Lycolis Recoil  will-ill (L.L)
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キャラクター紹介(STAGE10までのネタバレ注意)

ただいま原作第1話の少し前の幕間の話的なのを書いてますので、時間稼ぎも兼ねてキャラクター紹介を投稿します。なお、STAGE10までのネタバレを含んでますので初見の方はSTAGE10までぱぱーっと読んでからお読みください。






















櫻井 壮馬

 

「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」

 

年齢 17歳

 

身長178㎝

 

体重66㎏

 

誕生日 不明

 

趣味 チェス

 

リリベルの元主席。そして世界中で弱者を虐げるテロリストらを標的とする殺し屋『ゼロ』の正体。

 

《性格》

頭脳明晰で冷静沈着。類稀な頭脳の持ち主であり、複数の観点から同時に物事や自他を観察・考察するなど超人的な思考能力を有する。非常に行動力があり、過程よりも結果を重視する合理主義。とは言え、根本的には優しい性格であるために非情になりきれない優しさも持っている。本人は『弱点』と自虐しているが、クルミからは『良い所』と言われている。力ある者が弱き者を一方的に殺す事や不当な暴力や圧政等を酷く嫌う。『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ』と言う信念を持つ。本人は否定しているが、ゼロの衣装からも分かる通り若干中二病ではある。リリベルにいた時に後輩が捨て駒として扱われた事を切っ掛けに、刷り込みを施して子供であるリリベルやリコリスに人を殺させて国の秩序を守るやり方が気に入らず、海外へ渡った後はDAを潰す事を目的としている。故に、DAは『身寄りの無い子供に殺しをさせてこの国の秩序を守っているクソな組織』と見なしている。

 

ゼロ

 

民間人を巻き込むテロリスト、横暴な軍隊、更には汚職政治家、営利主義の企業犯罪組織を標的とし、紫のスーツと黒いマントに仮面を被った壮馬の姿。中二全開の衣装や仮面となっている。彼の信念に基づいて一般市民を決して巻き込むことなく、資金集めやスキルの研鑽を目的に活動している。後にカレンが改良を施して仮面に新機能を追加されたり、服の意匠も若干変わった。イメージを重視してか、芝居が掛かった言動が多い。アメリカでのホテルジャック事件で表舞台に自身の存在を宣言し、以降も活動を続けるにつれてゼロに賛同する声が市民から挙がるようになるが、政府や捜査機関からはテロリスト扱いをされている。

 

《能力》

 

元リリベルの主席なだけあって、運動神経や射撃性能、戦闘技術は凄まじい。動体視力や反射神経が生まれつき優れており、千束と互角レベル。豊富な知識や超人的な思考能力を持っており、作戦立案能力や指揮官としての適性がとても高い。ちなみに、豊富な知識や超人的な思考能力、作戦立案能力はリリベルを出た後に壮馬が努力して後天的に身につけたものである。

 

モチーフは、コードギアスシリーズに登場するルルーシュ・ランペルージ。

 

 

 

 

 

 

カレン

 

「やはり最高のパーツだよ、君は!」

 

年齢 27歳

 

身長160cm

 

体重 本人が興味ないので不明

 

DAの情報部に所属していた技術者。

 

《性格》 

常に飄々としている変人。幼女趣味。武器の開発にはとても興味関心があるが、それ以外の事にはあまり興味関心を持たない。とは言え、人間そのものに対しては無関心と言う訳ではなく、嘘を見抜いたりする等鋭い所がある。マッドサイエンティストの気質があり、自覚はあるが特に直す気はない。DAに対しては過去に友達だったリコリスが囮として利用されて死亡した事もあって恨みを抱えているが、自分自身は無力なのを自覚している為に、壮馬のようにDAを潰そうと行動する事は出来なかった。ハワイで壮馬と出会って協力者として付き合う事を決め、注文に合わせて様々な武器を開発していく。壮馬とは同じDA出身や似たような過去を経験している事もあって、その目的にも理解者として好意的に見ている。クルミに関しては内面だけでなく容姿がドストライクで好み。彼女のハッカーとしての腕前だけではなく、『すごい才能だけど本当はロリババァなんじゃないの』と精神年齢の高さも評価している。

 

《能力》

 

武器開発の才能があり、時代を先取りした武器を生み出したりもする。ただ、高性能すぎる余りに壮馬にしか扱えない代物が多い。

 

モチーフはコードギアスシリーズに登場するロイド伯爵。名前は同シリーズに登場する紅月カレンから。

 

 

 

 

 

 

 

 

クルミ

 

「結ぶか?この契約を」

 

壮馬の共犯者である最強幼女ハッカー。

 

数年前に壮馬と出会い、仕事に協力する代わりに自身に安全を提供する事を条件に壮馬の共犯者となった。元々は孤児だったが、ウォールナットの奥さんに拾われた事でハッカーとしての才能を開花させていく。その才能に危機感を覚えたウォールナットによって処分されそうになるが、ウォールナットの奥さんが彼女を庇った事もあって、海外へ渡った後も逃亡生活を送っていた。共犯者となって数年後、自身を狙っていたウォールナットが壮馬によって引導を渡されるのを見届け、『ウォールナット』の名を継ぐ。狙われる事は無くなったが、壮馬の過去や目的を知り、共犯者として最後まで付き合うことを決めた。壮馬は過去が原因でクルミと一定の距離を置いていたが、互いの過去を話して想いをぶつけあった後に、その距離は縮まった。壮馬に対して恋愛的な感情を抱いている──────かどうかは不明。

 

《性格》

ピ〇シブ百科事典を参照

 

《能力》

ピ〇シブ百科事典を参照




そう言えばブラックパンサー見てきました。何か良い感じの映画でしたね、あれは。

来週にはすずめの戸締り見に行くんですけど、何か感想とか見てるとSAN値削られるとか見かけて、逆に気になってきましたわー。感想欄でネタバレしたらゆ゛る゛さ゛ん゛!!(南〇太郎)



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STAGE0 プロローグ

ちなみに、作者はコードギアスがアニメの中では1番好き。もっと早く知りたかった。

それで、リコリス2期の発表はまだなのか?(催促)


イタリア

 

薄暗い部屋の中で男は恐怖に震えていた。その恐怖は目の前に立つ黒いマントの下に紫のスーツを着た仮面の人物が原因であった。

 

『くっ、来るな!一体俺達がお前に何をしたっていうんだ!?』

 

男の問いに対して仮面の人物は冷静に流暢ないたイタリア語で返す。

 

『お前達は私に何もしていない。だが、貴様らは世界中で民間人を巻き込むテロを行った。故に、私はお前たちのように弱き者を一方的に殺すような卑劣な輩を裁く。それだけの事だ』

 

仮面のは男に向かって銃口を構える。

 

『ま、待ってくれ!取引をしよう!俺が持っている全財産をお前にやる!別のアジトに隠してあるんだ!だから』

 

男が言うのを最後まで待たずに乾いた銃声が3発響き渡る。このビルに死体がもう1つ増えた瞬間だった。

 

「悪いが、別のアジトは既に壊滅させた。君の言う全財産も既に私の手の中なのだよ」

 

動かぬ物体となった男に向かって日本語でそう言うと、カードを男の体の上に置いて仮面の男は踵を返す。通ってきた軌跡を表すかのように死体が所々に転がっているのを踏まないようにしながらエレベーターに乗る。エレベータ内でも死体が転がっているが気にする様子もない。1分もしない内に仮面を乗せたエレベータは下の階に到達する。エレベーターの扉が開くと、出てきたのは仮面の人物ではなかった。

 

黒髪と紫の瞳を持ち、容姿端麗。アタッシュケースを持ち、ベージュのジャケットを着た男だった。男はビルを出て人でごった返す通りを歩くと、泊まっていたホテルの部屋に入る。そこにはベットに寝っ転がってVRゴーグルをおでこに掛けている少女がいた。

 

「帰ったか。標的は片付いたのか?」

 

「全てな。にしても、流石に1人で30人相手は少し疲れるな。しかし……………」

 

床に置いてある3つのバッグの方に目を向ける。そこにはパンパンに詰まった札束が置いてあった。

 

「十分な見返りはあった。これだけあれば資金として蓄える分を除いても当面の生活費には困らないな」

 

「それじゃあ、今日はこのホテルのマッサージサービスでも頼むとするか」

 

「贅沢しても良いとは一言も言ってないんだが。…………………………だがまぁ、俺も今日は疲れたからし今日だけ贅沢するか」

 

「そうこなくっちゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ニュースにて国際的なテロ組織の隊員が全員殺され、壊滅した事が報じられた。監視カメラは機能を停止していた為、殺害した犯人につながる証拠は何も残されていなかった────────ー1つのカードを除いて。カードには仮面を表すマークと『ZERO』の一言のみが載せられていた。このカードが意味する事を世界は知っている。

 

ゼロ。

 

黒いマントに紫色のスーツを身に纏い、仮面を被った正体不明の殺し屋。性別も不明。本名も不明。国籍も不明。ありとあらゆる情報が不明である。ある時期から、裏社会では犯罪組織が次々と壊滅されていく事で話題となっていた。警察組織によるものではなく、仮面を被った殺し屋による暗殺が壊滅に追い込んでいると言う噂が流れていた。しかし、これはあくまで裏社会のみの話題で、表舞台では真偽不明の噂程度の話であった。

 

しかし、とある事件によってゼロの名が表舞台に上がった。そのとある事件とは、アメリカで発生した武装テロ集団によるホテルジャック事件である。

 

犯人のテロリストグループは身代金目的で世界中の有名人や政治家が利用するホテルを占拠。この事件は世界中で報道された。高度な政治的問題も関わっており、包囲していた軍や警察もうかつに手が出せず膠着状態が続く───────かに思われた。

 

事件発生から僅か1時間後、人質となっていた者らが全員無傷でホテルの入り口から出てきたのである。一体何があったのか?その疑問に答えるかのように電波ジャックが起こり、アメリカ中のテレビやスマホなどで仮面を被った男の映像が映し出された。

 

『私の名はゼロ。これをご覧になっている諸君。動じることはない。人質は全て私が救出した。あなた方の元へお返ししよう。このホテルを占拠した愚かなるテロリストは卑劣にも罪のない民間人でもある彼らを人質とした!そのような行為を見過ごす訳にはいかない。故に、私が制裁を下した。ホテル内では息絶えたテロリスト共が眠っている。私は世界中の武器を持たない力なき者の味方だ。力のない罪なき人々を苦しめる者がいるならば、私が現れる。そして、その者らには私の犯行である事を示すカードが置かれる事になるだろう。もう一度言おう、私の名はゼロ。世界中の悪に制裁を下す、死神の名だ!』

 

僅か数分余りの映像だったが、世界中にゼロの名は知れ渡った。後日、ゼロが言っていた通りホテル内でテロリストが全員死んでいた事が発表された。軍によるホテルへの突入はされていなかったのはテレビ中継などで知られていた事からもゼロの言っていた事が嘘である線はほぼ完全に消え去り、人質を救出したゼロを称賛する声が上がるのだった。

 

そして、当人の言った通りゼロは力なき者の味方であった。ホテルでの事件以降、民間人を巻き込むテロ、横暴な軍隊、更には汚職政治家、営利主義の企業犯罪組織など世界中の法で裁けない悪を一方的に断罪されていった。決して民間人を巻き込むことなく、悪を裁いていくゼロを支持する声はどんどん増えていき、『仮面の救世主』、『正義の殺し屋』、『ダークヒーロー』などとも呼ばれるようになった。

 

そんなゼロの正体は櫻井 壮馬。日本において最後の大事件として知られる『電波塔事件』が起こる少し前にDAから失踪した元リリベルの主席。そして、そんな彼をサポートするのが後に最強のハッカー『ウォールナット』として知れ渡る事になる少女、クルミ。

 

2人は互いの利害の一致で契約を結んだ、『共犯者』の関係である。

 

「さぁ、次の標的はどこのどいつだ?ゼロが裁いてやろう…………」

 

壮馬はニヤリと笑いながら呟くのだった。

 

to be coutinued…………




櫻井 壮馬

櫻井 壮馬

年齢 17歳(アニメ第1話開始時)

身長178㎝

体重66㎏

誕生日 不明(壮馬がDAの登録日を誕生日とは見なしてない為)

趣味 チェス

リリベルの元主席。そして、世界中で弱者を虐げるテロリストらを殲滅する殺し屋ゼロの正体。利害の一致で『共犯者』となったクルミと共に世界中で暗躍する。


次回は2人の出会いと、共犯者になった経緯を描きます。…………よし、復活のルルーシュ見てこよ。


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R1
STAGE1 共犯者の契約


そう言えばもうすぐハロウィンらしいですね。おかしあげる相手もいないですけど。


それはホテルジャック事件が起こる半年前の中国。

 

とある犯罪組織が管理している監獄に、何か入ったズタ袋を抱えた男2人が入ってくる。ズタ袋から出てきたのは口元にガムテープを貼られて縛られた、癖のある長い金髪をオールバックにまとめて黒色のうさ耳リボンを頭の上で結んだ、気だるげな目をした小さな女の子だった。少女は目の前に牢屋に乱暴に入れられる。

 

『この日本人は近いうちに生きたまま日本に輸送らしい』

 

『ったく、巨額のギャラを積んでいるとは言え注文がうるさい客だ。しかも最強のハッカーだかなんだか知らねぇが偉そうだしよ。捕らえるのに俺たちが何か月も労力を費やしたと思ってるんだ』

 

『まっ、それも引き渡しが終われば全て終わる。残念なのが、こいつを痛めつける事が出来ない事だけだな』

 

『おいおい、お前幼女趣味でもあったのか?まぁ、同感だがな!俺は嫌いじゃないけどな』

 

そんな品性に劣る会話を繰り広げながら男たちは監獄を後にしようと、踵を返そうとしたその時だった。

 

『私は嫌いだがな。お前達のように品性の劣る輩は』

 

流暢な中国語でそんな声がした。心の底から侮蔑するようなニュアンスを含んだ声が。男らが振り向くと、仮面の人物がいつの間にか彼らの真後ろにいた。

 

『その仮面、まさか…………上の警備は一体何をし』

 

男の言葉を最後まで聞かずに仮面の人物は男2人の頭を掴むと、思いっきり地面に叩きつける。意識を刈り取ったのは言うまでもない。

 

「警備は今頃ぐっすり寝ているよ。もう二度と起きる事はないが…………………さて」

 

仮面の人物─────ゼロは檻の中の少女の方を見る。少女はガムテープで口を塞がれているので何も言わない。ゼロは倒れている男の胸倉を探ると、小さな鍵を取り出す。牢屋の錠に差して右に回すとロックが解除される音がした。ゼロは縛られていたロープをナイフで切ってガムテープを外す。

 

「日本人か。ここでの事は全て忘れろ。その方が幸せだ。中国語は話せるか?」

 

「………………スマホで調べながらなら何とか話せると思うが」

 

それで十分だ、と言うとゼロは再度男のポケットを探ってスマホを取り出すと、指紋認証をしてロックを解除したスマホを渡す。

 

「ここを出てすぐ右を見ると町が見える。そこに小さな交番がある筈だ。スマホで調べたりしながら状況を伝えて保護してもらうと良い。ああ、それと。くれぐれもこの敷地内の施設の中は覗かない方が良い。一生のトラウマになるぞ」

 

そう告げると少女が何か言う前にゼロは牢獄から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牢獄を出て地上に出るとゼロは監獄の警備室に戻る。そこには動かぬ死体となった男が何人も転がっていた。邪魔なので全員奥の部屋に放り捨て、血の匂いが余りにも酷かったので軽く掃除を済ませ、ゼロは仮面を取る。

 

「ふぅ、涼しい…………………さて、調べるとするか」

 

壮馬は警備室のある男が持っていたスマホを近くにあったパソコンに繋げると、マウスやキーボードを操作する。

 

「………………こいつらが持っていたスマホの電話履歴から見るに、こいつが親玉の番号か。こいつらの親玉の居場所だけどうしても突き止められなかったから、わざわざこんな所まで来る羽目になってしまったが、まぁ良いだろう。で、この電話の発信源は………………ちっ、暗号化されているか。中々に面倒だな………………」

 

「いや、そうでもないぞ」

 

「そうか。……………………は!?」

 

勢いよく振り返ると、何と先程の少女がいた。慌てて仮面を被ろうと手を伸ばすが、もはや手遅れであると悟ってその手を戻す。

 

「………………何故ここにいる?」

 

「まぁ、色々とあってな」

 

そうはぐらかしながら少女は壮馬が使っていたパソコンを奪うと、高速でタイピングを始める。

 

「おい、勝手に」

 

「いいからちょっと待ってろ」

 

画面上で複数のウインドウが出ては消えていくと、僅か30秒でパソコンを壮馬に差し出す。

 

「ほら、発信源を特定してやったぞ」

 

「なっ……………」

 

語彙力を失う壮馬。驚きながらも、画面を見る。発信源はここから20㎞程度離れた場所だった。ついでに、発信者の顔も映し出されている。それは確かに壮馬が狙っていた標的の男だった。

 

「…………………これは本当なのか?」

 

「本当だ。嘘を言っているように見えるか?」

 

「…………いや。俺は人を見る目はあると自負している。嘘か本当かぐらいは分かるさ…………………最近の子供はこれくらい出来るのか?」

 

「子供じゃない。僕の事はそうだな………………クルミと呼べ、ゼロ」

 

「…………………お前、何者だ?ゼロの名前を知っていると言うことは、ただのパソコンいじりが好きな少女ではないな?」

 

クルミと名乗る少女に壮馬は射貫くような視線を向けながら問う。それに対してクルミは怯むことなく、壮馬の目を真っすぐに見返しながらすぐに答える。

 

「こう見えてもボクはハッカーなんだ。凄いだろ?………………ところでゼロ。1つ訊くが、お前は強いのか?」

 

「……………強いか弱いかで問われれば、強いと答えるが。ゼロの事を知っているなら、そこら辺も知ってるんじゃないのか?」

 

「まぁ確かにな。ゼロの噂は色々と聞いている。裏社会では『犯罪組織とかを壊滅させている殺し屋』って結構有名人だぞ。そんな有名人にこんな所で会えるとは光栄だな」

 

「………………………裏社会で有名になってもあまり嬉しくないがな」

 

「それにしても…………ゼロ…………………………ゼロか………………………………よし」

 

少女は何か考え込んでいるようだったがすぐに何か決めた様子で口を開く。

 

「ゼロ。今日からボクがお前の『共犯者』になろう」

 

「………………………は?」

 

思わぬ言葉に、壮馬は思わず間の抜けた声をあげてしまう。

 

「ボクは訳あって狙われていて、追われる身の立場なんだ。だから、腕の立つゼロの傍にいれば1人でいる方が格段に安全だと思っただけだ。その代わりに、ボクはお前の仕事をサポートする」

 

「…………お前を狙っている奴の居場所は分からないのか?」

 

「居場所が分かってたら最初から言ってる。どう頑張っても居場所だけは突き止められなかった」

 

「………………質問を変えよう。お前を連れて行く事で俺にどんなメリットがある?」

 

「さっきみたいにお前の仕事を情報収集やサイバー攻撃で手助けしてやる。そこそこ実力もあるし、成長期真っ最中だ。メリットは保証するぞ?お前はボクに安全を提供する。ボクはお前の手助けをする…………………………結ぶか?この契約」

 

「………………………」

 

壮馬は黙り込んで考査する。確かに彼女の実力は先程見せてもらった通り言うまでもない。確かに彼女がいれば仕事が格段に楽になるし、さらに高難易度な仕事も可能となるのは間違いない。しかし、今日出会ったばかりで素性も分からない彼女を信じて大丈夫なのか?何かの罠ではないのだろうか?そもそも、自分から言ってきたとはいえ自分の計画に巻き込んでも良いのだろうか…………………頭に浮かぶ事は山ほどあった。そんな彼をクルミは黙って見つめる。彼が再び口を開いたのは3分後だった。

 

「……………………良いだろう。結ぶぞ、その契約」

 

「そうこなくっちゃな。……………そう言えば名前は何て言うんだ?まさかゼロが本名って訳じゃないだろ?」

 

「…………壮馬。櫻井 壮馬だ」

 

「何だ、案外あっさりと明かしたな?」

 

「別に調べても何も出てこないからな」

 

「そうか。じゃ、これからよろしくな壮馬」

 

2人は握手を交わす。ここが壮馬/ゼロとクルミにとっての転換期(ターニングポイント)となるのだった。

 

to be coutinued……………




昨日、ホロライブの大空スバルさんがコードギアスの2期最終回の同時視聴会をやっていました。うまく言えないんですけど、人のリアクションを見るのってなんか楽しいですね(謎の上から目線)

本日もここまで読んでいただき、ありがとうございました。良ければお気に入り登録や高評価をよろしくお願いします。


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STAGE2 共同作戦

今日の日記

夕飯で食べた唐揚げが微妙でした。おわり。


使えそうな物を施設内にあったカバンに積め込み、檻の男2人を始末した後に2人は奪った車で監獄を後にしていた。

 

「スマホの着信履歴から察するに、親玉へ定時連絡をしていたらしい。定時連絡がなければ襲撃などの非常事態が伝わると言う訳だ」

 

「次の定時連絡はいつだ?」

 

「60分後だ」

 

「それだけあれば十分だ」

 

助手席に座りながらパソコンを操作するクルミからの情報を聞いた壮馬は涼しい顔で言ってのける。

 

「正体不明の仮面の暗殺者ゼロ、か…………………………前々から興味深い存在だとは思っていたんだ。まさか日本人だとは思わなかったが」

 

「それは光栄だな」

 

「心にもない事は口にするものじゃないぞ」

 

「ところで、クルミを狙っている奴とは誰だ?」

 

「…………心当たりはあるが、そいつだと言う確実な証拠がない」

 

「……………なら今は話さなくて良い。確実な証拠なら恐らく入手できるだろうからな」

 

そんな会話をしている間に目的地に着いたのか、壮馬は車を止める。そこはちょっとした別荘のような家だった。

 

「中々良い家だな。幾らしたんだ?」

 

「意外と安かったな。事故物件だから当然だが」

 

「……………それは知りたくなかった」

 

家の中は必要最低限の家具だけしかない殺風景だった。壮馬はクルミをある部屋に案内する。その部屋には最新のパソコンやモニターが何台も設置されている部屋だった。

 

「ここにあるものは全部好きに使え。そして、あの犯罪組織の親玉達を始末するのに役立ちそうな情報を全部集めろ」

 

「分かった」

 

そう返事するとクルミはゲーミングチェアに座ると作業を始める。その間に壮馬は別室の武器庫に入る。ハンドガンなど必要な武器を持ってクルミの所へ戻る。

 

「情報は?」

 

「場所はここから5㎞先の4階建てのビル。表向きは取り立て屋らしい。各フロアには監視カメラがくまなく設置されている。このタイプのカメラだと恐らく仲間内なら誰でも映像を見れる。ビルにいる組織の人間は恐らく各フロアに10人。全員武装している。親玉は今なら4階の自室にいる筈だ」

 

「侵入出来そうな経路は?」

 

「残念ながら、正面から入るしかなさそうだ」

 

「………………よし。下から順に隠密に制圧していくとしよう。騒ぎに気付かれてしまうと面倒だ。あぁ、それと。奴等が見れる監視カメラの映像を全て録画映像にすり替えたりする事は出来るか?」

 

「それくらい造作もない事だ」

 

その言葉を聞いて壮馬はニヤリと笑う。

 

「よし、これで条件は全てクリアされた。ここまで情報が集まれば十分。あとは俺の仕事だ」

 

そう言うとゼロの仮面をテーブルに置く。それを近くでまじまじと見たクルミが口を開く。

 

「………よくよく見たらその仮面、中二病の匂いがするな」

 

「…………顔を隠しつつ、軽さや視界の広さを重視したらこの形になっただけだ」

 

そう言うと壮馬…………………否、ゼロは出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20分後、ゼロはビルの近くの路地裏に到着していた。流石にゼロの恰好では目立つので、仮面を取ってマントの上からロングコートを羽織っていた。

 

「さて、準備は良いか?」

 

『あぁ。既に監視カメラの映像も録画にすり替えた』

 

「よし…………………くれぐれも監視カメラで様子を見ようとは思うなよ。飯が喉を通らなくなるからな。全て終わったら連絡するから、そしたら警察に通報しておいてくれ」

 

そう言うとコートをはぎ取り、仮面を被って正面から突入する。受付にいた男が銃を構えるが、それよりも先にサプレッサー付きの銃でヘッドショットを決める。大きな部屋の扉の前につくと、サーモグラフィカメラを取り出す。

 

「(部屋の中には8人。10人と言っていたから、このフロアはこいつらで残り全部だろう。一瞬で片づけてやる)」

 

心の中でそう呟きながら両手にサプレッサー付きのハンドガンを携えて突入する。僅かな発砲音が鳴り響く事僅か15秒。ゼロは何事もなかったかのように出てきた。部屋の中の者がどうなったかは言うまでもない。

 

「よし、1階は片付いた。このまま上の階も」

 

『待て』

 

「!………お前、全部見てたのか!?」

 

『ああ。ボクを気遣ってくれるのはありがたいが、もっと胸糞悪いものを何年も前に見た。だから、もうこれくらいでは何とも思わないから気にするな。それよりも、まだ残っているぞ。奥の裏口付近で一服している奴等がいる』

 

「………………分かった」

 

一服していた奴らが一瞬で片付けられたのは語るまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4階にて犯罪組織のボスは優雅に葉巻を吸っていた。今月に入ってくる収支の事を考えてニヤニヤしていると、部屋のドアがノックされる。

 

『ボス、失礼します。急遽お伝えしたい事があるのですが、入ってよろしいでしょうか?』

 

『入って構わないぞ。何だ、急遽伝えたい事……………!?』

 

『それはですね、あなたの部下が全員あの世に行った事です』

 

入ってきたのは自分の部下ではなく、仮面を被った暗殺者であった。

 

『まさか貴様……………ゼロか!?』

 

ボスは拳銃を懐から取り出して発砲するが、俊敏な動きで全て避けられて間合いを詰められて膝蹴りを顔面に喰らって倒れる。

 

『ほう。私の事を知って貰っているとは光栄だ。ならば、私が来た理由も分かるな?』

 

『わ、我々はただの取り立て屋だ!不当な理由で金を吸い取ってなんかいな』

 

『違うな。間違っているぞ、それは。お前たちは取り立て屋なんかではなく、誘拐や殺人、麻薬の取引を行う犯罪組織だ。既に調べはついている。これでチェックメイトだ』

 

そう言うとゼロは銃をボスに向けて引き金に指を添える。

 

『ま、待ってくれ!分かった、降参するから命だけは助けてくれ!』

 

『………………では、この組織が保持する資金を提供してもらおう。あと、直近の依頼や顧客リストもだ。それを提供するならば命は保証しよう』

 

『わ、分かった!資金は全てあそこの金庫にある!依頼や顧客リストの情報はこのパソコンのファイルに全て入っているから確認してくれ!』

 

『………………良いだろう』

 

ゼロは男がどいた席に座るとパソコンを操作し始める。

 

「……………これか」

 

『全てこちらでコピーしておこうか?』

 

「ああ。念のため、こちらでもUSBにコピーを取っておく」

 

クルミと話している隙にボスはさりげなく向かいのソファーに座る。そして、ソファーの隙間に隠されている拳銃を確認、そしてゼロがこちらの動作に気付かずにパソコンを操作している事も確認した。

 

『馬鹿が!油断したな、ゼロ!』

 

ボスは立ち上がると取り出した拳銃を構える。そして次の瞬間、銃声が部屋中に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ………ぁ……』

 

倒れたのはゼロではなく、ボスの方だった。

 

「……………馬鹿が?その言葉、そっくりそのままお返ししよう」

 

日本語でそう吐き捨てると、ゼロはコピーしたデータが入っているUSBを持って部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、帰って来たか。言われた通り、警察に通報はしておいたぞ」

 

アジトに戻ると、ソファーでゲームをしているクルミの姿があった。仮面を外して壮馬は彼女を見ながら口を開く。

 

「ナビも的確で、監視カメラのハッキングも抜かりなし。お前がいなければこんな手際よく行かなかっただろう。見事な腕前だった」

 

「だから言ったろ?メリットはあるって」

 

そうだな、と返事をして壮馬は机にゼロの仮面を置いて椅子に座る。

 

「これで1か月前から取り掛かっていた仕事が漸く終わった。規模はそこまで大きくないが、実力のある奴らが多い組織だったそうだ」

 

「だから奇襲攻撃したって事か?正面からドンパチするとリスクが大きいから」

 

「その通りだ。人間ってのは想定外の出来事に弱い。判断力も鈍るし、実力も本来のパフォーマンスも発揮出来ないものさ……………さて」

 

壮馬は先程のUSBを取り出す。

 

「奴らの顧客情報や依頼のリストを入手した」

 

「ここから芋づる式で新たな犯罪組織とかを見つけて、次の標的を決めていくのか?」

 

「それもあるが、今回はクルミを攫うように依頼した奴の正体もついでに暴くとしよう」

 

USBをパソコンに繋いで、壮馬はデータを確認する。クルミも隣に来て覗き込む。

 

「……………あった。名前は………………『ウォールナット』…………確かネット黎明期から活躍していて、何度も死んだとされている。居場所も正体も不明のハッカーだったか。知り合いか?」

 

「…………まぁ、そんな感じだ。やっぱりあいつだったか…………………今まで証拠はなかったが、ほぼ確実に奴の差し金だと思っていたから特に驚きはないが。それよりも」

 

クルミのお腹からグゥと可愛らしい(?)音が鳴る。

 

「一仕事して腹が減ったな。……………チラッ

 

「…………分かった分かった。見事な手際だったのもあるし、近くにあるうまい中華料理屋で奢ってやる」

 

「奢って貰って良いのか?ボクはこう見えて結構大食らいだが」

 

「構わないぞ?(どうせ子供だし、大食らいっていってもたがか知れてるだろ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お会計は1472人民元(日本円で3万円)ネ!』

 

「…………………(語彙力ゼロ)」

 

2度とクルミには奢らないと誓う壮馬だった。

 

to be continued…………




いっぱい食べる君が好き。

ちなみに、既にSTAGE10までは書きあがっています。STAGE11にてアニメ第1話の内容に入るかどうか。まぁ、そこまで投稿したら続けるかどうかはSTAGE10まで投稿してから、色々と考えて決めますのでよろしく。


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STAGE3 アラン機関

タイトルでお察しの通り、原作からあの人が出ます。色んな意味で怖い奴やで、ほんま。




ゼロがクルミと『共犯者』になってから8ヶ月が経つ。壮馬とクルミはロンドンのとあるホテルにいた。仕事の仕込みを行う為に1週間前からロンドンに来ていたのだ。

 

「2ヶ月前のアメリカでのホテルジャック事件にて、人質を軍よりも先に無傷で救出すると言う鮮烈なデビューを飾ったゼロはホテルでの事件以降、民間人を巻き込むテロ、横暴な軍隊、更には汚職政治家、営利主義の企業犯罪組織など世界中の法で裁けない悪などを一方的に断罪していった。決して民間人の命を脅かすことなく、悪を裁いていくゼロを支持する声はどんどん増えていき、『正義の味方』、『ダークヒーロー』、『仮面の救世主』等と称賛の声も上がっている…………すっかり有名人だな」

 

ジュースを飲みながらニュース記事を読み上げるクルミ。それを聞いた壮馬は凶悪な表情を浮かべる。

 

「当然の結果だ。全ては計算通り。みんな好きだろう?『正義の味方』ってやつは」

 

「それは正義の味方が浮かべていい表情じゃないぞ」

 

苦笑しながらいたずら好きの子供を優しく諭すような口調でそう言うと、クルミはパソコンに表示していたニュースを閉じる。

 

「それにしても、ウォールナットはここ最近は全然狙ってこないな。前まではよく刺客を送ってきていたが」

 

「さぁな。足取りが掴めないように痕跡は完全に消すようにしているから、見つからなさ過ぎて何処かでくたばったとでも思ってるんじゃないのか?」

 

心底どうでもよさそうに言ってクルミはジュースを飲む。空になったタイミングで壮馬は話しかける。

 

「じゃあ、何であの時は捕まったんだ?」

 

「あの時はまだ実力不足で痕跡を完全に消し損ねたからな。けど、あれから成長した今のボクなら尻尾を掴まれる気がしない。現に、最後に襲撃を受けたのは3か月前だしな」

 

「電波ジャックすら簡単にこなせるレベルになったしな。大した腕前だ。まぁ、ウォールナットの居場所だけは未だに突き止められてないがな」

 

「……………ボクは万能な神様じゃないんだ。出来ない事だってある」

 

「確かにそれはそうだ。………………よくよく考えたら、クルミがウォールナットの追跡を逃れる事は出来ても居場所を突き止められない、つまり狙われる可能性が存在しているからこそ、俺は『共犯者』としてクルミのバックアップを受けられているのか。なら、ウォールナットに感謝の意を表していつかアジトを荒らしに行くとしようか」

 

「本当に最悪な感謝の表し方だな、それ。まぁ、それはいつかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『監視カメラで確認したが、誘拐された子供の周りには誰もいない』

 

「よし、これで条件は全てクリアされた。後は手筈通りに頼む」

 

クルミにそう告げると、ゼロは銃の手入れをしている犯罪者の前に姿を現す。

 

『ごきげんよう、誘拐専門の犯罪者諸君』

 

『ぜ、ゼロ!?何故この廃棄された地下壕のアジトが!?』

 

『うまく隠蔽していたようだが、このゼロからは逃れる事は出来なかったな』

 

『クソッ、ならば人質を』

 

『使わせるとでも?』

 

ゼロが指を鳴らした瞬間、突然アジトの電気が全て消える。

 

『なっ!?』

 

「(直前の敵の位置は全て把握済み。暗闇であろうとも問題ない)」

 

ハンドガンを両手に一丁ずつ持つと暗闇の中を走る。暗闇の中、響き渡るのは銃声と犯罪者らの悲鳴のみ。僅か30秒後、銃声が止むと同時に電気がつく。立っているのはゼロのみで、先程まで生きていた犯罪者らは全て地に伏していた。

 

『伏兵はなし。全員片付いたし、警察も呼んでおいた。こいつらが持ってるデータや銀行口座にある金も全部こっちに移したぞ』

 

「よくやった」

 

『それにしても、暗闇で視界が見えない中でも全弾命中させるなんて凄いな』

 

「電気が消える直前の敵の位置や障害物を覚えておけば誰でもできるさ。人質の子供を解放しよう」

 

地下壕の奥へ行くと、そこには何十人もの子供が怯えた表情を浮かべていた。

 

『……………こんなに沢山誘拐されていたのか』

 

「殆どが金持ちや政治家の子供だ。標的にされてもおかしくはない」

 

『それにしても、まさかここの管轄の警察署長がこいつらとグルで金を稼いでいたとはな。その署長も狙うのか?』

 

「いや、調べによればあの署長はかなりの臆病者らしい。こいつらがゼロに殺されたと分かれば、次は自分が標的にされる事を恐れてさっさと自首するだろう。俺に殺されるより檻の中の方がマシだろうからな。それに、腐っても警察署長だ。殺せばゼロが露骨に悪いように報道されるだろうし、わざわざ奴を殺すメリットも価値もない」

 

ゼロの読み通り、翌日手を組んでいた犯罪組織がゼロに殺されたことが分かるとその署長はすぐに自首したそう。

 

『安心してほしい。君たちを誘拐した犯罪者らはこのゼロが制裁を下した。間もなく警察がやって来て君たちを保護してくれるだろう。申し訳ないが、もう少しだけこのまま待って貰いたい』

 

そう言い残すとゼロは踵を返して立ち去ろうとする。

 

『あ、あのっ!』

 

檻の方からの声にゼロは立ち止まって振り返る。

 

『そ、その…………助けてくれて……あ、ありがとう……………』

 

声に対してゼロは僅かに頷くと、牢屋を後にして死体が転がる部屋に戻ってくる。それを一瞥して立ち去ろうとしたゼロだが、何か見つけたようでとある人物の死体に近寄って何かを手に取る。

 

「フクロウのチャーム…………………これが何か分かるか?」

 

『………………これはアラン機関からの支援を受けた事を示すペンダントだ』

 

「アラン…………確か才能のある人を無償で支援している機関だったな」

 

「その通りだよ、ゼロ」

 

声のした方へと銃口を向けると、そこには両手を挙げた男がいた。紺色のスーツの左襟には金色のフクロウのバッジがつけられていた。

 

…………クルミ

 

『周辺の監視カメラはチェックしていた。ハッキングされた痕跡もない。最初からいたか、もしくは奴しか知らない侵入経路があったかのどちらかだ』

 

クルミの声を聞きながら、ゼロは男に問い掛ける。

 

「何者だ?」

 

「私は吉松と言う者だ。見ての通り、アラン機関のメンバーでね」

 

「そのアラン機関のメンバーがこんな場所に何故いる?」

 

「彼だよ」

 

吉松の視線の先には地に伏している組織のトップの男がいた。

 

「彼には『狙撃』の才能があった。アラン機関は彼の支援をしていてね。今日は部下に彼専用の狙撃銃を譲渡してもらう形で支援しようと思っていたのだが…………………まさかこんな事になっているとはね」

 

「そうですか。それはとても残念ですね」

 

彼を殺した当人であるゼロはどうでも良さそうに返すが、吉松は特に気にする素振りを見せる様子もなく続ける。

 

「アラン機関内部では君については賛否両論だ。賛成派の意見は主に君が人を救う事によって将来現れる神のギフトが失われずに済む可能性がある。反対派の意見は人助けによって才能を持つ者が摘み取られている、とね。組織内で君を黙認するか、取り除くべきか結論が出ないままさ」

 

「それで?あなたはどちら派なのですか?」

 

「私は反対派さ。機関が支援する才能は神のギフトだ。だが、君はその神のギフトを永遠にこの世から葬ってしまった。今回だけじゃない。君が今まで葬ってきた者の中にもアランから支援を受けていた者がいた。そこでだ、ゼロ」

 

吉松は懐からフクロウのチャームを取り出す。

 

「………………何の真似ですか、これは?」

 

「君をアランの支援を受ける権利を授けよう。君の才能は…………さしずめ『救世主』の才能と言った所だろうか?君がこのペンダントを受け取れば、アランは君にあらゆる形で支援しようじゃないか。ただし、1つだけ条件がある」

 

「………………勝手な行動はせず、アラン機関の指示で動け。要はアランの管理下に入れと?」

 

「察しが良いね。概ねその通りだよ。少しだけ行動に制限は掛かるが、これまで通り人を救う事は出来る。しかも、資金や武器の支援が行われる。我々は世に出回っていない先進的な技術力を所持しているから、君が欲しいものは何だって提供できる。悪くない話だとは思うが…………………どうかな?」

 

「……………………」

 

ゼロは少し考査する様子だったが、銃口を下して吉松の傍に近寄る。吉松は微笑を浮かべる。

 

「流石はゼロ。聡明な判断だ。さぁ、受け取ってくれ」

 

吉松はゼロの手にペンダントを渡す。

 

「さて、早速だがどんな支援がお望みかな?何でも構わな」

 

「違うな。間違っているぞ、吉松」

 

「………………何?」

 

「私がいつお前の部下になると言った?」

 

そう言うとゼロはペンダントを上に放り投げると、銃の引き金を引く。銃弾はペンダントを見事に打ち抜き、粉々になって吉松とゼロの間に落ちる。

 

「アラン機関。貴様らにとっては法律や倫理は関係なく、殺人の才能や戦争の才能も神聖なギフトとして見て、無償で支援するのだろう。………………気に入らないな。貴様らの支援は悪意を持った力ある者にさらに力を持たせ、罪なき者が一方的に殺されたり虐げられる事態を招きかねない。貴様らの部下になど死んでもなるものか」

 

「…………………やれやれ。何故分からないんだ、ゼロ?神のギフトが永久に失われる事がこの世にどれだけの悪影響を及ぼすのか」

 

「お前の考えを私に押し付けるな。どうやら、才能あるものに無償の支援を施すアラン機関の奴らはあらゆる才能に狂気的に固執する集まりらしい」

 

ゼロは吉松に向けて銃口を向ける。

 

「今のアラン機関は解体して、もっとマシな機関に作り替えた方が良さそうだ。アラン機関の親玉はどこにいる?吐け」

 

「残念だがゼロ。アラン機関を否定する君と話すことはもうない」

 

直感的に何かを感じたゼロが後ろにジャンプして下がると、彼が先程までいた場所にナイフが突き刺さる。ナイフが投げられた方向を見ると、ボディスーツを着た女がナイフを投げてくる。放たれたナイフをゼロは近くにあったテーブルを楯代わりにする。すると、刺さったナイフから大量の煙幕が放たれて視界を一気に塞ぐ。

 

「チッ!煙幕を仕込んでいるのか!」

 

「最後に忠告しておこう。さっきも言った通りアラン機関内でも君については賛否両論である事から、君の行動をアラン機関が直接妨害する事は暫くないだろう。我々は君の処遇を決めるよりも、才能がある者への支援を行う方が優先度は圧倒的に高いからね。だが、アラン機関は秘密主義が徹底されている。我々に探りを入れない事をお勧めするよ。無闇に深入りしようとすると刺客を差し向けられる事もある」

 

「…………吉松よ。アラン機関に伝えておくが良い。私が邪魔ならいつでも刺客を差し向けるが良い。だが、覚えておけ。撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。私を殺そうとするなら、貴様らも殺される覚悟をしておくが良い、とな」

 

吉松からの返事はなかった。暫くして煙が晴れると、吉松もその部下らしき女も消えていた。

 

「…………………追跡は出来るか?」

 

『周辺の監視カメラには2人の姿は映っていない。恐らく事前に追跡できない逃走経路を確保しているんだろうな。それよりも、もうすぐ警察がそっちに着くぞ』

 

「分かっている。すぐにこの場から離れる」

 

ゼロは破壊されたフクロウのチャームを一瞥し、思いっきり踏みつけて地下壕を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、自分から敵を作りに行くとはな。アラン機関にわざわざ喧嘩を売らなくても良いだろ」

 

「別に売ったつもりはない。殺すなら殺される覚悟をしろと言っただけだ」

 

それを喧嘩を売ってるって言うんだ、とホテルに戻ってきた壮馬にクルミは心の中でツッコミを入れながらパソコンを操作して先程の地下壕内での映像を再生する。

 

「にしても、ナイフから煙幕が出るとは思いもしなかったな」

 

「……………世に出回っていない先進技術を所持していると、吉松はそう言っていたな。もし今後アラン機関と敵対する事になった場合、先進技術によって作られた未知の武器や装置を使う刺客を相手にしなければならない訳か」

 

「そうなると、ボク達の生死にも少なからず影響を及ぼす可能性があるわけか…………吉松の言葉を信じるなら暫くは妨害してこないだろうけど、どうする?」

 

「そうだな…………こちらにも技術者が欲しいな」

 

『技術者?』と聞き返すクルミに壮馬は頷く。

 

「今回の事に関係なく考えていた事だ。優秀な技術者がいれば便利な装置や武器を作ってくれて戦略の幅が広がるし、仕事の成功率や生存率も上がるからな」

 

「なるほど。確かに悪くない案だな。じゃあ、ボクの方でも探してみるよ」

 

「頼んだ。俺の方でも『壮馬』として作った友達がいる。そいつらに聞いてみて探してみるとしよう」

 

「……………………」

 

「……………何だ?」

 

「いや、壮馬にも友達いるんだなと思っただけだ」

 

この後、クルミはデコピンされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々いないなぁ……………私の作ったガジェットを使いこなせる優秀な人間(パーツ)が欲しいんだけどなぁ………」

 

to be continued…………




次回、オリジナルの新キャラ出ます。女の子です。お笑い要素を担ってくれる(?)少し変わった女キャラですので、お楽しみに。


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STAGE4 謎の技術者(前編)

最近買い始めたトイプードルが可愛すぎるんじゃ。


吉松と対峙してから数週間後。2人はロンドンからハワイに場所を移していた。

 

「流石に人が多いな。まぁ、海外旅行でも人気なハワイだし当然か」

 

「これだけ人が多いとお前を狙うウォールナットの刺客が紛れてるかもしれない。気が抜けないな」

 

「………………不安を煽るような事はわざわざ言わなくて良いんだが」

 

「ただの注意喚起だ」

 

ハワイの街を歩く壮馬とクルミ。暫く歩いていると目的の工場跡地に到着する。

 

「ここにイカれた日本人の女技術者がいるらしい」

 

ほんの数日前、クルミが優秀な技術者を発見した。ダークウェブ上の情報によれば、彼女が作る武器は強力だけれど扱いが難しすぎて返品が多いとか。早速クルミがゼロの名でコンタクトを取ると、あっさりと会うことが決まった。ただし、1つだけ条件を提示された。

