たまたまベータテストのデータが残ってたので有効活用させてもらいます。 (好きjaなくないない無い)
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始まり
[こちら先週の発売の様子です。先頭はなんと三日も並んでいたそうで。今日はそんな注目のゲーム『ソードアート・オンライン』略して「SAO」をピックアップしていきます。SAOはナーヴギアを開発した茅場晶彦のプロデュース。しかも待望のVRMMOと会って世界で大注目!βテストの評判も良くWEBの先行予約一万本も瞬殺だったそうです。]
俺が起動しているパソコンのテレビからそんな情報が入ってくる。その情報に耳を傾けていると下から妹の声がする。
「お兄ちゃーん。部活行ってくるー!」
「ああー。」
妹には申し訳ないが今はそれどころではないのだ。
2022/11/06 sun
12:53:57
もうすぐで午後1時になるこの世界でオレはあの世界に入る準備をしていた。
「..........ほどほどにねー」
妹も事情を察したのかあまり多く語らずに家を出ていった。
ほどほどにか....
「....悪いなスグ....今日はとことんまでやるつもりなんだ。」
オレは明日から立ち上がりナーヴギアを取り出すと、専用の接続機に接続し、頭からすっぽり被った。ナーヴギアが正常に接続されたことを確認し、俺はベットに寝転がる。あとは一言唱えればあの世界に行ける。
「リンクスタート!」
途端に天井だった視界が変わり目の前にはログイン画面のスクリーンが出てきた。あらかじめ決めていたパスワードを入れると、
『βテスト時に登録したデータが残っていますが、使用しますか?』
Kirito(M)
もちろんYESだ。
〉YES
NO
途端に動き出す光の粒子の眩しさに目を瞑るが次目を開いた時はこの世界についていた。
「戻ってきた。この地に...SAOの世界に!」
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ここは第一層の「始まりの街。初期の装備などが手に入り、また今日ログインする全プレイヤーがポップする場所だ。
「まずは剣とかを手に入れないとな....。よし!」
俺はβテスト時に初めて買ったお店に向かうため、走り出した。そこで俺は違和感を覚えた。
「ん?」
たいした違和感ではない。自分のアバターが自分の動かしたいように動いているし、感触に問題も見受けられない。
ただ、
「あれ?レベル1の時ってこんなな足速かったっけ?」
走力がハンパなかった。βテストと本番で多少差異があると言ってもここまで変わるものなのだろうか?
「ま、いっか。」
詳細はまた今度確認すればいいだろう。今はとりあえず武器屋に全力で向かった。
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「なんでこうなった.........」
建物と建物の間にある目立たないスペースに隠れた俺は慌てて自分のステータスを確認した。
Kirito(M)
レベル 31
片手用直剣(210)
索敵(170)
武器防御(150)
戦闘時回復(150)
疾走(140)
隠蔽(130)
「装備にはクイーンズ・ジェムソード含め色々あるし、こりゃチートどころじゃないな。」
アイテム一覧にはこの街で帰る装備よりも二回り以上にいいものが入っていた。この街で買う必要があるものはないだろう。先ほどから違和感がたくさんあったし何より決め手となったのは剣を購入した時だ。購入ボタンを押した時残りのお金が表示されたが初期に配備されるお金の10倍以上だったのだ。
「このレベルならベータで到達した辺りまでは余裕で行けちまうな。」
これはバグなのだろうか?ならしばらくすれば運営がなんとかしてくれるだろう。
「取り敢えずは装備を外しておくか。」
そう言って外していく。剣も先ほど買った初期装備にし、服装も初期のシャツとズボンという姿になった。
ネットゲーマーはチートなどに厳しい。基本あまり騒ぎを起こしたくないキリトとしては最初から好装備で注目の的になるのは嫌だった。
「よし!こんなものか...」
「おーい!そこの兄ちゃん!」
「!....あ、俺?」
装備に異常がないか確認中に後ろから声をかけられ慌てて振り返るとそこには額にバンダナを巻いた赤髪の少年が立っていた。性別は見れば男だがアバターなので本当かどうかはわからない。もしかしたらこんなイケメンの素顔は野武士ヅラかも知れない。なんてことは口に出さないが。
「その迷いのない動きっぷり、あんたベータテスト経験者だろ...!?」
「まぁ....」
ちなみに先ほどの動きは迷いのない動きではなく、レベルのバグによってめちゃくちゃ悩んだ末の動きである。まぁベータテスターであることには変わりない。
「やっぱり!すげぇ!経験者にあえるなんてよ。頼む!序盤のコツちょいとレクチャーしてくれないか?」
「え?」
そう言ってこの青年は手を合わせて頼み込んでくる。
(まぁ、悪い奴じゃなさそうだしな。それに俺も一層での力加減を学ばないと)
「分かった。いいぞ。」
「おお!ありがてぇ。」
「俺の名は《クライン》。よろしくな!」
「よろしく。俺は《キリト》だ。」
お互い自己紹介を終えた俺達は始まりの街を抜け、近くの草原に向かった。
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「どわぁっ」
草原に出現する猪型モブのフレンジーボアの突進がクラインの股に当たる。
「股が、俺の股がが....」
「大袈裟だなぁ。痛みは感じないんだろ?」
「あっ...そっか。」
「言ったろ?重要なのは初動のモーションだった。」
「んな事言ったってよぉ〜。アイツ動きやがるし。」
「ちゃんとモーション起こしてソードスキルを発動させれば...」
俺は地面にあった小石を拾い構えをとる。すると石にスキルの光が帯びる。それを確認した俺はフレンジーボアに投げつけた。石は猪の腰に無事命中。
「な!後はシステムが技を命中させてくれるよ。」
「モーションね。」
「ほんの少しだけタメを入れてスキルが立ち上がるのを感じたら打ち込んでみろ。」
「なるほどね。」
そう言ってクラインは短剣を肩に構える。その短剣にオレンジ色の光が帯びた。
あれなら打てるだろう。
「そらっ」
フレンジーボアに小さく蹴りを入れてクラインの方へと向かわせる。
「りゃぁぁあああああ!!」
クラインの発動したソードスキルがフレンジーボアを一閃。そのままポリゴンに化していった。
「うっしゃあ!やったぁぁああ!」
「おめでとう。」
俺達は勝利のハイタッチ。
「ま、今の猪はスライム相当だけどな。」
「マジかよ?オレはてっきりクッパの一歩手前だと。」
「一層でクッパ相当の相手がいてたまるか!」
丁重に突っ込んでやるとクラインは探検を見ながら質問してくる。
「なぁ、スキルって武器作ったりすんのとかいろいろあんだろ?」
「そうだな。スキルの種類は無数にあると言われてる。そのかわり魔法はないみたいだけど。」
「RPGで魔法なしとは大胆な設定だな。」
「そうだな。でも自分の体を動かして戦う方がハマるだろ?
「....ああ!!!」
「よしっ!じゃあ次行くか!」
「おう!ガンガン行こうぜ!!」
それから俺とクラインは3時間ほどイノシシ狩りを続けた。時刻は5時前で俺達は沈みかかってる夕日を見る。
「何度見ても信じらんねぇな。これがゲームの中なんてよ。」
クラインがそんなことを言い出す。
「すげーよな。マジこの時代に生まれてよかった。」
「大袈裟だな。」
「だって初のフルダイブ体験だぜ?」
「?じゃあナーヴギア用のゲームもこれが初めてなのか?」
「ああ、つーかSAOのためにあわててハードを揃えた感じだ。たった一万本の初回ロットをゲットできるなんて我ながらラッキーだよな。まぁ、ベータテストに当選したお前の方が10倍ラッキーだけどよ。」
「まぁそうなるな。さて、もう少し狩りを続けるか?」
「あったりまえよ!と、言いてぇとこだが今日はここまでだな。腹減ったし、五時に熱々のピザを予約済みだぜ!」
そう言って手でVサインを作り出す。
「準備万端かよ」
「それじゃ!マジサンキューな!これからもよろしく!」
「もちろんだ。またいつでも聞きたいことがあったらいつでもメッセ飛ばしてくれ。」
「おう。さっそくだけどよ、他のゲームで知り合った奴らにも紹介してもいいか?」
「え?」
「飯の後で落ち合う予定なんだけどよ...よかったらあいつらともフレンド登録しないか?」
「ん.....」
「ああ!いやいや、無理にとは言わねーよ。いずれあいつらと会う機会もあるだろうさな。」
「わるいな。あまり人付き合いは得意じゃないんだ。」
「いいってことよ。まぁともかく今日はありがとよ。このお礼はそのうちちゃんとするからよ。」
「ああ。」」
「それじゃ抜けるわ。」
そういってクラインはメニューを操作し始める。五時まで後一、二分ほどだし早くしないとピザが来てしまう。
「....あれ?ログアウトボタンがねぇぞ?」
「!?...よく見てみろよ。」
「....やっぱどこにもねぇよ。」
再度確認したクラインがそう述べる。
「そんなわけないだろ。確かメインメニューの1番下に...ない。」
オプション、ヘルプ、と記載されたその下にログアウトがあったはずだが、そこにあったのは半透明のプレートと出口のようなイラストだった。
「だろぉ。ま、今日は正式サービス初日だからこんなバグも出るだろ。今頃運営は半泣きだな。」
「お前もな。もう5時過ぎたぞ?」
「え?.....あ!俺様のテリマヨピザとジンジャエールがーー!!!!!」
「さっさとゲームマスターコールしろよ。」
「とっくに試したんだけど...反応ねーんだよ。他にログアウトする方法って無かったっけ。」
「...ない。プレイヤーが自発的にログアウトするにはメニューを操作する以外の方法はない。マニュアルにも緊急切断方法は一切載ってなかった。それに俺達は今自分自身の体を動かすことができない。ナーヴギアが俺達の体から出力される命令を全部ここで遮断してる。」
「...じゃあバグが直るのを待つしかねぇのか?」
「そうだな。もしくは現実で誰かが俺達の頭からナーヴギアを外してくれるまでだ。オレの家はもう少しで晩飯だし、母親か妹が気づいて...」
言ってる途中にクラインがオレの両肩を押さえてきた。何か妙案が浮かんだのだろうか?
「キリトの妹さんっていくつ?」
全然違った。
「こんな時に余裕だな。って、そんなことより変だと思わないか?ログアウトできないなんて今後の運営に関わる大問題だ。このレベルは一度サーバーを停止させてプレイヤー全員を強制ログアウトすればいいのに、アナウンスすらないなんて。」
ゴォーーーン
「「??!!!」」
ゴォーーン
ゴォーーーン
突然の鐘。そして俺達2人のアバターが光に包まれた。
「これは_________」
光の眩しさに目を瞑り、再び開いた時、そこは始まりの街の広場だった。
「強制テレポート」
「一体何が起こってんだ?」
そばにいたクラインとすぐ合流すると俺達は当たりを見回した。他のプレイヤーも続々と集まってきてる。ここでログアウトのバグを一斉に説明するのだろうか?
「お、おい!あれっ!!」
誰かの声がした後、全員の視線がそれのある一点に集中する。そこには『WARNING』と書かれた電子版がある。
次の瞬間、その電子版が広がり始めあっという間に平間全てがその文字に囲まれた。そこから赤い色の液体が漏れている。その液体は空中で止まると、その形を変え始め、ロングフードを被った人型の姿と化した。
「誰だあれ?」
「ゲームマスター?」
「なんで顔がないんだ?」
「怖い...」
そんな感想が飛び交う中フードを被った男が喋り出した。
『プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ。私の名は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。』
まさか、信じられない。
「本物かよ?」
「ずいぶん手ぇ込んでんな。」
『プレイヤー諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしこれはゲームの不具合ではない。繰り返す。不具合ではなく、SAO本来の仕様である。諸君は自発的にログアウトすることはできない。また外部の人間によるナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力のマイクロウェーブご生命活動を停止させる。』
「どう言うこと?」
「も、盛り上げるための演出だろ?!」
「な、何言ってんだあいつ...なぁ、キリト。」
クライン含め、周りの反応は半信半疑。だが...
「電子素子のマイクロウェーブは電子レンジと同じだ。リミッターを外せば脳を焼くことも可能だ。」
「じょ...じゃあ電源を切れば!」
「いや、ナーヴギアには内部バッテリーがある。」
「ム...ムチャクチャダだろ!なんなんだよ!!?」
『.....残念だが現時点でプレイヤーの家族、友人等が警告を無視し、ナーヴギアを解除しようと試みた結果、213名のプレイヤーがこの世界たる浮遊城《アインクラッド》及び現実世界から永久に退場している。多数の死者が出たことを含めこの状況をあらゆるメディアが報道している。』
そう言って茅場を名乗るホログラムはメニューを操作しテレビやネットのニュースを表示する。
[オンラインゲーム事件被害者続出]と書かれたニュース。十中八九このゲームのことだろう。
『よってすでにナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言えよう。諸君は安心してゲーム攻略に励んでほしい。しかし十分に留意してもらいたい。今後ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は存在しない。HPが0になった瞬間諸君のアバターは永久に消滅し同時に
諸君の脳はナーヴギアによって破壊される』
その言葉を聞いた瞬間、広場にある約一万人のプレイヤーは一瞬にして声を上げる。
「ふざけんな!!!」
「そんなこと信じられるか!!」
そんなクレームを無視して茅場は話を続ける。
『諸君が解放される条件はただ一つ。このゲームをクリアすれば良い。現在君たちがいふのは《アインクラッド》の最下層第一層である。各フロアの迷宮区を攻略しフロアボスを倒せば次の回に進める。第百層にいる最終ボスを倒せばクリアだ。』
「クリアって...。βテストでもろくに上がれなかったんだろ!出来るわけねーだろ!!」
クラインも大構を挙げ抗議する。
『それでは最後に私からのプレゼントだ。』
そういってメインメニューを操作する茅場。すると全プレイヤーの前に何かのアイテムがポップした。
「これは.....手鏡?...!!うわっ!!」
手鏡で自分の姿を確認したプレイヤーがどんどん光に包まれている。再び目を開けるとアバターではなく現実世界の俺の姿があった。
「大丈夫か?キリト...」
「ああ、なんともない。」
心配の声が聞こえ先ほどまでクラインがいた場所に振り返ると、そこには見たことのない野武士ヅラの青年がいた。
「あれ?お前誰?」
「お前こそ誰だよ?」
「あれ...?なんで俺の顔が。」
「アバターはどうなったんだよ?」
「あんた男だったの!!」
「17って嘘かよ!?」
周囲でも顔が現実世界と同じになっているようだ。
「てことは、お前クラインか!」
「おう、じゃあお前キリトか。どうなってんだこりゃ?」
「スキャン?ナーヴギアは高密度の信号装置で顔をさっぱり覆っている。だから顔の形を把握できるんだ。でも身体はどうして?」
「ナーヴギアを初めて装着した時に、キャリブレーション?とかで自分の身体あちこち触ったじゃねぇーか。」
クラインの助言で思い出した。確かにあの工程はスルーすることができず、やらなければプレイ出来なかったので面倒臭かった。
『諸君は今何故?と思っているだろう。なぜナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのかと.....。私の目的は既に達成されている。この世界を創り出し干渉するためのみ私はSAOを作った。そして今全ては達成せしめられた。』
「、...っ、茅場っ....」
『以上でSAO正式サービスチュートリアルを終了する。諸君の健闘を祈る。
これはゲームであっても遊びではない』
それだけ言うと茅場は消え上空を包んでいた『WARNING』の電子版も消えた。
.....これは本当のことなのか、いや本当だ。
ナーヴギアを開発し完全なる仮想空間を生み出した天才、茅場晶彦。そんな彼に魅了されていた俺にはわかる。彼の宣言は全てが真実だ。
この世界で死ねば俺は本当に死ぬ。
「っ...いやぁぁぁあああああ!!」
「マジか」
「ふざけんなよ!」
「ここから出せ。」
こんな状況では混乱するのは当然だろう。早く出たほうが良さそうだ。
「クライン。」
「な、なんだよ?」
「俺は次の村に進むよ。このゲームをクリアするために。一通りのテクはお前に伝授したつもりだ。」
「おう。分かってる。俺にはダチがいる。そいつらとここら辺で上達しろってことだろ?」
「ああ、俺は一日でも早くこのゲームをクリアするために動く。ベータテスターは即戦力だからな。だがビギナーはお世辞にもこの先のステージで通用するとは言えない。だからまずはこの近くで地に足をつけながら進んでほしい。明日中にここら辺での穴場スポットやいい情報をメッセで送る。」
「わかった。気をつけていってこい。」
そう言われて俺は彼に背を向ける。ゆっくりと歩き出す。
「キリト!...キリトよ。お前..案外可愛い顔してやがんな。結構好みだぜ。」
こんな時に何を言ってんだこいつ。だが、笑うには十分なジョークだった。
「お前もその野武士ヅラの方が10倍似合ってるよ!」
俺は振り返って叫ぶ。そして前を向き走り出す。メニューで装備を整えながら。
(俺は....生きる)
目の前にmobが現れる。ダイアウルフ。
シングルシュート
片手剣の基本技だ。ウルフを一閃しポリゴンへと変える。
「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
俺は幸運だろう。ベータのデータが残っていて、だがこの有利点を逃すなんて甘い考えはない。茅場のミスか、ゲームのバグか、どっちだっていい。使えるものは使う。
そして、
(生き延びてみせる)
こうして俺の、いや俺達のデスゲームは幕を開けた。
反応が良かったら続きを書くつもりです。
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ウツボ狩りとフェンサーさん
まずはみんなに伝えたいことがある。このゲームはリソースの奪い合いだ。mobのポップ率にも上限がありしばらくしたら湧いてこないかもしれない。だが、すでにレベルが31である俺はレベルアップするために沢山のmobを狩る必要がある。そこで一ついい案が浮かんだ。
「やっと着いた。」
ゲーム開始から一週間。俺は今リトルネペントがいる森に来た。
リトルネペント
一言で言えばウツボ型の植物だ。たいして強くないし倒しても経験値が50ほどしか入らない。しかし注意すべきところがある。
それは頭の後ろだ。
通常のネペントは草が生えているのだがごく稀に花や赤い球がついている個体がいる。今回狙うのは赤い球がついている個体だ。その個体を倒すと赤い球から煙が発生し、mobが引き寄せられる特性がある。どが、これがもしポップしていると仮定すれば、半永久的に経験値を手に入れられる。
「早速いたか。」
見つけた赤い球をもつ個体を倒す。予想通り煙が分散し沢山の仲間を引き寄せた。50体ほどか...
