

「個人番号入れてっと。これで良いのかな?」

 

 名前や年齢なども登録すると、仮想モニターに「ようこそ」と表示される。

 これでユーザー登録は完了したみたいだ。

 後はデッキを入れて、実際に動かしてみるのだが……

 

「さて、どのデッキで動かすかだな」

 

 記念すべき初回起動なのだ。

 どうせならとっておきのカードで感動を味わいたい。

 というかよく考えたら、俺まだこの世界で使う自分のデッキを用意していない。

 

「となるとまずはデッキ構築か」

 

 一度召喚器を置いて、俺は大量のカードを取り出す。

 この世界で使うデッキを作るのだ。

 だがここで少し考えねばならない事もある。

 

「どのくらいの強さにすればいいんだろうか?」

 

 これは推測なのだが、この世界における一般人はそんなにサモンは強くない筈だ。

 理由は幾つかあるが、最大の理由はレアカードの価値だ。

 一枚何万円から何百万円とするレアカードを、そう何枚もデッキに投入できる人間はそう居ない筈。そんな事ができるのは金持ちくらいだろう。

 となれば、ただの一般人である俺がレアカード満載のデッキを使うのは変な注目に繋がってしまう。

 

「別に目立ちたくないとかって訳じゃないけど……流石にやりすぎは良くないよな」

 

 ならひとまず、前の世界で使っていたレアカード満載ガチデッキは候補から除外。完全な緊急時用にしよう。

 ではこの世界で使うメインデッキはどうするか?

 答えはシンプルだ。

 

「要するにレアカードを抑えていて、強さも申し分ないデッキを作ればいいんだ」

 

 所謂貧乏デッキだ。

 基本的にレア以下で構成されているデッキをメインにすれば、変な目立ち方はしない筈。

 そして幸い、俺は以前その貧乏デッキを愛用していた事がある。

 

「どこだ、どこだ……あった! 幻想獣のカード」

 

 目当てのカードを見つけた俺は、早速デッキを作り始める。

 懐かしき相棒達を手に取りながら、時々思い出に耽りつつ、俺は戦略を練っていく。

 

「この系統のデッキは構築難易度が高いんだよなぁ」

 

 でもその方が燃える。

 メインのモンスターを入れて、サポートの魔法カードを入れる。

 

「これは枚数減らして……これは思い切って抜いて」

 

 何度も微調節を繰り返しながら、机の上で一人回しをする。

 見えてきた課題を潰すように、何度もデッキの内容に修正を加えていき……再び一人でデッキを回す。

 それを繰り返していく内に、気づけば数時間が経過。

 時計は午前四時を示していた。

 

「で、できたけど……流石に、眠い」

 

 完全に熱中しすぎていた。

 あと三時間もすれば学校へ行かなくてはならない。

 しかも懐かしき中学校だ。

 

 俺は完成したデッキを召喚器にしまい、ベッドへと沈んでいった。

 

 

 

 で、四時間後。

 

「遅刻寸前じゃねーか!」

 

 完全に熟睡してしまった。

 デッキは完成したけど、結局召喚器はユーザー登録しかできてない。

 大慌てで学ランに着替えて腰の召喚器を下げる。

 鞄には教科書を詰め込み、俺は家を飛び出した。

 

 猛ダッシュで通学路を駆けていく。

 それすらも懐かしく、なんだか奇妙な気持ちになった。

 通学路を間違えないように、懐かしき中学校への道を意識しながら走る。

 徐々に同じ制服を着た学生の姿が見えてきた。

 ただ一つ気になる事はある。

 

「(ウチの学校、あんなカラフルな髪色の奴多かったっけ?)」

 

 完全にアニメ世界のカラーリングである。

 そんな事を考えながら、俺は駆け足で学校に向かう。

 

「ま、間に合った」

 

 五年前の俺が通っていた中学校、丘井(おかい)西中学校に辿り着いた。

 卒業の記憶があるので、再び校門をくぐるのに違和感を感じるが、そこはグッと堪えよう。

 しかし、それにしても……

 

「ウチの学校、こんなにボロかったっけ?」

 

 心なしか、校舎全体がボロい気がする。

 壁の塗装が剥がれまくっていて、窓には段ボールが張られている。

 気のせいか、エアコンの室外機も見当たらない気がする。

 

「……とりあえず教室行くか」

 

 自分の名前が書かれた下駄箱を見つけて、靴を履き替える。

 やっぱり下駄箱もボロくなっている気がする。

 記憶を頼りに階段を上って、二年A組の教室へ入った。

 

「……なんだこれ」

 

 教室に入って、まず俺はそう零してしまった。

 だって無理ないじゃん。

 窓は割れまくっていて、段ボールが張られているわ。

 エアコンはおろか扇風機も痕跡しか残っていないわ。

 挙句、机に至ってはみかん箱である。

 

 なにこれ? 新手のいじめか何かか?

 俺はひとまず自分の席を探して、そこに座る。椅子無いけど。

 

 座った俺は教室を軽く見回す。

 やはりさっきのカラフルな髪の生徒たちは、見間違いではなかったみたいだ。

 ウチの教室にも何人かいる。てか知らない人たちがいる。

 

「(やっぱ、あくまで別世界なんだな)」

 

 知ってる人間が何人か別人に入れ替わっているのは、どこか空虚なものを感じる。

 せめて隣の席には知ってる人がいますように。

 そう思って隣の席を見ると、そこにはよく知る男がいた。

 小中と一緒だった学級委員長の速水(はやみ)だ。

 

「おはよう、速水委員長」

「あぁ天川(てんかわ)。おはよう」

 

 眼鏡の位置を直しながら、挨拶を返す速水。

 その手には参考書がある。相変わらずの優等生だな。

 だがそれ以上に、比較的親しい人間が隣なのは好都合だ。

 

「なぁ速水、ウチの学校ってこんなにボロかったっけ?」

「しかたないだろ。ウチは県内サモンファイトランキング最下位なんだからな」

「県内サモンファイトランキング……ってなんだっけ?」

「天川……いくら何でも勉強のしなさすぎだ」

 

 速水が渋々ながら説明を始めようとすると、俺の後ろから女の子声が聞こえてきた。

 

「簡単に言えば、学校ごとのサモンの強さランキング……で合ってますよね?」

「正解だ赤翼(あかばね)

「え、誰?」

 

 振り向いた先に立っていたのは、綺麗な女の子だった。

 白い髪と赤い目。まるで雪うさぎを彷彿とさせるような容姿の美少女だ。

 だが俺の記憶の中に、こんな同級生はいない。君は誰?

 

「天川、流石に失礼だろ」

「い、いいんです。私なんて影の薄い存在ですから」

「すまん。人を覚えるのが苦手なんだ」

「赤翼さん。コイツに自己紹介をしてやってくれ」

 

 速水が助け船を出してくれた。

 赤翼さんは少しはにかみながら、自己紹介をしてくれる。

 

「赤翼ソラです。四月からの転校生なので影が薄いですけど、名前だけでも覚えてくれると嬉しいです」

「覚えた。赤翼さんのこと確かに覚えたぞ」

 

 だってめっちゃアニメビジュアルなんだもん。

 忘れる方が無理だよ。

 

「それはさておき。サモンファイトランキングって何?」

 

 溜息を一つつく速水と苦笑いする赤翼さん。

 渋々だが、速水が説明をしてくれた。

 

「簡単に言えば、学校ごとのサモンの強さランキングだ」

「へぇー。でもなんでそれで校舎がボロくなるんだ?」

「敗者は勝者に絶対服従。サモンファイトに勝った学校は、負けた学校から何でも奪えるんだ」

「へ、へぇ……恐ろしいな」

「本当に怖いんですよ。最初は学校運営の予算。その次は学校設備。そしてこの前はとうとう教室の机が奪われました」

「(怖いよ、サモン至上主義世界!)」

 

 だが思い返せば、アニメでも似たようなシーンはあった。

 とは言っても、奪い合うのは些細なものばかりだったけど。

 まさか学校同士で設備の奪い合いをしているとは……怖いよ。

 

「で、でもさ。こんだけ奪われた後なら、もう取られるもんもないだろ」

「どうだろうな。案外次は人間を狙ってくるかもしれんぞ」

「じょ、冗談でも怖いっての」

「本当に冗談で済めばいいですね」

 

 そんな話をしているとチャイムが鳴り響く。

 教室に担任の先生も入って来た。

 

「あー、朝からみんなに悪い知らせがある」

 

 いきなり不穏だ。

 

「ここ最近の連敗続きで、修学旅行がなくなりそうだ。だからみんな頑張ってくれ。以上」

「はいぃぃぃ!?」

 

 えっ、修学旅行無くなるの!?

 あっそうか、学校予算取られたんだっけ。

 いやそれにしても周りの反応よ。

 

「やっぱりか」

「これ私達は修学旅行諦めた方がよさそうですね」

「もっと俺が強ければ!」

「諦めろ。金持ちボンボンのいないウチに未来はない」

 

 完全に諦めムードである。

 

「(これが……サモン至上主義世界の現実なのか)」

 

 カードゲームで全てが手に入る反面、負ければ全てを失う。

 ファイト一回に対する責任もきっと重い。

 なのにレアカードは入手困難。

 世知辛い現実だ。素直に俺はショックを受ける。

 

 だが俺のショックはまだ続いた。

 

「……なにこれ?」

 

 午前の授業を終えて給食の時間。

 出て来たのはコッペパンと牛乳だけ。

 貧しいってレベルじゃないぞ。

 

「なぁ速水、この給食ももしかして」

「あぁ、サモンファイトに負けた結果だな」

 

 改めて思う。サモン至上主義って怖い。

 だがここで文句を言っても何にもならないので、俺はもそもそとパンを食べた。

 

「(これは大真面目に、ガチデッキで予算ふんだくる作戦を検討してもいいかもしれんな)」

 

 流石にこの現状は酷すぎる。

 俺のデッキで改善できるなら、協力は惜しまないぞ。

 

 量も少ないので早々に終わる給食。

 それからなにも無い休み時間が始まる。

 

「なんか……すごい世界に来ちゃったな」

 

 外の風に当たりながら、そんな事をぼやく。

 すると校門の方から、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 他の生徒たちも何だ何だと集まり始めている。

 

「あっ、速水。あれなんだ?」

「わからん。だが只事ではない事は確かだ」

 

 俺も野次馬根性が出て来たので、速水と一緒に校門へと向かった。

 

 そこには、他校の制服を着た集団が十数人いた。

 あの制服、見覚えがあるぞ。

 

「あの制服、やはり東校の奴らか!」

「東校って、丘井《おかい》東校だよな?」

「あぁ、そしてウチの学校が連敗している相手だ」

 

 マジかよ。ウチあんな柄の悪い学校に連敗してたのか。

 だってアイツらこの時代に、リーゼントで刺繡入りの長ランとか着てるんだぞ。

 しかも中学生でバイク乗ってるし。

 

 あっ、騒ぎを聞きつけた先生が来た。

 

「何の用だ」

「サモンファイトをしに来ただけですよ」

 

 東校の代表だろうか、妙に身なりの良い生徒が先生と対峙している。

 

「もうウチから奪えるものは無いぞ」

「ふーん。それはどうですかね?」

「どういうことだ?」

「労働力がいるじゃないですか。新鮮な奴がたくさん」

 

 身なりの良い生徒は俺達野次馬を見ながらそう言い放つ。

 労働力だって? まさかとは思うが。

 

「ウチの校舎が汚れてきたんですよ。掃除をしてくれる労働力が欲しくてね」

「ヒャハハ! 財前(ざいぜん)さーん! 女子は俺達が貰ってもいいっすよねー?」

「コスプレさせようぜ! コスプレ!」

 

 取り巻きの下種な主張を聞いた身なりの良い生徒、財前が「好きにしろ」と言う。

 すると東校のチンピラ共は一気に沸き立った。

 

「下種がッ」

「同意。アイツら完全に奴隷を欲してやがる」

 

 速水と一緒に、俺も嫌悪感を隠しきれない。

 当然狙われている女子達もドン引いている。男子もだ。

 

「当然ただでとは言いません。そっちが勝てば、東校が今まで奪ってきた物を全て返却しましょう」

「負ければどうなる」

「生徒全員、ウチの奴隷」

 

 緊張が走る。

 とんでもない賭けファイトが始まってしまう。

 一体誰が戦うのだろうか。

 

「対戦者はどう選ぶ?」

「サモン連盟のルールに従ってランダムマッチングです。それなら文句もないでしょう?」

「わかった。そのファイト、引き受けよう」

 

 今更だけど、ここで東校の生徒を追い返さずサモンファイトを受けてしまうあたり、先生もサモン脳なんだなと思う。

 

 東校の財前という男子生徒は召喚器から出現した、仮想モニターを操作する。

 

「それでは運命のマッチング開始です」

 

 生徒全員が腰から下げていた召喚器にランプが灯る。

 それが一人、また一人と消えていき、数を減らす。

 ランプが消えたウチの生徒が胸をなでおろしているあたり、これが点いていたら戦う事になるのだろう。

 事が事だけに、責任重大だからな。

 

 人数の少ない東校の生徒は、すぐに対戦者が決まった。

 

「おや? 僕ですか。これは西校さんも運が悪いですね」

 

 財前という生徒に決まった瞬間、女子の悲鳴が聞こえて来た。

 男子達の間にも絶望ムードが漂い始める。

 

「なぁ、速水。あの財前とかいう奴、強いの?」

「二年にして、東校のランキング一位。県内ランキングでもトップテンに入る実力者だ」

「なるほど。強いんだな」

 

 そしてあの様子からして、多分金持ちのボンボンなんだろう。

 レアカード満載のデッキを使っているに違いない。

 そんな事を考えていると、俺の召喚器からブザーが鳴り始めた。

 

「あれ? なんだこれ?」

「て、天川……お前」

「おや、君が僕の対戦相手ですか」

 

 財前が俺を見ながらそう言う。

 そしてウチの生徒からの視線も一身に突き刺さる。

 

 ……って、え?

 

「対戦すんの、俺!?」

 

 責任重大すぎるぞ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話:機械VS幻想獣①

 色々なものを賭けた西校と東校のサモンファイト。

 その対戦者として選ばれたのは、俺でした。

 

「……ちょっと胃が痛い」

 

 責任重大すぎて胃痛がする気がする。

 というかさっきから後ろの野次馬達がうるさい。

 

「なぁ、お前天川(てんかわ)のデッキって知ってるか?」

「知らない。委員長は?」

「すまない。俺も知らないんだ」

「と言いますか、誰か天川君が戦ってるところ見た事ありますか?」

「ないな」「俺もない」「私もない」

 

 まぁ、言いたい事は分かる。

 俺昨日この世界に来たばっかだし、そりゃ戦闘記録なんてないよな。

 だがやる事になった以上、全力は出そう。

 というか単純にあの柄悪い奴らの奴隷になりたくない。

 

「よろしく頼むよ、雑魚君」

「まぁその、対戦お願いします」

 

 とりあえず挨拶はカードゲーマーの嗜みだ。

 対戦相手の財前(ざいぜん)とかいう奴は完全に俺を舐め切っているけど……まぁいいだろう。

 

「(絶対勝ってやる)」

「さぁ、距離を取ろうか」

 

 そう言って俺と財前は校庭に移動して、五メートル程距離をとる。

 召喚器を使う場合は距離をとる事。それは説明書にも書いてあった。

 

 準備が整うと、財前は召喚器をこちらに向けてきた。

 

「ターゲットロック」

 

 その掛け声と共に、俺と財前の召喚器が通信を始める。

 そして俺達の目の前には、立体映像で作られた仮想フィールドが出現した。

 

「おぉ、スゲー」

 

 驚くのもつかの間、個人的に嬉しい事が起きた。

 

『初回対戦を確認しました。チュートリアルモードを起動します』

 

 チュートリアルモード。なるほど、初心者に優しい仕様なんだな。

 流石はサモン至上主義世界。

 だが、チュートリアルモードの音声ガイダンスが聞こえた瞬間、周囲は阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた。

 

「ギャハハハ! マジかよアイツ!」

「チュートリアルモードすらっやってないのかよ!」

「そんなもん小学生で終わらせるもんだぜ!」

 

「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「お、終わった」

「委員長、俺ジャージ用意してくる」

「すまない、俺の分も頼む」

 

 敵側から馬鹿にされるのはともかく、味方から完全に諦められている。

 仕方ないだろ、今日が初めてなんだから!

 

「ハハハ、これは勝負あったね」

「……なんでさ」

「初心者が僕に勝てるわけないだろ」

 

 さも当たり前かのように言う財前。

 なるほど、チュートリアルモードは初心者の証みたいなものなのか。

 だけど……

 

「勝ち負けなんか、やってみなくちゃ分からないだろ」

「分かるさ。西校の雑魚が僕に勝てない」

「よし分かった。絶対勝ってやる」

「……減らず口を」

 

 絶対にその天狗っ鼻へし折ってやる。

 俺はチュートリアルモードのガイダンスを聴きながら、そう決意した。

 対戦相手に敬意を柄得ない奴はカードゲーマーじゃありません!

 

 召喚器の中でオートシャッフルされたデッキから、俺は初期手札五枚を引く。

 仮想モニターには初期ライフである10の数字が表示された。

 これで準備完了。

 

「早々に潰してあげるよ、初心者君」

「負けても泣かないでくれよ」

 

 どうやら彼方も準備完了したらしい。

 双方の準備完了を確認したシステムが、今度はジャッジシステムへとアクセスする。

 

『公式ジャッジシステムへと繋がりました』

『対戦可能です』

 

 仮想モニターにそう表示される。

 さぁ、初陣だ。

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 財前:ライフ10 手札5枚

 ツルギ:ライフ10 手札5枚

 

 仮想モニターに先攻後攻の表示が出る。

 先攻は財前だ。

 

「じゃあ先攻を貰うとしよう。僕のターン! スタートフェイズ」

 

 財前のターンが始まる。

 

「メインフェイズ。〈ディフェンダー・マンモス〉を召喚!」

『バオォォォォォォン!』

 

 財前のフィールドに巨大な機械のマンモスが召喚される。

 

 〈ディフェンダー・マンモス〉P10000 ヒット0

 

「召喚コストとして、ボクはデッキを上から8枚除外するね」

 

 いきなり出て来たレアカード。

 と言ってもパワーが高いだけの大型ブロッカーなのだが。

 しかし素のパワーが高いレアカードという事実は、野次馬に大きな衝撃を与えたようだ。

 

「い、いきなりパワー10000だと!?」

「あんなの勝てるのかよ」

「終わった。今度こそ終わった」

 

 いやお前ら、あのマンモスパワーが高いだけで耐性とか何も持ってないぞ。

 そんなに驚かないでくれ。

 そして財前君よ、ドヤ顔をやめてくれ。俺が吹き出しそうになる。

 

「どうだ。これが財前家が誇るレアカードだ!」

「へーそうなんだー。すごいねー」

「驚いてまともに思考も出来ないか。僕はこれでターンエンド!」

 

 財前:ライフ10 手札4枚

 

 先攻1ターン目はドローと攻撃ができない。

 だから財前はそのままターンを終了した。

 さぁ、俺の番だ

 

「俺のターン! スタートフェイズ! ドローフェイズ!」

 

 腰に下げている召喚器からカードを1枚ドローする。

 これで手札は6枚だ。

 

「メインフェイズ!」

『メインフェイズではモンスターの召喚ができます。手札からモンスターを召喚してみましょう。ただし場に存在できるモンスターは3体までです』

「言われなくても知ってるさ。俺は〈トリオ・スライム〉を召喚!」

 

 召喚するモンスターカードを仮想モニターに投げ込むと、俺のフィールドに小さくて可愛いスライムが召喚された。

 

『スララー!』

 

 〈トリオ・スライム〉P1000 ヒット1

 

 召喚されたスライムを見た瞬間、財前は笑い声を上げ始めた。

 

「ハハハハハ、パワー1000だって? とんでもない雑魚モンスターじゃないか」

「勝手に言ってろ。俺は〈トリオ・スライム〉の召喚時効果発動! デッキから2体目の〈トリオ・スライム〉を手札に加える」

 

 デッキから自動でカードが出てくる。

 本当に科学の力ってすごい。

 

『モンスターの召喚は1ターンに何度でもできます』

「知ってる。俺は2体目の〈トリオ・スライム〉を召喚!」

『スララー!』

 

 《トリオ・スライム(B)》P1000 ヒット1

 

「そして2体目の〈トリオ・スライム〉の効果で、3体目の〈トリオ・スライム〉を手札に加える。そしてそのまま3体目も召喚だ!」

『スララー!』

 

 〈トリオ・スライム(C)〉P1000 ヒット1

 

「そんな雑魚を3体も並べたところで、僕の〈ディフェンダー・マンモス〉の敵じゃない」

「確かに、今のスライムは弱い。だけどこれはカードゲームだぜ」

「なに?」

「カードはモンスターだけじゃないんだよ! 俺は手札から魔法カード〈トリニティオーラ〉を発動!」

『発動タイミングが適切であれば、魔法カードはいつでも発動できます』

 

 俺が魔法カードを発動すると、3体の〈トリオ・スライム〉はオーラを纏い始めた。

 

「〈トリニティオーラ〉は、俺の場のモンスターが3体の時、そのパワーを+4000する魔法カードだ」

「だけど強化されたところで、パワーは5000。パワー10000の〈ディフェンダー・マンモス〉には敵わない」

「それはどうかな? 〈トリニティオーラ〉のもう一つの効果。それは俺の場のモンスターが全て同名カードであった場合、追加でパワーを+5000するんだ!」

「なんだって!?」

 

 合計9000のパワープラス。それにより貧弱だったスライム達のパワーは――

 

 〈トリオ・スライム(A)〉P1000→P10000

 〈トリオ・スライム(B)〉P1000→P10000

 〈トリオ・スライム(C)〉P1000→P10000

 

「馬鹿な! 〈ディフェンダー・マンモス〉に並んだだと!?」

 

 後方から歓声が上がる。コモンカードがレアカードに匹敵するパワー得た事が湧かせたのだろう。

 でもこんな簡単コンボで驚かれても正直困るのだがなぁ。

 

「俺は更に魔法カード〈フューチャードロー〉を発動。ライフを2点払って、2ターン後のスタートフェイズにカードを2枚ドローする」

 

 ツルギ:ライフ10→8

 

「さぁ行くぜ、アタックフェイズ! まずは〈トリオ・スライム(A)〉で攻撃!」

「くっ。ライフで受ける」

 

 ブロック宣言をしなかった事で、一体目の〈トリオ・スライム〉が、財前に体当たりをする。

 すると財前のライフは〈トリオ・スライム〉のヒット数、1のダメージを受けた。

 

 財前:ライフ10→9

 

「続いて〈トリオ・スライム(B)〉で攻撃!」

「それもライフだ」

 

 財前:ライフ9→8

 

「最後! 〈トリオ・スライム(C)〉で攻撃」

「その攻撃は〈ディフェンダー・マンモス〉でブロックする」

 

 スライムの前に立ち塞がる巨大な機械マンモス。

 だが現在のパワーが互角。

 スライムがマンモスに体当たりすると、双方大爆発を起こして破壊された。

 

「相打ちか。だけど〈ディフェンダー・マンモス〉には」

「どうやら知ってるようだな。破壊された〈ディフェンダー・マンモス〉の効果発動! 僕はカードを1枚ドローする!」

 

 財前:手札4枚→5枚

 

『攻撃可能なモンスターがいません。ターンエンドをしましょう』

「ターンエンド」

 

 ツルギ:ライフ8 手札3枚

 場:〈トリオ・スライム〉〈トリオ・スライム〉

 

「どうやら少し君を侮りすぎてたみたいだ。僕のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 財前:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。喜べ初心者君。君に僕のデッキの本領というものを見せてあげよう」

「まぁ、そうこなくっちゃな」

 

 でも〈ディフェンダー・マンモス〉が見えた時点で、なんとなく相手のデッキ読めちゃったんだよなぁ。

 口には出さないけど。

 

「僕は〈メカゴブリン〉を召喚!」

 

 財前の場に、鉄の棍棒を持った機械ゴブリンが召喚される。

 

 〈メカゴブリン〉P6000 ヒット1

 

「(やっぱり【機械】のデッキだったか)」

 

 【機械】デッキ。

 系統:〈機械〉のカードでまとめた、パワー型のデッキだ。

 最大の売りは高い素のパワーと、攻撃的な能力。

 そして系統が持つ固有能力だ。

 

「さぁ見るがいい! 〈メカゴブリン〉の召喚時に手札を1枚捨てる事で【オーバーロード】を発動!」

「やっぱり使ってきたか」

「初心者君の為に説明してやるよ。【オーバーロード】は機械モンスターだけが持つ固有能力。その効果は召喚時に手札を1枚捨てる事で、このターンの間パワーとヒットを2倍にする!」

 

 財前:手札5枚→4枚

 〈メカゴブリン〉P6000→12000 ヒット1→2

 

「パワー12000だと!?」

「あんな強力な能力を持ってたなんて」

「ダメだ負けた。勝てるわけない」

 

 だからギャラリーうるさい。

 確かに【オーバーロード】は強力だが、分かりやすい弱点もある。

 

「(まぁ流石にこのターンすぐには何も出来ないんだけどな)」

「更に僕は〈ダブルランサーロボ〉を召喚! こいつも【オーバーロード】持ちだ。手札を1枚捨てさせてもらおう!」

 

 財前のフィールドに二本の槍を持った人型ロボットが召喚される。

 

 財前:手札3枚→2枚

 〈ダブルランサーロボ〉P6500→13000 ヒット2→4

 

 また厄介なモンスターが召喚された。

 だけど同時に、財前は【オーバーロード】の弱点にもハマった。

 【オーバーロード】は手札消費が激しすぎるんだ。

 

「フフフ。僕の手札が心配かい?」

「一応ね。大丈夫なのかなーとは思うよ」

「心配は無用だ。機械デッキにはこういうカードもある。魔法カード〈オイルチャージ〉を発動!」

「機械デッキ専用のドローカードか」

「その通りだ。このカードは僕の場に系統:〈機械〉を持つモンスターが2体以上存在する時、カードを2枚ドローできる」

 

 財前:手札1枚→3枚

 

 手札補充をする財前。だがそれでも手札は2枚だ。

 

「これで終わりじゃないよ。僕は更に魔法カード《スペルコピー》を発動。ライフを2点払って、墓地の魔法カード《オイルチャージ》の効果をコピーするよ」

 

 ドロー効果がコピーされて発動。財前の手札が更に増える。

 上手いプレイングだな。

 

 財前:手札2枚→4枚

 

「へぇ。やるじゃん」

「これでも未来のプロなんでね」

「へいへい(自意識高いなコイツ)」

 

 しかし機械デッキで手札を増やされるのは少し厄介だな。

 考えてプレイしないと負けてしまうかもしれない。

 

「まだまだ僕の進撃は止まらないよ。魔法カード〈追尾ミサイル〉を発動!」

「げっ、そのカードは」

「〈追尾ミサイル〉の効果で、このターンの間、僕の機械モンスターは【指定アタック】を得る」

 

 【指定アタック】。その名の通り、相手モンスターを指定して攻撃する能力だ。

 何が厄介って、モンスターを殲滅される事もだが、奴の〈メカゴブリン〉との相性が良すぎるんだ。

 

「アタックフェイズ。〈メカゴブリン〉で〈トリオ・スライム〉に指定アタックだ!」

 

 鉄の棍棒を構えて、スライムに攻撃を仕掛けるゴブリン。

 今の手札と、先のターンの事も考えれば……ここはライフ調節に徹するか。

 

「すまない、スライム」

 

 ゴブリンの振り下ろした棍棒によって潰される〈トリオ・スライム〉の一体。

 だがゴブリンの攻撃はこれで終わらなかった。

 

「〈メカゴブリン〉の効果発動! このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、僕の場にパワー10000以上のモンスターがいれば、相手に2点のダメージを与える!」

 

 効果が発動すると、ゴブリンは此方に向けて爆弾を投げてきた。

 

「うわッ!?」

 

 爆風と衝撃波が実際に伝わってくる。

 

 ツルギ:ライフ8→6

 

「ひゃあ、スゲーな召喚器システム。本当に衝撃波がきた」

「のんびりしている暇なんてあるのかい? ここで〈ダブルランサーロボ〉の効果発動! このカードのパワーが13000以上の時、僕の【オーバーロード】を持つモンスターは全て【2回攻撃】を得る!」

「つまり〈メカゴブリン〉はもう一度攻撃できると」

「そういうことだ。行け〈メカゴブリン〉! 最後の〈トリオ・スライム〉を攻撃しろ!」

 

 最後のスライムに襲い掛かるゴブリン。

 ここで防御をしたい気持ちがあるが、ここはあえてゴブリンの効果ダメージを受けよう。

 

 棍棒で潰されるスライム。

 そしてゴブリンは再び爆弾を俺に投げてきた。

 

「ぐッ!」

 

 ツルギ:ライフ6→4

 

「これでもう君の場にモンスターはいない。〈ダブルランサーロボ〉で止めだ!」

 

 ヒット数4の〈ダブルランサーロボ〉が俺を直接攻撃してこようとする。

 これを受ければ敗北する。

 後ろのギャラリーもそれを悟ったのか、悲鳴を上げているが……

 

「ここで終わらせるわけないだろ! 魔法カード〈トリックゲート〉を発動!」

 

 俺に攻撃を仕掛けていた〈ダブルランサーロボ〉は、突如開いたゲートにその身体路飲み込まれた。

 

「〈トリックゲート〉は、モンスターの攻撃対象を移し替える。お前が攻撃するのは〈メカゴブリン〉だ!」

 

 再びゲートが開く。ただしそれは〈メカゴブリン〉の目の前であった。

 ゲートから出てきた〈ダブルランサーロボ〉は、そのまま〈メカゴブリン〉を戦闘破壊してしまった。

 

「くっ、雑魚の分際で。だけど〈ダブルランサーロボ〉は【2回攻撃】の効果で回復する! 今度こそ止めだ!」

「魔法カード〈グラビトントラップ〉を発動。回復した〈ダブルランサーロボ〉を疲労させる」

 

 凄まじい重力エネルギーが発生し、〈ダブルランサーロボ〉は押しつぶされてしまう。

 

「疲労状態になったモンスターは攻撃できない。だろ? ベテランファイターさん?」

「こ、この野郎……ターンエンドだ!」

 

 財前;ライフ6 手札3枚

 場:〈ダブルランサーロボ〉

 

 素早く止めを刺せなかったのが相当悔しいのか、財前は顔を真っ赤にしてターン終了の宣言をした。

 さて、機械モンスターの猛攻から生き残ったは良いが、これからどうしようか?

 

「まぁドローしてから考えるか。俺のターン!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話:機械VS幻想獣➁

「スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 ツルギ:手札1枚→2枚

 

 ドローしたカードを確認する。

 よし、これなら。

 

「メインフェイズ。俺は〈コボルト・ウォリアー〉を召喚!」

 

 狼のような頭を持つ、モフモフコボルトの剣士が召喚された。

 

 〈コボルト・ウォリアー〉P3000 ヒット2

 

「そんでこれが本命。魔法カード〈逆転の一手!〉を発動!」

 

 前のターンからずっと握っていたとっておきだ。

 

「このカードは自分のライフが4以下の時にのみ発動できる。その効果で、俺は手札が3枚になるようにドローする!」

「お前、まさかそのカードの為に〈メカゴブリン〉を利用したのか!?」

「そういうこと。ライフ調節にご協力ありがとうございます」

 

 自分のプレイが利用されたと気づいて、財前(ざいぜん)は顔を茹で蛸みたいにする。

 

 ツルギ:手札0枚→3枚

 

「おっ、いいカードがきた。俺は〈コボルト・ウィザード〉を召喚」

 

 今度は三角帽子を被った、モフモフのコボルト魔法使いが召喚された。

 

 〈コボルト・ウィザード〉P2000 ヒット1

 

「〈コボルト・ウィザード〉の召喚時効果を発動! デッキからカードを1枚ドローする」

 

 ツルギ:手札2枚→3枚

 

 よし、欲しかったカードが手札にきた。

 そのカードが手札にきた瞬間、仮想モニターにルール説明が表示される。

 

『進化モンスターは、条件に合ったモンスターを素材にして召喚するカードです。素材になったモンスターは墓地へは行かず、進化元となります。使いますか?』

「当然使うさ! 俺は場のパワー3000以下のモンスター〈コボルト・ウィザード〉を素材にして、〈ファブニール〉を進化召喚!」

 

 〈コボルト・ウィザード〉の足元に巨大な魔法陣が現れ、〈コボルト・ウィザード〉を呑み込む。

 強く光輝く魔法陣から、今度は黒く巨大な竜が姿を現した。

 

 〈ファブニール〉P10000 ヒット?

 

「ヒット数が決まっていないだと?」

「こうやって決めるのさ。〈ファブニール〉の召喚時効果発動! 相手モンスター1体を破壊する。〈ダブルランサーロボ〉を破壊だ!」

 

 〈ファブニール〉は口から炎のブレスを吐き、〈ダブルランサーロボ〉を破壊した。

 だがそれだけでは終わらない。

 

「〈ファブニール〉の更なる効果。このカードのヒット数は、破壊したモンスターのヒット数と同じになる」

 

 〈ダブルランサーロボ〉のヒット数は2。よって〈ファブニール〉のヒット数は。

 

 〈ファブニール〉ヒット?→2

 

「これで今度はそっちのフィールドががら空きだな。アタックフェイズ! 〈コボルト・ウォリアー〉で攻撃だ!」

 

 剣を抜き、〈コボルト・ウォリアー〉財前に向かって駆け出す。

 

「攻撃時に〈コボルト・ウォリアー〉の効果発動! このカードのパワーは、俺の墓地に眠る系統 :〈幻想獣〉を持つモンスターの数だけ+1000される」

 

 墓地にあるモンスターは3枚の〈トリオ・スライム〉。

 全て系統は〈幻想獣〉だ。

 

 〈コボルト・ウォリアー〉P3000→6000

 

 パワーアップする〈コボルト・ウォリアー〉。

 まぁ直接攻撃の今は、あまり意味のない効果だけど。

 〈コボルト・ウォリアー〉は勢いよく財前に剣を振り下ろそうとする。

 しかし……

 

「魔法カード発動 〈シェルターウォール〉」

 

 突如現れた防壁によって、攻撃を跳ね返されてしまった。

 〈シェルターウォール〉、機械デッキ専用の防御魔法。

 その効果は二つあり、一つはこのターン受ける全てのダメージを1点減らすこと。

 もう一つは

 

「君達のくだらない攻撃には付き合ってられない。〈シェルターウォール〉の効果で、君のアタックフェイズを強制終了させるよ」

 

 これでもう攻撃は出来なくなった。

 

「……ターンエンド」

 

 ツルギ:ライフ4 手札2枚

 場:〈コボルト・ウォリアー〉〈ファブニール〉

 

「僕のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 財前:手札2枚→3枚

 

「メインフェイズ。僕は2枚目の〈ディフェンダー・マンモス〉を召喚」

 

 再び巨大な機械マンモスが降臨する。

 

「召喚コストでデッキを8枚除外……おや?」

 

 除外したカードの中から何かを見つけた財前。

 このタイミングだ、思いつくカードは一つしかない。

 

「これは運がいい。僕はコストで除外された〈ギフトキャリアー〉の効果を発動」

「やっぱりそいつか!」

「〈ギフトキャリアー〉は除外された時、カードを1枚ドローできる」

 

 空間の裂け目から箱型ロボットが現れて、財前に1枚のカードを手渡す。

 

 財前:手札2枚→3枚

 

 〈ギフトキャリアー〉、軽い条件でドローができる〈ディフェンダー・マンモス〉のお友達だ。

 まぁあのカードを採用しているなら、当然入ってるよなぁ。

 

「ほう、これは。僕は2枚目の〈ダブルランサーロボ〉を召喚!」

 

 2回攻撃を付与する強力レアカードが再び召喚される。

 それが出た瞬間、後ろのギャラリーも悲鳴に近い声を上げた。

 

「そして機械モンスターが2体になった事で、魔法カード〈オイルチャージ〉を発動する」

「そっちも2枚目かよ」

「デッキから2枚ドローだ」

 

 財前:手札2枚→3枚

 

 財前の手札が増える。だけど同時に、俺はある事に気がついた。

 

「【オーバーロード】を使わない?」

 

 【オーバーロード】は召喚時に発動する能力だ。

 パワーが倍化していない〈ダブルランサーロボ〉は2回攻撃ができない筈。

 いやまて、考えるんだ。

 この状況で【オーバーロード】を使わない理由。

 ただのうっかりなんて考えられない。しかも相手はレアカードを大量に使うファイター。

 だとすればこの後奴が使うのは、【オーバーロード】をサポートするあのカードか!?

 

「さぁ、そろそろ終わらせようか」

「来るかッ!?」

「僕はパワー10000以上のモンスター〈ディフェンダー・マンモス〉を素材にして、〈【重装将軍(じゅうそうしょうぐん)】アヴァランチ〉を進化召喚!」

 

 〈ディフェンダー・マンモス〉が魔法陣に吞み込まれ、大地が割れる。

 割れた大地からは、巨大な人型ロボットが姿を現した。

 【重装将軍】その名に恥じない重装備のロボットにして、【オーバーロード】デッキの切り札。

 

 〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000 ヒット4

 

 出たなSRカード。またの名を二つ名持ち。

 

「見たか! これが僕の切り札にして、二つ名持ちのSRカード〈【重装将軍】アヴァランチ〉だ!」

「はは、ちょっと不味いかも」

 

 パワーは15000という並のモンスターなら戦闘で勝てない数値。

 更にヒット数も4と大きい。

 分かりやすく強力なステータスを見て、後ろのギャラリーたちは完全に戦意喪失状態になっていた。

 

「パワー……15000」

「なによアレ、あんなの勝てるわけないじゃん」

「ここまでか」

 

 いや皆さん、驚くのは分かるけど、せめて俺の勝利は信じてよ。

 あっ、俺初心者だと思われてるんだった。

 

「どうだ初心者君。今なら君の投了を認めてやってもいいぞ?」

「バーカ。するわけないだろ」

「なに?」

「まだ俺のライフは残ってる。ライフが残ってたら、まだゲームは続いているんだ」

「そうかそうか……君はそんなに死にたいんだね」

 

 思うようにいかなかったからか、財前は俺をキッと睨みつける。

 

「ならお望み通り、グチャグチャにしてあげるよ! 2体目の〈メカゴブリン〉を召喚!」

 

 あの厄介なゴブリンが再びフィールドに召喚される。

 

「アタックフェイズ! 〈【重装将軍】アヴァランチ〉の効果発動!」

「来るか!」

「手札を1枚捨てる事で、僕の場の機械モンスターを全て【オーバーロード】状態にする!」

 

 要するに手札1枚で3枚分のコスト支払い。

 よくよく考えたら強烈なことしてるな、アヴァランチ。

 

 財前:手札1枚→0枚

 〈メカゴブリン〉P6000→12000 ヒット1→2

 〈ダブルランサーロボ〉P6500→13000 ヒット2→4

 〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000→30000 ヒット4→8

 

 ヒット数8の大型モンスター。最早初期ライフが10点だという事を忘れてそうな、数字の暴力。

 東校側のギャラリーはそれを見て歓声を上げ、西校の方は完全に言葉をうしなっていた。

 

 だがその中、俺はある事を見逃さなかった。

 財前が捨てた最後の手札。それが〈シェルターウォール〉であった事を。

 

「蹂躙開始だぁ! まずは〈メカゴブリン〉で攻撃!」

「〈ファブニール〉でブロック!」

 

 パワーは12000対10000。ファブニールの負けだ。

 だがそれでは終わらない。

 

「〈ファブニール〉の【ライフガード】を発動! 〈ファブニール〉は破壊されても、一度だけ回復状態で戻る!」

「だけど破壊の判定は下る。2点のダメージを喰らえ!」

 

 ゴブリンの投げた爆弾が、俺に直撃する。

 

 ツルギ:ライフ4→2

 

「〈ダブルランサーロボ〉の効果で、全員2回攻撃持ちだ! もう一度 〈メカゴブリン〉で攻撃!」

「それも〈ファブニール〉でブロック!」

「効果ダメージでお前はお終いだ!」

「それはゴブリンに破壊されたらだ。ブロック宣言後に魔法カード〈ギャンビットドロー〉を発動!」

 

 ゴブリンに攻撃されるよりも早く、〈ファブニール〉は爆散した。

 

「〈ギャンビットドロー〉は自分のモンスター1体を破壊して、カードを2枚ドローする魔法だ。更にブロック宣言には成功しているから、〈メカゴブリン〉の攻撃はもう俺には届かない」

「ど、どういう事だ。何が起きたんだ!?」

「サクリファイスエスケープを見るのは初めてだったか?」

「サ、サクリファイスエスケープだと!?」

 

 ツルギ:手札1枚→3枚

 

 周りのギャラリーがざわつき始めている。

 聞き耳を立てると、どうやらこの世界ではサクリファイスエスケープは高等テクニックという扱いらしい。

 そこまでの事かな?

 

「お、お前。本当に初心者なのか!」

「召喚器を使うのは初めてだけど、サモンは十年近くやってるよ」

「ふざけるな。認めてたまるか……こんな、こんな雑魚にィィィ!」

 

 財前が何か叫んでいるがよく分からない。

 だが何かしらのプライドを刺激したという事だけは分かった。

 

「潰せェ! 〈ダブルランサーロボ〉!」

 

 攻撃宣言された〈ダブルランサーロボ〉がこちらに襲い掛かってくる。

 だが通すわけにはいかない!

 

「魔法カード〈リブート!〉を発動! 〈コボルト・ウォリアー〉を回復状態にする」

 

 これでブロックが可能になった。

 

「〈コボルト・ウォリアー〉でブロック! 更に魔法カード発動!」

「まだ抵抗するのか!」

「するに決まってるだろ。魔法カード〈トリックボックス〉発動! その効果でデッキからカードを1枚ドローして、〈コボルト・ウォリアー〉を手札に戻す!」

 

 ツルギ:手札1枚→3枚 (内1枚 〈コボルト・ウォリアー〉)

 

「更にその後、戻したモンスターとはカード名が異なるモンスターを手札から召喚する!」

 

 〈トリックボックス〉の最初のドローで最高のカードが来た。

 

「そっちが二つ名持ちでくるってんなら、俺も二つ名持ちで対抗する!」

「何!? お前も二つ名持ちのカードを!?」

「さぁ来い、俺の相棒!」

 

 仮想モニターに、デッキのエースカードを投げ込む。

 

「奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣《こうぎょくじゅう》】カーバンクル〉を召喚!」

 

 フィールドに巨大なルビーが出現する。

 そのルビーが砕け、中から緑色の体毛をした、小さなウサギ型モンスターが召喚された。

 

『キュップイ!』

 

 〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1

 

「えっ?」

 

 財前が間抜けな声を漏らす。

 それもそうだろう。だってカーバンクルのステータスは滅茶苦茶……

 

「「「よ……弱い」」」

 

 弱いのである。

 

「えっ、どういうこと? あれ本当にSRカードなの?」

「パワーって1000が最低じゃなかったのかよ」

「あのステータスでSR? 何か持っているのか?」

 

 多種多様なリアクションありがとうございます。

 まぁ実際戦闘には向いてないように見えるからね~。

 そんな事を考えていると、財前がプルプルと震えだした。

 

「お、お前……ふざけているのか」

「ふざけてないさ。コイツが俺のデッキのエース〈【紅玉獣】カーバンクル〉だ」

「そんな無意味な雑魚で僕を邪魔しやがってェェェ!」

「凄い激怒。まぁいいや。〈トリックボックス〉の効果で、カーバンクルは〈ダブルランサーロボ〉をブロックする」

「血祭りに上げろ! 〈ダブルランサーロボ〉!」

 

 〈ダブルランサーロボ〉とカーバンクルが対峙する。

 このまま戦闘すれば、カーバンクルが普通に負けてしまう。

 だが当然、そんな事はさせない。

 

「バトル開始時に魔法カード〈バックキャンセル〉を発動!」

「〈バックキャンセル〉?」

「ライフを1点払うことで、このターンの間、フィールドから俺の手札に戻る系統 :〈幻想獣〉を持つモンスターは全て再召喚される」

 

 ツルギ:ライフ2→1

 

「またそんな無意味なカードをォォォ!」

「無意味かどうかは見ていればいいさ」

 

 パワー13000対パワー500

 当然カーバンクルが負けてしまう。

 カーバンクルは〈ダブルランサーロボ〉の槍によって、いとも容易く破壊されてしまった。

 

「これでお前の場はがら空きだ! いい加減沈めェェェ!」

「悪いけど、俺はまだ生き延びる」

「ブロッカーも居ないお前のフィールドで何ができるんだ! あの雑魚SRの力にでも頼るのか?」

「その通りだとしたら?」

「なんだと!?」

 

 その瞬間、財前も異変に気がついた。

 俺の手札が1枚増えている事に。

 

「〈【紅玉獣】カーバンクル〉は、フィールドで破壊されても墓地へは行かず、手札に戻る」

「手札に……戻るだと」

「そうだ。そしてカーバンクルの系統は〈幻想獣〉! 〈バックキャンセル〉の効果で再召喚だ!」

 

 即座にフィールドへと戻るカーバンクル。

 

『キュップイ!』

「クソっ! だったらアヴァランチで攻撃だ!」

「勿論カーバンクルでブロック」

 

 超巨大ロボが大量のミサイルを放ってくる。

 カーバンクルはそれに巻き込まれてしまうが、なんら問題はない。

 

「破壊されたカーバンクルは手札に戻る。そして〈バックキャンセル〉の効果が適用されて、再召喚される」

 

 再びフィールドに戻るカーバンクル。

 ここでようやく財前は、俺が何をしているのか悟った。

 

「む、無限ブロックコンボ」

「その通りだ。どうする? まだ続けるか?」

 

 分かりやすく歯軋りをし、俺を睨みつけてくる財前。

 そうとう癪に障ったのだろう。

 だがこちらも勝つために必死なのだ。許して欲しい。

 

「ターンエンドォ!」

 

 財前:ライフ6 手札0枚

 場:〈ダブルランサーロボ〉〈メカゴブリン〉〈【重装将軍】アヴァランチ〉

 

 さて、生き延びたまではいいのだけど。

 このまま防戦一方では勝てない。

 そろそろ何かアクションを起こしたいところだ。

 

「俺のターン。2ターン目のスタートフェイズなので〈フューチャードロー〉の効果発動! 俺はカードを2枚ドローする」

 

 ツルギ:手札2枚→4枚(内1枚 〈コボルト・ウォリアー〉)

 

「そしてドローフェイズ」

 

 ツルギ:手札4枚→5枚(内1枚 〈コボルト・ウォリアー〉)

 

 ドローしたカードは……よし。

 

「メインフェイズ。俺は魔法カード〈デストロイ・ポーション〉を発動。自分のデッキを上から5枚破棄して、その中にあるモンスターカード1枚につき、ライフを1点回復する」

 

 デッキを上から5枚掴んで、墓地に送る。

 墓地に送られたモンスターカードは〈コボルト・ウィザード〉。

 そして〈ケリュケイオン〉だった。

 

「よし! 2枚墓地に行ったので2点回復だ」

 

 ツルギ:ライフ1→3

 

「たかが2点の回復。僕の機械モンスターの前じゃ0に等しい」

「どうかな? ライフがある限り逆転劇はいくらでも起こる。それがサモンの面白いところだろ」

「ありえないね。君程度が操るモンスターじゃ、僕に勝てない。潔く投了したらどうなんだ」

「やだよ。だって俺――勝つもん」

 

 俺の勝利宣言を聞いて、周囲がざわつき始める。

 財前に至っては完全に怒り心頭といった様子だ。

 

「誰が、勝つって?」

「俺だよ。このターンで勝ってやる」

「妄想ばかり吐きやがって。ならやってみせろ!」

「あぁやってやるよ。必要なパーツは全て揃った」

 

 俺は自分の手札に視線を落とす。

 これなら確実に、このターンで勝てる。

 

 さぁ、派手にいこうか!

 

「まずは魔法カード〈エルダー・サイン〉を発動。手札を1枚捨てて、墓地のモンスター1体を復活させる」

「〈ファブニール〉でも復活させる気か?」

「違うな。俺が復活させるのはこいつだ! 来い〈ケリュケイオン〉!」

 

 俺の墓地から、二つの頭を持つ蛇が召喚される。

 

 〈ケリュケイオン〉P3000 ヒット1

 

「また雑魚モンスターをッ!」

「勝利に必要なピースだ。更に俺は魔法カード〈ファブニールの呪い〉を発動。このカードは、フィールドのモンスター1体を選んで破壊する」

 

 発動コストとして、系統: 〈幻想獣〉を持つカード〈コボルト・ウォリアー〉を手札から捨てる。

 

「モンスターの破壊? 僕のアヴァランチを破壊する気か!」

「悪いけど、もうお前のモンスターは眼中にないんだ」

「なに!?」

「俺が破壊するのは、俺の場の〈【紅玉獣】カーバンクル〉だ!」

 

 あっけなく破壊されるカーバンクル。

 そして効果で俺の手札に戻ってくる。

 

「な、何故自分のモンスターを!?」

「カーバンクルが手札にある必要があったんだよ」

 

 財前だけではなく、周りのギャラリーも意味不明といったリアクションをとっている。

 まヵだからこそ、この後のコンボが映えるんだけどな。

 

「さぁ仕上げに行くか! これが必殺の魔法カード! 〈召喚爆撃〉を発動!」

「な、なんだそのカードは」

「このカードは次の自分のアタックフェイズを放棄する代わりに、このターン召喚された系統 :〈幻想獣〉を持つモンスターを全て破壊し続ける」

「自分のモンスターを破壊し続けるだと!?」

「その代わり、召喚したモンスターが破壊される度に、お互いに1点のダメージを与えるんだ」

 

 さぁ始めよう、技のフィニッシュを。

 俺がカーバンクルを召喚しようとした次の瞬間、後方から速水《はやみ》が叫んできた。

 

「ダメだ天川(てんかわ)! そのカードでは勝てない!」

「どうした速水?」

「〈召喚爆撃〉はお互いにダメージを受ける。カーバンクルを無限召喚したとしても、先にライフが尽きるのは天川の方だぞ!」

「あぁ、なんだそんな事か。大丈夫なんとかなるから」

「しかし」

「大丈夫だって。俺を信じてくれ」

 

 その言葉が届いたのか、速水はそれ以上何も言ってこなかった。

 さぁ気を取り直して、ゲーム再開だ。

 

「俺は〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

 

 またもフィールドに戻ってくるカーバンクル。

 しかし〈召喚爆撃〉の効果で、すぐに破壊されてしまった。

 

「〈召喚爆撃〉によってカーバンクルを破壊。お互いに1点のダメージを受ける」

「馬鹿が。先に倒れるのはお前の方だろ」

「……それはどうかな?」

 

 〈召喚爆撃〉の効果によって、お互いに小さな衝撃波が走る。

 

 財前:ライフ6→5

 ツルギ:ライフ3→3

 

「な、なんだって!?」

 

 仮想モニターに表示されたライフ変動を見て、財前は驚愕の表情を浮かべる。

 よく見れば、俺の周りには身を守るように薄い膜ができていた。

 

「お前、なんでダメージを受けてないんだ!」

「〈ケリュケイオン〉のおかげさ。コイツは魔法カードの効果で俺が受けるダメージを1点減らしてくれるんだ」

 

 〈召喚爆撃〉で受けるダメージは1点ずつ。俺だけちょうどプラマイゼロである。

 

「そして破壊されたカーバンクルは手札に戻る」

「なるほど、そうやって僕にだけ無限ダメージを与えるって訳かい。だけど残念。僕には防御魔法の〈シェルターウォール〉がある」

「へぇ……」

「こいつは僕が受けるダメージをターン中だけ1点減らしてくれるんだ。そうすれば無限ダメージも怖くない。次のターンで僕の勝ちだ!」

「じゃあ一つ質問な。お前、手札何枚ある?」

「何枚って……っ!?」

 

 一気に顔から余裕が消える財前。

 そう、現在の財前の手札は0枚なのだ。

 

「な、なんで!? 確かに手札に〈シェルターウォール〉があった筈!?」

「お前、その〈シェルターウォール〉をアヴァランチのコストで捨ててただろ?」

「ッ!? しまった」

「俺を派手に倒したかったのかは知らないけどさぁ、手札管理はもう少ししっかりした方がいいぜ」

「僕が……負ける? こんな、屑に?」

 

 顔を青ざめさせて絶望する財前。

 だけど勝負はしっかりつけさせてもらう。

 

「さぁフィナーレだ! カーバンクルを召喚!」

「嘘だ、僕が負けるなんて……嘘だぁぁぁぁぁぁ!」

 

 何か叫んでいるが関係ない。

 学校の皆の為にも、ここは勝たせてもらう。

 

 カーバンクルを召喚、破壊、ダメージ。

 カーバンクルを召喚、破壊、ダメージ。

 カーバンクルを召喚、破壊、ダメージ。

 

 一切の慈悲なく、爆撃が財前のライフを刈り取っていった。

 

 財前:ライフ5→4→3→2→1→0

 

 財前のライフが0になると同時に、仮想モニターにメッセージが表示される。

 

 ツルギ:WIN

 

 どうやら無事に勝てたようだ。

 俺は一気に、肩が軽くなるのを感じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話:この世界で「勝つ」という事

 ファイトが終わり、召喚器がスリープモードに移行する。

 同時に表示されていた立体映像も全て消えた。

 この世界でのデビュー戦が終わったのだな。

 そう思うと言いようのない達成感が込み上げてくる。

 

「っと、感動してる場合じゃない」

 

 俺は校庭で倒れている財前(ざいぜん)の元に駆け寄る。

 

「おい。起きろ」

「ヒィ!」

「そんなにビビるなよ。で、敗者は勝者に絶対服従なんだっけ?」

 

 財前と東校の生徒たちは無言で頷く。

 よし、確認完了だ。

 

「奪うものは俺が決めて良いのか?」

「あ、あぁ」

「じゃあ奪わせて貰うな」

 

 貰うはものは、もう決めている。

 

「西校から奪った予算、全部返せ」

「……そ、それだけか?」

「ん? もっと奪った方がよかったか?」

「い、いや、その」

「お望みとあらば空っぽになるまでサモンファイトしてもいいんだぞ」

 

 俺がそう言うと、東校のチンピラ達は一斉に顔を青くさせた。

 そんなに怖いか? 無限ダメージコンボ。

 

「で? 約束は守るんだろうな?」

「……敗者は勝者に絶対服従だ。サモン連盟のルールもある。奪った予算は全額返そう」

「ちゃんと東校の先生に話しつけろよ」

「当然だ」

 

 そう言うと財前は起き上がり、東校のチンピラ生徒たちの元へ戻って行く。

 

「帰るぞ、お前たち」

「「「へ、へい!」」」

 

 財前はチンピラの一人が乗っていたバイクの後ろに乗ると、東校の生徒を引き連れて去って行った。

 つーかあまりに自然すぎてツッコめなかったけど、バイクの二人乗りは止めろよ。

 そして中学生がバイク乗るな。

 

 まぁこれで一件落着したのだ。

 俺も教室に戻ろう。

 と、その前に言うことがあった。

 

「あ~、みんなゴメン。奪い返すもん勝手に決めちまった」

 

 冷静に考えれば相談してから決めるべきだった。

 つい勢いで俺が決めちまったけど、予算だったら無難で許されるよね?

 怒られたら……素直に謝ろう。

 

 というかギャラリーだった皆さん、なんか静かじゃありませんか?

 もしかして俺マジでやらかしたか!?

 

 そんな事を考えるのもつかの間。

 校庭には西校生徒達の歓声が爆発した。

 

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

「やった! 遂に東校の奴に勝った!」

「しかも相手はあの財前だぞ! スカッとしたぜぇ!」

「流石天川。僕は信じてたよ!」

「予算が戻ってくるってことは、私達修学旅行に行けるんですか!?」

 

 なんかすごいリアクションだな。我ながら冷めた目で見てしまう。

 まぁ冷静に考えれば無理もないか。

 速水曰く西校は連戦連敗であんな事になってたわけだし。

 それにしても手のひら返しがすごい気がするが、それをツッコむのは無粋だろう。

 

天川(てんかわ)

「速水」

「ありがとう。アイツらの鼻を明かしてくれて」

「いいさ。俺はただサモンを楽しんだだけだ」

 

 それは事実。

 正直ファイト中の俺はサモンを楽しむ事に注力していた。

 勝利して奪い返せたのは、結果論にすぎない。

 それでも西校の皆は、勝者である俺を褒め称えてくれた。

 

「おい胴上げしようぜ、胴上げ!」

「今日は無礼講だー!」

 

 男子たちが一斉に集まって、俺の身体を持ち上げる。

 いや、あの、みなさん?

 

「「「わーっしょい! わーっしょい!」」」

「ちょ、やめ、胴上げやめーい!」

 

 俺は男子の手によって、問答無用の胴上げをされた。

 なんか小恥ずかしい。

 だけど……本気で拒絶する気にはなれなかった。

 

 なんだか嬉しかったのだ。

 カードゲームで勝つ。ただそれだけで褒められる今に、俺は心地いいものを感じていた。

 前の世界でチヤホヤされた事なんか無かったから、余計にかもしれない。

 

「(あぁ……そうか)」

 

 これが、この世界で「勝つ」という事なんだな。

 サモンで勝てばなんでも手に入る世界。

 カードゲーム至上主義世界。

 そんな世界に俺は来たんだと、今になって再認識した。

 

「(なんか、悪くないかも)」

 

 きっとこれはカードゲーマーにとって都合のいい世界。

 俺はそんな世界で、強さを手に入れたのだ。

 ならせいぜい、派手にやってやろう。

 カードゲームという、俺の唯一の才能で、成り上がってやる。

 

 ……それはそれとして。

 

「「「わーっしょい! わーっしょい!」」」

「お前らいい加減下ろせー!」

 

 結局この後十分くらい胴上げされた俺。

 その後も学校中の人間から感謝されたり褒められたりと、忙しくて仕方なかった。

 

「(この世界のノリ……慣れるのに時間かかりそう)」

 

 少しだけ先行きが不安に思える一日だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話:そして俺は動き出す

 学校が終わり、家に帰る。

 

「つ、つかれたー」

 

 あの後午後はずっとクラスメイトや先生たちに絡まれ続けたし、挙句放課後には祝勝会と称した宴会に連れ出されそうになった。

 流石に罪悪感がすごかったので逃げ帰ってきたが。

 

 帰宅してから卯月と母さんに今日の出来事を話すと……

 

「えぇ……」

「あらあら~。ツルギ頑張ったのね~」

 

 卯月は世界にドン引きし、母さんはのほほんと褒めてくれた。

 母さんはともかく、妹よ気持ちは分かるぞ。俺も引きかけた。

 

 ちなみに卯月も学校でやらかしてきたらしい。

 小学校のサモンの授業で無双してきたのだとか。

 

「なんかさぁ、みんな弱すぎたんだけど」

 

 ついでに休み時間にはいじめっ子も撃退したと。

 完全に武勇伝を作り上げている。

 てかサモンの授業ってなんだよ、中学校には無かったぞ! 少なくとも今日はだけど。

 

「で、これからどうすんの?」

 

 卯月が俺達に問いかける。

 

「こうなっちゃったのは仕方ないし~、お母さんは流れに任せるわ」

「お兄は?」

「俺は……サモンで活躍できるなら、派手にやってやろうと思う」

 

 どうせ元の世界に戻る方法も分からないんだ。

 ならこの世界で生きていく為にも、サモンで戦い続けてやる。

 

「はぁ……まぁ、そうなるよね」

「卯月も母さんも。サモンで困ったことがあったら俺に相談してくれよ」

「そうさせてもらうわ」

「息子が頼もしくて、お母さん助かるわ~」

 

 家族の為だ、出来る限りの事はしよう。

 流石に変な目立ち方するデッキとかは渡さないけど。

 

「あらあら~」

「お兄、笑ってるの?」

 

 二人に指摘されて気がついた。

 俺今ニヤついていたらしい。

 

「なんかさ、ワクワクしてきてさ」

「ワクワク? なんで?」

「自分の才能が日の目を浴びるかもしれないって事とか、色んな人達とサモンで戦える事とか」

「はぁぁぁ……お兄、完全にこの世界に染まってない?」

「そうかもしれない」

 

 実際俺も大概なサモン脳の持ち主らしい。

 とは言っても前の世界基準でだが。

 それはともかく。

 俺は今、とても期待感に胸を膨らませていた。

 評価されなかった自分の才能が、誰かの為になるかもしれない。

 そう考えると、未来に期待をしてしまったんだ。

 

「それでさ母さん。俺、この世界でやりたい事ができたんだ」

「あら~、目標ができたのは良い事じゃない」

「お兄、なにすんの?」

「俺さ、プロのサモンファイターになりたい。その為にサモンの専門学校に行きたいんだ」

 

 実は今日、学校で少し調べていたんだ。

 サモン専門学校にどんな所があるのか。

 そうしたら、ある一つの学校を見つけたので、俺はパンフレットを貰ってきた。

 

「この学校」

「えーっと、聖徳寺(しょうとくじ)学園?」

「聖徳寺学園って……お兄、確かここって」

「あぁ、アニメ『モンスター・サモナー』で主人公達が通ってた学校だ」

 

 まさかこの学校も実在するとは思わなかった。嬉しい誤算というやつだ。

 しかも家から電車で通える範囲にある。

 

「ここに通いたいの~?」

「うん。ここで強くなってプロになりたい。そんで母さんを楽させたいんだ」

「ツルギ……」

「お母さん、冷静になって。お兄大概ヤバいこと言ってるからね」

 

 まぁそうかもしれない。

 前の世界の常識からすれば「俺の音楽で家族を食わせるんだ」って言ってるのと同レベル……いや、それ以下の発言だからな。

 だがここはサモン至上主義世界。

 そんな夢物語も実現できるかもしれないんだ。

 

「俺、初めてやりたい事ができたかもしれないんだ。だから母さん、お願いします!」

 

 俺は深々と頭を下げる。

 すると母さんは、優しく俺の頭に手を置いた。

 

「やっと夢を持てたのね、ツルギ」

「……」

「頑張るのよ」

「うん」

 

 母さんの許可が出た。

 なら後は来年の受験に向けて頑張るまでだ。

 

「はぁ……アタシもサモンで頑張ろうかな。そっちの方が楽かもだし」

「卯月はまだ小学校なんだから。ゆっくり決めなさいな」

「うぅ、精神年齢は高校生なのに」

 

 和やかに話が進んでいく我が家。

 この先の方向性、そしてこの世界で生きていく覚悟は決まった。

 俺は今日使ったデッキを手に取って視線を落とす。

 

「これからも頼むぜ、俺のデッキ」

『キュップイ!』

 

 気のせいか、カーバンクルの鳴き声が聞こえた気がした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話:チンピラを片付けよう

 異世界転移して一ヶ月程が経過した。

 俺個人の今後の方向性(聖徳寺学園への進学)に関しては決まったが、流石に受験はまだまだ先だ。そうすぐには結果を見れない。

 

 ならばひとまずと、学業の成績を上げることにした。

 第一志望はサモンの専門学校。当然サモンの成績が重視される。

 俺は中学のサモン授業を頑張る事にした……のだが。

 やはりと言うか何というか、この世界のサモンの授業はあまりレベルの高いものではなかった。

 なんよ、ほとんど基本ルールのおさらいみたいな授業だったぞ!

 退屈過ぎるわい!

 そんで俺が全問正解したら周りが妙に俺を持ち上げてきたけど、むず痒いったらありゃしねーわ!

 

 これも少し悩みの種。

 あのデビュー戦の後、俺は何度か学校でサモンファイトをしたのだが、当然の事ながら全勝。

 すると周りのクラスメイトや先生達は、えらい勢いで俺を持ち上げてきた。

 手の平返しとでも言えばいいのだろうか? 物凄い勢いで媚び売ってくる奴も多くて、少し辟易してる。

 女子に至っては昼飯時に囲んでくる始末だ。

 ……ちょっといい気分だったかも。

 とはいえ、急に態度を変えられては俺としても戸惑う。

 もう少し静かな生活がしたいもんだ。

 

「完全に贅沢な悩みだよなぁ」

 

 だが事実だ。

 実はもう一つ悩みの種もあって、サモンの相手が一瞬でいなくなった事だ。

 

「流石に1killコンボやり過ぎたかな?」

 

 相手に失礼がないよう、全力で挑んでいたわけだけど。

 派手にやり過ぎたのか、最近は俺が誘っても相手してくれる奴が殆どいない。

 悲しい……せっかくサモンの世界に転移したってのに。

 

「まぁ、相手してくれる奴が完全にゼロって訳じゃないのは救いだよな~」

 

 特に委員長こと速水(はやみ)

 アイツも聖徳寺学園へ進学希望らしく、サモンの話題や練習相手として意気投合した。

 実は今日も一緒にサモンで暴れ散らかす予定だ。

 

「えーっと、会場はこっちだよな?」

 

 今日は日曜日。絶好の大会日和だ。

 俺と速水は、一緒にサモンの大会に出る約束をした。

 現在俺はスマホを片手に、会場となるドームへ向かっている。

 

「しっかし、大会成績で受験が有利になるとか。相変わらずスゴい世界だな」

 

 完全に前の世界で言う〇〇検定系の扱いである。

 しかもこの世界のサモンファイターのレベルを考えれば。完全に俺の独壇場だ。

 これは出場する以外の選択肢はない。

 

天川(てんかわ)、こっちだ」

 

 そうこうしている内に会場近くに着いた。

 既に速水が受付近くに立っている。

 

「おっす速水。もう受付は済ませたのか?」

「まだだ。お前を待っていたんだよ」

「そりゃ遅れて悪かったな」

 

 今日の大会は単発ながらも、規模の大きい大会だ。

 参加者、観客共にスゴい人数である。

 前の世界では考えられない光景だな。

 ギャラリーの多さに、少し緊張を覚えてしまう。

 

「なんだ天川、緊張してるのか?」

「こういう規模の大会は初めてだからな」

「それもそうか。ついこの前まで召喚器も扱った事が無かったからな」

「そうだな」

「大会のダークホースとして、派手に暴れてやればいいさ」

「それは速水も同じだろ。デッキのチューニングは大丈夫か?」

「お前のおかげで最高に仕上がっている。決勝で天川と戦うのが楽しみだ」

 

 信頼してくれるねぇ。なら頑張って、その期待に応えますか。

 となれば、まずは大会の受付だ。

 俺と速水が受付をしようとした、その時だった。

 

「ん? あれって」

 

 ふと、俺の視界に見覚えのある白髪の少女の姿が入ってきた。

 あのアニメビジュアルは間違いない、同じクラスの赤翼《あかばね》ソラさんだ。

 なんか騒いでいるけど、隣にいるのは……なんかガラの悪そうな男だな。

 

「どうしたんだ、天川」

「速水、あれ赤翼さんじゃね?」

「……確かにそうだな。何かトラブルにでも巻き込まれているのか?」

「速水、先に受付済ませててくれ。俺ちょっと様子見てくる」

「俺も行こう。学級委員長として見過ごせない」

 

 俺と速水は受付の列を外れ、駆け足で向かった。

 

「赤翼さん。なんかあったのか?」

「天川くん、速水くん」

 

 涙目でこちらを見てくる赤翼さん。

 対するガラの悪い男の手には、一つのデッキが握られていた。

 

「なんだテメェら。関係ねー奴はすっこんでろ」

「クラスメイトが絡まれてるんだ。気にするなって方が無理だろ」

「天川に同じくだな」

 

 赤翼さんを庇うように、男の前に立つ。

 しっかしガラ悪いなコイツ。

 

「で、赤翼さん。何があったんだ?」

「……私、うっかりこの人にぶつかっちゃって、謝ったんですけど、デッキを取られちゃったんです」

「なんだと!?」

 

 速水はキッと男を睨みつける。

 それは俺も同じだった。

 つまり男の手にあるデッキはアイツのではなく、赤翼さんのもの。

 

「女子中学生からデッキ強奪するなんて、恥ずかしいと思わないのか?」

「おいおい人聞きが悪いな。俺はただ慰謝料を貰っただけだよ」

「ふざけるな! デッキはファイターにとって命も同然なんだぞ!」

 

 速水君、めっちゃキレてるな。

 まぁ心境で言えば俺も同じく怒ってるんだけど。

 

「だから貰ったんだよ。大会にでるようなデッキなら高く売れるからなぁ!」

「……は?」

 

 要するにあれか? 金の為に人からデッキを巻き上げてる糞野郎ってわけか。

 俺は躊躇うことなく、召喚器を取り出した。

 

「ターゲットロック!」

 

 俺の召喚器と糞野郎の召喚器が無線接続される。

 

「おい、糞野郎」

「あぁん!? なんだクソガキ」

「俺とファイトしろよ」

 

 流石に俺も堪忍袋の緒が切れた。

 この糞野郎はここで潰す!

 

「俺が勝ったら、赤翼さんから奪ったデッキを返せ」

「お前が負けたらどうするんだ?」

「俺のデッキをくれてやる」

「フン、いいぜ。受けてらる」

 

 交渉成立だ。速攻で潰してやる。

 

「おい、天川! 流石にその条件は」

「そうですよ! もし負けたら天川くんのデッキが」

「大丈夫だって。俺強いから」

 

 それに受付の時間もある。

 ちょっと本気出させてもらうぞ。

 

「なんだなんだ? 場外ファイトか?」

「デッキを賭けてファイトするんだってよ」

「頑張れー坊主!」

 

 流石はサモン至上主義世界。一瞬でギャラリーができた。

 

「さっさと終わらせて、お前のデッキも有難くいただくぜ」

「絶対に奪い返す」

 

 初期手札5枚をドローする。

 ……おや? この手札はもしや?

 

「さぁ、始めようかァ!」

「あぁ……そうだな」

 

 急にあの糞野郎が少し哀れに思えてきた。

 だが赤翼さんのデッキを取り戻すためだ。手加減はしない。

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 ツルギ:ライフ10 手札5枚

 チンピラ:ライフ10 手札5枚

 

 仮想モニターに先攻後攻の表示が出る。

 あっ、俺が先攻だ。

 

「あっ、これ勝ったな」

「あん? テメェ何言ってるんだ?」

「スタートフェイズ。メインフェイズ」

 

 悪いな糞野郎。

 恨むならその運の悪さを恨め。

 

「〈ケリュケイオン〉を召喚。魔法カード〈召喚爆撃!〉を発動。〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉を召喚」

「あっ」

「あっ」

 

 後ろから、速水と赤翼さんの気の抜けた声が聞こえてくる。

 だってしょうがないじゃん。初手で揃ってたんだもん。

 

「カーバンクルを破壊してお互いに1点のダメージ。俺にくるダメージは〈ケリュケイオン〉で軽減。カーバンクルは破壊されても手札に戻るので、無限召喚します。無限ダメージあざっしたー」

「えっ、ちょ、おま」

 

 何か言っている気がするが、問答無用。

 無限の爆撃が、チンピラを襲う。

 

 チンピラ:ライフ10→9→8→7→6→5→4→3→2→1→0

 

 ツルギ:WIN

 

「(相手に防御札なくてよかったー)」

 

 まぁそれはともかく、やっぱり華麗にコンボが決まるのは気持ちが良い。

 ……なんか周りからドン引きの空気を感じるけど、気にしないもん!

 

 それはさておき。

 俺は間抜けな顔で尻餅ついてる糞野郎に歩み寄る。

 

「おい、約束だ。奪ったデッキを返せ」

「テ、テメェ、何かイカサマでも」

「お気に召さないなら何度でも相手してやるけど。どうする?」

「……クソっ」

 

 流石に観念したのか、糞野郎は赤翼さんのデッキを取り出した。

 これで一件落着……そうなる筈だったのに。

 

「こんなデッキィ!」

「なっ!?」

 

 周りから何人もの悲鳴が聞こえる。

 あろうことか糞野郎は、赤翼さんのデッキをすぐ隣にある川に投げ捨ててしまった。

 

「ギャハハハハハハハ、ザマーみやがれ!」

 

 サモンファイターにあるまじき暴挙。

 糞野郎はその場で大人たちに取り押さえられた。

 いや、今はそれどころじゃない!

 

「速水、俺のデッキ頼む!」

「天川!」

 

 俺は速水にデッキを預けて、すぐに川へと飛び込んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話:デッキをあげよう

「まったく、無茶をする」

 

 やや呆れ顔の速水(はやみ)に、俺は乾いた笑いしか返せなかった。

 

 勢いで川に飛び込んでカードを回収したものの、流れがキツくて殆ど回収できず終わってしまった。

 しばらく頑張ったがこのザマだ。

 なんとか川から上がった俺は、速水から借りたタオルで髪を拭いていた。

 それはともかく。

 

「速水、あの糞野郎は?」

「取り押さえた大人たちが、警備員に引き渡したよ」

「そっか」

 

 とりあえず追撃はなさそうだ。

 俺は回収したカードを赤翼(あかばね)さんに手渡す。

 

「ごめん。10枚くらいしか回収できなかった」

 

 さっきのショックで随分泣いたのだろう。

 赤翼さんの目元は赤くなっていた。

 俺から受け取ったカードを恐る恐る確認する赤翼さん。

 その中に何かを見つけたようで、少し表情が明るくなっていた。

 

「天川くん、ありがとうございます。一番大事なカードはちゃんと戻ってきました」

「でもデッキが」

「デッキはまた、頑張って作ればいいんです。今はこのカードが戻ってきただけでも……流石に今日の大会は諦めないとですけど」

「赤翼も出場予定だったのか?」

 

 速水の言葉に、赤翼さんは小さく頷く。

 色々と悔しいだろうな。

 しかもデッキはまた作るって言ってたけど、この世界でのカードの価値を考えれば一筋縄ではいかない筈だ。

 

「……赤翼さん、ちょっとカードを見せてもらってもいいかな?」

「は、はい」

 

 俺は赤翼さんのカードに軽く目を通す。

 

「系統:〈聖天使〉のカードか……これなら確か」

 

 俺は前の世界から持ち込めたカードを必死に思い出す。

 デッキ一つ分くらいは余っていた筈だ。

 

「赤翼さん、このあと暇だよね? ちょっと付き合ってくれないかな?」

「天川、大会はどうするんだ?」

「悪いけど今日は欠場。野暮用ができたって事で」

「ダ、ダメですよ! 私の事なんて気にしないで、天川くんはちゃんと大会に出てください!」

「いいのいいの。どうせ大会なんて、これから先もあるんだし。今は悲しむクラスメイト最優先」

「……天川、お前まさか」

 

 何かを察した速水が、俺を見てくる。

 まぁ、想像通りだろうな。

 

「というわけで速水、俺は赤翼さん連れて野暮用してくるわ」

「……俺もついて行こう。天川のいない大会はつまらん」

「俺に合わせなくてもいいのに」

「お前が何かやらかさないか見張るだけだ」

「変なとこで信頼ないなぁ」

 

 まぁとりあえず、一番の当事者の意見を聞かなくては。

 

「えーっと、赤翼さんはどうする? きてくれる?」

 

 俺は赤翼さんに手を差し出す。

 数秒考えた後、赤翼さんは俺の手をとった。

 

「えっと……よろしくお願いします?」

「よし決まり。じゃあ俺の家へレッツゴー!」

 

 こうして俺達は大会会場を後にした。

 

 

 それから数十分後。

 俺達三人は俺の家に辿り着いた。

 

「ただいまー」

「あっ、お兄おかえり」

「おじゃまします」

「お、おじゃまします……」

「あっ、速水さんいらっしゃーい……もう一人いる?」

「あ、赤翼ソラっていいます」

 

 少し嚙み気味に名乗る赤翼さん。

 そんな赤翼さんを見た卯月は、啞然とした表情で俺達を見た。

 

「お、お兄が……女の子を連れてきた!?」

「失礼だなおい」

「あの万年童貞のお兄が!?」

「マジで失礼だなおい!」

 

 とりあえずこの妹には後でお仕置きをしよう。

 それはともかく、今は大事な用事がある。

 

「まぁ妹の事は気にせず、二人とも上がれよ」

「あぁ、そうさせてもらおう」

「は、はい」

 

 俺は二人を二階の自室に案内する。

 荷物を置いた俺は、すぐさまカードをしまっている箱を引っ張り出した。

 

「すごい……これ全部天川くんのカードなんですか?」

「そうだぞ」

「天川くんって、もしかしてお金持ち?」

「俺も最初はそう思った。だが驚く事に一般庶民らしい」

 

 悪かったな、変な一般庶民で。

 いや、実際変な一般庶民か。異世界転移とかしてきてるし。ハズレア売って荒稼ぎとかしてるし。

 まぁそれはともかく、俺は目当てのカードを猛スピードで探す。

 

「ここじゃなくて……ここでもなくて……あった!」

 

 見つけ出したのは系統:〈聖天使〉のカード達。

 俺は赤翼さんから見せてもらったカードの情報を元に、相性の良いカード達をかき集める。

 

「今10枚あるから……これと、これと、これと……」

 

 頭の中でデッキレシピが高速で構築されていく。

 前の世界で一度組んだ事があるから、案外楽だな。

 

「んで、これを入れれば……よし完成!」

 

 完成したソレを持って、俺は後ろで待っていた赤翼さんの元に行く。

 

「赤翼さん、さっきのカード出して」

「え? はい」

「その10枚を入れたら、丁度40枚。はい赤翼さんデッキ完成だ」

「えっ? えっ?」

 

 頭上に疑問符を浮かべながら、赤翼さんはキョトンとしている。

 もしかして言い方が悪かったか?

 

「えーっと、使わないカードだから、あげるよソレ」

 

 俺がそう言うと、赤翼さんと速水は目をギョっと見開いた。

 どうしたんだ二人とも、顔が面白いぞ。

 

「そ、そんな。受け取れないですよ!」

「いや、俺は使わないカードなんだけど」

「でもレアカードも入ってるじゃないですか。こんな高価なもの簡単に渡しちゃダメですよ!」

「そうだ天川。流石に手順を間違えてると思うぞ」

「そうか?」

 

 きっと価値観の違いってやつなのだろう。

 でも実際、俺は使わないカードなんだよなぁ。

 値段的にも前の世界価格なら、1万円くらいしかしないし。

 

「赤翼さんはデッキを失って困ってる。俺は使わないカードを、使ってくれる人に渡せる。何も問題ないと思うんだけど」

「限度があるぞ」

 

 速水がそう言うなら、そうなのか?

 でも実際俺には痛手でもなんでもないんだけどな。

 

「赤翼さんもそんなアワアワしないでくれよ」

「だ、だって。これ天川くんの大事なカードじゃ」

「大事っちゃあ大事だけど、俺よりも赤翼さんの方が使いこなしてくれると思って」

「でも」

「カードは戦いの中でこそ価値を出すと思うんだ。俺が箱の中で腐らせるより、赤翼さんが実戦で使ってくれた方がコイツらも喜ぶと思うんだ」

 

 赤翼さんは手に持ったデッキに目を落とす。

 よし、もう一押しだ。

 

「サモンファイターが増える事は良いことだ。俺は赤翼さんともファイトしたいんだ」

「天川くん……」

 

 赤翼さんの心が揺れた気がする。

 でも彼女はまだ迷っている。

 すると速水が、ため息を一つついた。

 

「天川、お前の気持ちは分かったが。流石に「はいそうですか」とタダでデッキを受け取れる訳ないだろ」

「む、そうか?」

「そうだ」

 

 じゃあどうすればいいんだ?

 代金でも頂けと言うのか?

 嫌だよクラスメイトから金貰うなんて。しかも女子から。

 

「天川、赤翼。こういうのはどうだ」

「「?」」

「今はひとまず、そのデッキを借りるという事にして。何か条件を付けて、それを満たせば正式にデッキを赤翼に譲渡する。そういう契約をお前達が結ぶんだ」

「なんかややこしいなソレ」

「こうでもしないと赤翼の精神がやられる。赤翼はどうだ?」

 

 少し考え込む赤翼さん。

 まぁこれで彼女が素直に受け取ってくれるなら、それに越したことはないんだけど。

 

「……天川くん!」

「おう」

「契約、お願いします!」

「ま、それで素直に受け取ってくれるなら、そうするか」

 

 さて、そうなると問題は条件だな。

 なるべく簡単なやつにして、さっさとデッキを渡したいんだけど。

 

「デッキ渡す条件ってやつ、何がいいかな?」

「天川、ちょうどいいイベントがもうすぐあるじゃないか」

「なんかあったっけ?」

「あっ、もしかして『校内サモンランキングトーナメント』ですか?」

「そうだ赤翼」

 

 あぁ、そういえば学校で先生が告知してたな。

 来月開催の『校内サモンランキングトーナメント』。

 その名の通り、学校内におけるサモンの強さランキングをつける大会だ、

 ちなみに立ち位置的には校内模試のような存在らしい。

 

「つまり、来月のトーナメントで優秀な成績を修めるのが条件……ってのが良いってことか?」

「そういうことだ」

「赤翼さんはどう。それでいい?」

「はい! それでいいです!」

 

 となればどのくらいの成績で譲渡にするかだな。

 ここは緩くベスト8くらいで……

 

「赤翼は何位を目指す」

「……1位で」

「なに?」

「天川くんに顔向けできるように、1位でお願いします」

「だそうだ、天川」

 

 いや、赤翼さん。流石にそれはハードル高くないですか?

 てか1位って、俺も倒す気ですか!?

 

「赤翼さん。1位を目指すってことは」

「はい。天川くんに勝たなきゃいけません」

「俺、強いぞ」

「わかってます。でも、デッキを受け取るには、それくらいしないと私が私を許せません」

 

 これは決意堅そうだな。

 

「……わかった。じゃあそれで行こう」

「はい!」

「デッキ、上手く使いこなしてくれよ」

「が、頑張ります!」

 

 少し自信なさげに言う赤翼さん。

 よし、ここは頑張って上を目指して貰おう。

 

「なぁ速水。勉強会に赤翼さんを誘ってもいいか?」

「まぁ、上を目指すならその方がいいだろうな」

「勉強会、ですか?」

「あぁ、天川が主催しているサモンの勉強会だ」

 

 俺としてはデッキを受け取って欲しいからな。

 勉強会に入れて、赤翼さんを魔改造してやる。

 俺は心の中で、そう決意するのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話:少し変化した日常

 日常の変化というものは常に起きるものである。

 学校生活は相変わらず、色々と慣れないものだ。

 妙な取り巻きができたり、女子が来たり。

 サモンファイトをしようと思っても、逃げられる毎日。泣くぞ。

 とは言っても、サモンの相手に関しては新しくできたわけなんだが。

 

 『校内サモンランキングトーナメント』まで、あと二週間。

 あれから俺は特訓という名目で、赤翼(あかばね)さんの対戦相手をこなしていた。

 昼休みや放課後に、適当な場所を見つけては二人でサモンファイトをする日々。

 そう書くとなんだかロマンスを感じる自分がいる。

 

 まぁそれはさておき。

 赤翼さんの成長は目覚ましいものがあった。

 元々〈聖天使〉のデッキを使っていた事もあってか、俺が渡したデッキにもすぐに順応していった。

 ただし、問題点があるにはあるんだけど。

 

「〈キュアピット〉で、天川(てんかわ)くんに直接攻撃します!」

「〈コボルトウォリアー〉を破壊して、魔法カード〈トリックミラージュ〉を発動。戦闘ダメージを跳ね返すな」

「きゃあ!」

 

 小さな天使が射った矢を、魔法効果で出現した鏡が跳ね返す。

 

 ソラ:ライフ1→0

 

 ツルギ:WIN

 

「あうぅ、また負けました」

「勝ちを焦りすぎだ。相手の手札枚数は可能性の数だぞ。もう少し警戒しなきゃダメだ」

「はい……」

 

 しょんぼりと俯く赤翼さん。

 腕は良いのだけど、どうも肝心な場面で焦ってしまう癖がある。

 それが原因で、練習試合でも勝ちを零す事多数なんだ。

 

「プレッシャーがスゴいのは理解してるけど、動揺は隙を産むんだぞ。冷静に、落ち着いてプレイしないと」

「うぅ、耳に痛いです」

「痛く言ってるからな」

 

 俺の教育は厳しいのだ。

 鞭は教え子への愛です!

 

「そういえば赤翼さん、SRのカード入れてたよな」

「はい、1枚だけ」

「使ってるところ一回も見たことないけど、なんで使わないんだ?」

 

 引き当てられないのだろうか?

 そんな事を考えていると、赤翼さんはポツリポツリと語り始めた。

 

「使う勇気が、出ないんです」

「使う勇気? なんのこっちゃ」

「使いこなす自信が無いとも言います。大事なカードだから、ちゃんと使いこなしてあげたいんですけど……私には難しくて」

 

 赤翼さんのSRカード。

 川から回収した時に一瞬見たから、何のカードかは覚えている。

 アレはそんなに扱いの難しいカードでは無いはずなんだけどな。

 ただ、赤翼さんの様子から察するに何か事情があるのだろう。

 

「うーん、そんなに難しく考えなくても良いと思うけどな」

「難しいですよ。私のわがままですけど」

「カードの使い方は実戦の中で学ぶのが一番だ。そのカードも使わない内はどうやったって赤翼さんに馴染まない」

「……はい」

「それにさ、前にも言ったけど赤翼さんは筋がいいんだ。〈聖天使〉のカードなら、きっとなんでも使いこなせるさ」

 

 それは本当。

 赤翼さんは本当に筋がいいんだ。教え甲斐がある。

 

 赤翼さんは自分のデッキに目を落として、黙ってしまう。

 

「赤翼さん。もし自信が無いなら、もう一戦しようぜ」

「天川くん」

「言葉でどうこうするより、俺達サモンファイターは戦いの中で語り合うのが一番だろ」

「……そうですね」

 

 表情が少し明るくなった赤翼さん。

 デッキを召喚器にセットして、戦う準備をする。

 

「天川くん、もう一戦お願いします!」

「そうこなくっちゃな」

 

 さぁ戦おう。そして語ろう。

 俺と赤翼さんの対話じゃない。赤翼さんとデッキの対話だ。

 俺の仕事はそのお手伝いをするだけ。

 

「「サモンファイト! レディー――」」

 

 ファイトを始めようとしたその時だった。

 キーンコーンカーンコーン。

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いてきた。

 

「放課後までお預けですね」

「不完全燃焼だ」

 

 だが仕方ない。

 俺と赤翼さんは急いで教室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 懐かしくも退屈な午後の授業が終わり、放課後になる。

 さぁ、大変な時間が始まるぞ。

 

「天川君、今日私達と一緒に遊ばない?」

「悪いけど先約があるんだ」

「天川君、だったら私と!」

「ごめんなさいだ」

「あの、天川君、これ読んでください!」

「本当に悪いけど、今サモンが楽しくて仕方ないんだ。ごめんなさい」

「天川ァァァ! サモン部に入ってくれー! お前なら今すぐレギュラーになれるぞ!」

「放課後自由に動きたいのでパス」

 

 数多の女子や部活勧誘やらを跳ね除けて、俺はやっと下駄箱に辿り着く。

 

「モテモテだな、天川」

「面倒くさいだけだよ、速水(はやみ)

「その言葉、あんまり大声で言うなよ。嫌味にしか聞こえないからな」

「事実を述べただけだ。むしろ代わりに対応してくれ」

「本心からだから、余計にタチが悪いな」

 

 それはさておき。

 速水が下駄箱で待っているということは……

 

「今日は勉強会の日だろ」

「あぁ〜そうだったな」

「おいおい、しっかりしてくれ」

 

 忘れてなんかないぞ。うろ覚えになってただけだ。

 

「赤翼は?」

「日直の黒板消し。多分もうすぐ――」

「お、お待たせしました!」

「来たな」

「だな」

 

 走ってきたのか、少し肩で息をしている赤翼さん。

 頬が軽く赤色になっていて、なんかこう……色気みたいなものを感じます。

 流石に言葉にはしないけど。

 だって赤翼さんって結構可愛いんだもん!

 

「ほら天川。他の子達も待ってるだろうから、早く行くぞ」

「わーってるって」

「天川くん、今日もよろしくお願いしますね!」

 

 二人に背中を押されながら、俺は校門を出る。

 そのまま家に向かって……は行かない。

 通学路の途中にある比較的広い公園に行くのだ。

 

 他愛ない談笑をしながら、目的地まで歩く俺達。

 ほんの十数分で公園に着いた。

 

「あっ、お兄おそーい!」

「中学生には色々あるんだよ」

 

 公園に着くと、我が妹こと卯月(うづき)が出迎えてくれる。

 その後ろには卯月の友達が二人ほど居た。

 

「こんばんは天川先生」

「こんばんはー!」

智代(ちよ)ちゃん、こんばんは。(まい)ちゃんは今日も元気だね」

 

 黒いロングヘアで、大人しい雰囲気の智代ちゃん。

 栗色の髪で、元気の塊みたいな女の子の舞ちゃん。

 二人とも卯月の友達である。

 

「せんせぇ! せんせぇ! 今日はなにするのー!?」

「ま、舞ちゃん。そな聞き方したら先生困っちゃうよ」

「ハハハ、大丈夫。だけど今日の内容はあとのお楽しみな」

 

 それはそれとして。

 

「卯月。今日は学校どんな感じだった?」

「えっ。今日は、その……」

「せんせぇ聞いてよ! 卯月ちゃん今日もサモンの授業で大暴れしたんだよー!」

「ちょっと舞、バラさないで!」

「だって本当だもーん」

「卯月ちゃん、先生泣かせてたもんね」

 

 泣かせる程の事をしたのか、我が妹よ。

 まぁデッキ内容知ってるから、なんで小学校の先生が泣いたのか想像はつくけどね。

 

「とりあえず卯月には自重を教えるべきか?」

「お兄にだけは言われたくない」

 

 おいおい妹よ。俺はちゃんと自重してるぞ。

 ちょっとデビュー戦で派手にやり過ぎたけど。

 

「で、お兄。今日は何するの?」

「今日はみんなで昨日のおさらいからだな。その後は新しいテクニックと個別指導。それから実戦」

「やったー! ファイトできるー!」

 

 舞ちゃんが大きな声ではしゃいでいる。

 わかるぞー。やっぱりサモンファイトは実戦が一番だよな。

 

「天川先生、今日もよろしくお願いします」

「中学生で先生ってのも変な感じするけどな」

「いい加減慣れたらどうだ、天川」

「そうですよ。だって天川くん教えるの上手ですし」

 

 慣れないものは慣れないんだよ。

 まぁ言っても仕方ないんだけど。

 

「じゃあ全員揃った事だし、今日も始めるか」

 

 これが俺の新しい日常の1ページ。

 天川ツルギによる、サモン教室だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話:青空サモン教室(名称仮)

 この世界に転移してしばらくが経過した。

 その中で分かった事が色々とある。

 

「じゃあ昨日の復習から始めるぞ~」

 

 まず、この世界の人々はプレイング技術の平均レベルが低い。

 デビュー戦の時にサクリファイスエスケープで周りがやたら驚いていたのが、いい例だ。

 原因はなんとなく察している。

 カードパックの封入率の鬼畜さだ。

 バニラカードばかり出てくる世界じゃあ、高度なテクニックを覚えようにも、高度に使えるカードがそもそも手元に来ない。

 それこそ一部の金持ちしか学びの機会を得られないのだ。

 

「まず一つ目。サモンファイトにおいて、手札の枚数はイコール何だ?」

「はい」

智代(ちよ)ちゃん早かった」

「手札の枚数は、イコール可能性の数です」

「正解」

 

 当然、こんな基本的な事さえも中々学びづらい。

 そりゃあ強いサモンファイターに中々出会えないわけだ。

 

 で、俺は今何をしているのかと言うと……簡単に言えば異世界人を魔改造する教室だ。

 切っ掛けは卯月からの相談。

 小学校の友達に俺の事を話したら、サモンを教えて欲しいとせがまれたんだと。

 で、面白そうだから俺は乗ったんだけど……どういうことだか、速水も一緒にこの教室に参加するようになった。

 ちなみに速水曰く「受験に向けた、いい勉強になりそうだから」らしい。

 

「じゃあ応用編だ。自分の場にはヒット3のモンスターが1体。相手の場には疲労状態のモンスターが1体。ライフはお互いに3点だ」

 

 俺が口頭で告げた盤面を、皆ノートにメモしていく。

 

「そして自分の手札には召喚できるモンスターが1枚、相手には手札が1枚。この状況、みんなならどうする?」

「はい、せんせぇ!」

「はい舞ちゃん。答えをどうぞ」

「ブロックされないから、そのままアタックしまーす!」

「はい残念。相手の手札は防御魔法でした。返しのターンで攻撃されて舞ちゃんの負けです」

「えー」

 

 口を3の字に突き出して残念がる舞ちゃん。

 だがこの世界の住民としては、ごく普通の回答だ。

 しかし上を目指すなら、それでは駄目。

 

「今の盤面、正解を説明できる人はいるかな?」

「はい!」

「はい赤翼さん」

「えっと、自分のメインフェイズに手札のモンスターを召喚して。それから攻撃に入る、ですか?」

「正解。じゃあその理由も説明できるかな?」

「えっと……」

 

 流石に少し難しかったか?

 だが赤翼さんには、ここで躓いて貰っては困る。

 

「天川、俺が答えてもいいか?」

「じゃあ速水。どうぞ」

「相手の防御カードを警戒する必要があるからだ。仮に手札のモンスターがヒット3であった場合、そいつを召喚すれば致死ダメージを2回撃つことができる。そうなれば、相手が防御魔法を手札に持っていたとしても、確実にゲームエンドに持ちこめるからな」

「流石は速水だ。大正解」

「俺もお前に色々と叩きこまれたからな」

 

 眼鏡の位置を合わせながら、速水は答える。

 こいつの勉強熱心さには、俺も驚かされてばかりだ。

 

「あうぅ……」

「赤翼さんも、そんなに落ち込まないでくれよ」

「面目ないです」

 

 俺からすれば全部基本的な知識&テクニックだ。

 だけど赤翼さん達にはそうではない。

 これはもっと上手く教えるテクニックを、俺が覚える必要があるな。

 うん、教育者の魂に火がつきそうだ。今の俺、中学生だけど。

 

「次はもっと分かりやすく……テキストとか作ってみるか?」

「天川、どうした」

「ん、いや。なんでもない」

 

 さて、この青空サモン教室(名称仮)を始めて一ヶ月くらい。

 色々と俺の知るテクニックを伝授してきた(基礎的なものだけど)。

 智代ちゃんや舞ちゃんは、小学校での勝率が劇的に上がったらしい。

 速水は「お前は何故これで金を取らないんだ」と不思議な事を言ってくる。

 

 で、赤翼さんはと言うと。

 

「相手の場、相手の手札、お互いのライフ差に自分の戦略をする余裕……うぅ、考えることが多すぎます~」

 

 随分苦戦はしているようだ。

 まぁ、メインであるデッキの使い方に関してはかなり成長してくれてるんだけどな。

 

「天川くん! もう一度説明お願いします!」

「了解」

 

 勉強熱心なのは、赤翼さんもだな。

 これは将来成長するぞぉ。

 

「……」

 

 なんか卯月が赤翼さんを見ている気がするけど……どうしたんだ?

 

 まぁ、それはさておき。

 今日もサモンのお勉強会です。

 

「じゃあ今日は、各種アドバンテージについて学んでいくぞ」

「「はーい」」

「天川くん、よろしくお願いします」

「今日もいい勉強ができそうだ」

 

 なんかスゲー期待されてるな。

 今日も俺からすれば基本知識なんだけどなぁ。

 でもこうやって素直に話を聞いて貰えるの……悪くない。

 

「お兄。顔がキモい」

 

 おっと、嬉しさのあまり変な顔になっていたか。

 失礼失礼。

 

「じゃあ始めるぞ。まずサモンにおけるアドバンテージなんだけど――」

 

 夕暮れの公園で、今日も俺達はサモンを学ぶ。

 これが普通の光景として受け入れられるあたり、本当にいい世界だと思うよ。

 前なら絶対にこうはならなかった。

 

「で、ライフアドバンテージなんだけど。これは一部のデッキを除いてあまり重視しなくていい」

「えー、せんせぇなんでー?」

「そうだ天川。ライフが尽きれば敗北してしまうぞ」

「そこだよ速水。ライフは0になったら負けるけど、1以上残っていれば基本的には負けないんだ。だから勝つためにライフを投げ捨てるのは、戦略としては大いに有りなんだよ」

「なるほど」

「ま、中には例外もある。赤翼さんのデッキとかな」

 

 赤翼さんのデッキはライフ量が多い程に強くなる特徴がある。

 何事にも例外があるという、いい例だ。

 

「次に墓地アドバンテージについて。これは――」

 

 こうして解説する事で、自分自身の復習にもなるから、勉強って大切だ。

 俺は各種アドバンテージやテクニックに関する知識を解説した後、実戦演習に入る事にした。

 ある意味では、皆が一番待ち望んでいた時間かもしれない。

 

「じゃあ対戦相手はくじ引きで決めるぞ。卯月と俺は個別指導組な」

「なんでアタシまで」

「お前は教える側レベルの知識持ってるだろ」

「お兄に叩きこまれただけだけどね」

 

 文句を言う卯月を無視して、くじを引いてもらう。

 結果的に、組み合わせはこうなった。

 速水VS智代ちゃん

 赤翼さんVS舞ちゃん

 

「じゃあみんなは最大限の力を出して戦ってくれ。気になった所があれば俺と卯月がアドバイスするから」

「じゃあみなさーん。始めてくださーい」

 

 どこか気の抜けた卯月の声で、四人のファイターが戦い始めた。

 

「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」

 

 召喚器から迫力ある立体映像が投影される。

 それが四人分ともなれば迫力は凄まじい。

 

「何度見ても、感動だなぁ」

「ねぇ、お兄」

「なんだ卯月?」

「なんで赤翼さんにデッキあげたの?」

 

 随分と唐突な質問だな。

 

「そりゃあお前、赤翼さんがデッキ失って困ってたからだよ」

「下心ありそう」

「んなもんねーよ。疑り深いなぁ」

「疑いもする。だって、この世界のカードの価値を考えてよ」

「まぁ、確かにレアカードも結構入れちゃったけどさぁ」

「やっぱり下心? やらしいやつ?」

「だから違うって」

 

 兄を信用しない妹だ。

 だけど何となく言いたい事は分かった。

 何故高価なものを軽々しくあげたのかと言いたいのだろう。

 

「俺はただ、赤翼さんが困ってたから助けただけだ。変な事は考えてない」

「本当に?」

「ホントだ」

「……本当に善意なんだ」

「最初からそう言ってるだろ」

 

 一応納得はしてくれたのか、卯月はため息を一つつく。

 

「人が良いというか、人を疑わないというか」

「なんだよ卯月」

「アタシから見たら、今のお兄って体よく利用されそうで怖い」

「そこまで間抜けじゃないぞ」

「まぬけっぽい」

 

 酷い言われようだ。

 

「はぁ。そんなに心配しなくても大丈夫だって」

 

 そうこう言っている内に、四人のファイトも進んでいた。

 おっ、プレイミス発見。

 

「ちょっと個別指導してくる」

「いってらー」

「赤翼さーん! 今のとこだけど――」

 

 俺は赤翼さんに個別指導をする為、小走りで行った。

 その時だった。後ろから卯月の声が微かに聞こえた気がした。

 

「……やっぱり、アタシが嫌われ役しなきゃかなー」

 

 

 

 

 ファイトが終わり、反省会。

 それも終えた俺達は、時間も遅いので解散する事にした。

 

「じゃあ今日の勉強会はここまで」

「先生、ありがとうございました」

「せんせぇ、またねー!」

「二人とも気を付けて帰れよー」

 

 女子小学生二人を見送ると、速水が声をかけてきた。

 

「相変わらず、この集まりはいい勉強になる」

「なら嬉しいよ。強いファイターが生まれる事はいい事だ」

「俺も早く、天川に勝てるようにならなくてはな」

「そう簡単に勝たせる気はないぞ」

「承知の上だ」

 

 お互いに不敵な笑みを浮かべる。

 こういうのって、男の手のロマンだよね!

