不死者の王と召喚少女 (ナザリックの一般メイド)
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第一巻
プロローグ


作者は異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術原作五巻までと
オーバーロードを原作16巻まで所持しています
特典小説・外伝・ドラマCD等は未所持です

オーバーロードアニメ四期まで視聴
異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術アニメ一期視聴済みです



初投稿です

2022/11/12 19:50
誤字報告適応しました
誤字報告ありがとうございます


世界(ユグドラシル)が終わったその日、モモンガはかつての栄光(ナザリック地下大墳墓)ともに消え去る。

そのはずだった。

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

モモンガが最初に感じたのは、心地よい風(・・・・・)

荒廃しきった現実(リアル)では感じることのできぬもの。

何事か、と目を開けば、眼前に広がる青い、青い空。

第六階層の空のようなブループラネットが作りたかったモノがそこにあった。

 

そして空から目線を下すと二人の少女

 

一人は獣の耳が生えた少女。恐らくは半獣人(ワービースト)だろうか?完全な獣ではなく人に無理やり猫耳をはやしたような姿をしている。

へそ丸出しのファッションと腕につけたグローブを見るに格闘家(モンク)だろう。

その手に握っているのはデータクリスタルらしきもの。しかし今まで見たこともない形をしている。

 

もう一人は長い耳をしたエルフらしき少女だ。

緑色のミニスカ―トの服を着ており白い長手袋をつけている。

背中に背負っている弓を見るに恐らくは弓使い(アーチャー)もしくは盗賊 (探索系)の職業だろう。

そして一番注目すべきはおっぱい

でかい

最後に見たNPCアルベドのような……あるいはそれ以上の大きな胸。

思わずじっと見るとその胸の持ち主は一歩後ずさり。胸が揺れる。

 

(……ん?胸が揺れる?)

 

胸が揺れる、というユグドラシルならばあり得ない挙動に驚愕する。

ユグドラシルはR18ーーあるいはR15行為ですら規約違反となりアカウント停止となる。

胸が揺れる。というのはユグドラシルではありえないのだ。

アルベドなどの巨乳の女NPCやPCが歩いたり走ったりしても、揺れることはない。

野良のサキュバス等も露出が激しかったりするが胸や尻が揺れるということはなかったのだ。

 

 

つまりはここは、ユグドラシルではない?

 

 

その疑問を抱くと同時に恐怖する。

自身の身に何が起こったのか、あるいはこれから何が起こるのか。

恐怖と焦燥感を感じ、先の少女のように後ずさりしそうになりーー

 

 

 

 

すっと、心が落ち着いた。

 

 

 

先ほどまでの恐怖も焦燥感も消え、平時のように心が落ち着くのがわかる。

 

 

(最優先すべきは、現状確認……か)

 

 

 

目の前の少女二人に話しかけようと一歩前にでる。

するとヒッ、と小声で言いながら後ろに後ずさった。

なぜこんなにも怖がるのだろうか。

もしや、自身の顔だろうか。

しかし骸骨の顔というのはユグドラシルではありきたりなものだが。

 

 

「あー……危害を加える気はない、ただいくつか聞きたいことがあるだけだ」

 

両手を上げ、無害アピールをする。

まぁ手を挙げた程度なら魔法などですぐ攻撃できるのだが*1

 

すると二人の少女は顔を驚愕にそめる。

エルフの少女が口を開く。

 

「しゃ、喋った?召喚獣が?!」

 

 

いや喋るわ。

喋るアンデッドを見るのは初めてなのだろうか。

というか召喚獣とはなんだろうか、もしや自分のことか?

 

 

「……聞きたいこと、とはなんでしょうか?」

 

 

今度は半獣人の少女が話し出す。

 

 

「……ユグドラシル、を知っているかね?」

 

「聞いたことはないですね、そのゆぐどらしる?というのはなんですか?」

 

「国……のようなものの名だ、ならば日本、アメリカという国は?」

 

「……どちらも聞いたことないですね」

 

「私も聞いたことないなー」

 

 

プレイヤーや中の人がいるNPC、などではなさそうだ。

口が開き。目が動き。半獣人の少女の耳が動いている。

そして、困惑の表情を浮かべている(・・・・・・)

仮にここがまだユグドラシルーーもしくはDMMOか何かだとしても表情を動かすほどのリソースはない。

サプライズユクドラユグドラシル2が始まったのだとしても異常事態にもほどがある。

 

(仮想世界が現実になった?もしくは異世界転移?)

 

そんなバカな、と思うもそれを否定する要素もない以上最も可能性が高いのはそれだろう。

何より目の前の者は召喚獣と呼んでいた。

召喚、という言葉が入っている以上どこからか呼び出すものだろう。

モモンガはそれによって呼び出されたのではというのが現状の推論だ。

もしかしたらそれ以外に要因があるかもしれないが自身の頭脳ではそれ以上はわからない。

 

 

少女二人が何やら喋れる召喚獣なんていやそもそも召喚獣?

私が呼び出したの?などと話している間にGMコールや緊急ログアウトなどを試すも何も反応がない。

危機的状況に陥っているのは間違いないだろう。

 

どうするべきか。

まずすべきはこの少女たちをどうするか。

次に自身が何をできるのか、何ができないのか。

魔法は?特殊技術(スキル)は?魔法道具(マジックアイテム)は?

わからないことが多すぎる。

頭を悩ませていると、エルフの少女が元気よく飛び跳ねる。

 

「はいはーい!まずは自己紹介をしようと思います!

私はエルフのシェラ・L・グリーンウッド!天才召喚術師!」

 

「……私は豹人族のレム・ガレウ、召喚術師です」

 

 

二人とも召喚術師らしい。

バランスの悪いパーティだ。

というかエルフの少女が背負っている弓は飾りなのだろうか。

 

「あー……私は」

 

 

なんだろうか。

ユグドラシルで使ってたプレイヤーネームであるモモンガ?

それとも本当の名である鈴木悟か?

……どちらも相応しくない気がする。

既にユグドラシルはなく、モモンガという名は違う。

鈴木悟は現実での名であるがもうその名を呼ぶものはいない。

右手に握ったスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを見る。

全ては過去の栄光。

もはや誰も知らないもの。

ならば

ならば、自身が広めよう。

アインズ・ウール・ゴウンの名を。

かつての栄光を。

いや、それ以上のものを!

 

 

「私は、アインズ・ウール・ゴウン、魔法詠唱者だ」

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウンは、誇らしげに自身の名を名乗った。

*1
魔法が使えるとは言ってない




こんなのアインズ様じゃない!とかあると思いますが
これで行きます
苦手な方はブラウザバックを


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城塞都市ファルトラ

ストックあるうちは週一更新です
後書きに独自設定まとめて行きます

毎週金曜更新です

誤字報告ありがとうございます
2022/11/12 10:40誤字修正

誤字報告ありがとうございます
2022/11/19 7:08 誤字修正

誤字報告ありがとうございます
2022/12/18 16:15 誤字修正


 

「アインズ・ウール・ゴウン、ですか……聞いたことないですね」

 

 推定半獣人の少女レム・ガレウがつぶやく。

 やはりアインズ・ウール・ゴウンを知らないらしい。

 寂しさを感じるがその分名を知らしめてやろう。という気概も湧いてくる。

 

 

「そんな名前だったんだ……わからなかった」

 

「……わからなかった? どいうことだ?」

 

 

 シェラ・L・グリーンウッドが奇妙なことを口走る。

 まるで本来はわかったかのような口ぶりだ。

 それを見てレムが言う。

 

「ここは星降りの塔といい、本来よりも強力な召喚獣を召喚でき

 ……対象の名と能力がわかるという特性があります」

 

 

 なるほど。と納得する。

 恐らくだがアインズが自身にかけている対情報系の魔法防御。あるいは探知阻害の指輪の効果により無効化。

 ……もしくは抵抗(レジスト)できたのだろう。

 対策しててよかった、もし名がバレてたなら『なんでモモンガって名前なのにアインズって名乗ったの?』

 と聞かれたかもしれない

 それは少し恥ずかしい。

 

 

「……とりあえず下に降りませんか? こちらも、聞きたいことがありますし」

 

 レムの言葉にシェラとアインズは頷き、階段を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 星降りの塔から降りていく最中誰も喋ることはなかった。

 ちょっとした気まずさを感じるとともに、考える時間ができたのでいろいろと考える

 この少女二人はなんなのか、怯えているが普通に話せるのを見るとこの場所でもアンデッドは普通にいるのか。

 急に心が落ち着いたのは精神作用無効の特殊技能のせいだろうか──等々。

 特に魔法や特殊技能は重要だ。

 アインズは死霊系統に特化した魔法詠唱者であるため魔法や特殊技能が使えないとなると肉体能力だけになってしまう。

 戦士としての職業は取っていないしそもそも戦士として戦ったこともない。

 ステータス的には33レベルの戦士ほどはあるが。特殊技能などがないので実際はそれよりも劣ってしまう。

 

 そして口調だ。

 魔王RPをしているときのような話し方になってしまったがこれで大丈夫だろうか。

 今からでも敬語を使った方がいいのだろうか。

 ……突然魔王みたいなやつが丁寧に話してきたらそれはそれで怖いな。

 何か企んでそうだ。

 先ほどのまでの口調のまま、丁寧に話すように心がけよう。

 不自然にならないように。

 

 

 

 

 

 

 意識を切り替える。

 心の整理が多少とは言えでき、聞くべきことやすべきことが解ってきた。

 まずはアイテムボックスを開けるか確認する。

 アイテムボックスに意識を向けながら骨になってしまった手を虚空へ伸ばす。

 すると手が虚空へ消える。外から見ると手が消えてしまってるように見えるらしく、二人がまたも恐怖の声を上げている。

 そのままアイテムボックスを探り。数秒でグリーンシークレットハウスを取り出し、地面に設置する。

 

 

「おお! いきなりお家が生えてきた!」

 

「嘘……こんなの……魔術? いや……」

 

 

 シェラはただ驚きレムは今起こったことの不可解なことに驚愕している。

 現実でいきなり家が生えてきたら驚くだろう。それと同時にこの世界の者……あるいは二人はアイテムボックスを持っておらず

 またグリーンシークレットハウスのような簡易拠点も知らないらしい。

 グリーンシークレットハウスの見た目はユグドラシルの頃と変わらずコテージのままだ。

 この世界へきてアイテムが変容した、という可能性は低そうだ。

 アイテムの類は変わらず使えると思っていいだろう。

 これならば余程の事態──レイドボスとかワールドエネミー──などが現れない限りどうにかなるだろう。

 補充する手段がない以上無駄使いはできないが

 

 

「まずは中に入って休憩しながら話をしないかね? 私も、君たちも情報交換が必要だろう?」

 

 

 アインズはそう告げ、先にグリーンシークレットハウスへ入る。

 二人がどうでるか少しわからないが……

 

 

「ほ、ほんとうに入るのですか? やめた方がいいのでは?」

 

「大丈夫大丈夫! はいろ!」

 

 

 

 怖がるレムをシェラが引っ張っていく。

 中に入ると、そこはユグドラシルの頃と変わらない内装だ。

 六人で団らんできそうな少し大きめのテーブルと椅子。

 そこまで本格的ではないが、低位のバフ食材なら調理可能なキッチン。

 

 

「ふむ……<第一位階不死者召喚>(サモンアンデッド・1st)

 

 詠唱をする。

 ユグドラシルの頃と変わらず視線の先の地面から魔法陣が生まれアインズと同じ容姿のスケルトンが呼び出される。

 骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)骸骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)のようなアンデッドと違い、本当に何の能力も持っていない雑魚だ。

 

 ヨシ、使えた。

 心の中でガッツポーズをする。

 次の魔法発動までの冷却時間(リキャストタイム)。自身のMPの量。自分が使える魔法等々。

 魔法を発動しようとすると、まるで元から使えたかのようにわかる。

 

 

「召喚獣……スケルトン、ですか?」

 

 

 レムがスケルトンを見てつぶやく。

 どうやらスケルトン自体はいるようだ。

 召喚獣と言っているのを聞くにユグドラシルとはだいぶ違いそうだが。

 

 アイテムボックスを開き、そこから無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)とグラス、トレーを取り出し

 スケルトンに給仕をさせる。

 それを片目で見ながら、椅子に座る。

 かけたまえ、と言うと二人ともアインズの反対側に座る。

 

 スケルトンが二人に水を出したのを見て、話を始める。

 

「では情報交換と行こうか」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ──だいたい一時間ぐらいか。

 体感でしかないのでわからないが、だいたいそれぐらいだろう。

 二人は喋りすぎたのか、二度ほど水をお代わりしていた。

 スケルトンが時間制限で消えたのと同時に、コテージから出ていく。

 二人が出るのを見てからグリーンシークレットハウスをアイテム化し、アイテムボックスにしまう。

 ついでにスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンもしまっておく。

 後で専用の箱に入れておくとして、現状はこれでいいだろう。

 

 そして、二人が拠点にしているというファルトラという都市を目指し歩いていく。

 

 

 わかったことがいくつもある。

 結果としてここはユグドラシルとも日本とも違う、完全な異世界と判断できた。

 言葉が二人と通じてるのは、翻訳こんにゃくのようなものが世界全体にかけられているのか、あるいは召喚された存在としてアインズに与えられているのかはわからないが。

 

 ここから徒歩で三時間程歩いた先にあるのがウルグ橋砦(きょうさい)といい、その先に二人が拠点として使っているファルトラがある

 そしてファルトラには結界が貼ってあり魔族から街を守っているとのこと。

 魔族、というのは人類の敵らしい。

 人型の獣──豚とか狼とかライオン等々。異形種全般が魔族と称されているらしい。

 そして魔族は魔王と呼ばれる者が作り出した眷属らしく魔王復活の為尽力しているらしい。

 魔王は数年前に≪脳の魔王エンケバロウス≫というのが現れたが、何者かによって倒されたのだと。

 どうやら魔王は複数いるらしい。

 

 そしてシェラは予想通りエルフで、レムは豹人族という種族で半獣人ではないようだ。

 シェラとレムは同じ亜人という括りで人間からは迫害──というほどではないが。軽視されているとか。

 ユグドラシルではエルフは人間種判定だったが、この世界では違うらしい。

 

 更に召喚獣や元素魔術なる術や武技という戦士が使う技。

 人食いの森という危険地帯もあるらしい。

 

 そして彼女たちがアインズを召喚した理由は『魔王を召喚したかった』とのこと。

 アインズはユグドラシルで一時期『非公式魔王』などと呼ばれたこともあるが実際に魔王というわけではない。

 ユグドラシルの公式魔王は七大罪の魔王シリーズがいるし、またそのうちの一人も呪いの力でワールドエネミーとかしたプレイヤーだったはずだ。

 呼び出されるのならそちらではないだろうか。

 アインズが『自分は魔王ではない』と二人に言うとシェラは残念、と言って深くは考えてないようだったがレムは悲痛な顔をしていた。

 そこまで魔王を召喚したかったのだろうか。

 

 アインズは自身のことは『ユグドラシル』にいる存在とした。

 日本のユグドラシルからやってきました、とかじゃ意味が解らなすぎるため。

 日本やアメリカのことは自身が知っている国の一つ、として説得した。

 ゲームのことは多少改変し、無理がない範囲でカバーストーリーを構築したのだ。

 

 ユグドラシルが終わるその日。終わる世界からどうにか脱出しようと秘蔵のマジックアイテムを使い空間転移などを試したのだと。

 結果。空間転移のマジックアイテムと彼女たちの召喚魔術によりユグドラシルから脱出しこの世界に来ることができたのだ──と。

 

 多少無理がある設定かもしれないがこれで問題ないだろう。

 二人とも空間転移ということにたいそう驚いていたのでこちらには転移魔法。いや転移魔術の類はないらしい。

 結果として二人とも納得しアインズは召喚獣ではないと納得したらしい。

 まぁ二人の召喚を邪魔する形になってしまったと側だけの謝罪をしたら二人とも慌てていたが。

 

 そして今後だが一度二人が拠点にしている都市に行きそこで冒険者登録などをして三人(・・)で過ごそう。ということに落ち着いた。

 そのことでシェラとレムが少々言い合っていたが問題ないだろうたぶん。

 そしてレムがしきりにこちらを注視している。

 なぜそこまで見つめてくるのだろうか。

 

 

 

 ……正直なぜ自分が召喚されたのかとか、呼び出した二人(拉致軟禁してきた者)

 への戸惑いもあるがとりあえずの心の整理はできた。

 本来世界の終わり(サービス終了)とともに消えるはずだったアインズ(モモンガ)と、SoAOG(スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)が残ったということには嬉しさもあるけれど。

 

 

 

 そのまま三人でほぼ無言のまま歩き続けると砦が見えてきた。

 岩の転がる丘陵地帯をしばらく進めば南北を流れる大きな川と石でできた橋が見えてくる。その先に見えるのは城門のような砦。

 先ほどの話にあったウルグ橋砦だろう。

 そのまま気にせず通り過ぎようとするが、レムが待ってください、と声をかける。

 

 

「……どうした?」

 

 何かあったのだろうか、もしやトイレ? と思うがそれではないらしい。

 

「いえ、その……アインズの姿は、魔族に見えるので……もしかすると」

 

 

 殺されるかも、という残りの言葉は発せられなかった。

 

 

「あー。そうだな」

 

 

 やっべ考えてなかった、どうしよ。

 アイテムボックスに何かないかと探る。

 探し当てたのは嫉妬する者たちのマスク。通称嫉妬マスクとイルアン・グライベルという筋力を増大させる小手だ。

 これらを装備しローブの前を閉じれば、アンデッドには見えないだろう、見た目だけなら。

 

「なんか、怪しい人って感じがする!」

 

 とシェラ。

 客観的に見ても邪悪な魔王から邪悪な魔法詠唱者(マジックキャスター)……こちらでいう魔術師に変わっただけだが。

 

 

「……ぱっと見は問題ありませんが、仮面は取って見せるように言われると思います……大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「……不安です」

 

 

 仮面を取って見せるとしても精々数分だろう。

 ならば一時的に幻術を使えば突破できるだろう。

 

 不安を抱えながらもウルグ橋砦へ進む。

 すぐ近くにシェラ。少し離れたところにレムがついて歩いてくる。

 

 もしやレムは何かあれば直ぐ逃げれるように離れているのだろうか。

 そのまま歩いて行き。通ろうとすると止められる。

 止めてきたのはこの砦に努める衛兵だろう。

 若い……顔つきからすると20代ぐらいの衛兵だ。

 

「申し訳ありません。そこの方。仮面を取って顔を見せてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「……顔を見せないと、ここを通れないのでしょうか?」

 

「はい。犯罪者や魔族を通す訳にはいかないので。ほんの少し見せてもらうだけで大丈夫ですから」

 

 

 よし、心を決めろ! 大丈夫大丈夫、失敗しても全員殺して口封じすれば問題ないから! 

 心の中で自分に激励する。

 自分の顔に幻術をかける。

 幻術に過ぎないため触られたり看破系の魔法や特殊技術を使われるとすぐにばれてしまうが、きっと多分問題ないと信じる。

 

 

「……わかりました」

 

 嫌そうに。いや実際嫌な訳だが顔を見せる。

 作ったのは現実の鈴木悟の顔だ。

 痩せこけた今にも死にそうな黒髪黒目の男。

 ただの幻術であり。実体がないため触られたりするとバレてしまうが。

 

「はい、大丈夫です、もう仮面をつけてくださって大丈夫です」

 

「ありがとうございます」

 

 

 すぐさま仮面をつける。

 この世界の者たちがどれくらい強いのかわからないのですぐにばれるかと思ったがそんなことはなかった。

 これなら早々バレるようなことはないだろう。

 

 残りの二人は衛兵に挨拶するだけで特に止められることなく通り過ぎていった。

 やはりこの仮面は怪しすぎるらしい。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「……ここがファルトラ、か」

 

 あれからさらに数時間。

 時間ももはや夕方。日が沈みかけている。

 街を見るとユグドラシルではあり得ない程人が詰めている。

 人間にエルフや豹人族。グラスウォーカーという兎の耳が生えた者等。

 

 街並みはユグドラシルでもよく見るものだ。

 石でできた中世風としか言えない家々。舗装された道路。木造の露店。

 これらをパット見るとユグドラシルの市場を思い出させる。

 しかしよく見ると舗装されている道路に使われている石材や木造の物をよく見ると全てが違っている。

 木の歪みや削られた石の違い。

 ユグドラシル(ゲーム)ではすべて同じ見た目(グラフィック)だったが、ゲームなどではなく現実であるが故だろう。

 

 しかし──あまりにも周囲の人々に見られている。

 人の方を少し見ると誰も体をここまで隠していないし。仮面をつけた者など一人もいない。

 門を通るときにも幻術で突破したがやはりこの格好は怪しすぎるらしい。

 いや。よく見るとローブで体を隠している者はいるが……仮面までつけて隠している者はやはりいない。

 

 急ぎましょう。とレムが提案する。

 お腹すいたし。早く帰ろう~とシェラ。

 二人は疲労し。空腹に襲われているのだろう。

 

 ──アンデッドになってしまった自分には、もはやわからないものだ。

 

 

 

 

 

 

 二人が泊っている宿屋の前につく。

 西門からの大通りから少し外れたところにある宿だ。

 ここら一帯は宿場街らしくここの他にも似たような建物がいくつかある。

 看板がつけられているがやはり見たことの無い文字であり読むことは叶わなかった。

 後で翻訳アイテムを探さねばと心のメモ帳に書いておく。

 しかしここまで来るのにそこそこ時間が掛かった上入り組んでおり二人に案内してもらうことになった。

 ここまで広いと道を覚えるのは少し手間取りそうだ。

 

「……あの、どうしました?」

 

 ──いけない。少し考えすぎていたようだ。

 色々と考えすぎて体が止まっていたのか、レムに心配されてしまった。

 なんでもない、と軽く言い宿に入っていく。

 

 カランカランと鈴の音が響く。

 受付にいるのは豹人族の女性だ。

 黄色い猫耳と茶色の髪。そして活発な笑顔が特徴的だ。

 

 

「こんばんは! 宿屋≪安心亭≫の看板娘(アイドル)メイちゃんだよ~きゃは!」

 

 

 アイドルの概念あるのか。この世界。

 いや翻訳機能でそう聞こえているだけかもしれない。

 ここら辺は気を付けないと危なそうだ。

 

 

「……部屋の鍵をくださいますか」

 

「レムちゃんお帰り~、召喚成功したの?」

 

「……成功しました……召喚だけは」

 

 

 成功した、という割には不安そうな顔をするレムにアイドルのメイは不思議そうな顔をする。

 

「それよりもう一部屋借りてもいいでしょうか?」

 

 

 それはアインズの分だろう。

 しかし部屋を借りるといってもそもそも睡眠も食事も必要ない──というかできない存在である

 アインズにとって宿屋は不要なものだ。

 しかし宿も借りない、というのは不自然すぎる。

 

 ──ユグドラシルの金貨を使うか? 

 その発想がでるが駄目だろうと思う。

 この世界にもしかしたら自身と同じユグドラシルのプレイヤーがいるかもしれない今。下手にユグドラシル金貨を使えばここにプレイヤーがいると宣伝するようなものだ。

 まだまだ情報が足りない今下手に使うべきではないだろう。

 ならばここは素直にレムの好意に甘えよう。

 いずれこの世界の金銭を取得できたら倍にして返せばいいのだから。

 

「あ、あの! 私も部屋を……いや、同じ部屋にもう一人泊めたいんだけど、いいかな?!」

 

 

 はい?! 

 ちょっと待て、それは同じ部屋にシェラと同じ部屋にいるということか自分が召喚したからどうにかしようという気概だろうありがたいがちょっと待て巨乳エルフだよこっち男だぞ危機感ないのかあるいは襲われてもいいとか考えてるのか違うそうじゃない──

 

 

 あ、沈静化された。

 

 

「あー、その、ありがたいが……そうだな、ここは二人で折半し、私の宿代を出すというのはどうだ?」

 

 

 

 あれ、これかなり屑な台詞では? 

 はたから見たら女の子に自分の宿代奢らせようとしているヒモ男の図である。

 やはりこれは危機を犯してでもユグドラシル金貨を使うか? いやそれ以外のレアイテムを──? 

 等と考えている間も、二人は言い争っている。

 私が払う、いや私が、と。

 何なんだろうこの光景。

 外から見たら怪しい男の宿代を出し合おうとしている美少女二人だ。

 どこからどう見ても美少女二人が怪しい男に騙されている風にしか見えない。

 

 

「もー、二人とももめないの、それ以上騒ぐなら……追い出すよ」

 

 

 普段笑顔の者の真顔というのは。これほど怖いのか。

 ぶくぶく茶釜さんのドスの聞いた声と似たような威圧感のある声と表情に。二人とも止まる。

 

 

「じゃあ、ここは間を取って三人部屋で、三名様ごあんな~い」

 

 

 メイが三人部屋の鍵を取り出そうとした、その時。

 宿屋の鈴の音が響く。

 

 

「こんばんはレムさん、今大丈夫かしら?」

 

 

 長い青髪と、豪奢な金の刺繍が施された赤いマントを携えた者が、乱入してきた。




独自設定

星降りの塔で召喚した場合・対象の名前がわかる

グリーンシークレットハウスの内装

<不死者召喚1t>

<不死者召喚1t>をアインズ様が使える

<不死者召喚1t>でスケルトンが呼び出せる

<不死者召喚1t>で呼び出せるスケルトンが給仕できる

一番最初の『星降りの塔で召喚した場合,対象の名前がわかる』は原作でもあるんじゃないかなーと
原作でもディアブロが名乗ってないのにレム・シェラは名前解ってたので


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魔術師協会

ユグドラシルをユクドラシルとめちゃくちゃ誤字しまくってましたごめんなさい

アンケートありがとうございました
間を取って18:30に投稿します


誤字報告ありがとうございます
2022/11/18 20:52
適応しました


 宿の受付であーだこーだと言い争う二人の前に現れたのは青髪の美女だ。

 長い髪型に金の刺繍を施された赤いローブ。

 レムやシェラよりも長身。シェラほどではないが豊かなモノを持っている。

 しかしその服装はいささか胸が強調されており。目のやり場にこまる。

 年は恐らく20代後半から三十代前半といったところだろうか。

 優し気な茶色の瞳を見ると実に美人だ。

 

 

「……ボードレーヌ卿」

 

 レムが彼女の名を口にする。

 どうやら彼女は卿とつくぐらい地位の高い人間らしい。

 しかしなぜこんなところに? 

 

 レムが名前を口にだすとシェラが驚く。

 

「ボードレーヌ卿って……魔術師協会のセレスティーヌ・ボードレーヌ様?! なんでこんなところに」

 

 

 魔術師協会。

 確かレムが言うには多くの魔術師が所属している国営の研究機関。

 団員どうしで協力しあい、新たな召喚獣の研究などをしているとのこと。

 また魔術の実験で必要な素材などがある場合頻度は低いが冒険者に依頼を出すこともある。

 最大の特徴は街に貼られている魔族を通さない結界は各都市の魔術師協会の長が貼っているということだろう。

 

 この街の最重要人物が、なぜこんなところに──? 

 

 

「はい、魔術師協会の長、セレスティーヌ・ポードレーヌです、よろしくお願いしますね、お二人とも」

 

 

 

 見た目通りと言ってはなんだが物腰柔らかだ。

 ぽん、と彼女が手をたたく。

 

「そうだわ、皆さんお夕食を一緒にしませんか? ……複雑な事情がありそうですし、ね」

 

 

 どうやらこちらの事情を察してきているらしい。

 

 

「いいの?! ポードレーヌ様」

 

 

 シェラが顔を綻ばせる。

 

「はい。ここは私が出しますから、お好きなものを頼んでくださいね」

 

「やった~久しぶりのまともなご飯!」

 

 

 本当に。いや実際そうなのだろうぴょんぴょん跳ねている。

 ……食事代すらままならないというのは、これまでどうやって暮らしていたのだろうか。

 そしてそんな生活でどうやってあれだけの胸を? 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「さぁ、どうぞ」

 

 この宿屋は食事処もあり一階部分が酒場。二階が宿場となっている。

 従業員はおらずここの店主であるメイが一人で切り盛りしているとか。

 テーブルと椅子が各所に設置されており、椅子とテーブルは全て木製だ。

 まるでユグドラシルの酒場のようだと少し思う。

 けれども木の匂いなのだろうか。現実(リアル)では嗅いだことのない──というか嗅げない──匂いがする。

 今のところ客は自分たちだけでありアインズ・シェラ・レムの並びで座り反対側にはセレスティーヌが座っている。

 彼女の後ろには護衛の魔術師が二名立っている。

 二人とも同じ柄のローブを被りっており、顔が見にくいが体付きからして男だろう。

 なぜか一人がこちらを……というよりアインズを強く睨んできているが。

 なにかしただろうか。

 

 

「は~い、おまたせしましたにゃん」

 

 食事が運ばれてくる。

 先ほど注文した料理が運ばれてくる。

 

 アインズの知識が正しければ、これはスープとパンだろうか。

 ジャガイモと思わしきもの、ソーセージらしきもの等。

 ユグドラシルでの料理よりは具が少なく感じるが……これが現実だと思うといくらかかるか想像すらできないほどのものだ。

 いや、ただの酒場で出ているということはこれは一般的な料理なのだろう。

 

 

 ──羨ましいな。

 

 言葉にはしないが・実に旨そうだ。

 仮面越しでもわかるほどに強い・いい匂いというのだろうか? それがする。

 こんな贅沢ができるシェラとレムに嫉妬するがすぐに鎮静化される。

 ゾンビとか吸血鬼だったら食事できたのだろうか……いや、異世界転移するなんてわからないから考えるだけ無駄だが。

 

 

「そちらの……アインズさんは、食べなくてもいいのですか?」

 

「いえ、私は先に済ませてしまったので……私のことは気にせずに、どうぞ」

 

「じゃあ、ただきまーす!」

 

「……いただきます」

 

 

 二人が食べ始めるのを横目で見る。

 食べれないのは辛い、ユグドラシルでは種族ペナルティとしてアンデッドは飲食不可であったがために。

 いや。もしかしたらどこかの海賊漫画の骸骨のように食べれるかもしれないが今ここで試すのはまずいだろう。

 いくら幻術があるとはいえ誤魔化せることには限度がある。

 そして三人で食事をしながら話をする。

 セレスティーヌに話したのはまた違う話だ。

 

 シェラとレムに話したユグドラシル等の話ではなく。アインズはただの旅人であり道中強いモンスターが出た時にアインズとの三人で協力し、倒したという話である。

 またその時に意気投合し三人で行動するようになった──というものだ。

 

 ……途中から先ほどから睨んでくる護衛の男が更に強く睨んできたが、やはりこの内容には無理があったのだろうか。

 しかしセレスティーヌは何も言ってこないのを見ると凡そ問題なさそうだが。

 だが護衛の男は一歩前にでて、詰めかけてくる。

 

 

「……本当にお前は強いのか? ただの旅人で、レム・ガレウ様を騙しているだけじゃないのか?」

 

 

 何言ってんだこいつ。

 いや実際にその可能性はあるだろうし。気にするのもわかる。

 だがそれはセレスティーヌが問いかけるものであり。そして仮に騙しているとしてもその騙している本人(アインズ)がいる前で聞くか普通。

 

 

「……ガラクさん、失礼ですよ」

 

「…………失礼しました」

 

 

 

 セレスティーヌには謝罪をしたが、アインズに謝罪をする気はないらしい。

 どうやらこのガラクという男は一筋縄ではいかぬようだ。

 

 

「そしてレムさん、話はわかったわ、アインズさんの事情も、ね」

 

「……また、あの話ですか? セレス」

 

「ええ……私はただ、あなたの身を案じているのよ、最近は魔族が衛兵を誑かして街に入ったなんて話も聞くし……」

 

「私は、魔術師協会の本部に行くのも、護衛を付けられるのも、嫌です」

 

 

 レムはただの召喚術師ではなかったらしい。

 しかし護衛や本部に行くという話やこの街の長が来るというのはそれほど優秀……あるいは危険なのだろうか。

 気にはなる。が──

 

 もしも、嫌われたら?

