悪夢の悪魔 (黒プー)
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悪夢の悪魔

僕たちはノリと勢いだけで生きている、どうも黒プーです。
いつか書こうと思ってたチェンソーマン二次創作。本当はUCRTA完結させてから書こうと思ってたんだけどもういいやと思って書きました。後悔も反省もしてません。


「ここが?」

「はい。ここ周辺に根付いてる松城組の事務所です。」

「ただ最近、ここ周辺で悪魔の目撃情報が多発していました。そしてその情報をまとめた結果...」

「ここが浮かび上がったんだ。分かった、悪魔に関しては私がなんとかします。皆さんは組のヤクザを。」

「はい。」

 

公安対魔特異4課のデビルハンターの一人であるマキマは一人、指定暴力団松城組の事務所に入っていく。

 

「よし。悪魔の方は彼女に任せ、我々は構成員の方を確保するぞ。悪魔との契約を違法で行い、それを隠蔽してる奴らだ。射殺の許可も上から出ている。確保は無理だと判断したら殺せ。いいな!」

「「「「了解」」」」

「よし!突入!」

 

マキマに続くようにして、SWATの隊員たちも松城組の事務所に入って行った。

 

「や、やめろ!案内しただろうが!は、離してくれぎゃああああああああ!」

「地下牢ね。まさかこんな仰々しいものを作るなんて。」

 

突入から30分。マキマは悪魔本体がいると思われる場所を、構成員に案内させ見つけ出していた。

そこには地下牢へと続く階段があった。

 

「...」

 

マキマは階段に足を踏み入れる。

が。

 

「っ!?」

 

彼女の足には、 トラバサミ*1が噛み付いていた。

 

「...私が気づかないなんて。」

 

彼女の目には、階段にトラバサミなんて見当たらなかった。だからこそ階段に足を踏み入れたわけだが。

 

「ま、いっか。全部壊しちゃえば。」

 

彼女は足に噛み付いていたトラバサミを強引に引き剥がし、階段の奥、地下牢への道に進んでいった。

 

 

「ひっ...!」

 

廊下を歩く音がした。誰か来たのかな。まさかまた力を使えって叩かれるのかな...

 

『落ち着いて。君には僕がついてる。だから安心して。』

「エンティティ*2。トラッパー*3、ハントレス*4、ハグ*5に続いてリージョン*6まで壊滅した。どうするつもりだ。まさか私を送るつもりか。」

『君やかましいしそうしたいところだけどさ、そうしたら彼女を人間に保護させてあげられないだろ? 現状人間に近い見た目してて話せるの君だけだし。だから君は送れない。それにリソースもないから迎撃もできない。』

「ならどうする気だ。ここで無駄死にだけは御免だぞ。」

『大丈夫大丈夫。迎撃してて分かったけど、相手には交渉の余地ありだ。だから一回黙っててくれ。それか彼女の涙を止めてくれると助かるんだけど。』

「それはお前の仕事だろう。」

 

どうしよう。怖い。怖くて涙が止まらない。でも止めないとぶたれちゃう。止めなきゃ。止まってよ...

 

『あーあー、大丈夫、ほら落ち着いて落ち着いて。最悪僕がなんとかする、てかもう僕が全部やっちゃうから。能力いっぱい使ってもう眠たいでしょ?』

「お前面倒くさくなってないか。」

『ウェスカー*7少し黙ってろ。ほら、もう鎖も意味ないし、君のことは僕が守る。だからおやすみ、リトル・マム。』

 

あ...なんだか...眠くなってきちゃった...また...殴....られ...ちゃう....

 

「...おや、君は。」

『やあマキマ。久しぶりだね、地獄以来かな?』

「本当に久しぶりだ、相変わらずみたいだね、悪夢の悪魔。」

 

マキマが地下牢で見つけたのは、牢の中で寝込む少女と、その陰から伸びているカマキリのカマのような見た目をした手のような何かだった。

 

『今はエンティティって名乗ってる。君も今度からそう呼んでくれ。』

「ところで君、どうしてこんなところに?」

『...全く、君の昔からの悪い癖だ。人の話は最後まで。...それはね、僕は大事な人を見つけたんだよ。』

 

手足のような何か...エンティティは、影の持ち主である少女を優しく撫でながら話す。

 

『彼女...リトル・マムはね、とっても愛おしいんだ。立ったり座ったり歩いたりしてるその姿全部が可愛いんだ。』

「続けて。」

『近くにいるだけでとってもいい香りもするし、何より僕を恐れない。彼女ね、僕が怖いかって聞いても可愛い顔をして「いいえ」って言ってくれたんだ! 僕はもうその顔にメロメロにされちゃってね?だからさ、マキマ。』

 

倒れている少女...リトル・マムについて嬉々として語っていたエンティティの雰囲気が変わる。

 

『彼女を傷つけようとしたらさ、僕はもう本気で君を殺さなきゃいけない。キラーたちを使ってじゃない。僕自身が本気で君を殺しに行く。』

「...あなたの本気ね。魔界でも見たことなかったし、少し興味があるかな。」

『...はあ。戦闘狂の君のことだし、そういうだろうと思ってたよ...やっぱりおどしは通じないかぁ...』

 

マキマの言葉を聞いたエンティティは、殺意のような何かを引っ込め、またリトル・マムを愛でながら話を続ける。

 

『まーでも僕にとっては彼女とっても大切なわけなんだよ。だから殺されたら困っちゃうわけで。』

「それで?」

『だから見逃してくれないかな? 僕は現世に興味ない。ただ彼女を害する畜生どもを叩き潰したいだけなんだ。』

「...」

『あ、その点君にはとっても感謝してるよ? だって君、どうせここに辿り着くまでに皆殺しにしてるんでしょ? いや〜僕彼女の体に直接降ろされたんだけどさ。どうも召喚の時に悪魔封じの鎖かなんかつけられちゃってたみたいで暴れられなかったんだよねー。』

「見逃してあげてもいいけど、一つ条件がある。」

 

エンティティの長ったらしい話を遮り、マキマはそう言った。

 

『...聞こう。』

「彼女、それと君を私の公安4課に入れたい。君にとっては彼女...リトル・マムをより安全にしてあげられるし、私にとっては戦力を増やせる。どうかな?」

『...いいね。確かに君が味方になってくれるなら頼もしい。ウェスカー。』

「なんだエンティティ。」

『彼女を頼むよ。僕は引っ込んでないと面倒臭そうだからね。』

「分かった。」

 

 

「...そう言うことで、アキくん。彼女を君に任せてもいいかな?」

「なんで僕なんでしょうか。他に適任いるじゃないですか。姫野先輩とか。」

「私が君を信頼しているから。...で、どうかな?」

「了解しました。」

「じゃあ早速仕事をお願いしようかな。」

 

あの牢屋から出てきてちょっと立った後。私の隣は、すごく怖いお姉さんからちょっと怖そうなお兄さんになった。

 

「...こんな感じかな。じゃあよろしく、アキくん。」

「はい。失礼します。...おいガキ。行くぞ。」

「は、はい...」

 

怖いお兄さんに言われて、私は一緒に怖いお姉さんの部屋を出る。

とりあえずついていけばいいのかな。歩くのが早いお兄さんに合わせて、頑張って歩く。

 

「おいガキ。」

「ひっ...は、はい。」

「お前、何ができるんだ?」

「えっ、あっ、その。」

「早く答えろ。一緒に仕事するんだ、能力くらいは把握しておきたい。」

 

ど、どうしよう。役立たずとか言われないかな。また叩かれないかな。もう叩かれたくないよ。せっかくあそこから出られたのに。

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

 

『やー少年。これ以上僕のリトル・マムをいじめないであげてくれないかな? 殺すよ?』

「...そいつがお前の悪魔か。お前、能力...」

『貴様っ....悪夢の!? なぜここに!?』

 

私の影からエンティティが出てきたと思ったら、お兄さんからはもふもふしたおっきいのが出てきた。触ってみたい。

 

『やあ狐のじゃん! 久しぶり、数百年前に生まれたての君をボコって以来かな?』

『な、なぜよりによって貴様が...! これまで接触を避けてきたと言うのにっ...!』

『チェー、冷たいなー。一期一会って言葉もあるしさ、出会いくらい大切にしようよー...あれ、使い方合ってる?』

「多分間違ってるな。...で、お前能力はなんだ。」

 

怖いお兄さんがもふもふとエンティティの間に割り込む。

 

『んー、まあ僕の能力はね、怖いものを出すこと、かな。』

「はあ? それだけか?」

『そう、それだけ。まあ怖いものは怖いものでもさ。』

 

一瞬で辺りが暗闇に包まれ、怖いお兄さんの首にいっぱいいる人たちのナイフが突きつけられる。

 

「...っ!」

『マムの記憶にあった怖いものだけどね! いやー、マムの記憶の怖いものってよくよく考えたら結構エグいよねー。』

「...」

『さーて、今ここで君をぶち殺すこともできるわけだけど、なんか謝ることあるよね〜? ちょんまげ少年〜? ...てか君髪型のセンスないな。それかっこいいと思ってるの? ほらさっさとマムに謝りなよ。』

「...悪かった」

『ハァ〜? 誠意が足りないよ君ぃ〜。 こっちは今すぐ...』

「いいよ、エンティティ。それ以上はいらないよ。」

『そっか〜! マムがそう言うならいいかな〜! ...命拾いしたねぇ。』

 

そういうとエンティティはいっぱいいる人たちに命令してナイフを離させてくれた。

いっぱいいる人たち、特に髪が長い人は、私をいっぱいなでなでしてから消えていっちゃった。

 

『で? これ以上なんか言うつもりないよね? まだ文句あるならそこの後ろの狐ごと君を油揚げにしちゃうからな〜?』

『ヒっ!』

 

もふもふが飛び上がった。足ないのにすごい。

 

「...ああ。あるわけない。戦力としては十分だ。...行くぞ。...お前、名前は。」

「...ない。」

『マムだぞ! さっきから僕がそう呼んでるだろ!』

「前の名前くらいあるだろ。」

「...覚えてない。」

 

怖いお兄さんはちょっと考えた後、こう言った。

 

「...澪」

「?」

「名前ないのは面倒だ。澪。お前の名前だ。そう呼んだら自分のことだと思っとけ。いいな。」

「...うん。」

『ハァ〜!? ないわー、やっぱネーミングセンスまで皆無なの君〜? 本当ないわ、マムの方が可愛いだろお前!』

「...うるさい。エンティティ嫌い。」

『待って!? 気に入っちゃったの!? ごめんって! 嫌わないでよ! 僕マムのためにいったのに〜!』

 

「...うん。それで彼女...澪ちゃんと一緒に悪魔を倒せたと。」

『僕とマムのおかげだぞう! そこのちょんまげは...』

「嫌い」

『すみませんでした。許してマム。』

「...はい、そんな感じです。特に問題はありませんでした。」

 

あのあと、私とちょんまげのそこまで怖くない人...アキさんと一緒に、あくまを二人倒した。

その後一緒にラーメンを食べたりしたけど、アキさん、あんまり怖くなかった。

 

「うん、仲良くなれそうでよかった。」

「ええ、まあ。」

「じゃあアキくん。君のお家の部屋、貸してあげてくれないかな?」

「...え?」

 

*1
トラッパーのトラップ

*2
DBDのゲームが行われている、霧の森の管理人。詳細が全くわからないけど最近なんか新しく情報出たらしい。キラーじゃないから強さはわからない。

*3
呼んで字の如くトラップを設置できるキラー。ゲーム内だとあんまり強くない

*4
筋肉うさちゃん。手斧投げてくるからムキムキ。実は女性。使い慣れてる人が使うとやばい。

*5
沼おばあちゃん。言葉だと説明しにくいから検索してください。使い慣れた人が使うと化ける。固有パークが長年環境だった。

*6
名前の通り4人いる。ただしゲーム内では他の三人は衣装扱い。すごいスピードで突撃してナイフでぶった斬る。あんまり強くないけど面倒臭い。

*7
バイオの黒グラサンのあいつ。結構最近のキラー。ゲーム内で唯一まともに言語を話すキラー。かっこいいけど超強いわけじゃない。




注釈にキラーの解説入れてます。ぼっちゃけ僕初心者なので、攻略サイトとか動画見た結果のキラーの評価なので悪しからず。あんまり参考にしないでね、あくまでこれ二次創作だから。


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出会い

みなさん、落ち着いて聞いてください。そろそろほんとに小説のモチベがなくなりそうです。
...今書いてる別作品の評価が赤から黄色になってしまいまして...割とモチベピンチです...
まあなるべく続けていきますのでどうぞよしなに...


『「ゾンビの悪魔?」』

「そう。そいつについてなんだけど、私が直々に行くことになった。その時に君たちについてきてもらいたいと思って。」

 

私たちが4課にやってきて数ヶ月が経った頃。突然マキマお姉さんに呼び出されたと思ったら、マキマさんのお仕事を手伝ってと言われた。

 

『だけどそいつ雑魚じゃん。なんでマキマが直接行くことになっててしかも僕らまで? あの狐のガキ一人でも十分じゃない?』

「エンティティ、アキさんをそうやって呼ぶのはやめてよ...」

『あーごめんリトル・マム...でもあのクソガキが君の近くにいたら良くないからさ? だから...』

「嫌い」

『ア”』

 

エンティティが影に引っ込んじゃった。でもアキさんバカにするのが悪いんだもん。

 

「続けてもいいかな?」

「はい、マキマお姉さん。」

「うん。エンティティがさっき言ったことだけどね。」

 

マキマお姉さんによると、ゾンビの悪魔自体はそこまで強くないが、問題は近くで時々見られているチェンソーの悪魔らしい。

チェンソーの悪魔はとっても危険らしく、でも弱体化してる今がチャンスだから捕まえちゃおう、と言うことらしい。

 

「で、でも、弱体化してるんだったら私みたいな雑魚、別にいらないんじゃ...」

「澪ちゃん、弱体化しているとはいえチェンソーの悪魔が契約を誰かと交わしてしまったら、その前提は崩れる。チェンソーの悪魔の力が戻ったとなると、私だけじゃダメなんだ。だから力を借りたい。」

「うう...」

 

私が返事に困っていると、マキマお姉さんがそっと近づいてきて、私の頭を撫でながら言葉を続ける。

 

「それに君は雑魚じゃないよ。とっても強い。それは今まで君が倒してきた悪魔の個体数が示しているじゃない?」

「で、でも...全部エンティティがやってくれたし...」

『僕だけの力じゃないって! マムがいなきゃ、僕ただのカマキリの前足だよ!?』

「ふふっ、彼もこう言ってる。 それにね、私が今頼れるのはあなたしかいないの。力を貸してくれない?」

 

マキマさんは私と目線を合わせ、最後にそう言った。

 

「...わ、わかり、ました...」

「ありがとう。そしたらすぐ出発しようか。」

「す、すぐですか!?」

「うん。善は急げ、だよ。」

 

マキマさんとすぐに車に乗って出発したものの、その悪魔がいる場所はかなり離れていたようで、到着する頃には日が傾いていた。

 

「ここだよ。」

「は、はい。」

『うっわ、血の匂いがひどいねー。マム? こんな臭い匂い嗅がないようにね? マスクちゃんとつけた?』

 

マキマお姉さんは私を車からおろし、こちらに手を差し出す。

 

「え、あの...」

「手。中は暗いから、一応繋いで置こっか。」

 

そういうとマキマお姉さんは、私の手を取り、そっと握ってくれた。

てから伝わる温かさに、私は思わず笑顔をこぼしてしまう。

 

「えへへ...」

『ちょっ、マキマさん!? うちの子絆すのやめてもらえません!?』

「さ、行こうか。」

『おいこらてめえ! 無視すんじゃねえぞこの野郎!』

 

マキマお姉さんに引っ張られるようになかに入る。するとそこには、大量の死体とチェンソーの頭をした人がいた。

 

「ひゅっ...」

「落ち着いて、澪ちゃん。彼に敵意はなさそうだ。」

 

私が聞いていたチェンソーの悪魔と違うことに驚き、戦闘になることを覚悟して思わず息を吸い込みすぎてしまう。

しかしそれに気づいたマキマお姉さんのおかげで、なんとか苦しくならずに済んだ。

 

「はっ...はあ...あ、ありがとうございます...」

「うん。ちょっとごめんね。」

「あっ...」

 

私が落ち着いたのを見てからか、マキマお姉さんは私の手を振り解き、チェンソー頭の人の方へ歩いて行った。手が少し寂しい。

 

『マム? 手が寂しいなら僕が握ってあげようか?』

「...うん。」

 

代わりにエンティティが出してくれた手を握る。...マキマお姉さんの手と違って、ツルツルしていて握りづらい。

 

『...あ”ー...僕も人間になりたい...』

「...?」

 

エンティティはそれ以降黙ってしまったが、握ってくれた手は離さなかった。

...やっぱり優しい。

 

そんなふうにしていると、マキマさんと悪魔だった人がこちらに向かってきていた。

 

「お話、終わったんです...か?」

「うん。とりあえず公安に戻ることにしたから、車に戻ろうか。」

「...はい。」

 

 

公安の建物への帰り道。車の後部座席は悪魔だった人が増えて、少し窮屈になった。

特に話すこともなく、静かに窓の外を見ていると、突然車内にぐぅ〜と、少し間抜けな音が響く。

 

「...俺の腹の音っす」

『...でっかいね?』

「...まあ、腹一杯食ったことないし」

『おおう、マムと似たような境遇だったのね...』

 

悪魔だった人のお腹の音にエンティティが思わず呟くと、その人から思いもよらぬ答えが返ってきた。それに驚いたのか、エンティティはまた黙り込んでしまう。

私と同じ境遇、と言う言葉で、思わず昔のことを思い出してしまう。

仕事の足を引っ張るなと殴られたこと。

臭い飯でも食ってろと良くわからないものを投げられ、それを頑張って食べたこと。

お前はこのくらいにしか役に立たないんだと、お股のあたりに棒みたいな何かを入れられたこと。

他にもいっぱい。いろんな嫌なことを思い出す。思い出す。思い出...

 

『...ム! マム! 大丈夫かい!?』

「ひゅっ、は...はっ...」

 

エンティティの声が聞こえたかと思うと、急に息が苦しくなる。

頭がうまく回らない。どうしよう。ごめんなさいごめんなさい。

 

『大丈夫、僕らは別に気にしてないよ! ほら、そうだよね!』

「え、あ、ま、まあ...?」

「うん。私も気にしてないよ。」

 

大丈夫? 私、また足引っ張ってない?

