痛いのは嫌だけどこの素晴らしい世界に転生したいと思います。 (タイラー二等兵)
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1話 防御特化と出会いに祝福を!

このファンで防振りコラボが始まったので、書きかけだった作品の1話目を記念に投稿してみました。2話目は書きかけなので、そこまでは書き上げて投稿するつもりです。3話目以降は例によって、作者の気分次第という事で。

※このすば!という物語の性質上、楓と理沙は死亡している設定です。そういうのがイヤな方はブラウザーバックを推奨します。


── カズマ ──

 

「あの、サトウさん。少しお願いがあるのですが」

 

セナにジャイアントトードの討伐をさせられた翌日。ウィズのお店で用事を済ませた俺達は、帰りがけにギルドに立ち寄ったわけたが。

 

「今日冒険者になったばかりの方がいまして。先程ジャイアントトードの討伐に出られたのですが、出来たら様子を……」

 

「お断りします!」

 

俺は受付のお姉さんのお願いを、全力で辞退をした。冗談じゃない。昨日あんな散々な目にあって、なんでまたアイツらの所に行かなきゃならん。

確かに今の俺達には莫大な借金がある。だからといって、仕事を選ぶ権利はあるはずだ。

……まあぶっちゃけ、俺達はジャイアントトードと相性が悪い。しかも現在、壁役のダクネスが不在だ。そんな俺達にとって、様子を見に行くだけでも荷が勝ちすぎている。昨日のセナのような事だってありうるし、ここはお断りするのが吉だろう。というか、まだジャイアントトード残ってたのね。

 

「そうですか。サトウさんと同じ年頃の女の子二人組だったので、少し心配だったんですが……」

 

「お姉さん、詳しい話を!」

 

「チョロいわね」

 

「チョロいですね」

 

うるさい。サブヒロインは黙ってろ!

 

「何かしら。今、とても不愉快な思考を感じたのだけど」

 

「奇偶ですね。私もです」

 

お前ら、勘、良すぎだろ。

 

 

このすば!

 

 

お姉さんの話によると、一人は胸部甲冑以外の防具を身に着けない軽装で、二振りの短剣を装備したアサシンクラスの女の子。もう一人は黒い鎧に黒い大盾を装備した、シールダークラスの女の子。

因みに受付のお姉さんも、シールダーという職業は初めて見たらしい。

これらの情報を得て俺達は、昨日ジャイアントトードと死闘を繰り広げた場所へとやって来た。そこで目にしたのは、有り得ない闘いを繰り広げる二人の少女の姿だった。

二人は三匹のカエルに取り囲まれている。そしてすぐ傍には、二匹のカエルがすでに地に伏していた。

カエルは舌を伸ばし軽装の少女を絡め取ろうとするが、少女はそれをかいくぐったかと思うと、素早くカエルに近づき、向かって左の足を切りつける。

カエルは体を支えられなくなり、左前方へ倒れ込んできた、そのタイミングで、少女はカエルの喉を切り裂き左へと身を躱す。倒れたカエルは数度痙攣をしたあと、息絶えたのか動かなくなった。

だけど少女はそれを確認するまでもなく、次の標的へと駆け出していた。少女に気づいたカエルが舌を伸ばすと、今度は軽くジャンプをして躱し、一旦舌を蹴りつけ本体に向かって跳躍、頭を跳び越えたところで振り向きながら剣を一閃し、カエルの後ろ首筋を切り裂いた。

と、そこで残りの一匹が少女に向かって舌を伸ばす。マズい。空中じゃ身動きが!

そう思った次の瞬間。

 

「『カバームーブ』!」

 

盾を持ったもう一人の少女がそう言った次の瞬間、軽装の少女前に移動して盾で攻撃を受け止めていた。

 

「『悪食』っ!」

 

ってなんだ!? カエルの舌先が、抉られたように消滅した!?