 

 

 あの時。ヘロヘロさんが来た時に『最後の時まで一緒にいませんか?』と言えていたら。

 もっと前に、ギルメンともっと交流していたら? 

 もっと深い関係になれていたら──? 

 

 相手はただの定命の亜人だ。

 殺しても問題ないし、精神支配なり記憶操作なりでどうとでもなる存在にすぎない。

 けれど、相手に深く踏み込んで、嫌われてしまったらと考えると動けない。

 たかが半日、少し喋って一緒に街まで歩いてついて行った者でしかない。

 けれども。

 

 もしもここで動けていたら──もっと違うものになっていただろう(ギルドに皆が居ただろう)

 

 結局のところモモンガは怖いのだ、対人関係が。

 コミュ障というわけではない、それならば営業なんてできていないから。

 相手と仲良くなって、嫌われるのを恐れる臆病者なのだ。

 他者の心に踏み入るのが恐ろしいのだ。

 

「そう……ですけど、わかって頂戴ね、私はただレムさんのことが心配なだけなの」

 

「心配してくださるのわかりますが……これは、私がどうにかしないといけないモノですから」

 

「……自分一人でどうにかしようとしないでね、魔術師協会は世界の為にあなたを守らないといけないし……

 私個人としても、あなたのことは妹のように思っているのだから」

 

 

 

 世界(・・)の為に? 

 レムはそれほど危険なのだろうか。

 ならばなぜ拘束しておかないのか。

 単純なセレスティーヌの優しさか、あるいは別の何かか。

 

 

「そろそろお暇するわね……アインズさん」

 

「──なんでしょうか?」

 

「レムさんのこと、守ってあげてくださいね」

 

「……わかりました」

 

 

 アインズの返事を聞くと微笑み。席から立ち宿からでていく。

 道中ガラクがアインズのことを強く睨みつけていたが彼はいったい何なのだろうか。

 しかし、守ってあげてください、か。

 

 

 自分には。不可能なことだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 セレスティーヌが出た後。外の空気を吸ってくると二人に言い宿からでる。

 あの場にいてもいたたまなかったし宿などのことも後でメイという豹人族から聞けばいいだろう。

 なんとなく空を見上げ。そこに現実では見ることのできない星空を見る。

 <飛行>(フライ)の魔法で飛び上がる。

 生まれて初めて見る星空にいてもたってもいられなかったのか、自分の心がわからないからか。

 宿を越え、遠くに見える塔と同じぐらいの高さまで飛び上がる。

 ふと下を見ると、まだ出歩いている少数に人間が虫けらのように小さく見える。

 誰かに見られるかも、と一瞬考えるが頭を振り払い気にせずに星空を見る。

 

 

 ──こういう時は沈静化されないのか。

 

 

 あるいは沈静化されるほどではないのか。

 満天の星空という。汚れた現実では見ることのできない。ブループラネットが夢にまでみた空がそこにある。

 生まれて初めて見る星空をアインズはただ見つめる。

 

 

「キラキラしていて……宝石箱のようだ」

 

 

 思わずそう呟いたが、あっているかもしれない。

 この世界には宝石(未知の冒険)が詰まっている。

 

 もしもここに彼ら(ギルメン)がいれば一緒に世界を見て回れただろうか。

 

 この異世界にユグドラシルのプレイヤーはアインズだけかもしれない。

 けれど彼女たちが召喚したと言っている以上。他のプレイヤーも召喚されているかもしれない。

 もしかしたら──ギルドメンバーも召喚されているかもしれない。

 

 ──元の世界に帰るか。この世界を冒険するか。

 

 元の世界に戻る手段は現状わからない。

 流れ星の指輪(シューティングスター)星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)やワールドアイテム。

 この世界にあるマジックアイテムなどを使えば帰れるかもしれない。

 

 だが……ただ仕事をし、家に帰るだけの生活に何の価値があるのだろうか。

 

 ユグドラシルはなく。かつての仲間との縁(ナザリック地下大墳墓)も消えてしまった現実に価値など見いだせない。

 あるいはたっち・みーのように家庭を持ったり、ぶくぶく茶釜のように適性のある声優の仕事といった価値あるものを見つけれるかもしれない。

 

 

 けれども──アインズはここで決心する。

 なんだかんだ流されるままここまで来たが、ここから自身の意思で動こう。

 魔王を召喚したかったという彼女たちには悪いが、ここからはアインズが仲間となろう。

 正式な魔王ではなく非公式魔王だが。微々たる違いに過ぎないだろう。

 

 明日になったら二人にちゃんと仲間にしてほしいと言い。彼女たちとともにこの世界を冒険者として行こう。

 

 なんで魔王を召喚したかったのかまでは聞けてないが……理由次第では解決できるかもしれない。

 この美しい世界を、新しい仲間(シェラとレム)と共に見て回ろう。

 もしかしたらギルドメンバーがいるかもしれない。

 けれど……探すのはやめよう。

 本当に可能性としては0.1%にも満たないし、新しい門出だ。

 いつまでも思い出(過去の栄光)に縛れていたら、前に進めないから。

 

 

 拒絶されるかもだが……その時はその時だ、その場合は一人で行こう。

 もう鈴木悟(臆病者)じゃない。

 今の自分は──アインズ・ウール・ゴウンなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 <飛行>(フライ)の魔法の効果時間が迫ってきたので慌てて地面に着地する。

 慌てたせいか。宿の前ではなく広場についてしまった。

 ここから宿への道がわからないが最悪また<飛行>(フライ)で飛ぶか転移魔法で西門まで飛びそこから歩いて行くというのありだろう。

 流石に案内系の魔法などを使うのは恥ずかしいので最終手段だ。

 

 

 地図でも貰っておけばよかった、と後悔していると道の先から人が歩いてくる。

 数は恐らく12……いや15人だろう。

 全員が同じローブを纏った集団でありそのローブは先ほど見た……セレスティーヌの護衛にいた者達が来ていたのと非常に酷似。いや同質だろう。

 恐らくは魔術師協会の者か。

 しかし何人かは足がふらついており飲み屋──この世界で言う酒場か──で飲んできた後だろう。

 近づくと面倒ごとになりそうなのですぐにその場から離れようとする。

 この手の酔っぱらに近づいてもいいことなどないのだ。

 

 

「おい、そこの魔術師!」

 

 

 ──しかしまわりこまれてしまった! 

 

 

 実際に回り込まれたわけではないが心情としてそんな感じだ。

 

 

「……なんでしょうか?」

 

 

「お前、さっきセレスティーヌ様とレム様のところにいた魔術師だろ? なんでこんなところにいるんだよ」

 

 

 集団の一人が前にでて突っかかってくる。

 さっきはわからなかったが声を聴いてわかった、先ほどセレスティーヌの護衛にいた男だ。

 確か名はガラクだったか。

 

「少し外の空気を吸いに来ているだけですよ」

 

 これをどう切り抜けるか。

 全員殺す、というのが頭に浮かぶが殺した場合魔術師協会から何か言われるだろうし、そもそも殺せるかも不明だ。

 アインズのレベルは100、ユグドラシルでのカンストではある。

 しかしこの世界の住人もそれとは限らない。

 それこそ最悪を想定する場合、一般人がレベル1000とかいう事態もあり得るのだ。

 

 ガラクのような魔術師協会に所属する者や冒険者のように

 戦いを生業とする者たちの平均レベルが2000ということだってありえるだろう。

 ここで戦う(殺す)というのはリスクが高すぎる。

 どうにか回避しなければ。

 

 

「レム様のお付きのくせに、一人外でサボってるのか!」

 

 

 

 しかしガラクはこちらと話す気はなく。自分だけの理論で話を進めている。

 恐らく酔って支離滅裂な言動をしているのだろう自分でも何を言っているのかわかっていないんじゃなかろうか。

 ガラクはポケットからデータクリスタルのようなものを取り出し。投げるように構える。

 

「召喚獣、か?」

 

 

 召喚獣。

 ユグドラシルでのモノとは違いクリスタルに封じられているモノ。

 基本的には術者のレベルに応じて呼び出されるモノの強さも変わるという。

 また突発的に召喚するということができずあらかじめ召喚し。召喚獣と契約を結ぶことで使役することが可能になるという者モノ。

 レムは七体の召喚獣と契約し使役していると自慢していた。

 

「そうだ! 次期魔術師協会の長に近い僕は、強力な召喚獣だって持っている! 

 貴様など踏みつぶせるほどの召喚獣をだ! 

 そうされたくなかったら、『二度とレム様に近づきません』と誓え! そうすれば殺さないでやる」

 

 

 どこまでも自分本位な思考に嫌気がさす。

 踏みつぶされたくなかったらだの。殺さないでやるだの、いったい何様のつもりなのか。

 

「……お前はいったいなんなんだ?」

 

 絶望のオーラ:レベル1を発動する。

 効果は範囲内の敵に恐怖の状態異常を与えるというスキルだ。

 しかし恐怖という精神系の攻撃に分類されるため、ユグドラシルではほぼ効果の無いスキルだ。

 だが彼らには抜群だったようでガラク以外の何人か腰を抜かしている。

 

 恐怖に駆られたガラクがクリスタルを地面に投げつける。

 

「こ、こい! サラマンダー!」

 

 

 ガラクが叫ぶとともに熱気と共に獣が現れる。

 見た目は赤い蜥蜴。といったところか。

 炎に包まれたその姿は見るものを圧倒するだろう。

 アインズのアバターは長身ではあるがそれでも見上げねばならないほどのサイズだ。

 目算だが4mぐらいだろう。

 

 

「は、はははは! レベル30の召喚獣! 鉄をも溶かす息吹! 刃を通さぬ鱗! 

 どうだ魔術師! 謝罪するなら、殺さないでやるぞ!」

 

 

 ──レベル30、だと。

 いやガラクに認識のレベル30とアインズでのレベル30という認識があってるかわからないが。それでも驚愕する、

 それは弱いんじゃないか、と。

 

 今もこのサラマンダーはアインズの絶望のオーラに震えているし。鉄をも溶かす息吹と言ったが鉄程度を溶かしてなんだというのだろうか。

 序盤の序盤でしか使わないようなゴミ金属を溶かすというのは強いのか? 

 だが油断はしない。出来ない。如何にこのサラマンダーが恐怖に怯えていようともここは異世界だ。

 ガラクの認識している鉄がユグドラシルでいう七色鉱のような最上位金属ということもある。

 故にこそ慢心できない。まだ相手がこっちを見下している間に無詠唱化した<飛行>(フライ)を唱えておく。

 

「お、おいガラク、流石にやりすぎだ、街中で召喚獣なんて──」

 

「うるさい! これは制裁なんだよ!」

 

 

 取り巻きの制止を拒絶し。サラマンダーに命令を下す。

 

「焼き殺せ! サラマンダー!」

 

「シャァァァァァ!」

 

 ガラクが命令を下した瞬間に転移魔法をいつでも発動できるように構える。

 そして一拍遅れてサラマンダーが口を開く。

 その様は恐怖を無理やり抑え込んでいるようであり。絶望のオーラによる影響を契約主からの命令で無理やり打ち消したかのようだ。

 大きく開いた口に炎が集りアインズに向かってくる。

 

 

 

 そして──サラマンダーの息吹がアインズに直撃する。

 

 

「はは! 思い知ったか!」

 

 

 ──炎の中から無傷のアインズが現れる。

 

「は、はぁ?! どういうことだよ!」

 

 ガラクが恐怖の声を上げる。

 

「上位物理無効化……低位のモンスターやデータ(魔力)量の少ない武器での攻撃を無効化する常時発動型特殊技術(パッシブスキル)だよ」

 

「な、なんだよそれ! サラマンダー! もう一度だ! やれ!」

 

 

 ガラクの命令に従いサラマンダーが息吹を放つ。

 先ほどと同じようにアインズが炎に包まれるも無傷だ。

 カスダメージ(1ダメ)も入らない。

 息吹の効果範囲にあった石の地面は溶け。更にはアインズが立っているところさえも融解しているというのに。

 熱気に包まれておりこれが現実なら火傷を負っていただろう。

 アインズは完全な骨だから火傷になる皮膚もないのだが。

 

「次はこちらの番だな……<龍雷>(ドラゴン・ライトニング)

 

 指先からサラマンダーに向かって白い龍の形をした雷が向かっていく。

 この夜の中。光り輝く龍は実に幻想的に見える。

 サラマンダーが龍雷を避けようともせず、直撃する。

 そして──白く輝きのたうち回りながら死に至る。

 

 地に伏したサラマンダーの体が光りだす。

 もう死んだとは思うが。年の為に<特殊技術>(スキル)を警戒する。

 だが警戒する必要はなかったらしい。サラマンダーの巨体が消え後に残ったのは黒いクリスタルのみ。

 

「なるほど……ユグドラシルとは違い、倒すとクリスタルに戻るのか、興味深いな」

 

 ガラクが腰を抜かし倒れこむ。

 

「しかし……今のがレベル30のモン……召喚獣か? それよりもっと弱く思えるが」

 

「な、なんだと!」

 

 アインズの台詞が煽っているように聞こえたのか、激高し立ち上がる。

 だが煽りなどではなく、これはアインズの本心だ。

 レベル30のモンスターならば、死霊系に特化したアインズの第五位階魔法程度耐えれるはず。

 しかし実際は即死という結果。

 この世界に来て魔法の威力が増加したのか、あるいはレベル30という謳い文句が違ったのか。

 アインズの疑問を他所に、ガラクが喚き散らす。

 

 

「お、お前たちも召喚獣をだせ!」

 

「し、しかし街中で召喚獣は……」

 

「いいからだせ! 責任は僕がとる!」

 

 

 渋々と集団が懐からクリスタルを取り出し地面に投げつける。

 砕けたクリスタルから召喚獣が湧いて出てくる。

 赤。青。緑。黄色。

 各種様々な色をした大鷲のような人一人ぐらいなら乗れそうなサイズの召喚獣だ。

 しかし眼などはなく。色をそのまま鳥の形にしたような姿をしている。

 更にガラクが追加で召喚獣を呼び出す。

 

 現れたのは大きな闘牛のような召喚獣。

 全体的に赤いが、角だけは黒色となっている。

 しかし大きいといっても先のサラマンダーのような4m級もなく。人より大きい程度。推定2mぐらいだろう。

 それでも一般人なら軽くひき肉に出来る程の力はありそうだが。

 

「ど、どうだ! これだけの戦力! お前がどれだけ強かろうと! この戦力の前では赤子同然! 

 魔術師協会に歯向かったこと、後悔するがいい!」

 

 

 いつからアインズは魔術師協会と戦っていることになったのだろうか。

 そのうち『俺が、俺こそが魔術師協会だ……!』とか言い出しそうで少し怖くなってくる。

 

「やれ! お前たち! 奴を殺せ!」

 

 

 ついに殺せ、ときたか。

 召喚獣たちが己の体を千切って飛ばしてくるがすべてアインズに当たる前に消滅する。

 上位物理無効化・上位魔法無効化どちらの作用化まではわからないが。

 ガラクが取り巻きの攻撃が効かないとわかると自分が呼び出した奴に突撃するように命令をする。

 

 

 

「面倒だな……<連鎖する龍雷>(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 

 先ほど同様に指先から白い龍が飛び出しガラクの召喚獣にぶつかる。

 しかし雷が消えることはなく続けさまに取り巻きの召喚獣に散っていく。

 この世界に来てから初めて使ったがガラクたちを巻き込むことなく召喚獣だけを標的(ターゲティング)

 できたようだ。

 

 一瞬の静寂の後。残ったのは焼き焦げた石の地面。

 そこに召喚獣が居たという痕跡一つ残さず消え去った。

 

 

「ひ……な、なんなんだ、何だよお前!」

 

「私は──アインズ・ウール・ゴウン、今はただの旅人だよ」

 




ガラクが召喚獣をサラマンダー以外持っている
ガラクが召喚したオリジナル召喚獣

上位物理無効化でサラマンダーの吐息を防げる
上位物理無効化で≪~の精≫シリーズの攻撃を防げる

アインズの心情
過去に別ゲーやらない?って誘われてたけどユグドラシルに固執ていうか執着してたアインズ様ならこうなるかなーという独自解釈です
栄光が何一つ残らないって状況から完全に消えたから貼っちゃける感じです
永続的な深夜テンション


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冒険者協会

独自展開と独自解釈来ます
アインズ様最大の危機到来

ストック無くなりそうです


2022/11/26 10:39
誤字報告ありがとうございます
適応しました

2022/11/27 15:54
誤字報告ありがとうございます
適応しました


 翌日。

 宿に戻ったらベッドでレムとシェラが仲良く寝て寝る場所がないということ以外は普通に夜を過ごした。

 眠ることができないアンデッドなので椅子に座ってユクドラシルのゲーム内書籍を読んで過ごすことになった。

 眠ることもできない、というのはこういう時寂しく感じる。

 

「ん~」

 

 シェラが起きる。

 それに合わせてレムも目を覚ます。

 

 まだ寝ぼけているのかレムはシェラが居ることを理解できてなさそうだ。

 

「これは……おはようございます、アインズ。すみません、ベッドを占領してしまって……」

 

「なに、大丈夫だ、私はそもそも眠れないからな」

 

 ははっ、と軽く笑う。

 アンデッドジョーク。

 

「……眠れない?」

 

「ん? 言ってなかったか、私はアンデッドという種族でな、睡眠と食事ができないのだよ」

 

「そんな……それは、その……」

 

「あ──そこまで深刻に捉えなくていいぞ、(まともな)食事や睡眠はしたことないから、どういうものなのかわからないしな」

 

「……そう、ですか」

 

 

 これ絶対深刻に捉えれている奴だ。

 食事は現実ではブロック食などのまともじゃないのしかしたことないので結構してみたかったりするが

 そこら辺はアンデッドの種族特性がいい感じに働いてくれるのかそこまで興味がわかない。

 流れ星の指輪(シューティングスター)等を使ってでも食べたい! と思わないのはどう思えばいいのだろうか。

 

「今日は冒険者協会に行こうと思うのですが……二人はどうしますか?」

 

 

 ──冒険者協会。

 昨日の話では人族が所属する組織の一つで魔族と戦う『冒険者』が所属する組織。

 しかし魔族と戦っていたのは30年以上も前の話で最近では魔族と戦うなんてことはなく。魔獣やモンスターと戦っているとか。

 

「そのことなんだが……」

 

 

心を決める。

 

「私を……君たちの仲間に入れてほしい」

 

 

どうなるか。

受け入れてくれるだろうか。

普通に考えればないだろう。

いかにアインズが彼女たちに召喚された存在だとしても、異世界のアンデッド等仲間として受け入れられるわけがない。

 

「うん、いいよー」

 

「ちょ、シェラ!」

 

 

ーーあれ、思ったよりいけそうだ。

シェラは即答で表情を見る限り受け入れられそうだし。レムも突然のことに驚いているというだけで、こちらを拒絶してきているわけではない。

 

「私が召喚したし?私たちが仲間になるのも当然じゃない?」

 

「ぐぬっ……」

 

 

確かにシェラ・レムが召喚したのだからある程度責任を取る必要もあるだろう。

 

そのまま数分レムが百面相する。

怒ったり困惑したり。

実に表情豊かで見てて飽きない。

 

「…………わかりました、仲間になりましょう」

 

観念、と声を絞り出す。

葛藤があったのだろう。

アインズを呼び出してしまったという責任などが。

 

「ただし!あくまで冒険仲間(パーティー)を組むだけですからね!」

 

「えー……けどいいよ!いつか一生の仲間になってもらうから!」

 

ふふん、と胸を張るシェラに対し頻りに腹を撫でているレム。

腹が冷えたのだろうか。

 

「ああ、よろしく頼む、二人とも」

 

すっと。手を伸ばす。

ガントレットの無い、骸の手を。

二人はそれをなんの躊躇いもなく握った。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「うん!よろしく、アインズ!レム!」

 

 

 

 

 

 その後一階の食事処で朝食をとった後冒険者協会に向かうことになった。

 しかし二人が食事している間、アインズだけは食事をしなかった(できなかった)ので他の客や宿の店員に不審な目を向けられてしまった。

 いずれこれもどうにかしなければならないだろう。

 一時的にでも別種族へ変更できる魔法やアイテムを持っていればよかったが、生憎と今は持っていない。

 ナザリックの宝物殿にならあるかもしれないが……ナザリックがない以上無いもの強請りという奴だ。

 

 宿をでて。目的地へ向かい歩いて行く。

 

 街中にいるのは亜人種ばかりだ。

 エルフ。豹人族。グラスウォーカー。

 この中に人間はいない。

 レムが言うにここは『亜人地区』らしく人間は近寄らないらしい。

 差別はこの世界にもある、ということだろう。

 ユクドラシルのように街に入れないということもないのでユクドラシル程酷くはなさそうだが。

 

 

 そのまま歩いていると目的地の冒険者協会が見えてくる。

 宿や他の家々よりも二回りほど大きい。

 

 中は二階建てのようで一階が酒場で内装は宿に似ている。

 カウンターと複数のテーブルがあるが宿とは雰囲気が違う。

 更には一階にいる冒険者たちはガラが悪い人物が多い。

 人間 エルフ 豹人族 街中では見ることのなかった混魔族。

 様々な種族がいるがやはり、アインズと同じアンデッドや異形種は見当たらない。

 顔が割れたら面倒なことになりそうだ。

 しかし今にも喧嘩が始まりそうなくらいにピリピリしている。

 

 

「おおん! やんのかてめぇ!」

 

「上等だごらやってやるよ!」

 

 

 というか喧嘩をしだした。

 周りは止めることなく、なんならテーブルをどけて喧嘩しやすくしている。

 その周りでヤジを飛ばし「やれ! そこだ!」「拳を引っ込めるな!」

 等と好き勝手叫んでいる。

 ……冒険者とはチンピラの集まりなのだろうか。

 それを見てシェラが怯えている。

 

 

 だがアインズには関係ないことと思っていたら、ヤジを飛ばしていた者の何人かがアインズの方を見てくる。

 

「あの男はなんだ?」

 

「レムさんと一緒にいるってことは戦士か?」

 

「一緒にいるのはあの性を持つエルフの嬢ちゃんだよな、なんであんな変なのといるんだ?」

 

 

 変なのて。

 否定はできないが。

 仮面をつけた邪悪な風貌の魔術師というのはどういう風に映るのだろうか。

 気にすることはない。と無視して二階への階段へ歩いて行くが男が割り込んでくる。

 

 

「はっはー! まてぃ怪しげな奴!」

 

 

 どうやら他の冒険者と違い、直接言ってくる度胸はあるらしい。

 

 

「……エミール」

 

 彼の名はエミールというらしい。

 しかし派手にすぎる格好をしている。

 腰に下げた剣を見るに剣士系の職業なのだろう。

 全身鎧を着ているのを見るに重装系の戦士か? 

 しかし何よりも特徴的なのは鎧の色だ。

 金色でできている。

 一々窓から入ってくる光を反射しているのでちょっと鬱陶しい。

 本物の黄金なのかどうかはわからないが少なくとも目立ちたがり屋ではあるらしい。

 

「そう! 俺はエミール・ビュシェルベルジェール! 

 全ての女性の味方であーる!」

 

「……それで、私に何の用でしょうか?」

 

「いやな? 仮面をつけた怪しげな奴が、レムちゃんとシェラちゃんに付きまとってると

 そういう噂を聞いたのでな、真偽を確かめに来たのだ」

 

 

 流石に一日経つと噂にもなるらしい。

 しかし他の冒険者も聞き耳を立てているため下手な回答はできない。

 これで変なことを言ったら冒険者になるどころか冒険者たちから追い回される事態になりかねん。

 やはりレムは冒険者からも人目置かれる人物のようだし。シェラも何かしら気には欠けられているようだし。

 

「なるほど、なるほど ですがそれはただの噂です

 私は彼女たちに付きまとってるわけではなく、彼女たちの仲間です」

 

堂々と、胸を張って言う。

もう一人ではないから。

 

「えぇ、アインズは私たちの仲間です

 何かされている、ということはありません」

 

「ほっほーう?」

 

 

 エミールはこちらを訝しむように見つめてくる。

 それは仮面の向こうにある眼を見てるようだ*1

 

 

「なるほど、嘘ではないようだ」

 

 

 そしてエミールは芝居かかったようにマントを閃かせる。

 

 

「俺はエミール・ビュシェルベルジェール! 

 全ての女性と、女性の味方の味方である

 何か困ったことがあれば俺を頼るといい!」

 

 

 はっはっはと笑いながら翻し、出ていった。

 一体なんだったんだろうか。

 しかし彼との会話が終わってから周囲の冒険者の見る目が少し変わった気がする。

 先ほどまでは『なんだこいつ』という目だったのが『悪い奴ではない』ぐらいにはなったようだ。

 

 

「先ほどのエミールというのは、有名人なのか?」

 

「……えぇ、確かレベル50の戦士で『怪力戦士』の異名を持っていたはずです」

 

「ほう、レベル50かそれはすごい」

 

 レベル50。

 昨夜戦ったサラマンダーよりも高い。

 ということはあれか、ガラクの言っていたのが少し信用できなくなってくる。

 元から泥酔状態っぽい人間のことなど信用できようもないが。

 

 あの人ちょっと馬鹿っぽいよね。というシェラの台詞を聞き流しながら階段を上って二階にたどり着く。

 

 

 一階と違い酒場と併設されているわけではなく。受付しかない。

 受付には右から青、赤、黄の服をした同じ顔の女性が座っている。

 頭から生えている耳を見るに<ドワーフ>だろう。

 どうやらこの世界のドワーフはユクドラシルと違い獣人種に分類されるらしい。

 長い耳に長い尻尾。

 凡そユクドラシルでのドワーフとはかけ離れた姿だ。

 少し凝視してしまったがそのままシェラが歩きだしたのでそれに続く。

 受け付けは青い服の者がするらしいので。そこに並ぶ。

 

「はいはーい! 私が先にしてもいい!」

 

「……別にいいが、冒険者登録してなかったのか?」

 

「うん、まだここにきて日が浅かったし」

 

 えへへ、とはにかむシェラ。

 冒険者たちにも存在を知られてたのでこの街に来て長いかと思ったがそんなことはなかったらしい。

 

 

「冒険者登録ですね。名前と出身国を書いてください」

 

 はーい、と素直に書いていく。

 名前以外にも出身国も聞かれるのか。

 すらすらと書き終わったシェラが提出する。

 

「はい、シェラ・L・グリーンウッド……出身はグリーンウッド……?」

 

「え~と……はい、問題ない……ですね」

 

 

 ──やはりこの受付の反応。

 冒険者たちの戸惑い。

 そして苗字と国の名前が同じということ。

 もしかしたらシェラはグリーンウッドという国のそれなりの立場なのかもしれない。

 貴族階級かなにかか……もしかすると王族ということも? 

 流石に王族がこんなところにいるとは思えないし。そもそもこの世界に王族などが存在するかわからないが。

 

 

「はいでしたら次は職業適性を調べます 希望があれば教えてください、無い場合は戦士・射手・魔術師、すべて受けていただきます」

 

「はいはーい! もちろん召喚術師!」

 

「はい、魔術師ですね、でしたらこちらに血判をお願いします」

 

 

 血判。

 血。

 

 

「……えっ」

 

 沈静化。

 まずい、すごくまずい。

 血判なんて必要なんだというシェラの声を聞き流しながら焦る。

 思わずという風に手を見つめてしまう。

 

 ──血がねぇ。

 

 

 貧血とかそういうのではなく血そのものがない。

 アインズは骨だ。

 むしろ骨以外に何もない。

 薄皮一枚無い完全な骸骨。

 つまるところ血判なんてものはできない。

 致命的弱点。

 

 

 どうする? どうするのが最善だ? 

 

 

 幻術で誤魔化す──

 この場は切り抜けられるが後で書類を確認されたときにバレる。

 対象に一時的に幻術をかける魔法は習得しているが永続的なものは覚えてない。

 

 

<時間停止>してポーションをかける

 無理。

 ポーションはただの液体で、血のようにドロドロしていないのですぐにバレるし。

 そもそも触れると回復効果が出るのでバレる。

 

 

<時間停止>してモンスターを召喚してそいつの血を使う。

 無理。

 モンスターが出すパーティクルは召喚したモンスターが消えたら消えるし。

 更にモンスターの血が赤いかわからない。

 青かったり緑かもしれない以上下手に使うのはまずい。

 そもそも時間停止中にダメージを与えることはできないので破綻している。

 

 

 これは……詰んだか? 