 

「む、俺もそろそろ塾の時間だ」

「多忙だな~」

「今日はこのあたりで失礼させてもらうよ。次の勉強会も楽しみにしてるぞ」

 

 そう言い残して、速水も公園を後にした。

 残されたのは、俺と卯月と赤翼さん。

 

「時間もあれだし、俺達も帰るか」

「そうですね」

「あっ、ちょっと待って」

 

 返ろうとしたところで、卯月のストップが入る。

 

「ねぇソラさん。女の子同士でちょっと話したい事があるんだけど、付き合ってくれる?」

「おいおい卯月。もう時間も遅いだろ」

「卯月ちゃん、私は大丈夫ですよ」

「ありがとソラさん。というわけで、お兄は一人で帰って」

「扱い雑だなぁ」

「大丈夫ですよ天川くん。もし遅くなったら私が送りますから」

「そういうこと。女子会の邪魔しないでよね」

 

 うーん、なんか心配というか……虫の知らせがある気がするというか。

 卯月が何かやりそうで怖い。

 

「卯月……赤翼さんに変なことすんなよ」

「はいはい」

「じゃあ俺は先に帰ってるからな」

 

 なんか胸がざわめく気がするけど。

 俺は二人を残して公園を後にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話:卯月の蛇竜デッキ

 ツルギの姿が見えなくなった事を確認した卯月(うづき)は、ソラの方へと振り向いた。

 

「ねぇソラさん。お兄の事どう思ってるの?」

「ふぇ!? 天川(てんかわ)くんのことですか」

 

 突然の質問に、ソラは顔を耳まで赤くしてしまう。

 

「えーっと、その。天川くんは良いお友達でクラスメイトで……あっでも、ちょっとかっこいいかなとは思ったり思わなかったり」

「あーごめんなさい。質問の仕方が悪かった。お兄の事、都合のいい奴だとか思ってない?」

「えっ、それってどういう」

 

 卯月の雰囲気が一瞬にして変化した事に、ソラが若干戸惑う。

 だがそれ以上に、卯月の投げかけた質問の意図が理解できなかった。

 

「お兄は人がいいから、サモン仲間には色々といい顔をするけど。それを体よく利用され続けるのも妹としては心苦しいの」

「う、卯月ちゃん?」

「お兄はソラさんはそんな悪い人じゃないって言うけど、アタシはまだ信用できない。ソラさんがお兄を利用してるんじゃないかって思ってる」

「そんな、利用するなんて」

「本当に否定できるの?」

「それは……」

 

 ソラは上手く返せなかった。

 自分の中に、そんな気持ちが実はあるのではと錯覚してしまったのだ。

 言葉を失うソラに、卯月はため息を一つつく。

 

「まぁ、言葉だけじゃ上手く対話できないよね」

 

 そう言うと卯月は、召喚器を取り出して操作した。

 

「ターゲットロック」

 

 卯月の召喚器が、ソラの召喚器に無線接続される。

 

「ソラさん、アタシとファイトしてください」

「卯月ちゃん」

「ソラさんが本当にお兄の友達なのか、見極めさせてください」

 

 逃れられない。戦うしかない。

 観念したソラは、自身の召喚器に手をつけた。

 

「(卯月ちゃんと戦うのは初めて……だけど、勝たなきゃ)」

 

 ツルギから受け取った大切なデッキ。

 その中に芽生えた彼への友情。それをファイトの中で証明しなくてはならない。

 ソラの手には、僅かに汗が滲んでいた。

 

 お互いに初期手札5枚を引く。

 夕暮れの公園で、戦闘開始だ。

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 ソラ:ライフ10 手札5枚

 卯月:ライフ10 手札5枚

 

「先攻は私です。スタートフェイズ」

 

 ソラのターンから始まる。

 

「メインフェイズ。私は〈キュアピッド〉を召喚します!」

 

 ハートの矢と弓を手にした、小さな天使が召喚される。

 

 〈キュアピッド〉P3000 ヒット1

 

「〈キュアピッド〉の召喚時効果発動! 私はライフを2点回復します」

 

 キュアピッドは懐から薬瓶を取り出すと、その中身をソラに投げかけた。

 

 ソラ:ライフ10→12

 

「そして、私のライフが相手よりも多くなったことで〈キュアピッド〉の【天罰(てんばつ)】発動です!」

 

 キュアピッドの全身にオーラが纏わりつく。

 

 【天罰】。系統:〈聖天使(せいてんし)〉だけが持つ専用能力。

 自分のライフ量が相手より多い場合のみに適用される、追加能力だ。

 

「〈キュアピッド〉の【天罰】効果。パワーを+6000します」

 

 〈キュアピッド〉P3000→9000

 

「(パワー9000。これなら簡単にはパワー負けしません)私はこれでターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ12 手札4枚

 場:〈キュアピッド〉

 

「アタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 卯月手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。〈トラップスネーク〉と〈ナーガウィザード〉を召喚」

 

 卯月の場に、一匹の蛇とナーガの魔法使いが召喚される。

 

 〈トラップスネーク〉P1000 ヒット0

 〈ナーガウィザード〉P3000 ヒット1

 

 ステータスの低いモンスターが二体。どちらも〈キュアピッド〉のパワーには遠く及ばない。

 ソラは一瞬安堵したが、卯月はそれを見逃さなかった。

 

「ソラさん、パワーで勝ってるからって安心したでしょ」

「えっ」

「お兄が言ってたよね。パワー勝負だけがサモンじゃないって」

 

 そう言うと卯月は1枚のカードを仮想モニターに投げ入れた。

 

「〈ポイズンサーペント〉を召喚」

 

 毒々しい紫色の蛇が、卯月の場に召喚される。

 

 〈ポイズンサーペント〉P1000 ヒット1

 

「それじゃあソラさん。アタシの蛇竜デッキの戦い方を見せてあげる」

「来る!」

「〈ポイズンサーペント〉の召喚時効果【溶解(ようかい):3】を発動!」

「【溶解】!?」

 

 驚くソラを余所に、ポイズンサーペントは口から吐いた毒液をソラのデッキにぶつけた。

 

「【溶解】は系統:〈蛇竜(じゃりゅう)〉が持つ専用能力。その効果は、能力で指定された数だけ相手のデッキを上から墓地に送る」

「うそ!?」

「更に〈ナーガウィザード〉の効果で、アタシが発動した【溶解】の効果で墓地に送るデッキを+1枚する。よってソラさんのデッキを上から4枚破壊」

 

 毒液でデッキが溶かされ、墓地へ送られる。

 

 ソラ:デッキ35枚→31枚 墓地0枚→4枚

 

「デッキを攻撃するカード……」

 

 驚愕するソラに、召喚器がメッセージを表示する。

 

『スタートフェイズ開始時に、デッキが0枚のプレイヤーはゲームに敗北します』

 

 ようやくソラは理解した。

 卯月の戦い方。それも今まで見た事が無い特殊な戦術を。

 

「でも、デッキはまだあります!」

「これで終わると思ってるの? アタシは魔法カード〈爆裂感染!〉を発動。その発動コストで〈トラップスネーク〉を破壊」

 

 爆散するトラップスネーク。

 だがここからが本番だ。

 

「〈爆裂感染!〉は自分の系統:〈蛇竜〉を持つモンスター1体を破壊する事で【溶解:5】を行う魔法カード」

「それじゃあ!?」

「〈ナーガウィザード〉の効果も合わせてデッキを6枚破壊」

 

 ソラ:デッキ31枚→25枚 墓地4枚→10枚

 

「更に〈トラップスネーク〉の破壊時効果発動。【溶解:3】」

 

 ソラ:デッキ25枚→21枚 墓地10枚→14枚

 

「魔法カード〈ナーガドロー!〉を発動。アタシの場に系統:〈蛇竜〉を持つモンスターがいる場合に、カードを2枚ドローする」

 

 卯月:手札1枚→2枚

 

「更に相手の墓地にカードが10枚以上あるなら、追加で1枚ドローする」

 

 卯月:手札2枚→3枚

 

 ソラは戦慄していた。卯月のファイト、その隙の無さに。

 アドバンテージというものを堅実に稼いでいる。

 

「あっ、良いカード引いた。アタシは〈ナーガガーディアン〉を召喚」

 

 卯月の場に、全身が岩でできた強大なナーガが召喚される。

 

 〈ナーガガーディアン〉P11000 ヒット3

 

「パワー11000のモンスターがいきなり!?」

「〈ナーガガーディアン〉は本来、召喚コストとしてライフを12点払う必要がある」

「えっ、でも卯月ちゃんのライフは」

「〈ナーガガーディアン〉の効果で、相手の墓地にあるカード1枚につき、召喚時に支払うライフが1少なくなる」

「私の墓地は14枚。それで」

「ゼロコスト召喚。そしてバトル。〈ナーガガーディアン〉で攻撃!」

 

 襲い掛かるナーガガーディアン。

 ここでダメージを受けてしまえば、ソラは【天罰】状態を解除されてしまう。

 

「〈キュアピッド〉でブロックします!」

 

 ナーガガーディアンが振り下ろした腕に、潰されてしまうキュアピッド。

 これでライフは守られた。しかし……

 

「ライフで受けた方が良かったんじゃないかな? 〈ナーガガーディアン〉が戦闘で相手モンスターを破壊した事で【溶解:4】を発動」

「そのカードも持ってたんですか!」

 

 ナーガガーディアンが吐き出した毒霧が、ソラのデッキを破壊する。

 

 ソラ:デッキ21枚→16枚 墓地15枚→20枚

 

 それは、わずか1ターンでの出来事であった。

 ソラのデッキは、たった1ターンで半分以下にまで削られてしまった。

 

「ソラさん。まだ戦える?」

「えっ」

「大事なデッキが半分も破壊されたけど、メンタルは大丈夫?」

「私は……」

「最近お兄のおかげで強くなれてたと思うけど、その自信崩れそう?」

「卯月ちゃん」

「ソラさんは今の自分は強いと思ってるの?」

「……そう言わなきゃいけないんです。天川くんとの約束のためにも」

「ふーん、強いんだ。借り物の力で貰い物の力なのに」

「っ!」

 

 ソラの心に、ズシリと重いものが圧し掛かる。

 借り物の力、貰い物の力。決して自分のものではない力。

 それで強くなった気でいた自分を自覚して、ソラは心が苦しくなっていた。

 

「わ、私は……」

「ソラさんは結局、お兄を利用してただけじゃないの?」

「ち、違う、私は」

「本当に否定できるの?」

 

 その言葉に、ソラは何も言い返せなかった。

 自分自身が信用できなかったのだ。

 

 「アタシはこれでターンエンド」

 

 卯月:ライフ10 手札2枚

 場:〈ポイズンサーペント〉〈ナーガウィザード〉〈ナーガガーディアン〉

 

「ソラさん。お兄を利用したいだけなら、もうお兄に近づかないで」

 

 ソラの心が震える。自分はツルギをいい様に利用しているだけではないのか?

 それなら卯月の言う通り、もう彼に近づかない方が良いのではないか?

 心が痛みを訴える。ここで投了を宣言して、貰ったデッキを卯月に渡すべきではないか。

 数秒考えこむ。だがソラの脳裏には、ツルギ達と一緒にサモンを学んだ日々が浮かび上がってきた。

 

「……できません」

「ソラさん」

「私は、天川くんとお友達でいたいんです!」

 

 ソラはデッキに手をかける。

 ファイトを続行し、卯月を納得させる戦いを見せる為に。

 

「私は、絶対に負けたくありません! 私のターン!」

 

 そしてソラの心は、傷つきながらも戦う事を選んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話:【蛇竜皇】シュヴァルツシュランゲ

「スタートフェイズ! ドローフェイズ!」

 

 ソラ:手札4枚→5枚

 

 ソラは手札を確認する。

 卯月のデッキ破壊戦術は厄介この上ない。

 しかし、その戦い方を逆に利用できることにも気がついた。

 

「メインフェイズ。私は魔法カード〈再臨〉を発動します」

 

 魔法カードの効果で、ソラの場と墓地を繋ぐゲートが開かれる。

 

「このカードは、私の墓地から系統:〈聖天使(せいてんし)〉を持つモンスターを1体復活させます」

「あーあ、逆に利用されちゃったか~」

「更に〈再臨〉の【天罰(てんばつ)】を発揮! もう1体墓地から聖天使を復活させます! 来て〈シールドエンジェル〉〈ジャスティスエンジェル〉!」

 

 墓地から復活したのは巨大な二つの盾を携えた天使。

 そして、大槍を構えた天使だった。

 

〈シールドエンジェル〉P7000 ヒット2

〈ジャスティスエンジェル〉P5000 ヒット2

 

「〈ジャスティスエンジェル〉の召喚コストで、手札1枚とライフ1点を払います」

 

 ソラ:ライフ12→11 手札4枚→3枚

 

「更に〈ジャスティスエンジェル〉の効果で、私の場のモンスターは全てパワー+2000されます」

 

 〈シールドエンジェル〉P7000→P9000

 〈ジャスティスエンジェル〉P5000→P7000

 

「2体目の〈キュアピッド〉を召喚。召喚時効果でライフを2点回復します」

 

 〈キュアピッド〉P3000→P11000 ヒット1

 ソラ:ライフ11→13

 

 ソラは自分の手札に目線を落とす。

 その中には、デッキの中に1枚だけ入れていたSRカードの姿があった。

 

「(このカードを召喚すれば……でも)」

 

 迷いがあった。貰い物の力で強くなった自分に、このカードを使いこなせるのか。

 ソラには自信が無かった。

 そして迷いが躊躇いを産む。

 このカードを使わずに、本当に勝てるのかという思考に至ってしまう。

 そしてソラは、答えを得てしまい、SRカードを召喚しないことを選んでしまった。

 

「私は、魔法カード〈エンジェルオーラ〉を発動します! その効果で私の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスターのパワーを+2000。更に【天罰】を発揮! 追加でパワーを+3000します」

 

 〈シールドエンジェル〉P9000→P14000

 〈ジャスティスエンジェル〉P7000→P12000

 〈キュアピッド〉P11000→P17000

 

「そして、魔法カード〈天聖剣舞(てんせいけんぶ)〉を発動!」

 

 魔法カードの効果で、ソラの場にいる天使たちが光に包まれていく。

 

「〈天聖剣舞〉は、自分のライフが相手よりも多い時に発動できる魔法カード。その効果で、このターンの間、私の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスターは全て自身よりもパワーの低いモンスターにはブロックされません!」

「ふーん。それ強いね」

「天川《てんかわ》くんがくれたレアカードです。そしてこれだけパワーを上げておけば、モンスターを全部回復されても防ぎきれない筈です」

「やってみれば?」

「言われなくてもそうします! アタックフェイズ! まずは〈シールドエンジェル〉で攻撃」

 

 シールドエンジェルは、手にした盾で卯月に殴り掛かる。

 だが卯月(うづき)は表情一つ変えない。

 

「ブロックできないなら仕方ないね。ライフで受ける」

 

 卯月:ライフ10→8

 

「この瞬間〈ジャスティスエンジェル〉の【天罰】発揮! 私の場の〈聖天使〉を持つモンスターは全て【2回攻撃】を得ます!」

「……お兄めぇ、面倒くさいカードを」

「〈シールドエンジェル〉で2回攻撃!」

「それもライフで受ける」

 

 卯月:ライフ8→6

 

「〈ジャスティスエンジェル〉で攻撃!」

 

 ジャスティスエンジェルは大槍で卯月を攻撃する。

 

 卯月:ライフ6→4

 

「〈ジャスティスエンジェル〉の2回攻撃!」

 

 卯月:ライフ4→2

 

「今度は〈キュアピッド〉で攻撃です!」

「それもライフ」

 

 キュアピッドは卯月に向けてハートの矢を射った。

 

 卯月:ライフ2→1

 

 あと一撃で終わる。

 ソラはこの瞬間、自身の勝利を確信した。

 故に、卯月にまだ手札がある事を失念していた。

 

「〈キュアピッド〉で攻撃!」

「魔法カード〈スネークウォール〉を発動」

 

 キュアピッドが放った矢は、突如現れた蛇の幻影によって阻まれてしまった。

 

「〈スネークウォール〉は自分の場に系統:〈蛇竜(じゃりゅう)〉が存在する場合に、相手モンスター1体の攻撃を無効化できる」

「倒し……そこねた」

「更に追加効果で、【溶解:2】をするね」

 

 蛇の幻影が、ソラのデッキを攻撃する。

 

 ソラ:デッキ15枚→12枚 墓地21枚→24枚

 

「手札の枚数は可能性の数。ソラさん、お兄の話聞いてた?」

「うぅ」

「やっぱり貰い物の力。強くはなっても、使いこなせてはいない」

 

 ソラは唇を噛み締める。

 倒し損ねた悔しさもあるが、それ以上に卯月を納得させられない自分を情けなく思っていた。

 

「……アタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果でライフを回復します」

 

 ソラ:ライフ13→14

 

「そしてエンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】を発揮。私の場のモンスターを全て回復させます・ターンエンド」

 

 ソラ:ライフ14 手札1枚

 場:〈キュアピッド〉〈シールドエンジェル〉〈ジャスティスエンジェル〉

 

 ターンを終えたソラは自分に残された最後の手札を見る。

 それは召喚できなかったSRカード。

 このターンでは止めまでいけなかったが、次のターンで召喚すれば勝利できる。

 しかし……

 

「ソラさん、もしかして次のターンで勝てるとか思ってませんか?」

「えっ!?」

「その考えは甘すぎる。勝ったって感情は、相手を倒してから抱かないと」

「で、でも。卯月ちゃんを追い詰めることはできましたよ!」

「……だから甘いんだって」

 

 冷たい声で、卯月が呟く。

 

「ソラさん、ハッキリ言います。アナタ弱いですね」

 

 そして卯月のターンが始まる。

 

「スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 卯月:手札1枚→2枚

 

「ソラさん、このターンで終わらせますね」

 

 卯月は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 

「必要な条件は相手の墓地にカードが10枚以上ある事。アタシは系統:〈蛇竜〉を持つ〈ポイズンサーペント〉を進化!」

 

 ポイズンサーペントの周りに、紫色の魔法陣が出現する。

 魔法陣はポイズンサーペントを呑み込み、強大なる蛇竜の皇を呼び覚ました。

 

「黒き闇の底より戴冠せよ、破壊の皇! 〈【蛇竜皇(じゃりゅうおう)】シュヴァルツシュランゲ〉を召喚!」

 

 魔法陣を食い破り、卯月の場に降臨したのは、黒く巨大な蛇の皇。

 

 〈【蛇竜皇】シュヴァルツシュランゲ〉P10000 ヒット3

 

 卯月が召喚したSRカードを前に、ソラは圧倒されていた。

 

「SRカード、二つ名持ち。卯月ちゃんも持ってたんだ」

「自力で引き当てたカードだから結構思い入れあるんだ。能力も強いし」

「これが……卯月ちゃんの切り札」

「そだよ。だから……このカードで終わらせるね」

 

 卯月の言葉に合わせて、シュヴァルツシュランゲが攻撃態勢に入る。

 

「アタックフェイズ。〈シュヴァルツシュランゲ〉で攻撃! そして攻撃時効果【溶解:10】を発動」

「【溶解:10】!? ということは」

「〈ナーガウィザード〉の効果も合わせて、ソラさんのデッキを上から11枚破壊するね」

 

 シュヴァルツシュランゲの口から、大量の毒霧が吐き出される。

 その毒によって溶かされたソラのデッキが、一気に墓地に送られてしまった。

 

 ソラ:デッキ12枚→1枚 墓地24枚→35枚

 

「デッキが、残り1枚!?」

「シュヴァルツシュランゲの攻撃は続行中。どうするソラさん?」

 

 ソラは悩んだ。

 パワーだけで言えば〈キュアピッド〉で返り討ちにできる。

 しかし万が一〈シュヴァルツシュランゲ〉が【ライフガード】を持っていた場合、回復状態で場に戻ってしまう。

 そうなればもう一度攻撃されてデッキアウトは確実だ。

 次のターンの事を考えるならば……

 

「……ライフで受けます」

 

 ソラ:ライフ13→10

 

「ふーん。ブロックしないんだ」

「こっちの方が良いと判断しました。これで私の勝ちです」

「なんで?」

「〈ナーガウィザード〉は私の場のモンスターでブロックできます。〈ナーガガーディアン〉は戦闘さえしなければ、ライフダメージだけで済みます。そうすればまだ、私には次のターンが――」

「だから、次のターンは無いって言ったじゃん」

「えっ」

「〈【蛇竜皇】シュヴァルツシュランゲ〉の効果。相手の墓地にカードが30枚以上あれば、このカードは【2回攻撃】を得る」

 

 ソラは慌てて自分の墓地にあるカード枚数を確認する。

 

「35枚……じゃあ」

「〈シュヴァルツシュランゲ〉は回復して、もう一度攻撃できる」

 

 起き上がるシュヴァルツシュランゲ。

 ソラの手札には、防御カードは無かった。

 

「〈シュヴァルツシュランゲ〉で攻撃。そして【溶解】を発動」!」

 

 シュヴァルツシュランゲの吐く毒霧が、ソラの最後のデッキを破壊する。

 

 ソラ:デッキ1枚→0枚

 

「……ライフで受けます」

 

 もはやソラに、抵抗する気力も残っていなかった。

 

 ソラ:ライフ10→7

 

「ターンエンド」

 

 卯月がターンを終了させ、ソラのターンが回ってくる。

 だがそれは、ただ敗北するだけの瞬間であった。

 

「私のターン……スタートフェイズ……」

「スタートフェイズにデッキが0枚。アタシの勝ちだよ、ソラさん」

 

 ソラ:デッキアウト

 卯月:WIN

 

「ソラさんの事よーくわかった。色々弱いし甘いし。アタシがどうこう言う必要すらないみたい」

 

 日の沈んだ公園の中で、召喚器が出していた立体映像が、静かに姿を消していった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話:ソラ、問う

 ファイトが終わってからの事は、あまり覚えていない。

 ソラは卯月と何かやりとりしたような記憶はあったが、それすら碌に残らないほどに落ち込んでいた。

 気づけば卯月と別れて帰路についていた。

 心がズシリと重い感覚に襲われながら、ソラは帰宅する。

 

「……」

 

 玄関を開けて、無言で帰宅。

 だけどそれを咎める者は誰もいない。

 暗い部屋に電気を点けながら、ソラは自室へと足を運ぶ。

 

 母親は働きに出ていて、父親は幼い頃に亡くした。

 ソラは基本的に、自宅では一人なのである。

 

 自室に入ったソラは学校鞄を床に置くや、顔からベッドに沈み込んだ。

 

 ただただ心が重い。自己嫌悪が強くなる。

 ソラは静かに、卯月とのファイトを思い返していた。

 

「……勝てなかった」

 

 それは何故か? 卯月が強かったからか?

 違う。自分が弱かったからだ。

 ソラは下唇を噛み締める。

 

「この子を使ってたら、勝てたのかな?」

 

 ソラは召喚器から、1枚のカードを取り出す。

 〈【天翼神(てんよくしん)】エオストーレ〉。彼女のデッキに入っている唯一のSRカードだ。

 能力も強い。だがそれを使う勇気がソラには出てこない。

 自信が無いのだ。このカードを完璧に使いこなせる自信が、ソラには無い。

 その自信の無さが躊躇いを産み、彼女に負け癖をつけている。

 

「卯月ちゃんに「弱い」って言われちゃったけど……本当ですね」

 

 それはサモンの強さを表しているだけではない。

 きっと、ソラの心の弱さも表しているのだ。

 全てを見抜かれたようで、心が苦しくなる。

 だがソラには、それの言葉を否定する気も起きなかった。

 

「私、なにしてるんだろ」

 

 召喚器にセットしていたデッキを抜き取り、ソラは眺める。

 ツルギから預かったデッキ。

 失ってしまった以前のデッキと比べても、明らかにパワーアップしている代物。

 そして、ソラ自身を強くしてくれたデッキだ。

 

「このデッキに相応しいファイターになろうと思ってたのに……なにも前に進んでなかった」

 

 ツルギとの特訓に加えて、放課後の勉強会。

 それらに参加して、自分の力が強くなったと錯覚していた。

 だけど現実は、借り物の力でそう思い込んでいただけ。

 

 肝心なソラという人間の中身は、何も進歩していない。

 卯月とのファイトで、彼女はそう思わざるを得なかった。

 

「私、なんでサモンしてるんだろう……」

 

 自分でもよくわからなくなる。

 元々は亡くなった父親の影響で始めたサモン。

 SRカードも父から譲り受けた遺品だ。

 故にソラは、重く受け止めてしまう。

 カードを使う事も、サモンをする事も。

 

「やっぱり、デッキは天川くんに返したほうが良いのかな?」

 

 そんな考えが頭を過ってしまう。

 きっとデッキを返せば、プレッシャーからは解放されるだろう。

 ツルギも意志を尊重してくれるだろう。

 だがそれで良いのか、ソラは悩んだ。

 

「……逃げて、いいのかな?」

 

 デッキはまた時間をかけて組めばいい。

 辛い事なんて逃げてしまえばいい。

 だけど……ソラの中で何かが突っかかる。

 

「天川くん……」

 

 脳裏に浮かぶのは、東校の生徒と戦った時のツルギの姿。

 西校の皆が諦めていた中で、ただ一人最後まで諦めずファイトし続けた背中。

 そして、その強さに溺れることなく、子供たちに惜しみなくサモンを教える姿。

 それらはまさに、ソラが理想に描いていた「強き者」の姿でもあった。

 

 だから憧れたのだ。天川ツルギという少年に。

 だから期待を裏切りたくなかったのだ、彼が作ってくれたデッキに対して。

 

 しかしソラの心はまだ重い。

 

「やっぱり明日、天川くんに返したほうが――」

 

 きっと自分は、このデッキに相応しくないのだろう。

 サモンも心も、ツルギの期待に応えられる領域に達していない。

 ソラが深い闇の底で、そう決断しようとした時だった。

 

――~♪ ~♪ ~♪――

 

 ソラのスマートフォンに、一本の電話が入ってきた。

 

「誰だろう?」

 

 画面を見る。そこに表示されていたのは意外な名前であった。

 

「天川くん!?」

 

 ソラは慌てて電話に出る。

 

「もしもし」

『もしもし赤翼さん? よかったー出てくれて~』

 

 ツルギの声を聞いた瞬間、ソラは少しだけ心が軽くなるのを感じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話:ツルギ、答える

 勉強会が終わって帰宅したあと、俺はずっとスマホを眺めていた。

 

「なんか……調べれば調べるほど、ヘンテコな世界だなぁ」

 

 主にサモン関係。

 政界財界とかにサモンが広がっているのはもう慣れた。その手のニュースは山ほど入ってくるし。

 個人的に今日驚いたのは税金関係。

 カードの売買では各種税金が免除されてるんだな。意外過ぎる。

 どおりでカードパックが300円丁度だった筈だよ。今思い返したら消費税無かったもん。

 

「これもしかして、レアカードをオークションで売りまくっても税金取られないんじゃ?」

 

 もしかすると天川家金持ち化コースできるんじゃないか!?

 ヤバイ、夢が広がりすぎる。

 

 そんな事を考えていると、玄関が開く音が聞こえてきた。

 卯月が帰ってきたんだな。

 

「ただいまー」

「おかえりー。赤翼さんと何話してたんだ?」

「女の子の話だから教えなーい」

「さいですか」

 

 女子というのはよく分からん。

 それにしても長話してたんだな。

 サモンファイト一戦できるくらいの時間あったぞ。

 

 ……ん?

 

「なぁ卯月。まさかとは思うけど。赤翼さんにファイト挑んでないよな?」

「……さぁ? どうだろ」

 

 露骨に口笛拭きながら、自室に上がる卯月。

 間違いないコイツ赤翼さんにファイト挑みやがった!

 

「ヤッベぇ。卯月のデッキは初見殺しすぎるんだよ」

 

 しかも切り札の〈シュヴァルツシュランゲ〉は、前の世界では制限カードに指定されてた代物。

 多分この世界の人間ならメンタルに深刻なダメージを負うレベルだ。

 それを赤翼さんが受けたと考えれば……マジでヤバい。

 

 俺は大急ぎで自室に戻った。

 

「電話番号交換してたよな!?」

 

 慌ててスマホの電話帳を確認する。

 元々女のアドレスなんて母さんと卯月のしかなかったから、すぐに見つかった。

 交換しておいて良かった。

 

「頼む頼む出てくれぇ」

 

 すぐに赤翼さんに発信する。

 数秒のコールの後、電話は繋がった。

 

『もしもし』

「もしもし赤翼さん? よかったー出てくれて~」

 

 出てくれなかったら、家まで行って土下座する予定だった。

 赤翼さんの家知らないけど。

 

『えっと、天川くん。こんな時間にどうしたんです』

「ゴメン赤翼さん! 卯月がファイト挑んだだろ」

『……はい』

「やっぱり」

 

 最悪だあの妹。初見さんにトラウマ植え付けに行きやがった。

 

「本当にゴメン。アイツのデッキ初見殺しで厄介だから、あんまり暴れるなって言ってあったんだけど」

 

 ちなみにそれを言った直後、卯月には「お兄に言われたくはない」と返された。

 それはともかく。

 

「卯月の奴は後でキツく っておくから。トラウマ植え付けたことは本当にゴメン」

『そんな、謝らないでください。負けちゃったのは私の弱さが原因ですから』

 

 電話の向こうで、赤翼さんの声が徐々に小さくなっていく。

 やっぱり心に深刻な傷ができたんだ。兄として責任を取って切腹せねば。

 

「申し訳ありません、腹切ります」

『天川くん!?』

 

 年ごろの娘さんにトラウマ植え付けてしまった罪は重い。

 

『だから天川くんは謝らないでください! 負けたのは私の責任ですから!』

「だけど年ごろの娘さんに」

『私、天川くんと同い年ですよ!』

 

 ……言われてみればそうだった。

 完全に年下の知り合いを見る目だったわ。

 いや精神年齢は俺19なんだけどね。

 

『とにかく今は謝るの禁止です! メッですよ!』

「マジですまん」

 

 というか赤翼さんの「メッ」めっちゃ可愛いな。

 声フェチ拗らせそうだ。

 

『むしろ……謝らなくちゃいけないのは、私のほうです』

「ん?」

 

 なにやら奇妙な流れになったぞ。

 

『私、ずっと勘違いしてたんです。天川くんからデッキを預かって、一緒にファイトして……自分が強くなったって、勘違いしてて……』

「赤翼さん」

 

 いや君普通に強いよ。

 確かにデッキは殆ど俺が組んだけど、十分に使いこなせてたよ。

 正直この世界で出会った人の中では、速水の次に脅威だよ。

 

 でもまぁ、気になる事があるのは確かなんだよな。

 

『本当の私はすごく弱くて、勇気が無くて……このデッキを使う資格もない、ダメな人間です』

「デッキを使う資格ねぇ」

 

 また妙な事を言い出すもんだ。

 

「資格なんて、最初から誰も持ってないよ。サモンってのは自由なんだ。だから赤翼さんがそのデッキを使うのも自由だよ」

『だけど私、全然デッキを使いこなせてなくて、今日も負けちゃって』

 

 完全に涙声になってるな。

 だけど……

 

「赤翼さん、もしかしてカードを全て活かしきろうとしてない?」

『えっ?』

 

 実はこの前から薄々気になってた点。

 赤翼さんは全部を活かしきろうとしている節がある。

 

「そりゃあ確かに、全部のカードを活かしきるのは理想だ。だけど全てのファイトでそれができる筈がない。それは誰だって同じだ」

『だけど、それじゃあデッキを使いこなしてるとは』

「全てを活かすだけが使いこなす事じゃない。むしろ重要なのは、必要な時に必要なだけ力を発揮させる事だ」

『必要な時に、必要なだけ』

「そうだ。で、そのタイミングを選ぶのはファイターである赤翼さん自身」

『わ、私ですか!?』

「そりゃそうだろ。だってそれはもう、赤翼さんのデッキなんだから」

 

 電話越しに、赤翼さんの自信なさげな声が聞こえてくる。

 そんなに卑下しなくてもいいのになぁ。

 

「それにな。俺の事なんか気にせずにデッキを回してくれればいいんだ。ほとんど俺が組んだとはいえ、使い手は赤翼さんなんだから。戦い方は赤翼さんの好きなようにすればいい」

『天川くん……どうして』

「ん?」

『どうして私にここまでしてくれるんですか?』

 

 また妙な……いや、そうでもない質問か。

 

『だって私、この前まで天川くんと特別仲が良かったわけでもないですし。私が天川くんに何かした覚えもないですし……私、ほとんど天川くんを利用しているようなものですし……それなのにどうしてデッキを渡してくれたんですか?』

「うーん、そんな深刻そうに聞かれても困るんだけど』

 

 それに利用されてるなんて欠片も思ってないんだけどなぁ。

 まぁ強いて言うなら、手を貸す理由はこれだよな。

 

「赤翼さんってさ、すっごい楽しそうにサモンするじゃん」

『えっ』

「授業中とかさ、みーんな重苦しそうにサモンしてんのに、赤翼さんってスゲー楽しそうにしてるから。だから助けになりたくなったんだ」

『楽しそうって、それだけの理由なんですか?』

「十分な理由だと思うけどなぁ」

 

 だってそれは、カードゲームをする上で一番大事な事だから。

 

「赤翼さんはさ、もっと肩の力を抜いていいと思うんだ。勝つ事だけじゃない。サモンを楽しむ事を考えて戦ってみたらどうかな?」

『楽しんで、戦うですか?』

「そうそう。なんなら俺もサモンは楽しんで戦ってる派だぜ。東校の奴とのファイトもなんだかんだ楽しかったし」

『え、あのファイトを楽しんでたんですか!?』

「そうだぞ。あっでも、学校のみんなにはナイショな」

 

 流石にバレたら怒られそうだ。

 

「赤翼さん。強くなる事よりも、大事な事があるんじゃないかな?」

『大事なこと……』

「それをもっと前に出しちゃえばいいんだ。わがまま貫いちまえ」

 

 具体的にはエースカードへの愛とか。

 赤翼さんのデッキに入っていた1枚のSRカード。

 きっと、あのカードは何か思い入れのある品だろう。

 ならそれをファイトの中で主張してしまえばいいんだ。

 

「大丈夫。俺が褒めてきたのは俺が教えた技術に対してじゃない。赤翼さん自身が持っている力に対してだから。それは信じて欲しい」

『天川くん』

「俺もさ、赤翼さんのこと信じてるから。だから難しく考えたりしないで、自分が一番大事にしたい感情優先でいこう」

『……はいっ』

 

 電話越しの声が明るくなってきた。

 大丈夫。赤翼さんならきっと、強くなれる。

 俺はそれを手伝いたいだけなんだ。

 ……将来的には魔改造とかしてみたいけど。

 

「トーナメントまであと二週間。特訓も兼ねて、思いっきりサモンを楽しもう」

『はいっ。明日もよろしくお願いします』

「いい返事だ」

 

 自然と俺も笑顔になってしまう。

 きっともう大丈夫だろう。

 もしこの後、赤翼さんが落ち込むような事があったら……その時はまた、話をしよう。

 だって赤翼さんは、俺の大事な教え子だから。

 ……俺中学生だけど。

 

「もう一回言っておく。俺の事は気にするな。赤翼さんはやりたいようにやればいい」

『はい。ありがとうございます、天川くん』

「なんか辛くなったら、いつでも電話してくれればいいさ」

『天川くんは優しいですね。じゃあ、お言葉に甘えます』

 

 そして俺達は「おやすみなさい」と挨拶をして、電話を切った。

 

「赤翼さんのメンタル。これで回復すればいいんだけどな」

 

 後は彼女を信じるしかないか。

 

 それはさておき。

 

「卯月の秘蔵おやつ。あとで全部食ってやる」

 

 兄からのお仕置きだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話:開幕する予選! 100回死んだカーバンクル!

 あれからも俺は学校や放課後の公園で、赤翼さんを鍛え続けた。

 少なくとも俺が見ている分には、赤翼さんのメンタルは大丈夫そうだ。

 ちなみに卯月とは激しい喧嘩をした後、俺が敗北した。解せぬ。

 

 そしてあっという間に二週間が経過。

 ついに『校内サモンランキングトーナメント』の当日がやってきた。

 

 全校生徒が校庭に集められている。

 気のせいか、なんか殺気がすごい。

 

「なぁ速水。みんなピリピリしすぎじゃね?」

「しかたないさ。校内ランキングの成績は、そのまま受験にも影響するからな」

 

 相変わらずサモン至上主義は怖いな~。

 大学入試の共通テストみたいなもんだと思えば、聞こえはいいかもしれない。

 だけど公立の中学校でこれだからな。皆さまのメンタル面が不安で仕方ないです。

 

「ところで赤翼さんは?」

「あぁ、赤翼ならそこで……」

 

 速水が指さした方を見ると、そこには手の平に「人」の字を書いて飲みまくっている赤翼さんの姿があった。

 

「人、人、人、人、人、人……まだ足りません」

「いやいや、赤翼さん緊張しすぎだろ」

「ひゃあ!? て、天川くん」

 

 後ろから肩触るまで、全く俺の存在に気付いてなかったらしい。

 どんだけ緊張してるんだ。

 

「そんなに緊張してたらプレイミスするぞ。もっと気楽に構えようぜ」

「天川、流石に今の赤翼にそれは酷だ」

「ひゃわわわわ」

 

 完全にパニック状態だなこれ。

 まぁランキング1位を目指してるんだし、そんなもんか。

 

「ほれ」

「はひゅ!?」

 

 俺は赤翼さんの両頬を手の平で挟み込む。

 

「落ち着け。大丈夫だ。赤翼さんは強い」

「だ、だけど。万が一を考えるてしまうと不安でしかたなくって」

「その不安を乗り越えて戦うのが、俺達ファイターだ」

「そ、そうなんですけど」

「前にも言ったけど、そのデッキはもう赤翼さんのデッキなんだ。自分のデッキと、赤翼さん自身を信じろ」

 

 赤翼さんの顔から手を離す。

 数秒の間の後、赤翼さんは自分の顔をパンパンと叩いた。

 

「はい! 頑張ります!」

「よしきた! じゃあ心構えも分かるな?」

「はい! 楽しんで、勝つです!」

「大正解。じゃあ赤翼さん、決勝で会おうか」

 

 それだけ言い残して、俺は速水の元へと戻った。

 のだが、妙に速水が不機嫌そうだ。

 

「なんだよ」

「お前、俺の事を忘れてただろ」

「決勝の事か? 大丈夫だ。速水は準決勝で俺が倒すから」

「俺もそう簡単に負けるつもりはないぞ」

 

 バチバチと火花が散る。

 きっとライバルとはこういうのを指すんだろうな。

 

 そうこうしている内に、先生の号令がかかった。

 

「とうとう始まるな」

「暴れてやるぜ」

「お前が言うと冗談に聞こえん」

「本気だぞ」

 

 全校生徒が校庭に綺麗に並び先生の話を聞く。

 まぁ話の内容は所謂対戦時のマナーやら、禁止事項やらだ。

 特に語るようなものでもない。

 長い長い校長の話を、あくびを堪えながら聞いてると、ようやく実のある話に移った。

 

「えー、午前中は主にトーナメント進出者を決める予選を行います。午後のトーナメント本戦に進出できるのは16名です」

 

 全校生徒が720人くらいだった筈だから……結構絞るんだな。

 

「本戦出場者を決める予選は、ガンスリンガーを行います」

「おっ、珍しいな」

 

 ガンスリンガー。

 簡単に言えば、制限時間内での勝利数を競う試合方式だ。

 沢山ファイトはできるが、時間がかかるのが難点。

 

「制限時間は3時間。その間の勝利数が多い、上位16名を本戦出場者とします」

「校長からの説明は以上だ。何か質問のある生徒はいるか?」

「はい」

「はい、2年の天川」

「召喚器のバトルロイヤルモードを使って、10人くらいまとめて倒したら、勝ち点10点もらえますか?」

 

 俺の質問を聞いた瞬間、全校生徒がザワッとした。

 というか教師もザワついた。

 なんだよ、シンプルな質問だろ。

 

「えっと、その、システムの仕様上、倒したファイターの数がそのまま勝ち点として加算されます」

「じゃあバトルロイヤルモードの使用は?」

「特に禁止はされてない」

「ありがとうございます」

 

 よし。今さっき思いついた素晴らしい作戦が実行できそうだ。

 なんか周りがスゲーざわざわしてるけど。

 

「おい、天川マジでやる気か?」

「アイツならやりかねない」

「でも一度に10人も倒せるの?」

「大丈夫だ。天川への対策はちゃんと練ってきた」

 

 オイお前ら聞こえてるぞ。

 あと最後の奴。俺が対策の対策を考えていないと思うなよ。

 

「そ、それでは。ただいまより本年度の『校内サモンランキングトーナメント』の開催を宣言します」

「制限時間3時間。ガンスリンガー、始めぇ!」

 

 先生の宣言で3時間のカウントが始まる。

 周りの生徒は次々に相手を見つけて、対戦を始めた。

 速水と赤翼さんも同様だ。

 

「二人ども気合入ってるな~。俺も負けてらんない」

 

 俺は腰に下げていた召喚器を手に取り、捜査をする。

 多人数戦『バトルロイヤル』をする為のモードへ切り替えた。

 

「相手決まってない奴、10人くらいいるよなぁ?」

 

 視界にそれらしき生徒が何人か映る。

 よし、今だ!

 

「ターゲット! フルロック!」

 

 俺の召喚器から飛ばされた電波が、対戦していない10人の生徒へと無差別に接続された。

 

「えっ!?」

「ちょっ、アイツ本当にやる気かよ!」

 

『バトルロイヤルモードの起動を確認しました』

 

「さぁ、先輩後輩同級生。まとめて全員かかってこい!」

「やるしかないのか」

「大丈夫だ。10人がかりならきっと倒せる」

「天川への対策は練ってきたんだ!」

 

 とりあえず全員やる気になってくれたようで嬉しい。

 俺は召喚器から初期手札5枚をドローする。

 さぁ、10対1のバトルロイヤルを始めようか!

 

「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」

 

 初めてのバトルロイヤルモードだからか、召喚器からメッセージが表示される。

 

『バトルロイヤルルールでは、全てのプレイヤーが1ターン目のドローフェイズとアタックフェイズができません』

「全く問題なしだ」

 

 ターンの順番が自動で決まる。

 俺が最初か。

 

「俺のターン! スタートフェイズ」

 

 手札を確認する。

 ふむ……これは。

 

「俺は何もせずにターンエンドだ」

 

 俺のターンエンドを聞いた10人は、皆驚愕の表情を浮かべた。

 

「天川、お前舐めてるのか!?」

「あるいは手札事故を起こしたかだな」

「これなら私達にも勝機はある!」

 

 さぁ、どうでしょうね?

 口には出さないけど。

 

 順番に対戦相手のターンが始まる。

 とは言っても、ルールで攻撃できないから、皆モンスターを召喚するだけで終わった。ライフ変動もない。

 最終的な盤面はこんな感じ。

 

 生徒①:〈カエン竜〉 P5000

 生徒➁:〈スカーレット・マジシャン〉 P6000

 生徒➂:〈大岩マジロ〉 P8000

 生徒④:〈拾われたにゃんこ〉 P3000

 生徒⑤:〈リトルデビル〉 P5000

 生徒⑥:〈ライナーロボX5〉 P7000

 生徒⑦:〈ゴブリンシールダー〉 P7000

 生徒⑧:〈河童〉 P1000

 生徒⑨:〈マッスル原人〉 P6000

 生徒⑩:〈ミリオンライター〉 P1000

 

 揃いも揃って少しパワーの高いバニラか、戦闘ダメージを数点減らすコモンカードばかり。

 最後の奴に至っては、弱小バニラだ。

 まぁ、その方が楽でいいんだけどな。

 

「やっと一周か、長いな。俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 手札5枚→6枚

 

 改めて手札を確認する。

 よし、これで防御札が出なければ俺の勝ちだな。

 

「メインフェイズ! 俺は〈スナイプ・ガルーダ〉を召喚!」

 

 俺の場に、ライフル銃を背負った鳥が召喚される。

 

 〈スナイプ・ガルーダ〉 P3000 ヒット1

 

「更に俺はライフを3点払って〈アサルト・ユニコーン〉を召喚!」

 

 続けて登場したのは、雄々しき角を生やした、青鹿毛のユニコーンだ。

 

 ツルギ:ライフ10→7

 〈アサルト・ユニコーン〉 P10000 ヒット0

 

「パワー10000だと!?」

「でもヒットは0。これなら戦闘ダメージは与えられない」

「それはどうかな?」

 

 俺の発言に、10人の生徒の顔が凍りつく。

 一度言ってみたかったんだ~このセリフ。

 

「さぁ出番だ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

 

 もふもふとした緑の体毛が可愛らしい、ウサギ型モンスター。

 そして、俺の相棒が召喚される。

 

『キュップイ!』

 

 〈【紅玉獣】カーバンクル〉 P500 ヒット1

 

「悪いな相棒。今日も過労死要因だ」

『キュ!?』

「〈アサルト・ユニコーン〉の効果発動! 自分の場に系統:〈幻想獣〉を持つ他のモンスターが召喚された時、そのモンスターを破壊する」

 

 召喚されて早々、アサルト・ユニコーンの効果で破壊される俺の相棒。

 マジですまん。でもこれが勝利への鍵なんだ。

 

「おい、天川がカーバンクルを破壊したぞ」

「もう嫌な予感しかしない」

「大正解だ。〈アサルト・ユニコーン〉は破壊したモンスターのヒット数だけ、自身のヒット数を上げる」

 

 カーバンクルのヒット数は1。

 よってアサルト・ユニコーンのヒットも1上がる。

 だが当然これでは終わらない。

 

「ご存知だろうけど〈【紅玉獣】カーバンクル〉は、破壊されても手札に戻る」

「おい天川、その〈アサルト・ユニコーン〉の効果って」

「ターン中1回とかの制限はないぞ」

「「「やっぱりー!?」」」

 

 とりあえずこれで無限にヒット数を上げられるわけだが。

 流石に無限にするのは疲れる。

 

「とりあえず100回くらいヒット数上げとくか」

 

 そして100回破壊される俺の相棒。

 すまない。だが大義の為には必要な犠牲だ。

 

〈アサルト・ユニコーン〉 ヒット0→100

 

「ヒ、ヒット100ってなによ」

「おい天川、サモンの初期ライフは10点だぞ!」

「俺達を10回殺す気か!」

 

 ご安心ください。一撃で終わらせます。

 

「で、でも。私達の場にはブロックできるモンスターがいるから。そんな大ダメージ受けなくても」

「〈アサルト・ユニコーン〉は【貫通】を持ってるから、モンスターを戦闘破壊したらヒット数分のダメージを与えるぞ」

「だ、だけど! アタックできるのは1回。倒されるのは1人だ!」

「そうだ。残りの9人で総攻撃すれば」

「まぁ……そうなるよな」

 

 だけど。

 

「俺が何も考えてないとでも思ったのか?」

 

 言った筈だ。俺は10人まとめて倒すと。

 

「ライフを2点払って、魔法カード〈千手連撃〉を発動!」

 

 ツルギ:ライフ7→5

 

「効果で〈アサルト・ユニコーン〉を指定。このターンの間、俺は〈アサルト・ユニコーン〉でしか攻撃できない。その代わり戦闘で相手モンスターを破壊すれば、〈アサルト・ユニコーン〉は何度でも回復する!」

「なんだって!?」

「それで全員倒す気か!」

「でも、最初の攻撃をブロックしなければ、倒されえるのは1人だけで済むわ」

「それはどうかな? パート2」

 

 当然そんな事見越しているに決まっている。

 

「〈スナイプ・ガルーダ〉の効果で、俺の場の系統:〈幻想獣〉を持つモンスターは全て【指定アタック】を持っている」

「なん……だと」

「さぁみんな。防御魔法の準備はいいか?」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 待つわけないだろ。

 

「アタックフェイズ。行け〈アサルト・ユニコーン〉! まずは〈カエン竜〉に指定アタックだ!」

 

 角に力を込めたアサルト・ユニコーンが、真っ赤な竜に突撃する。

 そもそも皆が召喚したモンスターはP10000未満しかいないからな。

 全員〈アサルト・ユニコーン〉の射程圏内だ!

 

「だ、ダメだ! 戦うな!」

 

 モンスターに命令するがもう遅い。

 真っ赤な竜は、アサルト・ユニコーンの角に貫かれて破壊されてしまった。

 

「【貫通】の効果で〈アサルト・ユニコーン〉のヒット数分のダメージを受けてもらうぜ」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 生徒①:ライフ10→0

 

「モンスターを戦闘破壊したので〈千手連撃〉の効果で回復」

 

 さて次は、誰がいいかな?

 

「ひぃ!」

「天川、たのむ。手加減してくれ!」

「ダメだ。もう目についた奴から倒す。〈アサルト・ユニコーン〉で〈スカーレット・マジシャン〉に指定アタック!」

 

 そして始まる蹂躙劇。

 1人くらい防御札持ってるかと思ってたけど……別にそんなこと無かったぜ!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 生徒➁:ライフ10→0

 

「きゃぁぁぁぁ!」

 

 生徒➂:ライフ10→0

 

「「「あべしッ!」」」

 

 生徒④~➉:10→0

 

 これぞ男の夢、男のロマン。

 ワンターン10キルゥ!

 

 ツルギ:WIN 勝ち点10

 

 うーん、これは中々気持ちいいぞ。

 勝ち点も派手に稼げる。

 ……なんか周りの視線がすごい突き刺さって来るけど。

 みんな俺とファイトしたいのかな?

 

「さぁて。次は誰が相手してくれるんだ? まとめて来てくれてもいいぞ」

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 ファイトにお誘いしたら、蜘蛛の子散らすように逃げられた。

 悲しい。俺の心は傷ついたぞ!

 

「天川」

「先生……」

「せめて1人づつ戦ってやってくれ」

 

 なんか知らんがバトルロイヤルモードの使用が禁止されてしまった。

 仕方ない。各個撃破でいくか。

 

 その後は通常のファイトで順調に勝ち点を稼いでいった俺。

 速水と赤翼さんも順調に勝ちを稼いでいった。

 

 そして、3時間が経過。

 

「タイムアップ! 予選ガンスリンガー、そこまで!」

 

 先生の合図で、全ての試合が終了。

 召喚器の仮想モニターには、上位16名の名前が表示された。

 

「おっ、これは」

「天川くん! 私、予選通過できました!」

「今見たよ。おめでとう」

 

 小走りで駆けつけてきた赤翼さんが報告をくれる。

 

「天川くんはどうでした?」

「もちろん予選通過だ」

 

 ちなみに速水も通過している。

 そうでなきゃ面白くない。

 

「じゃあ、私達トーナメントで」

「あぁ、戦うだろうな」

 

 理想は決勝の舞台で出会う事。

 赤翼さんは足が震えながらも、その眼に戦う意志を宿していた。

 

「私、絶対負けません」

 

 それは、俺もだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話:ソラVS速水

 予選も無事に終わり、昼食を挟んでから午後を迎える。

 本戦へ出場する生徒16名は、控室でファイトの準備。

 無論、俺は準備完了している。

 ちなみに予選敗退した生徒の観覧は自由だ。

 

「しっかし体育館のステージでサモンファイトする日が来るとはなぁ」

 

 本当に人生って何があるかわからん。

 異世界転移とかするし。年齢逆行とかするし。

 

 まぁそれはさておき。ようやくトーナメント本戦だ。

 流石に予選よりは骨のある奴が相手してくれるだろう。

 これは気合が入るぜ~。

 

 ……なんて思っていた時が、自分にもありました。

 

 以下俺の試合ダイジェスト。

 

「ヒットを100まで上げた〈アサルト・ユニコーン〉で攻撃!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 モブ生徒:ライフ10→0

 

「〈ファブニール〉でモンスターを破壊。これで防御できるモンスターはいない! 〈ファブニール〉で攻撃だ!」

「きゃあぁぁぁぁ!」

 

 モブ女子生徒:ライフ3→0

 

 そして迎えた準決勝では……

 

「魔法カード〈召喚爆撃!〉を発動」

「投了です」

 

 ツルギ:WIN

 

 このザマである。

 なんだよぉ! 想像以上に骨が無いじゃないか!

 てかこれでようやく理解したわ。この学校の生徒、正直弱い。

 そりゃ東校の奴らに搾取されますわ。

 てか準決勝の相手! 俺の先攻1ターン目で投了するなよ!

 

「なんか……味気ねぇ……」

 

 もっと強い奴と戦いたい。

 と、ここでふと思い出す。

 そういえば速水と赤翼さんはどうなったんだ?

 俺は体育館に張り出されているトーナメント票を見る。

 

「二人とは別ブロックだったけど……あっ」

 

 トーナメント表をよく見れば、二人とも順調に勝ち進んでいた。

 流石は俺が仕込んだファイター。

 だが今はそんな事はどうでもいい。

 

「次の準決勝。戦うのは速水と赤翼さんか」

 

 これは中々。見ごたえのあるファイトになりそうだ。

 俺は二人のファイトを観戦するために、控室を後にした。

 

「おー、流石に準決勝ともなると観客が多いな」

 

 体育館のステージ前には、大勢の生徒が集まっていた。

 熱気がすごいけど、これが全員サモンファイトの観戦者だと思うと感慨深いものがある。

 前の世界でもこれくらい人気があったら良かったのにな~。

 

「それでは只今より、準決勝第二試合を行います! 選手の方はステージに上がってください」

 

 放送部の人がアナウンスする。ようやく始まるようだ。

 

「上手側、二年A組。速水(はやみ)学人(がくと)君」

 

 速水委員長がステージ上に姿を見せる。

 堂々とした様子で、緊張の欠片も感じられない。

 てか速水の下の名前、始めて知ったかも。

 

「続いて下手側、二年A組。赤翼(あかばね)ソラさん」

 

 続けて赤翼さんがステージ上に姿を現す。

 の、だが……めっちゃプルプルしてるな。誰がどう見ても緊張してる。

 流石に大勢に見られながらのファイトは不慣れか。

 

「赤翼さん、大丈夫かな?」

 

 少し心配になる。

 だけど信じよう。あれだけ頑張ってきたんだ、

 きっと彼女は乗り越えてくれる。

 

「まぁ問題があるとすれば、相手はあの速水だという事だな」

 

 速水も俺がサモンを仕込んだ人間だ。

 一筋縄ではいかないファイターに仕上げてある。

 赤翼さん、これは強敵だぞ。

 

「大丈夫か、赤翼」

「は、ひゃい! 大丈夫です」

「流石にこれは真剣勝負だ。下手な情はかけない」

 

 ステージ上の速水はそう言うと、召喚器を手に取った。

 

「ターゲットロック」

 

 二人の召喚器が無線接続される。

 

「赤翼の事情は重々承知している。だが俺にも負けられない理由があるんだ……本気でいかせてもらうぞ」

「ッ! はい」

 

 速水の闘志にあてられたのか、赤翼さんの表情が引き締まる。

 二人は召喚器から、初期手札5枚をドローした。

 

 さぁ、始まるぞ。

 

「それでは準決勝第二試合、始めてください」

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 速水:ライフ10 手札5枚

 ソラ:ライフ10 手札5枚

 

「先攻は俺だ。スタートフェイズ」

 

 まずは速水の番か。

 

「メインフェイズ。〈ダイヤモンド・パキケファロ〉を召喚!」

 

 速水の場に、金剛石の頭を持つ恐竜が召喚された。

 

 〈ダイヤモンド・パキケファロ〉 P6000 ヒット2

 

「更に魔法カード〈フューチャードロー〉を発動。ライフを2点払い、俺は2ターン後のスタートフェイズにカードをドローする」

 

 おっ、俺も愛用しているドローカードだ。

 あれ便利なんだよな~。

 

 速水:ライフ10→8

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 先攻1ターン目は攻撃ができない。

 それを考慮すれば、速水らしい手堅い初動だろう。

 

 速水:ライフ8 手札3枚

 場:〈ダイヤモンド・パキケファロ〉

 

「わ、私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ソラ:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。〈キュアピッド〉を召喚します!」

 

 赤翼さんの場にいつもの可愛らしい天使が召喚される。

 相変わらず安定して動ける人だなぁ。

 

〈キュアピッド〉P3000 ヒット1

 

「〈キュアピッド〉の召喚時効果で、ライフを2点回復します。更に【天罰】発動! 〈キュアピッド〉のパワーを+6000します」

 

 ソラ:ライフ10→12

 〈キュアピッド〉P3000→9000

 

「そして〈シールドエンジェル〉を召喚」

 

 聖天使デッキの防御モンスター。二つの大盾を持った天使〈シールドエンジェル〉が召喚される。

 

 〈シールドエンジェル〉P7000 ヒット2

 

「アタックフェイズ。〈シールドエンジェル〉で攻撃します!」

「〈ダイヤモンド・パキケファロ〉でブロックだ」

 

 シールドエンジェルの大盾と、ダイヤモンド・パキケファロの頭がぶつかり合う。

 本来ならパワーの勝るシールドエンジェルが勝利する。

 だがサモンはそこまで簡単じゃない。

 

「〈ダイヤモンド・パキケファロ〉は1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない」

 

 破壊を免れて、場に残るパキケファロ。

 優秀なブロッカーだ。

 

「でもこれでブロッカーはいません。〈キュアピッド〉で攻撃です!」

「流石にそれは、ライフで受けよう」

 

 キュアピッドの矢が、速水の身体を貫く。

 

 速水:ライフ8→7

 

「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】で、私の場のモンスターは全て回復します。ターンエンド」

 

 ソラ:ライフ12 手札3枚

 場:〈キュアピッド〉〈シールドエンジェル〉

 

 まずはお互い小手調べって感じだな。

 だけど赤翼さん、速水のデッキはここからが本領だぞ。

 

「俺のターンか。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 速水;手札3枚→4枚

 

「メインフェイズ。赤翼、ここからが俺のデッキの真の戦い方だ」

「きますか!」

「見ろ俺の〈元素〉デッキの力を。俺は手札の魔法カード〈ウォーターエレメント〉と〈バブルエレメント〉を【合成】!」

 

 出たな、速水の【合成】戦術。

 

「【合成】は系統:〈元素〉を持つ魔法カードだけが有する専用能力。その効果で俺は、二つの魔法カードを合成し、〈元素〉モンスターをデッキから呼び出す!」

「デッキからモンスターを召喚するんですか!?」

「そうだ。俺は二枚の魔法カードを合成して、デッキから〈ウォーター・プレシオン〉を合成召喚!」

 

 大量の水が渦を巻いて、速水の場で一体の恐竜を形作っていく。

 

 〈ウォーター・プレシオン〉P3000 ヒット1

 

 速水の出した〈ウォーター・プレシオン〉は、普通に召喚してはパワーの低い弱小モンスターだ。

 だけど【合成】で召喚されたなら話は変わる。

 

「〈ウォーター・プレシオン〉の召喚時効果発動! 俺はデッキからカードを2枚ドローする」

 

 速水:手札2枚→4枚

 

「更に【合成】で召喚された〈ウォーター・プレシオン〉が場に存在する限り、俺の系統:〈元素〉を持つモンスターは全て、パワー+2000される」

 

 〈ウォーター・プレシオン〉P3000→5000

 

 上手いな。〈元素〉デッキ特有の手札消費の激しさを上手くカバーしている。

 そして当然、ここで終わるような速水ではない。

 

「俺は魔法カード〈元素再生〉を発動。ライフを2点払い、墓地から系統:〈元素〉を持つカードを2枚まで手札に加える。俺は〈ウォーターエレメント〉と〈バブルエレメント〉を手札に加える」

「〈元素〉の魔法カードが2枚揃った。ということは」

「そうだ、再び【合成】だ! 俺は手札の〈ウォーターエレメント〉と〈エアロエレメント〉を【合成】!」

 

 水と風が合成され、速水の場には台風が生まれる。

 その台風は変質して、一体の首長竜を生み出した。

 

「合成召喚! 現れろ〈タイフーン・ブラキオ〉」

 

 〈タイフーン・ブラキオ〉P10000 ヒット2

 

「パワー10000の大型モンスター!?」

「〈タイフーン・ブラキオ〉は【合成】でしか召喚できない。だがその分、効果は強力だ。〈タイフーン・ブラキオ〉の召喚時効果発動! 相手モンスターを全て疲労させる!」

 

 タイフーン・ブラキオの起こした風により、赤翼さんのモンスターは全て疲労状態となってしまった。

 これでは攻撃をブロックできない。

 

「アタックフェイズだ。まずは〈ウォーター・プレシオン〉で攻撃」

「……ライフで受けます」

 

 ソラ:ライフ12→11

 

「続けて〈ダイヤモンド・パキケファロ〉で攻撃」

「ライフです」

 

 ソラ:ライフ11→9

 

「続け! 〈タイフーン・ブラキオ〉」

「ライフで受けます」

 

 ソラ:ライフ9→7

 

 防御札は手札に無かったか。

 1ターンで、赤翼さんのライフは大きく削られてしまった。

 

「言った筈だ、本気でいかせてもらうと。俺はこれでターンエンドだ」

 

 速水:ライフ5 手札3枚 (内一枚〈バブルエレメント〉)

 場:〈ダイヤモンド・パキケファロ〉〈ウォーター・プレシオン〉〈タイフーン・ブラキオ〉

 

 ライフは赤翼さんの方が上。

 だけど正直盤面は厳しいところがある。速水にはまだ手札もあるし。

 

「さぁ、どうする赤翼」

「……フフ」

「赤翼?」

 

 猛攻を受けた赤翼さんは、ステージ上で小さく笑っていた。

 

「ごめんなさい。なんだか楽しくなってきたんです」

「楽しい?」

「はい。きっと、天川くんもこんな気持ちだったんでしょうね」

 

 緊張のあるファイトの最中。赤翼さんは確かに笑っていた。

 そして、サモンファイトを楽しんでいた。

 

「やっと見つかった気がします。一番大事なこと」

「そうか」

「私、このカード達とサモンをしたいです。だから、絶対に負けたくありません」

 

 その表情に、もはや迷いは無かった。

 もう大丈夫だ。赤翼さんは自分の心に勝ち始めたんだ。

 

「そう簡単に俺を倒せると思うなよ」

「勝ち方は、ドローしてから考えます。とにかく今はいっぱい楽しんで、そして速水くんに勝ちます」

「なら俺も、全力で相手させてもらおう」

「はい! 私のターン!」

 

 赤翼さんの反撃が始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話:【天翼神】エオストーレ

「スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ソラ:手札3枚→4枚

 

「メインフェイズ。魔法カード〈エンジェルドロー〉を発動します。手札から系統:〈聖天使〉を持つモンスター〈キュアピッド〉を捨てて、カードを2枚ドローです」

 

 ソラ:手札2枚→4枚

 

 優秀な手札交換カードだ。

 これは赤翼さん、本気でいってるな。

 

「そして私は〈ジャスティスエンジェル〉を召喚! 召喚コストで手札1枚とライフ1点を払います」

 

 赤翼さんの場に降臨するのは、大槍を持った天使。

 コストはあるが、優秀な〈聖天使〉のレアカードだ。

 

 〈ジャスティスエンジェル〉 P5000 ヒット2

 ソラ:ライフ7→6 手札4枚→3枚

 

「〈ジャスティスエンジェル〉の効果で、私の場のモンスターは全てパワー+2000されます」

 

 〈キュアピッド〉P9000→11000

 〈シールドエンジェル〉P7000→9000

 〈ジャスティスエンジェル〉P5000→7000

 

「アタックフェイズ。〈ジャスティスエンジェル〉で攻撃です」

 

 速水のモンスターは3体全て疲労状態。

 これではブロックできないが……

 

「魔法カード〈ディフェンスシフト〉を発動。俺の場のモンスターを全て回復させる」

 

 やはり握っていたか、防御魔法。

 魔法カードの効果で、速水のモンスターは全て起き上がる。

 

「〈ダイヤモンド・パキケファロ〉でブロック」

 

 ジャスティスエンジェルの大槍を、金剛石の頭で受け止めるパキケファロ。

 本来なら戦闘破壊されるが、パキケファロは自身の効果で破壊を逃れた。

 

「〈ジャスティスエンジェル〉の【天罰】を発揮。私の場の系統:〈聖天使〉を持つモンスター全てに【2回攻撃】を与えます。〈ジャスティスエンジェル〉でもう一度攻撃」

「〈ウォーター・プレシオン〉でブロックだ」

 

 ジャスティスエンジェルの大槍が、ウォーター・プレシオンを貫き、破壊する。

 

「続いて〈キュアピッド〉で攻撃です」

「その攻撃はライフで受けよう」

 

 速水:ライフ5→4

 

「〈キュアピッド〉で2回攻撃」

「ライフだ」

 

 速水:ライフ4→3

 

「今度は〈シールドエンジェル〉で攻撃です!」

「魔法カード〈バブルエレメント〉を発動。その攻撃を無効化する」

 

 無数の泡の壁が現れて、シールドエンジェルの攻撃を無効化する。

 ちなみにこっちが〈バブルエレメント〉のメイン効果だ。

 

「でもまだ2回攻撃が残ってます。もう一度お願い〈シールドエンジェル〉」

「〈タイフーン・ブラキオ〉でブロックだ」

 

 パワーは9000対10000。

 このままではシールドエンジェルが返り討ちにあってしまうが。

 

「今です! 魔法カード〈エンジェルオーラ〉を発動。私の場の〈聖天使〉のパワーを+2000します。更に【天罰】の効果で+3000」

 

 〈シールドエンジェル〉P9000→14000

 

 大幅な強化が入ったシールドエンジェル。これなら戦闘で勝てる。

 シールドエンジェルは手にした大盾で、タイフーン・ブラキオを押しつぶした。

 

「うん、良い感じです。私はエンドフェイズに入って〈シールドエンジェル〉の効果を」

「その前に、俺の魔法カードを発動させてもらおう。手札から〈エレメンタルポーション〉を発動する」

 

 あっちゃあ、これは赤翼さん不味いかもしれないな。

 

「〈エレメンタルポーション〉は自分の墓地から系統:〈元素〉を持つカードを4枚デッキに戻すことで、ライフを4点回復する魔法カード」

「4点回復。それじゃあ!」

 

 速水の墓地から4枚のカードが戻り、ライフを増やす。

 

 速水:ライフ3→7

 

「ライフを上回られた」

「これで赤翼は【天罰】を使えなくなった。よって〈シールドエンジェル〉の効果でモンスターを回復させることもできない」

 

 これは本当にピンチだな。

 聖天使デッキは一度ライフ差をひっくり返されると、立ち直るのに苦労するんだ。

 

「うぅ、ターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ6 手札2枚

 場:〈キュアピッド〉〈シールドエンジェル〉〈ジャスティスエンジェル〉

 

「俺のターンだ。スタートフェイズ。この瞬間〈フューチャードロー〉の効果が発動! 俺はカードを2枚ドローする」

 

 速水:手札0枚→2枚

 

「そしてドローフェイズ」

 

 速水:手札2枚→3枚

 

 ドローしたカードを速水が確認する。

 微かに口角が上がったのを、俺は見逃さなかった。

 これは来るぞ、赤翼さん。

 

「赤翼。このターンで決着をつけようか」

「引いたんですね、キーカードを」

「その通りだ。召喚コストでライフ1点を払い、俺は手札の魔法カード〈バブルエレメント〉と〈ヴォルカニックエレメント〉を【合成】!」

 

 速水:ライフ7→6

 

 大量の水と、凄まじい炎が速水の場で合成されていく。

 火と水の合成。これは来るぞ、速水のエースであるレアカードが。

 

「火と水の力を受け継いで、君臨せよ俺のエース! 〈スチーム・レックス〉を合成召喚だ!」

『ギャオォォォォォォォォォォォォォォォォン』

 

 全身から蒸気を噴き出している、凄まじき巨体の恐竜が、速水の場に降臨した。

 

〈スチーム・レックス〉P9000 ヒット3

 

「これが、速水くんのエース」

「そうだ。生半可なカードでは、こいつは倒せないぞ」

 

 速水の言う通りだった。

 スチーム・レックスはカード効果では破壊されないという特徴を持っている。

 赤翼さんはどうやってコイツを攻略するのか。

 

「アタックフェイズ。まずは〈ダイヤモンド・パキケファロ〉で攻撃だ」

「それは……ライフで受けます」

 

 ソラ:ライフ6→4

 

「続けて、〈スチーム・レックス〉で攻撃!」

「その攻撃は防がせてもらいます。魔法カード〈リブート!〉発動。〈キュアピッド〉を回復させて、ブロックします」

 

 スチーム・レックスの牙が、キュアピッドの身体を貫き、爆散させる。

 普通に見れば攻撃を防いだように見えるが……スチーム・レックスの場合は違う。

 

「〈スチーム・レックス〉は【貫通】を持っている。ヒット数分、3点のダメージを受けてもらうぞ」

「そんな。キャア!」

 

 スチーム・レックスの攻撃が、赤翼さんを襲う。

 

 ソラ:ライフ4→1

 

 ライフを大きく削られた赤翼さん。

 速水のモンスターは全て攻撃を終えたが、アイツはこれで終わらせる男ではない。

 

「この瞬間、魔法カード〈アースエレメント〉を発動! 俺の場の系統:〈元素〉を持つモンスター〈スチーム・レックス〉を回復させ、そのパワーを+3000する」

「回復魔法。やっぱり持ってたんですね」

「これで終わりだ。行け〈スチーム・レックス〉!」

『ギャオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!』

 

 けたたましい咆哮を上げて赤翼さんに襲い掛かるスチーム・レックス。

 この攻撃を受ければ、赤翼さんの負けだ。

 

「今です! 魔法カード〈痛み分けの反射鏡(はんしゃきょう)〉を発動!」

「なに!?」

「〈痛み分けの反射鏡〉は、私が受ける戦闘ダメージを一度だけ相手に反射させます。その代わりに、相手にカードを1枚ドローさせてしまいますが」

 

 赤翼さん、良い発動タイミングだ。

 これなら確実に3点のダメージを、速水に反射させられる。

 

 速水:ライフ6→3 手札0枚→1枚

 

 間一髪で生き残った赤翼さん。

 その光景に体育館にいる生徒たちは一気に沸き上がった。

 そうそう、カードゲームはこういう瞬間が盛り上がるよね。

 

「倒し損ねたか」

「簡単には負けられません。約束したんです、天川くんと決勝で戦うって」

「俺もあいつとファイトをしたいんだがな」

 

 速水は今さっきドローした1枚の手札に視線を落とす。

 

「……エンドフェイズ。魔法カード〈ディフェンスシフト〉を発動。俺の場のモンスターを全て回復させて、ターンエンドだ」

 

 速水:ライフ3 手札0枚

 場:〈ダイヤモンド・パキケファロ〉〈スチーム・レックス〉

 

 さて、赤翼さんはなんとか生き残った訳だけど。

 速水の場にはブロッカーが2体。

 赤翼さんの場には〈ジャスティスエンジェル〉と〈シールドエンジェル〉。

 しかもライフ量のせいで【天罰】は使えない。

 手札はお互いに0枚。

 このドローフェイズで全てが決まる。

 

「私のターン。スタートフェイズ……ドローフェイズ!」

 

 ソラ:手札0枚→1枚

 

 さぁ、何を引いた!

 

「きた! メインフェイズ。私は魔法カード〈逆転の一手!〉を発動します」

「そのカードは天川が使っていた」

 

 噓だろ、確かにデッキには入れてたけど1枚だけの保険だぞ。

 よく引き当てられたな。

 

「〈逆転の一手!〉は、自分のライフが4以下の時、手札が3枚になるようにカードをドローできます」

 

 ソラ:手札0枚→3枚

 

 これで手札が増えた。

 後は逆転のカードを引いたかどうかだけど。

 

「……ありがとうございます。きてくれて」

 

 赤翼さんが優しく微笑んでいる。

 そうやら引き当てたみたいだ。

 

「まずは魔法カード〈スーパーポーション〉を発動。私の場の〈シールドエンジェル〉を破壊して、ライフを5点回復します」

「ここで回復に成功したか!」

 

 シールドエンジェルの犠牲で、赤翼さんのライフが増える。

 

 ソラ:ライフ1→6

 

「これで【天罰】の効果を使えます」

「だが〈ジャスティスエンジェル〉だけでは俺のライフを削りきれないぞ」

「大丈夫です。一番大切なカードが、私を助けてくれますから」

 

 赤翼さんは自分の手札を見る。

 そしてその中から1枚のカードを選び、仮想モニターに投げ込んだ。

 

「私は……系統:〈聖天使〉を持つモンスター。〈ジャスティスエンジェル〉を進化させます!」

 

 まばゆい光と共に、ジャスティスエンジェルが魔法陣に飲み込まれていく。

 来るか、赤翼さんの切り札!

 

「天空の光。今翼と交わりて、世界を癒す輝きとなる! 最後まで一緒に戦ってください。〈【天翼神(てんよくしん)】エオストーレ〉を進化召喚!」

 

 光臨したのは、ロップイヤーのウサ耳が生えた大天使。

 それは、あまりにも美しい光の化身だった。

 体育館から一瞬音が消える。それ程に神々しい見た目だった。

 

 〈【天翼神】エオストーレ〉P11000 ヒット3

 

 あぁ、もう……テンション上がるなおい!

 

「キッタァァァ! SRカード!」

 

 俺は思わず声を上げてしまう。

 だけどそれは、体育館にいる生徒も同じだった。

 

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 体育館が熱狂の渦に飲み込まれる。

 やはりSRカードの登場は盛り上がるものなんだ。

 

「それが、赤翼の切り札か」

「はい。天川くんが助けてくれた、私の一番大切なカードです」

「だが良かったのか? 〈ジャスティスエンジェル〉を素材にしては、二回攻撃ができないぞ」

「大丈夫です。だって、一撃で終わらせますから」

「そうか……なら来い!」

「はい! アタックフェイズ。 〈【天翼神】エオストーレ〉で攻撃!」

 

 エオストーレが背中から生えた巨大な翼を羽ばたかせる。

 俺は知っているぞ、あのカードの効果を。

 赤羽さんの狙いを!

 

「アタック時に〈エオストーレ〉の【天罰】を発動!」

 

 エオストーレの手の平に、強い光が集まっていく。

 

「〈エオストーレ〉の攻撃時に、私のライフが相手より多ければ、相手は自身のモンスターを2体選んでデッキの下に戻さなければいけません」

「だが〈スチーム・レックス〉は効果では破壊されな――ッ!」

「これは破壊ではありません。だから〈エオストーレ〉の効果も有効です」

 

 速水の場にはモンスターが2体。

 実質的な全体除去だ。

 エオストーレは手の平に集めた光を、相手モンスターにぶつける。

 

「くっ」

 

 速水の場から、スチーム・レックスとダイヤモンド・パキケファロが消滅する。

 これで速水を守るモンスターはいなくなった!

 

「手札が0枚なら、もう怖くはありません! お願い〈エオストーレ〉!」

 

 エオストーレは翼を羽ばたかせ、速水に光のエネルギーをぶつけた。

 

「……俺の負けか」

 

 速水:ライフ3→0

 

 ソラ:WIN



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話:決勝戦! ツルギVSソラ

 準決勝第二試合、赤翼さんと速水の戦い。

 制したのは赤翼さんだった。

 

 ファイトが終わり、ステージ上に展開されていた立体映像が消失していく。

 

「準決勝第二試合。勝者! 赤翼ソラさん!」

 

 放送部のアナウンスが、体育館に響き渡る。

 緊張の糸が切れた赤翼さんは、ステージ上で深呼吸をしていた。

 そんな彼女の元に、速水が近づく。

 

「俺もまだまだ修業不足だったようだ。完敗だよ」

「速水くん」

「いいファイトだった。決勝も頑張ってくれ」

「はい!」

 

 敗北を認め、勝者を労い、潔くステージを去る速水。

 いいなぁ、ああいうのカッコいいよな。

 

「3位決定戦と決勝戦を始める前に、10分間の休憩時間をとります。該当試合に出場する生徒は控室で待機していてください」

 

 放送部のアナウンスが流れる。

 そっか、もう決勝戦か。

 俺はまだステージ上にいる赤翼さんと目を合わせる。

 

「……」

「……」

 

 特別言葉は交わさない。

 だが赤翼さんの目には、必ず勝ちたいという意志が宿っているように思えた。

 

 それだけやる気があれば十分だ。

 俺は踵を返して、静かに控室へと向かうのだった。

 

 そして一人ぼっちの控室。

 そこで俺は、自分のデッキと向かい合っていた。

 

「相手は赤翼さんか……嬉しいやら何やら。複雑な感じだな」

 

 だが戦わなくてはならない。

 腕も確かだ。今日のトーナメントで一番の強敵だろう。

 

「……約束、か」

 

 赤翼さんとの間に交わした約束を思い出す。

 俺はシンプルにデッキを渡したいのだが、赤翼さんはそう簡単に受け取ってくれない。

 このランキングトーナメントで1位になる。その為に赤翼さんは全力を出してくるだろう。

 

「俺もそれに応えるべきなんだろうけど……少し悩むな」

 

 適当なタイミングで投了しても、きっと彼女は納得しない。

 ならば、出てくる答えはただ一つ。

 

「真面目にファイトするしかないか」

「決勝戦が始まります。ステージに上がってください」

 

 放送部の部員が、俺を呼びに来た。時間経過を早く感じる。

 俺はデッキを召喚器にセットして、覚悟を決める。

 戦う。楽しむ。結局俺には、それしかないんだ。

 俺は深呼吸を一つして、控室を後にした。

 

「それでは只今より『校内サモンランキングトーナメント』決勝戦を行います! 選手の方はステージに上がってください」

 

――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!――

 

 流石に決勝戦という事もあって、観客の盛り上がりは最高潮だな。

 俺もワクワクしてきた。

 

「上手側、二年A組。天川ツルギ君!」

「よっし、頑張るぞ」

「下手側、二年A組。赤翼ソラさん!」

 

 ステージ下手側から登場する赤翼さん。

 緊張している様子はない。シンプルに覚悟を決めてきたような感じだ。

 

「緊張とかは大丈夫なのか?」

「大丈夫です。天川くんは」

「余裕。むしろワクワクしてる」

「私もです……天空くん! 全力でいきます」

「そうこなくっちゃな」

 

 正直まだ迷いはあるし、明確な答えは出せれてない。

 ただそれでも、このファイトの中で何かが見つかるかもしれない。

 なら俺は1人のファイターとして、サモンに向き合うだけだ。

 

「「ターゲットロック!」」

 

 俺と赤翼さんの召喚器が無線接続される。

 お互いに初期手札5枚をドローして、準備完了だ。

 

「それでは決勝戦。始めてください!」

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 ツルギ:ライフ10 手札5枚

 ソラ:ライフ10 手札5枚

 

「先攻は俺だ! スタートフェイズ。メインフェイズ」

 

 手札を確認する。

 うん、まずは防御を固めよう。

 

「俺は〈トリオ・スライム〉を召喚!」

『スララー!』

 

 俺の場に一匹のスライムが召喚される。

 

 〈トリオ・スライム〉P1000 ヒット1

 

「召喚時効果発動。デッキから同名カードを1枚手札に加える。更に今手札に加えた〈トリオ・スライム〉を召喚。召喚時効果で3枚目を手札に加えて、それも召喚だ!」

『スララ~』

『スラァァァ!』

 

 俺の場には3体のスライムが揃った。

 てか今更だけど、こいつら鳴き声可愛いな。

 

 〈トリオ・スライム〉(B)P1000 ヒット1

 〈トリオ・スライム〉(C)P1000 ヒット1

 

 これでブロッカーは揃ったが、先への保険はかけさせて貰おう。

 

「魔法カード〈トリックカプセル〉を発動! ライフを2点払って、デッキから好きなカードを1枚除外する」

 

 ツルギ:ライフ10→8

 

 俺がデッキからカードを1枚抜き取ると、空中に出現した巨大カプセルが、それを飲み込んだ。

 

「〈トリックカプセル〉で除外したカードは、2ターン後のスタートフェイズに俺の手札に加わる。俺はこれでターンエンドだ」

 

 コンボパーツが揃わないと、先攻1ターン目はこれくらいしか出来ないのが辛いね。

 

 ツルギ:ライフ8 手札3

 場:〈トリオ・スライム〉(A)、(B)、(C)

 

 さぁて、赤翼さんはどんな初動を見せてくれるのかな?

 

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ソラ:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。私は魔法カード〈ホーリーポーション〉を発動します!」

「まずは回復カードか」

「手札の系統:〈聖天使〉を持つカード〈キュアピッド〉を見せることで、ライフを3点回復して1枚ドローします」

 

 ソラ:ライフ10→13 手札5枚→6枚

 

 いいなぁ、ついでの1枚ドロー効果。

 古今東西ああいうのは強いのだ。

 

「〈キュアピッド〉を召喚します。更に、私のライフが相手よりも多いので【天罰】も発揮されます!」

「早速パワー9000にするのか」

 

 〈キュアピッド〉P3000→P9000

 

「続けていきます。〈ヒーラーエンジェル〉を召喚です!」

 

 赤翼さんの場に、看護師のような見た目をした天使が召喚された。

 少し厄介だな。あのカードの効果は強いぞ。

 

 〈ヒーラーエンジェル〉P4000 ヒット1

 

「〈ヒーラーエンジェル〉の召喚時効果を発動します。私の墓地から系統;〈回復〉を持つ魔法カードを1枚除外して、その効果をコストを払わずに発動します!」

「コスト踏み倒しは強いんだよぉ」

 

 誰だよあんなカード入れたの!

 俺だよ!

 

「私は墓地の〈ホーリーポーション〉を除外して効果発動。ライフを3点回復して1枚ドローします」

 

 ソラ:ライフ13→16 手札4枚→5枚

 

 手札が中々減らないのが恐ろしいな。

 それに赤翼さん、絶対まだ何か仕掛けてくるぞ。

 

「うん。いいカードを引きました。私は〈アクエリアスエンジェル〉を召喚します」

 

 赤翼さんの場に召喚された3体目の聖天使。

 それは大きな水瓶を抱えた、女性の天使だった。

 

 〈アクエリアスエンジェル〉P4000 ヒット2

 

 あれも【天罰】状態だと、結構面倒くさいカードだな。

 

「召喚時に〈アクエリアスエンジェル〉の【天罰】を発動。相手の場に存在するパワーが一番低いモンスターを全て疲労させます!」

 

 俺の場にはP1000の〈トリオ・スライム〉が3体。

 見事に全員疲労だ。

 

「アタックフェイズ。まずは〈ヒーラーエンジェル〉で攻撃です! そしてこの瞬間、〈ヒーラーエンジェル〉の【天罰】を発動します!」

 

 〈ヒーラーエンジェル〉の【天罰】効果で、赤翼さんはカードを1枚ドローした。

 

 ソラ:手札4枚→5枚

 

 さて、このまま総攻撃を食らうと大ダメージ不可避なのだが。

 俺もそう簡単には通させない。

 

「魔法カード〈トライアングル・バースト〉を発動! 自分の場に同名モンスターが3体存在するなら、相手モンスターを全て破壊する!」

「全体除去魔法!?」

「力を借りるぞスライム! トライアングル・バーストォ!」

 

 3体のスライムが力を合わせて、破壊エネルギーを作り出す。

 解放された破壊エネルギーは、赤翼さんの聖天使を焼き払った。

 しかし……全てが破壊されたわけではない。

 

「〈アクエリアスエンジェル〉は、相手の魔法カードでは破壊されません」

「まぁ、そうなるよな」

「モンスターは2体破壊されましたけど、まだ攻撃はできます。〈アクエリアスエンジェル〉で攻撃です」

「流石にそれはライフで受けよう」

 

 〈アクエリアスエンジェル〉の水瓶から放たれた水流が、俺に襲い掛かる。

 

 ツルギ:ライフ8→6

 

「……ターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ16 手札5枚

 場:〈アクエリアスエンジェル〉

 

 ライフ差は10点で、相手の手札は5枚。

 う~ん、流石に少しキツいか?

 まぁ、ドローしてから考えればいいか。

 

「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ツルギ:手札2枚→3枚

 

 おっ、いいタイミングでいいカードを引けた。

 どうでもいいけど、この世界に転移してから「引き」の強さがめっちゃ上がってる気がする。

 

「引いたからには、使わせてもらうか。メインフェイズ! 俺は魔法カード〈ザ・トリオ・ドロー!〉を発動! 自分の場に同名モンスターが3体存在する場合、カードを3枚ドローできる」

「一気に3枚もドローできるんですか!?」

「その代わり、条件重めだけどな」

 

 俺は場の〈トリオ・スライム〉3体の力を借りてカードをドローする。

 

 ツルギ:手札2枚→5枚

 

 よし、いい感じのカードが来た。

 

「俺は〈トリオ・スライム〉(A)を素材にして、〈ファブニール〉を進化召喚!」

 

 1体のスライムが魔法陣に飲み込まれて、巨大なドラゴンへと姿を変える。

 

 〈ファブニール〉P10000 ヒット?

 

「〈ファブニール〉の召喚時効果発動。相手モンスター1体を破壊して、そのヒット数をコピーする。俺が破壊するのは〈アクエリアスエンジェル〉だ!」

 

 ファブニールの吐いたブレスが、アクエリアスエンジェルを爆散させる。

 魔法効果で破壊できなくとも、モンスター効果なら破壊できるんだよ!

 

 〈ファブニール〉ヒット?→2

 

 いつもならここでアタックを仕掛けるが、今回はいいものを引いてある。

 

「俺は場の〈幻想獣〉モンスター、〈ファブニール〉を素材にして、〈ジャバウォック〉を進化召喚だ!」

「進化モンスターを進化素材に!?」

 

 まぁこの世界ならセオリー無視もいいところだよな。

 だけどこいつは少し特別だぞ。

 

 ファブニールが魔法陣に飲み込まれると、俺の場には恐ろしい外見をしたドラゴンが出現した。

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 〈ジャバウォック〉P8000 ヒット3

 

「パワーが落ちてる?」

「だけど効果持ちだ。アタックフェイズ! 〈ジャバウォック〉で攻撃!」

 

 今の赤翼さんにブロッカーはいない。

 ジャバウォックの爪が、赤翼さんに襲い掛かる。

 

「ライフで受けます」

 

 ソラ:ライフ16→13

 

「〈ジャバウォック〉の効果発動。このカードが進化モンスターから進化している場合、【2回攻撃】を得る」

「ヒット3の2回攻撃ですか!?」

「その通りだ。〈ジャバウォック〉で、もう一度攻撃!」

「っ! ライフです」

 

 ソラ:ライフ13→10

 

「更に追撃だ。魔法カード〈エヴォリブート!〉を発動!」

「リブート、モンスターを回復させる魔法ですか」

「大正解。〈エヴォリブート!〉の効果で、俺は〈ジャバウォック〉を回復させる。更に、回復させたのが進化モンスターだった場合、ヒットを+1する」

 

 〈ジャバウォック〉ヒット3→4

 

 強化された上で回復するジャバウォック。

 この攻撃が通れば、かなり有利になるぞ。

 

「3回目の攻撃だ。行け〈ジャバウォック〉!」

「魔法カード〈デストロイポーション〉を発動します!」

 

 おっ、ここで回復魔法を撃ってきたか。

 

「自分のデッキを上から5枚墓地に送って、その中のモンスターカード1枚につき、ライフを1点回復します」

 

 赤翼さんのデッキから5枚のカードが墓地に送られる。

 

 墓地に送られたカード。

 魔法〈ホーリーポーション〉〈トリックゲート〉

 モンスター〈ジャスティスエンジェル〉〈シールドエンジェル〉〈ジェミニエンジェル〉

 

「墓地に送られたモンスターは3枚。ライフを3点回復します」

「だけど〈ジャバウォック〉の攻撃は止まらない」

 

 ジャバウォックは赤翼さんに、3回目の攻撃を食らわせた。

 

 ソラ:ライフ10→13→9

 

 さて、本当はここでスライムの攻撃を宣言したいのだが……

 

「〈エヴォリブート!〉のデメリット効果で、このターンの間、俺は進化ではないモンスターで攻撃できない。ターンエンドだ」

 

 ツルギ:ライフ6 手札2枚

 場:〈トリオ・スライム〉(B)〈トリオ・スライム〉(C)〈ジャバウォック〉

 

 さぁ、痛手は負わせたぞ。

 どうする赤翼さん?

 

「……ふふ」

 

 赤翼さんが微笑んでいる。

 そうだ、あの子がサモンをする時はいつもそうだ。

 

「楽しそうだな。赤翼さん」

「はい。私、今サモンがすごく楽しいです」

「なら良かった。サモンは楽しいもんなんだ。思いっきり好き放題してやろうぜ」

「はい! 私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ソラ:手札4枚→5枚

 

 いい表情で、ターンを始める赤翼さん。

 いいなぁ、ああいうの。

 心の底からサモンを楽しんでいる、真のファイターの表情だ。

 だからこそ俺は、あの子にデッキを渡したいんだ。

 

「メインフェイズ。手札を1枚捨てて、魔法カード〈再臨〉を発動します」

 

 ソラ:手札5枚→4枚

 

「その効果で、墓地から系統:〈聖天使〉を持つモンスター1体を召喚します。更に【天罰】の効果で、もう1体モンスターを墓地から召喚します」

「出たな〈聖天使〉の壊れカード」

 

 本来手札コスト1枚でモンスター1体の蘇生なのに、なんだあの性能。

 1枚で普通の蘇生カード2枚分の働きとかおかしいだろ。

 だれだよ、あのカードデッキに入れた奴!

 俺だよ!

 

「墓地から蘇って。〈シールドエンジェル〉〈ジャスティスエンジェル〉」

 

 速水との試合でも活躍した、2体の聖天使が赤翼さんの場に登場する。

 

 〈シールドエンジェル〉P7000→P9000 ヒット2

 〈ジャスティスエンジェル〉P5000→P7000 ヒット2

 

「〈ジャスティスエンジェル〉の召喚コストで、手札1枚とライフ1点を払います」

 

 本当に、召喚コストまでは踏み倒せないのが救いだよな~。

 

 ソラ:ライフ9→8 手札3枚→2枚

 

「更に魔法カード〈リボーンギフト〉を発動です」

「げぇ! マジかよ」

 

 〈リボーンギフト〉は、墓地からモンスターを召喚したターンにのみ使える魔法カード。

 デッキから2枚のドローができるのだけど、俺あのカード1枚しか入れてなかった筈だぞ。

 赤翼さん引きの運強くないか!?

 

「〈リボーンギフト〉の効果でカードを2枚ドローします」

 

 ソラ:手札1枚→3枚

 

 ドローしたカードを見た赤翼さんは、表情を明るくする。

 

「〈キュアピッド〉を召喚します」

「2体目か!」

 

 赤翼さんは【天罰】状態を達成しているから、キュアピッドも厄介な高パワーモンスターとなっている。

 

 ソラ:ライフ8→10

〈キュアピッド〉P3000→P9000

 

「まだまだいきます! 魔法カード〈オーバーライフドロー〉を発動です」

 

 更にドローカードを発動する赤翼さん。

 どんだけドローするんだよ。

 もう変な笑いしか出ないわ。

 

「このカードは、自分のライフが相手より4点以上多い場合にのみ発動できる魔法カード。その効果で、ライフ2点を払ってカードを2枚ドローします」

 

 ソラ:ライフ10→8 手札1枚→3枚

 

 結構デッキを掘り下げられたなぁ。

 だけどこのくらいの方が、俺も燃えてくる。

 

「アタックフェイズです」

「来い!」

「まずは〈シールドエンジェル〉で攻撃します」

「〈トリオ・スライム〉(B)でブロックだ」

 

 シールドエンジェルの大盾に、あっさりと潰されてしまうスライム(B)。

 だが相手は【天罰】状態の〈聖天使〉デッキ。

 こんなものでは終わらない。

 

「〈ジャスティスエンジェル〉の【天罰】で、〈聖天使〉は全て【2回攻撃】を得ています。〈シールドエンジェル〉でもう一度攻撃」

「〈トリオ・スライム〉(C)でブロック!」

 

 最後のスライムも、シールドエンジェルの大盾に潰されてしまった。

 

「今度は〈ジャスティスエンジェル〉で攻撃です!」

「じゃあその攻撃を貰うぜ。魔法カード〈トリックゲート〉を発動!」

 

 突如現れたゲートに、ジャスティスエンジェルは飲み込まれてしまう。

 

「〈トリックゲート〉の効果で、攻撃対象を変更する。〈キュアピッド〉を攻撃しろ!」

 

 キュアピッドの前にゲートの出口が開き、ジャスティスエンジェルの攻撃に晒される。

 しかしパワーはキュアピッドの方が上。

 ジャスティスエンジェルは仲間によって、返り討ちにされてしまった。

 

「これでもう【2回攻撃】はできない」

「うぅ……」

 

 悔しそうな顔をする赤翼さん。

 そして少し考え込む。

 恐らくキュアピッドで追撃をするか悩んでいるのだろう。

 

 仮に俺が2枚目の〈トリックゲート〉を握っていたら、大きな痛手だからな。

 

「……アタックフェイズを終了します」

 

 攻撃しない方を選択したか。

 

「アタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果を発動します。ライフを1点回復です」

 

 ソラ:ライフ8→9

 

「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】で、私のモンスターは全て回復します。ターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ9 手札3枚

 場:〈シールドエンジェル〉〈キュアピッド〉

 

 ターンを終える赤翼さん。

 手札は3枚あるけど、除去カードは無いのか。

 とりあえず、ある程度の痛手は追わせられたけど、俺の方に何か決定打があるわけじゃない。

 

 なにより、今の俺は……赤翼さんと派手にやり合いたくて仕方がなかった。

 

「楽しいよな、赤翼さん」

「……はい」

「今の赤翼さんが相手だからこそ。俺は、俺のファイトを派手に魅せたくて仕方がない」

「天川くん」

「ちょっと付き合ってもらうぜ。ライバル!」

「はい!」

 

 さぁ、暴れようじゃないか!