二人は地面に着地……いや、盾の子は背中から落ちた。

 

「メイプル、大丈夫?」

 

「うん、平気平気。サリーも無事で良かったよ」

 

メイプルと呼ばれた盾の子は、軽装の、サリーと呼ばれた子が差し出した手を握り立ち上がる。そして二人は、舌を抉られてもがくカエルを見て。

 

「……最後の一匹は、メイプルに任せる」

 

「え、でも……」

 

メイプルはなんだか躊躇ってるみたいだが……。

 

「メイプルも倒さなきゃ、レベリングの意味がないよ?」

 

「うっ、そうだよね」

 

どうやらカエルを倒すのを躊躇してるみたいだな。まあ、生き物を倒す、命を奪うんだ。最初の内は尻込みしても仕方がない。初心者あるあるってやつだ。

……俺の場合は無我夢中で、それどころじゃなかったけど。

 

「それじゃあいくよ。

『超加速』!」

 

「『カバームーブ』!」

 

サリーが目にも止まらぬ速さでカエルの後ろに回り込むと、それに追随する形で、メイプルがサリーとカエルの間に割り込むように現れる。

 

「『悪食』っ!!」

 

メイプルが盾をぶつけ(シールドアタックし)ながら叫ぶと、今度はカエルそのものが消失した。

けど、これって……。

 

「な、なんですか、彼女達は。とても駆け出し冒険者の闘い方ではありませんよ?」

 

「それにあんなスキル、見たことも聞いたこともないわよ?」

 

あんなスキルって、あの「悪食」ってやつだよな?

 

「……ねえ、あなた達。さっきからなんなの?」

 

「うおっ!?」

 

驚いた!? 少し目を離した隙に、サリーが俺の目の前に立っていた。

 

「カズマってば『うおっ!?』ですって。プークスクス、ちょーウケるんですけど」

 

こいつ、グ-で殴ってやろうか!?

 

「ちょっと……!」

 

「ああ、すまん! 俺達はギルドのお姉さんに頼まれて、あんたらの様子を見に来たんだ」

 

「え、私達の?」

 

遅ればせながらやって来たメイプルが、俺の言葉を聞き返す。

 

「ああ。お姉さんが心配して、俺に頼んできたんだ。俺も冒険者の端くれだからね、快く引き受けさせてもらったよ」

 

「よく言いますね。最初はきっぱりと断っておきながら、女の子二人組と聞いて掌を返していたのはどk……」

 

「あーっ、めぐみん! 余計なこと言うんじゃねえっ!!」

 

遅まきながら、めぐみんの発言を遮り二人を見ると、サリーは冷ややかに、メイプルは苦笑いを浮かべてこっちを見ている。チックショウ!

 

「だ、だけど心配したのは本当で……」

 

「下心が無ければねー?」

 

「すみませんでしたッ!」

 

俺は想わずDOGEZAした。

 

 

このすば!

 

 

「じゃ、じゃあ改めて自己紹介だ」

 

まだ若干跋が悪いが、このままじゃ話も進まないし、仕方がない。

 

「俺は冒険者の佐藤和真だ。一応このパーティーのリーダーをしてる」

 

「サトウ…カズマ……」

 

サリーが何か呟きながら、考え込み始めた。けど、それを気にするよりも前に。

 

「ハーッハッハッハァ! 我が名はめぐみん! 紅魔族随一のアークウィザードにして、爆裂魔法を操りし者っ!!」

 

めぐみんの名乗りにはさすがに驚いたのか、サリーは思考を停止させてぽかんとしている。

 

「えーと、めぐみんって愛しょ……」

 

「メイプルとか呼ばれてましたね。なんですか。親がつけてくれた名前に、文句があるのですか?」

 

「ごめん、なんでもない」

 

メイプルは素直に謝った。しかし気にすることないぞ? それが普通の反応だからな。

 

「さあ、次は私の番ね。ふふふ、聞いて驚きなさい。私の名はアクア。アクシズ教の御神体にして水の女神その人よ!」

 

「……と思い込んでる残念なアークプリーストです」

 

「ちょっとめぐみん! どうしていつも信じてくれないのよぉ!!」

 

それは、信じてもらえるようなことを、しないからである。

 

 

このすば!(信じてよぉ!)

