麻帆良の小さな戦士たち (ハクアルバ)
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ep.01 新米教師 VS アスナ

小説のクオリティを上げたいと思い、改稿することにしました。

前作とは話の展開が変わる場合がございますのでご容赦ください。


1995年、雪広財閥子会社の玩具メーカーが、ホビー用小型ロボット"LBX"を発売した。

 

携帯端末で操作する小さなロボット、だがその性能故に彼らはやがて危険なオモチャと呼ばれ、販売停止の危機に陥った。

 

ところが2001年、麻帆良工科大学が『マジックダンボール』なるものを開発。LBX専用の戦場として発売され、日本中でLBXの人気が再燃していた。

 

そして現在2003年2月。麻帆良学園女子中等部に一人の少年がやってきた。

 

「ねえ聞いてよー。最近弟がLBXにハマってさー。一緒に遊んでくれないの~」

「まき絵殿もLBXやってみるといいでござる。結構楽しいでござるよ」

「いいなー。私も弟欲しいなー」

 

麻帆良学園女子中等部2年A組。個性豊かな女子生徒たちが、今日から担任となる教師を待ち構えていた。

 

「皆さん、おはようござい…あたっ!?」

 

彼女たちの目論み通り、新担任の頭に黒板消しが落ち、続いて足元のロープに引っかかり、転倒する。女子生徒たちは爆笑するが、

 

「え、えーーっ!? 子供!?」

「ご、ごめん! てっきり新任の先生かと思って……」

 

被害者が年下の男の子だと知り、謝罪する。

 

「いいえ、その子が新しい先生よ。では自己紹介をしてもらおうかしら」

 

しずな先生が生徒たちを静め、ネギは自己紹介を始める。

 

「えー、今日からこの学校でエル…英語を教えることになりました、ネギ・スプリングフィールドです。三学期の間だけですけど、よろしくお願いします」

 

キャァァァァァァァァ!!

かわい~~~~~~~!!

弟キターーーーーーー!!

 

「うわっ!?」

 

女子生徒たちはネギに詰め寄り、質問責めにする。

 

「何歳なの~?」

「じゅ、10歳で…」

 

「どっから来たの?」

「ウェールズの山奥です」

 

「LBX持ってる~?」

「はい、持ってます!」

 

ネギは自身の相棒である黄金色のロボットを取り出した。

 

「これが僕のLBX、"K・アーサー"です」

「カッコイーー!!」

「王様みたい!」

 

「かっこいいでしょ? K・アーサーのモデルはご存じ円卓の騎士アーサー王です! この機体の特徴は背中のブースターの噴射による高速剣技。武器はかの聖剣と同名のエクスカリバー。そしてなんと鳥の形に変形することができ最高飛行速度は…」

 

「「へ、へぇ~……」」

 

ほとんどの女子生徒はネギの長談義に着いていけなかった。

 

「やれやれ、LBXだけはいっちょまえに紹介しちゃって。やっぱりガキね」

 

「ちょっとアスナさん! なんですかその態度は!? LBXの紹介を丁寧にするのは所有者の礼儀ではありませんこと?」

 

アスナの態度にクラスの委員長が怒りをあらわにする。

 

「なにが礼儀よ。こいつの肩を持ちたいだけでしょ! このショタコン!」

「なっ!? あ、あなただって、オヤジ趣味のくせに~!」

「「ギャーギャー!!」」

 

「あわわわ……ケンカだ。担任の先生として止めなきゃ……」

「いつものことやからほっといてええよ。それより、ネギ君ってLBX強いん?」

 

ケンカする二人を放置し、木乃香がネギの実力について聞き出す。LBXを持ってる生徒はその話に食いついた。

 

「自信はあります。ウェールズの大会で優勝したことがありますので」

「すごーい!」

 

「へぇー、あんたチャンピオンなの?」

 

ネギの戦績を聞き、アスナは委員長とのケンカを中断した。

 

「アスナさん、勝負はまだついてませんわ!」

「あんたは(あと)! 今はこのガキンチョよ。チャンピオンって言っても、どうせ"子供部門"なんでしょ?」

「はい、そうですけど」

 

「ほらやっぱり! ガキンチョの中で一番強いから何なの? ちょっと頭が良くてLBXが強いからって、年上相手に先生面できるとか思わないでね?」

「そ、そんなこと言われても……これは僕の仕事ですし……」

 

ネギに対して威圧的な態度を取るアスナ。ここでさらにケンカを売る。

 

「そうだ、今日の昼休みにあたしとバトルしなさい! あんたが所詮ガキだってこと、証明してやるんだから!」

「はあ……いいですけど」

 

「アスナさん! まったく、あなたという人は……」

「アスナは子供嫌いやからなー」

 

委員長はアスナの態度に呆れ果て、木乃香たちは諦めていた。

 

「じゃ先生、昼休みに校舎前ね! 逃げるんじゃないわよ!」

「は、はい……」

 

 

そして昼休み、決闘を申し込んだアスナは中等部の校舎前にいた。

 

アスナの周りには、2-Aの生徒の大半が決闘を見るために集まっている。

 

「どっちが勝つかなー?」

「ネギ君に賭け(ベット)!」

「なっ!? あたしに賭けなさいよ!」

「あ、ネギ君来たで~」

 

「お待たせしました」

「さあ、始めるわよ! マジックダンボール展開!」

 

アスナはサイコロ状の物体を手に取ると、地面に向かって投げる。するとサイコロが展開し、LBX専用のバトルフィールドが広がった。

 

(このダンボール箱、LBXバトルの衝撃を吸収できるのか……イギリスでは見たことないな)

 

日本の技術力に感心するネギ。二人はLBXをバトルフィールドへと投下する。

 

「行くわよ! アキレス!」

「K・アーサー!」

 

ネギは先程紹介したK・アーサーを、アスナは西洋甲冑を纏った白いLBX、アキレスを繰り出した。

 

「ん? 装備は槍だけですか? 機動力が高くないのなら盾も持たせるのがセオリーですが…」

「いらないわよそんなもの! 早速いかせてもらうわよ!」

 

K・アーサー目掛けて走り出したアキレス。突き出した槍の先端を、K・アーサーはギリギリで避ける。

 

「突進ですか」

「まだまだぁ!」

 

方向転換し、再び突進を仕掛けるアキレス。K・アーサーは剣で槍を受け止めようとしたが、アキレスの体重をかけた突進に怯んでしまう。

 

「くっ…」

「でた、アスナのガードブレイク戦法!」

 

「くらいなさい!」

 

アキレスは跳び上がり、空中から重力を利用した刺突を仕掛ける。……が、すんでの所で躱されてしまった。

 

「ちっ!」

「今度はこっちの番です!」

 

K・アーサーの振るった剣がアキレスに直撃。

 

「おお! クリーンヒット!」

「や、やったわね~!」

 

「LBXのテンションゲージを使い過ぎてるから躱せないんです。教師として戦い方を教えてあげましょうか?」

 

「なにをえらそうにこのガキーー!! あんたは!ここで!おとなしく!やられてりゃ!いいのよーー!!」

 

槍の乱れ突き。しかし、K・アーサーには一度も当たらない。

 

「文字通りの一本槍ですね」

「やかましい! うぉりゃあああああ!!」

 

「そろそろいきますね。必殺ファンクション!」

 

『アタックファンクション カウンターアタック』

 

アキレスの攻撃を見切り、紙一重の所で躱す。K・アーサーはその一瞬の隙に強烈な斬撃を浴びせ、アキレスを打ち負かした。

 

「は? やられた!?」

「僕の勝ちです!」

「なかなかやるじゃないの…」

 

「お見事ですわネギ先生! このあと私と勝利の宴を」

「はいはい、もう昼休み終わるから行くわよー」

「ちょっ、アスナさっ、馬鹿力で引っ張るのはおやめなさいっ!」

 

「あははは……」

 

LBXを持つ小さな教師の学園生活が始まった。多感な女子生徒たちに翻弄されながらも、ネギは魔法使いとして育っていく。




ネギ君にはK・アーサーを持たせました。

・ネギ君の出身地
・アーマー&クラウン(LBXメーカー)がある国
・K・アーサー(コンゴウ ヒノ)の留学先
共通点はイギリスです。


アスナはメインヒロインなので、装甲娘のミカヅキカリナと同じアキレスに。

アスナのバトルスタイルは、アニメの北島沙希の突撃戦法を参考にしてます。


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ep.02 バトルフィールドの謎

麻帆良学園や雪広財閥に独自設定を入れてみました。今回は独自設定の説明回になります。


個性的な2-Aの生徒に振り回されながらも、初日の授業を終えたネギ先生。

 

「ふー、やっと一段落だー」

 

職員室に向かう彼の前に、一人の男性が現れた。

 

「やあ、ネギ君」

「あ、タカミチ!」

 

「どうだい? 麻帆良学園は」

「生徒が多くてびっくりしたよ! 朝の通学ラッシュも凄かったし」

「ははは。まあ、じきに慣れるさ」

「それと"マジックダンボール"っていうのも驚いたなー。LBXでバトルしても傷ひとつ付いてないんだもん! こんなのイギリスにはなかったよ!」

 

「そのことなんだがネギ君、一緒に学園長室に来てくれるかい?」

「え? う、うん。いいけど……?」

 

タカミチと一緒に学園長室に向かい、扉をノックする。

 

「失礼します」

「フォフォ、来たのネギ君」

 

扉の奥には、後頭部が異様に長い高齢の男性が椅子に座っていた。麻帆良学園の学園長、近衛近右衛門である。

 

「今からマジックダンボールのことを君に説明しようと思ってね。これは2年前うちの工科大学が作ったものなんだ」

「そうなんですか!? すごいじゃないですか!」

「LBXの戦場としてすぐに製品化が決定し、その頑丈さから物流にも使えないかと検討したんだが……去年から奇妙な現象が起こってね……」

 

「奇妙な現象?」

 

「ごく稀に箱が光るらしいんじゃよ。これまでに30件ほど報告を受けとる」

「我々はマジックダンボールの素材に魔力が絡んでると睨んで調査を始めた。あの箱の成分をどれだけ解析しても、普通のダンボールと同じ紙の成分しか検出できなかったんだ」

 

