TS逆行したら才能に満ち溢れてた (黒髪赤眼すこすこ侍)
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1.プロローグ
逆行


書こうと思って半年以上経過したn番煎じのTS逆行擬きチートものです


『アオイ、打ち上げに寝過ごすなよ?』

『分かってるよ。じゃあまた後で、レオ』

 

 そう言ってホテルの自室のドアを開けた俺は、疲れもありすぐにベッドに横になった。寝転がって一息つくとおしりの辺りに違和感を感じた。

 スマホや財布を入れっぱなしにしたままであったため、取り出してサイドテーブルに置こうとしたが、調べたい事があったことを思い出し端末に電源を入れた。

 

 いくつか操作して開いたSNSアプリのトレンドには、ある配信者に関連するワードがズラりと並んでいる。それだけでもその人の影響力がどれほど大きいのかよく分かる。

 なぜなら、今日、その配信者が結婚式を挙げ、披露宴を生配信したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりリアルタイムで見たかったなぁ…」

 

 早速作られていたネット記事を読んだり、色々な人の呟きを見ていると、配信を見れなかった事への後悔が出てくる。

 

 時刻は15時すぎ。現在いるスイスと日本ではおよそ8時間の時差がある。本来ならばホテルで有意義に配信を見ようとしていたが、1週間前より始めた実験がなかなか上手くいかなかったため、つい先程まで測定をしやっと有効なデータがとれた。

 なんとか配信中にスパチャは投げられたが、内容は今の今まで全く知らなかったのだ。

 

 SNSにはあの演出が凄かっただとかあの著名人が出てきて驚いたなど、まだ配信を確認していない身からしたらネタバレっぽいものがいくつもある。

 

 その内の一つに、速報値としてある数字が書かれていた。

 

「前日分とTwitchを入れずに約2億か」

 

 件の配信中に投げられたスパチャの総額が2億円。

 前日から動作確認と待機所の役割として開いていた配信分と、別の配信ツールでの分を含めずに稼いだ額がそれだ。

 1回の、それも3時間に満たない配信でのスパチャとしては余裕で日本最高を更新。なんなら昨年の年間総額世界1位をも上回っている破格の数字である。

 

 正直、だいぶヤバい数字だと思う。以前に冗談半分で言っていた10億円には届いてないが、今後どんな人がこれを超えられるのか。この人のファンやら荒らしやらが普段から言っている「最強」が、事実として示された。

 伝説を作って欲しいという気持ちも確かにあったが、ここまでになるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 ふと時間を確認すると、友人と別れてから1時間も経っていた。この後はプロジェクト成功の祝いとして食事会がある。それまでに少しだけ仮眠を取っておこうと考え、スマホを枕の横に置いた。

 目を閉じれば程よい眠気が襲ってきて、直ぐに眠れそうだ。

 眠りに落ちる直前、教授から言われていたある事を思い出した。

 

「海外に留学するか、助教として迎えてもらうか、早く決めないとな」

 

 所属している研究室の教授は良くしてくれるし、どちらを取ってもお金は気にしなくていいと言ってくれた。両親が他界し、身寄りのない自分に良くしてくれた人だ。感謝してもしきれない。

 海外の大学もポストが空き次第助教に推薦してくれるらしい。

 

 自分のやりたい研究がやりやすいのは海外だが、日本でも近い将来に大型の加速器が作られるだろうし、それまでは今と同じように海外に遠征すればいい。なんなら兵庫県でも実験は出来そうだ。

 

 4月には結論を出さなくてはいけない。後悔をしないようにこの後の食事会でも相談してみよう。

 そこまで考えていると遂に眠気に耐えられなくなってきた。

 

 眠りに落ちる直前に思い浮かんだのは、もしかしたらと淡く期待した、しかし不可能なことだった。

 

 

 

 

 

(……10億、見たかったなあ——)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グイッと。

 

 急に体を動かされた衝撃で意識が浮上した。

 なにやら大きなものに掴まれているらしい。それに持ち上げられたと思ったが直ぐにどこかに降ろされた。

 周りを見ようとしても身体が思うように動かず、目も開けられない。音もどこか遠いように感じる。

 

産声が……この子、息をしていません!先生っ

早く集中治療室へ!

 

(金縛りか?初めてなるけど、聴覚にも影響するんだ。なんか誰かに呼ばれてるっぽいし、もしかして寝過ごした…?)

 

 とりあえず返事をしようと声を出そうと思うが何かが詰まってる様な感じがして、上手く発声できない。

 

「ぁぅー」

あっ!呼吸を始めました!

ふー、一先ずは大丈夫ね。この子は泣かないタイプみたいだね

 

 どうにかこうにかして出した声はまるで生まれたての赤ちゃんのようであったが、それまで胸につっかえていた様な感覚がなくなり、息が通るようになった。

 

 そしてまた何かに掴み上げられる感覚に襲われた。次に降ろされたのは暖かく、どこか懐かしいところだった。

 

生まれた時からママを心配させるなんて、お転婆なお姫さまね

「うー?」

 

(この声、女性か?でも誰だっけ……昔に聴いたことあるような…)

 

 やっと開いた眼に映るのは、真っ白で眩しい光景。ホテルで寝る前に電気は消したはずだが、誰かが呼びに来てつけたみたいだ。

 

(誰だか分からないけど、みんなごめん…もう少しだけ寝かせて…)

 

 集合時間に遅れた申し訳なさを感じながら。

 この安心する場所で再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

「生まれてきてくれてありがとう、(あおい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから1週間、何故か視界がボヤけていたり、音が聞こえにくかったり、身体が動かせない状態が続いた。なんかヤバい病気にかかったかと思ったけれど、水みたいで少し甘い飲み物を与えられ続けられたから入院してる訳ではなさそうだった。

 

 が、しかし。

 

 体の感覚が元に戻ってきた今日になってようやく理由がわかった。

 

 それは今もなお抱きかかえてもらっている女性を、また、自分のものらしき身体を見ればわかる。

 記憶に残っている姿よりも少し若い、それで色鮮やかな美しい金糸の髪と。

 透き通る様な青い瞳は、自分にも遺伝し誇りにしていた色で。

 

 

 21世紀において、一応は物理学の最先端を研究していた身としては信じ難いことであるが。

 

 俺、八色(やくさ)(あおい)は、赤ちゃんに逆行していた。

 

 オマケに女の子になって。

 

 

 

 




次話より少し時間が飛びます


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時代と状況

早く年代を進めてスラング使い倒したいゾ
本日は1時間後にもう1話更新されます


 何故だか分からないが時代を逆行()()していると分かってから3年ほどたった。そう、逆行擬きである。

 最初は同じ生活を繰り返すのか、と思っていたが前の人生と違うところが多すぎる。

 

 まずは性別。これが1番分からない。いや、逆行なんていう常識では考えられない体験をしているとは言ってもこれはないんじゃないかな……さらば、愛しのマイサン。

 幸いと言っていいのかは不明だが、今生の身体は超絶可愛いのでこの身体を謳歌する方向にした。

 艶々とした黒髪に母親譲りの青い瞳。鏡に映る自分の姿は、幼い容姿にも関わらず前世では見た事のないほど整っている。自分の身ながら将来が非常に楽しみである。

 

 次に血液型。こちらも前世とは異なっていた。半年くらい前に病院で血液検査をしようかとなり、前回と同じくA型だろうなと思っていたがとんでもない。

 O型のRh null型。俗に言う黄金の血液型であった。

 検査していた病院ではちょっとした騒ぎになったが、まだ幼いため抗原や抗体があまりつくられてない可能性があるので4歳から5歳くらいになってから再検査をする運びとなった。自分としても普通の血液型の方が万が一があった際に困らないのでいいのだが、どうなるかは不明だ。

 両親ともにA型であるはずだからAO同士ならOにはなる可能性もあるけれど、Rh抗原はあってほしいし、せめて陰性であってほしい。まあ、次に検査した時に分かるのでそれまではこの不安も置いておく。

 

 そして逆行した時代もまたズレていた。前世の誕生日は1995年の8月27日。それが今世では2000年の8月27日に。日付は同じだが5年もの空きがある。

 同じ両親のもとにしてくれた事は感謝するが、こんな逆行みたいなことをさせたカミサマとやらは随分とお茶目らしい。

 

 あとは住所が変わっていたりなどの微妙な差異はあるが、変化していないこともある。

 

 両親の年齢は以前と変わらず、苗字や名前も同じ。パーソナルデータが大きく変化していないことはよかったが、この世界でも居て欲しい人はやはり既に存在していなかった。

 

 父の死は、どうやら自分の世界では避けられない事象らしい。

 

 前世でも今の世界でも、父は自分の生まれる2か月前に亡くなっていた。死因は脳内の血管が裂けたことによる病死。まだ20代であったにもかかわらず2度も同じ病気にかかるのは運が悪いのか……何か世界の修正力でも働いているのではと思わずにはいられない。

 

 父の写真は見たことがあったが、実際に会ってみたかった。

 幼い頃は幼稚園や小学校の行事に来ている友人らの父親を見て羨ましく思った覚えがある。思春期を迎える頃になると悪びれもなく「親父がウザい」などの話で盛り上がる友人が眩しくてしょうがなかった。その鬱陶しいと感じる経験すらさせてもらえない自分に「親なんて居ない方が気楽だ」と言った奴とは大喧嘩もした。

 それほどまでに父という存在に憧れを抱いていた。()()()()、父の元同僚で後見人となってくれた方には少々わがままを言ったかもしれない。

 そういえばこの世界でも彼は父と仲が良かったらしく、父の一周忌にも来てくれた。ありがたいことだ。こちらでも縁が切れることのないよう接していきたいと思う。

 

「葵ちゃーん、準備出来たかな〜?」

「うん、今行くよ」

 

 まあ、そんな感じで前世との違いを感じながら新しい人生を歩んでいくことになった。いろいろ思うところはあれど、未だ3歳の身。一先ずの目標は母を死なせないことではあるのだが、まだ時期が来ないため保留。

 

「よし!じゃあ涼馬くんのお家に行って夢の国に行きましょー!」

「おー!」

 

 前と同じように研究者の道を行くのもいいが、せっかく強くてニューゲームみたいな体験をしているんだ。ちょっとだけ目立つことをしてもいいかもしれない——なんて考えながら、幼なじみと一緒に出かけるため家を出た。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 埼玉県さいたま市にある我が家の隣には、私の一つ上になる男の子の家族が住んでいる。母が後ろで戸締りしているのを横目に、隣の家のインターホンを鳴らそうとするが流石に届かなかった。表札には「出雲(いずも)家」と書かれているが、いつ見てもかっこいい苗字だ。こういう神様が関わってそうな苗字は厨二心をくすぐられる。

 

「葵ちゃん、ピンポン押したい?」

「お母さんが押していいよ」

「ママって呼んでねって言ってるのに……」

 

 家の鍵を閉めた母が後から来てちょっと落ちこみながらインターホンを鳴らす。ママ呼びはちょっと恥ずかしいので、幼馴染がお母さん呼びに移行してから乗っかるように私も呼び始めた。自宅で英語で話すときはママ(mom)呼びなので勘弁して欲しい。

 そんなことを話してると扉の向こう側から足音が聞こえ、鍵が開けられる。

 

「お待たせー!うーん葵ちゃん今日もかわいっ!」

「ふぎゅ」

「あらあら」

 

 扉を開けて出てきたのは幼馴染のお母さん、涼子さんだ。そのまま勢いで抱きしめられるがいつものことなので胸の柔らかさを堪能する。まだ20代の人妻は私の精神年齢的にはどストライクです。体が女の子になっているからか興奮はしないが役得役得。というよりも3歳が興奮したらマズイかな?

 

「おかあさん!アオイちゃんはなして!」

「あら、この子ったらいっちょまえにヤキモチ妬いてー」

「涼馬くん、おはようございます」

「おはようございます!」

 

 後から来て私を涼子さんから離してきたこの男の子が我が幼馴染である涼馬くん。いつの間にか母達と一緒に立っている寡黙なお父さん、大輔さんに似ずに活発な男の子だ。

 

「涼くん、おはよう」

「アオイちゃんおはよー」

「リーナさん達も来たことだし、早速行きましょうか!」

 

 全員揃ったところで本日の目的地となる夢の国へと出発した。駅に向かう道すがらさり気なく手を繋いでくるこの愛い男の子も、成長したら粗野な口になっていくのかな。自分のことではないが子どもの成長を見守る楽しみがある。道を踏み外しそうだったら引き留めようと考えながら、早朝の涼しい空気の中、先を行く母の背中を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は飛び、お昼過ぎ。

 実家がある埼玉県のお隣、千葉県にあるテーマパークで昼休憩をしていた。

 ここに着いてからは定番の地球を模したオブジェの前で写真を撮ったり、子どもでも乗れるアトラクションで遊んだりと充実した時を過ごした。実を言うと前世含めここに来たことはなかったので新鮮な気持ちで楽しめた。清掃員の人って本当にいろいろなパフォーマンスが出来るんだね。

 

「アオイちゃんはなにが食べたい?」

「涼くんが選んでいいよ」

「じゃあこのカレーにする」

 

 メニューを決め雑談しながら周りを見渡すと、ピーク時間を過ぎたためか大混雑というわけではないがそれでも多くの人がこのフロアにいるのが見て取れた。流石は世界一のテーマパークだ。夏休みも終わり、普通の週末であるのにこれなのだから大型連休等の時期はもっと凄いに違いない。

 またその大勢の人の中で少なくない人がこちらを見ていることも分かった。視線を集めているのは日本では珍しい母の容姿かな?こんなに綺麗なブロンドヘアはそうそうお目にかかれないので分からなくもない。が、ちょっと見すぎではないか?

 

「葵ちゃんはこの後どこに行きたい?」

「パレードを観たいな」

 

 視線を集めている本人は気にしていないようなのでいいか。

 自分で言うのもなんだが、私も成長するにつれ視線を集めそうな容姿をしているのでこういう雰囲気に慣れていこうと思う。

 この後の計画を立てていると注文した料理が運ばれて来た。美味しそうな香辛料の匂いで忘れていた食欲が掻き立てられる。

 お母さん達は一人ひとり1人前をいただくが、私たち子ども組は1食を半分に分けてもらった。

 

「う〜ん、おいしっ」

「葵ちゃんは辛いの平気なんだ。ウチの子なんてほら、涙目なのに」

 

 このナンがいいんですよと心の中で実況しながら食べていると涼子さんに声をかけられた。確かに涼馬くんは涙目になっている。甘口にしてもらったはずだけど、まだ辛かったみたい。

 

「辛くない!泣いてない!」

「無理しなくていいのよ。こっちと交換する?」

「食べれるからいい!」

 

 意地を張ってるように見えるが、男の子だな〜という微笑ましい気分にさせてくれる。ほら、頑張れ♡頑張れ♡君の可愛い幼馴染が応援してるぞー。

 

 その後、私があーんとしてあげながら何とか完食した涼馬くんは「どうだ!」と言わんばかりに胸を張ってくれた。可愛いなーこの子。

 

 

 

 

 食事の後はパレードを観にいき、キャストの人たちのパフォーマンスを楽しんだ。前世ではテレビの特集を見る度にアトラクションの方が面白いんじゃない?とは思っていたが、想像以上に楽しめた。音楽や雰囲気など、その場に居ないと分からない面白さがあったのかな。

 

 パレードも見終わった夕暮れ時、そろそろ帰りの時間が近づいてきた。最後にお土産屋さんでグッズを見繕う。大輔さんが持つカゴに涼子さんと涼馬くんがどんどんと商品を入れていく。大輔さんは黙ってるけど、重くないのかな……?

 私もお母さんにいろんなアクセサリーをあてがわれ、満足したものをカゴに入れていた。

 

「我が娘ながら何でも似合うので迷っちゃうわね」

「お母さん、アクセサリー以外のはいいの?」

「それは後で選ぶから心配ないよー。次はこれ!」

 

 母の着せ替え人形みたいな感じになっていたがちょっと尿意を催してたため、早く終わってほしい。

 ひととおり満足したのか、次はぬいぐるみのコーナーへ向かうようなので急ぎ気味でトイレへ向かうことを伝える。

 

「お母さん!私トイレ行ってくるからちょっと待ってて!」

「はーい……え!?ちょっ、ダメ!」

「すぐに戻るから!」

「あれ、葵ちゃんは?」

「1人でトイレに!人混みが多すぎて——」

「あなたっ!すぐに——」

 

 後ろで何か言われたような気もするが、我慢出来ずに駆け出す。人が多かったが小さい身体の利点でスイスイと人混みを縫って進んでいった。

 

 幸いなことにトイレは並んでおらずすぐに用を足すことが出来た。あと少し遅れれば黒歴史間違いなしだったので危なかったぜ。

 トイレを出てお土産屋さんに戻ろうとした直後、急に腕を引かれたたらを踏む。

 見上げると知らない男性が腕を掴んでいた。

 

「お嬢ちゃん、迷子かな?おじさんが案内所に連れて行ってあげるよ」

「違いますけど?腕を——もがっ」

「いいから来い」

 

 強引に腕を引っ張りながら口を抑えられる。小さな身体のため、抵抗しようにも上手くいかず軽い身体は抱き上げられ何処かへと運ばれていく。

 これマズイやつでは、と遅まきながら気づいた。

 こんな人目のあるところで気づかれるだろと思うが、周囲の人は帰ることに気を取られているのか出口の方へ一直線だ。このまま人気のない裏の方へ連れて行かれると本当にまずい。

 冗談じゃない。新しい人生が始まってまだ3年だ。それがこんなところで——

 

「おい!ウチの子に何してる!」

 

 突然大きな声が聞こえたと同時に男性の動きが止まった。 驚いたのか拘束が緩んだ隙に男性の腕から抜け出し離れる。

 声の方向を見れば大輔さんがいた。

 

「お前、いま、何をしようとした?」

「い、いやー、迷子を見つけたので案内所へと……」

「そっちに迷子センターがあるわけないだろ!ふざけるな!」

 

 普段寡黙な大輔さんが声を荒らげ男性へと詰め寄っていく。こんなにも怒気をにじませている大輔さんを見るのは初めてだ。

 先程の大声に釣られてか人が集まってきた。これはマズいと感じたのか下手人は走り出し逃げていった。

 

「どけ!」

「うわっ」

「キャー!」

 

 一瞬逃げ出した男を追いかけようとした大輔さんだが、体の力を抜き、しゃがんで私と目線を合わせてきた。

 

「葵ちゃん、怪我はないかな」

「はい、大丈夫です……」

 

 突然の事の連続でどこか現実感がなくボーッとしていた私だが、大輔さんは普段通りの雰囲気に戻りこちらを案じてくれた。そうだ、大輔さんにお礼の言葉を言わないと。

 

「おじさん、さっきはありがとうござい——」

「葵ちゃんっ!」

「むふっ」

 

 言葉の途中でお母さんに抱きしめられた。急いで来たのか息も絶え絶えで、綺麗な髪も乱れている。

 

「本当に……本当に、心配したんだから」

「……ごめんなさい、お母さん」

 

 しばらく抱き合っていると落ち着いたのか解放してくれた。ただ、次は目線を合わせて両肩に手を乗せられる。

 

「葵ちゃん、よく聞いてね」

「はい……」

 

 その真剣な視線からは目を逸らすことが出来ない。この歳にもなって、本気で叱られることを予感した。

 

「葵ちゃんが難しい本を読めることも、精神も大人びていることもママはちゃんと分かってるわ」

「うん……」

「でもね、葵ちゃんの身体はまだ子どもなの。それも、とびっきり可愛い女の子。それをしっかりと理解して。葵ちゃんなら分かるわね?」

「はい……」

「もうっ、ママを心配させちゃダメよ?」

「ごめんなさい……」

 

 その言葉と同時にまた抱きしめられた。気づけば係の人と大輔さんは話しており、涼子さんと涼馬くんも近くにいた。

 今回の件は完全に私のミスだ。1人でも大丈夫だと勝手に判断し、肉体年齢を考慮していなかった。いや、考えてはいたが、それでもまさか自分が巻き込まれるとは考えてもみなかった。

 本当に甘い見通しだった。猛省しなければならない。

 

 ある程度の事情を話したのか大輔さんがこちらへ戻ってきた。お母さんも立ち上がり、顔には笑顔がもどっている。

 

「さて、それじゃあ買いそびれたお土産屋さんに戻りましょー!」

「おー!大輔さんもありがとうございました」

「葵ちゃんが無事なら良かったよ」

 

 私のせいでみんなの行動を邪魔してしまったが、普段通りの雰囲気にしてくれる大人組には本当に感謝の念が絶えない。

 移動を開始しようとすると、今まで静かだった涼馬くんが隣に並んできた。

 

「アオイちゃんは僕が守るよ。ずっと、となりで守ってみせる」

 

 私の手を握って誓いを立てるようにそう言った。この歳でそんなプロポーズみたいな事を言うとは将来女たらしになるかもしれない。

 

「そうだね、大人になっても涼くんの気持ちが変わらなかったらお願いしようかな」

 

 まあこんなのはよくある「将来結婚しようね」と同じような事だと思うので適当に煙に巻く。そもそも私の恋愛対象が男女どちらなのかわからないからね。

 

「リーナさん、聞きまして?」

「涼子さん、ばっちりと聞きましたっ。将来が楽しみです!」

 

 幼い子の言葉をそんなに真に受けないでほしいが、成長していくにつれ記憶も薄れていくだろうから私は気楽に考えておこう。

 

 

 変わってしまった性別。縮んでしまった身体。

 初めての夢の国遠征は、この二つの認識を新たにしたほろ苦い記憶とともに幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 夜。無事に家に帰ってこれた私は娘とともに布団に入っていた。

 娘の宝石のような瞳も今や閉じられ、すぐに眠りについてしまった。一日中歩き回ったことが思いのほか疲れていたらしい。

 娘が攫われそうになってしまった旅行だが、結果的には何事もなく本当によかった。

 

「本当に、心配したんだからね……」

 

 娘の髪を撫でながら今日の事を思い出す。大輔さんが居なければどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい。出雲さんご夫婦にはまた今度改めてお礼をしようと思う。

 

 葵は、生まれた時から全く手がかからなかった子だ。夜泣きもせず、おしめを替える際も泣かない。なんなら生後半年も経たずにハッキリと「ママ」と発声してくれた。

 そこからは驚きの速さで言語を習得していった。1歳になる頃には不自由なく歩き回り、家にある本を読み始めた。赤ちゃんってこんな感じなのかなって最初は思ったが、出雲さんのお家やママ友の話を聞くとビックリである。

 

 ギフテッドという言葉がある。まさに天からの贈り物のような才能を持つ子ども。おそらく葵もそれに分類されるのだと思う。その才能を無駄にしないためにいろんな本を買ってあげたりもした。その分出来る限りのお手伝いをしようとしてくれる葵は本当にいい子だと思う。

 

 不満があるとするならば、その聞き分けのよさか。

 迷惑は掛けてもいい。わがままもいっぱい聞いてみたい。ただ、心配だけはかけてほしくない。

 私と陽仁さんとの大切なたいせつな宝物。

 

 陽仁さんの1500年もの歴史と、私の1300年もの歴史。その血がこの子に宿っていることは、まだ知られてはいけない。そうでなければ今日のような事が起きてしまうから。葵がしっかりとした大人になり、自分で身を守れるようになるまでは私が絶対に守ってみせる。

 

「愛してるわ、葵」

 

 眠っている娘のおでこにキスをして、私も眠りについた。

 

 

 

 




この小説はファンタジー要素を含みます


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【朗報】超美幼女、発見されるwwwwwwwww

本日2話目です
掲示板形式があります


 2004年になりとうとう私も幼稚園デビューしなければならなくなった。個人的にはこの精神で幼稚園に通いたくないのだが、お母さんは友達作り万歳な様子なので断れない。せめて年中からがよかったなーと思いながら行った初登園日。

 

「マ゛マ゛ぁぁ!!」

「ぴゃぁぁああ!」

「おーよしよし」

「葵ちゃん、こっちの子もお願い!はいはいママとはちょーっとお別れだけどすぐに会えるからね」

 

 案の定と言えばいいのか、親と離れた寂しさで泣き出す子が多数だった。流石に隣で泣き出されるときまりが悪いので近くにいた子をあやしていると先生が何人かパスしてきた。ええ……初日だから仕方ないとしても、一応は私も泣いている子たちと同じ歳なんだよね。放っておいても大丈夫な子の見極めが上手いのは流石と褒めていいものなのか。

 

 そんな感じで始まった幼稚園生活ではあるが、1ヶ月もすればみんな慣れていき、キャイキャイと楽しそうに過ごすようになっていた。

 私の方も「変な目!」と絡まれることはあるが、部屋の隅っこで家から持ってきた本を読み穏やかに生活出来ている。隣には私と同じように絵本を読んでいる子がいる。初日に隣にいた子で、名前は藤崎理華ちゃん。どうやら懐かれたらしい。たまにおままごとに巻き込まれる事もあるが、基本的には静かな子なのでわざわざ遠ざけるようなことはしない。お母さんたちの話に拠れば家も近くらしいので中学までは付き合うことになるかな。喧嘩をせず仲を深めていこうと思う。

 

 とはいえ流石にこの生活も飽きてしまう。癒しとなったのは贔屓の球団の調子がいい事だ。お母さんは前世と同じくちな猫だったのでこの年に私も現地デビュー。この世界でも日本一に向かって邁進中だ。

 

 またそれ以外にも来年に向けてネタ仕込みをして将来への投資をする。

 

「ねね、お母さん」

「なーに、どうしたの?」

「この間申し込んだ日本数学オリンピック(JMO)、もし代表選手になれたらパソコン買ってほしいなーなんて」

 

 季節は秋に移ろい、夕飯の準備をしている台所からは食欲のそそるいい匂いが漂ってくる。今日は栗ご飯と鮭のキノコあんかけだ。お母さん、海外出身なのに日本食好きだよね。

 

「ん〜、それくらいなら葵ちゃんは余裕だとママは思うので、国際大会で銀メダル以上!」

「やったー!」

 

 悩まれはしたものの無事にOKサインを貰えることが出来た。これで来年から色々と行動できる。

 

「んふふ、頑張ってね葵ちゃん」

「うん!お母さん大好き!」

 

 条件も緩いためよっぽどの油断をしなければ大丈夫だ。喜んでお母さんに抱きついて感謝の念を伝える。これが転けてしまうとその先の計画にちょっとした狂いが生じるので頑張るぞい!

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 贔屓の球団の日本一を見届け、年末年始を出雲家と一緒に過ごし来る1月、私は予選会場にて受付の人に捕まっていた。

 

「本当にこの子が受けるんですか?これジュニアじゃないですよ?」

「書類にも書いてある通りこの子が受けますよ」

 

 どうやら私の見た目的に中学生以下の部と間違えたと思われているらしい。常識的に考えればその通りだと思う。明らかに小学生にもなってないしね……

 お母さんが説得し、無事に会場入りしたが視線が凄い。とりあえず指定された席に座ると足がプランプランだ。

 うーん見事なまでの場違い感。周りは高校生くらいの人が多く、ポツポツと中学生がいる感じだ。試験が始まればこの視線もなくなるのでそれまでの我慢だ。君たちも私のこと見てないでしっかりと対策していなさい。

 試験が始まるまでボーッと待機していること20分、やっと試験の準備が始まった。長かったがあとはちゃっちゃと解いて終わらせよう。ペンケースを取り出して鉛筆を数本出してあとは消しゴムー♪なんて鼻歌を歌っていたら忘れ物に気づいた。消しゴムないじゃん。

 まあ消すことなんかないしいいか!と思い直しテスト開始の時間を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして3月。

 私は無事に代表のトップとして合宿を終わらせ、国際大会へのキップを手にした。前世において博士課程後期に身を置いていたため、これくらいで躓いたら恥ずかしいのでホッとした気持ちだ。代表発表の場にはテレビクルーも来ており、私は取材を受けた。どうやら協会側も私を旗印に盛り上げたいようだった。私の計画にもいい影響を与えてくれるので喜んで協力する。

 後日、私のインタビューの放送を見てみると「【天才少女】史上最年少で国際数学オリンピック(IMO)へ」とテロップが出ており過剰なほどの持ち上げ編集だった。お母さんは番組内容をDVDに保存しようとしているが恥ずかしいので止めてほしい。

 これ、金メダルとったらもっと持ち上げられるのかな……?

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

【朗報】超美幼女、発見されるwwwwwwwww

 

1:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

しかもめちゃくちゃ賢いらしい

https//imgr……

 

3:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

ムホホのホ

 

4:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

可愛すぎね?おまいらすまんな俺の奥さんにするわ

 

6:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>4

寝言言ってねえで働け

 

8:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

俺もこのテレビ見てたわ

めっちゃくちゃ可愛くて心停止した

 

10:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子の目すごいな

どうなってるんだ?

 

12:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>8

成仏してクレメンス

 

13:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

なんかいろんな色混ざってるな

青ベースだから地球みたいやね

 

15:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>10

アースアイか部分的虹彩異色

青に緑に茶に銀色?っぽいの混ざってるからアースアイっぽいけどこんな綺麗なの初めて見たわ

 

16:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

おほーこの子ペロペロしたいわ

 

18:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>15

サンキュー博識ニキ

 

19:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

かわいすぎか?

 

21:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

【朗報】俺のお嫁さん決まる

 

23:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子と結婚するために仕事始めるわ

たぶん食べ頃になる頃にはお金持ちになってるはず

 

24:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

ここまで数オリに触れてる奴なし

 

25:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>21

俺のお嫁さんなんだが?

 

27:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

2chにいるやつに学を求めるな

初期の頃の精鋭揃いじゃないんだぞ

 

28:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

八色(やくさ)葵(あおい)ちゃん、4歳ねメモメモ

 

29:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

4歳が数オリ代表って明らかに異常じゃねえか

 

31:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

かわわわわ!!!!!

 

33:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子インタビューもめっちゃハキハキしてたわ

4歳の子とは思えん滑舌の良さと語彙力

 

35:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

かわええ

 

37:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>23

うーんこれは働いたことのないニートの無謀な見通し

 

38:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

マジで可愛い

 

39:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

俺ロリコンじゃないけどこの子好きだわ

 

40:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

子タレちゃん、敗北!w

 

42:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>33

賢さが滲み出るインタビューだったね

俺のムスコからも白い涙が滲み出たわ

 

44:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

こんな可愛い子が存在したんだ

 

45:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>42

きも

 

47:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>39

わかる俺もロリコンじゃないのにこの子好きだもん

 

48:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

あ〜目の保養

 

49:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

有能俺氏、葵ちゃんの画像をPCの壁紙にする

あ〜、これでいつでも葵ちゃんに会えるわー

 

50:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

可愛い

 

51:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

理系に似つかわしくない可愛さ

即刻文転させろ

 

53:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>39

>>47

おまえらはロリコンだよ

 

54:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子ギフテッドで可愛いとか無敵じゃん妬ましい

 

56:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

ギフテッドってなに?

 

57:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>51

文転も何もまだ義務教育未満なのですが……

 

58:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>56

お前の目の前にあるその箱は飾りか?ggrks

ギフテッドは生まれつき優れた才能を持ってる天才児の事な

 

 

59:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

クソかわ

 

60:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

素晴らしい生まれてきてくれたことに感謝

 

61:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

こんな可愛い子の本名載せて良かったのか?俺はもちろん保存したけど

 

63:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>58

やさしい

 

65:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

無能俺氏、数オリの難易度がわからない

下半身は有能なのでこの子が可愛いことは分かるわ

 

66:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

エッッ

 

67:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

女だけどこの子をお持ち帰りしたい

 

69:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>61

お前みたいな変態は山ほどいるだろうね(画像保存カチー)

 

70:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

うーんこれはエッチ!

 

71:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>65

幼卒の俺も分からんから大丈夫

 

73:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

国際数オリに出れるなら多分メダルも取れるだろうし上位国立大学に入れるレベル

 

74:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>71

幼卒カスが一緒にすんなこちとら保卒やぞ

 

75:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>67

レナ「葵ちゃん、お持ち帰りぃ〜」

 

77:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

可愛ええわね可愛ええ

 

79:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

数オリ代表トップじゃんwwwwww他の高校生オッスさん4歳児に負けるwwwwwwwwwwww

 

80:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

アナウンサー「どのようにして数学を身につけたのかな?」

葵ちゃん「教科書読んだらわかりました」

 

うーんこの

 

82:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

俺もこの容姿と頭脳ほしい

 

83:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>74

どんぐり

 

84:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>73

これマジ?4歳でそれは無理筋だろ

 

86:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

かわよ

 

87:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>73

むりむりかたつむり

 

88:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子のおめめ飾りたい

 

90:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

数オリってのは高校生が受けるような全国模試で満点取れるやつでも難しい問題なんよ

なぜなら普通の指導要項以外の知識、つまり数オリ専用の知識がたくさん必要だから

それをこの4歳の葵ちゃんは全国の天才達を抑えて1位なんだから常識は通用しないぞ

 

92:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

ギフテッドって容姿にもあるんだね頭脳だけだと思ってたよ

 

93:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>79

おは低脳煽りカス

 

94:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

その賢い脳みそ僕にくーださい!

 

96:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>90

それは凄いな

 

98:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子どこ住みなんだろ

別に深い意味はないけど興味あるわ

 

100:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>88

こえーよ

 

101:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

【速報】俺氏ロリコン絵師、今年の夏コミの題材が決まる

 

102:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

視聴率欲しいのテレビと盛り上げたい協会だったんだろうけどこの子の場合は顔出しさせちゃダメだったわ

あまりにも可愛すぎる

 

104:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

おめめ綺麗

 

106:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>27

初期の頃も無能と有能にくっきり別れてただろ

 

107:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

はー可愛い

 

108:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子が成長したら傾国の美女が誕生しそうだわ

 

110:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

肌しっろ!おめめでっか!身体ほっそ!

うーんこれは美幼女

 

112:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子ハーフだよな雰囲気的に

やっぱ血が混ざった方が良いもの出来るわ

 

113:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>101

はよ描け

 

115:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>102

これはそうだろうけどしゃーない

お金には敵わないからね

 

116:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

天は二物を与えずとはなんだったのか

 

117:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>108

世界三大美女更新する?

 

119:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>112

言いたいこと分かるけどその考え方嫌い

雑種強勢とか言ってそう

 

121:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

この子の動画が見れないことが唯一の欠点

動いてる映像見たいんじゃ

 

122:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

可愛いの那由多乗

 

123:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

俺の中での可愛いの価値観が変わったわ

二次元以外にもこんな子が居たんだね

 

124:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

くっそかわいい

 

126:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

俺氏ニート38歳、惚れました

 

128:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>122

1グーゴルプレックス乗しろ

 

130:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

メダルとったらお祭り騒ぎどころか世界最年少だね

 

132:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>121

つP2P

 

134:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>126

働け

 

136:ロリコンがVIPPERしてるんじゃねえ!

>>132

いま裁判中だから……

 

 

 

 




小学生未満好きな人はぺドフィリアだと思ってます

2005年じゃイミジャーないじゃん
ってことで適当にそれっぽいものがあると思ってください
掲示板形式のところは誤字報告無用です

うっかり「ンゴ」付けちゃいそうになるので早く2008年まで進めたい
○○ンゴよ、盛大に燃えるのだ


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動画投稿

2005年のお話です


 2005年の4月になり通っている幼稚園には年中から入園してくる子たちが増えた。この年齢の子たちは初めて親と離れるためか泣き出す子も少なくない。教室内で駆け回る、叫び出す、そして急に外に出ていく子も居るのだから先生方は大変だろうな。

 

 2005年と言うと、後に誰もが使ったことがあるだろう動画共有サイトであるYouTubeのサービス開始年でもある。先日新しいパソコンを買ってもらうまでの繋ぎとして貰った亡き父のもので試しにドメインを叩いてみたが、まだ公開はされていなかった。たしかベータ版が5月に公開されるはずであるから、それまでに動画を編集して用意しておかなければならない。

 

 強くてニューゲームなこの人生において、前の記憶を利用(知識チート)してちょっとしたお金稼ぎをしようと思う。一応この世界でも主要な事件や災害の日付は変わっていなかったため、ある程度は前世知識が通じるはずだ。

 有名になればもしかしたら憧れだった人たちと関われるかもしれないという俗物的な理由もある。

 そのため今年からは積極的に行動していかなければならない。勝負は最初が肝心だ。どの界隈でも古参っていうのは多かれ少なかれ人気を得やすいからね。ムーブをミスらなければ大丈夫だと思う。

 

 まず乗れる船はYouTubeであるから動画ネタは仕込んである。時期が時期なので最初はあまり出せないと思うが、上手くいけばネット民の間で話題になれるかな。

 まあネタの1つが先にテレビで出されてしまったんだけどね。

 とりあえずは0歳から今までのホームビデオに日本語字幕——母の方針により家での会話は日本語以外の言語になっている——をつけて投稿する予定だ。

 私の幼女ボディは成長するにつれ魅力が上がっていっている。この容姿であればネット人気もそれなりに取れると思う。将来は千年に一人の美少女と呼ばれることも難しくないんじゃないかってくらい結構マジで楽しみな素材だ。

 

 そういえばIMOに行く前にと血液検査を再度受けた。海外で何かあった時に困るためであるが、結果はやはりO型のRh null型。厨二心的にはちょっと嬉しいが現実的な目線になると止めてくれという気持ちが強い。これからは少しずつ血を抜いては冷凍保存するという対応をとるらしく、成長するにつれ抜く血の量を増やしていくらしい。ただ私の肉体が女性ということもあり、身体との相談になるそうだ。

 女性だから……?と疑問に思ったが月の物があったなと思い至った。あー、そういうのとも付き合っていかなければならないのか。男の身体はつくづく楽なんだなと今になってありがたみを知った。

 

 

 

 5月になり、いよいよYouTubeくんのベータ版が公開される。私の方も動画の準備は出来ているのだが、タイトルをどうするかで悩んでしまっていた。まずは国内人気を取りたいのだが、音声は英語なのでせっかくならどちらの層も取り入れたい。うんうんと散々頭を悩ませながら考えついたものは「HOME VIDEO 1」というシンプルなタイトルだ。結局単純なものが1番わかりやすい。YouTube初の動画だって凝ったタイトルではないのだから。

 そしてベータ版公開と同時にドメインを叩く。流れるように動画やタイトルをセットし、最後の確認に左クリック。

 

 初めての動画投稿は呆気ないほど簡単に終わった。

 ここからこの世界(YouTube)はどんどんと広がり、1つの端末で世界中どの景色も見れるほど世界は縮まっていく。そんな無限の可能性を秘めた原始の場所に立っている実感がわかない。惚けて画面を眺めていると再生回数が1つ増えた。

 

「っ!」

 

 その後も鈍足ながらもしっかりと再生回数は重ねられていく。赤ちゃんが歩いたり本を読んだりしている動画なのに。動画の絶対数が少ないためにこんな動画でも人を集められるのか。

 最終的にその日だけでの再生数は600回を超えた。ベータ版初日の再生数がどれくらいかはしらないが、正式なサービス開始日では800万再生。それを考えればようやっとると言っていいかもしれない。

 この調子なら半月に1回くらいのペースで残りの動画をあげればIMOまで時間を稼げそうだ。

 

 順調に行けそうな予感に胸が高なった。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

この赤さん、何かおかしい

 

1:名無しの権兵衛

さっき俺が見つけてきた動画だけど、普通の赤ちゃんってこんな感じだっけ……?

https://……

 

2:名無しの権兵衛

これは赤さんの風格ですわ……

 

4:名無しの権兵衛

この子見た目的に生後1年も経ってないと思うんだけど、なーんで普通に立ち歩いてるんですかねえ

 

5:名無しの権兵衛

なにそのサイト

踏んでいいやつ?

 

6:名無しの権兵衛

>>5

最近ベータ版が公開された動画投稿サイト

ウイルスとかはないよ

 

8:名無しの権兵衛

これ投稿者たぶん外人なんだろうけど何で日本語字幕?

 

9:名無しの権兵衛

この子やっぱり変だよな

普通に絵本以外の本読んでるし、普通に会話してるっぽいし

 

11:名無しの権兵衛

ヤバすぎワロタ

 

12:名無しの権兵衛

ウチの息子くんは1歳になるけど「パパ」とか「ママ」とか言ってて可愛いで

この子は知らん異常

 

13:名無しの権兵衛

撮影してるお母さんらしき人が普通に接してるのがシュールで面白い

たぶん何もおかしいとは思ってないんやろなあ

 

14:名無しの権兵衛

赤ちゃん……赤ちゃん?

 

15:名無しの権兵衛

>>8

家の内装が日本っぽいから日本住みなんじゃない?

 

16:名無しの権兵衛

俺より英語ペラペラでワロタ……

 

17:名無しの権兵衛

推定生後1年に英語力負けるヤツwwwwww

俺だが文句あるか?

 

19:名無しの権兵衛

すごいねこの子

 

20:名無しの権兵衛

これ何年前の映像なんだろ

ちょっと古い気がする

 

22:名無しの権兵衛

このサイト面白いな

海外のいろんな動画出てくるわ

 

23:名無しの権兵衛

日本人も動画投稿しろ

 

25:名無しの権兵衛

>>16

>>17

おまいら……俺も仲間や!

 

27:名無しの権兵衛

>>20

俺も思った

3年くらい前のじゃないか?

 

28:名無しの権兵衛

ホームビデオ1ってことはシリーズとして2や3が出てくるんかな?

楽しみや

 

29:名無しの権兵衛

>>8

>>15

お母さんらしき人が「あおい」って言ってるからそれが赤ちゃんの名前だろうね

字幕では乗ってないけど文法的にはそのはず

 

30:名無しの権兵衛

UMAが居たと聞いて

 

31:名無しの権兵衛

超人お祭り会場はここですか!?

 

32:名無しの権兵衛

すっごい赤さんだね

 

34:名無しの権兵衛

人類の進化ってすんごい

 

35:名無しの権兵衛

>>22

ただ日本語が非対応なのがね

マイナー言語だから仕方ないっちゃ仕方ないが

 

36:名無しの権兵衛

ワロタなんやこの赤ちゃん

 

38:名無しの権兵衛

俺にはわかる

宗伏弘治の子どもやろ

 

39:名無しの権兵衛

赤さんwwwwww

いやすっごいわこれは赤さん

 

41:名無しの権兵衛

何読んでるのかと思ったらハムレットwww

初期近代英語ですよ……?

 

42:名無しの権兵衛

>>29

ほーん

じゃあこの子と投稿者は日本人か?

 

43:名無しの権兵衛

おめめ綺麗

 

44:名無しの権兵衛

>>38

あのムキムキ筋肉マンの子どもって言われたらまあ確かに

でもこの子頭もいいみたいですよ……?

 

45:名無しの権兵衛

>>41

ハムレットってシェイクスピアだろ?初期近代英語ってなに?

 

47:名無しの権兵衛

滑り込みセーフ

 

49:名無しの権兵衛

うちの子も言葉結構喋れるようになったわ天才って思ってたけど凡だったみたいだな

 

51:名無しの権兵衛

俺看護士だけど、この赤ちゃんの発達スピードに驚愕

 

52:名無しの権兵衛

ちょっと異常だわ合成って言われても信じる

 

53:名無しの権兵衛

>>45

調べろやカス!

って言いたいが心優しい俺が教えてやるぞ

初期近代英語ってのは今の文法と単語が微妙に違う英語

ただ微妙ってだけなので読めることには読める

感覚としては日本人が大正から昭和の文章読んでるようなもん

 

54:名無しの権兵衛

>>49

この子がおかしいだけ

 

55:名無しの権兵衛

合成ってなにを合成するんだよ

 

56:名無しの権兵衛

>>53

心の声漏れてますよ

 

57:名無しの権兵衛

概要欄の「Hello, YouTube!」いいね

プログラム言語学び始めた時を思い出すわ

 

59:名無しの権兵衛

>>53

やさしい

 

61:名無しの権兵衛

赤ちゃん「俺に驚いたら''赤さん''、そう呼べ」

 

63:名無しの権兵衛

>>53

心優しい……?

 

64:名無しの権兵衛

この子のおめめ前にどっかで見たわ

 

66:名無しの権兵衛

この子が男の子なのか女の子なのか、それが問題だ

 

67:名無しの権兵衛

>>55

そら声や本の表紙よ

 

68:名無しの権兵衛

本当じゃん目キラッキラ

 

69:名無しの権兵衛

微笑ましい赤ちゃんの映像じゃん

 

70:名無しの権兵衛

赤ちゃんすこすこ侍 義によって助太刀致す

この子は女の子!!!!!

 

72:名無しの権兵衛

この目どっかの板で見たな

なんかテレビのインタビュー受けてたはず

 

74:名無しの権兵衛

この子このスレにある子じゃない?

こんだけ賢かったら納得するわ

 

https://……

【朗報】超美幼女、発見されるwwwwwwwww

 

76:名無しの権兵衛

赤ちゃんかわええな俺も欲しいわ

 

77:名無しの権兵衛

うおおおおおおおお

女!女!女!

 

78:名無しの権兵衛

天才はいる。悔しいが。

 

79:名無しの権兵衛

>>61

ペコさん!?

 

80:名無しの権兵衛

>>74

かわえええええええ!!!!!

 

82:名無しの権兵衛

>>74

めちゃかわ

そして4歳でIMO出場はワロタ

 

84:名無しの権兵衛

>>77

きもいよお前

 

85:名無しの権兵衛

>>74

かっわ!!!

 

87:名無しの権兵衛

>>74

そうこの子だ

お目目がそっくり

 

88:名無しの権兵衛

>>74

この赤ちゃんがこんな可愛い幼女に変身するんだね

人間ってすごい

 

89:名無しの権兵衛

なるほど、赤ちゃんの頃から英才教育すれば天才は生まれるのか

 

91:名無しの権兵衛

>>1

このサイトなんて読むの?

 

93:名無しの権兵衛

この赤ちゃんのマッマが気になるわね

絶対美人

俺が保証する

 

95:名無しの権兵衛

>>88

赤ちゃんも可愛いだろ!

 

97:名無しの権兵衛

ちょー可愛い赤ちゃんと思ったら超人だったか……

 

99:名無しの権兵衛

>>91

ようつべ

 

101:名無しの権兵衛

>>93

おま誰

 

102:名無しの権兵衛

パッパが出てきてないところが疑問

 

104:名無しの権兵衛

この子の将来が楽しみすぐる

アイドルになってくれんかな

 

105:名無しの権兵衛

>>99

ウソ教えんなユーチューブな

 

106:名無しの権兵衛

>>74

俺この子千葉にある夢の国で見たな

彼女と「あの子可愛い」って盛り上がった

 

108:名無しの権兵衛

将来美少女確定の赤ちゃんは八色葵ちゃんね

 

109:名無しの権兵衛

俺の頭は物覚えるにも一苦労なのに……

赤ちゃんのやわらか脳みそ羨ましいわ

 

111:名無しの権兵衛

>>102

字幕でパッパの本読んでるね言うとるから出張じゃない?

こんな可愛いバブちゃん置いていくのは理解できないが

 

113:名無しの権兵衛

>>93

おま誰

 

114:名無しの権兵衛

八色って苗字見たことないな

そうとう珍しい

 

115:名無しの権兵衛

>>106

彼女とか言ってんじゃねえよカス消えろ

 

116:名無しの権兵衛

>>106

リア充がこんなところいるんじゃねえ

 

118:名無しの権兵衛

八色ってなんて読むの?はっしょく?

 

120:名無しの権兵衛

かしこいワイ将はこの子の動画で英語のお勉強することにしたで

 

122:名無しの権兵衛

イギリス英語かこれ

 

123:名無しの権兵衛

アカウント名ブルーエイトでワロタ

まんまじゃん

 

125:名無しの権兵衛

>>115

>>116

嫉妬が気持ちええわー

 

126:名無しの権兵衛

>>118

>>74見ろ

 

127:名無しの権兵衛

>>118

やくさ

 

128:名無しの権兵衛

おめめがキュート!宝石みたいや!

 

129:名無しの権兵衛

みんな、俺が貼ったサイトいろいろ動画あるから暇つぶしに使ってや

 

130:名無しの権兵衛

>>122

米国英語も混ざってる

ワザとなんかは知らん

 

132:名無しの権兵衛

赤ちゃん欲しくなってきたわ

なお相手なし

 

134:名無しの権兵衛

ちくわ大明神

 

135:名無しの権兵衛

>>127

サンキュー

 

136:名無しの権兵衛

>>122

なんか発音おかしくね?と思ったらイギリスとアメリカちょっと違うのあるんだ

 

138:名無しの権兵衛

>>129

サンキューイッチ

 

139:名無しの権兵衛

>>132

おま俺

 

140:名無しの権兵衛

この子がいずれ世界の誰もが知る人気者になるとはここの住民は誰も知る由もなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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メキシコ旅行

「葵、がんばってね」

「お土産楽しみにしててね、涼くん」

 

 うだるような夏の暑さの中やってきたのは東京の空の玄関口のひとつ、成田空港。7月8日から始まるIMOに出場するためメキシコにフライト予定だ。

 他の出場者も近くにいて、各々見送りの人と話している。

 幼馴染の涼馬くんは最近になって「葵」呼びになった。そろそろ小学生になるしカッコつけたいお年頃かな。可愛い。

 

「葵ちゃん、最後の確認だけどパスポートはー?」

「ここにあるー」

「よし、オッケー!向こうに着いたらママが預かるのでそれまでなくしちゃ駄目よ?」

「まかせて」

 

 出雲ご夫妻と話してたお母さんに最終確認をされる。最悪の場合、パスポートさえあれば他の備品は現地で揃えられる。

 

「葵ちゃん、頑張ってねのギュー」

「むぎゅっ」

「メキシコは物騒と聞くから気をつけてね?」

「ぷはぁ。はい、大丈夫です」

「八色さーん!そろそろ時間です」

 

 最後に涼子さんにハグされその場を後にする。他の出場者はみんな高校生なので1人だが、私は年齢の事もありお母さんが着いてくる。最初は高校生のみんなも遠慮していたが、合宿を通して仲良くなり気軽に話しかけてくれるようになってくれた。

 この世界では初めての海外、しかも行ったことのないメキシコということで今からワクワクしてきた。

 IMOの期間は1週間あるが、実際に問題を解くのは2日だけ。あとは他国の人との交流やメキシコ観光がある。カメラをしっかり持ってきたのでたくさん動画を撮って後にシリーズものとしてあげることにしよう。

 

 荷物検査等の搭乗手続きを経てタラップから飛行機へと乗り込む。この時期に利用しているお客さんは大人ばかりで私のようなちっちゃい子は見当たらなかった。私も幼稚園を休んできてるから当たり前と言えば当たり前か。

 お母さんにお願いして手荷物を上の棚に置いてもらった。手元に残してあるのは暇つぶしのための本。

 1歳になってからは日本語や英語以外の様々な言語の本も読むようになった。というのも家の本棚にはヨーロッパ各国の書物が多くあり、言語習得に適していたからだ。

 子どもの頃は日本語と英語が入り交じった生活だったので後の人生に役立ったなと前の世界に思いを馳せる。前世では日本語、英語、中国語、ドイツ語、そしてスペイン語までしか話せなかったが、今やヨーロッパの主要言語はある程度話せるようになっている。翻訳を仕事としているお母さんもペラペラなので、最近の家での会話は多言語が飛び交うカオスな状態だ。

 手元にある本もスペイン語で書かれたもので、メキシコに行く前の復習みたいなものだ。

 

 ふと隣にいるお母さんを見ると珍しそうに席を確認していた。

 

「どうしたの?」

「うん?あー、ママはこの飛行機に乗るのは初めてで舞い上がっちゃった」

「なるほど」

 

 わかるわかる。初めての飛行機や新幹線は「このボタンなに?」「テーブルがここに入ってる!」みたいな感じでワクワクするものだ。お母さんにもそういうところがあったのかと知ってニヤニヤしてしまう。

 

「む。葵ちゃん、ママのこと笑ってるね?」

「そんなことないよ」

「嘘つく悪い子はこうだ!よーしよしよし」

 

 笑っていたことがバレて撫ぐり回されるが、髪がボサボサになるので止めてくれ。しばらく撫でて満足したのか安全のしおりを取り出して読み始めた。それしっかり読む人いたんだ。

 しばらくお母さんを眺めているとポーンと放送の音が鳴った。そろそろ離陸準備に入るらしい。

 シートベルトの着用の確認やらなんやらをした後にいよいよ離陸する。この瞬間はいつ体験しても楽しい。窓際に座る高校生の子は外を見てはしゃいでいた。分かるぞその気持ち。ここから偏西風に乗って約半日のフライト。

 さあ、いざメキシコへ!

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 着きましたメキシコ。乗り継ぎのヒューストンではちょっとした問題も起きたが無事に辿り着くことができた。日本よりも緯度がほんのちょっと下にあるが、暑さはそこまで変わらない気がする。今の季節は雨季にあたるそうでたまにスコールが降るので気をつけてと言われた。

 滞在するホテルでは通常は2人組で一部屋に泊まるのだが私はお母さんと一緒の部屋になった。5つ星ホテルらしくそんな高いところに泊まったことがない私は萎縮していたが、想像よりも普通で肩透かしに合った気分だ。

 

「葵ちゃん、お水はペットボトルのしか飲んじゃダメよ」

「え、このホテルのもダメなの?」

「万が一があるのでダメです」

 

 指をバッテンに重ねブッブーと言ったお母さんはこういう所に慣れていそうだった。荷物整理をしながらそういえばお母さんの故郷の話を聞いたことがない事に気づく。前世では父親が居ないこともあり、そういう事は聞いちゃいけないと勝手に遠慮していたため質問する機会がなかったのだ。

 

「お母さんってさ、どこ出身なの?」

「言ってなかったっけ?カリュシアよ」

 

 カリュシアと言ったらノルウェーとアイスランドの間に浮かぶ小さな島国だ。そんなところでお父さんとどのように会ったのだろうか。

 もっと聞いてみたいと思ったところ部屋の扉をノックする音が聞こえた。お母さんが出れば同じ出場者の子で、どうやらホテル側のミスにより他国の人と一緒になったらしい。そんなこともあるのかと思っていると通訳として来てくれないかと頼まれた。私も気になるので部屋に行ってみると残された子が一生懸命コミュニケーションをとっている。

 

『やあ、災難だったね』

『おや?可愛らしいお嬢さんだ。 キミもこの部屋に泊まるのかい?』

『いや、私は違う部屋だよ』

 

 話してみれば気さくな性格のようで、とりあえずはなるべくゆっくり話してあげてと頼んだ。日本の高校生もリンキングやリダクションなどがなければある程度は聞き取れるはずだ。後はこちらから意思を伝えるだけだが、それは片言でもなんとかなる。そんな感じのことを高校生の子に言えば「頑張ってみる」とやる気を出していたので大丈夫だと思う。

 そういえばけん玉を持って来ていたはずだから、試しにパフォーマンスをしてみれば?と提案したらそれが大ウケ。仲良くなっているようなので私は部屋に戻った。

 

 

 

 そんなこんなで開会式の日がやってきた。

 日本チームの入場時にはみんなでけん玉をパフォーマンス。これは合宿の時にみんなで話し合って決めたことだったが、海外の人にはウケるらしくこれが後々の交流に繋がっていったので大成功だと思う。

 意外だったことは私が結構な注目を浴びたことで、各国のチームに着いてきていた取材陣が私に集まってきたのだ。

 どうやら史上最年少での出場というのは思いのほか大きい影響を与えたようで計画が順調に進んでいることに満足する。

 

 そして明くる日の今日、遂に試験が始まる。パソコンを手にするには銀メダル以上を取らなければならない。過去の成績を見れば6問中4完答すればよさそうなので多分大丈夫だ。

 キャスター付きのイスに座りながら足をプラプラさせ試験開始の時刻を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験はあっけなく終わった。高校数学程度ならこんなもんでしょというのが感想であるが、どこで減点を食らうか分からないため結果発表まではドキドキだ。

 

 試験終了の次の日からは観光が始まった。メキシコの有名どころを見て回ったが高校生の諸君は数学の話で盛り上がっていた。

 君たち、大学生になって女の子がいる前でそういう話はしない方がいいぞ。お兄さん(4歳女児)との約束だ。

 マヤ文明の説明で2進数や暦の正確性で話が出来るのは流石だとは思う。

 私はそんな彼らも撮影しながら観光を楽しんだ。

 本場のメキシコ料理は辛さはあるが本当に美味しかった。タコスの生地はしっかりとトウモロコシから作っているらしい。ペラグラ*1にならないようニシュタマリゼーションと呼ばれるアルカリ処理を考えた先人には脱帽だ。ヨーロッパの人たちもトウモロコシだけじゃなくて調理方法も持ち帰ればよかったのに。

 

 夜には他国の人と交流を図るべく、ボードゲームやカードゲームなどでコミュニケーションをとった。日本人の彼らもけん玉から始まり片言ながらもしっかりと会話を楽しんでいたと思う。この経験が彼らのためになればと手伝うことはせず見守っていた。

 一方の私はというと

 

『葵、通訳をありがとう!やっぱり拙い英語より母国語で喋りたいから助かったよ』

『僕からも感謝を。葵は幼いのにこんなに色々出来るなんて凄いよ。正直日本人だからと侮っていたもん』

『あー、うん、気にしないで』

『葵、こっちに来てよ!』

『私の体はひとつだから無茶言わないでね』

 

 何やら上手く話せていない集団がいたので近寄ってみれば「これはなんて言ったらいいんだ?」のように単語が分からないようだった。日本の子じゃないし、手伝ってやるかと思って手を出したのが運の尽き。次から次へとこっちもこっちもと呼ばれて私は一躍大人気になった。こんな人気は要らないんだけどな……

 おかげで名刺もいっぱい貰い連絡先が山ほど手に入った。使うことはないだろうけど何か役に立つかもしれないので有難く貰っておく。

 でもまあ、世界中の人とその母国語でこんなにも話せるのは楽しいしいい経験になった。前世では基本的に英語でのコミュニケーションになっていたし、ドイツ語なんて披露する場所もなかったからなあ。

 ちょっと嬉しかったことはロシア人に筆記体のキリル文字をしっかりと読み取ってもらえたことだ。書けたら面白いかもと練習したかいがあったもんだ。

 

『そこの可愛いお嬢さん。ちょっといいかな?』

 

 ある程度人がはけ、ぶらぶらと彷徨っていると声をかけられた。

 声の方向を見れば高校生くらいの青年とチームスタッフであろう男性がいた。

 

『どうしたの?』

『さっきの君の活躍を見ててね。もしかしたらカリュシア語も話せるんじゃないかと思ったんだ』

『おー、珍しいね!もちろん話せるよ』

『やっぱり!僕はカリュシアからきたケリーだよ。よろしく』

 

 カリュシアは日本と同じく島国だ。人口も300万人と少なく、その公用語であるカリュシア語もまた話者は少ない。島国で侵略を受けた事のない国の言語というのは似かよった知名度らしい。どうやら母国語で話せそうな私は彼らにとって嬉しい存在のようだ。私も日本語が話せる外人さんに会えば嬉しくなるしその気持ちはよくわかる。

 

『葵はどうやって言語を覚えたんだい?まだ4歳って話じゃないか』

『家にたくさんの本があってね。カリュシア語ももちろんそれで覚えたよ』

 

 今になって思えばお母さんの出身地だからか結構な数のカリュシア語の本があった。辞書も書き込みがされているものがあり、もしかしたらそれを使ってお父さんが一生懸命覚えたのかもしれない。

 

『発音とかは?』

『それは辞書である程度覚えて実践したんだ。実を言うとお母さんがカリュシア出身でね』

『それは本当かい!凄い偶然だ!』

『今もあそこに居るから連れてくるよ』

『ぜひ会ってみたいね!』

 

 そんな話になり隅っこで日本のスタッフと話していたお母さんのところへ向かった。

 

「お母さん。お母さんに会いたいって子がいるからちょっとだけ来てくれる?」

「ママに?物好きな子がいるんだね」

「カリュシアから来てる子みたいだよ」

「えっ!?」

 

 お母さんをケリーと名乗った青年のところへ引っ張りながらそう言うと、お母さんは驚いたようだった。どうしたんだろう。

 

「何かいけなかった?」

「うーん……まあ高校生なら大丈夫かしら」

「なにが?」

「ううん、何でもないのよ」

 

 そう言いながら頭を撫でてくる。お母さんは私を撫でることが好きみたいだけど、私は恥ずかしいんだよね。

 

『ケリー、連れてきたよ』

『おお!こんな所で同郷の方に会うとは思いませんでしたよ!』

『貴女様は……っ』

『しー』

『ん?』

 

 連れてきたお母さんをみたケリーは嬉しそうだが、今まで黙って見ていたスタッフの人が驚いた様な表情を見せた。ビックリすることなんてあったか?

 

『お母さんが美人で驚きました?』

『そう…ですね。葵さんのお母さんがとびっきりの美人で驚いちゃったんだ』

『お母さんはお父さん一筋だから残念でしたね』

『それはそれは。葵さんのお父さんはとても素敵な人に違いないね』

 

 お父さんと会ったことはないが、お母さんが好きになる人だ。きっとそうなのだと思う。

 その後はケリーは嬉しそうにお母さんと話し、最後にスタッフの人にぜひカリュシアに来てほしいと頼まれた。自然豊かな国なのでいつかは行ってみたいと応えたら、おじさんは大層喜んでいた。そんなに嬉しいことかな?私としてもお母さんの母国は気になるので近いうちに行きたいな。

 

 

 そしてメキシコ旅行最終日。この日は運悪くハリケーンが直撃してしまい外出も出来なかった。閉会式の会場も変更になってしまったが自然相手には勝てないのでしょうがない。

 成績の方はと言うと、日本は私を含め4人が金メダル、銀メダルと銅メダルが1人ずつで全体では7位だ。

 無事に銀メダル以上という目標が達成出来てよかった。個人的には前世から続いていた「試験では満点以外取ったことがない」ということが継続してるので嬉しい。今までのものとはちょっと毛食が違うものだったので安心した気持ちだ。

 

 成績発表の後は案の定というべきか開会式の日と同じように取材陣に囲まれた。史上最年少記録を塗り替えたらしいが、そもそも私は年齢詐欺しているため微妙な気分である。その年齢詐欺で話題を呼ぼうとしているので私は腹黒い性格なのだろう。

 

 閉会式の後も日本の高校生含め多くの人が会話を楽しんでいた。日本の彼らもメキシコに来た時よりもだいぶスムーズにコミュニケーション出来ていると思う。こういうのは慣れが1番だと思うから、この経験を忘れずに彼らの将来に役立ててほしいな。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 無事に日本に帰国してきた。メキシコよりも蒸し暑い日本の気候は少し嫌になるが、それが日本に帰ってきたという実感にもなる。

 お土産にはあちらの伝統工芸品とポテトチップスを買ってきた。色によって辛さが変わってくるので涼馬くんが食べれるものもあると思う。反応が楽しみだ。

 

 今年やることはもう残り少ない。資金集めにちょっとお馬さんを見に行くくらいかな。

 来年からはいよいよ日本の動画投稿サイトが始まる。それまでにどれだけの人が集められるかだが、利用者層が異なってくるからあまり気にしないでもいいかもしれない。

 

 とりあえずはメキシコで撮った動画を編集することから始めよう。

 

 

 

 

 

 

【快挙】4歳日本人 史上最年少で国際数学オリンピック金メダル

 メリダ(=メキシコ)で今月11日から行われている国際数学オリンピック(IMO)。日本の出場選手の1人、八色葵(やくさあおい)が4歳での金メダリストという偉業を成し遂げ、これまでの最年少記録であった12歳を大きく更新した。このことについて八色は「光栄なこと。落ち着いて取り組めた結果だと思う」と淡々と応えた。

 なお今回の日本の成績は金メダル4、銀メダル1、銅メダル1で全体7位の結果となった。日本チームの団長である山田浩司は「大変満足いく結果。八色さんを筆頭にみんなが自分の実力を発揮出来たようでよかった」と述べた。

 過去のメダリストの中には「数学界のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞を受賞する者も多い。日本に生まれたこの若き天才の今後の活躍から目が離せない。

 

 


 

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Tips:【国名】カリュシア
ヨーロッパの国でノルウェーとアイスランドの間に位置する小さな島国。地理のために建国以来どこからも侵略を受けていない。スイスと並び永世中立国となっており、徴兵制度や核シェルターなどの設備も充実。1300年もの歴史を持つ王室がある。

独自言語があるのに名前が「リーナ」や「ケリー」……?妙だな……


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【お馬さん】1000円チャレンジ in 東京競馬場

流行り(周回遅れ)のウマの話

(編集)
払い戻し金が現実味を帯びてなかったため変更してあります。指摘してくださった方ありがとうございます!


