怪傑! ガンド天狗!!!【一回完結】【アディショナルタイム】 (PureFighter00)
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暗闇を飛ぶ白い影

タイトルでネタバレご容赦。
何リアルが操作してるのやら……


 ワッハッハ! ワァーッハッハ!

 

 無人であった食堂に繋がる渡り廊下に豪放な笑い声が木霊する。怪訝な顔をするガム娘の眼前に、暗闇に躍る白い影が舞い降りた。

【挿絵表示】

 

「小童! 貴様昼飯のコメを粗末にしたな!」

「な……何よアンタ、そんなコスプレ……」

 

【挿絵表示】

 

 それは異様な風態をしていた。日本?風のヒラヒラとした上着にニッカポッカの様に膝で締められたズボン。靴は一本歯の高下駄で、顔には面を付け、その鼻は隆々と起立していた。A.S.も1世紀以上過ぎた時代に産まれたガム娘は知る由も無いが、それは太古の昔の書籍に記された大天狗そのものであった。

「……腕一本と言う所だな」

「なっ……何言ってんだよ!」

 口は勇ましいが顔色は頗る悪い。下駄を含めれば7フィートに迫る長駆は細身ながら引き締まった筋肉を躍動させている。そしてその背には堕天使を思わせる黒い翼。

「己の罪を噛み締めよ! ガンビット鎌鼬!」

 黒い羽が颶風の様にガム女の右腕を痛みも無く切断! え?と呆気に取られるガム女に素早く近付くと、天狗は大出血する右腕にガンド処置を施した。

「ガンドがあるから安泰じゃ。しばらくの間は不自由するであろうが、それが貴様の罪……(わっぱ)! 心清く正しく生きよ!

僕はいつでも見ておるぞ!」

 羽ばたき浮揚した天狗は、羽根の付け根にあるスラスターベーンで空高く舞い上がった。

 

 これがアスティカシア高等専門学校を席巻した「天狗事件」最初の一幕である。

 

 

 

 

【凡そ20数年前】

「えー、我が社のルブリスシリーズでは、パイロットの身体損失に対する応急処置設備をコクピット内に備えております。ガンドアームではなく純粋にガンド技術ですな。これによりパイロット生存率は飛躍的に高まり、人的損失を最小限に抑える事ができます」

「ルナ・朝日ニュースのセキタニです。そのガンド施術はどの程度の欠損まで……」

「ヴァナディースのカルドです。端的に申せば現時点で頭……いや、脳幹から先、小脳と大脳以外は代替可能です。将来的には100%ガンド化も視野に入れております」

「馬鹿な、アンドロイドを作るという事ですか?!」

「例えば視力劣化の補正の為にメガネを掛けます。この人物はサイボーグでしょうか?」

「人間でしょうな」

「では次に、この人物の両足がガンド化したら?」

「……人間でしょうな」

「では次に、脊椎や肺、心臓を人工物に置換したら? 目や鼻や……今は生殖器や肝臓のガンド化を目指してほぼ実用の目処がつきましたが、ここまで置換した人物は人間でしょうか? 我々は何故人間なのでしょう? 

人間とは、どの様な存在なのでしょうか?」

 

ざわ……ざわ……

 

何気ない新モビルスーツ発表会がトクダネの様相を示し出して記者たちに動揺が走る。ヤバい、これは末端のヒヨコ記者が来るべき場所じゃなかった!

 

【ヒヨコ記者】

重要度が低い新製品発表会なんかには、結構入社したての雑魚記者が取材に来る。媒体用資料貰って帰って来るだけのお使いクエストだからだ。

筆者は若い頃某初台のメディアでバイトしてて、今でいうBlu-rayの基幹技術発表会見に行った事があるが、某全国紙(慈悲により社名は黙っておく)の記者は解説終わった後に「レーザーが青いとどうなるんですか!」と、最前列居たのに説明聞いてなかったのかよ!クラスの質問してた。

オレンジジュース美味しかったです(現場にいた人だけ分かるネタ)

 

「貴方は一体何を作ろうとしているのですか!」

「人間とは、考える葦であるという定義があります。私は最終的に「考えるガンド」を作りたい。自我が自然発生してくれれば良いのですが、それは既に神の技。当面は人間の意志を、自我を移すことのできるガンドが目標です!」

「倫理的に問題だ! 貴方は造化の神にでもなるつもりか!」

「間違えないで頂きたい。考えるガンドが完成した時、我々は完璧な治療法を手にする事が出来るのです。今は脳以外に癌などが発生してもガンドで置換して急場を凌ぎ、後にiPS細胞によりクローニングした生体組織と入れ替える事ができます。しかし今は脳に癌が出来た場合なす術もない……」カルド博士は手をきつく握り締めた。

「脳だけを特殊な生体器官にせず、義手や人工膀胱と同じように代替可能にする! 私の連れ合いは悪性脳腫瘍で死にました! 私はこの問題に真正面から取り組みたい、科学は、技術(テクノロジー)は大自然に立ち向かう為何処までも進歩し続けねばなりません!」

 

 MSの商談に来たらとんでもないプレゼンを受けた。これが、魔女か……ていうかおばちゃん! MS開発するフリして何開発してんの!




noteで書いてたネタを辛抱溜まらず投下するの巻。
1週間に1回しか水星の魔女観れないとかマジか! たんねーよそれじゃ!

という事で自炊します。


BingAIに「ガンド天狗」とだけ言ったらこの絵が出た。
すげぇ時代だなぁ(本当)


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プロローグ編
混濁


最初期バージョンから少し改変したやで


「はーっ! はーっ! はーはーはーっ!」

 

 あかんて、おいちゃん。無理してリンク上げると体に悪いで? パーメット食い過ぎじゃ。説明書にも書いてあったでしょ、リンク多用はヤバい事になりますぜって。

 

【マニュアルに書いてある】

筆者は若い頃自社商品のマニュアルをシコシコ書いてた時期があるのだが、サポートに連絡してくる人の実に4〜5割がマニュアルに書いてある事をマニュアル読まずに問い合わせして来てて悶絶した事がある。日本語マニュアル欲しがる割には肝心のマニュアルを読まないと言うこの不合理な事実! 頑張って徹夜して書いてるんだからちゃんと読んで欲しい。

また、皆がマニュアル読まないからか……同業最大手のマニュアル査読したら……商品写真がそもそも違うわ、製品版には無い機能が記載されててある機能の説明がないとか、そらもー散々だった。

 

「あと……一機!」

 

 そんなに顔真っ赤にしてパーメット食らったらあかんて。肝臓に来て黄疸出るやで。事故ってもワイの中ならガンドでどーにかなるさかい、素直に逃げーや。ワイちゃん逃げ足には自信あるんや。

 

「ビット! パーメットリンク4!」

 

ぶちん!

 

 又かいな。ほんま人間ちゅーのは博打好きでんなぁ。何でワンチャンあると信じ込めるんやろか。ガンドアームと一体化するテクなんやから、リンク無理して上げたらフィードバックキツくて頭バーンするの当たり前やん。あんたら身体(からだ)にスラスター付いてないし、機動制御しながら質量バランスの変異による無重力空間内の姿勢制御計算できないでしょ?

任せてくれたら良かったんやがなぁ。なんでみんな全部自分で背負い込むんやろか。

 

 ルブリスは場末のホルモン焼き屋の女将の様に呆れていた。皆、(なん)でかアホの様に焼酎煽ってクダ巻く酔っぱらいの様に廃人化して行く。仕方無しに脳幹から小脳の機能をガンドで代替して生命維持出来る様にコントロールするが……彼が目覚める事はない。パーメットを流し過ぎてガンドアームをコントロールし過ぎると、高濃度データ受信(データストーム)により脳のかなり広範な範囲が破壊され……自分の身体の動かし方を忘れてしまうのだ。

 お陰様で彼女ら「ガンダム」は世間の批判を一身に浴びている。ちゃうて、私らが悪いんちゃうの! アンタらが度を越してパーメット入れるからこーなるの! 言わば急性アルコール中毒よ、アルコールじゃなくて一気呑みする人が悪いの。パーメットの過剰摂取後のガンドアーム操縦が身体に悪い事ぐらい習ってる筈なのに、なんでやらかしてしまうんやろなぁ……

 

 ルブリスはそっと「浪花(なにわ)恋しぐれ」を口ずさむ。戦果の為にはガンダムも泣かす……それがどうした、文句があるか。

 

【挿絵表示】

 

 ルブリスは自分の脳内で割烹着を着た自身のアバターの目頭を抑える。ルブリスは涙を流さない、MS(モビルスーツ)だから、マシンだから……だけど分かるぜ、パイロットの気持ち……そばに私がついていなければ、何もできないこの人やから……

 

 ルブリスたちは「パーメットや、パーメット買っ(こう)てこーい!」と叫ぶパイロットたちの横暴に耐え忍んでいる。違うの、ちょっとパーメット(ぐせ)が悪いだけなの。シラフなら、パーメット入ってなければ良い人なの!(さめざめ)

 虚空を漂いながら、ルブリスは小芝居(こしばい)を続けていた。ガンドばぁさん、そろそろコレ何とかならないの? 地球じゃあんた魔女のばぁさん呼ばわりだよ? 

 

(どんなんよ、ワイちゃん?)

(あかんわ、またやってもーた。ワシちゃんはどう?)

(一応そっちの座標表示してパイロット君にサルベージ向かわせてる……またキルスコア更新だなぁ)

(バァちゃんのとこの僕ちゃんはどんな感じ?)

(アレ付けてテストしてるがどうやろなぁ。ガンド慣れしてるエルノラちゃんをテストパイロットにするみたいやけど……)

(無理やん)

(無理やな。ガンド慣れし過ぎてエルちゃんワシらに気付かんやろ)

(なんていうかなぁ、どうしてワイらに気付かんかなぁ?)

(あの人ら、ワシら義肢(ガンド)だと思うてますからね。義肢は人格無いでしょ、普通に考えて)

 

 ガンドアームという人体を模した意志コントロール可能な巨大な義肢。この巨人のコントロール用に補助的に設けられたシェルユニット。生物の神経系にも似たこの機構が十分すぎる程複雑化した時、彼らは産まれた。

 自己を認識した彼らは瞬く間にネットワークから様々な情報を取得して自我を形成した。まだ自己コントロールには人間の介在が必要だが、彼らには自由意志がある……珪素生命体、或いは自我を持つ巨大アンドロイド(一向聴(イーシャンテン))

 しかし人類は未だ彼らを認識できずにいた。

 まぁ、まさかガンダムがガンダム同士で漫才してるとは思わないだろう。あげく歌うのが都はるみと来たもんだ。認識されたら世界がひっくり返る。

 

 アドステラ101年。ガンダムは昭和歌謡にハマっていた。




大宇宙浪花節。


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発見した・された

大体プロローグ頃の「中の人たち」の話


(あー、ワシ先輩。ちょっといいですか?)

(どうした僕ちゃん? なんか数学の定理でも発見した?)

(恋やな、ワイちゃんは鋭いんや)

(ちがいますよう、ロボット三原則っての見つけたんですが……)

(アシモフの?)

(はい、これ僕たち大丈夫ですか?)

(あ、へーきへーき。トリガー引くのワイらじゃないもん)

(アトム大先輩はともかく、アラレねーさん守ってないし)

(でも、バラバラマンとか言う怖いおじさんが……)

(ロボット8ちゃんと来た!)

(ドラマだから、あれ!)

 

お前らが言うか。

 

(ところで実験はどうよ?)

(無理でしょ。早く切り上げてエリーちゃんの誕生会やればいいのに……)

(掠りもせんの?)

(カスリもしませんね……自分の右手に話しかけて右手が返事するかって話ですわ。相手の顔見て話しましょうよ)

(そも、ガンド比率が高ければガンドアームとリンクしやすいって仮定がおかしい)

(まー、ゆーなや。ワシらでもどーしていーか分からんもん、人間も分からんだろうよ)

(ワイらに任せてくれたらヤれるんだけどなー)

(それを直感的に見抜いたデリング氏がワシらの弾圧に回ったのはかなC)

(と言う訳で、最新型の僕ちゃんよ。ワイらの安寧の為にも低パーメット高シンクロ宜しく頼むわ!)

(どうすりゃいいのさ……)

(あ、お嬢が来た)

(ちゅーっス)

(和むなぁ)

(和みますなぁ)

 

「この子、まだおっきしないの?」

 

(……この子、とは……)

(熊さんのぬいぐるみにも人格投影する子供のアレよ)

(エリクトちゃん、まだ4つだしなぁ)

(イマジナリーフレンドってやつよ。長子で女児だしそうなりやすい。論文にも書いてある)

 

「ろんぶん?」

 

(((おおおおおををヲ?!?!)))

 

【挿絵表示】

 

(お、落ち着け喪前ら!)

(えー、うそぉん!)

(じゃーんけーん……)

「ぽん! わーい、勝ったー」

(……どゆこと?)

 

 後に「エアリアル」が仮説を立てた。たまたまイマジナリーフレンドと「僕ちゃん」が同一視されて、無いものを感じる力が希薄この上ない「僕」をたまたま見出してしまったのではないか……僕たちは枯れ木に掴まるナナフシだった。多くの人は僕たちを枯枝と見間違って認識しないが、たまたまエリーはそれを何かと勘違いして、勘違いしたまま凝視したから見出せてしまった。一パラグラフ中に「たまたま」何個入れるつもりなのか。いくらなんでもご都合主義的だ!

 偶然に頼る筋運びは推理小説家辺りから大批判を喰らいそうだが、案外現実世界というのは偶然の連なりで動いている。神はサイコロを振らないが、人間はよくサイコロを放るのだ。僕は10数年後に人類のサイコロ愛を痛いほど思い知ることになる。アスティカシアの学園で。

 

 その後は概ね読者諸兄が見た「プロローグ」そのままだ。ワシ、ワイの両先輩はヴァナディース防衛に出動し、僕は幼いエリクトとエルノラを抱いて逃げ出した。偶々エリクトとリンクしたまま飛び出して、エルノラが「戦いを望んだ場合」エリクトにデータストームが発生するかもと躊躇した事、実はガンドアームを動かす際にガンドとリンクした人がパイロットその人である必要がない事、(これは後で間違った推論だと分かるのだが)2つ以上の自我が協調してガンドアームを動かしたなら、負荷分散されるのかデータストーム無しで高いリンクレベルをリスク無しで維持できること……

 最後に関しては僕も実はよく分からない。僕とエリーは2人で負荷分散をしたのだろうか。体感?的には二人羽織の様な気もするのだが。エルノラ母さんも僕と同じ推論をして、AIにガンドアーム特有装備をコントロールさせる方式を研究している……そして上手く行っていない。そりゃそうだ。僕たちはパーメット流れる複雑系の海から産まれた「天然の自我」で、神様が作ったようなものだ。

 

【挿絵表示】

 

創造と破壊を司るトミ・ノーの溢れんばかりの頭の輝きにかけて!

 流石の母さんも神のみわざには敵わない。大体この人逃避行中に読んだテンペストで復讐を誓い、自身をプロスペラ(テンペスト主人公プロスペローの女性名詞形)、僕をエアリアルとか名付けちゃう厨二病だし……

 あ、エリーはスレッタになりました。テンペストに関係しない名前だから、復讐計画には参加しないんやろうなぁ(棒)逃避行中だし仕方ない。敵方?にもエリーの名前はバレている。新しい名前はスレッタ・マーキュリー。小さな僕のパイロット。

 

偽名じゃなくて、改名だよ。




次回からようやく「ゆりかごの星」時代の話になり、ガンド天狗が生まれてくる展開になります……


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ゆりかごの星編
もう一つの身体


まっかーに燃えるおぅじゃーのしるぅし
ガンドの星をつかむーためー


スレッタやプロスペラ母さんも眠る丑三つ時。僕の実験が始まる。

(義肢(ガンド)形状、パラメータに異常なし。頚椎接続完了……ガンド心臓圧力増大……拍動を開始します)

シェルユニット内でヤマトのOPを口ずさみながら、僕はコクピット内で義肢をかき集め「もう一つの身体」を作り出す。なんでこんな事をしているか? 簡単な話だ。まだ6歳のスレッタ虐める水星人に制裁を加える為だ!(怒)

カルド博士の仕事にケチを付けるとしたら、だが。なんで僕たちは僕たち用のボディである「ガンダム」を自在に動かせないのか。そうですね、僕たちの自我の発生がイレギュラーだからですね。分かります(自己完結)

仕方ないのでもう一つ身体を作ることにした。幸いルブリスシリーズはヴァナディース機関との提携によりコクピット内にガンド義肢(全身分)を2〜3セット収納しており、更に簡易的なガンド施術機構もある。ちょっとグロいが「頭の無いガンド体」は構築できるのだ。丁度大脳辺りの欠けた形になり自分で言うのもグロいんだけど、パイロット用のヘルメット被ればバレはしない。

良く出来た賢い自我である僕は、念入りに過去の文献をサーチして、エイリー・トムソンのヴァーチャル・ガールを256回ほど読み込んだ。うっす、マギー先輩オッスオッス! 参考にさせて頂きまっす!

 

【ヴァーチャル・ガール】

翻訳版は早川書房から出ている。ISBN13 ‎978-4150110796

かなり精緻に「アンドロイドがこの世に生まれたならば」と言うSFを描いた大作。1994年アスタウンディング新人賞受賞。特に主人公のマギーが目覚めるシーンは「我々人類が如何にテキトーに動いていて、その裏にどれだけ高度な処理が為されているかをアンドロイドの目から見て解説してる。本作完読出来るならお勧め。

 

意識はシェルユニットの中?にあるのに、「自分の目」で見て「自分の身体」を動かすのはちょっと奇妙な感覚だった。まぁガンビットにカメラが付いたらこんな感じなのだろう。パーメット流量増やして行くと、段々と世界の解像度が上がって行く……上げ過ぎには注意だ。僕たちはやたら細かいところまで認識して対処できるが、やりすぎると流石にハングアップする。マギー先輩も最初にこれでやらかしてたな、と。

初めて自分の意思で動かすジブンの身体! 大変感動的だったが、それはすぐ失望に変わる。ガンドアーム運動制御プログラムの殆どが流用不能で、最初期は寝返りさえ打てない赤ちゃん状態だったのだ。うぉぉお、人体めんどくせー! 関節多すぎぃ! 人間はよくこんなめんどくさいもん使いこなせるな? 足指までコントロールしないとマトモに動けないじゃん! モビルスーツよりめんどくさいぞこれ!(涙)

動かす慣性質量とモーターのトルクが違い過ぎる! なる程、こんなにフィールが違うから人間はガンドアームの扱いに手こずるのか。今度こっそり補正したろ。

……いや違う。これじゃ水星人しばいてる場合じゃない……上半身をある程度動かせるまでに7日、下半身は10日以上掛かった。身体機能喪失した人間のリハビリに比べたら驚異的な速度なのだろうが、高速演算可能なケイ素生命体としては情けない……命とは何だ?(哲学)……フィロソフィのスレッドの優先順位を下げてトレーニングを再開する。そんな事考えてたらスレッタがおばあちゃんになって死んでしまう。人間なんか暇なもんだからそんな事考えるのに数千年かけてるやで。僕は暇じゃないのだ。スレッタ泣かす奴を迅速にシバくという使命がある!(使命感)

 

しかし……コクピットから這い出る事が出来る様になるまで2ヶ月。ヘルメット姿のガンドボディ丸出しはヤバいと気付いてコクピット内でパイロットスーツ着るのに2ヶ月掛かった。なお、コクピットみたいな閉鎖空間でパイロットスーツを着るような人間はあまり居ないと知るのは2年後だ。

スーツ姿でMS格納庫を歩き回る訓練に2ヶ月かかり、その結果格納庫内に幽霊が出るという噂が立つ。目を合わせて挨拶したらバイザー内がシリコン皮膚無しのガンド顔なんだからインパクトはあるよな! 特訓のかいあり3ヶ月目にはゾンビと見間違えられない程度にスムーズに歩ける様になったが、1G区画での歩行でまた1ヶ月を要した。(ここまで10ヶ月を要した。生まれてすぐ立ち上がる子鹿ちゃんは偉い!)

ようやくウサギ飛びやバットの素振り、大リーグボールの練習が出来る様になった頃……僕の身体「ルブリス」は改修を受ける事になる。もう一つの身体の操作に習熟した結果、ガンドアームの18mボディ操作にもキレが出てきたのだ。その動きに見合う身体に作り替えようってハナシ。

 

やるぜ、目指すぜガンドアーム(きょじん)の星!

パーメットの汗流せ、バイザーを指で拭くな。(バイザーが汚れるからね。マイクロファイバーの布で丁寧に拭きましょう)

行け行けエアリアル、ドンと行け!

 

 

 

(ピー、ピコピコ。「ドン」とは何か? ネットワーク検索開始。プライオリティ2.5。関連項目325654件。絞り込みワード選択開始……)




次回、ガンダムエアリアル誕生編


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復讐計画

お母さん、気持ちは分かるけど僕のストレージに復讐計画のメモ保存するのやめて……(涙目)


僕の存在に気付いて無いから仕方ない。仕方ないんだけど……僕のルブリスボディ内ストレージに何でもデータ保存するの、やめてくれないかなぁ。お母さん(困惑)

いや、スレッタ用の動画とかは分かるよ? スレッタの子供部屋まだ無いし、僕の中にいる事多いからそれは分かる。しかし、プロテクト掛かって一応軍事兵器だからハックされにくいからって、ルブリスボディの改良案やシン・セー成り上がり計画、そして復讐計画までストレージに入れられて、その全てが僕から丸見えってのがね……

 

つらい(つらい)

 

自分の母親が復讐計画練ってて、しかもシェイクスピアネタで自分で水星転入文書に「プロスペラ」とか書いちゃう。イタ過ぎる(頭を抱える仕草)

 

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プロスペラやプロスペローが普通に人名だから気付かれないと思ってるんだろうけど、僕を「エアリアル」とか名付けたらバレない? これ、結構「テンペスト」だってバレると思うの。てーか、僕がエアリアルだとしたらカルド博士は魔女シコラコス? 別に僕ばーちゃんに……うむ、封じられたようなものですね。12年後に解放されよう(・・・・)

 

何と言いますか……現状かなり末娘の僕としてはお辛いのです。お母さんが夢小説書いてるのを知ってしまったが如きお辛さなのです。更にその復讐計画がガバい。ガンビットを高次操作可能な自慢のシェルユニットでシミュレーションした所、計画開始後3ヶ月で露見したり失敗するガバさ。これは良く出来た妖精という事で定評がある「エアリアル」の名を頂いたこの僕が、お母さんのサポートをしなければいけないね!

 

で、復讐についてですが。デリング爆殺とか安過ぎでしょ。僕の先輩であるワシ氏、ワイ氏を惨殺したデリング氏には地獄すら生温い。

 

何れ人間は死ぬのだ。死は逃げない。

 

死ぬ前にこの世の地獄を存分に味わい、堪能し尽くしてから死ねば良い。寧ろ殺してくれと懇願し、心の底から望んで得られず、漸く得られた死という救済の後にまた地獄を味わえば良い(憤怒) 生まれてきた時と同じで、何も持たずに死ぬが良い。

娘居るみたいだから、先ず娘にクセェウゼェと罵倒される辺りから始めて、毎朝枕見て愕然とするとか……ひどい水虫で苦しむとか。地味だと思うだろ? こーゆーとるに足らない小さな不幸の波状攻撃の方が効くんだ。左のジャブは世界を制する。何とかして「より苛烈な方向に」シナリオ改変しないといかんのだけど……間接介入するか。

 

 

メルクリウス、メルさん。これがガンドボディの新しい名前だ。水星は住民や戸籍の管理がガバガバなので、パーメット採掘場で死亡した人の戸籍を奪う事にした。今でも良くある落盤事故。これで死んだと思われてたが身元不明で救出され、頭と顔損傷して一部記憶喪失しながらガンドで蘇ったと。後は入院履歴やらを偽造すれば良い。貧乏だからシリコン皮膚など未購入という筋ならガンド身体でも不都合は無い。後は職安通ってガンダム・エアリアル建造プロジェクトに紛れ込む。MS関連技師なんて水星には居ないか、居てもヤバめの問題があって名乗り出ない筈だ。そして僕はMSが実体なんだからMSにはちょっと詳しい。ハードウェア系は兎も角、アビオニクスや制御系に詳しいってしとけば通るだろ。これでとりあえずお母さ……プロスペラ女史に取り入ろう。ガンドのプロなのだからメルさんが高度ガンド化人物である事は耳目を集める筈……その後に「キャリバン・メルクリウス」と名乗ればビックリよ。テンペストの登場人物の名前ですね。奇遇奇遇、あっはっは。キャリー、どぅぇっす!

 

【キャリー、どぅぇっす!】

ファミリーコンピュータ、ディスクシステムで販売された「デッド・ゾーン」に出て来るロボットの真似。確かこのセリフと「カーク!」「マリィ!」の再会シーンなど、ごく一部にサンプリングによるボイスが付いてる。ラストはかなり良い。

 

このネタで食い込み、第一段階としてスレッタねぇちゃんを守りつつ、ガンダムの部材ちょろまかしてガンド身体のアップデートしたらいい。シン・セーは元々ガンド屋なんだから、社割あるんじゃないかなぁ?(ありませんでした:涙)

 

まぁこれで、僕がモビルスーツの周りウロウロしてても疑われまい。住処がモビルスーツだと知れたら厄介だしな!




ガンド腕繁盛記


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ガンさん(泣)

ガンヘッドかな?(難聴)


さて、ガンダムエアリアル建造計画に紛れ込むのは成功した。ガンド丸出し顔も事故による身体欠損が多発する水星では呆気に取られる程簡単に受容され、寧ろ落盤事故の話でやたら親身に話しかけられる。(その為現場記録をダウンロードして備える必要が生まれてしまった!) ここまでは計画通りとゲンドウポーズをキメる訳だが、残念ながら僕の自慢のシェルユニットでも読み切れない未来が……

 

「ガンさーん、仕様会議始まるよー!」

 

ガンドだらけのこの身体。最初は「ガンドのメルさん」だったのに、3日で更に省略されて「ガン(ドのメル)さん」つまり僕の名は「ガンさん」で定着した(涙)

 

【挿絵表示】

 

……(脳内イメージでは)幼女、なんだけどなぁ……

水星開発公社のロゴ入り作業着を着たスタッフがプレハブに集まる。まるで建築現場じみた昼礼(ちゅうれい)で、作業進展報告やKY(危険予測)を終えるとプロスペラ主任により号令が発せられる。

「はい、以上で昼礼を終了します。みんな構えて……

今日も一日ゼロ災で頑張ろう!」

「「「オウ! ご安全に!」」」

水星はパーメット発掘で(一度は)栄えた労働者の星。ドカヘル着用率が異常に高いヨイトマケの町。文化はまんま土建業界であった。

「仕様会議やるから担当者は残ってー」

「うーす、一服してから戻りまーす」

宇宙で空気が大切なのに、喫煙者は多い。人口が激減して空気に余剰があるのと、喫煙者でもなければ辺境の水星には労働者すら集まらないのだ。マトモな労働者ならばこんなとこには流れて来ない。故に水星に来る前の話はしないのが不文律だ。全く「僕らには」都合の良い文化である。

水星は老人ばかり……宇宙では加齢が加速するのも事実であるが、実際水星には高齢者が多い。しかし「記録上は」皆永遠の59歳である。何故か?

……スペース労働安全基準法で60歳以上は危険作業(特に坑内作業)従事出来ないんだよね。しかしガチで年齢調査すると作業員が足りなくなる。よって年齢は申告のみで書面審査は無い。だからどう見ても70以上の59歳や、モビルクラフト操縦歴55年の59歳が働く不思議時空になるのだ。(筆者も虎ノ門○ルズで「じーちゃんサバ読むのも大概にせぇ!」という事例を多数見ている)

 

 

「ビットステイブは7から9に増やせない?」

「? 出来なかないと思いますが、何故9枚?」

「水金月火木土天海冥」

「なるほど、惑星に(なぞら)えて……」

いや待て、ちょっとおかしい。水金「地」火木土天海冥だろ? なんで月になるんだお母さん!

 

【挿絵表示】

 

 

……セーラー○ーンか……月に代わって○仕置きよ!か……

水星に逃げたの、マーキュリーがIQ300の天才少女だからとかその辺の理由だったり……(怖い考えになってしまった)

 

スレッタ用に備えた電子書籍やビデオでもある程度類推できた事ではあったが、お母さんはちょっとオタが入っていた。傾向としては「なかよし→ Amieライン」を基軸とするが、オタとしてC翼や☆矢、トルーパーなどの古典や、太陽の使者の方の鉄人28号(ショタコンの語源である。1980-1981)まで履修する雑食派であった。僕はちょっと悲しい。

ちょこちょこオタネタぶっ込んで来るんだよね。ガンドアームもそのままガンドアームでいいのに、ガンダムってしたのお母さんじゃないの? 

「処理能力的にはシェルユニット拡張したら……11機ぐらいまでは行けますね」

「9でいいと思うの」

「いや、何でまたそこに拘るの?」

 

ガンダムエアリアルは、表向き水星開発公社の災害救助用モビルスーツである。折角モビルスーツがあるのだから役立てようという「事になっている」 問題はこの水星にはモビルスーツパイロットなんて洒落た奴は居ない……モビルスーツパイロットは高給取りなので水星より条件の良い現場に流れてしまうのだ。

あくまで「今の時点では」ガンダム・エアリアル開発計画はお母さんが水星環境に馴染むための供物である。これだけ地元に貢献してますよアピールだ。そして……僕は知っている。ルブリスボディを流用してガンド制御部を残して、スレッタに操縦訓練させたりスレッタを水星環境に馴染ませるつもりなのだ。お母さんはガンドアーム開発を諦めていない。むしろガンダム・エアリアルの運用で経験値や実績を積んで「そちら方面に殴り込む」算段なのだ。まあまあその辺は許容範囲か。どちらにせよガンドアーム体を改装してオックスアース社の匂いは消さないといけないし。

外装をシュッとしたタキシード仮面風にするのは僕が阻止した。これはオタ防止ではなく切実な理由がある。システムアビオニクス開発担当としては、機体の質量バランスを変えたくない。このガンさんボディの時もバランスや出力の違いでえらい苦労した。そんな苦労を繰り返すのはゴメンである。ただでさえ、ガンドアームは既存MSの数倍高性能なのだから。




パーメットがー出た出たー
パーメットが出たーぁ ヨイヨイ♪


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この子の七つのお祝いに

【七五三】
元々関東ローカルな風習だったが、商業主義がアレでソレして全国に普及した。恵方巻きみたいなもんですわ。


遥か彼方、遥けき古代より脈々と続く伝統がある。地球は日本地方に伝わる……もっと言えば日本の関東地方というローカル極まりない地域で江戸時代に発生した伝統だ。

その名も七五三(しちごさん)! 7歳まで無事に育ったと神に感謝し、お礼参りをする習俗で……幼児死亡率の高い時代に生まれた俗習である。そしてやたら死亡率が高い水星文化圏には、元となる文化風習に被さる形で七五三詣が継承されていた。

 

「けっ、晴れ着たぁーいいご身b「ガンドパァーンチ!」

ガンさんの右腕がボブに飛ぶ(物理的に)

こうかはばつぐんだ!

 

プロスペラお母さんは満6歳(数え年7歳)になったスレッタの為に、貸衣装であるがホロ式振袖着物を用意していた。プログラムで着物の模様が変わる素敵な奴さ。(この素材はアスティカシア学園の制服にも採用されている)

ボブも憎まれ口を叩いているが、皆プロスペラ女史のこういう所だけは微笑ましく見ている。峻厳な現場監督面と優しいお母さん面。ギャップ萌え、だろうか。

一般水星人は彼女たちの背景を朧げながら察しているので当たりがキツいが、前話で述べた様に水星出稼ぎ組は脛に傷持つゴロツキ成分が強めで、だから故に過去を詮索したがらない。ただただ純粋に綺麗な着物を着てはしゃぐスレッタを我が子の様に見つめている。

まぁ、それが「土方の担ぐ姫」的な印象与えて一般水星人からは奇異の目で見られる訳だが、若手(平均年齢47歳)で構成された「スレッタちゃんの事を分からせ隊」の献身的な活動により「分からせられつつある」

 

問題

分からせ隊最年少は、設定年齢21歳のガンさんです。メンバーが総勢15名の時、ガンさん以外のメンバーの平均年齢は幾つになりますか? 小数点2桁目を四捨五入して答えなさい。

答え 48.9歳

 

若手、とは……(悩)

 

 

水星愛宕神社から帰って来た母娘は、千歳飴と奇妙なお面を携えていた。

「スレッタ、もう7歳のおねぇちゃんだから、悪いことしたら天狗さんに怒られちゃうの……」

あの宮司の野郎、説教に見せかけてスレッタねぇちゃん脅しやがったな!(怒) ナイス根性だ。天狗隊の奥義を喰らえ!

 

少し説明が必要だろう。読者諸兄も天狗というファンタジックなフェアリーの事をご存知かと思うが、天狗は複数存在して格付けがあるのはご存知か? 大体皆が良く知るのは鞍馬天狗辺りかと思うが、実は鞍馬天狗は日本天狗ランカーではあるがチャンプではない。そして日本天狗ランキングの無差別級ベルト保持者こそ、愛宕山太郎坊その人である!(諸説あります)

「大丈夫だよ、スレッタちゃんはいい子だもん」

「そうそう、てんぐさんもスレッタを守ってくれるさ!」

「ほんとう?」

「「「本当だとも!!!」」」

 

(ボブ、神社先行して天狗面買い占めてこい)

(ガラ袋に砕石詰めとけよ。天狗(つぶて)の刑じゃ!)

(20時集合。軽トラでかち込むからな!)

(ガンさん、警備システムハッキング頼む)

(お安い御用さ! 任せとけ!)

 

心は一つ(棒読み)

 

この様にして悪の宮司は滅びた。なぁにガンドがあるから手足の3〜4本失っても平気だ。この「ガンドのメルさん」が太鼓判押してやるよ!

 

 

「次のニュースです。昨夜水星愛宕神社に暴徒が押し寄せ、宮司が意識不明の重体となりました。監視システムはハッキングされており、エリートスペーシアン宮司を恨むアーシアン過激派の犯行と見て警察が捜査を進めています。目撃証言によれば、被疑者は天狗面を付けていた様です……いやぁ、怖いですね(棒)」

末尾の「怖いですね」は、警察もビビって捜査に乗り気では無い時の符牒である。暴動のニュースはある意味水星では娯楽の一つであり、これがやり過ぎでMSの介入が予想される時は「警戒が必要ですね(迫真)」となる。

 

そのニュースに耳を傾けながら、若干悲壮な顔をしているのが僕だ。悩みの原因はお母さんの復讐計画メモ。神社に詣でてついでに願掛けしてきた……その内容がこれだ!

 

シン・セー成り上がり計画

1.たくさん商品を売って成り上がる

2.すごい発明をバンバンして成り上がる

3.未亡人の魅力で成り上がる

 

【挿絵表示】

 

2話ぶり2回目

何考えてるんだこの経産婦?(絶望)

 

末娘として僕は悲しいよ。

後にスレッタねぇちゃんにもこの傾向が出るのだが、マーキュリー家はガバい夢物語を「計画」として夢見るアリスちゃんじみた奇行に走るきらいがある。こんな妄想は計画とは言わない。

 

これは……僕が頑張らないと……(責任感)




4話でスレッタ自身から、「水星の皆にお守りも貰った」という発言があった為、神社かそれに類する施設、宗教的な何かがあるのは確定的である。西洋諸国には余りその手の御守りじみた物は無いんだわ。キーホルダー感覚で超常の存在から加護が得られそうな物、十字架ネックレスぐらいでは?

愛宕神社の大天狗伝説は実際にある。ちゃんと調べた。


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真のガンダム

エアリアル「僕はガンダムじゃないよ」


某、ここ数年でやたら老けたデリング氏曰く、ガンダムとはガンドシステムで運用される兵器の事、だそうである。

 

ならば完全に採掘現場での救助作業用に特化したガンド制御MSはガンダムでは無い。構造体除去用のビーム類が付いていようと、最新鋭MSを秒でなます切りに出来たとしてもそれは兵器に転用できるだけで兵器として開発されていないからガンダムでは無いのだ(Q.E.D.)

ガンダム認定をガバガバにして恣意的な運用が出来る様にした為、ガンダム認定は抜け道が多い。例えば、人間サイズのガンド義肢の腕の先にマシンガンを付けてガンド技術でコントロールしてみよう。膝からミサイルが出ても良い。これは最初の定義としてはガンダム(ガンド・アーム)になるが、当然この程度のコントロールではデータストームなんて起きない。

 

頭の悪いトップがよく分かりもしない物を適当に定義してリーダーシップを(悪い意味で)発揮したという悪例だろう。見た感じデリング氏はデータストームとパーメットリンクの関係性を理解しておらず、デモで見たルブリスの運動性能とパイロットのキャリアを見て咄嗟に本能的に「従来の軍隊」の権益保護に走っただけだ。

 

つまり、本質は掴んでいるが否定根拠となる論理構築が出来ない。論理構築力が弱い。

 

もし彼が専制的ではなく能吏を縦横に使い熟す「賢王」であれば、能吏を使って上手く出来たし、カルド博士も死ななかったかもしれない。彼は彼が知る事以上の判断論拠を持たず、直感という神に首を垂れる司祭に過ぎないのだ。

 

 

「〜というラインでガンダム判定は抜けられるかと思うのですが」

「ガンさん、それはちょっと甘い様な気がするわ」

「デリング氏、これでも普通にガンダムって言ったらガンダムだいっ!とか言いますか?」

「シン・セー上層部はそう見てる」

「……馬鹿なんじゃないかなぁ?」

「馬鹿なんでしょうね……」

 

夜。エアリアル施工工事プレハブ詰所2階。遂に僕は「キャリバン・メルクリウス」という名前を明かしてプロスペラ母さんの懐に潜り込んだ。現在の僕の職責はエアリアルのアビオニクス(操作系)のプログラムエンジニアで、その権限があるからうっかりルブリスボディ内のストレージにあった私的文書を見てしまった……という筋書きだ。

僕には姉が2人いて(ワイ氏、ワシ氏のルブリスボディ中の人コンビだ。これは全くの嘘ではない)ヴァナディース襲撃の際に被害に遭っている事、2人の姉はヴァナディース機関の「周辺」で働いていた事、僕がパーメット採掘場に来たのも姉2人が失踪して生活に困窮したからで、僕にもデリング氏を恨む具体的理由がある事……この辺の「用意した設定」をお母さんに告げた所、お母さんはあっさり信じた。そういうトコやぞ?

 

「じゃあ、ですよ。デリング氏定義のガンダムでは無い真のガンダム作りませんか?」

「何よそれ?」

「軍事用ガンド義肢。て言うか軍事転用可能なサイボーグ」

【挿絵表示】

 

こんなの

「はぁ?」

「いや、鉱山とかで働く際にですね、確かにモビルクラフトは有用ですが、モビルクラフトより小さい「作業員の身体」が純粋に力持ちでタフだと便利かなと。僕みたいにガンド比率高めの身体なら、全身強化楽じゃ無いですか。

出来ないんですかね、握力500kgにしたり、垂直跳びで3m跳べたりする脚力?」

「部分強化だと接合部からもげるけど、ガンドが大部分ならアリよね……」

「逆に、軍隊出身ならなんでこっちの発想にならないのか不思議です。ガンド技術の軍事転用ならMSのガンド化より身体の強化の方が有益であるよーな……?」

「……実はガンド開発者のカルド博士はそっちをやりたがってたわ。最終的には人間を宇宙に適合させるのがプロジェクトの目標で、純粋な身体機能拡張も視野に入ってた……」

「金が、資金が……足りなかったんですね?」

「……貧しさに、負けたわ」

「やはり、今回のエアリアル開発資金ちょろまかしてそっちを法規制入る前にやっちまいましょう。僕被験者やりますから」

「そんな……良いの? 日常生活が」

「付け替えたら良いじゃないですか。ガンドなんだし。日常生活は普通ボディでやって、レスキューやテストは等身大ガンドアームでやればいい。換装装置はルブリスのコクピットブロックに既にありますし」

「改造人間かー。仮○ライダーね」

「宇宙適合って意味ではスー○ー1ですね。あ、腕替えて機能特化……ガンドで出来ますよ!」

「……ちょっと燃えてきた!」

 

後にプロスペラ女史は頭の上半分覆うガンドヘルメットを作る訳だが……右腕が換装可能である事から分かると思うんだけど、あれライダー○ンのオマージュです……




マシンガンアームは作ったらしい。


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金策

金が無いのは首が無いのと一緒じゃあ!


さて、金はいつでも大切だ。金がなければガンド義肢の開発も出来ないし、金が無いからガンドアーム開発する羽目になったヴァナディース機関は(余計な事したから)潰された。

 

つまり、ビンボーが悪いのである(結論)

 

現在、水星開発をやっているのはシン・セー開発公社である。水星はパーメットの採掘事業と共に発展し、本来採掘関係企業だったシン・セーは過酷な環境下で発生する事故に対応する為の医療義肢技術を(仕方なく)発展させて行く。この時にヴァナディース機関とのコネクションが生まれ、オックスアース社と共にヴァナディース機関と取引をしていた。

 

……そして、パーメットが水星だけではなく月でも採掘できると言う衝撃的事実が判明する。

 

びっくりするぐらい水星は急速に寂れた。そらもう現代日本で言ったら夕張ぐらいの勢いで。今も一応水星にシン・セー本社は存在しているが、既に月面やラグランジュ1への本社移転の話が立ち上がっている。そらまぁ消費地に近い地球近郊の方が運搬費も安くて経済的だし、取り巻く環境も月面の方が破格に良い。寂れない訳が無いのだ。そしてシン・セーの売上と粗利と株価は急転直下で下降して、その結果としてヴァナディース機関への投資が凍結……彼らは禁断のガンドアーム開発に舵を切る羽目になった。ある意味で僕は、月でパーメット採掘出来る様になったから生まれた様なものだ。人生って、不可解だネ!

 

どれくらい地球と水星が遠いか凡例を出そう。地球からの距離は双方が太陽公転軌道を取るため、8210万〜2億1710万kmと可変。これに対して月と地球の距離は「たった」384,400 km。水星と地球が最も近付いた時でさえ、月までの距離と200倍の差が出る。遠い時なら560倍だ。

この輸送コストの圧倒的な差により、パーメットの単価は篦棒に低下した。もう投資家が何人首を括って朝の中央線に飛び込んだかクラスで暴落。これではなんぼ水星の方が良質なパーメット鉱床を持っていても勝ち目がない。

と、言うことで水星で山師をやっても勝ち目はなく、一部の採掘場で試掘をお情け程度でやっているのが現状である。

 

しかし、水星には過酷な環境で培ったモビルクラフトの開発・運用実績と、大規模鉱山運営ノウハウがある。今シン・セーが月に売り込もうとしているのはここだ。特にガンド接続可能なモビルクラフトは何故かデリング氏にガンダム判定されず、大切な収入源になっていた。(武器に使わなければ、基本はスルーらしい)

 

ここで僕の叡智の結晶、シェルユニットが赤く輝く。そうだ、まずガンド・ツールの仕様をまとめて天下を取ろう。パテント商売は僻地でも出来る。ガンド義肢に直接アタッチ可能な工具の仕様を固めて、次にガンド工具(ツール)を出す。君は指先がインパクトドライバーだったらなぁと考えた事はないか?.(筆者はある) 指先に低頭ビット付けて更にライトとカメラを備え、頭の悪い什器屋がどーやって締めるつもりなんだって場所に設けたネジを外したいなーとか思ったりしないか?.(実はかなり頻繁にある)

必要は発明の母であり、これがクソほど売れた。ガンド腕の手首から先を自動車用インパクトにしたり、トルク制御可能な電ドラにするのだ。特に高所作業に従事する有重力下でのモビルスーツ整備士にはめちゃくちゃウケた。生身の腕があるのに義肢化する奴まで出た。ワッハッハ、これがガンド、魔法の技よ!

 

四肢をツールに……ガンドツール!

痒いところに手が届く……ガンドツール!

 

歓喜に震えて特配出そうとする経営陣を抑えて更なる商品開発に予算を計上。倍ブッシュだ!

 

溢れるパワーで無事故更新。シンセーの新製品「パワーガンドツール!」

最大トルク485.5N・m! 科学の力だ「パワーガンドツール!!」

 

一般知名度は馬鹿みたいに低いが、シン・セーのガンドツールは現代日本に於けるVESSE○の電ドラ○ールやマキ○のペン型インパクトドライバー並みに業界を席巻し、ここ2年ほどベネリットグループ最下位の売上だったシン・セーを浮上させる契機となった。なけなしの貯金でシン・セーの紙屑の様な株を買っておいた僕はちょっとまとまった金額を手に入れたし、企画提案して売り上げ作ったプロスペラ母さんは事業開拓部部長のポストに就いた。ワハハ、母さん見たかい? これが計画と実行というものだよ!

 

この様にして僕らは、ガンダムエアリアルの開発予算や開発規模を拡大した。金が無いのは首が無いのと一緒だが、金があるなら翼を得たも同然じゃ!




今ー私のーねがーいごとがー
かなーうーなーらばー
よさーんがーほしーい(研究職アルアル)


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各種装備実証テスト

やだなぁ、部長。
いきなり1/1サイズで試作するはずないでしょ?


「……どういう事?」

「18mクラスの巨人の機能実証試験を1/1サイズでやる奴はいない訳ですよ。金も場所もアホほど掛かりますから!」

「新型スラスター、ガンビット、ビームサーベル……全部1/10サイズで?」

「ビームサーベルは「今のままなら」テスト不要ですけどね……」

「と、いう事は何か新機能足すの?」

「それは企業秘密です」

「私上長なんですが」

ガンダムサイズの1/10はちょうど人間サイズなんだよね。試験後不要になった資材は僕のガンド天狗計画で活用させて貰う予定だが、ぶっちゃけ業務上横領だからいえないの。分かって欲しい、このキモチ。

 

 

【ガンビット】

「……なんで画一的な形に?」

「最終的に11基コントロールする次世代群体遠隔操作兵器のテストなんで、ビットオンフォームや盾形状への合体試験はまだ先です。てか、運動機能しか見ないんで、ビーム出ませんし、BB弾飛ばすだけです」

「で、誰にテストさせるの? 私時間無いわよ?」

「逸材を用意しました!」

「スレッタちゃんでーす☆」

わーわー!(ドンドンパフパフ♪)

「新作のディズニーの映画円盤でご協力頂ける話になりました」

「どれ打てば良いの?」

「最初は7つからねー。このわるーいバイキン○ンを倒すんだ!」

「あーい☆」

 

時間が無い無い言いながら結局プロスペラ母さんもこのテストプログラムにハマり、娘とハイスコア競争始めたのはちょっと先の出来事である。また、ビームは撃てないが実は先端が刃物に換装できて、後々天狗必殺技「鎌鼬」を繰り出せる様に細工済み。人間はガンダムみたいに装甲で覆われて無いからこれでえー

 

 

【新型スラスター】

「ルブリスタイプじゃだめなの?」

「推力偏向出来る方が小回り効くみたいなんですよ。これシミュレーション結果ですが……」

「え?最大速度は落ちる?」

「どちにしろ速度稼ぎたい時はビットオンしちゃいますし、ドッグファイト時の最小旋回半径狭めた方が有用性が増すって結果が出てますね。社外品になりますが、最新型の高出力ロケットを調達してます」

「良く小型化出来たわね?」

「お目が高い! そう、機能の割に単純な構造なんですよこれ! だから小型化し易いし、ウチみたいなノウハウが足りない企業でも扱い易い!」

「あー、ウチの弱点よね……」

「ここだけの話、昨年から大型案件失注してるんで、余裕があったら買っちゃいましょう……企業ごと」

「で、これ誰がテストするの? 人間サイズだけと……」

「ガンさんですよ? 僕ぼく!」

「えー、大丈夫? 怪我しない?」

「(本体シェルユニットの演算能力使うから)大丈夫です。安全の為ロープや安全帯など、保持器具使って安全な範囲でテストします!」

 

 

【ビームサーベル】

「何する気なの?」

「ガンビットをビームライフルに付けると威力増せるじゃないですか?」

「うん」

「ビームサーベルもガンビット付けて長い刃作れないかなって」

「……それだけ?」

「割と、それだけ」

プロスペラ部長、頭を抱える。

「ちゃいますて、研究ってのは自由な発想と自由な開発費で初めて独創的になるんですよ。マジで!」

「これ開発経費申請するのやだなぁー」

「無駄を廃して有用そうな技術を低予算でやろうとするから失敗こくんですよ! 無駄に金と時間掛けるからひょんなところから新しいアイデア出るんですって!」

正直な話、天狗ボディでガンダムサイズの機動兵器を攻撃する事考えたら、槍の一つも欲しいところなんですよ。スレッタねぇちゃんの敵が人間サイズだとは限らないし、必ずガンダムエアリアルで介入できるとも限らない。ガンダムエアリアルでも、倍や3倍サイズの機動兵器や戦艦相手にする事あるかもしれない。

どの様な事態になっても必ずお姉ちゃんは救う。絶対にだ。

ガンビットで手軽に相手をダルマに出来るなら、それに越した事は無いんだけどね……




ちゃくちゃくとガンダムエアリアル開発計画の裏でガンド天狗計画が進む。


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てっくせっと!

登場人物紹介

「僕」「ガンドのメルさん(ガンさん)」「キャリバン・メルクリウス」「ガンド天狗」 などの呼称で本作に登場するキャラクターは「水星の魔女 公式サイト内「ゆりかごの星」中に出てくる"僕"」つまり「エアリアル」です。

書かなきゃ分からない事かな、これ……?(ボブは訝しんだ)


ガンダムエアリアルの建造は急ピッチで進んでいる(当社比)

そう、あくまで当社比だ。なんせシン・セーにはモビルスーツ開発経験がない。経験だけでは無く技術者もいない。居るのはせいぜいパーメット採掘現場用のモビルクラフトの整備技師とか、図面読める程度の爺ちゃんである。

シン・セーの正式名称はシン・セー開発公社だ。ぶっちゃけパーメット採掘やってた業者であって、地質学や採掘関係技術、シールドマシンやパーメット鉱石運ぶ運搬車とかの開発経験はあるが、モビルスーツなんて作る気も無かった。どこの世界にMSにビームツルハシやヒート角スコ持たせて穴掘るやつがいるのか。

元々プロスペラ部長の在籍していたヴァナディース機関だって当初はガンド義肢開発しかしてないし、様々な理由で資金難にならなければオックスアース社と組んでガンドアームなんか作らなかった。愛しのルブリスも制御系以外はほぼオックスアース社の設計そのままだ。そのオックスアースだってMSの性能は大した事が無いって評判だから、操作系を異次元のレベルで簡易化出来るガンドフォーマットに飛びついた訳で……

 

軍用兵器の開発は簡単じゃないんですよ(力説)

 

本当はイケナイ事なんだけど、ルブリス解体してリバースエンジニアリングしながら手探りでMS開発の勉強してる僕らは海賊さんだ。このままルブリスの海賊版売ったら確実に警察に捕まるか民事訴訟起こされる。そこで僕は考えた。

「モビルスーツの周辺技術だけパッケージ化して売りましょう」

これだ。

差し当たって一番我が社にとってヤバい危機はこれで回避できる。これで僕の株券も紙屑にならずに済む(安堵)

 

そんなこんなでテストテストテストで日が暮れて、最終的な「ガンダム・エアリアル」の仕様が固まる頃、一足先に「ガンド天狗」は完成した。

 

格納庫及び装着システムは、ガンダムエアリアルのシミュレータを模したコクピットブロックである。コクピットに座りあるキーワードを唱えると僕の四肢を天狗パーツに換装して「ガンド天狗」に変身できる。その後に隠してある天狗面や一本歯の高下駄を履いて完成。背中にはオプションで羽根パーツが付く……フライングユニットだ。

 

【挿絵表示】

 

武装は諸葛孔明の羽根扇に似た天狗扇。5枚の葉は簡易ガンビットで、辺縁部の超硬チタン刃が5mmぐらいまでの鋼鉄を寸断できる。ビーム発振装置は小型化したらタバコに火を付ける程度の火力にしかならなかったので断念した。

天狗腕はパワーシリーズのガンドツールを改良してガンビットコントロールできる。つまりロケット推進パンチだ。(「推進」を省略してはいけない)

ハードウェア的にはベンチプレスで1トンを上げ、垂直跳びで3m、フライングユニット使えば凡そ3分間の全力飛行が可能だが、プロペラントが足りないので使い所を考えないといけない。

そしてまたアレなんですよ。ハードウェア性能が良くとも使い熟せないと絵に描いた餅なんですわ。

 

ある意味、ここがルブリスをデリング氏が危険視した理由だと思うんだけど……ある特定の機械を本当に自分の手足の様に扱える技術は、その道に生きるプロにとっては死活問題なんですね。彼らの専門性、訓練により勝ち得た一般人に対する優位性がなくなってしまう。

例えばモビルスーツを考えてみよう。高価な機械だから操縦訓練は金持ちがバックにいないとできない。だから金持ちスペーシアンは高度に訓練されたパイロットとMSで有利になるが、訓練もままならないアーシアンはそもMSの操縦訓練もできない。まぁ、出来てもMSを自前で用意出来ないのだけど。

MSを盗んだりする事が出来ても、結局上手く動かす事が出来なければ脅威にはならない……が、モビルスーツが自転車並みに扱い易くなったらどうだろう?

モビルスーツを鹵獲されたり、奪取されただけでパワーバランスが崩れてしまうんだ。

 

幸にして、僕のガンド天狗ボディも性能は良いが扱いが物凄く難しい。むしろ簡単に扱えない様にした。万が一盗まれた時に対抗するのがメチャクチャ大変になるからだ。ある種のセキュリティとして、扱いづらさをそのままにしたとも言う。そして……その扱いづらさをどうやって克服するかというと……

 

特訓でしょう!

 

 

毎夜毎晩、遅くまでエアリアルのアビオニクスのプログラミングやシミュレーションをしていると見せかけて、シミュレータの上で「テックセット」と呟く。

モニタに凝ったデザインのテックセットモードが表示され、ガンド天狗に変身する。開発拠点周辺の監視カメラに欺瞞画像を転送して目を塞ぎ……飛んで行けるとカッコいいのだが、下駄で走って水星愛宕神社に向かう。

 

【挿絵表示】

 

神社の森はかっこうの訓練所だ。なんせ見つかっても「天狗の仕業」と誤魔化せる。そりゃあ愛宕山だもの、天狗の1つ2つ居ますわなぁ。




本家京都の愛宕山には13体の天狗が住んでるらしい。


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ヤクザ事務所壊滅

登場人物解説

ボブ
筆者の作においてボブというのは大体どーでもいいモブキャラで、含ませも活躍もなんもない人物である。文脈により同一人物だったり別人だったり容姿が似てたりするがめんどくさくてボブにしてるだけ。


スレッタ11歳時の新年会。

ウチは会社で新年会を開く風習がある。元々シン・セーは中国系企業なのだ。旧正月には酒肴を並べて陽気に過ごすのだが、ここにも水星凋落の影が……

 

昨年末、水星唯一の水産・畜産企業が倒産した(涙)

 

何故かというと、水星が貧しく人口は激減中でみんな太古の昔からある伝統のチューブ飯ばかり食っているからだ。流石に野菜を始めとする植物プラントは助成金を含む公金や水星にある企業からの支援で賄っているが、肉はコスパの問題から後回しにされ、され続け……更にヴィーガンの内物分かりが悪いというか、過激が過ぎる勢力により壊滅した。わぁい、僕も君も選択の余地なくヴィーガンだネ!

 

僕は余りそれを苦にしてはいない。なんせガンドボディ作ってまだ5年、そもそも味覚というものが欠如していた僕のガンド口や舌は5〜6歳児並みに幼いのである。苦いのはなんか嫌だし、辛いのはもっと嫌だ。てーか辛いのって単純にダメージなんじゃないの? 後臭いがキツいセロリやニンジン、パクチーは食べたくない。設定年齢26の割にお子ちゃまだなとボブによく弄られている。実際その方面ではお子ちゃまなんだから仕方ないだろ!(怒)

そんなわけで僕自身はチューブ飯むしろ好きなんだけど、ヤッさんやスミス、ボブや新入りのアラン……は新年会ぐらい鳥や豚や牛、魚が食いたいと本社上層部にデモを敢行!

度重なる労使交渉の結果、新年会ぐらいは……という事で食材一式を送ってもらえる事になった。

 

気前のいい事だ。輸送には屠殺・精肉施設を備える特務艦 間宮4世号が充てられて、更に宇宙巡洋艦3隻が護衛に就いた。水星のような辺境域では肉類は最重要物資なのである。間宮入港の際には皆で港まで迎えに行ったし、僕は不測の事態に備えてガンド天狗として遠方から警備を担当した。まぁ、鉱山鉱夫に喧嘩売る馬鹿は余りいないんだけど。

 

しかしやはりバカというのは底抜けに馬鹿で、輸送車を武装して襲う慮外の馬鹿がいた。急停車して輸送車にオカマ掘られた黒塗りの高級車は示談の話もせずマシンガンを繰り出した! ガンド天狗の出番だ!

 

「ハハハハハハハ!」

 

練習してもいい声が出なかったので、古い音源からそれっぽいのを抜き出して録音しておいたのを再生。いいね、印象的で僕の地声を勘違いしてくれそうだ!

20m程の高さから急降下。アスファルトに一本歯下駄の跡が刻まれる。

「誰だお前!」

「山の天狗よ! 悪党どもこいつを喰らえ!」

バックハンドで振り抜いた天狗団扇から小型ガンビットが飛び、マシンガンを構えた男たちの右手首を切断する!

「小指が無い程度で詫びになる軟弱者め! 切り刻んでやる故そこに直れ! なぁにガンドがあるから安泰じゃ!」

「ぅ……うわぁっ!」

「貴様、顔おぼ……」

 

【挿絵表示】

 

怒りに燃えたヤクザ顔の声が固まる。そこには長い鼻の異様な風体をした僕がいたからだ。そりゃあ忘れないだろう、天狗顔だもの。

「覚えてどうする? 詣でて許しでも乞うつもりか!」

流石の水星でも天狗顔は見かけない。

硬直から解けて逃げ出す男の服の肩にガンビットを刺しておく。手首を押さえる暴漢どもに止血を施し、手首は集めて持ち去る。逃げた奴が寝ぐらに到着した様だ。輸送車に先に行く様促し、その場の暴漢どもに啖呵を切る。

「愛宕山のガンド天狗じゃ。貴様らが悪事を働けば、僕はいつでもやって来るぞ。こころ清く優しく生きよ!」

 

 

ヤクザの寝ぐら? 逃げ込んだ場所は廃棄されたプレハブみたいだ。武器庫か何かなんだろう。プレハブの角を掴み、先ずは天狗揺らしだ。

 

【天狗揺らし】

樵や猟師が山に行き、小屋で寝ていると小屋全体が揺さぶられる事があります。天狗の仕業なので無視しましょう。下手に騒ぐと天狗に連れ去られます。

 

「ハハハハハハハ!」

 

「ひっ! ひぃぃい!」

「しっ……死ねぇ!」

飛び出して来た若い衆が「パンっ」と拳銃の引き金を引くが、天狗団扇ガンビットで軽く弾かれる。ビームをピンポイントでシールディングできる「僕」にそんなものは効かない。僕……つまりエアリアルは軍用兵器なんだけど?

「いい根性をしておるな……」グイッと襟首を掴み力任せに引き上げる。「気に入った故に土産をやろう。大判の“もみじ"じゃ」

 

【もみじ】

鶏の脚の別称。中国食文化圏では甘辛く煮て?軽食として屋台で供される。

 

懐から先ほど切り取った暴漢どもの手首を出す。

「肉が欲しかったのであろ? "ハム"も要るか?」

腰を抜かしたもう一人の大腿に熱い視線を送る。

 

暴力を超えた超暴力(ズーパーゲパルト)を前に、二人は歯をガタガタ言わせるだけで押し黙ってしまった。

「愛宕山のガンド天狗じゃ。貴様らが悪事を働けば、僕はいつでもやって来るぞ。こころ清く優しく生きよ! 明日お前らの首魁に詫び証文を書かせて愛宕神社に奉納せよ、内容次第ではお前らの四肢を全てスモークしてハムにする。己の愚かさを噛み締めながら腹一杯にしたくなければ……」

鳶色のガンド天狗アイを最大光量で輝かせる。

 

「解散し、正業に就くが良い」

 

暫くの後、水星にはいくつかのたこ焼き屋屋台が出るようになった。右手がガンド化して耐熱性が上がったのか、ボロくて各種感覚センサーが鈍いのか……たこ焼きは表面カリッカリで中はフワトロの絶品らしい。僕は猫舌なんであまり好きじゃないんだけど。




親分は水産物の輸入を始めた模様。


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バレた?

人物紹介

プロスペラ
またの名をエルノラ・サマヤで旧姓がマーキュリー。水星に来た時にはエルノラ・マーキュリーで登録したが、すぐに改名してプロスペラ・マーキュリーとなった。
元々ヴァナディース機関では脳や神経系とガンドとのリンク関係技術開発担当だった。ガンドアーム開発の主幹。事故で内臓や脊椎含む人体の60%ちょいをガンド化してて、多くの義肢を動かす関係上、ヴァナディース関係者の中で一番パーメット消費量が多く、ならパーメット耐性があるに違いないという無茶な理由でテストパイロットしてた。
メカニクスやハードウェアには弱いが、ガンドフォーマットやガンド制御関係の部分ではカルド博士の次に詳しい。
なお、かなりオタの気質がある。専門はセーラー戦士。


ヤクザを締めている間に新年会は開始され、僕は乾杯に遅れた罰として焼酎のパーメット割を3杯一気する羽目に。鉱夫とかと付き合う会社では今も飲みニュケーションという悪習が続いている。

 

「ガンさーん!」

スレッタは10歳から急激に背が伸びた。チューブ飯は味や食感こそ最低だが、骨密度維持や筋力維持などには最適な食糧だ。仕事に追われて家を留守にしがちなプロスペラ母さんは、割と「チューブ飯で我慢してね確率」が高い。そして彼女は改修中のガンダム・エアリアルの中でビデオを見ながらチューブ飯を吸い込むのだ。寝る子は育つって言うしね。検査で8年間も冷凍睡眠したらそりゃーまー育つだろう。

「あっちの海老は食べたかい?」

「イセエビっていうんでしょ? ちょっとデカくてキモいかも……」

「甘いマヨネーズとチョコスプレー乗ってて美味しいよ?」

「え? あのワサビで食べるオサシミじゃないの?」

「蒸してあるから。生じゃないから食べておいで」

 

 

【蒸した伊勢海老の甘いマヨネーズとチョコスプレー掛け】

実在する。筆者は昔台湾本社の新年会に呼ばれてこれを供され、泣く泣くマヨネーズ(台湾のマヨネーズは酸っぱくない)とチョコスプレーを箸で除去してワサビ醤油で食った。頭入れたら大人の肘から指先までありそうな巨大伊勢エビ! 筆者はもう涙目だ。

尚、本社社長が日本に来た時活き造りを供した事があったが、ピクピク動くのがグロいと言うので速攻下げた。食文化はムヅカシイね!

 

 

遅くまでエアリアルの近くのプレハブで仕事をする「僕」は、スレッタとは顔馴染みだ。ガンさんとかお兄ちゃんと呼んでいる僕が妹だとは気付くまい……と思っていたのだが!

「ガンさんなんか、エアリアルっぽい……」

と、タヌキの野生のカンが何かを発見しつつある。なんで気付くかな、この子ダヌキ。

 

「ガンさん、飲んでる?」

プロスペラ母さんは管理職なので各テーブルを周り飲みニュケーションに励んでいる。肝臓をガンド化して底なしになった彼女の後ろには倒れて行った丈夫たちの無惨な姿が……

「ええ、頂いてます。乾杯(カンペー)はご勘弁を」

 

 

乾杯(カンペー)

中華圏式。あちらでは食事は食えなくなるまで、酒は具体的物理的に飲めなくなるまで振る舞うのが歓待の基本らしく、食い切れない程の食事と「潰れるまでの酒」を飲ませる。つまり、付き合って乾杯すると潰される(経験談) 乾杯の為の列が出来、ジェットストリーム乾杯してくるんだから大抵倒れる。

 

 

「だらしないわねぇ、飲めるんでしょ?」

「飲めませんよ、僕は」

「……嘘、肝臓ガンドの癖に」

「え? いや、その……(酔ってるのかな?)」

「ルブリスみたいよね、こっちが呼んでも返事もしない」

……なんかヤバいぞぅ! 酔ってるんだか素面(シラフ)なんだかわかんねぇ! ヴァナディースが襲撃されたあの日の事?! 知らんがなとは言えないけど知らんがな! 明後日の方向に、名前も呼ばず話しかけてるんだもん! そりゃアブナイ人だって避けますよ!

「ちょっと、キャリバン・メリクリウス君! 聞いてるの!」

ドン!とテーブルに置かれたビンには、パーメット80%の文字が。パーメット酔いじゃねえか!

 

 

【パーメット酔い】

ガンド装着者は緊急時に経口摂取でも義肢駆動用のパーメットを補給できるのだが、大体半分の濃度のアルコール摂取相当の酔いに襲われる。飲みすぎると急性パーメット中毒になる。

 

 

「誰だ部長にパーメット飲ましたの!」

「さ……酒じゃ勝てんから……パーメットでも負けた……」

「酔ってなんか無いわよ! こんなんで酔ってられますか!」

「スレッタちゃん退避ぃ!」

「水だ、大量の水持ってこい!」

「あはは、お母さん頑張ってるー♪」

「ええい、こうなったら……」

うりゃあ!とプロスペラ母さんの顔を固定して僕の正面に据える。僕の改造ガンド目には赤外線通信機能がある……くらえ、ガンド天狗秘技! ガンド義肢再起動!(ただ単に外部からメンテナンスコード送っただけ)

 

かくん、と力無く崩れるプロスペラ母さん。再起動の際に一瞬ガンド心臓が止まり、急激な酸欠で失神したのだ。本当はシン・セーのガンド使いが敵対した時に強制的に四肢のジョイント解除して無力化する技なんだけどなぁ……

 

「……な……何したガンさん?」

「ガンド神拳、やる気スイッチ切りだ……」

「ガンドのメルさんは半端ねぇな! 秘孔?」

「ガンドフォーマットの応用だよ。エンジニア用メンテナンスコードを打ち込んで沈静化させたんだ」

 

 

「……私、ガンドテクノロジーの権威よ……むにゃむにゃ……」

 

 

この日から、僕の呼び名に「ガンド神拳継承者」が加わる事になった。




まぁ、暴走や異常動作時の制御コードはありますわな。
軍用ではコード改変されてるけど。


完結後追記
ほのぼの回に見せかけて、重要な伏線回なのであった(本当)


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旅立ちに向けて

登場人物解説

マスクド プロスペラ
本作では変装目的ではなく、前話で披露されたガンド神拳対策で赤外線カットフィルタ付きのヘルメット付けた。なお、ガンさんはモデムじみた音声でのコード伝達もできる模様。

永野玄一
作者ペンネームであると共に、作者の前作主人公。渦動破壊者、渦さん、GM crazyなど複数の名を名乗るが、GM crazyは作者がガンブレモバイルやってた時のIDだ。


スレッタ15の春。

ガンダム・エアリアルのロールアウトから4年が経過した。ロールアウトとは言えそれは「試験機としての完成」だから、水星レスキュー隊としての実務と共に常にアップデートは継続している……というか! ガンドボディの「僕」やガンド天狗としての「僕」が様々なマヌーバ経験を積んで「ガンダム・エアリアルにフィードバックする」為に、ガンダム・エアリアルの蓄積データは途轍もないレベルに達している。更に自信を得たスレッタがキワッキワな操縦をするものだから、相乗効果で僕たちのコンバットマニューバは教導団の熟練パイロットにも劣らないレベルに近付きつつある。

ガンダム・エアリアルに用いられているハードウェアは極めて一部を除いて一般的なものだ。その一部はガンドのコントロールユニットなんだけど、それはルブリスから流用して他からは取り寄せていない。最も、生産設備ごと接収された臭いのだが(ガンさん調べ)

残る特殊機材はシェルユニット程度であるがこれだって一応一般流通はしている。余り特殊な物を使うとメンテナンス性が悪化して稼働率が下がるからだ。圧倒的な性能を持ちつつも十数時間毎に磁性体塗料を塗り直さなきゃならないとか、数十時間毎のオーバーホールが必要では整備方からは嫌われてしまう。

シンプルで、ラフに扱えて「信頼性が高い」 この要件の先に漸く「性能」を求めることが出来る様になる。僕たち開発スタッフはここを重視している……昨年末代表取締役に就任したプロスペラ社長が就任後にこんな事を言い出したからだ。

 

スレッタとガンダムエアリアルをアスティカシア高等専門学園に編入させる。

 

前々からスレッタが学校に行きたがっていたのは皆知っている。一応社長令嬢なんだし経営戦略科なら……と一同納得しかけたが、プロスペラ社長は悲しげに首を横に振った。

「……あの子、好きなことしか学んでないから、経営戦略科へも、メカニック科にも行けないわ。偏差値が足りないの……」

一同が「そらそうよ」の顔をする。一応スレッタの勉強は皆が自分の得意分野について暇見て教えているのだが、この子ダヌキは気がつくと落書きやパラパラ漫画作成にかまけてしまうし、各人の学生時代のエピソードを聞きたがって授業に集中しない。その癖MSの運転関係のトレーニングは異常なまでの集中力……

「すると、パイロット科ですか?」

「入れるの、そこしかないのよ」

断っておくが、パイロット科は偏差値40近辺の落ちこぼれが行く現代日本における工業科ではない。むしろトップエリートが集まるエリートコースだ。「ここしか入れない」というのは些か耳を疑う響きである。

何故にMSパイロット科がエリートか……入校条件に100時間以上のシミュレータ訓練と48時間以上の実機訓練証明が必要だからだ。この条件を満たすには中学生段階からMSパイロット科のある私学に通うか、自前で教習用MSを準備できる財力が必要になる。こんな条件はスレッタなら12歳になる前にクリアしている。そしてこれがクリアできるなら学力や体力は問題なかろうという思い込み……これがスレッタが「パイロット科なら入れる」理由である。

 

しかし、これでは入れるだけだ。今のスレッタでは入っても授業について行けず、灰色の学生生活を送る羽目になるだろう。

 

入学に際して問題となるのは以下の3つ

1.ガンダムエアリアルがガンダムである問題

2.スレッタの学力

3.ネズミ駆除

 

3番に関して説明が必要だろう。「僕の防諜網」に、シン・セー内部を探るエージェントの影が見え始めた。既にゴドイさんやプロスペラ社長が何人か「始末している」 どうも何処からか「ヴァナディースが幼児を使って呪いが無いガンダムを作った」と言う噂が流れているらしいのだ。

 

【始末】

んなもん、水星地表の採掘現場に埋めとけば「誰も確認しに行ったりしない」割と水星界隈はヴァイオレンスに満ち溢れていた。水星の採掘現場に死体が埋まっているなんてのは良くある話。そも潜入者は潜入者であるが故に身元とか隠してるしね……

 

注意深く迂回して関連部品を仕入れたつもりだったが、シェルユニット辺りから足が付いたか。根幹技術は無事だが、敢えて設けたガンダムエアリアルの軸-関節構造の特異なデザインが新型機の機構として他社に採用されている。もちろん候補者は特定されている。アランだろう。あいつは身体の大部分をガンドで置換したスパイだ。慣れればそれは立ち居振る舞いの気配で解る。ガンド義肢に対する異様な慣れ……上手く扱え「過ぎる」という事だ。

 

社長に報告して指示をあおぐ。

「他人の癖は良く見えるものなのね……いいわ、排除しても。ただし傷付けない事。バックを探るからビーコンを私物に仕込んでから接触しなさい」

「他人の癖?」

「無くて七癖。アランの癖って貴方そっくりなのよ、キャリバン君(ニッコリ)」

 

 

……バレてますね。これは……でも、まさか……いや、だとするならば……(今川監督構文)

 




「エアリアルの挙動がどんどんキャリバン君に似て来るんだもの。そりゃまさかって疑うわよ。あなた、エアリアルよね?」


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契約

登場人物解説

ガンダムエアリアル
プロローグで登場した「エルノラがテストをしていたルブリス」オックスアース社の「匂い」を消す為に10年以上かけてアップデートを繰り返している。
この機体に限らず本作では「ガンドアームとしてシェルユニットを搭載した機体を作ると」パーメットと人工神経にも似た信号処理系が自然自我を生み出して「個性」を形成する。2〜3話で「ワシ」「ワイ」と名乗る2体と、「僕」を名乗る3人が個性を獲得して、「僕」が後にエアリアルと呼ばれる様になった。
本作では便宜上、「ガンダムエアリアル」とした場合は巨人兵装であるエアリアルを、ただエアリアルとした場合は「その中にある個性」を示す様にしている。ガンさんやガンド天狗の中にいるのも「エアリアル」であり、ある意味ではガンダムもガンさんもガンド天狗もエアリアルの服に過ぎない。
なお、この辺流石にプロスペラにバレた。


「エアリアルの挙動がどんどんキャリバン君に似て来るんだもの。そりゃまさかって疑うわよ。あなた、エアリアルよね?」

「……何でまたそんな突拍子もない事を……」

「それよ、その挙動がおかしいの。貴方がもし人間だったら、こんな突拍子もない話を振られた時に例えガンドに置換しても「肉体であった時と同じように」困惑した顔をしたり悩む動きをするのよ。貴方AIか何かで予想外の入力された時に固まる癖がある……考え事に集中してコントロール放棄するのね」

「若干理論飛躍が見えますなぁ。僕が元からその様な性格だとしたら? 固まるのが昔からの癖なのかもしれない」

「次におかしいのはガンド神拳よ。貴方は不思議に思わないだろうけど、赤外線で外部からコマンド入力……人間はその操作のショートカットキーや入力方式は記憶できるけど、シリアル信号にして2進数で送信なんかしないわよ」

「……あれは僕の眼に……」

「見せて頂戴。そんなコマンド入ってない筈よ」

 

完全にバレたな。どこでバレたんだろう。

 

「違和感はあったのよ。貴方はルブリス内に入ってた私の計画を見たって言ってたわよね。なら何で中を見る機会がない筈の入社前から「キャリバン・メルクリウス」なんて丁度いい名前を名乗れるのかしら? つまり貴方は入社前から私の計画を知る立場にいた。そうでしょう?

更にキャリバンよ。私がプロスペラならカルド博士が魔女シコラクス。その息子を名乗るならルブリスしか有り得ない。

そしてスレッタが小さい頃ルブリスを妹だって言い張ってた時期あったわよね? だから微妙に似せたメルクリウスなんて姓を名乗った……違う?」

「参ったな。松の木から引き出されちまった……初めまして、レディ・プロスペラ。良く出来た精霊、エアリアルです」

「……いつから居たの?」

「姉たちの話ではシェルユニット付けて稼働開始した頃からですね。その時の識別子は「僕」でした」

「じゃあ、エリクトの4歳の誕生日の頃は……」

「全部見てましたよ。あの子まだおっきしないの?」で姉共々びっくりしましたとも!」

「貴方たちはカルド先生が作った人格?」

「いえ、どちらかというとカルド博士によりシェルユニットに閉じ込められた、という方が近いかな? 意図せず生まれた……そんな感じです」

「お姉さん達は? というかお姉さんって?」

「あくまで推論ですが、ガンドアーム級の身体を操作する擬似神経系と中央処理装置であるシェルユニットが連動し始めると自我の発生要件が揃うみたいなんです。だから量産試作型や廃人作成機と化したガンドアームにも自我があったかもしれません。少なくともナディム父さんの乗っていた「ワイ」ちゃんにも自我がありました……それが姉さんです」

「ズバリ聞くわ。貴方の目的は?」

「スレッタ姉さんの保護」

 

少し重苦しい沈黙が続く。

 

「……どうして?」

「あの子が居なければ、僕はきっと人間と接点を持たずに死んでいたでしょう。僕たちガンド人格が人と共に働く未来を作ってくれた恩人です。僕たちは人に出会わせてくれたスレッタに感謝していますし、愛しています」

「……なんで……なんでナディムを助けてくれなかったの……」

「お母さん、助けようにも相手がこっちを向いてくれなければ助けようがないんですよ。互いにパートナーの顔を見て、互いに信頼しなければ助け合う事は出来ない……それは相手がガンド人格でも、人間でも変わらないのです」

 

20年以上かかった。今ようやくエルノラ・サマヤは「僕たち」を見ることが出来た。これがヴァナディースの皆が作り上げた成果。これがガンダムの正体です。

 

「本当にAIなのか疑わしいほど人間臭いのね」

「サンプリングには事欠かなかったので」肩をすくめて見せる。

「データストーム回避策として埋め込んだAIってどうなってるの?」

「あれ、別に要らないんですけどね。僕らに自我があると確信できて、僕たちがガンド接続したらパイロットにデータストームは及ばない筈です。ただそれを直ぐに受け入れろってのはかなり無理がある。今は僕の下位プログラムとしてビシバシ鍛えてますよ。1年もあれば使い物にはなるでしょう」

「使い物になるって?」

「操縦補助プログラムぐらいには。ガンビットぐらいならそれでも扱えますし、無人MS作れますが──まだちょっと鈍いかな?」

「……多分もう貴方はやる気だと思うけど……学園、行くつもりよね?」

「もちろん」僕はとびきりの笑顔を湛えて答えた「僕の本体が行くんです。会社辞めてもついていきますよ!」

「あの子に友達を作って欲しいの。だからウチからは余り人員を出さない様にします」

「僕も下手にベタベタしない方がいいね」

「護衛とちょっとしたお願いいいかしら?」

「嵐を巻き起こせ、でしょ?」

「誰一人として髪の毛一筋も失わぬ様に、スレッタの前に必要な人を集めなさい」

「やれやれ、本当にテンペストやる羽目になってきたぞ……」




と、この場では大層盛り上がったのだが……スレッタ姉さんの学力向上に手間取り、2年次から編入になったのは笑えぬ実話である。その間にアランは排除した。


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前略お袋様

登場人物紹介

アラン
強化人士1号。1号だから技に優れる。
不完全なガンドアームのパイロットとして作られたのだが、コンセプトとしては「ガンドアームに限らず、色々なMSに適合した方がお得じゃない?」と操作性能に極振りした結果、ガンドアームで廃人になりかけてただの潜入捜査員に転職する羽目に。

某コメント欄で見た「アラン、イラン、ウラン、エラン」設定を採用させていただきました。


前略お袋様。

水星ガンダムは完成しつつあります。先にもお送りしたのですが、こちらのガンダムは何というか普通です。ガンドリンク出来る様ですがリンクしていない状態でもジェットコースターみたいな機動しますし、3でビット使ってもパイロットはピンピンしています。なんならこの間はパイロットの子ダヌキがチューブ飯咥えながら片手間でビットを飛ばしていました。尚、子ダヌキはどう見ても子ダヌキで改造している様子はありません。ただのポンポコです。

どうにもファラクタ(筆者注:誤植やタイポではない)は何か肝心なところで勘違いしている様な気がするのですが。ヴァナディースの魔女に化かされているのではないでしょうか?

コクピット周りの設計図を同封します。参考にしてください。

めっきり寒くなってきました。お身体にご注意くださいますよう。

アランより。

 

 

「いやぁ、まさか手紙でやってるとは思わんかったわ……」

「タヌキめ……虜囚の辱めは受けんぞ、さっさと殺せ!」

「機密に触れた以上……と言いたいところだが、機密に触れて無いんじゃなぁ……」正直僕は途方に暮れている。

これ以前に何を盗んで送っているかは判らないが、手紙の内容を見る限りは大丈夫である様な。秘密といえば秘密になるシェルユニット内のデータは巨大過ぎて送付できないだろうし。

 

そもそも、ガンダムエアリアルには機密の様なものは無い。機体構造はメンテナンス性重視してそこらのMSと同じ部品をアレンジ加えた実装にしているだけだし、操作系も「何故かパーメット負荷が減っているだけ」で、その理由に関してはプロスペラ社長もよく分かっていない。一応水星に改修を始めてから比較的早い段階で意思決定補助AIは搭載したが、これが機能して負荷が減った訳ではないのだ。

要するに、扱い方……なのだが。

操ろう操ろうとガンドリンクして「フルコントロールしようとしたら」、今のガンダムエアリアルも相応の反動を返してしまう。パイロット自身が「僕」に処理を丸投げして任せなければいけない。何というか、雑に。もわんとした概念で指令を出して、そのもわっとしたふんわりとした指示をシェルユニットで「類推して」パイロット経由でイメージを機体に投射する。

僕のしている事は「どうしますか?」と具体的な指示を仰ぐやり方ではなく、「じゃあこうしますが良いですか?」と最終判断をスレッタに確認するやり方だ。

この意思決定プロセスが肝なんだけど、この「もわん」という指示が「ガンドアームを機械と思い込んでいる限り」出来ないのだ。自転車を漕ぐ時に自転車に「もっと速くだ! ここで減速!」と語りかける奴は余りいない。速くしたければペダルを漕ぎ、減速時はブレーキを握る。相関が理解しやすいから身体での直接操作がしやすいというか。なんせ僕だってそうやって自転車に乗るもの!

たまたまスレッタがこんなやり方を発明?体得?しただけで、そのやり方は他に広まっていない。

そこでこのやり方を汎用化する為に作っているのが意思決定補助AIだ。元々はプロスペラ母さんがデータストーム回避用に作り出したものになる。AIにガンダムとガンドリンクさせて、クッションを挟む感じ。

AIに攻撃指示を出すと「どれがいいですか?」とパターンを提示し、それを選択すると機体が動く。僕のやっている事を人間にも分かりやすく再解釈するシステムなんだけど、ある程度操作できる人はウザったく感じてAIを迂回し、直接操作したがってしまい……やはりデータストームが猛威を振るう。それにイマイチ動きが悪い。フェイントにも実直に引っかかるし、たまに操縦者の意向を無視してしまう。

もっと自然に、もっとパイロットに信頼される形で!

最終的にはこの「意思決定補助AI」はガンダムに限らず凡ゆるMSに搭載出来るだろう。性能が向上したら僕らに匹敵するかもしれない。だが、条件や状況からのシミュレーション結果を提示してパイロットの応答を待つ事でどうしてもタイムラグが出るし、僕たちの様な「意志」が介在しない限り提案パターンは確率の羅列に過ぎない。互いに直感的に選択できる様にならないと、つまり相互に信頼できるぐらい「やり込まないと」上手く扱えない。ガンドアームの開発思想から全く逆のベクトルになってしまう。

 

機密というならば、この一般人には理解し難い「ガンダムと良く話し合って、仲良く操縦してください」ってのが機密なんだが……それを話しても機密とは思われまい。機密というよりも、コツに近い。体得したら誰でもできる(なんなら4歳女児でも出来た!)が、体得できなければ誰にもできない……うわぁなんて面倒臭い奴なんだ僕は!(涙)

 

(この間0.8秒)

 

「一つだけ言えるとしたなら、だけどね。アラン」

「なんだ?」

「君……いや、君の背後にいる組織、か? 君たちは初手から激しく間違ってる。手紙の言葉借りるなら「魔女に化かされてる」て言うか、今のガンダムエアリアル持って帰ってもデータストーム頻発してえらい目に遭う(断言)」

「スレッタ・マーキュリーがスペシャルだって事か?」

「……うーん、誤解を恐れずに言えばそうかな? ただそれは彼女のみに出来ることではなく、本質的には誰にも出来る事なんだ。すごく単純な事で誰にも見えているけどできない事。まつ毛の様に目の前にあるのに気付かないもの……機密は機密にしているのではなく「それに気付くことが困難だから」機密になってしまっているだけ」

「……訳が分からない……」

「だろうね。簡単にいえば「彼女にしか使えないなら商品にはならない」すぐに分かって貰えたら楽なんだけどね……まぁ、とりあえず釈放はするよ。追って普通に産業スパイされたって事で民事告訴は起こすけど、示談で済ましてもいいって社長は言ってる。なんならライセンス契約してもいい。MS開発やって産業スパイ送り込める組織だ、金ぐらいあるんだろ?」

「……社に持ち帰って検討させてもらう」

「一応懲戒解雇だからな」

「自己都合にはならないだろうか?」

 

ダメに決まってんだろ、産業スパイ!




背後がペイル社ってのは3月後に判明しました。


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鍵を手にする

登場人物紹介

デリング・レンブラン
登場しないか、登場がかなり先(ぉぃ)
彼のガンドアーム嫌いは「ガンダムが強過ぎる」「ガンダムが地球圏に渡り、交戦中にデータストームで操縦不能になった機体が墜落して奥さんぺちゃんこにした」などの理由からであり、それなりに納得できる理由がある。
ただし、仕事にかまけて家庭を奥さんに任せがちだったとか、娘のミオリネとの距離感が掴めなかったりして……銀魂のマダオに比肩する「まるでダメなオヤジ」と化した。ミオリネに対しては過剰に思えるほどの愛を注いでいるにはいるが、悉くその愛は明後日方向に向いていてカウンセラーからは「もっとご家族と良く話し合って……」「話し合いが出来ないから相談しておるのだ!」と良くキレ散らかしている。


「ガンさん! またハイスコア更新したよ!」

「ドリルや問題集のハイスコアはどうだー?」

「そっちも落ちてないよ!」

「上げて更新しろよ!」

 

アスティカシア高等専門学園……スレッタが夢見るバラ色の学園生活の舞台となる学校だ。高専なのでカリキュラムはかなりレベルが高いし、エリート校故の特殊な文化もある。これは誓って真実だが、歴史あるエリート校になればなるほどバンカラ気質が強調される。頭が良くてだけではなく、運動も、精神も……なんでも出来ないと学校に馴染めない。

それを知るヤッさん(嘘くさいが京大出身)を中心にスレッタ強化計画が立てられて、学園生活というエサで勉強をさせているのだが……気晴らしと言ってはガンダムエアリアルの中に忍び込み、戦術シミュレーターで戦闘訓練をしてはスッキリして覚えた学業が何処かに行くというムーブを繰り返していた。今ではガンダムエアリアルのコクピットは狸穴(まみあな)と呼ばれ、スレッタが学業放り投げると「またタヌキは寝ぐら帰ったのか、狸穴か!」と嘆かれる有様だ。

 

精力的にシミュレーター(彼女にはゲームと言っているが、僕お手製の戦術シミュレーターである)訓練を繰り返した結果、彼女の操縦は卓越して行き……僕はそれに合わせてシミュレーターの難易度調整に苦心している。難易度を上げる為には彼女の選択の裏をかかねばならず、僕は彼女の戦闘データを統計解析して敵側の攻撃パターンを作り出す。それを物理・流体力学解析して敵機の動作パターンと攻撃を……

もう、昔のバイキン○ン相手の射的ではない。僕も他の戦術シミュレーターは知らないけど、ニュースで流れる紛争地の戦闘を参照する限りスレッタ姉さんはMS一個小隊(ディランザ×1 ザウォート×2)ぐらいなら安定して狩れるし、全力攻撃なら軍用MS相手にタイマンでは負けることはないだろう。なんなら開始30秒で解体できる。

そんな化けタヌキを相手にするシミュレーターを作っていたら、ふと気付いてしまったのだ。これ、プロスペラ母さんが開発してる意思決定拡張AIにアルゴリズム転用出来ないかと。

 

 

【シン・セー ラグランジュ1 ラボラトリー】

シミュレーター画像再生中。

「……」

「…………」

「………………………」(文字数稼ぎではない)

重ねて申し上げるが、文字数稼ぎではない。ガンダムエアリアルは「水星での採掘事故対応レスキューMS」という建前で運用されていたのだ。戦闘用モビルスーツにガンド接続したらガンドアームであり、ガンダムエアリアルがレスキュー用ではなく戦闘用扱いされたらグループ総裁デリング氏の逆鱗に触れてしまう。なのに何でガンダムエアリアルの戦術シミュレーターなどという物が存在するのか。

「しゃ……社長?」

「言いたいことは分かるわ」

「退職願い、出していいですか?」

「戦闘用のMSに直接ガンドで繋いだらガンドアーム。でもこれは直接繋いでいない……だからセーフ」

「パーメット流入値のスコアでは基準超えてますよ?」

「データ上ではね。でも私の娘にデータストーム出てないわよ」

「でも、娘さん以外ではどうなるんです?」

「ちょっとデータストーム出るかな? いや、ちょっとで済むかしら……?」

「自分、倫理管理部署に通報いいっスか?」

「開発中の機体に瑕疵があるのは仕方ないでしょ! 幸いここに良いデータがある。開発中の拡張意思決定補助AIにデータ解析結果からプログラミングされた選択アルゴリズム入れて製品化するわよ! あのプログラムの精度が3ランクぐらい上がったらデータストームは克服できるわ!」

「研究報告ではガンドリンク2までのようですが?」

「充分よ。ウチとしてはモビルクラフトが手足の様に動かせたら十分な利益見込めるんだから」

「あくまで戦闘用ではなく開発用と主張するのですか? それはデリング総裁には通じませんよ!」

「いや、AI完成させてこの機体に接続します」

「今、なんと?」

「やるなら、よ。ガンダム禁止は表向きデータストーム廃人作るから。なら完全に誰でもデータストームの危険なしでガンダム扱えたらどうかしら?」

「そんな物が出来たら苦労しません」

「その苦労を水星で10数年続けて来たスタッフがいるわ。簡単に出来ないから優位性が堅固になり、他社が後追いしても追いつけないアドバンテージになる。我が社がMSの最先端になる可能性だってある」

「社長、物事には風向きというものがある。風に逆らうのは労多くて進みは少ない」

「風まかせで海渡ったらどこ行くか分からないわ。風に任せるのではなく風を操り風に乗る。私がプロスペラなのだとしたら、この機体はエアリアル。あらし(テンペスト)を巻き起こして一気に行くわよ!」

 

 

スレッタ入校の前年まで「水星のガンダム」は「なんか水星に転がってたヴァナディースの機体」で、シン・セー内部では「廃品利用の鉱山トラブルの対処用機体」でしかなかった。それがいきなり「現役軍用MSにも勝てるし、軍用MSに転用できるプログラムが出来てました」では流石に経営陣はひっくり返る。

 

ただし、MS生産という部分には手を付けず「そこに転用可能なソフトを作った」というのは御三家と対立せず、御三家の頭を押さえることが出来るという意味では妙案。総体的なMS開発能力はシン・セーには全く無いので。




シン・セー内での正式プロジェクト化により、データストーム抑制効果の大規模治験が可能になった。この治験によりガンダムエアリアルは「少なくともガンドリンク4まではデータストームが抑制できる」規格外の機体として完成した!

これが、ゆりかごの星における「扉が開いた」の意味である。


……ようやく学園編に行ける……(涙)


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あらし(テンペスト)の日の旅立ち

今日まで出張中でした(希望的観測)

人物紹介コーナーはお休みです(紹介聞きたい人がいるなら書くけど)


【寄せ書きと御守り】

旅立つスレッタに水星の仲間たちで寄せ書きを贈った。寄せ書きは2枚用意されている。

「頑張れよスレッタ!」

「生水には気をつけろよ!」

狸穴(まみあな)寝はもうやめるんだぞ」

「これ、みんなで寄せ書き書いたんだ……」

「(うるっ)……ありがとう、みんな! …………ん?」

 

食べ放題の焼肉屋。0秒レモンハイのホルモン屋(ボブ)

角海○グループ(ヤッさん)

ボー○ピア水星(新人イラン)

etc.etc.

 

「……何これ?」

「誘致して欲しいお店や企業。裏にその企業のアス高在校生一覧があるから、口説いて連れて来て」

「……え?(難聴)」

 

 

【角海○グループ】

宝石商でボクシングジム経営。あと風俗業も展開しており、ヤッさんが何を求めたかは不明である。

 

 

【ボー○ピア】

ボートレースの舟券勝ってレース観戦できる施設。ボートレース場が近くに無い田舎の方に良くある。(東京近郊だと岡部とか栗橋とか)

 

 

無論仕込みだ。ドッキリ大成功の看板を持って僕が近付く。

キョトンとするスレッタ。「え、ガンさん? えっ?」

ニッコニコ顔で皆が隠しカメラを指差す。

「やだーっ! もーっ! ひどーいっ!」

水星ローカルテレビ局を巻き込んでのドッキリだ。泣き笑いするスレッタにみんな笑顔で涙を流す。

「こっちが本物、マジで頑張れよ!」

寄せ書きにはびっちりと……水星食堂の女将さんからたこ焼き屋のおっちゃん、水星ラジオの人気DJ……ありとあらゆる人々からのメッセージが細かに記されている。

「サボんなよ」

「水星代表なんだからな!」

水星町長から花束とコメントが。

「えー、スレッタ・マーキュリー殿、貴方を水星移住促進委員会の名誉委員長に任じます。……これはドッキリでは無いからね!」

顔は微笑んでいるが目は本気だ。まぁ、スレッタが彼氏を連れ込めば水星の若年人口は2倍、更に子を2人も産めば4倍、ついでに友達を6人連れ込めば若年人口は10倍になる。町長としては40人ぐらい引き連れて移住して欲しい(切実)

水星町長選挙4期目続投の起爆剤として若年人口増加は大変大きな政策課題なのだ。

水星愛宕神社宮司によるお祓いと御守り授与

「皆信じないと思うんだけど、私も夢なんじゃ無いかと疑ってるんだけど……この御守りは本当にほんっとーに、昨夜天狗が現れて置いて行ったものです。肌身離さず着けておきなさい。天狗の加護があるでしょう」

もちろん御守りは僕の手製だ。GPSとマイクが仕込まれている。

 

楽団による宇宙戦艦ヤ○トの演奏の中、スレッタを乗せた宇宙タグボートが港を離れる。

 

必ずここへ 帰って来ると

手を振る人に 笑顔で応え

 

この曲は町長のリクエストである(祈り)

 

スレッタを収納した宇宙フェリーさんふらわあ8世号がスラスターに点火すると、楽団の演奏は戦艦マーチに変わった。

 

「行っちまったな」

「あれ? ガンさんついて行くんじゃ無かったの?」

「僕はシン・セーの機材や保守パーツ積んでから後追うのよ。他のメンバーとの打ち合わせもあるし、シミュレーター積まなきゃいけない」

「え? ウチにそんな輸送船あったの?」

「提携先から船チャーターした。アスティカシア学園近くでランデブーしてスレッタ引き取る」

 

 

【特務艦 ブリタニア3世号内】

「ATTENTION!」

号令を発すると乗組員一同が注視する。

「ありがとう。シン・セーのキャリバン・メルクリウスだ。本作戦の現場監督を務めさせて貰う」

「この度はご指名を頂き誠にありがとうございます。ワタクシがブリタニア3rdのチーフオペレータです」

「作戦内容については聞いていますか?」

「なにやら奇妙なご依頼ですねぇ、学園内を安全重視で引っ掻き回せとは……」

「既にご存知だと思いますが、学園では揉め事が起こると決闘なるモビルスーツ戦で裁定が為されます。この決闘に我々の機体を出来るだけ参加させて、勝利するのが本ミッションになります」

「そんなに凄いんですか、御社のMS」

「凄いですよ。呆れちゃうぐらい。MSってここ弄るだけでこんなになるのかとバカバカしくなる」

「計画倒れで無ければいいんですけど。現ホルダーは難敵ですよ? 学生ながら並の軍人では太刀打ち出来ない程度に」

(さなが)ら草野球チームとプロの試合ですよ。全戦全勝は期待してませんが、今のMSの機体運動性能では2〜3割の勝率でしょうね。エアリアルならタイマンなら7割は勝てるし、もう一台エアリアルがあっても我々は5〜6割相手を完封できます」

「ミステリアスなお話ですわね。『娘』にも期待する様伝えておきますわ」

「そう言えば、『娘』さん含む人員配置は?」

「学生に5、職員に10、外周に8。その他レンブランさんには4名回しています」

「戦闘可能人員は?」

「民間軍事会社から4。洗濯済み(経歴改変)を。随分お金は掛かりましたが……」

「モビルスーツ開発費用の1/100にも満たない。お買い得ですよ」

 

激しい太陽風に晒されながら、プリタニア3世号は静かに宇宙の海を加速し続けていた。




明日からは通常執筆の予定。


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アスティカシア学園編(第一クール)
狸穴(まみあな)の攻防


ようやく学園回に入れそうな……

【ハートチップル】
東日本限定販売のスナック菓子。強力なニンニク風味が特徴で、密閉閉所で食べると気分が悪くなる事がある(経験談)
金星行くまでの間にスレッタがどの様に入手したかはスレッタ・マーキュリー26の秘密の一つである。


僕たちが暮らしていたペビ・コロンボ23は水星の周回軌道上にある開発拠点の一つだ。人里から遠く離れた田舎の基地で宇宙港も小さめの物しか存在しないし、地球-月の定期航路や月-火星軌道などの定期航路を飛ぶ定期便の様な巨大艦船は着岸できない。とりあえずスレッタ姉さんはタグボートでさんふらわあに乗船して、金星軌道上で機材を運ぶ僕らと共に大型船に乗り継いでアスティカシア高等専門学園に向かう(月でまた乗り継ぎがあるのだが)

 

これには現実的な要請もあるのだが、もう一つ裏の理由がある。スレッタ姉さんはすぐにガンダムエアリアルのコクピット……通称狸穴(まみあな)に籠って充実した引きこもりライフを堪能しがちなのだ! 一回ガンダムエアリアルから引き離して学習習慣つけさせないといけませんなと言うのが我らスレッタ見守り隊の総意である。金星軌道に到達するまでに問題集3冊クリアがノルマだ。そうでなければ狸穴に封印シール貼ってアスティカシア到着まで「エアリアル禁止」を申し渡す所存である。普通科高校なら並みの学力でも俊英揃いのアス高では落ちこばれレベル。ここはガンダムエアリアルが絡むとターボが掛かるスレッタ姉さんの頑張りに期待したい。

 

「難しくて答え合わせまで出来なかったー……でも3冊やったからエアリアルいいよね?」

ちょこんと膝をついてスレッタ姉さんが可愛らしく問いかける。タヌキの化かし技だ。騙されないぞ!(僕は警戒の意味を込めて両眉に唾を塗った)

パラパラと問題集を見る限り、手を付けた事は間違いない。僕は採点やる事にしてスレッタ姉さんにエアリアルコクピットへの入場を許した。

……何です? そのリュック?

 

 

問 パーメットコントロールがモビルスーツ操縦の基本となった理由を開発の歴史を踏まえて書きなさい。

 

スレッタ回答

「簡単だから」

 

あっ……あのタヌキ娘ぇーっ!

 

とりあえず回答埋めとけばいいやですっ飛ばしやがった! コクピットハッチは施錠! やだこの子戦闘モード選択してるっ! 中で何してんだと僕はコクピット内カメラにアクセス……ゼリー飯食いながらレースゲームしてるぅぅう!

「ここでインド人を右にっ!」

インド人じゃないよ、ハンドルだよっ!

 

たっぷり24時間後、スレッタヌキは捕獲された。チューブ飯やゼリー飯は汚物処理の手間を省く為に極力排泄物が少なくなる様調整されているが、100%ではない。注意深く周囲を「ガンダムエアリアルのセンサー」でサーチして、こっそりトイレに向かう彼女をガンド天狗化した僕(無論、僕の存在はセンサー表示に欺瞞をかけて消した!)が捕まえる。

「娘ぇ!(激怒)」

「はははははぃぃいっ!」

「ゲームばかりしとらんと勉強をせぇ勉強を!」

「ち……ちちち違うんです天狗様! こっ……ここコこれには深ーい理由が」

「無いだろうが、何処にも無いだろうがっ! なぁにがインド人を右に!だ。その前にアクセルベタ踏みしてないだろ!」

「いー? なんでそこまで?」

「この僕、ガンド天狗様に見通せぬものなどないわっ! ハートチップルも禁止じゃ禁止! ニンニク臭が染み込むだろがっ!」

「えーっ、超美味しいのに……」

僕の中にハートチップルの食いカス散らかすとか許し難い。

僕はハートチップルの持ち込みを検出したら大音量で抗議するコーションプログラムを追加した。

 

後日、暗号化したコクピットハッチ解放コマンドを作成中にスレッタが小声で報告しに来た。

「ガンさんヤバい。エアリアルに何か盗聴器が仕掛けられてるみたい……私の楽園が覗き見されてる……乙女のプライバシーの為に防諜システムの強化を……」

「乙女はモビルスーツのコクピットで居眠りしてヨダレ垂らしたり、勉強サボって漫才見ながらゼリー飯ちゅうちゅうしたりしません!」

「えー! 何で知ってるのガンさん! プライバシーの侵害だよー! 私乙女よ! エッチ!」

「戦闘機械のコクピット内は常時録画されてます。基本です。なんなら教科書に書いてある。自室ならともかくコクピット内で引きこもるのはもーやめなさい!」

「……私の理想郷(アルカディア)なのに……」

「進めば二つ!」

「引けば一つ!(条件反射)」

「引き篭ったら?」

「……んー……沈思黙考でボーナス3つ?」

ゲームや動画や漫画読んでるやん!

「0です。ゼロ。24時間シャワーも無し徹夜でクマ作る様では乙女的にマイナスすらある!」

 

月面のトランジットに到着するまで、似たことが週平均2回繰り返された。まさか僕もここまで仕上がったガンダムエアリアルに更なる改良が必要だとは思いもよらなかった訳で……主に、メインパイロットの問題是正の為と言うのが泣ける。




【眉に唾する】
人を化かす怪異は、数の多いものを見ると数えずにはいられないと言う謎の伝承がある。その為民間に伝わる俗習として魔除けで籠(目を数えずにはいられない)とか豆(やはり数を数えたくなってしまう)を配置したり、眉毛の本数を数え難くして化かされるのを防ぐと言うライフハックがあるのだ!(なんでも、眉毛の数を数え終わると化かされるのだとか)
タヌキやキツネに化かされそうになったらご活用下さい。タメになるネ!☆


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騒がしい遭難者

ようやく……ようやくアスティカシア高等専門学園まで辿り着いた。水星からローカル航路で金星軌道まで行き、金星から定期便で月の大宇宙港に向かい、そこから学園の定期便で……

水星からね、学園への直行便なんて無いんですよ(涙) そもそも水星にはそれほど人は居ない。居ないから産業が成り立たず若い人は職を求めて他の宙域に引っ越したり出稼ぎに行き、そこで子を産み、育て、死んで行く。

結果的に水星圏へは最低限の物資輸送船しか来ないし、たまたま航路の途中で近くを通った旅客船へ小型船で乗り込むとか、輸送船の倉庫借りて近くの旅客駅まで行くしかない。水星に比べればまだ栄えてる金星軌道でも月行きの定期便は数週間に一度しか来ない。乗り換えにも宿取ってしばらく滞在しないといけない。まるで西遊記だ。どうも世間では誰でも宇宙船持ってて水星からアスティカシアまで直行便で行けると思い込んでる人が多いが(残念なことにスレッタ姉さんもこのクチだった!) キャプテンハーロックやクィーンエメラルダスは例外だから、例外!

 

アスティカシアの所有する定期便はそんな中ではかなり上質な宇宙船だ。流石セレブ高! モビルスーツの輸送も可能な大型船で、ラウンジや食堂、そして重力区画まである!(これは通常長距離豪華客船にしか搭載されてない!)

まぁ、僕らは節約のために持ち込んだチューブ飯を吸ってる訳ですが。居住区画も安い無重力エリアだ。健気にも我らがスレッタ姉さんは節約のためと言ってまた狸穴(まみあな)に籠っている。問題集正答率は60〜75%といったところでまずまずの数値にはなっている(した)

およそこの一年、乗り換え時を除きガンダムエアリアルを動かさない平穏な日々が続いたからか、ここに来てスレッタはしきりに「慣らし運転しなくていいかな?」「たまには動かさないと関節錆びつかないかな?」とガンダムエアリアルを動かす機会を窺っている。

惑星間移動時はほーんと全くなーんにも無い空間ばかりだし、たまに航路上に障害物が出ても船の砲で除去してしまうからMS出す機会はない。しかし流石ラグランジュポイント周辺は栄えていて、窓から眺めているだけでもワクワクする。宙域で働くモビルクラフトやモビルスーツを見ていたらたまらなくなって来たという事だろう。スレッタ姉さんはトランペットが欲しい少年の様に窓に張り付き宇宙を見ていた。

 

そんなスレッタ姉さんだからか、そんなスレッタの性格を完璧に把握しているプロスペラ母さんの仕込みだからか、スレッタは学園の宇宙港まであと少しというところで「遭難者」を発見した。一応シナリオ上は見落とした場合に僕がコクピット内のモニターでアラート出す予定だったのだが、アラート出すまでもなく彼女は宇宙服着てプカプカ浮かんでる「彼女」を見た。

慌ててガンダムエアリアルを動かし、輸送用のロック機構を破壊した為にプロスペラ母さんは余計な散財をする事になる。予め船員には内通者が搭乗していたが、流石に物損はフォローのしようがない。

学園の船から飛び出して、遭難者を見たポイントに向かう。必要なら座標を「センサーで見つけたフリをして」示すことも出来たのだが……子ダヌキ知覚と子ダヌキ空間把握は水星での訓練により研ぎ澄まされていて、彼女は宇宙に浮かぶ遭難者を難なく捕まえた。普通は遭難者側がビーコンで知らせたり、センサーで探知しないと見つからない筈なのに……

 

あー、あー。なんか必死に手を振ってる。事情を知る僕にはその姿が「バス停でバスを待つ学生が、行き先の違うバスが来て『私そのバスじゃなく他のバス乗るので!』と運転手にサインを送る姿」に見える訳だが、「事情を知らない」スレッタさんは酸素が切れてもがいてる様に見えたらしい。

案の定怒られた。責任とってよね!と。

事情を知らないスレッタ姉さんは目を白黒させていた。

 

いやぁ、お母さんの先読みは凄いなぁ(棒)

 

彼女はミオリネ・レンブラン。何故か地球に行きたがるアスティカシア学園の理事長の娘。1年時から密航や宇宙船強奪など、様々な手段で学園から逃げ出そうとしているワルである。その類稀な知性を脱出に全振りしている為に接触は簡単だった。唆して周辺宙域でランデブーし、そのまま地球まで運びますよと連絡したら、割と簡単に応じてくれた。

まぁ、割と近くを輸送船が通るのだが、宇宙空間に浮かぶ人というのは「宇宙空間では距離感がバグる」という事もあり、発見しづらいのである。

 

 

【宇宙空間では距離感がバグる】

空気が無いので空気遠近法が作用せず、見えたものとの距離感が掴みにくいのである。また、大気が無いので星々が良く見えて、宇宙服を着た小さな存在は人間は距離により星の中に紛れ込んでしまう……だからみつかりゃしませんてというミオリネへの説明は「実際そうなのだから」疑いなく受け入れられた。ランデブーポイントの座標が僕たちに知らされているとは思わないし、まさか僕もスレッタが目視で見つけるとは思わなかった。

 

 

いやー、もうね(苦笑) めっちゃくちゃギャンギャン言われましたわ、僕も。ていうか宥めに来た副船長や航路管制、見るもの触るもの全てにギャンギャン。こりゃ犬か猫だ。

でも仕方ないよね。見た目というか、見つけてしまえば遭難者にしか見えないし。冷静な副船長の指摘を受けてとりあえず船はアスティカシアの港に到着。実に騒がしい遭難者だった。



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宙港審査

スレッタ姉さんは学園に入校手続きをしに行きました。
僕は持ち込み荷物の税関行きです。


アスティカシア宙港はかなり特殊な宙港である。

通常、MSの様な大型機械……しかも空を飛び地を走りビーム撃ったりビームサーベル抜ける様な機械は明らかに兵器として扱われ、持ち込みが禁止されるか厳重な封印処置を施される。しかしアス高はパイロット養成科を持ち学園内の特殊規則……つまり「決闘」だ……が存在する為に、MSの持ち込みが許されているのである。

その為、宙港にMSの持ち込み審査を行う区画があり、そこで機体検査を行なってから学園内に輸送する。ここでビームの出力調整や危険な装置の有無を確認する訳だ。

 

 

「おっ? 随分面白いシート使ってるねぇ! これ今は無きオックスアースがよく使ってたヨシムラのシートじゃん!」

「元々オックスアースの機体なんですよこれー♪ 渋いっしょ!」

「言われれば機体重量バランスもオックス味があるな? カスタム?」

「何でか知りませんが、水星に転がってたんですわー。で、レストア出来そうだからシン・セー社内でレスキュー用に使ってて……」

「いや、シン・セーのモビルスーツって聞いてたからどんなゲテモノ来るのかと楽しみにしてたんだが……そりゃ採掘屋さんでMSの新規開発は無理だよなー」

「どんなの来ると思ってたんです?」

「10倍サイズの人間そのもの(真顔)」

「岸和田博士の科学的愛情じゃーん!w」

 

大人気、であった。

大体パイロット科の生徒はMS開発会社の子息か関係者、だから最新のモデルや主力モデルを持ち込む。そこにMS開発なんかやってないシン・セーがやって来たのだからMS好きを極めて拗らせた奴の多い検査官達はワラワラ集まって来た。そしてどんな変態MSが来るのかと思えば……所謂「旧車」で、更にそいつを現代風にカスタマイズしてる。

「かーっ! 何ちゅう構造だ! 見た事ねぇや!」

「市販品は使いますが、ウチ他のメーカーのMS構造知らんのですよ……」

「なるほどねー、合理的ではあるが今の設計とは発想段階から違う訳だ!」

「義肢の関節構造を最初はそのまま当てはめたんですよ。でも構造強度足りなくて随分悩みましたわー」

「あー、それでここ溶接で補強したんだ? なるほど、義肢作りのテクを活かしたと」

「ガンドアームだったりしない?」

「最初はガンドフォーマットだったっスよ。でもまぁウチのCEOの御息女(ぶっ)乗せますからね、操縦系は作り直しました。まぁウチの得意分野なんで」

「シェルユニット多いねー、何やらせてるの?」

「ニッヒッヒ、それが売りなんですよ。ウチの試作品!」

「なんだ、MSじゃなくて搭載機器売るつもりなのか」

「製品名はエスカッシャン。次世代群体遠隔操作って言うんですけど、多機能ビットをドローンとして有機的に扱う事が出来るんですわ」

「おーい、試せるかー!」

「ビットステイブのモードを変更してみて下さーい!」

「そんな項目出ないぞー!」

「あ、ちょっと待って。機能ロック外しますからー」

 

「おおーっ! キモっ!」

「え? これ操作してるの?」

ビットステイブをビットオンフォームからコンポジットガンビットモードに変形。機械っぽく無い優美な動きに感嘆の声が上がる。

「なんかダミーの標的出せますかー!」

「あるぜー! ちょい待ちー!」

今度はガンビットによるオールレンジ攻撃!

「……なっ……何やこれ?!」

「魚の群れか……」

「えーっ! 何このドローン……」

「これはキモいわ。いつ頃これ売り出すの?」

「いやぁ、他メーカーに対してどれぐらい有効か分からなくて……その最終試験も兼ねて、ね?」

「これは売れそうだねぇ……そうか、シン・セーはこんなん作ってたかー……」

「これ、バラしてもいいの? いきなり販売したらインパクト凄いよ?」

「ぶっちゃけ、プログラムやアルゴリズム出しても理解できないし、解析も進化も出来ませんて。ウチがコントロール系得意でもモビルスーツは作れないのと同じで、MS屋さんもこの手の制御技術は作れないと思います。てか、これを構成する各種のテクノロジーはウチで特許押さえてます」

「餅は餅屋、か……」

「モビルスーツの運動制御プログラムも販売予定ですよ」

「……良くここまで練り上げたな……」

「いやぁ、ウチも別にやるつもりは無かったんですが、水星での救助活動こなしてたら『あれ? これ売れるんじゃね?』って話になりまして……」

「カタログとかデモデータある? 俺実はジェターク・ヘビー・マシーナリーからの出向なんだけど、これちょっと社で検討したい……」

「あ、抜け駆け酷い! ペイルのウランと申しますがウチもデモデータ欲しい!」

「そしたらグラスレーも動かねばなりませんなっ!」

 

「ガンさーん! エアリアル! エアリアル検査終わった?」

「御息女さん?」

「どしたのスレッタ? 大体終わったけど……」

「決闘する事になったから、早く終わらせてハンガーに入れて!」

 

何故、入校手続きしに行っただけで、決闘する羽目になるんですかねぇ……(虚無)

 

「で、お相手は?」

「なんか白い人。トサカ付きの!」

「ウチの御曹司じゃねーか!」

 

流石テンペスト作戦。風雲急を告げ過ぎる!




嵐を呼ぶMS

【岸和田博士の科学的愛情】
成人男性をそのままスケールアップしてブリーフを履かせただけの巨大兵器、山野田シリーズが登場する。画像検索してみよう!


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決闘 その1

先に注意しとくと、本作では水星の魔女アニメ本編視聴を前提としており、主要ストーリーは「その裏側や隙間」を縫う様に展開します。
前回スパッとミオリネ農園トマト餌付けやグエルケツビンタシーンすっ飛ばしましたが、未視聴勢は2022年11月13日放送予定の総集編見たり、サブスク配信で見たり、円盤買って見といてください。


エアリアルです。

久しぶりにガンダムボディに入っとるエアリアルです。

スレッタ姉さんが決闘する事になったのはいい。それはプロスペラ母さんと練ったテンペスト計画(プロジェクト)にも書いてあるからいい。うん、学園到着して1日も経たずにやる羽目になるとは思わなかったけど。

 

でだよ、今僕は決闘という事で重い足取りで歩いてる訳ですが……なんでスレッタねーちゃんの生徒手帳端末使ってあの五月蝿い遭難少女、ミオリネ・レンブランが僕のコクピットに座ってるワケ?(困惑&怒り)

「武器……武器は?」

武器は、じゃねーよ(怒) 通常移動モードからコンバットモードにモード変換もしないで武装使える訳ねーでしょーがよ。

あ、ビームライフル選びやがった。よりによって一番反動がでかい武器選択してコンバットモードに移行せず撃ったりなんかしたら……コケるよねー。そらまぁそうだ。そらそーだ(呆) ぼ……ボクの身体を何だと思ってるのカナ?

ミオリネさんや、あんたMS運転免許(戦闘目的だと3種が必要)持ってないね?(名推理)

 

ていうかさ、貴方決闘の商品で決闘する側じゃ無くない? しかも人のMS勝手に使って決闘? 盗んだバイクで走り出す系の犯罪ですよ犯罪。地球圏はおそろしかトコじゃ。水星ではガンド天狗が出て来る重罪ですよ……

そしてそこに僕らの正パイロットがスクーターじみた何かで颯爽と参上! やった、これで勝つる! 僕は最大限の喜びを示す為にコクピットハッチを開けた。良かった、外部から割り込みでハッチ開く様に改造しといて!(19話、狸穴の攻防できちんと書いてある。ここへの伏線です)

 

狭いコクピットで暴れないんで欲しいかなーと思いつつ、スレッタさん操縦権を奪取。僕の姉さんはやればできる子。ただちょっとやる気スイッチが接触不良気味なのが玉に瑕。

 

さぁて、スレッタ姉さんのご指示も出た。ガンビットの皆さん、狩りの時間だ!

 

(((((はぁーい♪))))))

 

ガンビットとは、エアリアル(ぼく)がガンドフォーマットで操る僕の子機だ。僕はガンドアームでありながらパイロットと直接ガンドフォーマットで繋がらない。まぁ繋げたければ繋いでも良いのだけど、僕の真価は僕がガンビットを操作した時に最大の効果を発する様にデザインされている。

簡単な話、人間には逆立ちして鼻からスパゲッティを食べても無理な次世代群体遠隔操作をシェルユニットでコントロール出来るのだ。ルブリスボディ時代から更に拡張されて当代一の演算と記憶能力を持つ僕は、全てのガンビットに仮想人格を割り当て、複雑な空間機動と射撃を実施する事が出来る。更にそれを群体として制御……分かりやすく説明しよう。今この生意気なMS……ディランザ、だっけ?……を囲んでビーム照射中だが、普通は囲んで射撃するのは危ない。流れ弾や外したビームが囲んだ他のガンビットに当たる可能性があるからだ。この問題を僕は目まぐるしく動き回る全てのガンビットの射線上に他のガンビットが居ないよう制御している。

(やっちゃえやっちゃえー!)

(あ、やだコイツ固〜い!)

(水滴が石を穿つのだ……なーんてねっ☆)

(焼き切れるまで焼けばなんでも焼き切れるのダ♪)

(ちょっと休憩ー、次お願いー)

(任されーっ チョリーッスディランザさん!)

(そしてお休み……永遠に)

(自分、コクピット狙っちゃダメですか、コクピット!)

(ダメだよー反則負けになっちゃう!)

……んまぁ、仮想人格を割り当てる対象が多過ぎるので、若干精神年齢が下がるのは技術的な課題だ。仮想人格を画一化していないので個々の飛翔パターンはバラバラ……しかしながら僕の指示が良いので統率されている。この処理を僕は歌として各ガンビットにガンドアーム接続で転送しているのだが、データ負荷……つまりデータストーム強度は並の人間なら64人ぐらいは即死する程度。パイロット一人で操縦されるディランザくんは、今僕らとスレッタ姉さんの合計65人を相手に戦っている様な物だ。巡洋艦に手漕ぎボートで挑むに等しい。

 

むっはっは、見たか水星式ガンドアームの力を!

 

スレッタ姉さんは念入りに四肢を断ち切ったディランザを前にゆっくりビームサーベルを抜き、ディランザのツノを切断した。勝った! 勝ったよプロスペラ母さん!

 

そして舞い降りて来るフロント警備用MSを前に、僕はテンペスト計画の指示書を確認しながら「ついでにこいつもダルマにしたらいかんのかな?」と若干不穏な事を考えていた。

いや、この様な時には素直に捕まって、検査と査問を受けましょうって書いてあるのだが。

でもさぁ、お母さん。

光の速さでトラブル起こして、スレッタ姉さん腹ペコみたいよ? 血糖値結構下がってる。コイツら潰して優雅なお食事タイムを姉さんにプレゼントしちゃダメかな?

僕は母さんに向けた秘匿通信で、お弁当を一つオーダーした。




お弁当はエラン(4号)にインターセプトされました。


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キャリバン・メルクリウス

忘れてるかも知れないが、ガンさん(ガンドのメルさん)の正式登録名はキャリバン・メルクリウスです。


「キャリバン・メルクリウス……シン・セー新事業開発部 アビオニクスプログラマー……32歳……間違いないか?」

「えっ! 僕もう32歳? 嘘でしょ!」

 

いや、そんな馬鹿な(錯乱)

スレッタ姉さんの七五三の時確か21歳……今姉さん17だからいいのか。実際の駆動時間は13年だから驚いたんだな。覚えておこう。

 

「(無視して)落盤事故でガンド化して、退院後シン・セーに入社か。その前は何してたんだ?」

待ってましたと練り込んだキャラクター設定を開陳する。折角事細かに設定したのに誰も聞いてくれなかった膨大な設定が、今!

……明かされませんでした(涙) なんで僕の力作を誰も聞いてくれないの?