「魔力って、まずいじゃないですか! 魔法を知らない人にバレたりしたら…」

「そうなのじゃ……工科大学の連中は魔法を知らん者が多い。不用意に魔法のことは聞けん」

「既に日本中に出回ってしまった。販売元には事情を話して、海外での販売をやめさせたよ。これ以上リスクを広げる訳にはいかないからね」

 

「だからイギリスにはなかったんだ……でも魔法がバレるリスクがあるなら、回収した方がいいんじゃないですか?」

 

「ネギ君、マジックダンボールを回収するとどうなると思う?」

「LBXバトルができなくなって販売停止になります。」

「そうなんだ。国内LBXメーカーの最大手は雪広財閥の子会社、実は雪広財閥はこの学園を維持するのに欠かせない存在なんだよ」

「LBXが売れてから財閥の株は上がっておる。今LBX事業に水を差せば、ワシらの立場も危ういからのぉ……」

 

学園としては、魔法がバレるリスクを天秤にかけてでも、LBX事業を支持したいというスタンスである。

 

「な、なるほど……色々事情があるんですね……」

 

「説明は以上だよ。このことは魔法を知らない人に話しちゃダメだからね」

「はい、それでは」

 

学園長室をあとにするネギ。

 

彼らはマジックダンボールが存在する本当の理由を、まだ知らなかった。



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ep.03 カウンターシステム

前回に続き放課後、学園長室からの帰り道。

 

ネギはマジックダンボールの件が気になり、一人で考え事をしていた。

 

(素材不明の箱が日本中で出回ってるのか……LBXとこの学園を守るために? 魔法の存在がバレるかもしれないのに? 誰が作ったんだ? う~~ん……)

 

「……考えてもしょうがないか。それより僕の下宿先、あのアスナさんの部屋なんだよなー。どーしよ……」

 

考え事を続けるネギの近くで、一人の女子生徒が10冊以上の本を抱えながら階段を下りようとしていた。

 

「…ん? あの人は2-Aの宮崎さん? たくさん本持って、危なっかしいなあ」

 

「あっ」

 

段差で足を踏み外し、階段の横から転落してしまう。

 

「まずい! LBCSコネクト、K・アーサー!」

 

ネギが叫ぶと、K・アーサーのアーマーフレームがコアスケルトンから外れ、持ち主の体格のサイズに展開する。ネギの体に鎧のように貼り付き、K・アーサーのLBCSとなった。

 

「きゃあああああ!」

 

背部のブースターを噴射し、落下するのどかに向かって飛ぶ。のどかが地面に衝突する直前、両腕で抱えるようにして受け止めた。

 

「な、なんとか間に合った……」

 

『コネクトエラー 適合率54パーセント パージシテクダサイ』

 

「はぁ、またこれか……やっぱり男じゃ使いこなせないのかな……」

 

CCMの吐くエラーメッセージに辟易としながら、ネギは自分が男であることを嘆いた。

 

「……あれ? 私、ケガしてない……?」

 

「宮崎さん、大丈夫ですか?」

「……えーっと……誰、ですか……?」

 

LBCSの正体がわからないのどかが困惑していると、

 

「あ…あんた……」

「わっ!? ア、アスナさん!?」

「ちょっと来なさい!!」

 

一部始終を見ていたアスナが、ネギを林の中へ連れて行ってしまった。

 

「ガキンチョが先生なんておかしいと思ったらあんた、ロボットだったのねーー!!」

 

「い、いや違いま…」

「じゃその格好はなに!? コスプレ? 改造人間!?」

「魔法使いです!!」

「ま、魔法使いーー!!?」

 

(しまった! これ言っちゃダメだったのに!)

 

「その格好のまま来なさい! あんたが魔法使いだってこと、みんなにバラしてやるんだから!」

「勘弁してください! これがバレたら僕、大変なことに……」

「知らないわよそんなこと!」

 

『コネクトエラー パージシテクダサイ』

 

「ああ、もう! 武装解除!」

「なっ!? キャーー!!」

 

ネギは自身に武装解除呪文をかけてLBCSを解いたが、威力が強かったのか、アスナを巻き込んでしまった。

 

「あはは……脱げちゃいましたね……二人とも」

「なんてことしてくれんのよーー!」

 

「騒がしいぞ、そこで何してるんだ?」

「た、高畑先生!? いやぁぁぁーーー!!」

 

教え子の下着姿を見てしまい、タカミチは気まずそうにしていた。

 

「高畑先生に見られた……」

「ご、ごめんなさい……」

 

「で、なんで魔法使いがこんな所まで来て先生やってるの?」

「そ、それは修行のためです。立派な魔法使い(マギステル・マギ)になるための……」

 

「ふーん……で、さっきのLBXみたいな格好って何なの?」

「あ、それはLBCS(リトルバトラーズカウンターシステム)といって、魔法でLBXを装着する技術です」

 

「LBXを装着? 何の意味があるのよ?」

「鎧で身を守ったり、武器で敵と戦ったりするのに使うんです。さっきみたいに人を助けるのにも使えます」

 

「それって誰でもなれるの?」

「魔法使いになるか、魔法使いのパートナーになるとコネクトできます。男性より女性の方が適合率が高いみたいです。僕は男なのでK・アーサーのブースターで飛ぶのが精一杯ですけど……」

 

「へぇー。魔法使いがいて、エルビーなんとかがいて、世の中広いわねぇ……」

 

アスナが荷物を取りに中等部の校舎に戻ると、クラッカーの破裂音が鳴り響いた。

 

ようこそ、ネギ先生ー!

 

「あっ、そうだ。あんたの歓迎会するんだった!」

「ほらほら、主役は真ん中!」

「あ、ありがとうございます!」

 

「肉まん作ったアルヨー」

「ネギ君日本語上手だねー」

 

10歳の外国人が教師ということで、女子生徒たちはネギに興味津々だ。その中でもロボット工学を学んでいる葉加瀬は、ネギではなく彼の持つLBXに興味を持った。

 

「可変機って珍しいですね。変形機構を見せてもらえますか?」

「はい。背中のパーツを動かしてヘッドパーツに被せると…」

「なるほど、よくできてますね」

 

 

(私、助けられたんだよね……? あの人、誰だったんだろー? ちゃんとお礼も言えなかったなー……)

 

各々が思い思いに話しかける中、のどかは話しかけられずにいた。

 

(全身が金色の鎧で、冠をかぶってて……ネギせんせーのLBXに似てたようなー……)

 

「のどか、ボーっとしてどうしたですか」

「え? あ…なんでもないよ……」

「? 具合が悪いなら言うですよ」

 

(…………そんなわけ、ないよねー)



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ep.04 子供のおもちゃ

今回は夕映視点の話を書いてみました。


side-夕映

 

今日はのどかを児童文学研究会に連れて来ました。

のどかの男性嫌い克服のために、男の子相手に絵本の読み聞かせをさせてみたです。

 

「『人間は不完全だからこそ進化する……か……いいさ、好きにすればいい』

二人の勇者が放った光に焼かれ、悪魔は消えていきました。めでたしめでたし」

 

パチパチパチ

 

「かっこいー」

「おもしろかった~」

 

「のどか、おつかれさまです。感情がこもってましたよ」

「そ、そうかなー? 子供だから、あんまり抵抗なかったかも」

「世の中は男と女しかいないです。苦手でも男性に慣れておかないと、将来困りますよ?」

 

「ねえ、おねえちゃんはLBXやらないの?」

 

「あ、ごめんね……おねえちゃんLBXは持ってないの」

「私も持ってないです」

 

「なーんだ じゃいつものメンバーでやろー」

「よーし、マジックダンボール展開!」

 

ドドドッ ガキィン

 

「……やっぱり男の子って、本よりおもちゃが好きなのかなー?」

「でしょうね。男というのは、内面的にはいつまでも子供なのです」

「…………」

 

「ですが、おもちゃやゲームで一緒に遊んだり、時には喧嘩をすることで友情を深めていくのが、男の子というものです」

「友情を深める……」

 

「よっしゃ! おれの勝ち!」

「もう一回やろー。」

 

「……ねぇ、おねえちゃんにLBXのこと、教えてくれない…かな……?」

 

「のどか?」

「私、こんな性格だけどネギせんせーとお話したいの……LBXのことを少しでも知ってたら、会話が弾むと思って……」

 

「うん、いいよー」

「LBXの動かし方はねぇ、CCMのこのボタンを……」

 

 

よく言ったですのどか! 男性嫌い克服に一歩前進ですね!

 

あ、でも私はLBXに興味ありません。やはり子供のおもちゃというイメージが拭えないです。

 

うちのクラスでLBXの所持を確認できるのは、アスナさんに委員長さん、くーふぇさん、楓さん、ハカセさん、鳴滝姉妹の7人、ネギ先生も含めると8人です。

 

ハカセさんはロボットの研究をしているので持っててもおかしくはないですが、あの委員長さんが持ってるのが理解できません。アスナさんと遊ぶためでしょうか?