 私がした事は想像以上に大きな関心事になったらしく、テレビ出演のオファーがたくさん来た。大体は天才と呼ばれるような子を集めて何かをやらせるような番組だったので丁重にお断りしておいた。

 そういうのは私が個人的にやりたいし、現状これ以上公の場に露出するのはあまりよろしくないと考えたからだ。お母さんもこの意見に賛成らしくテレビマン達は残念そうにしていたとか。

 

 約束通り新型のパソコンを買ってもらった私は早速とばかりにメキシコ旅行動画の編集を始めた。今回の動画は日本語で話してることが多いので英語字幕を入れておこう。

 ただ、新型とはいえ時代が時代だ。約20年後の世界を知っている私からしたら動きが重いように感じてしまう。スマホも早く欲しいなあ。

 

 以前あげたホームビデオ動画はパート10まであげてある。3歳くらいまでならあげてもいいかなと考えているのでまだ動画の弾は残ってる状況だ。

 10月現在、最初にあげた動画は何が面白いのか85万再生もされていた。世界一のファンタジスタのゴール動画は100万再生されているので1番とは言えないが凄い数字だと思う。本当はネタ動画とかもアップロードしたいんだけど、まだそういう流れではないので自重する。ニッコニコくん、早く来てくれ。

 

 最近になって曲の準備もするようになった。というのもこの身体、声質が凄くいい。声域も自由自在で新しい才能が植え付けられているようでビックリである。

 いつの時代でも音楽は人々の間で関心を向けられる対象だ。なのでこの能力を人気を得る事に使えればと考えた。都合のいい事に2007年になれば電子の歌姫がデビューする。声の良さと作曲の才能はイコールじゃないが、彼女を使って最初はコツコツと作品を投稿出来たらいいな。

 最高な筋書きとしては、私の曲がヒットし、作品を出しながらニコ生などの配信で容姿を餌に人を集め、最終的に世間の誰もが知る有名人となること。そうすれば憧れた彼らとも会える気がするしお金も手に入るしで万々歳だ。

 そんなに上手く事が運ぶことはないと思うので時代の潮流を読んで適宜方向修正していく必要があるけれど。

 

 

 

 

 

 10月22日、私は東京競馬場に来ていた。大きなレースとして11Rにて行われるGⅢの富士ステークスがある。そのため今日の会場はちょっと人が多いように感じる。ディープインパクト全盛期ということもあって競馬ブームが再燃しているのかもしれない。まあ私は最終レース目的なんだけどね。

 

 お母さんが競馬に乗り気だったのは意外だった。先週ダメ元で提案してみればあっさりと通ってしまったのである。

 

『お母さん、お馬さんがみたいな』

『あら、じゃあ動物園にでも行く?』

『走ってるやつがいい!』

『競馬かしら?ママも日本のは見たことなかったし、行ってみましょうか!』

『わーい!』

 

 みたいな会話をして日程も今日に合わせることが出来た。日本のは見たことないってことは故郷では行ったことがあるのかな。

 

「お母さんはカリュシアで競馬見に行ったことあるの?」

「もちろん!ヨーロッパは競馬が盛んなのよ」

 

 8Rのパドックを見ながら「あの子は汗が出すぎてるわね」や「あのトモの張り、素晴らしいわ」など呟く様子は言葉通り競馬に精通しているようだ。世界一のレースと言われる凱旋門賞もヨーロッパだし、向こうは結構バチバチにやり合っていたりするのだろうか。

 

「馬券、買わないの?」

「葵ちゃん、こういうのは大きいレースにガツンと賭けるものなのよ。勝負師のママを見せてあげるわ」

 

 珍しくかけていたサングラスをクイッと上に持ち上げる自信満々のお母さん。そういう言葉は負けフラグっぽいので言わない方がいいような気がするよ……

 力が入っているお母さんは競馬新聞を片手に件の11Rのマークシートを塗り始めた。あれ、早くないか?

 

「パドック見なくていいの?」

「直前になると混んじゃうの。だから前もって自信のあるものだけは塗っちゃいましょう」

「ふーん」

「もちろんパドックを見た後にも買うわ」

 

 なるほど。前世の私は時勢のこともありネット購入が多かったので時間ギリギリまで考えていたものだ。現地だとこういうことも考えなきゃいけないんだなと一つ学んだ。

 塗り終わったシートを見せてもらうとワイドの12-14に1万円……1万円!?

 他にも3連複や3連単にもいくつか賭けてあって総額2万円。G1にしか賭けて来なかった私からしたらG3にこんなに賭けるのかと驚愕だ。

 一応今日の11Rは3番人気の12、11番人気の10、1番人気の14という順だったはずだ。ワイドのおかげでガミらないと思うけど3連単で12-14-10とニアミスしているのは凄い。

 

「このタニノマティーニって子、新聞だと丸とか書いてないけど大丈夫?」

「その子はママの勘ね。3着に来たら大きいしね」

 

 ちょっと惜しいけどその勘凄いよ。

 とりあえずそのマークシートを馬券に変えた。時刻は14時で、11Rのパドックまでは1時間くらいある。

 

「葵ちゃん。ポニーに触れるみたいだから行ってみる?」

「行く!」

 

 時間もあるしもちろん了承。ふれあいコーナーの様になっているところは私たちと同じように子連れの親子が多くいた。

 しばらく待って私たちの番になるとビデオカメラをお母さんに渡す。可愛い幼女と動物の触れ合いは需要があるはずだからね。

 餌をあげると美味しそうにモシャモシャ食べてくれた。

 

「乗ってみるかい?」

「いいんですか?ぜひ!」

 

 首筋を撫でて意外な硬さを感じていると特別に乗馬の許可が出た。これ幸いにと抱き上げて乗せてもらうと目線が高くなる。おおー、小さい身体に慣れていたからこの目線の高さは新鮮だ。

 

「葵ちゃん!こっち見て、手を振って!うん、かわいい!」

 

 大きな声で親バカ全開なお母さんに視線が集まっていたが本人は気にせず撮影を続けていた。私にも視線が集まるので顔が赤くなってるかもしれない。

 狭い柵内をパカパカ歩いてもらい十分堪能してから降ろしてもらった。動物との触れ合いも久しぶりだったので大変満足である。

 時間も程よく消費して戻ろうとしたのだが、ふれあいコーナーは来た時より混雑していた。これから目玉レースなのにいいのかな?

 

 

 戻ってきたパドックでは11R出走馬を一目見ようと多くの人がいた。G3なのに凄い熱気だ。私もお母さんに抱きかかえられ馬の様子を見るが、正直なところどこを見ればいいのか分からない。前世知識があるので「この子が勝つのかー」という感想がせいぜいである。お母さんの方は今まで見た事のないような真剣な眼差しで馬を見つめ、うんうんと頷いている。

 

「葵ちゃんはもう見なくても平気?」

「大丈夫」

「よしっ。じゃあ追加の馬券を買いに行くわよ!」

 

 新しいマークシートに塗るのは10-12-14の3連複で5000円。最初に買ったもので当たりはワイド1万円と単勝4000円。前世と結果が変わらなければ約60万円の払い戻しになる。知識チートなしでこれはお母さんのガチ具合がよく分かる。

 お母さんが早速馬券に変えようとしたが待ったをかける。このタイミングで12Rのも買ってもらわないと今日来た意味がないのだ。

 

「お母さん、私も何か買ってみたい」

「そうねー。うん、好きなの選んでちょうだい!」

 

 許可を貰えたので早速とばかりにマークシート台へ。身長が足りないので抱き上げてもらいレース番号に12、式別には3連単、そして3、11、4と順番にマークした。

 

「12レースでふむふむ。葵ちゃん、本当に1000円だけでいいの?」

「うん。おみくじみたいなものだから」

「偉い!賭け事は入れ込まないようにしなくちゃだもんね」

 

 ヨシヨシと頭を撫でてくるお母さんはこれがとんでもない金額になることを知らない。

 なぜ私が10月22日を希望したかと言うと、この12R、前世では歴代で7番目の高額配当が出るのだ。本格的に動き出すためには自由に使えるお金が必要で、この時期に、そして近場でとなるとこのレースが最適であった。

 それにこのレースの結果が前世と異なるなら、知識チートは出来ないということで諦めもつく。つまりこれからの私のムーブの試金石でもあるのだ。一応は有名どころのレース結果から着順に変化がないことは確認済みだ。

 本当は1万円くらい賭けたいが流石に怒られるかもしれないので1000円で我慢した。お母さんの言い方的にはもっと賭けてもよかったかもしれない。

 

 マークシートを馬券へと変えてスタンドへと向かった。既に輪乗りが始まっており、観客のボルテージも上がっている。その様子を眺めながらビデオカメラを取り出し、お母さんに向けた。

 

「それでは解説のお母さん、このレースの見所はどこでしょうか」

「解説のママでーす!見所はズバリ、タニノマティーニ!この子が来るかどうかが鍵になってくるでしょう」

 

 いきなりカメラを向けても即座に対応し聞きたい言葉を答えてくれた。それを聞いたのか、近くにいたおじさんは「タニノマティーニなんて来るわけねえだろ」と呟いて離れていく。前世知識なしだと全くの同感だ。それでもお母さんはニコニコと自信あり気な表情を崩さない。

 ゲート入りの時間になったので一旦撮影を止めた。レース映像は著作権に引っかかりそうだからだ。後は結果がどうあれレース後に掲示板とお母さんの姿を撮って繋げればいいだけだ。容姿が優れているとこういう時に楽だと感じる。当たれば「すげー」となり外れても「可愛い」ってなるからね。

 

 いよいよレースが始まった。飛び出した逃げ馬を追いかけるように先行策を取るタニノマティーニ、中段で脚を溜めるウインラディウスとキネティクス。そのまま第1コーナー、第2コーナーを抜け、レース後半戦へ。第3コーナーでも陣形は崩れはしないがタニノマティーニが先頭との差をジリジリと無くしていく。第4コーナーでウインラディウスが進出してくるがキネティクスこれ間に合うか?

 このレースが当たってくれないと12Rも不安になるので川添さん頑張ってー!その子はスイープトウショウみたいな癖ウマじゃないから行けるはず!

 想いが通じたのか最終直線でグングン伸びてきて結果は前世通り12-10-14だ。11番人気のタニノマティーニが2着に来てしまったので周りでは券を投げ捨てている人もいる。3連単のオッズは800倍越えなので荒れるのも仕方ない。

 

「いえーい!ママ大勝利ー!」

「すごい!すごい!」

 

 喜んでいるお母さんを撮影するのも忘れない。換金しに払い戻し機に向かうと、次の12Rで取り返そうとしている人が多くいることに気づいた。次のレースも地獄なんだよなあ……

 払い戻された60万円はお母さんの財布の中にしっかりと仕舞われた。そういえば1000万円を超える払い戻しの場合ってどうやって受け取るんだ?お母さんに聞いてみれば100万円以上の時は窓口で渡されるとのこと。それ襲われそうだけど大丈夫かな。

 

「葵ちゃんの馬券が当たったら窓口に行かなくちゃかもねー」

「もし当たったらさ、それ自由に使ってもいい?」

「そうなったら葵ちゃんの好きな事に使っていいよー」

 

 恐らく当たるはずがないと考えているお母さんから言質を貰った。絶対とは言えないんだけど、多分当たっちゃうんだよなーこれが。

 さっきと同じようにスタンドへ出てレース開始を待つ。地面に落ちている馬券を清掃員の人がせっせと集めていた。

 

「……次に競馬場に来る時は指定席でも買いましょうか」

 

 お母さんはその光景が嫌いらしく、次回は立ち見を避けられそうである。

 

「このレースが終わったら、久しぶりにお寿司を食べに行きましょう!」

「お寿司!?やったー!」

 

 気分を入れ替えるように夕食の提案をされ、それが大好物の寿司だったから大喜びだ。寿司と聞いてお腹が貝類を欲しているのが分かる。貝、貝が食べたい。

 何を食べようか悩んでいるとレースが始まる。このレースはダートの1400mなので早々に決着が着くはずだ。浮かれている私を尻目に馬たちは第4コーナーを回ってきた。げぇっ!3番も11番も後ろじゃん!このレースは結果しか知らないんだからこの展開が史実通りなのか分からない。

 

「頑張れー!」

 

 思わずあげた声は周囲の喧騒に掻き消されることなく響き渡った。周りの人がバッとこちらを振り返ってくる。やば、競馬場で大声出しちゃいけないんだったっけ?馬は大きい音に敏感だって話だからマズかったかもしれない。自分の行動を反省していると前の方から怒号とも悲鳴とも取れる声が聞こえてくる。

 気づけば既にゴールしてるらしく掲示板を見た。そこには3-11-4と上から順番に書かれている。凄い、あそこから差したのか。

 

「勝ったー!あーちゃん大勝利〜!」

「……」

 

 私を抱き上げているお母さんは声を失っていた。お母さん視点で見れば、娘が適当に選んだ馬券が億を超える額になったのだから当然だ。

 

「お母さん?」

「……葵ちゃんっ!すっごいよ〜!こんな所でも天才だなんて、ママびっくり!」

 

 知識チートがありますから。

 なんて言える訳がないので曖昧に微笑んでおいた。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 お母さんの説明通り配当金は窓口で渡されるらしく待機札をもらった。宝くじみたいに銀行振込にしてくれれば楽なのだが、どうやら必ず現金での手渡しでなければいけないらしい。

 私はその時間を利用して係の人に動画をアップロードしていいかの旨を確認した。その際にあちらの人が私のことを知っていたらしく上に連絡するから待ってくれと言われる。

 IMOの件は世間で大きく取り上げられたのだが、ここで役立つとは思わなかった。

 しばらく待つと見るからにお偉いさんという人が3人来た。

 

「お待たせしました、八色さん」

「いえ、待ち時間のついででしたので大丈夫です」

 

 代表者の人と話すと、アップロード前に確認して修正してほしいところはその時に連絡するということになった。寛大な措置でありがたい。

 

「実は我が息子が八色さんをテレビで見て惚れてしまいましてね」

「あー……ありがとうございます?」

「この機会に出来れば写真を撮ってもらいたいのですが、可能ですか?」

「それくらいなら」

「おお!ありがとうございます」

 

 見返りと言ってはなんだがお偉いさん達と写真を撮ることになった。私に惚れてしまった少年には申し訳ないが彼と会うことはないだろう。

 お母さんもついでに入ってもらい撮った写真は満足するものだったみたいだ。

 

「ありがとうございます。しかし動画をアップロードと言いますがどちらに?」

「YouTubeというサイトがありまして、海外の多くの企業もコマーシャル動画をアップロードしてますね」

「ほう、YouTubeですか……興味深いことを聞かせてもらいました。丁度配当金の方も準備が出来たみたいですので、我々はこれで」

「はい、本日はありがとうございました!」

「あっ、ガードの方をつけてもらってもよろしいですか?」

「もちろんです。直ぐに手配します」

 

 日本の企業もYouTubeに目をつけているはずだが、JRAはまだみたいだ。前世では2012年くらいに公式アカウントが作られていた気がする。こちらの世界でどうなるかは分からないがもしかしたら早まるかもしれないね。

 というか警備の人つけられるんだ。

 

 渡してもらった紙袋にはたくさんのお札の束が入っていた。総額として1億1000万円ちょっと。ずしりとした重さが金額の多さを物語っている。ここから税金などが引かれたものが手元に残るので、返ったらどれくらいの金額になるか調べてみよう。

 紙袋はお母さんに渡し、警備の人に囲まれながらタクシー乗り場へと向かった。いまはとにかくお寿司の事で頭がいっぱいだ。何食べようか考えていると順番が回ってくる。タクシーに乗ると警備の人は戻っていった。

 

「銀座の適当なところで補完へお願いします」

「承知しました」

「そこに行ったことあるの?」

「パパとのデートでよく通ってたの。せっかく東京に来てるし、丁度良かったね」

「そうなんだ」

 

 銀座のお寿司屋さんなんて格式が高そうだがお父さんもなかなかやるようだ。私は前世で教授に連れて行ってもらった1回しか行ったことがない。あまりの美味しさに感動した覚えがある。

 目的地へ向かう道中、外の景色を眺めているとお母さんが真剣な顔をして声をかけてきた。

 

「このお金は葵ちゃんの物になります。何に使おうが自由です」

「うん」

「ただし!お友達に物を買ってあげたり、そのままお金を渡したりしないこと。これは約束出来る?」

「うん、約束出来る」

「それならよし!」

 

 金銭のやり取りは小中学生まではご法度だ。その事についての注意みたいなものだった。

 

「今度、葵ちゃん用の口座とカードでも作りましょうか」

「えっ、カード!?いいの!?」

「怪しいサイトとかには注意してね?」

「分かった!」

 

 まさかクレジットカードまで作ってくれるとは。これで行動の幅が大きく広がった。明日辺りにこれからのムーブと照らし合わせて買うものリストでも作ろう。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 到着したお寿司屋さんはシンプルな店構えでいかにも高そうな雰囲気が出ている。入るのに躊躇しているとタクシーのお金を払い終わったお母さんが扉を開けた。店内は優しい色の明かりで照らされており、カウンターにはお客さんがまだ居なかった。

 

「大将さん、お久しぶりです」

「っ!これはリーナさん、そちらのお嬢さんは……」

「娘の葵です」

「八色葵です」

 

 自己紹介をしてぺこりとお辞儀をする。大将さんがお母さんの名前を知っているってことはだいぶ贔屓にしていたんだと思う。

 私の名前を聞いて大将さんは朗らかな笑みを浮かべた。

 

「リーナさんに似て将来は大層な美人さんになりそうだ」

「あら、葵は今でも美人ですよ?」

「これは手厳しい。おい、灯りを落としてこい」

「はいっ」

 

 何かの指示を出されたお弟子さんが外へ出ていく。

 

「貸切にしちゃって大丈夫ですか?」

「今日は予約も入ってないので構いません」

「私のせいで潰れたりしないかしら」

「そんな経営してたら先代に怒られますよ」

 

 さっきの指示は貸切にするってことか。戻ってきたお弟子さんの手には入る時に見た暖簾があった。……土曜日に予約がないお寿司屋さんって本当に大丈夫かな?

 とりあえずお弟子さんの引いた席に座る。もちろん背が足りないためお母さんに抱き上げてもらった。

 

「葵ちゃんは何が食べたい?」

「貝と光り物!」

「今日はいいサバが入ってるんだ。きっとあまりの美味しさに葵ちゃんはビックリすると思うよ」

「楽しみです!」

「私は大将さんのオススメで」

 

 大将さんとお弟子さんは注文を聞き手際よく貝と魚を捌いていく。一人暮らしをしていた時でも魚は捌かなかったので、その速さに感嘆のため息が漏れる。

 職人の技に見惚れながら、邪魔をしては悪いと思いつつも気になることを聞いてみた。

 

「お父さんとお母さんはよく来てたんですか?」

 

 一瞬、手が止まる。大将さんはそのまま何事もなかったかのように作業を続けた。

 

「そうだねー、陽仁さんとリーナさんが学生の頃からの付き合いかな」

「そんな若い頃から……」

「葵ちゃん、ママはまだ若いのよ」

 

 大学生の頃からと言うと、お父さんは相当無理してここに来てたんじゃないかな。お母さんくらいの美人を捕まえるためには必要経費だったかもしれないけど。

 

「お母さん、大学生の時には日本にいたんだ」

「ママが留学生としてこっちに来ててね。その時にパパがここに案内してくれたの」

「へー」

「陽仁さんとリーナさんは常にその席に座ってたね。はい、こっちがタイで葵ちゃんにはカキの握りだよ。味はもうつけてあるからそのまま食べてね」

 

 出されたのは丸々と太ったカキだ。シャリがその大きさに隠れてしまっている。

 いただきますと言って掴んだカキはプルプルと震えている。

 

「ん〜〜!!」

「いまつぶ貝と一緒に焼いてるのも作ってるからね」

 

 圧倒的美味しさの前には語彙力など融けてしまう。それほど美味しい。こんなおっきいカキも初めてだ。私が悶えてる様子をお母さんは微笑ましそうに眺めていた。

 

 その後もお父さんとの思い出を聞かせてもらいながらお寿司をいただいた。お母さんはバランスよく食べていたが私は貝と光り物オンリー。ミル貝とか初めて捌いている様子を見た。

 1番美味しかったのは生サバだ。私の中の美味しい魚ランキングトップに躍り出た。今までトップにいたシイラくんは2位に格下げです。旬だからか脂ののった身が最高だった。この味を覚えてしまうと他所のお店ではサバを頼めそうにない。

 

 帰りもタクシーだ。お店の前に呼んでもらいそこから埼玉の家まで送ってもらう。

 

「葵ちゃん、もうキミもここの会員だから、何時でも来ていいんだよ」

「ここ会員制だったんですか!?」

 

 帰り際に会員制のお店だった事実を伝えられた。座席数も5つしかなかったけど本当にやっていけてるのだろうか。

 帰りの車内にてあそこは大将の道楽でやっていると教えられた。なんでもお弟子さんを育てるためだけに開けているようなものらしい。お金持ちの考えはよく分からないが、あのお店は月に1回は行きたいな。それくらい稼げるように頑張ろう。




会員制なのに予約なしで開けている店とかは言ってはいけない
余談ですが作中の12Rの3-11-4の3連単は16頭立ての3345番人気だったので3340番人気にしようと思いましたがオッズを見る限り変わらなそう
めちゃめちゃ変わりました

ちなみにこの間の秋天はパンサラッサくんのおかげで美味しかったです(隙自語)
エリ女?知らない子ですね…

—追記—
寿司屋の場所は適当にみなさんの頭の中で補完してください
ネタが思い着き次第修正します


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流れるコメント

前話にて12Rの払い戻し金額を修正しております

キンクリ多用注意報


「葵ちゃんのお金はとりあえず私の税理士さんに頼んでおくから、年内にたくさん使ったりしないようにね?」

「うん、ありがとう」

 

 競馬や競艇などの公営ギャンブルで得たお金は「一時所得」として税が課される。Google先生によれば課税所得金額は経費と控除額50万円を引いたものの半分。これとお母さんの稼ぎなどと合わせて確定申告をするらしい。金額が金額なので所得税の税率は45%、控除額は480万円くらいだ。税金重スギィ!と思わなくもないがざっと計算すると8000万は残るみたいなので許せる範囲だ。所詮は泡銭だしね。

 

 このお金を使ってまずは自作PCを組み立てることにした。この時代なのでグラボやCPUはイマイチだが、ラップトップよりは遥かに性能がいいし、なによりアップグレードしやすい点が魅力である。昨年にやっとマルチコアのCPUが発売され始めたので、ここからムーアの法則に則ってどんどん発展していくだろう。

 

 秋葉原に部品を買いに行く際に向こうで人に囲まれたりしたが、なんとか欲しい物を手に入れられた。最近与えられた自室でカチャカチャやっていると、同じく秋葉原で新調したビデオカメラを片手にお母さんが入ってくる。暇さえあれば私の動画を撮っているのでメモリの整理が大変なんだよね。

 

「お母さん、お仕事はいいの?」

「先週で原稿は書き上げたから大丈夫!」

 

 翻訳家の仕事は時期によってまちまちで、忙しそうな時はいくつもの作品を並行作業でやっている姿を見たことがある。私も暇な時は手伝ったり——翻訳はそれぞれの味がある為、やってる事は長編小説の概要を纏める等の微々たるもの——しているので最近は余裕を持てているようでよかった。

 

 しっかし24ピンくんは本当に硬い。こちとら幼女なんやぞ。こんだけ硬いと電源を交換する時にマザボを壊しかねないから嫌だなあ。グラボ刺す時のボリッとなる音も怖い。

 フンッフンッと格闘すること半日、やっとPCが組み上がった。グラボのロックみたいのはどうせ引き千切っても問題ないのでいいが、フロントパネルコネクタは規格化してくれ……

 しっかりと動作もするのでアップグレードする時になるまではこいつらに触れないので清々する。

 

 作ってもらったカードでゲームも買った。これはニッコニコ動画が始まった時に実況プレイなどする時に使う。制作会社の方にも確認をしなければならない。

 

 

 

 

 

 

 季節は巡り12月。YouTubeの公式なサービスが開始された。このタイミングでJRAに確認してGOサインが出た競馬動画をあげる。ただの幼女と美人が映る動画だが、いつの世も「可愛いは正義」なので伸びる伸びる。チャンネル登録者も20万人を超え順調すぎる滑り出しにほんの少し恐怖を覚えた。

 正直なところTwitterのサービス開始やニッコニコ動画、ライブ配信が始まるまではそこそこの人気でよかったのだが、ここまで行くとちょっとの後押しで覇権を取れそうな勢いだ。その後押しが私の楽曲になればいいのだがやってみないことには分からない。とりあえずは動画配信の黎明期までに確固とした地位を築けてればいいな。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 2006年の7月。待ちに待ったTwitterのサービス開始である。今年もIMOに参加していた私は、スロベニアにて持ち込んだノートパソコンでアカウントを取得。アカウント名はこれからのことを考えて本名でいいかな。

 最初のツイートには悩んだが、YouTubeと同じくこれでいこうと思い投稿ボタンを押した。

 

 

AOI YAKUSA

@aoi_yakusa

Hello,Twitter!

         
     

 

 

 ついでに野球垢とサッカー垢も作っておいた。日本版がリリースされればどんどん人が増えてくるはずなのでそれまでは1人寂しく呟く時間が続くのかな。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

【祝】ニッコニコ動画(仮)サービス開始

 

1:名無しにあらず

祝え祝え!

 

4:名無しにあらず

名前がいいね

 

7:名無しにあらず

ニッコニコ動画は何が出来るの?教えてえろい人!

 

9:名無しにあらず

ニッコニコもはよ専用の動画投稿フォーム作れ

 

12:名無しにあらず

>>7

YouTubeやAmiibaVisionの動画を引っ張ってきてコメントすればそれが画面上を流れていく

 

15:名無しにあらず

アイマスで溢れさせろ

 

18:名無しにあらず

YouTubeは日本人の動画少なくない?要らないだろ

 

19:名無しにあらず

サンキュー東河博明

 

22:名無しにあらず

アイマスはアーケードの動画少ないんよ

 

23:名無しにあらず

>>18

日本語非対応なのがね

 

25:名無しにあらず

ときメモ派なんやすまんな

 

27:名無しにあらず

>>12

サンキューえろい人

 

29:名無しにあらず

文字色変えられるのね

 

30:名無しにあらず

YouTubeなんて外人の動画ばかりなのに今繋ぐ意味あるか?

 

32:名無しにあらず

Amiibaの動画を楽しめるのはいいけど回線重くなりそう

 

33:名無しにあらず

このサービスでほんとに大丈夫か?やっていける?

 

36:名無しにあらず

>>30

これメンス

 

38:名無しにあらず

>>30

外人ニキのおもしろ動画あるかもしれないだろ

日本人の動画も結構あるぞ

 

41:名無しにあらず

女の子の動画だらけになると予想

 

44:名無しにあらず

>>30

葵ちゃんがおるぞ

 

46:名無しにあらず

お前らもっとニコニコしろ

 

47:名無しにあらず

>>33

利用者増えなかったら機能追加するでしょ

 

48:名無しにあらず

Amiibaだらけになるやろな

 

49:名無しにあらず

どうせ葵だらけになる(予言)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニッコニコ動画を語るスレ

 

709:名無しにあらず

案の定ランキング葵ちゃんだらけwwwwwwwwwwww

お前らこれでええんか…?

 

711:名無しにあらず

可愛いは正義

 

713:名無しにあらず

葵ちゃんにはお願いだからそのサイズのままでいてほしい

 

716:名無しにあらず

そもそもYouTubeのコメント欄でも外人ニキネキ達が騒いでたから今更じゃん

 

718:名無しにあらず

ちなみに本人はTwitterも始めてた模様

 

719:名無しにあらず

日本はHENTAIの国なのでしょうがない

 

720:名無しにあらず

米国企業好き好き幼女

 

723:名無しにあらず

ロリコンだらけの素晴らしい国、日本

 

725:名無しにあらず

日本はWABISABIとSHINSHIの国だぞ

 

729:名無しにあらず

>>713

小さすぎるだろ

出来るなら小5から中学生くらいが希望

 

733:名無しにあらず

俺はたゆんたゆんが好きなので成長を心待ちにしてるよ

 

737:名無しにあらず

>>718

調べたらアメリカの会社でワロタ

俺も始めるわ

 

741:名無しにあらず

>>718

まーた知らないものやってる

あの子のアンテナどうなってるん?

 

743:名無しにあらず

>>733

おま俺

 

746:名無しにあらず

Twitter開設キターー!!

葵ちゃんに挨拶してくるわ、ほなお先に

 

750:名無しにあらず

>>713

>>729

この変態っ、ド変態っ!

 

753:名無しにあらず

>>718

俺もやってるから葵フォローしてるわ

 

757:名無しにあらず

>>741

英語つよつよだから海外のサイトやニュース回ってるんでない?

 

760:名無しにあらず

また葵スレになってるー

 

761:名無しにあらず

2ちゃんの住人葵好きすぎ問題

 

765:名無しにあらず

しゃーない

日本のネット界隈なんて掲示板か最近になってYouTubeとかが出てきたくらいなんだから

 

769:名無しにあらず

競馬動画の勢い凄くて草

 

770:名無しにあらず

>>753

特定した

 

773:名無しにあらず

>>760

YouTubeに日本人の動画が少ないんですが

 

775:名無しにあらず

マッマが美人なのと葵がクソかわなのと当てた金額がね

 

778:名無しにあらず

>>769

怒涛の赤文字でダメだった

 

779:名無しにあらず

>>769

1 億 1 1 0 8 万 1 6 0 0 円

 

781:名無しにあらず

競馬動画の葵ちゃんとポニーの戯れ永遠に見てられる

 

784:名無しにあらず

美少女と動物の戯れは健康にいい

古事記にもそう書いてある

 

787:名無しにあらず

>>784

その古事記知ってるものと違うんだが

 

789:名無しにあらず

11Rが荒れたばかりに12Rで更に損をした悲しい人たちの存在を忘れるな

 

792:名無しにあらず

>>784

お前の生きてる世界線と違うようだ

 

796:名無しにあらず

千早は皆勤賞だな

↑これ天才か?

 

798:名無しにあらず

YouTubeくん早く日本語対応してくれ

 

800:名無しにあらず

>>796

wwwwwwwwwwww

 

804:名無しにあらず

>>796

同じところで笑ったわwwwwww

 

807:名無しにあらず

>>796

それどの動画?

 

809:名無しにあらず

>>796

使い勝手が良すぎるんだわ >千早は皆勤賞

 

811:名無しにあらず

>>770

6000人の中からどうやって特定するんだよ

 

814:名無しにあらず

>>789

嫌な…事件だったね…

 

816:名無しにあらず

>>807

葵ちゃん観察日記パート12

https://niwavision……

 

817:名無しにあらず

>>789

俺のトラウマを書くな

 

819:名無しにあらず

葵が新作動画出してくれないと耐えられない体になっちまったよ

責任取って貰わないと

 

820:名無しにあらず

葵ちゃんのやってるものはこれから伸びるという風潮

 

822:名無しにあらず

>>811

お前のアカウント名 love aoi_tan

 

824:名無しにあらず

>>820

うぃーつべの伸びは凄いわ

サービス開始日に見極めてたんだとしたら神

 

825:名無しにあらず

>>820

ニッコニコに来てくれるなら将来は安泰だね

 

828:名無しにあらず

【?報】八色葵さん、6歳にして日本のネット界トップに立ちそう

 

832:名無しにあらず

【急募】アカウントを特定されないようにする方法

 

836:名無しにあらず

>>796

流石に幼女よりはあると思うんだが

 

 

 

 

 

 

 

 2006年の年末、遂にニッコニコ動画が始動した。来年の3月になればこっちでも動画投稿が出来るので盛り上がりそうな動画を選別しておく。

 今回は最速アップロードを狙うでもなく1日余裕を持ってあげようと思う。そうじゃなきゃあの動画が最古の動画にならないからね。悪霊退散を最初に書くのは私だ。

 

 Twitterの方は何故かフォロワーが1万人を超えた。YouTubeに動画をアップする度に宣伝ツイートをしていたのが功を奏したのかもしれない。アカウント名から判断するに、海外の人が多いがちらほら日本人っぽい人もフォローしているみたい。私の名前が入っている人を見ると結構人気になってきたんだなと実感する。

 

「涼馬くん、葵ちゃん、メリークリスマ〜ス!」

 

 パンッパンッとクラッカーの音が鳴り響く。12月25日の今日は我が家と出雲家の合同クリスマス会が開かれていた。昼間は幼稚園最後の学年ということでそちらでも日本風のクリスマスパーティが行われたが、母の影響により我が家では毎年七面鳥が並ぶ。2人家族なので丸一匹の鳥は辛いものがあるが、前世とは違い2家族一緒なので残る心配もない。

 

「葵ちゃんも来年から小学生になるのよね〜。子どもの成長は速いわ」

「葵、俺がちゃんと学校へ連れて行くからね」

 

 涼くんは小学生に上がってから一人称が「俺」に変わった。着々と男の子の階段を登っているようだ。

 大人組はお酒を入れていることもあり普段よりも口数が多い。普段飲酒する習慣のないお母さんもこの日ばかりはワインを楽しんでいた。私も気持ち的には飲みたいのだが、去年おねだりしても断固として拒否されたため我慢している。早く20歳になりたいなあ。

 

「そういえば。涼くん、サッカーは楽しい?」

「めっちゃ楽しい!葵もやろうよ!」

「涼馬、葵ちゃんは女の子なんだから無理言わないの!」

「えー」

 

 運動会の話が出たので最近始めた習い事の話を振ってみた。サッカーはやってもいいけど週3でやるのは時間の拘束がキツそうなので私もNOです。ただ私も習い事をしてみたら?という話になったのでお母さんを見てみる。

 

「そうねぇ。うーん……ピアノの先生でも呼んでみる?」

「ピアノ……1階にあるアレ?」

 

 我が家の1階には防音の部屋があり、お母さんのピアノがそこに鎮座している。前世でもお母さんに教えてもらったことがあったので暇があれば弾いて遊んでいた。いつか「弾いてみた」動画を出せるようにと練習をしていたので、前世の有名所はそこそこのデキになっていると思う。

 

「そうそう。葵ちゃん、ピアノも上手くなるとママは思うの。週に1時間から始めてみる?」

「週1時間なら、やってみようかな」

 

 そんな訳で私の習い事が決まった。ピアノの完成度が上がればその分後の需要に応えられるかもしれないしね。

 その後も取り留めのない話をして21時に解散となった。我が家は特に就寝時間も決まってないのだが、涼くんがウトウトし始めたのでいい時間だと思う。

 前世では妖怪一足りないのせいで179cmで身長が止まってしまったので、今世の私は夢の180代を目指して早寝早起きを心掛けている。ネットで聞き齧った日光浴も取り入れているが効果はまだ分からない。そもそも日光浴ってビタミンDを合成するだけだから骨の強さくらいにしか関係して来ないよね……それでも、もしかしたらを信じて続けるだけだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 年が明け、1月。今日は初めてのピアノレッスンの日だ。14時に先生が来るらしいので柄にもなくドキドキしているとインターホンが鳴らされた。パタパタと足音を立ててお母さんが迎えに行く。リビングに連れて来られたのは細身の40代くらいの男性だった。こちらの姿を見るなり目と口を大きく開けて間抜けな顔を見せてくれた。なんだその顔。

 

「八色葵です。よろしくお願いします」

「……名前を見た時にもしかしたらと思ったけど、テレビで見たことがある子だとは思わなかったよ。近藤修です。よろしくね」

 

 IMOで2連続金メダルを取った時もメディアで特集されたのでその事かな。近藤先生はお母さんに何枚かの書類を渡して早速レッスンを始めたいらしい。

 先生を伴って1階に降り、ピアノのある部屋を開けて先生を招き入れた。

 

「なっ!?」

「ん?」

 

 部屋に入ったそばから驚きの声を上げ立ち止まっている。

 

「スタインウェイの227……個人宅用のものじゃないぞ」

「そうなんですか?」

「あぁ、いや、今のは言葉の綾で何の問題もないよ。じゃあ早速やってみようか。楽譜は読めるかな?」

「はい、読めます」

「ではまず今の実力を見たいからこれを好きに弾いてみてね」

「分かりました」

 

 渡された楽譜をペラペラと捲り記憶する。席の高さを調整して、鍵盤に指を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に華やかな音が満ちる。

 その音色に、心を奪われた。

 

 聞くところによればこの生徒は初めてのレッスンらしい。頼まれた内容もコンクールを目標としておらず、教養のため。自分を指名しておきながら随分舐めた依頼だと思った。

 ああ。けれどこの奏でられた音は——

 

「どうですか?先生」

「——素直に脱帽です。今すぐにコンクールに出ても入賞すると思います。それも大人のものに」

「まあ!」

 

 いつの間にか隣に来ていた依頼人にそう言ったが、入賞どころではないと思い直す。国際コンクールに連れて行けば、自分の届かなかったあの頂きに、この小さな天才は必ずや立つだろう。

 

「実は私もピアノを嗜んでいたんです。でもあの子、どこを直していいのか分からなくて。それほどまでに完成されていたんです」

 

 その発言に頷きを返す。今も跳躍する音を小さな体で見事に弾きこなしている。

 渡した楽譜は今年の全日本コンクールの課題曲のひとつで、本当は舐めた指名をしてくれた裁きを下してやろうとしたものだ。6歳の子が弾けるはずがない。それでもそれを突っついてやれば泣き出してこの依頼も取り消しになると思っていた。

 しかし。この生徒は、私の浅はかな思惑を圧倒的な才能で踏み潰した。

 

 これが真の天才なのか。

 

「八色さん。本当に娘さんをコンクールに出さないのですか?」

 

 気づけばそんな事を言ってしまっていた。だがこの言葉に偽りはない。この才能を埋もれさせるのは業界にとっての損失だ。

 

「あの子にとって、きっとこれ(ピアノ)も暇つぶしなんだと思います」

「……は?」

「暇つぶしと言うよりも、真の目的とは異なるのでしょう。あの子は昔から何かを成すべく入念な準備をしているんです」

「何か……大きな事ですか?」

「恐らくは」

 

 テレビで大々的に報じられていた事も、このピアノの才能も。それが全て本来の目的ではないと言うのか。

 そんなの、あんまりじゃないか。

 その道を志して努力しているたくさんの者たちの頑張りは、小さな怪物が片手間でする行為よりも価値が低いのか。

 

 「才能」という言葉の意味。その残酷さ。それらを真に理解してしまった。

 

 曲は終盤に入り激しさを増していた。それが今の自分の心を表しているようで——

 

「先生。今後もこの仕事を引き受けていただけますか?」

「——ええ、良いでしょう。私も、彼女がどこまでの高みに至るのか気になりますので」

「では、これからもよろしくお願いします」

「任せてください」

 

 私の教えられることは癖の矯正や体の成長に伴うズレを修正する事くらいだろう。

 それでも。この天才がどこまで天高く羽ばたくのか。それを見てみたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生。今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。暇があったらさっき渡した楽譜を練習してみてね」

 

 初めてのレッスンはなんてことも無く終わった。もっと厳しく言われるかと思ったのだが、蓋を開けてみたら直した方がいい癖を指摘されたくらいだ。それも補助ペダルを使ってるのでそれに慣れようとした結果だったので、背が伸びれば解決しそうなものだけど。

 こんな感じの緩さなら続けられそうかな。ライブ配信が始まるまで約2年。それまでは続けてみようと思った。

 




作中でSunGenuin(佐藤) 様の作品よりTwitterのデザインをお借りしました
また「この時期のツイッターにこの機能はねえよ」というものがあれば教えてください
とりあえずRTくん、君はクビだ

ピアノのサイズが大きすぎる気がするので修正するかもしれません


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癌と歌姫の誕生

親殺しすぎだろと思わなくもない


 2007年の3月、ニッコニコ動画はベータ版を経てついに動画投稿が出来るようになった。例の陰陽師の動画にコメントを付けてから私も動画を投稿した。記念すべき最初の作品はYouTube版が人気だったお馬さんの動画だ。海外のユーザーが少ないはずなので英語字幕は無しの日本向けである。私の人気が出て海外の人も流入するようになるまでは日本語だけのものでいいかな。

 ついでに最古のボカロ曲が投稿された事も確認した。この曲からどれだけ世界を拡げられるか、前世よりも多くの人に親しんでもらえるか。私がそれを出来るなどと自惚れてはいないが少しばかりの助力は出来ると思う。KAITO兄さんやMEIKO姉さんで調教の練習をして時を待つ。

 

「葵ちゃん、忘れ物は大丈夫かな〜?」

「うん、平気」

「それでは行きましょうか!」

 

 4月に入り遂に小学生に学年が上がった。今日は入学式だけであるので上級生はまだ春休みであるのだが、涼くんも行きたいと言い出したので出雲家も一緒に学校へ向かう。

 

「葵ちゃん、大きくなったね」

「和真さん!お久しぶりです!」

 

 普段と違うのは珍しい人が来ている事だ。お父さんの元同僚で、前世では後見人となってくれた後藤和真さん。弁護士で忙しそうにしているがこういう祝い事の時には時間を作って来てくれる。他所の家庭の子であるのに良くしてくれるのは本当に嬉しい。

 涼くんは私が笑顔で話していると手を繋いでくる。前世の記憶もあるので私の方が一方的に好感を抱いているだけなんだけど、好きな物を盗られまいと独占欲を出してくるのは微笑ましい。和真さんもそれを見て苦笑を浮かべていた。

 

 入学式では代表者として挨拶をした。こういう代表者って何を基準に選んでいるのだろうかと聞いてみると、例年は出席番号順で決まるらしい。今年はちょっとだけ世間で知られている私が居たので特別にお願いしたとのことだった。あがり症な子も居るためか今年は何も考えずに頼めるので先生方はご満悦である。

 ついでに打ち合わせの際にIMOの関係で抜ける事があるという話もしてある。さいたま市は教育に力を入れている方の地区なのでこれも問題なく通った。ダメならダメで諦めたが、せっかくなら誰にも抜かれないような記録も作ってみたいのでありがたい。小さなうちから合法的に海外に行けるしね。目指せ14年連続満点での金メダル。

 

 入学式も終わりクラスでは初顔合わせが行われた。同じクラスには藤崎理華ちゃんも居たので彼女との関わりは途絶えないと思う。

 周りでは男女関係なくワイワイしている子たちを見ていると、これが数年後には男子は男子、女子は女子となるのが信じられないな。思春期の不思議である。

 かくいう私も家から近いというだけで男子校を選んでしまったばかりに、大学では女の子と話すのが苦手になってしまったが。あの環境にいて女の子と普通に話せる奴は尊敬するよ。

 

「葵ちゃん、一緒に帰ろ」

「いいよ。行こっか」

 

 帰り際に理華ちゃんが声を掛けてくる。入学式なので親も一緒だ。理華ちゃんの家は私の家から徒歩1分圏内にあるのでこれからの登校も一緒にしようと約束した。帰ってから気づいたが登校班があるため約束も何もなかった……

 

 小学校は幼稚園よりも緩くないのでこれからの暇つぶしをどうしようか迷う。最近になって前世で専攻していた分野の論文を見直し始めていたので、それを印刷してこっそり読むくらいならバレないかな?ノートの下に忍ばせておけば多分大丈夫だと思う。

 

 

 

 そんな感じで始まった2度目の小学生。今年度の目標は、そろそろ問題になってくるであろう母の癌。それを食い止めることだ。

 

 今度は、絶対に救ってみせる。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 前世での母の死因は乳がんが全身に転移してしまったことによるものだ。

 それが発覚したのが中学2年の時。その後1年も経たずに亡くなった。気づくのがもっと早ければ他に対処法があったかもしれない。お母さんが苦しそうな咳をしていた時にもっと真剣に病院を勧めていればと何度も後悔した。

 前世の自分は何も知らないただのガキだった。

 でも、今回は違う。絶対に間違わないと、この不思議な逆行を理解した時に誓ったのだ。

 

「最近テレビで見たんだけどさ、女性は気づかないうちに乳がんになっているかもしれないんだって」

「そうなの?葵ちゃんは物知りね〜」

 

 来週に血液採取を控えた日、夕飯を作っているお母さんに話しかけた。時代が5年もズレている為、癌の始まりはこの辺りのはずだ。初期に見つかればその分治療も楽で、生存率も格段に上がる。このタイミングで検査を受けさせなければならない。

 

「定期検診を推奨しているらしいよ?今度病院に行く時にお母さんもやってみようよ」

「ママは大丈夫だから気にしな……」

「ダメッ!!」

「葵ちゃん……?」

 

 そんな悠長にしてられないんだ。もしかしたら、この世界では癌を患ってないかもしれない。でも、今までの経験からそんな甘い事は起こらないと確信できてしまう。

 私が生まれる以前の事件や災害の日時。それ以降のものも。競馬で私が手を加えても、歴史は変わらなかった。

 この世界は、どうしようもなく前世と同じなんだ。

 

「私は、お母さんに死んで欲しくない!」

「……」

「お願い。検査をするだけだから。何も無ければ『あぁ、良かった』ってなるだけなの」

「……そうね、検査を受けるだけなら良いわね」

「ほんとっ?」

「ええ。ママも葵ちゃんを置いていくなんてことがあったら、後悔してもしきれないから」

 

 よしっ!よっし!とりあえずこれで第1段階クリアだ。最初の検査で見つからなければそれでいい。3ヶ月置きくらいに検査をしていればいつか見つかると思う。お母さんが渋るようだったら泣き落としでも何でもしようと思ったが、あっさりと頷いてくれて良かった。

 

 

 

 

 

 そして私の血液採取兼お母さんの検査の日がやって来た。病院側は急な検査でも問題なく予約を入れることが出来た。

 

「突然の予約なのにありがとうございます」

「いえいえ!我々としても女性の方には積極的に受けてもらいたいですから」

 

 私の採血を先に行いその後は母のX線検査へ。触診では恐らく異常がないと言う事だったが念には念を入れてだ。

 薄着になったお母さんがレントゲン室に入っていく。何もなければいい。もしかしたら今世は癌にならない都合のいい世界かもしれない。そんなことを考えていると検査が終わる。後は待合室で結果を待つだけだ。

 

「ママは元気なつもりだから大丈夫だと思うんだけどね」

「私もそう思う」

 

 本当に、そうだったらいいな。前世では人に恵まれたとは言っても、流石に酷い境遇だったと思う。この世界くらいは甘く優しい世界であってほしい。

 

「八色さーん。3番の部屋へどうぞ」

 

 益体もない会話をしながら結果を待っていると受付の人から名前を呼ばれた。遂に、遂に結果が分かる。大丈夫、触診で異常が見られないということはそこまで酷い状態ではない。癌がない可能性の方が高い。心配なんて無いはずだ。

 部屋に入るとお医者さんがレントゲン写真を見ていた。これのどこを見れば判断出来るのか分からないが、パッと見は異常がないように見える。

 

「八色さん、よく聞いてくださいね」

「……えっ?」

「腫瘍が見つかりました」

 

 目の前が真っ暗になった気がした。

 腫瘍。触診じゃ分からなかったはずではなかったのか……いいや、まだ初期に見つかった事の方が大きい。末期になってしまえば取り返しがつかないんだから。

 

「幸い小さなものですので、直ぐに治療すれば何も問題ありません」

「本当ですか!?」

「ええ。お母さんは私がしっかりと治すから、心配しないでね」

 

 ホッとして前のめりになった体を元に戻す。隣に座っていたお母さんは目を見開いて驚いているようだった。

 

「また後でお話しますが、これからの流れについて確認しましょう」

 

 まずは入院日を決めて全身の精密検査をして他の癌が無いかを確認しなければならないらしい。もしほかの臓器にも見つかれば長い戦いになる事も話された。治療方法も程度によっては選べるのだが、私は絶対に治せる方法を選んでとお母さんに頼んだ。

 お母さんも話を聞いていくうちに意識が現実に戻って来たのか真剣に耳を傾けていた。

 

 その後、入院日を3日後に決め、必要な書類なども貰い部屋を出た。

 

「葵ちゃん、ママを救ってくれてありがとうね」

「ううん。早く見つかってよかった!」

「そうね……ママ、頑張るからね!」

 

 そうだ。早く見つかれば対処も容易なんだから焦ることはない。まずは母を救えるかもしれないことに喜ぼう。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 その後の検査において、全身に転移もなく胸の小さな腫瘍だけだと分かった。そのため手術も大掛かりなものではなく日帰りでも可能らしい。お母さんは日帰りを検討していたが私は負担の少ない方を選んで欲しかったので、手術を含め3日間の短期入院となった。

 その間は出雲家にお世話になったのだが、毎朝毎晩お母さんから電話が来るので寂しさはなかった。

 話によれば無事に手術も終わり、経過観察として定期的に検診を受けることになったらしい。頻度としては最初の5年間は4ヶ月ごとに、その後は1年ごとになる。

 

 ひとまずの憂いはこれで解決だ。何の因果か知らないが記憶を持ったまま逆行した意味があった。

 新しい人生を、本当の意味で楽しむことが出来る。お金も今となっては稼ぐ必要もない。仮想通貨や前と同じように賭け事で儲けることが出来る。

 だから、失敗を恐れる必要もない。

 

 何の憂いもない世界で、好きに生きていこうと思う。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 5月になりYouTubeからパートナープログラムに参入しないかとの声をかけてもらった。所謂収益化である。記憶が確かなら最初は映画関係のチャンネルにしか勧誘が来なかったはずだが、細かい事は気にせず私はもちろん了承。これで再生回数に準じた広告収入を得ることが出来る。広告を入れることでそれを嫌って視聴者数も減るかもという思いも過ったが、差程変化は無かったので続けていく事にした。

 

 また、これまでにゲーム実況動画や旅行先の動画を投稿して反応を確かめてきた。「ゲーム実況」という文化がまだない時代だけれど感触はいい。私よりも前にYouTubeの方で幾つか動画が出ていたので、前世と同じくコンテンツとして成長していくと思う。

 私の方はダツラが1発クリアしてしまったためパート5で終わってしまったのが心残りだ。競馬動画と同じくメーカーとやり取りした文面を載せ忘れることはしない。ここら辺の著作権関係はしっかりとやっておかないと後で手痛い仕返しがありそうなので注意が必要だ。

 

 ただ懸念点もある。ニコ動の方はまだ大丈夫だが、YouTubeは収益化してしまっている。一応収益化の報告をした際にはどこも「問題ない」と言ってもらえたが何時対応が変わるか分からないので注意しなければならない。

 そのために今のうちから顔を覚えてもらうというのは大事だと思う。全く知らない人よりは印象が変わるはずだからね。IMOで取り上げられた事も影響していそうだ。

 

 これはゲーム以外も同様で「歌ってみた」など投稿する時も留意する。試しに前世で好きだったメーカーに伺いを立てるとOKが出た。ご厚意に甘えてピアノを弾きながら何曲か動画を上げさせてもらったら、その時に再び連絡が来て賞賛されたので下手ではなかったんだと思う。

 

 また再生回数を見るに前世よりもこの時期のニッコニコユーザーが多いように感じる。3月中に競馬動画がミリオン達成したことからもそれが窺える。この勢いをふいにしないようにしたい。

 

 

 

 

 

 そして8月終わりの今日。ニッコニコ動画だけでなく多くの場所で巨大なコンテンツを築き上げた歌姫が発売される。この日のためにたくさん練習もしてきたし、拙いながらも作曲した歌があるので何とかこの日中に動画を投稿したい。ペンタブを購入して背景も自分で描いたものを用意した。

 後は無事に届くのを待つだけなのだが、届かなければMEIKOちゃんに悲痛の叫びを上げさせてやる。konozamaca組はなりたくないぞ!

 

 夏休みである今日は朝6時に起床した。朝食を食べながらまだかまだかとインターホンが鳴るのを待つ。時計の短針は7を指し示しており、荷物が届くまで後2時間もある。

 待ちきれなくなった私は玄関前でノートパソコンを拡げTwitterを確認、日本人のフォロワーはまだ誰も手に入れていないようだ。そんなソワソワしている私を後ろでお母さんが撮影していた事を後に知った。恥ずかしかったがいい思い出なのでその動画も投稿したらミリオン達成。どうして……?

 挙動不審になりながらもTwitterで報告を待っていると外からトラックが止まる音が聞こえた。時刻は8時55分。違うかもしれないなんて考えはせず家から飛び出した。

 家の目の前には何かの荷物を下ろしているトラックが停まっていた。

 

「おはようございます!それ八色宛でしょうか!?」

「おお!そうだよ〜、はいこれ」

「っ!ありがとうございます!」

 

 来たー!これだよこれ!お母さんが後ろからカメラとハンコを片手に来るのも見ずに家の中へ。厳重な梱包の中から出てきたのは、パッケージに可愛い女の子がプリントされたVOCALOIDソフト。後の世界に轟く電子の歌姫、初音ミクだ。

 よっし!konozamacaなんてなかったんだ!

 早速パソコンに取り込み、ダウンロードをしている際にツイートも忘れない。すまんなみんな、私は先に楽しむよ!

 

 

 

 

 

 ミクちゃんが届いてから3時間、そろそろ昼食の時間になってしまうので作業を終わらせなければいけない。だけど、あと少しで終わる。もう少し……

 

「葵ちゃーん、ご飯よー」

「できたっ!」

 

 お母さんが私を呼びに来るのと同時に調教が終わった。後はこれを用意した背景と一緒に投稿するだけ。

 

「葵ちゃーん?」

「ごめんもう少し!」

 

 曲名は「生誕祭」、生まれてきた歌姫を祝福する内容だ。この時期のボカロ曲はミクちゃんが歌っているという体の曲が多かったので、これは少し先取りになってしまうがしょうがない。自分の作曲能力を恨んだ。

 急かすお母さんを退け、投稿ボタンを押した。

 

「ふぅ〜、よしっ。お待たせ」

「あと1分遅かったらママは拗ねていました。お詫びになでなでさせる権利を所望します」

 

 待たせてしまったお母さんはフラストレーションが溜まったのか私の頭を撫ででくる。それくらいで機嫌が治るならお易い御用だ。今日はもうやることがないのでお母さんに目一杯奉仕しよう。

 




稀血の採血ってどこでやるんでしょうね。献血センター?
この作品では病院ですることにしてください
出来れば主人公にとって甘く優しい世界を作りたいです
これでプロローグが終わりです
次回に掲示板回を挟んで2008年に飛びます


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幕間
八色葵スレ詰め合わせ


スレが2つ以上あると安価が最初のスレに吸収されることを知りました

—編集—
ご指摘を頂き配信サービスなどの名称を修正しております
YouTube → Wetube
ニコニコ動画 → ニッコニコ動画
Amazon → Adamazon
などです


八色葵さん、うっかり最速ミリオン達成

 

1:観察者は名無し 2007/3/23 21:49:31 ID:A93Ci//Xa

お前らの葵愛すげえな

 

5:観察者は名無し 2007/3/23 21:49:56 ID:AgPQFqaCa

今日の葵スレpart n

 

6:観察者は名無し 2007/3/23 21:50:10 ID:mNygaY/Xf

陰陽師も後に続け

 

7:観察者は名無し 2007/3/23 21:50:49 ID:h28hopoWg

お前らの愛で葵が見えない

もっとコメント薄くしろ

 

11:観察者は名無し 2007/3/23 21:51:12 ID:L8dVg6K5

現在のユーザー数が200万人突破したらしいから約半数があの動画を見ている

 

12:観察者は名無し 2007/3/23 21:51:42 ID:YESDYq6f

>>11

すごe

 

17:観察者は名無し 2007/3/23 21:52:07 ID:RpIAzXB2

>>11

ばけもの

 

21:観察者は名無し 2007/3/23 21:52:15 ID:5j4YT1W1

あの頃はディープ人気真っ盛りだからG3でも凄い人だな

なお8万馬券

 

24:観察者は名無し 2007/3/23 21:52:38 ID:aIGI/rthN

>>11

すげえ

 

26:観察者は名無し 2007/3/23 21:53:12 ID:EyIkNPOFh

どうせ田淵砲

 

27:観察者は名無し 2007/3/23 21:53:25 ID:NChBpr8x

再生回数のカウントってクッキーに基づいてる?

 

30:観察者は名無し 2007/3/23 21:53:56 ID:irRu8aAZR

>>21

その後に1000万馬券が出たのでセーフ

 

32:観察者は名無し 2007/3/23 21:54:16 ID:L5iY6Vzwg

>>26

これ

 

37:観察者は名無し 2007/3/23 21:54:22 ID:PMhK9tTV

俺も1億円ほちい

 

38:観察者は名無し 2007/3/23 21:54:34 ID:ycYyn9vhJ

>>26

YouTube版は400万いってるけど

 

40:観察者は名無し 2007/3/23 21:55:09 ID:ut24xzhNz

動画の最後にJRAとのやり取り載せる必要ある?

 

44:観察者は名無し 2007/3/23 21:55:35 ID:JikG03XHz

>>27

そう

 

48:観察者は名無し 2007/3/23 21:56:08 ID:+e7Fx2+E

>>37

しょうがないから1億ジンバブエドルやるよ

 

50:観察者は名無し 2007/3/23 21:56:10 ID:EyIkNPOFh

>>38

それも田淵砲じゃないと言い切れるか?

 

53:観察者は名無し 2007/3/23 21:56:40 ID:NChBpr8x

>>44

俺が100回も見たのは意味がなかったんだな

 

54:観察者は名無し 2007/3/23 21:57:11 ID:I7eUh2hC

>>48

今なら10万円くらいだけど将来的にはゴミじゃねえか

 

58:観察者は名無し 2007/3/23 21:57:17 ID:ZdMtJFoO

田淵砲は葵の勢いに追いつけってやってる陰陽師とらきすた側なんだよなあ

 

63:観察者は名無し 2007/3/23 21:57:31 ID:/3IdE8dUc

>>53

それただ単に葵が見たかっただけでは?

 

66:観察者は名無し 2007/3/23 21:57:33 ID:A93Ci//Xa

>>50

悪魔の証明やめろ

 

70:観察者は名無し 2007/3/23 21:57:40 ID:RT0TwUEp

利権が絡むんだからああやってやり取り載せるのは大事

 

71:観察者は名無し 2007/3/23 21:58:13 ID:UCONIptdr

この前投稿されたネジキ攻略動画でもメールのやり取り載せてたな

 

75:観察者は名無し 2007/3/23 21:58:31 ID:gd+IyVSgE

葵ちゃんぺろぺろしたいおクンカクンカしたいお

 

77:観察者は名無し 2007/3/23 21:58:41 ID:frxGG6bZ1

>>75

あっまずい

 

81:観察者は名無し 2007/3/23 21:59:03 ID:omiRFv6C

>>71

続き早くみたいお

 

82:観察者は名無し 2007/3/23 21:59:16 ID:gd+IyVSgE

そもそも勝手にアニメのOPとかアップロードしちゃダメだからね普通は

温情と向こうも利益があると考えてるから見逃されてるだけ

 

83:観察者は名無し 2007/3/23 21:59:19 ID:R89JGcgc

>>75

収容違反だ!直ちに巣に戻れ!

 

https://……

葵ちゃんぺろぺろしたい部part268

 

88:観察者は名無し 2007/3/23 21:59:35 ID:8iUmsu7w

>>82

そうね

 

92:観察者は名無し 2007/3/23 22:00:10 ID:rMes43z7

ルイズ化は避けられたか

 

95:観察者は名無し 2007/3/23 22:00:14 ID:8P02l2cK

>>82

見習いたいこの精神

 

96:観察者は名無し 2007/3/23 22:00:52 ID:s0ia0yzqi

ルイズ?誰?

 

99:観察者は名無し 2007/3/23 22:01:03 ID:3hqUKGNU

今日も葵ちゃんスレは混沌です

 

104:観察者は名無し 2007/3/23 22:01:09 ID:d/u2leUw

>>96

可愛い女の子

 

106:観察者は名無し 2007/3/23 22:01:45 ID:1tZwg455

ルイズ知らないってお前どこ住みだよ

その星地球で合ってるか?

 

107:観察者は名無し 2007/3/23 22:02:16 ID:3wZCBQuUQ

葵スレは二次オタと一般の人が混ざり合うから

 

112:観察者は名無し 2007/3/23 22:02:39 ID:ahGPxsHQ

>>95

そいつ>>75なんですが見習って大丈夫?

 

114:観察者は名無し 2007/3/23 22:03:09 ID:eGVWjs8t

一般層をニッコニコに引き寄せる葵を運営はちゃんと囲っておけ

 

118:観察者は名無し 2007/3/23 22:03:44 ID:lI7/+qXa

葵ちゃんミリオンおめ!

 

123:観察者は名無し 2007/3/23 22:03:48 ID:+AJE8gIo

>>83

このスレ前見た時ルイズのあれが葵に変換されて投下されまくってて怖かったわ

 

125:観察者は名無し 2007/3/23 22:04:27 ID:G+Q5VUK3

葵ちゃんはちゃんと納税したのかしら

 

130:観察者は名無し 2007/3/23 22:04:33 ID:hqocUfGy

>>123

深淵覗いちゃったねぇ

 

131:観察者は名無し 2007/3/23 22:04:36 ID:TLTRNnN7

ちなみに「ぺろぺろ」「ペロペロ」「八色葵ちゃん」「葵ちゃん」の派閥があってスレが分散しているからお前らが見たスレが本当に>>83のかは知らん

 

134:観察者は名無し 2007/3/23 22:05:12 ID:8P02l2cK

>>112

急に冷静になっててワロタ

なんだこいつ

 

139:観察者は名無し 2007/3/23 22:05:35 ID:poAgwHT2

ミリオンめでてえ

 

141:観察者は名無し 2007/3/23 22:05:37 ID:EaSLWD4a

>>125

納税するのはマッマ

YouTubeの方で税理士とお勉強会してる動画が最近うpされたはず

 

145:観察者は名無し 2007/3/23 22:05:50 ID:+AJE8gIo

>>131

見るたびにスレ名違うと思ったらそういうことかよ

いや怖いわ

 

146:観察者は名無し 2007/3/23 22:06:25 ID:nTy+/IVM

俺氏ニート、納税なんて知らんがな

とりあえず日課の葵ちゃん動画10回再生行ってくる

 

150:観察者は名無し 2007/3/23 22:06:34 ID:FpGC4rb1

働け

 

153:観察者は名無し 2007/3/23 22:06:36 ID:uJQe5Vi/

マッマの年収1000万超でワロタ……

 

155:観察者は名無し 2007/3/23 22:06:38 ID:g3WHNkoV

>>146

お前もしかして今起きた?

 

157:観察者は名無し 2007/3/23 22:06:58 ID:XKx8e+cG

>>153

笑えよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八色葵さんの動画投稿間隔

 

170:名無しさん 2007/6/14 20:09:17 ID:Tb+Nos8Ux

毎日投稿しろ

 

173:名無しさん 2007/6/14 20:09:40 ID:/BIqYnkyl

毎秒投稿は無理だって

 

175:名無しさん 2007/6/14 20:10:23 ID:ycEqe46Lu

おまいら!新しいエサでしてよ!

https://……

【ゲーム実況】バトルファクトリー攻略パート5【エメラルド】

 

176:名無しさん 2007/6/14 20:10:57 ID:RU/pG+NZF

ヒャア!我慢できねえ特攻ダァ!

 

177:名無しさん 2007/6/14 20:11:38 ID:Dc66HO53a

葵ちゃん「お前らが早くしろっていうからうpしたぞ」

 

178:名無しさん 2007/6/14 20:12:23 ID:NXbg6lEY6

サンキュー葵ちゃん

 

180:名無しさん 2007/6/14 20:12:39 ID:trtxgYzHZ

KAITOとMEIKO調教済でワロタ

なんて自然な声なんだぁ

 

181:名無しさん 2007/6/14 20:13:05 ID:NF6VNMfjO

ほんとに何でも出来るなこの子

 

184:名無しさん 2007/6/14 20:13:38 ID:WT/vhrxvG

葵ちゃんの動画に男!?と思ったけどKAITOならままええわ

 

186:名無しさん 2007/6/14 20:13:57 ID:M3Qjs5bHT

このスレ名「葵ちゃんの動画投稿間隔」

 

188:名無しさん 2007/6/14 20:14:18 ID:Y0AP8Wu0s

>>184

パッパだったかもしれないだろ!

 

191:名無しさん 2007/6/14 20:14:41 ID:Z8YTfwLM3

いま新しい動画見てるけど何これ誰の声?

 

192:名無しさん 2007/6/14 20:15:28 ID:X8MKooYLd

ゲームする時顔じゃなくて足元からの映像が欲しいのよね

もちろんその時はミニスカートを履いて

 

195:名無しさん 2007/6/14 20:16:10 ID:agtLEEhfW

>>191

概要欄見ろ

 

197:名無しさん 2007/6/14 20:16:23 ID:7W9BhTCct

葵ちゃんは今日も可愛いなあ

 

200:名無しさん 2007/6/14 20:17:09 ID:BMjbj+InO

葵ちゃん「調教の練習してたのでお披露目です」

 

202:名無しさん 2007/6/14 20:17:58 ID:zBLL9RprT

>>192

JSのパンツ見て何が楽しいんだか

 

204:名無しさん 2007/6/14 20:18:47 ID:jeVVxwye6

ワイも葵ちゃんに調教されたい

 

205:名無しさん 2007/6/14 20:18:48 ID:QFKcQfw11

ワイも葵ちゃんに調教してほしい

 

208:名無しさん 2007/6/14 20:19:44 ID:EXgtFwqNu

>>204

>>205

キミたち双子?