 

「俺のターン!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話:【紅玉獣】VS【天翼神】

「スタートフェイズ! この瞬間〈トリックカプセル〉の効果発動。除外していたカードを手札に加える」

「手間をかけてまで手札に加えたカード。一体何なのでしょう」

「それを今から見せてやる。俺はカード効果で手札に加わった〈ダイヤモンドボックス〉の効果発動!」

「このタイミングで発動する魔法カードですか!?」

「〈ダイヤモンドボックス〉は、効果で手札に加えないと発動できない代わりに、カードを3枚ドローできる優れものだ」

 

 まぁこのコンボのせいで〈トリックカプセル〉は制限カードなんだけどな。

 

 ツルギ:手札1枚→4枚

 

「また強力なドローコンボ」

「そしてここからドローフェイズだ」

 

 ツルギ:手札4枚→5枚

 

 あっという間に初期手札と同じ枚数になる。

 これには体育館の観客も驚いてる様子だ。

 

 さて、ここからが腕の見せ所だ。

 

「メインフェイズ。俺は〈コボルト・ウォリアー〉を召喚!」

 

 犬の頭を持った、モフモフの獣人戦士が召喚される。

 

 〈コボルト・ウォリアー〉P3000 ヒット2

 

「更に〈スナイプガルーダ〉を召喚」

 

 予選のバトルロイヤルで使ったせいか、これを召喚した瞬間に体育館から悲鳴が聞こえてきた。

 失礼な奴だ。

 

 〈スナイプガルーダ〉P3000 ヒット1

 

「さぁアタックフェイズだ。俺は〈コボルト・ウォリアー〉で〈キュアピッド〉に指定アタック!」

 

 〈スナイプガルーダ〉のおかげで、俺の場の〈幻想獣〉は【指定アタック】を持っている。

 コボルト・ウォリアーは剣を掲げて、キュアピッドに突撃する。

 だがこのままではキュアピッドにパワー負けしてしまう。

 

「〈コボルト・ウォリアー〉は、墓地の〈幻想獣〉の数だけパワー+1000される」

 

 〈コボルト・ウォリアー〉P3000→P5000

 

「それでも〈キュアピッド〉には敵いません」

「だからこうする。魔法カード〈トリックドーピング〉を発動! 相手モンスターと戦闘を行っている自分モンスターを、パワー+8000する」

「それじゃあ!」

「行け! 〈コボルト・ウォリアー〉!」

 

〈コボルト・ウォリアー〉P5000→P13000

 

 コボルト・ウォリアーの剣が、キュアピッドを両断する。

 

「まだまだ行くぜぇ! 今度は〈ジャバウォック〉で〈シールドエンジェル〉を指定アタックだ!」

 

 パワーは8000対7000。

 ジャバウォックの勝ちだ。

 

 ジャバウォックの爪が、シールドエンジェルを切り裂く。

 

「これでモンスターはいない。〈ジャバウォック〉で2回攻撃!」

「ライフで受けます。キャア!」

 

 ジャバウォックの攻撃が、赤翼さんを襲う。

 

 ソラ:ライフ9→6

 

「〈スナイプ・ガルーダ〉でも攻撃だ!」

 

 背負ったライフルを構えて、スナイプガルーダは赤翼さんを狙撃する。

 

 ソラ:ライフ6→5

 

 ライフが俺を下回った。

 これで赤翼の【天罰】状態は解除だ。

 

「さぁ、返しのターンはどうするのか。見せてもらうぜ。ターンエンド!」

 

 ツルギ:ライフ6 手札2枚

 場:〈ジャバウォック〉〈コボルト・ウォリアー〉〈スナイプ・ガルーダ〉

 

 【天罰】状態を解除されたせいか、赤翼さんは少しだけ焦りの表情を見せている。

 だが深呼吸を一つしてから、自分のターンを始めた。

 

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 勢いよくカードをドローする赤翼さん。

 

 ソラ:手札3枚→4枚

 

 引いたカードを見た瞬間、彼女は何かを確信した様子になった。

 

「……ありがとうございます。来てくれて」

「何か引いたみたいだな」

「はい。一番大事なカードを。だから……このターンは、一気に攻めます!」

 

 赤翼さんの纏う雰囲気が変わった。

 俺は強いワクワクを感じながら、身構える。

 

「メインフェイズ。まずは〈ヒーラーエンジェル〉を召喚します。その召喚時効果で、墓地の〈ホーリーポーション〉の効果をコピー!」

 

 さっき〈デストロイポーション〉で墓地にいったカードか。

 てか何で俺、あのカード2枚もデッキに入れたんだよ。

 仕方ないじゃん、強いんだもん!

 

「ライフを3点回復して、1枚ドローです」

 

 ソラ:ライフ5→8 手札3枚→4枚

 

 あっという間にライフ差が出てしまった。

 これは不味いかな?

 

「魔法カード〈再臨〉を発動! コストで手札1枚を捨てます」

 

 なんで俺、あのカードも2枚入れたんだろう?

 だって赤翼さん困ってたからつい……

 過去の自分に一言物申したい気分だ。

 

「墓地から〈ジャスティスエンジェル〉と〈シールドエンジェル〉を召喚です」

 

 そして蘇る黄金コンビ。

 ジャスティスエンジェルの召喚コストで、赤翼さんは手札1枚とライフ1点を払う。

 

 ソラ:ライフ8→7 手札2枚→1枚

 〈ジャスティスエンジェル〉P5000→P7000 ヒット2

 〈シールドエンジェル〉P7000→P9000 ヒット2

 

 さて、赤翼さんの手札は残り1枚。

 おそらくあのカードは……

 

「いきます、天川くん!」

「あぁ、来い!」

「私は系統:〈聖天使〉を持つモンスター、〈ヒーラーエンジェル〉を進化!」

 

 赤翼さんは、1枚のカードを仮想モニターに投げ込む。

 すると、巨大な魔法陣がヒーラーエンジェルを飲み込んだ。

 

「天空の光。今翼と交わりて、世界を癒す輝きとなる。最後まで一緒に戦って! 〈【天翼神(てんよくしん)】エオストーレ〉を進化召喚!」

 

 魔法陣が弾け飛び、赤翼さんの場にウサ耳の大天使が光臨する。

 速水との勝負でフィニッシャーになった、SRカードだ。

 

 〈【天翼神】エオストーレ〉P11000 ヒット3

 

 準決勝に続いて召喚されたSRカード。

 体育館のボルテージは一気に最高潮へと達した。

 

 やっぱ盛り上がるよな~、切り札の召喚は。

 まぁそれはそれとして。

 

「これは流石に不味いかもだな」

「そして私にとっては良いことです。アタックフェイズ! 〈エオストーレ〉で攻撃します!」

 

 攻撃宣言と同時に、エオストーレはエネルギーを溜め始める。

 来るぞ、【天罰】効果が!

 

「攻撃時に〈エオストーレ〉の【天罰】を発動! 相手はモンスター2体を選んで、デッキの下に送らなければいけません」

 

 相手に選ばせるデッキ送り効果。

 防ぎにくくて、厄介だ。

 さて、どうする。

 先の事を考えるならば……

 

「……〈コボルト・ウォリアー〉と〈スナイプ・ガルーダ〉をデッキに戻す」

 

 エオストーレが放った光によって、2体のモンスターが場から消滅する。

 そしてここからがメインの攻撃なのだが。

 

「お願い〈エオストーレ〉!」

「使うべきは、この瞬間だ! 魔法カード〈ギャンビットドロー!〉を発動」

「このタイミングで!?」

「効果で俺は〈ジャバウォック〉を破壊して、カードを2枚ドローする」

 

 ツルギ:手札1枚→3枚

 

 爆散するジャバウォック。

 だがコイツはただで死ぬモンスターじゃない。

 

「〈ジャバウォック〉が破壊された時、俺はカードを1枚ドローする」

 

 頼むよ何か来てくれ……

 

 ツルギ:手札3枚→4枚

 

 来た!

 

「ひとまずその攻撃はライフで受ける」

 

 ツルギ:ライフ6→3

 

 ライフが致死圏内に入る。

 体育館の観客も、勝負あったかという雰囲気になっている。

 勝ちを確信しかけているのは、赤翼さんも同じだ。

 

「この攻撃で終わらせます。〈エオストーレ〉で2回攻撃!」

 

 ジャスティスエンジェルの効果で得た2回攻撃を、エオストーレが使ってくる。

 エオストーレは翼を羽ばたかせ、光のエネルギーを雨あられと撃ち込んできた。

 喰らえば負ける。

 

 だが当然、俺がそんな事を許すわけがない。

 

「〈エオストーレ〉の攻撃宣言時に、魔法カード〈ダイレクトウォール〉を発動だぁ!」

「〈ダイレクトウォール〉!?」

「このカードは、自分の場にモンスターが存在しない状態で、相手モンスターに攻撃宣言された時に使える魔法カード。その効果は、相手のアタックフェイズを強制終了させる!」

 

 薄く透明なバリアが展開され、エオストーレの攻撃から俺を守ってくれる。

 万が一を考えて、入れておいて正解だったな。

 アタックフェイズが強制終了した事で、エオストーレの攻撃も強制的に中断させられた。

 

 どんでん返しに次ぐどんでん返し。

 観客の生徒たちのテンションもすごい事になっていた。

 

「天川くん、最初からこの為に自分のモンスターを?」

「若干賭けではあったけど、だいたい正解」

「やっぱり、天川くんはすごいですね」

「そんな事はない。ただの努力の成果だよ」

 

 カードプールに関しては、ほぼチートだけど。

 

「それでもです。私、今すごく楽しいんです。天川くんみたいなファイターと戦えて、ワクワクしてるんです」

「それは俺も同じだ。赤翼さんとのファイトが楽しくて仕方ない」

 

 そう、だからこそ伝えなくちゃならない。

 

「俺は赤翼さんにサモンを続けて欲しいと思ってる。赤翼さんが楽しいと思える未来に進んで欲しいと思ってる。それだけは忘れないで欲しいんだ」

「天川くん」

 

 そうだ。赤翼さんはもう、俺にとって大切なサモン仲間なんだ。

 だからこそ、デッキを受け取って欲しいし、楽しくサモンを続けて欲しい。

 このファイトの中で見せてくれた笑顔を、俺は守りたい。

 

「私、絶対に天川くんに勝ちたいです」

「ライバルとしてか?」

「はい」

「じゃあ俺も、ライバルとして全力で抗ってやる」

「お願いします! アタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果発動。ライフを1点回復します」

 

 ソラ:ライフ7→8

 

「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】効果で、私の場のモンスターを全て回復させます」

 

 起き上がる聖天使たち。

 これでブロッカーも十分ということだ。

 

「ターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ8 手札0枚

 場:〈ジャスティスエンジェル〉〈シールドエンジェル〉〈【天翼神】エオストーレ〉

 

 さぁ頑張って勝ち取った俺の番だ。

 

「俺のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ツルギ:手札3枚→4枚

 

 おっ、いいものが来た。

 

「メインフェイズ。俺は魔法カード〈ザ・ファンタジーゲート〉を発動! 効果でデッキから系統:〈幻想獣〉を持つモンスター1体を手札に加える」

「サーチカードですか」

「俺が手札に加えるのは……〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉!」

 

 俺がカーバンクルを手札に加えた瞬間、体育館がざわめいた。

 赤翼さんも警戒している。

 ですがご安心ください。今回は無限ループではございません。

 

「さぁ行くぞ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

 

 俺の場に巨大なルビーが出現して、砕ける。

 その中から、緑の体毛をしたウサギ型モンスターが姿を現した。

 

『キュップイ!』

 

 〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1

 

 対峙する2体のSRカード。

 この世界では中々お目にかかれない光景に、体育館から一瞬音が消えた。

 

「〈カーバンクル〉……天川くんのエースカード」

「そうだ。いつもはループコンボに使ってるけど、今回は違う」

「えっ?」

「赤翼さんには、コイツの真の力を一つ見せてやる」

 

 そう。何もループするだけが〈カーバンクル〉の価値じゃない。

 コイツが俺の相棒たる所以。その一つは専用のサポートカードの存在だ!

 

「いくぞ! 魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動!」

 

 魔法カードを発動すると、カーバンクルの周りに無数の紅玉が出現した。

 

「このカードは、自分の場に〈【紅玉獣】カーバンクル〉が存在する場合にのみ発動できる魔法」

「〈カーバンクル〉専用の魔法カード!?」

「そうだ。そしてその効果によって、相手の場のモンスター全てを、パワーマイナス無限にする!」

「パワーマイナス無限!?」

「さぁ行け〈カーバンクル〉! 必殺の、ルビー・イリュージョン!」

 

 カーバンクルが『キュップイ』と鳴くと、周囲に浮かんでいた紅玉が激しい光を放ち始めた。

 その紅い光が、赤翼さんの聖天使たちを飲み込み、弱体化させる。

 

 〈【天翼神】エオストーレ〉P11000→P0

 〈ジャスティスエンジェル〉P7000→P0

 〈シールドエンジェル〉P9000→P0

 

「パワーが0になったモンスターは、存在を維持できず破壊される」

「だったら。〈【天翼神】エオストーレ〉の【ライフガード】を発動! 一度だけ破壊を無効にします」

「でもパワーは0のままだ。もう一度破壊される」

「そんな」

 

 パワーを失った聖天使たち存在を維持できなくなり、その場で爆散した。

 SRカードやレアカードが、たった1枚のカードで全滅する。

 そのあまりの光景に、体育館にいる生徒たちは唖然となっていた。

 

「さぁ、これで守るモンスターはいなくなった。アタックフェイズ!」

 

 派手にいくぞ!

 

「〈カーバンクル〉で攻撃! 更にその時、魔法カード〈幻想の継承〉を発動!」

 

 発動コストとして、デッキを上から5枚除外して、ライフを2点払う。

 

 ツルギ:ライフ3→1

 

「このカードは、自分の墓地から進化モンスター1体以上を含む、2体の幻想獣を除外する事で、除外したモンスターのヒットの合計分、場のモンスター1体のヒットを上げる魔法カード!」

「ヒット数を上げるカードですか」

「俺は墓地から〈ジャバウォック〉と〈コボルト・ウォリアー〉を除外して、場の〈カーバンクル〉のヒット数を+5にする」

 

 〈【紅玉獣】カーバンクル〉ヒット1→6

 

「行け、〈カーバンクル〉!」

「……ライフで受けますッ」

 

 カーバンクルの体当たりによって、赤翼さんのライフが削られる。

 

 ソラ:ライフ8→2

 

 手札も場も壊滅させた。さぁ、今度こそ追い詰めたぞ。

 

「……」

 

 俺は最後に残った1枚の手札を見る。

 これを上手く使えば……きっと俺は……

 

「……ターンエンド」

 

 ツルギ:ライフ1 手札1枚

 場:〈【紅玉獣】カーバンクル〉

 

 さて。ゲームエンドが見えてきた。

 お互いにライフは残り僅か。

 赤翼さんに至っては手札も場も0枚。

 体育館からは、赤翼さんの敗北を悟ったような声も聞こえる。

 だが……

 

「私の……ターン!」

 

 赤翼さんの心は、まだ死んでいない。

 そう来なくっちゃな。

 最後まで何があるのか分からないのが、カードゲームの醍醐味なんだ。

 

「スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ソラ:手札0枚→1枚

 

 おそらくこれが最後のドロー。

 赤翼さんは恐る恐る、引いたカードを確認する。

 そして彼女は、笑顔を咲かせた。

 

「きた! メインフェイズ。私は〈アンカーエンジェル〉を召喚します!」

 

 赤翼さんの場に、大きな錨を手にした少女型天使が召喚される。

 

 〈アンカーエンジェル〉P1000 ヒット0

 

「〈アンカーエンジェル〉は、単体だと強くないモンスターです」

「だけどそのカードには」

「はい。〈アンカーエンジェル〉の【天罰】を発動!」

 

 アンカーエンジェルは、手にした錨を墓地へと投げ入れる。

 

「〈アンカーエンジェル〉の召喚に成功した時、私のライフが相手より多ければ、墓地から系統:〈聖天使〉を持つモンスター1体を手札に加えます」

「てことは、この状況で回収するのは一つしかないよな」

「そうです。私が回収するのは〈【天翼神】エオストーレ〉!」

 

 赤翼さんの手札に、再びSRカードが来た。

 予想外の展開に、周りのテンションもすごい事になっている。

 

「もう一度お願い。私は〈アンカーエンジェル〉を素材にして、〈【天翼神】エオストーレ〉を進化召喚!」

 

 そして、再び光臨する大天使。

 そのヒット数は3。俺のライフを削るには十分な数字だ。

 しかも俺の場には、疲労状態の〈カーバンクル〉しかいない。

 

「今度こそ、終わらせます! アタックフェイズ。〈【天翼神】エオストーレ〉で攻撃!」

 

 エオストーレの手に光が集まり、カーバンクルをデッキに戻そうとしている。

 

 さて、サモンのルールでは攻撃宣言と攻撃時効果発動の間に、魔法カードを使えるタイミングが存在する。

 俺は最後の手札に視線を落とす。

 

 〈トリックミラージュ〉

 

 エオストーレが攻撃宣言した今、これを発動すれば俺の勝ちだろう。

 赤翼さんにはもう手札が無いから確実だ。

 ならきっと、今このタイミングで発動を宣言すればいい事。

 だけど……俺の心が待ったをかける。

 

 対峙している赤翼さんを見る。

 きっとここで俺が勝てば、彼女は潔くデッキを手放すだろう。

 俺が何を言っても、諦める事を選択するだろう。

 

 赤翼さんは、今この瞬間もサモンを楽しんでいる。

 本当に、尊敬するくらいに、いい表情をしている。

 

 だからこそ俺は、そんな彼女の笑顔を……奪いたくなかった。

 

「……できないよなぁ」

 

 どうかバレませんように。

 俺は手にしたカードを……発動しない選択をした。

 

 召喚器が処理を進めて、俺の場から〈カーバンクル〉がデッキに戻される。

 

「ライフで受ける」

 

 エオストーレの攻撃が当たる瞬間、俺の心は驚くほどに落ち着いていた。

 

 ツルギ:ライフ1→0

 ソラ:WIN

 

「えっ」

 

 ステージの上で、赤翼さんが小さく声を漏らす。

 中々現実を咀嚼できないのか、呆然としながら消える立体映像を見ていた。

 

「『校内サモンランキングトーナメント』決勝戦! 見事制したのは、二年A組。赤翼ソラさんだー!」

 

――わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!――

 

 耳をつんざくような歓声が響く。

 それを聞いてようやく、赤翼さんは現状を理解したようだ。

 

「私……勝ったんですか」

「あぁ。ランキング1位おめでとう」

「……」

「赤翼さん?」

「や……やったぁぁぁ!」

 

 大きな勝利を手にしたからか、赤翼さんは大きく跳ねて喜んだ。

 俺もその姿を見て、さっきの選択は間違いじゃなかったと、自分に言い聞かせた。

 

 というか赤翼さん、めっちゃテンションぶち上がってるな。

 これ後で恥ずかしくなるパターンな気がする。

 

 でも、それも面白そうだから、俺はあえて放置する事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話:きっと、これでいいんだ

 トーナメントも無事に終わって、放課後になる。

 俺はさっさと家に帰ろうと思ったのだが……クラスメイトに拉致された。

 で、今何をしているのかと言うと。

 

「野郎ども、宴だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 誰が音頭を始めたのか、気づけば教室で祝勝会が始まっていた。

 

「てかみんな準備早いな」

「「「どうせ天川が上位だと思って、予め準備してました!」」」

「気ぃ早すぎだし、期待しすぎだろ」

 

 認めて貰えたと思えば聞こえは良いかもだけど。

 そもそも他の奴が上位に食い込む可能性を捨てないでやれよ。

 あとクラスメイトの皆さま、テンション高いね。

 教室でお菓子やらジュースやら広げながら、完全にどんちゃん騒ぎである。

 

「つか先生止めないのかよ」

「先生いわく、今日だけはOKだそうです」

「へー。って赤翼さん」

 

 小さいから一瞬気づかなかった。

 

「はいジュース。天川くんの分です」

「ありがとーって、いやいや。そういうのは俺がやるから!」

 

 紙コップにジュースを注ごうとする赤翼さんを、俺は慌てて止める。

 

「えっ、でも」

「俺2位。今日の1位であり主役は君。OK?」

「えっと、確かに優勝できましたけど……なんだか落ち着かなくて」

「勝者の特権だろ。もっとドンと構えていいと思うぞ」

「うぅ~、難しいです」

 

 やっぱり赤翼さんは、こういう場面には慣れてないんだな。

 というか、まだ勝利の実感を持てていない節すらある。

 

「あの……天川くん」

「ん?」

「ありがとうございます。私とファイトしてくれて」

「いやいや。トーナメントの都合と赤翼さんの頑張りの結果だろ」

「それでもです。私、天川くんとのファイトがすごく楽しかったんです」

 

 赤翼さんは、まるで小さな子どもの様に目を輝かせている。

 

「サモンがすっごく楽しくて。〈聖天使〉を使うのが楽しくて。この子たちと一緒に戦うのが、楽しくて……だから」

「本当に自分がデッキを受け取っていいのか。なんて考えてないか?」

「……はい」

「赤翼さん。資格ならもう十分に持ってるだろ」

 

 そうだ。あれだけ〈聖天使〉を使いこなした。

 そして約束通りに、ランキングの1位にもなった。

 これ以上何が必要なのか、逆に教えて欲しいくらいだ。

 

「赤翼さんは、ちゃんと目標を達成したんだ。だから細かい事は考えず、堂々とそのデッキを使えばいい」

「天川くん」

「俺はな、楽しくファイトしてくれる人が増えれば、それでいいんだ。だから赤翼さんは、自分に素直になって、思いっきりファイトを楽しんでくれればいい」

「……ありがとうございます。天川くん」

「ツルギ」

「はい?」

「呼び方。ツルギでいい」

「えっと……えぇ!?」

 

 赤翼さんの顔が真っ赤になった。

 そんなに変な事言ったか?

 

「い、いいんですか?」

「別にいいだろ。だって俺たちサモン仲間だし、もう友達だろ?」

 

 硬直する赤翼さん。

 えっ、もしかしてそう思ってたの俺だけだった!?

 だとしたら恥ずかしい上に、泣くんだけど!

 

「あの、赤翼さん?」

「……ソラです」

「ん?」

「私の名前、ソラ、です……ツルギくん」

「うん。じゃあ……ソラ」

「はいです!」

 

 うーん、女の子を下の名前で呼ぶのは少し恥ずかしいな。

 でも……ソラが笑顔を向けてくれた瞬間、そんな事はどうでもよくなった。

 きっと、あの時の選択も間違ってなかった筈だ。

 

「……あの、ツルギくん……あの時」

「ソラー! いっしょに写真撮ろー!」

「あっ」

「ほら、呼ばれてるぞ」

 

 俺はソラの背中を軽く押す。

 

「は、はい……あの、ツルギくん」

「なんだ?」

「本当に、ありがとうございました!」

「……そう思うなら、サモンを楽しむ心を忘れないでくれよ」

「はい」

 

 そう短く言い残して、ソラは女子グループの中へと入っていった。

 いいよね、未来ある若者って感じだ。

 あと華やかさを感じる。

 

「おい天川! お前はこっちだァ!」

「男は男同士で語り合おうぜ!」

「……」

 

 両腕を掴まれて、男子の集団に連れ込まれる俺。

 やだー! 俺も華やかな世界がいいよー!

 だがそんな心の叫びも虚しく、俺は男子グループの中でもみくちゃにされるのだった。

 

 

 

 

 ジュースを飲み過ぎると、トイレに行きたくなるものだ。

 

「アイツらめ~、ジュース飲ませるにも程があるだろ」

 

 やたら構ってくる男子集団を上手くかわしながら、俺はやっとの思いでトイレに居た。

 あぁ、癒される。

 トイレって神が生み出した楽園なんじゃね?

 

 そんな事を考えていると、男子トイレの扉が開く音がした。

 

「隣、失礼するぞ」

「……せめて一個空けろよ、速水」

「そう硬い事を言うな」

 

 隣のトイレで用を足し始める速水。

 ちなみに速水はトーナメントで3位になった。

 

 これが皆のテンションが高かった最大の理由。

 ランキング上位3名を、俺達二年A組が独占したのだ。

 どおりで先生もやたら喜んでいたわけだよ。

 生徒と一緒に宴会に参加してたし。

 

「速水も頑張って抜け出してきたのか?」

「まぁ、そんなところだな」

「だよな~。お前ももみくちゃにされてたし」

「天川程ではないさ」

「言うじゃないか」

 

 用を足し終わり、手を洗う。

 隣では速水も同じ事をしている。

 

「祝われるのはいいけど、少し戻るのが億劫な感じするな」

「そうだな……なぁ天川。一つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

 

 藪から棒に。

 

「あの決勝戦なんだが……お前、最後に何を握っていた」

「……なんの事だ?」

 

 ハンカチで手を拭きながら、平然を装う。

 えっ、なに? 気づかれてるの?

 

「とぼけるな。最後のターン、お前の手札は1枚あっただろ」

「まぁ、そうだな」

「あれは何か、防御カードだったんじゃないのか?」

「……なんでそう思うんだ?」

「簡単な話だ。負けられない決勝の舞台。あの状況なら誰でも焦りを覚える筈だ。なのに天川、お前はステージ上で表情一つ変えていなかった」

「それはほら、ポーカーフェイス的な」

「赤翼の最後の攻撃の時、お前は一瞬手札を見て、何かを迷っただろ」

「……あぁ、そうだな」

 

 完全に見抜かれてる。流石は優等生だ。

 これはもう隠しきれない。

 俺は召喚器から一枚のカードを取り出して、速水に見せた。

 

「〈トリックミラージュ〉……それが最後の手札か」

「あぁ。このカードはモンスター1枚を犠牲にして、発動ターン中に受ける全てのダメージを相手に反射させる魔法カード」

「あの時天川の場にはモンスターがいた。赤翼のライフ3で〈エオストーレ〉のヒットも3だった。それを発動していれば」

「俺の勝ちだったな」

「何故発動しなかった! 赤翼の事を馬鹿にしているのか!」

 

 速水に胸倉を掴まれて、詰め寄られる。

 まぁ、普通に考えればそうなるよな。

 

「逆だ速水。ソラの事を考えたからこそ、俺は発動しない事を選んだんだ」

「何?」

「あの場面で発動すれば、俺は勝てた。だけどそうすればきっと、ソラはデッキを受け取ってくれなくなる。俺がどう説得しても、きっと無理に返してきた」

「それをさせない為にか」

「俺はあくまでサモンを楽しむ人間に力を貸したいだけだ。ランキングに関しては必要最低限の成績があればいい。それに……」

 

 これがある意味一番大事なこと。

 

「お前、ソラを曇らせてまで勝ちたいと思うか?」

 

 多分、この世界では異端の考え方。

 だけどデッキを俺に返せば、きっとソラの表情は曇った。

 それが一番、俺にとっては許し難かった。

 

「一人の女の子が救われたんだ。なら、良い事じゃないか」

 

 俺がそう言うと、速水は掴んでいた胸倉から手を離した。

 

「……お前の考えは理解した」

「なら助かる」

「だがッ! 俺は一人のファイターとして、その行為を褒めることはできない!」

「……まぁ、そうなるよな」

 

 それは俺も重々承知の上だ。

 

「だから天川、約束しろ。次に赤翼と戦う時は、本当に全力を出す事を」

「言われなくても、そのつもりだ」

 

 次がいつ来るかは分からない。

 だけど、その時が来たからには、俺は全力でソラとぶつかる。

 それは俺の中で決定事項だ。

 

「あぁ速水。一応言っておきたいんだけど」

「安心しろ。赤翼には何も言わない」

「……ありがとな」

「お前の為ではない。委員長として、クラスメイトに配慮するだけだ」

 

 そう言い残して、速水は男子トイレを去っていった。

 本当に、そうしてくれると助かる。

 真実は俺達の中だけで止めよう。

 大切なのは、ソラの心を守れたことだ。

 だから……

 

「きっと、これでいいんだ」

 

 次からは迷う理由も無い。

 なら早いうちに、ソラに再戦の約束を取り付けてもいいかもしれない。

 俺はそう自分に言い聞かせながら、教室へと戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話:新しい世界の日常

 あのトーナメントから一ヶ月が経過した。

 この世界に転移してからの時間もそれなりに経過したので、自分なりには慣れてきたつもりだ。

 

 街の風景をぼんやりと眺める。

 あちらこちらでサモンをやる人間の声が聞こえてきて、立体映像が嫌でも目に入ってくる。

 街頭のテレビを観れば、サモン関連企業のCMが流れていて、新パックの告知には人が群がっていた。

 

 そんな変化した日常にも、だいぶ動じなくなってきた自分がいる。

 本当に、慣れたもんだ。

 

 慣れたといえば、なんだかんだ言って二回目の中学校生活にも慣れてきた。

 とは言っても、学力チートなんて都合のいいものは無いので、ほとんど勉強し直しみたいなものだ。

 ただし、サモンに関しては話が変わるけどな。

 

 校内ランキング第二位になった事で、学校での環境はそこそこ変化した。

 具体的にはサモンの教えを乞う奴とか、ランキングの座をかけて俺に挑んでくる奴とか。

 あと妙にボディタッチしてくる女子とか。

 なんか色々な奴が出てきた。

 

 とりあえず、サモンの知識に関しては遠慮なく教えて、挑んできた奴は返り討ちにした。

 あと、妙な女子からは全力で逃げて……幸運にもソラが助けてくれた。

 

「でもソラの奴、あの女子達に何言ったんだろうな」

 

 不思議とソラが対応した女子は、その後俺に絡んでこなくなった。

 一度何をしたのか聞いてみたけど「秘密です」と返されて終わった。

 速水に聞いたら「世の中には知らない方がいい事もある」と返された。

 そんなにヤバい方法をとっただろうか?

 

 まぁアレだ……深くは考えないようにしよう。

 

 それはさておき、今日は日曜日。

 若者が青春謳歌する曜日である。

 具体的には、クラスメイト達と遊びに出かけるのだー!

 

「あぁ、俺今めっちゃ青春してる」

 

 前の中学時代には、こんなイベント無かったからな。

 ちょっとテンション上がっている俺である。

 ちなみに卯月からは「お兄、キモい」言われた。

 

「で、今日はみんなでカラオケ&ショッピング……やべぇ、リア充してるわ」

 

 ちなみに名目は、トーナメントの打ち上げ。

 なんで終わってすぐではないのかと言うと……主にソラの事情である。

 

「まさかあのチンピラ、即警察に捕まってたとはな」

 

 流石にこの世界で、サモンの結果を無視したり、デッキを捨てたりするのは一発アウトだったようだ。

 あのチンピラは捕まって、これから裁判にかけられるらしい。

 その当事者として、ソラはお母さんと一緒に警察や弁護士さんのとこへ通っているのだ。

 ちなみに俺も何回か行った。

 

「なんか一発で実刑確実らしいけど……サモン至上主義って怖いな」

 

 ちょっと前言撤回。やっぱ俺この世界に慣れてないわ。

 うん、ややこしい事は考えないようにしよう。

 今は目の前の青春を謳歌するのだ。

 

「えーっと。待ち合わせ場所は、駅前の噴水……」

 

 目的地の駅前の噴水まで近づくと、見慣れた白髪の女の子が立っていた。

 カーディガンとスカートの私服姿。

 あんまり見ない格好をいざ目の前にすると、こう……ドキッとする。

 

「あっ、ツルギくん! こっちです」

 

 向こうから呼ばれたので、俺は我に帰ってから近づいた。

 

「おはようソラ」

「はい。おはようございます」

「他の奴らはまだか?」

「えっと、それなんですけど……」

 

 ソラは申し訳なさそうに、スマホの画面を見せてくる。

 開いてるのはSNSのチャット画面。

 

「ん? 『私達は全員遅れるから、二人でしばらく遊んでて』ってなんじゃこりゃあ!?」

「どういう事なんでしょうね?」

「速水は? こういう時真っ先に来てそうな速水は!?」

 

 俺は藁にも縋る思いで、自分のスマホを開く。

 すると速水から一通のメッセージが届いていた。

 

『すまない。だが俺は馬に蹴られたくない』

「いやどういう事だ」

 

 まるで意味がわからんぞ!

 

「なんか……妙な気づかい的なものを感じるんだが」

「えっと、どうしましょう?」

「他の奴が来ないんじゃ仕方ないだろ。俺たちだけで、派手に遊んでやれ」

「ほひゅ!?」

 

 ソラが突然面白い声を出して、顔を赤らめた。

 

「えっ、私とツルギくんで、ですか!?」

「他に誰がいるんだよ」

「ふふふ、二人っきりですか!?」

「まぁ、そうなるな」

 

 というかソラさんや、あまりそういう事を言わないでくれ。

 変に意識してしまう。

 あっ、俺もなんか顔熱くなってきた。

 

「まぁそういう事だから、行こうぜ。行き先は任せる」

「ふぇ!? 私が決めるんですか」

「女の子の行きたい場所なんて、俺には分からん」

「えっと、ツルギくんが行きたい場所でもいいんですよ」

「それ実質カードショップ一択だぞ」

「ですよね〜」

 

 サモンファイターたるもの、常にカードショップはお友達なのだ。

 まぁ最近は色々と取引相手的な面もあるけど。

 

「でも、それがいいかもしれません」

「ん?」

「カードショップなら、ツルギ君とファイトができます。私はそっちの方が楽しいと思います」

 

 花が咲くような笑顔で、ソラはそう言ってくれる。

 なんだよ……またドキッとするじゃんか。

 

「だから私は、ツルギくんの行きたい場所に行ってみたいです」

「……しょうがないなぁ。じゃあそうするか」

「はい!」

 

 まさか女の子連れてカードショップに行く日が来るとはなぁ。

 前の世界ならありえない現象だぞ。

 でもまぁ……ソラが楽しんでくれるなら、それでいいか。

 

「あっでもツルギくん。一つだけ約束してください」

「なんだ?」

「今日のファイトでは、手加減禁止ですよ」

 

 ドキッ!?

 

「ナ、ナンノコトデショーカ」

「ツルギくん、私に手加減したこと……ありませんか?」

「な、なんでそう思うんだ?」

「女の子の勘と秘密です」

 

 怖いよぉ……とりあえず後で速水に問いただしておこう。

 いや、アイツは口が硬いか。

 マジで女の勘か?

 

「ツルギくん、顔真っ青ですよ」

「だ、誰から聞いたんだ」

「そう答えるってことは、やっぱりツルギくん手加減してたんですね!」

 

 しまった、罠だったか!

 

「もう! 手加減するなんて失礼ですよ!」

「マジで申し訳ない。でも色々思うことがあったんだ」

「むぅ〜」

 

 頬を膨らませて怒るソラ。

 でも仕方がなかったんだよぉ。

 

「ツルギくん?」

「はい」

「もう手加減なんてしないでくださいね」

「……わかってるさ」

 

 もう、やる理由も無いからな。

 

「ツルギくんが手加減した理由、やっぱりこのデッキのことですか?」

「あぁ。それ以上にソラを泣かせたくなかったってもある」

「私を、ですか?」

「俺からすれば貴重なサモン仲間で、ライバルだからな。そう簡単に消えて欲しくなかったんだよ」

 

 全部俺の本心。

 ソラというファイターを守りたかったという気持ちが、一番大きかったんだ。

 

「そう……だったんですか」

「でもまぁ、こうしてデッキを受け取ってくれたわけだし。今日は思いっきり本気でいかせて貰うぞ!」

 

 それがソラに対する、せめてもの罪滅ぼしになるのなら。

 俺は今できる限りのファイトしよう。

 

「私、簡単には負けませんよ」

「俺だって。トーナメントのリベンジマッチも兼ねてるからな」

 

 結局俺たちは、根っからサモンファイターらしい。

 お互いに顔を見合わせて、くすりと笑い声が出てしまう。

 

「じゃあ、カードショップに行きましょうか」

「なら案内人は俺だな。近くに隠れ家的な店があるんだよ」

「じゃあ私は、ツルギくんのエスコートついて行きます」

「大層な言い方だなぁ」

 

 でもまぁ、悪くない日常の光景だ。

 そんな事を考えていると、ソラの小さな手が、俺の左手掴んできた。

 

「早く行きましょう。ボーッとしてると他の人達が来ちゃいます」

「お、おう。そうだな」

 

 なんかソラさん、グイグイ来てませんか?

 急に手を繋ぐと、変に意識しちゃうんですが!

 

「さぁ、行きましょう」

「了解だ」

 

 だけど決して、嫌な気分ではない。

 

 街の光景は先程変わらず。

 誰かがサモンやって、誰かそれを観る。

 そしてテレビにはサモン関係のCMが流れている。

 

 ここは異世界。カードゲーム至上主義の世界。

 そして、俺に与えられた、新しい日常のある世界。

 

「ツルギくん、今日もサモン楽しみましょうね!」

「あぁ、派手に暴れてやる」

 

 ここなら俺は、何にでもなれかもしれない。

 ここはきっと、俺にとって都合のいい世界なのだ。

 

 さぁ今日も、カード引こう。

 何かを勝ち得るために。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章:中学生編②
第二十五話:春がくる。出会いもくる。


 時が流れるのは、本当に早いものでして。

 我が家が異世界転移をしてから数ヶ月。

 気がつけば中学三年生の春を迎えていた。

 

 ついに来ましたよ、お受験シーズン。

 そして俺にとってはドキドキの一年開始だ。

 

 目指すはサモンの名門校、聖徳寺(しょうとくじ)学園。

 アニメにも出てきた、夢のある学校だ。

 

 そのために俺は、色々と受験準備をしたりしている。

 勉強会は主に、ソラ速水が仲間だ。

 

 俺の勉強会に参加した事で、二人のサモンの成績は飛躍的に上昇した。

 とは言っても、中学のサモンのテストってほとんどが基本ルールと、ちょっとした応用問題くらいしか出ない。

 正直俺からすれば簡単過ぎるんだ。

 当然ながら、俺はサモンのテスト満点である。

 

 とはいえ、聖徳寺学園の入試問題はもっと難しい。

 過去問集を買ってきたが、中々歯応えのある問題だった。細かい裁定とか聞かれるし。

 で、サモンの勉強をソラ速水に教えているのだが、逆に俺は二人から一般科目を教えてもらっている。

 だって英語とか数学苦手なんだもん。

 

 そんな忙しい受験勉強の日々なのだが、やはり息抜きは必要だ。

 

「あぁ、俺今解放されてる」

 

 外で思わずそんな事呟いてしまう。

 今日は日曜日。

 いつもなら三人で勉強会なのだが、頑張って休日をもぎ取ってきた。速水が強敵でした。

 で、俺はこの休日に何をするのかというと……

 

「いざ、ショップ大会へ!」

 

 当然サモンである。

 だってこれが一番楽しいんだもん!

 サモンの息抜きにサモンをする生活は素晴らしい!

 そんな事を以前、速水の前で言ったらドン引きされたけど。

 

「今日は新しく調節したデッキの試運転〜。派手に動けたら最高だな」

 

 いつも通り腰から召喚器をぶら下げて、俺はカードショップへ向かう。

 

 外の風景は相変わらずだ。

 老若男女問わずサモンをする人々がいて、それが当たり前の光景として受け入れられている。

 流石にもうこれに関しては驚かない。慣れた。

 だけど、今でもたまに異世界のギャップを感じることがある。

 

「おっ」

 

 ふと街頭テレビに目を向けると、アイドルのライブ映像流れていた。

 歌って踊るアイドル達。

 だが何がスゴいって、その周りでモンスターの立体映像が飛んでいる事だ。

 

「アイドルもサモン必須の世界。スゴい話だよ」

 

 召喚器の立体映像技術用いたパフォーマンス。

 それがこの世界におけるアイドルの当たり前らしい。

 最初にテレビで見た時は驚いたよ。

 

「まぁ、誰でも彼でもサモンしてる世界じゃあ当然か」

 

 なんだか最近、物事を受け入れる力が強くなった気がする。

 異世界転移を経験すれば、そうもなるか。

 

「今日はデカいショップだな。人が多けりゃ対戦回数も増える」

 

 いつもは隠れ家的ショップに通っているのだが、ショップ大会目当てなら話は変わる。

 規模の大きいショップには人が集まりやすい。

 故に沢山ファイトができるのだ。

 

「今日は新デッキの調節も兼ねてるからな〜。腕のあるやつと戦いたいぜ」

 

 まぁ現実はそう上手く出会えないんだけど。

 実は異世界転移をしてから何度か、大規模な大会に出場したんだ。

 最初は結構ワクワクしてたんだけど……今ではちょっと後悔してる。

 何故かって? 簡単な話だ。

 

「みんな……弱いんだよ……」

 

 大規模な公式大会でさえ、軽々と優勝できてしまう現実。

 俺の部屋には何個かのトロフィーが飾られているが、正直ありがたみが薄い。

 聞くところによると、もっとランクの高い大会なら強い奴も集まるらしいけど……

 

「招待制の大会がほとんどって……一般市民の俺には無理だろ」

 

 少なくとも今は。

 やはりコツコツ頑張るしかないらしい。

 

「とりあえず今日は、ショップ大会楽しむか」

 

 相手が誰であろうと派手に暴れてやる。

 禁止ワードはソリティアです。

 

「ん?」

 

 ふと視界に、妙な人影が目に入った。

 スマホの画面を見ながらキョロキョロと周りを見ている女の子。

 体格的に間違いなく女の子だ。

 ただ、まるで芸能人のように帽子とサングラスで顔を隠している。

 変な人もいるもんだなぁ……

 

「あっ」

 

 あっ、目があった。

 瞬間、女の子はこちらに近づいて来た。

 

「あの、いいかしら?」

「は、はい。なんでしょうか?」

「このカードショップへはどちらに行けばいいのかしら」

 

 女の子がスマホの画面を見せてくる。

 示されていた目的地は、今から俺が行く予定のショップだった。

 

「あぁ、ここならそこの道を真っ直ぐ行って、すぐそこだよ。というか俺が今から行く場所」

「あら、そうなの。それは幸運だわ」

「よかったら案内しようか? どうせ目的地同じなんだし」

「いいのかしら?」

「いいのいいの。この時間帯に行こうしてるって事は、ショップ大会目当てだろ。ならライバルは丁重に扱わないとな」

「フフ。貴方紳士なのね」

 

 紳士とか生まれて初めて言われたわ。

 てかソラといい、この娘といい、この世界女の子は声が可愛いな。

 

「じゃあ早速案内してもらいましょうか。こっちの道だったわね」

「あの、逆なんですが」

「……ジョ、ジョークよ」

 

 帽子の後ろから出ている、栗色のポニーテールを揺らしながら、女の子はそう言う。

 本当かなぁ? 完全に素を感じたけど。

 まぁそれに関しては突っ込まない事にしよう。

 

「案内人が先行するから、それについて来てくれればいいよ」

「そうするわ」

 

 というわけで、俺は女の子をカードショップまで案内する事になった。

 どうでもいいけど、俺最近女の子に縁がある気がする。

 まぁ「モテ期到来!」とか自分で言うのは悲しいのでしないけど……

 

「貴方、この辺りに住んでるの?」

「そうだけど、君は遠征さん?」

「正解。珍しいでしょ」

 

 道中女の子と他愛無い会話をする。

 ちなみにこの世界にはカードショップが乱立しているので、ショップ大会の出場に困ることは無い。

 故に、彼女のような遠征してショップ大会に出る人は珍しいのだ。

 

「珍しいけど、それ以上にワクワクする」

「ワクワク?」

「いつもとは違う人とのファイトって、新鮮な感じがするからさ、滅茶苦茶ワクワクしないか?」

「フフ……貴方、面白いこと言うのね」

「変わり者とは言われる」

 

 実際期待感はスゴいんだ。

 地元の大会常連者は大体顔見知りになりつつあるからな。

 新鮮なデッキで、お手合わせしてもらいたい。

 

「あっそうだ。君の名前は?」

「えっ」

「俺はツルギ。これから戦うライバルの名前くらい、知っておきたいんだよ」

「アイ……そう呼んでちょうだい」

「了解っと、もう見えてきた」

 

 目的地である大きいカードショップ。

 これで案内人の仕事は終わりだ。

 あとはアイに受付の場所を教えて……

 

「ん、なんか騒がしい?」

 

 ショップの前で、子どもの泣き声聞こえる。

 それも複数だ。

 嫌な予感がする。俺は大急ぎで、騒ぎの元へと駆け寄った。

 

「おい、どうした?」

「グズっ、ツルギ兄ちゃん」

「このおじさん、わたしたちのカードをとったの」

 

 顔見知りの子ども達指差した人物を見る。

 そこには刺青腕を晒した、いかにも悪そうな男が二人立っていた。

 

「オイオイ、人聞きが悪いなガキンチョよぉ」

「俺達はレアカードを正しく使ってやるだけだよ」

「お前ら、カードギャングか」

 

 やってる事見て、すぐにピンときた。

 カードギャング。その名の通り、カードに関する悪事ならなんでもする違法集団。

 レアカードの強奪なんか日常茶飯事だ。

 ……治安悪いなこの世界。

 

「だとしたら? どうするんだ?」

「奪ったカードを返してやれ」

「俺らが、はいそうですかって返す思うか?」

「おいガキ、お前も大会参加者だろ? 痛い目みたくなきゃデッキ置いてけや」

 

 まぁ、話し合いでどうにかなる相手じゃないよな。

 俺は喧嘩なんかできる人間じゃないけど、この世界なら最高の武器がある。

 

「ターゲットロック!」

 

 俺は召喚器を構えて、ギャングの持っている召喚器に無線接続させた。

 

「あぁん? どういうつもりだ」

「俺とファイトしろ。俺が勝ったら、奪ったカードを全て返せ」

「お前が負けたどうするんだ?」

「デッキでもなんでもくれてやる」

「……いいだろう。勝負だ」

 

 よし。ギャングもサモン脳で助かった。

 

「ただし、2対1だけどなぁ!」

「!?」

 

 気づけばもう一人のギャングも召喚器を構えていた。

 どうやら変則ファイトで、確実に俺を潰したいらしい。

 きっと普通の人なら、ここで「卑怯者!」とか叫ぶんだろうけど。

 

「へぇ、面白そうじゃん」

 

 俺にはお楽しみにしか思えなかった。

 2対1のファイト。確実に勝ってやる。

 

「キヒヒ。ターゲット――」

「ターゲットロック」

 

 ギャングその2が召喚器構えた瞬間、俺の後ろから一人女の子がターゲットロックを宣言した。

 

「まったく、見てられないわ」

「アイ!?」

「助太刀するわよ。ああいう男って、私嫌いなのよ」

「いや、俺一人でも大丈夫」

「強がりはよしなさいな。2対1で勝てるわけないでしょ」

 

 本当に大丈夫なんだけどなぁ。

 まぁ初対面だとそうなるか。

 

「おい女ァ。お前何を賭ける気だ?」

「なんでも良いわ。負けるつもりもないもの」

「テメェ、その言葉忘れんなよ!」

 

 睨み合う俺達。

 アイが少し心配だけど、さっさと終わらせてカードを取り返すか。

 

「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話:植物使いの少女

「先攻はオレだァ! スタートフェイズ!」

 

 さっさと終わらせたかったけど、先攻は取られたか。

 いや、先に攻撃できるから後攻で良かったかもしれない。

 

「メインフェイズ! オレはデッキを上から8枚除外して、〈ディフェンダー・マンモス〉を召喚だァ!」

 

 ギャングの場に、巨大な機械マンモスが召喚される。

 もはや懐かしさすら感じるカードだな。

 

〈ディフェンダー・マンモス〉P10000 ヒット0

 

 どうでもいいけど、この世界の悪い奴って〈機械〉デッキを使う奴が多い気がする。

 

「レアカード1枚じゃ終わらせねぇぜ」

「はいはい」

「続けてオレは〈ギフトキャリアー〉を召喚だァ!」

 

 続けて召喚されたのは箱型ロボット。

 あれは除外してなんぼのカードなんだけどなぁ……なんで召喚したんだ?

 

〈ギフトキャリアー〉P2000 ヒット1

 

「更に! 〈ダブルランサーロボ〉を召喚だァ!」

 

 二本の槍を持ったロボットが召喚される。

 

〈ダブルランサーロボ〉P6500 ヒット2

 

 あれもレアカードではあるけど、先攻1ターン目で出すカードじゃないだろ。

 これアレだな。このギャングよりは、以前戦った東校の奴の方が強いな。

 

「そして俺は魔法カード〈オイルチャージ〉を発動! 手札を増やすぜェ」

 

 ギャングその1:手札1枚→3枚

 

「これだけのレアモンスターがいれば、もうお前に勝ち目はないだろ! ターンエンドだ!」

 

 ギャングその1:ライフ10 手札3枚

 場:〈ディフェンダー・マンモス〉〈ギフトキャリアー〉〈ダブルランサーロボ〉

 

 ドヤ顔でターンを終えるギャング。

 なんというかもう……笑いを堪える方が辛いわ。

 確かにレアカードは強いものも多いけど、それは適切なタイミングで使ってこそだ。

 あんな風に無闇やたらに召喚するもんじゃない。

 

 勉強会でこれをやる奴がいたら、即お説教コースだ。

 

「どうした、ビビッて声も出ないか?」

「呆れてるだけだよ」

「なにィ!?」

「決めた。お前にはカードの使い方の何たるかを教えてやる。俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 ツルギ:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。最初から飛ばすぞ、相棒! 〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉を召喚だ!」

「二つ名持ちだと!?」

 

 俺の場に巨大なルビーが出現して、中から相棒が姿を見せる。

 

『キュップイ!』

 

〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1

 

「な、なんだ脅かしやがって。SRの癖にパワー500しかねーじゃねーか」

「パワーだけでカードの価値を決めるのは、雑魚のする事だぞ」

「なんだと!」

「カードってのは使い方次第なんだよ! 魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動! 俺の場に〈カーバンクル〉が存在する場合、相手モンスター全てのパワーをマイナス無限にする!」

『キュ! キュップイ!』

 

 カーバンクルの周りに無数の紅玉が現れて、その光を機械軍団にぶつける。

 光を浴びた機械モンスターは、そのパワーを失い、存在を維持できなくなった。

 

〈ディフェンダー・マンモス〉P10000→P0

〈ギフトキャリアー〉P2000→P0

〈ダブルランサーロボ〉P6500→P0

 

 爆散していく機械モンスターに、ギャングは目を点にする。

 

「お、オレのレアカードが、全滅!?」

「どうせ奪ったカードだろうに」

「テメェ、絶対に許さねえ! 次のターンで痛めつけてやる!」

「宣言しとくよ、お前に次は無い」

 

 子どもからカードを強奪する奴に慈悲なんて無い!

 

「俺は場の〈幻想獣〉モンスター〈カーバンクル〉を素材にして、〈グウィバー〉を進化召喚だ!」

 

 カーバンクルが魔法陣に飲み込まれて、新たなモンスターが出現する。

 俺の場に召喚されたのは、純白の鱗を持つ美しいドラゴンであった。

 

〈グウィバー〉P3000 ヒット1

 

「〈グウィバー〉の召喚時効果発動! デッキから系統:〈幻想獣〉を持つカードを1枚選んで手札に加える。俺はデッキから〈ジャバウォック〉を手札に加える」

「そんな雑魚モンスターで何ができる!」

「早まるな。まだ中継点だ。俺は〈グウィバー〉を素材にして、〈ジャバウォック〉を進化召喚!」

 

 今度はグウィバーが魔法陣に飲み込まれる。

 召喚されたのは恐ろしい外見をした黒いドラゴンだ。

 

〈ジャバウォック〉P8000 ヒット3

 

「この瞬間〈グウィバー〉の効果発動! このカードを進化素材としたモンスターは、ヒットが1上がる」

 

 〈ジャバウォック〉ヒット3→4

 

「更に俺は〈コボルト・マジシャン〉を召喚!」

 

 召喚されたのは、仔狼の頭を持つ、小さな獣人の魔術師。

 

〈コボルト・マジシャン〉P2000 ヒット1

 

「〈コボルト・マジシャン〉の効果発動。このカードを疲労させることで、自分のモンスター1体のヒットを1上げる。上げるのは徒然〈ジャバウォック〉だ!」

 

〈ジャバウォック〉ヒット4→5

 

「そしてこれが勝負の決め手だ! 魔法カード〈魂喰らいの呪術〉を発動!」

 

 魔法カードの対象となったジャバウォックは、どす黒いオーラに包み込まれる。

 

「〈魂喰らいの呪術〉の効果で、対象となった〈ジャバウォック〉のパワーはマイナス4000となる」

 

〈ジャバウォック〉P8000→P4000

 

「ギャハハハ! 馬鹿かテメェ、自分のモンスターを弱体化させてどうするんだ!」

「見てれば分かるさ。アタックフェイズ! 〈ジャバウォック〉で攻撃だ!」

 

 凄まじい咆哮を上げながら、ジャバウォックじゃギャングに爪を向ける。

 

「馬鹿が! 攻撃宣言時に、魔法カード〈ダイレクトウォール〉発動! オレの場にモンスターがいないから、テメェのアタックフェイズは強制終了だァ!」

「それはどうかな?」

 

 ジャバウォックが咆哮を一つ上げる。

 すると、ギャングの発動した魔法カードは粉々に砕けてしまった。

 

「な!? どういうことだ!?」

「〈魂喰らいの呪術〉の効果が発動したんだ。このカードは対象となったモンスターのパワーを下げる代わりに、このターン中、対象モンスターの攻撃に対して相手は魔法カードを発動できなくなる」

「なんだとォ!?」

「さぁ行け〈ジャバウォック〉!」

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 ジャバウォックの鋭い爪が、ギャングに突き刺さる。

 

 ギャングその1:ライフ10→5

 

「クソっ! だがライフはまだ残っている」

「悪いけど、それも狩らせてもらう。進化モンスターを素材にした〈ジャバウォック〉は2回攻撃ができる」

「そ、それじゃあ……」

「これで終わりだ、〈ジャバウォック〉の2回攻撃!」

「ヒィ!」

 

 怯むギャングその1。

 だが手加減なんてしない。

 攻撃宣言の出たジャバウォックは、容赦なくギャングに攻撃した。

 

「ギャァァァァァァァァァ!」

 

 ギャングその1:ライフ5→0

 

 ツルギ:WIN

 

 ふぅ、ひとまず一人は倒せた。

 問題はアイの方だけど……

 

「大丈夫かな?」

 

 俺はアイとギャングその2の方を見た。

 今はファイトの途中。盤面はこんな感じだ。

 

 ギャングその2:ライフ10 手札0枚

 場:〈ダブルランサーロボ〉〈メカゴブリン〉〈【重装将軍】アヴァランチ〉

 

 アイ:ライフ5 手札4枚

 場:〈ナルキッソスプラント〉〈パンジープラント〉

 

 ギャングその2も〈機械〉デッキ使いらしい。

 しかも場にはP30000にまで強化されたSRカード〈アヴァランチ〉がいる。

 これは……防御カードが無いと不味いな。

 

「終わらせてやる! アタックフェイズ。〈アヴァランチ〉で攻撃だ!」

「魔法カード〈プラントウォール〉を発動。貴方のアタックフェイズを強制終了させるわ」

 

 攻撃を仕掛けた巨大ロボことアヴァランチ。

 その身体は、地面から生えた無数のツタによって阻まれてしまった。

 良かった、防御カード握ってた。これで一安心。

 

「〈プラントウォール〉の追加効果で、自分のデッキを上から3枚墓地に送るわ。さ、ターンを続けてちょうだい」

「チッ! クソアマが。ターンエンドだ!」

 

 無事に機械軍団の攻撃を逃れたアイ。

 そして気がついた。

 アイの使っているのは系統:〈樹精(じゅせい)〉のデッキだ。

 

 あれは使いこなすと、かなり強力なデッキだぞ。

 

「私のターンね。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 アイ:手札4枚→5枚

 

「メインフェイズ。子ども達のためにも、そろそろ終わらせましょうか」

「オイオイ、こっちのライフはまだ10点あるんだぜ?」

「そのライフを全部消してあげる。私は魔法カード〈プラントドロー〉を発動。コストで場の系統:〈樹精〉を持つ〈パンジープラント〉を破壊」

 

 アイの場にいた、パンジーの花を模したモンスターが爆散する。

 〈樹精〉のモンスターを立体映像で見るのは初めてだけど……なんというか、ちょっと見た目キモいな。

 

「効果で2枚ドロー」

 

 アイ:手札4枚→6枚

 

 ドローしたカードを見た瞬間、アイの口元に笑みが浮かんだ。

 

「フフ、派手に散らせてあげる。私は場の系統:〈樹精〉を持つモンスター〈ナルキッソスプラント〉を進化!」

 

 ナルキッソスの花を模したモンスターが、巨大な魔法陣に飲み込まれる。

 なんかこれ、スゴいカードが出る予感。

 

「命の風が舞し時、大樹より聖なる獣が生誕する。咆哮せよ我が神! 〈【獣神樹(じゅうしんじゅ)】セフィロタウラス〉を進化召喚!」

『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

 アイの場に降臨したのは、無数の木の根で構成された獣人。

 巨大な斧と、雄々しき角が特徴のミノタウロスだ。

 

〈【獣神樹】セフィロタウラス〉P13000 ヒット3

 

「え、SRカード。テメェも持ってやがったのか!」

「勿論。私の愛しい神様よ」

「だが、パワーは俺の〈アヴァランチ〉の方が上だ!」

「男って野蛮よね、すぐパワーを比べたがる」

 

 アイはやれやれといった様子で首を振る。

 これは……もしかすると、ヤベェ方法で勝ちに行くかもしれないな。

 

「私は手札から2体目の〈パンジープラント〉を召喚」

 

 再びアイの場に現れるパンジーの化物。

 うん……やっぱりちょっとキモいかも。

 

「〈パンジープラント〉の召喚時効果発動。手札を1枚捨てて、デッキから1枚ドローするわ」

 

 アイが手札を交換する。

 普通に見ればただの手札交換なのだが……〈樹精〉デッキにおいては話が変わる。

 あのデッキは、手札を捨てる事が最重要なんだ。

 

「私が手札を捨てたことで、墓地に眠る〈ローズプラント〉の【再花(さいか)】を発動!」

 

 【再花】。系統:〈樹精〉が持つ専用能力。

 自分の手札が捨てられるのをトリガーとして、墓地から復活する能力だ。

 

「墓地から咲きなさい〈ローズプラント〉」

 

 アイの場に、薔薇の怪物が召喚される。

 あいつも見た目ちょっと怖いな。

 

〈ローズプラント〉P7000 ヒット2

 

「そして私は、手札の〈ベビーシード〉の効果を発動。このカードを手札から捨てるわ」

 

 そう言ってアイは自分の手札を捨てる。

 俺の記憶が正しければ、ローズプラントにはもう一つ効果があった筈……

 

「この瞬間〈ローズプラント〉の効果発動! 私が手札を捨てた時、自分の場の系統:〈樹精〉を持つモンスター全てのヒットを1上げるわ」

 

 ローズプラントの効果で、アイのモンスターが強化されていく。

 

〈ローズプラント〉ヒット2→3

〈パンジープラント〉ヒット2→3

〈【獣神樹】セフィロタウラス〉3→4

 

 パワーは機械モンスターに劣る樹精たち。

 だけどヒットの合計は10。

 

 ……おい、確か〈樹精〉には強力な必殺魔法があったよなぁ!?

 

「終わらせてあげるわ。魔法カード〈ガトリングシード!〉を発動」

 

 やっぱり持ってたー!

 これギャングその2終わったわ。

 

「発動コストとして、私は自分のモンスターを全て破壊するわ」

 

 爆散していくアイのモンスター達。

 当然のようにギャングは馬鹿にするが……アイは不敵に笑うだけだった。

 

「〈ガトリングシード!〉の効果。発動時に破壊した進化モンスターと、【再花】を持つモンスターのヒット数を合計した数値分、相手にダメージを与える」

「な、なんだと!?」

 

 驚愕するギャングその2。

 そりゃそうだよなぁ。サモンには珍しい超高火力を撃ち込める魔法だもん。

 しかも何故か破壊前のヒット数を参照するとかいう謎裁定もある。

 喰らえば理不尽を感じる事間違いなしの1枚だ。

 

「さぁ喰らいなさい!」

 

 何処からか出現した、無数の種の弾丸。

 それが雨あられと、ギャングの身体に降り注いだ!

 

「グワァァァァァァァァァ!!!」

 

 ギャングその2:ライフ10→0

 

 アイ:WIN

 

「思った通り。つまらない男のつまらないファイトだったわ」

「……すっげ」

 

 アイは予想以上に強いファイターでした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話:あの子はアイ……

「オイ、さっさと奪ったカード出せ。約束だろ」

「グヌヌ……誰がテメェの言うことなんか」

「嫌ならもう一戦するか? 俺は何度でも相手してやるぞ」

「……わかった」

 

 懐から数枚のカードを取り出して、差し出してくるギャング。

 本当に聞き分けのいい悪党でよかったよ。

 ……聞き分け良すぎる気もするけど。

 

「貴方もよ。奪ったカード返しなさい」

「敗者は勝者に絶対服従。これを守るのはファイターとしての誇りだ」

 

 アイが戦っていたギャングも、素直にカードを差し出した。

 いや本当に素直だな。ファイターとしての誇りを持つのは結構だけど、悪党としての誇りとかは無いのかな?

 

「畜生、テメェら覚えてろよ!」

「ファイトの相手ならいつでもしてやるぞ」

 

 一応負けてプライドに傷はついたのか、ギャング二人はやたら悔しそうにその場を去っていった。

 いや本当にサモン脳で良かったよ!

 普通の喧嘩になったら勝ち目ないもん!

 

 それはともかく。

 

「はい、取り返したぞ。どれが誰のカードだ?」

「こっちもあるわよ」

 

 さっきまで泣いていた子供達に笑顔が戻る。

 俺とアイは手分けして、子供達にカードを返してあげた。

 

「ツルギ兄ちゃん、ありがとう!」

「お姉ちゃんもありがとう!」

「カードを盗られたらいつでも言え。悪い奴は俺が倒してやるから」

 

 子供の笑顔を守るのは大人の使命です。

 ……俺今中学三年生だけど。

 

 俺が子供達の相手をしていると、一人の女の子がアイの顔をじっと見ていた。

 どうしたんだ?

 

「あら、どうかしたの?」

「おねえちゃん……どこかで見たことある気がする」

「え!? き、気のせいじゃないかしら?」

「そうなのかな?」

「きっとそうよ」

 

 アイさん。なんか一瞬スゲー動揺してませんでしたか?

 というかまるで、滅茶苦茶顔バレしたくないような……そんな感じがする。

 日差し強くもないのにサングラスしてるし。

 いや、目が弱いのか?

 

 まぁいいや。

 とりあえず子供達のカードを取り返せたし、一件落着。

 カードを受け取った子供達を解散させると、彼らはカードショップの中へと入っていった。

 

「お疲れ様。貴方、私より早く終わらせてたわね」

「まぁ相手が弱かったからな。それより悪かったな、変な事に巻き込んじまって」

「いいのよ。誰かの夢を守るのは得意なの」

「面白いこと言うな」

「フフ、貴方も面白そうなファイターだったわよ」

 

 強そうなファイターにそう言ってもらえると、嬉しくなる。

 これはショップ大会で当たるのが楽しみだ。

 

 ……ん? ショップ大会?

 

「あっ! 今何時だ!?」

「今は12時30分ね……あっ」

「大会受付! 12時30分までだ!」

「急ぐわよ」

「がってんでい!」

 

 俺とアイは大急ぎでカードショップの中に入る。

 しかし、遅かった。

 

「それではこれにて、ショップ大会の参加受付を締め切らせていただきます」

 

 入店と同時に締め切られた受付。

 無情、あまりにも無情すぎる。

 

「お、遅かったか……」

「ふぅ、これは仕方ないわね」

「畜生、あのギャングめ〜」

 

 次に会ったら、滅茶苦茶トラウマ植えつけてやる!

 それはそれとして。

 

「アイ、マジですまん。俺が巻き込んだせいで」

「謝る必要はないわ。私が自分で選んだ結果だもの」

「でも遠征さんだろ?」

「問題ないわ。遠征の楽しみは大会だけじゃないのよ」

 

 そう言うとアイは「フフ」と小さく笑った。

 

「フリーファイトも遠征の醍醐味よ」

「まぁ、そうだな」

「貴方、名前はツルギだったわよね?」

「そうだけど」

「中々強そうなファイターじゃない。憂さ晴らしも兼ねて、私とファイトしてくれないかしら?」

 

 これは思わぬお誘い。

 大会では是非アイと戦ってみたいと思っていた俺には、嬉しい展開だった。

 

「それ、むしろ俺の方から誘いたかったやつだよ」

「あら、殿方を立てたほうが良かったかしら?」

「そんな大層なことはしなくていいよ。お互いファイターなんだ。デッキで語り合おうぜ」

「フフフ。素敵な考え方じゃない。気に入ったわ」

「じゃあ、ファイトスペースに行こうぜ。久々に骨のあるファイターと戦えそうだ」

「あら、私は簡単に攻略される女じゃないわよ」

「なお楽しみだ」

 

 俺はアイを連れてフリーファイトスペースへと移動した。

 余分な言葉は必要ない。

 フリーファイトスペースで、俺とアイは10回程ファイトをした。

 

 帽子とサングラスで表情は上手く見えなかったけど、ファイト中のアイは本当に楽しそうで、俺まで楽しさが込み上げてくる重いだった。

 そして思った通りアイは強かった。

 俺でさえ何回か苦戦させられる程の、腕前を持っている。

 ファイトが終わった後に感想戦をしたけど……カードの知識も、この世界の人間にしては中々のものだった。

 俺もついつい、色々と〈樹精(じゅせい)〉デッキの応用技を教えてしまったよ。

 

「ツルギ、貴方カードに詳しいのね」

「それくらいしか取り柄の無い人間なんだ」

「面白い人ね」

 

 それから夕方になるまで、俺はアイとカードについて語り明かした。

 最終的にはアイの方が時間切れとなってしまったが、意気投合した俺達は、お互いのSNSのIDを交換する事になった。

 うん、こうしてサモン仲間が増える事はとても嬉しいことです。

 

「ん、アイリ? こっちが本名?」

「あっ、えっと、そうね。そんな感じよ」

「じゃあアイリって呼んだ方がいいのかな?」

「……ややこしくなるから、アイでお願い」

 

 なんかよく分からないけど、とりあえず了解しておいた。

 

 アイはまたこちらに来るとのことだ。

 俺達は再びファイトをする約束をして、その日は別れる事にした。

 

 

 

 

 で、帰宅する俺。

 

「ただいまー」

「お兄、おかえり」

 

 リビングでお菓子を食べながら、卯月が出迎えてくれる。

 

「ショップ大会はどうだったの?」

「色々ありすぎて、今日は出られなかった。でも新しいサモン仲間ができたぞ!」

「へぇー」

 

 露骨に興味なさげだな、我が妹よ。

 ちなみに卯月もたまに大会に出て、成績を稼いでいる。

 まぁデッキがデッキだから、対戦相手泣かせまくりだけど。

 

「ところでさお兄。その新しいサモン仲間って男? 女?」

「女の子だけど、それがどうした?」

「……お兄さぁ、ソラさんの事といい、サモンでハーレムでも築きたいの?」

「なんでそうなるんだよ」

 

 そんな下心断じてありません!

 ……本当にないよ。

 

「お願いだから、刺されるのだけは勘弁してね」

「……善処します」

 

 多分大丈夫だろ。多分。

 

 そんな会話をしながら、卯月はテレビのチャンネルを適当に変える。

 最終的に行き着いたのはグルメロケの番組だった。

 芸人やアイドルが、色んな料理を食べてリアクションをとっている。

 

「そういえば卯月。お前の推しアイドル達はどうだった?」

「全員もれなくサモン脳。ちょっと推し続けるか迷ってる」

「諦めて受け入れた方が早いと思うぞ」

 

 どうあがいても、この世界でサモン脳からは逃れられないのだ。

 そんな事を言っていると、テレビに新しい人達が登場した。

 

『続いてのロケをしてくれるのは、今人気急上昇中のアイドルグループ! 『Fairys(フェアリーズ)』の皆さんです!」

『『『こんにちはー!』』』

 

 テレビに映っているのは、三人組のアイドルグループ。

 正直俺はアイドルの事なんて全く分からないし、八割同じ顔に見える。

 だけど今日は違った。テレビに映った女の子の一人が、妙に気になったのだ。

 

『それでは簡単な自己紹介をお願いします』

『はじめまして! 『Fairys』の日高ミオでーす!』

『同じく『Fairys』の佐倉夢子です。よろしくお願いします』

 

 三人の内二人が自己紹介する。

 だが気になってるのはこの二人じゃない。

 最後の一人が前に出て、自己紹介をする。

 

『はじめまして。『Fairys』のセンターをしている、宮田(みやた)愛梨(あいり)です』

 

 ユニットのセンターを名乗った女の子。

 栗色のツインテールに、出るとこ出たスタイル。

 そして何より、滅茶苦茶聞き覚えのある声!

 

「……えっ?」

 

 いや待て、気のせいかもしれない。

 ただのそっくりさんかもしれない。

 俺はじっくりとテレビを見る。

 

『今日は買い物ロケだけど、どうする? 変装しちゃう?』

『もうミオちゃん。ロケで変装したら怒られちゃうよ~』

『あら、私サングラスなら持って来てるわよ』

『愛梨ちゃん!?』

 

 天然ボケ(?)にスタジオ大爆笑。

 だが重要なのはそこじゃない。

 あのサングラス……滅茶苦茶見覚えがあるんだけど。

 

『ちなみにグラサンつけるとどんな感じなの?』

『こんな感じよ』

 

 そしてサングラスをつけた姿が披露される。

 ……え? マジで?

 

「……そういえば」

 

 俺は今日交換したSNSのIDを確認する。

 アイのアカウント名は、アイリ。

 愛梨→アイリ→アイ……あぁ、なるほどね。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」

「お兄、うるさい」

 

 いやいや我が妹よ、驚かない方が無理あるぞ!

 そりゃ子供の中に見覚えがある子がいるよ!

 そりゃサングラスと帽子で顔隠すよ!

 

「この展開、まさか過ぎるだろ……」

 

 出会ったあの子は、アイドルでした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話:大会へのお誘い

 前回までのあらすじ。

 知らない間に、アイドルとお知り合いになってたよ。

 

 いや予想外が過ぎるだろ!

 本当に人生何があるか分からんな!

 

 そんな衝撃を受けたまんま、翌日の学校を迎えるわけなのだが……

 当然俺の動揺は消えていない状態なのでして。

 

「どうしたんですかツルギくん? 顔がすごいことになってますよ」

「なんか、うん……色々衝撃を受け過ぎて、ね」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。俺元気」

 

 ソラが滅茶苦茶心配そうにこちらを見てくる。

 なんとか平然を装いたいが、顔が言うことを聞いてくれない。

 おかげでさっきから数学記号の∵みたいな顔のまんまだ。

 

「それよりツルギくん。次の大会どうしましょう?」

「次? 公式戦なら色々あるだろ?」

「受験に向けての大会なんですけど、どれが良いか迷っちゃって」

 

 恥ずかしそうに笑み浮かべるソラ。

 どうでもいいけど、受験に向けてのサモン大会出場って、ちょっとしたパワーワードだよな。

 

 何故こんな話をしているのかというと、年明けに受験する俺達の第一志望校、聖徳寺(しょうとくじ)学園に行くためである。

 ウチの中学からは俺と速水(はやみ)、そしてソラが受験予定だ。

 しかしそこは流石のサモン専門学校。

 一般科目も見られるが、それ以上にサモンの成績を重要視される。

 ここでいうサモンの成績というのは、単純なサモンの知識だけではない。

 中学在学中の公式大会での成績も問われるんだ。

 それだけ公式大会が多いってのも、良い世界だよ。

 

 で、俺達三人は受験に向けて公式大会に出場しまくっているんだ。

 どれくらいの成績が有ればいいのか分からないからな。もう手当たり次第よ。

 ちなみに俺は出た大会全部優勝してる。

 そして決勝戦の相手は全部、速水かソラの二択だよ!

 

「ツルギくん、聞いてます?」

「んあ、聞いてるよ」

「色々な大会で上位に入賞できましたし、思い切ってランクの高い公式大会に出てみるのも良いかなって思ってるんです」

「ランクの高い公式大会っていうと……年齢制限のないやつとかか?」

「はい。プロの人も出るような大会ですね」

「流石にハードル高くないか?」

 

 強さ的な問題ではなく、ソラの精神的な問題。

 プレッシャーに飲み込まれそうで心配だ。

 

「だけど私達、中学生向けの定期公式大会は大体制覇しちゃいましたよ」

「まぁ、そうなんだけど」

 

 しかし、高ランクの公式大会か。

 今言った年齢制限の無い大会を除くと、招待制の大会だったり、出場条件厳しい大会ばっかなんだよな。

 なにか良い感じの大会はないものか。

 

天川(てんかわ)赤翼(あかばね)。大会の話か?」

「速水くん」

「大正解。ソラが次の大会どこにしようか悩んでる」

「天川はどうなんだ。次の大会決まっているのか?」

「なーんにも決めてない」

 

 だって小難しい環境読みとかしなくても勝てちゃうし。

 うん……自分で言って少し悲しくなった。

 もっと強い奴と戦いたいよー!

 

「俺もソラと一緒に高ランク大会に出ようかな」

「ツルギくん、一緒に出てくれるんですか!」

「ソラ一人じゃ心配だし。速水も一緒に出ようぜ」

 

 俺がそう言った瞬間、ソラはガクッと項垂れた。

 どうしたんだ?

 

「天川、お前はもう少し人の気持ち考えるといい」

「なんでさ」

 

 速水はたまに訳の分からない事を言う。

 

「だがまぁ、出る大会が決まっていないなら、今回は好都合だな」

「ふぇ?」

「好都合?」

 

 速水のメガネがキラリ光る。

 何かいい話でも持ってきたのか?

 

 そんな事を考えていると、速水は一枚の紙を机に置いた。

 

「何これ。大会要綱か?」

「お前たちが望んでいる高ランクの大会だ」

「これ、ランクAの大会じゃないですか! プロもたくさん出るランク帯ですよ!」

「ところが、コレはそうでもないんだ」

「どういう事ですか?」

 

 速水は紙の一箇所を指差す。

 そこには『中学生以下限定』と書かれていた。

 

「中学生以下限定でこの高ランク。珍しい大会だな」

「その代わり出場条件が厳しく設定されている」

「本当ですね。直近一年間に開催された公式大会で三回以上ベスト4入りをしている事が条件です」

「更にその条件を満たしたファイターを三人集めたチームで出る必要がある」

「滅茶苦茶な条件だな」

「そうだな。だが俺達ならどうだ?」

 

 速水に言われてハッとする。

 確かに俺達三人はここ一年間で、何回もベスト4以上に入っている。

 というか余裕で出場条件をクリアしている。

 

「出場はチームである必要がある。お前達さえ良ければ、一緒に出ないか?」

「おいおい速水。少なくとも俺はどう答えるか分かってるだろ」

「私もです。まさに求めていた大会って感じです!」

「二人とも、ありがとう」

 

 これで話は決まった。

 次なる目標は大会で優勝……っとその前に。

 

「これなんて名前の大会だっけ?」

 

 速水とソラがずっこけた。

 

「天川、そのくらい最初に見ろ」

「アハハ、悪い悪い」

 

 では改めまして。

 

「ジャパン・モンスターサモナー・セレクション・カップ?」

「あぁ、毎年開催されていてテレビ中継もされている」

「主催があのUFコーポレーションですね。言われてみれば毎年中継やってますね」

 

 そうなんだ。

 異世界人には分からないでござる。

 ちなみにUFコーポレーションってのは、ユニバーサル・ファンタジー・コーポレーション事。

 この世界でサモンを作ってる会社ね。

 

「通称JMSカップ。中学生ファイターが目指す最大の大会一つだ」

「へぇ……いいじゃん。燃えるじゃん」

 

 参加条件の厳しさから、かなり腕のあるファイターが集まる筈だ。

 これは、俺も真に全力全開を出せるかもしれない。

 やべぇ、ニヤニヤが止まらない。

 

「ツルギくん、またスゴい顔になってます」

「……少し早まったか?」

「失礼だな。まだ見ぬ強者に期待してるんだよ」

「天川、間違っても地上波に恐怖映像を流すんじゃないぞ」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ!」

「殺戮兵器。もしくは無情なる1Killマシーン」

「ごめんなさいツルギくん……否定しきれません」

 

 流石にソラにまで言われるのはショックだぞ。

 だけどまぁ、二人が言うこと一理ある。

 最近は理不尽を押し付けるようなコンボを使い過ぎた。

 

 よし、ここは心機一転して王道な強さのデッキを使うか!

 

「大会は六月からか。もう少し先だな」

「あぁ、だからそれまでは準備期間となる」

「いいね。大会に向けてデッキを十分に調整できる」

「チーム戦に関しては俺が勉強しておこう。天川と赤翼は自分のデッキを磨いていてくれ」

「はいです!」

「任せたぜ速水」

 

 速水はこういう時に頼れる男だ。

 本当に良い友人だよ。

 

「さーて、相手が強いって分かってるなら勉強会も力入れないとな。ハードにいくぜぇ」

「頼りにしてるぞ、天川」

「うぅ、お手柔らかにお願いします」

 

 待ってろよまだ見ぬファイター達。

 俺達で全員倒して、優勝をもぎ取ってやる!

 

「あっ」

「どうしたソラ」

「あの、これチームで出場するんですよね」

「チームだな」

「……私達のチーム名、どうしましょう?」

 

 ソラが出場要綱の一箇所指差す。

 そこには、チーム名をつける事が義務付けられていた。

 

「速水、どうしよう?」

「……まぁ、締め切りまで時間はある」

「じゃあチーム名は宿題ですね」

 

 ちょっと帰ったらネーミングセンスを鍛えよう。

 どうせならカッコいいチーム名で出場したい。

 

 きっとこれが、中学校生活における最後の公式大会になる気がするから。

 悔いのないようにしたい。

 

「JMSカップか……絶対制覇してやる」

 

 次なる目標が決まった。

 ならば大会に向けて、デッキ調整を始めよう。

 そろそろ相棒の新しい姿とか、お披露目してもいいかもしれないしね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話:そして二人は出会いました

 さて、速水の誘いで俺達はJMSカップに出場する事になったのだけど。

 大会本番までまだ時間はある。チーム名も決めなきゃだし。

 

 で、ただ頭を悩ますだけじゃ時間がもったいない。

 というわけで、今日は土曜日。俺達三人は特訓も兼ねたファイトをするために、近所の大型カードショップに集まる事にした。

 

 ……なのだが。

 

「ちと早く来ちゃったかな?」

 

 現在時間は午後12時30分。

 集合時間まであと30分はある。

 しかも速水は『急用ができた、少し遅れる』とのメッセージつきだ。

 アイツも忙しいやつだな。

 

「ソラが来るまでまだ時間ありそうだし。どうしようかな?」

 

 売ってるカードでも見るか?

 でも俺高額カードを買う気はないけど。だって大体持ってるし。

 そもそも使ってるデッキが一応貧乏デッキですし。

 ストレージコーナーは以前見たけど、微妙なんだよな。

 だってこの世界のパック封入率の都合上、ストレージには弱いバニラカードがほとんどなんだよ。

 かといってサプライは召喚器と保存用のデッキケースがあれば、十分なんだよな。

 

 スリーブは買わない。何故かって?

 この世界のカード、滅茶苦茶頑丈なんだよ。ちょっとやそっとじゃ目立つ傷をつけられない。

 完全に謎素材で出来ている。改めてアニメ世界だと実感するわ。

 

「誰か捕まえてフリーファイトでもするかね~」

 

 それが無難な気がしてきた。

 でも最近フリーだと逃げられる事あるんだよな。

 ちと暴れ過ぎたかね?

 

「速水に言われた通り、無情なる殺戮兵器と認識されてるのかもなぁ」

 

 いかん、ちょっと涙が出てきそうだ。

 でもどうせ暇なんだ、誰かいい感じのファイターを捕まえよう。

 

 そんな事を考えながらショップの仲を彷徨っていると、見覚えのある女の子を発見した。

 帽子にサングラス。そして栗色の長い髪。

 うん、絶対に見間違えない。俺に過去二番目のインパクトを与えた女の子だもん。

 

 でも今は都合がいい。

 俺はワクワクを胸に抱きながら、アイに声をかけた。

 

「よっ。今日も遠征か?」

「あらツルギ。会えてよかったわ」

「今日はショップ大会はやってないけど、買い物目当てか?」

「違うわ。強いて言うなら、貴方目当てかしら」

「俺目当て?」

 

 なんて奇特な事を言うんだ。

 こんなサモン以外取り柄のない一般人を目当てに遠征してくるとは。

 変わり者すぎるだろ。

 

「なにか失礼な事を考えてないかしら?」

「気のせいじゃないかな?」

 

 ソラといいアイといい、なんでこう妙な所で勘がいいんだ。

 女の勘ってやつか?

 

「ふぅ、まぁいいわ。今日のお目当てには出会えた事だし」

「俺なんかを目当てにするのも変な話だな」

「そんな事ないわ。貴方強いじゃない。それだけで私にはお目当てにする価値があるわ」

「そりゃ光栄だね。でもメッセージ送ってくれれば、もっと楽に会えるのに」

「い、色々忙しいのよ」

 

 髪先をくるくると弄りながら、そう言うアイ。

 まぁそうでしょうね。だって君アイドルだもんね。

 ただ一つ迷うのは、それをここで追求してもいいのかどうかだ。

 本人が打ち明けないうちは、触れない方がいいのかな?

 色眼鏡とか嫌がる可能性もあるし。

 

「それにしても行き当たりばったりじゃないか? もし俺が他のショップに行ってらどうするんだよ」

「その時は腹いせのフリーファイトをしてから帰ったわ」

「わぁ物騒」

「貴方も似たようなものじゃないの? ギャングを瞬殺してたじゃない」

「返す言葉もございません」

 

 実際暴れすぎて、人が離れてます。

 でも、だからこそ今アイに出会えたのは幸運だった。

 

「ねぇ、ツルギはこの後予定はあるの?」

「一応仲間と一緒にサモンの特訓。だけど俺は早く来過ぎたんだ」

「じゃあ暇なのね」

 

 そう言うとアイはバックから召喚器を取り出した。

 うんうん、そう来なくっちゃな。

 

「フリーファイトスペースに行くか」

「えぇ。今日も楽しませてちょうだい」

「安心しろ。超絶楽しませてやる」

 

 これは派手派手な暇つぶしができそうだ。

 俺はアイを連れてフリーファイトスペースへと向かった。

 

 で、俺とアイはサモンファイトをしたわけだけど。

 アイの実力が高いのもあって、それはそれは白熱した。

 だけど、俺もそう簡単には負けない!

 

 現在の状況。

 ツルギ:ライフ2 手札0枚

 アイ:ライフ1 手札0枚

 場:お互いになし。

 

 気づいたらなんかギャラリーもできていた。

 フリーファイトでギャラリー出来ると、テンション上がるよね。

 

「ツルギ、貴方はやっぱり強いわね」

「おうよ。それだけが取り柄だからな」

「ライフはお互いに風前の灯火。手札もお互い0枚」

「だけどこの状況で俺がモンスターを引ければ、滅茶苦茶面白い展開だよな?」

「フフ。そうね、そんな奇跡が起きれば面白いわね」

「じゃあ起こしてやるよ、奇跡ってやつを! 俺のターン!」

 

 ギャラリーが固唾を飲んで見守る。

 俺が指先に力を込めて、最後のドローをした。

 

「……最高のタイミングだぜ、相棒!」

「まさか、本当にモンスターを引いたの!?」

「あぁそうさ! メインフェイズ!」

 

 こういう奇跡が起きるから、カードゲームは楽しいんだ。

 俺は手札に来た相棒を仮装モニターに投げ込む。

 

「奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

 

 俺の場に出現した巨大ルビーが砕け散り、中から可愛らしい緑色のウサギが召喚される。

 

『キュ〜ップイ!』

 

〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1

 

 最弱のSRカード。

 だが今この場面においては、最高のフィニッシャーだ。

 

「ヒット1……そう、私の負けね」

「あぁ、ジャストキルだ! アタックフェイズ! 行け〈カーバンクル〉!」

『キューップイ!』

 

 気合い入れたカーバンクルは勢いよく駆け出し、アイへ体当たりをした。

 

 アイ:ライフ1→0

 

 ツルギ:WIN

 

 ファイトが決着し、立体映像が消え去っていく。

 ド派手なファイトをしたからか、ギャラリーから拍手喝采が鳴り響いた。

 

「ありがとうな。いいファイトだった」

「私こそ、貴方で満たされる素敵なひと時だったわ」

「なんか言い方が卑猥な気がするんですが」

「フフ、ちょっとしたお茶目よ」

 

 お願いですから男子中学生に強い刺激は与えないでください。

 無垢なボーイなのです。

 

 それはともかく。

 ファイトを終えた俺とアイは、感想戦に入った。

 やっぱり良いファイトの後はしたくなるよね。

 

「そういえばアイ。汎用魔法カード使うようにしたんだな」

「えぇ、ツルギに教えられたもの」

「テクニックに関しては任せてくれ。自信があるんだ」

「フフ。それは身をもって理解させられたわ」

 

 だから言い方がなんか卑猥なんだよ。

 声が可愛い分、余計にエッチな感じがする。

 

「そういえばツルギは色々な戦い方をしてるわね」

「そうだな。それが俺と〈幻想獣〉の強みなんだ」

「良いわね。すごく楽しそうで」

 

 どこか消え入りそうな声でそう言うアイ。

 

「ねぇツルギ。サモンは楽しいかしら?」

「そりゃ勿論。じゃなきゃ強くなんてなれない」

「……もしも、もしもよ。サモンをするのが辛くなったら、その時はどうすれば良いと思うかしら」

 

 なんだか妙な事を聞いてくるな。

 

「サモンが辛いねぇ。想像したことも無いな」

「そうよね……ごめんなさいね、変な事を聞いて」

「……まぁ強いて言うなら。俺の場合はどこまで行っても結局サモンに戻ってしまうんだよ。だから辛さを感じたら、自分のデッキと向き合う」

「自分のデッキと?」

「サモンが辛くなる時ってのは、大体がデッキとの対話ができてない時だと思うんだ。だからじっくり自分の魂のデッキと向き合う。そうすれば何か突破口が見つかるかもだろ」

「そうよね……自分のデッキと向き合わないといけないわね」

「アイはその点大丈夫だろ。だってさっきのファイトも滅茶苦茶楽しそうだったじゃん。自分のデッキと向き合えてるファイターじゃないと、あそこまで戦う事はできないだろ」

 

 そうだ。だから妙な質問なんだ。

 アイは十分デッキと心を重ねられている。

 だから辛いなんて事は起きないと思うんだけどな。

 

「そうね……ありがとうツルギ。なんだか少し楽になったわ」

「ならよかった」

 

 サモンは楽しむのが一番です。

 勿論自分のお気に入りデッキでだ。

 

 しかしそれにしても……

 

「ソラはまだ来ないのかな?」

「ツルギの仲間かしら」

「あぁ。もうすぐ来るはずなんだけど」

「ツルギくん、後ろにいますよ」

 

 俺はもの凄い勢いで振り向く。

 そこには口元は笑っているけど、何故か目が笑ってないソラがいた。

 

「ソ、ソラ。いつの間に」

「ツルギくんがファイトしていた辺りからですよ」

「声かけてくれれば良かったのに」

「だってツルギくん、そちらの子と楽しそうにしてたじゃないですか」

 

 何故だろうか、ソラの言葉に物凄い圧を感じる。

 

「ツルギくん。ファイトしたんですか? 私以外の女の子と」

「うん、したけど……なんか怒ってる?」

「いいえ、怒ってないですよ。ツルギくんがまた女の子と一緒にいるな~なんて思ってないですよ」

 

 意識して女の子と一緒にいるわけじゃないやい!

 たまたまだからね!

 だからソラさん、ハイライトをオンにしてください怖いです。

 

「ねぇツルギ。この子は貴方の彼女かしら」

「か、彼女ですか!?」

「いや違うぞ」

「ゴフッ」

 

 何故かソラが大ダメージを受けた。

 どうしたんだこの子。

 

「ツルギ……貴方はもう少し女心を学ぶべきよ」

「なんでさ」

 

 マジでわからん。

 俺がやや混乱していると、アイはソラに話しかけた。

 

「ねぇ、貴女はツルギの仲間かしら」

「はい、そうです! ツルギくんの一番弟子です!」

「えっ、そうなの?」

 

 俺に弟子がいたなんて初耳なんだけど。

 ちょっとした教え子とは思ってたけど。

 

 妙に堂々と言うソラを、アイはじっと見つめる。

 

「……貴女、重い女でしょ」

「おもっ!?」

 

 いやそれは無いだろアイさんよ。

 だってソラは小柄&瘦せ型ですぜ。

 むしろ軽い方だろ。

 

「あんまり重いと、逃げられるわよ」

「し、失礼ですね。そういう貴女はツルギとどういう関係なんですか!」

「私と彼は、ファイトでお互いを追い詰め合った仲よ」

 

 アイの言葉を聞いて何故かショックを受けるソラ。

 いや何でだよ、今の言葉にショックを受ける要素あったか?

 

「私、まだツルギくんを追い詰めてないのに……」

「いやそれは時間の問題かと思うんだけど」

「でも! 私はツルギ君からデッキを受け取って、サモンを直接教えて貰ってますから!」

 

 だからソラさんや、なんでそんなに対抗意識を燃やしてるんだ。

 というかそれを言ったところでアイにダメージを与える事なんて……

 

「な、なんですって……」

 

 できてるー!?

 いや何でだよ! なんでそれでダメージ受けてるんだよ!

 サモン脳か、サモン脳が全て悪いのか!?

 

「貴女、名前は?」

「赤翼ソラです」

「私は……アイよ」

 

 俺を挟んでバチバチと火花を散らす女子二人。

 あの、俺を挟まないでもらえますか?

 

「ツルギ、ちょっとこの子を借りてもいいかしら」

「えっ?」

「ツルギくん、速水が来たら適当に言っておいてください」

「えっ?」

 

 なに、なんなのこの流れ。

 いや予想つくけどね、この後二人が何するのか察せるけどね!

 

「ちょっとアイさんと」

「このソラって子と」

「ファイトしてきます」

「ファイトしてくるわ」

 

 有無を言わさぬ圧を放ちながら、そう言う二人。

 はい、俺には止める勇気なんてありません。

 

「い、いってらー……」

 

 アイとソラは怖い顔をしながら、フリーファイトに赴いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話:聖天使VS樹精

 何故かファイトをする事になったソラとアイ。

 いや本当になんでだろうね?

 でもまぁ、アイは強いからソラにはいい刺激になるかもしれない。

 前向きに考えよう。そうしよう。

 

 フリーファイトスペースで、お互いに距離をとる二人。

 

「「ターゲットロック!」」

 

 ソラとアイは同時に召喚器を起動させた。

 そして間髪入れずに、初期手札5枚をドローする。

 やる気満々だなおい。

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 ソラ:ライフ10 手札5枚

 アイ:ライフ10 手札5枚

 

 さぁて、ソラからすれば未知の強者なわけだけど。

 上手く立ち回れるか?

 

「先攻は私です。スタートフェイズ」

 

 先攻はソラか。

 

「メインフェイズ。魔法カード〈ホーリーポーション〉を発動します。手札の系統:〈聖天使〉を持つカード〈アリエスエンジェル〉を見せて、ライフを3点回復し、1枚ドローします」

 

 ソラ:ライフ10→13 手札4枚→5枚

 

 いい感じの初動だな。公開したカードも防御寄りのモンスターだ。

 

「そして、今公開した〈アリエスエンジェル〉を召喚します!」

 

 ソラの場に、モフモフの毛に包まれた羊型天使が召喚される。

 中々可愛いな。

 

〈アリエスエンジェル〉P7000 ヒット1

 

 様子見にはいいカードだ。

 アリエスエンジェルは【天罰】状態だと、カード効果では破壊されないモンスター。

 しかもブロック時にはパワーが上がるオマケもある。

 

「私はこれでターンエンドです」

 

 下手に展開しない辺り、俺の教えが役立っているらしいな。

 先生感動しちゃうよ。

 

 ソラ:ライフ13 手札4枚

 場:〈アリエスエンジェル〉

 

 さぁ、注目のアイのターンだ。

 

「まずは様子見ってところかしら? でもその程度じゃ、私を止める事は難しいわよ。私のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 アイ:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。まずはこの子よ、〈ナルキッソスプラント〉を召喚」

 

 アイの場に水仙の化物が召喚される。

 眼玉がぎょろぎょろしてて……ちと怖いよ。

 

〈ナルキッソスプラント〉P5000 ヒット0

 

「〈ナルキッソスプラント〉の召喚時効果発動。私自身のデッキを上から4枚墓地に送るわ」

「自分のデッキを破壊……墓地活用戦術ですか」

「あら、よくわかってるじゃない。伊達にツルギから教わっている訳じゃないのね」

「当然です」

 

 可愛らしく頬を膨らませるソラ。

 なんか空気がピリピリしている気がするよぉ。

 

「なら貴女には、少し派手なものを見せてあげる。私は魔法カード〈プラントドロー〉を発動するわ」

 

 出たな、系統:〈樹精〉専用のドローソース。

 

「私は場の〈ナルキッソスプラント〉を破壊して、カードを2枚ドローするわ」

 

 爆散するナルキッソスプラント。

 お願いだからその眼玉を吹っ飛ばす演出はやめてください、怖いです。

 

 アイ:手札4枚→6枚

 

「あら? いいカードを引いたわ」

 

 アイが口元に笑みを浮かべる。

 なんかスゲー嫌な予感がする……

 

「私はライフを3点払い、魔法カード〈不平等契約〉を発動するわ」

 

 アイ:ライフ10→7

 

 ぎゃぁぁぁ! アイのやつ、なんてカード使いやがる!

 多分この場であのカードの危険性を理解しているのは、俺とアイだけだ。

 ソラは明らかに知らなさそうな顔してるし。

 

「〈不平等契約〉の効果で、私はデッキを上から8枚墓地に送るわ」

「8枚も墓地にカードを!?」

「それだけじゃないわよ。相手の場のモンスターの数が自分よりも多ければ、追加効果で墓地からモンスター1体を手札に戻せるわ」

「なんですかそのトンデモ効果!?」

 

 ソラが仰天するのもおかしくはない。

 だって〈不平等契約〉は制限カード。前の世界に至っては禁止カードに指定されてた代物だ。

 どう考えてもコストに対して効果が強すぎるんだよ!

 またの名を「相手にとって不平等契約」だぞ。

 本当になんでまだ制限なんですかね、この世界。

 

「私は墓地から〈ベビーシード〉を手札に加えるわ」

 

 アイさんや、さらっと墓地から制限カードを回収しないでください。

 凶悪が過ぎます。

 いや、今はそれどころじゃないか。

 ベビーシードが手札に来たという事は、ソラ大ピンチだぞ。

 

「私は手札から〈ベビーシード〉の効果を発動するわ。手札からこのカードを捨てる」

「……えっ、それだけですか?」

「えぇ、捨てるだけよ」

 

 目が点になるソラ。

 まぁ初見だとそうなるよな。意味わからないよな。

 だけど〈樹精〉デッキは、手札を捨てる事がトリガーになる。

 

「私が手札を捨てた事で、墓地の〈樹精〉モンスターが持つ【再花(さいか)】を発動するわ」

「【再花】!?」

「手札を捨てる事がトリガーとなり、私の花々は墓地から開花するわ」

 

 アイの場に3つの魔法陣が出現する。

 墓地から3体も出す気なんだ!