ビギナーにとってこれは相当ピンチだろうが、レベル31にもなればこいつらの攻撃は屁でもない。それに今のレベルの攻撃力と武器のスペックの高さからソードスキルを使う必要すらないだろう。
結局ウツボ狩りは一時間半ほど続いてオレは大量の経験値と共にレベルを一つ上げることができた。
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「さて、そろそろ帰るか。」
午後五時を回ったあたりで俺は森から出る準備を始める。今のレベルで不覚をとることはないだろうが、夜遅くの狩りは危険な上こちらは一時間半も剣を振っているため疲労も出ている。しっかりと睡眠をとってまたこの場所に来るとしよう。
「ん?あ、あいつは!!」
俺の目線の先には人型ネズミのような感じのmob、スプリー・シュルーマン
倒すとこの層では入手困難なアイテムが手に入る。今の俺には必要ないが狩るに越したことはないだろう。それにいい短剣が出ればクラインにプレゼント出来るしな。
「よっと」
サクッと一撃でしたは良いが、出たのは『ウィンドフルーレ』と言うレイピアだった。この層では最上級の武器だが、生憎知り合いにフェンサーはいない。宝の持ち腐れだな。
「さて、じゃあ今度こそ帰るか。って、ん?今度はなんだ?」
モンスターじゃない。俺の索敵に誰かが引っかかった?マップで確認するとプレイヤーは1人でモンスターと対峙している。
「待て待て待て、まずい!」
別に1週間でここまで駆け上がるビギナーがいても不思議じゃない。だがプレイヤーが1人で、コイツの相手は骨が折れるだろう。
俺は急いで現場へと向かった。
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私は戦う。
この世界ではもう生き方を選べなくなった。
でも、死に方くらいなら自分で決められる。
本当に、なんでこんなことになってしまったのだろうか。
なんで兄のナーヴギアを勝手に被ってしまったのか。
私の家は比較的裕福だ。勉強もできるし運動も嫌いではない。名門の女子中学校に通わせてもらってるし、自分が比較的恵まれているとも思う。
だけど嫌になった。
両親は後継である兄にのめり込んで私のことは二の次。兄はそんな私を気にかけてくれてた。
だけど耐えられなかった。楽になりたかった。
そんな時に見つけたのが、兄のナーヴギアとSAOだった。
初めは楽しかった。現実とは別の世界、小説の中に入ったかのようなファンタジー世界。
全てが初体験だった。
そう、全てが_____________________________
『これはゲームであっても遊びではない。』
その一言で私は分かってしまった。このゲームはクリア不可能なのだと。
全百層あるなか仮に一つの層に一週間かかったとしたらクリアまでおよそ2年もかかる。それまでの間現実世界の体が飲まず食わずで耐えられる訳がない。
なら闘おう
もう生き方なんて選べない
でも死に方くらいなら選べる
私はそう思い装備を整え始まりの街を旅立った。
_____________________________________________________________________
「ハァ..ハァ...鬱陶しい。」
森の中に生息するリトルネペントを狩っている。赤い実のような球をつけた個体を倒してしまったので沢山の個体を引き寄せてしまったがそれもあと2体。
「ハァァァァァアアーーー!!!!」
私は残りHP半分ほどの個体に向け単発技《リニアー》を放つ。見事命中しネペントはポリゴンと化す。
あと一体
私自身のHPは残り4割ほど。ポーションも底をつきたし、主要武器であるアイアンレイピアにもヒビが入ってきてる。耐久値に限界がきたのだろう。ここらで引き返して町で新しいレイピアとポーションを手に入れないと。
「その前に.....これで最後!」
そう言ってあと一匹のネペントに剣を向ける。ネペントは相変わらず奇妙な唸り声を出しながら近づきてきた。
そんな最中、私は違和感を覚えた。
ネペントの周りだけ一層暗くなった。
陰だ....
ネペントも気づいて上を見上げるもすぐにその個体に踏み潰された。そしてまるで洋梨を食
べるかのように飲み込まれた。
ジャイアント・アンスロソー
恐竜のような顔にゴリラのような体格。腕には羽のようなものがついている。手先の爪で攻撃することは始まりの街にあった情報ブックに書かれていた。
そして実際に遭遇してもう一つ分かったことがある。
今の私では勝てないと。
オォォォォォォォン
決死の突進に剣でガードするしかなかったがその衝撃でレイピアはポリゴンへと化した。耐久値が切れてしまったのだろう。
もう武器もない。回復もできない。
私の死は確定しただろう。
だけど、これで良かった。
始まりの街に籠って惨めに死を待つくらいならここでこうして死ぬ方がいい。
アンスロソーに体を掴まれ身動きができなくなった。大きな口を開け、地面の土ごと私をたべとうとする。徐々に迫る死を私は受け止め.......
ウオォォォォォォォォォン!!!!!!!!
急に体の拘束を解かれアンスロソーは天に向かって叫ぶ。見ると右目あたりにダメージエフェクトがある。誰かがが攻撃したのだろうか。
「ちょいと失礼。」
「えっ?あ!きゃっ!」
横から現れた男性....いや男子に横向きで抱えられたまま、その人はその場を離れ木の上に着地する。そして木の上に優しく置かれた私は混乱が収まらないなか彼を見上げた。黒く綺麗な瞳をした少年は私の無事を安堵して声をかけてくる。
「大丈夫か?HPはどれくらい残ってる?」
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索敵スキルで見た通り、敵の個体はジャイアント•アンスロソーで少女はなす術もなく食べられかけていた。付近に壊れたアイアンレイピアがある。おそらくそれが彼女の主要武器だろう。少女の年齢はおそらくだが俺の一つが二つ上ほど、限りなく同年代に近いだろう。
俺はアンスロソーの目に一撃ヲ当て、怯んだ隙に少女を抱き抱えてアンスロソーの攻撃が届かない付近の木の上に着地した。
少女を抱えるのは申し訳ないが生きる為だ。許してほしい。
少女は未だに何が起きたか分からないと言う表情だったが事態は一刻を争うかもしれない。
「大丈夫か?HPはどれくらい残ってる?」
主要武器が壊れる程だ。ポーションだって無くなっているかもしれない。俺はバックからポーションを取り出し彼女に渡す。
「これ飲んで待っててくれ。奴は俺が倒すから。」
「えっ!ちょ、ちょっと!」
彼女は何か言いたげだったが今はそんな余裕がない。現にアンスロソーは俺たちの木の前まで到着しており、このままでは木に体当たりするだろう。そうなっては彼女に落下ダメージが適用されてしまう。その前に倒さなくては。
「そこだぁぁぁぁああ!!」
俺はアンスロソーの着地し体から頭にソードスキルを一閃。レベルの差もあり一瞬にしてアンスロソーのHPが0になる。
「よし。彼女はっと.......」
ポリゴンと化したアンスロソーから意識を逸らし俺は先ほどまでいた木の上を見る。すると彼女は木の上から落ちないように細心の注意を払っていた。その高さは20メートルほど。
「高すぎたかな.....」
俺は木と木の間を壁キックして彼女の元に戻った。
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「嘘.......」
ジャイアント•アンスロソー。決して弱い敵ではない。なんだったら一層の中でも5本の指に入る強敵だ。
「なんなの.....あの強さ......」
私は木の下にいる少年を見る。見るからに同年代である彼は一体どうやってその強さを手に入れたのだろうか。
私だって決して弱いわけではない。ゲームが始まった最初の2日間こそ宿屋に閉じこもっていたがそれ以降の5日間はどんな時でも戦うことを考えていた。レベル的にも最前線プレイヤーと遜色ないだろう。
それなのに....なぜ?
「大丈夫か?」
敵を倒した少年はまた木の上へと戻ってきた。
「え、ええ....」
「それは良かった。今日はもう暗くなるから近くの村に帰だだほうがいいよ。ポーションは俺の持っているやつ半分あげるから。あ!あと主要武器なんだけど、下で壊れたアイアンレイピアがあったけども予備のレイピアはある?なかったらこれさっきドロップしたやつなんだけど....」
「え、あの、その......ちょ、ちょっと待ってください!」
「あ...はい。」
饒舌に色々話して私のために色々出してくれるのは非常にありがたいが、このままではその全てを貰ってしまいそうで一旦彼の話を遮った。
「まずは助けてくれてありがとう。あなたの推察通り武器が壊れてしまったの。今色々もらっもいいけどまずは街まで送ってもらってからでいい?」
「え?ああ、もちろん。ならまずはここから降りよう。降りれる?」
「......さっきいきなりお姫様抱っこしたことは不問にするので出来ればおんぶで下ろしてください。」
「分かりました。それでお話ってどこでやろうと思っているの?街の酒場か宿屋か?」
「誰かに見られて変な誤解されたくない!」
「そ、そうか。なら俺が借りてるNPC農家の2階はどうだ?ベットもでかいしミルクも飲み放題。景色もいいし、おまけに風呂まで付いて......」
私は脊髄反射で彼の胸ぐらを掴む。失礼だろうが今は仕方がない。それほど衝撃な一言を聞いてしまった。
「今なんて?」
「み、ミルク飲み放題?」
「その後!」
「ベットが広くて...いい眺め」
「その後!」
「ふ、風呂付き。」
「あなたの!部屋で!お風呂!....貸して......」
「あ......ハァい.....」
こうして私は彼と共に村に戻ることになった。
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ふたつの道
映画よかったです。2回見にいったのですがやっぱり家と映画館の違いを思いさされました。(音がいい)
来年もあることを祈ってこれからもSAOを応援していきます。
「うわぁぁーーーーーーーーー」
俺の借りている家に同い年くらいの少女を招き風呂を貸す。俺はそんななんとも言えない心情をかき消す。この後は彼女以外に来客があるのだ。
「使い方は大丈夫だと思うからごゆっくり。あとこの後ちょっと来賓があるけど気にしないで。」
俺はそれだけ言うとお風呂に繋がるドアを閉じでベットに寝転がる。予定が狂ったとは言え彼女を見捨てるわけもいかないからな。
コンッ、ココンッ
「早速きたか。」
俺は寝転がった体勢から起き上がりドアへと向かう。宿屋は基本出入りできるのはその部屋を借りている本人とパーティーメンバーのみ。だからパーティーを組んでいない人は今のノックのようにドアの前で合図を送らなければならない。
「ごめんよキー坊。少し早かったか?」
「いいや、こっちはお願いしている身なんだ。とやかく言うつもりはないよ。」
どうぞと彼女を部屋に招き入れる。彼女はアルゴ。通称《鼠のアルゴ》と呼ばれた情報屋だ。その情報収集力はアインクラッド1だろう。ちなみに話題には出ないが彼女と俺は互いにベータテスターだと確信している。
「それで頼んであった件って.....」
「キー坊の予想通りだヨ。確認できたところで273人。リリース時、ログインしていなかった人のことを考えても四分の1は亡くなっている。」
「そうか。確かにβテストとの差はほんの少ししかない。だけどこのゲームはそのほんの少しが命取りになってしまう。」
「そう。攻略本にもその可能性は書いたけど、既に第一層を経験し慣れてしまったベータテスターはその微妙な違いに対応できない。まぁ、死亡者は日に日にいなくなってきてるしもうこれ以上減ることはないと思うが....。誰かいるのカ?」
アルゴが水の音がする風呂の部屋を指差して尋ねる。
「さっき森でプレイヤーを助けたんだ。この話を聞かせるわけにもいかないからとりあえずお風呂に入ってもらってる。」
「そうカ.....。キー坊もついに大人の階段を.......」
「勝手に妄想するな。女子とも決めつけるな。」
アルゴは俺のことを良くこうやっていじるのだがいちいち真に受けていたらこちらの心がもたない。こうやって適当にあしらった方がいいだろう。
「あと例の話、どうやら何個か違う点があったゾ。この場所はベータにはなかった。」
「ならこれは明らかなるベータとの違いだな。行くだけの価値はあると。」
「ま、そんなとこだ。じゃあ伝えたいことは伝えたしオレッちこれで失礼するゾ。ああ、そうだ。最前線のプレイヤーが迷宮区に到達したらしい。キー坊のマップデータのお陰だ。」
「そうか。ダンジョン内は特に変わったポイントはないけどくれぐれも注意してくれ。」
正式サービス開始から2日目。俺のレベルだとこの層で危ない目に遭うことはないので速攻で迷宮区のある場所までマッピングしアルゴに提供していた。情報としてだがかなりの価値があるそうなので購入者も凄くいるんだとか。
「あいヨ!じゃあまた情報が入ったらメッセ送るヨ。」
「了解。」
それだけ言って彼女は去っていった。情報屋だけに情報集めに忙しいのだろう。
「迷宮区かぁ。」
第一層のボス部屋まではマッピングしていない。だが、迷宮区にいたモンスターの特徴を洗い出した情報は既にアルゴに渡している為今やる事は特にないだろう。先にボス部屋まで行って倒すことも考えたが、それだと最前列で戦うプレイヤーのレベルが危ないしラストボーナスアタックと言う称号を独占することになる?このラストアタックボーナスはこの層では考えられないほど破格なスペックのレア武器を入手することができる。だが先着一名様と言うこともありプレイヤーからの妬みを買うことになる。それはごめんだ。そんなことを考えているうちに少女がお風呂から出てきた。
「お風呂....ありがとう....」
満足そうに出てきた少女に俺はコップ一杯の牛乳を渡す。
「どうぞ。」
「ありがとう。ちょうど喉乾いてたの。」
受け取ってコクンと一口飲む。作法とかはよく分からないが上品な飲み方だと思った。
「とりあえずお風呂に入ったはずいいけど、晩御飯はどうする?俺今この黒パンしかなくて...」
「私もそれしか持ってないわ。別に不味くないし、ちょっと硬いけど............」
「ああ、それならこの瓶を使うと美味しくなるぞ。」
「えっ?」
俺はストレージを操作し小瓶を取り出す。
「蓋のあたりを触ってみて。」
「え?ええ。って、わ!」
少女は言われた通りの動作をすると指の先端が光る。俺も同じ動きをし、その光った先端パンにつける。すると指先からクリームチーズのようなものが出現する。
「クリーム?チーズ?」
「そんなとこ。このパンにつけて食べると美味しいよ?騙されたと思って食べて。」
「うん.....」
少女はクリームのついたパンを頬張る。途端一気に食べ始めるパンは跡形もなく消えていった。
「!.....ご馳走様....」
食べ方が汚かったからか食い意地を張ったからか理由はわからないが顔を赤くしそっぽを向く。別にとやかく言う必要はないのでとりあえずを変えることにした。俺はストレージからアイテムを取り出す。今日の狩りで手に入れた第一層の中でも最上位に位置する武器『ウィンドフルーレ』だ。
「これ、手に入れたレイピアなんだけど俺は使わないし...、今まで使ってきたアイアンレイピアよりもずっと使いやすいと思うよ。」
「え!でも、そんな高価そうなレイピアもらえないよ。返せるものなんてないし。」
「返さないでいいよ。でももし恩返ししたいと思っているのなら是非そのレイピアを使って生き延びてくれ。生きていてくれたらそれだけで十分すぎる恩返しだよ。」
「......うん。」
「なら明日は鍛冶屋に行ってそのレイピアを強化しよう。強化素材はたくさんあるから足りなかったら言って。寝床はこの農家の隣の部屋が空いてるから是非使ってくれ。」
「ねぇ?」
「ん?」
話していると女の子が話を遮った。何か質問したいことがあったのだろうか。とりあえず話すことをやめて女の子の方を向く。
「あなたの強さはどこからきているの________________________
___________________________________________________
「あなたの強さはどこからきているの?」
この一日、正確には彼と会ってからずっと考えていたことだ。彼は間違いなく私が見たプレイヤーの中で最強だ。そんな彼について知りたくなった。
「ええと、それはどう言う意味で?」
「....私は死にたいと思っていた。このゲームはクリア不可能だと思って生き延びることを放棄し、戦って戦って戦い抜いた先に死のうと思ってたの。それが今日あの場所だと思っていたわ。」
「え?....」
「ごめんなさい。でもそう思っちゃったの。あのまま噛みちぎられて私もポリゴンのカケラになっちゃうんだと....。でも違った。あなたが助けてくれた。生きのびてと言われた。だからじゃないけど私もこの世界でもっと戦いたいと思ったの。強くなりたいって.....思った。」
「うん。」
「あなたの強さは多分この世界で1番すごい。だから知りたい。どうやって強くなったのか、どうして戦うのか。あなたのことが知りたいの。」
「....そうか...」
少年は困ったと言うような表情で私から目を外す。
「ごめんなさい。別に無理して教えろというわけではないわ。ただ知りたくなったからつい口にしてしまって....ごめんなさい。」
「いや、いいんだ。だけどこっからの話はオフレコで頼む。それを守れるのなら....」
「守るわ。第一、私ソロでプレイしてたから親しい人なんて特にいないし。」
「あ、はい。ならとりあえず俺のステータスを見せるよ。」
そう言って彼はメニューから自分のステータスを表示した。レベルは32ね。私の3倍くらい.....