 

……え? 皆さんのLBXの種類を教えてほしい? 私にわかるわけないじゃないですか。

 

 

その日の夕方、寮に帰るとLBXで遊ぶ子が増えてました。

 

「ユエー、のどかー。これなーんだ?」

「あっ、これって……」

「LBXですね。なぜハルナが持ってるですか?」

「漫画研究会の先輩がもういらないっていうからもらったのよー」

 

「この子、絵本に出てくる魔術師みたい」

「ジョーカーっていうらしいわよ。よろしくね」

「おもちゃに挨拶してどうするですか」

「いいじゃない、これから私の相棒になるんだから!」

 

「それで、バトルの練習はするんですか?」

「ん~、くーちゃんに教えてもらおっかなー」

「くーふぇさんですか。いいですかハルナ、絶対にマジックダンボールの中で練習してください。絶対ですよ!?」

「わ、わかってるって」

 

以前アスナさんがマジックダンボールを使わずに練習してたら、委員長さんに見つかってこっぴどく叱られてました。ハルナには同じ目に遭ってほしくないです。

 

「そんじゃ、くーちゃんとこ行ってくるねー」

「あ、私も行く。LBXのこと、もっと知りたいから……」

「ハルナ、LBXばっかりやってないで、勉強もするですよ」

「おまえが言うなっ!」

「くすくすっ」



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ep.05 センスがあってもなくても

LBXを登場させる余地がないので、図書館島の話は端折りました。


2003年3月18日

 

「こちら報道部です。先ほどの成績発表の集計結果に誤りがございました。学年第一位は2年A組、平均点81.0点です。」

 

「「「や……

 

やったーーーー!!」」」

 

期末試験の結果を聞き、2-Aの生徒は喜びの声を挙げた。

 

"2-Aが成績最下位を脱出できたら正式な教員として認める"という課題をクリアしたネギを学園長は褒め称える。

 

「図書館島の数々のトラップにもめげず、よー頑張ったの。最下位脱出どころか、学年一位にしてしまうとは。合格じゃよネギ君! これからはさらに精進じゃな」

「はいっ!!」

 

「もぉー、おじいちゃんしっかりしてぇなー」

「すまんすまん、遅刻組の採点結果だけ合算し忘れとったんじゃ」

 

2-Aの生徒はネギを取り囲み、胴上げを始めた。

 

「ネギ君クビにならんでよかったなぁ」

 

「おお、そうじゃ木乃香!」

「ん?」

「今日はおぬしの誕生日じゃな。プレゼント用意したぞい」

「そうや、忘れとったわ!」

 

3月18日は木乃香の誕生日である。試験勉強や図書館島でのごたごたで、当の本人も誕生日のことをすっかり忘れていた。

 

学園長は木乃香に桐箱を渡す。桐箱の中には、日本の武士をモチーフにしたLBXが入っていた。

 

「あっ、LBXや!」

「見たことない機体ですね」

 

「そいつは"月光丸"。ワシのハンドメイドじゃ」

「もろうてもええん?」

「もちろんじゃ」

 

「おじいちゃんおおきにーー!」

 

嬉しさのあまり、学園長に抱きつく木乃香。学園長は「これ、やめんか」と言うが、満更でもなさそうだ。

 

「このかよかったじゃん! 今度バトルしようよ!」

「うん! その前に操作おぼえんとなー」

 

(そいつがいずれ()()()()()となる。センスのあるおぬしなら、使いこなせるじゃろう)

 

LBXを手に取り喜ぶ木乃香。"流行りのおもちゃ"として木乃香に渡すことができたのは、学園長にとって好都合だった。

 

 

 

ネギの進退がかかっていたため、2-Aの生徒は全員LBXで遊ぶのを控え、勉強に集中していた。試験が終わった今、再びLBXたちの戦いが幕を開ける。

 

「さーて、期末試験も終わったし、LBX解禁よーー!!」

「ハルナ、燃えてますね」

「当然でしょ! テスト期間中はいいんちょがLBX禁止令なんか出したせいでバトルできなかったんだから! まずはバカイエロー! 今日こそあんたに勝ぁーーつ!!」

 

古菲を指差し、決闘を申し込むハルナ。

 

「やれやれ、まだ懲りてないアルか。武術センスのないハルナじゃ、私を超えることはできんヨ」

 

古菲からLBXの基本操作を教わったハルナだが、古菲相手に一本取ることはできていなかった。

 

「それはどうかしらね? マジックダンボール展開!」

 

「ハルナがんばれー」

「応援ありがと。行くわよ、ジョーカー!」

「ヨウキヒ!」

 

ハルナはジョーカーを、古菲は中国の女武闘家を模したヨウキヒを繰り出した。

 

「いつも通り速攻いくアル!」

 

ヨウキヒの拳がジョーカーを襲う。ジョーカーは鎌を両手で持ち、防御体勢をとる。

 

「ほぅ、ガードは覚えたアルね」

「もうこれくらいでやられたりしないわよっ!」

 

今度はジョーカーが仕掛ける。鎌の斬撃をヨウキヒは紙一重のところで躱す。

 

「おっと、危ないアル」

「ちぃっ」

 

「くーふぇさんのヨウキヒ、武器も盾も持ってないです」

「うん、中国拳法の戦い方をLBXに採り入れてるんだよ」

 

LBXバトルをするには何らかの武器を持たせるのが常識だが、古菲のヨウキヒは丸腰である。拳法で戦うスタイルでは武器が邪魔になってしまうからだ。

 

ヨウキヒは右手を引き掌底の予備動作を取るが、ハルナはこれを見切り、一歩下がって回避する。

 

「!?」

「躱してからの、カウンター!」

 

ジョーカーの鎌がヨウキヒの胴体を切り裂き、体力を大きく削った。

 

「やりやがったネ! 連撃アルーー!」

 

ヨウキヒの拳の連打を防ぎきれず、ジョーカーの体勢が崩れた。

 

「やばっ」

「今日もこの技で沈むネ! 必殺ファンクション!」

 

『アタックファンクション 気功弾』

 

ヨウキヒは跳び上がり、地面に向かって衝撃波を放った。衝撃波で砂煙が上がり、ヨウキヒの視界からジョーカーは消えた。

 

「終わったネ。オヌシじゃ私には勝てな」

「勝手に終わってんじゃないわよ!!」

 

勝利を確信したヨウキヒの背後からジョーカーが現れ、斬撃を浴びせた。

 

「んなっ!? まだ生きてたアル!?」

 

「何回もくらって気づいたの! 気功弾は、ジャンプすれば当たらないってね!」

「上に逃げてたカ! 気づかなかったアル!」

 

「今度はこっちの番よ! 必殺ファンクション!」

 

『アタックファンクション デスサイズハリケーン』

 

「に、逃げ場がないアルーー!!」

 

ジョーカーは鎌を回転させ、強烈な嵐を起こす。風の刃がヨウキヒを斬り裂いた。

 

「やられたアル……」

 

「武術のセンスだけで勝敗は決まらない。それがLBXバトルの面白いところよ!」

「油断したアル! 次はこうはいかないアルー!」

 

「ハルナ、やったね」

「この調子でネギ君も倒すわよーー!」

「調子に乗るなです」




原作で木乃香の誕生日の話がないので、試験の成績発表と木乃香の誕生日を勝手に同日にしてみました。2003年の3月18日は火曜日で、成績発表は試験日(月曜日)の翌日らしいので。

木乃香には和のイメージに合わせて月光丸を持たせました。剣のファンクションを使わせるためでもありますが、その話は修学旅行編で。

古菲は中国武術繋がりでヨウキヒにしました。そのまんまですね。


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ep.06 工場見学

原作14時間目の家庭訪問の代わりに、工場見学の話を書いてみました。


雪広財閥グループにはLBXの製造・販売会社が存在する。

 

「ネギ先生、本日はLBXメーカー"雪広タイニーマキナ"へお越しいただきありがとうございます! ……あら、アスナさんもいらしてたんですか」

「なによ、あたしが居たら悪い?」

 

春休みを利用して、ネギとアスナは工場見学に来ていた。ここで生まれた小さな戦士たちが、世界中の子供たちを熱狂させている。LBXの製造は今や雪広財閥の一大事業となっていた。

 

「ここって委員長さんの財閥の子会社なんですよね?」

「はい、LBXの再販売の引き金となった『マジックダンボール』の製造、販売もこちらでやっておりますわ」

 

(ここでマジックダンボールのこと、何かわかるかな……?)

 

「それにしてもネギ、なんでLBXの会社の見学なんてしようと思ったのよ?」

「に、日本のLBXの製造ラインを見てみたくて……」

「そんなの見て何になるのよ」

 

「アスナさんも少しは興味を持ってくれます!? では先生、ご案内いたしますわ」

「ありがとうございます!」

「お邪魔しまーす」

 

委員長のガイドで、ネギとアスナは工場の中を見て回る。

 

「この会社は主に集積回路を作ってまして、そのノウハウをLBXに応用したのですわ」

「へぇ~」

 

「ここがコアスケルトンの生産ラインですわ」

「わぁ……こうやって作ってるんだー」

「なんか機械だらけでわけわかんないわね……」

 

「こちらがアーマーフレームの成形機ですわ」

「プラモデルの金型みたい!」

「ホント男子ってそーいうの好きよね」

 

「ここではLBXの耐久試験をしてますわ」

 

ガァン ガァン

 

「これも大事な工程ですよね!」

「うるさいだけだしもう行くわよ!」

 

見学エリアの大半を見終わると、ネギが本題を切り出した。

 

「委員長さん、マジックダンボールを作ってるとこ見せてもらってもいいですか?」

「ごめんなさい、その部署だけは関係者以外立ち入り禁止になってますの」

 

(やっぱり無理か、魔法が関係してるんだもんな……)

 

魔力を用いた商品の販売、ネギはそれが気になって工場見学に来たのだが、あっさりと断られてしまった。

 

どうにかしてマジックダンボールの秘密を知ることはできないか……とネギが考えているうちに、時刻は正午を過ぎた。

 

「そろそろお昼にしましょうか。屋上庭園へ行きましょう」

 

ネギたちが屋上の自動ドアを通ると、何かが真上を通過した。

 

「あっ、あれは!?」

「オーディーンです。K・アーサーと同じ可変機ですわ。海外メーカーには後れを取りましたが、今年度の主力商品になるかと」

「まだ発売されてないのね。ちょっと見てきていい?」

「いいですわよ」

 

アスナがオーディーンを見に行くと、LBXの開発部門の科学者が近づいてきた。

 

「失礼します。お嬢様、LBXの調子はいかがでしょうか」

「特に異常ありませんわ。今日はLBXを置いて帰るので、メンテナンスをお願いしますね」

「かしこまりました」

 

科学者は委員長のCCMからデータを受け取ると、その場を去って行った。

 

「あれ? 委員長さんもLBX持ってたんですか」

「ネギ先生には紹介してませんでしたね。これが私の愛機、ジ・エンペラーですわ!」

 

委員長は紫色のLBXを取り出した。手には十字型のハンマー(ティターニア)を持たせている。

 