 

 

「あー、騒がしくてすまなかったな。本当はもう一人、ダクネスって言うクルセイダーがいるんだが、今はちょっと不在なんだ。

それで君達は、メイプルとサリーで、いいのか?」

 

俺は最後だけ真剣な口調で、確認するように聞く。本当にその名前が本名なのか、というニュアンスを込めたつもりだ。

この二人はおそらく、日本からの転生者だろう。あの盾は転生特典だと俺は睨んでいる。

二人は目配せをしてから、メイプルが先に口を開く。

 

「あー、えーと、メイプルはアバター名……じゃなくてニックネームなんだ。

私は本条楓。楓でメイプルね。で、この子が……『覚醒』!」

 

そう言って指に嵌めた指輪を翳すと、20センチくらいの亀型モンスターが現れた。

 

「私のパートナーのシロップ。二人合わせてメイプルシロップだよ」

 

「……ポ○モンか?」

 

思わずそう言ってしまった俺は、悪くないと思う。

俺の言葉に、違うと思うけどなー、と言いながら左手を頭の後ろに当てて苦笑いを浮かべるメイプル。それに対してサリーは、僅かに表情を険しくさせた。

しかしすぐに表情を軟化させて自己紹介を始める。

 

「私は白峯(しろみね)理沙。理沙を引っくり返してサリーね。そして私も……『覚醒』」

 

サリーもメイプルと同じ様に、キツネ型モンスターを呼び出し。

 

「この子が私のパートナー、(おぼろ)

 

「ポ○モン、じゃないんだよな。……そうか! デ○モン……!」

 

「うーん。それも違うかなー」

 

うん、わかってる。

 

「でも、近いと言えば近いかも」

 

呟くサリー。ってか近いのかよ!

……待てよ? アバター。特殊装備。特殊スキル。デ○モンに近いテイムモンスター。何より初心者とは思えない闘い方……。まさか。

 

「VRMMOか?」

 

VRMMO。仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム……だったか。転生前、あっちの世界で普及し始めた新しい体系のゲームシステムだが、要はフルダイブ型のバーチャルリアリティ内にアクセスした人達とわちゃわちゃやるオンラインゲームだ。SA○が現実になったって、一時期話題にもなってたな。

俺はもう少しハードが安くなってから手に入れようと思ってたんだが、その前にこの世界に転生することになってしまった。べ、べつに悔しくなんかないんだからねっ!

 

「あんたってやっぱり日本人……」

 

サリーも俺が転生者だと気づいたようだ。いや、確証が持てたって方が正しいか。

 

「まあ、その辺の所はギルドの酒場か俺んちで」

 

「あんたの家ねえ……」

 

うわっ、サリーのものすごい冷めた視線。

 

「ああ、安心してください。この男はすぐにイヤラシイ視線を向けてきますが、手を出すほどの度胸は無いチキンですから」

 

「おいコラ、ちょっと待てめぐみん! てめえ何、ある事無い事言ってやがる! て言うか、それはどちらかと言えばダクネスのセリフだろっ!?」

 

「ええ。ダクネスが不在なので、代わりに言ってみました」

 

「要らない気遣いしてんじゃねえ!!」

 

 

このすば!




一応、こっちのカズマがいた日本では、VRMMOが普及し始めた世界線と考えてもらえると有難いです。


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2話 防御特化と説明に祝福を!