「さ、さ、さささ、さんじゅうにぃぃぃぃいいいいい!!!!!!」
「シーッ!静かに。」
「あっ!ごめんなさい。」
「....別に大丈夫だよ。一応確認として言っておくけど第一層ではレベルを上げられてます15までだ。こんなレベルはありえない。」
「なら、なんで...」
「これは俺だけのバグだけどこのステータスはβテストから引き継がれているんだ。」
「そんな...なら他のベータテストプレイヤーも」
「いや、このバグが発生しているのは何故か俺だけだ。アルゴに確認したから間違いない。だからかこの層よりも上で獲得できるアイテムもたくさん持っている。経験値アップの指輪や回復率の高いポーション、この層で入手不可能な素材とかな....。」
つまり彼はβテストで登った階層までのアイテムを持っていると言うことだ。剣は私から見ても強いと分かるほどの雰囲気を漂わせている。
「なんでそんなことを黙ってるの?それを公言きてあなたは攻略プレーヤーのリーダーになるべきだわ。」
「いいや、無理なんだよ。単に俺が人と関わることが苦手ってこともあるが、ネットゲーマーは嫉妬がすごいんだ。今の俺の状態はゲーム用語で『チーター』だしな。そんなやつの言うことを聞くなんてする奴は少ない。」
そうなんだ。子供の頃からゲームはあまりしてこなかった為、ゲーム界の常識のない私からしたら初耳ばかりだ。確かに自分が持ってないものを相手が持っていたら嫉妬する。人間の基本感情だ。
「そうなのね。なら.....なんで私にはこんなに話してくれたの?言わない方が良いんじゃない?」
「確かにね。でも理由を言わないと君は納得してレイピアを受け取ろうとしないだろう?」
「う......」
図星をつかれて何も言えなくなった。
「それに君はソロだ。この手の情報が漏れる可能性は低い。それに十層まで行けばみんなとの違いはなくなる。その後言ったって特に指摘されることはないしな。」
「そう.....」
ここまでの情報を推測するに彼は私達残りのプレイヤーよりβテストで戦った二ヶ月間のアドバンテージがある為強いと言っている。だが、ネットゲーマーは嫉妬深いのでその事実は公にしていない。公になれば自分に嫉妬の矛先が向いてしまう為。
「あなたは1人になるのが怖い?」
「....うん、怖いよ。このゲームで唯一の味方に背中を預けることが出来なくなるなんて寂しいし辛いと思う。だけど...」
「なら私がなる!」
「......?え?」
彼の間の抜けた返事がこの部屋に響いた。そりゃそうだろう。私自身が何を言っているか分からないから。だけどこれだけは事実として言える。
私は彼を一人にしたくない
私は彼のように生き抜きたい
そして、私は彼に認めてもらいたい
「私があなたの背中を守る存在になる。だからお願い。私に戦い方を教えて。この世界の生き方を教えて!」
__________________________________________________________
________________この世界の生き方を教えて!」
そう言われた時、俺はすぐに返事ができなかった。この先、今言ったように自分に矛先が向くような未来が待ち受けている可能性がある。今ここで彼女を仲間にしてしまった場合、そんな未来になった時彼女自身も追求されてしまう。
そんな可能性だってあるのに....
「わかった。ならまずはパーティーを組んで連携の確認だな。あとはスイッチとPTローテについてを確認したい。明日から早速頑張るぞ。」
俺はこの道をとってしまった。
「パーティー?スイッチ?PTローテ?」
彼女が首を傾げている。きっとゲーム系をあまりやらない為ゲーム単語を知らないのだろう。
「パーティーっていうのはまぁいわゆるチームみたいなこと。主に4人とか6人で組むけど別に2人が珍しいわけじゃない。これを承認してほしい。」
俺はメニューから『パーティー申請』をクリックする。もちろんのこと彼女は承認ボタンを押す。
「右側にHPバーが一つ追加されただろ?」
「うん。」
「一つは君のだけどもう一つは俺のHPバーでお互いの無事が確認できるんだ。スイッチとPTローテは明日教えるよ。今日は疲れたし明日お互い8:00に農家の外集合しよう。」
「ええ、分かった。この農家って他に空き部屋は?」
「隣が空いてるよ。借り方は始まりの街と変わらないから大丈夫だと思うけど...」
「分かったわ。ならおやすみなさい。」
それだけ言って彼女は部屋を後にした。予定はだいぶ変わったが特に問題はないだろう。これから一週間ほどでこの世界の基礎を教えると共に、あのクエストに挑戦しなければ....
俺は右横にあるHPバーを見る。
Asuna......アスナだろうか?
「もしかしたら本名かもな。ゲーム初心者っぽいし.....」
もし俺に矛先が向くことがあっても彼女だけには向かないようにする。
そう誓った夜だった。
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攻略会議、そして.....
今年は特に力を入れていたSAOでしたがつい先日、完全オリジナル劇場版が制作決定いたしました、
個人的にもすごい楽しみで受験後の生活が楽しみです。皆さんも同じ気持ちだと思っております。
そんなSAOですがつい先日、ついに正式サービスが始まりました。いろいろなところに『仮想と現実が繋がる』みたいな言葉を見かけましたが本当にその通りだと思います。
なのでと言うわけではありませんがこれからこの小説『たまたまベータテストのデータが残っていたので有効活用させてもらいます』の後書き欄に自分がSAOの世界の中にいると仮定して仮想現実の中の日常をお届けしていこうと思います。あ、もちろん自分の妄想だし曖昧な表現が多くなってしまうかも知れませが書けるだけ書いていこうと思っています。
実は自分のもう一つのニ次小説『ようこそホワイトルームが無くなった世界へ』と言う小説があるのですがその小説の後書きでは読者に見てもらいたい、おすすめのアニメや漫画、ラノベの情報を書いてきました。
そのせいかこちらの後書きにも何か書きたいなーって思って 少し考えたらこのアイデアを思いつきました。いいアイディアかどうか分かりませんが出来る限り続けていきたいと思ってます。主人公はキリトやアスナではなくモブとして書こうと思っているので名前、性別、使用武器など募集中です。コメントでお待ちしております。
長くなりましたがこれからもこの小説をよろしくお願いします。
それでは本編、スターーーート!!!!!!!
※SAOの日記はコメントでもあった通り、混乱を招くため中止となりました。
混乱させてしまった皆様、誠に申し訳ありませんでした。
これからもこの小説をよろしくお願いします。
「スイッチ!」
俺たち2人はパーティーを組み第一層の迷宮区に挑んでいた。この1週間でスイッチやPOTローテなどのゲーム単語を覚えたアスナはすかさず俺とコボルトの間に割り込み単発技《リニアー》を放つ。
「ハァァァーーー!!」
1週間前に強化した明日なの武器《ウィンドフルーレ+4》が正確にコボルトの弱点を突きコボルトはポリゴン片になった。
「グッジョブ」
「そっちもね。あっ!レベル上がった!」
出てきたウィンドウを見て喜ぶアスナ。
「すごいねこれ。《レベル25まで経験値二倍になる指輪》」
アスナに渡したのは主に二つ。一つは先程でたウィンドフルーレ、二つ目は第六層あたりでドロップした指輪だ。レアモンスターからゲットした破格の品だがレベル33の俺にはもう必要ない。アスナ自身も必要がなくなったらまた下層のプレイヤーに渡すのがいいだろう。これでアスナのレベルは15に、この層では十分すぎるほどに成長した。しかし、レベルなど関係なしにアスナの純粋なる身体能力がソードスキルにブーストされただの突き技が片手剣の技に匹敵する攻撃力を可能にしてきる。
ピコンッ
おっ、アルゴからだ。ってことは....
「よし!トールバーナに向かおう。」
「え、なんで?まだポーションも尽きてないし私もまだまだやれるよ?」
「いや、これから第一層攻略会議がトールバーナで行われるらしいし、アルゴから頼まれたクエストもある。そろそろ戻りたいと考えていたし、俺たちも形だけは会議に出席しておこう。」
「あなたがそう言うのなら私は従うわ。行きましょう。」
アスナの了承も得たので俺たちパーティーはトールバーナへと向かった。
___________________________________________________________________
俺たちが街に着いた時には既にたくさんのプレイヤーが待機していた。今いるだけでも39.....いや5人パーティが来たから俺たち含めて44人だ。
「これじゃレイド一つも組めないな」
「?レイドっなに?」
アスナがゲーム単語であろう言葉を聞いてきた。
「ああ、パーティーっていうのは上限6人まで組めるんだけどそれを八つ束ねて、計48人の連結パーティーを作ることができるんだ。それがレイド。これはβテストの時のことだけど死者0人でクリアするならば正直レイドを二つ組んで交代制を敷くのがベストなんだけど.....」
「今の人数だと一つも組めないってわけね」
「そうそう。それにみんながみんなボスを倒すために来たってわけじゃなさそうだ」
「どう言うこと?」
「全員がそうだとは言わないけど、《自己犠牲の発露》って言うより《遅れるのが不安だから》来てるって人も結構いると思うよ」
「遅れる....?何から?」
「最前線からさ。死ぬのは怖いけど、自分の知らないところでボスが倒されるのもやっぱり怖いんだ」
「うーん...それって学年十位から落ちたくないとか、偏差値七十キープしたいとか、そういうのと同じモチベーション?」
「うん......まぁ、たぶん.....そんな感じかな?アスナさんは勉強が得意なようで....」
モチベーション的には少し違うかもしれないがなんと返せばいいか分からなかったし、どう言う例えが分かりやすいかもわからなかったためひとまず肯定しておく。アスナは何かおかしかったのか、クスッと笑う声がした。そんな中広場の中央にいたパーティの内の1人がみんなの顔が見える場所に立っていた。そろそろ始まりそうだ。
「?ちょっと待って、貴方なんで私の名前を.....」
「はーい!それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、今日はオレの呼びかけに応じてくれてありがとう!オレは《ディアベル》、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
広間によく響く声から発せられたジョークはあっという間に広間に笑いを起こした。
「本当は《勇者》って言いたいんじゃないのかよー」
「ジョブシステムなんてねーだろ!」
軽いからかいが飛ばされるもつかみは上々だろう。ディアベルが両手で静かにと合図すればすぐに広間は静かになる。
「今の何が面白いの?」
「ま、まぁ大人のジョークじゃないか?俺にもよく分からない。」
隣のアスナに聞かれたので俺は自分が思っていることを正直に言う。年齢的にもまだまだ義務教育中のキリトはまだ大人のジョークを完全に覚え切れてはいなかった。
「さて、こうして最前線で活躍してる、いわばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由はひとつ.....昨日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く道、そしてボス部屋へ到達した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに第一層ボス攻略が始まるんだ!」
どよどよ、とプレイヤーがざわめく。先程までの雰囲気とは変わりかなり真剣な表情になっている。
「このゲームが始まってから2週間が経つ。その間に大勢の人が死んだ。だけどオレたちは示さなくちゃならない。第一層のボスを倒し、このゲームがいつかはクリア可能ってことをはじまりの街で待っているみんなに伝えなくちゃならない。それが、今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」
再びの喝采。みんながディアベルに向けて拍手をする。当然俺もだ。
「ちょいと待ってくれんか?ナイトはん」
そんな喝采の中、1人の男が立ち上がり広場の中央、デイベルの横へ行く。話し方からして大阪などの関西出身だろうか?
「わいは《キバオウ》ってもんや。あんたの意見には賛成やし、いい演説だとも思っとる。だが、仲間になる前にこいつだけは言わせてほしい。」
「....別に構わないが、何かな?」
「こん中に、ワビィ入れなあかんやつがおるはずや!」
「詫び?誰が誰にだい?」
「決まっとるやろ!元βテスターがビギナーに対してや!βテスターどもはこんクソゲームが始まった初日にビギナー見捨てて消えおった、自分らだけがどんどん強なっていったんや。うまい狩場やボロいクエスト独り占めしてその後もずーっと知らんぷりや!今まで死んでいった1500人に土下座して、溜め込んだ金とアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし預かられへん!」
そう言われた時、俺の心に少しばかり傷が入った。キバオウさんの言うことはもっともだ。俺はゲーム初日にビギナーを見捨てて旅立った。俺の心の罪悪感が溢れてくる。そんな俺の震えた手をアスナが握った。
「...!え?」
「大丈夫、君は私を助けてくれた。キバオウが言っているようなβテスターもいるかもしれないけど、少なくとも君は違うよ?」
いつのまにか震えていた手は元に戻っていた。
「ありがと、アスナ。」
「それで聞きたかったんだけどなんでなま.....