 

「…………………良いのか、本当に会って?会う事の条件に『協力者のハッカーも同行して来い』なんて提示する辺り、何かの罠の可能性が高いんじゃないのか?」

 

「確かに。クルミが共犯者になってから電波ジャックとか大規模な事が出来るようになったし、ゼロにハッカーの仲間がいると推測が出来ないわけではないが、断言する辺り相当頭の切れる奴だ。だが、罠なら罠で構わない。もし罠ならば」

 

そう言うと壮馬は人がいない事を確認し、どういう手品か一瞬でゼロの姿に早変わりする。そして取り出したゼロの仮面を被る。

 

「返り討ちにするだけだからな。クルミの安全は保障しよう」

 

「信頼してるぞ、その言葉。……………じゃあ、行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工場の中には古き時代を連想させるさびれた機械が放置されていた。そんな工場内を2人は静かに進む。奥の方まで来ると、さびれた機械とは対照的な最新式の椅子に座る女が2人を見つめていた。

 

「どうもどうも~。初めましてゼロ。会えて光栄だよ」

 

「お前が例の技術者か?」

 

「そうそう。私の名はカレン 。で、そちら………が……………」

 

「クルミだ。ゼロの共犯者のハッカーだ。…………………何だ?」

 

何故か固まっているカレン。しかし、突然椅子を倒しかねない勢いで立ち上がると近づいてくる。ゼロはすぐにでも発砲できるように銃を構えるが、当のカレンは銃が目に入っていないようでクルミの肩を掴む。

 

「きみっ!」

 

「な、何だ……………?」

 

「百合とかオッケーならさ………………その、私と(自主規制)しない?」

 

「「………………」」

 

2人は思った。マジでこいつはヤバい奴だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3分後

 

「いやぁ、申し訳ないね。こんな私の性癖(ロリ好き)にドストライクな子と会うのは久しぶりでね。つい暴走してしまったよ。ごめんね?」

 

「………………まぁ………………うん。何もされなかったし大丈夫だ」

 

あの後、何だかんだでクルミが未知なる世界の扉を開くことはなくカレンは冷静さを取り戻した。

 

「悪いね、ゼロ。こんな奴で幻滅した?」

 

「…………私はお前の技術で作る物に興味がある。趣味が何であろうと関係のない事だ」

 

まぁ、本音を言えば出会い頭にとんでもない事を言っていたので少しだけ引いたのだが、それは口に出さなくて良いと判断して吞み込んだ次第である。

 

「さて、じゃあ改めて。私はカレン。一応技術者だ。それで、君達は何をしにここに来たのかな?」

 

「単刀直入に言おう。私の協力者になって貰いたい」

 

「ほー………………」

 

カレンは面白そうな表情を浮かべて口を開く。

 

「何で私が欲しいのかな?」

 

「お前の技術力は知っている。強力だが扱いきれない武器を作るとな。目的の為にも、私はお前の強力な技術力が欲しい」

 

「なるほどねぇ………………その言い方だと、自分なら扱えると言っているようなものだけど、理解してる?」

 

「無論だ。私なら制御して見せよう」

 

ゼロがそう言い切ると、カレンはますます面白そうな表情を浮かべる。

 

「………………良いよー、仲間になっても。ただし、条件があるんだよね」

 

「条件?」

 

「君は私の武器を扱えると言ったね?なら、それを実際に証明してもらいたい。そして、君が良いデータを取ってきてくれる『パーツ』である事を証明してくれれば、君の仲間になってあげても良い。このテスト、受ける?」

 

「………………そのテストを受ける価値があるのかどうかを見定めたい。先ずはお前の技術力を見せてもらいたいのだが」

 

「んー、確かにそれはそうだね。じゃ、ついてきて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「工場の地下にこんな隠し通路があるとはな。これなら見つかりにくいだろうな」

 

「でしょでしょ?クルミちゃんだっけ?良かったら一緒に住む?」

 

「遠慮しておくよ。……………色んな意味でで危なそうだしな」

 

「残念、振られちゃった。そんな事してる間に到着っと」

 

工場の地下には彼女のラボが広がっていた。辺りには彼女が作ったと思われるガジェットが大量に床に放置されていた。

 

「汚いな……………整理整頓とかしないのか?」

 

「気が向いたらしてるかな。まっ、そんなどうでもいい事よりもゼロに是非ともデータを取ってきてもらいたい傑作品がねぇ………………………これ!」

 

カレンは取り出したガジェットをゼロの腕に装着する。

 

「これは?」

 

「名前はまだ決めてないんだけど、要はワイヤー付きアンカー。この小さな装置を頭の近くに付けていると、君の脳波を感知して発射や巻取り動作を行う。さらに、ワイヤーの硬さも自由に変えられる。鞭みたいに扱うことも出来るし、硬化させて地面に向けて発射させれば跳躍出来るかもね。まぁ、試した事はないから知らないけど」

 

「このアンカーは移動手段としてだけでなく、攻撃にも使えるのか?」

 

「勿論。アンカーの先端を展開して刀身を露出させれば格闘戦にも使えるし、至近距離から発射したら人の身体位なら普通に貫通するかなー」

 

アンカーの紹介が終わり、次にカレンは一見すればシューズにしかみえない物を見せる。

 

「これはねー、ホバリング機能を兼ね備えたシューズ。これもさっきのと同じように脳波によって制御する。高速で移動できるようになるんだけど、制御が死ぬほど難しいんだよね~。たぶんハーケンよりも扱いが難しい。実を言うと……………これに関しては私も全く制御できない!」

 

「何で自分でも制御できない代物を作ったんだ………………」

 

「そりゃあ面白そうだからだよ、クルミちゃん。じゃ、折角だしクルミちゃん履いてみて。ああ、制御出来なさ過ぎてリミッターを設けてるから安心して。今は最高速度を秒速1メートルにしてるから」

 

「…………………まぁ、それなら構わないが」

 

少し不安そうにしながらクルミはシューズを履く。すると、クルミの足のサイズに合わせてシューズが自動でフィットする。

 

「うぉっ!?……………今のはどういう仕組みなんだ?」

 

「これはね、えーっと…………………何だっけ?うん、忘れた☆」

 

「………本当にお前が作ったのか………?」

 

呆れるクルミにカレンは小さな装置をクルミのリボンに付ける。

 

「これで装置が君の脳波を拾ってくれる。頭の中で前に直進する事だけを考えれば動く筈だよ」

 

「前に動く事だけ………………お?おぉ……………お~」

 

歩行速度でクルミはゆっくりと動く。クルミも興味深そうに感心する。部屋の端まで行った所で停止する。

 

「どうかな、ホバー移動の感想は?」

 

「素直に凄いな。足が熱かったり振動が伝わってくる事もない。これ、リミッターを解除したらどれくらいの速度が出るんだ?」

 

「計算上は最高で時速200㎞は出るかな。まぁ、使用者への負荷とかエネルギーの消費量の事を考えると時速200㎞を出すことは現実的ではないけど。で、どうするのゼロ?」

 

「…………………良いだろう。気に入ったぞ、カレン。お前のテストを受けるとしよう」

 

「そうこなくちゃ」

 

カレンはガジェットの山からUSBを取り出して、パソコンに繋げてゼロに地図を見せる。

 

「この近くの無人島に国際指名手配されてる武装したギャングが30人前後潜伏している事が私の情報収集で分かったんだよね。そこで、奴らの親玉に良い性能の武器を格安で売る内容でコンタクトしたら見事にヒット!1週間後に武器商人に化けてこの島に行くことになってる。そこでゼロ。こっそりと君を連れてくから、こいつらを私が作ったこの2つのガジェットのみで殲滅させる事が出来れば、テストは合格。君の協力者になろうかな」

 

「了解した。あともう1つ、このガジェットを使いこなす為に練習できるスペースを提供して頂きたい」

 

「そう言うと思って、既にスペースを確保してあるよ」

 

カレンは住所を書いたメモを渡す。

 

「ここは私が所有してるクッソ広い体育館の住所。宿泊用の部屋もあるから、そこを自由に使ってくれて構わない」

 

「感謝する」

 

「私はデータさえ取れれば良いからね。じゃ、私はこの後も新しいガジェットの開発作業を進めたいから、1人にしてもらえる?後で適当に顔を出しに行くよ。あ、それとこれ取説ね」

 

取扱説明書を渡すと2人に対して興味を失ったかのように開発作業に没頭し始めるカレン。2人はガジェットを持ってラボを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後。2人は例の体育館に来ていた。

 

「にしても、中々癖のある奴だったな」

 

「ああ。クルミはあいつに気に入られたようで良かったな」

 

「全然良くないぞ。確かにあいつの技術力はずば抜けてるが、あいつが仲間になったらボクの貞操とか色々と危ないんだが?」

 

まさかロリコンだとは流石の壮馬も予想していなかった。まぁ、仲間になってクルミにル〇ンダイブでもしそうになったら止めてやろうと、壮馬は考える。

 

「1週間後にこの武器だけで無人島のギャングを殲滅させればいいだけか。1週間も練習期間があれば十分。それまでに完璧に使いこなしてやる」

 

ガジェットを手に持ちながらそう呟いていると、クルミが思い出したかのように口を開く。

 

「……………そう言えば、少し気になる事があったぞ。さっき軽く調べてみたが、ダークウェブも含めてネット上には近くの無人島にギャングが潜伏している事に繋がる情報はなかった。警察等の捜査機関もまだ把握していないのに、あいつは潜伏中のギャングを見つけた事から情報収集能力がかなり高い。ただの技術者って訳じゃなさそうだ」

 

「………………ふむ」

 

そう言われて壮馬も少し考える。高度な情報収集能力を持つ日本人の技術者。高度な情報収集力など普通に企業勤めをしていて身に着く能力ではないだろう。ならば、それを生業としていたのだろうか?日本で情報収集を生業とするような職業──────。

 

「(……………まさか、な)」

 

情報不足ではあるが、壮馬の直感が彼女の正体を告げていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「……………いや、何でもない。それよりも、俺は早速練習に入る。クルミは休むなり遊ぶなり自由にしていろ。屋内プールとかもついてるらしいぞ」

 

「お、本当か!こんなクソ熱い時にプールにダイブしたら最高だな。水着とか買ってないが、まぁ屋内で貸し切り状態だし着なくても別に良いか」

 

「いや、常識的に水着は着ろ」

 

「別に良いだろー、そんな細かい事なんか。あ、それともアレか?壮馬もボクの裸を見たら襲っちゃうロリコンだからか~?」

 

「…………………」

 

この後、イラっとした壮馬は無言でクルミの頭をグリグリ攻撃するのだった。

 

to be continued…………




カレンの軽いキャラ紹介は次の後編にて。


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STAGE5 謎の技術者(後編)

ストックもこれで半分を切りました。もうそろそろクルミの過去や、あの人との対決とか色々とてんこ盛り。STAGE10まで投稿したらどうすっかなー…………………。

そう言えば、公式サイトのキャラクター紹介のクルミの部分に少し仕掛けがあって、裏設定が覗けるそうで。

まだ覗いていない人もいるかもなんでネタバレはしないんですけど、クルミについても触れられていた新設定的なのがあったんですけどね………………その設定をどう生かそうか悩み中。まっ、個人的には無視して独自設定でやるのもアリじゃねとは思います。

まだ見てない方は調べてみてその目で確かめてみてください。


壮馬はゼロの恰好でひたすらがジェットを使いこなす練習をした。アンカー付きハーケンやホバリング機能を兼ね備えたシューズの制御は思っていた以上に難しく、何度も標的を外したり、壁にぶつかったり転んだりもした。それを見たクルミやカレンに爆笑されたので、何度かデコピンをお見舞いした。だが、彼自身の身体能力やセンスはやはり凄まじいもので、日が経つにつれて上達していった。

 

そしてテストの前日。

 

「……………………よし」

 

カラーコーンで作った道を時速60㎞のホバー移動でカラーコーンを倒すことなく走りきり、ハーケンも標的の大小様々な大きさの標的に全て当てる事が出来た。傍で見ていた2人にも仮面から少し嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。

 

「まさかここまで制御できるとはね。やっぱり、ゼロは良い『パーツ』だよ!」

 

「そうだな。流石はボクの共犯者だ。………………ところで距離が近いんだが?」

 

「良いじゃない距離が近くても。今日までの6日間、あんなことやこんなことした仲だし、ね?」

 

「ヤバいぞゼロ。こいつの頭の中ではボクが知らない既成事実が出来上がってるんだが」

 

「良い病院でも探してやると良い。私は先に休んでる」

 

そう言うとゼロは体育館を後にした。

 

「そう言えばクルミちゃんはさぁ、ゼロの素顔とか本名を知ってるの?」

 

「勿論だ。繰り返すようだが、ボクはあいつの『共犯者』だからな」

 

「ふーん。じゃあ、私も仲間になれば素顔とか本名が分かるのかな?」

 

「まぁ、多分そうじゃないのか?………………なぁ、カレン」

 

「うん?」

 

クルミはカレンの目をしっかり見ながら尋ねる。

 

「お前、昔は何をやってたんだ?」

 

そう問うとカレンは笑みを消す。

 

「…………………と言いますと?」

 

「お前が情報収集能力に長けているのは分かってる。ただの技術者をやっていて身に付けれる能力じゃないと思っただけだ。前は何をしていたんだ?」

 

「…………………鋭いねぇ、クルミちゃん。でも、過去の話をするつもりはないよ。人には秘密がつきものだ。君だって、ゼロに自分の事を全て話してる訳ではないでしょ?隠しごとの1つや2つはある。違う?」

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────愛してる。だから生きて……………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………そうだな。ボクにもそう言うのはある。すまない、今のは忘れてくれ」

 

「別に謝る事でもないよん。…………………それに、話しても面白いものじゃないしね」

 

そう話すカレンはいつもの調子に戻っていた。

 

「さて、そんなしらける話はさておき。ゼロの所に行って来たら?今日が話せる最後の日になるかもしれないしね?」

 

「………………あいつはこの程度のテストでは死なない。ボクはずっと奴の傍で見てきたからな」

 

「随分と信頼してるんだね、彼の事。………………あれ、でもよくよく考えたらゼロって男なのか女なのかは分からないね…………………ねー、クルミちゃん!ゼロって」

 

「それくらい本人に聞けば良いだろ。それじゃ、ボクは風呂に入ってくる」

 

「あ、じゃあ私も一緒に」

 

「いや、それは断固拒否する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当日。ゼロはカレンの所有する小型船に揺られていた。無人島には監視カメラの類は無く、今回はクルミに出来る事はないのでお留守番である。

 

「オート操縦にしておいた。後20分位で着くよ」

 

「そうか」

 

「あー、そうそう。ハーケンとホバー機能のついたシューズの名前決めたよ。『スラッシュハーケン』と『ホバリングシューズ』!」

 

「安直だな。だが、悪くはない」

 

「でしょでしょ?ああ、そうそう。もしかしたら最後になるかもしれないし言っておくけど、感謝してるよゼロ。君のお陰で良いデータが取れたよ」

 

「礼は素直に受け取っておくが、1つ訂正しよう。最後にはならない。これからも好きなようにデータを取らせてやる」

 

「あはっ!殲滅させる気満々だね~。けど、本音を言えば是非とも殲滅させて生き残って貰いたい。だって、君ほど良い『パーツ』はいないもの!」

 

ゼロを『パーツ』呼ばわりする辺り、彼女にはマッドサイエンティストの素質があるようだ。ゼロとクルミは薄々感じてはいたが。

 

「………………ああ、そうだ。着くまでにもう少し時間がある。1つ聞きたいことがあるのだが」

 

「答えるかは場合によるけど、何でも聞いてくれて良いよ」

 

「では遠慮なく聞こう。カレンよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前はDAの元情報部員だな?」

 

「……………………。何でそう思ったのかな?」

 

雰囲気がガラッと変わって真剣な口調になったカレンは静かにそう尋ねる。

 

「日本人、そして優れた情報収集能力。それでピンと来た」

 

「……………それだけ?そう結論付けるには明らかに根拠不足なんじゃないの?」

 

「そうだな。根拠としては不足している。では、なぜ私がお前がDAの元情報部員だと思ったか?答えは簡単だ」

 

そう言うとゼロは仮面を外してカレンを見る。当のカレンは少し驚いた表情を浮かべていた。

 

「俺も同じ所(DA)にいたからだ。確信に至る根拠はなかったが、お前がDA出身者だと俺の勘が告げていた」

 

「DAにいた者同士だから感じるものがあったと言う訳か。なるほどね……………なら、君は元リリベルか。それなら、君の身体能力が優れているのも納得だね。……………ところで、何で私に顔を見せたの?」

 

「協力者にする予定だったからな。どうせ後で見せるんだから、今見せても変わらないだろう?」

 

「相変わらずの自信満々な事で。けど、私に見せちゃって良いの?君の正体を探ってる組織は沢山いる。私が隠し撮りした君の素顔を売っちゃうかもよ?」

 

「いいや、お前はそんな事をしないさ。そんな事すれば、お前は良いデータを取ってきてくれる優秀な『パーツ』を失うからな」

 

壮馬の言い回しが気に入ったのか、カレンは「確かにその通りだね~」と言いながら笑みを浮かべる。

 

「ねぇ、ゼロ。君の本当の名前は?」

 

「櫻井 壮馬だ」

 

「……………………ねぇ、壮馬君。君はDAを酷く嫌ってる。もっと言えばDAのやり方で作られる平和(・・・・・・・・・・・・・)を嫌ってる。そうでしょ?」

 

「……………何故そう思った?」

 

壮馬はポーカーフェイスを保ちながら、静かにそう尋ねる。

 

「根拠はないよ。ただ、君と同じく私の勘がそう告げていただけ。さっきも言った通り、DAにいた者同士だから感じるものがあるって訳さ」

 

「なるほどな…………………答え合わせは無事に俺が帰ってから。それで良いか?」

 

「そうしよっか。もう目的地の目の前だし」

 

2人の先には小さな島が。ギャングが潜む島があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな港に着くと、そこには武装したギャングが4名いた。

 

『どもども~。武器屋でーす』

 

明るい調子でカレンが船から降りると握手を求めるが、男は反応しない。カレンはつまらなさそうな表情を浮かべるが、すぐに切り替えて営業スマイルを浮かべる。

 

『ではでは、まずは料金の方をお支払いいただけますかね~?』

 

『先ずは武器の方が先だ』

 

『いやー、でもメッセージで先にお金をって』

 

言い終わるよりも前にカレンの額に拳銃が突きつけられる。

 

『女が俺たちに指図するな。次は引き金を引くぞ』

 

これは最初から金を支払う気なかったな、とカレンは内心で不満そうに呟くがそれを表情には出さない。

 

『……………………では、お目当ての商品をお見せしましょう。………………………あぁ、失礼。もう既に商品はお見せしていました』

 

『は?』

 

『ほら、あちらに』

 

次の瞬間、船のライトが点灯する。光が照らされる先には仮面を被った死神が立っていた。

 

『ぜ、ゼロだと!?』

 

『はい!こちらが私が紹介する『魔神』ことゼロでぇーす!』

 

ゼロはホバー移動で一瞬で距離を詰める。刀身を展開させたスラッシュハーケンで男の首を2人同時に切り裂き、赤い雨がゼロの足元を濡らした。

 

『う、撃て!撃ちまくれ!』

 

残りのギャングが持っていたライフルを乱射するが、ホバリングで高速移動しているゼロには当たらない。

 

『何なんだこいつは!?人間の動きじゃないぞ!?』

 

『アメリカのホテルジャックの時に言っただろう?私の名はゼロ。世界中の悪に制裁を下す、死神だとな!』

 

スラッシュハーケンを射出し、2人の身体に穴を開ける。絶命した男らからハーケンを抜くと巻き取られて腕に収まった。

 

「うーん、やっぱり私が作ったガジェットは素晴らしい!そしてゼロ、君はやはり良い『パーツ』だよ!今確信したよ、私は君をずっと求めていたんだ!」

 

「それは光栄だな。…………………さて、もう間もなく戦闘に気付いた増援が来るな」

 

「じゃ、私は船で映画でも見てるからよろしくね~」

 

「構わないが、映画は殆ど見れないと思うぞ」

 

「じゃ、90分くらい掛けて始末してきてくれない?そしたら全部見れるから」

 

「無茶苦茶言う女だな」

 

仮面の下で苦笑しながら言う壮馬にひらひら手を振りながらカレンは船に入る。丁度、奥の森から銃を持った男らが現れる。

 

『なっ、ゼロだと!?何故お前がここにいる!?』

 

『下らない質問をするな。言った筈だぞ、力のない罪なき人々を苦しめる者がいるならば、私が現れるとな』

 

『………………正義の味方気取りが偉そうに!怯むな!撃ち殺せ!』

 

『愚かな選択をしたな。冥途の土産に貴様らに1つ良い教訓を教えてやろう』

 

ゼロはホバリングさせながらスラッシュハーケンの刀身を展開する。

 

『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後

 

「…………………ちょっと、まだ映画の物語が何も始まってないんだけど。90分くらい掛けて始末してきてくれって言うの聞いてなかったの?」

 

「悪いな、聞いてなかった」

 

船に戻ってくるなり不満そうに尋ねるカレンに壮馬は仮面を外しながら答える。カレンはリモコンを操作すると、船が自動で動き出した。

 

「1人だけ逃げようとしていたリーダー格の男も含めて島にいたテロリスト共は始末した。疑うようなら見てきてくれても構わないが」

 

「映画見ながら飛ばしておいたドローンで見ていたから不要だよん。これでテストは花丸の満点合格!君には私の技術力を。そして君は私にデータを提供する。それで良いかな?」

 

カレンの問いに壮馬は無言で手を差し出し、2人は握手を交わす。

 

「歓迎するよ、カレン。ゼロの協力者として」

 

「私はデータを取って来てくれさえすれば、協力者でも召使でも何でも良いんだけど、取り合えずはよろしくって言っておくよ……………………それで、さっきの答えはどうなの?」

 

「…………………DAなんぞクソ喰らえだ」

 

その答えにカレンはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「奇遇だね、私も同じことを思ってた。……………君がゼロとして活動する目的が分かった気がする。同じDA出身者でもこうも違う者なんだね。……………私には、君がやろうとしている事をする勇気はなかった」

 

「…………………」

 

自虐気味に言うカレンにゼロは何も言わない。胸中を悟らせない表情でカレンを静かに見つめる。当のカレンもすぐにいつもの調子に戻る。

 

「………………ま、私の予想が外れてるかもしれないから、今はまだはっきりとは聞かないよ。私はデータさえ取れれば君の目的が何であろうと別に興味ないしね。ちなみに、クルミちゃんにもまだ言ってないでしょ?彼女、君にも何か隠してるもんね?」

 

「ああ。カレンの言う通り、彼女は俺に何かを隠している。俺は味方だと信じてはいるが、万が一の事もある。俺の目的についてはまだ言うつもりはない」

 

「今は良いんじゃない、それで。クルミちゃんも然るべき時が来たら話してくれると思うよ。私の乙女の勘ってやつがそう告げてるんだ~」

 

「なら、その乙女の勘とやらに期待しておこう」

 

そう答えると、船の中は静寂に包まれる。暫く船に揺られていると、カレンが口を開く。

 

「…………これはただの独り言だから聞き流してくれて良いんだけど」

 

「……………………」

 

「私、めっちゃ仲の良いサードリコリスがいたんだ。親友だった。でも、ある日彼女は死んだ」

 

「……………………」

 

「簡単に言うと使い捨てにされた。テロリストの居場所を突き止める為のね。それを私は偶々知って、超絶失望したし泣いた。泣きすぎて全部出し尽くしたからか、あれ以来泣いたことがないね。DAの奴らは結局のところ私たちを都合の良い駒として見てるとか、今まで疑問に思ってなかった『孤児である自分たちを救い、育ててくれたDAに対しての感謝』としてDAに貢献しろってのも、洗脳って言うか刷り込みなんだとしか感じなくなった。で、そんなクソったれなロクでなし組織に尽くすのも馬鹿馬鹿しくなった私は思い切って海外に逃げた。色々とあったけど、今はこんな感じで自由に暮らしてるって訳」

 

「……………………何故俺に話したんだ?」

 

「DAにいた君なら共感してくれるかなー、って。で、実際どう?」

 

「……………ああ。共感しかないな。俺がDAから姿を消した理由も似たようなものだし」

 

「そ。なら話した甲斐があったってもんよ」

 

再度の沈黙が訪れる。すると、今度は壮馬は頭を掻きながら口を開く。

 

「………………過去の話をしてもらったんだ。俺だけ言わないのもフェアじゃないな。俺も話すとしようか」

 

「え?あー、別に良いや。映画の続き見たいし、正直話聞くのめんどい」

 

本当にどうでも良いのか、早速カレンは一時停止していた映画鑑賞を再開する。それを見た壮馬は呆れた声をあげる。

 

「……人に話を聞いて貰っておいて、人の話を聞くのは面倒くさい、か………………わがままな女だな」

 

「そうとも。私はわがままな女なんだ。それに、人に話を聞いて貰っておいてと君は言ったけど、私は聞いて一言も頼んでいないよ?」

 

「……………確かに。これは1本取られたか」

 

「ゼロを論破しちゃった~。ぶいっ」

 

子供のようにピースするカレンを見て、壮馬はやれやれとめ息をついて、自身もカレンが見ている映画の方に視線を向けるのだった。

 

ちなみに、映画は5分後に飽きたカレンによって上映中止となるのは壮馬は知らない。

 

to be continued……………




カレン

ゼロの新たな協力者。かつてはDAの情報部に所属していた女技術者。武器開発を生きがいとしており、それ以外の事にはあまり興味関心を持たない。ゼロの協力者になるまでは、ハワイを拠点に情報屋として生計を立てつつ、武器開発をしてはテロリストやマフィア相手に売り込んでいた(最も、作る武器の扱いが難しすぎて買う者は殆どおらず、買っても返品されるのがオチだった)。凄まじい技術力を持っており、武器開発においてはアラン機関と互角レベル。さらにDAに在籍していた事もあって情報収集能力もかなり高い。大の幼女好きであり、クルミをひそかに狙っていたり、狙ってなかったり。ゼロを『パーツ』呼ばわりしたりするなど、マッドサイエンティストの気質がある。

詳細なキャラ紹介は10話まで終わったらまとめて出す予定です。


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STAGE6 迫る影

カレンが開発した武器。

・スラッシュハーケン……………腕に装着するワイヤー付きのアンカー射出器。仮面内に内蔵された装置がゼロの脳波を受信し、発射等の操作が行われる。一応手動操作も可能。誘導装置はなく直線的に射出し、ワイヤーを巻き上げて戻す。地面に向けて射出することで、ジャンプする際の推進装置としても使用可能。ワイヤーは弾性や硬さを制御できる。充電式である為、活動時間に制限がある。

・ホバリングシューズ……………超高速でのホバリング移動となるシューズ。性能を完全に引き出す制御はゼロにしか出来ない。操作方法はスラッシュハーケンと同様。使用者の足に合わせてサイズが変化する(ただし、具体的な仕組みは開発者本人が忘れたので不明)。身体的負担やエネルギー消費量を度外視すれば、最高で時速200㎞で移動する事が出来る。こちらも充電式である為、活動時間に制限がある。

今回は毎回Twitterのトレンドに乗ってたあの人が登場。


カレンがゼロの仲間になってから早くも2年が経過した。

 

「………………私がゼロと接触してから2年。奴は今までよりもさらに高度な警備や勢力の大きい犯罪組織等を壊滅させている。その過程で我々が支援していたアランチルドレンが4人も奴に殺されました。このまま放置するのは得策ではないて提言します」

 

アラン機関の本部で吉松は『Sound Only』と表示されている画面の前でそう提言する。

 

『しかし吉松君。奴は現実だけではなくネット上でも自分がいた痕跡を完全に消している。奴自身が優秀なハッカーなのか、それとも仲間にハッカーがいるのかは分からないが、居場所の追跡が非常に困難なのが現状だが?』

 

「その通りです。ですので、奴を見つけるのに適したハッカーを見つけました」

 

吉松はとある人物のデータを表示する。その人物名は『ウォールナット』と表示されていた。

 

「私の部下に調査させたところ、彼はとある人物を探していた模様です。どうやら、現在のウォールナットを上回る実力を持つハッカーがいたそうで。彼はウォールナットの名前をその人物に奪われる事を危惧し、処分しようとして失敗。その人物の消息は不明です。現在はウォールナット自身もその人物が死んだと思っているのか、そのハッカーを探す事には消極的のようです」

 

『そのハッカーが生きていて、ゼロに協力しているとでも?』

 

「それは分かりません。ですが、その人物が生きていてゼロに協力しているかどうかは重要ではないのです。彼に『自身が必死に探していたハッカーは生きていて、そのハッカーはゼロと協力している』と言う情報を信じ込ませれば、恐らく彼は粉骨砕身でゼロ、もしくは仲間のハッカーを探し出してくれるでしょう。なにせ、『ウォールナット』の名前を奪われる事を極度に恐れているのですから、不安要素は何としても刈り取りたいと思う筈です。うまく行けば直接ゼロの居場所を見つけ出せますし、見つけ出したのが仲間のハッカーの居場所だったとしても、拷問でもしてゼロの居場所を吐かせれば問題はないかと」

 

『………………良いだろう。吉松、『ウォールナット』を利用してゼロを探し出し……………殺せ』

 

「了解しました」

 

吉松は柔和な笑みを浮かべて通話を終えると、本部内を歩きながら自身の部下に連絡を入れる。

 

「私だ。奴を使った計画を始める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

ドイツの首都、べルリン。ゼロは路地裏に停めてある車の中でタブレットの情報を見ながら今回の仕事について再確認していた。

 

「テロリストがドイツの軍隊が極秘で開発した強力な電磁パルス砲を強奪。潜伏先は廃棄されてそのままになっている郊外の旧工業地帯。極秘開発していた事や外交の面からも、軍は盗まれた事を公開する訳にもいかず、大規模に動くことが出来ずに今に至る、か。この電磁パルスを大都市で使えば、都市の機能がマヒする。要は町が死ぬ訳だ。これを奴等から奪取するのが今回の仕事だ。クルミ、仕込みの方は問題ないか?」

 

『現在も信号は健在だ。問題な』

 

『ねぇねぇゼロ!どうかな、私が作った世界に1台しかない専用の車『アルビオン』は!』

 

「急に大声で割り込むな」

 

カレンが仲間に加わってから行ったマフィア殲滅の仕事にて、親玉が所有していたスポーツカーをカレンが欲しがったので持って帰ってきた所、外見も大幅に変わり、様々な改造を施され、特殊装備を内蔵したスーパーカー『アルビオン(命名:カレン)』となり、今回の仕事で使われる事になった。

 

『と言うか、運転した事あるのか?』

 

『それについては問題ないよねー、ゼロ?』

 

「……………ああ」

 

リリベルにいた際に運転技術については既に習得している。まぁ、その技術をリリベルにいた際に使う事はなかったのだが。

 

『そう言えば、私が作った新しい仮面のつけ心地はどう?スラッシュハーケンやホバーシューズとかを操作する為の脳波受信の装置も付けたけど』

 

「問題ないな。勝手に形状も少し変えられたがむしろ軽量化してヘッドアップディスプレイが搭載されたのは大きいな」

 

やはりカレンを仲間に入れたのは正解だったな、と壮馬は仮面の下で凶悪な表情でニヤリと笑う。正義の味方の表情ではない、とクルミが見ていたら言いそうだ。

 

『………………時間だ』

 

「よし、では始めよう」

 

ゼロは車の中に搭載されているボタンの1つを押すと、旧工業地帯から大きな爆発音が複数回響き渡る。それと同時にアルビオンは静かに路地裏から飛び出し、大炎上している旧工業地帯へと向かう。入り口のゲートに敵がいるが、爆発に気を取られていたことで、攻撃される事なくアルビオンは突破する。

 

『目的の電磁パルス砲は1番奥の第6倉庫だ。そこに隠されている筈だ』

 

「了解」

 

ゼロはさらにアクセルを踏み込んで加速させる。爆発に混乱しているのか、攻撃を一切喰らう事なく目的の倉庫前に到着し、アルビオンに搭載されているミサイルを発射して扉を吹き飛ばすと、そのままアルビオンごと倉庫の中に入った。エンジンとライトを切って、中に人がいないことを確認した後にゼロは車を降りて電磁パルス砲を探し始める。

 

「何だ、今回は楽勝だな」

 

『まさか部下の1人が拉致されて、私のガジェットが作ったそいつと同じ顔の変装マスクをゼロが被って潜入していて、事前に超破壊力ある小型爆弾を設置していましたなんて思いもしないでしょー。ゼロの変声術も凄いけど、私の作った変装用のマスク製造装置凄くない?ね?ね?ね?』

 

『はいはい、凄い凄い』

 

クルミが適当に流しているのを聞きながら、ゼロは暗闇の中で仮面に内蔵されている暗視装置を駆使しながら電磁パルス砲を探していると、真新しいケースを見つける。中を確認すると例の電磁パルス砲だった。

 

「ビンゴだ。回収して撤収する」

 

ケースを持ってアルビオンの方へ向かうゼロだが、突然その足が止まる。

 

『おい、どうし……………』

 

クルミもすぐに理解した。ゼロの仮面に付けられている小型カメラからの映像で全て理解したからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にかアルビオンの上にボンネットの上に緑色のボサボサの緑髪の男が、そしてその周りに部下と思われる男がライフルを構えていたからだ。

 

「よぉ。初めましてだな、ゼロ」

 

ボンネットから降りると男が口を開いた。

 

「………………私の作戦を読んでいたか。いつからだ?」

 

「最初からさ。お前がゼロだとは思っていなかったが、俺の部下と顔や声は同じでも足音(・・)が違った。で、お前が爆弾を仕掛けているのはすぐ分かった。大方狙いもその武器だと予想はついていたから、確実におびき寄せる為にそのままにしておいたがな」

 

「なるほど。チェックを掛けられたのは私とでも言いたいのか?」

 

「そういうこった。分かってるじゃねぇか。その武器は世界のバランスを取るのに必要なものだ。返してもらうぜ、ゼロ」

 

そう言うと、男とその部下は銃を構える。一見すれば絶望的な状況。

 

だが

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

 

ゼロは笑った。倉庫内に高笑いが響き渡る。

 

「何だ?死を目前にして気でも狂ったか?」

 

「違うな。間違っているぞ。チェックを私に掛けただと?お前の間違いを訂正しよう………………ゲームはまだ終わっていないのだよ」

 

次の瞬間、突如としてアルビオンのエンジンが始動すると、急発進して目の前にいた男を跳ね飛ばす。跳ね飛ばされた男は受け身を取ってすぐ立ち上がるが、この隙に距離を詰めていたゼロの回し蹴りを喰らって倉庫内の荷物の山に頭から突っ込んだ。

 

「真島さーん!?」

 

「それが名前か。まぁ、死にゆく者の名前など興味ないが」

 

そう呟きながら、ゼロはスラッシュハーケンを用いて天井の鉄骨の部分にぶら下がる。そのまま仮面内の脳波で操っているアルビオンに攻撃を指令すると、ヘッドライトの部分からガトリングが出てきて円を描くようにドリフトしながら乱射する。

 

『いやー、流石はゼロ!脳波による遠隔操作を見事に使いこなしてる!やはり最高のパーツだよ、君は!』

 

『暑苦しいから離れろ、まったく…………………………ドイツの軍がそっちに接近中だぞ。あと3分で着く。お前の襲撃に便乗したのか、元々その予定だったのかは分からないけどな』

 

「数は?」

 

『軍用車両が確認できるだけで9…………………いや、10台くらいか。隠密作戦のようだが、30人から40人はいるだろうな。どうする?』

 

「……………潮時だな。本格的に訓練された軍人を相手にするのは避けたい。撤収だ」

 

そう宣言すると、アルビオンからスモークが排出されて倉庫内を埋め尽くす。ゼロは球体型の爆弾を4つ取り出すと、起動させて四方に1つずつ投げる。ハーケンを使って下に降りると、その隣にアルビオンが停まって自動でドアが開く。

 

「逃げすかよ、ゼロ!」

 

乗ろうとした瞬間、真島と呼ばれていた男が煙幕から現れると、ゼロに向けて銃を拳銃の引き金を引く。近距離から発射された弾丸をゼロはケースで防ぎ、目にも止まらぬ速さで懐に入ったゼロは刀身を露出させたハーケンを腹部に突き刺した。

 

「ガッ………テメッ………!」

 

「じゃあな」

 

そう告げて後方へ蹴り飛ばすと、ゼロはアルビオンに乗って急発進する。倉庫を出た瞬間、大きな爆発が起こり倉庫が完全に崩壊する。

 

『正面出口はもう来てる。どうやらここを包囲する気だな。裏口からならギリギリ間に合うぞ。ボクがナビする』

 

「分かった」

 

手短に答えるとゼロはアクセルを踏み込んで加速する。クルミのナビの元、工業地帯を進んでいると裏口のゲートが見えてくる。幸いな事に特に障害物はなく、難なく脱出。軍が来る前に旧工業地帯から離脱するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は少し危なかったな」

 

ホテルに戻ってきた壮馬にクルミがそう話し掛けると、壮馬も頷く。

 

「敵に事前の仕掛けを読まれていたのは少し驚いたな。リーダーの男は中々優秀な男だった」

 

「けど、作戦が読まれる事すらも想定した作戦行動パターンが10通りもあったとは思ってもいなかっただろうね。で、例のパルス砲は?」

 

壮馬は持ってきたケースをカレンに差し出すと、引ったくるように取ったカレンは中身を見る。

 

「おー、これが電磁パルス砲か~!人が持ち運び出きる小型サイズで軽量なのは良いよね。………………あー、でもこれ試作型かな?見た感じ使えるのは1度限りっぽい構造だね。で、これはそのままパクって使っちゃう?」

 

「それだと先程のテロリストと同じだ。明日にでもドローンを使って軍の敷地内に落として返しておこう。そしたらお偉いさん達も不安が1つ消えて、夜もぐっすり寝られるだろうからな」

 

「じゃあ、それまでは好きに見させて貰うね」

 

そう言うとカレンはスキップしながら奥の部屋に引っ込んでいった。

 

「にしても、良いのか?電波ジャックとかで自分の犯行を大々的に宣言しなくて」

 

「『極秘開発されていた電磁パルス砲がテロリストに盗まれ、それをゼロが盗み返した』なんて宣言したら、極秘開発していた電磁パルス砲の存在が明かされる事でこの国が外交面等で立場が悪くなる可能性がある。わざわざこの国の立場を危うくさせるつもりはない。流すのは真偽不明の噂程度で良い」

 

テロリストから盗まれた事を公開すれば軍の信用度は落ちるであろうし、とんでもない兵器を極秘開発していた事を明かされては他の国からの批判を喰らって立場が悪くなる可能性があるだろう。

 

「………色々と考えているんだな」

 

「道理で人間は考える葦なんて言葉も生まれる訳だ。じゃ、俺は先にシャワーを浴びて休んでる。明日は1日オフにした。観光でも食事でも何しても良いぞ。明後日にはカナダだからな」

 

そう言うと壮馬も部屋を出ていき、クルミだけが取り残される。

 

「オフか…………………まぁ、たまには外をブラブラするのも良いか。運動不足になるのも嫌だしな。観光名所とか調べてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本

 

車での移動中、吉松はとある男に電話を掛けていた。

 

「どうだい、進捗は?」

 

『ああ、見事にヒットした。ネット上に殆どんどのハッカーが見過ごすであろう僅かな痕跡から確定した。間違いねぇ、ゼロに俺が探していたあいつが確実に協力していやがる。死んだと思っていたが、まさか生きていたとはな。にしても、あんたらの持つ技術力は大したものだな。高性能AIのお陰もあって特定にはさほど時間が掛からなかったしな』

 

「それを扱える君の腕が良いからさ。それで、現在位置は?」

 

『ドイツのベルリンにあるホテルだ。部屋まで突き止めてあるから、既に昔から雇っている腕のある優秀な刺客を送り込んでおいた』

 

それを聞いた吉松は少し眉を潜める。

 

「君には特定しか頼んでいない筈だが?」

 

『勝手な行動をするなとでも?お前たちの指図は受けない。それに、おたくらが狙ってるゼロも狙うようには言っておいた。文句はねぇだろ?』

 

そう言うと通話が一方的に切られた。吉松は苦笑を浮かべながら秘書の姫蒲にスマホを渡す。

 

「やれやれ。扱いやすい駒だと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい」

 

「どうされますか?」

 

「取り合えず今は様子を見よう。彼が送った刺客がゼロを仕留めてくれればそれで構わない」

 

「分かりました」

 

吉松は車の窓から東京の街を眺めながら呟く。

 

「ゼロ、悪いがアランの理想の為だ。君のゲームにはピリオドを打たせてもらう。悪く思わないでくれよ」

 

to be continued……………




※特に描写してないけど、バランス厨はお察しの通り死んでません。また出てきます。

アニメ見てて思ったけど、ほんと生命力どーなってんだあいつは。ゾンビかよ。

今回のバランスお兄さんは電波塔事件からかなり時間は経っている感じです。ああ、そう言えば前回も書いた裏話についてですが、バランス君も裏設定がありましたねー。

・アルビオン……………ゼロが持ち帰ったスーパーカーをカレンが大改造を施して誕生した、超高性能な防弾仕様の白いスーパーカー(4人乗り)。様々な特殊装備を内蔵しており、脳波等による遠隔操作も可能。作者が007見てたらこれを思い付いた

では、また次回。


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STAGE7  襲撃

この話を含めて残り4話で原作に突入するかも。残りの話でクルミの過去や因縁、壮馬の過去や目的が明かされますので、お楽しみに。

…………………何か担々麺食いてぇ(唐突)


翌日

 

「ふわぁー………………」

 

「あれ、眠そうだねクルミちゃん。夜更かしでもした?それとも熱い」

 

「ああ、そんな所だ」

 

明らかにまた変な事を言いそうだったので、クルミは遮るように肯定する。

 

「壮馬はいないのか?」

 

「ああ、数分前に1人でベルリンテレビ塔に行ったよ。景色とか見るの意外と好きなのかな?と言うか、クルミちゃんの方が付き合い長いからそう言うのには詳しいか」

 

「………………。いや、実を言うとボクもあいつの趣味とかは全く知らない」

 

「え」

 

「…………実は、壮馬と仕事以外のプライベートの話はした事がないんだ。別に仲が悪いとかではないんだが、出会った当初から壮馬から一定の距離を置かれていると言うか……………どこか隔たりを感じるんだ」

 

「……………そう言えばクルミちゃんと壮馬君が趣味の話とかしてるの見たことがないね。殆ど仕事の話ばっかだわ。あれ、言われてみれば私ともイマイチ距離があるような……………まぁ、私はそこら辺は正直どうでも良いけどね、データさえ取れれば!」

 

カレンはデータが取れればビジネスストライクな関係でも何でも良いらしい。

 

「何で壮馬君が距離を取ってるのかは知らないけど、クルミちゃんの方からガンガン聞かないの?」

 

「…………壮馬はそう言う話を自分からした事がない。だがら、踏み込んで良いのか分からないんだ」

 

それを聞いたカレンは少し考え込む様子を見せると、すぐに何か面白いことを思い付いたような表情を浮かべる。

 

「……………よし!クルミちゃん、君もテレビ塔に行ってきなさい!」

 

「は、はぁ!?何で急に」

 

「私はね、どっちかって言うと百合が好きだけど男と女が仲良く恋に落ちていくのを見るのも嫌いじゃないの!だからさっさとお着換えして壮馬君の所に行ってらっしゃい!何なら私がお着換えさせてあげる!」

 

「いや、別にボクはあいつに恋とかは……………って、おい!興奮しながら勝手に服を脱がそうとするな、この変態!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『と言う訳で、もうすぐクルミちゃんがそっちに行くから一緒に行動して守ってあげなよ♪』

 

テレビ塔に入ろうとした矢先、電話をしてきたカレンから上述の第一声が壮馬の耳に飛び込んできた。

 

「…………………お前の差し金か?」

 

『ちちち、違いますけど?別に私は百合派だし?』

 

何を言ってんだこいつは、とため息をつきながら電話を続ける。

 

「…………………別に来るのは構わないが、ちゃんと変装させているんだろうな?一応彼女は追われる身だぞ」

 

『それは抜かりなく。可愛く変装させているから問題なしだよん』

 

「なら良いが」

 

『…………そう言えば壮馬君って私達と一定の距離を保ってるよね?ああ、物理的にじゃなくて心理的なね。それはどうしてなの?』

 