やっと書き終わりました。


── カズマ ──

 

今、サリーとメイプルは俺達の屋敷に来ている。メイプルが「冒険者の家を見てみたい」と言って、サリーが「まあ、メイプルがいいなら」と答えた、というわけだ。

 

「……えーと?」

 

「見事なくらい、殺風景ね」

 

屋敷の中を見た二人の反応は、俺の予想したとおりのものだった。まあ、それも仕方がない。何しろ。

 

「みんな借金の形に持っていかれちゃったの」

 

アクアが悲しそうに言った。そう。俺達は莫大な借金によって、屋敷の中の殆どの備品を差し押さえられてしまったのだ。残ったのは俺達が今着ている服と日本時代の想い出のジャージ、アクアの羽衣と杖、めぐみんのスタッフくらいだ。

そんな事を説明すると、メイプルは純粋に憐れみを、サリーは呆れを露わにする。

 

「言っとくが、俺のせいじゃないからな! 魔王軍幹部を倒すとき、アクアが洪水クラスの水を呼び出して門と家の一部を破壊したのが原因だから!」

 

「あーっ、何言ってるのよ! カズマだってデストロイヤーのコロナタイトをウィズにランダムテレポートさせて、国家転覆罪かけられたじゃない!」

 

「ばかやろう! 国家転覆罪は濡れ衣だっての! 大体普段から借金こさえてるテメーに言われたくないわっ! この駄女神がっ!」

 

「あーっ、駄女神って言った! この麗しい水の女神の私を駄女神って! この引きニートがぁ!」

 

「引きニート言うな! このクソビッチ!」

 

「クソビッチじゃないわよ! このカスマ! クズマ! ゲスマ! ロリニート! 鬼畜のカズマっ!」

 

こ、こいつっ!

 

「あのー……」

 

更にヒートアップしそうなところで、メイプルが声をかけてきた。

 

「魔王軍幹部とか、デストロイヤーって何のこと?」

 

あ。二人は転生したばかりで、その辺のことはわからないのか。

 

「フッフッフ。私が毎日、魔王軍幹部ベルディアが潜む城に爆裂魔法を撃ち込んでこの街に誘き出し、我らの策で倒したのですよ!」

 

ものは言い様とはこの事だな。

 

「機動要塞デストロイヤーは爆裂魔法で足を吹き飛ばし、中に乗り込んで動力のコロナタイトを処分、最後は再び爆裂魔法で本体を破壊したのです!」

 

「いやー、あの、そもそもデストロイヤーって……」

 

「デストロイヤーはわしゃわしゃしていて、子供に大人気だったのです!」

 

「めぐみんはもう黙ろうか。すまない、俺が一から説明するよ」

 

そう言って俺はベルディアの事、デストロイヤーの事、そしてついでに、俺にかけられた嫌疑についても説明をした。すると。

 

「そのアルダープって人、ひどいなー! まるで初めっからカズマくんに、濡れ衣着せる気みたいだよ!」

 

メイプルが憤慨してくれる。

 

「それにその、ダクネスさんだって……。えーと、その、ダクネスさんは大丈夫なのかな?」

 

それを聞いた俺は手で口許を覆い、メイプルから視線を逸らす。アクアも沈んだ表情になり、めぐみんに至っては昨日と同じように、「ああああああ!」と叫びながら頭を掻きむしっている。

 

「え、ええと?」

 

「ああ、気にしないでくれ。ダクネスは、帰ってきたら何も聞かずに優しく迎えてやるつもりだから」

 

「う、うん。わかった…」

 

イマイチ理解できてないのか、あるいは俺達の意図を汲んだのかはわからないが、戸惑いながらもそう答えて頷いてくれた。

 

 

このすば!