「発言させてくれ。オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたが言いたいことはつめり、元ベータテスターが面倒見なかったせいでビギナーがたくさん死んだ。その責任をとって謝罪と弁償をしろってことだな?だ生憎だがそれは間違っている」
「なんや、どう言うこっちゃ?」
「この本はもらったか?道具屋で無料配布されていた攻略本だ。始まりの街にはもちろん、俺たちパーティーが次の村に着く時にはすでに新しい攻略本が配布されていた。」
「も、もろたで?それがなんや!?」
「いくらなんでも情報が早すぎると思わなかったか?それもそのはず、こいつに載ってるモンスターやマップデータを情報屋に提供したのは、元ベータテスターたちだってことだ。」
プレイヤーが一瞬ざわめいた。これまで評価最低だったベータテスターの株が少し上がるがそのことは誰も言及せずエギルという大男が話を続ける。
「いいか、誰にでも情報は手に入れることができたんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その反省を活かし俺たち自身はこれからどうするか?それがこの会議で論議されると俺は思っていたんだがな」
完璧な理論にキバオウは反論できずにいる。わずかな沈黙の後、ディアベルが手をたたき注目を集める。
「キバオウさん。君の言うこともわかるが今は前を見るべきだ。今俺たちのすることはここまでの反省とこれからどうやって前を向くか。もしここでテスターを排除して攻略に失敗したらそれこそこれまでの繰り返しじゃないか」
ディアベルの言うことにも反論することができないキバオウはすぐに結論を出す。
「......まぁ、その通りやな。ここはあんたらに従うといたる。でもな、ボス戦終わったら、キッチリ白黒つけさしてもらうで」
振り返りエギルと共に自分の座っていた場所へ戻る。ディアベルは先ほどと同じように声を出して喋る。
「えー、今出たものなんだがこの攻略本に第一層フロアボスの名前や特徴などが記されている。ボスの名は《インファング・ザ・コボルトロード》。武器は斧とバックラー。四段あるHPバーが残り一段になると曲刀カテゴリに分類されるタルワールに武器を変え攻撃パターンも変わってくる。取り巻きには《ルイン・コボルト・センチネル》が最大で3匹ポップするらしい。それでは本格的にボス攻略会議を始める。ではまずパーティーを組んでくれ。そしてリーダーはパーティー人数と主要武器を教えてほしい」
そこでみんなそれぞれパーティーを組み始める。仲がいいのか、はたまたずっと組んでいた仲なのか、案外すんなりとことは進行していった。全七パーティーが組まれた時、ディアベルはこちらに向かって声を出す。
「君たち、2人パーティーの君たち。報告をお願いできるかな」
ここまで攻略会議をしてきたんだ。俺たちも明日の攻略に出ると思っているのだろう。
「すまない。俺たちはたまたまここを通ったプレイヤーで明日は少しばかりクエストをやらなくてはならないんだ。だから明日の攻略に間に合うか分からないし、できて取り巻き退治だろう。戦力には考えないでほしい」
「そう言うことならわかった。ちなみになんのクエストを受けるのかだけ聞いてもいいかい?」
「場所は迷宮区近くにある小さな集落。クエストの詳細はわからないが情報ではβテストにはなかったクエストらしい。もちろん、この中にそのクエストをやったことがある人がいるのなら無理に行かず、明日も協力させてもらう」
こんな大声は久しく出していなかったので緊張したが、結果的にこのクエストを受けたものはいなかった。
「了解した。なら君たちは第二層から我々に力を貸してほしい。では今の2人抜きだが明日は七パーティー四十二人でボス攻略に挑む。最後に報酬だが、金は全員で自動均等割り、経験値は倒したパーティーもの、アイテムはゲットしたものとする。異存はないかな?」
うまくまとめてくれたディアベルに感謝して彼の話を聞く。俺を含め異存はないようだ。
「明日はここを9時に出発する。それまでは各々好きなように過ごすように。では、解散!!」
その声を聞いて俺とアスナは立ち上がりクエストへ向かおうとする。
「ちょっと君、いいかな?」
ディアベルに呼び止められた俺は素直に立ち止まり彼の方を向く。
「明日のクエスト、もし何か分かったら教えてほしいからフレンド登録しないか?」
「それは別に構わないが、フレンド登録しても迷宮区でメッセは届かないぞ?」
「そこは君たちが間に合ったらってことになるがこれからも長い付き合いになるんだ。登録しておいて損はないだろう?」
「確かにそれもそうだな。」
別に拒む理由もないのでフレンド申請を送る。ディアベルも承認したため、俺のフレンド欄に3人目のプレイヤー名が刻まれる。ちなみに1人目はクライン、2人目はアルゴだ。
「ちなみに今は武器を装備していないみたいだけどどんな装備を使っているんだい?」
ここで俺は強制的に本当のことを言えなくなった。なぜならオレが今使っている愛剣《クイーンズ・ジェムソード》が手に入れられるのは第九層、しかも第三層から続くキャンペーンクエストの最終報酬だ。そんなものを持っていたら即刻ベータテスターとバレるし何より入手方法などを聞かれたら何をいえばいいのか分からない。そのため俺はβテスト時に使っていた第一層の愛剣を取り出した。
「これだ」
そう言って取り出したのはかつての愛剣、《アニールブレード+8》だ。
「アニールブレードか。確かにこの層だとこれが1番だからな。聞けてよかった。これ以上引き止めるわけにもいかないし気をつけて行ってきてくれ」
「おお!こっちもいい知らせを待ってるぞ」
「ああ、必ず!」
それだけ言って俺はトールバーナを出て先にエリア外に出ていたアスナと合流する。
「何の話をしてたの?」
「フレンド登録のお願いと主要武器について聞かれた。まぁ主要武器については嘘をついた
けど」
「フレンド......」
先程からアスナさんの様子がおかしいのですが鈍感な俺はそんなことに気づかずクエストの場所へと共に歩いて行った。
______________________________________________________________________
「そこの旅人さんや、この村を少し助けてくれませんかな?」
集落についた俺たちはいかにも村長っぽいNPCの頭の上にクエスチョンマーク[?]が出てきたのでそれをタップする。クエスト自体はいかにも簡単でこの近くで起こった争いにこの村が巻き込まれてしまったらしい。その補償として10000Gのお金を支援してほしいという内容だった。見ると村は柵や家が壊れているのが見える。βテスト時からのお金を残していた俺にとってはあまりダメージにならない料金だったのでアスナと割り勘ではなく俺が一括で払わしてもらった。
「ありがとうございます。おかげで村はなんとかなるでしょう。今村のものが街に買い出しに向かっております。今日はここでゆっくり休んでください」
そう言って村長は村の奥にある宿屋に案内してくれた。二部屋あったのでもちろん二つ借りる。
「クエストはクリアできていないの?」
「うーん、きっと買い出しに戻って再度お礼を言われるまではこのままなんじゃないかな?」
この時、俺のした予想は正しかったのか一晩開けた午前10時15分、買い出しから戻ってきた若いNPCにお礼を言われた時にクエストクリアのマークが現れた。
「これでクリアか。報酬はこの村の鍛冶屋が作る高級回復ポーションか」
「あまりいいアイテムじゃないの?」
「いや、正直すごい性能だ。レベル12未満だったらHP全回復もできるくらいぶっ壊れ性能だ。でもなんでこんなチート気味なポーションが出てくるんだ?」
「私はそう言うのまだわからないからこの村にポーション屋さんがあるか見てくるわ。いい品質のポーションなら買っておきたいもの」
「分かった.....うーーーーーーん」
いくら考えても答えが出てこない。正直に言ったらこのデスゲームでの回復アイテムはありがたい。しかし茅場のことだ。ゲームバランスはしっかりと管理しているだろう。
ならなぜ?
この回復ポーションを用意するほどの危険な変更点がある________________
「なぁ村長、この前あった争いについて聞いてもいいか?なんでここまで村が傷ついているんだ?」
「ええ。構いませんがまず争いと言っても人間ではありません。争いの主犯はコボルトです。この層の主であるタルワール使いのコボルトと刀使いのコボルトがこの周囲を巻き込み三日三晩戦いました。勝者は刀使いのコボルトで、この層の主が変わったとかで......」
その言葉を聞いた時俺の顔はおそらく真っ青になっていただろう。俺はすぐさまポーション屋探しに出ていたアスナと合流する。そしてアスナの腕を引っ張りながら村の外、そして迷宮区を目指す。
「アスナ!急ぐぞ!!」
「うぇ?ちょっといきなりどうしたのよ?何かわかったの?」
「ああ、重大なことがわかった。ディアベル達に伝えないと最悪あいつらの中から死人が出る。」
アスナの顔も驚きが隠せない。
「そんな...!ディアベルさんには?」
「メッセを送ったが無理だった。もう迷宮区の中に入っているんだ。俺たちが走って追いつくしかない。だからもうこの村を後にする。今から急げばボス部屋まで30分で着くだろう。」
「この村が迷宮区に近くて助かったわね。いいわ。急ぎましょう。話は向かいながら聞くわ」
それだけ言葉を交わして俺たちは村を後にする。
ディアベル、君は死んではいけない。
君ほ俺たちにとってナイト.....いや、勇者なのだから。
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ディアベルという男
オレは元ベータテスターだ。この事実はまだ誰にも離したことがない。知っているのはおそらく情報屋のアルゴさんくらいだろう。
だがこの事実は伏せておかなくてはならない。オレはのこゲームが始まった初日近くのプレイヤーとパーティーを組みここまで努力してきた。しかし、ビギナーを見捨てるテスターもたくさんいた。
このままではベータテスターとビギナーの溝は修復不可能に陥ってしまう。そうなる前にその話題をみんなの頭から消さないといけないと思った。そのためにはベータテスター達への恨みよりも大きいニュースを作らないといけない。それが第一層フロアボスを倒すことだとオレは思った。
「ディアベルはん、見えてきましたで。第一層迷宮区が」
考え込んでいるうちに1時間ほど歩いていたらしい。
いかんいかん、集中しろ。
今日はボスを倒すんだ。
誰1人として死者を出さずに。
ここにいるプレイヤー全員の命を預かっている。
そんなオレが集中力を切らすわけにはいかない。
「ああ、ではここからはオレのパーティを先頭にして進んでいく。この先モンスターが出ても体力温存のため極力戦わずに行こう。」
そうやってオレたち七パーティ四十二人は迷宮区へと足を運んだ。
__________________________________________________
午前10時35分
ボス部屋の前に到着した。ボス部屋の前の広間はモンスターがポップしにくい設定になっているため多少の見張りがつくもののほとんどのプレイヤーが自身の装備や連携についての最終確認を行なっていた。確認時間は十分にとった。あとは突入するだけ。
「みんな!オレたちはついにここまできた。後15分もすればこの先の第二層に進んでいるだろう。オレから言えることただ一つ。全員で勝とうぜ!!」
うぉぉぉおおおおお!!!、と全員の気持ちが一つになったことを確認してからオレはボス部屋の扉を開く。
30メートルほど中に侵入すると、真っ暗だった部屋がまるで暗視効果がついたかのような明るさに変化し1番奥にいるボスを目視で確認する。
でかい!
これまで戦ってきたモンスターの誰よりも。だが勝てる。オレが迷っててはいけない。オレはボスに怯んでいたプレイヤーを鼓舞するかのように敵、《インファング・ザ・コボルトロード》に剣の先を向ける。
「攻撃...開始!!!」
全員が腹を括って挑み出した。ボスに向けて走り出すと近くから取り巻きの《ルイン・コボルト・センチネル》がポップする。
「A隊からD隊はそのままボスへ!E隊からG隊はセンチネルの対処を!ボスに近づけされるな!」
「「「「了解!!!」」」」
そこからはあっという間だった。計画通りさんパーティーを使ってセンチネルをボスから引き剥がし、四パーティーの連携でコボルトロードのHPバーを3段削り終えることができた。
ここでコボルトロードの動きが変わる。今まで使っていた斧とバックラーを投げ捨てた。そして腰に装備していたタルワールに手をかける。
「へへ、情報通りみたいやな」
キバオウさんの言う通りだ。そしてここだとも思った。ここからがオレの計画だった。
「全員攻撃準備!!ターゲットはオレがとる!」
オレはこのボスを自らの手で倒すつもりでいた。理由はもちろんラストアタックボーナスだ。ラストアタックボーナスとはその階層のボスに最後の一撃を入れたプレイヤーに送られる破格のアイテムのことだ。そのアイテムを利用すれば今後も自分を中心に攻略隊ができるかもしれないとオレは考えていた。もちろんだが私利私欲のためじゃない。これから先このゲームをクリアするためには攻略隊ができていくことが前提条件だ。そのためだったらオレは仮面をかぶって攻略隊のリーダーになってみせる。
しかしオレは今自分が見ている世界に違和感を感じた。
パーティーメンバーはオレ含めオールグリーン、別パーティーも余裕で7割以上ある。
じゃあ、どこに?
分からないままオレはコボルトロードに向けてソードスキルを発動する。
その時にはもう遅かった。
「あの武器は....ベータテストと違う!!」
ベータテストの時と武器の太さが違うことをオレは気づけなかった。
しかも、アレは!!
「全員、範囲攻撃が来る。後退!後退ーー!!!」
オレはソードスキルを発動したまま周囲に大声を出す。当然オレのソードスキルは空を切る。コボルトロードが空中へと飛び上がったからだ。
コボルトロードの持っている武器は刀、オレの記憶の限り第九層のボスが使用していたはずだ。そして強力なソードスキルも_________________________
コボルトロードから繰り出されたソードスキル《旋車》はオレの指示があったためか殆どの仲間は軽症だった。
ただ1人、オレを除いては_________________________
ソードスキル使用後の硬直で動けないオレはそのソードスキルをモノに食らった。
「ディアベルさーーん!!!」
「ディアベル!!」
周りから心配の声が上がるがオレは今一時行動不能状態であるスタンに陥っている。スタンとは、このSAOに存在するデバフの中で1番効果が小さいデバフで30秒もあれば解除される。
だが、その30秒はコボルトロードがオレの息の根を止めるには十分すぎる時間だった。
ソードスキル使用後の硬直から解けたコボルトロードは次なるソードスキルを発動させながら突進してくる。
ターゲットはもちろん目の前でスタン中のオレだ。
コボルトロードが発動したスキルは地面スレスレから切り上げる《浮舟》を発動、オレはそのまま宙に持ち上げられた。HPはまだまだ六割残っている。まだグリーンだ。
だがこの技はこの後発動する攻撃の前準備であった。
すぐさま宙にいるオレに近づきコボルトロードが持つ刀が赤く光り出す。
刀系スキル三連撃 《緋扇》
上下に一撃ずつオレの体に傷が入る。
「ぐぁぁああああああ!!!!!」
HPは五割を切り色がイエローに、そしてどんどん赤みがかかったオレンジ色に変化していく。
このままで三撃目を喰らえば間違いなくオレはゲームオーバー、死んでしまうだろう。
オレは決死の思いで剣を構えソードスキルを発動しようとする。だがそんなオレの努力も虚しくスキルは反応してくれない。
ここまでか.......
全てを諦めたオレは赤いライトエフェクトを見ながら死を受け入れようと.....
「させるかぁぁぁああああああああ!!!!!」
突如、視界の下から緑のライトエフェクトを灯した剣が赤のエフェクトを帯びた刀にあたり双方の剣に灯っていた色が消えてなくなる。
スキルキャンセル、お互いに逆方向からソードスキルを放った時に起こる高等テクだ。
オレはこの神技をできる人間を1人だけ知っている。
あのベータテストで誰よりも高くまでこの塔を登り、誰よりも強くなった男だ。
「ディアベル、あんたはここで死んでいい男じゃない!オレが絶対に死なせない!!」
《浮舟》で浮かんだオレの体がフロアの地面に落ちた時、オレの視界に映ったのは巨大なコボルト、そして黒いコートを着た少年とフードを被った少女がいた。
「ディアベル、あんたは休んでいてくれ。この赤豚は俺たちで倒す!」
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断罪、そして上へ
ありがとうございました。
俺たちがボス部屋に着いたのは11時30分ごろだ。正確な時間はよく覚えていない。
「ここを曲がって....あった!ボス部屋だ!!」
「早く入りましょう。」
「おう!!」
俺は左扉を、アスナは右扉を力の限り強く押し、扉を開ける。
その時ちょうどディアベルがコボルトロードのソードスキル《浮舟》で宙に飛ばされていた。
単発技なのでさほど威力はない
だがこの後発動される3連撃をモロに喰らったら間違いなく死ぬ
俺は全力で走り出しディアベルの元へ急ぐ。
一撃目
ディアベルの身体に赤いダメージエフェクトが発生する
二撃目
「ぐぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
ディアベルの苦しみの声がボス部屋に響き渡る
そして三撃目、コボルトロードの剣に赤いライトエフェクトが発動する。
この技だけは喰らってはいけない。俺は今自分がいる場所で力の限りの大ジャンプをする。レベルのおかげかギリギリコボルトロードの前にたどり着いた。
「させるかぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」
俺は剣を抜きソードスキル《レンジスパイク》を発動させコボルトロードの所有する刀に当てる。
スキルキャンセル
ソードスキルとソードスキルをぶつけ合うことで余程の実力差がない限りお互いのソードスキルをキャンセルさせることができる。
とりあえずこれで一命は取り留めた。
俺はアスナに向かって言う。
「これ以上の苦戦はリスクが大きい。俺たちでボスを倒す。協力してくれるか?」
アスナは一瞬驚いていたが、すぐにボスに注意を向ける。
「もちろん、相棒でしょ?」
そして、アスナがボスに宙を向けている間に俺はこの場の責任者に顔を向ける。
「ディアベル、あんたはここで死んでいい男じゃない!オレが絶対に死なせない!!」
____________________________________________________________________
「ディアベルさん!」
「ディアベル!!」
地面に横たわったリーダーを心配するようにエギルや彼のパーティーメンバーが続々と集まってくる。
「エギルさん!これを早くディアベルに!!」
俺は素早くポーチから回復薬を取り出しエギルに投げ出す。
「?これは?」
「さっきやったクエストの報酬だ。この一層で手に入るポーションのどれよりも性質がいい」
「クエスト?ああ、そういえばクエストをやりに行くって言っていたな。って、なんだこの回復力!!レッド直前の体力が一気にグリーンまで!!!!」
「おそらく今回の変更点の謝罪だろう。NPCが言っていた。ひと月前、タルワール使いのコボルトロードと刀使いのコボルトロードが激闘しこの層の主が入れ替わったって」
「なるほど。だからボスの使う武器が違ったのか」
「そう言うことだ。俺はこれからボスを倒すからディアベルを頼む。彼はここで死ぬような人間じゃない」
「おう!俺もそう思う」
仲間への解説を終えコボルトロードの方へと向かう。見ればアスナはコボルトロードの剣劇を寸前でかわしソードスキル《リニアー》を放っていた。クリティカルにこそならなかったものの、最後のHPバーを2%も削る攻撃を浴びせる。
「アスナ!もうこのボスは最終手段を残していない。残り一本、全力で削りに行くぞ!!」
「了解!!」
話はそれだけに俺とアスナはボスとの距離を縮める。ボスがソードスキルを使うので俺もソードスキルで対抗。スキルキャンセルで硬直している間にアスナが渾身の《リニアー》を当てる。
奴のHPバーのこり60%を切った
ここだ_________________________
俺はすぐにボスの懐に潜ってソードスキルを発動させる。
通常、第一層の時点で《片手型直剣》の熟練度は50を超えていれば十分だ。50を超えることで使える技は増えるし、攻撃の手数も増える。
だが、俺の熟練度は既に250を超えている。
だからこそ俺には奥の手がある。
この層では誰もが使うことのできない片手剣ソードスキルを_________________________
「はぁぁぁあああああああ!!!!!!」
俺の愛剣、クイーンズ・ジェムソードが青いライトエフェクトて覆われる。
くらいやがれ、熟練度150て解禁の四連撃ソードスキル_________________________
ホリゾンタル・スクエア
一撃、二撃目と、まだスキル硬直から解けないコボルトロードの腹部を抉るように切り裂く。
「なんだあのHPの減りは!!」
周りが驚くのも無理ないだろう。今の二撃で残りHPの半分が吹っ飛んだのだから。
「これでおわりだぁぁぁぁ!!!!!」
俺は三撃目を喰らわした後、確実に倒すため四撃目の刃を出来るだけ体内に刺しながら振り抜いた。ベータテスト時代の筋力パラメータがそのままだったため降り抜けたのだろう。
俺から一撃を喰らったボスは、空中で雄叫びを上げながら四散、ポリゴンの破片となった。
Congratulation!