「急に何を聞くかと思えば……………クルミやカレンとは『共犯者』と『協力者』の関係だ。邪険にする気はないが、かと言って仲良くする必要もないと思うが」

 

『……………………嘘だね。それ、本当の理由じゃないでしょ?』

 

カレンからの鋭い指摘に壮馬も一瞬押し黙ってしまうが、すぐに観念したかのようにため息をつく。

 

「…………………やれやれ。こういう時だけ鋭いな」

 

『まーね。私は人間に対して無関心って訳じゃないし。まぁ、武器開発よりは圧倒的に無関心だけどね!…………………それで、本当のところは何なの?』

 

「……………俺は」

 

話そうとした矢先、壮馬は変装しているクルミの姿を見つけた。

 

「…………悪いが、クルミが来たからもう切るぞ」

 

『え!?ちょここで焦らされ』

 

無慈悲に電話を切ると、壮馬はクルミに近づく。向こうも壮馬に気付いたようで、近寄ってくる。

 

「………………カレンめ。何が変装は抜かりないだ。帽子とサングラスを掛けただけじゃないか。これじゃ三流以外ならすぐに見抜けるな」

 

「…………あいつは絶対バッチグー、なんて言ってたけどな。……………悪いな、プライベートの時間を邪魔して」

 

「…………いや、実を言うとむしろラッキーだった。俺はネット予約してたんだが、仕事の事ばかり考えていたからか間違って2人分で予約していたらしい。だから、クルミが来るなら2人分の料金が無駄にならなくなるが………………どうする?嫌なら嫌で良いが」

 

別にクルミは昨日の調べでも特に行きたい場所は見つからなかった。別に断る理由もないし、断ったらあとでカレンがうるさそうな予感がしたのでクルミは頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルリンテレビ塔。1969 年にオープンした地上高 368 m のタワー。203 m 地点に展望ギャラリー、207 m 地点に回転レストランがある」

 

「調べたのか?」

 

「これくらいは元から知ってるさ。ボクは無知である事が嫌なんだ」

 

「なるほどな」

 

エレベーターで上昇しながらクルミと壮馬は会話のキャッチボールをしていた。

 

「壮馬は何でここに来ようと思ったんだ?」

 

「……………昔からの癖だ。日本にいた時でもよく電波塔に来て街を眺めていた」

 

「そうか。じゃあ、テロで折れたのは残念だったな」

 

それを聞くと壮馬は少し驚いた表情を浮かべる。そんな表情を始めて見たクルミも少し驚いた表情を浮かべる。

 

「あの電波塔、折られたのか?」

 

「あ、ああ。もう9年も前の話だが…………………知らなかったのか?結構有名だったが」

 

「その頃にはもう海外にいたし、不便な生活を送っていて調べるツールもなかったからな。まぁ、その時に調べるツールがあったとしても調べる事はなかっただろうな。……………………日本の出来事には微塵も興味ないし、どうでもいい」

 

どうやら壮馬は何故か日本の出来事に興味がないようだ。内心でそう感じていると、エレベーターは展望台に到着する。エレベーターを降りると、2人の視界に景色が映った。

 

「……………電波塔からの景色と似てるな。人がゴミのようだ」

 

「電波塔からの景色を見てる時にそんな事を考えていたのかよ……………」

 

クルミはそうツッコミを入れて苦笑しながら自身も景色に目を向ける。高層ビルが立ち並び、道路を車や人が行き交う。そんな景色だった。

 

「(………………もし、ゼロがいなければこの光景を見る事はなかったのかもな)」

 

真島とか言う男が電磁パルス砲を街中で使用していたら、インフラにも影響が出て大混乱に陥っていただろう。こうしてテレビ塔から景色を見る事もなかった。そう考えると、これは自分達が守った景色とも言えるのだろうか?そんな事を考えていると、近くから大きな怒声が響き渡る。声の方を向くと、大柄の男が彼とは対照的な小柄な男に人目を気にせず怒鳴っていた。

 

「…………………聞いてる限り、どうやらあの2人は会社内で上司と部下の関係らしいな。………………ちょっと行ってくる」

 

「え?」

 

クルミの返答を聞かずに壮馬は2人の方へ歩いていく。

 

「(わざわざ自分からトラブルに飛び込むのか……………流石にゼロの格好はしてないし、殺しはしないよな?)」

 

そんなことを考えながら壮馬と大柄の男が話しているのを見ていると、だんだんと大柄の男が般若の如く怒りに染まっていく。遠くから見ているので何を言っているのかは分からないが、何か煽ったのではないかと推測していると男が手を出してくるが壮馬は難なく避けると、足払いで転ばさせる。転んだ男の胸倉を掴んで立ち上がらせた壮馬は男の耳元で何か囁いてから話すと、先程とは一転して怯えた恐怖の表情を浮かべながら走り去って行った。周りもテレビ塔に来てまで怒鳴るような男に嫌悪感を感じていたのか、拍手や称賛の声が上がり、礼を言う小柄な男に何か返して壮馬はクルミの元に戻って来た。

 

「悪いな、1人で待たせて」

 

「それは別に構わないんだが………………それにしても、何でわざわざ自分から首を突っ込みに行ったんだ?怪我とかしたら………………まぁ、壮馬ならしないだろうけど」

 

「………………権力を持つ『強者』がそれらを持たない『弱者』を虐げるのが気に食わなかっただけさ。俺は力ある者が弱き者を一方的に殺す事や不当な暴力、圧政が大嫌いな性分だからな」

 

「……………なるほど」

 

それを聞いてクルミは壮馬がゼロとして活動する際に、民間人を巻き込むテロ、横暴な軍隊、更には汚職政治家、営利主義の企業犯罪組織を標的にしている根本的な理由が、そして彼自身の事が少し分かった気がした。彼は根本的には正義感が強く、優しい性格なのだろう。クルミはそう感じた。

 

「どうかしたか?」

 

「………いや、何でもない。とある事項で無知が1つ減っただけだ。それよりも、腹が減ったしテレビ塔の中にあるレストランで飯でも食べないか?」

 

「別に構わないが、自分の分は自分で出してくれ。いつも報酬は払ってるしな」

 

ちなみに、壮馬は2人に無給で働かせている訳ではなく、奪ってきた資金源からちゃんと報酬は支払っている。

 

「それくらい奢ってくれても良いだろ、ケチだなー」

 

「何とでも言え。それに、お前に奢らされたら俺の財布が死ぬのが目に見えているからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話しながらレストランに向かう壮馬とクルミを離れた場所から見ているサングラスを付けた男がいた。男はサングラスに付いているカメラ越しに見ている雇い主のウォールナットにスマホで電話を掛ける。

 

「標的の女の傍にいるのがゼロなのか?」

 

『さぁな。だが、俺としてはゼロなどどうでも良い。あいつさえ始末出来ればそれで良いからな。……………………それよりも、何をチンタラやってるんだ!とっとと仕掛けろよ!』

 

「ここだと人が多すぎるし、私の脱出のルートが確保できない。仕掛けるならここを出た後じゃないと無理だ」

 

『知るかそんな事!さっさと行けよ!』

 

「無理なものは無理だ。私が捕まったり殺されるようでは依頼を引き受けた意味がない。殺すタイミングや手段は私が決める。それが気に食わないなら今からでもこの仕事を取り下げて貰って構わないが?」

 

『…………………チッ!こっちは毎月多額のギャラを払ってるんだ!ミスしたら許さないからな!』

 

そう言うと電話が切れる。男は偉そうな態度の雇い主に悪態を付きながら2人の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レストランで食事を済ませた後に2人はテレビ塔を出て、近くのデパートにある屋上庭園に来てベンチに腰かけていた。デパートの屋上庭園と言う事もあってか、確かに子供の姿が多く見られる。

 

「もしかしたら『しょうがないからやっぱり奢ってやる』的な事を言ってくれると思ってたんだが、本当に奢らなかったな」

 

「この伝票の額を見るとやはり奢らなくて正解だったな。にしても、良く食べるな。俺より食ってたぞ」

 

「ま、ボクの仕事は頭を使うから意外とエネルギーを使うからな。それよりも、気になってたんだがあの大柄の男とどんな話をしてたんだ?」

 

「何だ、今更それを聞くのか?」

 

「もしテレビ塔内にまだ本人がいて、日本語の理解があったら不味いからテレビ塔内では聞けないだろ。ここならあいつもいなそうだし、周りにいるのは子供ばかりだからな。で、どうなんだ?」

 

「まぁ、大した話でもないが」

 

そう前置きすると壮馬は話始める。

 

「俺が仲介に入ると、『部外者は口を挟むな』とか言うから『会社の地位を利用する事しか取り柄のないお前が哀れだから止めに来ただけだ』とか色々と言ったらキレられてね。で、パンチを避けて転ばせた後に耳元で『お前のように他の人に迷惑を書けるようなパワハラクソ上司はさっさと出ていけ。2度とこいつにパワハラをするな。もしお前がパワハラしている事が耳に入ったら…………………………お前を殺すぞ?』って割と本気の殺気を当てながら言ったら青い顔をして帰った。これでお終いだ」

 

「壮馬が言う殺すぞはレベルが違うからな。あいつがビビって逃げ出すのも分かる気がする。むしろ、これであいつに少し同情するよ。今日は寝れないかもな」

 

「むしろ、そのまま死ねば良いんだが」

 

ストレートな物言いにクルミは思わず吹き出して笑ってしまう。

 

「…………すまんすまん、余りにも直球過ぎたのが面白くてな。それと、部下にも何か言ってただろ?」

 

「『ああ言う会社内の地位でしかイキれない3流なんかにビビらないで、上に報告するとか何か自分で行動を起こすと良い。勇気がいるかもしれないが、ここで動く事が出来る奴は将来出世出来るぞ』って言った。背中は押したからあとは本人次第だな」

 

やはり根本的には優しいんだな、なんて思っているとクルミの肩を後ろから叩かれる。振り向くと、自分と同じくらいの小さな女の子がいた。何のようだろうとか感じながらも、クルミは最近齧り始めたドイツ語で話し掛ける。

 

『えーっと、ボクに何か用かな?』

 

『えーっと………えーっと……あなたの知り合いの人にこれを渡して開けるように言えって頼まれたの!』

 

『知り合い?……………ああ、カレンか』

 

クルミにとって知り合いは壮馬とカレンしかいない。壮馬の線はまずない為、カレンの仕業だと解釈した。クルミはお礼を言うと、少女は足早に去って行った。

 

「全く、何なんだカレンの奴……………今もどこかで見てるのか?まぁ良いや。にしても、少し重い箱だな。一体何が入って」

 

「クルミ、それを開けるな!!」

 

「え?」

 

壮馬が叫んだ時にはクルミは既に箱を開けていた。壮馬が箱を掴んで上に投げると同時にクルミを守るように抱きしめる。この間、僅か1秒の出来事だった。そして次の瞬間、2人の頭上で爆発が起こった。

 

「クルミ!大丈夫か!?」

 

「え………あ、ああ…………それよりも、何が………………?」

 

流石のクルミでもまだ状況が呑み込めていなかったようで、そんな彼女に壮馬は簡潔に伝える。

 

「あれは爆弾だ。箱を開けたら点火して爆発する仕組みだな。あのまま至近距離で喰らってたらほぼ確実に………………」

 

「ッ………………!!」

 

その先は言わずともクルミにも分かった。もし、壮馬がいなければ今頃自分は────────そう考えると、クルミの手が小さく震える。

 

「!」

 

ふと、壮馬は視線を感じる。辺りを見回すと、サングラスを掛けた男がこちらを見ているのに気が付く。そのサングラスに小型のカメラが付いているのが確認でき、ただの一般人ではないと壮馬は直感する。現に、男は走ってその場を後にする。

 

「あいつか……………!」

 

すぐ追おうとするが、壮馬の足はすぐに止まる。クルミは当然のことながら戦闘が出来ない。もし連れて行けば、冷たい言い方になるがお荷物になるだけだ。

 

ならばここは置いて行くか?そうすればまだ首謀者と思われる男に追いつける。しかし、もしこれが相手の作戦通りだったら?自分とクルミを分断し、潜んでいる伏兵が彼女を狙うとしたら?そう考えると、壮馬は追跡に動けなかった。

 

「………クルミ、立てるか?」

 

「…………………すまない。腰が抜けて力が……………」

 

壮馬はクルミをおんぶすると、他の利用客に注目されている状況を気にせず屋内庭園から出る。そのままカレンに電話を掛ける。

 

『あー、壮馬君?どうしたの?デートは楽しんでる?』

 

「敵だ。クルミが狙われた。そこも危ないかもしれない。すぐに身支度してそこから出ろ。落ち合う場所はポイント23の建物だ」

 

『…………………分かった。じゃ、また後で』

 

「ああ。つけられていないか常に警戒を怠るなよ」

 

元DAにいたと言う事もあって、カレンは状況を理解するのが早かった。電話を終えると、壮馬も追跡されてないか十分に警戒しながら落ち合う場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟と化して解体工事が目前となっているアパートのとある部屋の扉を開けると、そこには既にカレンがいた。

 

「取りあえず、先ずはお互い無事であった事を喜ぶべきかな?」

 

「そうだな。カレンの方は大丈夫だったか?」

 

「まぁね。ぐだぐだする時間を奪われた以外はだいじょーぶ」

 

「そうか。………………クルミ、降ろすぞ」

 

おんぶされていたクルミは降ろされると、床に座り込んで深い息を吐くといつも通りの調子に戻って来たようだった。

 

「………………すまない。迷惑を掛けた」

 

「別に構わない。それよりもだ」

 

「あいつはウォールナットが昔から雇っている側近兼殺し屋だ」

 

何を聞かれるのか想定していたのか、クルミは手短に言う。それを聞いた壮馬はやはりか、と呟く。

 

「クルミと俺が共犯者になった初期は居場所を突き止められて何度か刺客を送り込まれていたが、クルミの腕が上達していくにつれて奴の捜索を蒔く事が出来るようになり、半年も経つ頃には刺客を差し向けられる事もなくなっていた。俺はてっきり奴は諦めたと思っていたが………………思っていた以上に執念深い奴だったようだな」

 

「ウォールナットの動向は探っていたが、ボクの捜索は諦めて別の仕事の方に集中していたみたいだ。なのに、どうしてボクがここにいるとバレたんだ?居場所が悟られないよう痕跡は抹消していた筈なのに………………」

 

「さぁな。痕跡を抹消しきれていなかったのか、それとも抹消した痕跡を復元させたのか……………………いや、考えるだけ無駄だな。その答えは直接本人に聞けば良いだけの話だ」

 

「!」

 

その言葉を聞いたクルミは驚きの表情を浮かべ、カレンはニッと笑うと置いてあったケースを壮馬の前に滑らせる。

 

「カナダに行く前に寄り道だ。もしクルミが箱を貰ってすぐ開けていれば、恐らく奴に箱を渡すように頼まれた少女も確実に巻き込まれていた。奴を放置すれば、罪なき民衆を巻き込むやり方で今後もクルミを狙うだろう。そのような暴挙を防ぐのは、俺の………………いや、ゼロの仕事だ」

 

ケースから取り出したゼロの仮面を持ちながらそう断言する壮馬。そして、クルミの方に目を向けるとそれに、と続ける。

 

「ゼロである事は抜きにしても、奴は俺の『共犯者』…………………いや、『仲間』を殺そうとした。その報いは受けてもらわなければな」

 

「壮馬………………」

 

クルミが壮馬をまじまじと見つめていると、壮馬は荷物からクルミが使っているパソコンを取り出して渡す。

 

「クルミ。ウォールナットの居場所は突き止められるか?」

 

「………………すまない、今のボクでも居場所を突き止めるのは無理そうだ」

 

「なら、お前を襲ったウォールナットの側近の居場所を調べろ。居場所に繋がる手掛かりを持っているかもしれない。それなら出来るよな?」

 

「………………ボクを誰だと思ってるんだ?ゼロの共犯者だぞ?それくらいなら朝飯前だ」

 

その言葉に壮馬がニヤリと笑みを浮かべる。次に壮馬はカレンに向けて口を開く。

 

「カレン。ガジェットを全て整備していつでも使える状態にしておけ」

 

「りょーかい。まっ、元はと言えば私がクルミちゃんに外出させたからこうなっちゃったし、その失態は取り返さないとね~」

 

「カレン、それは違」

 

すると、クルミにカレンは人差し指を彼女の唇に当てる。

 

「ありがと。クルミちゃんは優しいね。そう言ってくれるだけで十分。さぁ、ウォールナットをぶっ倒すよ?」

 

「……………ああ、そうだな」

 

そんな会話を聞きながら、壮馬はゼロの仮面を静かに見つめていた。

 

「(あんな思い(・・・・・)をしたくなくて、2人を『仲間』ではなく利害が一致しているだけの『協力者』や『共犯者』として認識するようにしていたのだが…………………やはり俺はお人よしだな。俺は無意識の内に2人を大切な仲間として見ていたらしい。…………………ならば、この仮面に誓おう。2度と俺から大切なもの(仲間)は奪わせはしないと)」

 

そう誓って仮面をケースに戻すと、壮馬は冷徹な笑みを浮かべる。

 

「(先ずはウォールナット、愚かなるハッカーよ。お前がクルミを殺そうとした事を後悔させてやる………………)」

 

図らずとも、ウォールナットはゼロと言う虎の尾を踏んだ。ウォールナットは自らの手で破滅への道を切り開いてしまったのだが、それを当人が知るのはもう少しさ先の未来での出来事である。

 

to be continued………………




恐らくなんですけど、壮馬がクルミをはっきりと『仲間』と言ったのは今話が初めてな筈。もしこれよりも前の話で書いてたら、修正しなくちゃならないんですよねー…………………書いてない事を祈るマン。

壮馬が一定の距離を取っていた理由は後の話で。

取り合えず次回のタイトルは『ウォールナット死す!』です。お楽しみに!











…………………………はい、嘘です。誰がそんなネタバレタイトルするか。平成じゃなくてもう令和だぞ。

次回はクルミの過去が明かされます。つーか2期でクルミの過去が描かれたらどうしよう……………………まっ、良いか!そもそも二期あるか分からんし!

それでは、また次回で。


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STAGE8 最後のウォールナット(前編)

サブタイトルで分かる通り、今回は前後編になっています。


郊外にあるアジトで、クルミを殺すのに失敗した側近兼殺し屋の男は電話をしていた。

 

『おい!あんなガキ1人殺すのに何をやってるんだ!お陰で逃げられたぞ!何で爆弾じゃなくて銃を使わなかった!?』

 

「あんな人が多い場所で銃を取り出したら、騒ぎになって奴らに逃げられる可能性があった。至近距離での爆弾の方が確実性が高かったから、その手段を取ったまでだ。……………計画変更だ。先ずはあの男を始末する。ゼロなのかどうかは知らないが、仕事の邪魔だ。そうすれば標的を殺すなど容易い。何か進展があれば連絡するから、そっちでも何か分かれば連絡してくれ」

 

それだけ告げると、サングラスを掛けた男は電話を切る。自身の雇い主であるウォールナットは横暴だが、それなりにギャラは良いので従っているに過ぎず、忠誠心など持ち合わせていない。今回の件でいい加減うんざりした男は別の雇い主を探そうかと検討しながらアジトのガレージにある車に乗る。標的らが止まっていたホテルの部屋はもぬけの殻となっていた為、何処かに逃亡した事は想像できる。あれからまだ1時間程度しか立っていない為、恐らくまだ国内で潜伏している。

 

そう考えた男は調べ上げていた隠れ家として使える場所をしらみつぶしに探していく事に決め、車のエンジンを掛けるとガレージから発進させた次の瞬間である。横から車が高速で体当たりしてきた。その勢いで車は何度も横転し、ボロボロになって漸く止まった。車から何とかはい出ると、道路に倒れこんだ男が見たのは体当たりしたのにも関わらず、傷や凹みがないスーパーカー『アルビオン』から降りてきたゼロの姿だった。

 

「ゼロ…………不意打ちとは卑怯な………!」

 

「…………………」

 

ゼロは何も言わない。ただ無言で銃を構えると引き金を引く。眉間に弾丸は吸い込まれるように着弾し、男は仰向けに倒れる。

 

「悪いが、お前ら相手に正々堂々と戦う精神など持ち合わせていない」

 

そう呟くと、死んだ男が持っていたスマホを持ってアルビオンで去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………よし、見つけたぞ」

 

持ち帰った男のスマホにクルミのパソコンを繋げて調べる事30分。彼女にしては時間が掛かった方だが、何とか居場所を突き止めたようだ。

 

「場所は日本の静岡県のここだ」

 

クルミが航空写真で指さした場所を壮馬とカレンが見るが、そこには山に囲まれているとんでもな大きさの豪邸があった。

 

「表向きは売りに出されている豪邸だ。だが、実際はウォールナットのアジト。正確に言うと豪邸の地下がウォールナットのアジトとなっていて、警備はとても厳重だ」

 

「侵入経路は?」

 

クルミはパソコンを操作して詳細なマップやデータを表示する。

 

「地上から侵入するしかないんだが、豪邸にたどり着くまでの道のりや豪邸内には監視カメラや武装した腕利きの傭兵達が何十人も見張っていて死角がない。監視カメラはボクの方で何とか出来るが、傭兵はどうしようもない。さらに、厄介なのが見つかってしまうと警備システムが作動し、ウォールナットがいる地下のアジトに通じる電子錠の扉が強制的にロックされる。この扉はとても頑丈で、恐らくアルビオンの火力があっても破れない。しかも、外部からのハッキングを一切受け付けないからボクがハッキングして扉を開ける手段は使えない。これが作動されたらウォールナットの元へはたどり着けずに、傭兵に殺されるのがオチだろうな。地下のアジトに入るには、豪邸内の最奥にある電子錠を管理している警備室のコンソールから操作して、扉の警備システムを解除しなくちゃならない」

 

「つまり………………ウォールナットがいる地下に潜入するには、死角のない見張りに見つからずに警備室を抑えてシステムを解除しないといけないって事?いや、それ透明人間にでもならなきゃ無理じゃないの?どうするつもりなのかな、壮馬君?」

 

壮馬は少し考えるそぶりを見せると、カレンの方を見る。

 

「カレン。つい昨日お前が楽しそうに見ていたアレを作れるか?」

 

「アレ………………もしかして電磁パルス砲?まぁ、頑張れば使い捨てのなら数日で出来ると思うけど………………あ、もしかして電磁パルス砲で扉の警備システムをダウンさせようって事?」

 

「ボクもその手段は考えたが、豪邸には電磁パルスの威力を軽減させるコーティングがされている」

 

「何でそんなコーティングしているのかなー、ウォールナットは」

 

「さぁな。何かの映画でも見て真に受けたんじゃないのか?………………豪邸の近くで作動させればギリギリ行けるんだが、豪邸の近くに見つからないでたどり着くのがムリゲーだから、その手段も使えないな」

 

「あー………………確かに。これ、雇われてる傭兵に成りすますとか無理なの?」

 

「雇われている傭兵にはウォールナットが作ったと思われるチップが埋め込まれている。このチップが埋め込まれてないと、傭兵じゃないと一瞬で見抜かれる。成り済ます為にチップを奪おうにも、一瞬でも体内から摘出すると異常が通知されて電子錠の扉が強制ロックされるから無理だ」

 

「……………めっちゃヤバいじゃん。どうするの、壮馬君?」

 

カレンに尋ねられた壮馬は思案するように警備の配置などを見ながら黙り込む。それを2人が黙って見守っていると、数分後に壮馬がクルミの名を呼ぶ。

 

「この豪邸、空からの攻撃にも対策はしているのか?」

 

「空から?調べた限り、そこまでは流石に対策していないが……………」

 

「よし。ならば条件はクリアされた。さて、早速準備に取り掛かるか」

 

「……おいおい、まさか」

 

「そうだ。地下もダメ、地上もダメとなれば……………残りの選択肢は1つだけだろ?」

 

そう言うと壮馬はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後 日本時間 PM 20:00

 

壮馬はゼロの服を身に纏いながら銃の手入れをしていた。そんな彼の元にクルミがやって来る。

 

「…………酷い顔だな。悪夢でも見たのか?」

 

「まぁ、そんな所だ。隣、良いか?」

 

壮馬が承諾すると、クルミは隣の席に座る。

 

「……………さっき、この前の夢を見た。ボクが死の淵に立ったあの時のだ。お陰で目が覚めてしまった」

 

「それはとんだ悪夢だったな」

 

壮馬がそう答えると、クルミは改まった表情で口を開く。

 

「………………壮馬。話しておかなくちゃならない事がある。これまでずっと話さなかった隠し事についてだ。…………本当は、話しているとあの光景(・・・・)が蘇ってきて辛いから話したくない。だから、今までこの話はしなかった」

 

「……………無理に話さなくても良いぞ。話したくないならそれで構わない」

 

だが、クルミは首を縦に振る。

 

「もう目を背けてもいられないからな。それに、本来ならこれはボク個人の問題だった。だが、その問題にボクは壮馬を巻き込んだ。なら、壮馬にも知る権利がある」

 

そう言うとクルミは話始める。自身の過去を。

 

「先ずはウォールナットについて話そう。ウォールナットとは組織(・・)の名前でもあり、個人(・・)の名前でもある。組織としての『ウォールナット』は裏社会で活躍させるハッカーを育成するのが目的だ。そして、個人の名前としての『ウォールナット』は組織内で1番のハッカーに与えられる称号のようなものだ。その名前を襲名した者は組織が持つ全ての権限や力を行使する事が出来る」

 

「…………………」

 

「ボクは元々は孤児だった。そんなボクを拾ってくれたのが、今のウォールナットの奥さんだった。優しい人だった。ボクを拾ってくれた理由を聞いてみた事があるんだが、奥さんはかつては裏の世界で活動していたらしく、そこで出会った男と結婚して子供が出来たんだが、数年後に子供は病気で亡くなった。その男はショックで酒に溺れ、数週間後に自殺したらしい。それで、拾ってくれた理由としては亡くなった子供がボクに雰囲気や顔つきが似ていたから、どうしても放っておけなかったらしい。だから、裏の世界に足を踏み込ませてしまう事も承知でボクを拾ったそうだ。ボクは組織の育成を受ける事になったが、どうやらボクにはその方面(ハッカー)の才能があったらしくてな。すぐにその才能を開花させて行った」

 

「…………なるほどな。道理で側近兼殺し屋のあの男を知っていた訳か。確かに、組織内にいたら顔を合わせる事はあるだろうし、知っていて当然だな。………………クルミは拾われた事をどう思っているんだ?」

 

「確かに、拾われた事で裏の世界に足を踏み入れる事にはなったし、ハッカーと言う才能を開花させる事にもなった。けど、拾われなかったら今頃ボクは生きていなかっただろうから、奥さんにはとても感謝しているよ」

 

懐かしむような表情を浮かべるクルミを壮馬は無言で見つめる。

 

「拾われてから数年が経つ頃には、ウォールナットの組織内でハッカーとしての腕は1番になっていた。ボクがウォールナットの名前を襲名するのも近いなんて言われていた。だが、その状況に危機感を持ったのが今のウォールナットだった。奴はウォールナットの名を奪われてしまう事を恐れたのか、ボクを処分しようとした。けど、奴の奥さんが秘密裏に逃がそうとしてくれた。だが、それがウォールナットに気づかれて追われる事になり、あと少しで逃げ切れると言った所でボクをかばって目の前で撃たれた。…………………あの光景(・・・・)は忘れられないだろうな。多分、一生」

 

「……………そうか」

 

確かに思い出したくもないだろう。自分を拾ってくれた恩人が自身を庇って撃たれた光景は。

 

「最後に言っていた言葉は今でも覚えてる。『愛してる。だから生きて』って。それで、足止めしてくれている間に事前に手配してくれていた運び屋によって海外に渡って、そこでも追手から逃げて逃げて逃げて…………………逃避行の果てに出会ったのが、壮馬だった。…………………ちょうどいいタイミングだから言っておくよ。この前も…………いや、それ以前からずっとボクを守っていてくれてありがとな」

 

普段言う事のないお礼の言葉を聞いた壮馬は少し驚いた表情を浮かべるが、小さく笑うと口を開く。

 

「まさか、クルミがお礼を言ってくるとはな。今日は槍でも降るのか?」

 

「なっ!?珍しくボクが素直にお礼を言ってるのに…………!」

 

不満そうに頬を膨らませるクルミを見て壮馬は笑うと、すぐに真剣な表情に戻る。

 

「まぁ、お礼を言うのは俺もだ。クルミがいなければ今のゼロはなかった。感謝している」

 

「そう思ってるなら、たまにはうまい飯でも奢ってくれよ?」

 

「分かった分かった。機会があれば近いうちに奢ってやる。………………さて。クルミが自身の過去を話してくれたなら、俺も黙っていた事を話さなくてはフェアじゃないな。俺の過去やゼロとして活動する最終目的を…………………だが」

 

「ああ。今は準備を済ませないとな。長くなりそうな気がするし、その話はまた後にしよう」

 

日本の領空に入った事がディスプレイに表示されると、2人は話を後回しにして各々の準備を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後

 

「さて、じゃあ作戦の最終確認をするよ」

 

カレンがタブレットを持ちながらゼロとクルミに向けて話す。

 

「間もなくレーダーに探知されないこのステルスジェットはウォールナットのアジト上空を通過する。上空に差し掛かったら、私が作った周りの景色と同化させる特殊なキャリーケースに入れた電磁パルス砲や攪乱用の煙幕を発生させる装置を降下させて、その後にゼロとクルミちゃんが2人でタンデムジャンプ(1つのパラシュートに2人をくくりつけて飛び降りる方法)で降下。で、私が飛行機からキャリーケースとかを誘導操作して豪邸の近くに落とす。そこで電磁パルス砲を作動させて電子錠の扉の警備システムをダウンさせる。そして、システムが復旧する前に君達が地下にあるアジトに堂々と侵入し、ウォールナットをぶっ倒す。……………うん、こんなイカれた作戦はアクション映画の中だけかと思ってた、ついこの前までは」

 

カレンのぼやきにクルミも首を縦に振って同意する。

 

「よし、ではスタンバイするぞ。……………にしても、驚いたぞ。クルミが俺と同行したいと言いだした時は」

 

「これはボクの問題だからな。事の顛末はこの目でしっかりと見届けるべきだろ?…………………ただ、まさか空から攻め込むとは思ってもみなかったが」

 

最後のぼやき以外の発言に関しては、『見た目に反して相変わらず精神年齢が高いな』と心の中で呟きながら壮馬はゼロの仮面を被る。

 

「よし、では始めよう。必ず成功させるぞ」

 

「ああ」

 

「だね。ぶっちゃけ、この作戦の為にめっちゃお金を使ってるし」

 

3人は静かに拳を合わせると、それぞれの持ち場に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ちなみにだが、壮馬はスカイダイビングした事はあるのか?」

 

「こう言う事もあるかと思って一応はな」

 

何処まで想定してるんだとツッコミを入れつつ、2人は降下用のハッチの前にスタンバイする。

 

『じゃあ、先ずは電磁パルス砲とか諸々落とすよ…………………はい、行った~!』

 

上空2000mから先ずは電磁パルス砲等が投下。次は2人の番である。

 

「よし、行くぞ」

 

「ボクもスカイダイビングを経験しておけば良かった………………じゃあ、3からのカウントダウンでジャンプしっ!?」

 

クルミの提案を華麗に無視し、ゼロは躊躇なく飛び降りる。華麗と言うより無慈悲の方が正しいかもしれない。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「…………………………」

 

時速200㎞近い速度での降下に悲鳴を上げるクルミに対して対照的に静かなゼロ。こうして過去の因縁にケリをつける作戦が始まった。

 

to be continued……………




クルミは元孤児って設定にしたけど、実際の所何歳なんでしょうね、あの子?精神年齢が高いから、何かの薬で若返った説をどっかで見たんですけど、『もしそうならロリババア説もあるのかなー』なんて考えが頭に過って鳥肌が立ったので若返り設定は却下です、却下。

クルミの過去はもしかしたら詳細に書くかもしれませんが…………………………まぁ、気が乗れば。そもそもこの小説を続けるかも分らんですしね。評価とかUAとかモチベとか、リアルの予定とかと相談して決めるので。

では、今度は後編でお会いしましょう。


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STAGE9 最後のウォールナット(後編)

クルミの過去の因縁に決着が付き、そして壮馬の過去や目的が明かされる回です。

壮馬の過去も具体的な描写をしている訳ではなく、説明のようなものです。後にクルミと一緒に過去編として出すかも分からんなー。


異変は突然起こった。豪邸の近くにキャリーケースが落ちてきたかと思えば、大きな音と衝撃波が豪邸の周辺に放たれ、その直後に辺りを煙幕が視界を悪くする。豪邸の周りを警備していた傭兵らはすぐに異変に気付く。

 

「敵襲だ!警備システムを作動させろ!地下のアジトに繋がる扉をロックするんだ!」

 

「……………だ、ダメです!作動しません!警備システムがダウンしました!」

 

「何!?どうなっているんだ!?周辺の傭兵全員に連絡し、地下のアジトに繋がる扉を死守するんだ!」

 

「残念だが、通信機器も麻痺している事からそれは無理だろう」

 

声のした方を振り向くと、仮面を被った死神から放たれた銃弾が彼らの命を即座に奪った。

 

「おい、大丈夫か?おい?」

 

「………………お?もう地上に降りたのか………………案外早かったな」

 

意識が飛んでいたクルミをペチペチ叩いて降下用の装備をパージすると、ゼロの黒いマントが風になびく。傍に落ちていた電磁パルス砲が入ったキャリーケースを見つけると、ゼロは役目を果たした電磁パルス砲をどけてクルミの前に置く。

 

「丁度いいサイズだし、クルミはこのキャリーケースの中に入れ。特殊な素材で出来ていて防弾だからな。その方が私も戦いやすいし、盾としても使える」

 

「分かったけど、防弾なのは知っていても少し不安だからあまり盾にはするなよ?」

 

「善処はしよう」

 

VRゴーグルを装着したクルミがキャリーケース内に入ると、ゼロはキャリーケースを持ちながら豪邸内部に入ると疾走する。途中で遭遇した敵は即座に撃ち殺したり、殴り飛ばして豪邸の奥へと着々と進んでいく。

 

『………………あー、まずいな。システムの復旧が意外と早い。あと30秒で復旧する』

 

「問題ない。既に扉は見えている」

 

ゼロの視線の先には、100m先の地下のアジトに繋がる電子錠の扉が無防備に開いているのが見える。そこに向かって走るが、あと僅かと言う所で横の通路から傭兵が2人来てこちらにライフルを向ける。ゼロはいち早くハンドガンを向けて引き金を引くが、生憎の弾切れだった。

 

「チッ!おい、少し揺れるが我慢しろ!」

 

『え?ちょ、うぉっ!?』

 

ゼロは抱えていたキャリーケースをぶん投げて1人の傭兵の頭に当てて気絶させ、もう1人はアサルトライフルの弾丸をスライディングで避けつつスラッシュハーケンによる攻撃でダウンさせ、キャリーケースを持って電子錠の扉を開けて滑り込むと同時に電子錠が再起動してロックが掛かるが、今更起動したところでもう手遅れである。ゼロは扉の頭上に爆弾を仕掛けると、即座に爆破して天井を崩落させて瓦礫の山を作る。これで外部から傭兵はすぐには入ってこれないだろう。

 

「ギリギリだったな」

 

『痛いじゃないか!盾に使うかもとは聞いていたが、ぶん投げて使うとは聞いてないぞ!』

 

「悪かったな。それよりも、今は作戦通りに頼むぞ」

 

『全く………たんこぶが出来てなきゃ良いが………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大広間

 

ゼロが扉を開けると、そこはコンピューターやモニターだらけの部屋だった。

 

「ようこそゼロ。ウォールナットのアジトへ」

 

声のした方に視線を向けると、そこには椅子にふんぞり返っている男がいた。

 

「お前がウォールナットか?」

 

「ああ、そうだ。俺がウォールナットだ。初めてだよ、地上の警備網を突破してここに来た奴は。どうやったかも気になるが、それよりもだ……………いるんだろう、あいつが」

 

『ああ。久しぶりだな、ウォールナット』

 

周りのディスプレイに『Sound Only』と表示されると同時にクルミの声が広間に響く。

 

「どうやら、そこのキャリーケースの中にいるようだな?随分と来るのが遅かったな。てっきり俺がいる所を突き止めてると思ってたが」

 

『ゼロは用心深いからな。ご丁寧に他の部屋にいないかどうか確かめていたから遅くなっただけさ』

 

「なるほどな。まぁ、俺も監視カメラでゼロが確認しているのは見ていたぞ。確かに用心深い奴だな、正義の味方って奴は」

 

『…………にしても、他の奴等はどうした?組織としてのウォールナットに所属していた奴等が誰も見当たらないが』

 

「それは当然だ。俺が全員殺したからな」

 

『…………………は?』

 

流石のクルミも理解が追い付かなかったからか、思わず聞き返してしまう。

 

「お前を殺そうとして失敗した後に考えた。お前のような秀才が組織に所属してる奴等からいずれ現れるかもしれないとな。なら、念には念を入れて始末しておくと考えるのが当然だろ?」

 

『まだ子供だった奴もいたってのに……………そこまでしてウォールナットの名を独占したいのか?』

 

「当然だ。ゲームやテストでも最強や1番を欲しがる奴はごまんといるだろう?それと同じさ。最強のハッカーの座は俺のものだ。それを守る為ならば子供だろうと女だろうと、そして自分の妻だろうとも躊躇しない!!不穏分子は殺し尽くすまでだァ…………!!」

 

『……………正気じゃないな』

 

クルミの呟きにはゼロも同意だった。ウォールナットの名に取り憑かれ、その座を奪われることを忌避─────いや、恐れるようになったのが目の前にいる男だった。

 

「これ以上、お前を放置していては彼女を殺す為に罪なき人々を大勢巻き込むような手段を取りかねない。貴様はここで死ぬが良い」

 

「いいや?死ぬのは貴様さ、ゼロ。お前は俺を追い詰めたつもりだろうが─────それは逆だ。追い詰められたのは貴様らの方だ」

 

ウォールナットが指を鳴らすと、周りの壁が回転してライフルを持った傭兵らが出てきてゼロを囲む。その数は30人。

 

「電子錠の扉のシステムをダウンさせられた時点で、俺の元に来る可能性は想定していた。だから、お前も知らないであろう隠し通路を使わせて、地下にいた全ての傭兵らを裏で待機させておいたのさ」

 

『………なるほど。そんな隠し通路があったのは知らなかったな』

 

「情報収集が足りてなかったな。まぁ、この改造に関する工事は極秘で行っていたし、その業者も工事完了後に始末していたから、お前でも知ることは出来なかっただろうがな。………………さぁ、お喋りはここまでだ」

 

傭兵らはゼロに向けて銃口を向け、引き金に手を掛ける。

 

「先ずはゼロ、お前からだ。だが安心しろ。すぐにあいつもあの世に送ってやる。ダークヒーローの命運もこれまで「違うな。間違っているぞ、ウォールナット」…………なに?」

 

「お前は先程言っていたな。情報収集が足りていなかったと」

 

「……………何が言いたい?」

 

「ならば、私はお前にこの言葉を送ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見えているものが全て真実であるとは限らない、と」

 

次の瞬間、大きな揺れと音と伴に床に亀裂が走る。

 

「なっ、何だ!?」

 

「ゆ、床が崩れて……………うわぁ!?」

 

傭兵らが立っていた場所の床が突然崩落し、下の階へと全員落ちていく。ゼロはキャリーケースを左手で持ちながら右腕に装着しているスラッシュハーケンを天井に突き刺して落下を回避する。

 

「ば、馬鹿な!?爆弾か何かで床を落としたのか!?あり得ない、床を崩落させる程の威力の爆弾など作れるわけが………しかも、下の階に行って爆弾を仕掛けている様子は監視カメラには映っていなか………………っ!」

 

ウォールナットの脳裏に先程のゼロの言葉が蘇る。脳裏に浮かんだ予想に対して答え合わせをするかのようにクルミの声が響く。

 

『地下のアジトに来た時点で監視カメラは既にボクの手中に落ちている。お前が見ていたゼロが各部屋を律儀に確認していたのは、事前に作っておいた映像を監視カメラの映像と合成させて作ったフェイクだ。ちなみに、下の階の映像は録画映像に差し替えただけだ。お前はここへ『侵入されないこと』に対し注力して、地上に傭兵の配置や特殊な扉の厳重な警備体制を敷いていたんだろう。そこで満足したのか、金をけちったのかは知らないが、肝心のアジト内のセキュリティを…………少なくともボクにとっては緩いセキュリティにしていたのがお前のミスだ』

 

ちなみに、クルミの予想は後者が正解である。ゼロは左手のスラッシュハーケンを残っている床に刺し、ワイヤーを巻き取る操作を行う事で床に着地する。そして、先程の余裕そうな表情とは打って変わって恐怖の表情を浮かべるウォールナットを見下ろす。

 

「これで、チェックメイトだ」

 

「う、嘘だ………こんな…………こんな事が…………ま、待て!分かった、降参する!望むものなら何でもやるから命だけは助けてくれ!」

 

「命乞いとは見苦しいな。お前に掛ける慈悲はない」

 

そう言うとゼロはウォールナットの額に銃口を押し付ける。

 

「ま、待って!待ってくれ!頼む、もうお前達を狙わない!!そ、それにウォールナットの系譜を絶やす訳には行かないだろ!?」

 

「安心しろ。組織としての『ウォールナット』はもはや死んだも同然だが、最強のハッカーを示す『ウォールナット』の名は彼女が受け継ぐ。彼女が最後のウォールナットだ」

 

「そんな………………そんな…………………………こんな所で…………………嫌だ!嫌だアァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

それが、銃声が響き渡る前のウォールナットの最期の断末魔だった。ゼロに関わってしまった事を後悔する時間すらも彼には与えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この敷地内にいる全ての傭兵に告げる。私の名はゼロ。君達の雇い主であるウォールナットは私が殺した。雇い主が死んだ以上、これ以上の戦闘行為は無益だと私は考える。今すぐこの敷地内から去るが良い。そうすれば命までは取らない。私の言葉を嘘だと信じるような愚か者は向かってくるが良い。返り討ちにするだけだ」

 

通信機に向かって一方的に告げると、通信機を放り捨ててゼロの仮面を取る。そして、ウォールナットが座っていた椅子に座ってパソコンを操作しているクルミの方を振り返る。

 

「それで、どうだ?」

 

「とんでもなく高性能なAIが奴が使っていたコンピューターに導入されていた。世に出回っている物とは比べ物にならない性能だな。恐らく」

 

「ああ。奴はアランの支援を受けていたと見て間違いない。アランの目的はウォールナットに俺の居場所を突き止めさせて殺す事だったか。どうやら俺達の居場所を突き止めたのも、奴の腕がクルミより優れていたからと言う訳ではなかったようだな。で、そのAIは奪えるか?」

 

「もう全部奪わせて貰った。まだまだ改良の余地がありそうだし、このAIはボクが使役させてもらうよ」

 

クルミは片手でキーボードを打ちながらデータの入ったUSBを見せつける。

 

「ありがとう、アラン機関。君達が俺を殺す為にウォールナットに与えた優れものは、俺達が有効に活用させて貰うよ」

 

感謝の気持ちが一欠片も無い癖に、感謝の言葉を言う壮馬に思わずクルミは笑ってしまうが、すぐに神妙な表情を浮かべると口を開く。

 

「………………にしても、最後のウォールナットか」

 

「……………ウォールナットの名を継承するのは嫌か?さっきは勝手にああ言ってしまったが、嫌なら無理にしなくても良いぞ」

 

「別に継承しない訳じゃない。ウォールナットの名前を持っておけば、ネームバリューとしても使える場面がありそうだしな。ただ、最後って事はボクで系譜が絶たれるのか?」

 

「系譜を残したいなら弟子でも見つけて育成すれば良いんじゃないか?」

 

「…………それはそれで面倒くさそうだから遠慮しておくよ。別にウォールナットの名前を残したいとは思わないしな。それじゃ、ボクが最後のウォールナットと言う訳か」

 

「どうだ?最強のハッカーを示す『ウォールナット』の名前を継承した気分は」

 

壮馬に感想を問われたクルミは少し考える素振りを見せてから答える。

 

「…………………特に何とも思わないな。称号と言うか、ただの記号みたいなものだしな。ゼロも似たようなものじゃないのか?」

 

「まぁ確かにな。……………さて」

 

壮馬は真剣な表情でクルミを見る。当のクルミも真面目な顔で壮馬の目を見返す。

 

「先程の話の続きをしよう。……………まず、クルミはリリベルって知ってるか?」

 