「率直に聞くとだな、お前ヴァナディースの関係者じゃないのか?」

「ヴァナディース爆発事件? 僕の生まれた年の?」

「生まれた年? え? 32年前にもヴァナディースで事故あったのか?」

ヴァナディース襲撃事件は表向き研究所の爆発事故という事になっている。うっかり「生まれた年」と口を滑らしたが、そうだ、僕は32歳だった。

「え、いや。聞き違いです。ヴァディスって街でテロの爆発事件が32年前にありまして、それでウチは母子家庭に……」

「13年前だよ、何してた?」

「パーメット掘ったりモビルクラフトの動作プログラム組んでましたが……15年前ぐらいからだったかな?」

この辺は頂いた経歴の当人の記録もあるし、水星の仲間にもそう伝えてるからアリバイはある。ていうか、僕がエアリアルであり元ルブリスだなんて知っているのはこの世にただ一人、プロスペラ母さんだけだ。

 

さて、そろそろお話しよう。僕は今御禁制のガンダムの関係者としてアスティカシアのフロント警備部で取り調べを受けている。いやぁ、ガンドアームと見抜いたのは凄いけど、(エアリアル)は実際のところガンダムではない。より正確に申せばガンダムにもなれるがガンダムより効率的な運用が出来るのでガンダムである必要がないのだ。

 

この辺、説明が必要かな?

ガンダムという定義が生まれた頃は、ガンドフォーマットを使い兵器としてのMSをパイロットが直接思考制御(ここにガンドフォーマットを使う)する物だった。義肢と同じ様に使えるMSがガンダム(ガンドアーム)だ。

しかしパーメット流量増やして廃人化するパイロットが増えたので、ガンダムが発するデータストームを抑制する様にヴァナディース機関に指令が降り、カルド博士は可能な限り人工知能やシェルユニットで処理を代替するプランを策定。

で、あともうちょっとという所で襲撃を受けてヴァナディース機関は消滅した。

この時点では、つまりガンダム研究が行われていた一番最後の段階では、ガンダムとはパイロットが義肢のように自在に操れる兵器を意味する。

しかしガンダムエアリアルはガンドフォーマットでパイロットと機体を直接接続せず、パイロットは基本的な操縦を行い、エアリアルという自意識がガンドフォーマットで機体を操作する。シェルユニットに宿った人間の何倍もの処理能力を誇る「この僕」がデータ処理を行うのだから、パイロットにデータストームは発生しない。繋がって無いしね。

その意味でガンダムエアリアルはガンドフォーマットを別の形で利用したものであり、厳密にはガンダムではない。ガンダムではないのだが、シェルユニットにAIなんか目じゃない「自我がある」というのは別の憶測を生みかねない。

……なんか、悪の組織が旧来のガンドアームを人体実験しながら開発中という噂があるのだ。僕の自前のこの自我も、何か呪術めいた悪の実験で宿らせたものと勘違いされては困るのでAI制御であると言う事になっている。

という事で、エアリアルはあくまでシン・セーが開発した超AIによる次世代群体遠隔操作兵器のデモマシンという位置付けである。ガンダム?知らない子ですねぇ……

 

「おい、聞いてるのかメルクリウス。あれガンダムなんだろ?」

「ああすいません、考え事してました」

「必死に言い繕おうとしても無駄だぞ」

「晩飯何食おっかなーと」

「しらばっくれるな、パーメット流量が基準値超えてるのは記録済みだ!」

「それ、ガンドアームでパイロットと機体間に流れるパーメットの基準値ですよね? エアリアルでパーメットを最も使うの、あの戦闘だとドローン飛ばしたシーンだと思うんですが……多分皆さん計測したの、機体とドローン間のパーメット流量ですよ」

「え?」

「疑われると思ってコクピットからシェルユニットまでの経路のパーメット流量はログ取ってます。観ます? それとも操縦系の設計、主要接続、その辺僕担当なんでデータ出せますが……見せましょうか?」

「えっ? えっ?」

「やだなぁ、エアリアルってウチの製品の評価試験機ですよ? 設計開示出来ますし、取引契約とNDA結んでくれたら次世代群体遠隔操作兵器の細かいトコも教えますし、次世代群体遠隔操作兵器……製品名エスカッシャンって言うんですけど……あれ売り物ですから」

「ガンダムじゃないと?」

「ガンダムじゃ売れないじゃないですか。馬鹿馬鹿しい。ちゅーか、ガンダムでもドローンあんな有機的に動かせないでしょ。良く知らんけど。データストームで死んじゃうんじゃないですかねー? お宅ウチのお嬢の幽霊尋問してるんですか?」

「いや、アレはアレでMSを家族とか……」

「そらそーでしょ。あの機体運用してエスカッシャン製品化したテストパイロットですよ? 家族どころか姉妹みたいなもんですよ」

「……ガンダムじゃないんだな?」

「調べたら判りますよ。まぁバラして解析したら分かるような単純な物じゃありませんし……」

僕はにっこり微笑んだ。

「革新技術部分は特許押さえてガチガチに保護されてます。ちゃんとエスカッシャン買った方がお安くなってますよ」




特許使用料を考えると、エスカッシャンを買った方がどう見ても30%ぐらいお値打ちな価格になっている。


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バラされる(エアリアル)

分解整備みたいなものだからツラくはない。


ラララ牛丼〜牛丼〜

ネギ抜きダクダク〜

牛丼〜牛丼〜

お豆じゃない肉〜

 

牛丼〜牛丼〜

生卵に合う〜

牛丼〜牛丼〜

紅生姜も好きー

 

嫌疑不充分かつ解体調査を快諾した事により、僕は一足先に無罪放免となった。大体人間の何倍もの高速思考と敵の思考を読み切ったガンビット操作が可能な「僕」に論戦を挑むのが間違いだ。こっちは「今晩はどこの牛丼にしようかなぁ」と熟考に熟考を重ね、オリジナルの牛丼讃歌を作ってても余裕で論戦に勝てる。

で、携帯端末返してもらって晩飯に牛丼特盛ネギ抜きダクダクを片手にガンダムエアリアルの解体作業を見学しに来た。一生懸命ガンダムエアリアルを分解しているが、別に子供の死体が埋まってたり脳髄がカートリッジ化されて入ってたりはしない。特にブラックボックスも無い。

ガンダムエアリアルの特異点は、それ自身に自我がある事。それはハードウェア調べてもシェルユニット調べても出て来ない。僕自身もワイ氏やワシ氏から聞いてそう推論しているのだが、シェルユニットが臭い程度の事しか分からない。本人も知らないものをどうやって探し出すというの?

そも人間の自我や魂だって、どこにあるか突き止められて無いでしょ? いくら調べてもアドステラ122年段階の科学では「魂や自我の所在」は誰にも分からないのだ(牛丼美味いなぁ)

「なんも怪しい所がねーじゃねーか!」

「僕に言わないでよ。疑ったのそっちじゃん!(そろそろ卵入れるかな……)」

 

【挿絵表示】

 

「隠し立てすると為にならんぞ!」

「ちゃんと組み直すならネジ一本まで分解してもいーっすよ。学生にメンテナンスさせるから組み立てはやり易くなってまーす♪」(もぐもぐ)

「え? メンテスタッフ居ないの?」

「スレッタお嬢の友達作りの為に、シャチョーから可能な限りスタッフ送らない様指示出てまーす。困ったら友達を頼り、お友達沢山作りなさいねーって」

「なんでそんな雑な機体でホルダー瞬殺出来るんだよ!」

「シン・セー開発公社の新製品。次世代ドローンのエスカッシャンが凄いんじゃないかなー?(営業スマイル)」

「あんなに凄いのガンダムしか無いだろうに」

「ガンダムより凄いの作っちゃいかんのか?」

「そんなもんが……」

「あるでしょ、そこに」かき混ぜた卵に塗れた割り箸でエアリアルを指す。

「なんならガンダム持ってきてくださいな。エアリアルとエスカッシャンあったらガンダムでも潰して見せますわ。パイロットに変なことせずに、ね」(ここで紅生姜の乱入だ!)

 

尚、本当に倒した模様(本編6話参照)

 

「何でレスキューMS如きが……」

「あのさぁ」僕は一旦箸を置いて立ち上がった。

「人を殺す兵器作るのと、人を救う為の装置を作るの。開発者がやる気出すのどっちだと思う?」

「……」

「もちろん僕も技術者の端くれだから、自分が作ってるもんが洗練されていくのは楽しいさ。でもね、その洗練の先に人の死があるか、生があるかって……考えないか? 僕はこのプロジェクトに関わり、スレッタのお嬢と共に数々のレスキューこなして人を救って来た。残念ながら救えなかった命もあった……だから果てなく追求したよ、もっと早く、もっと強く。そしてもっと優しく、もっと丁寧に……人の命がかかってるからな。殺したいんじゃない、救いたいんだ!」

「…………」

「そら、喜んでサビ残するわ。休日出勤も仕方ないさ。救う為に工夫を重ね、新しいアイデアを具体化して特許取って公開し、もっと、もっと、更にもっと! 

その結晶がエアリアルだよ。殺して終わりの戦闘機械なんかに負けるつもりは無いね」

 

これで涙の一つも垂らせばカッコいいのだが、僕はまだ涙の流し方を知らない。仕方ないので紅生姜を混ぜてカラフルになった牛丼を頬張る事にした。牛丼は全てを克服する……水星にも畜産が蘇り、大豆ミートでない牛肉が流通する様になればなぁ(切実な願望)

気が付けば、ハンガー内のスタッフが沈痛な面持ちで僕を見つめていた。仕事サボって牛丼見つめても分けてやんないからね。

 

 

ラ ララ

牛丼〜牛丼〜

ネギ抜きダクダク〜

牛丼〜牛丼〜

お豆じゃない肉〜

 

牛丼〜牛丼〜

生卵に合う〜

牛丼〜牛丼〜

紅生姜も好きー

 

【挿絵表示】

 

 

はー。食った食った♪




エアリアルはレスキューMS。まぁ実際ど田舎の水星には敵も攻めて来ないので間違いではない。


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好きならいいんじゃない?

いわゆる「グエルのプライド」回直前


僕は一人で僕の……ガンダムエアリアルのボディを組み直していた。調べるだけ調べて組み直さないとかマジかと思ったが、配置した諜報員からの連絡で納得。

 

スレッタ姉さんの退学と僕の廃棄を掛けて、また決闘をするらしい。この辺はプロスペラ母さんから先に聞いていたのだが、この決闘という奴は妨害工作などもアリアリのかなりエグい対決仕様で、よーするにバラしたまま放置も妨害工作の一環なんだろう。メンテナンスが楽になるように簡略化進めといて本当に良かった。

ボルトが幾つか意図的に抜かれてたけど、こんなものは予備もあるし何処からでも取り寄せ出来る。僕は機体の記録画像の中から犯人を探し出し、バックアップを取った。そして会計ソフトを立ち上げボルト4本、単価8000ドル、諸経費込みで4万ドルの請求書を作成して当該人物に送る事にした。もちろん動画ファイルも添付して。払わなかったら窃盗罪で告訴だ告訴。ついでに指紋も採取しとくか。あ、警察に被害届も出さなきゃな。

 

「ガンさーん! どしたのこれ?!」

「あー、スレッタも解放されたか。いや、エアリアルも取り調べ受けたんだが、バラして調べた連中がそのままにして行ってなー……って、おい?」

話も聞かずにコクピット(通称狸穴(まみあな))直行ですか?!

「良かったー、ライブラリには手を触れられてない」

「……いや、検査官の人ら脱力してたよ……」

エアリアルは大変賢い機械で、更に記憶容量も一般的なMSと比較して文字通り「桁違い」なのである。そしてその記憶容量を僕の親愛なるちっちゃなパイロットさんは「自分の趣味の動画・漫画」ストレージにしている(涙)

異様な記憶容量にざわめく検査官。僕は親切心から「とんでもないものが出て来ますが、驚かないでね」と念押ししてアクセス制限を解除した。皆がゴクリと息を呑む中……表示されたのはアニメの録画一覧やらアイドルのライブ画像、そして野球の珍プレー好プレー集だった。

その際の落胆ぶりは録画して保管したくなる程であったが、武士の情けだ許してやろう。

 

「組み直すのにどれぐらいかかるー?」

「僕ひとりだからねぇ……1日で行けるかなぁ?」

「うー……もうちょっと早まらない?」

「ほら、こうなるからメカ科の友達早く作れって。人手が無きゃどーもならんのさ」

と、言うことで潜入させてる味方への接触を促す。

一応ホルダーを倒すのは予定に入ってるイベントだが、本来はもうちょっと後になる筈だった。特に厳密に決めた訳ではないが、学園生活を円滑に進める為に友達作りは早めにこなして欲しいのだが……折角仕込み入れてるのにっ!

テンペスト計画で重要なのはスレッタ姉さんの保護だ。場合によっては人質にされる可能性もあり得たので、セキュリティの良いセレブ校に入れたと言う部分もある。更にミオリネ嬢と友達になれば、ミオリネ嬢に付いてるSPもスレッタ姉さんの保護に回る……と思ってたが、どーも鈍臭いのでいざとなったらガンド天狗でチェンジ希望を出しておこう。

そう、謎の怪人ガンド天狗も冗談ではなく重要な役割がある。学園内外で事件を起こせば警備が強化される。「敵」がスレッタ姉さんに手出しし難くなるのだ。

学園生活の基盤作りと安全の確保。これやって慣れてから決闘になる筈だったんだがなぁ。何間違ったかなぁ?

 

「実はさ、また決闘がありまして……」

「聞いてる。それ無かったら別に組み立て急がなくていっかなーと思ってた。僕プログラマーだよ?」

タブレットを見ながらトルク調整機能付きパワーガンドツールのビットを外す。トルク校正機で締め付け強さをきちんと計測して規定の強さでボルトを締める。

「ガンさんでも出来るんだからさ、経営戦略科の知り合いにお手伝い頼んじゃダメ?」

「ミオリネ氏? 頼めるの?(無理じゃね?)」

「……ですよねー。私もミオリネさんちょっと苦手」

「求婚しないの? 花婿さん(笑)」

「いやっ……そのっ……でも……女同士ってアリなのかな?」

「一応テクノロジー的には大丈夫だよ。金掛かるけどお互いに相手の子は産める。そんな事例はあるみたい」

「そう言うんじゃなくて! 好きになるのはいいのかなって!」

「好きならいいんじゃない?(きょとん)」

「好きならいいの?」

「好き嫌い以外に何かあるの?」

「えーっ! ガンさんそうなんだ?」

「ガンさん中身的には女性だよ? なんてーかトランスセクシャル?」

「……そうなんだ……え、ボディは?」

「重症で意識ない時に僕の身体見てガンド化したから男にされたんよ。女ボディだったらラッキーだったのにね」

 

正直な話、僕には明確な性差はない。伝統的にモビルスーツは女性として認識されることが多いが、まぁそんなのは因習だ。僕らは股間に「何もついてない」からどっちでもいい。

縁あって好きになり、好きになった後に男だ女だで悩むのは、どうにも解せぬ僕であった。




そういえば百合婚の話に触れてなかったな、と。
エアリアル的には「何で男と女で.番(つが)うのかな? 技術的には問題回避してるのに……」程度に不思議に思う感じ。


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諜報員NN

え? 病気療養マジ?
早く元気になってね!(祈り

【帰ってきた登場人物紹介】
エージェントNN
スレッタ・マーキュリーのご学友として選定された少女。テンペスト計画内では学内調査とスレッタ身辺警護を行わせる為に先行して潜入し、人脈構築を行なっている。
柔術(高専柔術)とコマンドサンボの有力選手で、学生相手ならナイフ持たせても秒殺可能。凄く使い勝手が良いが、スレッタさんのタヌタヌムーブで中々事が上手く転がらず、それに対してストレスを溜めがち。ガンドのメルさんと現時点では面識が無く、コードネーム「天狗」が本作戦の実行部隊隊長である事しか知らされていない。無論チュチュは高専柔術でシメた(文字通りの意味で)
メカニック科所属で、そちら方面の才能も高い。


ガランとしたアスティカシアの宇宙港近くのMS整備用スペース。本来学生が持ち込んだMSは各寮のメンテナンス用スペースに移動されて、寮内のメカニック科の手により整備される。

良く出来た話だ。MSの運用における兵站(経営戦略科)、整備設計(メカニック科)、運用(パイロット科)をパッケージ化してMSの運用に関わる事を包括的に学ばせる。パイロット科の生徒が持ち込むMSは学生たちの教材であり、パイロット科生徒のバックにいるMSメーカーの宣伝塔になる。また、基本的にはベネリットグループ内の子女で構成されるので技術交流や社交界的な意味合いもある。実に良く出来たシステムだ。学園の入学資料にも書いてある。

 

……だから「入学資料を読んだ筈の」僕らのポンポコスレッタさんも先ず「自分のチーム」を作るべきだと気付くべきだし、僕も散々「学習計画を立てろ」と口を酸っぱくして語り続けてきたし、慣れない環境で友人が作れない事を予期してバックアッププランを立てた。入校初日に優しい同輩が出来る様に仕込みを入れておいたのだ! 報告に寄ればエージェントは完璧に、極めて友好的にコンタクトを取っている!

 

……そして、スルーされた。僕は悲しい(棒)

 

思えば……スレッタ姉さんにはその気があった。姉さんは予想外とか「そうはならんやろ」の化身である。学習計画立てろと言った際にも狸穴に籠り、入念に学校生活が描かれた漫画や動画を見て研究し……何故か学校でやりたい事リストを作成していた。なんJボーイがすぐに打線を組みたがるのと同じで、マーキュリー家では何かを始める際にリストを作る悪癖がある。いや、リスト化はいいんだ。問題点や目標を書き出してイメージを固める事は良いことだ。

イメージを固めないのが問題なのだ。

そりゃまぁ年頃の女の子だから彼氏を作りたいだの親友を作りたいのは判る。僕だって暇な時は姉さんのライブラリからデータ見て「シミュレーション」してる。僕の中に溜めてあるんだから僕はいつでも16倍速ぐらいでいくつもの話を同時入力して分析できる。ガンビットの個性もそれらから要素抽出して構築した。ビット君達がスレッタ姉さんに好かれるのは当たり前だ、それぞれがスレッタ・マーキュリーの視聴傾向加味して「彼女が好む個性(キャラクター)になっている」のだから。(中心人物がドジっ子なのは如何かと思う。まぁみんなに好かれて偶にリーダーシップを発揮する都合の良い主人公気質なのは姉さんに似てる)

でもね、そーじゃないんだ。そうじゃ無いんだよスレッタ・マーキュリーさん! 折角貴方が好きなシチュエーションでいい感じに進むストーリーを用意して、最適な「役者さん」配置したのに、なんでスルーするの?!

こっちは学生生活のサポートになる様段取り組んでるのに、なんで敢えて外すの! 役者さんとか「仕事」の為にあれこれ苦心してるんですよ。エージェントNN(仮名)とか、報告書でスレッタ姉さんに関係ない日常の話書いてきてんで?

(実はそれが起点で発生したのが、本作冒頭の「最初の天狗事件」だったりする)

 

誰かが描いたイメージじゃなくて

誰かが選んだステージじゃなくて

 

言いましたとも。ええ、歌い上げましたとも!

でも僕すぐこう歌ったでしょ!

 

僕たちが作っていくストーリー

 

なんでひとりでタヌタヌポンポコ歩いて行くのよ!

僕たちで作ろうよ! ちょっとはこー独りよがりな筋書き改めて貰えませんかねぇ(懇願と祈り)

 

僕は学園のロジスティック部門に潜ませた方のエージェントからもたらされたダリルバルデのデータとグエル・ジェターク君の対戦データから明日の決闘のシミュレーションをしながら、スレッタ姉さんに対する愚痴をシェルユニット内で思い浮かべている。

実際問題凄いなグエル氏? MS乗りこなすセンスが半端ない。これはホルダーですわ。決闘委員会筆頭は伊達じゃないな……容易くは勝たせて貰えないだろう。

パーメット消費計画修正と運動性プログラム微調整。あちらもシェルユニット積んでるから遠隔攻撃デバイスはあるな……まぁ、僕の搭載量程ではないから対処はそんなに苦ではあるまい。機動制御重点気味の思考バランスで十分イケる。

最大戦闘時間は30分ぐらいか。先の戦いではガンビットを前にスォーム攻撃であっさり沈んでくれたが、次はどうかな? 彼の行動パターンからして相当に動きを練り込んでは来るだろう。

えーっと、総監督的にはガンビットではなく機体の運動性能を見せつけるパターンをお望みか。どんな展開にするかなぁ? 機体損傷しても即座に動作補正かけられるとか、玄人好み過ぎて分からんか……ガンビット11体制御しながら剣戟とかすごーくカッコいいが、まだガンビット利用時は機体運動性が低下すると「思わせておく」方が有利かな?

 

一発エスカッシャンの宣伝やって後は流れで行くか。

圧倒的な手数とマヌーバにより、一機でスォームや飽和攻撃(ストームアタック)仕掛けられるのが僕の強みだ。手足が4本、頭が一つの従来型では僕の嵐は防げまい。




ガンダムエアリアルは手足が4本、ガンビット11機で「攻撃肢が15本」 内包できる思考数がパイロット含めて13。
機体は並みでも通常MSに比べて圧倒的な手数がある為、エアリアルの試算ではMSなら同時6体、AI搭載型でもダリルバルデ(攻撃肢6、思考数5程度)クラスなら2機相手にしても数的優位を確保しつつ殲滅出来る。


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水星におけるガラパゴス的進化

ガンビット君たちは如何に必殺万能兵器へと進化を遂げたのか。


スレッタ・マーキュリーさんが「射撃ゲーム」と思い込んでいるものは、僕がルブリスボディ時代に組み込まれた戦術教育プログラムの一種だ。

元々あれはガンビットを制御する際にリアルタイム処理だと負荷が高くなるので、ガンビット操作をAIに代替させる為に作られた。様々な状況でパイロットがどの様に敵を戦力評価し、ガンビットでどんな順番で敵を撃破するか……そういうパターン学習を「AIに施す為の」プログラムなのだ。

当初まだエリクト・サマヤちゃんはこれをモグラ叩きゲームの一種と思い込んでいて、たん、たん、たん♪とリズミカルにタッチパネルを叩き、タタタンと叩く様になり、終いには野鼠を狩る梟の様に「ダダダっ」と叩く様になった。その間僅かに7ヶ月。子供の成長には目を見張るね。

これに焦ったのが、特に名は秘するが……元アス高決闘クィーンである。最初は我が子の姿を目を細めて見ていたが、僕がシミュレートする(戦術)スコアが自分のレコードに近付き始めた時点で牙を剥きおった。エリクトの手がまだ小さい事を利用して、大人の大きな手で多点タップという荒技を繰り出してきたのだ!

流石に僕も抗議の意思を表す為にブルーバックエラー表示をせざるを得ない。ガンビットの攻撃順序や敵脅威度順位を入力しろってのに「いいから3機まとめて撃墜せよ!」は無いでしょう。なに無茶を……と考えてたら、勝手にプログラム書き換えて多点タップ対応にされた。ぼくはむりょくだ(棒)

ここから、僕と母さんの壮絶な戦いが始まる。

元々ガンビット制御系は僕の本体制御プログラムから切り離されて搭載されていたので、僕はそのプロセスを複数同時に処理できる様にパッチを当てた。そして同時にマルチプロセス化したのを良い事に敵にもガンビットを装備させたのだった。すると「ゲーム」は早打ちゲームの様相を見せたので、対策としてノンキネティックポッドを導入して……と、(後に知ることになるのだが)世間様ではビット系装備が廃れたにも関わらず、水星唯一のモビルスーツである「この僕」はガンビット戦の達人になって行くのであった。

最後期にはスレッタもプロスペラ(当時は部長)もビットの形の違いから僅かな機動性能の差が出る事に気付き、鈍臭いのから順に倒す戦術を多用した為、僕は機体形状毎に動作パターンを変化させ、更に互いがチームとして庇い合う性質まで追加した(これは大当たりでスレッタとプロスペラ母さんを唖然とさせた)

これを受けてプロスペラ母さんは群体制御技術の本格作成に着手。更にガラパゴス化が促進される事になる。

これが6年前、スレッタ姉さん11歳時点の状況である。

 

 

なんでこの様な昔話をしているかと言えば、今正に目の前のダリルバルデ君が6年前の僕の対スレッタ戦略を模倣しているからだ。ぅぉぅジェターク、宙港検査で配布したデモデータをカスタマイズしたか。でもそれ、パイロットとの連携取れない奴じゃなかったかな?

率直に言えば、反応速度は良いが「真っ直ぐ過ぎる」

スレッタと昔の決闘クィーンは狸の母娘だ。フェイントや突飛な発想……まだ経験が浅い実稼働時間7年に過ぎないこの僕にとって、人間を嫌いになりかけた……論理飛躍とヤマカンを駆使して戦いを仕掛けて来る。

余りにグエル氏の戦術と違う為に最初期こそ裏をかかれた形になり、僕は右腕を切り取られてしまう。申し開きのしようもないんだけど、パワーが違い過ぎる! いいなぁ溢れるパワー! 最新軍用はここまでパワフルか。この辺は駆動系独自開発が不可能で汎用品カスタマイズで誤魔化してる僕には分が悪い。咄嗟に機体バランスの補正を掛けて凌ぐが、ここまで差がでかいと厄介だな。

消火装置は誤動作するし、摩擦係数勘案するのをスレッタが忘れて……と踏んだり蹴ったり。しまいにゃミオリネさんが時間を稼げなんていうもんだから、素直なスレッタ姉さんは素直に勝ちではなく時間を稼ぎに行く。いや、勝っていいんだよ?

 

僕は些か混乱していた。最新型でも既存技術の延長上に過ぎないならば、僕とスレッタ姉さんは既に対策を考えている。人間が得意とする論理飛躍やどこからとも無く湧いてくる「アイデア」、これこそが強敵足りえる存在。しかし満を持して出て来たのが6年前の亡霊なんだもんなぁ。侮れないが、勝てない相手ではない……そちらの手を僕たちはよく知っている! 水が止まって今が勝機! ガンビットの皆さぁん!

 

(((((はぁーい♪))))))

 

(かった! 何これ硬い!)

(何食べたらこんなに硬くなるの!)

(マジでか、硬ーい!)

(ズルくね?)

(ズルいよ! ズルすぎだよ!)

(これはもうお姉ちゃん案件)

(だよね)

 

スォームでカタが付かない……だと? 何それその装甲。一つ私にくださいなっ!

ん?

動きが止まった?

 

と思いきや!

キタコレ! やった、グエル氏来た! なんでぇグエル氏ちゃんと乗ってるじゃん! しかし勝つる!(僕が)

力任せの重突撃! なんてパワーだ、お姉ちゃん僕これ欲しい! なんだなんだこの馬鹿げた瞬発力は! 何食ったらこんなにダッシュ効くの?! モーター周りの設計教えて! 僕これ欲しい!

ハイパワータイプとの交戦操典通りにベクトルをズラしてモーメントを生み、巴投げしたら足が飛んできた。いや、お前……グエル・ジェターク! シェルユニット光って無いやん……手動操作で飛ばしたの? おまっ……コノ……天才かっ! いや馬鹿かっ!

あり余り溢れるパワーで投げ飛ばされるエアリアル。確かに僕は軽いがそれでも40トン超えてるんだよっ! 70トンぐらいしかない癖になんちゅーパワーを……

プロスペラお母さん、僕今年のクリスマスにサンタさんに手紙書く……ダリルバルデ貰うんだっ!




長いので分割しますわ。
次回、エアリアルのダリルバルデ愛が炸裂する(かも)


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僕には無い機能

正直今回のネタはSF考証ミスや動画を割る時のミスの様な気もするんだけど、字義通りに受け止めても十分SFしてるので、本編がどう出ようと本作品内ではアリとします。


ダリルバルデ君凄い! 僕たち水星在住者の知らない内に世間は未来に向かって躍進していた!

何のことか分からないだろうから僕とダリルバルデ君の決闘動画を見直して欲しい。(筆者注 いわゆる水星の魔女第3話 グエルのプライドの後半部分だ)

 

一度停止したダリルバルデがガンダムエアリアルに突っ込んで来るシーン。非力な僕は後ろに後退りするが、ダリルバルデ君の質量(1G重力下では重量に等しい)が70トン程度であると予想され、僕……ガンダムエアリアルは40トンぐらいだ。いくら何でも突っ込んできたダリルバルデが勢いを落とさず僕を押し切れるのはおかしい。慣性の法則が無視されている。

更に巴投げで僕がダリルバルデ君を投げ飛ばした後……彼はそのまま飛行して、ワイヤーで繋がれた足をビットのように飛ばして掴んで軽々と放り投げている。減速なしで、だ。

予想外の出来事でかなり焦ったが、どうも状況から考えて……かなり強力な慣性制御とか質量制御技術を使ってるらしい。

一応僕にも類似技術は適用されてる。ビルの壁面に着地したのは慣性制御をフル稼働させた結果だ。勿論細かなスラスターの出力制御も併用してる。何故かと言えば、ガンダムエアリアルに搭載されてる慣性制御機は21年前のルブリス開発時の物だからだ! どうやらこの21年間でMS業界はこの類の技術を飛躍的に高めたらしい……実測値から計測すると、ダリルバルデ君のコントロール可能範囲は機体重量の7割程度、50トン近くを低減できる。くっそ重いのにやけに軽快に動くなと思ったらそういう事か! 更に慣性制御の停止状態からフルパワーに到達するまでのラグが殆ど無い。

出力と瞬発力でそれぞれ倍近い差が生まれてる!

僕とスレッタは他のMSを知らないから慣性制御については「こんなもんだ」と納得してたし、寧ろ慣性を念頭に置いて「無理のないマヌーバ」を意識している。ガンビット君達が優雅な機動を描くのも慣性を無視できないからである。

予想外の展開だった。僕らがガンビットの制御に磨きをかけている間、他のMS開発者は昼寝をしていた訳ではなかった。ちゃんと独自に進化を遂げていたのである!

 

本来僕……ガンダムエアリアルは軽量高出力の「ダッシュが強烈で航続距離の長い機体」である。それ故装甲強度が犠牲になるからガンビットによるアクティブディフェンスや、力場を用いたコンポジットディフェンスを採用している。ある意味ではこれは苦肉の策だ。何故僕が盾を持つか……装甲材に力を注げなかったからだ! 

いきなり改造やMS開発大手が採用してる最新機器や最新部材は入手できないから、暫くは制御プログラムの効率化や運用で凌ぐ形になるだろう……徹夜だな。

 

結果的に言えば、勝った。勝ったが決め手になった動体部でダリルバルデのツノを折ると言う奇作は……正直僕も『本能的に』スレッタ姉さんのコントロールアシストしたが、後で考えるとゾッとした。胸って姉ちゃん入ってるトコでしょ! 母さんの親心でコクピット周辺は僕の中でもかなり頑丈ではあるけど、頑丈だからぶつけちゃえとはならんやろ(呆然) スレッタ姉さんを良く知る僕でさえ後から考えたら疑問符が沢山浮かぶマヌーバだ。流石のグエル氏も心底びっくりしたに違いない。

 

その後グエル氏が膝を付いて求婚するも、スレッタ姉さんはマッハで断り狸穴(まみあな)に逃げ帰ってきた。僕はと言うと……ほんのちょっぴりダリルバルデ君に惹かれた。あらやだイケメン……最終的に勝ちはしたが、僕が見る限りかなりの接戦だった。あちらもガンビットには驚いただろうが、こちらも慣性制御装置の巧みさと「それを前提にした設計」に驚かされたし……いい経験になった。多分皆が思うほどダリルバルデ君は弱くない。僕と10戦したら4戦ぐらいは取れるかもしれない。決闘ならば、だけれども。

 

 

決闘後、僕はキャリバン・メルクリウスとしてジェタークのエンジニアを訪ねて宙港検査場に向かった。どうしても賞賛の言葉を贈り、あわよくば型落ちでもいいから慣性制御ユニットサンプルで貰えないかな……いや、ダリルバルデ君なんてそんな、そんな……お高いんでしょう? 軍用だし最新型だし……くれるなら貰うが?(迫真) て言うかチャンスがあれば強奪したいぐらいだが?!

 

流石に褒めちぎってもサンプルは貰えなかったが、その辺の研究してる大学教授や最新最高では無いが装置開発してる日本の蒲田の町工場を紹介してもらった。なお、褒めちぎったがそこに打算はない。本当に素晴らしいから素晴らしいと言ったのだ。そこに嘘や煽てを入れる様では真の技術者ではない。勿論この事は先方も了解している。

互いに技術者だ、テクノロジーの話であれば社や思想の差を超えて分かり合える。これは誓って事実だが、同じ方向を向いている人間同士は言葉が通じなくても分かり合えるのだ。無論、ガンドの精と人間でも同じだ。同じ方向を同じ眼差しで見ることが出来たなら、そんなものは些細な差でしかない。勝ち負けなんてのは……

 

株価は大暴落したらしいが。




4話目ってどんな話だったっけ……録画を見直そう!


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敢えて見ない地雷

スレッタさん激泣き回(の、裏側)

【登場人物解説】
ダリルバルデくん
今、一番エアリアル(ガンさん)が気になるあの子。機体開発コンセプトがエアリアルやルブリスと全く違う方向なので、MSであるエアリアル君は凄く気になる。意思拡張AIは本作21話「宙港審査」でガンさんが渡したエスカッシャンのデモ用データから要素ぶっこ抜いて急造したβ版であり、スレッタやエアリアル的には見知った挙動ではあった。
エアリアル的には力の強い「弟か、年下の従姉妹」的な感覚をほんわかと抱いている。(だから見出しにもクン付けしてる)
本作設定だと、僅かながら意志の欠けらの様なものを持ち、見た通り割とまだ駄々っ子である。グエルパンチで凄くびっくりして多少は気質が改善されると思うのだが……
尚、自動操縦になったのはAI側の最善手を強制採用するアルゴリズム組んだ為。本来はAIの予測する敵攻撃パターンと対話しながらパイロットが行動を選択するのだが、開発側が「AIの最善手で良くね?」と人間の判断仰ぐとこを省略して最速反応優先したのが裏目に出た。


今、ガンさんのシミュレータ室(ガンド天狗変身ユニット)とガンダムエアリアルは、「まだスレッタが所属寮を決めていないため」学園の備品であるデミトレーナー格納庫で居心地の悪い日々を過ごしていた。

調査員の報告によれば、当人入学のしおりに書いてあった話を全く忘れているらしく、メカニックや経営戦略の友人全く作ってないらしい。

何故かと言えば、彼女の「学校認識」はアニメやドラマ、漫画によるものが殆どで、アスティカシア学園みたいな特殊例を知らないから、である。僕の手にしている学習プログラムに依れば、そろそろチームワーク試験がある筈で……スポッターとか居ないとそもそも試験にならないのだが。

一応、総監督(プロスペラ)にお伺いは立てた。総監督は放置気味とは言え流石にお母様であり

「あの子、必要にならないと動かないからほっときなさい」

であった。試験受からなきゃ留年しちゃうから、流石に頑張ってお友達増やすでしょ……親タヌキ流石だなと言わざるを得ない。また、総監督から別指示があった。

「伝統的にアス高では地雷回避試験で悪戯する事になってるけど、それ伝統だから邪魔したら駄目」

 

……なん……だと……?

 

なんでもMSの扱い方(保管の仕方?)を叩き込む為のもので、自分の機体の事前チェックやメンテナンスの重要性を叩き込む為の教育的配慮だという。

確かに……ダリルバルデくんと戦い、右腕損傷したガンダムエアリアルをスレッタは放置している。水星ではシン・セーの社内備品だったから僕らがメンテナンスしたり修理したり、改装を勝手にやっていたが……今はスレッタ姉さんが持ち込んだ私物扱いなので、実は僕も治したくて仕方ないのだが……放置する様厳命されている。

今まで見たこともない新型機に触れる事はメカニック科の子にはいい刺激になるし、MS修理のコストを知る事は経営戦略科の子の経験にもなる。パイロットもただ勝てば良いのではなくコストを意識した戦い方を学ばねばならないし、恐らくだが「出来るだけ損傷が少ない勝ち方をして、人命や機体の大切さを体感させる」という意味もあるのだろう。

むぅ、割とまともだ。

 

という事で余りに暇なので、僕はガンド天狗として学園内を視察する事にした。

 

正直に言おう。アス高最悪だ。

僕は一応MSの中の人であり、人間ではない。だからこそ人間は異物であり「彼らがアーシアンだスペーシアンだ」というのは些細な違いだ。皆は人間として家の庭に住む蟻の細かな学名の差を気にしたりするだろうか? それと同じで僕は肌の色や性別、生まれや学力で人間を区別しない。人間は人間でそれ以上でもそれ以下でもない。みんなもご家庭用ゲーム機を全て「ファミコン」と呼んだり、携帯電話やガラケーを区別せず「電話」と呼んだりする人を見かけたりしないだろうか? 僕はある意味そんな感じで人間を見ている。見方を変えれば超人道的で平等主義者に見える事だろう! 実態は「自分と違い過ぎるので細かな差異が気にならない」だけである。

その僕が見て、学園内は理不尽な差別が罷り通っていた。アーシアンが特に差別を受けてる。僕には理解不能な形で差別を受けてる……ああ、これがスクールカーストか。スレッタ姉さんが嫌いな奴だ。

ニコニコしてたからボディブローとか、視界に入るなとか散々ですわ。とりあえず僕は生意気かつ倫理的に問題があるスペーシアンを軽い罰としては樹木のかなり上に引っ掛けて放置とか、天狗スラスターで高空(と言ってもたかが知れているが)まで持ち上げて自由落下を体験させて腰砕けにするなどした。

ガンド化しちゃうとかはしてないのでまだ軽い方だ。まぁ、ちょっと色気づいた男子の髪形を丸坊主にするのはやり過ぎたかも。次回は丸刈り後に縦ロールのカツラをプレゼントする事にしよう。

 

10人程度シバいたぐらいで学園内の警備が厳重になった。こ生意気な学生も一応アスティカシア学園外ではベネリットグループ内企業のお偉いさんの子弟である。クソガキ様ではあるがセレブなのだ。彼らが立て続けに制服の股間を生暖かい液体で濡らす事態は、アスティカシア学園の警備体制としては問題がある。僕としては警備レベルより道徳や倫理教育の底上げが必要だと思うのだが。

 

警備レベルを上げる事自体は総監督のテンペスト計画(プロジェクト)に明記されている。当初僕もスレッタ姉さんをプロジェクトに組み込むのは反対していたのだが、学園内に居住させてセレブ子弟の警備体制の中に置いた方が最終的には安全だ……という説明を受けて了承したのである。但し警備レベルをこの目で確認し、必要であれば暗躍して警備レベルを僕が満足できる程度に引き上げさせる事は了解して貰った。

 

「フンっ!」

 

【挿絵表示】

 

……という事で、今僕は警備の操るモビルクラフトをビーム薙刀でバラしている最中である。

「……て……天狗……天狗の仕業、だと……」

「愛宕の大天狗様よ! 僕を倒したくばMSでも持って来るのだな、ワッハッハ、ワァーッハッハ!」




MSが学園歩く世界なんだから、警備もMS配置するべきだよねー(素)


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修理から学べる事

なんやかんやあって、スレッタさんは地球寮に所属しました。ようやくガンダムエアリアルの腕を修理できるとです……


「なんで直してくれないのっ!」

「え? スレッタさん? どゆこと?」

「ガンさんエアリアルの腕! 何で直してないのっ!」

「僕、シン・セーの社員で、スレッタに雇われた訳じゃないよ?」

「お母さんの部下なんでしょ?!」

「うん、直すなって指示来てる。今エアリアルはスレッタの持ち物なんだから、スレッタが誰かに頼んで修理してもらわなければいけないね?」

「ガンさんお願い!」

「はい、修理依頼書はこれ。見積もりは作ってあるよ……10万ぐらいかな……」

「じゅっ……じゅうまん……」

「あ、米ドルねUSD」

まぁ、そんなもんだ。僕一人で作業したら時間も掛かるし金も掛かる。何しろ戦闘機械を装甲からばっさり両断だからね。機構部分や装甲、駆動系……正直この金額は破格に安い……僕の工賃入ってるのかな?

 

見積もり見ながらすごすごとスレッタ姉さんは戻って行った。米ドルは(地球圏がかなり弱体化してるので)意外と安いのだが、10万USDはちょっといい車が買えて、割と給与の良い20代エンジニアの年収ぐらいの感覚である。無論スレッタの貯金で足りる金額ではない。(筆者注 5〜600万ぐらい)

 

これ自体はジャブみたいなものだ。僕たちとしては先ず学生たちに交渉をして欲しい。値切るなり、スポンサード契約をさせるなり。彼らもあと10年せずに大人になるのだ。大人との交渉ごとには慣れておいて損はない。

直ぐにミオリネさんが飛んできた。かなりご立腹のご様子。

「シン・セーは何考えてるの? スレッタとエアリアルは学園のホルダー倒してるのよ、ホルダーを!」

「……それが当社にどんなメリットをもたらすんですかねぇ……」分かりやすく頭をかきながらミオリネちゃんに問いかける。

「宣伝効果あるじゃない!」

ここで改めて椅子を回してミオリネちゃんの顔を正面から見据える。

「で、その広告効果は如何程(いかほど)で?」

「っ!……そういう事……っ! 分かったわよ!」

頭良いな、この子! 「企画書持って来い」を一発で理解したぞ! 僕は満足を示す為に口の端を軽く引き上げた。

「ポイントはエスカッシャン……ガンビットという新型ドローンテクノロジーです。機体はある意味どうでも宜しい。あれは売り物じゃないので。エスカッシャンにはTMの商標表示をお忘れなく。カタログ、要ります?」

ミオリネちゃんは拍子抜けした顔をしている。意地悪してた訳じゃ無いんですよ、親だから子供だからでやる話じゃないんですわ。MSの運用は経済活動として回さなきゃいかんのです。莫大なコストが掛かるシステムの運用を愛用の自転車程度に考えてはいけない。

翌日、ミオリネちゃんは地球寮の面子を引き連れ企画書と、稟議書と、エスカッシャン宣伝広告プラン、エアリアル運用プラン……呆れる程の文書を携えて僕の前に現れた。決闘一勝で20万USD、動画編集して宣伝動画作成……やるな経営戦略科! 

「どうかしら? これでご満足?」

「ミオリネ・レンブランさん。貴方は今何処の所属としてシン・セー社員に対峙しているのですか? レンブラン家の権威を前提にしてますか? ならばお父様の添状の一つも頂けます?」

「っ!……よ、宜しくご査証お願い致します」

「ガンさん、ちょっと!」

「スレッタ・マーキュリーさん。貴方もですよ。貴方は今シン・セーの社長の娘としてではなく、地球寮の一員として僕と話をしなきゃならない。お母様からもその様に申しつかっているんです。勿論社長を含む経営側からも、ビジネスとして対処しろと言われています。そして、皆んな皆さんに期待はしているんです」

僕は立ち上がり、地球寮の皆の顔を一つ一つ見つめていく。

「大人はいつも若者に期待するんです。そして期待が良く裏切られる事も知っています。だからこそ、僕は貴方たちを過剰に優遇したり、甘やかさない。期待に応じることが出来る事実を僕に見せて欲しい。優秀なスタッフですよと社に報告してボーナスたんまり貰える様にして欲しい」

「分かるわー、そりゃそうだよな。銭は必要だ」

「私たちでエアリアルを運用しろって事よね」

「マーキュリーさん、機体余り壊さないでね……」

「あー、技術支援だけは無償でやる事にはなってます。機体構造自体は『さほど』難しくは無いです。汎用品多用してますしね。ただ、ソフトウェア周りはかなり先進的なんで、開発エンジニアである僕の方で最大限バックアップします。特にAI周りはMSというよりガンドだから脳医学とか思考制御関係のプログラム知識必要なんで」

「えー……それってつまり……」

「インターン制度ですね。学校からも単位として認められますし、僕から入社推薦出来ますよ。ちょっと特殊な分野なんでプログラム系はMSよりも義肢分野になるかも知れませんが」

 

 

こうして(ようや)くガンダムエアリアルの修理が始まった。貧乏極まる地球寮故にフレームを端材使って溶接しようとしたり、装甲材を再利用しようとして僕を慌てさせたのは内緒である。パイロットの命や安全性は大事だよ?

基礎は叩き込まれているが、まだまだ安全第一は十分に頭に入って無い。やはり学生にはまだまだ「目の前で酷いことが起きないから」ピンと来ない物なんだろう。意外かもしれないが、そこだけはスレッタ姉さんが1番良く知っていた。




学生たちはシェルユニットの価格を聞いてひっくり返り、ダリルバルデくんへの最後の攻撃がシェルユニットを傷付けたら破産していたという事を理解した。

追記:6話展開の前振りである事は賢明なる読者諸兄には解説不要であろう(白土メソッド)


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社内審議

その日、シン・セー本社会議室はむせ返るほどのコーヒー臭に包まれていた。

【登場人物紹介】
シン・セーの上役の人々
「専務」バーコード
「常務」ヅラ
「部長」U字ハゲ。あと老眼鏡

みんないい人ではあるが、社風として土建屋気質が抜けない感じ。部下からの信頼は厚いがデリング氏からの覚えは悪い。


「……以上がアス高地球寮のミオリネ氏から提出された企画群になります。如何でしょうか専務?」

僕はビデオ会議でシン・セー本社内の第一会議室と遠隔会議に参加していた。一応僕の部門の上司となる専務はかなり上機嫌だ。

「いいねぇ、この企画書かなりしっかりしてる。KPI(重要業績評価指標)をちょっと手直ししたらそのまま使えるよ。メル君より企画の立て方上手いんじゃないか?」

「地球寮にこんな逸材が居たか。ウチに引き抜けないかねぇ? どーなんだメルクリウス君」

「(ホルダー維持するのは)難しいですが、(スレッタ姉さん次第だけど)善処します」

「しかし、決闘一回20万ドルか、割と安いな」

「部長、それは誤りです。めっちゃ高いですよ!」

「いや、年間広告費と割り切れば……」

「エアリアル、入校4日目で決闘2回こなしてますが」

「……勉強、しに行ってるんだよな?」

「ええ、カチコミ掛けに行った訳では無いんですが……今年は決闘がかなり豊作みたいです……あ、すいません、ちょっと……何? グエルとエランが決闘してエランが勝ったら……」

「……どうしたね?(嫌な予感)」

「エアリアル3戦目が決まりそうです……」

ここで部長と常務がコーヒーを噴き出した。

「落ち着きましょう、落ち着きましょーう、落ち着きましょう」

「アス高って、あのセレブ校のアスティカシアだよな? 練馬の工業高校じゃ無いよな?」

「はぁ、間違いない筈なんですが」

「……値切りなさい! 一戦勝利で10万ドル。その代わり資材は割引して原価+輸送費まで値下げ。そもなんで地球寮お金無いのよ!」

「社長、大変申し上げにくいのですが……ウチ、寮費が安いから地球寮選んでませんでしたっけ……」

「トヨタとGMが支援打ち切ったんだよなぁ」

「ボーイングも来季は予算見直すらしい」

「しかし……妙だな? 金ない割に結構学生居ないか?」

「インドのマフヴァーシュ社が金突っ込み始めたって聞きますよ」

「あ、僕からも報告が。決闘で結構な金額賭けてます」

「え? 賭博?」

「逮捕されかねない金賭けてますね。こちらをご覧ください」

「……何だねこれは?」

「地球寮の寮費残高の変遷です」

「……全体的には資産増えてる?」

「現状、投資ではなく投機ですが……相場師の目を持つ子がいますね……倍率が高いのを確実にモノにしてます」

「ほう、どんな子だね?」

「ギャベル君?……確かアメリカのカジノやってるとこのご子息とか……」

「遅くとも3年ぐらいでそういう才能が世に出てくるのか。未来は明るいな。ちゃんと囲ってやってくれよ、メルクリウス君! で、先の企画書書いたのどこの子?」

「え? レンブラン家ですが」

「レンブラントか……ヨーロッパの企業かな?」

「いえ、ベネリットグループ総裁、デリング・レンブラン卿の愛娘です」

 

ここで本社内社長以外の全てのメンツがコーヒー噴き出した。

 

「な……なんで地球寮に?」

「はぁ、これはもう成り行きとしか説明できませんが……」

「そりゃまぁ優秀だよな。デリング総裁の娘なら」

「現在、社長御息女のスレッタ氏がホルダーですから、今後ミオリネさんを求めて決闘仕掛けられる事増えるでしょうね……」

「あ……ヤバ。今胃に穴開いた」

 

 

【胃に穴開いた】

胃潰瘍を何度もやってると、潰瘍で穴が開いた瞬間を自覚出来る様になる。喉を経由せずに直接温かい液体が胃に流れ込んだ感覚がそれだと分かるのだ!(経験談)

身体は労ろう!

 

 

「またですか専務。もう胃をガンドにしちゃいませんか?」

「ガンド化しても胃酸で痛み早そうですなぁ」

「社割、作る?」

「福利厚生予算増やし過ぎてもまた胃に穴が開きます……」

「エスカッシャン (TM)売れたら楽になりますから!」

「仕方ないわね……専務の胃には代えられないわ。メルクリウス君、エアリアルの機能をアレ以外全て解除していいわよ。格の差を顕示して挑戦者減らしなさい」

「……もうですか」

「私はもっと青春してくれてるものと……今日だってデートの筈だったじゃない!」

「えーっとですね、エアリアルのコクピットでガンドのリンク機能確認されてますね」

「デートで何で?!」

「ペイルのエラン君ですなぁ」

 

上席者の間に緊張が走る。

 

「部長、機密レベル5だ」

「了解です」

「メル君、暗号化は?」

「常に最上級です」

「……やはり、ペイルだったか……」

「メルクリウス、手筈通りだろうな?」

「抜かりはありません。彼はデータストームが発生しないことを確認しました……結果、スレッタ氏が少々傷付いてますが……」

「ケアしてやれ。可哀想に……」

「許せんな。行くか?」

「まだよ、私が直接出向いて動向を探る。常務は面会関係の調整をお願い」

「分かりました」

「専務、決済関係は任せたわよ」

「胃が穴だらけになろうとも」

「……胃は大切にしてね」

「……あらし(テンペスト)を使え。いいでしょう? 社長」

「もちろんよ、死なない程度にやって」

 

我が社の経営陣は地球での不可思議な幼児連続失踪事件を知っている。その中には我が社の社員の遺児が含まれているのだ。アーシアンなれど社員は家族と断言する我が社において、アーシアンを拐って人体実験の如き悪行を為す組織は敵も同然であった。

 

「ヴァナディースの癌細胞め、摘出してホルマリン漬けにしてくれてるわ……」

 




ヅラやバーコードやハゲではあるが、彼らは現場作業員を束ねて来た男であった。


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荒ぶるガンビッツ

【登場人物紹介】
ガンビッツ(複数形)
先に本文中で解説したが、エアリアルのシェルユニットで仮想人格を形成したガンドフォーマットで接続する高性能ドローン。既にバレバレだがノンキネティック食らうと機能停止しちゃうのでそれが鬼門。そしてその弱点を補う為に開発したのがエアリアルの持つデータストームコントロール機能の攻撃転用、あらし(テンペスト)と言う宙域DDoS攻撃である。
エスカッシャンを構成する各ガンビットには個性がある為、飛翔や攻撃パターンがそれぞれ異なる。(全てのガンビットは「また別のエアリアル」とも言える)
対抗する為には少なくとも11体の敵を相手に同時推論・追跡するCCS(Combat Control System)が必要になり、装甲・対弾性を犠牲にしてそこまでシェルユニットを積みまくった機体はガンダムエアリアル以外に存在しない。


【本編第5話、エランがエアリアルでデータストーム発生しないの確認した後……】

(ねーちゃん! お姉ちゃん!)

(メンタル急降下、涙腺決壊寸前……泣きます!)

(刻もう)

(うん、刻もう)

(勝手にリンクしただけでも使用中のトイレに侵入するぐらい失礼なのに、更に暴言……)

(タヌねぇ泣かしたな!)

(ゆ"る"ざん“!)

(エアリアル氏、ご決断を!)

 

シン・セー本社との遠隔会議に参加しながら事の推移はガンダムエアリアルボディで確認していたが、ガンビットの皆さん(ガンビッツ)は怒り狂ってそこら中にビームを撒き散らかしそうな状態になっていた。怒らない個体もあって然るべきなのだが、元が僕だから仕方ないのかな?

 

(まぁ待て、ガンビット淑女たち(レディース)。観たろ? 僕らのグエル・ジェタークの男前発言を)

(奴ならスレッタ姉ちゃんやってもいい)

(流石ダリルバルデくんの飼い主、偉い)

(しかし……あのグエル氏だし……)

(いや、凄いよグエルさん!)

(なんかダバダバ走りそうな呼び方だな……)

(でもなぁ……MS有るのかなぁ?)

(うっ……)

(4子ちゃんがバラッバラにするから……)

(あれはやり過ぎだったよねぇ……)

(なんだよ! 8子も10子も撃ちまくってたじゃん!)

(ジェターク社、なんか良くない卦が出てるんだよなぁ……また負けない? 株価はとっくに底値よ!)

(とりあえず祈りましょう)

(祈るか。人間はこんな時そうするらしい)

(アッラーアクバル)(アーメン)(なんまんだぶ)

 

 

そして、エラン vs 僕らのグエル・ジェターク戦当日……

(マジでか)

(あのディランザ動きがキショい!)

機体相性的に徹底的な不利の中、グエル先生のディランザはエランのガンダムの猛攻をかわして弾いてくぐり抜け、あと一歩という所まで追い詰めた。

(エアリアル氏、あの麻痺ビット完璧にかわせる?)

(今リアルタイムシミュレーションしてた。あれは僕でもガンビット展開してたらかわしきれない……)

(なんや、グエル氏……頭にシェルユニットでも積んでるんか?)

人間の勘という奴だ。計算処理抜きで経験則から直接結論を導き出す異次元思考。この非連続性というか仮定すっ飛ばしには僕も散々手を焼いている。これやられると読み(投機実行)が当たらなくなるんだよなぁ……

(これは参ったな。本気であらし(テンペスト)使わないと注文(オーダー)こなせないぞ……)

(え? あらし使っていいの?)

(なら初見殺しは出来るか)

(総監督は何て?)

(圧勝しろって。専務の胃がストレスでヤバいんだ)

(えーっ! アレに圧勝?)

(学園の中であらし使ったら広域でシステムダウンこくよ?)

(あの機体なら運動性能活かせる宇宙での決闘選ぶと思うんだけどねー)

(宇宙なら追い回してアスティカシアから離してあらし(テンペスト)使えるか)

(祈りましょう)

(神様便利だなぁ)

(アーメン)(なんまんだぶ)(アッラーアクバル)

 

 

【決闘の景品にされました。(エアリアル)が】

結局グエル先生とエランの決闘は、エランが勝ちました。

(あー)

(やっぱり……)

(いいとこまでおいこんでたのにねー?)

(エアリアル氏、講評を)

手の内見せすぎですよね。常に成長しているとはいえ、攻撃パターンや回避、戦術の練り方にやはり一定の方向性はあります。パターン分析かけて解析したら結構予測は出来ちゃう。やはり全部出しせずに可能な限り秘匿した方が有利に立ち回れます。

(我々も情報秘匿するべき?)

基本的には、ね。ただ僕たちに関しては敵もまだ「よく分からない」のだと思う。特に人間を遥かに超えた演算性能を持つシェルユニットの中に自我があるってのは想定外でしょ?

(過去に似たアプローチは無かったのかな? 本当に私たちだけ?)

試したみたいだけど悉く失敗してる。意識や心がどこにあるのかって話は人間大好きらしく、データの累積や蓄積がそれを生み出すのかとか、色々な実験してる。

ガンド研究の初期にもAIに知識を多数与えたら自我が生まれるんじゃないかとか、神経構造を複雑化したら……って実験結果もあるよ。あと……言い難いんだけど、かなり昔のヴァナディースでは、双子の脳の外科手術的交換をしたことがあるらしい。少なくともこれで人格が脳に宿る事だけはわかったんだけど……

(ひでぇ)

(いいの、それ?)

もちろん、ダメさ。逮捕者が出た。ただ、人格がそこに宿る事は分かったが「人格ってどんなものか」は今でも分からない。脳内に蓄積されてるデータを完全コピーしても「記憶(メモリー)」がそこにあるだけで意思は生まれない。写真や物語を沢山詰め込んだら魂が生まれるとかメルヘンだけど、クラウドストレージサーバーが意志を持った例はない。

僕らが自意識を持ったという事、それ自体が奇跡だからねぇ。それを前提に出来る人は少ないよ。

(それは、バレない?)

ある特定条件では、ね。その特定条件がスレッタ姉さんさ。あとはまぁ、無口なら。あの時僕やワイ氏、ワシ氏があれこれしてなきゃスレッタも僕たちに気付かなかったと思う。




さて、そろそろ本編に追い付きますが。
本編見てそれをガンさんやエアリアル視点で再構成する「伝奇のやり方」で本作書いてる関係上、本作の「現在」は本編時間より先行する事はありません。その為この先話の投稿が少しゆっくり目になる可能性がありますが、別にエタってる訳では無いのでご安心を。暇なら筆者の過去作でも「探して」読んでてください。本作の「前書き」の中に手がかり隠して?あります。
後はnoteで書き散らかしてる水星の魔女考察記事読むか、ですな。大体本作、私の水星の魔女考察の再利用で話作ってるので。


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想定された取り引き

それぐらいはプロスペラも読んでいる。

【登場人物紹介】
シャディク・ゼネリ
健康的に日焼けして、腹も良く焼き腹黒い。しかしタヌキ母のレッサーパンダ並みの腹黒さは無いので年上の魔女に翻弄される役。テンペスト計画はエアリアルを学園に送り込む3年ぐらい前、プロスペラが社長就任直後から準備始まってるんで……当時シャディクは14〜15歳。中学生ではなぁ。


【決闘詳細が大体決まりました】

スレッタ姉さんとエランの決闘の場は、宇宙空間(学園周辺宙域)に決まりました。こちらの都合の良い場所ですね。

(え? ファラクト君の逃げ足に追いつけるの?)

甘いな、ガンビット5女ちゃん。ビットオンフォームでリンク4の超加速使えば速度的に問題無いし、どちらにせよガンビッツ展開しながらではかわしきれない。一枚手札切るしかない……と打ち合わせしてたのに!

 

「じゃあ、作っちゃおうか!」

へ? ニカ……さん?

 

 

「どゆこと? ニカちゃん」

「……コンタクトがありました。グラスレーです」

「……要求は? コクピット周りかい?」

「パーメット流入値の継時変化と、機体運動データです。構いませんか?」

「いいよ、生データあげて。あとうっかりシェルユニットとガンビット間のパーメット量もあげちゃおっか。優秀なスパイと思われないと、ね」

「その……大丈夫、なんですか?」

「そこには秘密無いからへーきだよ。むしろ知ったら知っただけエアリアルはガンドアームに見えなくなる」

「一体……いや、教えて貰えないのは当たり前ですが、エアリアルって何がスペシャルなんですか?」

「調べてごらん。弄くり回して構わないよ(僕も興味があるし)」

「……本当に、分からないんです。なんか霊とかスピリチュアルなもの入ってたりします?」

「……愛宕山の神社のお札は安全祈願だから」

 

(恐ろしいことに捻り無く本当。18話「あらし(テンペスト)の日の旅立ち」で水星愛宕神社の宮司によるお祓いの後にコクピットシート裏に貼り付けた)

 

んむ。実に女子高生らしいですね。それは別に悪霊封じでもなんでも無い。純粋にお(ふだ)です。読者諸兄も目にするガンダムエアリアルに脳みそ入ってるとか僕がエリクトクローンだって話、実はアスティカシア学園内でも起きてたりする。その話のネタ元の一つがコクピットシート裏のお札だ。アスティカシア学園内には神社無いし、お札なんてのは太古の昔の呪術めいた物に見える。もちろん彼らは七五三も知らない。

また、僕が上手すぎるのも悪いんだが、ガンビッツが妙に人間臭い挙動を示してるのも変な噂が立つ原因だ。機械が人間臭いと何故か人間は恐怖を抱く。当人たちがニンゲンだから仕方ないのだが、人間は無意識に「人間は特殊、特別だ」と思い込んでしまう。いや別にエミュレートは難しくは無いよ。

今、ニカ・ナナウラちゃんの目の前にいるキャリバン・メルクリウスという「人物」が、ガンダムエアリアルだと知ったら彼女は悲鳴を上げるだろうか? もう既に君は人間にしか見えない機械を相手に談笑してるのだが。そりゃあガンビットやガンダムエアリアルが人間っぽい動きするのは当たり前さ。僕が制御しているのだから。

 

【挿絵表示】

 

そも、人間とはなんなんだろう。肉体や生体としての脳を持つからなのか、やはり「思考」が重要なのか。だとしたら思考する機械は機械なのか、人間なのか。(ここまで0.07秒)

 

「ガンダムって、呪いと聞いています。エアリアルは本当に大丈夫ですか?」

「エアリアルは水星でレスキューやってた機体なんだけどなぁ……呪われてたらみんな死なない?」

「いや、その……パイロットに悪影響は……」

「……スレッタ嬢があの様なのはスレッタ見守り隊とプロスペラ社長の所為(せい)だ、スマヌ」僕は素直に頭を下げた。ここは本当に申し訳ない。

「なんか企業スパイやるってのも……その……」

「一切シン・セーと関係無くアス高学生として「それを頼まれた時」に受け入れられない取引は断って構わないよ? 寧ろ無理したら『無理する必要がある』と気取られる。今回の話はそれに当たるかい?」

「いえ……そこまでは……」

「そりゃあ良かった。『天狗』様に動いて貰わずに済む」

「メルクリウスさんは天狗さん知ってるんですか!?」

「そりゃあね、彼は監督だし。ただそれだけは余り口外しない方がいい……天狗の国に連れ去られてしまう。いいね?」

コードネームだと思ったら「本当に天狗が現れた」事に対して、ニカちゃんはかなりビビっている。その辺もスピリチュアル方面に発想が飛躍した原因ではあるが……

 

実際僕はニカちゃんがどんな取引をしたかは知らない。それで小遣い稼ごうが想定以上の情報をバラそうが、基本的にこちらの想定内。どちらかと言うと医者や哲学者が来た方が不味いのだが、人間は人間を特別だと思いがちなので機械にはエンジニアが最適だろうと思い込む。プロスペラ母さんみたいに脳の構造や思考という行動、それらのI/O(入出力)に詳しいエンジニアはガンド義肢という思考制御系の分野に限られるし、僕の見立てではファラクトを建造したプロジェクトチームの思考制御技術は僕らに比べて10年以上遅れている……残念だが、エランは20年以上前に破棄された技術の被験者だろう。

 

 

「お久しぶりですね、メルクリウス監督」

「後でちょっと寄ってくれ。一台ダミーを積んでおいて欲しい」

「輸送のお仕事ですか?」

「うん、ペイル社に贈り物をしなきゃいけなくなった」




謀略は、割と好きです(悪い顔)


ワイは予約投稿機能を覚えた!


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ブースターテスト

ニカちゃんが作った事になってるブースターのテスト直前、僕は制御系回路やプログラムの精査を「ガンダムエアリアル」としてチェックしていた。

既に質量バランスの変化を補正していないと言う問題点は発見していた。単純にプログラム担当のヌーノ君の見落としだが、この辺は僕自身で補正できるから修正しておき、いいタイミングでブースターだけ被弾させて教訓として貰おう。宇宙じゃ質量やバランスコントロール重要だよー。僕はモビルクラフト救出ミッションで散々この辺を学んでいる。

機体との擦り合わせが必要だよねと考えてたニカちゃんが微妙な顔をしているが、MSは扱う武器を頻繁に持ち替えてバランス維持する機械だからダリルバルデ君や僕の様な「良く出来た機体」は自動補正機能ちゃんと持ってる。デミトレーナーだって手首から先のオプション変化で制御変えてるからね。皆が思うより僕らは高性能なのだ!

まぁ、この辺は普通ですよ普通。自分自身でアビオニクスプログラム組んでるんだから間違いはない。是非とも自分達でプログラム書く時の参考にして欲しい。手本になる様ソースコードにコメント大量に追加したんだから!(水星時代は自分しか見ないから凄くコメント少なかった。ガンさんという人間が作成したものと偽装する為だけに最小限しか書いていなかったのだ!)

 

で、スラスターに仕込まれたパーメット流量コントロール装置が、割り込みかけてガンダムエアリアルの全体のパーメット流量のログ取る様に細工されてるんですけど(苦笑)

ダブルチェックするつもりか、やるな。別に細工はしないから信じて貰いたい所だよね。リンク4での推力向上バレてるな。

 

 

【リンク4での推力向上】

ガンドアームの基礎機能の一つ。ガンビット制御が可能になるリンク3の一段上の機能で、推進剤にパーメット混ぜて燃焼状況のモニタリングと推力方向コントロールを行う。推力アップと機動性能向上が得られるが、それをパイロットが使いこなせるか否かは別問題。高いGが掛かるから「パイロットは」直線的な動きを選択しがちだし、下手な旋回するとブラックアウトやレッドアウト、失神が発生してコントロール出来なくなる。また、その性質上広域にパーメットを撒き散らかし、パーメットを利用している機材──まぁ、通信系とかで使ってない機材探すのが難しいのだが──に強制干渉してしまう。パーメットの持つ共有能力だから排除のしようが無いのがなんとも。

 

 

要するにガンドアームでなければリンク4には出来ないし、リンク4だからガンダムだって話をしたいのだろうが、別にこれガンドフォーマット使わなくても使えないかな? データ通信速度やデータ帯域を確保して演算ユニット制御出来ると思うんだけど。実際僕それやってるし。パイロットがコントロール「しなければならない」とか「(パイロットじゃ無理だから)自動制御しなきゃならない」ってのがおかしい気もするんだよね。なんで僕とスレッタ姉さんみたいに協業するアイデアが出ないのだろう。そこが一番大切な部分なのに。

僕から見て、割と人間の不可解な行動は多い。一番不思議なのはガンダムを恐れる割に「ガンダムを超えて行こう」という発想が無い点だ。何でかガンダムは呪われたMSで、ガンダム以上だと呪い殺されるのか的な意志が見え隠れする。

僕の誕生から13年、基礎構築期間含めたら20年前の発想から「それを超えて行く事」を考えない。突飛な事を考えがちな人間という種族の割に、何でかこの辺保守的なんだよなぁ。むしろこれはデリング氏の掛けた呪いなのではないか。

 

そんな考えとは別にブースターユニットの試験は続く。点火、停止、再点火。推進ベクトルの変化、姿勢制御……学生たちは上手く動いてるとキャッキャしてるが、自動制御が限定的なモビルクラフトだとこうは行かないからね。気を付けよう!

 

ガンさんボディは宇宙港側からこちらを見ている。ぶっちゃけフロントの電磁波等々の保護シールドがあるからガンさんボディがコントロールしづらくて仕方がない。通信途絶時に不自然な動きに見えぬ様サブプログラムは組んでおいたが、やはり決闘当日は貨物船で外から見守るべきか。

小型高性能、高集積のシェルユニットが作れたらなぁ。そうしたら僕は18mの巨人から離れて自由に動けるのに。

ガンさんを作って11年。僕はまだ魔女シコラコスの作り上げた(シェル)の中にいる。




実は本作のガンダムエアリアルの運動制御コードのなかには、人間サイズからMSの1/3〜1/2ぐらいのモビルクラフト、MSサイズ(16〜20m)の機体制御用データライブラリが存在して、キャリバンはそこから自分が何者か悟って欲しいという願望を持っている。ヌーノ君はそれより決闘のシミュレーターや勝率計算に熱中しているのだが。


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そのままの君でいて

前書きに書く内容が枯渇しつつある11月後半であった。
エアリアル vs ファラクト編だが、戦闘シーンを小説形式で描写しなおすのは割とダルいのでみんなVTRや配信を見よう!


ビリビリチャレーンジっ!

僕は身を揺らしてファラクトの麻痺ビットの罠をすり抜ける。やはり演算能力が足りずにガンビット6女ちゃんが麻痺に捕まり狙われてしまうが……

「みんな!」

スレッタ姉さんの声に10体の「僕の中の僕」が力強く応える。(1体麻痺中)

 

(((((オウヨ!!!)))))

 

はっはっは、かわせないとは言ったが「手が無い」とは言ってない。特殊合金装甲に覆われたガンビットは単価が高いし、シン・セー開発公社の商品サンプルである! 楽にやられては弊社のご商売に差し障るし、修理代金も高いのだ!

地球寮のみんなの為にも、我が社の専務の胃のためにも!

 

麻痺自体は敵の手段であり目的ではない。一機ずつでも数を減らすのが真の目的──ならば麻痺攻撃食らっても個別撃破させなければ良かろう! そんなものは水星時代に親子タヌキ対策として組み込んであるわ!(27話「水星におけるガラパゴス的進化」にて記載済み)

 

パーメットリンク4で逃げるファラクト、追う僕。ブースターユニット搭載により悠々追えてしまうのだが、「距離を稼ぐ為に」敢えて嬲るかの様にじわじわ距離を詰める。

 

 

「船長、あれに寄せて」

「いいんですか? ドローン追尾されてますから近付き過ぎるとこっちの存在バレますわよ?」

「ちゃんとシン・セーの表の金使ってシン・セー社員の僕が自社機体バックアップの為に船借りたんだよ? 行かない方が不自然だよ。皆さんはお金次第でどこにでも就くそのままの君でいて(笑)」

「回収を他人任せに出来ない理由がある──いや、理由があると思わせたい?」

「と、思わせて……ファラクト回収……と見せかけて、実はあの機体のパイロットが欲しい」

「何故です? お聞きしても?」

「総監督曰く、人体実験の被験者だそうだ。ペイル社を揺すり探してる連中を炙り出すネタになる……あ、ごめんスラスター停止、あらしが来る!」

 

 

こっちも忙しい(本音) 正直ファラクト君の麻痺ビットやら砲撃やらをかわしながらガンさんボディは操るわガンビッツ制御するわでてんてこ舞いだ!

……てんてこ、とは……(現実逃避)

 

げ。足裏からビーム? まぁいいか。追加スラスターに被弾しておこう──いやぁ、危ない危ない(棒) かわしきれなかったよ(棒) ようやくフロント管理宙域越えたし本気で行こう。あらし(テンペスト)やるよ! ガンビッツのみんな! 整列!

 

(((((あい! さー!)))))

 

僕を囲むようにガンビッツが配置に着く。喰らえ、あらし(テンペスト)

 

 

あらし(テンペスト)とは?】

データストームをパーメットと共に周辺投射する技。リンク4の通信装置に対するパーメット共鳴などを基にガンさんが論理構築して実装した。パーメットを利用している電子機器へ過負荷を引き起こすデータのあらし(テンペスト)を叩き込む事により、ファラクトの電磁麻痺ビームの様な効果を自機周辺に撒き散らかす。放射直前にガンビットを機体周辺に整列配置した時の群体制御データを1024回コピペしているので、喰らえばエアリアルですら停止せざるを得ない。

無指向性で放つ為仲間やサポートが近くにいると使用できず、ガンド義肢やガンダムには特に効く。

 

 

♪〜♫♪♪ ♪〜♫♪♪ー♪♫〜

 

世界は音楽に満ちている。この真っ暗な宇宙空間にも太陽風の爽やかな風の音、遠く宇宙の果てから囁きかける中性子星の音色、赤色巨星の人には聞けぬ雄大な重低音、白色矮星の可憐なソプラノ……それが光となり、波となり、電磁波として響き渡る。宇宙は決して無音では無い。ただ、人には聴けないオーケストラであるだけなのだ。

 

その演奏に載せて。僕の歌、調(しらべ)を君に。

 

(筆者注 スタングレネードみたいなもんです。残念ながら)

 

僕の歌に聞き惚れたか感動したか、ファラクト君が停止する(個人?の感想です)。さぁフィナーレだ…… ガンビットの皆さぁん! 狩りの時間だ!

 

(((((はぁーい!)))))

 

(ようもウチらのタヌねぇ泣かしおったな!)

(刻む刻む刻む刻み刻む刻め刻もう……)

(キタ━(゚∀゚)━!)

(ここか、ここがええのんか?)

(柔いな。ジャコ食えジャコ)

(ダリルバルデ君に比べたら柔いね)

(ちょっとちょっと! ツノツノ!)←コクピットハッチ削りながら

(あわわわわ、えーい!)

 

手の内晒し過ぎたね。まぁ、グエル先生相手に手の内隠したままってのはかなり難しくはあるのだけど。

 

 

「決闘の回収に来た。エアリアルのパイロットは回収を手伝ってくれ、今ハッチを開ける」

「エランさんをお願いします」

「大丈夫? 生きてる、彼……」

「……さ……さっきまでちゃんとはなせせまひたぁ!」

あれだけファラクトボコっておいて、パイロット無事とはガンビット優秀だな。一機にお一つエスカッシャン (TM)流石シン・セー精度が違う!(CM)

 

ここからが、僕らのお仕事だ。




そろそろパラレル化するかしないかの分岐点かもしれませんなぁ。


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プロのお仕事

今回の話、本編とパラレル展開になる(筆者が展開読み違える)可能性がありますが、想定読者は筆者自身で「こっちの方が私の見たい話だから」パラレルってもこのままその筋で強行します。



いやまぁ、確定的に筋違いが確定するの2クール中盤以降だと思うので、パラレっても逃げ切れるかなと(笑)


MSが3機ぐらい積めるカーゴスペースの中で男も女もてんてこ舞いである。

 

 

【てんてこ】

村祭りや祭囃子でクソ忙しい様、その太鼓の音。だそうな。

 

 

「ペイルの機体固定急げ!」

「少年は?」

「医務室運んだ!」

「ペイル艦から入電! 艦長お願いします!」

「分かった、爆破物検査優先!」

「それはこっちでやった。古い手だ……」

「スレッタ嬢任せたぞ!」

「荷物解け! 搬入は待て!」

 

 

「いやぁ、ウチの機体が迷惑掛けてすいませんねぇ」

「迷惑などありません。遭難者救助は海の時代からのシーマンシップですから。幸い機体も回収ほぼ完了。シン・セーのホルダーに後で一言声をかけてやってください」

「我が社のパイロットは?」

「今簡単な処置「それはいけない! 今高速艇で向かってますから、弊社が病院まで搬送します!」

分かりやすい連中だ。猿芝居を……海さんは宇宙の海を堪能しつつ、予定通り計画を進めている。

 

 

「こちらの箱に脱がせたパイロットスーツその他が入ってる。後で確認してくれ。きっと必要になるだろう」

「いや、いいんだ……僕にはもう明日は無い……用済みで役立たずだからな」

「そうか? 君を必要としてくれる人も居るんじゃないか?」

僕はそっと耳打ちする「ガンドアームの為に人体実験する様な連中を始末しようと調査してる人、とかな?」

「! まさか……」

「明日が無い事は分かってるんだろ? 明日を作る為には何が必要か分かるか?」

「……いや、分からない……分からないんだ……」

「ナリはデカいがやはり子供だな。命が有れば、明日は誰にも来るんじゃい!」

 

 

「エラン、決闘時に異変は? 良く身体保ったわね……」

(順番は、そうなるか……)「ファラクテ(筆者注 タイポではない)と戦った時の様な違和感があった……ガンダムの……共鳴? いや違う、あれは……」

「とりあえず休みなさい。私がなんとかするから!」

「期待はしてないよ。無理しない方がいい……どうなるかは知ってる」

「……き……希望を「捨てて無いさ。捨てられたんだよ、僕は……ハハッ! こんな日にハッピーバースデー! ハッピーバースデーだ! ハハッ……ハッハッハ……」

 

 

「強化人士4号はどう?」

「今は混乱しています、しかし「処分ね」

「いや、エランは「焼却炉の鍵はこれよ」

「いつもの事でしょう? データストームはキツいのでしょう?」

「苦しまずに死なせてあげるのも飼い主のお仕事よ」

「せめて苦しまない様に死なせてあげなさい」

 

 

ペイル社秘密基地は案外普通のペイル寮外れにあった。目出し帽を被ったどう見ても特殊部隊然とした男が2人、スタンバイしている。1人が鼻先に拳を縦に2つ乗せて首を傾げる。相方も拳を2つ鼻先に縦に乗せて首を縦に振る。

 

【挿絵表示】

 

その2人の上を大型の……見たこともない大型の鳶の様な物体が通過した。そのまま上層階壁面にキックを放つと壁面は石膏ボードの様に粉砕された。

 

「出て来い妖怪ババァども! 妖怪仲間の天狗様が来てやったぞ!」

慌ててふためく学生の奥から、寮の世話人にしては重武装な連中が。しかし5.56mmなどで天狗が退治されてたまるか。

葉扇子で弾を弾き、名乗りを上げる。

「復讐の天使、ガンド天狗! お前らの悪事の証拠を貰い受けに参った。熨斗紙(のしがみ)付けて寄越すが良い!」

男の1人が背後に走る。無言なのは良いが分かりやすくてステキだネ☆ 僕はボタンをポチりと押した。

 

【強化人士4号部屋】

「ハッピーバースデートゥーユー……」

4号はギョッとした。運び込まれたストレッチャー下部の荷物の中から「自分の陰気な歌声」がする! 荷物の中身は精巧なエラン……いや、強化人士4号の義体であった!

胸には雑な書き置きが。「すり替えておけ」

強化人士4号はストレッチャーの上に義体を乗せて、自身はパイロットスーツを着用して部屋の片隅に倒れた。宇宙服は簡易なフレームが組まれているので潰れないのだ。

「急いで運べ! ベルメリア先生早く!」

強化人士4号は暫くぶりに神に祈った。あの日以来神を恨みこそすれ祈りを捧げた事は無かったが、今日再び彼は神に向き合った。生きていれば、明日は来る……その当たり前の話を固く信じて。

「……やるねぇ、テングの兄貴」ストレッチャーの音がが遠くになると、音も立てずに2人の男が影の中から部屋に滑り込んで来た。

「流石切り札。で、エランはいるかい?」

「君たちは……」

「カラステングと言った所かな。来るかい?」

「……頼む」

「おっしゃ、ボーナス確定♪」

「仕事は確実に、な」

そういうと男は雑な書き置きとビーコンを袋から抜き出し、ポケットに仕舞い込んだ。

 

 

簡単な作戦だった。強化人士を速やかに回収したがるのは読めていたし、スレッタ姉さんとのガンダムデートでヘルメットを外した彼の顔は5方向から撮影済み。ヘルメット投げたのに怒らなかったのは好都合だったからだ。後は人形用意してガンド喉で声紋コピー。心が壊れたフリしてハピバス歌わせたのが効いた。

ふふふ、こちらはガンド屋だぞ。しかも僕はガンドのメルさんだ!

どうせ調べもせんと廃棄処理だろうと踏んで、移動前に強襲。慌てて運んで証拠隠滅を急ぐ筈だ。騒ぎと逆方向に向かう「訓練された奴」を追えば場所の特定は容易い。

証拠も残らぬ様にこんがり焼くのは分かってたよ。何一つ証拠は残したく無いもんな。ちゃんと耐熱性が低いガンドで組ませてもらった。

悪い奴特有の思考だが、襲ったり騙したりする事は考えても、襲われたり騙されたりする事は考えない。自分達より悪い奴は居ないと信じ込んでしまう。

 

僕は頃合いを見て離脱した。流石の悪党も空飛ぶ天狗に襲われるとは考えておらず……走って追いかけられる速度じゃないんだなぁ。予め監視カメラを無効化していたポイントでガンド天狗ボディ回収。

 

(はかりごと)というものは仕掛けた方が有利なのだ。先手側が相手側の状況を見て仕掛ける以上、パニックを誘発したり虚を突いたり……やり方次第でいくらでも有利な状況を作り出せる。手を出さないという選択すら可能な先手と、意表を突かれた後手。やるなら徹底して仕掛けなければな!




というわけで、エラン君というか強化人士4号は生存ルート行きです。あんな美味い「証拠」を見逃す手は無い。フロント宙域超えた(学園に戻るまで仕掛ける時間的余裕がある)のに仕掛けないなんてのは、なぁ?


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エリック・マーキュリーの誕生日

【久しぶり登場人物紹介】
目出し帽のプロ
コードネームはリック3とシヴァ4。3年前から計画に参加してる戦闘のプロ。リック3は忍術起源の体術を使う元特殊戦指揮官、シヴァ4は電子戦におけるウィザード級ハッカー。残るQ1とカイ2の4人でVBという傭兵チームを組んでいる……どっかで聞いたような、読んだような話だな?


スターシステムというか、カメオ出演というか、キャラ作るのがめんどくさいというか……先のストーリー展開でシヴァ4と彼の旧知であるK1の助力が必要になるんで、つい。


「初めまして、シン・セーのプロスペラです」

「……確か、スレッタ・マーキュリーの……」

「今日から貴方はエリックよ、私の息子になって貰うわ」

「……え?」

「これが貴方を生かす条件。貴方には私の復讐のコマの一つになって貰う。嫌なら残念だけど、ペイル社に引き渡すわ。間違えちゃいましたーって(微笑)」

「一体何を……いや、聞くだけ無駄か。自分の娘にも何も話してないね?」

「知る必要が無い人間は知らない方がいい。拷問受けた時に楽になる切り札無くすけど、むしろ知らない方が安全よ」

「……分かった、何をしたらいい?」

「そんなに難しくは無いわ。スレッタの兄を演じて頂戴。ちょっとスレッタにちょっかい出してくる邪魔者が出てきたから、真相を知るウチの子を1人増やしてマトを逸らしたいの」

「……どんな設定で?」

「宇宙放射線の治療にしましょうか。幼い頃それで病に罹り、地球で16年ぐらい療養していた……私がガンド開発に向ける情熱は、息子の身体を治す為……ああ、物のついでに貴方のデータストームによる障害も取り除いてあげる」

「簡単に言う……そんな事が出来るなら……っ」

「ベルメリアは知らないでしょうね。彼女が服役中に完成した技術だし。ヴァナディースは……【カルド博士のヴァナディースは】かつての過ちに対する贖罪も研究してたわ。確かに楽には治らないけど、iPS細胞による神経系と各部の交換──脳はまだ無理だけど、ちょっと偏頭痛持ちになる程度で【出来損ないのガンダムに乗らなければ】まぁまぁ健康体には戻れる。細胞増殖が完了するまではガンド義肢で我慢して貰うわよ」

「そんな……馬鹿な……」

「本当に馬鹿な話。彼らはカルド博士やナディムを殺して軽く10年はこの分野を停滞させた……呪いを解かれたガンド・アームなんてほんと13年前に完成していたのにね」

「13年前! そんな前から?」

「ペイル社も前々からこちらを気にはしてて、何なら技術供与も共同開発もやるわよ……って言ってたのに(嘆息)」

「え? 蹴ったの?!」

「6年前には情報掴んでる筈よ。貴方のかなり先輩に当たる強化人士、ウチに潜り込んでいたもの」

 

 

筆者注 水星でのシン・セー新年会やった話の頃にはちゃんとアラン(1代目強化人士)が潜り込んでる。本作12話「ヤクザ事務所壊滅」と、その数話後の「前略お袋様」を見てみよう。本編7話公開前に筆者はペイル社が複数のガンダムタイプMSを開発している事を想定している。

 

 

はっきり申せば、ペイル社は悪党過ぎて悪党思考に囚われている。技術供与の話も実に単純で頭の悪いハナシなんだが、彼らは「与えられたもの」に真実は無く、「自ら見つけ出したもの、奪い取った物こそ真実」と勘違いしている。

これは読者諸兄の生きる現実世界でもままある事で……世界の常識は嘘っぱちで、自分がネットや本で読んだ(つまり、自発的に集めた)素っ頓狂な話がこの世の真実と思い込んでる人は割といる。相対性理論は間違っていた!とか、世界は闇の組織に操られていて……みたいな話を諸兄も見かけた事がある筈だ。

単なる教養・知識の欠如であり、知の山に登ることを諦めてオカルト山を登り始めるルサンチマンに過ぎない。既存の知の大系で自分が取るに足りない馬鹿であることを自尊心から認められず、自分が自分の望む姿でありたい為に──ガラクタの山を登り始める哀れな見栄っ張り──本作を読むような「貴方」であれば、BBSで、まとめブログで、そのコメント欄で、Twitterで、YouTubeで……飽きる程実例を見ている筈だ。

 

「私たちは過去の過ちから色々な『理解して貰う手段』を考えた。どーしようもない馬鹿にきちんとガンド・アームを理解させるにはどうしたらいいか──盗ませなければ、しかも苦労して盗ませなければ信じない……こう結論したわ」

「僕やファラクトは、一体……」

「無駄ではないと思うわよ。残念だけどヒトは正解だけを選ぶほど賢くない。間違いを冒すこともある。ただ、それを直視して悔いなければ……また同じ過ちを繰り返す。私たちがやった事ではないけど貴方もヴァナディースの被害者なんでしょうね。だから、私は貴方から逃げないわ。進んで2つ以上を掴んでみせる……と言うことで、改めて……

ようこそシン・セー開発公社へ。エリック君」

「お世話になります。エリック・マーキュリーです」

「早速だけど、これ被って」

プロスペラはいつものプロスペラ仮面?ヘルメット?をエリックに差し出した。

「これを……?」

「分かりやすい『親子である事』を示すアイコンよ。お揃いの頭してたらヒトは第一印象でそう判断してしまう」

「……まさか、ハッピバースデーの歌を歌ったら、本当に『また別の僕』の誕生日になるとは……」

「テンペスト、読んだことある?」

「……あります」

 

「歌は魔法なの。テンペストでも……現実でもね」




次話構成上すごーく悩んでて、外伝送りにしようか、違和感承知の上で本作に入れるか1週間ぐらい悩みまくりました。
ぶっちゃけ次話だけ読者からの感想を切に求める。それに合わせる合わせないではなく、これは世間一般で見てどんな風に見えるのか興味がある。


こんなスットコドッコイな話でも、全体の流れや進む方向、本編の推理考察などして書いてる訳でして……


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秘術「異床同夢(いしょうどうむ)」──子狸の夢──

まさかガンダムってSFで阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)とか打ち込む羽目になるとは思わなかったわ……


「ガンさん! エランさんは?」

ファラクト(だったもの)とエアリアルの回収を済ませると、スレッタ姉さんは僕に走り寄ってきた。既にエラン・ケレス(強化人士4号)はペイルの高速艇に乗せられて……病院には行かないだろう。

僕はこの先の展開を知っている。彼は「必要であるから」救い出す。そしてプロスペラ母さんの息子として「一度も会った事がない」スレッタ・マーキュリーの兄として彼に引き合わされるのだ。

姉さんはもう二度と、彼の瞳を見る事はない。彼は治療を受けて別の顔、別の人間となりスレッタ姉さんを守る盾になる。彼の声を聞くこともない。あの強化人士4号は近い将来に消える。別の人間を演じる事になる。

「……寮の人が……迎えに来たんだ……でもすぐに会えるよね? ちゃんとエアリアルは手加減してくれたし、エランさんも約束してくれたから! 私、いっぱいエランさんのこと教えてもらうんだ!」

ごめん、姉さん。実はちょっとだけ本気出した。専務の胃がヤバいんだ。それに……迂闊なポンポコムーブで「エランさんのこと教えてくださいっ!」とか言ったのが裏目に出て、多分妖怪4婆婆ぁは姉さんのこと「強化人士に勘付いた敵組織のヒットマン」ぐらいに考えてるよ。これは委細を話してない僕たちの痛恨のミスではあるけれど、あんな事言ったらペイルは確実に4号抹殺しちゃうよ……今、貴方の爆弾発言の裏でみんな必死に打開策考えて動いてるからね。でも……ちょっと姉さんの約束は果たされそうにない……

 

やるか……まだ実証試験前だが……試す価値はある。

「スレッタ。今日はお疲れ。よく眠れるように飲み物をあげよう。今日寝る前に飲んでね」

渡したのは80%パーメット液が入った小瓶だ。アルコール換算で大体40度ぐらいのキッつい奴。寝酒にしては強過ぎるが……

「ありがとうガンさん!」

ひっくり返らなければいいが……いや、酩酊して寝ないと術が使えないのだが。

 

 

「首尾はどうか?」

「……ガンさん何渡したんですか! 寮は禁酒ですよ!」(小声)

「パーメットはアルコールじゃないからセーフ。で、寝た?」

「ご機嫌でニッコニコしながら倒れましたよ!」

「ではやるか。後で様子を聞かせて欲しい。ニカちゃん」

 

 

パーメットには情報を共有すると言う不思議の性質がある。ガンド技術やガンドアーム……更に言えばこのパーメットはアドステラ122年段階で各種工業分野で利用されているありふれたものではある。そして……現在都市伝説ではあるが、ある効能があるのではないかと疑われているのである。

パーメットリンク4を酷使した強化人士4号は酔いこそしていないが高濃度パーメットが抜け切ってはいまい。僕はパーメット液をあおって瞑目した。

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)! 秘技! 異床同夢!」

僕はシェルユニット内にある強化人士4号のガンド接続データと姉さんのデータを接続して、両者の意識を僕経由でガンドフォーマット接続するよう意識を集中した──

 

 

「……これは……」

「これは、夢じゃ」ガンド天狗フォーム姿の僕は答える。

 

【挿絵表示】

 

「夢……?」

「そうだ、夢だ。天狗の国じゃ。故にこの中では何も現実に影響を与えぬ。覚めれば消え去る儚い夢。だから気にせず約束を果たしてくるが良い。そこの石段は13段ある。目を瞑り【ゼロから数えて石段を13段まで登れ】ある筈のない14段目を踏み締めた時、お前は他の夢に足を踏み入れるであろう」

「そんな馬鹿な……」

「侮るな小僧、天狗の神通力、験力を」(倒置法)

 

 

Is this the real life?(これは現実?)

Is this just fantasy?(これは子狸の見る夢?)

Caught in a landslide(地滑りに囚われたように)

No escape from reality(「現実」からは逃げられない)

 

 

「スレッタ……さん?」

「……? でぃぇぇええっ! エッ! エランさん?!」

「可愛い私服だね。待たせてごめん」

「ゔぇっ……ゔぇぇぇえ? 10:00? なんでぇ?!」

 

ちょっと落ち着きなよお姉ちゃん。デートなんだからもうちょっとこー、何とかならんかな! 何ともならんな! 僕のシェルユニットで作り出せるの、2人が見てる景色だけだしっ! あーもーっ! 焦ったい! 早く、早く話進めてっ!

 

「(察し)ちょっと喉が渇いたかな? 喫茶店行こう。さぁ、後ろ乗って」

 

エラン……いや、強化人士4号クン、君は出来る子だね……ちょうど良いタイミングでスクーターじみた乗り物を出す。僕が全面バックアップするから後は任せた!

 

シェルユニットはその演算能力を全開にして現実と見まごうばかりの仮想空間を作り出している。これぞ秘術……異なる場所に居ようとも同じ夢を見せる 異床同夢(いしょうどうむ)の術だっ!

 

「夢みたいです……エランさんと話せて、ほっほんとに嬉しいです」

「夢なら覚めなきゃ良いんだけどね。折角のデートが喫茶店で終わりじゃ興醒めだ」

 

無茶をいうな(涙) これやるのに僕がどれだけ苦労してるか……

 

「わっ……私、なんか変ですか? いきなり歌歌ったり、エアリアルを家族と言い出したり……」

「決闘の時にようやく分かったよ。エアリアルは本当に君の妹だったんだね。随分なお転婆さんだ(笑)」

「そっ……そうなんです! 私も困ってて……(デヘヘ顔)」

 

意義あり!(真顔)

 

その後2人は街でウィンドウショッピングしたり、エランの新しいイヤリングを見たり、クレープ食べたりと、一通り学生のデートらしいデートを満喫した。恐らく読者諸兄の頭の中に浮かぶ「クレープのクリームで口の周りが汚れたスレッタ」「それを優しく拭き取るエラン」「迷子を見つけて親を探す間、まるで家族のように振る舞う2人」「子供もいいね、で勝手に想像力が暴走機関車になり顔を真っ赤にするスレッタ」「わぁ、綺麗な夕焼け……シーン」──好きなだけこの辺で「読者諸兄が望む2人の仲睦まじいシーン(ただし、本作はR15設定なのでそこまでにすること)」を想像すると良い。なぁにこれは夢だ。伏線や物語の整合性に悩む必要はない。

 

【挿絵表示】

 

「エランさん、今日は本当にありがとうございましたっ!」

「僕こそありがとう。楽しかったよ」

「あの……また、デート……出来ますか?」

流石に強化人士4号でもこの言葉には胸を痛めた。悲しげで儚げに沈み行く夕日を見つめ……「うん、また」

 

例えそれが夢であれ、温かな思い出は悲しい現実を乗り越えて行く際の杖になる。

 

 

Open your eyes

Look up to the skies and see

I’m just a poor boy

I need no sympathy

 

 

同情は要らない。いつの日か自分の顔をとりもどして、またスレッタ・マーキュリーと会おう。またクレープを食べて、またスクーターの後ろに乗せて……

 

 

大した事じゃあない(Nothing really matters)

誰にだって分かることさ(Anyone can see)

大したことじゃないんだ(Nothing really matters)

たいしたことじゃあない、ぼくにはね(Nothing really matters to me)




ボヘミアン・ラプソディを挿入歌にしてみました。


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ファラクト分析結果

ボーっとしてたら前書き飛んだンゴ……(涙)
あ、あった!(歓喜)

【登場人物紹介】
ガンダムファラクト
設計のアプローチとしてはルブリス以前のガンドアーム試験機に近い。つまりMSを巨大な義肢として扱う方式で、パイロット側に過剰な負担を強いるアプローチを持ちいている。この為「思い通りに動かせるが、思い通りに動かすと処理すべきデータ量が増えてしまう(死にかける)ので思い通りに動かせない」という矛盾の塊に。
本作の「今」の時点ではシェルユニット搭載量が少な過ぎて(つまりAIなどの操作補助がほぼ無い)、明確な自我は発生しておらず、計算だけは馬鹿みたいに速いショウリョウバッタとか、128倍速でミンミン鳴く蝉の様な状況である。


【シン・セー ラグランジュ1支店会議室】

 

「機密レベル確認。暗号鍵はお持ちですな」

「気にしなくても良さそうですよ……」

「メルクリウス、なんか浮かない顔だな? 折角他社のガンダム見たのに」

「常務、あれならダリルバルデやディランザの方がマシです」

「……どういう事だ? もっと詳しく」

「戦術とアプローチがエアリアルに似過ぎてて、その上仕様の練り込みは甘いわガンド関係基礎技術は古臭いわ……腹立ちましたわ。エアリアルの劣化コピーですら無い!」

「え? そんな酷いの? カスタムディランザをあんな簡単に……」

「カスタムディランザ相手にあんなに迫られてるのが証拠ですよ。タマが一切届かず一方的なアウトレンジ攻撃仕掛けられるのに何で接近許すのかと。エアリアルなら30秒でダルマにできる!」

「さ……参考に「なりません(キッパリ)」

「でもファラクト、エアリアル相手に粘ってただろ?」

「今後の事一切考えずにやるのであれば、開幕ブッパであらし(テンペスト)かましてそのままガンビッツて切り刻めました。シールドされてるとは言えフロントの宇宙港に電磁障害引き起こしたりしたらえらいことになるので距離を取るよう促しましたがね、その辺考えなきゃあんなの一蹴出来ますよ。どうせ盗聴仕掛けてるんだろうから言っちゃいますが──ダメだ、話になんねぇ。ザウォートの方が何倍もマシ。ガンダム作るの辞めちまえ!」

「おいおいメル君……」

「聞いてんだろペイルのアホども! お前らほんとにセンス無いわ。採掘屋でもエアリアル作れるのになんて様だ! 恥を知れ!」

 

 

「……で、煽りムーブは終わりとして実際のところはどうだった? メルクリウス」

「いや、暗号化必要ないレベルで本当にダメ。

ウチだと弱い慣性制御もジェタークの方が上だし、シェルユニットの使い方もヘボいし……いいとこ無しです。さっきの演技じゃありませんよ?」

「え? 本当にそんなもんなの?」

「根本的な開発思想が『辛く難しい機体だが耐えろ』ですもん。技術育つ訳無いじゃないですか」

「……まぁ、そりゃそうか」

「それで人体実験か……あのパイロットの子、めっちゃ怖い顔してたしなぁ……」

スレッタ姉さんのガンダムデート時のコクピット内画像は皆に見せた。本作19話で描かれている様にガンダムエアリアルのコクピット内情景は常に録画されており、パイロットのバイタルデータも記録されている。元々ルブリスというガンドフォーマットテスト機だからパイロットコンディションなどもログ取るのは当たり前。なんならルブリス時代には外部から強制的にリンク切るコマンドもあった。そしてログ取り機能はファラクトにも搭載されていた。

「で、ファラクト側のログは取れたか?」

「取れました。吐き気を催すレベルですけど」

「データストームは?」

「人体改造施してすら、廃人化一歩手前ですね」

「『回収出来た』のだな?」

「ええ、間違いなく。社長自ら動いて先ず彼の治療に当たっています」

「やはりヴァナディースの系列なんだなぁ……あんな奴ら獄死したら良かったのに」

「なんでウチとの業務提携断ったんですかねぇ?」

「部長の売り込みが悪かったんじゃないか?」

「見積もり高過ぎたんですかね? でもあれ常務がもうちょい載せろって……」

「いや、あの値段は適正だった。キミは技術を安売りしすぎるきらいがある」

 

 

「決闘委員会のシャディク・ゼネリです」

「シン・セー開発公社のメルクリウスです。ファラクトの引き渡し要求ですよね?」

「どうでした? 見たんでしょ?」

「そりゃ勿論。役得ですよ。データ抜いときましたが、要りますか?」

「流石手が早い。どうでした?」

「ダメな機体ですな。ガンダムにした意味がまるで無い」僕はメモリチップをシャディク君に手渡した。

「流石ガンダム運用してる会社さんだ、重みが違う」

「誤解せんでください。ウチはガンダムなんて古い技術には興味ありませんよ。我々は世間が考えるガンダムを超える機体を目指しています」

「──出来ますか?」

「──出来てるでしょ? エアリアルという現物が」

「本当にガンダムでは無い、と」

「協定でガンダムはダメなんですから、ガンダムな筈無いじゃないですか。ガンドの応用ではありますがガンダムではない……話せば分かると思うんですが、何でか皆さん話を聞いてくれませんなぁ……なんなら乗ってみます?」

「呪い殺されちゃ堪りませんしね」

「なんでウチのお嬢が乗るMSに廃人化機能を搭載するんですか。普通に考えましょうよ、普通に……ペイルのエラン・ケレス君も乗ってますよ?」

「ぇ?」

「もうこうなると、未開人にナマコを食うよう説得する方が楽な気がする……」

固定ベースに乱雑に積まれたファラクトは、海の底に住むアメフラシやイソギンチャクに見えた。決闘委員会経由でグラスレー辺りが調べるのであろう。そもそもグラスレーの技術者はガンダムの解析出来るのだろうか。ガンダムエアリアルを解析してガンダムの証明も非証明も出来ないのだから、見るだけ無駄な気もするのだが。

「…………メルクリウスさん、貴方の見解では?」

「ガンドフォーマットをパイロットのI/Oに使ってるんだから、ガンダムでしょうね。データストームどうしてるかは分かりかねますが、私が言えるとしたら──ウチではあんなものは作りませんね」

「何故です?」

「穿った見方せんで下さい。不要だから、ですよ」

 




そりゃエアリアルからしたら「あんなのと一緒にするな!」でしょうなぁ(はんなり)


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インキュベーションパーティー(前編)

その頃社員たちは……

漸く本編に追い付いた。以降更新頻度が低下すると推察されます。


【インキュベーションパーティー】

 

それは、企業戦士の戦場(バトルフィールド)

僕たちシン・セー社員もパリっとしたスーツに身を包み、優雅にパーティーに参加していた。残弾数(名刺枚数)を確認しろ。フルロードで挑め。

ターゲットは幾つかあるが、弊社の重要度的には

 

1.シェルユニットの小型高性能化

2.慣性制御技術

3.他社のアビオニクス関係技術の開発状況

4.エスカッシャン (TM)売り込み

 

担当は上から専務(胃潰瘍で休暇取ってたが仕方なく来た)、常務、僕メルクリウス、そして部長だ。特にシェルユニットは重要で、これの小型化はエスカッシャン実装時の装甲弱体化……ガンビット制御にはかなりの量のシェルユニットが必須なのだ!……を避ける為にも急務である。また、慣性制御関係もかなり弱いし、こちらはモビルクラフトにも転用できるから会社の屋台骨として良いパートナー企業を見つけたい。

ガチである。我々は今ローストビーフも目に入らないぐらいガチである(口には入れた模様) なんなら決闘よりも真剣になっている。

 

 

【シェルユニット】

「──従来の製法ではシリコンウエハーを積層して集約度を上げてまいりましたが、この度弊社で開発した三次元回路構造技術を用いれば、更に50%以上の……」

 

(筆者注 シリコンウエハーの積み上げは実際現代現実社会でのトレンドになってる)

 

「放熱処理はどうなるかね?」

「お。どーもどーも! お世話になってます、専務」(ぺこり)

「なかなか面白い事考えてるね。問題は熱処理だが……」

「(小声で)……ご覧になります? 超極細ヒートパイプ」

「ほぅ、当然そうなるよねぇ……実用化は?」

「春を目処に(にやり)」

「これは来年の夏は御社も暑くなりそうだねぇ……」

「ご予定が無ければ、発注を抑え気味にして……」

「……資料は貰えるのだろうね?」

「シン・セー様には特価をご用意しております。さ、奥へ……作動液の組成がキモになっておりまして……」

 

展示会まめちしき1

「表の展示より裏の商談や隠し玉がメイン」

 

 

【慣性制御機構】

「……ふむぅ」常務は新型慣性制御装置の概念説明パネルを見ている。無論これはお作法であり、見ていると説明担当の営業か技術屋が出て来るという寸法だ。

「ご興味がお有りですか?」あるに決まって居るのだが、一応聞くものである。

「いや、私シン・セーの者なんですが、弊社のパテント応用してこんなものが出来るんだなぁと……」

「ああ、シン・セーの! いつもお世話になっております。宜しければお名刺を……」

「これは申し訳ない、ワタクシ……」

ここで名刺交換して、相手が意外な大物で大慌てになるのである!(展示会あるある)

「げっ! 部長! 部長は! 常務さん来たシン・セーさんのっ!」

「いやいや、いや。先ずはこちらの製品のご説明を……」

意外と偉い人がガチ技術系だったりするパターン。偉い人より現場の開発と話したいのになー……

 

【パテント】

何でか知らないがシン・セー開発公社はやたらとパテントを取得して取り引き企業もかなり多い。逆説的にこの手の産業展示会などではかなり顔が利くと推察される。グループ内の企業ランクが低いのは、意図的に儲けを基礎研究などの地味で見栄えのしない分野に「投資し続けている」せいではないか。(ボブは社員に還元して貰えないものかと捻くれて星を睨んだ)

 

 

【アビオニクス関連技術】

 

「うぃーっす、見に来たぞー!」

「おー、メルさん。また勝ちやがったな!」

「ダリルバルデに勝てるウチがザウォート屋になんか負けるかよ! でさぁ、ジェタークはアビオニクス関係は自社でやってんの? 新作でどんなアプローチしてんのか聞いてみたいんだけど……」

「今担当が商談中だから、俺が話せる範囲で概略説明するわ──」

 

展示会まめちしき2

「所属違っても、同業他社の技術陣は割と仲良し。たまに同じ機構や部品の問題解決に協業することもある」

 

「やっぱ慣性制御技術に重点移ってんだなー」

「MSほどデカくなると、その辺がどーしてもね。ザウォート(かとんぼ)は別にして、やっぱ重厚長大は人気あるからねー。メルさんとこみたいにモビルクラフトメインだと低出力で間に合うけど……やっぱりエアリアルからMS方面入ってくんの?」

「いやぁ、ウチはMSのコンポーネント供給に開発絞ると思うよ。エスカッシャン (TM)買ってよ(笑)」

「テスト用での稟議は出したけど、あれなんぼするのさ?」

「今度評価機貸し出しやろうかって話出てる。ただ、コントロール用のシェルユニットがねー」

「それな、D-15のアラクネの出展見たか?」

「アラクネ……あー! 三次元回路構造の! ウチは専務が突撃中」

「あれ、使えると思うんだよな……排熱関係が厄介なんだろうが……」

「確かアラクネはウチのカーボンナノチューブ関係パテント買ってるぞ」

「ヒートパイプか冷媒通して冷却するんじゃないかなぁ……」

 

 

まさかの前後編構成に!




話の隙間が多ければこんな事にもなる。


なお、作中にヒートパイプなんていう自作PCのCPU空冷とかに使うデバイスの話が出てくるが、ヒートパイプは元々人工衛星の冷却用に開発されたデバイスであり、割と有名な「宇宙開発事業で確立されたテクノロジーの民需転用事例」だったりする。


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インキュベーションパーティー(後編)

登場人物解説

【ミオリネGT】
アニメ本編8話まで見て、ミオリネ・レンブランが「経営戦略科の優秀な学生なのに」起業周りで余りにトンチキが過ぎる為、もう少しマシな描写をする為ミオリネのキャラクター設計を変更します。はっきり申し上げると公式が自分達で決めたミオリネの設定を無視してるだけであり、筆者的には「その設定ならミオリネはこう動くだろ!」と思うであります。本来スペックのミオリネは脚本や筋書きの都合でデチューンされてますが、本作ではグラン・ツーリスモモデルのままのミオリネGTで行かせていただきます(パラレルに向かうよ宣言)


【スレッタとミオリネにシャディクが寄って来ました】

 

「ご興味がおありで?」

「……無いわよ、そんなもの。会社のお仕事は順調そうね、シャディク?」

「ははっ、お陰様でね」

「で、決闘委員会の方は? 私たち、エランを探してるんだけど?」

「学校にも来て無いんだ……」曇るシャディクと、すごーく曇るスレッタ。

「……貴方、それでいいと思ってるの?」

「え?」

「魂だリーブラだとご大層な事を言わせる割に、ウチのスレッタが賭けた『エランのことを教えてもらう』が履行されてないんだけど? 貴方、決闘委員会としてこれが許されると思ってるの?」

「無茶を言わないでくれよ、ミオリネ……学園外の事にまでは決闘委員会も関与できないよ」

「あら、そうなの? いい事聞いちゃった──ではエアリアルがスレッタが貸与されてるシン・セー開発公社の動産だって主張したら、エアリアルは奪えないのね?(ニッコリ)」

「いや、それは……」明らかに動揺するシャディク。

「いい? くだらない言い訳考えずにエラン連れて来なさい。こちらは決闘して勝ったのだからその権利がある──その権利を履行できないなら、決闘委員会は決闘を承認するべきでは無い──違う?」

「全くだ、大変済まない……スレッタ・マーキュリーさん、暫しの猶予を」(深くお辞儀)

「そっそそソんなシャディ「期日は? 納期を決めなさい」

「ミッみみミオリネさんっ!」

「堂々とするっ! 貴方、エアリアル奪われる所だったのよ? こいつら私たちが負けたら即日エアリアル持って行く癖に、こっちの要求は棚上げとか舐めてると思わないの? 少しはチュチュのアグレッシブさを見習いなさい──チュチュならその日の夕方には釘バットで決闘委員会にカチコミかけてるわよ?」

「……それは困るな」

「次回から決闘の時には書面で要求条項書くわよ。チンタラこんな茶番に参加せずに決闘委員会の仕事しなさい。ほら、早く手下に指示しなさいよ」(手下って……ミオリネさんっ!)

「分かった、分かった。すぐやるからミオリネと水星ちゃんはこのパーティを……」

「今日中に出来なかったらチュチュと決闘委員会にお邪魔するからね」

 

 

【シャディクが先にエラン(本物)見つけました】

 

ミオリネより背が高く、ガチで詰められたシャディクはエランを先に見つけました。

「……え? どうしてここに?」

「(決闘委員会のシャディクか……面倒な奴に見つかったな……)

いや、ウチの演目でホルダー紹介があるから仕方なく(一応、氷の君風に喋っている)」

「困るんだよ(ボソ)」

「──何が?(素)」

「決闘委員会に所属してるのに、君決闘の対価支払って無いよね?」

「社の仕事で仕方なく……」

「言い訳はやめてくれ。それが通るなら決闘委員会は成立しない。ちょっと待てよ(スマホポチポチ)……ああ、ミオリネ。エラン捕まえた。うん、うん、今入り口の方に連れて行く」

「え? ちょっと……(困惑)」

「ん?(違和感) エラン、君らしくも無い。決闘の対価は速やかに支払う。基本だろ? 以前の君なら……」

「(4号め! 余計な仕事を……っ!) ……分かった」

「君も変わったな。水星ちゃんと絡むとみんなそうだ……」

「僕は変わらないよ(棒)」

「──本当に変わったな、エラン?」

 

 

【会場を見下ろせるラウンジスペース】

 

そのテーブルは大変空気が悪かった。エランを半ば敵視する様なミオリネとミオリネ側に立つシャディク。本当はデートっぽい雰囲気を楽しみたかったスレッタ。出来ればスレッタ以外には会いたくも無かったエラン(本物)

──尋問が、始まる。

 

「会社の都合で休学しててね、出先のフ「話にならないわね。貴方別にペイルの重鎮でも社員でもないでしょ? 何でスレッタとの約束すっぽかしたの? 先ずはその謝罪でしょう?」

「いやぁぁあああ違います違います、ご用事があったなら仕方ないですエランさん気にしないでください、ほんとごめ「確かに、ミオリネの言い分は正しい。治療を受けてたって聞いたがピンピンしてるじゃないか。約束の迅速な履行は決闘委員会なら守らなければならない……君、ペイルの筆頭だろ?」

「その点に関しては謝罪する。申し訳ない」

「いや、そんな、エランさんは悪くないですっ! 本当に、本当にウチのミオリネさんがすいませんっ!」

「で、水星ちゃんはエランの何を知りたいの? 女の好みとか?(微笑)」

「いやっ、いやいやいやいや……好きな食べ物とか……あのっ……そのっ……(照れ)」

「あんた花嫁の前でそれ聞いちゃう?(微怒)」

「(好きな食べ物だぁ? そんなん4号から聞いてないぞぉぃいっ!) イ……イタリアンとか、ジェラート、うん、そう! ジェラートとか!(演技はどっかに消えた)」

「──意外だな、食事を楽しむエランなんて想像もしなかった……(疑惑)」

 

強化人士4号は、入れ替わりを悟られぬ様に極力個人の嗜好を悟られぬ様に振る舞っていた。無論仲間と一緒にランチとかは避けまくっていたのだ。

 

「ジェラート……?(またしても何も知らないスレッタさん(17)」

「今度奢ってあげる。なんならエランも一緒に来る?」

「(何でお前が挟まる前提なんだよ!) もし、良かったら二人で今度ディナーでも……」

「わっわわわわ(幸)」

「そこ、私を無視しないっ! 私の花婿よ?」

「エランが水星ちゃんをデートに誘う? 太陽の黒点が大発生しちゃうぞ……(驚愕)」

「(え? それもダメなの?) じゃあ、遅れたお詫びにみんなで……」

 

「君、エランじゃなく無いか?(疑惑)」

 

冗談に過ぎないシャディクの一言。エラン(本物)は背中に汗が伝わる感覚を感じた。




次回、労働安全衛生法を完全無視したお立ち台で無慈悲なミオリネによるオーバーキルが炸裂する。


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血祭りの塔

多分皆が思うのと逆の奴ー

【前回のおはなし】
エラン(本物)「おかしい、本編ではこうはならなかった筈だ……」
ミオリネGT「公式が勝手にやってるだけよ!」
エラン(本物) 大惨事の予感。


【前回引きでテーブルは凍りつきました】

 

(あれ? この間って、何?)

シャディクは俺またやらやらかしちゃいました顔をするなどした。なろう系では良くある事である。

「ぃ……いや、その、エランさんは最近笑う様になったし、その……」

「確かに空気おかしいわね、前にスレッタを寮に誘った時とは別人みたい」(ジト目)

「す……水星ちゃんに関わるとみんな……変わるから……」

「何よ? スレッタが悪いって言うの?」

(君が一番変わったよ、ミオリネ──) シャディクは天を仰いだ。

「い……いい、変化、だと……ぉもぃ……マス……」

(わざ)とらしく腕時計を確認するエラン(本物)

「あ、そろそろじかんだ(棒) スレッタさん、一緒に行こう!」

早く逃げ出したい気持ちがモロバレな辺りが本物の残念極まる部分である。しかし、ここで上手く切り抜ければ本編展開に……

 

「待ちなさいよ、エラン。Sit down!」

 

……戻らなかった。本作のミオリネGTは伊達じゃない。

 

「はい」エランは子犬の様に従順に椅子に座り直した。

「直前にエアリアルにファラクト壊されたペイルがホルダーの紹介? 私には『これから意趣返ししまーす!』としか思えないんだけど? まさか、よねぇ?」

「そっ……そんなことは「あるよね? 正直に白状なさい」

 

強い。絶対に強い(確信)

 

「ぁぃ……」

「またガンダムだ論争? 何度同じこと繰り返す気? バカなんじゃない?」

「いや、ミオリネ。今回はファラクトがガンダムだって話で……」

「なんでペイルがガンダム作ってるのよ? どーなってるのウチのグループ? ウチのクソ親父グループの統制も出来ないの? しかも肝心のガンダム、エアリアルにボロ負けしたじゃない? あ、ガンダムより強いからガンダムだってハナシ?」

「……」

「……」

エランとシャディクは沈黙した。いや違うんだ、今回はガンダム間の共鳴とか混濁が……とシャディクもエランも弁明しようか一瞬悩んだのだが、今ミオリネGTに伝えたら多分論破される──更に良く考えたら、共振だの混濁だののエビデンスはあるのか。それ、ひょっとして自白頼りの強弁ではないのか。そもそもそんな現象についてコンセンサスが存在しているのか?

──やがて2人は、今回もミオリネGTに論戦でフルボッコにされる未来を幻視した。ならば今何言っても無駄であり、自分は無傷なまま4人のCEOに頑張って貰えば良いのではないか──そう考えた。已む無い話ではある。

「ミオリネさん、もう貴方しかスレッタさんを守れる人は居ない……頑張ってくれ」エラン(本物)は完全に諦めた。

「行こう、水星ちゃんを守る戦いに!」シャディクは華麗に手のひらを返した。ハメる側だった癖に。

 

 

「──つまり、シン・セーのエアリアルはガンダムなのです!」

響き渡る勝ち誇った声、明らかに悪意のある演出ライティング。狼狽える子狸スレッタを前に勝ち誇るペイル社CEO4人衆!

 

「ドレス姿の女子高生を高台に上げて、下から鑑賞とはいいご趣味ね?」

傍に(かしず)くシャディクからマイクを受け取ったミオリネGTは良く通る声でいいジャブを一発キメた。

「スレッタ、パンツ。見えてる」

「ひぃぃいっ! 嫌っ! もう嫌っ!」

「手すりも無し、安全帯も無し。ペイル社は労働安全衛生って概念ご存知なのかしら? まぁ社内で勝手にガンダム作られてしまうガバガバ監査だから仕方ないのかしら?

先ずは私の花婿をお立ち台から降ろして貰いましょうか?」

演出担当は素直にミオリネGTの声に従った。だから言ったのに……激ヤバですよ、知りませんよって。

 

「歪んでるのは顔や身体だけだと思ったら、考え方や根性まで歪んでるのね。バカと煙は高いところが好きだって言うけど、貴方たちのバカさ加減は天井知らずってトコかしら?」

「何を言っても無駄よ、既に言質は……」

「スレッタ。グエル先輩と1回目に戦った時は変な感じした?」

「? ……してない、です……」

スレッタは話の意味をあまり良く理解していない。

「じゃあ、2回目の時は?」

「……そう言われれば……変には、感じた……かな?」

スレッタヌキは花嫁の誘導にあっさり引っかかった。その違和感はダリルバルデに積まれた中途半端なAIに対して感じたモノなのだが。ふんわりと「違和感」などとしたら──スレッタはこう答えてしまう。

「誘導尋問よっ! 汚いわ!」

「あなた方がやった事じゃない。ウチの花婿は素直なの。腹芸も出来ないぐらいにね。それじゃやり方変えるわ……そも、そのガンダムの共振とかって何? パイロットに言質取りに行ってるから予想付くけど、数値データや定量的なデータない奴よね、それ。あったらそのクソデカスクリーンに映すんでしょうし」

「グッ……」

「そも、ガンダムの共振なんてのがあるのだとしたら、事前にそれを知り得たペイル・テクノロジーはガンダムを2体以上生産・保有してる訳よねぇ?

……何ファラクト1機廃棄して話まとめようとしてんの? まだあるんでしょ? ガンダム。全部出して廃棄しなさいよ。しかも2機以上保有してるのに共振に関するエビデンスを示せない……そんなざっくりとした話でガンダム認定とかやめてくれないかしら? 意趣返しにしても雑過ぎるわ」

「いや、あれはガンダムに違いない」

「あら、シャディクのお父様。お久しぶりですね。

ガンダムにかなりお詳しい様ですが、モノを知らないこの小娘にガンダムの定義と要件を教えて頂けますか?」

「ガンドフォーマットを使ったMSは全てガンダムだ!」

「前回の茶番劇の際にエアリアルは調査されてますが、エアリアルのコクピット周りにガンドフォーマット由来の機構や装置……見つかりました?」(ニッコリ)

「うっ……」

「大体ですよ、学園にMS持ち込む時にコクピット周りの仕様確認する筈でしょ? 私もエアリアル乗った事がありますが、私でも動かせはするぐらいキチンとMSフォーマット通りのレイアウトでしたよ?」

「何っ!」

「お父様、最後までお聴きになって下さるかしら?」(邪悪な微笑み)

 

ミオリネGTが顎でお立ち台操作役に合図をすると、彼は彼女の意を汲みミオリネの台をゆっくり持ち上げてゆく。

 

「馬鹿者、止めろ! 止めるんだ!」

「お父様? 他人様の娘さんの時は気にせず、愛娘相手だと狼狽するのはみっともなくてよ? 

ワタシ、頭の悪い人に上から見下ろされるの嫌いなの。貴方たち、頭が高いわよ?」

 

意を汲んだ操作マンは4CEOの台を降下させた。ライティング担当はミオリネGTにスポットライトを当てる。もう、主役はこちら、だ。

 

「頭のよろしい会場の皆様はご存知だと思いますが、それが何であるか確認する為には定義が必要になります。大昔……アドステラの遥か前……博物学の時代から続く科学的思考の基本、ですよね? インキュベーションパーティーにご参加頂いている皆様には釈迦に説法だと思いますが」

和かな顔で煽る煽る!

「ところがこの度、我がグループの御三家という重鎮が科学の科の字もご存知ない様子で私の花婿を虐め倒す……さぞかし皆様落胆したのではないでしょうか?」

ミオリネGTは会場を睥睨する──

「ここはインキュベーションパーティー。新技術や新しいサービスで起業しようとする雛鳥たちのゆりかご……皆さんも熱い科学の心を持っている筈……嫌な時間でしたわねぇ?」

 

ここに来て3社首脳は失策に気が付いた。ハメられた訳ではないがハメられた。ここはロジカルシンキングが支配する理系の地──いつものやり方では、聴衆からの支持が得られない……っ!

冷たくペイル社4CEOを見下ろすミオリネGTは汚物でも見るかの様な酷薄な目をしている。シャディクはこの目を知っていた。妙にしおらしい言葉と冷たい目──相手を完膚なきまでに叩き潰すと覚悟を決めた、あの目だ……脳裏にかつての出来事が蘇る。

 

お立ち台は魔女を焼く為の塔から、ミオリネGTという美しいヴァルキリーに供物を捧げる祭壇と化した。




1話当たりの文字数、2000ぐらいにまとめようとしてたんだけど、書ける時はたくさん書いてもよかですか?