 

 

 いや、まだだ、まだ終わらん。

 いざとなればシューティングスターを使って……

 それは流石にやりすぎだな。

 別に冒険者登録しなければ冒険できないなんてことはないだろう。

 アインズは衣食住はなくても活動できる存在(アンデッド)だ。

 いざとなればどうとでもなる。

 

「あ、ああアインズ……ど、どうしましょう」

 

 

 震えながらレムがアインズの服の裾を掴んでくる。

 アインズが骨ということに気づき慌てたのだろう。

 この震え用からするとアインズが何かしでかすとでも思っているのだろうか。

 

 

「あ、そういえばアインズってほ──ムぐ」

 

 

 レムがシェラの口を閉ざす。

 こんなところでそんなことを言えば大変なことになる。

 

「なに、大した問題じゃない、どうにかなる……多分」

 

 はは、と乾いた笑いがこぼれる。

 現状特に解決法が思いつかない以上、冒険者登録は無理だろう。

 まさか血がないということで登録すらできないとは。

 シェラが察したのか。書面を書くのに戻る。

 けれどこちらをちらちら見てくる。

 それを見ている受付嬢が訝しんでる。

 

 

「私の血を、使ってください」

 

「なに?」

 

 レムが小声で解決策を提案してくる。

 確かにそれなら登録できる。

 レムに傷をつけ血をだし、<時間停止>しそれを指で掬う。

 指を斬る動作や血がでるところは幻術で誤魔化せば解決する。

 

「いいのか?」

 

「仲間外れ、というのは嫌ですから」

 

「……ありがとう、では私が指を切る時に血をだしてくれ、後はどうにかする」

 

「わかりました」

 

 

 そうこう話していると次はアインズの番だ。

 文字が解らないのでシェラに書いてもらうことになった。

 もう一回書けるーと喜んでいた。

 名前はアインズ・ウール・ゴウン 出身国はユクドラシルとした。

 

「では血判をお願いします」

 

 小さいナイフが手渡される。

 指を切るぐらいなら丁度いいサイズだ。

 

 小手を外し、幻術で人間の手に見せる。

 そのままナイフで指を切るようにみせる。

 アインズが指を切る動作をすると同時にレムが自身の爪で指を斬る。

 

 

 <魔法無詠唱化時間停止>(サイレンスマジック・タイムストップ)

 

 

 シン──とすべての音が消える。

 布ずれや呼吸音も聞こえぬ無音の世界。

 

 

 流石に受付嬢は時間停止に耐性を持っていなかったのでちゃんと効果はでているらしい。

 そっとレムの指から血を掬う。

 どうやら豹人族の血も赤いらしく。これなら誤魔化せるだろう。

 流石に人間の血は赤のはずなので問題はないはずだ。

 もし違ったとしてもこれからは幻術で豹人族に見せれば問題なし。

 

 

 そして音が戻ってくる。

 アインズ以外には何が起こったかわかっていないようだ。

 ただ一人レムだけが指の血が減ったことに気づいている。

 そのままレムの血を書類に押し付ける。

 

「はい、これで冒険者登録は完了です

 えっと、魔術師のレベルを図るので、こちらまで来てください」

 

 

 次に案内されたのは大きな鏡だ。

 レムはもちろんシェラやアインズも全身映るサイズの大きめな物だ。

 しかしレンズは曇っており、反射できていない。

 

 

「これに魔力を込めてください」

 

「はーい! まずは私から!」

 

 

 シェラが鏡に触れる。

 すると曇っていた鏡が変化しだす。

 上の方から徐々に変わっていき、ちょうどシェラの胸が映る程度の場所で変化は止まった。

 

「えっと……まつ毛の数がわかるぐらいはっきり映るのが胸元までなので……

 レベルは30ですね!」

 

 

「30? そんなぁ……」

 

 がっくり、とシェラが残念そうな声を出す。

 どうやら望んだレベルではなかったらしい。

 

「次は私だな」

 

 

 続いてアインズが鏡に触れる。

 魔力を込める、というのがよくわからないが魔法を使うように意識を集中する。

 すると──

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 鏡が黒く染まる。

 そこから黒いオーラがあふれ出す。

 それはアインズどころか建物全体を包むように広がる。

 

「これは……?」

 

「な、何か怖い」

 

 

 すぐさま手を離すと黒いオーラは消え去る。

 が──

 

 

「あ」

 

「あ」

 

「え」

 

「うそ」

 

 

 ──鏡がパリン、といい音を鳴らして割れた。

 割れた鏡が地面にカラカラと落ちる。

 何故。

 レベル100の魔術師を測ることはできないのか。

 あるいはアインズがユクドラシルの存在だからか。

 思考を回転する暇もなく、ドタバタと足音が響く。

 

 

「今の波動、何!?」

 

「ぎ、ギルマス!」

 

 

 受付の奥から出てきたのは幼い少女だ。

 種族は恐らくグラスウォーカー。

 頭から兎の用に長い耳を生やしている。

 特徴的なのは服装だ。

 ほぼ痴女と言ってもいい格好をしている。

 胸と股間のみを隠す布だけの服装。

 

 こちらを見ると真っ直ぐ歩き、アインズの前までくる。

 

 

「これは君がやったのかな?」

 

「……えぇ、私がやりました」

 

 気分はさながら警察に自首する犯人だ。

 黒いオーラが出たのはともかく。鏡が割れたのはほぼアインズの性だろう。

 つまり修理費などを請求されるだろう。

 そしてアインズは無一文。

 積みである。

 

 

「奥で話したいんだけど、いいかな?」

 

「……はい……」

 

 

 とぼとぼと、これで冒険できるという高揚感はどこぞへ消え失せ歩く。

 転移で逃げて再スタートできないかなと現実逃避しながら歩く。

 

 

 

 

 ■

 

 案内されたのは六畳一間ほどの部屋。

 奥に作業机と椅子があり、入り口の近くには来客用だろう低めの長机に両端にはソファーが設置されている。

 レム・アインズ・シェラの準で座り反対側に一人ギルマスが座っている。

 先ほど提出したシェラとアインズの書類を見ている。

 

 

「ボクはこのファルトラ市のギルドマスター、シルヴィ。よろしく、アインズさん、シェラさん」

 

 

 ギルマス、シルヴィは書類を机に置き話を進める。

 

「シェラちゃんは問題ないけど……アインズさん、あなたをうちで受け入れるのは無理かな」

 

「……それはやはり、鏡を割ったのが原因でしょうか、ならば──」

 

「ああ、それは関係ないよ、計測器が割れたのはこちらの不手際でもあるからね

 理由は単に、あなたのレベルがわからない以上どのレベルの依頼を任せたらいいかわからないの」

 

「ああ、なるほどそういうことですか」

 

 

 レベルがわからないというのはギルマスの立場からすると非常に困ったものだろう。

 どの依頼なら達成できて。どのレベルなら達成できないのかわからない以上下手に依頼を任せれない。

 鏡が割れた以上アインズが只者ではないとはわかるだろうが。それ以上がわかりようがない。

 

「そそ、うちじゃあなたを扱いきれない

 だからまぁ、今回はご縁がなかったということで」

 

「なら、こういうのはどうでしょう?」

 

「……うん?」

 

 食いついた。

 鏡が割れた件でなく、そういうことならばやりようがある。

 しかし組織の備品を壊してしまった以上、どうにかする必要もある。

 こういったことをするのはアインズ(営業)の分野だ。

 

「シェラさんの魔術師としてのレベルは30、そしてレムさんも高レベルの召喚術師で、魔術師協会からも人目置かれている

 そんな彼女たちの……仲間として行動した私もそれなりの強さを持っていると自負しています」

 

「うん!」

 

「私のレベルは……40程です、アインズの強さは、保証します」

 

 肯定的なシェラとレム。

 

「それはわかるけど……『彼女たちが強い』ということはわかっても、君自身が強いとはわからないんじゃない? 

 それこそ、アインズさんがレムさんに寄生してるヒモ男、なんてことも」

 

「ええ、ですのでそちらでレムさんとシェラさんなら達成できる依頼を見繕くろい

 その依頼をこの私が達成する……ていうのはどうでしょう?」

 

「へぇ?」

 

「これならば私の強さがわかりますし、どの依頼を任せればいいのかもわかる

 先ほどシルヴィさんも言ったように彼女たちに任せてしまうということも考えられるので

 ……お手数ですがギルドから監視員を派遣し私の監視をしてもらう」

 

 

 というのはどうでしょう──そう言い終わる前に、シルヴィが笑いだす。

 

 

「あっはっはっは! アインズさん! 面白いことを言うね! 

 まるで商人を相手にしてるみたいだよ」

 

「なら、この提案を受け入れてくださるということですか?」

 

 

「うん、いいよ

 レムさんや、あの性を持つシェラさんと行動を共にする突如現れた不審者……

 冒険者協会としても、君の実力を測る必要がある」

 

 

 ぶっちゃけたなこのギルマス。

 

 

「だから、この依頼を受けてもらおうか」

 

 

 シルヴィが椅子から降り、作業机に置かれていた書類を一つ持ってくる。

 それをアインズに手渡してくるが、文字が読めないのでレムに読んでもらう。

 

「これは……マダラスネイクの目玉採取の依頼?」

 

「そう! アインズさんには是非ともボクと一緒に(・・・・・・)、人食いの森まで行ってもらおうか!」

 

 

 シルヴィはいい笑顔で言った。

*1
目があるとは言ってない




なぜシルヴィがついて行ったか
詳細は次回


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人食いの森

今回結構独自展開ていうか解釈強いです
強めのハーブぐらい強いです
苦手な方はブラウザバック推奨です


2022/12/4 11:00
誤字報告ありがとうございます
適応しました


「──はい?」

 

 口から出たのは疑問。

 ギルドマスターという立場の人間が、監視につく? 

 

 

「君が何者か。そして何をするのかわからない以上ボクがついてくのが一番安全だと思ってね

 あ、拒否権はないから、よろしく」

 

 

 いい笑顔でとんでもないことを言ってくる。

 しかし冷静になればわからないことでもないが──

 

「……人食いの森は危険と聞きます、何があるかわかりませんよ?」

 

「大丈夫だよーボク……強いから」

 

「──なるほど、ならば問題ありませんね」

 

 

 暗にまだ信用してないぞ、という脅しだろう。

 人食いの森でシルヴィを害してもどうにかできる手段があるのだろう。

 それが戦士としての能力か魔術師としての能力かまではわからないが。

 

 

 つまりアインズはまだ信用されてない。

 当たり前と言えば当たり前だが。

 ここで下手な監視員を派遣しそれをアインズに殺される……ということを危惧しているのだろう。

 だからと言ってギルマス本人が来るというのは予想外にも程があるが。

 

 

「わかりました、では依頼を達成するとしましょう」

 

 

 

 思惑が絡み合う会合はこれにて終わった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 執務室からでる。

 ため息を尽きたくなるが我慢する。

 本来のアインズの営業手腕としては事前に相手のニーズをつかみ。それを元に企画を立ち上げる。

 相手から来るであろう質問も一通り予想しシミュレーションしてから挑むという物。

 今回のような突発的なものは不得意にすぎる。

 

 なんとか形にはできたと思うが、これは『失敗』にはならなかっただけと思うべきだろう。

 つまり成功もできていない。

 今だシルヴィからの不信感は拭えてないし。ギルド全体からも信用されていない。

 すぐに信用も信頼もされることはないがそれでもやはり冒険者や受付の者たちからの視線が痛い。

 あれか、やはり仮面がいけないのだろうか。

 

 

「どうしましたか? アインズ」

 

「……いや、何でもない、少し考え事をしていただけだ」

 

 

 少し考えすぎたのか。レムに心配されてしまった。

 というか異世界転移に突発的な魔術師協会との戦闘。

 更にはギルマスとの会談。

 以下に疲労をしないアンデッドであろうとも。精神的な疲労まではどうにかしてくれないらしい。

 

 

「……ん?」

 

 

 階段を降りる途中、昨夜見たローブを纏った人物と目があった。

 つまりは魔術師協会の人物。

 昨夜戦ったガラクだ。

 

「ちっ」

 

 舌打ちされた。

 しかしなぜガラクがここに? 

 昨夜戦ったというのに何故表を出歩いている? 

 昨夜の取り巻きの言からするに街中での召喚獣の召喚・及び戦闘は問題行為のはず。

 そのはずなのになぜこんなところを出歩いている? 

 

 

「どうしたのー? アインズさん」

 

「ギルドマスター……先ほど受けた以来、依頼主は?」

 

「ん-魔術師協会だけど……どうしたの?」

 

「となると、依頼を持ってきたのは彼では?」

 

 

 顔をガラクに向ける。

 ガラクはこちらを見向きもせず階段を上っている。

 

 

 

「そうだよー……それがどうかしたのかな?」

 

 

「いえ、少し気になっただけですよ」

 

 

 となると、少し面倒なことになりそうだ。

 ここで殺すというのもありだがそれよりはシルヴィから聞き出す方がいいだろう。

 そう考え。冒険者協会からでる。

 すぐさまシルヴィが走り出す。

 

 何かあったのかと警戒するが──

 

 

「やっほー! エミール君! 今暇?」

 

「おお! ギルマス、何かあったのか?」

 

 

 エミールがいた。

 先ほどもあった黄金鎧を着た人間。

 どうやら関係があったらしい。

 

「いやー、もし暇ならついて行ってもらおうかと思って、ね」

 

 

 目が笑っていない。

 

「ふむ、特段依頼を受けているわけでもない。引き受けよう! 

 なにせ俺は全ての女性と、女性の味方の味方である!」

 

 

 はーっはっは、という笑い声が聞こえる。

 

 

 アインズ(アンデッド)・シェラ(エルフ)・レム(豹人族)・シルヴィ(グラスウォーカー)・エミール(人間)

 中々変なパーティが生まれた。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 街を抜けウルグ橋砦を抜け。人食いの森へ歩き進む。

 シルヴィ曰く片道三時間かかるという。

 それだけの時間をただ歩いて移動するというのも只々疲れるのでアインズとシルヴィ以外は雑談に興じている。

 主にエミールがシェラとレムに話しかけているだけだが。

 

 

 

 草原の中を長時間無言で歩き続ける。

 流石に気まずくなってきたのでシルヴィに話題をふる。

 

 

「こういった長時間の移動でも徒歩なので? 馬車等の移動手段を使うことは?」

 

 

 地味に気になっていたことだ。

 ユクドラシルでの移動手段はもっぱら転移や<飛行>の魔法。あるいは騎乗用の魔獣などを用いる。

 このように平原を唯の徒歩というのはあまりしない。

 無論移動速度特化のプレイヤー等なら下手に飛んだり魔獣を使うより走った方が早いというのもあるが。

 あるいは魔法詠唱者がMPがつきて徒歩で帰る。というのも。

 だいたいは転移の巻物などを持っているので早々ないが。

 

 

「馬車? そんなの使わないよ日を跨ぐ程距離があるわけでもないしね」

 

「ではただの徒歩が基本移動と? それでは目的地に着く前に疲労するのでは?」

 

「そんなことはないよー? それぐらいで疲労する用じゃ冒険者としてやっていけないし」

 

「なるほど。体力作りも兼ねていると……疲労を無効化するマジックアイテムはないのですか?」

 

「…………疲労を無効化? そんなふざけた物はないよ。そんなのがあったらいいと思うけどねー」

 

 

 ふざけたとは。

 ユクドラシルでは人間種では必須アイテムの一つだ。

 実際アインズも必要性がないのにいくつか持っていたりする。

 アインズのようなアンデッド等は種族的に疲労を無効化するので必要ないけれど。

 

 

「なるほどでは<飛行>(フライ)や転移のような長距離を移動する手段は?」

 

「いやそんなのないよ、何それ」

 

「では召喚獣は? 騎乗可能な者を呼び出し移動する、などは」

 

「ん-、可能だけどよっぽどの必要性がないとしないよ? 

 召喚獣の召喚や使役にはお金がかかるからね。お金持ちなら移動用のを持ってもおかしくないけど

 移動専用の召喚獣はあんまり聞かないね」

 

「なるほど、勉強になります」

 

 

 

 実に原始的な移動方法だ。

 あるいは地球の人間とは生物的に根本から違うが故か? 

 もしくは亜人種は疲労を感じにくい等。

 というかエミールは全身鎧を着て普通に歩いている。

 軽量化の魔法などをかけても十数キロはあるのを着て平然と凡そ二時間半もの間歩いてるのは流石『怪力戦士』といったところか。

 

 

「ていうかさー、アインズさん」

 

「なんでしょう?」

 

「どうしてこんな常識(・・)的なことをいくつも聞くの? 

 まるで常識を知らないみたいじゃん」

 

 

 きつい目でこちらを見てくる。

 街中ではないので戦闘になっても問題ない。とでも認識してるのだろうか。

 

 

 

「えぇ、私はこの国の常識を知りません

 私がいたのはユクドラシルというところでして、何一つとて知らないのです

 ですので、こうしていろいろ聞いているのですよ」

 

 

「ふーん? まぁ、そういうことにしておくよ」

 

 

 つまりアインズが何かしても常識を知らなかったですませれるようにという。

 シルヴィにとっては常識を知らない=何をするかわからない。

 更に『自分は常識を知らない』ということを笠に何をしでかすかわからないということでもある。

 飛んだ厄ネタの塊だ。

 

 無論アインズにその気はない。

 全て事実を言っただけだ。

 下手に嘘をつけばその嘘を貫くために嘘を重ねることになる。

 信用や信頼を得たとしても嘘がバレてば全て消え去る。

 そうならないためには下手に嘘をつくより真実を言った方がいい。

 場合によりけりで嘘をついた方がいい時もあるが何一つ知らないこの状態で嘘をつくのは下策だ。

 

 

 不意にできた思考を回せる時間。

 有意義に使わせてもらおう。

 

 

 

 ■

 

 

 あれからさらに二時間半程。

 徒歩で平原を歩き続け。ついたのは人食いの森の入り口。

 ユクドラシルでよく見たようなけれど現実感のある力強い木々や植物が生い茂っている。

 奥の方を見ると沼などがあり。対策しないと沼の中に落ちてしまいそうだ。

 

 

「さて──ここらへんでいいか」

 

「うん、そうだね」

 

 

 

 アインズとシルヴィが距離をとる。

 お互いに臨戦態勢。

 アインズはアイテムボックスから杖を出すことこそしないがいつでも魔法を発動できるように構える。

 シルヴィは腰を下げ。アインズに突撃できるようにしている。

 

 

 

 恐らく職業はファイター。無手を見る限りモンク系の超近接系特化。

 昨夜見た召喚獣を呼び出すクリスタルを所持してないのを見ると最低でも召喚術師ではない。

 しかし外見がモンク系だからと言って魔法……魔術を使ってこないとも限らない。

 レムという前例があるし。ユクドラシルでもこの手の類がいなかったわけではない。

 

 

「ど、どうしたのですか!」

 

「な、なんか怖いよ、二人とも」

 

 

 シェラとレムが突然のことに驚愕している。

 しかしそれに反してエミールが彼女たちの一歩前にでる。

 

 

「安心してくれ、シェラちゃん、レムちゃん

 俺がいる限り──誰も傷つけさせない!」

 

 

 エミールが黄金の剣を構える。

 

 

「なんですかエミール! 意味がわかりません!」

 

「そうだよ! 急にどうしたの!」

 

 

 今だ混乱から二人は抜け出せてない。

 しかしエミールはこの事態を察していたのか。あるいは知っていたのか平然としている。

 それを見ていたシルヴィが答えを言う。

 

 

「大丈夫だよ、シェラちゃん──いや、シェラ王女、これはあなたと、この国を守るためのことだから」

 

 

 え、という言葉はぎりぎりで抑えた。

 王女。

 可能性の一つとして挙げていたが、まさかの王族とはアインズも予測できなかった。

 

 

<下位不死者創造>

 

 創り出すは骨のハゲワシ(ボーン・ヴァルチャー)

 即座に空へ飛びあがり、森の方へ行かせる。

 

 

「……召喚獣? だけど、ちょっと違うね」

 

「似たようなモノとして認識してもらって構いませんよ」

 

 

 アンデッドを呼び出しても即座に攻撃してこない当たり。アインズが攻撃してこない限り戦闘になることはなさそうだ。

 現状は。

 

 

 

「じゃあ、手短に言うと、アインズ・ウール・ゴウン、あなたは今、魔族崇拝者……あるいはスパイの疑いがかかっている」

 

「ほお、魔族崇拝者」

 

 

 なんだそれ。

 恐らく響きからして魔王崇拝者(サタニスト)のようなものか。

 スパイというのは予測できたが魔族崇拝者というのは想定外だ。

 

「つい先日、ファルトラ市周辺にエルフの集団が来たという知らせが来た

 ただのエルフじゃない、王家直属の精鋭部隊だ」

 

「王家直属の?! どうして!」

 

 シェラが頻りに驚いている。

 王女という立場なのにわかっていないのだろうか。

 

 

「シェラ王女、あなたは自身の立場をもっと分かった方がいいよ

 ……話がずれたね、エルフの国の部隊が来て、そこにエルフの王女に接近した者

 それがただのエルフだというのなら、ただの護衛なり何なりで片がつく、けれど来たのは仮面を着けた魔術師

 しかも種族は人間、更に街中でも仮面を一切はずさない」

 

 

 言われてみれば怪しいところしかない。

 

 

「そうくるとエルフの王女に何か(・・)しようとする者としか思えない

 そう、シェラ王女を使ってこの国とエルフの国で戦争を引き起こす──なんてね」

 

 

「あ、アインズはそんなこと!」

 

「しないと断言できる? たった一日ぽっちしか一緒に過ごしてない人を、そんなに信用できるの?」

 

 

 シェラが黙る。

 言い返せないのだろう。

 事実だからアインズも何も言えない。

 

 

「なるほど。だからギルドマスターであるあなたと何があっても対処できるようにとエミール殿が

 ついてきたと。なるほどなるほど」

 

「そう、でこんなピンチになったけど。余裕そうだね? 魔族でも連れてるのかな?」

 

「まさか、そんなのは連れてませんよ」

 

 

 さて、どうするか。

 ここまで来るのに時間があり。いくつかプランを考えたがどれも確実性にかける。

 

 全員殺す。

 是。選択肢としてはあり。ここで全員殺し、どこか遠くの街でやり直す。

 ぶっちゃけこれが一番楽。

 

 説得。

 是。だかできるかわからない。

 やってみてもいいが魔族崇拝者やエルフの国という知らないものが増えた以上。

下手に話しても信じられないだろう。

 

 三つ目。

 アインズ・ウール・ゴウンを人や魔族が制御できるような存在ではないと認識させる。

 またその際にアインズが『ユクドラシル』から来た異形の存在だとばらす。

 是。だが成功するかわからない。

 しかも失敗した場合国と敵対することになる。

 だがこれが最も成功率が高いだろう。

『この世界』に関する情報が致命的に欠けている以上。どうしたって賭けに出ざる負えない。

 

 

 ──これしかない。

 森へ行かせた骨のハゲタカ(ボーン・ヴァルチャー)からはアインズの周辺に他の監視者がいるという連絡は来てない。

 念のため森の奥へ行かせ、索敵させとく。

 失敗したらプラン2の皆殺しだ。

 そして誰もいなくなった、と。

 

「この私が、魔族崇拝者? いい冗談だ」

 

 シルヴィが更に距離をとる。

 

 そして、仮面を取る。

 ひっ、という三人の悲鳴を聞き流し、更にガントレットを外し、胸を開く。

 

 現れたのは骸の王。

 アンデッドの最上位種、死の支配者(オーバーロード)

 

 

「魔族……しかも、新種!?」

 

 

 シルヴィが驚愕に顔をゆがませる。

 しかし初見のハズのエミールは何とも思っていないのか、悲鳴すら上げていない。

 ただ黙って剣を構えている。

 

 

「魔族? 私はそんな劣等種ではない、私は死を超越せし死の支配者(オーバーロード)だ」

 

 

 絶望のオーラレベル1。

 更に追加で漆黒の後光も使っておく。

 こういうのは雰囲気で圧し通るに限る。

 

「私が魔族崇拝者? シェラを使って戦争を引き起こす? 

 なぜそんな面倒なことをせねばならん」

 

 その言葉に、シルヴィが冷や汗を流す。

 絶望のオーラが効いてるのか、あるいはアンデッドに恐怖しているのかまでは表情からはわからない。

 しかし顔からは先ほどまであった余裕が消えている。

 これは……いけるかもしれない。

 

 

「じゃあ魔族らしく人族を殺して回るというの?」

 

「私は異形ではあるが、魔族とやらではない、異世界の存在だ」

 

「異世界? 信じられないね、魔族という方がよっぽど信じられる」

 

「だが『魔族ではない』という証拠は既にある

 私は街の中(・・・)にいただろう?」

 

 

 な、とシルヴィが声を漏らす。

 そう、アインズはファルトラ市内にいたのだ。

『魔族を弾く』という結界の貼られた街の中に。

 故にこそアインズが魔族というのはありえない。

 

「本当です、ギルドマスター」

 

 

 レムが一歩前にでる。

 エミールが制止するが、無視してアインズの傍まで歩いてくる。

 

「アインズは、私が『星降りの塔』で召喚した存在です」

 

「わ、私も! 私も召喚したよ!」

 

 

 シェラもぴょんぴょん跳ねて自己主張している。

 しかし跳ねるたび胸が揺れて目に悪い。

 痛くないのだろうか。

 

「それは……いったい、どういう……」

 

 

 シルヴィが混乱している。

 流石にいろいろあってわけがわからないのだろう。

 いきなりアンデッドや異世界やなんやらかんやらあって頭が混乱しているのだろう。

 

「はっはー! 単純なことだぞギルドマスター!」

 

 エミールが剣を収める。

 

「単純って……どういう」

 

「なに! 単にアインズは悪い奴ではない! ということだ」

 

「悪い奴じゃないなら良いってわけじゃない! ボクはギルドマスターとして! 冒険者として国を守る必要がある!」

 

「ふむ、確かにその通りだが、アインズが何か悪事をしたか? 俺たちに害をなしたか?」

 

 

 シルヴィとエミールが言い争いをしている。

 

「アインズよ、お前はその気になればいつでも俺たちを殺せた、そうじゃないか?」

 

「……その通りだ、なんならお前たちを殺すのに、さしたる苦労もない、特殊技術(スキル)を使えばお前たちは何もできず死ぬだろうよ」

 

「そしてそれをしないということは、俺たちにとっての味方。そうじゃないのか、ギルドマスター」

 

 

 なんて単純な思考回路。

 しかしこの場はありがたい。

 

「少なくとも私は魔族ではないし、人間に危害を加える気もない

 信頼されないのはわかるが、信用してほしいところだ」

 

 

 

 シルヴィが口をつぐむ。

 判断に困っているのだろう。

 ここでアインズと敵対するか、それとも受け入れるか。

 アインズとしては冒険者として活動したいため受け入れてくれるとありがたいが──

 

 次の一手だ。

 

 

「<中位不死者創造>……」

 

 創り出すは死の騎士(デスナイト)

 ユクドラシル時代から愛用してたアンデッド。

 レベル35のアンデッドだが防御性能はレベル40。攻撃性能は25レベル。

 特殊技能(スキル)として召喚者のヘイトを集め。敵の攻撃を引き寄せる力と

 どんな攻撃を受けても一撃だけ耐えるという特性を持つ。

 

 

「オオオオオォォォォォアアアアアアァァ!」

 

 絶叫。

 聞く者が聞けば恐怖で生きることすら諦めそうな声。

 実際レムは耳を塞ぎ倒れている。

 

<龍雷>(ドラゴン・ライトニング)

 

 

 先日使った<連鎖する龍雷>(チェイン・ドラゴン・ライトニング)の下位互換。

 アインズから放たれた白い雷がシルヴィの鼻先寸前に当たる。

 死の騎士(デス・ナイト)と第五位階魔法。

 

 それを見たシルヴィは──

 

 

「あーもうわかった! ボクの負け! 煮るなり焼くなり好きにしろ!」

 

 

 バターン、と平原に倒れる。

 ジタバタと手足を動かす様は駄々をこねる子供のような。

 

 

「いや煮たり焼く気も殺すこともないが」

 

「はーん! まぁそうだろうね! 君めちゃくちゃな存在だし!」

 

 

 逆ギレされた。

 しかし峠は越えた。

 仮面を着けて、小手も付け直す。

 

「しかし、ずいぶんとあっさり認めましたね?」

 

「そりゃ認めるしかないよ君のような奴。もし受け入れなかったら、この場の全員殺す気だったでしょ?」

 

 よっと、立ち上がる。

 急に落ち着かれてこっちも沈静化が発動した。

 情緒不安定か? 

 

「まさか。全員を殺すことはありませんよ、全員(・・)は」

 

 シェラとレム以外殺す予定だったとは口が裂けても言えない。

 裂ける口もないが。

 

「それに、ボクや領主がどうにかできる次元を超えてる。魔族ではない異形の存在……敵に回すよりは味方になってもらった方がいい」

 

 

 その言葉に嘘はなさそうだ。

 シルヴィはけれど、とつづき

 

「君が魔族ではない、というのは信じよう──けれど、『人間の味方』かどうかは、これから見極めさせてもらうよ」




読み飛ばし推奨蛇足解説
シルヴィとエミールがついて行った理由
作中でシルヴィが言ったように「アインズが魔族崇拝者or第三国のスパイの疑惑」があり

また、逃がさないように戦闘力の高いエミールと捕縛系の能力を持つシルヴィがついてきた、という理由です

下手な冒険者などをつけさせてもここまで堂々と動く相手なら何かしら逃げる手段を持っていると予測できるので、それを潰せるレベルの人員、ということでシルヴィとエミールが選ばれました

原作だとエルフの集団が来ているのわかってるかわからないですが、今作では判明してるってことにします
ていうかガルフォード領主がエルフの国の王女来てるのにそこら辺警戒してないわけがないので

アインズがアンデッドとばらしたのはアインズの頭というか作者の頭じゃ解決策がごり押ししか思いつかなかったから
原作ディアブロさんの奴は奴隷にされてたけど角生えた混魔族ってだけでギリギリ「シェラ・レムと仲間?になった冒険者」
という可能性も無きにしも非ずだったんじゃないかと
多分普通に監視は来てたと思う
あるいは奴隷にされてたから諦められたか

アインズ様人間でごり押ししてたからな……
アンデッドバレせずに解決するなら中位アンデッド二、三体作って脅して
記憶操作か何かでどうにかする……?ですかね
尚アインズは気づいてませんが『街の中にいる』は別にアインズが魔族じゃない証拠にはならない模様
あくまで侵入防ぐだけだし混魔族とか魔族生の武器とか持ち込むときに結界緩められるからそれで入れるし
アインズが街の中に入る時に魔族生の何かを見せたりしてないのもアインズが魔族じゃないという証拠にはなりました

だらだらと妄想垂れ流しましたがこれで行きます



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人食いの森-2

2023/4/16 21:12
誤字報告ありがとうございます
適応しました


「では、これからマダラスネイクの討伐を?」

 

 レムが言う。

 確かに依頼内容はそれであっている、が。

 

「いや? そんなことしないよ、やるのは『ガラク』の捕縛、あるいは殺害(・・)だよ」

 

 え、とレムとシェラ同時に驚く。

 

「どういうこと? 受けたのはマダラスネイクの目玉の採取……だよね?」

 

「確かにその依頼を受けたが、これは()だ」

 

 

 罠、とシェラがオウム返しする。

 

「ならなぜ依頼を通したのですか?」

 

「99%まともな依頼ではないってのは受理するときにわかったけど、これが『魔術師協会』からの依頼ではない(・・・・)

 という明確な証拠もないし、受理しなかったらもっと狡い手段使ってきそうだからね、泳がせたんだよ」

 

 

「大きい組織となると面倒ごとが増えますからね、大方私に対する逆恨みか何かだと思うが……ん?」

 

 

 骨のハゲタカ(ボーン・ヴァルチャー)から連絡が来る。

 丁度森の奥地にガラクを発見。

 さらにエルフの集団がガラクと接触している、と。

 

「……面倒なことになったな」

 

「ん? どったのアインズさん」

 

 

「……先ほど召喚した召喚獣が森の奥でエルフの集団を発見。更にガラクと接触している、と」

 

「あちゃー、ちょっち面倒なことになったね」

 

 

 

 

 どちらか片方だけならすぐに終わるだろう。

 だがガラクと接触されたことで話は拗れる。

 あの男のことだ、ある事無いことエルフたちに言いまくるだろう。

 結果こちらの信用がなくなり、話しが七面倒なことになってしまう。

 どちらか片方ならこちらにはシルヴィとシェラがいるからどうとでもなったがこうなってしまうと……

 

 

 どうしたものかと二人で頭を悩ませていると。

 

 

「私にいい考えがあります」

 

 

 レムが手を上げ。すべて解決できる手段を提案した。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「……聞いていた話ではそろそろのはずだが……」

 

 

 人食いの森。

 その入り口奥の木々の上。

 エルフの精鋭の一人……セルシオはイラつきと共に呟いた。

 情報提供者である『ガラク』という男の話ではシェラ王女を奴隷にしようとしている者がこの森にやってくるはず。

 シェラ王女に関する情報が欠けており、藁にも縋る思いでそれに賭けてみたのだ。

 

 

 

オァァァァァァァ

 

 

 

「……? 何か聞こえなかったか?」

 

「いや、何も聞こえなかったが……」

 

 小声で同じ木に乗っている仲間に問う。

 先ほど何か獣のような叫び声が聞こえた気がするが……気のせいだろうか。

 シェラ王女が奴隷にされるかもしれないと聞き緊張しすぎているのだろうか。

 

 

「オァァァァァァァ!」

 

 

「いや、気のせいではない! 総員警戒!」

 

「「はっ!」」

 

 

 

 この叫び声はなんだ? モンスターか? 