「かっこいい……いかにも皇帝って感じですね」

 

「実は私、ジ・エンペラーのテストプレイヤーをやってますの」

「へぇー、そうだったんですか。いつから持ってるんですか?」

「……8年前ですわ」

 

ネギは委員長の雰囲気に陰りを感じた。

 

「委員長さん? 何かあったんですか?」

 

「8年前、私には弟ができるはずでした。このジ・エンペラーは元々、弟のために用意したおもちゃのひとつだったんです……結局、流産になりましたが……」

 

「そ、そうだったんですか……ごめんなさい、余計なこと聞いちゃって」

「いえ、お気になさらず……」

 

委員長の辛い経験を聞き、ネギは何を言っていいかわからなくなる。そこにアスナが戻ってきた。

 

「ただいまー。ん?どうしたのよ、二人で暗い顔して」

「アスナさんには関係ありませんわ」

 

「……なるほど、ネギに話したのね。そろそろテンション戻しなさいよ。せっかくネギと一緒にいるのに、いつものショタコンはどうしたのよ」

「ア、アスナさん……今はそっとしておいた方が……」

 

アスナはネギの制止を聞かずに続ける。

 

「そうだ、委員長!今からバトルするわよ! そういう嫌な気分は、バトルして吹っ飛ばすのよ!」

 

「まったく、あなたはどうしてそう単純なんですか……」

「あんたが暗い顔してんのは見てらんないのよ!」

 

「……ありがとう」

 

「ん? なんか言った?」

「なんでもありませんわ! マジックダンボール展開!」

 

いつもの表情に戻り、屋上庭園にバトルフィールドを広げた。

 

「やる気になったのね。行くわよ、アキレス!」

「GO! ジ・エンペラー!」

 

バトルスタート

 

アキレス、槍を突き出し突進する。ジ・エンペラーは一歩も動かず、向かってくる槍の先端を掴んだ。

 

「また突撃ですか。アスナさん!その戦い方では私に勝てないのはわかってるはずです!」

「だからネギ相手に特訓したの! あんたに負けっぱなしとかイヤだからね!」

 

至近距離でアキレスに蹴りを入れられ、エンペラーは掴んだ槍を放してしまう。

 

アスナは委員長とは初等部からの仲だが、LBXバトルで委員長に勝てたことがほとんど無い。

 

今回も自分の勝ちだろうと高を括っていた委員長だが……

 

「ハンマーが、当たりませんわ……」

「回避だって覚えたわよ!」

 

特訓の甲斐あってか、エンペラーの重い一撃を次々と躱していく。

 

「でも避けてばかりじゃ勝てませんわ!」

 

回避に必要なテンションゲージがなくなり、ハンマーを槍で受け止める。

 

「ハンマー振り回すやつが相手なら、その隙を突いて攻撃するのよね?」

「はい。でも委員長さん、なかなか隙がありませんね……」

「隙なんて見せませんわよ!」

 

ジ・エンペラー、鍔迫り合いの状態から急に力を抜いて一歩後ろに下がる。

 

アキレスはバランスを崩して前傾姿勢になり、そこにハンマーのスイングがぶつかる。

 

「あっ!」

「追撃ですわ!」

 

ジ・エンペラーの二撃目をジャンプで飛び越え、背後から胴体に槍を突き刺す。

 

「っ! やりますわね」

「攻撃直後なら、隙ってできるんじゃない?」

「いいですよアスナさん!」

 

「一気に削るわよ! 必殺ファンクション!」

『アタックファンクション ライトニングランス』

 

「ではこちらも、必殺ファンクション!」

『アタックファンクション インパクトカイザー』

 

「必殺ファンクションの撃ち合い!?」

 

強烈な閃光と衝撃波がフィールドの中央でぶつかり合い、大爆発を起こした。

 

「う、うわぁ……!」

 

爆心地を見て驚くネギ。バトルフィールドの地面は大きく抉れ、穴が空いてしまっていた。

 

「これは改良が必要ですわね……アスナさん、対戦は中止ですわ。この状態でバトルを続けるのは危険ですので」

「しょうがないわね。でも次こそあんたに勝ってやるんだから!」

 

そのとき、マジックダンボールの破損箇所から謎の光が漏れ出した。

 

「え、なによこれ」

「わ、わかりませんわ……」

 

漏れ出した光がアスナと委員長を包み込む。光が消えると、二人は自身のLBXを模した鎧を身に纏っていた。

 

「どうなってんのよ……この格好、アキレスよね……」

「これは、ジ・エンペラー……?」

 

「アスナさんと委員長さんが、"装甲娘"になっちゃった……」

 

 

To be continued




アスナのライバルは委員長、アキレスのライバルはジ・エンペラーというわけで、委員長はジ・エンペラーを使います。

委員長とソフィアさんはクラス、チームのまとめ役って所が共通点です。


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ep.07 誤作動

LBXバトルに熱中していたアスナと委員長。だが二人は突如としてLBXを纏う戦士、"装甲娘"となってしまった。

 

「アスナさんと委員長さんが、LBCSになっちゃった……」

「これ、アキレスの槍よね!? マントもついてる!」

「これはティターニア? お、重いですわ……」

 

(そんなバカな……二人とも魔法を使えないはずなのになんで?)

 

あり得ない状況に戸惑うネギ。アスナと委員長は、自身に貼り付いたLBCSの鎧を興味深そうに見回す。

 

「あたし、アキレスになっちゃった!? でも、人前でLBCSになるのってまずいんじゃなかったっけ」

 

「うぐっ」

「委員長?」

 

「力が、入りませんわ……」

「え? 委員長!? どうしたのよ!?」

「はぁ…はぁ……」

 

過呼吸を起こして跪く委員長を見て、ネギは慌ててアスナに指示を出す。

 

「アスナさん、CCMでLBXの操作を終了してください! LBXが動かなくなれば、解除できるはずです!」

「う、うん! わかった!」

 

「委員長さん、CCM使わせてもらいます!」

 

LBXの操作を切ろうとしたが、二人のCCMの画面には激しいノイズが走り、操作できる状態ではなかった。

 

「どーしよ、バグって動かないんだけど!」

「こうなったら……風花・武装解除!!」

「きゃあ!?」

 

武装解除の呪文が吹き荒れ、二人のLBCSが外れる。

 

「どうにか解除できました!」

「もう、強引なんだから……」

「委員長さん、大丈夫ですか!?」

 

「…………」

 

「気を失ってるわね……ねえ、さっきのなんだったの?」

「恐らくマジックダンボールの魔力が漏れたせいで、カウンターシステムが誤作動したんだと思います。LBCSは魔力を使ってLBXを装着するので、魔法使いじゃない委員長さんは体力を奪われたのかと……」

 

「ふーん……じゃあなんであたしは平気だったの? あたしも魔法使いじゃないわよ?」

「それは…う~ん、わかりません……」

 

ネギはアスナが無事だった理由を考えたが、どうしても原因がわからなかった。

 

しばらくすると、意識を失ってた委員長が目を覚ました。

 

「ん……あれ? 私、寝てたのですか……?」

「委員長! 大丈夫?」

 

「わ、私としたことが、ネギ先生の目の前で居眠りなんて……」

「気にしないでください。きっと日頃の疲れが溜まってたんですよ」

 

「では私とアスナさんがLBXの姿になったのは、夢だったのですか……」

「な、なにそれ~? 変な夢ね~?」

 

委員長は魔法を知らない。ネギとアスナはLBCSが存在する事実を伏せた。

 

「そ、そうですよねー。LBXを纏って戦う戦士なんて、いるわけないじゃないですかー」

 

「……?」

 

(はぁ、どうにかバレずに済んだ……でも、マジックダンボールの事は学園長に報告した方がいいよね……)

 

 

 

翌日、ネギは学園長室に向かい、事故の全容を報告した。

 

「アスナ君たちにケガが無くてよかったわい。まさかマジックダンボールが壊れるとはのぉ」

 

学園長に事の経緯を説明すると、タカミチが学園長に新聞を見せる。

 

「学園長、これを見てください。件の記事です」

 

"マジックダンボールの欠陥判明 LBX事業に逆風か"

 

この日の新聞の一面であり、マジックダンボールの耐久性の弱点について書かれていた。

 

ただし、新聞は魔法を知らない人も読むため、魔力やLBCSの事は一切書かれていなかった。

 

「これからLBXバトルはどうなるの?」

「従来のマジックダンボールでは、"複数の必殺ファンクションの同時使用禁止"だそうだ。これから必殺ファンクションに耐えられる改良版を開発するらしい」

 

「じゃあ、改良版が出回ればそのルールも撤回されるんだね?」

「そうなるといいね」

 

ネギの問いに答えるタカミチ。しかし、彼らにとって厄介なのはもうひとつの問題である。

 

「アスナ君たちに起きたことだが、ネギ君の推測通りカウンターシステムの誤作動みたいだよ」

「やっぱり!」

 

「魔法がバレるリスクどころか、コネクトしてしまうと体力を奪われてしまう。危険なものよのぉ……」

 

「今我々にできることは、新ルールの周知と徹底、カウンターシステムの誤作動は発見次第すぐに武装解除…ですかね?」

「そうじゃな……雪広財閥が絡んどる以上、ワシらの手で事業を衰退させる訳にもいかんしのう」

 

学園で生まれたマジックダンボールの流通を許したのは間違いだったのか……LBX事業を継続させるために、何か代わりになるものは無いのか……学園長たちの悩みは尽きない。

 

 

 

(カウンターシステムの誤作動か……ククク…こいつは使えそうだ……!)