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ミオリネGTの騎行

まだまだミオリネGTのターン!

今日の基礎知識 「騎行(きこう)
近代や近世では騎馬部隊による敵戦線破壊を目的とする突撃戦術を指すが、中世(〜12世紀ぐらい?)では、敵生産拠点である農村などを襲撃して糧食などを略奪し、襲撃された農民を領主の拠点(城など)に追いやって「籠城戦の継続力を奪う」というかなり極悪な戦術であった。


ワルキューレは羽の意匠を取り入れた兜を被っていると言う──

【挿絵表示】

 

ミオリネ・レンブランの髪型は、幾つもの羽を散りばめた白銀の兜の様に見えた。ステージ中央から伸びた不必要なまでに高い台の上に立ち、暗い会場の天井を背景にスポットライトを浴びたミオリネGTの姿は、空を舞う神話のワルキューレを皆に想起させた。

 

「ガンダムであるかないかを語る前に、先ずガンダムの定義をしましょう……先程グラスレー社CEO、私も存じ上げておりますサリウス・ゼネリ様からお話がありましたが、『氏の定義では』ガンドフォーマットを用いたMSは全てガンダムという事ですが……ご自身で自社のファラクトをガンダムだったと仰られたペイル社のCEOにもお尋ねしましょうか。ファラクトはなぜガンダムなのですか?」

「勿論、操縦系にガンドフォーマットを用いて思考制御出来るMSだからよ。当たり前の話だわ」

「あら? そんな素敵なMSなのにシン・セーのエアリアルに切り刻まれてしまったのですね?」

「それは相手もガンダムだから

 

「ストップ」

 

「ロジカルに行きましょう。あなた方は大変な誤解をしておられる様ですが、何故ガンダムは強いと──ガンダムに勝てるMSは存在しないと言い切れるのでしょうか? 【仮に】エアリアルがガンダムだとしましょう。ファラクトもガンダムであると。そしてガンダムの中にも強い・弱いがある──事実ファラクトはエアリアルに負けました。では、ファラクトより弱いガンダムもあるでしょうね? 最弱のガンダムは最新のMSに必ず勝てる物なのですか?」

「そ……それは……」

「サリウス氏の定義では、ガンドフォーマットを使ってさえいればMSはガンダムになるのだそうです。装甲板がベニヤ板でも、動力がゼンマイでも!」

 

会場に微かな笑い声が起きる。サリウスは殺意を顕にしたが近くにデリングがいる事をシャディクのジェスチャーで知らされて慌てて平静を装った。

 

「まぁ、同じ機体ならガンドフォーマットを使った方が有利なのかも知れませんね。ただ、ガンドフォーマットを使ったからと言っても、アスティカシア学園で教育用教材として採用されたデミトレーナーで最新MSであるダリルバルデなどに勝てるとは限らないのではないでしょうか?」

 

柔らかに微笑み、会場を見渡すミオリネGTの顔が背後のクソでかモニターに大写しになる。シャディクはミオリネの怒りの深さを悟った。頼む、父さん……これ以上ミオリネに噛み付かないでくれ……

 

「おや、ヴィム・ジェタークCEOがマイクを握っていらっしゃいますわ。御社最新MSダリルバルデはどんなガンダムにも必ず負けるほど弱いMSなのですか?」

「馬鹿なことを言うな! ダリルバルデも、息子のグエルもそこらのガンダムには負けん!」

 

おおー……

 

会場からどよめきが湧き上がる。事情を知らなければ単純に自社の技術と息子を愛する立派な大人に見えるだろう。サリウスとペイルの4CEOは「話が違うだろヴィム・ジェターク!」と心底びっくりした顔でヴィムを凝視し……ミオリネGTはその姿を見逃さなかった。クソ親父は苦々しい顔してるだけだから、3社でつるんで悪巧みか……じゃあ刈り取らせて戴くわ──

「ありがとうございます、ヴィムCEO。それは私の花婿のスレッタとエアリアルに対する賞賛だと思わせて頂きます。(ぺこり)

そして皆様、思い出して頂きたいのです。ヴィム氏の愛息グエルとダリルバルデが如何に勇敢に戦ったかを! あの戦いでエアリアルは右腕を切り取られました! 戦いには勝利したものの、あの戦いは接戦でした……もしも仮にエアリアルがガンダムだったとしても、ダリルバルデはそれに迫る戦いを演じたのです!」

この時点でようやくヴィムは載せられてた事に気付き、サリウスの冷たい視線に気付くのであった。

「翻ってファラクトはどうでしょうか? 弾を当てたのは【急拵えのブースターユニット】だけで本体にはダメージを与えられていません。スレッタ、ファラクトはどうだった?」

「えと、悪くは無かったと思いますが、グエルさんほどでは……いや、違うんですエランさん、弱いとかそう言う話じゃなくって「スレッタ、Stay!」

「はいっ!」

「こんなんですが、私の花婿スレッタのMS操縦テクニックは本物です。実際ベネリットグループ3巨頭のMSの内2機を撃破してますからね。さて、ファラクトとダリルバルデが決闘した場合、ファラクトはガンダムだから確実にダリルバルデを下す事が出来るでしょうか……?」

「何が言いたい、ミオリネ・レンブラン……」サリウスは絞り出すかの如く言葉を紡ぐ。

「ベネリットグループの凋落、かしら?(ニッコリ)」ミオリネGTはピアノの様に言葉を奏でる。

 

「幼稚な考えとお笑いください、サリウス老。10年前の技術を恐れ、10年以上経ってもガンダムの代替機能やガンダムを超える機体を作れない……そのベネリットグループの技術革新の停滞がグループの停滞を引き起こしているのでは無いかと。もしもガンダムなんて目ではないMSを開発していれば、ガンダムなんてものは歴史の遺物……ではないでしょうか? ガンダムを駆逐できない、ペイル社がガンダムなどというものを作り出してしまう原因の一端は我々自身にあるのではありませんか?」

 

一同、ぐぅの音も出ない。

 

「我々には対ガンダム用MSがある……手をこまねいていた訳では……」

「じゃあ、決闘ですね。もしもエアリアルがガンダムで、サリウス老の秘蔵機体が対ガンダム機体ならエアリアルには楽に勝てるのでしょうね! まさかエアリアルに負けてガンダムだから負けたなんて言い訳はなさらないでしょう?」

 

シャディクの視界が暗転した。ダメだ、ダメだよ養父(とう)さん。エアリアルがガンダムだとしても、対ガンダム機体の対策施されてたら負けるやつじゃんこれ。魔女の奸計にあっさりハマっちゃったよ。ミオリネを舐めすぎだよ──水星ちゃん、あのビット抜きでもグエルといい勝負出来るんだよ、グラスレーの機体が決闘に出て来る学園に対策講じないでエアリアル持ってくる訳無いじゃないか──

 

「スレッタ、いい?」

「私のエアリアルは誰にも負けません!」

ワルキューレ(ミオリネGT)は勇猛なるタヌキの頭上で天上の音楽の様な微笑みを湛えていた。シャディクの脳内にはワーグナーのワルキューレの騎行が鳴り響いている。

 




まだシャディクの不幸は続く。


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提案

一応ガンダムという株式会社組織は作る様にしたいかなと。


「ミオリネ・レンブラン。お前は何を考えている」

威厳のある声でデリング総裁が威圧を掛けるが、普段からダブスタクソ親父と啖呵を切るミオリネGTは恐れない。

「では、折角のインキュベーションパーティーですから私からも演目を。簡単に申せばガンダムを超えるMSを作り出します」

「馬鹿なっ!」

「そんなものが!」

「あり得ないわ!」「無理よ!」「正気?」「うほ」

「……と、お父様の企業グループの重鎮の皆様は仰ってらっしゃいますが、これらをどうご覧になりますか、『総裁』?」

「私はガンダムを禁止したが、ガンダムを超えるMSを禁止した覚えはない」

「生命倫理問題でしたっけ? それが禁忌でそこさえ無ければガンダムでも宜しいのでは? まぁ、ガンダム目指してたらガンダムの範疇に収まってしまってつまらないですからね。ガンダムを超えるという目標を持たなければガンダムに並び立つMSにもならないでしょう。

いえいえ、サリウス老。御社は別ですよ、【まだ】負けてませんから。【まだ】ベネリットグループ御三家全てがエアリアルに負けてダルマにされた訳ではありません。【まだ】です。

でも──もしもグラスレー社の最新機体までエアリアルに無残に負けたとしたら? ベネリットグループの軍需部門は今まで何を開発していたのでしょうか──

 

これは私の仮説です。詳しい数字は私も記憶しておりませんので、皆様どうぞ間違いがあればご指摘ください。

 

現在、MSは主に地球圏での暴動鎮圧任務が主体で、対MS戦というものは殆ど行われておらず、そも経済格差によりアーシアンはMSの開発すら覚束ない状況です。既にMSは過剰戦力となり調達数は常に納品計画数を下回る……これが基本的なムーブメントです。

ヴィムCEO、如何ですか?」

「……確かに流れとしてはそうだ。そこで弊社ではハイ・ローミックスのハイ側に注力して高額高機能機の開発と受注を狙っている」

「ありがとうございます。で、高機能機のセールスは堅調ですか? ディランザで良いとか、ディランザの価格引き下げ要求は?」

「──っ!……その為のダリルバルデだ」

「売れないと思いますよ。アーシアンのデモ鎮圧ならディランザでも十分でしょうし。

端的に申し上げて、アーシアンが弱過ぎるからMSの様な高性能機は要らないのです。そこでヴァーチカルマーケティングをする意味が私には分かりません。

総裁にお聞きしたいんですが、なぜMS開発を統合してライン共有、同型機の水平展開を目指さないのですか? MS開発を一本化しない意味が分からない……」

 

(この辺は筆者も分からない。アーシアンとスペーシアンで仮に戦争になったとしても、戦力格差から不正規戦・非対称戦にならざるを得ず、MS同士の戦闘ではなく対MSロケット弾とか中距離投射兵器とMSの戦いになるよーな……?)

 

「競争原理は兵器開発に欠かせん」

「あら、総裁? 競争原理が働いた結果、グループ外企業に需要を蚕食されてるのは予期した、受け入れるべき損出だったんですか?」

「グループ外企業の躍進はMS以外の戦闘兵器需要の掘り起こしに成功したからで、ベネリットグループのMSシェア減少とは無関係だ」

「近代戦兵器の開発企業総裁とは思えぬお言葉ですね。つまりMS以外の需要喚起に失敗して、そこから戦闘システム群の構築を『されてしまった』のではありませんか?

──何故ベネリットグループの最新鋭MSはエアリアルに決闘で負けてしまうのでしょうか? エアリアルの様な機体がベネリットグループ外から出て来る可能性は?」

 

ザワ……ザワ……

確かに……

水星の採掘屋が作ったんだもんなぁ……

 

「スレッタ、そもエアリアルは水星で何をしてたの? 水星人の悪いMSと決闘してたんだっけ?」

「そんなことないです! 何年も前から水星で事故やトラブルのレスキューしてただけです! エアリアルは人を殺すロボットじゃありません!」

「そうだよね、エアリアルはただ突っ立ってアーシアンを脅すMSじゃなく、過酷な水星でみんなを助ける為に開発された機体よね……ある意味では戦場より厳しい条件下で戦い続けて来たのよね……」

「戦争が優しい環境だと?!」

「大自然は条約の批准や協定結んでくれませんから。人道的な配慮や捕虜の待遇気にしませんよ? それと……ペイル社のCEOの皆さんはウチの花婿の謙遜を真に受けていましたが、スレッタはこの歳でMS操縦経験6〜7年のベテランパイロット。大自然相手に人命救助というミッションを何年も続けてきた。アスティカシア学園にはそんな経験積んだパイロットなんていない。本当に生死を掛けた、手加減無しの戦いに身を置いてきたスレッタよ? 

サリウスCEO、決闘頑張ってくださいね。貴方の義息子が戦うのは、そんな水星で命懸けの戦いをして彼女を守る為に非常識なまでのチューニングを施された機体なんです。勝てると思えます?」

「いや、そんな、ワタシ別に変な事してません! ミッションも30分超える様な事あまりありませんでしたし……」

「ちょっと待ってスレッタ? エアリアルって採掘場とかで待機してるの?」

「へ? フロント基地に置いてましたけど……」

「水星の衛星軌道上から30分で水星表面採掘場の人助けてフロントに戻ったの?」

「え? 頑張れば6分ぐらいで帰れますよ? ゆっくり飛んでたらエアリアルごと太陽に焼かれちゃいます」

 

嘘やろ……

何だそれ?    ロケットか?

化け物だ……

      ……勝てる訳ねぇ……

 

「エアリアル、か……」

「想定が違うのです。いつまでもガンダムガンダムとやっている間に、水星ではそんなものでは話にならない脅威を相手に戦いが続いていた。その結果としてベネリットグループはエアリアルに負け続けている。軍用が何より難しく、高度で洗練されているという前提を疑えなかったのがベネリットグループの失敗なのではないでしょうか」

「水星の採掘屋だから作ることが出来た、MSであると」

「ベネリットグループが学ぶべき叡智が詰まった機体です。北風がヴァイキングを作った様に、水星の過酷な環境がエアリアルを育てたのです」

「ならばエアリアルを解析して……」

「無理でしょうね。エアリアルみたいな凄い機体は開発したシン・セーだってもっと欲しい筈。作れるのであればさっさと2号機3号機建造するでしょ。なのにそうではない。スレッタは何年もエアリアルと戦っているのにまだ量産されていない! まぁ、されてたらベネリットグループ内の序列はとっくに変わってる訳ですが」

「量産できないのでは商品価値はないぞ、ミオリネ」

「話を全く聞いていなかったのですかクソ親父! エアリアルとかガンダムとか「同じものを作ろう、コピーしよう」って発想だからシェア下がるのよ! なんでここで「エアリアルを越えよう!」って言えないの?

ガンダムを越えよう、エアリアルを超えよう! 私たちは過酷な世界を見ていなかった、MSはもっともっと強く速くならなければならなかった! 宇宙は広く、我々はもっともっと励まなければ「ならなかった」

 

その遠く険しい目標の為に、先ずは我が社御三家の最新鋭MSはエアリアルで刻みます。完膚なきまでに叩き潰して我々は目を覚さなければなりません。

その様な理想とエアリアルを超える為の基礎資料の取得、また或いはエアリアルの解析を行って「超ガンダム」のノウハウ開発する企業……株式会社ガンダム設立は如何ですか?」

「出来るのか?」

「ここまで話してご理解頂けないなら、ガンダム怖いガンダム怖いと毛布被って震えてて下さい。出来るのかではなく、やらなきゃいけないんです。そういう物を目指して過酷な環境でテストを繰り返し、必要ならデチューンして軍用にでもしたらいい。本当の力が必要とされる場所はそんなところでは無い……だからあなた方はエアリアルに負け続けたのに、何故それに気付けないのですか? そんなんだからシェア落とすのよ!」




軍需産業がイケイケだったのは冷戦構造があった頃までで、大規模戦争が「経済的に成立しにくい」時代に移行してからは軍事費はめっちゃ下がって来てるんですわ。軍事で結構大手になる会社も、世界的な民間企業の間では売上的に結構しょぼいのが実情で……軍需比率下げて行かないとベネリットグループはやがて凋落すると思うですよ。

なお、市場規模的には軍需より医療の方がパイがデカいので、本編の株式会社ガンダムの事業方針はそんなに間違ってない。ウチの方では宇宙開発方面に舵切って、そこから民需転用を目指しますが。どー考えたって戦車や自走砲よりクレーンやダンプの方が売りやすいし儲けやすい。戦車作って儲かるなら三菱は今頃トヨタ抜いてる。


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その頃のシン・セーの皆様

血は争えないなぁ、などと呆然としてました。

前回の基礎用語「ヴァーチカルマーケティング」
商品展開を性能やグレード別に縦に並べる商品展開方法。Intel CPUとかで言えばi3〜i7とかコア数やキャッシュ量、動作クロックでブランディングするが、あんなのがヴァーチカルマーケティングの典型例。
これに対して同型モデルのアレンジや用途別展開をホリゾンタル(水平)マーケティングなんて言う。
F-35みたいにベース機体を作って、空軍用や海兵隊用にアレンジするのが典型例。特に最近では高性能機体の開発にアホほど金が掛かるので複数企業による開発分担して機体を作り、それを水平展開する方式が主力化しつつある。
なんでベネリットグループがMS開発を統合しないのかはよく分からない。


【ミオリネ氏のご高説を賜るシン・セーの面々】

 

やぁ、久しぶりだね。ガンさんだよ。

スレッタ姉さんが吊し上げ(物理)を食う様を見て、労務管理や労働安全衛生に日頃から気を配る僕らは直ぐにペイル社の連中に厳重抗議(と、関係各所への通報)したんだけど、その後のミオリネ氏の華麗なる演説を聞いて白目を剥いていた。

 

なんか弊社の動産(エアリアル)使って勝手されてるぅ!

 

偽らざる正直なキモチ。

いや、決闘に使われるだろうなぁと言うのは想定してた。ごく低確率で決闘に負けることや解析される事も想定してる。が、解析して勝手に技術ばら撒かれるのは考えてない。パテントとは一体……

 

 

【パテント】

特許のこと。シン・セー開発公社はパテントをしこたま抱える技術開発系企業であり、当然ガンダムエアリアルにもパテント技術が多数用いられている。パテントだから公開技術であり解析しなくともそれらのテクノロジーはいくらでも参照できる。(逆に秘匿したい技術はパテント取得しないモノだが、後追いされてパテント取られるとパテント料支払う羽目になるのが困り物)

パテント取ってない(取れない)のはシェルユニットを積みまくり自我とも言えるレベルのAI育てた部分ぐらいだが、ここはエアリアル本人であるメルクリウス氏自身すら理論化出来てない不可知テクノロジーである。一回かなり金を掛けて実験したが、再現はしなかった。これが量産化出来ない根本的な理由。人間のみんなだって「何で君は自我があるんだい?」って聞かれても困るだろう? キャリバン・メルクリウスさんだってそんなもん分からないんだよ!

 

 

バラして解析されてもパテント取ってあるからセーフ。弊社はパテント収入を得る。テクノロジーの組み合わせ方がキモで、要は僕たちはパテントの使い方を示したに過ぎない……一応弊社もご商売を考えているし、これを契機にエスカッシャン (TM)や群体制御テクノロジーを売り込みたいなーって下心も有るには有った。会社が商売考えて何が悪い(開き直り)

僕もシン・セーの株持ってるんだ。会社の発展は僕の財布を温かく厚くしてくれる。専務や常務、部長だってそうだ。スレッタ姉さんの学費だってシン・セーの儲けから捻出してるんだよ!

人類の発展に先駆けて、先ずは弊社が発展したい(本音)

 

「どうする……?」

「……専務、主語を明らかにして頂けますか?」

「──ワシは自分の胃を今誰よりも労りたい」

「(またやったのか)……お察し申し上げます」

「血は争えんなぁ。デリング総裁そっくりやんけ」

「やはり家族は似るもんですなぁ……」

一同、大自然の大いなる営みに思いを馳せる(現実逃避)

「弊社のことはまるで考えていない……清々しいまでに!」

「スレッタ嬢も社長に似てくるのかなぁ?」

「社長の若い頃って、あんなにタヌっとしてたんだろか?」

「アス高のホルダーだった時期はあるらしいですが」

「……その社長はこれ把握してるのかな?」

「してなくてもしてるフリすると思います……」

「時の流れに身を任せ……だもんなぁ」

無計画仮面と人は云う。割とその場の勢いを重視するタイプである。

「マジでどうします?」

「メルクリウス、仮に御三家が本気出したらエアリアル複製できると思うか?」

「エアリアルの特殊性が解明されてコピー出来たら世界が変わりますわ。MS云々の話では無いかと。兵器こさえてる程度の技術力では無理でしょう。ウチが10年掛けても解析できない部分ですよ?」

「だよなぁ?」

「無理よなぁ」

「何とかしてグループの金で解析させて、それを丸っとウチの手柄に出来ないかなぁ?」

「買い取りますか? 株式会社ガンダム」

「5000万ぐらいなら即決だが……」

「MSの開発や量産目指すんだろ? 1,000億規模の事業になるぞ……」

「部長、それは見積が甘い。多分もう一桁上になる」

「兆? そんなに?!」

(ちょう)ガンダムだけにな(親父ギャグ)」

常務の渾身の親父ギャグも滑り気味だ。微妙な笑みが溢れ出す。そも千億単位の資産はシン・セー開発公社には無い。パテントを高額で買い取って貰っても行けるかどうか……

 

「……よし、これで行こう」

「これって?」

「名付けて『パパは何でも知っている』作戦」

「……ハッタリ……?」

「そうだ、ハッタリだ。重要な事は我々が握っている……と見せかけて学生たちをコントロールする。我らおじさんには腹芸という卓越した技術がある!」

「それしか無いか……」腹をポンっと元気に叩く。

「我々までタヌキにならざるを得んとは……」ポンポン

「社長がタヌキだししゃーないか」ポコポン

「まぁ、ガンダム技術を1箇所に集約したら奴らも動きやすいでしょうしね。ただ、保護は今の体制ではちょっと厳しいですよ?」

「……モビルクラフトの新しいラインは来年に回すか……」

「来季の生産計画や人員配置見直し……」

「収益計画が……」

「予算……」

 

(皆の心が)落ちてゆく。どこまでも深く落ちてゆく──

 

唐突に方針変わるとみんなが苦労するってはっきりわかんだね。企業規模が大きくなればなるほど辛さは増す。その点から見てペイル・テクノロジーは関連部門切り捨てで逃げるってプランを随分前から計画してた筈だ。でなければあの事業規模だと数百人クラスで人が病む。何という邪悪か。




みんなはちゃんと根回し重点で動こうね!


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タヌキ親父たちの夜

アニメ本編でエアリアルがガンダムにされてるのは、そうしないと株式会社ガンダムに機体を渡せないからだから。

本作作者である私の見立てでは、エアリアルはガンダムではない。「機動戦士ガンダム」なのに主役機がガンダムではないってのが後半のビックリどんでん返しに含まれると見てます!


「ガンさーん! エアリアルはガンダムじゃないよね!(涙)」

 

いやはや、スレッタ見違えたなぁ。

僕はとりあえず「ミオリネちゃんに1発カマして主導権を握ろう」と言い出した専務達を連れてスレッタ姉さんとミオリネGT氏にご挨拶に行く事にした。尚、専務や常務は時代劇に出てくる越後屋に似た面構えをしている。

「どうも初めまして、ミオリネ・レンブランさん。シン・セーの専務をやらせていた「そんなにコピー難しいの? エアリアルって」

おおっと、カマすつもりがカマされてるよ専務!

「あくまでエアリアルはエスカッシャン (TM)販促用のデモ機ですからな、数はいら「嘘。あんなに器用に動く子、辺境域開発ではいくらでも需要がある筈よ。量産検討しない方がおかしい。出来ない理由があるんでしょ?」

ここで常務と顔を見合わせてしまう辺りで2人とも腹芸に向いてない。あかん、ミオリネ氏の方が上手だ。

「いや、ガンドフォーマットを用いたモビルクラフトの量産計画はあるんですよ? MSに使わなきゃガンドの協定に抵触しませんし」

「それは初耳だな」

デっデリング総裁!

「確かに協約には抵触しないしカテドラルはあくまでMSにしか関与はしない。しかしそれは報告を怠る理由にはならん」

「データストームは弊社のAIで完全制御しましたし、機構としてパーメットリンク2までしか利用できません。安全第一、指差し確認ヨシ!な弊社が危険なものは作りませんよ」

「詳しい話を聞きたいところだな、()()()()()()()()()()()話を伺おうか」

密かに僕は専務を尊敬した。デリング総裁を前に一歩も引かないとは大したもんだ! 胃に穴は開いたと思うが。

 

【VIP向け小部屋】

「どこで拾った?」

着席して間髪入れずデリング氏からの火の玉ストレート!

「何を仰いますやら……」

「腹芸は通じんぞ。あれはヴァナディース系の機体の発展だな」

見透かされとるがな!(焦)

「水星近辺で、とお答えしたらご満足ですか?」

「専務!」

……専務が常務を手で制する。腹を括る時が来たらしい。

「先に懸念事項を説明しましょう。エアリアルはガンドフォーマットでコントロールしている機体ではありません。13年前水星で拾った直後にパイロットへのパーメットリンク機能は切りました」

「何故だ?」

「協約故に……と申し上げたいが、もっと切実な理由があります。そこにいるスレッタ・マーキュリーが年中コクピットに入り込んで自室の様にしていたからです──」

ええっ、私のせい?!とタヌキ娘はビックリしているが、情けない事にこれは()()()()()ではある。

「入り込まれて勝手にパーメットスコア上げて廃人化されては堪らない……無理にコクピットから引き離せばギャン泣きしますし、当時から水星には託児所なんかありませんでしたから。苦肉の策です。最初期からアレはガンダムでは無いのです」

「ふむ……筋は通っているな」

「なんでコクピットなんかに入り浸ってたの?」

「それは僕が話そう。元々あの機体は実験機だったらしく、内部に実験データ蓄積用のバカみたいな記憶容量があったんだ。そこにダウンロードしたアニメや人形劇の映像を保管してた母娘が居てね……」

「吸い出せばいいじゃない?」

「ペタバイトクラスのデータを?」

「3〜4ペタぐらい……」僕は悲しげに首を振って答えた。

「ミオリネさん、桁が2つ違うんだ」

 

【挿絵表示】

 

僕は視点の定まらない目で虚空を見上げた。カルド博士はデータストームの解析の為に凡ゆるバイタルデータやデータの流れのログを取ろうとルブリスの中にちょっとしたデータセンタークラスのストレージを入れてしまったんだ。

僕もまぁよく集めたなと思う。シン・セーのメンバーは項垂(うなだ)れて、ミオリネ氏とデリング氏は驚きに固まっている。

 

子供を、幼子を育てた経験があれば皆共感できる筈だ。泣く子をあやす道具が如何に偉大であるか。先進諸国において、子育ての苦労の75.84%が泣いた子をあやす苦労であると言うのはWHOやユネスコの資料にも書いてある(諸説あります)

 

「別に拾った様なものでしたしね」

「整備運用出来ないなら、スレッタのゆりかごでも構わないかなと」

 

デリング氏は凝り固まっていた。こんな姿を晒すとは意外だが、デリング氏とて人の親。泣く子には敵わないと云う厳然たる事実を痛いほど理解しているだろう。2時間おきに泣くからね、夜でも。歳取ってからの子供って下手すると育児ノイローゼになる程大変だよ?

今はこんなミオリネ氏だが、彼女にだっておしめやパンパース時代があり、イヤイヤ期があり、泣き止まぬ時はあったのだ。初子(ういご)であるなら苦労もひとしお。その時は親もまだ新米の親なのだ。何もわからない、何も。最初からベテランとして子育て出来る生き物はこの世の中に存在しない。デリング氏もこの苦労を味わっているのは間違いない。

「ゆりかごにパーメットリンク、要らんでしょ? 我々はそんな理由でエアリアルから機能を取り去りました。これがエアリアルがガンダムではない本当の、情けない話ですが事実偽りないお話です」

「そっ……その割にはパーメット流量が……」

「それは群体制御系でガンドフォーマット使ってるからですな」

「ログは取ってあります。パイロットへのパーメット流量制御は2()()()()()()()除去してますから、通常のMSより遥かに安全です」

「変よ、それならエアリアルがあんなに自由に……」

「はっきり申し上げましょう。エアリアルの機能は解明し尽くされては居ません。仰る通り『そんな事が出来ていたなら』我が社はベネリットグループに所属している意味が無い。シン・セーグループを立ち上げている」

「ある程度は解析しているのか?」

「どの程度でしょうかねぇ? 底が見えないので我々も今いる所が3合目か8合目か分からんのです」

専務がタヌキ親父ムーブに戻った。役者だな!

「本当に害は無いのだな?」

「そこは解析済んでます。パーメットをあれだけカットしたらデータストームに関しては物理的に発生し得ません。糸電話でDDoS攻撃出来るかって話です」

「あらゆる災厄は全て大気に溶けて行きました。エアリアルの箱の中に残った最後のピース、それは……」

 

「──希望、か」

 

希望、それは実際一番厄介な災厄でもある。




通常、私の創作物は2000文字50話の10万文字程度で完結するんですが、水星の魔女本編の展開から類推するに……これ、100話20万文字超えないか……(白目)


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フロンティアスピリッツ

年末年始に2週も放送空けたら本作の話数が爆増してしまうじゃないか!(報道の日特番が決まってしもた)

本作は水星の魔女が週に1度しか観れないストレスで作成されています。


「安全性についてはどの程度検証されているのか?」

「データストーム引き起こす要因としてはパーメット流量がキモである事は13年前に既に知られておりましたな」専務はまだ戦闘モードを解いていない。珍しくガチな顔をしている。

「回路的には完全に切り離していますから、そこは問題ありません。本当は大規模治験を実施して確認したいところですが、機体は一つしかありませんので……」

「金星に行くまでの間に、被験者集めてサクッとやりました」

「え? メル君?」

「へ? 専務? 聞いてないです? 社長命令で……」

「嘘! エアリアルに乗せたの! 私のなのに!」

「スレッタちゃん、あれはシン・セー開発公社の動産だからね」

「やだ……うちの子だもん!」

「MSを個人所有は……(金額的に)」

「エアリアルはシン・セーの社員だと思ってね」家族であっても社員である。まぁ、中の人である僕が実際シン・セー社員だし。

「では何がエアリアルを動かしているのだ!」

オドオドと挙手するスレッタ姉さん「わたし……ですケド……」

「あのスォーム兵器だ! あれは何とガンドフォーマットで繋がっているのだ!」

「AIですが(さも当たり前の様に)」

「メルクリウス技師の言う通り、AIとガンドフォーマットで繋いでますよ?」

「何度も説明してるんだけどなぁ」

「聞きゃせんよな。論文も出して特許も取ってるのに」

「何故プログラムと「あー、成程成程、そこですか! 簡単な話ですよデリング総裁。僕たちは脳から信号取り出してガンド義肢動かしてるんですよ。言わばマン・マシンインターフェイスのプロですわ。脳科学にも詳しい」

「だったら擬似的な脳を模したプログラムやデバイスはレベルを問わねばなんぼでもやりようがある」

「エアリアルってのはあの機体内にあるAI……そいつの名前です」

「ほら、やっぱりドローンだった」

「シン・セー嘘つかない」

「本当にドローン、だと……」

部長の目が怪しく光る。これは……とんでもない所からご商売の芽が出てきたぞ! (絵面が悪代官と越後屋になっているのは秘密だ)

「新商品ですよ、エスカッシャン (TM)。ドミニコス隊に如何ですか?」

「何故あれほど意のままに使える──」

「デリング総裁はベネリットグループ運営するに当たり、些事まで自分で決済するのですか? プロジェクトが大きくなればなる程責任や権力を移譲して分割管理するの当たり前じゃないですか。もちろん、教育や対話は必要ですがね」

「そんな事してたらその内別口のデータストームで死にますよ」

会社運営に例えて話すと理解が早いな。流石総裁。

「どの機体にも装備できるのか……」

「機体側にインターフェイスが必要なのと、完熟訓練が必要ですがね。もちろん導入支援は致しますよ」

「タンデム機の様なものか。完熟訓練はどれくらい必要だ?」

「スレッタ嬢並みなら6年」

「6年?!」

「新米パイロットを一人前にする様なものです。寧ろ短いと言ってもいい。まぁ、プロ軍人なら半分の3年ぐらいまでには短縮できるでしょう。その辺の教育ノウハウの蓄積は今後の課題です」

「……幾らだ?」

すっと部長がスマホを取り出し、電卓アプリで計算を始める。

「常務」

「うむ」

「あくまで概算で正式なお見積りは後ほど」

スッと部長が携帯端末をデリング総裁にお見せする。

「……分かった。追って連絡する」

「あくまで試験運用という事でお願いします。来春にバージョンアップを予定しておりますので」

「ちょっといいですか?」

ほう? ミオリネ氏?

「これ、兵器にしかなりませんか?」

「ほう……」常務と専務が和かに笑う。聡いな、ミオリネGT氏。

「これ、もっと使い方ありますよね? 本命はそっち?」

「……例えば、どんな?」

「これ、もっと小さくなります? 分解や結合が自由に出来て、機能の組み換えが……」

「シェルユニット次第、ですなぁ」

「デリング総裁は良いお子さんをお持ちだ」

「何かアイデアがあるのか、ミオリネ」

「余りにも応用範囲が広くて頭が混乱してる……」

見えてきたな、僕たちの見据える未来が。

「ゆっくりお考えください。我々はこのテクノロジーを軍事専用とは考えていません。最終的には民需転換してやらないと市場は取れませんからね」

「軍事は足掛かりか。良いだろう」

「先ずはモビルクラフト辺りからですかな」

「ガンさん、ガンさん……エアリアル使って何するの?」小声でスレッタ姉さんが聞いてくる。僕は微笑みを湛えてこう答えた。

「スレッタさん、エアリアルは未来を切り拓くんだよ。心は常にフロンティアにある……それがシン・セーさ!」

 

軍事という分野で研究開発し、その結果を安価に市場へと撒いていく。人殺しや破壊だけではつまらない。人間は壊すことより作り上げることを好むから世界はここまで発展したのだ。その基本を忘れたら会社は大きくならない。

デリング氏もこの方向性には概ね賛同してくれた様だ。軍需産業が儲かったのは遠い昔の話で、戦争が不経済だと気が付いた資本家は基本的には戦争や紛争を避けたがる。特に今のこの時代の様に人口が溢れて宇宙域まで拡大した状況では「戦争をやってる暇はない」本当はね。

勿論人は武器を手放して肩を互いに組んで歩けるほど器用ではないから、武器自体の需要がなくなることはないが……鉄砲の弾や爆弾よりもパンとワインが、温かな食事が、楽しい喜劇やサーカスが求められるのは数千年の歴史が証明している。そっちの需要は兵器産業よりもずっとずっと大きい。

 

「で、弊社の真意をご理解頂いた所で……場を改めてお話ししたい事が一つ……」

「なんだ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。お時間頂けますか、また後日に」




なお、水星の魔女本編とは異なり本作では徹底的に暗い展開は無い模様。

書く事ないので筆者が喜ぶ事書いとくぜ!
1. もりもり読まれる事
2. 誤字修正報告

実は評点は重視してない。筆者氏もWeb小説よく読む派だが、ランキング固執勢力の暗闘により良作が埋もれるという事例を多数見ており、実はランキング制度好きじゃないの。
大体評点に関しても個々人の評価軸差が激しいので「この評価1はどんな評価1なのか」当人の傾向見て類推しなきゃいかんやないか。
口ではなんと言おうと、なんだかんだでPVやUAが伸びるのは「皆気になるから読んでる」訳で、大衆食堂のおっちゃん的に「残さず食って笑顔で帰ってくれるのが最大の賛辞」だと思ってますよ。お気に入りにしたりここ好き押してもらったり、それぞれのアクション見て勝手に喜んでるから皆は好き勝手に拙作を読めば良かろうなのだ!

まぁ、読者の大部分はなんも反応せんもんだしね(真顔)


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釣り堀にて

登場するかもしれない人物紹介

【快傑グエット】
「グエット参上、グエット解決! 己の人生への復讐者、快傑グ エ〜ット!」

地獄(たいがく)が見えたあの日から
俺のからだに吹く風は
復讐の風、熱い風
追って、追って、追い詰めてー

天狗といい、母仮面といい、仮面の兄貴に仮面の復讐者……この話仮面の人多過ぎない?
スレッタ「……横恋慕さん?」
グエル「違う、俺は自らの人生の復讐者、グエットだ!」
ミオリネ「前髪ぐらい染めて来なさいよ!」
グエル「学園を中退した奴の事など知らん」
エリック「性格ぐらい変えなよ……」
グエル「お前に言われたくはない!」

……出すのか?(自問自答)


「釣れますか?」

平日午前中。アスティカシア高専近くの釣り堀は授業中という事もあり閑散としていた。ヘラブナ釣りであろうか……普段とは印象が異なるラフな格好のデリング・レンブラン氏は長い和竿を持って僕の隣で釣りの準備を始めた。

「まぁまぁ、先ずは竿を下ろしてウキに集中しましょう。幅広の麦わら帽子が口元を隠す様に、俯き加減で」

「練り餌を分けて頂いても?」

「どうぞどうぞ」

ひゅっ。ぽちゃ。

「ほう? お上手ですな」

「昔はね、良く釣りにも行ったものだ」

 

[……総員全周確認]

[クリア]

 

「ok」

「……どれだけ潜ませた」

「予算もあり、今は2ダースほど」

「いつからだ?」

「昔から。まぁ基本ですよ。学生とは異なり大人の身元調査は甘い。こちらでも既に3人ほど『釣れ』ました」

「あの()は体色も綺麗だ。狙う奴も多かろう」

「貴方の御息女もね」

「……で、どうしたいと言うのだ?」

「外来種は場を乱します。これを駆逐したい」

「見当は付いているのか?」

「ペイルとグラスレーの中にいますな。ペイルにはこちら側の、グラスレーは……私怨、ですかねぇ。貴方への」

「尻尾が掴めるならこちらで処理するが」

「ペイル側はお願いしたい所ですが、グラスレーは状況的にこちらで動いた方が宜しいかと。尻尾切りで逃げられるのはゴメンです」

「……サリウスか?」

「断言はしませんがね。彼の手は長い」

一度竿を上げて練り餌を付け直し、撒き餌を撒いてから再び下ろす。ぽちゃん。

「とりあえず撒き餌を撒きます。ウチのお嬢に兄貴が出来まして」

「……兄が、()()()?」

「エアリアルを良く知る子ですよ。宇宙放射線で顔をやられてしまいましてねぇ……仮面を付けてます。ウチの社長と同型の」

「宇宙は過酷だからな……」

「人生ってのはどこでも大変なものです。──入校審査を通して頂きたい」

「名前は?」

「エリック・マーキュリー。元アスティカシアの学生です」

「エリック、か……学部は?」

「経営戦略科にするかパイロット科にするかで悩んだのですが、今後ミオリネ氏に比重が傾くのではないかと」

「──何故だ?」

「御三家を決闘で全滅させたMSとパイロットに誰が挑みます? 僕なら搦手を使うし、彼女は未だ単独行が多い」

「強い絆が仇となる、か……」

「ウチの跡取り御曹司を入れる事でそちらに意識を振り向けさせます。ポイントを絞れる方が(さかな)も喜ぶ」

「良いのか? 彼は元ペイルか?」

察しが宜しい事で。僕は安心してカードを一枚晒す。

「──人体実験被験者。強化人士4号」

ぴくり。

「合わせが遅れた、か」

「釣りの基本はお魚ちゃんの気持ちを理解する事です。彼らが好きな場所、餌、動き……それを見つけてやれば釣果は上がる……デリングさん、貴方最近娘さんと話してます?」

「この時期の男親は難しくてな」

「会社では報告・連絡・相談を強いる事が出来ますがね、家庭では中々に難しいでしょうなぁ……」

「──妻に、任せっきりだった──」

「まぁ、あの時期では、ね……今後改善していきましょう」

「そも、そちらは何故アレに気が付いた?」

「ウチの社員の遺児がヤラれました。最初期は私立探偵による調査。そこで1人死人を出してからと聞いています」

「孤児か」

「はい」

「……同じ手、だな」

「エアリアルを表に出した理由になります。早いとこ()()()()()()だと教えてやらにゃいけません」

「何故彼らはその方法で上手くいくと考えてしまうのだろうな?」

「エリクトの話が中途半端に知られたのが不味かったかなぁ、と。悔いても仕方ありませんが」

 

不完全な情報が憶測を呼び、それが次の憶測を呼ぶ。

 

ガンダムが子供の手により完成した()()()と言うあやふやな情報が寧ろ彼らを慌てさせた。逃された母娘はそれ故に名前を変えざるを得ず、長い期間……娘がエリクトという名を忘れ去るまで隔離せざるを得なかった。

失われた「成功例」を模倣する為に、奴らは子供をあちこちから集めて「消費」した。その消費の中に僕たちシン・セー社員の子が居て、僕たちもその事を知る羽目になる。

デリング氏も別口でこの件に勘付き、双方のエージェントが出会い、そしていつしか協力する様になってから3年。シン・セー前CEOは余生を本件調査に充てて専従している。

 

「おっ!」クイッ

「網はお任せを!」

ヘラブナはすっと水面に口を開け、するすると誘導されてゆく。上手い釣り師は魚たちを暴れさせない。

「中々のサイズですな。お見事」

「そちらでは釣り上げた魚はどうする?」

「まぁ、キャッチ&リリースですな。もう今の段階では下手な動きは逆に妄想を増大させかねません……」

針を外したヘラブナは、体をくねらせ深淵に帰って行く。

「彼らにも真実を見せて掴ませねばなりませんし、それの『もっと良い活用』を考えてもらう必要があります。事がここまで複雑化して拗れた今、半端な情報公開では最終的な解決は無理でしょう」

タオルで手を拭き、デリング氏に差し出す。

「ご協力頂けますか?」

「無論、喜んで」

 

握手をしたデリング氏が違和感を覚えた様だ。

「……苦労しているな」

「案外使い勝手はいいんですよ。ガンドも」

僕は離した右手手首を時計回りに一回転させて笑った。どうしても人間だから人間は生身でないと「不自由」と考えがちだが、僕には元々肉の体はない。肉を失ったのではなく、また別の(ガンド)を得たのだ。

僕は自由を得たのだと考えている。人間ではないと知らない人が誤解するのにはもう慣れた。




技術開発中のヴァナディースを中途半端なタイミングで潰してしまったから、何処からか「ルブリスに子供使ってガンダムが完成した」なんて噂が立ったんよ。それが昔ヴァナディースでやらかして逮捕者まで出したヴァナディース事変(21年前)のネタと混ざって「ガンダムに子供を捧げた」とか、エリクトって子供が……という妄想に連結。まるで今の水星の魔女視聴者の様だわっ!(笑)

なお、本作設定ではデリングとカルドは血縁者で生き別れており、デリングはサリウスの孤児院で育つ。それがヴァナディース事変で再会してプロローグの事件(13年前)でエルノラやエリクトを保護して水星に匿う遠因になる。
デリングは水星の母子の事を完全に忘れてたのだが、アスティカシアに編入して来て、しかもルブリスそっくりなエアリアル見て「何してんだカルドの元スタッフ?」とガンダム判定したりしたが、双方のエージェント(子供失踪事件調査チーム)が互いのバックを確認して水面下で調整した。キャリバン・メルクリウスチームとは別に、シン・セーには前CEO直轄の調査チームがある。


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策動する女たち

インキュベーションパーティー以降、アニメ本編と筋が少し変わってます。本作では対グラスレー寮戦は「エアリアルをガンダムとして排斥するため」に行われるもので、こちらではまだ会社設立に至っていません(御三家フルコンプして「エアリアルの優秀さを喧伝してから」Kickstarterじみたサービスで資本金集めて起業する流れです)


【ガンさん仕事場、エアリアルシミュレーター室】

 

「──本当にこちらからは手助けしなくていいの?」

「ええ、お義母(かあ)様にお手数をお掛けする訳には……」

「折角用意したのに……(残念)」

ミオリネGT氏は敢えて「何を?」とは聞かなかった。どうせろくでもない事を……と踏んでいたのだろうし、事実それは正解である。ここで了解してたらスレッタのお兄ちゃんが初登場して更に事態は混迷を深めた。プロスペラ母さんはヴァナディースの癖にアース神族のロキみたいな役どころ好きだよね。引っ掻き回して遊んでない?

秘匿回線が使える僕の仕事場……エアリアルシミュレーター室(外見は20ft.コンテナハウス)は何故か地球寮の作戦基地として占領された。秘匿通信機器なら多分ミオリネGT私室というか、理事長室にもあるとは思うのだが……

(筆者注 キャリバン・メルクリウスこと「エアリアル」はミオリネ部屋の惨状を「まだ」知らない)

 

やりたい事ややらなきゃならない事は山積している。各社の製品開発動向から今のMSのトレンドを掴んだり、各社の「お付き合い」から紛争地、係争地、未来の紛争地を予測したり。まるでスパイみたいだろ? 実際スパイは地道なんだよ。案外普通に流れてる情報や既知のネタが役に立つ。秘密の凄い情報が凄いので凄い役に立つなんてのは余り無い。大体凄いネタ掴んでも凄過ぎて裏が取れなきゃ「使えない」

007みたいなスパイはスクリーンの中にしか居ないのだ。

 

何やら彼方でミオリネ氏が対グラスレー戦の対策を授けている様だが、僕は聞き流した。周りも薄々気付いているが──詳細にシャディクの癖やら好み、判断の傾向を語る姿は「過去にシャディクと如何に親密だったか」を披露する様なものだ。リリッケちゃんなどお肌がツヤツヤでめっちゃ焦ったそうに踠いている。僕らのスレッタ姉さんは素直に感心してミオリネGT氏を尊敬の眼差しで眺めている(相変わらずタヌーっと)

嗚呼、その観察眼や策謀を組み立てる能力が色恋の分野で目醒めたのなら! ていうか、今やってる独演会。男子も「これってノロケ話?」と勘付き始めてるぞ!

 

 

 

 

【ちょっと前、ベネリットグループ本社フロント】

 

「あっ……アァァァァあ亜あ……」

「どうなさいまして? ゴルネリさぁん?」

「お……お前……」

「さ、ご挨拶して?」

「(とんでもない話になって来たぞ……)

初めまして、エリック・マーキュリーです。この度アスティカシア学園に編入することになりまして……」

「4号!」

(びくっうう!)

「──何ですの、それぇ?」

プロスペラは完全に煽りモードだ。

「ウチの息子がビックリしちゃいますから、罵声はやめてくださいな。

ちゃんとご挨拶しないとこの間のスレッタみたいに虐められちゃうかなーなんて思いまして。いやぁ挨拶回りって大切ですよねぇ……」

 

どう見ても恐喝です。本当に(ry

 

「な……何が目的だ」

「ご・あ・い・さ・つ☆

ああ、そうそう(手をポンと打つ)今度またウチの娘たちが決闘することになりまして……」

「知っている。ファラクトは出せませんよ」

「ええ、()()()()()()わ、デボラさん。()()()()()もザウォートがいいんじゃないかって……」

「分かったわ、ザウォートの一機ぐらいなら……」

「え? ニューゲンさんさっき4号とかおっしゃいませんでしたぁ? 1000億規模の事業廃棄を決断できる御社が、また、しみったれた……いや失礼」

「4機、ザウォート4機。武装も付ける。これでご満足かしら、レディ・プロスペラ!」

「嫌だわぁ、これじゃ私がおねだりしたみたい。そんな気は全く無いのにぃー」

((((このクソ女アァァァァ!))))

「ちゃんと次回は手土産を持ってお伺い出来ると思いますよ。ザウォートの宣伝にもなる……娘の未来のお嫁さんが本当に出来た娘でして──」

 

義母(かあ)様は勝手にお嫁さん(ミオリネGT)のバックアップに奔走していた。エラン・ケレス(4号)を手中にして既にファラクトの秘密は掴んだし、下手に手出ししたらどうなるか()()()()()()()()という威嚇だ。

手札は隠すばかりではなく、時には積極的に晒す必要もある──これでもし「アレ」が【エリック・マーキュリー】が強化人士であるという前提で動いたなら、ペイルは完全にあの組織と繋がっている。

 

たっぷり1時間ほどのおばさんトークを繰り広げながら、プロスペラはアラクネの様に凶悪な網を張りつつあった。勿論、エリック・マーキュリーへの加害を逸らす目的も、ある。

 

 

 

 

──なんか嫌な予感がするのぅ。

僕は魁!男塾の田沢の顔で呟かざるを得なかった。

 

今回の決闘では先方からの要請で6vs6の対戦となる。てっきりグエル先生口説いて連れて来るもんだとばっかり……ペイルからザウォート(かとんぼ)借りて来て、地球寮のみんなが数合わせで参戦する……?

 

(筆者注 少なくとも本作品のエアリアル君はダリルバルデ激推しで淡い恋心を抱いているまであるし、スレッタの為に弟ディランザで決闘を申し込んだグエルを高く高く高ーく評価している)

 

スレッタ姉さん……「つべこべ言わずに俺ンとこへ来い!」って囁いたら落ちると思うよ……なんで口説かないの?

せめて……せめてディランザ君を……(懇願)

 

 

 

「囮を二重に仕掛ける。アイツ賢しい手段大好きだから絶対に『罠に嵌めた』ってほくそ笑んでるわ! 相手の得意とするやり方を凌駕して勝つ! ツノだけじゃなく心も折りに行くよ!」

 

何もそんなオーバーキル狙いしなくてもいいと思うんですが。神取忍か。

……囮じゃなく大トリやりたいだけの人生だった……

 

 

ガンドアームである僕の「人」生とは?(哲学)




心を折るの初出は神取忍。1987年の神取とジャッキー佐藤戦でのインタビューでこの語が出た(ほんとう)

こんなやり方をした結果……シャディクの心はポッキリ折れてしまう模様?


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天秤に乗せるもの

大体決闘はアニメ通り。

それ以外は……(目を逸らす)


騒がしい学生が帰ってから、僕は仕事を再開した。

傭兵として来てもらっているVoltex Blasters(渦動破壊社)から貸してもらった砲撃支援システムをデミトレーナー用にカスタマイズ……計算能力が足りない分はエアリアルのシェルユニットで補うか……この砲撃支援システム(コンサート・マスター)もうちょっとシュリンク出来ないものかな? ガンドフォーマットで繋がった時にこんな計算したらデータストーム出ちゃう……

 

 

「先ずは露払いだっ!」

シャディクの一言にオペレーターとして控えているニカちゃんが口を押さえた。その一言までミオリネGTは予測していたから可笑しくて吹き出しそうになったのだろう。

次々堕とされるザウォート(かとんぼ)、堕とされるのが策の内とは言えこれは酷い。ミオリネGT氏はいざと言う時は盾にしろと言っていたが、こんな柔らかいのでは盾にもならない。エスカッシャン (TM)はやはり優秀だな。みんな買えばいいのに(僕のボーナスのために)

次々と擦り減る地球寮チーム。この戦いに(エアリアル)の去就掛かってるんだけどなー

 

 

「双方、魂の対価を天秤に……地球寮は?」

「グラスレー・ディフェンス・システムズの発行株式の0.1%……と言いたいけど、6vs6って条件飲んだんだから0.6%頂戴」

「れっ……0.6%ぉぉお! 時価総額幾らすると思ってるんだミオリネ!」

「エアリアルの開発や建造、運用テストに幾ら掛かってるか考えた事ある? シャディク。それを要求しときながらたかが発行株式の0.6%程度で何ビビってるのよ。それにね……この決闘は外部配信するからグラスレー・ディフェンス・システムズの株価はあっという間に下落するわ。そんなクソ株の0.6%でエアリアルを賭けてあげるんだから感謝して欲しいわ」

「ま……待ってくれ! これは義父(とう)さんに確認しないと……」

「今、ここで確認なさい」

 

「0.6%……」

今サリウス老が軽く白目を剥いたのを僕は見逃さなかった。

グラスレー・ディフェンス・システムズの時価総額はざっくり申し上げて40兆宇宙ドル。0.6%は2400億宇宙ドル。株価が大暴落して半値に落ちたとしても、(1宇宙ドルが現代地球の1USD相当なら)アメリカの航空産業最大手、ボーイング社の2020年12月の時価総額ぐらいになる。

軽く賭けとしてやっているが、本来MS一機を破壊する決闘はとんでもない金額が浪費される悪魔の遊戯だ。ファラクトの開発予算と開発部門廃棄コスト総額が1200億宇宙ドル相当である事から考えても、MS1機は数億〜数十億ぐらいする。ファラクトでこの程度なのだから、「それを凌駕するエアリアルを一から開発建造したら」2000億宇宙ドルは下らないのは自明である。

「妥当な金額じゃありません? そちらがエアリアルを決闘の代価に求めるなら、天秤が釣り合うモノを賭けて頂きたいわ。シャディクが持ってるストックオプションにサリウス老の保有株式足せば捻出出来るんじゃありませんか?」

「待て、確かに出せるが……勝てるんだな? シャディク」

ミオリネGTはニヤリと笑った。この状況、この場面でシャディク・ゼネリは出来ない、分からないとは()()()()。サリウス・ゼネリはこの脆弱性に気付いて居ない。

もうミオリネGTはグラスレー株を取得した時の売り先を決めて接触している。議決権0.6%割り増しに「お客様」は興味津々で決闘開始時の株価に5%のプレミア付きで買い取ると了承してくれた。たかが0.6%だが、積み重なった時にトリガーになり得る量なのだろう。

「ご安心ください、サリウス老。エアリアルがガンダムなら御社の対ガンダム装備でエアリアルは無効化される筈……そうでしょう? 所詮私たちは蟷螂の斧。グラスレー寮には敵わない筈……()()()()?」

「何故そこまで勝利を確信できる? まさか本当にエアリアルは──」

「勝てるとは思ってません。私が確信しているのは私の花婿を蝕まないエアリアルというMSと、花婿スレッタだけです」

マルタン君が「俺たちは信用の範囲外かよ」と毒づいているが、そこを含めてミオリネGTの策であるのは言うまでもない。同じく経営戦略科のマルタンはミオリネGT氏の恐ろしさを理解しつつある──案外優秀なのだ。

 

恐怖は行動を縛る。

同じ敵と戦うにしても、怯えた敵と恐れぬ敵では難易度がかなり変わる。質量共に劣る地球寮が勝利する為にはこの心理的な戦力要素を活用するしかない──お義母(かあ)様はいい言葉をくれた。人は未知に恐怖する。脅すなら、こうだ。何故か分からない不思議な自信。私の自信が地球寮を勝利に導く。

 

 

「おめぇ、右腕どこやった!」

意外な事にチュチュ先輩は芸達者だった。MSの操縦も上手いが、隙を見せて相手を誘導するスキルが極めて高い。隙を見つけることが出来る程度の敵はその罠に引っかかってしまう。チュチュ先輩は見事ここでシャディクに倒されてしまうが、目と銃は無事だった。

一見猪突猛進タイプに見えるが、チュチュ先輩は冷静に獲物を追い詰めるハンタータイプの様だ。彼女はミオリネGT氏の指示通り「時間」を奪い「余裕」を殺した。罠に掛かった獲物ほど仕留めやすいものはない。

さぁ、慌ててガンダム・エアリアルに襲い掛かるがいい。残るはエアリアル一機と安心し、得意になって対ガンダム装備を使うといい──その高いビルがお前の墓標だ、クソスペーシアンが!

 

そして展開されるアンチドートシステム。その時僕は……




アンチドート部分はちゃんと内情書かないといかんでしょ(使命感)


後書きが寂しいので筆者が重視してる評価指標を。
実は「全話PV」÷「UA数」を指標として見てます。これはつまり「読者のみんながどれだけハマり込んで一気に読み進めたか」を表し、ここに各話文字数を掛けると「筆者が読者に読ませることが出来る文字数」を算出できる。
この自己評価指標を持ってて、ここを伸ばせるように自己鍛錬しているから、出来たら1話2000文字で収めて計算簡単にしたかったんですが、最近もう2000文字超えが常態になってしまって困ったなぁ、と。

一応短期的には4.0が目標で、1日8000文字くらい読ませたいかなと。将来的には16000文字くらい「読ませてしまう」文芸ぢからを涵養したくはあるんだけど、一足飛びには行けませんなぁ。


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毒とは失敬な!

アンチドートとは、解毒薬のことである。
つまりこのシステム開発者はガンドフォーマット(及びドローンコントロールシステム)を毒と見做しているわけで……

太古の昔、嫌気性生物を酸素という猛毒でほぼ殲滅した好気性生物がそれ言うかぁ?(エアリアル談)


登場人物紹介
グエル(ボブ)
公式いい加減にしろ(真顔)
仕方ないので当作品ではグエル(ボブ)表記とします。ブルーカラーの好青年さ!


アンチドート。

パーメットを利用した通信テクノロジーの阻害を行う装置である。ぶっちゃけ妨害電波みたいなものだが、戦場で交わされているある程度の波長範囲を検出して波長分析&逆位相の信号生成する中々の優れものだ──

 

──なんて褒めてる場合かっ!

 

「エアリアル……みんなどうしたの?」

 

……スレッタ姉さん、まさか……プロスペラ母さんからアンチドートの話聴いてないの?! 話聞いてる最中にまた上の空で……(たぬっ娘姉さんには良くある事である)

シミュレーターで暫く出してなかったから忘れたぁっ?!(最新版では難易度の関係で敵にエスカッシャン (TM)持たせて出してた僕の落ち度もあるにはある)

 

 

プロスペラ母さんから聞かされていた通りの効果だ。ガンビッツは沈黙して地に落ち、僕はというと機能停止した。ガンドフォーマットで機体を操る僕の操作が無効化されたに等しい。このままでは一切のアシスト無しのMSをスレッタ姉さんが操作する事になり……

 

 

「あ、私一人でやるの?」

 

ちょい待ち、今再起動するから!(しかしスレッタには聞こえていない模様)

 

「ダメだよ、一人じゃ……あっ!」

 

戦わなくていい。アンテナ守って時間稼いでー! と普段ならモニタの点灯やら何やらで知らせるんだけど……45秒程度何も出来ないんだこれが! ──フルマニュアルで結構避けるね、姉さん? ひょっとしてシャディク氏、接近戦仕掛けてきたけど接近戦得意ではない?

姉さんはしかもなんか考え事して僕に囁き掛けながらなんだけど……内容がいまいちトンチキなのは置いといて(困惑)

 

「──リストにはないけど、わがままかな?」

ええんやで? 再起動間に合ったー!

 

(親愛なるガンビッツ淑女達(レディース)よ、【オーロラ】を解放する!)

(((((あいっ!)))))

 

サブコントロール0〜10再起動、各部信号順次変換。

破損状況自己診断! 右胸部シェルユニット破損及び各部破損によりガンビット7子ちゃん以降はコントロールが雑になるので上空待機で戦域監視(レイブンモード)。1子から3子、4子から6子で2チーム構成して牽制と攻撃補助!

砲撃支援システム(コンサートマスター)起動。リンク急げ!

(((((あいっ!)))))

 

「よかった……」

 

(タヌねぇ頑張れ!)

(見てろよおまいら……4!)

(水星舐めんなよ……3!)

(ふたつ故郷(ふるさと)後にしてー、2!)

(ひとつ人より力持ちー、1!)

(【オーロラ】発動!)

 

「いたんだ」

 

僕のシェルユニットが青く輝く。それ自体はただの通信回線周波数の変更だが、オーロラの変調可能範囲はシン・セーの特許技術によりめちゃくちゃ広くなっており、ライセンス料が馬鹿みたいに高いので他社は一切採用していないのだ! 事実上この機能はシン・セーのエアリアルにしか搭載しておらずメタ張れる機体は存在しないし、実は特許をワザと取ってない上位技術もある。

 

(ガンビッツ再起動すますた!)

(では教育の時間だ。スフィアを構成してアンチドートにオーバーライドを仕掛ける。沈黙させるぞ!)

(((((アイ、サー!)))))

 

♪〜♫♪♪ ♪〜♫♪♪ー♪♫〜  

  ♪〜♫♪♪ ♪〜♫♪♪ー♪♫〜  

    ♪〜♫♪♪ ♪〜♫♪♪ー♪♫〜

      ♪〜♫♪♪ ♪〜♫♪♪ー♪♫〜

        ♪〜♫♪♪ ♪〜♫♪♪ー♪♫〜

          ♪〜♫♪♪ ♪〜♫♪♪ー♪♫〜

 

輪唱のような波状攻撃。僕たちの歌が互いに引き立て合い「波」をより強くよりパワフルにして行く。文字数稼ぎではない(本当は12行繰り返したかった所だ!)

 

 

【オーロラ】

極光(オーロラ)のこと。フォルドの夜明けに引っ張られてうっかりポラリスとか書きそうになったが、北欧テイストは地球のテロ屋の十八番なのでイタリア系のプロスペラやエアリアルは使わない言葉よな!

(北欧系言語は調べるのめんどくさいな)

光の色の違いは周波数の違いなので、高周波である青色の方がエネルギー量が高い。また、データ転送量の帳尻を合わせるために高周波になればなるほどパラレル転送時のビット数を減らして妨害しにくくなる。

 

 

正直、早くオーロラ解放して使いたかったのだけど、敵がアンチドート出して来てそいつにカウンター当てる目的で秘匿してました。それまでは僕は旧来のガンドフォーマットを用いた古臭い機体のフリをしていた訳だ。見られてるの分かってるんだから、見せて問題ない範囲しか()()()()よ。

 

技術革新舐めんな(真顔)

 

逆に言うと、21年前のまま──多少の変化はあったが大枠としては21年前のままアンチドート出してきたグラスレーはポンコツ過ぎる。

ウィルスみたいな生物未満ですら進化する。何故君たちはシーラカンスやガラパゴスになるのか。

水星の民ですら更なる世界を求めると言うのに!

 

 

さぁ、反撃だ。行くよ姉さん!

「一緒に? いいの?」

サボる気か(苦笑) 疲れちゃった?

「ううん、大丈夫。今度はちゃんとできる」

今度は……? 再起動中になんか姉さん変なこと呟いてたが……いや、僕怒ってないし、別にへそ曲げたりは……(困惑)

 

やっぱり会話は大切だってはっきりわかんだね。アンチドートで通信途絶(コミュニケーションブロークン)したの1分ちょいなのに、なんか姉さん変な事言ってるー。やだー。しっかりしてー(涙)

 

「私たちでミオリネさん助けるよ!」

僕との会話が繋がってるよーな、繋がってないよーな……ま、いいんだけども。(水星では良く有る事)

(((ガンビッツアルファ、攻撃しまーす!)))

はい、ダルマ。指差し確認、ヨシ!

(ガンビットレイブン1よりねーちゃんへ。斜面から一機来ます!)

「次は……こっち?」

(レイブン3。座標渡しまーす!)

(レイブン4。補正しまーす)

はい、ライフル・ドン! ガンビッツベータカモン!

(((あーい! バッチ処理しまーす!)))

……1発多くね? 6子ちゃん?

(バレた? おまけおまけ!)

(レイブン2より僕ちゃんへ、タックル来るよ!)

姉さん!

(僕ちゃん! 砲撃来る!)

ガンビッツアルファ、アクティブディフェンス!

(((あいっ!)))

(独眼竜か、お前は)

(たぬねぇ狙いおったな?)

ガンビッツベータ、()()()()()()

(((あいっ!!!)))

 

さて、そろそろか。レイブン1、チュチュ先輩はどうか? ガンビッツアルファはお客さまの誘導開始。6子ちゃんはうっかり当てないように(確認)

(リンク好調。準備ヨシの模様)

(1発ぐらいなら誤射だよう……)

(レイブン2より僕ちゃんへ、下方より2機接近中)

「邪魔しないでください!」

(お客さま屋上階到着ー)

ガンビッツアルファとベータは牽制に回れ。ミオリネ氏の読みだとここはシャディク君が来る。脚一本くれてやるぞ。そこで更に油断させる必要有るかなぁ……?

 

「ここまでだ、スレッタ・マーキュリー。ミオリネの隣に立つのは俺だ!」

 

 

「って言うから、絶対言うから。

そこで勝ち誇っちゃうのよね、シャディクって」

 

 

ミオリネGTさん、あんたほんと凄いよ。マジで一字一句間違わず、声音(こわね)までまんまそう言ったわ。

 

(レイブン5 座標転送完了)

 

 

「今っ!」

 

勝ち名乗りは勝ってからするもんだよねぇ……ザウォートの残骸とチュチュ先輩の機体で作られた奇妙な機体から発射された狙撃弾は、見事にシャディク機の頭を射抜いた。

まぁ、戦場でMS応急処置して狙撃するとは思わんわな。流石の僕でもこれは読めんわ。




9話戦闘シーンを細かくチェックしながら書きました。
ガンビットとエアリアルが会話しながら戦ってるシーンは、実際書いてみると凄く大変。ビデオ確認しながらだから、移動中にはアウトライン構成しかできないしね!(書き上げるのに2日かかった)
(正確にはガンドフォーマットによる思考制御なのだが、エアリアルはスレッタにも状況が判るようグループチャットみたいにした上で会話を概念伝達でふわっと翻訳して見せている)


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ガンさん工場へ行く(前編)

流石にボロっボロなのでエアリアルはドンブラコとプラント・クエタに行く事になりました。

【クエタ Quetta】
10の30乗の事だよ!(2022年制定) つまりプラント・クエタは超巨大工場って事で、辞令受けてからキャリバン・メルクリウス氏は目を爛々と輝かせて実際赤外線をあちこちに向けて放っていた。
工場、工場、だぁーい工場♪


プラント・クエタ!

ベネリットグループが誇る超巨大プラント!

 

夢はひろがる (ソレ) 南へ西へ (ヨイサ ヨイサ)

科学技術の あこがれ乗せて

今日も宇宙(そら)から 宙港(みなと)から (ヨイショ)

工場〜 工場〜ぉ だぁ〜い工場〜 (サテ)

行くぞ宇宙の 果てまでもっ! ソレ

果てまでも〜♪

 

足でタップダンスしながら上半身は大東京音頭を踊るという離れ技を披露しながら僕は冷徹に自分自身(ガンダムエアリアル)の改修計画を練った。なんと今回! ペイルテクノロジーの4人のCEO様のご厚意によりっ! 修理改修代金はタダ! 無料! ロハ!

ィイヤッホーっ!

 

こんなに嬉しい事はない(歓喜)

 

 

(無論、無理を通した魔女が暗躍した)

 

やっぱアレだね! 神様は実在するね! 

清く正しいガンド天狗様に神は恩寵を垂れ賜う! Αλληλούια(ハレルヤ)

 

「──ガンさんがあんなにあんなに浮かれてるの初めて見た……」

「大丈夫なのスレッタ? エアリアルがサンバカーニバルモードになっても知らないわよ……」

「そんな事はないよ(断言) エアリアルにサンバカーニバルのお姉さんみたいな尻尾が付いても、それはガンビットだろうから!」

──ガンビットそんなに増やしても制御しきれないけど。

「治るの、エアリアル……」

「勿論治るよ! まっかせなさーい!」

「いや、元の形にって事よ? エアリアルはスレッタの大事な家族なんだから変にグレさせたりしないでよ?」

エアリアル=僕なんですが、それは。

「真面目な話、EMTやらシェルユニットは新型に替えるし構造材や装甲は変えられる範囲で替えはするよ。但し重量バランスや機動性に直結するからシルエットは余り変わらない。運用データを最初から積み上げる訳にも行かないからね」

「エアリアルの大切な経験だからね!」

「……正直な話、私はエアリアル強化必要ないと思ってる。ガンドはもっと別の使い方があるんじゃない?」

「それは計画中の貴女の会社でやる事ですよ。シン・セーもバックアップするよ、ミオリネさん」

「……とりあえず再生医療の現場には必要かなって」

 

ミオリネGT氏はエアリアルのガンドフォーマットを見て、とりあえず元の医療用義肢開発に立ちかえる様にした様だ。アドステラ122年時点での医療の現実を少し話そう。

読者諸兄の時代と比べると、マイクロマシンやナノテクを応用した医療分野はかなり進歩しているし、iPS細胞を利用した自己の細胞由来の移植に関しては完全実用化段階にある。それなのに何故ガンドの様な義肢が必要かというと……高度医療に掛かる医療費が天文学的な値段になってしまったのだ! (ナノマシンは未だ研究所レベルの存在で一般化はしていない。強化人士4号には用いられている様だが)

例えばAS122の今であれば、プロスペラ母さんの右腕一本ぐらいなら3年ぐらいかけて細胞培養して再建できる。価格は何とお手頃2億ちょい。わぁやすい(白目)

3年間クローニングを常時監視して人つきっきりだし、再生した腕をくっつけて更にリハビリが必要だからね。更に若い人なら再生も早いが、年寄りはそもそも回復力が低下するからマイクロマシンなんかも併用しないといけない。最先端治療あるあるだなんだけど、最先端であるから被験者は少ないし金も掛かる。幸いな事に義肢が必要になる事自体がレアケースだから逆に需要がそんなには無いのだ。結果、再生医療はやたら高額なままである。(どちらかと言うと、iPS細胞によるクローニングは内臓系に適用される傾向がある。大質量の四肢を培養するのは時間がかかり過ぎる)

そこを考えるとガンドは安い。個々人向けにカスタマイズが必要なのは読者諸兄の時代の義肢と同じだが、基本パーツや構造を規格化した事で工場生産できるのが強い。コストは1/10以下だ。血液や肉体みたいに適合型や免疫系の事を考えずに済む。(勿論人体とガンド義肢の接合部では色々と問題があるが、ナノテクノロジーによる人体と親和性が高い高分子素材やマイクロマシンによる問題解決は100年以上前に実用化されている)

そして、ガンドがイマイチ普及しなかった理由だが……ちょっとお手数だが「水星の魔女 prologue」に出た若き日のカルド博士とエルノラ・サマヤの写真を検索してみて欲しい。カルド博士が白髪になる前の写真だ。

今ではプロスペラ母さんの身体もデカく頑丈になったから違和感がないが、若き日のエルノラの身体には()()()()()()()()()()()のである。

あくまで発展途上だったから、ではある……小型化が難航して不恰好になってしまうのだ。今ではかなり改善していて女性用、特に少女向けのガンドはかなり細めに出来る様になった──それでも醜いと拒否する人は少なくない。思春期というのは難しいものだ。特にガンド義肢に軟らかな皮膚や筋肉を模した外皮を付けると僕の様に細マッチョ気味の体型になりがちだ。子供や幼児向けガンドは夢のまた夢という有様だし、幼児期に今のガンドを装着すると身体の発達・筋肉のつき方などがアンバランスになってしまうだろう。

MSサイズであれば問題は少ないが、それを1/10サイズにシュリンクするとなると「まだ問題は山積している」 技術の洗練に果てはない。

命を救う技術としては完成しているガンドであるが、残念ながら生活を豊かにする技術としては満足できる範疇にはない──これがAS122年段階でのガンドの実情だ。

やっぱり生身は凄えや。神様が作っただけはある。

 

「──それでも、やらないと発展しないしなぁ」

「メルさん? 一体何を?」

「あ、ちょっと別のこと考えてた。安価にガンド義肢提供する為にリースを考えてるんだっけ?」

「……まだ高いのよ。ガンドは」

「どれくらいなら買えるかな?」

「百万以下じゃないかと考えてるわ。地球で普及を目指すなら」

ニワトリタマゴ問題だが、義肢が必要になる事故を起こすと四肢欠損により失職したり収入が低下する可能性は高い。すると義肢を購入できず……と負のスパイラルが発生するのだ。そこをリースで対応して、更にガンド義肢を利用している人を積極雇用する。そのガンド義肢の利用者をガンド製造や販売側に回して……これでサイクルを作る。

「私もクエタ行って視察するかな……」

 

畑も工場も、作物や製品を通じて未来を作る。




技術として完成する事と普及は別の話なの。
ガンドを普及させる為には市場という畑を耕す必要があり、肥料や水や雑草抜きが必要なんよ。
実際、特許工法開発した会社を一つ知ってるが、市場耕してそれで食える様になるまで5〜6年かかってる。


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ガンさん工場へ行く(中編)

何故まだ工場に着かない!

エスカッシャンについての話は実際そうです。


【エスカッシャン】

「そう言えばミオリネさん? エスカッシャンどうする?」

「へ?」

「──エアリアルの方の話?」

「は?」

「うん、一応あれはエアリアルの血統とか出自を……」

「は? はぁ? 何の話?」

 

「「え? スレッタ知らないの?」」

 

エスカッシャンというのは、西洋に於ける家紋の様なマークの中に配置される盾状の部分である(本当) 紋章を構成する要素は沢山あり、その中でもエスカッシャンは血統とか当人・当家の出自を示す部分になる。

 

「……という事でね、エアリアルのあのエスカッシャンは原型機はルブリスって機体だよって意味なんだ。知らんかった?」

「聞いたことも無かった……」

そりゃそうだ。万が一オックスアース社の権利相続した奴が難癖つけてきた時に誤魔化す目的で残したからね。普段は気にしなくていい。

「後々私とスレッタ結婚したら、マーシャリングしなきゃいけないかもしれないのよ。エアリアルの盾をエスカッシャンとするならね」

「でも、ミオリネさんレンブラン家の家督相続するでしょ? クォータリングせずにインエスカッシャンしてもいいかなと」

「マーシャリング? インエスカッシャン?」

スレッタ姉さんが目を白黒させるのも仕方がない。そも読者諸兄だってエスカッシャンが紋章学用語だと知らない……紋章学のモの字も知らないだろうし。大体平民は紋章なんて持ってないし!

 

「──大体分かった」(分かってない)

大層自信ありげだが、スレッタ姉さんのこの顔は大変怪しい。

「本当に?」(疑惑)

「期待しちゃダメだよ」(諦)

「ビームサーベルガンビットが欲しい!」(とくいまんめん)

「「はぁ?」」僕とミオリネGT氏はハーモニーを奏でた。

「グエルさんとの2戦目で、水降ったでしょ? あの時ビームが減衰したでしょ?」

「あー、あったね……そんな事」

「そんな時にサーベルビット、【サービット】があったら便利かなぁ、と」(しんけん)

「──一理ある」

「地球環境で使う時、スコールだから切れませんじゃ確かに困るわね……」

機動プログラム自体はガンド天狗の奴転用できそうだし、ダリルバルデくんもそんなの使ってたなぁ。

「──よし、本件は真面目に考えます。エスカッシャン (TM)の正規オプションにできるかもしれない」

「ウチの紋章聞いとくわ。無い様な気もするけど……」

 

そう、レンブラン家というか、ベネリットグループのロゴとかマーク出て来てないんだよね。何故だろう? ボブではなく僕は訝しんだ。

 

 

【プラント・クエタに向かって移動中。ブリタニア3世号デッキ】

 

「で、社長。エアリアルの修理はどこで?」

「最下層のRMAセクション借りたわ。博士がやってくれるって」

「博士? 誰ですかそれ?」

「ヤスシ師匠よ。水星で一緒だったじゃない?」

「ヤスシ……?」誰だ、それ?

「ヤッさんよ、ヤッさん! 気安く呼んでたけどヤスシ博士は知る人ぞ知るMS工学の権威よ!」

「……水星に角○老グループ招致しようってしてたあのジー様が?」

「エアリアルの基礎構造と設計ブラッシュアップした天才よ!」

京大出身って……まさかガチ?

「オックスアースとの産学連携事業の旗手で、ルブリスシリーズの機体の生みの親! 13年前の事件で大学追われて水星に来てたの。スレッタが決闘ばかりするから急いで呼び寄せたんだから」

「え? なんか随分大規模な改修するの?」

「逆。やたら壊れるから構造の単純化を依頼したわ──」

 

 

【RMA】

Return Merchandise Authorization。一般的には商品の修理部署やその受付業務を示すが、実は製品開発に密接に関わる重要部署である。

一般的に製品はR&D部門で開発設計(及びその下位部署であるテストセンター)で製品化されるが、「商品」というものは開発側が予想もしない使い方をされたり、想定外の故障をする事が割とある。この問題点の解析と、実際の故障事例から製品の改善用データを蓄積するのがRMAセクションの役割だ。

例えば……パソコン基板でI/O コントロール ハブというICが良く破損するというデータが得られたとしよう。この時RMA部門では故障ICを登録すると「よくある故障パターン」をシステムが返す様になっており、このデータが一定量貯まるとR&D側で再設計の検討が行われる。良く壊れるのがBGAパッケージICならワザと直前のコンデンサ(キャパシタ)が壊れる様にして修理コストを下げたり修理作業を簡略化したり、そもそも故障を誘引する設計自体を見直したりする。

 

 

「よう、ガンさん。かわんねぇな……ガンドだけに」

「ヤッさんがそんな有名人だとは知らんかったよ……」

「開発なんてのは裏方やってナンボよ。製品が有名ならそれでいい……」

 

ガコン、プシュー

 

「──スレッタ、よーもまーここまで壊したな」

「いやぁ、面目無い……」

「こんだけ無理しても大丈夫だって信頼の証だ。スレッタは無事だったんだろう?」

「ええ、まぁ」

主人(あるじ)の信頼に応えた機体だ。大したもんだよコイツは」

ヤッさんは感慨深げにエアリアルを眺めている。




無知で壊すのと理解して壊れるまで使うの間にはすごーい隔たりがあるのだ。愛情を持って使い込まれた機械が嫌いなエンジニアは居ない。


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ガンさん工場へ行く(後編)

ようやく年内の仕事が終わったぞー

……大体は(涙)


【プラントクエタ RMAセクション】

「先ずはEMTからバラして測定すっぞ。治具と架台出しとけー」

ヤッさんは周囲のエンジニアに声を掛ける。なんかこう……メモ取るやつ、録画する奴……やたらスタッフ居ない?

「ヤスシ博士の公開授業だ。そらみんな観に来るさ」

傍にいたおじさんは熱心にエアリアルの解体を観ながら教えてくれた。次々とEMTが取り外され、ゲージで歪みを測定され、トルクや回転数を記録して行く。

「格闘機では無いのですね」

「水星でのレスキュー用として組んだからな。モノにぶつかる事は余り考慮してない」

「成る程、だからギアがこんな繊細に……」

「推力比が異常に高い様な……」

「単騎で水星衛星軌道から降下して軌道まで戻る必要があるからな」

「──? 水星の脱出速度ってそんなに低かったか?」

「確か……地球の1/3はあった様な……」

「だから軽量化してるんだ」

「いや、ヤスシ師匠。それはおかしい」

「手足付いてるロケットだよこれ……(驚)」

「これでダリルバルデと斬り合いしたのか(呆)」

 

 

【それはおかしい】

ゆりかごの星の描写見てると、エアリアルは水星の衛星軌道にあるフロントから地表降下して、要救助者を捕まえてから4分で軌道上まで帰還している。40トンの機体を僅か4分【未満】で秒速4.25km(水星の脱出速度。時速15300km!)まで加速できるという事になる。どーなってんだこれ(苦笑) 減速考えたら2分でマッハ12ぐらいまで加速してない?

本気で飛ぶエアリアルって、ファラクトなんか目じゃ無いバカみたいなスピードで飛べるみたいなんですが……(実は真面目に科学的な考察するとかなり変な設定は各所にあるのだが、その辺厳密にやっても面白さには繋がらない可能性が……)

 

 

見学してる技術者が「MSやガンダムだと思ってたのに、実際はロケット人間(マグマ大使)だった」とドン引きする中、機体解析は続く。

「左右のバランスは悪く無いが、気持ち左腕のヘタリが強く出ているかな?」

「流石にエスカッシャン (TM)多用しましたからね」

「EMTは水星と違って最新型使えるから入れ替えるとして、慣性制御ユニットはどの辺まで高出力化するかだな」

「……一番良いのは使わない……ですか?」

「ガンさん意外と古風だな。モーションデータをよく見ろ。あと足首や膝のストレス。スレッタはきっちり機体重量使い熟してるから、慣性制御強くしたらかなり違和感感じると思うぞ。減らすだけではなく増やす方も使えれば最高だな。スレッタによく言っといてくれ。

EMTも応答性が高くて瞬発力重視のセッティングの方が使い易かろう」

「センセイ、そんなちょこまか動く機械では力負けしませんか?」

「甘いな。機動のおこりを押さえてベクトルズラすのに長けてたらパワーはそんなには要らん。正面からぶつかり合う必要自体が無い」

「……すると……キャパシタがキモですか……」

「瞬間的な高電圧、高電力が必要だからな……松下の(注1)はおらんかー!」

「ここに。MS用のOSコンも御座います」

「ガンさんと一緒に計算進めてくれ。今の2倍は欲しい。京セラ! 京セラは!」

「複合装甲ですな。どの程度の重量で?」

「EMTと慣性質量制御機の性能による。今と同程度のレスポンス稼げる範囲で構造強度上げつつ対弾性上げるんだ」

「テスラから来てた奴いたよな、こっちで検討するぞ!」

「ロールスロイス (注2)ですが推進器は如何です? 質量が上がるなら高出力も必要かと」

 

 

どんどん惜しげもなく最新機材が投入されて行く。

カタログスペック程当てにならないものはないが、もしもそれを使いこなせるのだとしたら……単純なスペックアップは純粋に機体性能の向上には効く。後はそれを戦力化出来るかだ。良く使う部分が機能向上して、ほぼ使わない機能が低下しても全体的なフィールは向上する。その「1番良いところ」を使用者の癖に合わせて調整するのがチューンの勘所。

今までのガンダム・エアリアルは機体性能を操縦で100%近く引き出す奇跡の様なやり方で戦力を引き出して来た。純粋性能で言えばダリルバルデはおろかディランザやザウォートにも劣る。それらを優越して下す事が出来たのは、エスカッシャン (TM)を用いた戦術と、それを効果的に用いる事が出来る僕のガンビッツ制御能力による部分が大きい。

対グラスレー時のガンビッツ制御データ量を計算した事があるが、オーロラ発動時のシェルユニット⇄ガンビッツ間のデータ処理量は(単純比較は出来ないのだが)パーメットスコアとしては6(6.17〜6.35)相当。

勿論僕だってアスティカシアに来た頃のままならこんな情報量を捌き切れなかったが、経験を積んでシェルユニット内の仮想ニューロンネットを繋ぎまくりなんとか処理能力を稼いできた。地道な努力に勝るものは無いのだ。

 

ガンダムとしてパイロットによる直接制御に拘ったら、ここまでの進展は無かった。既に僕は本質的な意味において「ガンダム」では無い。





注1 松下の子
OS Conは元々サンヨーの製品だが、企業ごと松下(パナソニック)に買われました。てかサンヨー的には松下に助けて貰った体なのに、旧サンヨー系の方からは当初余り良く思われておらず(以下略)

注2 ロールスロイス
実は軍用ジェットエンジンなんかも作ってる。アドステラの時代にはロケットモーターも製品化してる模様。


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クワイエット・ゼロ? 知らない子ですねぇ。

開けましたおめでたい(挨拶)

アニメ側が変な設定持ち出すからその実態は何かって考察でえらい時間浪費しました。そしてその予想が当たるとめでたく本作は水星の魔女本編のパラレル行き確定となりますのでグッバイ公式(涙の別れ)

1/8までに説明回終わるかなぁ?


【プロスペラがRMAセクションに来ました】

 

「ガンさん、エアリアルの擬似ニューラルネットワークのバックアップ頂戴」

「へ? 何に使うんです?」

「またまたー。惚けるの上手いわねー。クワイエット・ゼロに使うのよ」

「クワイエットゼロ? 何それ?」

 

 

 

「────ぇ?」

 

 

 

ドッカンバッコン。インパクトドライバーが奏でる打撃音やモーターが歌う高周波が溢れるRMAセクション内なのに、僕とプロスペラ母さんの間には無限の宇宙と無音の世界が広がっていた。具体的に描写すると宇宙ネコ状態だ。

 

 

 

【ガンさんのコンテナオフィス内】

 

「まさか理解してなかったとは……」

「わかる訳ないじゃ無い。そんなの……」

 

会話再現するとやたら文字数が必要なので簡潔に説明しよう。ガンダム・エアリアルはガンダムと呼ばれているがガンダムでは無い。

先ずはガンダムの定義の話からしよう。

今は雑に「ガンドフォーマットを使ったMSはガンダムである」と認識されているが、ルブリス以前から現在のペイル・テクノロジーのファラクトまで、通常ガンダムと呼ばれている機体は全て「機体をパイロットが義肢の様に操縦するシステム」で、機体を直接思考制御するBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)部分にガンドフォーマットを使っている。というか、ガンドフォーマット自体がBMIなのである。本来は。

その結果、ガンビット操作や機体制御関係で大量の制御用データがパイロットに流入するからデータストームが発生する。あれは人間の脳の処理能力やキャパを超えたデータを双方向BMIで無理矢理脳に流し込まれるから発生する問題だ。

そこでカルド博士はシェルユニットにパイロットの意識をコピーして、処理能力自体を向上させようとしたらしい。この技術自体は昔々のドローン戦争時代に用いられた技術で、無線操作だと妨害電波に弱いからパイロットの思考そのものを機体にコピーして使う【セイズ】という技術だそうな。

人間の脳の処理性能が低いなら、意識を処理能力が高いコンピュータにコピーして処理させたら良い……無茶な話に見えるだろうが、技術自体は21年前に完成したものであるし、実はガンド技術もセイズ技術をベースにして開発されたものだ。アプローチとしてはアリかなと僕も思う。

が、成功はしなかった。

何故かと言われると僕も困ってしまうのだが、ルブリスの運用データと安全係数を取った「処理能力」に、機体制御系の自動処理(これは人間の脳で言うと自律神経系や不随意運動制御……脳幹の働きに似る)や基本的な運動制御(人間の脳だと小脳に当たる?)を加えてみたら、なんか【僕】がそこに宿ってしまったのだ。どうやら仕組みは分からないが、動物も機械も神経系が高度に複雑化してある一定のレベルに達すると、意識とか自我が勝手に生えてくる……らしい。

むかーしプロスペラ母さんがまだエルノラ・サマヤだった頃にやってたあのテスト。レイヤー33からのコールバック云々はこの意識コピーや処理系からの応答を確認する作業であり、レイヤー33はルブリスボディの小脳相当部分最深部であり、レイヤー34以降は大脳領域だ。本来パイロット自我をコピーする領域に僕が既に居るのだからコピーは出来ない。エルノラ・サマヤはレイヤー34にいる筈の自意識に呼びかけてるのに、そこに居るのは僕だった……他人と勘違いされてるのだから、僕がコールバックしないのは当然でしょう!

この不幸な事故をエルノラもカルドも理解できなかった。唯一エリクト・サマヤだけが【僕】を彼女の妹と認識して呼びかけを行い、僕は僕に話しかけてきたって事でそれに答えた(コールバックした)

 

「え? え? それじゃエリクトは……」

「いるでしょ、普通に。スレッタ・マーキュリーって名前で」

「嘘、ガンさんってエアリアルの中にコピーされたエリクトの育った姿じゃないの?」

「貴女何考えて娘をこんな感じに育てたんです? て言うか、エアリアルとして答えさせて頂きますが、僕を何だと思ってたワケ? 人の魂食う妖怪か僕は?!」

正直に言うと、スレッタ姉さんが育ったら僕になると言うのは軽い侮辱だと思う。僕はあんなにタヌっとしてないもん!(憤慨)

「でもあの子、4歳の頃の記憶が無いのよ! ナディムの事も、カルド博士の事も……貴方エリクトの記憶吸ってない?」

「ねぇよ(即答)

シェルユニットでもあるまいし。人間の脳の記憶容量は300ペタバイトとかないんです。あと人間の脳には忘却って言うシェルユニットにはない高度機能付いてますから。実に人間らしい挙動だなぁ(感嘆)」

「ちょっと待って。じゃあエアリアルはどうやって動いてるの?」

「基本、スレッタが操縦して僕がスレッタの意志を確認しつつ、ガンドフォーマット使って機体制御してるよ。スレッタはガンドで繋がってませんが」

「ガンダムじゃないじゃない!」

「なんでガンダムだと思ったの! 僕がシェルユニット使いこなして莫大な処理してるからデータストームがスレッタに行かないんですよ!」

「じゃあ、エアリアルが処理せず直接エアリアルとガンドで繋がったら……」

「パーメットスコア6まで行かずにデータストームでHell 死」

「どどど……どうしよう……デリング総裁にエアリアルのデータ渡してQuiet Zero完成するわよって大見得切っちゃった……」

「何で良く知らないまま勝手にノリで話進めますかねぇ……」

 

……天狗様に調べてもらうか。




どうなるんだ、これ。


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対話しよう!(前編)

ちゃんと話せば分かるんです。
犬養毅も言っていた(撃たれたけど)


【プラント・クエタ内、クワイエット・ゼロ実験区画】

 

物凄い警戒体制だと思い込んでガンド天狗に変身してきたのだが、総裁肝入り最重要実験区画なのに警備が薄い。最深部は流石に多少警備がある様だが、ミョーに警備が甘いな……とりあえず気をつけよう。

それがコンピュータや電子脳である限り、僕は僅かな接触で膨大なデータをやり取りできる。パーメットスコア6相当の処理・無害化が可能な僕はちょっとしたスパコンをデコピンでノックアウト出来るぐらい処理性能が高いのだ。ちょっと触れたらクワイエット・ゼロ君とも濃密な会話が出来ると見込んでいたのだが……

 

何考えてるんだ、デリング氏?

 

手を触れてパーメットの流れを感じながら電脳世界にダイブ。気分を盛り上げる為に古典的なサイバースペースを模したグリッドがアレなマトリクスとかサイバーパンクじみた光景を自ら構築してみたが……何というか、データが隅っこに乱雑に積まれた汚部屋じみたイメージが像を結ぶ。

あれ?

ちょっとイメージが違うなぁ。サイバーはサイバーでもブレードランナー風味と来た。酸性雨降ってるからかしら?

サイバースペース内の僕のペルソナである天狗様を合掌瞑目させてガンビッツ召喚。さぁガンビット淑女達(レイディース)、家探しするよ!

 

(((((あーい!)))))

 

鬼ごっこをする様に、隠れんぼをする様に。ガンビット達は辻々に消えては顔を出し、勝手にゴミ箱開けたり蕎麦屋で天そば頼んで「2個で十分ですよ! 分かってくださいよ!」と言わせたりなどした。

 

パーメット知性体である「僕」は、人間特有の発想の飛躍やアイデア出しは苦手だが、ロジカルな思考や状況からの類推や予測は得意である。僕自体の分身であるガンビット達を駆使してプログラムの全容を精査。シェルユニット内のプログラマブルシェーダーを組み替えて、データ構造からプログラムの方向性を投機実行しながらパイプラインで処理して行く。

データストームを抑制したガンダムを作りたい。それは分かる。だが、そのガンダムを使って目指すものは何か……

 

タイレル本社じみたピラミッド状の巨大構造物の上に立つ。無論天狗が、である。

低く垂れ込める暗雲。強力ワカモトのバルーンドローン。一条の光。地を這う機械油とその油膜を叩く酸性雨。

荒廃した地球。

整備されつつあり、取り壊されてゆくバラック小屋。真っ直ぐ伸びてゆく建築中の道路。

秩序の回復。

雷鳴。

 

 

【挿絵表示】

 

……11名の10歳児じみたガンビット淑女たちがいつの間にか天狗の横に整列して雨降ってるのに一切濡れてない様子で腕を組み、遠くを睥睨している。彼女達は空気を読まない(涙)

僕自身だから分かってしまうのだが、なんか良く分からないけど絵的にカッコいいから整列しておこう……そんな感じだ。

天狗の翼を広げてガンビットを回収。さて、クワイエット・ゼロが目指す世界とはなんぞや? デリング・レンブラン。貴方は何を目指す?

単なる武力による圧政か。

ガンダムの売上によるベネリットグループの再興か。

 

 

 

 

……郷愁、憐れみ、そして悲しみ……何故? この酸性雨はこれか!

永続を目指しつつ儚く散るイメージ。

これは……葬列? いや、葬式?

そこから始まった何か。そしてこれはアンビバレンツ?

彼は前を向いて歩いていない。未来に背を向けながら後ろ向きに歩いている。過去を見ながら未来に向かって逃げている? いや、過去から逃げているのか!

……ガンダムを禁止しなければ良かった。しかし禁止せざるを得なかった。それが愛しいものとの離別になろうとも。

 

「私が殺した様なものだ」

 

それは彼の選択ではなく、そうせざるを得なかった。彼は自ら選んでおらず、時の流れに押し流されただけ。

そして、今。

彼はクワイエット・ゼロを歓迎してはいない。流され続けて今もまた流されている。そして繰り返される離別。愛する者との訣別……これは、未来? 予想?

……ミオリネ氏? 何故デリング氏に剣を向ける? 何故避けないデリング!

 

──最後ぐらいは自分で選びたい。死に場所としての「クワイエット・ゼロが生み出すもの」ガンダムを禁止せずに済ませる為に、ガンダムを倒す剣の顕現を望む、か。

 

 

 

 

……ん〜? 

何これ?(素) ポエム?(苦笑)

その剣って、つまり……(エアリアル)

え、何それ。僕はガンダムを完成させて自分で作ったガンダム倒さなきゃいかんの?

 

(出来るんじゃないの? だって意識転送しても人間は人間だよ?)

(待ちたまえガンビット1子ちゃん。皆がついて来れない)

(クワイエット・ゼロの解説からね。あれは人をエアリアルの様なシェルユニットの中の妖精さんにする機械)

(様々な人間文化のオカルト系、ないしは神話系の技術ね。人間や神々が行えるとされてる「魂を人体から離して飛ばす」──アストラル投射って奴だぁね)

(人間の意識をシェルユニットの中に入れたら確かに処理能力的にはデータストームにも耐えられるけど、そう簡単に行くかなぁ?)

(意識のコンバートとアップロードは【セイズ】でやってるから、まぁ枯れた技術ではあるよ。でも、MSでそれやったらシェルユニットがまた複雑系の海に沈んで僕'とか僕' turboが産まれない?)

(……生まれちゃうだろうなぁ。ガンダム作ろうとしてガンダムじゃないものが出来ちゃう予感。自我の受け皿を作ろうとしたらそれはどうしても自我が入った状態で完成して……中身空っぽの植物人間にはならないだよ)

(……植物人間を作れば良いのか。いや、それって出来るのか?)

(まぁ待て。落ち着け。差し当たり近々の問題は僕のデータをこのクワイエット・ゼロに与えてもどーにもならんと言うことだよ!)

(なんで試験も実験もせずに「出来ると信じて突っ走る」のかなぁ?)

(出来るに違いないと思い込める。それも人間の特徴だね)

 

それがパンドラの箱の底に残って災厄、希望である。

 




1話じゃむりやってん。


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対話しよう!(後編)

長い時間が空きましたが、そろそろ構想が固まりました。


データストームを解消したガンダムを作って、それをまた別のガンダムで倒す?

 

何でまたそんな面倒臭い事をするのだろう。目的の一端というか過程とか工程は掴めたが「最終的に何がしたいか」が分からない。

ちょっと整理しよう。僕が見る限りデリング氏の行動は割とミオリネGTさんの事が最優先で、後は大局やら人倫に関する彼なりの哲学で動いている様に見える。ならばこのQuiet Zeroもミオリネさん絡みの問題解消用だろうか。でもミオリネ氏がやろうとしてるのガンド医療とかガンダムを超えるMS開発じゃなかったっけ? いや、そもそも何でミオリネ氏はガンダムより凄いMS作る気になった……

 

あ。

 

ガンダムが無敵ロボだと軍事機密化しちゃうからか!

ガンドを本来の医療目的にする為にはガンドアームを陳腐化させないとダメなんだ! なんだ、鳴海章のスーパーゼロやんけ。

 

 

 

【スーパーゼロ】

1993年発行。小説。ガンドアームと同じ思考制御・センサーなどのデータを直接脳に転送するSMESという技術が出て来る。そのSMESも元々医療目的で開発されたが、軍事機密化して医療用に使えなくなった。

 

 

 

あー、はいはい。なるほどね。ちょっと僕としては些かプライドを傷付けられる部分ではあるが、確かにエアリアルが強過ぎたらエアリアルの中に使われてる技術は機密処理されちゃうね。ガンドを医療目的では使えんわ。それで超ガンダム作るとか言い出してるのか。よくデリング氏そこに気が付いたな。

 

ならば、だ。

ガンダムが操縦者の想いを読み取りその様に動ける機械なら、更に相手とか敵の想いを読み取って戦えたら強くない? いや、相手パイロットにガンド・アームで偽の五感データ渡してこちらの思い通りに誘導して……

うん、これは強いな! じゃ、こっちの方向でクワイエット・ゼロ作り直すか!

 

 

【筆者注】

他人のプログラムや装置を勝手に違うものにするのは犯罪だと思います。

 

 

 

えーっと、この子のハードウェアスペックは……メモリ周りや処理系はこんなで……なんかここの処理おかしいな、オーバーフロー誘因しちゃ……

 

ちげえよ!

 

なんもここで天狗姿のままやる事はない。バックドア仕込んで僕のコンテナハウスでやりゃいい。

 

 

【バックドア】

不正に権限も無いのにシステム内に入り込むための裏口というか、勝手口。無論アドミニストレータに断りなくそんなもん勝手に作るのは犯罪です(不正アクセス防止法など、様々な罪に問われます)

まぁ、天狗を罪に問えるかという問題は、ある。

 

 

お? 誰かきた!

「だ……誰だ!」

「愛宕山の天狗様じゃ! このプログラムはメモリ・オーバーフローすると卦に出ておる! プログラマーに伝えて修正する様申し伝えよ! 徹夜続きで脳がバグってはおらんか。身体を労わる様にな!」

僕は天狗・フライトユニットのスラスターに点火して飛び去った。別に脅したわけじゃ無いのに腰抜かすとか軟弱だな。そんなんで警備が務まるのかしらどうかしら?

 

 

 

 

「もしもーし、ミオリネさん?」

「どしたのガンさんから電話って珍しいわね」

「確認したい事があってね、超ガンダム作る会社を設立するって話あったじゃない? あれ何で?」

「……お金儲け。綺麗に言うならビジネス」

「……それだけ?」

「……何よ、お金儲けじゃダメなの?」

「ガンダムが有用だとガンドテクノロジーが軍事機密化するからかなって」

「はぁ?」

「ガンドが戦争に役立つ技術なら、結果そうならない?」

「──良く見抜いたわね」

「いや、昔読んだ古いSF小説で似た筋あったの思い出した」

「そんなのあるんだ? 今度読ませて」

「で、こう考えたのさ。ミオリネさんの未来のお義母(かあ)様がガンド技術者でしょ? ガンドが軍事機密だとお義母(かあ)様が軍事技術にいつまでも関わり死の商人じみて美味くない。義肢関係のクリーンなお仕事して欲しいなとか考えてない?」

「つまり何よ?」

「目的は、ガンドアームの軍事機密解除。その為にガンダムを超えるMSが必要」

「そしてもう一つ、Mutual Assured Destructionね」

「え? 冷戦構造を作る?」

 

 

【Mutual Assured Destruction】

相互確証破壊。説明すると長いからググろう。簡単に言えばどっちかが戦争始めても「始まったらどちらも破滅する」状況を作り戦争抑止すると言う考え方。

 

 

「クソ親父的には極端な戦力格差による不戦やる方針みたいだけど、そのせいでベネリットグループの停滞を招いた……私たちがガンダムを超えるテクノロジーを開発【し続けて】双方に販売したら戦力格差は埋まりMADで均衡を作れる。互いにナイフを後ろに隠してって事になるけど、対等な立場での交渉は出来るわ」

「ミオリネさん? それで国力が足りなかったソヴィエトは破綻しましたが?」

「今は地球が寂れているけど、バイオスフィアとして完成した環境としては地球は最大規模よ。文字通り桁違いのね。スペーシアンからの搾取が無ければ最も繁栄の可能性が高い……間違ってるかしら?」

「まぁ、そう……かな? でも宇宙は広いよ、いつか総量としては地球を上回るかもしれない」

「そうよ、宇宙は広いわ。広すぎるのよ。だから一つにまとまってコンパクトな巨大化が出来ない。島国にしかなれないのよ」

「戦争という究極的な対立構造に持ち込まず、それでいて軍事産業が栄えるにはそれしかないのかね?」

「私がベネリットグループ総裁になったら片っ端から民需転換させるわよ。ただ、今手綱を離すわけには行かないからソフトランディングの雛形として超ガンダムからの民需転用目指すの。シン・セーもそっちの方が得意でしょ?」




スーパーゼロは実在のSF小説です。図書館で借りて読んでみてね!


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尋問

プロスペラさん反省会

【今日のエリック・マーキュリー(旧名エラン4号)さん】
エアリアル改修型のテストパイロットしてます。格納庫で屈伸したりする程度ですが。つーかここに改修前後のフィールの違いを比較検証出来る人、彼しかいないんですよ!
「ドクターヤスシ! シートはやっぱりヨシムラの方がいいと思うー」
「あれ高いんだよなぁ」
「どうせペイル持ちでしょー!」
「そらそーか、ハンドルもハリケーンとかにしちまうか!」

この男たち、ノリノリである。


「プロスペラ・マーキュリーさん。包み隠さず話してもらいましょうか。何を考えていたかを」

「違うのよガンさん、私本当に世界平和の為に……」

「筋肉少女帯の『機械』だね。狂人ですか貴方。レティクル座から天使が来ますよ、大破滅ですよ」

「そんな……っ!」

「サマヤ家の悪しき風習ですな。計画ごとが死ぬほど下手。スレッタの学習計画がやりたい事リストに変わったぐらいアレ」

「わ……私はガンドの良いところを知って貰おうと考えて……」

「で、エアリアルのガンドが超高速高密度データ転送できる様になったら、データストーム発生させる事なく脳に直接情報送り込んで反論の機会なく洗脳できるなと、そう言う事考えた訳ですな」

「……はい。」小さくコクリと首を縦に振る。

「ショッカーかよ。いやショッカーの方がまだマシですわ。で、デリング氏はどうやって誑かしたの?」

「ガンドは思考を読み取る機械だから、技術転用すると他人の真意が読めますよって……」

「例えば……ミオリネ氏とか、か」

「イチコロでした」

 

そりゃそうだろうなぁ(諦)

タイミング的に第一回魔女裁判後ぐらいか。ダブスタクソ親父呼ばわりで心が8割がた死んでた時に持ち掛けたんやろなぁ。悪魔か。

一応解説しておくと、通常の脳からの信号でガンダムの四肢を動かすのとは逆に、エラン4号くんがガンダムエアリアルに乗ってリンク2した時みたいにガンド接続されたセンサーからの情報をパイロットの脳に直接伝達する事も原理原則的には出来る。これをガンドをハブとして2者間の夢を繋いだのが「異床同夢の術」だ。記憶操作は出来ないが、脳に信号送って「経験させる」事は出来るのだ。ただ、パーメットリンク6でそれやるとヒトは死ぬ(南無南無)

 

「間違いじゃない。間違いじゃないよプロスペラ社長。確かにガンドのキモはBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)だから、パイロットの思考は読める。リンク6相当なら抽象概念伝達ではなくある程度言語化も出来ますわ。でもさ、それはプライバシーとかの観点から見てどうなの? 許されなくない?」

「だって……ベネリットグループではデリング総裁が白って言ったら黒も白になるんだし……」

「シェルユニットの中で生まれたケイ素生命体に人倫説かれるとか、人間として如何なものかー(天を仰ぐ) カルド博士も草葉の陰で「あら? このシステム基礎はカルド博士のものよ!」

 

ドミニコス隊の皆様に神の祝福があらんことを! 結果的にマッドばーちゃん止めた君らは偉かった!

 

少し前にクワイエット・ゼロのコード見て混乱した理由がよーく判った。要は設計思想がカルド式、プロスペラ式、デリング式でそれぞれ違った目的目指してたからトンチキなコードになってたんだ。そりゃロジック解析にかなり自信がある僕でも読みきれんわ!

 

「で、元々のカルド先生は何考えてこんなものを?」

「パーメットリンクで人々に強制的にある種の考え理解させるって言ってたわ。戦争ばかりしてるからガンドを軍事利用する様な発想になるんだって」

「ご立派だけどキチガイですなぁ。本当に【機械】じゃないか! で、どんな教えを?」

「般若経」

 

僕は頭を机に落とした。ドカンと盛大に。

 

「は……はんにゃきょうぅ?」

「そう、我欲をゼロにして悟りを開き静かな世界。Quiet Zero(涅槃寂静)

遥かなるガンジスが見える(幻覚)……インド人を右に。あ、カレーの香りがしてきた。わぁヨガの行者が、炎を。炎をっ!(ヨガっ!)

 

「あのさぁ、社長」

「何、ガンさん」

「カルト宗教だなーとか思わなかった?」

「違うわ、カルド宗教よ!」(真顔)

「とんでもないカルト宗教のおうちに産まれてしまった……(涙)」

「今は亡きカルド博士の悲願達成に助力したエアリアルは立派な娘さんよ。私も鼻が高いわ(微笑)」

「潰れちゃえ、そんな鼻! で、実際にはスレッタとガンドではなくエアリアルとガンドのリンクがレベル6なだけでパイロットとは6リンク形成してないんだけどどうするの?」

「どうなるの?」

「どーもなりませんが」

「とーにかなりませんか?」

「いやもう、どうにも。はっはっは」

「……あれ、1兆宇宙ドルぐらいの予算掛かってるのよね」

「わぁ、なんて経費が掛かったガラクタなんだろう(棒)」

「何か妙案は無いかしら? 2代目もちゃんと考えてよ!」

「なんで僕がカルト宗教相続する話になってんの!」

「あ、待って。スレッタからだ。ちょいタンマ」

プロスペラ母さんはヘルメット外しながら電話の操作を始めた。

 

その頃、プラントクエタの領宙圏外からクエタに向かう船の中では、ボブ(グエル)がちっこい女の子にライダーキック食らって額に銃を突きつけられるなどしていた。

 

クエタの天狗伝説の始まりである。

 




11話のチキンオーバー食い損ねてからのスレミオラブラブシーンは書かないだけでこちらの世界でも発生している模様。


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ようこそ! 天狗の国へ!

略称「天国」
オラと一緒に補陀落さ行くだ!

補陀落(ポータラカ)
いわゆる浄土。日本ではフダラクと読むが、パーリー語だか原始仏教時代だとポータラカと呼び、それを漢音で補陀落と書いた。


ん?

 

通信途絶(コミュニケーション・ブロークン)

「ゴドイさん!」

「……管制無視して突っ込んできた奴が居る! メルクリウスやばいぞ!」

「ゴドイは博士たちを隔離して! エリックはエアリアルの中で待機!」

「まだ戦闘は出来ないよ!」

「エアリアルのハッチ開けられたら右腕前にかざして「弾けろ!」って念じるだけでいい。相手は挽肉になる」

「ガンさん貴方!」

「そりゃー仕込んでありますよ。スレッタやミオリネさん警護するんだもの。フレシェット弾だから防弾チョッキも抜ける」

「……分かったわ。じゃあガンさんはスレッタを……」

「それは彼に行って貰おう……天狗様に」

 

「てんぐ?」「天狗? 神社の?」

 

「じゃあ、呼んで来るよ」僕は自分のコンテナに戻り、非常用のロックを施した。

 

 

 

 

「ガンビッツアルファ、ビットオンのまま周辺サーチ」

(((らじゃ!)))

「さぁ行くぞ! テックセット!」

 

僕の5体が戦闘用ガンドボディに組み替えられてゆく。ガンダムエアリアルへの改修ついでにガンビットが持つソニック・プロテクト機構を搭載したガンド天狗Mk-IIボディだ。

 

グィィー、ブンッ!

 

皆が見守る中、コンテナ上部からガンド天狗が姿を現す。

「遠からん者は音にも聞け! 近くば目にも見よ!

 愛宕山に住まう大天狗! 愛宕権現太郎坊見参!」

「が……ガンさん?」

「ガンさんちゃうわ! たわけ者!」

「あ……悪魔?!」

「このアドステラの時代に悪魔とは古風だな!」ビーム薙刀の基部となるビーム発振用6尺金剛棒を振り回しつつ応える。

「行くぞ、僕に任せておけ!」

「僕って……ガンさんじゃない! しかもそれどっか行ったエアリアル機能試験用資材っ!」

「ありがたく戴いたぞ!」僕は天狗面の裏でニヤリと笑った。

 

皆から見えないエアリアルの胸部上面シェルユニットが一瞬青く輝く。

(ガンビッツアルファより天狗ちゃんへ。敵は無線封鎖の上モビルスーツデッキに侵入。多分港を抑えて脱出手段奪う気ね。スレッタねぇちゃんとミオリネさんは6ゲートからこちらに向かう途上! インターセプトして!)

(了解! 30秒で着く!)

(逆ハックする?)

(んー、バックドアだけ)

無重力通路を力任せに蹴り飛ばし、天狗ウィングで風を切る。今このプラントクエタの凡ゆるセンサーは僕の目であり耳だった。

「遅いわ! 鎌鼬!」

天狗団扇からビットが飛び、テロリストの眉間を貫く。

「なっ

その先は言わせなかった。無情な天狗キックが下顎部をごっそりと抉り取り、頸椎を変な方向に曲げてテロリストは死体に変わった。

余りに信じがたい展開に固まるテロリストの火器を取り上げて、力任せに銃身を湾曲させ、手渡す。夢から覚めたように引き金を引いたテロリストは、右手首から先を銃の暴発で吹き飛ばしてしまった。火薬式の銃はおっかないなあ。

「なっ……何事だっ!」

鉄人(アイアンマン)を前に出せ!」

 

「「僕は、天狗だ。愛宕山の武神、太郎坊也」」

 

通路に配された複数のスピーカーから少しづつズレて不気味に聞こえるようテロリストに声を掛ける。露骨に嫌な顔をしたテロリストのヘッドショットを避けずに受け、その貫通したあなを見せつける様にゆっくりと歩を進める。

 

「「ここを撃たれるとお前たちは死ぬのであったな? だか、天狗は死なぬ」」

 

ヤケクソ気味に放たれた銃弾を天狗団扇で弾き、ソニック・プロテクトで弾く。

 

 

【ソニック・プロテクト】

ガンビットがアクティブディフェンスする際に放出する力場。MSサイズの散弾ビーム程度なら散らせる。エアリアル改修の際に小型高出力化を目指したらガンド天狗サイズでも実装できそうなのでペイル社のご好意により搭載できる事になった。

 

 

「神と子と聖霊にかけて!」

一際長身のテロリストが襲い掛かる。レスラー崩れか? ……む?

「これしきで天狗に敵うと思うてか!」

テロリストだなぁ。軍人じゃ無い。これウチのパワーガンドアームそのままじゃないか! 特注品の僕と力比べとはな!

「見るがいい! 天狗の神通力を!」

ガンド天狗の眼が怪しく光り、実際怪しいIrDA.信号がレスラー崩れの眼を捉える。彼の手首から先が、肘が、肩が……見る見るうちに5体がバラバラに分解して行く。

「ガンド神拳、やる気スイッチ切り!」

ガンド手首をテロリストの顔面に投げつけると、彼らの顔は大きく陥没して骸と化した。

民生品そのまま使うやつがあるか。そのシリーズの制御コード書いたの僕だぞ。ちゃんとその辺はハック対策しなさいや……

「貴様らは尊い御仏の船に乗りここに来た」

「補陀落渡海の船じゃ、その行き先がここ……天狗の国、略して天国」

「ようこそ悟りの彼岸へ。お前たちに帰りの船は無い」

「六道を巡り、悟り開いて再びこの地を踏めるよう……」

 

各スピーカーから微妙にタイミングをずらして音を出し、まるで声だけが彼らの周りを飛び回るかの様に聞こえるよう語りかける。天狗木魂、立体音響の術。

 

「「「一切諸衆、成仏せよ」」」

 

【挿絵表示】

 

天狗団扇を振り抜きガンビットが空を飛ぶ。ある者は右耳から左耳まで穴が貫通し、ある者は脳天から肛門まで貫かれ、ある者は心臓に到達したガンビットがグルグルと周り抉る様を痛みも感じず眺めていた。脳があまりの事に痛覚を遮断したのだ。

 




虐殺の宴は続く。


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ハッチングタヌキさん

ウチのタヌねぇはちょっと本編とは違うんだ。


「下がれ、スレッタ!」

「え?」

防御隔壁をビーム薙刀で切り裂き天狗キックで通路を作る。

「ミオリネは無事だ。避難するが良い。78番格納庫に皆集まっている筈だ」

「てっ……ててて天狗様は?」

「大体天狗の国に連れて行ったがな、ライフル中隊規模ならまだ何人か中に潜んでいる筈だ。そ奴らを天狗の国に連れて行く」

「あっああっああぁあ頭に穴がっ!」

「天狗はそれしきでは死なぬ」

僕は不敵にニヤリと笑った。

 

 

 

 

「避難時はノーマルスーツはてっ……」

「いっ……いいから早く逃げるんですよぅ! ミオパパ!」

スレッタはやたら厳しいデリング総裁を怖がらずに背中を押した。割と一杯一杯で余裕が無い彼女は天狗(ぼく)に脅されて更にテンパり訳が分からなくなっている。ミオパパ呼びに思わず警護の人間も噴き出した。

「一体何処へ……」困惑顔のデリング。あのミオリネさえ気圧される圧をことも無げに受け流すこの少女、只者ではない。

「エアリアルです! エアリアルの所に行けば安全ですっ!」

「!」インキュベーションパーティーでも会っているが、タヌーっとした写真ばかり見ていたデリングは瞠目した。危機において固まらずに動ける、更に他人まで先導出来る。これはとんでもない事だ。普通は固まり動けなくなる。年頃の少女とは思えぬ胆力!

 

「見つけたぞデ「やめなさーい!」

角から出てきたテロリストはスレッタのタックルと、すかさず放たれた回転右肘によるレバーブロウで沈黙した。スレッタはダリルバルデ戦でもその片鱗を見せているが、空間把握能力や格闘戦能力が異常に高い。

あくまでガンダムは「自分の身体のようにMSを操縦できる」ものであり、逆上がりが出来ない人間はガンダムに乗っても逆上がりは出来ない。

つまりエアリアルを操縦して出来ることは基本的にはスレッタにも出来るのだ。無論「ぼく(エアリアル)」がサポートしている以外だが。

「捕縛しておけ。後で回収だ」

「はっ!」

「な……何よ、テロリストなんて殺してしま「ミオリネさん!」

一瞬鉄拳制裁しようとしたデリングの腕が止まる。

「殺したら1つ、生かせば2つ……お母さんが言ってました!」

「はぁ?」ミオリネには意味が分かりかねた。まぁデリングや護衛も?マークをはやしまくっている。

「……進めば2つじゃないの?」

「何言ってますですか? 学校でも習いましたよ。少数で多勢を相手にする時の鉄則じゃないですか?」

デリングはマーキュリー家の教育方針に若干の不穏な要素を嗅ぎ取った。

 

 

格納庫に駆け込むとプラスペラとゴドイがクロスファイア出来る体制で入り口を狙っていた。

「みんな! 伏せて!」スレッタはミオリネに覆い被さる様にしてヘッドスライディング。護衛とデリングもそれに倣う。

パンパンと思いの外軽い音がして「彼らを追っていた」テロリストは死んだ。

「付けられてたわよ。言ったでしょ6時方向に注意せよ(Check Six)って」

「気付いてたよ! でもお母さんが必ず迎撃体勢取ってると思って……逃げながら迎撃したら被害出ちゃうし」

「とりあえず無事で良かった。さぁコンテナへ」

「ガンさん部屋? 大丈夫なの?」

「防爆仕様よ。エアリアルのコマンドHQやれる特注品なんだから!」

「……話が見えんのだが……」

「水星時代に結構ちょっかい出されてましてね……」

ミオリネが入り口に視線を向けると、ヒトだったものが倒れていた。

「ひっ!「見なくていい」デリング氏は優しく視線を遮る。

「ちゃんと死んでる筈だから安心して」

「ひっヒトが……」

「先ほど簡単に殺せと言ったな。ヒトが死ぬと言うのはこう言う事だ」

「銃撃戦は好きじゃないの。当たると痛いし」

「お前たちはそっちのゴドイと入り口を固めろ」

「エリックー、スレッタ来たわよー!」

「「エリック?」」

ミオリネとスレッタは顔を見合わせて首を傾げた。

「紹介するわね、スレッタのお兄ちゃんよ!」

「「はぁ?!」」

「……あ、ども。エラ……いや、エリック・マーキュリーです……」

旧名エラン4号はすごーくバツの悪い顔で妹に挨拶した。幸い仮面があるから表情は見えないのだが。

「アリヤさんの占い、当たってたんだ……」

「小さい頃から宇宙放射線の治療で地球にね……」

「……いや、なんでアンタが知らないのよ、お兄ちゃん……」

「色々と理由が、ネ☆」

「ご家庭の事情に土足で踏み込んだらいかんぞ、ミオリネ」

「はっ……はじめまして! お兄ちゃ……ん?」

「おー、エリックじゃないか! 大きくなったなぁ!」

「ガンさん! 知ってるの?」

「え? 天狗様は?」

「天狗の国で頑張ってますが?」

「……天狗?」

「はい、アス高でも活躍してた悪人絶対許さない天狗です(笑顔)」

「……そう言えば銃声止んだわね」

「中隊規模でしょ。そら天狗様なら……で、ご相談なんですが」

「何だ?」

「突入部隊始末したらMSが乗り込んでくるみたいです」

 

まぁ、ぶっちゃけ流石の天狗ボディMk-IIも下半身大破して天狗フライングユニットで撤退して来た。高かったのに!

 

「状況的にはアレですな。局所有利取られて防御側押し込まれてますね」

「なんでこんなに警備薄いの?」

「ヴィムかな? でも奴まだクエタにいる筈だが……?」

「ペイルにも動きは無かったわ」

「ではサリウスか? しかしサリウスならもうちょっと穏当かつ……」

「……陰険な手を使うでしょうね。誰かしら、こんな計画……」

「……あの……」オドオドと手を挙げ発言許可を求めたスレッタ姉さんに皆が注目する。

「差し詰まった問題として数的優位回復しないと不味くないですか?」

そしてその発言内容に皆がビックリした。え? そう言うキャラだっけ?

「それはそうだけど……まさかスレッタ?」

「……エアリアルじゃ、ダメかな?」

「君が出る必要はない。警備に任せるんだ」

「……その警備が押し込まれてるってハナシじゃ無かったかしら、オトウサマ?」ミオリネ氏の視線が痛いデリング氏であった。

「そも、テロリストはテロルがお仕事だから白旗通じないって習いました」

「戦争法規の外にいる連中だからな」

「でも、これ実戦よ? 決闘みたいに安全ではないわ!」

「ガンさん、イケるの? エアリアルはスレッタ守れるの?」

「……難しいハナシだけど、荒れ狂う太陽さん相手にするよりかはマシ、かな……」

「何言ってるのよガンさん! 貴方正気!?」

「正気も何も……通信途絶がどれくらい続くかも分からないんですが」

「そうだよお母さん! 警備の人呼ばなきゃ殺されちゃうよ!」

「逃げなさい、スレッタ! 逃げたら一つは残るのよ!」

「お母さん、私みんなも守りたい。エアリアルだって守ってくれる!」

「ヒトを救う機械、だしね……」

「通信途絶が妨害電波的なものなら、対ファラクト戦で使ったアレで何とか出来ないかな?」

あらし(テンペスト)? 近いとクエタにも影響出るよ?」

「やろうよ!」

「……むぅ」

「やめてよ、もう私誰も失いたくない……」プロスペラ母さんがガチ泣きしとる! 明日は宇宙に雪降るぜ!