「警察や公安とは異なる日本の治安維持組織のDA所属のエージェントだろ?………………そこがかつての古巣って訳か」

 

クルミの言葉に壮馬は頷く。

 

「孤児だった俺はDAに拾われ、人殺しの技術を叩き込まれた。で、俺は殺しの才能があったみたいでな。平和のため、そして俺を拾ってくれたDAの為にと信じて疑わずにテロリストや犯罪者を殺して殺して殺して殺して……………殺しまくった。何も考えず、無心でな」

 

「……………DAに拾われた事を後悔してるのか?」

 

「さぁな。自分でもよく分からない。拾われなければ孤児のまま死んでいただろうが、その方がある意味幸せだったかもな。人殺しをすることもなかっただろうしな。だが…………拾われなければ今の俺はいないと考えると、後悔はしてないと思いたい」

 

そう呟く壮馬は近くにあった椅子に座り込む。

 

「ある時、俺は後輩を助ける為に負傷した。全治1ヶ月だったな」

 

「壮馬にも人の心があったんだな…………痛い痛い痛い痛い痛い!冗談だから頭をグリグリするな!」

 

「……………同じ境遇の奴だし、俺をとても慕ってくれてる奴だったからな。助けたことに後悔はしていない。で、俺は1ヶ月の入院をする事になった。で、俺が入院してから2週間後の事だ──────その後輩が死んだのは」

 

「…………………」

 

「とても悲しかった。あんな思いは出来る事なら2度としたく無い。だが、リリベルの仕事には危険が伴う。仕事中に死亡するなん珍しいことではない。だが、後で調べて分かった─────その後輩は死ぬべくして死んだ。あいつは捨て駒にされたのさ、テロリストを炙り出すための」

 

「………………!」

 

壮馬は表情を変えずに淡々と続ける。

 

「俺は理解した。結局、DAやその上の奴等にとって俺達は捨て石。日本の治安を秘密裏に守るための捨て駒なんだとな。今までのDAに対する忠誠とかが一気に崩壊していく心地だった。俺は孤児を殺し屋に育て、捨て駒として日本の平和を秘密裏に守らせるDAのやり方が本当に正しいのか入院中ずっと考え続けていた。そして、結論が出る頃には俺は退院していた」

 

「出した結論は?」

 

「俺はDAのやり方で作られるこの平和を否定する。故に────────DAをぶっ壊す。そう決めた」

 

「…………それが壮馬の最終目的と言う訳か。そして、それがゼロの誕生にも繋がっているのか」

 

クルミの推測にそうだ、と壮馬は答える。

 

「俺は任務中に死を偽装する事に成功し、密輸船に乗って海外へと渡った。だが、相手は国との繋がりもある巨大な組織。今のままでは返り討ちになるのは必然だ。だから、海外に渡った俺はスキルの研鑽や資金集め、言語、戦略、化学、経済、文学などのありとあらゆる知識を身に着けようと決めた。知識の学習やスキルの研鑽はどうにかできたか、肝心の資金集めだけは難航した」

 

「だろうな。国籍も持たないよそ者を雇ってくれる真っ当な職場何てないだろうしな」

 

「それで結局、俺は自身の才能を生かす『殺し屋』になる道を選んだ。だが、俺は影響力と言う武器を持ちたかったのと、依頼を受ければ武器も持たない罪なき人を殺すような事はしたくなかった。力ある者が弱き者を一方的に殺す事は俺の信念が許さなかったからな。で、どうすえばその2つを達成できるのか考えた結果が」

 

「民間人を巻き込むテロ、横暴な軍隊、更には汚職政治家、営利主義の企業犯罪組織を標的とし、仮面を被った弱者の味方ゼロ、と言う訳か」

 

「そうだ。ゼロとして活動するようになってから5年。ゼロの存在は裏社会では有名になっていたが、表舞台では影響力を持つ事は叶わずに、資金集めの為に仕事を行っていた際に出会ったのがクルミだ。そして、ここがゼロとしても壮馬としてもターニングポイントだったな。…………………まぁ、俺の過去と目的はこんな感じだ」

 

喋り過ぎで疲れたのか、壮馬は近くにあった冷蔵庫から新品のミネラルウォーターを取り出すと半分程度まで飲み干す。

 

「ふぅ…………………で、クルミ。お前はどうする?」

 

「どうするって、何がだ?」

 

「降りるなら今がチャンスだぞ」

 

「…………………………」

 

クルミは何も言わずに壮馬を見つめる。

 

「初めて会った時、クルミは俺に安全の提供を契約条件として求めていたな。クルミを狙っていたウォールナットは死んだから安全を提供したと言っても過言ではない。アラン機関もクルミの存在に気付いているのかどうかは知らないが、ゼロに協力したり組織に深入りしようとしなければあちらから手を出ししてくる事はないだろう。それに、クルミは俺でも敵わないほどにハッカーとして成長した。もう1人でもやっていける筈だ。そして、俺の標的は国と繋がりがあるような機関だ。今までの相手とはスケールが違う。今後も俺に付き合うと、クルミも危険にさらされるかもしれない。なら、ここで降りると言うなら俺も止めはしない」

 

「…………………ふっ」

 

クルミは小さく笑うと、椅子から降りて壮馬の目の前に立つ。

 

「壮馬は優しい奴だな。戦力の大幅なダウンは避けられないのに、抜けても構わないなんて言うとは」

 

「……いや、そうでもないさ。俺はクルミとカレンを『仲間』ではなく利害が一致しているだけの関係、ただの『共犯者』と『協力者』と言う駒として認識しようとしていた。仲間だと思っていると、後輩を失った時みたいな思いをまた味わうかもしれないと思ったからな。………………まぁ、つい最近自覚したんだが俺は無意識の内に2人を『仲間』として見ていたようだ。……………殺し屋の癖に非情になりきれないとはな。致命的な弱点だ」

 

自虐するように呟く壮馬をクルミは静かに見つめていたが、やがて何か決めたような表情で口を開く。

 

「………………よし。壮馬、しゃがめ」

 

「………………は?何で急に」

 

「いいから早くしろ。ボクと視線を合わせるくらいにな」

 

訳が分からないが、取り合えず言われた通り壮馬はしゃがむ。すると、クルミは壮馬の頭を抱え込むように抱きしめた。

 

「確かに、ボクを狙っていたウォールナットは消えた。あの時の契約は満了だ。だが、契約が無くなってもボクは『共犯者』としてゼロに────────壮馬に最後まで付き合おう」

 

「………………良いのか?危険だぞ」

 

「危険はこれまでも付き物だったろ?それに、元々ボクも孤児だ。だからこそ、DAのやり方が気に入らないのは同感だな。…………………ああ、それと」

 

クルミは壮馬と目を合わせると、少し不満そうにしながら口を開く。

 

「非情になりきれないのが弱点なんて言うなよ。それは弱点じゃない──────壮馬の良い所だ。壮馬は正義感があって優しい良い奴だ。ボクが保証する」

 

「クルミ………………」

 

そして、クルミは一歩下がって壮馬に手を差し出す。

 

「これは新たな契約だ。ボクは壮馬に力を貸し、その代わりに壮馬は目的を必ず達成する。結ぶか?この契約を」

 

壮馬の答えは決まっていた。迷いはない。

 

「…………………良いだろう。結ぶぞ、その契約」

 

壮馬は迷わずクルミの手を取る。これで『共犯者』であり『仲間』である関係は継続。2人は互いに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どもども~!お2人共、聞こえてる~?』

 

良い感じの雰囲気を壊すかのように、カレンから陽気な声で通信が入る。

 

「………………何だよ、カレン。ボクと壮馬の間で出来ていたいい感じの空気がお前のせいで台無しなんだが」

 

『いい感じ………てことは、クルミちゃんと(自主規制)したのか?私以外の人と…………………よし、今日からロリコンゼロって呼ぼ』

 

「……………………で、何か用か?」

 

片手でミネラルウォーターのペットボトルを握りつぶしながら、脳内ピンクのロリコン技術者を病院にぶち込もうかなと半分本気で考えながら壮馬は問い返す。

 

『いやまぁ、私の役目が終わってるし、静岡の空港についた後にショッピングしてたんだ。で、そろそろ終わったかな~、って思って連絡してみただけ。で、ケリはついた?』

 

「……………………ああ、お前が楽しく買い物してる間に全部片付いたよ」

 

若干殺意が漏れながらもクルミがそう答える。だが、当のカレンはそれに気付いていない様子。

 

『そかそか~。じゃ、私は合流予定時間までブラブラしてるから。それじゃ、アデュー♪』

 

そう言うと通信は一方的に切れた。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………何かムカつくから、あいつ抜きでボク達だけで飯でも食べに行かないか?」

 

「そうするか。焼き肉なんてどうだ?」

 

「いいな」

 

この後、焼き肉食べてから日本をプライベートジェットで出国した。

 

カレン「何で私だけ誘われてないの、ねぇ~!!」

 

to be continued……………




ウォールナット(前代)

ウォールナットの名前を継承していた男。クルミにウォールナットの名前を奪われる事を恐れ、始末しようとするが彼の妻がクルミの身代わりになった事もあって失敗。その後、組織のメンバーを子供や女も含めて全員殺害し、ウォールナットの名を独占した。海外に逃げたクルミの居場所を突き止めては刺客を送っていたが、壮馬が彼女の味方になった事で刺客が返り討ちに遭い始めたのと、クルミのハッカーとしての腕が成長するにつれて居場所を突き止める事が出来なくなった。突き止められなくなった事をどこかで死んだと考え、その後は別の仕事に専念していたが、ゼロの抹殺を目論むアラン機関の一部メンバーに利用され、高性能AIのお陰もあってクルミの居場所を突き止める。腕利きの殺し屋を送り込むも、クルミを殺す事には失敗。さらに、壮馬に目を付けられた事で居場所を突き止められて襲撃される。1度は追い詰めたかのように思われたが、ありとあらゆる展開を想定していた壮馬の作戦によって一瞬で形勢逆転され、最期は醜く命乞いするも慈悲を与えられる事無く射殺された。

ちなみに、今回のサブタイの『最後』の部分を『最期』にするだけで指している人物が違ってくると言う………………それだけです、はい。

・電磁パルス砲(ver1.0)……………カレンがドイツで軍が極秘開発していた物を参考に作った武器。1度しか使えない使い捨てタイプ。使用すれば半径300m圏内の電子機器や警備システム等を一時的にダウンさせる。

・ステルスジェット…………ゼロとしての活動を行う過程で手に入れたプライベートジェットをカレンがステルスタイプに改造。見た目に変更はなし。操縦はオートパイロットで行われる。

自分でも読んでたら、何故かクルミに母性を感じたんだが気のせいだろうか。

???「クルミは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!」

……………某総帥の声が聞こえてきたので、今日はこの辺で。同じように声が聞こえてきた人は、ガンダム最新作の水星の魔女を見て、どうぞ。

あと、Twitterとかでリコリスリコイルの18話(幻覚)の感想を書いてる人……………………早く寝て休め(命令)

まぁ、幻覚を見るほどリコリス・リコイルが好きな人が多いのはよかよか(熊本弁)

えー、では次回で序章としては最終回です。ついに壮馬が目的の為に動き出します。


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STAGE10 魔神が動きだす日

はいーつーわけでここで一旦区切りが付きます。ここまででアニメ第1話の開始前の話となります。

原作のキャラがたくさん出てくる回。別にお祭り回的な奴ではないんですけどね。最初に言っておくと、千束は名前だけの出演です。残念でした~!(煽り)

…………………えー、千束ファンから殺意が感じるので前書きはこの位で。やばいやばい、セーフハウスに逃げよっと。


クルミがウォールナットの名を継いでから早くも1年が経った。その間、ゼロは世界中を飛び回って悪を断罪し、その名はさらに知れ渡っていた。

 

そして、遂に壮馬は計画に動き出していた。3人は空を飛行しているプライベートジェットの中にいた。壮馬の向かい側に座っていたカレンがパソコンを弄りながら口を開く。

 

「さーて、壮馬君。いよいよだね」

 

「ああ。優秀な人材に、作戦に必要な資金も集まった。知名度も十分。スキルの研鑽やあらゆる知識も身に着けた。これで漸く準備が整った。あとは、実行するまでだが…………………念のため聞いておくが、降りる奴いるか?」

 

壮馬の言葉に手を挙げる人物はこの場にはいなかった。

 

「…………………良いだろう。なら、最後まで俺に………………ゼロに付き合ってもらおう。クルミ、空港はどうだ?」

 

壮馬に尋ねられると、隣に座っていたクルミはタブレットを手渡す。

 

「壮馬の要望通り情報は流しておいた。空港は一時的に封鎖されるそうだ。お望み通り、リコリスが待ち構えているぞ」

 

「初対決だね~。けど、こっちから情報を意図的に流したなんてDAは考えもしないだろうねぇ」

 

「全く、普通にこっそり入国すれば良いものを………………こんな所でゲームオーバーなんてのはやめてくれよ?」

 

「クルミは俺が負けるとでも思っているのか?」

 

「まさか。念の為言っただけだ。ゼロは………………ボクの共犯者こんな所で終わるような奴じゃないだろ?」

 

「何だ、良く分かってるじゃないか。ところで─────」

 

仲の良い会話を繰り広げている2人をカレンは微笑を浮かべながら黙って見つめていた。1年前、互いの過去を話し、想いをぶつけ合った事で2人には確かな絆ができ、今まで心理的に離れた場所に立っていた2人の距離が近くなった。目の前の2人がカレンにとっては年の離れた仲の良い兄妹に見える。百合派だけどこれはこれで悪くないかなー、なんて思いながらコーヒーを啜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DA関東本部

 

『alpha隊、配置完了』

 

『bravo隊、配置完了です』

 

『charlie隊、配置完了しました』

 

「よし。全部隊、指示があるまで待機だ」

 

司令官である楠木はそう指示すると、一斉に返事が返ってくる。

 

「標的1人に対してファーストリコリスも含めて24人も配備ですか。何もそこまでする必要はないのでは?」

 

「確かに、ただのテロリスト1人相手なら24人も不要だ。だが、今回は相手が相手だ」

 

楠木の視線の先にあるモニターには標的の人物が写っている。紫のスーツの上に黒いマントを羽織り、仮面を被った正体不明の殺し屋のゼロである。ちなみに、1年前にゼロは日本にてウォールナットを殺した可能性が持たれているが、確実な証拠が無い為にそれに関しては何とも言えない。

 

話を戻すと、つい12時間ほど前にラジアータがプライベートジェットでゼロが羽田空港のへ向かっている事を探知。それを受けたDAの楠木は羽田空港やその周辺を一時封鎖し、リコリスをプライベートジェットが離着陸する滑走路周辺にリコリスを配備させた。

 

「錦木千束は参加させなくて良かったのですか?」

 

生意気なクソガキ(千束)は今回は心臓の充電の関係で不在だが問題はない」

 

そう言い切ると同時に、今回のリコリスの指揮官であるファーストリコリスから通信が入る。

 

『司令部。こちらアルファ1。ゼロが乗っていると思われるプライベートジェットが見えてきました』

 

「予定通り来たか。フキ、奴は正義の味方やダークヒーローなどと民衆から言われているが、国の立場からすれば奴はテロリストと何ら変わりない。ここで確実に始末しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「了解」

 

今回の作戦の指揮官である春川フキはそう返事すると、他のリコリス達に指示を出す。

 

「搭乗口が開いたら突入する。私とたきながゼロを奇襲して仕留める。エリカとヒバナはコックピットを制圧しろ。他の仲間が居た場合は即座に始末だ。残りのメンバーは飛行機周辺の警戒を怠るな」

 

そう指示している間に飛行機は着陸し、停止する。リコリス達は静かに飛行機へと接近する。フキらアルファ隊は飛行機の下に回り込んで搭乗口の下に回り込む。そのまま待機していると、乗り口が開く音がしたと同時にフキはハンドサインで突入を指示する。

 

4人は銃を構えながら飛行機内に素早く入る。油断していゼロをフキとたきなが射殺し、エリカとヒバナがコックピットを制圧して任務完了────────と、なる筈だった。

 

「ゼロが……………いない?」

 

「いませんね」

 

「コックピットも誰もいない…………」

 

「もぬけの殻だな………………………」

 

4人の声が飛行機内に響く。ゼロは何処に行ったのか?そもそも本当にいたのか?その疑問は外から聞こえてきた銃声に搔き消された。

 

「………まさか!」

 

フキの予感は正しかった。窓から外を見たフキの視界に映ったのは、地に伏した4人のリコリスと、片手に銃を携えるゼロの姿だった。

 

「………………司令部。ゼロが現れました。外で警戒させておいたリコリスが全員倒されています」

 

「安心しろ。催眠液の弾丸を喰らって眠っているだけだ」

 

確かに、倒れているリコリス達には出血が見られない。ゼロの言っている事は恐らく本当なのだろう。

 

「司令官よ。君が知恵ある者ならば撤退を命令せよ。愚かなる者ならば、私を殺せと命令するが良い」

 

「………………司令部、どうしますか」

 

『…………決まっている。空港を包囲している全部隊も急行し、全戦力を以て奴を殺せ』

 

「…………了解!」

 

フキがそう返事すると、4人は飛行機の中から飛び出して先制攻撃を仕掛ける。だが、ゼロは最低限の動作で全ての弾丸を避ける。

 

「お前たちの司令官は最も愚かな選択をしたな。今から私がそれを証明しよう」

 

ゼロがそう宣言すると、高速移動で弾丸を避けながら4人に接近する。

 

「あいつ、何て動きをしやがる…………!」

 

「足に何かの装置が見受けられますね。恐らくその装置で高速移動しているのでしょう」

 

「ほう、観察眼が鋭いな。だが、それが分かった所で私は止められない!」

 

ゼロはさらに速度を上げて、一気に4人に接近する。

 

「散開だ!」

 

フキの指示で4人は散開する。それを見たゼロはジャンプして飛行機の羽の上に飛び乗る。

 

「そこの赤い服の奴が現場の司令官か。中々優秀そうな奴だが、私を殺せるかな?」

 

ゼロが指を鳴らすと、飛行機の天井に穴が開いたと思えばミサイルが飛び出し、4人目掛けて向かってくる。撃ち落とそうとするフキらだが、それよりも前にたきなが銃を構えるときっかり4発の弾丸を放ち、そして見事に命中させる。

 

「掛ったな」

 

ゼロがそう呟くと同時に、ミサイルが爆発すると中から濃い煙幕が飛び出して4人の視界を塞ぐ。

 

「しまった……………!」

 

たきなは罠だった事に気が付くが、もう遅かった。ホバリング音と伴に瞬く間に銃声が2発。それと同時に人が倒れる音がした。

 

「煙幕の中にいたら奴のツボだ!煙幕の外に出ろ!」

 

フキの声が聞こえると言う事は、被弾したのはエリカとヒバナと言う事だ。冷静に分析しながら、たきなは走って煙幕の外に出ると、飛行機の車輪を楯にするように隠れる。すぐにフキもたきなと合流する。

 

「エリカとヒバナがやられたみたいです」

 

「そんな事は分かってる!くそっ、何て手強い奴だ…………たった1人で私達と互角に渡り合ってる……………!」

 

フキの表情に焦りが見え始める。厳しい訓練を施されたリコリスなのにも関わらず、次々と倒されていくとは思いもしなかっただろう。

 

『フキ。包囲していたリコリスが間もなく到着する。煙幕の周りを包囲させて逃げ道を潰す。ドローンからの映像を見る限り、ゼロはまだ煙幕の中にいるのは間違いない。一瞬でもその姿が見えたら一気に畳みかけろ』

 

「……………了解」

 

流石はファーストリコリスと言うべきか、すぐに冷静になると弾を装填して、たきなと他のリコリスらと共に煙幕の中にいるゼロを囲うように包囲する。すると、煙幕が薄れてきてゼロの姿が薄っすら見えた。

 

「ッ…………!」

 

超低姿勢による高速移動で一気にゼロに近寄る。予想外の速さだったのか、ゼロは一瞬反応が遅れる。その隙を逃さずに、フキはゼロの顔面に至近距離で銃弾を4発叩きこむ。銃弾は仮面を貫き、ゼロはゆっくりと倒れて動かなくなる。頭部に至近距離からの銃撃ならば、即死なのは確定だろう。フキはそう判断した。

 

「………………司令部、ゼロを無力化しました。死傷者はいません」

 

『よくやった。クリーナーがそちらに向かう。お前達は撤退しろ。……………世界を騒がせたゼロも、我々には敵わなかったようだな』

 

『違うな。間違っているぞ、それは』

 

「「「「「!!」」」」」

 

リコリスらの通信に割り込む声。その声の出どころは目の前で倒れているゼロからなのは言うまでもない。楠木もこれには驚愕した。

 

「こいつ、頭に喰らって何で生きている!?」

 

『何故生きているか?君が見せた先程の見事な高速移動に敬意を表し、その疑問に答えよう。答えとしては、最初から私は生きてない(・・・・・)。即ち』

 

ゼロの仮面が真っ二つに割れる。割れた仮面から見えたのは

 

「なっ…………!?」

 

『お前達が相手していたのは魂を持たぬ人形だったからだ』

 

機械の人形だった。

 

『飛行機の中に私がいなかったのも察しがつくだろう?君たちの死角になる位置でずっと飛行機の外に張り付いていたからだ。そして、私の目的は既にクリアされた。計画通りに』

 

機械人形はすぐさま立ち上がったと思えば、脚部のジェットエンジンが始動して上空へと飛び上がり、そのまま跡形もなく自爆する。それと同時に上空に彼女達の視界に超高速でフキたちがいる所からは離れた最奥の滑走路に侵入してくるジェット機が映る。そのジェット機は着陸するかと思いきやギリギリ滑走路には触れないように低空飛行すると、下部のハッチが開いて白を基調とした車『アルビオン』を落としてすぐに空へ舞い戻る。その車の天井に乗っているのはゼロだった。ゼロは手に持っているスナイパーライフルでドローンを全て打ち落とす。

 

『まさか………………包囲網を崩させ、一か所に誘い出すのが目的………………!』

 

『そうだ。優秀な司令官の判断のお陰で包囲網が無くなり、私は手を汚すことなく楽々と脱出が出来ると言う訳だ。ありがとう、私が敷いたレール通りに動いてくれて。君は実に優秀な司令官だ』

 

皮肉交じりのお礼に楠木は仏頂面を歪ませる。周りに車両の類は無く、リコリス達とはゼロでは距離があり過ぎる。リコリス達にはゼロの追跡は不可能だった。

 

『それでは、私は立ち去るとしよう。さらばだ!フハハハハハハハハハハッ!』

 

高笑いするとゼロは窓から車の中に入り、猛スピードで滑走路の敷地内のゲートを強行突破して去って行く。それをリコリス達は見ているしかなかった。

 

『………………全リコリスは撤退だ。眠っているリコリス達を連れて合流地点に急げ』

 

「………………了解」

 

フキはそう返事すると他のリコリス達に指示を出す。リコリス達は敗北の味を嚙み締めつつ撤退を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルビオンの車内には運転するゼロと、顔を隠す為にゼロの仮面を被っているカレン、後部座席に置いてあるスーツケースの中に入っていたクルミがいた。

 

「………………よし、アジトまでのルート上にある監視カメラは全て録画映像に差し替えておいた。もう大丈夫だぞ」

 

クルミがそう告げると当人はスーツケースの中から出てきて、2人は仮面を外す。

 

「カーッ!流石ゼロ!DAを手玉に取っちゃうなんてね!そこに痺れる、憧れるゥ!」

 

「まさか作戦通りに行くとはな。先ずは1つ白星だな」

 

「別に勝負をしたつもりはない。これはただの挨拶…………………ゼロの力を示すパフォーマンスをしただけさ」

 

そう言うと壮馬はニヤリと笑ってマントを剝ぎ取ると一瞬で私服にチェンジする。

 

「にしても、本当にリコリス達を誰も殺さないとはな。流石にボクでも無理だと思っていたが」

 

「とか言って1人くらい死んでるんじゃないの?」

 

「仮面に搭載されている機能で生体反応があったのは確認済みだ。誰も死んでいない。…………………相手はDAであってリコリスじゃない。彼女たちは刷り込みを受けて、DAの仕事を行っているだけだからな」

 

「リコリスやリリベルには不殺主義ってのは別に構わないけどさー……………………それで壮馬君が死んだりもしたら意味なくない?」

 

「死ぬ気は毛頭ないさ。俺はゼロ。奇跡を起こす男だからな」

 

「ロリに手を出す男じゃなくて?」

 

「…………………なぁ、クルミ。近くにゴミ捨て場はないか?」

 

「棄てるくらいならDAに献上した方がまだ使い道があると思うぞ」

 

「君達めっちゃ言うね………………一応冗談半分なんだけどなぁ…………………」

 

「お前が言うと冗談に聞こえないんだが。と言うか、冗談半分って事は半分は本気って事か?」

 

クルミの問いにカレンは一瞬黙る。そして、何を考えたのか座席を後ろに倒してアイマスクを付ける。

 

「………………おやすみなさーい」

 

「流石にその誤魔化し方は無理があると思うぞ」

 

「DAとの取引材料に使う事も検討するか」

 

この後、明日の朝飯代を2人に奢ると言う事でこの件は不問になった。

 

アルビオンは夜の東京を掛けていく。そんなアルビオンの白い車体にはライトアップされた平和のシンボルである旧電波塔が映っているのだった。

 

to be continued……………




………………よーし、千束ファンから逃げ切った。危ない危ない。

茶番はさておき………………はい、と言う訳でいかがでしたか?取り合えず序章的な立ち位置となる全11話を投稿完了しました。

で、続けるかどうかなんですが…………………やります!

元々匿名じゃない名前で書いてた作品が色んな要因が重なってやる気をなくし、そして『リコリコ、ええやん!クルミかわええやん!クルミがメインヒロインの小説がないやん!(要約)』って感じで、元々書いてた方のモチベが復活するまでのリハビリ的な目的で書き始めたのがこの作品です。今はこの作品を書いてる方が楽しいのと、楽しくない状態で執筆しても面白いものは書けないと思うので、取り合えず元々書いてたのは休止してこちらを進めまーす。

ただ、続けるかどうか迷ってたのでストックが溜まっていません。なので、次の話までは暫しお待ちを。

それでは、今後とも読んでくれる方はよろしくお願いします。


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STAGE 10.5 喫茶店リコリコ

自分、ウマ娘やってるんですけど。分かる人にだけ分かる言い方すると、

『パリピが来ると思ってたらおばあちゃんが来ました』

天衣無縫はいつ来るんだ?ほんま。


あーあ…………………何かなぁ。モチベ下がるなぁ。

そんな下がるモチベを紛らわす為に『すずめの戸締り』見てきます。感想は次の投稿時に言うかも。


ゼロがDAに対する『挨拶』を行ってから早くも3週間が経過していた。

 

DAは全力を挙げてゼロの行方を追っているが、未だにその居場所は掴めずにいた。ゼロの日本への侵入を許すと言う失態をした事や、未だにゼロが見つからない現状をDAの上層部から現在進行形で詰められている楠木がストレスでイライラしている状態で今日も必死に働いている中、彼女のストレスの原因を作り出した張本人のゼロこと壮馬はと言うと────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM 09:00

 

「まずいな。これでは3人分の朝食も作れない」

 

スッカスカの冷蔵庫を見て嘆いていた。楠木がこれを見たらキレるのは間違いないだろう。

 

東京に幾つか存在しているゼロのアジトの中の1つである、墨田区の錦糸町駅にあるマンションにてクルミとカレンと共に壮馬は暮らしていた。その生活において家事は殆ど壮馬が全部負担していた。悲しい事に、カレンとクルミには家事能力がゼロだった。家事は全て自分で行おうと決めるまでに、掃除機等の家電製品や何十枚もの食器犠牲となり、カレンの作ったを料理を食べた後の記憶が無くなったりする等、散々な目にあったのである。

 

「………………まぁ、あの2人は昨日は遅くまで映画を見ていたから、どうせ後2時間位は起きてこないだろう。その間に買い物を済ませ、ゆっくりするか」

 

暇潰しにと言う事で見た映画が2人の好みだったのか、見終わってすぐに続編も見始めたので寝たのは相当遅かったようだ。カレンは知らないが、クルミはまだ幼いのだからもう少し健康的な生活を心掛けて貰いたい、と壮馬は思っている。まぁ、幼いと言っても何歳なのかは『乙女の秘密だ』と言って教えてくれてないのだが。壮馬は身支度を済ませると、スーパーへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、これだけ買えば問題はないだろう。安売りしていて助かったな」

 

大量のレジ袋をダンベル代わりに筋トレしながら街を歩く壮馬。

 

「しかし、このまま帰っても2人は寝てるに違いないしな…………………どこかで暇潰ししようにもな………………」

 

壮馬の視界の先には旧電波塔の姿があった。リリベルだった際にはよく展望台から街を見ていたのだが、それも今となっては見る事が出来なくなっていた。

 

「クルミの言う通り、本当に折れていたとはな…………………丁度いい機会だ。もっと近くで見てみるか」

 

そう考えて旧電波塔まで行ってみるが、その入り口は封鎖されていた。

 

「まぁ、当然と言えば当然か……………………一体誰だ、俺の唯一の憩いの場所でテロをした奴は。生きてたら殺してやるところなのだがな………………まぁ、写真でも撮っておくか」

 

適当に連射し終えると、壮馬は目的もなくブラブラと歩き出す。

 

「(思えば、今まで殆ど情報収集や仕事ばかりの日々だったからか、こうして静かな町を歩くと言うのも新鮮だな。………………偶には悪くないな)」

 

殺戮とは縁のない場所を歩いていると、いつのまにか下町に入っていたらしく風情のある光景が続く。少し物珍しさを感じながら歩いていると、木造の喫茶店を見つけた。

 

「……………こんな下町に喫茶店なんてあったのか?…………………リコリコ…………リコリコか………………………いや、流石にそれは考え過ぎか」

 

頭に浮かんだとある可能性を一蹴すると、店の前でスマホを取り出して調べ始める。調べていると、食べモグとやらに口コミがあったので見てみる。

 

「高評価の投稿が多いな………………『ホールスタッフがとても可愛いです』……………………どうも嘘臭いな。自作自演か?」

 

「いや、失礼なっ!ほんとの事ですぅー!」

 

もう我慢ならないとでも言いたげな口調で出てきたのは、赤い和服の制服を着た少女だった。どうやら聞こえていたらしい。

 

「…………………お前が口コミの言う、可愛いホールスタッフなのか?」

 

「その通り!どう?生で見るとキュートで可愛らしいホールスタッフにしか見えないでしょ~?」

 

「いや、別に(適当)」

 

「んなっ!?」

 

少女がブーブー言っているのを流しながら別の口コミを見ていると、どうやらメニューの味も良いらしい。時間もまだありそうなので、折角だからコーヒーでも飲んで行く事に決めると、未だに何か言ってきている少女を取り合えず無視して店の中に入る。中に入るとハードボイルドな雰囲気の黒人男性と焼酎瓶片手に雑誌を読んでいるアラサーと思われる女がいた。直感的に黒人男性が店長であると確信した壮馬は口を開く。

 

「あなたが店長か。申し訳ない、店の前で騒いでしまった」

 

「いや、こちらこそ千束が申し訳ない。どうぞ、カウンターへ」

 

促されるままに壮馬はカウンター席へ。席に座って壮馬は中を見回してみる。店内の装いは和風を基調としていて、フロア自体はあまり大きくないが、ステンドグラスから差し込んでいる日当たりは良好。加えてカウンターや小上がりの座敷席、階段を上がった中二階にあるテーブル席など、さまざまな客層に対応しているようだった。

 

「………………いいお店ですね。とても落ち着く。とても凝っている内装だ」

 

「でしょでしょ!私と先生が一緒に考えたんですよ~」

 

お店の事を褒められたのが嬉しかったのか、一気にご機嫌となった千束と呼ばれた少女が話し掛けてくる。

 

「……………千束さんは年はおいくつで?」

 

「ぴちぴちの17歳でーす!あ、私の事はち・さ・とでオッケーですよ?」

 

「……………そうだな。どうやら同い年だったみたいだし、そうさせて貰おう」

 

「おー!同い年のお客さんなんて超久しぶりかも!にしても、この時間帯なら学校じゃないの?あ、もしかしてサボり~?あ、私の場合は色々と訳アリなんだけどね~」

 

「サボりではない。春休みを自主的に延長してるだけさ」

 

笑いのツボに刺さったのか、千束はお腹を抱えて笑い始める。壮馬はその間、メニューに目を通す。

 

「どら焼きバーガー……………団子三兄弟…………………どのメニューも普通にうまそうだな。………………ん?千束スペシャル?」

 

「は~、笑った笑った……………あ、それは千束考案のとにかくスペシャルなパフェ!美味しすぎて頬が落ちること間違いなし!注文しちゃう?」

 

「………………面白そうだな。じゃあ、これとブレンドコーヒーを1つ」

 

「スペシャル1丁とコーヒー1つ入りましたー!」

 

「ここは居酒屋なのか?」

 

壮馬のツッコミを受けながら千束は奥の厨房に入って行った。コーヒーの方は店長が作るようだ。

 

「……………明るい性格の持ち主な事で。彼女……………千束が看板娘なら、結構繁盛してるのでは?」

 

「って、思うでしょ?実際のところはそうでもないのよね~」

 

「…………………?」

 

「いや、『いつからいたんだ、ていうか誰だお前』的な表情浮かべてんじゃないわよ!…………ここで働いてる中原ミズキよ。で、言い忘れてたけど隣のおっさんが」

 

「店長のミカだ」

 

店長をおっさん呼ばわりで良いのか、なんて思ったが壮馬は取り合えず気にしない事にした。

 

「(にしても、焼酎飲みながら雑誌読んでる奴が店員?俺がいない間に日本の常識は色々と変わったのか…………?)俺は櫻井 壮馬です。今のうちに口コミに書いておくか………………『おもしれー女の店員が2人います』っと」

 

「いや、何で私が面白枠なのよ!面白枠は千束だけでしょーが!」

 

「だーれが面白枠だ、この酔っ払い女!」

 

「あんたしかいないわ!」

 

個性的な店員が多いなー、なんて厨房から顔を出している千束とミズキが言い合っているのを見ながら考えていると、ミカからコーヒーが出される。

 

「良い香りだ。どれどれ……………美味いな。同居人が入れる料理とは大違いだな」

 

「…………同居人って、ルームシェアでもしてるわけ?」

 

「まぁ、そんな感じです。3人でルームシェアしてるんてすけど、特にヤバイのがとんでもない料理を作る奴(カレン)がいまして。どういう訳か、食べた後の記憶が一切なくなるので。前に食べた時、気付いたら何故かトイレで寝てました」

 

「それはもはや料理じゃなくて危険物の間違いじゃないのか…………?」

 

全く以てミカの言う通りである。カレンは武器の開発となれば一流なのだが、それ以外の事に関してはただのダメウーマンである。

 

そんな会話を2人としながらコーヒーを飲んで待っていると、千束がとんでもないパフェを持って戻ってくる。

 

「お待たせしましたー!千束スペシャルでーす!」

 

「…………………(語彙力ゼロ)」

 

これでもかと言いたくなるほどにアイスだったりプリンだったりがてんこ盛りなパフェだった。これには壮馬も語彙力ゼロ。しかし、だからと言って壮馬は一度注文した物を残す主義ではない。深呼吸をすると、スプーンを手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15分後

 

「…………………(語彙力ゼロ)」

 

「おーい、生きとるかー?」

 

「胃の中が甘すぎて死ぬ……………」

 

「うん、取り合えず生きてるわ」

 

ミズキの問いに何とか答える壮馬。暫く甘いものは控えめになる事間違いなしだろう。

 

「うーん、どうしてこうなったのか不思議だね~」

 

「あんたのスペシャルのせいよ」

 

ミズキの言葉に千束は『テヘペロ♪』と返す。誤魔化し方が絶望的に下手くそである。と、壮馬のスマホに着信が入る。画面を見なくとも誰からか何となく分かってたので、壮馬はすぐに電話に出る。

 

『あ、壮馬君?どこをほっつき歩いてるのか知らないけど、ご飯担当の君がいないと私達餓死しちゃうんんだけど~』

 

「分かった分かった。今から帰るから待っておけ」

 

電話を切ると、少し復活した壮馬は立ち上がると財布を取り出すと、金額丁度で払う。

 

「はい、これスタンプカード。10個溜まると先生のコーヒーが無料になりまーす!」

 

「それは良いな」

 

「もしくは千束の素敵な笑顔を」

 

「ああ、それはいらないな」

 

「も~!そこは嘘でも良いなって言うもんでしょー!そんなんじゃ女の子にモテないぞ~?」

 

「ハッ、余計なお世話だ。また来る」

 

「ありがとうございました~」

 

千束の声を背に受けて、壮馬は店を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……………」

 

「どうかしたのか、千束?」

 

「壮馬に恋でもした?」

 

「ないない。ミズキじゃあるまいし」

 

「あぁん!?」

 

さらっとミズキをディスると、千束はカウンター席に座ると肘をつく。

 

「何かさー……………どこかで会った事がある気がするんだよねー…………」

 

「壮馬と?もしそうなら、過去に遭遇したテロリストか、DAの関係者って事になるわね」

 

「多分テロリストって線は無い気がするんだけどねー……………ねぇ、先生はどこかで見た事あったりする?」

 

千束に尋ねられたミカは少し考える素振りを見せるが、すぐに首を横に振る。

 

「そっかー……………うーん、じゃあ気のせいかな。まぁ、それならそれで良いんだけどねー、良い常連さんになってくれそうだし…………………あ、早速レビューしてくれてる!」

 

「…………………『コーヒーが特に美味しい。あと、看板娘がとても明るい性格でフレンドリーなのが1つの魅力』、だって。いやぁ、壮馬も私の可愛さを分かってくれたようで何よりだね~」

 

「可愛いなんて一言も書いてないわよ。つーか、まだ下に続きがあるわよ」

 

「え?」

 

千束がスクロールして見ると、短くこう書いてあった。

 

『PS. この喫茶店の女店員は面白枠しかいないです』

 

「「………………」」

 

それを見た千束とミズキは一瞬黙り込む。最初に口を開いたのは千束だった。

 

「………………いやいやいや!どう考えても面白枠はミズキだけでしょ!私はどう見ても可愛い枠でしょ!」

 

「自分の事を可愛い枠とか言ってんじゃないわよ!客観的に見ても面白枠はどう見ても千束だけでしょうが!」

 

「違いますぅー、ミズキが面白枠ですぅー」

 

ワーワー騒ぐ2人の声を聞きながら、やれやれと苦笑するミカ。今日も喫茶店リコリコは通常通り営業中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、喫茶店に行ってたんだ。私は喫茶店とか興味ないけどねー」

 

「カレンはそう言うだろうとは思っていた」

 

超高速で包丁を振るいながら手を止める事無く壮馬は調理を進める。そんな壮馬にクルミが話し掛ける。

 

「その喫茶店、何て名前だったんだ?」

 

「リコリコって名前だ」

 

「…………………そこ、DAの支部の1つなんだが」

 

「ブフッー!!」

 

それを聞いたカレンがお茶を吹き出す。汚い。壮馬も手を止めてカレンに布巾を渡すと、クルミのパソコンを覗き込む。

 

「それは本当なのか?」

 

「ああ。詳しくは分からないが、所属しているリコリスは1人だけだ」

 

クルミはとある写真を表示する。どうやら数日前の街の監視カメラの映像のようだ。そこに映っていたのは、リコリスのエースを示す赤い制服を着た少女だった。

 

「…………………ほう」

 

その少女はつい先ほど別れたばかりの看板娘(千束)だった。

 

「まさか、喫茶店がDAの支部だったとは。流石にそれは考え過ぎかと思ったが、本当だったとはな」

 

「今までゼロの仮面被って活動してて良かったね。もし素顔のまま活動してたらリコリコで死んでたかもね~!」

 

「全くだ。もし俺がゼロとバレているなら、今頃ここには戻ってきてないだろうからな。………………だが、リコリス1人だけの支部と言うのも妙だな」

 

「調べた限り、どうやらコーヒー豆の配達や地域の保育園や日本語学校への活動支援みたいな社会貢献活動を行っているそうだ」

 

それを聞いた壮馬は少し訝しげに眉をひそめる。

 

「殺し屋であるリコリスが人助け、か………………………クルミ、可能な限りこの支部やこのリコリス…………千束について情報を集めてくれ。この喫茶店はただの島流し先かもしれないし、なぜリコリスが人助けをしてるのかは知らないが…………………利用価値があるかもしれないからな」

 

「それは構わないぞ。と言うか、千束って言ってたが知り合いか?」

 

「今日知り合った面白い女だ」

 

そう言うと壮馬は調理を再開する。

 

「…………………ああ、そうだ。これも言っておかなくちゃな。ついさっきウォールナットに依頼が来た」

 

「それで?」

 

「依頼主はアラン機関だ」

 

「ブフッー!!」

 

カレン、2度目のお茶吹きである。マジで汚い。壮馬は顔面に布巾を投げつけると、再びクルミのパソコンを覗き込む。

 

「…………………指定の時刻にDAのセキュリティを攻撃して貰いたい?…………………この時刻、DAで何かあるのか?」

 

「どうやら作戦があるらしい。武器商人とテロリストの間で銃取引がとあるビルで行われるとか。その商人を生け捕りにして銃取引を阻止し、商品………………1000丁の銃を押さえる作戦だそうだ」

 

「1000丁!わーお、そりゃ凄い。てことは、要は任務の妨害をしろって事かぁー」

 

床を拭きながら言うカレンと同じことを2人も思っていた。

 

「………………もし、ウォールナットがゼロの仲間だと奴らが知っているなら、こんな依頼はしてこないだろう」

 

「正義の味方のゼロが受ける訳ないもんねー。けど、どうするの?アラン機関に近づけるチャンスかもよ?」

 

「…………………………」

 

カレンの言うことは壮馬も考えていた。アラン機関の狙いは恐らく銃取引を成功させる事なのだろう。依頼を受けてDAの任務を妨害すれば、奴らの思惑通り銃取引を成功させてしまう可能性が高まる。しかし、1度断ってしまえば向こうから接触してくる機会はもう無いだろう。アラン機関はゼロの標的リストの中に入っており、これは不明な情報が多すぎるアラン機関の何かしらの情報を掴む事が出来る絶好の機会なのである。どうするべきか悩んでいると、クルミが口を開く。

 

「……………ボクは受けた方が良いと思う。ウォールナットがゼロの仲間とバレてないのはほぼ確実だろう。なら、これはアラン機関に近づく絶好のチャンスだからな」

 

「…………まぁ、アラン機関とかをぶっ潰したいなら受けるべきだろうけどねー。奴らはウォールナットがゼロの味方だなんて知らなさそうだから、色々と情報を得る良い機会だろうし。それに、定の時刻にDAのセキュリティを攻撃して貰いたいって言うのが依頼でしょ?DAのセキュリティを攻撃した時点で依頼は完了してる。ならさぁ…………………攻撃した後に、ゼロが銃取引を失敗させちゃえば問題ないんじゃない?」

 

「…………………確かにな。奴らの狙いは銃取引を成功させる事だろうが、肝心の依頼は銃取引を成功させる事ではなく、DAへのサイバー攻撃だ。なら、その後にゼロが銃取引を潰しても問題はなく、依頼を果たしたウォールナットはアラン機関に近づける可能性があると言う訳か…………………」

 

そう呟いてもまだ迷っているのか、壮馬は目を瞑って考査する様子を見せる。壮馬の決断を2人は黙って待つ。壮馬が目を開き、口を開いたのはそれから5分後だった。

 

「………………クルミ。依頼は受けろ。だが、奴らの思惑通りにはさせないし、尻尾は掴ませてもらう。………………良いな?」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「カレン。前に依頼していた武器の開発を銃取引が行われる前に完成させろ」

 

「無茶言うねぇ。まぁ、やってやりますとも!」

 

こうして、ウォールナットによるDAの妨害とゼロによる相手は知らずともDAとの共同戦線を張る事になるのだった。

 

「(銃取引はさせないし、尻尾を掴ませてもらうぞアラン機関。才能の為ならばタブーも犯す施しの女神よ……………)」

 

to be continued……………




豆知識

①壮馬がDAにいたと言う記録は、DAのサーバーに侵入したクルミによって既に削除されている。
②壮馬の料理は超絶美味い。
③カレンとクルミはよく映画を見るが、これは趣味と言うよりも暇潰しであって趣味ではない。ただ、面白い作品を見るのは嫌いではない。

すずめの戸締り、どんな作品なんでしょうね………………楽しんできますかねー。


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STAGE11 He emerges from darkness and disappears into darkness.