 

「さぁ来なさい! 〈シスタスプラント〉〈チューリッププラント〉〈ピーアニープラント〉」

 

 出現したのは3体の花の化物。

 ゴジアオイの化物。チューリップの化物。芍薬の化物。

 ……我ながらよく花の種類わかったな。

 

〈シスタスプラント〉P8000 ヒット2

〈チューリッププラント〉P4000 ヒット1

〈ピーアニープラント〉P4000 ヒット2

 

「〈シスタスプラント〉の召喚コストで、デッキを上から5枚除外して、ライフを1点払うわ」

 

 アイ:ライフ7→6

 

「一気に3体もモンスターを召喚した……」

「召喚だけじゃ終わらないわ。この瞬間〈シスタスプラント〉の効果発動。このカードを含むモンスターが【再花】で召喚される度に、相手に1点のダメージを与えるわ」

「召喚されたモンスターは3体」

「3点のダメージを受けて貰うわ」

 

 シスタスプラントが種の弾丸を三発、ソラに向けて撃ち込んだ。

 

 ソラ:ライフ13→10

 

「更に〈チューリッププラント〉の召喚時効果を発動。貴女の場の〈アリエスエンジェル〉を疲労させるわ」

 

 チューリッププラントが伸ばした蔦によって、アリエスエンジェルが拘束されてしまう。

 召喚時効果の連鎖と、横への展開。これが〈樹精〉デッキの強みだ。

 しかし不味いな、ソラの場にブロックできるモンスターが居なくなった。

 

「さぁ攻めましょうか。アタックフェイズ。まずは〈シスタスプラント〉で攻撃!」

「……ライフで受けます」

 

 ソラ:ライフ10→8

 

「次は〈チューリッププラント〉で攻撃よ」

「ライフです」

 

 ソラ:ライフ8→7

 

 不味いぞ、あと1点ダメージを受けたら【天罰】が解除されてしまう。

 

「続きなさい〈ピーアニープラント〉」

「そこです! 魔法カード〈ヒーリングウォール〉を発動です!」

 

 ソラの前に純白のバリアが展開される。

 

「このカードは、自分場に系統:〈聖天使〉を持つモンスターが存在する時に、相手モンスター1体の攻撃を無効化します」

 

 これでアイの〈ピーアニープラント〉の攻撃を無効化するつもりなのだろう。

 しかし、それは叶わなかった。

 突如場に吹き荒れた、紫色の花粉によって、ソラを守ろうとしていたバリアが溶かされてしまった。

 

「〈ヒーリングウォール〉が、無効化された!?」

「魔法カード〈ポイズンパラン〉を発動させてもらったわ」

「〈ポイズンパラン〉?」

「このカードは自分の場の〈樹精〉を破壊する事で、相手の魔法を1つ無効にできるのよ。私は〈チューリッププラント〉を破壊して、貴女の〈ヒーリングウォール〉を無効化したわ」

 

 これでもう、ソラを守るものは無くなった。

 ピーアニープラントの攻撃が、ソラに襲い掛かる。

 

 ソラ:ライフ7→5

 

 ライフ差が逆転されてしまった。

 これでソラの【天罰】状態は解除されてしまう。

 

「うぅ……」

「ターンエンド。もう少し楽しませてくれないかしら」

 

 アイ:ライフ6 手札4枚

 場:〈シスタスプラント〉〈ピーアニープラント〉

 

 アイの猛攻で大ダメージを受けたソラ。

 まぁ1KILLされなかっただけ、まだマシか。運が良かったか。

 今のところアイは淡々とした感じだけど……ソラはこれをどう巻き返すのかな。

 

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ソラ:手札3枚→4枚

 

「私も、簡単に負けるつもりはありません! メインフェイズ。〈ヒーラーエンジェル〉を召喚します!」

 

〈ヒーラーエンジェル〉P4000 ヒット1

 

「召喚時効果を発動します。墓地から系統:〈回復〉を持つ魔法カード〈ホーリーポーション〉を除外して、その効果をコピーします!」

 

 よし、これでライフ回復ができる。

 

 ソラ:ライフ5→8 手札3枚→4枚

 

 再びライフ量がアイを上回った。これでソラは【天罰】を使える。

 

「私は〈ジェミニエンジェル〉を召喚します!」

 

 ソラの場に、男女の双子天使が召喚される。

 

〈ジェミニエンジェル〉P5000 ヒット2

 

「更に〈シールドエンジェル〉を召喚します」

 

〈シールドエンジェル〉P7000 ヒット2

 

 これで役者はだいたい揃ったな。

 

「アタックフェイズです! まずは〈ヒーラーエンジェル〉で攻撃です! そして攻撃時に【天罰】の効果を発動! デッキからカードを1枚ドローします」

 

 ソラ:手札2枚→3枚

 

 ひとまず手札の補充には成功したソラ。

 だけどアイはそう簡単に攻撃を通すようなファイターじゃないぞ。

 

「魔法カード〈プラントウォール〉を発動。貴女のアタックフェイズを強制終了させるわ」

 

 無数の蔦が地面から生え、ソラの聖天使たちに絡みつく。

 このままでは全員攻撃不能になってしまうが……

 

「魔法カード〈シールドキャンセル!〉を発動します!」

「そのカードは!?」

「発動コストとして〈シールドエンジェル〉を疲労させることで、相手が発動した系統:〈防御〉を持つ魔法カード1枚を無効にします!」

 

 上手いぞソラ! アイの使った〈プラントウォール〉は〈防御〉を持つ魔法だ。

 魔法カードの効果で、聖天使を縛ろうとしていた蔦は次々に朽ちていった。

 

「さっきのお返しです」

「……やってくれるじゃない」

「さぁ、この攻撃どうしますか?」

「ライフで受けるわ」

 

 ヒーラーエンジェルの攻撃が、アイに通る。

 

 アイ:ライフ6→5

 

「次は〈ジェミニエンジェル〉で攻撃です!」

「それもライフよ」

 

 双子の天使が、アイに蹴りを入れる。

 そうやって攻撃するんだ。

 

 アイ:ライフ5→3

 

「〈ジェミニエンジェル〉は【2回攻撃】を持っています! もう一度攻撃!」

「魔法カード〈デストロイポーション〉を発動。デッキを上から5枚墓地に送って、その中にあるモンスターの数だけライフを回復するわ」

 

 あっ、俺が教えた汎用カードだ。

 アイのデッキが5枚墓地に送られる。

 

 墓地に送られたモンスター→〈ローズプラント〉〈キャクタスプラント〉〈ナルキッソスプラント〉

 墓地に送られた魔法カード→〈プラントウォール〉〈ガトリングシード!〉

 

「墓地に送られたモンスターは3枚。よってライフを3点回復するわ」

 

 アイ:ライフ3→6

 

「そしてその攻撃は、ライフで受けるわ」

 

 アイ:ライフ6→4

 

「耐えられましたか」

「私もそう簡単に倒されるファイターじゃないのよ」

「うぅ……アタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果で、ライフを1点回復します」

 

 ソラ:ライフ8→9

 

「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】で、私の場のモンスターは全て回復します」

「あら、ブロッカーが増えたわね。ちょっと厄介だわ」

「ターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ9 手札2枚

 場:〈ヒーラーエンジェル〉〈ジェミニエンジェル〉〈シールドエンジェル〉

 

 ひとまずライフ差はつける事ができたソラ。

 有利に立てたからか、少し余裕を見せている。

 ちと危なっかしい気もするけど。

 

 で、アイの方はというと……

 

「フフ。貴女、少しはやるみたいじゃない」

 

 こっちも余裕だな。

 ライフ差はつけられているから、この世界のファイターなら焦りそうな気もするのに。

 

「少しじゃないです。ツルギくんの顔に泥は塗りたくないですから」

 

 ソラさんや、そこまで背負わなくてもいいからね。

 純粋にファイトを楽しんでね。

 

「言うじゃない。気が変わったわ、貴女の事は本気で倒してあげる」

 

 アイの空気が変わった。

 多分ソラを認めたのだろう。故に本気を出そうとしているのだ。

 これは……かなり白熱したファイトになりそうだな。

 

「私のターン!」

 

 そして、アイのターンが始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話:【天翼神】VS【獣神樹】

 アイのターン。

 

「スタートフェイズ。そしてドローフェイズ、墓地に眠る〈ベビーシード〉の効果発動」

「このタイミングで発動する効果ですか!?」

「ライフを2点払う事で、通常ドローの代わりに墓地の〈ベビーシード〉を手札に加える事ができる」

 

 アイ:ライフ4→2

 

 ライフを犠牲に、墓地からベビーシードを回収したアイ。

 これこそベビーシードが制限指定を食らっている理由だ。

 一度墓地が肥えてしまえば、何度でも【再花】のトリガーを手札に持ってくる事ができる。

 シンプルに凶悪な1枚だ。

 

「メインフェイズ。私は魔法カード〈ギャンビットドロー〉を発動するわ」

 

 あっ、俺が教えた汎用カードPart2。

 

「その効果で〈ピーアニープラント〉を破壊して、デッキからカードを2枚ドローするわ」

 

 爆散するピーアニープラント。

 だから欠片を周りに飛ばす演出やめてくれ。怖いから。

 

 アイ:手札2枚→4枚

 

「更に魔法カード〈プラントドロー〉を発動。場の〈シスタスプラント〉を破壊して2枚ドローするわ」

 

 今度はシスタスプラントが爆散する。

 絵面が酷いよぉ。

 

 アイ:手札3枚→5枚

 

「自分のモンスターをどんどん犠牲にして……っ! そうだ、手札には〈ベビーシード〉が!」

 

 ソラようやく気がついたらしい。アイの戦術が秘めている凶悪さを。

 そう、【再花】を持つモンスターと手札の〈ベビーシード〉が揃ってしまえば、何度でも蘇生と展開ができる。

 故に、場のモンスターをコストにするリスクが極端に低いのだ。

 

「あら、いい子が来たわ。ならまずは下準備ね」

「っ! くる!」

「私は2体目の〈ピーアニープラント〉を召喚」

 

 アイの場に再び芍薬の化物が出現する。

 このタイミングで手札からモンスターを召喚したという事は……

 

「そして私は、場の〈ピーアニープラント〉を進化!」

 

 やっぱり進化モンスターか!

 

「命の風が舞いし時、大樹より聖なる獣が生誕する。咆哮せよ我が神! 〈【獣神樹(じゅうしんじゅ)】セフィロタウラス〉を進化召喚!」

『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 

 アイの場に召喚されたのは、無数の木の根で構成された巨大ミノタウロス。

 圧倒的な存在感を放つSRカードだ。

 

〈【獣神樹】セフィロタウラス〉P13000 ヒット3

 

「え、SRカード」

 

 予想外のレアカード登場に、ソラは少し動揺している。

 それにしても不味いな。セフィロタウラスの効果は、【再花】を主軸にしたデッキにとって相性が良すぎる。

 

「驚くのはまだ早いわよ。私はさっき手札に加えた〈ベビーシード〉の効果発動。このカードを手札から捨てるわ」

「手札を、捨てる、それじゃあ!」

「そういうこと。さぁ再び咲き誇りなさい! 【再花】発動よ!」

 

 アイの場に2つの魔法陣が出現する。

 

「来なさい! 〈シスタスプラント〉〈キャクタスプラント〉!」

 

 魔法陣から呼び出されたのは、ゴジアオイの化物。

 そしてもう1体は、サボテン型のモンスターだった。

 ……サボテンは割と可愛らしいな。

 

〈シスタスプラント〉P8000→P10000 ヒット2

〈キャクタスプラント〉P7000→P9000 ヒット2

 

「パワーが上昇している!?」

「これもセフィロタウラスの効果よ。自分の場に存在する他の〈樹精〉のパワーを+2000するの」

「何個効果があるんですか」

「3つよ。そして今【再花】で召喚したモンスターは、どちらもライフ1点を払うコストがあるわ」

「えっ、でも残りライフは2点じゃ」

 

 そうだ。普通に考えればコストの支払いで、アイのライフは尽きてしまう。

 しかし、場にセフィロタウラスが存在するなら話は別だ。

 

「〈【獣神樹】セフィロタウラス〉の効果で、私が発動した【再花】によって支払う召喚コストは全て消えるわ」

「コストを踏み倒すカード……」

「そしてコストを要求するカードは、その分強力な効果を持っているものよ。まずは〈シスタスプラント〉の効果発動! 合計2点のダメージを受けてもらうわ」

「きゃ!」

 

 シスタスプラントが種の弾丸をソラに撃ち込む。

 

 ソラ;ライフ9→7

 

 少しのダメージに見えるが、アイの攻撃はまだ始まったばかりだ。

 

「続けて〈キャクタスプラント〉の召喚時効果発動。ヒット2以下の相手モンスターを1体破壊するわ。〈ジェミニエンジェル〉を破壊しなさい」

 

 アイの命令を受けたキャクタスプラントは、全身の棘を飛ばして、ジェミニエンジェルを破壊した。

 全身に棘が刺さってたけど、痛そうだな。

 

「アタックフェイズよ。まずは〈キャクタスプラント〉で攻撃!」

 

 不味いな、素のパワーじゃソラのモンスターは全て負けている。

 都合よくパワー強化のカードを持っていれば良いんだけど。

 

「ライフで受けます」

 

 そう都合よくはいかないか。

 あと針を飛ばす攻撃を受けるの、めっちゃ痛そうだな。

 ただの立体映像ではあるんだけど。

 

 ソラ:ライフ7→5

 

「続けて〈シスタスプラント〉で攻撃」

「それもライフで受けます」

 

 ソラ:ライフ5→3

 

 どうやらソラはモンスターを温存する方向でいくらしい。

 だけど次はどうする? セフィロタウラスのヒットは3だぞ。

 

「〈セフィロタウラス〉で攻撃よ!」

「それは〈ヒーラーエンジェル〉でブロックします!」

 

 セフィロタウラスの巨大な斧によって両断される、ヒーラーエンジェル。

 なる程、防御の要になるシールドエンジェルを残したか。

 

「これは耐え切るのね。ちょっと面白い子じゃない。ターンエンドよ」

 

 アイ:ライフ2 手札2枚

 場:〈【獣神樹】セフィロタウラス〉〈シスタスプラント〉〈キャクタスプラント〉

 

 なんとか耐え切ったし、【天罰】状態も維持はできている。

 だけど状況は良くないな。

 どうするソラ?

 

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ソラ:手札2枚→3枚

 

「貴女、諦めないのね。普通のファイターなら、ここまでされると投了してくる事も珍しくないのに」

「最後まで諦めなければ、逆転の可能性はあります。それが、ツルギくんに教えてもらったことですから」

「そうなの……少し羨ましいわ」

「それに私、今すごく楽しいですよ」

「……楽しい」

「はい! アイさんはどうですか?」

「そうね……今は、楽しいわよ」

「よかったです。それじゃあ、張り切っていきますよ!」

 

 なんだかんだ言って、ソラはこのファイトを楽しんでくれているらしい。

 うんうん。いい事だ。

 サモンを通じてお互いを認め合う。こういうのはサモン脳の良いところだよね。

 

「メインフェイズ。私は〈サジットエンジェル〉を召喚します!」

 

 ソラの場に召喚されたのは、弓矢を装備した天使。

 あれの召喚時効果は強いぞ。

 

〈サジットエンジェル〉P4000 ヒット1

 

「〈サジットエンジェル〉の召喚時効果発動です! 召喚時に【天罰】を達成していれば、相手のパワーが一番低いモンスター1体を破壊します」

 

 弓矢を引くサジットエンジェル。

 今アイの場で一番パワーが低いモンスターは、キャクタスプラントだ。

 

「パワー9000の〈キャクタスプラント〉を破壊です!」

 

 サジットエンジェルの射った矢が、キャクタスプラントを貫く。

 抵抗する間もなく、キャクタスプラントは爆散してしまった。

 

「さぁいきますよ! 私は〈サジットエンジェル〉を進化させます!」

 

 魔法陣に飲み込まれるサジットエンジェル。

 来るぞ、ソラの切り札が!

 

「天空の光。今翼と交わりて、世界を癒す輝きとなる。〈【天翼神《てんよくしん》】エオストーレ〉を進化召喚です!」

 

 魔法陣が弾け飛び、ソラの場にウサ耳の大天使が光臨した。

 

〈【天翼神】エオストーレ〉P11000 ヒット3

 

「貴女もSRカードを使うのね」

「はい。私の一番大切なカードです」

「そうなの。ならその力、見せてもらうわ」

「言われなくてもです! アタックフェイズ。〈エオストーレ〉で攻撃します」

 

 エオストーレの手の平に光が集まっていく。

 【天罰】効果を発動する合図だ。

 

「攻撃宣言時に、魔法カード〈ディフェンスシフト〉を発動するわ。私の場のモンスターは全て回復する」

「無駄です! 攻撃時に〈【天翼神】エオストーレ〉の【天罰】効果発動! 相手はモンスターを2体選んでデッキの下に送らなけれないけません」

「私のモンスターは2体ちょうど」

「そうです。全部デッキの下に送ります」

 

 エオストーレの強力な除去効果が発動する。

 普通のファイターならきっとここで酷く動揺するだろう。

 だけどアイは違った。そして俺には、アイが冷静な理由も分かった。

 セフィロタウラスの第三の効果!

 

「〈シスタスプラント〉と〈セフィロタウラス〉をデッキに戻すわ」

「これで場はがら空きです」

「それはどうかしら? 場を離れる瞬間、〈【獣新樹】セフィロタウラス〉の効果発動!」

「3つ目の効果!?」

「〈セフィロタウラス〉が場を離れる時、私は手札1枚を捨てる事でそれを無効にできる」

 

 アイ:手札1枚→0枚

 

 やっぱり使ってきたか、セフィロタウラスの身代わり効果。

 何が凶悪って、この身代わり効果のコストは手札を捨てるなんだよ!

 

「手札を捨てた事で、また【再花】が発動するわ」

「またですか!」

「さぁ再び舞台に咲きなさい、〈チューリッププラント〉〈キャクタスプラント〉」

 

 場に咲いたのは、チューリップの化物とサボテンの化物。

 本当に、ゾンビみたいに湧いてくる花だな。

 

〈チューリッププラント〉P4000→P6000 ヒット1

〈キャクタスプラント〉P7000→P9000 ヒット2

 

「当然このタイミングでも、召喚時効果は使えるわ。〈キャクタスプラント〉の効果で〈シールドエンジェル〉を破壊よ!」

 

 キャクタスプラントの棘が、シールドエンジェルの全身に突き刺さる。

 本当に痛そうだな。

 

「そしてその攻撃は〈チューリッププラント〉でブロックよ」

 

 エオストーレの攻撃を真正面から受け止める、チューリッププラント。

 あっけなく爆散したが、主であるアイは守れた。

 だがソラの方は、これ以上の追撃ができなくなってしまった。

 

「うぅ。ターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ3 手札1枚

 場:〈【天翼神】エオストーレ〉

 

 正直絶体絶命のソラだけど、彼女の目にはまだ光が灯っている。

 

「本当に最後まで諦めない気なのね」

「もちろんです」

「良いわ貴女。本当に良いファイターだわ。だからこそ私も、本気を出せる」

「私も、アイさんの本気を見てみたいです!」

「ならその願い、叶えてあげるわ。私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 アイ:手札0枚→1枚

 

 恐らくこれが最後のドロー。

 アイはこのターンで決着をつけないと、きっと負ける。

 そしてそれは、ソラも同じだ。

 さぁどうなる。

 

「アタックフェイズ。〈セフィロタウラス〉で攻撃!」

「その瞬間、魔法カード〈ヒーリングウォール〉を発動します! 効果で場の〈エオストーレ〉を回復です」

 

 起き上がるエオストーレ。

 これでブロッカーができた。

 

「〈エオストーレ〉でブロックします!」

 

 二人の切り札が、戦場でぶつかり合う。

 セフィロタウラスは真紅の瞳に輝きを宿して、獰猛な雄たけびを上げる。

 対するエオストーレは、神々しい光を身に纏ってセフィロタウラスを見下ろしていた。

 

 セフィロタウラスが大斧を投げて攻撃する。

 しかしエオストーレはそれを容易に躱す。

 二体のSRカードの激突に、周りのギャラリーも大盛り上がりだ。

 

「パワーは〈セフィロタウラス〉が上のようね」

「だけどブロックは成功しています。そして〈エオストーレ〉は【ライフガード】を持っています。破壊されても、回復状態で場に残るんです」

「つまり次の〈キャクタスプラント〉の攻撃も防げると」

「そういうことです」

「なら……この攻撃で決着をつけてあげる」

 

 アイは最後の1枚である手札を、仮想モニターに投げ込んだ。

 

「魔法カード〈ジェノサイドソーン〉を発動! 〈セフィロタウラス〉に【貫通】の効果を与えるわ!」

「貫通!? それじゃあ」

「やりなさい! 〈セフィロタウラス〉!」

 

 魔法カードの効果で強化されたセフィロタウラスが跳躍する。

 瞬く間に、空中にいたエオストーレの眼前に現れ、手にした大斧を振り下ろした。

 エオストーレは防御壁を出し必死に耐えようとする……しかし、その抵抗は虚しかった。

 エオストーレの防御を突き破り、セフィロタウラスの大斧が襲い掛かる。

 

 エオストーレの身体は、大きな音を立ててて爆散してしまった。

 

「〈エオストーレ〉!」

「そしてモンスターを破壊した事で【貫通】発動」

 

 セフィロタウラスの大斧はそのまま、ソラに襲い掛かった。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 ソラ:ライフ3→0

 

 アイ:WIN

 

 とてつもない激戦。

 最後の一手でそれを制したのは、アイだった。

 

「ツルギ程じゃないけど、良いファイターだったわよ。ソラ」

 

 アイは心底嬉しそうな声で、そう呟いていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話:芽生えた友情(?)とか仲間とか

 ファイトが終わり、二人の召喚器がスリープモードに移行する。

 立体映像は消えたが、ファイトを見ていたギャラリーからは拍手が巻き起こった。

 

 俺は肩を落としているソラの元へと歩み寄る。

 

「お疲れ様、ソラ」

「ツルギくん。ごめんなさい、負けちゃいました」

「でも良いファイトだったぞ。ソラも楽しかったんじゃないのか?」

「はい。それはもう」

 

 満面の笑みを浮かべるソラ。

 うんうん、やっぱり良いファイトは負けても満たされるものなのだ。

 俺は無意識にソラの頭を撫でる。

 

「あ、あの、ツルギくん? それはちょっと恥ずかしいのですが」

「えっ? あっ! ごめん」

 

 俺は慌ててソラの頭から手を離す。

 だってソラさん、ちょうど良い位置に頭があるんだもん。

 

「そういうのは……もっとこう、二人っきりの場面でとか……」

 

 顔を赤くしたソラが何か言っているが、上手く聞き取れない。

 そんな事をしていると、俺達の元にアイが歩み寄ってきた。

 

「あらツルギ。勝者にはご褒美が無いの?」

「えっ? 頭撫でて欲しかったの?」

「違うわよ、鈍いわね」

 

 頬を膨らませるアイ。

 女の子ってよくわからん。

 

「まぁいいわ。それよりもソラ」

「はい?」

「ありがとう、いいファイトだったわ」

「私もです、アイさん」

「さんは無くていいわよ」

「わかりました、アイちゃん」

 

 静かに手を差し出すアイ。

 ソラは笑顔でその手を掴んだ。

 

 これぞきっと、サモンで生まれる友情だ。

 良い握手だ。感動するなぁ。

 カードゲーム至上主義世界、万歳。

 

「でも、次は負けませんよ」

「あら、私もそう簡単にリベンジ成功させる気はないわよ」

 

 二人の間に燃え上がる炎。

 お互いに認め合ってはいる筈なんだけど……

 サ、サモン脳って、時々物騒に見えるよね。

 

「遅れてすまない……が天川、この状況はなんだ?」

「あぁ速水。簡単に言えば女子二人がサモンで分かり合ったんだ」

「いまいち理解が追いつかないんだが」

「安心しろ、俺も完全には理解できていない」

 

 何とも微妙なタイミングで姿を見せた速水。

 俺は理解ができた範囲で、ここまでの状況を説明した。

 しかし速水には半分も伝わっていないだろう。

 俺達は首を傾げるばかりだった。

 

「とりあえず、赤翼とファイトした遠征女子が強いという事は理解した」

「で、アイとソラが戦って、今さっき決着した」

「そして二人が何故か意気投合して、あぁなっていると」

 

 速水が指差した先、そこには和かに談笑するソラとアイがいた。

 いや仲良くなるの早いな君ら!

 

「俺はとりあえず特訓に入りたいのだが」

「それもそうだな。ソラー! そろそろ特訓始めようぜー!」

「あっ! ごめんなさい。つい盛り上がっちゃいました!」

 

 パタパタとこちらに駆け寄ってくるソラ。

 その姿をアイは少し残念そうに見ていた。

 

「流石に私はもうお邪魔かしら」

「あぁそれなんだけどさ。なぁ速水、アイも特訓に参加させてもいいか?」

「む? どうしたんだ唐突に」

「いやほら、俺ら三人だからファイトする時にいつも一人余るだろ? だからアイにも参加してもらおうかと思って」

「強さの方は大丈夫か?」

「安心しろ。俺が保証する」

「なら強者だな。いいだろう」

「私もアイちゃんなら歓迎です」

 

 よし、二人の許可は得られた。

 あとはアイの意志だな。

 

「という訳なんだけど、アイはどうだ? 特訓といってもファイトをし続けるだけだけど」

「……いいのかしら。私が入っても」

「いいのいいの。サモン仲間は多いに越したことはないからな」

「そうですよ。ついでに私もアイちゃんにリベンジ挑みたいです!」

 

 やる気満々のソラ。小動物みたいでちょっと可愛いな。

 

「サモンを通じて分かり合えたなら、サモン仲間だ。派手に楽しもうぜ」

「……フフ。やっぱりツルギは面白い人ね」

「そうかな?」

「そういう事にしておきなさいな」

 

 アイが俺達の方へと一歩出る。

 それが参加の意思表示なのは、すぐに理解できた。

 

「そこのメガネの人もツルギが鍛えたファイターなの?」

「まぁ、速水も一応そうなるのか?」

「そうだな。俺もツルギには色々世話になった人間だ」

「そうなの。なら戦うのが楽しみだわ」

 

 期待に胸を膨らませているような声で、そう言うアイ。

 楽しそうで何よりだ。

 

「そういえばアイちゃん。どうして帽子とサングラスをつけたままなんですか?」

「そ、それは……」

「そういうファッション……なのか?」

「そ、そうよ。そういうファッションよ」

 

 明らかに動揺しているアイ。

 まぁそう簡単に顔を晒せないよなぁ、アイドルだもん。

 俺は気づいているけど、ソラと速水は明らかに気がついてないな。

 ネタバラシ……は止めておこう。絶対に混乱しか起こさない。

 

「アイのファッションに関してはまた今度でいいだろ。早くファイトしようぜ」

「それもそうだな」

「……ほっ」

 

 アイさん、目に見えて安心したな。

 それはそれとして、俺達はファイトの組み合わせを決める。

 最初のファイトは俺とソラ、そして速水とアイになった。

 

「よーし、みんな全力全開でいこうな!」

「はいです!」

「速水君だったわね。期待してるわよ」

「あぁ、よろしく頼む」

 

 そして始まる特訓ファイト。

 まぁ俺からすれば純粋に楽しい時間なんだけどな。

 ひとまず俺はソラと対戦する。

 

「〈シールドエンジェル〉で攻撃です!」

「〈コボルト・ウィザード〉でブロック」

 

 立体映像のモンスター達が、激しい攻防を繰り広げる。

 ファイトを通じて分かった事は、ソラが間違いなく強くなっているという事。

 出会ってすぐの頃と違い、確実に俺のライフを減らすようになってきた。

 そして返しのターンでのケアも上手くなっている。

 だけど……俺もそう簡単には負けない!

 

「魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動! 更に〈ジャバウォック〉を召喚だ!」

「っ! 防ぐ手段が、ない」

「アタックフェイズ! 〈ジャバウォック〉で2回攻撃だ!」

「きゃあ!」

 

 ソラ:ライフ5→0

 

 ツルギ:WIN

 

 無事勝利を収めた俺だけど、以前に比べれば楽な勝利とは言えなくなった。

 

「あうぅ、やっぱりツルギくんは強いですね」

「ソラもかなり強くなってきてるけどな」

「えへへ」

 

 無垢な笑みを浮かべるソラ。

 でも強い人間が増えてきたのは事実だ。

 それはさっきのアイとの対戦でも感じた。

 きっとこの先の大会、JMSカップでは今までのデッキでは上手くいかない場面も出てくるだろう。

 となれば……やっぱり相棒の進化形態が必要になるかもしれないな。

 

「ツルギくん、どうしたんですか?」

「いや、ちょっと考えごとをな」

 

 そういえばアイと速水はどうなった?

 俺は二人のファイトに目を向ける。

 

 速水:ライフ3 手札1枚

 アイ:ライフ3 手札1枚

 

 場の方は……お互い切り札1体だけか。

 だけど、速水の手札が少ないのが心配だな。

 

「アタックフェイズ。〈【獣新樹】セフィロタウラス〉で攻撃」

「魔法カード〈アースエレメント〉を発動! 〈スチーム・レックス〉を回復させて、ブロックだ!」

「悪いけど、貫かせてもらうわ。魔法カード〈ジェノサイドソーン!〉を発動! 〈セフィロタウラス〉に【貫通】を与えるわ」

「なんだと!?」

「いきなさい〈セフィロタウラス〉!」

 

 蒸気の恐竜と、神樹の化身がぶつかり合う。

 セフィロタウラスが振りかざした大斧を、スチーム・レックスが噛み付いて防ごうとする。

 しかしパワーはセフィロタウラスの方が上だ。

 必死に抵抗を試みるスチーム・レックスだが、最後には力負けして、大斧に両断だれてしまった。

 

「【貫通】の効果で、〈セフィロタウラス〉のヒット数分のダメージを受けてもらうわ」

「……俺の負けか」

「でも、楽しかったわよ」

 

 速水:3→0

 

 アイ:WIN

 

 見事勝利を掴んだアイ。

 一方の速水は負けたものの、何か得るものはあった様子であった。

 

「流石はツルギが鍛えたファイターね。中々倒し甲斐のあるファイターだったわ」

「天川が規格外なだけだ。だが、俺も良いファイトができた。感謝する」

 

 ファイトを通じて、こちらにも友情が生まれたらしい。

 いいなぁ、俺もあぁいう演出欲しかったよ。

 

「アイちゃん、本当に強いですね」

「だよなぁ。意外と公式大会で優勝しまくってたりして」

「それだと私達のライバルですね」

「JMSカップで会ったりしてな」

 

 ワハハと笑う俺。

 だけど……本当に大会で出会ったら、アイはとてつもない強敵になるだろうな。

 

「さぁ、次は誰が相手をしてくれるの?」

「やる気満々だなアイ」

「当然よ。こんなに楽しいファイトは久しぶりだわ」

「なら俺達三人で、今日はとことん楽しませてやる!」

 

 再び対戦カードを決める俺達。

 結局その日の俺達は、日が暮れるまでファイトに明け暮れた。

 

 アイは終止、本当に楽しそうにファイトをしていて、戦っている俺達まで笑顔になった。

 どこか鬱憤を晴らしているような気もしたけど、それでも楽しそうなのには変わりない。

 だからこそ俺は、心の中で強い引っかかりを感じていた。

 

 もしも、サモンをするのが辛くなったら……

 

 アイが投げかけた言葉が、何故出て来たのか。

 俺には全く分からなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話:花言葉は「信頼」「真の友情」

 JMSカップ本番に向けて、着々と準備を進める俺たち。

 日々の特訓のおかげで、速水とソラはデッキの調整も進んできた。

 あとは俺のデッキの調整が問題。

 

 ……と言いたいところなのだが、別件で大きな問題が残っている。

 

「チーム名、どうしよう」

 

 大会に向けてのデッキ調整は順調だけど、肝心のチーム名がまだ決まっていなかった。

 だってこういうの名付けた経験ないんだもん!

 試しに家で卯月にアイデアを募ったところ「アタシにネーミングセンスを求めないで」と返されてしまった。

 名付けという文化から遠い兄妹である。

 

 だが時間も有限だ。ここ数日は学校でも、そればっかり考えている。

 今日も俺はチーム名の参考にと、サモン専門の週刊誌を読み耽ったりしている。

 色々なチーム名が出てくるが、どうにも良い刺激がこない。

 

「名付けってこんなに難しいんだな〜」

「随分頭を悩ませているようだな。天川」

「そうだな。速水はなんか良いチーム名思いついたか?」

「お前たちの期待に添えそうなものは、まだだな」

「せっかくだし、なんかカッコいいチーム名をつけたいよ」

「それは俺も同感だ」

 

 だがそこは流石のサモン至上主義世界。

 いい感じの名前は大体プロが既に使っていたりする。

 速水に聞いたところ、例年だと中学生チームは自分の所属する学校の名前をチーム名に採用する事がほとんどらしい。

 ……チーム:丘井西中学か……カッコよく無いな。

 

「俺ら三人になんか共通点とかあったか?」

「共通点? 同じ学校同じクラスだな」

「他の要素は?」

「……無いな。デッキも戦術もバラバラ。性格性別も統一性が無い」

「チーム名考えるのが難しくなってきました」

 

 いっそチーム:勉強会とかにするか?

 でもそれだとメガネキャラの速水の要素が強烈すぎる気がする。

 

「そういえば天川、お前のデッキ調整はどうなんだ?」

「ん? 順調だよ。なにもチーム名の事しか考えてないわけじゃない」

「そうか。ならよかった」

「勿論派手に暴れる事も可能なデッキに仕上げるつもりだ」

「……一気に不安になったな」

 

 冷や汗をかきながら、速水はメガネの位置を合わせる。

 なんだよ! 暴れてもいいじゃんか!

 だってテレビ中継されるんだぞ!

 派手派手にいきたいじゃん!

 

 どうでもいいけど、俺の考え随分変わったな。

 

「ツルギくん、相手にトラウマ植え付けるのだけはやめてくださいね」

「あっソラ。いやいや、そんな事はしないよ」

「説得力が薄いです」

 

 ソラさん、真顔で言わないでください。

 流石にくるものがあります。

 まぁソラや速水の言うように、やりすぎは良くないな。

 

「今度の大会は、正統派な戦い方で勝ちにいくつもりだ」

 

 俺は召喚器から1枚のカードを取り出す。

 

「なんですか、そのカード?」

「簡単に言えば、俺の新しい切り札だ」

 

 取り出したカードをソラと速水に見せる。

 すると二人は目を見開いて驚いた。

 

「ツ、ツルギくん! それって」

「2枚目のSRカードか」

「そういう事。しかも俺の相棒の進化形態だ」

 

 まぁ本当はSRカードってだけなら、山ほど持ってるんだけどね。

 ややこしくなるから言わないけど。

 

 それはそれとして。

 今回俺がデッキに入れたのは、いい感じの1枚だと思っている。

 

「〈カーバンクル・ドラゴン〉……すごく強そうなカードですね」

「実際強いからな。これでJMSカップを制覇してやる予定だよ」

「それは頼もしい限りだな」

「あぁ、大いに信頼してくれ」

 

 絵面が恐ろしいループコンボからは程遠いカードだからな。

 正統派な勝利をお届けするぜ!

 

「それでツルギくん。デッキの方はいいんですけど……チーム名って、何か閃きました?」

 

 ソラの一言に、俺と速水は即座に俯いてしまった。

 それで全てを察したのか、ソラの苦笑いが聞こえてくる。

 

「ソラ、何か良いアイデアはないか?」

「すまない。俺たちにはネーミングセンスが皆無らしい」

「そうですねぇ……私もこういうのは初めてなので」

 

 三人で頭を捻る。

 カッコよくて、プロと被らない、いい感じのチーム名。

 うん、ハードル高いな。

 

「神話に出てくるモンスターの名前とかはどうですか?」

「それはもうプロに制覇されてるな」

「流石にチーム:オークを見つけた時は変な笑いが出たぞ」

「マイナーどころも制覇されてるんですか」

 

 そうなんだ。マイナーでカッコいい名前は大体制覇されてる。

 

「じゃあドイツ語で何か探すのはどうでしょうか!」

「赤翼、何故ドイツ語なんだ?」

「語感がカッコいい単語が多いからだろ」

 

 ボールペンをグーゲルシュライバーって言ったり。

 水をヴァッサーって言ったり。

 

「なるほどな。ところで二人はドイツ語をどのくらい知っている」

「俺はほとんど知らないぞ。ソラは?」

「……ノーコメントです」

「じゃあドイツ語案は保留だな」

 

 そもそも中学生に第二外国語はハードルが高すぎる。

 もう少しハードルが低いものはないのか?

 

 すると速水がこんな事を言ってきた。

 

「そうだな。灯台下暗し。案外身近なところにヒントは転がっているかもしれない」

「と、いうと?」

「最近出会ったものの中にヒントはないか、三人で探してみるんだ」

「最近、ですか?」

 

 最近の出来事ねぇ。

 俺は記憶を引っ張り出す……が、出てくる印象的な出来事は一つしかない。

 

「アイと知り合ったこと」

「そうですね。最近だと一番印象が強いですね」

「連想ゲームのように、何か出てこないか?」

 

 連想ゲーム。

 アイから連想できる要素といえば……アイドル。

 だけどアイドルはチーム名に使えないだろ。

 というか、アイドルのインパクトが強すぎる。

 他に連想できる要素なにかないのか!?

 

 だけど俺と速水が悩んでいる中、ソラは何かに行き着いたらしい。

 

「……花」

「えっ、花?」

「アイちゃんが使っていたカードです。花がモチーフのモンスターだったなって」

「まぁ、系統:〈樹精〉だしな」

「私、花言葉は結構知ってるんですよ」

「すると赤翼、花の名前をチーム名するという事か?」

「はい!」

 

 花の名前か。

 確かにプロチームではあまり見かけなかったな。

 案外良いアイデアかしれない。

 

 問題があるとすれば、どの花にするかなんだが。

 

「ソラ、何かいい感じの花知ってるか?」

「ちょっと待ってくださいね。私たちのチームにピッタリの花は……」

 

 額に人差し指を当てて、ソラは考え込む。

 

「なぁ速水。花言葉って何か知ってるか?」

「有名なものなら幾つかは」

「俺は薔薇くらいしか知らない」

 

 流石にチーム:ローズは情熱が過ぎる。

 そんな事を話していると、ソラが何かに行き着いたようだった。

 

「信頼、真の友情」

「それ、花言葉か?」

「はい。私たちにピッタリだと思って」

「なるほど。確かに俺たちの始まりは天川に対する信頼。そして今は友情で繋がっているな」

「速水。なんか小っ恥ずかしくなるからやめてくれ」

「事実を述べたまでだ」

 

 そういうのが小っ恥ずかしいんだよ!

 気持ちは嬉しいけどね!

 

「仲間への信頼。そして友情。私たちのチームを表すのに一番だと思うんです」

「俺は同意だな。天川はどうだ?」

「まぁ、その、俺もそういう意味の言葉なら賛成だな」

 

 なんかカッコ良い感じもするし。

 

「で、ソラ。その花の名前は?」

 

 一番大事な事。

 ソラは「よくぞ聞いてくれました」といった感じで胸を張り、俺たちに花の名前を告げてくれた。

 

「ゼラニウム。それが花の名前です」

「つまり俺たちのチーム名は」

「チーム:ゼラニウムか……カッコいいじゃん」

 

 うん。気に入った!

 意味もカッコ良いし、語感もいい感じ!

 

「速水、お前はどう思う」

「俺は良いと思うぞ。天川は?」

「当然賛成だ」

「それじゃあ」

「サンキュー、ソラ。これでチーム名決定だ!」

 

 速水が取り出した、大会申し込み用紙にチーム名を記入する。

 これで正式に、チーム結成だ!

 

「俺たちは、チーム:ゼラニウムだ」

 

 これで残すはデッキ調整のみだ。

 大会までに最高の状態に仕上げてやる!

 

 勿論、ソラと速水も強化するぜ。

 目指すは三人で大会制覇だ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話:強きアイドルユニット

 チーム名はゼラニウムに決定した。

 これで残すはデッキ調整をして、大会本番を待つのみ。

 

 時間も流れて五月になった。

 大会申し込みも終わり、JMSカップ本番まで残り一ヶ月といったところだ。

 

 ここまでにやってきた事いえば、主に特訓。

 何度もファイトをして、デッキを調整するんだ。

 勿論その過程で、ソラと速水も強化してやる。

 たまにアイが参加してくれたので、皆で仲良くファイトを楽しんだりしていた。

 

「……そういえばアイ、最近会わないな」

 

 やっぱりアイドル活動が忙しいのかな?

 俺はあまりアイドルというものに詳しくないから、アイが普段どんな活動をしているのかはよく知らない。

 

 同じ学校なら色々情報が手に入ったのだろうけど、残念ながら違う学校だ。

 そもそもアイは遠征の人だし。

 

 まぁそれはそれとして。

 今日も今日とて、中学生は学校で授業を受ける。

 サモン以外の勉強は面倒くさい事この上ないが、第一志望校へ合格するためだ。頑張って耐えよう。

 

 それでも休み時間にデッキ調整を続けるんだけどね!

 

「……もう少し防御を強めるか?」

「相変わらずデッキ調整か? 天川」

「そうだよ。大会まで一ヶ月だからな。速水の方はどうだ?」

「順調だ。少なくともお前に恥じるような出来には仕上がってないさ」

「そりゃ頼もしいな」

「期待してくれ」

 

 とりあえず速水は大丈夫そうだ。

 となれば気になるのは……

 

「ツルギくん」

「ちょうどいい。ソラはデッキ調整どうだ?」

「それならバッチリです。いつでも戦えますよ!」

「最高」

「えへへ」

 

 ソラもいい感じに仕上がっているらしい。

 なら俺も、頑張って最高のデッキに仕上げないとな。

 頑張るぞー!

 

「三人揃ったのなら、丁度いい」

「ん? なんかあるのか?」

「大会に関する新情報だ」

 

 おっ、これは重大発表かな。

 速水がスマホの画面を俺たちに見せてくる。

 

「今回の大会に参加するチームと、その所属ファイターが発表された」

「へぇ。大会前に全員発表するんだ」

「未来のプロかもしれないからな。主にスポンサーに向けたサービスだろう」

「大人の世界はよくわからん。それで、どんな奴らが出るんだ?」

「参加チームは全部で16組。参加条件の都合、いずれも今までにない強敵ばかりだ」

 

 速水がスマホの画面を変える。

 そこに表示されているのは参加ファイター一覧と、各ファイターの簡単な戦績紹介だった。

 

「すごいですね。どの選手も有名な大会を入賞しています」

「まぁ、公式大会を勝ってないと出れない大会だからな。そうなるだろ」

「あっ、テレビで見たことあるファイターもいます」

「そうだ赤翼。今回の大会は今までとは明らかに違う。敵のレベルは桁違いだ」

「うぅ、勝てるでしょうか?」

 

 少し弱気になるソラ。

 まぁ確かに、凄まじいメンツを見せられたら萎縮もするわな。

 だけど大丈夫だろ。そう簡単に負けるようなファイターに、俺は育ててはいない。

 

「赤翼の心配はもっともだ。だが、俺たちも対策を練られない訳ではない」

「どういうことですか?」

「公式大会の映像は、動画サイトにいくらでも転がっている。特に決勝戦付近は盛り上がるからな、簡単に見つけられるということさ」

 

 なるほど。流石はサモン至上主義世界。

 公式大会の動画も簡単にアップされているのか。

 ……合法かは全くわからないけど、突っ込まない方がいいだろう。

 

「つまり相手の傾向なんかを、事前に調べられるってことか」

「そういう事だ。探せる範囲内で見つけた動画をまとめてきた。これで何か対策を練られるだろう」

「速水くんスゴいですね」

「だな……だけど対策練られてるのは俺らもだよな?」

「あっ」

「……そうだな。だからこそ、目には目をだ」

 

 まぁそれしか方法はないよな。

 考えすぎても、いたちごっこにしかならない。

 

「数が多いから、アドレスを後でメッセージで送る。今は俺が特別気になった選手の動画を見て欲しい」

「了解だ」

「はいです」

 

 速水のスマホに、サモンの試合動画が流れる。

 タイトルを見てみると、本当に日本全国から来るのだなとわかる。

 これは一筋縄ではいかないか?

 そんな事を考えながら、俺は動画を見た。

 

「どうだ、二人とも」

「強いファイターですね。このレベルの人たちがチームを組んでくるんですか」

「そういう事だ。迂闊なプレイは即敗北に繋がると思っていいだろう」

「うぅ、胃が痛いです」

「天川はどうだ?」

「……ん〜、まぁ、確かに強いとは思うぞ」

 

 ただしこの世界基準でだがな。

 カードはレアカードも多いし、プレイングもまぁまぁ。

 だけど穴は多く、隙も多い。

 

「倒せない敵じゃないな」

「流石は天川だな」

「頼もしいですね」

「というか、この動画の奴らよりも強いファイターが、俺以外にも身近にいるだろ」

「……確かに」

「アイちゃん強いですもんね」

 

 そうだ。確かに動画のファイターは強い。

 だけどアイの方がもっと強かった。

 そのアイと何度も戦ってきたんだ。速水とソラはもっと自信を持っていいだろ。

 

「速水。他の動画は?」

「そうだな。次はこれなんてどうだ」

 

 速水のスマホで、色々なファイターの動画を見る。

 確かに皆強いが、やはりこの世界基準だ。

 苦戦しそうな敵ではない。

 

「ソラ、速水。このファイターはアイより強いと思うか?」

「……いや、そうでもないな」

「こう考えると、アイちゃんって本当に強いですよね」

「そのアイと渡り合ってきたんだ。もっと自信持てよ」

「そうですね。その通りです」

「それに、チーム:ゼラニウムには俺もついてるんだぞ!」

「その言葉は頼もし過ぎるな」

「ツルギくんが大会で負けるイメージが全く湧かないです」

 

 そうだそうだ! 確実に俺が一勝もぎ取ってやる。

 しかも新切り札のオマケつきだぞ!

 盛り上がる絵面にしてやるぜ。

 

「で、速水。他の動画は?」

「そうだな、次はこれだ」

 

 次の動画もやはり同じ感想。

 強いが、倒せない敵ではない。

 俺たちなら十分に制覇できる敵だ。

 

「やっぱり倒せない敵じゃないな」

「それは天川が規格外なだけだ」

「気持ちの問題もありますよぉ」

 

 なるほど、気持ちの問題か。

 それは大事だな。

 この二人にはファイトを通じてメンタルを鍛えて貰わねばならん。

 今後の育成方針決定の瞬間です。

 

「動画はこれで全部か?」

「いや、あと一つある。個人的には一番気になっているチームの動画だ」

「チーム、ですか?」

 

 ファイターではなくチームと表現した速水。

 既にチームとして戦っているファイターなのか?

 

「これを見てくれ」

 

 速水のスマホに動画が再生される。

 そこには煌びやかなステージの上で、歌って踊る女の子達が映っていた。

 

「これは、アイドルのライブですか?」

「意外な趣味だな」

「勘違いするな。このアイドルをよく見ろ」

 

 速水に言われるがまま、俺とソラはライブ動画を見る。

 

 ユニットのメンバーは三人。

 金髪ショートボブの女の子に、黒髪ロングの女の子。

 そして……栗色の髪をツインテールにした、俺のよく知る女の子が踊っていた。

 

「あっ、これ『Fairys(フェアリーズ)』ですよね。最近テレビでよく見ます」

「そうだ。最近人気が上昇しているアイドルユニット。サモンの実力も確かなものらしい」

「そうらしいですねぇ……あれ? でもこのタイミングで見せてくるってことは」

「そうだ赤翼。この『Fairys』もJMSカップの出場チームだ」

「えぇぇぇぇぇぇ! そうなんですか!?」

 

 大袈裟に驚くソラ。

 確かにアイドルがカードゲームの大会に出るなんて聞いたことないな。

 いや、サモン至上主義世界だからおかしくはないか?

 カオスな世界だから判断がつかん。

 

「というかそれだと、アイもJMSカップに出るってことか」

「「えっ?」」

「えっ?」

 

 あれ、なんか噛み合ってない?

 

「天川、どういう事だ?」

「なんでアイちゃんの名前が出るんですか?」

「いやだって、このユニットが出るってことは、アイも出るってことだろ」

 

 俺は動画一時停止させて、ステージ上アイを指差す。

 ソラと速水は、じっとその画面を見ていた。

 

「な、アイだろ」

「「……えっ!?」」

「もしかして、気づいてなかったのか」

 

 流石にそろそろ気づいてると思ってた。

 

「アイが、アイドル、だとッ!?」

「あっ、そういえばアイちゃんのSNSの名前、アイリでした」

「あんだけ声聞いたんだし、髪の色とかでわかるだろ」

 

 バラバラだったピースが繋がったのか、速水もソラもすごい驚愕顔を晒してきた。

 

「言われてみれば、いつも顔を隠していたな」

「フルネームも頑なに言わなかったですね」

「まぁアイドルだからな。仕方ないだろ」

「そうですね……って、ツルギくん! なんで教えてくれなかったんですか!」

「いやぁ、勝手に気づくかなと思って」

「そういう事は早く教えろ」

 

 怒られちゃった。

 

「まぁそれはさておき。アイのファイトスタイルはよく知ってるから、他のメンバーのファイト見ようぜ」

「むぅ〜。誤魔化しましたね」

「……」

「速水?」

 

 どうしたんだ、急に黙って。

 

「なぁ天川。本当にこの子はアイなのか?」

「どう見てもそうだろ」

「いや。そうなると、少し気になる事があってな」

 

 そう言うと速水は、スマホを操作して新たな動画を再生し始めた。

 

「『Fairys』の試合ですね。スゴいです、公式大会の決勝ですよ」

「いや、参加条件的にそうなるだろ」

 

 とりあえず俺は動画を見る。

 大会は今回と同じようにチーム戦らしい。

 先鋒を金髪の女の子、日高ミオが制した。

 次鋒の黒髪少女、佐倉夢子は接戦の末に敗北。

 決着は大将戦に持ち込まれた。

 

「スゴい、アイドルなのに強いですね」

「あぁ。というか『Fairys』の名前通りなデッキ使ってるんだな」

 

 具体的に言うと、二人とも系統:〈妖精〉のデッキを使っている。

 少し癖はあるけど、使いこなせばそれなりに強いカード達だ。

 

 ……あれ? 二人が〈妖精〉デッキ?

 そうなるとアイの〈樹精〉がめっちゃ浮くのでは?

 

「あっ、大将戦始まりました」

 

 ファイトステージにアイドル衣装のアイが立つ。

 特に気になる様子は無い……いや待て、アイの様子がなんか変だ。

 

 どう見てもいつもと違う。

 あの楽しそうなアイの姿は無く、クールな様子で何かを隠しているような感じがした。

 

『『サモンファイト! レディー、ゴー!』』

 

 そして始まる大将戦。

 次の瞬間、俺たちは強い衝撃を受けた。

 

『私は〈ウインドピクシー〉を召喚』

「えっ!?」

 

 ソラが声を漏らす。それは俺も同じだった。

 何故ならアイが召喚したモンスターは、彼女が愛用する〈樹精〉のモンスターではなかったのだ。

 

 あれは、系統:〈妖精〉のカードだ。

 

「アイちゃん、どうしてデッキを」

「わからない。だが少なくとも、アイが大会でどちらのデッキを使ってくるか俺達にはわからなくなってしまった」

 

 冷静に答える速水だが、内心は動揺しているだろう。

 

 俺は動画に目を奪われていた。

 試合はアイの優勢で進み、そのままフィニッシュ。

 アイドルユニット『Fairys』は大会を優勝で飾った。

 

 画面の向こうで喜ぶアイドル三人。

 だけど俺には、アイがどこか空虚なものを抱いているように見えた。

 何故なら、ファイトの中でアイは……ただの一度も楽しそうではなかったから。

 

「アイ……どうしたんだ?」

 

 小さな混乱を胸に抱きながら、動画は再生を終了した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五話:I Dole

 宮田愛梨はアイドルである。

 それも芸能人としてはサラブレッドと呼べる家系の生まれだ。

 祖父母と両親、共に有名な芸能人。

 そんな家庭環境で育った愛梨が、同じ世界に憧れを抱くのは必然であった。

 

 そして今、その夢は叶いアイドルをしている。

 ただし、その夢が愛梨に幸せを与えているかは、また別の話だ。

 

 ツルギ達と出会ってしばらくが経った頃。

 とあるTV局の楽屋で、愛梨はスマートフォンを眺めていた。

 

「……ふふっ」

 

 開いているのはメッセージアプリの画面。

 ツルギとのトーク履歴を眺める愛梨。

 本気のファイトでぶつかり合えた相手との思い出は、愛梨を自然と笑顔にした。

 

「おやおやアイっち〜。なーにニヤニヤしてんの?」

「ちょっとミオ、急に覗かないでよ」

「だってアイっちが珍しくメスの顔してたんだもーん」

「ちょっとミオちゃん、言い方」

 

 愛梨とアイドルユニットを組んでいる二人。

 ミオと夢子が話しかけてくる。

 二人と愛梨はそれなりに長い付き合いだ。

 三人ともアイドル活動を始めてからずっと一緒で、仲もいい。

 

「仮にもアイドルにメスの顔だなんて。失礼するわね」

「え〜、だって本当にそう見えたんだもーん。ねぇユメユメ」

「えっ……えっと、アハハ」

 

 否定はしない夢子を見て、愛梨は少し自分の顔を鏡で確認した。

 確かに口角が上がっている。これはいけない。

 愛梨はプロ根性で表情を戻した。

 

「それでアイっち? なに見てたの?」

「友人とのトーク履歴よ」

「カレピとかじゃなくて?」

「あのねミオ。私はアイドルよ? 恋愛は御法度なの」

「でも画面に映ってたの男の子っぽかったよ」

 

 男子とのトーク履歴というのがバレていた。

 愛梨は顔を真っ赤にして硬直してしまう。

 

「えっ!? 愛梨ちゃん、まさか本当に」

「ち、違うわ! ツルギはただの友達よ!」

「おー、マジ焦りしてるアイっち。これはレアですなー」

「ミオのせいでしょ!」

 

 やいのやいのと、戯れ合う三人。

 愛梨は必死にツルギは友達だと言い張った。

 

「で、そのツルギ君とやらとは、どのような馴れ初めで?」

「だからミオちゃん、言い方」

「ツルギとは、遠征先のカードショップで会ったのよ」

 

 どうせ無視しても追及され続けるのは目に見えている。

 愛梨は大人しく、ツルギとの出会いを語った。

 

「ほうほう……本気のアイっちを倒したですとー!?」

「えっ、それって物凄く強い人ですよね!?」

「えぇ、私の心が震えるくらい強い子だったわ。今でも思い出してはドキドキするくらい」

「はえー、アイっちが本気で気に入ってる」

「すごいですね」

 

 本気の愛梨がどれだけ強いか知っている二人だからこそ、言葉を失っていた。

 同時に、会ったこともないツルギという少年の強さを見てみたいとも思った。

 

 そんな話している中、夢子はおずおずと愛梨に質問する。

 

「ねぇ……愛梨ちゃん。そのツルギって人ファイトした時のデッキって、やっぱり」

「……えぇ。私の【樹精(じゅせい)】デッキよ」

 

 愛梨がそれを答えた瞬間、楽屋重苦しい空気に包まれる。

 

「ねぇ、愛梨ちゃん。やっぱり私からもプロデューサーに言うよ。愛梨ちゃんにちゃんとデッキ使わせてくださいって」

「そうだよアイっち! アイっちだけ我慢する必要なんてないじゃん!」

「気持ちは嬉しいわ。でも私は諦めてるから」

 

 光の無い目で答える愛梨。

 それを見たミオと夢子が、さらにヒートアップする。

 

「ユメユメ。やっぱりあのクソプロデューサーに直談判しよ」

「うん。私も同感です」

「ダメよ二人とも。私なんかの為に無茶する必要はないわ」

「でもアイっち!」

 

 ミオが震えた声で愛梨に叫ぶと、楽屋の扉が開いた。

 三人の視線が扉を開けた人物に集中する。

 そこにいたのは上等なスーツに身を包んだ、壮年の男であった。

 男は淡々とした表情で三人のアイドルを見る。

 

「もうすぐ出番だ。準備をしろ」

「は、はい。プロデューサー」

 

 少ない口数から溢れ出る威圧感に、夢子が震えてしまう。

 この男がアイドルユニット『Fairys(フェアリーズ)』のプロデューサー、黒岩であった。

 黒岩は準備を始める三人を横目に、テーブルに置かれていた一つのデッキケースを見つける。

 

「愛梨。このデッキケースはなんだ」

「……私のデッキよ」

「お前のデッキは別にある筈だが?」

「安心して。別に撮影で使うつもりじゃないから。これはただのお守りよ」

「余分なモノは気を緩める。以後持ち込むな」

 

 そう吐き捨てた黒岩に、思わずミオが突っかかってしまう。

 

「ちょっとプロデューサー! なにもそんな言い方!」

「何か異論でもあるのか? 俺の方針に従わないなら代えを用意するだけだが」

「アイっちに、ちゃんとデッキを使わせてあげて」

「それは出来ないな。宮田愛梨にはこのユニットの看板になってもらう必要がある」

「それがアイっちの負担になってるのに! なんで無理矢理別のデッキを使わせるの!」

「それがビジネスだからだ」

 

 ただ……と、黒岩が続ける。

 

「愛梨がどうしても【樹精】のデッキを使うと言うなら、俺は止めない」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ミオと夢子の表情に光が灯った。

 だが……すぐに絶望へと叩き落とされた。

 

「まぁその場合、他の二人の進退に関しては保証しかねるがな」

「ッ!」

 

 愛梨は思わず歯を食いしばる。

 要するに人質なのだ。

 愛梨が勝手な行動すれば、ミオと夢子はアイドルという夢を終わらせる事となる。

 恐らくそうなった場合でも、黒岩は愛梨を引退にはさせない。愛梨はそれをすぐに理解してしまった。

 それはミオと夢子も同様。

 

「なんですか、それ……それじゃあ愛梨ちゃんは!」

「いくらなんでも酷すぎるよ!」

「どうするかは、愛梨次第だ」

 

 ニヤニヤと下卑た笑みで愛梨を見る黒岩。

 数秒の後、愛梨は【樹精】デッキを鞄に仕舞い、アイドル活動事に使う【妖精】デッキを手にした。

 

「行くわよ、ミオ、夢子」

「愛梨ちゃん!」

「アイっち!」

「ククク。懸命な判断だな」

 

 光のない目で楽屋を出る愛梨。

 それを追うミオと夢子。

 大切な仲間の夢は壊せない。そのためなら、自分を犠牲にする他ない。

 それは今までずっと続けてきた事だ。

 だが……今の愛梨には、何か心に引っ掛かりがあった。

 

「(今の私……ツルギが見たら、なんて言うでしょうね)」

 

 脳裏に浮かぶのは、自分と対等に戦ってくれた少年の姿。

 彼の真っ直ぐな目が、愛梨の心を揺らす。

 だがそれを無理矢理押さえ込む。

 今の愛梨は、観客が求めるアイドルなのだ。

 

私は()アイドル(Dole)

 

 愛梨の夢は、幸せ与えてくれない。

 心は静かに、確実に傷を走らせていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六話:一番大事なことは?

 JMSカップまで残り日数も僅か。

 今日もチームの皆で特訓だー!

 

 ……と、なる予定だったんだけど。

 

「まさかソラも速水も来れないとは」

 

 今日は二人とも外せない用事があるらしい。

 なので本日は俺一人。

 二人を鍛え上げる事ができないなら、自分自身鍛えるまでだ。

 というわけで今日は土曜日。確実に人で溢れているであろう、いつものカードショップに来ていた。

 

「よっしゃあ! フリーファイト時間じゃあ!」

「「「逃げろぉぉぉ!!!」」」

 

 単身フリーファイトスペースに入った途端、人が逃げた。

 酷くない?

 近くにいた小学生にまで冷たい目で見られてる気がする。

 

「またツルギにーちゃんがワンキルしようとしてる」

「失礼な! そんなつもりは……ちょっとしかない!」

「中学生以上の人はツルギお兄ちゃんの強さ知ってるから、みんな逃げちゃうよ」

「ウチのねーちゃんもトラウマって言ってたー!」

 

 トラウマ……トラウマなのか、俺のファイトは。

 そんなに酷い事した覚えなんて……!

 

「……ダメだ、心あたりしか出てこない」

「にーちゃん強すぎるよ」

「これが、強者の苦悩かッ!」

 

 戯けてみせたが、心はダメージ入ってる。

 だが反省はしない!

 それはそれとして、今日はどうしようか。

 

「……なぁちびっ子達よ。俺とファイトしないか?」

「本気のデッキ?」

「大会前だから本気のデッキ」

「絶対勝てないじゃん」

「ツルギお兄ちゃんの相手にもならないよ」

 

 うーん、綺麗にフられたな。

 だがちびっ子達の言うことも正しい。

 これは卯月から聞いた話だけど、やっぱりこの世界におけるサモンの強さはあまり高くない。

 特に小学校くらいの子供となれば、それが顕著だ。

 召喚器無しだと、基本ルールをミスる子もいるらしい。

 そりゃあ卯月もデッキ破壊で無双できるよ。

 

「さーて、どうしたものか」

 

 結局、俺の前には誰も居ない。

 ファイト相手がいなくては、サモンはできない。

 カードゲームはぼっちに厳しいゲームなのです。

 

 とにかく誰か相手を探さないと特訓ができない。

 俺はフリーファイトスペースをキョロキョロと見渡す。

 すると、見覚えのある帽子を被った女の子が居た。

 

「あっ、あれは」

 

 帽子とサングラス。栗色の髪の毛。

 間違いない、アイだ。

 一人でぼーっとしてるけど、どうしたんだ?

 

「まぁいっか。ファイト相手ゲット!」

 

 俺は迷わずアイに近づいて、肩を叩いた。

 

「よっ、アイ。今日も遠征か?」

「きゃっ。ツルギ」

「フリーファイトスペースで一人突っ立ってると、変に目立つぞ〜」

「それは……そうね」

「アイドルしてるんだから、気をつけろよ」

 

 俺がそう言うと、サングラスの向こうでアイが目を見開いた。

 あっ、そういえば俺が気付いてる事言ってなかったな。

 

「気づいてたの?」

「始めて会った日の夜にな。こっちから聞くのは無粋かと思ってたんだけど、うっかりした」

「そう……気づいても、普通に接してくれてたのね」

 

 俯き気味にそう呟くアイ。

 これは……何かあるな。

 

「……立ってるのもアレだろ。向こうのベンチに行こうぜ」

 

 俺はアイの手を掴んで、休憩スペースにもなっているベンチに連れて行った。

 その間アイは無言。とりあえず座らせてから、俺は近くにある自販機でジュースを買う。

 

「はい。好みはわからないから、オレンジジュース」

「ありがとう、ツルギ」

 

 ジュースの缶を両手で握りながら、アイは無言のまま。

 俺はコーラの缶を開けて、とりあえず一口飲む。

 やっぱり俺から切り出さなきゃな。聞きたい事もあるし。

 

「なぁアイ。サモン楽しいか?」

 

 いつかアイの方から聞かれた質問を、今度は俺がする。

 どうしても聞きたかったんだ。

 アイが辛そうだったから。

 

 数秒の間を置いて、アイは口を開いた。

 

「ツルギ達とのファイトは、すごく楽しいわ。自分が自分でいられるから」

「という事は、【妖精】デッキの方は」

「やっぱりそれも気付かれてたのね。えぇ……楽しくは無いわ」

「俺はアイドルってのをあまり知らないから、一応自分で調べたんだ。サモンをするアイドルのデッキって、基本的にはそのアイドル個人のデッキの筈だよな」

「……そうね、普通はそうよ」

 

 これは俺がネットで調べた事。

 このサモン至上主義社会では、アイドルを含む芸能人がサモンをするのは普通の事だ。

 その際使用するデッキというのは、特別な企画など絡まない限り個人のデッキを使うもの

 アイのように、異なるデッキを公の場で使い続けるというのは、この世界でも異常な事だ。

 

「全部……プロデューサーの意向なのよ」

「プロデューサー?」

 

 というと、アイドルにつきもののアレか?

 

「アイドルとしてのイメージを確かなものにする為に、ユニットメンバー全員が同じ系統デッキ使ってるの」

「おい……それじゃあアイ以外二人も」

「他の二人は幸い元々【妖精】のデッキ使ってたのよ。【樹精】デッキを使っていたのは、私だけ」

 

 言葉を失った。

 プロデューサーの言いたい事は何となく想像できるけど、それは前の世界の常識に沿った場合だ。

 ここはサモン至上主義世界。

 そんな世界でデッキ変更を強制する事が、アイどれだけ傷つけているのか、俺には想像もつかなかった。

 

「アイは、プロデューサーに抗議したのか?」

「何度もしたわ。でも、無駄だったのよ」

「どうして」

「私がデッキを戻すのは自由。だけどそうした場合、他の二人の進退は保証しない。それがプロデューサーの言葉よ」

 

 悔しそうに缶を握りしめるアイ。

 つまり彼女は仲間を守るために、自分を殺し続けているのか。

 

「プロデューサーはね、宮田愛梨という血統種が欲しいだけ。他の二人を捨て駒するのに躊躇いはないのよ」

「血統種?」

「私はね、祖父母も両親も芸能人なのよ」

「すげぇな。芸能一家だ」

「そうよ。産まれてからずっとそういう環境で生きてきた。だから自分が芸能界に入ることも疑問には思わなかったわ」

 

 だけど……とアイは続ける。

 

「私が抱いていたのは、本当に私の夢だったのか……それが分からなくなったのよ」

「アイ……」

「私のエゴで始めた物語が、大切な仲間の夢を壊そうとしている。なら私が耐えればそれで済む話……そう思ってたのに」

 

 アイの目に涙が浮かんでいる。

 相当心に傷が入っているらしい。

 

「自分らしく生きる人達を見ていたら羨ましくなって。憧れて。私もそうなりたいって気持ちが溢れてくるのよ」

「……それで、迷っているのか」

 

 小さく頷くアイ。

 偶像を演じる者のジレンマとでも言うべきか。

 俺には想像もつかない重荷が、アイを潰そうしているらしい。

 

「アイは、何が一番大事なんだ?」

「大事な、こと?」

「あぁ。何か道に迷った時は、とりあえず一番大事なことは何か考えるんだ。そうすれば最善の道が見えてきやすい」

 

 これは俺の持論。

 そしてサモンをする上でも大切にしている事だ。

 アイはしばし考え込む。

 

「……大事なことは、いくつもあるわ」

「一番は?」

「わからないわ。どれか一つだけを選ぶと、他が全部壊れてしまいそうなの」

 

 アイは鞄からデッキケースを取り出す。

 あれはきっと、アイの【樹精】デッキだ。

 

「これはね、今は亡くなってしまったお婆様から貰ったデッキなのよ」

「そうだったのか」

「私が初めてサモンに触れるきっかけで、私がサモンを好きになった理由のデッキ。それが【樹精】のカード達」

「それが一番大事なものじゃ、ダメなのか?」

「そう、答えたい気持ちはあるわ。でもね……」

 

 悲しそうな目と声で、アイは俺の方を見てくる。

 

「仲間を犠牲にしてまで、一番を決めて良いのか……私には分からないわ」

「……」

 

 背負うものが違い過ぎる。

 それでも何か言葉をかけてあげたい。

 だけど俺は、安易に言葉を紡げないでいた。

 

「ツルギ達はJMSカップに出るのでしょ」

「あぁ、出るよ」

「私もよ……だから、本気を出せなくても恨まないでね」

 

 どこまでも申し訳なさそうに、どこまでも悲しそうに、アイが呟く。

 これはきっと信頼の表れ。

 俺達を好いていてくれるからこその、謝罪なのだろう。

 

「ふぅ。吐き出したらなんだかスッキリしたわ。ありがとうねツルギ」

「アイは……今のままで良いのか?」

「……変わらなきゃいけないとは思ってるわ。だけど、それで誰かを傷つけるなら、私は私許せないかもしれない」

 

 アイはオレンジジュースを一気に飲み干すと、缶をゴミ箱に投げ捨てる。

 

「さぁツルギ、ファイトしましょ。そのために来てるんでしょ」

「あぁ……そうだな」

 

 俺はアイに連れられてフリーファイトスペースに戻る。

 

 その日はアイと夕方になるまでファイトを続けた。

 アイも【樹精】デッキ使えて、ストレス発散できたのか、楽しそうにファイトしていた。

 

 だけど俺は……ここまで悲しいサモンファイト、経験した事なかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七話:答えの見えない問題

 モヤモヤは、そう簡単には晴れない。

 アイから話を聞いた翌日、俺は釘を刺しながらも、ソラと速水に全てを語った。

 やはり本人の意思を無視して無理矢理違うデッキを使わせるのは、この世界では重大なモラル違反らしい。

 だけど……決して違法というわけではない。

 もちろん、モラル的な観点から言えば、バレれば大騒ぎになる事間違いなしだろうけど。

 

「とはいえ……俺達にいったい何ができるのか、だよなぁ」

 

 大会本番も近いので、今日も俺達チーム:ゼラニウムは特訓である。

 まぁ、力が入っているかと聞かれたら否定するしかないけど。

 

「難しい問題ですよね」

「あぁ。結局アイが一番何を望んでいるのかが問題だしな……」

「二人とも気が抜けすぎだぞ」

「そういう速水はどうなんだよ。アイの事心配じゃないのか?」

「ライバルが減るに越した事はない」

 

 だが……と、速水はメガネの位置を正しながら続ける。

 

「どうせ倒すならば強いライバルを。お前ならそう言うだろ、天川」

「あぁ……そうだな」

「だけど今のままじゃ、アイちゃんは」

 

 俯くソラ。

 彼女が言う通り、今のままでは間違いなくアイは【妖精】デッキで戦うだろう。

 大会ルールで予備デッキの登録が可能とはいえ、それが活用される場面なんかまずありえない。

 やはり素直に【樹精(じゅせい)】デッキを使ってもらうのが一番なのだけど……壁が高すぎる。

 

「そもそもアイが楽しそうにファイトしてないのに、ファンは誰も気づいてないのか?」

「それは俺も気になって調べてみた」

 

 流石速水。メガネキャラは伊達じゃ無いな。

 

「目の良いファンは微かに違和感を抱いてはいるらしい。だが圧倒的に少数派だ」

「そうなんですか? アイちゃんの演技力の賜物?」

「そういう事だな」

「こういう時にアイドルとしての満点を出されると、何も言えないな」

 

 演技力高さは、きっと血筋ってやつなんだろうな。

 大したものだと思う。

 だけど、それで傷ついてたら話にならない。

 いっそアイともう少し話をしてみるか。

 ただ件のプロデューサーってのが気になるんだよなぁ。

 

「それとな二人とも。少し気になる事があってな」

「気になる事ですか?」

 

 速水は少し顔を顰めながら、それを口にする。

 

「『Fairys(フェアリーズ)』のプロデューサーの事だ」

 

 思わず俺も顔を顰めてしまう。

 

「黒岩プロデューサー。いくつもの大型グループ育ててきた敏腕アイドルプロデューサーだ」

「すごい人なんですね」

「あぁ、実績は凄まじい。だが同時に黒い噂もある人物らしいな」

「黒い噂だって?」

 

 俺がそれを聞いた瞬間、速水は更に顔を顰めた。

 

「自分のアイドルを大舞台に立たせて売り込むためには手段を選ばない男なんだとか」

「そりゃまぁドラマによく居そうな悪役だな」

「問題はそれだけじゃ無い。黒岩は金の力で随分と無茶をしてくる男とも噂されている」

 

 中には……速水が少し言い淀むが、意を決して口を開いた。

 

「公式非公式問わず、アイドルの対戦相手に八百長を持ちかけているとか」

「八百長!?」

「なんですかそれ……酷すぎます」

 

 ソラもショックを受けているらしい。

 それは俺も一緒だ。

 大会おける八百長。運営にバレればタダでは済まない。

 そんなリスクをアイ達に背負わせているっていうのか?

 

 だけど俺は……黒岩というプロデューサーの行動が、どこか腑に落ちていた。

 

「まぁ、流石に八百長は無いと思いたいが……アイの意思を踏み躙るくらいの事はやりそうな人物だな」

「アイちゃん……ずっと背負い込んでたんですね」

「……」

「ツルギくん?」

「八百長、多分本当な気がする」

 

 速水とソラが言葉失う。

 俺には不思議な確信があった。

 

「アイが言ってた。プロデューサー欲しがっているのは宮田愛梨という血統種だって。芸能一家の娘を華々しく演出できれば、プロデューサーとしては儲けものだろうな」

「おい天川。流石に憶測でもそれはあまりにも」

「惨いだろう。でも今苦しんでるのはアイだからな」

 

 複雑な表情を浮かべる速水とソラ。

 二人も何となくは理解してきたらしい。

 この問題の抱える闇の深さを。

 

「どうにかしたいとは、俺も思う。だけど俺達三人だけじゃ」

「相手が巨大すぎるか……」

「あぁ。どう足掻いても俺達はただの中学生だからな」

 

 サモンファイトを挑んでも約束反故される可能性もある。

 最悪の場合はアイに危害が及ぶ。

 サモン至上主義世界と言えども、解決の難しい問題だ。

 

「それこそ誰かがスパイにでもなるなら話は変わるかもしれないけど」

「赤翼でもアイドルに仕立てるか?」

「えぇ!? 私がアイドルですか!?」

「冗談だ。空論が過ぎたな」

「なぁ、速水ならどうする?」

 

 インテリメガネの発想力を是非とも借りたい。

 速水は少し悩むが、やはり中々答えは出ない。

 

「やはり、アイとファイトする事が一番の近道かもしれないな」

「そうですね。ファイトを通じて私達の思いをぶつけるのが早いかもしれないです」

 

 わぁいサモン脳。

 サモン脳って便利で単純。

 

「でもまぁ、二人の言う通りかもしれないな」

 

 サモンの問題はサモンで解決する。

 うん、実に隙のない理論だ。

 ……俺もすっかりサモン脳だな。

 

「ならば俺達がやる事は一つだ」

「はい! アイちゃんがJMSカップに出るなら!」

「大会で嫌でもファイトできる! 俺達で、アイとやり合うぞ!」

 

 抜けてた気合いも十分に入った。

 なら後は特訓あるのみ!

 俺達はカードショップの片隅で、各々のデッキの最終調整をした。

 

「アイと戦う。そして魂をぶつけてやる!」

 

 それから、数日後の日曜日。

 遂に俺達は、JMSカップ本番の日を迎えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八話:開幕! JMSカップ

 え~、本日は晴天なり。晴天なり。

 夏の日差しが刺さるけど、俺達チーム:ゼラニウムは現在とあるテーマパークに来ていた。

 

「いやぁ、初めて来たけどすごい人だな」

「それもそうだ。人気テーマパークというのに加えて、今日は公式大会の会場だからな」

「観客もたくさん来てるんですねぇ……うぅ、緊張してきました」

 

 凄まじい人の数。

 その中にいる俺達三人。

 ここは電車で数駅離れた場所にある大型テーマパーク。

 その名もユニバーサル・ファンタジー・ジャパン。通称UFJである。

 ……なんかどっかで似たような名前があった気がするな。

 それはともかく。

 名前から察せる通り、ここはモンスター・サモナーを作っている会社『UFコーポレーション』が運営しているテーマパークだ。

 アニメでも登場した事がある場所。うーん、テンションが上がるな。

 テーマパークに来たとは言っても、今日は遊ぶ訳ではない。

 目的地は、パークの中心にある巨大なドームだ。

 

「わぁ……大きい会場ですね」

「流石はUFコーポレーションと言ったところか」

 

 ソラと速水が今日の大会会場を見上げて呟く。

 俺も会場を見上げたけど、言葉を失ってしまった。

 だってドームですよドーム。こんな大規模会場で、しかもUFコーポレーションのお膝元でファイトできるとか。

 気合しか入らないな。

 

天川(てんかわ)、周りを見てみろ」

「んあ?」

 

 速水に言われて、周囲を見回す。

 何やら殺気立った感じでこちらを見る中学生が沢山いるな。

 ……なるほど。今日の対戦相手達ってわけか。

 

「速水。俺ら随分と注目されてるみたいだな」

「そうだな……主に天川のせいでな」

「俺そんな悪い事したか?」

「ツルギくん、流石に公式大会で1killは根に持たれると思いますよ」

 

 だって相手が防御カード持ってなかったんだもーん。

 俺は悪くないもーん。

 反省は……ちょっとだけしておくか。

 

 それはともかく。

 これだけ出場選手がいるなら、と俺は周りを見渡す。

 目的の人物は、すぐに見つかった。

 

「いた」

「どうしたんですか、ツルギくん?」

「アイだよ。あそこにいる」

 

 俺が指さすと、ソラと速水もそちらを注視した。

 サングラスと帽子で変装はしているが、間違いない。

 いつも俺達と会っている時の会いアイだ。

 

「おーい、アイー!」

 

 俺は手を振ってアイに声をかける。

 アイは一瞬こちらを見たけど、すぐに顔をそらしてしまった。

 

「天川、流石にここでアイドルは返事できないだろ」

「ダメ元ってやつだよ。それよりやっぱりアイは」

「今日も【妖精】デッキを……」

 

 使うんだろうな。

 アレは完全にアイドルモードだった。

 大人が見れば、今のアイは聞き分けのいい女の子かもしれない。

 だけど俺達には、そんな事理解したくもなかった。

 

 アイのそばに二人の女の子がいる。

 きっとユニットメンバーなんだろうな。

 二人の女の子はこちらを指さしながら、アイに何かを言っている。

 だけどアイはそれを躱しながら、さっさと会場へ入っていった。

 

「やっぱり、サモンの問題はサモンで解決するべきか」

 

 サモン脳にはサモン脳で。

 アイとちゃんと戦えるかは分からないけど、今はアイとサモンファイトができるように頑張らなくてはならない。

 

「天川、赤翼(あかばね)、会場に入ろう」

「速水くん」

「思うことが色々あるのは俺も同じだ。だがサモンの問題は、この大会の中で答えを見つけるしかない」

「……そうですね。私、絶対にアイちゃんとファイトしたいです!」

「天川もそうなんだろ?」

「当然だ。アイとファイトして、答えを見つけてやる」

 

 よし、気合いも入った。

 俺達は意を決して会場の受付へと向かうのだった。

 

 ……ところで、サモン脳から出る言葉ってパワー強いよね。

 

 

 

 

 受付を済ませて、開会式をやるドーム会場の中へと入る。

 既にいくつかのチームが準備を終えているな。

 周りを見ればTVカメラもある。

 

「そういえば、TV中継されるんだっけ」

「あぁ。JSMカップは毎年そうだな」

「どどどどうしましょう。私寝ぐせとかないですよね!?」

「落ち着けソラ。いつも通りだから安心しろ」

 

 TVカメラを前に動揺するソラを宥める。

 それはそうと、やはり俺が気になるのはアイだ。

 アイはアイドル衣装に着替えて、既に会場入りしている。

 だけど俺達の方を見ようとはしない。

 まるで避けているようにさえ感じる。

 

 そうこうしている内に開会式が始まった。

 とは言っても、この手のデカい大会はお偉いさんの話ばっかで、始まりはつまらないんだけどな。

 

「(あ~、早くファイトしたい)」

 

 大会協賛企業の挨拶に、協会の挨拶。

 話が長くてあくびが出そうになる。

 

「続きまして。本大会の主催運営をいたしますUFコーポレーションCEOより、挨拶と説明をします」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、会場に居た全ての人間がザワっとした。

 俺も思わず眠気が吹き飛ぶ。

 会場にいた誰もが、壇上に上がる壮年の男性に注目した。

 

 そして……俺は改めて、この世界というものを実感した。

 

「若きサモンファイターの諸君、初めまして。私はUFコーポレーションCEO」

 

 何故ならそこに居たのは、俺がずっと見ていたアニメのキャラクター。

 

「ゼウス・T・ボルトだ」

 

 モンスター・サモナーを支配する者。ゼウス社長が居たのだ。

 

 ゼウス・T・ボルト。

 彼はアニメの中では様々な行動をするトリックスター的なキャラクターだ。

 目的は不明。時に主人公達を助ける事もあれば、敵組織に手を貸す事もある。

 敵か味方かわからない、謎多きキャラクター。

 アニメの中では、自身を「デウスエクスマキナ」と呼称していたりもする。

 

 俺はただ茫然とその姿を見つめていた。

 アニメ世界のキャラクターが、今目の前にいる。

 自分でも今どういう感情を抱いているのか、上手く説明ができない。

 ただ一つだけ言えることは……やはりこの世界は、アニメの世界なんだという事だ。

 

「(今更だけど、俺……本当にアニメの世界に来たんだなぁ)」

 

 感動でいいのだろうか?

 よくわからない感情が溢れそうになる。

 もう話の内容なんかほとんど入ってこない。

 

「ツルギくん……どうしたんですか?」

「えっ!? いやぁ、なんか色々と物思いを」

「すごい顔してましたよ?」

 

 いかんな、顔に出ていたらしい。

 しっかりせねば。

 俺は内頬を軽く噛んで、気持ちを切り替える。

 

「それでは、本年度のJMSカップ。その予選内容を発表しよう」

 

 おっ、予選内容の説明か。危なかった。

 速水曰く、予選は毎年内容が異なるらしいけど、今年は何するんだ?

 

「予選は二つのブロックに分かれての、バトルロイヤルを行う」

 

 バトルロイヤル。つまり多人数戦か。

 普通に考えれば四~五人程で行うファイトなんだけど……時間かかりそうだな。

 いや待て、二つのブロックって言わなかったか?

 俺と同じ疑問を持ったのか、他のファイター達も首をかしげている。

 

「君達が首をかしげるのも無理はない。今回予選で行うのは八チーム、計二十四人で行う多人数戦だ」

 

 マジかよ。派手すぎるだろ。

 周りのファイターも皆驚いている。

 

「では、詳しいルールを説明しよう」

 

 巨大モニターに、細かなルールが表示される。

 簡単にまとめるとこうだ。

 

 ・各チームメンバー三人、合計二十四人による多人数戦。

 ・全員最初の1ターン目はドローフェイズとアタックフェイズを行えない。

 ・ライフかデッキが0になったら脱落。カード効果による勝利は適用されない。

 ・チームメンバー三人が脱落した時点で、そのチームは予選敗退となる。

 ・四チームが脱落した時点でファイト終了。メンバーが生き残っていたチームが本戦出場となる。

 

 なるほどね。ルールは理解した。

 まぁそれはそれとして、周りのファイターは戦慄しているけど。

 

「これは……厳しい戦いだな」

「そうですね。予選で半分も落とされてしまいます」

 

 速水とソラも戦々恐々している。

 

「なぁに、大丈夫だろ」

「呑気なものだな、天川」

「だって一人でも生き残っていればいいんだろ? なら俺ら大丈夫だろ」

 

 これは圧倒的な自信。

 そして仲間への信頼。

 仮に俺が撃破されても、ソラと速水なら勝ち進んでくれるだろ。

 その意図が伝わったのか、二人は小さく微笑んだ。

 

「まったく。破天荒な仲間がいると苦労する」

「そうですね。でもツルギくんの言う通りです。私達、全力で頑張りますよ!」

 

 ようし、その意気だ。

 絶対にアイとファイトをする。その為にも、こんな予選で負けてられない!

 

「それでは、予選グループをランダムで決めよう」

 

 巨大モニターにAグループとBグループが表示される。

 俺達チーム:ゼラニウムは……

 

「あっ、私達Aグループですね」

「チーム:Fairys(フェアリーズ)もAグループか。いきなりだな」

 

 幸運と言うべきかどう言うべきか。

 いきなりアイと戦うチャンスが来たな。

 とは言っても、バトルロイヤルルールじゃあ、真面目にぶつかれそうに無いけど。

 

「ではAグループから予選を始めてもらおうか」

 

 壇上でゼウス社長が笑みを浮かべる。

 

「今ここに! JMSカップ、開幕を宣言する!」

 

 歓声が会場を埋め尽くす。

 遂に大会が始まるのだ。

 ひとまず予選Bグループ組は、控室に下がる。

 予選Aグループの俺達は、スタッフの指示で円を描くように並ばされた。

 

「ソラ、速水。デッキ調整は十分だよな?」

「はい!」

「愚問だな」

 

 ならよし! 俺も当然準備万端だ!

 で、アイの様子はというと……

 

「……やっぱり、なんか辛そうじゃねーか」

 

 絶対に勝つ。そしてアイと戦う。

 俺がそう決心していると、全ての準備が終わったらしい。

 アナウンスが聞こえてくる。

 

『それでは、予選Aグループ。バトルロイヤルファイト。スタートしてください!』

 

 全員一斉に召喚器を手に取る。

 さぁ、始めようか。

 

「「「ターゲット。フルロック!!!」」」

 

 全員の召喚器が無線通信すると同時に、バトルロイヤルモードへと移行する。

 

「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」

 

 さぁさぁ派手に暴れますかぁ!

 

「……って、俺の番最後かよ」

 

 いきなり暇になるとか、少しショックだぞ。

 とりあえず最初の奴がターンを始める。

 

「オレのターン! スタートフェイズ。メインフェイズ!」

 

 まぁバトルロイヤルなら、いきなり攻めてくる事は少ないだろ……

 

「オレは魔法カード〈ファイアボルト〉を発動! このカードは相手プレイヤーに2点のダメージを与える!」

 

 おっ上手いな。確かに効果ダメージなら、開幕早々攻める事ができる。

 ちなみにバトルロイヤルルールでは、この手の相手を対象とした効果を発動する場合、いずれかのプレイヤー一人を選んで効果を適用するぞ。

 中には例外もあるけど、今はいいだろう。

 

「さぁて。最初に焼かれるのは誰かな?」

「オレが選ぶプレイヤーは。チーム:ゼラニウムの天川ツルギだ!」

「え?」

 

 いきなり俺!?

 魔法カードから出現した火の玉が、俺に襲い掛かる。

 ま、まぁ2点のダメージならまだ許容範囲だな。

 

「助太刀しますわ! この瞬間、わたくしは魔法カード〈超加熱!〉を発動しますわ!」

「げっ!? そのカードは」

 

 というかそこのお嬢様口調の人! あんた別チームの人だろ!?

 

「この魔法カードは、系統:〈火力〉を持つカードが与えるダメージの量を一度だけ2倍にいたしますわ!」

「おい、それは流石にキツ――熱っつう!?」

 

 魔法効果で巨大化した火の玉が、俺に襲い掛かる。

 

 ツルギ:ライフ10→6

 

「バトルロイヤルのコツはみんなで各個撃破だ!」

「まずは貴方に消えてもらいますわよ、天川ツルギ!」

 

 よく見れば、ゼラニウムとFairys以外のファイター全員が俺の方を見ている。

 よーく顔を見たら、今まで俺が倒してきた奴らだ。

 

「……あっ、これかなり不味いな」

 

 いくら俺でも、18対1は厳しいです。

 これ……マジでどうしよう?

 俺は素直に顔を青ざめさせました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九話:賭けろ! 逆転の一撃!

 開幕早々4点のダメージ受けてライフは6。

 しかもこの後、二十二人のターンが残ってるって?

 流石に不味いってレベルじゃないぞ。

 

「オレはこれでターンエンドだ」

「次はわたくしのターンですわ! スタートフェイズ。メインフェイズ!」

 

 二人目のターンが始まる。

 俺は呼吸を整えながら、自分の手札を確認した。

 防御カードは……一応ある。

 問題は今手札にあるカードだけで、ターンを迎えられるかという点だ。

 特にさっきのような魔法効果によるダメージを連打されたら、どうしようもない。

 なんとか耐え抜けるように祈るしかないか。

 

「わたくしは〈フリントロックソルジャー〉を召喚! その召喚時効果で、相手プレイヤーに1点のダメージを与えますわ!」

「あの、ターゲットは」

「もちろん天川ツルギ、貴方ですわ!」

「ですよねー!」

 

 兵隊型モンスターが、俺に銃口を向けてくる。

 そして発砲!

 容赦なく飛んできた弾丸が、俺のライフを削った。

 

 ツルギ:ライフ6→5

 

「痛いなぁ。二ターン目でライフ半分かよ」

「わたくしはこれでターンエンドですわ」

 

 よかった、追撃は無かった。

 でも後二十一人いるとか冗談じゃないぞ。

 

「僕のターン!」

 

 そして始まる三人目。

 不幸中の幸いと言うべきか。直接ダメージを与えてくるのは、最初の二人だけだったらしい。

 他のファイターは皆、モンスターの召喚等で終わった。

 とは言え、かなりピンチなのには変わりないけど。

 だってみんな盤面強すぎるんだもん!

 ガッチガチやぞ!

 

「ご丁寧に効果ダメージを1点軽減するカードまで並べられてる……こりゃ研究されたな俺」

 

 完全にカーバンクルでループする事を想定されてる。

 まぁ勝ち筋がそれだけじゃないのが幸いなんだけど。

 

 そうこうしている内に二十一人目。

 アイのターンだ。

 

「私のターン。スタートフェイズ。メインフェイズ」

 

 俺はアイの盤面を注視する。

 

「私は〈ウインドピクシー〉を召喚」

 

 アイの場に召喚されたのは、可愛らしい妖精のモンスター。

 やっぱり【妖精】のデッキを使うのか。

 

 〈ウインドピクシー〉P2000 ヒット1

 

「続けて私は〈臆病なシルフ〉を召喚」

 

 次に召喚されたのは、ぷるぷると震えている妖精の女の子。

 

 〈臆病なシルフ〉P2000 ヒット1

 

 あのカードは確か、セルフバウンスができたはず。

 

「〈臆病なシルフ〉の召喚時効果を発動。相手の場に、このカードよりパワーの高いモンスターが存在するなら【悪戯(いたずら)】を行うことができるわ」

 

【悪戯】

 系統:〈妖精〉が持つ専用能力だ。

 その効果は、自分の場に存在する妖精モンスターを好きなだけ手札に戻す、セルフバウンス効果。

これが【妖精】デッキの始動エンジンでもある。

 

「私は〈臆病なシルフ〉を手札に戻す。そしてこの瞬間〈ウインドピクシー〉の効果発動! このカード以外の自分の場のモンスターが手札に戻った時、デッキを上から2枚確認するわ」

 

 デッキからカードを2枚めくって、確認するアイ。

 出たな、妖精デッキの便利カード。

 

「1枚は手札に加えて、残りは墓地に送るわ。更に私のライフを1点回復する」

 

 アイ:ライフ10→11 手札4枚→5枚

 

 うん。〈ウインドピクシー〉さん器用すぎませんかね?

 アドの塊じゃん。まぁあの効果ターン中1回しか使えないんだけど。

 

「私はこれでターンエンドよ」

 

 アイがターンを終える。

 まぁ攻撃できないから、そこまで派手には動けないもんな。

 さぁ、次は俺達チーム:ゼラニウムのターンだ。

 まずは速水から。

 

「俺のターン、スタートフェイズ。メインフェイズ。俺は〈ダイヤモンド・パキケファロ〉を召喚!」

 

 速水の場に、金剛石の頭を持つ恐竜が召喚される。

 上手いな。戦闘破壊耐性を持つモンスターで、まずは防御を固めてきた。

 

 〈ダイヤモンド・パキケファロ〉P6000 ヒット2

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 次はソラだ。

 

「私のターン。スタートフェイズ。メインフェイズ!」

 

 ソラは手札を入念に確認して、戦術を立てている。

 

「よし。私は魔法カード〈ホーリーポーション〉を発動します! 手札の系統:〈聖天使〉を持つカード〈ヒーラーエンジェル〉を見せて、ライフを3点回復。カードを1枚ドローします」

 

 ソラ:ライフ10→13 手札4枚→5枚

 

 よし。まずは【天罰】の準備を整えた。

 

「続けて私は〈キュアピッド〉と〈ヒーラーエンジェル〉を召喚します!」

 

 二体の天使が、ソラの場に召喚される。

 どちらもバトルロイヤルの第一ターンでは良い選択肢だ。

 

 〈キュアピッド〉P3000→P9000 ヒット1

 〈ヒーラーエンジェル〉P4000 ヒット1

 

「〈キュアピッド〉は【天罰】の効果でパワーが9000になります。更に〈ヒーラーエンジェル〉の召喚時効果発動です! 私の墓地から〈ホーリーポーション〉を除外して、その効果をコピーします」

 

 更なる回復とドローをするソラ。

 良いぞ良いぞ、第一ターンの動きとして理想的すぎるぞ。

 

 ソラ:ライフ13→16 手札3枚→4枚

 

「私はこれでターンエンドです」

 

 ターン終了を宣言したソラは、静かにこちらを見てくる。

 心配しているんだろうな。

 だけど任せろ。ここで折れる俺じゃない!

 

「やっと出番が来たか。俺のターン! スタートフェイズ。メインフェイズ!」

 

 手札は十分に確認した。

 時間もあったおかげで、最初の動きも決めてある。

 

「まずは回復からだ。魔法カード〈デストロイポーション〉を発動! デッキを上から5枚墓地に送る」

 

 墓地に送られたカードは……

 モンスター:〈コボルト・ウォリアー〉〈ジャバウォック〉〈スナイプ・ガルーダ〉

 魔法:〈逆転の一手!〉〈メテオディザスター!〉

 

「よし! モンスターが3枚墓地に送られたので、俺はライフを3点回復する!」

 

 ツルギ:ライフ5→8

 

 ライフ回復はできたけど、正直まだまだ安心できない。

 これはバトルロイヤルルール。極端な話、自分以外全て敵だ。

 チームメンバーでサポートもできるけど、カード相性の都合であまり期待はできない。

 だったらできる限り、可能性を信じるしか道はない。

 

「俺は〈トリオ・スライム〉を召喚!」

『スララー!』

 

 可愛らしいスライムが、俺の場に召喚される。

 

「〈トリオ・スライム〉の召喚時効果発動! デッキから同名カードを手札に加える。そして二体目の〈トリオ・スライム〉を召喚! 効果で三体目を手札に加えて、それも召喚だ!」

『『『スララー!!!』』』

 

 〈トリオ・スライム〉(A、B、C)P1000 ヒット1

 

 とりあえず場は埋めた。ここからがコンボだ。

 

「俺は魔法カード〈ザ・トリオ・ドロー!〉を発動! このカードは、自分の場に同名モンスターが3体存在する時にのみ発動ができる。その効果で俺はデッキからカードを3枚ドロー!」

 

 見たか、これが〈トリオ・スライム〉最強のお供カードだ!

 

 ツルギ:手札3枚→6枚

 

「更に魔法カード〈ギャンビットドロー!〉を発動! 〈トリオ・スライム〉(C)を破壊して2枚ドロー!」

 

 ツルギ:手札5枚→7枚

 

 うんうん。いい感じに手札を補充できた。

 とは言っても、無限ループコンボのパーツは揃ってない。

 しかも相手の場には対策カードまで立っている始末。

 ここは素直に防御を固めておくか。

 

「今日は普通にいくか。奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉を召喚!」

『キュップイ!』

 

 俺の場に相棒が召喚される。安心してくれ、今日はマジで普通に使うから。

 

 〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1

 

 カーバンクルのパワーが表示された瞬間、観客がざわめいた。

 うん、もう慣れたよ。「弱っ!」「なにあれ!?」「可愛いー!」って声。

 だけど対戦相手の皆様は、顔が真っ青になってるな。

 そんなにトラウマか? この可愛いモンスターが?

 

「ひとまずこれで凌ぐか。ターンエンド!」

 

 さぁて、ここからどうするかだよな。

 とりあえず一周したから、次からドローフェイズとアタックフェイズが解禁される。

 俺としてはさっさとこの予選を終わらせてやりたいんだけど……それは難しそうだな。

 何故なら相手は俺を想定した対策を練ってきている。

 更にバトルロイヤルというルールの都合上、倒すべき相手が多すぎる。

 

 各個撃破。たしかに理に適った戦術だ。

 厄介な敵から集中攻撃を仕掛けるのは、多人数戦の基本。

 まぁ俺がその的になるのは想定外だったけどな。

 

 それはともかく。

 問題はどうやってこの予選を勝ち抜くかだ。

 

「(時間をかければ俺が不利になる。だったら一撃で全員倒せたらいいんだけど……できるか? この人数を)」

 

 俺は必死に今日のデッキ内容を思い返す。

 だが有効策が思いつかない。

 どうしたものか。

 

「オレのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 考え事してたら相手のターンが始まった。

 さぁ、集中砲火が始まるぞ。

 

「メインフェイズ! オレは〈灼熱超人〉を召喚!」

 

 モブ男の場に燃え盛る炎で構成された魔人が召喚される。

 不味いな、あのカードも効果ダメージ関連だぞ。

 

「そしてオレは魔法カード〈ファイアボルト〉を発動!」

 

 おっ2枚目じゃん。

 

「天川ツルギに2点のダメージを与える! 更に〈灼熱超人〉の効果によって、系統:〈火力〉が与えるダメージは2点増える! 合計4点ダメージ、喰らえッ!」

 

 強化された火の玉が俺に襲い掛かる。

 このまま喰らえばライフを半分持っていかれてしまうが、そうはいかない。

 

「こんなところで大ダメージ受けるわけにはいかねーんだ! 魔法カード〈ルビー・バリア!〉を発動!」

 

 魔法を発動した瞬間、カーバンクルが俺の前に紅いバリアを展開してくれた。

 バリアが火の玉から俺を守り切ってくれる。

 

「〈ルビー・バリア!〉の効果で、俺が次に受けるダメージは0になる」

「防がれたか。だけどこの数を相手にどこまで耐えきれるかな?」

「それはどうかな? カーバンクルが場に存在する場合、〈ルビー・バリア!〉の効果は変化する」

「なにッ!?」

「カーバンクルが存在する場合の効果! 次の俺のターン開始時まで、俺が受けるダメージは全て0になる!」

 

 少なくともこれで、次のターンは確実に回って来るというわけだ。

 まぁ攻めの一手が見つかってないけど。

 

「チッ! ターンエンドだ!」

 

 ターンが終わり、次のファイターへ。

 とりあえず俺は生き残るけど、そうなれば相手さん達も作戦を変えてくる。

 俺の次に集中砲火を受けるのは、ソラと速水だ。

 

「アタックフェイズ! モンスターで攻撃しますわ!」

「〈キュアピッド〉でブロックします!」

「僕はこっちだ! モンスターで攻撃!」

「〈ダイヤモンド・パキケファロ〉でブロック!」

 

 激しい猛攻を、なんとか防いでいくソラと速水。

 だけど全てを防げるわけではない。

 

「ライフで受けます。きゃっ!」

 

 ソラ:ライフ16→11

 

「その攻撃は……ライフだ」

 

 速水:ライフ10→9

 

 圧倒的な数の暴力。

 ソラと速水は着実にライフを削られていった。

 そして攻撃を仕掛けてくるのはアイ達も同じ。

 

「〈ウインドピクシー〉で赤翼ソラさんに攻撃です!」

「魔法カード〈ヒーリングウォール〉を発動します! 攻撃を無効化して〈キュアピッド〉を回復!」

 

 なんとか防ぎきるも、消耗が激しい。

 このままではジリ貧で負けてしまう。

 そして迎える俺のターン。

 

「俺のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 何か引き当てないと、かなり不味い。

 俺はドローしたカードを確認する。

 

「首の皮は繋がったか。魔法カード〈ギャンビットドロー!〉を発動! 〈トリオ・スライム〉(B)を破壊して2枚ドロー!」

 

 とにかくカードを手札に持ってこないと、策が練れない。

 俺は急いで2枚のカードをドローする。

 

 ツルギ:手札5枚→7枚

 

 ドローしたカードは……

 

「(〈トリックプレゼント!〉に〈フューチャースティール〉!? なんでこんな時に来るんだよ!)」

 

 〈トリックプレゼント!〉は癖の強い回収カード。

 〈フューチャースティール〉に至っては効果こそ強力だけど、デメリットが強烈すぎる。

 

「(〈フューチャースティール〉は相手モンスターを全て破壊するか、2枚のドローかを選べるカード……その変わり相手に追加ターンを与えてしまう)」

 

 ただでさえ防御カードが足りてないのに追加ターンなんて与えてしまえば、高確率で負けてしまう。

 一応バトルロイヤルルールを応用すれば、ソラか速水に追加ターンを与えることもできるけど……

 

「(二人とも、追加ターンでケリをつけられる手札なのかがわからない)」

 

 しかも先ほどの猛攻で、二人とも手札の残りが少ない。

 潤沢な手札がないと追加ターンは活かしきれない。

 

 不味いな、気持ちに焦りが出てきている。

 呼吸を整えろ。落ち着くんだ。

 俺は頭を冷やしながら、全員の盤面を見る。

 

 何か手はないか。この予選を攻略する、なにか一手は。

 

 ソラと速水は、防御が手薄になってきている。次のターンを迎えられるかが心配だ。

 アイ達は妖精モンスターを固めている。特にアイは〈ウインドピクシー〉と〈臆病なシルフ〉で防御を固めている。

 他の相手は様々だ。だけど基本的には攻撃態勢に入っている。

 何が何でも俺を始末する気らしい。

 

 何かヒントはないのか? この盤面の中にヒントは。

 

「……ん? 待てよ……妖精?」

 

 俺は記憶を辿って、妖精カードの種類を思い出す。

 確か【妖精】デッキのフィニッシャーによく使われていたカードは……

 

 俺は急いで自分の墓地を確認する。

 

「あった! 〈デストロイポーション〉で落ちてた!」

 

 俺の頭の中に、一つの策が思い浮かぶ。

 ただし成功する確率はかなり低い。何故ならこれは相手依存のコンボだからだ。

 だけど……もしこれが決まれば。

 

「全員まとめて倒せるかもしれないな」

 

 むしろそうしないと勝ち目がないかもしれない。

 既にかなり不利な状況だ。

 こうなったら僅かな可能性に賭けた動きをするしかない!