 

「うん。気にしなくていい。」

「うっ....はぁ...はぁ...」

『ごめんマム、昔のこと思い出させちゃって...』

「だ、大丈夫...だって、全部私が、悪かった、んだし...」

『全然悪くないって言ってるのに...ごめんね...』

 

鈍臭い私が悪かったんだもの、あれくらい、されて当然だもん。

だから息が苦しくなるのも全部私が悪い。きっとそうなんだ。

そんなふうに思っていると、また、ぐぅ〜という音が鳴る。

 

『ハァ...やかましい腹だね...』

「でも、ちょうどよかった。私たちも朝まだだったし。パーキングエリアで適当に食べようか。」

 

私の乗った車は、行き先を変更するため、道を変えた。

 

「...すいません、俺金ないんすけど。」

 

車が道を変え、高速道路を降りるタイミングで、悪魔の人...デンジさんが言った。

 

「好きなのいいなよ。私がお金出すから。」

「えっ」

「あと、半裸じゃ目立つからこれ着な?」

「えっ...い、いいんすか...?」

「うん。それくらいは。」

 

デンジさんはマキマに着せてもらった上着を、感動したように見ていた。

上着きたこと無いのかな。

 

『んー、多分マムの思ってたこととはまた違うんじゃ無いかなー。別の線の感動だと思うよ。』

「そうなの?」

『僕は人を長年見てきたからね、多分間違いないね!』

 

別の線の感動...って、なんだろう。何に感動してるのかな。

 

「...わかんないや。」

『まー別にわかんなくてもこまんないと思うよ? そのうちわかるようになるだろうし。』

「...? そのうちわかるの?」

『多分ね。さーマム? 何が食べたい? ヴィクトル*1に探させてくるよ。』

「...フルーツのパンが食べたい。」

『フルーツサンドかい? 任せて! おらいけヴィクトルズ!』

 

車の外に出したのか、私にはあの小さい弟は見えなかったけれど、どうやらいっぱい出したらしい。

 

『うーん...うーーーーん...お! あるある! マキマー! 鬼*2に買わせに行くからお金出して!』

「おに...ああ、あの子かな。彼は目立つからダメだよ。金髪の子がいなかったっけ?」

『ハァ〜? あいつの機動力じゃマムを満足させられないだろー!』

「でも目立つのは避けたい。もし仮に彼が目立ってしまったら面倒ごとになる。」

「...私も、それはやだ。崋山おじさん*3が他のハンターさんに意地悪されるのはやだ。」

 

思わず声を上げてしまう。崋山おじさん、優しいけど見た目が怖いからすぐ他のデビルハンターさんに絡まれちゃうから。

 

『えー...マムまで言うならしょうがないなぁ〜...ウェスカー、お使いよろしくー』

「ちっ...面倒な...」

「うおっ、金髪グラサン!? 絶対やべえやつじゃん!?」

 

エンティティがウェスカーの上半身だけを車の中に呼び出すと、デンジさんがびっくりしたのか声を上げる。

 

「ほう...小僧、なかなか面白い体だな。その心臓部分の紐、どうやって取り付けた。」

「ああん? これはポチ太が俺を助けてくれた証なんだぞ! ポチ太はなぁ...ポチ太は...」

 

デンジさんは何かを思い出したのか、すぐに黙り込んでしまった。

 

「ウェスカーさん、それ以上はやめてあげて?」

「...まあいい。フルーツサンドだったな? ...潰れていても文句は言うなよ」

 

そう言ってウェスカーさんはマキマお姉さんにお金を受け取り、また異空間に戻っていった。

 

あのあと、近くのベンチで朝ごはんにフルーツサンドを食べたり、デンジさんがマキマお姉さんにあーんってされてたりしたが、私たちはなんとか4課の建物まで戻ってきた。

 

そして公安のお仕事の説明をデンジさんにしながら、なんだかんだ課長室まで戻ってきた。

そしてそこには、呼び出されていたのかアキさんがきていた。

 

「アキさん!」

 

その姿を見た私は、思わず突撃して抱きついてしまう。

 

「ん...っと、お前、他の人にはそれやるなよ。」

「あっ...や、やりません...」

 

お家にいた時の癖で思わず抱きついてしまったけど、ここ、他の人もいるんだった。

 

「...恥ずかしい」

『ん〜、抱きつきに行く時のマムも、恥ずかしがるマムもかわいいねぇ〜、ただ対象があのガキなのが悔しいけど。』

「聞こえてるぞエンティティ。...それでマキマさん。ご用件は?」

「うん。デンジくん、彼は早川アキ。デンジくんより三年先輩。今日は彼について行って仕事してね。」

「えっ、俺マキマさんと一緒に仕事するんじゃないんすか?」

 

デンジくんはマキマお姉さんと仕事をすると思っていたらしく、驚いていたが、アキさんに引きずられて行ってしまった。

 

「あっ、え、えと、私って...」

「? どっちでもいいよ?」

「へ?」

「最近、忙しくて寝れていないでしょ? 大きい仕事ももうないし、今日は1日おやすみしてもいいし、アキくんについて行ってもいい。どっちでもいいよ?」

「じ、じゃあついていきます!」

「わかった。追いつけなくなる前に行ってらっしゃい。」

「はい!」

 

*1
新めのキラー、ツインズのちっこい方。能力枠。飛びかかり攻撃がメインだけど操作が難しい。でもうまく使えると結構強い。

*2
ワンパン系キラー。棍棒振り翳して突撃してくるやべーやつ。最近進撃の巨人コラボで個人的に株が上がってるキラー。

*3
鬼の人間の時の本名。




アニメ2話前半までですね。
DBD単語の解説で漏れてるのがあったら教えてください。


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デビルハンターの仕事

タイトル頑張ってかっこいいの考えたいんですけどなかなかいい感じにならないですね...どう頑張ってもダサくなるからこう言う普通のやつに落ち着いちゃうんだよなぁ...


「エンティティ、アキさん見つかった?」

『んやぁ〜、こうも人が多いとなかなか...』

 

 公安の建物から出た後、私は先に出て行った二人匂いつくため、聞き回りながら探していた。

 

『それにしても”ちょんまげの人見かけませんでしたか”って面白い聞き方してたね。隣で聞いてて笑い抑えるのが大変だったよ〜』

「だって...アキさんそれ以外普通だから」

『それは一理あるなぁ。なんで髪型だけあんな奇抜なんだろあのガキ.』

 

 そんなふうに二人で探して数分。

 最終手段でコンビニの時のようにヴィクトルを出して探すかと話していた時だった。

 

『あ、みっけた!』

「ど、どこ!?」

『そこの路地裏.うっわ』

「へ? ど、どうしたの、アキさんに何か...」

 

 エンティティは声を上げたと思ったら、すぐに黙ってしまった。

 アキさんたちに何かあったのだろうか。

 

『マム、悪いこと言わないからさ、回れ右して公安にもどろ?』

「い、いや、ここまできてなんで...」

『う──ーん...』

 

 追求してもエンティティはひたすら言葉を濁すばかりだった。

 

「...もういいもん! 直接行く!」

『あばば、マム! やめといた方が...』

 

 焦ったくなって路地裏に突撃すると、そこには股を押さえるアキさんと、そこに追撃を加えていたデンジさんだった。

 

『ッスー...』

「...え?」

 

「男と! 喧嘩するときゃあ! 俺は!股間しか! 狙わねぇ!」

 

 あまりの光景に呆然とする他なかった。

 

『...マム?』

「....エンティティ」

『ピッ!?』

「...やって」

『アッハイ...恨むなよチェンソーマンっ!』

 

 

「って、うぉあ!? なんだおmげふぅ!?」

 

 

 怒っちゃダメだ。デンジ..............さんはこれから同僚になる人なんだ。殺しちゃったらマキマお姉さんに怒られる。それだけは絶対ダメだから。

 

「デンジ...............さん。なんでアキさんの.お股蹴っ飛ばしてたんですか」

「はぁ? そんなんムカつくからに決まってんだろ!」

『あっ』

 

 もう殺します。絶対この人殺します。この人と同僚とか無理です。絶対嫌です。

 これはアキさんの分、これもアキさんの分、これもこれもアキさんの分....

 

『マム! ストップ! やりすぎ! マキマに怒られるよ!?』

「澪! 落ち着け! 俺は大丈夫だから!」

「....あっ」

 

 気がついたら目の前のデンジさんはボロボロになって、どうみてもあちこち重症だった。

 

「....やりすぎちゃった」

『....力渡しときながらなんだけどこっわ』

「お前親同然みたいな悪魔なんだから止めろよ」

『いや無理。契約解除されたら僕が死ぬ。主に心が』

「...」

「と、とりあえず...公安に、戻りましょっか」

 

 ♢

 

「え?」

『えーデンジくんがぁ、その辺の悪魔にボコられてぇ、ぶっ倒れちゃいました〜!』

「絶対嘘だし隠す気ないよね」

『そんなことないっすよ〜?』

「相変わらず嘘下手だね」

 

 ど、どうしよう。いくらアキさんがボコボコにされてたからってやりすぎちゃった。絶対怒られちゃう。

 

「澪ちゃん」

 

 に、逃げなきゃ、でもどこに。

 

「澪ちゃん?」

 

 どうしようどうしよう. あ。

 

「っ!」

『マム!?』

 

 気がついたら私は、廊下の窓から飛び降りようとしていた。

 

「あっ...えっ?」

「...落ち着いて。大丈夫、私は怒ったりしないよ」

『...』

 

 あれ、なんで。私どうやって謝ろうかって考えてただけなのに。

 

「あ。ご、ごめんなさい。私が。デンジさんボコボコにしちゃって...」

「うん。ちゃんと謝れてえらいね。デンジくんについてはうちの治療班がなんとかしてくれるし、そこまで重症ってわけじゃなかったからすぐに治るよ。直ったら彼に謝りに行こう」

「...はい」

「うん。じゃあ今日は解散。とりあえずおうち帰っていいよ。アキくんも」

「了解です」

 

 ...なんで私窓から乗り出してたんだろう。

 全然わかんないや。なんで? 

 

「...」

「とりあえず、うち帰るぞ」

「....あっ、はい...」

 

 いくら考えても全然わかんなくて、でもみんなちょっと悲しそうな顔してて、なんだか申し訳なくなってきちゃった。

 なんで私ってこんなにダメなんだろう。

 やっぱりみんなの邪魔しかしてないよ。

 どうすれば...

 

「澪」

「...?」

「深く考えるな。もう誰も気にしてない」

「...でも」

「お前が無事なら、俺たちはそれでいいんだよ」

 

 私の言葉にかぶせ、アキさんはそう言いながら私の頭を撫でてくれた。

 

『そーそー。元はと言えばあのチェンソーがちょんまげボコボコにしてたのが悪いしさ!』

「...ちょんまげは余計だ」

『いやちょんまげじゃん。まさかそれ、マキマにモテそうだからとか思って始めたわけじゃないよね?』

「...そんなわけないだろ」

『ため長すぎでしょ』

 

 ...気にしないでいいって言ってくれたけど.明日、ちゃんと謝りに行こう。

 

 ♢

「...寝たか」

『んやぁ、マムに関してはこれからっしょ』

「だな...」

 

 澪。数ヶ月前から一緒に家で暮らしてる後輩だ。

 後輩とは言ってもまだ10にも満たないような少女。

 

 この暮らしを始めたきっかけはマキマさんだった。

 

「一緒に暮らしてあげてくれない?」

 

 そう言われて、正直ガキのお守りだから断りたかったが。

 

「頼りにしてるよ」

 

 ...そんなことを言われたら断れないだろう。

 

「...う...うあ...や...」

『あらら。こりゃ今晩は寝られそうにないねぇ』

「そうだな...」

 

 澪は何があったのか、ほぼ毎日夜泣きをしてしまう。

 その時の呻き声はいつも苦しそうで、まるでとんでもない悪夢を見せられているようだ。

 

『...言っとくけど、マムが見てる夢は僕が原因じゃないからね』

「...そうか」

『...色々あったんだよ』

 

 一緒に生活している時、一度だけ健康診断があった。

 一応俺が保護者ということで、結果を見せてもらったが、なかなかひどいものだった。

 

「...全身に何かに叩かれたような後、火傷、タバコ跡。さらには言いにくいですが女性としての機能まで。何をされたんですか、この子」

 

 担当した医者に言われた言葉を思い出し、思わずこめかみを揉む。

 

『...ま、そういうわけだし。流石に毎日やらせるのも悪いから僕に任せんさい』

「どうする気だ」

『うちの眷属の一人にね、めっちゃ子守唄上手い子がいるんだわ』

 

 そう言ってエンティティが出したのはウサギの仮面を被った大柄な人間だった。

 

『んじゃハントレス頼むわ。オラがきんちょ、ガキは寝る時間やぞ。お前仕事溜まってんだろ。さっさと寝なさい』

「...悪い」

 

 澪の寝室から出て、自分の寝室のベッドに飛び込む。

 

「...何があったんだか」

 

 ほぼ毎日だ。最近はずっと寝不足が続いている。

 同僚にも心配されるレベルだ、流石に対症療法じゃなく、原因療法をしてやらないと。

 

 そんなことを考えつつ、俺は眠りについた。




ちょい短め。
過去ゲロ重い系は書いてて大変楽しいです(クズ)。
個人的にはいい感じにかけてると思ってるんですが、ここダメだよーとかあったら気軽に感想で教えていただけると。誤字報告でもいいよ(心配性)。
よければ高評価とブクマお願いします。チェンソーマン二次創作流行らそうぜ!
ちなみにタイトルの理由は路地裏でデンジをボコったアキくんが仕事を辞めさせようとしたからっていうのを聞いたから。この二次創作では出てこないシーンですけどね。


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キャラ紹介

今日ちょっと某7神が出てくるRPGのストーリー進めてたせいで時間ないのでこれでお許しください。
新規ストーリー丸一日かかるなんて聞いてねぇ。


前書き

これはあくまで作者がキャラクターの細かい設定を忘れないように書き留めたやつを読者の皆様に分かりやすく書き直したやつです。見なくても多分本編に影響ないので見たい方だけどうぞ。

 

 

本作の主人公。生まれた瞬間に悪夢の悪魔ことエンティティに目をつけられて、しかもそれがヤクザの皆さんにバレて監禁されて利用されたかわいそうな子。現在は4課でデビルハンターしてる。

キャラクターイメージは皆様の想像してる感じで。多分黒髪ロング(作者の性癖)。

性格は内向的で人見知り。自己評価は低め。初対面の人にはめっちゃ警戒する。

ただその分仲良くなるとめっちゃデレる。全力で死ぬ気で守ってくれる。

仲良くなった人が傷つくと傷つけた人を殺す勢いでボコボコにする。(デンジくんボコられたのはそのせい。見られたタイミングが悪かったね)

ヤクザの下で過ごしてた時のことがものすごくトラウマになってる。このトラウマを刺激するようなこと言うとパニクって何するか分からない。

ちなみに記憶の奥底にこっちの世界のあるゲーマーの記憶があったりするが、別に本編には関わらない。

 

契約してる悪魔は前述の通り悪夢の悪魔。強い。

 

 

 

 

悪夢の悪魔(エンティティ)

澪の保護者その1。人間界ほっつき歩いてたらめっちゃ可愛い子いた!そうだ、勝手に契約したろ!てな感じで赤ちゃんだった澪と契約しやがった。全ての元凶。でも自覚ない。

この時に澪の記憶からDBDについての記憶を読み取り、その姿と能力に自身を変更した。だから能力はDBDキラーを出す能力。ただしまだ必殺技的なやつを隠していたりするがそれは内緒。

悪魔界隈では化け物悪魔筆頭手な感じで恐れられていた。というのも、その悪魔が恐れるものに変身してぶん殴ってくるので全然勝てないのである。なので雑魚悪魔から強い悪魔までほぼ全員がその名前を認識している。

澪がめっちゃ好き。彼女の言うことならなんでも従う。全力で守るし全力で可愛がる。

ちなみにアキくんとは保護者枠で争いあってる。

 

 

 

アキ

本作のメインヒロイン(ヒーロー)。保護者その2。マキマさんが澪を強引に押し付けた結果できた保護者。最初はいやいやだったけど一緒に生活してたら可愛く見えてきた。最近の悩みは時々起こる澪の夜泣き。

本人によると上目遣いで「アキお兄さん」と呼んでくるのがくそかわいいらしい。最近はお兄さん呼びが少なくなってきてるように感じて少し寂しいとか。

 

飼ってる悪魔なんかは本編で確認してください。省略。

 

 

 

マキマ

なんか使えそうな駒見つけた。飼い慣らしとこ。

警戒心強いけど仲良くなっちゃえばあとは簡単だなwwwww

使える駒増えて助かるwwwww

 

とか考えながら澪ちゃんと仲良くなった。ちなみにエンティティとは知り合い。殴りあった中である。

 

 

 

 

 

 

 

 




とまあ今のところはこんな感じですね。
ぶっちゃけアニメ勢だけどツイ廃なのでネット上に流れてくる情報とか見ちゃってるので、マキマさんの正体とかは知ってます。
ただ合ってるかどうか分からないのでなるべく明言は避けるように頑張って書こうと思ってます。
…またネタきれたらこれやるのでよろしくお願いします。


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デビルハンターの仕事2

【定期】タイトル考えるの面倒くさい
あ、ルーキー日刊ランキング入りしてました、大変感謝であります。僕が確認できたのは26位まででしたが、それでも普通に嬉しいです。ありがとうございます。


「こ、この間は...す、すみませんでしたっ!」

『ほらぁ〜デンジ少年〜? こんな可愛いマムが全力で頭下げてるんだぜぇ〜? 許してあげたまえよ〜』

「別に気にしてないけどよー、なんかそっちのカマキリの足がうぜえから許さねー」

「そっ、そんなぁっ!?」

 

私は今、数日前に路地裏でボコったデンジさんの病室にアキさんと一緒に来ていた。

目的はもちろん謝るため...だけではなく。

 

『...ずびばぜんでじだ』

「気は済んだか。」

「あ、はい。お話のお邪魔してすみませんでした。」

「気にすんな。...さて。お前についてはマキマさんから色々聞いた。」

「お! なあなあ! マキマさん俺んことなんつってた!?」

 

 

デンジさんはどうやらマキマお姉さんのことが好きらしい。グヘグヘしている。正直気持ち悪い。

...でもまあ、昔牢屋で見た人たちのよりはマシかな。

 

「特別なやつとは言っていた。だg」

「うおっしゃいいいい! やっぱ俺特別なんだぁぁぁぁぁああ!」

「話は最後まで聞け馬鹿野郎! ...で、そのマキマさんからの指示だ。お前は俺の部隊に配属されることになった。」

「ぶた...い?」

「要するに、お前は俺の下だ。」

「ハァ〜〜〜〜〜!?」

 

あ、アキさん...言い方が悪いよ...

 

「マキマさんの指示だ、文句言うな。俺だって文句言いたいんだよ...」

「ちっ... マキマさんと組めると思ってたのによぉー...」

「それともう一つ。こっちもマキマさんの指示だが...お前を見張るため、今日から俺たちと一緒に暮らすことになった。」

「「...へ?」」

 

思わず私も声を出してしまう。

そ、それは聞いてないんですけど...?