すずめの戸締り、めっちゃ良かったです。個人的には『君の名は。』よりも好きです。いやー、マジで良かったですわぁ……………………皆さんも良かったら見てみてください。

そう言えば、喫茶リコリコのTwitterにクルミの写真が投稿されてましたね。公式も漸くクルミの人気に気付いたか。やはり日本人は全員ロリコンなんすねぇ(大嘘)




平和で安全、綺麗な東京。日本人は規範意識が高くて優しくて温厚。法治国家日本。首都東京には危険などない社会を乱す者の存在、そして存在していたことすら許されない。消して消して消して、綺麗にする。日本人の気質によって平和が成り立っている。そう思う事が出来る幸せを作るのが、訓練された孤児で構成されているDAのエージェント『リコリス』の役目。日本の治安ランキングは8年連続で世界1位。リコリス達によって、そんな平和な世界が作られていた。

 

しかし、人々は知らなかった。そんな平和な世界に対して反逆を目論む仮面の暗殺者が日本に潜んでいようとは───────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『壮馬君は兎も角、なーんで私がこんなクッソ早い時間に起きなきゃならないのかねぇー……………』

 

『………ふわぁ………………………………』

 

「これを機に少しは健康的な生活をするんだな」

 

夜更かし2人組に対して呆れ口調でそう言うと、とあるビルの屋上にいた壮馬はゼロの仮面を被る。壮馬の視線の先には、銃取引が行われるビルがあった。

 

「クルミ、状況は?」

 

『今のところリコリスに負傷者はなし。作戦は問題なく進行中だ。アラン機関が指定した時刻までもう少しだが、これならハッキング攻撃してもあっちに支障はないんじゃないのか?』

 

「さぁ、どうだかな。まぁ、奴らがこのまま上手く銃取引を潰してくれれば介入する必要もなさそうだが……………カレン、全てのプランの準備は?」

 

『こっちは抜かりなく完了してるよん』

 

「了解」

 

返事をすると壮馬は旧電波塔の方へ姿を向け、それを何気なく見つめながら口を開く。

 

「………………流石はリコリス。訓練を受けているだけの事はあるな。この調子ならハッキングを受けても特に支障はなさ」

 

『おい、壮馬。トラブルが発生したぞ』

 

壮馬はすぐにビルの方に視線を向け、仮面の望遠鏡機能を使ってズームして見る。リコリスの1人が何かヘマをしたのか、商人らしき男に銃を突きつけられているのが見えた。

 

「流石と言った傍からこれか。全く」

 

『全員が全員壮馬みたいな化け物じゃないんだぞ。もう間もなく時間だがどうする?』

 

「クルミはプラン通りにハッキングを開始しろ。俺は今からフォローをしてくる。クルミのハッキングのせいであのリコリスが死んだ、何て事態だけは御免被りたい」

 

クルミに指示を出すと、壮馬は手すりを飛び越えて屋上から飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=======================

 

「こんなに殺しやがって!10秒だ!10数えるまでにそこから出てきやがれ!」

 

リコリスの少女──────エリカに銃を突き付けている男がそう叫ぶ。それを聞きながらフキは司令部に連絡を取る。

 

「司令部!こちらアルファ1!私達でやれます!射撃許可をください!司令部!」

 

突如として司令部との通信が遮断される。フキは呼びかけを続けるが、応答はない。

 

「9!8!7!」

 

「構わず撃って!」

 

「フキ…………」

 

エリカの声を聞いてヒバナがフキの名を呼ぶが、フキは動かない。

 

「命令は待機だ」

 

「でもエリカが!」

 

「3! 2! 1!」

 

ゼロ、と男が言おうとしたその時。それは同時に起こった。スラッシュハーケンを使って窓ガラスを突き破って入って来たゼロがエリカに銃を向けていた男の銃を撃って弾いたのと、たきなが機関銃を男らに構えたのは。

 

「たきな!?」

 

「(なっ!?)」

 

次の瞬間、機関銃が火を吹く。ゼロはエリカの頭を掴んで床に伏せさせると、自身も身を低くする。

 

「(流石に危なかったな……………久しぶりにヒヤリとしたぞ。あの女、通信は遮断されているから恐らく待機命令を無視したか。リコリスにも中々面白い奴がいるじゃないか)」

 

そんな呑気な事を考えていると、掃射の音が止まる。どうやら弾が尽きたようだ。当然だが、武器商人らは全員死んでいた。

 

「作戦は生け捕りの筈と聞いていたが、これでは台無しだな。それにしても、空港以来の再会がこんな形で叶うとはな」

 

「ゼロ!?」

 

フキが驚きの声をあげるが、たきなは何も言わずに機関銃を放り捨てるとメインウエポンのハンドガン『M&P』で弾丸を放つが、当のゼロは持ち上げた死体でガードする。

 

「もうここに用は無い。申し訳ないが、先に失礼させて貰おう」

 

死体を放り捨てると、ゼロは取り出した小さな球体を床に叩きつける。球体から出てきた煙幕で部屋は覆われる。先程の掃射でガラスが割れていた事もあってすぐに視界が回復するが、部屋にゼロの姿はなく、たきなは窓から外を伺うもゼロの姿は何処にも無かった──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=======================

2日後 PM16:00

 

「はいっ、と言う訳でついさっき完成したドローンの飛行テストを開始しまーす」

 

あれから2日後、カレンと壮馬は都内のドローンの飛行が許可されている公園にいた。

 

肝心のアラン機関についてだが、報酬を払う前に追加の仕事を頼まれる事となった。銃取引にて銃を受け取ったテロリストらがとある女性がSNSに載せた写真に写り込んでいたらしく、その女性の動向をドローン等で監視して欲しい、そしてテロリストらが現れたら連絡してドローン等の映像を中継で見せて欲しいとの事で、その女性が一度SNSに載せた写真も送って来た。壮馬はその女性と言うよりも、恐らく襲ってくるであろうテロリストの方が目的だと考えている。とは言え、アラン機関のエージェントと接触できるチャンスなのは変わりはないので引き受ける事になった。

 

「…………………で、何故俺がこんな事に付き合わなければならない?」

 

「いや、だってクルミちゃんは『2人きりだと色々と危なそうだから嫌だ』って言うし、じゃあ壮馬君しかいないでしょ?」

 

「1人でやれば良いだろうが」

 

「1人だと話し相手いないから暇じゃん。どうせ暇でしょ?」

 

「全然暇じゃないんだが。……………さっさと終わらせて帰るぞ」

 

何を言っても無駄そうなので、仕方なく付き合う事にした。カレンの操作でドローンが飛び立つ。

 

「ドローンはもともと軍事利用を目的に開発されていたんだってさ。 構想自体は第1次世界大戦頃には各国で始まっていて、現在のドローンとはほど遠いけど、日本にも1930年代に低翼単葉ロボット機って奴が開発されていたんだってー。クルミちゃんから聞いたんだけど、知ってた?」

 

「いや、初耳だな。俺はクルミじゃないからな。必要な知識しか身に付けようとは思わない」

 

「私も同じく。ほんと、クルミちゃんの博識には敵わないなー…………………………………あー、何か飽きてきたからもうテスト辞めて良い?」

 

「………………カレンの自由奔放な所には敵わないな」

 

「もー、褒めても何もでないよ~?」

 

「褒めてない。…………………飲み物でも買ってくる」

 

そんなコントのような会話を切り上げると、少し離れた場所にある自販機でお茶を買う。そんな壮馬に話し掛ける者が1人。

 

「あっ、壮馬だ~!」

 

「!…………何だ千束か。相変わらずやかましいな」

 

「もー、そこは相変わらず可愛らしいね、でしょ?」

 

「はいはい」

 

そんな会話をしながら、壮馬は隣のリコリスをチラリと見る。

 

「(隣の女…………………確かこの前の奴か。あの喫茶店に異動になったのか?)………………ところで、お隣の彼女は?」

 

「あ、そうだ。壮馬にも紹介しなきゃね。こちら、今日からリコリコで働く事になった新人の」

 

「井ノ上たきなです」

 

「櫻井 壮馬だ。よろしく(井ノ上たきな、か……………射撃性能においてはこの前の作戦でいたファーストリコリスを上回っている。今後敵対する場合は意外と侮れないかもな)」

 

そう分析すると、壮馬は千束に軽く鎌を掛ける。

 

「学生服って事は、今日は学校帰りか?」

 

「あー……うん、そんな所。今日はお昼で終わりだったんだ~。壮馬はまだ春休み延長中?」

 

「延長は辞めた。飽きたからな(何となく鎌を掛けてみたが、芝居と言うか嘘が下手だな。DAもそこら辺の訓練をさせておくべきだろうに)」

 

そんな事を考えていると、千束が時計を見てやばっ、と焦りだす。

 

「もうすぐ約束の時間じゃん!」

 

「どこか行くのか?」

 

「うん、ちょっと約束があってね。じゃあ、またお店で!たきな、行こ!」

 

千束が元気に走って行くと、たきなも壮馬に軽く会釈をすると去って行った。

 

「………………約束、ね」

 

そう呟くと、壮馬はスマホを取り出す。

 

「クルミ、頼みたい事がある。追跡してもらいたい女が2人いてな──────」 

 

to be continued………………




区切りがいいので今回はここまで。焦らしていくぅ。

そう言えばもうすぐお気に入り登録者200人が見えてきますね。登録してくれる人には感謝ですわ。

それでは。


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STAGE12 Be careful when you meet Zero

タイトル和訳 ゼロに会った時は気をつけろ。

忙しすぎるっピ!




クルミによる町中の監視カメラのハッキングで2人が向かったのは警察署と判明。その後も動向を追ってもらうと2人はとある喫茶店へと入って行った。何かがあると直感した壮馬は、テスト飛行を代わりにやると言う条件で変装させたカレンを喫茶店に入り込ませ、2人の座る席の真後ろに座らせた。

 

『配置についた』

 

スマホでカレンからメッセージが届いたのを確認すると、了解と返して壮馬はドローンのテストを続ける。そのまま暫くしていると『ビンゴ。例のSNSの女が来た。今から盗聴開始するよん』とメッセージが来る。テストを終えた壮馬はベンチに座ってスマホにイヤホンを付ける。するとすぐにカレンが持っている超高性能な小型盗聴器からの音声が聞こえてくる。

 

『………………この写真をSNSに上げてから?』

 

『ええ。脅迫リプも来たから怖くなってすぐ消したけど………………その後彼も私もずっと変な奴に付きまとわれてて』

 

「……………当然狙われるだろうな」

 

とんだ災難だなと女性に同情していると、どうやら喫茶店の方でも千束が気付いたらしい。

 

『このビルは…………………』

 

『そうそう!ガス爆発事件のビル!窓ガラス割れて大変だったとかいう。爆発の3時間くらい前かな?』

 

ガス爆発だって……………ずいぶん早くから開けてるお店なんですね』

 

『そうなの。朝日のインスタ映えスポットで有名なのよ』

 

「……………3時間前だと?なら、銃取引はあの時には既に終わっていた?…………………DAは偽の取引時間を掴まされたか」

 

ではクルミにハッキングを依頼させたのは何だったのか、と言う疑問が浮かぶ。既に銃取引を終えているなら、わざわざハッキングをしてDAの作戦を妨害させる必要はあったのだろうか?

 

「……………奴らの狙いはDAの任務を妨害する事じゃなかった、と言う事なのか。なら、真の狙いは一体…………………?」

 

思考の海に入り浸っていると、壮馬のスマホに着信が入る。相手はカレンからだった。

 

『もしもし?彼女達はもう店を出ちゃったよ。何か千束って言ってたっけ?赤い娘はどっか行って、この前機関銃をぶっ放してた娘と2人で何処かに歩いてるみたいだけど』

 

「そうか、分かった。もう撤収して構わない」

 

次に壮馬はクルミに連絡を取ろうとするが、それよりも先にクルミから電話が掛かってくる。

 

『壮馬、テロリストが乗ってると思われる車が2人を追跡している。早速カレンが作ったドローンを使いたいんだが』

 

「ああ、構わないぞ。テスト飛行はもう済んでいるから自由に使え。俺もそのテロリストを追跡する」

 

『分かった。車の現在地はここだ』

 

ドローンを地面に置くとクルミの遠隔操作で静かに飛び立つ。そして、スマホの地図アプリに赤い点が動いているのを見た壮馬は駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………見つけた」

 

辺りもすっかり暗くなった頃、住宅街にて壮馬は女性とたきなが歩いているのを発見する。2人の後ろには明らかに怪しい車が一定の距離を保って付いて来ている。空を見上げると、遠くから例のドローンが2人を監視しているのが見えた。人がいない事を確認し、壮馬は静かにとある住宅の敷地内に入るとゼロの姿に一瞬でチェンジする。持ってきたケースからゼロの仮面を取り出して装着し、そのまま迅速かつ音を立てる事無く一軒家を上って屋根の上に立つ。

 

「もう尾行されている事には気付いているだろう。さぁ、どう対処する?」

 

様子を伺っていると、たきなは依頼人から離れて行く。どうやら囮にする気満々な様子だ。

 

「護衛対象を囮にするか。対象が死んでもどうでも良いのか、それとも何か策があるのか…………………」

 

案の定、護衛対象の女性は頭陀袋を被せられて車の中へと引きずり込まれる。中では写真のデータを消去させられているのだろう。

 

「にしても、テロリストらも何故そこで止まっているんだ。早く車を出した方が良いだろうが。馬鹿なのか?」

 

ダメだしをしまくる壮馬の声が通じたのか、車を出そうとライトがつくがもう遅い。銃を構えていたたきなが車に向けて撃ちまくる。

 

「人質も中にいると言うのに容赦ないな。それほどまでに射撃の腕には自信があるのか」

 

「取引した銃の所在を言いなさい!」

 

たきなの声が住宅街に響き渡る。そのままカバンから取り出したマガジンを装填して撃とうとするが、丁度やって来た千束に制止させられて曲がり角に連れてかれた。

 

「漸くエースのご到着か。だが、人質を取られていては状況は不利だ。そう言えば、千束の実力はまだ見せて貰ってないな。…………なら、お膳立てはしてやるから実力を見せて貰うとするか」

 

ゼロは住宅街の屋根から屋根へとジャンプして車の方へ近づく。ある程度近づくとテロリストらも銃を持って車から出て来る。すると、1発の銃声が鳴り響く。撃たれたのはドローンの方らしい。カレンが後で怒りそうだな、と思いながらスラッシュハーケンを発射。

 

「さぁ、行くぞ」

 

ハーケンは車の2列目のスライドドアの窓を貫通し、反対側のスライドドアの窓ガラスも貫通して電柱に突き刺さる。ワイヤーを巻き取る動作を行って急接近すると、ゼロはドロップキックで窓ガラスをぶち破って車内にダイナミック侵入。そのまま片手で人質が入っている頭陀袋を抱えると反対側の窓ガラスも突き破り、電柱に対して垂直に近い角度で着地する。ハーケンが住宅街の壁に突き刺さってから人質を救出して電柱に着地するまで、この間僅か2秒足らずの出来事である。

 

「なっ!?」

 

「人質が!?」

 

「良いのかな?こちらを見ていて」

 

ゼロの忠告を受けた時にはもう既に遅かった。急接近した千束が弾丸を男にぶち込む。男らも銃を撃つが、千束は楽々と避けてはお返しとばかりに銃弾をプレゼントする。

 

「(動体視力、それに観察眼が優れているのか。凄まじい才能だな…………………にしても、千束が使っているのは非殺傷弾か。殺し屋であるリコリスが非殺傷弾、か。変わった奴だな)」

 

千束が無双している間に壁から降りたゼロは人質の入った頭陀袋をそっと地面に降ろす。その隙を狙ったたきなが死角からゼロの背後に回り込んで銃を向けるが、当のゼロはそれを予期していたかのように、たきなが引き金を引くよりも前にノールックで銃の引き金を引く。たきなが持っていた銃は弾き飛ばされ、車の下に入ってしまう。

 

「嘘、完全に死角だった筈なのに……………!?」

 

「死角だったら私を殺せるとでも?考えが甘いな」

 

ゼロはそう一蹴すると、銃を構えながらたきなの方を向く。

 

「空港、いや銃取引の時もいたな。中々良い才能を持っているが、まだまだ青二才だな。お前では私は殺せない」

 

「つ………………!」

 

たきなは悔しそうにしながらゼロを睨む。と、そこへ。

 

「はいはーい、ストップストップ!」

 

明るい口調で割り込んできたのは千束なのは言うまでもない。

 

「あなたが空港でDAに黒星を付けたって噂のゼロさん?」

 

「空港では挨拶をしただけだ。DAと勝負したつもりはない」

 

「なるほどねー。………………沙保里さんを助けてくれた事は感謝してるけど、その銃を降ろしてくれない?」

 

「断ったら?」

 

「それは言わなくても分かってるんじゃないの?」

 

千束もゼロに向けて銃口を向ける。まさに一触即発と言う雰囲気。住宅街にて化け物同士の戦闘が始まる──────────かに思えたが。

 

「─────良いだろう」

 

ゼロは銃を降ろす。それを見た千束も銃を下げる。

 

「私の目的は既に達成した。それに、今ここでお前と戦うのは骨が折れそうだ」

 

「奇遇だねー、私も同じことを思ってた。まだ何か隠し玉を持ってるんでしょ?」

 

「さぁな」

 

そうはぐらかすとスラッシュハーケンを地面に向けて発射。大きく跳躍し、近くの住宅の天井の上に着地する。

 

「また近いうちに会う事になりそうだ。その時は撃たれる覚悟をしておけ」

 

そう言うとゼロは2人の前から姿を消すのだった。ゼロの姿が見えなくなると、千束は息をつく。

 

「あれが噂のゼロかぁ………………生で見るのは初めてだけど、何て言うか悪い人って感じはしなかったね?沙保里さんも助けてくれたし」

 

「何を言ってるんですか。相手は世界中で指名手配されているテロリストです。沙保里さんを助けたのもどうせ何か裏があったからに決まってます」

 

「いやまぁ、そうかもしれないんだけどさー。でも何て言うか、ただのテロリストじゃない感じがするって言うか………………何て言えば良いんだろう、うーん………………」

 

「んー!んー!」

 

「……………って、そうだ沙保里さん!たきな、急いで袋取ってあげて!その間に私はクリーナーに電話するから」

 

その後、自分を囮にした張本人(たきな)に沙保里が抱き着いたりしたのは原作通りなので言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後

 

「リコリスのガキんちょめ…………………よくも私が色々と拘って作ったドローンを壊しやがって……………………ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

案の定、ドローンを破壊されたカレンがどこぞのライダーの台詞を吐きまくりながらキレるのを取り合えず放っておきながら、壮馬はクルミと話していた。

 

「それで、アラン機関はどうだった?」

 

「残念だが、有力な情報は得られなかった。深入りしようとした時点で、ダミーの住処が爆破されたから通信を切った」

 

「やっぱり秘密主義が徹底してるみたいだな。………にしても、ダミーとは言えど住処を突き止めるか………やはりアラン機関は侮れない存在だな。ここも大丈夫なのか少し不安になるな」

 

「ダミーは敢えて突き止める事が出来るようにしていた。まぁ、突き止めれるって言っても相当難しくはしていたが。けど、ゼロのアジトは絶対に突き止めることが出来ないようにリアルでもネット上でも細工をしてるから、ボクは大丈夫だと思うが」

 

「……………だと良いが。それと、会話は録音してるか?」

 

「勿論だ」

 

クルミが操作すると、録音していた会話が再生される。

 

『この距離のドローンに気づくとは』

 

『千束……………か』

 

『国家に仇名す者を消して回るリコリスと知り合いなのか?』

 

『やはりリコリスの存在を知っているか。前代(・・)とは違って今のウォールナットは優秀だな』

 

『無知である事が嫌いなんだ。だからもっと知りたいことがある』

 

『報酬だね?依頼したDAのハッキングには満足している。十分報いる額を用意しているよ』

 

『そうじゃない。指定されていた時刻の時点で銃取引は既に終わっていたんだろう?なら、ボクにハッキングさせてDAの任務を妨害する必要があったのか?』

 

『………………………』

 

『てっきり銃取引を成功させる為にDAへのハッキングによる妨害を依頼してきたのかと思っていたが、どうやら別に目的があるようだな。何を目論んでいる?タブーなしの施しの女神、アラン機関…………』

 

ここで再生が止まった。答えを言う代わりに爆破をプレゼントされたようだ。

 

「………………この声を俺達は知っているな。ドイツで聞いた声だ」

 

「依頼してきたのはドイツで会った吉松でほぼ確定だな」

 

「あー、吉松ってアレだよね。前に話してたアラン機関の」

 

ようやく落ち着いたのか、カレンもクルミのパソコンを覗き込んでくる。

 

「それでクルミちゃん、吉松の居場所は分かるの?」

 

「いや、分からない。恐らくアラン機関が吉松の居場所の隠蔽工作をしているのかもな」

 

「今は奴が日本にいると言う情報を得られただけで十分だ。クルミ、吉松の居場所の捜索は続けてくれ。ただ、本命の目的の妨げにならない範囲で構わない。二兎追うものは一兎も得ず、何て言うからな」

 

「私もそれで良いと思うよ。アラン機関ばかりに執着して本命の方を疎かにしちゃ本末転倒だからねー」

 

カレンも賛同し、クルミもその方針に特に異論はなかった。

 

「じゃ、私は先に休んでるねー。………………あの女だけはマジで許さん……どんだけ拘ったと思ってんだ………………いつか会ったらスリッパでぶっ叩いてやる…………………

 

「カレンの奴、めっちゃ根に持ってるな………変人だけど根本的には温厚な性格だから普通に怖いんだが………」

 

「自分の作ったものを壊されたのが相当癪に障ったんだな…………俺もカレンの武器は大切に使うとしよう………………」

 

普段優しい人がキレると怖いと言うのを実感した壮馬とクルミだった。

 

to be continued………………




ふと思ったんですけど、まどマギの映画っていつやるんでしょうねー?

つーか眠い。皆もはよ寝ろ。


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STAGE13 Operation start

眠いマン


クルミが壮馬の異変に気付いたのは吉松と接触してから3週間後だった。常に気を張ってあまり寝ていないのか、化粧か何かで誤魔化しているが隈が少しだけ見える。それに、掃除しながら家の中を隅々まで異常な程確認する様子が何回か見受けられていた。

 

「え?壮馬君の様子が変?……………………そうなの?最近は武器開発が調子に乗っててね。壮馬君の様子なんか気にもしてなかったわー」

 

「………………まぁ、そんな所だろうとは思った」

 

言葉通り受け取れば仲間としてはただのクソ野郎な発言だが、クルミはカレンの性分は分かっていたので特に怒りもしない。

 

「仕方ない、問い詰めてくるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………やはり誤魔化しは効かないか」

 

クルミが壮馬の自室に突入して問い詰めると、最初は誤魔化していた壮馬も10分もすれば諦めたかのように話し始める。

 

「簡単な話だ。このアジトに何か仕掛けられてないか確認していたり、後は常に警戒していたから眠りが浅くなったのだろう」

 

「流石に心配し過ぎだろ。壮馬が倒れたら計画が止まるぞ」

 

「それは分かっている。だが、クルミの身に何かあったらと思うとな……………あとカレンもだが。………………………俺がリリベルの時に何があったかは前にも言ったよな?」

 

壮馬の問いかけにクルミは無言で頷く。

 

「俺を慕っていた後輩………………仲間を失った。もうあんな思いは2度としたくない。そう考えると、な」

 

「壮馬…………………」

 

どこか悲しげにも聞こえる言葉にクルミは何か気の利いた事を返せなかった。

 

「………………だが、これ以上クルミに心配を掛けるのも御免だ。それに、クルミの言う通り俺が倒れては意味がない。何か策を練った方が良さそうだな。折角だ、クルミも一緒に付き合ってくっるか?」

 

「!…………ああ、勿論だ」

 

頼られたのをクルミは嬉しく感じると、つい明るい声を挙げてしまう。最初に壮馬は状況の整理を始める。

 

「さて、先ずクルミ。と言うよりかはウォールナットか。ウォールナットは現在、深入りをしようとしたせいでアラン機関に狙われている。あと恐らくDAにもだ。で。俺としてはこのアジト以上にクルミの安全が確約されれいる場所に移れば良い訳だ」

 

「そうだな。……………っと、そうだ。ついさっき分かった新情報がある。あの偽アジトがバレたのはとあるハッカーがあそこを見つけ出し、それをアラン機関に伝えたからだ」

 

「つまり、同僚に売られたと言う訳か。で、そのハッカーは?」

 

「ロボ太だ」

 

それを聞いた壮馬はダサい名前だな、と一蹴して話を続ける。

 

「そのロボ太とやらはアラン機関から居場所を突き止めるように依頼されたのだろう。まぁ、実際奴が突き止めたのはダミーだったが。と言うか、そいつと知り合いか?」

 

「ボクは特に面識はない。先代があったんじゃないのか?……………話を戻すが、調べた限りロボ太もそこそこ腕はある。どうやらあそこがダミーだったと言うのも気付いているようだった」

 

「つまり、今もなおロボ太からもアラン機関からもまだ狙われている、と言う訳か。…………………………ふむ」

 

壮馬は黙り込むと少し考え込む。クルミは壮馬の部屋のベットに寝転んで邪魔しないように静かにしながら自分も策を考える。

 

壮馬が口を開いたのは5分後だった。

 

「………………良い策が思い付いた。子供でも分かる簡単な話だ。追手から逃げ切る1番の手段は相手に死んだと思わせる事だ」

 

「…………………なるほど。確かにそうすればそれ以上捜索されない。良い策なんじゃないか?やっぱり策を考えるのは壮馬の方が優秀だな。ボクでは敵わない」

 

「そして、念には念をだ。万が一生きているのがバレたとしても、居場所が特定しづらい且つ手を出しにくい、もしくは手を出すと自分達が壊滅に追い込まれる可能性のある組織にクルミを匿って貰う」

 

「いや、そんな都合の良い組織が日本に」

 

クルミも言っている最中に壮馬の考えている事が分かったようだった。

 

「………………おいおいおい。まさか、DAに保護してもらうなんて馬鹿な事を言うんじゃないだろうな?DAからも狙われているんだぞ?」

 

「そのまさかだ。それに、DAの中でもクルミを匿ってくれそうな支部を俺は知っている。やはり、あそこには利用価値があったな」

 

そう言うと壮馬は椅子から立ち上がる。

 

「良い機会だ。支部とは言えど、あそこはDAの組織だ。匿って貰う事はないが、俺も怪しまれない形で協力者としてあの支部に接触するか。うまく親密になれば、あの支部をさらに活用できるかもしれない。ついでにあそこのコーヒーも飲みに行きやすくもなる」

 

「とか言って、最後のが本命なんじゃないのか?」

 

「さぁ、どうだかな。よし、方針が決まったとなれば具体的なプランを練る。カレンにもプランについて話したり、色々と作って貰わないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後

 

壮馬はとある駐車場の近くにあるマンションの空き部屋でタブレットに映る駐車場内の監視カメラの映像を見ていた。

 

「策は練った、仕込みは済んだ、わざと流した情報に釣られたロボ太も刺客を差し向けた……………………これで条件は全てクリアされた」

 

『いやー、にしてもあのぬいぐるみ作るのはマジで骨が折れたわー。2度とやりたくないね』

 

イヤホンからカレンの不満そうな声が聞こえてくる。

 

「悪いな、無茶を言って。にしても、良かったのか?匿ってもわななくて」

 

「別に良いの。匿って貰ったら私は武器の開発がやりづらくなるだろうし。それに、喫茶店でしょ?絶対手伝わされるじゃん。めんどくさいからマジで無理」

 

カレンらしい理由に苦笑していると、駐車場内の監視カメラに千束とたきなが映る。

 

「来たな。カレン、例の車はどうした?」

 

『ついさっきまで追われていた所。もう2人の所に到着するよー』

 

「…………………ああ。こっちでも飛んできた車が見えた」

 

とんでもないドライビングテクニックだな、と感じながら壮馬は2人が車の中に入るのを確認。それと同時に車の中に仕込んである盗聴器を作動させる。

 

『なんで守られる側が颯爽と車で現れるのよ。普通逆でしょ~。あーあスーパーカー………………………』

 

『目立つしこっちの方がいいですよ』

 

「悪いが、車に予算は掛けてられない。場合によってはその車は廃車になる可能性があるからな」

 

聞こえはしないが千束に対してそう呟いていると、車は移動を開始する。車の姿が完全に見えなくなったところで、ベランダからスラッシュハーケンを使って屋上から地上へと降り、千束が乗りたがっていたスーパーカー──────ではなく、普通車に乗り込むと、帽子を深く被ってサングラスを付ける。

 

「さぁ、作戦開始と行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高速に乗った後に更に車を乗り換える手筈になっているのだが、物事がそう簡単に上手く行くはずもない。

 

『あれ?高速乗るのでは?』

 

壮馬が一定の距離を保ちながら追跡していると、そんなたきなの声が聞こえてくる。どうやらトラブル発生のようである。

 

『車を乗っ取られたか』

 

『ええ~!?ちょちょちょっとちょっとちょっと!』

 

冷静なウォールナットと慌てる千束の声が聞こえてくる。だが、壮馬は特に慌てる素振りは見せない。何故ならこれも想定の範囲内だからである。

 

「カレン、車の操縦を頼む」

 

『おk!』

 

カレンの操作に切り替わると車は急加速。壮馬は後部座席に置いてある細長いケースを開け、中からスナイパーライフルを取り出してスコープを覗く。

 

『このまま海に突っ込むつもりだ』

 

『回線の切断を!』

 

『いや。制御を取り戻してもすぐにロボ太に上書きされるだろう。こちらの作業完了と同時にネットを物理的に切れればいいんだが』

 

『え…ルーターどこよ?』

 

『知らん。僕の車じゃない』

 

「………………あれがルーターだな」

 

壮馬の目にはスコープ越しに3人が乗った車の背後を飛ぶドローンの姿があった。たきなも気付いた様子で、イヤホンからその旨の声が聞こえる。

 

「バレると逃げられる。海に突っ込むまで時間がない。つまり、チャンスは1回限りだ。さぁ、俺の手を借りずに対処できるかな?」

 

射撃性能の正確性が高いたきながいるので壮馬は大丈夫だとは考えているが、念の為引き金に手を掛ける。

 

『よし。制御を取り戻すぞ。3、2、1』

 

カウントダウンとともにまず千束が銃で窓ガラスを割ると、そこからたきなが身を出してドローンに向けて銃を構える。3発の銃声が鳴り響く頃には、ドローンは地面に墜落。制御を取り戻した車が脱輪しながらも何とか止まったのを見届けた壮馬は引き金から手を放す。

 

「やはり、俺の助けはいらなかったな。この展開は想定済みだ。恐らく3人…………………いや、4人(・・)は近くにある潰れたスーパーに入るだろう。そこでカレンのスーツの出番だな」

 

『壮馬君と言うよりかは、ゼロ出ないの?』

 

「それは状況次第だ。取り合えず、先にスーパーの方へ先回りしておくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潰れたスーパーに先回りし、スーパー内のトイレに入って鍵を閉めるとタブレットを取り出す。画面にはスーパー内に事前に仕掛けておいた隠しカメラからの映像が映る。

 

「ちょうど来たか。敵も来たようだな。さぁ、様子見と行こうか」

 

そう呟くと同時に戦闘が開始する。千束はたきなはキャリーケースを楯に傭兵らに向けて銃を発砲。

 

『ちょ、盾に使うのはなしだ~!大事なものだって言っただろ~!』

 

『たきな!それなんか駄目らしいよ!』

 

『無茶言わないでください!』

 

やはりキャリーケースは防弾にしておいて正解だったな、と映像を見ながら壮馬は考えていると、隠れているトイレに手榴弾が投げ込まれる音がした。千束が敵が投げようとしたのを奪ってここに捨てたのだ。

 

「(おいおいおい!)」

 

壮馬は慌てて個室を出ると、窓ガラスを突き破って外に脱出すると同時に手榴弾が爆発した。

 

「(流石にヒヤッとしたぞ………………にしても)」

 

たきなも中々の腕なのは分かっていたが、やはり千束は凄まじかった。近距離からのアサルトライフルの銃撃を軽々と避けて非殺傷弾をヒットさせていくのを見て壮馬は興味深そうに笑う。

 

「(やはりとんでもない奴だな。化け物じみた回避能力、それに反射神経や動体視力、あと観察眼も優れている………………俺と互角か、もしくはそれ以上か……………)」

 

仮面の下でニヤリと笑みを浮かべていると、どうやら全員制圧したようである。そのまま映像を見ていると、千束は自分たちを殺そうとした傭兵の1人の応急手当をし始める。確かに映像越しでもその傭兵は血を流していた。大方たきなにでも撃たれたのだろう。それを見ていた壮馬は何か思いついた表情を浮かべる。

 

「…………………カレン」

 

『んぁ?』

 

「ちょうど良い機会だ。分断するついでに、実力を測らせてもらうとしよう」

 

『へぇ…………良いけど、私の作った武器を使っておいて負けたら許さないからね?』

 

「無論だ」

 

壮馬は一瞬でゼロの衣装にチェンジし、持参していたケースに入っていた仮面を被る。

 

「負けるつもりなど毛頭ない」

 

そう言うと仮面の中でニヤリと笑った。

 

to becontinued……………




お察しの通り、次の回で千束と戦いますがあらかじめ言っておきますと、結構スピーディーにケリは付きます。濃密な戦いを期待してる方はすまんな。


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STAGE14 To fool the enemy, start with an ally

タイトル和訳 敵を騙すには味方から


「敵の増援が来る前に脱出しましょう!」

 

「少し待って」

 

たきなの声に短く返すと千束は応急手当を進めていく。

 

「囲まれますよ」

 

「死んじゃうでしょ」

 

「脱出ルートはまだ敵にマークされていない。今ならまだいける」

 

ウォールナットがタブレットを見ながらそう呟く。たきなが千束に向けて口を開こうとしたその時だった。千束とたきな、そして傭兵がいる場所から少し離れた場所の天井が爆発する。

 

「っ!?」

 

たきなは銃を構える。視界が晴れると、そこに立っていたのはゼロだった。即座に発砲するたきなだが、ゼロは狭いながらもアクロバティックな動きで避け、ハンドガンからの弾丸を放つ。たきなはケースを盾に弾を防ぐ。

 

「たきな!先にウォールナットと一緒に行って!」

 

応急手当を一時中断した千束が近づきながらゼロに向けて撃つが、ゼロが持っていたスーツケースが展開したシールドに阻まれる。

 

「ですが!」

 

「私もすぐに追いつくから!」

 

「………………行きましょう」

 

たきなとウォールナットは脱出ルートへと向かって行く。それを見届けると、ゼロは持っていたシールドを捨てる。

 

「漸く2人きりになれたな」

 

「そうだね。まぁ、あんま嬉しくはないけど」

 

「釣れない事を言うな。さぁ、お前の力を見せてみろ」

 

ゼロは即座にハンドガンを発砲するが、放たれた弾丸を千束は避けてお返しとばかりに接近して非殺傷弾を放つが、近距離の弾丸もゼロには全て避けられる。

 

「…………私と同じ、って訳か」

 

「それだけではない」

 

ゼロは腕に付けているスラッシュハーケンを2つとも発射する。千束は避けようとして気付く、自分が避けたら後ろの傭兵に当たる事に。千束は1つは銃で、もう1つは蹴りでハーケンの方向をずらす。

 

「隙を見せたな」

 

「怪我してる人を狙わないで私だけを狙いなよ」

 

その隙に接近してきたゼロは回転蹴りで千束の銃を蹴り飛ばす。ゼロは銃口を千束に向けるが、千束は慌てずにゼロを足払いで転ばせる。その隙に後ろにジャンプして銃を拾うと、すぐに構える。

 

「(よし、取った!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、まだだ」

 

千束がゼロに向けて発砲しようとしたその時だった。両腰にも装着されていたスラッシュハーケンが発射される。千束は咄嗟に後ろへジャンプして避けるが、何と空中で軌道修正したハーケンは千束の銃を再度弾いた。

 

「ちょっ、軌道が変わった!?」

 

「誇っていいぞ、隠し玉を使わせるとは。だが、これでチェックメイトだ」

 

そう言いながらゼロは懐から取り出した小型の拘束装置を投げつける。予想外の攻撃、そして銃を弾かれた事が千束の心に僅かな動揺を誘った事もあって回避が遅れ、千束の足を拘束装置が自由を奪う。

 

「うわあっ!?」

 

バランスを崩した千束は倒れ込む。手を使って少し離れた銃が落ちてる所に向かおうとするが、その行く手を阻むように千束を飛び越えたゼロが立ちはだかる。

 

「ああ、仲間に知らせる事は無理だ。ジャミング装置を使っているからな。それよりも、聞きたいことがある」

 

「…………………私を殺さないの?」

 

「ああ」

 

ゼロの肯定に千束は怪訝な表情を浮かべる。

 

「何故、と言った顔だな。理由は簡単だ。お前の足止めが私の狙いだからだ。そして、私の目的は既に達成された。もう通信が聞こえる筈だ」

 

ジャミングを解除したのか、千束の通信機からたきなの声が聞こえる。

 

『……………束さん!千束さん!応答してください!』

 

「たきな、どうかしたの!?」

 

『失敗です。護衛対象が死亡しました』

 

「っ……………」

 

『千束さん、ゼロはまだ建物内に』

 

たきなとの通信が再度途切れる。どうやら再度ジャミングを使用されたようだ。

 

「……………それにしても、何故お前は殺しをしない?」 

 

「………………あなたには関係ないでしょ」

 

「………………お前は例え敵であっても命を奪わない。どのような理由で徹底した不殺主義・人命尊重主義を貫ぬいているのかは知らないが、その信念を貫く覚悟はあるのか?」

 

「………………?」

 

質問の意図が分からない様子の千束にゼロは決定的な言葉を叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が敵の命を奪わなかった事で、後にその敵がお前の大切な友達や家族の命を奪った時──────それでもなお、後悔なくその信念を貫き通せるのか、と訊いている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……………それ、は………………」

 

千束の表情に明確な動揺が浮かぶ。その不殺が如何なる信念に基づくものだったとしても敵を殺さず見逃し続ける事で、後で見逃した敵が自分の大切な人や、その大切な人の家族や友人の命まで奪ってしまう可能性が千束の脳裏に過ったからだ。今まで考えた事もなかった。

 

救世主(・・・)から送られたプレゼント(人を助けるための銃)を貰った時からそうするべきだと、それが正しいと考えていたからだ。故にゼロの言葉には頭をハンマーで殴られたような衝撃があった。

 

「…………………芯のある奴だとは思っていたが、思い違いだったか。人を殺さないのも大方利己的な理由と言った所か」

 

ゼロはスーツケースに戻ったシールドを持ち、ハーケンを使って穴の開いた部分から天井に飛び移ると何も言わずに去って行く。それと同時にたきなが千束の元へ戻ってくる。千束の足が拘束されているのを見ると、たきなは鞄から工具を取り出す。

 

「……………ごめん、たきな。しくじった」

 

「千束さんだけじゃありません、私もです。…………すぐに緊急車両が到着するそうです。遺体と荷物を回収して現場を離脱しろと、先程指示が」

 

「…………………うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救急車の中は重苦しい雰囲気だった。千束は何も言わない。話す気にもならなかった。

 

『お前が敵の命を奪わなかった事で、後にその敵がお前の大切な友達や家族の命を奪った時──────それでもなお、後悔なくその信念を貫き通せるのか?』

 

「…………………………」

 

千束の脳裏には先程のゼロの言葉が蘇る。戦闘が終わって少し冷えた頭で考えてみても、答えは出なかった。積み上げてきたものが根本から揺らいでいくような気分だった。そんな気分を味わいたくなくて、ゼロの事を忘れるようにウォールナットの死体を見つめる。最も、気分など晴れる訳がなかったが。そんな重苦しい雰囲気を終わらせるかのように、突然ウォールナットが上体を起こした。

 

『もう良い頃合いだな』

 

「「!?」」

 

これにはたきなも含め、千束も驚く。ウォールナットはリスの着ぐるみの頭の部分を取る。

 

「ぷはぁー!暑ぅ~!ビールちょーだい!」

 

「ミズキ!?ななな何で!?」

 

「落ち着け千束」

 

「え、先生!?」

 

運転していたのは先生ことミカだった。

 

「カーッ、仕事終わりのビールがうまい!ああ、これ防弾ね。派手に血が出るのがミソ。ただ、マジでクッソ重いけど」

 

「あの………………ウォールナットさん本人は?」

 

「あ、そうだよどこ行った!?」

 

「ここだ」

 

銃弾の跡だらけのキャリーケースが開くと、中からVRゴーグルを装着した幼女が出てくる。VRゴーグルを外すと、千束とたきなの方を向く。

 

「追手から逃げ切る一番の手段は死んだと思わせること。そうすればそれ以上捜索されない」

 

「では、わざと撃たれたんですか?」

 

「そういう事だ。全て彼女の協力者(・・・)の作戦通りにな」

 

たきなの質問にミカが答える。クルミも同意するように頷く。

 

「想定外の事態にきちんと対処して見事だった」

 

「ちょ……………ちょっと待って!いろいろ聞きたいことあるけど、つまりその…………………全部予定通り、で誰も死んでないって………………こと?」

 

「まぁ、そう言う事になるな」

 

「この子、金払いいいから命賭けちゃったわよ」

 

「よかった~!みんな無事で……………も~死なせちゃったと思ったし…………………………あーもう、よかった~!無事でよかったほんと!ほんと~!」

 

「うおぉ!?」

 

クルミに千束は抱き着くと、自分の頬をクルミの頬に擦り合わせて喜ぶ。それを見てミズキとミカは自然と笑みを零す。だが、その中でも1人だけ浮かない顔をした者がいた。

 

「…………………あの」

 

その人物はたきなだった。

 

「この作戦を考えたのは彼女の協力者と言いましたよね?その協力者はここにはいないんですか?」

 

「ここにはいないが、その協力者とはリコリコで待ち合わせる事になっている」

 

「千束、あんたは特に驚くわよ。私達は既に会ってるんだけど、そこそこびっくりしたし」

 

「………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「想定よりも遅かったな。渋滞でもしていたのか?」

 

「ええっ、壮馬!?」

 

千束の疑問はリコリコに着いてすぐに解消される事になった。そこにはカウンター席に座って缶コーヒーを飲んでいる壮馬の姿があった。

 

「え、てことは…………………………壮馬が今回の作戦を全部考えたの!?」

 

「ああ。ぬいぐるみの手配から作戦の立案まで何もかも俺が手配した」

 

「この子の協力者って言うのも!?」

 

「当然俺だな」

 

流石に急展開過ぎるのか、千束の頭は処理が追い付いていない。謎解きを始める探偵のような口調で壮馬は話始める。

 

「ウォールナットが狙われる事態は想定していた。だから、俺は探していたのさ。優秀な人員が揃っていて、彼女の安全を保障してくれる場所を。色々と調べて見つけたのがDAの支部の1つであるここって訳だ」

 

「じゃあ最初に来たのって………………」

 

「この目で直接見ておきたかったからな。偵察も兼ねてお邪魔させてもらった」

 

「春休みを自主的にとかって言うのは……………」

 

「嘘に決まっているだろう。高校など通っていない」

 

壮馬の1つの特技として、自然な感じで嘘をつくのがとても上手い。現にリコリコのメンツは言われるまで壮馬の嘘に気付けなかったのだ。壮馬は缶コーヒーをごみ箱に捨てると、足を組んで彼らの方を向く。

 

「そういう訳で、改めて自己紹介をしよう。俺の名は櫻井壮馬。ウォールナットの仲間だ。やはり、ここを頼って正解だったな。君たちには感謝するよ。改めて、よろしく頼む」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

to be continued………………




ハーケンブースター…………………カレンがスラッシュハーケンにブースターを搭載。これによってハーケンを高速で発射できるようになったり、ハーケンの軌道修正が可能となった。ただし、エネルギーの消費が激しくなる事から使用できる回数には制限があり、壮馬は奥の手としている。


本当はルルーシュの誕生日に投稿したかったんですけど、ちまちま修正してたら出来ませんでしたわ。草ァ!