 

学園長室の扉の向こうでは、一人の少女が不敵に笑っていた。




次回から3年生になります。大体原作沿いですが、所々LBXバトルを混ぜていこうと思います。


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ep.08 吸血鬼の噂

2003年4月 新学期

 

マジックダンボールの欠陥、新ルールの追加もどこ吹く風。LBXの人気はさらに広まり、メインターゲットである子供を中心に多くの人がLBXを手にしていた。

 

ネギが受け持つ3-Aの生徒にも、流行りに乗ってLBXバトルを始める者がいた。

 

「アキラ、LBXで対戦しよーよ。ホームルームまでまだ時間あるし」

「ゆーなもLBX始めたんだ」

 

3-Aの教室では、裕奈とアキラと亜子の三人が朝練を終え、制服に着替えていた。

 

「ジャンヌ・D! おとーさんの出張のお土産だよー」

「ガンマンかー。かっこええやん」

 

裕奈の手には二丁拳銃の使い手であるジャンヌ・Dが握られている。

 

「じゃいくよ、トリトーン」

 

アキラの機体は水中戦を得意とするトリトーンである。二人は机の上に展開したバトルフィールドにLBXを投げ入れた。

 

「初心者だからお手柔らかにね~」

「私も初心者だけどね」

 

ジャンヌ・D、トリトーンから少し距離を取り銃弾を連射する。トリトーンはダッシュで弾丸から逃げるが、何発か被弾してしまう。射撃に集中するジャンヌ・Dに接近しアンカーを振るうが、

 

「おっと! この子身軽だから当たらないよー」

 

ジャンヌ・Dは横ステップで回避し、トリトーンの攻撃を躱す。そしてすぐにトリトーンに発砲。

 

トリトーンの攻撃を躱しては撃ち、躱しては撃ちの繰り返しである。ジャンヌ・Dの一方的な攻撃により、トリトーンの体力は残り25%を切った。

 

「アキラやられっぱなしやん」

 

「この勝負もらったー!」カチッカチッ

 

「……あれ? 弾切れ?」

「チャンス!」

 

仕返しとばかりに、ジャンヌ・Dに容赦なくアンカーを振るう。

 

「うわっ、ちょっ、リロードできなっ」

 

ガァン!

 

アンカーの一撃がクリーンヒットし、決着がついた。

 

「あー! あとちょっとだったのにー!」

「見事な逆転負けやなー」

 

「悔しいから戦い方の勉強しよっと。Lマガに戦術論とか書いてないかなー?」

 

LBXマガジン、通称"Lマガ"は新商品の情報や、初心者向けの戦術指南が書かれた情報誌である。裕奈はLマガの戦術欄を読み始めた。

 

「ウチもLBX始めよかなー」

「亜子も興味ある?」

「だってみんな楽しそうやし」

「じゃまずは機体選びからだね」

 

亜子とアキラはLBXのカタログを開き、気になる機体を探す。

 

「ズール、ムシャ……うーん、なんかピンとこんなぁ」

「水中型とかどうかな? ナズー、シーサーペント、マッドロブスター」

「最後のエビやん! ん?この水兵みたいな子かわいくない?」

 

亜子は白いLBXを指し示した。水兵帽のような頭部のLBXで、トリトーンと同じ形のアンカーを持っている。

 

「マリーフェインだね。この子も水中型だよ」

 

「これにしよっかなー? そういや昨日、まき絵帰ってないんやけど、そっち泊まってない?」

「いや? 来てないけど?」

 

「連絡は?」

「電話しても繋がらんのや……」

「ってことは、行方不明!?」

 

まき絵が昨日から寮に帰ってないと聞き、裕奈とアキラは青ざめた。すると、しずな先生が3-Aの教室に入ってきた。

 

「みんな聞いて、まき絵ちゃんが桜通りで倒れてて、今学校の保健室にいるの」

 

「え!? まき絵が!?」

「様子見に行こ」

「「うん!」」

 

三人はLマガを読むのを止め、保健室に向かった。それからまき絵たち四人が不在のままホームルームが終わり、生徒たちは身体測定を始める。

 

身体測定の最中、美砂はある噂話を切り出した。

 

「ねえねえ、最近寮で流行ってるあの噂、どう思う?」

「あ~、あの桜通りの吸血鬼ね」

「えー、なにそれ!?」

 

噂を知らない生徒たちは美砂の話を興味深そうに聞き入る。

 

「なんかねー、満月の夜になると出るんだって。桜通りの並木道に、化け猫の顔した血まみれの吸血鬼が……」

 

「キ…キャー!」

「こわいですー!」

 

美砂はわざとらしく不気味な顔をして語り、鳴滝姉妹は恐怖に怯える。

 

「吸血鬼なのに化け猫? へんなの。そんなのデマに決まってるでしょ」

 

アスナは噂話を全く信じていないようだ。

 

「こんな感じかえ?」

 

木乃香は噂の吸血鬼の想像図を黒板に描いた。牙の長い猫がドラキュラのマントを羽織っている。

 

「かわいー!」

「これならむしろ会ってみたいなー!」

「あ、あれ……?」

 

木乃香の描いた想像図が女子生徒たちに好評で、怖がらせようとした美砂は拍子抜けしてしまった。

 

(フン、なめられたものだな……)

 

猫のイラストにクラスが盛り上がる中、一人の女子生徒が眉間に皺を寄せる。

 

 

「先生ーー!大変やーー! まき絵が…まき絵がーー!」

「亜子さん!? どうしたんですか!?」

 

慌てた様子の亜子に呼ばれ、ネギたちは保健室に向かう。保健室のベッドの上では、まき絵が静かに寝息を立てていた。

 

「桜通りで倒れてたんだって」

「まさか、噂の猫吸血鬼にやられたとか?」

 

(ほんの少しだけど、まき絵さんから魔力を感じる……まさか、魔法使いの仕業……?)

 

「ん……あれ? なんでみんないるの?」

 

「あ、まき絵起きたよ」

「よかったー。心配したやん」

 

まき絵が目覚めて、ようやく一安心する亜子たち。

 

「ていうかここどこ? 今何時?」

「まき絵さん、いいですか? 落ち着いて聞いてください。ここは学校の保健室で、今は朝9時です」

「え?学校!? 私、寝坊しちゃったー!?」

 

「まき絵さん、何かあったんですか?」

「えーっと……桜通りでおっきな猫ちゃん見た気がするんだけど、その後は覚えてなーい」

 

まき絵はネギの質問に曖昧にしか答えられない。事件当時の記憶のほとんどが飛んでしまったようだ。

 

まき絵が起き上がると、アスナはまき絵の首元についた何かの噛み跡を見つけた。

 

「うわ、噛まれてるじゃん。大丈夫?」

「ほんとだ。傷跡がちょっと痛いかな」

 

「長時間寝込むくらいやから、何かの感染症かもしれんな。一応病院行って見てもらい?」

「えー、私元気なんだけどなー」

 

亜子はまき絵の身を案じ、医療機関での受診を促した。まき絵は渋々といった様子だ。

 

 

その日の夜、部活を終え帰路につくアスナたちは桜通りの近くを歩いていた。

 

「やっぱり猫吸血鬼はいるんだって」

「どうせ野良猫の見間違いです」

 

ハルナはまき絵の件を証拠として噂を信じたが、夕映はデマと断言した。

 

「のどか、私たち書店寄るから先帰っててー」

「噂とか関係なしに、この時期は不審者が出やすいので気をつけるです」

「うん」

 

「……本屋ちゃん一人で大丈夫かな?」

「心配なん? 吸血鬼とかデマゆーたんアスナやろ?」

 

 

「あ、桜通り……か、風強いですね……ちょっと急ごうかなー。こ、こわくない~……」

 

早歩きでさっさと通り抜けようとするのどか。

 

(ちっ、いちいち()()()をぶっ壊すのは面倒だが、しょうがない)

 

突如として、並木道の合間から"ドォン!"と何かの爆発音が鳴り響く。

 

「ひゃあ!!?」

 

のどかは爆発音に驚き、その場で尻もちをついてしまう。腰を抜かしたのどかの目の前に、一人の不審者が現れた。

 

「LBCSコネクト、ヴァンパイアキャット。宮崎のどか、悪いけど少しだけその血を分けてもらうよ」

 

「キャアアアア!!」

 

そこにいたのは、猫の耳を生やした吸血鬼だった。

 

 

To be continued




裕奈はアーティファクトの二丁拳銃のイメージからジャンヌ・Dを持たせました。

アキラは水泳部で力持ちという設定から、水中型でハンマー使いのトリトーンに。

亜子のアーティファクトはナースなので、旧装甲娘で救護班だったマリーフェインを選びました。

そして、エヴァンジェリンはヴァンパイアキャットです。共通点は吸血鬼で、ミドルネームのキティの意味は子猫ですので。


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ep.09 LBCSの戦い

夜の桜通りを歩いていたのどか。そこに突如として何かの爆発音が鳴り響き、並木道の合間から一人の少女が姿を現した。

 

「LBCSコネクト、ヴァンパイアキャット。宮崎のどか、悪いけど少しだけその血を分けてもらうよ」

 

自身の背丈を越える長さの三叉の槍を持ち、先端を獲物に向ける。のどかは腰を抜かし、その場で気を失ってしまった。

 

「待てーー! 僕の生徒に何をするんですかー!」

 

桜通りの周辺を見張っていたネギは突如現れた不審者に気付き、現場に駆けつけた。

 

「もう気付いたか……」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル、魔法の射手・戒めの風矢!」

 

呪文を詠唱し、魔力の矢を放つ。矢はヴァンパイアキャットの装甲に直撃するものの、大したダメージを与えられなかった。

 

「効かんな」

「LBCS!? じゃあこれならどうだ! 魔法の射手・ソードビット!」

 

ネギは魔力で8本の刃を生成して飛ばした。しかし……

 

「ハルベルトガード」

 

相手は槍の防御ファンクションで自身に薄い壁を貼る。ネギが放った刃は全て壁に弾かれてしまった。

 

「くそっ、これもダメか!」

 

「ほう、必殺ファンクションの代用魔法か。器用なことをするじゃないか」

 

「えっ!? き、君はウチのクラスの……エヴァンジェリンさん!?」

 

相手の顔を見て驚くネギ。自分の教え子が事件の犯人であることに動揺している。

 

「LBCSを使えるってことは、あなたも魔法使いですね? なぜこんなことを……」

「私にかけられた呪いを解くためだよ。ネギ先生、おまえの血もいただく!」

 

「戦うしかないんですね……LBCSコネクト、K・アーサー!」

 

教え子との対峙に戸惑いながらも、ネギはK・アーサーを装着し、剣を構える。

 

「K・アーサー……やはり奴の息子か。忌々しいものを受け継ぎおって」

 

顰めっ面でネギを睨むエヴァンジェリン。K・アーサーとは因縁があるのか、槍を持つ手には力がこめられる。

 

「奴って、僕の父さんのことですか……? 何か知ってるんですか!?」

「お父さんの話が聞きたいか? 私を追い詰めたら教えてやるよ」

 

LBCS同士の戦いが始まった。エヴァンジェリンは槍の末端を持ち、ネギに襲いかかる。

 

「おまえのLBCSの実力、見せてもらうぞ!」

 

女子中学生とは思えないような足の速さでネギとの距離を詰め、手にした槍で刺突を仕掛ける。

 

「は、速い!」

 

回避が間に合わず、慌てて剣で防御するネギ。

 

今度は走りながら槍を振りかざし、先端をネギに叩きつけた。

 

「ぐぅっ!」

 

なんとか剣で防いだものの、遠心力の乗った一撃がネギの右手をしびれさせた。

 

エヴァンジェリンの俊敏さと槍のリーチの長さを生かした攻撃に翻弄され、ネギはひたすら防御に徹する。

 

(強い……エヴァンジェリンさん、LBCSの扱いに慣れてる!)