 

210:名無しさん 2007/6/14 20:20:16 ID:UML0oVWTK

赤でか文字ウザいな

 

212:名無しさん 2007/6/14 20:20:43 ID:h3Voyjc9L

葵ちゃんには体調崩さない程度に毎秒投稿してほしい

 

215:名無しさん 2007/6/14 20:21:23 ID:X8MKooYLd

>>202

生足が見たいだけなんだが?

あーヤダヤダこれだからムッツリさんは

 

216:名無しさん 2007/6/14 20:21:55 ID:7wnCUe1qm

毎週投稿でも許せる

 

219:名無しさん 2007/6/14 20:22:23 ID:XXIco0m8G

JSの生足見たいのも十分変態なんだわ

 

220:名無しさん 2007/6/14 20:22:56 ID:OPZeazqpA

ダツラ1発クリアwwwwwwwwwwww

 

221:名無しさん 2007/6/14 20:23:21 ID:/VD0tvnPq

>>212

矛盾の塊

 

224:名無しさん 2007/6/14 20:23:47 ID:YIFuJ4C9j

みんなスレチな話題で盛り上がってら

 

225:名無しさん 2007/6/14 20:24:35 ID:ADIfJ9/Nx

案の定「調教されたい」コメ溢れてるじゃん

 

226:名無しさん 2007/6/14 20:25:13 ID:kpo8YnSTM

>>224

しゃーない

 

229:名無しさん 2007/6/14 20:25:33 ID:bG74AbAdb

>>224

許せ

 

230:名無しさん 2007/6/14 20:25:47 ID:8+ZQ6xVbW

バトルファクトリーやり込んでるな葵

 

233:名無しさん 2007/6/14 20:26:35 ID:BPA7vsWdS

こんなスレがある時に動画をうpする葵さんサイドにも問題がある

 

234:名無しさん 2007/6/14 20:27:11 ID:XdAaa5Knd

葵ちゃんのおかげで寿命が10年伸びました!

これであと10年生きられます!

 

236:名無しさん 2007/6/14 20:27:51 ID:jZSlVi0BD

四六時中葵ちゃんスレが立ってるんだが

 

237:名無しさん 2007/6/14 20:28:23 ID:DDzv7yW2N

>>234

おはなん爺

 

240:名無しさん 2007/6/14 20:28:45 ID:otWKhu8V7

葵ちゃんはネラーの娘

 

242:名無しさん 2007/6/14 20:28:58 ID:FEbX8bV1p

葵ちゃんが映ってる画面をぺろぺろすると甘い味がするよ

これマメな

 

244:名無しさん 2007/6/14 20:29:47 ID:6onDzWEGX

>>242

きもE

 

245:名無しさん 2007/6/14 20:30:13 ID:N122C4wDN

>>240

ってことはワイの奥さんはあの美人な金髪ネキ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【やきう】埼玉ファン集合【15連勝】

 

289:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:55:43 ID:0CmSsHwgh

八色葵さん、今日も現地だった模様

これもう勝利の女神だろ

 

292:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:56:31 ID:+Xk5lchI2

本拠地に住んでもらえ

 

295:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:55:57 ID:V17K2fxx9

年俸1000万でオファーしろ

 

298:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:56:26 ID:kwfZp58R7

>>289

幸運の置き物

 

301:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:56:34 ID:Q8hYpZUuU

今年Bクラス*1で終わると27年振りか?

 

303:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:56:50 ID:Ulkfj8E/m

お前ら何で葵ちゃんが現地とか調べてんの?

 

306:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:57:00 ID:ZynJCPN7a

>>301

7月まで散々話してたのになんで間違えるんだよ

26年振り

 

309:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:57:25 ID:rC64a339L

明日の先発は?

 

312:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:57:41 ID:DELUFziDw

あんな可愛い子が埼玉ファンでオジサンは嬉しいよ

>>309

川野

 

315:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:57:59 ID:PEQYDJeJI

>>303

TwitterっていうSNSで本人がその日の朝につぶやいてる

 

317:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:58:02 ID:8eC6jZr7n

26年もBクラスになってないって地味に黄金期だな

 

320:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:58:11 ID:eKcjldkE3

八色葵ちゃん現地観戦全勝

この子に言いたいこと

 

323:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:58:37 ID:hHeSiUDX+

>>317

ド派手に黄金期

 

326:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:58:59 ID:0FSQ0rp0V

>>320

もうチームに帯同しろ

 

328:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:59:22 ID:qQadyEVZi

>>320

全試合現地観戦してくれ

 

329:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:59:29 ID:TCxUAGnmp

>>320

好き

 

330:名無しのやきう好き 2007/8/30 21:59:51 ID:w5Rf6pkMP

お前ら8月の前半までお通夜だったのに元気だな

 

331:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:00:07 ID:u8egT1OH4

>>320

結婚して♡

 

332:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:00:16 ID:RoSzCc5Pv

葵ちゃん競馬で億稼いだりしてるしマジで幸運の女神かもしれん

有馬には葵ちゃんの顔印刷した髪持ってくわ

 

335:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:00:21 ID:MkZPUGEe5

同率3位だからね、元気になるさ

 

337:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:00:37 ID:G5rVtzoC4

ここまで勝ちが続くと怖いんだが

 

340:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:00:43 ID:jz24O72Y2

葵ブーストwwwwww

 

341:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:00:45 ID:VVd/3CcrI

あの子またIMO行ってたらしいから7月観戦出来なかった分詰め込んだらしいな

 

344:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:00:47 ID:kkK+bH7Lm

>>332

その予測変換が出るってことは、あっ……

 

347:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:01:00 ID:U5YpCZpx4

>>337

前半戦の揺り戻しや!

 

348:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:01:19 ID:RoSzCc5Pv

ハゲじゃないぞ

 

349:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:01:44 ID:F+k5fB46Z

>>348

おハゲ

 

352:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:02:02 ID:n8I7AMaa1

>>348

おハゲ

 

353:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:02:31 ID:RoSzCc5Pv

お前ら鍋Qにもその言葉言えるの?

 

354:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:02:39 ID:CJofjQ9yi

>>341

小学生だから夏休みか今

うらやまC

 

356:名無しのやきう好き 2007/8/30 22:02:42 ID:uLdrB2Vxc

また髪の話してる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初音ミク待ちきれない人集合

 

403:VIPPERは名無し 2007/8/31 8:58:27 ID:uS0arAxNh

あと一分!

 

406:VIPPERは名無し 2007/8/31 8:59:01 ID:Rlb8vfC2m

初音ミク来た?

 

408:VIPPERは名無し 2007/8/31 8:59:09 ID:3tugpbtpN

俺にまだ届かないんだが

 

410:VIPPERは名無し 2007/8/31 8:59:12 ID:lJsJY8QAo

はよ来い

 

412:VIPPERは名無し 2007/8/31 8:59:51 ID:1d6mmVHEa

初音ミク来ない?

 

415:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:00:12 ID:on0iJaBP7

俺のミクちゃんどこ…?

 

417:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:00:18 ID:vIMhPbM1U

来た?

 

419:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:00:35 ID:iX87YTz/Y

アダカスがよ……はよ来い

 

421:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:01:02 ID:JtIhfmUA0

来ない

 

422:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:01:27 ID:zuMYCr306

来た?

 

423:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:01:49 ID:I9h33IJ9X

【朗報】八色葵ちゃん、初音ミクを手に入れる

 

AOI YAKUSA

@aoi_yakusa

got MIKU!!!

         
  433    

 

 

424:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:01:50 ID:uFOjgoE4u

【悲報】八色葵さん、初音ミク届いた煽りをしてしまう

 

AOI YAKUSA

@aoi_yakusa

got MIKU!!!

         
  433    

 

 

428:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:02:28 ID:MAuTb+H6U

来ない…

 

429:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:03:07 ID:o2Q6dhJp0

俺には来ないけど葵ちゃんには来たようでよかったよ……

 

430:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:03:25 ID:72qARf/gs

>>424

(煽っちゃ)いかんのか?

 

431:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:03:42 ID:xgD4RU8Lm

葵カスさあ…

可愛いからって自慢罪は適用されるんだよ?

 

433:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:03:52 ID:WcAZLwoQE

よかおめ

 

436:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:04:33 ID:K3F5VCyEs

きてああああああああーーーーー!!!!!

 

439:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:05:01 ID:P2HttdqPO

よかおめ

 

440:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:05:28 ID:vItHxJpEL

俺もキターーーーー!!!

 

441:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:06:06 ID:lqqehIj/r

おっしゃオラァ!手に入れたぞ!!!!

 

442:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:06:42 ID:DXDnlfoIr

来ないんだが????

 

444:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:06:45 ID:5H5moki6q

アダマゾンさん……

 

445:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:06:54 ID:krDVVhvRa

葵ちゃんやっぱりVOCALOID弄るのか

 

448:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:07:34 ID:UqM22kiow

そら(まだ手に入れてない人がいるのに)そう(やって自慢するのは嫉妬を生む)よ、おーん

 

451:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:07:51 ID:xyy/Otl/v

俺のミクちゃん、届き……ましたwwwwwwww

 

453:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:07:54 ID:D52TH3vlp

届いた組うらやまC

 

454:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:07:55 ID:W2AmPFbQy

>>448

おはでんどん

 

457:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:08:27 ID:noFhWTNxf

>>448

お前どん語翻訳家としてスポーツ紙に雇ってもらえ

 

458:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:08:31 ID:zila9fa/J

今からアダマゾンのサイトに田淵砲ぶちかましてやろうかな

 

460:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:08:56 ID:MMNNB0BzX

>>458

1人じゃ無意味

 

463:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:09:06 ID:NK3E/0Adr

>>458

余計遅れるぞ

 

466:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:09:28 ID:wWI+SiG8F

>>458

やめーや

 

468:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:09:52 ID:AhKZndCN5

>>458

いつ始める?わたしも同行する

 

470:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:10:10 ID:iSQixchtD

来ないー来ないの私の初音ミクー

 

472:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:10:38 ID:7PA0eCFgj

アダマゾンで頼んだから大丈夫だと思ってたヤツらwwwwwwwwwくやちいねえwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

473:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:11:06 ID:zila9fa/J

>>468

花京院っ

 

474:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:11:22 ID:GGy5vnC/y

>>472

○ね

 

475:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:11:51 ID:PXDtBVQb1

>>472

葵ちゃんも煽るならこれくらいしないとね

 

478:VIPPERは名無し 2007/8/31 9:12:22 ID:7q9SAq4Bq

葵ちゃんは煽る意図ないと思うんですが…

 

 

 

 

*1
シーズン順位が6チームの中で4~6位になってしまう事




次話より2章開始です


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2.生主兼動画投稿者兼イラストレーター兼歌手兼予言(ry 編
夢と目標


2章開始です


 2008年になり、ニコ動では東方に紛れながらもボカロ曲の勢いが止まらない。この世界でもメルトショックは無事に起こされ「歌い手」の存在も次第に大きくなっていった。

 私の方も3曲ほど出し全てミリオン達成。私の曲は、なんと言うかボカロ曲っぽくないように感じるのだが、それでも人気が出ている様なので気にしないことにした。前世よりも同時期のユーザー数が多い影響もあるのだろうがとんでもない速さでVOCALOIDというジャンルが大きくなっていっているのを感じる。

 

 予想外だったのは海外人気の高さだった。YouTubeの方で自分の曲を英語版で投稿しところ今までにない速さで再生回数が伸び、1週間でミリオン達成してしまった。日本向けのヨナ抜き音階で作曲したためとりあえず「こんなモノがあるよー」という軽い気持ちで投稿したのでこれにはビックリだ。流石は世界一話者の多い言語。

 また過去の動画から多言語を扱えることを知ったからかコメントでは自分の国の言語でも歌ってほしいと要望が多く出た。流石に全ての言語に調声し直すのは面倒であったため私が歌ったものを投稿して我慢してもらった。そっちも伸びてるのでみんなの期待には応えられたようである。

 

 個人的な活動では、なんとなんと初コラボ動画を撮らせてもらった。お相手は鍵っ子なら誰もが知るLioさん、というよりメーカーが全面バックアップしてくれた。なんでも、以前投稿させてもらった弾き語り動画を見てLioさんの方から「会ってみたい」と言って頂いたらしい。これを聞いた時は飛び跳ねて喜んじゃったよ。

 

 コラボの内容は対談から始まり生演奏でのデュエットまでさせてもらえた。更にこれからは許可なくカバーしても良いとの許しを頂いてしまった。至れり尽くせりでこちらからは何もお返し出来ないことに歯がゆい思いもしたが、Lioさん方は笑顔を見せてくれていたので気持ちは楽になる。

 話によると私の動画投稿後から原作ゲームの販売数が増えたらしい。ただの弾き語り動画が、原作を知らない少なくない人に影響を与えられたのであれば嬉しい限りだ。

 最後にYouTubeとニッコニコ動画にメーカー公式のアカウントを作ることを告知してコラボは終了した。私の公開タイミングはどうすればいいのか尋ねれば「直ぐにあげてもらって構わない」との事で、公式アカウントの準備が出来次第そちらでも動画が投稿されるらしい。

 動きが早いなと感じるが、2つの動画投稿サイトの爆発的成長具合を鑑みればその流れに乗った方がいい事がわかる。もしかしたら前世よりも多くの人に知ってもらえるかもしれないね。

 

 収録後——後で聞かされたがまだカメラは回していて、この映像も時期が来たら公開された——「内緒だよ」と次のアニメのOPを聞かせてもらった。それは「時を刻む唄」で、この世界でも2008年の秋放送予定である。

 Keyの曲では私の一番好きな歌でもあり、聞いているうちに私は自然と涙を流していた。スタッフの方には心配もされたが平気だと答えた。

 ただ、CLANNADという作品は、亡き父を想わずにはいられないだけなんだ。

 家族の大切さ、それを改めて心に刻んだ。

 

 帰り際には「メジャーデビューしたかったらこちらに連絡してくれれば顔繋ぎをする」とも言ってもらった。まだ時期尚早な気がするが母とじっくり考えてからお願いすることにする。

 

「お母さん。私を産んでくれてありがとう」

「ママの方こそだよ。パパとママの子として生まれて来てくれて、本当にありがとうね」

 

 コラボの帰りには普段言わない事も口に出した。癌の脅威が無くなったとは言え事故による突然の別れが訪れるかもしれない。当たり前の平穏と考えずに一日いちにちを大切にしようと思った。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 4月になりTwitterの日本語版がリリースされた。日本人ユーザーが増えてくる筈なのでこのタイミングで私も日本語のツイートを解禁。フォロワー数がいつの間にか80万人まで伸び、それも海外のユーザーが半数以上を占めている様なので英語も交えながら呟いていくことにする。

 

「葵ちゃんお待たせ」

「おせーよ理華」

「はい涼くん減点。女の子には優しくしなきゃだよ?」

「ぐっ……」

「べーっだ」

「理華ちゃんもそんな事したらダメだよ」

 

 小学校生活2年目になり理華ちゃんも登校班に慣れてきた。初めの頃は人見知りしていたが上級生の子が優しく接してくれたので今では元気よく集合場所に来てくれる。

 涼くんは最近お口が悪くなって来たので矯正中だ。男友達の間では全くの無問題だが女の子に対してはもうちょっと考えなくてはいけない。将来モテなくなっても知らないぞ。

 ただこの2人、幼稚園の頃から面識がある筈なのだが仲があまりよろしくない。性格も真反対に近いので馬が合わないのかな。

 

 班員が揃ったところで見送りに来ていた親御さん達に挨拶をして学校へ出発した。

 登校班と言えば全国の小学校がやっている訳ではないらしい。大学で出会った友人には「地元にそんなものはない」と言われカルチャーショックを受けた覚えがある。登校班が無かったら低学年の子は危なくないのかな?

 今も後ろでは3、4年生の子らが広がって歩くのを副班長が注意している。こんな感じで道の歩き方を教えてもらえるから良い文化だと思うんだけどなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい。今日はみんなが考えて来てくれた『将来の夢』、順番に発表してもらいます!」

 

 事故もなく学校に着き淡々と授業をこなしていったお昼前。給食まで残り1つとなった4限目は「学活」の時間だ。再来週に控えた学校公開日に向けて「夢」を題材にした原稿作りをしている。内容はと言うと、夢は何か、それを叶える為にはどうしたら良いか。これを先生が添削しながら纏めてきた。今日は出来ているところまでのものを名前順に発表していく。

 男子人気が高いのはやはりスポーツ選手で、特にサッカー選手が人気だ。逆に女子はお花屋さんやパティシエ、バレリーナなど様々な意見が出た。今年も同じクラスになった理華ちゃんは図書館の先生、司書さんになりたいらしい。

 中にはまだ思いつかない子もいて、その子は順番を飛ばしていった。

 

「次は八色さん。出来そう?」

「私もまだ出来ていないので次回に発表します」

「八色さんはあまり考えすぎないでね…じゃあ最後は——」

 

 かくいう私も原稿は出来ていない。

 これが2010年代後半くらいであれば「配信者です」や「YouTuberです」なんて言えたんだろうけど、それらの存在はまだ市民権を得てないため今の所は難しい。そもそも、「夢」と「目標」の区別が分からなくなっている。

 私の夢。出来たらいいなと思う事は山ほどあれど、それが全て夢なのかというと違うだろう。それらは順を追って到達する目標だと思っている。

 逆行前はどんな夢だったか。小さい頃は教師を目指していたっけ。それが成長するに連れ薄れていき、やりたい事が見つかってからはそれをずっと追いかけていた。

 

「八色さん、大丈夫そう?」

「まだ考え中です」

 

 全員の発表が終わってからは原稿の詰めに取り掛かっており、先生が巡回しながらそれを確認していた。

 

「うーん……八色さんは考えすぎなんだと思うよ?」

「考えすぎ、ですか」

「ほら、数学者になるでもいいし」

「実は数学より物理が好きなんですよね」

「じゃあ物理学者だ!」

 

 それも1回考えた。この世界でも以前と同じように研究者の道を歩む。飽きる事なんて無いと思うし、配信者等とも共存出来るかもしれない。ただ夢と言うには簡単に叶えられそうな点が気になる。かと言ってノーベル賞受賞なんて不可能に近いし。いや、逆に夢っぽいなこれ。でもなんかもにょる。

 アドバイスを貰っても悩んでいる私を見かねたのか、先生が私の耳に口を寄せて来た。

 

「八色さんだから言っちゃうけど、本当は何でも良いんだよ。それこそ、その場しのぎの嘘でも構わないの」

「……いざとなったらそうなりますね」

「何度も言うけど、かるーい気持ちでやればいいよ」

 

 随分とぶっちゃけてくれた先生だが確かにこんなモノは適当で問題ない。それが真実なのか嘘なのかは当人以外知る由もないんだから。でもそれは最終手段で、これを機にしっかりと夢と目標を決めた方が行動指針がブレないはずだ。残り2週間の内に決着をつけなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。自宅に帰りランドセルを机に置いてベッドに寝転んだ。未だに思考は纏まらない。ここまで来たらただ悩むだけでは解決しないな。

 

「…こうなったら全部の感覚を総動員しよう」

 

 そう口に出してベッドから起き上がり紙とペンを取りだした。

 

「最大の目標はウコンちゃん…に限らず憧れだった人たちと知り合う事。いや仲良くなる事」

 

 思考を書き連ねながら口にも出す。目で見て、耳で聞いて。違和感があればそれが引っかかってる事だ。

 

「その為にはニコ動かYouTubeである程度の知名度がいる。これは今やっている事の延長線」

 

 思考がどんどんクリアになっていく。

 

「知名度と言っても悪い方向じゃなく良い方面。有名でも著名でもどちらでもいいが出来るなら著名で」

 

 書いた事をそれぞれ線で結び関係性を生み出していく。

 

「ある程度のプライベートの切り売りは必要。だけど『お金たくさんゲットした』なんて事は要らなかったかも。これは反省点。ただし人気は得た」

 

 最初からこうやってれば悩まずに済んだかもしれない。時間の無駄だったなと頭の片隅で考えながら作業を続ける。

 

「今やっている事は動画配信の前座。リアル、ゲーム、音楽、お絵描きも加えて良いかも」

 

 そうやって出来上がったものはA4用紙一面にビッシリと書き込んだチャート表。互いに線で結ばれ辿り着く先はやはり最初に書いた事だ。

 

「これが目標ではなく、私の夢」

 

 憧れた人たちと仲良くなる。それが夢。ただ未だに納得していない部分がある。これじゃないはずだ。

 ふと、逆行前の最後の記憶が頭をよぎった。

 

「——10億」

 

 口に出して即座に否定する。いやいや、自分の夢なのにそんな他人任せな事のはずがない。それが夢だと言うならば、それを自分が達成させる事が出来ると考えている事にもなる。些か傲慢過ぎやしないだろうか。

 そんな気持ちとは裏腹に胸につっかえていた様な感覚は消え去っていた。

 

「えー……これが私の夢なの……」

 

 脱力して背もたれに体を預けた。

 これまで知識チートでキャッキャしてたのに何を今更、と言ったところだが実際に「私は傲慢で自分本位な人間です」と突きつけられるとちょっと堪える。

 

 散々悩んだ挙句、辿り着いたのは、ただ好きな人が伝説になるところを見たいという事だった。

 

「まあ、いっか」

 

 そう、今更だ。改めて考えれば夢なんてものは自己本位の塊だし。○○になりたいとなんら違いはない。多分。

 

 こうなったら開き直ってこの夢を絶対に叶えてみせる。そのための妥協は一切しない。

 

 世界を巻き込んで、圧倒的な伝説を作り出してやる。

 

 とりあえず自分の夢というものを確認出来たがそれを発表するのは流石に拙い。なので適当にでっちあげる事にした。最終手段と考えていたけどバレないのでヨシ!

 ランドセルから原稿用紙を引っ張り出し文を書いていく。一般受けしそうな夢はやっぱり音楽関係かな。

 

「私の夢は世界一の歌手になることです、と」

 

 嘘でもないし。そうなったら確実に人気を得られるから勿論狙っていく所存だ。ミクちゃんのものよりも私が歌った方が伸びてしまった現状を考えれば可能性は十分にある。が、何だかミクちゃん含め全てを踏み台にしている感じがして嫌なんだよなあ……もうちょっとミクちゃんの良さを出せる曲も作ろうか。もしかしたら自然な声色(こわいろ)にし過ぎているのかもしれないし、機械音声感をもう少し残してみよう。

 

 音楽市場の大きさはアメリカが1位で2位に日本が来る。この両取りが目標だ。ウケる音楽性も違うだろうからそこも考えて作曲していかなければ。

 

 まずは今すぐで無いにしろメジャーデビューしたい事をお母さんに相談しよう。そう決心して、書き上がった原稿の上にペンを置いた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 7月になりやっとスマホが日本でも販売が開始されたのでIMOから帰国してすぐに入手。スマホが無かったおかげで勉強には集中出来たので良かったけどやっぱりこれが有るのと無いのとでは全然違うよね。今までスマホ無しでよくここまで耐えれたよ、私。ネットサーフィンが捗る捗る。

 

「葵ちゃん!ご飯なんだから携帯を置いて来なきゃ、メッ!」

「ごめんなさい……」

 

 ただしその反動でスマホ依存症にならない様に気を付けなければいけない。

 席に着いて朝食を食べながらニュースを確認する。四川大地震の復興状況や秋葉原通り魔事件、原油高高騰などの暗い報道ばかりだ。

 

 地震や通り魔の事はボカシながらもネットで警告してみたが被害は変わっていない。こういう悲劇を避ける為にはもっと影響力を大きくしないと意味が無いってことかな。後はやっぱりストレートに伝えるべきか……

 

「ガソリンが値上がりしちゃうのは嫌ねぇ」

「あんまり車使ってないのに?」

「気持ちの問題かしら」

 

 我が家の自家用車は滅多に使用される事がない。お母さんが歩くのが好きということもあるし、2人暮らしの影響で大量の買い物をする機会もないからだ。

 とはいえガソリン代が値上がってしまうと食料品などにも影響してくるので確かに気が滅入ってしまうかもしれない。

 

「そういえばさ、お母さんはバイクとか乗らないの?」

「怪我が怖いのでママは乗らないかな〜。葵ちゃんは興味ある?」

「ちょっとだけね」

 

 乗り物の話になったのでついでにお母さんがバイクに忌避感を持っていないか聞いてみたが、これどっちだろう。私としては逆行前は趣味で乗ってたので反対されなければ免許を取りたいんだけどな。

 それにモータースポーツ層は世界には結構な人数がいる。そこら辺を取り入れられたら大きいし、いつかサーキットで体験動画なんて出してもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月。ついに動画配信サービスが始まる。この日のためにカメラを良いものに新調し準備も万端だ。枠を取った時間までパソコンの前で待機する。

 ぶっちゃけると子どもとしての生活に飽き始めて来ていた。中学生くらいになれば周りの子との会話も楽しめるんだろうけど、それまではもう待ちきれない。なのでこの配信が息抜きになっていけば嬉しいな。

 最初の配信は挨拶とコメントとの会話だけで済ますつもりだ。視聴者がどんな層なのかの確認も出来るし次回からはそれを反映させていこう。

 

 時間になりカメラが正常に作動しているのを確認し最後にマイクのミュートを解除する。ここから新しい動画コンテンツが始まるんだなあ、と感慨深く思いながら口を開いた。

 

 

「はい」

 

《コメント》

はい

こいつ、動くぞ!

こんばんは!

実在したとは…

はい

かわいい

はいじゃないが

 

 

 最初の挨拶、考え忘れてた!

 

 




盛大な推し活の始まり

細々とした設定や下積みはこの章で終わらせます


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生放送

プラチナの発売時期を間違えるという盛大な凡ミスをカマしたのでサイレント修正してあります


「みなさん、はじめまして。八色葵です」

 

《コメント》

はじめましてじゃないけどはじめまして!

こんばんは

可愛い

はいはじめまして

葵ちゃんが画面の向こうでこっちを見ている…!

はい

 

「はいはもういいですから…今日は初めての生放送ということで皆さんと沢山お話出来たらなと思ってます」

 

 最初の挨拶を考え忘れたなんていうミスのせいで画面上には「はい」の2文字が大量に踊っている。というか勢いが速すぎてコメント拾うの大変だなこれ。

 

俺も葵ちゃんといっぱいお話する

JSとおしゃべり出来るなんてお金取られない?

なんで顔出ししようと思ったの?

ママを僕にください!

 

「顔出しについては成り行きですかね。テレビで出ちゃってたのでいいかと。あとお母さんはお父さん一筋なので諦めてください」

 

変なおじさんに気をつけてね

振られてるヤツ乙

それ寝巻?かわええ 

顔出ししてくれて俺はうれしい

可愛い

小学生にあるまじき知能は何を犠牲に?

あのインタビュー観てたよ

 

 うん、いい感じに話せてるな。視聴者は結構いるけど実際に目に見えてない分緊張もしなくていい。質問っぽいコメントも沢山あるから今日はこれを捌くだけでも時間が潰せそうだ。

 顔出しについてはワザとなんだけど正直に言う必要も無いから誤魔化しとこう。

 

「見た感じ質問コメントが多いみたいなので今日はそれに答えながら私の事を知ってもらいましょうか。ついでにこれは寝巻です。モフモフしてて暖かいのでお気に入りなんです」

 

可愛いので僕のお気に入りにもなりました

質問コーナーキター!!

葵ちゃんの隅から隅まで丸裸に出来るって本当ですか!?

俺のこと好き?俺は葵のこと好きだよ

何ヶ国語喋れる?

いつから意識あった?

男が女児の寝巻をお気に入りにするな

いま身長いくつ?

鏡音曲もっと作って

なんて呼ばれたい?俺はお兄ちゃんって呼んで欲しい。さあ妹よ、お兄ちゃんと言え

スカート履いてダンス動画撮ってほしい

今日は俺と一緒に寝るって約束忘れてない?大丈夫?

弾き語り配信待ってるよ

数学好きなの?

 

「おお、一気に増えましたね。知識は将来の髪の毛でも犠牲にしたんじゃないですかね?身長は129cmで数学よりも物理が好きです」

 

ちっちゃい!

こいつ今髪の話した?気のせい?

今ハゲの事馬鹿にしたでしょ。おじさん分かっちゃうんだから

ちっこいのかわいい

小学生が数学とか物理とか言ってる違和感すごい

禿ワラワラじゃんwwwwww

数学好き葵スレが瀕死に!物理勢が攻勢を強めています!

葵も「歌ってみた」もっとうpしろ

悪魔と取引してしまったか…

小学生が普通に俺たちと会話している事にも疑問を持て

髪の毛を犠牲にしたなら納得

真面目にどうやって勉強してるの?色々やってる事おかしい

数学科、死す!w

 

 やっぱり今までの行動や言動に疑問持つ人出てくるよね。普通に見たら有り得ないし。

 

「どうやっても何も…実は私、人生2周目なんです。まあ嘘なんですけど」

 

や っ ぱ り

人生n周目説、立証!

学会にケリついちゃった

やっぱりな

おかしいと思ったんだわ

俺の頭の中で18禁ゲームがやりたいのに出来ない葵ちゃん概念が生まれた瞬間である

人生ゲームでつよくてニューゲームはチートなんだわ

2周と言わず100周くらいしてるだろ

つまりエッチなこと言ってもいいってこと?

 

 冗談のつもりで言っただけなのに「やっぱり」コメントが画面いっぱいに映されている。連帯感が強いなこのコミュニティ。

 

「冗談ですからね?本気にしないでください。そもそもそんな非現実的な事起きる訳無いじゃないですか。『歌ってみた』はそのうちあげます」

 

 実際は非現実的な事を絶賛体験中であるのだが。もしかしてこの世界ってお化けとか実在するのだろうか?逆行前は存在をバカにしていたけどもし居るなら居るで面白そうだし会ってみたいな。今度心霊スポット巡りなんてしてみようか。

 

 一段落ついたので用意していた水で口の乾きを潤す。コメントの中には「ガキが調子乗るな」みたいなものも見えるがそれも少数派の様だ。正直、この時期のキッズ配信者なんてもっと批判的になるものだと考えていたのでこれくらいなら問題ない。

 その後も質問に答えつつ適当に雑談をして初めての配信は終わった。時間も30分だけだしいい息抜きになってくれそうだ。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 2009年2月。雑談配信やその切り抜き投稿、「弾いてみた」や「歌ってみた」など様々な動画をあげて来た。それでも初期の頃のような伸びはあまり見られない。この時期になってくると逆行前で人気だった人たちも注目を集めてるから視聴者の取り合いみたいのが発生しつつある。動画クリエイターの群雄割拠の時代が幕を開けてきた感じだね。これがYouTubeもとなると時代の流れは加速していくだろう。

 前世で日本トップのYouTuberだった人もニッコニコ動画に来た。ただまだ売り出し中のようでコミュニティレベルも低い。今は音楽と言ってもボカロ関係が強い界隈だからビートボックスにはあまり人気が集まってないのかな。

 私はこの人の将来を知っているためコミュニティに入ったりして接点を持った。何か炎上した時とか助けてくれるかもしれないし今のうちから媚びを売っていこう。

 

 

 

 

葵も誰かとコラボして

ボッチじゃ寂しいだろ?俺とコラボしよう

ドラが集まる集まる

コラボいいな観たい

お前能力者?

コラボしないで

 

「コラボは今のところ考えてません。お、待望のツモですね。3000、6000です」

 

 東二局0本場 ドラ表示牌{西七}

 {二三四⑦⑧⑨234南南} {裏八八裏}

 

嶺上開花すな

嶺上開花wwwwwwwwwwww

男とはコラボしないで

小学生が麻雀やるなよ

中町コムギとコラボして

え?お前らリンシャン出来ないの?

お前おかしいよ

嶺上開花は普通に出せるって咲で学んだよ

wwwwww

 

 今日は麻雀をやりながら雑談配信をしている。最近になってコラボの要請が増えて来た。やってもいいんだけどコメントで挙げられてる人は問題があるので多分やりません。恐らくこの世界でもあの少年誌に居る神様の奥さんと騒動を起こすだろうし、流石に今のうちから炎上に巻き込まれたくないぞ。

 

「そんなにコラボ配信観たいですか?」

 

観たいか観たくないかで言うとむっちゃ観たい

みたい

危険牌をしっかりガードする麻雀玄人JS

中町コムギ良いね

才能ある人同士で色々やってほしい

葵ちゃんが誰かと映ってるだけでおじさん感激しちゃう

一人は…寂しいよな…

華麗な対子落としでワロタ

 

「うーん……お誘いが来たら、いややっぱり相手側の迷惑になりそうなので今は静観します」

 

はいはいはい!俺今から生放送デビューします!コラボしたいです!

迷惑ってなんだよ

この配信の後Twitter特攻組出てきそう

俺とコラボするって前世で約束したじゃん

相手が迷惑になることなんて無いと思うんだが

ピーンチ!危険牌だらけでこれ無理だわ

 

「私、まだ8歳なんで。時間の都合とかもありますし、難しいかな。あら、倍満ツモられちゃいましたね。親かぶりで8000点は痛いンゴ……」

 

倍満ンゴwwwwwwwwwwww

おやっかぶりンゴwwwwww

ファーーーーーーwwwwwwwwwwww

ンゴ使うな

ファファファのファーwwwwwwwwwwww

しっかり当たり牌抑えててワロタ

お前みたいな8歳がどこにいるんだよ

なんJ民JS、爆誕

現実でンゴ使うな

野球好きすぎないか?

なんJ民なの確定しちゃったwwwwwwwwwwww

8歳が掲示板見るなよ

リーヅモメンホン役役ドラ3はしゃーない

 

「まあそんな感じでもう少し大きくなるまでコラボは無しです。3年生になったら考え直します」

 

 来年度になったらあの人が来る。そうなったら時間の都合なんて二の次で絶対コラボしたいのでアプローチはしていく予定だ。

 

そういう事なら仕方ない

3年生ってあと2ヶ月後じゃん

今コラボしても誤差なのでは?

配牌一向聴wwwwwwwwwwww

お前能力麻雀やめろって

ネット麻雀で積み込みすな

2ヶ月も待てない。今すぐ大人になれ

流れるように聴牌

ダブルリーチで終了

 

 そんな事言ってたら絶好の聴牌が入った。普段なら即リーチをかけるけど折角生放送してるし高目を目指そうか。

 

「これは……もう少し点数上げましょうか」

 

 東四局0本場 ドラ表示牌{赤⑤}

 {一一799東東東南南北北北} 打牌{8}

 

リーチしろ

はあ?

はいこれでもうアガれませーん麻雀の神様は見てるぞー

所詮小学生よな。高目見ちゃダメダメ

葵ちゃんのチャンタ……

混老は無理でしょ9索残り1つだぞ

あれ、西どこ?

白鳴かれてるじゃん上家早上がりで決めにいくか

 

「西来たー!四喜和狙いに切り替えです!」

 

 {一799東東東南南西北北北} 打牌{一}

 

無理すんなよwwwwwwww

満貫聴牌が二向聴に……

迷いなくイーマン切りwwwwww

やだ男らしい、惚れちゃう

9索来ちゃったwwwwwwwwwwww

積み込みすんな!!!!!

役満まで一向聴!

お前おかしいよ(本日n度目)

自動卓に積み込みなんてねーよ

wwwwwwwwwwww

まだ4巡目なんだが? 

これには他家のヤツらも激怒

場に南1西0、これあるで

咲世界の住人ですか?

無理だろ

 

 西が来てから一気にコメントが加速した。こういう撮れ高あるのが麻雀配信の利点だね。1度ツモギリをして6巡目で西を引いてきた瞬間画面が草でいっぱいになった。いいねいいね!お祭り感が出てきたよ!

 

「さあリーチです!後はお祈りターイム!」

 

 {999東東東南南西西北北北}

 

wwwwwwwwwwww

wwwwww

ええ……(ドン引き)

生放送で役満聴牌するJS

wwwwwwwww

残り南1西2、多分手出しはないから自力でツモるしかねえな

生まれてくる時に幸運ステータスバグらせただろ

もっとムダヅモしろよ

他家めっちゃ迷ってるwwwwwwwwwwww

見るからに怪しいリーチだし悩むよそりゃ

ここまで来たらアガってくれ

 

「来るかっ!……こなーい。日頃の徳積みがここに活かされるかどうかですね」

 

俺も徳積んで葵ちゃんに会えるように準備しよ

言うほど徳積んでるか?

下家強気に東出しててワロタ

対面イーマンの対子落とし、結果的にイーマン待ちにしなくて正解だったね

最初リーチかけてたらもうアガってるでしょ

さあ10巡目

こなーい

来ないか……

対面リーチだ、ようやるわこんな河なのに

 

「早い者勝ちですね。まあ私はこの巡目でアガるんですけど。さあ出ませい!……えっ」

 

 {999東東東南南西西北北北 ツモ西}

 

ほんとにキターーーーwwwwww

有言実行wwww

来ちゃったよ……

キターーー!!!!

積み込みすんなって言ってるだろ!!

こいつwwwwww

絶句しててワロタ

ファーーーwwwwww

もうお前の勝ちでいいよ

麻雀の神「この子可愛いからサービスしとくかの」

成し遂げたな

サンキュー麻雀神

フリーズ葵シコい

 

「……面前で小四喜アガるの初めてです、私。今ちょっと手震えてます。ほら」

 

 画面にはお祭り状態のコメントが大量に流れていく。簡単に撮れ高取れそうだなーなんて軽い気持ちで始めた麻雀配信、病みつきになりそうだわこれ。

 

「時間も30分が近づいてきたので今日はここまでにしましょうか。次回の放送でお待ちしております。ではでは、おやすみなさい」

 

なんか感想を言え

行かないで

感想戦始めろ

おやすみ!

まだ時間余ってるぅ!

おやすみなさい!

俺のおやすみ.mp3フォルダが潤う潤う

おやすみー!

 

 

 

 

 

 

この番組は終了しました

 

 

 

 




今話のコメント表記か前話のコメント表記、どちらがいいか意見を聞きたいのでアンケートへのご協力をお願いします


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レコード会社

たまには幼馴染組の日常をひとつまみ


「ほら、ここ通っていったら早いでしょ?」

「これ私の知ってるゲームじゃないんだけど……」

 

 そりゃこのソフト、バグっぽいニスクが山ほどある事で有名だったし。

 春休み真っ只中の3月最終週の昼下がり、自室で理華ちゃんとレースゲームを遊びついでに未だ世間では知られていないショートカット(ニスク)を教えていた。

 

『なにその動き!?え、本当に何!?ズルじゃん!』

『理華ちゃんもやってみる?』

『やる!』

 

 最初は普通に遊んでいたのだが途中で私が変態挙動を取り始めたため理華ちゃんも真似したいと言い始めたので始まった教習所。

 何だかんだ言って理華ちゃんも技術を直ぐに飲み込んでいくのでこの世に未だ存在しない変態走行をする人が一人増えそうだ。今度2人でネット対戦を荒らしてみようかしら。

 

「それにしてもよくこんなの思い付いたね」

「ゲームの動画とか投稿してるからね」

「ゲーム動画?」

 

 そういえば理華ちゃんに話した事なかったな。パソコンで動画を見せながら簡単に説明したら「ふーん」という簡素な返事が返ってきた。興味ない人はとことん興味が湧かないコンテンツなのでこの反応も致し方ない。

 

「でも知らない人に顔を知られちゃって大丈夫?」

「その意識100点満点だね。真似しちゃダメだよ?」

「真似はしないけど……」

 

 私も顔バレについて思うところはあるけど芸能人や前世の動画配信者なども大丈夫だったから考えすぎない事にした。別に一人暮らしという訳でもないしね。

 その後も色んなコースのニスクを教え込んでいると階下から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「ん、誰か上がって来るね」

「おばさん?」

「お母さんはもっと静かな足音だ——」

「葵ー!遊ぶぞ!」

「——涼くん、ノックをしなきゃダメだからね……」

「げっ、涼馬じゃん」

「なんだ理華も居たのか。ほらほら部屋でゲームなんかしないで外行くぞ!」

 

 扉を開けて入ってきたのはお隣の幼馴染であった。どうやら今日はクラブの練習もお休みだったらしく元気いっぱいな様子だ。

 

「私は別にいいけど…」

「えー、外〜?見てるだけでいいなら…ちなみに何するの?」

「サッカー!」

「はい私は見学します」

「とりあえず着替えるから涼くんはリビングで待ってて」

「おう!」

 

 最近はすっかりサッカー小僧になってる様で、同学年の子達と校庭でサッカーをしている光景をよく見かける。私も暇な時間に付き合わされる事もあるので我が家には必要ないサッカーボールがあったりする。

 外に行くという事で部屋着を脱いでクローゼットから動きやすい服を取り出す。

 

「葵ちゃんの服、また増えたね」

「お母さんが新作が出る度に買って来るからね……」

 

 たまに2人でショッピングに行くと必ずと言っていいほど着せ替え人形にされるので服は増えるばかりだ。小さくなったものは近所の子やセカンドハンドショップに売りに行ったりするのだが、何だか勿体ない様な気がしてならない。

 確か服飾関係も地球温暖化に影響を及ぼしていたはずだ。なるべく捨てたりする事の無いようにしていきたい。

 

 着替え終わりリビングへ向かうとソファーに座った涼くんがお菓子を食べていた。

 

「あっオヤツ!涼馬だけズルい!」

「理華ちゃんのも今出すよ。お母さんは?」

「公園行くって言ったら着いていくから待っててって言われた」

「なるほど…はい、理華ちゃん」

 

 どうやらお母さんも一緒に行くようで今は準備中らしい。私と理華ちゃんも涼くんの対面のソファーに座って待つことにした。

 

「てかサッカーくらい友達誘えばいいじゃん」

「あいつらみんな春休みの宿題中で遊べなかったんだよ」

「それはもうすぐ4年生としてどうなの……」

「涼くんも私とやらなかったらそうなってそうだね」

「そんな事ねーし!」

 

 個人的には長期休暇の宿題は最初に終わらせてしまう派だが、最後まで残してしまう気持ちも分からなくはない。小中学生の長期休暇の課題はとにかく量が多いからね。学習習慣を身につけさせるためには仕方ないのだろうけど。

 

「お待たせー!ママも準備出来ました!」

「ん、じゃあ行こうか」

 

 お母さんが来たことでボールを持ちみんなで公園へ出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2010年代から20年代にかけて、公園の遊具の撤去やボール遊び禁止の所が増えて来ていた。世論の流れもあったのだろうけどやはり少し寂しい気持ちにはなった。

 この時代はまだその煽りを受けていないため公園では多くの子ども達が遊んでいた。

 

「葵!ほら!リフティング上手くなっただろ!?」

「片足でチョンチョンするのは安定してきたね。じゃあ次は両足でやってみよう。こんな感じで1、2、1、2ってリズミカルに蹴ってみて」

「すげー!」

「最初は膝より高く上げないように心掛けてね。片足でやってきた事の延長線上にあるから気張らなくて大丈夫だよ」

「なんで涼馬より葵ちゃんの方が上手いの…」

 

 中学生や高校生の頃はよくみんなで遊んでたから自然と上達したんだよね。それに1度身についた技術は忘れにくいし。

 涼くんにリフティングを教えた理由は特に無い。強いて言えば、前世でのサッカー部の友人が「リフティングが上手い奴がサッカーが上手い訳ではないが、サッカーが上手い奴はリフティングも上手い」なんて言っていた事を思い出したので教えてるだけだ。

 多分足先のコントロールとかにも繋がってくるだろうし涼くんの力にもなってくれるだろう。

 

「葵ちゃん、他になんか凄いこと出来る?」

「任せて」

 

 理華ちゃんからリクエストを貰ったので前世で見ていたサッカー番組にて身につけた技を見せることにした。世界の有名選手から出される課題を全てクリアした私に死角は無いのだよ。

 

 先ずは普通にリフティングを始めて右足の甲の外側で擦りあげるようにボールを上に蹴りあげた、と同時に上に飛んできたボールを触らないように右足でぐるりと1周跨ぐ。その勢いを利用してボールが落ち切る前に左足でも同じように1周回し、落ちてきたボールを地面に落とさないようにリフティングを再開させた*1

 

「すげー!!」

「すごっ!」

 

 わはは、もっと褒めるがよい。無邪気な賞賛が心地いいぞ。

 その後理華ちゃんもやってみたいと言い出したのでボールを貸してあげた。ただボールを上手く蹴れないみたいであっちへこっちへとボールを転がしていく。それでも楽しそうにしてるしたまには外で遊ぶのも良いね。

 

 その様子を眺めながらお母さんの近くへ行くと誰かと電話をしてるようだった。

 

「あっ、葵ちゃんいい所に」

「どうしたの?」

 

 私に用事と言うとIMO関係の人しか心当たりがない。けど今さら連絡してくる事も無いはずなんだけどな。

 

 

 

「レコード会社の方からよ」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 寒さも和らいできた4月。私は東京某所にあるビルの前に立っていた。

 

「でっかあ……」

「ほら葵ちゃん、中に入りましょ」

「うん」

 

 お母さんが受付を済ませているのを横目に豪華なエントランスホールを見回す。こんな立派な会社とこれから打ち合わせをする実感が湧かない。

 Lioさん方が橋渡し役を務めてくれたのでてっきり同じレコード会社だと思ってたんだけど、蓋を開けてみたら誰でも1回は聞いたことのある会社であった。レコード会社同士の横の繋がりもあるのだろうけど私をなんて説明したらこうなるんだろうか。

 

「はい、これを首から提げてね」

「ありがとうございます」

「では今から案内を致しますので私に続いてください」

 

 係の人から貰った来賓者用の身分証を首から提げ、案内の人に着いていく。私たちを乗せたエレベーターは15階に到着した。

「こちらでお待ちください」と言われた場所はミーティング室みたいなものではなく窓辺にある仕切りのついた小さな空間だった。カフェっぽい場所だなという感想が思い浮かぶ。

 

 席に着き待つこと数分、男性と女性が1人ずつやって来たのが見えたので起立する。

 

「お待たせしました。ようこそソニック・ワーニングユニバースミュージックへ」

「本日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。どうぞおかけください」

 

 着席すると同時に違うスタッフの方が人数分の飲み物を運んで来てくれた。大人組はコーヒーで私にはココアが配れられる。私もコーヒーが良いんだけど。

 

「先ずは自己紹介をしましょうか。私は音楽部門部長の峯岸です。こちらはメディア部門の佐藤になります」

「佐藤由希です!葵ちゃん、よろしくね」

「よろしくお願いします」

 

 佐藤さんから手を差し出されたので握手を交わす。しかし音楽部門は分かるけどメディア部門とは何だ?あと峯岸さんの態度がすっごい堅苦しい。こっちなんて子どもなんだからもっと柔らかい対応でいいのに。

 

「この度は我々のスカウトを受けて頂いたことに感謝します」

「いえいえ!というより敬語じゃなくて良いので!」

「…じゃあ普通に話させてもらおうかな。葵さん、ありがとう」

 

 雰囲気を和らげた峯岸さんにほっと一息つく。あんな堅苦しい対応されるとこっちが萎縮しちゃうよ。

 

「質問なんですけど、メディア部門って何ですか?」

「佐藤は葵さん専用のコーディネーターと考えてくれて構わないよ。所謂マネージャーみたいなものなんだ」

「葵ちゃんの予定なんかも私がしっかり調整するから一緒に頑張ろうね!」

「なるほど」

 

 レコード会社なのにそんな事もしてくれるのか。何だか意外な業務だ。

 

「電話でも話したけど、今日は契約から今後の流れまで決めるつもりだよ。八色さんもそれで大丈夫ですか?」

「はい。基本的には葵の意見を尊重しますので」

「ありがとうございます。じゃあこれを見てもらってもいいかな?」

 

 渡されたのはお堅い契約書ではなく、図表がふんだんに使用されたプレゼン資料の様なものだった。ご丁寧に漢字にルビまで振ってあるしこれ作るの大変だったのではなかろうか。

 

 その資料を見ながら説明が開始された。契約内容から始まりレコーディングの流れ、広告代理業務、海外での販売や音楽配信サービスの展開など多岐にわたる。

 

「ここまでで質問はあるかな?」

「大丈夫です。何だか至れり尽くせりで、逆にこれで良いんですかって疑問も生じますが」

「そこは問題ないよ。ただお願いしたい事もあってね。次のページを捲ってもらっていいかな」

 

 言われた通りに捲ったページには楽曲提供や音楽番組への出演などの事が書かれていた。

 

「葵さんの人気が出てきたら恐らくなんだけど『この曲を歌ってほしい』っていう依頼も来ると思うんだ。葵さんが自分で作曲出来るのも承知しているんだけど、どうかな?」

「問題ないです。他の人が作曲したものを歌うのも好きなので」

「ありがとう!それでテレビ出演の方も同じように依頼が絶対来るはずなんだ。ただ葵さんも学校とかがあるだろうし、これは無理強いはしないよ」

「それも休日や長期休暇の間であれば問題ないと思います」

 

 地上波に出るのはそれだけ知名度アップにも繋がるし私の夢を叶える為には是非と言ったところだ。ただそれも私の曲の人気が出ないことには始まらない事なんだけど。

 

「ちなみにYouTubeなどでの動画投稿は続けても良いんですよね?」

「新曲を出す時は1度こちらに連絡してほしいんだけど、それ以外は今までと同じようにしてもらって構わないよ」

「ありがとうございます!」

 

 懸念点であった動画投稿サイトでの活動も制限はかからないみたいなのでホッとする。無いとは思ってたがもしも「活動ダメ!」なんて言われたらお断りしていただろう。

 

「実は我が社の、と言うより邦楽部門のチャンネルも開設しようって話が出てるんだよね」

「そうなんですか?」

「日本のアクセス数も増加しているし、何より葵さんの成功モデルの影響が大きかったんだ」

 

 私の成功モデルと言っても、やった事は原初の時期から物珍しそうな動画を投稿していただけなんだよね。視聴者というパイを分割する数が少ない時期だったからこそ上手くいったに過ぎない。

 でもこれからYouTubeの影響力はどんどん大きくなるし早い動きはそれだけ会社の利益に繋がってくるかな。

 

「あっ。ファーストシングルもCDで販売するんですか?私としては売れるかも分からないので配信サービスだけでお願いしたいんですけど」

「葵ちゃん、それは心配しないでね。売れるようにするのが私の仕事なんだから」

「佐藤の言う通り、そんな心配は必要ないよ」

「そこまで仰るなら…」

 

 でも本当に大丈夫か?売れ残り在庫なんて抱えられたら申し訳なさでいっぱいになるよ?

 

「これは飽くまで個人的な予想なんだけど、葵さんの想像以上に世間の人は騒ぐと思うよ」

「期待が重いです……」

「万が一売れ残っても葵ちゃんに被害が行くわけでもないからドンと構えててね!」

 

 うーん期待が凄い。最初のシングルから売れるに越した事はないけど、今の日本音楽界は女性アイドルグループで盛り上がっているし難しいと思うんだけどな。

 まあやってみないことには始まらないし佐藤さんの言う通り気楽に待ち構えておこう。

 

 その後正式な契約書に目を通し私とお母さんのサインをして打ち合わせは終了になった。これからの連絡は基本的に佐藤さんと行うことになるので連絡先も交換。

 

「葵ちゃんアイフォンじゃん!私も次のモデル買うんだ〜」

「電話番号とかは変えるんですか?」

「それは変えないから大丈夫だよ。よしっ、これで会社用と私用の両方で連絡がつくね。基本的には会社用の方に連絡してくれれば良いから」

「承知しました」

「も〜、堅いなー葵ちゃん。もっと砕けた感じにしようよ。私のことは由希お姉さんって呼んで良いからね?」

「分かったよ由希さん」

「今はそれでよし!」

 

 由希さんはコミュステータスがバグってそうな感じなので上手く付き合っていけると思う。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 その後1階のエントランスまで見送りに来てくれた2人に挨拶をしてビルを出た。固まっていた身体を解しつつ駅へ向かう。

 時刻は13時過ぎ。これが自分1人だったら吾郎ちゃんごっこをして至福の孤独グルメを楽しみところだったがお母さんもいるので自重。

 

「ん〜!はぁ…ちょっと疲れたね」

「そうねぇ。お昼休憩する?」

「する!」

 

 どうやらお母さんもお昼ご飯を所望のようなので孤独のグルメ改め二人のグルメ開始だ。

 スマホで近場の食事処を探しながら散策していると良い感じのイタリアンレストランを発見。行列もなさそうだしここにしようと入る手前で声をかけられた。

 ガーンだな、出鼻をくじかれた。

 

「突然すみません。私、こういう者なのですが」

「んへ?」

 

 私達に差し出されたものは大手芸能プロダクションの名刺だ。ああ、いつものね。

 予想通り要件は芸能界に興味がないかといった話であったので丁寧にお断りしてお店の中へ入った。

 

 最近こういった手の勧誘が増えてきた。読者モデル、タレント、子役。様々な業界の人に声をかけられる。

 レコード会社の人が押せ押せだったのもこれが理由なんだろうな。容姿が優れていれば歌なんて下手でなければ問題ない。でもそれって私の映像があったらの話であって、今回はCDや配信サービスで販売する予定だ。レコード会社の人は多分見誤ってると思うんだけどな。

 

「少々お待ちください」

 

 注文を聞きに来た店員を見送る。彼も私の姿に驚いているようだった。

 うん、難しく考えず今まで通りこの容姿も武器にしよう。しっかりとファーストシングルを作れば曲だけで人気にもなるかもしれないし。

 それにこの年から彼らがニッコニコ界に出てくるんだ。ワクワクする事だらけなんだから前だけを見て歩いていこう。

 

「葵ちゃん、なんだか楽しそうね」

「そう?……そうかもね」

 

 5月になれば「先生」と呼ばれていた彼が一足早くデビューする。ニッコ生はまだだろうけどコミュニティに入って繋がりを持とう。

*1
気になった方は「ネイマール 宿題」と調べてみてください



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レコーディング

アンケートへのご協力ありがとうございました!
以降の話ではコメントは枠線で囲まれた表記になります


 5月の終わりについにポケモン実況者としてまいこう先生が動画を投稿した。初々しさが感じられる内容にニヨニヨしてしまう。今世でも無事にフレンドパスの交換を断られてしまっていた。可哀想は可愛い。広告もしっかり出しておいた。

 この時はまだ大学1年生か……実年齢、と言うより精神年齢を越してしまった不思議な感覚もある。

 

「葵ちゃん、準備出来た?」

「もうちょっと待って!」

 

 お母さんに声をかけられたため一旦MMD作りを中断する。逆行前にちょっとだけUnityに触った事もあったのでMMDもいけるだろと手を出してしまったが、これがなかなか面白くて作業の手が止まらない。

 Unityとは全然違う操作感だったけど自由にミクちゃんを動かせるのが良いね。1年前から作品を幾つか出してきて最近のは結構自然な動きになって来たと思う。

 残りの作業はまた後で行うためパソコンをスリープモードにして部屋を出た。

 

「お待たせ」

「きゃー!葵ちゃんかわいすぎ!ちょっとポーズ取って!」

「買う時も写真撮ったじゃん……」

 

 今日のファッションは紺碧色のワンピースにウエストマークベルトを装着している。この時代ではまだ流行りではないけれど似合っているのでベルトは好きな方だ。というか何着ても様になるので女の子のオシャレを案外楽しんでいたりする。やはり美少女…!!美少女は全てを解決する…!!

 

「スマートフォンに変えた一番の利点は葵ちゃんを直ぐに撮れる事ね。開発者の方には感謝しなくちゃ」

「株でも追加で買う?」

「株主優待も無いし、それはいいかな〜」

 

 競馬で一山当てた際にアップル株は5000株ほど買ってあるのでわざわざ追加で購入する必要もないか。

 資産集めとしては数ヶ月前に始めたソロマイニングも順調で、今まで800BTCを得ている。例のピザデーまでに数千BTCを獲得する事を目標としていたがそれも問題なさそうだ。

 しかし今の日本では仮想通貨の税制が定められていないため将来でどのような取り扱いになるか疑問である。遡ってこのマイニングも課税されるのだろうか。

 

「それじゃ初めてのレコーディングへ、ゴーゴー!」

「おー!」

 

 まあ、その時はそのときでまた考えればいいか。今の価値が低いので課税も微々たるものだろうし。

 今日は人生初のレコーディングがある。ファーストシングルが転けてしまわないよう気合いを入れ直して家を出た。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「ふぁー!葵ちゃん可愛いっ!写真撮っていい!?」

「どうぞー」

 

 既視感を覚えるやり取りを由希さんと交わす。

 この様に許可を取ってくれるなら問題はないのだが、最近は電車に乗るとスマホを向けられる事が増えてきた。まだまだスマホの普及率が低いのであまり気にしてないけど中学生くらいになったら外出方法も考えなくてはいけないかも。

 

「よしっ。じゃあ早速スタジオに行こうか」

「はい!」

 

 満足した由希さんにレコーディングスタジオまで案内してもらう。道中では大まかな流れを説明してもらった。1曲録るのに2時間というのが一般的かは分からないが随分と余裕のあるスケジュールだ。

 到着したスタジオはテレビで見た事が機材が並んでいる。スタッフの方々も待機されていたので挨拶は忘れない。

 

「これを耳につけてガラスの奥の部屋に入ってね。あ、1回目は音がちゃんと聞こえてるかどうかのチェックもするから焦らなくていいからね」

「分かりました」

 

 渡されたヘッドフォンを耳に当てマイクがある別室へ向かった。

 今まではピアノのある部屋で適当なマイクで録音していたため本格的な機材にワクワクしてきた。

 

「ヘッドフォンのコード繋ぎますね」

「あっ、ありがとうございます!」

 

 この時代はまだ有線が一般的であった事を失念していた。スタッフの方に部屋の隅にあるよく分からない機器に繋いでもらった。そこに刺すんだ。

 

『八色さん、聞こえますか?』

「おー、はい大丈夫です!」

『こちらにもしっかり音が届いているのでマイクも問題なしです。早速レコーディングを始めますか?』

「よろしくお願いします!」

 

 時間は貴重なので直ぐにレコーディングへ移った。合図を出されると耳から私の曲のメロディが流れてくる。

 今日録音するファーストシングルは「新世界へ」という題で、これからの社会が急速に変化していく様を描いた曲だ。テンポの速さとリズム感に全振りしたので何かのきっかけで知ってもらえばみんなに広がってくれるのではと期待している。

 

 初めての場所だけど歌い出しもバッチリ、声も出てる。これこのままファーストテイクでOK出せるんじゃないかと調子に乗っていたらサビで音を外してしまった。

 

「あっ……」

『——途中だけど1回目はこれで終わりにしましょう。こっちの部屋に来て音を確認してみてください』

「はーい…」

 

 ヘッドフォンをマイクスタンドの隣にかけ部屋を出た。

 スタッフさんには褒めてもらったけど真剣味が足りなかった事は反省点だ。

 何かの作業をして聞かせてもらった私の声は今までのものとは段違いの音質だった。

 

「おー!すっごいクリアに聞こえます!」

「初めてとは思えないほど完成度が高いね。欲を言えばちょっとミスしても完走して欲しかったくらいかな」

「すみません…」

 

 由希さんに苦言を呈されてしまったが概ね満足できる出来だ。音の聞こえ方も確認出来たし次で決めてやる。

 

「1回目なんだし想定内だよ!休憩してから2回目に行く?それとも直ぐに録る?」

「直ぐに入りたいです」

「ではみなさんお願いします!」

「お願いします!」

 

 休憩なしで始めた2回目は最後まで通して歌うことが出来た。マイクを通した音の聞こえ方も考えて歌ったので自分の中では会心の出来だと思う。

 

「どうでした?」

「バッチリ!」

 

 スタッフさんはさっきよりも盛り上がっていたしこれは来たのでは?そう思って録音した曲を聞いてみると1回目よりも良くなっているのが分かる。しっかりと修正点も改善出来たみたいだ。

 

「この後も続けるんですか?」

「正直に言っちゃうとどっちでもいいよ。これだけ完成度が高ければNGなんて出せないし」

「じゃあ時間ギリギリまで録ってみたいです」

「ストイックだね〜。でもそこがイイ!」

 

 これで終わらせる事も出来るらしいが折角2時間も頂いたので目いっぱい収録に費やすことにした。英語版もついでに録る事に成功したのでアメリカでも無事に販売されそうだ。

 

 スタッフさんは忙しかったかもしれないのでしっかりお礼を言う。その際に「サインが欲しい」なんて言われたのでちょっと困った。

 涼くんや理華ちゃんに遊びで書いたこともあったけどそれで良いものなのか。慣れてない動きで書かれたサインは何処と無く歪で不格好なものだった。それでも相手方は嬉しそうにしていたので良かったかな。帰ったらサインも練習しておこうと心のノートに書き記しておく。

 

「ファーストシングルは何時頃発売予定なんですか?」

「今のところは7月の中旬くらいを目処にしてるよ」

「7月か…」

「なんかダメだった?」

「いえ、そんな事はないです」

 

 ただ6月に世界のキング・オブ・ポップが死去するかもしれない。彼ほど偉大な人物の出来事に被さってしまうのは、個人的な心情もそうだし、メディアに取り上げられにくくなるという2点で拙い。

 7月中旬なら問題ないか……?余波が少し残ってそうだけども大丈夫かな。

 

「本日はありがとうございました!」

「サンプルが出来たら連絡するからね!」

 

 出口まで見送りに来てくれた由希さんに挨拶をして帰路につく。お母さんは先程スマホに取り込んだ私の曲を聞いている。隣で聞かれると羞恥心の様な感情が湧いてくるので家に帰るまで待ってほしいのだけれど。

 

「葵ちゃんはアメリカ英語で歌うのね」

「うん。欧州出身なら英国版の方が良かった?」

「そんな事ないよ!ママの母国も米国英語が主流だろうし」

「へー」

 

 そういうものなんだ。思えばイギリスの植民地化されたところ意外ではイギリス英語を使っている所が少なかったはずだ。とは言ってもオーストラリアみたいに独特な訛りになっているところは幾つもあるんだろうな。

 

「晩ご飯は何が食べたい?」

「お肉!」

「じゃあ帰りにデパートに寄り道しましょー!今日も手伝ってくれる?」

「もちろん!」

 

 最近になって身長がグングン伸びて来たので台所の手伝いも積極的に行っている。

 毎日牛乳、納豆を食べているおかげか今の身長は135cmになっている。夢の180代が見えてきたかもしれない。このまま高校生までは伸び続けてほしいぞ!