 

「え、あの...は、初耳なんですけど...?」

「は? ...おいエンティティ。お前伝えとけって昨日夜話したよな?」

『だ、だってぇ〜...マムの困る顔見たかったしぃ〜』

「...困る顔通り越してあれはやばい顔だが...まあ、そう言うわけだ。遺書の許可ももらってきた、さっさと行くぞ。」

「...はっ。で、デンジさん! よろしくお願いしますね!」

「...へ?」

 

若干置いてけぼりになっていたデンジさんに、とにかく退院の準備をさせて病院の外に出る。

そして、デンジさん含む私たち三人は、歩きで一度帰宅するのだった。

 

 

 

「いちごジャムぅ、梅ジャムぅ、オレンジジャムにぃ...バターと蜂蜜だろ?...あ、あとシナモンも...」

『うっわ。独特のセンス。』

「あはは...」

 

引っ越しの日から一晩明けた朝。デンジさんの独特なジャムの塗り方を尻目に、私は葡萄パンを食べていた。

 

「最強のパンができちまったぜ〜! なあ澪! お前もそう思うだろこれ!」

「...全部載せって美味しいですよね」

『あー、マムもそっち側ねー...色々教えといてよかったよまじで。』

「...」

 

え? 好きなもの全部載せて食べるのってよくないですか? ケーキとラーメンとかの味が全く違うものはともかく。

 

「...」

「あれ? アキさん?どうしたんですか?」

「...そう...じ...」

 

改めてリビングテーブルを見ると、ジャムやバター、使われたスプーンが飛び散っており、それはもう悲惨な状態だった。澪の座っている箇所に飛び散っていないのが不思議なほどである。

 

『改めて見ると悲惨だねーこれ。』

「...手伝い、ますね?」

「...助かる。」

 

 

「はふぅ...」

『んやぁ〜、マムは脱いでもかあいいねぇ! 癒されるわぁ〜』

「...契約切りますよ」

『すみませんでした。』

 

あのあと朝食の片付けを手伝ったり、トイレで居眠りしていたデンジさんを起こしたり、消費された諸々の買い出しなんかをしていたら、あっという間に日が暮れてしまった。

 

「今日は...ハンターのお仕事してないのに...とっても疲れました...」

『あのガキめ、散らかすだけ散らかしといて後片付け全部マムにさせおって...一発殴りたいぜ...』

「ダメですからね...?」

『チェッ』

 

そんなふうにエンティティと一緒にお風呂を楽しんでいると、突然お風呂の扉が開かれる

 

「...へっ?」

「あん? なんだ、先客いたのか? 俺も混ぜてくれよっ!」

「いやっ、ちょっ...!?」

 

扉が開いた瞬間、私が開けた主をデンジさんだと認識するまでの間に、デンジさんはお風呂の淵に手をかけ、そのまま入ろうとしていた。

 

「...」

『ばっかお前! デリカシーなさすぎだろ! マム固まっちゃったじゃんか! 悪霊退散っ!』

「うおっ、なに済んだお前!?」

「馬鹿野郎なに騒いで...おまっ、なにしてんだ!? あとで入れって言ったよな!?」

 

.....はっ。 あまりの出来事にフリーズしてしまった。

 

『マム大丈夫かい?』

「へ? わ、私は平気ですよ...」

『...平気だった人は腕は震えないんだけどね...』

「...え?」

 

思わず私の右手を見ると、ライオンに見つかった子鹿のように震えていた。

左手も同じように。

 

「...あ、あれ、なんで私の手が...」

『あー大丈夫大丈夫。深く考えすぎないでね。誰も怒ったりしないよー。』

「あ...う....」

 

なぜ震えていたのか考えようとしたが、すんでのところでエンティティが呼び出した凛さん*1に目を覆われて、なにも考えられなくなってしまって...

あ...なんだか...眠く...なって...

 

 

『ふいー、セーフセーフ。』

「...今度やったらマジで家追い出すからな。うちには女子もいるんだ、その辺考えろバカ。」

「別にそこまで気にしなくても...」

『いやそれ覗き以前の問題だよ少年? あとうちのマムは結構地雷多いから気をつけてね。踏み抜いたらマムの代わりに僕がキレるよ。今回みたいなこと次やったらぶち殺すから。』

「わ、わかった...」

『うん。わかったならよろしい。じゃあ僕マム着替えさせて寝かしてくるからあとよろしく〜』

 

エンティティはさっきをしまい、さっさと隣の部屋に行ってしまった。

 

「...わかったなデンジ。澪の地雷が何かわからんが、踏み抜いたらお前は死ぬと思え。」

「...あれはやべえ。マジで気をつける。まだ死ねねえから...」

 

どうやらあいつの殺気に完全にビビったのか、デンジは静かに風呂の方に向かっていった。

 

「...無事に過ごせるといいがな...」

 

この先のことを考え、胃に錘が入ったような感覚を感じつつ、俺は早々に布団に入り、眠りについた。

*1
DBD唯一の女子高生キラー。ヴィクトル抜いたら多分最年少...なんじゃないかな?(知らん)フェイズウォークという一定時間めっちゃ移動速度早くなって姿消える代わりにその間鯖の姿も消えて追いにくくなる能力でサバイバーを追い込む。難しいけど純環境並みのパワーはある(と思う)キラー。ちなみにこのシーンの採用理由は可愛いし手足冷たそうだから。




澪たんの地雷はあちこちに溢れています。常に細心の注意を払いましょう。3回踏み抜いたら即死です。気をつけましょう。

ちなみに各キャラのイメージ像ですが、エイリゾ先生という方のキャラをモチーフに書いております。
よければ先生の漫画を見てみてください。
https://www.pixiv.net/users/682137


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私と猫と血の魔人

本当は木曜日に投稿するはずだったんですけど、ちょっと買いてる途中で事件起こっちゃいまして。改めて書き直しです。


「デンジ君には、今日からバディを組んでもらうよ。」

「...バデぃ?」

「も、もうバディ決めちゃうんですか! デンジさんすごいです! 私でも1週間かかったのに!」

「はえ?」

 

バディは新人がある程度仕事に慣れてきたタイミングで決めるんだとアキさんが言っていた。個人差が出るとも言っていて、実際に私はバディが決められるまで1週間ほどかかった。

 

「それを1日でなんて、すごいです!」

「へ...へへっ、まあな! 俺はすごいからよ!」

『わかってないね君』

「...話、続けても?」

 

その後にマキマさんは、バディについてのあれこれを話してから、バディを紹介する流れになった。

誰がデンジさんのバディになるんだろう...

そんなふうに考えていると、廊下の方から足音が聞こえてくる。

 

『...うわ、この血の匂い...ごめんマム、一旦引っ込むわ...あ、耳塞いだほうがいいかも』

「へ? エンティティ?」

 

なぜだかわからないがエンティティがそれだけいって私の影の中に引っ込んでしまった。

 

「...なんでだろう?」

 

そして扉が開かれ、バディの人が入ってくる。

 

おうおうひれ伏せ人間っ! わしの名はパワー! バディとやらはうぬか!

「う、うるさい...」

 

ドアのすぐ近くにいたからか、彼女の声は塞いでいた耳ごしでもうるさく感じるほどだった。塞いでいなかったらどうなっていたことか。

 

『ちょっと血の悪魔...いや、魔人だっけ? 君昔も言ったけど声のボリューム下げてくれないかな?』

「なっ、お、お前はっ! なんでここにいるんだ!」

『マムが可愛いから♡』

「お、おいそこのガキっ! さっさとこいつを、どっかにやれっ!」

 

エンティティの声を聞いたパワーさんは、何やら慌てたように私に話をふる。

 

「え、いやですけど...」

「い、いいから! 頼む! 後生だ!」

『はーいマムから離れましょうねー。』

「ま、待て! わかった! 私が悪かったからあの領域に引き摺り込むのは勘弁してくれ!」

『えー? しょうがないなぁ...』

 

エンティティは私の影にパワーさんを引き摺り込もうとしてたけど、すんでのところで阻止された。...私の影ってどうなってるんだろう。

 

「...なんか変な名前だなお前...?ってか、魔人がデビルハンターなん...て...」

 

デンジさんがパワーさんの胸元見て固まってしまった。

 

「魔人は悪魔と同じ駆除対象なんだけど、パワーちゃんは理性が高いから早川君の隊に入れてみたんだ。」

『まあ確かに人間には割と協力的だよね、昔っから。』

「そうなの?」

 

というか知り合いなんだ、エンティティ。

 

「...そうだ、澪ちゃん。今週は二人についてあげてくれるかな?」

「...え」

『...マジかよ、なかなか鬼畜だね君』

 

「...はぁ」

「ぜんっぜん悪魔いねーじゃん!」

「...多分わしと其奴のせいじゃの...」

「...私?」

『てか僕かな』

「うむ。わしは魔人になる前は超恐れられてた悪魔じゃったからの!」

『僕はそんな魔人になる前の君をボコボコにしてたけどね。いやーあれは滑稽だった。イキリ散らしてた君が現実知って泣き叫ぶのはまさに愉悦だったよ。』

「ウグゥ...」

 

そ、そんなに強かったんだ、エンティティ...

 

「...んん! 血の匂いじゃっ!」

「あっ、待って!」

「どこ行くんだよてめえ!」

 

パワーさんが走り去っちゃった...

 

『んー、血の匂いでなんか感じたのかな。崋山*1、追跡よろしく』

フウウウウウゥ...

「うおおお!なんだそいつ! クソかっけえ!」

『ほら、ガキみたいなこと言ってないでさっさと行くよ! 崋山、GO!』

ウオオオオオオオオオオオオオ!

「ひゃっ!」

 

崋山さんが私を米俵みたいに持ち上げたと思ったら、勢いよく走り出す。

そしてビルから飛び降り、ナマコっぽい何かの悪魔に突撃してしまう。

 

「ちょっ、華山さん! ストップ!だ、ダメですよおおおおお!」

『あははははは! 怒りモードの崋山は止まらないよ! このまま突っ込めー!』

 

 

「...澪ちゃん」

「は、はひっ!」

「民間が手をつけた悪魔を公安が殺すのは業務妨害だって...教えたよね」

「ご、ごめん...なさい...」

 

あああ...また怒られちゃう...うう...

 

「...ぐす...ひっく...うえええ...」

「...泣くほど反省しなくてもいいよ。大丈夫、とりあえず私がなんとかするから。それに主犯はそこのエンティティでしょ?」

「でも...私が抑えられなかったせいだし...」

「そんなネガティブにならなくてもいいよ。大丈夫だから。ね?」

「はい...」

 

でも、はっきり言ってエンティティを制御しきれなかった私が悪いだろう。

...私が愚図だからダメだったんだ...

 

『あーマム、ごめんって、僕が悪ノリしすぎたせいだから...ほら、落ち着こ? ウェスカー! その辺のコンビニでジュース買ってきて! オレンジのやつ!』

「私は便利屋ではないぞ。」

 

そのあとはウェスカーが持ってきてくれたなっちゃんオレンジを飲んだりしてやっと落ち着くことができた。

横ではパワーちゃんが暴れそうになってマキマさんに怒られたりしていたが、特に問題なく1日の業務は終わった。

 

「今日はデンジ君は私たちについてきてもらおうかな。パトロールは澪ちゃんとパワーちゃんで。できる?」

「わ、わかりました...?」

「わかった!」

 

デンジ君、マキマさん、アキさんは何か別の用事があったみたいで、三人で他の場所に行ってしまった。

というわけで今日は私とパワーさんだけだ。

いつも通り職員さんにハンコを押してもらい外に出ると、パワーさんが話しかけてきた。

 

「おい。実は悪魔のいる場所に心当たりがある。ついて来い。」

「へ? ちょ、ちょっと!」

 

パワーさんは簡潔にそれだけ言うと、私を置いてどんどん進んでいってしまう。

そしてそれについて、バスに乗ったりして移動していると、いつの間にか田んぼしかない場所に来ていた。

 

「...本当にここにいるんですか?」

「ああ。そこの家じゃ。」

 

パワーさんが指差した方向には、確かに一軒家があった。

 

「わ、わかりました。...エンティティ?」

『...』

 

いつも通りエンティティを呼び出す。...が、誰もいないかのように私の影は静かだった。

 

「あ、あれ...出てこない...」

「そうか。そのほうが都合がいいわ。」

「...え」

 

そのあと、何か強い衝撃が頭に走ったかと思ったら、意識を失った。

 

「...う...」

『この腕の傷を見ろ人間。貴様らにつけられた傷。この私を隠れざるを得なくさせた忌々しい傷だ。』

「...ひっ!?」

 

あ、え、なんで? なんで悪魔が私を掴んで!?

 

「や、やだ! 離して!」

『人間に刻まれた傷! 人間の血で癒させてもらう!』

「がっ!? いだい! 痛い痛い!」

『...ふん。美味とまではいかんが普通だな。もう少し絞れるか。』

「やだ...も...やだ...」

『残しておくか。...さて、少し口直しといこう。』

 

あ....痛い....頭...回んない...

 

「...い! 約束...り...を...んじゃ...」

『ん〜? ああ、そ...いう...だった...』

『...っ!?』

 

うご...け...ない...さむ..い...

 

「...ああ、こ...な...だ...か。デンジ。」

 

まだ...しに..たく...

 

「...ああ。こんな気持ちだったのか、デンジ。」

『...んんん、まずい! まずい血ばかりだ! 子供の血で、上品なものでうがいしなければぁっ!』

 

目を覚ます。...あれ。僕が目を覚ました?...僕眠れないはずなんだけどな。

 

『ん? 貴様、なぜだ? 貴様は確かに普通の人間のはず。なぜその怪我で動ける?』

「...あん? これマムじゃん。」

 

視界の上の部分を塞ぐ前髪。肩にかかる黒い髪だ。そしてそれを触る僕の、もみじのように赤く可愛らしい手。

 

「なんで僕マムの体に?...あ。まさかあの時の。」

 

僕がマムと出会った時。彼女の命が危なくなったら、安全になるまで僕が守るという契約。

 

『ん? 契約?』

「あのさあ。僕がいない間、この体の子を殺そうとか考えた?」

 

目の前の大して強くないクソ雑魚ブサイクに聞いてみる。

 

『いいや? 殺そうとはしていない。』

「あ、そうなの。」

『ただお前は餌だ。この私に血を出すだけの、ドリンクサーバー、と言うやつだ。』

「...へぇ?」

『ほら。わかったらさっさと寝ていろ。貴様に死なれたら困る。何せ非常用の食料なのだからな。』

 

ふむ。こいつがどうやらマムが死にかけた犯人らしい。

 

「なら、ちょっと死んでくれない?」

『ん? 何うぉおっ!?』

 

強化した身体能力で力任せにハエ野郎を蹴り飛ばす。

 

「...少し蹴りすぎたかな」

 

『ぐううう!?』

 

なんだ、なんだあいつは!?

さっきまではただのガキだった、なのになぜ急にあんなに!?

 

「なんだよ、キッショいうめき声なんてあげちゃってさ。黙れよ、クソ虫。」

『ごはぁっ!?』

 

重い...1撃1撃が重すぎるっ!? 本当にさっきまでのガキか!? あれにこんな重いパンチが出せてたまるか!?

 

『ぐううううおおお!』

「お。そうだよ。僕のマムを殺しかけたんだ、ちょっとくらい遊んでくれないとさぁ...僕の腹の虫が治らないんだよっ!」

『ごベェ!?』

「クソ虫だけに、ってね。...っ」

 

...なんだ? 突然こいつ...ふらつき始めた...

 

「ちっ、...マム。ごめんだけどもう少し大人しくしてて...」

 

今。今しかない。こいつから逃げなければ。

 

「何? 逃すと思ってんの? 羽虫の分際で生意気じゃん君。」

『ぐぎゃああああああ!?』

 

胸がっ! 胸の部分を思い切り踏みつけられた!?

 

「もっと叫べよ。それお前がマムにやったことだから。」

『待て! 私が悪かった! お前を解放する! あの血の悪魔も! 猫も解放する! だから!』

「今更おせえよゴミが。 解放する? どっちが上かわかってんのかゴミムシが」

『があっああああああああああ!?』

「...制限時間そろそろか...さて。君には僕の力の一端を見せてあげるよ。 喜べ、雑魚。」

 

ガキの周りに霧が立ち込める。

この霧の匂い....

 

『っ! ま、まさか、お前...いやあなた様は!? 悪夢の悪魔様!?』

「せいかーい。でも遅かったね。君の処刑はもう決定事項だ。...ようこそ、霧の森へ。歓迎するよ? ゴミムシ君。」

『や、やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ、やめろおおおおおおおおおおっ!』

 

「...う....」

「っ! 起きたか、どこか痛いところは?」

「アキ...さん?」

 

目が覚めたら、いつもの医務室の天井だった。

なんで私ここにいるんだろう。

 

「お前は血の魔人に騙されて、コウモリの悪魔のところまで運ばされ、なんとかそいつを倒したんだ。覚えてるか?」

「...あ。」

 

そうだ。私死にかけたんだ。

 

「...うっ」

 

...戻しちゃった。あの寒い感じ思い出しちゃった。やだ。あれもうやだ。痛かった。すごい痛かった。

寂しかった。怖かった。やだ。絶対やだ。

 

「...大丈夫か。」

「ベッド、汚れちゃった」

「大丈夫だ。そのくらい気にするな。」

 

...ちょっと暖かくなった

 

「...怖かった。」

「ああ。そうだろうな。」

「痛かった。」

「ああ。」

「でも頑張った。頑張って痛くないよう頑張った。」

「そうだな。」

「頑張ったから...褒め...て...」

「ああ。偉かった。」

 

最後のアキさんの言葉が聞こえて、私は意識を失った。

 

「...エンティティ」

『...何』

「暴れすぎだ。お前が全力出したら澪は死ぬ。わかってんのか。」

『...わかってるさ。』

「ならなんで使った。あの能力は使うなと言ったはずだ。」

『何。まだ入社したての時のあれ根に持ってんの。』

「当たり前だ!」

 

思わず勢いよく立ち上がるアキ。だが影の中から声だけで話しているエンティティには何をしても当たらない。

 

「お前...忘れたとは言わせない。お前は間違いなくまだ10も行かないガキを自分のわがままで殺しかけたんだぞ。」

『覚えてるさ。』

「ならなんでまた使った!」

『...全部マムを守るためだ。』

 

そのエンティティの言葉はどこか寂しげで。

 

『...僕が彼女の血を...力を入れ替えてあげなきゃ、彼女はいつか自分の力に飲まれる。それこそあいつみたいにね。』

「...それはもう聞いた。」

『まあ話したからね。...僕は力を使いすぎた。しばらく寝るね。マムも多分もう2、3日寝てると思うから。』

「...わかった。」

 

その言葉を最後に、澪の影は普通のものに戻った。

 

「...銃の悪魔。あれはもう死んでいる、か。」

 

アキはエンティティに教えてもらったことを反芻する。

 

「...全く。」

 

何かを誓ったような顔をした彼は、そのまま病室から出ていった。

 

 

 

*1
山岡崋山。鬼の事。能力はワンパン系キラーのそれ。ただ他のと比べて操作しやすい。慣れたら強い。




...銃の悪魔のことアキ君が知ってても大丈夫だよな?
原作崩壊を少し恐れてるけど、まあアキ君最後には銃の悪魔にされて死ぬって話だし...大丈夫よな?
澪ちゃんの過去にちょびっと触れました。人体実験で色々体いじられて悪魔の力に適合するようになっているらしいぞ。そしてその人体実験で入れられた何かをさっさと使い切らないといつか死んじゃうぞ!やばいね!