 

「メインフェイズ! 一か八かの賭けだ。ライフを3点払って、魔法カード〈フューチャースティール〉を発動!」

 

 ツルギ:ライフ8→5

 

「その効果で、デッキからカードを2枚ドローする! ただし、デメリット効果によって相手プレイヤー1人に追加ターンを与えてしまうけどな」

 

 相手チームから失笑が聞こえる。余裕も見えた。

 完全に勝ちを確信している顔だ。

 だけど俺は突き進む。

 

「俺が追加ターンを与えるのは……宮田愛梨!」

「えっ!?」

「ツルギくん!?」

 

 追加ターンを渡されたアイが驚愕の表情を見せる。

 それはソラや速水も同じだ。

 効果を普通に考えれば、この状況だとチームメンバーに追加ターンを与えるのが正解だろう。

 だけど今は違う。俺の逆転コンボを決めるには、アイにターンを渡す必要があるんだ。

 

「……いいのかしら? 私にターンを与えても」

「いいんだよ。それでいいんだ」

 

 俺は小さく笑うと、アイは何かを感じ取ったらしい。

 頼むぜアイ。この次で、俺のメッセージに気づいてくれ。

 

「俺は魔法カード〈トリックプレゼント!〉を発動!」

 

 アイの目の前に大きなプレゼントボックスが出現する。

 

「このカードは、相手プレイヤーに俺の手札を1枚渡すことで発動できる魔法カード。俺は宮田愛梨に手札を1枚渡す」

 

 プレゼントボックスが開き、アイの手札に俺のカードが1枚加わる。

 俺が送ったカードは〈ゼロバリア!〉。効果ダメージを一度だけ0にする魔法カードだ。

 

「〈トリックプレゼント!〉のメイン効果で、俺は墓地の魔法カードを1枚手札に戻す。俺が戻すカードは……〈メテオディザスター!〉だ!」

 

 ルールによって、手札に加えたカードを全てのプレイヤーに確認させる。

 〈ゼロバリア!〉〈メテオディザスター!〉、そして追加ターン。

 必要なパーツは揃った。あとはアイが気づいてくれるかどうかにかかっている。

 

「俺は……これでターンエンドだッ!」

 

 モンスターの召喚も攻撃もせずにターン終了。

 流石に俺のこの行動には、会場に居る全員が驚きの声を上げた。

 諦めたのかという声も聞こえるが、それは違う。

 諦めてないから、ターンを終了したんだ。

 

 俺は無言でアイの方を見る。

 

『バトルロイヤルルールによって、宮田愛梨の追加ターンが開始されます』

 

 召喚器からガイダンスが聞こえる。

 次はアイのターンだ。

 頼むぜアイ……俺の思惑に乗ってくれよ。

 

「……ふぅ。本当に無茶苦茶な事を考えるのね」

 

 アイが小さく、そう呟く。

 

「良いわ、遊んであげる。私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 アイ:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。私はライフを3点払って〈ヒートフェアリー〉を召喚するわ」

 

 アイの場に、松明を持った妖精が召喚される。

 

 アイ:ライフ11→8

 〈ヒートフェアリー〉P3000 ヒット1

 

 あれが〈ヒートフェアリー〉。【妖精】デッキの優秀なフィニッシャーだ。

 

「まずは邪魔な子を黙らせないとね。私は魔法カード〈トリック・トリック〉を発動! 私の場から系統:〈妖精〉を持つモンスター〈臆病なシルフ〉を手札に戻すことで、相手の場に存在するモンスターの効果を全て無効にするわ」

 

 無数の妖精が現れ、モンスター達にいたずらをしていく。

 魔法効果で相手の対策モンスター達が無力化した。これは嬉しい誤算だな。

 

「妖精が手札に戻ったので〈ウインドピクシー〉の効果を発動。1枚手札、1枚墓地、1点回復」

 

 アイ:ライフ8→9 手札6枚→7枚

 

「更にこの瞬間〈ヒートフェアリー〉の効果発動。系統:〈妖精〉を持つモンスターが手札に戻るたびに〈ヒートフェアリー〉はヒット数を1上げるわ」

 

 そう。これこそ〈ヒートフェアリー〉がフィニッシャーと呼ばれる所以。

 とにかくヒット数を上げて、ライフを一気に削ってくるのだ。しかもあいつ【貫通】もってたりするし。

 

 〈ヒートフェアリー〉ヒット1→2

 

「続けて私は魔法カード〈いたずらオバケ!〉を発動するわ。このカードは、私の場から系統:〈妖精〉を持つモンスターを手札に戻すことで、妖精モンスター1体のヒットを2上げるわ」

 

 〈ウインドピクシー〉が手札に戻る。

 強化されるのは当然〈ヒートフェアリー〉だ。

 

 〈ヒートフェアリー〉ヒット2→5

 

「〈ウインドピクシー〉を再召喚。そして〈臆病なシルフ〉を召喚」

 

 再び2体の妖精がアイの場に召喚される。

 

「〈臆病なシルフ〉の召喚時効果【悪戯】を発動。〈ウインドピクシー〉と〈臆病なシルフ〉を手札に戻すわ」

 

 妖精が手札に戻ったので、またもや〈ヒートフェアリー〉が強化される。

 

 〈ヒートフェアリー〉ヒット5→7

 

「〈ウインドピクシー〉をもう一度召喚。そして2枚目の〈いたずらオバケ!〉を発動するわ。〈ウインドピクシー〉を手札に戻して、〈ヒートフェアリー〉を強化!」

 

 二つの効果が合わさって、更に強化される〈ヒートフェアリー〉。

 

 〈ヒートフェアリー〉ヒット7→10

 

 やべぇな。もうほとんど致死圏内も同然だぞ。

 

「これだけ上げれば満足かしら?」

「どうだろうな?」

 

 アイが俺に向かって話しかけてくる。

 恐らく俺の思惑にも気づいている筈だ。

 

「終わらせてあげる。アタックフェイズ! 〈ヒートフェアリー〉でツルギに攻撃!」

 

 巨大な松明を持った〈ヒートフェアリー〉が俺に襲い掛かってくる。

 

「ツルギくん!」

「天川ァ!」

 

 ソラと速水も声を張り上げるが……問題はない!

 

「安心しろ二人とも。ただでやられるつもりは毛頭ない!」

 

 そうだ、俺はこの瞬間を待っていたんだ。

 

「自分のライフが5以下の状態でダメージを受ける時に、このカードは発動できる! 魔法カード〈メテオディザスター!〉発動だァ!!!」

 

 俺は魔法カードを仮想モニターに投げ込む。

 これが逆転の一手だ!

 

 会場の空に空間の裂け目が現れて、大量の隕石が姿を見せる。

 

「〈メテオディザスター!〉は、俺が受けるダメージを倍にして、全てのプレイヤーに与える魔法カード!」

「「「……えっ、全て!?」」」

 

 素っ頓狂な声の数々が、会場に響き渡る。

 だがもう止まらない!

 

「俺が〈ヒートフェアリー〉から受けるダメージは10点! 〈メテオディザスター!〉の効果によって倍の20点のダメージを全員に与える」

「「「20点とかふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

「おい天川! 俺達まで巻き込んでるぞ!」

「大丈夫だろ。これ軽減できるダメージだもん」

「そういう問題じゃないですー!」

 

 速水とソラからクレームが来るが、もう俺にも止められませーん。

 

「さぁみんな。防御カードの準備はいいか?」

 

 満開笑顔で俺がそう言うと、ファイターは皆絶望の表情を浮かべた。

 

 そして無慈悲に降り注ぐ隕石の雨。

 みんなで乗り越えよー!

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 モブ①~⑤:ライフ10→0

 

「「「無茶苦茶だぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 モブ⑥~⑩:ライフ10→0

 

「「「あべしッ!!!」」」

 

 モブ⑪~⑰:ライフ10→0

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ! 魔法カード〈ロイヤルウォール〉! ダメージを0に!」

「うわぁぁぁぁぁぁ! 魔法カード〈お前が壁になれ!〉! ダメージを天川ツルギに移し替える!」

 

 おっ、2人防御に成功してる奴がいるな。

 いいねぇ、強そうだねぇ。

 あと俺にダメージを移し替えても無駄だぞ。

 

 そういえばチーム:Fairysの皆様は?

 

「うぎゃぁぁぁ!? 魔法カード〈ピクシーガード〉! 〈ウインドピクシー〉を手札に戻してダメージを0に! ユメユメは!?」

「ごめんなさいミオちゃん。私これは、無理ぃ!」

「ユメユメー!」

 

 佐倉夢子:ライフ12→0

 

 あっ一人直撃したな。ご愁傷様です。

 

「アイっち!」

「わかってるわ。魔法カード〈ゼロバリア!〉発動! カード効果によるダメージを0にするわ」

 

 アイの周りに半透明なバリアが展開される。

 これでアイはダメージを受けない。

 

 さて、チーム:ゼラニウムはというと。

 

「魔法カード〈シーエレメント〉を2枚発動! ダメージを12点軽減する! ぐわッ!」

 

 速水:9→1

 

「魔法カード〈スーパーポーション〉と〈フェイカーポーション〉を発動! 〈ヒーラーエンジェル〉を破壊して、ライフを合計10点回復します! きゃぁぁぁ!」

 

 ソラ:ライフ11→21→1

 

 まさに大惨事。ひどい絵面だ。

 まぁ俺が主犯なんだけど。

 

 おっと、俺の方にも隕石が降り注いできた。

 

「天川!」

「ツルギくん!」

 

 速水とソラが声を上げる中、俺は隕石の雨に飲み込まれた。

 凄まじい砂煙が視界を潰してくる。

 まぁ立体映像だから、匂いとか何も無いけどね。

 数秒待っていたら、砂煙も晴れてきた。

 

 ツルギ:ライフ5→5

 

「えっ、ライフ変動、なし?」

 

 ソラが気の抜けた声でそう言ってくる。

 じゃあ種明かしをしよう。

 

「実は2枚目を持ってたんだ〈ルビー・バリア!〉」

 

 要するにこれでダメージを0にしたってわけだ。

 俺がドヤ顔をしていると、速水とソラがもの凄い抗議の目線を送ってきた。

 ごめんって。

 

『4チームの脱落が確認されました。これにてファイトは終了。予選Aグループの通過チームが確定しました』

 

 ファイト終了ブザーと共に、アナウンスが聞こえる。

 どうやら綺麗に4チーム倒せたらしい。

 立体映像も消えていく。

 

「無事予選通過か」

 

 俺は無意識にアイの方を見る。だけどアイは俺に視線を合わせようとはしなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十話:とある博士との出会い

「アイ!」

 

 予選終了後、俺はアイに声をかける。

 だけどアイは振り向かず、ただ無言で控室へと去っていった。

 

 やっぱりデッキの事で負い目があるのだろうか。

 ユニットメンバーの女の子たちは、申し訳なさそうに頭を下げて、アイの後を追っていった。

 

「……そう簡単にはいかないか」

 

 何事も容易には進まない。

 だけど先ほどのファイトで、アイの本心の片鱗は見えた気がした。

 少なくともアイは、本当はファイトを楽しみたいんじゃないか?

 ただしそれは、自分自身のデッキを使っての話。

 今のアイは全てを楽しめていない。そうでなきゃ、あんな状態にはなっていない筈だ。

 どうすればいいものか……頭を回すけど、絶対の答えは見つからない。

 

「やっぱり直接ファイトするしかないのかなぁ」

 

 サモン脳世界の住民にはサモン脳をぶつけるんだ。

 うん。論理的かつ合理的な結論だな。

 ……自分の中で「常識」の二文字が崩れていく音が聞こえる。

 

「俺もだいぶ染まってきたな~」

 

 そんな事をぼやいていると、背後から恨めしい声が二つ。

 

「て~ん~か~わ~?」

「ツ~ル~ギ~く~ん?」

 

 速水とソラだ。

 無事予選通過できたのに、なんか表情が怖いぞ。

 

「お前なー! アレは無茶苦茶にも程があるだろ!」

「いいじゃんか相手一掃して予選通過できたんだし」

「私達が防御カード持ってなかったらどうするつもりだったんですか!?」

「そこは仲間を信じての行動だ」

 

 顔がキリっとなってしまう。俺良いこと言った。

 だけどソラは少し涙目で、俺を睨んでくる。可愛いな。

 

「ツルギくんは色々と後先考えなさすぎです!」

「そんな事ないけどな~」

「いや、赤翼の言う通りだ。全国中継されている場で、あれは最早ただの虐殺映像だぞ」

 

 ひどい言われようだ。

 ちょっとした逆転コンボなのに。

 

「そういえば、アイちゃんは?」

「……さっき声をかけたけど。スルーされちまったよ」

「やはりデッキの件か」

「多分な」

 

 ソラも速水も顔を俯かせる。

 やはり思いは同じか。

 

「予選Bグループが始まりますので、Aグループの選手は控室に移動してくださーい」

 

 係員に移動を指示される。

 俺達チーム:ゼラニウムは、大人しくステージから移動した。

 

 

 

 

 ドーム内に用意された選手控室。

 そこに移動した俺たちなのだけど……いやはや、流石はサモン世界のトップ企業が運営しているだけある。

 

「めっちゃ豪華な控室だな」

「すごいですねー」

「そこに関しては流石UFコーポレーションといったところか」

 

 ソラは口を開いて感嘆を漏らし、速水もその豪華さを称賛する。

 俺はその控室というものを見回してみるのだけど……

 

「本当に豪華だな。TVで観た高級ホテルのスウィートルームみたいだな」

 

 上等な絨毯に、高そうな机とソファ。

 大きなモニターもあるし、冷暖房がいい感じに設定されている。

 

「おい見ろよ二人とも。ここお菓子とジュース食べ放題飲み放題だってよ!」

 

 机の上には高そうなお菓子の数々。

 備え付けの冷蔵庫の中には様々なジュースがある。

 これが食べ飲み放題なのは、中学生には嬉しいな。

 

「天川、少し落ち着け」

「ツルギくん、完全に小学生みたいな顔になってますね」

「お菓子とジュースが無料なのは喜びに値します!」

 

 実際嬉しいしね。お高いお菓子は特に嬉しい。

 俺がお菓子とジュースのラインナップを確認していると、速水はTVの電源を入れた。

 表示されるのは予選Bグループの様子。

 俺も少し見てみるが、やはり予想通りと言うべきか。

 この世界の中学生のウデマエでは、二十四人のバトルロイヤルは時間がかかりそうだ。

 

「Bグループの方は結構時間がかかりそうだな」

「Aグループが異常なだけだ。特に天川、お前がな」

「そうですよツルギくん。普通あんなに早く終わりませんよ」

「だって時間かかりすぎるの嫌だったんだもーん」

 

 二十四人も戦ったら時間がかかりすぎて陽が落ちてしまう。

 今日はせっかく遠出してるんだ。夕方には終わらせて、上手い飯でも食って帰りたい。

 

「おっ、アイスコーヒーもあるじゃん。しかもブラックなのがいいね」

「天川、Bグループの試合を見なくてもいいのか?」

「逆に聞くけど、俺がBグループの奴に後れを取ると思うか?」

「思わないな」

「全く想像がつきませんね」

 

 そういうこと。

 とはいえ俺も流石にアイとかは警戒しているんだけどな。

 そういう要警戒対象のファイターはAグループに集まってたし、Bグループの観察は速水に任せる!

 

「ドーナツとアイスコーヒーで俺はのんびり優勝しますかね~」

「呑気なものだな天川は」

「でもそれがツルギくんらしいですね」

「二人もお菓子食えよ。タダだぜ」

 

 速水とソラもお菓子とジュースに手を付ける。

 うん。ドーナツ美味しい。

 豪華な控室で食うお菓子がこんなにも美味いとは。

 

 それはそれとして、予選Bグループの試合も眺める。

 

「……速水はどう思う?」

「手ごわそうだが、勝てない相手ではないな」

「じゃあ一番気になるチームは?」

「もちろんFairysだな」

 

 だろうな。

 特にアイの強さは、この世界では相当なものだ。

 間違いなく決勝に上がって来るだろう。

 となれば俺達ゼラニウムが戦うには、決勝に上がるしかない。

 

「これは、気合入れてファイトしなきゃな」

「やっぱりアイちゃんは強敵ですか?」

「だろうな。かなり強いのは間違いない」

 

 そしてアイと絶対にぶつけあう。

 あいつの本心を引き出して、答えを見つけてやるんだ。

 

 予選中継を観ながら決心をしていると、控室の扉がノックされた。

 誰だろうか?

 俺は席を立って、扉を開ける。

 

「はーい、どちらさまですか?」

 

 扉を開けた先には、一人の大柄な男性が居た。

 白衣を着て、ボサボサの黒髪を揺らしている、四十代くらいの男性。

 スタッフでは無さそうだけど……だれ?

 

「あの、どちらさま?」

「あぁ失礼。ここに赤翼ソラさんが居ると聞いてね、挨拶に来ただけなんだ」

 

 どうやらソラの知り合いらしい。

 俺はとりあえずソラを呼ぶ。

 控室の奥からソラがトテトテとやって来た。

 

「ツルギくん、どうしたんですか?」

「ソラにお客さんだってよ」

「私にですか?」

 

 俺の後ろから、ソラが顔を覗かせる。

 本当に知り合いなのだろうか。俺がそう思っていると……

 

「あっ! 三神おじさん」

「やぁソラちゃん。久しぶりだね」

「ソラの知り合い?」

「はい。正確にはお父さんの友人なんです」

「君はソラのチームメイトなんだね。初めまして、三神(みかみ)当真(とうま)です」

 

 三神という男性が差しだした手を、俺はとりあえず握り返す。

 でもなんでこんな会場にソラの知り合いが?

 

「えーっと、三神さんはスタッフさんなのかな?」

「違いますよツルギくん。三神おじさんはUFコーポレーションの科学者さんです」

「へー……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 これは流石に驚いた。

 UFコーポレーションの科学者はアニメでも少し触れられていたけど、要するに立体映像とかの技術を発明した人だ。

 

「ソラのお父さんって、すごい人と知り合いなんだな」

「ハハハ。僕はまだまだだけどね。光一(こういち)、あぁソラちゃんのお父さんの方がよっぽどすごいよ」

「そうなのか、ソラ」

「はい……実は私のお父さん、元はUFコーポレーションの科学者だったんです」

「へー……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 俺驚愕、パート2。

 

「ソラってもしかして、結構いいとこのお嬢様?」

「そ、そんなことないですよ! 普通の一般人です!」

「まぁ、今はそうかもしれないね。でも安心したよ。ソラちゃんが元気そうで」

 

 どこか愁いを帯びた表情で、三神さんはそう言う。

 

「お父さんの事もあったからね、心配していたんだよ」

「……はい」

「でも安心したな。良いチームメンバーと出会えたようで」

「はい! 自慢の仲間です」

「それはよかった。えっと、君の名前は」

「ツルギです。天川ツルギ」

「ツルギ君か。ソラちゃんの事、よろしく頼むよ」

 

 肩に手を置かれて、そう言われる。

 これはアレか? 娘を大事にしやがれ的なやつか?

 しかし、それはそうと……ソラのお父さんに何かあったのか?

 それだけが少し気になる。

 

「そういえば、まだお祝いを言ってなかったね。予選通過おめでとう」

「ありがとうございます。でもほとんどツルギくんのおかげですけど」

「そうなのかい?」

「俺がメテオで一掃しました!」

「ハハハ。これは中々破天荒なファイターだ」

 

 笑い声を上げる三神さん。

 俺そんなに破天荒かな?

 

「ソラちゃんも大変だろうけど、本戦頑張るんだよ」

「はい!頑張ります」

「じゃあ僕はこれで失礼するよ。VIPルームでゼウスさんを待たせているからね」

「すごい名前が出てきたな」

「今僕はゼウスCEO直属のチームにいるからね。また会う機会があったら、よろしく頼むよ」

 

 そう言い残して、三神さんは控室を去っていった。

 

「なんか、嵐みたいな人だったな」

「三神おじさんが嵐なら、ツルギくんはもっとすごいですよ」

「二人とも。何をしてるんだ?」

 

 奥から出遅れて速水が来る。

 なんでこいつはタイミングが悪いのだろうか。

 

「速水、お前間が悪いって言われるだろ」

「何の話だ?」

 

 ソラは今あった事を速水に話す。

 速水は少し悔しがっていたが、まぁいいだろう。

 

 それよりもだ。

 

「(なんでだろうな……あの三神って人とは、また会う気がするな)」

 

 よくわからない直感が、俺の中に芽生えていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十一話:助けたい人がいる

 予選Bグループが終わり、本戦出場チームが決定した。

 俺達はその様子を控室のモニターで見守る。

 

「さぁて、本戦はどんな感じでくるのかな?」

 

 発表された本戦の内容は8チームによるトーナメント戦。

 チームメンバー3人が順番に戦い、先に2勝したチームが勝ち進むというルールだ。

 

「これは……戦う順番も考えなくてはな」

「だな。相手との相性もあるだろうし」

 

 だけどこういう戦略性は個人的に大好きだ。

 俺達チーム:ゼラニウムはどんな順番で出ようか、今からワクワクする。

 

「あぁ、天川(てんかわ)は強制的に大将戦だからな」

「え?」

「そうですね。ツルギくんは私達の最終兵器ですから」

「むしろ最後に出てもらわないと困る」

 

 戦略性ってなんだっけ?

 完全に俺を駆使したパワーゴリ押し戦術が、そこにあった。

 速水(はやみ)とソラは先鋒と次鋒をどうやって決めるか話し合っている。

 俺の……俺の入り込む余地がない。

 

 そうやって俺が静かに涙を流していると、控室のモニターに動きがあった。

 

『それでは、確定したトーナメント表を発表いたします!』

 

 モニターにでかでかとトーナメント表が表示された。

 俺達はそれを食い入るように確認する。

 やはり一番気になるのは……

 

「アイのチームとはかなり離れたな」

「そうだな。この組み合わせだと、チーム:Fairys(フェアリーズ)と戦うには双方が決勝戦に上がる必要がある」

「焦らされるなぁ」

「が、頑張らないといけませんね」

 

 ソラが鼻息荒く気合を入れる。

 確かに頑張らないといけない。だがそれは俺達だけじゃなく、アイ達もだ。

 

「俺達が決勝に行くのは確定として、問題はアイの方だけど……」

「きっと大丈夫ですよ。アイちゃん強いですから」

「そうだけどさぁ。今のアイはあのメンタルだからなぁ……」

 

 ソラが無言になって俯く。

 やはりどうしても心配になってしまうんだな。

 

「どうした二人とも。らしくないな」

「速水」

「信じ抜きたいんじゃないのか? アイの事を、ライバルの事を」

「速水くん」

「俺達はサモンファイターだ。信じて戦い続ける事が、相手への最大のリスペクトになるんじゃないのか?」

 

 そうだ。速水の言うとおりだ。

 

「だな。最後までアイを信じ抜くべきだよな」

「そうですね。私もアイちゃんを信じたいです」

「だったら俺達は俺達で、出来る限りのファイトをするだけだ。そうだろ?」

「あぁ! 思いっきり暴れてきてやる!」

「天川は少し自重してくれよ」

「ツルギくん、ほどほどでお願いしますね」

 

 ご安心ください。

 本戦は可能な限り正攻法で勝つ予定です。

 ……可能な限りでね。

 

「それはそうと、試合開始まで結構時間あるな」

「そうですねぇ。お昼休憩挟んでますから」

「せっかくパークに来てるんだし、どっかで美味い飯でも食いに行こーぜ」

 

 テーマパークのグルメは割高だけど、お祭り気分で美味しくなるものだ。

 割高だけど!

 

「天川の言うとおりだな。どこか近くにレストランでもあれば良いんだが」

「あっ、それなら私パークの地図持ってますよ!」

「ソラ……付箋がいっぱいついてるけど、もしかして」

「ち、違いますよ! 別に食べ歩きをしたかった訳じゃないですよ!」

 

 ソラさんや。

 食べ物屋にばかり付箋を貼った地図を出されても、説得力がないですよ。

 

「まぁいいや。チュロス食いながら練り歩こうぜー」

「たい焼き! たい焼きもお願いします!」

「何故このテーマパークにはたい焼き屋台があるんだ?」

 

 速水が疑問を持っているが、深く考えるのはやめた方が良い気がする。

 

 俺達が昼飯食べ歩きツアーの計画を練っていると、控室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「ん? 俺出てくるよ」

 

 とりあえず昼飯計画は二人に任せて、俺は扉に手をかける。

 また三神さんだろうか。

 俺が扉を開くと、そこには意外な人物がいた。

 

「……君らは」

 

 立っていたのはの黒髪ロングの女の子と、金髪ショートボブの女の子。

 俺はこの二人を知っている。

 

「あっ、あの……その」

 

 黒髪の女の子、佐倉(さくら)夢子(ゆめこ)が何か申し訳なさそうに言い出そうとしている。

 

「……誰かに見られても面倒だろ。話あるなら中で聞くよ」

「あっ、ありがとうございます」

 

 俺はさっさと二人の女の子を控室に入れた。

 念のため誰かが見てないかも確認する。大丈夫そうだ。

 

「ツルギくん、誰か来てたんで……え?」

「どうした赤翼(あかばね)……ん?」

「お、お邪魔してます」

「配慮されて連れ込まれました」

 

 二人の女の子を見てソラと速水が唖然としている。

 だってそうだろ。

 俺が控室に招き入れたのはチーム:Fairysのメンバー、佐倉夢子と日高(ひだか)ミオだ。

 

「おい天川! なんでライバル選手を控室に連れてきてるんだ!」

「だって話があるっぽかったから」

「だとしてもだ! もう少し思慮というものをだな!」

「あの、やっぱりご迷惑だったでしょうか」

 

 夢子が恐る恐るそう言ってくる。

 それをソラが全力で否定した。

 

「そ、そんなことないですよ! 問題ないです!」

「なら、良かったです……」

「速水も問題ないよな?」

「……まぁ、やってしまった事は仕方ない」

 

 渋々理解を示してくれた速水。ありがたい事だ。

 俺はとりあえず二人のアイドルを椅子に座らせる。

 本題に入ろうか。

 

「で、アイドルさんは俺達にどんな用事があるんだ?」

「えっと……その、お願いが、ありまして」

「ユメユメ、アタシから話そうか?」

 

 夢子は静かに頷く。

 するとミオは、どこからか一つの召喚器を取り出した。

 その召喚器を見た瞬間、俺達は目を見開いた。

 何故なら俺達はその召喚器を見たことがあるからだ。

 

「それって、アイちゃんの召喚器、ですよね」

「あぁ。間違いなくアイの【樹精(じゅせい)】デッキのやつだな。なんで君らが持ってるんだ?」

「アイっちには怒られるかもしれないけど、こっそり持って来たの」

 

 俯き気味に、ミオがそう答える。

 でもなんでデッキを持って、俺達のところへ?

 

「あの、お願いっていうのは」

「愛梨ちゃんの召喚器と、遠距離接続設定をして欲しいんです!」

 

 やや悲痛気味に、夢子がそう言う。

 それにしても、遠距離接続設定?

 

「なぁ速水。遠距離接続設定って、たしか」

「あぁ。距離の離れた相手の召喚器にターゲットロックをする為のシステムだな。とは言ってもせいぜい50メートルくらいの距離にしか対応していないが」

「でもなんでそんな設定を頼んでくるんだ?」

 

 それがよく分からない。

 するとミオと夢子は、静かに話を始めた。

 

「愛梨ちゃん。最近ずっと苦しい思いをしてるんです。自分のデッキを思うように使えなくて……」

「だからせめて、アイっちが尊敬している相手とくらいは、自分のデッキで戦って欲しくて」

「……本当は話すべきではないのかもしれないけど、アイから全部聞いてる」

 

 俺がそう言った瞬間、ミオと夢子は膝の上で拳を握りしめた。

 

「プロデューサーの意向なんだってな。アイが【妖精】デッキを使ってるの」

「……はい。だけどそれは」

「アタシ達のせいでもあるの」

「ん? どういうことだ?」

「私とミオちゃんは、元から【妖精】のデッキを使っていたんです。だからアイドルとしてデビューした時も、それを活かしてアピールしました」

「アタシもユメユメと同じ。その後ユニットを組むことになって、アイっちと出会って……アイっちも同じ【妖精】デッキを使ってるんだって、最初は喜んでたの」

 

 だけど……とミオが続ける。

 

「アイっちのは、全部、プロデューサーが無理強いしてただけだった。ある日アイっちが【樹精】デッキを持ってるのを見て、全部察したの」

「宮田愛梨という実績を彩るために、プロデューサーは愛梨ちゃんの意思を全部無視してきたんです」

 

 今にも泣きだしそうな顔で二人のアイドルが語る。

 

「……プロデューサーの事も、俺はアイから聞いてるよ。君達二人を人質にしてる事も」

「ッ!」

「愛梨ちゃん……」

「アイが言ってたんだ。大切な仲間の夢を壊してまで、自分のエゴを通していいのか悩んでるって」

 

 俺がそれを告げた瞬間、ミオと夢子はポロポロと涙を流し始めた。

 

「わ、私は」

「アタシは! アイっちを犠牲にしてまで、アイドルなんてやりたくない!」

 

 ミオの悲痛な叫びが、控室に響き渡る。

 

「みんなを笑顔にしたくてアイドルになったのに……大切な友達を犠牲にして、デッキを使えなくするなんて……そんなのしたくないよ」

「私も……同じです」

 

 涙ながらに気持ちを吐露するアイドル二人。

 俺の後ろでは、ソラも少しもらい泣きをしている。

 少しの間が、空間を支配する。

 俺は無言で、テーブルに置かれたアイの召喚器に手を付けた。

 

「遠距離接続設定をすればいいんだな」

「天川!?」

「アイがターゲットロックをするより早く、この召喚器に俺がターゲットロックをする。それが作戦で良いんだな?」

「は、はい! そうです!」

 

 俺は自分の召喚器を取り出し、設定画面を起動する。

 だけどそれを速水が止めようとする。

 

「まて天川! 早まるな、もっと警戒しろ!」

「警戒する要素、あるか?」

「こんな事は言いたくないが、あのプロデューサーの部下相手だぞ! 何か罠の可能性も」

「ないだろ」

「何を根拠に」

「根拠なんてなくていい。友情がSOS出してるんだ、助けなくちゃだめだろ」

 

 それにな……

 

「仮に罠だったとしても、友達のために動くんだ。俺は後悔しねーよ」

 

 本心からの言葉。

 アイという友達のためにやる行動だ。後悔なんてするもんか。

 

「私も。念のために設定しますね」

「赤翼!?」

 

 ソラも自分の召喚器を取り出して、設定画面を開いた。

 二人で遠距離接続設定をする。

 

「アイちゃんが自分を失いかけてるんです。私にできる事なら、喜んでしますよ」

「速水はどうする? 別に強制しないし、やらなかったからと言って責める事もしない」

 

 しばし無言になる速水。

 メガネの位置をただし、二人のアイドルを見る。

 

「君達の言葉、信じて良いんだな?」

「はい」

「うん。信じて欲しい」

「……わかった」

 

 そう言うと速水も召喚器を取り出して、設定画面を開いた。

 これで誰がアイと当たっても、作戦は実行できる。

 

「一応確認しておくけど、本当にいいんだな?」

 

 これだけが懸念事項。

 

「アイが【樹精】デッキを使えば、君たちがどうなるか分からない。アイから聞いた話を信じる限りじゃきっと……」

「いいんです。私もミオちゃんも、覚悟は決まってますから」

「うん。自分の事よりも、アイっちを助けたい」

「そうか」

 

 なら、俺から追及する事はもう無いな。

 俺は遠距離接続設定を終わらせる。

 

「ルール上、ターゲットロックで繋がったデッキがファイトをする事になってる。予備デッキで登録されているアイのメインデッキと繋げば、上手くいくはずだ」

「だが問題は、俺達チーム:ゼラニウムと、チーム:Fairysが対戦するまでの道のりだ」

「速水曰く、俺達が戦うには双方が決勝戦に行く必要があるんだってよ」

 

 その話を聞いた瞬間、ミオと夢子は固唾を飲んだ。

 

「約束してくれ。必ず決勝に行くって。俺達も必ず決勝に行く」

「……はい。約束します」

「絶対に勝って、アイっちを連れていくね」

 

 交わす約束。

 俺は自分のデッキが入った召喚器に目を落とした。

 

 アイとファイトをして、それでアイを救えるかどうかは正直分からない。

 だけど、それでもこのファイトで、アイが何か答えを見つけてくれるのだったら。

 

「絶対にアイと戦う……あいつの魂を救うんだ」

 

 俺は控室にいる全員を見渡す。

 思いは、同じだ。

 

「絶対に決勝に行くぞ……アイを助けるために!」

 

 速水とソラ、そして二人のアイドルは力強く頷いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十二話:見届ける者と悪意ある者

 JMSカップ本戦が始まり、歓声が湧いているドーム観客席。

 その中でも一際特殊な、VIPルーム。

 豪華な作りの特別な部屋で、ゼウスは熾烈な戦いを繰り広げるファイター達を見届けていた。

 

「今年は素晴らしいファイターが多いようだね。ドクター三神」

「そうですね。これは来年の()()が楽しみになります」

「ハハハ。やはりドクター三神も同じ事考えるか」

 

 未来を担う若者達の活躍を目に焼き付けながら、二人の大人が歓談に花を咲かせる。

 その時であった。

 ゼウスの秘書をしている女性が、やってきた。

 

「何かあったかね?」

「ゼウス様にお会いしたいという男性が一人来ています。どうされますか?」

「今日は気分が良い。通してくれ」

「かしこまりました」

 

 秘書は出入り口へと戻る。

 それを見届けた後、三神はゼウスに問うた。

 

「よろしいのですか?」

「ちょっとした余興だよドクター。それに、面白い話かもしれないだろう?」

 

 まるで神のような余裕を振り撒くゼウス。

 件の客人は、すぐにやってきた。

 

「ゼウス様、お客様をお連れしました」

「ご苦労。下がっていてくれ」

 

 秘書を下がらせると、ゼウスは突然やってきた客人を見た。

 黒い上等なスーツに身を包んだ壮年の男性。

 ゼウスはこの男の事を知っていた。

 

「ふむ、誰かと思えば……確かアイドルのプロデューサーしている」

「黒岩と申します。ゼウス様、お初にお目にかかります」

「君の話は知っているよ。腕のいいプロデューサーだと聞いている」

「私の事をご存知とは、光栄の極みです」

 

 わざとらしく頭を下げる黒岩。

 ゼウスはそれを見ても、特に何も思わなかった。

 

「まぁ座りなさい。話があるのだろう?」

「はい。失礼いたしましす」

 

 長いソファの隣に座る黒岩。

 ゼウスの視線は、今まさにファイトしている選手に向けられていた。

 

「今ファイトしているのは、君のところのアイドルではないか?」

「はい。自慢の娘達です」

「こんな所に居て大丈夫なのかね?」

「問題ありません。彼女達は勝ちますので」

「ほう……面白い自信だ」

 

 ゼウスの視線が、黒岩に移る。

 

「ミスター黒岩。君は私に何を望んでここに来たのかね?」

「次なる栄光を求めて」

「なるほど、美しい欲望だ。しかしその栄光は、誰の栄光なのかな?」

「勿論、私のアイドルですよ」

 

 ゼウスはグラスにワインを注ぎながら、黒岩を見つめる。

 その目はまるで、真偽を見極めているようでもあった。

 

「売り込みたい、のかね?」

「はい。是非UFコーポレーションの次のCMには、我がアイドルFairysを」

「なるほど。君の思惑は理解した」

 

 そう言うとゼウスはワイン一口飲む。

 

「我が社のCMには強さと輝き兼ね備えたファイターを起用している。ミスターのアイドルも素晴らしい強さを持っているようだ」

「でしたら」

「だが、輝きはどうかな?」

 

 再びゼウスは本戦のステージで戦うFairysを見つめる。

 

「強さだけでは輝きは生まれない。輝きだけでは強さは生まれない。この意味が分かるかねミスター?」

「……いえ」

「つまり君の育てたアイドルはどっちつかずなのだよ。強さと輝き、この二つが両立されていない」

 

 特に……とゼウスは続ける。

 

「あのミス宮田。彼女は何かを隠しているように見える。ミスターには心当たりがあるのでは?」

「……いえ、全くありません」

「そうか。まぁこの大会で何かを開花させたのなら、私の見方も変わるかもしれんな」

 

 ゼウスはグラスのワインを一気に飲み干す。

 

「少なくとも、今の彼女達には色々足りない部分がある。私に売り込むには、少々未熟ではあるな」

 

 完全に拒絶された。

 黒岩は思わず下唇を噛み締める。

 相手はサモンを支配する企業のCEO。実質的なこの世界の首領。

 袖の下なんて通用する相手ではない。かと言って、ここで粘って交渉しても通用する相手ではない。

 黒岩は静かに悔しさと怒りを燃やしていた。

 

「おっ、試合が終わったみたいだね。喜べミスター黒岩。君の育てたアイドルが勝ったぞ」

「はい、そうですね」

「ドクター三神、次の対戦カードは?」

「次はチーム:エコーとチーム:ゼラニウムの対戦です」

「おぉゼラニウム! あの予選Aグループで派手な事した少年がいるチームか!」

 

 まるで子供のように目を輝かせるゼウス。

 その様子を見た黒岩の中では、何か黒いものが噴出しようとしていた。

 

「せっかくだ、ミスター黒岩もここで見ていくといい」

「ゼラニウムの対戦を、ですか?」

「そうだ。予選見て確信したよ。彼らは強さと輝きを併せ持つ、最高のファイターだ!」

 

 黒岩のプライドに傷が走る。

 

「君も後学のために見ていく良い。彼らは実に魅力的なファイトをしてくれる。きっと決勝戦に行くだろうね」

 

 鼻歌歌いながら、ゼウスは「彼らが芸能関係者であれば我が社のCMにスカウトするのだがな」と一人呟く。

 そんなゼウスを見て、黒岩の心は更にどす黒く染まっていった。

 やや荒々しく席を立つ黒岩。

 

「おや? 見ていかないのかい、ミスター」

「……失礼しました。試合終わりの労いをかけに行く必要があるので」

「そうか……それは残念だ」

 

 背を向けて、VIPルームの出入り口に向かう黒岩。

 そんな黒岩を身もせずに、ゼウスはこう告げた。

 

「ミスター黒岩。あまり下手なシナリオは、作らない事をオススメするよ」

「……私は、栄光を掴むまでです」

 

 そう言い残し、黒岩はVIPルームを去って行った。

 残されたゼウスと三神の間に沈黙が生まれる。

 

「ドクター三神」

「はい」

「召喚器を準備しておいてくれ。デッキは……アレを使いたまえ」

「よろしいのですか? アレはまだ未公表カードタイプが入ってますが」

「だから良いのだよ。試験運用に最適だ」

「かしこまりました。すぐに準備いたします」

 

 そう言い残すと、三神もVIPルームを去って行った。

 残されたのはゼウスただ一人。

 グラスにワイン注ぎながら、小さくこう口にした。

 

「ミスター黒岩。君の物語は、ここで終わる」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十三話:ふざけた提案

 JMSカップ本戦トーナメントが開始した。

 

「〈ファブニール〉で攻撃!」

「ぐわぁぁぁ!」

 

「やれ! 〈スチーム・レックス〉!」

「きゃぁぁぁ!」

 

「お願いします! 〈【天翼神(てんよくしん)】エオストーレ〉!」

「む、無念」

 

 俺達チーム:ゼラニウムは順調に勝ち進み、無事決勝戦への切符を手に入れた。

 さて、問題はFairysの皆様だけど……

 

「どうだ、速水(はやみ)

「流石と言うべきだな。ややこしい事情があるとはいえ、実力は確かなファイターだ」

「アイちゃん達も決勝戦に進みましたよ」

 

 控室のモニターで、Fairysの試合を見る俺達。

 向こうも無事勝ち進んだようだ。

 これで約束は果たせる。それだけは安心だ。

 

 問題は、アイ自身の心だな。

 なんとかファイトまでは漕ぎつけたけど、作戦を上手く成功させられるかはまだ分からない。

 だけど、それでも俺は、アイとファイトをしたい。

 アイに、サモンの本当の楽しさを思い出してほしいんだ。

 

「決勝戦開始まで、まだ時間があるな」

「ま、のんびり待とうぜ」

 

 俺がソファに沈み込みながら、そう言った時であった。

 控室の扉をノックする音が聞こえた。

 なんだよ、来客多過ぎだろ俺らの控室。

 

「ミオさんと夢子(ゆめこ)さんでしょうか?」

三神(みかみ)博士の可能性もあるぞ」

「俺が出てくる。ちなみに俺は新顔の可能性に賭けてみよう」

 

 とりあえず俺は控室の扉を開ける。

 扉の向こうに立っていたのは、黒いスーツに身を包んだ壮年の男性。

 うん。賭けは俺の勝ちだな。

 それはともかく……

 

「えっと、どちらさま?」

「初めまして。私はFairys(フェアリーズ)のプロデューサーをしている黒岩という者です」

 

 黒岩。その名前が聞こえた瞬間、俺の警戒心は頂点に達した。

 この男が、目の前にいるこの男が、アイを苦しめているのか。

 俺はとにかく平然を装って対応する。

 

「で、そのアイドルプロデューサーさんが何の用で?」

「いやなに。君たちと少しお話をしたくなってね」

 

 異変に気付いた速水とソラも奥から出てくる。

 

「ツルギくん。その人は」

「Fairysのプロデューサーだってさ」

 

 俺の端的な説明で、二人は全て察したらしい。

 背後から凄まじい警戒心を感じる。

 

「で? 俺らみたいな普通の中学生に、どんなお話を?」

「うーん、そうだね……単刀直入に言えば、次の決勝戦で君たちに負けて貰いたいんだよ」

「は?」

 

 何を言ってるんだコイツは?

 

「私のFairysは今まさに最盛期を迎えていてね。このJMSカップで華々しく優勝すれば、その人気も更に上がるというものだ」

「で、俺達に負けろと? そっちの営業の都合で?」

「勿論ただでとは言わない。1勝2敗で負けて欲しいんだ」

 

 それとこれは……と言って、黒岩は1枚の紙を取り出した。

 これは……小切手だな。

 

「好きな金額を書いてくれたまえ。対価はきちんと支払うよ」

「さっきから聞いておけば貴様ッ! 俺達サモンファイターを何だと思っているんだッ!」

 

 流石に速水も怒り心頭してるな。

 言葉にしてないけどソラも同様。

 まぁ俺もなんだけどな。八百長なんて冗談じゃない。

 あと小切手とかしょぼいもん持ってくんな。こちとらカード資産なら世界一を自負してるわ。やや反則技だけど。

 

「速水、落ち着いてくれ」

「だが天川(てんかわ)!」

「黒岩さん、だっけ? その交渉なんだけどさぁ」

 

 俺は黒岩から小切手を受け取り、そして……

 

「論外だ」

 

 派手に破り捨てた。

 

「俺達は今、この大会を金のために戦ってるんじゃない。誇りと魂のために戦ってるんだ」

「……君達は、チャンスを捨てると?」

「チャンスにすらなってねーよ。ノイズだノイズ」

 

 何よりアイを苦しめた罰だ。鼻っ柱へし折ってやる。

 俺達は静かに黒岩を睨みつける。

 

「他に、用はあるのか?」

「……いや、無いね。これで失礼させてもらうよ」

 

 そう言って踵を返す黒岩。

 不気味なくらいあっさりと手を引くんだな。

 

「せいぜい後悔するんだな」

 

 去り際、黒岩は何かを呟いた気がしたけど、よく聞こえなかった。

 去り行く黒岩の背に中指をこっそり立てる。

 俺は控室の扉を閉めて、中に戻った。

 

「噂に違わぬ最低な男だったな」

「だな。八百長疑惑ってやつも疑惑じゃないんじゃないか?」

「最低な人でしたっ! むかむかします!」

 

 頬をぷくーっと膨らませて怒るソラ。

 なんだかフグみたいで可愛いな。

 

「天川、赤翼(あかばね)! あんな男には絶対に負けないぞ!」

「はい! がんばります!」

「いや、戦う相手はFairysの三人だからな」

 

 間違っても黒岩は選手じゃない。

 まぁ精神的な話なのかもしれないけど。

 うーん、そう考えたら少し苛立ちが残っているな。いけないいけない。

 

「悪ぃ、俺ちょっとトイレいってくるわ」

 

 流石に少し頭を冷やさないとな。

 カードゲーマーは冷静さが大切な武器だ。

 俺は控室を後にして近くにあるトイレに向かった。

 

 

 

 

「ふぅ~スッキリした~」

 

 トイレは良い。トイレは心を潤してくれる。

 人類が創り出した最高の文明だよ。

 

 トイレから出た俺がハンカチで手を拭いていると、声をかけてくる人物がいた。

 

「あっ、天川ツルギ選手ですか!?」

「はい、そうですけど……スタッフさん?」

 

 公式キャップとジャンパーを着ている男性。

 うん、間違いなく会場スタッフの人だ。

 

「選手登録の書類で確認したい事があります。お手数ですが、一緒に来てもらってもいいですか?」

「え? はい」

 

 何か不備でもあったのかな?

 俺はスタッフさんの後をついて行く。

 小走り気味に進む俺達。決勝戦ももうすぐだから、早く済ませたいな。

 

 最初は人通りのある場所を進んでいたけど、どんどん人気は無くなっていく。

 辿り着いた場所は、大きな機材倉庫のよな場所の前だった。

 扉も開いている。

 

「ここで確認するんですか?」

「はい。個人情報ですので」

 

 色々大変だな。

 まぁ、さっさと終わらて控室に戻るか。

 

 俺がそう考えた次の瞬間であった。

 

 ドンッ!

 

 誰かが俺の背を強く蹴り飛ばした。

 

「痛っ!? え!?」

 

 何が起きたんだ?

 蹴り飛ばされた時の衝撃で、俺は倉庫の中に入ってしまう。

 誰がこんな事をしたんだ?

 俺は犯人の顔を確認しようと、急いで振り返る。

 

「え!? お前は」

 

 勢いよく閉められる倉庫の扉。

 その隙間から一瞬見えたのは、下卑た笑みを浮かべている黒岩の姿であった。

 

 バタン! ガチャン!

 

 倉庫の扉が閉められて、鍵がかかる音が聞こえる。

 オイオイオイ、嘘だろ!?

 俺は遅いで扉を開けようとする。

 

「クソっ! 開けろ! 開けやがれェ!」

 

 扉を激しく揺らすが、開く気配は無い。

 体当たりもしてみるが、分厚い鉄の扉はびくともしない。

 

 これは……かなり不味いぞ。

 

「クソっ! 完全に閉じ込められた」

 

 スマホを確認するけど、まさかの圏外。

 召喚器の短距離通信機能も同様だ。

 これじゃあ助けも呼べない。

 

「どうする……決勝戦は、もうすぐ始まるんだぞ」

 

 俺、とんでもないピンチに陥ってしまった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十四話:どうする!? 始まった決勝戦!

 ツルギが倉庫の中で頭を悩ませている頃。

 控室では速水とソラが焦りを覚えていた。

 

「天川は何をしているんだ! もうすぐ決勝戦が始まってしまうぞ!」

「ツルギくん、どうしたんでしょう?」

 

 念のため速水が男子トイレを確認しに行ったが、ツルギの姿はない。

 ソラも近くを探してみたが同様だ。

 二人の中で何かよくない予感が生まれる。

 

「もしかして……あのプロデューサーの人になにかされたんじゃ」

「……可能性はゼロ、とは言えないな」

 

 速水の脳裏には黒岩の悪い噂が浮かび上がる。

 噂通りの男だとすれば、ツルギに何かをしても不思議ではない。

 そんな不安と焦りの中、控室に大会スタッフがやって来た。

 

「もうすぐ決勝戦が始まります。チーム:ゼラニウムの皆さんはベンチ入りしてください」

 

 速水は時計を確認する。

 確かにもうすぐ試合開始時間だ。

 速水は数秒悩んだ末に、一つの覚悟を決める。

 

「赤翼、ベンチに行くぞ」

「えっ、でもツルギくんが」

「アイツは必ず来る。天川ツルギは、ここで逃げ出す男ではない」

「それは、そうですけど」

「俺と赤翼で先鋒と次鋒を担う。天川を大将戦に据えれば、時間は稼げる」

 

 それに……と速水が続ける。

 

「天川とアイを必ず戦わせる。俺達はその使命を全うした上で、この大会を優勝するんだ」

「速水くん……はう、そうですね」

「俺が先鋒で出る。試合が終わればすぐに天川を探しに行く。だから赤翼、その後は任せるぞ」

「はい! がんばります!」

 

 その場しのぎの計画。だが無いよりはましだ。

 速水は姿を消したツルギの事を信じながら、ソラと共にベンチへと向かった。

 

 

 

 

 ドーム内のステージはライトアップされている。

 観客席は満席。歓声も鳴り響いている。

 片方のベンチにはチーム:ゼラニウムの二人が。

 もう片方のベンチにはチーム:Fairysの三人と黒岩が座っていた。

 

 Fairysの三人は、チーム:ゼラニウムの異変にすぐに気が付いた。

 

「ねぇ、ミオちゃん」

「うん。ツルギって子がいないよね。なんで?」

 

 ミオと夢子は混乱していた。

 愛梨をあれほどまでに気にかけてくれていた少年が、ここにきて姿を見せていない。

 逃げたとは到底思えない。あの少年には逃げる選択をするほどの弱さは無かった。

 ではなぜ居ないのか。

 考えれば考えるほど、ミオと夢子は分からなくなっていった。

 

 だが一方で、愛梨は黒岩の顔を無意識に見やった。

 そこには下種な笑みを浮かべた黒岩の姿があった。

 

「プロデューサー。ツルギに何かしたの?」

 

 愛梨は圧を込めた声で、黒岩を問いただす。

 

「ん~。少し大人の話をしただけさ。交渉は決裂したけどね」

「ちゃんと答えなさい」

「彼なら今頃、どこかで道に迷ってるのではないかな? まぁ、試合には間に合わないだろうね」

 

 それは最早自白であった。

 ミオと夢子は顔を青ざめさせ、愛梨は静かに怒りを覚える。

 

「プロデューサー、なんで、そんなことを」

「全ては君達Fairysが羽ばたくためだよ。この大会で優勝できれば、箔も付く」

「だからって、決勝戦の相手に危害を加えるなんて」

「証拠はない。金で買った協力者もいる。仮に訴えられたとしても、私とたかが中学生。世間が信用するのはいったいどちらだろうなぁ?」

 

 純然たる悪意とどす黒さ。

 それを目の当たりにしたミオと夢子は言葉を失った。

 

「どうしようミオちゃん」

「探しに行こう! 決勝戦なんてやってる場合じゃないよ!」

「それを俺が許すとでも?」

 

 ドスの効いた声で、二人を制する黒岩。

 

「お前たちはこの決勝戦に出て、勝つ。それがシナリオだ」

「でもプロデューサー!」

「日高。そんなに引退したいか?」

「ッ! アタシは、アイドル辞めてでも」

「よしなさいミオ」

 

 ミオの言葉を愛梨が制する。

 

「アイっち!」

「貴女が無茶をする必要は無いわ。夢子もよ」

「愛梨ちゃん……」

「流石宮田だな。聞き分けが良い」

「勝てば良いんでしょ。いつもみたいに」

「そうだ」

「なら私が先鋒で出るわ。早く終わらせ」

「「ダメ!」」

 

 先鋒で出ようとした愛梨を、ミオと夢子が制止する。

 

「アイっちは大将戦で出て!」

「そうだよ! だってセンターなんだよ!」

「……でも大将戦には誰も来ないわ」

「そんなことない」

「ミオ」

「絶対来る。だって、アイっちの友達でしょ。絶対来るよ」

 

 少し震えた声で、ミオは愛梨にそう告げる。

 

「ミオちゃん、愛梨ちゃん。先鋒は私が行くね」

「うん。アタシは次鋒で出る。だからアイっちは大将」

「……わかったわ。好きにしなさい。プロデューサーもいいでしょ」

「そうだな。勝利という結果を得られれば十分だ」

 

 黒岩が許可を出した。ミオと夢子は静かに胸をなでおろす。

 これで時間稼ぎの口実はできた。

 

「じゃあユメユメ。先鋒お願いね」

「うん。任せて」

 

 夢子は先鋒としてファイトステージに上がる。

 ミオと愛梨は、その背中を静かに見送っていた。

 

 だが愛梨の中には、形容しがたい空虚さと、ドロドロの黒さがかき混ざっていた。

 仲間のお膳立ては何となく察している愛梨。

 感謝の気持ちはあるが、それ以上に恐怖が芽生えていた。

 

「……ツルギ」

 

 今の自分は、本当にツルギと戦うに値するファイターなのか。

 愛梨は答えが分からぬまま、ベンチで俯いていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十五話:必ずつなげる! ソラの戦い

某所で累計PVが10万超えたので、今日はもう1話更新!


 倉庫の中では、ツルギが必死に脱出を試みていた。

 

「こなくそ!」

 

 近くにあった機材で扉を破壊しようと試みるが、鉄の扉はびくともしない。

 

「不味い。もう試合始まってる頃だぞ」

 

 時間の経過が、ツルギに焦りを覚えさせる。

 その直後であった、扉の隙間から、ステージアナウンスが聞こえてきたのだ。

 

『先鋒戦。勝者、佐倉(さくら)夢子(ゆめこ)!』

 

 先鋒戦が終わった、しかもゼラニウムの敗北だ。

 これは不味い。ツルギは更なる焦りを覚える。

 

「不味いってもんじゃねーぞ。これ大将戦に進むの確定じゃねーか!」

 

 きっと速水とソラが先鋒と次鋒で出ている筈。

 そうなれば大将戦はツルギだ。

 早くこの倉庫を脱出しなくてはならない。

 だけど方法が思いつかない。

 

「人気もなかったし、助けも来そうにない……マジでどうするんだコレ!?」

 

 ツルギは頭を抱えるが、答えは出ない。

 時間は残酷にも、刻々と進んでいた。

 

 

 

 

 JMSカップ決勝戦第一戦。

 速水は夢子に敗北した。

 ベンチに戻る速水を、ソラが出迎える。

 

「お疲れ様です。速水くん」

「すまない。負けてしまった」

「大丈夫です。次鋒戦で勝ちますから……それよりも」

「わかっている。必ず天川を探し出す。だから少しでも時間を稼いでくれ」

「はい!」

 

 速水はツルギを探し出すために、足早にベンチを去っていった。

 残されたのはソラただ一人。

 

 ソラは深呼吸を一回すると、覚悟を決めてファイトステージへと上がった。

 

『JMSカップ決勝戦第二戦。戦うのはこの二人! チーム:ゼラニウムからは赤翼(あかばね)ソラ!』

 

 ステージに立つソラに歓声が浴びせられる。

 少し腰が引けそうになるソラだが、なんとか我慢した。

 

『そして! チーム:Fairys(フェアリーズ)からは日高(ひだか)ミオ!』

 

 続けてファイトステージに上がってくるミオ。

 その表情は、お世辞にも自然な明るさがあるとは言えない。

 だがソラが全てを察するには、ミオの表情だけで十分であった。

 彼女が今抱えているものも、吐き出したいものも察した。

 だからこそソラは、こう口にする他なかったのだ。

 

「ミオさん! 良いファイトにしましょうね!」

 

 精一杯まっすぐ前を見て、ソラが声を上げる。

 それを聞いたミオは、恐る恐る目を見開いた。

 

「……なんで」

「私達はファイターです。何があろうとも全力でファイトをするのが使命なんです」

 

 それに……とソラが続ける。

 

「ツルギくんも、きっとそう言いますから」

 

 その目に恐れはない。

 その心に迷いはない。

 ソラは純粋に、ツルギが来る事を信じていた。

 それを感じ取ったミオは、自分の召喚器を手に取り視線を落とす。

 

「……仲間を信じてるんだ」

「はい。だからファイトしましょう。大切な人達のためにも」

「うん……そうだね!」

 

 ミオの中で絡みついていた迷いが僅かに晴れた。

 今はできる事をしよう。

 そして精一杯の力を出してファイトをしよう。

 二人の少女の心は、ステージ上で一つになった。

 

「手加減なんてできないけど、いいよね!?」

「もちろんです! 全力で戦います!」

 

 ならばもう、余計な会話必要ない。

 

『それでは決勝戦第二戦、開始してください!』

 

「「ターゲットロック!」」

 

 ソラとミオの召喚器が無線接続される。

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 歓声が巻き起こる中で、二人の少女が戦いを始めた。

 召喚器がランダムに先攻後攻を決める。

 先攻はソラだ。

 

「私のターン。スタートフェイズ。メインフェイズ!」

 

 ツルギを間に合わせるためにも、時間をかけてファイトをする。

 ソラは自分を落ち着かせながら、カードを仮想モニターに投げ込んだ。

 

「私は〈キュアピッド〉を召喚します!」

 

 ソラの場に召喚されたのは、いつも初動となっているキューピットだ。

 

〈キュアピッド〉P3000 ヒット1

 

「〈キュアピッド〉の召喚時効果で、私はライフを2点回復します。更に〈キュアピッド〉は【天罰】の効果でパワーが+6000されます!」

 

 ソラ:ライフ10→12

〈キュアピッド〉P3000→P9000

 

「そして魔法カード〈エンジェルドロー〉を発動します! 手札から系統:〈聖天使〉を持つモンスター、〈ジェミニエンジェル〉を捨てて、デッキからカードを2枚ドローします!」

 

 ソラ:手札2枚→4枚

 

 ソラはドローしたカードを確認する。

 望んだカードは来た。

 

「私は〈シールドエンジェル〉を召喚します」

 

 大盾を手にした天使が、ソラの場に召喚される。

 

〈シールドエンジェル〉P7000 ヒット2

 

 ひとまず防御は固まった。これである程度は時間を稼げると、ソラは考えた。

 

「ターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ12 手札3枚

 場:〈キュアピッド〉〈シールドエンジェル〉

 

 ライフ回復と防御に適したモンスターの展開。

 後はミオがどう出てくるかが問題だ。

 

「アタシのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ミオ:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。アタシは〈ウインドピクシー〉と〈トリックフェアリー〉を召喚!」

 

 迷いなくカードを仮想モニターに投げ込むミオ。

 その場には緑髪の妖精と、ツインテールの妖精が召喚された。

 

〈ウインドピクシー〉P2000 ヒット1

〈トリックフェアリー〉P3000 ヒット2

 

「続けて、アタシの場の〈トリックフェアリー〉を手札に戻すことで〈シャインフェアリー〉を召喚!」

 

 トリックフェアリーが場から消え、入れ替わるように美しい金髪の妖精が召喚された。

 

〈シャインフェアリー〉P8000 ヒット3

 

 パワーとヒットが高めのモンスターを前に、ソラは警戒心を高めた。

 

「この瞬間〈ウインドピクシー〉の効果発動! 1ターンに1度、このカード以外のモンスターが手札に戻った時、デッキを上から2枚確認できる!」

 

 ミオはデッキからカードを2枚引いて、その内容を確認する。

 

「確認したカードは、1枚を手札に加えて、残りは墓地に送る。更にアタシはライフを1点回復!」

 

 ミオ:ライフ10→11 手札4枚→5枚

 

 一気に三つのアドバンテージを稼いできたミオ。

 ソラは事前に【妖精】デッキの要警戒カードをツルギから聞いていた。

 当然〈ウインドピクシー〉の事も聞いている。

 

「いざ目の前にすると、強烈なカードですね」

 

 仮にも決勝まで上がってきただけの実力者。そのテクニックは確かだ。

 

「〈トリックフェアリー〉を再召喚」

 

 再び召喚される〈トリックフェアリー〉。

 

〈トリックフェアリー〉P3000 ヒット2

 

「アタックフェイズ! 早速攻めるよ! 〈トリックフェアリー〉で攻撃!」

「〈キュアピッド〉でブロックします!」

 

 ぶつかり合う妖精とキューピット。

 パワーはキュアピッドの方が圧倒的に高い。

 しかしミオは、それすらも織り込み済みであった。

 

「〈トリックフェアリー〉の効果発動! 相手モンスターと戦闘する時、このカードを手札に戻す! 戻ってきて〈トリックフェアリー〉!」

 

 キュアピッドとの戦闘を中断して、トリックフェアリーは場から手札にとんぼ返りする。

 キュアピッドのブロックは無駄に終わってしまった。

 だがそれだけではない。

 

「モンスターが手札に戻ったことで〈シャインフェアリー〉の効果発動!」

「やっぱりこのタイミングなんですか」

「〈シャインフェアリー〉の効果で、ライフを1点回復。更に相手モンスター全てのパワーを-2000だ!」

 

 シャインフェアリーがファイトステージを光で包み込む。

 ミオには恩恵を、ソラの場には弱体化を授けた。

 

 ミオ:ライフ11→12

 

〈キュアピッド〉P9000→P7000

〈シールドエンジェル〉P7000→P5000

 

「続けて〈シャインフェアリー〉で攻撃! そして〈シャインフェアリー〉の攻撃時効果【悪戯(いたずら)】を発動!」

 

 妖精の専用能力が発動する。

 シャインフェアリーの【悪戯】によって、ミオの場から〈ウインドピクシー〉が手札に戻った。

 

「モンスターが手札に戻ったから〈シャインフェアリー〉の効果が発動! ライフ1点回復。更にパワー-2000!」

 

 再び光がファイトステージを包み込む。

 

 ミオ:ライフ12→13

 

〈キュアピッド〉P7000→P5000

〈シールドエンジェル〉P5000→P3000

 

 モンスターが大幅に弱体化された。シャインフェアリーの攻撃は目前まで迫っている。

 ソラは悩んだ。

 ここでダメージを受ければ【天罰】が解除されてしまう。

 しかしブロックをすれば、シールドエンジェルを失ってしまう。

 

 数秒考えた後、ソラは決断を下した。

 

「……ライフで受けます!」

 

 シャインフェアリーの放った光の玉が、ソラの身体を貫く。

 

 ソラ:ライフ12→9

 

 【天罰】が解除されたことにより〈キュアピッド〉はパワー0で破壊される。

 

「アタシはこれでターンエンド」

 

 ミオ:ライフ13 手札6枚(内2枚ウインドピクシー、トリックフェアリー)

 場:〈シャインフェアリー〉

 

 いきなり【天罰】を解除されてしまったソラは、少し焦りを覚える。

 とにかく回復をしなければ先に進めない。

 なによりファイトを早々に終わらせるわけにはいかないのだ。

 

「とにかく先に進めないと……私のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 ソラ:手札3枚→4枚

 

 ソラはドローしたカードを確認する。

 

「このカードなら。メインフェイズ! 私は魔法カード〈Reキューピット〉を発動します!」

「〈Reキューピット〉? 初めて見るカード」

「このカードは、手札の系統:〈聖天使〉を持つカードを相手に見せることで、私の墓地から〈キュアピッド〉を復活させます! 更にその後カードを1枚ドローします! 手札から〈ソードエンジェル〉を見せて、蘇って〈キュアピッド〉!」

 

 ソラの墓地から魔法陣が展開され、中からキュアピッドが復活した。

 

〈キュアピッド〉P3000 ヒット1

 

 ソラ:手札3枚→4枚

 

「来てくれた! 私は魔法カード〈スーパーポーション〉を発動します。〈キュアピッド〉を破壊して、ライフを5点回復です!」

 

 ソラ:ライフ9→14

 

「更に魔法カード〈フューチャードロー〉を発動です! ライフを2点払って、2ターン後のスタートフェイズ開始時にデッキからカードを2枚ドローします」

 

 ソラ:ライフ14→12

 

「〈ソードエンジェル〉を召喚します」

 

 ソラの場に、二振りの剣を手にした天使が召喚される。

 

〈ソードエンジェル〉P5000 ヒット3

 

 モンスターを召喚したが、まだパワーは足りない。

 何よりまずはミオの場にいるシャインフェアリーを対処しなくては、先に進めない。

 

「魔法カード〈パニッシュメントポーション〉を発動します! このカードは手札から系統:〈聖天使〉を持つカードを1枚捨てることで、相手モンスターを1体破壊します!」

「うそぉ!?」

「私は〈アンカーエンジェル〉を捨てて、ミオさんの〈シャインフェアリー〉を破壊します!」

 

 パニッシュメントポーションの効果で、シャインフェアリーが破壊される。

 だが魔法効果はここで終わらない。

 

「〈パニッシュメントポーション〉の効果で、破壊したモンスターのヒット数分のライフを回復します」

 

 ソラ:ライフ12→15

 

 これでライフを上回った。ソラは再び【天罰】状態に突入する。

 

「アタックフェイズです! まずは〈シールドエンジェル〉で攻撃!」

「うーん、ライフで受ける」

 

 シールドエンジェルの大盾が、ミオに襲い掛かる。

 

 ミオ:ライフ13→11

 

「続けて〈ソードエンジェル〉お願いします!」

「うーんヒット3は痛いけど……それもライフ」

 

 ソードエンジェルの剣撃が、ミオを切り裂く。

 

 ミオ:ライフ11→8

 

「相手にダメージを与えた瞬間〈ソードエンジェル〉の効果が発動します!」

「うわー、それが発動条件だったかー」

「〈ソードエンジェル〉が与えたダメージだけ、私のライフを回復します」

 

 ソラ:ライフ15→18

 

「私はこれでアタックフェイズを終了。そしてアタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果で、ライフを1点回復します」

 

 ソラ:ライフ18→19

 

「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】によって、私の場のモンスターは全て回復します」

 

 疲労状態から回復する二体の聖天使。

 これで防御も万全だ。

 時間も稼げるはず。

 

 ソラはやや不安そうな表情で、ベンチの方へと振り向く。

 

「(ツルギくん……早く来てください)」

 

 ツルギの姿はまだ見えない。

 だが彼がここで逃げるような存在でない事を、ソラは知っていた。

 ならば今は信じるだけ。信じた上で、このファイトを勝つだけだ。

 

「私はこれでターンエンドです」

 

 ソラ:ライフ19 手札0枚

 場:〈ソードエンジェル〉〈シールドエンジェル〉

 

 必ずツルギにつなげる。

 ソラは一人で、ファイトを続けるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十六話:聖天使VS妖精の女王

 決勝戦第二戦。ソラVSミオ。

 その試合は大いに盛り上がっていた。

 

 そして迎えたミオのターン。

 

「アタシのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ミオ:手札手札6枚→7枚

 

 【妖精】デッキの特性故に、その手札は潤沢なものであった。

 

「メインフェイズ! アタシは〈ウインドピクシー〉と〈トリックフェアリー〉を召喚!」

 

 再び二体の妖精がミオの場に召喚される。

 

〈ウインドピクシー〉P2000 ヒット1

〈トリックフェアリー〉P3000 ヒット2

 

「そしてアタシは〈トラップピクシー〉を召喚!」

 

 ミオの場にピンク髪の妖精が召喚された。

 

〈トラップピクシー〉P1000 ヒット1

 

 ステータスの低いモンスターだが、油断はできない。

 ソラは警戒を強める。

 

「アタシは魔法カード〈かくれんぼ!〉を発動! 効果で【悪戯(いたずら)】をするよ!」

「【悪戯】をする魔法カード!?」

「アタシは系統:〈妖精〉を持つモンスター〈トリックフェアリー〉と〈トラップピクシー〉を手札に戻すよ」

 

 二体の妖精が手札に戻る。

 そしてここからが本番だ。

 

「〈かくれんぼ!〉のメイン効果! 【悪戯】で手札に戻したモンスターの数だけ、相手モンスターを疲労させるよ!」

 

 戻されたモンスターは二体。

 ソラの聖天使を全て疲労させるには十分な数であった。

 

「ブロッカーがいなくなった」

「それだけじゃないよ。手札に戻った〈トラップピクシー〉の効果発動! 相手モンスター1体をパワー-6000するよ! 〈ソードエンジェル〉をパワーマイナス!」

 

 トラップピクシーのいたずらを受けて、ソードエンジェルは弱体化する。

 そのままソードエンジェルのパワーは0となり、破壊された。

 

「更に、モンスターが手札に戻ったから〈ウインドピクシー〉の効果も発動! デッキを上から2枚確認して、1枚を手札。1枚を墓地。そして1点回復」

 

 ミオ:ライフ8→9 手札5枚→6枚

 

「それからそれから! 〈トラップピクシー〉と〈トリックフェアリー〉を再召喚!」

 

 またまた召喚される妖精二体。

 そろそろ肩で息をしはじめている。

 

〈トラップピクシー〉P1000 ヒット1

〈トリックフェアリー〉P3000 ヒット2

 

「さぁ! 思いっきりキラめくよ! アタシは系統:〈妖精〉を持つ〈トリックフェアリー〉を進化!」

 

 トリックフェアリーの身体が、巨大な魔法陣に飲み込まれる。

 

「キラキラ輝いて、みんなを照らして! アタシ達は最高の妖精女王! 〈クイーンフェアリー〉を進化召喚!」

 

 魔法陣が弾け、新たなモンスターが降臨する。

 ミオの場に神々しい輝きを纏った、妖精の女王が召喚された。

 

〈クイーンフェアリー〉P9000 ヒット2

 

「妖精の進化モンスター……」

「これがアタシの切り札。すぐに倒れないでよね」

「はい! 来てください!」

「アタシは〈クイーンフェアリー〉の効果発動! 1ターンに1度だけ【悪戯】をできる!」

「発動タイミングが指定されてない!?」

「アタシは〈トラップピクシー〉と〈ウインドピクシー〉を手札に戻す!」

 

 二体の妖精が手札に戻る。

 しかし発動したのは仮にも進化モンスター。

 それだけで終わるはずがなかった。

 

「モンスターが手札に戻ったことで〈クイーンフェアリー〉の効果発動! 手札に戻ったモンスター1体につき、相手モンスター全てのパワーを-3000する!」

「戻ったモンスターは2体っ!」

「合計で-6000! 全員に与えるよ!」

 

 クイーンフェアリーの放った光が、ソラのシールドエンジェルを飲み込む。

 

〈シールドエンジェル〉P7000→1000

 

「更に〈トラップピクシー〉の効果で、パワー-6000を〈シールドエンジェル〉に!」

 

 トラップピクシーの効果を受けたシールドエンジェルはパワー0となり破壊される。

 これでソラの場にブロッカーはいなくなった。

 

「〈トラップピクシー〉と〈ウインドピクシー〉を再召喚。そしてアタックフェイズ!」

 

 場ががら空きのソラに、ミオは攻撃を仕掛け始めた。

 

「まずは〈トラップピクシー〉で攻撃!」

「ライフで受けます」

 

 ソラ:ライフ19→18

 

「次は〈ウインドピクシー〉で攻撃!」

「それもライフです」

 

 ソラ:ライフ18→17

 

「フルアタックだ! 〈クイーンフェアリー〉で攻撃!」

「ライフです」

 

 ソラ:ライフ17→14

 

「うーん、ライフが多すぎて削り切れないか~。ターンエンド」

 

 ミオ:ライフ9 手札3枚

 場:〈クイーンフェアリー〉〈トラップピクシー〉〈ウインドピクシー〉

 

 大幅にライフを回復しておいたおかげで生き延びたソラ。

 だが場にモンスターは0体。手札も0枚。

 かなりピンチな状態であった。

 

「なにか引き当てないと……私のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ソラ:手札0枚→1枚

 

 ドローしたカードをソラは確認する。

 それを見た瞬間、ソラの顔は明るくなった。

 

「これなら! メインフェイズ。私は魔法カード〈オーバーライフドロー〉を発動します!」

「〈オーバーライフドロー〉?」

「このカードは自分のライフが相手より4点以上多い時にのみ発動できます。ライフを2点払って、2枚ドローです!」

 

 ソラ:ライフ14→12 手札0→2枚

 

 ドローしたカードを確認するソラ。

 決定打にはならないが、ひとまず次へ繋げられるカードは手にできた。

 

「私は〈ピスケスエンジェル〉を召喚します!」

 

 カードを仮想モニターに投げ込む。

 ソラの場には、天使の羽が生えた二匹の魚が召喚された。

 

〈ピスケスエンジェル〉P5000 ヒット2

 

「アタックフェイズ! 私は〈ピスケスエンジェル〉で〈クイーンフェアリー〉を指定アタックします!」

「【指定アタック】持ち!? でも〈クイーンフェアリー〉の方がパワーは高いよ!」

「なら強化すればいいんです! 私は魔法カード〈エンジェルオーラ〉を発動します! 【天罰】効果も合わせて〈ピスケスエンジェル〉のパワーを+5000です!」

 

〈ピスケスエンジェル〉P5000→P10000

 

「これで〈クイーンフェアリー〉のパワーを上回りました。お願いします〈ピスケスエンジェル〉!」

 

 強化されたピスケスエンジェルは、クイーンフェアリーに体当たりをする。

 その一撃でクイーンフェアリーはあっけなく破壊されてしまった。

 

「アタシの、切り札が……」

「モンスターを戦闘破壊した瞬間〈ピスケスエンジェル〉の【天罰】を発動します。私はデッキからカードを1枚ドローします」

 

 ソラ:手札0枚→1枚

 

「……私はこれでターンエンドです」

 

 

 ソラ:ライフ12 手札1枚

 場:〈ピスケスエンジェル〉

 

 ひとまずライフレースでは勝っているが、手札の差が大きすぎる。

 ソラは残った1枚の手札に全てを託す他ない状態だ。

 

「まさかアタシの切り札が倒されるなんて……でも、まだファイトは終わってない! アタシのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ミオ:手札3枚→4枚

 

「来た! アタシのプランB! メインフェイズ。アタシはライフを3点払って〈ヒートフェアリー〉を召喚!」

 

 ミオの場に松明を持った妖精が召喚される。

 ソラはこのカードを知っていた。予選で愛梨が使ったカードだ。

 

〈ヒートフェアリー〉P3000 ヒット1

 

「魔法カード〈いたずらオバケ〉を発動! 場の〈トラップピクシー〉を手札に戻して〈ヒートフェアリー〉のヒットを2上げるよ!」

 

〈ヒートフェアリー〉ヒット1→3

 

「妖精が手札に戻ったことで、更に〈ヒートフェアリー〉のヒットを1上げる」

 

〈ヒートフェアリー〉ヒット3→4

 

「更に! 手札に戻った〈トラップピクシー〉の効果で、パワー5000の〈ピスケスエンジェル〉を破壊!」

 

 トラップピクシーのいたずらによって、ピスケスエンジェルはパワー0になってしまった。

 破壊されるピスケスエンジェル。

 これでソラの場にモンスターはいなくなった。

 

「モンスターが手札に戻ったから〈ウインドピクシー〉の効果も発動。2枚確認して、1枚手札。1枚墓地、ライフを1点回復」

 

 ミオ:ライフ6→7 手札3→4枚

 

「そしてコレ! 魔法カード〈サルベージサルベージ!〉を発動!」

「っ!? そのカードは確か!」

「このカードは、手札を1枚捨てることで、自分の墓地から系統:〈回収〉を持つ魔法カードを1枚手札に戻すカード。アタシは墓地から魔法カード〈いたずらオバケ〉を手札に戻すよ!」

「それ、回収持ってたんですね」

 

 これはかなり不味い状況となった。

 ソラは焦る。

 あの魔法カードにターン1制限は無かったはずだ。

 

「手札に戻した魔法カード〈いたずらオバケ〉を発動! 〈ウインドピクシー〉を手札に戻して〈ヒートフェアリー〉のヒットを2上げる。更に〈ヒートフェアリー〉の効果でヒットを1上げるね!」

 

〈ヒートフェアリー〉ヒット4→6→7

 

 ヒット数がかなり上昇してきた。

 だがまだソラが耐えきれる範囲である。

 それを見抜いていたのか、ミオは不敵に笑みを浮かべた。

 

「このカードで決めるね! アタシは魔法カード〈フェアリーカーニバル!〉を発動!」

「なんだか……嫌な予感がします」

「コストで手札を2枚捨てるね。〈フェアリーカーニバル!〉の効果で系統:〈妖精〉を持つモンスター1体のヒット数を、このターンの間2倍にするよ!」

「ヒット数2倍!? ということは」

 

 ヒートフェアリーの松明が更に巨大化していく。

 もはやどちらが本体か分からないほどだ。

 

〈ヒートフェアリー〉ヒット7→14

 

 予想外の展開。

 モンスターのヒット数がソラのライフを上回った。

 派手派手しい演出により、観客の声も大きくなっていく。

 

「アタックフェイズ……これで、終わらせるね! アタシは〈ヒートフェアリー〉で攻撃!」

 

 ヒット14まで強化されたヒートフェアリーの松明が、ソラに振り下ろされる。

 これを食らえば試合終了。チーム:ゼラニウムは敗北してしまう。

 しかしソラの手札に攻撃を無効化するカードは無い。

 手札にあるカードは……

 

「私は魔法カード〈デストロイポーション〉を発動します!」

「それは、不確定の回復カード」

「はい。デッキを上から5枚墓地に送って、その中のモンスターカードの数だけライフを1点回復します」

 

 現在ソラのライフは12点。

 ヒートフェアリーの攻撃を凌ぐには3枚以上のモンスターカードが美地に送られなければならない。

 ソラとミオだけでなく、観客席の人々も固唾を飲む。

 

「……いきます」

 

 ソラはデッキからカードを5枚墓地に送る。

 

 墓地に送られたモンスターカード:〈サジットエンジェル〉〈アリエスエンジェル〉〈ジャスティスエンジェル〉〈ヒーラーエンジェル〉〈【天翼神(てんよくしん)】エオストーレ〉

 

「うそぉ!? 全部モンスター!?」

「やりました! 私はライフを5点回復します」

 

 ソラ:ライフ12→17

 

「そして〈ヒートフェアリー〉の攻撃をライフで受けます!」

 

 ヒートフェアリーの松明がソラに襲い掛かる。

 しかしその一撃は、ライフを全て焼き尽くすことは無かった。

 

 ソラ:ライフ17→3

 

 まさかの展開。

 賭けに勝ったソラは、見事攻撃を凌いだ。

 その展開に、観客のテンションが最高潮に達する。

 

「まさか耐えられるなんてね~」

「そう簡単には負けられませんから」

「……いいなぁ」

 

 羨ましそうに、ソラを見つめるミオ。

 これ以上の攻撃はもうできない。

 

「ターンエンド」

 

 ミオ:ライフ7 手札0枚

 場:〈ヒートフェアリー〉

 

「私のターン」

 

 ミオの手札は0枚。ブロッカーもいない。

 だがソラのライフは残り僅か3点。

 このターンで決めなくては負ける。

 ソラの心音は一気に激しくなってきた。

 

「スタートフェイズ。この瞬間〈フューチャードロー〉の効果発動! デッキからカードを2枚ドローします」

 

 ソラ:手札0枚→2枚

 

 ドローしたカードを確認するソラ。

 良いカードは引けた。しかしライフが足りない。

 次のドローで何かを引かなければ、勝ち目はない。

 

「ドローフェイズ……ドロー!」

 

 ソラ:手札2枚→3枚

 

 ドローしたカードを、ソラは恐る恐る確認する。

 

「……っ! きた!」

 

 最高の1枚が手札に来た。

 

「メインフェイズ! 私は魔法カード〈フェイカーポーション〉を発動します!」

「それって、予選で使ってたカード」

「〈フェイカーポーション〉はこのターンの終了時にライフを5点失う代わりに、私のライフを5点回復するカードです」

「つまり、一時的な回復カード?」

 

 何のために……そう言いかけた瞬間、ミオは思い出した。

 ソラの聖天使が持つ【天罰】、その発動条件を。

 

 ソラ:ライフ3→8

 

「これでミオさんのライフを上回りました。【天罰】が使えます」

「あ、アハハ……うっそー」

「そしてこれが決め手です! 私は魔法カード〈再臨〉を発動します! 手札を1枚捨てて、墓地から〈ジェミニエンジェル〉を復活です」

 

 ソラの墓地から、双子の天使が召喚される。

 

〈ジェミニエンジェル〉P5000→10000 ヒット2

 

「更に〈再臨〉の【天罰】を発動します! もう一体の聖天使〈アンカーエンジェル〉を蘇生です!」

「1枚で2体も蘇生できるの!?」

 

 ソラの場に錨を持った天使が召喚される。

 

〈アンカーエンジェル〉P1000 ヒット0

 

「〈ジェミニエンジェル〉は【天罰】によってパワー+5000。更に〈アンカーエンジェル〉の【天罰】を発動です! 召喚に成功した時、墓地から系統:〈聖天使〉を持つモンスターを1枚手札に戻します」

 

 墓地から1枚のカードが出現し、ソラの手札に加わる。

 

「私が回収するのは……〈【天翼神】エオストーレ〉です!」

「っ!? SRカード」

「いきます! 私は系統:〈聖天使〉を持つモンスター〈アンカーエンジェル〉を進化!」

 

 アンカーエンジェルが巨大な魔法陣に飲み込まれる。

 

「天空の光。今翼と交わりて、世界を癒す輝きとなる! 最後まで一緒に戦ってください。〈【天翼神】エオストーレ〉を進化召喚!」

 

 魔法陣が弾け飛び、大天使が光臨する。

 ロップイヤーのウサ耳が生えた光の化身が、ソラの場に召喚された。

 

〈【天翼神】エオストーレ〉P11000 ヒット3

 

 SRカードの登場により、歓声が更なるものとなる。

 さぁ、最後の攻撃だ。

 

「アタックフェイズ! 〈エオストーレ〉で攻撃です!」

「ッ! ライフで受ける」

「この瞬間〈エオストーレ〉の【天罰】を発動! 〈ヒートフェアリー〉をデッキの下に戻します!」

 

 ヒートフェアリーが場から消される。

 そしてエオストーレの攻撃は、ミオの身体に着弾した。

 

 ミオ:ライフ7→4

 

 ブロッカーもいなくなった。これで安心して攻撃できる。

 

「続けて〈ジェミニエンジェル〉で攻撃です!」

「ライフ!」

 

 双子の片割れが、ミオに攻撃する。

 

 ミオ:ライフ4→2

 

「ギ、ギリギリ生き残った~」

「いいえ、これで終わりです」

「えっ?」

「〈ジェミニエンジェル〉は【2回攻撃】を持っています」

「……そっかぁ~」

 

 ミオは全てを受け入れたような笑みを浮かべて、両腕をだらんと下ろす。

 

「ねぇ……アイっちのこと、お願いね」

「はい。ツルギくんが、必ず」

 

 だから信じて欲しい。

 言葉にせずとも、ソラの意図はミオに伝わった。

 

「お願いします〈ジェミニエンジェル〉!」

 

 もう一人の天使の片割れが、ミオに最後の攻撃を仕掛けた。

 

「アイっち……戦ってね」

 

 ミオ:ライフ2→0

 ソラ:WIN

 

 試合終了のブザーが鳴り響く。

 

『決勝戦第二戦。勝者、赤翼(あかばね)ソラ!』

 

 観客席から盛り上がりの声が聞こえる。

 これで一勝一敗。

 決着は大将戦に持ち込まれた。

 立体映像が消えゆく中、ソラはチーム:ゼラニウムのベンチを振り向く。

 だがそこに、速水とツルギの姿はまだ無かった。

 

「速水くん……ツルギくん……」

 

 不安がソラを飲み込もうとする。

 決勝戦最終試合は、もう眼前に迫っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十七話:戦って!

 俺! まだ倉庫の中!

 あれから色々試してはいるけど、流石にこの扉はびくともしない。

 

「うぉぉぉ! 開けゴマぁぁぁ!」

 

 呪文を唱えてみるけど無反応。ツッコミすら無いなんて悲しいね。

 いやそんなボケかましてる場合じゃない。

 さっき隙間からアナウンスが聞こえた。

 次鋒戦は無事ソラが勝ったらしいけど……そうなったら、次俺の出番じゃん!

 このままじゃ不戦敗じゃん! 冗談じゃない!

 

「とにかく脱出しないと!」

 

 俺は何度も扉に体当たりする。

 もうこの際だ、ぶっ壊してでも出てやる!

 

「開け! 開きやがれ!」

 

 そうやって何度か体当たりをしていると、突然倉庫の扉が開いた。

 

「うわっ!?」

 

 俺は勢い余って、転けてしまう。

 人の足が見える、誰かが開けてくれたのか?

 俺が顔を上げると、そこには意外な人物が立っていた。

 

「あ……貴方は」

「大丈夫かね? 少年」

 

 UFコーポレーションのCEO。

 俺もよく知るアニメのキャラクター、ゼウスがそこにいた。

 でもなんで?

 

「怪我は無いかね?」

「あっはい。大丈夫です」

「最終戦がまもなく始まる。急いだ方がいいのではないか?」

 

 言われてハっとなった。

 そうだ、今はアニメキャラに感動している場合じゃない!

 俺は勢いよく立ち上がり、ゼウスCEOにお礼を言った。

 

「ありがとうございまーす!」

「頑張りたまえ……ミスターツルギ」

 

 なんかCEOが俺の名前を言ってた気がするけど、気のせいだろう。

 そんな事よりも俺は、全速力でファイトステージへと走った。

 最終戦開始直前だからか、人の気配もない。

 そんな中、よく知った顔がこちらに向かって来た。

 

「速水!」

「天川!? お前どこに行ってたんだ!」

「説明は後でする! 黒岩が悪い! すぐにステージに行く!」

「分かった。全速力で行くぞ」

 

 速水に案内をしてもらいながら、俺達はドームの中を駆けていく。

 そんな中、最悪なアナウンスが聞こえてきた。

 

『残り2分以内に天川選手が現れなかった場合、宮田選手の不戦勝となります』

 

 マジで最悪だ。

 

「速水! あと2分でつきそうか?」

「微妙だ! 不味いぞ!」

 

 俺は高速で思考を巡らせる。

 正規ルートでは間に合うか微妙。

 だったら近道をすれば最高なんだけど……近道か。

 

「そうだ! 近道!」

「あるのか、天川!?」

「ある! ここから行ける、最短ルートが!」

 

 俺は一度立ち止まって、そこを指差す。

 それは観客席の出入り口だった。

 

「観客席……そうか!」

「速水! 派手に登場するけど良いよな!?」

「背に腹はかえられん。行け、天川!」

「おう!」

 

 俺は迷わず観客席の方へ入っていった。

 

 観客席の通路を勢いよく駆け抜けていく。

 ファイトステージでは、既にアイが諦めに近い表情を浮かべていた。

 ベンチの黒岩も憎たらしい顔をしている。

 審判が時計を見ているけど、不戦敗なんてするつもりはない!

 

『残念ですが、最終戦は宮田選手の不戦』

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺が声を張り上げると、会場にいた全員がこっちに注目してきた。

 照れるじゃないか。

 俺は観客席からファイトステージへ、勢いよく飛び降りる。

 

「おっ待たせしましたぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 華麗に着地ィ!

 うーん、これは10点。

 俺の破天荒な登場に、アイや審判、そして皆が目を丸くしている。

 

「ツルギくん!」

「悪いソラ。色々あった」

 

 俺はとりあえず審判さんに話しかける。

 

「審判さん。俺間に合った扱いでいいよね?」

『は、はい……間に合いました』

「よかったぁぁぁ」

 

 ここまでやって不戦敗とか格好がつかないもんな。

 さて……問題は、あのクソプロデューサーだ。

 ファイトステージの向こうにいる黒岩を見ると、露骨に忌々しそうな顔をしている。

 まったく、大人気ない奴だ。

 

「ツルギ……私は」

「アイ。せっかく間に合ったんだ、ファイト楽しもうぜ」

 

 俺がそう言っても、やや暗い表情のアイ。

 やっぱりあの作戦が必要か。

 俺は腰にかけてあった召喚器を手に取る。

 

『両選手、準備はよろしいですか?』

「えぇ、いつでも」

「俺の準備も完了してる! だから頼むぞ!」

 

 声を大きくして、俺はそう言う。

 届けたい相手はベンチにいるミオと夢子だ。

 頼むぜ……チャンスは一度きりなんだ。

 

『それでは両選手、ターゲットロックをお願いします』

 

 アイが召喚器に手をかけると同時に、ベンチでミオがもう一つの召喚器を掲げた。

 今だ!!!

 

「ターゲット!」

「ターゲットロック!!!」

 

 俺の召喚器から無線接続の光線が伸びていく。

 だがそれは今アイが手に持つ召喚器には接続されない。

 接続先は……ミオが持っている【樹精】デッキの方だ!

 

「えっ!?」

 

 アイは驚いて振り返る。

 ミオの手には俺の召喚器と接続して、ランプが点灯している召喚器があった。

 

「どうして……」

「アイっちぃぃぃ!!!」

 

 ミオはアイを呼びながら、召喚器をファイトステージへ投げる。

 それをアイは反射的にキャッチした。

 

「これは……私の召喚器」

「アイっち、戦って!」

 

 ミオが叫ぶ。

 

「アタシ達の事は気にしないで、アイっちはアイっちのためにファイトして!」

「だけどミオ。そんな事すれば」

「愛梨ちゃん! 私達のことは気にしないで! 愛梨ちゃんを犠牲にしてまで、夢を見続けるなんてできません!」

 

 夢子が思いの丈を叫ぶ。

 大切な仲間の思いを知ったアイは、ファイトステージの上で動揺している。

 

「ミオ……夢子」

「なぁアイ。アイツらは大切な仲間なんだろ?」

「えぇ。私が守らないといけない」

「守りたいって気持ちは立派だと思う。だけど本当にあの二人を信じているなら、少しくらいわがまま言っても良いんじゃないか?」

「でも私のわがままは……」

「今の二人を見ても、我慢が正解だと思うか?」

 

 アイはベンチに居るミオと夢子を見据える。

 二人は涙ぐみながらも、アイに【樹精】デッキを使って欲しいと訴えていた。

 たとえ夢が消えても、それで大切な友達が救えるならばそれでいい。

 そんな強い意志が、ミオと夢子から伝わってくる気がした。

 

「日高、佐倉! 余計な真似を!」

 

 だがどの世界にも無粋な奴は居るようで。

 

「宮田ァ! 分かっているだろうなァ! そのデッキを使えば、この二人がどうなるのか!」

「アイっち! 気にしちゃダメ!」

「愛梨ちゃん、私達はいいから!」

「黙れェェェ!」

 

 黒岩は声を荒らげて、ベンチから出る。

 

「宮田ァ! そのデッキをこちらに渡せ! お前は俺の言う通りに動いていれば良いんだ!」

「……私は……」

「アイ!」

 

 一瞬俯くアイ。

 だがすぐに顔を上げる。その表情には、覚悟が決まっていた。

 

「ミオ、夢子! 本当に良いのね?」

「良いんだよ! だって仲間だもん」

「うん! 愛梨ちゃんのやりたい事をやって!」

「宮田ァァァ!」

 

 黒岩の叫びを無視して、アイは【妖精】デッキの入った召喚器をステージに置く。

 そして腰につけたのは、アイ自身のデッキ。【樹精】のデッキだ。

 

「私は……自分を失いたくない。宮田愛梨というファイターとして、ツルギ、貴方と戦うわ!」

「そう来なくっちゃな」

 

 もうアイの目に迷いは無かった。

 だがそれは黒岩の逆鱗に触れたようだ。

 

「宮田ァ! 貴様ァァァ!」

 

 怒り狂った黒岩がファイトステージに上がろうとする。

 流石に面倒な展開になるか。

 俺がそう思った次の瞬間、一人の男性が黒岩の腕を掴んだ。

 

「失礼、黒岩さん。サポーターがステージに上がるのはルール違反なんですよ」

「三神さん!」

 

 ソラの知り合いで科学者の三神さんだった。

 三神さんに腕を掴まれた黒岩は必死に抵抗するも、振り解けずにいる。

 

「クソっ! 離せェ!」

「今の貴方は大会運営に支障をきたしかねません。ベンチで大人しく選手を見守っていてください」

 

 そう言うと三神さんはすごい力で黒岩をズルズルと引きずっていった。

 科学者の筋肉ってスゲー。

 

 さて、これで邪魔者は居なくなった。

 

「アイ! 始めようぜ、俺達のファイト!」

「えぇ、始めましょう」

 

 お互いに初期手札5枚を手に取る。

 仮装モニターにライフ等も表示された。

 これで準備OK。

 

『それでは、決勝戦最終試合! 開始してください!』

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 始めるぞ、俺達の魂のぶつけ合いを!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十八話:最終戦開幕!

 遂に始まった最終決戦。

 コンピューターによって先攻後攻がランダムに決められる。

 俺が先攻か。

 

「さぁ行くぜアイ! 俺のターン!」

 

 俺はデッキに手をかける。

 

「スタートフェイズ。メインフェイズ!」

 

 相手はあのアイだ。一切の油断はできない。

 まずは防御を固めよう。

 

「俺はライフを1点払って〈コボルト・ガードナー〉を召喚!」

 

 カードを仮想モニターに投げ込むと、俺の場に巨大な盾を手にした獣人が召喚された。

 

 ツルギ:ライフ10→9

〈コボルト・ガードナー〉P6000 ヒット0

 

「まだまだいくぞ! 〈コボルト・ウィザード〉を召喚!」

 

 続けて召喚されたのは、獣人の魔法使い。

 

〈コボルト・ウィザード〉P2000 ヒット1

 

「召喚時効果発動! デッキからカードを1枚ドローする」

 

 ツルギ:手札3枚→4枚

 

 ドローしたカードを確認する。うん、いいカードだ。

 

「魔法カード〈トリックカプセル〉を発動! ライフを2点払う事でデッキからカードを1枚除外する」

 

 ツルギ:ライフ9→7

 

 俺はデッキから望んだカードを1枚、トリックカプセルの中に封印する。

 

「この効果で除外したカードは、2ターン後のスタートフェイズ開始時に、俺の手札に加わる」

 

 ちなみに除外したのは〈ダイヤモンドボックス〉だ。

 制限級の激強コンボだぜ。

 ひとまずはこれで様子を見るか。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 ツルギ:ライフ7 手札3枚

 場:〈コボルト・ガードナー〉〈コボルト・ウィザード〉

 

 ある程度の防御は用意できたけど……さぁ、アイはどう来る?

 

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 アイ:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ。私はライフを3点払って、魔法カード〈不平等契約〉を発動するわ」

 

 わぁい制限カード。

 なんでそれまだ制限カードなの?

 てか開幕早々それの発動は勘弁してくれ。

 

 アイ:ライフ10→7

 

「デッキを上から8枚墓地に送るわ。更に相手の場のモンスターの数が私より多いから、墓地からモンスターカードを1枚手札に加えるわ」

 

 アイは何を手札に回収する?

 

「私は〈ベビーシード〉を手札に加えるわ」

 

 だから制限カードで制限カードを回収しないでくれ!

 洒落にならないんだよ!

 つーかこの状況でベビーシードは不味い。墓地にカードが7枚もあるぞ。

 

「今手札に加えた〈ベビーシード〉の効果を発動。このカードを手札から捨てるわ」

「まぁ、そうするよな」

 

 【樹精】を知らない観客席の人々は、頭の上に疑問符を浮かべている。

 まぁ、知らないと意味不明な効果だよな。

 だがその実力を知る俺からすれば、とんでもなく凶悪なムーヴだ。

 

「ツルギは分かるわよね? この後の展開」

「あぁ。分かるから怖いよ」

 

 来るぞ、樹精の本領発揮!

 

「私は墓地の〈アルストロメリアプラント〉〈パンジープラント〉〈チューリッププラント〉の【再花】を発動!」

 

 アイの墓地から三つの魔法陣が出現する。

 

「私が手札を捨てた事を引き金に、3体のモンスターが墓地から開花するわ。来なさい! 〈アルストロメリアプラント〉〈パンジープラント〉〈チューリッププラント〉!」

 

 召喚される3体の植物モンスター。

 妖精からは程遠い怪物が登場した事で、観客席からは小さな悲鳴がいくつか聞こえる。

 

〈アルストロメリアプラント〉P6000 ヒット2

〈パンジープラント〉P3000 ヒット2

〈チューリッププラント〉P4000 ヒット1

 

 一度に3体のモンスターを召喚。そのタクティクスに、驚く観客もいる。

 まぁ対峙している俺からしたら堪ったもんじゃないけどな!

 

「さぁ、連鎖させていくわよ。まずは〈アルストロメリアプラント〉の効果発動! 召喚に成功した時、私はライフを2点回復するわ」

 

 アルストロメリアプラントの花……というか顔面から出た蜜が、アイのライフを回復させる。

 これ絵面もう少しどうにかならないのか?

 

 アイ:ライフ7→9

 

「次は〈パンジープラント〉の効果。1枚ドローして、手札を1枚捨てるわ」

 

 手札交換か、優秀だな。

 一つ幸いなのは、アイの場が全部埋まっているおかげで【再花】は発動しない事だ。

 

「そして最後に〈チューリッププラント〉の効果発動。召喚成功時に、相手モンスターを1体疲労させるわ。私は〈コボルト・ガードナー〉を疲労状態に!」

 

 妥当な判断だな。アイはパワーの高いコボルト・ガードナーを疲労させてきた。

 チューリッププラントの花粉を食らって、ガードナーは膝をついてしまう。

 

「アタックフェイズ。さぁ咲き乱れるわよ! まずは〈アルストロメリアプラント〉で攻撃!」

 

 アルストロメリアの怪物が襲い掛かって来る。絵面が怖い。

 ヒットは2。致命傷にはならないけど、ここで余計なダメージを受ける事はなんとしても避ける!