と言う文字がボス部屋の真ん中に表れ、各々の目の前にウィンドウが開かれた。
俺たちは勝ったんだ
誰も死なせずに
みんなを守って_________________________
________________________________________________________
「「「「よ、よ、よっしゃゃぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!」」」」
ボスを倒したことを知り、この場にいる全員が喜びを全身で表す。俺としても誰も犠牲にならないで本当によかった。
「お疲れ様」
アスナも近寄ってきて俺に労いの言葉をかける。
「ありがと、アスナ。そっちもお疲れ」
「.....ねぇ、昨日から聞きたかったんだけどなんで私の...」
「Congratulation、お二人さん!この勝利は間違いなくあんた達のものだ。大した奴らだよ、ほんとに」
エギルがそう言って拍手してくれる。2人からも労いの言葉をもらい少しばかり心が落ち着いた。
だが、現実はそう簡単にはハッピーエンドを許してくれない。その流れを最初に持ってきたのはキバオウだった。
「はい!確かにあんたらのおかげでボスは倒せた。そこは認めとる。だが、わいは忘れてへんで。ここにいる裏切り者を断罪せなあかん。なぁ、ディアベルはん?」
「なっ?!お前たち、何を言っている!!」
確かあいつはディアベル班のリンドだったか。青年は顔に怒りを乗せキバオウに体を向ける。
「ワイは聞いたんや!こいつはボスの持ってる刀を一瞬で判別して、『βテストと違う』って言いおった。ここにいるパーティーは全員聞いてんやで!!」
そう言って後ろを指差すキバオウ。後ろには彼のパーティー以外の10人ほどが立っている。おそらくボスを囲んでいた時にディアベルがつぶやいた言葉を聞いていたんだろう。
「これだけ承認いてしらばっくれるしやないやろうなぁ!えぇ!!」
キバオウはベータテスターを毛嫌いしている。それがいくらこの層のボスを倒すために尽力した指揮官でも...
「おれ知ってる!!そいつHPバーがラスト一本になった瞬間、自分がターゲットになるとかぬかしたんだ!それだってラストアタックボーナスを奪う気だったんだ!!」
キバオウの奥から甲高い声がボス部屋に響く。しゃべっいるのは白い髪のクラインと歳の近い青年だ。それを火蓋にどんどん悪口が増えていく。
「ふざけんなよ!」
「信頼してたのに!」
「責任とれ!」
「他にもベータテスターがいるんだろ!いや、いないはずがねぇ!出てこいよ!!」
先程から白髪の青年が妙にテンションが高い。だがこのままでは危険だ。せっかくボスを誰を死なずに倒したのにここで断罪などがあっては元も子もない。
「おいおい..」
「あなた達ねぇ..」
アスナとエギルも呆れたの騒動の間に割って入ろうとする。その2人を手で制し...
「アスナ、君はこれ以上何も言わなくていい。あとは任せてくれ」
「え?」
そう、俺にはこの状況を一変する方法がある。
誰も死なずに、この状況を切り抜ける術がある。
いつかは来ることがわかっていたんだから、辛くはない。
「.....ククク....ッフッフッフ..アハハハハハハハハハ_________________________
俺の大声がボス部屋に響き渡る。その声で、ディアベルが、リンドが、キバオウが、全てのプレイヤーがこちらを向いた。
「元ベータテスター...だったっけ?ディアベルが?まぁ間違っちゃいないけど俺と一緒にしないでほしいな。」
「なんや?お前も素ベータテスターか?なに自分から白状してんねん?頭おかしいんちゃう?」
「安心してくれ。俺は正常だ。だが俺はそこにいるディアベルとか言う雑魚と一緒にされたくなかっただけだ。それに元テスターの中にどれだけレベリングの仕方を知ってる奴がいたと思う?そこの雑魚含めてほんの一握りだ。今のあんたらの方がまだマシだね。」
「なんや?何が言いたいんや!!」
キバオウは俺を不審に思ったのか、不気味に思ったのか、またはその両方なのか後ろに下がりながら威嚇してくる。
「こんな雑魚と一緒にすんなってことだよ。βテスト時、俺は誰よりも高くこの層を登って戦ってんだ。ゲーム情報だってそこらの情報屋よりもたくさん持っている。そんな俺を元テスター如きと一緒にしないでくれないか?」
「な、なんやそれ!もうベーターどころやないやんけ!もうチーターや!チーター!」
「そうだそうだ!」
「ふざけんなよ!」
「偉そうに!」
「ラストアタックも取りやがって!!」
「死ねよ!クソビーター!!」
よし、これでプレイヤーの負の感情は全て俺に移った。これでディアベルはもう大丈夫だろう。
「いいねぇ!気に入ったよ、それ!俺は《ビーター》だ!!これからは元テスター如きと一緒にしないでもらおうか!」
これで終わりだ。
俺の考えていたべつあんは俺だけが恨みの的となること。これはアスナが元テスターと疑われた時のものだったが彼女だったらあのままディアベルを庇い、そして疑われる羽目になっていただろう。
だからこれでいいんだ_________________________
「第二層の門は俺がアクティベートしてやるよ。着いてきても構わないぜ。初見のモブに対処できずポリゴンになりたいのならない。」
ここまで言えば流石に誰も来ないだろう。俺は確信して第二層へと繋がる階段を目指す。途中ディアベルとリンドが立っていた。礼を言うつもりなのだろうがそんなことはさせない。だが。俺は彼に伝えなければならないこともある。
「ディアベル、お前は仲間に真実を語ってやれ。そしてリンドさんはその真実を受け止めてまた彼に着いて行ってほしい。俺からの願いはそれだけだ。」
「...ああ!」
「俺も、必ずそうする!」
それだけ言って俺は彼らの横を通り過ぎる。途中でアスナとも目があった。その顔には怒りは全くなく、心配のような、悲しい顔をしていた。
ありがとう
君との1週間は本当に楽しかった
そんなギザな台詞を吐くことはできない。せめて精一杯の笑顔を彼女に見せる。
それだけして俺、《ビーター》はこのボス部屋をさった。
_______________________________________________________________________
何もできなかった。
いや、彼は最初から決めていたのだ。
もしベータテスターに被害が出そうになったら彼が全ての非難を受け入れると。
一人で......孤独に......
私に何も言うなと言ったのは標的の中に私を入れないため。
また、守られてしまった。
彼は別れ際、私に精一杯の笑顔を向けた。
自分が抱えている悲しみ、苦しみを全て隠すようにして_________________________
___________________________________________________________けない
いけない
彼を1人にしてはいけない。
そう思っときには私は全員とは逆方向に進んでいた。
「あいつを追いかけるのか?」
誰かから声をかけられ後ろを振り向く。確かエギルさんだったっけ?私は無言で頷く。
「なら伝言を預かってくれるか?今日はお疲れ様、次のボスも一緒に戦おうってな」
「オレからもいいかな?」
そう言ってきたのはディアベルさんとリンドさん。
「この恩は一生をかけて返す。ナイトの名にかけてな」
「俺も頼む。必要な時は必ず力を貸す。だから遠慮せず言ってくれ。とな」
私は彼らに頭を下げて彼の跡を追いかけた。
_____________________________________________________________
俺はプレイヤーの中で最も早く第二層に上がった。いい景色だ。そう思い俺はすぐそばで座った。
これからは1人だ。
いろんなプレイヤーから非難され、背中を預けることもままならなくなった。
それでもこの世界では生きていかなければならない。
だが1人の客が来たことでその思考を一旦忘れる。
「.......着いてくるなって言ったのに」
そう言ってきたのはもちろんアスナだ。その笑顔はこの1週間見た中で1番綺麗だった。
「言ってないわ。死ぬ覚悟があるならこいって言ったのよ。」
「そうだっけ?...ああ、そういえばパーティーを解除していなかったな。今するから。」
「そうじゃないわよ。言いたいことは色々あるけどまずは一つ、伝言を預かってるわ。エギルさんは『今日はお疲れ様、次のボスも一緒に戦おう』、ディアベルさんは『この恩は一生かけて返す、ナイトの名にかけて』で、後リンドさんからは『必要な時は必ず力を貸す。だから遠慮なく言ってくれ』だって」
「そうか。やさしいな」
「それからもう1人、『あなたさえ良ければ私を連れて行ってくれないか?』ですって」
その言葉で俺は後ろを振り返る。アスナは笑顔でこちらを向いている。
「私は死にたいと思っていた。この世界で戦って負けることは唯一選べる死に方だと思っていた。でも違った。あなたと出会って、クリーム乗せ黒パンを食べて、お風呂に入ってってやってたらいつの間にか私、この1週間を楽しんでたんだ?それでもっと強くなって生き残りたいって思っちゃったんだ。これはあなたのせいよ。」
「えっ?あ、はい!スミマセン」
ジト目で見られたせいかすぐさまに謝罪が出てきた。
「だから...責任というわけでもないけどあなたさえ良ければこれからも私を連れて行ってほしい。パーティーメンバーとして、相棒として。」
「...アスナ....」
「む!前から思ってたんだけどなんであたしの名前を知ってるの?私はあなたに名乗った覚えはないし、あなたのも聞いていないわ。」
「え?....ああ、そうか!パーティーを組むのははじめてだったんだな。なら...」
俺はアスナの頬を押さえて....
「このまま目だけを横に動かしてみて。そうしたら自分以外のHPバーが見えるはずだ。」
「う、うん。.....キ、キリト....キリト君。これがあなたの名前?」
「ああ、俺はキリトだ。」
「なぁんだ。こんなところに書いてあったんだ。」
そう言ってアスナはくすくす笑う。そこで俺は自分の手がそんな美少女にくっついていることを確認して慌てて手を離す。
「みゃ、名前がわかったならよかった!!」
「フフフ、なら改めまして私はアスナ。フェンサーでキリト君の相棒です!」
そう言って挨拶をしてくる。顔が赤いのは日光のせいだろうか。
「ああ、行こうぜ。アスナ。絶対にこのゲームをクリアしてやろうぜ!!」
「うん!!」
そう言って俺たちは歩いて行った。
「あ、そうだ。今回のボスでゲットした《コート・オブ・ミッドナイト》ってやつだけど俺はもうベータ時代にゲットしてるし防御力上がるからよかったらアスナが来てくれ。」
「え、でも私黒はちょっと...」
「カスタマイズで色は変えられるから大丈夫だよ。それにもっと上の層に行けばお好みの形に変えてくれるし今着なくても持っといて損はないよ。」
「じゃあお言葉に甘えて....そういえばキリトくんのレベルのバグって結局なんなんだろうね?なんかβテスト時代にそういう系のアイテムをゲットしたのかなぁ?」
「確かにその線は考えたこともなかった.....ん?この指輪なんだ?」
「ん?どれどれ?見せてよ?」
「ああ、これはゲットした覚えがないな。まってて、今実物化するから」
「えーーっと、効果とか説明欄を見るためにはタップすればいいんだっけ?」
「ああ」
《リング・オブ・キング》
・βテストで最も攻略に貢献したものがもらえる唯一無二の指輪。これを持ったプレイヤーはベータテストのレベル、スキルスロット、スキル熟練度を引き継げる
「ああ、やっぱりこれのせいだったんだな。謎が解けてよかった。」
「うん。ん、待ってキリト君。まだ何か書いてるよ?」
「え、どれとれ....」
・またこの指輪はアイテムボックスに入っている時に階層のボスを倒すと、その階層の数字分のレベルが上がる。またパーティーメンバーの中で1人だけこの権限を分け与えることができる。しかしレベルが上がるのはどちらかがラストアタックを行えた時だけとする。
現在同権限保有プレイヤー:Asuna
「「え?」」
拝啓
デスゲームに巻き込まれたけどβテストのデータが残っていたので無双しようと思っていましたので前半は無双しようと思っていました。
しかしこれからずっと無双しそうです。
最後の最後に意外な事実!と驚いている皆様、ご精読ありがとうございます。
ひとまずキリトとアスナの駄兄の物語はここで終了となります。
次に書くお話はアインクラッド第七十層辺りからとなります。
自分の作品はよく友達からぶっ飛んでいると言われますが着いてきてくれると本当にありがたいです。
ではまた、次回のお話で会いましょう。またね!!