 しかしこのような声を上げるモンスターが人食いの森にいるとは聞いたことがない。

 何が起こるかわからないため、全員に弓を構えさせる。

 エルフの精鋭が十人以上来ているのだから余程のこと……魔族でも現れない限り問題ないはず。

 秘蔵の品である『突風の矢』はまだ構えないが、何時でも使えるようにだけはしておく。

 

 

 ──しかしその思いは、容易く砕かれた。

 

 

 

 

オオオオオォォォォォアアアアアアァァ! 

 

「な、なんだあれは!」

 

 

 

 現れたのは人の騎士。

 しかし並みの人間やエルフのようなサイズではなく、2mを越える長身。

 更に体の半分以上を覆うタワーシールドに1mを越える剣。

 何よりも特徴的なのは、その顔だ。

 まず眼球が無い(・・・・・)

 体は今にも腐り落ちそうなほぼ骨のような体。

 肉の無い体でどうやってあの大剣と盾を持っているのか不思議だ。

 これは騎士ではなく、死の騎士(デス・ナイト)とでも呼称すべきか。

 

 ずしん、ずしん、と血を揺らしながら歩いてくる。

 そう、今セルシオがいる木に向かって。

 

 

「オオオオオォォォォォアアアアアアァァ!」

 

 

 二度目の絶叫。

 

 

「一斉射!」

 

 

 喉を震わせる。

 

 セルシオが矢を放った後。一拍遅れて他の者達が矢を放つ。

 破れかぶれで放ったはずの矢は綺麗に死の騎士に向かっていく。

 これはいけるか。と思うも死の騎士が盾を構えすべて防がれる。

 

 エルフの精鋭が放った矢がカランカランと盾に塞がれ。地に落ちる。

 

「ば、ばかな!」

 

 叫ぶ、叫んでしまう。

 これでもセルシオはエルフの精鋭の中の精鋭だ。

 王や王子の護衛に選ばれることもあるほどの。

 その自分の矢が、通じない? 

 

 恐怖に顔を歪ませる。

 ふと隣を見ればどうすればいいのかとこちらを伺う仲間の顔。

 セルシオと同じように恐怖に顔を歪ませている。

 

(駄目だ、ここで逃げたら仲間はどうなる? シェラ王女はどうなってしまう!)

 

 

 覚悟を決める。

 逃げる、という選択肢を取りたいが取れない。

 この森にはシェラ王女が来ているかもしれない。

 そんな中この死の騎士を放置したらどうなる? シェラ王女に危険が迫るだけだ。

 ならば取れる手は一つ。

 

 

 ──誰かが囮になり。この死の騎士を遠ざける。

 その間に仲間を散らしシェラ王女の探索に全力を挙げさせる。

 それが最善。これが今できる最良の選択。

 

「お前たちは逃げろ、逃げてシェラ王女を」

 

 

 ズドン、と強い衝撃がセルシオに襲う。

 残りの『逃げてシェラ王女を探せ』、という言葉を言いきれなかった。

 恐怖を抑え、下を見る。

 

 死の騎士が、盾で突撃(シールドチャージ)している。

 

 

「なっ……!」

 

 迷いなく、セルシオがいる木に目標を定めている。

 しかし丁度良くもある。あちらの意識が自身に向いているのなら囮にもなりやすい。

 すぐさま先ほどの考えを仲間に伝えようとするが──

 

 

「オオォォォォォアアアァァ!」

 

 

 叫びと共に剣が振るわれる。

 人外の膂力で振るわれた剣は固く、太い木を容易く切り落とした。

 

 

「なんだとぉぉぉ!」

 

 

 舌を噛むかもしれないという思考を置き去りにして叫んでしまう。

 剣で木を切るなど、どこのおとぎ話だ。

 

 

 どさっと、地面に落ちる。

 落ちる途中で弓を手放し更には空中で身動きがろくにできず背中から落ちる。

 都合よく乗っていた木はセルシオと仲間を避け、横に落ちる。

 

 

「オァァァァァ……」

 

 

 万事休す。

 弓もなく。地に落ちた衝撃で体も動かない。

 同じように落ちた仲間は気絶してしまっている。

 

 

「お……の……れ……」

 

 強く、強く睨みつける。

 少しでも。仲間が逃げれる時間を稼げるように。

 

 

 だが待てど暮らせど死の騎士は動かない。

 喉が枯れそうなほど上げていた叫び声をあげずに停止している。

 仲間が居る木の上をちらりと見るがもはや弓を構えることもなく静観している。

 

 

 何があったのか、思考を動かそうとし──

 

 

 

「さて、これぐらいでいいかな?」

 

 

 ──まるで最初からそこに居たかのように、ローブを纏った妙な仮面を着けた者が、死の騎士の傍に立たずんていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 殺さなかった! セーフ! 

 二度も三度も沈静化が働く程冷や冷やしていた。

 レムの作戦を信じ行動したが。これで問題ないだろうか。

 

 レムの作戦とは単なる囮だ。

 創ったデス・ナイトをエルフにぶつけ、それに意識を集中させる。

 それでエルフをどうにかしその間にシルヴィとエミールが『ガラク』を捕縛し。連れてくる。

 そうすることでまずエルフを交渉の席に着かせる。

 相手の立場は『国の精鋭』だ。

 下手に最初にシェラ共に現れても相手にされないだろう。

 相手にはアインズが『敵』という先入観と『国の精鋭』という自負の元力技(暴力)でこられると話が拗れてしまう。

 国家規模で動いてない以上エルフたちも大事にはしたくないはずとシルヴィたちも言っていたが。これで大丈夫だろうか。

 

 更にこの作戦の要はデス・ナイトだった為やられたりしないか心配だったがかすり傷一つ負ってないのを見ると心配しすぎだったかもしれない。

 

 

「さて、エルフ諸君、まだやるかね?」

 

 

 意識を切り替え。眼下のエルフに問いかける。

 たった二人しか木から落とすことができなかったが。これでも十分だろう。

 

「セルシオ!」

 

「ん?」

 

 

 木々からエルフが降りてくる。

 誰も彼もシェラと似たよな緑色の服を着ている。

 スレンダーな体付きをしており筋肉はまるで見受けられない。

 現実的に考えれば木に登り高いところから落ちても問題の無い者が目に見えて筋肉が少ないというのはあまり考えられない。

 ここがゲームのような世界なのか。あるいはファンタジーな世界だからか。

 いつか検証でもしようか。

 

 

「く、お前が奴隷商人か! いかにも怪しい奴め!」

 

 

 エルフたちはこちらを強く睨みつけはするも手に持つ弓を構えはしない。

 敵対する気はないのか。あるいはデス・ナイトに勝てないと諦めているのか。

 

 

「待て、こちらに現状(・・)敵対の意思はない」

 

 

 両手を上げ無害アピールしながら倒れているエルフ……他のエルフの言から察するにセルシオという名だろうか。

 彼に近づく。

 

 

 <魔法無詠唱化・生命の精髄>(サイレンスマジック・ライフ・エッセンス)

 

 

 やはり木から落ちた落下ダメージが大きかったのだろう。ほぼHPがない。

 しかも現在進行形で減っているため後数分も放置したら死にそうだ。

 落下の際に足かどこか折れたり出血でもしているのだろう。

 

「これでいいかな」

 

 アイテムボックスから中級治癒薬(ミドル・ヒーリング・ポーション)を取り出し、セルシオにかける。

 すぐに効果は表れ。目に見える範囲の傷が癒えていく。

 <生命の精髄>(ライフ・エッセンス)で見る限り死ぬ寸前からは回避できたと思っていいだろう。

 元のHPがわからないのでMAXなのかどうか判断できないから少し不安だが。

 

「うっ……こ、これは?」

 

 ガバっと立ち上がり自身の腕を見る。

 先ほどまであった傷が急に消えたことに驚いているのだろうか。

 だが服についた土や枝などで切ったのだろう服の傷が先ほどまで怪我をしていたと主張している。

 

 

「これで大丈夫だと思うが……」

 

「……傷が無くなっている、ポーション、か?」

 

 

 セルシオがアインズが手に持っているポーションに目を向ける。

 やはり世界が違うからかポーションの容器や効果が違ったのだろうか。

 アイテムボックスからもう一つ中級治癒薬(ミドル・ヒーリング・ポーション)を取り出す。

 下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)と違い数はそこまでないが、多少の余裕はあるので問題ないだろう。

 この場の全員治せるぐらいのストックはある。

 エリクサー病でよかった。

 

 

「そこの怪我をしている者にもこれを使うといい」

 

 

 立ち上がったセルシオにポーションを渡す。

 拒否されるかと思ったがそんなことはなく素直に受け取った。

 

 そのまま倒れている者に近づきポーションを飲ませる。

 意識はあったのか。素直に飲んでいく。

 しかしポーションはかけても効果はあったと思うがこの世界だと違うのだろうか。

 

「うっ……セルシオ! 敵は!」

 

「落ち着け、敵は……問題なくなった」

 

「それはどういう」

 

 倒れていた者も立ち上がりアインズを視認する。

 ひっ、と小さく悲鳴を漏らし一歩後ずさる。

 これはアインズでなくデス・ナイトに恐怖しているようだ。

 というか『相手にこちらの力を示せ』と命令したのにデス・ナイトは一体何をしたんだろうか。

 

 

「さて、そちらも落ち着いたようだし、話しといこうか」

 

「話だと? いったいなにを」

 

「なに、君たちが探している王女様のことだよ、彼女は今──」

 

 ガサガサと、草が揺れる。

 この場の者達──デス・ナイト以外の者が音の方を向く。

 出てきたのはうら若い少女。

 シェラだ。

 

 

「──アインズ、私が話すよ」

 

「なっ……シェラ様!」

 

「シェラ、いいのか?」

 

「うん……これは、私がしなきゃいけないことだから」

 

 

 顔は強張っているが、それは覚悟を決めたような眼をしている。

 相手にこちらの力を示した以上、力業で来ることはないだろう。

 

「わかった、私は下がっていよう、デス・ナイト」

 

「オオオァ……」

 

 デス・ナイトと共に一歩下がり、変わるようにシェラが前にでる。

 

「セルシオ、私ね──」

 

 

 シェラが国を飛び出した理由。

 国を出てから何があったのか。

 ファルトラで何をしたのか。

 シェラはゆっくりと話し進める。

 

 

 

 話し初めて数分。

 気づけばシェラの周りにはエルフたちが集まっていた。

 アインズと距離を取っていたエルフも集まり、シェラの話を聞いている。

 しかし第三者視点で見ると美少女に集う男性集団であり、事案のようだ。

 

 

「お話はわかりました、シェラ様」

 

「わかってくれたの!」

 

「ですが、……一人で冒険者を続ける、というのは」

 

「いいや、一人じゃない、私がいる」

 

 

 すっと、シェラの隣に立つ。

 アインズ、とシェラが目を輝せる。

 

 

「私がいる限り、シェラに危険は迫らない」

 

「なるほど……あれほどの召喚獣を従えるあなたがいるのなら……」

 

 

 ──思ったより簡単に話が終わりそうだ。

 一国の王女が国から消えていたというのにこの対応はなんだろうか。

 もっとこう『殺してでも 奪い取る』ようなものかと思ったが。

 

「え~と……私が冒険者を続けるの、認めるの?」

 

「まぁ……はい」

 

「簡単に認めますね? 一国の王女が冒険者等やるものではない──そう来ると思いましたが」

 

 ここは素直に聞く。

 これで答えてくれるのならヨシ、何か隠しているのならまた脅した方がいいだろう。

 

 

「……その、冒険者を続けたり、旅をする、というのは問題ないと思います、国王陛下も『自分の意思で出たのだから、帰ってくるまで待とう』というものでして……」

 

「それは……こちらとしてはありがたいですが……」

 

 

 一国の王としてそれでいいのだろうか。

 

「今回ここまで来たのはシェラ様の安否と所在地を掴むためです

 無論シェラ様に危機が迫っているようならばどうにかするつもりでしたが……その……」

 

 

 デス・ナイトに負けたのを気にしているのだろうか。

 いや、確かに一国の精鋭がただの召喚獣……実態はアンデッドだが、それに負けたというのは結構重い事実なのだろう。

 

 

「では、これで双方問題なし、と?」

 

「いえ、ですが一度シェラ様には一度国に戻っていただきたく……」

 

「いや! 帰らない」

 

 

 子供か。

 実際子供ではあるが。

 

「ですがシェラ様、王子も心配していますし……」

 

「……提案ですが、そちらから護衛(監視)を一人派遣する、というのはどうでしょう、それならばシェラの安否を常に確認できますし、国への連絡もしやすいでしょう?」

 

「なるほど、それならば……」

 

「え~護衛って……いらないよ~」

 

「……国へ強制的に戻されるのと護衛一人、どっちがいい?」

 

「護衛!」

 

 即答。

 その後もシェラ、セルシオ、アインズ、その他エルフと話しあうことで護衛や国への連絡方等を決めた。

 結果として護衛にセルシオが。連絡要員としてセルシオの近くで倒れてたエルフが付くことになった。

 基本的な連絡方は冒険者協会を利用し。エルフの国へ連絡がいく。

 連絡は最低でも七日ごとに行われる──等々。

 

「アインズさーん!」

 

「協会会長、見つかったので?」

 

 

 話し合いが終わってすぐ。森の奥からシルヴィ。レム。エミールが歩いてきた。

 シルヴィとレムは離れる前と同じだが。エミールだけ簀巻きにされたガラクをお米抱っこしている。

 

「あの男は……確か、我々にシェラ様の情報を提供した男……?」

 

「ああ、彼犯罪犯してまして、捕縛したんです」

 

「な、犯罪者だったのか……!」

 

 

「では、これにて一件落着、だな!」

 

 

 エミールが〆るように笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 人食いの森の外の平原。

 ついさっきシルヴィと戦った場所。

 そこまで先ほど居た者達全員……エルフたちもついてきている。

 ガラクはいまだ眠ったままだ。

 ここまでずっと眠りっぱなしということは魔術か何かで眠らされているのだろうか。

 

 

「それでは、私たちはこれで、シェラ様、どうかご無事で」

 

「じゃあねー! 兄さんにも、よろしく!」

 

 

 

「……で、何があったの?」

 

「うむ、流石に戻ったら仲間が増えてたのは驚いたぞ!」

 

 

 困惑するシルヴィと笑うエミール。

 

 

「その話は街でしましょうか、立ち話もなんですし──<転移門>(ゲート)

 

 

 アインズの視線の先から楕円形の闇が溢れる。

 霧散することなく、その場に闇は留まる。

 

「さぁ、行こう」

 

 アインズが先行し<転移門>(ゲート)に入る。

 視界が広がり。森から平原へ変わる。

 少し遠くに見えるはファルトラ市。

 

「なにこれ……」

 

「うーむ、何でもありなのか?」

 

「おー! 便利!」

 

「話に聞いてましたが……本当にできるとは……」

 

「……頭が追い付かない……」

 

 

 

 <転移門>(ゲート)から抜けて各々反応する。

 

 

 

「街に戻って情報交換と、セルシオの歓迎会でも開こうか」

 

 

 

 さんせーい。とシェラが笑う。

 レムがそれに贅沢しすぎないようにと肩をすくめシルヴィはもうどにでもなーれと投げ出し。エミールは仲間が増えたことに喜ぶ。

 

 

 人間 エルフ グラスウォーカー(獣人) 豹人族(獣人)

 

 形や世界は違えどユグドラシルのような多種多様な者達。

 これからどういった冒険になるのか、心を膨らませ──

 

 

 心を落ち着かされる。

 こういう時は沈静化も不快だな、と思う。

 

 

「どうしたの? アインズ」

 

「何かありました?」

 

「魔力を消耗しすぎたか? 友よ」

 

 

「……いや、何でもない、これからどうなるのか、と考えてただけだ」

 

 

 ふふふ、と笑い声が漏れる。

 これからどうなるのか、アインズにはわからない。

 ユグドラシルとの関連性もないこの世界は、まだまだわからないこと(未知)にあふれている。

 未知を新しき仲間と冒険する。

 

 新しい未来へ、アインズは一歩踏み出した。




中級治癒薬(ミドル・ヒーリング・ポーション)




色々書いて消してを繰り返してたら話が早足になってしまった
元からこれ分けずに一話で終わらせるつもりだったけどあーでもないこーでもないって
書いて消してたら変になってしまった
というか初期プロットではセルシオ仲間になる予定なかったのに仲間になったのどうして?

本当に申し訳ない(神映画)


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ウルグ橋砦

ストックが無くなりました
今後は不定期更新になります

2022/12/20 18:51
誤字報告ありがとうございます。
適応しました


 翌日。

 アインズたちは冒険者協会に呼びだされていた。

 場所は先日と同じ冒険者協会会長室。

 昨日と同じ席順で座っている。

 しかしセルシオがシェラの後ろに立っているという違いがある。

 シェラが座ってもいいと言っても護衛なので。と立ち続けている。

 

 

「いやー、昨日の今日で悪いんだけど、アインズさんに指名依頼だよ」

 

「指名? いったい誰が?」

 

「魔術師協会の長からの指名依頼だよ、ボクが直接受けたから間違いないよ」

 

「魔術師協会の……ということはポードレール卿から?」

 

 

 一体なぜ? 

 魔術師協会に目を付けられるようなことをしただろうか。

 

 

「まー、たぶん昨日の払えてない分払いたいんじゃない?」

 

 

 ほら、と依頼書を手渡してくる。

 片手で受け取り、アイテムボックスから翻訳用のアイテムを取り出す。

 しかしアイテムを装備するより早く隣のシェラがのぞき込み音読する。

 

 

「えーと、ウルグ橋砦へのワインへの差し入れ……?」

 

 

「しかも報酬は破格! ただのお使いなのにねー」

 

「なぜこんな依頼を?」

 

「ま、残り(・・)の慰謝料を渡したいっていうセレスさんの苦労が見えるねぇ」

 

 

 苦笑い。

 

 ──昨日ガラクの暴走によりアインズたちは被害を受けた。

 偽の依頼とガラクが扇動したエルフの部隊による襲撃だ。

 それに対する謝罪としてセレスから結構な額を提示したのだ。

 それならばとアインズは素直に受け取ろうとしたのだが、それをレムが拒否したのだ。

 セレスに借りを作りたくないとそう言うレムにアインズが向こうにも体裁があるとレムを説得し結果として最初にセレスティーヌが提示した額の半分を受け取るということになったのだ。

 

 

「私はこの依頼を受けません……三人はどうしますか?」

 

 

 昨日断った手前バツが悪いのだろう。顔が少し憂いている。

 

「魔術師協会としては満額渡すことで謝罪ということにしたいのだろうから、私は受けよう」

 

「面白そうだし私も受ける!」

 

「ではシェラ様が行くのならば私も」

 

 

 結果、アインズ、シェラ、セルシオの三人が依頼を受けることになった。

 レムだけが残ることになったが。本人としてもこれでいいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 ふふんふんふーん。

 シェラの鼻歌が聞こえる。

 

 ウルグ橋砦への移動は徒歩になった。

 <転移門>(ゲート)で行こうと提案したがシェラに景色を楽しみたい。と言われなら徒歩で行こうとなったのだ。

 前にシェラ。次にアインズとセルシオという順で歩く。

 

 いつ見てもいい景色だ。

 現実(リアル)はもろちんユグドラシルでも見ることのできない景色。

 空を見上げれば様々な形の雲があり。下を見れば草木が生い茂り。虫が草に張り付いている。

 ふふ、とシェラにつられて声が漏れてしまう。

 

 何時までも見ていられそうだ。

 手に持っているワインを落とさないように強く握っておく。

 

「……楽しそうですね」

 

「ん?」

 

 

 じっと下を見て歩いていたら。隣のセルシオに話しかけられる。

 結構歩いていたらしくシェラも鼻歌をやめてこっちを見ている。

 

 

「そんなに地面……というより草? それが面白いので?」

 

 

 煽りや蔑みではなく純粋な疑問だろう。なんだこいつといった目でアインズを見てくる。

 

 

「ああ、面白いよ、私が居たところには無いものだから」

 

「……無いもの? 草が?」

 

 

 更にセルシオが首をかしげる。

 草がない、というのはエルフにはわからないのか。あるいはこの世界はいまだ自然に溢れてるからか。

 

「そう、だな──」

 

 

 口を一度閉じる。

 セルシオにはいまだユグドラシルのことは喋ってない。

 なんならアインズがアンデッドだということも言えてない。

 いつかは言わないといけないとはわかっていても受けられるかわからず、未だ言うことができない(足踏みしている)

 

 

「私が居たところは自然が無くてな……青い、青い空や、生い茂る草、土に居る虫、命溢れるこの地は、私にとっての未知に溢れている」

 

 

 空を見上げる。

 この光景をブループラネットさんが見たらどう思うだろうか。

 汚染された世界に絶望していたウルベルトさんは? 

 たっちさんはどうだろう、彼なら妻子にも見せたいと言うだろうか。

 

 

「この世界は本当に、美しい」

 

 

 気づけば足が止まり、シェラも鼻歌をやめアインズを見ている。

 なんだか気恥ずかしくなってくる。

 

「まだまだ先は遠い、歩こうか」

 

 

 あっとシェラが声を漏らし、歩を進める。

 先のようにシェラが先行する形ではなく、アインズの隣に並び歩く形で。

 周りに人が居たら迷惑だろうけど、今はこれでいいだろう。

 

 

「アインズってここに来る前、何をしてたの?」

 

「ん、そうだな……かつて弱かった私は、ある騎士に助けられたんだ──」

 

 

 

 

 

 ■

 

 

「それでそれで! どうしたの!」

 

「ああ、仲間たちも初見での攻略は無理だという意見が多かったが、多数決で突入することになってな、そのダンジョンは──」

 

 

 あれから数時間。

 ただウルグ橋砦に物を持っていくだけの依頼(クエスト)はアインズの過去話に代わっていた。

 仲間に出会えたことや、ダンジョンを攻略したこと。

 これからナザリックのことを話そうとするとき、セルシオが声を上げる。

 

「目的地に着きました……様子がおかしいようですが」

 

「何?」

 

 

 言われて気づく。

 気づけばウルグ橋砦は眼前。

 だが目の前の橋砦からは人の声や、ドタドタという足音も聞こえる。

 何があったのだろうか。

 

 警戒しながら橋砦に近づく。

 丁度ウルグ橋砦の門の近くまで歩くと、中から一人歩いてくる。

 来たのは男性、茶髪の鎧を纏った者。

 息を切らしながら、アインズたちに近づいてくる。

 

 

「あの! すみません、今すぐここから逃げてください!」

 

 

「逃げて? 急にどうしたのですか?」

 

「え、えっと……信じられないと思いますが……百の魔族が、この橋砦に向かってきているのです」

 

 

 

 魔族。

 魔王の配下であり、一体一体が強力な力をもつ存在。

 モンスターや魔獣を従える魔王が作り出したとされる者達。

 

 

「……えっ」

 

 

 

 沈静化。

 なぜ? どうして? 

 魔族がどこから現れた? そして魔族は何がしたい? 

 

 

「今すぐ逃げましょう! シェラ様!」

 

「え、で、でも……」

 

 

 セルシオが声を上げ、シェラの手を握る。

 逃げる、それが正しい選択だろう。

 だが──

 

 

「逃げる、か……まぁ、それが最善だな、一度ファルトラに戻るか?」

 

 

 彼女たちには言わない、言えない。

 ファルトラも危険かもしれないなんて。

 

 

 魔族が侵攻してきた根本的な理由。これは考えるだけ無駄だろう。

 次は魔族がこのファルトラを攻めようとした理由。

 単にファルトラが前線基地としての役目があるから邪魔というだけではないだろう。

 そもそもファルトラには魔族を防ぐ結界がある。下手に魔族を率いても無駄足だ。

 そう、魔族(・・)を率いるのなら。

 

 ならば魔族以外──人間種を扇動すれば? 

 何かしらの精神操作。あるいは単に金や魔族間での地位などをネタに人間に結界の要……セレスティーヌ・ポードレールを殺害させる。

 あるいは既に魔術師協会の者はすべて魔族崇拝者にされているのかもしれない。

 

 だがこれらも可能性の一つであり。単に結界を破壊できる何かしらの手段……ワールドアイテムのような超級の手段を手に入れたという可能性もある。

 あるいはアインズのように転移をできるモノを手にしたとか──

 流石にこれ以上は考えるだけ無駄になるので思考を止める。

 兎にも角にも魔族が堂々と来た以上。ここらに安全な場所などない。

 

 さて、どうするか。

 長々と考えたが、やることは一つ。

 

 

 転移で逃げる。それに尽きる。

 

 

 というかそれ以外にとれる手段がない。

 魔族というのをアインズは知らない。

 ユグドラシルでの異形種と姿こそ似通っているがその中身は別物だ。

 そもそもモモンガは強いプレイヤーではない。

 高く見積もっても精々が中の上、上の下かそこら辺。

 死霊術師としてロールプレイするキャラクター構成の為。ガチ勢とは何歩も劣ってしまう。

 エルフの精鋭やファルトラ市の上位冒険者を見たがそれとてまだ数少ないサンプルだ。

 ちょっとした参考にはなれど。自身の戦闘力を正確に把握するにはまだ足りなすぎる。

 

 相手の情報が無い以上取れる手は限られる。

 ここはもうユグドラシル(ゲーム)ではない。死んでも蘇る保証がない以上命は大事にしなければならない。

 

 ぷにっと萌えさんも言っていたじゃないか。戦闘は始まる前に終わっていると。

 これはまさしくそれだ、どうやっても勝ち目なんかない。

 

 

 なのに──

 

 

「ねぇ、アインズ……どうにかできない、かな」

 

 

 

 ──どうして俺なんかを頼るんだ。

 こんな臆病者を。

 

 

「な、シェラ様! 何を!」

 

「ごめんね、セルシオ……ここが魔族に襲撃されたら、ファルトラも無事じゃすまない」

 

 

 だがら、とシェラが言う。

 なんと眩い目をするのだろう。

 

 考える。

 魔族という敵をセルシオは恐れている。

 概算になるが恐らくセルシオたちエルフの部隊の平均レベルは推定20前半。

 シェラが装備込みで推定20後半。

 レムはレベルだけなら30程かもしれない。能力が召喚術師とファイターに分けられてる構成の為実際のステータスはそれより低いだろうが。

 それらを考えると魔族の平均レベルは彼らに+10……いや+20ぐらいで40から高くて60、か? 

 だが所詮は推定に過ぎず。実際はこれより高いだろう。

 けれども、ああ、彼らを見るとあの人を思い出す。

 

 ──誰かが困っていたら。助けるのは当たり前! 

 

 

 純銀の聖騎士(たっち・みー)

 モモンガとしての原点。

 

 

 はぁ、とため息を零す。

 呼吸すらしていないのにこういうのができるのはどういう原理なのだろうか。

 

 

「危険だと判断したら、逃げる……それが条件だ」

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 時は少し遡る。

 それはアインズがウルグ橋砦に着く少し前。

 

 

 宿屋安心亭。

 亜人種が住まう地にあるチェーンの宿屋だ。

 その酒場にてアインズたちが受けた依頼主であるセレスティーヌ・ポードレールとレム・ガレウが対談していた。

 

 といっても形式ばったものではなく。それは護衛がいるというのを除けば仲の良い姉妹の用だ。

 

 

「アインズさんが別の世界から来た……ね」

 

 

 そしてレムはセレスにアインズのことを話していた。

 アインズがユグドラシルという世界からレムとシェラが召喚した存在だということを。

 

 

「そんなことが本当に可能なのかしら」

 

「……どういう意味ですか?」

 

 

 セレスが強い瞳でレムに問う。

 

「あなたの力を疑う訳じゃないの、けれど……アインズさんが呼び出された存在だというのなら、あなたの中にある(・・・・)

 魂に引かれた存在ということも、あるんじゃないの?」

 

「そ、れは」

 

 

 あるかもしれない。

 だってアインズは異形だ。

 ユグドラシルなる世界も、アインズの出まかせということもあるかもしれない。

 

 だけど──アインズがそんなことをする理由が思いつかない。

 

 

 単純にアインズが強いからだ。

 召喚獣はエルフの精鋭を軽くボコれるほどに強く、本人の言と状況的証拠から通常あり得ない威力を誇る元素魔術をも使う。

 そんなものがレムを騙してなんの意味があると? 

 とっとと殺すなり魔王の領域へ連れ去るなりすればいいではないか。

 そもそもアインズは結界を素通りしている、アインズは魔族との関わりがないということも示している。

 

 

 

「それは……ないと思います」

 

 

 何よりもアインズは──シェラを救ったから。

 出そうになった台詞を引っ込める。

 

 アインズはシェラを救ってくれたならば自分も救って(魔王をどうにかして)欲しいと思ってしまう。

 

 

「そう、あなたは彼を信じたいのね……私も同じ気持ちだけど、魔術師協会の長としては放ってはおけないの」

 

 

 優しい、優しい瞳でレムを見つめる。

 それは妹を見るような眼だ。

 少し恥ずかしくなって──

 

 

『レム、今ちょっといいか?』

 

 

「うひゃあ!」

 

「ど、どうしたの?!」

 

 

 声が響く。

 耳元で囁かれたかのような声。

 それは先ほど話していたアインズの声だ。

 

 

 すわ何事か、と席を蹴って立ち上がり周囲を見渡す。

 しかし見れどもアインズの姿はなく。見えるは動揺しているセレスと護衛達。

 

 

「え、アインズ? どこから声が?」

 

 

 もしや幻聴か? と不安に駆られるも声が否定してくる。

 

 

『驚かせてすまないレム。今魔法を使ってウルグ橋砦から話かけている』

 

 

 

 ウルグ橋砦? 確かアインズたちが向かった場所だ。

 

「せ、セレス、少し待っててください」

 

 

 セレスに頭を下げトイレの方に向かう。

 一体何事なのだろうか。

 というか声を届ける魔術があるなら事前に言ってから使ってほしい。ビビるじゃありませんか。

 

 

「えっと、こちらの声は聞こえているんですよね? 何があったんですか?」

 

『ああ、実はウルグ橋砦に魔族が攻めて来ている』

 

「な、魔族が? なぜ!」

 

 

 ウルグ橋砦はファルトラへの数少ない平原から行ける道の一つ。

 そこを魔族が攻めてきた? 何のために。

 

 もしかして、自身に宿る魔王のことが魔族にバレた? 