 

「どうした! それでも奴の息子か?」

「くっ、このっ!」

 

ネギも攻撃を当てようと剣を振るが、素早い身のこなしで躱されてしまい、ただ空を切るばかり。

 

(アスナさんのアキレスと同じで、盾を持ってないな。カウンターを狙ってみるか……)

 

ネギは攻撃をやめ、相手の出方を見ることにした。

 

「何か考えてるみたいだが、おもちゃ遊び(L B Xバトル)の感覚で私を倒せると思うなよ?」

 

エヴァンジェリンはネギから離れ、槍を空高く投げ飛ばした。槍は夜空の闇に紛れ、見えなくなった。

 

「武器を捨てた!?」

「さあぼーや、かかってこい」

 

丸腰になったエヴァンジェリンはネギを挑発する。

 

(今なら攻撃のチャンスだけど、これは罠かも……エヴァンジェリンさんの実力は不明だし、下手に間合いに入ると何をされるかわからない……よし、これでいこう)

 

少し考えたネギはその場を一歩も動かず呪文を唱えた。

 

「風花・武装解…」ドスッ

 

呪文の詠唱が完了しようとした途端、空からエヴァンジェリンの投げた槍が落ちてきた。穂先はネギの後ろ髪を掠め、地面に突き刺さった。

 

「ひぃっ!」

 

「惜しい。あと10cmずれてたら、脳天に突き刺さってたのに」

「こ、これを狙ってたんですか!?」

 

武器を捨てたと思い込み、相手を警戒して動かなかったネギの判断ミスである。危うく致命傷を負う所であった。

 

「武装解除の呪文を撃とうとしたな。目には目をだ、氷結・武装解除!」

 

エヴァンジェリンはフラスコと試験管を取り出し、それぞれの魔法触媒を混ぜて氷の魔法を巻き起こした。

 

「うわぁっ!」

 

武装解除を喰らったK・アーサーの鎧は砕け散り、ネギの体から外れてLBXに戻ってしまった。その隙にエヴァンジェリンは槍を拾い、走り去った。

 

「さっきの音、何やったん?」

「あっ! ネギと本屋ちゃん!」

 

エヴァンジェリンと入れ違いにアスナと木乃香がやってくる。先ほどの爆発音を聞き、のどかの身を案じて駆けつけた。

 

「しまった、逃げられた! LBCSも解除させられたし」

「えるびー、なんやて?」

「いえ、なんでもありません!」

 

「ちょっとネギ、本屋ちゃんの服破れてるじゃないの! あんたがやったの?」

「え、いつの間に!? 違います!僕のせいじゃないですって!」

 

ネギは戦闘に集中していて気付かなかったが、のどかは武装解除魔法の巻き添えをくらっており、制服のほとんどが砕け散っていた。

 

「そ、そうだ。二人とも宮崎さんを頼みます! 僕は犯人を追いかけますので!」

「あっ、こらーー!!」

 

のどかを二人に押し付けたネギはエヴァンジェリンの後を追う。

 

「エヴァンジェリンさん、逃がしませんよ。LBCSコネクト!」

 

再びK・アーサーを装着。背中のブースターを噴かせて上昇し、空から探すことにした。

 

「ん? あれは……?」

 

空中からエヴァンジェリンを探していると、あるものを見つけた。桜通りの並木道の木陰に破損したマジックダンボールが放置されていたのだ。

 

「そうか、さっきの爆発音はこれだったのか。ということは、エヴァンジェリンさんは……」

 

LBCSを使える魔法使いにあって、エヴァンジェリンに無いもの……ネギはそれに気が付いた。

 

「……いた!」

 

エヴァンジェリンは体育館裏のゴミ捨て場にいた。彼女は上空のネギの存在に気付いていない。ここぞとばかりにネギは攻撃を仕掛ける。

 

「もう逃がしませんよ! 魔法の射手・ソードビット!」

「くっ…ハルベルトガード!」

 

攻撃に気付いたエヴァンジェリンはすぐさま防御ファンクションで壁を張る。しかし、先ほどソードビットを弾いた壁は"バキィン"と音を立てて呆気なく砕け散った。

 

「やっぱり()()()()ですね。これで終わりです! 風花・武装解除!!」

 

風の魔法が吹き荒れ、ヴァンパイアキャットはエヴァンジェリンの体から剥がされた。

 

「やるじゃないか。しかしなぜ私が魔力不足だとわかった?」

 

「エヴァンジェリンさんは攻撃系の呪文や必殺ファンクションを一度も使ってませんよね。氷結・武装解除もわざわざ魔法触媒を使ってましたし、魔力が十分にあれば他にも技を使ってたはずです」

 

「ほう、攻撃魔法を使ってないだけで魔力不足と判断できるのか? 根拠はそれだけか?」

 

「まだあります。壊れたマジックダンボールを見つけたんです。わざと壊してカウンターシステムを誤作動させた。なぜなら、LBCSを使うのに必要な魔力そのものが不足してるから……ですよね?」

 

「正解。よく見抜いたな。……奴のことを教える約束だったな。私が魔法を使えなくなったのはおまえの父、サウザンドマスターの仕業だ」

 

「え、父さんが……?」

 

教え子であるエヴァンジェリンから父親の情報を得られるのは、ネギにとって想定外の収穫だった。

 

「奴に掛けられた呪いのせいで私は魔力を極限まで封じられ、この15年間ずーっとこの学園で中学生生活をやらされてるんだよ!!」

 

「そ、それは本当なんですか!?」

「嘘ついてどうする!?」

 

エヴァンジェリンの立場と父親の所業が、ネギには信じられなかった。

 

「で、でも、それと僕の血に何の関係が…」

「このバカげた呪いを解くには、奴の血縁者であるおまえの血が大量に必要なんだ。観念しておとなしく血を吸われるがいい」

 

「観念って……追い詰められてるのはそっちですよ!? 今は魔法もLBCSもろくに使えないじゃないですか!」

「そうだ。だからパートナーを呼んでおいた」

 

エヴァンジェリンが手で合図をすると、麻帆良の女子中等部の制服を来た人物が現れた。

 

「こんばんは、ネギ先生」

 

「えっ、君は3-Aの…」

「紹介しよう。私のパートナー、絡繰茶々丸だ」

「ええーーっ!? 茶々丸さんがパートナー!?」

 

自分の生徒がもう一人敵として現れ、またもや動揺するネギ。

 

「私に捕まりたくなければ、こいつを倒してみろ」

「でも、生身の生徒に攻撃なんてできません!」

「フン、甘いことを……やれ、茶々丸」

 

「発動、(インフィニティ)ドライブ」

 

茶々丸は自身を強化するファンクションを作動した。体内の電圧を高めることでモーターの回転数が上がり、茶々丸の体温が上昇する。頬は紅潮し、放熱用の髪の毛からは温風が吹き出される。

 

「これは…補助ファンクション!?」

 

「攻撃力と防御力を上げるファンクションだ。これでおまえ(L B C S)と対等だな。文句は言わせんぞ?」

 

「では参ります」

「こ、来ないでください!」

 

茶々丸への攻撃を躊躇い、剣を構えたまま後ずさるネギ。茶々丸はネギの間合いに堂々と踏み込み、剣を両手で掴んで奪い取ろうとする。

 

「な、なにするんですか!」

 

必死に抵抗するものの、表情ひとつ変えない茶々丸に力負けし、剣を奪われてしまう。さらに茶々丸は奪い取った剣を遠くに投げ捨ててしまった。

 

「そんな……」

 

「申し訳ありません、マスターのご命令ですので」

「くっ……放してくださいっ…!」

 

茶々丸はネギにヘッドロックをかける。ネギはブースターを噴かせて逃れようとするが、飛び立つことができない。

 

「どうだ、これが茶々丸の力だ。ではおまえの血、吸わせてもらうぞ」

 

エヴァンジェリンがネギの血を吸おうとしたその時、

 

「コラーー! そこの変質者どもーー!」

「ん?」

「ウチの居候に何すんのよーー!!」

 

ドゴッ

 

「はぶぅ!?」

 

ネギの後を追ってきたアスナは、エヴァンジェリンと茶々丸に強烈な跳び蹴りを放った。

 

「あ、あれ? あんた達ウチのクラスの…あんたらが犯人なの!? 二人がかりで子供をいじめるような真似して…答えによってはタダじゃ済まないわよ!?」

 

「ぐっ…ぼーやの保護者か。よくも私の顔を足蹴にしてくれたな……」

 

顔面に蹴りをくらい、痛みに表情を歪めるエヴァンジェリン。

 

「お、覚えておけよ~!」

 

茶々丸と共に夜の林の中へと消えて行く。

 

「あっ! 待ちなさいよーー!! ……行っちゃった」

 

「う…うわーーん! アスナさーーん!」

「わっ!? ちょっとネギ」

 

「こ、こわかったですーー!」

「あーもう、ひっつかないでよー。LBCSも外したら? 誰かに見つかったら困るでしょ?」

 

緊張の糸がほぐれたのか、アスナの目の前で泣き出すネギ。教師をしているとはいえ、彼の精神年齢はまだまだ年相応の子供だった。

 

 

To be continued




・LBCSには威力の低い魔法攻撃は効果が薄い。
・LBCSを解除させるには、武器や必殺ファンクションでダメージを与えてブレイクオーバーさせるのが一般的。
・LBCSを解除されても、LBXのダメージが少なければ再コネクトが可能。魔法による武装解除はあくまで一時しのぎ。

という設定で書いております。

ちなみに、原作で空を飛んでたエヴァンジェリンですが、この回では一度も飛んでいません。LBCSの維持に魔力を消費しているので、魔力に余裕がないからです。


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ep.10 パートナーは誰がいい?