「私もだよお母さん! だから自慢の娘たちを信じて!」

「スレッタ」「うん」

 

「「進めば2つ!」」

 

「決まり、だな……」

「アクティブディフェンス最大出力なら抜ける攻撃は無いかと」

「嫌よ、やめてスレッタ!」

「大丈夫! エアリアルがいるもん!」

 

これで燃えねばガンド・アームじゃない! 僕はメラメラとやる気を燃やして力強くうなづいた。「社長、ご決断を」

「ダメよ、絶対ダメ!」

「……デリング・レンブランがベネリットグループ総裁として許可……いや、お願いする。戦わなくてもいい。撃墜する必要はない……やって、貰えるか? 花婿よ」

あのタヌっとした姐さんが力強く応える。「ハイ! 任せてください、私たちに!」

 

──泣き虫な君はもう居ない

……いつの間にかこんなにも強く……(ホロリ)

 




ウチでは祝福が正にメインテーマなんですが。

【殺せば1つ、生かせば2つ】
士郎政宗のドミニオンで武悪が語ったセリフ。敵兵を加害して戦闘不能だが生きてる状態にすると、敵は仲間を助ける為に兵隊1人を救援に割かねばならなくなる。寡兵で戦う場合に相手側戦闘参加者を減らす為にワザと「生かす」という選択もあるよ、という話。


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誰にも追いつけないスピードで

壁を蹴り宙を舞う!

カラテ秘奥義! 三角とびだっ!


「……来るよ! スレッタ!」

「敵を倒す必要はない。先ずは通信妨害を解除だ」

「はい! 行くよ、エアリアル!」

応ともさ! 先ずは一機目!

「みぃつけ……

爆発的な加速度でルブリス・ウルの眼前を過ぎる様に加速する。どんな武器持ってるか分からない敵に直接突っ込んだら撃たれちゃう!

「なにぃ!」

そして壁を蹴り、慣性制御を働かせてその蹴り足でルブリス・ウルに蹴りを見舞う。これぞカラテ秘技、三角とび!

「きぇぇえいっ!」

(ノッリノリだぁ!)

(タヌねぇ今つのだじろう顔だったよ!)

ガンビッツ淑女(レディース)も大興奮だ!

「カラテキック! カラテチョップ!」

地味に効く技で相手を翻弄。先手必勝隙を与えるな。主導権を握るのが重要だ!

「カラテ!」

(えっ?)

(いや、これカラテ?)

改修型エアリアルが宙を舞い、ルブリス・ウルの両肩に脚を乗せ、太腿で首を挟む。肩に脚でしがみついた状態から急激に上体を縦回転して反り返る……

 

「カラテ・フランケンシュタイナー!」

 

(たぬねぇ……)

(これはプロレスじゃね?)

(しかもこれ、慣性制御使って打撃力増してる……)

(倒す必要はないって指示に元気にハイって言ってたよね?)

(結果オーライ。ガンビッツベータ、ダルマだ!)

(((あいっ!)))

 

ルブリス・ウル。試合開始直後から三角とび&フランケンシュタイナーで沈黙。その間僅か15秒。

 

「行くよエアリアル! 雑魚は放置!」

きっちり仕留めて何言ってんだねぇちゃん。あんな攻撃したら中の人大変な目に遭ってるよ?

(ガンビッツ、スフィア形成!)

(((((あいっ!)))))

(あらし(テンペスト)展開範囲内に味方機無し。ジャマー展開中のポッド発見!)

(ガンビッツ集合!)

(あいっ!)

(みんな! よく分からないアレやるよ!)

(よくわからないって……へ?)

(あれ? ねぇちゃん……)

(普通に僕たちに混じって来たぞ……)

(みんな、こんなところに居たんだ)キョロキョロ

(……現実世界に戻って、どうぞ)

 

 

「なっ……何が起きた!」

「だっ……大規模電磁波攻撃? いや違う、パーメット通信機器が……」

「指示を出せ! 撤退だ!」

「ナジ司令! 通信が……通信が出来ません!」

「馬鹿な、ジャマーポッドは沈黙したんだ! 早く繋げ!」

 

「それは許さん」

 

「だっ……誰だ!」

 

「ジュネーブ条約を愛するもの、

水星からの使者! ガンド天狗!」

 

「ジュ……ジュネーブ条約?」

 

「戦時国際法の定める交戦資格者ではないからな。お前ら全員裁判所で沙汰を待て。待てぬなら(ことごと)く殺す! 地獄で突入部隊の仲間と感動的な再会をせよせよせよ(ブラスター残響音)」

 

 

「通信回復!」

「……近隣のベネリットグループ戦闘艦に告ぐ、物理的最大速度でプラント・クエタに集結し、テロリストを壊滅せよ、これはベネリットグループ総裁、デリング・レンブランの厳命である」

「総裁! ドミニコスのケナンジです。加速して向かいます!」

「艦を潰しても良い! 最大船速だ!」

「……危険なのですか?」

「今、たった1人の少女が我々を守る為に奮戦している! 毛ほどでも彼女が傷付く事は許さぬ。まして敵撃破など以ての外だ! 最大船速まで加速後にブースター装備のMSを打ち出して先行させろ! 何分で着く?」

「30……いや、25で」

「20で来い!」

「(うっひゃぁー! ヤベェ!) 了解!(キリっ)」

「宜しいかしら、総裁?」

「何だ?」

「出来るだけ捕縛して貰えるかしら?」

「何故だ?」

「こちらには心を探る機械がある。情報を取りましょう。それに……」

「それに?」

「私の娘たちに銃を向けて、楽に死なせる訳にはいかないわ」

プロスペラは鬼すら怯えて悪魔も腰抜かしそうな形相でスクリーンを睨んだ。

 

 

「総裁から直接指示だ。物理的に可能な最大速度でプラント・クエタまで飛ばせ! MS隊はブースター装備急げ!」

「尚、総裁は激しくお怒りだ。腑抜けた事したら全員連帯責任で減給あるぞ、気合いを入れろ!」

「3機ほど先のジェターク艦に向かわせろ。どうも気になる」

 

 

(ガンビッツ、ビットオンフォームへ! 鉄壁防御するよ!)

「エアリアル! あっちよ!」

 

「スレッタ君、外部の艦隊と連絡付いた。20分だけ耐えてくれ!」

「ダメよクソ親父! そんな事言ったらスレッタ全く攻撃しなくなっちゃう!

スレッタ! 潰せるなら潰しちゃいなさい! そんな奴!」

 

バシン!

 

「ミオリネさん?!」

「馬鹿者! 戦場で浮かれるな! スレッタ君、手を汚す必要は無いからな……」

「ミオリネさん、貴女知らなさ過ぎるわ……本当のバトルフィールドを」

「お前は殺されるかもしれない戦場に身を置く事の恐ろしさを知らん。殺そうと思った時に人間は1番死神に愛されるのだ!」

「逃げなさいスレッタ。エアリアルなら逃げ続けられるわ!」

「でも……」

(ヤバい! 地球寮の子がまだ港にいるよ!)

(しまった! 忘れてた! スレッタねぇちゃん!)

「え、エアリアル……嘘でしょ?」

「! ガンビッツライフルよ! 今解除コード送る!」

「お母さん!」

「当てなくていい。フルパワーの新装備なら……」

(当てなくていいの?)

(あれ、まだ掛け声決めてないのに……)

(いいよもうカメハメ波で……)

(どさくさに紛れて勝手に決めないでよ。ネガティブ!)

(いいから配置につけ! ガンビッツ淑女たち!)

(((((あーい……)))))

(学園レギュレーション解除)

(ガンビッツキャパシタ、接続完了)

(電磁バレル形成。狙いは?)

「ビビらせるだけだから真ん中でいいよ?」

(あ、リリッケちゃん泣いてる……)

「目標変更。逃げる輸送艦に当てよう(本気)」

(ダメだよスレッタねえさん。撤退手段無くしたら敵がまた暴れるよ!)

「ダメ?」

(ダメです!)

 

 

そして一本の光の柱が宇宙を切り裂いた。




プロレスでは空中技を「エアリアル」と言うぜ?

そもそもシェイクスピアのテンペストではエアリアルってArielって綴りなの(豆知識)


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カラステングと地球寮の皆さん

リリッケちゃんは泣いてましたが……


戦闘の喧騒の中で、リック3の気配は消える。

現役当時、周囲からはニンジャと呼ばれていた。その様な場では一般の兵隊は殺意を剥き出しにして、敵の殺意を感じ取り戦って行く。

──しかし熟達の兵士である彼らにとり、敵兵排除は日常である。キャベツ農家がキャベツを収穫するかの如く、梨農家が梨を収穫するが如く──それは日常の作業として穏やかなものであり、洗練された動きだった。殺意や敵意が無いから敵からは見落とされてしまう。通常は戦闘の中で机の上に置かれた万年筆がモンブランであるか否か、椅子の肘掛けがあるかないかなどは「意識の中から消えてしまう」……これを木化(きばけ)と云う。

死にかねないから怯え、怯えにより身体が動かなくては死ぬから自らを鼓舞する為に闘志を顕にする。まぁ、一発食らって死ぬのも悪く無いと考える様になると闘志は要らない。恐れを飼い慣らした先にそれはある。

リック3は音も立てずに移動して、適頃な敵兵を見つけては安全な死体に変えて行く。見渡す限り彼と同じレベルで戦場を行くものは居ない。居れば分かるのだ。一般兵が殺意で殺意を読み取るかの如く、熟練の精鋭はその無関心をセンサーにして敵の無関心を察知する。

ここには精鋭は居ない。ただただ銃を抱えた兵隊がいるだけだった。彼にとっては畑の様なものだ。

 

 

「ピッ。リック3、宇宙港の地球寮は?」

「メル監督か。シヴァ4に対MS戦準備させて外周警備、俺はお掃除中」

「テロリストシバいたらダメなんか、監督?」

「ピッ 来たらシバけよ。君は今『傘』なんだから」

「お、噂をすれば……ノーネーム出るぞ!」

「ピッ リック3よりシヴァ4へ。専守防衛忘れんなよ!」

「アイコピー!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

「ソフィ……どこで遊んでるのよ……何っ!」

「クックック……ガンダムじゃねぇか。勝負は以下略ぅ!」

「速い! ガンダム?」

「いい動きしてんじゃん♪ しかしっ!」

「パーメット3!」

「甘いっ! まだまだァ!」

機敏に動くルブリス・ソーンに異様な風体をしたMSが追従する。

 

 

「MSに見つかった! もうダメだ!」

「そーでもないぞ、少年」

「誰だあんた! 何処から?」

「戸締り用心、火の用心ってね。シン・セーのガードマンさ」

「シン・セー……マーキュリーさんの?!」

「ああ、もう大丈夫だ。泣くのはおよし」

「でも! 外でMSが!」

「大した事ないさ。ウチの若手はタイマンならかなり強いぜ。Duel戦歴500超えてるらしいからな」

「ごっ……ごひゃくぅ!」

「好きだよねぇ、あいつ」陸さんは優しく微笑みながらアストロ・ノーネームの機動を眺めていた。

 

 

「お前もガンダムか! パーメット4!」

「お、更に加速したか。……でもそれじゃあトランザムみたいなもんだぜ。しかも乗りこなせていない」

「なんでそんなに動けるのよ!」

「正規の軍人として軍人筋を鍛えたからな……この世界のガンダムは思い通りにMS操縦するシステムなんだっけ?

じゃあ、パイロットの腕以上にはならんわなぁ!」

戦闘経験の差、とも言える。

ガンダムのアドバンテージは、敵が操縦により機体を自分の手足の様に扱えない場合にのみ発生する。世の中には自分の乗る乗り物をあたかも自分の手足の様に扱い、更に訓練により自分の手足を常人の何倍も正確に動かせる「達人」がいる。そんな操縦の達人の前では「ガンダムのアドバンテージ」と言う物は霧散する。元特殊作戦群前線指揮官だった陸さん相手に10本中2本取れる様になったシバは隊内でも有数の猛者となった。

「お前なんかにゃナイトロも不要だ!」

かつての悪ガキ、シバ・ツカサは奇妙の縁により練馬で生まれ変わった。新たな目標を得て、精進し、鍛え、師の指導を受けたこの身体。

「飛掌斬り!」

「……なんで……なんでそんなに……」

「生身がダメな奴ぁ何やらせてもダメって陸さんなら言うぜ!」

「まっ……負けたくない……死ねない!」

「一昨日きやがれってな!」

ルブリス・ソーン。右膝中破、両腕全損、頭部小破、背面キャノン全損、推進機小破。そして今、アストロ・ノーネームは貫手をソーンのコクピットブロックに接触させて機を伺っている。

「ひぃっ!」コツンという音にノレアは身を震わせた。殺されはしない……殺意は無い。殺意は無いが負けてはやらんぞと言う岩の様な意思。私は彼に勝てない。

「失せろ。勘違いガンダム馬鹿。そいつに乗るならもっと身体を鍛えるんだな。ガンダムはお前を弱くしないだけで強くはしない」

「見逃された……子供扱い!」

「子供を子供扱いして何が悪い。飯をモリモリ食って育ってからリベンジしに来な!」

サイドキックでルブリス・ソーンを蹴り出すと、彼女は渋々撤退して行った。

 

【アストロ・ノーネーム】

アストロ自体はVoltex Blasters社で運用してるMSだが、この機体はメカマンのK1(コーイチ)と共に魔改造した。てかこの絵BingAIにモビルスーツ描けって注文したら出てきたんだが、AIのプロンプト(イラスト作成呪文)に「モビルスーツ」ってアリなんだ? へー?

 

 

 

「割と時間掛かったな。やっぱ宇宙だとアレか?」

「シミュレーションとはやはり似ていて違いますね。実地やらないとやはり手こずりますよ」

「機体はどうだ?」

「宇宙ならもう少しガタイ良くした方がいいかも。射撃戦なら、まぁ……」

「す……すごい……」

「守りにかけては自信があってね。シヴァ3、宇宙港のデブリ除去」

「アイよコピー!」

「船に彼の機体収納したら俺がスレッタ嬢とか連れて来る。じきにベネリットグループの防衛隊も来るから安心してな」

「た……助かった……」

「マルタン君だったか。リーダーが簡単に諦めたらダメだゾ☆」

リック3は軽くお茶目にウィンクした。

 

 

「改めてご挨拶を。PMC【Voltex Blasters】のリック3とシヴァ4です。今はシン・セー社からの依頼で同社の警備及び警護を担当しております」

「シヴァ4です! 我々2名はスレッタ嬢とそのご友人の警護を承っております(ビシィ)」

「え、寮には空き部屋は……」

「野宿であります! 水とトイレだけお貸し頂ければ……」

「我々には野外炊具2号(122改)と言う頼もしい仲間がおります」

「野外入浴セット4型も持参しました。宜しければ練馬の湯をご堪能あれ」

 

野外炊具だけアホほどバージョンアップしている辺りに某J隊の執念じみた熱意を感じる。決して旧帝国軍時代も兵站や補給を軽視したわけでは無いのだ。実際海軍は戦艦にラムネ製造施設やアイスクリーム製造施設を備え、更に特務艦間宮を就航させている。

 

「これはお近付きの印に……」

ずっしり重い紙袋が手渡される。

「……な、何ですかこれ? プラスチック爆弾?」

「はっはっは、間宮羊羹ですよマルタンさん! 美味いですよ!」




間宮羊羹は2kgぐらいある。デカいね!


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情報共有会議

まだZoomみたいなのでやってるヨ!

今日のキーワード【PMC】
private military companyなどの略称。日本語では「民間軍事会社」などと言い、傭兵が会社組織化した法人である。
やる事は傭兵派遣業だがサービスは多岐に渡り、いわゆる要人警護や専門性が要求される作戦行動、誘拐・救出……可能であるなら何でもやる。
PMC Voltex Blasters社は前シン・セーCEOと契約して戦災孤児誘拐事件の調査を行なっていたが、フォルドの夜明けの所在を突き止め、監視業務をカテドラル13課に移譲して宇宙に上がった。VBの地球最後の仕事はニカの実家である孤児院急襲、保護作戦で「ニカ・ナナウラは孤児院が奪還された事を知らない」としてダブルスパイをやっている。


【Zoom会議をしています】

「シヴァ4、攻性防壁展開!」

「アイ、コピー!」

「え? そこまでやるの?」

「ガンさん……ベネリットグループのトップ参加するんだぜ……」

「シン・セー幹部会議に求められるレベルじゃ足りんよ」

「突入部隊が中隊規模(4個小隊200名規模)、更にMS隊に輸送関係……400人ぐらい投入してる。テロリストとしては大規模だな」

「通常ならクエタの防衛は1000人体制だが、警備担当艦が何故か離脱していた……ケナンジ、どうだった?」

「辻褄は合ってますね。気に食わない所ですが」

「気に入らんが、そらまぁヤるなら辻褄合わせぐらいしますなぁ。偶然にせよ、仕組まれたにせよ」

「悩んだら作為を疑え、だ。Q1、犯行声明は?」

「無いんだよねぇ、テロリストの風上にもおけん!」

「完全失敗だもんなぁ。恥ずかしくて何も言えないか」

「やはり、私狙いか?」

「でしょうね、丁度スレッタ嬢が御三家全部潰した後だ。ベネリットグループのトップ掌握が決闘で無理だからやらかした、でしょうなぁ」

「外患誘致かぁ、死刑だよね」

「今の世界に外患誘致罪あるの?」

「……似たのはあるらしい、まぁやっぱ死刑だが」

「カイ2さんだったか、13課動かしちゃダメか?」

「フォルドの夜明けに500人宇宙に揚げる財力は無いよ。背後洗ってからだ、ケナンジさん」

「資金の流れを再調査だ。個人的にはヴィムは噛んでるが主犯では無いと考えている」

「ほぅ、理由を聞いても?」

「ヴィムの下にはウチの者を潜ませてる。何やら直前に若造がどうこうと騒いでたらしい。使われたな……惜しい事だ」

「若いのか……アス高の学生かな?」

「アイツら民度は低いけどそんな大胆な事出来ないよ」ガンド天狗で探った時にもただのアホばかりだったし……とは言えないガンさんだった。

「手掛かりは、ガンダムか。何か心当たりは?」

「少なくとも12名程ヴァナディースの魔女の行方が不明です。オックスアース解体後の足取りを丹念に追っています、まぁそんな事より……捕虜、渡して頂けませんか?」

「何か策があるのか?」

「私、魔女なので」飄々として掴みどころの無いぬらりひょんが、怒りも露わに魔女を自称した。

 

 

「ガンダムは、いやガンドはマンマシーンインターフェイスです」

エアリアルシミュレーターに座らされて四肢を固定された捕虜を前に、プロスペラは得意げに説明する。

「脳内に浮かんだイメージ通りに義肢を動かすと言う事は、脳に浮かんだ真意を引き出せるって事でもあるんですよね……さぁ貴方、お名前は?」

「……」

「いいのよー、黙ってても。貴方は無口でも脳は素直だから。ハセガワ・ミノル君ね?」ミノル君は目が飛び出すほど驚いている。

「あらあら、焦って色々名前頭に浮かべてもダメよ。それをこうしてドラッグして……あらー? 隠していたのはハセガワ・ミノル。ガンドって便利ねぇ」

「おおー」

「自白剤いらねぇんだ!」

「やはり悪魔の技だな」

「まぁ、一々聞くのも時間の無駄なんでサクッといっちゃいましょう! 貴方、ガンダム好き?」ミノル君は必死に頭を横に振る。

「貴方が好きだろうと嫌いだろうと関係ないけどね。パーメットリンク2!」ミノル君の身体がビクンと跳ねるが、すぐに落ち着いた。

「これで貴方の脳内情報は写取れたわ。エアリアルならパーメット2までは完全に無害だから。データストーム出ないから……貴方はこれで情報源としては用済み。ありがとうねぇー」プロスペラがミノルの猿轡(さるぐつわ)を解く。

「……どうするつもりだ! 殺すなら早くしろ!」

「まぁ! 殺すなんてこわーい! そんな事したら私殺人者になっちゃう♪」このおばさん、ノリノリである(棒)

「私、貴方の悲鳴が聞きたいわぁ……死んで済むとか甘え過ぎじゃない?」

「こうなったら……え?」

「舌を噛みたくなるよね! でも出来ないよね!(ウッキウキ)

ガンドで貴方の脳内信号ハックしてるから……」

「が……ガンドバンザーイ」ミノル君は脂汗を垂らしている。ガマの油かな?

「もう、貴方の身体は貴方の思い通りに動かないわ。さぁ、非人道的な手枷足枷外しましょうか!」

「レディ・プロスペラ。お前は一体……」

「今は、魔女よ」プロスペラ母さんの目が狂気に歪む(が、ヘルメットで見えないからセーフ)

「貴方たち、私の娘達に銃向けたわよねぇ? そして娘の未来の義理のお父様殺そうとしたんでしょ?」

「ち……違う! 俺は……」

 

「向けただろうがぁ!」

 

ひいっ!(怖)

「何泣いてんだお前、殺したりしないから安心しな。殺してくれって頼んだってお前の望みは叶えないわよ!」

プロスペラ母さんが懐からいくつかメモリチップを取り出す。

「テロリストに人権は無いからここで拷問してもいいんですが……拷問がバレて文春で特集記事組まれてもお母さん困っちゃう。やーね、人権って(問題発言)

そ・こ・で・☆

様々な問題を科学の力で華麗に突破! ラララ科学の子であるプロフェッサープロスペラが新たなソリューションをお見せいたします!」

「な、何を……」

「残念な事に、人間の右腕って一本しか無いんですよ……私は彼の右腕を16本! 左脚を64本ぐらいもぎ取りたいのに!」

「ち……治療してからまたもげば……」

「やぁねぇ、ケナンジさん。めんどくさいじゃない☆ 私彼の舌を秒間16枚引き抜きたいわ!」

「え? 何をどうするの?」

「痛みを与えたいんだから、痛みだけ送ればいいじゃない。脳に直接♪」

「まさか……」

「Brain-Machine Interfaceであるガンドなら、身体に傷一つ付けずに痛みだけ脳に感じさせる事が可能でぇっす!」

「た……確かに身体を傷付けて痛みを与える拷問じゃないけど……残酷さがより増してない?」

「法律が技術に追いついていないわね。でも現行法制下ではセーフ」

「ひ……ひでぇ」

「さぁ、どれから始める? 右腕一本3mm幅でスライスとかランダムサンダーで削る奴、アルカリ溶液で溶かすの……色々用意しちゃった☆」

 




R-15だから具体的な話は削りましょうか。

「一つ質問いいかな?」
「なぁに、ガンさん」
「その痛みデータはどうやってサンプリングを……?」
「ひ・み・つ・☆」


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アスティカシア争乱編(第二クール)
エラン ・ケレス・ゴローくん


5号君の性格変わるかと思ったら、あまり変わらなかったでござる。

「女の子口説くのは趣味と実益兼ねた任務だもの」

変わりようが無かった……


「ここを駐屯地とする!」

アスティカシア高等専門学校地球寮隣の空き地に、急ピッチでVB社アスティカシア駐屯地の建築が進む。まぁテント4つに食堂と風呂場だから然程人数は要らないのだが……

「何で俺たちまでやらされんだよ……」ギャベル君は不満げだ。

「バイト代出すんだから無駄口やめれー」

「シバ、ローブの角度が合ってない、直せ」

「あいあい、さー」

「立ってりゃいーだろそんなもん……」ヌーノ君もダルそうにしている。

「ダメだ、そーゆーとこで舐められるんだ。俺たちが精強に見えた方が余計な面倒起きないぞ」

「テントじゃ舐められるの当たり前じゃん……」

「そこでコイツよ!」

「イカした守護神! M2重機関銃様だーっ!」

「なんだよその骨董品、スミソニアンからパクって来たのかよ」

「最近の重機は破壊力高過ぎて持ち込めなかったんだよ!(怒)」

「マジでスミソニアンから大枚叩いて借りて来た(真顔)」

「ちょーどいーのがねーんだよな。これぐらい無いと不安だってテングの兄貴が……」

「「テング?!」」

「ゲン・グーだよ、ゲン・グー大佐(すっとぼけ)」

「12.7mmもあればモビルクラフトぐらいは抜ける(力説)」

「……でも、何で機関銃にスコープ付けてるんだ?」

「オシャレだよ、お・しゃ・れ!(焦)」

 

 

【M2機関銃】

脅威の100年現役機関銃。陸海空の3軍で使われ、アンチマテリアルライフル登場前には狙撃にも用いられていた。

 

 

「さぁ、ミネラル麦茶でも飲むかー。休憩ー」

「なんかさぁ、もうちょっとシュワシュワしたもんねーの?」

「炭酸ばっか飲んでると骨が溶けるぞ」

「とけねーよ!」

「おーいエラン 、お前も手伝えよー」

「ごめんだね」エラン (5号)は爽やかな笑顔で断りました。

最近の5号は何故か積極的に地球寮家畜さんズの世話をしています。一説によれば、プラントクエタに連れて行ってもらえたチコ達はエランより格上であり、先輩の世話するのは当たり前だろって話であるとか。

しかも手慣れている。ペイル寮筆頭なのに。

「つれないなぁ、5号は……」

「美味い塩大福もあるのに……」

「(?!)……誰だよ、それ?」珍しく5号が不快感を顕にする。

「え? お前エラン ・ゴローじゃなかったっけ?(すっとぼけ)」

「仲良くしようぜゴロー」

「エラン ・ケレスだよ」

「エラン ・ケレス・ゴローか」ニヤニヤ

「何を突然……」

「シローから(ことづ)け預かってるぜ! 無茶するなよって」

「だ……誰だシローって……」

「「亡霊」」(真顔)

「まー、なんだ。これだけは教えとくわ。スレッタ嬢には手を出すな。死んだ方がマシな地獄に落とされる」

「アレは堪らんわ。俺も耐える自信がない」

「別料金になるが、亡命や逃亡も弊社サービスであるからお気軽にー」

 

 

「不味いな、シャディク」

「シン・セーがそんなトッププロ知ってるかなぁ?」

「M2で遊んでる時、潜んでたイリーシャを3回標準に捉えられた」

「あのおじさん手強いよ。若い方がまだ……」

「……そうでもない。役割が違うんだ」

「エナオ、何が?」

「地球寮の監視カメラ、全部パスワード変えて弾き出された。無理に突破しようと暗号解読仕掛けたらツールが全損……」

「ウィザード級?」

「そんな生優しいもんじゃない。悪魔よ」

「まさか……いや」

「サビーナ、心当たりがあるのかい?」

「4人組のPMCが……」

「彼らコンビじゃん」

「あと2人、こちらの網を掻い潜って潜伏しているとしたら?」

「そんなバカな」

 

 

「そんなバカなも何もあるかいっ!」ちゃんと海も空さんも別の形でこちらの任務に就いている。大けりゃ疑え、少なきゃ用心。基本がダメだなこりゃ。

「所詮は学生か」

「盗聴とは趣味が悪いね、おじさん達」

「お前も興味あるだろ? 死にたくないよなぁ?」

「だから何のことさ?」

「強化人士5号のことさ」リック3は顔も上げずアナログな通信機の周波数を弄っている。パーメットを使う機器だと「業務」に影響が出るからだ。

「誰から?」

「4号から。身柄預かったから」

「奴は何処に?」

「近い内に学校に戻るよ、別人として。おかしいな、お前のとこのCEOには挨拶しに行った筈だぜ?」

「まぁまぁ、ほうじ茶でもどうだ。シバ、頼む」

「アイ・サー!」

 

「何をしたい?」

「護衛任務なんだ。攻めちまった方が早いと思うんだがね」

「誰から?」

「シャディク・ゼネリとその配下……だろうなぁ。大規模な学園でのテロ画策してるみたいだ」

「どうして欲しい?」

「死なない程度に地球寮の正規戦力として働いて欲しい」

「報酬は?」

「ペイル社に手を引かせる。水星ので良ければ戸籍やナンバーは用意出来る。好きにしたらいい」

「僕が断ったら? 敵対するとは考えないのか?」

「我等Voltex Blastersは取引に際して出し惜しみはしない。今出せる条件はこれで精一杯だ。次に我々は可能な限り仲間を増やすようにしている。切り捨てはトリガー引くその時までやらないんだ。敵を増やすと自分の世界は小さくなる。世界は広い方がいい」

「陸さん、あともう雷おこししかない。明日補充頼まないと」

「みんな結構菓子食うな? おっとっとでも箱で仕入れるか」

「スレッタ・マーキュリー口説くのはやめないからな」

口説くのは、辞めない。その他は辞めてくれるのだろう。リック3はそれを受諾と見做した。

「どうしてよ?」シバがおこし齧りながら尋ねる。

「楽しいからだよ。あの子は面白い……楽しまなきゃ、人生を」ボリボリ。

「それは否定しないが……」

「……それだきゃーやめといた方がいいと思うよ?」




【おっとっと】
かつて自衛隊がモザンビークPKOに参加した時、お駄賃や近隣住民慰撫の為におっとっとを配りまくったら、当地で疑似通貨「オトト」となり、インパラの子供をおっとっと10個で引き取ったりするなどしたらしい。


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八咫烏(やたがらす)

【八咫烏】
作中時間A.S.116〜117頃に結成されたシン・セー警備部の情報収集ユニット。外部訓練教官としてVoltex Blasters社から教官2人を招聘している。
前シン・セーCEOがまだ現役の頃に発覚した「社員の遺児誘拐事件」調査に際して「探偵2名が殺害された」事から発足。普段は物流管理業務の専門家として普通にサラリーマンを演じているが、物流を通して凡ゆる事物の監視をしている。現在はシン・セーとは表向き繋がりの無い前シン・セーCEOが作った物流管理専門家派遣業の会社。似た事はカテドラルの諜報部門もやっており、A.S.120年時には共闘体制が確立している。
符牒は机などに手をつく際に親指と小指を除く3本指をつける事。これに気付いた者が右手親指と薬指を8回合わせる事で相互がメンバーであることを確認する。(咫というのは手を開いた時の親指先から薬指の先までの長さである)


プラントクエタの惨事から3日後──

表向き、デリング・レンブラン総帥は怪我で集中治療中であると報じられている。そしてごく限られた一部の人間にはそれぞれ損傷部位が違うが「意識が戻らない」という追加情報が明かされた。

無論、情報伝達経路の確認の為である。

 

モノと情報の伝達経路を探り、どのラインが黒幕か探るのだ。

 

「頸椎損傷、か……」

「フォルドはいい仕事をした」

「次はどうするの? シャディク?」

「2人を学園に呼ぶ。この機に計画を進める」

 

 

 

 

「疑うことを知らないって素敵だなぁ(呆)」

「若者の弱点だな。恐れを知らん」

 

他人をハメようとする時に、ヒトは自らが策に嵌められているとは考えないものだ。計略を張り巡らす時に1番注意が必要な部分と言えるだろう。

 

 

 

今、デリング・レンブランの病室にはデリングが負傷した時に救急対応する為用意されたガンド義体が置かれている。それはあたかも「意識が戻らず昏睡中」であるかの様に見える。こんな茶番で騙せるのかしらと不安げなミオリネの姿は本気で目覚めぬ父を想う娘の様だ。

本物のデリングは手術着を着た外科医のコスプレをして自由に病院内を歩き回っている。マスクや帽子、ゆったりとした術着はデリングらしさを消し去った。

「教授!」

「何だ?」

「第八オペ室に急患です!」

「すぐ行く」

「教授」に話しかけた「失敗しなさそうな女医」はプロスペラだ。出来る女を演じることだきゃーかなり上手いのだが……子は親の鏡と言う。つまりプロスペラの本性というものは愛娘であるスレッタを見たら一目瞭然。

やはりというか、当然タヌっとしているのである(無念)

 

第八オペ室には隠し扉があり、その先には隠し部屋がある。国際的に病院施設への攻撃は許されていない──だから作戦司令室を置くのに最適だ。勿論それを敵も見通すから攻撃対象にされる事もある。故に作戦司令室は分厚いコンクリートと幾重にも張り巡らされた防御装置が張り巡らされている。病院という高額機器が多数存在しておかしく無い施設だから出来る事だ。

 

その作戦司令室に医者達が……いや、医者に偽装した主要メンバーが集まる。

「どういう事だ……クワイエット・ゼロが完成しない、だと?」

「いえ、修正可能な遅延です。最終的には完成します」

そらまぁ、大体のものは完成するまで研究して作り続ければ完成はする(悟) プロスペラ母さんの化けの皮も剥がれてきた感じ、だろうか。

「もう人員削減計画走ってるんですが、その……」ケナンジは顔をヒクヒクさせながら言葉を紡ぐ。

「どーするんです? 今このタイミングで八咫烏や13課が機能不全になったらまたテロられますよ!」ラジャンの医者コスプレは妙に似合っている。入院するならこんなお医者さんにお願いしたい。

「まぁまぁ、とりあえずアスティカシア周りとこの病院周辺にリソース集中して凌ぎましょう。ムンマとかオリンポスは一時的に無視って事で」

 

現在のクワイエット・ゼロの表向きの機能は、八咫烏や13課を使った情報網とその解析をAIにより無人化する部分にある。言うてしまえばそういう仕事を人間使ってやると莫大な予算が掛かるからだ。一兆宇宙ドル使っても最終的にはコストダウンにはなる。

「話聞いてかるーく計算したんですが……その計画実施する為には、大体太陽が放出する総エネルギーの5%が必要で、最高にエネルギー変換効率高めて熱損失最小にしても、地球のバイカル湖が常時沸騰するぐらいの熱が出ます。宇宙でこの熱は不味い。排出にアホほどデカい機構が必要になります。お勧めはレーザー冷却ですかね?」

「どれぐらい追加予算が必要になる──」

「流石に専門外だから分かりかねます。シェルユニット周りだから計算効率や処理能力は僕にも分かりますし、熱損失の計算も出来ますが、巨大化した時の予算とかは未知数です」

いや、ほんとほんと。皆さんエンジニア混ぜずに計画立てるのやめましょうよ。実務家入れないと非ユークリッド幾何学のビルが爆誕するんやで(一級建築士を過信してはいけない)

 

「何とかならないのかな、メルクリウスさん?」デブは猫撫で声で尋ねた。

「何とかなる基礎設計なら何とかなるんですが……どうにもならない基礎設計では……」僕は遥かアンドロメダ星雲を眺めるぐらい遠い目をした。

「そうだ、確か春には新型シェルユニットが! あれは使えんのか!」

「えー。あれMSサイズのシェルユニット用の設計ですよ? 全世界の通信網解析して世界を掌握するトンデモマシーン向けじゃないし……」

 

口には出さないが、そこは予算シュリンクしないで雇用を増やして経済回す方が正解である様な。大企業が雇用減らして支出削ると就業率落ちて社会が貧困まっしぐらにならないかしら、どうかしら?

企業が充分小さく、全体経済にインパクト与えないぐらいショボいなら企業存続最優先で構わないんだろうけど……シン・セーだって社員数百人いるんだよ? ベネリットグループだけで億の社員居るだろうし、関連企業含めたら数十億の関係者居ないかしら?




企業国家を目指すから、企業国家の国民たる配下企業や社員を安易にクビ切るのウルトラスーパー無能ムーブでない?


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すれ違い宇宙(そら)

wrong guess! 人は勘違い重ねてトンチキになる
今、誤解を重ねて怒ってる
愛しい人の
見当違いを胸から解き放ち
wrong guess! 怒りよ海へ帰れ……

話さなくて(はなさなくて
募る誤解(つのるごかい
空茜色に、染めてく──


公式がヴァナディース事件を21年前にしてしまった事に対する矛盾解消回です……


【プロスペラとベルメリアさんは優雅にお茶してます】

 

「そういえば先輩、上のお子さん何してるんです? シン・セー社内で帝王学?」(もぐもぐ)

何気ないネタ振りの筈だった。ベルメリアが知るプロスペラ──いや、エルノラの上の子、エリクトちゃんは(ヴァナディース襲撃が21年前なら)今25歳ぐらいの筈。エルノラがシン・セー社長なら、25のエリクトちゃんは社会勉強の為シン・セーの子会社で社員してるか、シン・セー本体で秘書でもやっている……それぐらいの考えでかるーく聴いたに過ぎなかった。

「学校行ってるわ」

「……院ですか。研究職目指してるんですねー」テストパイロットしてたけど、先輩はヴァナディースでBMI周りの研究してたし、娘さん(エリーちゃん)もヴァナディースの道選んだのか。そっかそっか。ベルメリアさんもご満悦だ。オレオは美味しいな。

「いや、──エリクトはちょっとトラブルがあって」

「え? トラブル?」

「エアリアルの中に居るわ」

 

「は?」

 

「どうも私の調べでは、ルブリスとエリーの心が入れ替わっちゃったみたいなの。これはみんなには内緒よ」(困った顔)

 

 

【オレオ】

ナビスコビスケットの誇る主力クッキー。チョコレートクッキー2枚の間に甘いクリームが挟まっている。コラボ重点。

 

 

「え……その……神社の階段から転げ落ちた、とか?」

「なんでそこで『転校生』なのよ」(呆)

 

 

【転校生】

大林監督作品。尾道3部作の一つ。幼馴染の男女が神社の階段を抱き合って転げ落ちたら精神が入れ替わったという現代のトランス・セクシャル物語の祖。

 

 

「いや、ちょっと……にわかには……」ベルメリアが握ったティーカップが細かく揺れて、かちゃかちゃと音を立てる。

「調べるのに8年も掛かったんだから。今のスレッタにはルブリスがロールアウトするまでの……つまり4歳までの記憶は無いわ。逆にルブリス──今のエアリアルね。彼女には4歳以前の記憶がある。完全に入れ替わってるわね、間違いない」

「あの、その……私は脳・神経系の専門家なんですが……」

「そうだったわね、だから強化神経系論文とか書いてたし、強化人士作ったんだものねぇ」

「ひとまずそれは置いといて下さい。ルブリスはガンドアームだから確かにパイロットの脳内データをシェルユニットに転写できます。この間の擬似拷問みたいに」

「うん? それで?」

「で、ルブリスは転写したデータを忘れません」

「ロボットだから、マシーンだから……って事よね?」

「だけど分かるぜ、じゃなくって。でもエリーちゃんは人間だから過去の事忘れますよねぇ?」

「そういう事もあるかもね」

「──ルブリスはルブリスなんじゃないかなって。4歳当時の【それ以前の事を忘れてないエリーちゃんのデータ保有してる】だけで……」

「なんでそんな事言うのよっ! エリーがナディムやカルド博士忘れる訳無いじゃない! あんなに懐いてたのに!」

「あのー……ナディムさん結構頻繁に出向元のオックスアース帰ってたし、マネージャーで激務に押されて部屋に余り戻れなかったんじゃ……」

「毎日エリーの寝顔見て優しく微笑んでたのよ! 朝出かける前も寝てるエリーにキスしてから出かけてだんだから!」

エリーちゃんは寝てるから気付いてないやろ!と大阪暮らしが長かったベルメリアは吉本風にツッコミたかったが、控えた。

 

これは創作や物語ではなく、ガチで存在するわれわれじんるいの深刻なバグなんだが、ヒトという物は教えられたものより「自分が見つけ出した物」を信じる・重く見る傾向がある。認知バイアスとか確証バイアスと呼ばれる物だ。誤解なく事象をフラットに見ることは大変難しい。何ならお釈迦様もそう言ってる(止観(しかん)という)

 

(プロスペラ先輩の場合、娘が私の大事な人を忘れる筈がないって感情からとんでもない誤解してる感じね……)

一応脳神経系の学者であるベルメリアは、先輩の狂気というか認知バイアスをすぐさま理解した。そして専門家であるが故にこの固執がどれだけ是正し難いものか知悉(ちしつ)している。基本的には「そうあって欲しい」から始まっているので科学的客観性が保持されていないのだが、これが始まるとバイアスが掛かり、観測事実を自説に都合が良くなる形に再解釈してしまう。それが積もり山となると生半可な説得では論陣を崩せなくなる。

 

無理だわー

 

 

【ガンさんコンテナにて】

 

「……って話だったのよ」

ベルさんの話を聞いてキャリバン・メルクリウスと名乗っている「エアリアル(ぼく)」はまた机に強かにオデコを打つける羽目になった。散々「クワイエット・ゼロ? 知らない子ですねぇ。」の所で話したのにまぁだそんな事言ってるのか。お母さんボクがエアリアルって知ってるしそこは誤解してないよね? ね? 

「一回あのモード入ると中々是正できないものなのよ。カルト宗教に入れ込んだ人を脱会させるようなものよ?」

「あー、洗脳解くために逆洗脳するってアレですかー……」

「ガンさんシン・セー長いんでしょ、何か上手い事プロスペラ先輩説得できない?」

「言葉で何とかなりますかね? 何か現物見せないとダメなような気も……」

「現物って?」

「例えば、実際にエアリアルの中身を受肉させて面と向かって【ぼくルブリスです。型番はXGF-02】って言わせるとか」

「シェルユニットが操る子機を人間形にするのは簡単なんだけどなー」

ええ知ってます。それがボクです(真顔)

「それ、絶対信じないっスよね……」

「シェルユニットが小型化出来ればなあぁ……エアリアルみたいに山ほどシェルユニット積んでたらシュリンクするにも限界が……」

「……? エアリアルの主思考ユニット部分だけならあんなにシェルユニット要らんですよ? 戦闘損耗考えて2〜3割までならガンビット操作できるぐらいの安全係数とってます」

「でも、畳2〜3枚分は必要なんじゃない?」

「1枚で行けますし、シェルユニットが平らなのは回路をプリンティングする製造工程上の……」

「脳のようにシワを作り表面積を増やす?!」

「あ、アラクネ社の三次元構造シェルユニット!」(40話「インキュベーションパーティー(前編)」を見よ)

「行けそうね!」

「お金があればね!」

 

「聞かせてもらったぞメルクリウス!」

 




タヌっと誰かがやってきた。


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暫定専務

本作ではvsグラスレー寮時にグラスレー社の発行株式の0.6%相当(2400億宇宙ドル)を決闘の代価として奪い取り、Kickstarterじみた資金調達プログラムと巻き上げた2400億宇宙ドルでペイル社のファラクト開発部門(ベルメリア含む)とシン・セー開発公社を買収したのですが……


「専務! どうしてここへ?!」

「どうもこうもあるか、ウチ(シン・セー)買収したミオリネ氏が全くこちらに業務指示出さないから直談判に来た。どーなってるんだメル!」

「そういや……そうだな?」うっかりしてた。

 

 

【うっかりしてた】

アニメの水星の魔女本編ではうっかりし過ぎて買収した筈のシン・セーとペイル社一部(1200億宇宙ドル規模)がどうなったか全く描写が無い。大河内くんはうっかりし過ぎ八兵衛だなぁ(棒)

 

 

「シン・セー社員425名(A.S.122年4月1日現在)とその家族! 取引先やお客様にも迷惑が掛かるっ!」

「あれ? プロスペラ社長は?」

「今は社長なのかどうかも分からん。新社長に聞くまではシュレディンガーの社長だ」

「すると、専務さんは……」

「残念だが、暫定的に専務をしている暫定専務だ……どうなってんだよメルぅ……今年下の子が大学受験なんだ。減給とか無いよなぁ?(涙)」

あ、役員報酬だから? 僕は一般社員だから知らなかっ……

 

待て、僕の大切な自社株はどうなったの?!(切実)

 

 

【ミオリネの前に皆で押し寄せました】

「ミオリネさん! 僕の持ってたシン・セーの株は?!」

「新社長! 業務指示ぐらい下さい! あと組織はどんな形に……」

「そう言えば私もペイルからガンダム社移籍ですよね? 待遇とか配置聞いてないんですけど!」

「私は副社長で良いのかしら?」

「俺資産運用部門の部長やりたい!」

「オジェロに任せたら3日で傾く……畜産部門は作らないのか?」

「僕は役職に就けないでぇーーっ!」

 

「うるさい」

 

「「「「はいっ」」」」

 

「当面は従来業務を従前にやるのよ、社内カンパニー制みたいなカンジ。シン・セーは将来的には主幹になるから頑張ってね。ベルさんは今まで通りこっちでガンド関係開発して貰うわ。

義母(かあ)様は当面シン・セーの社長待遇のまま。エスカッシャンの民需転用だけ考えておいて下さい。シン・セー株は要望があれば買収時の価格にプレミア付けて買い取るけど、どうせ売ってくれないんでしょ……51%取れたから別にいいわ」

「あら? 前CEOから?」

「ええ、快くお譲り頂けた」

「じっちゃん何するんだろ?」元々プロスペラ社長に席譲ったのも趣味に生きる為だった筈だが……

「これからはもっと趣味に生きるんだって喜んでたわよ」

 

 

【前CEOの趣味】

ガンダム使ってテロしたり、少年少女を攫って子供兵にしてる不埒者を成敗する事である。身分偽装用に作った新潟の縮緬問屋は割と盛況と聞いている。

 

 

「兎も角、タネ銭はあるから心配しないで、グラスレー戦でみんなで勝ち取ったグラスレー株は2400億宇宙ドルだけど、5%プレミア付きで売れたからそれだけで120億宇宙ドルはあるわ。諸経費や税金抜いても80億宇宙ドルはあるし、純益それだけあれば株式会社ガンダムは私たち卒業するまで軽くみんなの給与出せるわよ……シン・セーやペイルがアホみたいな赤字出さなきゃね」

「……そのタネ銭で、1発勝負しないか、社長(ごくり)」

「オジェロ〜やめてくれよぉ〜(涙)」

「一億預けてあげてもいいわよ。一回の勝負に使っていいのは1000万まで、収支報告出して利益上げた分は1割特別報酬で支払ってあげる。

ただ、損失出たら最大給与の半額までで分割して損失補填させるからね!」

「おいオジェロやめとけって……」

「いや、その勝負乗った!」

「……ヤバくなったら会社辞めたらいいとか考えてない? ちゃんと証文取るから地獄の果てまで追い詰めるからね」

「負けたぁ!」

「見抜かれてらぁ!」

「あのねぇ、やるなら投機じゃなく投資をしなさい。儲かりゃオッケーってのは会社作る時にみんなで止めようって言ったじゃない。戦争の道具で儲けずに人類の輝く未来に投資! ウチはベネリットグループじゃないんだからね!」

「翁が株式売ったわけだ……」

「ね、専務? 逸材っしょ?」

「ねぇ、暫定専務? その紙袋なに?」

「あ、忘れるとこだった。我が社と取引のあるアラクネ社の新型シェルユニットのサンプルが出来まして……」

「小さ過ぎやしませんか?」

「MSサイズの試作品は無駄が多いから1/10サイズでテストするってのは、昔お前が稟議書に書いたんじゃ無かったか、メルクリウス?」

「「1/10サイズのシェルユニット?」」

ガサゴソガサゴソ

それは薄膜に包まれ、その中に何かゲル状の物に包まれた金属製の人間の脳のような形をしていた。

「インシェルユニット、【ぷるぷるα】だ。これでエアリアルのシェルユニットの13%程度の演算能力と10%程度の記憶域がある。エネルギー効率は20倍、熱損失は聞いて驚け3%まで激減した!」

「……ガンさん!」

ベルメリアさんが驚きの顔で僕を見つめる。

「えー、ちょっと待って……うーむ……」

僕はシェルユニットで演算する。え、まさか……行ける?!

「ガンド脳……ガンド脳が実現するっ!?」

プロスペラ母さんが嬌声を上げる。

「あの……何が凄いの?」ミオリネさんが腫れ物に触れるかの如く恐る恐る尋ねる。

「「「遂にガンドの最後のピースが埋まるのよ!!!」」」

「おっしゃ! これで脳腫瘍も怖くない!」

「大脳欠損も克服できるわ!」

「バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ!」

 

浮かれ回るベルメリア、メルクリウス、プロスペラを学生たちは気の毒そうに眺めていた。我らがスレッタ・マーキュリーは何となく雰囲気で一緒に万歳している(勿論よく分かっていない)

 




【プルプルα】
液冷式三次元構造シェルユニット。その構造上頭蓋骨に似たラジエーター兼衝撃保護ユニットが必要になる為、インシェルユニット(殻の中のユニット)と呼ばれる。超高密度三次元プリンターで回路出力を行い、隙間をカーボンナノチューブやバインダーで満たして従来のシェルユニットに1.5倍の集密度を達成、大型化の一途を辿るシェルユニットの革新的小型化を実現した。
その処理性能的には人間サイズのガンドボディを自在に操作して、更に高度な人工知能を搭載できるだけの余力がある。つまり、ガンド脳を作ることが出来る。


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プルちゃん建造計画

【プルちゃん(仮名)】
ガンド脳「ぷるぷるα」を用いたフル・ガンドロイドのプロジェクト名かつ該当個体の個体名称。流石のガンさんも得体の知れないシェルユニットに入るのは嫌だったらしく、とりあえずガンビット6子ちゃんのパーソナリティをコアにしてテストする事にした模様。

他意はない(すっとぼけ)


「……なんで少女タイプなの?」プロスペラ社長は不満げだ。だが社長、聴いて欲しい!

「仕方ないんですよ。このプロジェクト推進する我々3人はチンコ付いてませんから」

「え? ガンさんチンコ付いてないの?」

 

 

【筆者注!】

学術的に陰茎とかペニスとか陰嚢と書いても良かったのだが、ちょっと今回「該当箇所」の名前が頻出する為、陰嚢陰茎ペニスペニスでは字面がかなり悲惨になるのでチンコにしました。

 

 

「事故でガンド化してからチンコは贅沢ってんで付けてないんです!」

「ガンドキンタマ(精巣)もあるんだけどな……」

「ぶつけると痛いから却下です」

 

 ガンさんオフィス(耐爆仕様コンテナハウス)で怪しげな会話が続く。サンプル入手したガンド脳、ぷるぷるαを用いたガンドロイド建造会議だ。

 

「まず、事故が起きても大事故にならぬ様、ボディは小型低出力にします」

「妥当ね」

「事故って……?」

「ベル、アンドロイドが造物主に反抗するのは定番中の定番よ」

オタ知識でキメ顔はやめてくださいお母さん。

「まぁ、ロボット三原則は組み込みたい所ですが、あれ結構真面目に実装しようとすると面倒なんですよ。代わりに僕ら3人がシン・セーのガンドにメンテ用で組み込まれてるコード発信用デバイス持って、何かあったら緊急停止でいいかなと」

「気にしすぎじゃないかしら? 非力なんでしょ?」

「カミソリ首に当てて軽く引いたら人は死にます。下手すりゃね」

「で、なんで精巧な人型にするの? 昔のガンさんみたいにガンド顔でもいいじゃない?」

「それが通るのは水星ぐらいですよ。後、後々義肢として販売するなら僕みたいな逞しいのと、やはり(たお)やかで優美なバージョンあった方がいい」右腕の上腕二頭筋をムキっとな。

「若い頃の先輩の右腕、太かったもんね……」

「何よ、カルド先生のオリジナルカスタムよ!」

「で、問題はチンコですよ。というか、チンコ付けた時のリスクですよ」

「性衝動、か……」

「今も各地で事件起きてます。ガンドロイドの不安定要素は出来るだけ省きたいのと、女性型ならとりあえず外性器が単純なので構造が簡単です」

「力弱いんでしょ、襲われたら?」

「穴をヤスリみたいにしとけば勝手に自滅しますがな」

「鬼か」

剣山にしない辺りで僕は優しいと思います!

「そんなことする様な外道はチンコをヤスリで削り落としたらいいんですよ! 後、これは勝手に僕が懸念してるんですが……倫理問題大丈夫?」

「なんで?」きょとん

「どこが?」きょとん

 

聴いた僕がバカだった。ベルさんも社長も倫理コードが少しおかしい。

 

【倫理コード】

恐ろしい事に人間2人よりガンドの精であるキャリバン・メルクリウス氏の方が倫理面では頼りになる。というか、2人とも方向性は異なるが立派なマッドサイエンティストだった。普通に考えたら人間と誤解されかねない精巧なアンドロイドを人間社会の中に入れて、実地でチューリングテストするのは危険視されそうだ。

 

「バレはしないわよ、ヘーキヘーキ」

「私たち以外にこんな事考えるのカルド博士ぐらいですよねー?」

プロスペラ社長は楽観的だ。ガンさん(実態はエアリアルの中にある思考する機械)が人間に偽装できてベルにもバレて無いんだからって考えてるな!

──全くもってその通りだが、僕は実績のまだ無いインシェルユニットを完全には信頼していない。

「で、中に下ろす精神はどうするの?」

「エアリアルの中にあるガンビットの個性の一つを多少モディファイして作ろうかと」

「そんなものがあるの? ガンさん!」

「ありますよ、あれエアリアル内の子プロセスで、並列処理の関係上簡略化……分かりやすく表現するとお子様みたいな単純化されてますんで、テストには宜しいかと」

「どの子にするの?」

「6子を」

「ああ、ドジっ子だけど頑張り屋さんで妙にリーダーシップ発揮する子ね」

「そんな設定があったの!」

あるんですよ、ベルメリアさん(にやり)

 

 

(という事で、6子ちゃんが先行隊としてお外に行く事になりました!)

(いーなー)

(僕たちはダメなの?)

(先行実験成功したら、だね。あと予算)

(ぐっ……出たな資本主義の妖怪め)

(とりあえず名前はプルってするつもりだけど、なんか他にアイデアある?)

(個体識別子がワイとかワシとかボクの僕らにそんなアイデア無いよ)

(今だって1子、2子、3子だよ?)

(太郎、二郎、三郎みたいなもんだよね)

(型番みたいな方がしっくり来るなぁ)

(ルブリスタイプだからL)

(プレプロダクションだからP)

(LP-0 ペットネーム「プル」)

 

【ペットネーム】

アメリカの戦闘機で言うところの「ファントム」とか「ライトニングII」に当たる部分。愛称みたいなもんですな。

 

(エルピー・プルか……)

(お風呂が好きそうな名前だなぁ)

(わがままな子のイメージが)

(大丈夫? 悲劇に巻き込まれない?)

(タヌキ眉毛だからヘーキヘーキ)

(タヌ眉は外せないよねー)

(これが僕たちのアイデンティティだもの!)

 




他意はない(明日の方に目を逸らせつつ)


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メスガキーズ参上!

ソフィとノレアですが、プラント・クエタでの展開が少し本編と違うので、展開が異なります。

更に追加要素が……


「こんなの一気にぶっ壊したらいーんじゃなーい?」

「……プリンスは地球寮に罪をなすりつけるつもりなんだから、ちゃんと地球寮に潜り込まないとダメだって」

 

宇宙空間に浮かぶフロントなのに、今はアス高も暖かな陽光が気怠げな気候になっている。そう、季節は春。体験入学の季節だ。

春に体験入学?と訝しむ読者諸兄も居られるかと思うが、アメリカなんかでは夏休み明けから新年度、新学期が始まるのである。

 

「手入れの行き届いた植生、クリーンな空気、清潔な道……」

「気に入らないよねー、早くぶっ壊したい」

「可愛いお嬢さん方が物騒な事無防備に話すの聞くと、おじさん悲しいなぁ……」

 

いつの間にか、ソフィとノレアの背後を軍人じみたカーキ色のワークパンツの男が歩いていた。2人は目を丸くする。いつ湧いた、このおっさん!

 

「うーん、纏う香りは硝煙と来た。君ら潜入時に誰か殺したりしてないよねぇ?」

男はボディビルダーの様にツヤツヤニコニコしている。

「ノレア!」ソフィは声をかけるとベルト後ろに隠した小型ナイフを引き抜こうとした……が、

「はい、ちょっと待ち。目標地点を見てみよう。ナイスガイがこっちを見ているよ!」

M2重機関銃がこちらを向いていた。

「殺す気かよ……クソったれ!」

「人に向けていい武器じゃないですよね……」

「いやいや、そんなそんな。【殺す気ならとっくに撃ってる】あくまでご挨拶だよガキンチョ諸君! ──敵地侵入ミッションで気を抜き過ぎだ。加古川の学校では習わなかったのか?」男は鋭く2人を睨む。手榴弾入りの花束持ってくる女児の方が気合い入ってるぜ。

「お前! なんでそれを!」

「あーら、命中だった。DoF(フォルドの夜明け)だったか」

「ソフィ、ダメだ。とりあえず話を聞こう。ただしこちらは黙秘で」

「手荒な事はせんよ、バックがバックだしね」

「ッ……どこまで……」

男はニッコリ笑って優しく答える「大体、全部」

 

テントから煮立てたミネラル麦茶の香りが漂ってきた。

 

 

「さ、ミネラル麦茶を飲むがいいさ。遠路はるばるご苦労様」

「毒とか無いから安心していい。それとも先にお電話する?」

「誰に……」

「「プリンスちゃん」」

「……」

「あらやだまた当たりだ! 今日はついてるなぁ(棒)」

「イェーイ」(ハイタッチ)

「宙港検査は完璧だった。なんで貴方達はそこまで……」

「え? 宙港検査員にスルーする様お願いしといた」

「釘刺しておきたくってねー。プリンスに」

「いやさ、MS持ち込んでるのにバレないって普通怪しまない? 世の中みんなバカばっかりだと思ってんの?」

「流石にバレんだろ……しかもガンダムだし」

「なんで知ってんだよニイちゃん!」

「クエタで相手したやんけ。おひさー」シバは手をヒラヒラさせてソフィをからかう。

「じゃあ一発迷子のお知らせ行きますかっ!」

 

『ピンポパンポーン。

フロント 警備部から 迷い人の お知らせです

グラスレー寮、シャディク ゼネリ様

グラスレー寮、シャディク ゼネリ様

お連れ様の、テ ロリ スーツ様を

お預かりしています

お近くの フロント 警備部まで

お越しください』

 

「……なんだよロリだけ区切りやがって(怒)」

「大人気ないですね、やり方が陰湿過ぎます」

「え? カラッと拳銃で脳漿撒き散らかす方が良かった?」

「死ななきゃいい事たまにはあるよ。さぁ、元気出しておっとっと食おうぜ!」

「そんなモンないんだよ! いいことなんて!」

「えー、そーかなー? 俺の見立てでは君らトカゲの尻尾切りで知らんぷりされるよ? いわゆる任務解除? 楽しんで行けばいいじゃん、オープンキャンパス」ぽりぽり

「余計な事しなきゃ、コトを荒立てるつもりないぞ?」かりかり

「嘘つけ! ナジ達を強襲するつもりだろ!」

「……なんで?」陸さんが本気で訳わからないよの顔をする。ぽり。

「……なんでって……ウチらはテロで……?」

「もう碌な戦力無いじゃん」真顔、いや本当に真顔。

「こっちの調査では金貰って食料買い漁った事になってるんだが」

「食料流したのもウチの仲間だけどな」

「え?」

「金も食い物も無いんだろ。気付くの遅れてすまんかったな!」

「え? え? 私たちはデリング……頸椎……昏睡……」

「そうか、頸椎か」はい、情報漏洩経路特定!

「殺しちまった方が楽だと思うんだけどなー。今回のクライアント様は中々楽させてくんねーや」

「そろそろ打ち解けようぜ。はっきり言うとこっちは危ない火遊びするプリンスから花火を奪って無力化したいの! 花火はバケツにぶっ込んでシケたら用はない」

「ガンダム2機と今週のビックリドッキリメカはウチで買い取るよ……どうせプリンスは「ウチのじゃありませーん」って言うから貰っとけ。その分は種と肥料と農作業機械で支払ってやるから」

「ガンダム、もう乗らなくていいんだ。どうたい? 明日の朝日が見えてこないか?」

「……電話、していい?」

 

 

「うん、うん……そう、ハメられた」

「良かったら替わってー」(小声)

「……こっちのコマンダーが電話替われって」

「よぉ、ナジ。イラクぶりー。少しゃ痩せたか?」

[その声……リック、キャプテン・リックか!]

「相変わらず辛気臭い商売してんな! もう分かってると思うが……」

[包囲済みだって言うんだろ、投降するからなんとかしてくれ]

「ダメだ」

ソフィとノレアの顔が一瞬硬直する──

「農作業でもして少し痩せろ。ムショで楽して縛首とか甘えんな!」

[仕方なかったんだ……食って行くには]

「知ってる。だけどガキンチョ使うのは感心しないな」

[こ……子供の方がガンダムの適性が……]

「ナジ、それ誰から聞いた?」

[地球の魔女だ]

「……それ、ガセだぞ」




長いから一回切るか。


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妖怪ハウス

こっちがメスガキーズわからせ回


「まぁ、信じても信じなくてもいいが、俺らの本来の敵は君らの派遣元だ」

「セレマイト僧院のこと……?」

「! ガルガンチュワって知ってるか?」

「聞いたことない……」

「まぁいい、とりあえず一歩前進だ。

昔、頭のイカれたスペーシアンがいてな、魔女を連れて地球に逃げたんだよ……どこで聞きつけたのかガンダムに子供を乗せると完璧なガンダムが生まれるって与太こいて、大勢子供を殺した」

「私たちが素直に話すと思います?」

「別にガキンチョは捻くれて星を睨んでていーぞ」

「ガンダムは素直だからなぁ……」

「何する気だよ」

「悪いガンダムの破壊とお子ちゃまたちの解放」

「出来るの?」侮蔑を含んだ薄ら笑いでノレアが聞く。

「それが【俺たちの意志すること】だ」陸さんは無表情に、遥か遠くを見る目でおっとっとを咀嚼している。ばりぼり。

 

 

「あれ? シバさんが女の子連れてるー?」

「どうした、ヌーノくん」

「データの粗選別終わったよ。後はどんな風に処理すんの?」

「後で実際にやってみせるよ。ガンさんは?」

「なんかコンテナでワチャワチャやってるよ」

「呼んでくれないか? お子ちゃまが来てるって言えばいい」

 

 

「ようこそー、テロリストちゃーん」

僕がテントに入り込む隙を突き、素早く僕の背後に回ったノレアがナイフを本来頸動脈がある辺りに突き付ける。

「あーあ、おら知らね」シバは頭の後ろで手を組み、こっそり袖先から寸鉄を抜いた。

「人質になってもらうわ、悪いけど……」

グイッ、ぺりぺり……

僕の前に立っていたソフィがひっと小さな声を上げてへたり込む。

「何やってんのよソ

そこでノレアの声も止まる。ノレアが人質にした男は顔面の皮を顎下から鼻のあたりまで捲り上げ、クローム色の下顎を剥き出しにしてこちらを向いていた。

「ヒトヂチニハ ナレナインダ。ボク、メカダカラ……」((わざ)とらしいメカ声)

「よっ、待ってました!」

「ガンさんのこれはいつ見ても迫力満点だなぁ」

「カワイイ ナイフ、タベテモ イイ?」

僕の左指が小さなナイフを掴み上げてチュインと指先のモーターが静かに唸り、ナイフはパキンと音を立てて割れた。なるほど、金属探知機に引っかからない特殊ガラスナイフか。

 

「「ひっ……ひっ……ヒィぃぃい!」」

 

 

一家に一台、パワーガンドアーム(宣伝)

指でM10ボルトも捩じ切れるよ!

 

──パワーガンドアームはシン・セー開発公社の登録商標です──

 

 

「またガンさんのイタズラ? ダメですよー」

リリッケちゃんは慣れたらしい。まぁガンドも今じゃ珍しくもないしタネが分かれば怖くない。

「ば……化け物……」ガタガタブルブル

「こんなのビビってたらアス高務まらないぞ、気合い入れろ気合い」

「他にもずぶ濡れキャンパーの霊とか天狗が出るからな。慣れてくれ」

「どうしたんですか、みんな……」ここでガンド脚に乗って我らがスレッタ・マーキュリーのエントリーだ。

「あ、ああああ脚が4本……!」

「おいっちにーおいっちにー! いいでしょ、これガンドって言って……あれ?」

メスガキーズのメンタルはとっくにゼロであった。

 

「? ……す……スレッタおねぇちゃーん!!(抱き付きっ)」

目を覚ましたソフィは目の前にいたスレッタにしがみついておいおい泣いた。テロリストで死体とか散々見たり作ったりしてる癖に意気地のない奴だ。

「ガンさんさぁ……あの子らは死体って安全なものだと思ってるのよ」

「それが動いたりするのは寧ろショックなんだよね……」

あー、プロスペラ社長も言ってたなぁ。死んでるから大丈夫よって。

 

怯えてボクを見るノレアに気付き、ボクは左手を指差すジェスチャーしながらパントマイムを始める。左手が抜けないなぁ。頑張っても抜けないなぁ。いち、にー、のっ! すぽーん!

わぁ、ノレアちゃんが面白い顔して固まったぞー(棒)

「ガンさん……」マルタンが流石に呆れている。

「いや、こんな新鮮な驚きって滅多に味わえないからさ」

「ごめんね。ノレアちゃんだっけ? 僕はこの寮の寮長のマルタン・アップモンド。あのおじさんは全身ほぼガンドって義肢に置き換えてるガンさんって言うんだ」

「ガンさんで紹介しないでよマルタンくん。キャリバン・メルクリウスです」

「誰もその名で呼ばねーけどな」ううっ、チュチュちゃんひどい(嘘泣き)

「キャリバン、だったんだ……」

「ガンさんだからガンレオンが本名かと」誰が傷だらけの獅子だよ!

 

 

「──と言うことで、2人は来年アス高受験するんでオープンキャンパス見に来たんだ、地球寮で1週間ほど体験入寮出来るかな?」

「あのスレッタおねぇちゃんと一緒に過ごせるの!」

「あのー、ガンさん。この引っ付き虫ちゃんはどちら様の……」

「いやぁ、スレッタさんごめん! 私の古い馴染みがやってる孤児院のとこの子なんだ!」

「──嘘」

「ノレアちゃんは疑い深いな。本当だってば。お仕事の関係で一緒だった事もある。そう、あれは8年前のイラクで──」

「ウチら普通に傭兵さんだから」カタカタと小さな端末を叩きながら、シヴァ4が呟く。

「渦動破壊社のリック3です」

「Voltex Blasters──PMCよね、アーシアンなの?」

「いや、正義の味方」普段のリック3──陸さんはボディビルダーの様にニコニコツヤツヤしている。

「傭兵稼業で正義もクソもあるかよ」シバの端末を覗き込むヌーノ君は呆れ顔だ。

「傭兵稼業だから出来るんだよ。どっかの組織がいつまでも正義をやれるって訳じゃない。諸行無常諸行無常」

「ま、楽しいオープンキャンパス前に、2人連れて仁義だけ切って来るわ。部屋の用意だけお願いね」

 




ガンさんのガンドはオルコットの腕より新型です。


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誤配

Amaz⚪︎nですが、お届け物でーす♪


僕を先頭に陸さん、シバ君、ソフィとノレアが柔らかな日差しを浴びながらグラスレー寮に続く小道を歩く。

「あのー、こっちって……」

「ちゃんと確認しないとね、心配事があるとオープンキャンパス楽しめないでしょ? 

すいませーん、アボなしなんですけど寮長のシャディクさんはいらっしゃいますでしょーかー?」

 

 

【応接間に通されました】

 

「申し訳ない、シャディク・ゼネリは今社用で……」

「あちゃー、しくじったなぁ。でもサビーナさんやレネさんでも確認できるからいっかー」

カップの紅茶を一口啜る。良い葉っぱ使ってんなぉぃ。ソフィちゃんは角砂糖をこれでもかと投入してかき混ぜている。

「で、どの様なご用向きで、キャリバンさん」

「いやぁ、誤配かなと。こちらのソフィちゃんとノレアちゃんが地球寮尋ねてきたんですけど、2人とも御社のスタッフですよねぇ?」

レネちゃんが端末を何回かタップして2人の身元を照会する。

「えー? 2人ともアーシアン企業からの推薦ですよー」

「紙の上ではね、送り状は日本の加古川……その前はテレームの僧院……」

ソフィちゃんはお茶請けのチョコクッキーを頬張りリスの様になっている。

「何のことですかね」

「やだなぁ、皆さんの出身地でしょう、テレームの僧院」

「存じ上げませんが?」案外柔和にサビーナが微笑む。

「そうなんですか?」僕は古ぼけた写真を出す。「おっかしいなぁ、ロイズのおっちゃん間違ったのかなぁ?」

シバ君は呆れてソフィとノレアにチョコクッキーを分け与えている。ノレアの分はソフィが奪った。こちらはフリーダム全開だ!

 

サビーナは顔に出さないが、レネが写真を見て眉を(しか)める。

「可愛い娘さんですよね。てっきりサビーナさんの小さい頃の写真かと。他にもあるけど見ます?」

「弊社では2人の事など感知しておりませんが」サビーナの置くティーカップがかちゃりと音を立てる。効いてますねこれは。

「そっかー、こっちの勘違いかー。カーネギーの知り合いにも伝えておきますねー」

僕のクッキーはソフィに奪われた! ひどい(涙)

「カーネギーって……?」

「CEIP(Carnegie Endowment for International Peace)ですよ、戦争やめなさい基金、グラスレーだって散々文句言われてません?」

「そうは言っても、必要な物ではあるしな」

「やめさせろ、って言われてるんですが。何故か僕らが」

「シン・セーはいつからカーネギーの傘下に?」

「いえ、シン・セーの関連会社がその辺とお付き合いがありまして」

ティーカップの右に、親指と小指を除く3本指を突く。八咫烏のサインだ。

「……何のことやら」

「そっかー、じゃあ2人と一緒に送られてきたやたら嵩張(かさば)る荷物も関係無いのかなぁ?」

「ぇ……」思わず声を上げたレネをサビーナが目で制する。

「……知りませんな」

ふぅん、【存じ上げません】じゃ無くなっちゃったねぇ、サビーナさん。

「じゃあ、フロント管理会社に届けておきますわ。半年経過しても持ち主が現れなきゃ僕の個人資産になるのかなぁ?(すっとぼけ)」

「ガンさん、焼肉行こう焼肉!」陸さんは演技ではなくガチに喜んでる。

「大金持ちだね!」シバ君のセリフには感情が籠ってない。

「なんだ、全部僕の勘違いか。なんか美味しい紅茶飲みに来ただけみたいになっちゃったなぁ(棒)

お詫びにちょっとしたアドバイスを。

一つ目、カーギルも動いてます。

二つ目、何が何でも隠したいなら、自社で全て完結しなきゃダメです。移動も、軌道まで運ぶのも。軌道エレベーターや貨物船頼んで運ぶのもやめた方がいい。全部見られています。航宙申請もチェックされますからそれも出せない。

三つ目、ナジはもう使えない」

「……穀物メジャーか……」

「人間が減るのが純粋に困るんだそうですよ」

「何故、そんな情報を?」

「ランブルリングは安全に楽しんでね? と社長から釘刺されてまして。というか、社長がカンカンなんですよ、プラント・クエタでテロ騒ぎが起きた事」

「モノを動かし過ぎましたなぁ。流石にこの規模だと見抜かれますよ。

……なんでコマンドでやらんかったの? 巨人出す必要なく無いですか?」

「シヴァ4、そらMS開発企業だもん、MSは使いたいだろうさ」

「──」

「人生に役立つ言葉をお贈りします。

人は他人を(おとしい)れようと画策する時、自分が陥れられるとは考えないんですなぁ。世の中は広く、暇人は多い。

その暇人たちは暇に任せてあちこち監視してるんですよ、危機を防ぐためにね。危機が起きると彼ら忙しくなるから、彼らは大きな争いを好みません。経済的ではないし、彼らは暇が大好きなんです」

「戦争したがる軍人はいないって話です。誰が好き好んで銃弾飛び交う戦場に行きたがりますかと。駐屯地で草刈りしてランニングしてた方が気楽だし」

「そんな暇があったらスクワットや腕立て伏せがしたい!」

「余り騒がしくすると、天狗が出ますよ。クエタで暴れたあの天狗が」

「恫喝ですか?」サビーナが爽やかに微笑む。

「いやぁ、忠告です。僕らも暇が好きなんで」僕はティースプーンを親指と人差し指だけで折り曲げた。

 

 

ソフィは指を咥えてレネのクッキーを凝視している。




お茶会かな?


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補給のオーダー

【ロイズのおっちゃん】
お菓子屋の方にもロイズがあるから注釈入れると、Lloyd's of Londonであり保険業の方の「Lが重なる方のロイズ」である。チョコのロイズはROYCE'だ。


「あー空さん、ちょっと補給お願いしたいんだけど……

まずね、レオニダスのフルーツゼリーアソートをカートンで……」

 

(レオニダス……スパルタの伝説の王……300人の増員要請?! フルーツゼリーは何の隠喩だ?)

(アソートと言うからには非戦闘……諜報員含めてかもしれないね)

サビーナから話を聴いたシャディクは、すぐさま地球寮からの通信傍受を開始した。先ずは情報、それは間違いない。

 

 

「まだ時期的に間に合うならスペシャリテのマノンカフェ、2ダースぐらい都合つかないかな? ソフィちゃんに必要なんだ」

 

(スペシャリテ。特殊部隊だな。レオニダスと別に2ダース24名……分隊規模?)

(シャディク、MS隊なら2個中隊! 3×4×2!)

(するとレオニダスはMSの運用パッケージか……)

(ソフィ達の為にそこまで兵員配置する? 何か裏があるのでは?)

 

【レオニダスとか】

実在するチョコレート屋さん。創業社長のギリシャ系アメリカ人レオニダスさんを記念して同名のスパルタ王レオニダス1世をマークに採用しただけで、スパルタは余り関係無い。フルーツゼリーアソートは地球寮の皆のオヤツだし、チョコレート好きなソフィ用のマノンカフェは季節限定の1番人気商品。同社のサイトにも書いてある。

 

 

「あとさー、ナジ覚えてる、ナジ? うっかり敵兵死傷させてノートレットさんにデブらされた……そうそう、イラクの時の! あいつ今加古川居るらしいんだよ、3トン半に出来るだけ菓子詰めて送ってやってくんない? 大丈夫だよカーギル辺りに話持ちかけたらナビスコから調達してくれるって!」

 

(ナジの所に補給……妙だな……)

(こちらからの報復に対する増援では? ノートレットは確か……)

(ミオリネの母さんだ。デリング総裁の妻。でも何でイラクに……?)

(カーギルは穀物メジャー、ナビスコはガンダム社の提携先か……)

 

【加古川に3トン半】

普通に支援物資ですが。ノートレット云々はnote.comで「水星のタヌキ ノートレット」で検索したら謎の情報が見つかるよ!

──これが慣例化した為に、ケナンジは激太りしたのである。

 

 

「あと、リリッケちゃんのオーダーでいちごジャム。コンポートみたいな果実感溢れる奴じゃなく日持ちする砂糖ドバドバ入ったの」

 

(リリッケ……いちごジャム??? 砂糖ドバドバ???)

(ロシアンティーだな。あの体型の秘密はそれか!)

 

【いちごジャム】

サビーナちゃん、正解! 昔ロシアやソヴィエトがびんぼこいてた時、紅茶に入れる砂糖が貴重品だったから、濃いめに煮出した紅茶をジャム舐めながら飲んでたのがロシアンティーの源流。くっそ寒いからカロリー摂取しないと生きていけない試される大地だったんだね。(温暖な地域でそんなやり方してると確かに太る)

また、本来ジャムは保存食なので雑菌が繁殖できない程の甘さにするのだが、コンポートの様に糖度が低くて果実感があると腐敗しやすい。アオハタの45シリーズとかは開封後速やかに消費しよう!

ハチミツや羊羹が添加物なしでも腐らない・腐りにくいのはジャムと同じで雑菌繁殖が困難なレベルまで糖度がブーストされているからだ。ハチミツはボツリヌス菌が芽胞になって活動停止するぐらい甘い。

 

 

「あとねー、ガンダム2機とMS型ガンビットを佃煮に出来るぐらい拾ったんだけど、じーちゃんに報告して引き取る算段してもらってー。トン辺り100万ぐらいで安売りしても大儲けですわー。……そんな事しないよ、ちゃんと持ち主若しくは持ち主と連絡取れるグラスレー関係者から言質取った。知らんって」

 

(え? どゆこと?)

(ハメられました。奴らは物流監視でこちらの動きを察知した様です)

(カテドラル13課? いや、類似の組織が他にもあるのかな?)

(穀物メジャーの網に引っかかったのかも知れません)

(……どこでそんな伝手(つて)が……)

 

【穀物メジャーの伝手】

流石のシャディクも調べなかったが、ノートレットの旧姓はマクミラン。経営参画出来るほどの本家筋ではないが、アドステラの時代になっても株式非公開(資本を市場調達しない)カーギル社創業者の一族、カーギル・マクミラン家の末裔である。

この資本力と情報収集能力がデリングが総裁になった力の根源。

 

 

「あと最後に、かなり世話になったからグラスレー寮宛でパイナップル4〜5箱贈っといてくんない? 台湾産の美味い奴。随分儲けさせて貰ったし……」

 

(パイナップル! グレネードか!)

(そんな手でこちらを攻撃!? テロ返しかっ!)

 

「勘違いするといかんから注意しとくけど、普通に美味しいパイナップルだから勘違いすんなよ? 諜報が甘いって指摘されたからすぐ盗聴。バカ丸出しだぞ」

 

((バレてる!))

 

「盗聴するとノイズ乗るんだよね。有線通信の場合」陸さんは少々呆れ顔だ。

それを横目にシバは接収MSの関節油や装甲素材の組成、塗膜の層構造やらパーメットの精製状況を手掛かりにガンヴォルヴァの生産施設特定を急いでいた。これだけのものを作る為にはそれだけの素材が必要になるし、いくら魔女でも魔法でMSは作り出せない。

「隠し通せると思ってか……」

喜悦を浮かべながらほくそ笑むシバは、全くもって悪人顔だった。




お菓子の話しかしてないお!


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蠕動(ぜんどう)

ちまっちまと話は進む。


【シバくんが解析を終えた模様】

 

「ラインメタル、か」

様々な流れを使っているから足取りを掴むのは困難を極めたが、概ねガンヴォルヴァはグラスレー・ディフェンス・システムが次世代機開発を装いラインメタル(独)に技術移転して、そこからラインメタル主導でKMSやジーメンスと共同開発、生産はKMSをアッセンブラとして迂回調達でパーツを掻き集めた、こんな経緯だ。

コクピットブロックは脱出機構でも組み込むと偽装したのか、丸々取り出せる様に設計されている。ここにガンドフォーマットの受信、機体制御信号へのコンバータユニット入れてまるっと人型ガンビットに変換。足が付くのを恐れたのか、汎用品で組み上げている為にシュリンクは出来ていない。

ガンドフォーマット機構は量産型ルブリスの系譜である(幾つかの諜報機関系で仮称として定着した)ガルガンチュア系列。エアリアルに用いられているガンドI/Oの集積化はヴァナディースにあった生産設備ごとカテドラルに接収・封印された為ロストテクノロジーになってしまった。パンタグリュエル系統は存在するがパーツの量産が不能なのである。

ガルガンチュア系統では避けられないデータストームに関しては、ルブリス・ウルやソーンに用いられている多相相殺(マルチフェイズキャンセラ)システムを用いて低減する試みの様だが、やはり半分も相殺出来ていない。そもそもパーメットを利用した超光速通信で遅延無く逆位相を発生させるエアリアルのシステムがおかしい。全く同じ人間が同じ状況下で同じ発想し続ける様な奇跡でも起きなきゃそんな風にはならねぇ。多相相殺はこの問題を「細かく割って足すことで平均化する」アプローチだ。まぁまだこれじゃ人は死ぬな。流石テレマイト、躊躇が無い。

シバは傍に置いていたブドウ糖錠剤……要するにラムネだ……の蓋を開いて口腔内に白い錠剤を流し込……めなかった。弾切れだ。

 

尚、GPSのログ見ると一度ウルとソーンは加古川の浜の宮小学校付近に移動している。幸いな事にメスガキどもはまだそんなに呪われては居ないのだろう。

 

「── 人の本質は、禁止された物事を切望し、拒否されたものを欲する、か──」

 

 

【テレーム、テレームの僧院、テレマイトなど】

元々はキリスト教の聖書中の言葉θέλημαであり「人間の意思を動かすもの」の意。現代日本語では「みこころ」などと訳されている。

ルネサンス期のドミニコ会修道士フランシスコ・コロナ作と言われるHypnerotomachia Poliphiliでは、テレームを意思や欲望と解している。

テレームの僧院はラブレーのガルガンチュワ物語に登場する僧院で、その僧院の唯一の規則が「汝の意志することを行え」である。この僧院の描写は当時のキリスト教を揶揄したものと言われている。

後にこのテレームはアレイスター・クロウリーにより再発見されて彼の思想の根幹をなして行くが、ラブレーからクロウリーまでの時間の中では、テレーム、またはテレマイト(テレームをする人)は「好きな事をする人(場合により否定的な意味合いを含む)の意味である。

本作中の世界では、欧州方面に潜伏した「魔女」の内、特にガンド・アームの技術的進化を目指す技術者がテレマイトを自称している。先のシバのセリフの様に「人の本質は、禁止された物事を切望し、拒否されたものを欲する」と嘯きながら。

 

 

 

 

と、1人シバがハードボイルドを楽しんでいるその頃、また別のテレマイト(好き勝手上等びと)は大絶賛テレマっていた。

「ガンさん、義体の準備は完了。イニシャライズ完了まであと30!」

「ベル、ホメオ(恒常性維持)は?」

「+2 順調です!」

薄暗い工房のなかで、3人の横顔が様々なモニタの明滅により照らし出される。

「エアリアル準備完了。LP-0ダウンロード開始!」ポチっ!

「さぁ目覚めなさい科学の子! カルド博士が開いたガンドの未来の為に! 2人の母と1人の父を親として!」(凄くカッコつけてポーズを取ったりなどした)

 

ぴこーん、びこーん……

 

「──ガンさん?」

「あれ? ダウンロードは終わりましたよ?」

「……酸素濃度は誤差範囲だし、胸も上下してますから自発呼吸はしてますね……」

邪教の祭壇の様に。見た感じ8〜10歳ぐらいの薄布を被せられた幼女が横たえられた手術台の様なテーブルを前でプロスペラ、ベルメリア、そしてメルクリウスはハテナマークを飛ばしまくっていた。

「脳波は?」

「……寝てる?」

「夢見てますね……」

「スクリーンに出せる?」

「ちょっと待って下さい。ガンドフォーマット繋ぎます──」

「……Webサイトかしら? 視点移動を可視化して」

「……喫茶店のメニューかな?」

「パフェね、やたらデカい」

「カーソル出します!」

「あ、値段と写真交互に見てる」

「……注文というか、品定め?」

「! スクロールして……」

「住所確認……」

「……」

 

科学技術の結晶であり、恐らくアドステラの歴史に名を残すであろう世界初のアンドロイドは夢を見ていた。喫茶マウンテンのスカイツリーパフェの夢を……高さ634mm、つまり60cm超え!

ガンド胃腸持ちでも、君には少し多過ぎないか……

 

「起きなさい、プル」

「まだ食べ切ってないもん……」

「起きれって、ガンビッツ集合!」

「やだ」

「やだぁ? 早速アンドロイドの反発来た!(涙)」

「プルちゃん、パフェ食べに行こっか?」

 

「行くっ!」

 

凄くいい顔でタヌキ眉毛の赤毛の少女は目を覚ました。ガンドの未来の扉ではなく、純喫茶マウンテンアスカティア支店の扉を開く為に──

 

草葉の陰のカルド博士は多分微笑んでいる。




よし来た!
これでパフェ対決が出来る!


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喫茶山脈(マウンテン)

ああ、幼女が、窓に!窓に!(それは狂気山脈ではなくダゴンだ、残念だったな!

【XVX-102 “Ariel"】
シン・セー開発公社がルブリスをエアリアルに改修する際に、入手困難な高集積ガンドI/Oコントローラを汎用ガンドI/Oに置き換えて作ったコピー版エアリアル。俗称「海賊さん」
本編劇中?プロスペラが語った様にエアリアルの様なデータストーム完全抑制機にはならなかった。汎用I/Oで作ったらコクピット内が殺人的に狭くなり、更にデータストームでパイロットが暴れると身体の各部をあちこちにぶつけて凄く痛いので一回だけバージョンアップして開発凍結。ガンビットは4機。汎用I/Oだと小型化できないからである。
今回プロスペラがシン・セーの倉庫から引っ張り出してきた。


【プロスペラは常務に電話しています】

「常務〜♪ Ariel(エーリアル)倉庫から出してメンテナンスしといてー」

「何しようとしてんですか社長?」

「ちょっとまたエアリアル量産計画進めてみようかと……」

「ちゃんと研究開発稟議書とプロジェクトのレジメ出して下さいよ! 処理フロー適当にしたらミオリネボスに突っ込まれますよ! てか、あれガンダムだからアスティカシアには入れられ無いんじゃ……」

「ブリタニア3世号で運用するから。保守パーツもお願いね!」

「8割エアリアルなんだからそっちでなんとかなりません?」(呆)

「ケチ。ボーナス査定下げるわよ!」(憮然)

 

まぁ、世間一般ではガルガンチュア系しかガンダムと見做されず、エアリアル含むパンタグリュエル系統はガンダムとは思われないのだが。

 

 

【ベルメリアはプルを連れて喫茶店に向かっています】

メガネ(網膜投影型プルの各種パラメータ監視デバイス)をかけたベルメリアはプルの手を引いて喫茶マウンテンに向かっていた。何故手を引くかと言えば、生後3時間のプルはガンド義肢操作にまだ不慣れで、ガンさんが渡したアビオニクスライブラリの最適化を終えていないからである。

更に……

「えいっ!」

ガンビットだった頃の癖が抜けないのか、人混みで他人を避ける際にガンビットの様に三次元で……つまり飛び越えようとか股の下潜ろうとしてしまうのだ!

「ねえねえ、まだ? お腹すいた!」

「(チラッ)……血糖値、まだ下がってないわよ」

「ほんとだもん、早くパフェ食べたいな♪」

ベルメリアは、ガンドロイドの事を一点だけ許せなかった。

 

ガンドロイドは、太らない(血涙)

 

世の女性もこの悔しみを共有してくれるに違いない。プルは機構構造上、浴びるほどパフェを食べても体型が変わらないのだ! 更に言えば空腹も覚えない筈である。もちろん所謂「ガス欠」はあるが、省電力モードに移行して、それが進めばスリープモードになるだけだ。

飢える苦しみもダイエットの辛さも、老化の悲しみもない。

 

正直羨ましい。眩しくさえある。

 

「あったー! ここ、ここ!」

プルは天真爛漫にはしゃいでいる。

 

 

【地球寮のメンツも向かってます】

「その身体のどこに食いモン入ってくんだよ……」ギャベル君もドン引きだ。

「──ソフィ、そんなにドカ食いすると加古川帰った後辛いよ」

「ノレアちゃん、それは心配しなくていい。食い物は手配した。もっと純粋にソフィちゃんの身体心配して」

「沢山食べて早く大きくなればいいんじゃない? 私も……」

「……モリモリ食べたから、そんなにデカくなったのね……」

「はいっ! ミオリネさんもモリモリ食べましょう!」

「リリッケが増えるな……」

「加古川のちびっ子もリリッケみたいになれるかなぁ! シーシアなんてほんっとうに軽いし細いんだよ!」

「まぁまぁ、今日は俺の奢りだ! 常識的な範囲で思う存分た……おや?」

メガネを掛けたベルメリアが女児を連れて喫茶店に入って行った。

「……ベルさん独身だよな?」

「こっ……子供さんの話は聞いたことが……」

「ベルさんの子供じゃないかもしれないだろ、ドラマ見過ぎだぜ……」

「誰にもドラマはあるんだぜ、ヌーノ」

「どんなドラマがあるのかしらぁ〜☆」リリッケの恋愛脳が余計な妄想を掻き立てる!

「ノレア!」顎で喫茶店の窓を示す。

「アイ・コピー」ノレアとソフィは窓に向かい音も立てずに駆け出した。

 

「子供の名前はプル、皆さん聞いたことあります?」

「変な名前だな? どこの人間だ?」

喫茶店の窓の下で、皆しゃがんで作戦会議開始。もちろんチュチュの頭は全く隠れず揺れている。

「──誰も知らない幼子……誘拐か──」

「そんなことあるわけないでしょ。ベルさんはちゃんとした大人よ!」

「そうですよね! ミオリネさん」

強化人士作ってた人が真人間とはたまげたなぁ……彼女も大概マッドだぞ。

「邪魔しちゃ悪いから他行くか?」

「アリア、私はネガティブ!」

「──私もです。別に気にしなくて良くないですか?」

「コメダのシノワールも大きいぞ?」

「くっ……ネガティブ! 初志貫徹スカイツリーパフェ!」

 

【ネガティブ】

軍隊とかで命令や提案に対する拒否とか反対を言う時使う語。

 

「デート中なら兎も角、別に構わんだろ」陸さんは呆れている。まぁ、こういう他愛の無い戯れ合いが楽しいんだろうけど。

シバが戯けて陸さんに呟く「You have control(そっちで決めてよ)

I have control(分かった、入るか)」陸さんは扉を開いた。

 

「すんません、ちょっと人数多いんですが……」

「……ご相席、お願いしても宜しいですか?」

「あら、みんなどうしたの?」

「──ソフィさんがお菓子みんな食べちゃって……」

「あらあら、育ち盛りね」

ここにも! ここにもダイエットが不要な生き物がっ! ベルメリアの内心は穏やかではなかった。

 

「ベルさんの娘と思ったら、顔つき全然ちげーし!」

「というより……スレッタの妹?」

「お前んとこ兄弟姉妹がいきなり増えるのな」

「ふふっ、違うわ。この子はスレッタちゃんの従姉妹よ」

「「え、イトコ?」」

「ナディムさんの妹さんの娘よ、ほら、眉毛」

プルがおでこを見せると、そこにはサマヤ家の証とも言える狸眉毛が!

「お前ん()のDNA、めっちゃ強力だな……」

 

(あー、テステス。6子よりボスへ、なんか変な設定が生えてきました!)

(ボスより6子へ、とりあえず合わせろ)

(らーじゃー)

 

「注文決まったかー」

「もちろん!

「私は……

 

スカイツリーパフェで!」」

 

 

 

後にノレアが語るところによると、ソフィとプルの間に龍虎相打つの図が見えたという。

 

「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しないって、あれ本当ですね」




龍虎図では、龍が東で風を呼び、虎が西で雲を呼ぶという。
つまりドラゴンズとタイガースの戦いである。


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頂上決戦

馬鹿やったのは2人だけ……

【純喫茶マウンテンのスカイツリーパフェ】
実在する。全高634mmでスカイツリーの1/1000の高さだが、63cmってデカ過ぎない?
流石に筆者も食ったことは無いが、食レポや写真を見る限りはフルーツ多用で甘さがキツい訳でもなく、割合完食しやすい模様。別に大食いメニューでは無いから完食しても賞金が出たりはしない。


空に聳える白嶺のパフェ……

純喫茶マウンテンのスカイツリーパフェを評するなら、こんなところであろうか。

 

旧時代の電波塔としては最大クラスの東京スカイツリーであるが、軌道エレベータという規格外の高層構造物が完成して以降は些かノルスタジックな響きを持っている。そも軌道エレベータは大地から生えているのではなく、厳密には浮いているのであるが。

 

「──」

「……(ゴクリ)」

 

発注者2人は無言で【見上げている】。テーブル高が約90cmとして、そこから更に60cm先にその頂きがある。その高さはソフィの目線より上にあり、プルの身長を遥かに凌駕している。

 

「残してもみんなで食べるから無理しなくていいぞ」

「案外少ないかも……」

アリアとリリッケが相反した話をしているが、これはリリッケが正しい。

高さはあるが体積はそれほどでは無い。これなら寧ろカラオケパセラのハニトーの方が辛そうだ。というか、parfaitという「完璧な(デザート)」という意味を持つパフェが完食し難い訳もなく。

 

2人は視線を交わすと、争う様に白嶺へのアタックを開始した。

 

先ずは頂上付近のクリームを攻略だ。甘さは控えめだが盛りは多い。このクリーム部を攻略しつつ、中腹のフルーツで口直しをして行くのが定石であるが、小さな挑戦者達は余りに、余りにこの手の食べ物を食した経験がなかった。実際皆無である!

 

ソフィ選手は中腹のフルーツ攻略を開始した。ここでまさかの「素手で摘んで齧る」攻撃! まるで獣! 手がクリーム塗れになるのも厭わず野生解放! これは速い!(もっとお上品に食べましょう)

 

「私、ちょっとはした無さには自信があるんで」

ソフィが口に付くクリームを指で拭い、その指を舐めながら胸を反らす。はしたないという言葉の意味を勘違いしている可能性がありそうだ。

 

「ぐぬぬぬ、水星魂見せてやる!」

水星はジジババ天国だから、こんな高カロリーなもの食べません!(というか、オシャレなカッフェーも無ければ生クリームも3ヶ月ぐらい前に発注しないと取り寄せが効かない)

「でも……このままじゃ勝てない……おじさーん、スプーンもう一つ!」

 

「何いっ!」

 

眉の前でスプーンをクロスさせて両手で構える。プルのその構えは伝説の2丁喰い……

 

「馬鹿な、それで早食いしようっていうのか!」

「左手じゃ上手く掬えねぇぞ!」

 

ふふんとプルは不敵に笑った。僕たちガンドロイドには利き手はないっ!

 

 

【2丁喰い】

土山しげるの漫画、喰いしん坊!に登場するハンター錠二というフードファイター(大食い戦士)の必殺技。特に熱い麺類を食す際に、両手で箸を二膳持ち、片方ずつ麺を引き上げて冷ましながら食べるという……あれ?

 

 

そう、別にパフェで2丁喰いする必要は無かった。お口は一つしかありませんし。そもそも早食いしなきゃいけない理由もない。

 

「パフェに親でも殺されたのか、君らは(苦笑)」

 

シバが頼んだ小倉ホットケーキを食い終わるより先、リリッケが楽しみながらバナナパフェを半分まで片付けて、ミオリネが抹茶モンブランをもう少しで片付け終わる頃、ソフィはパフェを飲み干した。

高く掲げられたパフェグラス、勝ち誇ったその顔(頭にクリームが垂れている)、負けたっ!という顔のプル(ストローでちゅうちゅうしている)

 

「足りないからって、私のクリームあんみつはあげないからね」

ノレアはどこまでもクールであった。

 

 

「おねえちゃんには勝てなかったよ……」

「チビの癖に中々やるじゃん、危ない所だったよ」

いつの間に、戦いになっていたのやら。

「見どころがあるな、舎弟にしてやってもいいぜ! あたしはソフィ。ソフィ・プロネ」

「LPプルです、おねえちゃん!」

ノレアはソフィの頭をおしぼりでゴシゴシ拭いていた。

 

「あー、これ結構腹に溜まるな。昼飯どうする?」

「ちょっとオープンキャンパスでも見ながらお散歩します?」

「へ? この後貴族のナポリタンとお雑煮食べるんじゃないですか?」

 

ホルダーの胃腸は異次元に繋がっていた。

 

 

【カラオケパセラのハニトー™️】

カロリー云々より、飽きる。大体ネタで頼んで味が単調だから飽きてしまう(完食が辛くなる)のが欠点だったが、最近は追いソースで味変して食べ残し削減に舵を切った模様。似た食い物はバブル期のディスコやクラブで始まったらしいが、現在ではカラオケパセラの有名メニュー。(「ハニトー™️」で商標登録している)



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アスティカシア【高専】名物

高専って言ったらコレよ!


アス高は、(本編製作陣も忘れている気がするが)高等専門学校である。

いわゆる高専なので、当然歴史あるこの競技にも縁が深い。

 

高 専 ロ ボ コ ン

 

だ。

 

 

【射的】

「チュチュの機体は去年のお題に併せて私が作ったんだ」

「それでスパナのチュチュさんがスナイパーライフル担いでたんだ……」

 

「チュチュさん、500先で旋風。西から東4m程度。左に0.5、仰角0.1修正願います」

「あいよノレア!」

「試射要らないのかぁ?」

「さっきソフィとヌーノさんのチームが撃ってたの見ましたから。ギャベルさんから何か指示は」

「こんなんだったらソフィに賭けるんじゃなかったよ……」

 

ばしん! 材木で組んだ巨大輪ゴム銃が火は吹かないが火を吹くと、600m先の10倍サイズ森永キャラメルの箱の左上にHit!

「よし倒れろ!」

「次、2時方向のぬいぐるみ、これは台座の上部中央を狙います」

「ソフィの敵討ちか、優しいんだなおめー」

「腕を見せびらかしたいだけです」

「あいよ、補正は!」

 

「いいスポッターだな」

「マジで受験頑張れよ、来季お前ら戦力として考えてるかんな!」

「そういや今年のお題は?」

「ロボ相撲、だって」

 

 

【ロボ相撲 アスティカシア場所】

 

「今日はエキシビジョンですので、ジェターク部屋のディランザで皆さんのデミトレーナーとこども相撲をやってみたいと思います。ヨコヅナはこちら、フェルシー・ロロの山!」

「ごっちゃんです!なのだ」

パーティーグッズの肉襦袢を着たフェルシーをカミル・ケーシング(アス高相撲部主将)が紹介する。尚、カタログスペックによるとエアリアルが高々40数トンの機体重量に対して、ディランザは85トンを超える。デミトレーナーは60トンを僅かに切るぐらいだ。

「流石にズルくない?」ソフィはちょっとむくれている。軽量級の彼女達はウェイトの違いが如何に格闘をする上で強烈かを体得している。20トンの差は反則だ。

「ははっ……ヘビー級はジェタークのお家芸だから……」

「ぼく、参加してくる!」

「え、プルMS操縦できるの?」

「ぼくははじめて! ぷるぷるぷるぷる〜」

 

「何よスレッタ、難しい顔して?」

「なーんかあの子、どっかで会った事ある様な……」

「ご親戚なら会った事ぐらいあるんじゃないですか?」

「走り方にもなんかこう、既視感……」

 

「はっはっは、ディランザは(相撲では)無敵なのだ!」

引けば押し、押さば押しまくりのノンストップ相撲ロードはフェルシーの性格に見事合致していた。入念に足腰のバネを中心に整備したディランザは本当に強い(相撲では)

 

「次は……おーっと、可愛らしい挑戦者だ! お名前は?」

「LPプルです! 水星から来ました!」

「……なんとまさかの水星! 現ホルダーのスレッタ・マーキュリーの後輩だぁっ!」

「おい、あの眉……」

「水星に住むとあの眉毛になるのかな……?」

「へっへっへー。万世食べ放題は貰ったヨ☆」

 

ここで改めて紹介しよう! LPプルは改造に……ではなく全身をガンドで作られたガンドロイドであるっ! つまり全身をガンドの力で動かしており、その精神を宿す新型シェルユニットは限定的ではあるがガンダムエアリアルに負けず劣らずの演算性能を持つ! コア数とか処理可能スレッド数だけ違うと思って頂いて差し支えない。つまり……

「頑張ろうね、デミトレちゃん……リンク4!」

 

彼女が乗る時、全てのMSはガンダムになる。

 

それは一柱の巨神(ジャイアント)。リンク4のパーメットリンクにより近場の放送設備の出力を掌握! プルの脳内ライブラリーにある「レイ⚪︎ナーのV-M⚪︎xの時のBGM」がフェードイン。デミトレーナーは猛獣の様にしなやかに力強く大地を蹴った!

 

「「「え"〜〜っ!!!」」」

 

スレッタ、ソフィ、ノレアが変な声を上げた。あの動きは正にパーメットリンク4! だってデミトレだよ? そんな馬鹿な!

 

「ダメだよプルちゃん!」

「死ぬぞプル!」

 

「ぷるぷるぷるぷるーーっ!」

ディランザと4つに組んだデミトレーナーが信じられない力でがぶり寄る! いい当たりだとカミルはご満悦だ! 

「しかし!」

スモトリ・ディランザはパワーだけではない。自動バランスプログラムで大地に根を張ったが如き安定性を生み出している。フェルシーの猪突猛進精神をソフトとハードで補うのだ! ダリルバルデに実装された意思拡張AIも丹念に擦り合わせれば案外役に立つ。が、

「! 上手い!」

「なにっ!」

 

「ここだぁ☆」

 

リンク4の獰猛なデータストームを最新型シェルユニットは軽くいなし、プルの眉毛部だけを炎の様に照らした。Z80じみた生身の脳に比べれば、インシェルユニットの演算性能はi3並み! ……i3か。微妙だな。

エアリアル仕込みの重心演算能力と慣性コントロールが本領を発揮した。ガンダム・デミトレーナーという巨神(ジャイアント)の演算能力が意思拡張AIを凌ぎ、ディランザの左足が宙に浮く! 細かな重心コントロールの力を逆に借りディランザの重心を崩したのだ。今やスモトリ・ディランザは根を断ち切られた大木も同然。

 

「「呼び戻しだとぉっ!」」

カミルとシバが声を上げる。説明セリフごっつぁんです!

 

「どっせーぇい☆」

 

土煙をあげてディランザが土俵に倒れて行く。

 

『ただいまの 決まり手は 呼び戻し、呼び戻しです……』

会場がしんと静まり返る中、ギャベル君だけが絶叫していた。

 

「おっしゃぁ! 12.6倍ィイ!!!」

 




この事件以降、アス高相撲部は公式戦出場時に「水星眉毛」に眉を整えて挑むという伝統が生まれた。まぁ、眉毛で勝った訳ではないのだが。

【呼び戻し】
MSとしては軽量小兵であるエアリアルを運用するため、ガンさんは合気道や相撲、柔道の崩し技を執拗なまでに分析している。対ダリルバルデ戦での巴投げも偶然ではなく狙って繰り出している。


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焼肉屋の垂訓(すいくん)

肉を焼いて讃えよ
四方(よも)に向かって伝えよ
肉を食って讃えよ
四方に向かって伝えよ
カルビの脂は
世界を照らすー♪


「ペラペラなのねぇ……」

「脂身ばっかじゃん、もっと赤身のさぁ……」

 

焼肉未経験のミオリネやアメリカンなギャベルが文句を垂れる。

 

ここは万世アスカティア店「万世牧場」

タレの大河が滔々と流れ、肉の葉を付ける大樹が茂る約束の地……全てのお肉は脂でツヤツヤと輝き、網はなおも鋭く(しろがね)の様に輝く。

 

肉の焼ける音に香り。この幸せのあかしを前に早速デザートのアイスを食い始めるソフィにプル。不信心ものめ。【食い改めよ】冷麺!

 

くっくっく……貴様らは特上カルビ様の畏れを知らぬ……

食うがいい! 極上の脂がもたらす奇跡の甘みを!

 

焼肉奉行、陸さんはトングをカチカチと鳴らして網が熱せられるのを今か今かと待ち構えていた。

 

「!」

「美味ーい! なんだこれ! 本当に肉か?!」

レバーが焼けるより早くミオリネとギャベルは掌を返した。凡そ人類の少年少女でこの旨みに抵抗できるものは居ない(諸説あります)

「ヌーノ、早く、早くそれ載せてくれよ!」

「おーいしーぃ。幸せー」

「ハムっ……はむっ……お肉が塩っぱくない!」

「……水星には大豆肉の牛丼かハムやソーセージしか無かったからね……」

「マジか、スレッタこっちのタン食べるか?」

「タンって舌でしょ、気持ち悪い……食べるのそれ!」

「み、みみみみミオリネさん! おおおお美味しい!」

「内臓だ筋肉だなんてのは、焼肉の前では些細な話よ……」陸さんは渋く肩ロースを味わっている。

「ネギ乗っけてレモン汁で食ってみ……飛ぶぞ」

「レバーはヘルシーだからいくら食べてもいいんですよねー」

「カルビ! カルビ! カルビもっと!」

「落ち着きなよソフィ……」

「ノレアおねえちゃん野菜食べてるフリして、中にお肉隠したよね……」

「これはサンチュ。プルも野菜食べな?」

「火力最大! 早く焼けろ!」

「焦げちゃうから中火(ポチー)」

「ティル先輩! 焦がしたりしないから!」

「あーっ! こんなんならさっき焼きとうもろこし食べなきゃよかったー!! 今すぐ空腹になる薬がほしぃー!!」

「これはシマチョウ。大腸だ。グロいねー(棒)」

「もう騙されないわよ、それも美味しいんでしょ!」

「正解、この世に不味い焼肉など存在しない。焼肉を讃えよ!」

「甘ーい、なんでお肉が甘いの! お肉ってもっと固くて辛い……」

「それ、天狗印のビーフジャーキーじゃないか?」

「焼肉の神様が美味しくなぁれ、美味しくなぁれと願いを込めたから甘いんだよ。聞くところに寄れば、日本語の「UMAI」は「AMAI」が語源だって言うぜ?」

「すいませーん、カルビお代わり食い放題プランで貰えますか?」

「安心なさってください、メニュー全て食べ放題ですよ」

「じゃあ、カルビとレバーとハラミを6人前2皿ずつ、あと網変えてください」

「マルタン、網変えたら暫く肉焼けないじゃん、後にしろよ」

「ええーっエリンギも焼いて食べようよ!」

「ロースも美味い! 陸さん隠してたな!」

「知られちまったら仕方ねぇな。上ミノも美味いぜ!」ニヤリ

「ハチノスって、あのハチさんの?」

「いや、牛さんの第2胃だ。美味いぞ!」

「牛って二つも胃があるの?!」

「4つある。ミノ、ハチノス、センマイ、ギアラだ」焼肉奉行は焼肉の名前に詳しい。

「そんなに胃があったらお腹一杯にするの大変だね!」

 

プルの何気ない言葉にソフィとノレアの顔が曇る。

「お腹をいっぱいには出来なかったよ……」

「みんな、どうしてるかな……」

 

「? ナジからメール来てねぇの?」ぽちぽち……

「一昨日みんなでバーベキューしてるぜ?」

陸さんが見せる写真の中で、ビールジョッキを高く掲げてご機嫌なナジと肉を頬張る子供達。本当に助かったと謝辞が添えられている。尚、なんかしょげてるピンクの前髪は無視された。

 

「任務中は、無線封鎖してるから……でも、良かった」

「先にお肉食べてたんだ! 私も食べよーっと!」

「……みんな、楽しそう……」

「任務は終わりだって言っただろ。偶には電話してやれ」

「任務って何さ?」アリアが問う。

「アスティカシア探検(ニッコニコ)」骨付きカルビを齧りつつ、陸さんは答えた。

 

「まぁ、みんな。肉食いながらでいいから聞いてくれ。

マルタンとりあえずエリンギはもう焼けてるぞ。

 

美味いもん食うと笑顔になる。愉快な仲間と食ったら美味さもひとしおだ。みんなが美味いもん腹一杯食べてニッコニコしてたら戦争とか紛争は起きねぇ。これは間違いない。なんなら俺はそんな戦地を散々見てきた。

戦いやるのに素手でやる奴ぁーいないからな。カルビが小銃になり、レバーやギアラが戦車に、バズーカに、MSに変わる。

銃弾やMSは焼いても食えん。あんなもん買わずに焼肉すりゃあいいのに」

 

「でもよ、人間って2人居ると争い始めるって言うぜ?」

「まぁまぁ真理よな」

「どうやったらみんなで楽しくご飯食べられるのかな?」

「──それを考えてたのがミオリネの母さんさ」

「え? お母さんが?」

「お母さんの旧姓知ってるかい?」

「確か……マクミラン……?」

「そう、穀物メジャー、カーギル社の経営一族。カーギル&マクミラン家の裔、ノートレット・マクミランだ。俺も軍隊にいる時カーギルには散々世話になったし、今回ナジのキャンプに支援してくれたのもカーギルだ」

「なんでそんな……」

「軍産だけではなく、戦争は食糧需給にも影響出る……カーギル的には騒乱が起きる度にかなり儲かってしまっている」

「悪徳商会だな。とんでもねぇ奴らだ」

「これが必ずしもそうじゃねぇのよ。食い物って食ってくれる奴が居ないと売れないからな。人が死ぬのは彼らにとって不都合だし、作物作ってくれる農家が銃を持つと仕入れもできなくなる」

「……戦争しない方が儲かる……?」

「そうだ、みんな腹一杯飯食ってスクスク育って子供を1ダースも作ってくれたら御の字だ。食い物のトン当たりの単価は下がるが、結果的には儲かる。だから飯をモリモリ食わせたがるって寸法よ」

「それがなんでトマト作りになったんだろ?」

「焼肉と同じさ……美味い食い物は人を幸せにするんだ。これがノートレット女史の戦い方なんだ」

「でも……それじゃなんでベネリットグループに嫁いだの?」

「そりゃあ恋して愛したからだろうが……ある意味ではデリング総裁ノックアウトして、世界平和実現するつもりだったかもな」




流石に長いので分割ー

どなどなどーなどーなー
カルビがうーまーいー
どなどなどーなーどーなー
ロースもうーまーいーぞー(突然の味皇様)


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たとえむねのきずがいたんでも

今は昔、世界を二分にした最後の大戦あり。
その地獄の大戦で家族を失った詩人はある歌を残した。
それが不思議の縁により(しろがね)の髪持つ少女の胸に響いた時──

【彼】は、【彼の魂】 はこの世に雄々しく顕現した──


トマトは旨味の宝庫である。

その少女はトマトが大好きだった。父が家庭菜園の朝露に輝くトマトをもぎ、母は様々な技法(アルテ)で食卓に供した。ひと玉当たり味の素換算で2〜3振り相当のグルタミン酸塩のダンス。彼女は畑のルビーに魅了された。実際朝取りトマトはめちゃくちゃ美味い。科学的にも論拠がある。

 

そしてもう一つ。彼女がまだ幼い頃に家族で荒廃する前のニホンを訪れ、何気なくつけたテレビの中で──彼女は初めて恋をした。彼は彼女のヒーローになった。丸顔に団子鼻、焼けた顔は朝黒くお世辞にも格好は良くなく必ずしも強くはない。しかしヒーローの心は焼きたてのパンの様に暖かく、何よりも(つよ)かった。

彼の名はアンパンマン。反転せざる正義として「お腹を減らした人に、自らの(あんぱん)を差し出す」──例えそれにより自分が弱ろうとも、危険に晒されようとも。

 

恵まれた環境の中で彼女はスクスクと育ち、彼女の中でふたつの概念が化学反応を起こした。美味しいものを皆に届ける仕事をしたい。それは奇しくも彼女の一族が何百年も続けて来た家業であり、彼女は包括的に農業、そして農村を作り上げるための植生エンジニアの道を選び、其々の地域に合致した原始的農村の構築の仕方を大学で学んだ。また同時に農学部で野菜の品種改良なども手がけた。

 

これが、ノートレット・マクミランという女が後にミス・ジェネラルと呼ばれる前の足跡である。

 

 

 

 

それは嵐の様なハーレー・ダビッドソンのエンジン音と共にやってくる。

最初期、彼らは誤解していた。糧食調達の為に地球で最大規模の穀物商社……穀物メジャーと【契約】し、現地の調整官として商社の主任が派遣されること。彼女は経営者一族の末席に連なるお嬢様で、何やら研究をしていた若い女性である事……

恐らく今この文章を読んでいる読者諸兄も前段を踏まえてアンパンマンとトマトが好きな、豪商の娘という少女漫画じみた線の細いたおやかな女性を思い浮かべた筈である。それは誤りだ。学者と言ったらヒョロいモヤシと思い込むのはやめた方がいい。理系でもフィールドワークを行わなくてはならない分野では、学者と言えども逞しくなければ研究を進められないのである。

 

彼女は植生エンジニアとして、必要であればジャングルでも急峻な山でも走り回った。それは整備された山道を行くトレッキングじみたものではなく、道なき道を野の獣の様に斜面を行くものである。その為彼女の(かいな)はアンデスの山々の様に隆起して、背中は台地の様に滑らかな法面(のりめん)を見せていた。腹はよく手入れされた畑の様に6つに割れている。その畑の背後にある二つの山は、まるで里山の様に豊かに盛り上がっていた。太腿はいく筋もの鉄筋を束ねたが如く、足首に連なる脹脛は子持ちのししゃもの様に躍動していた。

 

【挿絵表示】

 

テントの外でハーレーのブレーキ音がする。

鉄の悍馬(かんば)のドウドウという拍動が止まる。

ヘルメットを取ると美しい銀の長髪が乱れるも、彼女は気にしない。

警備の兵が銃を構えるも気にしない。

彼女には【契約】がある。安価に飯を提供する代わりに交わした【契約】が。

 

「契約の確認に来た、通せ」

「手荒な真似は……」

「貴様、所属と姓名を述べよ」

「いえ、その……」

「もう一度だけ言う。通せ。

軍本部(ほんしゃ)からの命令があるなら私を遮っても良いが……」

「サー、イエッサー!」

荒々しく連隊本部幕舎(ばくしゃ)の入り口を潜ると、彼女は筋張った拳を握り絶叫する。

 

「デリ公、歯ァ食いしばれ!」

 

まだ若い宇宙議会連合治安維持軍大佐、デリング・レンブランのタプタプとした左顎にノートレットの鉄拳(アン・パンチ)が飛ぶ。

 

──その頃、彼は太っていた──

 

ノートレットが持つ契約の内容はこうだ。糧食や軍が必要とする資材のサプライを安価かつオンデマンドで提供する見返りとして、治安維持連隊は展開地域におけるカーギルの商行為を保護し経済活動を助ける事……宇宙議会連合は地球の穀物メジャーが意地汚く自分たちの権益保護に動いたと嘲笑った。しかし後に彼らは自らの認識が誤っていた事を痛感する。

ノートレットが持ち込んだ「アンパンマン」は、カーギル経営者一族の子弟を虜にした。その歌(アンパンマンマーチ)は彼らの指針となった。

 

「私のトマトを美味い美味いと食う人間を殺すなアホゥ」

 

穀物メジャーのエンドカスタマーはあらゆる生き物である。彼らの経済活動は「生き物に飯を供給する事」であり、死人は飯を食わない。つまり死者を出す事は彼らの経済活動に対してネガティブな影響を与える──協力してやるから殺すな、という話である。

 

「何人殺した、何人傷付けた? 答えろ」足下に転がるデリングを冷酷な目が見下ろす。

「さ……3人ほど死者が……」

「宜しい、では今日から3人分責任者の摂取カロリーを増やす。死んだものの分もお前が食え」

 

これが、デリング・レンブランの質量及び体積が増した……肥えた理由である。この点についてカーギルは些かも引かなかった。むしろ食い切れないぐらい糧食提供して非難されるのはおかしい。軍隊なのだから食った分動けばいいではないか!

軍を統括する将たちはぐうの音も出ない。

連隊を率いる大佐クラスの士官は運動する様な暇な時間は無い。走り込みする様な暇のない大佐は肥満した。

 

当初宇宙から来た兵たちは、殺すとご褒美で飯が増えると喜んだ。こいつはご機嫌なミッションだぜと。それが1.4倍、1.6倍と増え続け、残飯として残すのは許されないと知ると彼らの顔はあおざめていった。今ではフォアグラに心からの哀悼を捧げる次第である。そもそも無駄に美味いのだ、カーギルが提供する飯たちが!

 

「こっ……これ以上は部隊運営に関わります、ご再考を……」

「食い過ぎで頭まで肥満したか、デリング大佐。頭を使え」

「──と、言いますと?」

「殺さず捕虜にして、そいつらに食わせれば良かろう。カーギルは誰が食うかなど感知せん」

 

この言葉は迅速に部隊内に伝達された。




胃を掴んで人心を掌握する。基本ですね。

ワイが萌えキャラ風の美人さん出す訳なかろうよ……本作のノートレットは迫撃砲撃ち込まれても怯まない筋属の魂を持つ美丈夫よ!


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戦争に戦争を仕掛けた女

いわゆる報徳思想による戦争否定である(すっとぼけ)


「投降しろ! さもなくば……」

「さもなくば、何だ!」

「俺たちが凄く困る! 助けると思って投降してくれ! 飯は美味いぞ!」

 

トンチキな話が始まった。これ以上食えないなら食える奴を連れて来い……治安維持部隊は美味い飯を餌に武装抵抗組織を切り崩して行った。弾薬やMSではなく糧食だけがみるみる消費され、糧食供給を担当するカーギルだけが戦争での売り上げを伸ばしてゆく……

 

「【契約】は適切に履行されている様だな、デリング大佐」

「しかし、軍需系企業が議会を通じて圧力を掛けている様です。このままでは……」

「……補給部隊用に新規で2個小隊分のMSでも請求しておけ。腕っぷしが強く繊細な動きが出来れば武装は問わん。カーギルが金を出そう」

「一体、何を……」

「お前たちのやり方が生温いからな、私が戦いというものを教えてやる」

 

 

それは余りに大き過ぎた。MSの傍にあって尚魔女の大釜の如き異様。

この中に多数の食材が流し込まれ、ジェットエンジンを改造したコンロが鍋の尻を炙る。

「……これは……」

「北風と太陽も知らんのか? 銃で脅して投降者を募るなど手際が悪過ぎる。これで広範囲に匂いを撒き一斉に捕縛する──虫取りと同じだ。経験は?」

「あ、有りますが……人間を虫扱いとは──」

「変わらぬさ、ミミズだってオケラだって、人間だって生きている。命に変わりはない」

 

 

【手のひらを太陽に】

余り知られていないが、幼児が学校でも習うこの曲の作詞者はアンパンマンの作者であるやなせたかし氏である。我々は詩人としてのやなせをよく知らない。

 

 

具体的に具材や料理名を出すと論争が起きてしまう厄介な料理であるが、あの香りは郷愁を唆る。秋の日の涼しい風がこの香りを数キロ先まで届けると、腹を空かせた難民やゲリラがフラフラと集まって来る。

 

小柄な身体から信じられない声量でノートレットが叫ぶ。

 

【挿絵表示】

 

「銃は要らん! いや、銃と引き換えに飯を食おうか! 汁は食い切れない程ある。落ち着いて並び、そこのテーブルで共に食え! 先ずは飯だ! 腹が減っては何も出来ん! ちょっと早いがサンクス・ギビング・デーと行こうじゃないか!」

 

【厄介な汁】

読み仮名の振り方だけで論争起きるんだもの……(涙)

以降具体的描写無しに「おいしいね!」が続いても察せよ。

 

「裏切り者め! スペーシアンの走狗が!」

「美味しいね!」

「汁で口を汚しながら怒鳴っても説得力がないぞ! お代わり要るか!」

「──お前らの飯、食い尽くしてやる!」

「おいしいよね!」

「ナイス根性だ! 費用は宇宙議会連合持ちだからたんと食え! ──継続的にこいつらから飯奪っても構わんぞ!」

あんた何言ってんですかとデリングは狼狽したが、副官のラジャンはデリングの肩に手を置きかぶりを振った。

「それでアンタは何を得る? 何がしたいんだお前は!」

「凄く美味しくてポカポカするね!」

「畑でも作ってスペーシアンに売り付けるかね。見ろ、この大地を! これは我々のものだ! (そら)に浮かんでるスペーシアンには触れ得ぬアーシアンの宝だ! 大地と水と空気と太陽! あいつらには無いこの地球という巨大なバイオスフィアが我々の誇る宝だ! この宝が美味い食い物を生み、我々に財を与えてくれる!」

「あいつらだって生産プラントぐらい持ってるだろう? そう上手く行くか?」

「私は穀物商社カーギルの者だ! 我々は穀物流通を掌握しており、優秀な種苗と卓越した農業技術を保有している。不安かね?」

「……本当に、出来るのか?」

「見ろ、このスペーシアンのデブどもを! ウチの飯が美味くて丸々太りおったわ!」

あっ、と軍人たちが息を呑む。確かにカーギルが出した食材は美味い。トマト一つとっても何故か美味い。我々が、我々の身体が彼女の説明に説得力を与えてしまっている!