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 6月26日。キング・オブ・ポップの訃報が日本でも伝えられた。

 年代もあるのだろうけど小学校ではみんな普段通りにしていたが、放課後に確認したテレビはその話題1色になっていた。

 由希さんからもファーストシングルの発売を8月にずらす旨の連絡が来ていたので了承を返す。

 

 こういう大きな事件が変わらずに起きてしまうのを目の当たりにすると、2011年に日本が経験してしまう大災害への不安が絶えない。

 2011年3月11日。マグニチュード9.0もの巨大な地震による大津波とそれに伴う原発事故。あれほどまでに衝撃を受けた出来事は逆行前の人生において1つとして無かった。

 

 もしも。もしも私がその被害を少しでも変えられるのだとしたら——。

 タイムリミットは2011年の1月。それ以降になってしまうと準備が不可能になる。

 それまでに世間が無視できない存在になっていれば地上波で注意喚起も行えるかもしれない。ネット上で津波のシミュレーション動画を出し、津波の危険性を訴える事も出来るはずだ。

 

 そのカギを握るのが私の楽曲なのか、それとも今までの積み重ねによる知名度なのか。

 叶えたい夢とは異なるが、それまでの道のりで救える人が居るのならばやってみる価値はあるはずだ。

 

 影響力を上げるためにやれる事はやる。その決意を忘れずに歩んでいこう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 7月の上旬。ついにウコンちゃんがゲーム実況者としてデビューした。アカウントのフォローもしたし広告も出した。ただしまだ6ポケ動画を出てないため視聴者数はあまり伸びていない。

 まいこうは順調に伸びているようなのでウコンちゃんも動画の伸びを気にせず6ポケまで突き進んでほしい。

 

 その頃私はニッコニコ本社に呼び出されていた。突然メールが来た時は驚いたが、内容は以前から誘われていたあるイベントに関する事だった。今まではお母さんに却下されていたため出演出来なかったが今回は何とか説得してOKを貰えたので速攻で返事を返した。

 

「葵さん、本日はご足労いただきありがとうございます」

「いえ!お招きいただきありがとうございます!」

 

 対応してくれたのは組織のトップである冬野さん。お前が出てくるのかーいなんて驚きもあったがトントン拍子に話は進んでいった。

 

「ではニッコニコ大会議2009では最終日に出演していただけるという事でよろしいですか?」

「はい!それで大丈夫です!……お母さん、良いんだよね?」

「うん、いいよー」

「ありがとうございます!最終日は今のところシークレットになってますのでニッコ生なんかで口走らないようにだけ気をつけてください」

「分かりました!」

 

 ニッコニコ大会議は超会議の前身となるイベントで2009年は全国ツアーみたいな形で行う。年齢のこともあり、私は東京公演の2日目にだけエントリーだ。

 

 話もまとまり適当に雑談をしている中で欲しい機能はないかと聞かれた。

 

「個人的な意見ですが、生放送に入れる人を増やしてほしいなって。又はユーザー生放送にもタイムシフトが出来るようになれば嬉しいんですが…」

「葵さんはトップクラスで人気がありますからね、そういう悩みも出てきますよね。ここだけの話、ユーザー用のタイムシフトは近々実装予定です」

「本当ですか!?」

 

 いや、知っていたけど。でも喜ばしい事なので感情を顕にしておく。

 

「あとはコミュニティレベルの上限を引き上げ、それに伴う特権も9月に実装予定です」

「えっ!?」

「葵さんの場合は5000人まで生放送に入れる事が出来るよ」

 

 コミュニティレベルに関しては前世よりも動きが早い。これには鱗滝師匠もニッコリだ。

 

「葵さんの生放送がパンパンなのは以前から問題視されていてね。それにプレミアム会員も90万人を突破したからお祝いも兼ねてるんだ」

 

 この意識のままだったら衰退する事も無いだろうけど、改悪なんてせずどんどん突っ走ってほしい。

 他にも外国語にインターフェースが対応するかは不明らしいが前向きに考えているとのこと。これは私も急ぎで行う必要はないと思うので軽く流しておいた。

 

 しっかし9月から5000人も生放送に来れるのは本当に嬉しい。最近はコミュニティの掲示板で生放送に入れない人が暴れていたりしていたから、それも解消するはずだ。

 この調子でサーバーも強くなればYouTubeに先んじて配信サイトの雄になれるかもしれない。

 ……流石に世界的には無理かな?でも日本国内だけでもニッコニコ業界が盛り上がればそれだけ埋もれていた才能も発見されるだろうし、頑張ってほしいな。

 

 

 




これが投稿されている頃はポケモンとW杯に現を抜かしているはずなので投稿ペースが落ちるかもしれません


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ユニコーン

そろそろ炎上ネタも突っ込んでいきたい


 世間の学生が夏休みに突入した頃、私は飲み物を用意しパソコンの前に陣取った。約2週間ぶりの生放送の時間である。

 

「はい」

 

はい

はい

はいじゃないが

はい

諦めるな

Hi

いい加減挨拶を考えろ

はい

今日もかわいい

 

「無事に帰国したので今日はだらだら雑談します」

 

ニュース見た

おめでとう!

【祝】日本勢全員金メダル

カチャカチャ音がする

ルカルカ踊ってみた動画うpしろ

向こうでも生放送しろ

いい加減満点以外の点数取れ

日本が1位だったらしいね

めでてえ

おめ!

 

「IMOの報道が結構あったみたいですね。ルカルカ★ナイトフィーバーはそのうち向井ももさんとコラボする予定なのでしばらくお待ちください」

 

 雑談しながらキーボードを叩く作業を続ける。最近編集が面倒になってきていたため喋りながらリアルタイムで翻訳する方法を思いついた。今日はそれの試験導入だけど案外気にせず話せそうだ。

 

ドイツのお土産ってなに?

今日は入れたわ

向こうの話聞きたい

「コラボしろ」→「お待ちください」これ何度目だよ

本家とコラボかいいね

髪結ってある!かわいい!

たまには時間延長しろ

ももちゃんとコラボ!?

このカチャカチャ音何?

タイピングみたいな音してるな

【朗報】推しと推しがコラボ予定

ちゃんと2人ともミニスカートで踊るんだぞ?

誰でもいいからコラボして

こんばんは!

 

「このカチャカチャ音はキーボード叩いてる音です。編集が面倒だったので同時作業中です。ドイツの話聞きたい人が多いみたいなのでそのお話でもしましょうか」

 

パンツ脱いだお

お土産話の時間だあああああ!!

並行作業するな

かわええ

俺もタイピングスピード自信あるから雇用して♡

マルチリンガルを見せびらかすな

ドイツ旅行動画全裸待機してる

今日の髪型どうしたの?

 

「一応50周年という記念すべき大会でしたが日本は全員金メダルだったので問題の話はカットです。興味ある方は第6問だけ触れてみてくだい。まずはガイドの人がすっごい日本通でした。エヴァの話で盛り上がりましたよ。あ、今日の髪はシニヨンです。午前中出掛ける際にお母さんにやってもらいました」

 

 髪型の質問が来てたので答えついでにカメラに寄せて見せてあげる。普段は無造作にストレートにしているがたまにはこういう風に髪で遊ぶのも楽しい。

 

「どうですか?結構可愛いんじゃないかと自画自賛してます」

 

かわいい!

はい俺の初恋が奪われましたー葵は責任取って俺と結婚しろ

顔がちかあああああい!!

心肺停止したので起訴します。罪は俺のお嫁さんになって償って

お下げ髪見ないと死んじゃう病気なんだ。葵、俺を救ってくれ

問題の話は誰も分からないのでしなくて正解

エヴァの海外人気凄いよね

私もその髪型真似します

当たり前のようにJSが完答するなよ……

美少女のツインテール!ツインテールが見たいです!

ドイツはアスカの故郷だしね、盛り上がってそう

かわわわわわ!

初恋奪われニキは葵見る度に初恋してそう

ポニテにしろ

顔が良すぎるわズルいぞ結婚しろ

女さんも結構観てるね

 

「うわっ、髪型のリクエスト多いですね。これからは色々変えてみましょうか。問題の感想は『全完出来てほぼイキかけました』くらいです。向こうはサマータイムで夜も明るくて楽しかったですよ」

 

髪型リクエスト:ポニーテール

ユーザー生放送もアンケート対応してほすぃ……

野球ネタが多すぎる。でも俺もジローのあのヒットには惚れたから許す

断然ショート。でも葵は髪切らないで。何とかしてショートにして

下ネタ混ぜるなwwwwww

世界一カッコイイ下ネタが世界一可愛い子から飛び出すとは…

おさげ!おさげ!おさげ!

露骨なコメ稼ぎじゃねえか

WBC決勝のときTwitterで騒いでたからセーフ

お前実はえっちなゲームこそこそやってるだろ

以下童貞達のリクエスト

俺もalmost cuming!

なーんでJSがイくなんて言葉知ってるんですかねえ

エロゲー実況しろ

サイドテールが出ないなんてお前らニワカか?

俺も葵見てるとほぼイキかけるから仲間だね結婚しよ

ニワカ乙ただ単に天に召されようとしただけだから

エクストリーム求婚はNG

 

 口が滑ったけど批判的なコメント少ないのでセーフ。

 たまに関係ない「冷パア」コメントも流れてくるがNGして無視だ。

 案の定中町コムギさんが不倫で燃えちゃったのでコラボはしなくて正解だったね。ただもう2ヶ月も経過してるんだから荒らし君も落ち着いてほしい。

 

そういえばなんで男の動画ばっか広告出してんの?

 

「別に男性の動画ばかり広告してる訳じゃないんですけど……あっ」

 

 パッと見たコメントに条件反射で答えてしまったが口に出してからそれが間違いだったと気づく。

 

触れるな触れるな

あーあ

まいこうと蝿とウコンに関わるな

暗黒放送には触れてないからセーフ

なんで答えるかなあ…

女の子の動画にも広告出してるだろ!

ガキが大人ぶるなよ

前までは中町コムギとコラボしろとか言ってたヤツwwwwwwwww

男と関わるな

「マズった」って顔の葵も可愛いよ。それはそうと触れるな

ポケモン動画出してる仲間なんだからまいこうとウコンは別にいいでしょ

冷酷無比のアレから燃えやすいから触れるな

JSに対して処女厨発症してんのキメェんだわ

 

 コメントの流れが加速したけど擁護派が想像以上に多かったので炎上にはならないか…?

 でもこれを切り抜けなきゃ一生ウコンちゃんとかとコラボ出来なそうだし何とか選民したいな。

 

「あー、うん。とにかく!面白い人や凄い人の動画には広告出してるだけなので悪しからず。以上!この話は終わり!アニメの話します!」

 

俺は可愛い子に広告出してるよ

それが広告の存在意義だし普通普通

処女厨はNGしとけ

順番待ちが発生してる放送なのになんでアンチくんも入り込むかなぁ…

JSのイエスマンになってる葵信者さん乙wwwwww

話題転換が強引すぎる

中町コムギはマジで要らないことしてくれたな厄介なのばら撒きやがって

ボカロの話しろ

以上!終わり!

JSが深夜アニメ見てるのも問題なんだわ

 

 強引でもなんでもいいので話を流さなくてはいけない。将来的にはVの人たちの問題になっていたユニコーンが私にも湧くとはなあ……

 

「今期は見るものが多くて困っちゃいますねー。東京マグニチュードは衝撃でした」

 

ほんとにアニメの話し出しててワロス

もっとスムーズに話題転換しろ

葵ちゃんプリラバ見てるでしょ、っていうか原作ゲームやってるでしょ

野球の話してもええんやで

雑な話題逸らし

アニメ分からんから葵ちゃんのオススメ見るわ

なんJ公認アニメの野球娘。見ろよ

葵、素直になれ。えっちなゲームメドレー弾いてもいいんだぞ?

地震の話は不意をつかれたわね

覇権予想は?

葵ちゃんは18禁ゲームしているという風潮

 

「あれ地震だけだったからまだ良かったですけど、津波も来てたら東京がとんでもない姿になってたでしょうね。覇権は化物語かな?私は好きな作品の円盤全て買いますけど」

 

津波?

津波なんて大したこと無いだろってか港の形的に大丈夫

化物語かー

狼と香辛料を語れ

そうなったら東京よりも神奈川千葉がヤバいだろ

地震の話は明日は我が身だからね

プリラバ見てる?

 

 いい感じに話題転換出来たな、ヨシ!

 将来的にはユニコーンな人たちを選民する必要があるかもしれないけど、それはそれ。今はその人達も含めて知名度を上げなくちゃね。

 

 適当にアニメの雑談をして時間を潰し終わりが近づいてきた時にデビューの事について触れる。

 

「そうだ。実は私、8月にメジャーデビューします!」

 

は?

唐突すぎてワロタwwwwww

はあ?

急なサプライズは心臓に悪いのでNG

は?wwwwww

は?

お前もうちょっと言うタイミングあったろ?

今日は延長してその話の続きをだな

は?

7月も残り1週間なんだが?急すぎるだろwwwwww

延長しろ

急じゃないサプライズが何処にあるんだよ

 

「もうソニック・ワーニングユニバースミュージックのホームページにも掲載されているので良かったらチェックしてみてください」

 

いやデビューするなら買うけどさ…

淡白すぎるだろwwwwwwもっと嬉しそうにして?

ボカロ曲?

ミクちゃん達が世界に羽ばたくぞ!

おめでとう!

延長しようよ

オリジナル曲か?

大手も大手じゃねえか。おめでとう

 

「ファーストシングルはオリジナル曲になりますがボカロ曲も出していく予定です」

 

今ホームページ覗いたらガチじゃねえか

おめ!

ボカロ曲が世間に知られるチャンス!

大きくなったなあ昔はこんなにちっちゃかったのに…

宣材写真かわよ

時間延長!延長!さっさと延長!

早くアルバムを出して全国ツアーを始めるんだ!

俺らの葵ちゃんが遠いところに…

 

 反応も良さそうなので今日はここまでにして次回に詳しい話をしようか。Twitterでも宣伝しなければ。

 あ、自分のホームページも立ち上げていいかもしれない。やるなら例の爆速で開く方のをオマージュしてみよう。あれくらいなら私個人でも作れるだろうし。

 

「うん〜…っはあ。寝る前に歯を磨かなきゃ」

 

 パソコンの電源を落として一階へ降り洗面所へ向かった。携帯を弄りながら歯を磨いていると右下の犬歯がグラグラしていることを思い出した。舌で突っつくと大分揺れるしもう抜いちゃった方が早いな。

 1度口をゆすいで鏡と睨めっこしながら例の歯を掴み一気に引っこ抜いた。

 

「血は…出てないね」

 

 抜いた歯を水にさらしてティッシュに包んだ。それを持ってリビングに居るだろう母の所へ向かった。

 

「お母さん、歯抜けたよ」

「まあ!今回はどうしよっか?外に向かって投げちゃう?」

「夜も遅いし枕の下に入れておくよ」

「じゃあママが妖精さんに頼んでおくわね」

 

 我が家では抜けた乳歯を投げる日本式と枕の下に入れて寝る欧米式がゴッチャになっている。お父さんが居ないのに日本式を知っているお母さんは大分日本文化に浸ってるなと感じる。

 

 お母さんに挨拶をして自室のベッドに潜り込んだ。

 眠る前に考えることは男女の仲を危惧する人達の事。彼らの考えはアイドルを追っている人達に似ている。

 私自身容姿を売りにしているんだから文句は言えないが、それでも恋愛関係に話を繋げて暴れるのだけは辞めてほしいものだ。

 今だからまだ騒ぎも小さいけれどこれからSNS全盛の時代になれば影響力も変わってくる。コラボの度にお気持ち表明なんてされてはたまったもんじゃない。

 

 気にしなければ話はそれまでなんだけど、後に続く人やVの人達には出来るだけ活動しやすい環境を整えてあげたいという気持ちもある。前世のゴタゴタを外から見ていた身としてはあれは可哀想だなって思ったし。

 何とかして2010年代中頃までには決着をつけたいな。そう考えながら眠りについた。

 

 

 

 

 翌朝、枕の下に置いておいた乳歯は無くなり、代わりに100円玉がポツンと置いてあった。どうやら寝ている隙に歯の妖精(お母さん)さんが来てくれたらしい。集めた歯は何処に仕舞っているのかなんて野暮な質問はせず、健康的な歯が伸びることを祈っておく。

 



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初コラボ

「葵ちゃん、自由研究終わった!?」

「IMOのレポート書いて終わらせたよ」

「IMOが何か知らないけど終わってるなら私の手伝って!」

「ええ……」

 

 8月上旬。長岡へ花火を見に行ったり学校の子たちとプールへ行ったりと夏休みを満喫していた。今日は時間があるのでマリカのオンライン対戦を荒らそうかと思っていたところに理華ちゃんが飛び込んできた。

 

「題材は決まってるの?」

「まだ!」

「……理華ちゃんのお母さんは?」

「リビングでお茶してる!」

「じゃあリビングに行こっか…」

 

 リビングではお母さんズが呑気にお話を楽しんでいた。

 

「おばさん、こんにちは」

「あら葵ちゃん!理華が無理言ってごめんなさいね。この子ったら『葵ちゃんと一緒がいい!』って聞かなくて」

「暇だったので大丈夫です」

 

 話を聞いてみると今までの自由研究とは違ったことをしたいらしい。毎年IMOのレポートなんて言う手抜きで済ませている私とは大きな違いだ。今から「原発の浸水に対する脆弱さと緊急停電に際した移動可能電源の必要性」なるレポートでも纏めてみようかしら。

 

 それにしても、今までと違うことねぇ……理華ちゃんは「絵本の漢字の数の統計」とかやってたっけ。その系統のままで充分に面白そうだけど。

 

「どんな事やりたい?」

「実験。アルコールランプとか使うと楽しいし」

「実験かあ……濾過装置でも作る?ほら、浄水場見学行った時のみたいな」

「いいね!」

 

 定番どころに食い付いてくれたので後は材料を集めて写真を撮りながら実験をすれば終わりだ。火を使いたいなんて言われたら面倒だったので良かった。

 

 そんな訳でみんなで理華ちゃんの家へ向かいペットボトルや布なんかの材料を調達。いい感じの石とかが無かったので公園で小石や砂を集めて準備完了だ。

 理華ちゃんは浄水場へ行った際に貰った資料とにらめっこしながら濾過装置の順番を考えてくれた。いざ泥水を注いで濾過を始めると興味津々な様子を見せている。

 個人的には今までの題材の方が個性が光ってて好きなんだけど、理華ちゃんは楽しそうにしているので何も言わないでおこう。

 

「1回で綺麗になる訳じゃないんだねー」

「同じ装置で繰り返しやってみても良いし、違う装置を作って比べてみるのも面白いと思うよ」

「なるほど……」

 

 残りの実験は自分だけでやってみるとの事なので私達は解散した。

 司書さんになりたいと言っていた理華ちゃんがどう変わるかは分からないけど、理系科目に苦手意識が無いようになるならそれはそれで良いことだ。リケジョ仲間増殖計画でも立ててみようかな。

 

 

 

「明日は早いから夜更かししちゃダメよ?」

「大丈夫。この後すぐに寝るよ」

 

 その日の夜、夕飯後のデザートを突っついているとお母さんに明日の事について確認をされた。

 明日は人生初のコラボ動画を撮影する予定だ。お相手は「踊ってみた」動画を世に知らしめた向井ももさん。SNSを通じてコンタクトに成功し、日程調整も万端だ。

 場所はニッコニコ本社のスタジオルームをお借りする。逆行前よりも1年ほど早くプレオープンしたスタジオは人気クリエイターに順に貸して回しているらしい。

 私も以前からお話を貰っていたが撮るネタが無かったので延期させてもらっていた。今回の件でやっと使えるのでワクワクしている。

 それに、サプライズゲストも呼んでるしね。

 何やらミニスカートで踊ってなんて要望も多く貰っていたので今回は特別にサービスしてあげようかな。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「ははは初めましてっ!向井ももです!」

「初めまして!八色葵です」

「本物っ…本物だぁ…!衣装も私に合わせてくれてるっ」

 

 スタジオにて向井さんと初顔合わせをした。その際に大分オーバーなリアクションを貰ったが私よりも9つほど歳上になるのだから緊張しなくていいのに。

 

「出来れば気安く葵と呼んでください」

「葵……ちゃん!あっあっ…」

「…ちょっと休憩しましょうか」

 

 どうやら心ここに在らずの様子なので手を引いて部屋の椅子に座らせて落ち着くのを待つ。隣に座ると身長差が結構あるなと感じる。私も早く大きくなりたいなー。

 

「はっ!あ、もう大丈夫です!」

「よかったです。敬語も要らないですよ。改めて、今日はよろしくお願いします!」

「こちらこそ!あっ、私も、ももって呼んでね!」

「ではももさんと」

「生きてて良かった…っ」

 

 水を飲んでいると向井さんの意識が浮上した。名前で呼んでいい許可も貰えたので距離が近づいたかな。

 早速音楽をかけてリハーサルを行う。初めてのコラボ動画なのでテンションはアゲアゲだ。

 

「ふぅ…いい感じですね!」

「葵ちゃんすっごい上手っ!待って感動して泣きそう…」

「えっ」

 

 ももさんは涙脆いみたいなんだけど、これサプライズゲスト呼んだらもっと凄い事になりそう。

 

 本番前に一度休憩を取る事にして、先程と同じように隣り合わせで座る。その際にももさんから話が切り出された。

 

「——私ね、小さい頃からアイドルに憧れてたんだ」

「えっ…?」

「今の学校も芸能系の所でね。入学する時はこれが夢への第一歩だーなんて思ってたの。でもね、『才能』という大きな壁がある事を知っちゃったんだ」

 

 それは向井ももさんの身の上話。キラキラした夢と、その挫折の話だった。

 

「学校も行きづらくなっちゃって、家でパソコンを弄る日々を過ごして来たの……YouTubeやニッコニコ動画に出会うまでは」

「……」

「みんなプロと呼ばれる様な人たちではなかった。それでもね、その人達はイキイキと、楽しそうに踊ってたんだ」

「ももさんもそこから動画投稿を…?」

「うん。私もあの人達みたいにやってみたい!って始めたんだけど、やっぱり悪い言葉が気になって心が折れそうにもなった」

 

 ネット社会で活動すると言う事は、人気を得ると同時に反対の層も生み出す。

 私自身もアンチスレの存在は確認している。大体は年齢や顔出しに関する事が多いので「正論だなー」なんて感想しか浮かばないけど。あと、たまに面白い風刺的なコラ画像があったりするので潜る事は辞められない。

 

「でもさ、そんな時に葵ちゃんの動画に出会ったんだ」

「私の?」

「こんなにちっちゃい子なのに、罵詈雑言を書き並べられても平気な顔をして活動を続けられる子が居るんだって」

 

 私の場合はアンチコメントが数の暴力によって薄められている点が大きい。それに、顔も知らない人からの悪口なんて気にする性格でもないし。

 

「私ももうちょっとだけ頑張ろうってなって。それで今回の『踊ってみた』動画が大当たりしてから風向きが一気に変わったの」

「……」

「しかも画面の奥でしか見れなかった人と、実際に会って動画を撮れるなんて夢みたいな事も体験出来た。本当に…続けてて良かったぁ」

 

 その言葉を最後にももさんは勢いよく立ち上がった。マスクを外している顔には負の感情は一切見えない。

 

「よっし!辛気臭い話しちゃってゴメンね?休憩も充分取ったし、本番いってみよー!」

 

 

「……ももさんは、まだアイドルになる事を諦めてませんか?」

 

 

 そんな彼女に不躾な質問をする。答えなんて、決まってるはずなのに。

 

「——なりたい」

 

 真っ直ぐにこちらを見返す視線を受け止める。

 嗚呼。それなら私から言うことはひとつだ。

 

「ももさんはアイドルになれますよ。それまでにどんな障害があろうと、それを乗り越えて夢にたどり着ける。私の勘ですけどね」

「……葵ちゃんの勘なら信じちゃおうかな」

 

 今のところ的中率100%の勘なんだ、存分に信じてくれ。私は、ももさんの未来を知っているんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後しっかりと本番をカメラに収めた。二人にミスはなく完璧な仕上がりだと思う。

 

 映像を確認しているももさんを横に、私はある人を部屋に招き入れた。スタジオに入る前に顔合わせをしていたので大分待たせてしまったかもしれないと思ったのだが、どうやらお母さんと話して時間を潰していたそうだ。

 

「ももさん、実はもう一方呼んでるんです」

「えっ……」

「どうも、thumbfreeです」

「っ!?……っ!……!?」

「ももさんの声の霊圧が……消えた……?」

 

 紹介したのは当楽曲の生みの親、thumbfreeさんだ。ももさんとコラボが決定した時に裏で連絡を取ればノリノリで返事を返してくれた。ついでにサプライズもしたいとの事だったので私も加担した次第だ。

 

 案の定泣き出してしまったももさんをなだめ、3人でハレ晴レユカイを踊る動画も撮影した。thumbfreeさんは持参したひょっとこのお面を付けてキレキレのダンスを見せてくれた。初めての実写動画がこれでいいのかという気持ちもあるけど本人は気にしてないようだ。

 

「thumbfreeさんは作曲中に具合が悪くなったりしますか?」

「特にないかな。俺もまだまだ若いからね」

「うちのお母さんは30代で癌になってたので、thumbfreeさんも気をつけてくださいね」

「そんな事もあるんだ……人間ドックでも定期的に受けようかな…」

「葵ちゃん。ママは永遠の20代なのよ……」

 

 撮影も終わり撤収作業中にthumbfreeさんに声をかけておいた。何が原因かは知らないけれど健康意識を持たせられるならそれで充分だ。

 

 帰り際には二人にサインを強請られたので練習した綺麗なサインを書いてあげた。それにしても3日前に発売されたばかりなのに二人ともよくCDを持って来れたな。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

最高のCDを買ってしまった

 

 

1:Anonymous ID:jfBK0jxg8

自慢させてくれ!

俺はお前らが想像出来ないほど最高な体験をしているよ

 

2:Anonymous ID:yhZugC6tu

勿体ぶらずに早く言え

 

3:Anonymous ID:/pFb87nn3

煽る為に立てたんだとしたらお前はとんだクソ野郎だ

 

8:Anonymous ID:jfBK0jxg8

慌てるなよ、冷静になれ

まずは俺がこの曲と出会った時のことを説明しよう

みんな、コーラの準備は出来たか?

 

13:Anonymous ID:zn95IbQ34

こいつ……

 

15:Anonymous ID:QcTVAWwgg

いいから結論を言え

その曲は誰のなんて題だ

 

19:Anonymous ID:jfBK0jxg8

俺はMJの事がショックでね、食事も喉を通さないほど落ち込んでいたんだ。

それで気晴らしにCDショップへ気分を上げてくれる曲を探しに行ったんだ

 

21:Anonymous ID:AP7vjrGIB

>>19

MJについて同感だ

本当に悲しい事件だ

MJよR.I.P.

 

26:Anonymous ID:1sVv0rffY

>>19

急に好感が持てるようになったぞ

同じMJファンだ

 

27:Anonymous ID:jfBK0jxg8

チョロい奴らだ

 

30:Anonymous ID:tLwGU+Q+a

反省してないぞこいつ!

 

33:Anonymous ID:tA20QbI4R

さっさと曲名を言え!

 

38:Anonymous ID:jfBK0jxg8

その店に入った時に衝撃を受けたよ

店内に流されている曲が、全ての憂鬱を吹き飛ばしてくれたんだ

 

41:Anonymous ID:eTUA3H+m1

何でこいつはこんなトロいんだ?

さっさと結末まで書いて投稿しろ

 

43:Anonymous ID:RQwRBcod/

タイピングスピードが可哀想なスレ主を責めないであげて

俺が代わりに謝るよ

確かに彼の文を打つ速さは亀のように遅いがそれもみんなを楽しませたいと思っての事なんだ

 

45:Anonymous ID:jfBK0jxg8

>>43

勝手に俺の心情を捏造するな

 

46:Anonymous ID:eTUA3H+m1

>>43

それなら仕方ないね。許すよ

 

51:Anonymous ID:bWlmJsQjv

もしかしてこれ?

https://imgr……

 

52:Anonymous ID:jfBK0jxg8

アオイ・ヤクサの「新世界へ」

以上!

 

55:Anonymous ID:jfBK0jxg8

>>51

それだよ

 

58:Anonymous ID:kKioNrFL2

勿体ぶった挙句に先越されてるXD

 

62:Anonymous ID:g/kJgTlws

可哀想なスレ主XDDD

 

64:Anonymous ID:ObvDZd3Ed

その曲なら俺もダウンロードしてるよ

というより3日前に音楽板で祭りになってたよね

お前は今日生まれた赤ちゃんなのか?

 

66:Anonymous ID:FexBJUN9T

俺はアオイの事を以前から知っていたから発売と同時にCDと配信サービスのどちらも購入した

 

71:Anonymous ID:LrWiyrJFl

俺の中で一番ホットな日本人じゃないか

アオイに免じてスレ主の事は許してあげる

 

76:Anonymous ID:skOcCgiF0

お前、散々勿体ぶったのにみんなが知っている事を自慢したかっただけなのか?

 

81:Anonymous ID:iEnI/QU+4

今の気持ちは?

 

84:Anonymous ID:jfBK0jxg8

>>81

アオイの曲を聞いて回復したよ

 

85:Anonymous ID:QbV9/dYOh

XDDD

 

86:Anonymous ID:BBSiEPKcO

可哀想なスレ主

 

90:Anonymous ID:3THRbIqSl

俺は初めて知ったから感謝するよ

今ダウンロードして聞いてるが凄い曲だ

これからの世界のことを歌っているようで将来へのワクワクが止まらないね

 

94:Anonymous ID:uFqQJjpdC

アオイの声は、何と言うか、いくらでも聴いてみたくなるんだよな

 

99:Anonymous ID:NmDoRIVwc

>>94

分かる

日本人なのに発音も綺麗だから聞きやすい

 

104:Anonymous ID:jfBK0jxg8

アオイの曲にはドラッグが含まれてるに違いない

連邦政府に発禁されるのも時間の問題だな

 

108:Anonymous ID:ewkeIhdt2

スレ主はアオイの姿を見たらきっと驚くだろうな

 

110:Anonymous ID:iBA8yTggT

俺も今ダウンロードした

ただ偶然なんだろうけど「新世界へ」という題が気に触るな

 

114:Anonymous ID:vvepQpKx9

>>110

それは仕方ないだろ

何でも過敏に反応するな

 

115:Anonymous ID:JB2PKiP6f

またアオイの話か?

俺も混ぜてくれ

 

116:Anonymous ID:jfBK0jxg8

>>108

アオイの姿?名前的にイエローだろ?

 

120:Anonymous ID:w57vcVWat

>>116

差別用語を使った事を後悔するよお前

 

121:Anonymous ID:QLe2n9iCG

>>116

今のうちに謝る準備しておけよ

 

122:Anonymous ID:GnCAIYUGP

>>116

お前は数分後「悪かった」と言う

 

127:Anonymous ID:/XrU/ppTG

YouTubeでアオイ ヤクサで調べてご覧

Twitterでも問題ない

 

131:Anonymous ID:FXA5CG4gz

MJ好きなのは好感を持ったが白人至上主義っぽいのが良くないな

 

133:Anonymous ID:5pu4QAAv0

しょうがないからリンクを貼ってやる

https://……

 

136:Anonymous ID:A/la36dX3

>>133

おおおおおおおおお!!!めっっっっっちゃ可愛い!これがkawaiiってやつか!

 

139:Anonymous ID:NFoHjcgq6

俺もアオイの姿見た事なかったから調べたら心臓が止まるかと思ったよ

危うくアオイを殺人罪で訴えるところだった

 

140:Anonymous ID:zwTw9Kz37

>>133

いつ見てもアオイは素晴らしいな

この世にアオイを遣わしてくださった主に感謝を

 

143:Anonymous ID:jfBK0jxg8

みんな、そしてアオイ、本当にすまなかった

これを機にイエローなんて言葉は封印するよ

 

146:Anonymous ID:NnBwOIiv+

3日前の祭りでもアオイの写真貼ったらアニメ板の奴らが流れて来て大変だったな

「新世界」のワードに難癖つける奴らとオタク達が混ざりあってカオスだったよ

 

147:Anonymous ID:PAVRxXmRm

>>143

その調子だ

共にアオイを見守っていこう

 

152:Anonymous ID:qBNCLbJu+

>>139

死人に裁判は起こせないぞ

 

153:Anonymous ID:12wugxO8T

>>143

謝れてえらい!

 

154:Anonymous ID:A2ZrOrsIm

俺はアオイの動画で日本語の勉強してるよ

ただ日本語って難しいんだな

日本人が英語苦手な理由が分かった気がする

 

155:Anonymous ID:JfFH2SaiC

この1週間でチャンネル登録者が爆発的に伸びてるな

前見た時は130万人くらいだったはずだ

 

158:Anonymous ID:olxFMs/bo

アオイを知らないニワカが居たとは…

彼女は地上に舞い降りた天使だよ

 

159:Anonymous ID:UCbxDn63D

アオイ、他の曲も早くCDで出してくれ

 

164:Anonymous ID:jfBK0jxg8

俺はこれから全ての動画を見てくるよ

ありがとうみんな

 

166:Anonymous ID:uvM6o0OhI

>>158

天使は人間をいっぱい殺してるから違うな

 

167:Anonymous ID:1L7HzQjy7

>>154

素直にテキストを買え

 

171:Anonymous ID:olxFMs/bo

>>166

なんだァ?てめェ……

 

 

 

 

 

 



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法人化





 8月中旬、「結ンデ開イテ羅刹ト骸」が1ヶ月でミリオン再生を達成した。ボカロ曲が氾濫しているこの時期においては異例の速さだ。これが本物かと畏怖を覚える。

 

「おはよー」

「おはよう!もうご飯出来ちゃうから顔洗ってきてね」

「はーい」

 

 キッチンで料理をしていたお母さんに朝の挨拶をして洗面所へ向かう。今日は午後に涼くんの練習試合を見に行く予定だ。それまでに1週間ぶりにYouTubeの更新をしなくては。

 リビングへ戻り用意されていた納豆を混ぜながらニュースを確認する。特に目新しい情報はないかな。

 

「お待たせ!じゃあいただきまーす」

「いただきます」

 

 今日の食卓のメニューはトーストにベーコンエッグ、サラダ、昨日のお味噌汁の残りだ。見事に和洋折衷である。私なんてそれにプラスして納豆も食べてるし統一感がないな。

 それを雑談しながら食べているとニュースの話題が切り替わった。

 

『次は音楽コーナーです。日本のあるアーティストがアメリカで話題を呼んでいます』

 

「あら、葵ちゃんかしら」

「違うと思うなー」

 

 親バカのきらいがあるお母さんは直ぐに話を私に繋げてくる。2週間ほど前にリリースしたばかりのファーストシングルは初動売上自体は悪くないそうだけど、それは日本での話。アメリカで話題になるのはもっと成熟したアーティストだと思う。

 だから録画しようとしても意味ないって。

 

『今月5日にメジャーデビューした八色葵さんのファーストシングルが、アメリカのオリコンシングルチャートで週間3位にランクイン!これは——』

 

「——は?」

「よし!間に合った!」

 

 カランッ。

 食卓に箸が転がる音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ。凄い増えてる……」

 

 朝食を急いで済ましてからパソコンでYouTubeを確認するとチャンネル登録者がとんでもない事になっていた。1週間前は180万人を突破した程度だったのに今や200万人を超えている。

 由希さんからも連絡がありアメリカでの売上が好調とのこと。あのニュースは間違いではなかったらしい。

 確かにノリやすいテンポに拘ったけど、まさか国内より先に海外で人気が出るとは思いもしなかった。

 

「ニッコニコの方も増えてるなー」

 

 冷静に試算してみる。昔に週に50万枚売れればチャート1位を取れるなんて聞いた事がある。アメリカの方がどんなものか分からないけど日本と同じだと仮定しよう。

 仮にこの勢いのまま年度内に100万枚捌ければ売上は6億。その6%が私に入る契約なので収入は3600万円にもなる。為替レートも関係してくるので正確にはこの数字にならないと思うけど、想定外の額だ。

 最近になってYouTubeの広告単価も上がって来ている。このまま行くと確実に半分を税金で失ってしまう事になる。

 

 ということで。

 

「お母さん、和真さんと由希さん、後は司法書士の方を呼んで相談したい事があるの」

「んー?なになに?」

「起業したいなって」

「いいよー……えっ?」

 

 法人化だ。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 日本では2006年より資本金の縛りが無くなり誰でも1円から株式会社を起こせるようになった。

 

「——では、こちらの契約内容の方で問題ないでしょうか」

「はい、問題ありません。よろしくお願いします!」

 

 とは言っても15歳未満の場合は法律行為にあたる事について色々と面倒な手続きがあるのだが。

 

「もう上に話は通してるから正式書類は直ぐに準備出来ると思うよー」

「由希さんの真面目モードが解けちゃった…」

「堅苦しいからね!」

 

 そう言って由希さんは一足早く会社に戻って行った。電話で相談した時も特に渋る様子も無く、淡々と手続きを進めてくれた事に有難さを感じる。

 

 残された私達は起業関係の書類の詰めに入った。

 

「資本金は幾らでも構わないんだけど、どうする?」

「そうですね……一般的な額はどれくらいなんですか?」

「大体は300万円から1000万円の間に位置するね」

「そんなにかかるのねー」

 

 今回の相談に乗ってくれた和真さんは遺産相続や起業関係の分野に強い弁護士だ。一応この後に司法書士の方にも相談する予定だがそれも必要ないかもしれない。

 

「少なすぎるのも問題なんだけど、葵ちゃんの場合は活動費とかも特にかからないだろうし大きな額は必要ないかな。ただし税金の内容が変わってくる事も考慮しなくちゃね」

「……なら、とりあえずは1000万円にします」

 

 私が自由に使える資産は8000万円以上ある。全額ぶち込んでもいいけど流石に後が怖いので今はこれくらいでいいはずだ。ファーストシングルだけの一発屋でなければ増資すればいいしね。

 

 その後も役員報酬や細かい事を決めた。事務所はとりあえず自宅にしたけど、近いうちに違う場所にオフィスを持つ事も検討しなければ。

 

「ちなみに顧問弁護士を雇おうとかって考えてたりする?」

「特には……え、和真さん、もしかしてですけど独立したいんですか?」

「僕もそろそろ歳だからねー。今は専属までは行かなくても良いからさ、数年後くらいに雇って欲しいなー、なんて」

「それは役員会議で決定しますので…」

「リーナさん!お願いします!」

「よしっ!いいでしょう!」

「いや、まあいいけどさ…」

 

 ついでに法務部も設立する事になった。その関係で資本金も2000万円に変更です。

 経営関係は問題ないとして著作権は専門分野から外れているのではと思ったけど心配ないらしい。実の所、私が所有している著作権はレコード会社が守ってくれているので問題は無いんだけどね。

 会社が大きくなればその分野に強い人も雇えばいい。やるなら税理士さんも抱え込みたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで法人化を済ませた9月。2曲目のレコーディングを終えた私はそのまま音楽番組の出演に関する説明を聞いていた。

 個人事業主であった以前までならレコード会社を通しての依頼になっていたと思うが、私が起業した為にメディアと直接対応する事になった。ただし由希さんも同席はしている。

 

「では収録の日取りはこちらにします。今のところでご不明な点は御座いますか?」

「当日の衣装とかってどうしたら良いですか?」

「ああ!申し訳ありません、説明をし忘れていました」

 

 あのニュースで報じられて以来、日本でも順調に売上枚数を伸ばしていき週間チャートでも1位を獲得した。ライバルとなる男性アイドルグループや既に人気を確立しているアーティストの人達が新曲を出していない空白の期間だった事も関係していそうだ。

 

「当日はこちらの方でスタイリストを用意していますのでご心配なさらずに」

「承知しました。ありがとうございます」

 

 初めての地上波デビューなので勝手が分からない事だらけだ。当日も楽屋に挨拶回りとかしないといけないのかな。

 ただ、今回出演するのは音楽番組だ。同じレコード会社所属の方が多数いるのであまり心配しなくてもいいかもしれない。

 

「収録当日を心待ちにしております」

「よろしくお願いします」

 

 契約を交わし局を後にする。初めてのテレビ局だったので芸能人に会えるかなーなんて期待していたがそんな事はなかった。しょうがないので収録日を楽しみにしておく。

 

「私達の想像通り、一気に人気が出たね」

「上手く行きすぎて怖いですけど」

「葵ちゃんがインタビュー以外でテレビに出るなんて、ママは感慨深いなぁ」

 

 駅までタクシーで送ってもらっている際に由希さんから今後の予定を聞かせてもらった。

 2曲目のシングルを出した後は今まで作ったボカロ曲も順次発売していく。更に歌唱依頼が既に来ているとの事で3曲目のシングルはそれになる。私が作詞作曲する手間が無いので9月中にレコーディングして直ぐに発売だ。

 更に2曲目のシングルからCDの値段を税抜き600円から1200円に上げるらしい。

 流石に強気過ぎる値段設定だと思うのだが、ファーストシングルがあそこまで売れてしまったので期待もしておく。

 

 このまま順調に進めば年内に音楽番組以外にも呼ばれるかもしれない。なんなら何年か前に出演依頼を寄越していた所が動き出すはずだ。この勢いを上手く利用したい。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「多分これが1番早いと思います」

 

ファーwwwwwwwwwwww

どこ通ってんねん!!!

動きがキモい

チートか?

ピピーッ!通行区分違反です!

これ俺の知ってるゲームじゃないわ

 

 そろそろ良いだろうと判断しマリカのタイムアタック動画を投稿した。今はそれの解説を生放送でしている。

 

「このゲーム、他にも色々近道出来るので皆さんもやってみてください」

 

再現性がうんこ!

誰かやってみて

俺の持ってるゲームと違うみたいだから無理

お水飲む姿かわよ

お前普通に遊べよ……

喉がセクシー!

せんせー、葵ちゃんがゲーム壊しましたー

 

「ということで後は雑談しましょうか」

 

雑談の時間だあああああああ!

今をときめくアーティストとおしゃべりしゅるううう

最近になって葵さんのCD買いました!

歌い手とコラボして♡

アンケート!アンケート機能使いたい!

アニメの話しよ

俺との将来計画を話す時がやってきたな

【祝】YouTube300万人

 

 9月になり生放送に参加出来る人数が大きく増えた。ただメジャーデビューしたとしても私の生放送の雰囲気は変わらない。ちょっと新規さんが増えたかなという印象はある。

 ついでにインターフェースを外国語に対応する準備も始めたと運営が発表した。何時になるかは未定だけど海外勢を取り込む姿勢を見せているのは良い事なんじゃないかな。

 

 雑談しているとコメントも賑やかになってきたけど残念ながら今日は延長はなしです。明日に音楽番組の収録を控えているので、それが終わったら耐久配信でもしてあげよう。

 



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地上波デビュー

Q. 遅れた理由は?
A. ドーハの奇跡がね…


 初めての音楽番組の収録は生放送だ。そのため朝8時から18時まで長い時間を掛けて入念にリハーサルが行われる。そういう訳で私は金曜日にも関わらず7時に局入りした。

 由希さんと合流し、スタッフの方に案内された楽屋の扉には「八色葵様」の文字がある。大きな部屋に何人か集めるわけではないのね。

 

「スタイリストさんが来る前に共演者の方に挨拶回りしに行こうか」

「りょーかいです」

 

 共演者のアーティストの方達も忙しそうに準備をしていたが顔合わせは概ね好意的に済ませられたと思う。

 司会のサングラスをかけた大物芸能人は普段見るスーツをしっかりと着込んで待っていた。私服を見てみたい気持ちもあったんだけどな。もしかしたらこの格好で来ていたりするのだろうか。

 

「葵ちゃんの場合はお化粧も要らないから準備が楽なんだよねぇ」

「これ着てリハーサルするんですか?」

「もちろん!」

 

 スタイリストさんに合わせてもらったドレス擬きを纏った姿を鏡で確認する。横ではお母さんがハイテンションで私の写真を撮っていた。

 

「汚したりしたら……」

「その時は違うものが用意されるよ。お昼はまた着替えるから心配しないでね」

 

 スポンサーからのプレゼントらしいこの衣装はそのまま持ち帰っても良いらしい。なんかのバラエティーでは買取出来る体だったと思ったけどこういう事もあるんだね。持って帰っても直ぐに着れなくなりそうなんだけれど、記念にはなるかな。

 

 8時になり始まったリハーサルはアーティスト毎に1時間もかけるほど丁寧に進められた。私も音の確認や立ち位置、照明の当たり具合など事細かに確かめた。

 私の場合はダンスがないので比較的早く終わったけど他のアーティスト達はシビアに動きを合わせている。私もそのうちバックダンサーなどを用意するかもしれないので流れを目に焼き付けておこう。

 

 昼食休憩を挟みながら行われたそれが終われば次は通しでのリハーサルだ。

 私以外に初出演の方が居ないためトーク内容も私が中心になる。台本も渡されていたのでスムーズに勧められたけど他のアーティストとの絡みが多い多い。Wetubeやニッコニコ動画についても触れられた。中には自分たちもチャンネルを開設するかもというアーティストも居たので芸能人参入が早まるかもしれない。

 それが良い事なのか判断はつかないけど、動画クリエイター界隈もより活発になるとは思う。

 

 そして20時になり、初めてのテレビ収録が始まった。失敗しないように()()を入れ、出演者の列に続く。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 収録開始のカチンコが鳴らされ定番のオープニング曲と共に司会者の2人組が登場してきた。

 招かれた観客たちが盛り上がりを見せ、後に続くアーティストに思い思いの声を上げる。出演者もそれに応えるように笑顔で手を振りながら階段を下っていった。

 続々と登場するアーティストに場のボルテージも上がっていく。

 その最後尾に、彼女が姿を見せた。

 

 一瞬、時が止まったかのように歓声が止む。

 黒に近い深青色のドレスをひらめかせた少女がカメラに礼をし、芸術品とも言える——いや、芸術品などとは比べ物にすらならない。どんなに高尚な作家だろうと表現出来ない程に美しい顔。それに笑顔を浮かべた。

 瞬間、溜められていた音が弾け飛ぶ。

 

「うわぁ、すっご……」

 

 耳がおかしくなる程の爆音をスタッフに紛れながら聞いていた。

 司会者を中心に並ぶ共演者の中でも彼女の背は極めて小さい。それでも圧倒的な存在感を見せる少女がメジャーデビューしたばかりの新人と誰が信じるのだろうか。

 今日集まっている観客たちは各々が好きなアーティストを見に来ているはずだ。決して最後に登場した少女を目的にしている訳ではない。

 しかしながら一瞬で場の雰囲気が塗り替えられてしまった。見るもの全てに「彼女がこの場の主である」と印象付けてしまう。

 普段から接している私ですら魅了されているんだ、況んや慣れていない人達は耐えられないだろう。

 

「八色葵さんは初登場ですよね」

「はい。ご紹介にあずかりました八色葵です。よろしくお願いします」

 

 そのままオープニングトークもそこそこにCMを流している間に出演者はトーク席に移動。そこでのトークは順番に回されていくが葵ちゃんの関わる内容も多い。それに対して出演者も嫌悪感は抱いてないようなのでひとまず安心する。

 プロデューサーや放送作家の思惑と出演者の思惑が一致しているようで、みんなどうにかこうにか葵ちゃんと関わりたいようだ。

 出演者の大半は私の会社の所属アーティストなので、日程を調整すれば誰でも会えるんだけどなぁ。

 

 トークを挟みながらも順番に楽曲を披露して番組が進んでいった。

 本当ならルーキーの葵ちゃんがトップバッターの予定だったんだけれど、リハーサルを見て急遽最後に回されてしまった。そういう事になったのもアーティストが葵ちゃんの後に歌いたくないと言ったからだ。

 異例な事態だ。制作側が大御所に配慮してトリに持っていく事もあるにはあるが、基本は順番なんてあまり気にしない。私も仕事柄何度かこの番組にお邪魔した事があったが、今までにこんな事は起きなかった。

 

 その理由が今明かされる。遂に葵ちゃんの番になり舞台に立った彼女を照明が照らしていた。

 イントロが流れ出しそのリズムに合わせて小さな身体を揺らしている葵ちゃんが口を開いた。

 

 聞こえてくる声に、葵ちゃんの容姿に見蕩れていた観客達が目を見開いていた。

 ——時に、CD音源と生歌で印象が変わるアーティストは少なくない。葵ちゃんもその一人。

 ただし、生歌の方が圧倒的に上だと感じるアーティストだ。

 

 140cmにも満たない小さな身体の持ち主は、スタッフも観客も、この場にいる全ての人を魅了している。

 

 これが()()()。社長自ら「絶対に迎え入れろ」と厳命した新たな歌姫の卵。

 

 

 

 

 ——この日、世界は新たなスターの誕生を目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「初めてのテレビ収録はどうだった?」

「楽しかったです!」

 

 エンディングも撮り終わり、共演者やスタッフに挨拶をして回った。共演者の方にはサイン交換をしてもらえたので大変満足だ。

 プロデューサーには今日の感想と夜も遅いから気をつけて帰るようにと言われた。期待されていた通りの仕事は出来たと思う。

 

「これから何回も出る事になると思うから、気になる事があったら言ってね」

「特に無いです」

「ママはちょっと暗いなあって感想かな」

「スタッフの所に居たらそうだろうね」

 

 強いて言えば夜遅くなるのが困るくらいだ。帰りはお母さんに甘えて少し寝させてもらおう。

 

 楽屋へ戻り私服に着替えて局を出た。持ち帰らせてもらった今日の衣装を見ているとスタイリストも雇っていいかもしれない。

 個人的にはオフィスの一角をプラ○を着た悪魔みたいな部屋にするのも面白い。和真さんの引き継ぎもそろそろ終わる頃だ。明日は何も予定を入れてないし、お母さんと一緒にオフィス候補を見に行こうかな。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「今日は眠くなるまで配信します」

 

はい

はい

はいじゃな……はいと言え!

挨拶放り投げるのはどうかとパパは思うよ

Mキャン見てたよ!

はい

今日も可愛い

はい

【祝】地上波デビュー

ツインテールきてあああああああ!!!!

 

 オフィス候補を見て回った日の夜、2日振りの生放送枠を取った。今日は意識が続く限り時間延長をしてサービスしてあげよう。

 

「Mキャンは結構な人が見てくれたみたいですね。ありがとうございます」

 

そりゃあ見る

背が伸びるまであのドレス来て配信して♡

私の友達があれ見て葵ちゃんのファンになってました

裏話聞かせて!

見ない訳ない

歌配信をするんだ!

ちゃんと録画したよ

テレビ番組出ている人と間接的にでも話せるって面白いなこれ

芸能人入りしやがって……おめでとう!

えっ、今日は延長催促してもいいのか!?

 

「おかわりもいいぞ!まあ寝惚けたらそのまま寝ますが」

 

wwwwwwwwwwww

他のアーティストと何話した?

うめっうめっうめっ

うめ うめ

JSが狂四郎知っている違和感

ツインテール食べたい。それだけでご飯10合いけるわ

ただ今より睡眠ガス訓練を開始する!

wwwww

アンケート機能を使うんだ!

今更だろ

何話すの?

 

「とりあえずこれ見てください!共演者の方全員からサイン頂きました!」

 

かわいい

よかったねぇ(親目線)

可愛い

バーンって取り出して見せてるの可愛すぎか?

めっちゃ嬉しそう

よかったね(ほっこり)

これは露骨な年少アピール

俺は葵のサインが欲しいよ

すまん結婚してくれないか?

稀に見る年相応の姿

あっ…(昇天)

かわっ

 

「いやー、初めての収録だったんですけど楽しかったですね。皆さん優しかったですし、今度は違う番組にも出てみたいです。さて、オープニングトークはここまでにして今日はお絵描きしていきます」

 

雑談しろ

ゲーム配信しろ!

番組プロデューサー「ガタッ」

何の絵描くの?

ホラーゲームやれば眠くならないよ!

MMDつくろうよ

作曲配信してほしいです

お絵描きする時は翻訳作業どうするの?

お絵描きの時間だあああああ!!!

番組P「待ってるよ(ニッコリ)」

 

 ペンタブを取り出しいくつか作業をして生放送に画面を表示する。試しに線を引くとちゃんと表示されるので大丈夫かな。

 

「お絵描きしながらでも雑談は続けます。今日は次出すボカロ曲のアニメーション作りです」

 

 今まで300枚位描いてるので残り100枚ちょっとだ。この作業してれば勝手に眠くなるんじゃないかな。

 コメントを確認しつつ絵を描いていく。みんなも普段とは違う配信だけど不満は無さそうだ。

 

色塗り、なし!w

線画描くの早すぎてワロタwwwwww

普通の人こうやって絵かくの?

色塗るのダルいからね、分かるわ

今思えば葵って美少女なのにオタクなのって奇跡みたいな存在だよな

ミクちゃんかわええ

ルカ姉も描いて♡

2ndシングルはいつ発売?

 

「あっ、2ndシングルは1週間後の予定です、言い忘れてましたね。その後に順次ボカロ曲も発売されます。そっちは私が歌ったバージョンも入ってるので良かったらぜひ」

 

まーた大事な事言い忘れてる

スグじゃねえか!

10枚目終了

ニートの俺より納税額多そう

楽しみに待ってます!

オリジナルと英語版両方買わなくちゃ(使命感)

言い忘れた謝罪しなくていいから俺のお嫁さんになろうな?

ニートの納税額ってなに?消費税?

 

 その後も質問に答えながら鼻歌を歌いつつ1時間ほど作業を続けた。流石に瞼が重くなってきている。昼間に結構歩いたから気づかないうちに疲労が溜まってたっぽい。体力が少ない点が小さな身体の短所のひとつだ。

 

だいぶ目がショボショボしてきたな可愛い

自分添い寝イイすか?

お眠顔スクショしました。家宝にします

俺も何だか眠くなってきたわ

先にベッド入って待ってるよ

珍しい表情見れたわ

葵ちゃん「ふぁ……ん…」

あざといなあざといよあざといわ

寝るんだ!そして寝息.mp3を我々に進呈しろ!

何だそのアクビ可愛すぎるだろ

 

 あー、これもう落ちそう。一旦背筋を伸ばして立て直そうか。

 ぐーっと身体を伸ばすと一気に眠気が襲ってきた。フワフワした意識の中、このまま眠りに落ちてはいけないと最後の理性が働き身体を起こしてパソコンの電源を切ろうとした。それを最後に私の意識は闇に落ちた。

 

キター!!!!

お祭りキターーーー!

【速報】八色葵さん9歳、寝落ち

眠気くんよくやった!電源切られたらオシマイだったぞ!!

残り15分は葵ちゃん観察出来るわ

添い寝配信キターーー!!!

あーあ朝起きたら身体バキバキだねぇ

葵も所詮は子どもよ

音量マァァァァックス!!!

やってしまいましたなあ

こんな時間におネムとかバブちゃんかよ

あっあっ、葵ちゃんの寝息が……ふぅ

お前ら美少女の寝てる姿勝手に見てて恥ずかしくないのかよ。俺は15分後にちゃんと抜けるぞ

盛り上がってまいりました

【美少女と】暇人集合【添い寝】

15分後には放送終了なんだわ

 

 翌朝、スリープモードのパソコンを見て全てを察する。これがニッコニコ動画だったから良かったけど将来的にWetubeでやってしまえば長時間の黒歴史を作るところだった。……なんか恥ずかしい寝言言ってないだろうか。




以前より「○○は名前買えなくても大丈夫?」とご心配を頂きましたので運営に問い合わせました。
結果、YouTubeやTwitter、VOCALOID、ゲームやアニメの名前は出しても良いとの事です。
ただ既に変えてしまっているものを元に戻すのもアレなのでこのまま行きます。


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歌い手

感想で要望が出ているのでYouTubeなどは順次戻していきます


 秋の匂いが色濃くなって来た10月。未だにウコンちゃんと縄さんのコラボ配信で自演暴露が行われていない。何を切っ掛けに心変わりしたのだろうか……まぁ、良いことではあるので気にしないでおこう。

 

「パソコン類は経費で落とすので好きなのを用意してください。給湯室には冷蔵庫と調理器具一式を用意しているのでご自由に。欲しいサービスがあったら後ほど提案してくれればコチラで承認するので言ってくださいね」

「3人にしては随分と広い所を借りたね」

「これから増える予定なので」

 

 和真さんの引き継ぎが終わったと同時に東京某所にて賃貸オフィスを借りる事にした。都内のど真ん中と言い訳ではないが家賃がウン十万するのは恐ろしい。

 

「ママの席はここー。葵ちゃんはどうする?」

「私は滅多に来ないし適当なところでいいかな」

「ええ〜!葵ちゃんもこっち来ようよ!」

 

 お母さんは日当たりの良い窓際の席に陣取った。私は出入りが楽な入口近くにしようとしたが強制的にお母さんの隣へ。日の光がよく入るので冬は暖かそうではある。

 

「そういえば、和真さんの自宅って買い上げてるんですか?」

「まだ賃貸だよ」

「なら家賃補助を出すので適当に書類の方を用意しておいて下さい」

「ありがたやありがたや」

 

 福利厚生は充実させておいて損は無い。月初めに振り込まれる利益が莫大だったのである程度は大盤振る舞い出来る予定だ。

 ネット回線も既に開通しているので後は和真さんの自由にさせる。当社はフレックスタイム制なので通勤時間は自由です。ただし、無いとは思うけど残業は止めてね?

 

 その後、由希さんもオフィスを覗きに来たのでついでとばかりに皆で食事会へ。お酒が入った和真さんと由希さんは趣味が合うのか意気投合していた。これからは関わりが増えてくる二人だし、仲が悪いよりは全然いいね。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 11月になり遂にニッコニコ大会議がスタートした。最初は仙台からでそこから日本全国を回って東京に帰って来る日程だ。

 今回の大会議は初めてのユーザー参加型イベントになる。そのため運営も随分と力を入れているらしく、入場料無料なのに会場のキャパは1万人だ。これ確実に赤字なんじゃないかな。

 

「おーおー、凄い盛り上がり」

「シロさんは現地に行かなくてよかったの?」

「葵との初コラボの方が大事だから常識的に考えて。抱きっ」

 

 大会議初日の公式生放送を歌い手兼生主の46猫さんと一緒に見ていた。本当なら始まる前にコラボ配信は終わらせる予定であったのだが、視聴者が「大会議も一緒に見よう!」の大合唱で放送を延長している次第だ。

 

そこは常考だろ常識的に考えて

生放送を見ている二人を見ている俺ら。こんがらがってきたぜ

2人とも飛び入り参加してこい

これ終わりまで延長してくれるの?

「延長できて寺売れ指数」と言わなきゃ

女の子が女の子に抱きつかれてるのを見ると心が穏やかになるわ

画面が百合百合しいぜ

ファー裏山指数。俺も葵に抱きつきたい

お前らも公式の方見ろよ

全日程参加しそうなヒロアキwww

2窓は常識

 

「そういう葵は運営に呼ばれてない…訳ないか。ウリウリ、いつ出るかお姉さんに教えてみそ?」

「私まだ子どもなので親の許可が降りないと難しいんですよね」

「年齢詐欺でたわね」

 

呼ばれてない訳はないわな

ゲロっちゃえ!

お前のような9歳が居てたまるか

大丈夫、今なら運営も手薄だからバレんぞ!

参加者名簿には確かに名前無いわ

カツ丼用意してあげるから素直に話して?

年齢詐欺はワロタwwwwww

ニワカ乙、葵は人生n周目なだけだから

俺未来予報士。初日に出ないって事は最終日に呼ばれてるぞ

「呼ばれてない」とは言ってないな、つまりは…?

 

 まだシークレットなのでどうにか誤魔化しておく。どうせ今日の大会議中に最終公演日が発表されるんだからバレても問題はないのだが。

 

「ひゃ〜!宮城県だけでID100万はヤバすんぎ!」

「半年くらい前に冬野さんから2200万人超えたとか何とか聞きましたね」

「冬野と知り合いって事は、やっぱり呼ばれてるじゃねーか!」

「このスタジオ借りる時に会ったんですぅ!」

 

やっぱりな

だと思ったぜ

呼ばれてるじゃねーか!!!

語るに落ちる葵ちゃん、これは9歳ですわ

所詮は葵も子どもよな

やっぱりじゃねーか!

悪い大人に騙されそうな葵ちゃん……解釈一致です

罠に自らハマりにいくのはNG

呼ばれてるじゃねーか!

それは解釈違いだわ

誰も葵ちゃんの言い分信じないのワロタ

 

 バレかけるガバが発生したけどまだ完全にはバレてないのでセーフ。

 その後、新規機能としてニッコニコ静画とニッコニコ電話が発表された。ニコ電はこの世界でも失敗すると思うんだけど、大丈夫か?

 

「ニッコニコーリンリーン♪」

「こらは流行らないにゃあ。でも葵が可愛いので許す」

 

メガネwwwwww

眼鏡バージョンは流行らないわ

これは流行るわ

にゃあああああああああああああああ!

流行らせろ

メガネver.も可愛かっただろ!

流行らないにゃあああああ!

これは運営のゴリ押しの予感

にゃあああああ!!

突然自分が猫だと思い出したかのように語尾ににゃあ付けるじゃん

美少女がやれば何でも流行るから

(Skypeでいいのでは?)

 

『それと、ユーザー生放送向けにもう1つ新機能を追加します』

 

「お?流れが変わったな」

「んー?」

 

『最近複数の生放送にて目に余るコメントが散見されます。その対応として放送主に限りコメントユーザーの通報とブロックが可能になります』

 

 NGよりも上の通報がもう実装されるのか。誹謗中傷対策なんだろうけど動きがめちゃめちゃ早い。

 

「へえ〜、いいじゃんいいじゃん」

 

!?

!?

言論弾圧だ!

しゃーない

!?

ライン超えしなければいい話じゃん

妥当

お前らがセクハラや誹謗中傷するから……

!?

言論統制にゃあ!

何事も中庸よ

あーあ

特定の生放送には運営が駐在している場合もあるのでご注意を

ヒェッ…

あっ…

ひぇぇ

注意!葵ちゃんの放送は運営に見張られています!

 

「おっ!運営コメ来てるよ」

「運営に見られながら配信するのも嫌なんですけど……」

「運営プロテクト入るのは素直に爆笑する」

 

 まあSNSが流行る前にこういう流れが出来るなら良いんじゃないかな。何か言いたければ鍵垢なり日記帳なりに書き込めばいいし。

 ただし批判を誹謗中傷とごっちゃにする人も出てくるとは思う。そういう人の声が大きくはなってほしくないな。

 

「お前ら、お嬢様言葉使えばNGも通報もされないぞ!」

「コメントが似非お嬢様部になっちゃう」

 

その手がありましたわね、褒美を授けましょう

無理だろwwwwwwww

直ぐに限界が来そう

ごきげんよう、雑草など生やしてはお里が知れますことよ

セバス!酒、ヤニ、女を持ってきてくださいまし!

似非お嬢様部におハーブ生えましたわ

セバスチャン!直ぐにあの葵という小娘を連れて来なさい!

お嬢様言葉オンリーのスレ立てるか

お可愛いこと

このアーカイブ震源地不可避

タヒねはお嬢様言葉で何と言うのかしら。セバス、調べなさい

トゲトゲした言葉は禁止でしてよ!

お嬢様ワラワラwwwwwwwww

深刻なセバス不足

あれ、案外いける…?

 

「おー、野生のおぜうさまがいっぱい釣れましたね」

「それが流行るならテラウレシスも流行らせろにゃ、コラ」

 

え、寺売れ指数?

寺売れ指数

にゃああああああああああ!

寺売れ指数は流行ってるから

もう流行ってるから無理にゃ

傲慢な女は嫌われましてよ?お気をつけあそばせ

む☆り☆

 

 コメントに性別お嬢様がワラワラしながらも、大会議の方はユーザーゲスト登場なりで盛り上がり最後のまとめに入った。そこで東京公演2日目も発表されたので情報解禁です。

 

「東京公演が2daysになりましたね」

「雑な話題振り、でも可愛いから許しちゃう。それで?」

「最終日が休日になった関係で、実は!私も!参加します!」

「知ってた」

 

!?

知ってた

うおおおおおおお!

やったああ!

知ってた

!?

やっぱりな

うおおおお

今をときめくアーティストに会えるチャンスやぞ

ちゃんと驚いてくれる奴優しい

「実は!」←みんな知ってる

チケット争奪戦不可避

景気づけにグラミー賞も取っとけ

 

 バレバレだったけどいつ出演するかはバレてなかったのでセーフです。

 

「ではこれにて配信を終わりにしましょうか」

「ええ〜!最後に1曲!1曲だけ!」

「さっき散々歌ったじゃん……何歌うの?」

「くるみ☆ぽんちお!」

「チョイスが酷い」

 

46猫ちゃんさあ…

wwwwwwwwwwww

レコード会社「ダメです」

ボカロ曲は知らないのだ……

これもうセクハラだろ

ガチめにグラミー賞取れそうな歌手に歌わせる曲ではない

いかんでしょ

ボカロ曲って知ってんじゃん

レコード会社くん激怒不可避

俺未来視持ち。46猫、運営に通報される

知らない曲だ

JSにも歌わせるな

え、歌うの!?

 

「ほんとにいいの!?」

「最近になって秘技を生み出したので恐らく大丈夫」

「秘技?」

 

 流石に普通に歌ったら由希さんに怒られそうなので咳払いをして喉の調子を合わせる。あー、あー。うん、いけるね。

 

「いきます」

「ちょいちょいちょーい!」

「どうしたんですか?」

「えっ!ミクちゃん!?」

「はい、初音ミクです」

「んなわけあるか!」

 

!?

ズルするな!

!?

普通は人体にVOCALOIDはダウンロード出来ないんだわ

一発退場ものの反則技じゃん

このツッコミは関西出身猫

!?

まーた人間卒業したか

驚きすぎて心臓が止まってしまいましたわ。セバス、新しい心臓を用意なさい

地声で歌わないと意味ないだろ!

アンチ乙、葵なりに俺達に人間じゃない事を伝えてるだけだから

 

 ちょっと前に暇だったので、彼のYouTuberの真似をして遊んでいたらあっさり出来てしまった。なので他にも声マネ出来るかなーと確かめたら機械音声も可能に。

 これなら私が歌ってるなんて言い掛かりを付けられても「口パクです!」って言い訳が出来るからね。我ながら声の調子も完全に一致させられてると思うし。

 

 さあ、歌うぞ!となったら46猫さんの方が逆にチキったので違う曲になった。私も出来れば叱られたくないので歌わないで済むならそれでヨシ!