ダンボール戦機のゲームはもう何年もプレイしてません。この話は当時を思い出しながら書いてます。大人になってからさらに年月が経過した今となっては、子供向けのゲームを純粋に楽しむのは無理かもしれない。


翌日 昼休み

 

「ふぁ~ぁ……昼はねむい……」

 

陽気に満ちた暖かい春の日。エヴァンジェリンは校舎の屋上で午前中の授業をサボっていた。そのまま屋上で昼寝をしようとしたが、思い立ったように制服のポケットから自分のLBXを取り出した。

 

「こいつ、そろそろ修理しないとな……面倒だし、ハカセにでも頼むか」

 

LBCSの発動というのは、本来は所有者本人の魔力を消費してアーマーフレームを体に装着することである。カウンターシステムを誤作動させるという強引なやり方を繰り返したため、ヴァンパイアキャットの装甲は魔力による負荷に耐えられず、所々にヒビが入っていた。

 

眠気でぼんやりしながらも、中等部の技術室へ足を運ぶ。

 

「ハカセ、LBXの修理頼めるか?」

 

「そこ置いといてください。これ終わったら直しますので」

 

LBXの修理に集中する葉加瀬聡美、通称"ハカセ"。ルーペで視野を拡大しながらLBXの細かい配線を接続している。

 

エヴァンジェリンはハカセの隣の椅子に座り、作業を眺める。

 

「ヨウキヒ…古菲のか」

 

「あの人素手でバトルするから、すぐ手のパーツが壊れるんです。しかも機械音痴だからいつも私か超さんに修理頼むんですよ?」

 

「ふーん、あいつらしいな。ふわぁ~」

 

「人のこと言えるんですか? その子ボロボロじゃないですか。パテ埋めくらいは自分で…」

 

ハカセがエヴァンジェリンに目をやると、彼女は机に突っ伏して静かに寝息を立てていた。

 

「やれやれ、夜更かしも程々にしてくださいね」

 

ぼやきながらも修理を続けるハカセであった。

 

 

 

 

 

所変わって女子中等部の廊下。昼食を終え3-Aの教室に向かうネギ。その顔色はどんよりと暗かった。

 

(はぁ~、まさか僕の生徒に吸血鬼がいるなんて……僕にもパートナーがいれば……)

 

エヴァンジェリンとの戦いから一夜明け、今朝は学校に行きたくないと駄々をこねていたネギ。アスナに強引に連れてこられ、午前中の授業は終始浮かない顔をしていた。

 

「ネギ君朝から元気ないなー?」

 

「あ、木乃香さん……」

 

「アスナさんが言ってましたわ。パートナーを探してるそうで」

 

(アスナさん、喋っちゃったんだ……)

 

「先生の欲しがってるパートナーって、結婚相手のこと?」

 

「この中だと誰がタイプ? 私の調べだとウチのクラスの8割は彼氏いないから、選び放題だよ」

 

「えっ!? べ、別にそういうつもりじゃ……」

 

桜子と朝倉に詰め寄られるネギ。多感な女子中学生の恋愛談義に振り回されそうになる。

 

("魔法使いの相棒"だなんて言えないしな……そうだ!)

 

少し考えたネギは話題を逸らすことにした。

 

「え、LBXバトルの相棒が欲しいかなーと思って……ほら、二対二のタッグバトルってあるじゃないですか」

 

「なーんだ、そういうパートナーか」

「恋バナじゃないの? つまんなーい」

「ネギ君ってば子供なんだからー」

 

LBXに興味がないチアリーディング部の三人は話題から脱落した。

 

「ネギ君もやりたいんだー。タッグバトルって楽しいよねー」

「はいですー。互いの長所を生かし、短所を補うバトルがとっても熱いです!」

「コンビネーションや駆け引きとか、考えることも多いんだけどね」

 

普段から二人一組での対戦を楽しむ鳴滝姉妹はタッグバトルの魅力を語る。

 

「そういうことでしたら、是非この雪広あやかにご指名を! LBXの実力には自信がありまして」

 

我先にとしゃしゃり出る委員長。そこにハルナが続く。

 

「私もネギ君と組んでみたいなー。みんなでバトルして一番強い人がパートナーってのはどう?」

 

「待つです。ハルナ、それだとナンバーワンを決めるだけです。相棒は強ければいいというものではありません。ネギ先生との相性も重要です。皆さんがネギ先生とバトルして、実力と相性を見てもらうというのはどうですか」

 

「夕映さんの言うとおりですわ。では、参加希望者は用意してください」

 

(僕もバトルするの!? ……ま、いっか)

 

委員長は机の上にジオラマを展開した。ジオラマの周りには委員長とハルナの他に木乃香と裕奈が集まった。

 

「行きますわよ、ジ・エンペラー!」

「ジョーカー!」

「月光丸~」

「ジャンヌ・D! あれ?くーちゃんはやらないの?」

「ヨウキヒは今修理中アル」

 

「四人ですか。ではいきますよ、K・アーサー!」

 

K・アーサーは四角いジオラマの中心に、他の四機は四隅にそれぞれ降り立つ。四対一のバトルが始まった。

 

(LBXバトルにはプレイヤーの癖やセンスが出てくるんだよな……パートナー選びの参考になるかも)

 

「ネギ君、ウチらの動きちゃんと見といてなー」

 

「そんじゃ私から行くわよーー!」

 

いの一番にジョーカーが駆け出した。K・アーサーに向けて鎌を振るが、ネギはバックステップで躱す。

 

「おっと、当たりませんよ」

 

「ネギ先生! 熟練者の挙動を見てくださいませ!」

 

ジ・エンペラーもK・アーサーに接近し、ハンマーを叩きつける。K・アーサーには躱されるが、近づいてきたジョーカーは邪魔だと言わんばかりに弾き飛ばしてしまった。

 

(委員長さん、テストプレイヤーやってるだけあって強いな……アスナさんと対等に喧嘩できるくらいだから、武術のセンスもありそうだ)

 

「いいんちょさん、上手だねー」

「ええ。ハルナとは雲泥の差です」

「なにを~! 私だってー!」

 

ハルナはムキになり、ジョーカーをK・アーサーのすぐ側まで接近させる。エンペラーの攻撃を剣で防いでいる所に横から斬りつけようとしたが、鎌の刃ではなく柄の部分が当たってしまった。

 

「ありゃ? 距離感ミスったかな?」

 

(ハルナさんの戦い方は相手に近寄り過ぎかな? 今の間合いだと、リーチの短いナックルの方が向いてる気がする……)

 

「ウチも負けへんえ~」

 

木乃香の月光丸はというと、K・アーサーにまるで追いつけていない。木乃香のCCMの入力操作が遅くぎこちないためである。

 

それでも攻撃を当てようと剣を振るが、斬撃と呼ぶにはやや遅い速度で空を切った。

 

(木乃香さんは性格からしてゆったりしてるな。接近戦には向いてないかも)

 

「う~ん、せっちゃんのマネしたらええんかなー?」

 

近接武器の三機を同時に相手にするK・アーサー。少し離れた場所からジャンヌ・Dがふたつの銃口を向ける。

 

「おりゃおりゃー!」

 

「うわっ!?」

 

弾丸を連射するジャンヌ・D。背後から射撃をくらい、K・アーサーは慌てて避難する。

 

「あっはは! 三人も相手してちゃまともに動けないでしょ? 当てたい放題だにゃー」

 

「漁夫の利ですか。ずるいですわ」

 

(かなり被弾しちゃった……ゆーなさん初心者なのに射撃うまいなー。この中だったら、パートナーは誰がいいかな……)

 

飛行形態に変形し、ジャンヌ・Dの射程から遠ざかる。しかし安全地帯などないジオラマの中、すぐに四機が追ってくる。

 

「今度こそ、当たれー!」

 

ジョーカーの攻撃に剣先をぶつけて弾く。そこにジャンヌ・Dの放った弾丸が襲った。弾は左膝の関節に直撃し、K・アーサーはその場で膝をついた。

 

「しまった!」

 

「隙ありですわ!」

 

エンペラーはハンマーを振り上げ、強烈な一撃を叩き込もうとする。

 

(まずい……!)

 

K・アーサーは片膝を着きながらも剣を構え、防御しようとする。勢いよく振り下ろされたハンマーがぶつかり、鈍い衝撃音を発した。

 

だが、叩き潰されたのはK・アーサーではなく……

 

「……え? アキレス?」

 

K・アーサーを庇うようにアキレスが倒れていた。アキレスの右足の脛はエンペラーのハンマーによって装甲が陥没してしまった。

 

「アスナさん!? 邪魔しないでください!乱入はマナー違反ですわよ!?」

 

「あー、ごめんねー。こいつLBXの調子が悪かったのよー」

 

咄嗟に嘘をつくアスナ。K・アーサーを守ったのは理由があってのことだった。

 

「なーんだ、そうなら言ってくれればいいのに」

 

(アスナさん? K・アーサーは壊れてないですけど……)

(あんたエヴァちゃんに狙われてるんでしょ? いざって時にLBCS使えなかったらどーすんのよ!)