 

 

『理由はわからん、が魔族は恐らくファルトラ市内に何かしら刺客を放つ筈だ。そっちに援軍を一体送る』

 

「え、あ、はい……援軍と言うと、昨日のような? けどなんで援軍を?」

 

 

 早口で問うてしまう。

 いきなり声が聞こえたり魔族が来たりと頭が混乱する。

 

 

『恐らく、だが……魔族の狙いはセレスティーヌ・ポードレールだ。彼女を殺せば街の結界は解ける』

 

「なっ……!」

 

 

 セレスが殺される。

 そう聞いて思わずセレスの方を向く。

 

 彼女が、大切な人が殺されてしまう。

 

 

『だからレムにはポードレール卿を探し。安全な場所まで避難してほしいんだ』

 

「わかりました、すぐに──」

 

『ああ、ちょっと待ってくれ、今どこにいる?』

 

「え、今は安心亭に居ますが……」

 

『安心亭だな、……<上位転移>(グレーター・テレポーテーション)

 

「……? 今、一体何を?」』

 

『転移魔法でそっちにアンデッドを一体送った、何かあれば実体化して助けになるはずだ』

 

「わかりました、すぐにセレスを安全な場所に連れていきますね」

 

 

『ああ、頼む、こちらも魔族の件が終わったら転移で街に戻る』

 

「はい…………アインズ」

 

『ん? どうした』

 

 

 

 

 

 

 

「頑張って、ください」




今作のアインズ様は限りなく鈴木悟に近いアインズ・ウール・ゴウンです
ナザリック無し+ユグドラシル関連の知識が一切通じない+完全な未知の世界
で結構いっぱいいっぱいだったりします
自身の戦闘力を把握しきれてないし未知で心躍ってはいるけど不安感はあったりします
一巻分終わると余裕ができます


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魔族の大群

2022/12/24 14:31
誤字報告ありがとうございます。
適応しました


2022/12/30 14:45
誤字報告ありがとうございます。
適応しました


2023/4/17 21:11
誤字報告ありがとうございます。
適応しました


『頑張って、ください』

 

 

 

 丁度その声が聞こえると、<伝言>(メッセージ)の効果がきれる。

 頑張ってください、か……そんなことを聞くのはいつぶりだろうか。

 

 

「さて、頑張るとしようか……!」

 

 一歩、前に出る。

 ウルグ橋砦。

 数少ないファルトラ市への安全な道は今最も危険な状況だ。

 砦部分の上からは弓兵が上から狙撃できるよう待機している。

 

「話は終わったのですか?」

 

 歩いてきたアインズにセルシオが話しかけてくる。

 

「ああ。レムにセレスを安全な場所に連れて行ってくれるよう頼めた。これでこっちに集中できる」

 

 

 話した限りだとセレスと話していたっぽいので、これで大丈夫だろう。

 

「では──始めるぞ」

 

 アイテムボックスからスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(過去の栄光の証)を取り出し、握りしめる。

 

 

 

 <上位能力強化>(グレーター・フルポテンシャル)<竜の力>(ドラゴニック・パワー)<上位幸運>(グレーター・ラック)<無限障壁>(インフィニティ・ウォール)<天界の気>(ヘブンリィー・オーラ)

 <上位硬化>(グレーター・ハードニング)<光輝緑の体>(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)

 

 

 その他もろもろエトセトラ。

 敵の情報が一切ないため詰めれるだけ詰めまくる。

 一部の魔法はシェラとセルシオにもかけておく。

 しかし二人にもバフすると流石にMPが足りなくなるので必要最低限だけだが。

 

 

 <魔法三重化(トリプレットマジック)上位魔法封印>(・グレーターマジックシール)

 <魔法三重(トリプレットマキシマイズ)最強化階位上昇化(ブースデッドマジック)魔法の矢>(マジック・アロー)

 

 

 

 最後に三重化して強化した魔法の矢を込める。

 これなら相手への絶対命中と多少のノックバック性能があるので転移で逃げるぐらいはできるはずだ。

 転移阻害などもされるかもしれないがその時は<時間停止>(タイム・ストップ)<飛行>(フライ)で逃げ切れる、はず。

 

 

「来ました! 魔族です!」

 

 

 砦の上から声が響く。

 見れば橋の向こう側から魔族が歩いて来ているのが見える。

 

 

 牛の頭を持つ者、カエル頭の者。

 蜥蜴を人型にしたような歪な者。

 多種多様な魔族の群れだ。

 

 しかしすべて人型というのは共通している。

 

 ユグドラシルと結びつけるのは愚かだがユグドラシルにも非人型の異形種──スライムやラミア等といった存在は複数存在した。

 眼前の魔族たちは全て牛やら豚やらを無理やり人型にしたように思える。

 腕が複数ある者や、頭が三つ四つある者などは見受けられない。

 

 魔族の群が動く。

 前に出たのは大蜥蜴に乗った者。

 それは他の魔族とは違い。ほぼほぼ人だ。

 黒い肌とエルフ耳が人間ではないということを示しているまだ幼さの残る少女だ。

 ペペロンチーノさんが見たら喜びそうな美が付くタイプの少女だ。

 

 ダークエルフ──あるいはそれに類ずるなにか、か? 

 

 手に持つ槍からクラスは恐らくランサー。流石にワルキューレ/ランスなどはないと思いたい。

 騎乗用の魔物に乗っているのは単なる移動か。あるいはライダー等の魔物に乗った方が強くなるクラス、か? 

 

 

 女形の魔族が前に出て槍を上に構える。

 それに合わせ。隣のシェラとセルシオが弓を構える。

 

「とつー、げき?」

 

 

 見た目にあった幼い声で命じ。槍を振り落とす。

 

「オオオオ!」

 

 

 魔族が声を上げ、魔族たちが突き進んで来る。

 ドスン、ドスンと石橋が揺れる。

 

 

「|<魔法三重最強化連鎖する龍雷>《トリプレットマキシマイズマジック・チェイン・ドラゴン・ライトニング》!」

 

 

 

 まずは小手調べ。

 これで魔族共にどれだけダメージが入るか。

 流石に無傷はないと思いたい。

 

 

 杖の先から放たれた龍型の白い雷が前線に来てたオーク型の魔族に命中する。

 そのまま次々と周囲の魔族に襲い掛かる。

 

 バチバチと雷の音がウルグ橋砦に響く。

 

 次々と魔族を襲う<連鎖する龍雷>(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 それは二十体以上の魔族を倒し終わり。効果が途切れる。

 何体かの魔族は逃げ範囲から逃れたのだろう。

 

 

 ──以下に三重化して最強化したとしても第七位階でここまでダメージが入るのか? 

 

 

 一芸特化のエレメンタリスト等ならまだわかる。

 だがアインズは死霊術師であり単純な魔法攻撃力は他の魔法詠唱者(マジックキャスター)に劣る。

 それがたかが第七位階の魔法でこれだけ削れるとは。想定以上に弱いのだろうか。

 何体か死んでいない魔族もいるが。ほぼ致命傷だろう。

 

 

<根源の火精霊召喚>(サモン・プライマルファイヤーエレメンタル)

 

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力を解放する。

 眼前から炎が吹き上がり人型に実体化する。

 常に燃え上がる炎の肉体を有する最上位の精霊だ。

 今だ魔族の力を完全に把握できない以上。やりすぎということはないだろう。

 

<第10位階死者召喚>(サモン・アンデッド10th)

 

 

 呼び出すは精霊髑髏(エレメンタル・スカル)

 頭部だけの骸骨で、七色に光るアンデッドだ。

 レベルは68で魔法攻撃力に優れ。全ての魔法が最強化されているという優れもの。

 その分物理攻撃には弱いが魔法抵抗力は高い。

 

 前衛に

 根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)、中衛にアインズ。

 後衛に精霊髑髏(エレメンタル・スカル)という鉄壁……というわけではない布陣だ。

 この世界ではフレンドリーファイアが有効なため根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)の炎のダメージがアインズたちにも有効になってしまう。

 精霊髑髏(エレメンタル・スカル)は問題ないがこういう時に便利な死の騎士(デス・ナイト)が使えないのは結構痛い。

 

 こちらが着々と準備を進める間魔族側も大勢を直したらしく再び突撃してくる。

 

「オオオォォォ!」

 

「チビ! 人間! コロス!」

 

 

「いい声だ、根源の火精霊《プライマル・ファイヤー・エレメンタル》! 奴らを焼き殺せ! シェラ、セルシオ、援護を頼む!」

 

 

 今度はさっき見たく攻撃魔法は使わず、召喚した僕とシェラとレムを中心に戦闘を始める。

 

 

 ──第七位階でこの威力なら、第十位階や第一位階は? 

 

 知りたいことが増えてくる。

 今の自分に何ができて何ができないのか。

 魔族は一体どんな体の構造をしているのか。一部属性のダメージを軽減するような種族特性を持っているのか? 

 

 

「さぁ、始めようか──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────-

 

 

 

 

 

 ファルト市 安心亭内。

 

 

「セレス! 話があります!」

 

 

 レム・ガレウがトイレから飛び出しセレスに詰め寄る。

 

 

「レムさん、その……悩みがあるなら、聞きますよ? だから落ち着いて、ね」

 

 

 対しセレスは落ち着いて席に座っている。

 けれどその顔はレムのことを案じているようで優しい瞳をしている。

 それどころか護衛の者達も優しい瞳でレムを見てくる。

 

 

 さて、ここでレムのことを客観的に見てみよう。

 魔術師協会の長との会話中、いきなり叫び*1、席を立ちトレイに全力ダッシュ。

 下かと思えばトイレには入らず手前で誰かと話すような素振り。*2

 

 そう──レムが可哀そうな人と思われている。

 

 セレスティーヌはなまじ魔王のことも知っているためついにストレスや不安でこうなってしまったのか、とどこか遠い目をしだした。

 

 

 

「いや違いますよ?! セレス、あなたが思っているようなことはありませんから!」

 

 

 わたわたと、手を振る。

 客観的に自分がどう見えるか分かった以上更に気恥ずかしい。

 

 

「と、ともかく! 先ほどアインズと魔術で会話しました! ここは危険です! 直ぐに避難しましょう!」

 

 

 

 真剣な声で叫ぶ。

 その悲壮さにセレスも察したのか、立ち上がる。

 

「ここが危険って、どういうことかしら?」

 

 

 すぅーと、レムは深く息を吸う。

 流石にまだ混乱しているが、そんな場合ではない。

 

「ウルグ橋砦に、魔族が攻めてきたと聞きました、すぐに塔に戻りましょう」

 

「わかったわ、行きましょう」

 

 

 魔族ということでレムのことを察したのだろうか。先ほど前の雰囲気は完全に消える。

 直ぐに席を立ちメイと話し会計を済ませ。安心亭から出る。

 

 塔に戻ろうと歩き始めると大通りから男が一人歩いてくるのが見える。

 男は真ん中を堂々と歩き右手に短剣を持っている。

 

 目は血走り、ふー、ふーと荒い息を零している。

 

 

 

 男はセレスたちに近づく──

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

<火球>(ファイヤーボール)

 

 

 

 杖の先から放たれた火球が真っ直ぐ豚型の魔族に着弾する。

 火球は着弾と同時に爆発的に広がり、たまたま近くに居た牛型の魔族も巻き込んで燃え盛る。

 炎は数秒間燃え続けるとまるで炎等なかったかのように一瞬で消え去る。

 しかし魔族に残った焼け跡が炎があったことを示している。

 

 

 魔族共との戦闘が始まって三十分ぐらいだろうか。

 それだけ戦い続ければ魔族の強さも把握できた。

 

 

 

 ──思ったより弱ぇ! 

 

 

 以上。

 最低30レベル、最高が50台後半といったところか。

 ばらつきが酷いがだいたいこんなものか。

 だいたい第五位階魔法程度で済む程度の雑魚共だ。

 なんなら絶望のオーラレベル5で全員死ぬ程度。

 しかし一つ気になることがある、魔族共を何体か倒したがすべて死体が残らないのだ。

 これはこの世界における魔族がそういう存在だからか。あるいは何者か──この場合は魔王か──によって創られた存在だからか。

 戦っても赤字確定の敵は少し辛い。

 

 ここまでバフしたのが正直もったいない気もする。

 というか確実に無駄だった。

 

 確実に表情筋があれば微妙な顔をしているだろう。

 全力で戦ってくれているシェラやセルシオには悪いが、この程度なら中位アンデッドの中で高レベル──50レベルぐらいの奴でも出しておけばよかったか。

 

 

 根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)精霊髑髏(エレメンタル・スカル)というのは少々……というか確実に過剰戦力だ。

 

 

 途中から魔法実験に切り替えて各種属性魔法や第十位階から順に魔法試して行ったりした。

 結果弱い奴を即死させれるなら第五位階。ダメージが入るレベルは第三位階、第一位階はダメージはカス程度しか入らないということがわかったが。

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 魔族が動く。

 減りすぎて目視で数えれる程度まで減り始めた魔族はこちらに早々と近づいてこず、こっちから根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)を突撃させたりしなければいけない程だったがどうやら勇気ある者がいたらしい。

 

 魔族の波をかき分けて、大蜥蜴に乗っていた女型魔族が槍を手に歩いてくる。

 最初に来た時と同じような表情を意識しているようだが顔には冷や汗が流れている。

 

「シェラ。セルシオ、下がっていてくれ」

 

「う、うん!」

 

 

 弓でチクチク攻撃してたシェラたちに下がるよう伝え前に出る。

 恐らくだがバフ無しなら魔族一体にも苦戦。バフありでようやく弱い

 個体なら戦になる──シェラたちはその程度の強さだった。

 

 

「さて、なぜ騎獣から降りたのかね? そっちのが有利だろう?」

 

 

 尊大に芝居じみて話す。

 ちょっと豪快に杖を振り威嚇する。

 相手がほぼ人型なので期待するが──

 

 

「動かない、から? あなたを見てから、一歩も動かなく、なった 普段は言うことを聞く、いい子なのに」

 

 

 知性がある。

 しかも会話ができる程の。

 

 なるほど、と言葉を零す。

 先ほどまで殺して周った魔族たちは片言だった。

 しかも一単語……コロスとかのその程度の。

 それは単に発声器官が無い──あるいは発達してないからかあるいはアインズが持つ……かけられているかもしれない自動翻訳が魔族には正常に作動しないのか。そもそも知性が無いのか。

 

 この分だと単に知性が無かっただけっぽいが。

 

 これは人型に近い魔族は知性があるのかあるいは単に強い魔族は知性があるのか。

 知りたいことが・知るべきことが増えてくる。

 まるでユグドラシルで未踏破エリアを攻略している気分だ。

 

 

「それは獣の方が解っているからではないかね? 私には勝てないと」

 

「わからーない? エデルガルドは、魔族で一番の? 槍、使い、ヒューマンの魔術師になんか……負けない」

 

 

 長槍を構える。

 両刃の黒い槍・遊びの部分は見受けられず実用性重視の槍だ。

 この世界の冒険者などが持つ武器に近くユグドラシルのような変な装飾はされていない。

 

<生命の精髄>(ライフ・エッセンス)

 

 

 HPだけで判断するなら、推定60レベル後半……ギリギリ70台ではない程度、か? 

 

「いく!」

 

 

 こっちが魔法を詠唱し終わり、HPを確認すると同時に突撃してくる。

 早い。流石は戦士職か。

 

 

根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)!」

 

 

 口に出す必要はないが大声を出して命令を下す。

 すぐさまアインズの目の前に根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)が移動しエデルガルドの突進を妨げる。

 それに対しエデルガルドは途中でジャンプし、槍を振りかざす。

 

 根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)が槍にたいし腕を交差させて防ごうとした瞬間。掻き消える。

 

 

「ッ!」

 

 

 そのままくるり、と一回転する。

 キョロキョロと眼球だけを器用に動かして探すが、既に根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)は存在しない。

 

 

 ──効果時間切れだ。

 アイテムによる召喚、更には精霊種ということも相まって精霊髑髏(エレメンタル・スカル)よりも存在できる時間は短い。

 エデルガルドが探すのは根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)がどこかに隠れているのではという疑念とこの世界の召喚獣はMP切れで消えたのなら黒いクリスタルが残るはずだからか。

 

 

 ひとしきり周囲を見回すと。更にエデルガルドは突進してくる。

 考えるだけ無駄とでも思ったのか。

 今度は精霊髑髏(エレメンタル・スカル)を突撃させる。

 しかし後ろに居たせいか。アインズに結構近い位置でエデルガルドと衝突する。

 

 

「邪魔!」

 

 薙ぎ払うように槍を横に振る。

 運がよかったのか槍は刃先が当たるようにではなく。たたくように精霊髑髏(エレメンタル・スカル)に当たる。

 ベぎっと、嫌な音が響く。

 骨が砕かれた音だ。

 

 スポーン、と精霊髑髏(エレメンタル・スカル)が横に吹っ飛ぶ。

 精霊髑髏(エレメンタル・スカル)は物理攻撃にはめっぽう弱い。

 その関係もあってか。ほぼ瀕死にまで追い込まれている。

 何かしらのカスダメージでも喰らえば死ぬだろう。

 エデルガルドが目を開くがすぐさま調子を取り戻し突き進む。

 あと五秒もすればアインズに直撃するだろう。

 刺突耐性は持っているが叩かれたら痛いだろうな。とちょっと思う。

 

 

<骸骨壁>(ウォール・オブ・スケルトン)!」

 

 

 エデルガルドがアインズに当たる寸前。地面から骸骨の壁が生えてくる。

 無視して槍で突かれ。破壊される。

 

 

 

 しかし速度は落ちた。

 今からアインズに当たるのは再加速する必要がある。

 

 

 

 

<上位魔法刻印>(グレーター・マジック・シール)<解放>(リリース)

 

 

 取っておいた魔法の矢(マジック・アロー)を放つ。

 エデルガルドは後ろに跳躍し避けようとするが魔法の矢(マジック・アロー)は絶対命中。

 追尾する。

 直ぐに槍を構えて防御するが三重の魔法の矢を防ぎきることはできず体中に受ける。

 耳に。足に。顔に体に。

 根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)の炎のスリップダメージもあったのだろう。火傷もしている。

 数発は槍で防げたようだがそれでも結構なダメージ量だ。

 外見上も夥しい傷に出血があるし<生命の精髄>(ライフ・エッセンス)で見ると最初に見た時より半分以上減っている。

 

「まだ、おわれー、ない……!」

 

 大きく吹き飛ばされ。最初に近づいてきた位置で槍を杖代わりにし。立ち上がる。

 

 

 ──このままでも勝てそうだな。

 エデルガルドは60以上ありそうだから敵になりうるが、それ以外は雑魚同然。

 適当に破滅の王(ドゥームロード)でも召喚するだけで終わりそうだ。

 

 しかし。これでいいのだろうか。

 このままこの魔族共を殺すことはできるが。街のアンデッドからの連絡が気になる。

 カマをかけようか。

 

「このままここを突破しても無意味だぞ? 街中に入ることはできん」

 

 

 ふっと、エデルガルドが不敵に笑う。

 

「それはー、わからない?」

 

 槍を上に構える。

 何かしらの特殊技能(スキル)か。突撃の指示か。

 

 

「ああ、それはお仲間(・・・)の蜥蜴型の魔族のことを言ってるのかね?」

 

 

「……は?」

 

 

 

 キョトンと、エデルガルドが槍を振り戻す。

 ビンゴだ。

 

「街に侵入した魔族は既に私の仲間が倒した、魔術師協会長は安全な所へ避難済み

 さて──どうするかね?」

 

 

 

「……全軍撤退!」

 

 

 

 エデルガルドが魔族に向けて叫ぶ。

 しかし魔族共は混乱するだけだ。

 

「いいから──逃げる! もう、ここに居ても、無意味!」

 

 

 エデルガルドが叫びながら走り出す。

 目指すは騎獣か。

 

 動揺が魔族側にめぐるが、ようやく意味がわかったのか走り出す。

 それを見逃す程、甘くはない。

 

 

「逃がすとでも? ──<隕石落下>(メテオフォール)

 

 

 杖を振り上げ最高位の攻撃魔法を放つ。

 上空に魔法陣が浮かびあがり。そこから魔法でできた隕石が生み出される。

 

 何体かの魔族とエデルガルドが見上げる。

 エデルガルドだけはすぐに全力で橋の向こうまで走り抜けようとするが──

 

 それよりも。隕石が落ちる方が早い。

 

 

 耳が裂けそうな轟音が響く。

 高い所から石が落ちる音を何百倍にもしたような音。

 土煙が発生し視界が一気に悪くなる。

 魔法的ではなく物理現象による物なのでアインズは視界を封じられないが後ろにいるシュラとセルシオ。その他橋の兵士は視界が封じられているだろう。

<下位アンデッド作成>(クリエイト・アンデッド)レイス

土煙の中エデルガルドが大ダメージを受けながら川の中に飛び込む

普通ならば助かりようがないが、魔族という異形種ならば助かるかもしれない

 土煙が消える。

 残ったのは砕けた石橋のみ。

 半分以上ぶっ壊れ、今もまだガタガタと石が崩れていく。

 あれほど居た魔族は影も形もない。

 

 

 

「……終わったか」

 

 

 

 ──────────────────-

 

 

 

「はっはー! レムちゃん! 無事か!」

 

 ガシャン、と金属を鳴らしながら男──エミールが走り寄ってくる。

 

「あ、エミール、無事ですよー」

 

 

 対しレムは棒読み。

 というよりはもはやすべてを諦めたような顔だ。

 

「……本当に無事なのか? 何かあったのでは?」

 

 エミールがそういうのも無理はない。

 レムがいる場所は壁と床が明らかに人為的に破壊されている。

 しかもレムは巨大な蛇の召喚獣……シャドウスネイクを召喚している。

 これで何かない方がおかしいだろう。

 

「えぇっと……大丈夫です、冒険者の方、魔族が現れましたが……既に、その倒されましたので」

 

 一歩セレスティーヌが前に出てエミールに説明をする。

 しかしセレスティーヌ自身現状を把握できているわけではない。

 

 

 起こったことだけを言うのならばガラクという男が自害・魔族となるが突如現れた謎のモンスター……推定召喚獣によって即座に討伐。

 その後召喚獣も消えた。

 

 結果としては『何もわからない』である。

 現れた瞬間レムは召喚獣を呼び出したが、そんな必要はなかっただろう。

 

 

 現状を正しく理解できるのはレムだけだが、あれやこれやと一気に起こりすぎて脳が混乱しているのだ。

 

 そこにアインズたちがやってくる。

 

 

「……こんな道の真ん中で何をしているんだ?」

 

 問うたのはアインズ・ウール・ゴウンその人。

 隣にはシュラとセルシオが話している。

 

 

「あなたのことを話していたんですよ!」

 

 

 ようやく再起動したレムがアインズに詰め寄る。

 

「アインズのこと? なになに、何話してたのー?」

 

 

 シュラが能天気にレムに問う。

 

「急に魔族が現れて! 何かあったのかと思ったらわけわっかんない召喚獣が現れて! すぐ魔族を倒して!」

 

 

 そこで息を吸う。

 

「だと思ったらすぐ消えて! もうまったくもって意味がわかりませんよ! えぇ!」

 

「わ、わかったわかった、すべて説明するから落ち着け、な?」

 

 二回ぐらい沈静化が発動するぐらいには動揺する。

 落ち着いた者だと思ってたがそんなことはなかったらしい。

 

 

 ──かくして百の魔族による大侵攻は防がれた。

 アインズ・ウール・ゴウンというたった一人の超越者(オーバーロード)によって。

*1
アインズから伝言が来た

*2
アインズと会話




第一巻分終了しました
アインズ様だと結構細かいところは変わるなーていう感じですね
大まかなストーリー変えれなかったのちょっと反省します

次は幕門挟んで第二巻始まります


オリ設定

アイテム召喚と召喚魔法/スキルは併用可能


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幕間

追記(1/11)
諸事情で1/13に更新できなさそうです
申し訳ございません。

シークレットダイス→??


UA4500突破
お気に入り120突破
ありがとうございます
※2022/12/29 20:10時のデータです


 

「う~んこれじゃない……これはレベル制限あるし……げっ、これ売ってなかったのか、もったいないなぁ」

 

 

 安心亭。

 大部屋は今とてつもない状況にある。

 

「戻りま……し……た……?」

 

 

 ガチャ、と木製のドアが開けられ、豹人族の少女──レム・ガレウが帰ってくる。

 

「あ、お帰り、少し散らかっててすまんな」

 

 

 部屋の床に座って入る者──アインズはレムの方に顔を向けず、アイテムボックスからアイテムを取り出し続ける。

 

 

「いやなんですかこれ! 足の踏み場もないじゃないですか!」

 

 

 レムが叫ぶ。

 現在この部屋はアインズのアイテム整理に使われ散らかっている。

 しかも足元にあるのは割れ物のガラス瓶に謎の角笛、明らかに高価だとわかる指輪にネックレス。

 謎の装飾が施された剣に盾、謎の巻物に杖等々。

 

 

「なんでこんなに散らかってるんですか! 片づけなさい!」

 

 まるで親が子に叱るようにアインズに向かって叫ぶ。

 部屋に入ることもできないので声が宿屋に響く。

 

 

「ああ、いや、アイテムの整理をとな? 最近物騒だからな、セルシオやレムに渡せるアイテムが無いかと探してたんだよ」

 

 

 ようやくアインズがレムの方を向く。

 手に持つは謎のネックレス。

 しかも仮面を外し骸骨の素顔を晒しているため少し怖い。

 

「……それは?」

 

 レムが顔をちょっと引き攣らせながらアインズに問う。

 

「ああ、これは上位物理無効化──レベル60以下の物理攻撃を無効化するネックレス、こっちの指輪は中位魔法無効化、第三位階以下の魔法の無効化で、こっちは疲労無効──」

 

 他にも床に散らばっているアイテムを魔法で引き寄せ、レムに紹介しようとする。

 

「なんですその伝説級のアイテムは! 片づけなさい! というかそんなものを雑に扱わないでください!」

 

 

 発狂する。

 高価どころか伝説級のアイテムの数々だ。

 上位物理無効化のネックレスなんてそれはもうヤバいどころではない。

 国宝レベルを超えている。

 

「え、いやこれはレムに渡そうと……」

 

「片づけなさい」

 

「あっはい」

 

 

 こうしてレムたちにこの世界基準での伝説級のアイテムが渡されることはなかった。

 しかしレムはまだ知らない。

 これよりはましだが確実に国宝級のアイテムを渡されることを──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 ──胃が胃てぇ。

 

 

 冒険者協会協会長であるシルヴィは腹を撫でる。

 心労で痩せようにも痩せる部分がない彼女は目の前の人物相手に苦心している。

 

 

「たった一人の魔術師が、百の魔族を倒した、か……あまりにも荒唐無稽ではないかね?」

 

 

 男──このファルトラ市の領主ガルフォードはシルヴィに問いかける。

 その目は鋭く、シルヴィを問い詰めんとしている。

 

「まー、嘘のように思えるかもだけど、真実だよ 嘘だと思うなら、ウルグ橋砦に努めてる兵士に確認すればいいんじゃない?」

 

 

 ははは、と乾いた笑いと共に提案する。

 もはや訳が分からない、シルヴィ自身にも。

 異世界から来た存在だとは聞いたが、こんな化け物とは聞いていない──シルヴィの心境はそんなところだ。

 なんなら『アインズ・ウール・ゴウン』とは何なのかとという報告には嘘──アンデッドということを書いてない──ため、ガルフォードに睨まれる。

 しかしそれはそれで真実を書けば『何言ってんだこいつ』と見られるだろう。

 ナムサン。

 

 

 ギルマスの胃は痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこか遠いところ

 主無き墳墓

 

 円形闘技場。

 空に移るは偽りの空。

 かつてとある男が恋焦がれ創り出した物。

 この世界のどこを見ても存在しない空の下。

 そんな空を創った主たちに敬意を示しながら男は集まった同胞を見る。

 

「諸君、集まってくれて感謝する」

 

 

 スーツを着た男が集まった者に礼を述べる。

 集まったのは異形の者達。

 吸血鬼、ダークエルフ、人型の虫、竜人に赤子の天使。

 

 また男も異形であり、宝石の眼球と尻尾がヒトでないことを示している。

 

「一体ナニガアッタノダ」

 

 

 フシュ―と冷気を吹き出しながら四本腕の人型の虫が男に問う。

 男──悪魔は彼らへの命令権を持っていない。

 彼らに命令できるのは主たる41人のみ。

 形だけで守護者統括というサキュバスが持っているだけだ。

 故にこの場に集まったすべての──否、たった一人の吸血鬼を除いて誰もが不機嫌そうにしている。

 

 

「────様が──お隠れになられた」

 

 

 ひぃと悲鳴を上げたのは誰だろうか。

 それは悪魔自身か、あるいは吸血鬼か幼いダークエルフか。

 

 

「だが待ってほしい、我々もまた予期せぬ事態に陥ったようだ」

 

 

 悪魔が吸血鬼に視線を合わせ、説明するように促す。

 

 

「先日、第一層のシモベから連絡がありんした、『入り口から砂が入っている』と」

 

 

 女吸血鬼は喋りながら同胞たちを見る。

 怒られないだろうか、主に失望されないだろうかと恐怖に怯えながら。

 

 

「連絡後、地表部分を確認すると……砂漠に代わっていんした」

 

 

 砂漠、と幼いダークエルフの片方──女装した者が驚愕に目を染める。

 

「周囲には人工物はあれど、生命反応はほぼなし、本来存在したはずの毒沼やツヴェーク達は影も形も存在せんした」

 

 

 シン、と静まる。

 本来呼吸が必要な者もやめ、まるで通夜のような空気だ。

 

 

 

 仕えるべき主を失い、かつての故郷とは別の地に来てしまった。

 これからどうするべきか。

 分からない、判らない、解らない。

 

 

 異形の者達にその知識はない。

 本来主に使え、命ずるままに動くだけの人形に過ぎない彼らにはその能力が欠損している。

 いや、与えられなかったと言うべきか。

 

 

「え、えっと……僕たちは、どうしたらいいんでしょう……?」

 

 

 幼いダークエルフの片方が悪魔に問いかける。

 

 

「簡単なことだよ、我々が探せばいい」

 

 

「主はお隠れになったのではなく、我々と同じように飛ばされたのかもしれない」

 

「ならば……この世界を探し尽くせばいい

 この世界を探索し終えたら、また別の世界へ

 世界は複数存在するのは証明済みだ、至高の御方々が住まう現実や、我々が居た世界……それらすべてを探し尽くせばいい」

 

 

 

 悪魔は言う、居ないなら探せばいいのだと。

 実に簡単なことだが、彼らにはそれをしていいのか判断ができない。

 

 

「何、安心したまえ、守護者統括殿から許可は取れている」

 

 

 悪魔は最後にそう言うと、異形達は首を縦に振り、肯定した。

 

 

「結構……では諸君、これからの計画を話そう」

 

 

 

 悪魔は自身の影を見る。

 影に潜むは自身と同じ種族の者。

 

 

「ここより三日程歩いた先に人間の都市があるそうだ、まずはそこを攻めよう」




追記(1/11)
諸事情で1/13に更新できなさそうです
申し訳ございません。


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第二巻
国家騎士とエルフ


新年あけましておめでとうございます

2023/1/20 17:29
誤字報告ありがとうございます。
適応しました


2023/4/17 21:13
誤字報告ありがとうございます。
適応しました


 あれから十日。

 特にこれといった大きなイベントもなく、アインズはレム・シェラ・セルシオと共に冒険者として活動を続けている。

 薬草採取やモンスターの討伐、近くの農家への道具の運搬、壊れた(壊した)ウルグ橋砦の修理手伝い。

 雑用などもあったが、シェラとアインズは実に楽しそうに依頼をこなしていった。

 アインズにとっては実の体を動かすという行為そのものに興奮し、シェラはこれまで見たことはあってもしたことはない……というよりはさせてもらえなかったことをできて喜んでいた。

あの時作った死霊(レイス)にエデルガルドの捜索を命じたが、ついぞ見つけることはできなかった

川の中に飛びこみ、川の流れに乗ったまではわかったが、それ以降が行方不明である

川の中で死んだが、あるいは生きて再起を図っているか……

 また休日を取り、四人で街の散策などもした。

 道中ポーション屋により、ユグドラシルでは存在しないMP回復ポーションが存在することに一人驚愕したり。

 武器屋でユグドラシルでよく見るような武器を見たり、セルシオに遂にアインズがアンデッドとバレたり、近日オープン予定のカフェを見たり等……

 

 

 ユグドラシルにこもっていた時とは違い、実に忠実した日々を過ごしている。

 誰かと共にいるというのは、これほど素晴らしいことなんだと、アインズは思い出している

 ……内二名が美少女なので、どこかの鳥人に妬まれそうだが。

 

 