 

 そうやって46猫さんとのコラボを終わらせた。

 彼女はこれからどんどん人気になっていくはずなので今のうちから良好な関係を崩さないように注意しよう。

 最近になって歌い手の人達もユーザー生放送を始めだしたので生主界隈は賑やかになってきている。その分、「ニッコ生は出会い系だ!」って人も出てき始めたのでその対策として通報とブロックは良い機能なんじゃないかな。

 

 

『葵ちゃん、せめて中学生になるまではああいう曲は禁止ね?』

「了解です」

 

 帰りの道中に由希さんから釘を刺された。

 それはそうよね。高校生くらいの歳になればネタとして出来るけど、流石にまだ早計だと思うし。

 それはそれとして、早く大人になってお酒が飲みたいなあ。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 10月に撮影したバラエティが11月に放送された。内容はお笑い芸人7人と企画を交えながら対談していく番組だ。

 逆行前に楽しんでいた番組に自分が映っているのは何だか新鮮な気分になる。

 

 これで私もバラエティに出ることが業界に伝わったと思うので、出たい番組以外はセーブする。

 目標は何かの企画で「1日○○長」などのポストをやらせてもらうか、討論番組でもいい。とにかく上の人と話せる立場になることだ。そしてその内容を世間の人に知ってもらわないといけない。

 

 テレビ番組はそれにうってつけであるので、世間に顔を売りつつオファーが来るのを待つのみだ。

 

 

 

 12月2日。グラミー賞のノミネート作品が発表された。

 恐れ多いことに、私も年間最優秀楽曲賞と最優秀新人賞にノミネートされた。デビューが8月と遅かった事もあり、多分楽曲賞は無理だと思う。

 ただ、この事実に日本のメディアは沸き立っている。

 中には「国民栄誉賞を与えるべきだ」なんて語気を強めているニュース番組まである。そういうのは昼のワイドショーとかで討論すればいいのに。しかもまだノミネートされただけだからね。

 

 でも、もしも国民栄誉賞を貰えるならまたとないチャンスにもなる。何とかして新人賞だけでも欲しいなあ。

 



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授賞式

 大晦日の歌番組に出演した翌日。2010年の元日である今日は出雲家、藤崎家、八色家の例年通りのメンバーで市内の神社へ初詣をしに行く。距離的には電車で4駅分なので車でも行けるのだが、周辺の駐車場がパンパンになっているのがネックだ。

 

「なんでマスク?風邪ひいた?」

「騒がれたくないからね」

「ほーん」

 

 今日の格好は伊達メガネをかけマスクをつけて、更にマフラーも巻いた完全装備だ。

 テレビに出るようになってからは由希さんやテレビ局スタッフのアドバイスの下、公共交通機関を使用する時は大体こんな感じの変装をしている。

 髪も普段テレビで出る時のようなストレートではなくボブ風アレンジにしてあるので恐らくはバレないはずだ。

 

「葵ちゃんの髪切っちゃったのかと思ったよ」

「理華ちゃんにも今度やり方教えてあげるね」

 

 乗車した電車はお正月の早朝にも関わらず多くの人が乗っていた。中には着物を来た若い女性グループも見える。どうやら同じ目的地らしい。

 

「理華も着物を着せればよかったかしら」

「動きにくいからやだ」

 

 その光景を見た理華ちゃんのお母さんが話を振ってきた。理華ちゃんくらいの年齢なら着てみたがるものだと思っていたんだが、そういう訳でも無いのか。

 

「葵ちゃんはそういうの着たがらないわね」

「そもそも自宅に着物ってあったっけ?」

 

 個人的には着てみたい。ただ我が家は海外出身のお母さんとの二人暮しなので、着物を着る機会が無いのも確かだ。

 そう思ってるとお母さんが不敵な笑みを浮かべた。

 

「甘いよ葵ちゃん。この前の衣装打ち合わせの後、実はこっそり和服専門ブランドさんにも話を聞きに行っていたのさ!」

「へぇー」

「反応が薄くてママ寂しい…」

 

 だって結局着物は無い訳だし。それに今作っても直ぐに身長が伸びるので意味ないよ。

 身長と言えば、と思い涼くんを見上げる。

 

「なに?」

「……今の身長っていくつか分かる?」

「ちょっと前に測った時は149だっけ」

 

 デカ過ぎんだろ……小学4年生にして生意気にも150cm代に届きそうだ。

 私もスクスク育ってる方だと思うんだけど、あまりにも涼くんの伸びるスピードが速い。小学生くらいは女の子の方が背が高いものなんじゃなかったのか。

 

 たわいない話を続けていると神社の最寄り駅に到着。ゾロゾロと降りる人の波に従って私達も移動を開始した。

 駅から15分ほど歩き神社が近づいてくると既に多くの参拝客が並んでるのが分かる。その最後尾についてゆっくりと前へ進んで行く。

 

「願い事決めた?」

「一昨年も言ったけど1年間の感謝もしなくちゃだよ」

「おう!」

 

 この不思議な逆行を体験してからは神仏には一応礼を持って対応している。例え多くの神話や宗教が創作物であろうと、私をこの世界に寄越した絶対的存在(かみさま)が居るはずだからだ。

 

「はい、葵ちゃん」

「ありがとう」

 

 参拝の順番が回って来たので手を繋いでいたお母さんから5円玉を受け取り、横いっぱいに架設された賽銭箱に放り投げた。手順通りに参拝をしてお母さんの健康を祈っておく。

 その後に古い御守りや御札を納め、新しいものを買い直した。

 

「今年こそ大吉を!」

「声に出しても意味ないって……あ、私は大吉」

「私も大吉」

「きっきょう、まつぶん?字面がもう微妙だ……」

「吉凶末分。心がけ次第で吉にも凶にもなるって事だね。おみくじらしさを一言で表してるよ」

 

 涼くんはおみくじの結果に納得がいかないようで結び所に行ってしまった。たかが運試しなのだから気に病む必要はないのに。

 

 やる事を済ませた後は子ども達待望の屋台巡りだ。大人になれば無駄に高い値段設定に躊躇するものだが、この年頃は珍しさ故に格別に感じてしまう。綿あめなんて本当にいい商売してると思うよ。

 

「葵ちゃんは食べないの?美味しいよ?」

「お家にまだおせちが残ってるから」

 

 今年は私もおせち料理を手伝った。料理サイトを見ながらご当地の正月料理にも挑戦してみたので、去年までとは違った食卓になっている。お気に入りは新潟ののっぺだ。里芋のとろみがついた具沢山の煮物は寒い冬にピッタリだ。

 

「お年玉で何買おうかなー」

「俺は新しいスパイク!」

「私は漫画かな」

「あんまり使い過ぎちゃダメよ」

「はーい」

 

 帰りがけに涼くんと理華ちゃんがお年玉の運用について話していた。涼くんは別として理華ちゃんの趣味が段々とサブカル方面に向いて来たような気がする。

 私の部屋に遊びに来る度に漫画を読んでいたからそれが理由だったりするかもしれない。

 私達の代が高校生くらいになればアニメや漫画も普通の趣味に数えられていた覚えがある。理華ちゃんみたいに小学生くらいから触れる機会があれば、所謂「オタク趣味」に対する嫌悪感は世代全体で無くなっていくんだろうな。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 1月下旬。グラミー賞の式典に出るためアメリカはロサンゼルスに来ていた。

 今年度の式典はキング・オブ・ポップの追悼も兼ねており普段とは違った流れになるとスタッフに聞かされた。

 宿泊場所は最高グレードホテルのスイート。豪華な装いに庶民感覚丸出しで落ち着かない。

 

「スピーチ内容は大丈夫?」

「一応考えてあるけど……」

「後でママと練習してみましょ」

 

 月末に式典を控えた今日は会場の下見と当日の入場の説明などを聞いていた。日本だけでなく世界のマスコミ対応もやらないといけないので少し気が重たい。明日はフリーなので気晴らしにロスの観光をしようと早めにベッドに潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 1月31日。遂に式典当日を迎えた。

 ホテルに来ていたスタイリストさんに身を任せ準備をする。

 衣装はスポンサー契約をしたブランドの青を基調としたドレスで、装飾品は身体が小さい事もあり、ネックレスとイヤリングだけの簡素なものだ。髪もウェーブを効かせて大人っぽい装いになった。

 最後に全体の確認をしてホテル前まで迎えに来ていたリムジンへ乗り込んだ。

 

 会場が近づいて来たので気を落ち着かせるため深呼吸を繰り返す。

 

「緊張してる葵ちゃんも珍しいなぁ」

「……お母さんは平気そうだね」

「ママはテレビに映らないからね!」

 

 緊張を紛らわすためにお母さんと会話をしていれば幾分か気分がマシになってきた。もうここまで来たんだから気合いを入れ直そう。

 減速しだした車の窓から外を覗くと会場前には多くのマスコミが陣取っていた。あの真ん中を突っ切って行くのか。

 

 完全に停車した車の扉が開かれたのでエスコートに応じて下車する。瞬間、多くのフラッシュが焚かれた。事前に説明された通りに適当な笑顔を浮かべながらゆっくりとレッドカーペットの上を歩き出した。

 余談だが、英語圏の人達は母音が連続する発音を苦手としている。私の名前である「aoi」なんて母音オンリーで生成されているため、海外の取材陣には八色と声をかけられている。

 

「八色葵さん!日本のテレビ局です!」

「ん?」

 

 時々立ち止まりながら質問に応えていると我が母国語が聞こえてきた。どうやら日本の報道陣の所にやって来たらしい。

 

「今のお気持ちを聞かせてください!」

「歴史ある偉大な賞にノミネートされた事に今も興奮を隠せません」

「この映像は日本に生中継されています。日本の皆さんに何か一言お願いします!」

「若輩者ではありますがこれからも応援していただけたら嬉しいです。日本の皆さんの笑顔を心待ちにしています」

 

 こんな感じで言えばクルーの人達も満足したようで解放された。他の日本の報道陣には同じ内容を言わないように気をつけながら切り抜けた。

 

 建物の中にもカメラマンや取材陣が多く、その対応も時間がかかる。ただ海外の取材陣はユーモアを効かせて質問をしてくるのでそれに乗っかる形で答えるだけで済んだ。

 

 取材陣から解放された会場では同じくノミネートされたアーティストに話しかけられた。逆行前から知っている人達と話せるのは素直に興奮するし感動する。この人達と同じ場面に立ち会えるなんて、ものはやってみるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 授賞式がいよいよ始まる。

 今回はR&B界の歌姫とカントリー界の歌姫の一騎打ちが予想されていたが、結果は最優秀楽曲賞にR&Bのスターが輝いた。

 とは言っても後者も史上最年少で最優秀アルバム賞を獲得したので凄まじい事に変わりは無い。

 

 そして、問題の最優秀新人賞。

 売上枚数も負けているので難しいよなと諦観しながら発表を見守っていると、なんとなんと私の名前が呼ばれた。

 呆然としながら席に座っていると近くにいたアーティストから肩を叩かれ笑顔で祝福のハグをされる。立ち上がっていたお母さんに引き上げられる形で私も席を立つ。

 拍手が満ちる中壇上に上がればコチラに向かってくるプレゼンターが。その光景に夢ではないのだと実感した。

 

「やあ、葵!今頃世界は大変な事になっているだろうね。とんでもないサプライズの気分はどうだい?」

「信じられないよ!まだ、夢なんじゃないかって…自分を疑ってるの」

「おっと、おねむの時間にはまだ早いぞ。ほら、あっちからグラモフォンがやってくるのが見えるだろ?」

 

 渡されたのは蓄音機を模した金色のトロフィー。嗚呼、本当に現実なんだ。

 多くの人に認められているのを感じると、ただ人気を得たいという不純な動機で始めた行動でも、なんだか感動してしまう。

 そこからは事前に用意をしていたスピーチ内容も飛んでしまい、詰まりながらも何とか締める事が出来た。

 スピーチ中に心を入れ替えたので、パフォーマンスの方は会心の出来で終えられた。この音源は後で販売され、ハイチで発生した大地震への復興に充てられる。

 

 その後も式典は進み去年急逝した偉大なスターには特別功労賞が贈られ、ジャンルの垣根を越えたスターの共演で追悼パフォーマンスも行われた。アメリカのみならず世界で愛された彼は何を思っているだろうか。願わくば安らかな眠りである事を。

 

 式典が終わった後にはまた取材陣の対応をした。海外のメディアに負けないほど日本人のテレビクルーが熱くなっているのが分かる。

 私も感謝を伝えたいので彼らが満足するまで付き合おう。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

【悲報】世界のアメリカさん、日本のメスガキに屈してしまう

 

 

1:名無しさん ID:toWc/P1X1

ええんか……?

 

https://……

 

3:名無しさん ID:tSPT6yqf+

日本人初の主要4部門における受賞者だぞ

祝えよ

 

6:名無しさん ID:toWc/P1X1

あいつらコイツの見た目に騙されてるんじゃないだろうな

アジアの劣等人種がこんな賞とれる訳ないだろ

 

https://imgr……

 

7:名無しさん ID:ZPbzKY1bd

イッチは何が言いたいの?素直に喜べばいいじゃん

 

11:名無しさん ID:HS7sUXoMz

>>6

いつ見ても可愛いすぎる

 

14:名無しさん ID:toWc/P1X1

歌以外で評価される賞なんて価値は無いよね?

つまりはそういう事

 

16:名無しさん ID:5Ddt/Whzf

米国で大フィーバー起きてるんだから人種がどうとか関係ない

 

20:名無しさん ID:o2Vfi+22h

そもそも葵ちゃん半分しか日本の血流れてないし

 

21:名無しさん ID:XeCfBbC28

外見に騙される訳ないだろ

 

25:名無しさん ID:toWc/P1X1

>>20

これね、名誉白人枠だわ

 

27:名無しさん ID:LwRPzUiq+

クソスレの予感

 

31:名無しさん ID:za+seLjGX

イッチは黄色人種に劣等感抱いてんの?

それともただの葵アンチ?

 

34:名無しさん ID:ZF2jfbfW3

>>27

クソスレ主の間違い

 

35:名無しさん ID:toWc/P1X1

俺は勘違いしてる日本人や調子に乗っているマンさんに啓蒙活動してるだけ

葵が新人賞とれたのも歌が凄い訳じゃないから

マスコミは「日本人初」とかお祭り騒ぎしてるけど日本人でもないし

 

39:名無しさん ID:uoon659+/

このスレ臭すぎぃ!腐敗臭がプンプンしやがるぜ!

 

40:名無しさん ID:Diu9VK6ny

今日の糞スレ

 

42:名無しさん ID:toWc/P1X1

誰も理論的な反論出来てないよね?

これが現実

 

44:名無しさん ID:d8RN7icDW

>>16 でFAなんだわ

 

46:名無しさん ID:7ljzYRSVj

JSに嫉妬メラメラのイッチ落ち着けよ

 

48:名無しさん ID:toWc/P1X1

>>16

これも歌が凄いって理由にはなってないだろ

 

51:名無しさん ID:oOaJQE7Zf

日本国籍持ってるんだから日本人だろバカか?

 

53:名無しさん ID:toWc/P1X1

>>46

嫉妬なんてしてない

現実が見えてないお前らに事実を突きつけてるだけ

目を覚ませよ、まだ日本人はグラミー賞とれてないんだから

 

55:名無しさん ID:LIay11d3A

主要4部門以外なら取ったことあるわ

 

59:名無しさん ID:NIYq+/cae

イッチは葵の歌聞いた事ある?

 

62:名無しさん ID:toWc/P1X1

>>59

テレビで見たぞ

言うほど熱狂する歌じゃないと思った

まあCD買ったけどさ

 

63:名無しさん ID:Rsk4CSndb

イッチ性別は?

 

66:名無しさん ID:toWc/P1X1

>>63

男だけど何か?

 

67:名無しさん ID:JvgP2WzTt

俺は英語版の方が好き

日本語版も好きだけどアレには敵わない

 

70:名無しさん ID:GRgjleEIK

イッチは英語版聞いた事ないんだと思うわ

アレ聞けば納得する

 

71:名無しさん ID:LQT9QnLwQ

重症の予感

 

75:名無しさん ID:toWc/P1X1

英語分からないのに英語版聞いたって意味ないだろ

お前ら洋楽を雰囲気で楽しんでんの?

 

77:名無しさん ID:YYR1a/Qxh

ハーフのスポーツ選手が活躍しても難癖つけそうなイッチ

 

78:名無しさん ID:rRXgvf4bx

はい解散

 

81:名無しさん ID:ealQjvaAh

>>75

オリジナル聞いてるなら英語版でも意味分かるだろ

 

85:名無しさん ID:toWc/P1X1

>>77

当たり前

純粋な日本人じゃないのに「日本人がー」は気持ち悪いだろ

 

88:名無しさん ID:toWc/P1X1

葵の声は好きだよ

 

89:名無しさん ID:hyj0DvV3T

イッチの好みじゃなかったけど世間の人は好きだっただけ

 

93:名無しさん ID:4F1PWvqnp

んでお前は葵アンチなの?

 

95:名無しさん ID:big6TVscS

日本人じゃない奴がー女がー

これの方が醜いだろ

 

97:名無しさん ID:toWc/P1X1

お前ら本当に分かんないの?

なんで日本人じゃないメスガキに熱くなってるんだよ

 

98:名無しさん ID:5E5uHez5H

そろそろボロ出しそう

 

101:名無しさん ID:q5Or0ikWy

>>97

だってキミがスレタイに日本人って入れてるじゃん

 

105:名無しさん ID:vjFC1pUdQ

まあ別にいいんじゃない?自分の好きなアーティスト推してけよ

 

107:名無しさん ID:toWc/P1X1

もう葵信者はめんどくせぇなwwwww

日本人でもないメスに尻尾ふりふりしちゃってwwwwwwww

一生そうやって生きてけば?wwwwwwwww

 

110:名無しさん ID:d5t2wI3ux

はい解散

 

113:名無しさん ID:DlfXa4BNp

正体見たりって感じだな

 

117:名無しさん ID:yzrTTdpAB

クソしょうもないスレ

 

121:名無しさん ID:q/UZI9b4t

【悲報】アチアチ葵アンチさん、レイシストかつ女性差別主義者

 

125:名無しさん ID:3tvPm3mnn

葵アンチなのにCD買ってるの可愛い

 

129:名無しさん ID:UfuFqvZtr

今日の糞スレ認定!

 

 

 

 

 

 

 

【快挙】八色葵、グラミー賞で日本人初の最優秀新人賞

 昨年の8月にアーティストとしてデビューした八色葵(SWUM所属)が、日本人初の栄冠に輝いた。

 2月1日(現地時間1月31日)にアメリカ・ロサンゼルスで行われたグラミー賞授賞式。瞳の色に合わせた豪華なドレスを纏って登場した八色は、史上最年少で最優秀新人賞に輝いた。主要4部門と呼ばれる注目される部門では初の受賞となり、日本音楽界は歓喜に沸いている。

 以下に本人の声を載せる。

「初めてのノミネート、そして初めての受賞。本当に現実離れした事が続いて来ました。ここまで支えてくれた関係者やファンの皆さんに感謝の言葉を伝えたいです。本当に、本当にありがとうございます。今はとにかく歓喜に浸りたいと思います。とっても嬉しいです」

 式が始まる前にはぎこちない様子も見せていた八色。式典後の取材の際には満面の笑みを浮かべていた。

 

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増員

「葵ー!」

「八色ちゃーん!」

「葵ちゃーん!」

 

「おおー、これがグラミーパワーちゃんですか」

「いや、行く前からこんな感じだったでしょ」

「そうでしたっけ?」

 

 アメリカから帰国すると空港には多くの人とマスコミ陣が待っていた。

 警備員も多く配置されており余計な仕事を増やしてしまったようだ。申し訳ないと思いつつマスコミ陣には後日記者会見の場を設けるので今日のところは帰らせてもらう。

 

「会社の方で迎えを用意してもらってるから移動しましょうか」

「分かりました」

 

 警備員に囲まれながら表に来ていた車に乗り込んだ。ここからレコード会社(SWUM)の方にグラミー賞の報告へ。

 SWUMでは社員の皆さんや非番だったアーティストの方が出迎えてくれた。祝福を受けながら日本支社社長にグラミー賞のトロフィーを渡す。その様子を社員の人に写真を撮ってもらいながら報告を済ませた。

 その際に由希さんの出向について3月からお願いする旨の話も聞いた。事前に由希さんを交えて話し合いをしていたので勿論了承。来週にまた来て正式な手続きをする約束をした。

 

「これで来月から由希さんも私の会社の人員になりますね」

「今までもほとんど葵ちゃんに付きっきりだったから、あまり変わる事はないんだけどねー」

「その時に真由美ちゃんも一緒に来るんだっけ?」

「その予定です」

 

 真由美さんとは、これから由希さんのサポート係として出向してくる人だ。2人とも2年の縛りを付けて私の会社へ出向してくる手筈になっている。

 これからライブなどが始まる関係で密な連絡を取れるようにとSWUMの方が気を利かせてくれた形だ。向こうも人件費の削減にもなるしwin-winの関係だと思う。ただし籍はまだSWUMにあります。

 

「そういえば。今月の頭から新しく雇った人が来てるはずなので、この後に顔合わせしますか?」

「おー!会いたい会いたい!」

「じゃあ行きましょうか」

 

 我が社は12月に1人、1月に2人、そして2月に2人従業員を新たに雇っている。前者3人については由希さんも顔合わせはしているのだが、後者2人についてはまだだ。

 やる事を終わらせて暇になった由希さんを連れて私のオフィスに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りましたー」

「社長!」

「おめでとうございます!」

「おかえり」

 

 扉を開け顔を見せると祝福の声をかけられた。オフィスには珍しく全員集合していた。

 フレックスタイム制を導入している関係で、定期ミーティング日として定めている土曜日以外は時間によっては揃ってない事もあった。

 

「おお、賑やかになって来たね!」

「空席が埋まって来ましたからね。東さん、近藤さん、こちらの方は私のコーディネーターの佐藤由希さんです。来月からこの会社の一員にもなります」

「経理部の東朱里(あかり)です!」

「税務部の近藤(いつき)です」

「SWUMの佐藤由希です!よろしくお願いします!」

 

 由希さんに2月から入った新人さんの紹介をする。彼らは12月に雇った企業内税理士の部下として会社の会計を任せている。

 

 実はこの2人、中途採用なのに上場企業の役職持ちだったというとんでも人材だ。

 いつ頃辞めたのかを聞くと、私が企業した際にホームページでその旨を更新していたのを見た時と宣ってきた。

 なんでも、何時かは人員募集されるはずだと踏んで速攻で辞表を叩きつけたとのこと。そこから引き継ぎや有給消化に3ヶ月ほど使って面接にやって来たらしい。

 ちょっと思い切りが良すぎる2人だが優秀なのでそのまま採用。前の会社と同じ部に配属させた。

 

 正直に言うと今はそんなに会計の人員は必要ない。ただ、これからは全国ツアーなどが始まるので必要経費ということで。現在は企業内税理士の綿貫さんの下で資格勉強中だ。

 

「社長、示談交渉を行った3人についての進展なのですが」

「あー、どうなりました?」

「3人とも支払いに応じました。手続きを進めますか?」

「そうですね、佐伯さんに任せます」

「承知しました」

 

 法務部にも新たに脅迫や誹謗中傷に強い佐伯優斗さんを雇い入れた。彼は和真さんの紹介で10月に顔合わせをして1月から入社してもらったのだ。

 

 早速ネットの掲示板で度が過ぎた書き込みをしているアカウントを特定してもらえば3人だけという結果に。わざわざIDを変えてまで名誉毀損をする時間がもったいないと思うのだが、世の中不思議な人もいるもんだ。

 この件についてはお母さんと和真さんがお冠で、示談なんか生ぬるい事はせず告訴しようと言い出した時は大変だった。その場は再犯したら絶対に告訴すると約束して収まったが、いつかは見せしめとして告訴する事も検討しよう。

 

「和真さんと大和田さん、向こうでスポンサー契約の話をもらったので後で確認をお願いします」

「りょーかい」

「承知しました」

 

 大和田さんは司法書士の資格を持った人で、この人も法務部に突っ込んである。

 

 そんなこんなで現在の従業員数は私とお母さん含め8人。3月には更に由希さん達2人も加わるので10人で回して行く事になる。人件費も跳ね上がったけどそれ以上の利益が出てるので無問題です。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 2月13日。定例のミーティングを終わらせた後、明日のバレンタインに用意していたチョコレートケーキをみんなに配った。

 東さんと近藤さんは大真面目な顔をして「家にお祀りします」なんて言い出したので流石に止める。強火過ぎるだろこの2人。

 

「そういえばカリュシアの国王様が8月に日本にやって来るらしいですね」

「んぐ。珍しいよな」

「どこに行かれるのか気になるなあ」

 

 午後の収録までYouTubeに上げる動画を編集していると綿貫さん、和真さん、佐伯さんの会話が耳に入ってきた。

 土曜日はミーティングが終われば帰っていいのだが、今日はみんな残って渡したケーキを楽しんでいた。部屋にはコーヒーの匂いも漂っている。

 

「お母さんは国王様に会った事あるの?」

「う、うーん。パレードとかでお会いした事はあるかなー」

「へぇ。優しそうな人だった?」

「そうねぇ……うん、とっても優しい方だったわ」

 

「ブフッ」

「うわきたなっ!ちょっと、後藤先輩!」

「すまん」

 

 王族や皇族に会う機会は少ない。私も今度の園遊会に呼ばれているので粗相がないように気をつけないと。

 

「社長、ちょっとご提案したいことがあるのですが……」

「ん?どうしました?」

 

 雑談しながら作業を続けていると何かの資料を持った東さんに話しかけられた。

 

「お昼ご飯を会社に持ってきてくれるベンチャーが最近出来たんです。これなんですけど、そこと契約する事って……」

「ふむふむ……いいですよ!なんなら半分は会社で出す事にしましょうか」

「っ!ありがとうございます!」

「和真さん、後はお願いします」

「はいはい、お任せあれ」

「そのサービスを使わない人にはどうするんですか?」

「全員に手当を出します。調整は綿貫さんに任せます」

「承知しました」

 

 見た感じメニューの品揃えもよく、栄養バランスも良さげなので断る必要はないかな。

 しかし、この時期からお弁当配達をする企業があったなんて、ちょっと意外だ。そういえばゲーム機にも出前チャンネルなるものがあったな。時代の先を行く人達の目の付け所に感服するよ。

 

 

 

 

 

 

 

 2月14日。バレンタインで浮かれている世間を尻目に、私は運動場へ来ていた。

 最近購入した一眼レフカメラを構えて動き回る人影を追う。狙いすましたゴールを決めた被写体をしっかりとカメラに収めた。うん、良い躍動感だ。

 

「涼くんナイス!」

「葵ちゃん、大声出しちゃダメよ」

「あー……はい……」

 

 今日は涼くんの練習試合を観戦ついでにカメラの試運転をしに来ていた。止まっている景色を撮るのも良いけど、折角なら動いてるものも撮りたいしね。

 

 涼くんは秋から地元のクラブユースに移籍した。セレクションに合格したという話を聞いた時は「そんなバカな」という思いだったが、何時の間にかめちゃくちゃ上手くなっていたのでビックリだ。一体何があったの……?

 実際、涼くんは同年代の子と比べても頭1つ大きいので攻撃の要として躍動していた。男子三日会わざれば刮目して見よ、なんて言葉もあるが、限度があるだろ。

 

 試合が終わった後は入念なストレッチとミーティングをしていた。クラブの下部組織ともなるとみんな真剣に取り組んでいるのが分かる。それでも将来成功するのは選ばれた者のみ。この中からプロ選手になるのは果たして何人だろうか。

 結果と才能を求められる世界の残酷さを思いながら彼らを見つめた。

 

「葵、来てたんだ」

「カメラの練習でね。はい、お疲れの涼くんに糖分をあげようじゃないか」

「おっ!サンキュー!」

 

 帰りは出雲家と一緒だ。ついでにバレンタインのトリュフチョコレートもあげる。美味しそうに食べる様子に来年は何を作ろうかと想像を膨らませた。そろそろ辛いのも平気になって来ただろうし、次は1個くらい悪戯してみようかな。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 日本某所。

 厳重な警備が敷かれた建物の中で、国と国とを跨ぐ会談が極秘で行われていた。

 

『お久しぶりです。そちらはお元気そうですね』

『お久しぶりでございます、陛下。昨年の英国以来でございます』

 

 この内容を知るものは僅かな側近のみ。

 

『さて、此度の件は外遊ですかな?』

『……孫に、お会いしとうございます』

『やはりその件でしたか。しかしながら立場的には難しいと思われます。私も又姪*1に会いに行こうとしても周りに止められてしまいますし』

 

 側近の「当たり前です」との呟きには終ぞ誰も反応する事はなかった。

 

『……陛下、どうにかなりませぬか?話に聞いておりましたが、実際の姿を見てしまったばかりにこの気持ちを抑えられないのです』

『まあ、私は春に公的に会う機会があるので楽しみにしておりますが』

『陛下!?それはいくら何でもズルいのでは!?』

『日程を調整してもらい、私達の歓談の際にゲストとして来てもらいましょう。我が国が誇る世界の歌姫ともなれば十分に可能なはずです』

「陛下っ!御勝手に判断されては困ります!」

「後で長官に話を通しておきますので」

 

 流石に見過ごせない提案に忠言をする側近だが仕える主人には流されてしまう。

 

『陛下っ!ありがとうございます!』

『詳しい話は正式な外交ルートにて』

『承知しました』

 

 自らのルーツを知らない少女。

 彼女の知らぬ間に、運命の歯車は静かに動き出した。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「やっとオファーが来たか」

 

 学校から帰りスマホを確認すれば、目的の番組の出演依頼が来ていた。内容は近年注目されてきた再生可能エネルギー施設のレポート。そして、最後に資源エネルギー庁長官との対談だ。IMOに始まりテレビでも科学に興味がある姿勢を見せていた甲斐があった。

 日程は3月の春休み中との事。IMOの合宿と重なってしまうが、今年はツアーの為に本戦には出れない予定なので関係ない。記録が途切れてしまったのは勿体ないけれど、目的は達成出来たので良しとしよう。

 

「葵ちゃーん。園遊会に来ていく着物のデザイン案が届いてるよー。見てみる?」

「おお!見る見る!」

 

 4月15日に行われる園遊会には振袖を着ていく予定だ。そのため急ピッチでオーダーメイドの着物を作ってもらっている。

 届いた原案はどれも良さそうだけど、何故か全部青を基調としている。そんなに私って青のイメージがあるのかな。

 

「どれがいい?」

「うーん……お母さんの好みは?」

「ママはこの淡い色合いが好きかな」

「じゃあそれにしよう」

「ええっ!?そんなに適当でいいの?」

「どれも好きだから大丈夫」

 

 選んだのは淡い水色を基調とした振袖だ。ただしこれを後一月で仕立ててもらわなければいけないのだが、本当に間に合うのだろうか……お店側の「絶対何とかする」という言葉を信じよう。

 

「明日は何時までに向こうに着けばいいの?」

「15時までに会場入りすればいいみたい」

「じゃあ早めにお昼を食べて行きましょうか」

「そうだね」

 

 夕飯後、イチゴがたっぷり使われたタルトを突っつく。たまに食べるケーキは何でこんなにも美味しいのだろうか。

 

「車で行く?それとも電車?」

「慣れてない所だろうから電車で行こう」

 

 明日は大会議最終日だ。今日の分はまた後で確認しなければ。

 ふと、出演すると決めた時から随分と立ち位置が変わってしまった事に気づく。冬野さんは心配性らしく、一昨日くらいに「本当に来てくれるのか」という確認も来た。長期休暇でなければ暇な時間も多いから大丈夫なんだけどな。

 どれだけ人が来るか分からないけど、楽しんでもらえるように頑張ろう。

 

*1
兄弟姉妹の孫(娘)の事




人が一気に増えましたが出番は少ないと思うので覚えなくても問題ないです
一応は
○会計
・綿貫
・東
・近藤

○法務
・後藤
・佐伯
・大和田
となっております


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大会議

前話にて脅迫罪を親告罪と勘違いしてましたので修正してあります
また、中盤の表現についても修正を加えてます


「おお、間に合ったね」

「オイラの予想当たったでしょ?」

「本当に一人称『オイラ』なんだ……」

「なにか?」

「いえ何でもありません!」

 

 2月20日。遂に大会議のフィナーレを迎える。

 

 今日は朝から色々あった。

 まずは開演時間の変更。18時始まりから16時へ。

 

『お母さんお母さん!集合時間が2時間繰り上げ!』

『つまり?』

『お昼は軽く食べられるもので定例ミーティングは簡潔に!』

 

 これは前日の公演時間を鑑みての判断らしく、昨日の20時に通達が来ていたのを見逃していた。昨日のアーカイブを確認するために早起きしなければ気づくのが遅れていたかもしれない。

 

 次に電車の遅延。

 

『何でこんな時に!?』

『焦らなくてもまだ12時よ』

『運転再開見込が30分だからギリギリだよ!』

 

 結果的には20分で運転が再開されたので事なきを得たが、タイミングが悪い事この上ない。

 

 13時前に会場に着くと既に長蛇の列が。観客達にとっては時間の繰上げも問題にはなってないみたいだ。

 関係者入口を探して彷徨っているとスタッフの人が飛び出てきて案内してくれた。そこから会場入りすると私以外の出演者は揃っていたのでどうやら私達が最後のようだった。やっぱり今日くらいはミーティングを休止にすべきだったかも。でも基金の話を早めにしておきたかったしなあ……Web会議システムの導入を考えよう。

 

 逆行前で知っていた事だが初めて会う東河博明さんはやはり個性的な方だった。当たり前だけど、最後の記憶にあるフランスに居る時よりも若いなあ。

 とりあえずももさんを筆頭に皆さんと顔合わせをして軽くリハーサルへ。舞台の立ち位置や音響の確認、今回のバックバンドをしてくれる王室バンドの皆さんと音合わせをしてリハーサルを終わらせた。

 順番的には私が最後になる。ももさんの芸能界入りも気になるし、それまでは控え室で現場の様子を見ながら出演者の方と交流をしていようかな。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

ニコニコ大会議 in 東京 2日目実況スレpart2

 

1:名無しさん ID:lJe9tLa3p

前スレ:ニコニコ大会議 in 東京 2日目実況スレpart1

次スレは950

 

みんな笑顔で実況しましょう

 

3:名無しさん ID:h8w7ygfBH

スレ立て乙

 

4:名無しさん ID:mLiJBaKGG

現地民だけど既に長蛇の列

 

7:名無しさん ID:JE8vmZeU4

1乙

 

8:名無しさん ID:bMQoONKvh

前スレに朝7時から行ってる奴いたな

 

9:名無しさん ID:vHjLwLMp4

開幕まで約3時間

 

12:名無しさん ID:sDRnQS9eJ

朝7時は逆に迷惑だろ

 

13:名無しさん ID:et/7nbSjd

破産RTAをやってる運営を許すな

金取れ

 

16:名無しさん ID:JPH/1sWHc

現地民は何で書き込んでんの?

 

18:名無しさん ID:XT8RTuiNj

OP楽しみ

 

21:名無しさん ID:mLiJBaKGG

>>16

スマホ

 

23:名無しさん ID:EnLS215pF

大会議初見民

なんで時間早まった?

 

26:名無しさん ID:TfEW+53K+

>>23

大人の事情です

 

29:名無しさん ID:stmIJ9wbV

>>23

昨日のアーカイブ見ろ

 

31:名無しさん ID:8cgmybFpL

大人の事情ってより子どもの事情の方が正しい気がする

 

33:名無しさん ID:/y06FhZc3

昨日の公演時間が3時間以上になっちゃった

最終日の出演者で21時以降出れない子がいるじゃん!

ほな早めるか ←イマココ

 

35:名無しさん ID:FzVN6Larj

分かりやすい

 

36:名無しさん ID:EnLS215pF

>>33

なるほどね

 

38:名無しさん ID:Wak4OHnUI

大体は葵ちゃんのせい

 

41:名無しさん ID:c1LINn9lv

本物のプロの人の年齢がね…

 

42:名無しさん ID:mlbuEASqe

現地チケット欲しかったお……

 

45:名無しさん ID:w9mMPIguD

今から出演交渉したらギャラがとんでもない事になってたな

 

46:名無しさん ID:zofOCnNuQ

>>42

一瞬で埋まったからな

しゃーない、切りかえてけ

 

48:名無しさん ID:h7Mjo9v9N

葵はギャラ貰ってないぞ

真偽のほどは知らん

 

50:名無しさん ID:Nayg0pfla

DANCEROIDは芸能界入りするんかな

 

51:名無しさん ID:mLiJBaKGG

恐らく葵ちゃんとマッマらしき人隣通った!

みんなザワザワしてるwwwwwww

 

53:名無しさん ID:3htw+6OI5

>>51

関係者入口通れよ

 

54:名無しさん ID:fHv5hvz+T

>>51

はああああ!?

 

56:名無しさん ID:o4hVPMu+W

俺も現地民だけどスタッフの人がめっちゃ慌てて飛び出てきたわwwwwww

 

57:名無しさん ID:sw95kBKYl

らしき人ってなんだよ見たら分かるだろ

 

59:名無しさん ID:NMQs3gYt7

前入りってこの時間なのか?遅くない?

 

60:名無しさん ID:mLiJBaKGG

葵ちゃんの髪が短くなってるし顔隠れてるしで分からん

でも子ども連れの金髪ママって葵ちゃん親子しかなくね?

めっちゃいい匂いしたし

 

62:名無しさん ID:pR5/K2Y4N

>>60

殺意湧いて来たわ

 

65:名無しさん ID:tbAiSz1wg

>>60

残り香嗅いでんじゃねえ!

 

67:名無しさん ID:fNMiybNFn

>>60

……スぞ

 

70:名無しさん ID:A543u8Yhq

あーあニコニコ宣言撤回だわ

 

71:名無しさん ID:feEGv7ZzL

髪短いって普段はウィッグってこと?

 

72:名無しさん ID:mLiJBaKGG

まーじでいい匂い

これが天国か

 

75:名無しさん ID:N5WWPFQgb

>>72

お前匂いフェチの変態ってコテハンにしろ

 

76:名無しさん ID:H/QPbK37d

今まで彼女がいなかったであろうお前に教えてやるよ

ロングの人はボブに見せかける事も出来るぞ

 

78:名無しさん ID:feEGv7ZzL

>>76

なんで煽ったの?????

 

80:名無しさん ID:QLrD5f6j0

ちゃんと変装しているようでお父さん安心したわ

 

82:葵臭を嗅いでしまった選ばれし者 ID:mLiJBaKGG

これでええか?

 

83:名無しさん ID:z3u79xhtz

葵だけじゃなくマッマの匂いでもあるのでは?

 

84:名無しさん ID:R2HMiNejj

調子乗りまくりでワロタ

 

87:名無しさん ID:j+Mb/C4/G

あああああああああ!!!!現地チケット欲しかったよおおおおおお!!!

 

88:名無しさん ID:0lXWrdB+6

>>82

ダメに決まってんだろ

 

91:名無しさん ID:uRFq0XuLQ

葵臭ってなんだかえっちだな

 

92:葵臭を嗅いでしまった選ばれし者 ID:mLiJBaKGG

負け犬たちの嫉妬が心地ええ

 

93:名無しさん ID:duL04kkUb

>>92

こいつ…

 

94:名無しさん ID:5c28/VC2x

>>92

実際どんな匂い?

 

97:葵臭を嗅いでしまった選ばれし者 ID:mLiJBaKGG

おんなのこみたいなあまい匂い

 

99:名無しさん ID:KDrsfh0uW

IQ溶けてるじゃん

 

100:名無しさん ID:HzQJ1X2DJ

>>97

お前の語彙どうなってんだ

 

101:名無しさん ID:vu7dQsuAC

注意!葵の匂いを嗅ぐと頭がバカになります!

 

103:名無しさん ID:y0JBuh9qB

突撃する人達は居なかった?

 

106:葵臭を嗅いでしまった選ばれし者 ID:mLiJBaKGG

>>103

みんな大人しかったよ

 

109:名無しさん ID:OixdX7F1h

飼い慣らされているのか驚きすぎて反応出来なかったのか

 

112:名無しさん ID:KDjRkXcGf

俺なら列抜け出して握手してもらうのに

 

115:名無しさん ID:O2bL1mMsp

お前ら葵の事以外話せない病気なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコニコ大会議 in 東京 2日目実況スレpart18

 

1:名無しさん ID:xQxvl9cfo

前スレ:ニコニコ大会議 in 東京 2日目実況スレpart17

次スレは800

 

10分で1スレ消化する奴らがいるらしい

 

3:名無しさん ID:OJB28Eb2E

まだ葵の出番じゃないんだが?

 

4:名無しさん ID:kczLFefGb

速すぎて安価が付けられません!

 

6:名無しさん ID:v1SikdxLD

向こう消化してからこっちに来い

 

7:名無しさん ID:NwMdYLtxc

立て乙

 

9:名無しさん ID:kHPil4W6b

大トリの時間だあああああ!!!!

 

11:名無しさん ID:AAB29y8Fo

勢い16万wwwwww

 

12:名無しさん ID:hZjf7YS9V

ニコ生の接続が心配なんだが

 

13:名無しさん ID:oODRdEUdD

一般層の流入がね……

 

15:名無しさん ID:eyNrlDT/O

ニコ生が重すぎるお

 

17:葵臭を嗅いでしまった選ばれし者 ID:mLiJBaKGG

現地快適だわ

 

19:名無しさん ID:VAY+Ua7gG

真打ち登場!!

 

21:名無しさん ID:IfH13E4yw

接続どうにかしろやあ…

 

22:名無しさん ID:96ZPoBokL

出遅れました

そんで入れませんクソが

 

24:名無しさん ID:uoeGg7z60

最大6万人入れるとは何だったのか

 

26:名無しさん ID:OJ+WtyVy6

葵の時間だああああああああ!!!

 

28:名無しさん ID:D2NakMRO2

無料でイベントやる前にサーバーどうにかしろ

 

29:名無しさん ID:9v9OCR9EH

回線がうんこ!

 

31:名無しさん ID:snKauMFqr

【悲報】ボクのニコ生止まりそう

 

33:名無しさん ID:UN2uFCzRa

入れない奴はミラーしている配信者の所いけ

 

35:名無しさん ID:OSd4435pq

これ葵の出番になったらもっと加速するぞ

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「八色さん、そろそろ移動をお願いします!」

「はーい!」

「頑張って!」

「いよいよだね」

 

 前の出演者のパフォーマンスが始まったので私も舞台袖に移動する。控え室でも見ていたけど1万人の会場がパンパンだ。観客達の熱気が凄い事になっているのを感じる。

 

「緊張してる?」

「特には」

「それは心強い」

 

 冬野さんに答えた通り、グラミー賞の場に比べたら全然マシだ。テレビ局も来てるけど日本のだけだしね。

 そういえばこれが初めてのライブになるのかな。4月に行う初ライブに向けて今回の感覚をしっかりと覚えておこう。

 

「八色さんスタンバイで!」

「いってらっしゃい」

「はい、いってきます」

 

 前の出演者とハイタッチを交わして直ぐに出れるように準備をする。

 そしてナレーターの煽りが終わったと同時に舞台に飛び出した。

 

 ——ワアアアアァッ

 

 瞬間、大歓声が沸き起こった。

 

「おおっ。盛り上がってますかー!?」

 

 ——オオオオオオオオッ

 

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

キターー!!!

これを見に来た

キターーーーーー

きてああああああああああああ!

大トリ、堂々の登場!

葵ーー!!!

キター!

真打ちキターーー

 

「こうして皆さんの目の前に出てくるのは初めてなので自己紹介をしましょうか。八色葵です!」

 

知ってる

はい

葵ーーーーー!

知ってるわ

ニコニコが生んだ歌姫キター!!

知ってる定期

知らない奴いねえぞ

伝説の人キター!

はいって言え

うおおおおおおおお

ニコ生重たい

知ってる

勝手に生えて勝手に成長して気づいたら世界樹になってたが正しい

 

 掴みも上々で会場のボルテージは最大だ。後ろに流れているコメントの勢いも激しいのでこのまま走り抜けよう。

 後ろにいる王室バンドの皆さんに合図を出して演奏を始めてもらう。

 

「残り少ない時間ですが、楽しんでいってくださいね!」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「お疲れ様でした!」

「本日はありがとうございました」

 

 時刻は20時過ぎ。アンコールを経て無事に公演が終了した。

 大人組はこれから打ち上げをやるらしいが、私は年齢的に帰宅です。

 その前に今日の演者全員で記念撮影をして解散となった。

 

「流石にこのまま電車乗るのはマズいよねえ……タクシーで帰ろっか」

「……そろそろ送迎車とかと契約した方がいいかな?」

「そうね、そうしましょ」

 

 公共交通機関を使った移動の限界も感じてきたので送迎サービスの使用を本格検討する。この事は早めに綿貫さんに伝えなくては。

 

「それにしても凄い盛り上がりだったねー」

「4月はこれの倍以上の人が来るからもっと熱くなるかな」

 

 初のワンマンライブのキャパは3万人だ。タクシーに揺られながら今日の収穫を忘れないように心に刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八色葵、グラミー賞後初のライブ 1万人を虜に

 グラミー賞獲得の熱狂が冷めやまぬまま、日本の若き歌姫が1万人の観客を圧倒した。

 2月20日、東京にてニコニコ大会議の最終公演が行われた。様々な演者の演出によって盛り上がっていた観客達を待っていたのは、グラミー賞最優秀新人賞を獲得した八色葵だ。彼女は1万人という観客の前でも堂々のパフォーマンスを見せ、会場では熱狂の渦が巻き起こった。

 4月に自身初のワンマンライブを行なう八色。この盛り上がりを見るに、成功は約束されたも同然だ。

 

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分岐点その1

「今日は以上になります!八色さん、お疲れ様でした!」

「お疲れ様でしたー」

 

 3月の下旬。春休みに突入したためテレビの収録やミュージックビデオの撮影に勤しんでいた。

 今日お邪魔したのは青森県にある風力発電施設。以前お話を貰ったレポーターとしてのお仕事だ。

 

「着替えてから帰られますか?」

「いえ、このまま宿までお願いします」

「承知しました!八色さんお帰りです!」

 

 放送されるのはゴールデンタイムという事もあり、担当者の方がそれはもう丁寧に仕組みなどを説明してくれた。特別に発電内部の見学もさせてもらい、新しい体験で楽しかった。

 個人的には普段見るプロペラ型ではない次世代発電機が気になった。数本の円筒が垂直に設置されているタイプは知っていたのだが、他にも台風などの強風に耐えられるような工夫がなされている発電機が数多くあった。

 話に聞くと海外では羽のない発電機を開発中との事で、日本も負けていられないと技術屋さんが頑張っているらしい。ただし資金的な問題があるのがもどかしいね。

 

「明日は予定通り宮城県にある原子力発電所に向かいます」

「はい、承知しております」

 

 本日泊まる宿までの道中、プロデューサーから明日の目的地を確認された。どうせなら問題の福島の方に行きたいのだが、言っても意味の無い事なので仕方ない。どうせ資エネ庁長官と話すのだから初めての原発見学を楽しもう。

 

「原発はママの故郷にもあったなぁ」

「北欧は水力と原子力が主力なんだっけ?」

「そうそう!懐かしいなー」

 

 雑談しながら車に揺られていると豪華な旅館が見えてきた。この収録の最中はテレビ局側が手配してくれたホテルなどに泊まることになっている。

 私、お母さん、由希さんの3人に用意するのはお金がかかるだろうに。動画投稿サイトが日の目を浴びて来たとは言っても未だテレビの時代は終わってないね。

 

「昨日はホテルだったけど、泊まるならやっぱり旅館だよ!」

「葵ちゃんは旅館派かー。私は断然ホテル」

「ママもホテルの方が好きかな」

「どうやら私達は敵同士だったみたいだね…」

 

 案内された部屋で収録用の衣服から部屋着に着替えた。どうやら2人ともホテル派らしいが、私は豪華な部屋より落ち着いた和の空間が好きなんだよね。

 

「ご飯の時間までまだあるから順番にお風呂を頂いちゃいましょうか」

「葵ちゃん!背中流してあげるよ!」

「一緒に入るんですか?まあ、いいですけど」

 

 部屋には大きな露天風呂も完備されており、2人で入る分には問題なさそうだ。

 お言葉に甘えて背中を流してもらっていると、ふと思い出したかのように話を切り出された。

 

「葵ちゃん、胸膨らんで来てるね」

「2ヶ月ほど前にブラデビューしましたから」

 

 そうなのだ。今年に入って遂にブラデビューをした。胸が膨らむという現象が想像出来なかったのだが、自分の身に起きてしまうと「本当に女の子の体なんだな」という思いが芽生える。

 

「身長って142cmだっけ?」

「ですです」

「はー、1年ですっごい大きくなって……子供の成長は早いなぁ」

 

 成長期も来たようで最近は1月に1cmのペースで伸びている。

 ただ、未だに女の子の日は来ていない。これもそのうち体験するんだろうけど、逆行前に付き合っていた彼女は大変そうだったし憂鬱だ。何とか軽い方である事を祈る。

 

「ママも入りまーす!どーん!」

「3人は流石に狭いんじゃないかな…」

 

 お母さんも途中で乱入してきた。それでも露天風呂はそこそこの余裕があったのでお高い旅館様々だ。

 その後、仲居さんが部屋に料理を持って来てくれた。東北地方は黒潮と親潮がぶつかり合う潮目があるので海の幸がふんだんに使われている。

 その味を堪能しながら明日以降について思考を巡らせる。私が何もしなければ、この御馳走も風評被害などで一定期間日陰者にされてしまうのだ。

 復興支援などの為に基金の用意も出来ている。大元の津波はどうにもならないが、それ以外の事で出来る限りの事はやろう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「——これが原子力発電の大まかな仕組みです」

「この逆をするのが核融合炉ですよね?」

「よくご存知で。流石は八色さんです。我が国でも——」

 

 担当者の方から説明を受けながら施設を回る。台本通りの進行をしながら適宜アドリブで話を盛り上げていく。この後は制御室に特別に入らせてもらえるとの事だ。

 

「ここが原子炉を安全に運転する為の心臓部になっています。24時間体制で正常に稼働しているかのチェックも欠かせません」

「へー!壁一面に機器が張り巡らされてますね!」

「そうなんです。これなんかは——」

 

 テロ対策のため、放送では編集が加えられるであろう細部までじっくりと観察する。加速器の制御室を思い出させてくれる部屋の様子に懐かしさを覚えた。

 

「海辺にあるのは何でですか?」

「それはですね、熱い炉を冷やす為に大量の海水を使うからです」

「海水を?」

「はい。詳しく説明すると——」

 

 ここら辺で「へー」なんてラフ・トラックが加えられたりするんだろうな。なんか、こういう台本通りの進行はつまらないな。

 

「でも停電が起きた時などは冷却装置も止まってしまうんじゃないですか?」

「その際は緊急電源と言った独立した電源があるので問題ありません」

「それもダメになった時は?」

「本当の最終手段は海水をそのまま注入する事ですが、無電源でも冷却出来る仕組みがあるんですよ。その間に何らかの対策をして安全に停止させる事が出来るのです」

 

 流石に筋道から逸れすぎた質問にスタッフさんがちょっと慌ててるのが見えた。しかし止められないという事は、編集で消すか、問題ないという判断でもある。

 

「その装置は自動なのですか?」

「基本は自動なのですが、手動で行う事も可能です」

「なるほど!そうやって入念な対策をもって安全な運転をしているんですね!」

 

 あまり突っ込みすぎると担当者の方が可哀想になるのでこの辺りで退いておく。今日は資エネ庁長官が来てくれているので、詳しい話はそこで聞こう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「失礼します」

「ようこそおいでくださいました。はじめまして、八色さん」

 

 

 

 応接室のような部屋で小さな少女と初老の男性がガッチリと握手を交わした。台本通りに進行する2人の様子をテレビカメラに収める。

 

「彼女、本当に小学3年生なんですかね?僕より賢くないですか?」

「当たり前だろ。ここに居る誰よりも頭はいいぞ。それとマイクに音が入るから声を抑えろ」

 

 その場にいるADがポツリと零した言葉に冷静に返す。

 この後は今日の感想と少女が疑問に思った事を長官に答えてもらう流れになっている。

 質問内容自体は軽く打ち合わせをしてあるので突飛なものは飛んでこない。彼女の天才性を考慮すれば台本無しの方が面白い画が撮れると思うが、それはそれ。流石に専門的過ぎる質問オンリーになりそうなのでストップした。

 だが、収録後にそれは起きた。

 

 

 

「これは今日見て疑問に思った事をまとめたものです。もしよろしければ一考していただけないでしょうか……?もちろん、何も知らない子供の考えた事である事は承知しております」

「これは……いや、十分に参考になるよ。ただ、私だけでは対処出来ないだろうから全部を直ぐにとはいかないだろうけど……いやはや恐れ入りました」

「本当ですか!?ありがとうございます!出来れば電源装置や浸水対策だけでもお願いしたいです!」

「それなら費用も少なくて済むし1年くらいで可能かな」

 

 

 

 

 曰く、重大な事故に繋がりそうな事を列挙しておいたとの事。何故それを高々10歳の少女が気づくのかという話だが、もしかしたら専門の人らも警報を鳴らしていたかもしれない。

 

「この映像もカメラに収めてれば面白かったかもですね?」

「何をやってるかは分からないだろうから意味ないだろ」

 

 そう、これは所詮バラエティ番組だ。今の日本で知らぬ者が居ない少女を使った「為になる」ロケだ。もしもこの映像や紙の内容が世間に知られればバッシングに繋がりかねない。流石にそれは可哀想なのでやめておいた。

 心の中ではそうした方が国も動くかもしれないとも思ったが、もうそれは過去の事だ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 今回のロケでは最終的に水力、風力、原子力、地熱の4つの施設を回った。他にも波力や圧電なんてものもあるのだが放送時間の問題でお流れに。

 圧電素子は友人が研究していたので、聞き齧りではあるが少し詳しい自信があったのに残念だ。

 

 資エネ庁長官には大分失礼な事をした気がするが、もしも早急に対応してくれるなら大きい。最低限訓練や点検くらいはやらせてくれ。

 もしも動きが遅いようであれば、資料を作ってYouTubeに「ロケに行ってきて学んだ事」という題で動画でも撮ろうかな。多少無理してでも世論を動かしてやる。

 

「明明後日から遂にライブだね。明日はフリーだけど何か予定はあるの?」

「なんと、私の着物が出来上がったみたいです!なので明日はそれの試着に向かいます」

「おー!よく間に合ったね。てっきり無理だと思ってデイドレスを手配しちゃってたよ」

「職人さんには頭が下がります」

 

 東京に戻って来たのでついでにオフィスに寄ってロケの間の報告書を読んで急ぎの案件だけ片付けよう。

 

「あっ、社長!ちょうどいい所に!」

「どうしたんですか?」

 

 オフィスに戻れば真由美さんに声をかけられる。

 

「皇室とカリュシア国王の対談に、社長も来るよう要請が来ました」

「……は?」

 

 

 



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邂逅

リアルが多忙なため、今週の更新及び感想返しが遅れる可能性があります


 4月になりウコンちゃんがコミュニティを爆破した。案の定ゲームのセーブデータ消失と失恋でメンタルブレイクが起きたらしい。どうせ直ぐに戻ってくるので気にしないでおこう。

 

「八色様、到着致しました」

「ありがとうございます!あの、帰りは……」

「ご帰宅の際は係りの者が案内致しますので」

「承知しました!」

「ではドアを開けますので少々お待ちください」

 

 ハイヤーから降りると目の前の受付テントには既に多くの人が。私とお母さんも遅れないよう入園引換券と名札を交換してもらう。

 15日木曜日、春の園遊会に参加するため東京は赤坂御園にやって来ていた。

 

「ここはマスコミも入らないんだね」

「受付の画は流石に地味なんじゃないかな?」

「八色さん、お写真の方は撮られますか?」

「あっ、お願いします!」

 

 宮内庁の職員の方にスマホを渡し、私とお母さんのツーショットを撮ってもらった。色鮮やかな振袖と落ち着いた留袖の和装コンビの画は後でホームページに上げておこう。

 

 案内されたテントの中には軽食が用意されていたので摘みながら他の招待者と挨拶を交わした。誰も彼も公的機関所属の肩書きを言ってくるので顔と一致させるのに苦労する。

 

「八色さん、そろそろ三笠山テント前に移動をお願いします」

「承知しました」

 

 時間が近づいてきたので既に並んでいた参列者の所へ移動する。近くには現政権のトップが集合していた。え、ここ?

 

「八色さんはこちらになります」

「あれ?私もあっちのメダリストたちの傍じゃないんですか?」

「こちらになります」

「アッハイ」

 

 今回の招待者の中にはバンクーバーオリンピックでのメダリストもおり、私も一般人枠としてそっちだろうなと思っていたのだが……これ、この前生意気言った文句をつけられるんじゃないだろうか。

 

「なんか場違い感凄くない…?」

「大丈夫大丈夫。葵ちゃんは普段通りで平気だよ」

「八色さん、お久しぶりでございます」

「お久しぶりですね」

「えっ!?」

 

 お母さんと小声でやり取りしていると隣にいた大臣が話しかけて来た。

 

「娘の葵です」

「存じ上げております。お嬢様のご活躍は私も楽しみにしていますので」

 

 紹介された際に軽くお辞儀をしておいた。何やら積もる話もあるようで盛り上がっている。

 

「どういう繋がり?」

「昔にお会いした事があるの」

「へぇ〜」

 

 一段落したところで聞けば旧知の仲であるらしい。本当にどういう縁だよ。

 

「ねえ、それってさ——」

「天皇皇后両陛下がお見えになられます!」

「それはまた後でね」

 

 間の悪いことに時間切れとなった。帰ったら絶対に教えてもらうからね。

 

 宮内庁職員の言葉に待機していたマスコミ達も慌ただしくなった。私も気を引き締める。お母さんは普段通りで良いって言ったけど、流石にテレビカメラがあるところで醜態は晒せないよ。

 両陛下がお出でになると総理大臣を初めとした各大臣は順番にお言葉をいただいていた。次は私の番になるので緊張感が高まる。

 そして、皇族との初めての対面が始まった。

 

「この度はおめでとうございます」

「はっ、ありがとうございます」

「歌手としてご活躍されている他に、動画も投稿されているようですね」

「はいっ!?」

 

 えっ!?待て待て待て、陛下も動画見るの!?驚きすぎて敬語が崩れる!

 

「幼い頃の映像も拝見させていただきました。健やかな成長を嬉しく思います」

「あ、ありがとうございます!」

「リーナさん、お一人での子育ては大変ではなかったですか?」

「はい。娘は全く手のかからない子でした。流石は陽仁さんの娘です」

「彼も葵さんの成長を喜んでいますよ」

「陛下の仰る通りでしょう」

「お二人とも、これからのご活躍を楽しみにしています」

「ありがとうございます!」

 

 最後に手を差し出されたので恐る恐る握り返す。想像していたよりも大きな御手は暖かかった。

 

「握手っ、握手しちゃったよ!?」

「よかったね〜」

 

 この興奮をお母さんに伝えると淡白な返事が返ってきた。なんでそんな平常心なの!?

 というか、今の私、「はい」と「ありがとうございます」しか発してなかったんじゃないか?

 

「あら、リーナさん。お久しぶりですね」

「お久しぶりでございます」

「!?」

 

 その後の皇族の方々も私達、正確にはお母さんにお言葉をかけていかれた。私も何か話した気がするのだが、その事に動転し過ぎて何を言ったか覚えていない。マジでお母さん何者?

 

「参列者の方はテントの方へ戻っていただいて構いません」

 

 皇族の方がお帰りになると宮内庁職員がマスコミの所へ行くよう指示を出してきた。その前に隣に居る唯一の肉親に聞きたい事が山ほどある。

 

「お母さん!なんで皇族の方とお知り合いなの!?」

「帰ったら教えるから、ほら、行って来なさい」

「え〜……絶対だよ!」

 

 私の生まれる前にどんな事をしたら日本の皇室と繋がりを持てるのだろうか。

 またしてもはぐらかされてしまったので大人しくマスコミの所へ向かう。そこでは私と同じ様にメディア対応しているメダリストたちの姿があった。あれ、ピンマイクも付けているんだ。集音マイクがあるのに珍しいな。

 

「八色さん!陛下とはどのようなお話を!?」

「緊張していてよく覚えていませんが、これまでの活動へのお褒めの言葉をいただきました」

 

 実際はよく覚えているが、流石に「陛下が動画投稿サイトをご覧になられているようです」なんて言える訳が無い。いや、本当に見ているかも怪しいのであれは私の緊張が成した幻覚かもしれない。

 

「なぜマイクを付けられなかったのですか!?」

「マイク……?」

 

 その後もいくつかの質問に答えていると変な質問が飛んできた。

 

「ごめんなさい、質問の意図がよく分からないのですが…」

 

 そう答えると何やらザワザワし出すメディア陣。聞こえてくる声の中には「特別誘導者」や「宮内記者会」、「天皇陛下」のワードが。なんでそこで陛下が出てくるの?

 

「いえ、こちらの勘違いでした。申し訳ありません」

「はあ……」

 

 「マイクってもしかしてアスリートの方が付けてるやつですか?」と聞く前に次の質問が来てしまった。モヤモヤするので帰ったら「特別誘導者」について調べてみよう。

 

 その後職員が来てくれたのでマスコミ対応から解放された。先程と同じように軽食を摘んでも良いのだが、お母さんの事が気になってしょうがないので即帰宅です。

 お母さんと職員を捕まえて送迎車まで案内してもらった。

 

「車の中でもダメなの?」

「そんなに気になる?」

「それはもう、夜も眠れないほどに」

 

 朝と同じ送迎担当者に家まで送ってもらう。その道中でも焦らされてしまったので相当凄いネタなんだろうな。私の中で勝手に期待値が上がってるぞ、お母さん!

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「さあさあさあ!リーナさん、教えてもらおうじゃありませんか!」

 

 黄昏時、自宅のリビングにてお母さんと対面して席に着いた。気分はさながら取調べをする刑事のようだ。

 

「別にいいけど、そんな大層な事じゃないのよ?ただ、ママが元王族なだけなの」

「ここまで引っ張って大層じゃな……はぁ!?」

「ほら、最近ニュースでやってたカリュシア国王。あれ、葵ちゃんのお爺ちゃんよ」

「……」

 

 突然のカミングアウトに思考が止まる。元王族、お爺ちゃん……?

 うん、今日は色々あったから脳がバカになってるみたいだ。

 

「ごめん、寝惚けてたみたい。もう1回言って?」

「だから、ママはカリュシアの元王族なんだってば」

「……聞き間違えじゃなかった!」

 

 身内にとんでもない人がいたらしいという事実に震える。それなら確かに皇室と繋がりがある訳だわ!というか何で前世じゃ教えてくれなかったの!?

 

「お姫様じゃん!そんな人が何で日本で平民やってんの!?」

「ママ、上に3人も兄が居たから後継者的な問題はなかったのよねぇ。だから18歳で王家から離れたの。日本だってそうでしょ?」

「いや、確かにそうだけどっ……えぇ!?」

 

 日本も()()()()()()()()()()()()()皇籍離脱は可能だ。それは偏に皇族の人数が多いからだ。昔は八色の姓といった八つの姓が与えられたらしいが、今はそうじゃないと聞いた事がある。だとしても、そんな簡単に事が進むの?

 

「葵ちゃんが天皇陛下とお爺ちゃんの対談に呼ばれたのもそれが理由かしらね」

「……そういえばそんな事もあったね!!驚きすぎて忘れてたよ!」

 

 それじゃあ私の戸籍って不完全な物だったって事か!あれ、でもお父さん方の祖父母も居なかったような。

 

「お父さんの方のお爺ちゃん達は?」

「パパのご両親は40年前に亡くなってるの」

「早死にしすぎじゃない……?」

「ほんとにねぇ。パパもお義父様方も葵ちゃんに会いたかったでしょうに」

 

 どうやらお父さんの家系は悲しい運命を背負ってるらしい。これ、もしかしたら私も死んで転生した可能性が出てきたか?