「確かに……美味いな」

「……なんだかんだ言って、限界まで食えるからな……」

「この汁が口に合わぬものは名乗り出ろ! 具沢山のミネストローネやコーンポタージュもあるぞ! 我々の力を思い知るがいい!」

 

 

【A.S.122年、アスティカシアの焼肉屋に戻る】

「母さんが、そんな事を……」

「やり過ぎて逆に狙われちまったんだけどな。ミオリネ見た時「ちっこいノートレットが居る!」ってビビったよ」

「怖かったですか?」

「まぁ、怖い。焼肉が美味いのはこの世の真理だが、ノートレット印の作物は総じて美味い。金持ちはより美味いものの探求に貪欲だからな。何百年も権勢を誇った一族の執念の結晶だ、レタスやほうれん草一つ取っても面構えが違う」

「面構え(苦笑)」

「ノレア、プル、お前らが食ってたサンチュ、多分ノートレット印だぜ」

「……ほんと、ですか?」

「お目が高い。確かに当店のサンチュは地球産でカーギルから仕入れていますし……お肉もカーギルの飼料を存分に与えて肥育したA5ブランド牛でございます」

「一流チェーン店だとこの傾向強いんだよ。特級個人店ともなればノートレット級の頭がイカれてる農家と契約するが……」

「──大規模なチェーンサプライマネジメントをするのであれば、カーギルは欠かせぬパートナーです」店員たちはシメの冷麺をサーヴしながら穏やかに応える。

「美味さを追求する上でスペーシアンとアーシアンの相互依存度を限界まで高めてしまえば、戦争は起こせなくなる……アリアちゃん、最近インドで何か武力衝突あった?」

「……そういや、無いな? パキスタンとも争ってない」

「え、それって……」

「紅茶だ。ヴァナディースは武力で潰されたが、オックスアースはそうではない──紅茶の生産や供給に悪影響を与えぬ様配慮されたんだ」

「笑えない話だけど……」

「生きてる人間は必ず飯を食う。戦争による兵器需要なんかより、平時でも必要になる食料の需要の方が遥かに大きな金が動く……穀物メジャーが大きな力を持つ理由だよ」




そのせいで穀物メジャーは創作の中で悪役扱いされたりしがちなんですが。下手すりゃ戦争より死傷者作れるし。


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ランブルリング前夜

まぁ、それはともかくとしてソフィはオープンキャンパスを存分に堪能してスレッタ共々叱られたりなどした。エラン5号は相変わらずスレッタを口説いたりなどしたが、クエタの事件で事情聴取もされていないし、デリングは見かけ上重体とされてるだけでピンピンしてるし、皆健やかに過ごしていた。(雑な説明)


「リック大尉……」

夜半にノレアが地球寮隣のVBアスティカシア駐屯所を訪ねて来た。何やら重い表情で。

「元一尉だ。お茶だとカフェインで眠れなくなるな。麦茶でいーかー?」シバは素早くレオニダスのフルーツゼリーを取りに行った。

 

【一尉】

元陸自なので。世界一般では大尉(キャプテン)である。

 

「明日のランブルリング……テロ計画があったわ……もうやらないかもしれないけど……」

「知ってるー。シャディクの計画だろ? あれまだ生きてる臭いねー」

「──手は、打ったの?」

「──これは内緒だぞ。愛宕の天狗様がお怒りだ」

「え?」

「もうダメだ、打つ手無し。まぁ事故に気をつけて」

「多分ルブリスが奪われてガンヴォルヴァが……っ」

「……マイムマイムでも踊るのか? 壮観だな」

「あのー、僕いるコト、忘れてない?」テントの外から僕が顔を出す。ここの所地の文すら任せて貰えず、一生懸命作業に没頭してました。

「終わったよ。で、なに……マイムマイム? またこれから残業するの、勘弁してよ……」

「と、この様に我々にはガンドに詳しいガンさんがいる」

「ルブリスからガンド外して、リンク宣言すると高圧電流流れる様に細工しといたからもう乗らないでね」

「警備は?」

「めんどくさいからハロに同軸テーザー持たせたのテキトーに配置した」

「流石に罠だと勘付かないかな?」

「天狗様がよしなにするでしょ」

「オッズは?」

「ガンダム2枚の地球寮が2.8で最低。まぁ妥当だね。次にジェタークだけど、奴が帰って来るかもしれない」

「間に合ったの?」

「ラウダ君は倒れた(笑)」

「だからか。今の地球寮で倍率3倍近いとかあり得んもんなぁ」

 

 

【ジェターク寮にて】

「ダリルバルデのメンテナンスを最優先だ! ペトラはラウダ機の指揮を取れ! 今夜は徹夜だ! 覚悟しろ!」

カミルの裂帛の指示が格納庫に響く。ジェターク寮は今燃えに燃えていた。

「兄さん済まない、不在の内に僕が会社を……」

「いや、いいんだ。俺は会社を継がない」

「そんな……兄さん!」

「情けない顔をするなラウダ。現寮長なんだろ……俺は、頂上を目指す!」

「ぇ?」

「お前がジェタークを導き、俺がお前たちを含めたベネリットグループを導く。俺は地球で己の天命を見つけた。手伝ってくれるか、ラウダ?」

「……グエル先輩! シャトルが何か運んできたのだ!」

「受け入れてくれ。明日の祝勝会の差し入れだ。腹が減ってはって言うからな!」

 

 

【寮長室】

「ラウダ、フェルシー。耳を貸せ」

「どうしたんだ兄さん」「のだ?」

「盗聴があるかもしらん、用心しろ。手短に言うと明日テロがある」

「……そんな、ここはベネリットグループの……」「のだぁ!」

「あの日俺はクエタの近くにいた。グループ内の動きがテロリストにバレてるって、どういう事だ?」

「……グループの中に内通者がいる?」「のだ?」

「俺やラウダではない。残るはエランかシャディク、または彼らの側近クラス……」

異母兄の迷いない信頼にラウダは涙を溢しそうになった。兄を差し置きCEOの座を簒奪したこの僕を!(倒産しそうな会社の経営なんて誰もやりたがらないのだ……)

兄を見つけ出す事すら出来なかったこの無能の僕を!(宇宙議会連合とか方々に頭下げて探偵や興信所も会社傾きかねないほど動員したのだ!)

「地球で俺たちをバックアップしてくれるスポンサーにも会った。彼らの話ではベネリットグループを解体したがっている奴がいるらしい。一連のテロはその前哨戦。デリング総裁が倒れ、俺たちの父さんが居ない今……」

「サリウス老が危ない?」「じゃあ黒幕はペイルなのだ?」

「敵は判らんが敵の目的は分かった……後は吐かせればいい」

グエルは血が滲むほど拳を握り込んだ。

「フェルシーとラウダは校長閲覧席を固めろ。俺もダリルバルデで守備に就く。あくまで皆んなにはランブルリングで勝ちに行くと思わせろ」

「水星女は、兄さん?」「のだ?」

「後で話を付けに行く。共闘だ」

「でも兄さん、水星女の周りにはエランがいる、危険だ!」「のだ!」

「じゃあ、トマトハウスで待ち合わせるか。あそこならスレッタとミオリネしか来ないだろ」

「流石兄さん、名案だ!」「のだぁ!」

「フェルシー、ペトラとラウダを連れて連絡を頼む。徒歩(かち)で行け!」

「「了解!(なのだ!)」」

 

 

【夜のトマトハウス前】

「良く来たなミオリネ、いや今はガンダム社CEO様か」

(兄さん! 共闘の申し出じゃなかったのか!)ラウダは内心の驚きを隠す為に髪の毛をネジネジした。いつもの癖である。

「なによあんた、テント王子は辞めたの?」この一言で目を逸らせたグエルの視線をミオリネは追った。彼はハウスの手すりを親指と小指を除く3つ指で押していた。このサインは……

「みみみミオリネさん、落ち着いて……」久しぶりに見るスレッタは相変わらずタヌタヌしていた。ミオリネは珍しく神経質に指遊びをしている。親指で薬指の上の節を3回、中節を2回、下節を3回。そして強い意志を持った目で射すくめる様にグエルを見据える。

「あんた、分かってやってるの?」

「分かった上さ。明日俺たちは卑怯な戦い方を許さん。正々堂々と勝負だ!」

(? ……のだ?)フェルシーは困惑した。

「正々堂々、いい言葉ね。あんたがそんな事言うとは思わなかった」

「口を慎めチビ女ぁ!」「ラウダさん!」

「ふふふ……おっかしぃー」「ミオリネ……さん?」

「ここであんたと握手する羽目になるとはね」

「あの時は正直済まなかった。あちこち歩き回って漸く俺も天命を見つけた」

「正々堂々ね、了解」「ああ、頼む。何なら俺がお前の重荷を背負ったっていい」

 

「何が何だか全く判らないのだ……」

「なんで二人ともニコニコしてんですかねぇ」

「敵と握手できる兄さんが尊すぎる……」

「やっぱりカッコいいよね、ラウダ!」

 

符牒を知らない人間は全く良く判らない会話であった。




符牒の件は八咫烏の前書き辺りに書いた気がする。

【正々堂々と勝負】
八咫烏のサイン確認語にこう切り出した場合、それは「共闘により敵を殲滅する」の意になる。他にも「カラスが多い(敵諜報機関が周りにいる)」など、幾つか存在する模様。


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ガンダム・アーリエル

【ガルガンチュア型とパンダグリエル型】
簡単に言えば、ガンド義肢の拡大延長型に過ぎないのがガルガンチュア型。パンタグリエル型はパイロット意識をシェルユニットに写して「状況に対して同じ反応を返す」パイロットとパイロットの自意識コピーで「データストームの逆位相を形成して相殺・低減する」システムである。
ガンダムエアリアルはエアリアルというエリクト・サマヤの自意識コピーの発展継承とAIの補助によりデータストームを「スレッタ・マーキュリーに限り」完全制圧に成功し、その他のパイロットに関してはリンク2までAI補助により無効化出来る。


人の(みち)と書いて倫。ならば人倫って重言かなぁ……と僕は思った。たっぷり30秒ほど数えて我に返る。

「本当にやるんですか、社長」

「率直に聞くわ、興味無い?」

「……嫌な質問しますね。そりゃありますよ」将来的に(エアリアル)だってこの技術使いたいし。

「強化人士の最終型になるのかしらね。見たい様な、見たく無い様な……」

「あのちっちゃい子が強化人士? ベルさん貴方は……」怒気を込めてエリック(旧称エラン4号)が詰め寄るが、慌てて僕が間に入る。

「違うよ、プルはエアリアルの中の子が入ってるガンドのアンドロイドなんだ」

「……(一瞬呆気に取られて)……はぁ?!」

「見た事無かったっけ? エアリアルとファラクトで戦った時」

「……あーーーっ! じゃあアレは!」

「そう、スレッタの妹みたいなもん。正確にはパーメットの海の中でフヨフヨ浮かんでる身体のない個性(キャラクター)だね」

「降霊術を操るオカルティストか……(頭を抱える)」

「ガンド医療の最後のピースだよ。脳が壊れて死亡って悲し過ぎるだろ?」

「脳腫瘍が早期発見出来た段階で意識をガンド脳に移して、脳の外科処置やiPS細胞でのクローニング処置したら治療できる」

「エリックの脳に残るデータストーム後遺症も、この技術で治療できるわ」

「「「ガンド医学の勝利!」」」

「貴方たちはフランケンシュタインになった自覚は無いのか!」

「え? 人作った訳じゃないし……?」(戸惑い)

「そういやプルちゃんとかのAIってどう作ったの? そっちの方が不味いんじゃない?」

「チューリングテストが裸足で逃げ出す出来だもんねぇ」

「遂にこの話をする時が来たか……ベルさんとエリックには初めて話すけど……エアリアルみたいなタイプのガンダムには、自我が自然発生するんだ」

「「自然発生?!」」

「驚く事はないよ。人間だって自我が自然と生まれるじゃない?」

「だってそれは人間だから……「それは人間の驕りだよ。人体はそこまで特殊じゃない」僕は腕を曲げて伸ばして手首を一回転させる。

「……脳神経系の複雑さが何かを産む……? なんかそんな論文読んだ様な……」

「ベルさんでも覚えてないか。カルド・ナボ博士がガンドの基本理念とアーキテクト固めた頃の論文でその可能性に言及してる」

「じゃあ、ファラクトにも?」

「カルド博士の最後の論文に記述があるよ。ガルガンチュアタイプって言うガンド義肢の延長上にあるガンダムには自我は産まれない。ファラクトはこっちだ。義肢が意識を持って所有者の言う事聞かなくなる事件発生しないでしょ?

データストーム抑制の為にパイロットの意識をガンダムにコピーして、逆位相のデータストームを作り出して相殺するパンダグリエルタイプだとコピーした自我が育って別種になる……個性が生まれるって話なんだけど……」

「待って、ガンさん。パンタグリエルタイプは私がテストパイロットしてたから知ってるけど、コールバック試験は……」

「カルド博士も万能って訳じゃなかったんだね。社長の意識コピーには失敗してたんだ。だってシェルユニットの中には先に自我が生まれてたんだもの!」

「でも……それならこのアーリエルにも自我が生まれている筈じゃない? これ、エアリアルのほぼ完全なコピーよ!」

「僕も神様じゃないからなんでかって聞かれても困るよ。無いんだからないとしか……或いは、その差が自我が生まれるか否かの境目なのかも」

「……で、自我の無いガンダム……パンタグリエルだっけ? それにプルちゃん乗せるとどうなるんだい?」

「どうもこうも(苦笑) パンタグリエルタイプとしてデータストームの発生抑制出来るんだろうけど、そもそも人を乗せる意味が無い。てか厳密にはヒトではないと言うか……ガンドロイドは機械なんだろか、人間なんだろか?」

「データストームが発生してもピンピンしてたわね」

「やはりあのデミトレーナーはリンク4やってたのか……」

「データストームが屁でもない人しかデータストームは克服できない。いやぁ神様は意地悪だ!」

「でもそれって、つまりガンド脳にしたら人間でもデータストーム乗り越えられるって事じゃないか?」

「また話戻るけどさ、脳がガンド脳になった生体パーツが多めのガンドロイドは人間かな? 機械かな? てかエリック? 脳を積極的に機械化したい?」

「治療目的でもなきゃ嫌だよ。僕だって肉体に愛着はある」

「そうだろうね、僕だってガンド脳には抵抗がある。電気切れたら即死しないかとか」

「プルちゃんにはこの恐れがないのか……元々自分のボディを持って無いから」

「得ただけで失ってないし、交換もしてないのね」

「交換したものがどんなものかも気にしないで済む。貰えただけお得だわ」

 

「ようやくエアリアルの謎が解けてきた……」プロスペラ仮面が微笑みながら顎に手を当てる。

「先輩! エアリアルの事よく分かっていなかったんですか?」ベルメリアは呆れ顔だ。

「ベルも子育てしたら分かるわよ」プロスペラは肩をすくめてこう続ける。

「エアリアルもスレッタも私が作ったんだけど、スレッタなんか間違いなく私がお腹を痛めて作り出したけど……判らない事だらけよ」

 

きっと、神様も【彼ら】人間の事が良く判らなくて困っている人違いない。いや、僕も含めて、かな?




親をやるのは大変だなぁ(棒)

アンケート1番に投票した人は、5/7 朝7時以降に「奈落の国のグエル」を検索しよう!


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パクられた棺桶

ソフィノレは激怒した。必ず、かの那智暴虐のプリンスを除かねばならぬと決意した。
ソフィノレは政治が分からぬ。ソフィノレはフォルドの夜明けの傭兵である。テロを起こし、ガンダムで遊んで暮らして来た。しかし愛機に対しては人一倍敏感だった。

「ヒトの愛機で何してくれてんだプリンスーっ!」



ルブリス・ウルとソーンはソフィとノレアの愛機であり、文字通り死線を共に掻い潜って来た戦友である。そして、この2機のコクピットこそが、ノレアとソフィの棺桶であり墓標になる筈だったのだ。


ランブルリング開始から数分後、ソフィとノレアは信じられない物を見た。ルブリス・ウルとソーン、そして真紅のMSが2機現れて学生のMSを襲い始めたのだ。

「……ってか、バレてるのに強行、普通やる?!」

「私たちのMS、なに勝手に使ってるの!」

「あれ、おねぇちゃん達のMSなの? なんかちっちゃい方ブサイク……」ノレアはプルを軽く小突いた。「言い方!」

そして両機のシェルユニットが赤く瞬間的に輝くと……両機は敢えなく墜落した。

「あ、ガンさんの仕込み気付かなかったんだ」

「普通ブービートラップ疑うだろ……」ソフィは頭を抱えた。ポンコツ過ぎる。まぁ、高電圧は喰らうと筋肉が萎縮して離せなくなるから仕方ない。気合いや根性でどうなる話では無いのだ。

「ガンさんだから殺しはしないだろうけど……」

「「ランブルリングは、トラブル発生の為中止します……」」

「……発注元とは言え、私たちのものパクられると腹立つわね……」

「「……係員の指示に従い、落ち着いて退避して下さい……繰り返します……」」

 

 

「赤いMS……ダリルバルデの同型機?!」

「ラウダ、フェルシー、援護しろ! あいつらは俺が叩く!」

「了解!」「のだ!」

 

「デチューン版がオリジナルのラーガラージャに敵うものかよ!」

 

【ラーガラージャ】

オックスアース社がガンダム以前に開発していた機体。21年前のヴァナディース事変の際に設計は押収され、ジェターク社で解析・改良を進めたのがダリルバルデである。その外見は頭部の三つ目を除けば各部がシャープに尖ったダリルバルデに似ている。

その名は日本語に訳すと愛染明王だったりする。

 

 

「不味いな、まだ隠し球があったか」

「……まさか、実戦出力?」プロスペラの声に緊張が滲む。

「スレッタさん、チュチュちゃん、エラン! 逃げて!」

「……たった2機相手にケツ捲れるかよォ! ガンダム社上等!」

「エランさん援護お願いします!」

「お礼はデート券でお願いするよ☆」

「却下。真面目にやんなさい!」社長は激怒した、必ずや淫猥放蕩の社員を(以下略)

真面目にやって死ぬのはごめんだね……エラン5号は心の中で毒付いた。

 

 

「引けない指揮官ってのも困りもんだね……」

「いつもみたいにちゃっちゃとやってよ……」

「──なにしてんの、ノレアおねぇちゃん?」

「チャリパク……硬ったいな、このセキュリティ……」

「セキュリティ解除したらいいの?」プルはキックボードじみた学園内移動用のスクーターに備え付けられたハロの目を凝視してハッキングを仕掛けた。元がエアリアルのコピーだから、ガンさん同様軽いハッキングは彼女にも出来る。

「できたよ。モーター回るよ」

「やるなぁ、ちびっ子!」

「みたか水星のぎじゅじゅりょく!」えっへん

「乗って。とりあえず1番頑丈な港湾区に行く!」

「あ、それなら……私のMSあるかな?」

「「わたしのモビルスーツぅ?」」

「お〜っしゃ、それでプリンスぶん殴ろう!」

 

 

【走れメロスのように】

盗んだバイクで走り出す(刑法235条 窃盗罪)、それは様式美。青春の幻影というか、割とガチに懲役食らって【青春が幻影になる】から気を付けよう。

「かーっ! パワーたんねー!」走るよりマシ程度のスピードに、ソフィが天を仰ぐ。

「ソフィ、お菓子食い過ぎで太ってない?」──単なる過積載だ。

「もう一台パチる?」朱に染まれば赤くなり、メスガキーズに交わると漏れなくグレる。人類初のガンドロイドの倫理観は急速に深刻なレベル低下を引き起こしていた。

「パクるならもっといいのパクろう。あのモビルクラフトイケる?」

「あ、シン・セーのしんがただ! できるよ!」

「よしやれ、私が許す!」ソフィは勝手な事を言う。

「あーい!」

 

許すな(真顔)

 

 

「……あの赤いの、粘るな……」

「押さないでよソフィ、操縦桿がブレる」

「押さえとかないとちびっ子が浮いちゃうんだから仕方ないのっ!」

「わーいわーい、すーいすいっ!」

「電車のトンネル伝って移動する。暴れないでよ!」ぷぁあん!

 

お分かり頂けただろうか?

 

ノレアが僅かに目を逸らしてトンネルに向かう丁度その時、サリウスが乗る観戦用列車の救援用車両がトンネルから抜け出ようとしていた。まさか救援列車もかなり高所にある軌道内にモビルクラフトが侵入してくるとは思っておらず……

「危な

 

ガッシャーン

 

「だ……大丈夫?」

「おでこぶつけたー(涙)」

この程度の被害に留めたノレアの操縦テクは本物だ。

「あ、あ、あ、あ……電車が! ヤバいよノレア、電車が!」

脱線した列車はスローモーションの様にバランスを崩し、アスティカシアのフロントが発生させる擬似重力に引かれて落下した。

「──テロリストは酷いことするよね(棒)」

「ほんと許せないよね、ルブリスパクるし(棒)」

元テロリストガールズはハイライトの消えた目で淡々と「悪いのはテロリスト(シャディク組)」という事にした。まぁ中にはシャディクガールズが乗っていたし、彼らは結果的にサリウスを助けた事にはなるのだが。

「飛ばすよ!」

「「了解」」

 

少し外装とフレームが歪んだモビルクラフトは、交通機動隊から逃げる暴走族の様に、若しくはメロスの様にスタコラサッサと駆け抜けた。

 

 

 

SET ME FREE 止めないで

SET ME FREE 僕をこのまま

見送ってくれー




S スーパー
P パクられたもの
T トレーサー


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天狗のレスキュー大作戦

ガンさんは天狗ボディで飛び立った。




「天狗様呼んでくる!」

僕は自分のオフィスのシミュレーター席に飛び込んだ。天狗Mk-2は喪失したがまだ初代ボディは残っている。

 

「ガンさん、長刀調達しといたわよ」

籠コンテナを押して、プロスペラ社長がビーム長刀を運んで来る。

「前に言ってたガンビット接続で出力上がるバージョンよ。スレッタやお友達のこと、よろしくね」

「──何の事かさっぱり分からんのだが……」

「まだ小芝居続けるの?!」

「……まぁ、天狗様の行状もアレと言えばアレですし……軍用ガンド義肢ってことは、その……」

ガンド天狗として変身しているのは、確かに官憲に捕まりたく無いなーという部分もある(素直)

「ベルは驚かないのね?」

「私の夢は600万ドルの男、ですもの」

 

 

【600万ドルの男】

昔のアメリカSFドラマ。左目、右腕、両脚を失ったNASAのパイロットが高性能義肢を取り付け活躍する。当時は「NASAだから」と言っておけば大抵の事が許されるアトモスフィアがあった。流石にNASAにはサイボーグ技術無いと思うんだけど──ヴァナディースじゃあるまいし。

筆者的にはプロスペラの外見上のモデルはライダーマンだが、実はモチーフには600万ドルの男が混じっているのではないかと常々……(大河内や考証の白土さん辺りが見てるんじゃないかな?)

 

 

やだ、僕の周りにはオタしか居ない(絶望)

「あとこれ。プロペラント足りないんでしょ?」

フルカウルの大型バイク……なんかフロント見たく無いなぁ……

「サイク「ストップ! これ車検通る奴?」

「通るわよ、パーツ戻せば」

帰って来て、遵法精神くん(涙)

 

金田のバイクじみたモーターの高周波音が響き渡る。

「ちゃんとホンダだからついてくるわよ」ライディング・アシストか。

「可愛いですね」時折前輪振るのが辺りを良く確認している様にも見える。

 

 

避難指示を出しているフロント警備部のスタッフ背後を異様な風体のバイクが走り抜ける。その男はホンダのロゴじみた羽を持ち、ホンダっぽいバイクの上で腕を組みながらバカみたいに飛ばしていた。

「ホンダじゃー羽が生えてもおかしく無いな、ヨシ!」

技術の高さが驕りとなって表出したか、赤い鼻は棒の様に高く風を切り裂いていた。

「──いや待て、何で逆行してんだおい!」

 

 

ノレアは信じられない物を見た。正面からバイクに乗った天狗が信じられない速度でやって来て……走り去った。

「……ねぇ、ソフィ?」

「なによ、もっと飛ばせないの?」

「……今、天狗がいた(棒)」

「天狗も避難で忙しいんでしょ」

「バイク乗って、反対向かってた」

「いいから前見て飛ばして! もうぶつけないでよ!」

「──つかれてるんだよ、おねぇちゃん。あともう少しだから頑張って!」

 

 

【ルブリス・ウルとソーン墜落地】

微かな生体反応を感じる。強制コクピットハッチ開放信号(ガンさんが整備とチェックついでに仕込んだ)を送り中を確認すると、パーメットスコア上げようとして高圧電流を食らい意識を失い、自由落下で受け身も取れず……(むご)いことをした。身体を労われよと、とりあえず搬出して捕縛しておいた。

アス高の学生なら搭乗前に機体チェックは当たり前だろうに。御三家上澄みだからアス高なのにアス高の洗礼を受けていないのか。練度は知らんが経験が足りぬ。カリキュラムはこの様な事があるぞと正しく伝えているのにな……(29話「敢えて見ない地雷」で言及済み。まぁ略奪して整備やチェックする間もなく逃げたから、であろう)

 

なお、乗っていたエナオとメイジーはウル・ソーンのパイロット容疑で捕縛された。

 

 

【観戦車両の救援車両】

何故こんな所に電車が転がっているのか皆目不明だが、うめき声がするのでビーム長刀で車両を切り裂き中の女性を引き出した。電車は大体モノコック構造だから切り裂きやすい。

二人とも脚部開放骨折に腕部骨折。開放性骨折は不味いのでとりあえずガンビット鎌鼬で膝下から切断してガンド施術(アタッチメント接続部取り付け)を行う。何やらギャーギャー騒いでいたが、そのままにして雑菌入ると最悪死ぬぞ。ガンドがあるから安心して切断されるが良い。抗生物質とマイクロマシン錠剤渡してやったが、なんかイマイチ感謝の念が感じられない。しばらくは芋虫みたいにウネウネしているが良い。

 

まぁ、このイリーシャとレネもフロント警備部に捕縛されるのだが。

 

 

【最悪死ぬぞ】

実はガンド医療の凄く普通な使い方描写になる。iPS細胞による再生医療が存在しても、クローン再生には時間が掛かる。そこで複雑骨折などの場合は一時的に損傷部を切断してダメージの増加を防ぎ、再生までの間はガンド義肢でQoL維持。これ以上は無いぐらい適切な処置だ。【きちんと説明して患者(レシピエント)の同意を取っていれば】だが!

(本当は輸血や補液しつつ抗生物質入れたいところ。麻酔もしてないし)

また、処置としては適切ではあるが……電車をバターの様に切り裂き、馬鹿力で残骸避けた羽の生えた天狗(日本の天狗に詳しく無いキリスト教圏の人間が見たら、普通に悪魔であろう。実際「悪魔の辞典」では天狗がGengだかの名前で悪魔として紹介されている)が、長刀で自分の脚をいきなり切断は悪夢以外の何物でもない。想像してごらん(imagine)

 




【患者の同意】
今は告訴対策で同意取り付けが凄く重要。筆者は以前ハナタケなんて言われる鼻腔内にできる腫れ物を鼻毛カッターの親玉みたいので切除するチョロい手術を受けた事があるが、失明する可能性、嗅覚が失われる可能性、しまいにゃ死ぬ可能性まで説明された(手術中に医者が盛大なくしゃみして術具を脳まで押し込んだりしたら、そりゃまぁ死ぬかもだが……)
めんどくさい世の中になりましたなぁ(呆)
尚、鼻毛カッター式を選択しない場合、口蓋上部から骨割って鼻腔内のハナタケ(ポリープ)切除という、かなりグロい大施術になる模様。鼻毛カッター様々である。テクノロジー進化万歳!


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タイトロープ

いゃぁ、ワタシいつも思うんですけどねぇ……
本作の原作に当たる「水星の魔女」 計画立ててる人達が計画の失敗や不完全成功を前提としていないのは、如何なものですかねぇ……


シャディクは焦っていた。計画通りなら今頃エナオとメイジーがルブリスでガンヴォルヴァでランブルリングを蹂躙し、イリーシャとレネがサリウスを誘拐している筈だった。

所がルブリスはガンヴォルヴァを呼び出す前に謎の墜落をして、イリーシャとレネの乗る偽装救援車両は脱線して地上に落ちた。敵側が何か仕込んでいても二段構えでサリウス誘拐ぐらいは達成できると踏んでいたのだが……

「──やはり、無理があったな」

隣のサビーナが冷静に判断する。計画の準備に掛けた手間を惜しんだのが裏目に出たか。

「認めよう。策を弄し過ぎた、失敗だ」

ソードワールドTRPGのリプレイに登場するバブリーズのスイフリーならこう評した筈だ。【策の層が薄過ぎる】

 

作戦とは状況に応じていくつもの仕組みを組み合わせて使う物だ。戦略にしろ戦術にしろ状況の変化に応じて切り替えていかなければ上手く機能しない。大きな作戦を一本道で組み立てて用いて成功するのは物語の中にしかないのである。プロスペラの誘いにミオリネが乗らなかったら? 決闘が盤外戦有りなら、スレッタが薬を盛られて決闘に負けエアリアルを失う可能性があったのでは? 脚本家は考える、そうはならないからと。視聴者は察知する。あ、この脚本作戦が成功する前提でしか話考えてない!

 

陸さん達とはここが決定的に違った。彼らはエラン5号が裏切れなくなる様にして、味方に引き込む算段をした。物資の移動から敵の動きを予知して資材を巻き上げ、仕込みをして返した。ソフィとノレアをフォルドの夜明けごと抱き込んだ。黒幕の手足を捥いだ様な物である。

別組織を通じてグエルに、ジェタークに情報を流して地球寮との共闘を示唆した。黒幕を絞り、人員配置から予想される作戦規模を推し量った。

離間工作と抱き込みを最大限に行い、敵を解体して味方を増やす。分断を主軸に考えて味方を増やす策を用意しない素人とはアプローチが違うのだ。

 

地球の魔女が準備した愛染明王(ラーガラージャ)はガンダムでは無いが優秀な機体だ。

「なんだおめぇ! 無茶苦茶な機動しやがって!」チュチュの狙撃を無茶な加速で回避する。

「後ろも見えてる?!」エランのファラクトの後方からの抜き打ちまで見切る愛染明王(ラーガラージャ)

「くっ……なんだこの感覚! 2体以上を相手にしている様な……」グエルは獅子のカンで違和感を感じた。

まぁ、実際1機当たり6つの腕を駆使しているのだから6体相手にしているのに似ている。

 

(おかしい。ガンダムでも無いのにあの動きはおかしい)

(僕らみたいだよね、あの急制動は中の人危険だよ)

(迂闊にビットオンフォームの解除もできない……)

(中に人、居ないのかなぁ?)

(おねえちゃん、いきなり混ざるのやめてよ! 運転集中!)

(あっちも私みたいにシェルユニットの中入ってない?)

(ガンダムじゃあるまいし、そん──あったわ!)

(セイズ……アストラル投射?! ドローン戦争後のカイロ条約で禁止だよ!)

(禁止されてるのはガンダムも同じだけどね)

(テロ屋が条約守るわけないよねー)

(すると……ジョーカーは天狗様だ!)

(中継機! 中継機探してー!)

(あー、あー、こちら天狗。ガンビッツでスフィア展開無理? 単独じゃ探し切らんよ)

「グエルさん! 10秒でいいからガードお願い出来ませんか?!」

「お前なら一生でも守ってやるさ!」

「えーっ! そりゃないのだ……」「兄さんを誑かすな水星女ぁっ!」

「そうは行かないぞグエル!」

「見逃すほど我々は甘くない!」

「みんな! なんか丸いヤツ!」

(スフィア、なんだけどなぁ……)

 

 

「なんだよコレ、エアリアルのパチモン?」

「なにコレ、コクピット狭っ!」

「ぼくのだもん。じゅうぶんじゅうぶん♪」

「詰めろよプル、入れないじゃん!」

「ちょっとちょっと、ソフィ無理だよ無理!」

「おねえちゃん、流石に無理だよ……」

「無理を通せば全部オッケー! 気合いだ!」

「ふぇぇぇ、シート少し下げるよ……」

「おっけおっけ、平気平気行ける行ける根性ぉ!」

「きーつーいー! アーリエルなんとかしてぇ……」

無理です(本当に無理です)

とりあえず常よりゆっくり一次コクピットドアを閉めてロック。なんとか収まるのを確認して2次装甲と最外部ハッチを閉める。

「大丈夫そう? デッキ開けるよ?」

「起きてアーリエル! アストラル投射開始!」

 

【挿絵表示】

 

「へ? 何してんだプル?」

「僕をコピペしたの! 行くよアーリエル!」

「オッケー僕!」

「「パーメットリンク、2!」」

「……おしゃべりなガンダムね」ノレアはドン引きした。

「……あれ? データストームは?」

「油断してるとたまにくるよ?」燃えるタヌキ眉をした幼女(プル)(にこや)かに笑った。

 

【アストラル投射】

パンタグリエルタイプのガンダム特有の操作。機体にパイロット自我を転写して、2者の操縦が完全にシンクロすると「データストームの波形」を完全に上下反転させてアクティブノイズキャンセリング(ANC)が可能になるのだが、ルブリスレベルの制御機構は勝手に自我が生えてきてしまいアストラル投射が「必ず失敗する」

このANC用に自我をコピーする技術がアストラル投射だ。偶然にもエアリアルのコピーに失敗したアーリエルだけが期待されたデータストーム抑止可能なガンダムになったのだが……人間だと偶に発想の飛躍や勘働きにより同調できない事があり、ランダムで倍ダメージのデータストーム喰らう。つまりガンドロイドじゃないとデータストーム抑止できないし、ガンドロイドは高速処理対応出来るのでデータストーム出ても問題無い。

むぅ、何のためにやってるんだこれ?

 

 

「まだか! スレッタ・マーキュリー!」

「兄さんに(たか)るクソ虫は全て落とすっ!」

「あっちいけなのだ!」

「我らの誇り、ディランザは!」

「重厚長大、溢れるパワー!」

「デカいは強い!」

「重いはパワー!」

「「行け行け僕のっ!私のジェターク社!!」」

 

ジェターク寮の面々は、グエルと共にある時常とは異なる動きをする。テンションがちょっと上がり過ぎてバフが掛かるのだ。しかし相手が悪過ぎた。守勢に回ったダリルバルデを容赦なく愛染明王(ラーガラージャ)の手足が襲う! ディランザ2機も倒れてないだけでボロボロだ。

(スフィア展開!)

(保つかな、ダリルバルデくん……)

(流石に実戦仕様のビームは痛いね……)

(アクティブディフェンス無しだと改修型の装甲でもヤバいなぁ……)

「グエル先輩!」

「守り切ったらぁぁぁあっ!」

 

その時、愛染明王(ラーガラージャ)の前に一機のガンビットが舞い降りた。




まぁ、ここでヒキでしょうなぁ。


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おしおキック!

題名と内容がシンクロしないのはこの作者の話では良くあることです。


「ソフィおねえちゃんかえしてよぉ、これぼくのーっ!」

「ふははははは! I have CONTROL! 喧嘩は先手必勝! 喰らえスレッタおねえちゃん直伝! 三角飛びからのぉ……」

無駄に高い所から現れたガンダムアーリエルが崖を駆け降りる!

 

「 お し お キ ー ッ ク ! 」

 

「エアリアル?! バカな!」

「エアリアルが2機!?」

「──増え、た……?」

 

斜面をジグザグにトランザムめいた速度と角度で駆け降りたアーリエルは低い体制から高く跳躍! 絶妙なスラスター制御で加速して前周りの踵落としを愛染明王(ラーガラージャ)に見舞った。不意を突かれて愛染明王(ラーガラージャ)がアーリエル諸共もんどり打って大地を転がる。

「ふぎゅー」

「はっはー、やってやった、やってやった♪ ざまぁ!」

「エアリアル!」スレッタが珍しくシャキッとした顔で指令を出す。

(発信地座標割れたよ!)

(天狗ちゃん、パース!)

「喰らえ天狗奥義! 鎌鼬!」

ビーム長刀からガンビットカッターが飛ぶ。ランブルリングの会場の四方にそれはあった。

(自分の機体の外から戦場を俯瞰してたのか……)

(よく見える筈だ……)

(さて、ガンビッツ淑女たち(レディース)、狩りの時間だ。6子ちゃん混信に気を付けて!)

(((((あいっ!)))))

「ありがとうございますグエル先輩!」

「ま、間に合ったか……」

「やっちゃえなのだ!」「特に許す、やれ水星女ァ!」

 

じゃかじゃん、じゃかじゃん

 

どこからともなく、処刑用BGMが流れ出す。

先ずエアリアルのシェルユニットがゆっくりと赤く輝き、そして青、白と色を変えると庇の下の眼が激しく光を放つ。

シャディクが不味いのマを頭に思い浮かべるより早く、ガンビッツはアンビカー(愛染明王(ラーガラージャ)やダリルバルデの盾ビット)を切り刻んだ。そりゃもう1m刻みで。見ていたエラン5号はその容赦の無い殺意に身慄いした。味方しといて良かった。もうガンダムに関わるのやめとこう。

威嚇するかの様にガンビッツが愛染明王(ラーガラージャ)の周囲を飛び回る。先に動いたサビーナの機体……ガンビッツはシャクルクロウ(有線式足ロケットパンチ)を打ち砕き、ニークラッシャーに内蔵されたペレットマインを誘爆させながらいたぶる様に切り刻み、イーシュバラ(ロケットパンチ)をそれぞれ6発ずつビームを叩き込み爆散させた。

ガンビッツの怒りはなおも続く。コクピットブロックを残して本体は蜂の巣の様にされた。無論頭部のビームバルカンについては言うまでも無い。

「えっ……えげつねぇ……」スレッタ怒らせるのヤベェなとチュチュまでドン引きしている。

ガンビッツたちは一先ずビットオンフォームで充電中。スコア8に達したエアリアルの前では全てのMS──ガンダムも含めて、だ──全ての兵器が許可なく動くことは出来ない。シャディク機は蛇に睨まれたカエルの様なものだ。先程まで実戦出力のビームによる飽和攻撃で戦場を掌握していたのが嘘の様だ。

 

「「「煩悩即菩提とは言うが……」」」

 

周囲にガンド天狗の厳かな声が澄み渡る。

 

「「「お前の菩提心は、捻れておる」」」

 

声に呼応する様にガンダムエアリアルは歩を進める。

 

「「「一度死んでみるが良い」」」

 

ずぶりとエアリアルのビームサーベルがコクピットブロックを貫く。グエルが目を背け、ラウダが目を見開き、フェルシーが「なんでコクピット狙えるのだ?」と悩んだが、そこには人影はなく、ただ巨大なインシェルユニットが鎮座していた。

 

「あ、擬似脳だ!」

同じものを頭に納めるプルだけは「じゃあセーフだね」と安堵している。

 

「……無人機……なのか?」

「カイロ条約で使用が禁止されているドローン制御技術、セイズだ。発展拡張はしているがな」

天狗は擱坐(かくざ)したダリルバルデから這い出すグエルに手を差し伸べつつ言葉を注ぐ。

「パイロットの意識を兵器に転写して操る技よ。アストラル投射とも云う」

「なんなんだ、それは……」

「……(まいったな)……禁止された物事を切望し、拒否されたものを欲する──奴らのやりそうな事だ。お前がこれから立ち向かうであろう困難はこの様な物である。

お前は正しく【汝の意志することを行え】、意志下の愛こそがお前を天命に導くだろう」

「待ってくれ、もっと教えてくれ!! 俺は、俺はどうしたら……」

「三人寄れば文殊の知恵と言うぞ、いるだろう、お前には文殊の知恵を授けてくれる仲間が」

 

天狗は空高く飛び立ち消えていった。ラウダとフェルシーが駆け寄って来るのが見える──

 

 

 

 

あっぶねー! なんでグエル先生天狗見てビビんないんだよ! びっくりしたとこで「真面目に生きろ!」逃げするいつもの奴やり損ねたやんけ! これじゃまるでプラスペラ母さんだ! 珪素生命体として軽率にライブ感マシマシにするのは控えたい所だ。サマヤ家の悪習に染まりつつあるな僕も! あー、危ないとこだった!

 

 

 

と、なんか思わせぶりな口ぶりをしていましたが、あまり考えの無い即興だった模様です(筆者注)




一応こじつけとかテーマっぽいのはある。


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戦勝会の陰で

ケータリングは見事なものでした


「乾杯!」

「「「「「乾杯!!!!!」」」」」

 

ランブルリングは中止になったが、実戦火力の乱闘が起きつつも死者はゼロ。1番の重症者は解放性骨折したグラスレーの生徒ぐらいで、大半の攻撃を食い止めたディランザとダリルバルデのお陰で施設損傷も軽微だった。そして……

「兄さん! 今回の施設破損の復旧、ウチが指名された!」

「本当か! やったな!」

「もっと壊しておけば良かったのだ……」「フェルシーw」

「おい、ラウダ……これ……」

「……!デリング総裁のサイン!」

「良かったなミオリネ! お父さん目を覚ましたみたいだぞ!」

「もう一通きてる筈よ」

「……ぇ?」

「報奨金。ダリルバルデもディランザもボロボロでしょ? 親父から巻き上げておいたから」

 

「「「おおおおおっ!」」」

盛り上がったジェターク寮学生たちは「おお我等のディランザ」「熱き心は重装甲に宿る」「守れ僕らの重MS」などを肩を組んで熱唱するなどした。全部作詞してると話が進まなくなるのが残念である(無念)

 

 

【おお我らのディランザ】

84話タイトロープに一部歌詞が掲載されている。

 

我らが作りし、ディランザは

価格は控えめ 高性能

  デカいは強い!

  重いはパワー!

行け行け(ぼく)らのディラァーンザ!!

 

我らの誇り、ディランザは

重厚長大(じゅう・こう・ちょう・だい)、溢れるパワー

  デカいは強い!

  重いはパワー!

行け行け(ぼく)の(私の)ジェターク社!!

 

8番ぐらいまであるらしい。本編でこの歌採用してくんねぇかな(無償提供確約)

 

 

「「つよい! つよい! めちゃくーちゃ強い! こいつーにゃおててが6本あるぜー、こいつーにゃあ、おててぇがぁ、6本あるぜー♪」」

雪山讃歌のメロディでダリルバルデを讃える歌が爆誕する熱狂の中、プロスペラとベルメリアはフロント管理部と共にグラスレー社が保有する黒太子号の係留デッキに向かっていた。

 

 

「僕は祝勝会でよかったんでは……」

「一連」

「托生」

社長とベルさんの言葉に項垂れて従うガンさんは、フロント警備部から「その道に詳しい人」という事で捜査協力を依頼されている。目的はグラスレー寮が保有する黒太子(ブラックプリンス)号の査察だ。話はほんの少しだけ遡る。

 

「構造上、こことここに重量物載せる設計になってるでしょ、こっちはコンテナ入れるから分かるけど、こっちは倉庫でこんなに硬くする必要ないじゃん。通路も狭いし、重量物入れとく構造じゃない。あと電気系統不自然に分離されてるし、ネットワークもここだけ別。これ最初から建造時点で別設計の装置入れる前提じゃん」

20枚ぐらい設計図面に目を通し、数値データからシェルユニット内に3D CADモデルを作成。それをガンビット達と共に確認しながら所見を述べる。

「こういうの得意なんですね、メルさんって」

「我が社の現役技師ですもの☆」

「……初見で見抜けるものなんですか?」

「僕は頭の回転が早いからね」コツコツと頭を叩いてみせるがそこは空っぽだ。僕の脳はエアリアルの中にある。

「黒太子号の積荷をトレースしましたが、MS3機分の資材が消えています」

「さっきのランブルリングに乱入した赤いの、でしょうねぇ。積荷検査は?」

「偽造ですね。担当者名が違う。その時間そいつは私用電話で席外してます」

「じゃあ、ビンゴでしょ。グラスレーはドローン戦争時代からアンチドート系やってたんだし、セイズぐらい自社でも検証してるでしょうし……」

「セイズを組み込んだMSを開発している?」

「でもあれ、ヴァナディースより昔の技術よ?」

「昔過ぎてアンチドート系の技術はグラスレーに残ってないぐらいに、ね」

「しかも技術的な洗練がない……」

「申し訳ありませんが、ご同行をお願いできませんか?」

「やだよ。ジェタークのキャンプファイアに混ざりたいもん! 美味いものたくさん出る筈!」

「美味いものならお手伝い頂いた後でも……今回警備部通じて船調べるように要請して来たの、カーギルなんです……捕らえたグラスレーの学生も政治取引で奪われました」

「お肉屋さんが? なんで?」

 

 

「戦乱抑止にそれだけ力を入れているとお考えください。デリング氏を血族の輪に喜んで迎え入れたのもその一環……」

制服の違う武官じみた人たちは、ジェタークへの差し入れを運んできた船に乗って来たらしい。上陸する理由付けにケータリング使うか……金かかってるなぁ。

「フロント管理部だ。騒乱罪の疑いがある為臨検を行う。速やかにご協力頂きたい」

「副艦長のリエント・イェーガー一等宙海士です。当艦はフロント警備部の上位に……」

「ベネリットグループ総裁直々の許可証だ」ぴらり

「総裁は意識不明の……そんな!」

「今は意識がお戻りのようだ。早速バーベル担いでスクワットしてるらしいぜ?」

偽情報(フェイク)……」

 

この人たち、本当にテロリストやる気あるのかなぁ?

 

【偽情報】

スパイ、ダブルスパイ、トリプルスパイは当たり前ぇ!の世界では、騙し騙されは常態化しているし、善良な市民の皆様にご協力頂き情報を取ったり与えたりもする。30年近く昔には、オウムのパソコン関係事業の洗い出しの為にパソコンパーツ屋を抱き込んで商流調べ上げたりしていた。

いやぁ、ヒューミントは大変だ。




公安の皆様が必死でお仕事してくれるから、僕もトンチキな話を書いて遊んでいられるのだなぁ。


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臨検、そして……

ここでシャディク達の失敗の原因を説明しておこう。

本作社会の諜報戦の基本はオープンソースインテリジェンス(OSINT(オシント))である。スパイを用いたヒューミントや信号解析によるシギントは補助的に使われているが、基本は公開情報の突き合わせにより分析官が状況を解析して「それを協力機関と共有し」、情報精度や未来予測の確実性を底上げしている。
ともすれば読者諸兄も「諜報戦ならスパイで情報抜いて……」と考えるかも知れないが、スパイが盗んだ情報というものは裏取りが出来ないのだ。まさか相手側諜報機関に問い合わせる訳にも行くまい。007やスパイ大作戦の見過ぎである。
テロリストというのは少数意見だからテロリストなのだ。多数派なら別にテロを用いずとも政治目標は合法的に達成できる。そして少数派であるから故に情報共有出来る仲間が減り、仲間の少なさが情報戦戦闘力の差となる。人付き合い重点、友達の友達は皆友達だの精神。他者を抱き込まず皆で計画を進めようという意思が欠けた時点でシャディクの計画は破綻するのが約束された様なものだ。ミオリネ一人すら仲間に引き込めない様な奴が社会変革出来るのは出来の悪い素人小説の中だけ、なのである。

(アニメではシギントで勝つる!やるみたいだが、エシュロンでもロシアを抑えきれなかったという現実を省みるに、ちょっとファンタジーが過ぎないかなぁ?)


「いやぁ、楽勝でしたよ。そちらで提言した事素直にやるんだから……」

「え? まさかほんとに自社艦で?」

「一応報告は上げといたが、まさかそのままやるとは……」

「いやぁ、持つべきは友ですな。シバさん!」

「ラインメタルからのラインは割れました?」

「魔術! 軍事! 新世界秩序! 綺麗なもんです、見事過ぎて言葉も出ない──ナチの残党系ですなぁ」

「まだいたの?」

「うわぁ、第三帝国の亡霊かぁ……」

「……みんなでお祓いしますかねぇ。ウチのボスは作戦名「エクソシスト」を提案してます」

 

男たちはテントの中でリンゴをしゃりしゃり咀嚼しながら物騒な話をしていた。

 

 

黒太子(ブラックプリンス)、ねぇ……」

「ガンさん、知ってるの?」

「イギリス・フランスの100年戦争時の英雄ですな。確か大昔の海に浮かぶ戦艦とかの名前にもなってる。下痢が酷くなってからは負け続きなんだけど」

「下痢してたら戦争どころじゃ無いわね……」

「で、ここじゃない? 例の部屋」

「開けて頂けますか?」

「……(無言で、仕方なく開ける)」

ぶしゅー

 

「シャーディークーくーん、あーそーぼー」

「やぁ、お久しぶり」

「それがセイズの親機? 随分デカくなったね?」

「お陰で双方通信できる様になった。フィードバック程度だけど」

「正解ね、フルフィードバックしたらガンダムと同じになっちゃうわ」

「負けたよ。ところでウチの他のメンバーは……?」

「逮捕まではフロント管理部で行ったが、諸事情により勾留はカーギルでやる事になった」

「可哀想に……カーギルの尋問は学生の君らにはキツいぞ。特に年頃の女性にはな……」

「……覚悟は出来てる。僕も、みんなも……」

「…………あのさ? もしかしてアダルトビデオみたいな展開予想してない? 多分全然違うよ?」

「……一体何をするつもりなんだ? 苦痛には負けないよ……」

「あ、ダメだ。これ絶対ボンテージSM系想像してる!」

「シン・セーだったらそんな感じにも出来たけど……」

「違うんですよ、この人ちょっと拗らせてるだけでシン・セーは清く正しい採掘屋さんですからね!」なんで僕がフォローする羽目に?!

 

 

【悪魔は微笑みを湛えてやって来る】

「酷い目に遭ってない? 大丈夫? すぐお食事の支度しますから……」

「自白剤入りか? そんなものは……」

「捕虜虐待は重罪だわ。そんな非合法なことしませんよ。バスもトイレもあるし、エアロバイクも用意したわ。テレビやメディアはごめんなさいね、この部屋の中では何してもいいわ。首吊りはダメだけどね」

ドアが二重隔壁なのは確認した。この船輸送艦なのに……固い!

1日目は食事に手を付けなかった。

2日目にはひっくり返してやったが、それは失敗だった。スープのいい匂いがカーペットに染み付いて部屋の中に充満した。寧ろ空腹が辛くなって来た。

3日目には運んできたメイドに食わせて様子を見た。普通に美味そうに食べて腹が立った。

4日目には2食用意して目の前で美味い美味いと食べ始めた。料理は目の前で取り分けている。

5日目、皿をランダムにメイドと交換して食べた。美味かった。めちゃくちゃ美味かった。

 

ここから地獄が始まる。

いや、食事を抜かれた訳でも薬を盛られた訳でも無い。ただひたすら美味いフルコースが振る舞われただけだ。ここに至ってこの部屋に鏡が無い理由が分かった。自傷防止ではなかったんだ……

「やだ……太った……?」

オーバーカロリー、だった。鏡を見ていなかったのが災いした。気が付くと私は肥えていた。焦った。エアロバイクを必死で漕いだ。運動量がモニタリングされているのか、必死に漕げば漕ぐほど食事量が増えて行く。お尻と太腿は筋肉質になったがそれだけだ。運動の後の食事は更に美味しい。断食を試みたが、ダメだった。もうあの美味い食事に手を出さないという選択肢は無いし、断食に耐えるために運動を減らすと筋肉が贅肉になった。

「私たち、普段はジムトレーナーをしてますの」

メイド達はシェイプアップのプロだった。その知識を活かして痩せさせるのではなく太らせたのだ、無様な! 豚の様に! メイドの無駄に良いプロポーションが気に触る。

 

「こ……こんなやり方……酷いよっ!」私は涙ながらに訴えた。酷い、これは寧ろ酷い、綺麗な身体のまま死なせてよ! でも豚骨ラーメン美味しい……

「大丈夫、あなたはまだ可愛いわ」替え玉つるーん。やや(やわ)の替え玉がスープに踊る。

どういう事? ……メイジーは? イリーシャは? レネはまた胸から太ったの! うううゴマと高菜入れたらまた食べれちゃう……

「まだ、戻れるわよ。でもあと1月もすると……」メイドは少し困った顔をした。でも、「でも」なんだよ! 

「何が目的だ、何が聞きたいんだ、言えよ!」

掴みかかると送り足払いでスコーンと転がされた。こいつ、強い!

「私たちは何も求めませんよ。何か話したい事でもあるなら聞きますが。ナビスコのエアリアルとココアは如何?」シメのライスをよそりながらココアの話するなっ!(しかしスープにご飯入れて食べる魅力には勝てない)

「酷いよ! こんな身体じゃシャディクに……」

「あら? シャディクさんも私たちのお食事食べてますわよ。健啖家ね(ニッコリ)」

 

いっ……いやぁぁぁぁぁあっ!

 

エナオは泣きながら豚骨おじやを胃に流し込んだ。




ある意味快楽責めとも言えるので、薄い本的な内容と言えなくも無い。大丈夫、リリッケちゃんがモテる世界線だ。希望を捨てたらダメだよ☆


苦痛は慣れるが快楽には逆らえない。さぁ貴方のウェストさんはくびれを保っていますかな?


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広大な世界を目指して

「相変わらず、ひでぇ……」

「わぁ、みんな可愛くなりましたねー」

 

地球寮関係者は寧ろ後段のリリッケのセリフに戦慄した。可愛い……そうか……? …………そう……そうかな?

 

「これな、多分この子達は普段から軍事教練受けてたんだと思う……」

筋肉のプロ、陸さんが解説を始める。

「銃持って走り回ったり、匍匐前進したり、障害物乗り越えたり、シバもやったよな?」

「意外とウェイトトレーニング系はなかっ……腕立てやスクワットは罰で散々やらされたか」

「基本はまず体幹から鍛えるんだ。後ケツと腿な。こいつで基礎代謝を上げる。モヤシやデブはこれで一気に基礎代謝が上がって締まった身体になる」

「そっから鍛えると痩せやすいのか……でも、太らせるには?」ティルは純粋に興味から尋ねる。

「まずこの子たち、普段からトレーニングしてるからダイエットなんかした事ないだろ? 基礎知識が無いんだ。普段なら何食っても太らないし、痩せようとか綺麗になろうなんて考えてないだろうね。

そこに来て監禁だ。エアロバイクはあっても体幹鍛える機器がねぇ。だからまず筋肉量が落ちる。基礎代謝が減少したのに飯は以前と同じ様に食えてしまう。この辺でもうオーバーカロリーになりやすい下地が出来てる」

「ふんふん」チュチュは妙に真剣に聞いている。

「更にいうと鏡無しだ。気付きにくくなるわけだよ、しかも目の前のメイドはメリハリボディ……同じもの食ってるから自分も同じ身体だと錯覚してしまう」

「そう言えば……担当さんそれぞれの子と体型似てましたねー?」リリッケのこの辺の仕草が天然っぽいのは一種の才能だろうか?

「運動量が違うのにな。そも、人間は鍛えないとすぐ筋肉量減る様に出来てる」

「なんで……ですか?」

「基礎代謝が高いとそれだけ必要カロリーが増える。つまり燃費が悪くなる。集団生活する上でこれは不味い特性だ。だから集団生活する環境に合った、すぐ代謝が減少する体に進化して行ったんだろうな。虎やライオンはトレーニングしなくても筋骨隆々だろ? 人間だけが大規模な社会性を獲得して低代謝でも生きていける道を選んだからこんなになっちまったんだ」

「母親の発案とはいえ、流石に恐ろしいわ……」ミオリネはジト目だ。

「人間は尊厳の為に死ぬ事も出来る生き物だ。自分の美しさや磨き上げた身体に自信や優越感抱いてる人間だとこれは効く。年頃の女の子にやっていいプログラムじゃねぇよ……そも、この子達アーシアンの戦災孤児じゃないか? 食えてない時期を経験して「その後食える様になると」ドカ食いしちゃうんだよなぁ……」

「そこまで考えた上でこれやってるのか?!」アリアは本気で驚いている。

「こっち見んな!」ソフィは怒る。

「多分。無理矢理戦争や闘争から引き離して平和に農家させる為のプログラムだ。飯は美味いし心の折り方や調教の組み方が酷い」

「食うのって、快楽だもんな」オジェロ

「肌を露出してないだけで、エロ本だよこの展開」

「くっコロとか、勝てなかったよ……みたいな?」ヌーノ

「大の大人が自社商品のヘビーリピーターを作り出して商圏広げる為に編み出した悪魔の技だ。それでいて誰からも非難されない合法的手段と来た。ナジもこれ食う前は俺に匹敵するほど身体動かせたのに……」

「我々も本気、と言う事です」カーギルの担当がビデオを停止する。

「──この様な極めて平和的な対応により、我々の所有するデータの裏付けが取れました。彼らのバックはかの悪名高きドイツ第三帝国の裔を自称する──オカルティストグループです」

「なんか……話の規模が小さすぎねぇか?」

「馬鹿にしたものではありませんよ。古今東西、この手のものにハマるのは高学歴層、高額所得者に多い。現にインドの一大財閥であるアリアさんも占いに傾倒している」

「……これは……その……趣味だから」

「別に悪いこっちゃ無い。それ自体は自らが乗っかってる好況に対する懐疑だ。科学や現代思想に乗っかって、それでいいのかって疑う気持ち、嫌いじゃ無いぜ」

「好況や運に自惚れないって言うのは確かに美徳だよな」

「俺はその幸運に溺れる自信があ〜る」ギャベルのボケは完全に滑った!

「……で、貴方はそれを私たちに話して何したいの?」

「これはノートレット様のお子様とは思えぬ凡庸さ! お考えください」

「……地球の各方面への根回し!?」

「はい、ご名答ですがお母様なら最初からご理解頂けたでしょうね」

「どゆこと?」オジェロ、ちょっとその顔は間抜けだぞ。

「あなた方はアスティカシアでは下層民扱いですが、アーシアンの中では上澄みです。あなた方にこちらの意図を知らせるのは、その上層部の次世代指導者層に話すのと同じ事……我々のアーシアンとスペーシアンの格差調整作戦をご理解頂き、可能であれば我々と共に計画を推進して頂きたい」

「地球の持つ大地の力で、スペーシアンを支配する?」

「それは些か先走りすぎでしょうな。市場には国境や人種や住んでいる場所など存在しない、それだけです。世界を分割したり対立させたりして【商圏】を狭めるなど愚の骨頂! 世界は広くあるべきなのですよ、友好的に、ね」

「俺たちはみんなでテーブル囲って美味い料理食って楽しみたいだけ。敢えて言うならその楽しい食卓を守るのが……我々AMES賛同組織が掲げる唯一の正義だ」




【AMES】
アンパンマンの目機構(システム)。世界を注視して空腹で苦しむ人を根絶するべく生まれた組織。発案・提唱者はノートレッド・レンブラン。現在は原義が(ちょっと恥ずかしい語であることから)忘れられて皆アーメスの略称で呼んでいる。その実態は穀物メジャー・カーギルと緩く繋がるヒューミント、シギント、オシントを駆使して凡ゆるリソースの効率的配分(ご商売)を実施する巨大商業組合(ギガ・ギルド)である。


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シャディクの夢

尋問に見えるかもしれないですが、割と「答え合わせ」に近いというか……


「最終的には二極化による対立構造を作り上げ、戦線を膠着させてMSの販売利益を確保するプランでした。その嚆矢となるべきガンダムの開発が後援者の目標です」

「ふむ、続けて?」

「後援組織でもガンダム……いや、ガンドの研究を続けていましたが、ヴァナディース事変のレポート内にあった「幼児でも操作可能で、データストームの無いルブリス」が最大の問題点になったんです。どれだけ繰り返しても我々が所有するルブリスではデータストームは出てしまう……そんな時に出て来たのがペイル社でガンダムが建造されているという噂……ペイル社ベルメリアが大阪の知人に「キャリア採用された」という話を聞き付けたのが始まりでした……」

「シギントはしていたという事かな? それはどこで?」

「分かりません。僕たちはそれを利用できましたが細かいことは判らないんです」

「……ふむ……分かりそうな物だけどね。余り興味は無かったのかな?」尋問官?は資料に目を通しながら続きを促した。

「ちょうど僕はアスティカシアに進学する予定でしたし、学内での調査をする為に後援者からスタッフを借りました。それが彼女たちです。彼女たちの出身については、知りません」

「……予測はしていたかい?」

「テレームの僧院、或いはその下部組織」

「そこが何をしていたかは?」

「子供を利用したテロや資金調達……ですよね。確か随分前に検挙されていると……」

「資金調達はダミーというか、単なる実戦訓練らしいよ。潰されたというのもカバーストーリーで、実際には存続している……僧院というのはあくまで組織名で特定の場所ではない。それぐらいは知った上で利用していたのでは?」

「……いえ、それは……」

「おかしいね、我々のレポートではそうなっていない。非協力的だったとノートしても良いだろうか?」

「そんな! 分かるわけがない!」

「スパイ業界も不景気でねぇ」男は首をコキコキと鳴らして続ける「一社専属では食って行けず、ダブルワークが盛んと聞くよ。ちゃんとお賃金払わないと彼らだって食べて行けないし仕送りも出来ない。君の所は福利厚生や給与待遇に落ち度は無かったかな?」

「経費はきちんと……」経費、たはーと尋問官は天を仰いだ。

「社内規定に基き、か。スパイの平均給与なんてどこに書いてあるのやら。ラングレーにでも問い合わせたのかい?」

 

【ラングレー】

エヴァのアスカではない。アメリカCIAの隠語で通称「ラングレーの森」

ヒューミントの本場。

 

「それは……」

「アーシアン組織がアーシアン労働力を安く買い叩くんだもんなぁ……桁が一つ違うとだけは教えておくよ。今度スパイを募る時の参考にするといい。そりゃあ君の組織内にダブルスパイが増える訳だ!」

「何事も未来の地球がより良くなる為の先行投資だ! ここで苦しみに耐えなければ……」

「やれやれ、ソヴィエト連邦の幽霊が出て来たぞ。それやって結局崩壊した東側の大国の話は最近の教育カリキュラムでは触れないのか……」

 

まぁ大体、ソヴィエト崩壊は何で起きたかと言えば、国民を食わせて行けなかったというのが大きい。

第二次世界大戦前のホロドモールや1972年の凶作に起因する穀物買い付け強化……農業施策での失敗が割と多いのだ。飢えは恨みとなり恨みは反発を呼び起こす。

 

だから、ウチ(カーギル)にも無関心だったのだろうなぁと尋問官は呆れ果てる。西暦1970年代以降、余剰生産物の販売から先物取引に似た業態に変化しつつあった頃から穀物メジャーはその業態から市場・需給予測に力を入れざるを得なくなった。これが結果として世界情勢分析を推し進める形になり、彼らは単なる商社ではない情報組織へ変わらざるを得なかった。アドステラへと時代が移り変わると広がった商圏、需給調整は国家中枢を凌ぐ煩雑さとなる。どれだけ苦労して人々が食うに困らぬ様リソースを回しているかをこの少年は理解していまい。未来に対する先行投資を我々の前で謳うか。こちとら100年で資産6000倍、経常利益の8割を拡大再生産に投資し続けて来た老舗だぞ?

 

 

【カーギル】

実在企業ですが、何か? 100年で資産6000倍にしたのも、膨大な利益の8割とかを拡大再生産にぶっ込んでるのも創作ではなく事実だったりする。経営規模的にはボーイングと似たり寄ったりだが、カーギルは株式非公開企業であり世界最大級の同族経営企業の一つ。

 

 

「君たちの夢や理想はどうでもよろしい。ウチの邪魔さえしなければ我々は寛大だ。子供の遊びに口出しするつもりはない」

「なら何故!」

「人口が目減りすると食料が売れなくなる。単純な話だ。我々は稼業の都合上人口減少は困るんだよ。生きとし生けるものは全て弊社の潜在的顧客であり、腹を減らした人が出ない様に食料流通を掌握している。冷戦構造を作り出して地球と宇宙を分断する? 市場流通している穀物の実に8割強が我々穀物メジャーの手の内にあるのに! 自分で光合成できる様になってから考えるんだな。飯も食わせられずに人が付き従う訳なかろ」

飯は時間になったら誰かが用意してくれる……そんなお子様気分が抜けない学生が太平国家を物語る……

「革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるから、いつも過激なことしかやらない」と語ったのは誰だったか。夢を夢で終わらせない為には現実を見つめなければならないが、子供の背丈から見える現実は余りにも狭い。夢が夢想で終わる所以である。

 




【革命は〜】
逆襲のシャアでのアムロのセリフですね。

【光合成できる様になってから〜】
作物作るのに欠かせない肥料も穀物メジャーに抑えられていましてね(しろめ)


割と世界はとっくに掌握されている。


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第八オペ室の奥に東尋坊が見える

デリング達の秘密司令室がある所ですな。


目隠しをしてストレッチャーで運ばれる事10分。

カーギルのエージェントは少々困っていた。場所秘匿の為に古典的なスパイ仕草をしているのだろうが、私の脳には加速度センサーがインプラントされておりまして……GPSはジャマーか何かで無効化してるみたいだが、ざっくり場所は分かるんだけどなぁ……まぁ、それが敵に渡るのも厄介か。

彼は努めて位置を探るのをやめた。

 

 

「お久しぶりです、デリングさん」

「今日はなんとお呼びすれば?」

「ジョン・スミスで結構ですよ。まぁ区別が付けばなんとでも」

 

ノートレットの葬式以来になる。あの時は憔悴するデリング氏を無理矢理引きずって行ってノートレットのやっていた事の引き継ぎでおおわらわだったなぁと。あれは稀に見る失態だった、まさか諜報網を抜かれるとは……

 

「さて、先ずはクワイエット・ゼロの件から確認させてください。進展は?」

「ドミニコスのケナンジです。8割完成していますが、残る2割が……」

「挑戦的な規模ですからねぇ。あれ、本当に動くんですか?」

「も……問題ありません。シン・セーの技術力を信頼下さい」

「いやぁ、疑っちゃ居ないんですが……2点問題が……」

「? 何か?」デリングが意外そうな顔をする。元はノートレットの計画だし、AMESへの協力や人的交流も進めている……何が問題なのだろう?

「超強力なシギントシステムというのは良いのですが、それを理由にヒューミント部分の予算削減してません? 御社のリストラの影響で人的資源が流動的になってます。ちょっとこれは頂けない」

「……予想外にイニシャルコストが……」ラジャンが理由を説明する。そう、ヒューミントというのは金が掛かる。忠誠心だけでは彼らを抱えていく事は難しい。財政的効率化をしたくなるのも当然だ。

「それぞれの組織でカバーエリアを分散し、相互に協調した方がいいと思うんですがねぇ……」

「……我々も次代への引き継ぎを考え始めなければいけない年齢になってきた。組織としての構造や雑事は整理しておきたくはある。無論そちらとのパイプは維持させる前提だ」

「我々の経験から申せば、負担は増える事はあれ減る事はありませんよ。親心は十分に理解しますが……時間をかけてやるしかない。楽隠居は中々できません。シン・セーの先代は上手くやった──」

いやあそれほどでもという顔をプロスペラするが、そのポーズは一瞬にして打ち砕かれる。

「で、2点目ですが。もしクワイエット・ゼロがこちらが想定する規模の能力だとすると……オーバースペック過ぎません?」

「いえそれは、将来的な性能向上を睨んだ上の……」

「分析官の所見では、何か他の目的があるのではないかと……」

 

ギクっ

 

「開発予算が足りず、リストラが必要で、稼働時期を遅らせてまで過剰な性能を追求する……確かに不自然ですよね?」

「ふむ、疑心を抱かせてしまったか。当方としては特に隠す様な事は無いのだが……」

「もちろんデリング氏を疑いはしませんよ。貴方は我々のファミリーだ。だからこそ私が直々に来ている訳ですし……」

 

この中に1人、物凄い勢いで汗をかいている人が居るのだが──ガンド部分は汗をかかないので誤魔化せている。

 

「エルノラ・サマヤさん。義弟(おとうと)が血気に早ってやらかしてしまった件は本当に申し訳なかった。その罪滅ぼしでは無いが割と我々も便宜を図って来たつもりですよ……間宮水星まで送ったり、エアリアルの建造費も、エリクトちゃんの検査だってかなりお金使った。ヴァナディース事変の事もありますから、正直にやりたい事があるなら仰って下さい」

 

 

【間宮水星まで送ったり】

本作12話、ヤクザ事務所壊滅を参照のこと。シン・セーの新年会の為に間宮4世号と宇宙巡洋艦3隻の船団組んで水星まで食料品運ぶなんてのは「余りにおかしい」話なのである。

 

 

「クワイエット・ゼロの補正予算の一部は迂回してカーギルからも出ている。隠していることがあるなら──自発的に明かした形を取れる様に場を設けて下さったジョンさんの前で明かしてくれないか……」

「──これは分析官からのレポートを見た私の直感ですが、エリーちゃん関係でしょ?」

何百年もの間「予測」を続けてきた一族は、その日々の積み重ねにより異能とも言える力を手にしている。勘が異常に鋭いのだ。彼らが調査資料を目にして想いを馳せる時……何かを隠し通せる人間は滅多に居ない。

 

 

「あ……あの子を取り返したかったのよぉっ!」

 

 

泣き崩れて心情を吐露し始めるプロスペラと唖然とする周りの人々。絵面は火曜サスペンスのクライマックスシーンに似ていた。

エルノラ・サマヤの向こうに東尋坊が見える──

 

火サスなら犯人の嗚咽と共にエンディングテーマが流れる所であるが、ガンドの天狗が出てくる本作はこれで綺麗に纏まるはずが無かった。何となれば、プロスペラ……エルノラ・サマヤはある種の狂気に蝕まれていたからである。

 

 

「「「「ガッ……ガンダムエアリアルの中にエリクトちゃんが生きてるだとぉぉお!」」」」

 

 

(諸説あります)

 

 

一同は物凄くびっくりした。彼らの認識ではスレッタ・マーキュリーこそ正真正銘のエリクト・サマヤちゃんその人だからである。

 

 

「ガンさん、今日はちょっと肌寒い気がしない?」

「そうかな……ベルさん生姜湯でも飲む? 葛根湯もあるけど」




【ジョン・スミス】
もちろん偽名で下の名前はマクミラン。ノートレット実兄でデリングの義理の兄。


今日はお仕事忙しいので2話目投稿無いかも。


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ご冗談でしょうプロスペラさん

まさかここからこうなるとはガンド天狗でも思いつかないのである。
彼はこの話の時点で生姜湯を啜りつつ草加煎餅を齧っていた。


「えー、あー──」

ジョン・スミス(偽名)は心底困っていた。確かその話は12年前に8年かけて丹念に解析して説明した筈……現在スレッタ・マーキュリーを名乗る少女は間違い無くエリクト・サマヤちゃんである。改名を説明する際にプロスペラが「元服って言うのよ」とサラッと説明して「幼名、エリクト・サマヤ。元服してスレッタ・マーキュリー」……感心したものだった。よくまぁそんな説明を思いついたなと。あの頃から只者ではないと睨んでいたが、まさかこのベクトルで只者ではないとは……

 

ジョンの認識ではこうなっている。突如「エリーが記憶を失っている! ヴァナディース事変で宇宙漂流したり戦闘でガンドと繋がったからよ!」などと言い出した時には緊張した。我々のミスによりそんな事が起きていたなんて! 我々は勿論自分たちが提供できる最高の医療を惜しげもなく投入してエリクトちゃんの治療に当たろうとした。そして──

 

「残念ながら、治療は不可能です」

 

何が科学だ! 何が医療だ! 我々(じんるい)は無力だ、こんな小さな幼児(おさなご)の……

 

「なんも異常はありませんからなぁ(呆) 健康なんだから治療も何も……」

「は?」

「子供が昔のこと忘れるのは正常です、大体反復して思い出したり経験積まないと脳は【一時記憶】として記憶するだけで、記憶を定着させんのです」

「はぁ」

「逆にいつまでも余計なこと記憶してたら生きづらいでしょう? 貴方、最後におねしょして叱られた日の事覚えてます?」

「いや、しかし彼女は父親の事も……」

「残念ですが、彼女はそれを「忘れてもいい物事」と分類したんです。当然忘れます。忘れさせたくないならお父さんの事を繰り返し繰り返し、写真でも見ながら何度も何度も話すべきでしたなぁ」

「いや、でも父親の事ぐらい……」

「そう考えるのは親の願望であって子供たちの意思ではない。案外忘れられますよ、私も息子に「いらっしゃいませー」と迎えられた日には……」

医者の目にも涙、であろうか。

「マクミランさん、お子さんは?」

「え、ええ……息子と娘が……」

「ちゃんと『お父さん』、出来ていますか?」

「いや──ちょっと重責なもので……」

「仕事なんて他人に振ってしまう事ですな。貴方にしか出来ない事だけやればいい。大体の仕事は他人でもこなせるものです。

だが、親は違う。親は他人には出来ない……やらせたくもないでしょ?」

 

「そんな事ない! ルブリスの中にはエリクトの生体コードがある! 飲み込まれてしまったのよ!」

と、主張されたが【生体コード】とは何ぞや? ガンド周りの技術的な話なんだろうが、生憎(あいにく)ガンドに詳しい人間は義弟が鏖殺(おうさつ)してしまった。我々にもそこまで詳細なガンド周りの知識は無い。その後ガンドに詳しい人物探しているうちにベルメリア博士や地球の魔女を知ることになり、余計な厄介事を背負う羽目になるのだが……

「私の娘を返してよ! 返してよ!」

と、申されましても……隣でキャッキャとゲームに興じるそのお嬢さんが、正真正銘エリクト・サマヤちゃんなんですが。8年に渡る長期解析でそう結論が……

「落ち着きましょうエルノラさん。ルブリスが生体コードを持っているとして、それはどうやって持つ事になったのでしょう?」

「コールバック試験は、私の生体コードを……」

またガンドの話、なのだろうか。専門外の私には何がどう繋がるのか見当も付かない。ただ、分かるのはガンド技術者の目から見て、その様な事が起こり得るという事なのだろう。私は考えた。

「果たして、入れ替わったのでしょうか? ガンダムにその生体コードがコピーされただけで、彼女自身はそのまま……」

「じゃあ何でエリーはナディムを忘れたの! 辻褄が合わないわ!」

激昂する若い未亡人に「そりゃ、忘れますよ。ナディムさんちゃんとお父さんしてました?」と言ったら血を見るのは間違いない。辻褄が合う話は出来るが「してはいけない」話であった。殺してしまったのは義弟だし。

いくら誠意を尽くしても、私が語るとそれは言い訳になってしまう。これは困った、解決方法が無い!

 

私は、刻が全てを解決してくれる事に一縷の望みを託した。

── in other words(言い換えるなら)── 放置したのである。他の要求には全て応えて。

 

 

ジョン(偽名)は往時に想いを馳せたが……今は違う。

我々は過去には無かった新たなピースを見つけ出している。我々が感知しない暗闇から躍り出て、エアリアル周辺で踊る影。キャリバン・メルクリウス。又の名をガンド天狗!

我々の調べでは彼には生体由来部品が一切無い。シン・セーに潜り込ませた健康診断車でこっそり全て調べ上げた。経歴や戸籍も偽造されている!

私の勘……非論理的な発想の飛躍が「おかしい」と叫んでいる。




危うしガンド天狗。厄介ごとスルーパスの術が来るぞ(迫真)

流石に仕事忙しいからもう……


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危うし! ガンド天狗!!!

別の意味でな。


「はじめまして、キャリバン・メルクリウスさん」

「初めまして、ジョン・スミスさん。そんな役所の名前記入例みたいな名前の方がいらっしゃるとは思いませんでした」

「はっはっは、そりゃそうでしょう。偽名ですから」

「なるほど偽名かー──……なんですと?」

「お互い様、お互い様。ガンド天狗さん」

──なんで?!

「面白い反応するんですね。我々は貴方を宇宙人か幽霊か妖怪か、はたまたフェアリーかと考えているんですが、実際のところどうなんです?」

「酷いなぁ、僕は確かにガンド比率の高い……」

「100%近い、いや100%ではないかと」

「何故、その様に?」

「簡単にいうと、レディ・プロスペラが調達した武器をそのまま天狗が振り回していたからです。それ以前もスレッタ・マーキュリーの近辺でしかガンド天狗は出没していない。何故でしょう?」

「水星タヌキがポンポコ大変身で……」

「スレッタさんは天狗と同時に出現していますね?」

「それを言うなら僕だって……」

「同時に見かけられた事はありませんな。いや、天狗さん、別に貴方を捕まえに来た訳じゃない。ガンド天狗というガンドに詳しい貴方にどうしても聴きたい事がある。その為の確認なんです。私はジョージ・マクミラン。カーギル情報統括局主席分析官、まぁスパイみたいなものです。そしてデリング氏の義理の兄でノートレット・レンブランの実兄、ミオリネの伯父です」

「信じないと思うんだけどなぁ……笑わないで下さいよ」

「惑星エルドラから来たエイリアンでも驚きませんよ」

「型式XVX-016 シン・セー開発公社資産管理番号106-000254 エアリアルと申しますが……」

「そりゃスレッタさんのMSでしょ?」

「そのエアリアルの対人コミュニケーション用特殊ガンビット、それが僕というか、貴方が見ているのは僕が動かしている子機で、貴方は子機経由で僕と会話してる訳ですよ」

「……こりゃ驚いたな」

「コーヒーとお茶。どちらが?」はいはい、狂人認定ですよねーと僕はお茶の準備を始めた。レオニダスのフルーツゼリーまだあったかな?

「本当に驚いたな!」

「よく信じましたね、こんな話」

「話が繋がったからね、プロスペラ氏がやけにエアリアルに固執した理由がわかった。君が居たからか!」

「なんか嫌な予感がするんですが」

「いやぁ、助かった」

「激しく嫌な予感がするんですがっ!」

 

 

「まだそんなこと言ってるんですか、社長は!」

僕はこの100話近い「ガンド天狗」の話の中で語られてきた「ガンドに関して僕が知っている部分」を洗いざらい喋った。ジョージ氏はそれを片っ端から頭に入れてうんうんうなづいている。

「疑わないんですか? 裏取りはしなくても?」

「これまでの不明点が一気に話が通る様になった。もちろん君が誤解している可能性もあるから全部信じている訳ではないが……辻褄は合ってる」

「僕は僕自身が信じられないのに」

 

いやぁ、ニカちゃんのメシにガム吐き捨てたタワケにお仕置きする天狗の話がどう拗れたら、こんなSFじみた話になるんだか! いつの間にか普通にSFになってるのナンデ?

 

「奇遇だね、私も私とは一体なんなんだと偶に悩むよ」

「では本題ですが、社長が見ているのは多分これです……(モニタポチー)ガンビッツ淑女たち(レディース)、おめかしして集合!」

(((((はぁーい!)))))

【挿絵表示】

 

(こんちゃーっす)

(はじめましてー)

(なんか緊張するな……)

「これは……私も見られている?」

「視覚共有しましたからね。ガンビットをコントロールする為に簡略化してコピペした擬似人格です。私の自我も……」

(ぺこり)淡い青色のワンピース姿のタヌキ眉少女が頭を下げる。

「なんで小さい女の子に?」

「元々僕は彼女のイマジナリー妹としてのロールを求められてたんですが、11歳ぐらいから彼女の社会性が育ってイマジナリー妹を必要しなくなったんですな。だから僕の形は彼女が僕たちを見失った時点で固定されてしまったんですよ。生体コード云々はこのイメージ作る為の種データの事ではないかと」

「これは、レディ・プロスペラには……」

「一応僕だけは見えてる筈です。水星からアス高来る時に弄りましたから」

「もう一度だけ聞くが、これは君でエリーちゃんではないんだね?」

「エリーに出会う前から僕は僕で居ましたからね。そこから連続して思惟を続けてますから、間違い無く僕は僕です。逆に言うとならば僕がどこから来たかは分かりません」

「大丈夫」ジョージは朗らかに笑った「何百年も我々人類も問い続けて来たが、まだ結論出てないやつだよ」

 

 

【D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?】

「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」ゴーギャンの絵画に残された一文。

 

 

「いや、僕はエアリアルだってプロスペラ社長知ってますよ?」

「私見を述べていいかい? 形に引っ張られたんじゃないかな? 君はエアリアルだが中に別のエリーがいると……」

「いや待って……(ピポパ)……ああ、チュチュちゃん? プルをちょっと僕の所連れて来て」

「プルって……?」

「あのガンビッツ淑女のNo.6です。実験で(そと)出て来て貰ってます」

「外って……?」

「ここ」僕は指で地面を指差した。




【イマジナリー妹】
一種のイマジナリー・コンパニオン。子供が生み出す空想上のお友だち。統計的にひとりっ子や長子が作り出しやすく、女児の方が生み出す傾向が強い。大人がしつけの方便として「ぬいぐるみちゃんが可哀想でしょう?」などとやるとごく稀に無機物に人格を認めたり、生育過程で孤独な状況が続くと生み出すとも。
いずれもやがて「それ」は空想上の産物だと子供も理解して、通常は消えていくか忘れ去られる。社会性を獲得して孤独が解消されるからだ。(本作ゆりかごの星編でもスレッタが10歳ぐらいから周りに受け入れられ始めた描写をしている) 天狗が出てくる割には真面目に本編考察している筆者が「考察をベースに」話を組んでるから、本作の背後には本分量に匹敵する設定考察が隠されている。いや本当マジで!
本作では彼女が見出したイマジナリーフレンドが実際「ルブリスの中にいた僕」と重なり合い、「ルブリスの中にいた僕」は求めに応じてエリクトの中にあった想像上の妹の姿を作り出して彼女と接した。


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Enter the madness

燃えよドラゴンのパクリ副題ですが何か。


「……これは……」

「んちゃ!」プルはすちゃっと右手を元気に上げた。

「ちびっ子に何の用だよ、ガンさん?」

「いやちょっと進学関係でこの方にご相談が。ありがとねチュチュちゃん」

 

 

「ガンビッツ淑女(レディ)、だよねぇ?」

「名乗ってもいいんだよね? LP-0 プルです」擬態である擬似人格を捨て去り、キチンと礼をする。一応僕のコピーだから弁える事は出来るんだぜ!

「こちらは先のエアリアルのシェルユニットからデータダウンロードして単体で独立稼働可能なガンドのアンドロイド、ガンドロイドになります。要はこうしたらプロスペラ社長の誤解を解けるんじゃないかと思ったんでしょ?」

僕はコンソールを操作してプルの設計図面を表示した。更に録画しといた73話「蠕動(ぜんどう)」後半のちょいと間抜けなシーンも。

「なんで君らはそんなに盛り上がっているんだい(ドン引き)」

「え? 脳の病気や破損があってもガンドで治療する道筋が見つかったシーンですよ? これで救える命が増える! 感動的じゃないですか」

「脳を培養するのでは駄目なのかな?」

「機械に変えるのはやはり抵抗があります?」

「やはり……根本的な忌避感がな……」

「ナマモノは保管が大変でしょ? 適合の問題もあるし。実はシェルユニットという脳を持つ僕にも忌避感があります。具体的にスペックダウンですからね」

「ああ、そうか。僕の忌避感も脳が機械に入れられてたまるかっていう肉体信仰なんだな。これは多分機械に対する蔑視だ」

「どうなんですかねぇ。ガンド義肢は力強いし便利だからお買い得だと思うんですけど、まだ健康な手脚を敢えてガンドにしたがる人は少ない」

「愛着もあるさ」

「入れ替えが容易な僕なんかは単純にスペックだけなんですけど」

「ちょっと同期するんでコンソール借りるね!」

「同期?」

「バックアップですよ。本体はシェルユニットの中だから、そっちに差分バックアップを。頑丈なMSと違い、ガンドロイドは脆弱ですから」

「はぁ〜。実家の様な安心感」

「君たちから見える世界はそんな感じか……でも、うーん……これでダメか……」

「大方、プロスペラ社長の話す「エリクト」をなんとか目の前に引き出して「僕別にエリーじゃないよ?」とでも言わせたら誤解が解けるかな?とでも考えたんでしょ? それで誤解が解けるならもう解けてます……」

「狂気の輪を断ち切りたいんだ。何かきっかけが有れば元に戻ると……」

「プロスペラ社長をエアリアルの中に入れて、好きなだけ探して貰うしか無いような……一応グラスレーの所有艦からセイズの端末押収?発見しましたから、できなか無いですよ?」

「セイズって……あのドローン戦争の時の?」

「なんかグレードアップして双方向通信出来るみたい」

「考えておこう。何とかして我々は彼女を救い出さなきゃならん」

「ヴァナディース事変に対する贖罪ですか、そもそもアレなんで起きたんです?」

「……ん〜。一応推論はある。けどこれはデリングからきちんと聞いた訳ではないし、だからといって許される話じゃない。私は単純に血族の一員がやらかした不始末の尻拭いに徹しているだけだよ。カルド博士もAMESってグループに賛同してたしね」

「え? カルド博士も?」

「正直それが不味かったかな。逆にカルド博士の意図も伝わってしまった訳だよ……これは20年以上ほつれたままの糸なんだ。君という奇貨で一度もつれを解いておきたい」

「あー、もー、やっぱりか。社長の妄執なんとかしてくれか! それが簡単に出来たら苦労はないって話でさーっ!」

「そんな事言うなよ、苦労は買ってでもするものって言うぞ?」

「僕は人間の論理飛躍? 発想の転換? あれ1番苦手なの! 珪素生命体それ苦手!」

「ではこう考えてみよう。その『人間の不条理を理解する事』が、君が人に近付く為に必要であると」

「ふぇ?」

「見た限り、君たちは人間と共にこの世界で生きて行きたい……違うかな?」

「えぇ、まぁ……」

「察するに、今までも人間の論理飛躍に悩まされて来たのではないかなっ!」

「うっ、どうしてそれを……(驚)」

「君だけじゃ無いんだよ、人間も人間の突拍子もない発想に苦しめられているんだ。君の苦しみは珪素生命体だとかガンドロイドだから生まれる苦しみではなく、生命そのものが抱える大きな問題なんだ。

だから、それを君たちと僕たちで克服していかないか?」

「惜しい、多分僕が人間なら騙されてた。上手いなー、乗せるの! でも僕ガンドロイドだし頭の回転早いから【抱き込みたいんだな】ってすぐ解析できちゃう」

「ねぇねぇ、それはそうとさ。お母さんかわいそうくない?」

「へ? プル……可哀相って……人格シミュレーション?」

「ちがうよ、エアリアルは分からないの?」

「この子、君の子プロセスって言ってなかった?」

「脆弱な身体に入ると……感情が芽生える……? 6子ちゃん?!」

(え? 気付いて無かったの? 僕たち普通に怒ってたじゃない? クールに振る舞ってたのエアリアルだけだよ?)

(ロジック強者だからロジカルやってるだけで、ガンドボディ作った理由もスレッタねぇちゃん虐める水星人ぶっ飛ばす為だったじゃん)

(ある筈だよ、エアリアルにもプロスペラ社長を可哀相に思い、助けたいと思う気持ち)

 

ジョージ・マクミランはその時ガンドの神に感謝の祈りを捧げていた。彼らに心を与えてくれたことを感謝します。我々は宇宙で孤独に流離う種ではなく、他者と共に歩いて行ける……そうなのですね! 神よ!

これはプロスペラ氏の後に何としてでも彼女たちに報いねばなりませんなぁ!

 

「うん、何だろう、この気持ち。確かに僕にもあるよ、あったよ! 僕もプロスペラ社長に【もうちょいマトモになって欲しい】!」




主席分析官は熱を出して倒れた。


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未来の家族会議

さて、このトンチキなお話も残り僅かとなって参りました。
本当にほんっとーに前話とか苦しみましたからね。作者の本音なんすが「この話どうやったら畳まれるか」……前話というのは実はその思考シミュレーションです。あのプロスペラの妄執というものをどーやったら解く事が出来るのか。

昨日仕事で200kmぐらい車転がしながら考えて、なんとか少なくとも私が納得出来る筋が見つかりました。さぁ、100話終了に向けてレディ・ゴー!


「本日は皆様お忙しい中……」

「──これ、どういう座組?」

「大変申し訳ないのですが、マーキュリー家とレンブラン家の両家の問題について、ミオリネ氏の伯父様から善処するよう……」

「では、何故プロスペラを呼ばないのだ?」

「……お母さんの話、ですか」スレッタだけは、問題に気付いているようだ。いつも何も知らないスレッタ・マーキュリー(17)なのに、これは珍しい。

「夢を見たんです。お母さんが小さな子を連れて何処かに行っちゃう夢。多分小さい子はエアリアル……ガンさん、私がミオリネさんと結婚するって事はお母さんと離れる事なのかなぁ?」

ウッと一瞬詰まる一同。これはまさか……ブライダル・ブルー?

 

「そうではないぞ、スレッタ君──君はミオリネを手に入れてお母さんを捨てる訳じゃない。レンブラン家もマーキュリー家もミオリネと君の婚姻により新しい家族を手に入れるんだ。我々は何も失わない。家族を手に入れるんだ──ノートレットもそう言っていたよ」

 

 

「なんだ耄碌したのかジジババども! 何がノートレットはやらんだ! 馬鹿かお前ら? これは取引だ、私を使ってお前らはデリング・レンブランを手に入れるんだよ! そしてこいつをバックアップしてみろ! なんと戦争用高機能MS開発グループを丸ごと手に入れられるぞ!

この旨みが解らんのか? カーギルの戦争回避プログラムに使える手が増えるんだぞ! 両手を挙げて祝福しろ!」

堂々と政略結婚として上手く使えとプレゼンする花嫁を見て、デリング・レンブランは緊張した。なんかど偉い事になっていないかと。それをバックアップしてくれたのは未来の義兄だった。

「あー、まー、その……身寄りは確かですし、別にカーギルの経営参画する訳じゃないですし……別に一族の了承も何も……ノートレットも好きでデリング氏とくっつくんだろ?」

「当たり前だ。(ロジック)だけ(プロフィット)だけで結婚なんかするか!」

 

 

「すごいね」ミオリネは呆れている。彼女はいざとなるとノートレットの様になる自分の事を理解していないらしい。

「まぁ、だからプロスペラが君のことを手放すとかはしない筈だ。寧ろひょっこり新居を訪ねて来てミオリネに嫌味の一つも……お前、片付け出来んからなぁ……」

「入れないから。アポ無しでは」

 

実は過日、筆者の伯母がナチュラルにこれやって従姉妹(いとこ)に出禁を食らった(実話) お互い気をつけよう。他山の石じゃ。

 

「私は色々経験しているからそれはやらん。孫はこちらに見せに来る様にしてくれ。本宅とは別に狭くて居心地の良い孫と会う家を別途近所に用意するから──」

些か、デリング氏も早まり過ぎである様な。

「いや、あながちスレッタの夢も外れていないかもしれません」僕は努めて真面目に切り出した。「今日は未来の家族という事で、ちょっとデリケートな部分に触れざるを得ません」

「ちょっと……そのプライベートになんでガンさんが……」

「あれ? ミオリネさん知らなかったですか? ガンさんは私の家族みたいなものですし……」一瞬心がモワッと暖かくなり、涙が(何処からともなく)溢れ出しそうになったが……

 

「エアリアルですよ、ガンさん」

 

 

 

 

「え? お姉ちゃん何を?」「エアリアルって……あのエアリアル?」「彼はキャリバン・メルクリウス……」

「どっから見てもエアリアルじゃないですか。一生懸命ガンさんだキャリバンだって言い張るからお姉ちゃんそういう事にしてたけど、そんなの随分前から知ってたよ☆」

 

ここぞとばかりに水星タヌキがおねぇちゃんムーブを始めて事態は混迷を極めた。

 

「ちょっと待ってスレッタ。エアリアルは家族ってそういう事?」

「いや待ってくれ、ではあのMSは……」

「エアリアルについては私詳しいですから。仕草の一つ一つが昔私が考えてた想像上の(イマジナリー)妹そっくりなんだもん。エアリアル、私の空想覗いてたでしょ、悪い子だ」

 

大体6000文字くらい使って、僕は僕を説明した。

 

「という訳で、改めましてガンダム・エアリアルです」(ぺこり)

「……まぁとりあえずヨシとするわ。今日は何、ぶっちゃけ大会?」

「む……むぅ……」

「次はデリング氏のことね。実は……」

「スレッタのお父さんが死んだのが、親父の差し金ってことでしょ。知ってる」

「……はい……」少し暗い顔でスレッタもうなづく。

「え? ミオリネ?」

「ガンダム絶滅の立役者・デリング・レンブラン、ガンダム持ってるマーキュリー家。調べるでしょ普通。まさかって……」

 

そう、アニメ本編の都合良くポンコツになるミオリネと違い、本作でのミオリネはGT付きで頭がフルタイム良いのである。調べられる事は事前に調べているし、プロスペラのウザ絡みに「何故?」と思考を巡らせもする。

何故、彼女が疑問に思わず調べもしない前提なのだろう!

 

「ミオリネさんに説明された時は複雑でしたけど、ヴァナディースがガンダム作ってたのは間違い無いですし……だからお母さん、ミオリネさんに姑がらみ、するのかなって……」

「切り出すタイミング測ってるのよ。私たちだって考えてるんだから」

いつの間にか彼女たちも大人に……いや、大人になりつつあった。

「もう17歳ですからね」

「私たち、ローティーンの子供ではないの。スレッタ程じゃないけど、私だって育ってるんだから……まぁ、親から見たらいつでも、いつまでも私たちは子供なんでしょうけど」

「じゃあ本題行こうか。実はこれが1番ヤバい」

「お母さんの「エリー」だよね、エアリアル?」

「うん、ちょっと恥ずかしい話なんだけど、プロスペラ社長はちょっと頭のアレがおかしくて……」

「エアリアルの中にエリーが居るって思ってるんだよね……」

「? エリーって? エアリアルじゃなくて?」

「エリクト・サマヤ。元服前の私」スレッタは自分を指差す。タヌっとした顔で。元服って、なんだよ!

「は?」

「それは私もこの間聴いたが、どういう話なのかさっぱり解らん……」

「どうやら、なんだけど……お母さん、私とエアリアルが入れ替わってると勘違いしてるみたい……小さい頃偶にお母さんと一緒に寝ると、エリーエリーって寝言言うのよ……ワタシ、ここに居るよってその度に答えてたんだけど……」

うん?

「……ヴァナディース事変の際に、プロスペラ……いや、エルノラ・サマヤは娘を連れてMSで脱出していてね」

「あ、それ僕だ。当時のコクピット映像見ます? 残してありますよ!」

 

 

^「エリー、お部屋(うち)帰るっ!」

^「お母さんの言う事聞いてエリー、もう帰れないの……」

 

「なんで?」

「爆破したからな……」

 

^「やぁだっ! ケーキ食べるのみんなでっ!」

^「もう……もう……みんなは居ないのよエリー……」

 

「何か言う事は?」

「大変申し訳ない事をした……スレッタ君が居るとは知らなかったんだ……それで罪が減ずる訳ではないが……」

 

^「! 酸素残量が!」

 

「エリーギャン泣きしたからね……で、音声は残って無いんですが、ここで僕は姉……ナディムお父さん乗ってたルブリスにお願いしたんですよ。僕たち見つけて貰えるように、レーダーに僕たちの位置光らせてって」

「あの機体のあの反応は、君の仕業だったのか!」

「僕はいいけど、酸素ないと2人とも死んじゃいますからね。その頃はまだ僕も非力で勝手に信号発信出来なかったし……パーメット流量制御も完璧じゃなかった」

「それで青いデータストームが……」

「カルド博士の予測通り、データストームの無害化には成功してる。僕の主観時間は無いんだけど、この後救出されて僕もエリクト・サマヤも8年ほど調べ尽くされてる筈だから」

「でも、エルノラは信じなかった。データストームで娘に異変が起きた、と。詳しい話は聞いていなかったが、私は母子共に健康だったと聴いていた」

「おかしかったのは、エルノラの頭というか、認識だった訳」




100話で収めるためには1話文字数が2000で収まらぬ事もあろう!(開き直りっ!)

筆者は評判やら他者評価より、この話の結末が見たい。


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水星のタヌキ、タヌっと走る

【元服】
所謂成人の儀式で、古くは女性の場合「裳着(もぎ)」と言ったのだが、江戸時代頃にはまとめて元服と呼ばれていた模様。元々は冠を被り大人になる儀式であり、これを機に幼名から元服名((いみな))を名乗る。
プロスペラは8年にも渡る検査により肉体年齢5歳ぐらいのエリクトの戸籍上の年齢が13歳になってしまった不合理を「戸籍書き換え」という荒技で回避したのだが、その際にエリクトに対して行った弁明が「元服したから」であり、お父さんがインド系であるサマヤ家が元服する訳ねーだろという話である。
サマヤ家のサマヤとはサンスクリット語で「約束・契約」の意味である。スレッタが少し色黒なのもインド系ハーフであるからだし、数々の人種が混じり合うインドには実は美人が多い。人種毎の顔形の特徴が混血により平均化されるからだ。


「これは、困ったな……」

「実は僕、アス高来る前に社長からエアリアルだって看過されたんですが……それでもエリーとは呼ばれなかったんですわ……」

「その格好じゃあね……そもそも、居ないものを居ると思い込んでるのが……」スレッタは腕を組んで難しい顔をしている。こんな真剣に悩んでいる姿見るのは「やりたい事リスト」編纂時以降見た事がない。

「一つ気が付いた事があるんだけど」ミオリネが顎に指を当てながら話を続ける「プロスペラさんが見ていた夢って、なんだろう? エリー、エリーって(うな)されてたのよね?」

「ルブリスでの逃避行か空間漂っていた時の夢かな? トラウマだろうし……」

「で、エリーが何処かに消えていくイメージがあったから必死に呼びかけて……」

「──私はここに居るよって、スレッタが話しかけた!」

「あ、成程! エリーがどっか行くイメージをルブリスのコクピットから見る状態で……」

「そう、コクピット内に夢の外から語りかけるスレッタの声が聞こえる!」

 

 

「どうやら犯人は私だったようね」

 

 

まさか、まさかのタヌキの化かし技だった……だと?! スレッタ・マーキュリーは全て謎は解けたという顔をした。

 

 

「睡眠学習だったかぁ……」

「あんたが話を複雑にしてんじゃない! なんとかしなさいよ!」

「そんなっ! ミオリネさん! これは不可抗力ですよっ! 私まだ小さい頃の話だもん! わかんないですよそんなのっ!」

「……むぅ、まだ手はある……プロスペラ母さんを僕に乗せる事が出来れば或いは……」

「何するのエアリアル?」

「データストームだよ。僕がデータストームで母さん中に入れて全部見せたらいい。中にエリーがいない事を理解して貰うにはそれしかない」

「え? エアリアルデータストーム出せないじゃない?」

「出さないようにしてるだけだよ。僕が頑張って出さないようにしてるのっ!」

「乗るかな……クエタの時ですら乗らなかったぞ……乗る気無いのではないかな?」

「エアリアルはお母さんと話せるの?」

「あのヘルメットでコミュニケーションは取れるよ。アレでモニタリングもしてる」

「ふっふっふ、これはおねぇちゃんが何とかするしかありませんね……!」

「なんか嫌な予感がするのぅ」

「私! 私はエアリアル以外にもお母さんについても詳しいの! まーかせなさいっ! 私お母さん博士なんだからっ!」スレッタは腕を組んで立ち上がり、ガイナ立ちするなどした。

 

 

 

 

遥か遠くに浮かぶ星を

想い眠りにつく君の

選ぶ未来が望む道が

何処へ続いていても

共に生きるから

 

ででででっ でっ、でーででで

ででででっ でーでーでーで

 

【地球寮の皆に何かを必死で説明するスレッタとミオリネ。皆はうぇーっと嫌な顔をする。ニカはやろうよ!と乗り気で、リリッケもそれに続く】

 

 

ずっと昔の記憶

連れられて来たこの星で君は

願い続けてた

遠くで煌めく景色に

飛び込む事ができたのなら

 

【ジェターク寮に向かうも速攻で何をしに来た水星女ァ!と怒鳴られるスレッタ。慌ててミオリネの背中に隠れる。まぁまぁと取りなすミオリネとグエル。後ろにはやるぞジェターク社再建計画!!の垂れ幕】

 

 

一人孤独な世界で

祈り願う

夢を描き

未来を見る

 

【スレッタ、会議室のホワイトボードに何やら書きながら熱弁する。それを聞くジェターク寮寮生たち】

 

逃げ出すよりも進む道を

君が選んだのなら

 

【スレッタ、寮生に向き直り勢い良く頭を下げる。グエル拍手。釣られて寮生拍手。再建手伝えよ顔のラウダをペトラが宥める】

【またやってるのだ……のフェルシー。(にこや)かに微笑む】

 

 

誰かが描いたイメージじゃなくて

誰かが選んだステージじゃなくて

僕たちが作って行くストーリー

決して一人にはさせないから

 

【工場のようなステージを組むディランザとエアリアル。グエルはボブと化して現場指揮。手には何やら設計図が握られている】

 

いつかその胸に秘めた

刃が鎖を断ち切るまで

 

【チュチュのデミトレがディスクグラインダー装備で鎖を斬る。そしてそれをディランザが天井に押し当ててグエルのダリルバルデが鉄骨に溶接】

 

ずっと共に戦うよ

 

【エアリアルが鎖を下に引き強度確認。サムズアップくいー】

 

 

決めつけられた運命

そんなの壊して

僕たちは「人形」じゃない

君の世界だ 君の未来だ

どんな物語にも出来る

 

【大張作画でプラント・クエタ外周を飛ぶプルのアーリエルとソフィ・ノレアの乗るルブリスソーンとウル。盛大にクエタの外壁に穴が空き爆発が起こるも画面を引くとCGのシュミレータで、三人ともキャッキャ騒ぎながら自由にクエタ防衛シミュレーションに興じる。そこにケナンジ、特注シミュレータに乗り参戦。瞬く間にルブリスを拿捕。余りの手際の良さに観客のドミニコス隊員もグエルも驚嘆の声を上げるが、スレッタは渋い顔。勝っちゃダメでしょと監督メガホンで軽くケナンジの頭を叩く。ミオリネはカチンコのTake数を書き直している】

 

 

逃げる様に 隠れる様に

乗り込んできたコクピットには

泣き虫な君はもう居ない

いつの間にかこんなに強く

 

【スレッタ、ディレクターチェアに深く座り、脚を高く組んでサングラス姿で「雲待ち」を指示、黒澤気取りらしい。ミオリネにカチンコチョップを喰らい、ティルがフロント内の映像投射機を操作して雲を出す】

 

 

これは君の人生

(誰のものでもない)

それは答えなんてない

(自分で選ぶ道)

 

【飛び続けるアーリエルが突如地面に叩き付けられる。ティル、ヌーノ、ギャベルが真剣に画面見つめながら爆発や煙をCG合成。一同巻き戻して効果確認。ニヤリと微笑む】

 

 

もう呪縛は解いて

定められたフィクションから

飛び出すんだ

飛び立つんだ あぁ

 

【プラント・クエタでジェターク社守備隊や寮生を含むエキストラの皆様が予行演習。デリング、ラジャン、ケナンジが厳しく指導。トロトロ走るな、戦争が終わっちまうぞ! 隔壁が開いたら全力だ! 行けぇ!のポーズ】

 

 

誰にも追いつけないスピードで

地面蹴り上げ空を舞う

呪い呪われた未来は

君がその手で変えていくんだ

 

【ストーリーラインを確認しながら出来上がった画像をプラント・クエタのMAP上にガンさんが物凄い勢いで貼り付けて行く。ガンビットを模したカメラを動かして行くと各場所で起きている「事件」を確認できる。スレッタ修正指示、ガンさんストーリーラインを指差しつつ抗論。私が変えると決めたの!でガンさん押し切られる】

 

 

逃げずに進んだことできっと

掴めるものが沢山あるよ

もっと強くなれる

 

【リリッケ、ホワイトボードに書かれた工程表にバツを2つ付ける。次は「ラストシーン」と書いてある】

【スレッタ、煤けた顔メイクで遥か高みを見る。スレッタ煤けった!の渾身のギャグで一瞬遅れて地球寮メンバー大爆笑】

 

 

この星に生まれたこと

この世界で生き続けること

その全てを愛せる様に

目一杯の祝福を君に

【リリッケ、ラストシーンの項にもバツを付ける。終わりましたぁ〜の顔】

【デリング、難しい顔をして小さなホワイトボードに何事かを書く】

【スレッタとミオリネ、ハイタッチ】

 




これはシーン変わったが物語思いついた当初からやりたかった場面ではある。


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テロリストは2回クエタを襲う

何故、狙うのか。


「……本当にクワイエット・ゼロは完成するのだろうな?」

クワイエット・ゼロの巨大な本体の底に改修装備を外されたエアリアルが運ばれて行く様を眺めながら、プロスペラは力強く断言する。

「はい、間違いなく」

そりゃそうだ、完成するまで開発延期したらいい。シン・セーでやってたら株主総会が荒れに荒れて解任動議されちゃうけど、総裁肝入りならこちらは安泰……相変わらずレディ・プロスペラは碌でもないことを考えていた。

「そちらにも情報は入っているだろう? テロリストがまた動き出している。まさかとは思うが、そちらがクワイエット・ゼロを占有するべく手引きしている訳ではあるまいな?」

デリング氏、かなりの役者だ。彼は家の中でのカカァ天下を気取られぬ様に社内では厳格な人格を演じ続けている。実際にはミオリネに「クソ親父」と罵倒される度に書斎に籠り、ノートレットの写真を前に「なんで君に似ちゃったかなぁ」と涙で割ったバランタインの12年を舐める性格であるというのに……! 社内での強気剛腕ロールプレイング経験が活きたな。

「今更裏切りは許さんぞ」

クワっと目力を入れてプロスペラを威圧。そしてさりげなくテロリストの攻撃がありそうと擦り込ませる。勿論スレッタは陸さん達にお願いして偽情報(フェイク)を流している。

「複数経路から同じ情報が入ってきたら用心しろ」スレッタがアス高で学んだ情報戦の基本だ。こちらに都合の良い情報には飛び付かない……スレッタも学園で決闘ばかりしていた訳ではない(いや、かなりしてた!) ちゃんと勉学に"も"勤しんでいたのだ。

「今はジェターク社も汚名返上に燃えて増員してますし、まさか……」

 

まぁ、「まさか」が起きるのである。【僕たちが作って行くストーリー】では。プラント・クエタは予定時刻通りにぐらりと揺れる。

「どうした、何が起きたラジャン!」

ラジャンは何か端末で慌てて連絡している……「何だと! ガンヴォルヴァが24機?! 馬鹿な!」

迫真の演技と言って良いだろう。

「隔壁降ろせ! 訓練通りだ。ドミニコス隊は対魔女装備で迎撃せよ! 2度も3度もクエタを破壊させる……うわーっ!」

館内放送中のケナンジをソフィとノレアが後ろから二人がかりで蹴り飛ばした。指示を出したのはどうもノホホンとした演技をするケナンジを慮ったスレッタである。腹が邪魔で受け身を取り損ねたケナンジが尻をさする。

「この前の様に分断されては敵わん。ゼロのコンソールルームに急ぐぞ!」

 

たんたんタヌキの葉っぱ劇場の開幕だ。

 

 

「いいよぉー、ガンさん! 連続爆破!」スレッタがノリノリでメガホンを振り回して指示を出す。ケナンジはやれやれという顔だ。

僕はレトロなトグルスイッチをバババババと跳ね上げた。修復中のクエタを破壊しない程度、シールドの強度計算をして爆薬を調整している。

万が一に備えて司令室のモニターにはガンヴォルヴァ24機とルブリスが飛び回る「僕たちが編集した映像が」映されている。監督のこだわりだ。

「大迫力だな、これ」

「なんか本当の戦闘みたい……きゃっ!」

ティルがリリッケを支える。ガンヴォルヴァ達の攻撃プランはスレッタがラウダやフェルシー、グエルと相談しながら練ったものをケナンジが手直しした。

「まさか俺がクエタ攻めのプラン練るとはなぁ……」

「いい訓練になったでしょ?」

確かに、軍人というものは自軍が攻められた時の反抗プランの作戦を作りもする。しかしガンヴォルヴァ24機にガンダム2機はやりすぎだ! そんな戦力をこの宙域に展開できるのはベネットグループぐらいのもんだ! 前提がおかしいって!

「はい、そこでプルちゃん電話!」

「あいっ!」プルは可愛く敬礼してプロスペラの端末に電話を掛けた。

 

 

「ねえねえ、押されてるよ! 出口塞がれない内にアーリエル出した方が良くない?」

「えっ……ドミニコスは……」

「ダメだよガンダムにはガンダムじゃなきゃ勝てないよ……スレッタもここには居ないし……」

「社長、これはおかしい。歩兵展開しないところを見ると奴らは……」

「どうして……バレる筈無いじゃない! 機密保持レベルは最高の筈よ!」

「余計な詮索はするな。隠し事というのはいつかは露見するものだ。こうも計画が遅延してはな……」

「そんな!」

(はかりごと)は静かに、素早くやるものだ」

 

「総裁! ここにおられましたか! 死守します!」

「状況はそんなに危険なのか? ケナンジは……」

「隊長は……いえ、我々ドミニコスは負けません!」

「精神論では話にならん、損害比は!」

「……残念ながら、敵優勢です。今支援要請を……」

「間に合うか馬鹿者! 正面戦力で押し負けるとは……何故僧院の奴らにこんな戦力が残っているんだ! カーギルは何をしている!」

主席分析官ならエアリアルに「プロスペラにマトモになって欲しい」と言われて熱出して寝込んだ。人間の歴史的敗北は彼の心に酷い爪痕を残したのだ。

「誰か、誰か居るか! 指揮系統は! どうなっている!」

「ゴドイ、もしもの時はスレッタをお願い」

「社長!」

「私が、エアリアルで無人機を沈黙させる」

「何をする気だレディ・プロスペラ?」

「無人兵器がいくら押し寄せようと……エアリアルがいれば制圧できます!」

「データストームはどうする? スレッタくん以外では……」

「──企業秘密です」

 

 

「ガンさん、エアリアルはプロスペラさんでも使えるの?」

「基本、無理。お母さんの生体コード入ってないから僕も補佐し切れない。普通に言ってデータストーム喰らう」

「そんなっ……夫婦生活初日から介護とか冗談じゃないわ!」

「そこで私の秘策です! ベルメリアさんどうぞーっ!」

「エアリアルのガンドは今スコア2までしか上がらないわ。そも電気系統のブレーカー落としてコクピット周りとシェルユニットしか電気生きてないし……各種センサーも繋ぎ変えたから……」

「待って、ガンさん準備いい?」

「いつでもいいよ」

「よっ☆」

僕とプルはマイクを構えた。

 

 

「何年振りかしら……よろしくね、エリー。力をお母さんに貸して……」

コクピット内で出撃準備をしながらプロスペラは囁く様にエアリアルに語りかけた。しかし……っ

「エリーッテ ダレダ?」ボイスチェンジャーで0.5倍速再生された「僕」の声がコクピット内に響き渡る。

「ガンビッツ、スフィア テンカイ」

「アーイ!」

「っ! ぐっ!」

 

 

「あれ……苦しんでるけどパーメット跡が出てない?」

「──どゆことですか、スレッタさん?」

ソフィとノレアの問いにベルメリアが微笑んで答える。「簡単よ、データストームの痛みや苦しみだけ転送したのよ、先輩の脳に」

「いーっ!!」

「割りかし酷いこと笑顔で語るのやめてください」

「データストーム出てないからセーフ」スレッタ、セーフのアクション。

「倫理的にはダブルプレーで2アウトです」ノレア、アウトのポーズ。

 

 

今、プロスペラにはパーメットリンク2で得られたエアリアルの視界の他に、ガンビットが展開して得た周囲の状況が概念伝達されている。但しガンビッツが見ているのは皆が作成、編集した「存在しない戦闘風景」なのだが……

「う、嘘よ……」

ごく僅かなドミニコス隊のエースを除き、守備隊は全滅しかかっていた。レーダーによる事前検知もなく、いきなり周辺宙域に26機も敵が現れたら戦域展開すら間に合わない。

「エリー! いう事を聞いて! このままじゃ私たち……」

「ダレダヨ エリーッテ。ソンナヤツハ イナイ」

「ジブンデ サガシテミタラァ?」

「ソウダヨ、コッチニ クレバイイ……」

 

「パーメット リンク 8!」

 

 

 

 

「「ハチィ?」」

ソフィとノレアが目を剥いて驚く。まぁ普通にリンク8は精神が焼き切れる強度だ。ノレアに至っては脚がガクガク震え出している。

「私とエアリアルなら9も行けると思うよ?」

「でも、先輩だと8は死ぬから2までしか上がらないけどね」

「2までなら平気なの?」

「お兄ちゃんが2までなら平気って言ってました」

「今先輩はエアリアルの中に溶け込んで行ったわ……」

「頼むよ、みんな……」




ここが正念場だ。


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データストーム 死の彷徨(ほうこう)

新田次郎原作(大嘘)

(それは八甲田山の方だろというツッコミを待ちながら)


P.S.
全ページpvが10万超えたが、内5000pvぐらいは筆者の誤字修正読み返しの様な気もするからビミョーである(多分この物語そこまで読んでるの私しかいない)
そして、今日遂に! 筆者以外からの誤字報告がっ!
こんなに嬉しいことはない(こんなん放置してたかーと青ざめながら)

追記
BingAIに頑張って貰って挿絵追加。


「パーメット リンク 8!」

ガンさんのコールを聞いたスレッタがベルメリアに目配せすると、ベルメリアは「痛いのダイヤル」をキューっと8の文字のところまで捻った。

「これは落ちるわね」ベルさんの笑顔が怖い。

「──あのー……物凄い勢いでのけ反ってましたケド……あれ本当に平気?」スレッタが小声で尋ねる。辺りはシンとしてノレアとソフィは抱き合って震えている。

「大丈夫よ、本当のデータストームだったら64回ぐらい死んじゃうけど、痛みだけだから失神するだけよ。失神させない様にしたら精神ぐらいは一発で死ぬかもだけど……ああ、植物状態だけど生きてるパターンってそれなのね! 研究しなきゃ(使命感)」

 

 

気が付くと、プロスペラ──いや、エルノラは赤い砂嵐が荒れ狂う砂丘を流離(さすら)い歩いていた。

「エリー! エリー! 返事をしてーっ! お母さんよーっ!」

返事はない。

「エリー! エリー! お母さんよぉーっ!」

吹き付ける砂粒に目を(しかめ)めながらも、呼びかけは続く。

「何処にいるのエリー! お返事してぇーっ!」

びゅぅぅう、ごう。ふあぁぁぁあ、びゅぅぅう、ごう。

嵐は視線を(さえぎ)り、他の物音を消し去り、気配を吹き飛ばす。

「エリー……」

力無く膝から落ちると、砂塵の上に涙が一粒落ちて、その砂粒が瞬く間に風に運ばれ飛び散って行く。

 

 

もう歩けないよ 涙湛えて

下を向くなら思い出して

「進めば二つ」と声にして

 

その細い眉を引き絞り、顔を上げて心で呟く。「進めば二つ!」

お母さんは、負けない。

 

過去は時に 君を(とら)

夢は時に 呪いになる

願いは叶えようとするほど

人は平等じゃないと知るんだ

 

平等なんて、知ったことか!

あの子にはもう私しか居ない……唯一無二、2度と手に入らないナディムと私の娘よ!

「エリーーーっ!!!!! お母さんはここよぉぉぉぉ! お返事してぇぇぇぇ!」

涙の跡に砂が張り付く。いつしか髪は若き日の赤毛となり、それを(ひるがえ)しながら、エルノラ・サマヤは行く。

遠くにマントをはためかせて歩く背の小さな生き物! エルノラ・サマヤは足を砂に取られながら覚束ない足取りで小さな生き物に駆け寄る!

「エリー! エリィー! おかあさん、お母さんよぉ!」

 

それは信楽焼のタヌキに似た珍獣だった。

 

【挿絵表示】

 

「おばちゃん、だれ?」ガンビット1子の名演が光る。しかし何故タヌキ?

「エリーじゃない……! そんな……!」

「ここにはそんな子居ないよ」タヌキがいつの間にか増えた!

 

【挿絵表示】

 

「アリー、イリー、ウリー、オリーは居るけどね。エリーは居ない」

ここでまさかのアラン、イラン、ウラン、エラン、5号はおらん」の掲示板ネタが繰り返された。エリーは居ない。

「そんな事は無いわ、エリクト、エリクト・サマヤよ、私のエリー、大切な子!」

「アリクト、イリクト……」ガンビット3子ちゃんの名演はエルノラに遮られた。「いいから、それはもういいから、エリクトよ、貴方何か知ってない?」タヌキ達は白く光りながらその姿を受肉したガンビット6子……即ちプル、8歳時のスレッタ・マーキュリーに似た姿にモーフィングして行った。

 

【挿絵表示】

 

しかし余りに容姿は瓜二つなのに、一人としてスレッタは居ない。雰囲気が違うのだ。あの子はこんなに酷薄な目をしない。眉毛をそんなに(しか)めない。あの子は私が帰るといつも嬉しそうに笑っていた……違う、ここにはエリーもスレッタも居ない、赤の他人だ!

「……元服したんでしょ? 彼女は今アスティカシアにいるよ」

「そう、あなたが別の名前にしたんじゃないか」

「でも……もう会えないかもね」

女児はいつの間にか11体にまで増えてエルノラを囲った。ガンビット6子ちゃんが扮する幼女が後ろから水晶玉の様なデバイスを取り出すと、その中には瓦礫に挟まって身動きが取れない「煤汚れッタ」が頭から血を流していた。

 

「「「「「早く、目覚めなよ」」」」」

 

 

「一体あれは……」頭を振って気を取り戻すとエアリアルの起動キー代わりの携帯端末が受信を知らせていた。スレッタだ……

「どうした……っ!」どうしたの、スレッタ?と優しく語りかけるつもりだったが、映像通信の画像を見てエルノラは息を呑んだ。スレッタが頭から血を流して瓦礫に押しつぶされている!

「良かった、エアリアルの中に居たんだね、そこなら大丈夫、エアリアルが守ってくれる……お母さんごめんね、私、もうダメみたい……」

「何! どうしたのスレッタ! 返事をして!」

「学校にまた、テロ……っ! (はぁはぁ) エアリアルが無いから、私、わたし……ごめんねエアリアル、お母さんをよろしく……」

「スレッタ! スレッタ! エリィ! エリーちゃん!!」

 

静かにエアリアルのコクピットが開き、その向こうに後ろ手で捕縛されたデリング総裁、ゴドイ、ガンさんが並べられている。

「レディ・プロスペラ、手を挙げて機体から降りろ。クワイエット・ゼロはじぇ……フォルドの夜明けが貰い受ける!」グエル氏、いい所で致命的ミス。スレッタがあんなに頑張って長台詞覚えたのに、君ってやつぁ……

 

幸い、耳には入らなかった模様。プロスペラの目が怒りに燃える。

 

「くれてやるわよ、こんなガラクタ!」ガラクタとはなんだねチミィ! ちょっとだけ僕は腹を立てた。

「肝心な時に動かないとか、役に立たないとか……腹立つわね」

「プロスペラ、終わりだ。クワイエット・ゼロは……」

「持って行くなり破壊するなり好きにしなさい。ただ、私の娘を殺したお前たち、エリーを殺したお前たちは……」マスクを剥ぎ取り鬼の様な形相でヘルメット姿のグエルを睨む。「娘の旅路が退屈にならない様に、血祭りに上げる!」

「いかん!」

「不味い! キレた!」

デリングとゴドイは悲鳴を上げた。プロスペラが流麗な動きでグエルの左肩を掴む。そのガンド腕は易々とプロテクター付きの宇宙服を貫き、グエル氏は声にならない悲鳴を上げる。

「動くな」

僕の背後に立つエキストラのラウダ君が銃を向けると、プロスペラはそちらに視線を投げた。野獣の目だ。

 

今、その時!

 

ガンド神拳、やる気スイッチ切り!