(そ、そうでした……)

 

当然ながら、LBXが故障していればLBCSは性能が落ちてしまう。いつエヴァンジェリンに襲われるともわからない状況でLBXバトルをしてしまったネギは迂闊だった。

 

LBXを片付けていると、午後の授業の予鈴が鳴る。

 

「ほらネギ、授業の準備しないと」

「は、はい!」

 

「ヨウキヒ直ったらバトルしてほしいアル!」

「のどかとの相性も見てあげてください。彼女はLBXの購入を検討中です」

「ちょ…ちょっと、ユエ~」

「ネギ君モテモテやなー。ウチはもっと練習せななー」

 

 

そしてその日の授業が終わり、ネギとアスナは学生寮に帰ってくる。

 

「アスナさん、止めてくれてありがとうございます」

「エヴァちゃんの件が終わるまで、あんたはLBXバトル禁止ね」

 

「いいや、それには及びませんぜ」

 

ネギとアスナの会話にいきなり何者かが割り込んできた。しかし、声の主が見当たらない。

 

「え? 誰かいるの?」

 

「下ですよ下!」

 

二人が足元を見ると、そこには一匹のおこじょがいた。

 

「あーー! カモ君!!」

「お久しぶりっス、ネギの兄貴!」

 

「お、おこじょがしゃべった……?」

 

 

To be continued



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ep.11 助っ人参上でい!

女子寮643号室

 

アスナと木乃香、そしてネギが住んでいるこの部屋に一匹のおこじょが訪ねてきた。

 

「カモ君久しぶり! 大きくなったね」

 

「さっきのLBXバトル見てましたぜ。最後はそこの姐さんに助けられて、男としてはちょっとカッコ悪かったっスよ」

 

おこじょの名はアルベール・カモミール。かつて罠に嵌まっていた所をネギに助けられたことが出会いの切っ掛けだった。

 

「あの場にカモ君いたんだ……」

 

「どうせ、誰と仮契約しようかなーとか考えてたんじゃないっスか?」

 

「そ、そうなんだけど、誰がいいのかよくわからなくて……」

 

「そういうときは"LBXを持ってて、運動神経が良さそうな人"を選ぶのが無難っス!」

 

「やっぱりLBXを持ってる人がいいの?」

 

「LBCSの戦い方はだいたいLBXと同じっス。LBXの戦術を知ってれば、LBCSになった時に即戦力になるっスよ!」

 

「なるほど、参考にするよ」

 

おこじょと会話できることに強烈な違和感を感じながらも、アスナはカモに話しかけた。

 

「あんたおこじょのくせに妙にLBXに詳しそうだけど何者なのよ? ここに何しに来たの?」

 

「俺っちはLBXのメカニックっス! 昔ネギの兄貴に助けられた恩を返しに来たんスよー」

 

「こら、ここ禁煙よ」

 

タバコを吸いながらそう告げるカモ。アスナはタバコを取り上げ、コップの水で火を消した。

 

「メカニック!? カモ君、修理できるの!?」

 

「LBXで楽しく遊んでる人間が羨ましいんス……おこじょの短い前足じゃCCMの素早い操作はできねぇ……それでも俺っちはLBXが好きだからメカニック始めたんスよ。LBXが傷ついたら言ってくだせぇ。俺っちがすぐに直しますんで」

 

「それじゃ早速だけど、あたしのアキレスの修理してくれる? 細かい作業って苦手なのよね」

 

「まかせてくれ! おお、こりゃ派手にへこんでるっスねー。直し甲斐があるっス」

 

昼休みのバトルにて、K・アーサーを守るために慌てて乱入したアキレス。エンペラーの攻撃が右足の脛に当たり、装甲が陥没していた。

 

カモはアキレスの修理を始めた。右足のアーマーフレームを分解し、へこんだ部分を裏側から金槌で叩いて直す。装甲の傷とヒビ割れはパテで埋めていく。

 

「おこじょのくせに器用ね……あたしお風呂に入るから、あとは任せたわよ」

 

パテが乾いたら表面をヤスリがけし、青色の塗料を筆で塗る。

 

「僕も修理しとかなきゃ」

 

K・アーサーも昼休みのバトルで少しダメージを受けていた。背中に受けた弾の跡は大したことはなかったが、左膝は関節の駆動部に損傷があり、コアスケルトンを分解して修理する羽目になった。

 

「ネギー、あんたもお風呂入りなさいよー」

 

「う、うん……」

 

「姐さん、修理終わったっスよ!」

 

「誰が姐さんよ。終わったんなら返してもらうわよ」

 

「おっと、まだ触っちゃダメっスよ。塗料が乾くまでこのまま放置っス。ついでにコアスケルトンのグリスアップをしたんスよ。あと、足首の関節が削れて緩くなってたんで、瞬間接着剤で太らせたっス」

 

「へー、やるじゃないの。ありがと」

 

「これくらいお安い御用っス!」

 

アスナの謝意に鼻を高くするカモ。メカニックとしての仕事を全うした。

 

「それにしても、関節が摩耗するまで使い続けるのはどうかと思うっス。グリスを差してたら防げたのに」

 

「アスナさんは普段メンテナンスをしないからね」

 

「う、うるさいわねー。機械いじりは苦手なのよ」

 

 

翌朝、目を覚ましたアスナが着替えのために引き出しを開けると、下着が一枚も残らず消え去っていた。

 

「……あれ?あたしの下着がない! 木乃香のも!?」

 

アスナが下着を探して押し入れの戸を開けると、すぐに下着泥棒の犯人が見つかった。

 

「姐さん、おはようございます!」

 

「な…なにやってんのよあんた……」

 

カモは自分の寝床に女性用の下着を持ち込み、布団代わりに包まっていた。

 

「それにしてもこの国の女子の下着は柔らかいっスねぇ。装甲娘として最前線で戦ってる連中はパンツがくったくたになるまで履き続けるってのに」

 

「何の話よ! このエロおこじょーー!!」

 

「アスナー、動物虐待はアカンでー」

 

この一件でアスナのカモに対する印象は、"できるメカニック"から"エロおこじょ"へと大幅ダウンしてしまった。通学中もカモへの怒りが収まらず、木乃香に宥められていた。

 

「まったく、下着泥棒のおこじょなんてとんでもないペットが来たもんだわ!」

 

「まーまー、小動物のいたずらやんか」

 

校舎に着くとカモはネギの落ち着きの無さに気付き、声をかけた。

 

「どうしたんだ兄貴? さっき…いや昨日から落ち着かないみてえだが」

 

「じ、実はウチのクラスに問題児が……」

 

「問題児? どんなヤツっスか?俺っちが相談に乗るっスよ」

 

 

「おはよう、ネギ先生。今日もサボらせてもらうぞ」

 

噂をすればなんとやら、ネギの背後にはエヴァンジェリンと茶々丸がいた。

 

「エ、エヴァンジェリンさん、茶々丸さん!」

 

「おっと、学校内ではおとなしくしておいた方が身のためだぞ。また生徒を襲われたくはないだろ?」

 

「くっ……うわああ~~ん!!」

 

「あっ、ネギ!」

 

ネギは自分の不甲斐なさに嫌気が差し、思わず廊下の奥まで逃げ出してしまった。カモとアスナはネギの後を追う。

 

「ううっ……言い返せないなんて、僕はダメな先生だ……」

 

「あの二人が問題児っスね!? ネギの兄貴をこんなに悩ませるなんて、許せねえ!! 俺っちがぶちのめしてやろうかぁ!?」

 

「エヴァンジェリンさんは吸血鬼なんだ。しかも真祖の……」

 

「し、真祖!? 最強クラスの化け物じゃないっスか! こうなったら、故郷(くに)へ帰らせてもらいま…」

 

「コラ、待ちなさいよ」

 

「でも今は魔力が弱まってるらしいんだけどね」

 

「弱体化っスか……だったら俺っちにいい案があるぜ」

 

「どうするつもりよ?」

 

「先に相方の茶々丸ってヤツを兄貴と姐さんが二人がかりでボコっちまえばいいんだよ! そうすればエヴァンジェリンも倒しやすくなるぜ」

 

「二人がかりって……アスナさんと仮契約しろってこと!?」

 

「そういうこと。二対一で各個撃破っス!」

 

カモの戦略を聞いていたアスナは、聞き慣れないワードに疑問を持つ。

 

「……ん? 仮契約ってなによ?」

 

「魔法使いと仮契約すれば、主人の魔法使いから魔力を分けてもらえるっス! 特殊能力に目覚めたり、兄貴みたいにLBCSになれたりするっスよ」

 

「なるほどね。で、どうやって仮契約すんの?」

 

「兄貴とキスするのさ」

 

「え…え~~~!?」

 

仮契約の方法に嫌悪感を抱くアスナ。流石に好きな人以外とするのは抵抗があるようだ。

 

「これが一番簡単な方法なんスよ!」

 

「アスナさんは『LBXを持ってて、運動神経が良さそうな人』……わかった、やるよ!」

 

「そーこなくっちゃ!」

 

「……やっぱいいわ。仮契約しなくてもあたしはLBCS使えるっぽいし? それに…初めてのは、好きな人としたいし……」

 

決意を固めたネギに対し、アスナは仮契約を断った。

 

「ア、アスナさん?」

 

「LBXの工場行った時、あたしだけ平気だったじゃん! それってあたしに素質があるってことでしょ? 見てなさい、LBCSコネクト、アキレス!」

 

アスナが叫ぶと、アキレスのアーマーフレームがコアスケルトンから外れ、アスナの体に貼り付いて鎧となった。槍も大型化され、アスナが右手で握っている。

 

「ほら、できた!」

 

「な、なんでできるんスか!? 普通の人はできないハズなのに」

 

「僕もわかんないよ……」

 

「体に倦怠感とかないんスか?」

 

「へっちゃらよ。仮契約はナシでいいわよね?」

 

「まあ、アスナさんが平気なら……」

 

「どうなっても知らないっスよ……」

 

 

To be continued




「塗装のときにサフ吹けよ」みたいなツッコミが入りそうですが、"学生寮なので塗装環境がない"という事情を考慮して筆塗りだけで済ませてます。


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