 カチャカチャと、食器の音が耳に入る。

 いい匂いだな、とアインズは思う。

 流れ星の指輪(シューティングスター)を使って食事を……といつも願ってしまう。

 まぁ、魔族等の脅威がある以上超貴重アイテムをそんなことに仕えないのだが。

 

 流石に十日も経つとアインズが一人だけ食事をしていないことに疑問を抱かれたりするので、嫉妬マスクの効果で飲食不要になっている、とごり押しした。

 それでもなお気にする者はいるが、冒険者協会のギルドマスターや魔術師協会長と懇意にしているので、強く突っ込まれることはなかった。

 持つべきものはやはりコネか。

 

 

 

 

「やっほー! アインズ君、早速で悪いけど、ちょっとギルドまで来てくれないかな?」

 

「急ですねギルドマスター、緊急クエストでも?」

 

 安心亭の一階での食事が終わり、さぁ出るかと席を立った瞬間、ドアを開けてシルヴィが来訪する。

 すわ何事かと周囲の亜人達がアインズの方を見る。

 

「いやー、クエストってわけじゃないよ、ただちょっとあってほしい人がいてね」

 

「あって欲しい人、ですか……」

 

「そうそう、急で悪いんだけどさ、じゃあ早速、レッツラゴー!」

 

 

 

 

 

 ─────

 

 シルヴィに連れられたのは毎度お馴染みギルマスの執務室。

 しかしいつもと違い、中には先客が一人いる。

 

「お待ちしておりました、シルヴィ様、そしてアインズ・ウール・ゴウン様」

 

 中に居たのは眼鏡をかけた女性だ。

 茶色い髪に赤い瞳が眼鏡越しにアインズを真っ直ぐとみている。

 動きやすいように肩がでた軽装鎧に装飾が施されたマントが付いている。

 身なりとしては冒険者ではなくどこかの騎士のようだ。

 

「いやー、待たせてごめんね? アリシアくん」

 

 

 この女の名はアリシアというらしい。

 

「彼女が『あって欲しい』と言っていた方ですか?」

 

 

 状況から見てまず間違いないだろうが……理由が思い当たらない。

 これがまだエルフ等ならシェラ関連かと思うが、相手は人間だ。

 

 

「初めまして、国家騎士のアリシア・クリステラです。

 よろしくお願いします」

 

 右手を胸に当て敬礼をする。

 

 

 

 ──国家騎士。

 初日にレム達から聞いた情報にはないモノだ。

 名称からして国家に仕える騎士だろうか。

 

 

「国王陛下直属の騎士が……なぜこの場所に?」

 

 レムが説明口調で騎士……アリシアに問いかける。

 アインズに国家騎士のことを話してないことを思い出したのだろう。

 正直ありがたい。

 

「ま、詳しい話は座ってしよっか」

 

 シルヴィがそういい、全員に座るように促す。

 アリシアは辞退しようとしたが、推し進められて全員座る。

 昨日と同じような状況だ。

 違うのはアリシアがシルヴィの隣に座り、セルシオは下の階でエルフと情報交換しているから居ないぐらいか。

 アリシアがアインズのことを強く見てくる。

 何かしただろうか。

 

 

「さて、なんで国家騎士が居るのか先に言うと……まぁぶっちゃけるとシェラちゃんの護衛だね」

 

 

 シェラの護衛。

 護衛が必要なのだろうか。

 

 

「なるほど……そういうことですか」

 

 レムが納得した、と頷く。

 しかしアインズにはわからない。

 どういうことだろうか。

 護衛なんてそもそもアインズ一人いれば充分だろう、下手な冒険者や騎士よりアインズの方が強い。

 

「え~? なんで? 私護衛なんていらないよ~」

 

 ぐったり、とシェラが抗議する。

 

「ま、国の体裁だから、こればっかりはね」

 

「国の体裁……ですか?」

 

 

 なるほどわからん。

 元が小卒だしpvpや戦略的なことなら多少は頭が回れど政治的なことはさっぱりである。

 

 エルフの国の王女が自国に居るというのに、何もしないと言うのはまずい。

 非公式に滞在しているのならばともかく、定期的にエルフが来ている(……………………)現状、どこから見てもエルフの国の

 重鎮が来ているのは明白。

 そんな重鎮に国内で何かあればその責任を問われかねない

 

 それを防ぐために国家騎士を派遣したとシルヴィは語る。

 

 なるほど、とアインズは頷く。

 アインズがいる以上シェラに何かあるなんてことはないが、まぁ組織としての体裁やらを考えると必要なのだろう。

 

「よろしくお願いしますね、シェラ様、レム様、そして──アインズ・ウール・ゴウン様」

 

「アインズで構いませんよ、クリステラ殿」

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

「アインズ殿、シェラ様、少々問題が……」

 

 

 ギルマスの部屋を出て一階に降りると、エルフが待ち構えていた。

 知らない顔ではなく、何度か顔を合わせている。

 エルフの国とシェラとの連絡係として派遣されているエルフだ。

 

 

「なになに? 何があったの?」

 

 ひょこっと、シェラが顔を出して訪ねる。

 

 

「キイラ王子が……もうすぐこの街に来ます」

 

「げっ、兄さんが?」

 

 

 

 詳しい話を聞けば、シェラの兄──キイラ王子とやらがシェラの安否確認の為にやってくるという。

 これだけなら単なる妹思いのいい兄だが、実体はシェラ曰く「自分と子づくりしたいだけ」とのこと。

 なんと実の兄が婚約者らしい。

 幼いころから子づくりを迫っていたとかなんとか。

 心の中の変態鳥人(ペロロンチーノ)が歓喜する。

 

 シェラの話しぶりからするに、相当嫌われているようだ。

 

「まぁ……今考えても仕方がないし、一度宿に戻ろうか」

 

 

 

 

 冒険者協会を出て、宿に戻る。

 流石に家族間の問題などを冒険者協会内で話すのは憚られるからだ。

 ついでに国家間の問題にもなりそうなので。

 

 

 街を歩くとやはり人に見られる。

 アインズの容姿そのものが珍しがられている訳ではなく、その眼差しにはキラキラとして眩いモノを見る目だ。

 先日のウルグ橋砦での魔族侵攻。

 それを防いだのがアインズだと、それはもう盛大にバレたからだ。

 単純な目撃人の多さ、ウルグ橋砦が壊れたという確固たる事実。

 異邦の風貌に、これまでの常識を覆す戦闘力。

 

 更には魔術師協会から正式な感謝と、それに伴う多大な報酬。

 それを受け取ったアインズたちはちょっとした小金持ち兼有名冒険者である。

 その報酬が魔族を倒したものと広まるのはそう遅くはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

「それで、どういたしますか?」

 

 

 安心亭の宿屋の大部屋。

 流石に五人もいると少々手狭だが、まぁここぐらいしか現状落ち着いて話し合いができる場所はないので仕方がない。

 話題は勿論シェラの兄だ。

 

「う~ん……兄さんが来たら、まず戻ってくるように言うんじゃないかな」

 

「ふむ……強引な手段を使う可能性は?」

 

「それは……どうだろ? 兄さんだからなぁ……」

 

 う~ん、と五人で頭を悩ませる。

 ──まぁ、準備しすぎるということもないだろう。

 

 アイテムボックスを開き、最近整理したばかりの<無限の背負い袋>(インフィニティ・ハヴァザック)を取り出す。

 

「え、今どこから袋を……?」

 

 アリシアが何か言いだすが、無視して<無限の背負い袋>(インフィニティ・ハヴァザック)からアイテムを取り出す。

 

「さて、じゃあ全員これを渡そうか……クリステラ殿の分はないな、何かリクエストがあれば適当に見繕いますが……」

 

「え、あの……その……」

 

 

 アリシアが混乱している。

 机の上に出したはユグドラシルのマジックアイテムだ。

 指輪、ネックレス、腕輪の三種類。

 

 どれもがこの世界ではまだ見たことない鉱物が原料であり、この地では見たことのない豪華な装飾が施されている。

 

「これ……本当に?」

 

 レムがじっとした目で問うてくる。

 

「ああ、これから何があるかわからんからな、準備しといて損はないだろう?」

 

 

 そういって強引に渡す。

 レムに渡したのはファイターとしての戦闘力を底上げするの物。

 ないよりはまし程度のHP回復強化も付いている。

 

 シェラとセルシオに渡したのはアーチャーとしての能力強化だ。

 弓でのダメージ強化に、遠距離攻撃成功時のボーナスが付く代物だ。

 

 

 また、全員に渡したのはユグドラシルでは致命的な精神系や即死系などの状態異常への耐性が付くものだ。

 職業的な能力の強化はおまけに過ぎず、どちらかとそちらがメインの効果になる。

 それゆえ、能力的な強化は微々たる*1ものに過ぎない。

 前渡そうとして拒否られたが、今回は受け入れられる、はず。

 

「えっと……アインズ殿は、これだけのマジックアイテムを、どこで?」

 

 一つ一つがこの世界での国宝級に値するような物である。

 アリシアの疑問も当然と言える。

 

「これらは昔の仲間と集めたり、作った物ですよ、私が持っていても仕方がないのでね、クリステラ殿は何かいりますか?」

 

「いえ、私は国王陛下から与えられた物があるので、遠慮しておきます」

 

「そうですか、欲しくなったら何時でも言ってくださいね」

 

 そういいつつ、頭の中で剣士系にはどんなアイテムがいいかな、と思案する。

 これらのアイテムはすべて遺産級程度の物だが、すべてギルメンと共に集めた思い出深いものだ。

 かつて集めて、ダブったりすぐ上位互換が作れて意味がなくなった物を記念としてアイテムボックスに貯めていたが、こうやって有効利用できるのならいいものだ。

 

 

 

「はぁ……わかりました、確かにもう何があるかわかりませんからね」

 

 

 レムは観念しました、と渡したアイテムを付けていく。

 計画通り、これでもし万が一何かあっても探知魔法で探すこともできる。

 

「じゃ、みんなでご飯食べよ! アリシアさん加入記念ってことで!」

 

 

 

 

 ────

 

 やってきたのは三角耳亭という料理店だ。

 分厚いステーキにチーズが売りの料理店であり、店内に猫が居るというのもポイントである。

 店主は亜人であり、そのせいか人間の客は居ない。

 そんな中でたった二人の人間の客として注目を少し集めている。

 

 

 そんな周囲の注目を無視し、飯処なのに仮面を着けたままということで必要以上に注目を集めているがアインズは気にせず。何となくアリシアを見る。

 アリシアはすぐに全員と打ち解け、セルシオとも普通に会話をできている。

 こういうのをコミュ力高い、というのだろうか。

 アインズも負けじとユグドラシルのロールプレイで培った技術で会話する。

 まぁ、アリシアの会話テクは営業というよりはキャバクラ等の嬢が客を気分良くするようなものだろうか──と、上司に連れられて行ったキャバクラを思い出す。

 驕りでなく自腹だった、クソが。

 

「……不安ですか、シェラ様」

 

「う~ん……まぁね、兄さんがくるってなると……」

 

「そうですね……手を、出してください」

 

「ん? いいよ~」

 

 

 スッと、シェラが隣のアリシアに右手を差し出す。

 失礼します、とアリシアがいい、シェラの掌を開き、円を描く。

 そのまま円の周りに数本の線を描く。

 円を描いた後は指を閉じ、「消えた」と小さく呟く。

 

「今のは?」

 

 レムがアリシアに尋ねる。

 

「わたくしの故郷では、こうすると不安が消える、というおまじないです」

 

 

 手のひらに人という字を書いて飲むのと似たようなものだろうか。

 大事なプレゼン前とかに数度やったことはあるが、異世界だと何か違うのだろうか。

 

「そんなのがあるんですね……あの、私にもやってもらっても?」

 

 レムもスッと手を差し出す。

 不安がある、という様子ではなく、純粋な好奇心っぽい。

 

「ええ、レム様もどうぞ」

 

 そういい、レムに先ほどと同じように描いていく。

 異変が起こったのは、線を書き、指を閉じようとした時。

 

 それは小さな光。

 店内を覆いつくすような大きな光でもなければ、人一人飲み込む光でもなく、注視していなければ気づけないような──

 嫌な光だ。

 

「え、えっと……これは?」

 

「わ、わかりません……このようなことが起こるのは初めてでして……」

 

 発動した本人も混乱しているようで、本当に何が起こったかわかっていないようだ。

 

「え~と、お食事をお持ちしました~」

 

 そこに、豹人族のウエイトレスが食事を持ってくる。

 

「まぁ、詳しいことは後で、先に食事と行きましょう」

 

 

 アインズの言葉に頷き、食事が始まった。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 ──触感はわかっても、味はわからないもんなぁ。

 

 店を出て、嫉妬マスクを触る。

 十日の間の実験で、食事を少し試したが、触感はわかっても味はわからないということがわかった。

 しかも試したのは部屋の中であり、どうせならと高い肉を買って試したせいで床が汚れてしまった。

 魔法で掃除したが、本当にもったいないことをした。

 しかし匂いはわかるので、これからは香りが強い料理──カレーなどを食べることはせず楽しめるかもしれない。

 この世界でカレーを見たことはないが。

 

 そうこうしているうちに、宿屋に付く。

 先頭のアリシアが扉を開けると──

 

 

「やぁ、シェラ、久しぶりだねぇ」

 

 

 中にいるエルフの男が出迎えてきた。

*1
ユグドラシルでの価値観




ストック尽きたし諸事情で書く時間取れそうにないので完全不定期投稿になります


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エルフの王子

2023/2/10 15:48
誤字報告ありがとうございます。
適応しました


「げっ! 兄さん!」

 

 シェラが叫ぶ。

 なるほど、これがシェラの兄か。

 長身イケメン、金色の髪に優しげな瞳。

 体格はがっしりとしてなく、ひょろい。

 運動はあまりしない方なのだろうか。

 

「げっ、はないだろうシェラ、実の兄だぞ?」

 

 ──しかし、上記の印象は口調と下品な口元により台無しにされる。

 どっかの悪役か? と聞きたくなってくる。

 

 

「なんの用事で来たの!」

 

 声を荒げるシェラをしり目に、シュラの兄が優雅に一礼する。

 

「初めまして愚民共、シェラの兄でグリーンウッド王国の第一王子、キイラ・L・グリーンウッドだ」

 

 

 

 その後、すぐにシェラの手を握る。

 

「いや! 離して!」

 

「家出なんて、馬鹿なことを考えたものだなぁ、シェラ、さぁ、国に帰るぞ」

 

「帰らない!」

 

 

 ばっと、シェラがキイラの腕を振り払う。

 

 

「まったく、実の兄だっていうのにそれはないだろう?」

 

 やれやれ、とキイラが肩をすくめる。

 

「まぁいいさ、今日はシェラの意思を確認しに来ただけだ」

 

 

 

「そうですか、ならばもう要は済んだでしょう? シェラは帰らないと」

 

 

「結論を急ぐなよ、なぁ、シェラ? お前の口からちゃんと言えよ」

 

 

 ニタニタと気色悪い笑みを浮かべながら、キイラが言う。

 

 

「うん、私は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやっても原作通りなのでカット! 

 

 ■

 

 

「ねぇレム、起きてる?」

 

「……起きてますよ」

 

 

 その日の夜。

 安心亭の二人部屋にて。

 

 

 やってきたキイラ王子が、二人きりで話したいとごねたり、謎の笛の音色を聞かせてきたりもしたが。

 特にどうということはなく、そのまま帰っていった。

 キイラはまた明日来る、とは言っていたが、シェラの心は変わらない。

 

 レムと、アインズと──セルシオと、みんなで冒険をする。

 これまで見たこともないような場所に行き、物語のような冒険をする。

 

 

「ねぇ、レムはさ──冒険者をやめた後って、考えたことある?」

 

「冒険者をやめた後、ですか?」

 

 

 ふむ、とレムが思案する。

 

「どうでしょう……私は考えたことがありませんね……私の未来のことは、考えてもしょうがないので……」

 

 

 すん、と言う。

 レム・ガレウは誰にも言っていない秘密がある。

 シェラにも、セルシオにもアインズにも。

 この広い世界でセレスティーヌ以外、誰も知らないたった一つの秘密。

 

 

「えー? そんなことないよ~」

 

 

 とろん、と眠そうな眼をレムに向ける。

 

 

「と、いうか急にどうしたんです?」

 

 

 スッと話題を切り替える。

 

「いや……兄さんが来て、ちょっと考えてたの」

 

 

 

「私は、決められた未来しかない故郷(グリーンウッド)が嫌で、抜け出してきた

 結婚相手とか、訓練とか──全部、『誰か』に決められてきたの

 そんな生活が嫌で……『誰か』に決められた人生じゃない、私の人生が欲しかった

 けれど──誰にも決められなくなって……」

 

「感傷に浸っていると?」

 

「そうそれ!」

 

 

 贅沢な思いだ。

 世の中には誰にも決められず──されど何もできない者も多いというのに。

 シェラは恵まれている。

 幼少からの教育、召喚師、弓の才能。

 それらがあるからこそシェラは冒険者として戦える。

 

 

「冒険者も、いつか辞めないといけない時がくる」

 

 

 その時、どうしたらいいのかな──と。

 

 

 う~ん、とレムが頭を唸らせる。

 

 

「そうですね……冒険者以外の職を見る、とかどうでしょう?」

 

「ほうほう、というと?」

 

「まぁ、武器屋とか薬屋とか……そういう、職種ですかね?」

 

 

「う~ん武器屋……あっ! カフェとかどうかな!」

 

「声が大きいですよ」

 

「あっごめん……いや、前オープン予定の珈琲店見に行ったじゃん? そういうのどうかなって!」

 

 

「珈琲店ですか……いいですね……全てが終わったら──」

 

 

 

 二人の夜は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

「そんな顔をしていたとは……」

 

 

 シェラたちの部屋の隣。

 部屋の構造は全く同じだが、男二人で少しむさ苦しい。

 いや、片方は美少女に見間違いかねないし、片方はそもそも匂いが無い──というか死臭がしそうなアンデッドなのでないが。

 

「まぁ、顔だけじゃなく、中身もこうだがな」

 

 そういってアインズは小手を外し、骨の素手を見せる。

 それをほー、不思議な者だとセルシオが注視する。

 

「……怖がらないんだな?」

 

「──まぁ、恐怖を抱いていないと言えば、嘘になる」

 

 

 だが、そう言ったセルシオの顔は実にすんだ顔をしている。

 

「アインズはシェラ様の仲間で──俺の仲間でもある、仲間なのだから、怖がる必要はないだろう?」

 

 

 その顔は、どこかの誰か(ギルドメンバー)に似ていて──

 

 

「ははっ……ハハハハ!」

 

 

 笑う、嗤う、哂う。

 ああ、自分はなんと愚かなのか。

 記憶を弄るのも覚悟でこれ以上は隠せないと晒した。

 相手はこれほどまでに、アインズを信用してくれていたのに。

 

「──ちっ、沈静化されたか」

 

 

 だが、気分は悪くない。

 沈静化されてもなお、心の中で燃え続ける。

 

「では改めて──よろしく頼む、セルシオ」

 

「こちらこそ、アインズ」

 

 

 エルフの細腕と骸骨の手で握手がなされた。

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 翌日。

 

「やっぱこれぐらいのアイテムは必須じゃないか? 何があるかわからないわけだし」

 

「いえいりませんぜったいいりませんすぐしまってくださいさぁはやくいますぐに」

 

 

 若干言語能力が壊れた感じでレムが否定する。

 なんでかなー、と床に置いたマジックアイテムの一つを手に取る。

 どれもユグドラシルではありふれた──よくあるアイテムだ。

 喰らったらほぼ終わりな即死や精神操作。

 行動阻害などへの耐性を一時的に付与するか、解除するタイプのアイテム。

 他にもポーションや巻物(スクロール)魔法の杖(ワンド)等。

 先日渡したアイテムだと駄目だ、と言われたので今度は消耗品類で攻めてみようという魂胆だ。

 そのうち売ろうとダンジョン産のアイテムを適当に無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に入れて忘れていたものの一部に過ぎないが。

 

「アリシアもいりませんよね? (要らないと言ってください)

 

「は、はい……私は国王陛下から授けられた物以外は……ちょっと……」

 

「……むぅ、そうか、絶対に消費する品はどうだ? これは上級治癒薬(ハイ・ポーション)と言って、傷の治癒だけでなく、様々なバッドステータスを──」

 

「しまってください」

 

「あっはい」

 

 

 

 何でダメかなーと呟きながらアイテムボックスにしまっていく。

 何気に異空間への収納も見られたが問題ないだろう。

 

 

 そんな何気ないやり取りをしていると笛の音が聞こえてくる。

 ちょっと下手だが、笛自体の質はいいのだろう、音色そのものはよさげだ。

 吹いている人物が悪いのだろうか。

 

「なにー? この音」

 

 うへぇ、とシェラがダウンする。

 

「ん? どうした? シェラ」

 

「なんかこの音嫌な感じがするー」

 

 と、はて。

 よく聞いてみれば先日聞いた──キイラの笛と同じでは? 

 

 

<静寂の部屋>(サイレント・ルーム)

 

 

 防音魔法。

 階位もそれほど高くない魔法だ。

 効果は使用者を中心に一定範囲内の音を聞こえなくする効果。

 内部への音は聞こえなくなり、外部への音も聞こえなくなってしまうが。

 

 本来は音系の攻撃を使うモンスター……セイレーンや人魚等のモンスターエリアで使う魔法だ。

 

「おー、聞こえなくなった!」

 

 ガバっと、シェラが元気よく立ち上がる。

 

「しかし……先日直ぐ帰ると言っていたはずでは?」

 

 

 アリシアが疑問を口にする。

 

 

「もしかしたら帰る前に挨拶に来たのでは?」

 

 

 レムが若干、希望的観測を込めていう。

 

「まぁ、それなら平和的でいいが……」

 

 

 よっこいしょっと、床から立ち上がる。

 

「ちょっと下に降りてみてくる、皆はここで待っていてくれ」

 

 アインズがそういって扉に手をかけようとした瞬間、扉が勢いよく開けられる。

 咄嗟にレベル100のスペックで避けたが、遅れていたら扉が顔に直撃していただろう。

 

「シェラ! 何故降りてこない!」

 

「え? 兄さん?」

 

 扉を開けて出てきたのはシェラの兄であるキイラ。

 何故か笛を手に取り、先日よりも苛ついている。

 

「どうしましたか? 何か忘れものでも?」

 

 

「はぁ?! お前には用はないんだよ! シェラを出せ!」

 

 

 その声に、いやいやとシェラがでる。

 

「なに? 兄さん?」

 

「お前、何で来ない──いや、エルフの秘宝が効いてないのか?!」

 

 

 あ、と言った後にキイラが口を押える。

 しかし時すでに遅し、アリシアが剣の柄に手を置き、レムが召喚のクリスタルを握る。

 直ぐにアインズはシェラの前に手を出し、庇う様に一歩前に出る。

 

「エルフの秘宝、と言ったな? それはなんだ? シェラに何をしようとした?」

 

 

 アインズが絶望のオーラを発動させ、キイラに詰め寄る。

 発動したのはレベル1、けれど効果は絶大でキイラはひぃと情けない声を上げる。

 

 そのままどさっと、床に倒れこむ。

 

「いったいなんなんだ?」

 

 はぁ、と呼吸はしていないがアインズがため息をつく。

 さて、何があるのか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 結論。

 とんでもなかった。

 

「クソ! クソ! なんでお前ら僕に従わないんだ!」

 

 

 なんだなんだと、やじ馬が集まる。

 安心亭の外の大通り。

 普段は特に何ともない場所に、大きめの馬車が一台止まっている。

 キイラが乗っていた馬車ではなく、ファルトラの領主より借り受けた護送馬車だ。

 鉄の檻をそのまま馬車にくっつけただけの物の中には、服を脱がされボロい、王族が着るような服ではない檻に相応しい囚人服を着せられたキイラが乗っている。

 

「キイラ王子──あなたのしたことは、許されることではありません」

 

 檻から猿のように喚くキイラに向かって、名前も知らないキイラとついてきたエルフが冷たく言う。

 養豚場の豚を見る目だ。

 

「しかし──実の兄が……あのようなことをするとは……」

 

「うん……」

 

 

 事の真相はこうだ。

 <道具上位鑑定>(オール・アプレイザル・マジックアイテム)を使い、鑑定した結果。

 キイラが使った笛は、精神操作の力が込められていた。

 同族のエルフにしか通じず、発動には一度音色を聞かせた後一定時間後にもう一度聞かせないと効果は発動しないという、実に手間暇かかるしなだ。

 キイラはそれを使って、シェラを無理やり連れていくつもりだったのだ。

 

 しかしシェラにはアインズが渡したユグドラシル産のそういったモノに耐性を与えるマジックアイテムがあり、それで笛は何の効果も果たさなかったわけだ。

 これだけなら未遂で終わるかもしれないが、最後にキイラが懐から出したマジックアイテム。

 

 あれはシェラが言うにはエルフの最秘宝の一つ。

 一つで国をも亡ぼすという召喚獣が込められているマジックアイテムだとか。

 実際に魔法で鑑定したので間違いない。

 

 

 そんな秘宝を勝手に持ち出し、感情に任せて使用しようとしたキイラは、同じエルフ達に拘束されたというわけだ。

 

 

 

「ねぇ、兄さんはどうなるの?」

 

 

 シェラが悲しそうに、アリシアに問う。

 あんなことをされそうだったというのに、家族を心配するシェラ。

 

「本来、キイラ王子のしたことは許されることではありません……本来極刑物ですが、王族ですので……幽閉、と言ったところでしょうか」

 

「そっか……殺されることは、無いんだね?」

 

 

 よかった、とシェラが小さく呟く。

 

 そして、檻の中のキイラに近づく。

 

「そうだ! シェラ、僕を助けろ! 実の兄だぞ!」

 

 この期に及んで兄だの何だと喚くキイラに殺意が湧く。

 沈静化されない程度の怒りだが、苛ついてくる。

 

「じゃあね、兄さん……生きているなら、また会えるから──じゃあね」

 

「おい、シェラ──」

 

 

 キイラの最後の言葉は放たれることもなく、馬車が動き出す。

 ガタガタと走り出し、直ぐに見えなくなる。

 

「騒がせて、ごめんね……お昼、食べよっか!」

 

 

 にぱっと、少し曇った笑顔を浮かべた。




キイラ王子……まさかの生存!
この世界線のアインズ様だとマジックアイテム渡すよな、ってなって精神操作にレジスト成功した結果こうなりました
これで二巻は終わりです
ガルフォードさんの見せ場も奴隷商も全カットというかこの世界線だとフラグがまず立たないな……となったので


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いけ!ターキーショット!君に決めた!

おや?レムの様子が……



2022/2/24 11:43
誤字報告ありがとうございます。
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「召喚魔術か……こんなところでもできるのか?」

 

 アインズがレムに問う。

 

「えぇ……強い召喚獣を呼び出す場合は、ちゃんとした場所──アインズが呼び出された星降りの塔などがいいですが、初めてならこういう場所でもいいんです」

 

 少し胸を張って、レムが得意げに言う。

 ファルトラ周辺にある森の中に、アインズたちは来ている。

 

 シェラがしゃがみ、地面に円を描いている。

 それを横からセルシオが微笑ましく見ているさまは親子の様に見えなくもない。

 

「よーしかけた!」

 

 シェラが喜びの声を上げる。

 

「よくできました……ちょっと線が歪んでますがいいでしょう」

 

 

 こほん、とワザとらしく咳をする。

 

「この≪儀式魔術≫は──」

 

 

 レムの説明を聞きながら、アインズは思案する。

 まるでゲームのガチャだな、と。

 

 

 ただ場所や時間によって左右されるのはある種期間限定ガチャか、現実に即した要素にも思える。

 シェラが魔法陣に触れ、魔力を込める。

 

 目に見えてわかる光が溢れる。

 ただアインズにはこれはただの光にしか見えない。

 シェラやレムなら魔力と言うのを感じるらしいが、アインズにはわからないのだ。

 これはそもそもこの世界の者が扱う魔力と異世界(ユグドラシル)の魔力が別物だからか、あるいは<魔力の精髄>(マナ・エッセンス)のような魔法やスキルでないと認識できないユグドラシルの法則にアインズが縛られているからか。

 

 詳しい理由はわからないが、直ぐに光が収まる。

 

 ポンっと、光が収まり召喚獣が現れる。

 出たのはピンポン玉程度の鳥だ。

 太った七面鳥に見えるフォルムに、黒い羽。

 尻尾が扇のように広がっており、羽ばたいている。

 

「これは……ターキーショットですね」

 

「ふむ、強いのか?」

 

「いえ、弱い召喚獣ですね」

 

「え~可愛いのに~」

 

 

「可愛さと戦闘力は比例しないと思いますが……」

 

 

 シェラが嘆くが、レムが冷静な解説をする。

 

「能力は視界の共有ですね、鳥の視点で見ることができます」

 

「便利じゃん!」

 

 レムの言葉にシェラが反応する。

 

「ですが使用中は常に魔力を消費するので長時間使えません

 シェラなら兎も角普通は戦う前に魔力を消費したら戦闘時に不安が残りますし

 迷子になった時に役立つんじゃないでしょうか?」

 

 

「それは……微妙な能力だな」

 

 視界の共有、と言うのはユグドラシルにもある能力だ。

 事実アインズも<不死の奴隷/視力>(アンデススレイブ・サイト)という魔法で召喚か創造したアンデッドと視界を共有できる。

 場合によっては探索系の魔法を使うより消費MPは少ないが、危険性は大きい。

 単純な攻勢防壁によるカウンターは繋げた視界側にのみダメージが入るが、逆探知系の魔法やスキルは防げないので別途自身に探知阻害なり貼る必要がある。

 

 単純な使い道で考えるなら拠点の要所にアンデッドを置き、監視カメラ代わりに利用するぐらいか。

 それに召喚獣は呼び出しているだけでMPを消費するという。

 

「では、さっそく契約を」

 

「ん-」

 

 シェラが口の中に≪契約の魔石≫を入れ、ターキーショットに近づく。

 

 ちゅ、とターキーショットにキスをする。

 

 シェラの唇が少し光る。

 漏れ出るような光がターキーショットに触れ、一瞬で黒い首輪がターキーショットに装着される。

 これが契約魔術か、と。

 そしてアインズは疑問を抱く。

 

「契約にはキスをする必要があるのか?」

 

「? えぇ……必要ですが、何か?」

 

「ふむ……」

 

 アインズが顎に触れ、思案する。

 思い返すは最初の時。

 アインズがこの地にやって来た時だ。

 

「ふむ、レム達はなぜ、私を召喚したとき、キスを──」

 

 

 アインズが言ってて気づく、セクハラじゃないかと。

 純粋な疑問だが、はたから見たら少女にキスを迫る不審者だ。

 他の冒険者などに見られてもいいように仮面で素顔も隠しているので怪しさアップだ。

 

「ああ、あの時はアインズの姿に少々面食らっていただけです……私が動く前に、アインズが動いたのでする暇もありませんでしたが」

 

「──なるほど」

 

 

 ヨシ、セクハラだとは思われてないなと心の中でガッツポーズをする。

 

 

「ねぇねぇアインズ見て! 可愛いよ!」

 

 

 シェラが掌にターキーショットを載せ、アインズに見せてくる。

 ふむ、とアインズが呟き<不死者創造>(クリエイト・アンデッド)を発動する。

 

 作ったのは<骨の禿げ鷹>(ボーン・ヴァルチャー)

 名の通り骨の鷹だが、頭部と翼が骨になっているのを除けば鷹そのものの下位アンデッドだ。

 

 どうだ、これも可愛いだろうと自慢しようとするが、シェラが微妙な顔をする。

 