 

「この瞬間〈コボルト・ガードナー〉の効果発動! 1ターンに1度だけ、このカードは回復できる!」

「つ! 厄介なブロッカーね」

「誉め言葉として受け取っておくよ。〈コボルト・ガードナー〉でブロックだ!」

 

 起き上がるガードナー。そしてアルストロメリアプラントの攻撃を巨大な盾で防いだ。

 しかし相打ち。ガードナーはアルストロメリアプラントと共に爆散する。

 

 まずは1体撃破……と言いたいけど、系統:〈樹精〉の性質上すぐに蘇るんだよな~。

 

「次は〈パンジープラント〉で攻撃よ」

「それは……ライフで受ける!」

 

 パンジープラントの花粉が、俺に降りかかる。

 これダメージ含んでるんだな。

 

 ツルギ:ライフ7→5

 

「更に〈チューリッププラント〉で攻撃よ」

「流石にこれ以上のダメージは不味い! 〈コボルト・ウィザード〉でブロック!」

 

 チューリップの怪物と、コボルト・ウィザードが戦闘する。

 だがパワーに差がありすぎる。

 コボルト・ウィザードはあっけなく破壊されてしまった。

 

「私はこれでターンエンドよ」

 

 アイ:ライフ9 手札5枚

 場:〈パンジープラント〉〈チューリッププラント〉

 

 流石はアイだな。これだけ動いてもライフ9点、手札は5枚も持ってる。

 モンスターが全部疲労しているとはいえ、かなり有利な状況に立たれたな。

 これは流石に気が抜けない。

 

 だけどそれはそれとして……俺はアイの表情が気になって仕方なかった。

 

「なぁアイ! 楽しいよな、サモンファイト!」

「そうね。こんな大舞台でこの子達を咲かせる事ができるなんて、考えたこともなったわ」

「これから沢山やればいいだろ。俺達の未来はまだまだ続いているんだ」

「ツルギ……」

 

 そうだ。アイの未来はこれからなんだ。

 必要なのはアイ自身の決断。あとは未来が照らしてくれる。

 きっとアイもそれに気づいているんだろう。

 何故なら今のアイは……

 

「ふふ。本当に楽しいわね」

「なぁアイ、今めっちゃ良い顔してるな」

「当然よ。アイドルよ」

「そうじゃなくて。今のアイ、すごく綺麗な笑顔してる」

 

 俺がそう言うと、アイの顔は少し赤く染まった。

 照れるなよアイドル。

 

「もう、貴方って人は」

「事実だ。今のアイの方がすごく可愛い」

「そう……そうなのね」

 

 アイは自分の胸に手を当てる。

 そうだ、この自然さこそが一番美しいんだ。

 もしもアイの中にまだ鎖があるっていうなら、俺がそれを壊してやる。

 

「手加減はしない。派手にいくぞアイ!」

「来なさい。私のライバル!」

 

 絶対に勝つ。アイを助けて、チームを優勝させてやるんだ。

 

「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 ツルギ:手札3枚→4枚

 

「まずは回復からだ。メインフェイズ! 魔法カード〈デストロイポーション〉を発動!」

 

 効果でデッキを上から5枚墓地に送る。

 墓地に送られたカードは……

 

 モンスター:〈ケリュケイオン〉〈アサルトユニコーン〉

 魔法:〈トリックボックス〉〈逆転の一手〉〈トリックミラージュ〉

 

 ん? 今日の回復量はイマイチか……まぁいい。

 

「墓地に送られたモンスターは2枚。ライフを2点回復するぜ」

 

 ツルギ:ライフ5→7

 

「続けて俺は〈トリオ・スライム〉を召喚!」

『スララー!』

 

 いつもお馴染みのスライムが、俺の場に召喚される。

 

「召喚時効果でデッキから〈トリオ・スライム〉を手札に加える。そして〈トリオ・スライム(B)〉を召喚! その召喚時効果で3枚目の〈トリオ・スライム〉を手札に加えて、それも召喚だ!」

『『スララー!』』

 

〈トリオ・スライム〉(A、B、C)P1000 ヒット1

 

 観客席からは笑い声が聞こえる。まぁこの世界じゃ侮られるモンスターだからな。

 だけどアイは違う。今までの俺のファイトを覚えているのか、あからさまに警戒していた。

 よし、その警戒に答えてやろう。

 

「俺はパワー3000以下のモンスター、〈トリオ・スライム(C)〉を素材に進化!」

 

 トリオ・スライム(C)が魔法陣に飲み込まれる。

 頼むぜ優秀さん!

 

「〈ファブニール〉を進化召喚!」

『クォォォォォォォォォォォン!』

 

 俺の場に巨大な黒竜が召喚される。

 

〈ファブニール〉P10000 ヒット?

 

「ヒット数が決まってない?」

「こうやって決めるんだ! 〈ファブニール〉の召喚時効果で〈パンジープラント〉を破壊!」

 

 ファブニールの放った炎が、パンジープラントを焼き尽くした。

 

「〈ファブニール〉のヒット数は、この効果で破壊したモンスターと同じになる」

 

 パンジープラントのヒットは2。よってファブニールのヒットは……

 

〈ファブニール〉ヒット?→2

 

 俺は手札を確認する。うん、防御カードもある。

 これなら思いっきり攻めて問題なし!

 

「アタックフェイズ! 〈ファブニール〉で攻撃だ!」

 

 ファブニールが咆哮を上げる。

 口の中に炎を溜め始めた。

 まずはライフを削ってやる!

 

「この瞬間、私は魔法カード〈ポイズン・オア・ヒーリング〉を発動するわ」

「げぇッ!? そのカードは」

 

 あの魔法はちょっと不味い!

 

「〈ポイズン・オア・ヒーリング〉は三つの効果から一つを選んで発動する魔法カードよ」

 

 アイの言う通り、あのカードは器用に動ける魔法だ。

 ちなみに三つの効果は「自分のライフを2点回復」「相手のライフ回復の妨害」「お互いに手札交換」だ。

 この状況で使うのは間違いなく三つ目。

 

「私は三つ目の効果を発動。お互いに手札を1枚捨てて、1枚ドローよ」

 

 俺は渋々手札から〈ルビーバリア!〉を捨てる。

 さぁて問題は、アイが手札を捨てた事だ。

 

「もう分かってるでしょ? 私は墓地から〈アルストロメリアプラント〉と〈パンジープラント〉の【再花】を発動!」

 

 アイの墓地から、さっき倒したばかりの樹精が2体復活する。

 

〈アルストロメリアプラント〉P3000 ヒット2

〈パンジープラント〉P3000 ヒット2

 

「〈アルストロメリアプラント〉の召喚時効果でライフを2点回復。〈パンジープラント〉の召喚時効果で手札を交換するわ」

 

 アイ:ライフ9→11

 

 不味いな。ブロッカーが増えただけじゃなくて、あっという間にライフまで回復された。

 

「〈ファブニール〉の攻撃は……ライフで受けるわ」

 

 ここはモンスターの温存を選んだか。

 ファブニールの攻撃がアイを襲う。

 

 アイ:ライフ11→9

 

 アルストロメリアプラントの回復のおかげで、実質ダメージ0だな。

 今アイの場には2体のブロッカー。いずれもトリオ・スライムよりパワーが高い。

 無暗に攻撃してこちらのブロッカーを減らす意味は無い、か。

 

「……俺はこれでターンエンド」

 

 ツルギ:ライフ7 手札1枚

 場:〈トリオ・スライム(A、B)〉〈ファブニール〉

 

 俺は残った1枚の手札を確認する。

 防御カードではない。

 次のターン、間違いなくアイは猛攻を仕掛けてくる。

 さぁて、どうやって凌いだもんか。

 

「ツルギ……貴方も楽しそうね」

「あぁ、次のターンどうやって凌ごうか考えると、滅茶苦茶楽しい」

「本当にサモンが好きなのね」

「それはアイもだろ」

「……そうね」

 

 優しい笑みを浮かべながら、アイがそう呟く。

 俺達の楽しい戦いは、まだまだ続く。

 次はアイのターンだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十九話:未来につながれ! カーバンクル・ドラゴン覚醒!

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 アイは勢いよくカードを引く。

 

 アイ:手札4枚→5枚

 

「メインフェイズ。まずはこのカードよ。魔法カード〈プラントドロー〉を発動。私は場の〈チューリッププラント〉を破壊して、デッキからカードを2枚ドローするわ」

 

 爆散するチューリッププラント。

 これでアイの場にはモンスターを召喚できる隙間ができたわけだ。

 

 アイ:4枚→6枚

 

「更に私は魔法カード〈ダブルハリケーン !〉を発動!」

 

 あれは自分のモンスターを犠牲にして、相手モンスターを破壊するカードだ。

 これは間違いなく【再花(さいか)】の準備ができているってわけか。

 

「私は〈アルストロメリアプラント〉を破壊して、ツルギの場の〈ファブニール〉を破壊するわ!」

「悪いけどそうはいかない! 〈ファブニール〉の【ライフガード】を発動! 〈ファブニール〉は回復状態で場に残る!」

 

 とりあえずこれでブロッカーは増えた。

 

「あら、耐性持ちだったのね」

「残念ながらな」

「でも無駄よ。さっきの〈ポイズンオアヒーリング〉の効果で、私は切り札を手にしたわ」

 

 オイオイオイ、それマジかよ。

 それは本当に不味いぞ。

 

「墓地にモンスターカードは5枚以上。私は系統:〈樹精〉を持つ〈パンジープラント〉を進化!」

 

 アイが1枚のカードを仮想モニターに投げ込むと、パンジープラントは巨大な魔法陣に飲み込まれた。

 

「命の風が舞いし時、大樹より聖なる獣が生誕する。咆哮せよ我が神! 〈【獣神樹(じゅうしんじゅ)】セフィロタウラス〉を進化召喚!」

 

 魔法陣が弾け飛び、樹精の神が姿を現す。

 アイの場に召喚されたのは、無数の木の根で構成された巨大なミノタウロスだった。

 

『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

 圧倒的な存在感と共に、セフィロタウラスはファイトステージで咆哮を上げる。

 強力なSRカードの登場により、観客席の盛り上がりも凄まじいものになっていた。

 

〈【獣神樹】セフィロタウラス〉P13000 ヒット3

 

 うん。これはピンチかも。

 

「ぼうっとしてる暇はないわよツルギ。私は魔法カード〈ポイズンオアヒーリング〉を発動」

「2枚目持ってたのかよ」

 

 それは非常に不味い。

 だってセフィロタウラスには【再花】のコストを踏み倒す効果があるんだもん!

 

「お互いに手札を1枚捨てて、1枚ドロー」

 

 俺は手札を捨てて、1枚ドローする。

 頼む、何か防御カード来てくれ!

 

 恐る恐るドローしたカードを確認するも、来たのは〈コボルト・ウォリアー〉だった。

 嘘だろ……防御カードじゃないのは不味いよ。

 そしてアイは手札を捨てている。

 

「私は墓地から〈シスタスプラント〉と〈ラフレシアプラント〉の【再花】を発動!」

 

 不平等契約で墓地に送っていたカードか。

 アイの墓地から、ゴジアオイとラフレシアの化物が召喚される。

 

〈シスタスプラント〉P8000→P10000 ヒット2

〈ラフレシアプラント〉P9000→11000 ヒット5

 

 そうだ、忘れてた。

 セフィロタウラスって樹精のパワーを2000上げる効果があった。

 いや、それより観客はラフレシアプラントのヒット数に驚いているな。

 まぁ当然か。素でヒット5のカードなんかそうそう無いもんな。

 

「〈ラフレシアプラント〉って確か召喚コスト重かったはずだよな?」

「えぇ。普通に召喚しようとすればライフ2点と自分場のモンスター2体を犠牲にしなくちゃいけないわ」

「それを踏み倒すのがセフィロタウラスの効果」

「その通りよツルギ」

「ハハ、冗談じゃねーや」

 

 しかもこれで終わらないんだよな~。

 効果の連鎖って怖い。

 

「樹精が召喚された事で〈シスタスプラント〉の効果発動! 【再花】で召喚された樹精1体につき、ツルギに1点のダメージを与えるわ」

 

 これなぜかシスタスプラント自身もカウントするんだよな。

 今【再花】で召喚されたモンスターは2体。

 よって俺は2点のダメージを受けた。

 

 シスタスプラントが種の弾丸を俺に撃ち込んでくる。

 

 ツルギ:ライフ7→5

 

「アタックフェイズ」

 

 盤面が完全に完成したアイは、攻撃を仕掛けてきた。

 

「まずは〈ラフレシアプラント〉で攻撃!」

「そのダメージを受けるのは不味いんだよ! 〈ファブニール〉でブロックだ!」

 

 ラフレシアの怪物とファブニールが激突する。

 しかしセフィロタウラスの効果で強化されたラフレシアプラントに、ファブニールはパワー負けしてしまった。

 爆散するファブニール。もう【ライフガード】も残っていない。

 

「続けて〈シスタスプラント〉で攻撃よ」

「それもブロックだ! 頼む〈トリオ・スライム(B)〉!」

 

 シスタスプラントが種の弾丸を乱射してくる。

 その弾丸に貫かれて、トリオ・スライム(B)はあっさりと爆散してしまった。

 

「さぁ華々しくいくわよ! 〈【獣神樹】セフィロタウラス〉で攻撃!」

 

 セフィロタウラスは凄まじい咆哮を上げながら、巨大な斧を振り下ろしてくる。

 これも流石に喰らったら不味い。

 

「〈トリオ・スライム(A)〉でブロックだ! これでライフは守った」

「残念ね、こういうカードもあるのよ。私は魔法カード〈エヴォジャベリン〉を発動!」

「げぇ!? 強化魔法!」

「〈エヴォジャベリン〉は自分の進化モンスター1体のヒットを1上げて、更に【貫通】を与えるわ」

 

 魔法効果でセフィロタウラスが強化される。

 

〈【獣神樹】セフィロタウラス〉ヒット3→4

 

 ヤバい、これは防げない!

 トリオ・スライム(A)はセフィロタウラスの大斧に両断されてしまった。

 

「【貫通】のダメージも受けてもらうわ」

「ぐっ!」

 

 セフィロタウラスのの攻撃の余波が、俺に襲いかかる。

 

 ツルギ:ライフ5→1

 

 ギリギリで耐え抜いた。けど状況はかなり不利。

 一応エヴォジャベリンには、ターン終了時に強化したモンスターを自壊させるデメリットがあるけど……

 

「エンドフェイズ。〈セフィロタウラス〉は破壊されるけど、手札1枚を身代わりにするわ」

「まぁ、そうするよな」

 

 セフィロタウラスは身代わり効果で生き残った。

 これがあるから強いんだよ。

 

「更に私は魔法カード〈ディフェンスシフト〉を発動。モンスターを全て回復させるわ」

 

 アイの樹精が全て回復する。

 これで防御もOKってわけか。

 

「私はこれでターンエンドよ。次がきっとラストターンね」

 

 アイ:ライフ7 手札1枚

 場:〈【獣神樹】セフィロタウラス〉〈シスタスプラント〉〈ラフレシアプラント〉

 

 ターンは回って来たけど、アイの言う通りだった。

 俺のライフは僅か1点。手札は今この状況では役に立たない〈コボルト・ウォリアー〉1枚。

 場にはモンスター0体。アイの場には3体でライフは7点。

 次のドローで全てをひっくり返さないと、俺に勝機は無い。

 

 だけど、恐れるわけにはいかないんだ。

 ここで恐れたら、全てを手放してしまう気がする。

 

「俺の……ターン!」

 

 観客席も、ベンチのソラと速水も、固唾を飲んで俺を見守る。

 絶対につなげるんだ。俺達の未来に!

 

「スタートフェイズ! この瞬間〈トリックカプセル〉に封印していたカードが俺の手札に加わる!」

 

 俺は効果で除外していた魔法カードを手札に加えて発動した。

 

「効果で手札に加わった魔法カード〈ダイヤモンドボックス〉の効果発動! このカードをデッキの下に戻して、デッキから3枚ドロー!」

 

 ツルギ:1枚→4枚

 

 ドローしたカードを確認する。

 引いたのは〈スナイプ・ガルーダ〉〈グウィバー〉〈【紅玉獣】カーバンクル〉。

 ダメだ! このカードだけじゃ勝てない!

 今の状況をひっくり返すには、次の通常ドローで何とかするしかなくなった。

 

「ドローフェイズ……」

 

 今まで感じた事のない、凄まじい緊張が俺を襲う。

 だけどドローするしかないんだ。このドローで、光を手にするしかないんだ。

 だから応えてくれ! 俺の〈幻想獣〉!

 

「ドロォォォォォォォォォォ!!!」

 

 俺は覚悟を決めて、勢いよくカードをドローする。

 そして手にしたカードをすぐさま確認した。

 

「……そうか。お前が来てくれたんだな」

 

 デッキが俺の思いに応えてくれた。

 俺の手札には、最高の切り札がきた。

 ありがとう。本当に、そんな言葉しか頭に浮かんでこない。

 

 俺はアイの方をまっすぐ見据える。

 

「アイ! このターンで決めるぞ!」

 

 最終ターン宣言を聞いたアイは、一瞬驚いた顔をするが、すぐに期待に胸を躍らせているような表情になった。

 

「きなさい、ツルギ!」

「あぁ! メインフェイズ。〈スナイプ・ガルーダ〉を召喚!」

 

 まずはコンボパーツだ。

 俺の場に、ライフル銃を背負った鳥が召喚される。

 

 〈スナイプ・ガルーダ〉 P3000 ヒット1

 

「続けていくぜ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉を召喚!」

 

 仮想モニターにカードを投げ込むと、俺の場に巨大な紅玉が出現する。

 その紅玉が砕けると、中から緑の体毛が可愛らしい、ウサギ型モンスターが召喚された。

 

『キュップーイ!』

 

〈【紅玉獣】カーバンクル〉 P500 ヒット1

 

 あまりのステータスの低さに、観客席からは驚きの声が聞こえるが、気にはしない。

 これで……全ての準備は整った。

 俺は手札から1枚のカードを仮想モニターに投げ込む。

 

「いくぞ……相棒!」

『キュプイ!』

「進化条件は自分のライフが3以下であること! 俺は系統:〈幻想獣〉を持つモンスター〈【紅玉獣】カーバンクル〉を進化!」

「SRカードを進化素材に!?」

 

 驚愕するアイ。だがこれで良いんだ。

 

 カーバンクルは蒼く巨大な魔法陣に飲み込まれて、その身体を進化させていく。

 

『キュゥゥゥップイィィィ!!!』

 

 これが俺の、新しい切り札だ!

 

「蒼穹に風舞し(とき)、竜の槍が天地を貫く! 今こそ覚醒しろ、俺の相棒!」

 

 魔法陣が弾け飛び、中から巨大な蒼の宝玉が出現する。

 その宝玉が砕けると、中から長いロップイヤーと雄々しき翼を持つ、巨大な蒼色の竜人が召喚された。

 

「進化召喚! 来い〈【幻蒼竜(げんそうりゅう)】カーバンクル・ドラゴン〉!」

『グォォォォォォォォォォ!!!』

 

 勇猛、偉大、美麗。

 様々な言葉が似あう、2体目のSRカード登場に、会場の人々は一瞬言葉を失った。

 

〈【幻蒼竜】カーバンクル・ドラゴン〉P20000  ヒット3

 

「パワー……2万ですって!?」

「そうだ。最弱のSRカードなんて言われるけど、カーバンクルは進化する事で最強になる!」

「そうなの……それが、貴方が相棒に選んだ理由なのね」

「大正解だ!」

 

 そして、コイツで全てを終わらせる。

 

「アタックフェイズ! 〈カーバンクル・ドラゴン〉で〈シスタスプラント〉を指定アタックだ!」

 

 スナイプ・ガルーダの効果で、俺の幻想獣は全員【指定アタック】を得ている。

 カーバンクル・ドラゴンはどこからか巨大な槍を取り出し、シスタスプラントに攻撃を仕掛けた。

 槍に貫かれて、爆散するシスタスプラント。

 だがカーバンクル・ドラゴンの本領はここからだ!

 

「戦闘で相手モンスターを破壊した事により〈カーバンクル・ドラゴン〉だけが持つ能力【無限槍(むげんそう)】を発動だ!」

「【無限槍】ですって!?」

「〈カーバンクル・ドラゴン〉が戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手に3点のダメージを与える」

 

 カーバンクル・ドラゴンは大槍でアイを薙ぎ払う。

 

 アイ:ライフ7→4

 

「更に! このダメージを与えた後、相手の場にモンスターが残っていた場合〈カーバンクル・ドラゴン〉は回復する!」

「なんですって!? それじゃあそのドラゴンは」

「相手モンスターがいる限り、無限に攻撃できる」

 

 無限攻撃。その規格外の性能に、会場にいる人々は驚愕した。

 じゃあその驚愕を上回ってやるよ!

 

「次の攻撃だ! 〈カーバンクル・ドラゴン〉で〈ラフレシアプラント〉に指定アタック!」

「流石にそれを通すわけにはいかないわ! 魔法カード〈プラントウォール〉を発動! アタックフェイズを強制終了させるわ!」

 

 無数のツタがカーバンクル・ドラゴンの攻撃を阻もうとする。

 だけど無駄だ。

 カーバンクル・ドラゴンは槍を振るい、ツタの壁を破壊してしまった。

 

「なっ!? 魔法カードが効いてない!?」

「〈カーバンクル・ドラゴン〉の能力だ。このカードが〈【紅玉獣】カーバンクル〉から進化している場合、相手は俺のアタックフェイズ中に魔法カードを発動できなくなる」

「そんな」

「さぁ行け〈カーバンクル・ドラゴン〉!」

 

 ツタの妨害をものともしなかったカーバンクル・ドラゴン。

 大槍を構えて、ラフレシアプラントを一気に貫き爆散させた。

 

「【無限槍】発動!」

 

 アイにダメージが入り、カーバンクル・ドラゴンが回復する。

 

 アイ:ライフ4→1

 

 アイの手札はこれで0枚。ブロッカーももういない。

 次の一撃で決着がつく。

 

「……私の、負けね」

 

 残念そうに俯くアイ。だけどその顔は、どこか憑き物が落ちたようにも見えた。

 

「アイ!」

 

 俺は無意識にアイの名を呼ぶ。

 どうしても伝えたい事があったから。

 

「また、ファイトしようぜ!」

 

 絶対に手は離さない。君がサモンを好きでいてくれるなら。

 アイは少しポカンとした後、すぐにクスっと笑った。

 

「次は負けないわよ。ツルギ」

「あぁ!」

 

 芽生えたものは友情。乗り越えたものは闇。

 ゴールは見えた、後は全てを終わらせるだけだ!

 

「いけ〈カーバンクル・ドラゴン〉! 〈【獣神樹】セフィロタウラス〉に指定アタックだァ!」

「迎え撃ちなさい〈セフィロタウラス〉!」

 

 2体のSRカードが主人の命を受けて、ぶつかり合う。

 カーバンクル・ドラゴンは大槍を振るい、セフィロタウラスは斧でそれを防ぐ。

 何度も何度も激しいぶつかり合いを展開し、火花が散る。

 だが翼のおかげで空を飛べるカーバンクル・ドラゴンの方が有利だ。

 

『グォォォォォォォォォォン!』

『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!』

 

 空を飛ぶカーバンクル・ドラゴンに対して、セフィロタウラスは斧を投げる。

 だがそれをカーバンクル・ドラゴンは大槍で弾き飛ばした。

 後方に吹き飛ぶ斧。これでセフィロタウラスの武器はもうない。

 

「とどめだ〈カーバンクル・ドラゴン〉! 蒼穹幻槍(そうきゅうげんそう)ドラゴン・フィニッシュ!」

 

 カーバンクル・ドラゴンの槍に光が集まる。

 光り輝く大槍を構えて、カーバンクル・ドラゴンはセフィロタウラスに突撃した。

 

『グォォォォォォォォォォン!』

 

 成す術なく、槍に穿たれるセフィロタウラス。

 数秒火花を散らした後、その身体は爆発四散した。

 

 セフィロタウラスを倒した事で【無限槍】が発動する。

 

「……本当に、楽しかったわね」

 

 アイ:ライフ1→0

 ツルギ:WIN

 

 ファイト終了を告げるブザーが鳴り響くと同時に、最高潮の歓声が俺達を包み込んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十話:大会の終わりと後始末

『決勝戦最終試合! 勝者、天川ツルギ!』

『よって本年度JMSカップの優勝は、チーム:ゼラニウムだァァァ!』

 

 審判が勝者が誰か明言する。

 すると会場からは耳をつんざく程の大歓声が鳴り響いた。

 

「うひゃ〜、スゴい歓声」

「ツルギくん!」

「天川!」

 

 ベンチから出てきたソラと速水がステージに上がってきた。

 二人は喜びのままに俺に抱きついてくる。暑いよ。

 でもまぁ、気持ちはスッキリとしたものだ。

 

「ツルギくん、ツルギくん! 優勝ですよ! 私達が!」

「あぁ。ソラが頑張って繋げてくれたおかげだ」

「感無量とはこの事だな。一時はどうなるかと思ったが」

「本当にな……あっ、そうだ!」

 

 速水の言葉で大切な事を思い出す。

 俺はとりあえずソラと速水を剥がして、アイ達の方へと向かった。

 

 チーム:Fairysのベンチでは、黒岩が怒り狂っていた。

 アイが【樹精】デッキを使った事が相当気に入らなかったようだ。

 だが当のアイドル3人はというと、どこ吹く風なのがここからでも分かる。

 きっともう、みんな覚悟が決まってるんだろう。

 

 もはやどれだけの脅迫や高圧を使っても、3人の少女には通じない。

 それを察したのか黒岩は、わざとらしく壁を蹴りベンチを去って行った。

 俺は入れ替わるように、アイ達の元へ行く。

 

「アイ」

「ツルギ……」

「えっとさ、俺が今言うのも変だと思うんだけど……良かったんだよな?」

「えぇ……これで、良かったのよ」

 

 まだ少しの迷いは残っているかもしれない。

 だけどアイは全て納得したような表情をしていた。

 

「そういえば他の2人は大丈夫なのか? あのプロデューサーに人質にされてたって聞いたけど」

「心配ご無用! アタシもユメユメも大丈夫」

「はい。事務所は辞めさせられるかもしれませんけど、また一から出直すだけです」

「そゆこと。だからアイっちも心配しなくて良いんだよ」

「ミオ、夢子……」

 

 どうやら3人まとめて大丈夫らしい。

 これから先、色々大変な事はあるだろうけど、今のアイ達なら乗り越えられる気がする。

 特にアイは今日のファイトで、きっと自分というものを取り戻したはずだ。

 

「ツルギくん! アイちゃん!」

「天川。あのプロデューサーはどこに行ったんだ?」

 

 ソラと速水もやって来た。

 って、あっ!

 

「そうだ! 俺あのプロデューサーに一言文句言おうとしてたんだ!」

「ツルギ、やっぱり黒岩に何かされたの?」

「倉庫に閉じ込められた。まぁギリギリでゼウスCEOが助けてくれたんだけど」

「そうなの……私のせいで、ごめんなさい」

 

 謝るアイ。だけどその必要なんか無いんだ。

 

「悪いのはあのプロデューサーだ。アイが謝る必要なんてない」

「でも」

「アイとファイトができた。アイが自分を取り戻せた。今日はそれでいいじゃんか」

 

 そうだ、それで良いんだ。

 今日はせっかくの大会なんだ。最後くらい綺麗に終わらせよう。

 

「……ふふ。本当にツルギはお人好しね」

「そうかな?」

「私もツルギくんはお人好しだと思います」

「赤翼に同じくだな」

 

 うーん、完全に数で負けたな。

 俺はただ好き放題動いてるだけなんだけどなぁ。

 

「まっ、いいか」

 

 俺はアイに向かって手を差し出す。

 

「ありがとうな、アイ。良いファイトだった」

「……えぇ、こちらこそありがとう」

 

 アイが俺の手を握り返す。

 それに倣って、ソラとミオ、速水と夢子も握手をした。

 互いにその勝負を讃えあう。

 その精神は観客席の人々にも伝わり、華やかな拍手が俺達に贈られた。

 

『それではこれより表彰式を行います。選手の皆様はステージに集まってください』

 

 アナウンスが聞こえる。

 もう一仕事あるのを忘れてた。

 

「アイ、行こうぜ」

「えぇ。エスコートしてくだるかしら?」

「流石に手繋いだままはファンに殺されそうなんだけど」

「ツルギくん? なんか鼻の下伸びてませんか?」

 

 ソラさん。お願いだから急に殺気を向けないでください。

 

「あぁもう! 面倒だからみんなまとめて行くぞ!」

 

 俺はアイとソラの手を掴んで、ステージへと進んだ。

 

 ライトで照らされるステージは、まるで俺達の未来を照らし出す太陽のように思えた。

 

 

 

 

 ツルギ達が表彰式をしている頃。

 ドーム内の通路では黒岩が苛立ちながら歩いていた。

 

「クソッ、クソッ! あのガキ共め! ただで済むと思うなよ!」

 

 黒岩はこれから先の事を考える。

 日高ミオと佐倉夢子はとりあえずクビだ。根回しもして、二度とアイドル活動をできなくしてやろう。

 宮田愛梨は……バックが強い。腹立たしいが芸能関係では諦めるのが得策だろう。

 ならば芸能に関係無い方向から痛めつけるだけだ。

 黒岩の脳裏には知り合いの少女趣味の金持ちが浮かんでいた。

 

「アイツらだけじゃねぇ。ゼラニウムのガキ共にもわからせてやらなきゃな」

 

 一般人の中学生三人。潰す策はいくらでもある。

 黒岩はどれが一番自分を気持ちよくしてくれるか思考を巡らせていた。

 気づけば辿り着いたのは人気の無い駐車場。

 とりあえず車の中で知り合いに電話でもするか。

 

 黒岩がそう考えた瞬間であった。

 目の前に二人の男性が立ちはだかった。

 その片割れを見て、黒岩は驚愕する。

 

「もうお帰りかね? ミスター黒岩」

「ゼ、ゼウスCEO」

 

 黒岩の前に現れたのはゼウスと三神であった。

 なぜここに居るのか、黒岩には全く分からなかった。

 

「君のアイドルが表彰されるところを見届けなくて良いのかね?」

「あ、アイツらはさっき解雇しました」

「ほう、それは酷い。特にミス宮田は素晴らしいファイトを魅せてくれたというのに」

 

 愛梨の事に触れられて、黒岩は歯ぎしりをする。

 とにかく苛立ちが強くなっていった。

 そもそも何故ゼウスが自分の前に今更現れたのか、それも解らなかった。

 

「CEOは、私に何の用で?」

「いやなに。少し見てもらいたい映像があってね……ドクター三神」

「はい」

 

 ゼウスが指示すると、三神は一台のタブレットPCで動画を再生し始めた。

 それを黒岩に見せる。

 

「残念だが。倉庫の中にも監視カメラが隠してあるのだよ」

 

 黒岩は呆然その動画を見ていた。

 ほんの数秒の動画。黒岩がツルギを倉庫に閉じ込めた瞬間の動画だ。

 

「な、何故」

「うーん、これはいかんな。これでは監禁罪で警察に通報せねばならない」

「黒岩さん。貴方が金で雇ったスタッフなら、我々の尋問で全て白状しましたよ」

「なっ!? あのドブネズミめ!」

 

 会場スタッフに裏切られた事を知り、黒岩は本性を剥き出しにする。

 だがゼウスも三神も動じる事はない。

 

「さて、ミスター黒岩。私がこの動画を警察に渡せば、君は間違いなく捕まるだろう」

「そ、それだけはやめてくれ! 金なら払う! いくらだ、いくら払えば良い!?」

 

 ここで警察に捕まってしまえば自分の人生は完全に終わってしまう。

 それだけは何としても避けなければならない。

 黒岩は必死にゼウスに懇願した。

 だがゼウスは余裕のある表情を変えず、静かに黒岩を見つめる。

 

「まぁまぁミスター黒岩。そんなに慌てなくても良い。私はね君にチャンスを与えようと思うんだよ」

「チャ、チャンス?」

「そうだ。人間誰しもチャンスが必要だ。無論君にもだ」

 

 そう言うとゼウスは一台の召喚器を三神に渡し、少し後ろへと下がった。

 

「君には今からゲームをしてもらうよ」

「ゲーム、だと」

「なぁに簡単な話だ。今からミスターには、ここに居るドクター三神とサモンファイトをしてもらう」

 

 三神は静かに黒岩の鞄に入っている召喚器へとターゲットロック済ませる。

 

「君が勝てば動画は削除し、この件は忘れると約束しよう」

 

 それを聞いた瞬間、黒岩の中で光明が見えた。

 勝てばいいんだ。それだけで明日につながるのだ。

 

「ただし。君が負ければ警察へ通報。罰ゲームも受けてもらおう」

「ば、罰ゲームだと?」

「どうなるかは、負けた時のお楽しみだ」

 

 さぁ、どうする?

 ゼウスは黒岩に問うた。だが黒岩の答えはただ一つだ。

 鞄から召喚器を取り出す黒岩。

 ここで勝てば全て無かった事にできる。

 ここで勝たなくては、復讐の機会も無くなる。

 

「勝ってやる……勝てば俺の明日が来るんだ!」

「では、始めようか……ドクター」

「はい。ゼウス様」

 

 黒岩と三神は初期手札5枚を手に取る。

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 黒岩の運命を賭けたサモンファイトが始まった。

 

 

 だが、その戦いは……明記するに値せず。

 必要なのは、その末路だけだ。

 

 黒岩の場にはモンスターが2体。

 機械モンスター〈ディフェンダー・マンモス〉が2体並んでいる。

 高いパワーを持つ防御モンスターだ。

 これだけ厚い壁があれば問題ないだろう。黒岩はそう考えていた。

 

「ターンエンド!」

 

 黒岩:ライフ6 手札0枚

 場:〈ディフェンダー・マンモス〉×2

 

 そして迎える三神のターン。

 ゼウスは静かに、こう告げた。

 

「ドクター。そろそろ彼に新世界を見せてあげなさい」

「はい。ゼウス様」

 

 三神の場にはモンスターがいない。

 三神はデッキからカードを1枚引くと、メインフェイズに入った。

 

「メインフェイズ。僕は手札を1枚捨てて〈ピリオド・リザードマン〉を召喚」

 

 三神の場に黒い皮膚に覆われた竜人が召喚される。

 

〈ピリオド・リザードマン〉P10000 ヒット0

 

「それでは黒岩さん。今から貴方に新世界をお見せしましょう」

 

 そう言うと三神は仮想モニターにカードを1枚投げ込んだ。

 

「パワー10000以上のモンスター。〈ピリオド・リザードマン〉を進化」

 

 黒い竜人は苦しみ声を上げながら魔法陣に飲み込まれていく。

 そして魔法陣弾け飛ぶと、中から一体の巨大な武装竜人が出現した。

 

「〈【起源武装竜(きげんぶそうりゅう)】ソードマスター・ドラゴン〉を進化召喚」

 

〈【起源武装竜】ソードマスター・ドラゴン〉P13000 ヒット3

 

「え、SRカードだとッ!? だがそれのどこが新世界なんだ」

「これは序章です。新世界はここから始まる……僕は〈ソードマスター・ドラゴン〉の召喚時効果を発動!」

 

 効果発動を宣言した三神は、1枚のカードを仮装モニターに投げ込んだ。

 

「このカードが召喚に成功した時、僕は手札からアームドカード1枚を、顕現(けんげん)コストを無視して顕現できる」

「ア、アームドカードだと!? なんだそれは!?」

 

 アームドカード。それはまだ誰も知らない、未公表のカードタイプであった。

 未知のカードタイプを宣言された事で、黒岩は混乱する。

 

「ミスター黒岩。今から君が目撃するのは、モンスター・サモナーの新時代だ」

「僕は手札からアームドカード〈【黎明剣(れいめいけん)】ビギニング〉を顕現!」

 

 魔法陣が現れ、中から一振りの宝剣が姿を見せる。

 その宝剣は自我を持つように飛翔した後、三神のモンスターゾーンに突き刺さった。

 

〈【黎明剣】ビギニング〉Pなし ヒットなし

 

「パワーもヒットも無いだと?」

「これはこう使うんですよ……僕は〈【黎明剣】ビギニング〉を〈【起源武装竜】ソードマスター・ドラゴン〉に武装(アームド)!」

 

 ソードマスター・ドラゴンはビギニングを引き抜くと、文字通り武装状態となった。

 

「モ、モンスターと合体するカードなのか!?」

「そうです。そしてその試運転の切れ味、その身で味わってもらいましょう」

 

 ソードマスター・ドラゴンが宝剣の切先を黒岩に向ける。

 

「アタックフェイズ。〈ソードマスター・ドラゴン〉で攻撃! この瞬間、武装(アームド)状態の〈ビギニング〉の効果発動!」

「なんだと!?」

「〈ビギニング〉を武装したモンスターの攻撃は、可能であれば必ずブロックしなければならない」

「クソッ! 〈ディフェンダー・マンモス〉でブロックだ!」

 

 守りに入るディフェンダー・マンモス。

 だがアームドカードの前には全てが無力であった。

 ビギニングの刃によって容易に両断されるディフェンダー・マンモス。

 だが攻撃はこれでは終わらない。

 

「〈ソードマスター・ドラゴン〉は【貫通】を持っています。3点ダメージを受けて貰いますよ」

「グアっ!」

 

 ソードマスター・ドラゴンの斬撃が、黒岩に襲いかかる。

 

 黒岩:ライフ6→3

 

「〈ソードマスター・ドラゴン〉の更なる効果。武装状態であれば、ターン中1度だけ回復できます」

「な、なんだって!?」

 

 起き上がるソードマスター・ドラゴン。

 勿論ビギニング武装している状態である。

 次の攻撃で黒岩は、残る1体のディフェンダー・マンモスで強制ブロックをする他ない。

 それはつまり、貫通ダメージによる敗北を意味していた。

 

「た、頼む、やめてくれ! 見逃してくれ!」

「……だそうですよ、ゼウス様」

「フフフ、ミスター黒岩。答えは……NOだ」

「嫌だ嫌だ嫌だァァァ!!!」

 

 必死に叫ぶ黒岩。その場から逃げようとするが、何故か足が動かない。

 まるで何かに両足を固定されているようであった。

 

「あ、足が動かない」

「逃すわけにはいかないからね。少し小細工をさせてもらったよミスター」

「な、なんなんだよ! お前はなんなんだァァァ!?」

 

 黒岩が叫びながら問うと、ゼウスはニヤリと笑った。

 

「私は、デウスエクスマキナだ」

「ゼウス様、そろそろ終わらせてもよろしいですか?」

「あぁ済まない。続けてくれ、ドクター」

「はい。僕は回復した〈ソードマスター・ドラゴン〉で攻撃! 当然〈ディフェンダー・マンモス〉はブロックせざるを得ない」

 

 ソードマスター・ドラゴンの前に出るディフェンダー・マンモス。

 黒岩は必死に「下がれ」と叫ぶが、全て無駄。

 ソードマスター・ドラゴンの剣撃を前に、破壊されてしまった。

 そしてモンスターを戦闘破壊したという事は……

 

「〈ソードマスター・ドラゴン〉の【貫通】発動」

 

 黒岩の前に歩み寄るソードマスター・ドラゴン。

 巨大な竜に見下ろされた黒岩は、泣き叫びながら失禁した。

 そして……ソードマスター・ドラゴンの剣が、黒岩に振り下ろされた。

 

 黒岩:ライフ3→0

 三神:WIN

 

 ファイトが終わり、立体映像が消滅していく。

 その場に倒れ込んだ黒岩に、ゼウスは歩み寄った。

 

「君の負けだね、ミスター黒岩」

 

 ゼウスは黒岩の頭をおもむろに掴み取る。

 

「君の物語は、これで終わりだ」

 

 ゼウスの手が一瞬光を放つ。

 黒岩の意識は、完全に闇の底へと落ちていった。

 

「ドクター、スタッフを呼んで後片付けをさせてくれ」

「かしこまりました。ゼウス様は?」

「私は少し疲れた。もう帰るよ」

 

 そう言い残し、ゼウスは鼻歌を歌いながら駐車場を去るのだった。




本日は12時1分にも更新です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十一話:戦いが終わる。仲間が増える。

第二章、エピローグ


 外ではセミが鳴き声をあげている。

 俺達チーム:ゼラニウムがJMSカップを制覇してから、大体一ヶ月が経った。

 有名な公式大会を制したという事もあって、学校では色々と持て囃される日々が続いた。

 まぁそれもやっと最近落ち着いてきたんだけど。

 

 デカい大会で成績を残したという事もあって、受験での加点ポイントは十分に稼げたと思う。

 だって速水が「これからは一般科目の勉強に専念できるな」とか言ってたし。

 きっと俺とソラはこれから、一般科目の勉強をさせられるんだろう。それだけが憂鬱だ。

 

 そういえば一つ、かなり気になる事がある。

 アイを散々苦しめた、あの黒岩ってプロデューサーだ。

 あれはJMSカップが終わった翌日ことだ。

 黒岩は数々の汚職が明るみに出て、警察に捕まった。

 所属事務所は随分と対応に追われていらしい。

 いや、それはともかく。

 このタイミングで黒岩が逮捕されるのは……なんだか話が出来すぎている気がする。

 だって俺、監禁された事を結局訴えてないもん。

 そもそも、たかが中学生にどうこうできる男じゃない。

 

「いったい誰がやったんだろうな……」

 

 まぁ答えは神のみぞ知るなんだけどな。

 そもそも黒岩の事だ、あっちこっちから恨みでも買ってたんだろう。

 なんか廃人みたいになってるらしいけど、きっと天罰だ。

 

 さて、そうなるともう一つ心配事が出てくる。

 そう、アイの事だ。

 

「全然連絡取れないな」

 

 黒岩が逮捕された影響も大きいのだろう。

 アイにメッセージを送ってみるけど、既読はつかない。

 相当バタバタしてるんだろうな。

 いや、それ以前に無事で済んでいるのかが心配だ。

 

「……やっぱり、信じて待つしかないか」

「ツルギくん、何見てるんですか?」

 

 俺の前にソラがひょこっと顔を出す。

 今日は土曜日。

 俺とソラは受験勉強の息抜きに、カードショップに来ていた。

 

「あぁ、アイの事だよ」

「アイちゃん、まだ連絡つかないんですか?」

 

 俺は無言で頷く。

 連絡がつかないのはソラも同じだった。

 二人でアイの心配をする。

 

「大丈夫、ですよね」

「そう思いたいんだけどな」

 

 ここ一か月はTVでも見かけない。

 SNSの更新も止まっている。

 いったい今頃何してるんだか。

 

「ま、信じるしかないか」

「そうですね。アイちゃんならきっと……」

 

 きっと壁なんか乗り越えて帰ってくる。

 確かな友情を抱いているからこそ、俺とソラは信じていられた。

 

「さーて! せっかく受験勉強から逃げてきたんだ。思いっきりファイトしよーぜ」

「はい! 今日は勝ちますよ!」

「望むところだ」

 

 この世界の日常風景。フリーファイトコーナーに足を進めようとする俺達。

 その時だった。

 背後から、一人の少女が声をかけてきた。

 

「あら、それなら私も混ぜてくれないかしら?」

 

 聞き慣れた声。

 待ち望んだ声。

 俺とソラは、勢いよく振り返る。

 そこに居たのは、栗色の髪をツインテールにまとめた女の子。

 

「久しぶりね。ツルギ、ソラ」

「アイちゃん!」

「アイ!」

 

 変装も何もしていない、アイの姿がそこにはあった。

 

「ごめんなさいね。色々忙しくて連絡もできなかったのよ」

「いいんです。それよりアイちゃんは大丈夫なんですか?」

「えぇ大丈夫よ。全部終わらせてきたわ」

 

 笑顔でそう答えるアイ。きっと納得いく結果に終わったんだろう。

 いやそれよりもだ。

 

「なぁアイ。変装しなくていいのか? この店結構人がいるぞ」

「あら。それなら何も問題ないわ」

 

 だって……と、アイは悪戯な笑みを浮かべて続ける。

 

「私、アイドルは廃業したのよ」

「……え?」

「廃業……えっ、引退したんですか!?」

「そうよ。アイドル続けながらじゃ、サモンするにも息苦しくて」

 

 困っちゃうわね、と気楽にアイは言ってくる。

 えっ、本当に引退したんですか!?

 

「アイ、本当アイドル辞めたのか?」

「本当に辞めたわ。事務所に辞表叩きつけてきたもの」

「でもアイドルって急に辞められないって聞いたことがあるんですけど」

「あぁ違約金の話ね。私結構稼いでいたから、一括で払ってきたわ」

 

 わぁいお金持ちだー。支払い方も男気がすごぉい。

 いや、どうりでTVで見かけない筈だよ。

 そもそも引退したんじゃ、映らないわな。

 

「あれ? じゃあミオと夢子はどうなったんだ?」

「あの二人なら、他の事務所に移籍したわ。私の実家のコネもフルに活用してね」

「そっか……二人とも元気にしてるんだな」

 

 それを聞けて、ひとまずは安心した。

 まぁそれはそれとしてだ。

 

「なんつーか、アイも思いっきりがスゴいな」

「ふふ。ツルギに感化されたのよ」

「えっ、俺のせい?」

「えぇ。貴方のせいで……私は新しい夢を見つけられた」

 

 そう言うとアイは、召喚器を手にした。

 中に入っているデッキは、言うまでもないだろう。

 

「私には、こっちの方が性に合うみたい」

「……そうか。それに気づけたんだな」

 

 サモン至上主義の世界。そこで生きるにはきっと、一番馴染む夢なんだろう。

 でもそれは、誰かに強制されたものではない。

 誰かに刷り込まれたものでもない。

 アイが自分で選び、進もうとした未来なんだ。

 

「よかったな、アイ」

「おかげさまで、とても清々しい気分よ」

 

 壁は乗り越えられた。アイの目に後悔は浮かんで無い。

 全てを終えて、アイはこれから自分のための物語を描いていくんだ。

 

「そうだわ。ツルギ達に一つお願いがあるのだけど」

「ん? お願い?」

「なんでしょうか?」

「私も、貴方達のチームに入れてくれないかしら」

 

 チーム:ゼラニウムへの加入希望。

 ちょっと予想外のお願いに、俺とソラは数秒呆気に取られる。

 だけど……断る理由なんて、何も無かった。

 

「ツルギくん」

「あぁ。速水もきっと許してくれるさ」

 

 俺はアイに手を差し伸べる。

 

「ようこそ。チーム:ゼラニウムへ」

「ふふ。許しが出て安心したわ」

 

 俺の手を握るアイ。

 そこにソラも手を乗せる。

 

「これからは仲間として、よろしくね二人とも」

「はいです!」

「あぁ、よろしくな」

 

 新しい絆が芽生えたところで、俺達はフリーファイトコーナーに向かう。

 もうアイを縛りつけるものは何も無い。

 これから彼女は自由にファイトをしていくのだ。

 

 戦いが終わった夏の始まりの日。

 俺達チーム:ゼラニウムに、新たな仲間ができた。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章:受験生編
第五十二話:受験勉強ゼラニウム


 JMSカップも無事終わり、気づけば季節は秋の始まりになっていた。

 中学三年生の秋……それは、受験勉強の追い込みが始まるシーズンである。

 

速水(はやみ)……英語を教えてくれ」

「その程度の問題は自分で辞書を引け」

「アイちゃん……数学教えてください」

「その問題はね……」

 

 現在俺の家に、チーム:ゼラニウムの四人が揃っている。

 もちろん見ての通り、受験勉強のためだ。アイはわざわざ遠方から電車で来てくれている。

 ちなみに四人とも志望校は聖徳寺(しょうとくじ)学園である。

 やっぱりファイターたるもの、サモンの名門学校に進学したいよね。

 

 それはそれとして……

 

「なんでサモン専門学校に一般科目の試験があるんだよ」

「何を言っている天川(てんかわ)。仮にも高校だぞ。あるに決まっている」

「聖徳寺学園って、難易度だけで言えば高専に近いですよね~」

 

 ソラが弱々しい声で言ったが、その通りだ。

 普通に試験問題が難しい。特に英語。

 アレか? グローバルなサモンファイターを育てるとか、そんな方針なのか?

 

「まぁ天川は一般科目の勉強に集中できるだけ、まだマシだろ」

「そうね。ツルギなら実技試験とルール試験は問題無さそうよね」

「むしろその二つでツルギくんが点を落とす光景が思い浮かばないです」

 

 聖徳寺学園の入試は一般科目の筆記試験と、サモンのルール試験。

 そして一番重要視される実技試験がある。

 実技というのは、当然サモンファイトだ。

 

「実技とルール試験で満点取ったら、一般科目免除してくれねーかな」

「馬鹿を言うな……いや待て、本当に馬鹿を言うな」

「ツルギくんなら、本当にその二つで満点取りかねないですね」

「ツルギ……貴方どれだけサモン漬けで生きてきたのよ」

 

 失礼な。俺はごく普通のサモンファイターだ。

 ただし前の世界基準でだけどな。

 

「実技試験かぁ。デッキどうしようかな」

 

 流石に試験で1killは不味い気がする。

 となれば正攻法な感じで戦うのが無難か?

 幸い今はカーバンクル・ドラゴンもデッキに入れているし、適度な派手さもある。

 

 それに……いざとなったら、2枚目の進化形態もある。

 

「あっ。そういえばアイは実技試験のデッキどうするんだ?」

 

 ちなみに今のアイは栗色の髪をツインテールにして、メガネをかけている。

 俺がふと疑問に思った事を口走ったら、アイが机に突っ伏した。

 しくしくと泣く声が聞こえる。

 

「しくしく……私は貝になりたい」

「なぁ天川。アイはどうしたんだ?」

「いやその、この前サモンの制限改訂があっただろ?」

「あぁ……そういえば、アイちゃんが使ってた魔法カード、禁止指定になりましたね」

 

 ちなみに禁止になったのは〈不平等契約〉だ。

 流石にあのインチキスペックはこの世界でも許されなかったか。

 ともかく。制限改訂の影響で、アイのデッキは弱体化を受けてしまったのだ。

 

「とりあえず泣き止めよアイ」

「弱くなった私なんて、誰にも必要とされない」

「病みすぎだろ。墓地肥やしカードなら他にもあるじゃんか」

 

 俺達も愛用している〈デストロイポーション〉とか色々ね。

 

「相性良さそうなカードなら紹介するし、なんなら余ってるカードで良ければ俺のをあげるし」

「えっ」

 

 急にアイが顔を上げた。

 泣いてたせいかな? 顔が赤い。

 

「だからそんなに落ち込むなって。あとで俺の部屋に案内するからさ。一緒に考えよう」

「えっ、あの……ツルギの部屋に?」

「あぁ。カードは色々あるからさ。墓地肥やしに使えそうなの何枚かピックアップするぞ」

 

 何が余ってたかな……俺は記憶を引きずり出しながら考える。

 それはそれとして、アイの顔が真っ赤だ。

 知恵熱でも出てるのだろうか?

 

「天川、お前いつか刺されるぞ」

「えっ、なんで?」

 

 カード仲間のデッキ調整を手伝うのって、そんなにダメか?

 

「ツルギくん……私も一緒に行っていいですか?」

「えっ? アイが良ければ」

「いいですか?」

 

 ソラさん。圧が凄まじいです。あと目からハイライトが消えてる気がします。

 

「心配無用よソラ。私はツルギと()()()()()でデッキ調整をするわ」

「いえいえ。そういう事でしたらツルギくんの()()()()である私もお手伝いしますよ」

 

 お二人さんや、なんか妙なワードを強調してませんかね?

 あと気のせいか、火花が見えるんですけど。アニメ世界効果か?

 というか二人ともそんなに俺のカードに興味があるのか。

 やっぱりこの世界の住民は根っからのサモンファイターだな。

 

「三人とも、勉強する手が止まっているぞ」

「おっと、いけね」

 

 俺はそそくさと英語の問題集に手を付ける。

 うん、やっぱり難しい。元国文系大学生は英語が苦手なのだ。

 ちなみに数学はもっと嫌い。

 

「……気分転換に教科変えるか」

 

 このまま英語を見続けていたらおかしくなる。

 俺は問題集を閉じて、新たに歴史の問題集を開いた。

 これなら気持ちも楽だ……現代以外はな。

 

「(何度見ても、現代に入った途端歴史がカオス極まっている)」

 

 現代に入るという事は、モンスター・サモナーが登場してくるという事だ。

 UFコーポレーションの設立から、モンスター・サモナーの発売日、果ては最初の世界チャンピオンの名前等々。

 試験問題として聞かれる内容が破天荒すぎる。

 まぁ、バニラモンスターのフレーバーテキスト聞かれないだけマシかもしれないけど。

 

「(しっかし、他の歴史も大概面白い事になってる)」

 

 歴史上の偉人の横には、それをモチーフにしたカードの紹介が書かれている。

 余談にも程があるだろ。

 まぁこの辺の時代は、問題だけなら普通だからな。心が癒されるよ。

 俺はほっこりした気持ちで問題集を解いていく。

 

 ちなみにソラとアイはまだ笑顔をぶつけ合っている。

 何がしたいんだこの二人は。

 

「む。天川、ここのカードの処理はわかるか?」

「あぁ。それはな……」

 

 俺が速水に処理手順を教えようとした、その時であった。

 

 pipipi! pipipi!

 

 召喚器が何かの受信音を鳴り響かせてきた。

 それは俺の召喚器だけではない。四人全員の召喚器がそうであった。

 

「あら、なにかしら?」

「なんでしょう?」

 

 ソラとアイは自分の召喚器を手に取る。

 俺と速水も勉強を中断して、召喚器を手に取った。

 すると、召喚器から自動的に仮想モニターが展開される。

 

「不具合の類……ではなさそうだな」

 

 仮想モニターにはUFコーポレーションのロゴが映し出されていた。

 数秒待つと、ロゴが消えて一つのメッセージが映し出される。

 

『0303 Armed』

 

 一見すると意味の分からないメッセージ。

 映し出されたのはこれだけ。

 速水やソラ、アイも困惑している。

 

「これ、なんでしょう?」

「UFコーポレーションのロゴが入っているな。広告か?」

「数字は日付かしら? 英単語は……アームド?」

 

 三人は首をかしげるばかり。

 だが俺には、このメッセージの意味が分かってしました。

 

「ツルギくんはどう思いますか?」

「……さぁな。わかんねーや」

 

 嘘をつく。今はきっと、種明かしをするべき時ではない。

 それにしても……ついに来るんだな。

 

「(アームドカード……モンスター・サモナーの新時代)」

 

 どうやら高校生活からは、新しいサモンの時代に突入するようだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十三話:息抜きと運試し

 召喚器に映し出された謎の告知。

 それは全世界、同時刻に映し出されていたようだ。

 当然ながら、サモン至上主義であるこの世界は大混乱。

 様々な予想や憶測が飛び交い、TVのニュースでは自称専門家による考察等が連日報道されている。

 一つ俺の予想通りな事があるとすれば、あの告知メッセージが新たなカードタイプを示すものではと予想している人間がそこそこ居る事だ。

 

 0303 Armed

 

 俺にはその意味が分かる。

 0303は正式な発表の日付。

 そしてArmedは新たなカードタイプ。

 

 アームドカード。

 モンスター、魔法に続く第3のカードタイプだ。

 モンスターゾーンに顕現させて、モンスターに武装するカード。

 当然ながら、武装したモンスターは大きく強化される。

 前の世界では、このアームドが登場した直後に色々インフレが起きたから……嫌でも記憶に刻まれているな。良くも悪くも。

 

 予告編が出てから今日で2週間。

 俺とソラ、そして速水(はやみ)は受験勉強の息抜きにカードショップへと向かっていた。

 ちなみにアイは家でホームパーティーで忙しいらしい。流石金持ち。

 

 街の中をのんびり歩く俺達。

 街頭テレビやビジョンには、相変わらず例の告知に関する話題が流れている。

 

「みんな飽きないな〜。ずーっと同じ話題繰り返してらぁ」

「当然ですよ。UFコーポレーションがああいった告知をするのは初めてなんですよ」

「間違いなく新しいカードに関する発表につながるのだろうが……その正体が不明だからな」

「その方がワクワクがあって楽しいと思うけどなぁ」

「そう都合良くはいかない。新カードの正体が欠片も分からないせいで、経済が混乱しているらしいからな」

 

 速水曰く、どの既存カードが活きてくるのか分からない、そもそもパワーバランスがどうなるかも分からない。

 そういった事情からか、カードの関連会社の株価が意味不明な挙動になっているのだとか。それも全世界で。

 

 うん……冷静に考えて大丈夫なのか、この世界。

 カードで経済が死にかけてるぞ。

 これUFコーポレーションに文句行かないのかな?

 多分行ってると思うけど。

 

「そういえば、カードショップもシングルカードの値段がだいぶ混乱しているらしいですね」

「色々分からない状況だからな。しばらくは続くだろう」

 

 そうか、シングル価格が安定してないのか。

 特価品コーナー漁ろうかな。

 

 そんな話をしている内に、カードショップに到着した俺達。

 相変わらず人が多い。

 聞こえてくる声は、例の告知の話題と、カードの値段の話。

 みんな素晴らしくカードゲーマーやってるな。

 

「フリーファイトコーナー、空いてるかな?」

「どうでしょう。今日は特に人が多いですし」

「まぁ、空いてなければ適当に時間を潰せば良い」

 

 速水の言う通りだ。

 カードゲーマーはカードショップで無限に時間を潰せる生き物なのだ。

 

 で、フリーファイトコーナーに行ったわけだが。

 ソラの予想通り、人がいっぱい。

 しかも俺らと同じ中学生くらいのファイターばかりだ。

 これはアレだな。みんな受験に向けてサモンの特訓をしているんだな。

 ……いざ文字化すると、本当にカオスだな。

 ちなみにサモンの専門学校は聖徳寺学園だけではないので、この光景は普通らしい。

 

「……時間、潰すか」

「私、とりあえず予約表に名前書いてきますね」

「天川はどうする? 俺はシングルカードでも眺めに行くが」

「とりあえずソラを待ってから、適当にブラつくよ」

「では時間が来たら、ここに集合しよう」

 

 そう言い残して速水はシングルカードコーナーへと向かって行く。

 俺はソラが来るのを待ってから、二人で適当にショップ内を巡る事にした。

 俺とソラはシングルカードはそんなに用がないので、他のものを見に行く。

 

「おっ、このスリーブ肌触りが良いな」

「本当ですね〜。カード同士のつきもいい感じです」

 

 やっぱりスリーブは良いもの使いたいよね。

 とりあえず俺とソラはスリーブを買い物かごに入れる。

 それにしても流石はサモン至上主義世界。

 カードショップのサプライコーナーも品揃えが素晴らしすぎる。

 

「召喚器のカスタマイズパーツねぇ……俺にはよく分からん」

「モンスターの召喚エフェクト可愛くなったりするんですよ」

「……可愛くしたいか?」

 

 特にアイが使うようなモンスター。

 キラキラエフェクトでグロい見た目のモンスターが出ても反応に困るぞ。

 

「あっ、今日発売日か」

 

 歩いている内に辿り着いたのは、雑誌コーナー。

 勿論売っているのはサモンの専門雑誌だ。

 その種類も豊富。完全にスポーツ雑誌のレベルである。

 とりあえず俺は最近購読している雑誌を一冊手に取り、かごに入れた。

 ちなみに内容はプロ大会の情報誌である。

 

「あっ、ツルギくん。あれ見てください」

 

 ふと、ソラが店に設置されているTVを指差す。

 映し出されているのはプロサモンファイターの活躍。

 今インタビューを受けているのは、オールバックにした黒髪の男性。年齢は20歳。

 若き強者として紹介されている男性の名は……

 

「速水ナガレ、か」

「速水君のお兄さんですよ」

 

 そう、彼は速水の兄。プロのサモンファイターなんだ。

 俺はふと、とある去年の出来事を思い出す。

 

「(速水が超えたい相手……か)」

 

 俺は買い物かごに入れた雑誌の表紙を見る。

 今月の表紙は、速水ナガレであった。

 一応前の世界でも顔を見たことがあるけど、よく覚えていない。なにより俺はまだ、この人のファイトをよく知らない。

 この雑誌で何か知れたら良いんだけどな。

 

 番組の特集が終わると同時に、速水がこちらに来た。

 

「天川、赤翼(あかばね)

「おう速水。なんか良いカードあったか?」

「残念ながら、だ」

「そっか」

 

 まぁシングルカードの価格が今ぐちゃぐちゃになってるらしいしな。

 仕方ないか。

 

「せっかくショップに来たのだから、何かカードを手に入れたい気持ちはあるのだがな」

「あっ、それすごくわかります!」

「俺も同じく。何か出会いが欲しいよな」

 

 だがシングルカードはイマイチと……。

 俺は少し考え込む。

 すると、俺の頭に一つの閃きが出た。

 

「そうだ! いい事思いついた」

 

 俺はソラと速水をある場所へ連れて行く。

 目的地は、パックコーナーだ。

 

「パック、ですか?」

「そうだ。せっかく3人いるんだし、1パックずつ買って運試ししようぜ」

「なるほど。より高いレアリティを当てた者が勝者という事か」

「速水大正解」

 

 ソラも速水も乗り気みたいだ。

 俺は適当にパックを1つ選ぶ。

 ソラに至っては、天に祈るようにしてパックを選んでいた。

 

「速水はどれにするんだ?」

「そうだな……これにしよう」

 

 速水は残り1パックになっている箱からパックを手に取った。

 

「残りもの?」

「残りものには福があると言うだろう」

 

 ふむ、それもそうだな。

 パックを決めた俺達は、レジでさっさと会計を済ませた。

 

 俺達は休憩所にもなっているベンチの前に移動する。

 ここならゴミ箱もあるからね。

 

「さぁ二人とも、開けようぜ」

 

 一斉にパックを開けて、俺達はその中身を確認した。

 さてさて俺はというと?

 

「うーん、1パックじゃレアは出なかったか」

 

 でも便利なコモンカードは手に入ったから、儲けものかな。

 

「ソラはどうだ?」

「ふっふー。見てください!」

「おっ、聖天使のレアカードじゃん」

「大当たりです」

 

 これはソラのデッキに強化が入るな。

 で、速水はというと?

 

「速水はどうなんだ?」

「……」

「速水くん?」

 

 カードを見つめながら黙ってしまう速水。

 そんなに大ハズレだったのか?

 俺がそう思った矢先、速水は小さく笑みを浮かべた。

 

「天川、赤翼……この運試し、俺の勝ちだ」

「えっ?」

「速水、まさか……」

 

 これは、まさか!?

 

 速水は俺達二人に、引き当てたカードを見せてくる。

 そのカードは輝いていて、そして、元素デッキの切り札。

 

「速水くん、それって!」

「あぁ。SRカード、それも系統:〈元素〉のカードだ」

「これは完敗だな……でもやったな速水!」

 

 速水が引き当てたカードは俺も知っている元素の切り札。

 入試前に、速水のデッキは大幅な強化を得たのだ。

 

「どうする速水、デッキ調整するか?」

「当然だ。後で試運転に付き合ってくれ、天川」

 

 試運転かぁ……俺は一向に構わないんだけど。

 今俺の脳裏には、もう一つの閃きが生まれていた。

 

「なぁ速水、その試運転なんだけどさぁ」

「む?」

「もっと歯応えのある相手にやってもらわないか?」

「天川以上なのか?」

「手札次第ではな」

 

 ちょうどこの前練習相手を欲しがっていたし。

 

「ツルギくん、誰と速水くんをファイトさせるんですか?」

「あぁ、俺の母さん」

「「えぇ!?」」

 

 驚くソラと速水。

 だが甘く見るなよ。

 俺が母さんに渡したデッキは、かつての環境デッキだからな!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十四話:母、ボンバー

 幸いにして今日は仕事が休みな母さん。

 俺は電話で事情を話し、カードショップに来てもらう事にした。

 ちなみに卯月は友達と遊びに行っている。

 

「ツルギくんのお母さんって、やっぱり強いんですか?」

「サモン歴は短いけど、デッキはかなり凶悪だぞ」

「そうなのか……しかしわざわざ来てもらうとは、少し申し訳ないな」

 

 メガネの位置を正しながら、速水は少し申し訳なさそうにする。

 だが別に問題はないだろう。母さんも練習相手を探してたし。

 色んなデッキを相手にするのは、ファイターにとって大事な修行です。

 

 ちなみに何故母さんが練習相手をわざわざ探しているのかというと……簡単にいえば、強すぎたんだ。

 職場でうっかり無双し過ぎたらしい。

 おかげで今は厄介な取引先とのファイトに駆り出される事多数なんだとか。

 うん、正直俺もあのデッキは少しやりすぎたかなと思ってる。

 

 そんなこんなで十数分後。

 フリーファイトコーナーが空くと同時に、母さんがショップに来た。

 

「あら~速水君。こんにちは~」

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ~。まだまだデッキに慣れてなくて、練習相手が欲しかったのよ~」

 

 のほほんとしている母さんに対して、速水はあからさまに気合を入れている。

 うん。多分俺が強いとか言ったせいだな。

 

 俺達はフリーファイトコーナーに移動する。

 

「ツルギくんのお母さんって、どんなデッキなんでしょうか」

「ざっくり言えば、後攻1kill率がめっちゃ高いヤベーデッキ」

「それ本当に大丈夫なんですか!?」

「初手で防御カード握ってないと……まぁ終わるな」

 

 前の世界では防御カードを握ってない奴が悪いとまで言わしめた代物だ。

 この世界での凶悪さは……考えないようにしよう。

 

 フリーファイトコーナーに到着した俺達。

 俺とソラは観覧用のベンチに座り、速水と母さんはステージに立つ。

 

「今は色々便利になってるのね~」

 

 のほほんとしている母さん。

 とりあえず召喚器の操作は頑張って俺が覚えさせた。

 速水も準備完了している。

 

「それでは、いきます!」

「速水君、よろしくね~」

 

 二人は同時に召喚器を前に出した。

 

「「ターゲットロック!」」

 

 召喚器が無線接続されたので、二人は初手5枚を引いた。

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 仮想モニターに『速水学人(がくと)VS天川やよい』と対戦者の名前が表示される。

 あっ、ちなみにやよいってのは母さんの名前な。

 

 コンピューターが先攻後攻を決める。

 

「先攻は俺です。スタートフェイズ!」

 

 あっ、速水が先攻か。

 これはちと不味いかもな。

 

「メインフェイズ。俺は〈サイクロン・プテラ〉を召喚!」

 

 速水の場に、風を纏ったプテラノドンが召喚される。

 まずは様子見といったところか。

 まぁその様子見が命取りにならなければ良いんだけど。

 

〈サイクロン・プテラ〉P6000 ヒット2

 

「俺はこれでターンエンドです」

 

 速水:ライフ10 手札4枚

 場:〈サイクロン・プテラ〉

 

 とりあえず派手に手札は使わないか。

 場にもそこそこパワーの高めなモンスターを置いてある。

 

「速水くん、いい滑り出しですね」

「普通なら、な」

 

 これはマジで速水の手札次第では一瞬で終わるぞ。

 

「わたしのターンね~。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 母さんはのんびりとターンを始めている。

 

 やよい:手札5枚→6枚

 

 ドローしたカードと手札を確認している母さん。

 アレ回し方は結構単調だから、悩む要素無い気がするんだけどなぁ。

 

「うん。じゃあこうしましょう。メインフェイズ」

 

 母さんはカードを1枚選んで、仮想モニターに投げ込んだ。

 

「わたしは〈タイガーボンバー〉ちゃんを召喚~」

 

 母さんの場にデフォルメされた虎型モンスターが召喚される。

 ただしその背中には爆弾が背負われているがな。

 

〈タイガーボンバー〉P5000 ヒット1

 

「あれがツルギくんのお母さんが使うモンスター……見た目は普通ですね」

「見た目じゃないんだ。効果が強いんだよ……母さんの〈炎獣(えんじゅう)〉デッキはな」

 

「次は~この子。〈パグボンバー〉ちゃんを召喚~」

 

 次に召喚されたのはデフォルメされたパグ型のモンスター。

 やっぱり爆弾を背負っている。

 

〈パグボンバー〉P1000 ヒット1

 

「3体目はこの子。手札を1枚捨てて~〈ヒポポボンバー〉ちゃんを召喚~」

 

 やよい:手札3枚→2枚

 

 3体目に召喚されたのは、カバ型のモンスター。

 やっぱり爆弾持ってる。

 

〈ヒポポボンバー〉P10000 ヒット2

 

「む、召喚コストがあるだけあって、パワーが高いな」

 

 ヒポポボンバーのパワーを見て警戒する速水。

 だが気をつけろよ。〈炎獣〉の真価はパワーじゃないからな。

 

「それじゃあ。アタックフェイズに入るわね~」

 

 くるぞ……母さんの猛攻、ボンバーな時間が。

 

「まずは〈タイガーボンバー〉ちゃんで攻撃」

「その攻撃は〈サイクロン・プテラ〉でブロックです!」

 

 爆弾を背負いながら突進するタイガーボンバー。

 それを翼で切り裂くサイクロン・プテラ。

 タイガーボンバーはあっけなく爆散してしまった。

 

「速水くん、まずは1体倒せましたね」

「あぁ~、早速やっちまったな」

「えっ?」

「見てれば分かる」

 

 破壊されたタイガーボンバーだが、背負っていた爆弾だけは速水の方へ転がっていった。

 

「なに、爆弾が!?」

「〈タイガーボンバー〉ちゃんが破壊された時の効果で1枚ドロー」

 

 やよい:手札2枚→3枚

 

「そしてもう一つの破壊時効果【爆炎(ばくえん):2】を発動~」

「【爆炎】だと!?」

「速水君に2点のダメージを与えるわね~」

 

 爆弾が炸裂し、速水のライフが削られる。

 

 速水:ライフ10→8

 

 これが母さんの使う【炎獣】デッキの本領。

 凄まじい勢いでライフを削っていくビートバーンだ。

 

「ブロックしたのに、速水くんのライフが削られた!?」

「まだ驚くには早いぞソラ。あと2体モンスターがいる」

 

「次は〈パグボンバー〉ちゃんで攻撃~」

「どうやら迂闊にライフを削るわけにはいかないらしい。俺は魔法カード〈デストロイウォール〉を発動!」

 

 速水の前に半透明のバリアが展開される。

 とりあえず防御カードは持っていたか。

 

「〈デストロイウォール〉の効果! 相手の場のモンスターが持つヒットの合計分自分のデッキを上から墓地に送る!」

 

 母さんの場に存在するモンスターのヒット合計は3。

 速水はデッキを上から3枚墓地に送った。

 

 墓地に送られたカード:〈グランドエレメント〉〈アースエレメント〉〈ウォーター・プレシオン〉

 

「このターンの間、俺は戦闘によってはダメージを受けない! その攻撃はライフで受けます!」

 

 パグボンバーは突進するが、半透明のバリアにぶつかってしまう。

 速水のライフは守られた。

 ただし、戦闘ダメージは、だけどな。

 

「この瞬間〈パグボンバー〉ちゃんの効果発動~。攻撃終了と同時に破壊されまーす」

「なに!? ということは、まさか」

「〈パグボンバー〉ちゃんを破壊して、【爆炎:2】を発動~。そーれボンバー!」

 

 自爆するパグボンバー。

 その爆弾だけが速水の足元に転がって、爆発した。

 

「ぐあっ!」

 

 速水:ライフ8→6

 

「あれ? なんで速水くんのライフが減ったんですか?」

「〈デストロイウォール〉で防げるのは戦闘によるダメージだけだ。効果ダメージは防げないんだよ」

 

 さぁて、これは速水ピンチだぞ。

 母さんの場にはまだ、ヒポポボンバーが残っている。

 

「最後に~〈ヒポポボンバー〉ちゃんで攻撃~」

「くっ、ライフで受けます」

 

 ヒポポボンバーが速水に突進するが、やはりバリアによって阻まれる。

 だが母さんはこれで正解なんだ。

 ヒポポボンバーが攻撃した事に意味がある。

 

「〈ヒポポボンバー〉ちゃんも攻撃終了時に自爆しま〜す」

「まさか……そのモンスターも【爆炎】を」

「せいか~い。〈ヒポポボンバー〉ちゃんが破壊されたから~【爆炎:3】を発動よ~」

「3だと!?」

 

 ヒポポボンバーの置き土産爆弾が、速水にぶつかり爆発する。

 

「ぐあっ!?」

 

 速水:ライフ6→3

 

 後攻1ターン目の出来事。

 その僅かな時間でライフを7点も失ってしまった速水。

 周りのファイターも驚いた表情で、こちらを見ている。

 

「あらぁ、もう攻撃はできないわね~。わたしはこれでターンエンドよ」

 

 やよい:ライフ10 手札3枚

 場:なし

 

 おそらく想像以上の攻撃だったのだろう。

 ソラと速水も驚愕の表情を浮かべている。

 

「ツルギくんのお母さんって、すごく強いんですね」

「あぁ。今日は手札よくないみたいだけどな」

「あれでですか!?」

「デッキの切り札が手札にあったら、このターンで速水が負けてただろうな」

 

 俺がそう言うと、ソラは口をあんぐりと開けていた。

 なんか可愛いな。

 

 さぁて速水。半端な戦い方じゃあ勝てないぞ。

 どうやって攻略する?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十五話:蒸気竜王

 残りライフは僅か3。

 母さんの【炎獣】デッキの前ではほとんど無に等しい数値。

 そんなピンチの状態で、速水(はやみ)はターンを迎えた。

 

「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 速水:手札3枚→4枚

 

「メインフェイズ。俺は魔法カード〈元素交換〉を発動します! 手札の系統:〈元素〉を持つカード〈スチーム・レックス〉と〈ファイアエレメント〉をデッキに戻して、カードを3枚ドロー!」

 

 速水:手札1枚→4枚

 

 なるほど。まずは手札交換で質を高めてきたか。

 問題は今のドローで、速水が解答札を手にできたかなんだけど。

 

「よし! 俺は手札の魔法カード〈ウォーターエレメント〉を2枚使って【合成】!」

 

 速水の場に青色の魔法陣が出現する。

 どうやら上手くいったらしい。

 

「水の二重奏〈マリン・フタバ〉を合成召喚!」

 

 魔法陣から大量の水が生まれ、一体の首長竜を構成していく。

 現れたのは、身体が水で出来たフタバスズキリュウだ。

 

〈マリン・フタバ〉P8000 ヒット0

 

「〈マリン・フタバ〉が場に存在する限り、俺が受ける全てのダメージは1点減ります」

 

 上手いな。これで母さんの炎獣から受けるダメージを大幅に減らせる。

 問題は、速水のライフが残り少ない事だけど。

 

「続けて俺は〈ダイヤモンド・パキケファロ〉を召喚!」

 

 速水の場に金剛石の頭を持つパキケファロサウルスが召喚された。

 

〈ダイヤモンド・パキケファロ〉P6000 ヒット2

 

「あら~、なんだか強そうな恐竜さん達ね~」

「いきます! アタックフェイズ。〈ダイヤモンド・パキケファロ〉で攻撃!」

 

 速水の指示を受けたパキケファロが、母さんに向かって突撃する。

 今母さんの場はがら空き。このままでは2点のダメージを受けてしまう。

 だが母さんの表情は余裕そのものだ。

 

「え~っと。わたしの場にモンスターがいないから~、魔法カード〈ボンバーディフェンス!〉を発動~」

「〈ボンバーディフェンス!〉!?」

「わたしの墓地から、系統:〈炎獣〉を持つモンスターを3体まで復活させるわね~。みんな戻ってらっしゃい」

 

 母さんの場に、先ほど墓地に送られた3体の炎獣が復活する。

 

〈タイガーボンバー〉P5000 ヒット1

〈パグボンバー〉P1000 ヒット1

〈ヒポポボンバー〉P10000 ヒット2

 

 やよい:手札2枚→1枚

 

 一度に3体もモンスター蘇生。流石にギャラリーやソラも驚きの声を上げる。

 

「1枚のカードで3体も蘇生できるんですか!?」

「その代わりこのターンの間、母さんは【爆炎】を使えないけどな」

「十分凶悪ですよ!」

 

 俺の【爆炎】が使えないという言葉が聞こえたのか、速水は少し安堵の表情を浮かべる。

 

「じゃあ恐竜さんの攻撃は~〈ヒポポボンバー〉ちゃんでブロック」

 

 パキケファロの攻撃を受け止めるヒポポボンバー。

 パワーはヒポポボンバーの方が高いので、パキケファロは弾き飛ばされてしまう。

 だが破壊はされない。

 

「〈ダイヤモンド・パキケファロ〉は、ターン中1度だけ戦闘では破壊されません」

「あら~そうなの~」

「……俺はこれでターンエンドです」

 

 速水:ライフ3 手札1枚

 場:〈ダイヤモンド・パキケファロ〉〈マリン・フタバ〉

 

 流石にもう追撃できるカードはないか。

 いや、そもそも迂闊に炎獣を破壊する事自体がマイナスになる。

 速水の判断は正解だ。

 

 問題は……次のターンを生き残れるかだな。

 

「わたしのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 やよい:手札1枚→2枚

 

「あらあら~。素敵な子が来てくれたわ~」

 

 ドローしたカードを確認して、笑顔になる母さん。

 あっ、これ速水負けたかもな。

 

「メインフェイズ。わたしは系統:〈炎獣〉を持つモンスター〈タイガーボンバー〉ちゃんを進化~」

 

 タイガーボンバーが赤色の魔法陣に飲み込まれていく。

 これは……来るぞ、前の世界では制限指定もくらった化物が!

 

「みんなで仲良く、ボンバーしちゃいましょ~! おいでなさい〈【炎獣皇(えんじゅうおう)】レグルスボンバー〉ちゃん!」

 

 魔法陣が弾け飛び、中から炎のたてがみを持つ巨大な獅子が姿を現した。

 これが【炎獣皇】レグルスボンバー。【炎獣】デッキの切り札だ。

 

『ガオォォォォォォォォォォン!!!』

 

〈【炎獣皇】レグルスボンバー〉P12000 ヒット3

 

「ツルギくん、ツルギくん! あのSRカードって」

「あぁ、母さんの切り札だ。これは流石に終わるかもしれないぞ」

「そんなぁ!?」

 

 SRカードの登場に、ギャラリーも盛り上がっている。

 まぁ対峙している速水は冷や汗かいてるけど。

 

「アタックフェイズ~。まずは〈パグボンバー〉ちゃんで攻撃~」

「その攻撃は……ライフで受けます!」

 

 パグボンバーの体当たりが、速水にぶつかる。

 しかしマリン・フタバの効果によって、速水の受けるダメージは1点減った。

 

「攻撃をしたから〈パグボンバー〉ちゃんは破壊。そして【爆炎】発動~」

 

 パグボンバーの爆弾が、速水に襲い掛かる。

 このダメージも1点軽減された。

 

 速水:ライフ3→2

 

「次は〈ヒポポボンバー〉ちゃんで攻撃~」

 

 ヒポポボンバーが速水に突進を仕掛ける。

 不味いぞ。ヒット2のヒポポボンバーの攻撃を受けてもまだ大丈夫だけど、その後の【爆炎】を受けたら速水の負けだ。

 さぁ速水、どうする!?

 

「魔法カード〈緊急合成!〉を発動!」

 

 おっ、そう来たか。

 あのカードは系統:〈元素〉が誇る制限カードだ。

 速水のやつ、よく握ってたな。

 

「このカードは自分のライフが5以下の時、自分の墓地から系統:〈元素〉を持つモンスター1体を選択し、【合成】扱いで召喚する魔法カード!」

「あら~、なんだか強そうなカードね~」

「俺は墓地から〈ウォーター・プレシオン〉を【合成】扱いで召喚!」

 

 速水の場に青色の魔法陣が出現する。

 魔法陣の中から蘇生されたのは、身体が水で構成されたプレシオサウルスだ。

 

〈ウォーター・プレシオン〉P3000 ヒット1

 

「【合成】で召喚された〈ウォーター・プレシオン〉が存在する限り、俺の場のモンスターはパワー+2000となる」

 

〈ウォーター・プレシオン〉P3000→5000

〈マリン・フタバ〉P8000→10000

 

「更に! 〈ウォーター・プレシオン〉が合成召喚された場合、俺はカードを2枚ドローできる!」

 

 速水は覚悟を決めた表情で、デッキに手をかける。

 恐らくここで何か引かなければ、速水は確実に負ける。

 

「ドロー!」

 

 速水:手札0枚→2枚

 

「よし! まずは〈ヒポポボンバー〉の攻撃を〈ウォーター・プレシオン〉でブロック!」

 

 ヒポポボンバーの体当たりを食らって、ウォーター・プレシオンは爆散する。

 だがこれで終わりではない。

 ヒポポボンバーも自身の効果によって自爆した。

 

「破壊された〈ヒポポボンバー〉ちゃんの【爆炎:3】を発動~」

 

 ヒポポボンバーの爆弾が、速水に襲い掛かる。

 残りライフは2点。マリン・フタバでは軽減しきれないダメージだ。

 

「魔法カード〈シーエレメント〉を発動! 次に俺が受けるダメージを6点減らす!」

 

 どこからか海水が溢れ出し、爆弾の導火線の火を消してしまった。

 上手いぞ速水。だけどまだ母さんの場にはレグルスボンバーが残っている。

 

「それじゃあ次は~〈レグルスボンバー〉ちゃんで攻撃~」

 

 獰猛な牙をむき出し、レグルスボンバーは速水に襲い掛かる。

 これを受けたら強烈だぞ。

 

「その攻撃は〈マリン・フタバ〉でブロック!」

 

 ここでマリン・フタバを捨てる選択をしたか。

 とりあえず攻撃は止まったように見えるけど……

 

「ツルギくん……もしかして〈レグルスボンバー〉って」

「あぁ、想像通り【爆炎】持ちだ」

「やっぱり!?」

「それだけじゃない。〈レグルスボンバー〉は攻撃終了時に自爆して、このターン中に破壊された系統:〈炎獣〉を持つモンスターを可能な限り墓地から召喚する」

「それ強すぎませんか!?」

 

 その通り、強すぎるんです。

 仮にも環境トップの切り札ですよ。

 さぁ速水よ、この攻撃はどうする?

 

「……この瞬間、俺は魔法カード〈エレメント・バックドロー〉を発動!」

「あら~?」

「〈エレメント・バックドロー〉は自分の場の【合成】によって召喚されたモンスターを1体デッキ戻す事で、ライフを2点回復し、デッキからカードを2枚ドローします!」

 

 おっ、流石は速水だな。良いサクリファイスエスケープだ。

 ブロック宣言をしているから、レグルスボンバーの攻撃自体はもう届かない。

 問題はこの後の【爆炎】だな。

 

「……ドロー!」

 

 速水:ライフ2→4 手札0枚→2枚

 

 攻撃は凌いだ。だが攻撃が終わったという事は……

 

「攻撃が終わったから~〈レグルスボンバー〉ちゃんの効果発動~。破壊して【爆炎:3】を発動するわね」

 

 ギャラリーから終わったという声が聞こえる。

 レグルスボンバーは自爆し、巨大な爆弾が速水に襲い掛かった。

 

 大きな音を立てて爆発する爆弾。

 ステージ上は立体映像の煙で包まれていた。

 

「速水くん……負けちゃいました」

「……いや、まだだ」

「えっ?」

 

 ソラが驚きの声を漏らす。

 そう、まだ終わってない。

 立体映像がまだ、消えてないんだ。

 

「あらあら~? まだ終わってないのかしら?」

「はい……その通りです」

 

 煙が消えて、速水が出てくる。

 その手には1枚の魔法カード。そして周りにはバリアが張られていた。

 

「【爆炎】が発動する瞬間、俺は魔法カード〈ファイナルセキュリティ!〉を発動しました」

 

 オイオイオイ、かっこよすぎるだろ速水!

 この土壇場で制限指定の防御魔法を発動だと!?

 ワクワクするじゃねーか!

 

「この魔法カードは、自分のライフが5以下の時に、致死量のダメージを受ける場合に発動できます。このターンの間、俺のライフは1未満にはなりません」

 

 速水:ライフ4→1

 

 うーん、流石は最強の防御カード……もとい遅延カード。

 

「あら~倒せないのね。残念」

 

 母さんが残念がってるけど、周りからすれば恐怖映像だなこれ。

 

「でも〈レグルスボンバー〉ちゃんの効果は発動できるわ。墓地から〈パグボンバー〉ちゃんと〈ヒポポボンバー〉ちゃんを復活」

 

 墓地から蘇る2体の炎獣。

 これで防御も万全という事だ。

 

 やよい:手札1枚→0枚

 

「ターンエンドよ」

 

 やよい:ライフ10 手札0枚

 場:〈パグボンバー〉〈ヒポポボンバー〉

 

 なんとか耐え抜いた速水だけど……ピンチなのには変わりない。

 まず母さんの場には【爆炎】を使えるモンスターが2体。これらを倒せば、速水は負ける。

 かといって防御を固めるだけでもダメだ。次の母さんのターンで、攻撃されて負ける。

 

 速水が勝つには、このターンで勝負を決めるしかない。

 

「俺のターン……」

 

 さぁ、速水のデッキはどう応える!

 

「スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 速水:手札1枚→2枚

 

「よし! メインフェイズ。俺は魔法カード〈エレメンタルポーション〉を発動!」

 

 まずは回復カードか。

 

「墓地から系統:〈元素〉を持つカード〈ウォーターエレメント〉〈緊急合成〉〈ウォータープレシオン〉の3枚をデッキに戻して、ライフを3点回復!」

 

 速水:ライフ1→4

 

 ライフは少し回復できたけど、手札は残り1枚。

 あの手札に全てがかかっているぞ。

 

「俺は魔法カード〈逆転の一手!〉を発動! このカードは自分のライフが4以下の場合にのみ発動できる!」

 

 おっ、あれは俺が速水に教えたカードだ。

 

「手札が3枚になるようにデッキからドローできる。俺の手札は0枚、よって3枚ドローします!」

 

 速水:手札0枚→3枚

 

 勢いよくドローする速水。

 恐らくこれが最後のドローだ。

 このドローに全てがかかっている。

 速水は恐る恐る、ドローしたカードを確認した。

 

「……そうか、応えてくれたのか。俺のデッキ!」

 

 どうやら、勝ち筋が見えたらしい。

 速水の目に光が灯っている。

 

「まずは、手札の魔法カード〈シーエレメント〉と〈エアロエレメント〉を【合成】!」

 

 水と風の元素が混ざり合い、速水の場に新たなモンスターを作り出す。

 

「合成召喚! 現れろ〈タイフーン・ブラキオ〉!」

 

 速水の場に召喚されたのは、竜巻を纏った首長竜。

 あいつの召喚時効果は強力だぞ。

 

〈タイフーン・ブラキオ〉P10000 ヒット2

 

「〈タイフーン・ブラキオ〉の召喚時効果発動! 相手の場のモンスターを全て疲労させる!」

 

 ブラキオの起こした風に押しつぶされて、母さんの炎獣2体は疲労状態となってしまった。

 これで母さんの場にはブロッカーがいない。

 

「ブロッカーはいなくなりました……だけど」

「あぁ、速水の〈タイフーン・ブラキオ〉じゃ、母さんのライフを削り切れない」

「でも速水くん、全然諦めてないです」

「そうだな……多分、あの最後の手札に何かある」

 

 速水は最後に残った1枚の手札に目線を落としている。

 そして軽く深呼吸をすると、覚悟を決めたように顔を見上げた。

 

「いきます!」

「男の子って元気ね~」

 

 速水は仮想モニターに1枚のカードを投げ入れた。

 

「進化条件は【合成】によって召喚されたモンスターであること。俺は合成召喚された〈タイフーン・ブラキオ〉を進化!」

 

 タイフーンブラキオが巨大な魔法陣に飲み込まれていく。

 

「火炎の闘志と流水の知識。今こそ交じりあいて、革命の狼煙を上げろ! 進化召喚!」

 

 魔法陣が弾け飛び、巨大な蒸気機関の心臓が出現する。

 その心臓を中心に、無数の炎と水が集まり、新たな身体を構成していった。

 生まれるのは蒸気。鉄の外皮を新たに得て、元素の竜王が降臨した。

 

「現れろ! 〈【蒸気竜王(じょうきりゅうおう)】スチームパンク・ドラゴン〉!」

『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

〈【蒸気竜王】スチームパンク・ドラゴン〉P13000 ヒット3

 

 新たなSRカードの登場に、ギャラリーが盛り上がる。

 盛り上がるのは当然、俺達もだ。

 

「ツルギくん、見てください! アレ!」

「あぁ! 速水のやつ、引き当てやがった!」

 

「あら~、なんだか強そうなドラゴンさんね」

 

 母さん、強そうじゃなくて、そのドラゴン強いんだよ。

 

「アタックフェイズ! いきます!」

 

 さぁ速水、見せてやれ。

 お前の新しい切り札の性能を!

 

「〈スチームパンク・ドラゴン〉で攻撃! そしてこの瞬間、〈スチームパンク・ドラゴン〉の効果発動!」

 

「どんな効果なんでしょう?」

「見てれば分かるさ。強い能力だから」

 

「このカードの攻撃時、自分の墓地に存在する系統:〈元素〉を持つ魔法カード1枚を選択し、その効果を発動する!」

 

 そうこれがスチームパンク・ドラゴンの効果。

 墓地の魔法をコピーするのも強力だけど、何故かコピーした魔法カードが墓地におかれたままなんだよ!

 そして、今の速水の墓地にはたしか……

 

「俺は墓地の魔法カード〈グランドエレメント〉の効果をコピーして発動! 〈グランドエレメント〉は、自分の場の系統:〈元素〉を持つモンスター1体のヒットを2上げる!」

 

 その代わりにライフを2点失うけどな。

 

 速水:ライフ4→2

〈【蒸気竜王】スチームパンク・ドラゴン〉ヒット3→5

 

 今の母さんにブロッカーはいない。

 しかも手札は0枚だ。

 

「いけ! 〈スチームパンク・ドラゴン〉!」

「うーん、ライフで受けるわ」

 

 スチームパンク・ドラゴンの放った蒸気が、母さんを包み込んでダメージとなる。

 

 やよい:ライフ10→5

 

「お母さんのライフは半分。でももう速水くんの場には〈ダイヤモンド・パキケファロ〉しか」

「いや、大丈夫だ。速水が勝った」

「えっ?」

 

 そう、速水の勝ちだ。

 何故なら〈スチームパンク・ドラゴン〉は……

 

「〈スチームパンク・ドラゴン〉は【2回攻撃】を持っています」

「あらあら~、それは防げないわね~」

「はい。これで終わりです! いけ! 〈スチームパンク・ドラゴン〉!」

『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

 咆哮を上げるスチームパンク・ドラゴン。

 もうこの攻撃は止まらない。

 

「……ライフで受けるわ」

 

 スチームパンク・ドラゴンの吐いた蒸気が、母さんのライフを削り切った。

 

 やよい:ライフ5→0

 速水:WIN

 

 ファイト終了のブザーが鳴り、立体映像が消えていく。

 俺とソラは速水の元へと駆け寄った。

 

「速水くん、すごかったです!」

「やるじゃんか速水」

「ありがとう。新しい切り札のおかげでなんとか勝てた」

 

 母さんもこちらに歩み寄ってくる。

 

「あらあら。お母さん負けちゃったわ~」

「まぁ母さんは手札悪かったしな」

「まて天川。あれで手札が悪かったのか?」

「母さんのデッキは後攻1kill率めっちゃ高いぞ」

 

 無言で顔を青ざめさせる速水。悪い事したかな?

 結局この日は俺とソラで速水の試運転に付き合い続けた。

 ちなみに母さんは周りの人にフリーファイトを挑んで練習をしていた。

 

 控えめに言って、母さんの方は地獄絵図でした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十六話:卯月のモテ期?

 季節は進んで、今11月。

 秋も終わりが見えて、肌寒さを感じてくるわけだけど。

 俺達チーム:ゼラニウムは絶賛受験勉強の詰めに入っていた。

 今日も俺の家に集まって受験勉強中。

 

「なぁ速水(はやみ)……英語教えて」

天川(てんかわ)、いい加減英語を克服しろ」

「ツルギ、本当に英語苦手なのね」

「神は二物を与えないって、きっとこの事なんですね」

 

 ソラさん。その言葉は俺の心に刺さります。

 だってサモンに関しては殆どチートみたいなもんだもん!

 

 俺達が机を囲んで勉強していると、インターホンが鳴った。

 

「誰か来たのか?」

 

 俺が玄関に行こうとすると、先に卯月(うづき)が駆けて行った。

 あぁなるほど。卯月の友達か。

 

「いらっしゃい」

「卯月ちゃんこんちゃー!」

「こんにちは卯月ちゃん」

 

 予想通りの来客。

 卯月の友達である(まい)ちゃんと智代(ちよ)ちゃんだ。

 さしずめ一緒に宿題する約束でもしたんだろう。

 ……卯月だけ学力高くね? 元は女子高生よ。

 

「ねぇお(にい)。テーブル半分使っていい?」

「あぁ俺は良いぞ」

 

 他の皆もOKを出してくれたので、合計7人で勉強を始めた。

 うーん、賑やかだな。

 

「天川せんせぇ、なにやってるのー?」

「英語とかいう悪魔の教科だよ、舞ちゃん」

 

 なぜ世界は言語を統一してくれないのか。理解に苦しむ。

 

「お兄、まだ英語苦手なの?」

「先生にも苦手なものってあるんだね」

「君らも来年にはこの悪魔に苦しむ事になるんだぞ、小学6年生よ」

 

 勉強が苦手らしい舞ちゃんは「ひゃー」と声を上げている。

 対する智代ちゃんは結構余裕顔だ。真面目に勉強しているんだろうな。

 卯月は……邪悪なドヤ顔を俺に向けている。

 

「お兄、そこスペル間違えてる」

「え?」

Sit(座る)じゃなくてShit(うんこ)になってる」

「クソったれ!」

「漏らしてるのはお兄の答えだけどね」

 

 これは恥ずかしいな。

 だが卯月よ、そんな間違いはこっそり教えてくれ。

 見てみろソラ達を。必死に笑いを堪えてるぞ!

 

「卯月ちゃん、英語得意なんだ」

「あぁ……うん、興味があって、自分で勉強した」

「卯月ちゃんすごいねー!」

 

 はぐらかすように答える卯月。

 まぁ英語は得意だろうよ、元英語科の女子高生。

 

「そういえば、妹ちゃんもやっぱりサモンは強いのかしら?」

 

 ふと、アイが疑問を口にする。

 そういえばアイは卯月のファイト見た事ないんだったな。

 あとソラ、露骨に震えてるんですが……そんなにトラウマなのか?

 

「卯月ちゃんはねー! すっごく強いんだよー!」

「卯月ちゃんが負けてるところなんて、一度も見たことないもん」

「ちょ! 舞、智代」

 

 顔を赤らめる卯月。これは相当暴れたな。

 

「兄として是非とも聞きたいな。妹の武勇伝」

「お兄! 余計なこと言わないで」

 

 お前も色々暴露されてしまえ。

 

「卯月ちゃんはいつも冷静にファイトをしてて、誰にも負けない強い子なんですよ」

「意地悪な子もいじめっ子もみーんなデッキ破壊するの!」

「……流石はツルギの妹ね……デッキ破壊」

 

 アイが露骨に引いている。

 そんなに恐ろしいか? デッキ破壊。

 

「卯月ちゃんはクールでかっこよくて。みんなの人気者なんです」

「ふたつ名? ってのもついたんだよー!」

「舞ちゃん、それ詳しく教えて」

 

 俺は必死に笑いを堪えながら、掘り下げる。

 だって二つ名よ二つ名。聞きたいに決まってるじゃん。

 

「舞、智代……流石にその辺で」

「卯月ちゃんのふたつ名はねー!」

蛇姫(へびひめ)っていうんです。蛇姫の卯月ちゃん」

 

 俺は盛大に吹き出した。

 これは我慢できんわ!

 

「蛇姫! いいじゃないか! カッコいい二つ名じゃんか!」

「笑うなお兄!」

 

 顔を真っ赤にして抗議する卯月。

 だが残念。俺は笑うぞ。

 その厨二感が凄まじい二つ名を笑い飛ばして、リベンジ決めてやるぞ!

 

 なお数秒後、俺の顔面には卯月の拳がめり込んでいた。

 

「大変申し訳ありませんでした。卯月様」

「わかればよろしい」

「ツルギくん、それ大丈夫なんですか? 目と鼻が見えなくなってますけど」

 

 大丈夫だ。どうせ数秒後には元に戻る。

 

「それにしても、蛇姫たぁ……大層な名前がついたな卯月」

「好きでつけられたわけじゃない」

「でも卯月ちゃん満更でもなさそうだけどね〜」

「智代!」

 

 うーん、流石は俺の妹。

 否定はしないか。

 

「いいなぁ二つ名。俺も欲しいよ」

「「「えっ?」」」

「え?」

 

 ゼラニウムの皆様、なんでそんな声出すの?

 

「ツルギくん、二つ名は色々ありますよね?」

「まさか知らなかったのか?」

「ツルギなら二つ名くらいついてるでしょ」

 

 待って、俺に二つ名とか初耳なんですけど。

 教えて教えて!

 

「殺戮兵器とか皆殺しとか」

「無慈悲とかキュップイ殺しもあるな」

「ツルギを表現する見事な言葉の数々ね」

「カッコよさが皆無じゃねーか!!!」

 

 なんだよその二つ名!

 恐怖心しか与えてないじゃないか!

 心当たりは……めっちゃあるけどさぁ!

 

「ププッ。お兄にはちょうどいいんじゃない?」

「笑うな卯月」

 

 兄は傷心だぞ。

 

「卯月ちゃんもせんせぇも暴れん坊だー!」

「舞、アタシとお兄を一緒にしないで」

「卯月ちゃん……十分暴れん坊だと思うよ」

 

 智代ちゃんが困り顔でそう言う。

 うーむ、ちょっと暴れすぎたかな。

 

「あとねせんせぇ! 卯月ちゃんはすっごくモテるんだよー!」

「なんですと?」

 

 それは聞き捨てならんな。

 俺は卯月の妨害を突破して、舞ちゃん智代ちゃんから話を聞く。

 

「卯月ちゃんサモンがすごく強くて、大人っぽいから、男の子からすごくモテるんです」

「最近いっつも告白されてるよー!」

 

 うーん、この流れには覚えがあるぞ。

 俺もサモンで大暴れしてたら女子から告白されたし。

 ……正確には告白サモンファイトなんだけど。

 俺普通に勝ったら、女子泣きながら去っていくなぁ。

 なんか最近はそういうの無くなったけど、なんでだろう?