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閑話

パワー視点、時間的にはえんててがコウモリ殺した直後。


「...なぜ、わしを助けた」

『...ああ。生きてたんだ君。てっきり臓物と一緒に中でミンチになったもんだと。』

「嘘をつけ。わしはお主の戦いを間近でみた事がある。...お主のあれ、引きずり込める相手をピンポイントで指定しなければならないのだろう?」

 

目が覚めると、わしはコウモリの悪魔の臓物に寝っ転がっていた。

やつ...悪夢の悪魔に目をつけられたのに、だ。

やつの戦いっぷりはこの目で見た事がある。その能力も。

 

『...はあ。そこまで知ってるのか。』

「まあの。...で、なぜわしを生かした。わしはその体をコウモリに差し出したのだぞ。」

 

奴はため息をつきながら返事をする。

 

『本当は僕だって今すぐ君をぶち殺したいよ。』

「ならなぜ...」

『利用価値があるから。僕は今すぐ君を殺さない。だから契約しよう。』

「...契約じゃと?」

『そう。...近いうち、チェンソーマンは間違いなく復活する。僕はそれと戦ってみたいんだ。その時に邪魔をしなければいい。』

 

チェンソーマンの復活? 

 

「...あれはもう復活しているではないか。」

『違う。今のチェンソーマンはあくまでデンジ少年だ。僕が言っているのは()()()()()()()復活さ。』

「あれが復活するというのか...!?」

 

チェンソーマン。助けを呼ぶと現れ、呼んだ側、呼ばれた側の悪魔を全て殺し尽くす最強の悪魔。

 

『そう、そのチェンソーマンだ。僕はあれと殺し合ってみたいのさ。噂でしか聞いた事がなかったあれ。4騎士は戦ったことがあるみたいだけどあいにくその時僕は現世に行っていてね、戻った頃には終わっていた。だからその強さを確かめてみたいんだ。』

 

そう言い切ったやつの目には曇り一つなく。間違いなく奴は心からあの化け物と戦いたいと言ったのだ。

 

「...わかった。いいじゃろう。お主とチェンソーマンの戦いに手は出さない。」

『うん。ありがとう血の悪魔。...そうだ。ついでにもう一つ。』

「なんじゃ。」

『マキマにはこれ僕がやったって言っといて! マムじゃないからね?』

「...はぁ?」

 

何かまたでかいお願いをされるのかと思ったが、別にそんなこともなく、ただの小さな願いだった。思わず拍子抜けしてしまう。

 

『マムが怒られたらかわいそうだろ! そう言ってくれたら僕も君を庇ってやらないこともないから! あれにボコられたいなら別だけど!』

「...そ、それは勘弁じゃの...わかった、伝えておこう。」

『うん。じゃ、僕寝るから。マムのことよろし、く...』

 

それだけ言うとエンティティはそのまま眠ってしまった。

その頃になるとようやくわしの体は動いた。

倒れたエンティティの方に行ってみると、エンティティの体...澪のやつは何も知らん顔をして眠っていた。その姿はあまりに無防備で。

 

「...殺せるか。」

 

わしの直感が、やつを今すぐ殺せという。

血の武器を呼び出し、斧の形に変える。

あとはただ振り下ろすだけ。...だった。

 

「...っ!?」

 

奴は目を開けていた。

いつものあの子供でも、エンティティのやつとも違う雰囲気の目だった。そして間違いなく恐ろしい目だった。

殺すべきだ。だがこの斧を振り下ろしてしまってはわしが殺されるかもしれん。

 

「...くっ」

 

血の武器を解除する。

再びやつに目を向けると、その目は開いた様子もなかった。

 

「...わしの気のせい、であれば良いのだが。」

 

後ろから何台かの車の音がする。...頃合いか。




ちなみにコウモリの相方のヒルは別で動いていたデンジくんにぶっ殺されております。なので出番なしです。...最近自分の小説に自信持てなくなってきたんでよろしければなんか批評とかくれると大変ありがたいです。ーの意見でもOK。ついでにどう言う感じの展開だったら面白いかとかも書いてくれると嬉しいです。


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日常

タイトルが思いつかねぇ!


「...んん...?」

「起きたか」

 

気がつくと私はまた医務室の天井を見つめていた。...なんだかデジャブを感じる。

あれ...私、なんでこんなところで...

 

「どこまで覚えてる?」

「えっと...パワーさんと巡回に出て...それで...」

「...覚えてないのか。ならパワーが言っていたことは正しかったみたいだな。」

「当たり前じゃ! わしが間違ったことを言ったことがあったか?」

「いやむしろ正しいこと言ってた時の方が珍しいだろ。」

 

うーん...? なんだか忘れているような... パワーさんと協力して悪魔を倒したはずだったんだけど...

私がなんだかよくわからない違和感を感じていると、パワーさんが私に近づいてきて、私の目をじっと見つめてくる。

 

「...あの?」

「んん〜? ...普段のお主か...あの目はなんだったんじゃ...」

「目...って?」

「いいや、なんでもないわ。」

 

そう言うとパワーさんはさっさと私の病室から出ていってしまった。

なんだったんだろうか。

 

「一応医者からは退院の許可はもらった。だがお前がダメだって言うならもう1日くらい経過観察でここにいられるが...」

「帰ります」

「...まあ、お前がそれでいいなら。」

 

ここにずっといたらまた吐いちゃいそうで、さっさと帰りたかった私は家に戻ることを選んだ。

 

 

早川アキの朝はそれなりに早い。

起きたらまず部屋の窓を開け、風を通す。

そのあとは目を覚ますためにコーヒーを淹れる。もちろんインスタントではなく、豆を挽いて入れたものだ。

コーヒーを淹れるためのお湯をコンロにかけた後、洗顔や歯磨きなどを済ませ、その後できたお湯を使ってコーヒーを淹れる。

そしてそれを持ってベランダに向かい、置いてある椅子に腰かけて新聞を読みながらコーヒーを飲む。

これが彼の朝のルーティーンだった。しかし。

 

「ふぁぁ〜あ〜あ〜...」

『ほらマム? ちゃんと目を覚まさないと嫌われちゃうよ〜?』

「あうう...それは困る...」

 

最近では、彼の家にこの二人が住み始めたこともあり、コーヒーを飲める時間は少なかった。

デンジにはトーストとジャム何種類かを、澪にはレーズンパンを焼いてやり、二人が食べている間に髪を整え、洗濯、昼ごはんの下拵えなどを済ませる。

 

「あ、手伝います!」

 

最初の方は全て一人でこなしていたのもあり、なかなか大変であったが、最近は澪も手伝ってくれ、なんとか家事を回している。それでもかなり大変だが。

これ以上同居人が増えないことを祈りつつ、早川アキはなんとか生活を回しているのだった。

 

「...はぁ...」

「で、デンジさんの服の血、なかなか落ちないですね...」

「袖を破かれるよりはマシだがな。...今度からあいつの服、ノースリーブにしておくか。」

「使えなくなるよりはそっちの方がいいかもしれないですね。」

 

そんなふうに二人が話していると、部屋の扉が勢いよく叩かれる。

 

「...あれ、お客さんですか?」

「いや...この時間に誰かが尋ねてくるなんて...」

 

しかし音は鳴り止むこともなく、むしろノブまで回されてやかましくなってくる。

 

「なんだぁ? 悪魔か?」

『...あ。そういえばマキマ言ってたな...』

「へ? 何をです?」

 

エンティティが言葉を続けようとした瞬間、ノブが外側から破壊される。

 

「「「っ...!」」」

『あー。こりゃ怒られるなー。』

 

そして外から入ってきたのは、その辺の悪魔でもなんでもなく。

 

「おうおうおう! 狭い家じゃのぉ!」

「「「...」」」

 

パワーだった。

 

「もうわしのじゃ!」

「おい! 俺の最強だぞこのやろう!」

「知らんわ!」

 

ああああああ! 畳んだ洗濯物が! ゴミ箱も倒れて中からゴミが!

 

「おお! お前のもうまそうじゃの! 食べないならもらうぞ!」

「あっ私のブドウパン...」

 

私の朝ごはんまで...

 

「う...うえ...ぐす...」

『ッスー... ちょんまげ! ちょっとこいつら止めてくれない!?』

 

朝ごはん...うう...

 

『あっだめだあのバカマキマに絆されてやがる! ええいもう知らん! リージョン! ちょっとそこの馬鹿二人捕まえといて! よーしよしよし、マム! 大丈夫だから! 僕がまた焼いてあげるから!』

うわああああああああん!

『あーもうめちゃくちゃだよぉ!』

 

『パワーくんさぁ...困るよ、うちのマム泣かせてもらっちゃ。』

「し、しししし知らん! わしのせいじゃない! こいつが悪いんじゃ!」

「はぁ!? 元はと言えばてめえが俺の最強持ってったのが悪いんだろ!」

『はい二人とも黙ろうか!? もう一回プロレス技決めてもいいんだが!?』

「「スミマセンデシタ」」

 

横でエンティティが呼び出したリージョン4人によって締められている二人を見つつ、改めてブドウパンを焼き直してもらい、私はようやく落ち着いて朝食を食べられた。

 

「...悪い。ちょっと放心してた。」

「いえ...わ、私が悪いですし...あんなので泣いちゃって...ごめんなさい...」

 

は、恥ずかしい...パワーさんに朝ごはん取られちゃったせいでパニックになっちゃった...

 

『いやマムさんや。あなたまだ9歳でしょ? むしろ今までほとんど泣かずに我慢できてたのが異常だからね?』

「だって...泣いたら、痛い思いしちゃうし...」

『...ヤッベ地雷ぶち抜いちゃった。 はいこの話なし! 別に我慢しなくていいからね? だよな色ボケちょんまげ?』

「一言余計だ...まあ、そうだな。こっちもなんか言ってくれないとわからないからな。」

「...はい。」

 

...そっか。もうあんな場所にいないから、我慢しなくてもいいんだ。

 

「...えへへ」

『そんなに嬉しかったの?』

「うん。」

『...色ボケ少年ちょっとこっちきて』

「だからその呼び方やめろ...」

 

思わぬ言葉にニコニコしていたら、エンティティとアキさんが私から離れて何か話していた。...何か大事な話なのかな。

 

『ちょっ...甘やか...ほ...』

「ああ...流石に...」

 

...あ。戻ってきた。

 

「...澪。」

「はい?」

「しばらく手伝い禁止な」

「...え?」

 

えっ本当になんで...?

 

『うん。さ、マム。あっちで遊ぼっか! 今日は休日だ!』

「い、いやでも、洗い物とか...」

『いーからいーから!』

「おいデンジ! 手伝え!」

「はぁ? なんで俺が...」

「働かざる者食うべからずだ! なんもしねえなら夕飯抜きだぞ!」

「そ、それは困る!」

 

エンティティのカマみたいな手で背中を押されてて最後まで聞こえなかったけれど、どうやら私の代わりにデンジさんが手伝うらしかった。

 

「...大丈夫かなぁ...」

 

この後、結局私が後始末を手伝うことになってしまったがやっぱり何かお仕事をしている時が1番落ち着くので、家事担当は私になった。

 




デンジくんがコウモリとヒルと連戦せずに、ヒルだけぶち殺しちゃったせいで服が消し飛ぶなんてこともなく、血まみれで残っちゃったせいで洗濯に苦労してる二人です。どんまい。
今回は日常回です。すげえ書くの難しかった。でもパワーちゃんがアキくん家に来るシーンなのでやっぱ描写しときたいよね。ちなみにパワーちゃんは素直にエンティティの言うことを聞きます。
そしてやっと澪ちゃんの年齢決まりました。9です。9!!!!!!!!
特に深い意味はないです。作者の性癖です。


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ホテルにて

タイトル考えんのめんどくせぇ!


「んむんむ! これんまいのぉ!」

「あ……あえ……。」

 

 

なんか、デンジさんが変だ。

今朝ご飯の用意とかしてる時も、食べてる今もずーっとぼんやりしてる。

今だってパワーさんにご飯取られても何も言わないし。いつもだったらすごい怒るのに…

 

「絶対なんかおかしい…」

『同感だねぇ。さすがに覇気が無さすぎるよ。デンジ少年!大丈夫ー?』

「………」

「オカワリ欲しいのぉ、お、食わんならよこせ!」

「あっ、パワーさん!?ちょっ、味噌汁がっ!?」

 

パワーさんはほんとにいつも通りだし、やっぱりデンジさんに何か起こったんのだろうか。

 

「とりあえず、食器片付けないと…」

『テーブルは任して〜。おいこらパワー。拭け。』

「わ、わかった!わかったから!」

 

 

デンジさんが変な感じになってた日から何日か。

私たちはマキマお姉さんの指示で、ホテルに立てこもる悪魔を倒しに来た。

 

「…このホテル内のどこかに潜んでいる。」

『うーん、銃の肉片食ったヤツいるのかな、結構強めの力感じるね。』

 

…なんだかすごい覇気か何かを感じたのはそういうことなのかな。

 

「銃の悪魔本人がいるんじゃねえの?」

と、デンジさんがアキさんに質問する。

 

「肉片が大きいほど強く引き寄せられる。この程度じゃ違う。」

「そ、そうなんですね…」

「…そういえば澪は銃の悪魔の肉片食ったヤツは初めてか。」

「は、はい。今まで弱めのやつばっかりだったので…」

 

今までパトロールとかで弱い悪魔を倒したことは何度かあったけど、銃の悪魔の肉片もちは初めてだ。強いって噂もよく聞くし、ちょっと怖い。

 

「はへぇ、それがマキマさんの言ってたやつの肉片かぁ。」

「いいのぉそれ!ワシによこせ!」

「…お前ら。敬語はどうした。」

「「はぁー?」」

「何の得もねえのに誰がてめえなんかに敬語使うかよぉ!」「人間は愚かで傲慢じゃぁ!」

「…」

「「早川先輩」」

 

デンジさん…ちょっと前までふわふわしてたのにいつも通りだなぁ…ほんとに何があったんだろ…

ついでに私もガムを貰っていると、横から声がかかる。

 

「早川先輩…これから一緒に悪魔と戦う仲間として、そいつらに背中任せて大丈夫なんですか!?」

「…」

「魔人にチンピラにガキって…自分は信用できませ」

はいマムバカにしたー。殺しまーす。

「うわあああああああ!?」

「わっ、わわ、エンティティ!?だ、ダメだよ!」

 

何が気に触ったのか、突然私の影からエンティティが飛び出してきた。

 

『え、何?マム、ダメだよ?実力も測れないようなバカには実力で分からせるのが1番手っ取り早いよ?』

「で、でも今から一緒に仕事する人だから!ダメだよ!」

『うーん、必死にお願いするマムも可愛いね〜!…クソガキ。命拾いしたね。次言ったらまずお前をぶち殺す。分かったらその臭い口塞いどけ。』

「ひっ…はっ…ひゅっ…」

 

よ、良かった…危うくこれから同僚になる人が死んじゃうところだった…

 

「...そう言うことだ。デンジとパワーはともかく、澪は信頼しないとむしろ殺される。気をつけろ。」

「は、はい...」

「それと。こっち二人に背中は任せない。悪魔駆除には基本この二人を先行させる。逃げたり悪魔に寝返った場合は、俺たちが殺す。」

「畜生みたいな扱いじゃな」

「...お前らに人権はない。」

『まー僕ら悪魔なんてそんなもんでしょ。ま、僕の場合は後ろから攻撃してきたやつとかぶち殺すだけだけどさ。びびって殴りかかってきたりしたら容赦しないからねー?』

「こらっ。」

『うーん...ちょっと痛い。でも可愛いよマム。』

 

むむむ...全然効いてない...

殴っても殴っても効いてる様子がないエンティティを睨んでいると、後ろからヒソヒソと声が聞こえる。

 

「こいつめっちゃキレてんじゃん...朝のアレのせいだな...。」

「あのイタズラは流石に不味かったかのぉ...。」

 

朝のイタズラ...あっ

 

「アレはイタズラレベルじゃねぇ! 殺すぞ!」

「えっ怖。何があったの?」

「...二人が朝寝てるアキさんの顔に...ね、猫のうんちを...」

「...うっわ。」

 

朝起きた時に隣からすごい異臭したから覚えてる...ものすっごい臭かった...

 

「うーん...でも流石にあんまり厳しくしすぎるのもどうかと思うよー?」

『...いや、猫のウンチの恨みは重いもんでしょ。あれすっごい臭いからね?』

「そ、そうだけどさぁ...よっし、私が一肌脱いであげようっ!」

「「...ん?」」

「今回の悪魔を倒した人にはなんと! 私がほっぺにキスしてあげまーす!」

 

...キス?

 

「「え”」」

 

最初に反応したのはデンジさんとほっぺに傷がある人だった。

 

「そ、そんなこと...そんなこと! やめてください! 結婚前の乙女が、そんなふしだらな!」

『えっめっちゃお堅い思考してんじゃんこのクソガキ。』

「ええ〜? ご褒美あったほうがやる気出るでしょ? ね〜?」

「う...うああ...」

 

キス...キスかあ。そういえば昔...すっごく昔に、なんだかお母さんにキスされた思い出があったような...。

 

「...キスは俺もいいや。大丈夫、やる気はあっから。」

「おろ?」

「俺は初めてのチューは誰にすっか決めてんだ。その人のために肉片だかなんだか集めてよぉ、銃の悪魔をぶっ殺すまでキスはしねえ。」

「...!」

 

アキさんの表情が、何やら変わった気がした。

『...あー。マキマの話かこれ。やるなああいつ...』

「ほぉー! アキくんの前でそれを言うか!」

「...それに俺は、大切なことを教わった。エッチなことは理解しあった人間同士でするから気持ちがいいんだ、名前も知らねえあんたの唇にゃあ興味ないねー。」

 

...真面目な顔をして話しているから、どんな言葉が出るのかと思っていたら、思ったより不純な動機だった。

まあ、それがデンジさんらしいけれど。

 

「...へぇ〜?」

 

そういうと眼帯の人はデンジさんに近づいて、耳元で何かを言った。

 

「...!」

「ええ...!?」

「...しゃああああ! どんな悪魔だろうが俺が殺すぜええええ!」

 

何を吹き込まれたのか、デンジさんは全力疾走しながらホテルに入っていく。

 

「ちょっ、おい! 待てよ!」

 

ほっぺに傷がある人もそれに続き、アキさんとパワーさんもそれに続いていった。

 

「...さ! 私たちもいこ!」

「あっ、その前にいいですか!」

「んー?」

 

い、行く前にちゃんと謝らないと...!

 

「あ、あの、赤ピンのお姉さん...」

「は、え!? わ、私でひゅっ!?」

「あ、あの、さっき、うちのエンティティが本当にごめんなさい!」

『えーマム!? そいつ関係ないじゃん! 謝んなくていいよう!』

 

だ、だってこの赤ピンの人、さっきエンティティが出てきちゃってからずーっと震えてるんだもん!

絶対エンティティがびっくりさせちゃったせいだから...謝らないと...!