 

 

「それよりも、カズマだったよね? あなたも私達と同じで日本からやって来た、って事でいいのかしら?」

 

そうサリーが訊ねてきた。そういや、その説明のためについて来たんだったよな。

 

「ああ。俺はアクアを持ってくる()()として、こっちへやって来たんだ」

 

めぐみんがいるため、俺はぼかし気味にアクアの事にも触れる。

 

「持ってくるモノ?」

 

メイプルはハテ、という顔をして聞き返したが、サリーはすぐに理解したのかメイプルに耳打ちをした。

 

「……ええっ!? あ、でも、天使さんも女神の代理とか言ってたよね。……えっ、それじゃあアクアさんて本当に?」

 

どうやらメイプルも理解したみたいだ。まあ、天使やら女神やらの単語にめぐみんが訝しがってるが、とりあえずは放っておこう。

 

「それで、アンタらの特典って何だ? メイプルなんかは最初、その装備だと思ったんだが……」

 

だが、テイムモンスターも連れてたりするし、どうも違うみたいだ。

 

「えっとね、サリー……理沙の発案なんだけど、『New World Online』での私と理沙のアバターの、全てのデータを使える様にお願いしたんだ」

 

「ってことは、さっきの『悪食』とかいうスキルも……?」

 

「うん。私が習得したスキルをこの盾、【闇夜ノ(うつし)】の空きスロットに付与しちゃった」

 

メイプルはアハハと笑いながら軽く言っているが、ゲームのスキルにしたってかなり凶悪である。これに泣いたプレイヤーは結構いるんじゃないか?

 

「楓のメイプルとしての異常さは、こんなもんじゃないわよ?」

 

「ちょっと、理沙ぁ!?」

 

からかう様に言ったサリーにメイプルが文句を言うが、さっきの戦闘を見る限り、サリーも充分異常な部類だと思う。

 

「ねえ。ところで、リサの発案とか言ってたけど、もしかして()()()に、二人一緒にいたの?」

 

「え、そうだけど、それが何か?」

 

サリーが訝しげにアクアへ聞き返す。

 

「何か、じゃなくて、本来私達は貴女のような人達と、一人ずつ対応して導いてるの。だから貴女達二人があの場に一緒にいるって事が、普通では有り得ないことなのよ」

 

おお、それは初耳だ。しかしそうなると、メイプルの発言は確かにちょっとおかしい。

 

「ああ、それは理沙が、私と一緒じゃないとって駄々をこねたみたい」

 

「私の交渉を、駄々って……」

 

困ったような笑顔を浮かべるサリー。

 

「因みになんて言ったんだ?」

 

「ん? 三つの選択肢を聞いた後、私と一緒だったら楓も着いてくるかも知れないって言っただけよ」

 

「ええっ、そんなこと言ったの!?」

 

「で、呼ばれたカエデは、まんまとそれに乗っかったというわけですか」

 

「ううー……」

 

結論を言うめぐみんに、やや不貞腐れ気味のメイプル。

 

「でも、だって、理沙とはまだまだ一緒にいたかったから……!」

 

「私だって同じだよ、楓」

 

必死になるメイプルに、サリーは優しく微笑みかけた。ここだけ切り取ると、ゆりんゆりんしてる様に見えるな。

 

「この男、またよからぬ事を考えているようですね」

 

「そうね。また下世話な事でも考えてるのよ」

 

「お前ら、余計な事は言うないっ!!」

 

 

このすば!(勘、良すぎ!)

 

 

少し気分を落ち着けた俺は、改めて二人に聞く。

 

「それで二人は、これからどうするんだ? このまま二人パーティーでやってくのか、それとも他に仲間を募集するのか。

因みに俺は、コイツらクビにしてでもアンタらを仲間にしたいくらいだが」

 

「ちょっと、カズマ!?」

 

「ほほう。ケンカならいくらでも買いますよ?」

 

アクアとめぐみんが文句を言うが、それだったらそう言われない様に努力をして欲しいというもんだ。いや、努力しなくてもいいから、もう少し言う事を聞いてください。お願いします。

 

「……そうねー。パーティーメンバーは必要だったらその時に募集すればいいし、しばらくは二人でレベル上げかな?」

 

ふむ。サリーはしっかりとその辺りの計画は立てていたらしい。……って、そういえば。

 

「なあ、ギルドのお姉さんから聞いたんだけど、確かメイプルの職業って『シールダー』だったよな? お姉さんも初めて見る職業だったらしいんだが、どんなスキルがあるんだ?」

 

「え? えーっと、『大盾装備』とか『攻撃逸らし』、あとは防御力とは別に『ダメージ軽減』みたいな感じかな?」

 

お、攻撃逸らしとかダメージ軽減って、結構使えそうな気がするぞ?