 

「卯月ちゃん、告白サモンファイトでも容赦がなくて……」

「みーんなデッキ破壊しちゃってるよー!」

「卯月……お前」

「仕方ないじゃん。ガキっぽい男子しか来ないんだし」

 

 わーお、思春期女子のセリフ。

 負けた男子には数秒だけ同情してやろう。

 だがその後は俺がしばく。

 

「そういえば卯月ちゃん、昨日も告白されてたよね」

「いつものやつー?」

「あぁうん。あのしつこい奴ね」

 

 おやぁ? 何やら不穏なものが聞こえたぞ〜?

 

「卯月〜、しつこい虫がついてるのか?」

「ツルギくん、なんだか笑顔が怖くなってますよ」

 

 ソラさん。これが兄心です。

 

「せんせぇ! クラスメイトの半蔵(はんぞう)くんが卯月ちゃんにつきまとってまーす!」

「ほう、それがターゲットの名前か」

「先生? 顔が怖いです」

 

 覚えたぞ、半蔵だな。

 俺が始末しに行こう。

 

「お兄、余計な事しないでよね」

「いやいや。俺は卯月を思って」

「動くな。馬鹿兄」

「はい」

 

 でも無限ループするくらいは許してくれよ。

 

「半蔵くんって、昨日で何回目の告白だっけ?」

「5回目。全部潰してきたけど」

「卯月ちゃんさっすがー!」

 

 顔も知らぬ半蔵とかいう小僧よ。5回も負けたなら諦めろ。

 次は兄が直々に潰すぞ。

 

「卯月ちゃん、モテるんですね」

「兄としては複雑だけどな」

「ツルギはどうなの? あれだけ強いんだからモテるでしょう?」

「それがなアイ。意外とそうでもないんだ。最初の方は女子が告白しに来たけど、最近は何もない」

 

 本当になんでなんだろう?

 もしかして俺が不細工なのか?

 なんか悲しいなぁ。

 

赤翼(あかばね)……お前」

「ナンノコトデスカ? ワタシハナニモシリマセンヨ」

 

 ソラは何故か片言になっている。

 まぁそれはともかくとしてだ。

 卯月が2度目の小学校生活を満喫しているようで、兄はすごく安心した。

 

 さて、そろそろ勉強の続きしようか。

 いい加減この英語とかいう悪魔を倒さなくてはいけない。

 そう思って問題集のページをめくろうとした瞬間であった。

 

『蛇姫さーん!』

 

 なんか外が騒がしい。

 というか……

 

「卯月、なんか呼ばれてないか?」

「気のせいじゃない?」

 

『卯月さーん!』

 

「卯月。間違いなくお前だぞ」

「チッ」

 

 うーん、露骨に舌打ち。

 もう誰が来たか予想できたぞ〜。

 忌々しそうな顔を隠すこともせず、卯月は玄関に向かって歩いて行った。

 俺も心配なのでついていく。

 

「卯月さぁぁぁぁぁぁん!!!」

「うるさい!」

 

 玄関を開けるや、卯月はまずそう叫んだ。

 家の前には身なりの良い黒髪の……小学生。

 後ろには高そうな黒塗りの車もある。

 うーん、ボンボンの香りがする。

 

「卯月さん! ボクと付き合ってくれ!」

「冗談は顔だけにして」

 

 我が妹よ、カウンターが強烈過ぎるぞ。

 あとアイツそんなに不細工じゃないぞ。

 

「あー! やっぱり半蔵くんだー!」

 

 後ろから舞ちゃんが叫ぶ。

 なんだと? つまりあの小僧が。

 

「卯月、アイツが例の男か」

「うん。財前(ざいぜん)半蔵っていうクソ野郎」

 

 気のせいかな? なんか聞き覚えがある苗字な気がする。

 

「お前がウチの妹に付き纏ってる男子か」

「初めましてお義兄(にい)様。財前半蔵と申します」

「貴様にお義兄様と呼ばれる筋合いは無い!!!」

「何やってんのお兄」

 

 ジト目で俺を睨む卯月。

 だってこのセリフ、一度言ってみたかったんだもん。

 

「卯月さん。今日こそボクと付き合ってもらうよ」

「無理」

「じゃあこうしよう。サモンファイトでボクが勝てば、付き合ってくれるという事で」

 

 そう言って半蔵は召喚器を取り出す。

 懲りない男だな。

 だがこういう野郎にはお灸必要だ。

 

「よーし。そのファイト俺がやってやろう。妹が欲しけりゃ兄を倒せ」

「お兄、下がってて」

「いやここは」

「アタシが始末するから、お兄は手を出さないで」

 

 卯月の目に殺意が宿っている。

 俺は大人しく下がることにした。だって怖いもん。

 

「アタシが勝ったら、もうウチにまで押しかけてこないで」

「いいだろう。今日は兄様からデッキを借りてきたんだ。必ず勝つ!」

「近くに公園があるから……そこで始末する」

 

 そう言うと卯月は召喚器片手に、公園へと歩いて行った。

 舞ちゃんと智代ちゃんも心配なのか、後ろついて行く。

 うーん、これは……

 

「なぁみんな、息抜きしようぜ。どうせすぐ終わるから」

「そうだな。そろそろ休憩必要な時間だ」

「私は……ツルギくんが行くなら」

「私は妹ちゃんのファイトに興味があるわ」

 

 よし、交渉成立だな。

 俺達は準備をして、近所の公園へと向かうのだった。

 

 どうでもいいけど、誰も卯月が負ける可能性を考えてなかったな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十七話:デッキ破壊封印!?

 近所の公園に移動した俺達。

 卯月と半蔵は既に召喚器を向かい合わせていた。

 

「「ターゲットロック!」」

 

 二台の召喚器が無線接続する。

 というか卯月の苛々が滅茶苦茶伝わってくるんだが。

 これは早々に終わらされるかもしれないな。

 

「ふふふ。今日こそボクのものになってもらうよ」

「とりあえずその口閉じてくれない? 耳障りなの」

「ボクはツンデレも大好きさぁ!」

「黙れ」

 

 あの半蔵とかいう小僧、ポジティブが明後日の方向に飛んでいるな。

 なんか気に入らないから早々にデッキ破壊してもらおう。

 

「やっちゃえ卯月ちゃーん!」

「ストーカーに屈しちゃダメ!」

 

 舞ちゃんと智代ちゃんも声援を送ってる。

 ここは兄もエールを送ろうではないか。

 

「卯月ー! そんな馬の骨、さっさとデッキアウトしちまえー!」

「お兄は黙ってて」

 

 酷い塩対応だ。兄は泣くぞ。

 

「さぁ、始めようか」

「速攻で壊してあげる」

 

 二人が初期手札5枚を手に取った。

 

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 コンピューターが先攻後攻を決める。

 先攻は半蔵だな。

 

「ボクのターン! スタートフェイズ。メインフェイズ!」

 

 そういえば借りてきたデッキとか言ってたけど。

 どんなデッキで挑む気なんだ?

 

「ボクは〈ディフェンダー・コング〉を召喚!」

 

 半蔵の場に、機械で出来たゴリラが召喚される。

 あぁ……どうりで苗字に覚えがあるはずだ。

 

〈ディフェンダー・コング〉P8000 ヒット0

 

「財前ってアレか。東校のチンピラのボスやってた奴」

「そういえばそんな男もいたな」

「ツルギくんのチュートリアル相手でしたっけ?」

 

 ようやく思い出した。

 余談だけど東校から奪われたものは、あの後ちゃーんと俺が殴り込みにいって全部回収しきった。

 略奪なんでダメ、絶対。

 

「続けてボクは、デッキを上から8枚除外して〈ディフェンダー・マンモス〉を召喚だ!」

 

 デッキを犠牲に召喚されたのは、巨大な機械のマンモス。

 うん。君相手がデッキ破壊だってわかってるよね?

 なんでそんなカード使ったんだ?

 

〈ディフェンダー・マンモス〉P10000 ヒット0

 

「更に! 召喚コストで除外された〈ギフトキャリアー〉の効果発動! デッキからカードを1枚ドローする」

 

 半蔵:手札3枚→4枚

 

 あーあー、またデッキ削ってるよ。

 そりゃ卯月に負けますわ。

 というか兄の方が強いんじゃねーの?

 

「ボクはこれでターンエンドだ」

 

 半蔵:ライフ10 手札4枚

 場:〈ディフェンダー・コング〉〈ディフェンダー・マンモス〉

 

 ヘイ小僧よ。自信満々にターンエンドしてるけど、そんなブロッカー程度で卯月は止められないぞ。

 

「アタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 卯月:手札5枚→6枚

 

 さぁ卯月よ。やっておしまいなさい。

 

「メインフェイズ。アタシは〈ナーガウィザード〉と〈ポイズンサーペント〉を召喚」

 

 卯月の場に召喚されたのは2体の蛇。

 さぁ始まるそ。卯月のデッキ破壊が。

 

「〈ポイズンサーペント〉の召喚時効果、【溶解:3】を発動」

 

 【溶解】の効果で半蔵のデッキが上から墓地に送られる。

 更にナーガウィザードの効果によって、破棄枚数は1枚プラスの合計4枚だ。

 

「ふふふ」

 

 デッキ破壊を受けても、半蔵は不敵な笑みを浮かべるばかり。

 デッキ破壊を食らいすぎて、おかしくなってるのか?

 

「半蔵、気持ち悪い」

「何度でも言ってくれたまえ」

「やっぱ早急に始末する。アタシはライフを1点払って〈ナーガナイト〉を召喚」

 

 卯月の場に召喚された3体目の蛇竜。

 それは騎士の装備をした蛇であった。剣も持っている。

 

〈ナーガナイト〉P5000 ヒット1

 

「アタックフェイズ。〈ナーガナイト〉で攻撃」

 

 剣に自分の毒を吹きかけるナーガナイト。

 アイツの能力は攻撃時に発動する。

 

「攻撃時効果【溶解:3】を発動。〈ナーガウィザード〉の効果も合わせて、デッキを上から4枚破棄」

 

 毒を含んだ斬撃が、半蔵のデッキに襲い掛かる。

 だが半蔵は余裕顔だ。不気味にさえ感じる。

 4枚のカードが半蔵のデッキから墓地に送られ……

 

「っ! おいちょっと待て!」

 

 今ヤベェカードが見えた気がしたぞ!

 半蔵の笑みも露骨なものになっている。

 これは……間違いない。

 

「ハーハッハ! ボクはこの瞬間、デッキから墓地に送られた魔法カード〈ブレインリセット〉の効果を発動!」

「そのカードって……たしか」

 

 卯月も露骨に嫌な顔をする。

 それは俺も同じだったが、他の面々はわかっていないようだった。

 

「ツルギくん、あの魔法カードを知ってるんですか?」

「知ってる。ある意味最悪のカードだ」

 

 俺はソラに「見てればわかる」と言っておく。

 

「〈ブレインリセット〉がデッキから墓地に送られた時! 〈ブレインリセット〉を含む僕の墓地に存在するカードは全てデッキに戻る!」

 

 半蔵の墓地のカードは全てデッキに戻り、シャッフルされる。

 その光景を見た舞ちゃんと智代ちゃんは驚愕の声を上げた。

 

「えっ!? 魔法カードも戻っちゃったよ!?」

「これじゃあ卯月ちゃんのデッキ破壊は」

「あぁ。完全に封印された」

 

 俺が最悪のカードと表現した理由を、ようやくソラや速水も理解したようだ。

 アイも露骨に嫌な顔をしている。

 

「あの半蔵とかいうガキ、やりやがったな」

「告白ファイトでピンポイントメタカードを使うのって……流石に」

「男の俺でも引くな」

「私なら今頃ビンタしてるわね」

 

 メタカードを悪いとは言わないけど……この状況で使うのは流石に引く。

 卯月も完全に呆れた顔で半蔵を見ていた。

 うん。告白ファイトでピンポイントメタカードを使う男なんて、お兄ちゃんは許しませんよ!

 

「はぁ……呆れた」

「勝者が正義だと、兄様から教えられてるんでね。その攻撃は〈ディフェンダー・コング〉でブロックだ」

 

 メカゴリラの拳に潰されて、爆散するナーガナイト。

 蛇竜のモンスターは基本的にパワーが高くないのが弱点なんだよな。

 

「ブロックで相手モンスターを破壊した事で〈ディフェンダー・コング〉は回復する」

「……ターンエンド」

 

 卯月:ライフ9 手札3枚

 場:〈ポイズンサーペント〉〈ナーガウィザード〉

 

 俺の近くで舞ちゃんと智代ちゃんが不安そうな表情を浮かべている。

 

「せんせぇ! 卯月ちゃん負けちゃうかも」

「デッキ破壊ができないと、卯月ちゃんなにもできないよ」

「大丈夫だって」

「本当に大丈夫なんですか?」

 

 ソラも聞いてくる。だが俺の答えは変わらない。

 

「大丈夫だよ……卯月は俺の妹だぞ?」

「ツルギが言うと、説得力がスゴいわね」

 

 なんか引っかかるが、まぁいいだろう。

 実際卯月は諦めている様子は無い。

 どちらかと言うと、心底面倒くさそうなだけだ。

 

「舞ちゃんと智代ちゃんも、静かに卯月を見守ってくれ」

「せんせぇ」

「でも……」

「大丈夫だ。見てれば分かる」

 

 そう、見てれば卯月が諦めない理由が分かる。

 デッキ破壊なんてメタが容易に思い浮かぶ戦法を使う卯月だ、メタのメタを想定していないわけがない。

 

「もしかしたら初お披露目になるかもな……」

 

 卯月のプランB……2枚目の切り札が。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十八話:【蛇影竜帝】ミドガルズ・オロチドラゴン

 心底面倒くさそうにプランBに切り替えている卯月。

 そうとは知らず、半蔵(はんぞう)はウキウキでターンを迎える。

 

「ボクのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 半蔵:手札4枚→5枚

 

 ドローしたカードを確認した半蔵は目を輝かせた。

 切り札でも引いたんだろう。

 

「キタぁぁぁ! 兄様の切り札ぁぁぁ!」

 

 借り物の切り札で大興奮の半蔵。

 まだまだ半人前の小僧だな!

 

「メインフェイズ! ボクは〈ディフェンダー・マンモス〉を進化!」

 

 機械のマンモスは巨大な魔法陣に飲み込まれていく。

 あぁ、この流れ前にも見たわ。

 

「進化召喚! 出でよ〈【重装将軍(じゅうそうしょうぐん)】アヴァランチ〉!」

 

 魔法陣を砕き、大地から巨大な人型ロボットが姿を現した。

 久々に見たな、アヴァランチ。

 

〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000 ヒット4

 

 見るからに強そうなSRカードの登場。

 しかしギャラリーの反応はドライであった。

 多分何度も登場してるんだろうなぁ……主に財前兄が使ってさ。

 まぁ見慣れていないであろう舞ちゃんと智代ちゃんは少し驚いてるけど。

 

「せんせぇ! なんか強そうなの出てきた!」

「大丈夫。あれは脳筋の鉄くずだ」

 

 見てみろ卯月を。もう感情すら消えた表情をしているぞ。

 

「ボクの快進撃は止まらない!」

「はいはい」

「ボクは魔法カード〈ギャンビットドロー〉を発動! 場の〈ディフェンダー・コング〉を破壊して、デッキから2枚ドローだ!」

 

 半蔵:手札3枚→5枚

 

「続けてボクは〈メカゴブリン〉と〈ギアバーサーカー〉を召喚!」

 

 半蔵の場に召喚されたのは、機械のゴブリンと機械の鬼。

 どちらも放っておくと厄介なモンスターだ。

 というか【機械】デッキ特有の攻撃的な布陣が完成してしまっているな。

 

「アタックフェイズ! この瞬間〈アヴァランチ〉の効果発動! 手札を1枚捨てる事で、ボクの場の系統:〈機械〉を持つモンスターは全て【オーバーロード】状態になる!」

 

 出たな脳筋効果! だがその程度でウチの妹を倒そうなどとは思うなよ!

 

 半蔵:手札3枚→2枚

〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000→P30000 ヒット4→8

〈メカゴブリン〉P6000→P12000  ヒット1→2

〈ギアバーサーカー〉P5000→P10000 ヒット1→2

 

 大幅なパワー強化とヒット上昇。

 流石にこれを見た小学生2人とアイは驚いていた。

 まぁ俺やソラはもう見たことある光景なんだけどな。

 

「行けぇ〈メカゴブリン〉で攻撃だ! 更に〈ギアバーサーカー〉の効果発動! 相手は必ずボクの機械モンスターの攻撃をブロックしなくてはならない!」

「面倒くさ……〈ポイズンサーペント〉でブロック」

 

 強化されたメカゴブリンの攻撃を食らったポイズンサーペント。

 無残にも破壊されてしまう。

 だがこれでは終わらない。

 

「この瞬間〈メカゴブリン〉の効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊したことで、相手に2点のダメージを与える!」

 

 卯月:ライフ9→7

 

 メカゴブリンのバーン効果を受けた卯月だが、まだ余裕そうだ。

 問題は次の攻撃だな。

 

「残りライフを全部削ってあげるよぉ! 〈アヴァランチ〉で攻撃だぁ!」

 

 大槍を持って襲い掛かるアヴァランチ。

 現在アヴァランチのヒットは8で卯月のライフは7。

 更にアヴァランチには【貫通】の効果がある。

 このままブロックすれば卯月の負けだが……どすする?

 

「はぁ……魔法カード〈槍砕き!〉を発動」

 

 卯月が1枚のカードを仮想モニターに投げ入れると、アヴァランチの大槍は粉々に砕けてしまった。

 

「〈槍砕き!〉の効果で、このターンアタシは【貫通】ではダメージを受けない」

「なんだって!?」

「だからさ、その粗末な槍さっさとしまってくれる?」

 

 卯月さんや、それは一部のマニアに興奮されるセリフだからオススメはしないぞ。

 見ろ半蔵を! 顔を赤らめているじゃないか!

 あんな変態、お兄ちゃんは認めませんからね!

 

「くっ! だけど強制ブロックは有効だー!」

「じゃあ〈ナーガウィザード〉でブロック」

 

 普通にアヴァランチの拳に潰されるナーガウィザード。

 だがダメージは発生しない。

 

「〈ギアバーサーカー〉続けぇ!」

「ライフで受ける」

 

 卯月:ライフ7→5

 

 うん。とりあえずこのターンは上手く凌いだな。

 半蔵は決めきれなかったせいか、心底悔しそうだ。

 

「ターンエンド!」

 

 半蔵:ライフ10 手札2枚

 場:〈【重装将軍】アヴァランチ〉〈メカゴブリン〉〈ギアバーサーカー〉

 

 さてさて。ターンは回って来たけど、卯月のピンチに変わりはない。

 プランBをしようにも、今の卯月は進化条件をそもそも満たしていない。

 この状況をどうやって切り抜けるのか、見せてもらおうか我が妹よ!

 

「アタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 卯月:手札2枚→3枚

 

「メインフェイズ。魔法カード〈リセットドロー〉を発動」

 

 なるほど。そのカードを使うのか。

 

「このカードの効果で、お互いに手札を全て捨てて、その後捨てた枚数+1枚だけデッキからドローをする」

「それだとボクの手札が増えちゃうけど?」

「問題ない。別に興味ないから」

 

 卯月と半蔵はお互いに手札を捨てて、カードをドローした。

 

 卯月手札0枚→3枚

 半蔵:手札2枚→3枚

 

 ドローしたカードを確認する卯月。

 小さく頷いたのを見た俺は、卯月の墓地の枚数を確認した。

 

 卯月:墓地6枚

 

 なるほどねぇ。

 

「アタシは魔法カード〈ザ・ナーガゲート〉を発動。コストでデッキを上から5枚墓地に送る」

 

 卯月:墓地6枚→11枚

 

「〈ザ・ナーガゲート〉の効果で、デッキから系統:〈蛇竜(じゃりゅう)〉を持つモンスター〈バリアスネーク〉を手札に加える」

 

 ここであのカードを手札に加えなかった……ということは卯月、もう手札に持ってるな?

 

「〈トラップスネーク〉を召喚」

 

 1体の小さな蛇が召喚される。

 だがそれ自体が戦うことは無い。

 あの蛇は、進化素材だ。

 

「進化条件は、墓地にカードが10枚以上あるプレイヤーが存在すること!」

 

 卯月は1枚のカードを、仮想モニターに投げ込んだ。

 

「アタシは系統:〈蛇竜〉を持つモンスター〈トラップスネーク〉を進化!」

 

 トラップスネークの身体が黒い魔法陣に飲み込まれていく。

 

「影の国より来りて、咎人を牢獄に堕とせ! 蛇竜の帝!」

 

 魔法陣が弾け飛び、中から巨大な蛇の皇帝が姿を見せた。

 

「進化召喚! 来て〈【蛇影竜帝(じゃえいりゅうてい)】ミドガルズ・オロチドラゴン〉!」

 

 戦場に君臨したのは、八つの首を持つ蛇の皇帝。

 黒い鱗が邪悪さ演出している。

 しかし問題はそのステータスだ。

 

〈【蛇影竜帝】ミドガルズ・オロチドラゴン〉P9000 ヒット0

 

「「「えっ?」」」

 

 小学生3人が素っ頓狂な声を上げる。

 まぁ無理もない。ミドガルズ・オロチドラゴンのパワーは高くない。

 ヒットに至っては0だ。

 とても【機械】デッキに対抗できるカードには見えない。

 

「卯月ちゃん! そのカードで本当に勝てるの!?」

「大丈夫。これSRだし」

「大丈夫だよ智代ちゃん。あれ強いから」

 

 俺が言うと納得したのか、とりあえず静かになる智代ちゃん。

 そして半蔵とかいう小僧よ。ここからがお前の地獄だ。

 

「ターンエンド」

 

 卯月:ライフ5 手札1枚

 場:〈【蛇影竜帝】ミドガルズ・オロチドラゴン〉

 

 攻撃など何もせずにターンを終える卯月。

 一見すると勝負を投げたようにも見えるかもだが……あれで正解だ。

 余計な攻撃は、するものじゃない。

 

「ふふふ。どうやらようやくボクのお嫁さんになる気になったみたいだね」

「寝言は死んでから言って」

「照れないでくれ。ボクが一瞬で終わらせるから」

 

 何度も言うが、あの半蔵とかいう小僧のポジティブが気持ち悪い。

 

「ボクのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 半蔵:手札3枚→4枚

 

「メインフェイズ! まずはそのSRカードから消えてもらおうか! 魔法カード〈斬撃歯車!〉を発動!」

 

 巨大な歯車が、高速回転しながらオロチドラゴンに放たれる。

 

「自分の場に系統:〈機械〉を持つモンスターが存在する時、このカードは相手モンスター1体を破壊する事ができる!」

 

 歯車は急接近し、オロチドラゴンの首を切り裂く……ことは無かった。

 まるで影のように、オロチドラゴンの身体を歯車はすり抜けていく。

 それを見た半蔵は「えっ!」と声を上げた。

 

「〈ミドガルズ・オロチドラゴン〉の効果発動。このカードが相手によって破壊される場合、代わりに【溶解:8】を行う」

「は、破壊を防いだだけじゃなく、8枚もデッキ破壊だと!?」

 

 オロチドラゴンが口の中に毒液を溜め始める。

 これをぶつける事で、デッキを破壊するのだ。

 だがここで舞ちゃんが声を上げる。

 

「ダメだよ卯月ちゃん! 半蔵はデッキ破壊を無効にするカードをもってるんだよ!」

「そっそうだ。どんなデッキ破壊が来ても、ボクの敵じゃない!」

 

 なんとか自信を取り戻して、偉そうに叫ぶ半蔵。

 だが残念だな。もうお前がどうこうできる領域は終わってるんだよ。

 

「なに勘違いしてるの?」

「ひょ?」

「誰がアンタのデッキを破壊するって言ったの?」

「いやいや、そもそも【溶解】は相手のデッキを破壊する能力」

「〈ミドガルズ・オロチドラゴン〉の効果。このカードが場に存在する限り、アタシが発動した【溶解】は、アタシのデッキを破壊する」

 

 自分のデッキを破壊する。

 その言葉が聞こえた瞬間、小学生組だけではなく、ソラ達も驚いた。

 

「えっ、自分のデッキって破壊して大丈夫なんですか!?」

「大丈夫じゃないな」

「じゃあなんで卯月ちゃんは」

「まぁ見てなって。めっちゃ驚く事になるから」

 

 俺はとりあえずソラの視線を戦っている2人に戻す。

 

「自分からまけてくれるのか……そんなにボクの魅力に気づいたのかい?」

「吐き気がする」

「照れるなって。ならお望み通り、デッキアウトで負けさせてあげるよ!」

 

 ウッキウキだな半蔵よ。

 ちなみに卯月のデッキは……残り16枚か。

 

「アタックフェイズ! 〈アヴァランチ〉の効果発動! 全員【オーバーロード】だぁ!」

 

 半蔵::手札2枚→1枚

〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000→P30000 ヒット4→8

〈メカゴブリン〉P6000→P12000  ヒット1→2

〈ギアバーサーカー〉P5000→P10000 ヒット1→2

 

「行けぇ! 〈アヴァランチ〉で攻撃だぁ!」

「その瞬間。手札から〈バリアスネーク〉の効果を発動!」

「手札から発動するモンスター効果だと!?」

 

 驚く半蔵。あぁ、そういえばまだ珍しい時代だったな。

 

「自分のライフが5以下で、相手モンスターが攻撃した時、このカードを召喚できる」

 

 卯月の場に、首からバリアを展開した蛇が召喚された。

 

〈バリアスネーク〉P1000 ヒット0

 

 勿論だが、召喚だけで終わるはずがない。

 

「〈バリアスネーク〉が効果で召喚された時、次にアタシが受けるダメージは0になる」

「なんだって! それじゃあ」

「【貫通】のダメージは受けない。更に追加効果で【溶解:4】を発動!」

 

 バリアスネークの毒が放たれるが……オロチドラゴンの効果で、破壊されるのは卯月のデッキだ。

 

 卯月:残りデッキ12枚

 

「で、その〈アヴァランチ〉の攻撃は〈ミドガルズ・オロチドラゴン〉でブロック」

 

 重装将軍が無数の武器をオロチドラゴンに投げつけるが、その全てがすり抜けてしまう。

 全て無駄に終わったように見えるが、オロチドラゴンの仕事はここからだ。

 

「破壊を無効にして【溶解:8】を発動」

 

 再び卯月のデッキが破壊される。

 

 卯月;残りデッキ4枚。

 

 遂に卯月のデッキも残り一桁となった。

 見な卯月のピンチを確信している。

 

「……せっかくだ。デッキアウトで負けさせてあげるよ。ターンエンドだ!」

 

 半蔵:ライフ10 手札0枚

 場:〈【重装将軍】アヴァランチ〉〈メカゴブリン〉〈ギアバーサーカー〉

 

 あーあ、余裕ぶってターンエンドしやがったよ。

 半蔵のライフは10、場は強力なモンスター3体。

 対して卯月はライフ5で、場にはオロチドラゴンとバリアスネークのみ。

 まぁ普通に考えればヤベー状況だな。卯月のデッキも4枚しかないし。

 

 問題は……次のドローだな。

 次に何を引くかで、全てが決まる。

 

「アタシのターン。スタートフェイズ。」

 

 卯月はデッキに手をかける。

 

「ドローフェイズ!」

 

 卯月:0枚→1枚

 

 ドローしたカードを確認した卯月は、小さく笑みを浮かべた。

 これは……終わるな。

 

「メインフェイズ。アタシは〈ポイズンサーペント〉を召喚」

 

 お馴染みの蛇が召喚される。

 勿論【溶解】持ちだ。

 

「〈ポイズンサーペント〉の召喚時効果、【溶解:3】を発動!」

 

 ポイズンサーペントの毒が、卯月のデッキを破壊する。

 最初のドローで1枚。そして今3枚を破壊された事で、卯月のデッキは……

 

 卯月:残りデッキ0枚

 

 デッキアウトだ。

 卯月を心底心配していた舞ちゃんと智代ちゃんは、悲しそうな顔になる。

 

「卯月ちゃん……」

「デッキアウトになっちゃった」

 

 ソラも俺の隣で泣きそうな顔になっている。

 

「……終わっちゃいましたね」

「あぁ。終わりだな……卯月の勝ちで」

「「「えっ?」」」

 

 まぁびっくりするだろうな。

 アレはそういうカードだ。

 俺は無言で卯月の場を指さす。

 

「見てればわかる」

 

 そんな俺の声が聞こえてないのか、半蔵は勝利を確信して高笑いをしていた。

 

「ハーッハッハ! これでデッキアウト! ボクの勝ちだぁ!」

「本当にそう思う?」

「次の君のスタートフェイズで、ボクの勝ち。それが事実だよ」

「じゃあ試してみる? アタシがわざわざ自分のデッキを破壊した意味を」

「なに?」

 

 卯月が不敵な笑みを浮かべている……というか目だけ笑ってない。

 完全にヤる奴の目つきだ。

 まぁこの後、半蔵とかいう小僧を始末するんだけどな。

 

「エンドフェイズ……」

「ボクのターンだね」

「違う。もうアンタのターンは来ない」

「ひょ?」

「この瞬間〈ミドガルズ・オロチドラゴン〉の専用能力【影牢(かげろう)】を発動!」

 

 瞬間、半蔵の足元に無数の黒い魔法陣が出現した。

 魔法陣から漆黒の影で出来た蛇の首が伸びてくる。

 

「エンドフェイズ開始時に、アタシのデッキが0枚なら……【影牢】の効果でアタシはゲームに勝利する」

「な、なんだってー!?」

 

 仰天する半蔵。

 それは他の者達も同様だった。

 まぁ珍しい能力だからね……特殊勝利ってやつはさ。

 

「あっ……あぁ、ボクが、負ける?」

 

 魔法陣から出現した蛇達は、一斉に半蔵に狙いを定める。

 もう逃げられない。というか半蔵視点だと怖いだろうな、アレ。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ。ボクがここで負けるなんて!」

「影の底で黙るって事を勉強してきて」

「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 泣き叫ぶ半蔵。だがもう容赦は無い。

 

「影の底、闇の中で反省しなさい! ワールドエンドシャドウ!」

「助けて兄様ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 影の蛇が一斉に半蔵に食らいつき、その全身影の塊に飲みこんでしまった。

 あぁ……流石に絵面が怖いな。

 みんな黙り込んでるし。

 

「あーあ、面倒くさかった」

 

 半蔵:効果により敗北。

 卯月:WIN

 

 ファイト終了のブザーが鳴り、立体映像が消えていく。

 実際に影に飲まれたわけでは無い半蔵だが……失禁しながら気絶していた。放置しておくか。どうせさっきの運転手が回収するだろう。

 それはそれとして。

 

「卯月ちゃーん!」

「卯月ちゃん!」

「ちょっ! 舞、智代、抱きつかないで!」

「だって負けちゃうかと思ったんだもーん!」

「そうだよー! 心配したんだからね!」

 

 卯月は友人2人に揉みくちゃにされている。

 まぁあっちはあっちに任せるか。

 女子小学生の対応は女子小学生が適任だ。

 で、俺はと言うと……

 

「な? 卯月勝っただろ」

「そ、そうですね……」

「流石は……天川の妹だな」

「お前らなんか引いてないか?」

 

 もしかして卯月を育てたの俺だと思ってる!?

 ……大正解だよ。

 

「ねぇツルギ」

「アイ」

「卯月ちゃんの嫁入りについて、真面目に考えた方が良いわよ」

「えっ、もしかして不味い?」

「男が逃げかねないわね」

 

 ……その案件は後回しにしよう!

 俺は少し現実から逃げながら、自宅に戻るのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十九話:クリスマスには運命の出会いを

 二学期の終業式も終わって、今日はクリスマス。

 街にはカップルが溢れかえる悪魔の行事です。

 サモン脳な世界でもクリスマスは変わらなかった! くそったれ!

 

 だが今年の俺はリア充だぞ。何故ならチームメイトが構ってくれるからだ!

 ……そう思ってた時期が、俺にもありました。

 速水(はやみ)は普通に受験勉強。

 ソラは外せない用事。

 アイはクリスマスパーティーと言う名の、うるさく言ってくる親戚をしばく会なんだとか。

 卯月(うづき)も今日は友達と家でクリスマス会。母さんは仕事。

 

 つまり俺は家を追い出されて、雪の降る中絶賛一人である!

 泣いていい?

 

 だがこうなったのも何かの運命。一流の男はどんな状況も楽しむものなのだ。

 というわけで俺は電車に乗って3駅ほど移動。

 年明けには入試を受けに行く町、赤土(あかど)町に来た。

 とは言っても別に高校の下見に行くわけではない。

 赤土町にはもう一つ見所があるのだ。

 

 駅から出て、俺は町を歩く。

 流石はクリスマス、人が多い。というかカップルが多い。

 あーあ、全員1killできねーかなー。

 まぁ半分冗談なんだけど。

 

 街頭テレビには、クリスマス特番が流れている。

 どれもこれもサモン関係ばかりだ。

 改めて異世界に転移したんだなという実感が湧いてくる。

 JMSカップではとうとうアニメのキャラクターに出会ったし。そろそろ主人公にも会えたりしてな。

 

「ん?」

 

 俺は何気なく見ていた街頭テレビに映ったニュースが気になった。

 

『サーガタワーで起きた爆発事故から今日で四年が経過しました』

 

 爆発事故? この世界ではそんな歴史があったのか。

 ちなみにサーガタワーというのは今日の目的地。

 高さ650メートル。UFコーポレーションが運営している、召喚器のマザーコンピューター兼電波塔だ。

 世界各地に召喚器用の電波塔はあるけど、ここ赤土町にあるやつが中核を担っている。

 

「アニメでも散々映ってたタワーだからな~、一回くらいじっくり見たいもんだよ」

 

 冷える手をポケットに入れてから、俺は目的地に向かって歩き出した。

 とは言っても、もう既に見えてるんだけどな。流石はデカいタワーだ。

 クリスマスらしいイルミネーションや曲を素通りして、俺は遂に目的地に着いた。

 

「おぉ、これがサーガタワー」

 

 現在タワーの足元にいるが、最上部は全く見えない。

 ここからサモンファイトに必要なデータが送信されているのだ。

 他にもサモン関係の研究所も兼ねているらしい。

 うーん、アニメの聖地巡礼に来た気分だ。感動的だな。

 

 そうやって俺が感動していると、何やら見覚えののある後ろ姿が目に入った。

 白い髪にちっさい身体。うん、間違いない。

 

「ソラじゃん」

「えっ、ツルギくん!?」

 

 声をかけたら滅茶苦茶驚かれた。

 俺そんなに怖いか?

 

「というかソラ、今日は用事があったんじゃ」

「……はい。ここに用があったんです」

 

 少し暗い雰囲気で、ソラはサーガタワーを見上げる。

 ふと、俺の脳裏には先程のニュースが浮かんでいた。

 

「私のお父さん、ここで亡くなったんです」

「もしかして……四年前の爆発事故か?」

 

 頷くソラ。なるほどな、今日が命日だったわけか。

 ソラは召喚器から1枚のカードを取り出す。

 エオストーレのカードだ。

 

「爆発事故……と言っていいのか、今でもわからないです。ただ私は……このカードを使ってお父さんとファイトをしたくて」

 

 ソラは当時の事をポツリポツリ語る。

 四年前。エオストーレを受け取ったソラは、それでお父さんとファイトしたくてサーガタワーの研究室を訪れたらしい。

 しかし直後に爆発音。

 ソラが研究室を覗いた時には、ソラのお父さんには巨大な鉄の破片が刺さっていたらしい。

 

「そこから先のことは、ショックで覚えてないんです。次に目が覚めた時には、病院のベッドの上でした」

「そうなのか……」

 

 俺もソラと一緒にタワーを見上げる。

 果てが雲に隠れて見えないサーガタワー。

 だがここで終わってしまった物語もあるのだ。

 

 ふと、ソラは俺の手を掴んでくる。

 

「ツルギくんは……いなくなったり、しないでくださいね」

「……いなくならねーよ。そんなつもりも無いし」

 

 なにより俺は……

 

「残された人間の辛さは、痛いくらい知ってるからな」

「ツルギくん?」

「俺の家もさ父親がいないわけなんだけど……正直に言ってしまえば、ある日いきなり消えたんだ」

「えっ」

 

 とは言っても前の世界での話なんだけどな。

 

「卯月が一歳になった頃だ。ある日突然、父さんは行方不明になったんだ」

 

 勿論だけど警察に届出は出した。

 だがいまだに見つかっていない。

 法律上、既に死亡扱いになっている。

 

「だから残された人間の気持ちはわかる。俺は急に消えたりしないから、安心しろ」

「ツルギくん……だったら、安心ですね」

 

 手を握る力が少し強くなるソラ。

 というかどさくさに紛れて手を握ってしまったが、大丈夫なのだろうか?

 

「絶対、いっしょの学校に行きましょうね」

「あぁ。絶対に俺がソラ達を強くする」

「ツルギくんが言うと、なんだかとんでもない事になりそうです」

「その方が安心できるだろ……ところでソラ」

「はい、なんでしょう?」

「この手はいつまで握っていればいいんだ?」

 

 ソラは「へ?」と声を出した後、自分の手を見る。

 するとソラの顔は見る見る赤く染まっていった。

 

「ひゃわわわわ!? こ、これは違うんです! 別に何か深い意味があるわけでは!」

「落ち着けソラ。カオスな事になってる」

「私ごときが手を繋ぐなんてぇ! 本当にごめんなさい!」

「自己評価低いなオイ! 大丈夫だって、嫌ではなかったから」

 

 むしろなんかドキドキしてました。

 女の子の手って、柔らかいのね。

 

 結局その後ソラを宥めるのに数十分かかるのだった。

 

 

 

 

 サーガタワーや赤土町を軽く観光して時間潰した俺。

 夕方近づいてきたので、電車に乗り、家に帰るのだった。

 ちなみにソラとは途中で別れた。

 

「いやぁ〜流石はサーガタワー。迫力あったな」

 

 とはいえ、あそこで事故があったのも事実なんだけどな。

 もう夕方だし、卯月の友達帰っている頃だろう。

 今日の晩飯レシピはどうするかな〜。俺がそんな事考えていると……

 

「ん? なんだあれ」

 

 家の隣に大きなトラックが一台。

 引っ越し業者のようだ。

 

「そういえばお隣は空き家だったな」

 

 まぁそのうち挨拶に来るだろう。

 そう考えて家に戻ろうとした次の瞬間であった。

 

「っ!?」

 

 俺の視界に、見覚えのあるシルエットが入ってきた。

 思わず足を止めてしまう。

 いやまさか、そんな事がありえるのか?

 引っ越し業者荷物を運び込んでいる間、いかにも暇を持て余している少年が一人。

 年齢は今の俺と同じくらいだ。

 俺はその少年注視する……うん、間違いない。

 

「マジかよ」

 

 俺が驚きのあまり小さくそう零していると、少年の方からこちらに近づいてきた。

 

「なぁ、この辺りに住んでる奴か?」

「あぁ……お隣さんだ」

「マジかよ! なぁなぁ、サモンはやってるよな!」

「やってる。この前JMSカップでも優勝した」

「えぇ!? そう言われてみれば、テレビで見たことある顔だな〜。すっげぇ! 滅茶苦茶強いお隣さんじゃんか!」

 

 燃えるような赤髪に、元気の塊のような少年。

 そしてなにより、サモンを心から愛している。

 

「あっ、そういえば自己紹介がまだだったな」

 

 自己紹介しようとする少年。

 だけど俺は知っている。君の事を、よく知っているんだ。

 だって君は……

 

「俺は炎神(えんじん)! 武井(ぶい)炎神だ」

「ツルギ……天川(てんかわ)ツルギだ」

「ツルギか。これからよろしくな!」

 

 武井炎神……アニメ『モンスター・サモナー』の主人公。

 俺はその主人公と握手を交わしたのだった。

 

 そうか……つまり来年は、アニメの物語が始まる年なんだな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十話:聖徳寺学園入学試験!

 アニメの主人公こと、武井(ぶい)炎神(えんじん)と運命の出会いをしてから二ヶ月が経過した。

 三学期が始まったが、華やかな学校生活なんてもう残ってない。受験生の悲哀である。

 ちなみに炎神は中学卒業までは前の学校に通っているらしい。

 なので休日くらいしか会う機会はない……が、今のところゼラニウムのメンバーと会わせるタイミングもない。

 色々スケジュールが合わないのだ。

 ちなみに俺は喜ばしい事に、出会ったその日に炎神と一度ファイトした。

 結果に関しては……ノーコメント。

 感動のあまり記憶が飛んでいるとも言える。

 だってアニメの主人公と対戦ですよ! 感情ぐちゃぐちゃですよ!

 

 だけど同時に、アニメの物語がもうすぐ始まる事も察した。

 武井炎神の入学試験。それがアニメの第一話だから。

 

「あー、ドキドキする」

 

 ついにアニメの物語に関わってしまうのかと思うと、胸の高鳴りが抑えられない。

 ちなみに俺は現在赤土(あかど)町の駅に降りたところだ。

 外はすごく寒い。

 周りには俺と同年代の中学生が山ほど居る。

 

 本日は待ちに待った聖徳寺(しょうとくじ)学園の入学試験である!

 みんな緊張してますな〜。まぁ当然か。

 俺もそこそこ緊張はしているし、不安もある。

 主に一般科目でな!

 

「そういや、他のみんなは」

 

 同じ電車に乗っているはずの仲間を探す。

 とりあえずソラはすぐに見つかった。

 白い髪プルプル震わせている。

 

「ソラ、緊張しすぎだろ」

「ひゃわぁぁぁ!? ツ、ツルギくん!?」

「プルプルしてたぞ。面白いくらい」

「だだだって、入試ですよ入試! あの聖徳寺学園の!」

「だからこそリラックスしようぜ。緊張は俺達ファイターの敵だ」

 

 とりあえずソラの背中ポンと叩く。

 ここまで頑張ってきたんだ、ドンと構えて欲しいものである。

 駅でそんなやり取りをしていると、速水(はやみ)とアイもやって来た。

 

「おはよう。ツルギは相変わらずみたいね」

天川(てんかわ)が緊張する場面は想像し難いな」

「失礼な。一般科目が不安なんだぞ」

「ツルギ。実技試験は?」

「余裕だろ」

「そういうところだぞ、天川」

 

 まぁ何にせよ、これで全員揃ったわけだ。

 一応俺は駅を見回して、炎神の姿を探す。

 まぁ居ないよな。だってアニメ第一話でギリギリについてたし。

 ひとまず俺達駅を出て、試験会場でもある聖徳寺学園に向かった。

 

 学校が駅から徒歩数分ってありがたいよね。

 到着したのは、高校とは思えないくらい広い面積を有している学校。

 校舎も広いが、ファイト用にちょっとしたドームまで併設されている。ここ本当に学校だよな?

 とりあえず係員に誘導されて筆記試験の会場に行く。

 受験番号の都合から、ここで俺だけ別の教室へ送られる。悲しい。

 

「ツルギくん、頑張ってください!」

「あぁ、ソラ達も頑張れよ」

「天川。筆記だ筆記を頑張れ!」

「ツルギは筆記さえクリアすれば何とかなるわ!」

「お前ら俺をなんだと思ってるんだ!」

 

 ひとまず教室の指定席に座って、試験官が来るのを待つ。

 あー、一般科目が面倒くさい。

 でも頑張って勉強したんだ、できだけの事はしよう。

 

 試験開始まであと五分。

 そのタイミングで、一人の少年が教室に入ってきた。

 

「ま、間に合ったー!」

「おっ、やっと来たか」

 

 アニメ通りの展開で、炎神が教室に入ってきた。

 うーん、感動。

 

「あっツルギじゃん! 同じ教室なんだな」

「そうだな。お互い頑張ろうぜ」

 

 そう言っていると、試験官が入ってきた。

 炎神も慌てて席に着く。

 

 さぁ、悪魔の筆記試験に挑もうではないか!

 

 

 

 

 で、午前の試験が終了。

 俺と炎神は燃え尽きていた。

 

「おい炎神……生きてるか?」

「なんでサモンの専門学校で数学の試験があるんだよ」

「同感だ。理数要らないだろ、絶対に」

 

 でも何故か要求されるんだよな。

 理不尽だ。

 

「だが炎神よ、午後は俺達お待ちかねの……」

「そうだ! 実技試験だ!」

 

 一気に元気満タンになった炎神。

 単純な主人公だ。

 まぁかく言う俺もテンションが戻りつつあるんだけどな。

 

「ツルギくん! お昼ご飯食べに行きませんか?」

「あぁソラ。そうか、もうそんな時間か」

「ツルギくん……なんだか真っ白になってませんか?」

「筆記試験は魔物だ。なぁ炎神」

「あぁ、筆記試験は俺達の敵だ」

「あれ? ツルギくんお友達ですか?」

 

 そういえばまだソラ達には紹介してなかったな。

 

「最近お隣に引っ越してきた奴だ」

「武井炎神だ! よろしくな!」

「はい、よろしくです」

「なぁ、この子ってツルギの彼女か?」

「か、彼女!?」

 

 ソラの顔が真っ赤に染まっている。

 だが誤解解かねばならない。

 

「違うぞ。友達以上のチームメイトだ」

「ぐふっ!」

「おー、そうなのか。よく見ればテレビで見たことある顔だな!」

「そういう事だ。とりあえず飯食いに行こうぜ……って、どうしたんだソラ?」

「いえ……なんでも無いです」

 

 なんだかショックを受けた顔をしているが、筆記悪かったのか? まさかな。

 

 とりあえず俺と炎神は、ソラ一緒に食堂へ向かった。

 既に速水とアイが席を確保してくれている。

 俺は二人にも炎神を紹介した。

 

「へぇ〜、あのJMSカップで優勝したチームなのか!」

「私は新参だけどね」

「でも準優勝だったんだろ! スゲー!」

「そういえば天川。武井とはもうファイトしたのか?」

「勿論。滅茶苦茶強かったぞ」

 

 俺がそう言った瞬間、速水達の顔がスゴい事になった。

 

「天川が、認めた強さだと」

「ちょっと、それ大丈夫なの?」

「ものすごい事やってきそうです」

「お前ら俺をなんだと思ってやがる」

 

 仮にも炎神は主人公だぞ! 主人公補正持ってるんだぞ!

 俺みたいな一般人には超えられない壁を持ってるっての。

 まぁファイトの結果に関しては覚えて無いんだけどな。

 あとで召喚器の履歴を確認しよう。

 

「ハハハ! やっぱりツルギってスゲーファイターなんだな」

「そうか? 俺には炎神の方がスゴく見えるけどな」

「でもツルギ強いじゃんか! 俺も聖徳寺学園に入学して、もっと強い奴らと戦いてー!」

 

 まだ見ぬ強者に思いを馳せて、テンションを上げる炎神。

 大丈夫だろ。君は絶対入学できるから。

 それより今は食堂の飯を堪能しよう。

 これが本当のアニメ飯ですよ! なんだか特別な美味さ感じる。

 

 そんなこんなで、昼飯を食べて一休みしたら……ついに俺達のメインイベントがやってくる。

 会場が敷地内にあるドームへ移動。

 そこで行われるのは、お待ちかねの実技試験だ。

 ちなみに試験官が使うデッキは数種類の中からランダムに選ばれるらしい。故に単純な対策は不可能。

 さぁ俺はどんなデッキとぶつかるのかな?

 

 自分の受験番号が呼ばれるまでは、観客席で他の受験生のファイト眺める。

 うーん、やっぱりこの世界のファイターはピンキリだな。

 強い奴は強いけど、そうでない奴は単純なプレイミス目立つ。

 やっぱり勉強会って大事だな。うん。

 

『続きまして。受験番号500番から510番の方は、ファイトステージにお越しください』

 

 アナウンスが流れる。

 俺の受験番号は510番。出番が来た。

 

「おっ、俺の出番だ!」

「炎神もか。頑張れよ」

「おう! ツルギもな!」

 

 ハイタッチを交わす俺達。

 さぁ、俺も頑張らないとな。

 観客席を立って、ステージに移動しようとすると、後ろから手を掴まれた。

 

「ん、ソラ?」

「あ、あの……頑張ってください!」

「もちろん。ソラも頑張れよ」

「はい! 絶対に一緒の学校に行きます」

「天川、健闘を祈る」

「頑張って、ツルギ」

「速水、アイ……あぁ!」

 

 こりゃますます負けられなくなったな。

 俺は覚悟を決めてファイトステージに移動した。

 

 前の組が全員終わり、係員に試験官の元へと案内される。

 俺の相手サングラスかけた、ガタイのいい男性試験官だ。

 

「受験番号510番、天川ツルギ君だね」

「はい!」

「JMSカップでは大活躍したそうじゃないか。その実力を、思う存分に発揮してくれたまえ」

「わかりました!」

 

 余計なやり取りはもう不要。

 ここから先はファイトで語らう!

 

「「ターゲットロック!」」

 

 俺と試験官は召喚器を取り出し、無線接続させる。

 初期手札5枚引いて、準備完了だ。

 

「では始めよう」

「はい! お願いします!」

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

 

 そして、俺の入試ファイトが始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十一話:鉄壁の守護兵

 遂に始まった入試ファイト。

 特別ルールにより、先攻は試験官だ。

 

「まずは私のターンからだ。スタートフェイズ! メインフェイズ!」

 

 試験官は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 さぁ、俺の相手はどんなデッキなんだ?

 

「私はライフを1点払い〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉を召喚!」

 

 試験官:ライフ10→9

〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉P9000 ヒット0

 

 試験官の場に巨大なゴーレムが召喚される。

 一見するだけだとパワーの高いブロッカーなのだけど……うーん、あれはちょっと面倒くさい相手だな。

 

「〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉の召喚時効果を発動! このカードの召喚に成功した時、デッキから〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉を任意の枚数召喚する! 私はデッキから更に2体の〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉を召喚だ!」

 

 試験官の場に更に2体の巨大ゴーレムが召喚される。

 パワーの高いブロッカーが3体……なんて単純な話じゃないんだこれが。

 間違いない、試験官のデッキは系統:〈守護兵(しゅごへい)〉で固めたデッキだ。

 簡単に表現するなら、超防御型デッキ。シンプルに突破が難しいカード群だ。

 

 試験官:ライフ9→7

〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉(B)P9000 ヒット0

〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉(C)P9000 ヒット0

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

 試験官:ライフ7 手札4枚

 場:〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉(A、B、C)

 

 大型ブロッカー3体を並べてターンを終える試験官。

 単純にパワーが高いだけなら除去を撃って突破するんだけど……あのデッキには通用しないだろうな。

 

「系統:〈守護兵〉。その専用能力は【鉄壁(てっぺき)】でしたよね?」

「ほう、中々勉強をしているようではないか。その通り、私の〈守護兵〉は【鉄壁】を持っている」

 

 【鉄壁】、それは系統:〈守護兵〉が持つ専用能力。

 これを持っているモンスターは皆、相手のカード効果では破壊されない。

 当然のように、3体並んだ〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉も持っている。

 破壊の通用しない高パワーのモンスター軍団。

 うん、面倒くさいな。

 

「でもなんとかしなきゃ入学できないからな。俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 ツルギ:手札5枚→6枚

 

 俺はドローしたカードを確認する。

 この手札じゃ突破はできないな。だったら!

 

「メインフェイズ! まずはライフ2点を払って、魔法カード〈フューチャードロー〉を発動!」

 

 ツルギ:ライフ10→8

 

「このカードの効果で、俺は2ターン後のスタートフェイズに、デッキからカードを2枚ドローします」

「そんなに悠長なことをして大丈夫なのかね?」

「大丈夫ですよ、耐えますから。続けて俺は魔法カード〈リセットドロー〉を発動!」

 

 以前卯月も使っていたカードだ。

 

「〈リセットドロー〉の効果で、お互いに手札を全て墓地に送り、墓地に送ったカードに1を足した枚数分カードをドローする」

 

 ツルギ:手札0枚→5枚

 試験官:手札0枚→5枚

 

 相手の手札が増えたけど、勝てば問題なかろうだ!

 だって俺の手札には最高の相棒が来たからな。

 

「さぁいくぜ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉を召喚!」

 

 俺の場に巨大なルビーが出現して、砕ける。

 その中から毎度おなじみ、緑の体毛をしたウサギ型モンスターが姿を現した。

 

『キュップイ!』

 

〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1

 

「む? 随分とステータスの低いSRカードだな」

「技のカードなんですよ。今からそれを見せます」

 

 俺は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 

「魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動!」

 

 カーバンクルの周りに、無数の紅玉が出現する。

 

「このカードは自分の場に〈【紅玉獣】カーバンクル〉場合に発動できる魔法カード。その効果で全ての相手モンスターをパワーマイナス無限にする!」

「専用のサポートカードだと!」

「いっけぇ! ルビー・イリュージョン!」

『キュゥゥゥップイィィィ!』

 

 紅玉が輝きを放ち、三体のゴーレムを光で飲み込む。

 

〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉(A、B、C)P9000→P0

 

 ゴーレムのパワーが0になり、状況起因処理によって破壊される。

 効果では破壊できなくとも、それ以外の方法でなら破壊できるんだ。

 

「ほう、3体の〈ビッグゴーレム〉を一掃したか。面白い」

「お褒めどーも。俺は〈コボルト・ウィザード〉を召喚」

 

〈コボルト・ウィザード〉P2000 ヒット1

 

 俺の場に獣人の魔術師が召喚される。

 これもお馴染みの便利カードだ。

 召喚時効果を発動して、俺はカードを1枚ドローする。

 

 ツルギ:手札2枚→3枚

 

「アタックフェイズ! 〈コボルト・ウィザード〉で攻撃!」

「ライフで受けよう」

 

 試験官:ライフ7→6

 

「続けて〈カーバンクル〉で攻撃!」

「それもライフだ」

 

 試験官:ライフ6→5

 

 とりあえず試験官のライフを半分にはできた。

 だけど問題はここから先だな。

 

「ターンエンドです」

 

 ツルギ:ライフ8 手札3枚

 場:〈【紅玉獣】カーバンクル〉〈コボルト・ウィザード〉

 

 とりあえずは俺がリードしている状態。

 だけど試験官が、サングラス越しに闘志を燃やしているのが見える。

 これは仕掛けてきそうだ。

 

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 試験官:手札5枚→6枚

 

「メインフェイズ! 私は〈ガーディアン・ミドルゴーレム〉と〈ガーディアン・ケンタウロス〉を召喚」

 

 試験官の場に、中型のゴーレムと、ケンタウロス型ゴーレムが召喚された。

 

〈ガーディアン・ミドルゴーレム〉P6000 ヒット1

〈ガーディアン・ケンタウロス〉P5000 ヒット2

 

 今度は攻撃にも適したモンスターを出してきたか。

 

「更に私は、手札を1枚捨てて魔法カード〈ガーディアンリバイバル〉を発動!」

「〈守護兵〉専用の蘇生魔法か!」

「〈ガーディアンリバイバル〉の効果によって、墓地から系統:〈守護兵〉を持つモンスター1体を選び復活させる!」

 

 試験官の場に魔法陣が出現する。

 蘇生されるのは当然……

 

「墓地から〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉を復活! 更に私の場に系統:〈守護兵〉を持つモンスターが2体以上存在するなら、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉P9000 ヒット0

 試験官:ライフ5→4 手札3枚→4枚

 

 手札補充までされたか、面倒だな。

 というか試験官さん、ドローしたカードを見てニヤってしたな。

 

「では私も、本格的に攻めさせてもらおう」

「来るか!」

「私は系統:〈守護兵〉を持つモンスター〈ガーディアン・ミドルゴーレム〉を進化!」

 

 ミドルゴーレムが巨大魔法陣に飲み込まれていく。

 俺の脳裏には〈守護兵〉の切り札が1枚浮かんでいた。

 アレは少し面倒くさいんだよな。

 

「進化召喚! 現れろ〈【守護兵長(しゅごへいちょう)】マスターグリフォン〉!」

『クォォォォォォォォォォ!』

 

 魔法陣が弾ける。

 試験官の場に巨大なグリフォン型ゴーレムが召喚された。

 出たな切り札のSRカード。

 

〈【守護兵長】マスターグリフォン〉P11000 ヒット3

 

「ふむ。SRカードを前にしても動じないか」

「慣れてるんで」

「冷静なのは良いことだ。ならばこれはどうだ? 私は魔法カード〈守護兵強襲(しゅごへいきょうしゅう)〉を発動!」

 

 わーお、また面倒なカードが出てきたな。

 

「このカードは、私の場の系統:〈守護兵〉を持全てのモンスターをヒット+1にする」

 

 魔法カードの効果で強化される守護兵たち。

 流石にちょっと脅威になってきたな。

 

〈【守護兵長】マスターグリフォン〉ヒット3→4

〈ガーディアン・ケンタウロス〉ヒット2→3

〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉ヒット0→1

 

「ふむ、手札が減ってしまったな……私は魔法カード〈逆転の一手!〉を発動! 手札が3枚になるようにドローする」

 

 試験官:手札1枚→3枚

 

 うーん、ここで手札補給もされてしまったか。

 流石は聖徳寺学園の試験官。一筋縄ではいかないな。

 

「アタックフェイズ! まずは〈ガーディアン・ケンタウロス〉で攻撃だ」

 

 試験官の攻撃が始まった。

 これは何としても耐え抜きたいんだけど……万が一も考えて、ライフ調節をしておくか。

 

「ライフで受けます」

 

 ケンタウロスの槍が、俺を貫く。

 

 ツルギ:ライフ8→5

 

「次は〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉で攻撃だ」

「それもライフです」

 

 ツルギ:ライフ5→4

 

「続けて〈マスターグリフォン〉で攻撃だ!」

 

 咆哮を上げるマスターグリフォン。

 飛翔して、こちらに爪を向けてくる。

 

「悪いけどそれはお断りです! 魔法カード〈トリックゲート〉を発動!」

 

 マスターグリフォンは突如出現したゲートに飲み込まれてしまった。

 

「〈トリックゲート〉の効果で、攻撃対象を変更します。〈マスターグリフォン〉の攻撃先は〈ガーディアン・ケンタウロス〉だ!」

 

 ケンタウロスの前にゲートが開く。

 そこから出てきたマスターグリフォンは、勢い余ってケンタウロスを撃破してしまった。

 

「ほう、私の攻撃を逆手に取ったか。ますます面白い」

「どーも」

「私に攻撃可能なモンスターは残っていない。このままエンドフェイズに入ろう」

「でもエンドフェイズに〈マスターグリフォン〉の効果が発動する」

「よく知っているな。その通りだ! 〈マスターグリフォン〉の効果により、私の場の系統:〈守護兵〉を持つモンスターは全て回復状態となる!」

 

 マスターグリフォンの効果で、2体の守護兵が起き上がる。

 これこそ鉄壁防御の守護兵だ。

 

「ターンエンドだ」

 

 試験官:ライフ4 手札3枚

 場:〈【守護兵長】マスターグリフォン〉〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉

 

 うーん、モンスターは残せたけど……相手の盤面が固いな。

 しかも手札は3枚あるから、カウンターも警戒しなくちゃいけない。

 守護兵だから【鉄壁】の効果で、効果破壊もできない。

 負ける気はしないけど、決め手が見つからないなぁ。

 

 とりあえず俺は自分の墓地を確認する。

 ……ん? これは。

 〈リセットドロー〉で墓地に落ちた魔法カード。

 〈トリックプレゼント〉〈トリックボックス〉〈トリックミラージュ〉、そして……

 

 なるほどな。

 これならもしかすると、決め手になるかもしれない。

 ロマン砲として1枚入れてたカードだけど、狙ってみる価値はあるな。

 

 王道な勝ち方とは言い難いかもしれないけど、守護兵の防壁を突破して勝つにはこれしかない。

 

 派手に撃ち込んでやるか……ファイナルトリックを!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十二話:ファイナルトリック!

 回って来た俺のターン。

 

「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 ツルギ:手札2枚→3枚

 

 手札を確認する。まだ必要なパーツが揃っているとは言えない。

 かといって攻めるには、俺のモンスターはパワーが低すぎる。

 ならばここは……

 

「メインフェイズ。俺は〈ドッペルスライム〉を召喚!」

『ドッペル!』

 

 俺の場に、黒色のスライムが召喚された。

 ひとまずはこれで守りを固める。

 

〈ドッペルスライム〉P4000 ヒット1

 

「ターンエンドです」

 

 ツルギ:ライフ4 手札2枚

 場:〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉〈コボルトウィザード〉〈ドッペルスライム〉

 

「ふむ、このターンは消極的な動きか。だが手札は温存している。油断は禁物だな」

 

 その通りですよ。上手くこっちの想定内に収まってくださいね。

 

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」

 

 試験官:手札3枚→4枚

 

「メインフェイズ。私は2体目の〈ガーディアン・ケンタウロス〉を召喚!」

 

 試験官の場に新たなケンタウロスが召喚される。

 2枚目を引かれていたか。

 

〈ガーディアン・ケンタウロス〉P5000 ヒット2

 

「ではこのターンで決めさせてもらおうか。私は魔法カード〈エヴォジャベリン〉を発動!」

 

 おっ、アレはアイも使ってたカードだ。

 

「効果で私は〈マスターグリフォン〉のヒットを+1し、更に【貫通】を与える」

 

 魔法効果で強化されるマスターグリフォン。

 あれは並みのカードでは防げないぞ。

 

〈【守護兵長(しゅごへいちょう)】マスターグリフォン〉ヒット3→4

 

「アタックフェイズ! まずは〈ガーディアン・ケンタウロス〉で攻撃だ!」

「それは〈ドッペルスライム〉でブロック!」

 

 ケンタウロスに立ち向かうドッペルスライム。

 しかしパワー負けしている。ドッペルスライムはケンタウロスの槍に貫かれて破壊されてしまった。

 だけどこれでいい。ドッペルスライムの効果はここからが本番だ。

 

「破壊された〈ドッペルスライム〉の効果発動! ゲーム中1度だけ〈ドッペルスライム〉は復活できる!」

 

 魔法陣が現れ、墓地から回復状態で復活するドッペルスライム。

 こいつは手軽に2回ブロックできるのが強みだ。

 

「だがこれは防げまい。〈マスターグリフォン〉で攻撃だ!」

 

 咆哮するマスターグリフォン。

 そのヒットは4で【貫通】まで持っている。

 俺の場にはマスターグリフォンのパワーを超えるモンスターはいない。

 まぁ普通に考えれば完全に俺の負けだな。

 普通ならの話だけどな。

 

「その攻撃は〈カーバンクル〉でブロックだ!」

『キュップイ!』

 

 威勢よくマスターグリフォンに挑むカーバンクル。

 しかしパワーの差が圧倒的すぎる。

 カーバンクルは一瞬にして、破壊されてしまった。

 

「〈カーバンクル〉は破壊されても墓地へは行かず、俺の手札に戻る」

「だが今の〈マスターグリフォン〉は【貫通】を持っている。4点のダメージを受けて、君の負けだ!」

「残念ですけど、そうはいかないです」

「なに!?」

「〈【紅玉獣】カーバンクル〉の効果発動! このカードが行う戦闘では【貫通】によるダメージは発生しない!」

 

 滅多に適用されないけど、意外と役立つんだよなこの効果。

 カーバンクルの隠されし能力によって、俺はマスターグリフォンのダメージから逃れた。

 

「ほう、この攻撃も防いだか。実に面白い」

 

 なんか試験官さんウキウキだな。

 俺そんなに見所ある?

 

「エンドフェイズ。〈マスターグリフォン〉の効果で私の〈守護兵〉は全て回復状態になる。ターンエンドだ」

 

 試験官:ライフ4 手札2枚

 場:〈【守護兵長】マスターグリフォン〉〉〈ガーディアン・ビッグゴーレム〉〈ガーディアン・ケンタウロス〉

 

 ターンが回っては来たけど、そろそろ決めないと不味いな。

 アレを使うにしても、下準備をする必要がある。

 とりあえずドローしてから考えるか。

 

「俺のターン! スタートフェイズ開始時に〈フューチャードロー〉の効果発動! 2ターンが経過したので、俺はカードを2枚ドローする!」

 

 ツルギ:手札3枚→5枚

 

 ドローしたカードを確認する。うん、いい感じだ。

 

「ドローフェイズ」

 

 ツルギ:手札5枚→6枚

 

 よし! これならいけそうだ。

 墓地のカードを確認する。

 今落ちているパーツは……4枚か。

 

「メインフェイズ。俺は魔法カード〈トリックエスケープ〉を発動! このカードは自分の場のモンスターを好きなだけ手札に戻し、その数だけライフを1点回復するカード!」

「全てを戻して2点の回復というわけか」

「その通りです! 全員戻ってこい!」

 

 魔法効果で、俺のモンスターは全て手札に戻って来た。

 

 ツルギ:ライフ4→6 手札5枚→8枚

 

 これで、5枚。

 

「だがその程度の回復量で、私の攻撃を耐えられるのかな?」

「心配いりません……だって俺、このターンで勝ちますから」

「ほう。では見せてもらおうか」

「派手にやらせてもらいますよ! まずは念入りにこれ! 〈コボルト・ウィザード〉を再召喚!」

 

 再び俺の場に召喚される獣人の魔術師。

 その召喚時効果で俺は1枚ドローをした。

 

 ツルギ:手札7枚→8枚

〈コボルト・ウィザード〉P2000 ヒット1

 

「更に俺はライフを1点払い、手札から〈トリックカプセル〉を捨てて〈メタルオーガ〉を召喚!」

 

 俺の場に魔法陣が現れ、それを破く形で全身金属の鬼が召喚された。

 

〈メタルオーガ〉P8000 ヒット2

 

「ふむ。そこそこ大型のモンスターか……だがそれでは私の〈守護兵〉は倒せないぞ」

「倒す必要なんてありませんよ」

「なに?」

「おかしいと思いませんでしたか? なんでさっき俺が、わざわざコストで捨てるカードの名前を言ったのか」

「言われてみれば……」

 

 首を傾げる試験官。

 だがこれで下準備も粗方終わった。

 

「魔法カード〈トリックリサイクル〉を発動! このカードは自分の墓地から系統:〈トリック〉を持つ魔法カードを1枚選んで手札に加えます」

「〈トリック〉の魔法? 汎用性はあるが、あのカード群では私に止めは刺せない」

「刺せるんですよ。1枚だけ」

「なんだと!?」

「なんで俺がわざわざ〈トリック〉魔法を多く採用しているのか……これがその答えだ!」

 

 俺は墓地から、1枚の魔法カードを手札に加える。

 

「俺が墓地から回収したのは〈ファイナルトリック・エクスプロージョンフィナーレ〉!」

「な、なんだそのカードは!?」

「マイナー過ぎて、あんまり知られてないけど。強力な1枚ですよ」

 

 そして今墓地にいった〈トリックリサイクル〉で6枚目。

 発動条件は整った!

 

「発動コストは、手札を2枚捨てて……更に墓地から系統:〈トリック〉を持つカードを6種類1枚ずつ除外すること!」

「な、なんだその重いコストは!?」

「重さに見合った必殺火力! 見せてやりますよ! 魔法カード〈ファイナルトリック・エクスプロージョンフィナーレ〉を発動!」

 

 魔法カードを仮想モニターに投げ込むと、俺の頭上に巨大な火炎球が出現した。

 

「〈エクスプロージョンフィナーレ〉の効果、相手に5点のダメージを与える!」

「初期ライフの半分のダメージだと!?」

「これで終わらせます!」

 

 俺は巨大な火炎球を試験官にぶつけようとする。

 しかし……

 

「させん! 私は魔法カード〈守護兵(しゅごへい)解呪儀式(かいじゅぎしき)〉を発動! 相手の魔法カード1枚の発動を無効にする!」

 

 発動コストで手札を1枚捨てた試験官さん。

 魔法効果が火炎球に放たれるが、火炎球はそれを跳ね返した。

 

「なに!?」

「〈エクスプロージョンフィナーレ〉は無効化されず、ダメージの軽減もできない」

「なんと……強力な」

「これで終わりだァ! いけッ! 〈ファイナルトリック・エクスプロージョンフィナーレ〉!」

 

 巨大な火炎球が試験官に向かって放たれる。

 試験官は逃げる事もなく、その火炎球と爆炎に飲み込まれていった。

 

「ぐォォォォォォォォォ!」

 

 試験官:ライフ4→0

 ツルギ:WIN

 

 ファイト終了のブザーが鳴り、立体映像が消えてく。

 入試ファイト、無事勝てたな。

 ほっとしていると、試験官がこちらに歩み寄ってきた。

 

「お疲れ様。良いファイトだった」

「はい。ありがとうございます」

「流石はJMSカップ優勝者だ。筆記試験に問題がなければ、間違いなく合格だろう」

 

 すいません、その筆記試験が怖いんです。

 でもまあ、こうして褒められるのは悪い気はしない。

 俺は試験官にもう一度お礼を言ってから、ファイトステージを降りた。

 ふぅ。これで後はみんなのファイトを見るだけ……

 

「ん? みんなのファイト?」

 

 そういえば炎神は俺と一緒に呼び出されて……あぁ!?

 

炎神(えんじん)のファイト! アニメの第一話真っ最中じゃん!」

 

 これはのんびりしている暇はねー!

 俺は急いで観客席へとダッシュした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十三話:炎神のVギア

 猛ダッシュで観客席に戻った俺。

 もう息も絶え絶えだ。

 

「ツルギくん、おかえりなさい……どうしたんですか?」

「いや、その、炎神(えんじん)の、ファイト、みたくて」

「それで走ってきたわけか」

「ツルギ、少し呼吸を整えなさいな」

 

 アイに言われて、俺は呼吸を整える。

 

「それにしても、ツルギくんまた派手な勝ち方してましたね」

「アレが最善手だっただけだよ……それより炎神のファイトは?」

「さっき始まったばかりだ」

「今は後攻の武井のターンが終わったところね」

 

 速水(はやみ)とアイが指さす方を見る。

 うん、確かに炎神がファイトしているな。

 ちなみに炎神の盤面はこんな感じ。

 

 炎神:ライフ9 手札4枚

 場:〈ブイドッグ〉〈ブイモンキー〉

 

 犬型モンスターと猿型モンスターがいるな。

 とりあえず様子見したところか?

 で、対する試験官は……

 

「!?」

 

 俺は変な声が出るのを必死に抑えた。

 何故なら炎神の対戦相手が鎧武者だったからだ。

 正確には鎧武者の姿をした学園の先生。

 アニメでは何度も見たことがあるキャラクター。そしてアニメ第一話の対戦相手だ。

 

「ターンエンド。侍さんの番だぜ!」

「ファーッハッハ! この程度で余裕をかますとは、片腹痛し! その半人前根性を、この伊達(だて)権左衛門(ごんざえもん)が叩き直してくれよう!」

 

 高笑いする鎧武者こと、伊達権左衛門先生。

 信じられるか? あれ先生なんだぜ。

 変人だけど人は良い先生なんだ。俺アニメで観た!

 ちなみにキャラクター人気も結構ある人だぜ。

 

「拙者のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 権左衛門:手札3枚→4枚

 

「メインフェイズ! 拙者は〈ニノタチ〉を召喚!」

 

 がら空きだった伊達先生の場に、一体の侍が召喚される。

 これが伊達先生の【(さむらい)】デッキか。生で見ると感動するな。

 

「続けて拙者は〈ウイノタチ〉と〈サンノタチ〉を疲労状態で召喚!」

「えっ?」

 

 追加で二体の侍が召喚されたが、両方疲労状態だ。

 炎神が驚きの表情を見せている。

 それは観客席のソラ達も同じだ。

 

「あれって、疲労状態で召喚できるモンスターなんですか?」

「しかし何のために?」

「回復した時に効果を発動するんだよ」

「ツルギ、よく知ってるわね」

「カード知識なら誰にも負けないからな」

 

 たしかここからが伊達先生の本領発揮だったはず。

 

「拙者はライフを2点払い、魔法カード〈サムライドロー〉を発動! 場の系統:〈侍〉を持つモンスター〈ニノタチ〉を疲労させて2枚ドロー!」

 

 権左衛門:ライフ9→7 手札0枚→2枚

 

「更に拙者は魔法カード〈セップク!〉を発動! このカードは自分の場のモンスター1体を破壊できるでござる!」

「自分のモンスターを破壊だって!?」

「拙者は〈ニノタチ〉を破壊!」

 

 切腹して爆散するニノタチ。

 恐らく初見だと何をしているのか意味が分からないだろう。

 実際、俺の隣でソラ達が疑問符を浮かべている。

 だが大事なのは、ニノタチが破壊された事だ。

 

「破壊された〈ニノタチ〉の効果発動! 拙者の場の系統:〈侍〉を持つモンスターを全て回復させる!」

 

 起き上がるウイノタチとサンノタチ。

 さぁ始まるぞ。

 

「カード効果で回復した事により〈ウイノタチ〉と〈サンノタチ〉の【居合(いあい)】を発動!」

「【居合】だって!?」

「【居合】を持つモンスターがカード効果で回復した時、それぞれの能力が発動する! まずは〈ウイノタチ〉の効果発動! ヒット1以下のモンスター〈ブイドッグ〉を破壊でござる!」

 

 ウイノタチが放った居合切りにより、炎神のブイドッグは破壊されてしまった。

 

「〈ブイドッグ〉!」

「更に〈サンノタチ〉の効果により、拙者はカードを1枚ドローでござる」

 

 権左衛門:手札1枚→2枚

 

 ドローしたカードを見て、伊達先生が露骨にニヤついている。

 あっ、切り札引いたなこれ。

 

「拙者は、系統:〈侍〉を持つモンスター〈ウイノタチ〉を進化!」

 

 伊達先生が1枚のカードを仮想モニターに投げ込むと、ウイノタチは巨大な魔法陣に飲み込まれていった。

 

「いざ刮目せよ! これぞ風林火山極めし剣豪の中の剣豪! 〈【大剣豪(だいけんごう)】ムサシ〉を進化召喚でござる!」

 

 魔法陣が切り裂かれ、中から一体の巨大な武士が出陣する。

 あれが伊達先生の切り札。アニメでは何度も見てきた、ムサシだ!

 

〈【大剣豪】ムサシ〉P11000 ヒット4

 

 素でヒット4という数字を前に、流石の炎神も少し焦っている。

 

「ヒット4か、流石に強いな」

「ではその真価をとくと見せてやろう。アタックフェイズ!」

 

 歌舞伎のようなポーズでアタックフェイズ宣言をする伊達先生。

 うーん、これもアニメでみた光景だ。

 

「〈【大剣豪】ムサシ〉で攻撃!」

「流石に4点ダメージは不味いかな。〈ブイモンキー〉でブロック!」

 

 ムサシに立ち向かうブイモンキー。

 しかしブイモンキーのパワーは5000。ムサシには遠く及ばない。

 そのまま太刀で切り裂かれてしまった。

 しっかし不味いなぁ、モンスターを破壊したという事は、ムサシの能力が発動する。

 

「モンスターを戦闘破壊した事で〈ムサシ〉の効果発動! このカードは回復する!」

「なんだって!? もう一回攻撃してくるのかよ」

「それだけではない! 効果によって回復した事により〈ムサシ〉の【居合】が発動する!」

 

 ムサシは太刀を鞘に納めるや、素早く抜刀した。

 斬撃が飛び出し、炎神の手札を襲う。

 

「〈ムサシ〉の【居合】効果により、お主の手札を1枚ランダムに墓地へ捨てる!」

「あぁ、俺の手札が!」

 

 炎神:手札4枚→3枚

 

 手札破壊効果。これがあるからムサシは怖いんだよなぁ。

 だってこのゲーム、ルール的に手札破壊めっちゃ強いんだもん。

 

「再び〈ムサシ〉で攻撃!」

「クッ! ライフで受ける」

 

 ムサシの太刀が、炎神に振り下ろされる。

 

 炎神:ライフ9→5

 

「続けて〈サンノタチ〉で攻撃!」

「それもライフだ!」

 

 炎神:ライフ5→3

 

 これで攻撃は終わった。炎神は無事耐え抜いた異に、ほっとしているようだけど……

 

「魔法カード〈リブート!〉を発動でござる。効果で〈ムサシ〉を回復」

「げぇ!? マジかよ」

 

 げっそりした顔でそう叫ぶ炎。

 だが現実は非情だ。効果でムサシが回復したという事は……

 

「この瞬間〈ムサシ〉の【居合】を発動! 手札を1枚捨ててもらうでござる」

 

 再び炎神の手札に斬撃が襲い掛かる。

 

 炎神:手札3枚→2枚

 

「そしてこれがとどめー! 〈ムサシ〉で攻撃!」

 

 太刀を構えて炎神に突っ込んでいくムサシ。

 これを食らえば、炎神の負けだ!

 とは言っても、大丈夫なの俺知ってるんだけどな。

 

「魔法カード〈イージーガード〉を発動! 相手モンスター1体の攻撃を無効にする!」

 

 振り下ろされた太刀を、薄いバリアが防御する。

 ムサシの攻撃はもう届かない。

 そして伊達先生の手札は0枚。もう追撃は不可能だ。

 

「グヌヌ。ターンエンドでござる」

 

 権左衛門:ライフ7 手札0枚

 場:〈【大剣豪】ムサシ〉〈サンノタチ〉

 

 さぁて。伊達先生の場には疲労状態のモンスターが2体。

 手札は0枚。

 対する炎神の場にはモンスター0体。手札は1枚。

 

武井(ぶい)の奴、大丈夫なのか?」

「試験官の手札が0枚とはいえ、このターンで決着をつけないと負けるわよ」

「大丈夫だろ、アイツなら」

「そうなんですか、ツルギくん?」

「あぁ大丈夫。だって炎神の奴……まだ諦めてないだろ」

 

 俺はファイトステージの炎神を指さす。

 そう、炎神は諦めていない、むしろこの状況を楽しんでいる。

 さぁ見せてくれ主人公。カッコいい逆転劇を。

 

「へへっ。やっと俺の魂も温まってきたぜ」

「ふむ。この状況でも諦めないでござるか。見事なり!」

「ありがと侍さん! じゃあお礼に見せてやるぜ、俺達の本当の力ってやつを!」

 

 炎神の目に闘志が宿る。

 始まるぞ。

 

「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 炎神:手札1枚→2枚

 

 ドローしたカードを確認して、炎神は笑みを浮かべる。

 

「メインフェイ! 来た来たキター!」

 

 テンションぶち上げる炎神。

 ライフも5以下になってる。ここからが主人公劇場だ!

 

「俺のエンジン! ブイブイいってきたぜー!」

 

 キター! 主人公の決め台詞だー!

 生で聞くと感慨深いな。

 

「俺のライフは5以下。よって【Vギア】発動だー!」

「ぶ、ぶいぎあ?」

「【Vギア】は系統:〈勝利(しょうり)〉が持つ専用能力。俺のデッキは、ライフ5以下からが本番なのさ」

「な、なんだと!?」

「まずはコイツだ! 俺は〈ブイバード〉を召喚!」

 

 炎神の場に、炎を纏った鳥が召喚される。

 

〈ブイバード〉P4000 ヒット2

 

「【Vギア】を達成した〈ブイバード〉が存在する限り、俺の場の系統:〈勝利〉を持つモンスターは全てパワー+3000となる」

 

〈ブイバード〉P4000→P7000

 

「まだまだいくぜ! 俺は魔法カード〈ビクトリードロー〉を発動!」

 

 出たなインチキムーブのクソ魔法カード。

 

「デッキの一番上をオープンして、それが系統:〈勝利〉を持つカードなら手札に加える」

 

 オープンされたカードは〈ビクトリーオーラ〉。

 系統:〈勝利〉を持つカードだ。

 だがあの魔法のインチキ挙動はこの後なんだよ。

 

「さらに【Vギア】を発動! 俺の場に場に系統:〈勝利〉を持つモンスターが存在するなら、デッキからカードを2枚ドローする!」

 

 なんでノーコストで3枚ドローしてるんだよ!

 ふざけんなよ!

 

「なぁ天川……あの魔法カード」

「言うな、俺もあれはスペックおかしいと思ってる」

 

 速水だけじゃなくて、ソラやアイも同じ感想を抱いていそうだ。

 

 炎神:手札0枚→3枚

 

 ドローしたカードを確認した炎神は、あからさまに明るくなった。

 

「来てくれたか、相棒!」

 

 決意を瞳に宿して、炎神は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 

「燃える炎で勝利をつかむぜ! 熱く弾けろ俺の相棒!」

 

 炎神の場に、赤く燃える魔法陣が出現する。

 さぁ来るぞ。アニメの顔にもなっていたモンスターが!

 

「〈【勝利竜(しょうりりゅう)】ブイドラ〉召喚だ!」

『ブイブイー!』

 

 魔法陣が弾け、中から赤い身体の小さなドラゴンが召喚される。

 あれが炎神の相棒、ブイドラだ。

 

〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000 ヒット2

 

「今日も頼むぜ、相棒!」

『任せるブイ!』

 

 ん? 今ブイドラが喋ったような……気のせいか?

 

「アタックフェイズ! いけぇ〈ブイドラ〉! 〈ムサシ〉に指定アタックだ!」

「何!? パワー5000のモンスターで、パワー11000の〈ムサシ〉を攻撃だと!?」

「パワーが足りないなら補えばいい! 俺は魔法カード〈ビクトリーオーラ〉を発動!」

 

 魔法効果で、ブイドラの身体に赤いオーラが纏わる。

 

「〈ビクトリーオーラ〉の効果で〈ブイドラ〉をパワー+5000。更に〈ブイバード〉の効果も合わせれなパワー+8000だ!」

 

〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000→P13000

 

「む、〈ムサシ〉のパワーを超えただとォォォ!?」

「いっけー〈ブイドラ〉! ビクトリーフレアー!」

 

 ブイドラの吐き出した大量の炎が、ムサシを飲み込む。

 必死に抵抗するムサシだが、ブイドラのパワーを前にしては無力であった。

 大きな音を立てて、ムサシは爆散する。

 

「グヌヌ、だが! 〈ムサシ〉には【ライフガード】がある! 回復状態で場に戻るでござる!」

 

 爆炎の中から、ムサシが復活する。

 あーあ、それやめた方がいいのに。

 

「いいのか侍さん。【ライフガード】使っちまって」

「ぬぬ?」

「この瞬間〈ビクトリーオーラ〉の【Vギア】が発動! 〈ブイドラ〉が戦闘破壊したモンスターのヒット数だけ、相手にダメージを与える!」

「な、なんだとォォォ!?」

 

 伊達先生の目の前に移動するブイドラ。

 そのまま先生に炎を吐いた。

 

「アチアチ! アッチー!」

 

 権左衛門:ライフ7→3

 

 ムサシのヒット数分、4点のダメージを受ける先生。

 この後残ってるのはヒット2のブイバードのみ。

 これではギリギリ伊達先生を倒しきれない……って思うじゃん?

 

「さぁ最後だ! 〈ブイドラ〉の【Vギア】を発動!」

「そのカードも持ってるでござるか!?」

「俺のライフが5以下なら〈ブイドラ〉は【2回攻撃】を得る!」

「……ということは」

 

 恐らく観客席にいた全員が同じ方向を見ただろう。

 だって伊達先生の場にはヒット4のムサシが残っているのだ。

 

「いっけぇ、ブイドラ! 〈ムサシ〉に指定アタックだ!」

「ちょ、ちょっと待って欲しいでござる!」

 

 必死に手を振る伊達先生だが、もう遅い。

 ブイドラはムサシの眼前に来ていた。

 

『くらえ! ビクトリーフレアー!』

 

 爆散するムサシ。

 破壊された事で、ビクトリーオーラの効果も発動する。

 ブイドラの炎はそのまま、伊達先生を飲み込んだ。

 

「ノォォォォォォォォォン!」

 

 権左衛門:ライフ3→0

 炎神:WIN

 

 ファイト終了のブザーが鳴り響く。

 立体映像は消えるが、何故か伊達先生の頭はアフロになっていた。

 

「よっしゃあ! 勝ったぁぁぁ!」

 

 飛び跳ねて喜ぶ炎神。

 観客席の俺達に気付くと、笑顔でブイサインを送ってきた。

 

「まったく。一時はどうなるかと思ったぞ」

「でも武井くんもすごかったですね」

「そうね。流石はツルギが認めたファイターね」

 

 うん。ゼラニウムのみんなも炎神の力を認めてくれたようだ。

 良かった良かった。

 

「さてと。俺はステージではしゃいでる炎神を迎えに行きますかね」

 

 俺は観客席からステージに向かい、炎神を連れ出すのであった。

 その後の入試ファイトでは、ソラ達も無事試験官を倒していた。というか3人とも派手に勝っていた。

 

 こうして俺達の入学試験は幕を閉じた。

 後は結果を待つばかり。

 発表までの一番ドキドキな時間が始まるのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十四話:新時代と結果発表

 重要な日って、なんでこう被るんだろう?

 本日3月3日。先月受けた聖徳寺学園の合否発表の日……だけで終わるはずでした。

 本来なら今頃学園の敷地で合否を確認して一喜一憂していただろうに。

 俺は現在、自宅のテレビの前にいた。

 今年の合否発表はオンラインだけなんですって! 電車代が浮きましたわ!

 

 うん。真面目に語ろう。

 実は今年の合否発表がオンラインだけになったのも、学園側の粋な……粋な? 配慮の結果なのである。

 3月3日。今日は世界的に一大イベントの日。

 そう、UFコーポレーションが予告していた発表の日である。

 まぁ俺は何が来るか知ってるんだけどね。

 

 テレビはどのチャンネルにしても緊急生特番ばかり。

 もうどのチャンネルにしても変わらないな。

 俺は適当なチャンネルで、件の発表を見守る。

 

「お兄、見るの?」

「どうせしばらくは話題の中心だろうからな。卯月だって見るんだろ?」

「悔しいけど、お兄と同じ理由」

「……ちなみに卯月は何が発表されるか分かるか?」

「あれでしょ。モンスターに装備するやつ」

「正解。内容次第ではデッキに入れて強化するぞ」

「お兄、まだ暴れるつもりなの?」

「聖徳寺学園では頑張りたい」

「自重を覚えろ馬鹿兄」

「うるさいぞ蛇姫」

 

 兄妹でそんなやり取りしていると、テレビの向こうが騒がしくなってきた。

 目線をテレビに向けると、壇上に上がるゼウスCEOの姿があった。

 

「そういえばお兄、CEOに会ったんだっけ?」

「あぁ。JMSカップの時に少しな」

「アニメキャラとの遭遇か〜。ロマンと言っていいのか分からない」

「ロマンで良いだろ」

 

 そういえばあの時、ゼウスCEOが俺の名前を知ってた気がするんだけど。

 あれはなんだったんだ?

 そもそも的な事を言えば、実は俺もアニメ『モンスター・サモナー』の全て、特にゼウスの事に関しては知らない事が多いんだ。

 転移した段階でアニメはそれなりの話数を重ねていたけど、最終話までは結局見れなかった。

 だから俺がこの先分かる展開は、高校2年生の中頃の話までだ。そこから先がどうなるかは全く分からない。

 それと同時にゼウスCEOに関してだ。

 彼は目的も正体も不明の存在。結局俺は種明かしまで作品を見ていないんだ。

 もしもゼウスCEOが何かの鍵を握っている場合、本当に俺には何も分からなくなる。

 それが少し悩みの種だな。

 

「そういえばお兄」

「んあ?」

「聖徳寺学園に入ったら……アレどうするの?」

「あぁ、ウイルス事件の事か」

「うん。主人公に任せる?」

「基本的にはな。ただし自衛はする」

「うん。それが無難だと思う」

 

 高校1年生での物語。その中盤以降で発生する事件がある。

 規模を考えれば間違いなく俺も巻き込まれるだろう。

 最終的には炎神が解決するのは知っているけど、その通りに歴史が動くとも断言できない。

 いざという時は、俺も戦わなくちゃいけないだろうな。

 

「あっ、お兄始まったよ」

 

 卯月に言われて、意識をテレビに戻す。

 長ったらしい挨拶が終わって、ようやく本題に入ったらしい。

 なんか壮大なPVが流れているな。

 

「派手だね」

「派手だなぁ」

 

 そういう所も含めて、サモン至上主義世界だなと思う。

 テレビ画面には壮大な演出から「Armed」の文字が現れる。

 続けて映し出されたのは、モンスターでも魔法でもない、第3のカード。

 そうだ、これがモンスター・サモナーの新たな時代。

 モンスターに武装するカード、アームドカードだ。

 

「お兄、アームドって癖あったよね」

「あぁ。使いこなせれば強力だけど、単体では戦闘に参加できない分、ファイターの技量が問われるカードだ」

 

 あとデッキ構築の難易度が跳ね上がる。

 あれ枚数の配分が難しいんだよ。

 

 そんな事を考えながらテレビを見ていると、アームドカードを用いたデモンストレーションファイトが始まった。

 戦っているのは白衣を着た科学者っぽい人が2人。

 よく見たら1人は三神さんだ。

 

「あっ、今アームド使ったの三神さんじゃん」

「知り合い?」

「俺というか、ソラの知り合い」

 

 というか、こういうデモンストレーションって科学者のやるものなのか?

 プロファイターとか使わないの?

 なんか色々疑問が出てくるな。

 

 ファイトが終わり、記者からゼウスCEOへの質問タイムが始まる。

 なんか色々質問責めされてるな〜。まぁ難しい話なんて興味ないんだけど。

 

『アームドカードはいつから発売されるのですか!?』

 

 おっ、その質問は興味あるぞ。

 

『アームドカードは本日出荷分のパックより、全世界同時に封入しております』

 

 へぇ〜……え?

 

「お兄、今日から実装だって」

「早いな。色々と」

 

 とりあえず後でデッキ調整しよ。

 それからアームドカードの相場も調べよう。絶対儲けられる。

 

「そういえばお兄、合否発表は何時からなの?」

「えっと今日の12時だな」

「あと5分じゃん」

 

 時計を見る。確かに。

 俺はスマホをネットに繋げて、聖徳寺学園のサイトを開く。

 やっぱり更新してすぐに見たいよね。

 

 ドキドキを胸に秘めつつ、迎えました12時!

 

「更新連打! 更新連打! さっさと結果を見せろー!」

「サーバーの負担になるからやめんか馬鹿兄!」

 

 卯月に頭を殴られた。

 とりあえず数分待ってから、合格者一覧のページに辿り着く。

 俺の受験番号は510番なわけだけど……

 

「えーっと……510……510」

 

 ゆっくり番号を探し出す。ページ検索を使うなんて無粋です!

 

「あっ」

「どうだったの?」

「あったわ」

「おめでと」

 

 あっさりしてんな、我が妹よ。

 とりあえず合格者一覧に510の文字は見つけられた。

 とりあえずこれで安心。無事、聖徳寺学園に進学できました。

 あとで母さんにも報告しよう。

 

 と、このタイミングでソラから電話かかってきた。

 

「はいもしもし」

『ツ、ツルギぐぅぅぅん!』

「よしソラ、とりあえず落ち着け」

『落ち着いてられないですよ! だってわだし!』

 

 うん、もうオチは見えてるから。

 ゆっくり話してね。

 

『しょ、聖徳寺学園に、合格しでまじたぁぁぁ!』

「おめでとうソラ。俺も合格だ」

『やっだぁぁぁ!』

 

 めっちゃ涙声だなソラ。音割れしてて聞こえにくい。

 とりあえずソラを宥めて、耳に優しい声に戻してもらおう。

 

「落ち着いたか、ソラ?」

『はい、お恥ずかしいところを見せてしまいました』

「改めて、合格おめでとう」

『はい! ツルギくんもおめでとうございます!』

 

 少しばかり他愛無い会話してから電話を切る。

 スマホをよく見ると、メッセージが来ていた。

 

『天川はどうだ?』

『合格だ』

『俺もだ』

『おめでとう速水。アイは?』

『もちろん合格よ』

 

 どうやらチーム:ゼラニウムは全員合格らしい。

 あとは主人公なお隣さんだ。

 既に外からうるさい声が聞こえてくる。

 

「おーい、ツルギー!」

「はいはい。今行きますよ」

 

 玄関開けると、はちゃめちゃテンションな炎神いた。

 

「ツルギ見たか!? スゲーカードが発表されたぞ!」

「アームドの事だろ」

「あぁ! なんかワクワクするよな!」

「そうだな……で、炎神は合否発表見たのか?」

「もちろんさ、合格してたぜ! ツルギはどうだ?」

「合格だ」

「やっぱり! ツルギ強いもんなー!」

 

 ハハハと笑い合う俺達。

 だけどその後は、握手だ。

 手を握り、お互いを見据える。

 

「ここから先の俺達は、同級生でライバルだ」

「あぁ! 一緒に強くなろうぜ、ツルギ!」

 

 世界には新時代の風が吹き、俺達の間には新たなライバルの絆が生まれた。

 ここから先は、正真正銘アニメの物語と共に生きる事になる。

 だったら俺は出来る事をするまでだ。

 武井炎神という主人公を多少魔改造してでも、俺はこの物語をハッピーエンドに持っていってやる。

 きっとそれが、俺に出来る事だから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章:高校生編①
第六十五話:入学! 聖徳寺学園


 季節の移り変わりは早いものだと感じる今日この頃。

 ドキドキの合格発表から時は経ち、俺達は中学校を卒業。

 桜の花が咲き始めて、気づけばもう4月。

 この世界に転移して随分経ったが、ついに俺は、憧れのアニメ世界の学校に入学する日を迎えたのだ!

 

「うーん。アニメで見た制服を着るというのは、なんだか不思議な感じだな」

 

 俺は自室の鏡の前で、自分の制服姿を確認する。

 前の世界のアニメでは見慣れた聖徳寺(しょうとくじ)学園の制服。

 だけど今日からは俺が着る制服でもある。ちなみにブレザータイプ。

 

「お兄、そろそろ出る時間じゃないの?」

 

 扉を開けて、卯月(うづき)が時間を知らせてくる。

 確かにそろそろ出ないとまずいな。

 だがそれはそれとして。

 

「なぁ卯月。俺コスプレっぽくなってないか?」

「それアタシに聞く? 普通にコスプレにしか見えないんだけど」

「まぁそうだよな」

 

 前の世界のアニメを知ってる卯月からすれば、そうとしか見えないよな。

 なーに、そのうち慣れるさ。今は我慢しよう。

 俺は通学カバンでもあるリュックを背負って、自室を出た。

 一階に下りると、母さんがウキウキした顔で写真を撮ってくる。

 

「あらあらまぁ。似合ってるわよツルギ」

「2回目の高校生活だし、撮らなくてもいいだろ」

「でも新しい制服よ? せっかくなんだし撮っておきましょ」

 

 パシャパシャとスマホで写真撮る母さん。

 これは後数分は拘束されるな。

 

「母さん、俺そろそろ時間なんだけど」

「あら、そうなの? じゃあ続きは帰ってから撮りましょう」

「まだ撮る気なんかい!」

 

 どんだけ記録残したいんだ。

 俺は少しだけ呆れを覚えながら、家を出た。

 で……家の前に待ち構えていたのは、お隣に住む主人公君。

 

「おっ! やっと来たかツルギ!」

「お前は朝から元気だな」

「だって待ちに待った入学式だぜー! ワクワクするじゃねーか!」

 

 はしゃぐ炎神(えんじん)。絶対こいつ遠足の前日に眠れないタイプだな。

 

「ほら早くいこーぜ!」

「わかったから。炎神は少し落ち着け」

 

 炎神に急かされるまま、俺は駅へと向かうのだった。

 道中サモンの話題で盛り上がる。

 やっぱり中心になるのはアームドカードの話。

 既にパックに封入されているので、入手報告は世界中で相次いでいる。

 UFコーポレーションのホームページで詳しいルールも公開された。

 ただまぁ、なんと言うべきか。登場すぐ故の需要と言うべきか。

 現在アームドカードの値段は、コモンのやつでも最低1万円。

 レアのアームドカードともなれば、最高数百万円の値段がついている。

 高すぎるだろ……落ち着けよ。

 まぁ手持ちの要らないアームドカード売って、俺も儲けさせてはもらったけどな!