 

「は〜……もう、疲れたよ……」

「そういう事なので、葵ちゃんにはロイヤルファミリー()の血が流れているのでした!めでたしめでたし」

「目出度くないんですが?……それなら、お母さんの顔、今日はバッチリカメラに映っちゃってたけどいいの?」

 

 いつもはテレビカメラがある所や人が多い所ではサングラスをかけていた。今思えばそれで騙せるのかと疑問が浮かぶが騒ぎになってないって事は大丈夫だったのかな。

 

「ここまで葵ちゃんが知られちゃったから、今更かな?」

「それは、なんというか……ごめんなさい?」

「それにそろそろ葵ちゃん叩きが起きるかもしれないし。牽制よ、牽制」

 

 曰く、正式に国から発表されない限りは疑惑で済むという事もあるらしい。週刊誌が騒がしくなりそうだけど、私が近くに居る事で写真も撮られないとの事。未成年である事実がここで味方になるとは。

 

「……もしかして、今までも警備の人が近くにいたり?」

「御明答!葵ちゃんのジィジは心配性なので、国から出て行った娘に国費を使ってまで自宅周辺の安全を確保していたりしてます!」

「日本だったら税金の無駄遣いで批判が起きてそう……」

「そんな事もないんじゃないかな?」

「いや絶対に起きる。間違いない」

 

 だって逆行前でも似たような事が起きてたし。

 そこまで言ってから脱力してソファに身体を預ける。本当に今日は色々あって疲れたわ。

 

「葵ちゃんもこれからは気をつけて行動してね?登下校は仕方ないにしても、会社や仕事の移動は必ず送迎車を使う事!」

「そうだね、肝に銘じておきます」

 

 今に思えば遅すぎる判断ではあったけど3月からは移動用の送迎サービスと契約している。これからも面倒くさがらずに続けていこう。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「特別誘導者ってそういう事ね。陛下が決定した事なんだから、そりゃマスコミも黙るわ」

 

 自分のルーツを知ったあの日から幾日か経過して疑問に思っていた事を調べた。園遊会が終わった後の妙な質問の意図がやっと判明した。

 というかあの質問をした記者は普通にプレミなのでは?ボブは訝しんだ。

 

 そして先月収録したロケ番組が2週に渡って放映された。

 それと同時に政府が原発の見直しを全国的に行う事も発表。津波の影響が心配される所から順に点検及び施設の改修を行うらしい。

 世間様は今までの政府の姿勢を批判、ワイドショーもその話題で盛り上がっている。私的には早急な対応に評価しているところなんだけどな。

 

 とりあえず、これで1つ目の対策は終わった。ただし、これは震災の二次的被害を減らしただけに過ぎない。そもそも本当に原発事故を避けられたかは疑問な所でもある。まあ、実際に起こってみない事には分からないので一先ずは置いておこう。

 

 次に行うのは最大の難点、津波の被害の軽減だ。1年で堤防の増強なんて間に合うはずも無く、やれる事は「津波がどういう事象なのか」の周知だ。

 今の私の影響力を考えれば不可能ではない。絶対に間に合わせてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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小学校での一幕

たまにはオール日常パートを入れないと死んじゃう病気なんだ


「7.88!…10.85!はーい、次の場所に移動してー!」

 

「ふぅ……」

「ふえぇ…葵ちゃん、待ってえ〜」

「渡辺さん、ゆっくりで大丈夫だよ」

 

 春は別れの季節でもあり出会いの季節でもある。私の学校でもクラス替えが行われ、現在は体育の授業で体力測定をしていた。

 

「葵、何秒だったの?」

「7.88」

「こわ……」

「引かないで」

 

 4年連続で、幼稚園の頃を合わせると7年連続で同じクラスになった理華ちゃんはこの春から私の呼び方を変えてきた。いつまでも「ちゃん」付けだと恥ずかしいらしい。これが思春期かとニヤニヤしてしまう。私は止めろと言われるまで「理華ちゃん」と呼び続けるぞ。

 

「そもそも手動計測の時点で0.5秒から1秒誤差が生じると言われてるからね。こんな数字、適当だよ」

「私の幼馴染が何言ってるのか分からない件について」

「葵ちゃん、佐々木に負けちゃったみたい」

「はー、男子は速いねぇ」

「アイツも7.85だから変わらないわよ」

 

 次の測定場所まで移動する際に他の女子からクラス内最速の記録を教えてもらった。件の佐々木くんは男子に囲まれて賞賛されているのが見える。

 余談だが、最近になって男子連中が私に対してよそよそしい。それを受けて女子は私中心に行動するようになってきた。男子は男子、女子は女子の構造が既に出来上がりつつある。これが思春期か(2度目)。

 

「立ち幅跳びは2.10ね。10点ゲット、と」

「センチで言いなよ」

「どっちでも良くない……?」

 

 今日測定する競技は50メートル走、立ち幅跳び、ソフトボール投げの3つだ。今のところ順調に点数を稼げている。

 

「男子の最高は220センチメートルだって!」

「誰か私と男子を戦わせようとしてたりする?」

「そんなことないよ」

 

 またしても男子の記録には及ばなかったようだ。彼らの喜びようを見ればあっちも意識しているみたいだし、女子が私を焚き付けて来ようとするのもそれが理由かな。

 本日最後の測定になるソフトボール投げは投げる側、ボール拾い側に男女を分けて行われる。最初に投げるのは男子達だ。

 

「おー、飛ぶねえ」

「クラスに何人かは『そこまで飛ばすか?』って奴がいるよね」

「大体は少年野球に入ってる子だろうね」

 

 クラスメイトの子とお喋りしながらボールを拾う。私が居るのは1番遠い所なため滅多に飛んでこないので楽チンだ。

 

「葵ちゃん、次の授業何だっけ?」

「音楽だよ」

「え〜、音楽かぁ……葵ちゃんの演奏が聞けるなら楽しいんだけどなー」

「私がピアノ弾く機会なんて音楽会の時くらいしかないよ。2学期まで待ってね」

「はーい」

 

 一人2回ずつ投げ終わると攻守交代、ではなく男女交代だ。去年は30メートルしか飛ばせなかったので今年は力を入れて頑張るぞ。身長も10センチ以上は伸びたし40は行けるはずだ。

 

「お次は注目選手の八色さんです。目標は何メートルですか?」

「目指せ40メートル!」

「そこはか弱い女子らしく5メートルと言っておこうね」

「それはもう下向きに投げてるんじゃない?」

「今ココロの事バカにしたね?いーけないんだー」

「だる……」

 

 とりあえず心ちゃんにそんなつもりはないからと弁明しておく。彼女は大人しく自己表現が苦手な子なのでなるべく優しく接してあげている。絵を描くのが好きらしいので昼休みには一緒にお絵描きをする仲でもある。

 初めて同じクラスになったけど笑顔を見せてくれてるので大丈夫かな。

 

 そんな事を話していると私の番がやって来た。

 始める前の説明では45度で投げればいいみたいな事を先生が言っていたが、実際は投射する高さや初速度の問題でその角度ではなかったりする。後は回転をかけて流速の違いを生んで浮力を得るなんて事も出来たりするが、難しい事は置いておこう。

 結局は適当な角度で思いっきり投げるに限る!力こそパワー!

 そうやって投げ飛ばしたソフトボールは校庭の奥の方を守っていた子にダイレクト捕球された。掴んじゃダメでしょ!

 

「コラー、田中ー!直接キャッチするな!八色さんはもう1回追加ね」

「はーい」

「すいませーん!」「おい田中!そのボール俺に寄越せ!」「嫌に決まってんだろ!」

 

 

 その後投げた2球はそれぞれ42.8メートルと45.3メートルという結果に。目標を大幅に超えたので満足する。

 

「ソフトボール投げ45メートルはもうゴリラじゃん」

「おいコラ」

「八色さん凄い!」

「これだよこれ、この反応を理華ちゃんにも要求するよ」

「このウホウホっぷりで褒めるのは無理でしょ……」

 

 実際、この細い体のどこにそんな力があるのかは疑問だ。こう、ふんっと力を入れたら不思議パワーでも湧いてくるのだろうか。普通の筋肉があるとは思えない体重なんだよなあ。

 

 私の後ろの渡辺さんが投げ終わったため整理体操をしてから授業は終了した。チャイムはまだ鳴ってないが女子は更衣室への移動があるので早い方がいい。

 

「八色さん、行こっ」

「ほいほい」

 

 テレビに出るようになってからは女子達から憧れのような感情を向けられているように感じる。それ自体は構わない。構わないんだけど、流石にトイレに誘うのは止めてね。男子の頃とは違って、女子は個室で用を足すのだから一緒に行っても意味ないと思うのだが。

 

「マオマオ、本当におっぱい大きいね。何を食べたらそうなるの?」

「知らない!勝手に大きくなるの!」

 

 3年生の後半くらいから胸が大きい子が目立ち始めてきた。お年頃なのか女子だけの場だとそういう子にちょっかいを出す子も出てくる。

 流石に本当に嫌がってる子は止める。ただし彼女、真緒ちゃんの場合は私の身体を触るのが好きな事も知っているので、まぁ大丈夫だろう。

 

「あ、リコーダー忘れた!」

「今日も?だから早く持ってきた方が良いって言ったのに」

「そうだけどさ〜」

 

 全員着替え終わったので更衣室を後にしようとすると、次の授業の忘れ物に気づいた子が騒いでる。年度始めの授業とその次の授業は忘れ物が多いのはあるあるネタだと思う。

 小中学校の先生の中には忘れ物に厳しい人もいる。幸いな事に今年の音楽の先生は寛容な人なので大丈夫じゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで帰りの会は終わりにします!クラブ活動が終わったあとは各自そのまま帰って大丈夫だからね」

 

「よっしゃあ!行くぞォ!」

「オー!」

 

「男子は元気だわ」

「私達も行こっか」

「陸上部の女子は葵ちゃんに集まってー!」

 

 4年生に進級したためクラブ活動が始まった。欠席や早退が増えるであろう私は個人競技の陸上を選択、ついでに体づくりも出来るので一石二鳥だ。

 クラスの運動が出来る女の子は私が居るという理由で陸上クラブに流れてきた。テニスやバドミントン、ダンスがあるのに君達はそれでいいのか。

 

「あお…んんっ!八色さん、よろしくね」

「よろしくお願いします」

 

 校庭に集合した私達は自己紹介もそこそこに上級生とペアを組んでストレッチを開始した。私のペアは6年生の女の子、田澤さんだ。話によるとソフトボールを嗜んでいるらしく、確かに体はガッチリしている。地元にも女子ソフトボールクラブなんて存在してたんだね。

 そんな彼女とは贔屓の球団が一致して話が盛り上がった。野球好きな女の子は私の中で高ポイントです。

 

「次はハードル走の説明をします!5、6年生は準備して!」

 

「軽く走っただけなのにもうハードルなの?」

「初回だからじゃない?次回からはまた違うメニューだと思うよ」

「葵ちゃんが言うならそうだね!」

「ごめん、そこまでの期待は重いな」

 

 クラブ説明では縄跳びも取り入れているとの事だったので今日の終わりに説明されるんじゃないかと思う。

 上級生が設置したハードルを見本として彼らが飛び越えていくのを4年生組で観察。当たり前だけど上手い人もいれば下手な人もいるね。

 急な障害走に恐れ慄いていたクラスメイトの子もハードルが下がったようで安心している。そう、ハードル走だけにね!

 

「じゃあ次は4年生もやってみようか。最初はゆっくりで大丈夫だから、焦らず感覚を掴んでね」

 

 クラブ長の指示にまずは男子組がスタート。要領がいい子はスイスイと飛び越えて行ってるけど多くの人がハードルに当たっている。ガツンという音が痛々しい。

 

「ひゃ〜、痛そーだわ」

「ゆっくりでいいのに速く行こうとするからよ。男子は見栄っ張りだから」

 

 元男の私からしたら耳が痛い話を隣でされる。男の子だって色々あるんだよ……?

 

「よーし!次は女子、行こーか!」

 

「順番どうする?」

「じゃあ先いくね」

「八色さん!」

「1組から順番でいいよね?」

「そう…だね、そうしよう!」

 

 男子が終わったので私達の番になる。順番を決めるのも面倒なので1組から志望順だ。

 

「よーい、ドン!」

 

 スタートの合図と同時に駆け出しトップスピードでハードルへ突っ込む。コツは可能な限り頭を動かさずに走り抜ける事だっけ。

 最初のハードルをイメージ通りの抜き足で跨いで次のハードルへ。後はこのリズムを崩さないように流すだけだ。4年生用に低めに設定してあるので走りやすいわ。前世での小学校の経験が活きてるなあ。

 

「はっや!」

「えっ!今の八色さん!?」

「純粋に怖くなってきた……」

 

「八色、お前凄いな!本当に初めてか?」

「ありがとうございます。上級生の方の見本が良かったんですかね」

 

 ゴールラインでスタートの指示を出していた先生に褒められた。本当に初めてかって?(この身体では)初めてです!

 

「葵ちゃん絶対経験者でしょ!速すぎ!」

「葵ちゃん、弱点教えて?」

「禁則事項ですので」

「きんそく?」

 

 クラスメイトの子はゆっくり走った事でハードルに当たらなかったみたいだ。男子と真逆の対応に性差が出てたりするのかな。

 

 その後は上級生も混ざり何度か走ってから整理体験を行なった。

 最後に次回から縄跳びを持ってくるようにとのアナウンスがあったので、予想通りいくつかのグループに別れて競技を回していくようだ。

 流石に全員で1つの事に取り組むにはグラウンドが小さすぎるからね。校庭には男子の最大派閥であるサッカークラブも見えるし、隙間を上手く使っていく形になるのかな。

 

 

 

「おーい、葵!」

 

 更衣室で私服へ着替えた後理華ちゃんと合流して帰路に着いた。すると後ろからランドセルをガチャガチャ鳴らしながら涼くんの姿が。友達が後ろに置いてかれてるけどいいのかしら。

 

「陸上なんてやって指を怪我したらどうするんだよ!」

「なに?藪から棒に……指?」

「ピアニストは指が命ってテレビで見たぞ!」

「あー……ピアニストを目指してる訳じゃないし大丈夫だよ」

「歌手兼ピアニストじゃなかったの!?」

「全然違うけど?」

「早とちりの涼馬、うぷぷ」

 

 どうやらクラブ活動中にグラウンドに私の姿を発見して心配になったらしい。何を勘違いしているのか知らないがピアノは趣味の一環だとしっかり説明する。

 

「リョウマー!何走りだし……やややや八色さん!?」

「どうも」

 

 そうこうしてるうちに涼くんに置いていかれた子達が追いついて来た。初めて見る顔もあるのでクラス替え後に作った友達かな?

 

「涼くんは時間平気なの?」

「あっ!そうだったわ!お前ら公園に急げ!」

 

 今日は珍しくユースの活動もお休みらしく、家にも帰らずに遊びに行ってしまった。バレたら怒られそう(小並感)。

 

「アイツら、学校にチクられたらどうするんだろう」

「何も考えてないんじゃないかな?チャイムまでには帰るでしょ」

 

 もしくは公園までの道中で誰かの家に荷物を置いていくという手もある。もう5年生なんだしそこら辺は自分で気づくのではなかろうか。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 5月末。晴れ渡った空の下、我が小学校の運動会が開催された。

 夏の暑さが残る9月にやるよりは断然マシで、熱中症の心配も少ないのでこの時期の運動会は好きだ。

 

 選手宣誓やらを経て始まった運動会は、個人競技の合間に学年競技や団体競技を挟みながら順調にプログラムを消費していった。

 一応は色別対抗になっているので点数も加算されている。まあ、能力差を無くすようクラス編成が為されているので、個人競技では大して差は生まれないんだけどね。

 

「ここまで圧倒的成績を残している葵さん、午後への意気込みは?」

「涼くん達白組をやっつけます!」

「なんで今年は俺だけ敵なんだよ……」

「3人ともお疲れ様!」

「涼馬、気張りなさいよ!」

 

 お昼休憩の時間となったため例年通り3家族で固まっている所へ向かいお弁当をいただく。校庭の周辺にレジャーシートを拡げているので、暖かな日差しも合わさりピクニック気分だ。

 

「てか赤組強くね?」

「そりゃーこっちには葵大明神がいますので」

「赤組を勝利に導く葵大明神です!」

「限度があるだろ、限度が」

 

 3家族で会話を楽しみながら昼食を食べていると、涼くんが点数の差に対してツッコミを入れてきた。

 点数を表示しているスコアボードを見ると、赤組が100ポイントほどリードしているのが分かる。圧倒的じゃないか、我が軍は。

 

「団体競技の差が出てきてるんじゃない?」

「大丈夫だよ涼くん。色別対抗リレーで低学年も高学年も勝てば捲れるって!」

「葵の存在のせいで女子高学年は赤組の勝利と決まってるんだが?」

「……他で頑張ろう!」

「涼馬、お母さんは応援してるからね!」

「ありがとう……」

 

 実際、100ポイント程度であれば午後からの競技で十分逆転は可能なんだよね。何と言っても高得点な色別対抗競技が目白押しだからだ。かと言って涼くん1人が頑張っても意味は無い。可哀想だが色が別れてしまった己の運を恨んでくれ。

 

「それにしても、葵ちゃんの曲が5、6年生の出し物に使われるなんて、ママ驚いちゃった」

「あれは先生の悪ノリというか何と言うか……」

「高学年の練習中に音が聞こえてくるから、授業中の葵の顔真っ赤になってたね」

「男子にはあの曲の採用は好評だったぞ!」

 

 そうなのだ。私の曲が高学年の学年競技に使用はされてしまった。

 授業中に初めて聞こえてきた時は幻聴かと思ったよ。みんながこっちを見てきたので直ぐに現実だと分かったけどさ。

 

『児童の皆さんは席にお戻り下さい』

 

「あら、もうそんな時間」

「3人とも頑張ってね!」

「はーい」

 

 デザートの果物とお菓子を摘んでいると放送がかかった。ここから勝負の後半戦がスタートする。お遊びだとしても勝てるものは勝っておかないと勿体ないからね、気合いを入れて頑張るぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「で、追いつかれてしまうと」

 

 残す競技を高学年の対抗リレーのみとなった状況で、白組との差が20ポイントまで近づいてしまった。

 

「赤組男子が不甲斐ないぞ!」

「まあ、このリレーは勝てるから大丈夫よ」

「慢心してミスしないでね……?」

「葵ちゃんは心配性だなぁ」

 

 最後のリレーは各色2チームずつ、計4チームの戦いだ。1チームに各学年4人が選ばれ12人でバトンを繋ぐことになる。

 私の属する4年生のリレーメンバーを集めて最終確認をした。最後の出場競技でもあるから負けたくないんだ。

 

「じゃ、いってくるであります!」

「バトン落とすなよー」

「大丈夫大丈夫!」

 

 時間となったためトラックの持ち場に別れる。なんか第一走者の子からフラグ臭がプンプンしているんだけど。大丈夫連呼は大丈夫じゃないってそれ一番言われてるから。

 そんな私の不安をよそにスターターピストルが鳴らされた。スタートも悪くないようなので考えすぎだったかな。

 そう思った矢先に事件が起きた。

 

「バトン落とすなー!」

 

 やっぱりフラグ回収してるじゃん!

 第二走者の子にバトンを渡す際、指にファンブルしてバトンが転がっていった。それを拾って再度渡す時には既に前と大きな差が。

 これ、追いつけるかなぁ……

 

「葵ちゃん、ごめんっ……」

「大丈夫。勝ってくるから安心してね」

 

 件の子が落ち込んでしまっているので手短に励ましてから位置に着いた。

 1位の白組の子が通過してから私へバトンが繋がるまでの時間を数える。

 

 1、2、3——

 

「ゴー!」

 

 ——4

 

「はいっ!」

「行けるっ!」

 

 渡されたバトンを落とさないように握りしめ、足の回転数を上げる。100mあるんだ、4秒ちょっとなら間に合うぞ!

 まずは3位の白組を抜き、60m付近で仲間の赤組も置いていく。

 先頭にいた白組の子はスピードが落ちてきた。その光景を見て更に加速する。4年生にとって、100mを全力で走るのはキツいだろうね。

 そして、80m辺りで先頭に立った。

 

「ふぅー、流石に疲れた……」

「葵ちゃんっ!」

「ぐえっ」

 

 5年生に先頭でバトンを渡し終え、膝に手をついて休憩していると後ろからさっきの子が乗りかかってきた。

 

「本当にっ、ありがとう!」

「勝ってくるって言ったからね。さ、上級生を応援しようか」

「うん!」

 

 6年生のお姉さん方にも褒めてもらいながらチームメイトの応援をする。ここまで頑張ったからには勝利を飾ってほしいぞ。

 その願いが届いたのかは不明だが、結果は私のチームが1位、白組は2位と4位に終わった。

 男子もその流れを引き継いで赤組が勝利。この瞬間、今年の運動会の優勝は赤組に決まった。

 

「あそこから逆転するのはヤバいわね」

「勝利に導く葵大明神なので」

「物理的に導くとは思わないじゃん?」

「理華ちゃんが言い出した事では……?」

 

 閉会式の最中に理華ちゃんと戯れながら私の身体のスペックを再認識した。

 これなら今度呼ばれた始球式でも良い球を投げられかもしれない。本番前に少し練習しておこうかな。




「分岐点その1」について、良い改善案をいただいたので今週中に編集すると思います


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汚文字

手首ドリルが壊れてしまったので遅れました


 6月になり、逆行前の日本動画クリエイター界隈で覇権を握っていたPIKAKINさんの動画がバズった。以前はSNSでコンタクトを取ってきた事もあったので彼の成功にはホッとした。

 

「社長、これだと利益剰余金が少なすぎます」

「1番お金がかかるライブツアーもスポンサーが出してくれるし平気ですよ」

「万が一を考えればこの案を通す事はできかねます」

「えー」

 

 水曜日、珍しく早く学校が終わったのでオフィスへ赴き、届いていたファンレターなどを読んでいく。その際、会社のお財布を握っている綿貫さんに基金へ流す金額の修正を求められてしまった。しょうがないので40%ほど削った額を提示して了承を得る。

 

「寄付だ何だする為には自分達が潰れてしまっては元も子もないですからね」

「ごもっともです」

「それにしても、何でまた研究機関も指定先に含めてるの?」

「簡潔に説明すると、日本が世界に置いていかれないためですよ、由希さん」

 

 先端材料の開発や施設の維持、増設にはかなりの費用がかかる。もちろん基盤となる基礎研究にもだ。国からの予算に比べれば微々たるモノだろうけど、無いよりはマシだろう。

 それに、日本の場合は科研費の一極集中が酷かったのもあるんだよね。お金を貰える所は有り余った挙句、何らかの理由をつけて他のグループに物を買ってあげたりなんかはよく見た光景だ。そのおかげで学閥は重要視される事もあった。

 逆行前は国からの恩恵を受けていた側の立場ではあったので、この世界では厳しい状況の人達にも救いの手を差し伸べたい。

 基本的には貯めた基金は災害復興にブッパする事になるだろうけどね。というか、孤児などへの支援を考えるとお金はいくらあっても足りないや。

 

「ふーん、よく分からないからいいや!それよりも来年発売するミュージックビデオの撮影場所が決まったよ」

「どこですか?」

「今回は、なんとなんとアラスカ!」

「オーロラだ!」

「Exactly!提供されたのが冬をテーマにした曲だったからピッタリだと思うよ」

 

 アラスカは大学時代に友人と行ったことがある。その時は夏だったので冬の景色は楽しみだ。ついでに向こうのテレビ番組に出る予定もあるのでいいお土産話が出来るだろう。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 実況プレイ中のフリーゲームが一段落したので休憩が寺雑談をしていると気になるコメントが目に入ってきた。

 

普段の文字ってどんな感じ?

 

「普段書いてる文字ですか?良いですよ、少しお待ちください」

 

wktk

さっきまでとの温度差よ

どんな完璧な文字が出てくるか楽しみ

見たい見たい!

画面は相変わらずの不思議空間なの笑う

ものすごい達筆か汚文字かのどっちかに1票

悲鳴が聞けると期待してたのに……

理系のボク、何かを察する

ポーズ画面にしてから雑談しろォ!

多分ギャップ萌え狙ってくるぞ

不安になる世界観だったから浄化しないとね

お歌うたってください!

 

 普段の文字が見たいとリクエストが来たので紙とペンを用意し「あいうえお」と書く。

 

「ほら、こんな感じです」

 

 

 

 

 

あいうえお

 

 

 

なーにこれぇ……

きたなっ

ファーwwwwwwwwwwwwwwwwww

汚え!

字が雑ぅ!

アンチ乙理系あるあるだぞ

ギャップで俺らを殺そうとするな

【悲報】八色葵さん、字が雑

Oh…chicken scratch

汚文字予想当たってしまう

読めるけどこの字で会社の資料作ったら殴られそう

繋げんな!

葵ちゃんが書いたからこの文字もかわいく見えてきた

北欧のおじいちゃんが嘆いちゃうぞ!

サインは普通なのに……

理系が全員雑な文字書く訳ねえだろうが

外人ニキもこれには困惑

弱点見つかっちゃったねえ!

アルファベットも書いてみて

 

「不評ですがこの方が速く書けるんですよねー。アルファベットも書いてみましょうか」

 

 さっきの紙に続けてアルファベットを書いてみた。

 

「こちらになります」

 

 

 

 

あいうえお

 

abcdefg

 

 

 

 

 

こっちはカッコE

日本語より英語の方が堪能そうな葵ちゃん

great

っぱ筆記体だわ

葵さん、カクカクした文字苦手説

無能な僕、読みにくい

フランス料理屋さんのメニューみたいな字(伝われ伝われ)

上と下の文字に差は無いはずなのに……

平仮名はカクカクしてないんですが

同じ繋げ文字なのにこの反応の違いよ

俺も昔は筆記体練習してたな

こっちもミミズみたいな字だろ!

 

 何故かアルファベットの方は受け入れられてしまった。私的には平仮名もアルファベットも同じように書いてるんだけどな。

 

「綺麗に書こうと思えば書けるんですよね、ほら」

 

 

 

 

あいうえお

 

あいうえお

 

abcdefg

 

 

 

やれば出来るじゃねえか!

【悲報】葵の弱点さん、秒で逝く

最初からそうしろ

書けるんかい!

お手本の文字コピーしてる?

結局綺麗に書けちゃギャップ萌え狙えないねえ

丁寧に書く必要もないからね

これには某王様もニッコリ

弱点くん死す!

手書きでフォントをプリントすな

コイツ俺らを弄んで楽しんでるぞ

 

 丁寧な文字は神経使うからきらいなんだよね。それでも他人が読む書類はキチンと綺麗に書いているのでセーフです。雑な字は自分以外読まないし問題ないだろうよ。

 

「お水も飲んだので続きを始めましょうか」

 

このゲーム見てて不安になるから嫌だわ

現実から不思議世界へ

俺も夢日記書いてみるか

残りのたまごは10個か、先が長いわ

こういう訳分からない夢時々見ちゃう

アンケートで圧勝したのが悪い

葵ちゃんのおててで精神浄化したのに……

その前にデスク周り見せて

 

「何度も言ってますが、違和感を覚えたら放送から抜けてくださいね。机ですか?面白い小物とか置いてないですよ?」

 

汚文字チェックと来たら次はデスクだよね?

汚いか汚くないか、それが問題よ

意外と大雑把だと思われている葵ちゃん

机周りは綺麗に整頓してそう

ゲームに移らせないという視聴者の強い意志を感じる

可愛い小物見せて♡

絶対ゴチャゴチャしてるだろ

1人でやると精神不安定になりそうだからこそ葵ちゃんに頼んでる

 

「どうやらゴチャついた机を想像している人もいるようですがそんな事ないですから」

 

 コメントも見る流れになってしまったのでカメラを動かし机の上を見せてあげる。ふふん、どうだ!研究室の机よりは整頓出来てるぞ!

 

「どうです?綺麗でしょ?」

 

ゴチャゴチャwwwwww

その自信何処から来てるの?

書籍と何かの書類の山が……

ドヤ顔かわよ

俺の机よりは綺麗だね

葵ちゃんさあ、なんだいこのデスク周りは

俺のターンドロー!死者蘇生!いでよ、葵の欠点!

ゴツイ辞書何に使うんだよ

隊長!可愛い小物が見当たりません!

ノート広げられそうな空間だけあるの笑う

ベッド見えなかった…

 

「うそっ!?そんなに汚いですか!?」

 

そりゃあもう

なんで驚いた?

女子力たったの5か、ゴミめ

今日だけでがさつなイメージ着いちゃった

これがギャップ萌えちゃんですか

お前も普通の人間だったんだな、アンドロイドかと思ってたよ

短所がないと長所が光らないからセーフ

陛下の言ってない言葉シリーズを増やすな

 

「えー……これでも何処に何があるか分かるんですけど」

 

 コメント欄は全く想定していない反応だった。少しショックでもある。私基準だと百点満点なんだけどな。

 

部屋が汚い奴が言う言葉トップ3

分からずこのままだったら問題だろ

普通の女の子はデコりまくりよ

お片付け配信しよ?

セバスに身の回りの世話をさせてる私は高みの見物ですの

葵ちゃんの女子力ZERO

お片付け配信よりお片付け動画の方がみたい

自分の母親をセバスと呼ぶなよ……

 

「そこまで言うならお片付け配信しましょうか……」

 

 多数決の原理に従いゲームを中断して机の上を整頓する。これくらいで大丈夫だろうと止めようとする度に待ったがかかってしまい、最終的にはスッキリした状態に。逆になんか落ち着かないよ、これ。

 

「矯正お片付けイベントを消費したので放送を終わりにします」

 

嬉しくなさそうwwwwww

片付いたんだからスッキリするだろ?

仏頂面もかわいい

次の曲の宣伝してから終わりにしろ

乙乙

自分の縄張りを荒らされた図

 

 どうせ直ぐに元の状態に戻ることは教えないでおこう。観測されなければバレないのだよ!

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

新人大物歌手、貴重な休日の昼間から卓上の片付け

 

 

1:名無しさん ID:YXC26llgV

スッキリして晴れやかな顔してるわ

 

https://……

 

4:名無しさん ID:gM1vCEomM

新人なのか大物なのか、どっちかにしろ

 

6:名無しさん ID:sL7zqvr+c

>>1

不満気な顔に見えるんだが?

 

8:名無しさん ID:UGDC3CbLc

強制的に片付けさせられるのは可哀想

 

9:名無しさん ID:oXkkLcD42

新人で大物…?妙だな…?

 

11:名無しさん ID:9fX+30Xa8

今日のハイライト

 

「これくらいでいいですかね」

コメント:ダメに決まってるだろ

「これでもう文句は言われません」

コメント:本の片付けが残ってるぞ

「もうよくない?」

コメント:後は部屋の片付けだな

「見せるわけないでしょ」

 

13:名無しさん ID:PQYA3qOUi

勢いには騙されない八色さん

 

15:名無しさん ID:yBU9HKt4p

青い血(ガチ疑惑)のプライベート空間やぞ

簡単に見せる訳ないわな

 

18:名無しさん ID:zyHQ7M2L/

どうせお前らのデスク周りも葵より酷いだろ?

 

21:名無しさん ID:3L/meUTRg

これにはおじいちゃんもニッコリ

 

22:名無しさん ID:hs5yWiXCr

>>18

それはそう

 

23:名無しさん ID:yK3CcZNGS

>>18

流石にあんなにゴチャゴチャしてないわ

カップ麺のゴミが積んであるだけ

 

26:名無しさん ID:OxMMiVLB6

自分の事は棚上げにして他人の指摘をする

これが出来るのがネット世界

辞められませんわ

 

29:名無しさん ID:UjOa34VjX

>>26

ゴミクズみたいな思考で草

 

30:名無しさん ID:KgZnLcNiM

誰もゆめにっきに触れてないのかよ

 

31:名無しさん ID:uscBeypow

>>30

スレチなんだ

 

32:名無しさん ID:bbgINOLs0

ゆめにっきは精神状態が怪しくなるわ

 

35:名無しさん ID:woHfk37EM

怖がるかなーと思ったけど流石だったわ

早く12歳になれ、もっと怖いゲームやらせたい

 

36:名無しさん ID:yuQq5xf6q

お前らがアンケートで投票したゲームだろ

責任取って葵と同時プレイするのが筋だよね?

 

37:名無しさん ID:IQP0aNcng

>>30

だって期待したリアクションじゃなかったし

 

40:名無しさん ID:FZvZSyp8Y

スレチな話題は普通しねえよ

 

41:名無しさん ID:rlSc9goGK

俺の部屋はこんな感じだから葵はまだマシだぞ

 

https://imgr……

 

44:名無しさん ID:CWdEfVw+e

>>41

ゴミ屋敷じゃん

 

47:名無しさん ID:LF9iZunUz

>>41

普段どこで寝てんだよ

 

49:名無しさん ID:YT05x14gk

>>41

服じゃなくてしっかりゴミで埋め尽くされている紛うことなきゴミ屋敷

 

51:名無しさん ID:NnyaqQ8UQ

>>41

葵ちゃんの部屋が汚いとは決まってないんだが

 

52:名無しさん ID:eHKg4iBYi

しょうがないにゃあ、ほい俺の部屋

 

https://ingr……

 

54:名無しさん ID:EVOBcElO8

地獄

 

57:名無しさん ID:apNjrfj38

>>52

載せなくていいから…

 

59:名無しさん ID:MLL3LBIjd

以下汚部屋スレ

 

 

 



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ワールドツアー

「——流れは以上になります。ご不明な点はございますか?」

「大丈夫です!普段試合を拝見しているので抜かりはありません!」

「葵さんが人気になってから当球団の収入も増えましたからね、本当にありがとうございます」

「恐縮です!」

 

 6月某日。待ちに待った始球式の日がやって来た。

 場所は埼玉の所沢。世間のオタクくん達が文句を言いがちなドームもどきである。これでもアイマスのライブでは「ドームですよっ!ドームっ!」と言われた、壁がないだけのれっきとしたドーム球場なんだけどなあ。世の中世知辛いのじゃ……

 

「ママはいつものバックネット裏にいるからね。頑張ってきて!」

「ストライク送球を見せてあげるよ」

 

 お母さんは契約している年間シートで待機している。私と同じように関係者席で感染する事も可能なのだがそれは断っていた。バックネット裏は1番近くで観れるため態々見えにくい場所に行く必要もないからね。

 

「本日お相手してくれるのは粟山さんです」

「最高に嬉しいです。サイン強請っても大丈夫ですかね?」

「彼の登場曲は八色さんの曲なので問題ないと思います」

 

 粟山さんとは、近い将来に球団初の生え抜き2000本安打を達成するレジェンドだ。相方の外村さんは今シーズンは不調だが、来年度には千葉選手(1チームの総本塁打数)との壮絶なホームラン王争いを繰り広げてくれるはずだ。

 球団職員さんからOKを貰えたので試合後にサインを頂きに行こう。

 

「八色さん、時間です!」

「了解です!」

 

 待機していた通路からグラウンドへ走り出す。登場曲は先日リリースしたニューシングルをかけてもらった。休日という事もあり、満員のお客さんが詰め掛けてくれてるのが分かる。毎日これくらい来てくれたら金銭面で他球団に負ける事はないんだろうな。

 

『本日の始球式を務めるのはソロアーティストとして活動中の八色葵さんです!』

 

 球場アナウンスに合わせて全方面にペコペコお辞儀をしてマウンドに上がった。踏板よりも前はピッチャーの方が投げやすいよう、足を踏み入れてしまわないように注意しないと。

 

『それでは八色さん、お願いします!』

 

 合図が出たのでグローブを構える。投球フォームは近未来において日本人最速を叩き出し、メジャーでも二刀流として大ブームを起こしたあの方を見本にしている。

 2022年シーズンも大爆発してくれたであろう彼の活躍が見れなかった事が心残りではある。肘の手術の影響も無くなって来る頃だろうし、異次元だった2021年よりもパワーアップしてるだろうなあ。

 

 左脚を上げ右脚に全体重をかけてから踏み出し全力で腕を振る。投げたボールはストライクゾーンより少し外に外れてしまったが、粟山さんがお約束である空振りをしてくれた。ワンバンはしなかったしカッコは付いたかな。

 

『ナイスボール!球場の皆様、今一度大きな拍手をお願いします!』

「ありがとうございました!」

 

 監督との撮影会を終えた後は球団職員に接待を受けながら試合観戦をした。結果は絶不調の外村さんの満塁ホームランもあり9対0での完封勝利。

 これで私の現地観戦無敗記録がまた1つ伸びる事に。いつかは途切れるだろうけど出来るならずっと勝ち試合を観たいな。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 7月。夏休みは時間が有り余ってる事もあり世界を巡ってライブ三昧の日々を過ごす。有難い事に多くの企業がスポンサーとして名乗りを上げてくれたのでワールドツアー自体は黒字の見込みだ。

 チケットも最低価格1万円という割高設定なのに全て掃けてしまった。グラミー賞の影響力を強く感じる。流石は音楽界の最高栄誉だ。しゅごい……

 

「葵、お疲れ様」

「生放送だったからマイケルが放心しないかドキドキだったよ」

「突然新アルバムの見所を聞かれない限りはヘマはしねぇよ」

 

 アメリカでのツアーを終え、移動日を明日に控えた今日は現地のテレビ番組に出演していた。

 共演者は白人ラッパーとしては異例の人気を博しているエムエムさんだ。そのうちニコニコ動画では「エムエムさんが教えてくれるシリーズ」が流行るんだろうな。

 

「明日からはイギリスだったか?小学生なのに忙しい奴だな」

「時間が限られてるからね。本当ならアメリカも30公演くらいはしたいんだけど」

「4公演はクソ少ねぇわ。この国民が暴動を起こさなかった事にたまげたぜ」

「そもそもアメリカがデカすぎるんだよ。1週間の弾丸ツアーでダンサーやバックバンドの人達はヘロヘロになったもん」

 

 ツアーの順番はアメリカからヨーロッパへ渡り、オーストラリアを巡って日本に帰ってくる予定だ。その合間におじいちゃんに会いに日本に戻らなくてはいけないので夏休みに暇な日は存在しない。

 その関係でバックダンサーやバンドはそれぞれの国にいる人達を紹介してもらっている。会場の設置や片付けの人員も相当数居るので人件費はヤバい事になった。スポンサーが居なければ日本国内のみのツアーか、チケット代を爆上げする事になってただろうな。

 

「葵ちゃん、5人分だけ今日乗れる便が出たらしいけどどうする?」

「じゃあ前乗りしちゃおうか。他の2人は?」

「高野ちゃんには今急いで準備してもらってるよ。真由美ちゃんはその付き添い」

 

 収録後にホテルに戻ると欠員が出た飛行機を教えてもらった。出来るだけ早く会場を見たいので身内だけそちらの便に変更。他のスタッフさんはスケジュール通り明日の便で来てもらう事になった。

 

「お待たせしました」

「高野さん、突然の予定変更でしたけど大丈夫でした?」

「問題ありません」

 

 高野さんは4月から雇ったスタイリストさんだ。テレビ番組などに出演する際の服装はもちろん、アパレルブランドから送られてくる物の管理も任せている。今回のようなライブツアーでは、お母さんを通訳代わりにファッションリーダーとして各国の服飾関係の人の指揮を取ってもらっている。

 初めてのワールドツアーを経験して「ヘアスタイリストの相棒が欲しい」と要望を貰ったので探さないといけないな。

 

「フライトは3時間後だから少し急ごうか」

 

 西海岸からスタートしたアメリカツアーは東海岸のニューヨークでフィニッシュしている。今が18時だから時差も考慮すると向こうに着くのは朝の9時頃か。

 残りの宿題はまた今度にして睡眠時間に充てなきゃな。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「着いたー!」

 

 予定通り朝9時に到着した飛行機からロンドンの地に足を踏み入れる。今日はここからホテルへ向かい荷物を下ろした後にライブ会場の下見の予定だ。

 早速荷物を引き渡してもらい私服に扮した警備員を引き連れロビーへ出ると、取材陣が居ない事に気づいた。

 

「予定が変わっちゃったから、マスコミ達は明日空振りかな?」

「本来の予定であれば明日と言うより今日の夜ですね。そうなったらどっかのタイミングで取材を受けてあげ——」

『いたぞ!八色だ!』

「——居るじゃん」

 

 いくつかの局の報道陣が走ってくるのが見えた。どうやって嗅ぎつけたのか不明だが、彼らの望んだ画を撮りそびれる事はなくなったみたいだ。その執念に脱帽するよ。

 

「わわっ、一般の人も一気に来た!」

「バレちゃったかしらね」

 

 結局はアメリカの時と同じく警備員に囲まれながら移動した。手を振りファンサービスをしながらタクシーに辿り着いて一息つく。ロンドンはロックの聖地だろうに、随分人気を得ているらしい。

 

「これからは飛行機の便を変更したら情報を流しておきましょうか。その方が規制とかの対応もやりやすいだろうし」

「そっちの方が良いね。真由美ちゃん、お願いできる?」

「承知しました!」

 

 タクシーには2つのグループに分けて乗車している。前の車にはお母さんと高野さん、残りのコーディネーター組は私と一緒だ。こんな事なら送迎車も早めてもらえばよかったな。

 

『八色様、お手荷物の方をお運びします』

『チェックイン時間を早めても大丈夫ですか?』

『はい、問題ございません。お部屋までご案内致します』

 

 ホテルにはお母さん達の乗ったタクシーと同時に到着した。部屋まで荷物を持ってきてくれたポーターの方にはチップを渡しておく。

 

「そういえば、カリュシアはイギリスの事どう思ってるの?」

「イギリスの事?」

 

 由希さん達と別れ、部屋で荷物を整理しているお母さんに質問する。歴史的には英仏みたいにバチバチな関係が思い浮かぶのだが。

 

「ママの立場的には悪く言えなかったからねぇ」

「実際のところは?」

「スコットランドの独立を助けちゃった件もあるし、隣国と言えば隣国だからね。スポーツだと競争意識は強いかな」

 

 17世紀から18世紀にかけて、イングランドはカリュシアを支配地にしようとした歴史がある。その為にまずはスコットランドを併合しようとしたが、その動きを察知したカリュシアに阻まれてしまいご破算に。

 やっぱりと言うべきか、その流れがまだ続いてるんだな。

 

「じゃあ結構イギリスの事揶揄したりするんじゃない?」

「それは今度カリュシアに行って確かめてみてね」

 

 ヨーロッパの各国の関係は結構複雑だ。同じEUという枠組みにいる癖に、何かを争うことになるとここぞとばかりに煽り出すからな。逆行前ではドイツとイギリスとフランスの友人の貶し合いは見てて面白かった覚えがある。

 

「葵ちゃん、用意出来た?」

「準備万端です」

「表に送迎車を呼んであるから、それに乗って行くよ」

 

 ノックをして入ってきた由希さんに続いて部屋を出る。お母さんと高野さんはこれから衣装の確認に行くらしい。真由美さんは次に向かうフランスの調整だ。

 

「お昼は何食べたい?」

「特にこれといったものはないです」

「私はイギリス初めてだからスターゲイジーパイが食べたい!」

「なぜそのチョイスを……?」

 

 私も学会関係でイギリスに行った際に怖いもの見たさで食べられるレストランを探した事がある。由希さんと似たような事してたな。

 

「そんな由希さんにはマーマイトを塗りたくったパンをオススメします。もちろん飲むことも出来ます」

「マーマイトも挑戦したいけど流石に飲めないでしょ……」

「まあ、無難にステーキ&エールパイとかにしましょう。スターゲイジーパイと同じパイですし」

「じゃあ食べ比べだ!」

「チャレンジ精神豊富ですね」

 

 由希さんはどうしても食べたいと見えるので私が折れておこう。でも今のイギリスだとスターゲイジーパイの知名度は低いから、ロンドンで食べれるかは疑問な所ではある。

 

 11時頃にライブ会場に到着。最後の作業がされている様子を眺めつつ、ステージに上がらせてもらった。後で舞台裏映像として投稿するためにカメラを由希さんに預けておく。

 

「これがO2の舞台ですか」

「明後日から2日間使うから、気になる事があったら言ってね」

 

 会場のキャパとしてはそれほど大きくない。それでも世界で最もチケットを売れるアリーナでもあるのだ。

 この場でコンサートを開いてきた錚々たる面々と同じ場所でパフォーマンス出来るとは思ってもみなかったな。

 

「照明とかって動かせたりします?」

「ちょっと待ってね、聞いてくる」

 

 現場監督から許可を貰えたのでそのまま照明を点けてもらった。色とりどりの明かりが一斉に会場を照らす。

 

「これはテンション上がりますね!」

「流石はイギリス最大のアリーナだよ」

 

 その後は音響の確認もして下見は終了した。明日はバックバンドの人達との音合わせもあるので今日のうちに観光を終わらせないと。

 

「全然ない……私のスターゲイジーパイ……」

「コーンウォールの伝統料理ですからね。ロンドンでは難しいと思います」

 

 昼食の時間になったので会場にいたロンドンが地元の人に話を聞いてみた。ただ反応は悪く、中には存在すら知らない人も居る。日本だけ異様な知名度がある料理だなと改めて実感した。

 結局スターゲイジーパイは諦めイギリス料理のお店に入った。

 

「フィッシュアンドチップスは無難に美味しいね」

「揚げるだけですからね。下処理さえ怠らなければ不味くなりはしませんよ」

 

 ミートパイを食べながらイギリス料理談話に花を咲かせる。美味しい料理を求めて世界の半分を支配したと揶揄されるイギリスだけど、普通に美味しいものは美味しいよ。

 

「デザートのプディングも楽しみー」

「由希さんはイギリスのプディングって知ってるんですか?」

「え?プリンじゃないの?」

「あ〜。なら、ネタバレはしないでおきます」

「めっちゃ気になる」

 

 日本のプリンと同じ物を想像している由希さんをはぐらかしていると注文したプディングが運ばれてきた。その姿に由希さんは驚いていた。黄色の滑らかなスイーツを想像していたら出てきたのは蒸し料理でした、となればそんな反応になるよね。

 

「スイーツが美味しくないとかはないよね?」

「『プディングの味は食べてみないと分からない』って諺がありますけど、今回はそのままの意味で、実際に食べてみましょう」

 

 さっきまではゲテモノを所望していたのに甘いものには裏切られたくないらしい。イギリスのプディングもしっかり甘いので心配は要らないよ。

 

「これはこれで美味しいからヨシ!」

「それなら良かったです」

 

 その後はお母さん達と合流し、ロンドン市内を散策した。明日からまた忙しくなるので息抜きはしっかりしないとね。

 

 



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祖父母

一日が24時間なのって明らかにバグでは?
せめて48時間にしろ


 8月下旬、ヨーロッパツアーを終わらせ日本へ帰国した。到着した空港には警官や黒服の人達が大量にいて物々しい雰囲気に包まれている。

 

「超厳重体制だわ。ありがたやー」

「八色様はこちらにお願いします」

「承知しました。由希さんは夜のフライトに備えて休養をとっててください」

 

 国の職員の案内の下、普段のゲートとは別の所から外へ連れ出され、待ち構えていた黒塗りの自動車に乗り込んだ。色んな手続きをすっ飛ばしたスピーディな対応に、絶対遅らせてはならないという強い意志を感じる。これがVIP待遇ちゃんですか。

 

「皇居にてお召し物を替えていただき、音楽隊とのリハーサルがございます」

「衣装は以前に打ち合わせした物ですかね?」

「そう聞いております」

 

 車の中で今後の流れを改めて説明された。

 今日は遂に祖父母と対面する、と言うより国賓対応のパレードの中で私がパフォーマンスする事になっている。直接会話する機会はないだろうけど無様を晒さないように気をつけよう。

 

「おじいちゃんおばあちゃんは優しいから心配しないでね?」

「ちょっ!?それ言っていいの!?」

「平気平気。ママも一緒って事はこの職員さんは知っているって事だし。ね?」

「左様でございます」

「はえー」

 

 そんな簡単に知れる事なんだろうかと思ったが、向こうがお母さんと会いたいと言えば迎えの人にも伝わるものなのかな。

 

 初めての皇居に内心ドキドキしながら専用テントの中で用意されていた衣装に着替えた。顔がよく見えるようにと髪もアップスタイルに纏めてもらう。

 その後は音楽隊の人と音合わせをして出番まで待機である。

 

「あと30分ほどでこちらにお見えになります。準備の方をよろしくお願いします」

 

 用意された椅子に座りながら音楽隊の人達と雑談していると職員が声をかけてきた。

 私はまだ座ってて良いらしいが音楽隊の人達はキビキビ動き出して既に持ち場に立っていた。一般の演奏団とは異なり普段から訓練もしている彼らの動きは見ていて気持ちがいいものがある。大人になって自由な時間が増えれば観艦式とか観にいきたいな。

 

「八色さん、そろそろです」

「了解です」

 

 20分ほど周りをぼーっと眺めていれば時間がやってきたらしい。私も立ち上がり用意された台の上に移動した。聞かせるべき相手も少ないのでマイクは無しだ。

 これから遂にお母さん以外の肉親に、それも一国の王族と会うことが出来ると思うとドキドキしてきた。

 前世では知る由もなかったし、存分に今の私を見てもらおう。あなた方の孫は元気に暮らしていますよ、と。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

『あなた、ソワソワしすぎではありませんか?』

『そうは言うがやっと葵ちゃんに会えるんだぞ?これで落ち着いていられるものか』

『陛下が秘密裏に対談時間をお作りになられたのですから、それまでには平静を取り戻してくださいね』

 

 今は亡き陽仁さんと我が娘との間に生まれた子は、今や世界中でフィーバーを起こしている。その事を知った時は嬉しさと同時に安堵もした。

 血縁上、彼女はどうしても頼れる身内が少ない。その所為で寂しい想いをさせているのではないかと何度も心配していた。

 それでも、テレビで見た彼女は真っ直ぐに力強く生きている事が分かった。本当に強い子だ。

 

『国王陛下、こちらに』

『ありがとう』

 

 車から降りれば目の前には日本の陛下が。この機会を作ってくださった事に感謝してもしきれない。

 

『よくぞお越しになられました。久しぶりの日本はどうですかな?』

『お招き頂き感謝致します。国民の皆さんも温かく迎えてくれました』

 

 皇室お抱えのメディア用の対応を交わす。本心は今すぐに孫に会いに行きたくて堪らないが、それだと彼女に迷惑をかけてしまうので自重する。

 ……いや、娘の事がバレているならばもう良いのでは?そうだ、もう日の目に浴びてしまっているのだから今更だろう。……いかんな、気が昂ってる。一旦落ち着こう。

 

 式典用に設置されていたレッドカーペット上を陛下に並んで歩く。見えてきたのは大勢の演奏隊と1人の少女。

 

「これよりカリュシア国国王陛下並びに王妃陛下の歓迎式典を執り行います」

 

『——陛下、彼女が……』

『そうです』

 

 目に映るは圧倒的美。

 そして、娘譲りの青い、けれど様々な色が混ざりあった宝石の様な瞳。

 

 彼女が、世界を魅了してやまない、私の可愛いかわいい孫娘。

 

 音楽に乗って響く彼女の歌声に自然と涙が流れそうになった。高々10歳の少女に世界が魅せられる訳だ。贔屓目無しに、この美貌と歌声ならばいずれ世界を獲れると確信した。

 

 彼女のパフォーマンスが終われば盛大に拍手をする。大袈裟過ぎてテレビで放送される際に不審に思われるかもしれないが関係ない。身内贔屓かもしれないが、これこそが人生最高の催し物だったのだから。

 

『では移動しましょうか』

『はっ!』

『今から初対面になりますが時間は5分だけです。よろしいですか?』

『感謝の極みでございますっ』

 

 式典後に対談用に用意された部屋で彼女を待っている。隣に座っている妻もなんだかんだ言って待ちきれない様子が窺える。

 平時であればこの様子もメディアに撮影されるのだが、今回は特別に時間を空けてもらっている。こちらの我儘を受け入れてくれた日本国には頭が上がらない。

 

 そして、運命の時が。

 

「失礼いたします」

「失礼します」

「お忙しい所申し訳ありませんでしたね、葵さん」

「い、いえっ!両陛下とお会い出来る栄誉を賜りました事、光栄の至りでございます!」

「この場は親戚の交流の場ですので、楽にしてくださいね」

「っ!?」

 

 陛下が早速話を進められたので私もリーナに目配せをして合図を送る。こくりと頷いた娘が口火を切った。

 

『お父さん、お母さん。久しぶりです』

「えっ!?いいの!?」

『リーナ、久しぶりだね』

『元気そうで安心したわ』

『ほら、葵ちゃん』

『えーっと……はじめまして、葵、です?葵でございます?』

 

 その言葉に思わず彼女を抱き締めてしまった。

 

「わわっ!」

『はじめまして!おじいちゃんです!』

『おばあちゃんです!』

『大伯父です』

『義大伯母です』

「あっはい……ん????」

 

 突然の事に混乱しているのか反応が薄い。もっと「わー!おじいちゃん!」みたいに抱き締め返してくれてもいいのだが。

 とりあえず葵ちゃんを解放して椅子に案内する。この部屋には側近すら居ない、本当のプライベート空間になっているので存分に会話を楽しめる。

 

『いやー、葵ちゃんがワールドワイドになってくれたおかげで会いに来る事が出来たよ。凄い!自慢の孫娘!』

「あっ、すごいお母さんみを感じる……流石は親子」

「ニホンゴワスコシナラハナセルヨ!」

『すみません!つい癖で……』

 

 慌てている姿も可愛い。母国にいる孫達も含め、なぜ孫という存在はこんなにも可愛いのだろうか。

 

『気にしない気にしない。でも、本当に会うのを楽しみにしていたんだよ』

『お父さんなら葵ちゃんが生まれた時に会いに来るかと思ってたわ』

『リーナ鋭いわね。でも流石に一般人に狙って会う事は出来ないからみんなに止められたわ』

『それはそうでしょ』

『そんな事が……』

 

 仮に葵ちゃんが日の目に当たらない一般人であれば一生会えなかったかもしれない。カリュシアに来てくれれば、もしかしたら程度まで可能性は上がるが。

 

『葵さんがグラミー賞を受賞してくれた事は渡りに船でした。こうして場を設けられたのですから』

『陛下っ……あれ、先程仰っていた事って』

『私共も葵さんの親戚なのです』

『あっ、言い忘れてたわね。葵ちゃんのパパは元皇族なの』

「?????」

 

 またしても混乱の渦に舞い込んでしまった葵ちゃんだけれど、残念ながら時間も限られている。伝えたい事を話さなければ。

 

『ほら葵ちゃん。大丈夫?』

『うん……いやいやいや、待って待って。情報で殴りつけないで』

「陛下、お時間でございます」

 

 ノックの後に職員の声が響いた。この後は国賓としての仕事が待っているのだ。その前に悔いは残したくない。

 

『葵ちゃん。生まれてきてくれてありがとう。これからも元気な姿をおじいちゃんおばあちゃんに見せてほしい。テレビの向こうで応援しているよ』

『私共も葵さんの活躍を楽しみにしています。今度会う時迄にはミクちゃんの事を勉強しておきますね』

 

 陛下と2人して葵ちゃんの手を握った。小さいと思っていた彼女の手は存外に大きい。嗚呼、本当に、よくここまで育ってくれた。

 私達の言葉を目を白黒させながら聞いていた彼女は一旦深呼吸をしている。

 そして。

 

『はい!お任せあれっ!』

 

 その笑顔は、世界を照らす太陽のようで。キラキラと眩しく輝いていた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「いやダメでしょお母さん。すんごい大事な事を言い忘れてたよね?」

「ごめんね〜?でもほら、今回知れた訳だし」

「驚きすぎて頭がおかしくなったと思ったよ!」

 

 今日の仕事を終え空港に向かう道中、父の血縁を伝え忘れていたお母さんを詰問する。ワザとやっているのではないかと見紛うレベルだ。

 ……よくよく考えてみれば、前世でもこんな大きな爆弾を抱えて生活していたのか、私。

 

「もう秘密な事は残ってないよね……?」

「それは大丈夫っ。パパの事で最後だよ」

「はぁ〜……」

 

 もう、全くもうだよ、本当に。

 とりあえずは私の血筋という爆弾は中学生までは爆発しないらしい。その後にどうするのかはまたその時になったら決めるとの事。

 態々公表する必要は無いと思うんだけどなぁ。

 

「もしかしたら、おじいちゃんが暴走して言っちゃうかもしれないから。そうなったら最悪引っ越しかしらね」

「はあぁ!?」

「まあ大丈夫でしょ。今住んでる地域の人達は何となく察してるみたいだし、それでも問題は起きてないからね」

「それなら良いんだけど……」

 

 流石に言わないと信じよう。

 

 それよりも今日は疲れてしまったので何もしたくない。けどここから空港に移動してオーストラリアにフライトだ。忙しいったらありゃしない。

 次にワールドツアーをする時は1年かけて回ることにしよう。夏休み中だけで日本以外を終わらせようとしたのがバカだった。

 

 空港にて由希さんと合流、ラウンジでシャワーを浴び一息ついた。

 

「流石の葵ちゃんもお疲れだね」

「由希さんは今までどちらに?」

「私はホテルで仮眠を取りながらオーストラリアに先に着いた組と連絡を取ってたよ」

「ご苦労さまです」

 

 フライト時間までまだ4時間はある。遅めの昼食を食べながら何をしようか悩むな。

 

「葵ちゃん、寝ちゃったら?時間になったらママが起こしてあげるから」

「いや、今寝ると機内で寝れないかもしれないから止めておくよ。向こうとも時差はそんなに無いし」

「私も寝た方が良いと思うな〜。ロングフライトに気を張った仕事と立て続けになったし、多少は昼寝しても夜はグッスリ寝れるよ」

「そこまで言うなら、少し寝ます」

 

 仕事中の由希さんには申し訳なく思いながらも、お言葉に甘えて仮眠を取る事にした。元はと言えば私が無理に決行した過密日程なので自業自得な面が強い。このワールドツアーが終わったら遠征メンバーには存分に休暇を取ってもらおう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「はい、雑談配信始めまーす」

 

はい

久しぶりじゃねーか!

はい

生存確認

こんばんは!

ライブツアーお疲れ様

はい

久しぶり

ばんちゃ

元気そうでよかった

はい

 

 9月に入りワールドツアーも残すところは日本だけどなった。日本での公演は週末や連休中に行う予定なので平日は久しぶりにゆっくり出来る。

 

「ミクちゃん達を世界に布教する旅が終わった訳なんですが、何から話しましょうか」

 

日本はまだ終わってないじゃんかさ

布教……布教?

東京公演当たりました!

日本でも受け入れきれてないのに海外は無理でしょ

おじいちゃんと会ってどう思った?

全国ツアーはよ

ぶっちゃけどれだけ儲けた?

無理に押し付けるのはNG、最悪の場合マイナス感情でイメージが固まる

各国の旅動画か舞台裏動画ちょーだい

日本は最近のボカロ勢の勢い凄いけどね。プロデビュー組何人もいるじゃん

 

「布教と言っても、スクリーンに出すとかそういうのでは無いですから安心してください。ボカロ曲のシングルを会場で売り捌いただけですので。利益は禁則事項です」

 

それなら問題ないな!

外人達の困惑してる顔が容易に想像できる

売っただけなら問題ないよね、うんうん

やるじゃねえか

買っていく奴いたの?

外人「作詞作曲は八色葵?なら買うか」

自発的に買っていく分には問題ねえわ

禁則事項は未来人の特権だよ?さあキビキビ話すのです

騙されてて可哀想wwwwww

禁則事項使いということはやはり人生n周目

 

「みなさん喜んで買って行ったので平気平気。舞台裏映像は個人的なカメラで撮ったものだけ投稿予定で、公式な映像は円盤で販売します」

 

うおおおおおおお

ライブ当たらなかったからありがてえ

約40日で世界を巡るトンデモツアーを映像化か

うおおー!!買うぞー!

まーた財布の紐が緩んじまうよ……

小学生からそんなに稼いで何に使うの?

おじいちゃんおばあちゃんと会った感想を!

日本ツアーが待ちきれねえわ

撮影スタッフ今頃死んでそう

 

 こう、コメント欄が日本語だらけだと「あぁ、日本だなぁ」と実感出来る。

 夏休みは休みじゃなかったし、9月の平日に疲れを取るという意味不明な事になりそうだ。



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CM撮影

 校内音楽会などのイベントを消化した11月、私以外の日本のYouTuberもチャンネル登録者数100万人を超えるグループが出てきた。

 ニコ動で活動している生主やゲーム実況者もチャンネルを開設し出し、コンスタントに再生回数を伸ばしていっている。

 

 日本YouTube界の成長に遅れをとらないべくニコニコも海外向けサービスを開始。対応言語を日本語、英語、スペイン語、アラビア語、フランス語に拡充、順次増やしていく事も発表した。

 それぞれの言語のコメントは分けているが設定で全てのコメントを見る事も可能となった。

 画質問題と生放送の視聴者数を増やしてくれという思いもあるが、動きが早い点については賞賛する。海外サービスが成功するかは別だろうけどね。

 

「社長、来年のイベントへの参加案内が来ていますがどうなさいますか?」

「長期休暇中じゃなければ無理と言っておいてください。その際はまた特別ビデオを送ります」

 

 真由美さんからYouTube本社のイベントの出席確認が来た旨を知らされたので例年通りの返答をお願いした。

 今までの会場はアメリカ国内であった事もあり参加は見送ってきた。ただ日本のYouTuberも増加中なのでそろそろ日本国内向けのイベントも開かれるだろう。そうなれば日程次第で参加は出来るかな。

 

「迎えの車が来たよー」

「りょーかい。高野さん、行けますか?」

「はい、問題ありません」

 

 今日はファッションブランドのCM撮影が予定されている。身長は149cmと少々物足りなさを感じるがそれでも良いらしい。

 お勉強会も兼ねて高野さんと由希さんを連れスタジオに向かった。最近はお母さんが着いて来る事も少なくなり、今日は真由美さんと一緒に他の番組の打ち合わせに行っている。親離れ、子離れとは少し違うが、私も大きくなったんだなぁ。

 

 到着したスタジオにて流れを説明されながら最初の衣装に着替える。

 地上波用のCMは真っ白な壁を背に指定されたポージングをしながらの撮影だ。セットを使わないCM撮影は初めてなので何度かテイクを重ねてOKを貰った。

 見本として来てくれたモデルさんは一発で成功させるカッコイイ姿を見せてくれた。身長も170cm半ばという私の憧れに近い体型をしているし、羨ましいな。

 

「どうしたら背が高くなりますか?」

「私は両親が2人とも高かったから遺伝だろうね」

 

 結局遺伝かよ!もっとこう特別な食生活とか無いのかな。

 

「八色さんは今が成長期?」

「1ヶ月で1cmくらい伸びるので多分そうだと思います」

「本当は栄養士に相談した方が確実だと思うけど、私の成長期はカルシウムやビタミンをいっぱい取る事を目標にしてたかな。もちろん肉体の元となるタンパク質も大事だね」

「ふむふむ」

 

 タンパク質やカルシウムなら私も意識して取っている。ビタミンやミネラルもネットで調べた通りのものを不足しないように気をつけているので特別な事はないのか……やっぱり最後にものを言うのは遺伝なのかな。

 

「八色さんのご両親の身長は?」

「どちらも173cmくらいだと思います」

「なら不摂生しなければそれくらい行けるよ!」

「ありがとうございます」

 

 どうせなら夢の180cmが見たいのだが。私の遺伝子くんの優秀さに賭けておこう。

 

「次はネット動画用の広告になります。撮影セットを整える間にお昼休憩をしちゃってください」

「了解しました」

 

 スタッフに言われた通り、午後からはネットで流すCMの撮影になる。こういう所でも動画共有サービスの成長を感じられるので感慨深いものがある。今は大企業と呼ばれている会社の広告が多いけど、そのうちネット広告でしか見ないような企業も出てくる事になるんだよな。

 

 昼食は用意されていたお弁当をいただきそのまま衣装替えへ。午後の撮影はグリーンバックを使用して後で違う映像と合成する流れだ。

 その都合で私は簡素なセットの中で実際に物があるような演技をしなければならない。

 想像力を働かせて迫真の演技をする事3時間、やっと収録が終わった。表情や動きをサンプル動画と合わせるのが難しいのなんの。やっぱり慣れない事はするもんじゃないよ。

 

「お疲れ様。明日のナレーションのお仕事は今日より楽なんじゃない?」

「ただ台本を読むだけなら問題ないです。お芝居の仕事は今後も断った方がいいかも」

 

 撮影後、由希さんに役を演じる系の仕事は向いてない旨を言っておいた。今まで時間が無かったのでドラマや映画への出演依頼はキャンセルしていたがそれが正解だったとは。

 

「慣れればイけると思うんだけどなー。まあ、そこは追々だね」

「社長、お疲れ様です」

「高野さん、何か面白い話は聞けました?」

「はい!世界と日本の流行りを現場レベルで再確認出来ました」

 

 高野さんは業界の人と最近の流行について楽しそうに語り合っていた。ヘアスタイリストも12月から雇うので、彼女の労働環境が整って来たと思う。

 

 帰りの車の中で今日のツイートを投稿し、そのままネットサーフィンへ。何やら近いうちに画像付きでツイート出来るようになるとの記事を発見した。

 これが事実であれば逆行前よりも早い段階で事が進んでいる。色々変わった事が出てきたので知識チートの限界も見えてくるかもしれない。

 なお例の仮想通貨が価値を持ったピザデーの日付は変わらなかったもよう。個人マイニングで8000枚も集めたので後は放っておいていいかな。あまり個人で持ちすぎるとクラッカーに狙われるかもしれないし。

 

「本日はお疲れ様でした。高野さんは明日お休みですのでゆっくり休んでください」

「ありがとうございます」

「私は明日もオフィスに居ればいいんだよね?」

「それで大丈夫です」

 

 明日は公共放送のとあるスペシャル番組のナレーション収録が予定されている。視聴率が取れるという事も手伝い、最近はどのテレビ局も破格のギャラを提示して来る中、こういった仕事は初めてだ。

 内容も私の望んだ流れになっているので勿論了承した。私のチャンネル登録者数が1000万人に近づいてると言っても、流石にテレビ番組の影響力には敵わないからね。特にお年寄りも見るという点が大きい。

 

「ママただいま帰還!」

「お疲れ様でーす」

 

 コーヒーブレイクを楽しんでいると外回りをしていた2人組が帰ってきた。時間も17時になるのでそろそろ帰宅しようか。

 

「リーナさんも戻ってきたし、葵ちゃんは帰っちゃいな」

「そうですね、ではお先に失礼します。戸締りの方よろしくお願いします」

 

 土曜日の定例ミーティングをWeb会議に切り替えたので残っている人は由希さんと真由美さんだけだ。彼女達は交代交代で休みを取ってもらっているけど、流石に働かせ過ぎな気がしてきた。2人に相談してマネージャー業務専門のスタッフを雇った方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 2年ほど前より発売される大半のゲームには動画投稿をしてもいい旨の注意書きがされるようになった。ゲーム実況者の登場によりメーカー側の利益が増えた事が原因との事。

 

「この無音のゲーム、面白いですか?」

 

ホラーゲームだぞ

ちゃんと怖がって

面白いかどうかではなく怖いかどうかなんだが?