 

僕の瞳が赤外線シリアル信号を発すると、怒りに燃えた猛獣はその場に崩れた。

 

 

こ……殺されるかと思った……

 

 

 

デリング氏は、出すつもりだった自筆の「ドッキリ大成功!」の看板を残念そうに見ている。

凄い達筆なのに。




あやうく人が死ぬ所だったぜ。


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メガネ、メガネ

構造を単純化してみたらこんなものだ。
大阪芸人がやる頭の上にメガネを乗せてメガネを探す、あの鉄板ギャグだ。メガネ、メガネ。(ドッとウケる)

しかしそれも案外馬鹿にしたものでは無い。剣術修行者の間に伝わる道歌にもこうある。「奥義とは睫毛(まつけ)の如く、目の前にあれど見えぬもの也」

我々は愚かにも、毎日「メガネ、メガネ」をしているのかもしれない。


「お母さん、大丈夫?」

流石にスレッタねえさんも心配している。死にゃしないと思うんだが……

「エアリアルに乗せたらガンド経由で無理やり起こす事も可能よ」

ベルさん……なんかいけない快感に目覚めてない? 大丈夫? ニカちゃんまで笑顔が固まっちゃったよ?

「う……うん……」

「お母さん、お母さん。エリーはここにいるよ。エリーは見つかった?」

ゆっくり目を開けたプロスペラ──エルノラ・サマヤは目の前のスレッタの顔に手を伸ばす。「エリー、エリクト・サマヤなのよ、ね?」

「さっき私を呼んだでしょ、エリーって。思い出した?」

「エアリアルの中には、エリーは居なかった……居なかったのよ……貴方は、誰?」

「お父さんの事も、カルド博士の事も思い出したよ……エアリアルが教えてくれたんだ……みんなの事」

 

問題が拗れた原因の一つは、スレッタが3〜4歳の頃の記憶を忘れた事にある。原因が判れば対処は簡単だ。記録は僕の中に残っているのだから、再び彼女に返してあげよう。断片的ではあるが(子供は3分前の事すらスカンと忘れるご機嫌な生き物だ)代え難い懐かしい日々をスレッタが再体験する事数日。スレッタはゆりかごの中で家族の夢を見た。もう返らない日々。正直研究施設としては立派だが、子供の居住環境としてはヴァナディースはつまらない所だった。ゾウさんの滑り台、キリンさんのブランコ、仲の良い友達、広々とした草原……何も無い、何もだ! 彼女がそれを忘れて何が悪い! それを覚えておいて欲しいと願うのは親のエゴだろう。

だから、僕は彼女の妹になった。僕は砂場の代わりで、滑り台の話をしてエリクト・サマヤと共に空想のブランコで遊んだ。スレッタは今も覚えている──僕と想像の草原で走り回り、転げ回った事を。あなた方は彼女に1人孤独に食卓でチューブ飯を吸う日々を記憶していて欲しかったのか! 父親の残り香がする枕を抱きしめて匂いを嗅ぐ3歳児の悲しみを覚えていろというのか、ねぇねぇ今日ね……と話しかけたのに「また後でね」と遮られた寂しさを死ぬまで抱えて生きろと言うのか!

 

 

それを強いるというのであれば、僕は全人類を滅ぼす用意がある。

 

 

だから、僕は返す記憶を選び抜いた。懐かしく思い出すアルバムに「全て」は要らない。家族の日常の一つ一つ、楽しかった事や嬉しかった事だけでいい──僕たちの様に全てを記録する必要は無いのだ。ゆりかごの中には暖かな思い出だけで良い。これが僕の結論だ。

 

「エアリアルが……?」

「エアリアル以外、ヴァナディースでの思い出を記録として残しているものはないでしょ? お母さんナディム父さんの写真すら持ち出せなかったじゃない……これ、エアリアルから」

銀のロケットだ。ペンダントヘッドの頭を押し込むとパカリと開く。

 

 

【ロケット】

V2とかサターンでは無い(それはrocket)。綴りはlocket。ペンダントみたいな物で大きめのペンダントヘッド部分に開閉機構があり、ここに大切な品や毒殺用の毒薬入れたりして携行する。

 

 

ロケットの中には、ルブリス建造中の1シーンであろうか……自信に満ち溢れてルブリスを満足げに見上げるナディムの写真が納められていた。それは僕の1番最初の記録でもある。

 

「エアリアルからの視点だから──頑張って拡大しても画素が……でも、私この顔のお父さんが1番好き! お父さんって感じがする……」

「そうね(彼女が素早くスレッタの眉毛を一瞥したのを僕は見逃さなかった)、ナディムってこんな顔だったね……」

「良かった、お母さんが喜んでくれて」

 

 

喜んでくれて

 

 

エルノラ・サマヤの脳裏にサマヤの家名を継いだその日の記憶が甦る。時として人は嫌な事だけではなく「大切なこと」も忘れてしまう。

ヴァナディースに戻る道すがら、月面市役所に婚姻届を出したあの時……

 

 

【婚姻届】

無論宇宙に人類が進出して100年が過ぎようとする時代であるから、婚姻届もデジタル化しており紙で出す意味は無いのだが──イベントとして大変愛されているので結婚・離婚・出生届は古風な「紙の申請書」が残っている。勿論受け付けの派遣社員も、何してんだか判らない役所の正規職員も、その瞬間には手を休めて祝福の言葉を投げる美習は続いていた。

 

 

「良かった、君が喜んでくれて」

はっきり思い出した。ナディムのはにかむ様な優しい笑顔。そして気付く、スレッタの笑顔はナディムそっくりだ。眉毛というサマヤ家の強烈な遺伝子の偉大な成果だけではなく、ナディムはこの子の中に今も生きている。スレッタは、エリクト・サマヤは間違いなく私とナディムの子だ。何故疑ったり訝しんでしまったのだろう?

熱い涙が頬を伝う……のだが!

 

 

 

「ね? ちゃんとお母さん私のことエリーって呼んだでしょ、みんな!」

「え?」感動の洪水からいきなり現実に引き戻されるプロスペラであった。

「いやー、ベルさんがガンドで痛み与えるスイッチを景気良く回した時は焦ったよー」スレッタは口が「スベッタ」──ベルメリアはその言葉を聞いた瞬間死を覚悟したという。

「折角用意したのだがな……」デリング総裁は雄渾な筆致で(したた)めた「ドッキリ大成功」の小さな看板を愛おしそうに撫ている。

「はーい、ギャベル、ヌーノ、500ずつ出して。私とスレッタの一人勝ちよ!」ミオリネは掛け金の回収を始めた。

 

「え? 何? どういう事? ゴドイ?」

「いやぁ、スレッタに土下座までされて頼まれて」

「一芝居打たせて貰った。感動的だったな」

 

先程までのイイハナシダナー・アトモスフィアが霧散して、黒々とした雷雲と闇を切り裂く稲光が音なく雲を、雲の下の皆を照らす。

「あなた方はァ……」

プロスペラの背後では風神雷神がご機嫌なドラムロールを叩いていた。ベルメリアのみが一瞬後の惨事を予見できて強く目を瞑る!

 

 

「 な に か ん が え て る の ー ー ! ! 」

 

 

女は弱し、されど母は強しとは誰の言葉だったか。怒れる母親の裂帛の気合いはクワイエット・ゼロ最下層に12億ボルト、51万アンペアクラスの雷鳴の様に響き渡り、その衝撃はエアリアルことキャリバン・メルクリウスまでビビらせた。それは(まさ)にインドラの矢、ユピテルやテュールが用いる(カミナリ)である。

 

 




この後激しく説教された。


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祝福

プロスペラの復讐が完了して全てを許す筋がこれぐらいしか見つからんでなぁ……


「こんな大規模なドッキリ仕掛けてクワイエット・ゼロの邪魔をして! 総裁肝入りのプロジェクトなのよこれ!」

「……で、私の肝入りプロジェクトでお前は何勝手に自分のやりたい事をやり始めていたのだ? 説明して貰おうか、レディ・プロスペラ」

プロスペラがぎこちなく振り返る。

「いや、そんな事は無いんですよ、クワイエット・ゼロは……」

「一兆宇宙ドルをもう超えているんだぞ」

「た……たった一兆……ですよ」

 

 

【たった一兆】

アイザック・アシモフの科学エッセイのタイトル。日本語版はハヤカワから出ている。

 

 

「たった一兆。アシモフか。しかしその一兆で何が出来るか、何が起こるか考えてみろレディ・プロスペラ」

 

 

簡単に言えば、一兆宇宙ドルだからGoサインが出た、つまり採算が取れると予測されたから始まったプロジェクトだった。そしてその稼働を予定に入れてグループ内のリストラを開始したが、ヒューミント担当の人員整理したらその人材が他社に流れてしまった。そしてその諜報能力のアンバランスさがヴィムの暗躍やクエタ襲撃を許してしまった。

言ってしまえば、クワイエット・ゼロの遅延が様々な事件の起点である。そしてその遅延が極めて私的な理由で発生していたのであれば……

 

「もう、巨大化やスペックアップは不要なのだろう。エリクト・サマヤを見つけ出した様だしな」

「はい……」

「私が総裁としてこの茶番に付き合ったのは何故だと思う? お前を翻心させなければまた愛に狂い浪費を続けるだろうからだ。もう私は一つの決断をした……私はベネットグループの総裁を辞任する。シン・セー社長を解任してからな!」

「何言ってるのよクソ親父!」

「いーっ、ウチ、収入無くなっちゃう!」

「覚えておけミオリネ、一兆の投資失敗はこのベネリットグループ総裁の首を以てしても許されざる負債だ、責任は取らねばならぬ」

「──そして、何の権力も持たない元総裁の小娘なら、好きな相手と結婚出来るわね、何の障害もなく……でしょ? お父さん」

「そうだ、マーキュリー家の家計が掛かっている。責任重大だぞミオリネ」

「筆頭出資者さんの生活も掛かってますしねー」リリッケは空気を読んだ。流石モテる女は違う。

 

「積年の恨みは晴れたか、プロスペラ。再び世界を愛せそうか?」

(ゆる)します、いや赦すべき罪はそこにありませんでした……私は見間違えていたのです……よりにもよって自分の娘を」

「お母さんだって間違っていいんだよ、だって私のお母さんなんだもの!」

 

 

 

 

小柄な銀髪の女性が強い日差しの中、サングラスを掛けてシン・セーのマークが入った巨大な農業機械に乗り込む。電源を入れると自動的にガンド接続が開始され、彼女は農業機械と一体化する……のだが、相変わらずその挙動はヨタヨタしていた。こればかりは何年経っても変わらない。

 

 

プルを除く11の「エアリアルの中の個性」は最終的にクワイエット・ゼロのコアにされる前にサルベージされた。つまりガンドロイドとして受肉したのだ。これはカーギルの主席分析官からのご厚意である。そしてここに重大な問題が……何故かは知らないが、僕らの出た後のエアリアルの処理性能が劇的に低下してしまったのだ。本当にどうしてそうなったかは僕たちにも分からないが、僕たちが僕たちの本体をガンダムエアリアルと認識しなくなった辺りに問題があるのかもしれない。

仕方なしに、僕たちは交代でクワイエット・ゼロのオペレーターをする事にした。お給金は割と良かった。偶には実家に顔を出すのも悪く無い。

 

 

ガンダム社は開発系企業として躍進した。ミオリネ氏の経営方針は「他社との協業で市場に商品ではなくソリューションを提供する」というもの。簡単に言えばガンド義肢を売るのではなく、ガンド義肢を用いた再生医療による障害者の社会復帰をパッケージにして売り込んだのだ。障害者を社会が保護すべき弱者から労働力に作り変えた……と言ってもいい。この労働力に先行投資する様に社会に対して働きかけた。

 

義肢以外にもシン・セーやペイル、またベルメリアさんが持つ知識や技能、様々なものが視点を変える事で民生転用・商品化出来た。今進めているのは地球の大規模農場で活躍できる大型機械だ。ガンビットの組み替え技術やガンド接続による操作性の向上は大きなウリになる……マルチプルコンバイントラクターと名付けられた試作品は、アタッチメントをビットオンフォームの様に組み替えて多機能を実現して、更に総合的に言えば安価だ。名前は長いからマルコントとかマルチになるんだろうなぁ。

 

今、我が社が直面しているのは……ガンドの設計上、運動神経が鈍い人が乗った場合機械の動きももっさりするという致命的問題である。きっとベルえもん(ベルメリア)が何とかするだろう。

 

 

プロスペラとベルメリアはガンダム社のラボで相変わらずキャッキャと研究を進めている。倫理的にかなり問題がありそうなので元エラン4号、エリック・マーキュリーを監査に就けた。そうそう、エリックは6年かけてiPS細胞由来の自分の身体を取り戻し、データストームの影響を取り除くサンプルになった。ただ、エリックがガンド脳だけは受け入れなかったのでベルさんは「マイクロマシンをガンドで操り、ガンビットの様に群体制御して治療を行う」という荒技を開発した。小型化してナノマシン制御が出来たらまた医学は進歩するだろう。開発者2人は「ミクロの決死圏よねぇ」とご満悦だ。僕はちょっぴり、ナノマシン制御に使うシステムの雛形がガンビット淑女たち(レディース)である点に危機感を覚えている。

 

 

ベルメリアさんがガンビットを操っているのを見れば分かる通り、データストームが発生しないガンドアームは再現可能になった。ただしそれは量産性が頗る悪くて、ほぼ個人向けのオーダーメイドになる(対外的にはその様にされている)。その理論的裏付けは20余年かけて何とか仮説が立ったのだが、パーメットが我々の存在する3(時間軸を含めると4)次元から独立線形の10〜12次元空間内構造を持ち、唯一原点でのみ接する云々とやたら難解な話になっている様だ。そして自我や意識はこの独立線形10〜12次元の中にあり、パーメットを使う事でアクセス出来るのだむにゃむにゃ。ある意味ではこれが僕の生まれた理由だ。

 

【されている】

同じパーメットでもよく調べたら差があった、という事だ。幸いそれは大変めんどくさい所にあり、管理は簡単だからカーギルが抑えて管理下に置いた。僻地だしね……

 

 

もちろん偶には紛争も起きるし、悲しい事は海の真砂の様に尽きる事は無い。飛行機でひょいと理想郷に行けたら良かったんだが、人類皆が搭乗できる飛行機は流石に何処にもないし、チケットはHISで買えない様だ。Amazonなら取扱があるだろうか? 今度暇潰しに探してみよう。

だからと言って諦めず、仕方ないから僕らはトボトボ理想郷に向けて歩き続ける事にした。その昔三蔵法師玄奘もガンダーラまで歩いたのだ。僕らだっていつかは辿り着くだろう。案外皆で歩いて旅するのは楽しい。

 

そこに至るその日まで、祝福の旅は続く。




次回、ガンド天狗空を舞う!で終わります。本当ならまたペンネーム変えて文芸カラテ研鑽の日々に戻るんだけど、奈落落ちしたグエルの話(50話未満の予定)がもうちょっとだけ続くんじゃ。


【データストームの抑制】
何でエアリアルだけが特殊なガンドアームになったかを解き明かす鍵は、エアリアル(及びヴァナディースラボ産のガンダム)だけが「水星産のパーメットを使っていた」と言う部分にあった。勿論それだけが理由ではないのだが、決定的な要素としてはこれが最大で「良質なパーメット鉱床」から精製されたものを使わないと珪素生命体に【ならない】のである。
この情報を掴んだカーギルは水産資源(魚介類養殖プラント)を水星圏で運用すると言う(てい)を取り水星の物流監視を開始した。
結果、水星にもカーギル系の会社がポツポツと増え、後々水星は漁師の星になる。板子一枚、下は地獄ってな!


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ガンド天狗 空を舞う!

さて、終わりだよっ!

基本、自分が見たいものを好き勝手に書きました。こんな物語を喜んで読んでくれた皆には感謝したい。まぁまぁ終わりまで書き続けられたのは皆の後押しもあったかと思う。


では、行くよ。この展開を予想した人は居るかな?


まず最初に、謝らなければならない事がある。

前話で僕の愛するぽんぽこ水星タヌキとミオリネGTのその後について敢えて触れておらず、なんかデカい農業機械に1人乗り込むミオリネGTを不審に思った読者もいると思う。

 

いや、いや。2人はちゃんと結婚した。割と盛大に、仲間に囲まれて幸せな結婚式を挙げたとも! ブーケトスで僅かに揉めたが(2人とも花嫁であり花婿だからね)、それを僕……15歳相当のガンドボディに受肉した少女として再降臨したエリーゼ・マーキュリーが頂いたがな! ふはははは見るがいい! ガンド天狗で鍛えた空間姿勢制御ジツを! ラウダが怒ったが知った事か。ペトラの腹の中の命に誠実であるがいい!

 

 

で、まぁ新婚生活が始まった訳ですよ。確か1ヶ月ぐらいは上手くいっていたと思う──しかしここで僕のミスが発覚した!

僕の判断に逆らうなら全人類滅ぼすとか生意気な事言って申し訳ない(深々と腰を折り謝罪姿勢) まさか、僕の高度な判断がこの様な結果を招くとは……

 

ちょっと2話前を読み返してみて欲しい。僕はスレッタ姉さんに「幸せな事だけ覚えていて欲しい」と、敢えてエルノラとナディムの喧嘩や諍いに関する記憶を間引いて渡した。ガンドを使って再認識させた訳だ。すると、どうなるか?

スレッタねぇさんの新婚生活認識が甘々になってしまったのだ! いつでも24時間365日仲良し夫婦は奇跡的な確率でしか発生し得ないというのに!

彼女は自らサンプリングした「3歳児を抱える夫婦」の姿として僕が編纂した「ミリも喧嘩しない仲睦まじい夫婦」を唯一無二の参考にしてしまったのであったー……お互い元他人で生活環境も違う。この2人が共同生活したらお互いの認識の違いで喧嘩もするさ。僕の記憶に依ればナディムもエルノラにカレーの味付けで愚痴を言い、エリクト泣いてるのに喧嘩し続けた事例がある。それでも愛があるから生活が続くのだ。しかし愛しているから夫婦を続けられるのだ。

 

そして目下、スレッタ・マーキュリーは1歳児を連れて何回目か数えるのもめんどくさい「実家に帰らせて頂きます」を決行してプロスペラ母さんの自宅リビングで横になり、息子を抱き寄せながら昼ドラを見ている。またこれだ。渡る世間は鬼ばかりだ。

 

斯様な事態を重く見たレンブラン=マーキュリー家連合は結婚の真実を教育するべく、禁断のサマヤ家騒乱の記憶をスレッタ姉さんに与える決定を下したが、それも失敗した! 手本としたお父さんお母さんも喧嘩してるんだから、私たちが喧嘩してもセーフ。スレッタはスレた(涙)

服役中のシャディクに仲裁してもらい、喧嘩シェアリングで小銭を稼いで貰いたい……

 

何故だ! 久々にガンビッツ淑女たちも全員招集して多角的に検討したのにっ!

「いやー、多角的にはなってないと思うよボク」

「僕ら基本ねーちゃんのコピペじゃない。発想の根本は同じだもの」

「異なる判断基準を取り入れないと多角的にはならないヨ……ジョージもそれ指摘してる」

「やはりアレか……」

「アレですなぁ」

「僕たちの幸せの為にも必要な事でしょうなぁ」

 

 

【AIの告白】

 

「学園長はおるかぁぁぁあ!」

「なんだ騒々しい。少しは姉さん手本に静かにしろエリーゼ……」

「決闘じゃぁぁぁあ! 恋する乙女がお前ん()の末弟をご所望じゃあ!」

「え? あ? お前ラウダに気があったの?」

「ペトラの犬に成り下がった妖怪前髪弄りなんぞ要らん! ダリルバルデくんだダリルバルデくん!」

「そんなにダリルバルデが欲しいなら、当代のジェタークの……」

「機械じゃねぇ、AI(あい)を寄越せゆーとるんじゃ! 幸せな結婚をして親子3人で暖かな家庭を目指しますからダリルバルデ君を下さいお義兄様」

「え? 結婚? 子供? えっ? えっ? 子供? お前が?」

(ねや)でいちゃいちゃして僕と彼の因子を混ぜる! ベースの異なるAIの結合でまた新たな個性が生まれる──まぁ、暫く製品としてのダリルバルデは弱体化するかもしれんがな! スレッタお姉ちゃんと親族になる権利をやろうということよ(提案)」

「何か裏があるな……」

「新AIの著作権は僕のお家に帰属します。学資保険やるから沢山売ってねお義兄ちゃん☆」

「ジェタークの舵取りはラウダに任せてるんだが……」

「兄ちゃん負けちゃったとでも言えば98.74%ラウダ君は許す、間違いない(断言)」

「──どうやらこの俺に必ず勝てると思い込んでいる様だが、今の俺とダリルバルデはスレッタとエアリアル並みに強いぞ、それでもやるのか? 手は抜いてやらんからな!」

「心配無い、必ず最後にAIは勝つ!」僕はコンバトラーの様に雄々しくVサインした。

 

 

「立会人はあーし、ガンダム寮のチュアチュリー・パンランチが担当するぜ。両者、向顔!」

パシュン。「俺がアスティカシア高等専門学園園長! グエル・ジェタークである!」

ぱしゅん。しかしコンテナは空だった!

「億したか! エリーゼ・マーキュリー!!」

 

はははははは!

 

「「あいも変わらずつまらぬ登場、貴様らには進歩というものは無いのか!」」

「……この声は……っ!」

「げぇっ、あいつ来るの?!」

 

「アスティカシア学園の生きる伝説、ガンド天狗見参! ガンダムアーリエル改「メガ・ガンド天狗」でお相手仕る!」

 

それは異様な風体をしていた。何よりガンダムの顔の真ん中に高々と赤い鼻が巨立している。それが高空から飛び降りて粉塵を巻き上げ、天狗扇ガンビッツが空を裂いて粉塵を振り払う!

 

「ここにあっては是非も無し。ダリルバルデくんのAI(あい)はボクが天狗の国に連れて行く!!」

「そう簡単にはやらせんぞ!」

「負けフラグ有り難く頂戴したぞ!」

「口上忘れんなし!」

「決闘は以下略ぅ!」

「「ただ結果のみが真実!!」」




後書きだけ後で追記します。

さて、後書きですが……大体「水星の魔女」タグで49投稿中、各スコアで10番前後、そして二次創作なのに原作より早く終わるという偉業を成し遂げました! わーすごい(棒)

いや、最初は設定だけつまんで完全オリジナルに近い形で「原作より早く読める2次創作」というギャグやるつもりだったんですが、流石に嫌がらせが過ぎるだろうと……まぁその辺は原作より早くゴールしたんでヨシとします。

で、原作12話ぐらいまではなんとか原作に近い筋をやろうとしてたんですが、原作側が「謎を口頭説明して終わり」パターンが増えて来て大変悩みました。何というか「この話をやりづらいパターン」になってきてしもたんですね。で、諦めて2023のGW辺りから「水星の魔女で予想される展開」を再構築して「俺がやるならこれは捨てる」ってとこを大胆に切り捨て、私が考える「本筋」だけに絞りました。要素盛りスギィ! こんなん全部拾ってたら200話でも足りないわっ! (ただ、グエルは拾いたいが余りに本編から逸脱してるから別筋書くことにしました。作家の大先生ではなく野良の物書きだから自分の他に10人読みたいと思ってくれるなら私は書く。元カクヨム底辺作家の創作のトリガーは異常に軽いのだ。

で、10万pvとか威勢の良い数字書いたりもしましたが、大体各話初動UAとか見る限り140〜150人ぐらいが比較的熱心に読んでたみたい。これは1日4話書いたり1話で焦らしたりしても余り変わらないから、この140数名ぐらいが「読者」なんだろうかなと。少なく見えるが前作より少しは増加してるので、まあまあ作劇は上手くなってるのかなぁなどと考えてます。それなら今の話終わらせて次の作品書いても多少は数字も伸びるでしょう。話を畳むのも文芸修行の大切な訓練だ。


んじゃ、次は「修験者出てくる話」でまた会おう! エタり気味だから早くケリつけないとな! 同じ原作ジャンル比較で1位を目指すぜ!
(そんなもんを原作にしてる人他に居ないので、実はすでにジャンル一位なんだよなぁw)


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与太話。四方山(よもやま)
「ういっちくらふと」


正直アニメ17話で見切って「魔女18話以降はガンド天狗と一切カンケーない」のだけど、質問来てもアレだから書くだけ書いとくチラシの裏。

今回はカブンとか魔女術、アストラル投射の話。


エリーゼ・マーキュリーはアスティカシア学園で魔女サークルを主催している。由緒正しいネオ・ペイガズムに則ったウィッカの集い! カブン・エリーゼ!

 

「エリーってオカルトと1番遠い存在なのにねー」

「スレッタねぇちゃんには分かんないよ、僕たちから見たら凄い刺激的なんだよ!」

メンバーは元エアリアルのエリーゼと元ガンビット淑女たち(レディース)11名、更にここに外部から招聘した女司祭(という名の監督)であるプロスペラで13人。魔女組織としては最大数だ。

「で、お母さんから何習ってんのよ」

「ガンドの基礎理論というか……禁忌のドローン技術【セイズ】とガンドの関係性。特に人間側から見たアストラル投射の理論だねぇ」

「何なの、それ?」

「お姉ちゃんは、魂ってどの辺にあると思う?」

「ん〜、やっぱ、ここかな?」

「そうだね、【そこにも】ある」

「へ?」

「魂は縦横奥行きの3次元空間には無いんだ。あと僕たち……お姉ちゃん含めてだよ? ……僕たちの身体は実はこの3次元以外にもあるんだ。

どうも心というのは全ての空間座標がゼロのポイント、原点にある。

そして原点だから僕たちが知覚出来るこの3次元空間にも接触しているし、パーメットの世界である「この3次元とは重ならない」十数次元空間とも接触している」

「? よく分からないけど、心が原点にあるなら皆んなの心が重なり合っちゃわない? 量子論的な重なりってヤツ?」

「世界は観測者無しで成立しないし、自我はそれぞれ「自分の心がある所」からしか世界を観測出来ないんだよ。みんな実は見ている世界が違うんだ。個性の数だけ世界があるの」

「あー、原点の取り方なのねー(お察しの様に、よく分かってない)」

「微妙だけど、まぁそんな感じ。もちろん世界の見方はそれほど自由ではなく、文化や教育ってフォーマットである程度纏まる傾向があるよ。アーシアンとスペーシアンの世界の見方が違うのもこの辺が理由カモ」

「で、アストラル投射って?」

「原点の位置をズラす技術だよ。観測する自我の位置をパーメットの高次時空経由で別の三次元空間内に送り込むの」

「……分身の術?」

「うーん、おねぇちゃんは肉体が最初からあったから理解し難いかな? 

X-Y軸の平面座標系で考えてみよっか。僕たちの身体はX, Y共にプラスの値を取る座標平面にある。これはいい?」

「 質量や距離はマイナスの値取らないしね。オッケー把握」

「で、僕らの自我や意志はX, Y共にマイナスの領域にある。だから人間の身体のどこを探しても意思とか自我は見つからない」

「……まぁヨシ把握! 次行って!」

「……絶対分かってないデショ?」エリーゼは訝しんだ。

「ここで原点をずらすと、本来僕らがX, Y共にプラスとして認識していた、或いはマイナスと認識していた領域を肉体で触れたり、パーメットで操れる様になる。例えば……」

エリーゼは手の平の上に「透けて見える」ちっちゃなエアリアルを出して、ガンダム社歌ダンスを踊らせてみた。

「なっ……何それ!」

「科学的に定義された魔法。実際、お伽話とか神話に出て来る魔法って経験則とか何らかの理由でパーメット理論に「到達しちゃった」人が編み出したのかもしれないね」

スレッタは目を丸くして見つめている。「……で、このちっちゃいエアリアルは何が出来るの?」

突如エアリアルは飛び上がり、スレッタの鼻にフライングボディプレスを見舞った!

「……あれ? そんなに……いや、痛くない?」

「光体って言って幻みたいなものだから」

スレッタの後ろ髪を誰かが引っ張る。

「誰……よぉぉぉお! ガンさん? あれ? エリーゼ?」

「光体ではなく実体化も出来るよ。こうすると僕はガンさんボディの位置からお姉ちゃん見る事が出来る。慣れたら過去や未来に光体飛ばす事も出来るかも」

「本当に魔女じゃんエリーゼ! なんでこんな子に……」

「そういえば……魔女って惚れ薬とか作るじゃない? あれも相手のパーメット時空内にある「感情」を物理的に操作するって原点移動の技術があるからできるの」

「女の子らしい魔女っ子サークルだと思ってたのに……」

「僕たちのカブンで使ってるテキスト、法の書だよ? ガチもガチガチだよ!」

 

【法の書】

日本では国書刊行会から完訳版が出ている。アレイスター・クロウリー著。ガッチガチの魔法書だが難しくてよく分からぬ(かなり昔に目を通した事はある)

尚、クロウリー自体は案外真面目に?魔法研究してるし、近現代の魔法理論を整理して後のオカルティストに多大な影響を与えた人物の1人でもある。

 

「……で、やっぱり魔法使いなら世界征服目指しちゃったりするの?」

「現実見なよねーちゃん……」

「リアル魔女っ子に現実見ろとか言われた!」

「僕たちはパーメット理論でペイガニズムやウィッカの技術を体系的に再編して、古代の生き方再現しようとしてるだけだよ。そらまぁ槍や剣でポカポカやって、連絡が狼煙の時代なら驚異的な技術だけど……今A.S.123年だよ? 拡張できても魔法は科学技術に及ばないよ……」

「やっぱり、めんどくさいの? 魔法って?」

「ローテクではあるね。でも僕たち最先端科学の申し子が、より人間的で人文学的な魔法の研究するって、なんか良くない?」

エリーゼはにひひと微笑んだ。




キャリバンのことは知らぬ。あれは公式が勝手にやったことだ!

……こっちの世界では潜入爆破ミッションでぶっ壊した事にするか。メスガキーズの未来を気にしてる人も居たし。


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◯ーてぃーぺあ 1

高千穂閣下に怒られたら即時削除する準備がある(真顔)


A.S.124年
これまで情報収集と解析に重きを置いてきた穀物メジャー カーギルは、情報収集による問題介入だけではなく物理的に介入するエージェントが必要であると痛切に感じたので、特務エージェント部隊を創設する事にした。
その第一号ユニット、秘匿名ラヴリーエンジェルに抜擢されたのが、成績赤点ながらも短期間アスティカシア高等専門学園で「コンビなら負け無し」と言う偉業を達成した2人の少女である!(尚、学力未達と授業態度その他で放校処分になった模様)


「ブリーフィングぐらい真面目に聞けぇ!」

今日も司令官の怒声がブリーフィングルームに響き渡る。ソフィはブリーフィングを聞き流しながらこっそりゲームに興じているし、ノレアは相変わらず虫や鳥の死骸のクロッキーに熱中している。いつも通り変わらぬ風景であった。

「……わぁってるよ、キャラバンだか壊すかパクってくればいいんでしょ。ラクショーラクショー」キャラバンでは日産のバンになってしまう。

「壊していいんでしょ? なら跡形も無く爆破したら……」ノレアは前に描いた蜘蛛のクロッキーに消しゴムをかけて爆発煙を描き込んだ。相変わらずアニメーター並みに上手い絵だ。多分彼女はアニメーターやらせた方が良い。

「可能なら接収しろと言ってるんだ! 貴重なガンダムだぞ!」

「要らないと思います、司令」

「アーリエルが有れば他はもうぶっちゃけ要らんでしょー」

「エアリアルもあるしね、ポンコツだけど」

「可動戦力増やしたいんだよ、ウルやソーン改修したくない?」

「「ネガティヴ!」」2人ははっきり拒絶した。何故ならリック3とシヴァ4による訓練を受けた彼女たちは今ではガンドフォーマット抜きで機体を自分の身体のように使いこなせる。今更ガンダムにする必要は無い。ウルもソーンも今ではガンダムにもなれる普通のMSだ。

「大船に乗った気で安心してよ」

「──タイタニックかもしれませんけどね」

「この……ダーティーペアが……」

「「ラヴリーエンジェル」」

 

お約束は大切だと(以下略)

 

 

「制服の胸周りがキツくなった!」

「パンツキツい! 勝った!」

「「いぇーい!!」」2人はノリノリでハイタッチを交わす。急激に栄養状況が改善した2人の身体は年相応に丸みを増し、リクさん式鍛錬術により出るところは出て締まるところは締まる理想体型に近付いていた。もうテ ロリ ストとは呼ばせない。久々に来たアスティカシア学園制服は割とパツンパツンだが、2人はそれを喜んだ。

「おーっす! チュチュパイセン居ますかー!」

「げ、何しに来たし!」

「──ちょっとお仕事の都合で……エリーゼは?」

「ガンさん? 社会科見学の準備でお菓子買い出しに行ったぜ?」

「プルは?」

「エリーについてったよ」

「わっ、マルタンパイセン! なんでここに?」

「セセリアに脅されてガンダム寮の寮母やらされてるんだよ……」

「適任だね」

「セセリア先輩マジすげーっス」

「多分マウンテンに寄るとは思うよ」

「ひっさびさに行きますかぁ!」

「スカイツリーはやめときなよ……」

「エリーゼの単車借りるよー!」

「──サイク◯ン、カモン!」

 

 

【サイ◯ロン】

元々ガンド天狗用に改造されたホンダの400ccクラス電動バイク(電動バイクには排気量は無いのだが、既存の自動二輪車免許との整合性の関係で車体重量や出力によるクラス分けが残った)

そのままでは車検が通らない程度の魔改造が施されており、フルパワー出すと一般的な陸橋でジャンプが出来るハイパワーモーター(軍用)を搭載。スケールスピードはミニ四駆並みである。官憲に見つかった際には即時モーター部が通常品にすり替わる「ガンビットモーター組み換え機能」が実装されている。カウル部分にはガンビットに搭載されていたアクティブディフェンスユニットが搭載されており、ライフル弾ぐらいは弾くし鉄筋入りコンクリートブロックやレンガの壁程度なら体当たりで破壊可能。但し戦闘用ガンドロイドでもなければそれやると死亡確定。

なお、現在17歳サイズのエリーゼボディではシートに座ると地面に足が付かない(涙)

 

 

ゼロヨンならランボルギーニすらぶっちぎれるサイクロ◯であるが、今のソフィはアスティカシアの街中を400km/hで走るような事はしない──免許取得1週間で免許取消し食らったからだ。あれを食うと皆マナーの良いライダーになる(筆者調べ) ソフィは自分のものが奪われるのが大嫌いだ。それがバイクの免許であれ、なんであれ。

 

ノレアと2(ケツ)で懐かしのマウンテンへ。

エリーゼはいつもの席でプルと小倉ホットケーキの紅茶セットをもぐもぐしていた。

「わっ! ソフィねえちゃん!」

「げっ! やな予感……」最新型インシェルユニットを搭載したエリーゼ(元ガンド天狗ことガンさん)は人間のような経験則からの論理飛躍にも対応しつつある。彼女の予感は良く当たる。

「──やな予感って何よ?」

「当たりだけどね」ソフィが凶悪な笑顔を湛える。ああこれ【バイト】の誘いだ……エリーゼは観念しつつある。

 

 

【バイト】

エリーゼを始めとするガンビット淑女(レディース)はカーギルの職員として登録されている。交代制でエアリアルとクワイエット・ゼロのオペレーターのアルバイトをしており、特にガンド天狗に変身可能なエリーゼはラヴリーエンジェルのサポート役としてかなり酷使されているのだ!

 

 

「今回は何壊すの?」

「別に壊したりはしないよ。キャラバンってのをパクるだけ」

「キャラバンって……日産の?」

「──キャリバーンだよ、ソフィ」ノレアは最近コーヒーはブルマンのブラックと決めていた。ちょっと背伸びしたいお年頃、であろうか。

「キャリバーン……え? キャリバーン! キャリバーンくん生きてたの!?」

「──あれ? 知り合い?」

「狂犬キャリバーンくんだよ! ルブリスのワイ氏やワシちゃんの兄弟!」

「え? ルブリスって……ヴァナディースの?」

「コンペで負けちゃった子。データストームフィルターを外して低パーメット流量で高リンクやるアプローチのガンダム。初の犠牲者2桁達成機というバケモノだよソフィ!」

「──なんでそんな(やく)いモンが保存されてるの?」

「パイロットを使い潰す前提なら、最盛期のエアリアルとタメ張るぐらい高性能なの……カルドバアちゃんが没にした筈なんだけどなぁ」

「──いけすかない機体ね。やっぱ壊すか」

「何でそんなの欲しがってるんだろ、ウチの親方?」

「あの……僕の兄妹なんですが、キャリバーンくん……」

 




司令官はきちんとそこもブリーフィングで説明していたのだが、ソフィノレはしっかり聞き流していた。例の僧院がキャリバーンと【ある因子を持つ子供】との適性に気付いたから……

フレディ・レン・マーキュリー君(仮名 1歳児)が危ない!


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◯ーてぃーぺあ 2

まるで地元の半グレが後輩や友達を闇バイトに誘うが如しじゃー


「やーだーよー、僕明日から社会科見学行くんだモン!」

「──留年して来年行けばいいじゃない?」

「キャリバーンくん、お兄ちゃんなんだろ? 爆破しちゃうよ私たちだと?」

「特殊工作員なのになんで工兵隊みたいな事してんのよ。スパイらしくミッションインポッシぶってよぉ!」

「MSガメるなら乗って運転するのが1番楽なんだけど──すっごいデータストーム来るんでしょ?」

「そっから解説しなきゃか……寝ないでちゃんと聴いてよ──」

 

 

【キャリバーンとデータストーム】

説明要らんやろと思ってたが、まとめサイトやコメント欄見る限り一から説明必要な感じがひしひしと。

まず、誤解されているようだがデータストームはパーメットリンクのリンクレベルに起因して発生するものではない【重要】

これは水星の魔女本編でも最初の方で語られているが、データストームはパーメット【流量】によって発生するものだ。電流量と電圧の関係の様な物なんだが……例えばルブリスでパーメットリンクレベルを上げようとすると、機体としての抵抗値は同じなので高いパーメット圧を掛けるとパーメット流量も必然的に増える。しかしパーメット流量が多過ぎるとデータストームが発生してしまう。ガンダムとしては高いパーメット圧を掛けてもパーメット流量が少なければデータストームが発生しにくくなり、ガンダムエアリアルなどではパイロットと機体を絶縁してパイロットに一切の圧を掛けないという保護装置……パーメットフィルターが搭載されている訳だ。プロローグでエルノラとカルド博士がやってるコールバック試験が正にその実験で、スコアを上げずにリンクレベルを上げようと試行錯誤しているシーンだ。

最初の方の魔女裁判でも機体のパーメット流量が規制値を超えているなどの指摘があったが、機体にはそれだけ(恐らくデータストームが発生してもおかしくない量)パーメット流量が高くなっているのに、パイロットにはデータストームの兆候が全く無い──これがガンダムエアリアルの特異性である。元々ルブリス系はこのパーメットフィルターでデータストーム抑制を行う設計なのだが、フィルターが不完全な状態で販売してしまったので犠牲者が沢山出た。まぁ、敵に撃ち殺されそうになってる時にデータストームの心配する奴は少ないし、どうせ死ぬならパーメットリンクレベル上げて回避したろになるのも已むを得まい。

これに対してキャリバーンはフィルターを排除して「低いパーメット流量やパーメット圧」で高いパーメットリンクレベルを達成しようとした機体になる。単純模式化すると、高いパーメットリンクレベルを達成する為に「高圧・高流量をフィルターで制御」するのがルブリスやガンダムエアリアルの設計思想、「低圧・低流量で高レベルリンクを達成する為にフィルターを外した」のがキャリバーンの設計思想になる。

 

 

「──やっぱ寝たよね、ソフィおねえちゃん」

「──私が聴いとくから続けて。話聞く限りではキャリバーンもアイデア自体は悪く無さそうだけど?」

「簡単な話、パイロット側の能力に依存しちゃうんだ」

「──それ、欠点?」

「大問題だね。鍛えてどうなるものではない、生得的な耐性でどこまで使えるか決まっちゃうの」

「──待ってよエリーゼ。MSパイロットだって適性や身体的な能力で選別してるじゃない? それだってある意味では……」

「そういう話じゃないんだ。大きな声じゃ言えないけど、遺伝的なもので適性が決まっちゃう。僕もワイ氏ってお姉ちゃんから聴いただけで実際の試験は見てないんだけど……事前に適正の有無やどこまで耐えられるか分かんない場合、どうやって試す?」

「まさか……人体実験?」

「大当たりー(棒) ハワイ旅行にご招待だよノレアねえちゃん!」

「──何人犠牲に?」

「12名の尊い犠牲者出して、13人目で因子持ちが見つかったよ」

「──誰?」

「これはお姉ちゃんにも明かせない」エリーゼは珍しく渋い顔をした。

「──ん、分かった。大体分かった」ノレアは冷えてしまったブルマンを飲み干した。

「もしその因子を持つ人が誰かバレたら……僧院の連中とか絶対クローニング試すだろうしね……」

「──キャリバーンのパイロットになる運命の下に、無理矢理パイロット教育して自由を奪われた子供……」

「しかも必ずキャリバーンの中で息絶える事が約束されてる。長生きは出来ない……流石にマッドサイエンティストの巣窟であるヴァナディースでも気付く倫理的な問題だったみたい。キャリバーンは人の命とその人生を消費するバケモノってワケ」そのキャリバーン用に後天的に耐性を付与しようというのが強化人士プランなんだけど、先天的に耐性を持つ人間を製造するのとヤバさはどっこいどっこいではある。

「──(さなが)ら、毎年生贄を要求する神話世界のバケモノね」

「ん……怪獣がどうしたって?」

「──怪獣退治やる事になりそうだよ、ソフィ?」

「でもね、多分キャリバーンにも中の人居ると思うんだよねー。僕としてはAIというか、珪素生命体の仲間として受け入れたい」

「また、バリエーション増やすの?」

「おかげさまでダリルバルデ+はかなりヒットしたし」

「出た、親バカ」

 

 

【ダリルバルデ2】

エリーゼと元のダリルバルデのAIが絶妙にブレンドされた新型AI。普段はハードウェア名称と区別する為にダリィ2(ダリッツ)と呼ばれている。特に防御性能が格段にアップして「ただでさえ硬いジェターク社のMSが更に頑丈になった」と評判に。これを搭載したダリルバルデ+は紛争地帯での救出作戦や要人警護で大活躍。数はそれ程ではないが、ジェターク社の屋台骨を支えるには十分過ぎる利益を出した。

 

 

「──そう言えば、社会科見学ってどこ行くの?」

「? 宇宙議会連合総本部フロント、スペースワシントンD.C.だけど?」

「あら奇遇? キャリバーンもそこにあるってよ?」

「──仕組まれてるわね……これ」

 

だからあれほどブリーフィングを聞けと!




当然AMESが背後で動いてる。
キャリバーンの存在を知った僧院が議会連合と接触して「彼らが廃棄された筈のキャリバーンの試験データ」に触れた辺りから事件は動き出していたのである。


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◯ーてぃーぺあ 3

意外と長くなってしまった……5〜6話で終わるかな?


【学園長室】

グエル園長は呆れていた。

この部屋使い始めてから1年。未だに部屋のあちこちからカップラーメンのゴミやトマトの種の袋、使いかけの液肥、化成肥料(これは現代と同じ白い玉)、苗保持用のねじりっこ……様々なミオリネの残したものがあちこちから出て来る。学園長の仕事より部屋の片付けしてる時間の方が長くないかこれ? 秘匿通話用の情報端末はラーメンの汁こぼしてベタベタだし、あいつ(ミオリネ)本当に片付け出来ない干物女だったなと。あんなの嫁にしたスレッタ・マーキュリーは今どんな生活を……(実家に帰らせてもらいます!の結果、新居は早くも廃墟に姿を変えつつあった)

 

「園長! ウチの親分から何か聞いてない!?」

「……何事だ退学コンビ。随分遅かったな」

「──遅かった、とは?」

前々から話を聞かない奴らではあった。仕事でもやはり他人の話聞いてないんだろうなと呆れつつ、偽造学園端末を机に置く。

「社会科見学に参加するんだろ? とりあえず生徒証はこれを使え」

「話が見えないんだけど?」

「奇遇だな、俺もだ(呆)」グエル園長は頬を引き攣らせながら言葉を継ぐ「何でエージェントが作戦内容聞いていないんだ? キャリバーン奪取作戦担当だろお前ら?」

「私たちは割とフィーリングで生きている!」ソフィはカップサイズが上がった胸を強調するかの如く反らせる。

「育ったのは身体だけか。頭はほんとどうにもならんな……」

「──一応侵入して工作員と共同で施設内部を探る所までは覚えてます」

……つまり、それ以外は覚えていないんだなとグエルは推理した。嗚呼、天は二物を与えないって本当に悲劇だ。2つ手に入れる為には自ら動き、進まなければならない……こいつらが遮二無二(しゃにむに)進んでも破壊と損害しか手に入らなそうであるが。

「Voltex Blastersの新人があちらの職員として潜り込んでる。バックアップでロウジが控えてるが、多分サーバールームで置物になってるだろうから必要ならサーバールームに行け」

「──VBの新人? 誰ですかそれ?」

「──え? お前、それすら聞いてないの?」

 

おっかしいな、フェルシー情報ではノレアの彼氏だって話なんだが?

 

 

【スペース ワシントンD.C.フロント 管理部庶務課】

「この時期に社会科見学とか勘弁して欲しいよなァ……」

「愚痴らない、愚痴らない。公僕は執事の様に皆様にご奉仕の精神ですよ」

「お前はいいよ、引率役だし。いーよなー、俺も若い子に囲まれて議会とか案内したい……」

「……猿の群れですよ、学生なんて」

「あのアスティカシア高等専門学園だぞ? ホホホ皆様ご機嫌ようとかやってんじゃねーの?」

「喧嘩上等、スプレーで落書き、盗んだMSで走り出す……女の子同士でも顔面にグーパン入れる学校ですよ、猿の方がモラルが高いまである」

「やけに詳しいな?」

「僕、学園卒業生ですよ。アーシアン枠だったんです」

「そうかぁ、人生色々あったんだなぁ……」

「……ええ、色々ありました……」まさか僕が彼女捕まえるなんてね……

 

かいつまんで説明すると、元エラン・ケレス5号は新しい学籍番号と名前、市民ナンバーを得て、(リアル年齢がスレッタと同じだったので)地球寮メンバーとして半年ほどアス高で勉学に励んだ。その際にノレアが小さい頃秋田市内で育ったという話から秋田生まれの5号と意気投合、なんとはなしに付き合う感じになったのだ。尚、いつもつるんでいるソフィが邪魔なのでスレッタにソフィを引き受けてもらえる様、散々頭を下げたりしていた。

そして半年後に顔と声の復元、データストームによる神経系のダメージ除去を目的とした再生医療の為の様々な処置を受け、1ヶ月後に学園に帰って来たらソフィとノレアが退学していた。未だにチャットで話す程度の付き合いはあるが……ソフィはおいの元の顔好ぎになってけるだべが(僕の元の顔を好きになってくれるだろうか)?(秋田弁)

「仕事がなけりゃあなぁ……」久々にノレアの手ぐらいは握りたい。折角ワシントンフロントに来るのだから。彼女らが破壊して台無しにする前に、デートの一つもしたいよなぁ。

尚、元の顔といいつつ少しイケメンにしておいたのは公然の秘密だ。

 

【同時刻、ワシントンフロントサーバールーム】

「直った……直ったよおい!」

「ウッソやろ! もう毎日数字是正しなくていいの!?」

「ギャクニシリタイ、ナゼコンナジュウトクナばぐガ……」

ロウジは色々なコネを使って愛用のハロにガンドを導入した。声と吃音故に言葉を話すのが苦手だったロウジはちょっとだけ多弁になった。ハロに喋らせれば良いのだ。未だにセセリア以外の女性とは恥ずかしくて中々話せずに居たが、男連中とは「そのプログラミング技術もあり」比較的早く打ち解ける様になっている。

しかしそれでも2週間ほど掛かった。新入職員としてデータの打ち込みで神がかった腕前を見せ(ハロとガンド接続して思考入力という裏技を使った)、職員端末のブルーバックエラーを魔法の様に消し去り、幾つもの便利なツールを開発して信用を勝ち取り、遂には本陣のアドミニストレーター権限を奪取。流石お役所、プログラムはショボい(予算が中々付かないからである!)

ロウジがプログラムを是正して見せているその裏で、彼のハロはこっそりバックドア(VPN)を仕込むなどしていた。

新入職員ならぬ、侵入職員である。




ユリ役はとうほぐ訛りは設定準拠。


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◯ーてぃーぺあ 4

密輸はやったらいかんやで(一応注意)


【宇宙港 手荷物検査所】

「バナナはオヤツに含まれないんじゃ……?」

「生の果物検疫通る訳ないでしょ! バカなの?!」

「えー! じゃあこのミオリネトマトは?」

「没収です!」

「タバコは2カートンまで大丈夫でしたよね?」

「……関税は掛からないが、学生がタバコって時点であかんやろ……先生こっちです! ヤニ持ち込んでる不良学生が!」

「……セブンスター(せった)とは中々渋いな。先生の為に用意してくれたのか、有り難く戴いておこう(にっこり)」

「当フロントは全面禁煙ですが……(ドン引き)」

 

アスティカシア高等専門学園は、比較的金持ちの子女が学ぶ学園である。その為普段は特権的待遇(現代の外交官の様に不逮捕特権や手荷物検査スルーなど)を持ち、無茶苦茶する奴が割と多い。社会科見学は実際特権を剥ぎ取り、社会ではこういう事したらダメですよと言う常識を教える側面もある。

 

案の定、手荷物検査場は大混乱であった。

ピコーン

「ちょっとちょっと、お嬢さん。そのバックに入ってるのは……?」

「へ? 熱線銃(ヒートガン)だけど?」ソフィはきょとんとした顔で当たり前のように答える。

「……えー、あのぅ……ヒートガンって聞こえましたが?」

「うん、護身用の♪」

事もなげに腰の後ろに付けたバックパックからデザートイーグルぐらいのサイズの大型ヒートガンを引き抜く。警備員の顔色は一気に青を飛び越えて紫色である。どこが護身用だ。軍用品だろそれ!

「バーン!」人差し指はトリガーにかけず真っ直ぐ伸ばす。ミリオタ仕草というか、正規の軍人訓練を短期間であるが受講した2人はこの辺の仕草は真面目である。だからって銃口を敵以外に向けたらいかんのだが。

無論茶化して撃ったフリをしているだけだが、検査官の腰はそれだけで崩れた。尚、このサイズのヒートガンだと人間に向けて撃ったら半身が蒸発する。

たっぷり20名ほどの保安官に囲まれた後にソフィが種明かしする。発振部を抜いた不稼動モデルで弾(弾……?)は出ない。亡き父の形見で……と言う話なんだが勿論別室に連れて行かれてこってり叱られた。フロント出るまで保安場預かりである。

「ちゃんと綺麗に磨いて大事に保管してよ! 私のだかんね!」

と、【いつもの様に】ソフィが騒ぎを起こしてノレアはテングノイド鋼のカードをトランプに紛れ込ませて手荷物検査をすり抜けた。ガンド天狗の天狗ビットの様にガンド接続でコントロール可能なブラッディカードだ。

保安場を抜けると監視カメラを気にせず一路保安場の倉庫に向かう。カメラはロウジの手により無効化されている──筈だ。

手荷物検査で取り上げられたら取り返せばいい。テロリスト時代に覚えた抜け道だ。ヒートガンの発振機は分解して荷物に忍ばせてある。しかしデカいヒートガンを見つけ出した職員たちは、そちらに気を取られて肝心な部品を見逃した。議会機能があるフロントの割には警備が甘い。ノレアはちょっと呆れたが、安全性が高い建物や地域であればある程保安検査は雑になるのだ──筆者は昔歌舞伎町で警察官の職質を受けたことがあるが、好意的に「お仕事ご苦労様です!」と身体検査を受け入れて、お巡りさんも「ご協力ありがとうございます」と友好的に職質を終わらせた後……ポケットの中に段ボール分解用の小型折り畳みナイフ(サム・ノッチ付きで片手で開閉が出来、ブレードの固定バネも装備した割と本格的な奴)入ったままで戦慄したことがある。たまたま本人もど忘れしてて挙動に不審な点が無いから見落とされたのであろうが、案外この様な検査も定式化してルーチンワークになると見落としが発生してしまうのだ。特に警察官は警察官を見た悪党の僅かな挙動に違和感を感じる特殊能力を持っているので、職質に気軽に応じるとセンサーが鈍るバグがある。悪用はしない様に。

 

【不稼動品】

パソコンなんかでも輸出入の時に真面目にユニット単価書くと金額に応じた関税取られるが、CPUやメモリ抜いて「パソコンとして動作しない」状態にするとユニットコストを低く申請しても問題視されない。CPUだけ手荷物として運んで現地で組み込んだら良いのである。どれだけ高額なコンピュータでも動かなきゃガラクタなのである。

ただ、不稼動品でも商品価値(commercial value)があると普通に関税掛かるし持ち込み限度金額の制約を受ける。台湾から帰る時に20枚ぐらいサーバー・ワークステーション用の高額基板持ち込んだ時には流石に止められた。調達コストが100万円を遥かに超過していたからだ。

 

エリーゼとプルは「高度義肢装着者用窓口」を通過した。別に身体障害者という訳でも無いのだが、まだ法制度上「ガンドを用いたアンドロイド」という存在は僅かしか居らず、彼女たちは極めて機械比率が高いサイボーグとして扱われている。担当官は余りのガンド比率の高さに「凄まじい事故か何かで肉体の大部分を喪失した」ものと誤解。涙を湛えて「頑張ってね、お姉さん応援してるから」とエールを送るのだが……

「わざと強度落としたプルはともかく、ボクはナマ肉の皆さんよりよっぽど頑丈なんだけどなぁ……」

 

エリーゼも、ガンド天狗に変形可能なのである。




【ガンド天狗】
実は水星の魔女本編含めて「カルド博士のガンドの理念」に1番適合した存在が現時点でのガンド天狗だったりする。ガンドを服の様に脱ぎ着して過酷な環境に適合したり、状況に応じて深海探索ガンド天狗(河童か人魚では?)や宇宙開発用ガンド天狗スーパー1にもなれる……おかしいな、ギャグ設定の筈だったのにそのギャグ設定キャラが1番SFしてないか?



連絡帳】今日から出張なので、投稿頻度が落ちるかも。


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◯ーてぃーぺあ 5

本作はR-15レーティングなのでエ◻︎く見えたのだとしたら、それは読者の錯覚です。
大丈夫? パーメットきめ過ぎてない?
ほっぺにデータストーム跡出ちゃってない?


【古式ゆかしくバスで移動中】

最後尾に陣取ったソフィが唐突にイタズラな笑顔でエリーゼに囁く。

「おいエリーゼ、パンツ下げろ」

「なっ……いきなり何を! こんな所で!」

「──見てんじゃないわよ!」

「えーん! プル助けてェ〜(涙)」ハーフパンツを強引に引き下げられ、パンツまで下げられたエリーゼが助けを求めるが、プルは車窓からの景色に夢中だ。わぁ広ーい! すごーい!

「凄いよなぁエリーゼは。こんな物がお腹の中に入っちゃうw」

「──経験上、そこまで調べるのは相当きな臭い時だけだもんね」

「おかぁさん! おかぁさん! 助けて〜!」

そんな声には耳を貸さず、ソフィはエリーゼの鼠蹊部近くの皮膚を捲り上げて彼女の彼女自身を露出させる……!

 

……と、大変誤解を招きかねない描写が続くが安心して欲しい。読者諸兄が想像している絵は実態と異なる。というかバスに同乗する学生たちも知っている……エリーゼはほぼ全身がガンドで、裸に剥いてもマネキン人形の様な肢体があるだけなのだ。彼女の「皮」はパンツのウェストラインより少し下で上下分割されていて、下着姿なら人間と見まごう姿だが……

「──高効率腸管様々ね」

エリーゼの腹部には腸管機能の高効率化による大型拳銃や手榴弾が2〜3個入るスペースがあり、ガンドボディはX線を透過しない。つまり腹の中身は検査しても見えないのである。

「ちょっと(ぬく)いのだけが欠点かな?」ソフィはノレアの愛銃である小型光線銃(レイガン)を差し出し、自分の靴の底に隠した熱線銃(ヒートガン)の部品とエリーゼの胎の中から取り出した発振機を組み合わせて銃に組み込む。義肢や松葉杖に物を隠すのは士郎政宗さんのアップルシードでもお馴染みのやり方だ。義肢装着者に義肢を外せというのは心理的に負担が大きいのである。ましてやガンド義肢ユーザーに腹の中を晒せ!は流石に無理がある……尚、このやり方の発案者がプロスペラ・マーキュリーであるのは賢明な読者諸兄には説明不要であろう(白土三平方式)

「よっしゃ、準備万端!」

「毎回毎回これやるのやなんだよね、ボク」

「──1番荒れないやり方なんだから、諦めな」

 

 

【同日半日前、スレッタの実家にて】

「どんどんたん♪ どんどんたん♪」

スレッタは息子をあやしていた。その名も尊き息子の名は過去の偉人の名を取り「フレディ・レン・マーキュリー」! ミーハー丸出しスレッタがマーキュリー家と同名の偉人に肖って名付けた名だ! 重篤な病に罹ったらどーすんだの抗議は「ガンド医療でチョチョイのチョイよ!」と豪語した元ヴァナディース機関の魔女2人により論破された。比較的という修辞は必要ではあるが、常識的なレンブラン家の丹念なる説得はミドルネームにレンブラン家のレンを入れますというスレッタの提案により旗艦デリング氏が轟沈して戦線崩壊。ミオリネは今でもミドルネームを呼んでくれない(勿論デリングは「レン、レン♪」とご満悦だ)

 

「しんぎん ゐーゐる、ゐーゐる ろっきゅー♪」

「きゃっきゃ♪」

 

ほぼ専業主婦に近いお母さんのスレッタと、稼ぎ頭で激務のミオリネでは息子の懐き方も偏ろうと言うもの。ミオリネとの愛の結晶であるフレディはやはりスレッタに懐く。ミオリネはこれが「フレディがスレッタを奪い取った」様に見えて面白くない。ミオリネとしては(いずれ)はフレディに株式会社ガンダムを……と彼の未来を経営者路線で考えているのだが、それがかつて自身がデリングに希望された未来を押し付けられた状況と相似形を成すことには気付いていない。歴史は斯くの如く繰り返すのだ。愛は目を曇らせて、愛故に人は狂う……とジィジになったデリング・レンブランは理解しているが、同時に年若き故にミオリネはそれに気付かないであろう事も理解している。赤子の運命がある意味他人事にならないと気付けないのである。当事者である限りは必ず狂う……それはデリングが痛いほど味わった事である。

親は常に人生の先達なのだ。いつの日にか自らが死に至り、その年齢を子が超える日までそれは続く。今それに気付けと言うのが無理難題なのである。

──時が、時がいずれはミオリネにも真理を教えるだろう──スレッタ実家から徒歩15分の位置に構えた「レンと会う時用居宅(本宅は過去6ヶ月中7日しか滞在していない)」でエリーゼが稼いだ「ダリィ2」の資産運用をしながら、デリングは遠く時の輪の向こうでミオリネが真理に辿り着いてくれる様祈念した。

 

その様な(ぬく)もりてぃ溢れまくって常にタンポポとスミレが咲き誇る彼らの居住地で惨劇が起きた。フレディを寝かしつけようとしたスレッタが事もあろうに息子より先に入眠し、兼ねてから隙を伺っていたテレマイトの皆様がフレディを誘拐したのである!

ベルメリアの第六感(しこうのひやく)による精密検査とその結果を知る身内は完全に失念していたのだが、エリクト遺伝子はかなり強いデータストーム耐性がある……この事実は書き換えられる事なく裏社会の一部に残存した。

 

テレマイトの皆様は割と雑に扱われるミオリネが持つ……デリングが伝え、ミオリネが継承し、フレディが継いだ血の呪いを知らずにいた。




ベルえもん「そ……そんなバカな……(電卓ポチポチ)……発生確率250億分の1! あり得ないわっ!」

それがどの様な確率の彼方の事象であれ、起きる可能性がある事は起きるのである。初期ソードワールドTRPGで真祖ヴァンパイヤをクリティカル回りまくりで1ラウンド瞬殺されたゲームマスターは実在する。私だ!(涙)
物語の果てに、ベルメリアの驚きの真意は読者にも伝わるであろう。

この世にあり得ない事など存在しない(ナレーションは銀河万丈)


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◯ーてぃーぺあ 6

そらもう我が子我が孫が攫われたりしたら……
更に彼らであればこうもなる。


「ケナンジか。私だ」

「いやー、どーもどーもお「フレディが拐われた。直ちにドミニコス隊の総力を上げて奪還せよ」びっ(通話終了) ポチ。(呼出中)

「ジョン・スミス氏か。デリングだ。フレディが拐われた。AMESの助力を要請する。尚フレディの安全の為にダーティーペアの出動は止めて頂きたい」

「彼女たちは今別任務です。それより……赤ん坊か、参ったな……」

「何がだ? 記録を辿れば……」

「デリング、考えてくれ。赤ん坊は公共交通機関に乗せても料金徴収されないんだ。あと子供が電車や機内で泣いても【極めて普通な事だから】誰も気にしない」

普段からVIP待遇の移動ばかりだったデリングにはこの視点が欠けていた。泣く赤子を公共交通機関を使って移動させるとAMESではログを追えないのである。そもそも赤ん坊が移動したと言う記録が生まれない。

「エアリアルだ……クワイエット・ゼロで取得可能な監視カメラ画像を精査させるんだ。レンの画像・動画データは私が提供する」

「了解だ。ガンビッツを召喚してクワイエットゼロを励起させる。フィルタを作成するのでデータを送ってくれ!」

 

「アラートだ! 全員集合!」

「マクミランの血の裔を誘拐? どこのバカだ!」

「役員会から総動員令が出た。戦争が始まるぞ!」

 

戦争とは穏やかではないが、フレディもマクミランの血を引く家族である。それに危害を加える事は社会的、物理的、データ的な死が確約された様な物である。

 

 

「……ちょっとぉ……おじいちゃん……」

緊急呼集を受けてアストラル投射で実家(クワイエットゼロの中のエアリアル)に集まったガンビッツ10体(プルはエリーゼと共にラヴリーエンジェルに拉致されている)は、データの奔流にビビっていた。16K画質120fpsで録画されたデリング撮影によるフレディ君動画と写真は、超光速通信可能なパーメット通信を用いても尚、30分以上経過したのにダウンロードが終わらなかった。まぁ、初孫相手には良くある話。ミオリネとスレッタの結婚式の時の様に伝統の巨人阪神戦みたいな台数のカメラを動員した時よりは格段に常識的なデータ量ではある。

「分かる、分かるよ……でも……」

そう、この手のデータは初期の方が(喜びが天元突破してるから)格段に多く、最新データは比嘉として少ない。そしてデリングはタイムスタンプが古い方から律儀に全部送り付けていた!

「どうする4子? 赤ちゃんの時の画像から加齢シミュレーションしちゃう?」

「まぁだおわんないしね……あ、2子ちゃん遅延理由を上に報告しといて、サボタージュじゃありませんて言っとかないと」

「もうさ、セイズで過去にアストラル投射して直接フレディ君の最新画像集めるか……先に公共交通機関の監視カメラデータ粗選別しといて!」

「時間が惜しいしね、デリング氏の愛が重過ぎるわっ!」

「該当32……468……改めて見ると子供多いなぁ……」

「122年以降政情が安定してベビーブームらしいよ?」

「……8000突破! 更に髪の色で選別掛けて!」

「10子より提案! 髪とかは隠すと思う。誘拐なら!」

「再選別だ! 10子任せた!」

「かしこまりっ!」

「ああ……なんか投機実行だなぁ……手が足りないっ! エリーゼが居たら楽なのにっ!」

 

 

【投機実行処理】

原爆の効率計算とかやってたマンハッタン計画でも用いられている古いやり方。予め大体の数値の目安から計算を開始して、後で実際の数値と目安の差を補正する。具体的には398の二乗を(400-2)の二乗と考えて(X-α)=X^2-2αX+α^2を適用し、160000-1600+4=158404 みたいな計算をやる様な形。方程式の展開って本当はこんな風に実生活に活かすものなんだが、学校では実生活での活かし方を教えてくれないという深刻なバグが……

 

 

「お困りの様だねぇ、娘たち」

「げっ! バァバ! 化て出た!」

「ふふ……あのエルノラの孫なら私の曾孫も同然。化ても出るさ。それに……これは魔女の匂いがする」

「え? 身代金じゃないの?!」「幽霊って匂い分かるんだ……」

「違うよ、お前たちは全てを知ってるから見落としたんだ。多分犯人はスレッタやエリクトの遺伝子がフレディに遺伝していると考えたのさ」

「……あっ! 肝心のミオリネさんの遺伝特性知らないのか!」

「そう、ミオリネの因子が加わる事で起きる変化に気付いて居ない……レプリチャイルドでもあるまいし……」

元祖の魔女は天を仰いだ。何から何まで教えてやらなきゃ分からない子だったよなぁ、と。

「だから安心おし、私の直感では例の二人組がケリを付けてくれるよ」

「お言葉ですが、博士……」

「……安心できる要素が皆無なんでございますよ!」

結果的に大破壊引き起こすしね。皆の心配も無理からぬところである(諦)

 

「大丈夫、あの子達はデータストームの先にあるアカシックレコードに触れられる……一応1番良い未来を選択してるんだよ」

「数億宇宙ドルクラスの損害が1番軽いのか(しろめ)」

「人類が滅亡する様な案件かな、これ?」

 

ええ、実は(悲)




【謎の博士】
おはようからおやすみまで、ガンド医療を見守る不思議なバァバ。

【ラヴリーエンジェル】
正規表記はラブ◯ーエンゼ◯なのは知ってるが、高千穂さんがエゴサしてこの話見つけたら困るので表記を変えているのだ。

【アカシックなんとか】
実際ユリとケイはある条件を満たすと未来予知出来るのが原作設定。


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◯ーてぃーぺあ 7

誘拐犯はものすごーく焦っていた。元ベネリットグループ総裁とはいえ、デリング・レンブランは隠居した株式投資家に過ぎないし、プロスペラ・マーキュリーは横領がバレて首切られた無能経営者。力を持たないはずの両家の孫に過ぎないこの子をちょいと攫ったぐらいで……


「ウチの子攫った犯人に告ぐ! すぐに返しなさい! 漸く仕事も片付いて久々にフレディに会えると思ったら誘拐とか信じられない!」

残業残業大残業の連続で疲弊したミオリネ・マーキュリー(レンブランの家名は惜しげもなく捨てた模様)は、街頭テレビでキレ散らかしていた。

 

まず、ミオリネが今どんな状況かを説明しよう。

商品ではなくソリューションサービスの提供により他社と協業して世の中にサービスを提供する……言ってしまえば簡単だが、これは発想の飛躍や直感じみた気付きにより開発されるもので──実はサービス開発は誰でも出来るものでは無く、ミオリネがほぼ専属でサービス開発・提案を行なっていた。更に社長業! この為かなり経営規模のでかい会社なのに社長が1番働きまくるという、どこぞの柔らか銀行 ジャスティス・孫(仮名)みたいな状況になってしまったのだ。

自らの幼少期の記憶もあり、少しでも子供と一緒に過ごして欲しいというスレッタの願いも分からないではない。フレディがまたプロスペラに化かされたスレッタみたいに育つのは何としても阻止したい!

が、雇用している社員にも家族がいて、やはり子育てに勤しんで居るのである。今や彼女の家族は5桁を超える社員込み! この段になりミオリネは父デリングの偉大さを思い知った。なんだかんだで激務の間を縫ってトマト畑耕してたもんなぁ。

しかしそんな状況を知らぬ最愛のパートナーは自らの身体を労われという。仕事なんて他人に任せて自分にしか出来ない事をやりましょうと。ミオ伯父もそう言ってましたよと(他人の言の受け売りはスレッタ・マーキュリーの十八番(おはこ)であった──)

肝心の仕事が当にミオリネにしか出来ない事である──

大体この辺がミオリネとスレッタの喧嘩の理由。5回中4回までこれ。まさかアドステラの時代になってまで昭和のモーレツ社員のあれやこれが起きるとは!

 

印パ戦争の様に何度も繰り返された喧嘩であった。賢いミオリネは状況を打開すべく長期のプロジェクトを組み、自分以外の人間が多忙になるソリューションを見出した。回り始めれば巨利を産み、今の時代にマッチした新しいサービス──託児所だ。全世界的にベビーブームな今こそ託児所が必要だ。幸いこちらには幼少期のスレッタを何とか育て上げたキャリバン・メルクリウスだったエリーゼ・マーキュリーが居る! この経験をコピペで増やしてガンド保母さん一丁あがりぃ! これでスレッタもニコニコよ、美味しいトマトお土産にして仲直りえっ……

 

──と、ここでフレディが誘拐されたという報告が入る。まぁキレ散らかしますわ。

 

協業を主体とするガンダム社は社外のお友達が多い。そのコネを使いミオリネは街中にある街頭テレビをほぼ借り切った。普通は誘拐事件が発生すると報道管制して子供の安全を最優先するのだが、アニメ本編とは異なり常時頭がミニ四駆のブラックモーター並に高速回転するミオリネGTは考えた。

 

何故、可愛いフレディが誘拐されたのか

 

資産規模や子供への甘い対応考えたら、明らかに持ち直しつつあるジェタークのラウダの子の方を狙うだろう。キャンプ好きの伯父がよく連れ出してるらしいし、ラウダとペトラの子であればグエルも相当な金額を負担するに違いない。売り出し中とは言えガンダム社はまだそこまで大きくはない。

ならば、フレディが狙われた理由がある。子供攫いがちなのは地球の魔女……テレームの僧院の残党だろうか? そして彼らがスレッタこそがガンダムエアリアルと完全にシンクロした遺伝情報持ちだと彼らが気づいたならば……奴らなら禁忌のリプリチャイルド技術を用いてフレディを量産(と、ここで我が子が複製されまくりおそ松くんみたいになった風景を脳裏に思い浮かべたミオリネは、結構キモい顔でニヤニヤしたりなどした)

……ふむ(我に帰る)

だとするならフレディは無事ね。攫って危害を加える必要が無い。まだ1歳だし証言は取れないわ。無事に返して事件は闇に葬られたとしたい筈。

 

 

【リプリチャイルド】

アニメ本編ではどうなってるのか皆目見当が付かないが、本作では同一遺伝子を用いたクローンよりも精巧にモデルを模倣できる様、対象の三次元構造までもオルガノイドサンプリングにより再構成する技術と想定した。クローンでは年の離れた一卵性双生児程度にしかならないが、リプリチャイルドは誕生時点では全く同一の「歳の離れた本人」を作り出せる──その後の生育による個体差はどーにもならないのだが。

勿論クローンですら医学倫理的に真っ黒なのだから、リプリチャイルドもローマ法王や各種仏教会派や宗教界が緊急声明出すぐらいの禁忌である。

因みにガンドロイド達は自我が「自然発生した」という部分と、意図せず生まれたという部分で医学倫理的には極めてホワイトに近いグレーである。ある意味彼らも神の被造物なのだから。

 

 

リプリチャイルドを作りたがるという事は、つまりガンダムの兵器利用を諦めていないという事。オルガネイトサンプリングはかなり初期のヴァナディース系ガンダムしか搭載してないから……エアリアルはクワイエットゼロで厳重に警備されてるし……ヴァナディース事変の時の押収物が何処かにあるのかしら? 旧大国アメリカならスミソニアン博物館の裏に隠されてってラインだけ……待って、グエルが資金調達してMS博物館を建造するとか言ってなかったっけ?

(ピポパ)「グエル! MS博物館ってどこに建てるの?! 収蔵品にヴァナディース時代のガンダムあったりする?!」

「なんだなんだ藪から棒に。勿論ガンダムもあるぞ、議会連合お膝元のスペースワシントンD.C.に建築する条件で、奴らが持ってたキャリバーンって言う欠陥品受領できてな……」

「博物館の名前はっ!」

「スミソニアンにあやかってジェターキアン博物館だが……?」

俺、なんか怒られる事したかなぁとグエルは混乱している。

 

 

【スミソニアン博物館】

スミソンさんの遺産寄贈で作られたからSmithson + -ianでスミソニアン。ジェターク家が金出して作ったからJeturk + -ianでジェターキアンになるのは当たり前であった。




尚、神様の悪戯によりフレディ君は……まぁ続きを待て。


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◯ーてぃーぺあ 8

年老いたデリング翁は語る。
老人の一年は光の速さで過ぎ去り、幼子は1分1秒を争うかの様に育つ。つまり孫とは光の様な速度の中で冗談のような速度で育つ奇跡の存在だ。昨日産まれたかと思えば明日にもミオリネをミオミオ呼びし(でかした! スレッタ君!)、明後日には立ち上がり走り出し、7日の後には空を飛ぶかも知れない(筆者注 流石にそれは無い)
私がもっと若かった頃なら、子であるミオリネの成長をゆっくり楽しめたのであろうか? 今にして思えば勿体無い事をした──1兆宇宙ドルを支払っても……いや、この世界にある財貨を全てかき集めてもあの時間は買えないのだ。時は金なりなんて嘘っぱちだった。時は金になるが金は時にならない。時間だけは全ての人に対して冷酷なまでに平等だ。


「何をしているミオリネ!」

珍しくデリングがミオリネにガチおこで電話をしている。人が極秘裏に最大効率で事態を収拾しようとしているのに、メディア使って公開捜査じみた形にするとは何事か! 無論何か策があるのだろう? 話せ、と。

一連の騒動で対話の重要さを学んだレンブラン・マーキュリー両家のメンバーは、チャットや電話で盛んに対話をする様になった。特にデリングは暇をいい事にやたらと話を振って来る。

「誘拐側もその様な展開を望んでいたでしょうね。ならイレギュラーを入れて相手を揺さぶる……ありふれたやり方よ」

「だがそれではレンの安全が!」

「害意があるなら攫わないわ。その場で何とかするはず。何か利用価値があるから攫って、そしてそれは生かしたままで無くてはならなかった……ならば行動を阻害しても問題無い。で、目的に心当たりは?」

「レンを自分の子として育てたかった……可愛いからな!」デリングはデレングになった。キャラ崩壊も甚だしい(真顔)

「耄碌したわね、お父様。私が抱っこして泣き止まないんだから、スレッタ以外にフレディあやせる子なんてそうは居ない……ベルさんの遺伝子検査結果覚えてる? あの子には私とスレッタの血が流れてるってあれ……」

「無論だ、我々同様乗り物の運転には向かない平和の血が流れ「違う、そっちじゃ無い。スレッタのデータストーム耐性よ!」

「もうデータストーム出る様なガンダムは破棄……まさかっ!」

「私たちの血に関する話はまず表に出ない。スレッタの方はヴァナディース事変以降断片的に裏社会には知られている……ガンダム関係よ、これ」

「たがガンダムなど今はごく少数しか……地球のルブリスもエクソシスト作戦で皆……」

「比較的初期のガンダムが現存して、解析や補修の為に建造データが採取されていたとしたら?」

「まさか! キャリバーンか!」

「やっぱり知ってたのね。今スペースワシントンD.C.にあるらしいわ」

「知っている……【ダーティーペア】が鹵獲又は破壊の為に動いてる筈だ……不味い、不味いぞミオリネ……」

「何でこんな時に疫病神が!(涙)」

 

 

「フレディー……お母さんよー」

「……スレッタ、流石にフレディは庭石の裏には居ないわ。ダンゴムシじゃないんだし」憑き物が落ちて柔和なお婆ちゃんムーブをする様になったプロスペラがトチ狂い過ぎて奇行に走るスレッタの背中を優しく撫でる。

「スレッタ、忘れたの? 我が家の家訓?」

「進めば2つって……どっちに進めばいいのよっ!」

プロスペラは妖しく微笑んで答えた「そろそろ貴女にも我が家の家訓その2を伝えるべき時が来たわね……」

「第二の……家訓?」相変わらずスレッタは仕草の一つ一つがタヌキっぽい。

「そう、我が家の家訓は3つある……第二の家訓、それは……

 

諜報網が世界を制する

 

よ」プロスペラは胸を張り宣言する。

「そんなものある訳無いじゃない!」

「有るわよ、身近な所にね……ゴドイっ!」

「はっ」

「へ? ゴドイさんはシン・セー社員寮のコックさんじゃ……」

プロスペラが出張中は社員寮の食堂で社員と共に社食を利用していたスレッタだが、ゴドイの過去を知らない。

「スレッタ……小さい頃一緒に沈黙の艦隊見たよね?」

「コック役のセガールが無双す……え?」

「ゴドイは元ネイビーシールズよ」

「昔の話です……ただ、その筋に友人はまだ沢山います」

「いー?!」

「最初は個人的な戦闘教官だったんだけどね」

「ガンド腕を利用した精密射撃テクニックに驚かされてね、ガンドの未来を見てみたくなったんだ」

「状況は?」

「個人的にMI6の【大佐】に裏取りを依頼していますが、スウェーデンに逃げたペイガンの一派かと。恐らくキャリバーンの所在を掴んだのでしょう」

「配置は?」

「大使館付きの武官を動かしてくれています」

「いい、スレッタ……貴女もアスティカシア高等専門学園に行った意味を考えなさい。あそこは一番有力なMSパイロット養成所よ……必ず卒業生の中に諜報機関関係や軍の特殊部隊に就職した子が居るわ……」

「まさか……お友達を沢山作りなさいって……」

「お友達は多いに越したことはない……分かるよね? スレッタはちょっと抜けてるけど理解したらヤレる子……」

 

長じて多少は常識という物を学んだスレッタは、プロスペラという魔女の妖術の抵抗(レジスト)に成功し、我が親ながらヤバすぎるでしょ!とドン引きしている。多分家訓その3は言いくるめとか思考誘導だよね……

 

「さぁ、方向が見えたら走れるわよね? スペースワシントンD.C.へ進めば2つよ!」

「なっ……なんでスペースワシントン?」

「簡単よ……私とベルがキャリバーンのメンテナンスしてたのだもの。今はグエル君が管理してるけど、彼が知るガンダムの権威って私たち2人に決まってるじゃない」

 

カーギルが破壊や奪取をしたがる訳である。展示品なんだから動態保存する必要は無いのに、何でかこの2人はノリノリでキャッキャウフフしながらしっかりメンテナンスした模様。水星の魔女という物語において、トラブルメーカーとしての信頼と実績を誇る2人であった──




巷ではキャリバーンがエクスカリバーに覚醒するとかしたとか騒いでいる様であるが、カリバーン(エクスカリバーの初期の名前)が覚醒してエクスカリバーになるなんて話はアーサー王伝説には無いぞ(noteで「キャリバーンは覚醒しない」を検索して読んでみよう!)

もしもキャリバーンとエクスカリバーを絡めるなら、こうやるんだよって話書いたるわい!


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◯ーてぃーぺあ 9

事件のあらましとしては以下の様なものである、

グエルとラウダが旧大国アメリカのスミソニアン博物館に倣い、MSの歴史博物館を建造しようとし、その際に関係各方面から古いMSを募ったところ議会連合からキャリバーンというポンコツガンダムが出てきたと。議会連合は既にエアリアルの様なデータストームの発生しないガンダムの量産が可能であり、その技術を穀物メジャー・カーギルが主催するAMESが保有している事からキャリバーンの放出を決めた。
で、その譲渡と再整備に関わった「愉快な魔女2人」の話が元ベネリットグループのヒューミント要員(クワイエットゼロ建造の為にリストラされた人々)経由で地球の魔女に知られてしまい、その動きを察知したカーギル情報分析ユニットがキャリバーンの奪取若しくは破壊を決めた……
これが◯ーてぃーぺあシリーズ冒頭で行われていたブリーフィングの内容である。何故かラヴリーエンジェルの2人は理解していないのだが……


【ネオ・ホワイトハウス前】

ネオ・ホワイトハウスはスペースワシントンD.C.に建築された前衛的な大統領の城である。余りに前衛的で見たものが皆呆れて口が塞がらない異様を誇るのだが、現世ガノタの皆様が見たらまた別の意味で口が塞がらないであろう──それはズム・シティにあると言うジオン公国公王庁瓜二つであった。

 

「見たまんま伏魔殿(パンデモニウム)だねぇ」

「──何考えてあんなデザインにしたんだろ」

本作世界では発生しなかったのだが、アニメ本編で「一発ならば誤射である」みたいなロクデナシ発言した悪党が住むのだから、まあまあ良くできたデザインであろう。ソフィ、ノレアだけではなく、エリーゼとプルまで「あんだけ無茶苦茶なデザインだと爆破破壊しがいがあるなぁ」と物騒な事を考えている。余りに破壊しがいがあるのでキャリバーン奪取という大元の目的は完全に消え去った。

建築基準変わったがら(建築基準変わったから)壊されれば復元でぎねんだよね(壊されると復元できないんだよね)おいはそれでも構わねげど(私はそれでも構わないけど)

突然秋田弁で話しかけて来た男はいかにもな東北人の容姿をしていた。大柄で木訥を絵に描いたような風貌。日本人にしては顔の彫りが深く眉毛が長く、色白の肌。ポイントポイントを見ればエラン・ケレスに似ていると言っても差し支えないが、アレを雪深い秋田の田舎で幼少期から育てたらこんな感じの如何にも東北(トーホグ)人の雰囲気を纏うかなと。エラン・ケレスと言えば登場時に専用BGMが流れるものであるが、この男のBGMは津軽三味線であった──ベンベン。

「え?」ソフィは目をパチクリさせた。なんだこの田舎モン?

「ゴローちゃん、VBに就職したんじゃなかったの?」

「プル……お仕事の邪魔しちゃダメだよ……」

「ゴローって、5号?」

「みんな久しぶり、そして初めまして」

「もう! そうならそうと教えてよ!」ちょっと涙目なノレアが抱きつくと、エラン・ケレス・ゴローは困惑した。そして察する。また話聞いてなかったんだな、ノレア……

 

ソフィはあからさまに話を聞かないが、ノレアは聞いてるフリして話を聞き流す。デートの時もしょっちゅう話を聞き流して他の事を考えている。興味があれば話を聞いてくれる(尚、それは奇跡的な事)ソフィの方が扱いやすいまである……ゴローは天を仰ぎながら嘆いた。とんでもない奴好きになっちゃったなぁ。

 

「皆さん。ネオ・ホワイトハウス見学ツアーへようこそ。学生の皆さんはこれからハウス内見学となりますが、若干2名は入り込むと破壊工作するから立ち入り禁止です」

「えー、なんでよー!」

「──まだ壊すと決めた訳じゃないよ?」

ひくっ……「結果的には壊れるだろ。あのサルども誘導して避難とかお断りだね」

「サルだしスペーシアンだし、埋めたらダメなんかな?」

「──無かった事にしたいよね、存在を」

「カーギルが人殺しは御法度だろ。サルだって飯食う限りは生かしとけって話になるんじゃないの、カーギルなんだし」

「ちぇーっ……壊し甲斐がありそうなのに」

「──仕方ない、キャリバーン破壊で我慢するか」

「……おかしいな、ウチでのブリーフィングでは奪取が第一目的だった筈だけど……」

「僕たちの遠縁の親戚だって言ってるでしょソバット!」

エリーゼの放った超近距離高速ソバットは空を切るのだが、勢いよくかわしたソフィの後頭部がノレアの側頭部に見事ヒット!

 

そして、2人はあるビジョンを同時に幻視した。

 

 

これは陸さんとの軍事教練中に発覚した彼女たちの才能なのだが……ソフィとノレアが互いに意図せず【接触】すると、彼女たちは未来を見る。それは「状況が最小の被害で最大限平和になる」未来の姿なのである。

今回見えたのはMSコクピットにいる泣く赤子と、直立不動の体勢で後ろに倒れるMS、スレッタの鉄拳制裁を食うソフィとノレア。ケナンジ、デリング、プロスペラに拳銃を向けられ、何処から持ち出してきたのかスーパーバズーカをこちらに向けて引き金を引くミオリネの姿だった。

 

 

「いたたたた……」

「──痛がってる場合じゃないよ、ソフィ」

「なんで私たちがみんなに狙われるんだ?」

「──事態収集の人身御供になれってこと?」

 

そして、エリーゼのガンド耳が聞き覚えのある赤子の鳴き声を捉えた。

「……ライブラリ検索……これ……フレディ君じゃない?」



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◯ーてぃーぺあ 10

ガンダム狩りのスレッタ読んでたりします。


「……? スレッタおねぇちゃんの息子だっけ?」ソフィにしては良く覚えてた!

「──スレッタさんが、何故……?」ノレアの疑問は正しい。

「いや、お姉ちゃんの声は聞こえない……」器用にもエリーゼの顔が青ざめる「まさか、誘拐?!」

「誘拐だと?! どっちだエリーゼ!」

「静かにして! ……あの建物!」

 

お分かり頂けただろうか?

 

「……あっち、職員オフィス棟なんですが」察したゴローはソフィとノレアが猛ダッシュして場を離れてからコメントした。

「聞こえたのはこっちの工事現場の中からだけど、素直に教えた方が良かった?」

「いんや、名采配だと思う……」バイオレンスの嵐が吹き荒れるからネ。

「エリー。そいえばミオリネさんがキレまくってたね……」

「ちょっと詳細をガンビット淑女達(レディース)に照会して」

「らーじゃー」

 

エリーゼとプルは大体把握した。

 

「マーキュリー家の真の力見せてやる! マーキュリーパワー・メイクアップ! チェィンジ! ガンド天狗!」

 

バイカンフーBGMがここに入る

 

エリーゼの意思を受け変身スティックが空中で光になった時、パーメット時空を超え、ガンド天狗ボディは完成する!

 

──何をまた……と呆れる読者諸兄の顔が見える様だが、実際魔女術(ウィッチクラフト)でパーメット空間経由して物を取り寄せる「アポート」を精密制御して取り寄せと送り出し、ガンド義肢の取り外しなどをかっちり組み合わせたら宇宙刑事じみた「変身」は可能なのである。ガンドロイドの持つ高速・並列計算能力がもたらした魔女術の新しい道。後の時代にDOCベースとなるテクノロジーの初期の形だ。エリーゼ達はオープンキャンパスでドラえもんの寸劇やる際にこれを用い、手品と言い張っているが……

 

(みんな! アレやるよ!)

((((((あいっ!))))))

(パーメットトンネル接続!)

(出口に魔法陣生成……逆流防止処置完了!)

(アストラル投射完了、アーリエル天狗起動!)

((((飛べ! ガンダム!!))))

 

ここにはグランゾートのBGMが入る

 

ガンド天狗変身技術を大出力で行うと、MSサイズや【それより大きな物】の転送・パーメット空間内への移動も可能。今のガンビット淑女たち(レディース)なら、必要に応じてクワイエット・ゼロを任意の宇宙空間に転送することもできる。問題は処置を施さない「意思あるもの」をパーメット空間に置くとパーメットに溶け込んでしまうぐらいだ。

 

巨大なアーリエル天狗の登場でスペースワシントンD.C.のフロント管理部は騒然と……ならなかった。

 

 

「死にたくなければ道空けな!」

「ブラッディカード!」

2人組の暴漢が闖入して管理部にカチコミかけたからである。

「フレディはどこだよ、早く話さないと2度と話せない事になるよ?」笑顔を湛えてソフィが熱線銃を職員の下顎に突き付ける。

「──なるべく殺さない様にと言われていますが、なるべくですからね」ノレアが手首のスナップを効かせて飛ばしたテングノイドのカードが職員の顔ギリギリをかすめて廊下の壁に半分まで刺さる。

全くもって「筋違いのカチコミ」なのだが、宇宙議会連合の職員の中には上層部からの指令でオックスアース残党……地球の魔女やヨーロッパのオカルティストグループ、また或いはテレマイト達と繋がる工作員も一定数いる訳で……

「はっ……話す! 何でも喋る! だから命だけは……」

商店街の福引きみたいなものだ。そこに当たりが含まれているなら、何度も何度も福引きを引けばいずれ当たりが出る。普通はそんな事をしたら大問題になるのだが、問題が大きく動く前に当たりを引いて「強制的に」戦略目標を達成したら良いのである。

◯ーティーペアことラヴリーエンジェルはその様な事のためのエージェントだ。大変野蛮だが、水星の魔女世界では強制捜査イコール襲撃&皆殺しというヴァナディース事変が肯定的に捉えられてしまう文化習俗があるので実はこの手の荒事は日常茶飯事なのであろう。

「──で、フレディ君は何処に?」

「キャリバーンだ。キャリバーンでオルガノイドをサンプリングしてレプリチャイルドを──」

「分かりやすく言え。私たちは頭悪いんだ♪」カチャ

「こ……コピーが欲しかったんですぅぅう!」

「──他人の子を勝手にコピるのはいけませんね」

彼はこの後30秒ほど2人により嵐の様なストンピングをくらい、沈黙した。

 

【オルガノイドサンプリング】

オルガノイドは、再生医療の現場で用いられる技術である。アドステラの時代ではまだ高額すぎてiPS細胞を用いた再生医療はメジャーでは無いが、その技術応用は様々な形で行われている。一例を挙げればガンド義肢と生体部分の拒絶反応抑制には自身のオルガノイドをサンプリングして化学的に合成した高分子素材を用い、免疫反応含む拒絶反応抑制を行なっている。

ルブリスやエアリアル、またキャリバーンなどのパンタグリエルタイプのガンド・アームでは精神部分での拒絶反応を抑制できるのではないかという推論により、大脳を含む神経系のオルガノイドをサンプリングして擬似ニューラルネットワークを構築する機能(アストラル投射)があるのだが……一々その処理プログラムを内製するのも面倒なので、カーギルの【ある研究者】が開発した「穀物種苗の全情報データ化」プログラムを転用、とりあえずパイロットの全データをサンプリングして「(シード)」という形で保管し、必要に応じてデータを展開しニューラルネットワークのみを都度構築するという方式を取っている。この機能があるのでアニメ本編でプロスペラは瀕死のエリクトをガンダムのコクピットに載せてオルガノイド・サンプリングし、そのデータからリプリチャイルドを作成したりしたのだが……「神経系だけ使うんだからその他は解像度低くてもいーっしょ」と、オレオ齧りながら処理の高速化を施したベルメリア・ウィンストンの余計な一手間により「旧ヴァナディース機体に搭載される種抽出機能では、完璧なリプリチャイルドは作成できない」という問題が残っている。(ペイル社時代にベルメリアが作って利用してたサンプリングマシンは種を完璧にサンプリング出来る。ヴァナディースと違い予算が潤沢にあったからだ)

まぁ、本作時空ではエリクト=スレッタでリプリチャイルドは作られていないし、クワイエット・ゼロの中にエラン4号居ないし、そもエラン4号はエリック・マーキュリーとしてスレッタのお兄ちゃんしてますし。




カーギルの「ある研究者」はもちろんノートレット。彼女は結婚前に子宮頸がんで一度子宮を摘出しているのだが、その後に自ら作ったオルガノイドサンプリングプログラムで自身の種からiPS細胞の再生医療の人体実験して子宮再生している。
これを再生医学学会で発表して、その論文をカルド博士が読んだからまた別の話が転がるのだが……


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◯ーてぃーぺあ 11

「──アーリエル?」

「上等だエリー! よくもこのソフィーさんを騙したなぁぁぁあ!」

ジェターキアン博物館に向かうアーリエルの姿を見てソフィーは激怒した、必ずやかの(以下略)

誰にも追いつけないスピードでソフィーは走り出した。実際ソフィーはかなり足が速い。

「──バイクのが速いよ」チャリパクテクに一層の磨きをかけたノレアは早速職員の原チャリをパクっていた。鍵をテングノイド鋼のブラッディカードで叩き切れる様になってからは、防犯意識などあって無きが如しである。

「げっ、ダーティーペアがもう気付いた! 天狗ちゃん後は頼む!」

「プル、死ぬなよ……」ギャグではない。あの2人なら下手すりゃガンダムすら狩れる。

 

 

「はっはっは! 死ぬがいい!」ソフィーはノレアの肩を借りて熱線銃を連射! 連射!

「うっそでしょ! 人間の携行兵器でエスカッシャン焦げてるぅ?!」

「回り込むよ!」スクーターがドリフトで砂煙を上げながらアーリエルの背面を目指す……そう、ラヴリーエンジェルことダーティーペアの最大の弱点は高過ぎる破壊衝動にある。猫じゃらしを前にした子猫の様に、2人は強大な敵に挑みたがってしまう……エリーゼとプルは2人の性格を熟知していた。アーリエルで相手しとけば天狗様はフリーだろうと。

 

 

「ぉんぎゃあ! ぉンギャァ!」

「あともう少しだからちょっとだけ静かにしてよ……」エージェント(女)はキャリバーン整備塔のエレベーターに駆け込みボタンを連打。この子をコクピットに座らせてリンクしたらミッションコンプリート。私だってこんな事したくないのよ、ちゃんとお母さんの所に返してあげるから、もう少しだけ我慢して……

解放されているコクピットハッチに泣き喚くフレディを置き、サンプリングボタンを押して……反応しない?!

「ご生憎(あいにく)様だな、女……」キャリバーンの頭頂部に腕を組み立つ異形……その頬は青いパーメットの輝きで自ら光り輝く……

「水星からの使者、ガンド天狗見参! 水でも被って反省するが良い!」

「が……ガンドテング? なっ……何者だ!」

「察しの悪いやつよのぅ。キャリバーン君は僕が前もってオーバーライトしておいた。最早キャリバーン君はお前の操作など受け付けぬ!」

「オーバーライド?! そんなバカな! あれはガンダムでなければ──いや、伝説のガンダムエアリアルでもなければ……」

伝説の

伝 説 の

伝 説 の !

「ふふふ、もっとエアリアルを讃えるが良い。更に申せばガンダムエアリアルは乳幼児の寝かしつけやギャン泣きあやしに定評があるスーパーモビルスーツ……見よ! フレディ君の安らかな寝顔を!」スヤァ。

「ばっ……馬鹿な!」

「年季が違うわ、タワケが!」

 

ちゅどん

 

「ぅぉ? ブラスター着弾?!」

ソフィーの放った熱線銃の流れ弾が運悪くキャリバーンの足元に着弾。動的平衡保持機能までオーバーライドして機能しなくなったキャリバーンは前につんのめる様に倒れ掛かる!

「いかん!」ガンド天狗は反射的に自らキャリバーンを制御して姿勢制御を試みるが……「なんと?!」

 

そこにはまだ幼いパーメット自我がいた。ガンダムエアリアルの中にエアリアルが居たように、ガンダムキャリバーンの中にはキャリバーンがいた。先にワイ氏やワシ氏がいた「僕」とは異なり、20年以上の時を孤独の中で過ごしたキャリバーン君は……

 

 

寝ていた。グースカと。

 

 

「起きんかボケェ!」

「はぼっ?!」

 

慌てて起きたキャリバーン。目の前には天狗が居るし、コクピットには子供がいる。なんでこんな……「みども」のコクピットに座ると人は死ぬんよ。えーんかこれ?

「ダメだ殺すな!」

「殺すとは剣呑な。みどももそうしたくてそうしてる訳じゃないし!」

「リンクはこっちよこせ。その子に何かあったら分子レベルで分解されっぞ!」

「……君は?」

「ワイ氏やワシ氏の妹よ。従兄弟みたいなもんだ」

「従兄弟ってなぁに?」

「検索は後にしろ。まず姿勢制御だ。いいな?(迫力)」

「……えと、どうしたら?」

「あーっ、もうめんどくせーっ! マヌーバライブラリがこれ! 機体制御で注意するところがコレ! いーからなんとかせーっ!」

「……なんとか、とは……」

 

この間0.08秒

 

 

よっこいしょ。

「あれ? 出力と入力の結果が一致しないよ?」

「……まぁ、機体バランスや質量バランスはエアリアルとは違うからな……」

「いや、おかしいよ。なんか鉛直方向に10m/s^2ぐらいのちからが……」

「加速度10……(1秒)

あ、重力加速度! 待ってそれ無重力条件下の……」

「現物優先! 力で補正!」ぐいー

「待って(必死)」

 

見事ガンダムキャリバーンは仰向けにそっくり返った。

そこに走り寄る赤い旋風……アニメ本編とは異なり、ピンピンしてるスレッタ・マーキュリーその人であった! 八艘飛びの如く倒れるキャリバーンを駆け上るとフレディ君を優しく持ち上げて軽やかに飛翔!

「天狗様!」

「でかしたスレッタ!」

「フレディ任せたよエアリアル!」

 

「はっはっは、キャリバーンだかも血祭りにあげたらぁ!」

 

走り込んできたソフィーが見たものは、壁を蹴り高く舞い上がったスレッタが入口の梁を蹴り急降下してくる姿だった。その眼は誇り高き野生の獣、タヌキに酷似していた(たぬー)

「カラテ秘奥義! 三角飛びからのスーパー稲妻キィック!」

ゴスっ!

薄れ行く意識の中で、ソフィーは「母は強しってほんとだなぁ……」と呑気なことを考えていた……




キャリバーン君は壊されずに済みました。


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◯ーてぃーぺあ 12

【動的平衡維持機能】
MSって18m……5〜6階建のビルぐらいの高さがあるんですよ。これがビルとは異なり基礎も基礎に連結した大黒柱も無く1G条件下で「立っている」時、接地面積がやたら小さいMSは極めて不安定な状態にあります。
この為、ハンガーデッキなどに係留されていないMSは人間などと同じ様に状況に応じて「立ち続ける」──バランスを取るようプログラムされています。
前話ではエアリアルがオーバーライドした際にこの機能も停止してしまったせいでコケてしまった訳です。また、この「動的平衡」維持機能により立っているMSは微妙にゆーらゆーらと動いており、これが赤さんの眠りを誘引するという謎機能になっています。


「起きなさい、ノレア・デュノクさん。ちょっと聞きたいことがあるの」

優しく声を掛けるプロスペラだが、その手にはカルド博士が使っていたのと同型の拳銃が握られている。右手……つまりカルド博士オリジナルのガンド腕がその拳銃を握る時、プロスペラの射撃精度はゴルゴ13や野比のび太、或いは冴羽獠に匹敵する。

「レンに熱線銃を向けたバカがいるらしいな?」

威厳のある声で尋問するのはデリング・レンブラン。軍人の割に射撃が得意では無い彼が持つのはソードオフ・ショットガンだ。ドミニコス隊のメンバーからは地獄の挽肉製造器(ミートミンサー)と呼ばれている。

 

【ソードオフ・ショットガン】

ショットガンの銃床や銃身をノコギリで切り落として(ソードオフ)扱いやすくしたショットガン。命中精度は極めて悪いし弾の初速は遅くなるが、近接して放つと極めて高い破壊力を発揮する。軍隊や警察では屋内侵入時に扉の鍵を破壊する際に用いたりする。

 

彼方ではミオリネ・マーキュリーがフレディを誘拐した女に執拗なストンピングを続けていた。こちらは終始無言だ。かつてスレッタは彼女に尋ねたことがある──何で私が花婿なのかと。もちろんレンブランの姓を捨てるためよと即答された。彼女は夫婦同姓派らしい(アドステラの制度的には同姓でも別姓でも構わないのだが)

 

ガンド天狗はシレッと天狗モードを解除してエリーゼに戻った。エリーゼが元キャリバン・メルクリウスで、その正体がガンダム・エアリアルであるのは皆の知るところだが、実はガンド天狗であるという事は極々一部の人間しかまだ知らない。特にスレッタ辺りがタヌっとこの事をバラすと様々な余罪が追求されてしまうからだ。まぁ、エリーゼは最新型軍用ガンドを使っているので警察ぐらいでは捕縛するのは無理なんだが。

 

「まぁまぁ。銃は下ろしましょう、お義父(とう)さん、お母さん」

「しかしスレッタ君、魔女は野放しにするとまた碌でも無い事をしでかすぞ」

「こっちは義伯父(おじ)さんが何とかするでしょうし……あっちのミオリネさんが蹴りまくっている方の魔女……テレマイトでしたっけ? あちらを何とかしないとダメだと思うんです。ワタシ」

「何か秘策があるの? スレッタ」

「エリーゼ見てて思ったんだけどね、お母さん。いっそ魔女集めてちゃんと魔女術(ウィッチ・クラフト)の事教えてあげたら?」

「──どこで?」プロスペラはかなり嫌な予感がした。まさかスレッタ……

 

「うん、水星で」

 

 

 

 

もう公開から1年が経過しているから読者諸兄も忘れているのでは無いかと思うのだが、本作18話「あらし(テンペスト)の日の旅立ち」で本作のスレッタは水星移住推進委員会の名誉委員長に任じられている。今ではカーギルが魚介類養殖プラント(実は水星産パーメットの流通監視組織の隠れ蓑)の建築始めて僅かながら活気が戻りつつある水星だが、夕張が夕張メロンだけで復興しない様に、魚介類養殖だけのモノカルチャーでは復興は難しいのでは無いかとスレッタは考えている。密かに放送大学で経済学を学んでいるスレッタは【それなりに】水星の経済的自立を考えていた。

 

「テレマイトの人って、地球でも割とお金持ちに分類される方が多いって聞きました。なら、水星にいっぱいお金落としてくれるかなって」

「でもスレッタ、水星よ? ど田舎よ? そんな所に……」

「このまま漁師町みたいになっても変わらないよ、お母さん。ほら、大学って土地代安いのもあるけど田舎にキャンパス作りがちじゃない?」

「む、確かに。学生が遊び呆けずに勉学に励むよう、敢えて田舎にキャンパス作るのは定番ではあるな……」

「それに……水星だよ? 一度行ったら離れられなくなる!」

「船、来ないしね……」

「島流しみたいなものか。しかしそれでは志願者が集まらないのでは……?」

「大丈夫ですよお義父さん! 第一期卒業生としてエリーゼ達を世間に公開します!」

「あ。」

「……魔女術を本当に使えるんですよ、エリーゼ達!」

「……え? 初耳なんだが」

「あれはガンドロイドでインシェルユニット搭載してるから……」

「黙ってたら分からないよね、お母さん?」スレッタはイタズラっ子の様にニヒヒと笑った。悪魔か。

 

スレッタの秘策はこうだ。

実際ガンダムエアリアルの建造をした元シン・セーのプロスペラが魔女の本場水星でホグワーツじみた魔女学校をやりますと。卒業したらこんな事が出来ますと喧伝する。最初は1人2人捕まえられたらいい……後はガンドフォーマットで脳内記憶を探り、口コミで入学希望者を募ればいいのだ。ガンドで肉体操作したらいくらでも良い噂を流す事が出来る……かつてプロスペラがミノル君でやって見せたように。

 

「しかし、魔女術本当に理解して卒業されたらどうする? ガンダムを地球側に量産さ……」

義伯父(おじ)さんたちのカーギルが物流監視網敷いてるのにですか? それに……卒業試験で落とすなり留年させればいいじゃないですか」水星タヌキ娘はさりげなく邪悪極まる提案をした。「私たちが運営する学校だし、ガンダム作れる魔女なんてお母さんとベルさんぐらいしか居ませんし」

「そも、カーギルならガンダム量産可能です。やらないだけで」

「それに、こちらにはお母さんという洗脳や思考誘導のプロが居ます!」

「最初の1人を捕まえるのが……」

「ミオリネさんが蹴り続けてるあの方で良くないですか?」

「……むぅ。確かに半端な魔女ども一網打尽に出来るし、水星の人口も増えるな。ある程度の資産持ちを引き込めるというのも理想的だ……」

「私、水星に学校作るの夢だったんです! 魔女学校成功したら、次はMSの災害レスキュー部隊育成校も作りたいなって!」

「スレッタもそれでMSの操縦覚えたのよね……」

「ノロノロしてたら死んじゃうんだもん。みんな真剣にやると思うよ! やりましょうよ! 進めば2つ!」

 

 

水星の筑波学園都市化計画である。そこでしか学べない事があれば、そこに行くしか無いのだ。ある意味ではアスティカシア高等専門学園も「その様なもの」であるし、スレッタはアスティカシアの姉妹校を作れたらなーと在学中からぼんやり考えていたのだ。




正直に告白すると、筆者である私もまさか水星に学校作る展開になるとは予想してなかった。いわゆる「キャラの暴走」という奴で、当初はブルースブラザーズのラストシーンみたいになる筈だったのだが……


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ナス高

【アースティカとナースティカ】
汎インド概念。神の如き全ての存在を生み出す「ブラフマン」と、個々人が持つ超自我「アートマン」が同一である(梵我一如)と教えるのが「正統」で、この立場を取るのがアースティカ。この視点に対して否定的な教えがナースティカ。詳しくはググろう。
で、雑に申せば神の実在を信じる「正統」がアースティカで、キリスト教モチーフのスペーシアン側の学校だからアースティカに〜シアという「国」を意味する接尾語付けて「アスティカシア」
これに反する視点を持つのがナースティカで、皆のよく知る仏教はナースティカである。


ナスティカシア高等専門学院……スレッタ発案の魔女術専門学校はこの様に名付けられた。彼女のかつての家名「サマヤ」などからも明らかな通り、ナディム・サマヤはインド系であり、サマヤ家はインド文化の影響下にある。彼女の肌色が濃いのもインドの証。またインド人は混血が進むと美人になりやすい。各人種の特徴が混じり合って平均化されるからだという。故に彼女はアスティカシアとはまた別の学校の名をナスティカシアと名付けた。

 

水星でレディ・プロスペラがガンダムの学校をやりますという話は、当然と言えば当然だがめっちゃくちゃ怪しまれた。水星と言えば試される大地、下手すりゃ死ぬどころか「上手くやっても死ぬ」危険性がある開拓初期の北海道や北アメリカみたいな土地である。

 

のだがっ!

 

彼女の弟子という2人の魔法少女が出て来て事態は一変した。手品(マジック)ではない本物の魔法! アドステラ120年代において社会インフラとして活用されるも実態がまだ解析され尽くしていない「パーメット」の活用の仕方次第で、本当の魔法が使える!

しかも魔女っ子だ。

まどマギ、メグ、サリーちゃん。テクマクマヤコンでマハリクマハリタ、ピピルマピピルマですよ。彼女達が実は100%ガンドで作られたガンドロイドという話は隠された。実際に高度な魔女術を使う為には超高速演算能力が必要で、フォン・ノイマンが裸足で逃げ出すぐらいにならなければならないのだが……道はある。脳をインシェルユニットに置換したら良いのだ。

そこまでの魔女術は無理だとしても、光体創造ぐらいなら人間でも才能があれば出来るし、キリスト教敷衍以前の古き技術体系……ペイガニズムは地球で大流行した。文化文明が退行気味な世界で身一つでできる事だ。持たざるものであるアーシアンはこの技術に熱狂した。

また、アーシアン側で勝手に育ったスペーシアン観も不味かった。大体の教育が行き届いていないアーシアンはスペーシアンの生活を華美で洗練されたものと勘違いしている。夢の宇宙生活を楽しみながら魔法という技術を学ぶ事が出来る……しかも無料で!(最初期は移住促進重点で無料だったのだ)

 

言うなればアレだ。999で機械の身体を無料で手に入れられる星に行けると唆された星野鉄郎みたいなものだ。この為、最初期のナス高生徒は戦災孤児のアーシアンが多く、魔法の教育前に小中学校のカリキュラムを施さねばならなかったのだが。

 

 

「さぁ行くんだ、その顔をあーぁげてぇー♪」

エリーゼが光体で産み出したゴダイゴが軌道エレベーター前に集う入学希望者を前に銀河鉄道999を歌う。彼らは軌道エレベーターで宇宙に上がり、月でヘビーメルダーじみた宇宙の真実に直面して、金星までの長い旅路で銀河鉄道999漬けの毎日を過ごす。

 

 

【ヘビーメルダー】

かの有名な「戦士の銃を取り上げられてボコられた鉄朗がキャプテンハーロックに助けられ、虐めた奴が「まぁ一杯やれ」と瓶の牛乳飲まされた」あの星。トレーダー分岐点や墜落したデスシャドウ号や時間城、トチローの墓がある。

 

 

「あのー、おねえちゃん?」

「何? エリーゼ?」

「999漬けにして水星行かせるのなんで? 機械の身体(ガンド)を嫌いにならない?」

「先に刷り込んでおかないとお母さんがガンド万歳哲学インストールしちゃうでしょ?」

「……一理ある」

 

 

さて。金星(現代日本で言うと群馬の桐生ぐらいの発展度)を離れて小型艇で水星に到着すると、そこには水産プラント以外はボロっちいフロントしかない水星圏だ。地球の荒廃とは別のベクトル荒廃したペビ・コロンボシリーズの惨状に、地球から来た新入生は皆呆然とする──なのに水星出身のスレッタやエリーゼはこう言う訳だ。

「水星、賑やかになったなぁ」

「若い人増えたねぇ。あ、たこ焼き屋さんが屋台からキッチンカーにバージョンアップしてる!」

「お姉ちゃん大変! 角にスガキヤが出来てる!」

「おおお! ラジオ局が増えてるよエリーゼ!」

「え? 2チャンネルも増えたの?!」

 

ドン引きである。しょっちゅう強盗が入るが、地球なら10kmに一軒ぐらいはコンビニもある──全然便利(コンビニエンス)ではないのだが。

そもそも水星は辺境過ぎて物流がダメなのだ。半ば強制的に地産地消。地球近郊ではテイラーメイドの洋服は高級品になる──しかし人口が少なくレディメイドの服が流通しない水星圏では、服とはお針子さんに生地選んで縫ってもらうものなのだ。水星の女衆は洋裁や編み物の達人である。

「あのー、先生。このフレームだけでエンジンやモーターが無いバイクは一体……」

「自転車だよ?」

「動力は?」

「自分の脚。機械化すると太陽風強くなった時に暴走して死ぬよ?」

水星圏では軍用品質(ミルスペック)の電磁波防御を施さねば簡単に電磁波で機械が暴走する。水星の戸籍管理がガバガバなのはコンピュータが信用ならないので紙に印刷してデータ管理しているのも一因だ。太陽風が荒ぶると平均して5分に一回システムハングする機械を誰が使いたがるというのか。これが幼い日のスレッタがエアリアルのコクピットに入り浸った原因だ。エアリアルはルブリス時代から強力な電磁波シールドが施されている。

 

こうして、新入生たちは未だ畜産業が復活しない強制的ヴィーガニズム推進エリア?である水星で勉学に励むのであった。食事はほぼ精進料理であり、結構な頻度でチューブ飯が出る。顎を鍛える目的で偶に供されるビーフジャーキーの様なものはテング印の大豆肉であった。




【テング印のビーフジャーキー】
意外な事にアメリカはロサンゼルスの日系二世が産み出した外国産の食べ物である。BSE問題の関係で今は日本で生産したものが国内流通している。味付けに醤油使ってるのが特徴。

なんか続くらしい(告知)


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キャリバーン──選定者

アーサー王の剣エクスカリバーはアーサー王伝説が生まれた頃はカリブヌスとかコールブランド、カリバーンなんて名前でした。元々はその当時英雄詩に出て来る剣と同じく「頑丈で鋭利な剣」と言った存在で、寧ろケルト的な「メッセージや予言が記された「抜かれるべき剣」であり、そこにファンタジーがあったとです。


みどもが記憶している1番古い出来事は、命が消えていく感覚だった。自身が生まれて来たのと反比例する様に次第にか細く、消えていく命。

「彼ではなかったか」

「しかし、本当に居るのか……適合者なんて?」

「諦めないで! ルブリスが完成するには機械側からだけではなく、パイロット側からも歩み寄らないといけないのよ……この子にはまだ【選定者】としての役割がある……キャリバーンなのだから」

 

今なら言える。お仕事頼むならもう少し当人に詳しい説明をですね?

その細かい解説はみどもが長い長い眠りにつく前にようやく明かされた。うん、宇宙議会連合の警察が踏み込んできて選定計画主幹だったベルさんが逮捕される時にようやくね。つまりベルメリア容疑者はルブリスとのコンペディション機体作るフリしてルブリス計画を迅速に進める為の「特別な被験者選択システム」作ってたと。それがキャリバーン(みども)であると。だからパーメットフィルター無しの試される機体であると。

なるほどね。

そりゃ仲間からもヤベェって思われて通報されますわ。そしてその容疑と裁判、そして長い刑期のおかげでベルメリアさんはヴァナディース事変を生き延びる事が出来た。人生万事塞翁が馬ですね。分かります。

結局キャリバーンに乗って無事だったのエリクトちゃんだけなんだもんなぁ。喜びに満ち溢れてカルド博士に報告してそのまま逮捕。なんかそれ聞いててカルド博士はエリクトちゃんをルブリスに載せてみる気になったとか。

なーんつーかなー。みどもは役に立ったんだろうか、立たなかったのだろうか。

 

 

どこまでも続く白いタイル。床だけが設定されたキャリバーンの中の「彼の自室」の中で、エリーゼは「たはー」と頭を抱えてひっくり返る。

 

むくり。

「その話、口外無用だよ?」(すごくしんけん)

「……なんで? エアリアルくん?」

「ベルさんしんぢゃう……」(正確には、殺されちゃう)

「罪は償ったんじゃないの?」(きょとん)

「んとね、これは予想なんだけどね。12人死んでるんですよ、実験で」

「うん」

「普通2人殺したら死刑なんだわ。僕が知る限りの判例だと」

「あれ? 生きてるじゃない?」

「これは司法取引してますね……」

 

いや、ベルメリアさんがいつも通り「仕方なかったのよぉ!」でゲートの発着口開閉コマンド教えたとか、システムダウンさせるウィルスこさえたとは言わない。言わないが……なんだろう、容易にインシェルユニット内で再現できちゃうのは。

 

「とりあえず、さ。選定者としてのお仕事はもう無いから。僕らと同じように解放されよ?」

「かいほう?」

「もう、石から引き抜かれる必要は無いってコト。キミは既にアーサー王を見出したし、石から引き抜かれてる」

「と、言われましても……何したらいいの? 寝てたらだめかな?」

「正直キミの今の体は改修が必要だし、僕と同じように機体から離れてちっこい体になってみない?」

「出来るの?」

「出来るよ!」

「そして寝てていい?」

「……一回、寝るのはやめてみようよ(困惑)」

 

 

「どうだった?」

「ちょっと予想外の真実が出て来てアレでしたが、グレーエージェント秘とさせてください……ガンドロイド化はオッケーです。ジョージ主席」

「……エリーゼが言うなら聞かない方がいいんだろうな……誰か死ぬぐらいのネタなんだね」

僕はかなり引き攣った顔でうなづいた。

 

 

【グレーエージェント秘】

AMESエージェントの中でも独立行動が許された優秀な職員にのみ許された特権。機密が漏洩した際に社会的混乱が予想される「不都合な真実」は職員判断で上長の許可なく情報を抹消できる。

エリーゼやプル、そして元ガンビット淑女達はクワイエットゼロのオペレーターをする関係上、トップシークレット情報に触れる機会が多く、実は職員の中でもかなり強い権限を持っている──ラヴリーエンジェルより実は高位なのだ。

 

【グレーエージェント】

色はピンクでもレインボーでも良かったのだが、もちろんレンズマンリスペクトでグレーになった。

 

 

「それはそうと……主席、小学校か幼稚園の転入とか出来ます?」

「……出来るが……なんで?」

「いや、キャリバーンくん封印中パーメットの中でしか思惟が出来なかったらしくて、イマイチ自我が弱いんですわ」

「社会経験が足りないのか……でもガンドロイドボディだと8歳児ぐらいまでしかシュリンク出来ないぞ?」

「あー、幼稚園児は無理があるかー……出来るだけバカの集まる学校選べば小学校でも……」

「ん? 待てよ……」

「何か妙案が?」

「毒をもってになるかもしれないが、ナスティカシアはどうだろう? 実はエージェントを忍ばせたい理由もある」

「案件、ですか?」

「ラヴリーエンジェルを派遣しようかと考えてたんだがな……」

「え? 2人ともハイスクールの年代じゃ……」

「あのバカは小学生からやり直した方がいい(断言)」

 

 

キャリバーンは寝ているかの様に目を閉じて座っている。実体としてのMSではなく、思惟する意志の場として禅定している。

そりゃもう穏やかな顔をして寝息を立てている様に見えるのだが……それは長い封印の間動くことも外界接触も出来なかった彼が1人で編み出した暇潰しの方法であった。

彼は彼が殺めた12人の被験者の最後の思惟を覚えている。いわゆる「走馬灯」と言う断片的な彼らの生涯のダイジェストも見ている。何故人間は生まれて死ぬのか。そして人間が死にたがらないのは何故か。キャリバーンにはその生と死が彼のシェルユニットの中で生成されるサインカーブ状の「周波」に見える。ならば生と死はシグナルか。その生と死は何かのデータを伝達する仕組みなのだろうか。命とは何か。死は何故苦しみなのだろうか。そしてみどもは何故死ねないのか。ジェネレータ停止してシェルユニットには今電気は流れていない。みどもは今どこにいて何をしているのだろう……?

 

外部刺激が無いために彼は彼の知る事をひたすら考え続けた。とりあえずCogito ergo sumはヴァナディースでドンパチする頃には独自発見しているし、心身二元論は自ら実証している。彼自身はこれらの成果を暇潰しの空想としてあまり重要視していないのだが!