 

「良かったらなんだが、俺にそのスキル教えてくれないか? ほら、俺って『冒険者』だから、教えてもらえればいろんなスキルが習得できるだろ?」

 

そう伝えると、メイプルは困り顔になる。一体何だ?

 

「楓は『ダメージ軽減』以外、スキル習得してないから」

 

「は? なんだよそれ?」

 

「楓は元々大盾使いだから『大盾装備』は必要ないし、『攻撃逸らし』は自動発動スキルみたいだから、発動すると行動が制限されて、運動が得意じゃない楓の場合逆に隙を作る原因になる可能性があるの。だから私が取らせなかったのよ」

 

な、なる程。どうやらサリーはかなりのゲーマーらしい。スキルの特性とプレイスタイルとの相性を考え助言をしているってわけだ。

 

「『NWO』の時は、楓に楽しくプレイして欲しかったから口出しはしなかったけど、さすがにここじゃ生死に関わるから。……もっとも、楓にまともにダメージ与える方が大変だけどね」

 

「どういう意味ですか?」

 

俺と同じ疑問を持ったんだろう、めぐみんが聞き返す。それにはメイプル自身が答えた。

 

「私、VIT(バイタリティ)にポイント全部注ぎ込んでの防御力特化だから」

 

「防御力極振りかよっ!?」

 

「まるでダクネスみたいね」

 

アクアがそんな事を言うが、あいつだって防御力に全振りはしてなかったはず。だが、それを置いといてもだ。

 

「……まさか、ドMじゃないだろうな?」

 

「ええっ!? えっと、言ってる意味がわかんないけど、私は痛いのが嫌だから防御力特化にしただけだよ!」

 

「もちろんゲーム内じゃ感じる痛みは軽減されてるけど、それでも楓にとっては重要案件だからねー」

 

よかった。どうやらまともな理由だったみたいだ。いや、ゲーマーからすれば、縛りプレイ以外の極振り自体がまともな行動じゃないんだが。

……やべ。今、「縛るプレイだとっ!?」とか言って興奮するダクネスが思い浮かんじまった。

 

「痛みは軽減されるし、ゲーム内だから死んでも近くの町からリスタートするのよね。そっちだったら、カズマも無双出来たのかしらね?」

 

「何でお前はゲームのシステム知ってるんだ? ……まあ、そんな疑問は置いといて。さすがにサリーには勝てる気がしないんだが。これが普通のMMOなら戦略次第でどうにか出来ると思うけど、さすがに格ゲーの大会で優勝する様にはいかないぞ?」

 

アクアにそんな事を言って聞かせていると、急にサリーの表情が険しくなる。

 

「ちょっと、カズマ? 格ゲーの大会ってもしかして、『KING of STREET』!?」

 

「えっ? ああ、そうだけど……?」

 

「それじゃあ、まさかアンタが『S・K・FIGHTER』なの!?」

 

「なっ! なんでその名前を!?」

 

『S・K・FIGHTER』は俺が『KING of STREET』、通称『KOS』とか『キンスト』と呼ばれる格ゲーの、大会でのみ使用していた名前だ。

 

「……決勝の対戦相手の名前、憶えてる?」

 

「確か、『LISA』……って、リサ!?」

 

おいおい、まさか? ゲーセン同士の通信対戦を、メイン会場の巨大パネルに映し出すシステムだったから、全然気付かなかったぞ?

 

「……え? もしかしてカズマくんが、ゲームで理沙に勝ったの!?」

 

メイプルは驚き、その視線を俺へと向ける。

 

「いや、勝ったと言っても、色々策を弄して2‐1で、しかも最後はHPバーがミリ単位での辛勝だぞ?」

 

「そうよ! ラウンド1で圧勝したと思ったら、ラウンド2じゃ気がついたらアンタのハメ技に引っかかってて、ラウンド3じゃ全く違う切り口に引っかけられて……!