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一年後の僕ら
お楽しみください。
またアンケートを作ったので答えてくれると今後のためにも嬉しいです。
2023年11月31日
トッププレイヤーである攻略組約100名での第59層フロアボス攻略会議が行われていた。
司会はアインクラッドが誇るトップギルド《血盟騎士団》の副団長であり《閃光》の異名を持つアスナ、メンバーは血盟騎士団幹部含む六パーティー36人、アインクラッド最大のギルド《アインクラッド解放隊》から八パーティ48人、少数精鋭を誇るギルド《風林火山》から一パーティー6人、無所属が二パーティー9人。内欠席3名。
「ではこれから第59層フロアボス攻略会議を行います。早速ですがボスの詳細については偵察隊からの報告をお願いします。リンドさん」
「はい」
呼ばれて立ち上がったのは血盟騎士団幹部であるリンドだ。
「報告によればHPは30000ほど。武器は大型の斧を使っておりブレスの属性は雷。取り巻きの情報はありませんが、ボス自体の動きが俊敏であり対策が必要かと...」
「ありがとうございます」
そこでアインクラッド解放隊の幹部から質問が飛ぶ。
「ボス部屋自体の広さは?結晶を使わず脱出は出来るのか?」
「もちろんです。偵察班の情報に間違いはありません。また、ボス部屋の広さは残念ながら約300平方メートルと少し狭いですね」
「なるほど。フロアボスのエリアにも限度があるし今回の層は精鋭のパーティーで挑んでみてはどうだ?死者が出る前に撤退することも可能だしこの層についてからまだ1週間も経っていない。仮に明日ボスに挑むとしても余裕がある」
彼の意見にアスナも同意する。
「私も概ね同じ意見です。皆さんの協力のおかげで今回は余裕を持って攻略できていますので基本はその線で行こうと思っています。まず突入するパーティーの話ですが......」
そこでアスナはフリーズをする。全員がラグか何かだと思ったが今度は大きなため息が出てきた。
「どうかしたのか?緊急のメッセージか?」
先ほど発言した男性も心配の声をあげる。
「いいえ、なんでも。それよりも皆さんに報告することがあります。たった今第59層フロアボスが倒されたと言う報告が上がりました。」
ザワッ、と会議場が揺れる。仕方のないことだろう。最前線のプレイヤーが遅れをとったことになるのだから。
「詳細は明日中にまとめてギルドに報告します。今日はお忙しい中集まりいただきありがとうございました。」
アスナはそれだけ言うと会議場を後にし護衛であるリーテンと共に第69層のボス部屋へと向かう。
「ハァ、まったく....会議に出ないと思ったらこれなんだから...私だって呼びなさいよ...」
『リング・オブ・キングの効果によりレベルが59上がりました』
1分前に来た通知を見ながらブツブツ呟く。
_______________________________________________________________________
「しっかしよぉ〜。本当に良かったのかぁ、キリの字。」
第59層フロアボスの部屋で座り込む青年、クラインは恐らく5つほど歳の離れている少年に尋ねる。
「まぁ、怒られるのは俺だけだから心配すんな。それにボスも倒したんだし怒られはしないだろ」
「その考え方は少しばかり危険な気がするけどな」
そう言ったのは両手斧使いのエギルだ。第1層から活躍する凄腕斧使いは自分のステータスを確認する。
「しっかしすごいな。この第59層でもらった経験値は」
「ああ、なんたって『3人以下でボス攻略をする時貰える経験値が三倍』だからな。おかげで俺は今297。後ひと月もすればレベル300を超えそうだぜ」
「本当か?俺ももう少しで250だ」
「まぁ今回もキリの字にいいとこ持ってかれたけどな。で、今回のラストアタックはなんだったんだよ?」
「盾だな。それもだいぶ優秀な品だ。ほれ、エギル」
「いいのかよキリト、売り物にすればかなりの額だぞ?」
「いいんだよ。金には困ってないしそのアイテムは俺は使わない。なら今必死に頑張ってレベリングしている奴らに安く売ってやってくれ」
「そうか。そう言うことなら任せとけ!今に優秀なやつ育ててやるからよ!」
「よし!じゃあ休憩したし俺らは先に戻ってるわ。キリトもまた次の会議でな!」
「ああ、ありがとう。クライン、エギル」
それだけ交わして彼らは次の層へと向かう。恐らくゲートをアクティベートして自分達の街へ帰るのだろう。俺もそうしたいところだが生憎ここで待たなくてはならない相手がいる。
「キリト君、これは一体どう言うことなのかな?」
やってきたのはアスナだ。笑顔だがおでこに怒りマークがつきそうなくらい怒っている。護衛であるリーテンさんもあわあわとしている。
「見ての通りボスを倒したんだ。部屋の広さやボスの相性を見て少数精鋭の方がいいと思ってな」
「う。そ、それはそうだけど。はぁ、まぁ言い訳はギルド本部で聞くからとりあえず戻るわよ」
「了解です。副団長サマ」
「ちょっと!その言い方やめてよ!大体あなただってそうでしょ!」
「まぁそうだけど。なら帰ろうぜ、アスナ!」
彼の名前は《キリト》。《黒の剣士》の異名を持つアインクラッド最強ギルド《血盟騎士団》もう1人の副団長である。
______________________________________________________________________
第55層 グランザム
血盟騎士団の本部がある層だ。キリトとアスナは一つの部屋の中に入る。防音機能マックスの部屋だ。
「リーテンさん、今日はこの後帰るだけですし護衛はここまでで大丈夫です。今日もお疲れ様です」
そう言って笑顔でリーテンにお辞儀する。
「はい、お疲れ様でした」
そう言って離れて行くリーテンを見ながらアスナはドアを閉める?
「さて、キリト君は私に何か言わなくちゃならないんじゃないかなぁ〜?」
「ええと、すみませんでした」
「何がどうしてすみませんでしたなのかな?主語がわからないと伝わらないよ?」
「ええと、ボス倒しに連れて行かずにごめんなさいです。」
それを言うとアスナは大きく息を吸って、近距離では滅多に効かない音量で話し出す。
「そうです!それです!キリト君のバカ!なんで仲間はずれにするの!?私だってキリト君と戦いたいのにずるいよ!」
「本当にすまんアスナ。次から行くときは必ず声をかけるから」
「本当ね?約束だよ?もし破ったらもう二度と口聞かないから」
「ああ、勘弁!!本当に連れて行くから」
「フフ、約束だよ?キリト君」
「ああ、本当だ」
「分かった。そう言うのであれば許してあげましょう。あ!そういえば今日はこの後時間空いてるよね?」
「ん?ああ、特に予定はないけど」
「なら付き合って。行きたい場所があるの!」
「もちろん....喜んで」
そう言って俺たちは出かけて行った。
_______________________________________________________________________
「わぁぁあああ。綺麗!」
「本当だな」
俺たちがきたのは第47層フローリア。花が咲き並ぶ美しい街で主街区だけではなくフロア全体が花で覆われているこの層はアインクラッド一綺麗とも言える場所だ。
「アスナはここ結構気に入ってるよな。まぁ俺も落ち着くしここが嫌いなプレイヤーはいないと思うけど」
「...そうだけど、私はキリト君とくるから楽しいんだよ?」
少し顔を赤めながらニヤニヤした表情で言ってくるアスナ。真意が読み取れない。
「そ、それはどう言う意味なんですかねぇ?アスナさん?」
「さぁ、キリト君の足りない乙女心で考えてみたらどうですか?」
「どうですかって言われても恋愛経験ゼロにそんなこと聞かれても....」
「まぁいいわ。それよりもこのデスゲームが始まってからもう一年も経ってるんだよ?」
「ああ。なんだったら今は第一層を突破した頃だよな?あの頃は自殺者とか心に余裕のない人達が沢山だったけど今は少なからず余裕が見えるな」
「だって一年で60層まで達したのよ。単純だけど計算すれば後一年くらいで帰れるってことになるわ。そりゃ誰もが嬉しがることでしょ」
「そうだなぁ。にしてもこの一年間はあっという間だったなぁ」
「そうね。いろいろなことが起こったね。まさか私たちがギルドに入るなんて思わなかったよ」
「それは俺もだ」
キリトとアスナが《血盟騎士団》に入るきっかけになったのは今から約8ヶ月前の出来事になる。
_______________________________________________________________________
ヒースクリフと初めて会ったのは第25層フロアボス攻略の時だ。そのフロアボスはのちに通称クォーターボスと呼ばれるほどの強ボスだった。実際そのとき二大ギルドと言われていた《ドラゴンナイツ・ブリケード》と《アインクラッド解放隊》が壊滅の危機にまで陥っていた。
そのピンチを救ったのがヒースクリスだ。彼1人で敵の攻撃を捌きカウンターでダメージを与える。そんな神業を攻略組はただただ眺めていた。
そんな神業を可能にするのが彼の保有するユニークスキル《神聖剣》だ。巨大な盾及び鍛え抜かれた長剣の技による『絶対防御」と、その防御でスキル発動後硬直した敵を必ず倒す技量、さらには盾にも攻撃判定及びソードスキルがあると言うある意味チート気味だその力に俺たちは見惚れてしまった。
そんな彼が自分のギルドを作ると決めたのはその層のボス戦が終わった後だ。
そのころ、規模が少し伸び悩んでいたディアベルとリンド率いる《ドラゴンナイツ・ブリケード》に話を持ちかけた。当然、メンバー満場一致で決定。リンドやディアベル、シヴァタやハフナーなどの中心プレイヤーは幹部となった。
そんな中で、俺とアスナが誘われた。
副団長という形で___________________________________________
『もちろん新参者の私が君たちに指示を出そうとか思っててはいない。だが、このゲームをクリアするためには最強のギルドを作りたいのだ。そのためなら君たちの名前だって借りたい。雑務などの仕事はしなくても良いので新ギルド《血盟騎士団》に席を置いてくれないだろうか?』
特に断る理由もない。それに最強のギルドを作る、この一点においては俺も同じ考えをしていた。
だが、結果的には少しばかり後悔している。
パーティメンバーであるアスナといる時間が少なくなったことだ。
アスナは真面目だから、雑務をやらなくても良いと言われても自分から行動する生粋の委員長タイプだからだ。
この気持ちが....嫉妬?なのかどうかは分からないがモヤモヤする。
「キリト君?どうしたの?」
「ん?ああ、久しぶりにアスナとゆっくりしてるなって思って」
「そうだね。ギルドに入る前だったらいつも一緒にいたのに」
「え?」
「こうなるのならギルド入るのやめとけば良かったな」
アスナは下をペロって出しながら笑う。
「それ、俺も思ってた。2人で頑張って旅をして、戦って飯を食べたりしてる時が本当に楽しかったって」
「本当?フフッ、私達おんなじ事考えてたんだね。ってそうそう、言いたかったんだけど私達がボスのラストアタックを取るのやめようよ?」
「それはまた唐突だな。どうしてだ?」
「レベルよ。正直私たちのレベルは百層ボスの安全マージンをゆうに超えているわ。このままレベルが上がり続けたら今度は指輪の件がバレて嫉妬を受けることになるわよ?」
「そうか。そうだよなぁ。でも今の俺たちって正直レベル上げても特に変化ないんだよなぁ。単純にHPが増えるだけでスキルの熟練度は1000までしか上げれないし、もうほとんどの人が何個かコンプリートしてるだろうし.....。せめて後何回かこの指輪強化できればなぁ」
そう言って俺は装備している《リング・オブ・キング+3》を見つめる。現在この指輪でレベルを上げることができる人数は俺含めて5人。俺が任意で設定できて変更は不可能。パーティを組んでいなければレベルアップが半分までとなってしまうが相変わらず破格の装備だ。
「ラストアタックボーナスのアイテムを下層の人に渡しているのもアインクラッド会報隊からしたら面白くないんじゃないかしら?」
「まぁそうだろうなぁ」
ピロンッ
俺が考えている時、アスナに新着メッセージが届く。
「あっ、リズ!ごめんキリト君!リズが私の装備の点検終わったって。だからちょっと取ってくる。あ!帰らないでよね!5分で帰ってくるから!」
リズとはアスナの親友であり鍛治スキルを持っているリズベットのことである。鍛治の腕前は一級品で俺も依頼している。
「はいはい分かってるって。気をつけてな」
と言ってもここもリズベットの防具店も圏内だから余程のことが起こる確率など皆無に等しい。俺はゆっくりと背伸びしてから花を眺めてアスナの帰りを待つことにした。
「やぁ、キー坊。相変わらずのラブラブっぷりで何よりダ」
「うぉ!!アルゴ!!びっくりしたぁ。相変わらず完璧すぎる《隠蔽》の熟練度高いな」
「お前ほどじゃないゾ。それよりもなんでキー坊もあーちゃんもここまでウブで奥でなのかねぇ?俺っちはてっきり第10層あたりで付き合い始めると思ってたのに」
「.....言えるわけないだろ。アスナは攻略隊の要だ。俺にリソースを割くよりももっとやることがある、それに俺にはアスナを幸せにしてやれる自信がない。ただでさえこんな浮いた城に閉じ込められているのに。それれにアスナほどの美人が俺と釣り合う訳がないよ。身長だって小さいし、女顔だし.....」
「そういうところが本当に臆病者だなキー坊は。そう言うと思って今回は俺っちが絶対に成功する告白について教えにきたゾ。気になるだろ?」
「..........ならない」
「分かりやすすぎる間があったぞ、キー坊」
「うるさいな。そんな情報を買うんだったらもっといい情報を売ってもらうさ」
「確かにいつもなら安くしとくよ、って言ってるとこだけど今回はタダだゾ。アルゴお姉さん史上初の劇的セールダ」
「え!」
あのアルゴが!
安くしとくって言いながらしっかりと金を巻き上げるあのアルゴが!
巧みなトーク術で5分話せば情報一個分の内容を抜き取られていると言うあのアルゴが!!
「今めちゃくちゃ失礼なこと考えてないカ?やっぱりコル要求するゾ?」
「いや全く。ありがたくその情報をもらいます」
「ッタク。いいか?近々行われるクリスマス限定イベントを知っているか?」
「ああ。でもそれってただの噂だろ?出現時間も場所もバラバラだ」
「情報が古いなキー坊は。情報は真実だったんだ。場所も時間も判明したんだ。それにこの情報はまだ誰にも売っていないし、これから先誰にも売るつもりはない」
「本当かよ?それだけ聞く限りアルゴにとっては赤字じゃないのか?」
「確かにそうかもナ。だが、そこでキー坊があーちゃんに告白して交際を始めたと言う情報がゲット出来るのなら一発逆転黒字ってことダ」
「ええ.....まぁ、なるほどな。逆にフラれたのならその情報が手に入るのでどっちにしてもwin-winってことか」
「まぁ、実を言うとあるギルドからクリスマスイベントについての詳細を聞かれまくっているからそのギルドだけはキー坊がなんとかして欲しいんだけどナ」
「アインクラッド解放隊か....。分かった。ここまでしてもらえたんだ。そこら辺はなんとかしよう」
「さっすがキー坊だナ。ならおれっチはもう行くゾ?あーちゃんも帰ってきたことだしな」
振り返ればアスナが転移門から出てきたところだ。その一瞬、気を取られているうちにアルゴは俺の視界、そして索敵の範囲から鍛えていた。
「相変わらず忍者みたいだな....」
「お待たせーキリト君。誰かと会ってたの?」
「ああ、アルゴと偶然会ったからちょいと雑談を.....それよりアスナ、来月の24、25日って空いてるか?」
「えっ?.....その2日は特に予定ないけど....一体どうして?」
「それは....当日のお楽しみです......」
「えぇっ!....ハァ、まぁいいわ。その2日間は完全オフにしといてあげる。まぁそれまでに少なくとも3層くらいは突破しときたいわね」
「そうだな。なら明日から頑張って迷宮区を突破しないとな」
「........」
「もちろんアスナさんも一緒で、ね?どう...いや一緒に来てくれますか?」
「よろしい。なら早速60層に行ってみましょう。夜まで時間もあるしどんな街かも気になるしね!」
「おう!」
そう言って2人揃って転移門へと駆け出した。
___________________________________________________________________________
キリト Lv.487
スキル
片手用直剣(1000)
索敵(1000)
武器防御(942)
戦闘時回復(852)
疾走(963)
隠蔽(857)
以下多数
アスナ Lv.474
スキル
片手用細剣(1000)
軽金属装備(845)
重金属装備(778)
武器防御(989)
戦闘時回復(937)
応急回復(860)
疾走(1000)
料理(874)
以下多数
次回は来週から再来週になります。
下記のアンケートは今後のキリアスデータの参考となります。どんな形であれ途中寄り道する程度でストーリーに影響はないです。気軽に答えてください。
追記
ノリで記入したのでアンケートの項目の意味がわからない場合があったら本当に申し訳ありません。
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不安要素
次回からはキリアスのイチャイチャが始まりますのでどうぞお楽しみに!!
「.........では、第六十層フロアボス偵察結果を報告します。」
第六十層フロアボス攻略会議に参加した100名の一人であるリンドが浮かない顔でそう告げる。残り99名も、勿論俺とアスナも同じだ。詳細はさておき暗いニュース事態を速報で聞いているからだ。
「第六十層に上がってから五日。ボス部屋前まで迷宮区を攻略し、今日の朝3パーティー18名で構成された先見隊を派遣したもの............先ほど全滅を確認しました」
告げたくない、認めたくない。そんな気持ちがリンドの表情からひしひしと伝わってくる。ここまでの大きな犠牲は第二のクウォーターボスである第五十層以来だ。
「.........だとしてもおかしいわ....」
「アスナ.....」
「先見隊の皆さんは転移結晶を所持していたはずです。それなのに.....なんで....?」
「..............使えなかった?」
それは証拠があったわけではなかった。けれど、俺にはそうとしか思えなかった。
「使えなかったってどういうことだよ、キリの字?」
俺の言葉にクラインが説明を求める。残り98人も同じ姿勢だ。
「説明は構わないがこれは俺が考えた推測の中で最も確信に近いものだとと思う。これまでの迷宮区でいろいろな制約があった。迷宮区内のプレイヤーにメッセを送れない。ボス攻略中はボス部屋内部から出ることは出来ない。それで今回は......」
「転移結晶が使えなくなった.......ってことか?」
「......ああ、そうだ。これからはそんな空間『結晶無効化エリア』は増えていくかもな。だからこそこれからはボス部屋の前に数パーティー設置して外からボス部屋を開ける人を配備するべきでな。」
「......そうですね。とりあえずは今後の方針は保留。ここらへんで一時各々のステータスレベルアップに励みましょう。」
異存なしなのか反論の声は出てこない。そのまま会議は終了した。俺はクラインとエギルにアイコンタクトをして部屋を後にしようとした。だがその体はもう一人の副隊長に首根っこを掴まれたため、動かなくなった。
「キリトく~ん?」
「!!!や、やぁ、アスナさん....」
「パーティーメンバーの私に何も言わず三人でどこに行くのかな~?ま・さ・か!迷宮区に潜るとか言わないよね!!!」
「うぐぅ!!!!!!」
す、鋭い!!