今回の話は絶対にやりたかった。『不殺主義の負の面』とでも言うべきでしょうか。それを千束に問いかけ、少し曇らせたかった(ドS)何なら本編でも触れてほしかった。

勿論、この問いに対する答えは自分なりに用意しています。その答え合わせは次回に。


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STAGE15 Problem without solution

タイトル和訳:答えのない問題

うちのクソガキの弟がうざすぎるマン。

思春期ってめんどくせー。


店の制服に着替えた後、千束は少しばかりご機嫌斜めだった。それを見てミカと壮馬が話し掛ける。

 

「いい加減機嫌を直したらどうだ?」

 

「全くだ。いつまで拗ねてる気だ。子供じゃあるまいし」

 

「まだ17なんで子供ですぅー………………ていうか、事前に教えてくれても良かったんじゃないの、壮馬~?」

 

「前に鎌を掛けた時の演技が俺にとっては致命的に下手だったから言わない事にしただけだ。良く言うだろう?敵を騙すには先ずは味方、と。にしても、ほんとに演技が下手だったな」

 

「何度も言うなー!ふーんだ、どーせ私は演技が出来ませんよーだ」

 

ますます拗ねる千束。すると、ミズキもスマホを操作しながら口を開く。

 

「まぁでも壮馬の言う通り言わないで正解だったわよ。たきなと一緒に自然なリアクションしてもらった方が良かったし。ほ~らこういう~」

 

「………………フッ」

 

ミズキのスマホ画面には隠し撮りされていた写真が表示されており、そこには中々面白い表情をした千束がいた。それを見た壮馬も鼻で笑う。

 

「あ~!いつ撮ったのそれ!ちょっと~!」

 

「可愛い看板娘の姿か?これが。ああ、その写真は後で俺のスマホに送っておいてくれ」

 

「いや、絶対送らせないから!」

 

ギャーギャー楽しく騒いでいる3人に対して、先程からずっと黙っていたたきないが口を開く。

 

「やっぱり命大事にって方針無理がありませんか?あの時、敵の手当てをしないですぐに2人でスーパーから動いていれば、ゼロが来るよりも前にスーパーを脱出できていたかもしれません」

 

「そうなると逆に困ったんだけどな。しかし、ゼロの介入があったのは予想外(・・・)だったが、結果的には作戦通り行ったのは良かったな」

 

しれっと嘘をつく壮馬だが、誰もそれには気づかない。

 

「目の前で人が死ぬのをほっとけないでしょ」

 

「私達リコリスは殺人が許可されています!敵の心配なんて」

 

「あの人達も今回は敵だっただけだよ。誰も死ななかったのは良かっ」

 

──────お前が敵の命を奪わなかった事で、後にその敵がお前の大切な友達や家族の命を奪った時──────それでもなお、後悔なくその信念を貫き通せるのか?

 

ゼロの言葉が千束の脳裏に蘇る。千束が急に黙り込んだのを見てミズキが話し掛ける。

 

「どうしたのよ、急に黙り込んで」

 

「…………え?ううん、何でもない。…………とにかく!誰も死ななかったから良かった良かった」

 

「そういう話じゃ…………………ないと思います」

 

「………………………」

 

壮馬はその事に付いては何も言わずに口を開く。

 

「……………まぁ、俺も騙すような作戦をして悪かった。次からはちゃんと言うとしよう、たきなには」

 

「……………ん?ちょっと待って、それって私には言わないって事じゃん!」

 

「なら、少しは演技力を身に付ける事だな。それよりも、甘いものが来た」

 

ミカが作っていた団子3兄弟がカウンターに置かれる。

 

「俺の奢りだ。2人で食べろ、そして大人しく買収されてしまえ」

 

「いや、買収されろって自分で言うんだ…………………まぁ、されちゃうんだけどねー。たきな、座敷にざぶとん出してきて~」

 

「はい」

 

切り替えの早い女、たきなである。そのまま2人は奥の方へ引っ込んでいくと、すぐに騒がしい声が聞こえてくる。

 

「えっ!な……………何かいたよ~今!」

 

「うちでしばらく匿ってくれ~って。あんまり散らかすんじゃないよ~」

 

ミズキがそう言うと同時に店に入ってくる人物が1人。吉松だった。

 

「おお、いらっしゃい」

 

「(吉松!?何故ここに奴が!?)」

 

もう少しで表情に出る所だったが、何とかポーカーフェイスを崩さなかった。そんな壮馬の気など知らずに、ミカと吉松は言葉を交わす。

 

「にぎやかだね」

 

「最近よく来てくれるね」

 

「君のおはぎはうまいからね。前はコーヒーもまともに淹れられなかったのに」

 

「10年も経てばな。忙しいんじゃないのか?」

 

「ようやく仕事が一段落したところさ。掃除に手間取ってね。リスのようにすばしっこい奴だったよ」

 

「(………やはり黒幕はこいつだったか。だが、残念だったな吉松。お前の言うリスはすぐ傍で普通に生きているぞ。……………取り敢えず、偽装は上手く行ったと見て間違いないだろう。これでクルミの安全は確保されたも当然だな)」

 

内心でホッとしていると、ところで、と吉松は壮馬の方を向く。

 

「彼はミカの知り合いかな?」

 

「………まぁ、そんな所です。少し前から常連になった櫻井壮馬と言います」

 

「壮馬君か。私の名は吉松シンジ。ミカの知人だ」

 

「……………吉松さんはかなり前から来てるんですか?」

 

「そうだね。私は定期的にここに来ていてね。看板娘でもある千束ちゃんとも仲が良いんだ」

 

「そうなんですか(………千束とは仲の良いの客と店員と言うだけの関係なのか?それとも………………)」

 

「ああ、吉さんいらっしゃい!今ちょっと忙しいから後で!」

 

そんな事を考えていると千束がやって来る。吉松に声を掛けると、すぐにまた奥に引っ込んで行った。

 

「すっかりレディだな」

 

「「あれが?」」

 

壮馬とミカの声が被ったのを聞いて吉松は苦笑していると、壮馬のスマホにメッセージが入る。それを見ると、壮馬は椅子から降りる。

 

「さて、俺はそろそろ帰ります」

 

「もう行くのかい?」

 

「ええ。腹が減ったとうるさいのがいるのでね。また来ますね、ミカさん」

 

「ああ」

 

壮馬は店を出て行くのだった。壮馬が出ていくと、吉松はところで、と問いかける。

 

「ミカ。千束とここでどんな仕事をしてるんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リコリコで匿われ始めてから1週間。クルミはまた気付いた。千束の様子が少しおかしかったのである。事前に壮馬から聞いていた情報では、『悩みとは無縁な奴(意訳)』と訊いていたのだが、時折何か考え込むような表情を見せていた。その事についてミズキに尋ねてみると。

 

「……………確かに、いつもよりやかましくない気はしてたのよねー。気のせいかと思ってたけど、あんたがそう思うならやっぱ確定かしら」

 

ミカにも聞いてみたが、ミズキと同じことを言っていたのでほぼ確定である。クルミはゼロに分断される前までの事を思い出すが、彼女が曇るような事は無かったと記憶している。とすると、答えは1つ。

 

「(ゼロ……………壮馬が2人を分断した後に何かあったか………………夜になればこの喫茶店にはボクしかいない。その時に壮馬を呼び出してみるか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────と言う感じの話をしたな」

 

その日の夜。呼び出しに応じた壮馬から、月の光が照らしているカウンター席に座りながらクルミはそんな話を聞いていた。

 

「壮馬も痛い所を付くな。女の子を曇らせる趣味でもあったのか?」

 

「そう思うんだったらいい病院を紹介してやろうか?」

 

「冗談だ。………千束の奴は結構気にしていたぞ」

 

「………………まさか、そこまで気にするとは予想してなかったな。たきなだったら『テロリストの言葉なんて聞く価値もありません』って感じで一蹴するだろうに」

 

クルミの脳内でたきなの声で台詞が再生されるが、違和感が仕事をしなかった。

 

「そもそも、何でそんな事を聞いたんだ?」

 

「単純に興味があったからだ。何故敵であっても命を助けるのかを。俺とは正反対の主義だったからな」

 

敵対者であろうとも不殺主義を貫く千束とは正反対に、壮馬は敵対者は1人残らず殲滅させる主義である。『悪意の芽を摘み取り損ねれば、名前や場所を変えて再び悪意を撒き散らされる可能性がある』との考えがあっての殲滅主義である。

 

「で、どうする気だ?曇らせたまま放置しておくのか?」

 

「……………別に言った事を撤回するつもりはないが」

 

「別に撤回しろとは言っていない。ボクも壮馬が言った事は必ずしも間違っているとは思わないしな。ただ、ここでフォローしてやれば壮馬への信頼は厚くなる。信頼を得ておけば、何かしらの場面で役立つかもしれないぞ?」

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 pm12:00

 

「ごめーん、待ったー?」

 

「いや、さっき来たばかりだ」

 

翌日、店に突撃した壮馬は直球に『出掛けるぞ』と千束に告げる。ド直球過ぎて流石の千束も頭の中が『???』で埋め尽くされたが、何かを察したミカに行ってこいと言われ、壮馬とお出かけする事になった。

 

「にしても、壮馬から直々にお出かけの誘いが来るとは驚いたよけど、何か魂胆があるのかな~?」

 

「さぁな」

 

そうはぐらかすと、壮馬は付いて来るように促すと錦糸町駅の改札を通って地下鉄のホームに入る。

 

「……………日本の地下鉄に乗るのは久しぶりだな」

 

「てことは、壮馬ってクルミと一緒に海外にでもいたの?」

 

「ああ。お互い色々とあって、今の関係になった」

 

「じゃあ、何で日本に?」

 

「一か所に落ち着こうと言う話になった。で、世界で一番治安の良い場所を選んだってだけだ」

 

まぁ、勿論嘘なのだが。

 

「なるほどね~。確かに落ち着くには最適だね、この国は」

 

「………………ああ、全くだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上野動物園

 

「可愛い~!何でパンダって何でこんなに可愛いんだろうね~!ねっ、壮馬もそう思うでしょう?」

 

「そ、そうだな…………(着くなり1時間近く色んな所に振り回された………………流石に疲れるな…………)………………そう言えば、この赤ちゃんのパンダに関してはレンタル料が掛かっているらしいぞ。幾らだと思う?」

 

「ん~…………………5000万円?」

 

「1年で1億円らしい」

 

「わーお、そりゃ凄い。リコリコで働いていても一緒稼げない金額だね~。あっ、そうだお土産買わないと!」

 

入場料+お土産代 4170円

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パフェ専門のカフェ

 

「…………奢るとは言ったが、こんな山盛りを頼むとは思わなかったな」

 

「ほら、よく言うでしょ?人のお金で食べるパフェは美味しいって」

 

「本人の目の前で言われると殺意が湧くな」

 

そう言うとコーヒーを飲む壮馬に千束は冗談冗談、と笑ってパフェを頬張って美味しそうな表情を浮かべる。

 

「にしても、良いのか?そんなに食べて」

 

「後で走ればプラマイゼロ!それに、私はいつもやりたい事優先だから良いんだもーん」

 

「もーん、ってきょうび聞かないな」

 

千束のパフェ代+コーヒー代 計3960円

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だかんだでいつの間にか夕方になっていた。そんな2人がお出かけの最後に来たのは代々木公園。その中央広場の芝生に2人は座り込む。

 

「東京のザ・都会って感じが私は好きだけど、こんな自然豊かな場所も良いね」

 

「そうだな」

 

その言葉には壮馬も噓もなく同意だった。

 

「こう言う所で皆とピクニックとか行ったら最高だね。今度皆を誘ってみよ!」

 

「良いんじゃないか?楽しいと思うぞ」

 

「もー、何他人事みたいな感じで言ってるの?壮馬も勿論来るでしょ?」

 

「………………ま、予定が合ったらな」

 

明確な答えはせずにそう濁すと、2人は暫く黙って景色を眺める。緑に囲まれた自然に芝生と水景施設があるこの広場は憩いの場であり、緑で縁どられた夕暮れの色に染まる大きな空が2人の視界を埋め尽くしていた。

 

暫くして千束が口を開く。

 

「…………………壮馬、今日はありがとね。すっごく楽しかった」

 

「そうか」

 

千束の言葉に壮馬は景色を見つめながら短く返す。そんな壮馬を覗き込むようにして千束は尋ねる。

 

「……………ねぇ。何で今日はお出かけに誘ってくれたの?」

 

壮馬は景色ではなく千束の方に目をやる。2人の視線が互いの瞳に吸い込まれる。壮馬は息を吸って吐くと、口を開く。

 

「……………お前、ゼロに何か言われただろ?」

 

「!………………気付いてたかぁ」

 

「他の皆も大体は気付いている。俺が今日言わなきゃ近いうちに誰かが切り出してただろう。それに言っただろう?お前は演技が下手だと」

 

それを聞いた千束は観念したかのように苦笑すると、ポツリポツリと語り始めた。

 

「私が命大事にって方針なのは、事前に色々と調べてた壮馬なら知ってるよね?」

 

「ああ」

 

この前も現場にいたからな、とは言わずに壮馬は肯定する。

 

「その方針についてゼロに文句………………いや、文句ではないか。問いを掛けられたんだ。敵の命を奪わなかった事で、後にその敵がお前の大切な友達や家族の命を奪った時──────それでもなお、後悔なくその信念を貫き通せるのか、って」

 

「……………で、何て答えたんだ?」

 

「なーんにも言えなかった。頭をハンマーで殴られたような感じがしてさ。……………正直、ゼロが言っていた事を私は考えた事もなかった。それが絶対に正しい事だと思ってたからさ。だから、何て言うか…………………今まで自分がしてきた事が正しかったのか自信がなくなってきちゃったんだよねー……………………」

 

「……………………」

 

ここまでの話は大方、壮馬も知っての通り。そして、彼が知りたいのはさらに根幹。彼女のルーツである。

 

「………………そもそもの話、千束は何故不殺主義を貫いているんだ?」

 

「………………気分がよくない。誰かの時間を奪うのは気分がよくない。そんだけだよ」

 

思っていた以上にサッパリと言うか利己的だった。だが、壮馬の直感が告げていた、まだ奥があると。

 

「(洗脳に近い刷り込みを行うDAにいたんだ。最初から彼女が不殺を貫く異端児だったとは考えにくい………………まだ何かあるに違いない)」

 

そう結論付けると、壮馬は鎌を掛ける。

 

「嘘だな」

 

「へ?」

 

「……………いや、嘘ではないか。その理由も本当なのだろう。だが、もっと深い…………………原点のようなものがある筈だ。そう思うようになった……………いや、生き方を大きく変える出来事となった原点が」

 

「………………私の生き方を変えた…………原点……………」

 

そう復唱すると、千束は目を瞑る。それを壮馬は静かに見守る───────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=======================

 

───────思い出した。

 

『………………君には大きな使命がある。それを果たしてくれ。そのために私は…さしずめ救世主になったんだ』

 

『救世主か…………………ありがとう。私もなる、救世主!』

 

その人の声はもう分からない。顔も分からない。それでも、その人は存在していた。10年前にそんな会話を交わしたのは間違いない。それが私の原典。命を奪わず人を助ける『救世主』になろうと誓った日から10年。いつの間にか、私の原典は記憶の底に眠っていた。それ(人助け)が当たり前の事になっていたからだろうか。

 

『お祝い?誰から?』

 

『救世主だ』

 

『なら…人を助ける銃だね』

 

そうだ。だから私は今でもあの銃を握っているんだ───────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=======================

 

「…………そうだ。私、人を助ける救世主になろうと思って…………………」

 

「………………………」

 

千束の言葉から出てきた『救世主』と言うワードを聞いた壮馬の脳裏に吉松の言葉がよぎる。前に彼はゼロの事を『救世主』なんて言っていた。最も、本当にそう思っていたのかは不明だが。

 

「……………………それを踏まえた上で、俺が1つアドバイスをしてやろう。不殺を貫く千束と対称的なゼロ。どちらが正しいか、と言う問い掛けの答えは1つだ───────答えはない、が答えだ」

 

「え…………………?」

 

「ゼロが言っていた事は間違いではない。確かに敵を生かしておけば後に友達や家族の命を奪う事になるかもしれないだろう。では、ゼロのように敵対者は殲滅させるのが正解なのか?だが、テロリストのような悪人とは言えど、人である事に違いはない。人を殺せばどこかで恨みが生まれ、そうして負の連鎖が続いていく可能性がある。そう考えると、殲滅が必ずしも正解とも言えないだろう」

 

そこで言葉を区切ると、一旦水を飲んでから壮馬は続ける。

 

「さっきも言ったが、万人向けの明確な答えなどない。自分が正しいと思ったものを選び取り、後はそれが正しい選択だと信じて貫く。それだけだ」

 

「正しい選択だと信じて貫く………」

 

そう呟く千束の目の前に、いつの間にか持っていたのか非殺傷弾の入った弾倉と普通の銃弾の入った弾倉の2つを取り出す。

 

「良い機会だ。千束、改めてここで選ぶが良い。どちらが自分にとって正しい選択なのかを」

 

「…………………………」

 

千束は何も言わずに2つの弾倉を見つめていたが、やがて目を瞑ると深く息を吸って、深く息を吐く。そうして目を開けた千束の目にもう迷いはなかった。

 

「………………私っていつもやりたいこと最優先にする主義なんだよねー。だから」

 

千束は非殺傷弾の入った弾倉の方を手に取る。

 

「今まで貫いてきたこの信念(不殺主義)が正しいと信じて、私は今まで通りやりたいと思ったことをやるだけ!守りたいものは全部守る!……………って、今度ゼロにあったら言おうと思うんだけどどうかな?」

 

「……………フッ。良いんじゃないか?それでこそ千束だ」

 

漸くいつもの調子に戻った千束にそう答えながら壮馬は普通の銃弾の入った弾倉をしまう。

 

「にしても、もう夕方かぁ……………楽しい時間って過ぎるのが早いよね~」

 

「…………そうだな」

 

無意識に壮馬も何だかんだで楽しかったと感じていたようだ。千束の言葉に納得している自分がいたからだ。

 

「ねぇ、壮馬。もしかして、私を励ます為に誘ってくれたの?」

 

「…………いつもうるさい奴が静かだと、どうも違和感しかないからな。さっさといつもの調子に戻って貰いたかっただけだ」

 

「もー、素直じゃないなー…………………ありがとね」

 

短くお礼を言うと千束は立ち上がる。

 

「さっ、リコリコに帰ろー!皆にお土産渡さないとね!」

 

「はいはい」

 

完全に復調した千束に着いて行く壮馬。その顔に浮かんでいた笑みは『ゼロ』としてだったのか、ただの『壮馬』としてだったのかは誰にも分からない。

 

to be continued………………




裏設定

クルミと同じく、壮馬はDAにはその存在を知らされていません。リコリコの面々にそうしないように頼んでるので。条件は『たまにリコリコの仕事を手伝う』です。リコリコの面子には『サイバー方面での行動をクルミが担当し、現実世界での行動を壮馬が担当する事で色んな仕事をこなしてきた』と言う風に伝えていて、そう認識されている。



人を殺す事で救世主と呼ばれるようになったゼロと、人を生かす事で救世主を目指す千束。どこか対称的な2人ですねー。

壮馬が言っていた、人を殺す事で負の連鎖が~について。壮馬は勿論、そこら辺の負の連鎖を背負う覚悟は出来ています。『覚悟は良いか?俺は出来てる』ってわけです。

ちなみに、ジョジョで好きなのは第4部です。

あと、リコリコが舞台化するってマジ?……………………てか、アニメは?アニメ続編の報せはまだなん?あくしろよ(せっかち)


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STAGE16 "Orange"(前編)

タイトル見てピンときた人。

コードギアス見た事あるんですねぇ(確信)


「さぁ、司令部よ。私に殺せと命令してみるが良い。やれるものならばな」

 

『っ………………』

 

モニターに映るゼロの言葉に指令室にいる楠木は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

どうしてこのような状況になったのか。その経緯を説明するには、昨日まで時間を戻す必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで閉店ボドゲ会スタート!」

 

「じゃ、俺は帰るぞ」

 

「待て待て待てーい!」

 

壮馬が帰ろうとするが千束に服を掴まれて止められる。

 

「なーんでこの流れで帰ろうとするの!ほら、壮馬も参加!」

 

「いや、そんなに暇じゃないんだが」

 

壮馬はDAを潰す為の作戦の仕込みを東京を含めた関東近辺にて慎重に行っており、マジで暇ではない。

 

「なら、こういうのはどう?壮馬が勝った回数に応じて先生のコーヒーの半額券をあげちゃう!」

 

「…………………言ったな?その言葉、後悔させてやろう」

 

誘いに乗った壮馬はクルミの隣に座る。

 

「悪いが、コーヒー半額が掛かってるんでね、今日は全員俺に負けて帰って貰おう」

 

「おいおい、ボクがいるのを忘れたか?そう簡単に勝たせられるとでも思うなよ?」

 

「ハッ、俺にチェスで負けた回数が多い奴に言われても説得力がないな?」

 

「256勝254敗だ。たった2回程度の差でよく大口叩けるな~?」

 

クルミと壮馬の間でバチバチ散る。他の参加者が若干蚊帳の外である。一方、千束はレジ閉めを行っているたきなにも声を掛ける。

 

「ねーえー。たきなも一緒にやろうよー。レジ閉めなら私も手伝うからー」

 

「もう終わりました。レジ誤差ゼロ。ズレなしです」

 

「はやー」

 

まだ働き始めて数か月程度なのだが、もはや新人レベル以上の仕事をしている。

 

「ってことはもう暇でしょ」

 

「たきなちゃーん。ほらおいでよ。こっちこっち」

 

「どうだたきな?」

 

たきなもボードゲームの輪に入れようと声をかけ始める。

 

「いえ、結構です」

 

が、たきなは誘いに乗らない。目もくれること無く店の奥へと消えて行く。俗に言う塩対応と言う奴である。

 

「おじさん多すぎなのかなぁ」

 

「お年頃なんだから、恥ずかしいのよ」

 

「店で遊ぶ方がおかしいんだけどね」

 

「全くだ。締め切りから現実逃避するわ、職務中の刑事がボードゲームするとか正気じゃないな」

 

「良いのよ。締め切りは明日の私が解決してくれるから」

 

「そうそう、今は仕事の話はよしましょう」

 

「やれやれ。…………………さぁ、ゲームを始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉ!何でこのボクが壮馬に今日は1回も勝てないんだ!」

 

「もー、また負けたー!」

 

クルミと千束がカードをまき散らしながら座敷に倒れ込むのを見て、他の参加者達は面白おかしく笑う。コーヒーの半額が掛かった壮馬は本気モードで全員を倒しに来ている。心理学を齧り、観察眼も優れている壮馬の勝ちが突き抜けているのもある意味必然か。

 

「いやぁ、壮馬君は本当に強いねぇ。何かコツとかあるのかい?」

 

「観察眼に優れているのと皆さんの反応が分かりやすいんですよ、阿部さん。特に千束なんか本当に雑魚です」

 

「むぅー!もう1回!今度こそ勝ってやるー!」

 

千束が頬を膨らませていると、壮馬の携帯に着信が入る。相手はカレンからだった。

 

「悪い、電話だ。次のゲームは俺抜きでやっていてくれ」

 

「あー、逃げた! ひきょーものー!」

 

背後からのリコリスの声をガン無視して喫茶店の外に出ると、少し離れた人気のない場所で壮馬は電話に出る。

 

『やー、壮馬君。例のアレ、作り終わったよん』

 

「そうか。流石だな」

 

『まぁね。ただ、今回は1号機(・・・)みたく自爆させないでよー?自爆させたら、君の全財産をう〇い棒に変換するからね!』

 

「分かった分かった」

 

カレンならマジでやりかねないので、壮馬は素直に返事をしておく。

 

『にしても、DAの本拠地に行くと聞いた時はびっくりしたよ。計画通り本当にうまく行くの?』

 

「さぁな。恐らく成功すると俺は踏んでいるが。思っていた以上に今のDAはちょろいからな。うまく行けば、本命のプランの実行がしやすくなる」

 

『まっ、私も明日楽しみに見てるよ。DAは気付けるのかな~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、楠木に復帰を嘆願したいたきなも連れてライセンスの更新へ山奥へ向かう千束は電車に揺れていた。

 

「なーんで山奥にあるんだか………………楠木さんに何て言うか考えてあるの?」

 

「今考えてます」

 

「そっか。あ、たきな飴いる?」

 

「結構です」

 

鬼のような速さで断るたきな。千束でなければ見逃してしまうだろう(大嘘)

 

「これから健康診断ですよ」

 

「1個だけだからいいの~」

 

「糖分の摂取は血糖・中性脂肪・肝機能他の数値に影響を与えます」

 

「………………は~い」

 

渋々と言った表情で千束は飴をしまう。そうこうしてる内に降りる駅に到着。改札を出ると、傘を差したDAの職員が待っていた。

 

「お待ちしておりました錦木様。井ノ上様。こちらへ」

 

千束とたきなは車に乗り込むと、すぐに車が発進する。そのまま暫く車に揺られていると、職員が身に付けている通信機から声がする。職員は短く返答すると、後ろの2人に気の引き締まった声を掛ける。

 

「お2人は本日は武器を持ってきていますか?」

 

「まぁ、持ってますけど…………?」

 

「勿論です」

 

「では、武器の準備をしておいて下さい」

 

「何かあったんですか?」

 

たきなの問いに職員は冷静に答える。

 

「………ゼロから先程連絡が入ったそうです。あと15分後に1人で本部を訪ねると」

 

「ゼロが!?」

 

「なーに企んでるんだろうねぇ」

 

驚くたきなと対称的に千束の方は冷静だった。

 

「まさか、本部を襲撃………………!?」

 

「それは無いよ。本部にはリコリスが沢山いる。流石にゼロ1人だと勝ち目薄いだろうし、そんな自殺行為をするとは思えない」

 

「じゃあ、何を企んでしょうか?」

 

「私に言われても分かんないよ。どちらにせよ、もうすぐ会えるんだからすぐ分かるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本部のエントランスに到着すると、既にリコリスらが周辺に配備されていた。その中には見知った顔もあった。

 

「お~、フキじゃん。久しぶりだねー」

 

「……………世間話なら後にしろ。もうすぐゼロが指定した時刻だ」

 

「はいはい」

 

フキは千束の後ろにいたたきなをチラリと見るが、何も言わずに目線を外すと銃を構える。

 

「楠木さんは?」

 

「指令室で指揮を執っている」

 

「じゃ、後で指令室に行けば会えるかもね?」

 

千束はたきなの方を向きながらそう言うが、たきなは集中しているのか何も言わない…………………と、思いきやすぐに口を開く。

 

「千束さん。ゼロを殺せば成果になりますか?」

 

「…………あー…………なるかならないかで答えれば、なるんじゃない?」

 

「…………………」

 

それを聞いたたきなは殺る気満々に切り替わる。殺気立つたきなに千束も声を掛けるのを一瞬躊躇している間に、遠くからエンジン音が聞こえてくる。

 

「………………来たか」

 

フキの呟きは当たりだった。スポーツカーがリコリスらの視界に入って来たかと思えば、彼女らの前で停まる。中から出てきたのがゼロなのは言うまでもない。

 

「っ…………………!」

 

たきなは銃の引き金を引こうとするが、それを見越したかのようにゼロの仮面が開く。仮面の中にはあるはずの素顔がなかった。

 

『申し訳ないが、私はここにはいない。故に発砲は無意味だが?』

 

「また機械か……………」

 

『誰かと思えば、あの時のリコリスか。これで会うのは3度目か。空港の時は私の掌で踊ってくれた事を礼を言うよ』

 

皮肉の含んだお礼にフキは青筋を立てるが、冷静さは残っているのか引き金を引こうとしない。

 

『さて…………聞こえているだろうか司令官。申し訳ないが、勝手に入らせてもらった。何せ、ゲートが開いていたものでね』

 

『強引に壊して入って来ていて良く言う。それで、何の用だ?』

 

『善は急げだ。手短に用件を言おう。……………………今後一切、私の日本での行動に対して一切干渉しないでいただきたい』

 

「なっ………………」

 

突拍子もない事を言い出すゼロ。予想外の言葉にたきなも言葉を失う。

 

『何を言うかと思えば、我々に国際指名手配されているテロリストを殺さずに全ての行動を見過ごせとでも?』

 

『そうだ。物分かりの良い司令官で助かるよ』

 

『その要求を呑むと本当に思っているのか?』

 

『ああ』

 

ゼロの確信を込めた言葉に、楠木は失笑する。

 

『馬鹿げている。貴様からの連絡を受けてわざわざ会議を中断して来たが、これ以上お前の戯言に付き合ってるほど我々も暇じゃない。………………全員、構えろ』

 

その命令を受けたリコリスらは全方位から銃をゼロに向けて構える。ちなみに、千束も今回は相手が機械なので構えている。そして、発砲命令を出そうとしたその時だった。

 

ゼロはただ、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『良いのか?公表するぞ、オレンジ(・・・・)を』

 

to be continued………………




キリの良い所で切る作者です。

そういや、クルミって今日が誕生日らしいですね。日付が変わる直前にはなりましたが、おめでとう!



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STAGE17 "Orange"(後編)

オレンジと言えば、最近みかんが美味すぎてやめられない止まらない状態です。かっぱえびせんじゃないのに。


指令室

 

「……………オレンジ?聞いたことあるか?」

 

「いえ…………………」

 

楠木は隣の秘書に聞くが、秘書も心当たりがない模様。

 

『要求に応じない、もしくはDAの差し金で私が死んだ場合に公開される事になっている。そうされたくなければ、私の要求に従うのが賢明だと思うが…………………やはり、君たち程度では存在すら知らされていないようだな。そう言うと思って、既に私が手配しておいた』

 

そう言うと同時に職員の1人が声をあげる。

 

「司令!本部から緊急の通信です」

 

「………………繋げ」

 

楠木がそう言うと同時にモニターには上層部の虎杖が映る。

 

『……………楠木君。この通信はリコリスらには聞かれていないかね?』

 

「ええ。この通信を聞いているのは司令部にいる私達だけです」

 

『そうか。そちらの状況は把握している。………ゼロは何を要求している?』

 

「今後一切、我々が奴の命を狙う事なく、全ての行動に関与するなとの事です」

 

『…………………ならば、そのゼロの要求に従いたまえ』

 

「なっ…………………」

 

楠木も流石に驚きを隠せなかった。当然であろう、テロリストの要求に応じろ…………………つまり、国の治安維持機関が1人のテロリストに屈しろと言っているのも同然なのだから。

 

『……………奴は日本が管理している最重要機密情報『オレンジ』と言うコードネームのファイルを持っている。先程私宛に奴から送られてきたが、間違いなく本物だ。そのファイルには、世界中の犯罪組織等に諜報部員として潜入している者たちの情報が載っている。もし、奴がファイルを世界中に無差別に公開すれば、世界中の諜報部員が消される事になるだけではない。世界中の諜報部員を死なす要因を作ったとして、世界中から日本の信用が地に堕ちる事になる』

 

「っ………………何故そのようなファイルが奴の手に渡っているのですか?」

 

『上層部でもその存在を知っているのは私しかいないと言うのに、何故奴がその存在を知っているのかは不明だ。こちらでも調査を進めるが、今は奴の要求に従う他ない』

 

そしてもう1つ、と虎杖は続ける。

 

『今後も私を含んだ上層部の面々からゼロに関する事で催促がある事を念頭に置いておいてくれたまえ。ゼロへの不干渉が上層部全体に伝われば、ゼロに何らかの弱みを握られている事を推測され、『オレンジ』の存在に辿り着かれてしまう可能性が万が一にも存在するからだ。ゼロへの不干渉は君達と私しか知らない事とする。その催促を表向きでは受けてもらうが、実際にはゼロに対しては何も行わなくて良い。不干渉がバレないようにやり過ごしてくれたまえ』

 

「……………分かりました」

 

要するに、『DAがゼロに屈している事がバレると『オレンジ』に辿り着かれる可能性が万が一にもあるから、ゼロへの不干渉は上層部では虎杖しか知らない事にする。今後も『オレンジ』の存在を知らない上層部の面々達からも詰められるけど、ゼロへの不干渉がバレないように振る舞え』と言う事である。

 

『今後オレンジ関連で進展があり、ゼロへの抹殺許可を出す場合は私の方から暗号化された通信で連絡を入れる。外部への情報漏洩のリスクを限りなくゼロにする為にも、君達の方からオレンジについての言及をしてくる事はないように。なお、『オレンジ』の内容やその存在を外部に漏洩させた場合、私も含めたこの場の全員の死が確定にすると考えて貰って構わない。DAにいたいのなら、その事を肝に銘じておくように』

 

「………………了解しました」

 

楠木がそう返事すると同時に、通信は終了すした。

 

『そろそろ通信も終わった頃だろう。さぁ、司令部よ。私に殺せと命令してみるが良い。やれるものならばな』

 

楠木は歯を食い縛る音で応えるが、すぐに息を吐くとリコリスらに対して通信を繋げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………全員、銃を降ろせ』

 

「司令!?」

 

『これは命令だ。全員、銃を降ろせ』

 

その命令に驚くフキに楠木は命令を繰り返す。リコリスらからは驚愕の声が上がり、打って変わって場がざわつき始める。当然であろう、先程までは銃を構えるように命令していたいのにも関わらず、今の命令はそれとは真逆の事だったのだから。

 

『………………良いだろう、ゼロ。貴様の要求を呑もう。今後一切、我々から貴様の命を狙う事なく、そして一切の行動に感知しない』

 

楠木がそう言うと同時に、ゼロが乗って来ていたスポーツカーの後部のトランクが開く。そこから出てきたのはゼロ。だが、目の前に立つ機械とは違って今回は中身が入っているのはほぼ確実だろう。

 

「ありがとう、DAの諸君。これで条件は全てクリアされた。用は済んだから退散、と言いたいところだが…………………………わざわざここに来るまでずっとトランクの中にいたものでね。折角の機会だ、私を客人としてここで休憩させて貰いたいのだが?」

 

『………………良いだろう』

 

ゼロは頼むような口調で言ってはいるが、現時点でDAにはゼロの要求を呑む他に選択肢はなかった。断っても『オレンジ』の存在をちらつかされるだけなのだから。

 

「私はここで何か武力行使や君達の情報を盗み出したりするつもりはないが、そうは言っても信じはしないだろう。そうだな……………そこのお前」

 

ゼロが指を指す先にいたのは千束とたきなだった。

 

「えーっと………………どっちの事?」

 

「そこの黒髪の方だ。確か井ノ上たきなだったな?そこの彼女を私の監視役に付ける、と言うのでどうだ?」

 

『………………たきな。ゼロの監視役に付け。私は会議に戻るが、奴の行動は逐一指令室に報告しろ』

 

「………………分かり、ました」

 

たきながそう了承すると、他のリコリスらは解散を命じられて本部の中へと戻って行く。その場に残ったのは千束とたきなの2人だけであった。

 

「………………これで2回もDAを出し抜いたって感じなのかな、ゼロ?」

 

「そうだな。………………それで、お前は何か用か?」

 

「あ、バレた?」

 

「何か言いたそうな表情をしていたからな」

 

「…………………この前の答えなんだけど」

 

そう切り出すと、千束はゼロの仮面をしっかりと見据える。仮面の中の壮馬も彼女の目をしっかりと見る。

 

「私はこれからも今までのやり方を貫く。今まで貫いてきた信念が正しいと信じてるから。それに、私が守りたいものは絶対に奪わせはしない。…………………それが私の答え」

 

「…………………………」

 

それを聞いたゼロは黙っていたが、すぐにフッと笑う。

 

「…………………芯がない奴だと思っていたが、どうやら私の思い違いだったようだな。あの時の言葉は訂正するとしよう。お前は強い奴だ」

 

「でしょ?…………………じゃあ、たきな。終わったら迎えに来るね」

 

「は、はい」

 

そう言うと千束は荷物を持ってエントランスの方へ入って行く。遂にたきなはゼロと2人きりになってしまう。

 

「(司令と話をしに来ただけなのに、どうしてこんな事に…………しかも、テロリストと2人きりなんて気まずい以外に言葉が見当たりません………)」

 

「(そう言えば、たきなとはまだ殆ど話したことがなかったな。千束と違って積極的に話しかけても来ないしな……………………………一応顔見知りだから指名したんだが、少々気まずいな…………………)」

 

互いに同じ事を考えているたきなと壮馬だったのだが、2人は知る由もないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前の夜のリコリコにて

 

「…………………と言う訳で、カレンの準備が整い次第『オレンジ・プロトコル』を決行する」

 

リコリコの座敷で向かい合っていた座っていたクルミに対して壮馬はそう告げた。

 

「………………DAに上層部からの通信であるように思わせてフェイク映像を流し、DAに存在しない架空の最重要機密情報ファイル『オレンジ』の存在がゼロに渡っていると信じ込ませ、ゼロへの干渉を封じる作戦だったな。…………………壮馬からの情報を基に虎杖の顔や声を違和感なく完璧に再現した映像を何パターンも作るのが大変だった記憶が蘇ってきた」

 

「忘れていたかったか?」

 

「ああ、2度と思い出したくは無かったよ」

 

製作期間は実に1年以上。あまりのダルさに製作を主に担当したクルミは『お金を貰っても二度とやりたくない』とまで言っている。

 

「DAの司令は今後上層部からの催促を表面上は了承しつつもスルーし、何も知らない上層部はゼロを見つけ出せないDAに対してギャーギャー言い続ける訳だ。だが、いつかバレたりしないものなのか?」

 

「さぁな。俺は最後まで騙せると予想しているが、仮にバレるとしても気づくのには恐らく2、3ヶ月は掛かるだろう。それだけの期間で干渉が無ければ作業がだいぶ進むから上々だ」

 

「……………ま、確かにDAがすぐに気付けるビジョンが浮かばないのには同意だな」

 

両者ともにディスられるDA。まぁ、この高スペックな2人が相手ならディスられても仕方がない気はするが。

 

「……………そう言えば、この前千束と出かけて上手く行ったようで良かったな」

 

「ん?ああ、そうだな。クルミが提案してくれたお陰で千束からの信頼度もだいぶ高まったしな。使える場面があれば使わせて貰うとしよう」

 

「………まぁ、別に上手く行くぶんには良いんだが……………………仲良くしてるのを見てたら普通に妬けるんだよな……………

 

「何か言ったか?」

 

「……………いや、何でもない」

 

クルミの小さな嫉妬の声は壮馬には届いていなかったようだ。ラブコメで言う難聴系主人公かよ

 

「じゃ、俺は帰るぞ。色々とやる事が多くて普通に眠いしな。じゃ、またな」

 

「……………ああ」

 

壮馬は玄関からではなく、窓から飛び出して出て行く。

 

「……………ここで過ごす時間が嫌と言う訳じゃない。けど、壮馬と2人で話したりする時間は前よりも減ったのは何と言うか……………………普通に寂しいな………………」

 

そう呟きながらクルミは壮馬が飛び出して行った窓を閉めるのだった。

 

to be continued………………




オレンジ………………DAの司令部は本編でも描写した通り上層部でも虎杖しか知らない超重要な機密ファイルだと思い込んでいるが、実際は存在しない架空のファイル。クルミによって上層部の虎杖からの通信と思い込ませた様々な状況を想定して作成した録画映像を司令部に流し、ゼロがオレンジを所持していると信じ込ませて干渉を封じさせた。描写した通り、今後DAは上層部からのゼロの催促を表面上は『はいはい(意訳)』と流し、何も知らない上層部はゼロに関してギャーギャー文句を言い続け、両者の間ですれ違いが続く事になる。加えて、上層部から司令側からオレンジについて言及する事が禁じられている(とDA側は思っている)ので、騙された事に気付く可能性は低いとゼロは考えている。

このオレンジのトリックと言うかバレないようにするにはどうすれば良いのかを考えるのに苦労した。複雑に感じたら申し訳ない。もっと簡単なロジックを思いつく人がいたら教えて下さい。そっちの方が良いなと思ったら修正するんで(プライドゼロ)



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STAGE18 Determination is her weapon.