ちゃんとbgmかかってるだろ!

どうして青鬼にならなかったのか……

そろそろハサミが出てくるぞ

葵ちゃんが怖がらないのでつまらないです

視聴者のアンケートの偏りがね

お前らもいい加減ホラーゲームで怖がらせるの諦めろ

 

 そんなゲーム界の情勢を無視してアンケートで決まった懐ゲーをやっている。なぜこれが選ばれるのか……飽きたらコメントの言う通り青鬼のRTAでも走ろうかな。

 

「おや、怪しい部屋にたどり着きましたね。とりあえずカーテンをドーン!……はい、1人目の犠牲者です」

 

ローラちゃん可哀想

絵が絵だから怖くないんだよなぁ

グロE

もっと違う感想あるだろ?

キャァァァァ!!代わりに叫んでおいたよ

ハサミくんとご対面

シザーマンの動きがシュール

逃げろ逃げろ!

モンハン新作予約した?

シャキンシャキン!

 

クロックタワーシリーズ恒例のシザーマンと初遭遇、とりあえず部屋から脱出した。

 

「ここで左右の選択がありますが私は左派です。モンハンは買いますよ。名前はもちろんHUNTERです」

 

右行こう

→→→→

右右右

急いでも良くないよ、右行こう

ふんたーwwwwww

なぜRTAを始めようとするのか

ふんたーはダメでしょ……

逆にHUNTERネームで啓蒙活動してほしい

なにしてるの?はやくみぎいこ

ふんたーって何です?

 

「えー、右ですか?ハサミの音がするんですが……ほら居た。ふんたーは今度なりきり動画を投稿しますね」

 

こいつさっきまで部屋の中居たよな?

ハサミを素手で掴む猛者

ふんたーを知らない人は目の前にある機器で調べよう!

それ掴んだら痛いでしょ主人公ちゃん

瞬間移動おじさん

ひめいちょうだい

扮さなくていいから……

流れるように階段登って物置部屋へ

啓蒙活動だからセーフ

今度は沙耶の唄やって♡

今更ながらなんでクロックタワーなの?絶対知らない奴多いじゃん

実名系の地雷プレイヤーも多いんだよなぁ

CoDやろう

 

「背の高い所をよじ登れるのは火事場の馬鹿力なのでしょうか……飽きたら青鬼RTAを走ろうかと。あっ、撒けたので探索再開です」

 

迷いのないカーソル裁き、オレでなきゃ見逃しちゃうね

さっきは登れたのに今は登れないんかい!

ポケモンやろ?

ランダム配置のアイテムがうんちだからなこのゲーム

知らない奴が多かろうとアンケートは絶対なので

沙耶の唄は18禁なので無理、つーかニトロをやらすな

RTA大好きか?

あおおにやろ

人生の偉業獲得RTAしながらゲームもRTAするのか……

何でもRTAしようとする女

 

 シザーマンに会わないと画面映えしないので適度に召喚する事30分。

 

「飽きました!もー飽きました!違うゲームに移りましょう!というかアンケートの選択肢でコメント欄にあったこれを採用したのが馬鹿でした!」

 

名作ホラーゲームをディスるな

盛り上がりがね……

配信許可貰っておきながら投げ出しちゃいかんでしょ

FPSやろうよ

ポケットなモンスターが君を待っている!

私は怖かったのでありがたいです

アンケートに投票したお前らさあ……人の心は無いんか?

クロックタワーを貶したな!法廷で会おう!

採用した葵ちゃんが悪いのでは?

CoDの時間だあああああ

一乙してから終わろうぜ

とりあえず最後までやろう

視聴者が飽きる前に止める好判断

今ならもっと怖いゲーム他にあるだろ……

 

「FPSやっても良いんですが年齢突っ込まれそう。という事で青鬼RTAやります」

 

 そうなんだよ、怖いゲームなら他にもあるだろと私は言いたい。話しながらソフトを立ち上げ準備をする。

 

ほんとに辞めちゃった

あと1時間くらいやればある程度のend見れたのに

年齢に関しては今更では?

Z以外は推奨であって禁止ではないから大丈夫

お前時々自分が小学生な事思い出すよな

青鬼の前に君のせいで研究が活発化したマリカーの責任とろうか

マイクラ久しぶりに見たいな

 

「マイクラは来年辺りに正式版が出るらしいですね。マリカーは皆さんが頑張ってるので……FF6の面白いバグがあるので今度はそっちを解説しましょう。はいよーいスタート」

 

マイクラそうなんだ

マイクラって何?

まーたゲーム壊すのか……

息をするようにRTAをする女

葵ちゃんのせいで変態走行タイムアタッカーが溢れちゃった

ff6とか葵ちゃん生まれてないでしょうに

まじで青鬼始めちゃった

ff6の面白いバグ?

あれ、洗剤とか取らないの?

 

「洗剤もハンカチも時間の無駄なので。金庫は5つのパスワードがランダムなのでRTA走者の皆さんは覚えましょう。オススメは6799でそれ以外はリセです」

 

そうなの!?

知らん知らん

お前夏休み無かったくせにいつ調べたんだよ

50へぇ

青鬼くん登場

リセット基準がガチすぎる

このガン無視である

葵ちゃんは人生n周目だから物知りだなあ

よく考えると一つ下の階に躊躇いなく落ちるヒロシ凄い

鍵盤を無視して金庫か

うわ、ほんとに開いた

 

 その後もUターンバグなどを駆使して7分代でエンディングへ。バージョンが若いのもあるけど現時点では最速なのではなかろうか。

 

「明日はお仕事があるので今日はこの辺で終わろうかと思います。では」

 

待て待て待て

いかないで

お仕事頑張ってください!

すぐ終わらせる癖を直そうよ

完走した感想を言うんだ!

あっさりすぎる

おやすみ!

行っちゃやだ

この分だとff6のバグが楽しみすぎる

おやすみなさい!

 

 



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分岐点その2

「八色さん、到着しましたよ」

「ありがとうございます。帰りの際はまたご連絡します」

「了解です」

 

 午前11時、ナレーションをあてるため東京某所にあるスタジオに来ていた。

 受付係から通行許可証を受け取り楽屋へと案内してもらった。

 

「今日は軽い打ち合わせをしたらお昼を食べてそこから収録の流れだよ」

「いつも思うんですけど、それなら午後集合でも良いのでは?」

「実の所、それでも問題は無いんだよね。人によっては本当に時間ギリギリに局入りとか稀にあるし。ただ余裕があった方が良いでしょ?はい、あったかいお茶」

「そういう人も居るんですね。ありがとうございます」

 

 ディレクターが来るまでの時間を利用して新曲のメロディの打ち込みをする。

 最近、「恋愛ソングを作れ」との要望が増えて来た。需要があるならと作曲してるがなかなか納得いくものが出来ない。恋愛ソングから現実逃避しながら作る曲は良い物が出来るんだけどなあ……

 

 そもそも私の恋愛経験値がゴミである事をみんなは知らないんだよね。付き合った経験なんて中学時代と大学生の時の2回だけだし。

 それも中学の頃の子は彼氏という存在をアクセサリーか何かのように見せびらかす事を目的としていたので、高校進学と同時に連絡を絶った。

 大学の時の子は3年ほど続いたが、彼女が就職、私が院進と生活リズムが乖離してしまった為に話し合いの末別れた。

 

 どちらも相手側からのアプローチだったから失恋もないし、恋愛したという感覚も薄い。これで恋愛ソングを書けと言うのが無理な相談だよ。

 

「ラブソングなら歌ってほしいって依頼来てるよ?」

「他人の恋愛ソングを歌うのはなんか自分の中で抵抗が……」

「カラオケとかじゃ歌わないの?」

「カラオケだと歌いますが、売りに出すとなるとまた違うじゃないですか」

「そういう事もあるのね〜」

 

 他人の経験や気持ちを私が声をあてて売る事に何とも言えない忌避感がある。この気持ち、分からないかなぁ。

 

「そういえば、由希さんは結婚とか考えないんですか?今年で30歳でしたっけ」

「葵ちゃん、女性に歳の話は厳禁よ。特に、20代後半くらいの女性にはね」

「つまり結婚願望はあるんですか」

「そうだよ!焦ってるよ!」

 

 投げやりに答えて来た由希さんからは彼氏さんとの話を聞いた事がなかったな。もしかして忙しすぎてそんな暇が無かったとか……?

 

「やっぱりマネージャー業の人員を増やします?」

「なんか気を使われている気がするけど、彼氏はちゃんと居るからね?」

「そうなんですか!?」

「今の反応で私の心に深い傷が……」

「だって話に出てこなかったですし……」

「聞かれなかったからね。なお彼氏は浮気性な模様」

「ええ……」

 

 由希さんがダメンズ好きだとは思わなかった。曰く、まだ責任は取りたくないから結婚は考えてないとの事。そんな奴さっさと見切りをつけちゃえばいいのに。

 

「この歳と仕事内容を考えると、次の出会いがね……」

「マネージャー、増やしましょうか。そうすれば由希さんや真由美さんの仕事も大きく減りますし」

「……そうね、お願いします」

 

 コーディネーターと言いつつ専属マネージャーも兼務していた彼女達だ。歌手関係の調整だけでも大変だろうに働かせすぎてたな。お給料が良くても時間が無ければ何も意味ないしね。

 

「八色さん、遅れてしまい申し訳ありません」

「問題ないです」

「ありがとうございます。では本日の流れをご説明します」

 

 由希さんとの話が一区切りついた所でノックと共にディレクターが入ってきた。

 この特別番組は阪神淡路大震災の発生した日付に合わせて2週連続で放送される。

 高齢化と共に地域のコミュニティが崩壊しつつある昨今の防災計画に焦点を当てながら、去年の豪雨災害、今年のチリ地震及び太平洋湾岸を襲った津波、そして国の研究機関が明らかにした東北地方での400年から800年周期の巨大地震の可能性。

 それら全てを豊富な資金を元に緻密なCGで再現される。

 

 正直に言うと、よくそこまで掘り下げたなという気持ちが強い。私もUnityで映像を用意しているがどうしても臨場感に欠けてしまうのが悩ましかった。それを公共放送の力でやってくれているのだから手助けしない理由がない。

 

「では13時にまた伺いますので。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

 

 収録の時間までは自由なので外にご飯を食べに行ってもいいらしい。面倒なので用意されているお弁当を頂くけど。

 

「テレビ局によってお弁当の種類が変わりますよね〜」

「局の違いもそうだし収録番組によっても変わるみたいだよ」

「予算とかの問題ですかね?」

「私も詳しくは知らないけど、多分そうなんじゃないかな」

 

 番組収録の際に食べるお弁当は密かな楽しみになりつつある。それぞれの局でお弁当会社もオカズの種類も全く違うのが面白い。今日は白米ではなくキノコの炊き込みご飯となっているので高ポイントだ。

 

 由希さんと話しながらお弁当を平らげ、暇つぶしに携帯を弄っていると再びノックの音が聞こえてきた。

 

「お待たせしました。では移動しましょう」

「了解です」

 

 案内された場所はどことなくレコーディングスタジオを彷彿とさせる部屋であった。違いは椅子の前にマイクと映像を映す画面があること。ラジオ番組がこんな感じの部屋でやっているのを見た事があるな。

 

「マイクの音量などはこちらで調整しますので、普段通りに話してくだされば大丈夫です」

「分かりました」

「こちらの画面に実際の放送映像と字幕が出ます。読むスピードはその字幕の色の変化に合わせてください」

「カラオケみたいな感じですね」

「そんな感じです。では早速オープニングの声入れをしてみましょう」

「はい!」

 

 映像がちゃんと映される事を確認してから最初の収録が始まった。ミスも無く進めば2時間もかからず終わる予定だ。感情を入れる事もないので恐らく大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オッケー!八色さん、お疲れ様でした!」

「お疲れ様です!」

 

 昨日のCM撮影とは打って変わってリテイク無しで終了した。やっぱり演技のお仕事は絶望的に合わないだけなんだろうな。

 

「ちなみになんですけど、さっきの津波の再現VTRのデータを頂く事って出来ないですよね……?」

「んん〜……今すぐには判断出来ないですね。何かに使われるのですか?」

「今回の内容に深く感銘を受けたので、放送後に改めて取り上げたいと考えまして。無理は承知の上ですので聞き流してください」

「いやいや!八色さんであれば問題はないと思いますよ。ただ私の一存では決められないので後日連絡を差し上げてもよろしいですか?」

「はいっ!それで大丈夫です!ありがとうございます!」

 

 ダメ元で映像を借りれないかと頼んでみれば存外にも色好い返事が戻ってきた。何事も言ってみるものだ。

 

「本日はありがとうございました。今年も年末の歌、楽しみにしていますね!」

「こちらこそ無理を聞いていただきありがとうございます。期待に応えられるよう、頑張ります!」

 

 いやー、私の行動のバタフライエフェクトかもしれないが、世間の人が自発的に動いてくれるのはありがたいわ。

 これで最善なのは地震が来ない事なんだろうけど、それはもう神頼みだ。願わくば犠牲が少しでも小さくなることを。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 12月。今年もグラミー賞のノミネート作品が発表された。嬉しい事に私も6部門にノミネートされ、見事に大物の仲間入りだ。

 なお女性系の部門には去年の女王様も居るので受賞は望み薄な模様。爆発的人気を得ているが流石に積み上げた年数の違いが大きすぎる。

 まあ詳しい枚数は知らないし評価基準も色々あるので期待だけはしておこう。

 

「先週のアナイマ杯は色々ありましたね」

 

狩りしながら話す内容がそれかよ

その話は今禁句だから

アルバトリオン君が虐殺されとる

トイレ行ってたら最初の自傷儀式見逃したわ

なぜ葵ちゃんも参加したのに申し込まなかったのか……

次は縛りプレイしよう

てかシークレット参加すな

名前のHUNTER見るだけで笑いが込み上げてくる

弓つえええええ

もうこ君さあ……

 

 秘密裏に参加したアナイマ杯は逆行前とは違いもうこさんが運営を投げ出す事はなかった。

 ただし運営能力を過信した件と切断をした事、そして事前に搾取した事でまあまあの炎上。それは仕方ないので頑張って消火してほしい。

 

「号泣謝罪配信していたのでこれからの姿勢で許してあげてください。おっ弱ってきましたね。っぱ火事場ですよ、この火力はいつ見ても惚れ惚れします」

 

俺の怒りが有頂天

俺には害がなかったので許した

猫火事勢は正直イカれてると思ってる

その弓のエイム力ヤバすぎない?

もうこ君、葵ちゃんとのコラボチャンスを潰してしまうプレミ

叩いてる奴の大半は叩ける奴を探してるだけだからな

(搾取に関しては葵ちゃんが参加するプレッシャーがあったのでは?)

3rdは難易度低いから言うほど難しくはない

縛りプレイを所望する!楽な狩りをするな!

コメに黄金の鉄の塊のナイトがいるじゃん

アルバトリオンくん、死す!

 

「はい勝ちー、人間はモンスターに負けないため。それでは剥ぎ取りタイムです。いい加減天角落としてくれないかな」

 

はい勝ち〜

そこはかとなく漂うクソガキ臭

はい勝ちー

もっと生意気な感じで頼むわ

そういえば天角目当てだったね

葵ちゃんの「はい勝ち」勝鬨好き

逆鱗ばかり落ちるその運俺にもくれ

俺も天角目当てで乱獲してるわ

葵ちゃんのやるゲーム買いたくなるからズルいわ

どうせ今回も逆鱗だぞ

葵の大晦日の出番って何時?

 

「逆鱗はもうお腹いっぱいなんだ……大晦日の時間帯は秘密です。言ったら私が怒られちゃいますから」

 

それはそう

部位確定報酬で必ず低い確率を引く葵ちゃん

ちょっとくらいゲロってもバレないバレない

どうせ21時前のどこかだぞ

年齢で時間帯は絞り込めるんだよなあ

グラミー賞歌手様を日本のテレビで見れるとは、恵まれてるわ

そのエイム力、お前もFPSをやってみないか?

さてさて報酬は……

名前いい加減変えようぜ

今更ながらなんで男アバターなんだよ……

はい逆鱗

ふぁーー

豪運すぎるだろ、なお逆鱗

 

「また逆鱗!?なんでぇ!?……こいつ、本当に10%か?体感80%くらいあるんですけど」

 

 またしても部位破壊報酬の確率が逆鱗に吸われてしまった。なんなんだよこいつ、もう要らないぞ。

 

乙乙

ファーwwwwwwwwww

その運俺にくれ!!

確率が収束すると思ったら大間違いだぞ

私、ソロで勝てないんですけど何かコツありますか?

偏りが酷すぎる

この逆鱗攻めのせいで葵ちゃんのTAが極まってしまってる件

意味のない狩りだよ

10%を信頼するな、ポケモン初代だとスピードスターだって外れるんだぞ

確率なんて飾りです!偉い人にはそれが分からんのです!

神様「葵ちゃんは可愛いからレア物出してあげようかの」

 

「心が折れたので今日はここまでにします……あっ、大事なことを話し忘れてました」

 

行くな行くな

もっと強い心を持て

大事なこと?

鋼の精神を手に入れろ!

なになに

wktk

いかないで

まだ1時間しか経ってないじゃん、もっと粘ろ?

なんですの?

???

 

「ニコニコ動画で著作権関係の取り組みが始まります。簡単に説明すると、自主的もしくは自動的に、動画内で使う音楽や他者の動画を管理してくれるツールです。詳しくは先ほど公式から発表されたものを読んでください」

 

 そう、コンテンツIDがこの時代に、しかもニコニコ動画に適応されるようになるらしい。放送で周知してくれと事前に頼まれていたので、聞かされた時は驚いたよ。

 なおYouTubeはこのタイミングで収益化を一般へと公開もするとの事。

 ニコニコくんの運命は如何に。

 

いいんじゃない?

めんどくさそう

ほーん

へー

利点は?

いいじゃん

あまり理解出来てないけど了解

ふーん、分からん

面倒じゃない?

なんで葵ちゃんが知ってるの?

ほんまや、公式が出してるわ

分かりやすく説明するために延長しよう

利点はあるの?

ただの視聴者には関係ないやつ

 

「そうですね、投稿者以外は関係ない仕様です。動画投稿している視聴者さんが居ればそんなのもあるんだと思っておいてください。私はこれを周知してくれと頼まれましたので」

 

なるほどね

視聴者の僕には関係なかった

よく分からん

企業の使いっ走りにされるJSは笑う

周知と言っても5000人にしか伝わらない件

ほーん、軽く読んだけど分からんわ

内容知らないけどまあいいんじゃない?

賢い僕、全てを把握

広告塔の葵ちゃん

 

 伝えなきゃいけない事は伝えたのでそろそろ終わりにしよう。

 

「このアーカイブも投稿しますし、改めて説明動画をうぷしますよ。ということでおやすみなさい」

 

待て待て待て

その手には乗らないぞ!

おやすみなさい!

流れるような終了宣言、オレでなきゃ見逃しちゃうね

なに終わらせようとしてんねん

おやすみ!

いかないで

いつも最初と最後が雑ぅ!




この話と同時に「分岐点その1」を手直ししています
大まかな流れは変わってないので見直す必要はないです


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アラスカ

 去年と同じように大晦日の仕事を終え正月をいつものメンバーで過ごした。

 歴史が変わらないのであれば、先進国にも関わらず被国際援助額で日本が1位になるであろう2011年の今年、世間の人は例年通りの何気ない日常生活を営んでいる。

 その風景を壊して欲しくない。無駄だとしても初詣の場で平穏な日々を祈らざるを得なかった。

 私をこんな世界(TS逆行)に送った超越存在が居るのであれば。

 どうか、少しでも多くの人々を救ってください。

 

「ぼーっとしてるけど何か考え事?具合悪い?」

「ううん、オーロラがちゃんと見えるかなって」

「何もないならいいけど……具合が悪くなったら直ぐに言ってね?」

「うん、分かってる」

 

 1月2日の今日はミュージックビデオの撮影のためアラスカへフライト予定だ。まだ三が日であるのに駆り出されてしまった撮影スタッフ並びに由希さん達には申し訳なく思う。前乗りしている彼らには心ばかりのお礼として飛行機のグレードは上げてあげた。

 

「そうそう!なんと私、彼氏と別れました!」

「……ええっ!?」

 

 離陸準備に移った機内で由希さんから衝撃の告白を受けた。あの話をしてからまだ1ヶ月くらいしか経ってないのによく振れたな。

 

「半同棲生活も解消、というか奴を追い出したので身軽になったわー」

「由希ちゃんは次の恋を探すの?」

「2月からマネージャーちゃんが来るのでそこからゆっくり相手探しです!」

「頑張ってね」

「……目星は付けてるんですか?」

「まだ全然!」

 

 なんでも、大晦日に由希さんが留守な事を良い事に違う女を家に連れ込んでいたらしい。私の出番が終わった後に帰宅したらバッタリ遭遇、我慢の限界が来た由希さんが部屋の中からそいつの荷物を投げ出して追い出したとの事だ。

 昨日はSWUMの同僚とヤケ酒をして憂さ晴らしの会を開き、未練は捨て去ったらしい。ちょっとだけお酒の匂いがするのはそういう事ね。

 

「二日酔いは大丈夫なんですか?」

「平気平気!ウェルカムドリンクを飲んだら寝ちゃうし、もう酔いも覚めてるよー」

 

 そう宣った由希さんだが、運悪く上空の気流が荒れていた為に微妙な振動の弾みで吐き気を催してトイレへ駆け出してしまった。まだ完全に酔いが覚めていなかったみたいだね。

 社会人として問題がありそうだけど、本来ならばお休みの所を連れ出しているし、丸一日は移動日だから問題ない。

 個人的にはもう夜なのに二日酔いが治らないお酒の量が気になるところである。もう恋愛ソングは由希さんをベースにして作ろうかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さむっ」

「うひゃー、今の気温何度ぉ?あっやっぱ現実見たくないわ」

「6.5°Fって事は氷点下14度ですね」

「なんで教えちゃうの!あぁ余計寒く感じてきたっ」

 

 乗り継ぎを挟みながら到着したのはアラスカ州はアンカレッジ。現在の時刻は20時30分、丸一日飛んでたのに日付が変わっていない時差のマジックを感じる。

 

「お母さんは寒さに強いよね。やっぱりカリュシア出身だから?」

「ママも寒いとは感じるけど、まだ耐えられる方ね」

「そんなもんなんだ。ほら由希さん、早くホテルに行きましょう」

「私、老後は南の国に住む事を決意したわ」

「前はスキー場の近くに住むって喚いてたじゃないですか。行きますよ」

 

 寒さにブツブツ文句を言う由希さんを連れ、空港近くのホテルに1泊した。

 日が明け、再び空港へ向かい今度は目的地のフェアバンクスへ飛び立った。その際に3人分の防寒着を追加購入し、夜の撮影に備える。

 

「この華氏表示が分かりにくくて敵わないわ。おのれヤーポンの国め」

「ちなみにイギリスのヤード・ポンド法とアメリカのヤード・ポンド法は微妙な違いがあるんですよ」

「ややこしそうだからパス!あっ、お疲れ様でーす!」

「お疲れ様です」

 

 前乗りしていたスタッフと合流を果たし、撮影拠点へと向かった。

 明るい内に撮るべき映像の撮影と、オーロラをバックに取ってほしい動きの確認をして日が暮れるまでロッジで待機。今日から3日間ほどは天気に恵まれているらしいので良い映像が撮れる事を祈っておく。

 

「もしも今日で撮影出来ちゃったら残り2日はフリーだね」

「やった!犬ぞりやアイスフィッシングしたいです!温泉も!」

「どうどう。まずは今日のオーロラ次第だからね」

 

 犬ぞりを引く犬はやっぱりハスキーなのだろうか。「オレはやるぜ」君みたいな子がいたら楽しいだろうな。

 

 温かい飲み物を飲みながら早目の夕飯を頂いて夜の準備を進める。昼の撮影で来ていた衣装とは違うものを高野さんに着せてもらい、髪のセットアップを新たに雇ったヘアスタイリストの相澤さんにやってもらった。

 

「この衣装も薄いですね……」

「撮影まではしっかり防寒着を着ててください。撮影も5分を目安に区切りをつけるはずです」

「ファイトだよ、葵ちゃん!」

「はーい……」

 

 MVで着る衣装はどれも極寒の地に適さない造りになっている。MVだからしょうがないとは言え、寒さを我慢するのは辛いよ……

 

 その日の夜、19時にオーロラの発生を確認し即座に撮影へ入った。最近発売されたばかりの空撮ドローンも使用されたMVは無事に最初の1回で成功。私の風邪の心配もなくなった。サンキュー一発録り。

 

「綺麗だね……」

「ママもオーロラは久しぶりだわ」

「紫色のオーロラが見えたのはラッキーでした。あれ、確か珍しいはずです」

 

 動画の確認も終わったので衣装を着替えて純粋にオーロラ観察を楽しんだ。今日は運が良いのか、撮影後も何度もオーロラが発生している。太陽くんがハッスルしまくっているのだろうか。

 

『ここまで長いブレイクアップは久しぶりだ。八色さんは持ってるな』

『天が祝福してくれたのかな』

『ハハッ!そりゃー八色さんの美貌があれば主も祝福したくなるわな。風邪に気をつけて楽しめよ』

『ありがとう』

 

 今日泊まるロッジの管理人さんも珍しいオーロラにご機嫌だ。

 

「ブレーク、アップ?って?」

「オーロラがブワーって一気に広がる現象です。今みたいに色や形を変えながら数分間持続するんですよ」

「へぇ〜!てか葵ちゃん、よくあの訛った英語聞き取れるね」

「勉強したので」

 

 前世で来た時は私もアラスカ訛りに苦戦した覚えがある。日本でも寒い地域の人は口を開けずにモゴモゴ喋る事はあるらしいが、アラスカでもそうなっているとは盲点だったよ。

 

「明日は何処へ行きたい?」

「魚釣りの後に温泉!」

「よしっ。じゃあルートを調べましょうか」

「そうだね、でももうちょっとだけ星を眺めてからにしよう」

 

 オーロラは終わってしまったが空には満天の星が輝いている。日本では見る機会が少ないこの光景を、少しでも長く目に収めておこうと空を見上げた。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 1月17日、阪神淡路大震災の発生日に合わせて放送された特番はネット上でまあまあの盛り上がりを見せていた。

 多くの人が私がナレーションをしているからという理由で見てたらしいが、Twitterや掲示板の方では災害意識を改めている人も少なくないように見える。先日、放送で使用した映像を借りれたので3月にダメ押しをしよう。

 

「主要部門の壁は高いですよ、やっぱり」

 

ノミネートされるだけ凄い

おめでとう!

無冠じゃないんだから喜んでいいぞ

おめでとー!

まさか日本人が2人も受賞するとは思わなんだ

おめ!

ギギ様との奪い合いを制したか

女性ポップアーティストでは評価してもらったって事

祝え祝え!

お前も去年受賞したんだぞ

世界一を争ったポップアーティストの2人が去年どっちも日本でライブしたバグ

 

 授賞式を終え帰国した週の土曜日、雑談枠として生放送を開始した。

 今年のグラミー賞では最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞を受賞。アルバムの方はコメントで出ているダンスも衣装もド派手な女王様に取られてしまったがそれは仕方ない。

 最近になって日本語版と英語版の2つを出している事が販売の邪魔をしているのではと感じる。2つある方が全体の売上は上がるんだけど、1本に絞った方が枚数も伸びて評価されそう。

 

「言語を1本化するかもっと増やすか悩ましいですね……」

 

もっと増やそう

日本語は消さないで…

10歳の悩みじゃねえな

マルチリンガルを活かせ

英語だけにした方が日本人もそっち買うし枚数は増えるな

普通のアーティストは1言語だけなんだが

増やそう!

賞の評価って売上枚数じゃないでしょ?なら全体の売上を下げる必要はないよ

YouTubeのコメ欄は「俺の国の言語でも頼む!」みたいのよく見るね

増やしてお金ジャブジャブよ

個人的には尋常じゃない対応言語が見たい

またカラメルダンセン歌って

 

「アンケート取るまでもなく増やせ派が優勢ですか……よし、増やしましょう!」

 

 どうやら洋楽1本化には反対の人が多いようだ。私もお金稼ぐだけなら言語数増やした方がお得なのでそっちで良いかな。

 

そんな簡単に決めていいのか?

あっさり決定

世界中でファンを増やすんだ!

日本と英語圏以外で販売出来るのは強い

適当に決めてないか?

葵ちゃん、ボカロ曲と一般曲の違いつくるの上手いよな

邦楽洋楽を極めてから進んで欲しい

小学生のうちにいくら稼げるかゲーム

実際どれくらい利益出てるのか気になるわ

 

「どうせレコーディング時間が増えるだけで済むので無問題です。まずはラテン系とフレンチポップスを勉強しなきゃかな?」

 

めんどくさそう

ガチでやる気まんまんじゃん

普通にカバーを歌えばいいのでは?

今までみたいに邦楽か洋楽をベースに作ったのカバーすればよくね?

ボカロ曲ももっと流行らしていけ

アラビア語が仲間になりたそうにコチラを見ている

今までの曲を歌い直してから考えよう

10歳とは思えないほど精力的に動いてるわ

主要言語全てでカバーしよう

どれくらい増やすの?

 

「ボカロ曲の販売数も増えてるんですよねー、というより邦楽を作る時はボカロ曲をベースに考えてますし。もちろん今までの曲をセルフカバーしてから考える予定です。ただどうせならその国の文化に合わせた曲も作りたいじゃないですか。アラビア語はマスターしてるので勿論入れます」

 

果たしてあれはボカロ曲なのか……

ボカロ擬き、でも聞いちゃう

アラビア語くん、救われる

ボカロと言う割には暗さが足りないような

最近ストーリがあるボカロ曲増えてきたよね

葵ちゃん知ってからボカロも聞くようになったわ

わざわざ文化に合わせる必要はない

葵ちゃんの曲はとことん前進する感じが好き

それなら全言語で歌わなくていいじゃん問題が出てくる

いつ勉強してるのか気になる

無駄に冒険するより今まで通り作曲してセルフカバーでおk

1度でいいから言語習得配信してほしい

私は前向きな曲大好きです

 

 コメントでも言われている通り、私は大体明るい曲を作曲している。正確に言えば暗めの曲を作れないんだよね。

 この時期のボカロ曲は失恋や恋愛、ちょっとダークな雰囲気なものが多いので少し浮き気味ではある。これがもっと時が進めば色んなジャンルが出てくるのだが。

 

「あ〜、確かにそれなら言語数増やす必要もないか……まあ、もうちょっと考えてみます。そもそもまだ成功するとは決まってないのに早まってましたね、反省です」

 

そうだね

焦ることはないよ

取らぬ狸のなんとやら

反省出来てえらい

そうね

まだ10歳なんだからゆっくり行こう

賞を取る事が原点だったのでは?まあいいけど

成長する天才

これが小学生とは思えないわ

改めて10歳ってやべえな

 

「そうですね、少しブレブレなので頭を冷やしてからまた考えます。この話題はおしまい!最近ゲームばかりしていたのでまったり話しましょうか」

 

なに話す?

10歳で思い出したわ、パープルミラー

身長どれくらいになった?

学校で何してるか気になる

1月に呟いてたアラスカの話をしよ

髪の毛イジイジ配信の時間だあああああ

コラボ予定をどうぞ

アラスカの話聞きたい。ユーコン川行った?

ムラサキカガミwwwwwww

うわ懐かしい

鬼畜ニキいてワロタ

 

「ムラサキカガミってどうやって小学生に語り継がれてるんですかね、少し気になります。アラスカの話いいですね!そろそろその動画も投稿する予定でしたが、写真も沢山撮ってきたのでそっちを公開しましょう」

 

 学校でも怪談話で盛り上がる事もある。本当にこの年齢の子はこういう話好きだよな。あと、先生の中にはこの手の話が上手い人がいるのはお約束なのだろうか。

 

オーロラの写真わくわく

寒そう

え!ユーコン川をカヌーで下ったって!?

防寒着でモコモコな葵ちゃんはよ

MVはちゃんと撮れた?

寒かった?

カメラ持ってったんだ

うおおおおお!キレイ!

すっげえ

素敵です!!

すげえええええええ

オーロラってこんなカラフルなんだ

俺も行きてえ…

凄いじゃん!

 

 パソコンに移していたデータを呼び出し配信画面に写るように設定した。最初の写真はもちろんオーロラだ。

 

「これが初日に撮ったオーロラです。この規模のオーロラは現地の人も珍しいって言ってました。ユーコン川は凍ってるのでカヌー下りは不可能です。あれって確か夏じゃなかったっけ?」

 

うわー実物見てみたい

いいないいな!

すげえよこれ

今度は俺も連れてってくれ

紫に赤に緑、カラフルだわ

いかがネタはワロタ

なんで木曜いかが知ってんのwwwwww

葵ちゃん年齢詐欺説、再燃!

誰かとコラボして対決列島やろうぜ

ちゃんとワカサギ釣ったらカメラの前で踊ったか?

キミ本当に10歳?

 

「いかがのDVDは全部集めてます。大人になったら八十八ヶ所巡りしたいですねー。こちらはワカサギ釣りではありませんが氷に穴を開けて釣りをした時の写真です」

 

バイクの免許取らなきゃな

野生の王族があの番組見てると思うと笑ける

怪しいな、本来の年齢を吐くんだ!

早く大人になってくれ

サーモンでかっ

モコモコで草、かわよ

葵ちゃんの顔が小さいのか魚がデカいのか

楽しそう

ワカサギ釣りしに北海道行こうか

 

「あまりの寒さに釣った傍から凍るんですよ。他にはニジマスなんかも釣れました」

 

 その後も旅の思い出写真を見せながら1時間ほど話して放送を終わらせた。運命の日まで残り1ヶ月、この平穏な日々を大切にしたい。



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ライブ配信

コンテンツIDにガバがあったので修正しました
コメント欄の斜体は外国語だと思ってください

今話と次話で暗い話、もとい自己満足な話を終わらせます

また次話では津波関係で残酷な描写、もしくはストレスのかかる描写が予想されます。苦手な方は2日ほど日を置いて覗きに来てください。








 3月になりYouTubeのライブストリーミングサービスが開始された。1ヶ月ほど前倒しでの実装である。

 ニコ生も最大7000人まで視聴出来るように頑張っているのだが、実質無制限のYouTubeには勝てそうにない。もうちょっと違う方向で改革しないと顧客を取られてしまうぞ。

 

『これがライブ配信なのねぇ。コメントがいっぱいだわ』

「同接数150万はやりすぎでは?」

 

かわいい!

仕事をサボった甲斐があった

はい

マッマ隠す気なくて笑う

キャパ7千人が少なすぎたんだわ

化け物コンテンツ

やあ

我が祖国の曲を歌って欲しい

はい

野生の王族が2人

お元気そうでよかった…

画面の顔面偏差値が高杉謙信

今までニコ生に入れなかった層がね

マッマは英語なのね

150万人wwwwww

王女殿下!

サービス開始日だから物珍しさで集まったか

外人ニキネキもワラワラ

 

 そのサービス開始初日にライブ配信を始めた。前もって宣伝していた事もあるだろうけど、初っ端からとんでもない視聴者の数である。これが美少女パワーか。

 

「今日やる事なんて大した事じゃないんですけどね…では、始めていきましょうか」

『ゴーゴー!』

 

この画面は目の疲れに効く

翻訳ありがとう

カタカタカタ

何するのー?

アオイはなんでも出来るんだね

目の保養ですわ!

なんで今日はお母さんと一緒なの?

かわいい

タイピングスピード早すぎwwwww

アオイを見れれば何でも良いよ

多言語が飛び交うカオスなコメ欄

ニコ生は捨てたの?

 

 予想通り海外からの視聴者も多いので発言と同時に英訳して文字起こしをする。お母さんの分はタイピングするのが面倒なのでそのまま英語を話してもらっている。

 

「本当は弾き語りライブでもしようと考えてましたが人が多いので方針を変えました。今日は1月にとある番組で使用された映像をお借り出来たので、そちらをみなさんと一緒に考えてみたいなーって。母の出演は私が13歳になってないからです」

『葵ちゃんの母です!よろしく〜』

 

 如何に人気を得ていようと流石に10歳での単独配信は許されなかった。ここら辺のキッチリ具合はニコ動との違いだね。

 一応広告効果の大きい私であるので、グーグル先生は別な基準も設けようと模索中らしい。

 ともあれ後2年辛抱すれば合法的に単独で配信出来る。それまではニコ生をメインとして時折お母さんを連れてYouTubeでやればいいかな。

 

はじめまして!

母君はどこかで見た覚えがあるな

1月と言うとあれか

お歌配信しようよ

なぜ弾き語りを止めてしまったのか……

再びお姿を見れて感激です

みんなの要望はライブなんだが

マッマをレギュラー化して♡

カタカタカタカタカタカタ

やあ

こんばんは!

葵ちゃん見ること目的だから何でもいいよ

マッマセキュリティ発動!えっちな質問は無しですよ!

niconicoは入れなかったからありがたいね

「Hi」なのか「はい」なのか

簡単な英語は聞き取れる

 

「その映像というのがコチラ。もしかしたら近い将来発生するかもしれない大地震のシミュレーションです。日本人なら他人事じゃないですからねぇ……早速見ていきましょうか」

『プレートが4枚も重なってるのは凄いよね』

 

JSによる有難い啓蒙活動

お歌…まあいっか

この前のニュージーランドは記憶に新しいね

実際にあんな地震起きたらたまったもんじゃないわ

地震は体験した事がないな

これ終わったら弾き語りライブしような

意識高めな小学生

同時視聴者数が減らない不思議、みんなこれ見たいか?

マッマ悠長でワロタ。あなたもその危険な所に住んでるんですよ…?

アオイと共にお勉強か、ワクワクするよ

あの規模は滅多に起こらないよ、早く弾き語りしよ?

日本に旅行した時に地震を体験したが、この世の終わりかと錯覚したよ

富士山が噴火しなきゃ大丈夫

 

「そうですね、先日のニュージーランドの地震は衝撃的でした。それよりももっと巨大な地震が起きると想定されているのが日本なんですが、映像でも凄い揺れです」

 

 適度に再生を止めながら「この場合はどうしたらよいか」を皆に考えてもらった。最初は乗り気ではなかった人達もまあまあ真剣に意見をくれている。

 出しゃばって先生のような事をしているが、同接数も減らないようなので最後まで続けよう。ただ、これが意味ある行為なのか、本当にこれでいいのかという不安は尽きない。

 

「見ての通り10メートルを超える津波ですと何もかもが流されてしまいます。地震の揺れだけでなくこんな二次災害も起こってしまうのが怖いですね……」

 

地平線まで伸びる10mの壁でしょ?無理ゲー

ツナミは恐ろしいな…

これ本当にこうなるの?怖すぎでしょ

原発くんが死ぬぅ!

日本がクレイジーな場所に位置している事は分かった

これ何回見ても現実感湧かないな

福島の原発は今点検中で稼働停止してるから今ならセーフだな

地獄かな?

15mになるかもは流石に盛りすぎ。そんな地震来たら日本終わるって

賢い僕、海沿いに家を建てない事を決意

これは本当に起こり得るのか?

日本沈没するわ

あの特番見るまでは津波って単に高い波だと思ってたわ

セーフじゃないんだよなあ

これが怒りの日か……

これどうやって周期割り出したの?

 

「番組で詳しい説明がありましたが、簡単に言うと津波による堆積物を調べたらしいです」

『私が生きてるうちはこんな光景見たくないわね』

「そう、だね……はい!そういことでね、地震が多い地域に住んでる方は日頃から避難経路や備蓄を確認しておきましょう。もしも津波が来たら間違っても見に行かないように。第二波、第三波があるので気をつけましょう!」

 

そうね

台風でも大雨でも、水辺を見に行く奴が必ず居るからな…

日本人は頑張ってくれ

はい!

お姫様の言葉は絶対だからね

地震起きてもFPS止められない自信ある

日本の科学力で大地を浮かせればいいのさ

まあこんな地震起きないんですけどね、初見さん

見に行く奴は残当

終わり?次は?

海沿いだから高台だけは確認するわ

日本は大変なんだな

お歌の時間だあああああああ

 

 この放送がどれだけの人に影響を与えられるかは分からない。それでも海外ユーザーを入れて200万人もの人には伝わったはずだ。

 

「ではお待ちかねの弾き語りライブを始めましょう!場所を変えるので一旦配信を終わらせますが、5分後くらいにスタート予定です」

 

うおおおおおおおお

キターー!

よっしゃああああ!

リクエストは可能かい?

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

うおおおお!!

Foooooo!!!

待ってました!

お勉強の後のご褒美だああああ

今のうちにトイレいくお

 

 願わくば、少しでも多くの人にこの動画が届いてくれることを。

 

『いいよ!でも、どうせなら——』

 

 ふわっと。

 締め切ったはずの部屋を通り抜けた風が、頬を撫でていった。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 3月9日。三陸沖を震源としたマグニチュード7.3の地震が発生。それに伴い政府は1週間程度は東北地方で大きな地震に注意するよう通達を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

【地震】東北住み集合【M7.3】

 

1:名無しさん ID:gODKO6/Vf

ニュージーランドで地震あったばかりじゃん

地球どうした

 

https://……

 

2:名無しさん ID:9I1bkX9mF

母なる地球さんが慌ててら

 

3:名無しさん ID:ukOxVg4Bc

地球がちょっと貧乏ゆすりしただけだぞ

 

4:名無しさん ID:27SI1pgwM

津波来たんだっけ?

まあ被害がなくて良かったじゃん

 

5:名無しさん ID:b1HDEg0+R

震度5弱程度でスレ立てるな

分かったらとっとと氏ね

 

6:名無しさん ID:8vAzeu9qZ

お前が死ぬんやで

 

7:名無しさん ID:gODKO6/Vf

>>5

グエー死んだンゴ

 

8:名無しさん ID:UPooPdG/2

葵の動画見たばかりだったから焦ったわ

 

9:名無しさん ID:iqAOzH91Z

津波って言葉どっかで聞いたなって思ったら葵か

 

10:名無しさん ID:7wbuNwFC6

葵ちゃんの動画はタイミングが良かったね

 

11:名無しさん ID:Ujk1A3cdf

これまだ余震ある感じ?

 

12:名無しさん ID:vqYJzmu5N

葵の無駄に手の込んだ解説動画好き

オーロラの原理を地磁気から原子の脱励起まで懇切丁寧に説明してくれてるわ

 

13:名無しさん ID:+GnrMQ9VT

>>11

あるだろうね

てかイッチの記事で気象庁の見解載ってるぞ

 

14:名無しさん ID:1M5nPLV29

>>12

その後の「簡単に言うと蛍光灯と一緒ですね」の雑さも好き

 

15:名無しさん ID:bASWTg9zN

余震程度ならなんの心配もないわ

日本の建物の丈夫さに感謝

 

16:名無しさん ID:e+SUsoQcI

葵の話は他所でしろ

 

17:名無しさん ID:uahFLzTKg

【速報】M8越えの巨大地震に注意と気象庁発表

 

https://……

 

18:名無しさん ID:jZK97weTO

やばくね?

 

19:名無しさん ID:P3KfZD8QI

ガチじゃんワロタwwwwwwwwwwww

いや笑えないわ

 

20:名無しさん ID:NnkuVC9l9

どうせ起きないぞ

 

21:名無しさん ID:kxfqu18IM

>>19

いきなり落ち着くな!

 

22:名無しさん ID:eba6yBPwi

2月中旬からってそれこそニュージーランドの地震辺りからじゃん

 

23:名無しさん ID:155CwweBq

起きると言われると起きない地震のウザさ

逆張りにも程があるぞ

 

24:名無しさん ID:jXTwNBgqM

>>17

この記事が本当なら前震がM7.3の本震って8じゃ収まらないだろ

確実にマグニチュード8~9だよ

 

25:名無しさん ID:nlaFXq8EA

どうせ起きないんだよなあ

 

26:名無しさん ID:/zNxt2QfT

不安を煽る政府を許すな

 

27:名無しさん ID:IaxRkDt4A

東北民だから備えだけはしとく

 

28:名無しさん ID:8KZ4NcExx

そんな事言ったら葵ちゃんも不安煽りしてるんだわ

 

29:名無しさん ID:gODKO6/Vf

あーあ、東北地方の未点検の原発稼働停止だと

電気代上がるわクソが

 

https://……

 

30:名無しさん ID:AoI8Q3cUTe

私未来人、11日にM9.0の巨大地震が起きるよ

絶対に海に近づかないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八色葵さん、うっかり1週間で1億再生

 

40:名無しさん ID:LzpMRR0AT

>>38

タイミングがね

 

41:名無しさん ID:aIPbBJ7pI

【悲報】誰も大本の国営放送さんには触れない模様

 

42:名無しさん ID:YlXPqu0Ui

昨日の地震のブーストもあるでしょ

 

43:名無しさん ID:7qXM3tH8P

>>41

国営放送じゃなくて公共放送な

 

44:名無しさん ID:zeFDnYUzU

>>41

素晴らしいデキ、褒めてあげる

 

45:名無しさん ID:FtpezJjE6

>>41

国民から集金してるんだから良いもの作って当たり前

 

46:名無しさん ID:bSIqnCcdV

広告入ってないから見るのに躊躇しないからじゃない?

 

47:名無しさん ID:aIoLio1qn

国が不安を煽ったからだぞ

何がM8越えの地震に注意じゃ

 

48:名無しさん ID:2EwOcrucc

あの動画のコメ欄日本語だらけでビビった

てか「不安を煽るな」ってコメントが想像以上に多くてビビる

 

49:名無しさん ID:C421AW771

>>47

いやこれは気をつけろよ

ちゃんとデータが示されてるんだからそれは疑うな

 

50:名無しさん ID:KK8Y4Oykr

>>47

お前東北住みなら備蓄があるかだけ確認しとけ

 

51:名無しさん ID:SvbTby4eM

>>48

それ一部の奴だけ

大抵は注意喚起にお礼してる

 

52:名無しさん ID:iqKXVeiRw

いくら何でも原発停めるのはやりすぎでしょ

 

53:名無しさん ID:OqQP2+fMx

地震ブーストってなんか不謹慎だな

 

54:名無しさん ID:m6pUjRut2

>>52

急ピッチで点検及び改修しようとしてるらしいな

いつものトロい判断はどうしたと

 

55:名無しさん ID:9x2Bt2aDC

実際東北民は万が一を考えておけよ

備えるだけならタダなんだから

 

56:名無しさん ID:yGlNNintc

本当にあの高さの津波来る?

 

57:名無しさん ID:D36ZPtdtx

沖縄住みの俺氏、高みの見物

 

58:名無しさん ID:CSrPjLzcU

俺はあの映像見てジジババに電話した

お年寄りだから例の番組見てたらしく「分かってるわボケ」って返された

 

59:名無しさん ID:GyeaijLJ7

>>58

なんで貶されてんの?wwwwwwz

 

60:名無しさん ID:4tMTB3xyy

>>58

ジッジバッバ辛辣でワロタ

 

61:名無しさん ID:HTBhHSM92

不安を煽るなも何も、地震前に投稿してるんだが

 

62:名無しさん ID:NYqIKBB5j

伸び具合からみて、インターネット環境がある奴の半分はあの動画見てるんじゃない?

 

63:名無しさん ID:o1a8QIGWP

あの動画はためになるから見といて損はない

 

64:名無しさん ID:inAc0T09n

来る来る詐欺に1票

 

65:名無しさん ID:cDYgkkYLQ

世間を騒がせたノストラダムスだって来なかったんだから起きる訳ないわ

 

66:名無しさん ID:WLHR4g+0k

>>65

それとは全然信頼度が違うぞ

 

67:名無しさん ID:Q3XiyXD0O

>>65

これに騒いでたって黒歴史だろ

 

68:名無しさん ID:qScw0EB2A

まあ地震は来ないでしょって思いながら逃げる準備はしとく

 

69:名無しさん ID:rUABOaamA

ノストラダムスの大予言とか2000年問題とか、あの頃は楽しそうだな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねね、あの動画見た?」

「見たよ!葵ちゃんの動画は全部チェックしてるもん」

「ほんとに地震来るなら気をつけなきゃだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「地震なんて来ないだろ。マスコミは騒ぎすぎ」

「お前は葵の動画見ろ、意識変わるぞ」

「あー、時間なくてまだ見てなかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃん!これは入らないよ!」

「ならこっちの婆さんの形見を入れといてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おばあちゃん大丈夫?」

『ええ、大丈夫よ。佳奈ちゃんも風邪に気をつけてね?』

「うん!」

「お母さん、本当に大丈夫なの?」

『村の若い人達が確認に来てるわ。心配しないでちょうだい』

「もしも津波がき——」

『地震が起きたら車で高台まで運んでくれるから大丈夫よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵の動画が——」

「備えるに越した——」

「本当に——」

「——は不安を煽ってる愉快犯、と」

「——の家はこの順で回る」

「鈴木さーん!この1週間は——」

「意識してないと来る——」

「船はどう——」

「——は心配しすぎだって」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってきまーす」  「いってらっしゃーい」

「はい、お弁当。いってらっしゃい!」

「チョビ離せって!よしいい子だ。母さーん、いってきます」

「いってきます!」

「いってきます」

「いってらっしゃい!」

「いってらー」

「寝みー。いってきやーす」

「あなた!お財布!」

「ばあちゃん、いってくるからね」  「いってらっしゃーい!」

 

 

「いってきます」

「いってらっしゃい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三陸沖でM7.3の地震 余震の警戒呼びかけ

 9日11時45分頃、三陸沖を震源としたM7.3の地震が発生した。最大震度は5弱で、一時は太平洋側に津波注意報が発表された。

 先程行われた気象庁の会見では、引き続き余震などの強い揺れに注意するよう呼びかけられた。

更に強い地震の可能性 気象庁発表

 9日午前に発生した地震が前震である可能性を気象庁が発表した。

 気象庁は先の三陸沖地震から過去1ヶ月のデータを参照し、スロースリップと呼ばれるゆっくりとした地震が発生している事を発表。これに伴い解放されたエネルギーがM8.0を超える巨大地震を誘発する可能性があるとの見解を示した。

 東北地方には厳重な警戒が呼びかけられている。

東北地方太平洋側の原発 稼働停止へ

 資エネ庁は東北地方の太平洋沿岸にある原発の一時停止を命じると発表した。

 これは去年から始まった点検作業及び設備の改修を終えてない原発を対象としたもので、計15基がその運転を一時的に停められる。なお、そのうち10基にあたる福島第一原発、第二原発は、先月からの作業の過程で既に全基運転を停められている。

 この一時停止命令の背景には、三陸沖を震源とした地震と、その後に発表された巨大地震の可能性が挙げられた。今後は気象庁と連携しながら進めていくとの指針が示された。




ファンタジーさんがアップを始めました


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3月11日(地獄の日)



《NOTICE》
今話では残酷な描写及び精神に著しくストレスがかかる描写があります
苦手な方は次話の更新までお待ちください

















それでは始めます




 2011年3月11日。

 

 この日が何を表しているのか。

 

 当時小学生以上であった人であれば、誰もが記憶に刻んでいるはずだ。

 

「おはよう」

「おはよう、涼くん」

 

 いつもと変わらない挨拶。いつもと変わらない登校班。

 暦上は春が訪れているはずの今日は、随分と冷え込んでいる。

 確か今日の天気は晴れのち曇りだったか。

 

「全員揃ったな。行くぞー」

「はーい!」

「みんな、事故に気をつけてね。いってらっしゃい!」

「いってきます!」

「いってきまーす!」

 

 去年より登校班の集合場所となった我が家から学校へ。先頭を行くのは班長となった涼くんだ。

 今まさに、日本全国どこでも同じような挨拶を交わしているのだろう。

 そして、対となる挨拶を。

 『おかえり』『ただいま』と交わせなかった人々は、一体どれほど居たのだろうか。

 

「今日は寒いわね……葵、手握っていい?」

「手袋してるから意味ないと思うな。それに、横に広がっちゃダメだよ」

 

 空は快晴だが冬型の気圧配置の為に空気は冷たい。

 

 そういえば。

 朝の情報番組によると、東北の天気は晴れのち雪だったか。

 

『雪は辛そうだ。エネルギー発散のせめてもの報いで晴れにしてあげよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AOI YAKUSA

@aoi_yakusa

以前あげた動画でも述べましたが、もしも経験したことのない揺れを感じた場合、ハザードマップに載ってなからろうが即座に高台へ避難してください

海岸から離れているからって家に残ることはしないように

震度7やM8.5以上の地震は想定外のものです

いのちだいじにの精神を

2011年3月10日18時10分

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ズズッ——

 

 

 

 

 

 

「——ちゃん。——おいちゃんっ。葵ちゃん!」

「ん……どうしたの?」

「葵、熱でもあるの?ココロが話しかけてたのにずっとうわの空だったよ」

「葵ちゃん、ボーっとしてた」

「ああ、ごめんね。お昼を食べて眠くなってたみたい」

 

 昼休み、理華ちゃんと心ちゃんで日課のお絵描きをしていたところ、どうやら意識を飛ばしていたらしい。

 

「しかも描いてる絵が……何これ?瓦礫の山?」

「あー…本当に何描いてるんだろう」

「写真みたいです!すごい……」

 

 無意識に描いていた絵は随分とリアルなものに仕上がっていた。地獄かな?

 

「ごめん、顔洗ってくるね」

 

 2人に断りを入れてトイレへ走った。鏡に映るは、普段の自信に溢れた表情は影もなく、何かに怯えているようなか弱い顔であった。

 

「こんな表情でも可愛いのはズルいなぁ……」

 

 やる事は全てやった、と信じたい。

 いくつかの自治体は体の不自由な人を既に海岸から離れた避難所へと集めているという情報も見た。家屋の倒壊はどうしようもないが、家電や本棚を補強する人が多くいる事もニュースで知った。

 

 最大の焦点は、死因の9割以上を占める溺死だ。津波さえなければあそこまでの壊滅的被害にはならなかったのだから。

 瓦礫や渋滞のせいで逃げ遅れた人、第一波が引いた後に様子を見ようと戻って第二波に巻き込まれた人。中には濡れた体で夜を過ごし、低体温症で命を落とした人もいる。

 

 これさえ防げれば……これは現地の人を信じるしかない。

 

「預言者ムーブするには信頼と実績が足りない……と言うより、バカにされて流されたよな……」

 

 それに一気に胡散臭くなって気を緩めてしまう人も出て来ただろうからやらなくて正解だ。

 

 水を滴らせている顔をハンカチで拭った。

 うん、嘆いてもあと2時間で分かるんだ。どうか、犠牲になる人が少しでも減ることを願うのみ。

『葵の行動は実を結ぶよ。だって、キミはボクの——』

 一陣の風が頬を撫でていく。

 窓が開いてる割には暖かい風だったな。春がすぐそこまで来ているのだろう。

 春は出会いと別れの季節だ。ただし悲しい別れなんて見たくはない。叶うのであれば、全ての人に素敵な出会いが訪れてほしいものだ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 5時間目と6時間目の間の休み時間。運命の時が刻一刻と迫ってきている。

ズズズッ

「5年生のクラスも葵ちゃんと一緒がいいな〜」

「果たして四分の一に入れるのかな?」

「私は勝ち続けてるわね」

「理華ちゃんは絶対裏で何かしてるでしょ。ほら吐いた吐いた!」

 

 いつものように私の周りに集まってきた女子連中がお喋りを楽しんでいた。1年生の頃と比べると口が上手くなったなぁ。男子連中よりも大人びてるけどここまでの差があったっけ?

 ……私もくだらない下ネタとかで盛り上がってたっけ。そう考えると精神年齢に乖離が生じるのも致し方ない。

 

「授業始めるぞー。席に着けー」

 

 時刻は14時40分。チャイムが鳴ると同時に号令がかけられた。

 ほとんど指名されない事を良い事に、授業を他所にして時計の針をじっと見つめる。

ズ、ズズ、ズズズズズズズッゴゴゴゴッ!

 そして、長針が46分を指し示した。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「なんか揺れてね?」

「まーだ寝ぼけてんのか?」

 

 

 

「地震?」

「田中さんの貧乏ゆすりでしょ」

 

 

 

「ママー。ゴゴーっておとがきこえるー」

「えー?中耳炎かしら……」

「ちかづいてきたー」

「えっ……?」

 

 

 

「先輩、ペンがカタカタ言ってます」

「線路に近いからだな。今は電車通ってないがな。さあ働け!」

「水槽もチャプチャプしてますって!」

「はあ?……うおっ」

 

 

 

『辛い、厳しい試練だね。でも、ボクもこれを溜め込む事は出来ないからさ……どうか、葵を信じて』

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「揺れてる……」

 

 最初に気づいたのはクラスのお調子者の男子であった。

 

「どうした田中ー」

「先生揺れてますよ!」

「そんな訳——うおっ!?」

「机の下に隠れて!先生は出口の確保!」

「キャアアア!」

「デカいデカい!」

「地震!?」

「待って大きすぎ!」

 

 

 14時46分18秒。

 戦後最大の犠牲者を生んだ地震が、日本列島を襲った。

 

「こわいぃぃぃぃ!」

「死ぬ!死ぬ!」

「落ち着け!」

『ただいま東北沖を震源とした地震が発生しています!児童の皆さんは頭を守れる所に避難してください!』

「この揺れが東北を震源だと……?」

 

 学校中から悲鳴が聞こえる。

 史実通りであれば、埼玉県でも震度5強の揺れを観測しているはずだ。震源が離れているにもかかわらずこの揺れは、異常と断言出来る。

 

「先生!こわい!」

「キャアアアアアアア!」

「落ち着いて。避難訓練を思い出して、冷静に」

「八色さん……」

「そうだよね。大丈夫、絶対大丈夫」

「ぐすっ……ヒック」

 

 3分程経っただろうか。大きかった揺れは収まり、放送で直ちに校庭に集まるよう指示が出た。泣き出していた子も周りに支えられながら順番に整列する。

 

「先生はトイレの確認をしてくるから、他の先生の指示通りに校庭に並んでおいてくれ。八色、頼めるか」

「はい、お任せください」

 

 隣のクラスの先生の指示に従い校庭へと避難を開始した。これは……今日はこのまま下校の流れかな。

 

「東北の人、大丈夫かな……」

「大丈夫だよ……絶対に、大丈夫だよ」

「……葵の口から『絶対』なんて言葉が出るの、久しぶりに聞いたかも」

 

 保護者が来るまで待機となった校庭で、被災地の人々を想う。

 

 既に、最初の地震による死者も出ているはずだ。

 どうか、少しでも多くの人が救われますように。

 

 そして、この後に迫り来る絶望から。

 多くの人が助かりますように。

 

 どうか、どうか——

 

 

19人

 ◆◇◆◇◆◇

 

 逃げ遅れた老人を回収し、内陸部、はたまた高台へ移動する者達。

 

「これで全員!早く!出して!」

「田中さん!怪我をみせて!」

 

 

 

 

 近所の住人が徒歩で避難しているのを手助けする者達。

 

「鈴木さん!間に合わないから乗って!」

「独りで行けるわい」

「ダメ!間に合わないの!津波が……津波が来る!」

 

 

 

 

 危機感を感じ、より高い所へ逃げる者達。

 

「早く屋上へ!早く!」

「そんなに慌てなくても……」

「これは異常事態だよ!ハザードマップを信じないで!」

 

 

 

 

 住処を墓標としようとする老人を助ける者達。

 

「おやっさん大丈夫か!?直ぐに運ぶからな!」

「ワシはこの家から離れとうない。行くなら——」

「つべこべ言わずおぶられてろ!あの高台に行くからな!」

 

 

 

 

 地区の避難状況を最後まで確認する者達。

 

「全員避難したか!?」

「完了です!我々も早く!」

「クソ……俺たちが何をしたって言うんだ…」

 

 

 

 念には念入れる者達。

 

「皆さん、ゆっくりで良いですから。3階まで上がりましょう」

「こんな内陸にあるのにまだ上へ逃げなきゃならんのか」

「文句言わずにおぶってください!」

「へーい」

 

 

 

 

 みな、直近で認識を新たにしていた事が功を奏している。

 

 

 だが。

 

 

 

「6m!?なわけ——」

「最悪を想定して——」

「——を疑えって!逃げるぞ!」

「これはダメかも——」

「さっさとあの丘——」

「—–を持って!」

「私たち、どうな——」

 

 

 

 

 

 21世紀の科学技術を持とうと。

 

 

 

 

 

「あれが津波……」

「乗り越えるぞ!」

「この高さで本当に大丈夫なの!?」

 

 

 

 

 人類を滅亡させられる兵器を開発しようと。

 

 

 

 

「ああ、あああぁぁ」

「ああ……車が……家が……」

「もう、何もかもがおしまいだ……」

 

 

 

 たとえ、3世紀も進んだ科学技術をもってしても。

 

 

45人

 

「助けて……どうか、どうか……」

「夢なら早く覚めてくれ……」

「おお……これはもう……」

 

 

 

 自然の脅威には勝てない。

 

 

 

 

「津波が」「津波……」「家が飲み込まれる!」「なんで……」「津波が……」

「知らない……なんだよ、これ……」「現実なのか……?」「なんなんだよ……」「あれが、津波……?」「黒い……」「そんな……っ」「街が、私たちの街が……」

 

 

 

「津波」

「津波が……」

「津波が、来るぞ!」

 

 

 

 日常を破壊せし海嘯が、人々を絶望へと誘う。

 

89人

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「なに……これ……」

「……っ」

 

 帰宅した私達を待っていたのは、絶望と呼ぶには優しすぎる映像だった。

 街がそのまま流されてしまったかのような、その衝撃的な画は、記憶から薄れる事はないだろう。

 分かっていた、知っていた、どうしようもない程の絶望。

 

「これが……人の住んでいた街だと言うの……?」

 

 隣に居た理華ちゃんが私の手を握って離さない。

 その震えてしまっている手を握り返し、改めて祈る。

 

 どうか、どうか——

『108人。これで打ち止めだよ』

「みて!人が!」

「あっ……嗚呼……」

 

 ヘリコプターから報道している映像に、建物の屋上に多くの人が集まっている様子が映し出された。

 それも1棟だけじゃない、いくつもの建物に同じように集まっている。

 

「ちゃんと……避難したんだね」

 

 史実において、第一報の推定高さで逃げ遅れた人が多く居たはずだ。

 でも、この世界では。

 きっと、逃げられたのかな。

 

 その日の夜、東北地方には南からの風が吹き、夜にもかかわらず気温9度を記録した。

 

 

 

 

 

 

 

M9.0に繰り上げ 東北は壊滅的被害

 11日14時46分頃、三陸沖で発生した東北地方太平洋沖地震(=気象庁)による大津波による被害の全貌が明らかになった。

 高さ10メートル、最大遡上高30メートル越えと推定された今回の津波は東北地方の内陸部まで到達。太平洋沿岸から数キロメートル離れた地区まで更地となった。

 死者行方不明者は推定4千人に上ると見られており、早急な捜索、救助活動が待たれる。

 

東北関東大震災 犠牲者は100人

 11日に発生した東北関東大震災による犠牲者の数が100人であることが公表された。

 政府は先程の会見において、12日現在の死者行方不明者数が100人である事を発表した。まだ全容を把握出来ていないとして、さらに増える見込みであるとの見解も示された。

 

注目記事

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 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「いけません。それでは社内の資産が——」

「綿貫さん、これは社長命令です」

「っ……はあ。社長が稼いだお金ですので文句は言いません」

「それじゃあ……」

「平社員が社長に勝てるわけないじゃないですか」

「ありがとうございます!」

 

 地震から一夜明け緊急の社内会議を開いた。オンラインで構わないというのに律儀に全員集まってくれた。自宅の整理が大変だろうに有難い事だ。

 

「今まで貯めた10億と、追加で30億ですか〜。利益剰余金がすっからかんですね」

「2年とちょっとで集めたお金です。これから回収出来ますよ」

「電気、ガス、水道。全てのライフライン断絶に加え、支援物資を妨げる瓦礫の山か……被災地は一体どうなってるのか」

「Twitterの情報網の発達が被災者を救っている例もあるみたいだね」

 

 前世よりも同時代のTwitterユーザーが多い、と言うよりスマートフォンが既に当たり前の物になりつつあった。広告塔を任されている身としては嬉しいことでもある。

 

「皆さんの親戚は大丈夫でしたか?」

「東北出身は居ないんじゃないかな」

「ですね」

 

 もしも被害に遭われた方がいれば特別手当を出したところなのだが居ないなら居ないで構わない。今のところ判明している死者・行方不明者は100人だけという有り得ない数字になっているので、これからもっと増えるだろう。

 

「ではこれにて会議を終わりにします。来週1週間はお休みとするので心身共に休めてください」

「葵ちゃんもだよ。黙って被災地に行かないように!」

 

 大人の身ならばそんな事も考えたけど、流石にこの身体で出来ることは限られているのは分かってる。由希さんは私の事をどう思っているのか。そんなに向こう見ずな行動を取った覚えは無いぞ。

 

 

 

「世界各国か日本への支援に名乗りを上げてくれてるね」

「有難い事だよ。本当に……」

 

 その帰り道、お母さんの母国、カリュシアからも支援が決まったと伝えられた。他にも多くの国が日本を助けようとしてくれている。

 今までの日本の国際協力が報われているのだろう。情けは人の為ならずの諺通りだ。

 

 それに甘える事無く、私も出来る限りの事をやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー……」

 

 お母さんに寝る事を伝えベッドに入った。昨日は一晩中ネットに齧り付いていたので中々の疲労感だ。

 

「これで、良かったのかな……」

 

 原発事故は未だ起こっていない。犠牲者の数はまだ読めないが1000人を超えてくるはずだ。

 

 犠牲者が居ることを見る度に、他に最善策があったのでは無いかと考えてしまう。傲慢と言われようと、私だけがこの悲劇を防げたかもしれないのだから。

 

「ん…この番号は、国際電話?」

 

 もう寝ようとスマホを放り出す瞬間に端末が震え出した。国際電話の相手なんて思いつかないが、果たして。

 

『八色です』

『葵!よかった、無事だったんだね!』

『その声は…ケリー!?』

『そうだよ!久しぶり!』

 

 なんと、電話の向こうは初めてのIMOで知り合ったカリュシアの青年であった。そういえば連絡先を交換していたっけ。

 

『率直に言うよ。寄付はどこにすればいい?僕の母校と勤め先で集めたお金があるんだ』

『それはっ……ああ、そうか。ケリーも、もう大人なんだっけ』

 

 要件は日本への義援金の振込先の確認だった。

 たった一度だけの繋がりを、こうまで大切にしてくれるなんて。

 

『みんなが日本を応援してるよ。だから、負けないで!』

『ありがとう。本当に、ありがとうっ』

 

 日本に多くの支援が寄せられているのは知っている。

 でも、こうして知人が行動してくれる事のなんと嬉しいことか。

 

 早速支援先を教えてあげようと、彼の名刺を引っ張り出しメールアプリを開いた。瞬間、あまりの衝撃に目を見開いた。

 

「みんな、お人好し過ぎるでしょ…」

 

 過去のIMOで知り合ったみんながケリーのように義援金の行先を問うて来ていた。

 誰も彼もが所属している大学や勤め先で呼び掛けたらしい。

 自分たちの国の機関でも受け付けているだろうに、私に聞いてくるのは励ましでもあるのだろうか。

 

「本当に、ありがたいなぁ……」

 

 私に被害があった訳ではない。

 しかし、同じ日本人としては感謝してもしきれないよ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 あの日から1週間が経過した。

 原発事故が起こる様子もなく例の原発は沈黙を保っている。

 そして。

 

「死者・行方不明者は108人……」

 

 日が経とうと増えることのない犠牲者の数。前世ではこの時点で1万人を超える数が発表されていたというのに。

 メディアでは「奇跡」なんて言って騒いでいるが果たしてそうなのか。

 

「良かった……とは言えないよ」

 

 確かに数字上では大幅に減少している。それでも、確かな犠牲があるんだ。

 それに、生き延びた人々の生活もある。彼らの過酷な運命を少しでも手助け出来るように頑張らなければ。

 

 ああ、それでも。

 私だけが知っている事だろうと。

 あの地獄を少しでも軽く出来たこと。

 たったそれだけだとしても、救われた気持ちになった。

『ボクも祝福してあげよう。あの運命を覆したこと、それは素晴らしい事実だと"世界の意思"たるボクが証明するよ。お疲れ様、葵』




副題:デウス・エクス・マキナ

なんか消化不良感&方言を入れるか悩んだので修正する可能性大です

以下駄文なので読みたい人だけ読んでください

なぜ創作なのにこの話題を取り入れたか。
そう疑問に思う方もいらっしゃると思います。

私は大学生時代に仙台にて彼の震災を経験しました。短い人生ではありますが、あれほどの衝撃を受けた事は未だにありません。
こんな地獄が有り得ていいのか。本当に現実で起きている事なのか。
当時は現状を知る度にそのような感覚に陥っていました。

今回、史実ベースにした逆行モノを書くにあたり、「物語の世界くらい救いが欲しい」との想いが溢れてしまったが為にこのような話が出来上がった訳です。
ついでに言うと最近観たとある映画作品でその想いが固められました。

救いって言うなら犠牲者0で良くない?というツッコミもあると思います。
私もそれは悩みましたが、流石にあの規模の災害で犠牲者無しは何となく忌避感を覚えました。
ただ、犠牲者が居ない事は被災者への冒涜に感じているように思います。今書いてても言語化が難しいです。
辛いことを覆す話なのに辛い運命の人々を生み出す。でもあまり大きな犠牲は出て欲しくない。このアンビバレントな感情は一体なんなのでしょうね、自分でも分かりません。

グダグダ言い訳していますが、物語に取り上げた理由とこの結末に至った訳はこんなものです。
先に述べたように書きたいこと全てを書けた訳では無いのでそのうち修正が入るとは思います。

こんな話書いたら後の災害系も全部触るのか?
これは「はい」と答えますがこんな直接的描写ではなくなると思います。実績と更なる名声を手にすればもうちょっと簡単に事を進められるのでね。

ではここまで読んでいただきありがとうございました。


次話より動画関係メインになります


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日常への回帰

時間がなかったので手抜きの掲示板回です

伝え忘れてましたが、前話と前々話には透明文字が隠されていたりします


 あの日から3ヶ月が経過した。

 日本国内はもちろん、世界からも多くの義援金、並びに人員が投入され瓦礫の撤去作業などが進んでいる。

 地盤沈下や塩害など様々な問題も山積みなので復興はまだまだ時間がかかりそうだ。

 ただ、復興作業を邪魔する風潮がない事は良い流れである。

 

「今日はFF6を遊ぶ予定でしたが後で解説動画あげた方が良いなと考え直し、代わりに雑談枠です」

 

 全国行脚の旅から帰って来たタイミングで久しぶりの生放送枠を取った。

 「こんなご時世にゲームかよ」と思うが被災地を慰問した際に「普段通りの姿が私たちの力になる」との言葉を貰った。そんな事が日々の癒しになるのであれば喜んで見せてあげよう。

 

はい

1ヶ月ぶりの癒し

おかえり!