 素晴らしい収入になりました。

 それはそれとして。今日からは俺もアームドカード採用したデッキ使うようにしている。

 やっぱり使えるものは使いたいしね。

 

「そういえば炎神はアームドカード当てたのか?」

「ニッシッシ! 実は1枚だけ当てたんだ」

「マジかよ。よかったじゃん」

「あぁ! これでまたデッキパワーアップしたぜ!」

 

 まぁ炎神がアームドカードを入手してから入学するのは、アニメで見たんだけどな。

 それでも友人の戦果は素直に祝福したい。

 

「ツルギはどうなんだ? いっぱいカード持ってるし、もうアームドも持ってたりしてな」

「そうだと言ったら?」

「やっぱりか! デッキに入れたのか!?」

「当然。学園で大活躍させてやるからな」

「入学式終わったらファイトしようぜ!」

「気が早いなぁ」

 

 本当にサモン愛する男だな炎神は。

 そんな会話している内に、駅に着く。

 朝の駅は人が多い。そんな人混みの中から、よく知っているシルエットが見えた。

 ちっさい身体に白い髪の女の子。

 

「あっ、ツルギくん!」

「ようソラ。おはよう」

 

 ソラとエンカウントした。

 今までの見慣れたセーラー服から、聖徳寺学園指定のブレザー姿になっている。

 なんだか新鮮な絵面だな。そして普通に可愛い。

 

武井(ぶい)くんもおはようございます」

「おはよう。高校でもよろしくな!」

「速水とアイは一緒じゃないんだな」

「速水君はもう学園に着いてるそうです。アイちゃんはまだ下宿先ってメッセージが来ました」

 

 元々遠方に住んでいたアイは、聖徳寺学園への進学を機にして一人暮らしを始めたらしい。

 学園のすぐ近くに下宿しているらしく、今度みんなで遊びに行く予定だ。

 電車が来たので、3人揃って慌てて乗り込む。

 それから十数分、学園の最寄り駅で降りた。

 

「いや〜、入試以来の道だな」

「これからは毎日通るんですよ」

「だな。しっかり覚えとかなきゃな……ところでソラ、そのたい焼きは?」

「はっ!? いつの間にか買ってました」

 

 まぁ通学路と言っても、駅から学園まで数分なんだけどな。

 ちなみに炎神は途中にあったパン屋に惹かれていた。

 そしてソラはパン屋の隣にあったたい焼き屋に無意識で寄っていた。

 入学式の朝に買い食いですか。

 

 そんなこんなで校門前に到着したのだが。

 ここまで来れば新入生ばかりだ。

 この新入生達が、今後のクラスメイトでありライバルになる。

 そう考えると一気にワクワクが湧いてくるな。

 

「炎神。こいつら全員ライバルなんだぜ」

「そうだな。ワクワクするな」

「一つ勝負してみるか? どっちがより多くのライバルを倒すのか」

「おもしれぇ! その勝負乗ったぜ!」

「お前達は朝から何を物騒な事を……」

 

 声がしたので振り向くと、そこには速水がいた。

 

「おう速水。おはよう」

「あぁ、おはよう。それより天川、武井。今日は入学初日だぞ、暴れるのはほどほどにしておけ」

「だってよ炎神」

「言われてるのお前だぞツルギ」

「両方だ!」

 

 メガネに怒られてしまった。

 でも良いもん。どうせそのうち暴れてやるもん。

 特に今年は……事件も起きるはずだしね。

 

「あら、ツルギももう来てたのね」

 

 聞き慣れた声に呼ばれる。

 振り向くとそこには、制服に身を包んだアイが立っていた。

 流石は元アイドルと言うべきか、なんというかその、すごく華があるな。完璧に制服を着こなしている気がする。

 というかそれよりも……

 

「アイ、髪下ろしてるんだな」

「えぇ。せっかくだからイメージチェンジしようと思って」

 

 いつも栗色にツインテールだったけど、これからは長い髪を下ろすつもりらしい。

 アイは少し朱に染まった顔で「どうかしら?」と聞いてくる。

 

「うん。似合ってると思うぞ」

「そう……なら良かったわ」

 

 個人的に髪下ろしている女の子が良いってだけでもあるんだけどな。

 でもアイは随分と満足気であった。

 ……なんか俺の横でソラが頬を膨らませている気がするけど。

 

「どうしたソラ?」

「なんでもありませーん」

 

 なんか顔を逸らされてしまった。

 女の子というものは、よくわからん。

 そんな感じで仲間内で駄弁っていると、校門がついに開いた。

 

「新入生の皆さんは係員が案内いたしますので、入り始めてくださーい!」

 

 職員の声が伝達する。

 集まっていた新入生が次々に校門を抜けていった。

 

「……なぁ速水」

「なんだ天川?」

「この門をくぐれば、俺達の高校生活始まるんだぜ」

「そうだな」

 

 メガネの位置を正す速水。

 炎神も早く入りたくてウズウズしている。

 

「ツルギ! 絶対に俺は絶対に負けないからな!」

「天川。俺もこの学園で頂点を目指すつもりだ」

「私はほどほど頑張るわ。でもツルギ、その辺の馬の骨に負けたら許さないわよ」

 

 各々が思いの丈を俺にぶつけてくる。

 するとソラが、俺の袖を摘んできた。

 

「ソラ?」

「えっ、えっと……私は、ツルギくんに勝てるくらい、強くなりたいです!」

「そっか……じゃあ俺も負けてられないな」

 

 覚悟完了。みんなで強くなるんだ。

 いずれ来る事件に負けないためにも。

 

「じゃあ始めるか! 俺達の学園生活!」

 

 俺がそう言うとみんなが頷き、一斉に校門をくぐった。

 さぁ始めよう、聖徳寺学園での青春を!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十六話:入学式と帝王達

 青春一日目の入学式。

 厳かな雰囲気から始まった式典だけど……なんと言いますか。

 どうしてこう偉い人の話は長いのだろうか。

 今会場では白髪アイパーとかいうファンキーが過ぎる髪型の学園長が話をしているけど、絶対5分は経過している。

 ちなみにこの学園長もアニメで見たキャラクターだ。出番少ないけど。

 しっかし本当に話が長いな。近くに座っている炎神(えんじん)の方を見てみると、見事な鼻提灯を作っている。

 

「では改めまして。皆さん、入学おめでとうございます」

「んが!?」

 

 あっ、炎神起きた。

 あと学園長の話も終わった。拍手が鳴り響く。

 俺もちゃんと拍手はするけど、やっぱり視線は色々なところに行ってしまうな。

 だって今ここにはアニメのキャラクターがいっぱいいるんだぜ。

 探し当てたいじゃん。

 とりあえず教員の席にはアニメで見た事ある先生を複数見つけた。

 もちろん侍先生こと伊達(だて)権左衛門(ごんざえもん)先生もいる。

 というか伊達先生、入学式でも鎧武者の格好なんだ。

 

「続きまして、新入生代表挨拶です。新入生代表、速水(はやみ)学人(がくと)君」

「はい!」

 

 速水が壇上に上がっていく。

 今年の新入生代表は速水が選ばれた。

 聞いたところによると、筆記と実技両方で好成績を収めた者が、毎年新入生代表になるらしい。

 俺やソラ達も一緒に代表挨拶考えたんだぜ。

 

 ちなみに速水曰く、実技試験だけなら俺と炎神の方が成績良かったらしい。

 ……悲しいね、一般科目が苦手って。

 

「桜の花が色づく今日。私達はこの聖徳寺(しょうとくじ)学園に」

 

 緊張の様子は無いな。良い事だ。

 じゃあ代表挨拶はカット!

 だって俺はもう何言うか知ってるしー。

 これも長い挨拶だから、聞いてて疲れそうだ。

 

「……ん?」

 

 ふと、会場の天井付近に何かの気配感じる。

 視界に入ってきたのは、小さな銀色の竜。

 可愛らしい翼を動かして、俺達新入生を観察しているようであった。

 なんだアレ?

 

「(召喚器の立体映像……何かのサプライズか? でもなんで今?)」

 

 というか、あの竜を俺は知っているぞ。

 あれは〈【王子竜(おうじりゅう)】シルドラ〉、炎神の一番のライバルになる奴が使うエースカードだ。

 そういえば、アニメの入学式のシーンでも彼は出てたな。

 ふと炎神の方を見る。予想通りと言うべきか、炎神もシルドラの姿を視認していようだった。

 だけど……他の生徒は認識していなさそうだな。

 こんなにあからさまに飛んでいるのに、誰も気にしていない。

 どういうことだ?

 

「以上をもちまして。新入生代表の挨拶とさせていただきます」

 

 あっ、速水の挨拶が終わった。

 上を飛んでいたシルドラは在校生の席へと降りていく。

 そういえば……彼は中等部からの進学生だったな。

 

「続きまして、在校生代表による挨拶です。在校生代表、九頭竜(くずりゅう)ルーク君」

「はい」

 

 名前を呼ばれて壇上に上がったのは、灰色の髪と赤い目が特徴的な少年。

 先程のシルドラは彼のすぐ横を飛んでいる。

 炎神もそれに気付いたのか、食い入るように彼を見ている。

 

 俺は彼の事もよく知っている。

 九頭竜ルーク。武井(ぶい)炎神の永遠のライバルとなる男だ。

 

「新入生の皆さん、この度はご入学おめでとうございます」

 

 無愛想な感じで挨拶文読み上げるルーク。

 うんうん、そうだったな。アニメの初期はそんな感じだったよな。

 なんだか後方視聴者目線で挨拶を聞いてしまう自分がいる。

 

 ただまぁ……安心して聞ける挨拶はここまでかな。

 俺は次の挨拶のためにスタンバイしている生徒達を見て、思わずそう考えてしまう。

 待機している生徒は4人。いや、5人か。

 ルーク挨拶も終盤に入っている。もう終わりそうだ。

 

「以上をもちまして、歓迎の挨拶とさせていただきます……在校生代表」

 

 そして……と、ルークは続ける。

 

六帝(りくてい)評議会、序列第6位【竜帝(りゅうてい)】九頭竜ルーク」

 

 六帝評議会。

 その単語が出た瞬間、会場僅かに騒めいた。

 ただ分からない者には、その意味は全く分からない。

 ちょうど隣に、その一例が居る。

 

「ツルギくん、ツルギくん」

「どしたソラ?」

「六帝評議会ってなんでしょうか?」

「多分この後説明があると思うけど……簡単に言えば、聖徳寺学園における最強の6人で構成された生徒会だ」

「えっ!? でも今挨拶した人って一年生ですよね」

「それだけ強いってことだろ」

 

 ソラとこっそり会話をしていると、壇上に4人の生徒上がってきた。

 ルークもそこに並ぶ。

 六帝評議会を知る者は、その並びに戦慄。

 知らない者も、何かを察したように固唾を飲んだ。

 

 一人の男子生徒が前に出てきて、マイクを持つ。

 

「新入生の諸君。入学おめでとう。我々六帝評議会は君達を歓迎するよ」

 

 そう語るのは長い金髪の三年生。

 あぁ……アニメでよく見た顔だよ。

 

「僕の名は(まつり)誠司(せいじ)。六帝評議会序列第1位、二つ名は【政帝(せいてい)】だ。今から新入生の諸君に、六帝評議会について説明をしようと思う」

 

 そして始まる六帝評議会の説明。

 とは言っても、俺はもう知ってるんだけどな。

 

 聖徳寺学園六帝評議会。

 先程ソラに話したように、学園最強の6人によって構成された生徒会のような組織である。

 普通に生徒会らしく学生自治もするのだけど……六帝評議会の凄まじいところはそこじゃない。

 端的に言えば、権力が凄すぎるのだ。

 どれだけ凄いかと言うと、下手すりゃ教師よりも権力がある。

 当然発言権も強いし、学園の予算もある程度は自由にできる。

 六帝評議会が可決すれば、最悪学園長を交代させる事も可能。

 というか六帝評議会に加入した時点で将来が約束されるとまで言われる組織だ。

 うん……ここまで思い返してなんだけど、この組織イカれてないか?

 学生にそんな強権持たせるなよ。

 

 まぁ、真の問題はそこでは無いんだけどな……

 

「それではせっかくの場なので、現六帝評議会のメンバーを紹介しよう」

 

 政帝こと政誠司の言葉で、序列の下から紹介が始まった。

 まずは序列第6位から。

 

「六帝評議会の歴史の中でも数少ない、高等部一年からの加入者。序列第6位【竜帝】九頭竜ルーク」

「よろしくお願いします」

 

 うーん、淡白な反応。

 でも前の世界だと、そういう所が女性ファンに受けてたんだよなー。

 

「次は序列第5位を紹介したいが……生憎と今日は不在なのだ。なので名前だけでも紹介しよう。2年生、序列第5位【裏帝(りてい)黒崎(くろさき)勇吾(ゆうご)

 

 あぁ、確かサボり癖がすごい帝王だっけ?

 アニメでは少ししか出番なかった印象のキャラだ。

 見てみたかったな。

 

「続けて序列第4位。彼女の前では如何なる者も動けなくなる。2年生、【氷帝(ひょうてい)音無(おとなし)ツララ」

「はい」

 

 綺麗な黒髪ロングに青い目が特徴の女子生徒が、短い挨拶を済ませる。

 うーん、またもや塩挨拶。

 だけどあのキャラクターも知っているぞ。

 基本的に塩対応だけど、心開いた相手にはめっちゃデレるという事もな!

 そして炎神、彼女の事覚えておけよ。

 前の世界でツララ先輩は通称「炎神のオンナ」だったからな!

 原作ヒロインですよ、原作ヒロイン。

 

「次は序列第3位だが」

「ハイハイハーイ! ボクの出番だねー!」

 

 うるさい金髪男子が、マイク奪い取る。

 

「ボクこそオンリーワン! レディ達全員の彼氏! マイネームイズ!」

「彼は【暴帝(ぼうてい)】の(ワン)牙丸(きばまる)だ」

「オイオイオーイ! 誠司、美味しいところを持って行くなよー!」

 

 ハイテンションの3年生、王牙丸。

 一見馬鹿っぽい振る舞いしているが、その本性は二つ名に恥じないものである。

 あんな馬鹿な見た目で、中身は獰猛な獣だからな。

 あんな馬鹿な見た目でな!

 

「次は序列第2位。(なぎ)、前へ」

「はい誠司様。ご紹介に預かりました、六帝評議会序列第2位【嵐帝(らんてい)】。私の名前は風祭(かざまつり)凪と申します」

 

 黒髪ショートボブの3年生が普通の挨拶をしている。

 うん普通の挨拶だ。心が癒されるね。

 でも俺は知っているぞ、あの先輩は政誠司にしか興味がない忠犬である事を。

 むしろ主人以外の男が近寄ろうものなら、露骨に嫌な顔をするタイプだ。

 前の世界ではエロい同人誌をたくさん見つけたよ。

 まぁ……彼女には彼女なりの事情もあるんだけどね。

 

 さぁ問題はこいつだ。

 

「では最後に改めて自己紹介をさせてもらおう。現六帝評議会序列第1位、【政帝】政誠司だ。君達の王でもある。よろしく頼むよ」

 

 六帝評議会序列第1位。すなわち現聖徳寺学園にて最強の男。

 政誠司……いや違う。

 

「(高一編の、黒幕さん)」

 

 これから起こるであろう事件の黒幕。

 俺は今、それのすぐ近くにいるのだ。

 甘く見ないでくれよ。あのウイルス事件が発生するのであれば、俺は躊躇う事なく本気を出すつもりだ。

 それこそ……主人公である炎神を魔改造してでもな。

 

 六帝評議会の挨拶が終わり、入学式は幕を閉じた。

 同時に俺は、戦いに身を投じる覚悟も決めた。

 

 それはそれとして……あのシルドラってなんだったんだ?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十七話:クラス分けと意外な再会?

 衝撃の入学式が終わり、会場を出た俺達新入生。

 次はお待ちかねのクラス分けだ。

 とは言っても、事前に知らされてはいるんだけどな。

 俺は新入生向けの資料に記載されているクラス分けのリストを確認する。

 

「俺は1年A組か」

 

 ちなみにソラ、アイ、速水(はやみ)炎神(えんじん)もA組だ。

 なんか都合よく感じるだろ?

 でも俺からすれば納得の結果でもあるんだ。

 何故ならこのクラス分け、基本的には実技試験の成績によって決められる。

 下からE組、D組、C組、B組、A組という順位付け。

 つまり俺達は実技試験においては優秀な成績を残したという事になる。

 なお筆記試験の結果はクラス分けには影響しない。じゃあなんで筆記試験をやったんだ。

 あと学力も考慮してクラス分けしろよ。普通はそうだぞ。この学校頭サモン脳かよ。

 

 まぁそれはともかく。

 俺はこれからお世話になる教室へと到着するのだった。

 

「あっ、ツルギくんも同じクラスなんですね」

「というかゼラニウムは全員同じクラスだな」

「よかったです。私一人別のクラスだったらどうしようかと」

「大丈夫だろ。その時は俺がそっちのクラスに遊びに行くし」

 

 とりあえずソラの頭をよしよししておく。

 なんか絶妙に良い感じの位置に頭がくるんだよな。

 

「わわっ、ツルギくん」

「おっと失礼」

「ツルギ、女子の頭は気軽に撫でるものじゃないわよ」

 

 あっ、アイも来た。

 

「こっち来なさいソラ。髪直してあげるわ」

「はいです」

 

 アイよ、いつの間にブラシを用意したんだ。

 

「そういえばアイ。一人暮らしはどうなんだ?」

「……じゅ、順調よ」

「そうか。じゃあ今度遊びに行くか」

「あそっ!? そ、それはまた後日に……」

 

 なんか歯切れ悪いなアイよ。

 どうしたんだ?

 

「おーいツルギー!」

 

 今度は炎神か。いそがしいなぁ。

 

「どうした」

「俺らの組って、サモンが強かった奴らばっかなんだよな?」

「そうだな。サモンの実技が優秀だった奴が集まってる」

「入学式にいた九頭竜(くずりゅう)ってやつは、どこにいるんだ?」

「あぁ、アイツなら別のクラスだぞ」

「なーんだそうか……え?」

 

 炎神が見事なギャグ顔を披露しているが、事実だ。

 

「中等部から持ち上がりの生徒は、一律S組だったか」

「速水、解説サンキュ」

「S組? どういうことだ?」

 

 俺は炎神にクラス分けについて説明する。

 俺達高等部からの編入組は、AからEのクラスに分けられる。

 ただし、中等部から持ち上がった生徒はこの限りではない。

 中等部からの持ち上がり組は、全員A組の更に上、S組に配属されているのだ。

 

「つまりあの九頭竜って奴はS組にいる」

「へー……S組かぁ、俺らより強いのかな?」

「どうだろうな? 中等部からの持ち上がりってだけで、実は俺達の方が強いかもな」

 

 実際S組への配属は暫定的なものでもある。

 成績次第では2年生に進級した時に、A以下のクラスへ降格する事も珍しくないとか。

 ちなみにこれはアニメ知識。

 

「逆に言えば、この1年の頑張り次第で俺達がS組に進級する可能性もあるというわけだ」

「速水、解説サンキュ」

「なるほど……つまりS組の奴に勝てばいいんだな」

「炎神は単純だなぁ。まぁ正解だけど」

 

 そんな話をしていると、髪を整え終えたソラとアイが参加してきた。

 

「そういえば、S組の教室ってどこにあるんですか?」

「そうね。隣ではないみたいだけど」

「二人とも、窓の外見てみ」

 

 俺は教室の窓を指さす。

 ソラ達がそちらに目線を向けると、窓の外には不自然なほどに豪華な造りの建物が一つ建っていた。

 

「……ねぇツルギ。まさかとは思うのだけど」

「あれ、丸々S組の教室な」

「格差ってレベルじゃないですね」

「ちなみに設備もすごいらしいぜ。椅子なんか全員分の高級ゲーミングチェアがあるとか」

「それ、よく教育委員会に怒られないわね」

 

 アイよ、俺も同じ気持ちだ。

 まぁでも、今年の頑張り次第では、俺達も来年あそこに行けるんだ。

 頑張りましょう。

 

「とりあえず目指すべきは、来年S組だな」

「そうだな。天川の言う通りだ」

 

 来年へ向けてのやる気が燃える俺達。

 だけどそんな俺達に話しかける者が一人。

 

「残念だけど、先にS組へ進級するのは……この僕だ!」

「お、お前は」

 

 金髪に、どこか身なりの良さを感じる風貌。

 俺はコイツに覚えがあるぞ。

 俺はコイツとファイトした気がするぞ。

 名前は確か……ざ、こ……

 

「ざこ太郎!」

()()太郎だ! 失礼な奴だな君は!」

「あぁそういえばそんな名前だったな」

 

 そうだそうだ。俺のチュートリアル戦の相手だ。

 今思い出したぞ。機械使いの財前(ざいぜん)だ。

 

「てか、お前も聖徳寺学園だったんだな」

「当たり前だ。僕は偉大なる王になる男だからな」

「その割には東校で猿山の大将をしてたみたいだけど」

「何事も練習が必要なのさ。それよりも天川ツルギ!」

 

 ビシィっと俺に指さしてくる財前。

 

「僕は君に勝つため、進化を遂げてきた! 今度こそ君を負かして、僕のプライドを取り戻す!」

「そうか。頑張ってくれ」

「他人事みたいに言うな!」

「だって負ける気しないもん。あとテメェの弟をどうにかしろ」

「本当に失礼な男だな君は! あと何故半蔵を知っている」

「お前の弟がウチの妹にしつこく絡んでくる。いい加減アイツをしばくの疲れたって妹が言ってるんだよ」

「最近半蔵の様子が変なのはそのせいか……」

 

 ようし、とりあえず言いたいクレームは言えた。満足だ。

 

「ともかく! 僕は夏のランキング戦で君に勝つ! それまで負けるんじゃないぞ!」

「へいへい。善処します」

「真面目に取り合ってくれないか!?」

 

 えー面倒くさいもん。

 と言いますか。

 

「S組になる方法なら、ランキング戦よりも手っ取り早い方法があるだろ。なぁ炎神」

「そうだよなツルギ」

 

 うむ。見事な意思疎通だ。

 それはそれとして、速水やソラが疑惑の目で俺達を見てくるけど。

 

「天川、武井、何を考えている」

「ツルギくん……まさかとは思いますが」

「ツルギー、今からS組に殴り込みに行こうぜ」

「いいね。行こう行こう」

「行かせるか!」

 

 速水に拳骨を貰ってしまった。

 何故!?

 

「なんだよ速水。止めるなよ」

「入学初日だぞ。騒ぎを起こすな!」

「でも強いやつを一狩りしたいじゃん」

「携帯ゲーム感覚で恐ろしい事を言うな。せめて明日にしろ」

「速水くんも、なんだかツルギくんに染まってますね」

 

 うーむ、そこまで言われては仕方ない。

 今日のところは勘弁してやるか。

 と考えていたら、担任の先生が入って来た。

 

「皆の者、席に着くでござる」

 

 あぁ、うん。口調と音でわかった。

 というかアニメ知識で知ってた。

 A組の担任は伊達(だて)権左衛門(ごんざえもん)先生だ。

 相変わらずの鎧武者スタイルである。

 

「拙者が諸君らの担任となる伊達権左衛門でござる」

 

 席に着くや、始まる先生の自己紹介。

 だがここで皆が、あることに気付く。

 

「むむ? 一人欠席しておるのか?」

 

 一カ所だけ空席。というか俺の隣が空席。

 あぁ、この席の人なら。

 

「先生。炎神ならさっきS組へ殴り込みに行きました」

「何!? 初日から威勢のいい武士でござ……いや違う! 急いで連れ戻すでござる!」

 

 大急ぎで教室を出る伊達先生。

 数分後、炎神は伊達先生に連れられて、教室に戻ってきた。

 S組への殴り込みは失敗したらしい。

 

 ……後で殴り込み計画立てるか。

 まぁそれよりも俺の関心が向いてるのは……

 

「(六帝(りくてい)評議会……あそこに入ってやりたいな)」

 

 色々と出来そうだし、ね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十八話:平和な学園生活……終了!?

 聖徳寺(しょうとくじ)学園に入学して数日が経過した。

 とりあえず授業は始まったが、やはり一年生の最初故か、まずはサモンの基礎を復習するのが中心。

 一般科目の授業もあるが、それに関してはごく普通の授業だ。

 やはりここで注目したいのはサモンの授業……なのだけど、そもそも実技の授業がまだなので語る内容がない!

 早く実技で暴れさせてくれとは、炎神(えんじん)と俺の言葉である。

 とはいえ、派手派手なファイトをするのは時間の問題。

 今はこの平凡な日常を楽しむのも一興だと思う。

 

 まぁ、中にはすでに平凡なから遠ざかっている奴もいるけど。

 それはそれとして、俺は平凡。

 今日は学園にある食堂の飯を楽しんでいるぞ。

 

「流石は聖徳寺学園の学食。飯が美味い」

 

 今俺はカレーを食べている。

 肉は軍鶏肉、スパイスは自家配合。完全に専門店のカレーである。

 これが学食価格で一杯500円って素晴らしすぎない?

 

「ここの食堂は学園長の趣味で、一流のスタッフが揃ってるらしいわね。お祖父様が言ってたわ」

「流石はアイ。そういうのには詳しいな」

 

 ちなみに今俺はアイ、ソラと一緒に昼飯中。

 速水は図書館で調べ物だそうだ。

 

「あら? そういえば武井(ぶい)は居ないのかしら」

「あぁ、炎神なら」

「武井くんなら今日もS組に殴り込みにいっているらしいです」

 

 困り顔で答えるソラ。

 だけどその通りなんだよなぁ……。

 入学式の日以来、炎神は九頭竜ルークにファイトを挑むために、何度もS組に行っている。

 まぁことごとく追い返されているんだけどな。

 

「でも不思議ですね。どうしてファイトを受けないんでしょう?」

「予約があるんだろ。S組の生徒、ましてや六帝(りくてい)とのファイトともなればやりたい奴はいくらでもいる」

「なるほどね。先約がすでに多すぎて、武井のファイトを受けている余裕はないってこと」

「それだけファイトを挑まれているなんて……すごいですね〜」

「実際スゴいんだよ、六帝評議会ってやつは」

 

 下手をすれば直接対面する事も難しい人達だからな。

 アニメだと六帝が登校してきただけで、ギャラリーが沸いてたからな。

 ファイトするともなれば、簡単にはいかない。

 

 ま、この悩みは炎神だけじゃなくて俺も抱えているんだけどな。

 

「俺も六帝とファイトしてー」

「ツルギくんが言うと、冗談に聞こえないですね」

「というか、冗談じゃなくて本気で言ったでしょ」

「とうぜん」

 

 だって六帝評議会に入りたいんだもん。

 あとは色々と探りたい事もあるしね。

 

「ツルギ……お願いだから、変な騒ぎは起こさないでよ」

「失礼な。俺は普通にファイトを挑む予定だ」

「ツルギくんの普通は信用できないです」

 

 ソラさんや、真顔でそんな事言わないでください。

 泣きそうになります。

 

「でも六帝って、どうやってなるんでしょうか?」

「ランキング戦で上位に入ればなれるんじゃないの?」

 

 ソラアイが純粋な疑問を上げている。

 まぁ普通ならそう思うよな。

 勿論俺はきちんと調べた後だぜ。

 

「ランキング戦で上位に入るのは最低条件だ。問題はその後」

「どういうことかしら?」

「ランキング戦で上位6名に入ったら、六帝への正式な挑戦権が得られる。そこで六帝の誰かに勝てば良いらしい」

 

 ちなみに六帝が卒業でいなくなった場合は、ランキング上位者から繰り上がりで六帝に入る事になるとか。

 もっとも、繰り上がりなんて甘い事象は一度も発生した事ないらしいけどな。

 

「そうなんですね。厳しいです」

「まぁ最強を名乗るわけだからな。これくらいしないといけないんだろ」

「でもツルギ。それだけじゃない、でしょ?」

 

 流石アイ。察しが良いな。

 

「この学園はサモンが全ての学園。当然何かを賭けた勝負だって珍しくない」

「……それって、もしかしてですけど」

「六帝の席を賭けた勝負。そういうのも有りなんだ」

 

 当然だけど、双方の合意が必要だけどな。

 

「とは言え、この方法はあまり現実的じゃない。六帝の席を巡るファイトなんて、どっちかの退学を賭けても割に合わないからな」

「それでも割に合わないんですね」

「改めて考えると、中々に飛んでる学園ね」

「それが聖徳寺学園だ」

 

 ここは良くも悪くもサモンが全て。

 サモンの強さは権力の強さ。

 強さこそ正義の学園だ。

 

「ということは、ツルギくんはやっぱりランキング戦を目指すんですか?」

「そうだな。まずは正攻法でランキング戦を勝ち抜く予定」

「勝算はあるのかしら? 少なくともランキング戦では私達A組だけじゃなくてS組とも対戦する事になるわよ」

「みんな間違いなく強いファイターのはずです。特にツルギくんはJMSカップでテレビに映ってますから、ループコンボの対策もされてそうです」

「大丈夫だ。ちゃんと考えはある」

 

 俺は1枚のカードを召喚器から取り出して、二人に見せた。

 

「ツルギ、それって!」

「新しいSRカードですか!?」

「選択肢は多い方がいいだろ?」

 

 あたかも最近当てたように振る舞う俺だけど、手にしているカードは前の世界から持ってきたもの。

 ちなみにJMSカップで使わなかった理由は、アイのデッキにはあまり刺さりそうになかったからだ。

 

「このカード……カーバンクルの進化形態なのね」

「蒼いドラゴンじゃなくて、今度は紅いライオンです」

「名前はカーバンクル・ビースト、これをデッキに入れて頑張る予定だ」

 

 刺さるデッキにはとことん刺さるカードだからな。

 これとカーバンクル・ドラゴン、そしてアームドカードで暴れてやるんだ。

 

「でもねツルギ」

「私達も負けてはいません!」

 

 そう言ってアイとソラはカードを取り出して、俺に見せてくる。

 

「それは、アームドカードか」

「はい。この前アイちゃんと買ったパックで当てたんです」

「私達もこのカードでデッキを強化する予定よ」

「これは強力なライバル登場だな」

 

 だけど負けるつもりはない。

 ランキング戦勝ち抜いて、六帝に入るんだ。

 それに……誰にも言わないけど、現在は無制限、未来では禁止指定受けたカードも仕込んであるしね。

 例の事件が起きたら、このカードを迷わず使う予定だ。

 

「それにしても速水はともかく、炎神のやつ全然食堂にこねーな」

「もうすぐお昼休み終わっちゃいますよ」

 

 結構食いしん坊な炎神が昼飯を抜くとは考えられない。

 どうしたんだろうか?

 いや待て……入学から数日経過?

 なんかアニメでイベントがあった気がする。

 

「あら、何か騒がしいわね」

 

 アイに言われて気がついた。

 食堂のモニターに、ファイトステージが映し出されている。

 皆それを見ているのだ。

 誰かファイトしているのか?

 

「……まさか」

「あっ、ツルギくん!」

 

 俺は一つの可能性に行きつき、急いでモニター前に移動した。

 人をかき分け、顔を上げる。

 

「あっ、やっぱり!」

 

 モニターに映っているファイトステージ。

 そこに立っているのは炎神。

 そしてもう一人は、九頭竜(くずりゅう)ルークであった。

 

「おい見ろよ竜帝(りゅうてい)のファイトだぜ」

「相手は最近竜帝に付き纏っていた新入生だ」

「こりゃあボコボコにされるぞー」

 

 ギャラリーが好き勝手に言っているが、今はどうでも良い。

 モニターの向こうで、炎神とルークが召喚器を向け合う。

 

『『ターゲット・ロック!』』

 

 そうか、今日だったのか。

 炎神とルークの初ファイトは。

 

『『サモンファイト! レディー、ゴー!』』

 

 俺は静かに、二人のファイトを見守る事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六十九話:ルークの王波①

 モニターの向こうで、炎神(えんじん)とルークが言葉を交わしている。

 

『やっとファイトする気になったか』

『勘違いしないでくれ。僕はしつこい君を黙らせたいだけだ』

『最後に黙るのはどっちなのか、早くファイトで決めようぜ!』

「全く、暑苦しい新人だ』

 

 どうやらルークは炎神を力で黙らせたいらしい。

 コンピューターが先攻後攻を決める。

 モニターに表示された先攻はルークだ。

 

『僕のターン。スタートフェイズ』

 

 六帝のファイトという事もあってか、食堂のモニター前にはどんどん人が増えてきた。

 まぁ俺もその観衆の一人なわけだけど。

 

『メインフェイズ。僕は〈ビッグディフェンドナイト〉を召喚する』

 

 ルークの場に召喚されたのは巨大な盾を構えた騎士。

 いや、輝士(きし)と表現した方が正しいかもしれない。

 

〈ビッグディフェンドナイト〉P8000 ヒット2

 

 まずはルークが防御を固めてきたか。

 アニメ通り、堅実なファイトをする奴だ。

 

『ターンエンド。君の番だ』

 

 ルーク:ライフ10 手札4枚

 場:〈ビッグディフェンドナイト〉

 

 まずは静かな始まりなんだけど、このファイトの後攻は炎神だ。

 アイツは開幕から攻撃を仕掛けてくるぞ。

 

『壁モンスターが1体だけか。そんなんぶち抜いてやる! 俺のターン!』

 

 炎神のターンが始まる。

 

『スタートフェイズ。ドローフェイズ!』

 

 炎神:手札5枚→6枚

 

『メインフェイズ! まずはコイツだ! 俺はライフを1点払って〈ブイモンキー〉を召喚!」

 

 炎神の場に、炎を纏った巨大な猿が召喚される。

 あれは入試ファイトでも使っていたモンスターだな。

 

 炎神:ライフ10→9

〈ブイモンキー〉P5000 ヒット3

 

『次はコイツだ! ライフを1点払って、来い! 〈ブイゴールドベアー〉』

 

 続けて召喚されたのは、金色の大熊。斧も装備している。

 アレは多分初登場だな。結構優秀なモンスターだぞ。

 

 炎神:ライフ9→8

〈ブイゴールドベアー〉P7000 ヒット2

 

 パワー5000と7000のモンスター。しかも両方効果持ち。

 ブイモンキーは魔法効果で選ばれず、ブイゴールドベアーは追加ダメージ効果と除去を持っている。

 一見優秀な盤面に見えるけど、問題がある。

 

『そのモンスター達では僕の〈ビッグディフェンドナイト〉は破壊できないけど』

『慌てんなって竜帝さんよ。サモンには魔法カードがあるから楽しいんだ!』

 

 そう言うと炎神は、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 

『魔法カード〈ブイファイアー!〉を発動!』

『除去カードか』

『このカードは、自分の場に系統:〈勝利〉を持つモンスターが存在するなら、ヒット2以下の相手モンスターを1体選んで破壊する! これで〈ビッグディフェンドナイト〉を破壊だ!』

 

 炎神の魔法から放たれた火球が、ビッグディフェンドナイトを焼き尽くす。

 消し炭になり破壊されたビッグディフェンドナイト。

 だが炎神の魔法効果はまだ続く。

 

『〈ブイファイアー!〉の追加効果! 破壊したモンスターのヒット数分のダメージを、自分か相手に与える』

『まずは僕のライフを削る作戦か』

『いいや違う。ダメージを受けるのは俺だ! 来い!』

 

 炎神の声に合わせて、もう一つの火球が炎神に襲い掛かる。

 

 炎神:ライフ8→6

 

 突然の自爆ダメージ。食堂のギャラリーはもちろんの事、対戦しているルークも驚いていた。

 

「武井くん、なんで自分にダメージを?」

 

 おっと、いつの間にかソラが隣にいた。

 解説しなくては。

 

「【Vギア】を発動させるためだ」

「【Vギア】って、武井(ぶい)くんのデッキが持ってる専用能力ですよね?」

「そうだ。【Vギア】は自分のライフが5以下でないと発動しない。逆に言えば、ライフが6以上あると炎神のデッキは本領を発揮できないんだ」

「つまり自爆ダメージも、能力の発動を早めるためなんですね」

「ソラ大正解」

 

 納得してくれたようで安心した。

 ちなみに炎神に自爆ダメージテクニックを教えたのは、俺だったりする。

 主人公よ、強くなってくれ。

 

『アタックフェイズ! 〈ブイゴールドベアー〉で攻撃だー!』

 

 斧を構えて、ルークに突撃するブイゴールドベアー。

 あのカードは相手モンスターを破壊する、または相手にダメージを与えると、自分か相手に1点のダメージを与える。

 炎神はこの能力を使って【Vギア】を達成するつもりだ。

 

『いっけぇー!』

 

 ブイゴールドベアーが斧を振り下ろす。

 しかし……

 

『魔法カード〈ダイレクトウォール〉を発動。アタックフェイズを強制終了させる』

 

 ルークの前にバリアが展開され、ブイゴールドベアーの攻撃が無効化される。

 それだけではない、炎神のアタックフェイズも強制終了させられてしまった。

 というか忘れてたわ。

 そもそも俺が〈ダイレクトウォール〉を知ったきっかけって、アニメでルークが使ってたからだ。

 

『くっそー。ターンエンドだ』

 

 炎神:ライフ6 手札3枚

 場:〈ブイモンキー〉〈ブイゴールドベアー〉

 

 うーん、ちと不味いな。

 このターン炎神はルークにダメージを与えられず、自爆ダメージを受けただけだ。

 これは危ないぞ。というかルークのライフは10点満タンだ。

 

『僕のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』

 

 落ち着いた雰囲気で、ルークがターンを開始する。

 

 ルーク:手札3枚→4枚

 

 ドローしたカードを確認しても、ルークは顔色一つ変えていないな。

 クールなもんだ。

 

『メインフェイズ……このターンで終わらせよう』

 

 最終ターン宣言。

 それが出た瞬間、食堂のギャラリーも騒めきだした。

 当然ながら、炎神も驚いている。

 だが同時に、炎神はこの状況さえ楽しんでいる様子であった。

 

『コストとしてライフを1点払い〈フレイムナイト〉を召喚』

 

 ルークの場に炎の剣を手にした騎士が召喚される。

 あれまたレアなカードを使うもんだ。

 

 ルーク:ライフ10→9

〈フレイムナイト〉P7000 ヒット3

 

 ステータスは高めのレアカード。

 多分この世界の一般人なら、あれだけでエースカードになるだろう。

 だけどフレイムナイトの効果はまだ発揮できない。今はただのバニラだ。

 そんなバニラ同然の状態で、仮にも【竜帝(りゅうてい)】を名乗るファイターが立てるとは思えない。

 となれば恐らく……持っているな?

 

 ルークは手札から1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 ルークの場に白銀の魔法陣が展開される。

 

『王の名の下、白銀(しろがね)の風を起こせ。僕の半身! 〈【王子竜(おうじりゅう)】シルドラ〉召喚!』

『ハァァァ!』

 

 魔法陣の中から、1体の小さなドラゴンが召喚される。

 その身体は銀色。気品あふれる輝きすら感じられる。

 

〈【王子竜】シルドラ〉P6000 ヒット2

 

 九頭竜(くずりゅう)ルークの相棒、シルドラが現れた。

 あのカードが場に出れば、ルークのデッキは真の力を発揮する。

 

『系統:〈王竜(おうりゅう)〉を持つモンスター〈シルドラ〉が場に出た事で、〈フレイムナイト〉の【ロードストライク】を発動!』

『【ロードストライク】?』

『【ロードストライク】は系統:〈輝士(きし)〉だけが持つ専用能力。系統:〈王竜〉のモンスターがいれば、追加能力を発揮する』

 

 これが九頭竜ルークの【王竜/輝士】デッキ。

 上手く回れば強力なデッキだ。

 

『〈フレイムナイト〉の【ロードストライク】によって、僕の場のモンスターは全てパワー+3000となる』

 

〈フレイムナイト〉P7000→P10000

〈【王子竜】シルドラ〉P6000→P9000

 

 一気に強化されたルークのモンスター。

 特にシルドラの強化が怖いな。

 

『魔法カード〈キングダムドロー〉を発動』

 

 で、出たー! クソインチキスペック魔法カード!

 前の世界でも普通にガチカードですよ!

 周りのギャラリーは理解してなさそうだけど。

 

『このカードは、自分のデッキを上から3枚オープンする。その中に系統:〈王竜〉または〈輝士〉を持つカードがあれば、全て手札に加える』

 

 このあたりで理解できた奴は、あのカードのヤバさを理解していた。

 

「あの、ツルギくん……あのカードって」

「ご想像通り、強いカードだ」

 

 だって専用デッキに入れたらノーコスト3ドローですよ!?

 弱いわけがないでしょ!

 このインチキ効果!

 

 ちなみにオープンされたカードは次の通り。

〈キングダムウォール!〉〈ディスペルスラッシュ!〉〈キングダムセイバー〉

 うん知ってた。

 流石はアニメキャラ、全部系統:〈王竜〉か〈輝士〉のカードじゃん。

 

『3枚のカードを手札に加える』

『なぁ、そのドロー強すぎないか?』

『知ったことではない』

 

 文句を言う炎神。だけどな炎神、お前にそれを言う資格は無い。

 いや、問題はそこじゃない。

 さっきルークが手札に加えたカードの中には……アレがあった。

 

『コストとしてデッキを上から5枚除外する』

 

 ルークの場に銀色の魔法陣が出現する。

 このコストは……来るぞ!

 

『アームドカード〈キングダムセイバー〉を顕現!』

 

 魔法陣を突き破り、ルークの場に一振りの剣が出現した。

 アームドカードという最新のカード。その登場に、ギャラリーは一気に沸き上がった。

 もちろん、対戦している炎神も同様だ。

 

『すっげー! アームドカードだー!』

 

 子供のようにはしゃぐ炎神を、ルークはクールにスルーする。

 

『〈キングダムセイバー〉を〈【王子竜】シルドラ〉に武装(アームド)!』

 

 キングダムセイバーは強い輝きを放った後、シルドラが手に持てるサイズへと変貌した。

 それをシルドラが手に持ち、武装する。

 

『〈バレルナイト〉を召喚』

 

 武装によって空いたモンスターゾーンに、二丁拳銃を手にした騎士が召喚された。

 

〈バレルナイト〉P3000 ヒット1

 

 これで場にモンスターは揃った。攻撃が始まるぞ。

 

『アタックフェイズ。〈キングダムセイバー〉の武装時効果によって〈シルドラ〉は【指定アタック】を得ている。僕は〈ブイゴールドベアー〉に指定アタック!」

 

 白銀の剣を構えて、シルドラはブイゴールドベアーに攻撃を仕掛ける。

 パワーは9000で勝っている。シルドラによってブイゴールドベアーが破壊される……だけでは終わらない。

 

『〈シルドラ〉の攻撃時効果【王波(おうは)】を発動』

『おうは?』

『〈シルドラ〉の【王波】によって、〈シルドラ〉よりもパワーの低いモンスター〈ブイモンキー〉を破壊する!』

 

 シルドラは口から衝撃波をブイモンキーに撃ち込む。

 衝撃波を受けたブイモンキーは一瞬にして爆散してしまった。

 あれが系統:〈王竜〉が持つ専用能力【王波】。

 何が厄介って、【王波】による破壊はあらゆる耐性を貫通してくるんだよ。防御不可の一撃なんだ。

 

 ブイモンキーを破壊したシルドラは、そのままキングダムセイバーでブイゴールドベアーを切り裂く。

 ゴールドベアーも爆散してしまった。

 

『〈ブイモンキー〉! 〈ブイゴールドベアー〉!』

『これだけでは終わらない。この瞬間〈バレルナイト〉の【ロードストライク】を発動! 相手モンスターが破壊される度に、相手に2点のダメージを与える』

 

 破壊されたモンスターは2体。

 バレルナイトは二丁の拳銃の銃口を炎神に向けて、発砲した。

 

『うわぁ!』

 

 炎神:ライフ6→4→2

 

 大ダメージを受ける炎神。

 不味いな、残りライフ2点。ブロッカーもいない。

 フレイムナイトの攻撃を受けたら負けるぞ。

 

『これで終わりだ。〈フレイムナイト〉で攻撃』

 

 炎の剣を手にして、フレイムナイトが炎神に襲いかかる。

 ギャラリーは完全に炎神の敗北を確信して、食堂のモニター前から去ろうとしていた。

 だが俺は知っているぞ。炎神はここで終わるタイプじゃない事をな!

 

『魔法カード〈ビクトリーウォール!〉を発動!』

『なに!?』

『自分のライフが5以下なら、相手のアタックフェイズを強制終了させる!』

 

 炎の壁に攻撃を阻まれたフレイムナイト。

 そのままルークのアタックフェイズは強制終了させられてしまった。

 ルークの最終ターン宣言を回避した炎神。

 その予想外な展開に、再び食堂ではモニター前に人が集まり始めた。

 

『どーだ! 最終ターンなんかにゃならかったぜ!』

『……なるほど。少しは面白そうなファイターなんだな』

『絶対勝ってやるからなー!』

『それはない』

 

 ばっさり切り捨てられた炎神は、その場でずっこけた。

 

『エンドフェイズ。このターンに僕はモンスターを2体破壊した。よって〈シルドラ〉は自身の効果で回復する』

 

 シルドラは相手モンスターを2体倒したターンであれば、好きなタイミングで1度だけ回復できる。

 これでブロッカーもできたというわけだ。

 

『ターンエンド』

 

 ルーク:ライフ9 手札2枚

 場:〈フレイムナイト〉〈バレルナイト〉〈【王子竜】シルドラ(キングダムセイバー武装状態)〉

 

 ターンを終えるルーク。

 するとルークは炎神を静かに見据えた。

 

『君、名前なんだっけ?』

『覚えてないのかよ、まぁいいや。俺は炎神! 武井炎神だ!』

『炎神、覚えた。だけど僕がファイトに勝つという結果には変わりない』

『それは俺のターンを耐えきってから言ってくれよな!』

 

 既にライフは5以下。炎神の本領も発揮できる状態だ。

 

『俺のエンジン! ブイブイいってきたぜー!』

 

 気合を入れて、炎神はターンを開始した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七十話:ルークの王波②

『俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!』

 

 炎神(えんじん):手札2枚→3枚

 

 炎神は勢いよくドローしたカードを確認すると、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

『来てくれたか! メインフェイズ。俺も相棒を呼ぶぜ!』

 

 炎神は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 紅蓮に燃える魔法陣が、炎神の場に出現する。

 

『燃える炎で勝利をつかむぜ! 熱く弾けろ俺の相棒! 〈【勝利竜(しょうりりゅう)】ブイドラ〉を召喚だぁ!』

 

 魔法陣が弾け、中から赤い身体の小さなドラゴンが召喚される。

 お馴染み炎神の相棒、ブイドラだ。

 

〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000 ヒット2

 

『ブイブイー! オイラの出番ブイ!』

『頼むぜ相棒!』

 

 やっぱりあのブイドラ喋ってるよな?

 というかルークが少し驚いた表情をしている。

 アイツもブイドラの声が聞こえているのか?

 

『そうか……炎神、君もなんだね』

『どうする、ルーク?』

『何も変わらない。僕達は勝ちにいくだけだ』

 

 あの、今シルドラも喋ってませんでしたか?

 あれ? モンスター・サモナーにそんな設定あったっけ?

 

『へぇ、お前のモンスターも喋るんだな』

『なんの事かな。ターンを続けてくれ』

『そうだな。話はファイトが終わってからだ! 俺は魔法カード〈ビクトリードロー〉を発動!』

 

 また出たなインチキドローカード!

 

『デッキの1番上のカードをオープン。それが系統:〈勝利〉を持つカードなら手札に加える』

 

 オープンされたカードは……ブイドッグか。

 

『よし。俺は〈ブイドッグ〉を手札に加える。更に【Vギア】を発動! デッキからカードを2枚ドローするぜ!』

 

 炎神:手札2枚→4枚

 

 一気に手札を強化してきたな。さぁて炎神はどう出る?

 

『俺は今手札に加えた〈ブイドッグ〉を召喚だ!』

 

 炎神の場に炎を背負った大型犬が召喚される。

 ライフ5以下の状態なら、あれも中々便利なカードだ。

 

〈ブイドッグ〉P3000→P8000 ヒット1

 

『パワーが上昇した?』

『〈ブイドッグ〉の【Vギア】だ。俺のライフが5以下なら〈ブイドッグ〉はパワー+5000される』

 

 これだけでも便利カードなのだけど、ブイドッグの能力はまだある。

 

『更に〈ブイドッグ〉の召喚時効果発動! 自身よりパワーの低い相手モンスターを1体選んで破壊する! 俺は〈バレルナイト〉を破壊!』

 

 能力を発動したブイドッグが、バレルナイトに噛みつく。

 そのまま凄まじい炎に飲み込まれたバレルナイトは、あっけなく爆散、破壊されてしまった。

 だけどまだルークの場にはモンスターが2体いる。

 いずれも今の炎神の場にいるモンスターでは破壊できない。

 炎神には何か策がありそうだけど……どうする?

 

『俺はライフを1点払って、このカードを使うぜ!』

 

 炎神:ライフ2→1

 

 更にライフを削った炎神は、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 炎神の場に深紅の魔法陣が出現する。

 

『こい、アームドカード! 〈ビクトリーセイバー〉顕現!』

 

 深紅の魔法陣を突き破り、紅い刀身の剣が顕現した。

 なるほど、あのカードが炎神の入手したアームドカードなんだな。

 いやアニメで知ってたんだけどね。

 

『いくぞ相棒! 俺は〈ビクトリーセイバー〉を〈【勝利竜】ブイドラ〉に武装(アームド)!』

 

 ビクトリーセイバーは輝きを放つと、ブイドラが持てるサイズに変化した。

 そのビクトリーセイバーをブイドラは手に取る。

 

『更に俺は〈ブイバード〉を召喚! 〈ブイバード〉の能力によって、俺の場のモンスターはパワー+3000される!』

 

〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000→P8000

〈ブイドッグ〉P8000→P11000

〈ブイバード〉P4000→P7000

 

『一気にパワーを上げてきたか』

『このままアタックフェイズに入るぜ! いっけー〈ブイドラ〉! 〈シルドラ〉に指定アタックだ!』

 

 ビクトリーセイバーを構えて、ブイドラはシルドラへと突撃する。

 

『くっ雑種め! 王子に歯向かうのか!』

『王子様なんて、オイラの知ったことじゃないブイねー!』

 

 お互いの剣でつばぜり合いを行う、シルドラとブイドラ。

 うーん、やっぱり喋ってるよな。

 

『〈シルドラ〉のパワーは9000。君の〈ブイドラ〉ではパワーが足りないようだ』

『へへっ、それはどうかな?』

『なに?』

『攻撃した事で〈ビクトリーセイバー〉の武装時効果発動! 攻撃中、武装している〈ブイドラ〉のパワーは+10000される!』

『10000ものパワー上昇だと!?』

 

 そう、これがビクトリーセイバーの本領。

 パワー+1万という破格のバフを受けられる、強力なアームドカードだ。

 流石にルークも少し動揺しているな。

 

『ブイブイブーイ!』

 

〈【勝利竜】ブイドラ〉P8000→P18000

 

『これなら勝てるブイ!』

『なんだと!?』

『ぶった斬ってやるブイ!』

 

 ブイドラはビクトリーセイバーをシルドラに振り下ろそうとする。

 しかし……

 

『〈フレイムナイト〉の効果を発動。輝士よ〈シルドラ〉を守れ!』

 

 ルークの指示を受けたフレイムナイトは、突然シルドラの前に割って入った。

 そのままビクトリーセイバーに両断されるフレイムナイト。

 シルドラの代わりに破壊されてしまった。

 

『な、なにが起きたんだ?』

『〈フレイムナイト〉は、自分の場の系統:〈王竜〉を持つモンスターが破壊される場合、身代わりになる事ができる』

 

 フレイムナイトが犠牲となり、シルドラは戦闘破壊を逃れた。

 これは……あのカードの条件が揃ったな。

 

『でももう〈シルドラ〉を守るナイトはいない! いけッ〈ブイドラ〉! 2回攻撃だ』

『今度こそ倒すブイ!』

 

 再びブイドラはビクトリーセイバーを構えて、シルドラに突進する。

 

『魔法カード〈キングダムウォール!〉を発動。僕の場に系統:〈王竜〉を持つモンスターだけが存在するなら、アタックフェイズを強制終了させる』

 

 巨大な半透明の防壁が出現し、ブイドラの攻撃を阻んでしまった。

 弾き返されてしまうブイドラ。

 炎神のアタックフェイズもここで終了だ。

 

『くっそー、防がれたか。ターンエンド』

 

 炎神:ライフ1 手札1枚

 場:〈ブイドッグ〉〈ブイバード〉〈【勝利竜】ブイドラ(ビクトリーセイバー武装状態)〉

 

 ターンを終える炎神。だけど状況はかなり不味いな。

 ルーク相手に残りライフは僅か1。風前の灯火とはまさにこの事だ。

 

『僕のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』

 

 ルーク:手札1枚→2枚

 

『メインフェイズ。少しは楽しめたけど、流石にそろそろ終わらせよう』

『また最終ターン宣言か?』

『そうだね。僕は魔法カード〈輝士生還(きしせいかん)〉を発動。墓地から系統:〈輝士〉を持つモンスターカード〈フレイムナイト〉を手札に戻す』

 

 まずは便利カードを手札に回収してきたか。

 

『ライフを1点払い、〈フレイムナイト〉を再召喚』

 

 再びフレイムナイトがルークの場に出てくる。

 当然効果でパワーも上昇した。

 

 ルーク;ライフ9→8

〈フレイムナイト〉P7000→10000 ヒット3

〈【王子竜(おうじりゅう)】シルドラ〉P6000→P9000

 

 これでまたルークは身代わり効果を使える。

 その上シルドラには【王波(おうは)】もある。

 

『アタックフェイズ。〈シルドラ〉で〈ブイドラ〉に指定アタック!』

 

 キングダムセイバーを構えて、シルドラはブイドラに突撃する。

 

『そして〈シルドラ〉の攻撃時効果【王波】を発動。〈ブイバード〉を破壊!』

 

 シルドラが口から衝撃弾を出す。

 衝撃弾はブイバードの身体を貫き、破壊した。

 そしてシルドラとブイドラは、再びつばぜり合いを始める。

 

『先ほどのお返しをしようじゃないか。雑種!』

『雑種じゃねー! オイラにゃブイドラって名前があるブイ!』

 

 つばぜり合いが続くが、現在のパワーはシルドラの方が上。

 このままではブイドラが破壊されてしまう。

 

『相棒は俺が守る! 魔法カード〈ビクトリーウォール!〉を発動! アタックフェイズを強制終了させるぜ!』

 

 炎神はカードを仮想モニターに投げ込み、魔法を発動しようとする。

 しかし……その魔法カードは突如粉々に砕けてしまった。

 

『なに!?』

『ライフを2点払い、魔法カード〈ディスペルスラッシュ!〉を発動した』

 

 ルーク:ライフ8→6

 

『このカードは僕の場に系統:〈輝士〉が存在する場合に、相手が発動した魔法カードを無効化する事ができる』

『なん、だって』

『これで邪魔なカードは無くなった。やれ〈シルドラ〉』

 

 シルドラはキングダムセイバーを大きく振りかぶる。

 

『終わりだ、雑種!』

 

 そしてシルドラは、キングダムセイバーを振り下ろし、ブイドラを両断した。

 

『ぐわぁぁぁ!』

『相棒ー!』

 

 ブイドラは爆散、破壊される。その場には武装していたビクトリーセイバーだけが残っていた。

 アームドカードは単体ではアタックもブロックもできない。

 

『モンスターを2体破壊した事で〈シルドラ〉は回復する。そのまま〈シルドラ〉で〈ブイドッグ〉を指定アタックだ!』

 

 キングダムセイバーを振りかざし、ブイドッグを両断するシルドラ。

 というかルークもやることがえげつない。

 普通にシルドラの【王波】でブイドッグを破壊すれば勝てるというのに。

 多分アイツは、完璧な勝利を炎神に見せつけたいんだろうな。

 

 実際、ブイドッグを破壊された炎神の場はブロッカー0体。

 手札も0枚。

 もう防御する手段は残っていなかった。

 

『これで終わりだ……〈フレイムナイト〉で攻撃!』

 

 炎の剣を構えて、フレイムナイトは炎神に近づく。

 その光景を目にした俺は思わず食堂のモニターに向かって「炎神!」と叫んでしまった。

 

『……ライフで受ける!』

 

 次の瞬間。

 フレイムナイトの剣が、容赦なく炎神の身体を切り裂いた。

 

『うわぁぁぁ!』

 

 炎神:ライフ1→0

 ルーク:WIN

 

 ファイト終了のブザーが鳴り響き、立体映像が消滅していく。

 同時に、食堂のモニターに映っていた中継も終了した。

 モニター前のギャラリーは「やっぱりか」「予想通り」といった反応だけ残して散り散りになっていった。

 俺はモニター前で静かに立ちすくむ。

 

「武井くん、負けちゃいましたね」

「そうだな」

「六帝の人強かったですね」

「そうだな」

 

 だけど……

 

「いつか勝たなきゃいけない相手なんだ」

 

 正直このファイトが炎神の負けで終わる事自体は覚悟していた。

 何故ならアニメでもそうだったからだ。

 だけど……それでも何かが変わればとも思っていたけど、そう簡単にはいかないらしい。

 

 俺はソラに手を引かれて、モニター前から去るのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七十一話:たすけて(切実)

 炎神(えんじん)とルークのファイトから二日程が経過。

 あれから炎神は表面上はいつも通りに振る舞っているが、やはりルークに敗北した事に思う所があるらしい。

 まぁ無理もないか。あのファイトで炎神は一度もダメージを与える事ができなかったからな。

 とりあえず今は、炎神のメンタルが完全回復するのを待とう。

 そして回復したら、俺がアイツを強化する。後々のためにもな。

 

 で、今日は学校が休みの土曜日。

 俺は自室のカードと睨めっこしながら、諸々の準備をしていた。

 炎神の強化プランを立てつつ、俺自身の強化プランも考える。

 あとは緊急時のガチデッキの用意もだ。

 

「いざとなれば……未来の禁止カードも使うか」

 

 現在のこの世界では、まだ制限がかかっていない事は確認している。

 前の世界で禁止指定されても、大事に持っておいて本当に良かったよ。

 まぁ今手にしているカードは、一度制限がかかったら二度とシャバには出てこないだろうけどな。

 

「ロックは崩して、ビートは防いで……あっ、特殊勝利も妨害したいな」

 

 想定できる相手をことごとく封じたい。そんな欲が止まらない俺。

 せっかくアームドも採用できるようになったし、色々試したい気持ちでいっぱいだ。

 と、そんな感じでカードを弄っていると……スマホにメッセージが入ってきた。

 

「ん? 誰だ?」

 

 確認すると、メッセージアプリにアイからのメッセージが一件。

 しかも超短い。

 

『今いえ、たすけて』

 

 ……これはただ事ではなさそうだな。

 俺は急いで着替えて、家を飛び出た。

 アイの下宿先は一応知っている。本人から聞いたからな。

 俺は走って駅に向かう道中、アイにメッセージを送ったが、返事はない。

 電車に乗ると同時にもう一度『たすけて』というメッセージが来たので、いよいよ不味いんじゃないかと思ってしまう。

 まぁ仮にもアイは元アイドルだからな。それこそストーカーが来たとかあっても不思議じゃないか。

 最寄り駅に着くや、俺は地図アプリを開いて目的地へと走り出す。

 

「無事でいてくれよ」

 

 ものの数分でアイ下宿先であるマンションに到着する。

 どうでもいいけど、高校生の下宿先に高層マンション用意するとか、金持ちはスゴいな。

 それはともかく、俺はとりあえずマンションの入り口に向かう……のだが、ここで一つの疑問が浮かぶ。

 

「あれ? このマンション、オートロックか?」

 

 セキュリティ万全じゃないか。じゃあストーカーとかの不審者である可能性は低い?

 とりあえず俺はアイの部屋番号を入力して、インターホンを鳴らす。

 

『ソラ! 来てくれたのね!』

「いや、ツルギだけど」

『……え?』

「……ツルギだけど」

 

 なんか気まずい沈黙が流れる。

 というかアイさん、もしかして俺とソラを間違えてメッセージ送った?

 

『なんで……ツルギ?』

「メッセージで呼ばれたからだよ。とりあえず心配だからオートロック解除してくれ」

『……背に腹は変えられないわね』

 

 なんかインターホンの向こうで物凄い葛藤を感じたぞ。

 そんなに俺が来るのが予想外だったか?

 いや予想外か。

 とりあえずオートロックが解除されたので、マンションの中に入る。

 そしてエレベーターで数分。俺はアイの部屋の前に到着した。

 

「アイー、来たぞー」

 

 扉をノックするが、反応がない。

 どうしたんだと思った次の瞬間、扉の向こうから何かが崩れる音が聞こえてきた。

 えっ、なに? 何の音だ?

 小さな悲鳴の後に、ドタドタと慌ただしい足音。

 そしてようやく扉が少し開いた。

 

「い、いらっしゃい」

「大丈夫か?」

「大丈夫……じゃないわね」

「だろうな。なんかすごい音聞こえたし。アイは顔しか出してないし。とりあえず上がっていいか?」

「……くつろげないわよ」

 

 もうこの辺りでなにか嫌な予感がしてきた。

 アイはゆっくりと扉を開けて、俺を迎え入れた。

 

「……アイ?」

「なにも言わないで」

 

 部屋に上がった俺は言葉を失った。

 まず臭う。なんか色々腐った臭いと、誤魔化しのための消臭剤の匂いが混じっている。

 次に床だ。ほとんど見えない。目につくのは大量のゴミ袋と、散乱している段ボール。本も何冊か見えるな。

 極め付きは衣類。なんか服とかスカートがあちこちに散乱してるぞ!

 というかさっきの音って絶対ダンボールが崩れた音だろ!

 まさかと思って俺はキッチンも確認する。

 うーん、これは言葉にできない汚さ。アニメならモザイク不可避だな。

 

「アイ……お前もしかしなくても」

「えぇそうよ! どうせ私は片付けられない女よ!」

「限度がある」

 

 宮田家よ、何故娘を一人暮らしに送り出したんだ。

 せめて基礎的な家事スキルを叩き込めよ。

 

「とりあえず手伝うから、片付けようぜ」

「本当にお願い。さっきとうとう寝る場所も失ったのよ」

「もう一度言うけど限度がある」

 

 まずはゴミ袋を片付けようか。これだけで結構な数があるぞ。

 

「アイ。ゴミ捨ての日って把握してるか?」

「なにそれ」

「よしわかった。今日は俺が生きるための基礎知識を叩き込んでやる」

 

 最近はスマホでゴミ捨ての曜日を確認できから便利だよね〜。

 一先ずアイには強制的にカレンダー登録させた。

 

「ゴミの分別がされているのは、せめてもの救いか」

「当然でしょ。それくらい知ってるわ」

「ゴミ袋は空き部屋に一旦移動させるぞ! 次のゴミ捨ての日忘れるなよ!」

「わかってるわよ」

 

 ゴミ袋を移動させただけでも、随分良くなった気がする。

 いや、まだまだ普通に汚いな。

 次に俺は崩れているダンボールの山を片付ける。

 

「なぁアイ。引っ越してからダンボール開けたのか?」

「その……明日でいいかなと思って」

「今日やれ。今日を頑張った者にのみ明日が来るんだよ」

「返す言葉もないわ」

 

 多分だけど俺の視界に映っている棚には何も入っていないと見た。

 というかダンボール多いな。さては実家から私物全部持ってきたな。

 

「今ならわかる。どーりで遊びに来るのを拒むはずだよ」

「うぅ……」

「そして同性の友人であるソラに助けを求めて、自分へのダメージを最小限にしようと企んだと」

「お願い、それ以上は言わないで」

 

 アイが顔を真っ赤に染めて俺の言葉を遮ってくる。

 まぁ恥ずかしい自覚はあったんだろうな。

 とりあえずダンボールを隅に片付けた。

 次は床に散乱している服を……

 

「……オウ」

「へ?」

 

 床に落ちてるのはすごく大きな薄緑色のブラ……

 

「きゃぁぁぁ!? 見ないで!」

「ぐふぉ!?」

 

 アイさん!? 無茶しないでくれ。

 今首からゴキンって変な音が鳴った!

 

「服は! 服は私がするから!」

「あぁ、そうしてくれると助かる。あと掃除機の場所教えてくれ」

「……ねぇツルギ、ロボット掃除機じゃダメかしら?」

「箒と塵取りでなんとかしよう! あと雑巾もだ!」

 

 もうこの部屋はロボットで対処できるレベルを超えている。

 俺はアイが服と下着を片付けている間、頑張って部屋の掃除をこなしていた。

 

「アイ、お前実家でどうやって生活してたんだよ」

「恥ずかしい話だけど、家事は全て家政婦に任せていたから」

「うーん金持ち」

「まさか一人暮らしがこんなにも過酷だなんて」

「最低限片付ける習慣があればもっとマシだっただろうけどな」

 

 多分だけど家事スキル以前に片付けスキルが不足している。

 あと換気もだ。空気が篭っている。

 大掃除が始まって二時間以上が経過。ようやく部屋はマシな状態になってきた。

 

「ふぅ、こんだけやれば大丈夫だろう」

「ツルギ、本当にありがとう」

「とりあえずアイは後で掃除機を買いに行け」

「わかってるわよ」

 

 唇を3の形にするアイ。

 ふとここで俺は何かを忘れている気がした。

 何だ? 何か記憶から消してしまったような。

 

「あっ! キッチン忘れてた!」

 

 俺は急いで例のキッチンに向かう。

 うん、やっぱりモザイク不可避の惨状だ。あと臭い。

 大鍋に何か臭い液体が並々注がれている。

 えっ? 何これ?

 

「アイ……この鍋って?」

「カレーよ」

「……アイさん? 料理経験は?」

「小学校の頃に調理実習でカレーを作ったわ」

 

 堂々と言うアイ。

 うん、やっぱり色々仕込まないとダメだな。

 いやマジで、この娘はこのままだと危ない!

 というか今思い返したら、ゴミ袋の中にコンビニ弁当の空箱がたっぷり入ってたな!

 

「アイ。キッチンの掃除が終わったら、一緒に料理するぞ」

「……簡単なのからお願いするわ」

 

 またもや顔を真っ赤にするアイ。

 安心しろ、俺が頑張ってお前を一人前の家事ウーマンに育ててやる。

 

 その後凄まじい臭いと戦いながら、俺はキッチン掃除を終えた。

 

 余談だが、これだけ酷い惨状の部屋なのに、カードと召喚器と制服だけは綺麗にしまってありました。

 その努力を他にも向けろ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七十二話:今後の計画でも

 凄まじきキッチンを掃除し終えた俺。

 気づけばもう昼過ぎになっていた。

 流石に腹も空いてきたので、アイに許可を取ってから何か料理を作ることにした。

 えっ、何故俺が作るのかって?

 決まってるだろ。既にアイの料理スキルを察しているからだよ!

 

 取りあえず冷蔵庫には……腐った野菜があったので、後で捨てよう。

 まずは無事な食料から確認だ。

 えーっと何々。賞味期限が間近のベーコンと卵、牛乳もあるな。

 おっ、早ゆでのパスタが沢山出てきた。4分タイプとは、中々分かってるじゃないか。

 ふむふむ。保存がきく物は色々あるな……よし。

 

「アイ、少し待ってろ」

「あら、料理なら私が」

「作れるのか?」

「……レトルトなら」

「俺がやる。いいな?」

 

 フライパンと鍋を出して、調理を始める。

 嬉しい事に黒コショウとバター。粉チーズもあった。

 なら作るメニューはただ一つ!

 

 というわけで、十数分後。

 俺は渾身の一皿こと、カルボナーラを完成させていた。

 

「ボナペティ」

「なんでフランス語なの? まぁいいわ。いただきます」

 

 ちゃんと二人分作ったから、俺も食べる。

 うん。いい出来だ。

 アイも気に入ってくれると嬉しい……

 

「いやなんで泣いてるんだよ!?」

「女子として、負けた気がしたのよ」

「えっ、女子力?」

「仮にも元アイドルなのに、同い年の男子に、女子力で負けた」

「どちらかとい言うと生活力だけどな」

 

 多分女子力以前の問題だと思う。

 何度でも言おう、女子力以前の問題だと思う!

 

「しかもパスタ、すごく美味しい」

「ありがとよ。これでも料理は一通りできるんだ」

「ツルギって、万能過ぎないかしら?」

「そうか?」

 

 ただの母子家庭カードゲーマーだぞ。

 生活力は環境が育ててくれました。

 

「ソラから聞いてはいたけど、確かに好きな女子はいそうね」

「あー、もしかして中学の時の話をしてるのか? アレはどっちかというとサモンの成績に釣られたミーハーさんばかりだぞ」

「それもあるでしょうね。でも随分と女子からアプローチがあったらしいじゃない。何人泣かせてきたのかしら?」

「それは聞かないでくれ。俺としても後味悪かったんだから」

「あらごめんなさいね。でも、そう答えるだけでもツルギは良い男よ」

「そうか? 俺はただのサモン馬鹿だぞ」

「それだけで留まってないでしょ。でなきゃA組になんてならないわ」

 

 そういうもんかね?

 俺はパスタを食べながら、そんな事を考える。

 うん、黒コショウが良い感じに効いてるな。

 

「そういえば、彼は大丈夫なのかしら」

「ん? 炎神(えんじん)の事か?」

「えぇ。この前酷い負け方してたでしょ」

「あれなぁ……結局炎神はライフ1点も削れずだったからな」

「あの能天気な性格でも、相当ダメージ受けてるんじゃないかしら?」

「多分正解。あれから全然連絡が来ないし、外でも見かけてない」

「それは……想像以上に重症ね」

「まぁ、アイツにも色々あるんだろ」

 

 だからこそ今は、待ちの時間だ。

 炎神のメンタルがある程度回復するのを待つ時間。

 

「炎神が回復してきたら、俺はアイツの武者修行に付き合うつもりだ」

「あら、もう約束したの?」

「別にしてない。けどアイツの行動パターンは予想できる」

「それは……そうね。武井(ぶい)はその、単純だから」

「そういうこと。それにもうすぐ、修行にはもってこいのイベントもあるだろ」

「あぁ……アレね」

 

 アイが少し渋い顔をする。

 まぁ無理もない。これから先、聖徳寺学園での生活はどんどん過酷になっていく予定だ。

 退学処分なんてそう簡単にはならないだろうけど、心が折れて辞める生徒は毎年結構いるらしい。

 その最初の試練とも呼ばれているのが、一年生の五月合宿だ。

 

 名前の通り五月のゴールデンウイーク明けに始まる強化合宿。

 たしかアニメでは山の中にある専用施設で修行だったかな?

 後は寺にも行ってたはず。

 

「恐ろしいのは、心折れて脱落するのは、何も下のクラスだけではないという事」

「去年はA組でさえ十人くらい減ったんだっけ?」

「そう聞くわね」

 

 アニメでは全部描写されてなかったけど、本当に恐ろしい合宿だな。

 でもまぁ、そのくらいの方が修行にはなるか。

 

「ツルギ? 今変な事考えてないかしら?」

「そんなことはないぞ」

「怪しいわね。まぁいいわ。合宿は過酷だって聞くし、ゴールデンウイーク中にデッキを完璧に仕上げておかないとね」

「そうだな。特に今後はアームドを使うファイターも増えてくるだろうし、今までの定石が通じない場面も増えるだろうな」

「それが憂鬱ね。アームドの力は武井達のファイトを見てよーくわかったわ」

 

 まぁアームドもなんだけど、モンスターも進化させないといけないよな。

 俺はとりあえず強化プランの構想はできてるけど、問題は他の奴ら。

 色々と便利カードを紹介しないといけないな。

 あとは炎神。アイツは主人公だから特に強化の必要がある。

 いざとなればカードを無理にでも渡すし、プレイングももっと鍛えてもらおう。

 

 と、ここまで考えて一つ思い出した事がある。

 そういえば五月合宿って……炎神の強化イベントがあったな。

 たしかあれは、お寺の住職から何も描いてないブランクカードを貰うイベントだっけ?

 アレだけでも結構な強化にはなるんだけど……個人的にはまだ心もとないな。

 

「合宿で鍛えて、夏のランキング戦がメインイベントかな」

「ツルギ?」

「合宿を頑張ろうって言ったんだ。どうせ生き残っても、この先はランキング戦も待っている」

「そうね。やっぱり全員そこを目指すでしょうね」

「とりあえず俺は六帝(りくてい)を目指したいな。派手にやり合いたいし」

「ツルギはメンタルが強いわね。普通はあのファイトを観たら心が折れるわよ」

「悪いな。俺は心を折る側だ」

「それもそうね」

 

 そこは笑い飛ばして欲しかったな。

 俺は一応、自称一般人なんだぞ。

 

「じゃあゴールデンウイークはゼラニウムのメンバーでデッキ調整でもするか」

「そうね。あと武井も呼んでおくのかしら?」

「もちろん。全員で準備しよう」

 

 それが終われば、五月合宿を待つだけだ。

 俺とアイはその場でゴールデンウイークの計画を立てるべく、グループメッセージを送った。

 ……なんかソラには滅茶苦茶怪しまれたけど、まぁいいか。

 

 目指すは夏のランキング戦。

 その前に五月合宿で修行だ。

 

 こうして計画を立て終えた俺は、アイの下宿先を後にするのだった。

 

 翌日、アイから「ゴミ捨て場がわからない」というメッセージを貰ったのは別の話。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七十三話:合宿開始!

 ゴールデンウイークが終わり、遂にやってきました合宿当日。

 俺達聖徳寺(しょうとくじ)学園の一年生は現在、バスに揺られて移動中だ。

 

「さぁツルギ、お前の番だ!」

「これ。はい上がり」

「あぁー!? また俺の負けかよ!」

 

 俺達は道中の暇をトランプで潰していた。

 というか炎神(えんじん)が分かりやすすぎて、簡単に勝てるんだけど。

 

「もう一回だツルギ!」

「お前全敗しすぎ。少し休もうぜ」

 

 流石にそろそろトランプも飽きてきた。

 俺は窓の外を見る。

 森林の緑しか見えないな。

 

「そういえば、合宿施設って山奥でしたっけ?」

「らしいな。学園が運営してるっていう修行専門の施設だって」

 

 ソラに合宿のしおりを見せながら、俺が説明する。

 県を跨いだ先にある山奥。そこに建てられた巨大修行施設。

 そこが今回の合宿場所だ。

 サモンの修行に適した様々な設備があるらしい。

 そして広い。山二つ分はあるらしい。

 改めて思うけど、この世界サモンに力入れすぎだろ。

 山二つ丸々サモンの修行場ってなんだよ。

 

 そんなこんなで一時間後。

 俺達は目的地に到着した。

 

「おぉ~、これ全部学園が持ってる施設なのか」

 

 俺は目の前にそびえ立つホテルを見上げながら、そう漏らす。

 いやだって、見るからに豪華なホテルよ。

 パッと見はリゾート地にあるやつよ。

 でもこれだけで終わらないのが、聖徳寺学園のスゴいところ。

 

「ツルギくん……これ本当に学園が運営してるんですか」

「らしいな。これに追加で各種修行施設があるらしい」

「私……なんだか目が回ってきそうです」

「俺もだよ。実際目にしたらスゲーな」

 

 俺とソラが唖然としている横で、炎神は子供のようにはしゃいでいた。

 アイツは単純だな。

 

「中々良さそうなホテルね。これは期待できそうだわ」

「アイが言うと更に恐れを感じるんだが」

「お金持ちの施設です」

 

 リアルお嬢様の言葉で、ソラが更にポカンとした顔になる。

 俺も間抜け面を晒しそうだ。

 

「全員集まれー! 移動するで御座る!」

 

 伊達(だて)先生に呼ばれて、俺達生徒は列形成をして移動を始める。

 というか伊達先生よ、バス移動も鎧武者スタイルだったのか。

 汗だくになるくらいなら止めればいいのに。

 

 一度ホテルから離れて、道を進む。

 すると巨大なホテルの裏側には、巨大なドームが建っていた。

 またドームですよ。この世界の人たちドーム好きだな。

 俺達一年生はドームの中に案内されて、中央のスタジアムに通された。

 

「……なんだあれは?」

 

 速水が中央スタジアムに用意されているものを見て、そう口にする。

 それは他の生徒も同様であった。

 広々としたスタジアムに並んでいるのは、何やら謎めいた機械達。

 機械的な二本のアームと、中央には召喚器が埋め込まれている。

 生徒一同が頭に疑問符を浮かべていると、一人の男の声がスタジアムに鳴り響いた。

 

「ようこそ。一年生諸君」

 

 ライトに照らされて、スタジアム中央に現れたのは長い金髪の男。

 入学式で大きなインパクトを残した人物だからか、生徒全員が驚いた。

 

「驚いたな、まさか政帝(せいてい)が登場するとは」

 

 速水が言うように、スタジアムに登場したのは六帝(りくてい)評議会の序列第1位。

 政帝、政誠司だ。

 

「今回の合宿は、六帝評議会もサポートをする。存分に研鑽をしてくれたまえ」

 

 学園最強の組織がサポートすると聞いて、一年生がざわめく。

 まぁ無理もないか。流れ的に六帝と戦う可能性まで考えられてしまうからな。

 まぁ運次第だと思うけど。

 

「まぁそう警戒はしないでくれたまえ。竜帝(りゅうてい)は一年生だから参加しているが、我々上級生と戦う事は無い」

 

 俺と炎神は同時に「ちぇー」と言ってしまった。

 上級生組はあくまで補助だけらしい。

 

「では僕から、この合宿について説明をさせてもらおう」

 

 政帝が指を鳴らすと、スタジアムのモニターが表示された。

 かっこいい演出だな。

 

「知っての通り、合宿は五日間。その期間内で君達一年生には三つの試練に挑んでもらう」

 

 三つの試練?

 いや俺は知ってるんだけどね。

 

「心技体を強める事を目的とした試練だ。その達成度合いによって君たちの成績が決定する」

 

 つまり試練の内容次第では成績が落ちるし、上がる事もある。

 成績が落ちるという事は、クラスの降格もありうるという事だ。

 それを理解した生徒たちが、顔を強張らせる。

 

「途中でドロップアウトする事も可能だが、その場合の進退は保証しかねる」

 

 サモン至上主義とはいえ、中々怖い世界だな。

 不出来を見せ過ぎたら最悪退学ってことじゃないか。

 まぁ俺はドロップアウトなんかするつもり無いけど。

 

「宿泊施設は和室と洋室を用意してある。洋室を選んだ生徒は道中に見たであろうホテルだ」

 

 うんうん。いかにも豪華なホテルだったからな。

 洋室を選んだ生徒が露骨に喜んでいる。

 

「なぁツルギ。お前どっち選んだんだ?」

「和室。炎神は?」

「俺も和室だ。やっぱり布団が一番だからな」

 

 和室を選んだ生徒たちもテンションが上がり始めている。

 わかるぞその気持ち。

 豪華な旅館があると思うだろ?

 

「そして和室を選んだ生徒だが」

 

 スタジアムのモニターに宿泊場所が写真と共に表示される。

 その瞬間、スタジアムから音が消えた。

 うん。俺は知ってたよ。知ってて和室を選んだよ。

 

「ホテルから少し離れた場所に召臨寺(しょうりんじ)という古いお寺がある。君達にはそこに泊まってもらおう」

 

 和室組の悲痛な叫びが鳴り響いた。

 まぁ落差がありすぎるもんな。

 

「なんだよみんな。お寺も味があっていいじゃんか」

「おっ、炎神わかってるじゃんか」

 

 俺と炎神はお寺でも満足だ。

 まぁ俺の場合は他にも目的があるんだけどな。

 

「ちなみに原則部屋の交換はできない。交換を望む生徒はサモンで交渉することだ」

 

 あっ、和室組の目に闘志が宿った。

 洋室組も警戒心をむき出しにしている。

 うーん、このピリピリムードよ。

 

「まぁ部屋の交渉は後にしてもらおう。早速だが君達一年生には、第一の試練に挑んでもらう」

 

 政帝がそう言った瞬間、後方に並んでいた機械達が次々に分散し始めた。

 機械に埋め込まれた召喚器が、次々に一年生の召喚器に無線接続する。

 ちなみに俺も接続された。

 

「今スタジアムに散らばったのは、UFコーポレーションが開発したファイトロイドだ。君達にはこのファイトロイドと戦ってもらう」

「要するにこのロボットとファイトして勝てばいいのか?」

 

 炎神が疑問を口にすると、政帝は「そうだ」と肯定した。

 

「ただしこのファイトは通常のファイトではない。特殊ルール【ボスファイト】となる」

「【ボスファイト】……ってなんだ?」

 

 炎神が知らないようなので、俺が解説する。

 

「簡単に言えば【ボスファイト】専用のカードを採用したデッキを相手にする特殊ルールだ」

「専用カード? 普通のサモンのカードとは違うのか?」

「通常のファイトでは使えない代わりに、普通のカードよりも強い。それをいかにして攻略するかを試すってわけだ」

「なるほどな。分かりやすくて良いじゃねーか!」

 

 やる気を燃やす炎神。

 それは俺も同じだ。

 この特殊ルールは普通と違うファイトができるから楽しいんだ。

 

「今回の【ボスファイト】は三つのデッキを用意してある。どのデッキと戦うかは完全にランダムだ」

 

 ちなみに今回のボスデッキは以下の通りだ。

 モンスター効果無効デッキ。

 魔法カード無効デッキ。

 超鉄壁回復デッキ。

 

 うん。どれも倒しごたえがあるデッキだな。

 強いて言えばモンスター効果無効デッキは、少し遠慮したいけど。

 

「第一の試練は【ボスファイト】をクリアせよだ。クリアした者から宿で休める。クリアできない生徒は、このスタジアムで寝泊まりだ」

 

 よく見たらテントらしき袋が用意されているな。

 毎年いるんだろうな……クリアできない人。

 

「それではターゲットロックされた生徒から挑んでもらおうか」

 

 俺はターゲットロックしてきたファイトロイドの前に移動する。

 他の生徒も同じだ。

 

「準備はできたね? それでは第一の試練、開始だ!」

 

「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」

 

 俺達一年生は一斉にファイトを始めた。

 さーて、俺の相手はどんなデッキなのかな?

 できればモンスター効果無効デッキ以外でお願いしたいんだけど。

 

『ワタシのターン。スタートフェイズ。メインフェイズ』

 

 ちなみに【ボスファイト】での先攻は強制的にボス側がするルールだ。

 

『ワタシは〈【試練獣一型(しれんじゅういちがた)】スキルキャンセラー〉を3体召喚します』

 

 機械的な音声と共に、ファイトロイドの場には三体のメカ鹿が召喚された。

 

〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉P11000 ヒット3

 

「……」

『〈スキルキャンセラー〉が場に存在する限り、相手の場のモンスター効果は全て無効となります。ワタシはこれでターンエンド』

 

 ファイトロイド:ライフ10 手札2枚

 場:〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(A、B、C)

 

 うん……心の中で叫ばせてください。

 ど畜生ォォォォォォォォォ!!!

 大ハズレじゃねーかぁぁぁ!!!

 

「俺……これ相手にしなきゃいけないの?」

 

 面倒臭さの極みだなこれ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七十四話:効果無効ファイト!?

 ファイトロイドの場にはスキルキャンセラーが3体。

 アイツが場に居る限り俺の場のモンスターは効果を無効化される。

 面倒臭さの極みみたいな状況だぞ。

 だけどターンを開始しなきゃ、何も始まらない。

 

「俺のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 ツルギ:手札5枚→6枚

 

 さて、まずは落ち着いて状況を確認しよう。

 さっきも言った通り、相手の場にはスキルキャンセラーが3体。

 パワーは11000と高め。ヒットも3ある。

 スキルキャンセラーが1体でも場に居る限り、俺の場のモンスターは効果を使えない。

 

 そして何より厄介なのは、スキルキャンセラーのもう一つの能力だ。

 俺は召喚器を操作して、スキルキャンセラーのテキストを確認する。

 

 スキルキャンセラーが破壊または除外された場合、次のスタートフェイズ開始時に場に戻ってくる。

 つまり倒しても倒しても無限に蘇ってしまうのだ。

 とはいえ、抜け道が無いわけではない。

 

 除去を受けてから復活するまでにタイムラグがある。

 スキルキャンセラーは場に居なければ無効化効果を適用できない。

 そして俺の【幻想獣(げんそうじゅう)】デッキはモンスター効果を重要視する性質を持つ。

 

 つまり攻略法はこうだ。

 魔法カードを使って、スキルキャンセラーを一瞬だけ全て除去する。

 それでできた1ターンの隙を突いて、1ターンで決着をつける。

 これしかない。

 

 俺は手札を確認する。

 勝利への道すじは見えた。だけど必要なパーツが揃っていない。

 ならまずは落ち着いて、パーツを揃えるんだ。

 

「メインフェイズ。俺は魔法カード〈トリックカプセル〉を発動!」

 

 発動コストで、ライフを2点払う。

 

 ツルギ:ライフ10→8

 

「デッキからカードを1枚除外。2ターン後のスタートフェイズ開始時に、除外したカードを手札に加える」

 

 俺はこの効果で〈グウィバー〉を除外した。

 勝利に必要なパーツだ。

 

 とはいえ、このターンで決着はつけられない。

 今必要なのは、時間稼ぎだ。

 

「俺は〈ドッペルスライム〉を召喚!」

『ドッペル!』

 

 俺の場に黒色のスライムが召喚された。

 まずは壁を揃える。

 

〈ドッペルスライム〉P4000 ヒット1

 

「続けてコイツだ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉を召喚!」

 

 毎度おなじみ俺の相棒が召喚される。

 今回は時間稼ぎのブロッカー要因だ。

 

『キューップイ!』

 

〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1

 

 当然ながら、今攻撃しても返り討ちにされるだけだ。

 

「ターンエンド」

 

 ツルギ:ライフ8 手札3枚

 場:〈ドッペルスライム〉〈【紅玉獣】カーバンクル〉

 

 

 とりあえず時間稼ぎはできそうだけど、問題は相手のカードだな。

 仮にもこれは【ボスファイト】。相手は特殊カードを多用するルールだ。

 厄介な除去が飛んでこなければ良いんだけど。

 

『ワタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』

 

 ファイトロイド:手札2枚→3枚

 

『メインフェイズ。ワタシは魔法カード〈知恵の試練〉を発動。効果で相手の場のモンスターの数だけ、デッキからカードをドローします』

 

 俺の場にはモンスターが2体。つまり2枚のドローか。

 

 ファイトロイド:手札2枚→4枚

 

 つーかコスト無しでドローするなよ。

 特殊カードとはいえ、強すぎるぞ!

 クソボスですよクソボス!

 

『アタックフェイズ。〈【試練獣一型(しれんじゅういちがた)】スキルキャンセラー〉(A)で攻撃します』

 

 早速攻撃してきたか。

 さて、ここはモンスターを温存して。

 

「ライフで受ける」

 

 メカ鹿ことスキルキャンセラーの角が、俺の身体に襲い掛かる。

 

 ツルギ:ライフ8→5

 

『続けて〈スキルキャンセラー〉(B)で攻撃』

「それは〈ドッペルスライム〉でブロックだ!」

 

 黒色のスライムが、スキルキャンセラーの角に貫かれて爆散する。

 だけどただでは倒されないぞ。

 

「破壊された〈ドッペルスライム〉の効果発動! ゲーム中1度だけ、破壊されても墓地から復活する!」

 

 魔法陣が場に現れて、墓地からドッペルスライムが復活した。

 

〈ドッペルスライム〉P4000 ヒット1

 

 この光景を目撃した周りの生徒がざわつき始める。

 まぁ普通に考えたらドッペルスライムの効果も発動できないように思えるもんな。

 だけど実は、ドッペルスライムの効果はスキルキャンセラーによって無効化されないのだ。

 

 何故ならスキルキャンセラーが無効にするのは「場に存在する」モンスターの効果だけだ。

 効果発動時点で墓地に送られているドッペルスライムは、スキルキャンセラーの効果範囲から逃れているという扱いになる。

 うーん、我ながら面倒臭い裁定だな。

 

『続けて〈スキルキャンセラー〉(C)で攻撃』

「〈カーバンクル〉でブロックだ!」

『キュップイ!』

 

 スキルキャンセラーとカーバンクルが一騎打ちをする。

 とは言ってもパワー差は歴然。

 カーバンクルは一瞬にして、メカ鹿の足に踏みつぶされてしまった。

 

「破壊された〈カーバンクル〉の効果発動! 場から墓地に行く場合、代わりに手札に戻る」

 

 俺の手札に戻ってくるカーバンクル。

 実はカーバンクルの効果もスキルキャンセラーの効果で無効化できない類なのだ。

 

 通常、モンスターの破壊処理はこうだ。

 場で破壊判定を下す→墓地に移動する処理をする→破壊時効果があれば発動する。

 

 しかしカーバンクルの場合、破壊判定が下ったあと、墓地に行く前に「場でも墓地でもない空間」またの名を「どこでもないゾーン」に移動する。

 カーバンクルの手札に戻る効果はこの「どこでもないゾーン」で発動と処理をする。

 だからスキルキャンセラーの効果を受けないのだ!

 うーん、クソ裁定。

 

『エンドフェイズに移行します。〈スキルキャンセラー〉の効果発動。場の〈スキルキャンセラー〉を全て回復させます』

 

 そういえばそんな効果もあったな。

 ボスだからって効果盛りすぎだろ。

 

『ワタシはこれでターンエンド』

 

 ファイトロイド:ライフ10 手札4枚

 場:〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(A、B、C)

 

 流石に攻撃性も高いな。

 やっぱり面倒な敵だよ。

 

「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」

 

 ツルギ:手札4枚→5枚

 

 ドローしたカードを確認する。

 来たのは〈ルビー・イリュージョン〉か……良いカードだ。

 だけど使うのは、今じゃない。

 

「メインフェイズ。〈【紅玉獣】カーバンクル〉を再召喚」

『キュップイ!』

 

〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1

 

 まだ耐えの時だ。今は耐えるんだ。

 

「ターンエンド」

 

 あと少し。

 

『ワタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』

 

 ファイトロイド:手札4枚→5枚

 

『メインフェイズ。ワタシは魔法カード〈破壊の試練〉を発動。相手モンスター1体を破壊します。ワタシは〈ドッペルスライム〉を破壊』

 

 魔法効果で爆散するドッペルスライム。

 もう復活効果は使えない。

 というかノーコストでモンスター1体の破壊かよ。

 コストパフォーマンス良すぎだろ。

 

『更にワタシは二枚目の〈破壊の試練〉を発動。〈【紅玉獣】カーバンクル〉を破壊します』

 

 二枚目も握ってるのかよ!? ふざけんな!

 まぁこっちもタダでは倒されないけどな!

 

「魔法カード〈ギャンビットドロー〉を発動! 〈カーバンクル〉を破壊して、デッキからカードを2枚ドロー!」

 

 これで〈破壊の試練〉は対象不在で不発。

 俺の魔法効果でカーバンクルを破壊だ!

 そしてカーバンクル自身は手札に戻って来る。

 

 ツルギ:手札3枚→5枚→6枚

 

 とりあえず手札は増えたけど、俺の場はがら空きになってしまったな。

 

「アタックフェイズ。〈スキルキャンセラー〉(A)で攻撃』

 

 メカ鹿が俺に角を向けて突進してくる。

 だけどその攻撃を受けるつもりはない。

 

「魔法カード〈トリックゲート〉を発動! 〈スキルキャンセラー〉(A)の攻撃対象を〈スキルキャンセラー〉(B)に変更する!」

 

 突如開いたゲートに、スキルキャンセラーが飲み込まれる。

 そのまま攻撃はスキルキャンセラー(B)へと移される。

 二体のスキルキャンセラーは正面衝突し、相打ちとなった。

 大きな音を立てて、メカ鹿二体が爆発する。

 

 まぁ次のスタートフェイズに復活するんだけどな。

 

『続けて〈スキルキャンセラー〉(C)で攻撃』

 

 三体目のスキルキャンセラーが突進してくる。

 この攻撃は無効化できない。

 無効化は、だけどな。

 

「手札から〈コボルト・エイダー〉の効果発動!」

 

 俺の場にナース服を着た雌コボルトが出現する。

 

「相手モンスターの攻撃時にこのカードを捨てる事で、俺はライフを3点回復し、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

 コボルトの持っている注射器を刺されて、俺はライフを回復する。

 

 ツルギ:ライフ5→8 手札4枚→5枚

 

 そしてスキルキャンセラーの攻撃を受ける。

 さっきの回復と合わせてプラスマイナスゼロだ。

 

 ツルギ:ライフ8→5

 

『エンドフェイズ。〈スキルキャンセラー〉(C)は効果で回復します。ワタシはこれでターンエンド』

 

 ファイトロイド:ライフ10 手札3枚

 場:〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(C)

 

 さて、ターンが回って来たわけだけど。

 そろそろ決着をつけないと不味いな。

 

「俺のターン! スタートフェイズ開始時に〈トリックカプセル〉の効果で除外されていたカードが手札に加わる!」

 

 除外していた〈グウィバー〉が手札に加わる。

 だがこれだけじゃないんだよな。

 

『この瞬間〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉二体の効果発動。ワタシの場に復活します』

 

 墓地から蘇るメカ鹿二体。

 

〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(A、B)P11000 ヒット3

 

 本当に面倒だな。でも倒さなきゃ勝てない。

 俺は指先に力を込めて、カードをドローする。

 

「ドローフェイズ!」

 

 ツルギ:手札6枚→7枚

 

 ドローしたカードを確認する。

 このカードは……そうか、今来てくれたか!

 

「よし! メインフェイズ!」

 

 これなら行ける。

 

「まずは魔法カード〈フューチャースティール〉を発動! ライフを3点払って、デッキからカードを2枚ドローする!」

 

 ツルギ:ライフ5→2

 

 JMSカップでも使ったカードだ。

 デメリット効果で、相手に追加ターンを与えるけど、このターンで勝てば問題ない。

 俺はドローしたカードを確認する。

 よし、パーツが全部揃った。

 

「もう一度頼むぜ。俺は〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

『キュ、キュップイ』

 

 本日三回目の召喚。

 心なしかカーバンクルが疲れている気がする。

 だけどこれで除去の条件が揃った。

 

「俺は魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動!」

 

 カーバンクルの周りに無数の紅玉が浮かび上がる。

 これもお馴染みの必殺魔法だ。

 

「自分の場に〈【紅玉獣】カーバンクル〉が存在するなら、相手の場に存在するモンスターを全て、パワーマイナス無限にする!」

 

 紅玉の光に照らされて、スキルキャンセラー三体のパワーを減少させる。

 

〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(A、B、C)P11000→0

 

 パワーが0になったスキルキャンセラーは存在を維持できず、破壊される。

 だがこのままでは次のターンに復活してしまう。

 その前に勝つんだ。

 

「〈コボルト・エイダー〉を召喚!」

 

 手札にいたもう一枚も仮想モニターに投げ込む。

 すると俺の場に、ナース服を着た雌コボルトが召喚された。

 

〈コボルト・エイダー〉P4000 ヒット1

「そして! 系統:〈幻想獣〉を持つ〈コボルト・エイダー〉を進化!」

 

 巨大な魔法陣に、コボルト・エイダーが飲み込まれる。

 魔法陣が砕けると、そこに現れたのは純白の鱗を持つ美しいドラゴンであった。

 

「来い! 〈グウィバー〉!」

 

〈グウィバー〉P3000 ヒット1

 

 もうスキルキャンセラーはいない。これで効果使いたい放題だ!

 

「〈グウィバー〉の召喚時効果発動! デッキから系統:〈幻想獣〉を持つカードを1枚選んで手札に加える。俺はデッキから〈ジャバウォック〉を手札に加える」

 

 これで今回の切り札が手札に来た。

 

「俺は〈グウィバー〉を素材にして、〈ジャバウォック〉を進化召喚!」

 

 今度はグウィバーが魔法陣に飲み込まれる。

 召喚されたのは恐ろしい外見をした黒いドラゴンだ。

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

〈ジャバウォック〉P8000 ヒット3

 

「この瞬間〈グウィバー〉の効果発動! このカードを進化素材としたモンスターは、ヒットが1上がる」

 

〈ジャバウォック〉ヒット3→4

 

 これで〈ジャバウォック〉自身の効果も合わせて、ヒット4の2回攻撃を叩き込める。

 だけどそれだけでは8点のダメージ。ファイトロイドのライフ、10点を削り切れない。

 

 だけどそれは数ヶ月前の環境ならだ。

 今は違う。今のサモンには、アームドカードがあるんだ。

 

「手札を1枚捨てて、ライフを1点払う」

 

 ツルギ:ライフ2→1 手札3枚→2枚

 

「蒼き風と共に来たれ。アームドカード〈【王の幻槍(げんそう)】グングニル〉を顕現!」

 

 魔法陣を突き破り、俺の場に巨大な槍が姿を見せる。

 うーん、アームドカードも演出がカッコいいな。

 さてさて、ギャラリーはSRアームドカードの登場に湧いてるけど、本番はここからだ。

 

「俺は〈【王の幻槍】グングニル〉を〈ジャバウォック〉に武装(アームド)!」

 

 巨大な槍は意思を持つように飛翔し、ジャバウォックの手に握られる。

 大槍を構えた武装ジャバウォックの誕生だ。

 さぁ攻めるぞ!

 

「アタックフェイズ! 〈ジャバウォック〉で攻撃!」

 

 グングニルを構えて、ジャバウォックがファイトロイドに突撃する。

 しかし……

 

『魔法カード〈防壁の試練〉を発動。アタックフェイズを強制終了します』

 

 アタックフェイズの強制終了。

 これを通しては、もう勝ち目はない。

 通すわけないだろ!

 

「魔法カード〈ディスペルイリュージョン〉を発動! 相手の発動した魔法カードを無効化する!」

 

 ファイトロイドのアームの中で砕け散る〈防壁の試練〉。

 ちなみに〈ディスペルイリュージョン〉は本来、発動コストとして手札1枚とライフ2点を払う必要がある。

 しかし俺の場に〈カーバンクル〉がいるなら話は別だ。

 俺の場に〈カーバンクル〉が存在する場合、〈ディスペルイリュージョン〉の発動コストは無くなる。

 

 これで攻撃が通るはずだ!

 

 ジャバウォックの手にしたグングニルが、ファイトロイドを貫く。

 

 ファイトロイド:ライフ10→6

 

「進化モンスターから進化している場合〈ジャバウォック〉は【2回攻撃】を得る。もう一度攻撃しろ!」

 

 更にグングニルを使って、ジャバウォックはファイトロイドを穿つ。

 

 ファイトロイド:ライフ6→2

 

 相手の残りライフは2。

 攻撃権が残っているカーバンクルのヒットは1。

 これでは最後のトドメまでいけない……って思うじゃん?

 俺が何のためにグングニルを武装したと思う?

 

「この瞬間〈【王の幻槍】グングニル〉の武装時効果を発動! 自分のデッキを上から8枚除外することで、ターン中1度だけ回復できる!」

 

 疲労状態から起き上がるジャバウォック。

 これで最後の攻撃が可能になった。

 

「行けェ〈ジャバウォック〉! ファイトロイドに直接攻撃だ!」

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 咆哮を上げるジャバウォック。

 手にしたグングニルに力を込めて、ファイトロイドに投擲した。

 巨大な槍が、ファイトロイドを貫通する。

 

 ファイトロイド:ライフ2→0

 ツルギ:WIN

 

 ファイト終了のブザーが鳴る。

 それと同時に、ファイトロイドから音声ガイダンスが聞こえてきた。

 

『ファイト終了。天川ツルギ、第一の試練クリアです』

「よし!」

 

 まずは最初の試練クリアだ。

 この後は宿となる寺に行く……前に、他のみんなのファイトを見ていくか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。