タイトル和訳 決断力が彼女の武器


2人きりになって気まずい雰囲気が暫く続いた後、流石にいつまでもエントランスにいる訳にも行かず、たきなはゼロをDAの本部の中へと招き入れていた。ゲートにて承認を終えたたきなは金属探知のゲートを通り抜けようとしていたゼロを見る。ゼロは金属探知のゲートを潜り抜けるが、金属類を所持している事を示す音は鳴らなかった。

 

「………………丸腰で来たんですか?」

 

「ああ。必要ないだろう?」

 

「それは…………………確かに」

 

今のゼロにDAは干渉できない。故に、リコリスに襲われる心配もない。まぁ、襲われてもゼロなら丸腰でもなんとかしそうではあるが、とたきなは考える。

 

「さて…………………たきなと言ったか。君はここで暮らしていたのだろう?」

 

「……………はい。私は半年前に京都から転属して来たので」

 

「それで、私も介入したこの前の銃取引での独断行動で島流しにでもされたと言う訳か」

 

「……………何でも知ってるんですね。あなたの凄さは身に染みているので、今更そこまでの驚きはないですが」

 

「そうか」

 

どうやらゼロの凄まじさをこの数ヶ月で体感したせいか、たきなは自分の転属を知っていても特に驚かなくなっているようだ。

 

「君は以前から私の存在は知っていたか?」

 

「リコリスの殆どは知っていると思います。あなたが表舞台に姿を現したニューヨークでのホテルジャックでの事件は日本でも大々的に報道されていたので」

 

「やはりか。人質の中に有名な日本の政治家もいたから当然と言えば当然か。だがまぁ、そいつは帰国後にスキャンダルが発覚して政治家を辞める事になったらしいが」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。奴にとってはあの場で死んでいた方がある意味では幸福だったかもしれないな」

 

そんな会話を繰り広げながら2人は歩いていると、背後から声が聞こえてくる。

 

「ほらあれ! 味方殺しの」

 

「DAから追い出されたんでしょ?」

 

「組んだ子みんな病院送りにするんだって。恐ろしっ」

 

どうやらDA内部でもたきなは噂になっているらしい。ゼロが隣にいる事が要因なのか、陰でこそこそ言っているのが壮馬にとっては少し腹立たしい。壮馬は仮面越しにたきなをチラリと見る。今にも泣き出してしまいそうなほどに、壮馬には彼女の姿が弱々しく見えていた。前髪に隠れてどんな表情を浮かべているのかは分からにが、その下に何が隠れているのかを想像するのは容易かった。

 

「(ただ、この状況を作った要因の1つが彼女の隣にいる俺と言うのが何とも複雑と言うか…………………)」

 

複雑な胸中を抱えたまま歩いていると、2人は広場のような場所に着く。

 

「…………噴水か。ちょっとしたスポットか?」

 

「そんな所です。私も含めてリコリスの多くはここに来るのが好きです。この本部の寮の象徴的なスポットですから」

 

「なるほど」

 

「この寮で暮らすことはDAに拾われた私達みんなの憧れです。……………だから、私は何としてもここへ戻りたい…………」

 

「……………………」

 

壮馬にとってこの噴水などただのオブジェクトだ。だが、たきなを含めたリコリス達にとってはそうではない。憧れの場所の象徴なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も廊下を歩いてると、突然ゼロが立ち止まる。

 

「たきなよ。ここに自販機はるのか?」

 

「え?ええ、ありますが………………」

 

「では、申し訳ないが飲み物を2つ程持ってきて貰えないだろうか?私はここで待っているとしよう」

 

「…………………分かりました」

 

使い走りにされている事に不満がない訳ではないが、あくまで今のゼロは『客人』である。無下にする訳にもいかない為、たきなは小走りで自販機のある場所へと行く。その後ろ姿をゼロは黙って見つめていたが、すぐに後ろを振り向く。

 

「……………暗殺者のリコリスにしては尾行が下手だな。いい加減出てきたらどうだ?」

 

ゼロがそう促すと、曲がり角にいたリコリスの少女が姿を現す。

 

「あ……………あの…………………」

 

「(……こいつ、どこかで見覚えが…………………………)」

 

記憶を辿るとすぐにピンと来た。銃取引の時に見た顔だった。

 

「………………あの銃取引に武器商人に人質になっていたリコリスか」

 

「は、はい。エリカって言います…………」

 

エリカと名乗った少女はそう言うとペコリとお辞儀する。

 

「それで?私に何か用でも?」

 

「え、えっと………その…………………どうして、あの時私を助けようとしたんですか?」

 

「死にたがっていたのに余計な事をしてくれたと?」

 

「いえっ、そうじゃないです!………………むしろ助けようとしてくれたのには感謝してると言うか…………ただ、その…………空港の時にも殺そうとした相手をどうして助けようとしたのか、って…………………………」

 

どうやらその言葉に嘘はないように思えた。ついさっきまでとは言え、敵対者のテロリストに感謝してるのもどうなのかと思う所は無い訳ではなかったが、取りあえずはその質問に答える事にした。

 

「……………………簡単な話だ。お前達は(・・・・)倒すべき敵ではない。ただ、それだけだ」

 

「………………?」

 

良く分かってなさそうだったが、ゼロはそんな様子を気にも留めずに話を切り出す。

 

「………………たきなにも話があるのではないのか?」

 

「えっ………どうして分かったんですか?」

 

「さぁ、どうしてだろうな。…………何故すぐに話し掛けない?」

 

「その………………話を切り出しづらくて」

 

「彼女に殺されそうになったからか?」

 

「違うんです! いえ、確かにそうなんですけど…………………本当はそうじゃないんです!」

 

敢えて鎌を掛けると、見立て通りの反応を見せてくれた。

 

「たきなが異動になったのは、私が捕まったせいで……………本当はたきなは悪くないのに……………………」

 

「ああ。確かにお前が捕まらなければ、彼女は今もここにいただろう」

 

「うぅ…………………」

 

全く以て慈悲の欠片もないゼロの言葉にエリカは増々申し訳なさそうな表情を浮かべる。少しは女の子には優しくしろ

 

「だが、今更後悔しても過去は覆らない。だが、今ならまだ間に合うぞ」

 

「え…………………?」

 

「何も言えなければお前はまたそれを後悔するだろう。だが、今踏み出せばそうはならない、と言っている」

 

ゼロは身体をどかし、彼女からは見えなかった通路の先を見えるようにする。そこには飲み物を両手に持っているたきなの姿があった。

 

「………………飲み物です」

 

「感謝する。だが、飲み物は2人で飲むが良い。………………さぁ、お膳立てはした。お前はどうする?」

 

ゼロがそう問うと一歩後ろに下がる。

 

「……………………」

 

「え、えっと………」

 

たきなは何も言わずに見つめる。ここで千束がいればもっとコミュニケーションが円滑なのだろうが、生憎彼女は不在である。まだ落ち着かない様子だったが、エリカはたどたどしく話そうとする。

 

「た、たきな…………………その、私」

 

「おー!聞いた通り、本当にいるんすねー!」

 

エリカの言葉を遮るように、たきなの後ろから陽気な声が一つ。陽気と言っても千束とは違うベクトルのものだったが。

 

「へぇー、これがゼロっすか。あーしはついさっきここに戻って来たんで、何があったかは他のリコリスから聞いたんすけどマジで普通にいるんすねー。一体どういう手品を使ったんすか?」

 

「…………………悪いが、手品の種は明かさない主義だ」

 

ゼロは淡白な口調でそう返すが、陽気な声の少女は特段気にする様子もなく、今度はたきなの方を手を出して握手を求める。

 

「どうも~。乙女サクラっす」

 

「…………………………」

 

どうにも空気の悪い沈黙の後に、たきなはそっと手を差し出す。その手を露骨に掴んだと思えば、彼女の耳元でサクラは囁くように言う。

 

「命令無視した挙句仲間にブッ放したって本当っすか~?」

 

たきなの舌打ちと伴に、その手は強引に振り払われるがサクラは気にする様子もなく続ける。

 

「へぇ、やっぱマジなんすね」

 

「違う、私は………………」

 

「やっぱ敵より味方撃つより燃える~、みたいな?」

 

「やめてください」

 

「おっとおっかない。撃たないでくださいよ~」

 

「さ、サクラ………たきなは……」

 

宥めるような口調だが、実際は火に油を注いでいるようなものである。エリカも止めようと小さく声を掛けるが、聞こえてないのかもしくは無視しているのかサクラは見向きもしない。壮馬はこういうタイプの人間は苦手と言うより純粋に嫌いである。現に、仮面の中で壮馬の気分は確実に害されていた。とは言え、DA内の問題なので首を突っ込む気はなく、早く消えて欲しいと願う壮馬だが、残念ながらサクラの口撃はまだ終わらない。

 

「あ、あと殺しの時しか笑わないんだって?」

 

「誰がそんな嘘を……………」

 

「いやー、あーしは好きっすよ?映画の殺人鬼みたいでかっこいいっす!あははは!…………まぁ安心してくださいよ。先輩が抜けた穴は、後任の私がしっかり埋めますから」

 

「……………後任?」

 

「あれ?聞いてなかったっすか?自分がこれからフキさんのパートナーを務めるっす」

 

そして、決定的な宣言をサクラはたきなに叩きつけた。

 

「あんたの席はもうないっすよ」

 

それを聞いたもたきなは表情を変化させなかった。表面上には出さなかっただけ、かもしれないが。サクラはまだ口撃を続けようとするが、そんな彼女の奥襟が捕まれて身体をグイっと引っ張られる。

 

「ちょっと、黙れ小僧」

 

「あんた誰っすかあんた?」

 

「そいつが千束だ」

 

ファーストリコリス相手でもふてぶてしい態度を崩さなかったサクラの疑問に答えたのはライセンスの更新が終わったばかりのフキだった。

 

「フキ先輩~!おっ!司令まで。にしても、これが噂の電波塔のリコリスっすか」

 

「これって言うなぁ~!」

 

「いやただのアホだ」

 

「(……電波塔のリコリス……………………そうか。大方、電波塔をへし折ったテロリストを片付けたのが千束と言う訳か。不殺主義の彼女の事だ。もしかしたらそのテロリストもまだ生きているかもしれないな)」

 

そんな事を考えていると、たきなが千束達をかき分けて楠木の前に立つ。

 

「司令!私は銃取引の新情報となる写真を獲得し、提出しました!この成果ではまだDAに復帰できませんか!?」

 

たきなは必死に訴えかける。彼女に瞳に不安や焦りが入り混じっているのが一目瞭然。ここまで感情的なたきなを見るのはこの場の全員が初めてだった。

 

「……………復帰?」

 

「成果を上げれば私はDAに…………………」

 

「そんなことを言った覚えはない」

 

楠木は無慈悲に─────本人にその気が無くとも─────たきなの希望を打ち砕いた。

 

「楠木さん!」

 

「………………そんな」

 

千束の大きな声と、たきなの小さな声が対照的だった。

 

「諦めろって言われてんのまだわからないんすかぁ~?」

 

「おい!」

 

「お~こっわ。さすが電波塔のヒーロー様。噂通り迫力ありますね~」

 

サクラは僅かに肩が震えているたきなに追い打ちを掛ける。千束が咎めるように声を挙げるが、サクラは何とも思っていないようだ。

 

「サクラ。訓練の時間だ行くぞ」

 

「残念、もっと話したかったのに~」

 

すると、サクラを連れて去ろうとしたフキの腕をたきなが掴む。とっさに掴んだ腕をフキは乱暴に振り払う。

 

「んだよ」

 

「…………すみません」

 

「あの時ブン殴られたので理解してなかったのか? だったら言葉にしてやる。お前はもうDAに必要ないんだよ」

 

かつての相棒から放たれたのはとどめ刺すような言葉だった。いい加減壮馬はこの居心地の悪い空間にうんざりしていた。DAの本部が変わったりしてないのか、この目で見ておきたいのもあったのだが、もう帰ろうかと本気で検討していた。

 

「やめろフキ!」

 

「まだ理解できないか?なら今から模擬戦でブチのめしてわからせてやるよ」

 

「おーおーおーいいじゃん。たきな、やろう!」

 

「離せよ」

 

「ああごめん」

 

「…………同じファーストリコリス同士、随分と仲が良いな」

 

「「よくない(ねぇ)!」」

 

「(ああ、これは確定だな)」

 

壮馬からすれば先程のやり取りもある種の喧嘩友達のようなものに感じていた。そう思って、何気なくそう呟いたのだが本人達は揃って全力否定。やっぱ仲良しだろこいつら、と壮馬は心の中で呟く。

 

「いよーっし、2対2で勝負………………あ、たきな!」

 

いよいよ耐え切れなくなったのか、たきなは通路の奥へと走り去ってしまった。当然と言えば当然だろう。彼女の心は完膚なきまでに叩きのめされたのだから。

 

「あはははは!逃げやがったよ!やっぱただの腰抜けっすね~!」

 

「ちょっと!あんたね─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────いい加減、壮馬の堪忍袋の緒が切れた。100%の善意で話し掛けるのに躊躇しているエリカとたきなを良い感じに引き合わせようとしたのにも関わらず、それをサクラに邪魔されたあげく、その煽りを聞いているだけで不愉快になり、雰囲気も最悪なものにされた。

 

「(良いだろう。生意気なクソガキにお仕置きしてやるとするか)」

 

ゼロの履いている靴に仕込まれていた非金属性のナイフが静かに姿を現す。そして、予備動作もなく目にも止まらぬスピードでサクラの首元に突き刺す─────寸前で止めていた。

 

「ッ─────!?」

 

「………………ああ、失礼。うるさい虫(・・・・・)2匹(・・)いたものでね」

 

「………………あ、ほんとだ」

 

ゼロの言う通り、千束がサクラの足元を見ると、小さな虫が絶命していた。恐らく本当に虫だけを仕留めたのだろう。これが1匹目であり、うるさい虫の2匹目が何なのかは言うまでもない。

 

ゼロが足を降ろすと、腰が抜けたかのサクラはその場にへたり込んでしまう。その顔には驚愕や恐怖が入り混じっているように見えた。

 

「何だ。人の事を腰抜けと言うわりには、その言葉がお似合いなのはお前の方じゃないのか?」

 

「ッ…………………!」

 

先程の彼女がやっていたように、嘲笑うようにそう言うと、司令等の前で醜態を晒された事で睨むサクラの視線を気にも留めず、ゼロは履いていたシューズのホバリングで去って行く。千束も少し呆然としている様子だったが、すぐにゼロの後を追いかけていくのだった。

 

「………………フキ。今の攻撃が見えていたか?」

 

「………………いえ」

 

「……………いつか奴を殺す時が来たとしても、今のままではゼロを殺すのは骨が折れる事になりそうだ」

 

「…………………て言うか、誰もあーしの心配はしれくれないんすか………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………………何をやっているんだろうな、俺は)」

 

DA内の通路を進みながら壮馬はそんな事を考えていた。

 

「(たきなや千束はDAのリコリス。停戦中とは言えど敵対者だ。敵の事情など知った事ではないだろうが。たきながここに戻ってこれようがこれまいがゼロには何も関係ない。なら、わざわざ首を突っ込まずに放っておくと言う選択肢を取れば良いものを……………………相変わらず、俺は仲間や知り合いに対して非情になりきれない。だからゼロの仮面を被っていながらも、壮馬として俺はたきなを追いかけている。こんな中途半端な奴が世界中で有名な殺し屋とは、笑ってしまうな。……………………だが)」

 

『非情になりきれないのが弱点なんて言うなよ。それは弱点じゃない──────壮馬の良い所だ』

 

あの日、クルミが言った事を思い出す。それは弱点ではなく、美点であると言ってくれた共犯者の相棒の言葉を。

 

「(…………………信じよう、その言葉を。これが正しい選択であると信じて。そして…………………俺が俺である為に)」

 

通路を抜けると、先程の噴水のある広場へと戻って来た。当のたきなは噴水の前に立っていた。ホバリング機能をオフにすると、ゼロは自身の足でたきなの近くに寄る。

 

「少しは言い返せば良かったものを。黙っているだけとはつまらないな」

 

「…………………どうしてここが?」

 

「予感があった。ここに行くであろうと言う予感がな」

 

「…………………逃げ出した私を笑いにでも来たんですか?」

 

「違うな。間違っているぞ、それは」

 

そう否定するとゼロは改めて口を開く。最も、たきなから口は見えないが。

 

「お前の行動は仲間を救った。だが、それは結果的にそうなっただけであって、お前は仲間の命を危険に晒した。お前の行動はDAからすれば認められないのは至極当然。組織においてそんな厄介者はお払い箱にされて当然だ。それくらい小学生でも考えれば分かる話だが?」

 

「っ……………じゃあ、どうすれば良かったんですか!?本部とも連絡がつかなくなって! あと10秒も猶予がなくて!そんな状況でどうするのが正解だったって言うんですか!?」

 

ゼロに向かってたきなは叫ぶ。普段の様子からは考えられないほどたきなは取り乱していた。その目から今まで抑えていたであろう涙があふれ出す。

 

「あなたに私の気持ちが分かる訳がない!あなたは強くて!DAすら容易く手玉に取れるような頭脳を持っていて!けど、私は!……………私は…………そうじゃない………」

 

最後は消え入るような声で呟くたきな。そんなたきなの言葉をゼロは最後まで黙って受け止めていた。

 

「…………………すみません。全部自分の責任なのに、無関係なあなたに八つ当たりして」

 

「別に構わない。……………………確かに、お前はゼロ…………………私ではない。お前は私よりも弱く、頭脳面でも負けているだろう。だが、そんな事は今回は問題でない。寧ろ、どうでも良い(・・・・・・・)

 

「え……………?」

 

たきなはゼロの仮面を思わず見る。そんなたきなの目を仮面越しで壮馬は捉えつつ、静かに問う。

 

「たきなよ。1つだけ質問だ。お前が凶行を行った際、それは感情に任せて何も考えずに行ったのか?それとも、理由があって自分の意思で引き金を引いたのか?」

 

「それは………………」

 

一瞬だけ口籠るが、すぐにたきなはゼロの仮面を見ながらすぐに答えた。

 

「……………私は自分の意思で引き金を引きました。あの状況下では、あれが一番彼女を助けるのにはあれが1番合理的だと………………助けられる可能性が一番高いと。そうすべきだと思ったからです」

 

「……………………」

 

それを聞いた壮馬は仮面の下で薄く笑う。その答えに満足そうに、笑った。そして言う。

 

「………………ならば、お前は紛れもない強者だな」

 

「………………え?」

 

本部に来てから初めて自信を認める声。敵の言葉だったにも関わらず、たきなは思わず目を丸くしてしまう。

 

「お前は時間に猶予がない状況下でも冷静に現場の状況を分析し、誰から指示されたわけでもなく自分の頭で考え、そして行動した。如何なる状況下でも冷静に物事を決める力、優れた『判断力』がお前の最大の武器だ」

 

「私の……………武器……………………」

 

「絶対に正しい選択をする為にはどうすれば良い?答えは簡単だ。十二分な情報が集まるまで何もしない事だ。しかし、この世界はそんな猶予を与えてくれる程優しいものではない。ならばどうすれば良いか?…………………自分が正しいと思った選択をするのだ。後はその選択をした自分の判断が正しいと信じ、最後まで貫くだけだ」

 

「…………………………」

 

たきなは黙って聞いていた。自分の言葉は伝わったのだろうか。たきなの表情に変化はない。

 

ただ、その瞳には先程まであった涙はもう無かった。

 

「…………………もー、普通に良い事言うじゃん。何か感心しちゃったよー」

 

いつからか聞いていたのか、千束が出て来る。そのままたきなを静かに抱きしめる。

 

「たきな。今は次に進む時。失うことで得られるものもあるって、前に言ったでしょ?それに、たきながあの時ああしなかったら、私はたきなと会えてなかったんだよ?」

 

千束は笑顔のままたきなを持ち上げる。そのままぐるっと噴水の周りを回り出す。

 

「私は君と会えて嬉しい!」

 

「ちょ………ちょっと………………」

 

「嬉しい嬉しい!」

 

野次馬の声が聞こえるがお構いなし。心底嬉しそうな笑みを浮かべる千束と困惑気味のたきなの2人でぐるぐる回る。

 

「(完全に俺が場違いと言うか邪魔と言うか…………………カレンがいたら『百合の間に挟まる邪魔男じゃんw』とか言いそうだな…………………)」

 

壮馬がそんな事を考えている内に、千束はたきなを降ろす。

 

「誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまんないって。たきなに居場所はある。今は私達との時間を試してみない?もし、それでもここがよければ戻ってきたらいい。チャンスは必ず来るよ。ゼロさんもそう思うでしょ?」

 

「………居場所とは誰かから与えられるものではない。自らの手で掴み取るものだ。お前が諦めなければ、いつかやって来るかもしれないチャンスを掴み取れるだろう」

 

「とまぁ、そう言う訳で。もしチャンスが来たら、その時にしたいことを選べばいい」

 

「…したいこと」

 

「そ!私はいつもやりたいこと最優先~。まぁそれで失敗も多いんだけど~……………………今はたきなにひどいこと言ったあいつらをブチのめしたいので、ちょっと行ってきますよ~!」

 

凛とした声でそう宣言すると、千束は去って行く。たきなが来るのを確信しているようだった。

 

「ほう、どうやら面白そうなものが見れそうだ。では、私も行くとしよう」

 

「…………………あの」

 

千束に続いて去ろうとするゼロの背中にたきなが声を掛ける。

 

「………………どうしてわざわざ追いかけて来て励ますと言うか、その…………………アドバイスを私に?」

 

「…………そうするべきべきだと思った。それだけだ」

 

そう答えるとゼロはたきなの方を振り返りもせずに去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、訓練場を上から見下ろせる部屋に入った(無許可)ゼロは楠木と共に模擬戦を見届けた。色々と吹っ切れたのか、途中参戦したたきながフキに10倍返しパンチをお見舞いした時は壮馬もニヤリと笑った。その後、『2度と来るな』的な目線を楠木から感じながら部屋を後にし、そのままDAの本部を車で後にするのだった。中での顛末をカレンに話すと、カレンは面白そうに笑う。

 

「………要は敵に塩を送ってしまったと。ゼロの協力者としての立場から一言いうとすれば……………何やってんのよー」

 

「悪いな、こんな奴に協力して貰って」

 

「ああ、誤解しないでよ。協力者としてはどうかなーって思うのは事実だけど、個人的な感情で言わしてもらえば君のそう言う所は嫌いじゃない。寧ろ、それでこそ壮馬君と言うかゼロって感じかな」

 

「…………そいつはどうも」

 

「……………まぁ、こうして良い事言ったんで…………そのー………」

 

「ん?」

 

カレンは口ごもりながら恐る恐る口にする。

 

「いやー………新兵器作ってたら壁にアジトに穴が10か所くらい穴が開いちゃってさー……………アハハ……………」

 

「…………は?(キレ気味)」

 

あ、ヤバい。これタダでは済まない奴だわぁ…………………………あ、あれちよっと電波が~(棒読み)」

 

カレンとの通話は一方的に打ち切られるのだった。

 

「…………………なるほど。やけに褒めてきたのも、無償で許して貰おうと言う魂胆もあった訳か………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ勿論タダで済むわけないが」

 

to be continued………………




この後、カレンは壁の修繕費15万円のお支払いが決定した。許してもらえる訳ないのはあたりまえだよなぁ?

たきなの『丸腰で来た?』の問いに『そうだよ(大嘘)』で答えるゼロ。やっぱ嘘つくの上手いっすね~。

最近になってぼっち・ざ・ろっくみ始めてるんですけど面白そうやなー、って。皆も見てクレメンス。

では、またー。


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STAGE19 Getting adequate rest is important.

新年あけましておめでとうございます。

新年一発目の話がデートですよ、デート。

なお、作者はデートした事は無い模様。ダメみたいですね……………(諦め)


「聞かせてもらいましょうか!」

 

「どうした急に」

 

休憩がてら壮馬がコーヒーを堪能していると、いきなり千束がミカに問い詰めるようにカウンターに手を置く。

 

「まぁ、どうせ千束の事だから大した事ではないなのだろう」

 

「どうせとは何だ、どうせとはー!聞いて驚かないでよ、実は」

 

千束が話した内容を要約するとこうである。たきなの下着が男用のトランクスであった、との事。それを聞いた壮馬は

 

「…………やはりどうでも良かったな」

 

「ぜーんぜん良くないですー!壮馬は女の子が男性の下着を使ってるのおかしいと思わないの?」

 

「別に。世の中には特殊な性癖な人間もいるだろう。それくらいで騒ぐ事じゃないだろうに」

 

壮馬から特殊な性癖を持ってる認定されかけている当の本人が口を開く。

 

「……………私が特殊な性癖を持ってるような口振りですがそう言う訳ではありません。店の服は支給するから下着だけ持参してくれと店長から言われたのですが、どんな下着がいいかわからなかったので」

 

「だからってなんでトランクスなの、先生~!」

 

「好みを聞かれたからな」

 

「アホかー!」

 

「(…………知りたくもなかったどうでもいい情報ベスト5入りが決まったな)」

 

ちなみに、現在の第1位は『カレンの性癖』である。

 

「これ履いてみると結構開放的で……………」

 

「満更でもない風に言うんじゃなーい!たきな明日12時駅に集合ね」

 

「仕事ですか?」

 

「ちゃうわ!パンツ買いに行くの!あ、制服着てくんなよ~。私服だかね、私服。じゃ、また明日~」

 

そう言うと千束は帰宅。それを見送るとたきなはミカに質問する。

 

「指定の私服はありますか?」

 

「……………………」

 

「……………これは千束に年頃の少女らしい趣味を叩きこんでもらった方が良さそうだな」

 

「…………?」

 

壮馬の呆れ交じりの口調に対し、たきなは疑問符を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

pm11:30

 

「…………………………」

 

作戦の仕込みを行う為にも、壮馬はアジト内でカレン特製の立体ホログラムで映し出されている東京の地図を見つめていた。

 

「おー、頑張ってるねー」

 

そこへ缶コーヒーを手に持ったカレンが入って来る。そのまま投げると壮馬はパシッと受け取る。

 

「なんだ、気が利くな」

 

「まー、この前壁ぶっ壊したから好感度稼ぎでもしようかなと思って」

 

「清々しい位に魂胆丸出しだな」

 

壮馬は缶コーヒーを一口飲むとホログラムを一旦停止させた。

 

「ところで、俺が頼んだ例のスーツの進捗状況は?」

 

「もうすぐ完成。後は壮馬君がテストして貰って細かい微調整をすれば実用段階に入るよ。流石は私の技術力!壮馬君もそう思うでしょ!?」

 

「そうだな」

 

その肯定の言葉に嘘はない。実際カレンの技術力は凄まじい。尊敬に値するレベルである。これで性格がもっと良ければ人間性の面でも尊敬するのだが。

 

「完成したら教えてくれ。しかし、問題はどこでテストをするかだな………………」

 

「日本でテストすればDA側にバレる可能性あるしねぇ。一旦海外に行ってやる?」

 

「それも視野に入れておくか。となれば、作戦の仕込みと並行してテストに最適な場所を探しておかなくてはな。あとは………………」

 

「ふわぁー………………じゃ、私は寝るねー」

 

1人でぶつぶつ考え込み始めた壮馬を普通に放ってカレンは寝室へと戻って行くのだった。

 

「……………やはり町から離れた森林地帯で行うのが最適か。森林地帯なら人に見つかりにくいだろうしな。クルミはどう思」

 

壮馬は最後まで言い切る前に黙り込む。クルミがリコリコに住み始めてから数ヶ月程立つ。いい加減カレンと2人きりの生活にも慣れてきたと本人は思っていたが、やはりそうでもないようだった。

 

「…………長年の癖とでも言うべきか。まぁ、長年と言っても出会ってから4年か。これをもう4年と言うべきか、まだ4年と言うべきか悩む所だな」

 

そう言いながら苦笑していると、壮馬のスマホに着信が入る。その相手はクルミだった。

 

「どうした?何かあったか?」

 

『いいや、こっちは何にもないぞ』

 

「じゃあ何で電話して来た?」

 

『1人で暇だったからな』

 

その理由を聞いた壮馬はまた苦笑する。

 

『何か作業してる最中だったか?』

 

「まぁそんな所だ。にしても奇遇だな。ちょうどクルミの事を考えていた所だった」

 

『!……………ボクも壮馬の事を考えていた。今頃何をしてるのか、ってな』

 

流石は共犯者。考える事は一緒らしい。

 

『…………そう言えば、明日千束とたきなが買い物に行くよな?』

 

「ああ。それがどうした?」

 

『いい加減ボクも体が鈍ってきそうだしな。そこでなんだが、その…………………あ、明日ボクらも外出しないか?』

 

「…………………………」

 

『……………………いや、まぁ壮馬も色々と忙しいだろうし東京は人多すぎて外出するのも疲れるだろうし別に室内にいても運動不足を解消する手段なんて幾らであるだろうから別に無理に言って困らせるつもりは全然ないぞ。嫌なら嫌で言ってくれて構わな』

 

「待て待て待て」

 

何故かマシンガントークを始めるクルミを壮馬は制止する。

 

「良いぞ、分かった。明日外に出掛けるとしよう」

 

『…………良いのか?』

 

了承して貰えると思っていなかったのか、クルミの声色には意外そうな雰囲気が伺えた。それと同時に少し嬉しそうにも聞こえる。

 

「ああ、構わないぞ。どこか行きたい場所はあるのか?」

 

『そうだな…………………それについては明日までには考えておくよ。取り敢えず、明日の11時にリコリコに来てもらって良いか?』

 

「分かった。それじゃ、また明日な」

 

『ああ、また明日。…………あ、それと壮馬』

 

「ん?」

 

『根詰めて無理はするなよ?』

 

「……………ああ、分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。時間ピッタで壮馬はリコリコの前に到着した。そこには既にクルミが待っていた。軽く挨拶すると、2人は一緒に歩き始める。

 

「何だ、既に待っていたのか」

 

「5分前集合は社会人の基本だからな。にしても珍しいな、いつもなら5分前集合をしてるのに(本当は楽しみだったからってのは何か恥ずかしいから言わないでおこう………………)」

 

「……………ま、色々とな。と言うか、お前は社会人じゃないだろ。未だに本当の年齢は言わないが、成人してないのは断言できる」

 

「どうかな?某探偵見たいに見た目は子供、頭脳は大人的な感じかもしれないぞ?」

 

「漫画の読みすぎだな。…………………で、今日は何処に行くんだ?」

 

「先ずは腹ごしらえと行こう。良い時間帯だしな」

 

「(…………俺が奢らされる気しかしない…………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電車で移動する事約40分。クルミが連れてきたのは調布にある老舗のそば屋だった。

 

「意外だな、クルミがそば屋をチョイスとは。にしても、中々歴史がありそうだな」

 

「ここは深大寺そばのお店だ。1735年に出版された『続江戸砂子』では、江戸の名産として『当所の蕎麦は潔白にして、すぐれてかろく好味也』と紹介されているんだ」

 

「相変わらず博識だな」

 

「まぁな」

 

褒められて何処となく上機嫌なクルミ。そこへ注文した蕎麦が運ばれてきた。

 

「確かに、普通の蕎麦とは何かオーラが違うな」

 

「だな。じゃ、さっそく食べるとしようか」

 

割り箸を割り、2人は手を合わせて蕎麦をつゆにつけて啜った。

 

「!………うまいな」

 

「スーパーで売ってる蕎麦とはレベルが違うな。のど越しも滑らかだし、それにつゆも風味が良い。この手打ちの細い蕎麦とは相性抜群だな」

 

「クルミは食レポが上手いな」

 

「ま、ボクは博識だからな(迫真のどや顔)」

 

「(腹立つドヤ顔だな………………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次はあんみつ屋に到着である。

 

「………………さっきたらふく食べてたよな?クルミだけもうワンセット頼んでたのは気のせいか?」

 

「良く言うだろう?デザートは別腹って」

 

そう言いながら宇治抹茶あんみつを頬張るクルミ。流石に壮馬はあんみつを食べる気はしなかったので、冷やしほうじ茶を堪能している。

 

「ちなみに、あんみつは1930年代に銀座で誕生したと言われているが、誰が考案したかについては諸説ありらしい」

 

「へぇ。じゃあ、このほうじ茶の発祥は分かるか?」

 

「金沢だと言われているぞ。江戸末期から明治にかけて主要な輸出品だった」

 

「よくそんな事まで知っているな。日常生活では絶対使わない知識だろうに」

 

「確かにな。けど、たった今使ったろ?」

 

どこか得意げに言うと、クルミは美味しそうにあんみつを頬張る。何とも幸せそうに食べるクルミを見て壮馬も自然と笑みを浮かべながらほうじ茶を堪能するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も浅草をぶらぶらしながら壮馬の何処か呆れた視線を受けながら食べ歩きをしていたクルミは最後の目的地に着いていた。

 

「で、最後は都庁の展望台か。何故ここを選んだ?」

 

「前に壮馬が言ってただろ?よく電波塔から街を眺めていたって。ま、あの電波塔と比べたら景色は見劣りするかもだがな」

 

「いいや、そうでもないさ。相変わらず人がゴミのようだ」

 

「………………絶対言うと思った」

 

そう苦笑しながら景色を眺めていると、ふとクルミは壮馬の方をチラッと見る。壮馬は何も言わず静かに景色を眺めているが、その目に映る街の景色を見て何を思っているのだろうか。そんな事を考えているとクルミは壮馬に問いを掛けていた。

 

「なぁ、壮馬はどうして電波塔によく行っていたんだ?」

 

「どうした急に?」

 

「いや、何となく気になったんだ。壮馬はどういう気持ちで街の景色を眺めていたんだろう、って。まぁ、無理に訊こうとは思わないが」

 

一応予防線を張るクルミだが、壮馬は特に気にすることなくその理由を話し始める。

 

「…………俺の前職はそもそも存在自体が秘匿されているだろう?だから、平和を守る為にどれだけ働いても感謝される事は皆無だ。それもあってか、平和な街の景色を眺めていると何処か感謝されているような感じがしてな。『平和な景色を守ってくれてありがとう』って。ああ、これが俺達が守った世界なんだな、って……………ま、そんな所だ」

 

「じゃあ、今はこの世界はどう見えているんだ?」

 

「…………………………」

 

壮馬は景色の方を目にやりながら少し考え込む様子を見せる。夕日がだんだん沈んでいく中、数分後に壮馬は口を開いた。

 

「…………………そうだな。あの時電波塔から見ていた世界とは違って見える。………………かつて俺にとってはずっと守っていたい世界だった。だが、俺は変わってしまった。もう、あの時のように守りたいものではない」

 

「…………なら、壊したい世界か?」

 

クルミの言葉を聞くと、壮馬は薄く笑いながら言う。

 

「壊す、だけでは50点だな。俺は」

 

夕日に照らされる東京を眺めながら、クルミにだけ聞こえる声で壮馬/ゼロは改めて宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界を壊し…………世界を創る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルミはカフェのテラスの席で頬杖を付きながらボーっとしていた。当の壮馬はカフェでコーヒーを注文している最中である。

 

「(世界を壊し、世界を創る……………………今まで考えた事も無かったが、壮馬が創る世界でボクはどうしているんだ?今まで通り隣にいるのか?それとも…………………)」

 

そんな事を考えていると、背後から冷たいグラスをピタッと当てられた。

 

「ひうっ!?」

 

「何だ、面白い反応をするじゃないか」

 

クルミの反応を楽しんだ壮馬はウーロン茶を差し出すと、当のクルミは少し恥ずかしそうにしながらストローでウーロン茶を飲み始める。

 

「なぁ、壮馬」

 

「うん?」

 

「もし、壮馬が創りたい世界が叶ったら………………」

 

ボク達の関係はそこで終わりか?

 

そう聞こうとするが、言葉が出てこなかった。答えを聞くのが怖くて躊躇してしまったのだ。

 

「……………叶ったら?」

 

「………………叶ったら、何かしたい事はあるか?」

 

どうしても聞くことが出来ず、代わりにクルミはそう質問するのだった。

 

「そうだな………………したいこと、と言われると中々思いつかないな。…………………ただ」

 

「……………ただ?」

 

「クルミとのチェスの決着は付ける。絶対にだ」

 

「………………なんだそりゃ」

 

意外にもスケールの小さい要望にクルミは思わず気が緩んで苦笑してしまう。

 

「どちらが上かははっきりさせておきたいからな。何事も曖昧なままにしておくのが1番嫌いでね」

 

「…………まぁ、確かにボクもそれは嫌だしな。分かった、全て終わったら先ずはケリを付けるとしよう。ま、ボクが勝つけどな」

 

「さぁ、それはどうかな」

 

負ける気がしないと言いたげな表情で壮馬はウーロン茶を味わう。今の壮馬の話で少し気が楽になったのもあってか、クルミは先程は聞くのを躊躇した事を聞いてみる事にした。

 

「………壮馬」

 

「ん?」

 

「もし、全て終わって……………壮馬の叶えたい世界が創られたら……………ボクと壮馬の関係はどうなるんだ?」

 

「……………………」

 

壮馬は黙ってストローでウーロン茶を飲み干す。そして、呆れたような視線をクルミに向ける。

 

「……………先程から少し様子がおかしいと思ったら、そんな事で悩んでたのか?」

 

「そ、そんな事って言い方はないだろ。何だかんだ壮馬との日々も楽しかったし、……………正直、こんな生活が終わってほしくないと思ってる自分もいる」

 

「…………………。クルミ、自分でも分かっているだろうが、共犯者の関係はいつか終わる。俺もいつまでも仮面を被るつもりはないからな」

 

「…………………まぁ、そりゃそうだよな」

 

少し寂しそうに呟くクルミに対してだが、と続けながら壮馬は小さな箱を渡す。

 

「だが、変わらないものもある」

 

「…………………これは?」

 

「開けてみろ」

 

クルミが開けてみると、中にはネックレスが入っていた。何処となくゼロの仮面を思わせるようなネックレスで、紫色のキュービックジルコニア(二酸化ジルコニウムの立方晶の結晶形)が特徴的だった。

 

「今日の事だけじゃなくてこれまでの色々と込みで感謝の印みたいなものだ。そう言えばクルミに何かプレゼントをあげたことはなかったからな。その事をカレンに言ったら『いや、流石にそれは引くわぁ………』なんて言われてな。あのカレンにドン引きされたのは何処か屈辱だが……………クルミは俺が心から尊敬する友達だ。それはずっと変わらない。感謝の印、そして変わらぬ友愛を籠めてのプレゼント、と言う訳だ」

 

「…………………………」

 

「…………………おい、沈黙されると気まずいから何か言ってくれ」

 

「え、あぁ……………うん………………そうか、そう言う事か」

 

「?」

 

何か納得した様子のクルミに壮馬は疑問符を浮かべる。

 

「いや、人からの贈り物は良いものだなって思ったんだ。…………ありがとう。これは普通に嬉しい」

 

心底嬉しそうなクルミはふと何か思いついたのか、椅子を降りて壮馬の前にネックレスを差し出す。

 

「折角だから壮馬がボクに付けてくれないか?」

 

「は?」

 

「こういうのは誰かに付けてもらうのが鉄板のシチュエーションなんだ。ほら、はーやーく!」

 

「あーはいはい、分かった分かった」

 

クルミにせかされて壮馬はネックレスを受け取ると、クルミの首元に手をまわしてネックレスを手際よく付けた。

 

「………………どうだ?似合ってるか?」

 

「勿論」

 

すぐさま肯定されたクルミはますます上機嫌になる。

 

「そうかそうか♪……………まぁ、ボクは可愛い乙女だからな。当然と言えば当然だな」

 

「…………………ハッ!」

 

壮馬は鼻で笑った。それはもう、盛大に鼻で笑った。

 

「おい、何でそこで鼻で笑うんだ!」

 

「自分で自分の事を可愛いと言う奴がいたら鼻で笑うしかないだろう。さ、そろそろ帰るぞ」

 

「あ、逃げるなー!(……………変わるものもあるけど、変わらないものもある…………………ああ、確かにその通りだ。…………………にしても、友達…………友達かぁ………………………………壮馬。ボクは『友達(・・)』のままで終わるつもりはないからな?)」

 

自分の前を歩く背中に対して心の中でそう宣言すると、壮馬の隣に行って並んで帰路につくのだった。

 

to be continued……………




全て終わった後の2人はどうなるのか、に対する答えでした。

変わりゆくものもあるけど、その中でもずっと変わらないものもある。

現実でも言える事じゃないですかね、たぶん。

それとですが、作者はここから色々と忙しくなるので、もしかしたら投稿が遅くなるかもなのでご了承を。気力があればいつものペースで投稿していきたいと思うのでよろしくお願いします。

それでは、今年もこの小説をよろしくお願いします。


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STAGE20 Silent killer and Trash goblin

家族の大半が風邪ひきました。皆も気を付けなはれや。私も風邪ひかないように気を付けます。


「………………………」

 

つい先程、クルミはミズキから貰った写真を基に取引現場を3Dで再現し終えた。再現した現場をVRゴーグルで見ている彼女の視線の先にいるのはボサボサの緑髪の男。クルミには見覚えしかなかった。

 

「………………………この男…………ドイツの電磁パルスの時の奴か。てっきり死んだと思っていたが。……………………壮馬にこの画像送ってくれ」

 

そう言うとVRゴーグルに搭載されているAIが壮馬のスマホに写真を送信。それから1分も経たない内に壮馬から着信が入る。

 

『おい、これは本当か?』

 

「ああ。壮馬がドイツで倒したと思われていた男だ。確か…………………真島だったな」

 

『千丁の銃を受け取ったのは奴とその仲間だったと言う事か。ならばアラン機関とも繋がりがある可能性が高いな。……………………にしても、まさか生きていたとはな。しぶとい男だ』

 

「………………どうする?千束やたきなに言うか?」

 

『……………彼女らが真島を殺すと思うか?』

 

「…………………………」

 

クルミは何も言わない。何も言わないが、その問いに対する答えはもう出ていた。

 

『千丁の銃で何をする気なのかは断定できないが、ロクでもない事を企んでいるのは確実だ。リコリコの方針だと真島が死ぬことは恐らくないだろう。奴はこの世から消えた方が良い人間………………ならば、真島はゼロが殺す。取り敢えず今の所は伝えなくて良い』

 

「……………分かった。なら、作戦の為に行っている作業と並行して真島の居場所とかも調べておく」

 

『頼む。だが、あくまで最優先事項はDAを潰す事だ。真島の方に注力し過ぎないようにしろよ?』

 

「それくらい言われなくても分かってるさ。じゃあ、おやすみ」

 

『ああ、おやすみ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

壮馬は思い出す。1ヶ月前、クルミと出掛けたあの日東京都内で地下鉄で脱線事故があった。しかし、その事故を発表していた会見の映像を見た壮馬がどうにも胡散臭さを感じ、クルミに調べさせた所、実際は地下鉄の駅でのテロを察知したDAが行った、リコリスらによるテロリストらの殲滅作戦があった。

 

「(………まさかそのテロリストと言うのは………………いや、こればかりは確たる証拠がないから何とも言えないな。もし奴が地下鉄の駅でテロを企てた首謀者なら、作戦に駆り出されたリコリスが死んだのは、あの時仕留め損ね俺の責任だな………………………まぁ、どちらにせよやる事は変わらない)」

 

壮馬はスマホに表示されている銃取引の現場の画像を見つめる。

 

「(作戦の障害になる可能性もあるだろうから出来れば早めに排除しておきたいところだが……………クルミが居場所を特定でき次第、すぐに排除に掛かるとしよう。………………取りあえず今は本命の作戦の方に集中するとしよう)」

 

そう決めて画像を閉じると、パソコンを立ち上げるとあるファイルを開く。そのファイルには様々な状況に応じた作戦が細かく記載されていた。ファイルの上には作戦の名称が記載されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラックリベリオン

 

それは壮馬が冬季に実行する予定の作戦の名称である。作戦の目的はいたって単純──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────リコリスらによって平和を維持させているDA、そして日本に対する反逆である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではみんなー!今回の依頼内容を説明しよう!とっても楽しいお仕事ですよ~」

 

「じゃあ、俺は帰るぞ」

 

「待て待て待てーい!」

 

何処かデジャブを感じるような会話を繰り広げる千束と壮馬。帰ろうとするも千束に捕まりカウンター席に戻される。

 

「クルミに呼び出されたかと思えば…………………俺はここの従業員じゃないんだが?」

 

「まぁ、そういう細かい事は良いの!今回は壮馬にも手伝って貰いたいんだ~」

 

「そうか、断る」

 

目にも止まらぬ即答。千束でもなきゃ見逃しちゃうね

 

「まーまー、そう言わずに~。勿論、壮馬にも手伝って貰うメリットは用意しております!」

 

「…………………そのメリットとは?」

 

「先生のコーヒーが1週間30%オフになります!」

 

それを聞いた壮馬はミカの方をチラリと見る。ミカは嘘ではないと言いたげに頷いた。

 

「…………………確かに、一応メリットはありそうだ」

 

「でしょ?じゃあ、手伝ってくれる?」

 

「………………………それで、依頼内容は?」

 

やる気になった様子の壮馬に千束が満足げな表情を浮かべると、依頼内容を説明する。

 

「依頼人は72歳男性、日本人。過去に妻子を何者かに殺害され、自分も命を狙われた為にアメリカで長らく生活していた。現在は……………きん………………き……………………き………」

 

「筋萎縮性側索硬化症だ」

 

「これが義務教育の敗北と言う奴か。それくらい読めて欲しいものだな」

 

「はいそこ、余計な私語は挟まない!て言うか、私達は義務教育は受けてないし、これ初見じゃ絶対読めないって!」

 

「ただの勉強不足だろ(辛辣)」

 

「……………………依頼人は自分では動けないのでは?」

 

話が脱線しかけたのをたきなが修正する。空気の読める女である。

 

「…………………そう!去年余命宣告を受けた事で最期に故郷の日本、それも東京を見て回りたいって」

 

「要するにボディーガードか?」

 

「That's right!」

 

壮馬の言葉に流暢な英語で千束は答える。

 

「なぜ狙われているのですか?」

 

「それがさっぱり。大企業の重役で敵が多すぎるのよ~。………………………ま、その分報酬はたっぷりだけどね」

 

金の事で頭がいっぱいのミズキ。結婚できないのもこう言う所から来ているのかもしれない。

 

「まぁ、日本に来てすぐ狙われるとも思えないけどね~。行く場所はこっちに任せるらしくて私がばっちりプラン考えました!」

 

「なら、旅の栞でも作るか?」

 

「おー、良いね!クルミ、ナイスアイデア!よーし、じゃあ皆で作ろー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間も経たない内に栞は完成した。

 

「じゃ、俺は先に出ているぞ。依頼人と巡る場所の安全性を確かめておく。あぁ、それと。俺の名前を依頼人の前でも出したりせず、遭遇しても知らないフリをしておいてくれ。どこで敵が見たり聞いたりしているか分からないからな。俺の存在は伏兵として限界まで隠しておきたい」

 

「オッケー。あ、そうだこれ!」

 

千束が投げてきたものを片手でキャッチ。それは通信機だった。

 

「貸しておくね。リコリコの面々にはいつでも連絡できるよ」

 

「分かった」

 

通信機を耳に付けると、壮馬はリコリコを後にする。そのまま錦糸町駅方面に向かうと、駅の近くにある複合施設の地下駐車場に入った。そして、停めてあるお目当ての紅いバイクの前で足を止める。

 

「…………………これがカレンが製作した新兵器『紅蓮』か」

 

カレンが新たに製作したバイク『紅蓮』。正式名称は『Guren Superlative Extruder Interlocked Technology Exclusive Nexus EIGHT ELEMENTS』である。何故そのような長い名称になったかと言うと、カレン曰く『何かカッコよさげなネーミングが浮かんだからそうした(意訳)』らしい。ただ、名付けた本人もいちいちフルネームで読むのはめんどくさいらしく、『紅蓮聖天八極式』だったり、気分によってはさらに略されて『紅蓮』だったり、『赤いやつ』とか原型を留めていない名前で言われたりしている。なお、壮馬は『紅蓮』の呼称で呼んでいる。世界に1台しかないオリジナルバイクである為、今はアウターパーツを装備する事で市販のスポーツバイクに見えるようにして、目立たないようにしている。

 

壮馬はバイクに跨ると、起動キーを差し込んでエンジンを始動させる。

 

「さぁ、お前との初仕事と行こうか」

 

ヘルメットを被ってアクセルを捻ると、紅蓮はエンジン音を地下に響かせながら駐車場を飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後、壮馬は狙撃銃を手に墨田区ビルの屋上にいた。壮馬の視線の先には水上バスがあり、今千束らと依頼人が乗っている所だ。

 

「(……………………特に問題は無さそうだな)」

 

スコープから目を離すと、丁度クルミから通信が入って来る。

 

『おい、壮馬。知ってたか?千束の心臓は完全に機械の人工心臓らしいぞ』

 

「!…………………ほう、そうなのか。なら、その強さの一因もその心臓なのかもな。しかし、あれだけ激しい動きをしても問題がない人工心臓がこの世にあるとは知らなかったな」

 

「ミカから聞いたが、その心臓はDAの技術ではないそうだ。どこの技術だと思う?」

 

「………………まさかアラン機関か?」

 

『おぉ、正解だ。ミカ、やっぱり壮馬にも秘密は通用しないみたいだぞ』

 

『流石、ウォールナットの仲間な事だけあるな』

 

どうやら傍にミカもいるようだ。

 

少し前から千束はあのフクロウのネックレスを隠さずに付けるようになった。何故隠してたのかは壮馬は知らないが、その事は壮馬にとって特に問題ではなく、千束がアラン機関から支援を受けていた事の方が重要である。果たして何の才能を見出されて支援を受けたのか?