「か……わ……?」

 

「率直に言いましょう、かわいくありません」

 

 

 シェラが言葉につまり、レムが断言する。

 救いを求めてセルシオを見ればシェラと同じく微妙な顔をし、眼で可愛くないと訴えている。

 

「そうか……」

 

 少ししょんぼりしながら、<骨の禿げ鷹>(ボーン・ヴァルチャー)を送還した。

 

 

 

「……<特殊技能>(スキル)を使ってみたらどうだ?」

 

「うん! 試してみる!」

 

 そういい、シェラがターキーショットを飛び上がらせる。

 パタパタと羽を鳴らし、森の上まで飛んでいく。

 

「──おー! すごい! 飛んでるみたい!」

 

 

 凄い凄いとはしゃぐシェラに、アインズが一つ思いつく。

 

「ふむ、シェラ、一度<特殊技能>(スキル)を解除してくれ」

 

「ん? わかった」

 

 

 何をするのか、レムが疑問を抱くがすぐにアインズが行動に移す。

 

 

<全体飛行>(マス・フライ)

 

 

 四人全員に、飛行の効果が付与される。

 この飛行魔法は術者と同じ挙動をかけられた対象にする、と言う魔法だ。

 

 ふわりと、四人全員が同じように浮き上がる。

 先ほど飛び上がったターキーショットよりも早く、森の上まで飛んでいく。

 

「凄い! 私飛んでる!」

 

 凄いとシェラが手を動かすが、それ以上は動かせないのか、少しもどかしそうだ。

 

「ふふ、街の方まで飛んでいこうか」

 

 

 

 ──これほど楽しいのはいつぶりだろうか。

 何度か精神の鎮静化を受けながらも、アインズは喜びに打ち震える。

『誰かと喜びを分かち合う』ここ数年経験できなかったことだ。

 

 思わず笑い声を出そうになるが、アインズはどうにか耐える。

 

 

 しかし飛ぶこと数分、レムが限界を迎える。

 

「ちょ……アインズ……降ろして」

 

「む、レムには辛かったか」

 

 

 すまない、と地面に降りようとする。

 だがそれより早く、レムには限界が来た。

 

 

「おぼろろろrrr」

 

 

 

 ──レムはそれはそれは、綺麗な物を地面に向かってぶちまけた。




諸事情でこれから短い話になります



独自設定



<全体飛行>(マス・フライ)が術者と同じ挙動をする


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魔王

誤字報告ありがとうございます
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2023 3/20
20:32


 

 

「不覚……」

「まぁ、誰しも向き不向きあるさ……と言うかまだ気持ち悪いのか?」

 

 ファルトラ市のはずれ、人食いの森近くの川。

 口から吐しゃ物を撒き散らしたレムは川の水で口を漱いでいる。

 どうやらレムは酔いやすい体質らしい。

 これがレムだけなのか、豹人族全員こうなのかアインズは少し興味がわくが、自重し聞き出すのはやめておく。

 

「ま、まぁ切り替えていこう、どうだ?」

「まだちょっと気持ち悪いですが……大丈夫です」

 

 迷惑かけました、とレムが立ち上がる。

 これについては急に飛ばしたアインズにも責任があると、軽く頭を下げる。

 

「──そうだ! 水浴びしない?」

 

 シェラがぱん、と手を鳴らし、提案する。

 

「それにほら、レムちょっと臭いし」

「んなっ!」

 

 シェラが遠慮なく、女性にとっての禁句を軽く言う。

 確かにレムはちょっと汚物を口から出したので臭うかもしれないが、遠慮なく言うのはどうだろうかとアインズは思う。

 

 

「く、臭くあり……いや、臭いかも……」

「そこは否定しようか」

 

 ガクン、と両手を川辺におきレムが項垂れる、

 実際に先ほどまで吐しゃ物を撒き散らしていたからか、ある程度自覚があるのだろう。

 

「まぁ、いいんじゃないか?」

 

 切り替えるようにアインズが言うが早いか、シェラが突然上を脱ぐ。

 上半身裸、ユグドラシルではそもそも不可能な、できたところで存在しないモノ(乳首)を視認したアインズは、沈静化で精神が落ち着かされる。

 すぐさま隣のセルシオを掴み180度回転し、シェラを視界から外す。

 

「急にどうした?」

 

 極めて冷静にシェラの突然の行動に問いかける。

 それに対しシェラはきょとんと、分かっていないかのように言う。

 

「いや、服を着ていたら水浴びできないじゃん」

 

 と。

 

「いや、その……恥ずかしくないのか?」

「……そういうのは、気にしても見ないのがマナーです」

 

 と、なら仕方ないかとアインズは思うが、それでもと……というか永遠の童貞(ブツがない)なアインズには刺激が強い光景だろう。

 レムも脱ごうと、布ずれの音が聞こえた時、アインズに思念が伝わる。

 ここ最近、特に戦う用事がないときは常に魔法で呼び出し続けていたアンデッドからの思念だ。

 即座に振り向き、驚愕するレムを無視し川の向こう側を直視する。

 

「シェラ! 下がれ! レム、召喚獣を出せ!」

 

 これまでになくアインズが怒鳴る。

 その姿にシェラは直ぐ動き、服を掴んで後ろに跳躍する。

 セルシオは弓を構え、アインズが向いている方に矢をつがえる。

 

「ど、どうしたのですかアインズ!」

「直ぐにわかる──<魔法の矢>(マジック・アロー)

 

 脱ごうとした服を元に戻しながらレムがアインズに問う。

 アインズはそれを横目に指先から魔法の矢を放ち、川向こうの岩に着弾する。

 十の矢が放たれ、岩が粉々になると同時に、人影が飛び出す。

 斜めに跳躍し、川に落ちる。

 水しぶきを槍で吹き飛ばし、相手が見える。

 

 小柄な、レムよりは大きい程度の姿。

 褐色の肌には所々鱗が生えているのが異形であることを示している。

 しかし銀の髪と金色の瞳が異質な美を醸し出す者。

 以前ウルグ橋砦に攻め入り、アインズに敗北した魔族──エデルガルドだ。

 

「魔族……!」

 

 直ぐにレムがクリスタルを取り出し召喚獣を呼び出す。

 呼び出されたのは巨大な蛇型の召喚獣だ。

 名をマダラスネイクといい、黒い鱗に覆われた巨大な蛇そのものの召喚獣で、相手を拘束するスキルを有する。

 

 エデルガルドは召喚獣を見るや否や、槍を放り投げる。

 まるでゴミでも捨てるかのように後ろに投げ、岩があったところにカラカラと音を鳴らし落下する。

 

「戦う気は──ない、話しが、したい」

「ふむ、それを信じるとでも?」

 

 アインズがアイテムボックスから杖を取り出し、構える。

 出したのはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン──それのレプリカだ。

 外見とエフェクトだけ同じの、能力強化も精霊の召喚もできない代物だが、エデルガルドには十分だったのか一歩後ずさる。

 

「……魔王さまのー魂、感じた」

 

 アインズの台詞を無視し、エデルガルドが指をさす。

 その先は──レムだ。

 正確に、レム・ガレウを指している。

 

「レムが魔王とでも?」

 

 何を言っているんだ、という風にアインズが魔法を放とうとするが、レムにとっては効果覿面だ。

 顔が青ざめ、がくがくと震えだしている。

 まるで親に見捨てられた幼子のように、召喚獣の維持もできなくなったのかマダラスネイクがクリスタルに戻っている。

 

「レムに何したの!」

 

 シェラが叫び、レムに駆け寄る。

 それをしり目に、アインズが魔法を放つ。

 

<火球>(ファイヤーボール)!」

 

 アインズの杖の先からバスケットボール程度の炎の塊が生まれ、エデルガルドに向かって直進する。

 それをエデルガルドは防ぐでも避けるでもなくただ受ける。

 エデルガルドに炎が着弾すると同時に炎が爆発的に広がり、エデルガルドを包み込む。

 

「レム! 大丈夫か!」

 

 アインズがほぼ無意識化に無詠唱化した転移魔法を唱え、レムの真ん前に転移する。

 それを見たレムが狼狽えるのを見て、アインズは沈静化が発動し、考える。

 

(レムには精神系に対するマジックアイテムを渡している、それを突破できる程のスキルか? 

 エデルガルドは物理系の戦士の筈、精神操作系のスキルを持ってるとは考えにくい──)

 

 

 アインズの思考を遮るように、エデルガルドの声が響く。

 

「戦う気──ない!」

 

 両手を上げ、エデルガルドが吠える。

 褐色の肌が炎で焦げ、火傷ができている。

 流石は魔族といったところか、アインズの魔法を受けても多少のダメージですんでいる。

 

 それを見たレムが、息を整える。

 待つこと数分、長い呼吸の後、ゆっくりとレムが立ち上がる。

 

「もう、大丈夫です」

「レム……」

「もう、大丈夫なのか?」

 

 アインズが声をかけるが、レムは少しすっきりした顔で答える。

 

「大丈夫です……これ以上隠すのは、無理そうですね」

 

 諦めたように、レムの表情が曇る。

 

「……私から魔王の魂を感じたと、いいましたね」

「……気配をー、感じた、だけ……確証は、ない」

 

 

 レムが真っ直ぐとエデルガルドを見つめる、対話する。

 

「正解です……私には、魔王が封じられています」

 

 その言葉にエデルガルドは歓喜し、シェラ、セルシオ──そしてアインズは驚愕する。

 片手で腹を撫でながら、レムは説明する。

 母からこの封印を受け継いだこと。

 封印をどうにかできないかと冒険者となって戦ってきたこと。

 それを聞いたシェラがレムに抱き着く。

 

「レム~!」

 

 顔からは涙と鼻水が流れ、少々汚いが、レムはそれを気にせず受け止める。

「シェラ……私が、怖くないのですか」

「怖くなんかないよ! 魔王が封じられていたって、レムはレムだもん!」

 

 その言葉にレムの眼から涙が零れる。

 

「私もだ、レム──例え魔王が封じられていようが、レムはレムだ……そのことに変わりはない」

 

 ちらりと、アインズが横目にセルシオに問う。

 

「セルシオ……お前はどうだ?」

「シェラ様の言う通りです、レム殿であることに変わりはない」

 

 弓を収めていたセルシオはそういう。

 その顔には恐怖や嫌悪等はなく、本当にそう思っているようだ。

 

(魔王が封じられている──ゲームだとよくある設定だが、現実として考えると……クソだな)

 

 ペロロンチーノさん当たりなら「むしろ興奮する」とでもいいそうだなとアインズは考える。

 

「それで、エデルガルド……だったか? 何しに来た? レムを殺しにでも来たか?」

「いったようにー、戦う気、ない……その気なら、私一人でー、きてない」

「ほう、ならば何の用だ? このまま何もなく逃げられるとでも?」

 

 アインズが絶望のオーラを出し、エデルガルドを威嚇する。

 絶望のオーラにレム達は恐怖し、竦むが、エデルガルドは逆に一歩前に出る。

 

「魔王さまのー封印、を解きたい」

「封印を解くだと?」

 

(そんなことが可能──いや、魔族ならその知識もあるということか)

 

 さてどうするかと、アインズは思案する。

 封印を解けば、魔王が復活する。

 結果としてレムは魔王の封印という役目から解放されるが、その復活した魔王をアインズが倒せるかわからない。

 レイドボス級ならばSoAOG*1とマジックアイテムフル行使で勝てるかもしれない。

 

 

 けれどワールドエネミー級となれば不可能だ。

 

「アインズ……」

 

 か細い声。

 100レベルの、人外の力を持っていなければ聞こえないような──空耳とも思える声。

 それを聞いて、アインズが少し大げさにため息をつく。

 本来呼吸など不要なアインズが、だ。

 

「いいだろうエデルガルド──お前の誘いに乗ってやる」

 

「アインズ?!」

 

「しかしアインズ殿、如何にあなたとはいえ──」

 

 シェラとセルシオ、両方がアインズに詰め寄る。

 魔王とは人族不倶戴天の敵。

 

 

「私は──アインズ・ウール・ゴウン! ならばこの名にかけて、敗北はあり得ない!」

*1
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン



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街中

原作と乖離しすぎて話がうまくくめねぇ!



2023/4/17 21:12
誤字報告ありがとうございます。
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 エデルガルドが槍を振るう──それよりも早く、アインズが魔法を放つ。

 

<魔法効果範囲拡大化・(ワイデンマジック)火球>(ファイヤーボール)

 

 

 アインズの杖先から離れた炎が、野盗に直進する。

 野盗はそれを避けることも防ぐこともできずただ受け止め──炎が拡大する。

 最初に炎に包まれた者が文字通り喉が焼けながら叫び、そのものを中心に炎が拡大し、集まっていた野盗たちを包み込む。

 そのまま野盗は焼死体となる。

 

 鉄の鎧が炎で溶け皮膚と癒着し、表面は焼きすぎた肉の様に焦げている。

 中にはレムと同じ豹人族の野盗もいたが、もはや外見からは判別がつかない程になってしまっている。

 

「──まさか……野盗がいるとは」

 

 レムが焼死体を見つめながら、そう呟く。

 アインズ達がエデルガルドと魔王について話した後、直ぐに野盗がやってきた。

 流石に魔族と会話してるところを見られたとなれば問題になる。

 故にアインズは即座に魔法を放ち、殺したのだ。

 

「なにも……殺すこと、ないじゃん」

 

 シェラがポツリと、そう呟く。

 それをレムが野盗はモンスターと同じだと言う。

 

 それを聞いて、アインズは──特に何とも思わなかった。

 

 

 アインズはこの世界に来て初めて、人を殺した。

 この異世界で人間を殺したのは初めてになる。

 

 けれどアインズは特に何とも思わない。

 前はこんなことなかったのにな、と思いはするも、それが悪いことだと思わない、思えない。

 そのことに少々違和感を感じるが──その違和感を探る前に、声がかかる。

 

 

「──まだ、儀式はー、おこなえない

 三日後、星降りの塔で」

 

 エデルガルドはそういい、槍を持って飛び去る。

 人外の膂力で飛び去り、川の水が跳ねアインズにかかる。

 

「アインズ……」

「──ん、ああ、すまない……考え事をしていた」

 

 そういいながらシェラの方を向く。

 ふと、気づく。

 

 シェラ達のアインズを見る目が、変わっていることに。

 

(人を殺したから、か?)

 

 その程度のことで(・・・・・・・・)と、アインズは再び考えてしまう。

 即座にその考えを振り払い、神妙な声を意識して出す。

 

「私も、そう殺したい訳じゃないさ……皆の安全を考えれば、仕方がなかった」

 

 それに、自分が殺さなくてもエデルガルドが殺してた──

 最後にそう付け加え、アインズは黙る。

 

 それをシェラはそっか、としょうがないことだと黙り。

 レムはよくあることだと達観し。

 セルシオはシェラ様の安全の為なら、と気にしない。

 

(うーん、殺すの控えた方がいいかな)

 

 だって、仲間に嫌われたくないから──

 

 

「とりあえず……<下位不死者創造>(クリエイト・アンデッド)

 

 指先から黒いヘドロのような物が湧き出し、先ほど殺した者に向かっていく。

 

「え?」

 

 なんだこれ、とアインズは疑問を浮かべるが、答えは直ぐに出た。

 ヘドロが死体を包みこみ、死体が亡霊となる。

 ユグドラシルでも最下位のアンデッド、レイスである。

 

「……エデルガルドを追え、極力見つからぬように」

 

 そう命じれば、レイスは大人しく非実体化し飛んで行く。

 これまで召喚したアンデッドや精霊の様に繋がりを感じるので、問題はないだろうとアインズは判断する。

 

「……何を?」

 

 一連の動作を見ていたレムがアインズに問いかけ、答える。

 

「エデルガルドの行動を把握しておいた方がいいと思ってな、召喚獣を出させてもらった」

「ああ、なるほど……魔族ですからね」

 

 

「さて──では、街に戻ろうか」

 

 

 ■

 

 ファルトラ市内。

 アインズたちはあの後大きな問題もなく街に戻ってこれた。

 強いて言うならば、本来なら召喚可能時間を大幅に過ぎてるのに消えないレイスぐらいか。

 

 

「これは、アインズ殿──お久しぶりです」

「おや、クリステラ殿、久しぶりですね」

 

 

 宿へ戻る道中、見慣れた鎧を纏った、眼鏡をかけた女性──アリシア・クリステラと遭遇した。

 偶然、というわけではないだろう。

 アインズたちが宿に向かう途中、アリシアと遭遇した。

 アリシアは先日の一件、キイラ王子のことを国王に伝えるべくこの街を離れることとなった。

 この街にいるということは報告は終わり、シェラの護衛として戻ってきたということだ。

 

「アリシアさん! 久しぶり!」

「ふふ、久しぶりですね、シェラ様」

 

 にこやかな笑みを浮かべ、シェラと話そうとするが、一瞬曇った表情を浮かべる。

 

 そっと、小声でアリシアが声を出す。

 

「実は──この街に、もうすぐ聖騎士サドラーが来られます」

 

「……ふむ?」

 

 

 アインズは仰々しく頷き、まるで分っていたかのように振る舞う。

 聖騎士ってなんだろう、という心情は顔には──顔面はそもそもないが──出さず。

 しかしシェラは知らなかったのか、はてなマークを浮かべている。

 

「ここで話すのもなんですし、宿に行きましょうか」

 

 

 

 

 

 ■

 

 宿屋安心亭、併設された酒場にて。

 時間が昼食には遅く、晩食には早いせいだろう、その席にはアインズ達以外いない。

 ふぅ、とお冷を飲み干したアリシアが口を開く。

 

「聖騎士サドラーは、非常に危険な人物です……レベルも高いですが、何よりも」

 

 すぅ、と一度アリシアがレムを見つめる。

「彼が一度"魔王崇拝者である"と判断した人物は……自身が魔王崇拝者と認めない限り、永遠に苦痛を与え続けます」

 

「なんですか、それ」

 

(自分が正しいと信じて疑わない上司か?)

 

 そうアインズは思う。

 あるいは、苦痛そのものに快楽を見出した人間か。

 

「そして彼は、極度の亜人嫌いです……シェラ様とセルシオ様は問題なくとも、レム(・・)様とアインズ様は──」

 

「あぁ?」

 

 少し、アインズ自身意図せずどす黒い声が出る。

 思わず絶望のオーラを出しそうになるが、気合で抑え、直ぐに精神が沈静化される。

 

 

 シェラとセルシオに問題がないのは、やはりエルフの国の王女と重鎮だからだろう。

 例の一件以来、シェラとセルシオの正体はもはや公然の秘密となっている。

 そもそも定期的にエルフの国から使者が来てる時点で秘密もクソもないが。

 

 しかしレムは強い後ろ盾のない亜人種、そしてアインズは周囲からは混魔族と思われている。

 アインズが混魔族と思われている理由は、顔と肌を晒しておらず、アインズ以外亜人だからだ。

 混魔族の中には肌を隠す者も多いため、こう思われている。

 アインズ自身、下手に自分が人間だと言い張るのも無理があるので黙認している。

 

 レムに強い後ろ盾がない、といっても魔術師協会──セレスティーヌがいる。

 だが、魔術師協会といっても実態はそのトップであるセレスティーヌとの個人的な友好に過ぎない。

 レムが魔術師協会全体にとって有能な人物という認識がないため、ただの亜人で済ませられるのだ。

 

「──失礼、しかしながら、何故そのような人物が野放しに?」

「それはひとえに、教会の聖騎士だから、でしょうね」

 

 嫌悪を含ませ、レムが言う。

 教会はいわば人間至上主義が強い組織だ。

 何処の世界も、宗教というのは恐ろしい。

 

「──なるほど、彼は教会に守られ、教会は彼によって、栄光を誇る、と」

 

 サドラーが魔王崇拝者と決めつけた者を殺すことで、教会の正しさと強大さを世間に知らしめる、という盛大なマッチポンプだ。

 

「不快だな……」

 

 

 気を付けるに越したことはないな、と警戒する。

 流石に大通り等で襲われることはないだろうが、街の外や人通りの少ない場所では気を付けるべきだろう。

 しばらくは外の依頼は控えるべきか。

 

 

 

「ご忠告、ありがとうございます」

 



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星降りの塔

2023/4/15 21:38
誤字報告ありがとうございます
適応しました


「やっとー、来た?」

 

 星降りの塔の頂上で、エデルガルドが言う。

 あれから数日、作ったアンデッド──レイスに警戒させ、聖騎士が近づけば避けるように動き、特に何の問題も起こすことなく約束の日になった。

 強いて言えば、この日の朝アリシアに魔族と魔王関連のことを話したぐらいか。

 それでもアリシアは「辛かったですね」とレムを思い、泣いてくれた。

 恐怖を抱くこともなく。

 

「ああ──始めよう」

 

 エデルガルドがレムを台の上に乗るように指示し、レムも言われたとおりにする。

 それを見ながら、アインズは『自分もこうやって呼ばれたのだろうか』と考える。

 夜の闇では、月の光と数個塔に明かりがつけられた程度の明るさしかないが、アンデッドであるアインズは種族スキルの闇視(ダークヴィジョン)で夜でも昼の様に見える。

 

「そこにー、魔力を込めて」

 

 エデルガルドが指さす先は──子宮。

 

「えっ」

 

 沈静化。

 

「そこに入れて──、魔力を込める」

 

「あっ──、あっ……ここ、か?」

「そう、そこ」

 

 んっ、というレムの喘ぎ声にまたも沈静化する。

 そしてアインズは、一つ問題に気づく。

 

 ──魔力の込め方わからねぇ! 

 

 

 ユグドラシルの階位魔法は、完全に『感覚』で使うものだ。

『なんとなく使える』代物に過ぎず、具体的な理論や魔力云々は一切わからない。

 言語化することもできないのだ。

 魔力を込める魔法なんてものはユグドラシルにはなく、精々が<特殊技能>(スキル)による魔力譲渡ぐらいだ。

 

 

 なんとなく、魔力というモノをイメージすれば、アインズが現在使える魔法がわかる。

 魔法を発動させずに魔力のみを込める──その方法が、わからない。

 ふむ、と顎に手をあてる。

 中々魔力を込めようとしないアインズに、エデルガルドが痺れを切らして問う。

 

「はやく──、魔力を──」

「エデルガルド、これは魔力を込めればいいんだな?」

 

 エデルガルドの声を遮るようにアインズが言う。

 

「そう、だけど」

「ふむ、ならばこれを使うか」

 

 小手を外し、幻術を使い人の手に見せかける。

 神話級で身を包んだアインズの今の魔力ならば、消費魔力よりも自動で回復する魔力のが勝るため、特に問題にはならない。

 指し示すは、右手の人差し指にはめられた指輪。

 経験値を最大100%消費することで、願いを五つ表示し、叶えることができる超位魔法<星に願いを>(ウィッシュ・アポン・ア・スター)を即座にデメリット無しで三回まで使用できる指輪だ。

 

 ぶわん、とアインズを中心に魔法陣のドームが展開される。

 同時に、アインズは何とも言えない全能感を感じる。

 感覚でわかる、今の自分なら何ができるのか。

 願える力と自身に付与できる力──それらを感じながら、アインズは願う

 

 

「──指輪よ、『魔王に魔力を注げ!』」

 

 願いが受理され、レムの中の魔王に魔力が注がれる。

 魔法陣が拡大し、霧散する。

 

 膨大な──アインズのフル装備をも軽く上回る程の魔力がレムに注がれている。

 数分、物理的に干渉するほどの──アインズが魔法を使わずとも視認できる程の魔力が注がれていく。

 レムが喘ぎ声を多少漏らすがそれに反応できる程の余裕はアインズにはない。

 

「魔王さまぁぁぁ! 復活ぅぅぅ!!」

 

 エデルガルドが歓喜に叫ぶが無視し、準備を進める。

 アインズはアイテムボックスからスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取り出し、自身にバフを重ねていく。

 バフをする傍ら、幻術を解除し小手を装着する。

 アインズのバフが終わるが早いか、魔王の復活が早いか、レムから魔力が飛び出し、空中で実体化する。

 

「これ──復活させたら、駄目な奴だよ!」

「シェラ様!」

 

 シェラが叫び、守るようにセルシオが前に出る。

 巨大な魔力が巨人となる。

 高身長のアインズが子供に見える程の巨体。

 甲殻類を思わせる装甲に、何故かある胸。

 左右に二つずつ、真ん中に一つの赤い眼に。東部の左右からは角が伸びている。

 封印が解除され、実体を取り戻した──魔王クレブスクルム。

 

(戦闘は始まる前に終わっている……でしたっけ、ぷにっと萌えさん)

 

 心の中で、かつての友を思い出す。

 弦に覆われた異形の友の言葉は、この遠い地でも生きている。

 

 本来ならぷにっと萌えが言うように準備を万端にして挑むべきだが、今回は相手が相手だ。

 しかもそもそもここはユグドラシルの法則が通じぬ異界、相手がどんな特殊技能(スキル)や魔法を使ってくるかわからない。

 

 アインズが杖を構え、魔法を発動しようとした時、クレブスクルムが霧散する。

 まるで風船が割れたかのように、巨大に膨らんだ者が破裂する。

 風が起こり、アインズと倒れてるレム以外風で防ぐが、直ぐに止む。

 

「くっくっく……まおーの封印を解いたのは、お前か?」

 

 声の主は幼女だ。

 先ほどまでクレブスクルムが居た場所に、幼女がいる。

 

 幼い──エデルガルドよりも小さい姿。

 エルフを思わせる耳に肌。

 しかし頭部から突き出た角と尻尾が異形であることを主張している。

 更には皮膚は所々蜥蜴のような鱗が生えている。

 

「魔王さま、ご復活おめでと──」

魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)隕石降下(メテオフォール)

 

 エデルガルドの言葉を遮り魔法を発動する。

 発動したのは第十位階魔法。

 効果としては無属性の物理ダメージを発生させる最高位の魔法だ。

 魔法ダメージではなく物理ダメージで計算される数少ない魔法である。

 

「……は?」

 

 誰かが、急に明るくなった空を見上げる。

 アインズは魔法の詠唱が終わると同時にレムを掴み、後ろに跳躍する。

 

「受け入れろ──上位転移(グレーター・テレポーテーション)

 

 

 転移魔法を発動し、星降りの塔の眼前まで転移する。

 

 転移と同時に、星降りの塔の頂上にアインズが召喚した隕石が直撃する。

 

「あああ!」

 

 一人、何故かアリシアが叫ぶ。

 

「アインズ……」

 

 不安げな声でシェラが言う。

 あえて、アインズは断言する。

 

「安心しろ、シェラ──」

 

 空から、魔王とエデルガルドが振ってくる。

 エデルガルドをわきに抱えながら、魔王が降りてくる。

 ぱらぱらと塔の欠片と共に降りてくるのは実に様になっている。

 流石にこの程度では死なないか、と思うもよく見ればエデルガルドは瀕死だ。

 さて、何処までダメージを与えれるか──

 

「|<根源の火精霊召喚>《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル》」

 

 呼び出したのは火の精霊。

 何時ぞや呼び出した時と同じく、アインズの盾となる。

 

「くっくっく……まおーに歯向かうというのか」

 

 魔王が地面にエデルガルドを置き、不遜に笑う。

 

「いいだろう! とびっきり残虐な奴で──!」

 

 膨大な魔力を放つ。

 アインズが超位魔法で注ぎ込んだ魔力よりも圧倒的に多い魔力だ。

 ふざけんな、と根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)を向かわせようにも魔力に押され動かない。

 流石は魔王と言ったところか、すかさず攻撃魔法を放とうとした時、異変が起こる。

 

「え~と……残虐……? 残虐……?」

 

 ──何が起こっている? 

 急に魔力の放出をやめ、手の平をグーパーと握り始める。

 ……油断しきってる、これなら魔法を軽く充てれそうだ。

 

「ふん、どうした魔王──まさか何もしないなんてないよな?」

 

 若干煽りながらアインズが問えば、「ちょっと待て!」と魔王が叫ぶ。

 

「え~と……残虐な奴あったんだけど……忘れちゃった」

 

 封印がきちんと解けなかったのか──あるいは、ユグドラシルの力を使ったからか。

 原因は不明だが……どうやら魔王は不完全に復活したらしい。

 



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魔王

更新遅れて申し訳ありません



 

 

「ふんふんふふ~ん」

 

 

 幼子がビスケットを頬張りながら歩く──なんと微笑ましい光景か。

 ただその幼子は角が生え、体から鱗が出ているという異形の風貌を考えなければ、だが。

 丁度横を歩いているレムに、アインズは問いかける。

 

「……どう思う、レム」

「私には……なんとも」

 

 魔王が記憶をなくしたと判明した後。

 アインズはそのまま殺そうとしたが──それに待ったをかけた者。

『人を殺すのは悪いことだよ!』『なに、そうなのか?!』

 ……と、シェラの説得により魔王は殺すのを辞めた。

 この世の聖職者全員ひっくり返りそうな現象だ。

 記憶を失ったのは封印を解けていなかったからなのかもしれない。

 超位魔法の影響か、そもそもアインズというユグドラシル由来の力が悪かったのか。

 兎も角、魔王という脅威は今のところ無効化されたのだ、エルフの王女によって。

 その後魔王は『この世すべてのビスケットを食べつくすべく復活した!』と騒ぎ、街に行くことになった。

 バレれば魔王は勿論、行動を共にしたアインズ達にも危機が及ぶが、まぁ今更だろう。

 

 特にアリシアが騒ぐこともなく、街に向かうことになった。

 途中、魔王が力を行使し、瀕死のエデルガルドに力を与え復活させたりもしたが……

 それがアインズの死霊術師としての能力の様に強化するモノなのかどうかわからないが──

 

「……ん?」

 

 一人、夜空を見上げていたセルシオが声を出す。

 果て何かあったのかと、アインズもつられて空を見上げればそこには鳥が一匹。

 大きな鳥————いや、梟だ。

 巨大な梟が、肉眼で視認できる程に近づいている。

 その梟はアインズたちの進行方向の真ん前に着地──否、着弾する。

 

 砂ぼこりと共に、姿が変わる。

 

「──魔王さま、ご復活おめでとうございます」

 

 人型の梟。

 それが降ってきた異形の正体。

 

「……オウロウ」

 

 エデルガルドが、ぼそりと呟く。

 上半身裸、翼だった両腕は人と変わらぬ腕に変わる。

 足も人族とそう変わらぬ形に変わり、靴をも履いている。

 頭部は梟そのもの、首との境目がわからない頭。

 白い体毛に覆われた鳥人(バードマン)とでも言える存在。

 

「……誰じゃ?」

「先々代の魔王様より仕えている魔族オウロウにてございます」

 

 

 エデルガルドとは毛色が違う、とアインズは即座に判断する。

 先々代──単純に考えるだけでも相当長い年月生きているであろうことが伺える。

 

「うむ、そうか……ならばキサマにも──」

「待って待って! そうポンポン力上げちゃだめだよ!」

 

 気軽に、特に何も考えず魔王が力を与えようとするが、それをシェラが阻止する。

 

 

「……駄目なのか?」

 

 純粋な目で、クレブスクルムが問うが、シェラが諫める。

 シェラとクレブスクルムはなまじ耳が同じように尖っていたりする分姉妹に見えそうだ。

 

 

「はて、魔王さま、何故そこの人間を殺さないので?」

「……? 人間は殺しては駄目なのだろう?」

 

「ほ?」

 

「それに、人間を殺すとビスケットが食べれなくなるのだ!」

 

 ビスケットを食べるという魔王の言葉にオウロウ派梟の様に、首を傾げる。

 グるんぐるんと、骨がイカレやしないかとみてて心配になるぐらいに。

 

「──エデルガルド、これはどういうことだ?」

「……私にもー、わからない……」

 

「ほ、魔王とは魔の象徴、魔とは世界を汚すのも。大地を汚し、空を汚染するモノのはず……であれば、何故魔王さまは人の嗜好品等を?」

「……わからー、ないもしかすると……」

 

 ちらり、とエデルガルドがアインズの方を向く。

 ──気づかれたか? そう思うも、すぐエデルガルドはオウロウに向く。

 

「……け、どー……魔族は、魔王さまにー、従う」

「……なるほど、なるほど……よくわかった、エデルガルド……

 魔王さまは不完全に復活なされた模様……で、あれば」

 

 ぶん、と地を蹴りオウロウが突撃する。

 それを、エデルガルドが魔王の前まで瞬時に移動し、槍で防ぐ。

 

「なんのー、つもり!」

 

 振るわれた槍を、オウロウもまた後ろに跳躍し避ける。

 

「知れたこと……不完全な魔王様には死んでいただき、完全な魔王さまとして復活してもらうのみ」

 

 再度直進し腕を振るう。

 槍と素手という、装備に差がありすぎる戦局だが、戦いはオウロウのが有利だ。

 エデルガルドが振るう槍を、オウロウは素手で防ぐ。

 高レベルのモンク系統ならば、その拳は七色鉱にも匹敵しうる、オウロウはそれなのだろうか。

 槍というのは中距離、あるいは近距離用の武器だ。

 ここまで近づかれていおり、かつ相手が超至近距離特化のモンクとなれば不利なのはエデルガルドの方だ。

 

(エデルガルドは魔王に力を与えられているはず、それなのに不利なのか?)