 

『おいこら赤ピン。大丈夫って言え。』

「ヒッひいいいいいいいいい!? だだだ、大丈夫ですううう!」

「あっ!」

 

赤ピンの人は断末魔を上げながら、一目散にホテルに駆け込んでしまった。

 

「あうう...」

『大丈夫だって! 許すって言ってたじゃん!』

「あはは! でも君ほとんど脅してたじゃん!」

「あ、眼帯の人...」

 

少ししょんぼりとしていると、後ろにいた眼帯の人に声をかけられる。

 

「コベニちゃんビビリだからさー、しばらく近寄れないと思うよ? あそこまで脅しちゃうと。」

「ううう...どうしよう...仲良くなりたいのに...」

「仲良くなりたいの? なんで?」

「だって、これからみんなで悪魔倒しに行くわけですし...」

 

そう言うと眼帯の人は残っている目をすっと細めて、こういった。

 

「みんなここで死んじゃうかもしれないのに、なんで仲良くなる必要あるの?」

「えっ。」

 

思わぬ返事が返ってきて、ホテルに向かおうとする足を止めてしまう。

 

「別に仲良くなる必要ないじゃん。」

「そう...だけど...」

『めんどくさいおばさんだなぁ! マム! ほらさっさと行かないとちょんまげ少年に置いてかれるよー?』

「...一期一会、だから...死んじゃったとしても仲良くなっておきたいんです。」

「...ふーん。それだけ?」

「...いいえ。」

 

違う。それだけなわけがない。ただあった人と仲良くなるだけじゃ意味がない。

 

「...私が、みんな守るから...!」

『...かっこよ。 マムこんなにカッコよくなれたの? 惚れそう。』

 

今までは守ってもらう側だったけど、でも私にはエンティティがいる。だから今度は、私がみんなを守るんだ。

 

「...ふふ。傲慢だね。...でも面白い。」

「...」

「うん。じゃあまずは私と仲良くならない?」

「...もちろんです!」

「うん。私は姫野。よろしく。」

「み、澪です! よろしくお願いします!」

 

...やった! 友達増えた!

私が嬉しくてニコニコしていると、ずっと陰から話していたエンティティがにゅっと顔を出す。

 

『へえ? あんたは直接悪魔連れてるんだ?』

「...わかるんだ。透明なのに。」

『においでわかるよ。あいつだろ? インキャ幽霊。 昔戦ったけどさ、ずーっと透明だからもう面倒臭いのなんのって。』

「...戦ったの!? ...澪ちゃん、君の連れてる悪魔何者?」

「わ、私の家族としか...」

『マムとは生まれた時から一緒だゼ。羨ましいだろ?』

 

その言葉を聞いた姫野さんは、ニヤッと笑いながら言葉を続ける。

 

「...すごいね、君。」

「いや、私は別にすごくないから...」

『いや、僕マム以外だったら食ってたよ? マムの魅力がすごいんだって。本当本当。』

「...はっ。」

 

ど、どうしよう...いつの間にか話し込んでた!?

 

「あわわ、姫野さん! そろそろ行かないと!」

「あっ本当だ! やべえ結構話してた!」

「か、華山さん! お願いします! 姫野さんも!」

 

慌てて華山さんを呼び出し、担いで走ってもらった。

 

 

 

 




もはや車とかしている鬼さん。他のダッシュ組と比べて安定性がダンチだからね仕方ないね。(チェーンソーで走ってたり壁にぶつかりまくって走るやつ見ながら)


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Q,エンティティについてどう思う?

結構エンティティの強さについて聞かれることが多くなってきましたね...
現状だとその辺の悪魔より強いとしか言えませんが、定期的にどのくらいの強さだとかの描写入れているので是非考察してみてください。(なおこれもその描写の一環です。是非考えてみてね。)


澪の答え

「...家族、でしょうか。私が生まれた時からずーっとそばにいてくれて、エンティティがいたから私は牢屋でもなんとか死なずに済みました。

...え? 彼の強さ、ですか? ...なんでそんな質問をするんですか? ...公安の調査の一環?

...わかりました。 とっても強いと思います。エンティティは『マムのおかげだよー!』って言ってますけど、華山さんとかウェスカーさんとかを呼び出せるし、みんなとっても強いので、それを呼び出せるってことはエンティティも強いのかな...と。

 

デンジの答え

「よくわかんねーやつだな! なんか澪の影の中でよく蠢いてんのは見るぜ! ...でも、澪とはすげー仲良いんだろうな。あの二人が話してるのを見ると、ポチ太を思い出すんだ。

...強さぁ? 俺にわかるわけねーだろ、戦ったこととかねーしよぉ。

...あ、でもよ! あの能力は便利だと思うぜ! でけえ鬼の仮面被ったやつ呼び出すの! 一回一緒に仕事しててよ、悪魔が逃げてったことがあったんだけど、その時に乗せてもらえたんだ! くっそ早かったぜ!

...そういやなんかちょいちょいあいつから視線感じるんだよな...なんでなんだろ...今度聞いてみるかぁ?」

 

アキの答え

「悪魔にしては随分理性的な奴だ。澪や俺の言う事をきちんと聞いている。指示を出しても逆らわずに指示通り動く。...正直本当に悪魔なのか疑ってしまうくらいには理性的なやつだ。

何か俺たちに隠してないといいが。

...強さか。奴の能力は澪が言うところによれば、あるゲームのキャラクターを呼び出して戦わせる能力らしい。実際見せてもらったが、そいつらの個々の能力はかなり高い。

出せる個体数に上限はないらしいし、相当強いだろうな。」

 

パワーの答え

「あ、あああ、あいつは大っ嫌いじゃ! 定期的にわしにトイレ掃除させようと迫ってくるんじゃ! うんこが詰まってる便器なんざ触りたくもないわい! それをわしに掃除させようとするなんて...とにかく恐ろしい奴じゃ!

...強さか? ...ものすごく強いじゃろうな。今のやつならまだしも、()()()奴とはなるべくやり合いたくないのぉ。

...それに、約束もあるしの、奴とは戦わん。実力を確かめたいならお主が直接戦え。」

 

姫野の答え

「うーん、私に聞いても意味ないと思うけど...まあいっか。うーん、印象としては...なんか妙に澪ちゃんのガードが硬いところかなあ。この間後ろからこっそり抱きつこうとしたんだけどさ、澪ちゃんの影からバッと飛び出してきてさ。すっごいびっくりしちゃった。

まあそのあと結局ぎゅーってさせてもらっちゃった。やっぱ小さい女の子が一番可愛いと思うわ。男の子もいいけどね。

...悪魔としてか。 彼、かなり強いと思うよ。少し前の永遠の悪魔と戦った時あったじゃない? あそこのホテルに入る前でさ、一瞬で私の契約悪魔が幽霊だって見抜かれたんだ。

...幽霊は他の悪魔にすら見えないってことは知ってるよね? いくら私の後ろにいるとはいえ、一発で見抜かれたとは思わなかった。思わず冷や汗かいちゃったよ、あの時。間違いなく彼は悪魔としての格は高いだろうね。正直戦いたくないかなぁ。」

 

マキマの答え

「...彼とは昔、少し親交がありました。その時の彼は今とはだいぶ違いましたが。彼はその時から強かった。正直私でも彼とはあまり戦いたくないですね。...あなたも、彼を本気で怒らせるようなことはやめた方がいいですよ。」




ちなみにパワーちゃんはコウモリ戦の時にエンティティの霧の森に入っているので本来の力というかなんと言うかを目にしています。なのでクソ強いってのも理解してます。


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ホテルにて 2

もうちょっとだ...もうちょっとでアニメに追いつける...頑張るんだ僕...



「男の子からかうのがいっちばん面白えや〜!」

『君割と性格悪いね?』

「どうしようどうしよううう...」

「血が飲みたい。」

「...意外とみんな自由...」

 

なんだかんだ姫野さんと友達になった後。華山さんに全力疾走してもらって追いついたはいいものの、ホテル内は思っていたより静かだった。

そのせいか、ホテルに入る前は緊張していた人たちも8階までくる頃にはみんなそんな様子も無くなっていた。

 

「危険だ! 止まれって言ってんだ...ろっ!」

「ぐへあぁっ!?」

「俺はなぁ...半年間、姫野先輩に鍛えられ世話になった...その唇をどこぞのチンピラに奪われるくらいなら...ほっぺのキスは俺がもらうううううっ!」

「ど、どけ〜...!」

『...醜い男の諍いだねー。目に毒だよ全く。』

「あ、あはは...。」

 

あの二人、ホテル前で姫野さんに「悪魔倒した人にはほっぺにチューしてあげる!」と言われていたけど、まさか本気にするとは。

 

「ま、まあデンジさんらしいっちゃらしいけど...。」

『いつも通りではあるねー。...それにしても。妙に臭う割には出てこないなぁ。』

「悪魔のこと?」

『そう。銃の匂いと...うーん、微妙に判断つかないけどあいつっぽい匂いもするんだけど...あいつならそろそろ仕掛けてきててもおかしくないんだよなぁ...?』

 

確かにもう既に8階まで上がってきているのに妙に悪魔が出てこない。本当に悪魔はいるんだろうか?

 

「確かにそうだね...全然いないのは逆にちょっと怖い、かも。」

『まー大丈夫っしょ! 仕掛けてこないならそれはそれで! ...それよりあれ止めた方がいいんじゃない?』

「う、うーん...そうだね...。」

 

出てこない悪魔のことを考えても仕方がない。とりあえず今は、目の前で取っ組み合いをしている2人を止めないと。

 

 

「...しっかしよぉ、悪魔なんてどこにもいねえじゃねえか。お前が持ってた肉片本当に信用できんのかぁ?」

『...うん、少なくとも悪魔が出るのは事実っぽいね。そこいるよー。』

「えっ」

 

エンティティが言ったと同時に、ホテルの部屋から、頭から直接手が生えている気持ちの悪い形状の悪魔が出てくる。

 

『...まぁあぁ?』

「ヒッ!?」

『うわきっしょ。...これ本体じゃないかもね。ここいるのあいつだったら普通に喋るだろうし。』

『まあああああああ!』

「ひいいいいいいいい!?!?」

 

その悪魔はこちらを見たと同時に勢いよく飛びかかってくる。

その動きを見ても知性はあまり感じられない。

 

『うーん動きが単調だね。やっぱ本体じゃないでしょこいつ。』

「捕まえた。」

『マムー、やっちゃってー』

「う、うん!」

 

マキマさんからもらっていた拳銃を懐から取り出し、幽霊の悪魔によって捕まっている悪魔の眉間に銃口を押し付け、一気に引き金を引く。

 

『あえぇえ....?』

 

銃弾を打ち込むと、致命傷だったのか、その悪魔はすぐに動かなくなった。

 

「...よしっ。」

『うんうん。やっぱマムには銃が一番だね。』

「へぇ? 澪ちゃんよくそれ使う許可もらえたね?」

 

私の拳銃が気になったのか、姫野さんが横から聞いてくる。

 

「あ、はい。私には一番合うだろうからってエンティティがマキマお姉さんを説得してくれたので...実際手に馴染みますし。」

「ふーん...。ま、人に向けないようにすれば大丈夫じゃないかな?」

「はい。それはマキマさんにも言われたので、大丈夫です。」

「よろしい。」

 

そういうと姫野さんは悪魔の死体を調べてるアキさんに近寄っていく。

 

「どう? アキくん。 銃野郎の肉片ある?」

「...強い反応は無し。こいつじゃないですね。どっちかって言うと澪の方に反応してる。」

「えっ...私ですか?」

『拳銃使ったからじゃなーい?』

「...ま、拳銃使ったら反応するのかもしれないし、澪ちゃんは悪魔じゃないからそこまで気にしなくていいんじゃないの? ...じゃ、上の階行こっか。」

 

な、なんで私に反応したんだろ...

 

『姫野、だっけ? 僕ホテル前で君の悪魔のあれこれをペラペラ喋ったわけだけどさ、殺そうとか考えないの?』

「え? だって仲間なんでしょ? それに力知ってた方が連携取りやすいでしょ?」

『信頼が厚いことですねー。 じゃあさ、もしそこのヘアピン女子殺すって言ったらどうするつもりなの?』

「ちょっ、エンティティ! ダメだって言ったじゃん!」

 

8階から9階の階段を登ってる途中、エンティティが突然話し始める。

そしてコベニさんを殺すとか言い始めるので、思わず止めに入る。

 

「うーん...幽霊のこと知り尽くしてる君を止めるのは難しいけど...ま、なるべく頑張るかな。」

『相手が僕でも、かい?』

「そりゃあもちろん。後輩を守るのは先輩の役目さ。例え死んでもね。」

『...へえ? そう言う目でそれを言うってことは、君の先輩になんかあったのかな?...まあいいや。今君とここで殴りあうのは不利益だ。面白い答えが聞けて良かったよ。』

「...」

 

エンティティの言葉を聞き、思わず姫野さんの目を見てしまう。

彼女の目は、少し濁っているようだった。まるで、牢屋にいた時の私みたいに。

 

「...あの。」

「...何?」

「エンティティがすみませんでした...あとで、怒っておくので...」

「...気にしないで。」

「は、はい。」

 

そう言うと姫野さんはさっさと階段を上り切ってしまう。

そんな彼女の背中は、少し寂しいものだった。

...後でエンティティ怒っておかないと。




澪ちゃんが銃持ってるシーンと銃野郎の肉片が反応したシーンですが、ミスとかじゃないです。なんで持ってるのか、反応したのか考えてみてください。
.....ホテル編ちょっと長くなりそうだな。


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ホテルにて 3

多分これがほぼ毎日投稿の最後の話になるでしょう。
はあああああ...単行本買えたらいいんですけどね...


階段を上り切った時、私はふと階段の壁を見る。

私たちは今、8階から9階に向かう階段を登った。だからそこには「9」の数字があるはずだった。

 

「...あ、れ?」

「ん? どしたの澪ちゃーん?」

「わ、私たちって、8階から9階に上がる階段を登ったんですよね...?」

「そうだね。」

「じ、じゃあ...なんで今8階にいるんですか...?」

「えっ?」

 

しかし、そこにあったのは「8」だった。

 

『うーんなるほど。こう言う切り口で攻めてくるのか。あいつらしいや。』

「...っ!」

 

ここが本当に8階なら、さっき私が殺した悪魔の死体が残っているはずだ。

急いでさっき倒した悪魔のところに戻る。

そこにはすでに悪魔の死体はなく、血痕だけが残されていた。

 

「...」

『おー、消えてる。分体だったのかな。』

「...一回戻ろう」

『まあそっちの方がいいだろうね。』

 

少し急ぎ足でアキさんたちのところに戻ると、上に向かう階段で口元に傷がある人...荒井さんが立ち止まっていた。

 

「...荒井くん、今階段降りて行ったよね。」

「...」

「廊下見てきました。...さっき殺した悪魔の死体がなくなってて...」

『多分あのちっさいの、分体だったんだろうね。あいつを殺したら発動するトラップだった、みたいな。』

「...コベニちゃん! ダブルピースでじっとしてて!」

「はっえっ!? えっ...えっ...」

 

姫野さんがコベニさんに指示を出し、下り階段を駆け降りていく。

しかし姫野さんが出てきたのは、登り階段の方だった。

 

「...ありゃりゃ」

「えっええええええっ!? えーーーー!?!?!?」

「アキくん...なんだこりゃ?」

「...悪魔の力、でしょうね。」

『多分永遠の悪魔じゃないかなー。地獄じゃ雑魚だったけど、なるほど人間界じゃ結構強いのかもね。』

「...コベニ、そこに立ってろ。」

 

アキさんは徐に近くの部屋のドアを開け、中へと入っていった。

 

『んー、僕の予想だと、多分反対側の部屋から出てくるね。』

「えっええっええええ...?」

 

少し待っていると、後ろのドアが開き、アキさんが中から出てくる。

 

「ええええええっえっええええ!?!?!?」

『ほらね? やっぱ永遠のやつだね。時空を歪ませてスマブラの陸続きステージみたいな感じにしてるんだろうね。』

「スマブラって...?」

『えっわかんない? 嘘でしょマム。仕事終わったら後で見せてあげる』

「おい! どの部屋の窓も外には出られねえぞ! 向かいの部屋に通じてやがる!」

 

...まずい。悪魔の本拠地に閉じ込められた。

 

 

私たちは一度、近くの部屋に全員で入ることにした。

 

「...状況を確認する。おそらく、永遠の悪魔の仕業で、どれだけ8階の階段から登っても降っても8階に着く。エレベーターは何故か使えず、部屋や窓からも外には出られない。」

「...」

「天井を登ってみたが、上も8階だった。」

 

つまり、どこからも脱出は不可能、と言うことだ。

 

「澪がさっき悪魔殺しちまったせいなんじゃねー?」

「っ...ご、ごめんなさい...」

『なんだこのクソガキ。殴られたくなかったらマムバカにすんのはやめろや。』

「でもよ、あいつ殺して階段上がったらこれだろ?」

 

私のせいでこうなったのかな...ここでみんな死んじゃったらどうしよう...私のせいで...

 

『あーあー泣かないで、大丈夫だよ、最悪僕が永遠の本体見つけ出してとっちめてやるから。ね?