でもここでばれる訳にはいかない。アスナには....こんな、こんな......
「おーいキリの字!!早く迷宮区にいこーぜ!」
「おい、クライン!今絶対ダメだろ!」
「いぃ!!ヤッベ!」
クラインさん!!!なんでそんなことできるのかな!!!
神様!!なんでクラインはこんなタイミングの悪い奴なんだ!!!
やつは前世で何をした!!!!!!!
「キリトく~ん。つい五日前に言った約束を覚えてるかなぁ~?」
「え~っと...........」
本当のことを言える勇気もなく俺が黙っているとエギルが助け船を出してくれた。
「アスナの嬢ちゃん、勘弁してやってくれ。キリトはあんたに危険な目に合わせたくねぇんだとよ。」
「えぇ!!」
「んなっ!!!おい、エギル!」
「別に隠さなくていいだろ?それにここまでバレちまってんだから言った方が絶縁されにくくなるぞ?」
「うっ、そりゃそうだけどさ...」
「ならよ!キリの字が送ってきたメッセ全部読んだ方がいぃじょねぇごほぉお!!」
クラインが余計なことを言う前にしっかりと男の急所を殴っておく。そして今できる精一杯の笑顔をアスナに送る。
「アスナも一緒に迷宮区にくるよな?」
「えっ、それは行きたいけどまずは今回の件をちゃんと...」
「おい!聞いたかお前ら!今回はアスナもくるってよ!いやぁ攻略難易度が下がって安全で頼もしいなーーーーーー!!!じゃ!俺先に広場で待ってるから10分後出発するぞ!」
俺は可能な限り大声を続けこの部屋を後にした。エギルとクラインはキリトとアスナを見比べた後、キリトに続いて行った。
「もう、ちゃんと...言ってくれればいいのに.....バカ....」
アスナの独り言はこの場の誰も聞いていなかった。
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迷宮区に挑んでから約1時間、俺たち4人はマップデータもあったためあっという間にボス部屋前まで到着した。
「ボス部屋に入れば出られないけど外に1人待機させれば入れるかもしれないか」
「どうする、キリト君?私たちのレベルなら1人くらい入ラズに残っても大丈夫だと思うけど.....」
「いや、行くつもりはないよ」
「えっ、どうして?」
「まず一つ目は攻略組のレベルが低いってことだ。俺含めてここにいる4人は百層までの安全マージンは取れてるけど他のみんなは違う。現に俺の護衛であるクラディールは六十層時点で71。充分ではあるけど強くはないだろ?」
「まぁ、そうだな。だがこの層のボスを倒すくらいならいいんじゃねぇか?この4人で働いている間に他のメンバーはしっかりとレベリングできるんだぞ?」
エギルがごもっともな意見を出す。
「その通りだ。だけどそうも行かない理由ができた」
「理由?何のことだよキリト?」
クラインが聞いてくる。
「これは一般論だけどさ....仮に現実世界にSAOみたいなゲームがあって百層クリアするのが最終ゴールとする」
「うん」
「おお」
「ああ」
「その時に各層のボスがあまりにも強すぎたり弱すぎるとクソゲー扱いになっちゃうんだ。だからこそ開発側はアップデートとかで度々調整をしなくちゃいけない。このゲームの場合はβテストがあってその調査を基準に各層に微々たる調整をしていた」
「ああ、そうだな。第一層のボスも使用武器が違ったし四層や五層なんて名前も姿も違った」
「そう。どうなゲームにも当初の予定とは違う設定になっている。そして変更しなくてはならないんだ。いくらこのゲームを作った人間が茅場でもな」
「そうね。例えばバグが起こったら即座に対処されるし.....ってまさか....」
「ああ、今回俺が言いたいのはプレイヤーの成長速度が速かった場合についてだ。その場合、最初に言ったけどゲームとしてはクソゲーに分類されてしまう。それを防ぐために....」
「茅場がゲームレベルを上げた?」
「そういうことだ。そうなってくると俺たちはもうラストアタックボーナスを狙うマネをしてはいけないって事だ」
「...そうだな。キリトの指輪の効果はもう誰にも付与できないしこれからはそうすべきだとおれも思う」
「だな。俺たちがこれ以上強くなるとその分だけこのゲームの難易度が上がっちまうんだもんな」
3人とも異論はないようだ。今後の方針が決まり俺たちは街へ帰ろうとする。
「そういえば、今日は何でボス部屋前まできたの?この話を誰にも聞かれたくないから?」
「まぁそれもあるけど1番はマップデータ通りに歩いてみて途中の別れ道とかがどれくらいあるのかを見てみたかったからかな。そこ行けば行くほどリソースがあって攻略組が底上げされるからな」
「ああ、そういう....」
直後俺の《索敵》スキルが反応を示す。この反応はプレイヤーだ。探索のため動くわけでもなくただただ前後に移動を繰り返している。
俺はすぐさま聴力がアップするイヤリングを装備する。
キンッ....ガキッ......
聞こえたのは剣のぶつかる音。おそらく誰かと戦っているのだろう。
「なぁみんな。索敵に引っかかったパーティーがあるから向かってもいいか?」
「もちろんよ。もし劣勢だったら救助しないと」
「そうだな。じゃあ向かうぞ」
そう言って走り出す。見えてきたのはディアベルとリンド含めた二パーティー12人。そして黒のマントを被ったプレイヤー30ほど...
「マズイ!ラフコフだ!!」
「え?!!」
「なんだと?!」
一同が驚いて早速救助に向かう。実力では攻略組が勝っていてもあの数は厳しいだろう。俺はソードスキル《ソニックリープ》を発動して戦いの間に割り込む?
「キリト君!!来てくれたのか!助かった!」
「ディアベル、戦況は?」
「あまり良くなかったよ。レベリングのためにここまで来たんだけど...こんな所で出会うとは思わなかった」
ディアベルの言うことはもっともだろう。
レッドギルド《ラフィン・コフィン》 通常ラフコフ。
レッドギルドと言うのはこのSAOでの犯罪集団。その中でもラフコフは最低最悪な集団だ。プレイヤーキルを繰り返したプレイヤー、通常レッドプレイヤーの寄せ集めだが幹部クラスになると実力はディアベルやリンドと同等の実力を持つほどの腕前だ。
しかし問題はそこではない。なんでラフコフがこんな最上層に居るのだろうか?ラフコフのメンバーはほぼ全員がレッドプレイヤーだ。そうなると町や村への行き来がしづらいなどの理由でレベリングがうまく進まない。だからこそ安全マージンをとっていないこんな上層には姿を見せないはずだ。
両者共に隙を窺うべく構えていると黒のフードを被ったプレイヤーが徐々に両サイドへと避けていった。その奥から3人のプレイヤーが現れる。
一人目は骸骨のようなヘルメットと赤く光った目が特徴の細剣使い.....
二人目はフードの奥から見える白い髪が特徴的な短髪の短剣使い......
そして三人目は......
「Wow!おい、お前ら!こんな所に攻略組トップの4人がいるぜ!」
この声は聞きたくなかった。
「3ヶ月ぶりか?ブラッキーさんよぉ......」
「ああ、久しぶりだな...PoH.......」
その男の名前は《PoH》。このレッドギルド《ラフィン・コフィン》の
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「ケッケッケ....なぁヘッドぉ!!どうするんすか、殺っちゃうんですかぁ??!!!」
幹部の一人であるジョニー・ブラックの声がダンジョン内に響き渡る。彼は元々攻略組にいたはずだがなんでそこに堕ちてしまったのだろうか。と今考えても仕方がない。
「ディアベル、転移結晶は?」
「半分ほど足りない。第一今日はボス部屋まで行く予定ではなかったからな」
つまりここで逃げる選択は取れないと言うことだ。このまま奴らと戦っても無傷とは行かないだろう。
奴らは俺たちと違って一つアドバンテージがある。
PVPの経験数だ。
数多のプレイヤーと戦っては殺し、戦っては殺してきた彼らの実践経験数は攻略組の俺たちよりも少なく見積もっても数倍は上だろう。
それにこちらは彼らを殺すのではなく拘束しなくてはならない。
こんな堕ちた彼らでも俺たちに殺しはできない、という判断からできた攻略組の暗黙のルールだ。
そんな沈黙の中PoHは口を開く。
「なぁあんたら、俺たちは本当に戦うつもりはねぇんだぜ?もちろんあんたらがその気ならこちらも相応の対処をしなくちゃいけねぇけどな」
そう言って彼は自身の主要武器《友切包丁
《友切包丁》 俺が見てきたドロップ品の中で最も悪質な武器だ
・プレイヤーを切るたびに剣のステータス値が上がる
・PKしたプレイヤーのレベルの20%を摂取できる。また2人にまでならこの権限を与えられる(その2人は5%になる)
その武器の効果により3ヶ月前は俺とアスナ2対1でも倒し切ることができなかった。
「今のレベルは350あたりか?」
「いい線だな。まぁ教えるとオレ375だ。こいつのおかげで俺たちはあんたらにも負けないスピードで、いやそれ以上のスピードでレベリングができる。まぁブラッキーさんとフェンサーさんには負けるけどな。なぁあんたらは今レベルどれくらいだよ?まぁ俺たちと同等のレベルに来ているってことだけは予想がつくけどな」
PoHの言う通りで実は筋力値や俊敏性などのレベルアップと同時に上がるアシスト機能はLv.200あたりから変わらなくなった。理由として考えられるのはゲームのシステム上それ以上のアシストを再現できなかったからだろう。その世界線に立っている俺やアスナ、PoH達に求められる次のスキルは自身の反応速度や身体能力でスキルを強化する《システム外スキル》だ。その上達度が戦いの勝敗を分けると言っても過言ではない。
その点で俺が勝っているのはレベル差からなるHP量、そしてこの二年間で培った反応速度だ。
HP差の詳細は分からないが、反応速度に関しては間違いなくこちらに分がある。
なぜなら俺はその称号を既に得ている。
「キリトさん、どうする?」
「悩む所だが正直ここは後退した方がいいと思う」
「だが、ここで見逃せばまた新しい犠牲者が出てしまう。それならここで痛み分けでもいいから奴らを半壊させるべきだ」
リンドの意見も最もだ。正直PoHがいる限りこのギルドは放っておけばおくほど力をつけてしまう。だがここで相手したら間違いなくこちらが不利だし、死者も出るだろう。
「おやおや?なんかやる気になってないか?ならこっちも誠心誠意応えてやらねぇとな」
そう言うとPoHの身体から何やらドス黒いオーラが溢れ出す。
「なんだコレは!??」
「俺も使うのは初めてだ。まだ熟練度不足だから攻略組へのお披露目はもう少し後にしたかったんだが仕方がねぇ。ユニークスキル《暗黒剣》だ」
その言葉に攻略組は驚く。まさか団長と同じユニークスキル使いが敵に、しかも最悪なレッドプレイヤーだなんて
《暗黒剣》
・このスキル発動時、ダメージを与えたプレイヤーにレベル2の麻痺毒、ダメージ毒、移動速度減少のデバフを与える
先ほど熟練度が足りないとか言っていたがコレはおそらく今後デバフのレベルが上がったりまた新しい機能がついたりするのだろう。
リンド、ディアベル隊のパーティーが2歩下がる。先程口ではああ言ったもののやはり本能的には逃げの一手という所だろう。正直俺たち4人で彼らを守りながら戦うこともできなくはないが失敗するリスクが高い。
そんな中PoHは悲しながらに呟く。
「まぁもう一度言うが今日は上層には遊びに来ただけなんだよ。それにやるならもっとデカいステージで盛り上がりテェんだ。例えばあんたらの団長がいる時とかもっとあんたらが狙われたくない時とかな」
「呼んだかい?ラフコフの団長くん」
全員の視界の外にいたのは赤い鎧に十字架の盾、そして剣を装備したヒースクリフが立っていた。
「「「団長!!」」」
団員が口をそろえた叫び、そして喜んでいる。彼1人が来ることで生き残れる確率がどれだけ上がったことだろうか。ユニークスキル《神聖剣》保有者はコツコツと俺たちの前に立つ。
「私は攻略にしか興味がなくてね、君たちの被害などは全て各自の判断に任せていたんだが流石に我がギルドの主力に手を出そうとするのならば見過ごすわけには行かない」
「how...how...how、それは当たり前だな。ならまずはあんたから退場してもらおうか」
「っ!!ヒースクリフ!!2時の方向!!《隠蔽》で誰か来てるぞ!!!」
見ると先程までいた幹部、《赤目のザザ》がいない。近くでスキルを看破したとはいえヒースクリフはまだ戦闘準備に入っていない。そのまま、ザザの細剣を防ぐ術はなくヒースクリフの脇腹を貫い.....
ガガガガッッッ!!!
ていなかった。間一髪で反応し盾でソードスキルを受けたヒースクリフがザザにカウンターをする。
ズバァァァァンンン!!
クリティカルではないがかなり深くまで削られたザザは自陣に戻るHPバーは2割ほど削られただけだが、普通のプレイヤーならばもっと減っていただろう。
「Wow!!さすがは攻略組最強、痺れるねぇ」
「お褒めにあずかり光栄だよ。だがここで戦うのならばそこにいるギルドメンバーの半分は私に葬られることを覚悟してほしいね」
「こりゃすごい。まぁ本当に今日はあんたらと戦うつもりはない。あんたらだって今日はこれ以上犠牲を増やしたくないだろう?」
......こいつらは先見隊の死を知っている。
まさか....裏切り者か?
「待ちやがれ!!ユダは....」
俺はソードスキルを発動させながら近づく。そんな俺を見ながらPoHは笑いいつも通りの煙玉を放り投げる。瞬間、当たり一体に煙が広がった。低層の頃から使っているPoHの逃走手段だ。前まではただの煙だったのだが40層あたりからその煙に麻痺毒が入っている。
「総員、解毒ポーション準備!!」
俺はポーションを口に咥えながら周りに伝令。みんなもストレージやポケットからポーションをとりだしている。そのおかげが誰も麻痺毒による妨害は喰らわなかった。だがその間にラフコフのメンバーは何処かへと居なくなっていた。
また会おうぜ、ブラッキーさん......
黒い煙が薄くなってゆく中、そんな声が聞こえた気がした。
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「キリト君、一体何があったのだい?」
《索敵》で周辺に奴らがいないことを確認しているとヒースクリフに声をかけられた。大方、どう言った経緯で接触したかだろう。
「迷宮区に潜り込んでいたが団体で移動しているあいつらと接触したんだ。恐らくだかまでこの近くに根城にふさわしい場所があったんじゃないか?」
「そうか。まぁその辺りは私の管轄外だな。キリト君たちに任せるとしよう」
「ひとつ聞いてもいいか?ヒースクリフ」
「?...構わないがどうかしたのか?」
「あんたはなんでここに来ていた?助かったからいいもののタイミングが良過ぎたように見えてね」
「なんだそんなことか。私もレベリングに来ていたのだよ。そうしたら《索敵》で多数のプレイヤーを見つけその一部がキリト君やアスナ君にディアベル君だったんだ。団員の心配をするのは私の仕事だろう」
「....そうだな。つまらない質問をして悪かったな」
それだけ言って俺は彼を見送った。彼は団員全員が見える場所に立つと声を上げた。
「先見隊の話は聞いた。しかし、我々はこの失敗を踏まえて次に進まなくてはならない。現に我々攻略組は各層の攻略に1週間もかかっていないため各々のレベルが日に日に安全マージンのレベルに近づいている。このままでは我々も先見隊の二の舞になってしまう!そこで我々はコレから各層の攻略時間を最低一週間とし各々週3日はレベリングに、1日は休憩に使うように!この話はアインクラッド解放隊等他ギルドにも伝達し原則とする!異存は無いな!!」
団員を鼓舞するかのようなその掛け声に反発するものなど誰もおらず中には拍手をする団員もいた。
「ボス対策などは今夜詳細をつめ明日中には各団員に報告する。また今日のような不測の事態に備え只今より血盟騎士団団員はエリア外に出るときは各々ストレージに最低でも2つの転移結晶を装備するように!」
たった今できた団の規則は特に難しいものでも無いので全員が了承した。ギルド本部にいる残りの団員も同じだろう。この規則さえあれば無闇にPKされることはないだろう。とりあえずは一件落着と言っていい。
.......違う。
現実を見ろ、俺は今二つの違和感を覚えている。
一つはPoHが先遣隊の死を知っていること、あの会議場にいた百人以外に知っているのは同じ攻略組のプレイヤーかアルゴくらいだろう。つまりは攻略隊の誰かぎPoHの仲間、裏切り者がいると言うことだ。
そしてもう一つは.......