 

 エデルガルドが元が弱すぎるのか──あるいは、オウロウが強すぎるのか。

 

 オウロウが派手に一回転し、エデルガルドを槍ごと蹴り飛ばす。

 

「クリステラ殿、皆を頼みます」

 

 ついでに|<中位不死者創造>《クリエイト・アンデッド≫で死の騎士(デス・ナイト)を生み出す。

 

「ほ、ヒューマンの魔術師風情が何を──」

火炎球(ファイヤーボール)

 

 レプリカのstoaogから放たれた火球がオウロウに直撃し、その身を炎で包み込む。

 

「……ふむ、元素魔術師か」

 

 

 またも地を蹴り今度はアインズに接近する。

 エデルガルドが止めようとするが、片手で吹き飛ばされる。

 

 

 突進してきたオウロウをデスナイトが止めようと盾で防ぐ。

 

「邪魔である」

 

 横に振られた拳の一撃でデスナイトのタワーシールドを破壊され、遠くに吹き飛ばされる。

 デスナイトの特殊技能(スキル)でギリギリHP1で耐えれたが、それが無ければ即死だっただろう。

 それを見たアインズは無詠唱化した火炎球(ファイヤーボール)を再度放つ。

 

 オウロウはそれを避けることもせず、その身に受け炎に包まれながらアインズに拳を振るった。

 

(そんなのありか!)

 

 せめて横に避けるとかしろよ、と思いながらもアインズはオウロウの正拳突きに真後ろに吹き飛ばされる。

 しかしダメージはない、魔王との戦いに備えて置いた≪光輝緑の体≫(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)によって殴打ダメージは無効化され、ノックバックの効果のみ受ける。

 

 

<飛翔>(フライ)!」

 

 飛行魔法を使い、アインズはそこから更に距離を取ろうとする。

 

(このレベルだとデスナイトだと駄目だな、上位アンデッド創造で──)

 

 

 完全初見の相手、能力構成は恐らく格闘家。

 それがアインズを油断させた。

 オウロウが槍を投擲するように構える。

 

 ≪水晶の槍≫(クリスタルランス)

 

 

 ぶん、と風切り音と共に腕を振るえば魔術が発動する。

 一瞬の油断、防御魔法の発動が遅れるが──

 

 

「──は?」

 

 アインズに当たる直前に≪水晶の槍≫《クリスタルランス》は消えさせる。

 

「……ふむ、ということは第六位階以下か……やれやれ、魔法戦士だったか」

 

 

(はぁ、ここのところ雑魚ばっかりだったから油断した……)

 

 

 もしこれが第六位階以上だったならばアインズに大ダメージを与えていただろう。

 

 アインズがこの世界に来てからはほぼ雑魚とのみ戦っている。

 エデルガルド等のごく一部の強者はいるが、アインズにとっては真の──ユグドラシル基準での強者とは呼べない。

 理由としては幾つかあげられるが、最も躊躇なのは装備の差だろう。

 ユグドラシルではレベルは誰でも同格の100にすることができた、そこから上に行くにはどうしても装備品が必須になる。

 そしてこの世界ではマジックアイテムは非常に貴重だ。

 王族であるシェラの装備とて遺産級程度のもの。

 無論キイラ王子が使っていたようなユグドラシルでは再現不可能なアイテムもあったが……それとて『種族が限定される』という点を除けばただの精神操作系のアイテムに過ぎない。

 

 そして何よりも、アインズが油断したのは『心が緩んでいる』からだ。

 かつての友は亡く、異界の地で出会えた新しい仲間たち。

 彼女たちの冒険はアインズの心を満たした。

 それは故郷(地球)には価値を見出せずユグドラシルで友を得、ナザリック(かつての家)を失った心を守るためのもにすぎなかったが……

 

 

 故に、アインズは今慢心を捨てる──否、辞める、取り戻す。

 かつての『モモンガ』として、ぷにっと萌えの言葉を思い出し、アインズ・ウール・ゴウン(一組織の長)として。

 

 

「魔術の無効化……? いったい──」

「答える気はない<無闇>(トゥルーダーク)

 

 無属性の闇がオウロウを襲う。

 

 闇に包まれ、オウロウが叫ぶが、悠長に待ってやることはない。

 

「<万雷(コールグレーター・サンダー)>」

 

 降り注ぐ万の雷がオウロウを襲う。

 更に追撃を加えようとするが──

 

「まてー! 辞めるのだ!」

 

 咄嗟に、何も考えていないのだろうクレブスクルムがアインズの前に立ちはだかる。

 

「ちっ、マジック──」

 

 魔法を放つ前に、オウロウは梟に変身し飛び去った。

 

(判断が早い!)

 

 このままでは負ける、と判断したのだろう。

 流石に情報系魔法でHPを見る暇はなかった、外見だけならほぼ瀕死の状態だったが……あれでは余裕で生きているだろう。

 

「クレブスクルム……何の真似だ?」

「魔族は我が眷属! そうやすやすと殺してはいかん!」

「お前はその魔族に殺されかけたが?」

「え~とそれは……何か理由があったのだ!」

 

 幼女になっても魔王、という訳かとため息をつく。

 オウロウを追うにもどこかに飛び去り、追跡は不可能。

 かといってクレブスクルムを問い詰めたところで記憶を失った魔王には意味がない。

 

「アインズ、大丈夫?」

 

 シェラが心配そうに声をかけてくる。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 ただそれだけで、アインズはまぁいいかと苦笑した。




Q アインズ様心緩みすぎじゃね?
A ナザリック消滅で心の枷消滅+シェラという心の安定剤で緩んでる

Q オウロウ強すぎない?
A 原作でもそこそこ強いとされてた+本当に申し訳ないけど作者の都合 ここで殺すと話の展開詰むな?となったので生きてます ただダメージが抜けきってないのでめちゃ弱体化してます

Q アインズ様性格変わった?
A 若干変わってます 夢ではなく現実を少しづつ直視し始めてます

Q 更新遅くね?
A 本当に申し訳ございません。 最低月一更新目指します
完結は絶対にします、今年度内完結めざします
後ちょっとアインズ様判断力高くて原作隔離が酷くなりそうで難産です
ディアブロさんと違って取れる手段も多すぎますし


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魔王とは?

気づいたら月末です
誰かにメイドイン・ヘブンを使われた……?

2023/7/5 作者名変更


「おおー!」

 

 少女……まだ幼女ともいえる者が目を輝かせる。

 しかしフードを深くかぶっており、その顔を直視はできない。

 まるで日光を避けるように──あるいは、顔を見られたくないようぬに。

 『ピーター』ファルトラでも人気のパン屋。

 その中で可愛らしい少女がじぃーと主力商品であるパンではなくビスケットを見つめている。

 

 陳列された焼き立てのパンには目もくれず、ただビスケットに目を奪われている。

 

「可愛らしいですね」

「……そうか?」

 

 その中、大柄な男と騎士の恰好をした女が少女を見つめている。

 男は少女と同じようにフードを被り、更には仮面までつけている。

 女の方は特に顔を隠しておらず、しいて言えば眼鏡をかけていることぐらいか。

 

 もはや言うまでもないだろう、クレブスクルムとアインズ、そしてアリシアだ。

 

「よし、ここのビスケット全部買うのだ!」

「いや全部はちょっと……」

 

 

 

 クレブスクルムが街に来るまで、少々厄介事はあった。

 どうやら魔族オウロウとの戦いの音は夜の静けさも相まってウルグ橋砦の者らにも聞こえていたらしく、そのことについて聞かれたのだ。

 しかも行きにはいなかったはずの少女まで。

 すわ事案か、となったところ国家騎士であるアリシアと魔族撃退の功績があるアインズによって、問題なく通ることができた。

 念のためにフードを深くかぶらせて顔を隠し、その上からアインズの幻術で角を隠している。

 更には被っているフードはユグドラシル製のマジックアイテムだ。尻尾も隠すことができる*1

 そのため魔族であるということは隠せ、通過出来たというわけだ。

 

 なお、エデルガルドはこの場にはいない。

 同じように幻術でも使えばいいかと思ったが、エデルガルドが辞退したためだ。

 

 アインズとクレブスクルム、二人分の幻術をアインズは行使し続けている状態だが、まだまだMPには余裕がある。

 伊達に装備が神話級というわけではない。

 流石に戦闘などでMPを大量に消費でもすればまた違ってくるだろうが──

 

「アインズ! 全部買ってくれ!」

「わかったわかった」

 

 ふふ、と微笑みながら財布を取り出し、会計を済ませる。

「凄い金持ちだな」という店主の眼をしり目に、上機嫌なクルムと共に店を出る。

 実は資金には結構な余裕がある。

 魔族撃退時の報酬や普段から受けてるクエスト等。

 また、微量ではあるがアインズの分の食費がそもそもないというのもある。

 クレブスクルム一人分ならば使われていないアインズの食費などを当てれば充分だ。

 

(……充分か?)

 

 店を出るや否や、凄い勢いでビスケットを食べだしたクルムに若干不安を覚えながら、クルムを見つめた。

 ゆらゆらと、不気味に揺れるクルムの影もまた、不安がっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

「どう? アインズさん、このカフェ」

「……不思議です、一度も来たことが無いはずなのに、何処か懐かしさを感じます」

 

 ナザリックのbarに似ている気もする、と心の中でアインズは呟く。

 場所は変わってここはカフェ。

 クラシック、とでもいうのだろうか。

 木製の椅子にテーブルという、アインズが見慣れた安心亭と同じ素材だが、雰囲気が違う。

 高級店だからだろうか、という庶民的な発想を抱く。

 なんでも王都にあるというカフェと同じ作りらしい。

 更にここは領主の城の近く──おのずと客層も限られるため、そういった高級層向けの内装となるのだろう。

 まだできたばかりの新築だからか、客はアインズたち以外にはいない。

 奥のテーブルではセレスティーヌがクルムと仲良くビスケットを頬張り、頬についた欠片をシェラが拭き取り、レムが微笑ましく見守っている。

 アリシアもまた、優雅にコーヒーを嗜んでいる。

 

 ちらり、と後ろを見ていたギルドマスター、シルヴィがアインズに向き直る。

 その顔は緊迫しており、隙を見せればとびかかってきそうだ。

 いや、よく見れば冷や汗を流している。

 

「あの子が魔王クレブスクルム、ねぇ……」

「信じられませんか?」

 

 

 昨夜の一件。アインズはシルヴィに全てぶちまけた。

 魔王を復活させたことも。レムの中に魔王が封印されていたことも、何もかも。

 

「まぁ、信じるしかないかなぁ。どう見ても人間ではないしね」

 

 はぁ、とため息を尽きながらコーヒーを口にする。

 まだ湯気が出ており、入れたてということが解る。

 

「んで、アインズさん、君は僕に何を求めるの?」

 

「──魔王に……そして、『神』に関する情報を」

 

 

 

『レムの中にはクレブスクルムが封印されている』

 そう聞かされた時から、アインズはずっと疑問を抱いていた。

 

『魔王とは何か?』と。

 

 

 ユグドラシルにおいて近しい存在はいた。

 九曜の世界喰いや七大罪の魔王等の、ワールドエネミーだ。

 しかしクレブスクルムは──クルムは明らかに違う。

 九曜の世界喰い等は、本能によって世界を喰らう存在だ。

 最初はそれらワールドエネミーと近い存在なのかと思ったがクレブスクルムが人型になった時。疑問を抱いた。

 

『何故人型になったのだ?』と。

 

 この世界における人族は神が自身を模して作り出した種族だという。

 ならば可笑しいではないか。何故魔王が人に……神に近しい形をとる? 

 オウロウも、グレゴールも、エデルガルドも。

 全て人型ではないか。

 

 何故、人の姿を真似る必要がある? 

 

 まるで、魔族が人になりたいかのようではないか。

 

 

 

 これが単なるゲーム等なら『そういうこともある』と流せるがここは現実の世界だ。

 ならば何故こうなるのか──そこには必ず理由が存在する。

 いや、疑問はそれ以外にもある。

 

「何故、魔族は人を襲うのですか?」

「……? それは魔族は人族の敵だから──」

「本当に、そう思いますか?」

 

 ちらり、とクルムを見る。

 それにつられ、シルヴィもクルムに目を向ける。

 

 ……見れば、クルムは事情を聴いているはずのセレスティーヌからスコーンを与えられ、「感謝するのだ!」と叫びながら頬張っていた。それでいいのか魔王。

 

「何故、魔族は生まれるのか、何故、魔族が死ねば光となって消えるのか──何故、『魔王』が人を襲わず、人と仲良くできているのか……それを知らなければ、先には進めない」

 

『何故』という疑問は大事だ。

 何もわからないまま突き進み、道中で思わぬ──ちゃんと調べていれば回避できた災害にぶち当たることもあるかもしれない。

 キチンと鑑定しておけば、ゴミと断じた棒きれがワールドアイテムだとわかったかもしれない。

 情報というものはユグドラシルでも、この世界でも重要なのだから。

 

 今ある情報だけで、推測するには限りがある。

 魔族が人に似ているのは魔王が神に対して嫌がらせでもしたかったのかもしれない等、雑に推測することはできるがそれ以上は無理だ。

 そもそも何故魔族の王である魔王をオウロウという魔族が殺しに向かったのかすら不明だ。

 

「なるほど……なるほど、アインズさんの言い分はわかったよ」

 

 けれど、とシルヴィは鋭い目つきで問う。

 

「うん、先のことはどうあれ──『魔王』であるあの子は、どうするの?」

「……私の保護下にあります、よほどのことが無ければ大丈夫かと」

 

 パチン、と小手を付けたまま器用に指を鳴らす。

(これ一度やってみたかったんだよな)

 

「ここに、アインズ様」

 

 何処からともなく──まるで最初からそこに居たかのように、シルヴィの横に男が現れる。

 声を聴いてから反応が数俊遅れ、シルヴィが驚く。

 

 面布で顔が隠れた男だ。

 真っ黒な衣服をまとい、素肌が一切晒されていない。

 

「このように、クルムがもし暴れてもどうとでもできます」

 

 あえて強く断言する。

 無論アインズとて隠密特化のハンゾウ一体でどうにかなるとは思っていない。

 他にもエイトエッジアサシン数体など、保険は掛けてある。

 おかげでアインズの手持ちのユグドラシル金貨はだいぶ減ってしまい、念のためにと保持していた傭兵NPCは消え去ったが。

 

「なるほど、なるほど……はぁ、わかったよアインズ君」

 

 お手上げだ、とシルヴィが両手を上げる。

 

「ま、実際に彼女が何かしたわけでもないからね、だけど……もしクルムちゃんが何かするようならば──」

「えぇ、その時は私が対処(・・)させていただきます」

*1
不死者のoh! 第七巻参照




アインズが傭兵NPCの本を持っている


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アインズがやってきた

短いです


「じゃ、アインズさん僕はこれで! まったねー!」

「本当にありがとうございました」

 

 頭を少し下げ、礼をする。

 去っていくシルヴィの背を見ながら、ギルドマスターとなると高給取りなのだろうかと思案する。

 カフェ代が思ったより高く、日々働いているアインズならば問題ないが、それでも痛い出費になるところを全額払ってもらえたのは幸運だっただろう。

 これから先大喰いのクルムのことも考えるとできる限り出費は抑えるべきだ。

 一度武器屋などに寄ったことがあるが、どれもユグドラシルではゴミ当然の物しかなかった。

 

 ただ薬屋にはMP回復ポーションというユグドラシルのシステム上あり得ない物が存在していたが、材料がないとのことで店には無かった。

 自身には使用できなかったとしても、高値で取引されるらしいし、金策を兼ねて探してもいいかもしれないとアインズは思案する。

 

「ではアインズさん、私もこれで」

「えぇ、セレスティーヌ殿も、ありがとうございました」

 

 同じように頭を下げ礼をする。

 セレスティーヌは魔術師協会の長だ。

 その立場故、クルムのことでひと悶着あるかと思ったが、特に何もなかった。

 本人曰く「ビスケットが好きで、あんなにかわいい子が魔王なんて、ないでしょう」──とのことだ。

 

 中央地区をでて、宿のある南地区に出る。

 

「む」

 

 時間帯は夕方に差し掛かるころだからか、いつもより人が多い。

 何時もなら何も問題ないが、これからはクルムがいる。

 

「邪魔だな、燃やすか?」

 

 さらりと、物騒なことを平然と言う。

 

「駄目だよー」

 

 あはは、と軽く笑いながらシェラが諫める。

 

 

「…………クルム」

「ん?」

 

 すっと、少し遠慮しがちな──耐えるように──手を差し出す。

 

「手を、つなぎましょう……はぐれると、危ないですから」

「わかった!」

 

 がしっと、恐る恐る差し出された手を何の躊躇いもなくクルムは掴んだ。

 

 

 

 

 ──猫耳美少女と角突き美幼女ですか、いいですね

 ──黙れ愚弟

 

 

 何処からか、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

「……あれ?」

「どうした?」

 

 人ごみを避けながら──アインズはデカいため相手が避けてくれるが、今日はそんなことは無かった為何時もより時間をかけながら宿に着くとシェラが声を出す。

 

「レムとクルムちゃんがいない」

 

「何──? クリステラ殿もいないな」

 

 この人込みなら、はぐれても仕方がないか、と肩をすくめる。

 

<伝言>(メッセージ)──レムか? 今どこに──」

 

 アインズの声を、遮るようにレムの声が響いた。

 

『あ、アインズですか?! 今、聖騎士が──?!』

 

 

「なんだと?」

 

 ガクン、と顎が外れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

「どうした?」

 

 何もわかってないかのように──実際にわかってないのかクルムはビスケットを頬張る。

 アリシアに連れられ、道から外れた先の路地裏にはどういう訳かアリシア自身が警告してきたはずの聖騎士がいた。

 何故? 何の為に? 

 疑問は尽きぬが、いいことはないだろうとレムはクルムを庇う様に前に立つ。

 

「──なんのつもりですか、アリシア」

 

 聖騎士は魔族を討ち滅ぼす者。

 つまり魔族の長である魔王とは致命的に関係が悪い。

 

「これはこれはアリシア殿……彼女が『魔王崇拝者』ですかな?」

「なっ──?!」

 

 疑問を抱く前に、聖騎士が答える。

 

「ほんとうに……何を!」

 

 腰のポーチから召喚獣のクリスタルを取り出す。

 

(アリシアの行動が読めない、ここは時間を稼ぐ為にも──)

 

「何を、はこちらのセリフですよ魔王崇拝者」

 

 獣のような眼を輝かせ、腰の剣に手を伸ばす。

 

「はっ」

 

 腰に伸ばした手が、消えた。

 

「はっ……はぁ?」

 

 数俊、何が起こったのか──クルム以外、誰も理解できなかった。

 

 

「な、なにが──『レムか? 今どこに』あ、アインズ?! 今聖騎士が──」

「う、腕がぁぁ! キサマ、ころ」

 

 

 

 

 ぼとり、と聖騎士の頭が落ちた。

 聖騎士は教会が保有する最高戦力。

 並の冒険者を優に上回る力を持つ筈の者が。

 何が起こったのか理解する間もなく、絶命した。

 

 

 左膝を地に置き、右肘を膝の上に乗せ忠誠を誓う様にアリシアが跪いた。

 

「──どういう状況だ?」

 

 虚空から、シェラを抱えたアインズが転移魔法でやってきた。



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19話

「どういうことだ? アリシア」

 

 あえて強く、アインズは問いかける。

 僕からの連絡を受けアインズは即座に探知魔法を使用。レムの位置を把握し転移してきた。

 すると何故かアリシアが膝を付いた。

 なんだ、とアインズが疑問を問う前にアリシアが答える。

 

 その間にシェラはアインズの陰に隠れる。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様。どうか私の言葉を聞いてください」

「……聞こう」

 

「感謝します。──どういうことか、という問いの回答はただ一つ──人族の殲滅です」

「……なんて?」

 

 訳が分からない、とアインズは更に疑問を抱く。

 

「えぇ。アインズ様は人外──魔族ですよね」

「は?」

 

 声を出したのはレム・ガレウだった。

 魔王クルムを庇う様にしていた彼女が、問いかける。

 

「アリシア? それはいったいどういうことです? アインズが魔族だなんて……」

「? いえ。アインズ様は魔族でしょう? その仮面の下は骸ですし」

 

「あっ」

 

 さっと、アインズは顔をそむけた。

 

「……アインズ?」

「え、あー、その」

「はい。アインズ様が宿で一人でいる時。仮面を外しているのを見ました。あれは紛れもなく躯の相貌。魔族であるという証明です」

 

(──あー、あ。そうなるかぁ)

 

 如何にアリシア──国家騎士でも異世界の存在だとは考えもつかない。

 そもそもこの世界での異形は全て魔族に分類される以上アインズもまた魔族と言っても差し違え無いのかもしれないが。

 

「なるほど、なるほど……この顔を見て私が魔族だと」

 

 かちゃり、とアインズが仮面を外した。

 途端に露になるのは骸の仮面。死者の成れの果ての姿。アンデッドとしての素顔をアリシアに曝け出した。

 

「はい。ですので魔族であるアインズ様の──」

「その前に、だ」

 

 何か言いかけたアリシアを遮る。

 

「私は魔族ではない。それに、だアリシア──お前はまだ答えてないぞ。何故レムを襲った?」

 

 絶望のオーラを放つ。

 レベル一から五まで効果があるが、発動するのはレベル一──最も脆弱な、相手に恐怖を与えるだけの力。

 アインズのローブから闇が上がる。近づくモノ──視認できる範囲に居る存在全てに恐怖を与える。

 アリシアの膝が震え、恐怖で思考が止まる。レムは仲間に抱く感情ではないと心を落ち着かせどうにか平静を保つ。

 魔王であるクルムには効果は無くのほほんとしている。

 

「……私の願いはただ一つ。人族の殲滅のみ。そのためには魔王様の復活が不可欠ですので──」

「なるほどな。それでレムを──いや。クルムを襲って魔王として覚醒させようとでも思ったのか? 浅はかな」

 

 馬鹿馬鹿しい、とアインズは一笑に帰した。

 タイミングが悪かった。アリシアにはクルムにつけた護衛について話していなかった。

 宿に戻り次第話す予定だったが──アリシアはそれすら待てなかった、或いは待つことが出来なかった。

 現状クルムの護衛について話したのはギルドマスターのみ。それが災いした。

 

(さて、どうしよう)

 

 アインズとて非情という訳ではない。

 人間としての──鈴木悟の残滓は小さな涙を流したアリシアを見逃しておらず、どうにかすべきだと主張する。

 だがオーバーロードとしてのアインズ・ウール・ゴウンは"殺していいだろう"と判断する。

 

 ……この場合はアンデッドとしての感性が正しいだろう。

 理由は兎も角アリシアはレム・ガレウとクルムを襲ったのは事実。ならばその代償はいる。

 普通ならば警察──衛兵にでもつき出せば終わるが事情が事情。更にアリシアは国家騎士。下手に衛兵に突き出してもアインズの方が怪しまれるかもしれない。

 

「おい。アリシア」

 

 すっと、クルムがレムの手を離れ、アリシアの元まで歩く。

 

「なんで人族を滅ぼすのに我が手を下さねばならない? 滅ぼしたいなら自分で滅ぼせばいいだろう?」

 

「そ。れは──」

 

 クルムがずかずかと踏み入りアリシアに問いかける。

 

「……私ではできません。脆弱な人間種に過ぎない私では──」

「それは試した上でのことなのか? 実際に人間を滅ぼそうと努力した後なのか?」

 

 クルムが疑問を抱き。心底わからないという風に問いかける。

 

「まおーだってな。シェラからビスケットを貰うまでビスケットの味を知らなかったし。パンの作り方だってわからなかった。

 わかるか? まおーにだってわからないことはあるし。出来ないこともある。

 だが我は試すぞ。何時かは新しいビスケットを自分の手で作り出すし。新しいものを食べる!」

 

「それになんで我が都合よく人を滅ぼさなけれならないのか。人が滅んでしまったらもうビスケットもクッキーも食べれなくなるのだ!」

 

「──クルムの言うとおりだ」

 

「正直に言えばアリシア。お前が人類を滅ぼしたいという思い──それ自体は別にどうでも良い。人間殺したい人間の百や二百はいるだろう。

 だがな。滅ぼしたいならお前がやれ。私たちを巻き込むな。というかお前は何故人間を滅ぼしたいんだ?」

 

「……明確な理由でもあれば。好かったのかもしれませんね」

 

 アリシアは膝を付くのをやめ。立ち上がる。

 口を開き。何故このような凶行に及んだか話し始めた。

 

「幼いころに誰かに虐められたとか。親に私のことをわかってもらえないとか──そういった理由はありません。ただ。幾度も幾度も。人の悪意に触れてきました。

 横領する領主に書類をよく見ないで処理する官僚。賄賂の横行するカス共に。実力はあっても人格がゴミな冒険者──」

 

(口わっる)

 

 これがアリシアの本音。本性かとアインズは判断する。

 

「何かの事件があったわけでも。滅茶苦茶なカスと会っていたら。それらは"ただそいつが悪いだけ"で済ませられたかもしれません。

 ですけど人間はそうではなかった。悪意に満ちている」

 

(……ああ──成程。アリシアは)

 

「だから私は。人族を──」

「そういうことか。アリシア。お前が憎いのは社会か」

 

 アリシアの言葉を遮り。アインズが言う。

 ふん。と鼻も無いのに鼻を鳴らす。

 

「つまりお前は。人間の社会そのものが嫌いという訳だな。悪意に触れ続けた──というよりは悪意しかない今の社会構造に。力ある者が正しく力なき弱者は悪。

 それが嫌だという訳か。それで人類の殲滅がしたい、と」

 

(……似ているな──ウルベルトさんに)

 

 ウルベルト・アレイン・オードル。かつてのアインズの──アインズ・ウール・ゴウンのメンバー。モモンガの同胞の影をアリシアに見える。

 ウルベルトとの日常会話や酒の入った通話等をすれば。稀にではあるが聞こえる──明確な今の社会構造に対する悪意。

 生まれが全て。弱者に生まれれば奪われるしかない人生。その世界に対する憎悪。

 

「……そこで何故。突飛な発想になる。人族の殲滅等とということに。社会が憎ければ、その社会を壊せばいいだろう」

 

「……どういう──」

「その過程において人を殺すなりなんなり好きにすればいい。だが目的を履き違えるな」

 

「お前が憎いのは社会だ。それを壊すなり何なり好きにすればいい。犠牲が無い手段を取るなとも言わん。それに私たちを巻き込むな」

 

 

 ──それがアインズの本心である。

 普通にアリシアの本音なり憎悪なり別にどうでも良い。勝手にやってろ。だが俺たちを巻き込むな──それが全て。

 

「ふ、ふふ、ふははははは!」

 

 不意に。アリシアが笑い出す。

 

「──えぇ。えぇ! あなたの言う通りです。アインズ様の言う通りに。私は間違えていた。人類が憎いのではなく。社会が憎い。悪意に満ちたこの世界が。

 ならばこの世界から悪意を──今の腐りきった社会をどうにかすればいい。人類殲滅などという遠い目標ではなく!」

 

「そういうことだ。じゃあ話も終わったし死ね」

 

「「「えっ」」」

 

 そこに。三人の声が重なった。

 アリシアとレム。シェラの声だ。

 

 

<心臓(グラスプ)──」

「いや待ってくださいアインズ! 今ちょっとそういう雰囲気じゃなかったですよね?!」

 

 急にレムが割って入り。慌ててアインズは魔法を中止する。

 

「……? 何がだ? アリシアが急に過去を話して来たから聞いたが。それはそれとしてこいつは敵だ。殺しておくべきだろう」

「た、確かに敵ですが──」

「敵なら殺すべきだろう」

 

(ここで生かしておく価値が無いしなぁ)

 

 ここでアリシアを逃がせば。それはアインズ達にとって痛手となる。

 単純な魔王崇拝者ならば兎も角相手は国家騎士。ある程度の地位と実力を持つ者。

 実力自体はどうとでも出来るが地位が厄介だ。それこそ今回クルムを聖騎士をそそのかして襲撃した様に他の者を使うなり適当な罪状をでっちあげるなりで国家権力を使ってくるかもしれない。

 というか事実としてクルムという魔族を連れている以上大々的に指名手配でも喰らえば人の領域で暮らせなくなる。

 アインズはいいがレムとシェラの生活が駄目になる。それは駄目だろう。

 

「いやいやいや! 人を殺すのは悪いことだよ!」

「……既に殺している。今更二人三人増えても誤差だろう」

 

 骨の指先を死体に向ける。

 向けた先の死体は謎の聖騎士──サドラーだ。

 配下の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)によって無惨な死体に変えられてしまった者達だ。

 

「──それでも。アリシアは仲間でしょ! 

 仲間を殺すなんて。可笑しいよ!」

 

 

 ──

 

『ウルベルトさんとたっちさん。何時ログインしても喧嘩してますよね』

 

 鳥を無理やり人型にしたような異形が。そうつぶやいた。

 

『喧嘩するほど仲がいい。ってやつですかねぇ? 本気で嫌いあっている訳でも無さそうですし』

 

 ブレインイーターが鳥人に返す。

 

『あれだね。ケンカップルって奴だ。興奮する』

『黙れ。姉』

 

──

 

 

「──仲間。か」

 

 

 かつての仲間たち。今は亡き異形の同胞。自身の全てを。アインズはこの場の者たちに見た。

 はぁ。とつく必要もないため息をアインズは付いた。

 

「アリシア……お前はもう二度と。俺の仲間を──レムとシェラを。襲わないと誓えるか?」

「誓います。二度とこのような──無辜の一般人は襲わないと誓います」

 

 

「……まぁ。それならいい。とりあえず。あれだ。宿に戻るぞ」

 




お久しぶりです
あーでもないこーでもないと書いて消し手を繰り返してたこうなりました
今年度はまだあるので多分どうにかなりません


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