「やっぱさっきのやつがなんちゃらの悪魔じゃねえの? さっきのやつが閉じ込める力持っててよ、その力を使ったまま死んだとかじゃね?」

『クソガキめ...マムのOK降りたらぶっ殺すからな...それに、悪魔の力は基本的にそいつがくたばったら消えるもんなの。さっきのあいつが永遠の悪魔だとしたらもう外に出れてるよ。そもそもあいつ力弱かったし。』

 

つまりまだこの場所を作った悪魔は生きていると言うことだ。そいつを見つけて殺せれば脱出ができる。

 

「...アキくん。肉片の反応は?」

「それが...全く反応がなくなりました。」

「さっきのやつを囮にまんまと嵌められたってわけか。...こんなトリッキーなことしてくる悪魔、初めてだね。」

「...でも、俺たちがここからずっと帰ってこなかったら、他のデビルハンターが助けに来てくれるんじゃ...」

『うーん、難しそうだけどね。』

「...どう言う意味だ?」

 

エンティティが私の影から手を伸ばし、ホテル備え付けの時計を指差す。

 

『ほら。あれ、時間動いてないでしょ? 多分あいつ、ここの時間捻じ曲げて空間内の時間止めてるんじゃないかな。だから外のデビルハンターにとって僕らがここでどれだけ過ごそうが時間は経ってないんじゃない?』

 

全員が壁につけられている時計を見上げると、確かに秒針も分針も動いていなかった。

 

「...本当に動いてないですね...」

「私たち...みんなここで死んじゃうんだ...お腹ぺこぺこで死んじゃうんだ...」

「こ、コベニちゃん! 気張れ! デビルハンターやって、兄を大学に行かせたいんだろ!?」

 

弱音を言うコベニさんに、荒井さんが駆け寄って宥める。

 

「...半分、無理矢理なんです...」

「えっ」

「...親が...優秀な兄だけは大学に行かせたいからって...私に働かせたんです...風俗かデビルハンターしか選択肢がなかったんです...!」

『...うっわ。なかなかな人生歩んでんね...。マムよりはマシだけどさ!』

「エンティティ...なんでそう言う余計なこと言うの...」

『不幸自慢とかムカつくしぃ!?』

「...」

『あっ待ってごめん許して契約破棄だけはやめて』

 

誰にだって不幸はあるんだから自慢とか言って否定するのは良くないと思う。

 

「私だって大学行きたかったんですうううう〜〜〜! でもみんなぁ...ここで死んじゃうんですうううう〜〜〜!」

「くくくっ...ダハハははははははは! その顔!! だーはっハハハハハ!」

「...貴様ああああ! 笑うなああああ!」

『...あー、あんなこと言った僕から言うのなんだけど。割と泣くのはやめろ? 僕ら(悪魔)って人間の負の感情を糧にしてるわけだからさ。泣いちゃうと余計脱出できなくなるんだよ。泣き顔がブサイクだから。...あっマム!? ごめん! 契約破棄やめて!』

「そうそう、悪魔は恐怖が大好物だからね。怖がってたら相手の思う壺だよ。」

 

そう言いつつ、姫野さんがコベニさんを宥める。

 

「でもぉ...怖いんですうううううう!」

「..うるっせえな...寝させろよ...」

『この状況で眠れるって随分図太いねー、さすがチェンソー。』

「無限に寝れるんだろ? だったら寝とかなきゃ損じゃねえか!」

 

そのデンジさんの一言に、周りが静まり返る。

 

「...馬鹿か貴様は...俺たちは永遠にここに閉じ込められるかもしれないんだぞ...!」

「そうなるかもしれねえし、ならねえかもしれねえだろ?...出る方法わかったら起こしてくれー。」

 

そういうとデンジさんは再び布団に潜り込んでいく。

 

「こんないいベッドがあるんだ...寝なきゃ損だね...俺は悪魔に感謝して眠るぜ...」

 

そう言うとデンジさんは再び眠ってしまった。

 

『いやー、やっぱ面白いね彼。マムも寝とく? 今まで布団でしか寝たことないでしょ。』

「えっ、いや、でも...」

『ほらほら、ちょっと一回寝てみようぜー?』

 

そう言ったエンティティに持ち上げられ、偶然置かれていた簡易ベッドに寝かされ、上から布団を掛けられる。

 

「だ、だめだよ...仕事中だし...」

『だってそこのデンジ少年めっちゃ寝てるじゃん。それにデンジ少年の言うとおり、時間無限だし。後最近寝不足でしょ? ハントレスもつけようか?』

「う、うう...」

『ま、あとは僕ら大人に任せてさ、そこで寝てなさいな。おやすみー。』

「うう...」

 

初めてのベッドは布団とはまた違った良さがあり、私はすぐ眠気に襲われてしまう。

 

「で...も...お仕...事」

『意外と強情だなあ。...いけ! ハントレス! 子守唄!』

 

その声と同時に始まった子守唄で、私は抗えず、眠ってしまった。

 

「ん...んん...」

『お、マムおはよー。早速だけど、外ちょーっと面白いことになってるからいこー?』

「え...うん...?」

 

まだ眠気が残る体を無理に起こし、エンティティについていく。

するとそこには、コベニさんと荒井さん以外の全員が揃っていた。そして目の前には、大きな肉塊のような悪魔もいる。

少し経って、その肉塊のような悪魔が喋り出す。

 

『...人間...人間たちよ....愚かな人間たちよ...私は契約を交渉する。』

「お、おっきい...」

『うーん、やっぱ永遠だねこいつ。』

 

ホテルの廊下という狭い空間にいるからか、その悪魔がとても大きく感じ、思わず感想が漏れてしまう。

 

「...契約だと?」

『そこのデンジという人間と、隣のミオという人間、そしてそのミオの影にいる悪魔。そいつらを私に食わせろ。そうしたら他のデビルハンターは無事に出してやろう。』

『は? なんだこいつ。ムカつくな。 マムを食っていいのは僕だけなんだが?』

 

永遠の悪魔の言葉と共に、後ろからドアが開く音がする。

そこにはコベニさんが包丁を持って立っていた。

 

「お前らが死ねば...ここから...」

 

彼女はそのままふらりと廊下に出てきて、そして。

 

「ふええぇぇええええええええ!」

 

奇声を上げながら、私に向かってきた。

 

「っ!?」

 

しかし走り出した瞬間に、彼女は...

 

『...』

『お、仕事早いね、新人のくせにやるじゃん。評価ポイントあげちゃう。』

 

西洋の鎧を着た騎士によって捕えられていた。

 

『...』

「がっ!?」

 

その騎士はコベニさんを気絶させ、近くの部屋に放り込んだ後消えてしまった。

 

「...今のって誰? エンティティ?」

『んー? うちの期待の新人、ナイト*1君だよ。やっぱ騎士だけあって身のこなしがなかなかだね。後僕の命令でもきっちり聞いてくれる。いいね、優秀だ。』

「...そっか。」

 

昔からそうだが、エンティティは私の知らないところで新しい人を作っているらしい。ウェスカーもそうだったけど、あの人たち、どこから生まれているんだろう。

そして、気絶させられるコベニさんを見た永遠の悪魔は、先ほどからずっとやかましく笑っていた。

 

「んもー、うるっさいな...アキ君、狐で飲み込めば終わるんじゃないの?」

「...『コン』」

 

アキさんがすかさず狐の悪魔を呼び出そうとする。だが、それは失敗に終わった。

 

「...やっぱり狐は来ませんね。ここは外と断絶されてるんだ。」

「狐の体は京都にあるからねー...」

『...あ、あいつ地獄で見なくなったなと思ったらこっち来てたんだ。なるほど。』

「...じゃ、私のゴーストでやるか。」

 

そういうと姫野さんは右手を前に出す。

そして、その直線上の永遠の悪魔の体の一部が、手形にえぐられ、そのまま肉体全体に亀裂が入る。

 

『おっと危ないよマム。』

「ひゃっ!?」

 

エンティティに後ろに引っ張られた瞬間、永遠の悪魔が前に突進してきた。

 

『ふー、セーフセーフ。』

「あ、ありがとう...」

「げー! で、デカくなったぁ?」

 

その姫野さんの声に思わず永遠の悪魔を見る。

確かにさっきよりも大きくなっていた。...あれはこちらに突進してきたわけじゃなかったのか。

 

『無駄だ! これは私の本体ではない! ...ここに私の心臓はない。ここは胃の中。私の弱点は、8階にはない。私と契約する以外、生きては帰れない。』

「...はっ、どうせ俺たちを殺しても外には出さねえくせによ!」

「...それはないよ。契約って、あの悪魔は言ったでしょ? 悪魔が使う契約って言葉には強い力があるの。契約を片方が守れば、もう片方も絶対に守らなければいけない。守れず破った方は、死ぬ。」

『うん。悪魔の僕が保証するよー。』

「...だから、デンジ君と澪ちゃんを殺せば出られるのは本当だよ。」

「えー...」

 

...私が、死ねば...

私、死んだ方が...いいの?

 

『あー、マム! 大丈夫! 落ち着こ! 悪い方に考えちゃだめだよ! 僕がついてるんだから!』

 

う...う...あ...う、ん...

 

『よーしよしよしよし、いいこいいこ。大丈夫だからねー。』

「...姫野先輩。澪はともかく、デンジとそこの悪魔は殺すべきです。」

『うーん、マムを殺すべきだって言ってないのでギリ生かしてやろう。だが後で覚えとけよ。』

「っ...一度、そいつらを殺して外に出た後に対策を練ればいい。このままじゃみんな、ホテルで餓死ですよ。デビルハンターが悪魔と契約することは法律でも認められている。その悪魔の契約を受けるべきです...!」

 

いつの間にか部屋から出てきた荒井さんがそういった。...確かに私たちが死ねば...間違いなくここから出られるのだろう。

 

「...悪魔はデンジを殺したがっている。デンジの死が、悪魔側の利益になるんだろう。...だから契約は受けない。」

「じゃ、私も〜。...澪ちゃん食わせるのは流石にね〜?」

「わっ」

 

アキさんが受けないと言い切ると、姫野さんが私に抱きつきつつ、そういった。

 

「そ...そんな...」

「わしは殺す派じゃぁ!」

『は? おい血の悪魔。今すぐ死にたくなかったら撤回しろ。』

「て、撤回する...」

『おk。』

 

パワーさんが賛成しそうになったけど、エンティティが脅すとすんなり反対派になった。...何かあったのかな。

 

「...そもそも、魔人と悪魔は契約を結べない。だからお前がデンジたちを殺したとしても、悪魔は外に出す義理はない。...とにかくデンジたちは殺さない。俺たちはデビルハンター。殺すのは悪魔だけだ。」

「チッ...」

『なんか言ったか血の悪魔?』

「な、ナンデモナイデス...」

 

「...腹減ったぁ...」

「アキくーん、実際なんか外に出る作戦あるー?」

「...悪魔の言葉を信じるなら、奴を殺すことはできない。でもデンジを殺すつもりもない。」

「...だけどこのままじゃ餓死しちゃいますよ...?」

 

私を殺した方が、みんな助かるんじゃないか。そう思いつつ、私はアキさんに言う。

 

「...どうしようもなくなったら、刀を使います。」

「それはだめ。」

「刀使えば解決できんならよぉ、使えばいいじゃん。」

『デンジ少年地雷めっちゃ踏み抜くじゃん。...おおかた、呪いだか飢餓だか戦争だかの代償クソデカ組の力でも使うんじゃないのー? だから簡単には抜けないんでしょ。』

「...だからどうしようもなくなっても刀は使わない。その時は悪いけど...デンジ君と澪ちゃんが死んで?」

 

その目はどこまでも本気だった。思わず体が震えてしまうほどに。

 

『...デンジ少年はまだしも、マムを生贄にしたら君を殺すからね?』

「...別にいいよ。アキ君が死なないならそれで。」

『...マジかよお前。イカれてるな。さすがデビルハンター。』

「お褒めに預かり光栄です、と言っておこうかな。」

『...言っとけば。』

 

そんな会話をしていると、後ろの方から悲鳴が聞こえてくる。

 

「...悲鳴?」

『...あっ、これやばいね。崋山よろしく。』

「えっ、ちょっ、エンティティ!?」

 

突然エンティティが崋山さんを呼び出し、私を担がせて華山さんを走らせた。

 

「なっ...なんで!? 悪ふざけでもたちが悪いよ!?」

『後ろ見てみ!』

「後ろ...っ!?」

 

言われて後ろを見ると、私を追いかけてくるアキさんたち三人と、さらに肥大化している永遠の悪魔の姿だった。

 

『ね? そう言うことなんだよ。』

「う、うん...ありがとう。」

『ん...? ...おっとこれはちょっと予想外だよ永遠!?』

「な、なんだか傾いてきてる!?」

『崋山! 部屋の方にとべ!』

 

永遠の悪魔から逃げていると、突然廊下が傾き出していた。

それを見たエンティティが華山さんを思いっきり跳躍させ、ホテルの部屋の方に飛ばさせる。

 

『な、なんとか間に合ったかな...』

「あ、危なかったね...」

「誰かああああ! 誰かあああああ! デンジ君と澪ちゃんを殺してええええ!」

『は? なんだあいつ殺そうかな?』

「だ、だめだって... こんな状況だし仕方ないよ...」

 

私たちのいる扉と反対側にはコベニさんと荒井さんがいたが、二人は錯乱しているようだった。

 

「いよいよまずいですよ! そいつらを悪魔に食わせましょう!?」

「...刀を使う。いいですよね、姫野せんぱ...いっ!?」

『うわ。ヤンデレかよ。』

 

私からは見えないが、どうやらアキさんは幽霊の悪魔に捕まっているようだった。

 

「おいあんたっ! 何してんだっ!」

「...その刀を使えば外には出られるだろうけど、使うと契約でアキ君の寿命がかなり減るの。...アキ君にはまだやらなきゃいけないことがたくさんあるんだ。...だからごめんね、二人とも。」

 

その言葉と共に、デンジさんが後ろからやってきた荒井さんに落とされそうになる。

 

「っすまん!」

「ああ!? さわんなっおい!」

 

...あれ? 待って、コベニさんがいない?

 

「...死んでええええええ!」

『なっ、マム!』

 

エンティティが私を守ろうと腕を伸ばしてコベニさんを捕まえようとする。けどコベニさんはそれを掻い潜り、私に向かってくる。

私に避ける術はなく。

 

「うっ...」

「...あっ...?」

 

...痛い。お腹が熱い。

 

『...おい。お前マジでやったな。』

「あっ...えっ...わた、私...」

『だから嫌いなんだよ、人間。もうお前死んでいいよ。』

 

あっ...だ、め

 

「待っ...て」

『...マム。庇う必要ないでしょ。こいつ君を刺したんだよ?』

「だ...め...」

『...でもさあ。』

「だめ...だか...ら...」

 

あっ

 

何にも

 

見えない

 

 

 

 

 

 

 

*1
現在の最新キラー。衛兵三人を順番に召喚して戦う。ただし本体強化系の能力が一切無いのでとんでもなく難しい。パークが結構優秀らしい。




アキ君よりちょっと後ろにいたせいでアキ君が庇えませんでした。まずいですよ!(エンティティが暴れる的な意味で)


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ホテルにて 4

チェンソーマンアニメと漫画同時に更新されたぞ! お前らもちろん両方見てるよな!?


…何してんの? お前

 

澪ちゃんの影から人型の本体を露わにしたエンティティが、凄まじい圧が周囲一体を満たす。

…誰一人として動けない。動いたら間違いなく殺される。

そう思わせるような恐ろしい殺意だった。

 

「ヒッ…はっ…あっ…」

「…落ち着いて、コベニちゃん。交渉の余地は…あるだろうから。」

『何? この後に及んでまだ交渉しようとしてんの? バカにしてる?』

 

キレている。間違いない。言葉を間違えたら一瞬で殺されるだろう。

 

『くふふ…良いぞ、そのまま争え…』

『うるせえよ雑魚。汚ねえ笑い方してんじゃねえよ。』

『え』

 

私たちを見て笑っていた永遠の悪魔の一部が一瞬で消し飛ばされる。

 

『が…あ』

『今僕が喋ってるんだよ。雑魚のくせに汚ねえ笑い方で話遮るのやめてくれない?』

 

その一撃で弱点を貫かれたのか、永遠の悪魔は、それだった肉塊を残して死んだ。

 

『さて。やかましいのは死んだ。で? 僕とどう交渉しようって言うんだい? 』

「…っ」

 

本気だ。この悪魔は間違いなく私たちを殺す。澪ちゃん以外本当にどうでも良いんだ。

…アキ君だけでも逃さないと…何か…交渉できるものは…

 

「…お前は良いのか、エンティティ」

『何がだい? 早川アキ。』

「っアキ君!?」

『君に話しかけてないから今すぐ死にたくなかったら黙ろうか、姫野。』

 

ダメ、だめだよアキ君…あなたはまだ死んじゃダメなのに…!

 

「お前がここで俺たちを殺すのも良いだろう。だが誰が澪を運ぶんだ?」

『…僕が運べば良いだけだと思うよ?』

「悪魔のお前が運んできたこともを病院が受け入れると思っているのか?」

『…』

「俺たちを生かして返してくれるなら、澪を病院まで送る。俺たちを生かせば澪も生きる。だが殺せば、お前は彼女を見捨てることになる。違うか。」

 

アキ君のその言葉に、エンティティは少し考えるふりをした。

そして何か思いついたのか、再びこちらを向く。

 

『ならそこのマムを刺したクソアマ以外は助けてあげよう。別にそいつ一人いなくなったところでマムを運ぶのに支障はないだろう?』

「…!」

「ヒェッ!?」

 

エンティティはコベニちゃんを指差しつつ、そう提案してきた。

…コベニちゃんを差し出せば、助かる。私も、アキ君も。

ならそれで良いんじゃないか?

 

「…アキ君」

「…姫野先輩?」

「コベニちゃん一人でみんな助かるんでしょう?」

『そうだね。そいつ差し出せば他は全員生かして返す。これは契約だ、と言っておこう。』

「…なら」

 

契約、といった。この契約を結べば、間違いなく助かる。

するべきだ。確実に生き残るならその道を選ぶべきだ。

 

「…いや。誰も差し出さない。」

「アキ君!?」

『…へぇ? 強情だね?』

「…俺たちはデビルハンターだ。デビルハンターが死ぬのは…」

 

アキ君は刀に手をかけつつ、言う

 

「…悪魔に負けた時だけだ。」

『…ふふ、あはははは! やはり君は面白いね、早川アキ! …良いよ、今は全員生きて帰そう。』

 

思わずホッとする。よかった。差し出さなくてもみんなで帰れる。

 

『ただし。そのクソアマが公安を抜けたとき。確実にそいつの命をもらう。…そのくらいなら良いだろう? 死にたくないなら寿命が来るまで公安にいればいい。』

「…わかった」

「えっえっえ!?」

『…さ、まずはマムを病院へ運んでもらうよ? 死んじゃったら僕がとっても悲しいからね?』

 

いつも通りの口調へと戻り、澪の影に本体を戻すエンティティ。…なんとか、生き残れたか。

 

「…ん」

 

目が覚めたらまた病院だった。…なんだか最近このパターンが多い気がする。

 

『やーおはようマム! 気分はどうだい?』

「大丈夫。」

『そりゃよかった! なんせ脇腹ブッ刺されて血が止められなくて本当にやばかったからね! 本当に生きててよかった!』

「…そっか」

 

そうだ。私、コベニさんに刺されたんだ。

よかった、生きてて。

 

『あの娘にはきっちりお灸を据えといたからもう大丈夫! あ、それと。』

「? 何かあるの?」

『うん。なんか飲み会があるからって。4課全員揃うし澪ちゃんも一緒にーってさ。』

「い、いく! 行くって伝えておいて!」

『マムならそう言うと思ったよ。バッチリ伝えてあるよ〜』

「ありがとう!」

 

4課全員という言葉を聞いて、思わず食い気味に行くと言ってしまった。

マキマさんが4課の人はみんな優しいと言っていた。仲良くなれるといいな。

 

『飲み会は二日後だってさ。起きれてよかったね、結構ギリギリだったよ?』

「そうだったんだ…」

 

…本当に起きれてよかった。

 

「「「「「「「乾杯!」」」」」」」

 

目が覚めてから2日後。私は公安の近くにある居酒屋に来ていた。

 

「うわ〜良い匂いがいっぱいすんなぁ!」

「プハー! しみるー!」

「! これ美味しい!」

『やっぱライムレモンジュースは正義。はっきりわかるね。よかったね〜マム〜』

 

お酒は20になってから、ということもあり、私とデンジさんはそれぞれジュースとお茶を頼んでいる。

正直、飲み会に私みたいなこともがいても良いのかわからなかったが、姫野さんが

 

「楽しけりゃなんでも良いでしょ!」

 

と言ってくれて、私たちもご相伴に預かることができた。

そんなわけで美味しいジュースを飲みながら時々テーブルに乗る料理をつまんだりしていると、居酒屋の扉が開かれ、何人か人が入ってくる。その中には、見覚えのある顔があった。

 

「あ、コベニさん」

「ヒィッ!?」

「あ…」

 

思わず声をかけるが、ものすごく怯えた表情をしながら反対側に座ってしまった。

 

『全っ然目合わせないじゃん。おもしろ。』

「笑い事じゃないよ…」

『びびらせすぎたかなぁ』

「何したの…」

 

エンティティ、割と自由なので私が目を光らせておかないとすぐに何かやらかすのだ。

みんなに迷惑かけないように見張っておかないと…

 

「おいっ! 唐揚げ食わないならもらうぞ!」

「あっ!」

 

ちょっとずつ食べたいからと自分の小皿に取り分けておいた唐揚げが、パワーさんに横から取られてしまう。

むむむ。取られないように気をつけないと。

 

『ッスーちょっと待っててねマム?