 

「(千束の才能、か………………………リコリスだから暗殺か?しかし、彼女は不殺主義なのだから暗殺の才能で支援を受けるものなのか?………………………案外、前に吉松が俺に言っていた『救世主』かもな。本人も救世主目指してるようだし。…………………そう言えば、吉松が定期的に店に来ているのはもしかして千束関連か?奴が千束を支援してたのか、それとも支援したのは別の奴で吉松はただの観察者?…………………まだ情報が少ない。これでは答えは出なさそうだな)」

 

『壮馬、千束たちがもうすぐ水上バスを降りて浅草に向かうぞ』

 

「了解。俺も移動する」

 

取りあえず答えは保留にし、狙撃銃を分解してケースにしまうとビルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅草は東京の中でも有名な観光名所なだけあって、流石に人が多かった。

 

「(人混みに紛れて襲撃するならもってこいだな…………………まぁ、ここなら狙撃出来るようなスポットはないから確実に距離を詰める必要がある。異変があれば観察眼の鋭い千束ならすぐに気づくだろう)」

 

そう考えながら壮馬は眼鏡を掛ける。別に目が悪くなったわけではなく、この眼鏡に搭載されているカメラが人物の顔を認証し、犯罪者や暗殺者などのヤバい奴がいないか検知する『スマートグラス』である。勿論、カレン特製。本人は特にこういうのにはあまり興味なかったのか、2時間位でさっさと作ってポイっと投げて渡されたのだがそれはさておき。

 

眼鏡を付けながら歩いていると、突然背後から眼鏡を取ろうと手が伸びる。それを特に動揺する事なく壮馬はその手を掴んだ。

 

「…………………何でお前がここにいる?」

 

「浅草で食べ歩きしたいから☆」

 

後ろを向くと、そこにいたのは団子を手に持っているカレンだった。

 

「今はリコリコの手伝い中だ。お前の事は知られたくないんだが」

 

「分かってるって~。すぐ離れるよ。それに、私達の位置は監視カメラから死角になってるから、私達の関係がリコリコにバレる心配もないしね♪…………………ああ、そう言えばさっきすれ違ったよ。千束ちゃんと、あともう1人の………えー……………」

 

「たきな」

 

「そうそう、たきな!………………私のドローンを撃墜しやがった女だね」

 

どうやらまだ根に持っているらしい。

 

「初めて生で見たけど、可愛かったね~。私としてはたきなちゃんが好みかな~。………………ベットで(規制音)したい」

 

「……………だったら、もうドローンの事は許してやったらどうだ?」

 

「は?(半ギレ)それとこれとは話が別に決まってるじゃん。人生の先輩として良い事を教えてあげるよ、壮馬君。食べ物の恨みは怖いんだよ?」

 

好きと嫌いの感情がどっちも存在しているカレン。全く以てめんどくさい女である。

 

「………………と言うか、ドローンは食べ物じゃないんだが?」

 

「あぁ、確かに……………………兎に角、それとこれは別!………………あ、そうだ!今度私がお店に行って、そこでの時間で許すかどうか決めよっと」

 

《悲報》リコリコにヤバい奴が襲来決定

 

『壮馬、そろそろ移動するみたいだぞ』

 

「…………………了解。俺も移動する」

 

「じゃ、頑張ってね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隅田川を移動する水上バス。それをヘルメットを被った男と何処にでもいそうな服装の外国人の男が見つめていた。

 

「ターゲットはあの老人だ、ゴブリン」

 

「……………あんな今にも死にそうなガリガリ男を殺す為に、わざわざアメリカからここにわざわざ俺を来させたのか、サイレント・ジン?」

 

ゴブリン。アメリカを拠点とし、緑色のマスクと戦闘スーツを身に付け、グライダーで空を舞う殺し屋である。ゼロが日本に来た春から活動を始めた殺し屋だが、その殺し方が残酷過ぎる事から表でも裏でも急速に有名になった。男も女も性的に体を貪り尽くし、相手を心の底から絶望させ、そこから長い時間を掛けて苦しめながら殺すと言う、もはや人の皮を被った悪魔のような男だった。

 

「お前には私の援護に徹してもらう。私が合図出したら、後は好きにしろ」

 

「…………あの女が護衛か。確かリコリスとか言う日本の殺し屋と聞いているが、中々に良い上玉だ。1つ聞くが、どう殺そうが俺の勝手だよなぁ?」

 

「…………………」

 

ジンもゴブリンと仲良くするつもりはない。彼の悪魔のような殺し方はジンでも不快感を露にするものであり、本来ならこの男の手など借りたくもないのだが、それでも彼に援護を依頼したのはその実力を見込んでの事だ。近接格闘や射撃能力は高く、さらにグライダーを用いる事で空中からの攻撃も可能とするなど戦力としては申し分ない。まさか刺客が空から攻撃してくるとは相手も想定していないだろう。

 

「受けた依頼はこなすが、1つ聞かせて貰おうか。あんなガキ2人ならお前さんだけで十分な筈だ。なのに、俺を呼んだのは別の誰かを警戒していたからだろう?例えば…………………日本にいると噂されているゼロ、とかな」

 

「…………………………」

 

「………………どうやら当たりみたいだな。確かに、それなら俺が呼ばれたのも納得だ。新世代の殺し屋でも俺はあらゆる面で群を抜いているだろうからな。まぁ、奴が現れるかどうかは知らないが、現れたら殺して構わないんだよな?」

 

「…………………言った筈だ。好きにしろと」

 

そう言い残すと、ジンは傍に停めて合ったバイクに跨ると走り去って行った。1人残されたゴブリンは楽し気な表情で笑う。

 

「フハハハ……………決めたぞ。あの女2人は俺が殺す。3人で楽しい時を過ごして心の奥から絶望させ、苦しめながら殺してやる。……………そして正義の味方気取りのゼロ。来るなら来い。お前を殺し、俺の殺し屋としても名声をあげる踏み台としてやろう…………………!」

 

そう言うとゴブリンは近くの人気の少ない路地裏へと静かに消えて行くのだった──────────。

 

to be continued……………




ゴブリン…………………アメリカで活動する殺し屋。全身を緑の戦闘スーツを身に纏い、ゼロと同じく仮面を被っている。グライダーで空を自由自在に飛行する。メインの武器は球体型の小型爆弾。ゼロが日本に来た辺りから活動を始め、その殺しの手口が吐き気を催すようなやり方な為、業界内で急速に(主に悪い意味で)有名になる。モチーフはスパイダーマンの実写映画に登場するグリーンゴブリン。

紅蓮の説明はまた今度で。近い内にお披露目される武器も紹介するので、その時に。


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STAGE21 Zero vs Goblin (前編)

アニバーサリー前なのにウマ娘のガチャで天井してもうた……………………やべぇよやべぇよ。次のガチャ更新でワイの推しが来られたら……………………マジで頼むからこないで、どうぞ。


『さっきからついてきてる奴はジン。その静かな仕事ぶりからサイレント・ジンとも呼ばれてる。ベテランの殺し屋だってさ。ジンと会話していた男の方は正体不明だが、恐らく同業者だ』

 

『ジン…………………私がリコリスの訓練教官にスカウトされる15年前まで、警備会社で共に裏の仕事を担当していた』

 

どうやら現れた刺客の1人はミカと知り合いのようだ。送られてきた写真を見ながら、壮馬はミカに尋ねる。

 

「ミカさん、ジンはどんな奴ですか?」

 

『本物だ。確かに声を聞いたことがないな』

 

「それは面白い元同僚な事で。もう1人の方は見覚えは?」

 

『いや、無いな。恐らく最近になって現れたのかもしれない。もしくは』

 

「今まで仮面を被って活動して来た、と言った所か…………………クルミ、アメリカで活動している正体不明の殺し屋をピックアップしろ。恐らく奴はその中のどれかだ。体格が似ている奴がいればそいつの可能性が高い」

 

『分かった』

 

『取りあえず私はジンの方に発信機を付けにいくわよ。こっちは顔がバレてないし』

 

クルミが返事すると同時に今度はミズキからも通信が入る。

 

「なら、俺はあの男を追うとしよう。クルミ、奴の行き先を特定出来るか?」

 

『あー、ちょっと待ってくれ。先にジンの方を…………………あっ』

 

「どうした?」

 

『………………ジンに尾行がバレてドローンが撃墜された(……………不味い………カレンに知られたらまた面倒な事になる…………………)』

 

通信機からの声には別の心配もしているのが壮馬にだけ分かった。

 

『予定変更。避難させてこちらから1人打って出るべきだ。予備のドローンとミズキでジンを見つけ次第、攻撃に出る』

 

『そっちが美術館出たら車回すよ』

 

『分かった』

 

どうやらジンは相当の手練れのようだ。これはかなり手間が掛かる事を壮馬は予感する。

 

『ミズキ急げ~。ドローンがなきゃ何もできないぞ~』

 

『あんたも現場に来てサポートしなさっ』

 

「…………………ミズキ?どうかしたか?」

 

何か異変を察知した壮馬が呼びかけるが、当のミズキからの返事はない。ミズキに何が起こったのかは想像するのは壮馬にとって容易過ぎた。だが、ゼロである壮馬は冷静さを欠く事無く千束とたきなに通信を繋げる。

 

「………………たきな、千束。ミズキと連絡が途絶えた。すぐにジンが仕掛けて来る。俺はミズキの方に行く。片方が依頼人を避難させ、もう片方がジンを足止め、もしくは行動不能にしろ」

 

『では、私が行きます!』

 

『ちょ、たきな!?』

 

どうやらたきなが打って出る模様。観察眼の鋭い千束の方が護衛に向いている事からこれは妥当な判断である。

 

「クルミ、ミズキが使ってる車の現在地は?」

 

『今スマホに送った』

 

その座標を確認すると、赤信号なのをガン無視して壮馬は紅蓮を発進させる。座標までは2分も掛からい距離だった。

 

『…………………お?ちよっと待て……………ミズキがジンに発信機を付けてた!死んでもこっちに情報を残したぞ!』

 

『まだ死んだと決まってないだろ』

 

「全くだ、死なすには早いぞ。今からそれを確かめる」

 

壮馬の紅蓮は目的地に到着。バイクを道路の路肩に停めると、駐車場の周辺を見回す。すると、ドンドンと何かを叩くような音が僅かに聞こえた。ピンときた壮馬は急いで音の出所に向かう。そこは工事に使われている小さな倉庫だった。その扉を思い切り開けると、案の定縛られたミズキが出てきた。

 

「何だ、生きていたのか。流石に死んだかと思ってたが」

 

「なんだとはなんだ!それよりも早くこれ解きなさいよ!」

 

「はいはい、じっとしろ」

 

壮馬は取り出したナイフで縄を切る。ミズキは差し出された壮馬の手を掴んで立ち上がる。

 

「クルミ、ミカさん。ミズキは無事だったぞ」

 

『な~んだミズキの奴、生きてたのか』

 

「ハッ倒すわよ!」

 

相変わらず仲が良さそうで何よりである。取り敢えずミズキが無事で壮馬も少しホッとしながらミズキと共にバイクの方へ戻っていると、その頭上をグライダーが通過する。2人の事など見向きもせずに飛び去って行く。その後ろ姿を壮馬は咄嗟にスマホのカメラに収め、その画像をクルミに送る。

 

「クルミ、こいつの正体は分かるか?」

 

『……………………あぁ、こいつはボクも知ってる。通称ゴブリン。ここ最近、アメリカで活動している殺し屋だ。全身緑のスーツやマスクで正体を隠し、グライダーを使って空を舞い、胸糞悪い殺し方をするので有名な奴だ。さっきの男と体格が一致した。ゴブリンの正体はあの男だな。今、たきなとジンの方へ向かっているみたいだ』

 

「…………………ミズキ。お前はこれを使って東京駅のホームへ向かって依頼人を向かいに行け。俺はゴブリンの方を何とかする」

 

「あんな空飛ぶ緑の妖精を何とか出来るわけ?」

 

「これで何とかする」

 

壮馬はバイクの荷物入れに入っている狙撃銃入りのケースを見せつけると、そのまま走り去って行く。その数秒後には背後からバイクの走り去る音がしたのを確認し、壮馬はスマホを取り出すとカレンに電話を掛ける。早く出ろと言う念が通じたのか、すぐにカレンが出た。

 

『もすもす?どったの、壮馬君?』

 

「カレン、空飛ぶ緑の妖精を倒す。例のアレ(・・・・)を俺の元へ向かわせろ、今すぐだ」

 

『え?いや、まだ完成したばっかで武器とか殆どないし、そもそもテスト運用すらしてないんですけども?』

 

「構わない、テストなしのぶっつけ本番で行く」

 

『…………良いねぇ、その思い切りの良さ。…………3分で壮馬君の所に着くよ』

 

「了解」

 

壮馬は一瞬でゼロの恰好にチェンジすると、ホバリングシューズとスラッシュハーケンを駆使し、急いで美術館の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、たきなはクルミのナビを受けつつ、銃撃を繰り返しながらジンを追って屋上まで来ていた。

 

「ジンは15m先の室外機の裏にいるぞ」

 

クルミからの情報を聞いたたきなは身を隠しながら様子を伺うと、確かに室外機の影に彼が着ていたコートの袖口が見える。それを確認すると、たきなは音を立てずに室外機の周囲を迂回する。引き金に指を添え、たきなは飛び出して銃を向ける。

 

しかし。

 

「あっ…………………」

 

そこにあったんはコートのみ。ジンの姿はない。いつからか発信機の存在がバレていたようだ。それを逆手に取られてジンに撒かれた。

 

「クルミ、ジンが」

 

クルミに報告しようとしたその時だった。オレンジ色の球体が空から落ちてきて、たきなの近くに転がる。その球体からは断続的な音が聞こえる。リコリスとして訓練されていた故か、たきなは直感的に離れる。だが、十分な距離を取るよりも前に球体は爆発し、その衝撃でたきなの体も吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。身に付けていた通信機も地面に落ちる。

 

「っあ………………かはっ…………………」

 

背中に衝撃が走り、後から痛みが押し寄せて来る。そんなたきなの状態など知らないとばかりに、黒煙の中からグライダーに乗った緑のスーツを身に纏う男──────ゴブリンが突っ込んでくる。たきなは咄嗟に引き金を引くが、銃弾は無慈悲にも弾かれる。

 

「効かないぞ、そんなもの!」

 

男は流れるようにたきなの首元を掴み、そのままグライダーを上昇させる。たきなの足が地面から離れ、ゴブリンが手を離せば地上に落下し、死は免れない。

 

「何だ、大したことないな。だが、顔立ちは中々整ってるようだ。決めたぞ、お前を殺した後、死体をバラバラにしてあのもう1人の女の前に晒してやる。そして、あの女は後で2人でじっくりと楽しんでやる!」

 

そう宣言するとゴブリンは細い首を掴む手に力を込める。苦しみながらもたきなは何とか拘束から逃れようと、蹴ったりして抵抗するがビクともしない。そうこうしている内に呼吸が出来ないが故に、意識が段々と薄れていく。死が迫っていた。

 

「(…………嫌だ……………私は、まだ……………こんな所で………誰か………………助け…………………)」

 

そんな願いが通じたのか、1発の銃弾がゴブリンに命中する。その一撃でゴブリンの力が弱まり、拘束こそ逃れられていないが何とか呼吸する事が出来た。

 

「……………………おやおやおや!」

 

「……………ゼ……ロ……」

 

ゴブリン仮面の下で愉快そうに笑う。自身に銃弾を放ったのはゼロだったからだ。

 

「まさか本当に来るとはなぁ!こいつは面白い!この女を助けにでも来たのか?」

 

「……………助けたのはついでだ。あくまで私の目的はお前を殺す事だ、ゴブリン」

 

「正義の味方のゼロが俺の事を知っているとは光栄だな。だが、忠告しよう。お前では俺を殺せない。全身防弾の戦闘スーツに身を纏い、グライダーで空を舞う俺にどう勝つつもりだ?」

 

「ハッ。お前の口振りから察するに、お前自身が凄いのではなくお前の持つ武器が高性能なだけのようだな。お前からそのスーツとグライダーを剥ぎ取れば、中身はただの三流と言う訳か」

 

「………貴様ァ…………………………!」

 

図星なのか、単に煽りに弱いだけなのかゴブリンは怒りを露にする。

 

「そうではないと否定するならば、先ずはその女を解放するが良い。それとも………………貴様は人質が無ければ戦えない情けない男なのか?」

 

「………………良いだろう。お望み通り解放してやろう」

 

ゴブリンの声のニュアンスからゼロは何か嫌なものを感じる。その直感は正しかった。ゴブリンがたきなをその場で(・・・・)解放する。地面から30m以上の高さで手を放され、たきなは重力に従って地面に向けて落ちていく。ゼロは迷わず屋上から飛び出し、マントを取り払って落下するたきなを追う。

 

「血迷ったか、ゼロ!背中ががら空きだ!」

 

グライダーに搭載されているミサイルが放たれる。ゼロが発射したハーケンがたきなに巻き付くと、そのまま手繰り寄せてたきなを抱きしめる。そんな彼の背後にミサイルが迫るが、腰に装備しているハーケンがミサイルを打ち落とした。

 

「チッ!だが、どちらにせよお前は地面に叩きつけられる。俺の勝………うおっ!?」

 

そんなゴブリンのすぐ傍を巨大な何かと複数のパーツが通過し、その勢いでゴブリンはバランスを崩す。

 

「何だ?巨大な両翼のウイングパックのフライトスーツ…………………?」

 

禿鷹を思わせるようなデザインとなっている巨大な両翼のウイングパック型フライトスーツは落下するゼロの背中に追いつくと、そのまま装着。飛行して来た黒と金色を基調とした姿勢制御用の小型ジェットエンジンの推進器がそれぞれ腰のスラッシュハーケンとホバリングシューズに合体すると、本体のウイングパックに搭載されるジェットエンジンを含めた全ての推進器から出力全開でアフターバーナーが噴射され、地面ギリギリの所で停止。そのまま上昇し、ゼロはゴブリンよりも高い位置で見下ろすように静止する。

 

「馬鹿な!?俺以外に高性能な飛行手段を持っている奴はいる筈が……………!」

 

「何だ?空を飛べる特権が自分だけのものだとでも思ったか?」

 

カレンが開発したウイングパック型フライトスーツ『蜃気楼』。ダークパープルの巨大な両翼が特徴的。ウイングパック本体に搭載されたジェットエンジンと、姿勢制御機能等を目的としてホバリングシューズと腰部のスラッシュハーケンと合体する形で補助ブースターが自動で装着される。両翼の先端は鋏となっており、武器としても使用可能だ。

 

「俺と同じ土俵に立った位で……………調子に乗るな!」

 

そう言うとゴブリンはスーツの腕部に内蔵されていたブレードを展開して猛スピードで突っ込んでくる。だが、ゼロはそれを両翼の先端部でブレードを軽々と受け止める。

 

「なっ……………!?」

 

「調子に乗るな、だと?その言葉、そっくりお前に返してやる」

 

ブレードを弾くと、ジェットの出力を活かして勢いよく翼でゴブリンを殴打する。怯んだ隙を見逃さず、ゼロは同じくジェットの出力を活かした回し蹴りでゴブリンを吹き飛ばす。吹き飛ばされたゴブリンはグライダーから落下して室外機の上に勢いよく落ちる。その隙に、ゼロは少し離れた場所にたきなを降ろす。

 

「まだ動けるか?」

 

「ケホッ、ケホッ…………えぇ、何とか」

 

「奴の相手は私が引き受けよう。先を急ぐならば行くが良い。今ならジンにも追いつけるだろう。それと、落とし物だ」

 

ゼロはたきなに向けて何かを渡す。それは先程たきなが落とした通信機だった。

 

「奴に銃撃を放つ前に拾っておいた。さぁ、ウォールナットの時のような結果を招きたくないのならな早く行くが良い」

 

「…………………はい!」

 

たきなは急いでその場を跡にする。たきなが視界から消えたのを確認すると、ゼロは上昇する。そこには既にグライダーに乗って復帰したゴブリンが殺気マシマシで待ち構えていた。

 

「殺してやる……………………ゼロ、貴様はこの俺が殺してやる…………………!」

 

「そうか。では、掛かって来るが良い!」

 

東京の空でゴブリンとゼロの空中戦が幕を開けるのだった。

 

to be continued…………………




蜃気楼………………カレンが開発した、禿鷹を思わせるようなデザインとなっている巨大な両翼のウイングパック型フライトスーツ。色はダークパープルを基調。黒と金色を基調とした姿勢制御用の補助ブースターとセット。武器は突然の出撃で殆ど装備されておらず、現時点では内蔵されているスラッシュハーケンのみ。空中での装着もまだテストしておらず、ぶっつけ本番だった。また、別の形態への変形機構も兼ね備えており……………………?

スーツのモチーフはスパイダーマン・ホームカミングに登場する『バルチャー』。名称はコードギアスに登場するナイトメアフレームの『蜃気楼』から。両翼の色はウイングガンダムゼロリベリオンの翼のものを採用し、姿勢制御用ブースターの色は蜃気楼のマーキングを採用。


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STAGE22 Zero vs Goblin (後編)

8792文字。長すぎるッピ!

所で、私が遊んでるウマ娘とか言うゲームがもうすぐ2周年迎えるんですよねー。私はミスターシービーと言うキャラがお好きなんでね。去年からずっと待っていたキャラなんですよね……………………これで実装されなかったらログイン勢になろうかなぁ、マジで。

そうなったら面白いゲームでも教えて下さい。


その頃、ミカとクルミはたきなから報告を受けていた。

 

「何?ゼロが現れた?」

 

『はい。今はゴブリンと戦闘中です。ただ、今は私達に敵対の意思はないようです。現に先程助けて貰いました』

 

「ゼロ………………ウォールナットの時は我々に敵対し、今回は味方するか」

 

「……………ま、ゼロがゴブリンを引き付けてくれてるんだ。取りあえず今はジンに集中しよう」

 

クルミの言葉にミカも同意し、ジンの方に集中すべく画面を注視する。そんなミカの隣でクルミは険しい表情を浮かべていた。

 

「(空中戦での経験値はゴブリンに圧倒的に劣ってるが…………………………負けるなよ壮馬。ボクの共犯者がこんな所で終わるような奴じゃないだろ?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の空をゼロとゴブリンが目にも止まらない速さで飛ぶ。2人の殺し屋が空中戦を繰り広げている異常な光景が東京の空にはあった。

 

「喰らえ!」

 

ゴブリンのグライダーから数発の誘導ミサイルが発射される。それを壮馬は回避しつつ、銃を用いて撃ち落とす。しかし、一発で撃ち落とす事が出来ず、弾丸を浪費してしまう。

 

「やはり地上戦のようには行かないか………」

 

飛びながらゼロは弾丸を装填。そのまま更に加速する。

 

「おいおい、初の空中戦でそんな無謀な真似をして良いのかぁ?自滅なんて終わり方はやめてくれよ?」

 

ゴブリンも加速し、グライダーに搭載されているマシンガンの弾丸を放つ。それをゼロは右に左と避けながらビルとビルの間を通過していく。

 

「ほほう、やるじゃないか。流石はゼロと言った所か。だが、お前のフライトスーツよりも俺の方が優れているぞ!」

 

ゴブリンは高度と速度をさらに上げ、ゼロの真上に付ける。そして取り出した爆弾を起動させる。

 

「そのスーツとともに地に堕ちろ、ゼロォ!」

 

予想される直撃の進路にゴブリンは爆弾を投げる。だが、ゼロは焦る様子はない。

 

「そんな攻撃で俺を殺せるとでも思ったか?…………フラップ!」

 

ゼロの声でフライトスーツのフラップが起動。ゼロは急速な後退で爆発から逃れるだけでなく、ゴブリンの背後を取った。

 

「お前を覆う装甲は固いが、グライダーの方はどうかな?」

 

そう予想しながらグライダーに向けて発砲するゼロ。それに気づいたゴブリンは慌てて旋回して回避する。この反応で予想は正解のようなものだ。

 

「やはりそうか。しかし、手持ちの武器ではもっと接近しないと当たらなさそうだな。空中戦に最適な武器があれば良いんだがな…………………」

 

『悪かったね、まだそこら辺は出来てないもので』

 

どこから聞いていたのか、通信に割り込んできたのはカレンだった。

 

「カレン、何か武器は無いのか?」

 

『まー、今の所はウイングの部分に搭載されているスラッシュハーケン位しかないかなー。ただ、射程は短めで調整もまだ未完了だけど。後は高速飛行形態とかあるんだけど、こっちもまだ調整は済んでないからねぇ』

 

「なるほどな…………っと」

 

ゴブリンがマシンガンで攻撃してくるのを回避し、お返しとばかり腕のスラッシュハーケンをゴブリンに目掛けて発射する。

 

「フンッ、それがどうした!」

 

ゴブリンは何とスラッシュハーケンをキャッチする。そのままグイっと引っ張り、引き寄せられたゼロの首を掴むとそのまま近くの屋上庭園まで降下し、ゼロの仮面を芝生の地面に叩きつながら進み、芝生を抉って行く。ゼロはバックパックに搭載されているスラッシュハーケンを至近距離で発射させてゴブリンを吹き飛ばして何とか拘束から逃れた。

 

「チッ……………少しはやるようだ」

 

『手強い奴だねぇ。経験値の差って奴かな?空中戦では格上みたいだけど、どうするつもりかな?』

 

「…………………なら、早速使うとするか。高速飛行形態、起動」

 

すると、ウイングパックや両翼の装甲がさらに展開し、隠されていたスラスターがその姿を見せる。さらに2枚だった両翼が4枚となる。今までの2つの両翼は4つの羽が合体していたのだ。

 

『うーわ、やりやがった……………けど、そう言うのは嫌いじゃない。マジでぶっ倒して良いデータを持ち帰ってよー、ゼロ!』

 

「言われなくてもそのつもりだ」

 

庭園から静かに飛び立つと、ゼロはゴブリンと同じ高さまで上昇する。

 

「ほう、まだそんなギミックがあったとは。だが、俺がお前を倒せば全てが無意味となるだけだ」

 

「ふっ、それはどうかな?ちょど良いから宣言しよう。これよりお前の攻撃は一切当たらない。そして、今から2分後にお前のグライダーは破壊され、その1分後にはお前は私に倒される。何故か?その答えは簡単だ………………所詮、お前は道具に頼らなければ誰も倒せない三流だからな」

 

「……………死ねぇ、ゼロ!」

 

煽り耐性が本当に皆無なゴブリンは再度グライダーからミサイルを発射する。ゼロはゴブリンから背を向けると一気に加速する。自分を狙うミサイルとの距離がぐんぐん離れて行く。

 

「グッ…………………これは流石に体に負担が掛かるな…………………!だが、気に入ったぞ………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、千束はと言うと。

 

「松下さん、どこ行ったの…………………?」

 

松下を探して東京駅を駆け回っていた。少し目を離したすきに松下を見失うと言うやらかしをしてしまったのだ。壮馬らに知られれば呆れられるだけでは済まないが、幸いな事にすぐに松下を見つけた。

 

「あっ、良かったぁ……………松下さん、どうしたんですか?行きたい所があったんですか?」

 

『ジンが来ているんだね?』

 

「え………………」

 

松下に襲撃がバレていた事に驚く千束。だが松下は気にせず続ける。

 

『あいつは私の家族を殺した。確実に私を殺しに来るはずだ』

 

『千束、たきながゴブリンの介入で撒かれた。ジンが来るかもしれない、気を付けろ』

 

クルミからの警告を聞きながら千束は話を続ける。

 

「なら一度店に帰りましょう。避難してからどうするか考えましょう」

 

『私には時間がないんだ』

 

話をしている内にジンが松下を捉える。銃を向け、引き金を引こうとしたその時だった。

 

「千束!逃げて!」

 

何とか追いついたたきながジンに向けて発砲する。僅かに反応が遅れたジンに対してたきなはタックルし、そのまま2人とも工事現場に落ちていく。

 

「たきなー!!」

 

千束の叫び声が響く。2人が落ちた時の衝撃音が彼女の耳に入って来る。

 

『………………千束!松下さんを連れて避難させてください!』

 

「分かった!」

 

たたきなの声がすぐに通信機から聞こえて来たのに一瞬ほっとしつつ、すぐに返事を返すと松下を連れて東京駅を離れる。そんな千束に松下は衝撃的な事を告げる。

 

『私の本当の依頼はジンを殺してもらうことだ』

 

「……………え?」

 

『君のペンダントの意味も私は知っている。君には使命があるはずだ』

 

千束が松下の言葉に答えられないでいると、そこにミズキが現れる。バイクを降りて全力疾走でもしたのか、少し息が上がっていた。

 

「おおーい……………ぜぇ…………………ぜぇ…………………」

 

「あ、ミズキ!松下さんをお願い!私はたきなの方に行く!」

 

「了解…………………」

 

千束は急いで工事現場の方へ向かう。すると、松下もその後を追い始める。

 

『こればかりは見届けなくては』

 

「ちょ………………また息が………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==========================

 

たきなは追い詰められていた。先程の衝撃で銃を何処かに落としてしまい、丸腰の状態でジンと対峙する事になったのだ。それでも彼女の頭は冷静で、千束に依頼人を安全圏に逃がすように言った後は自身が囮となって時間を稼いでいた。だが、相手は熟練のプロ。いつまでも逃げ切れる事は出来ず、たきなは太ももに銃弾を受けて倒れてしまう。

 

「くっ…………あっ………………」

 

たきなの頭上の足場にジンの姿が見える。その銃口は真っすぐたきなの方に向けられている。ここで銃を持っていれば相打ち覚悟で引き金を引くのだが、生憎今のたきなにその選択は出来ない。

 

何も出来ない、と言う選択肢しかなかった。たきなは死を覚悟し、咄嗟に目を瞑る。そして、銃弾の放たれる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………え?」

 

銃声から数秒経ってもまだ意識がある。たきなは目を開けて自身の身体を見るが、体に穴は開いていない。被弾していないのだ。では、何故か?その答えはすぐに分かった。

 

「どうやら間に合ったようだな」

 

「ゼロ………………!」

 

たきなの目の前に降り立ったのはウイングスーツを身に付けたゼロだった。ではジンの方は、とたきなは辺りを見回す。少し離れた場所で当のジンは自分と同じ足場に倒れていた。ただ、倒れていたのはジンだけではなかった。

 

「あれは…………………ゴブリン?」

 

ジンの側に倒れていたのはゴブリンだった。ピクリとも動かない辺り、死んだかもしくは気絶したのか。

 

「ゴブリンをぶつけて奴を上から落とした。何とか間に合った、と言った所か」

 

「では………………ゴブリンは倒した。と言う事ですね?」

 

「ああ。今は気絶している。結局の所、奴は道具の性能に頼っていた三流だったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

「クソッ!」

 

ゴブリンは悪態をつく。身体への負担を堪えながら高速飛行を続けるゼロをミサイルは捉えきれず、限界を迎えて遥か後方で爆発する。ゼロは右に旋回すると、そのまま東京湾の方へと飛んで行く。その後ろを少し離れてゴブリンが追って行く。

 

「このグライダーの最高速度でも追いつけんだと!?奴の技術力はどうなっているんだ!!……………………まぁ良い。確かに大したスピードだ。それは認めよう。…………………だが、恐らく燃費は最悪のようだな。その勢いもずっとは続くまい。エネルギー切れになった隙を狙えば、俺にも勝機が回って来る筈だ!」

 

ゴブリンの予想は正しかったのだろうか。ビル群を抜け、東京湾まで来るとゼロの飛行速度が徐々に落ちていく。ゴブリンは仮面の下でニヤリと笑う。

 

「ビンゴ!俺を振り切ろうとでも思ったのだろうが、残念だったなぁ!一斉攻撃でお前を海の藻屑にしてやる!」

 

ここぞとばかりに搭載されているミサイルの残弾を全て放つゴブリン。ゼロとの距離は縮まって行く。そしてその距離がゴブリンの視点からゼロになった瞬間、大きな爆発が東京湾で起こった。ゴブリンはグライダーを停止させてその場でホバリングさせる。爆発の煙が晴れると、海にはウイングスーツの翼の残骸が浮いていた。

 

「…………………ははは………………………ハハハハハハハハッ!勝った、ゼロに勝ったぞ!ハハハハハハハハハハッ!!奴は海の藻屑と化した!!やはり俺こそが最強の殺し屋だ!」

 

勝利の余韻に浸るゴブリン。だが、頭の中に先程のリコリスの標的の顔が浮かぶとすぐに高笑いを止める。

 

「おっと、それよりも次だ次。次はあの女どもだ。先ずはあの黒髪の女を殺しに行くとするか。ジンが先に殺していなければ良いが」

 

そう呟きながら街の方へと旋回するゴブリン。彼の頭の中には黒髪の女の死体をもう1人の女に見せ、絶望に叩きこんでからじっくり楽しむ事しか考えていなかった。この時、何故か残骸の量が少ない事、ゼロの死体が見えない事に気付けていれば、もしかしたら対応できたかもしれないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水中から現れたゼロの奇襲に。

 

「エネルギー切れになった隙を狙えば勝てるとでも考えたか?」

 

「なっ!?」

 

ゼロのスラッシュハーケンがゴブリンのグライダーを貫いた。その瞬間、ゴブリンのグライダーのエンジンが出火し、黒煙を吐きながら勝手に飛び回る。ゴブリンの制御は聞かなくなっていた。

 

「お前のミサイルが命中したのは4枚ある内の私がパージさせた1枚だ。ギリギリまで引き寄せてから爆発させ、その爆発を利用して悟られないように水中に潜り込んでお前を油断させた。私の読み通りに、な。これでお前自身(・・・・)は大したことがない事が証明された訳だ」

 

『武器の性能にばかり頼って、戦略とかなーんにも考えてなかったんだろうねー。……………まぁ、当の本人は壮馬君の話を聞ける余裕はなさそうだけど』

 

カレンの言う通り、ゴブリンはゼロの話を聞くどころではなかった。制御不能となったグライダーに対してパニックになりながら何か叫んでいるが、『ちよっと何言ってるか分かんない』状態である。グライダーはそのまま海から陸に戻ると、遂に地上に墜落。ゴブリンもその衝撃で地面に強く叩きつけられて気絶する。ゴブリンを追っていたゼロは見下すような冷徹な視線を注いでいたが、ゴブリンのスーツの足元にスラッシュハーケンを巻き付けるとそのままと街の方へと向かう。

 

『あれ、持っていくの?』

 

「こんな危ない奴をそこら辺に放置しておけないだろう。今からジンの方に向かうが、もしかしたら盾としては使えるかもしれないからな」

 

『(あー、壮馬君も某紫のライダーみたくガー〇ベントしちゃうのかなぁ…………確かに紫って点では共通してるけど)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、舞台は工事現場に戻る。

 

ジンはゴブリンをどけると、少しふらつきながらも銃を持って立ち上がる。そんなジンに向けてゼロは言う。お前はもうチェックメイトを掛けられたと。

 

「厄介な奴が来たからな」

 

ゼロの言葉でジンは漸く厄介な奴(千束)が接近している事に気が付く。だが、既に千束は自身の間合いに入っていて手遅れだった。千束は反撃する暇も与えず、ジンの腹部にゼロ距離でありっあけの非殺傷弾をおみまいする。いかに防弾とは言え、この距離で食らえば無事では済まない。吹っ飛ばされたジンは大きく背中を作にぶつけて悶絶する。勝負が決した瞬間である。

 

「ふふん」

 

ジンを見下ろしながら千束は得意げに鼻を鳴らす。

 

「任せてって言ったのに………………」

 

「結果的には来て正解だったでしょ?………………って、なにそれカッコいい!」

 

千束はゼロが身に付けているウイングスーツを見て目を輝かせてゼロに近寄る。

 

「うわぁ、すごーい!めっちゃハイテクじゃん!これで空飛んで来たんだ?」

 

「ああ」

 

「良いなー、空飛べるとか羨ましいやつじゃん!楠木さんに言って作って貰えないかな?」

 

「流石に無理ですよ………………」

 

たきなが苦笑しながら言うと、そこに松下が現れる。

 

『殺すんだ。そいつは私の家族の命を奪った男だ。殺してくれ!』

 

『でも…………………』

 

『本来ならあの時私の手でやるべきだった! 家族を殺された20年前に!』

 

殺しを渋る千束に松下は強い口調で続ける。

 

『ジンはその頃私といた筈だ』

 

「…………………………」

 

身に付けている通信機からミカの情報を聞いたゼロは静かに仮面越しに松下を訝しげに見つめる。

 

『君の手で殺してくれ! 君はアランチルドレンのはずだ!』

 

「(………………こいつ、千束に(・・・)殺しをさせたいような口振りだな……………………)」

 

壮馬がそう推測している間にも松下は口が止まらない。

 

『何のために命を貰ったんだ! その意味をよく考えるんだ!』

 

「(………………この口振りからして、やはり奴の本当の目的は千束に殺しをさせる事で確定だな。何で千束に殺しをさせる事を拘るのかは知らないが…………………相手が悪かったな)」

 

壮馬の予想は正しい。千束はフクロウのネックレスに手を添えながら口を開く。

 

「………………松下さん。私はね、人の命は奪いたくないんだ」

 

『は?』

 

「私はリコリスだけど、誰かを助ける仕事をしたい。これをくれた人みたいにね」

 

不殺を貫き、救世主を目指すリコリス。それが千束である。故に松下の願いには応えられないのは必然だ。

 

『何を言………………千束』

 

「?」

 

『それではアラン機関は君を………………その命を…………………』

 

アラン機関。そのワードを聞いたゼロは千束を押しのけると、松下の目の前に銃口を押し付ける。

 

「貴様、アラン機関について何か知っているな?知っている事を全て話せ。でなければ殺す」

 

『…………………………』

 

しかし、松下は何も言わない。すると、松下が付けていたゴーグルや車椅子に搭載されているディスプレイ等の機械の電源が落ちる。

 

「ちょっとちょっとちょっとちょっと!ダメでしょ、銃なんか突きつけちゃ!」

 

「………………なるほどな」

 

千束の抗議の声など耳に入っていない様子のゼロは何かを察したように呟く。銃を降ろし、もう用は無いとでも言いたげに松下に背を向ける。

 

「もうここに用は無い。警察が来る前に私は去るとしよう」

 

パトカーのサイレン音がその場の全員にも聞こえてくる。

 

「あらら~。面倒なことになる前に私達も逃げちゃお」

 

ようやく息が落ち着いてきたミズキもそう急かす。ゼロのウイングスーツのジェットエンジンが再始動し、千束らはゼロの近くから離れる。

 

「………………ああ、そうだ」

 

ゼロは何か思い出したかのようにスラッシュハーケンを上の足場に向けて発射する。その衝撃で落ちて来た銃をゼロがキャッチする。それはたきなが使っている銃だった。そのままゼロはたきなの方に差し出す。

 

「空中から急降下する時に落ちているのが見えた。銃を落としたとしても、それ以外にも第2、第3の攻撃手段は常に持っておく事を勧める」

 

「え、あ…………はい………アドバイス、ありがとうございます…………?」

 

ちょっとしたアドバイスに戸惑いつつも、たきなは銃を受け取りながらお礼を言う。そして、ゼロはウイングスーツで飛び去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。ジンとミカが話している間、壮馬と千束、たきな、ミズキの4人は東京駅から離れた河川敷で水切りをしていた。壮馬は事の顛末を聞き終わると、今度は自身の身に起こった事を話していた。

 

「へー、じゃあ壮馬はゴブリンとゼロの戦闘に巻き込まれた挙句、ゼロに東京湾に落とされたんだ。そりゃ災難だったね~」

 

「恐らくゼロは戦闘から遠ざける為に落としたんだろうが、お陰で通信機も壊れて服も濡れ、千束らにも連絡も取れずじまいだ。お陰で合流するのも一苦労。こんな事なら依頼を受けるんじゃなかったな」

 

まぁ、全部嘘なのだが。

 

「……………そう言えば、あの後ゴブリンはどうなった?クリーナーに引き渡したのか?」

 

「うんん。気絶している間にスーツとか全部取っ払ってパンイチにして無力化した後に、警察に引き渡されるように手配しておいたよ。アメリカで色々と犯罪行為をしてたみたいだし、その内アメリカに引き渡されてあっちで逮捕されるんじゃない?」

 

「日本はアメリカと犯人引き渡しの条約を結んでいますからね。……………………それに、あんな男にクリーナーを使うのは勿体無いので」

 

想像以上にたきなはゴブリンを嫌悪しているようだ。まぁ、かなり悪趣味な殺し屋だったので壮馬と千束も同じく嫌悪感を抱いているが。

 

そこへ壮馬の携帯に着信が入る。相手はクルミだった、壮馬は着信に出ると、そのままスピーカーモードにする。

 

『クリーナから連絡が来たぞ。指紋から身元が判明した。先々週に病棟から消えた薬物中毒の末期患者らしい。もう自分で動いたり喋ったりできないそうだ』

 

「そんな!みんなと喋ってたじゃん!」

 

『ネット経由で第三者が千束達と話してたんだ。ゴーグルのカメラに車椅子はリモート操作で音声はスピーカーだよ』

 

「(………………やはりか。電源が落ちた時点でそんな所だろうと予想していたが)つまり、松下と言う人間は存在していなかったと言う訳か。……………………依頼人についてもっと情報収集をしておくべきだったな」

 

壮馬のジト目にさっと目を逸らすリコリコ組。これは責められても文句は言えない。

 

「…………それにしても、何で殺させようとしたの?誰が、何の為に?」

 

「………………断言は出来ないが、そいつの言動から察するに…………………………千束に殺しをして貰う事自体が目的のように思えるがな」

 

「私に殺しを……………何で?何で私が人の命を奪う事が、その人の目的なの?一体何の利益があるの?」

 

「…………………さぁな。それは流石に本人に聞かないと分からない、な!」

 

壮馬が投げた石は高速回転しながら川を跳ねて行く。そのまま対岸まで行きそうな勢いである。ちなみに、跳ねた回数は20回。

 

「わぁ、凄いね壮馬!よーし、それじゃ私も………………それっ!」

 

千束も壮馬の記録に追いつく…………………かと思いきや一度も跳ねずに川にポチャである。記録は0回である。

 

「これには草しか生えないわね」

 

「酔っぱらいは黙ってなさいよーだ!…………………………はぁ」

 

千束はそのまま後ろの草むらに大の字で倒れ込んでため息をつく。

 

「いっぱい話して、いいガイドだって言ってくれたのもぜーんぶ嘘かぁ……………………」

 

「良いガイドと言うのは本当だと思います」

 

「それは俺も同感だ」

 

「……………ありがとう」

 

たきなと壮馬の言葉に慰められる千束。そんな千束の胸を何故かガン見しているたきな。すると、千束の胸にたきなは耳を当てる。

 

「!?」

 

「フアッ!?」

 

この大胆な行動には壮馬もミズキもびっくり。無論、千束もである。

 

「ちょーいちょいちょいちょい!?」

 

「今は関係者しかいないから問題ないじゃないですか」

 

「んー……………まぁ、たきなが良いなら良いんだけど…………………」

 

「………………本当に鼓動がないんですね」

 

「………………そうだよ。凄いだろ?」

 

何とも特濃な百合を見せつけられる壮馬とミズキ。壮馬の頭の中で興奮しているカレンの姿が思い浮かぶ。

 

「………………そう言えば、私がDAにいた時にこういうのが好きな奴がいたんだっけなー」

 

「………………知り合いで?」

 

「いや、全然。名前も顔も知らないけど、『百合好きで月に10回以上は始末書を書いてる変態がいる』なんて噂を聞いたことがあるだけよ」

 

「(何してんだあいつ…………………)」

 

どうやらゼロの協力者は昔からヤバい奴だったみたいである。DAは自分からいなくなってくれてホッとしてるに違いない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは1人目だ。リコリス」

 

そして壮馬はまだ知らない。あの男との再会の時が静かに迫っている事を───────。

 

to be continued……………




もうすぐバランス廚と感動(大嘘)の再会です。

あ、そう言えばリコリコ新作アニメが製作されるみたいで。やったぜ。

どんな物語になるんですかねぇ…………………流石にまた真島さんが敵なのは、ちょっとどうなんだろう、って感じですよね。次の敵はアラン機関なんですかね?

まぁ、どうせなら同年代の敵が良いですかねー。元リリベル・リコリスの天才テロリストによってDAの存在が世間に暴かれて、リコリコも閉鎖に追い込まれて千束達が曇る展開も見たい(愉悦部)……………………あれ、この天才テロリストって壮馬が当てはまってる?

……………………よし、次の敵のCVは福山潤さんで決まったな(妄想)


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