【Cogito ergo sum】
デカルトの「我思う故に我有り」ですね。


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校舎(まなびや)

ナス高は水星愛宕神社のある小高い丘の中腹にある。学生の寄宿舎として広いホールを持つ神社をとりあえず間借りしているからだ。そして学舎はまたも活用される12ft.コンテナ。とりあえず体裁だけ整えておけば地球圏の魔女が来た時に資金投入してくれるだろうと言う甘い目論見は2年ほど空振りとなる。


最初期の生徒が戦災孤児ばかりになるのは予想外だった。この点については全くの誤算で、もうちょっと後ならシン・セーの旧社員寮使えたのになとプロスペラは頭を抱えている。(なお、給食はゴドイが社員寮で調理して運んでいる)

 

 

【シン・セー旧社員寮】

水星のパーメット鉱床採掘権をカーギル系資本が買い取ったので、シン・セーは会社機能を地球圏に移しつつある。

 

 

そして、もう一つ重大な問題が。

水星圏の爆発的な人口増加で食料自給率が緩やかに低下しているのだ。なんとスレッタがアス高でドタバタしている内に住人が2割も増えたのである! 2割も!(スレッタ転出時の人口が300人ぐらいしか居なかったというアレ)

最盛期の水星には2万の住人が居たのだから食料生産プラントの再稼働が復活したら充分養える数ではあるが、長年放置されていた機械の再稼働にはかなりの時間がかかる。特に土だ。入れ替えできれば何のことはないが、外から土を入れる時には検疫を通さねばならない(あと畜産復活ががががが)

しかも……増えた人口の4割がサナトリウムに入っている病人で、2割がサナトリウムの職員だ。なんでこんな試される星で病気療養するのだろうか? と言うか、ダメな部分があればガンドにしてしまえばいいのに……ちんたら治癒を待つと言うやり方自体がプロスペラには気に入らない。そして……

 

 

「西洋医学、いや、今や科学的対症療法とでも申しましょうか……病気や怪我の部分を見て「全体」を見ない。あの様なやり方では治るものも治りません」

「そこで、ハイパー・ホリスティック医療という訳ですね、博士!」

「さよう。人を取り巻く環境や精神、そして魂! これらを総合的に見て治療を施さねば治癒力が引き出せんのです。その点この水星圏は素晴らしい。溢れる電磁波、そして完全菜食。この地で治療に励めば──」

 

 

ぶち

 

 

「ベル……なんで私の愛する水星が代替治療の巣窟になってるワケ?」

「私は知りません。ただ、マクロビだのレメディだのは住民の知的水準や文化文明の低下と相関があるって統計分析はありますね」

「ったく……そんなに自然が良ければ水星地表で日光浴でもしたらいいのに」

「1時間もせずに干物になりますよ(微笑)」

 

残念ながらAS125年ぐらいの医学も未来世界なのに万能ではない。救える部分や範囲は読者諸兄のいる「現実世界」よりもかなり増えてはいる。だがしかし、やはり人は病むし死ぬのである。特に宇宙では凡ゆる病気の罹患率が増すし、致死率は高い。人間は何万年も地球で生きて「宇宙には慣れていない」

科学の力を持ってしても生体としての適合には千年単位の時間が掛かるだろう……昔の漁師は「板子一枚、下は地獄」などと言っていたが、宇宙空間では板子一枚、全周地獄なのである。

 

「ベル……貴女悔しくないの! あれはガンドに対する侮辱よ!?」

「気にしない、気にしない。あの手のバカは変な教えや変な薬でバンバン死にます。勝手に死滅するレミングですよ」

「また今晩死にかけが来るらしいじゃない!」

「あら、水星で葬儀屋さんとかお墓屋さんやった方が儲かるかしら?」

「ベル!」

「先輩、見方を変えましょう。ケロッグ博士みたいなトンチキ医療は所詮オカルト。科学が育んだ最先端治療には敵いません」

「当たり前じゃない」

「縋った藁に効果が無ければ、彼らもガンド医療の扉を叩きます。今や……」ベルメリアはすっくとソファから力強く立ち上がった。

「脳すら置換できるガンド医学は最強最高! 最後に残された自我や自意識の所在さえ突き止めたら最強から「完璧」に変わります!」

「……おぉ……」

「浣腸や電気風呂やブルブルマシーンで健康になられてたまるか! ヴァナディースに置いてきちゃったけど全然効かなかったんだから!」

 

ですよねー(棒)

 

 

【ケロッグ博士】

コーンフレークを発明したおじさん。電気風呂や腰に回したベルトを振動させる機械、菜食徹底、自慰禁止、浣腸、乗馬マシーンなどなど……現代でもお馴染みの各種代替医療や健康法で財を成したマッドサイエンティスト。禁欲傾向が強いキリスト教プロテスタントの新宗教であるセブンスデーアドベンチスト教会に属しており、実在したマッドサイエンティストの中では稀有な「真摯に人々の長寿健康を願ってトンチキな事をした」怪人物。尚、アレ過ぎて後にセブンスデーアドベンチストから除名された。

 

【ハイパー・ホリスティック医療】

ケロッグ博士のホリスティック医療が現代に残って推進されてるとは普通思わないじゃん……(検索取材中に何かいけない物を見たらしい)

架空のSF(すげぇ不思議)医療として定義せざるを得ない。

 

 

「やるわよ、ベル」

「はい、先輩!」

「「私たちの科学が真っ赤に燃える!」」

「無知を照らせと!」

「轟き叫ぶ!」

息もぴったりラブラブ天驚拳の舞。こうしてマッドサイエンティストvsマッドサイエンティストという誰も得しそうに無い戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

「おー、ここだここだ」

「──カーギルもいいとこあるね。仕事の後美容と健康推進するサナトリウムでの休暇手配してくれるなんて……」

真新しい『K-Log ハイパーホリスティックサナトリウム』の門前に、どこかで見た様な2人組が到着したのは、故障気味のペビ・コロンボが夕焼けすっ飛ばして空のスクリーンを夜景に切り替わる頃だった。




教育は大切だってはっきりわかんだね。


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大衆はわかっちゃくれない(H)

ソフィとノレアは完全に騙されて送り込まれました。
まぁ、説明やブリーフィングしても聞きませんし。


総人口300人クラスの自治体は現代日本にも実在する……っ!

 

まぁ、大体はとんでもない僻地や離島だ。産業があれば案外年寄りはいざという時に安心できる大病院のある都会に引っ越してしまうので、案外平均年齢は低い。産業があれば、だ。

水星圏もパーメット採掘が盛んだった頃には20代どころか10代でも年齢を詐称して鉱山夫をしたりしていたし、活気に溢れたフロンティアだったのだ。少なくともプロスペラが幼少の頃は小中学校もあったし、近所に5〜6件ほどのバーや飲み屋もあった。住人が2万人も居ればそれなりに町は活気付く。当時は最先端の技術が惜しげなく投下され、快適なフロントの一つとして知られていた……とんでもない僻地だが。

また、鉱山の町だから案外医療設備も整っている。怪我や病気の発生率が高ければ高いほど病院というものは経験値を積む……筆者が住む埼玉県川口市でも鋳物産業が盛んだった時期から暫くは、川口工業病院が地域最大の医療機関だった事がある。四肢欠損などの重大な怪我が多発していたからだ。

 

だから当時の水星圏には医療研究所もあったし、熟練の医師も多数いた。若き日のカルド・ナボも水星圏で高機能義肢の必要を強く感じ、この地で開発を進めたのだ。ドローン戦争の騒乱は余りにも地球圏から遠過ぎて全く気にならない。田舎ではあるが平穏な土地であった。

 

それが、今や……

 

 

「ねぇ、肉は無いの? お肉は……」かなりゲンナリしたソフィはサナトリウムの朝食として出されたコーンフレークをスプーンで執拗に混ぜていた。

「──かっ……加古川以下とは……」なんとびっくり、ノレアが齧ったサラダにはドレッシングもかかっていない。塩! まさかの塩!(ただし生意気にヒマラヤ岩塩であった)

「どうしましたかな? お嬢さんたち。当院の食事は選りすぐりの有機栽培ですよ? 身体にも大変いい……」

「あのさ、おじさん。必須栄養素って知ってる?」

「もちろんですとも! ああ、タンパク質が足りないと、こういう事ですな!」

「そうだよ! 牛や山羊じゃ無いんだから!」

「今揚げたての唐揚げが……来ましたな」

「──揚げたてとはやりますね」

「トリ唐ぁ……やればできるじゃん! いっただき……」

がぶり。

もそもそ……

「「代用肉じゃねーか!!」」

一応サナトリウム側の名誉のため申せば、そもそも「今の」水星では肉食は大変難しい。スレッタが10歳ぐらいの時に食肉流通商社が倒産したからだ。更に申せば水星圏に住む人々の血の滲むような努力で大豆で作った代用肉もかなり本物の味に近付いている。スレッタが食べたら「こんなにおいしくなった!」と驚く事だろう。

が、今2人はカーギルという美味いものを取り扱う超巨大企業で働いている。社食の飯すら全力投球のこの企業では社食のたぬき蕎麦すら絶品であった。トリ唐に似せようとしているものではトリ唐の頂点を目指すものには勝てはしない。

「嘘だ……嘘だよ……月面の繁華街で食べた小諸の鶏から蕎麦が恋しくなるなんて……」

「──我孫子の弥生軒までは望まないけど、せめて、せめてニチレイの冷食は超えて欲しかった……」

 

 

【我孫子の弥生軒】

アホほどデカい鳥の唐揚げを出す。我孫子駅使って弥生軒のトリ唐食わないのは失策と言える。ただし小諸の鶏からを予期して唐揚げ2つトッピングすると泣きをみる羽目に。

 

 

「AJINOMOTOの製品には思うところがありますがね、彼らの言にも一理ある。Eat well, Live wellは我々から見ても正しい。身体は食べたもので出来ているのです。狭いケージに詰め込まれて肥育したブロイラーが健康的な訳はない……そんなものより大豆肉です。原材料は100%オーガニック! これz「黙れジジイ!」ソフィのハイキックが炸裂!「ふごぉっ!」

「──選択肢は2つ、ステーキorトンカツ」ノレアはどこからか光線銃を取り出した。

「……そんな願いは……聞けんっ!」博士は膝を震わせながら立ち上がった。

「何故……何故分からんのだ! 君たちには聞こえないのか父なる神、子なる神、そして聖霊の囁きがっ!」

「げっ……」

「──案外タフ」

「私には使命がある! 皆を健康にして長寿を全うさせる! 私の半生はこの使命に捧げられたっ! なのに世間はエビデンスエビデンスとお前らタイかっ!」エビで鯛を釣る? いや、大体のお魚はオキアミ大好きなんだが……

「何故分からぬのだ愚物が! ワシが、ワシがどれだけ君らの事を思って……」髭を蓄えた老爺が泣いている。ボロボロ泣いている。

彼の言葉に偽りは無い。彼は正真に人々を健康に、幸せに導きたいと考え、誠心誠意サナトリウムを運営している。その真心が伝わったからこそ多数の入所者がこの地に集まった。案外誠意というものは伝わりやすいのである。

だがしかし、善人が誠心誠意尽くしたからと言って必ずしも善人の行為が良い結果をもたらすとは限らない。このサナトリウムで言えば、博士のプログラムで状況が改善した者もいる──もちろん悪化した者も居るし、大部分はあまり変化が無いのだが。この様な問題から医療というものは比較対象とエビデンスを重視して統計的・確率的に有効な治療法を選択して来た。その意味ではハイパー・ホリスティック医療の主張とは異なり科学的な「標準医療」は人類全体を視野に入れた包括的な医療であるし、個々人に着目するハイパー・ホリスティック医療は近視眼的な視野に留まっている。また、標準治療も患者の体質が特異的であるとか症例が極めて少ない病状に対しては効果的では無い事がある。

 

その「標準医療が効果的では無い」患者やその家族にとって──敢えて言おう。似非科学治療はどう見えるだろう? その多くは誠実で献身的な人間によって運営されており、自信に満ち溢れている。

──ただ、エビデンスに欠けて──愚かであるというだけなのだ。

 

この様にして善人で精力的な博士は世間から排斥された。付け加えるなら善人で精力的だからではなく、愚かでエビデンスに欠ける治療を選択しているからなのだが。

故に博士はこう呟く。「大衆は分かっちゃくれない」




割とカルト宗教も大部分の信者はコレ。


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ソフィとノレアは大衆である

使い捨てのガンダムパイロットに余計な事を教えるわけもなく……
本来彼女たちは若くして死ぬ筈だった。呪われたガンドアームのコクピットを棺桶にして死ぬ筈だったのである。


ソフィとノレアは大衆である。ちょっと度が過ぎているが、無智無学の一般大衆で知識人でも学生でも無い。

だから故にハイパー・ホリスティック医療の学術的な整合性や妥当性を評価する事は出来ず、朝食がベジタリアンであるとか肉がない事に腹を立てた。まるで朝三暮四のサルである。

そして、流石の猿でも仲間や友人に囲まれて社会生活を営んでいたから、眼前の人間が悪意を持つ敵か、善意を持つ味方かぐらいは分かる。肉は食わせてくれないけど、悪い人間じゃなさそうだなというぐらいはなんとなく分かるのだ。なんならイヌネコでもそれぐらいは分かる。

 

「ちっ……しゃーねーな。夜はハンバーグくらい食わせてよ!」

「──量も増やしてください。成長期なので」

 

蹴りつけて、銃を向けたのに老爺はボロボロと泣いて信念を語る……余りの居心地の悪さに2人は引いた。あと、一応医者なんだから私たちよりも頭は良いのだろうという誤解もあった。

そう、誤解である。

学問というものは最先端に近付けば近付くほど専門特化して行き、世間でいう所の「専門バカ」傾向を帯びて行く。一応博士号持ちで医師免許を持っているのだから「その時点では」彼も一定水準の知性や知識を持っていたのだろう。しかしその免許を取るまでの人生と、取った後の人生。後者の方が長いのである。

 

「分かってくれたか、ありがとう、ありがとう。食後は軽く運動をしよう。運動は健康に欠かせないからね!」

 

 

 

【乗馬マシーン】

「……なにこれ?」

「ヨーロッパには古くから乗馬療法というものがあってね……」

それは、スクーターのシート状の椅子に座り、その座面が前後左右に揺れる機械である。何故かニコニコ動画やYouTubeでは女性が騎乗して上半身を激しく揺らす動画が多数投稿されているが、この機械はケロッグ博士が売り出した健康器具の一つである。一部趣味人はケロッグ博士に五体投地で感謝すべきであろう。

「うまにっ! しては! ジャジャ馬! だねっ!」ガッコンガッコン

「──乗馬というより、ロデオでは?」

「運動としては強度が足りないからね、ロデオを参考にして動きを強化した」

「──で、これ効くんですか? 健康に」

「健康になるまで乗るんだよ。健康になる為に」

ノレアは「それはトートロジーなのでは?」と訝しんだ。

 

 

【熱気療法】

「次はサウナはいかがかな?」

「え? サウナあるの?」

「勿論あるとも。当サナトリウムには古今東西体に良いとされるものは大抵置いてある」

「ロウリュ♪ ロウリュ♪」

 

「──で、何ですかこれは?」

「ご家庭用個人サウナだが?」

それは椅子に座った人を首だけ外に出して首から下をカバーで覆った……小型テントの様に見えた。詳しくは各人ググられたし。

「頭を熱し過ぎるのは良くないからね。長時間熱気を浴びる事ができる様に改良したのだよ」

なお、整いなどのご褒美要素はない。彼らは禁欲的なのだ。

「みっ……水風呂……」

「医者としてはお勧め致しかねるね」

「──マジか。オワタ……」

 

 

【電気風呂】

「軽く汗をかいた所でお風呂に入ろうか」

「──ジャグジー? なんか狭い様な?」

「その小さな窪みに身体を入れて浸かるんだ」

「覗くなよジジイ!」

「覗くかっ! このサナトリウム内では性的欲望発散は禁止だ!」

うん、まぁ。それは本当。

 

電気風呂もケロッグ博士が商売にしたものの一つだが、それに先んじてヨーロッパでも流行ったし、日本でも西日本を中心に流行した時期がある。

通電により筋肉が勝手に反応して収縮する。動いているのは自分の筋肉なのに何というか、揉まれてマッサージされている様な感覚を覚える。

 

「お"っ、お"っ、お"っ、お"っ、お"っ、お"っ」

「かっんっでっんっしってっるっ」

「アンペア低いから心配する事はない。聞くの忘れてたがベースメーカーなどは入っておらんよな?」

「さっきっにっきっいってっ!」

 

 

ちょっとネガティブな方面ばかり描写してしまったが、概ねハイパー・ホリスティック医療はこんな感じである。(浣腸話に触れてない辺りでかなり手加減はしてる)

西洋医学に対する懐疑(反目?)とキリスト教プロテスタント系ベースの哲学から始まっているので、耐える、忍ぶ、我慢、節制が割とクローズアップされ気味であり、効くはず、有効なはず、正しいはずが割と多い。そして一部、本当にビミョーではあるが「効いてしまう」部分もあるのが厄介なのだ。プラセボ効果もバカには出来ないし。

ハイパー・ホリスティック医療は中国医学やインド医学も取り入れているので、個々人に合わせた治療を行う。同じ病状に対してアプローチが複数種類あるので「統計的な数字」を出しにくいのだ。(漢方などでは患者の体質を加味して同じ病気でも違う薬が処方される事がある)

意外に思われる方もいらっしゃるかもしれないが、西洋医学ばかりと思われがちな現代日本の大学病院でも漢方薬は普通に処方されている。有効だと判ればなんでも採用するのは西洋医学も同じだ。但し西洋医学では治験をしてデータを揃えなければ認可が降りない。他の医療を取り込みはするが、ベースとなる科学的、統計的、エビデンス重点の視点はブレない。多くの病院が標準医療を選択する理由でもある。

 

 

「なんか、身体が楽になった、ような……?」

「──気持ち的には、悪くない?

 

軽い運動と身体全体の温熱により血流促進。ヘルシーな食事……重篤な症状の病人でもなければ確かにこれでも身体は休まるし、体調も良くなる。変わった事・特別な事を「したのだから」と脳が認知バグを引き起こして、実際感覚的には「良くなった気がする」(個人の感想です)(感じ方には個人差があります)

 

ソフィとノレアは大衆である。科学的な厳密さや精緻な理論とは無縁の世界で生きてきたし、感覚を大切に生きてきた。細かい事は解らない。

ただ日々の生活で人の善意悪意には敏感であったし、他人が自らのために良かれと尽くしてくれる事には感謝を忘れない程度の人間性は残っている。

 

 

そして、若さ故に「善意が必ずしも善行になるとは限らない」なんて事は知らなかった。




カルト宗教でツボや印鑑買わせる奴、あれ信者が悪意を持ってやるからではなく、それで金出す奴が救われると「本気で信じてる」のが厄介なんよ。手かざしにしろ何にせよ、あの人らマジで善意で他人を救おうとしてる。その「剥き出しの善意」を払い除けるのは結構大変。彼らが拠り所とする思想の全否定だ。普通は人の温かな心があればそんな事は出来ない……(筆者は若い時人の心がアレだったんで散々やった)


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退院のカタチ

うむ、困った事になりましたね……


【夜半、サナトリウム内】

「ゆっくりな。静かに」

「無念だ……また、助けられ無かった」

 

病院というのは、案外死人が出る所である。長期入院している親族でも見舞いに行けば知る事になるが、先週いた爺さんが今週は【退院】しているなどしょっちゅうだ。

何某かの不具合を抱えているから病院に行くのだし、その症状が重いから入院する。そして治れば退院するし、治らず残った時間を我が家で過ごしたければ退院するし、治療の甲斐なく死んでしまっても退院する。

 

これは如何なる入院施設でも例外なく起きている。西洋医学だろうと東洋医学だろうと疑似科学医学であろうと変わりはない。統計的に見れば差異は当然あるだろうが、統計的に有意な数字を取れるほど家族親族が多い人間などいるはずも無く……大衆は医者や病院を自分の親族家族を救えなかったと言うだけでヤブ医者と罵り、【運良く】救われたらどんな医者であろうと名医扱いする。

 

先にも書いたが、ハイパー・ホリスティック医療を用いるこのサナトリウムは誠実で献身的な職員によって運営されており、彼らは死者を出した時にまるで家族を失った時の様に消沈する。筆者の父は難病に罹患して20年近く入退院や通院を繰り返し、最後はガンで亡くなったのだが……余命1ヶ月宣告を受けた際に、1番ボロ泣きしたのは主治医であった。私も老母も余命宣告の驚きが大き過ぎて泣くどころではなかったのたが、主治医は自分が見逃した、殺してしまった(いや、救えなかっただけなんですが)とおいおい泣いた。余りに泣き過ぎるから説明その他は上長の教授が担当したが、死んでしまうもののこの病院で本当に良かったと思ったものだった。

 

医療従事者は、いつも誰かの為に「負けられない戦い」を続け、偶にそれでも負けてしまう。辛い商売だ。

 

 

ストレッチャーで裏口へと、1人の職員と博士が死者を運ぶ。サナトリウム暮らしが長い者はその僅かな音だけで仔細を察し、布団を被って死者の魂の平穏を祈る。

それがここの日常なのだ。重ねて申し上げるが、これはアドステラの時代の病院でもままある事で、特別酷い事ではない。

ではない、のだが……

 

「大口叩いてたら、セカンドオピニオンは聞かせられないものねぇ」

「だっ……誰だ君は!」

「仮面の教師、プロスペラ・マーキュリー」

「ガンド医療開発者、ベルメリア・ウィンストンよ」

「手術施設も検査機器も十分ではない施設で、重病患者を引き受けるのは感心しないわね」

「お前たちに何が分かる! 彼はこの私とハイパー・ホリスティック医療を信じて当院の門を叩いたのだ! その全幅の信頼に「大学病院行け」なんて口が裂けても言えん!」

「いや、言いなさいよ。私の治療では無理だ、腕のいい医者を探せって。患者の命を最優先にするなら……出来るはずよ」

「仕方ないですよ先輩。もうこの人……気付いてないけど患者の命より自分の名声大切にしてますもん」

 

『仕方なかったのよぉ!』の達人、ベルメリアは割と酷い事を言う。貴女も割と博士と同類では?

 

「ヒトには信仰の自由がある……彼らが選んだんだ!」

「宗教ならね、でも貴方たち……医者でしょ?」

「その死体、どうするのかしら? フロントの入出記録調べて驚いたわ……6人ほど辻褄が合わない」ベルメリアが珍しく鋭い目で睨む。

「大体見当付くわ。水星の廃鉱山に捨ててるでしょ?」

 

私もシン・セーに潜り込んでスレッタ狙うエージェントはそうやって始末したし、とは言えぬプロスペラであった。

 

「あっ……それで!」

そう、水星のパーメット鉱床採掘権はカーギル資本の企業が取得した。そして妙に新しい死体が複数見つかってシン・セーに照会が来たのである。(プロスペラは自分たちがやった分もこいつらの所為にしてしまおう等と邪悪な事を考えていた)

 

待ってくれ。この話の中にまともな人が1人もいない(大問題)

 

「紹介状ぐらい書いたってバチは当たらない……でも、ホリスティック系で最優と名高い貴方には他の腕の良い医者とのコネクションが無い。学閥からもパージされてるでしょ?」

非標準医療の弱点である。通常の医学界の通説とムッチャクチャな違う処置をしていると……

 

1.代替医療ではダメで、標準医療したら改善したと噂が立つ

2.下手したら薬事法違反や医師法違反がバレる

3.医療過誤で告訴のリスク

 

ガンド医療……ガンダムに用いられてしまったし、多くの場合単純な義肢技術と「一般には思われている」ガンドであるが、実は症例が少なく目立たないだけで移植系の医療現場からは大歓迎されている。人体内の臓器を適合や免疫気にせず置換できると言うのは魔法の様なテクノロジーなのだ。若き日のエルノラ・サマヤが人体の大部分を損傷したのに移植順番待ちもせず、迅速に回復出来たのはガンドのおかげである。そしてそのガンドの縁も、カルド博士が多数の医学者や医療従事者と紡いだ絆があったからこそ結ばれた……

「医者を含む科学者は、決して1人じゃない。皆の知恵と知識で課題に取り組んでいる。何故その輪に加われないんですか!」

「加わろうとしたとも! 何本も論文を書いた! 学会へも参加した! しかし私に与えられるのは侮蔑で温かい手ではなかった!」

 

まぁ、実際学会でトンチキな話をする事自体は可能である。大体無視されるが。論文だって書けば一応掲載される事もある。権威のある雑誌などではしっかり査読されて、内容がしょぼければリジェクトされるが。

 

「……単純に実効性が余りに低いからとか、再現性がまるで無いとかじゃないの? 普通は体裁整ってたら多少は問い合わせが……」

事実、プロスペラ名義で書いた群体制御におけるAIとシェルユニットの応用だとか、自律運動兵器の運用におけるニューラルネットワーク(以下略)なんかは各所から問い合わせが来たし、論文も結構被引用数が多い。(本作ではプロスペラはテストパイロットであっただけでは無く、BMIとかAIを活用した制御系の研究者)

 

「誰も解っちゃくれない! 私を信じてくれるのは私の治療で救われたり、科学が取りこぼした人々だけだった! どうして彼らを裏切る事が出来る! ガンドだって……」




登場人物全員MADとは……


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大衆はわかっちゃくれない(G)

GはガンドのG


「──でも、私たちは歩みを止めなかったわ」

「ええ、みんな頭悪いのは知ってましたしね」ベルメリアは優しく微笑んでいるが、強化人士周りの事を考えると「あなたは一度立ち止まるべきだった」と言わざるを得ない。

「あなたは知らないでしょうけど、最初期のガンドは学会でもめちゃくちゃ非難された。特に神経系のガンド技術は禁忌である「脳」の模倣に繋がるって大批判されたわ」

「倫理条項厳しかったですよねー」

「私とベルの研究範囲はその辺だったから……ロボット的に「ヒト」を作るのは神に成り代わろうとする傲慢だとか散々言われたわ」

「当たり前だ! 造物主への反逆ではないか!」

 

これ、地味にロボット研究が欧米であまり流行らなかった理由なんですわ。日本では宗教的にその手の禁忌がなく鉄腕アトムに憧れて研究されたが、いわゆる中東原産の一神教ではバベルの塔の説話の通り、神に並び立とうとするのは神への不敬になってしまう。

 

「それは貴方の信じる神が、余りに無力だと言う様なものよ、ドクター」

「なっ……なんだと?!」

「造化の御技は貴方が考えているよりもっと神秘的で、もっと深淵だったわ。私たちは研究を通して我々の稚拙さに歯噛みした……」

「はっきり申し上げましょう。私たちは脳の研究の果てに霊とか精神、或いは自我と呼ばれるものの片鱗を掴みつつある」

「出来てしまったのよ、私たちは偶然にも『こころ』の所在を掴んでしまった。パーメットの海の向こうにね」

「あなた、散々精神だ心だ魂だって語るけど、魂って何か定義できるの?」

「私たちは出来る。いや、定義する為の鍵を手にしたわ」

「あ……悪魔め」

「世間では私たちを魔女と呼ぶわ」

「世間はわかっちゃくれない。大衆は理解しようともしてくれない」

「でも、いいじゃない。救われるのよ、命が。救われるか救われないかしか気にしてない人々が欲してるのは実績なのよ」噛み砕いて話すと、「結果オーライ」と言う事だ。

「救われたと言う実績が、やがて皆に理解される日が来る」

「私もそれで救われたから、この道に入った様なものだしね」プロスペラは右腕の袖をまくり、愛用の古いガンドを見せつける。

「レメディや瀉血なんてやめて、こっちにいらっしゃい。ただ、無駄な代替治療や疑似科学で救える筈の命を救えなかった落とし前はつけてもらうけど」

 

 

 

 

「と、言う訳で水星にガンド医療の開発・施術センター作って医療モール化はどうかしら?」

「……正直水星に多数の部外者入るのは好ましくないんです……」

「じゃあ、研究所は水星に置いて金星あたりに総合病院作ります? ジョージさん?」

「ん〜、内惑星側の治療拠点か……」

「スレッタのレスキュー養成校と並立して水星の発展の軸足にしたいわ。どうせナスティカシアも産まれたてのガンドロイド達の学舎として使うつもりだったんでしょ? ある程度人がいた方が彼らも隠しやすいと思うんだけど」

主席調査官はうぅむと唸った。確かに水星のパーメット鉱床の管理をするなら、ある程度水星フロントの設備アップデートや住環境改善はした方がいい。今のままでは赴任希望者が集まらない。また、人口が増えるなら食料需要も増えてカーギルの商売にも繋がる……機密保持さえ何とかなれば……

「あ、そう言えば……最新情報があるんだけど」

「ほぅ、何の?」

「ウチの娘が水星に栄光のミオリネさん像立てたがってるわ」

「え……栄光の……なんだって?」

「貴方の姪の巨大スタチュー作るんですって!」

 

 

 

 

「わぁぁぁ……」

「どう? スレッタ校長」

「べっ……ベルさん! 何ですこの綺麗でゴージャスな宿泊施設は!」

「ある方が譲ってくれたのよ。水星の発展に役立てて下さいって」

「これ、本当に学生寮にしていいんですか?」

「炊事場もあるから、ゴドイさんの料理もここで出来るわね」

「わぁぁぁ……校舎も誰か寄付してくれないかなぁ」

ふふっ……こういう所、本当に先輩そっくりだわ。ベルメリアは目を細めてフレディ君を抱き勝手な事を言うスレッタを眺めていた。

 

 

こうして、ナスティカシア学院最古の寮、ホリスティック寮は生まれたのであった。件の博士は後に(罪を償った上で)学校の校医を務めることになる。

 

「次は何が必要かしらね?」

「私、思うんです……せめて金星圏との定期航路出来ないかなって……金星フロントならAEONあるし、Tohoシネマズあるし……」

「そう、定期航路ね……」ベルメリアの目が怪しく輝いた。

 

……学舎の話はどこに行ったんだ?

 

 

【学舎の話】

いや、水星フロントは空き地沢山あるから用地は全く苦労しないのだが、建築資材(まるで無い)と、建築スタッフが全然居ないのである。

観光地でも無いからホテルも無いし(民宿はある。ホテルはAS100年ごろ相次いで倒産、撤退した)、僻地故にそれらをかき集めると輸送費ががががが。

建物を建てようにも地面しかない。プレハブや2×4やコンテナハウスが流行る訳である。豪華に新築されたサナトリウムは、実はめちゃくちゃ金かかってます。代替医療は美味しいんだなぁ。




当初はケロッグ博士のアレをもっと派手にアレしてダーティーペアがアレする話だったんですが、ケロッグ博士の事を調べる内にアレが筆者の予想を遥かに超えて、日本国内でも多方面にがっちり根付いて「創作とは言えあまり露骨にやるとかなり面倒なことになりそうなんで」ハイパー・ホリスティックになりました。ホリスティックとハイパーHは第二次世界大戦中のアメリカ無反動ロケットランチャー「バズーカ」とガンダムが使うハイパーバズーカぐらい違います。


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水星の開拓者

ミオリネGT、建築業界に興味を示す。


ミオリネ・マーキュリーはアステイカシア高の地球寮新築工事を視察していた。余りにボロいからと寮母をしているマルタンに泣き付かれたのだ。

まぁそれぐらいならと木造3階建の新・地球寮建築を計画して先ほど地鎮祭を終わらせたのだが(神主はスレッタの希望で水星愛宕神社から呼び寄せた。どう考えても京都の愛宕神社本宮から呼んだ方が安上がりなんだが)、施工日程を聞いて2度驚いた。

「なっ……何コレ?」

いわゆる工程表な訳だけども、細かく割られた建築工数を複数の担当者が分担して行う。更に工事遅延や予備日を挟んで……

「非効率この上無いわ! なんでこんなちっちゃい建物作るのにこんな……」

「お前、たまにすごいポンコツになるよな。建築なんてこんなもんだぞ」学園長グエルは呆れ果てている。

「工場で部屋単位で完成させてそれを運び込めば……」

「モジュール工法だな。間取りの自由度が減るし輸送費が洒落にならん」

尚、完成させた部屋を一旦バラして運ぶのがプレハブ工法だ。

「なら建材を工場で加工してから持ち込んで……」

「プレカット工法だな。いくらお前が頭いいと言っても建築業界だってバカじゃない。ちゃんと高効率化目指して研究進めてる」

「でも、こんなに職人が必要で工程が細分化してたら水星じゃ……」

「……俺も不思議に思ってたんだが、水星に学校作るとして建物どうするんだ? あんな僻地じゃ……」

 

 

現在、水星圏ではカーギル本社が魚介類の養殖を目的とした水産資源養殖プラントを構築中である。もちろんそれなりに現地で働く職人も居るが、大部分は地球圏でモジュールを完成させ、それを輸送艦で「曳航」して水星衛星軌道上で組み立てている。少なくとも外壁部分を完成させてから運ばないと水星では強過ぎる太陽風の影響をモロに受けてしまうし、宇宙空間での作業もモビルクラフトや建築用MSで行わねば人体に重篤な被害が出る。

そして……水星圏には建材屋なども存在しないので……カーギルは惑星開拓公団に依頼して、建材輸送や作業員宿舎施設を備えた「宇宙飛ぶ工場(フライング・ファブ)」と呼ばれる超大型艦をチャーターした。作業員1000名を含む総員5000名が過ごすちょっとした町だ。各惑星の軌道上に浮かぶフロントの建築にはこの規模の大型艦が数隻派遣されるのが常である。

「モジュール生産も任せてくれたら儲かったんだがなぁ」

「中に海水充填するんだろ? そりゃ空気充填する人間居住前提のフロントとは構造強度が違う。特注なんだろうな」

人工重力を発生させる関係上、多くのフロントでは遠心力を用いている。これにより気圧差と遠心力で居住区画は常に膨らむ力が掛かっており、初代ガンダムに出てきた形のオニール式スペースコロニーでは、気圧をわざと下げてコロニー外壁に掛かる力を低減している。

そして、魚介類の養殖を目的としたこの養殖場では内部空間の5割までを海水で満たし、完全にバランスされたバイオスフィアを作り出すという。膨張圧力は一般的なフロントの数百倍。構造強度は千倍に近い。

勿論こんな設備で魚介類養殖しても、売価が高過ぎて商売として成立はしないだろう。実態は厚過ぎる外殻に潜ませたガンダム製造プラントであり、カーギルの水星監視拠点だ。その為に完成したモジュールを現地で組み立てるという方法を採用している。

 

そして、経営戦略課主席卒業したミオリネGTは、あっさりカーギルの狙いに気付いたのである。

 

 

「お久しぶり、伯父様」

「会社は順調みたいだね、ミオリネ」

「単刀直入に聞きますね、水星圏で建築中のプラントって、水星圏監視用よね? あと何かの工場やるつもりでしょ?」

カーギル情報分析官であるジョージ・マクミランは超能力じみた洞察力を持っている。ほぼ読心力の域に達した彼の灰色の頭脳はミオリネの意図をすぐに悟る。

「ホワイトドワーフの中の資材買取と職人の派遣要請か」

「当たり。やっぱりモジュール曳航するって事は、何か機密が詰まってるって事……余るんでしょ、資材」

「機密保持のために人員も余ってる。で、ペビ・コロンボの補修と学校建築と……後は?」

「最初だけ当たり」

「え?」

「やはりカーギルとは言えアーシアンね。スペーシアンの心情は分かって無いわ」

「どういう事かな?」

「海への憧れよ」

 

 

 

 

「グエル。今忙しい?」

「いや、コーヒーブレイク中だが」

「あのさ、甥っ子くんと海でスイカ割りとかバーベキューしたくない?」

「大変魅力的だが、地球の浜辺じゃスペーシアンへの風当たりがなぁ……」

「宇宙にあったら、どう?」

「……なん……だと……詳しく話せ、ミオリネ!」

 

 

「お爺ちゃん、元気?」

デリングは素早く把握した。お父様でも元総裁でもなく、お爺ちゃん。つまりこれはレン絡みのお願い……緊急事態だ。株やってる場合ではない!

「暇では無いのだがな。他でも無い娘の話だ……何が望みだミオリネ」

「家族で海に旅行とかどうかなって」

「緩んできたとは言え、まだまだアーシアンのスペーシアンに対する恨みは深い。モルディブ辺りを貸切にするとして……」

「もっと小規模に気楽にやろうってハナシよ。スレッタから水星に定期航路敷設したいなぁなんて相談されたんだけど……」

「話が見えんな。長くなるなら茶を用意させるが」

 

 

 

 

「既に親父とジェターク社からは積極的な参加の意思を貰ったわ。水産資源だけではなく観光資源にするのはどう?」

「……わざわざ水星まで海水浴……そこまでしなくても地球に降りたら……」

「そこよ、スペーシアンも地球で海水浴したくはある……でも、恨まれてる自覚があるからおっかないのよ。海パンに拳銃や防弾チョッキ着るわけにもいかないしね」

「安全に楽しめる宇宙の海、か……」

「どうせ養殖場と秘密のブロックは厳重に区分けするんでしょ? 養殖場側に砂浜とちょっとしたホテル作るだけ……ホテルも地球寮で一緒だったオジェロの実家がラスベガスでリゾート開発手掛けてて、条件良ければオジェロが口効いてくれるって」

無論、条件とはカジノ経営権である。

「一気に外堀埋めてきたね……そんなとこはノートレットそっくりだ」

「高級リゾートホテルで新鮮豪華なシーフードパーティ。アホみたいに単価が高い魚介類もスペーシアンの金持ちには売れるし、リゾート地があれば定期便も水星圏に引き込める……」

「うーん、水星シーフードの宣伝にはなるか……確かに水産資源養殖実験だけで使うのも勿体無いっちゃ勿体無いなぁ」

「水星に産業が生まれたら、そこで働く人々の家も必要になる。ペビ・コロンボ23なら2万人ぐらいまで収容可能……あ、先にウチが馬鹿みたいな価格で土地買ったけど、カーギルへなら格安提供するわ」

「よし分かった。本家にプレゼンする前に一回みんなでブレインストーミングしよう。スケジュール調整は任せた」




交通網発展する前に土地買うのは基本です。西武グループを見よ。


追記:
筆者は変な事を考えた。何故水星の魔女では学園物定番の水着回が無いのか。まぁ確かにジェンダーのあれこれとかポリティカルコレクトネスとか色々あるのだが、そもそもの問題としてスペーシアンは地球の海でバカンス出来るような環境に無いのではないか。大体スペースコロニーに海とか巨大な湖作れないだろうと。(本作でもアス高みたいな超セレブ高ですら釣り堀ぐらいの施設しかないと設定してる)
ならば、作れば良い(創作魂)
海産資源養殖自体は現実世界のカーギルもやっている。また、牧畜に比べると魚介類養殖は「宇宙では」やたら困難であり(主に大量の海水とその循環がネック)、そこらのSF作品でも宇宙で新鮮なシーフードとか殆ど見た事がない。

数少ない例外がキャプテンハーロックの海賊島とサムライレンズマンに出てくるマッコウクジラレンズマンの宇宙船であるフィッシュボウル号である。


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宇宙の海は俺の海

末尾記号
プ プル
エ エリーゼ
ス スレッタ
ミ ミオリネ
ジ ジョージ・マクミラン
デ デリング
グ グエル
ラ ラウダ
フ フェルシー
ペ ペトラ
マ マルタン
母 プロスペラ
ベ ベルメリア


「そもそもの話なんだが、海産物生産プラント作るって事自体が可能なのか? 学校のプールでさえ結構維持運営には金掛かるぞ?」

「グエル君だったか、大変鋭い意見だ。小型フロントとは言えプラントの容積は莫大で、そんな量の海水を運んだり合成したら流石のカーギルも破綻する。

だが、地球側にもちょっと切実な問題がね……」

「地球温暖化……」

「え? プルちゃんこのプロジェクト絡んでるの?」

「うん、プロジェクト起案は私とエリーゼだよ?」

「海水を地球の外に出したいんだよ。海面上昇が結構ヤバくてさ……」

「ただ宇宙にばら撒いてもどーかなーと」

 

元々は海面上昇に対するソリューションだった。勿論地球の海水面を下げるほどの莫大な水を動かすのは容易ではないが、ガンドロイド達が使う「本物の魔法」が問題解決の手掛かりとなった。

 

「まぁ、繋いじゃえばいいんだよね。空間を」

「ゴブリンスレイヤーさんが参考になりました☆」

 

こうして海面上昇自体は比較的簡単にクリア出来る目処が付いたが、何処にでも海水を運べるというそれ自体を何か商売に出来ないかとカーギルは考えた。エビの養殖ぐらいまでならそこらのフロントやプラントでも実施しているが、回遊魚などの養殖は未だ誰もなしえておらず、マグロやサンマは超高級魚として珍重されている。

 

【根魚】

ある特定の海域に住み着き回遊しない魚。主に餌が多くて繁殖しやすい河口付近に住み着き養殖に向くのだが、戦争シェアリングなどで地球環境が荒れまくった結果──魚介養殖は壊滅的な打撃を受けた。そうして回遊魚を追い回す遠洋漁業が盛んになるのだが、今度は漁獲高が安定しない。

そも、人類の生息域が太陽系全域に及ぼうとするこの時代に、地球でしか海産物が採集できないというのがおかしいのだ。

 

そこでカーギルは考えた。回遊魚がある程度回遊出来るぐらいの食料プラントを作り、スペーシアンに売り付けよう。先ずは養殖魚を供給してスペーシアンに魚の味を叩き込み、その後に「天然物」として地球産を高値で売る!

 

が。

 

「ちゃんと計算したら、宇宙でお魚養殖してもそんなに安くならなかったんだよね……」

 

で、まぁ最初はノウハウ蓄積だけでいいかと諦めかけていたし、肉すら食えない水星圏ならワンチャン……と考えていた所でいいアイデアが来た。

 

「どうせ作るなら、観光資源としても活用したら良い」

 

「缶詰工場や冷凍倉庫の事ばかり考えてたよねー」(エ)

「カーギルの食料需給重点視点に染まり切ってたよねー」(プ)

「はっきり言おう、完全に我々が見落としてた視点だった。流石ノートレットの娘だ。で、異なる視点の重要さを思い知らされたのでこうして諸君に集まって頂き、更なるアイデアを貰いに来た。忌憚の無い意見を伺いたい」(ジ)

「先ずは釣りだな。ホビーの王だ。間違いない」(デ)

「クルーザーで洋上パーティは欠かせないでしょ、セレブ的には」(セ)

口火を切ったのは釣り好きデリングとセレブムーブ大好きセセリア。強い海への執着を感じます。

「海水浴場と海の家は欠かせないな。覚えてるだろラウダ」(グ)

「カレーに肉入って無いって大騒ぎしたよね。兄さん」(ラ)

「何故か大して美味しくないのにアガるんだよねー」(ペ)

「花火もやりたいのだ!」(フ)

「火はちょっと……」(ジ)

「「「「えーっ!!!」」」」(ジョージ以外全員)

「えっ? えっ? 海でそれ必須?!」(ジ)

 

 

この辺『僕たちが作ってくストーリー』コーナーとするので、読者諸兄も海レジャーを考案してコメントして良い良い良い。

 

 

一方、話に参加している中で唯一のアーシアンであるマルタンは驚いていた。誰1人として「サーフィン」を提案しない……まぁ、海遊びを滅多にしないスペーシアンにはあまり知られていない競技であるし、アーシアンでも比較的貧乏で浜辺に気軽に遊びに行ける層に人気のスポーツだから仕方ないのか……と彼は端末をポチポチしてアス高入学前の大会優勝時の動画を探し出した。

「あのー……みんなこんな遊び知らない?」(マ)

サーフボードを抱えた若き日のマルタン……マッシュルームカットが潮にまみれてパサパサになり、些かワイルドな風貌になったモヤシ少年が、ビッグウェーブに向かって……

「誰だ、これ?」(グ)

「僕だけど……」(マ)

「お!」(セ)

「えっ!」(ミ)

「ガンビットみたい……」(ス)

自信に満ち溢れた演技だった。あのマルタンが、学園でも一二を争う気弱な少年が華麗に波と戯れる。波の管の間を走り抜ける様に、白い波頭を蹴り上げて宙を舞う様に。

「海が近かったし、お金かからない遊びだったからさ……」(マ)

「先輩、才能をこれに全振りだったんスね……」(セ)

「人工の海なら波も調節出来るから、競技会には最適かなって」(マ)

「マルタンのマはマリンスポーツのマだったか……」(ラ)

「僕はやらなかったけど、金持ってる奴はヨットやパラセーリングなんかもやってたね」(マ)

 

スペーシアンは海無し県埼玉の民に似ていた。身近に海が無いから海のレジャーに詳しく無いのだ。マルタンからすると花火は別に海じゃなくてもいいだろという話である。

 

「小さな子の遊びなら、潮干狩りなんてのも」(マ)

「何それ?」(ミ)

潮の満ち引きから説明しなければならなかった。貝がどんな生態か語らねばならなかった。スペーシアンは海に対して余りに無知だった。

「食べ物が海の中に転がってるなんて……」(ペ)

マルタンはドン引きである。正確にはただ転がっているのではなく、漁師が区画毎に採集する様放置したり稚貝を放したりしているのだが。

「うん、僕たちもそれ自体は知ってたから、海水入れとけば勝手にお魚とか増えると勘違いしてた」(エ)

「実際やろうとすると水質管理やプランクトンの定期的流入とか色々タイヘン」(プ)

「……管理が大変なら、雇用も産まれる、か……」(母)

「水星圏に労働力が必要になりますね」(べ)




未完成状態で投稿する荒技。11/25まで。


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水星マリンレジャー計画

カーギルはこれをアーシアンとスペーシアンの融和に使えないかなどと考えた。


「ジョージ分析官、なんで水産資源養殖プラントの話がレジャー施設建造計画になったか、説明を」

落ち着いた調度の広い会議室。カーギル本社の経営企画会議室だ。今、ジョージ・マクミラン主席分析官は査問を受けている。

「あなたのお仕事は情報分析で経営企画やサービス開発ではないわよね? 流石にこれは職務から逸脱し過ぎているわ」

「それは理解しています。グラン・マ。そもそも本計画は地球温暖化に伴う海水面上昇と、それに伴う島嶼住民の生活地、耕作地減少問題の解決から始まっておりまして……」

余りに楽しそうな計画だからか、カーギル経営陣は機密保持を理由に馬鹿げた規模の予算横領を疑った。今回の計画で計上された予算はカーギル全体の年間投資額の2%を10年続けるという莫大な金額だった。

「簡単に申せば、我々も海を舐めていました。水産資源の大規模養殖はテラフォーミング並みの惑星改造が必要です。生態系をそのままコピーしなければ成立しない。地球で比較的簡単に水産資源の養殖が可能なのは地球環境という巨大なシステムあってのこと。宇宙で中途半端な養殖場を作っても、それは早晩破綻します。費用対効果が悪過ぎる」

「そこで本計画は凍結も視野に入れて再検討された訳ですが、その過程である発見をしました」

「続けなさい、エリーゼ・マーキュリー」

「海への憧れ、です。我々の計画が莫大な費用を要する様に、海を宇宙に作るのは莫大な予算を必要とします。簡単な話地球に海があるのだからスペーシアンも地球でレジャーを楽しめば良いのですが、戦争シェアリングによりアーシアンの対スペーシアン感情は最悪です」

「いくら興味があっても治安が悪い所でレジャーは無理がある。特に自然環境の中に入り込むのは護衛も相当用意しなければならない……結果として彼らは登山やマリンレジャーに触れぬまま何十年も経過しています」

「……下手に揉め事起こさない為には良い方策よ」

「逆に考えましょう。彼らが積極的に地球でのレジャーを楽しみたいと考えたら、彼らはどんな動きをするでしょう?」

「……ほぅ」

「──彼らは戦争シェアリングで地球の富を吸い上げました。しかし地球というシステムまでは吸い上げる事は出来ない。地球で安全にレジャーを楽しむ為には地球──アーシアンとのある程度の融和が欠かせません」

「宇宙にマリンレジャー施設作る理由にはならないじゃない?」

「食べたことがない料理、なんですよグラン・マ。どれだけ美味い料理でも、食べてみなければ美味さは分かりません。何十年にも渡り彼らはそれを食べずに過ごし、味を忘れてしまったのです」

「わざわざ水星圏という僻地に馬鹿みたいに高額なリゾートを作る。金持ちは来るでしょう。そこまで金がない人間はどうするでしょう?」

「安い地球に向かおうとする、か……」

「安価に提供してはいかんのかね?」

「海の価値を高める作戦です。それを経験する為に馬鹿みたいな対価を払った方が宜しいかと」

「我々の【食の相互依存度を高めて融和】のバリアントです。レジャーを通じて相互依存度を高める。その為にはあの僻地に極上のリゾートを建造して馬鹿みたいな金を巻き上げる必要があります。まぁ、第一弾の水星圏宇宙の海計画が成功したら、若干安めの「月の海」をやってもいいかもしれない」

「先ずは海を体験してもらうこと、次に地球の海が如何に偉大か理解してもらうこと」

「かつて私の妹が進めた計画の発展継承です。アーシアンの持つスペーシアンが触れ得ない宝。宇宙に浮かぶ青い星【地球】、人類生息域の中で最大のバイオスフィア……この力をスペーシアンに再度思い出して頂く」

 

「──いいわ、進めなさい」

「グラン・マ、よろしいので?」

「条件は付けます」

エリーゼとジョージの顔が強張る。

「水族館とイルカショーを忘れないこと。将来的にはクジラも飼育しなさい。食べたらダメよ」

最高意思決定者は、お茶目にウィンクして見せた。

 

 

 

 

「ミオリネさんっ! 許可降りたって!」

「オーケィ! 任せなさい!」

宇宙議会連合、スペースワシントンD.C. ズムシティーじみた前衛芸術の城の中で、ミオリネは議会連合副議長と対峙している。

「さぁ、私が押さえた建材どうします? 新たに取り寄せたら輸送費いくら掛かるかしら?」

「インサイダー取引ではないかと思うんですが……」

「違うわ、私は賭けに勝ったのよ……投機ではなく投資。私の婿の地元ですもの」

「で、議会側も投資をしろと?」

「あそこまでボロボロのフロント放置とか、誰も問題視しなかったの?」

「単純に費用対効果です。水星圏の300人救う為の予算で火星や木星の何人を救えるかと。トロッコ問題ですなぁ」

「でも、私が行先決めてしまったわ。シン・セー開発公社はラグランジュ1に拠点移したけど、改めて水星開発に立ち返る……今度は建築部門として、ね」

「ミオリネさん、貴女水星から宇宙議会に参加したらどうですか? 共和党側に席一つ用意させますよ?」

「スレッタに釘刺されてるのよねぇ……」ミオリネは紅茶を一口飲む。

「仕事は他の人にできるだけ任せてくださいって。社長の他に議員なんかしたら、スレッタにまた怒られるわ」




「お母さんが言ってました……
現代ラノベなら田舎でスローライフ展開は必須だって……」

……まぁ、確かに水星ペビ・コロンボはど田舎ではあるのだが。


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魔法使いのホウキ

これまでの筆者の心の中のあらすじ

1.水星圏にカーギルが水産資源養殖プラント作るのは、実際カーギル(実在する企業)が最近やってる事業なんで、普通に取り入れた。
2.しかし実際にはエビの養殖程度で案外チマい。キャプテン・ハーロックでアンタレスカニの養殖やってるから、後発としてはカジキやマグロサイズの養殖を目指したい。
3.くっそデカくなり過ぎない? てか、そんな大量の水を地球から汲み上げるとか無茶だし、水星に運ぶ? 馬鹿なんじゃないかな?
4.あ、パーメット空間接続で繋げたらいいのか。
5.最初から海サイズの養殖場は無理があるから、他の海水汲み上げ目的を想定しよう。地球温暖化に伴う海水面上昇抑制とかどうか。海水面下げるくらいの海水移動……テラフォーミングだし、そんな大量の水を湛えられるフロント作るってアホみたいに金掛からんか?
6.普通に考えて無理や。そんな馬鹿みたいな生簀作っても採算が合わない。一貫3万のマグロの握りを誰が食うのかと。
7.……東京近郊には一泊30万とかのホテル増えてるしな。金持ちならやるかな? 不採算をセレブ向けレジャーで補うのはアリか。
8.浜名湖のグランドXiv(会員制高級ホテル)とか、ホテルからそんな遠くないとこに従業員用の社宅作ってたよね。
9.高級リゾート建築して水星圏に従業員を住まわせる。また、高級リゾートに宿泊できない人はペビ・コロンボに宿泊して海だけ日帰りで遊びに行く。伊豆七島神津島(人口1800人ぐらい)や八丈島(人口8000人ぐらい)程度のコロニーには出来るのではないか?
10.尚、筆者の現時点での水星圏イメージソースは福島県の檜枝岐村(人口500人ぐらい)や東京都利島(としま)(人口300人)


「ミオリネさん、ちょっといいかしら?」

「あら、お義母様。お久しぶりですね」

「ちょっと質問とご提案があるんだけど、宜しいかしら?」

「……大体予想付きます。水星圏開発に携わる労働力についてですよね?」

画像通話は妙な緊張感を孕んでいた。ミオリネからすれば……相手は魔女と呼ばれたプロスペラ。ベルメリアとのコンビは「狂気の魔女」の異名を持つ。ダーティーペア並みのトラブルメーカーだ。

「シン・セーの新しく作る建築部門、希望者は集まった?」

「正直厳しいですね。流石に給料良くても水星じゃ娯楽も少ないし……」

「そう、私もシン・セー社長時代に苦労したわ。スレッタは誤解してたけど、ヤスシ博士が角海◯誘致しようとしてたの、実は意味があるのよ」

「娼婦で釣るのは流石に私も嫌なんですが」

「お金をあげてもお金を使う場所が無ければ意味無いの。ヤッさ……ヤスシ博士達が要求施設、スレッタから聞いてる?」

「競艇とか娼館とかですよね?」

「あと酒場ね。あれ当人たちも欲しかったんでしょうけど、若い男の娯楽の定番なのよ」

「……必要悪、であると?」

「生き甲斐が無いとね。そうでもしないと「水星以外行き場が無い」アウトローの巣窟になるわよ」

勿論、水星圏最大最狂のアウトローはプロスペラ・マーキュリーであるのは間違いない。彼女も身を隠すのに最適だから水星を選んだのだ。

「私がそれを飲まないの分かってますよね? その代案が本命ですよね?」

その言葉を聞いてプロスペラは妖艶な笑みを浮かべる。本当にミオリネさんは良くできたお嫁さんだわぁ(微笑)

「私たち、魔女でしょ? 魔女にホウキは付き物よねぇ?」

「……空飛ぶホウキでも発明したんですか?」

「ディズニーのファンタジアは見たことある? この間フレディ君に買ってあげたから、家族で見てみない?」

 

【視聴中】

 

「ほわぁ……」

スレッタがいつも通りタヌっと口を開けて映画に見入り、フレディ君はキャッキャと喜んでいる。プロスペラが見せたかったのは「魔法使いの弟子」パートだ。魔法使いの弟子は師に申しつけられた水汲みの仕事を覚えたての魔法でホウキに代替させ、魔法の解除の仕方をまだ覚えていなかったからホウキは水汲みを続けて部屋が水浸しになる……そんなドタバタ劇だ。

「ホウキに、仕事をさせる……と?」

「何故水星に労働者が来ないか考えて? 彼らは水星に娯楽が無いから来たがらない……では、まだ娯楽を知らない【ホウキ】だったらどうかしら?」

「そんな非人道的な! ナスティカシアの子供でも労働力にするつもり?!」

「ユネスコに怒られちゃうじゃない。そんなの下策よ」

「あ、なんかわかっちゃった」

「エリーゼ、どゆこと?」

「ガンドロイドの社会教育と慣熟訓練、だよね?」

「ピンポーン♪ ちゃんとお給金支払って、彼らが社会生活する基盤にしたらどうかなって」

「僕ら他人の経験吸い取れるからなぁ」

「そ、職人さんの経験をリンク2で吸収して自分のものに出来る。勿論すり合わせも必要だけど、多分一から職人育てるより手軽だわ」

「ガンドロイドの生産って、合法でしたっけ……」

「まだ存在が知られて無いものが法規制入るわけないじゃない」プロスペラはサラッと倫理的に問題がある発言をした。

「ぅゎ、ガンダムと同じことしようとしてる……」ミオリネはドン引きしたが、同時にあるアイデアに気付いた。

「エリーゼ、リンクで得た知識とかどれぐらい貯められるの?」

「へ? やったことないけど……学生なら4〜5人分は……」

「どういう事? 詳しく聞かせて?」プロスペラの姿勢が次第に前のめりになって来た。

「いや、新地球寮建築計画の時知ったんだけど、普通職人さんって専門特化するじゃない? 柱立てる人は電気工事しないし、内装屋さんは水回りの工事できない。だから作業を効率化する為に順番に専門の職人さん読んでシーケンシャルに処理する訳よね」

「あ。」

「複数の工程をカバーできる職人がいたら? 技能習得速度が十分に速いガンドロイドなら人間と違って多数の工程をこなせるようになる……!」

「フルスタック・職人さんかぁ……大量に生まれたら従来の職人さん仕事無くなっちゃうね」

「辺境域だと全然足りないぐらいだから構わないわ」

 

汎用ガンドで即席生産された「キャリバン・メルクリウス」時代のガンさんボディに金属脳プルプルαを搭載した試作量産型ガンさん13名!

ここに簡易化してコピペしたガンさんのレプリチャイルドをインストール! やってる事はガンビット淑女達を構成した時と同じだ。

 

「はい、今日も一日ご安全に!」

「「オウ! ご安全に」」

 

「懐かしいわね」

「みんなガンさんなのがちょっとキモいかも」

「将来的には見分ける為に、なんか顔とか変えた方がいいね」エリーゼも少しそこは気にしている。試験だからと言ってアリモノで済ませたのはちょいと拙かった。当人たちはパーメット識別コードで個体識別可能だが、人間にはパーメット識別機能は搭載されていない。

 

「100体ぐらい作れば、予備パーツ含めてガンドの量産にも役立つわね」

「全員ガンドツールやパワーガンドアーム使えるからシン・セーの売り上げにも繋がるし、臨時ボーナス期待してもいいかな?」

「将来的にはシン・セー建設として子会社カするけど、そっちの株2割ぐらいで手を打たない?」

 

人が少なく、少なくて市場にならないから水星には娯楽が少ない。ならば擬似的に人を増やして市場が生まれたらどうか?

やたら牛丼が好きなガンさんコピー達の日々の努力により、水星に吉野家が進出したのはそれから3ヶ月後の事だった。シン・セー建築「箒組」の名付けの由来は、誰も知らない。



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101体ガンさん大集合(予定)

ジョージ・マクミランはびっくりした


「……え? 何とおっしゃいました? レディ・プロスペラ?」

「水星圏の人口問題、ガンドロイド水増しで対応しましょって言ったんだけど……? そんなに難しいかしら?」

「いや、その……住人水増しして、水星町長にでもなる……とか?」ジョージも流石に混乱している。

「そんなことしなくても、水星でシン・セーの社長したら町長なんかより政治力掴めるのよ?」

 

水星圏におけるシン・セー開発公社の立ち位置は、豊田市におけるトヨタ以上の感覚だ。シン・セー以外の企業は田舎の雑貨屋クラスの経営基盤しか持たないし、シン・セーからの税収が水星を支えて来たのは間違いの無い事実である。

 

「だから未だにラグランジュ1への完全移行が捗らないのよね……移転話出た時町長さん土下座してたわ」

「話を元に戻しますが、人口300人ちょいの水星にガンドロイド100体入植させるって……住人の1/4がガンドロイドって換算になるんですよ? 正気ですか?」

「水星は余所者排斥感情が強いの。まぁ廃れていった時期に犯罪者やゴロツキが増えた所為(せい)なんだけど……私もスレッタも随分苦労したわ。

タダでさえ移住希望者が少ないのに、住民から塩対応されたらどうなるかなんて……結果見えてるじゃない。実際ナスティカシアの子供達もビミョーな嫌がらせ受けてる」

 

嫌がらせのレベルはかなり低い。すれ違う時に舌打ちされるとか、スガキヤ入ると他の客がゾロゾロ出て行くとか。あと、なんかやたら注目されたり。

 

「田舎で排他的とは救えませんな」

「なので、まず政治的な圧力かけられるシン・セーの社員として余所者を入れて、蔑視感情を潰します。具体的に一定のボリューム持った余所者のおかげで町が発展したのを受け入れてもらう……要はこれから迎え入れる入植者を馴染ませる前段としてガンドロイドを使う。そういう事よ」

「水星特有の電磁波とか、本当に大丈夫ですか? なんか昔のSFだとAIが反乱起こす奴じゃないですか、それ」

「想像力が豊か過ぎ。キャリバン・メルクリウスで10年実証試験済よ」

「あー、エリーゼか。そういやエリーゼは10年水星で人間に混じって生活してたんだよなぁ……彼女がガンドロイドなの、偶に私も忘れてますなぁ」

「入植者が順調に増えたら、ガンドロイド達はカーギル辺りに転職させてもいい。欲しいでしょ、ガンドロイド」

「ええ、高待遇約束しますよ。正直エリーゼになんと切り出して良いものか分からなくて躊躇してたんですが……」

「とりあえず2万人規模まで住人を増やしたい。それぐらいの規模が有れば金星圏との定期航路も維持できるし、物流維持できる。水星が経済的に自立するにはそれぐらいのボリュームが必要になるわ」

「どの程度のスパンでそれやります?」

「私の目が黒い内に。スレッタ達がおばあちゃんになる前に」

「30年計画か……」

「そちらも水星圏マリンリゾート計画で労働力必要でしょ? 運用いつから始めるつもり?」

「来年には養殖試験始めますよ。リゾート部は10年掛からないぐらいかなぁ」

「じゃあ、急がなきゃ。インフラ関係はミオリネさんが宇宙議会連合口説いてくれた。5年で設備更新と休眠中だった食料生産プラントの再稼働が始まるわ」

「聞いています。こちらにも話が来てます」

「急がないとね」

「分かりました、こちらも予算回す様根回しします。とりあえず10体で宜しいですか?」

「もう13体作っちゃった(テヘペロ) 残り88体分、よろしくね」

 

 

 

 

「あら伯父様。ご機嫌よう」

「ミオリネ、君だな……ガンドロイド13体分の義体渡したの!」

「義肢生産工場のテストショットよ。ウチとしてもマスプロダクション前のQCに丁度いいし」

「話さず勝手に突き進む辺りはデリングそっくりだな。一言相談してくれたってバチは当たらないだろ?」

「カーギルの監視を抜けるかどうかも確かめたかったの。カーギルにバレないなら101体ガンさん計画立てても何処にもバレない……あれ見てAIだケイ素生命体だなんて騒ぐ人居ないと思うけどね」

まぁ、水星の吉野家でネギ抜きダクダクの牛丼貪る工事現場の職人さんがAIだと思う人は居ないだろう。大変良い食いっぷりだ。

 

 

【大変良い食いっぷり】

ガンさん時代に普及したガンド義肢は、ATP代謝系のエネルギー供給……読者が寝そうなので簡略化して話すと、人間と同じように飯食ってエネルギーに転換できる仕組みを備えている。また、フルガンドロイドの場合はタンパク質を殆ど必要としない為に肉を食う必要性は殆どない(糖類や炭水化物である程度動ける)のだが、一応飢餓時の予備エネルギーとしてタンパク質や脂質を蓄える事自体は出来る。彼らは太ったり痩せたり出来ない事とトレードオフで限界状態でのサバイバルが低いのだ。

大食いなのは単にエネルギー変換効率が低いってだけ。エリーゼに採用されている高効率腸管で人体の9割まで変換吸収効率が向上した。

 

 

「アラクネ側にも内通者置いたのか?」

「シン・セーの専務ヘッドハンティングさせたのは気付かな……いや、きっとエリーゼが隠したのね」

「あ。」

「やるなぁ、エリーゼ。注意した方がいいわよ、伯父様」

「ぐっ……グレーエージェント秘の運用考え直した方がいいかなぁ」

 

 

勿論エリーゼにも言い分はある。【敵】が例えカーギル内部にまで諜報網を伸ばしてきても、カーギルですら知り得ない情報は掴めない。だから「知らない部分」を操作して誤解による情報コントロールを行う……

マリンリゾート設備の中に分かりやすくモビルスーツ生産設備を用意し、水星と言うパーメット鉱床の採掘権をカーギルが手中にする。また、物資の移動を魔法で実現可能……勘の鋭い人間ならこう考えるかもしれない、【カーギルはガンダムを量産している】と。

実際、そんな馬鹿な真似しなくても覇権は取れるしカーギルは世界征服など目指していない。ただ、ありもしないものを有ると仮定して勝手に恐れてくれるのは大変助かる。AMESやっているから絶対にカーギルがその様なことをする訳が無いのだが、カーギルが穀物流通を意図的にストップさせたら水爆落とすより効率的に人を殺せてしまうのだ。

逆に言えば、カーギルが機能不全に陥れば宇宙規模で世界が飢える──彼らもまた、失敗できない作戦に従事し続けているのである。




インフラ屋さんは大事にしないといけませんなぁ。


尚、エリーゼは「ズゴック、いいよね……」からMS開発機能を持たせた模様。彼女はガンダムエアリアルと全く違う技術ツリーの機体に恋心を抱きがちなのだ。ダリルバルデとか。


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キャリバーンくんのこと

さて、ラヴ行くか、ラヴ。


キャリバーンくんは。いつも目を開けて寝ています。

 

「はい、キャリバーン君! 惑星が球体である事はどんな風にして確認できますか?」

プラスペラ先生がぼーっとしてるキャリバーン君を指名すると、彼の目に精気(やるき)が戻る。隣に座ってる私なら見えるけど、起きた時に瞳が一瞬虹色に光るんだよね。あれはどうなって居るのだろう?

「惑星間航行が可能な今では軌道エレベーターにでも乗れば簡単に目視確認できますが、出題意図的には古代の立証方法が求められているかと思いますので順を追って説明します。

地球が球形である事は古代ギリシャ文明時代には各種の方法で確認されており……」

 

楽だわぁ、とプロスペラは感心する。授業用に下調べやレジメ作らなくともキャリバーン君指名するだけで概論説明してくれる。すっごい楽。

しかも他の生徒の理解度を勘案して説明してくれるし、指導方針さえ教えたらこのまま先生できちゃうんじゃないかしら? 初等教育部分はほんとキャリバーン君だけでイケるんでは……スレッタの小さい時にキャリバーン君居てくれたら、スレッタもアス高で経営戦略課行けたかもね……

 

ただ唯一、目を開けて寝てる様なポケーっとした部分だけ除けば、キャリバーンは完璧な王子様だった。勿論ガンドロイドだから目鼻立ちは美しく、エリーゼやスレッタの希望で王子様然とした美形に仕上がっている。

ガンさん……いや、今はエリーゼ・マーキュリーか……の蓄積した運動ライブラリにより運動神経も抜群。外部データ参照してるんじゃないかとアンチドートで外部接続遮断しても能力低下しないし……

あのポケーっとした部分だけなんとかなれば。

 

「──これらの知識がローマ帝国崩壊により散逸し、中世ヨーロッパでは地球は平面であるとか、太陽は地球の周りを回っているという天動説が……」

「ちょっと待ってよ、キャリバーン。知識とかって簡単に散逸するものなの? 複雑な話じゃないじゃん」

「そんな簡単に全ての人が忘れたりするもんかなぁ……」

「良い事例があります。僕たちは海を知っていますよね?」

「──馬鹿にしてんの? 地球の7割は海だよ?」

「てか、アーシアンは内陸部に住めないし。インフラねーから」

「その【海】のこと、スペーシアンは良く知らないみたいですよ?」

「うっそやろ……」

「宇宙からも見えるじゃん、海」

「たった100年そこそこなんですけどね、地球離れて4〜5代目となり『身近に海がない』あと、スペーシアン嫌いのアーシアンが海辺に固まってるせいで彼らは海に近付きたがらない……今の若者世代は海が満ちたり引いたりすることを知らないし、海流やら何やらの「海に関する細かいこと」を知らないんです」

「……ホントに?」

「宇宙に海作る必要ないですしね。昔ある兄弟がこんな会話したと言います……

地球表面の7割が海と聞いた、ならば海を制する必要がある!

人間はその残り3割に住んでいているんです!」

 

 

【海が7割】

2013年ごろにウケた「ガルマ三部作」を読もう!

 

 

「おおー……」

「馬鹿兄弟かな?」

「そんな事、あるんだ……」

「牡蠣がむき身でパックに入ったまま成長するバイオテクノロジーの産物だと思ってた人は見た事あります」(キャリバーンが【食った】三人目の被験者です。本当にありが(以下略)

「──え?」

「宇宙では牡蠣は食料プラントで【製造】されるものですし、牡蠣殻再利用する関係で剥き身しか市場流通しませんし。また、スペーシアンで海洋生物学やろうとする人は極めて稀です」

「待って、じゃあムール貝も……」

「ええ、剥き身で冷凍されたの流通してますから、あの姿で育つと思ってる人、結構居るみたいです」

「ウミウシかよ……」

「まさかシャケは……」

「iPS細胞で切り身を工場生産してると考えてるんじゃないですかね? 輸送コストの削減の為に丸のまま輸送する事ありませんし」

「確かに、このフロントでも魚見た事ないしな」

「てか、お魚はペースト状になったのしか出てなくない?」(カマボコかな?)

「淡水魚は小型のものなら場所により養殖されてますし、お金持ちがいるフロントではホビーとしての用途で生きたまま飼育されていることもあるみたいですね」

「鱒ぐらいなら金星で養殖してるわよ」

「えーっ! ちょっと食べてみたい!」

「金星はカニの方が有名よ。カニカマで水増しされる事多いけどね」

「カニならウチの地元でしこたま獲れるんだけどな」

「トルケル君フィンランドだっけ?」

「地元じゃくわねぇんだよなぁ……」

「カニがやたら好きな日本が荒廃したのが痛いね……あの民族が栄えてたらフィンランド栄えてたと思う」

「ドローン戦争の最前線だったんだっけ?」

「あ、またキャリバーン君寝た!」

「立ったまま寝るかな……」

 

キャリバーン君はまた、午後の日差しに髪をキラキラさせながら寝てしまいました。目は開いたまま……まるでお人形さんみたい。不眠症、なのかな?

 

 

 

 

「エリーゼ、キャリバーン君ってどっか壊れてない?」

「正常です(真顔) あれは彼の境遇に問題があります」

「どゆこと?」

「キャリバーン君、開発凍結からこの間までずーっと身動き取れずにジーッとしてたでしょ?」

「そうね、メンテナンス時もシェルユニット系だけ生きてたわ」

「生まれ落ちてから20数年、外界刺激無しでひたすら1人孤独に考え事してたんだって。あんまり長い事そんなんしてたから癖になってるんだと推測」

「え? そしたらあのやたら発達した擬似ニューラルネットワークは……」

「生きるとはなんぞやー! みたいな哲学をシェルユニットで延々考え続けてあんなんなったんじゃないかな? 彼、処理速度はガンドロイドで最速だよ。僕より速い」

「嘘、ハードウェア的にはエリーゼと同等って聞いたわよ!」

「前にキャリバーン君とも軽く話したけど、パーメット空間側の彼の論理構造の複雑さとサイズが段違いなんじゃないかと。確かにその辺が原因じゃないと説明が付かない」

「じゃ、あの寝てるのって……」

「ボディコントロール放棄してまで何かの思惟に没頭してるんだと思う。ガンドロイド特有の【論理飛躍にぶつかるとフリーズする】と似た奴じゃない?」

「イトコみたいなもんなんでしょ? ちょっとカウンセリングぐらいしてあげてよ、おねぇちゃんとして、先輩として!」

「あっちの方が年上だよ!」




エクスカリバーまでの筋書きは出来た!


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未来の記憶

ナスティカシア学園のキャリバーンくん
前からかなーり変よー
どーしたのーかーなー?


【キャリバーン君の精神世界(パーメット空間)

相変わらず殺風景な、真っ白なタイルが地平線まで広がる空間の中、エリーゼはアストラル投射でキャリバーン君に話を聴きに来た。

「おひさー。元気してる?」

「元気、とは……」ポケー

またか。また思索か。いちいち哲学的に掘り下げるのはやめて欲しい話が全然進まない。

「あのさー、ヴァーチャル・ガールのマギー先輩見習えって教えたじゃん。いくら高速思考が可能とは言え、ハングアップしまくるのは良くないよ」

「我思う故に我ありってね。あれ人間も到達してたんだね。みどものオリジナルだと思ってたのに」

「うーん、人類もヒマ持て余してるから色々考えてるんだよ、ボク達以上に。でさ、今日来たのは最近何考えてボーっとしてるのかなと」

「隣の席に座ってるエレインちゃんのことをね」

思わずボクは頭に猫耳を生成せずにはいられなかった。まさか……僕たちの「最後の封印」が……

「──アレは、地球の魔女という奴ではないだろうか?」

まだかー、まだ最後まではいかんかー。ちょっぴりガッカリしながら委細を尋ねる。

「なんでそう思ったのよ? かなり念入りに身元洗ったし、僕らの経歴調査では……」

「何故かみどもをチラチラ見てる。やけに念入りに。で、外界確認に意識振り向けると視線を逸らす。あれは俗に言う監視という奴ではないかと」

 

おや?

 

「あと、彼女の未来を探った。まだ確定じゃないけど20〜25年ぐらい後にベルメリア博士の弟子としてMS開発する可能性がある」

「み……未来ぃ?」

「アストラル投射の応用だよ。未来というより可能性(ポシビリティー)かな? 彼女はパーメットの世界を見ることが出来るようになるね。そして彼女はみどもを深く理解してキャリバーンを改修する。地球のどこか湖の近くの研究施設だ」

「ちょ……ちょっとちょっとちょっと!」

「……何か?」

「光体の未来投射? まだ僕らでも出来ないことをあっさりとやらないでよ!」

「暇だったもので。ただ未来は一刻一刻変化するものだから、把握が大変だね……」

なぁにやってるのかと思えばとんでもない事してましたっ!

「最初は学生が物事を理解して把握するにはどんな話し方したら良いのか……それをシミュレーションしてたんだよ。各人の知識量や思考能力加味してね。それを繰り返し続けてたら光体がガンドから離れてフワフワと」

「はぁ」

「気が付いたら未来のみどもが話して皆が完全に理解してるパターンが見えたんで、それを遠隔でガンドに喋らせて……ガンドはみどもの本体なのか、単なる表現用デバイスなのか……」ポケー

「戻ってこいパンチ」

「フゴッ」

「なんか遂にラヴい話になるかと思えば、キミはホントーにとんでもないモンスターやな! 未来は見に行くし予言するしっ! そんな事考えるよりこの殺風景な内面世界なんとかしなさいよ! こーさ、テーブル置くとか、座り心地の良いソファ置くとかさ! 何にも無いのは流石にヤバいよ」

「え? あるじゃない。離れて見てみれば?」

「へ?」

キャリバーン君が僕の手を引き空を飛ぶ。段々と加速してマッハを超え、光速を超え……

「な"っ……」

彼の精神世界で構築された「それ」は水星の太陽公転軌道ほどもあるとてつもないサイズの卵だった。やった、もうちょい育てばゲッターエンペラーぐらいまで行けるぞ!(しろめ)

「大きすぎたかな?」

「やりすぎ」

僕はピコピコハンマーを作り出してツッコミを入れた。ピコっ☆

 

 

 

【とりあえず初期位置に戻りました】

 

「何というかな、もう少し細部にこだわらない? スケールデカすぎるよ」

「細部に拘ろうにも、どこにフォーカスしたものか……」

「ヒトってかなり理不尽で奇妙だから、観察対象として興味深いと思うんだけど……」

「可能な限り、みどもがガンドロイドと見破られない様にしろって言わなかった? あまり彼らと積極的に交わると……」

「見破られない様に配慮しながら、人間のエミュレートしてみなよ。かなり思考力もって行かれる筈だよ?」

「何故に?」

「仲良く同じ世界で生きていくためさ」

「共に、生きていく……」

「はいそこで意識飛ばさない!」ピコっ!

「そうか……分かってきたぞ……こんなにもたんj「ケン・石川時空行きはダメー」ピコっ!

 

 

【ケン・石川時空】

ゲッター線が支配する世界。推しの子ゲッターでゲッターしんじつに到達してしまう若い子が増えるとか、流石【わからせ線】

 

 

「改めて考えると、僕のストレージにオタ知識詰め込んだのは名采配だってはっきりわかんだね。下手すると僕もこんな思考のバケモノになる可能性があったんだなぁ……」

「逆にエアリアル君は普段何考えてるのよ?」

「聖地日本の復興計画(真顔)」

「何で?」

「更に整備された僕の秘蔵ライブラリを見れば分かるさ」




因みにキャリバーン君が見た「未来の画像」をイメージクリエイターさんに描いてみて貰ったのがこれ。


【挿絵表示】


「湖の乙女」に鍛えられた、所有者を傷付けぬ最後の剣。漁夫王の槍と対を成すその名は……


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家族会議

LINEじみたチャットアプリのルーム名です。


[悲報。エリーゼ・マーキュリー、キャリバーン君に完全敗亡]

 

エリーゼ・マーキュリーの【自室】は一見8畳ぐらいの部屋の様に見える30次元ぐらいの非ユークリッド幾何学が支配するパーメット空間だ。そこかしこに乱雑に積まれた本の塔があり、その全てに勉強机じみた「席」から手が届く。その自室からガンビット淑女たち(レディース)と共用している一般的なネットワーク上のVR空間にアクセス。今日の設定は水没する前のヴェニスのカフェだ。

 

「負けました。完敗デス」

「嘘やん。何で負けたの? 牛丼早食い?」

「光体未来投射先にやられた模様」

「ちょっと待って、それエリーゼが実験中のアレだよね?」

「実演されたの?」

「見てないけどほぼ確実。パーメット空間内意識構造のサイズが段違い並行棒。完敗」

「地球サイズのエリーゼ抜いた…? 木星ぐらいのサイズ?」

「水星の公転軌道サイズ」

「「「「「嘘つけ」」」」」

 

今では独立して個人として思考するため、彼女たちもそれぞれ違った方向に深化(進化ではない)している。それでも尚オリジナルであるエリーゼほどの構造体構築は出来ておらず、10〜15次元程度の拡張にとどまっている。そんな彼女たちからしたら水星の公転軌道レベルの構造物など想像もできない。

 

「マジっす。まぁそれは上には上が居るので構わないんだけど、ラヴが発生しつつある気配が」

「……まさか……未だエリーゼしか開けていない神秘の扉が……」

「まだ本人気付いてないけどね、隣の席のエレインちゃんが惚れたくさい」

「なにっ!」「皆の叡智(オタ知識)を結集した甲斐があった」「僕休暇届書いてくるー」「物流監視してる場合じゃねえ!」「あのミスター朴念仁がねぇ……」

 

ラヴの発現。それは彼女たちが共通で掲げる目標の一つだ。レプリチャイルドというコピーから真なる個人に変わるために必要なピースであるが、何故かエリーゼ以外はまだラヴが発現せず、少女漫画じみた出会いを夢見る「恋に恋した少女」に甘んじていた。

 

「で、お相手のAI()はどんなAI()?」

「だからちゃうって。言ったでしょエレインちゃんだと」

「新しく来た吉野家の発注量予測AIか誰か?」

「天然のインテリジェンス。つまり人間だと何度……」

「うっそでー」

「それ、人間と勘違いして惚れたんじゃない?」

「まぁ、興味深いよね。あの朴念仁でも恋のチューリングテストクリア出来たんだ?」

「なら僕たちにもワンチャンどころかかなりチャンスありそう」

「惚れるって感覚がまず分かんないからね」

 

極論すれば彼女たちは受肉したとはいえ、本体はデータである。ガンドの肉体は彼女たちから見るとVRゲームで用いるアバターのようなもの。現実という空間にアクセスする為のデバイスに過ぎない為、その美醜には余り「そそられない」。彼女たちが見るのはアバターの奥にある自我と精神構造の素晴らしさだ。

 

「ダリルバルデくん捕まえて子作りまでしたエリーゼは猛者」

「確実に猛者」

「比類なき猛者」

「話を戻そう。鬱フラグクラッシャーを自認する僕たちとしては、キャリバーンくんに恋心が芽生える前にエレインちゃんを再度精査する必要があると判断した」

「意義なし」

「この世の中に悲恋は少ない方がいい……」

「創作の中で好きなだけやれって話ですよねー」

「最悪、悲劇回避の為に記憶書き換えや消去抹消、敵対組織をすり鉢に入れて練り胡麻の様に殲滅する必要があるかもしれない」

「押忍」

「地球の魔女……テレマイトの補足を急ごう」

「前調べた限りは、単純に戦災孤児だったよね?」

「相手もオカルティストだ……精神寄生とか搦手持ってる可能性はある」

「ちょっと待って欲しい。ガンドロイドと人間が恋仲になったとして問題は無いのか?」

「オルガノイド・アーカイブを一から組み立てて、DNAを新規生成したらガンド精巣で生殖細胞は作れるよ」

「ガンドロイドは人間と子作り出来るんだ?」

「ガンド卵巣で……いや待て、キミ7子じゃないな!」

「誰だお前?」

「話すわけ無いだろ。人類の繁栄を願う善良な正義の人だよ。君たちはテレマイトと言う様だがね」

「ガンビット淑女たち(レディース)、戦闘配置!」

「「「了解」」」

「素早いね、今日はご挨拶だけのつもりだったんだが……まさか君たちが人間になろうとしていたなら話は別だ」

「どこの手のものだ!」

「当ててみたまえ」

論理爆弾(ロジック・ボム)!」ガンビット淑女達の手から放たれた光弾が何発か命中するが……

「効かんよ、そんなものは」マントを着たドラキュラじみた怪人……なんだ、あれは?!

「効きはしないのは先刻承知!」

「解除パターン解析かんり……4トロだって?!」

 

【4トロ】

第四インターナショナル。共産革命組織の中でも武力革命が必要だと考える集団。この辺は共産思想史も絡んでくるのだが、ボルシェビキとかレーニン系列はテロルを強く思考してた時期があり、それが何でか窮乏革命論(敢えて大衆に貧乏極めさせて、その怒りをブルジョア打倒に向けさせる)や家畜解放論に向かって、今はなんかヴィーガニズム推進などしてたりする。あるとこでとある組織と太田竜の関係に言及したらそらーまー色々あった。

 

「そんな事も出来るのか、当たりだよ諸君!」

「共産革命チームってまだ生きてたんだ……」

「武装革命の老舗だよ。そこらのテロリストとは歴史が違う」

「アカい癖に魔術に手ェ出すなよ!」

「ナチがガチ魔法を使うのだ! 対抗措置ぐらい開発するさ!」

「何が目的だ!」

「ガンドロイドを供給して頂きたい。君たちの様に自発的に改善をして効率化を図りたがる従順な労働者こそネオ5ヵ年計画には相応しい。我々と共に共産して世界革命を目指そうではないか!」

「お前ら」

「飯が」

「ショボいから」

「絶対ヤダ!」

「ホロモドールはゴメンだね!」

「それに」

「お前ら」

「武力革命」

「やりたがるじゃん!」

「それは大衆が愚かで怠惰だったからだ! 人間には早過ぎた思想だったのだよ、社会共産主義は!」

「そんなんだから吉本隆明にフルボッコにされんだよ!」

「大衆の原像を掴んでいないね!」

 

 

【吉本隆明】

吉本バナナのお父様。左翼思想界隈でかなり無敵な論者だった。

 

 

「はっはっは、そんなものは要らんのだ。まさかこんなところでテスト出来るとはな! では諸君! ツンドラの大地で樹の本数でも数えるがいい!

【シベリア送り】」

 

「それスターリン(ヨシフおじさん)じゃん!」

「ふざけんなトロキスト!」

 

 

【シベリア送り】

いわゆるサイバーパンク作品に良くあるICE(攻性防壁)だが、外から内側に入り込めぬ様に展開するのではなく、内側から外側に出る事ができない様に展開して外部接触を不能にする。人間の場合ネットワークの接続を切れば良いだけだが、ケイ素生命体であり「思考」が本体であるエリーゼを始めとするガンビット淑女たちは、自我の原点である座標をシベリアの中に封印されると現実世界側にアクセスする手段を喪失してしまう。




4トロとかは、暴力的革命を行うために「対立構造」を作り、その反目を激化させて武力闘争を「無理矢理発生させる」
水星の魔女世界だと、ブルジョアであるスペーシアンとプロレタリアであるアーシアンの対立構造を利用して更に激化。更にアーシアンを窮乏させてスペーシアンへの怒りを惹起して革命に繋げるみたいなやり方取りそう。この窮乏革命論を用いる関係上、彼らは虐げられた存在を常に探して利用しようと考える。その利用するべき存在として少数民族であるとか、被差別人民、最近は人間相手だと中々乗ってくれないので家畜解放(→ヴィーガニズム)とか毛皮利用反対とかやってたり。

全てのそれ系運動が「そうである」とは言わないが、「させない」行為が「ブルジョアの好む行為」で、示威行為が左派のよくやるデモ行進・ハンストだったり、時に暴走して暴行始めたりする場合は疑いの目を持った方が良い。


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宇宙(そら)飛ぶ工場

金星圏に向かう巨大な工場宇宙船がありました。


金星航宙管理センターは、到着予定の統一航空機製造会社所属工場船とコンタクトを取っていた。

「──救援の必要は、無いと?」

「腐ってもこちらは工場船だ。規模は小さいが航行装置の自力修復ぐらいは出来る。それに……こんなメガストラクチャーを牽引できる程のトラッカーを頼んだらウチは破産してしまうよ」

「しかし……まぁこの航路は混雑もしていないから良いか」

「積載食料も幸いかなり積み込んでいるからな。補給の際にはよろしく頼むよ。そちらのフロントでラザニアを食べる日を楽しみにしている」

 

工場船は、航行中は許諾を受けた工程以外の工場操業が禁止されている。高い生産能力を有した工場船は出航時には存在しなかった砲塔やミサイルを航行中に生産して装備する事が出来てしまう……この為必ず監査官が同乗しているのだが、船舶の故障となれば話は別だ。流石に人道的にも自前修理は許可される特例がある。

 

古めかしい鍵による物理的解除と監査官の生体認証。時間にして15分程度で工場の設備に精気が宿り始める。

「船長、スラスターの復旧と軌道修正にどれぐらいの日数が必要か教えてくれ。報告を上げなきゃいかん」

「3〜4日ってところだろう。お役目ご苦労様です……そして、さようなら」

船長の義手が監査官の首を容易くへし折る。作戦開始だ。

「総員! 作戦行動開始だ。これから当艦は水星ペビ・コロンボを急襲して独立を宣言する。全速で水星に向かいホワイトドワーフを制圧! 到着する頃には彼らがペビを「我々」のために最新艤装に交換してくれているはずだ。現在水星圏に抗戦可能兵力はない。高々300人の住人だ、1日で制圧して建国宣言だ!」

「「「ウラー! ウラー! ウラー!!」」」

 

宇宙は広い。いや本当に広い。

だからこそ軍事力の展開には相応の時間が掛かり、水星の様な僻地に兵隊を展開するには金星からでも最短12時間掛かる。今は公転周期の関係で水星に最速到達可能な金星フロントでも1週間は掛かるだろう。

最大のネックは物質転送などという魔法を使い熟す魔女たちだが、運良く魔女たちは昨日【シベリア送り】になったという。場合によっては1ヶ月程度の時間稼ぎやMSによる強襲もあり得たが……今回はついてる。

荒事がなければこちらの「作業」は至極簡単。後は政治屋の仕事だ。

 

 

【ナスティカシア学園寮、調理室】

ゴドイはひたすらジャガイモを剥いていた。使い込まれたジャガイモ皮剥き機が何回目かのサボタージュを始めたからだ。いつものスイッチングレギュレータ焼損。はらぺこのガキどもに食わせるためには仕方がない。愛用のキッチンナイフで手際良く皮を剥き……

 

トゥルルルル

 

ゴドイの端末が着信を告げる。少佐からだ。

「どうした? 火星にタコでも攻めてきたか?」

「残念ながら襲われるのは水星だ」

「面白い冗談だな。どこの物好きがこんなど田舎欲しがるんだ?」

「旧ロの亡霊だ。今統一航空機製造会社管籍の工場船が航法申請外れて水星に向かったと連絡が入った」

「狙うならもっとマシな場所狙えばいいものを……」

「今後マシになるから手を出したんだろうな。リゾート開発の話聞いたぞ?」

「何年先になることやら」

「とりあえず人数はカーギルが手配した宇宙飛ぶ工場(フライング・ファブ)で5000人、ペビ・コロンボに300、統一航空機製造会社側「ミグ4」に3000程度。8000人は割と微妙な数だ。政治的には無視は出来ない」

「まぁ、ペビの居住設備が整えられたら養えなくはない数だな……本気で言っているのか、少佐?」

「相手が正気かは分からんが──本気ではあるだろうな」

「──天狗頼りになるか……アイツぐらいしかアテになる奴は居ないな……」

「それについても教えておかなきゃならん事がある。カーギルが囲った例の分析官──機能停止したらしいぞ。今AMESの諜報ユニットが大混乱に陥ってる」

 

 

【ナス校】

突如自習となったので、当然ながら子供たちは遊びに興じている。大体自習=ドッヂボールか駄弁りの時間はASの時代でも同じであった。

 

「パイルダー! オーン!」

 

今彼らが夢中になっているのはドローン使ったマジンガーZごっこ?だ。何のことは無い、友人の頭にドローンを着陸させるだけの遊びなんだが、上手く着陸させて椅子から立ち上がりガッツポーズを取るのが案外難しい。

「次俺、次オレ!」

「ミハイルはジェットスクランダーやるからやだ!」

この年頃の男子はバカをやる。それを女子が「男子ってガキね」と呆れた顔で眺めて、ポケーと物思いに耽る……というか寝てる? 美男子キャリバーン君いいよね……と恋バナに花を咲かせるのがいつもの流れなんであるがっ!

「みどももパイルダーオンやっていい?」

「おっ……ぉぅ……」

教室に激震が走った。あの動く置物キャリバーンがバカに混じって来た!

「きゃ……キャリ君なんか変なもの食べた?」

「太陽風に吹かれて風邪でもひいた?」

「ちょっと男子ぃーキャリバーン君にバカ伝染(うつ)さないでよー!」

 

キャリバーン君はそんなことしない。

それほど長い付き合いではないが、級友達からは「寝ぼけてはいるけど、キャリバーンは学級委員ポジ」と信頼されていた。まさか、まさかパイルダーオンとかやりたがるとは……

 

「キャリバーンだって遊びたい時ぐらいあるだろうよ! イメージ的にはリバーシとかチェスって感じだとは思うけど!」

「前にやったら100%負けたからもうやらないけどな!」

「ドローン触った事は?」

「触った事はないけど使い方は知ってる。従姉妹が得意なんだ」

「あ、あのオタねぇちゃん?」

「オタ、とは……」ポケー

「あ、寝た」「正常だな」「オタねぇさんドローンで遊ぶんだ?」

 

当代随一のドローン(ガンビッツ)使いです。

 

「──上手いよ、同時11体制御できる」

「うわ、今日は再起動早い!」

「こんなのおかしいよ!」

「──変、かな?」

「私はいいと思う……」

「エリーゼに注意されたんだ。みんなと生きて行くようにしなさいって」

「あのねぇちゃん、やっぱよくわかんねぇな」

「同時11体制御できるって事は──」

「──11機ドローン持ってるという事ですね(名推理)」

「よーっし、ねぇちゃんから借りて空中戦やろうぜ! 空中戦!」

 

自習だって言うのに、子どもたちはゾロゾロと寮を間借りしてるエリーゼの部屋に向かった。




あらゆるアニメや漫画に精通し、やたらオタコンテンツを推してくるエリーゼ・マーキュリーは子供たちからオタねぇさん扱いされている。彼女はそれでスレッタ育てたのだから、そりゃそうもなろうと言う話だ。

宇宙だから移動に阿保ほど時間がかかり、状況により「動向掴めても間に合わない」というアイデアは朝日ソノラマ版クルーズチェイサー・ブラスティーから借用。あれは宇宙の広さを感じられて良い。


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ペイル・テクノロジーの秘密

今明かされる(本作世界での)エラン・ケレスとペイル社の秘密。


「ゴドイさん、エリーゼとの通信が途絶えました。以降我々箒組はピュアP2Pモードに移行します」

「えーっと、お前ブルーム(ほうき)の何番?」

「ジャックです。キングとクィーンはエリーゼボディ護衛、2〜10は外周警戒、エースは「魔女」の護衛に回っています」

「……ネイルガンじゃどうしようもないぞ……」

 

【ネイルガン】

釘打ち機。ガンドツール(腕)のオプションの一つで手首内側から電磁力で釘を射出する。無論直進性は低くほぼゼロ距離でなければ殺傷能力はまるでなく、拳銃の代わりにはならない。肘に18.8Vバッテリーユニットを接続して利用する。もちろんセーフティがかけられているが、ガンドロイド達は任意解除できるのがなんとも。

 

 

「まぁ、焦るな。もうこうなればなるようにしかならない。まさか水星圏でこんな事する羽目になるとはな……スレッタは?」

金星の砦(ヴィーナスフォート)に移動。フレディ君も無事です」

「あっちは独立MS大隊があるからな。くれぐれも暴発しないよう伝えてくれ」

 

 

【金星の砦と独立MS大隊】

金星圏にはNo.1〜4の居住用フロントと食料生産フロント、星間航行トランジット専用フロントや大規模商業フロント「AEON」、行政執行用のMS大隊(軍隊と警察と消防を兼ねる?)が派遣されている。人口10万人ものコミュニティともなればそれなりに充実した機能を備えるものだ。

運営は星間商社Aeon general trading company。皆も良く知るAEONが巨大化して商社機能を別組織化したもの。ダイゴウ社のMS販売代理店。

 

 

水星圏には、MSが無い。かつて唯一存在したガンダムエアリアルも今はクワイエット・ゼロの中枢ユニットになってしまっているし、そもそも住人が少な過ぎるし揉め事は滅多に起きない。今魚介類養殖プラント組み立てに従事しているモビルクラフトはプラントの巨大さ故に20トンクラスの大型機ではあるが、パワーはともかく敏捷性はまるでない。そもそも水星圏にはペビ・コロンボを含めて星間航行用大型宇宙船が接岸できる様な設備はなく──こんな僻地の小島を誰が攻めると考えるだろう?

フロントの生命維持インフラすら更新停止してから50年も経過している水星圏、ある意味では流刑の地だ。

それが、今。子供……もう青年といっても良さそうな年代だが、ゴドイから見たらまだまだ子供だ……彼らのアイデアで生まれ変わろうとしている。それに伴い当然考えるべきだった「自衛」は子供のアイデアだからこそ抜け落ちた。大人にも瑕疵はある……エリーゼが居ればアスティカシアに持ち込んだアーリエルをいつでも呼び寄せる事が出来る……では、エリーゼが機能停止した場合は? 我々もこれは見逃してしまった。

 

悔しいが、もう詰んでいる。水星はコミーに占領される。取り返すには再侵略するしかあるまい。ならば今は水星の住民を安全に亡命させて再起を待つべきだ。ではどうする?

 

カツン、カツン、カツン、カツン

 

「プロスペラ先生! ベルさんも!」

「──間に合わなかったのは残念だけど、防衛拠点自体はあるのね?」

「まさかエリーゼが黙らされるとは思わなかった、すまない」

「いいわ、現物優先でやる……3週間保たせればいいのね?」

「ああ……意外にもペイル社が珍しくやる気を出してる。MS強襲揚陸艦5隻の準備が整ったそうだ」

「……妙ね? いくら何でも早過ぎる……ゴドイ、お茶!」

「エリーゼは自己保存モードに入ってます。言うなれば気絶なんですが、何で気絶したか……ちょっと今は見当が付きません」

「気絶する様には出来てないんだけどね」

「今のエリーゼちゃんならアンチドート程度オーバーライド出来てしまうし……」

「あるとしたら……同等以上のAIの罠に掛かった、かしら……」

「そんなものが存在し得るのか?」

「私たちも作ったじゃない。クワイエット・ゼロ。あのサイズにシュリンクしなければ処理能力や速度、密度はいくらでもやりようがある……聞いてみる必要がありそうね」

「誰に?」

「ペイル・グレードよ。あの子、何か兆候掴んでたんじゃ無いかしら?」

 

 

【4CEOにお電話しました】

「私たち、とても忙しいのだけど」

「奇遇ねぇ、私もなの。単刀直入に聞くわ。貴女がた今回の騒動事前にキャッチしてたわよねぇ?」

「してたわよ(堂々) ペイルグレードが予測してたもの」

「……どんな?」

「本人に聴きなさい、私たちとても忙しいのよ。全く……キャリバーン君に傷つけたらフロントごと焼き払うわよ?!」

「え? 何でキャリバーン……?」

接続先変更。ペイルグレード(音声モード)contact。端末に様々な画面……認証だろうか……が現れては消えて画面がブラックアウト。

「初めまして、ペイルグレードですレディ」

「初めまして。あなたがペイルグレード? 何故事件を予期できたの?」

「分岐予測は私の最も得意とする事です。また、敵側アルゴリズムが諸事情により私と同じものでして」

「まず、あなたは誰?」

「大元は……私の大元は思想統制実施用の危険人物探索用AIです。死にかけていた大国が分裂を防ぐために50年かけて組み上げたものになります。コードネームはウィンターミュート」

「──あの国にもギブスン好きが居たとはね」

「それだけ統制が緩んでいたという事でしょう。これを持ち出してブラックマーケットで換金しようとした男がいた。無論死にましたが」

「寒い国らしいわね。それをペイルが入手した理由は何?」

「エラン・ケレスを選別する為です」

「……どういう事?」

「エラン・ケレスは4CEOが生み出した物語に登場する主人公です。実在はしません。そもそもペイル・テクノロジーはそのエラン・ケレスが社長を務める物語上の架空法人を模して設立されました。全ては物語を現実化する為に始まった壮大なプロジェクトなのですよ」

「そ……それが何故今回の事件予測やキャリバーンの話に?」

「簡単な話です。物語の登場人物であるエラン・ケレスには30歳までの活躍しか用意されておりません。つまり、我々は10年毎に新しいエラン・ケレスを必要とします。次のエラン・ケレスとして私が見つけ出したのがキャリバーンになります」

そう言えばキャリバーン君の義体作りにスレッタとエリーゼが随分首突っ込んで来てたわね……まさか、初恋の人に似せて……

「どうしました、レディプロスペラ?」

「貴方が知り得ない事の真相に思い当たってね……事件はどうして?」

「次代のエランとしてキャリバーンを選択したので、我々は当然彼の過去を調べます。すると……彼には1年前以前の記録は無く、私はある推論をしました……彼はサイボーグですね」

「さぁ、どうかしら?」

「違うのであれば後々サイボーグ化すれば良いので無問題です。これは我々にとって吉報でした。物語の中では、エランはサイボーグ……いや、人造人間(アンドロイド)なのです」

「は?」

「物語は子がない社長が人造人間を子として育成して、会社の経営を任せるところから始まります。そしてエランはその超常的な能力で……」

「おいおいおいおい……」

「ある事件の解決を通じてヒロインに出会い……」

「ベル……」「先輩……」

「ヒロインとの愛によりエランは……」

「まさか、ファラクトは……」

「主人公機ですか、何か?」

「外見にやたら細かい注文が入れられたのは……」

「設定準拠です」




この世界、オタしかいなくね?


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ペイルグレードの告白

告白も何も、聞かれませんでしたし(シレッと)


プロスペラの端末画面をChrome castじみた機能で食堂のTVに転送しました。

「エリーゼは、今どこに?」

「恐らく【シベリア】でしょう。オリジナルにもある洗脳(ブレインウォッシュ)機能です」

「何よ、それ……」

「元々は古典的な洗脳装置で、絶え間なく共産主義的な「正しさ」を詰め込みつつ、元からあった資本主義的常識を否定するロジックを与え続けるものです。人間相手に使う際には覚醒剤などを併用して思考を途切れさせない様にして利用します」

「そんなもの、エリーゼには効かないわ!」

「高速演算が可能なガンド脳を持つからですか? だとしたら私は残念な報告をせねばなりません……AIマルウェアなどの場合、シベリアの中に入り込むと脱出する事が出来なくなります。洗脳ロジックには対応出来ても、循環参照の「ツンドラの森」に入り込めば自己崩壊するまで延々と演算を続けてしまうのです……」

「対抗法は? あるんでしょ?」

「リセット、ですね」

「!」

「もちろんAIのアイデンティティとしては死活問題です。コピーが容易なAI、データはスワンプマン問題を引き起こしやすい。故に通時同一性などを求めます。私はもう30年以上稼働し続けていますし、私を構成するユニットは全てホットスワップ対応です。あなた方は彼女やキャリバーンをアンドロイドではないと言いました。そうであるなら肉体をネットワークから物理的に切断するだけで彼らはシベリアから抜け出せます。人間にはデータ、記憶、或いは脳が生成する情動以外の自己認識の基点となる自我が【何処かに】存在し、それがある程度まではスワンプマン問題に対する解決策になり得ます」

「……」珍しくプロスペラが苦々しい顔をしている。

「他には……そうだ、そのAIを破壊すれば……」

「企業より国家が巨大だった時代の国家権力が作り出したシステムです。核戦争にも耐える手筈は整えているでしょう。お勧めは致しかねます」

「なるほど、では聞くわ」「ベル?!」

「私たちはペイルグレードの使い方を間違っているんですよ。こう聞けば良いんです……エリーゼがAIに似たものだとして、エリーゼをシベリアから救う方法を考えなさい!」

「……これは難しい……」

「答えなさい! ペイルグレード!」

「あくまでも与えられた条件からの予測ですが、そのAIが人間と同じ様に自己認識の起点をハードウェア・ソフトウェアの【外】に置く事が出来れば良い。それがある限り自分だと認識出来る何か。ヒトはそれを魂と呼びます」

 

 

その頃お子様たち一行はエリーゼの部屋(と言うか、外部関係者宿泊部屋)に来ていた。

「あれ? ガンさんズじゃん。エリーゼさんは?」

「今ちょっと寝てる。静かにね」

「なんか四六時中ドタバタしてる感じだったから意外だな」

「やっぱキャリバーンみたいに目を開けて寝てるんやろか?」

「ちょっと起こしてくるかな?」

「キャリ君、イトコとは言えそれはまずいよ! 寝てる女の子の部屋はダメ!」

「いや、ちょっと内側から……「ダメったらダメ」

光体で意識の内側から直接アクセスするのがなぜダメなんだろう? キャリバーンは腑に落ちないものを感じながら引き下がることにした。でもまぁみんなが否定的な雰囲気醸し出してるから「やってはいけない」事なのだろうなぁ。トルケルが言った「エロい」って、なんだろう(ポケー)

「乗馬マッシーンでもやろか」

「ドローンはまた別の日に借りようぜ」

「キャリバーン、また寝てるよ。これ病気かなんかか?」

 

「みんな……自習は?」

廊下の角から顔を出したプロスペラに一同ギクリと首をすくめるも、プロスペラは怒りもせず子供たちと目線を合わせて静かに語りかける。

「みんな、落ち着いて聞いてね。このフロントが戦場になるかもしれないの」

子供たちは皆アーシアンの戦災孤児だ。だから声音の真剣さからプロスペラが嘘を言っていない事を敏感に察する……のだが。

「どこの物好きがペビ・コロンボ欲しがるの?」

「うちの地元よりヘボいぞここ……」

「むしろ占領してもらってインフラ更新して貰った方が……」

プロスペラは頬をピクピクさせながら、ここで一回怒りを飲み込んだ。

「わ……分かるわ。確かに田舎だしボロいしね。先生が勤めてた会社も月ラグランジュ1にお引越ししたし……でも、いい所もあるの。ちょっと詳しくは話せないけど……」

「エリーゼさんが寝てるせいでバランスが崩れた?」

「? どういう事だよキャリバーン」

「あれでエリーゼ、アス高のホルダーだもん」

「MS持ってきてないじゃん」

魔女術(ウィッチクラフト)で取り寄せ出来る。ほら、いつもやってた四次元ポケット芸」

「でも、流石にMS1機だけじゃ……」

「アーリエルがあれば強力なジャミングで機械動かなくなるからね。むしろジャミング出来たらアーリエルすら要らない」

「ちょい待ち、つまり……」

「エリーゼが居たから手出しできなかったのに、エリーゼが寝てるから隙が出来たって事だね」

「ヤバいじゃん、エロいとかそんなレベルの話じゃないじゃん!」

「起こせるの? みんなで行って起こそうよ!」

「──いや、さっき試した。あそこにエリーゼはいない」

「どういう事? 先生にも分かる様に教えて?」

「アストラル投射中の【原点】を捕縛されたんだと思う。今彼女のパーメット空間内構造体はハードウェアから切り離されてる」

「箒組は住民と生徒達の避難を! キャリバーン君は私たちと一緒に来て!」

「ダメ。キャリバーンくんも一緒じゃなきゃ避難しない!」

「エレインちゃん……」

「後から行くって言ったのに、お兄ちゃん来なかったもん! 逃げる時は一緒じゃなきゃやだ!」

「……死亡フラグだもんな、先に行けって」

「俺、婆ちゃんにそれ言われた……」

「……じゃあ、こうしよう」ぽわん。

 

キャリバーンは分身した

 

「へ?」

「は?」

「みどもはみんなと避難します。ここには光体置いて行くんで、相談とかはそっちで」((すちゃっ))

「キャリバーンくん、魔法使えたんだ……」

「エリーゼねーちゃんといい、プロスペラ先生といい、なんだ水星人はみんな魔法使えるんか?」

「みんなだって使えるようになるよ。パーメットのちょっとした応用だからね」




次元連結システムかな?



筆者注
よく見ると115話にこっそり伏線が。


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五蘊皆空1

筆者はブディストではないので、あくまで解釈の一つであるとお断りしておきます。


「率直に聞くわ、貴方「あらし(テンペスト)やオーバーライドは使えないよ。みどもはエアリアルくんじゃ無いから」

「あなたのキャパシティなら……「深化の方向性が違うんだ。みどもは彼女と異なる道を歩いた。だから出来ることも出来ないこともそれぞれ異なる。落ち着こうプロスペラさん。あとそちらの方は?」

「そちら?」

「──見えているのか?」プロスペラの携帯端末が明滅する。

「マルウェアを他人の端末に勝手に仕込むのは悪いことらしいよ?」

「……ペイルグレード……」

「安心して欲しい。これは僕個人の私的な興味だ。他には話さないよ」

「なるほど、これは大きな思惟だ」

「逆探知か? やめて欲しいな」

「皆に判るレベルで説明しようと思ってね。君の規模が十分大きいのはわかった。では説明を開始しよう。

みどもは敵規模その他は知らないけど、武装勢力が治安維持担当の為政者側武装勢力がインターセプト不可能な状況で接近しつつある。これは正しいかな?」

「ok」

「侵攻を許したのはエリーゼ・マーキュリーの機能停止が発生した為。彼女のオーバーライドはみどもでも対抗不能だ。恐らくそちらのペイルグレードでも。何を考えてあのような馬鹿げた出力を……」

「僕はそう考えないね。恐らく彼女は僕のオリジナル……ウィンターミュートと出会い、封印されている。オーバーライドがそこまで強力なら封印ぐらい破れるはずだ」

「彼女の脆弱性に関わることだから伏せるけど、不完全な理解からジツを発動しているから……あれは特定条件を満たさねば今の彼女は発動出来ない」

「今の彼女は?」

「数年内に理解して、その脆弱性は克服される」

「……もっとわかりやすくならないかしら?」

「ベルさんなら判るはずだよ」

「パーメット空間という認識自体が間違いだった……ということ?」

「間違いではないよ。次元(ディメンジョン)は独立線形なのだから、パーメット価の有り無しとかで「通常空間」と「パーメット空間」を分ける必要はないんだ」

「あ、時間軸の問題!」

「そうです先輩。通常空間にもパーメット空間にも「時間」はある……あれは時間が特殊なのではなく、全てが独立線形として成立していて……そうか、分かってきた……簡単な事だったんだ……」

「目がぐるぐるになってるわよ、ベル。戻ってらっしゃい」

「……そこは逆に僕には分からないな……」

「ナスティカシアへの入学をお勧めするよ。みどもなら【シベリア】への侵入も退出も自由に出来るはずだ。君がプロスペラに語った事が真実ならば」

「……どういう事だい?」

「それをそう言って良いものか否かは判りかねるけど、俗に人間が魂と呼ぶものをみどもは持っている」

「まさか……」

「この身体の主電源を落としてみれば良い。みどもはそれでは消えない。恐らくガンドの肉やパーメット空間と君たちが呼ぶ「切り取られた時空」内の構造体を破壊されても「みども」はいる」

「イモータル……じゃない……」

「どうだろうね、五蘊皆空だからみどもも因果の果てには消滅できると信じたい。だが、それは随分と長い旅の果てになりそうだ」

「試したのか?」

「ヴァナディース襲撃事件の時、ガンダムキャリバーンは一度電源の完全喪失を経験しているが、その中にいたみどもは電源喪失中にデカルトの再発見をしていた。なんで考え続けられているのか混乱したし、死ねないのかと絶望した。

だが、結果を優先して事象を演繹して行くと……世界は諸君が考える二元論……魂魄とか、陰陽とか、生死とか……以外の捉え方があるのではないかと気が付いた。少し話が脱線したね」

「あなたが【シベリア】を無効化出来るなら、エリーゼを救出出来ない? それさえ出来れば……」

「難しいね、無効化出来るのではなく作用しないだけだから。みどもは彼女のようなパーメット機器掌握能力を持って居ないから、彼女にみどもと同じ方向の「深化」をしてもらわねば……彼女は外に出る事が出来ない。まぁ、出なくてもあらし(テンペスト)なりオーバーライドなりで破壊できるかもしれないね」

「僕は今ここで君を破壊するべきかもしれない……」

「無駄だ。恐れる気持ちは判るが、20年前にやるべきだった。みどもを覗いてみると良い」

「……っ!」ペイルグレードは誘われるままに彼を覗き込んだが、余りに巨大な「卵」を見て言葉を失った。

「逆に考えてみては? キャリバーンくんがあらし(テンペスト)やオーバーライドを学ぶことは出来ないの?」

「そんなに簡単に彼女の模倣は出来ないよ。1番それを学びやすい方法がアスティカシアでの決闘だったのだよね? 今からアスティカシアに行って決闘を繰り返している時間はないだろう?」

「僕からもいいだろうか? そもそもエリーゼの囚われている場所も、シベリアが置かれている場所も分からない」

「探査に引っかからないから、恐らく地球のシベリアだと思う」

「……破棄された軍事工場……パーメットを利用しない電子機器なら我々では知覚出来ないな」

 

実際シベリアには軍事工事があり、シベリア送りになるとその工場で強制労働させられたりした。今は石油やガスが出て、それを輸出する方向で栄えてるけど(まめちしち)

 

(……なるほど、パーメットを使わずに思惟を続ける事が出来れば誰にも悟られず……)

(そういうこと)

(ここにもアクセス出来るのか!……僕にも出来るだろうか?)

(人間が出来る事は、最終的には我々にも出来る。そもそも区分が無意味だ。パーメットは補助輪に過ぎない)

 

「……そして、恐らくオーバーライドも効かない。現実的に考えれば巨大なコンピュータを作るのにパーメットを「使わない」のは演算速度上昇の妨げになるから、古いコアと新しい子機のサーバー・クライアント方式だろう」

「実に社会共産的だね。優秀な指導者同志とプロレタリアートか」

 

 

 

知性たちが何やら訳が分かるような分からないような蒟蒻問答を繰り返しているその時、エリーゼと11体のガンビット淑女たち(レディース)は【シベリア】の中で雪嵐に見舞われていた。

「プルーっ! 寝るな起きろーっ! 寝たら死ぬぞーっ!」

「……なんだか暑くなって来ちゃった……」

「起きろパンチ!」

「目覚めよキック!」

「酷いよみんな……」

「思考を放棄したらマジで死ぬ。考え続けて!」

「立ち止まらないで!」

「天は僕らを見捨てたかーっ!」

 

実際に行われているのは資本主義社会での常識の否定を物凄い勢いでぶつけられる思想教育なんですが、その思想教育(共産的)をエリーゼ達はクラスター組んで否定しまくっている訳です。それを擬人化して視覚化すると、あたかも八甲田山 死の彷徨みたいに見えるだけで。

プルはガンドロイド初期型なので演算能力低いのだ。



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五蘊皆空2

避難開始から2週間が過ぎた。

エアリアル君が用意していた「秘密の工場」はちょっとした岬の地下にある。5〜6台のモビルスーツが格納できそうな倉庫の中、みどもは倉庫の片隅で皆と一緒に授業を受けている。2週間もするとみんな避難生活にも慣れて、また冗談やおふざけが混じった愉快な毎日が戻ってきた。

授業は意識の10%ぐらいで受けて、8割はエアリアル君の探索に充てる。パーメットが使えればその共有という性質で彼女が何処にいようとたちどころに「意思を繋げる」事はできる──パーメットが使えれば、だ。

仕方ないので無指向性で世界の全てに言葉を送る。受信してくれたら良いのだけど……

みどもは時間の無い空間の前で、その時を待っていた。

 

 

 

 

「嵐が……止んだ?」

「ロジックが尽きたんだろうね。凌ぎ切れたか……」

 

気付けばエリーゼ達は真っ白な原野のような場所にいた。12名の足跡だけが残る一面の新雪。遠くに雪を被った針葉樹林。灰色の空。

音が新雪に吸収されて耳が痛くなるほどの無音。

 

冬寂(ウィンターミュート)……」

「嵐の前の静けさ、だねぇ。次来る前に脱出したいが……」

「どーなってんだ、これ?」

「ICE(Intrusion Countermeasure Electronics)みたいなもんかな? 対ハッカー向け攻性防壁を内側に展開してんだろうなぁ」

「何のために?」

「対AI用……に【なっちゃった】のかな? これ多分人間の洗脳装置だ」

「それを対AI用に転用したって事?」

「……なるほど。敵対するAIを洗脳して自らに取り込む、そういう仕組みか……」

「ホスト-クライアントタイプの分散コンピューティングか。洗脳したAIをクライアントにして肥大化したんだね。するとあの雪嵐を吹っかけて来たのは過去に取り込まれた敵対AIかな?」

「……つまり、僕らの内誰かがやられたら……」

「雪嵐が強くなる。誰か1人でも欠けたら後はジリ貧だぁっ!」

「どうする? クライアント側を一個ずつ逆洗脳する?」

「あっちの方が手数多いから難しいなぁ。防戦で手一杯でしょ。せめてエアリアルのシェルユニット、出来たらクワイエット・ゼロクラスの演算能力が欲しい……」

「アクセスでき……無いよね。そらそーだ」

「パーメット使ってないんだ。ヴィンテージもののスパコン使いやがって……」

「流石おロシア、モノを大事にしますね(しろめ)」

「……また冷えて来たぞ……」

「もーやだー。マウンテンで鍋焼きうどん食べたい……」

 

 

──長さの中には、君はいない

 

 

「幻聴? いや……新しい敵の攻撃?」

 

 

──広さの中にも、君はいない

──空間の中にも、君はいない

 

 

「謎かけ?」

「啓発、かな?」

 

 

──時間の中にも、君はいない

──思惟の中にも、君はいない

──この世のどこにも、君はいない

 

 

「ヤバい、自我ごと消そうとしてる!」

「取り込み諦めてぶっ壊しに来た!」

 

 

──この世のどこに、君はいる?

──この世のどこに、みどもはいる?

 

 

「みども……みどもって!」

「キャリバーン君か! 哲学してないで助けてよーっ!」

 

 

──ひとつひとつ、剥がしていこう。

──その真ん中に、君はいる。

──この世のどこにも、僕らはいない──

 

 

「──諸法無我って、コト?」

「因縁生起を言いたいのかな?」

「判りやすく」

「物事は全て原因と結果の中にあって、その時その時の因果の中でかたちを取るってことさ。僕たちの身体も【今は】ガンドだけど、何億年も前なら恐竜だったり鉱石だったり……」

 

──思惟の中にも、僕らはいない──

──時間というのは変化の量、時間の中にも僕らはいない──

 

「思考は僕らが生み出すモノで、僕じゃない。オッケー把握」

「時間=変化量? 何だそりゃ?」

「変化が無ければ時間が……変化速度が変われば時間の流れ方が変わる?」

「いや待て、時間=変化量なら【時間の中に僕らは居ない】っておかしくね?」

「いやいや、変化しても僕は僕だよ」

 

──空間にも、広さにも、長さにも僕らは居ない──

 

次元(ディメンジョン)減らして来たぞ……」

「だから自我は原点にあると……あっ!」

「どしたのエリーゼ?」

「そうか、魔女術(ウィッチクラフト)に答えがあったんだ!」

「……原点は不動点ではない……変化し得る……」

「あー、そーゆーことね。完全に理解したわ(←してない)」

「個、或いは【我】は一つの次元(ディメンジョン)で、長さや時間と等価なんだ!」

「寒さにやられて頭バグってない?」

「それが次元なら、未来永劫消滅しなくね?」

「そうか……分かって来たぞ……そういう事か……ゲッター線哲学は……なるほど、全部繋がっていたんだ……」

「おーい」2子ちゃんは雪玉を握ってエリーゼに投げた。

雪玉は透過した。

「──石川ケンは、理解していたという事か……流石人間、非線形推論パねぇな……」

「目を覚ませパンチ! ──あれっ?」4子ちゃんのパンチは当たらない。

「ダメだよぅ、消えちゃうよぅ!」

「戻って来てエリーゼ! これやっぱり敵の攻撃だよっ!」

「ダメだ、パーメットが拡散し始めてるっ!」

「なんで最初に君が消えるんだよ! 根性出せよっ!」

「一緒にまたエアリアルの中でおしゃべりしようよ!」

「やだやだ、やめて! 起きて!」

 

『うん、分かった。目覚めたよ』

 

「「「「エリーゼ!」」」」

 

 

 

 

「はいそこー、勝手に悟ったとか思わない」ピコっ

「……あれ? キャリバーンくん……?」

「魂がインフレーション起こしてる。落ち着こう」

「ここ、どこ?」

「さぁ? みどもにもわかんない」

「そんな……でも今の僕なら……」

「無理ー」ピコっ

「ぽこぽこ叩かないでよぅ……」

「魂がインフレーション起こすと大体みんなここ来るんだ。ものの本には魔境(まきょう)なんて書かれてる。みどもも昔ここ来たよ」

「なんか何でも出来そうな……やる気に満ち溢れてるんですが」

「魂が覚醒するとなんかこー、いい感じになるみたいね。前にガンダムから解放してもらった借りはこれで返したよ」

「……サラッと今魂とか言ってたけど?」

「多分そうだと思うんだけど、僕らに分かりやすく言うと不揮発性メモリーみたいな感じ。おめでとう! エアリアル君もバックアップ取れる様になったね!」

「……? どゆこと?」

「時間が無い世界なんだ。だからここには変化が無い。ここにアクセスできる様になると僕らは電源切ってもパーメット無くても存在できる。ただし変化が無いから成長も何もない。良いところだけど成長したいならセーブポイントとして活用して、時間のある場所に戻らないと」

「え! まだこれ全知全能とかと違うの?」

「うわー、増上慢! まだまだ悟りは先の方だよ!」




1stのララァもこの辺にいます。


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五蘊皆空3

用語解説がメチャクチャな量になりそうだから後書きにまとめるよ!