そういうと、エンティティが私の影から飛び出してくる。

 

『よっこいしょ。 …パワーさん? 人のもの取るなって教えたよね?』

「な、なんじゃうぬは! 別にいいじゃろ! そいつが食わんと言ったんじゃ!」

『マムがそんなこと言うと思ってるのかなー?』

 

…エンティティの背中から何かモヤが出ているように見える。

 

「ピャッ!? お、お主まさかエンティティか!?」

『御名答! …さて、人のもの食べちゃった上に謝らないやつはどうしてやろうかな〜?』

「す、すまぬ! 私が悪かった! だからやめてくれー!」

『…ま、謝ってくれたし許してやろう。』

「た、助かったぁ…」

『…ついでに僕も色々もらっちゃおうかなー』

 

そんなやりとりがあり、私とパワーさんの間に人の姿になったエンティティが座る。

すると、男の人たちがなぜか盛り上がり出す。

 

「(な、なんかすげえ美人が!?)」

「(誰の部下だ!?)」

「おい澪! その人誰だよ!?」

 

反対側で姫野さんと話していたデンジさんがわざわざ席を立ってこちらにやってきた。

 

『なんだいデンジ少年、忘れちゃったのかい?』

「えっなんで俺の名前知ってるんすか!?」

「だ、だって、その人エンティティだから…」

 

そういうと、デンジさんは一度エンティティの顔を見て、再び私の方に向き直る。

 

「…まじ?」

『大マジさ。私エンティティだよ。』

「…お邪魔しました。」

 

エンティティがそういうと、デンジさんはすごすごと帰っていった。

 

「…帰っちゃった。」

『うーむ、まあまあ魅力的だと思うんだけどね、このボディ。お気に召さないかぁ。』

 

そんなふうにエンティティと話していると、向こう側から話す声が聞こえる。

 

「ほら、新人歓迎会だ、新人は立って自己紹介!名前と年齢と、契約している悪魔を言え。」

「公共の場で契約している悪魔を言うな。手の内は信用している人間にしか見せちゃいけないぞ。」

「相変わらず固いやつだな。」

「まー大丈夫!大丈夫でしょ!」

「私は趣味聞きたいな〜。趣味で人間わかるでしょ?」

 

…どうやら自己紹介する雰囲気らしい。

 

「ど、どうしよう…」

『何さマム。名前と年齢言えば良いっしょ。』

「で、でも…自己紹介は印象に残るようなことしなきゃいけないって本で…」

『気負いすぎだって。』

 

どう言うことを言おうか迷っていると、他の人が次々自己紹介を終わらせていく。

 

「うう…」

『んもー、相変わらずプレッシャーに弱いねぇ…』

「次、そっちの子…新人だよな?」

「で、でかいな…」

 

私の番が回ってきた…と思ったが、なぜかエンティティが呼ばれる。

 

『おん? 私かい?』

「さっき言ったろ、新人歓迎会だって。自己紹介くらいしろよ。」

『んやぁー、なんと言いますか、私新人じゃないよと申しますか。』

「今まで一回も見たことないのに新人じゃないわけあるか。」

「そっちの小さい子は? 妹ちゃん?」

『んー…ちょい待ちで』

 

席を立っていたエンティティはそういうと、屈んで私だけに聞こえるように話す。

 

『めんどいなー…これバラしちゃっていい?』

「だ、だめ! わ、私が自分でやる!」

『お、じゃよろしくマム。』

 

エンティティが座り、代わりに私が立つ。

 

「え、えっと、澪です。えっと、9歳です。趣味は…趣味…あ、料理することです!」

「…9歳?」

「こ、今年で9歳です。」

「…そっちのお姉さんじゃなくて…あなたがデビルハンター?」

「は、はい。」

 

そう質問に答えると、知らない4課の人がアキさんに何か話しかけている。

何話してるんだろ。

 

『おおかた、「なんで小学生デビルハンターやってんの!?」とかじゃないのかな、全く、僕がいるのに心配性だなぁ。』

「エンティティの力見たことない人だし…」

『んはは、それもそうか。…おや。幹事のご到着か。』

「え?」

 

エンティティの見ている方向…居酒屋の入り口を見ると、ちょうどマキマさんが入ってきたところだった。

 

『マキマー、お先にいただいてるよん』

「…君が影から出てきてるなんて、珍しいね。」

『たまにはいいっしょ。別にマムの負担にはもうならないしね。』

「永遠の悪魔を倒したから?」

『そーそー。一瞬で消し飛ばしても恐怖溜まるもんだね。やっぱ人間より悪魔ビビらせた方が効率いいわ。』

「そっか。…澪ちゃんも楽しんでる?」

 

急にマキマさんが話しかけてくる。

 

「は、はいっ!」

「そんなに気合い入れなくてもいいよ。ジュース飲んでるだけでもいいからね。」

「あ、はい!」

 

マキマさんは私の斜め向かいに座りながら話を続ける。

 

「永遠の悪魔倒した時、刺されちゃったんだってね。」

「あ、えと…」

「…別にコベニちゃんを罰したりはしないよ。エンティティから色々聞いてたからね。本人は納得してないみたいだけど。」

『ハッ、納得とかするわけないじゃん。 そもそも簡単に錯乱しすぎだよ、人間は。』

「…彼女は()()()()()()()人間なの。君のせいで公安を辞められちゃったら困る。なるべく自重してね。」

『…へいへい。君に嫌われるのはごめんだ、そうするよ。…公安抜けてからならいい?』

「…いいよ。」

『やったぜ。』

 

…なんだかすごく怖い会話を聞いてしまった気がする。

なるべく目を離さないようにしなきゃ…

 

「…私はあっちいくけど、楽しんでね。」

「はい!」

 

そう言うとマキマさんは、デンジさんたちがいる方に行ってしまった。

 

その後は飲み大会やら大食い大会やら色々起こっていたが、なんだかんだあって飲み会もラストスパートになっていた。

 

「…っ」

「あ、アキさん…飲み過ぎですよ…あんまりお酒強くないのに…」

「…悪い…」

『男のプライドってやつかぁ? 若くていいねぇ。』

 

私はというと、酔い潰れてダメになっているアキさんを介抱していた。

普段は全然飲まないのに、今日はやけに飲んでいた。

そんなふうにしていると、後ろから誰かに抱きつかれる。

 

「みーおーちゃ〜ん」

「ひゃっ…!?」

「ンフフ〜、可愛い声出しちゃって〜、そんなに抱きつかれたのが嬉しいのかい〜このこの〜!」

「んっ…そ、そこは…ダメですっ…!」

「ざんね〜ん、ぎゅーしてあげるって…どっかで言ったから〜離してあげな〜い」

「や、やめてっ…くださいっ!」

 

さっきから姫野さんに胸とか腰とかすごい触られるっ…なんだかっ、ちょっと暑くなって…

だ、だめ…こ、これは良くない気がする…!

 

「え、エンティティ! た、助けっ…ひゃっ!?」

『…えっちい。ナイス供給や姫野。』

「きょ、供給!? ちょっ、んんっ! 本当に助けてっ!?」

 

だ、だめ、全然頼りにならない! だ、誰か助けてっ!

…そんなふうにもがいていると、本格的に嫌な予感がしてくる。

 

「…う」

「ひ、姫野…さん?」

「おえっ」

「ひあああああああああああああああ!?!?!?!?」

 

な、何これ!? 臭い!? 気持ち悪い!?

 

「…姫野先輩飲ませるべきじゃねえな…」

「ダハハハハハ!!!! ゲロだ! ゲロをかけられとるわ!」

『ちょっ、助けてって言ってたのそう言うこと!? やべえとりあえず引き剥がさなきゃ!? くっそ硬え!?』

「…トラウマもんだなこりゃ。」

「あらら。…すいません、何か拭くものをー。」

 

「うう…ひぐっ…ぐす…」

「あーらら、派手にばら撒かれちゃったね、こりゃ9歳で経験するもんじゃないね…」

「洋服…お気に入り、だったのに…」

「あららら…」

 

洋服についたゲロは、トイレの洗面台で洗ったところで落ちるはずもなく、ニオイも取れず、結局捨てることになった。

アキさんは気にするなって言っていたからいいのかもしれないけれど、あの洋服は私のお気に入りだった。

 

「アキくんが予備の服持っててよかったね、持ってなかったらもっと酷いことになってたかもねー…」

「う…うわあああああああんん!!」

「あららら! ごめんね!」

 

ヤダヤダヤダ! 今より酷い目に遭うのやだあああああ!

 

『んもー、トラウマ掘り返しちゃダメでしょ…マム9歳だよ?』

「ごめんね、あんまり小さい子のお世話とかしたことなくて…」

『よーしよし、マム大丈夫だからね、あんなゲロまみれにならなくてもいいからねー?』

「うう…ぐす…」

『さて、僕らも帰ろっか?』

 

エンティティが抱っこして私を持ち上げてくれる。普段なら嫌だけど、今日はもう嫌だと言う気持ちが強くて、身を任せてしまう。

 

『おっと。暴れないの珍しいね。そんなにいやだったの? ゲロ。』

「……やだ」

『そりゃそうか。デンジくんなんか持ち去られてたけど、僕らはとりあえずアキくん家に帰るよ。寝ててもいいからね?』

「…うん。」

 

エンティティの背中かお腹かわからないけど、抱えられていると揺れでだんだん眠くなってくる。

 

『…おやすみ。せめていい夢を。』

「…んん」

 

そのまま私は眠ってしまった。




【朗報】デンジ、地雷を避ける
【悲報】デンジ、もらいゲロで結局姫パイに持ち帰られる

ゲロぶっかけられてギャン泣きする澪ちゃん可愛いね。

そしてさらっとエンティティの能力公開です。簡潔に説明すると悪魔ぶっ殺したら強くなります。
夢って見たらすぐ忘れるじゃないですか。それがなんか吸い取られるような感覚だなと個人的に思ったのでこんなかんじの能力が実装されました。
ちなみにまだ能力隠しています。DBDキラーを呼び出す能力に関わっていますが、その能力の全貌が明かされるのは多分もっと先でしょう。
今回は、永遠の悪魔に一瞬とはいえ強い恐怖を植え付けたためばっちり恐怖を回収できました。
力が増えたのでついでに人間にもなれるように。やったねえんてて。
ちなみに女体化させた理由は感想欄で「えんててって女神らしいぜ」と言われたから。どんな感じかはみんなの想像力を使え!


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公安襲撃 1

体調不良でアニメ更新きてからすぐ書けなかったんだ…ごめんよ…



「んん! うめえな!」

「お店のラーメンはやっぱり美味しいです!」

『いいな〜! マム〜、僕も食べたいよ〜』

「出費が嵩むから我慢しろ。」

『ちぇ、そろそろ給料日ってやつだって聞いたんだけどなー!ケチくさいなー!』

 

あの地獄のような飲み会から1日後。なんだかんだあったが、普段通りの日常だ。

マキマさんは京都に出張、コベニさんと荒井さんは別行動でパトロール。私たちも午前は別行動だったが、お昼は同じラーメン屋さんで食べることになり、今はここにいる。

そんなふうにラーメンを食べていると、何やら破裂音のような音がする。

 

『…』

「なんだぁ? この音。」

「知らんとは愚かじゃのお? 太鼓の音じゃ!」

「祭りか。」

「そういえばそろそろ夏だから…」

 

夏祭り…。今まで一度も見たことがないけど、今年は見れるかな。

 

「なあウヌら、本当に昨日交尾しとらんのか?」

「意外と紳士なんだよ? デンジくんは。」

『…食事中だぞー。』

 

そんなふうに、食事中によくある雑談をしながら食べていると、隣から声がかかる。

 

「…ここのラーメン、よく食えるな。味、酷くないか?」

 

目線を声がした方に向けると、もみあげの男の人が、一人で座ってラーメンを食べていた。

 

「…誰?」

「そうかぁ? 俺は普通に上手いと思うけどな。」

「私も…」

『趣味わっる、お前どうせラーメンにゴミが入ってた! 弁償しろ! とか言うタイプだろ? 育ちが悪い客ですこと。』

 

…そのエンティティの言葉に反応したのかはわからないが、その客はこちらを向きながら話を続ける。

 

「味の良し悪しがわからないんだな。…まあ仕方ないことだ。幼少期に同じような味の物しか食べてないと、大人になってもバカ舌のままらしい。…舌がバカだと幸福度が下がる。」

「はぁ? ワシ幸福じゃがぁ?」

『パワーさんやめな、そいつと会話しても無駄だよ! いくら舌が良くてもその情報を受け取る頭がバカだと幸福度じゃなくて知能が下がるからね!きっと彼は幼少期からまともな教育を受けてこなかったんだ、かわいそうにね!』

「だっはっは! かわいそうじゃのぉ!」

「やめなよ二人とも…」

 

初対面の相手なのにこんなに煽って…でも、少しスッキリした。美味しい食べ物をバカにする人は嫌いだから。

 

「…俺のじいちゃんは世界一優しくてな。高い店でいいもん食わせてもらった。…じいちゃんはヤクザだったけど、正義のヤクザでさ。必要悪、って言うのかな。女子供も数えるほどしか殺したことないんだと。」

『これが間違った教育を長年受けてきた結果ですか…教育って大事だね全く。ヤクザの殺しが正義なわけないでしょうに。』

「…ヤク売った金で欲しいもんなんでも買ってくれてさ。みんなに好かれた、江戸っ子気質のいい人だった。」

『…こんだけ煽っても揺らがずに話し続けるなんて…精神面の教育だけはすごかったんやな…飽きた。ねー別の店行こうぜー?』

 

 

エンティティがいくら煽っても全く気にせず話を続けるその人。流石のエンティティも面倒になったのか、アキさんに他の店に移ることを提案した。

…そういえば、さっきからあの人の胸元…煙くさい、ような…?

 

「…店変えるか。」

「デンジ。お前も好きだったろ?」

 

そう言って席を立とうとした時。その人はある1枚の写真をデンジさんに見せた。

その写真に写っていたのは、老人と少年。少年はおそらくこのもみあげの人だろう。

 

「なんのつもりだ? てめえ。」

「…知り合いか?」

 

…なんだかこのお爺さん、見覚えがある気がする。

 

『…っあー! 思い出した! このジジイ! ゾンビの馬鹿と契約してカモられたアホの一人か! 蛙の子は蛙ってこう言うこと言うんだ…』

 

そうだ! デンジさんと会ったあの工場の死体の一つ! この写真の人だ!

 

「…銃の悪魔はてめえの心臓と体が欲しいんだとよ。」

 

そう言ってその人は徐に胸元を探り、銃を取り出した。

 

 

 

 

…え

 

 

乾いた音と共に、マムの体が地面に落ちる。

 

『…は?』

「あっ…!?」

「っ!?」

 

一番早く反応したアキが前に飛び出ようとするが、肩を撃たれ、その次に姫野、そしてパワーが狙われる。

しかしパワーは銃撃をよけ、顎にパンチを喰らわせた。

 

「ちょんまげ!」

「っ、『コン』 !」

 

アキの声と共に、もみあげの男は狐の悪魔によって食われる。

顕現した狐の体の大きさも相まって、ラーメン屋は屋根が吹き飛び、半壊の状態になってしまう。

 

『…あいつ殺すか。』

 

マムの体を傷つかない位置に置きつつ、狐が口を開くのを待つ。

狐のことだ、どうせ耐えられなくてすぐ口を開く。

 

『…私の口に、とんでもないものを入れてくれたねぇ、早川アキ。』

「…どうでもいいからさっさと口開けろ。じゃなきゃお前ごと殺すぞ。」

 

マムの影から僕の本体を引っ張り出しつつ、狐に命令する。

 

『…』

 

僕が脅すと、狐はチェンソーと似たような異形になったもみあげ野郎を残し、すぐに消える。

 

「それでいいんだよ。…早川アキ。」

「…なんだ。」

「君邪魔。あいつは僕が確実に殺す。せいぜいお仲間の心配しといて。…あと、マムの体。傷ひとつなく守っておくように。」

「…わかった。」

「よし。」

 

早川にマムのことを任せ、クソ刀野郎を殺すため、あいつが落っこちたところに向かう。

 

『ぬうううん!』

 

刀野郎、どうやら再生速度はいい方らしい。チェンソーもそうだったしまあ当然か。

 

『ふんっ!』

 

でも

 

『せええいっ!』

「おっそい。…所詮は人か。」

 

間抜けに剣を振るってるこのクソ野郎に蹴りを入れる。

 

『ぐゲェっ』

「雑魚は雑魚らしく身分弁えてすっこんでろよ。僕とマムの生活を邪魔すんな。」

 

きっしょい見た目の頭を踏み潰してフィニッシャーを決める。

…頭潰しときゃもう動かないでしょ。

 

「…さて。」

 

確かあの刀野郎、変身する前に銃持ってたはずだ。

ボコボコになったあたりを軽く見回す。

 

「…お、あった。」

 

お目当ての銃を見つける。

それを握りつぶし、軽く僕の血を混ぜつつ固めてやる。

 

「あーっと言うまに銃の肉片のかんせーい。」

 

…あくまで偽物ではあるが、力を引き出しすぎず、マムを蘇生させるだけくらいならこれでいい。

 

「全く、あのカスが銃持っててくれてよかった。」

 

僕が生み出した肉片(偽)をマムの口に入れてやる。

すると、マムの心臓部に引き金らしい何かが生えてくる。

 

「よしよし。」

 

引き金に手をかけ、そしてそれを思いっきり引く。

あとはしばらく待てば蘇生するだろう。

 

「…はいみなさん注目。」

 

手を打ち鳴らし、その場にいた4課の目線をこちらに向ける。

 

「アキくんには事前に伝えておいたけど、君たちに言っておきたいことがあります。マムについてね。

さっき見てもらった通り、マムはデンジくんと同じような奴なんだよね。」

 

その辺でぶっ倒れてるデンジくんのスターターを引っ張って蘇生しつつ、話を続ける。

 

「まあデンジくんとは違って心臓が悪魔になってるわけじゃなくて銃の肉片が埋め込まれてるってだけだから血さえあれば蘇生できるってわけじゃないんだけどね。銃の肉片あれば例え頭撃たれてもマム蘇生できるってことだけ覚えといて。…じゃ、僕ねるからあとよろしく…」

 

力を使いすぎた。ちょっと駆け足な説明になっちゃったけど…ま、あとはアキくんがなんとかしてくれるよね…

 

 

目が覚めた時に見えたのは、アキさんが斬られたところだった。

 

「…まだ生きてる。デビルハンターのスーツは頑丈だからな。…トドメを刺して。」

 

あ、助けなきゃ…アキさん死んじゃう…

右手にくっついてる銃みたいな何かを徐にあれに向けて、左手で…引き金を、引く。

そうすると、あの刃物の人の頭が、吹き飛ぶ。

 

「…はっ!? …クソッ、情報と違うじゃん!」

 

奥にいた女の人が、刀の人抱えてどっかいった。アキさんは…生きてる。

 

「はは、は…よか…った…」

 

っあ、ちが、とまらない…

 




毎回最後ぶっ倒れてるなこのオリ主。なんでだろ。
と言うわけで澪ちゃん、心臓に銃の肉片いっぱい埋め込まれている系女子でした。
ぶっちゃけ悪魔の肉片を心臓に埋め込まれるって言う前例がないので難しいんですけど、多分契約みたいに能力使う上で対価入らないけども、その分武器人間sみたいに能力に反動がないってわけじゃないと思うんですよね。
なので能力使うたびにぶっ飛んだ反動がくるって言う今の感じになりました。
…もしここに銃の悪魔が乗り移ったらどうなるんでしょうね。
そしてさらっと救済される姫パイとアキくん。…タバコのシーン無くなっちゃうので批判覚悟だったりします。でも助けたい命がそこにあったんです…お兄さん許して...(懇願)