あーーーっ! 今思い出してもムカつくっ!

ああ、殴りたい! 殴ってもいい? 殴るわよ!?」

 

「いいわけあるかっ!」

 

たかがゲーム、とは言わないが、それで殴られてたら割に合わねえ。

 

「なるほど。どうやらその頃から、姑息な策を弄していたようですね」

 

「姑息とか言うな」

 

全く、どいつもこいつも……。

 

「でも、理沙を引っかける事自体が凄いよ。理沙って戦略家でもあるから」

 

「ああ、それは認めるよ。俺だって準決勝までは普通に勝ち上がってきたんだ。だけどサリーと1ラウンド戦って、まともにやっても勝てないのは分かったから、ちょっとばかし卑怯な方法をとらせてもらった。それだって対処されて、薄皮一枚の判定勝ちだ。多分もう一度やったら勝てないんじゃないか?」

 

これは掛け値無しにそう思う。おそらくサリーは、素の身体能力が高いんだろう。反射神経や集中力も高く、しかも策略家。ハッキリ言って俺に勝てる要素なんて、ほとんど無かったはずだ。

ただ、あの時は俺の策が、サリーの思考を上手く狂わせてくれただけだったんだろう。

 

 

このすば!

 

 

「ねえ、本当に泊まっていかないの?」

 

「いや、ベッドもない家に泊めてもらっても、メリットよりもデメリットの方が大きいと思うんだけど」

 

アクアの申し出に、半ば呆れたように笑いながらサリーは言った。まあ確かに、ジャイアントトードの討伐で引取料も含め、12万エリスを稼いでるんだ。少し高めの宿でも、二人で一部屋なら一泊か二泊は出来るだろう。

 

「サリーの意見はもっともだ。現状じゃ、初心者御用達の馬小屋よりかはマシだろうって程度だからな」

 

というか、今時分馬小屋に泊まったら、下手したら凍死する。

 

「ま、いい宿が取れなかったらお願いするかもね。もっとも楓の運がいいから、そんな事はそうそう無いと思うけど」

 

「えっ、そうかなぁ?」

 

なるほど、メイプルも運がいいのか。当人は気付いてないみたいだが。

 

「うーん、それじゃあ仕方がないわね。水の女神アクアとして、貴女達の幸運を祈っていてあげるわ」

 

「おまっ、幸運値最低なくせに余計なこと言うんじゃねえ! せめて幸運値を上げる魔法をかけてやれっ!」

 

「余計なことですって!? この麗しい女神の祈りを! もう怒ったわ、『ブレッシング』なんか、絶対かけてあげないんだからね!」

 

こいつ、駄々っ子かよ!

 

「あはは、別にいいよ。ほら、理沙、行こう」

 

「そうだね。それじゃ」

 

そう言って二人は屋敷から去って行った。

 

 

このすば!

 

 

その後俺は、めぐみんと日課の爆裂散歩に赴き、それも終わって寒い屋敷で縮こまっていると、扉が叩かれる音が聞こえてきた。

一体何事だろうと玄関まで出てみると、そこにはサリーとメイプルが立っている。

 

「あのぅ、悪いんだけど、泊めてもらえないかな?」

 

消え入りそうな声で、サリーが言う。

 

「えっとね、そこそこ高い宿も満室で、物凄く高い宿か馬小屋しか空いてなかったんだ」

 

苦笑いを浮かべてメイプルが説明をしてくれた。

うん。とりあえずあの疫病神は、後で〆る事にしよう。

 

このすば!




当初(書き始めた頃)の予定では、格ゲーの(くだり)でもう一悶着あるはずだったのですが、これ以上長くするのもどうかというわけで、泣く泣くカットしました。


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