「キリト君、大丈夫?なんかすごい考え込んでいみたいだけど、みんなもう帰り始めてるよ?」
アスナに声をかけられて俺はオートパイロット状態から戻る。見ればヒースクリフを先頭に全員が迷宮区を後にしようとしている。この疑問は二つともまだ答えが分かったわけでは無い。時間はまだあるためコレからじっくりと考えていけばいい。
「ねぇ、キリト君」
「ん?どうした、アスナ?」
「君はね、いっつも自分1人で抱え込んで1人でなんとかしようと思ってるでしょう?」
「うっ」
「もう一年も相棒やってるのよ?そういう性格は私が1番理解しているって自負してるわ。別にそのことについて責めたいってことじゃ無いの。ただ、何があっても私は絶対にキリト君の味方だよ?それだけはこの先ずっとずーっと変わらないことだから言いたかったの」
「......ああ、ありがとうアスナ」
俺は赤面になりそうな顔面を必死に抑えてアスナの方を向く。アスナはこのゲームがはじめてのゲーム体験だ。一年たった今となっては玄人なりのゲーマーだが初めの頃は違った。
俺は絶対にアスナを現実世界に返す。
例えどんな残酷な選択が待っていようとも________________________
俺はそう心に決めてアスナたちに続いた。そこから1ヶ月間十分なレベリング、休養を得た攻略組は無傷で三層上がることができた。
そしてクリスマスの時間がやってきた。
この2日でこの世界は大きく変わることになったがその出来事が起こることはまだ誰も知らない。
文字の上に文字書くのってどうすればいいんですか?(泣)
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クリスマス・イヴ
今日は12月24日、このSAOの世界で二度目のクリスマスだ。そして今日俺はアスナとデートをする。
プランも完璧、下準備もこの2週間で準備万端だ。
あとはギルド本部から出て待ち合わせ場所に行くだけ......
「キリト様!!」
「うおっ!って、なんだよクラディール」
大声で呼び止められて振り返るとそこには俺の護衛であるクラディールが立っていた。血盟騎士団は幹部以上のプレイヤーに護衛がつく方針になっているためアスナと行動しない日は大体こいつが後ろについてくる。
「キリト様、今日はクリスマスイヴです。パーティー企画の準備がある中で一体どこへ行くのですか!」
「はぁ?前にも言ったろ?それはディアベルたち幹部がやることになっているんだ。料理や装飾などの材料を集める係の俺としては十分以上に仕事をしてるはずだぞ?」
「では、護衛の私を撒くような行為はおやめください。今日のお出かけにも当然ながらついて行きますぞ!」
「いややめてくれよ。ねぇなんで?今日クリスマスだよ?若い男女が勇気出して誘ったデートとか義1番多い日だよ?俺も例外じゃ無いんだよ?」
「やや!まさかいつもラブレターを送ってくるプレイヤーのどなたかとデートですかな?それこそ私が守りなければなりませぬぞ!この前もレッドギルドとの接触があったじゃないですか!その女のプレイヤーネームは?所属団は?年齢は?性格は?過去一年間で何か怪しい行動は?全て教えてもらいますぞ!!!」
「ゴトフリー、頼んだ」
「了解です、副団長殿。ほれクラディール、さっさとギルド本部に戻るぞ」
「何だって!離してください!私には護衛という立派な役目があるのです!」
「いやお前は半分ストーカーだよ。安心してください、副団長。今日はこいつから目を離しませんし、なんだったらパーティーの装飾作りをやらせます」
「分かった。あとは頼んだぞ」
キリト様ぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!、!
そんな雄叫びが聞こえたような気がしたが振り返ることなく集合場所に向かう。
AM9:30 第30層
遅刻しまいと急いで転移門から出るとアスナは目の前で待っていた。
「遅かったね。キリト君。こういう時は男の人は先に待ってるべきじゃ無いかな?」
「やぁ、アスナ。全くその通りだと思うよ?ただ護衛のストーキングを撒くのに必死でね」
「フフ、クラディールさんね。状況が目に浮かぶわ。でもレディーを待たせたんだから今日はお財布を覚悟したほうがいいんじゃ無いかしら?」
「安心しろアスナ。今日はもとより全部俺が持つつもりだったから」
「あらそうなの。なら二点目、あなたは女性と会ったらすぐにしなくちゃいけないことは何でしょう?」
「それも予習済みだ。アスナ、今日の服装すごい似合ってるぞ。いつもは騎士団の装備だから新鮮だ」
今日のアスナの格好は赤のワンピースに白のコートを羽織っている。お嬢様っぽい服装が歳の近いアスナを魅力的な女性へと引き上げている。
「っ!!フフフ、ありがとうキリト君。今日コレを着てきてよかった」
「....うん。なら行こうか」
そう言って俺は片手を差し出す。アスナも笑顔でその手を受け取り、
「よろしくお願いします。キリト君」
と言う。
まず向かったのはアインクラッド第9層、ダークエルフの城だ。
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「すごいことを言ってしまうけど俺もアスナも昨日は結構遅くまで働いたのでまずはお風呂に入って体の疲れを取りたいと思います」
門番に入領許可証を提示した俺はアスナに説明する。
「それはとてもいい案だと思うけど水着は着るよね?」
「もちろん。だから昨日メッセで水着必須って書いたろ?」
「もしかしたら暖かい層で海に行くのかなぁって思ってたけどこう言うことだったんだね?」
「そうそう。お風呂好きなアスナだからたまには1時間くらいゆっくりと浸かれるといいなって思って。流石に変わりばんことかは時間も食っちゃうし片方がその間暇になっちゃうからな」
「そうだね。2人だけの大浴場なら水着でお風呂は経験済みだしね」
そう会話しながら、ダークエルフ城の領主の元へ挨拶へと向かう。
「よく来てくださいました。キリト様、アスナ様」
「お久しぶりです。トリス様」
俺とアスナは片膝をついて領主様に挨拶をする。第三層からのロングクエストで彼女たちダークエルフ族と友好的な関係になった俺たちは今でもたまにこの城へと訪れる。美味しい料理やお風呂を堪能したいと言う欲もあるがやはり1番はこの層にいる友達に会いにくるためだ。
「キリト様は先日の訪問以来ですね。材料とお金は十分以上にありましたのでとても豪華な昼食が出来上がりそうです。完成まではまだ時間がありますのでそれまではお風呂に浸かって日頃の疲れをおとりください」
「え?!キリト君最近来たの?」
「ああ、今言ってた通り、昼食の材料とかこの日に来ることの連絡とか色々やりとりしてたんだ。一応だけど昼食もこの層に来ることも今日言うサプライズだから」
「フフフ、キリト様は本当にアスナ様のために一生懸命ですね」
「う、うるさい!」
NPCに言われて慌てたがアスナは何故が怒っていない。何だったら少し顔を赤らめてモジモジしている。前だったら「何言ってんのよ!」と言いながら俺の脇腹を殴っていたはずだ。
「フフフ。あ、あとこの白の案内人として彼女も待機しております。先に大浴場にいるのでは無いでしょうか?」
「え?キリト君頼んだの?」
「いやいや、来てほしいなとは思ったけどこの層に仕えることになってから忙しくなったみたいだし伝えては無いけど」
「実はキリト様が来た日に彼女がこの場におりまして今日のことを話してみたらその日まで全ての任務を終わらせてお暇を欲しいと言われましてね....」
それだけ聞くと俺とアスナは全力のスピードで大浴場に向かった。いそいで水着に着替え浴場に入る。あたりを見渡せばそこには褐色の肌に紫の髪の美人が立っていた。
「「キズメル!!」」
彼女の名はキズメル。第3層から一緒に旅をした俺たち2人の三人目の仲間だ。
「!!キリト!!アスナ!!」
彼女も俺たちに気付き振り返って俺たちの名前を呼ぶ。引き締まった褐色の肌がこちらを向けられ、俺たちはすぐさま対処した。俺は急ブレーキして回れ右、アスナはキスメルの元へ駆け寄った。
「すっごく久しぶりで嬉しいけどまずは水着を着よっか!!!!」
ダークエルフには水着って文化がないんだよなぁ...........
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「すまんなキリト、お前達に会えるのが楽しみで水着のことをすっかり忘れていた。もう着ているから安心しろ」
その声に安心した俺はゆっくりと振り返る。そこにはギズメルの髪の色である紫のビキニを着ていた。一年前に明日菜が作ったものだが低熟練度の割にとてもいいデザインだ。ただ、これ以上体格に恵まれているギズメルの身体を見るのは紳士としてやめておこう。
「まったくもう....キズメルの体は男の子からしたら目に毒なんだから見せちゃいけません」
「悪かった。前もそんなことを言われたな.....あれからもう一年なのか.....」
「ああ、あっという間だったな。俺たちは相変わらず攻略を続けているけどキズメルはダークエルフ領土最高幹部だからな」
「そんなに褒めないでくれ。照れてしまう」
そう言ってキズメルはNPCとは思えない顔をする。この世界のNPCはいい意味で人間っぽい。接していてとても楽だ。
「そういえばキリト、この城の細工師がお前のことを探していたぞ?例のものが出来たとやらな」
「え?!本当か?!!」
俺は思わず浴槽から立ち上がる。水しぶきがアスナにかかってしまって少しばかり睨まれたがすぐに話題が切り替わった。
「?ねぇキリト君、例のものって何?」
まずい。コレは討伐後のサプライズだから今は秘密にしないといけない。
「............企業秘密です」
「そうだぞアスナ。今回ばかりは知らないほうが身のためだ」
「身のため?キリト君細工師に何を作らせてるの?」
キズメルもアスナを説得(?)してくれたのかどうにかアスナを説得させ俺はすぐに風呂場を後にした。
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キリト君が大浴場を後にしてすぐのことだ。キズメルと私は女子トークを展開していた
「アスナがここに来るのはひと月ぶりか?前よりもまた強くなっているな」
「ありがとう。やっぱり最上階まで行くには日に日に努力して強くならないといけないしね」
「そうだな。それよりも早速最近のキリトとの具合について聞かせてもらおうか」
「う、うん」
具合って言ったらちょっと違うけど.....。私はこの城にくるたびキズメルに恋愛相談に乗ってもらっている。
どうやったら意中の相手を振り向かせることができるのか?はNPCには答えられないらしいからリズ、リズベットやリーテンさんに聞いている。リーテンさんは現にシヴァタさんと交際しているし、護衛なので雑談で話せるのが楽だ。
キズメルはどちらかと言ったら私とキリトの話を聞きたいらしい。だけど話していると途中でダークエルフ達の恋愛観点から意見をくれるので参考にしている。
「ふむ......キリトはそこまで鈍感なのか?なかなかにうまくいかないものだな」
「でも前回話したパーティとして近づくことは成功したよ?私的にも結構アプローチしてるつもりなんだけどなぁ....」
「フフフ、アスナは頭はいいが、恋愛系の知識には疎いみたいだな」
「わ、笑わないでよ〜。だって人を好きになるのも男の人と話すことすら初めてだったんだもん」
私は小学校から女子校育ちで同年代の男子どころか男の人と話す機会なんて年に数回あるか無いかくらいだった。
「ふむ、だがうかうかしてられないだろう?キリトはとてもモテるようだし」
「うん....月単位でギルド宛てに沢山のプレゼントが届いてる。みんな可愛い子だしぐいぐいアピールしてて....キリト君は攻略に集中したいって言って断ってるけど......」
もしキリト君に恋人ができたとして、私は素直に祝福できるだろうか?
自分の気持ちに嘘をつき続けて彼のそばから離れたりすることが出来るのだろうか?
出来ない。出来るはずなんてない。だけど伝えることができない。
私の気持ちをそのまま伝えてもし叶わなかった時、相棒という今の立ち位置すら壊れてしまうと思ってしまったらつい萎縮してしまう。
「アスナ」
「?...なに?」
「後悔はしないほうがいい。私だって妹に妹の好物を渡す前に失ってしまった。妹の笑顔が見たかったのに現実はいつだって非情だ」
「....うん....」
キズメルは私たちと会う少し前に妹を亡くしている。きっとその時の後悔は1年経った今でも消えていないのだろう。
「キリトは強い。きっとヒト族の中でも指折りの強さだ。だからって絶対に死なないって補償はどこにもない。聞きたくないかもしれないが明日には無くなってしまうかもしれない。だからではないがアスナには後悔してほしくないんだ」
「キズメル......うん、分かった。ありがとう。」
「決心がついたようだな。その意気だ。それに今日と明日はヒト族にとって『愛の日』なのだろう?」
「愛.....の日?なにそれ?」
聞いたことのない単語に私は思わず聞き返した。
「違うのか?今日と明日の2日間は告白や求婚がそして承認の多い2日間らしいぞ?ヒト族には別の呼び方があるのか?」
「ああ、そう言うことね。私たちはその2日間をクリスマスって言ってるの」
「クリスマスか....いい響きだな」
「でしょ?そろそろあがろっか。キリト君を待たしちゃってるだろうし」
「ふむ、そうだな」
そう言って私に続いてキズメルも立ち上がる。
「どうしたんだ、アスナ?顔がすごいにやけてるぞ?」
「....ううん、ちょっと思っちゃったんだ。私にもキズメルみたいなお姉ちゃんが欲しかったなって...。私には兄しかいないから」
「そうか。嬉しいことを聞いてしまったな」
そう言いながら大浴場を後にする。
私の中に一つ大きな決意が生まれた。
今日、私はキリト君に告白する___________________________________________
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「旦那よ、本当にコレが必要なのか?」
「俺もそれはずっと思ってたよ。だけど頼んじゃってしなぁ〜」
そう言って俺は手渡された指輪の箱を見る。中には白と黒、そしてダークエルフを主張する紫色を使った指輪が入っている。何でこんなことになったかはひとことに言うと、周りの人間が口を揃えて指輪を作れと言ったからだ。クラインが、エギルが、ノーチラスが、アルゴが、シヴァタがだ。そしてキズメルにも言われた。
「指輪の出来は本当に流石と言えるんだけど、告白に指輪はねぇ〜」
俺はいま15で世間的にはまだまだ子供だろう。だがそんな俺でも求婚と告白の違いくらいは理解しているはずだ。恐らくだがアスナも理解しているため誤解を生んでしまうかもしれない。
「旦那、今からでも即席であればネックレスやイヤリングにできまっせ」
「う〜ん、じゃあ悪いけどそっ....」
「キリトくーん!な〜にしてるの〜?」
「うげっ、アスナ?!!」
恐らくお風呂から上がったアスナを見て俺は自分の左手にある箱を見た。まだストレージに入れていなかったのだ。
どうする?
今からストレージに、いやそんなあからさまな行動を取ればアスナに怪しまれてしまう。
考えた結果俺はアスナがくる方向とは真反対に全力疾走した。一つ角を曲がってそこでストレージに保管すればとりあえず窮地を凌げるだろう。しかしそんな俺をアスナは全力で追ってきた。
「ちょ、何で逃げるのよ!!!」
「アスナこそ何で追いかけてくるんだよ?」
「キリト君が隠し事してるからでしょ!クリスマスくらい隠し事はやめなさい!!」
2人の追いかけっこは料理が出来上がるまでの30分後まで続いた。
お・ま・け!
「キズメル殿、先程旦那から指輪のアドバイスをしたそうですが...」
「キリトから聞いたのか。まぁ愛を伝えるならあれくらい用意しないとな」
「経験豊富なんですな、キズメル殿は」
「ああ、なんせ毎月2人から恋愛相談をされるくらいだ」
「.....ちなみにその2人とはこの城のものですか?」
「いや?1人は黒の髪が特徴的な青年で、もう1人は栗色の長い髪が特徴の少女だが?」
「.............................」
ここから一気にクリスマスイベント入ります。
お楽しみに
追記
更新は自分自身の都合により来年度になります。
皆さん良いお年を。
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