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公安襲撃 2

前回の話で沢渡ともみあげ兄貴を速攻でフェーズアウトさせちゃったせいで今回の話クッソ悩みました。やっぱアニメだけで二次創作書くのきついわ…


「くそッ、向こうにも銃と契約してる奴がいるなんて…っ」

 

沢渡アカネは焦っていた。銃と契約をしてまで奪いたかったチェンソーの心臓の奪取に失敗し、その上で仲間であるもみあげの男を瀕死にまで追い込まれたのだから。

 

「アカネさん!」

「来たか、こいつを車に! 心臓の奪取は無理だ! さっさとずらかるぞ!」

「り、了解です!」

 

もみあげの男の体を子分に渡し、車に積ませる。蘇生は移動中にやればいい。

そんなことを考えつつ、体を坊主の子分…三島に渡した時だった。

 

「クソッ、重い… おい、お前も手伝え!」

「はいはいはいはい…ったく」

 

その三島は体が重すぎたのか、もう一人のニット帽の方に声をかけ、手伝わせようとした。

二人でもみあげを持ち上げようとする。だが。

 

「…おい! 何してんだ! 突っ立ってないで手伝え!」

「ま、待て、な、なんだ…なんだこれ?」

 

突然ニット帽が何かを見たかのように慌て始める。

もちろん何かあるわけでもない。沢渡はイラつき、思わず声をかける。

 

「おい! 何してんだ、さっさと体を…」

「な、なんか…なんか変な感じだ!?」

「そんなのどうでもいい! さっさと」

 

沢渡が言葉を言い切る前に、ニット帽が目の前で、何かに捻られるようにして爆ぜた。

 

「…は!?」

 

周辺に血溜まりができ、中心にはそのニット帽がきていた服が、血まみれで残され、他には何もなかった。

肉片など一つもない。まるで悪魔に肉体を食われたように。

 

「ひっ…ひいいいいい!?」

「…っ、」

 

沢渡は懐からトランシーバーを取り出し、マキマの殺害を担っていたC班に連絡するため、連絡役のE班に通信を繋ぐ。

 

「E班! C班に再度マキマの死亡を確認させろ! 急げ!」

『…こちらE班。さっきから、Cとの連絡が取れな』

「おい!? E班! 応答しろ!」

 

肉と骨の捩れるような音とともに、E班の男とも連絡が取れなくなる。

どうやら同じようにやられたようだ。

 

「…あの女か…!」

 

思わず拳を握り込むが、今は逃げるのが先だ。

沢渡は唯一のこった三島に声をかける。

 

「おい! お前だけでもいい、さっさとそいつを車に載せろ!」

「は、はい!」

 

しかし、三島も動きを止める。

 

「おい! 急げって言ってんだろ! 聞いてんのか!?」

「あっ…あ、ひ、」

 

その三島も、服と血溜まりだけを残し、捻じ切れるようにして消えた。

 

「クソッ、」

 

もはや自分だけしかいなくなってしまった沢渡は、もみあげの男をなんとか車に引き上げようと、体を持ち上げる。

そんな沢渡に、声をかける人物がいた。

 

「…あの。」

「っ!?」

「…あなたたち…銃撃犯、ですよね?」

「クソがっ! 蛇! 尻尾!」

 

自らの爪を犠牲に、沢渡は蛇の悪魔を呼び出し、そのデビルハンター…コベニを攻撃させる。

 

「…っ!」

「はぁ!? あいつ猿か!?」

 

コベニは、自分に向かってきた蛇の尻尾を足場のように使い、その上を走って沢渡に向かって行く。

沢渡はその場に落ちている拳銃をコベニにむけ、引き金を引く。

 

「ふ…っ!」

「嘘だろっ!?」

 

しかしその銃弾すらも避けられ、代わりというように包丁が飛んでくる。

 

「ちっ…!」

 

なんとかその包丁を回避するも、沢渡はコベニを倒す術はもうないと考え、車に乗り込んでドアを閉める。

その場に落ちていた銃を撃っているのか、銃弾が飛んでくるが、なんとか運転席に辿り着き、車を発進させる。

一気にアクセルを踏み、その場から離れる。

…デビルハンターだろうが人間だ、流石に車には追いつけないだろう。

 

「…はぁ…」

 

思わず息を吐きつつ、沢渡は車をヤクザの事務所に向けて走らせる。




すみませんこれで勘弁してください。澪ちゃんもえんててもダウンしてるから原作を文字起こしするくらいしかできないんじゃ…


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強化合宿 1

…え、襲撃編もう終わりなの!? サムライソードマンまだ出てくるよな!? 出番これで終わりとかいうなよ!?


「…うう」

『おやマム。おはよう。』

「またベッド…」

『あはは、4課入ってから倒れまくってるよねー。』

「あんまり笑えないよ…」

 

何度目かはわからない病院の天井。

どうやら私はまた病院に担ぎ込まれたらしい。

最近は悪魔を狩るたびに何かしらの原因で倒れていたるするし、自分の弱さが嫌になる。

 

「どうやったら強くなれるかなぁ…」

 

思わずそう呟く。

とはいえ力も体格もない私じゃ強くなるのは無理だ。

本当にどうすればいいんだろう。

 

『ん? マムもう十分強くない?』

「…気休めはいらないよ…」

『いや気休めじゃなくて。左手みなよ、まだ残ってるし。』

「え…?」

 

そういえば掛け布団で隠れていて手が見えなかった。

手を布団から持ち上げる。

 

『ほら。』

 

布団から現れたのは、私の手のひらではなく、銃だった。

 

「えっ…あっ…なん…で?」

『あれ? 覚えてないの? マム使ってたじゃん、銃の力。』

「なん、なんで私…こんなの…」

 

その銃は引っ張っても叩いても、何をしても私の手首から取れなかった。

 

『…マム、まさか気づいてなかったの…?』

「わ、私、悪魔…人間じゃないの…?」

『…マジか。マム、少なくとも君は人間。だから一旦落ち着こ。大丈夫だから。』

 

深呼吸して、というエンティティの言葉に合わせ、大きく息を吸い、そして吐く。

…少し落ち着いた。

 

「…私、なんでこんなのに…?」

『マムの体にはね、何があったのかはわからないけど、銃の肉片が結構な量埋め込まれてるの。』

 

ああ、と少し納得した。ホテルで肉片が私に反応したのはそういうことだったんだ。

 

『それでね、マムは今まで本能的だかなんだかで力をセーブしてたんだ。でも今回ので全力で力使っちゃった。だから肉体の一部が銃に置き換わったっぽいんだよね。』

「…」

『アキが力を使わせすぎるなって言ってたのもそういうことなんだよ。てっきりマム自覚あると思って伝えてなかったんだけど…まさか無意識とは。』

「…ずっと、あったんだ。私の中に。」

 

気持ち悪い。

思わず自分の左手だったものを強く握ってしまう。

本来あるはずの左手の痛みはなく、そこにあったのは銃の硬い感触と右手の痛みだけだった。

 

『…まあ、使わなければそれ以上の侵食はないと思うよ。』

「…そっか。」

 

左手から目を逸らし、流れ続けていたテレビを見る。

そこでは今回の事件についての報道がされていた。

一部のビルに綺麗な穴が空いている様子も写っていた。

 

『…うるさいし消すね。』

「…」

 

エンティティがテレビを消したその時だった。

病室がノックされる。

 

『おや。誰かな?』

「…どうぞ。」

 

私の言葉を聞いてから、扉のドアが開かれる。

入ってきたのはアキさんだった。

 

「…大丈夫か。」

「まあ、一応は、怪我も…少し痛むけど。」

 

アキさんは備え付けの椅子に座って、話を続ける。

 

「…お前がそれを使ってくれたおかげで、俺たちは生き残れた。」

「っ…」

 

思わずまた布団に隠れた左手を握りしめてしまう。

 

「…だから、気にすんな。」

「本当は、怖いんじゃないんですか。」

 

アキさんに向かって言う。

 

「私が銃の悪魔だから。」

「…お前は銃の悪魔じゃ…」

「でも、私の左手は銃の悪魔のそれじゃないですか。本当は怖いんですよね。」

「…」

 

私の言葉に、アキさんは黙ってしまう。

…やっぱり。

 

「やっぱり、怖いんじゃないですか。」

「…」

「それもそうですよね。みんな中の悪魔に大事な人を殺されたって言ってましたもんね。」

「…」

「私、デビルハンター辞めます。銃なんていても迷惑ですよね。だから…」

「澪。」

 

黙っていたアキさんが突然声を上げた。私は思わずそれに驚いて、喋るのを辞めてしまう。

今辞めちゃったらダメなのに。

 

「お前は銃の悪魔なんかじゃない。」

「っ…でも!」

「お前が銃の悪魔なら、今俺はこうやって話せないだろ。もう死んでる。」

「…そう、ですけど…」

「それに。」

 

アキさんは私の銃を手に取り、続ける。

 

「お前がいてくれなきゃ、あいつらの世話が大変なんだ。」

「…」

 

まだ、私は必要なんだ。

思わず涙がこぼれる。

 

「あのバカ二人はやべえ。俺一人じゃ制御しきれない。だからお前がいなくなったら、俺が困るんだ。」

 

私の左手を撫でながら、アキさんは言葉を続ける。

 

「お前がどんなに変わっても、中身が変わらないなら澪のままだ。ただでさえ人手が足りないし、だから……辞めないでくれ。」

「わかり…ました…。 まだ、続けます。」

「…助かる。」

 

アキさんは私の体を強く抱きしめてくれた。特に私の続けますと言う言葉のところで。

 

 

『いやー、熱い抱擁だったね! でもアキ今度からマムの半径20m以内に近づかないでね!ムカつくから!』

「…無視でいいです。」

「わかってる。」

 

アキさんがむいてくれているりんごを食べながら、二人で話を続ける。

 

 

「…誰が、いなくなったんですか。」

「姫野先輩とバカ二人以外、だな。」

「そうですか…。」

 

飲み会で仲良くなった人、みんないなくなっちゃったんだな。

少し寂しくなる。

 

「…そういえば。マキマさんがお前呼んでたな。退院したらきてくれって。」

「あ、わかりました。」

「…切ったやつ、ここに置いとくから。俺は一旦帰る。」

「…はい。」

 

お土産のリンゴを剥き終わったアキさんは、椅子から立ち上がって、そのままドアを開けて帰って行った。

 

『…受け入れられるとは。なかなかメンタル強いねアキ君。』

「…でも、よかった。」

『んねー、マムが追い出されたら公安潰すところだったよ。あ、でもマキマと戦いたくはないしスルーしてたかなぁ。』

「潰しちゃダメだよ…」

『マムまだいるし潰さないって〜。』

 

そんな風に、目覚めの1日は過ぎていった。




アキ君もいくら姫パイ死んでないとはいえ顔馴染み死んじゃってると寂しいと思うんですよ。その上で澪ちゃんにまで辞めるとか言われたらほんとに悲しくなると思うんですよ。でも考え改めてくれたら嬉しいと思うんですよ。それを表現しようと思ったらこうなりました。別にヤンデレとか恋愛描写とかではないです、はい。どっちかって言うと親目線。(早口)
次回は岸辺先生と訓練することになる…のですが。澪ちゃんの性格じゃあのいかれポンチの皮被ったバケモンのお眼鏡には叶わないと思うんですよね…
まあそのうち書くので更新をお楽しみに〜。


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強化合宿 2

遅れて申し訳ないです! ようやく先が思いついたので書いていきます!


「…えっと、マキマさん。これって…どういうことなんですか?」

 

ようやく退院の許可が降りて公安に戻れたはいいものの、戻ってすぐにマキマさんにこの墓場まで案内された…のだが。

 

「なんで…デンジさんとパワーさんが殺されてるん…ですかね。」

「指導だよ。」

「し、指導…。」

「そう。岸辺先生には話は通してあるし、好きにやってみていいよ。」

「は、はぁ。」

 

そう言ってマキマさんは私を置いてどこかに行ってしまった。

 

『うわ、血がすごいねぇ。あれが指導って公安怖いんだなぁ。』

「と、とにかく止めようか…。好きにやっていいって言われたし…」

 

とりあえず変形してしまった左手を、デンジさんたちをさっきから殺している人に向けて…撃つ。

それなりに遠いところにいたからか土煙で見えないが、流石に当たっただろう。

…しかし。

 

「…殺しちゃった。」

『まーマキマは好き勝手やっていいって言ったしいいんじゃないの?』

「うん…。そ、それよりデンジさんたちを…」

 

急いでほとんど肉塊と化しているデンジさん達に駆け寄る。

確か血液パックが…

 

「…無言で奇襲は悪くなかった。味方ごと容赦無くそれを撃つところもな。」

「えっ」

 

一瞬で私の視界は暗くなった。

 

 

『…へえ。マキマには聞いてたけどやっぱり君強いんだね。』

「お褒めに預かり光栄だ、悪夢の悪魔。てめえのご主人様を殺しちまったわけだが…俺を殺さなくていいのか?」

『うん。本当は今すぐ君をなぶり殺したくて仕方がないよ。…でもまあ、これは訓練の一環だから蘇生はできるからね。』

 

そう言いながら、僕は、僕が生み出した銃の破片をマムの切り飛ばされた首の口に入れ、それを胴体にくっつけながら話を続ける。

 

『それに、君には生き残ってもらわなきゃ困るんだ。マキマを殺せない。』

「…あいつを殺して何するつもりだ? 悪魔さんよ。」

 

…驚かない。それどころか冷静にタバコを吸ってる。本当にあれの正体に気づいてるみたいだね。

 

『僕はチェンソーマンと戦ってみたいんだよ。銃を圧倒したっていう、本来のチェンソーマンとね。それにはあいつが邪魔なんだ。だから殺す。それにあれを殺すのは君たちにとっても都合がいいだろう?』

「…せいぜい人間様の敵にはならないことだな。」

『君たちこそ。僕の邪魔をしないでくれよ? …あ、マムはこの件には関係ないからね。』

「…それよりさっさと起こせ。」

 

全く、せっかちなデビルハンターだねぇ。

ま、僕の邪魔をしない限りは生かしておいてあげようか。

 

 

「…寝るから帰る。明日家に迎えに行くから待ってろ。」

 

岸辺さんは死屍累々の私たちにそう言い放って去っていった。

あの人、強すぎる…

 

『いやーみんなお疲れ様! その格好で倒れてると死体みたいだねぇ! いや実際死体になってたわけだけどさ!』

「…う、動けない…」

『マムこんなに動いたの久々だしねー。お疲れー。はい水。』

「ありがとう…」

 

なんとか起き上がり、エンティティから水を受け取ってそれを飲む。

…美味しい。

 

『ほらそこの二人も立てよう。水やらんぞー。』

 

パワーさんは大丈夫そうだが、デンジさんが一向に起き上がらない。

大丈夫だろうか。…まさか本当に死んだりは…?

 

「で、デンジさん? 大丈夫ですか?」

 

少し焦りを覚え、彼に声をかける。

すると。

 

「…ぎゃ」

 

よかった、生きてるみたいだ。

 

「おぎゃあ…おぎゃあ…おぎゃあ…」

『…草。』

「ちょっ、デンジさん!? 絶対大丈夫じゃないですよね!?」

「あばば! デンジが壊れた! な、なおれ! なおれ! なおれ!」

「ちょ、叩いちゃダメですよ!?」

 

デンジさんの頭をぶん殴ってたパワーさんを抑えつつ、エンティティに慌てて声をかける。

 

「エンティティ! 水! 水を顔にかけてあげて!」

『…ちょっと面白いしこのままでも…』

「早く!」

『はーい。』

 

エンティティがデンジさんの顔に水をかけると、どうやら戻ったようで目にハイライトが入る。

 

「…お、俺…今日何回殺された…?」

「じ、10…くらいですかね?」

「…20はいっとるじゃろ。」

『んー、正確には34回だね。みんな死にまくってて途中から笑っちゃったよ。』

 

あっはっはと笑うエンティティを無視しつつ、水を全員に渡す。

こっちの気も知らないで… 全く。

 

「…帰りましょうか。とりあえず。」

「「…おう」」

 

 

崋山さんの肩で揺られながら、帰り道に向かう。

行きは車で来たせいか、帰り道がとても険しく感じる。

 

「…あのジジイ強すぎじゃ。」

「こんな生活続いたら…楽しくねえぞ。」

「…体に力が入りません…辛い…」

 

三者三様につぶやく。

あの岸辺さん、本当に強すぎる。

 

「楽しくなるために頑張ってきたのに…楽しくないのに頑張るのはクソだ。」

「…」

「…逃げるか? 三人で。」

 

パワーさんがそうつぶやく。

でも…。

 

「…逃げたら今度こそ公安に殺されるんじゃ…?」

 

あの日…マキマさんに追い詰められた時のことを思い出す。

あんな経験は二度としたくない。

 

「「「…」」」

 

また無言になり、ひたすら崋山さんたちの肩に揺られる。

…何だか少しムカムカする。

 

「…あンのアル中野郎…俺たちをおもちゃ扱いしやがって...。だんだんマジでムカついてきたぜ…!」

「なんとか見返してやりたいです…!」

 

「わかった!!」

 

そう言っていると、パワーさんが突然大声で手を上げる。

少しびっくりしてしまう。が、冷静に聞き返す。

 

「何が…ですか?」

「あいつを倒す方法じゃ!」

「どんなんだよ。」

 

デンジさんが聞き返す。

 

「あいつは超強い。だがあいつは酒で頭がダメになっておる。つまりわしらは頭を使って戦えばいいんじゃっ!」

「…なるほどな!」

「え、えっと…」

 

最初からそれができれば苦労はしないんじゃないかと思った。

確かに作戦は大事だけど、あの人の場合全部力でねじ伏せてきそうだし。

だけど…。

 

「俺も最近めちゃくちゃ憧れてたぜ!漫画とかの頭がいいキャラみたいに戦えたらな〜ってよぉ!」

「頭脳であいつをぶっ殺すか!」

 

…止められなさそうだし、もういいかな…。

 

「じゃ、じゃあ作戦考えませんか! 岸辺さん、迎えに来るって言ってましたし、地の利を利用してーとか!」

「いいじゃねえか澪! なんか頭良さそうだぜ!」

「地の利! わしもそれ考えてたんじゃ!」

 

そのあとはずっと作戦について三人で話していたら、あっという間に家に着いた。

三人ともさすがに体に堪えていたのか、泥のように眠った。

 

 

 

 

 

 




ちょっち短めで申し訳ない。
今回一番多く岸辺先生にぶっ殺されたのは実は澪ちゃんだったりします。
ほとんどずっと死んでたせいで10回くらいしか殺されてないと勘違いしてます。
本当は起き上がった瞬間殺され続けてただけなんですがね。可哀想。
コウモリ戦の時も描写してましたが、えんてて君の目的は本来のパワーのチェンソーマン(ポチタ)と戦うこと、あとマムをよしよしすることです。
ちなみに澪ちゃんの銃の力は使えば使うだけ銃の悪魔に近づきます。首チョンパから蘇生もそれが原因。


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