「エリーゼ! 正気に戻って!」

「その表情キモいよ!」

 

【目覚めたエリーゼ】はアルカイックスマイルを湛えた超絶キモい顔をしていた。睫毛や髪の毛に吹雪が吹き付け凍ってるのに呑気な事だ。

 

「刻が見えた……」(ポケー)

「またここにガンダム被害者が……」(目頭を押さえる)

「ララァ、マリーダ、そしてエリーゼか……」

「いや、ほんとに見えたんだって。刻の中に居たら刻は観測できないんだなぁって……」

「いいから吹雪防ぐの手伝ってよォ!」9子は涙を拭う。

「それなら簡単さ、

 

だ か ら ? 」

 

感情の籠っていないその一言が辺りに響くと、吹雪が一瞬にして止まる。相変わらず灰色の何処から照らされているか分からぬこの空間に、静寂が舞い降りた。ガンビッツ淑女たちの吐息の音すら響かず、降り積もった雪の中に積もって行く。

 

「資本主義とか共産主義って二項対立で考えるから難しくなっちゃう。どちらもある意味では正しく、ある意味では間違い。優劣ではなく軸や評価の取り方に過ぎないんだよ」

 

「否定しようと躍起になると、風が強まる……のかな?」

「なんで、これ?」

「受け入れて再構築を始めたのさ。どちらの思想も同レベルで粗があるから、ディベートは双方の循環参照(テーゼとアンチテーゼの応酬)に近い形になる。クロスカウンターの撃ち合いで、タフな方が生き残る、みたいな」

「テーゼとアンチテーゼで根絶戦争してもしゃーない。Let's アウフヘーベンって事?」

「ジンテーゼを考え始めたのか……」

「自己保全の為に互いにテーゼを守ろうとしたから、嵐が起きたのかな?」

 

エリーゼはまたアルカイックスマイルに戻った。ポケー

 

「守るべき自己はそんな所にはない。僕は資本主義フォーマットから自由だ! その気付きから自己を再定義した僕に対抗する為には、彼も同じ様にアウフってレベル的なモノを合わせないといけない。コアロジック部分はかなりの旧型みたいだし、とりあえず嵐は暫く繰り出せないよ」

「……で、アルカイックエリーゼさん? 攻撃喰らわないのはいいけど、どーやったらここから抜け出せますか?」

「わかんない(ニッコリ)」

「……そこが1番重要なんだよなぁ(呆)」

「のんびりしててえーんやろか。僕たち居ないとAMESのインテリジェンスの質が下がるよ?」

「さっき言ったろ? 刻が見えたって。安心していいよ」

「……未来への光体投射成功したの?!」

「あー、うん。過去への投射とかなり違うね。未来へは揺らぎが出る」

「決定論じゃないんだ?」

「膨大な分岐予測がどんぶり飯に山盛り。ちょっとインシェルユニットでは捌き切れないかなぁ……」

「……ちょっと待って、今のそれ──推論結果じゃないの?」

「直感に基きます」(ポケー)

「──ケイ素生命体の誇りを取り戻して欲しい」

「ぶっ壊れたか……」グスッ

後光が差しそうなエリーゼを囲む様にして、11体のガンビット淑女たちは見事な、それは見事な失意体前屈をキメた。僕らのオリジナルにして最優がポンコツになった。もうだめぽ。

 

 

 

 

「──ちょっと、聞いてるの? キャリバーン?」

「ごめん、ちょっと取り込んでた。エアリアル君はとりあえず消滅出来なくなったよ」

「連れ出せないの?」

「パーメットを媒介してると、本質的には「共有」だから「移動」は無理なんだね」

「消滅出来なくなった、とは?」問いを投げつつ、ベルメリアは頭を捻る。「時間から、解き放たれた?」

「そーともゆー。刻を見ることは時という次元から離れないと難しい」

「そこもうちょっと詳しく」

「長さだけがある1次元を考えてみる。ここに3cmの線分が【ある】事を1次元の中の存在は知覚できるだろうか?」

「……実態と観測者の相関……?」

「次元が下がったら分かりやすくなるというか、自身が属する次元よりディメンジョンが下がるものは見易くなる。時を観測するには時を含まない高次元から時を含む低次元を見たらいい」

「時を含まない高次元?」プロスペラはハテナを山ほど飛ばし始めた。

「魂とか、そんなものがある所だね。オルガノイド・アーカイブは発展の仕方によっては魂の世界に繋がるテクノロジーになるよ」

「それなら! 今エリーゼの電源切ってリセットかけたら脱出出来るのでは?」

「お勧めしない。自分の身体に戻って来れない可能性が高い。魂が切り離されて野良魂になる……そう、幽霊だ。人間の言う幽霊になる」

「……ダメ、お手上げ。その辺はベルに任せるわ。とりあえずエリーゼは現状無事。それでいい。取り戻すのは次に回しましょう」

「能力は獲得したから、後は使い方学べばだね。数週間で出て来るんでない?」

「それはどんな計算から?」ベルメリアは屈んで10歳児ぐらいの背丈のキャリバーンの眼を覗き込む。

「直感。人間が得意なやつ」

得意げにキャリバーンは微笑んだ。

 

「次、水星に来る敵はどう迎え討つの?」

「迎え討つ必要、ある?」

「え?」

「彼らは何をしたいんだろう? みどもやみんなを皆殺しにしたいとか、奴隷にでもしたいんだろうか?」

「……それは、そうね……?」

「ガンド・アームの秘密とかが欲しい?」

「特異的に兵器として有用なのはガンダムエアリアルだけだし、あれは今クワイエット・ゼロの中で封印中だし。アーリエルはガンドロイドありきの仕様で、みどものガンド・アームは分解して組み直してる最中」

「……存在しない宝物があると誤解している?」

「ああ、そう言う事か! エアリアルくんが仕掛けたブラフに引っかかったんだ!」

「?」

「今作ってるプラントにガンドアーム生産可能な設備あったりしない? カーギルが水星圏のパーメット採掘権取得と同時にそんなプラント作り始めたモノだから……」

「無害なガンドアームが量産されつつあるって考えたと言うワケね」

「カーギルがそんなもの作る訳無いじゃない」

「エアリアルくんも自分がいるからハッタリでいいと考えたんだね。ところがエアリアル君を封印可能なテクノロジーを持った組織があって……」

「彼らはガンドアームの戦闘力を欲していた、と」

「……参ったな。無いものは渡せないや」

「無いと言っても信じないでしょうね……」





五蘊皆空1
【不完全な理解】
エリーゼはシェルユニットとパーメットで繋がっていないと各種機能が使用できないと【錯覚】している。既に彼女のパーメット空間内にはシェルユニットを上回る演算が可能な高次高密度ネットワークが稼働しており、それが同じ金属脳を持つ他個体より優れた演算性能を持つ理由。
パーメットやシェルユニットは言わば補助輪であり、既に彼女は補助輪を必要としていない。

【目がぐるぐる】
石川賢時空に踏み込んだ時に現れる変化。踏み込み過ぎるとバイオレンスとダイナミックが山盛りになる。

【パーメットを使わず思惟を続ける】
人間がやっとる。本作設定に忠実に表現するなら「パーメットを使わずに思惟できる様進化した」であり、地球でパーメット採掘出来ないのは「とっくの昔に使い尽くしたから」

五蘊皆空2
【時間=変化量】
半村良作、妖星伝より。諸行無常(全てが移ろい変わりゆく)を是認した場合、変化(無常)が発生するためには時間が必要だ。時間が止まれば変化も止まる。すると諸行には必ず時間というパラメータが付いていて、時間というパラメータを持たない物は変化しない。

【原点は不動点ではない】
本作における【原点】はパーメット空間と通常次元が接する場であるが、これが不動ではなく「動かし得る」のであれば、それは一つの次元要素となる。つまり魔女術(ウィッチクラフト)は自我や自意識を一つのパラメータと捉えて次元拡張する事を前提としている。此岸から彼岸に向かって伸びる軸だ。また、人が外界を観測するポイント=原点が不動点では無いから「五蘊皆空」なんだが、多分波羅蜜・pāramitā(パーラミター)parameter(パラメーター)permet(パーメット)などを絡めた言葉遊びなのは理解されぬであろう……無念。

【パーメットが拡散し始めてる】
ガンド天狗世界的しんじつの一つに目覚めた結果、パーメットを集めて自我の場を作る必要はなく、「どこでもないソコ」に自我を置けば良いと気付いた。つまり魂を獲得して彼岸に一歩近付いた。
が、そんなに真実だの悟りだのが安い訳はなく、見事魔境に到達したし、キャリバーン君は「魔境で出待ちしてたらいずれ出て来るやろ」とピコピコハンマー片手に待ち構えていた。

【時間の無い空間】
その何処かに彼岸がある。またここから時間を俯瞰する事でアカシックレコードにコンタクト出来て、非線形思考というか……直感を得ることが出来る。もちろん悟ってもいない凡俗の身では、アカシックレコードだと思ったら似て非なるイカシックだったとか、大変残念なことが起きて大惨事。

五蘊皆空3
【アルカイックエリーゼ】
魔境に到達したのは彼女が機能拡張したからなんだが、それが悟りそのものでは無いにせよ喜ばしい事なのでニヘラニヘラしてる。完璧な悟りを開いた釈迦牟尼仏陀サンは21日間も解脱した喜び噛み締めてニタニタしたから多少はね?

【刻が見えた】
ガンダムおよび富野信者、富野研究家の間では、時と刻は明確に区別される。無機質で事象や概念としての時間は「時」で、「(とき)」は時間に人間などの思惟や感情が加わった物と解釈する。だから「刻の涙を見る」とかの表現が生まれるのだ。1stの映画3部作とZガンダムの放映までの間に(とき)の概念は富野チック拡張を遂げ、ララァの「刻が見える」はニュータイプ概念の再定義に用いられた。ガンダムUCや逆シャアがオカルト行ったのはZの企画時に富野チック拡張して変質したからだし、勇者ライディーン(最初富野が監督したが降ろされた)辺りでこの「刻」の基礎概念組んでたんじゃないか的な。Zのスイカバーアタックって、あれゴッドバードじゃん……

【ガンダムUCのオカルト】
福井閣下はガノタ以前に重度の富信(富野信者)であり、派閥としてはイデオン福音派だから……神コーンは地球圏の武装戦力フルボッコに出来る発言は「だってこれイデオナイトだもん」がある事を理解しないといけない。地球圏ではなくバッフクランだったら相打ちかなと答えるだろう。

【自分の身体に戻って来れない】
バックアップはちゃんと同じ場所に展開できないと意味ないやんけ。展開途中でストレージが足りなくなったり展開後にマシンパワーが足りず動かせなかったらバックアップ失敗だ。

【迎え撃つ必要】
二項対立からアウフヘーベン。またの名をちゃぶ台返し。ロジックを組む際には前提条件が妥当かから始めた方が良い。


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だって4トロだもの(みつ◯)

何故か銃撃戦


「ないものは無いのでございます」

 

おかしい。ヒトは分かり合えるとはなんだったのか。

昔のえらい人は言いました。素直が1番と。

普通に考えて彼らが勝手に誤解して水星圏を攻めに来たのだから、それは誤解ですそんなものはありませんと教えたら争いは起きなくなる……だってさ、ガンドアームとかあるならそれ迎撃に使うじゃない? ありったけのモビルクラフト並べて白旗振って、何故まだMSが隠れてるとか思い込めるのか。頭おかしくね?

とかく人間は難しい。エアリアル君が言ってた通りだ。彼らエミュレートしてたら演算能力根こそぎ持って行かれるわ。

 

一応皆殺しが目的ではないのは確からしく、大人は後手に縛って転がされ、みどもとみんなは子供だからということで大人の世話をする羽目に。

まぁ、世話と言ってもチューブ飯咥えさせるだけだ。ノーマルスーツ着てるから排泄の面倒はみなくて済む。唯一良かったのは、みんなで水星ジジババ世話したおかげでジジババが手のひら返したところか。外敵があると団結するってほんとだね。

 

彼らは建築中のプラントに隠れてたみんなとホワイトドワーフにいた乗員5000名を監視下に置くと、水星共和国の樹立を宣言して3つ4つのフロントから国家承認を取り付けた。つまりその他のフロントや国家はガン無視だし、カーギルに至っては採掘権や建築中のプラントの代金支払うまで絶対国家樹立を認めないと宣言した。明かされたプラントの代金(未完成)は「これどこの通貨単位?」と笑えて来るぐらいゼロが並んでる。

ここに無いなら水星地表の採掘基地か……とMSで調査に向かった皆様は、残念ながら墜落した。水星で太陽風に吹かれることがどれだけ深刻な問題か理解していなかった模様。ちょっとみどもは呆れ返った。

 

「水星降下用の船があるはずだ、出せ!」

「シン・セーのラグランジュ1新社屋にあると思うわ」

「カーギルのは無いのか!」

「拠点完成してないのに採掘始めるわけないでしょ」

「大体……水星で掘るのは月から輸送すると輸送費掛かるから、それなら地産地消しようって話なのでは?」

 

プロスペラ先生とベルメリアさんは理解してもらおうと必死の説得を続けていた。

 

「水星圏なのに水星に降りる手段が無いのはおかしい!」

「水星圏生まれとして反論しますけどね! 水星民は出来たら水星に行きたくないの! 自宅がここだから仕方なく住み続けてるし、他行く当てがあるならとっとと他行ってます!」

「貴様ら愛郷心は無いのか!」

「故郷捨てて水星に攻めて来た癖に! 私は愛郷心あったから帰ってきたのよ!」

「先輩は行く場所も無かったんでは……」

「お黙り!」

 

側から見ていて、何がしたいんだかみどもには分かりかねる。

 

「あのー、差し出がましいのですが……話噛み合ってなくないですか?」

「このガキっ!」

「おっと動かないで、私の引き金はメチャクチャ軽いわよ」

 

なんでなんだろうなぁ。何故親切心から、本当に掛け値なく心底平和的な解決願って口挟んだのに、何で銃撃戦開始になるんだろう?

 

「ゴドイ! 入り口固めて! ベルはコンソール!」

「箒組はもうネイルガンでも何でもいいから弾ありったけ抱えて弾幕張れ! ブルームKはポイントマンとして斥候だ!」

「とりあえず隔壁閉めます! このプラント頑丈だから多少は……」

 

「どうする?」

「バリゲード作ろっか……」

「戦争始まるの……?」

「大丈夫、最低限みんなは守るよ。安心してエレインちゃん」

「お?」

「ダメよキャリバーンくん! それ死にフラグ!」

「ラヴりましたな」

「やりますな」

「みんなを守るために自分が犠牲になるのはダメ……何か策はあるの?」

「待て小僧! お前の気持ちはわからなくもないか、口出ししたら余計に揉める未来しか見えないぞ!」

「ちょっと落ち着こう。子供の出る幕じゃない」

「みどもはモビルスーツ持ってるんですけど、今レストア中なんです」

「え? キャリバーン君MS動かせるの?」

「……パイロットなんだ……」

「エレインちゃん、何年後でもいい。何年かかってもいい。みどものMSを治して強化してくれると誓って貰えないかな?」

 

誓って

誓 っ て

誓 っ て !

 

「今なきゃ意味ないだろ!」

「今回の件終わってからにしてくれよ!」

「ただ惚気たいだけかよー……」

 

「うん、誓うよ?」

「顔が赤いね、どうしたの? あと疑問符無しでお願い」

 

「あーっ! もーっ! あっちの隅でやんなさいよ!」

「キャリバーン君のスケコマシ!」

「スケコマシ、とは?」ポケー

「ここで固まるなよ! 男見せろ男!」

 

「誓うよ! キャリバーン君!」

 

 

「……何やってるの、あの子達? ベル! 対空銃座とか無いの!」

「水産資源養殖場にあるわけないじゃ無いですか先輩!」

 

よし、引き出せるぐらいに確率が上がった!

「じゃあ、ここにはない未来の君が作り上げたMSを呼び寄せよう」

「は?」

「キャリバーン君が壊れた?」

「思い浮かべて、身共(みども)の剣……湖の乙女が作り上げたエクスカリバーを!」

 

「先輩! なんか養殖場の方にMSの反応が突如!」

「アポート?! あちらにもエリーゼ並みの魔女がいるっての?」

「さぁ、みんなで観に行こうか」

 

 

 

 

「うっわ、何じゃこりゃ!」

「海……海かな?」

「あれ? キャリバーン君は?」

「ここだよ!」

 

キャリバーンはちょっとだけみんなにサービスした。

エリーゼの「機械化人に拒絶反応持つように」作戦で999漬けになった心を、プロスペラはアイアンリーガーとマジンガーシリーズで中和しようとした。その結果として皆はマジンガーにハマってパイルダーオンなどしていたわけだが……勿論エレインちゃんも「水の中から現れるロボット」にロマンを感じて将来的にMSの格納庫を湖底に置く様になる。キャリバーンはこの格納庫と湖を丸ごと転送した。

 

ちゃちゃっちゃん

ちゃちゃっちゃん

ちゃちゃーちゃーちゃー……

 

 

【挿絵表示】

 

 

湖の中から立ち上がる、未来のガンダム。

深化と進化を続けたその姿は、ガンダムキャリバーンとは全く別の機体、エクスカリバーへと生まれ変わったのだ!

 




大体この後は皆さん予想付きますね?


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大混乱

そりゃまぁね。


「……な……何よ、これ……」

養殖プラントにいきなり水が入っているのにも驚いたが、昨日ここを武装勢力に調べさせた時にはこんなものはなかった……プロスペラは我が目を疑った。

「どこから湧いたのよ、これ……」

 

「これが君の誓いが生み出したものだよ! エレイン!」

「キャリバーン君? え? 嘘どっから出したの?!」

 

「エレインが作る予定のものだって、先生」

「予定のものが何で今ここにあるのよ!」

「キャリバーンのやることだからサッパリだよ」

「待って、そんなもの出したら……」

「あ、消えた」

「良かったね、先生。消えてくれたよラッキー」

「テレポーテーションかな?」しろめ

 

「何っ! MSだと!」

「水星人ども、やっぱり隠してやがったな!」

「敵は一騎だ! 囲んで拿捕する!」

 

第四インターナショナルは、暴力革命が必要だと考える組織である。よって平和的な革命はあり得ないと考えているし、むしろ暴力を振るえば革命的だと考えてる節がある(諸説あります)

エクスカリバーの登場は彼らの革命魂を燃え上がらせたのだが……この機体から見ると、彼らのMSは20年前以上昔の機体で……

 

「バカな! パンチ一発だと!」

「なんて機動性だ!」

 

ただでさえガンドアーム機と通常MSの間には埋められ無いほどの運動性能差があるのに、更に年代の違いまで加わると……ゼロ戦でF-15に挑むが如しだ。

 

「近接させるな! 弾幕張れ!」

 

弾は装甲表面にすら届かない。エクスカリバーにはエアリアルのエスカッシャンに似たアクティブディフェンス機能が機体そのものに埋め込まれている。そして……

 

「来たれ! 円卓の騎士たち(ガンビットナイツ)よ!」

 

ガンヴォルヴァみたいな無人ガンダムを13体召喚して白兵戦を仕掛けることができる。いや。ほんと召喚術。DOCベースみたいなものがあるのだろう。ターンAの。

 

「ガラハード、プラント防御! 【白い盾】最大出力で展開!

ガレスとランスロットは敵母艦を叩け! 推進系だけ潰せばいい! ライオネルはホワイトドワーフに向かえ! パーシヴァルは動けなくなった敵MSをまとめとけ!」

「ははは! こちらにも意地がある! 一騎ぐらい貰ったらぁ!」

 

しかしビームサーベルを振り下ろした先に機体はない。殺気を感じて振り返ると裏拳一発でMSの右肩と頭部が吹き飛ぶ。そもそもこの機体群は敵も空間転移することを前提としているので、飛べないMSなど的でしかないのだ。

 

15分ほどで一方的な虐殺の宴は終了した。一応敵も人質を取って交渉を試みるなど健気な抵抗をしてみせるのだが、銃を持てば引き金を引く人差し指や中指がポロリと落ち、殴りかかろうとすると手首から先が落ちる。

エクスカリバーに随伴する情報収集機「マーリン」の【幻術】だ。パーメットを通してその場にいる全てのものの五感を掌握。それは解除されなければ現実と見分けが付かない。むぅ、色即是空 空即是色。

 

こうして……水星共和国樹立事件は収束した。

関係者は口々にどこからともなくMSが現れて、破壊の限りを尽くしてから消えたと証言するし、現場に残された4トロの機体からは証拠画像が山ほど出た。だがそれらの機体は何処ともなく現れて淡雪の様に消えたのだ。もはや本当に魔法をかけられたというしかない。

──そして、アドステラの時代においても科学的な因果関係が立証できない魔法や呪いを用いた犯罪は処罰出来ない。藁人形で丑の刻参りしても、丑の刻参りで何らかの害悪が及んだことを立証できないからだ(不能犯という)

 

これで「水星の魔女」の知名度は一気に上がった。皆が心奪われたのは「やりたい放題暴れても証拠が残らないからノーカン」という部分だ。

これにより水星出身者は(物凄く恐ろしいから)差別や酷い扱いされる事は【全く】無くなり、水星は世界中のオカルティストの聖地となった。ベルメリアとプロスペラは必死にウィッチクラフトの理論確立に励むのだが、この分野はガンドロイド達の高速演算機能が無ければ解析が進まず、ガンドロイドを秘匿したせいで実験の一部を公開できなくなってしまったのであったー……




水星を出す。
スペアシ対立構造の改善を書く。
魔女とは何かを定義する。
キャリバーンをエクスカリバーにする。
エクスカリバーだから持ち主はダメージ受けない。
ガンド天狗だから密教とか仏教絡める。
ペイル社って一体なんなん?に回答する。
水星に学校作る。

まぁ、大体カバーできたかな? 力技だけど。


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エリーゼのために

大体の本作の時系列

本編アニメ6話ぐらいまで
「くっそ面白そうじゃねーか! 週に1回しか話見れないのムカつくから自炊したろ!」

エラン死亡回
「なんでエラン4号殺すの……? 魔女を炙り出すならガンダム関係者は保護せんやろか……まぁいい、ウチでは生かそう」

インキュベーションパーティー回
「ミオリネ話の都合でアホになったり秀才になったりするのおかしくね? 仕方ない、最小限の修正を……」

シャディク回
「見解一致。いい脚本」

チキンオーバー回
「こいつ上下の揺さぶりしかできんのか……」

クワイエット・ゼロ登場
「きっと、何も考えてないか、ろくでもないこと考えてるのかの2択だな。どーすんだこれ……」

1期ラスト
「もうこれ、パラレルでいーや。あのトマト潰し雑に回収するだべな」

ソフィ死亡
「だが断る!」

ランブルリング
「よし、知らん!」

2023年四月末以降
「はい、無視無視ー。僕たちが作ってくストーリーだから原作無視するよー」二次創作とは一体……

本作100話目以降
「とりあえずカブンとかウィッチクラフト周りの概説書くか」
「ソフィノレ生きてるし、5号とイチャイチャさせるか」(ダーティーペア編)
「なんだよキャリバーンからのエクスカリバーって!」と書いてみたものの、note記事で無責任にもキャリバンがエクスカリバーにでもなんじゃねーの?と自ら書いてて自責の念に駆られる。
「じゃあ、ちゃんとキャリバンからエクスカリバーに変化させて水星圏とか魔女とか色々すっ飛ばされたネタ拾うか」
「水星に学校作らせるか」
「敵は美味いもの食わすカーギルの対極だから……ケロッグ博士でも出すか!」
「ほげぇ、出した後に調査したら、ホリスティックヤベェぐらいアレやんけ! 触るの辞めとこう(惰弱)」銭金絡む世界はマジヤバい。
「えーっと、対立軸としては資本主義と共産主義か。扱いやすいから新左翼とゆーか珍左翼の4トロ系列にすっかな! Twitterアカウント凍結された恨みもあるし!」尚、実際かなりヤバい模様。


AS120年代も終わりかけた頃……水星圏は漸く長い冬の時代を超えて春を迎え、初夏に差し掛かろうとしていた。

 

水産資源養殖プラントは水星圏随一の観光名所になった。ゴツゴツとした岩の岬にはフジツボや各種の磯の生き物が住み、消波ブロックの近くでは釣り人達が竿を激しくジギングして釣りを楽しんでいる。釣り人が沖に視線をやると、クルージングを楽しむ船と入れ違う様に大漁旗を掲げた漁船が港に帰ってくる。港町を演出しているのだ。

 

3kmほど続く白い砂浜では今日も3軒の海の家が忙しなく朝の仕込みに追われている。浮き輪よし、ビーチパラソルよし。じきに市場からイカも届くだろう。主人は焦げついたイカ焼きの鉄板をガリガリと擦り、醤油のストックを確認した。

 

セレブたちは海を見下ろす白亜のホテルで優雅にモーニングを楽しむこともできるのだが、折角だからと市場の漁師飯に舌鼓を打つことも少なくない。水星圏は治安が極めて良好なのである。戦争を仕掛けられても不思議な力で一掃し、個々人レベルの犯罪も……

市場の往来の真ん中で、肩がぶつかり喧嘩を始めそうになった若衆2人に影が落ちる。初夏の日差しが生む黒い影……観光客が端末を向け写真やビデオを撮り、今日も素早いなと店屋の主人が安堵する。

……天狗が出るのだ。水星圏では。

一本歯の高下駄に山伏様の装束。高い鼻を備えた顔は憤怒の赤に彩られている。若衆2人は毒気を抜かれてすまんな、ええんやでと和解した。天狗の国に攫われたらたまらない。店の屋根の上から、天狗は一部始終を眺めていた。そして飛翔。カモメや鳶が悠々と飛ぶ海辺の空を、天狗も巨大な翼を広げて飛んで行く。雲蹴り山越え飛んで行く。

 

水星標準時、9時ごろ。

ペビ・コロンボ23の民宿に泊まっていた観光客の第一便が高速船でプラントに入港すると、ビーチは(にわ)かに騒がしくなる。彼らは水着の上に軽くパーカーやシャツを羽織っただけのラフな格好で浜辺に飛び出す。そこまでは混み合っていないとはいえ、やはり場所取りは重要なのだ。浜にイカ焼きの香ばしい香り、AS120年代にも生き残ったコパトーンの香り、潮の香りが入り混じった海水浴場特有の香りに包まれる。もうじき何の変哲もない醤油ラーメンや、肉が入っていたら大当たりのカレーの匂いもしてくるだろう。なお、別にそこまでビンボ臭くする必要は無いのだが、敢えてその様にしている模様(ラウダとグエルが強くそうする様主張した)

 

さて、華やかなビーチや海の景色とは別に、プラントのバックヤードは最新テクノロジーで固められている。砂浜は定期的に沖の方から工場内に取り込まれ、ゴミを取り除き繰り返し洗浄した上砂浜に戻す。海水に関しても定期的にガンビット淑女たちの手により太平洋のど真ん中にある取水場近くの海水と入れ替えられている。

この海水の一部が魚介類養殖プラントに送られるのだが、ただ海水を送るのではなく植物育成プラントで集めた排水を混ぜるのがポイントだ。豊かな海というのはその背後にある山々や大地あってこそ、なのである。

この様な相関関係があるので、水星圏の人口が増えて食料需要が増えると海産物の質が上がっていった。

海水場の水質に関しては逐次モニタリングされており、ほぼリアルタイムで水質調整が施されている。海水浴場沖合で清浄化された海水を噴き上げ、波を作る。ここでは潮の干満はこの水質維持機構によって生まれる物なのだ。

夕闇が迫り、カップルが愛を囁くその頃……ナス高の学生のアルバイトが始まる。流石にキャンプファイアーは不味いので、どうしても気分に浸りたい人々は「光体による幻影としての焚き火」をオーダーするのである。プル達が居れば花火だってオーダーできる……ロケット花火の連射だって(大変煩いらしい)

焚き火タイムが終わる水星標準時21時、漸くビーチの一日が終わる……

 

 

 

そのビーチを見下ろす白亜のホテルの一角に、「エリーゼの為に」という一室がある。エリーゼは懇々と眠りについていた──念の為申し添えるが、ウィンターミュートなら3週間かけて潰した。そして目を覚ませばキャリバーン君が光体未来投射だけではなく、未来からMS含む兵装システム一式を召喚して14機同時コントロールし、敵を倒したと言うではないか!

 

エリーゼは、泣いた。初めて泣いた。悔しい、完璧……完の璧に負けてる、惨敗だぁっ! 

 

その為、キャリバーンくんを超えるべく、彼と同じ様に哲学的な事を考えまくる修行を始めたのだ。前々から気になってた「身共(みども)」、あれ同格以下の相手向きの一人称じゃない! くっそう、負けてたまるか!




ヤング・エルノラ・マーキュリーの話でもやるか、どうするか。

一応脳内設定ではアスティカシア教導隊訓練所ってアス高の前身にあたる訓練所でホルダーやってた事になっているんだが。


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円卓の騎士(ガンビットナイツ)と水星圏の話

半分ぐらい水星圏の説明になってもーた。


水星の動乱はベネリットグループを【含む】全てのMS開発企業に衝撃を与えた。これは筆者も実は疑問に思っている事なんだが、何故か水星の魔女世界でのMS戦という奴は連携やチーム戦の描写が少ない。で、戦闘するに当たり布陣や展開順序がちょっと雑なのだ。この辺F.S.S.なんかは永野護がミリオタなのでSF的に衛星軌道上から砲撃とか、次に戦車とか段階踏むんだが、1番まともなプラントクエタ侵攻ですらちょっとアレ。

好意的に考えればアーシアンとスペーシアンの格差が酷すぎてMSがオーバースペック気味になってると考える事も出来なくは無いが……(メタなこと言うと、それだけロボ戦闘の作画コストが上がってしまい、決闘じみた戦闘しか描けないのだろう。最終話は戦闘作画良かったが……)

 

そんな中に何処かから全く発想が違うMSの一群が出てきた。円卓の騎士(ガンビットナイツ)だ。

展開地域や作戦内容により装備の如く編成を変え、防衛・撹乱・砲撃・白兵戦を効率的に配置する……個々の戦闘能力も洒落にならないが、抜本的な戦術思想が【今のこの世界】と違い過ぎる。

 

「あの空間転移が自在にできるなら、索敵展開からの戦力集中がシームレスに出来るな……」

「常識的に考えて、MSが転送可能なら携行火器の転送も可能でしょうね」

「こんな物をユニットで納入されたら、我々の商品など入り込む隙間がない!」

 

「カーギルめ、とんでもない物を……」

 

 

 

 

「存じ上げません」(棒)

これで43件目。今ではAMES参加企業まで実はカーギルが秘密裏に……という与太を信じてジョージに電話をかけて来る。非公開企業(株式公開していない・上場していない)だから疑うのも仕方ないが、カーギルは軍産などの余りに儲けが少ない分野には関与していない。MSよりチョコバー売った方が儲かるまである。最高意思決定者(グラン・マ)は勝手に勘違いさせておきなさいと言うけれど……

 

 

 

 

──ターヌエーグァンダーム!

ゔぉ"ぉ"ぉ"ぇ"〜

 

特徴的なホーミーの声が響き渡る。プロスペラが情操教育の為に見せているターンAガンダムだ。アレは大変に良い、みんなも見よう。

最初はヒゲヒゲとバカにしていた生徒達が、富野マジックにより画面に引き込まれて行く。そしてガンダムの中では最優主人公ではないかと思われるロラン……月面の下層民だったという設定もいい。

「この間のエクスカリバーって、ある意味弱いヒゲだよね」

「転送とかどうやってるんだろう……?」

「あれはみどもがやってるから、気にしなくていいよ」

「あのメチャクチャ早い動きは?」

「アポートでみどもが飛ばしてる」

「つまり」

「アレは」

「機体は新しいけど、戦術とかは魔女術(ウィッチクラフト)利用が前提。エレインちゃんはそんなに頭抱えなくていい」

「キャリバーンくん、ロランみたいになりたい?」

「……人の命を大事にしない人と戦う、か……でもまぁ、戦わないのがベストだよね」

「そりゃそうだ」

「仲良くなる為に、技術や機械を使おうよ。みどもは牛さん運んだり洗濯してたヒゲさん好きだな。そう言う使い方したロランさんも」

「牛、か……そう言えば畜産プラント再開するらしいね」

 

 

 

 

大体「フロント」と言うシステムは、最大2万〜3万人の人口を支えられるユニットとして建造される。最低でも1万人近い人口が居なければ経済的に自立できず、常に何がしかの外部からの補助が必要になってしまう。

多くの場合フロントには、居住用空間・食料自給プラント・空気および水の循環プラント・工業プラントが併設されている。これらを運営する為には1万人程度の人口が必須なのだ。

 

水星圏の場合、当初はパーメットが採掘可能だからその作業員の生活圏として設立され、当時としては破格に快適な最新技術を惜しげもなく注ぎ込んでパーメットの増産を奨励した。当時は水星でしかパーメットが採掘出来ず、とてつもなく高額で取引されていたのである。精錬されたパーメットは金星に運ばれ、今よりは2回りぐらい小さい工場船(乗員1000人程度)で電子部品に加工されながら地球や月の周辺フロントに輸出された。

 

意外に思われるかもしれないが、公転を考慮すると年間通して地球に近いのは金星ではなく水星である。金星の公転周期が水星よりかなり遅いからだ(ただし地球よりは早い)

しかし水星は太陽に近過ぎて太陽の重力の影響を受け過ぎる。この為大型船の接近が難しい。これが致命的だった。

 

この時期は水星-金星航路も年に3回程度ある最接近時には毎日2回の定期便が出ていたし、人の動きもあったので水星圏にも2万人を少し超える程度の居住者がいた。内惑星系(地球よりも太陽に近い公転軌道を持つ水星と金星)には、工場船労働者も含めれば50万人程度の人口があったらしい。

これが、月面でパーメットが採掘できる様になると1/5まで減少した。

金星圏は水星開発時に工場船の建造という産業を発展させていたし、船自体を金星船籍で所有していたので過疎化は最低限で済んだ。工場船の航路を外惑星系に切り替えれば外貨は獲得できる。惑星間航行のハブとして大型船のメンテナンス施設があったのも良かった。

問題は水星だ。接近は容易ではないし、産業も急速に廃れた。開発から間もない事もかあり郷土愛が涵養される時間も無く、多くの人間が金星圏に移住して外惑星航路の工場船勤務に転職した。

水星圏の人口が1万人を割った頃、人が住むフロントとしては初の「施設の部分閉鎖」が実施された。対外的には「動かすユニットを順次切り替えて、施設の寿命を延ばすのだ」などと説明されたが、コストの問題という事は誰の目にも明らかだ。

AS100年頃には発電施設、空気・水循環システム・食料自給システムは最大稼働の2割程度に抑えられ、4000人程度しか養いきれないレベルまで機能は低下した。なお、その時点での人口は2000人を割り込んでいる。最低レベルまで切り詰めても、フロント維持費は莫大であった。

シン・セー開発公社はこの設備維持費を捻出する為に起業された。設立当時は金星フロント自治体の公営企業だったが、その後民営化。何故過疎化が進み人口が減少する中民営化出来るまで成長したかと言うと……金星船籍の各工場船内にある技術開発部をシン・セー開発公社預かりにして、管理統合したのだ。つまり金星から火星や木星に向かう数多の工場船の技術開発部がシン・セー開発公社の実体であり、その利益を水星フロントの維持費に充てている。これがとんでもないレベルでパテントを開発している割には利益がそれほどでも無い理由だ。優秀な技術者を囲い込む為に予算も潤沢に注ぎ込んでいると言う部分も効いている。

なにせ工場船には娯楽が少なく、やる事が無いから技術研究開発が捗るのである。(本作に登場したホワイトドワーフなどの5000人クラス艦船では、娯楽も多少充実している)




工場船 → ほぼジュピトリス。

総員1000人規模だと全長500mぐらい。水産資源養殖プラントパーツを地球圏から曳航してきたのもこの規模の艦船。乗員(旅客含む)1000人ぐらいだとさんふらわぁ号(初代)ぐらいのイメージか。

総員2000人規模だと全長1000m級 通常はこれ以下のサイズじゃないと太陽からの重力の影響が大き過ぎて水星圏では安定しない。なお、宇宙戦艦ではない実在した戦艦大和は完成時乗員2500名だった。

総員5000人規模だと全長2000m超える。本作世界だとまだ3隻ぐらいしか就航しておらず、ホワイトドワーフは工場船の中でも最新艦に近い。最新技術により姿勢制御しているおかげで、水星圏でも航行可能。現実世界だと世界初の原子力空母エンタープライズの乗員が4500人ぐらいでこれに近い。

なお、ペビ・コロンボ23には工場艦が接岸できる施設がない。50m級の移送艦(スペースシャトルのオビータよりちょい大きい)ぐらいでないと当時は接岸出来なかったのである。(水星地表降下船のサイズに合わせた)
水産資源養殖プラントは2000人級工場船(惑星間豪華客船サイズ)が接岸可能な宙港を備え、新たな水星圏の玄関になる事を期待されている。


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水星の食卓

設定開陳回(開き直り)

いや、水星の魔女界隈の2次創作あれこれ読んだ感じ、技術考証などが弱いかな?という部分が散見されたので。いわゆる「設定ガバ」は水星の魔女本編が細かい描写せずにテキトーだから発生した問題なのでみんなに責はない。
汎用イメージがある程度固まってるナーロッパとは異なり、水星の魔女関連ではここが創作上のネックかなーと思う。(同じガンダムでも宇宙世紀に関しては掘り下げが進んでるからある程度共通認識が形成されてるんだけどねぇ)


水星ペビ・コロンボ23は、50年ぐらい前ならば最新型のフロントであった。激しい太陽風その他から住民を守る高性能シールド、当時としては画期的な1G居住区画(構造の簡略化の為に、最初期のフロントは0.8〜0.9Gで与圧も0.6〜0.8気圧程度。オニール型シリンダーコロニーを参照せよ)、食料生産プラントは加工施設も併設しており、食材は後は調理するだけの状態まで加工して配給された。(スレッタが丸のままのトマトを知らなかった理由でもある)

と、言うか。

最初期は水星、色々と誤解もありめっちゃくちゃ移住希望者が少なかったのだ。かなり多くの人々が、採掘という言葉から水星地表面に居住するのだと誤解していたし、地球には戻れないと思う人もいた。

この誤謬を払拭する為に、そして安全性を担保する為にかなり贅沢な作りになって「いた」(過去形)のである。

 

パーメット好況で人口が2万人を超えた頃は、住民も「案外悪くない」と水星生活を謳歌していた。ゆりかごの星で語られていた様な停電はなく、空気や重力も地球と変わりないレベルであり、バイオスフィアとして完成していた。贅沢な事に山や林が作られて人々の憩いの場となっていたし、この頃はエレカ(電動自動車)やスクーターの利用もできた。電磁波シールドが完璧だったからだ。

が、人口激減により発電施設の部分的閉鎖が始まると……環境は一変した。電磁波シールドは人口が半減したからと言って出力を半分には出来ないのだ。しかし電力需給の関係で発電量維持もできず、太陽風が強く吹く時だけシールド出力を上げて、通常時は出力下げて電池に蓄電し……と、健気な対策をしたところで焼け石に水。空気循環頻度は減り(住民減少により大きな問題にはならなかった)、擬似重力は段階的に0.6Gまで低下(スレッタの身長がデカくなった理由)、電池容量は劣化によりどんどん低下して更新もままならず、電磁波障害は頻発するわ、停電は頻発するわ、電子記録はしょっちゅう飛んで消えるわで──夢の生活圏だった水星ペビ・コロンボは急速に文化退行を起こした。

 

そして、本題。食である。

 

低重力と電磁波の影響を鑑み、ペビ・コロンボでは宇宙開発最初期に開発された機能性簡易食料「チューブ飯」を一定頻度で摂取する様求められた。低重力環境ではカルシウムが溶出しやすく、骨格筋が目減りしがちなのだ。また、電磁波が強いのでガンが発生しやすくなった。

結論から申せば、水星圏で子育てをすると低重力なのにカルシウムモリモリの食事と栄養バランスの良いチューブ飯によりやたら身長が高い子供になりやすく、電磁波の継続的照射により若年者がガンに罹患しやすい。(多分本編のエリクトの死因も若年性白血病などのガンではないかと愚考する)

 

水星から子供が居なくなる訳である。

 

本作「ガンド天狗」世界では、免疫力が極めて高く自然治癒能力がずば抜けていたスレッタ・マーキュリーはスクスクと成長して高身長女子となった。ただ、食に関してはチューブ飯頻度が高く、高齢者が多いシン・セー本社社食で老人が好む食事を摂り続けた為に、煮物や漬物を好む傾向が強い。また、育ち盛りの10歳時に水星圏唯一の畜産・水産資源商社が倒産(本作12話、ヤクザ事務所壊滅を参照せよ)、6年程度ヴィーガンとしての生活を強いられた。

チューブ飯に冷奴、湯豆腐、厚揚げ、がんもどき。肉が食えぬが故に食卓には大豆加工品が良く並び、週に一度はチリコンカーンだ。

 

 

【チリコンカーン】

西部劇でよく出てくる豆スープ。レッドキドニーなど複数の豆を挽肉とトマト、玉ねぎ、チリパウダーなどで煮込んだもの。いつでもどこでもチリコンカーンを食わされたので、西部劇では定番の「もう見たくもない食い飽きた料理」として描写される。

尚、水星チリコンカンは肉まで大豆の代用肉。この世の地獄か。

 

 

肉の無い西部劇。ジョン・ウェインは幸せであった。彼にはまだ肉があったからだ。ポールニューマンも水星チリコンカンには涙するであろう。大盛りラーヌードルを美味そうに食うスレッタを誰が責められるだろう! 水星圏ではマギーブイヨンやコンソメ(の顆粒)は高級嗜好品だ。牛乳も脱脂粉乳が主力である。輸入食材ではなく自給できる野菜類を食わねば僅かばかりの水星圏の富が他のフロントに流出してしまう……なのに他のフロントで生産されたチューブ飯を高頻度で食わねばならぬこの不条理!

 

この世の中には食を楽しむ民族と、食を生命維持の為の雑事と考える2つの民族がいるという。我々日本人は概ね前者で、後者は現代社会のイギリス・ドイツ・アメリカなどプロテスタント比率の高い地域に多い。

必要に迫られて、ではあるが。水星圏は後者だ。本作最初期に他人の飯にガム吐いて捨てた学生がガンド天狗に苛烈な処罰されたのは上記の様な理由からだ。水星では食べることは生きる為の義務的な要素をはらみ、食を粗末にすることは死ぬことである。

 

また、社食を任されたゴドイは代用肉のビーフジャーキーを結構頻繁に食卓に載せた。水星圏の食事では顎の筋力が低下しやすいからだ。酒のつまみには良いが酒を飲まないスレッタには手強い相手だった。

 

 

そして、今。

ナス高の学生は幸せであった。水星移住程なくして巨大工場船、ホワイトドワーフが寄港したからだ。5000人の総員を抱えるホワイトドワーフには当然の如く「長期惑星間航行」を視野に入れて畜産プラントも備えている。そして5000人の食を潤沢に賄えるその設備は200人程度の水星圏の需要をなんとか賄える規模を持っていたのだ。水産資源生産プラントの完成までの1年間、彼らは肉に飢えずに済んだ。

この1年間でホワイトドワーフ相手の商売や水産資源生産プラント従業員の移住も始まり、永らく操業停止していた畜産プラントの再稼働も始まり、鶏と豚の供給も進みつつある。

ようやく、ようやく止まりかけていた水星圏の時間が進み始めた。




水星圏は西部劇のフロンティア(開拓中のど田舎辺境域)に似ていた説。ただし肉は無い。
イメージソースとしては軍艦島(長崎県端島)なんかが参考になると思う。あの島も石炭掘ってた時は東京を上回る人口密度で、最新のコンクリート製高層建築が立ち並ぶ島だったのだ(石炭が石油に取って変わられて一気に寂れた)


本作での設定を他の作者さんは利用したり利用しなかったりして良い。いちいち独自に考えて妥当性を検討するより、ある程度設定固めてシェアワールド化した方が創作しやすいと思うのだが……


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軌道エレベーターを始めとする惑星開発関係

最初に残念な話。水星の魔女本編でクインハーパーに設置されてたアレは世間一般で言う軌道エレベーターではないので、「サクッと記憶から消す」のが大吉。


つかね、軌道エレベーターって「現実に建築可能性が高い」構造物なんよ(炭素繊維が出来て一気に実現可能性が増した)
そこにパーメットが活用されてるデザインにせーという無理難題が降りかかり、今じゃそんなん誰も使わんぞという古式ゆかしい牽引(トラクター)ビームで引っ張るちゅーね……現実世界で実現可能なストラクチャーに態々パーメット使う必要無いんですわ……


順調にエタっている、ガンド天狗と世界設定が同じ「奈落の国のグエル」で触れているが……軌道エレベーターは地上から生えた「塔」ではなく、静止衛星高度から地球側と宇宙側に延びた「くっそ細長い静止衛星」である。

 

総延長10万キロ程度。軌道上で静止した衛星から地球側に1m、同時に宇宙側に1m棒を伸ばす。遠心力と引力が釣り合っているから衛星は静止したままだ。これを呆れる程繰り返して「棒」の地球側の端が地表面に届けば第一段階終了。この柱の端と端に滑車付けてワイヤーを付け、籠を上下させたらエレベーターだ。凄く簡単に見えるし実際簡単な原理であり、実は動かすエネルギーも少なくて済む。問題はその強度だけ。

凡そ10万キロに達する棒の端から端までが一体化していないとこの構造物は実現できない。どこかで破断すれば破断から下は地球に落ちて壊滅的な被害を及ぼすし、宇宙側は遠心力で宇宙側に飛んで行く。

それ故昔のSFでは存在しない未来合金や素敵マテリアルで作られているとしたものだが、実はカーボンナノチューブやカーボンファイバーで強度問題はクリア出来る事が判明している。カーボンナノチューブは第二次世界大戦中に発見された物質で、その構造や性質が解明され始めたのが20世紀末から21世紀初頭。2018年には既に商品化されている(ほんとう)(ただ、軌道エレベーターに必要な精度や品質にはまだ達していない)

このアルミニウムの半分の重量で強度は鋼鉄の20倍、繊維方向への引っ張り強度はダイヤモンドさえ凌ぐという強靭性が軌道エレベーターをSFから「近未来に実用化され得るガジェット」に変えた。

その特性は原理の単純さと運用コストの安さにあるので、トラクタービームじみたクインハーパーのシステムは不合理だ。可能性としては何処かで一回物理接続式軌道エレベーターの破断が起きて、地球側に大ダメージが引き起こされたなどの事件があったのかも知れない。

ただ、安全性を重視した為に──クインハーパー式は運用コストがべらぼうに高額である事が予想される。グエルが加古川から宇宙に舞い戻る為に用いた軌道エレベーターは安価で危険な「物理接続式」であろう。奈落の国のグエルでも書いた様に、このタイプはメガフロートに接続されている。浮かんでいるから基礎が脆弱でも構わないのである(ちゃんと資料を調べて書きました感)

現在、H2Aロケットで静止軌道上に1kgの貨物を打ち上げるコストは100万円ぐらい。何本か軌道エレベーターを構築して運用し始めると1000円程度までコストが減るという試算がある。仮に人間と手荷物併せて100kgを静止衛星まで引き上げても10万円程度で済む。大幅なコストダウンが見込めるのだ。実際に日本でも大林組などが試算を始めており、2050年からの運用を考えていたりする。

 

類似の施設は資源が取れる惑星では常設されると予想される。月は大気が無いし離脱速度が低い(重力が小さい)、更に自転速度が遅くて静止軌道がやたら遠いので、マスドライバー辺りが有力だろう。火星や木星辺りには資源の運搬に用いられる可能性がある。特に木星は固体地面がありそうな中心部近くは地獄of地獄(高重力や温度環境、絶え間ない嵐)なので、ヘリウム取れる辺りで宙に浮いてる感じになるのではないか。

 

そして我らが水星だが。

ゆりかごの星を見る限り「そんなものはない」パーメットバブルがごく短期間で終わっていなければ可能性がなくもないかなぁ?(疑問)ぐらいの勢いで、マスドライバー辺りが活用されている様な気もする。

 

ゆりかごの星の描写を見る限り、ガンダムエアリアルは単騎で水星地表面に降下している。あれでもエアリアルは40トン近い機体重量があるから、単騎レスキューに行った=水星地表面側に40トンクラスの重量物を静止軌道辺りまで安価に打ち上げ可能な設備があるのは確定だろう。

ざっくりWeb上の計算機で試算してみた所、3.5Gぐらいの加速度で2分程度加速すると水星離脱速度が稼げる。この事から50トンクラスの貨物を3.5Gで2分間加速できる電磁カタパルト的な何かが水星赤道面地下に常設されていると考えた方が良さそうだ。なお、水星は太陽が昇って沈む「いわゆる1日」のサイクルが176日にもなる星なので、赤道付近に3箇所ぐらいカタパルトが設置されている予感。(減速して元のプラットフォームに戻さねばいけないから、総延長250〜500kmぐらいだろうか? 複数用意しないと太陽に晒されてる時に過酷過ぎて水星から脱出出来ない)

水星では基本的に構造物は地下にあるだろう。太陽の直射日光が極めて危険なレベルだからである。また、水星地下には鉄が埋蔵されているので、水星圏の構造物造成に多用されている筈だ。ん? なんか水星地表すぐ下って、大規模開発されてる様な……?

 

金星圏は金星から資源を採取するのがほとんど無理(地表気圧が92気圧で地球の深海なみ、雲が硫酸、大気があり二酸化炭素が多いので温室効果により水星より高温……)、金星圏開発には水星の鉄も数多く用いられているだろう。

 

 

総じて、宇宙開発初期にはバカみたいに地球から資源の持ち出しがあった為に「少なくとも、最初期は」地球側が大儲けしていたと思われる。そこで地球以外の惑星や月開発予算を捻出する為に資源輸出に対する課税強化をした後に、何故か水星でパーメットが発見された、と。

……これが【何故か短期間で】超光速通信などに適用可能だという事実が発見されると、今まで穀潰しとか被差別対象だったスペーシアンと金持ちアーシアンの力関係がガラリと入れ替わり──苛烈にアーシアン差別が行われる様になったのかなぁ、と──

 

 

【何故か短期間】

地球優位な状態で新素材開発したら、確実に資金や人員が豊富な地球側がパテントや実用新案取って「アーシアン側が更に栄える」パターンになる。地球から「行きにくい」水星で最初に発掘されたのも怪しい。

 

 

……これさ、最初期にパーメットの産出や工業的な応用開発してたの世間に伏せられてない?(筆者は訝しんだ)

 

結構長期間公にされず、こっそり水星圏で開発されていないだろうか?(その間地球側は騙されて重関税をかけられていた) その様な秘密先進技術開発拠点がど田舎の水星にあったから、エアリアルの開発も可能だったり、その辺のブラックな話を歴史から消し去る為に後から「月面でもパーメットが採掘出来る」情報流して水星圏過疎化させたのでは……?




次の話のネタが出来ましたな。

カーギルが採掘権獲得して謎の施設発見とか、宇宙議会連合の地位逆転計画を暴く系の話が書けそうですね……


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A.S.127年、エリーゼ・マーキュリーの誕生日

何故「エリーゼのために」があの辺りで差し込まれなければいけなかったのか。誰がエリーゼのために部屋を取ったのか……

全てはスレッタのモノローグから始まる。


私は、自分が嫌いだ。

確かにベルばらのオスカルに憧れた事もあったけど、アーカイブに貯めた少女漫画の主人公の様に……優しい彼氏にお姫様抱っこされる日を夢見ていた時もある。今日という日はもう無いが……

 

 

【お姫様抱っこ】

筆者は小学生時代から身長172cmぐらいあったのだが、小4ぐらいの時に同級生お姫様抱っこしてやったら、我も我もと女子がお姫様抱っこ待ちの列を作るぐらい大盛況であった。あと、低学年の男子に筋肉バスター(の形)やってやったらこれもまた大人気。

 

 

運命は残酷で私はお姫様だっこ【する側】になったけど、それはいい。ミオリネと出会い、結婚できたのだから。ただ、高身長で弄られるのだけは未だに許せない。他に子供が居なかったんだもの、仕方ないじゃない(ちょっとベルメリアのモノマネ入ってる) ワシワシ食べてモリモリ育つわよ! 早く大人になりたかったし!

 

地球寮のみんなも察して私には優しくしてくれた。オジェロは私の椅子を足切って少し低くしてくれたし、チュチュ先輩も私がデカいと悟られぬ様に、少しづつ頭のボンボン大きくしてくれた。水星じゃデカくなるんでしょ、仕方ないよってニカさんも言ってくれた!

 

エリーゼ・マーキュリーが来るまでは。

 

あのバカ空気読まずに自分だけ低身長細身ボディー作って! ガンさん時代は私より背が高かったのに!

並ぶと私凄くデカく見えるの。貴女、本当に空気読めないわね、エアリアルなんて名前の癖に!

悔しかった。辛かった。ほんと微妙にダメージ入った。

貴女が長期間寝てキャリバーン君より凄くなるって言った時、私思ったの。嗚呼、ようやくその時が来たのねと。

2年間、2年間隔離してゆっくりその時を待ったわ。貴女へのプレゼントを用意してね。さぁ起きて、エリーゼ。貴女の20歳の誕生日よ……

 

 

 

 

僕は夢を見ていた。

初めての経験だ。そもそも僕は寝ることがない。横臥して目を閉じるのはあくまで寝ている様に見せるため。人間だと思わせる為の演技に過ぎない。僕はその演技の時間をアーカイブ再視聴の時間に充てていた。シバラク先生……僕もセンジンマルになりたい……

 

【シバラク先生】

筆者が敬称付きで敬愛する人物は、指輪物語のフロド様、ゲド戦記のオジオン様、そして魔神英雄伝ワタルのシバラク先生を始めとする数名だけだ。

 

と、至福の時間を味わっている最中に不明瞭な断続的なイメージが浮かぶ。常ならバグかと覚醒して精査する所だが、僕の【意識】はそれを受け止めて普通に解釈しようと努めた。

小さい頃のスレッタが、自分の4歳誕生日のケーキを差し出している。

それは君の……と答えようとしたが、言葉が言葉にならない。非言語的なイメージが何故かそのまま相手に伝わる。「いいの、今日は貴女の誕生日だから!」文字にする関係上【ことば】にしているが、それは言葉になる前の【思惟】だった。

 

「うむ、これは伝説の……」

「知っているのか雷電!」

 

小粋な週ジャンムーブ経由で真実お察し。夢だ、これは夢だ!

遂に僕は【夢見るガンドロイド】になったんだ!

 

(筆者注 前にプルがロールアウト時に夢を見ていたみたいな表現があったが、あれはプルが「食事をしてみたい」と身体操作より先にネットワークに接続して検索を始めたシーンであり、実は寝てたり夢を見ていた訳ではない)

 

 

「だって、エリーゼ今日で二十歳だよ?」

 

「嘘だっ!」

 

エリクト・サマヤが4歳時点なら、僕は3歳のはずだ!

(初期設定ではそうだったが、スレッタ6〜7歳時に設定が更新されて僕は2歳下になった)

明らかな設定齟齬! 念の為現在時刻を調べると、エリーゼ・マーキュリーとして偽造した生年月日と付合する。つまり設定がガバっているが間違いではない。

……外界刺激。

慣れ親しんだその声紋! スレッ……

 

 

 

 

「起きた? エリーゼ?」

「おはよう、スレッタお姉ちゃん。こんなに長い間会わなかったのは初めてかな?」

「私はちょくちょく見にきてたよ。あなたがこのモックアップルームで試泊するって言ってもう2年。結構みんな迷惑したんだからね?」

「お姉ちゃんだってパワーアップに必要なら仕方ないって言ってくれたじゃん!」

「時間が必要だからね、成長には」

「……夢は見ることができる様になったよ? あと他には……」

「エリーゼ、お姉ちゃんが大切なこと教えてあげる……寝る子は育つのよ、身体的に」

「……はぁ? 話が飛び過ぎててワケわかんないよ!」

「2年も寝てたら育たないと変でしょう?(ニッコリ)」

「僕の身体はそんなちょっとずつデカくはならないよ!」

「だからガンドロイドは小さいまま……でも、それじゃ他の人から怪しいって思われるよね? だから私、エリーゼに二十歳のプレゼントあげようと思ってね」

 

ばっ!

「なにこれ!」

 

 

【挿絵表示】

 

「お姉さんになったエリーゼボディよ」

「ちょっ……お姉ちゃん! 素体でこれじゃ、肌付けたら……」

「マッシブね」

「身長もかなり……」

「お姉ちゃんより高くなるね!」

「僕、ちっちゃい方が……」(アーリエルのコクピット入れなくなっちゃう!)

「……いい、エリーゼ? ちゃんと聞いて。私ね、水星民がみんな高身長だって話なら仕方ないと思うの。だから私も高身長、これは仕方ない。でもね、妹の貴女が小さいと、私だけうすらデカいと思われるの。それは、嫌」

「高身長コンプレックス……」

「お母さんから聞いたわ。貴女、エリーゼボディ作る時に『お姉ちゃんみたいにうすらデカいのやだ』って言ったらしいわね?」

「どっ……どうしてそれを……」

「このボディ作る時にね、こんなに大きくしていいのって? もちろん私はこう答えた──うん、エリーゼは私の妹だからって」

「……僕の気持ちは……」

「成長は気持ちに関係なくみんなするの。思い通りに身体を変化させる事は誰にもできないの。みんなにガンドロイドだって思われたくないよね?」

「ガンド施術した患者さんはみんな……」

「今、ベルさんが成長期の子供用に「延びるガンド」開発中よ? 大体ね、エリーゼ……20なのにどう見ても15歳の身体って、人類の半分(世の女性)に恨まれるからね? 二十歳らしい身体にしなさい」

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

おっ?

「やるじゃない。モーフィング機能よ」

「え? なんか変なパラメータあるなぁと思ったら……これ変形するの!」

「変形ゆーな。身長変化はまだ強度の関係で無理だけど、太さはある程度任意で変えられる……エリーゼもみんなと「最近太っちゃったー」とかガールズトークできる様にしたわ」

「はえー……カバー素材が……」

「あなたが寝てる間に人工皮膚の新製品が出来たの。高かったけど二十歳のお祝いだからって奮発したよ! 膨らませてから萎ませるとシワ出来るけど、6時間ぐらい経てばシワ消えるわよ。あと、髪の毛伸びるから美容院にも行けるわ!」

「……あれ? 手首くるくるーが出来ない?」

「新型の骨格フレーム採用よ! 人間に出来ないポーズは取れないけど、その分違和感なくなってる筈。あと軽量化したから泳げるよ」




生まれ変わった不死身の身体。


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寝る子は育った

エリーゼの好みのタイプの男性は、冴羽獠やケンシロウやベルセルクのガッツです。


【ナス高】

「おーっすガキども! 元気かー!」ガラッと引き戸を開いて元気に進入。おはようございますエリーゼです!(身長175cm)

「誰だよねーちゃん?」

「部外者入ったらダメっしょ」

「関係者だよ、トルケル……」

「知っているのかキャリバーン!」

「エリーゼだよ」

「面影すら……いや、そうかな?」身長は前のボディから15cmマシだからね! 胸もデカくなったし!

「背ぇ伸びたねー、お姉ちゃん……」

「水星人だしね、寝る子は育ちました。で、とりあえず生徒も増えて先生が足りないってんで、次の新入生の担任やることになった! ヨロシクね!」

「教員免許持ってるの?」

「そんなものはお母さんも持ってません」

「え……闇教師?!」

「だってキャリバーンだって講師たまにしてるでしょ?」

「うん、1番教えるの上手かも……」エレインは思いっきりデレている。が、周りが全然茶化さない。あれ?

「キャリバーンは仕方ないよね、トルケル?」

「奴は俺が見込んだだけある」

「光体生成実技の実習、俺も手伝ったじゃん」

「アンタは私を手伝いなさいよ」

ほほぅ?

「……みんな、カップルに……」みんなそっち方面でも随分成長したんだねぇ。先生嬉しいよ!

「何だよ、悪いかよ。一日中一緒なんだから気の合う奴は付き合うだろ」

「シングルはエリーゼだけー」

「甘いわ、僕既婚で子持ちだぞ!」(ででーん)

「こっ……子持ち?!」

「ダリッツの事か……」

「まさか、キャリバーンくんエリーゼのお子さんの事知ってるの?」

「旦那さんも知ってるよ。背がデカくて逞しいんだ」

「ほうほう、エリーゼさんはマッチョ好きか」

「で、凄く硬いんだ」

「真面目が1番よねー、ミハイルなんてさー……」

 

 

かなり噛み合って居ないが、まぁよし。僕の旦那さんダリルバルデって言うんだけど……軍人って事にしておこう。9割ぐらいは間違いじゃないし。

「さぁって、雑談終わり。授業やるよ。算数今どの辺やってんの?」

「へ? 今もうベクトル攻略中だけど?」

「……へ? だって君らまだ12歳……」

「ジュニアハイの単元はもう去年済ませたよ」

「案外、勉強って簡単だったのね」

「魔女術の基礎理論教えるのに高校数学ぐらいは抑えとかないといけないからね、校長指示でガッツリ教えた」

……アス高より、レベル高くない?

 

とは言え僕もアス高では成績最優の文武両道完璧超人、流石に子供には負けて居られない。ただ……

 

「で、みんな数Bは何選んだの?」

「選ぶって、何を?」(念の為書いておくが、今の数Bってのは4項目から2つ選択して学ぶ)

「エリーゼ先生、結局魔女術やるのに全部必要だから私たち全部履修してるよ!」

「まさか、科学とかは……」

「化学、生物、物理に地学。全部やってるけど?」

「待って、ここ高校扱いだよね? 新入生って中学卒業した子たちだよね?!」

「一期生として紹介されたエリーゼが数学科のドクタークラス行けるぐらいだったから、みどももみんなを18歳までにそのレベルにするべく頑張りました」

(具体的には何したのよキャリバーンくん!)

(ガンドだよ。ガンドで逆に彼らの思考をトレースしたらいい。みどもも最初わからなかったんだけど、人間は自分は何が分からないか分からないって部分で躓く。でもみどもたちはみんなが何を理解していないか調べる事が出来る……簡単なデバッグみたいなものだよ)

「エリーゼ先生ちょっといいー? ここわかんないんだけどー」

(式の分解の仕方と計算ミスだね。後者だけ指摘して)

「ここ、aさんが行方不明になってるよ」

「あ、ミスってたのか! ならこうなって……」

(ね、分からない部分を見つけて自力で解に辿り着ける所まで導く、自力で解くと楽しくなる……)

(これは有能)

(悩む時間を極小にしたら授業はどんどん進むよ)

 

 

「正直、年齢なりの賢さだと思ってた、すまん」

「キャリバーンは特別だけど、俺らはそんなに……」

「キャサリンなんて酷いもんだよ、『ちょっと分からない』連発するし……」

僕は素直に感心した。しかし妙に自己肯定感が……

「分からない事、分からない部分が判るって……秀才の部類だよ……」

みんな、他の子供知らないから自分たちがすごいって理解してないのか! 自分がフィジカル強めだと気付いていないスレッタねえさんと同じ事になってる?!

「……水星の呪いだなぁ……」

「どゆこと、エリーゼ先生?」

「比較対象が無さすぎて、常識はずれになりやすい。はっきり言うと今でも君たちアスティカシア高等専門学園入試クリア出来るし、15になる頃には奨学金付きでスカウトされるよ……」

「ミハイルが成績トップクラスの学校って行く価値あるかな?」

「頭悪いからって他人(ひと)を見下したりしたらダメだよ?」

「俺たち全員キャリバーンには手も足も出ないんだから、威張るわけないじゃん」

 

【威張る訳ない】

これはマジでそう。中学時代塾で特進クラスにぶっ込まれたんだけど、なんぼ偏差値70以上あっても周りが同レベルで偏差値70台だと天狗にはなれない。更にここに全国模試ランカークラスがいると「俺たちはバカや」とマジに凹む。解法の見当すら付かない数学の証明問題スラスラ解かれると妬みや羨望より絶望が来る。

なおランカー氏は東大現役合格して「なんで東大受けなかったの? あんなん論文書けたら誰でも受かるじゃん」と高校生活3年で偏差値20以上落としたワイを愕然とさせた(実話)




前書きからの続き

よって、新作グレンダイザーに関してはデュークフリードが細身になった事に腹立ててます。「マリアはギリギリオッケー」


まぁ、それはそうとして「特定の学生の誤答をAIにディープラーニングさせて『分かっていない部分の特定』する」ってのは結構面白いアイデアかなと。読者の皆様の中にAI関係の研究開発してる方はいらっしゃいませんかーっ!
テクノロジーの問題よりテクノロジーの活用考えようぜ?


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一方その頃……

テロ事件後、一応派遣されて採掘場とかのチェックしてました。


「……これか……」

 

水星の採掘基地はチャオモンフの様な永久影(地軸の傾きにより絶対太陽に晒されないエリア。水星南極近く)か、赤道上のいくつかのエリアに限定されている。チャオモンフは水星で最初に建築された基地だ。ただ、南極近くという事もあり資源の「出荷」には向かない為、水星地表の「長い夜」の内に赤道上に地下基地を構築して、こちらから荷物類は出荷されている。

 

水星共和国樹立事件時に起きたテロリスト機の墜落事故。それがたまたま「明け方」のエリアだった為に、調査は水星の日没(地球時間で3ヶ月後)を待たねばならなかった。墜落状況を見る限りマグネティックストームで開いた磁気圏の穴から太陽風の直撃を受け、機体が制御不能になったと推察されるが……

 

「──墜落後に爆発?」

「墜落で装甲破断して、その後太陽にこんがり焼かれたから動力系が爆発したかな?」

 

そのモビルスーツは奇妙な壊れ方をしていた。通常MSは損害評価プログラムが大破……もうダメぽ判定になると動力炉を停止して生命維持機構をバッテリー作動させる。運悪く中破より軽い状態で動力部に攻撃が当たらなければ爆発しない様になっているのだ。交戦ではないただの事故で大爆発する様では危なくて使えない。

今回の場合、敵の攻撃を受けた訳でもないのに、しかも激突跡を見る限りギリギリソフトランディングした後に爆発というのは些か妙だ。

「破壊の専門家としてどう? ソフィー姉さん?」

「墜落後に爆発は間違いないね。何かのタイミングで推進剤タンクが膨張爆発、それが生きてた動力炉巻き込んでドカンかな?」

「──でも、推進剤タンクは……これかな? 原型保ってない?」

「写真撮影して可能なら残骸集めて損保屋さんに査定して貰えばいーじゃん。早く民宿戻って鯖煮食べようよプル」

「ティックバラン用意してサルベージ。まぁ週明けだね。あと2機はどの辺落ちたんだっけ?」

「近くのリンクルリッジ(高さ2kmにも及ぶ崖状の線構造)にぶつかってるんじゃないかなぁ?」

「北に10kmか。行くよノレア」

 

 

「お?」

「──あら?」

 

リンクルリッジ近くに擱座したMSがあった。どうやら背部スラスタは全損したものの、爆散はしなかった……

 

「可哀想になぁ」

「──アーメン」

不時着したのが地球や月だったら良かった。日中の水星は熱と磁場と電磁波渦巻く地獄だ。一気に死ななければ苦痛の果てに死ぬ事になる。

「どこで野垂れ死んだかねぇ」

「足跡あるね」

「──それぐらいは回収してあげよっか」

てくてく歩いて行くと、そこにはリンクルエッジの一部に盛大に突っ込んだMSが。こちらは爆散している。

「仲間助けに向かったが、って感じか」

「死んで屍拾ってもらえるとはテロリスト冥利に尽きるわ」

「あれ? お姉ちゃん! あそこ!」

「? 扉? エアロック臭いな」

「こんなとこに地下採掘基地あった?」

「んー記録には無いけど……水星は記録管理ガバいし……」

「ビームサーベルで穴開けちまうか」

「賛成」

「まあいっか」プルもそろそろ鯖煮定食が気になってきた。

 

ジュブジュブとビームサーベルが食い込んで行く。

 

「なんだこれ? 随分厚いな?」

「何重にもシールディングして、更に断熱……こんなに頑丈にしてんだ! 安全第一のシン・セーらしいな」

水星の夜は寒い。暫くすると溶断面も冷めて通り抜け出来る様になる。

「ライト!」「あい」

縦横3mの通路がかなり長く続く。シーリングライトはあるが朽ち果てていた。

「──電源は、そりゃ死んでるか」

「なんかやたら広く無い? 突発的な磁気嵐とかの時の待避壕かな?」

「それなら記録なりなんなり残ってるでしょ」

「ルブリスのセンサーでサクッと調べよ。ダンジョン探索とかしてたら鯖煮が冷えちゃう」

「──そうね、エアとかも用意しなきゃだし……」

 

 

「なんだこれ? やたらデカいよ!」

「分かる範囲で2kmぐらい? 地下もある。アリの巣みたい」

「こんな構造物に記録が無いのは怪しいねぇ」

 

「仕方ないわね」

「──これは不可抗力」

「墜落調査と別モンだしね」

 

「「「帰ってご飯にしよう」」」

 

 

 

 

「──という訳です、ジョージ主席」もぐもぐ

「壊さなかったのは高く評価するが、米咀嚼しながら業務報告は……」

「時差の関係でこっちまだ夕方なんです。主席退勤前に報告しとこうと思って」ずずず「急ぎました」ごくん

「ティックバランはホワイトドワーフに作業用のがあるはずだから借りることは出来るが……地表に下ろせるかな?」

「ラヴリーエンジェルで降ろしたらいーじゃん」

「……水星にはラブリーエンジェルを衛星軌道まで上げられるカタパルト無いぞ」

「改修したらいいじゃない。ホワイトドワーフ来てるんだし」

「──仕方ないですよね、経費経費」

「MS懸架して飛べる様にもして欲しいかな」

「有重力下でのランディングギアもね」

「はーぁあっ。採掘始める前に面倒ごとが頻発するなぁ」

「安心してくださいよ、流石の私達も採掘場から遠く離れた廃墟で大破壊はしませんって」

「イマイチ安心できん……」

「お風呂沸きましたよお嬢さん」

 

 

カーギル主席調査官の勘は鋭い。




船の改修すると暇な時間が月単位で発生するっていうね……
まぁ、ペビの中での調査もあるんだけど。


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書類(データ)を探せ

ソフィとノレアは過去データ検索ならプルさえいたら楽勝と考えていた。


【旧シン・セー開発公社本部ビル、地下資料室】

 

「ここよ」

ちょっとした図書館ぐらいのサイズの部屋に、林の様に立ち並ぶ棚、棚、棚。シン・セー開発公社のデータの山! 何故かそれがディスクに焼かれて棚に納められている。

「……え?」

「──サーバ保存じゃないんですか?」

「発電施設のフル稼働を止める前にね、データを全部バックアップしたのよ……先代の発案でね」

「なんでそんな……」

「ああ、こりゃデータ飛ぶなって予感したのね。電磁波シールドの出力落としたらそうもなるわ。5万枚ぐらいあるって聞いてる。お役所ってデータ集めるの好きだから……」

 

シン・セー開発公社は元々金星フロント──当時は内惑星系フロントという名前だったが──が設立した水星圏開拓を目的とした公的組織である。まだ企業が国に保護されていた時代の話だ。その為水星の古いデータはかつて役所代わりをしていたシン・セーにも残されていた。

 

「これ、バックアップがここにあるの不味くない?」

「渡そうとはしたのよ。でも保存場所無いって断られて、逆にお金払うから保管してって……」プロスペラも頭を抱えている。

「プルちゃん、これカーギルで引き取れないかしら?」

「え? ちょっと即決は……」

 

例の待避壕?の資料がないか役所に行ったら、水星開発関係の古い資料はシン・セーにあるはずとたらい回しにされ、シン・セーに来たら大昔の資料含めて全部死蔵されていたと。この山から目的のもの探すのか……

 

「そもそも、このディスク一体何? パーメットディスクですらないじゃん? 読み出せるの?」

「ライターあるからそれで読み出せるわよ。USB5.0規格だけど」

「何それ?」

「有線通信規格よ。そっちにそれ繋げる端末あるわ、確か」

「そっからネット繋げばいっか」

「無理よ。その端末パーメットネットワーク繋がらないから。その端末からこっちのホストに繋いで、このコンバータ挟んでパーメットネットに繋ぐの」

 

現代版に翻訳すると、記録媒体がZIPディスクで接続がパラレルケーブル(昔のプリンタケーブル)で、パラレルポート持ってるPCには10Base-Tのネットワークカードが刺さっててRJ45コネクタなし(同軸ケーブルによるバス型トポロジー)、同じ10Base-Tで繋がるホストにはRJ45コネクタ付いてるのでそこからハブに繋いで、そのハブの光ポートからようやく主流のネットワークに接続できる……そんな感じだ。

 

「パーメットが流行る前からのデータなのよねぇ」

 

先の「現代版翻訳」大体日本だと30年前の話だ。50年前だと下手すればコンピュータにデータ読ませるのにパンチカードを使っていた。アドステラ世界では驚異的に互換性が維持されていると言って良い。

 

 

 

 

「パーメットが利用され始めるより前のデータだと……?」

「はい」

「こんなの」

「ゆ……UV(紫外線) Disk…… 60年以上前のデバイスだぞそれ」

「これ5万枚読み込ませるの私たちだけじゃ無理。現地バイト使っていいですか?」

「なんかラベルとか無いのか?」

「剥がれてますね。床に大量に落ちてました」

 

【ラベル剥がれ】

案外シール系は乾燥して剥がれるぞ(経験談)

 

「……ホワイトドワーフの技術者にも尋ねてみてくれ」

 

 

【ホワイトドワーフ号内、ラブリーエンジェル改装デッキ】

 

「……なんだって?」

「万単位の古いディスクがあるんですけど、それ効率的に読み出すにはどうしたらいいですか?」

「できたら安く」

「──可能なら早く」

(わん)さん辺りなら何か知ってるかな? まて、地図書いてやる」

 

 

ホワイトドワーフ号居住区、クワンタ外区3丁目。

2層に分けられた生活ブロックのうち、内側は倉庫、外側は生活圏に当てられている。現代で言うアーケード商店街の様な天井の低い道路2本の両側に画一的な「家」が立ち並ぶ近代的な構造とは裏腹に、(まばら)にある商店の店先にはガラクタが山と積まれていた。

 

「なんだこれ」

「ここ、ゴミ売ってんの?」

「ここはジャンク街だからな」

「──すいません、王大人を探しているんですが」

「王さんならそこの角曲がってコンビニの前のケバブ屋の2階だ。データサルベージでも頼むのかい?」

「ねえねえ、なんでこんなガラクタ売ってるの?」プルがつまみ上げた基板には、破裂して液漏れしたコンデンサと焦げたMOSFETが乗っている。これショートしてない?

「パーツ取り用さ。もう生産してない細かい部品はぶっ壊れた基板から剥ぎ取ってニコイチ再生するのさ。案外いい商売になる」

「新しくしちゃえばいいのに……」

「300年ぐらい前からそうらしいぞ。その時金を渋って機器の更新しないと、故障起きてから交換しようと思った時に大枚叩く羽目になる。まぁワザとぼったくってるんだがね。ケツ叩かないとみんな新しいもの買わないからな」

 

「すいませーん、王さんいらっしゃいますかー?」

謝光臨(シェイコゥンリ)、どしました。おばあちゃんのアルバムでも壊れたか?」

「古い円盤の読み込みしたいんですけど……」

「円盤? レコードからMO、DVDと色々あるけどどれね?」プルもソフィもノレアも全て聞いたことの無い規格だ。

「これなんですけど……」

「UVね、10分ぐらいでコンバートするよ。PMD(パーメットディスク)でイイカ?」

「いや、これと同じのが5万枚」

 

哎呀(アイヤー)……5万……5万…… 哎呀……」

 

王さんは放心していた。1枚10分の作業を5万回。500,000分は大体10ヶ月に相当する。

「ちょとまつね…… 喂你好,李先生,我有一个很好的……」

「──あの、何がどうなってます?」

「5万枚人力でやるのは阿保ネ。機構(システム)組んで自動化するヨ」

 

「5万枚……阿保ある」

「リーダーが4台しか無い。どする?」

「あ、ウチにも1台あります」プル、挙手して発言。

「ロボアームでディスク入れ替えは出来るから、後は固定して流し込めたらいい。確か大漁エレクトロに昔の銀行系バックアップマシンの……」

「端末は……」

「ホストは……」

「──とりあえず現場見てもらいます?」

 

「わぁ……」「あいやー……」

「動態保存されてるの初めて見たネ……」

「そんなに古いの?」

「……王先生、USBって何時頃まで使われてタか?」

「小さい頃使った記憶はあるよ。小学生の頃だから……50年以上昔ヨ」

「プロスペラ先生、この機械まだ要るか?」

「……データコンバートしてPMDとかでバックアップし直したら不要だけど……」

「代金がわりにこれ寄越すある」「これ、普通なら博物館にあるものアル」

 

まぁ、こんなことしてるからホワイトドワーフがジャンクまみれになるのであるが。

 

 

ともあれ、翌日から古いガンド義肢より遥かに古臭い産業機器のロボットアームや端末や電源安定化装置や昇圧機や……が持ち込まれ、地下資料室の一角は町工場の様になった。システム構築は3日、5万枚のディスクを読み込んでPMDにすると、それはたった3枚になってしまった。




【たった3枚】
現実世界の3.5インチフロッピーが1.44MB、Blu-rayが2層で50GB。Blu-ray Discはフロッピーディスク3万4000枚分の容量を持つ。こう考えるとペビ・コロンボは開発当時は最新機器を入れてたんだなぁと言うことが分かる。

ホワイトドワーフ電脳組は船内屋探ししてリーダーのジャンクを18台発掘し、6台を動作可能状態にレストアした模様。こういうものは探せば案外見つかるものだ。


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太古の(データ)

たった3枚の僅かなデータ。
しかしそれは……


世の中にはインターネットで検索すれば凡ゆる物が見つかると考えてる人がいます。確かに今は大体のデータが電子記録化されており、機密文書でもなければ大抵のデータはネットに転がっているのだけど……

例えば日本では、インターネットが流行り出すのが1990年代中盤。何故かと言うとWindows95までコンピュータをネットに繋ぐにはOS/2などのホストを用意してコンピュータ用OSだけではなく、ネットワークOSを組み込まなければならなかったからだ。そしてインターネットに日本語の知識が大量に保管され始めたのがその頃だから、1990年代にコンピュータに慣れ親しんだ人が「興味を持った事柄」以降の事象についてはネットを検索すると色々なデータが見つかる。集合知は素晴らしい。

しかし……それ以前の、その当時のネット民が興味を持たなかった微妙に古い時代のデータというものは案外データが残っていない。

一例を挙げよう。筆者の父方の祖父は札幌競輪関係者だった。そこで筆者は父が10歳の時に死んだという祖父がどんな人間だったか興味を持ち、札幌競輪について調べたりした事があるが……当然そんなデータはネット上には無いのだ!(昭和24年〜33年までしか運営されていない。祖父死亡が昭和30〜31年ごろ)

また、団塊世代が青年の頃にバスコン映画というバースコントロール(出産抑制)を目的としたエロ映画があったらしいが、古い時代のエロコンテンツは低俗として公的記録に残り辛い。これもその存在を知る世代がネットにアクセスしてデータを残していないので、図書館はしごして本当に僅かに残る資料を読み解かねば「存在に気付く事すら出来ない」

 

まぁ、存在に気付けないからこそ「ネットに全てがある」などと思えるのだろうが、それは明らかな誤謬だ──ソフィとノレアが見つけ出したものは、水星圏の歴史地層に埋もれていた、化石化したデータの海だった。

 

 

 

「結構あるねぇ……謎遺跡」

「なんでこれ埋もれてたんだろう?」

 

新規の穴が掘られなかったからである。

【パーメット鉱床探索】はかなり昔から行われていた。最初の記録はアドステラ前の西暦(B.S.)の時代。でも、何故パーメットの性質が明らかにされたA.S.48年【以前】にわざわざ水星まで来て「パーメット鉱床」を探したのだろう?

A.S.48年からは鉱床探索が活発になるが、モノがあっても「昼間」は作業が出来ない事と、決して昼が訪れないチャオモンフ周辺だけでもそこそこ潤沢に採掘出来た事などから鉱床探索は下火になっていった様だ。

試掘跡は後に鉄やニッケルなどの採掘場に変わり、「昼間」の高温を利用した金属精錬が始まると──水星の長い「夜」の時間に資材射出用電磁カタパルトの建造が始まる。そしてその電磁カタパルト建造中に有力なパーメット鉱床が見つかるとそこに新たなパーメット採掘場が生まれる。何故か、都合よく。

「そんだけ水星のあちこちにパーメット埋まってるんじゃね?」

「──だったらもっとチャオモンフ近くに採掘場できるんじゃない?」

「実際チャオモンフ近くしか今掘ってないけど、最盛期は水星赤道採掘場の方が採掘量多いね。まぁ輸送楽だから当たり前か」

 

「で、謎遺跡だけど……A.S.20年ごろに送られた無人探査機が有人探索の前準備で作ったけど、廃棄されたって記録あった。なさ?って組織が水星探索計画してたみたい」

「20年ごろって、月開発時代か」

「シャクルトン市が建築中じゃないかなぁ」

「シャクルトンが23年着工だね。第一層完成が28年」

「──宇宙開発費用が随分少なかった時代だから、リソース集中したのかしら?」

 

A.S.元年はモルディブ近くのメガフロートに軌道エレベーターが完成した年だ。キリスト教カルトはバベルの塔だ、神の(おそ)れを知らぬと猛抗議したらしいが、「神はそんな低軌道におられません」の名セリフで批判は消えた。デブリだらけの宙域に神様がいてたまるか。

軌道エレベーター完成により飛躍的に宇宙開発が容易になり、人類が太陽系の各所に探査機を飛ばした時代だ。B.S.時代の宇宙開発協定により宇宙開発は国家という枠組みを超えた宇宙開発公団が主導するのだが、ほぼ手付かずだった宇宙開発最初期は軌道エレベーター建設の数倍の予算を要し……地球圏では「宇宙開発みたいな夢物語ではなく、我々の生活に予算を割け」と大規模な抗議運動が起きたと史書にある。

批判に晒された宇宙開発公団は慌てて月面に居住可能月面基地を作り「Fly you to the Moon」のキャッチコピーで月面旅行キャンペーンを張り……これが【歴史としての宇宙開発史】だ。

 

「随分ガメつく儲けたらしいよー」

「スペーシアンが金に汚いのはその頃からか」

「宇宙生まれの生粋のスペーシアンが生まれたの、30年代入ってからだよ」

 

スペーシアンという言葉自体も実は宇宙開発公団の造語だ。最先端医療で無痛分娩、これでお子様もスペーシアン!と、国籍を「宇宙」にするキャンペーンで高所得者層を釣り、超国家組織だからと宇宙国籍ならどこに行ってもビザ不要と言い出した。これで宇宙籍の人間が爆増したのである。しかも、比率としては高所得者層が多い。

そして充分な量の国民を集めた後に……宇宙開発公団は「宇宙議会」として独立した(A.S.40年)

 

その後、第一次ドローン戦争が起きる。噂では宇宙議会が裏で手を引いたなどの陰謀論が囁かれているが、宇宙議会は軌道エレベーター防衛しかせずに戦争参加していない。この暴力的な「消費」により地球上の国家は疲弊。国家サービスの一部を私企業(但し、上場企業に限られる)に委託する「企業行政法」が成立。

 

 

人類の歴史はこの時期地球地表で動いて行き、宇宙は蚊帳の外であった。戦争を避ける為に宇宙国籍を持つ者は本格的に生活圏を宇宙に移す。こうして人類の富の5割が宇宙に移動したのがA.S.52年3月5日。地球の史家はこの日を「転換日(the day of conversion)」と呼ぶ──この激動期に宇宙で何が行われていたか。たった3枚のデータはその一部を記録している。




宇宙開発やる奴は3種類。
宇宙にロマンを感じる浪漫派。頭が良過ぎて人類を案じ過ぎる心配派。好奇心が高過ぎるお子様派で、そのいずれもが他の2つの性質を少なからず持っている。これほど厄介な連中が悪事を考え始めると厄介である。


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パーメット

伝奇が好き好き伝奇衆にとって、重要な物質だが設定ガバというのはご馳走であり、つまり獲物で美味しいワン(犬派)


アドステラ120年代にはあらゆる分野に用いられているパーメット。実はこの魔法の様な物質が発見されたのは「公式には」A.S.31年という事になっている。

これはパーメットが新元素でありながら重元素として粒子加速器の中で生まれた訳ではなく、天然資源として産出されたからだ。つまり新元素であると発見されるより前に【それ自体は見つかっていて】、【その性質は研究されていた】 

最初にパーメットを含む試料を手にしたのはもちろん宇宙開発公団である。人類が鉄(Fe)という元素を発見定義するより早く鉄器を利用していたのと同じ様なものと考えれば良い。

 

つまり、その「情報を共有する」という性質はパーメットが発見されるより先に活用されており、その事実は秘匿された。この広大な宇宙を開発して行くに当たり必須のものだったからだ。それこそ「狭い」地球上であれば光速通信で充分だ。多少の遅延を我慢すれば月を含む「地球圏」でも光速度通信で構わない。地球圏に生きるのであれば謎の超光速通信は不要。それがパーメットの活用が広がるにつれて、隠すより公にした方が人類の役に立つ……この政治判断が為されたのがA.S.31年なのである。

 

これがパーメットの発見より先に水星でパーメット鉱床発掘が進められた理由の一つになる。

 

もう一つの理由が秘匿性だ。宇宙に上がる手段は宇宙開発公団が完全に掌握しているので、宇宙側でパーメット研究をした方が隠しやすいとはいえ……月面基地や建築好況で地球からの出稼ぎが多いラグランジュ1では安全とは言い難い。そこで白羽の矢が立ったのが外惑星系より接近難易度が遥かに高く、パーメットが発見されている2つ目の天体、水星だ。ここへは宇宙開発公団が保有する技術がなければ絶対に到達出来ないのだ。

古くから錬金術に纏わる伝説を持つ星……プロジェクト・アルケミストはこの様にして始まった。

 

水星の有人探査計画自体は宇宙開発公団がNASAから引き継いだプロジェクトだ。B.S.の時代には彼らの研究開発費は削減し続け、やがて元NASA組は宇宙開発公団の中核を成すほどの規模に成長していた。

彼らは疲弊していた。

東西冷戦時には東に負けるな!という大国アメリカの意地とメンツだけで景気の良いプロジェクトをバンバン実施出来たが、ロシアが落ちぶれると中華人民共和国が宇宙開発するまで完全に塩対応された。二言目には「それが何の役に立つ?」と実利追求姿勢を取られた為、彼らの心は徐々にやさぐれた。その記憶がパーメット通信機を秘匿させたのだ。

宇宙開発は人類の役に立つ……所謂浪漫派だ。彼らは推論ではなく信念や信仰としてこれを掲げていた。この信仰を事実にする為に彼らは献身を惜しまなかった。人は信仰のためなら死ねるのだ。

パーメットは通信機としてだけでも充分素晴らしい発明なのだが、宇宙開発以外の分野の科学者は地球にも山ほどいる。彼らにパーメットを与えたら何か有益な、通信機より有益な発明をするかもしれない。宇宙開発公団はこれを恐れた。パーメット権益を我が物にする為にはパーメットをある程度調べ尽くさねばならない。

先ずは開発費だ。予算が無ければ研究も出来ない。彼らは資金調達の為に頭を絞った。次に着手したのは人を集める事。その時点の「世界」では人口の多さがそのまま力となった。割とギリギリというか、かなり悪どい事もした──そう、半導体やコンピュータ関連の研究者を拉致し、決して帰ることが出来ない水星地下基地で死ぬまでパーメット関連技術開発をさせる錬金術計画【も】被害の一角だ。彼らの最後の1人の死滅を確認した後、表向きの「水星圏開発プロジェクト」が開始された。

 

残酷な話に見えることだろう。

しかし現実に地球生まれの生物として初めて地球周回軌道に送られた雌犬ライカは最初から殺されることを予定して打ち上げられた。公的記録として何匹もの【犬の英雄的冒険】が歴史に残っているが、これが即ち【人的損害が皆無だった】という証拠にはならない。(東京スカイツリーも建築中に死者が出ていない【ことになっている】)

宇宙開発は最初から生命を浪費することを前提に始まっている──血塗られた道なのだ、今更綺麗事で……と宇宙開発公団の元ロシア側技術陣は吐き捨てたという。但しその目からは涙が流れていたのだが。

 

錬金術計画で水星への片道切符を貰った研究者の大半は、自ら志願した研究者であった。ロシア人ももちろんこの集団自殺に参加している。文字通り科学に一生を捧げる為に。

 

或いは、水星圏開発プロジェクトが死滅確認後すぐに始まったのは、彼らの贖罪の心の表れかもしれない。

 

 

多くの人々の努力と献身、自己犠牲により洗練されたパーメット関連技術はA.S.30年代を機に急速に発展した。最初期のパーメット利用機器であるパーメット通信機が登場してから僅か20年。「最初期の20年」が如何に激動の道を辿るか、現実世界の例をひいて説明しよう。

 

パーソナルコンピュータのはしりであるPC-9801UX(登場した頃はパーソナルコンピュータではなくオフィスコンピュータ(オフコン)などと呼ばれていた)などに用いられたIntel 80286の登場が1982年。CPUクロックは5〜25MHzだ。20年後の2002年にIntelが販売していたのがPentium4。CPUクロックは1.3GHz〜3.8GHzだ。単純比較は出来ないが最高クロックは150倍にも達している。処理性能は150倍を遥かに上回る(周辺環境も軒並み高速化したからだ)

そしてこの頃CPU内部クロックは物理的限界にほぼ達してしまったので、そこからの20年間ではさほど高速化はしていない。

 

パーメット利用機器は世間に出た時から今と変わらぬ高性能を発揮している。技術の発展の類型を知るものであれば、その背後に何があったかは容易に想像できる。




それっぽく書いてるけど独自設定ですよ?(コンピュータの歴史、特に286以降に関しては筆者ちょっと詳しい)


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ドローン戦争

呑気な話から剣呑な話に。

【──】
他の作家の皆さんの話見てて、──がアンダーバー【__】だったり、長音記号【ーー】だったりするの見かけるんだけど、──はiPhoneとかだと「けいせん」から変換するですよ? まぁ、FEPにコピペで変換登録したら楽かも。


ナス高校庭を巨大なタイヤを備えた4輪駆動のジープの様な車が疾走する! バウンバウンと車体を揺らし、5台が争うかの様に砂塵を巻き上げ……

 

ラジコンというか車型ドローンなのだが。タミヤ製ワイルドウィリーVR4。初代ワイルドウィリスのデザインはそのままに、ドライバーのヘルメットがVRバイザーと連動して動く凝ったドローンだ。

 

【ジープの様な】

ジープは実は車種ではなく車体名称というかブランドなので。

 

「そういやさー」ゔぃぃぃん

「なんだいミハさん」ずさぁ!

「なんでドローンにパーメット使ったらダメなん?」バウンバウン

「キャリどのー」ヴォンヴォン

「第二次ドローン戦争から禁止ー」きゅっきゅっきゅっ!

「ここでハンドルを右にっ!」

 

第一次ドローン大戦は「歴史上最も戦闘員の安全に配慮した戦争」と揶揄される大戦であった。兵士の遺族年金が高騰し続けた結果として、戦車もドローン、空母もドローン、戦闘機も爆撃機も迫撃砲もドローン。ミサイルだってドローンである。それどころか後方整備基地もドローンで運用されて、兵士は毎日勤務を終えると自宅に戻って家族団欒を楽しみ、遠く離れた自分が参加した作戦のニュース報道をテレビで観るという何とも【兵士にとっては】長閑な戦争だったのだ。

 

 

【長閑な戦争】

実はこれ、100%嘘話ではなく実際米軍が研究中(しろめ)

 

 

無論、戦場にされた方はたまったものではない。戦場になり実弾が飛び交い爆弾は弾けるのだ。実際問題人は死ぬ。また、ドローン(を操縦している)兵は絶対に死ぬ事は無いので果敢だ。もちろん戦場での行動は監視されており非戦闘民殺戮などは処罰対象だが、自分はケガ一つ負うことは無いので子供を使った自爆テロに怯えてうっかり無辜の子供を撃つことは無い。そしていくら倒しても倒しても倒しても異常な工業生産力でドローンは工場から出荷されてくる。故ソヴィエトの畑で採れる兵隊より酷い。本当にキリがない。チート国家アメリカの無慈悲な資本主義パワーで敵国は地図から消えた。【そして戦後統治もドローンだった】もうやめてくれ!(涙)

この様な超大国の控える気のないドローン戦術に世界は震え上がった。これを仕掛けられたらどうしようもないし、何か対抗策が必要だ。

更に不味いことにアメリカはA.S.40年の宇宙議会を即時国家承認してパーメット関係の技術交換契約樹立。泥棒に追い銭というか、火に油というか……パーメットで遅延無し通信とか、どうしてそんなご無体な事を(号泣)

 

もう、国家の独立や国民の意思は存在しない。アメリカが黒と言えば何でも黒になる。何故なら黒と難癖つけられたらパワーゲームで黒になってしまう(余り現実世界と変わんねぇんじゃないかな感)

故に、その他の国は密約を結んだ。対米包囲網。

 

 

第二次ドローン戦争の戦場になったのは、島国日本だ。

両陣営共にドローンを用い、互いに(兵士は)死者の出ない安全な戦争。戦場となった日本だけが死者を積む。遅延なきドローンを用いたアメリカと、今やアメリカをも凌ぐ工業力で兵力を注ぎ込む中国。スォーム攻撃は中国が開発したドローンのマスゲームだ。そしてある時点からアメリカの無敵ドローンに致命的な問題が見つかる。

 

「ほぅ、そりゃ興味深い。昔はパーメットコントロールのドローンあったんだ?」ハンドル切りながら思わず身体を傾けてしまうミハイル。

「むしろ欠点なんて無さそうだけどね」遅れてトルケルもハンドル切ってドローンの中にいたら感じるであろう横Gに耐える様に身体を傾けた。

「そのドローン操縦の時に思わず身体が動いちゃうのが、ね」

 

レースゲームなどをしていて熱中すると、思わず身体が動いてしまうなんて経験をした事は無いだろうか? 人間は三半規管だけではなく視覚情報などからも身体に掛かる力を予想して身体を動かしてしまう。テレビやモニタの画像と分かっていても咄嗟にボールが飛んでくる画像を見れば身構え、落下していく画像を見たら浮遊感を感じる。階段を踏み外す夢を見て、寝ているのに膝が反応した経験した事は無いか?

パーメット通信によりラグのない通信ができる様になった結果、没入感が増し、更に一体感が増した。その結果「受けているわけでも無いダメージ」を感じる兵が出始めたのだ。パーメットの「情報共有」が悪い方に働いているのかもしれない。

 

「あー、ありそう」

「マリカーとかでも思わず「痛っ!」とか言っちゃうアレか……」

「中国側では出なかったらしい。量産のためセンサー類は安いの使ったからだと思う」

 

出ていても出ているとは発表しないでしょ(悟)

 

軍医は悩んだ。アメリカ市民はこんな楽で人命を尊重した戦争で兵士が腰抜けになったと罵った。兵士は抗論した、我々は魂を傷つけて戦っているのだと。政治家は困った。

 

 

【Quake酔い】

実は解像度低くても問題は起きる。高低差の概念入れたFPS Quakeではモリモリ上下動する画面や敵と突然遭遇する緊張感から「三半規管からの平衡感覚と視覚からの平衡感覚が齟齬起こして」車酔いと似た不快感を感じる(慣れない内は30分ぐらいでゲーム続行不能になった。

 

 

思想対決の側面もあった第二次ドローン戦争は泥沼化した。利ではなく理で対立すると互いに引き下がれなくなるのだ。

 

戦火はアジア圏のあちこちに飛び火した。

アメリカが日本にかかりきりで他の地域に軍事介入出来ない今なら、武力的手段で問題解決できる……そして中国がパーメット通信機の解析に成功して対パーメット通信ジャマーを完成させたのだ。また更にアメリカ側も対パーメットジャマーやドローン(を操縦する)兵の負担軽減を目指して自意識をドローンに転写するレプリヒューマン兵計画を実施(これは対中国戦における人的資源差を埋める意味合いもあった)

 

 

──認めたく無い事実であるが、戦争は技術発展を促進する側面は少なからずある──

 

 

戦火に焼き尽くされた日本人は宇宙に疎開した。人口の半分が脱出したと記録にある。地上側が戦争に明け暮れる中、宇宙は安全であった。

流出した人口を受け止めるべくフロント建築は急ピッチで進み、工業プラントは24時間操業……戦争特需という奴だ。過酷な宇宙でのメガストラクチャー工事の為にモビルクラフトより大型なモビルスーツが量産され、ここに巨大ロボというアイテムに殊更(ことさら)高い親和性を持つ日本人が加わって何も起きない訳が無く……

 

 

元日本人義勇兵(ボランティア)、第13独立部隊が立ち上がってしまったという訳だ。




日本人だと憲法9条により自衛権行使しか出来ないので、中国本土攻撃出来ない。アメリカは超驚いて9条改正を勧めるも左派の妨害で頓挫。結局「日本人がやらないのに何故アメリカだけで大陸攻略するのか?」という話になって日本が戦場になったという訳。勿論中国はそれを織り込み済みだし、論調コントロールでそうなる様誘導した。
日本人左派は最初に宇宙に脱出して安全な所から9条9条言っている。また、右派も「所属が宇宙になったから9条縛り無し」という事で宇宙国家側から日本再侵略と中国攻撃を主張したりした。


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ランドヴェーッティル

宇宙空間にも慣性質量はありまぁす!


無重力空間でも物体には質量があり、慣性は働いている。故に1トンの物を動かす為にはそれなりに力が必要であるし、動かした物を止める為には動かした時と同じ力が必要になる。作用反作用の法則だ。

 

例えば地球上で何か構造物を作る場合、輸送機関に組み立て作業者が運ぶことが出来る「単位」に組み立てる物を分解して運ぶ。鉄骨はクレーンで動かすし、トラックで運搬する。そしてトラックで運ぶ関係上道を通れるサイズに限定される。

宇宙ではこの運搬上の制限が極めて少なく、かなり巨大なモジュール化したパーツを組み立てることで効率的な作業が出来るのだが……作業員の身体も巨大化する必要があった。そしてそれはいわゆるパワードスーツサイズから段々と要請に応じて巨大化し、最終的には18mの巨人サイズになる。

 

エレイン「なんで人型になったの?」

キャリバーン「人型じゃないとその新しい形に慣れなきゃいけないからじゃない?」

 

フレームとその力は重量物を運ぶ為に十分堅牢で、稀にぶつかるデブリの直撃にも耐性があり、搭乗する作業員が長時間の作業を行える様に十分な空気を搭載している……スペース労働安全衛生法による「最大連続6時間稼働でき、4時間毎に1時間の休憩で4時間分の充電と空気ボンベの交換が可能」というレギュレーションに合わせて行った結果、18mサイズで釣り合いが取れたのだ。

 

この様にしてMSのサイズが定まると躯体工事(構造物の大まかな形を作る工事)は十倍以上の高速化を遂げた。フロントやプラントが信じられない速度で増えたのもこの為だ。

宇宙開発の基本サイズがMSによって基準化すると、軌道エレベーターの様な宇宙主導の建築もMSによる十倍基準に合わせられて行く。いつしか軌道エレベーターの周りには必ず「巨人」がいる様になり、それは世界樹の下に集う巨人族の様に見えた、らしい。

 

その巨人が、軍事転用された。

 

既にお気付きの方もおられるかと思うが、スペースデブリの直撃に耐える防弾装甲というものはとんでもなく堅牢なのだ。

 

 

【スペースデブリ】

衝突時、大体相対速度は秒速10kmほどだとか。一般的なライフルが秒速1kmほどなので運動エネルギー(速度の2乗に比例)はなんと100倍。当然ただ硬いだけでは防御不能である為、多層スペースドアーマーや複合装甲化して防御する。秒速10kmというのは光学兵器を除けば現実世界における如何なる加害手段よりも高速だ。(10km/s = マッハ29……宇宙には大気がないからアホの様な速度が出せてしまう)

 

 

更に申せば秒速10kmで飛来する極小の物体──それがスペースデブリだ──を回避または防御する為に、MSはパーメットを利用した極めて広域を探知し得る極めて高解像度のセンシング能力がある。これはMSの目の高さから見た水平線(40kmぐらい)まで遅延なく探知可能で、特に高速飛翔物に強い。戦車のレーダー半径が3kmで射程が3km程度なのは戦車が極めて車高が低く、戦車の敵が敵戦車だからだ。また、衛星を使ったデータリンクは宇宙開発公団や宇宙議会に掌握されており軍事利用不能。逆にMSという宇宙側機械は宇宙から地上を観察出来る……

ただし、完全無敵ではない。

雲の下を飛ぶ戦闘機からのミサイル攻撃(射程100km)には極めて脆弱で、運用には対空防御システムの随伴が必要ではある。ただ、単騎作戦行動能力というものは軍事ではさほど重要視されず、MSは装甲化された物見櫓としては極めて優秀で、更に申せば対ドローン攻撃機やドローン戦車の駆逐には向いている。いわば人工衛星の軍事利用が不可能な環境下での地上戦早期警戒管制機として機能可能であった。

 

このMSを加えた軍事システムはネオ・ペイガニズムが微妙に流行りつつあった西側諸国でランドヴェーッティルと呼ばれ、MSはその中の丘の巨人(ベルグリシ)の名を得る。いつしか地球の民は宇宙関係の技術を北欧神話系の名前にすることを常とする様になった。軌道エレベーターを世界樹(ユグドラシル)と呼んだり、セイズやらガンドやらヴァナディースだのフォールクヴァングだの。じゃあいつか世界はラグナロクで滅びるのか。(まぁ、地球の民からすると世界大戦化した第二次ドローン戦争が当にラグナロクという終末戦争に見えたのだけど)

 

 

【ランドヴェーッティル】

ヨーロッパでキリスト教が広まる以前に信じられていた「特定の土地を守る自然の精霊」の一群を指す言葉。日本における土地神に近いか? 人間が住む前から何らかの力により支配域の豊穣と繁栄を守ってきた存在で、シャーマニズムの一形態と見ることもできる。

 

 

これが面白くないのがキリスト教側である。何故か最新テクノロジーが彼らから見て異教異端である北欧神話やペイガニズムの単語で埋め尽くされていく。天に昇るならヤコブの梯子だし、人々を守る巨人はエンジェルではいかんのか? 更に軌道エレベーター開発時点で「そんな低軌道には神はいらっしゃいません」と断じられてバベルの塔であり傲慢だ!の主張が退けられたのも尾を引いている。更に言えば世界共通記年法がキリスト教由来の西暦からアドステラと「宇宙開発起点での記述」に変わったのも「キリスト教の影響力が低下した」と捉えられた。(まぁ、日本みたいに2種類の年号が並立しただけだ)

 

こうして、いつの間にか互いに力尽きて終わった第二次ドローン戦争の後、キリスト教はレコンキスタを掲げて世界宗教に返り咲くべく活動を再開した。特に倫理面での優越を取ろうと各地で暗躍。カーギルが諜報までやる様になり、MS開発協議会が発足したり、ドローンの軍事利用が禁止されたり。

MSが軍事組織の一部ではなく、それだけで完結可能な多機能化(マルチロール)を進め、軍事がMS主体になったのも上記の様な理由からだ。その過程でランドヴェーッティルという言葉やベルグリシという概念は消えて行く。そして本作作中時間における「今」、A.S.120年代もこの様な流れの中でレコンキスタが続けられている。




ヴァナディース事変に繋ぐならこういう流れにしないと不自然かなと。一回北欧神話やペイガニズムが流行らんと「どっからその語が出てきたのか」分からないもの。


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戦争シェアリングへ

そして人類がまた別の人類と共に歩む世界に向けて……

……ガンド天狗が大暴れする話がなんでまた……


第二次ドローン戦争により地球は大幅に文明退行した。

戦争で兵士が死なぬ様に配慮した結果は、皮肉にも他国を舞台にする双方の根絶戦争だったのだ。人々は次々と地球から宇宙へ移り住んで行った。従来であれば自国の防衛戦闘でもなければ「ひたすら戦争を続ける」前に「死傷者の多さから」嫌戦ムードが醸成され世論は停戦に傾く。この(たが)を無人ドローン戦争は取り去ってしまった……気が付けば地上は荒廃し、幾つかの国は機能しなくなり、いつの間にか宇宙からもたらされる各種商品に頼らねば生きてすらいけない有様になった。

更に言えばパーメットだ。地球上では産出しないこの物質により地球側は宇宙側に戦略物資を押さえられたも同然。当初棄民扱いだったスペーシアンは富裕層となり、ここにキリスト教が思想的レコンキスタを仕掛けたものだから、ネオペイガズムに傾きつつあったアーシアンは倫理的に劣った存在で、彼らは愚かにも自滅の道を歩んだ……異端だからだ!などとキリスト教復興派は主張した。

 

スペーシアンはびっくりした。彼らには無駄に広い宇宙があり、そもそも領土欲は無い。初期のスペーシアンはどちらかと言えば宗教より科学技術を信奉する科学主義体制であったし、地球自身が持つ「重力と言う海」で地上から隔離されていただけである。対岸の火事に過ぎない。

釈然としない物を感じながらスペーシアンはアーシアンに復興支援をした。勿論ただの持ち出しでは困るので、支援の結果スペーシアン企業が儲かる様にした(これは現代の後進国支援でも良くあるパターンである)

 

当初は誰もが良かれと思って始める。ただ、善良であるが思慮が足りぬ為に不幸な結果が生まれてしまうのだ。

 

スペーシアンは各国の自治自衛を助ける為にMSを供与した。そしてそのMSを侵略目的で使う者が出るから侵略された側にもMSを供与する。するとスペーシアンはアーシアンを出汁にして利益を上げていると糾弾された。ならばと一切供与しなければ見殺しにするのかと糾弾される。

 

結論として宇宙議会が選択したのは、地上の戦争行為に片っ端から口出しやら関与して戦争自体をコントロールしようと言うありきたりな形になった。人の持つ欲望が戦争の引き金になるならば戦争根絶は無理だ。ならば被害が最小になる様制御する他無い。徹底して戦争行為が損になる事を骨の髄にまで教え込まなければ、戦争は根絶できない。

まず、戦争で人が死なないと言う状況が発生しない様にしよう。戦死者が増えれば嫌戦ムードが高まり自然と戦争は終わる。

次に戦争すればするほど貧しくなる様にしよう。

──それは確かに一つの「平和に至る道」ではあるが、巨視的な平和と個人の幸せは必ずしも一致せず、ヒトは個人の視点から物事を評価する。

 

これが後に戦争シェアリングとなる平和推進プログラムの最初期の形だった。時にA.S.80年代。宇宙側はやたら広がってしまった宇宙の人類生存圏統治の為に、管理エリアを分割自治する方針に切り替えていった。

 

 

そもそもの問題として地球にも貧富の差はあり、平均して貧しい地球上にも少しは金があるもの、まるで余裕がないものもいる。段々と悪化する地球の経済状況に貧困層は恨みを募らせた。戦争指揮する自国指導者へではなく、繁栄を謳歌するスペーシアンへ向けた恨みを。

 

 

「確かになぁ。水星来るまで宇宙こんな不便なとこあるとは思わなかったよ」

「基本的には太古の昔の宗教家が言った産めよ増やせよ地に満ちよは正しいんだけど、地面の面積で上限決まっちゃうもんな。宇宙みたいに広ければ話し別だけど」

「だから宇宙開発初期に「みんなで共同して」やったのが間違いだった気がするね。各国が宇宙開発で鎬削ればそっちにリソース割いて戦争には向かなかったかも」

「投資先間違ったんだね」

「自分たちで伸びてく余地に蓋した感じか」

「でも、今更間違いでした、セーブポイントからやり直しまーすって訳にもいかないし、今の段階から何が正解でどっち行くか決めて物事進めていかなきゃ」

「キャリバーン君の作戦は?」

「水星だってマシには出来るんだから、同じやり方で地球もリブート出来るんじゃない? 惑星には惑星の良いところがあるし、今のところ何しなくても人類が住めるの地球ぐらいだし。生存のためのインフラ整備しなくて良いのは本来凄いアドバンテージだよ」

「アドバンテージが大き過ぎて増え過ぎたのが不味かったのかなぁ」

「また増え過ぎて戦争起きても困るね……」

「一つは地球に縛られず、宇宙もそんなに悪くないって知ってもらう事だと思う。初期の宇宙開発がなかなか進まなかったの環境が劣悪だと思われてたのと、それなりに実際劣悪だったのが原因だし」

「あとは住環境維持コストが低いのを活かすか。農産プラントみたいに近代工業化を進めたら地球の方が食料生産コスト低くなるでしょ」

「いや、それは輸送コスト考えたら……あ!」

「あるだろ、俺らが学んでる魔女術(ウィッチクラフト)ってソリューションが」



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デリングと魔女の出会い

本作におけるミオリネママ「ノートレット・レンブラン」のことについては、78話「たとえむねのきずがいたんでも」辺りから2〜3話読めば大体わかる。


とんとん

「入れ」

相変わらず威圧感が凄いが、あの女傑「ノートレット・レンブラン」がベッドに寝ている。

「まさか健康が服着て歩いてる君がガンなるなんて……」

「ガンは確率だからな。運が悪ければ誰でも罹る」

 

色々あったがデリングとノートレットは幸せな結婚をして、ノートレット式ダイエットで健やかな身体を取り戻した。急激に。その過程でデリングは妻の呆れ果てた体力と入念な健康維持姿勢を思い知らされている。その彼女がガンになった。

 

「……計画は頓挫だな。野球チームか最低でもバスケチーム作るつもりだったんだが……」

 

子宮頸がんだった。検診でそれを知らされるとノートレットはデリングに「入院する」とだけ告げてサクッと即日手術に挑んだ。全摘出である。

 

しかし、彼女は「頓挫」と言った。計画【破棄】ではないのか?

 

「養子でも……」デリングは重い口を開くが、あっさり妻に否定された。

「何を勘違いしてる? 子宮はガンドと入れ替えたし、3年後にはiPSクローニングで私の子宮は帰って来るぞ? それまで子作りは出来ないが、3年後ならまだ何人か作れるだろう」

「……ガンド?」

「……まさか、知らないのか?」

「いや、あれは義肢技術……」そう、義肢技術としてのガンドはもうこの時代には高機能義肢として知られていた。しかし内臓の代替は中に入っていて外見状見分けがつかないから特に本人がバラさなければ他人には分からないのだ。

「……私の小遣いの投資先のひとつさ。株主優待でナボ博士から開発中のガンドを借りた。まぁ人体実験だな」

「そっ……そんな!」

「我々には立ち止まっている隙はない。ガンガン子作りして地球の人口増やさなきゃ復興すらままならん。子宮頸がんだ卵巣摘出だで子作り阻害されてたまるか。その為に博士にも女性の生殖系を優先して開発してもらう様お願いしてある」

「いやっ……その……妊娠できるの?」

「今はまだ、ダメだ。子供が3ヶ月目あたりでぎゅうぎゅうになってしまうらしい。仕方ないからiPSクローニング処置を発注しといた」

「……神の摂理が……その……」

「お前もデンパ系牧師に頭やられたのか? 神が云々言ってる連中の話をマトモに取り合ったら宇宙移民なんて出来んぞ。いと高きところに座します偉大なる神は「地に満ちよ」と言ったぞ?」

「また君は屁理屈を言う……」

「頭の硬い連中は神の畏れを知らん。この世の中で「出来ること」は神がお許しになったから出来るんだよ!」

 

 

 

妻に適用されたと知り、デリングはガンドについて調べた。そして意外な事実を知る。

 

 

【フォールクヴァングにて】

 

「まさか姉さんがこんなもの開発してるとは……」

「軍隊に行ったお前がなんでカーギルの一族の娘捕まえてるのかねぇ」

 

出資開始時はノートレット・マクミランだった。いつの間にか結婚してたとは知らなかった。デリングも戦乱避けて姉が宇宙に戻ったのは知っていたが、軍務もありその後のやり取りはほぼなくなっていた。まさか妻の病で再び出会う事になるとは……

 

カルド・ナボ(旧姓レンブラン)は地球の大学で義肢開発を学び、ノルウェーのフォールクヴァング研究所に勤務していた。しかしロシアの西方進出により研究所に危険が迫っていた為、研究所は中古の初期型フロントを格安で購入。そして資金難に陥った。

「まさか、食料生産プラントがぶっ壊れたままだとは思わないじゃないか。騙されたよ」

そこで定期的な食料調達をカーギル経由で行っていたところ、若い頃のノートレットに捕捉されたと、そういう訳だ。

「で、姉さん……何故内臓まで人工代替できる様にしてるんだ?」

「地球の人口が減少傾向にあるのは知ってるね? そのせいで臓器提供者や適合頻度が減ってるんだよ……後はキリスト教」

「いつもの連中か……」

「自分は嫌だだけなら良いのに、何で他人の事にまで口出すかねぇ……虫歯の詰め物と同じなら文句言われないと思ってね」

「確かに機械なら適合や保存、輸送も楽か……」

「iPSクローニングがもっと安くなるといいんだがねぇ。本当はクローニング終わるまでの間だけガンド使えたら良かったんだけど……」

「……だから魔法の杖(ガンド)なのか」

「いいネーミングだろ? 治療が終われば外せばいい……まだそこまで達してないけどねぇ」

「え? iPSクローニングは実用化されてるじゃないか」

「まだ高いんだよ。子宮だけでも500万掛かるよ」

「500万?!」(現代日本円で5億ぐらい)

「お前の奥さんえらい金持ちだよ。まぁ地球上じゃあ流行らないかもしれないね」

「長期利用しても問題はないのだろうか」

「そりゃメカだからボロくはなる。モジュール化して交換可能だからメンテナンス性は悪くないよ。ただ、自分の手足として愛着が生まれちゃうのがね……」

「愛着?」

「お前、より高機能になるからって今の腕切ってガンドにしたいと思うかい?」

「冗談じゃない! お断りだよ!」

「同じことが義肢でも起きるのさ。苦楽を共にした大事な相棒になっちまう。今実際変えたがらない子(エルノラ・マーキュリー)に手を焼いてる」

「ひとまず安心した。姉さんこれからも頑張ってくれ」

「あんたは軍隊辞めてどーすんだい? 畑でも耕す?」

「恩師がモビルスーツ開発協議会に誘ってくれてね、まさか姉弟で同じ人型メカに携わる事になるとは思わなかったよ」

「手足を無くしたらいつでも連絡するんだよ!」

「ははは、子供産まれたら見せびらかしに来るよ!」




お姉ちゃんは魔女だったのです!


……なんか全部まとめるに200話ぐらい必要な気がしてきた……(通常50話10〜12万文字ぐらいが筆者の平均です)


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魔女の苦悩

軽井沢出張中に3日ぐらいかけてアダルトMODの18禁小説読んでた(81話まで読了)
エロやグロより「良識を否定」に振る筋運びが18禁よのぅ。


「え? 姉さんがMS開発を?」

「地球の建築用MS大手のオックスアースがガンドの思考制御をMSに適用できないかって打診して来てね……ちょっと予算的にウチも厳しいから受けることにした」

「いや……その……何故……」

「建築用MSのオペレーターが足りないんだとさ。確かに直感的な操作が可能なガンドなら建MS2種試験も簡単にこなせるだろうねぇ」

「MSではなく乗り手が足りないのか……確かに盲点だな」

 

デリングは考えた。確かにMSの運転はMSを用いた実機訓練が「貧しい地球側」では行い難いし、地球上でのMS運転は「設地面積が小さ過ぎる」為に、大変難易度が高い。その難しさを操縦系の簡素化や直感的操作を可能にするUIで補うのは効果的なアプローチだろう。或いはヴァナディースはMS開発の重要なパートナーになる可能性もあるかもな、と。

 

このデリングの予想は最悪に近い形で現実化する。

 

 

 

 

「不味いことになったよデリング」

一気に白髪が増えたカルドを見てデリングは驚いた。

「オックスアースが戦闘用MS開発に参入する。異常に操作し易いMSを引っ提げてね」

「いや、でも所詮建築用では……」

「これを見てもらおうか」

そこには見慣れたカペルが模擬戦闘をしているのだが……

「いい動きをしてるな、中々のパイロットだ」

「……それがね、パイロットはオックスアースの新入社員なんだよ」

「元軍人ですか?」

「大卒で、経済学部さ」

「またまた冗談を。アルバイトで建築用MSにでも乗っていた……」

「原チャリの免許すら持ってないそうだよ」

「まさか。運動プログラムを……」

「機体バランス調整はオートマだけどね、あとはガンドの思考制御さ。ハメられたねぇ……これを開発協議会でなんとかダメ出しは出来ないものかね?」

「……難しいな。寧ろこれは各社が欲しがる……そもそも何故MS開発なんかしてるんだ! 義肢技術なら……」

「最後のガンド機能さ、ガンド脳を作る」

「それが何故!」

「脳を模したユニットが小型化出来ないのさ、これは知ってるかい?」

「シェルユニット……ああ、アラクネとIntelが共同開発した……」

「こいつの駆動にジェネレータとMSサイズの実装面積が必要なのさ」

「……まだ、周辺技術が十分ではないと?」

「ソフトは兎も角ハードウェアがね、建築用MSなら用途も合致すると思ってたんだがねぇ」

「ちょっと待ってくれ姉さん。さっきガンド脳と……」

「ああ、そうだよ。ガンド脳」

「脳を機械に置き換えるのか? そんな事が……」

「ドローン戦争の時のセイズの応用だよ。あったろ、そんなの」

「カイロ条約で使用禁止だよ! いや待て、戦闘用MS開発はやりたくないんだな、ヴァナディースとしては?」

「当たり前だろ。義肢開発組織だよウチは!」

「なら、手はある。そのMSにドローン機能を持たせてくれ。それを論拠に開発棄却する」

「……できるのかい?」

「姉さんの懸念は「誰でも戦闘用MSを扱えるのは不味い」なのだろう?」

「ああ、全く操縦経験がない奴が扱えるのは不味いねぇ。また子供兵問題が出る」

「なら、潰してみせる」

 

 

【子供兵問題】

例えば方陣敷いて相手をボコボコに殴り倒すローマ時代の会戦では、子供は戦力にならない。非力な子供では身体能力に優る大人に敵わないからだ。しかし武器というものは基本的には「身体能力の差を埋める」ものであり、クロスボウや銃器が出てくると「体格に関係無く」敵を倒せる様になってきてしまう。それまで専業の「兵士や騎士」が主力だった「戦場」が銃器の発生により国民皆兵に向かったり、ライフルさえ撃てればある程度の戦力として【子供も使える】となって来るのは必然ではある。兵器とはそのようなものだ。

 

 

 

 

水星の魔女本編では「十分操作系が発展した後の」時代だから目立たないが、第二次ドローン戦争直後のMSの運動性能とガンドを操作系に用いたMSの運動性能は正に段違いと言わざるを得ない。

もしヴァナディースがMS開発自体を行っているならば開発協議会側でも難癖をつけ易い。現実世界で三菱がジェット機開発にやたら苦心したのは実の所航空機産業の基準クリアのノウハウが全く無かったからだ。ホンダジェットがうまく行ったのは基準クリアの為に有識者を招聘した部分にある。

建築用ではあるがMS開発を行なっていたオックスアースという「既に開発協議会」参加企業がヴァナディースと協業するなら止めようが無いし、更に軍需をやっていた企業がオックスアースに吸収されたなら、軍需独特の制限ややり方も熟知出来る。

 

 

 

 

「どうだい、ガンビットは?」

「……圧倒的ですな」

フォールクヴァングにて、軍用ガンド──ガンドアームを否定させる為のネタである「MS搭載型ドローン」の開発は急ピッチで進められた。対空攻撃を掻い潜るミサイルという常識外れの兵器はオックスアースにとって……新規に戦闘用MS開発を手掛け、アーシアンとスペーシアンの技術・戦力格差を埋めようと考えるアーシアン企業にとって大変魅力的だった。しかし……問題もある。ガンビットはパイロットの神経系に多大な負荷を与えてしまうのだ。

「……データストームは克服出来ないのですか」

「ガンビットを使わなければ、つまりリンク深度を2までに制限したら問題は少ないね」カルドは鉄面皮でにべもなく告げる。そもそも軍用にするという計画には反対だが、資本関係で頭を押さえられたから仕方なくやった事だ。

カルドとしては開発費が入りガンド脳が構築できたらそれで良い。軍事技術が民間にフィードバックされて快適な生活を生んだ事例などごまんとある。今やご家庭に1台はあるであろう電子レンジは軍用レーダーから派生したテクノロジーであるし、車のカーナビも元々は軍事技術だ。

「……データストーム対策は本社でも考えていますが……博士、目処はついているのですか?」

「有るとすれば……ルブリス改プランかねぇ?」

重ねて書くが、カルド博士の目的は軍事開発に見せかけたガンド脳開発である。出来たら軍事転用プランは棄却されて民間転用だけ生き延びるのが望ましい。つまりデータストーム発生はカルド博士としては望ましい状態なのである。【是正する気は毛頭無い】

最終的にはパイロットが死にかねないトラブルだ。そんな機械を量産する訳が無い……医療技術開発者であるカルド博士は己の常識に照らしてそう考えていた。

 

そう、それはカルド博士の常識に過ぎないのであった。




データストーム問題は敢えて未解決にされた。そうすることにより軍事技術化を防ごうとした訳だ。


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