小学校をサボるな

ちゃんと挨拶して?

これ以上ff6を壊さないで

ようつべ行こうか

予言に寄付に募金活動と忙しない葵ちゃん

ff6「シテ…コロシテ…」

はい

手がやわこかった

なんでこの状況でゲームを壊そうとするんですかね…

募金活動もっとやって

収益を全て公表する狂気

もうやめて!FF6のライフはゼロよ!

ゲームは不謹慎

 

「復興支援コンサートに来てくださった方、改めてありがとうございました!今回の収益はしっかり東北の皆さんへ届けさせていただきます」

 

葵ちゃんのライブ費用がタダだったとは思わなんだ

ありがとう

まだまだ足りないからもっとライブ開いて♡

協賛企業多すぎない?

簡単に数十億集まっててワロタ

何回でも行くよ

ありがとう

夏休みには海外にも集金に向かう模様

東北の地より感謝を込めて、ありがとう

ff6の何を説明するんだよ

 

「便利なドアタイマーくんの説明です。世界崩壊させておけば誰でも簡単に色々出来るんですよ」

 

はい不謹慎

被災地どんな感じだった?

世界崩壊?不謹慎だなぁ

狂人共に弄ばれている飛行艇バグ、本日休暇の模様

言葉に気をつけるんだ!

また世界崩壊させてる…

破壊神・葵

君のせいでff6が複雑怪奇な難解なゲームになっちゃったんだぞ!

ケフカよりよっぽど世界の敵だろ

親の飛行艇見たかった

 

「まあ詳しい話はそのうちします。何話しましょうか?」

 

学会員「そこをもうちょい詳しく」

東北のこと

気になるところで話を止めるな

普段のシャンプーって何使ってますか?

葵ちゃん大きくなっててビビった。150はあるでしょ

いい加減コラボ予定を教えろ!

おてて柔らかかった

YouTubeの配信基準変わるらしいけどニコ生どうすんの?

女子サッカーワールドカップが始まるぞ!

地デジ移行した?俺はまだ

 

「見事にバラバラな話題ですね。シャンプーはお母さんと一緒のもの使ってるのでこだわりはありません。特別なものじゃないですよ?ワールドカップは楽しみですね!私の中では日本が優勝候補筆頭です!」

 

近くで見るとサラッサラで羨ましかった

それ本当に市販されてる?

天使の輪いいなー

将来は葵に化粧品聞いて自爆するやつ出てきそう

ポット1だけど優勝は無理

葵ちゃんも見るなら俺も見ようかな

王女様が市販品使うわけないだろ

また予言か?

アジアが欧米に勝てる訳ないんだが

サッカーエアプ乙、日本は強い方だけど無理だよ

髪の毛はすは……うん、綺麗だよね

 

 コメントでは東北関係の事が多く流れている。それに触れてしまえば最後、ずっとその話題になってしまうのでこういう時はそっとしておこう。

 

「この予想、当たると思うんですけどね。YouTubeの基準が変わったら向こうでも配信をしていく予定です。ニコ動を捨てるとかではないので安心してください」

 

外したらお胸のs……体重教えろよ!

現代の予言者様のお言葉だ、お前ら信じろ

定員が段違いだからしょうがない

なでしこ応援するお!

【朗報】ニコニコくん救われる

弾幕好きなんだけどなー、まあしゃーない

入れない時が多々あるからありがてえ

今年は誕生日配信もやってね

あっちで配信するなら実質捨ててるようなもんでは?

むしろ全部向こうで配信してくれ

ニコニコも頑張ってるんですよ!

 

 被災地では未だに多くの課題が残されている。それでも大勢の人は徐々に平穏な日々を取り戻してきた。

 この日常が失われないことを願っている。

 

「それでは運動会の話でもしましょうか」

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

M9.0で犠牲者100人←これ

 

1:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

理由is何?

 

2:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

改めて考えると犠牲者少なすぎるだろ

 

4:名無しさん ID:4EDO6eXTT

被災地の人が頑張ったから

 

6:名無しさん ID:j2NkfRYT/

常日頃の準備、心掛けよ

 

7:名無しさん ID:/+AZ9XN70

桁が1つ2つ足りないよな

 

9:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

地震だけなら日本の建造物のおかげって理解は出来る

だけどあの津波で犠牲者3桁は控えめに言っておかC

 

10:名無しさん ID:bjN0UPvJY

少ないならそれでいいじゃん

イッチは犠牲者が何千人何万人も居た方が良かったの?

 

12:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

>>10

そうではない

これからの災害にもこの経験が役立つだろうから原因を明確にしたい

 

14:名無しさん ID:91UscSmod

どこかの誰かさんが未来見えてるかのような的確ムーブしたから

 

16:名無しさん ID:4EDO6eXTT

>>12

だから被災地の人々が最適解を選んだだけだって

 

18:名無しさん ID:7Cnm1wRVB

>>14

これ

 

19:名無しさん ID:oKG3/B6DQ

>>14

予言者様々やな

 

21:名無しさん ID:uHYsTEsU/

>>14

何でもかんでも葵スレにするのは嫌だけど、確かにこれが1番大きい

 

23:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

>>14

やっぱそこか

 

25:名無しさん ID:6VVQL9EVr

【悲報】葵信者さん、何でも葵の手柄にしたがる

 

27:名無しさん ID:URqfASv+S

げぇじはけぇれ

 

28:名無しさん ID:pefgyF7kw

勘違いしてる奴がいるから教えてやるが

葵は単に「こんな時があったらこうしてください」と言っただけ

実践した現地の人達が1番えらい

俺らも見習わなきゃいけないぞ

 

30:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

>>28

これも正しいと思う

 

31:名無しさん ID:FMbGJLZwV

>>28

現地の人の心構えを変えたのは葵ってのも間違いじゃないけど

一番の理由はこれだよな

 

33:名無しさん ID:NGmze6YxC

つまり普段の訓練やもしもを考えてたからって事?

 

34:名無しさん ID:iMiBtYx/l

第一報「津波の高さは6m!」(本当は10m越えの超大津波)

普通の人「ほな逃げなくてええか」

 

東北民①の場合「6mな訳ないお。さっさと高台へ避難するお」

東北民②の場合「ここまで届くかもしれないから逃げとくか」

東北民③の場合「安全かもしれないけど念の為屋根の上に上がっておくぞ」

 

この判断をあの状況で出来るの憧れる

 

36:名無しさん ID:XDeakHPdq

>>34

冷静すぎてむしろ怖いわ

しかも大多数がこう考えてるんだから恐ろしい

 

38:名無しさん ID:XugcWGL54

>>34

あの極限状態でこれは人間辞めてる

 

40:名無しさん ID:/XDr+p4fM

>>34

すごE

 

41:名無しさん ID:fYGwODc7S

本当に意識だけで被害変えられるか?

もっと他の要因あるだろ

 

43:名無しさん ID:7td2Ck9Rr

犠牲者出てるから言うのは憚られるが……

マジで奇跡だよ。同じ規模の災害が起きたら1000回のうち999回はもっと酷いことになってる

 

44:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

奇跡で片付ける風潮嫌い

 

46:名無しさん ID:2lrFFJLL7

>>44

被害の大きさ見たら奇跡と言いたくなるだろ

 

47:名無しさん ID:iKWw8LFvB

奇跡と呼ばず何と呼ぶんだよ

 

48:名無しさん ID:XWeslXNQX

葵がタイミングよく警鐘を鳴らした

気象庁が巨大地震発生の可能性を周知した

みんなが真剣に考えて行動した

 

これが全て

これ以上の特別なことは一切ない。結局は普段からの準備が大事

 

49:名無しさん ID:+bRThfFFd

東北民だけど、マジでみんな行動が早かったわ

近所の高台に俺が一番乗りだろうと思ったら既に何人も居たし

 

50:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

>>47

その理由を考えるスレなんだわ

 

52:名無しさん ID:Zv/nDY3ZH

>>49

助かってよかったよ

生活に不自由あるだろうけど頑張れ!

 

53:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

犠牲者少なかった、奇跡だね、よかったよかった

 

↑これで終わったら意味ないんだが

 

55:名無しさん ID:Y/5vBWTUr

>>49

あの地獄をよく生き延びた

応援してるわ

 

56:名無しさん ID:7F6QjijUc

>>49

少ない額だけど募金した

頑張れ!

 

58:名無しさん ID:8zhlq+6hP

>>49

掲示板に来れるくらいの状況になってるなら安心だな

 

59:名無しさん ID:+bRThfFFd

みんなありがとう!

温かい支援に涙が出るわ

 

60:名無しさん ID:YCc1Jq+oz

本当によくこの犠牲者数で済んだな……

 

62:名無しさん ID:1yddK8d2q

例え奇跡だろうと犠牲者が少ないことは嬉しいね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の今までのODAの成果wwwwww

 

1:名無しさん ID:NaTVZDJP6

日本「もう無理ぽ……」

発展途上国「日本さん、今助けるぞ!」

 

あったけえ

 

2:名無しさん ID:NaTVZDJP6

誰だよ今まで「無駄金乙」とか言ってた奴ら

 

3:名無しさん ID:mp41RlJ61

ほんまにありがたい

 

4:名無しさん ID:JL1F9hwLs

あったけぇよ

 

5:名無しさん ID:FdtUvSPmD

無駄金とか言っててすまん

 

6:名無しさん ID:zHBTMu4t+

先進国はまあ金出してくれてサンキューだけど

金ない国が支援してくれるのは本当に有難い

 

7:名無しさん ID:ho5l+1xET

>>5

謝れてえらい

 

8:名無しさん ID:qM4VNbXaa

意味のない投資だよ

↑これ言ってた過去の俺を殴りたい

 

9:名無しさん ID:1hv1Qu5Qz

歳とったからか分からないけど

世界の反応見ると涙が出ちゃう

 

10:名無しさん ID:9ke1Lx/BZ

情けは人の為ならずだよ

 

11:名無しさん ID:qF+Y+bmh+

お前ら喜んでるけど、全員東北住みなの?

俺はありがたいとは思わないが

 

12:名無しさん ID:mcqqJ1pxX

サンキューODA

 

13:名無しさん ID:TgNo8Wl+q

>>11

被災者じゃなくても有難く思うだろ

 

14:名無しさん ID:Z/aj3Tf+2

>>11

同じ日本人が苦しんでる時に、自分たちも苦しいにも関わらず手を差し伸べてくれてるんだぞ

喜ぶのは普通

 

15:名無しさん ID:MqbbwGt7G

>>11

道徳を学び直してくれ

 

16:名無しさん ID:yaxC6J8Nc

>>11

逆張りするのはネットの世界だけにしとけよ、ボク

 

17:名無しさん ID:bsRzIO69h

俺もこれからは周りに優しくするわ

 

18:名無しさん ID:AG90fLQOA

アメリカ筆頭の先進国もありがたいんだけどな

 

19:名無しさん ID:F4P0j80O3

>>11

お前のID見たら今日一日だけで殺害予告や誹謗中傷しまくってて草

よりによって葵に手を出すとは……牢屋の中で反省しろよ

 

20:名無しさん ID:7aN/lZSQL

なお八色葵さんが先進国を回って更に絞る取る模様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八色葵「可愛い、賢い、歌も上手いです。被災地には自身の基金から40億円、追加で集めた60億円も支援します」←コイツの弱点

 

1:名無しさん ID:FEmXj6rYC

なに?

 

https://imgur……

 

5:名無しさん ID:6Lm7J8kk4

ついでに10歳で時速100キロの球を投げられます

 

6:名無しさん ID:rfkUdrQTC

まーた葵賞賛スレかよ見飽きたわ

 

9:名無しさん ID:DBBQrYlFF

1人で海外に行けないこと

 

11:名無しさん ID:FNoIcqGAQ

葵信者さんウキウキしすぎだろ

 

12:名無しさん ID:qFe1dTyQI

個人で総額100億円の支援wwwwww

 

14:名無しさん ID:PpfgXJb4D

個人ではなく自分の会社な

 

16:名無しさん ID:Q2lcXJovU

定期的に飯テロ配信すること

お料理も上手なんて、俺のお嫁さんになる気満々だよね?

 

20:名無しさん ID:nQXVTFNWP

復興支援コンサートの60億円は協賛企業も褒めてあげて

 

23:名無しさん ID:c2kcBsHQQ

お歌配信しろと言われてもやらないこと

 

24:名無しさん ID:31DWyyc2W

まだお酒飲めないこと

 

27:名無しさん ID:HGawSSI7o

机の上が整頓出来ないことだろ

 

29:名無しさん ID:9Itszmxyh

葵なんてたかが可愛くて頭が良くて運動神経も抜群で世界的人気歌手なだけだろ

普通普通

 

32:名無しさん ID:0g01jCLe3

>>29

どこが普通なんですかね……

 

36:名無しさん ID:7Ev8b2ACT

字が汚いこと定期

 

39:名無しさん ID:0zD+Z6rkM

配信を7000人しか見れないこと

 

42:名無しさん ID:SYZolrVG8

100億あっても雀の涙程にしかならない被害のヤバさ

マジでよくあんなに生き延びたわ

 

46:名無しさん ID:d6O/Irryw

他のYouTuberや実況者とあまりコラボしないこと

 

50:名無しさん ID:+vB+CXvjM

支援コンサートの募金で握手してもらった

生葵かわいすぎて心臓止まった

ついでに身長が想像よりも高くてビビった

 

51:名無しさん ID:qbnP1zg9d

普通はお胸が小さいことをあげるよね?

 

54:名無しさん ID:hVn/VDvJC

被災地の人からの感謝を受け取らないこと

葵ちゃん、本当にありがとう

 

57:名無しさん ID:Z0fFPvdc0

ここまで「弱点がないこと」なし

 

59:名無しさん ID:R784KcN0v

かわいい罪で有罪なこと

 

61:名無しさん ID:aG+Da3r6w

おててがやわらかくて俺をドキドキさせたこと

 

62:名無しさん ID:7gxhIa+Bt

>>61

それ心不全やで

 

64:名無しさん ID:79SDMQoXI

>>51

エアプ乙最近の葵は既に完成されつつあるそ

 

https://imgur……

 

67:名無しさん ID:jRw5aSN+c

>>64

エッッッッ

 

68:名無しさん ID:YhF8ImYXe

おっぱいソムリエよ、>>64のサイズはいくつだ?

 

71:名無しさん ID:Kn4JDdUrF

>>64

テレビで見るときにもしやと思っていたが、やはりか

 

73:名無しさん ID:G927Ry/UY

>>64

これで小学生は無理でしょ

 

75:名無しさん ID:e1VRKbg+Q

>>68

目測C

 

78:名無しさん ID:4cFzws6E1

みんなオッパイ好きすぎwwwwww

それはそうとCカップはけしからん

 

79:名無しさん ID:LE2WyYNrU

もう赤ちゃん作れそうな体だねえ

 

81:名無しさん ID:bogqxF4yY

>>79

うわきっっっっっっっっしょ

 

85:名無しさん ID:uduwA2ulj

>>79

気持ち悪い

 

87:名無しさん ID:jXOvFtkvm

>>79

その気持ち悪い発想はなかった

 

89:名無しさん ID:MzU2DZ+jD

>>79

頼むから消えてくれ

 

90:名無しさん ID:QnmkDOiVh

>>79

キモすぎワロタ

 

94:名無しさん ID:RTpqqluLP

以下79への暴言

 

96:名無しさん ID:kUTMzttef

暴言ではなく正当な評価なんだわ

 

 



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幼馴染フラ

 小学5年生の夏休みは色々あった。

 支援のお礼ライブをしに海外へ行ったり、座布団ちゃんがメンヘラって黒座布団ちゃんに変身しているのを確認したり、ピカキンさんが登録者数50万人を達成するのを祝福したりなど、中々忙しい日々であった。

 特にピカキンさんを含めた古参ユーチューバーの面々が台頭して来ているのが大きな変化である。

 現在日本で100万人を超えている私以外の唯一のクリエイターである人は、前世では全く有名ではなかったので見覚えのある顔があると安心する。本音を言えば、金盾所持の彼は熱心な私のファンっぽいのでどう接したらいいのか判断が難しいんだよね。

 

「マイクラが正式サービスを開始したので早速クリアを目指して行きましょう」

 

生きがい

はい

昼間から配信は珍しいじゃん

やあ

【悲報】エンダードラゴンくんの余命1日

今日もかわいい

ゲームをやるなら翻訳は期待できないか

ようつべの単独配信の利用規約変わった記念

やあ

可哀想なボス

エンダードラゴンくん逃げて

日本語オンリーになるであろうに健気な外人ニキがいっぱい

同接38万人

 

 11月になりYouTubeの利用規約が変更された。12歳以下であっても運営側が実績を考慮し許可した者ならばライブ配信を行っても良いとの内容だ。判断基準も今までの活動に準拠するのでテレビタレントとして活躍しているキッズには優しいハードルになっている。

 なお日本の子タレは未だにYouTuberデビューしていない模様。世界的に見ても子ども系YouTuberはまだまだ存在が稀薄なのでしょうがない事ではあるのだが。

 

「あー、翻訳はどうしましょうか。足の指で打ったとしてもゲームとメモ画面の2つを同時に走らせるのは無理だろうし……自動翻訳の精度を上げますか」

 

 またはキー入力を必要とするゲームをプレイしながら違うキーボードを感知してくれるツールを開発するかのどちらかだ。なんかこんなツールなら探せば出てきそう。

 

そっち!?

1から開発しようぜ

自動翻訳は雑なので残当

にほんごちょっとわかるだいじょうぶ

そんなこと出来るの?

自動翻訳機能を使うが選択肢に無いのワロタ

何言ってるか分からないが雰囲気を楽しんでるよ

ぐーぐる先生にお願いだ!

どうせ有志の奴が翻訳するから無問題

日本語は鋭意勉強中だからもう少し時間が欲しい

 

「ちょっと前に自動翻訳の改良のお手伝いの話を貰ったので丁度いいかもしれませんね。『今日のところは日本語になりますがご了承ください』」

 

 なお依頼内容は声あてであるのでアルゴリズム改良などには一切触れない予定である。最近勢いがある深層学習については門外漢なので仕方ないね。こんな事なら友人のベイズ最適化の話をもう少し詳しく聞いておくべきだったよ。

 

「それではハードコアを始めていきます。死んだら終わりのドキドキ感を楽しみたい方にはオススメです」

 

知らないモードだ

折角集めたダイヤが……

ドM専用モード

また露天掘りする?

まるで人生のようだ

ゴールが明確になったらやる事は1つだよね?

葵ちゃんはマゾだった…?

RTAの時間だああああああああ

さあリスポーン位置は…

!?

!?

ワロタwwwww

!?

wwwwww

!?

何もない孤島で草

世界に葵ちゃんだけ取り残された世界線

 

「はあ!?木が1つもないなんておかしいだろ!」

 

こんな島も生成されるんだ

これはハードコアの名に偽りなし

お口が悪いですわよ!

沖ノ鳥島と名付けよう

運がいいなあ

木どころか周りに島もないんだわ

迷わず海に飛び込むの漢らしい

XD

ハードコアってそういうもんじゃないから

こういうのはクズ運と言うんだぞ

lol

チキチキ水泳大会!ゾンビに見つかる前に泳ぎきれ!~餓死もあるよ~

 

 クソ運が発揮され変な島からスタートになったので即座に次の島を探索に出る。とにかく木材が無いことには始まらないぞ。

 

「泳げど次の島が見当たりませんね……リセか?」

 

人生にリセはないぞ

方向間違っちゃったねぇ

スイスイ進むゲームより楽しいでしょ?

消されるスティーブの気持ちになれ

ダメ♡続けて♡

あーちゃん大失敗って言って

死ぬまで続けよう

そうやってすぐリセしようとする、よくないぞ

 

「そうは言いますがこれはもう……ありました!見えた見えた!待望の拠点です!」

 

チッ

チッ

よかったね

チッ

エンダードラゴンくん消滅までのカウントダウンが始まりました

チュッ♡

舌打ちだらけでワロタ

無表情から花咲く笑顔、素敵

探索もしないで木材に一直線

素手で木を伐採する剛の者

その前にお腹ペコペコなの治してあげよ?

 

 やっとの思いで辿り着いた島にて木材をゲット、ボートを作って村を探す。流石に何かお腹に入れないと空腹のバッドステータスが付きそうだ。

 

「おっ、私の食料庫が見つかりました。早速略奪させてもらいましょう」

 

ブラック葵ちゃん

食料庫wwwwwwwwwwww

いっぱい泳いだからしゃーない

たんとお食べ

何でこいつらオスしか居ないんだ……?

強欲の悪魔

手慣れた手つきでワロタ さては泥棒常習犯?

家を分解すな

木材まで剥ぎ取られてて可哀想

RPGでも勝手にタンス漁ったりツボ割ったりしてるしセーフ

 

 育てても収穫しないなら貰っても無問題です。ついでに家から木材と丸石を回収させてもらって鉄及びダイヤ探しの為にホリホリ。運が良ければ村人のチェストから強奪出来たんだが無い物強請りしてもしょうがない。

 ブランチマイニングを開始して30分ほどで必要量が集まったので、荷物を整理しベッドを拝借してからマグマを探す旅に出た。

 

もう終わり?

少なすぎるだろ

ダイヤ3個だけはボスを舐めてるわ

鼻歌可愛かった

ベッドを持っていく時点で察しよう

鼻歌のCDの発売は何時だ?

ネザーゲート用の黒曜石は?

芸術は爆発だ!

もっと鼻歌タイムでよかったのに

 

「ネザーゲートはマグマと水とバケツがあれば作れるので大丈夫ですよ。ダイヤはツルハシ分だけあれば問題ない予定です。タイミングよくマグマ溜まりを見つけたので早速ネザーに行きましょうか」

 

 ゲートの枠組みを要らないブロックで組んで手際よくマグマを黒曜石に変えネザーゲートの完成である。後はエンダーマンとブレイズをぬっ殺せば終わりなのだがここからは時間がかかるので忍耐の時だ。

 

「おら!落ちろ!……落ちないか……残り1個が遠いですね」

 

お口が悪くってよ

堕ちろ!……(暗黒面に)堕ちたな

クズ運発動すると口が悪くなるゲーマー感

お口わるわる葵誰か切り抜いておいて

日頃の行いがね

もう集まってるんだから行っちゃえば?

かれこれ2時間経ってるのか

まだ始まったばかりなんだから集まる訳ないんだよなあ

これだけ集まってるなら豪運だぞ

 

「確かに初日で集まるほどやす……ん?」

 

 ドドドドっと、誰かが駆け足で上ってくる音が聞こえた。まさかだよな……?

 

「葵ー!遊ぶぞ!」

「ちょっと、りょ——」

「わああああああああ!」

 

 そのまさか、幼馴染フラである。間一髪涼くんの名前は隠せたがこれ以上はマズいので速攻で配信を終わらせなくては!

 

「えっ、何事!?」

「今日の放送は終わりです!さよなら!」

 

友達?

wwwwwwwwwwww

貴重な大慌てシーン

wwwwww

いきなり大声出すな!

葵ちゃん友達居たんだね

男の声やんけ!

恐ろしく速いカメラ隠し、俺でなきゃ見逃しちゃうね

wwwwwwwww

俺の鼓膜ないなった

カメラ隠さないで

おハーブ生えましたわ

まてまてまて

お友達コラボ配信に切りかえてけ

いかないで

音が聞こえん

 

 配信がしっかり切れている事を確認し涼くん達の方へ振り返った。

 

「なんかやらかした感じ?」

「涼くん、次にノックなしで入ってきたら……覚悟しておいてね

「アッハイ」

「まったくもう……」

 

 小学6年生になったと言うのに未だ異性の部屋へ許可無しで入るのは戴けない。しかも今回は全世界へ配信中という事だったので尚更だ。

 もう、部屋の外に分かりやすい目印でも付けておこうか。

 

「今度から『配信中』ってプレートが掛けてある時は入っちゃダメだからね。これは理華ちゃんもだよ」

「はーい」

「りょーかい」

 

 最初からそうしておけば良かったかもと思いつつ、今までこうした事故が無かった事に安堵する。とりあえずは幼馴染ズがカメラに映らなくて良かったよ。

 

「お母さんは?」

「買い物に行くって言って丁度外に出た所で会ったぞ」

「私もそこで涼馬と会ったのよね」

「鍵は?」

「閉めた!」

「ならよし」

 

 どうやら我が母上様は買い物に出かけたらしいので2人のお茶請けを用意してあげる。どうせなら家に上げるついでに配信中の事も伝えておいて欲しかったが……まあ、偶にはこんな事もあるだろう。

 それにしても、男女の幼馴染なのに未だに関係が続いているのは凄いな。涼くんは恥ずかしくないのだろうか?

 

「で、何して遊ぶの?」

「ゲームしようぜ、ゲーム」

「私は今週号を読みに」

「漫画はいつもの所にあるよ。じゃあ、いつものね」

「今日こそ勝つ!」

 

 そう息巻いている涼くんだが、配信を邪魔されたお仕置がまだなのでボコボコにしてあげるつもりだ。理華ちゃんが私のベッドの上で漫画雑誌を読んでいるのを尻目に、普段遊ぶサッカーゲームの用意をした。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

八色葵さん、配信をブチ切りしてしまう

 

1:名無しさん ID:T5t8pXQlC

いかんでしょ

 

6:名無しさん ID:nn2LflTf+

一瞬でカメラ塞ぐの好き

 

8:名無しさん ID:YPZSPmKaE

ヘッドホンユーザー、イヤホンユーザー、同時に逝く

 

9:名無しさん ID:ttevXqKc6

名前がバレそうになった瞬間に迫真のインターセプト

流石やね

 

11:名無しさん ID:RfYGJIIsY

葵ちゃんにお友達がいて良かった……

てっきり精神年齢合わずに孤立しているものかとオジサン心配してたよ

 

15:名無しさん ID:+PxP58aQ4

普通の友達でもああやって自由に部屋に入るか?

距離感近くね?

 

18:名無しさん ID:0EUI9/Y7Z

>>15

これは思った

特に男子、お前はギルティだ

 

22:名無しさん ID:XM+Ci3nrw

あの男の子ほんまにうらやまC

 

25:名無しさん ID:rCym1ftCM

幼馴染でしょ

 

30:名無しさん ID:QHrXaAAKJ

異性の可愛い幼馴染が実在するとでも…?

 

31:名無しさん ID:T5iiBGEEW

ギャルゲーの世界じゃんずるい

 

36:名無しさん ID:YjEq7rOXx

>>30

俺は居たよ

なお10歳くらいから疎遠になった模様

 

40:名無しさん ID:bK3WP3GWE

あの男子が仮に幼馴染で、しかも部屋に普通に出入り出来るほど親密だとすると……

いやズルくね?

 

43:名無しさん ID:rlk3EUdgk

マジのガチで世界的美少女が幼馴染とか前世でどんな徳を積んだんだよ……

 

47:名無しさん ID:ntmM4SQDa

うわあああああああ!!!!!

俺も葵ちゃんの部屋にはいりたいよおおおおベッドに寝っ転がってクンカクンカしたいよおおおおおお!!!!!

 

49:名無しさん ID:q8yoQRFh5

俺氏、幼馴染Bくんのアンチになります

 

51:名無しさん ID:rURdy/Dy6

見ず知らずのところでアンチが大量に生まれてるの可哀想で笑う

 

55:名無しさん ID:B3UfoQkvL

友達だろうが幼馴染だろうが羨ましい事に違いはねえんだわ

 

58:名無しさん ID:Sv594bKRL

名前も顔も知らない小学生のアンチスレが既にある恐怖

お前ら葵の事好きすぎるだろ

 

59:名無しさん ID:Qutwf/zyJ

>>58

早すぎワロタwwwwwwwwwwww

俺も行こっと

 

63:名無しさん ID:Xl7f/DgfD

男友達が居るだけでこれなら葵ちゃんに彼氏出来たらどうなんの?

 

66:名無しさん ID:1/A8z6Ht5

>>63

知らんのか?葵ファンが嫉妬の炎に抱かれて死ぬ

 

70:名無しさん ID:ahuQfNEww

彼氏なんてお父さんは許しませんよ!

 

72:名無しさん ID:PMctqRJeY

ここまで幼馴染Aちゃんの話題なし

 

77:名無しさん ID:1KNadGYia

>>72

声は可愛かったね

 

79:名無しさん ID:66sERqrSk

2人の女の幼馴染がいる奴を赦すな

 

83:名無しさん ID:ApQiD9T2J

リアルギャルゲー主人公くん!?

 

88:名無しさん ID:m79I2zZ/1

体の奥底から湧き上がる謎の黒い衝動……

まさか、これが嫉妬?

 

93:名無しさん ID:/YOls5jjm

これで家が隣同士なら狂う自信ある

 

95:名無しさん ID:q35qT5Z1X

>>88

感情を初めて知ったロボットみたい

 

 



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【雑談】お絵描きしながらのんびりと

 

「時間の余裕ができたのでお絵描きしますよ」

 

お絵描きのじかんだああああ

久しぶりのニコ生

【緩募】葵のオープニングトーク

はい

オタクコンテンツはニコ生でええかの精神

やあ

冬休みなのに相変わらず休みがない葵さん

おかえり!

時間の余裕あったっけ?

何の絵?

帰国直後に配信出来る若さが羨ましい

今年最後の配信か?

 

 冬休みに入ったタイミングでアメリカのテレビ番組の収録ロードを敢行した。長期休暇でしか海外へ行けないので溜まっていた大量の出演依頼をこなす事になってしまった。移動も大変だったし、よく頑張ったよ、私。

 

「明日は大晦日なのでこれが今年の締めくくりとなります。なのでまったり雑談しながら手を動かしていきますよ!」

 

年明けのテレビも出て欲しいお

宿題終わった?

今年の総括なのにお絵描きするのか…(困惑)

なに描くのー?

カウントダウン配信をやるんだよ!

最近のニコニコ運営に一言

今年1年お疲れ様!

明日は朝早いだろうから早めに切り上げてね

来年のオープニングトーク考えよう

ツイッターに画像上げてたけど松前漬け好きなの?

ぶっちゃけ超パ出るでしょ?

 

「今日は来月発売のIAちゃんを描きます。Lioさんモデルなので楽しみですね。運営に一言は……うーん難しいな」

 

 運営はこれまでに、ログイン無しで視聴可能にする、スマホアプリの整備、サーバーの強化、収益化と色々頑張っているのを見てきたので何とも言い難い。

 他サイトでは無料で使えるサービスが未だに有料会員のみに限定されていたりもするし、このままだと他に流れていっちゃうんじゃなかろうか。

 

「サーバー面などでバックにいる企業の力の差が出てきてますよね。だからこそ他サイトとの差別化をしなければならないとは思いますが……まあ、私は子どもなので偉そうに言えません」

 

手の指自然に描けるのうらやまC

画質にも触れて差し上げろ

ぶっちゃけ生放送で7000人も集められる人は少ないから日本人配信者はニコ生でも問題ないよね

現界隈トップ様のお言葉だ、重みが違う

参考になります

葵ちゃんも経営者だからノープロブレム

運営コメwwwwwwwwwwww

そういえば運営ちゃん駐在してたわwwwwww

母数が多い無料会員の声も聞かなきゃね

葵以外も同じこと言ってたのに……

注意!この配信は運営に監視されています

この配信の視聴者は全員プレミアム会員というバグ

運営に圧をかけるJSの図

 

「いやっ違くてですね!その……小学生の意見を鵜呑みにしないでくださいね!」

 

運営を虐めないであげて;;

まずは大会議のような赤字を出さないようにしようか

いーけないんだーいけないんだー

慌ててる割には手の動きに迷いないの草

差別化ねえ……今でもサブカルに特化してるけど

フランス人のユーザー増えてるのはいい事

広告収入を権利者に分配してMAD許可貰ったのは有難いよ

IAちゃんかわよ

アニメ専用コースでも作れば?

やたらめったらサービス増やしてもコードが煩雑になるだろうし、ムズいよな

 

 コメントでもあるように、コードを書くエンジニアも重要だよなぁ。良い人材を集めるなら日本人に限らず世界から募集するのが手っ取り早いが、さてさて。

 

「この話をすると延々と続きそうなので、また折を見て枠を取りましょうか。だいぶ前に流れてましたが松前漬けは好きですよ!母の出身地でも魚卵が好まれているのでその影響ですかね」

 

それだけ思い入れが強いってこと

強引な話題転換しがちな八色さん

俺も好き

女の子なら栗きんとん好きだと思ったんだけど

お酒に合うよな

北欧はそうだろうよ

頑なにどこが出身かは言わないのワロタ

公然の秘密と化したお母様殿下

北欧出身までバラせ

(過去の写真が発掘されて照合されているのに)

お正月はお義父さん帰ってきてるの?

そういえばパパ上の話聞いたことないわね

 

「父は通りすがりの単身赴任のサラリーマンなので何処に居るかは分かりません。きっと遠い所に居るんじゃないかな?」

 

wwwwwwwwwwwwwwwwww

八色葵さん年齢詐称疑惑その50

サラリーマンなんだ、へぇー

なんで知ってんのwwwwww

そのお父さん忍術使えそう

人間界最強候補

みんなが盛り上がってる理由が分からない件

アーマードマッスルスーツを着た葵ちゃんがバイクに跨ってバンダースナッチに立ち向かうコラ画像待ってるよ

何ネタ?

あのお母さんはラフィングパンサーだった……?

あの作品にも天才児達いたなあ

今度葵ちゃんの本棚見てみたい

なんてアニメ?漫画?

ほんとにサブカル好きなんだね

葵ちゃんは30代のおじさん、このカシオミニを賭けてもいい

少女漫画も読んで

 

 父の事を誤魔化す時は彼の忍者の末裔系お父さんを出せば流せるので便利だ。

 

「本棚紹介いいですね、やってみましょうか。少女漫画も読みますよ。ホスト部とか大好きです!」

 

あれは俺も好き

意外に最近の作品あげてきたわね

知らん

私も大好きです!

有名どころ

去年完結したね

知らないから今度読んでみる

漫画の好み雑食か?

 

「最近だといぬぼくも読んでます。オススメですよ」

 

ダイマを始めるな

いぬぼく?

来期アニメだね

忘れ去られたIAちゃん

推し作品の売上を伸ばそうとするファンの鏡

男人気もあるやつばっかりじゃんww

後は色塗りだけなんだから頑張って!

手が止まってるぅ!

来期は何みる?

 

 コメントで手が止まってる事を思い出し色塗りを始めた。でもIAちゃんの髪の色とか難しいから進度が遅くなるんだよなぁ。

 

「壮大な夫婦喧嘩とギルクラは当然として、有名どころは一通り見る予定です」

 

迷い猫の次はパパ聞きを見なきゃね

夫婦喧嘩?

葵ちゃんそんな暇あるの?

ボカロPならブラックロックシューターは見るよね?

シャナアニメ勢さん唐突にネタバレを食らう

マジでいつ見てるのか気になるな

ちゃんと寝てる?

この容姿で2次元に精通しているギャグ

キルミーベイベー楽しみ

まどマギ放送前から脚本ブッチーに不信感を抱いていた心眼の持ち主だぞ

おっぱいドラゴンも見るの?

加速するコメント、みんなアニメ好きだねぇ

葵ちゃんのおかげで趣味がアニメですって言っても冷たい目で見られなくなったよ

Fateでも大忙しのブッチー

葵ちゃんが褒めただけで円盤売上爆増よ

ファッションオタクが出てきたけどな

ニトロのブッチー知ってるって事は……あっ、ふーん

 

 実際のところは見れてない作品の方が多いのだが、それは逆行前で見たのでセーフということで。

 それに、知名度の方はもう伸ばさなくても良さそうなので、地上波の仕事はセーブする方向で進めている。来年度からはもう少しゆっくり出来るはずだ。

 生主やユーチューバーも増えて来た事だし、来年か再来年くらいからはもっとコラボもしていきたいなぁ。

 

「ボカロと言えば最近の勢い凄いですよね。千本桜なんて海外でも一気に広がってますよ」

 

1週間でミリオンが珍しくなくなってきた魔境

ナナさんすこすこ

ボカロPのプロデビューも止まらんね

この前カラオケ行ったら前の人の履歴がボカロ一色で笑ったよ

畑を耕してきた甲斐があったね

あれは伸びるよ

日本っぽさが感じられるし人気なのも分かる

葵もボカロ曲月2で投稿して♡

若い層だけじゃなくて中年も聞いてるの可愛い

 

 最近のボカロ曲の伸びは本当に著しい。そして、海外人気の火付け役となったのがやはり千本桜であった。そこからは過去の曲も軒並み再生数が増え、今は1種のフィーバータイムに突入している。

 私も宣伝してきたのだが、ここまで影響力に差があると、なんとなく悲しいやら悔しいやら。……これ、私のシングルも曲のデキ以外で売れてないか?

 まあ、それだけボカロというコンテンツが成熟したのだとしたら良かったよ。

 

「そうだ。残念ながら超パにはお呼ばれしてないので出れません。みなさんで楽しんできてください」

 

はあああああああああ!?

なんで???

おい運営!!

どうして……

我覚憤怒

俺暴動に参加しますよ、本気です

超パには、ね

生葵みれるチャンスだと思ったのに……

なんか運営といざこざ起こした?

ギャラが払えねえんだわ

沈黙する運営コメ

ああ、そういう事ね

 

 そういえば超会議にも超パーティーにも猫さんが居ることになるのか、あの会場。生主と歌い手の違いはあれど、将来的にはVの皮を被るのは一緒なんだよな。面白い運命だ。

 ちなみに私は神主とコラボ予定である。純粋に楽しみで仕方ない。何やらビール以外も用意してくれてるらしいので私はジュースを味わって楽しもう。

 

「イベントが盛り沢山なのできっと楽しめると思います!」

 

超会議の何に出るの?

生放送枠かな?

あーそういう

超会議には出ると言えよ……

超会議と超パーティーの違いが分かりません!

チケット高いと思ったんだわ

赤字を阻止するファインプレー

意味深な超会議チケットの値段はそういう事ね

詮索はNOで!

稼ぐ気が出てきたんだね、運営

運営コメェ……

それでいいのか運営ちゃん

匂わせが雑ぅ!

運営コメが答え合わせしちゃってるんだが

 

 なんかバレバレな気もするが気にしない気にしない。一ヶ月前には公表するらしいのでそれまではしらばっくれておこう。

 

「むむむ……髪の毛の色合いが、うーむ」

 

唐突に絵の話を始めるな

イアちゃんほんとに可愛いよな

色素薄い系美少女好き

お前の瞳の色合いの方が難しいぞ

日本語が怪しい葵ちゃんシリーズの新素材

オタクの好みど真ん中

さっきから手が止まると思ってたら悩んでたんだ

イラストレーターに発注すれば良いのに

可愛い子が可愛い絵を描いてる可愛い空間

俺も悩みに悩んでるとそういう独り言呟くわ

 

「白髪キャラや銀髪キャラは好きな人多いですよね」

 

 10年代後半くらいからは銀髪(白髪)キャラが些か氾濫し過ぎな気もしたが、それだけ需要がある証拠なのだろう。

 

「私は黒髪赤眼が好きなんですけどね。それが黒セーラー、特に九尾だと尚良しです」

 

羽衣狐様の目を赤くすればおk

その好み分かるけど葵ちゃんが言うと面白い

同士よ

白髪教と真反対じゃん

そこは黒髪碧眼にしとけ

てゐやロリカードのファンアート多いなと思ったらそういう理由かよ

それ羽衣狐じゃん

厨二が好きそうな好み

羽衣狐と書こうとしたらみんな同じ事考えててワロタ

 

「中二っぽい好みって……それはもう戦争では?」

 

 白髪や銀髪だって中二病っぽいだろうに。希少さで人気が出てるなら同じ様なもんだぞ!

 

黒づくめなところが特に中二病っぽさに溢れてる

やだ、この美少女喧嘩っ早い

ゲーム以外での貴重なお怒りシーン

現実離れしてるのは葵ちゃんなんだよなぁ

でもオタクくんは上下真っ黒な服装じゃん

お前の可愛さと瞳の色合いもよっぽどだぞ

加勢するぞ妹よ!お兄ちゃんに任せろ!

葵BLEACH好きじゃん、はい論破

なんだかんだ出来上がりつつあるIAちゃん

今年の総括がこんなので良いの?

おいやめろ

上下真っ黒は言わない約束だよね?

 

「そういえば総括でしたね……今年は、本当に大変な1年だったと思います。未だに家に帰れていない人も視聴者の中にはいるでしょう。そんな方に少しでも勇気や希望を与えられるよう来年もまた精進していきます」

 

 本当に、大変で衝撃的な1年だった。それでも残された者は前に進み続けるしかない。その手助けが出来るのであれば喜んでやる所存だ。

 

敢えて避けてたと思ったら触れるのか

さっきまでの温度差が

今年はみんな頑張ったよ、本当に

みなさんの支援は忘れません。ありがとう!

今年の総括なら触れざるを得ないからな

来年の目標は?

2月には主要部門のグラミー賞を取って国民栄誉賞だな

 

「来年は創作活動に専念したりコラボを積極的にやりたいな、と。案件も沢山来てるので出来るものから捌いていきます」

 

 来年からは肩の力を抜けるはずだ。超会議も行われるのだし、初めて会う人達を楽しみにしておこう。

 

「それでは皆様、良いお年を」

 




残り2話で2章を終わらせて、幾人かの視点での間話を挟み中学生編に入ります


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青い日

少々性的な描写があります


 2月。私の出したシングル「Forward」が年間最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞を含む3冠を達成。

 あの震災の事を想い書いた詩は、日本だけでなく世界でも評価されたらしい。それだけ海外の人にも衝撃的だったのだろう。

 この史上最年少での栄誉と共に日本では国民栄誉賞も授与された。これで名実ともに世界のトップに並んだ訳ではあるのだがやる事は特に変わらない。

 スマホの普及によりインターネット人口もより増えて来た。これからは現実世界よりもオンライン上での娯楽、交流が発展していくだろうし、その流れに上手く乗っていきたい。

 

「昨日のテレビ見た?」

「どれのこと?地震のやつなら見たけど」

「それだよそれ!もう1年経ったなんて信じられないよ」

 

 震災から1年経った昨日はどのチャンネルも特別番組で持ち切りであった。

 最新の復興状況、避難民の生活、そして日本という災害が多発する国に住む私達の取るべき行動などなど。

 これから30年以内に発生すると言われている南海トラフへの対策も進めていかなければならないと熱弁する専門家もいた。それはそうだと同意するが難しい面も多々ある。

 そも、地震だけならば日本の対策は十分すぎるほどに済んでいる。中には老朽化しても構わず住む人や、放置された空き家もあるが全体で見れば稀である。

 

 一番の問題は、河川が張り巡らされ、海に囲まれたその地理にある。水源が豊富な事は恵みでもあるのだろうけど、一歩間違えれば数万もの命を奪うものに変化してしまうのだから恐ろしい。

 これからの時代は地震以外の大雨にも注意しなければならない。水害を完璧に、未然に防ぐ事は果たして出来るのだろうか。

 

「佐藤さん、一緒にトイレ行こっか」

「う、うんっ」

 

「あっ、なら私達も」

「葵の気遣いを無駄にしなさんな」

 

 休み時間、普段通りに私の机の周りに集まってきた女子達から今年度引越してきた子を連れ出す。別にイジメが起きている訳でもない。ただ、彼女が辛そうな顔をしたからというだけだ。

 

「……ありがとう、八色さん」

「気にしないで」

 

 佐藤さんは岩手県出身の女の子だ。それも、海にほど近い地域の。人死にが少なかったとは言え、あの光景を目の当たりにした精神的負荷は計り知れないよ。

 

「もう大丈夫です。心配かけてごめんなさい」

「敬語出てるよ」

「あっ……ごめん、八色さんが相手だと、その……」

「まあ無理にとは言わないよっ」

 

 水で顔を洗った彼女は普段と同じ表情に戻っていた。

 クラスメイトの子達も無遠慮とは言わないがデリケートな話題がある事も学んでくれると嬉しい。

 とは言え気にしすぎるのも佐藤さんに対してよそよそしくなってしまうので難しい塩梅だ。

 ……逆行前だと原発事故も相まって、子どもながらに酷いイジメもあったらしい。この世界ではそんな事が起こり得ないのは良かった事だ。

 

「……何も聞かないの?」

「聞いて欲しい?」

「八色さんになら」

「その返しは予想外だよ……」

 

 ……なんか、彼女からは初対面からぶち抜いた好感度を感じる。そこまで特別な事をした覚えは無いのだが、不思議なものだ。

 

「私ね、将来は自衛隊に入りたいの。それで、困ってる人達を助けるのが私の夢。私にしてくれた人達みたいに……」

「……そうなんだ」

 

 その道以外にも災害支援をする職はある。女の子が自衛隊に入るのは辛いだろう。

 そう口に出そうとしたが、彼女の目を見て止めた。それだけ固い意思があるのであれば、どんな困難にも立ち向かって行けるだろう。その道に幸があらんことを願うのみだ。

『はいはい、祝福をっと。これで5人目だね』

「そろそろチャイムが鳴っちゃうし、教室に戻ろうか」

「うんっ」

 

 暖かな春の風が流れて来た。去年とは違い今日は春らしい気温になっている。

 そろそろ防寒着を片さないとな。教室に戻る道すがら、そんな事を考えた。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「なんで私達も出なきゃいけないんだろ」

「家で寝てたいよね」

「しかも知らない人の話を聞かなきゃいけないって、ほんとに意味わからない」

「ねぇ〜」

 

 3月22日の今日は6年生の卒業式が執り行われている。

 5年生の私達も在校生として出席しているが暇な時間は隣の子とお喋りしている子達も見える。保護者の手前、式が始まってしまえば先生方が注意に来れないという事を分かっているのだろう。

 この頃になると精神も成熟してきて強かな子が増えてきた。でも君達の担任が鬼の形相をしているから後で怒られると思うよ。

 

 卒業証書が授与された後は在校生からの言葉と卒業生からの言葉が交代で行われた。なんとも小学生らしい式の内容に、懐かしい気持ちが溢れてくる。これを恥ずかしがらずにやるんだから、みんなは偉いよ。

 

「涼くん、卒業おめでとう!」

「ん、サンキュー」

「……あれ、なんかあった?」

 

 卒業式が終わった後は帰宅してもいいのだが、理華ちゃんと2人で幼馴染を待っていた。

 昇降口からゾロゾロと出てくる人波の中で、私よりも7センチ高い身長は目立ちに目立って分かりやすい。

 でも、なんか雰囲気が朝と違うような……

 

「なんで?」

「雰囲気が……あっ、女の子から告白でもされた?」

「されてないよ」

「いつもと変わらないように見えるけど」

「そうかな?……そうかも」

 

 理華ちゃんが変わらないと言うならそうなんだろう。珍しい正装に騙されていたのかもしれない。

 

「演技するの辞めたの?」

「しばらくは会わないからな」

「ん、なんか言った?」

 

 八雲家ご夫妻と一緒に帰る道中、涼子さんと話していると後ろから2人の話し声が聞こえてきた。

 

「女の子にモテない涼馬を茶化してた」

「理華も告白された事ねえじゃん」

「私はあるわよ」

「ええっ!?」

「はぁ!?」

「2人してなんだその反応。喧嘩なら買うわ」

 

 小学5年生でも告白なんてあるのか……しかも理華ちゃんがされているのは意外だ。

 茶髪混じりのセミロングの髪に今風の少し大人っぽい私服、確かに可愛らしい容姿をしているけど……最近の子は進んでるなぁ。

 

「何時されたの?」

「この間のクラブ活動の後。振ったけどね」

「はえー」

「まあ俺もあるんだけどな」

「ええ!?」

「涼馬、嘘はダメよ」

「母さん、本当だって!」

 

 なんか2人して先に大人の階段を上っている事に危機感を覚える。私も超絶美少女ちゃんの自信があるのだが一向に告白される気配はない。

 野郎からの告白——女の子からされても困惑するが——はノーセンキューではあるが、この差は一体なんなんだ……

 

「葵は、まあ、ね?」

「何その含ませた言い方」

「身長だけ伸びたお子様には分からないかしら」

「下手な大人より大人してるんだが?」

 

 身長の方も現在159センチメートルと少し成長に陰りが見えてきた。このままだと夢の180に届かないようで焦りも出てくる。何とか伸びてくれないだろうか。

 

「涼くんは春休み忙しいんだっけ」

「クラブの方で埋まってるな」

「来年までは会う機会が少なくなるね」

 

 私達が中学に上がるまでは少し疎遠になるかな。こうやって幼馴染としての関係も薄れていくのだろう。

 まあ、お隣さんだからあまり変わらない気もするが。

 

「じゃあ、また後で」

「私は葵の家で待つわ。お母さん達も後から来るし」

「はいはい」

 

 今夜は涼くんの卒業祝いとして3家族合同のパーティーがある。会場は無駄に広い我が家で、理華ちゃんも家に帰るのが面倒みたいだ。

 

 涼子さんやお母さんと一緒に料理の手伝いをしていると、改めて涼くんがしっかり成長しているんだなと感じる。このまま曲がらず真っ直ぐに大人になってほしいなぁ。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「うわああああ!」

 

 春休みの朝、それは起きた。

 いつもと同じ様にトイレへ行き服を脱ぐと、それが現れた。

 

「お母さん!お母さん!」

「どうしたの!?」

「血が…っ」

「ああ〜……」

 

 トイレのドアを開けてお母さんを呼びつけると何かに納得したような顔をしたお母さんが。慌てている私とギャップが酷い。

 

「病気…いや、えっ!?」

「葵ちゃん。それはね、体が大人になった証拠なの」

「大人?……あっ」

 

 曰く、女性が子どもを作る準備をしている証。これから数十年間付き合わなくてはならない周期的なもの。

 それは、初めての月のものだった。

 

 とりあえず汚れた下着などを取り替え、初めての生理用品の使い方をお母さんに教えてもらった。

 

「この歳にもなって下着を手洗いする事になるなんて……」

「そんなものよ。気にしないで、ね?」

「うう……」

 

 落ち着いた後にベッドの確認をすると、幸いな事にシーツには汚れが付いてなかった。下着だけで食い止めてくれた事に感謝するべきなのだろうか。

 

「もしも量が多ければタンポンって言うのもあるけど」

「それは怖いから嫌だ」

「痛くないよ?まあ、初めのうちはナプキンだけで問題ないと思うわ」

 

 タンポンってあれでしょ、中に入れるやつ。女の子の体に慣れてきたとは言え、まだそこは触ったことが無い。失敗した時が怖いので絶対に遠慮したい。

 

 それにしても、以前からも分かっていたことだけど、本当に女の子の身体なんだ……男の体が恋しい。

 

「これ、本当に3日から5日で治まるの?」

「個人差があるけど、そんな感じね」

「うえー……めんどくさい……」

「体調は大丈夫?お腹が痛かったりしない?」

「それは無いけど……」

 

 そうか、生理痛とかも出てくるかもしれないのか。幸いな事に今回のは軽い方みたいだけど、いつかは重いものがあるのかな……

 世の女性はこんなものと付き合っているなんて、よく我慢出来るものだ。本当に尊敬するよ。

 

「学校や出先でも2時間に1回は変えなきゃダメよ。学校のトイレにゴミ箱はある?」

「サニタリーボックスの事ならあったはず」

「ならそこに捨てちゃって」

 

 我が家ではサニタリーバッグが設置されているが、学校では小さな黒いゴミ袋が被せられた蓋付きのゴミ箱がある。

 4年生くらいの時に女子だけ集められて使い方を説明されたっけ。その時は軽く流していたが、まさか自分もお世話になる時が来るとはね。

 

「今日のオフィスからの帰りにポーチも買いに行きましょう」

「ポーチ?」

「出先で使う用品をその中に入れておくの。葵ちゃんは学校へ行く時なんかも持っていかなきゃね」

「へ〜」

 

 そういえば前世の彼女は必ずバッグを持って出歩いていたっけ。気にした事はなかったがそういう物も入っていたのだろうか。

 ……こういう男の無知さ加減が日本のフェミニスト等の気に障っていたりするのかもしれない。いや、私だけが無知だった可能性もあるか。

 同棲していたので自宅では気にかけていたがそれだけだったし。今さら反省しても遅いけれど、彼女には申し訳ないことをしたな。

 

 そんな事を考えていると乗っていた車がオフィスに到着した。長期休暇中は平日でも出勤出来るのでありがたい。

 

「葵さん、明日のCD収録についてですが、今話しても?」

「千恵さん、大丈夫ですよ」

 

 寺田千恵さんは去年の2月から雇った専属マネージャーさんだ。今まで私に付き添っていた由希さんや真由美さんは、主な仕事をライブやCD販売の時期の調整、広告代理店との打ち合わせに移ってもらっている。

 

 暇な時間が出来た由希さんはSWUMの元同僚と付き合ってる、と言うより6月に結婚式を挙げる予定の中々のスピード婚だ。

 そんな彼女はそれはもう幸せオーラたっぷりな感じである。由希さんに子どもが出来ればまた人員を補充しなければいけないかな。

 

「午前10時にあちらに到着予定でしたが、向こうの都合により12時からに変更となりました。午後の収録が17時からですので少しバタバタすると思われます」

「つまり、全部一発録りしろって事ですね!」

「まあ、そういう事です」

 

 最近の私の曲は10ヶ国語を超えるバージョンで販売されている。そのせいで日本やアメリカ以外の市場も荒らしている傍迷惑な存在になっていたりもするが、現地のアーティストの皆さんには頑張ってほしい。

 

 多言語展開の良さは全体の収入が増えた事はもちろん、日本語版のCDの売上枚数が上がった事だろうか。

 どうやら各国のファンがオリジナル版も聞きたいと思って買ってくれているらしい。私の曲のオリジナルが日本語なのか英語なのか問題があるのだが、それは置いておく。

 

 CDの値段も1500円なので会社の収入はウハウハである。私の会社でこうなのだから、レコード会社はもっとだろうな。

 

「全て一発録りだと、確認も合わせて2時間くらいかな?」

「喉に無理をかけられないので休憩も入れてください。3時間でいきましょう」

 

 千恵さんは真面目そうな雰囲気をしているのに意外とノリがいい。堅苦しくもないのでやりやすい相方だ。

 

「そういえばなんだけどさ。葵ちゃんの小さくなった服ってどうしてる?捨てちゃった?」

「先輩、まさかもうお子さんが……?」

「違うよ!でもデキた時ようにあったらなーって。どう?」

「それなら送ってきたブランドさんに許可を貰ってNPO団体の方に寄付してます」

「ええっ!?」

 

 由希さんには申し訳ないが、そういう事だ。持っていても使い道はないし、近所の子も要らない物は全てそうしている。捨てるなんて勿体ないからね。

 

「すみません。そういう事なら残しておいたんですが……」

「しょうがないかー。ううん、私もあったらいいなくらいの気持ちだったから」

「先輩、もしお子さんが生まれても着るのは10年くらい経った服になりませんか?」

「真由美ちゃんは甘いなぁ。葵ちゃんが着た事に意味があるのだよ」

「仰る通りです!」

「同意です」

「樹、お前は黙っとけ」

 

 東さん*1と近藤さん*2はいつもの事なので放っておく。

 それにしても、オフィスも随分と賑やかになったものだ。スタイリストの高野さんは衣類の保管用に借りた部屋を行き来していたりもするが、基本はコッチにいる。

 今のままでも問題はないけれど、お金もある事だし、もう少し大きなオフィスに引っ越してもいいかもしれないね。

 

 

*1
経理部の東朱里ちゃん

*2
税務部の近藤樹くん




本当は主人公の小さくなった服を古着屋に持っていく設定で、それがヲチスレでバレて客が殺到するネタもありましたがボツになりました


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超会議

内容はほぼ掲示板回


「八色さん、到着しました」

「ご苦労さまです。帰りもよろしくお願いします」

 

 4月28日の土曜日、第1回ニコニコ超会議が開催される。

 場所はコミケと因縁が深い千葉県の某所だ。なお来年には和解する模様。

 

 前回の大会議とは違い最初から関係者入口から入場、スタッフの案内の下、超会議での出演ブースに来た。

 訳なんだけど……

 

「うわ、お酒の匂いが凄い……」

「八色さん、僕は二日酔いがキツいんだ。あまり立たせないでもらってもいいかな」

「ひろあき君はお酒に弱いな〜」

「ZINさんが強すぎるだけでは?」

 

 今日のコラボ相手は既に出来上がっていた。流石に26時から呑むのはいかんでしょ……

 

「ひろあきさんはこの後も超パーティーの司会あるんですよね?いけるんですか?」

「それまでには何とかなるでしょ」

「肝臓は水で洗えるらしいですよ」

「未成年が言う言葉じゃないね。久しぶり、葵さん」

「ZINさん、お久しぶりです!」

 

 今日は東方の生みの親である通称神主さんとニワンゴのひろあきさんで特製ビール及び柑橘系ジュースの販売だ。

 速攻で売り切れる事が予想されているので残された時間は3人での対談が予定されている。むしろそっちが本題の様な……

 

「とりあえず飲んでみてよ。ジュースも自信作だよ」

「いただきます」

「オイラは水を……」

「美味しい!」

 

 曰く静岡県産のブランドみかんを贅沢に使った100%果汁ジュースとの事。濃厚な甘さに程よい酸味が素晴らしい。流石は日本三大産地の一つだ。

 

「千恵さんも飲みます?」

「では……ん〜!」

「マネージャーさんはエールでも良いかもね」

「仕事中なのでアルコールはちょっと……でもこれ美味しいですね」

 

 別にお酒を入れても良いんだけどね。どうやら私の出番が終わった後に色々見て回りたいらしいのでそれの為に控えてるのだろう。

 

「10時まではカメラやゲストの人が会いに来るだろうから相手してあげてください。僕達はもうしたから八色さんに放り投げます」

「構いませんが完売後もここでトークするんですか?」

「それだとみんなが見えないからステージに移動だよ」

「了解です」

「八色さん!お味はどうですか?」

「ほーら早速カメラが来た」

 

 その言葉通り運営スタッフのカメラが来たので笑顔で対応する。他にも暇なゲストさんがわんさか来た。初対面の人も多いので自己紹介がてら連絡先を交換、一気に20人ほどのメールアドレスを入手した。基本SNSで連絡は可能ではあるのだが念の為である。

 

「葵ー!大きくなったなあ!」

「あれ、シロさんはもう来てたんですね」

「遅刻常習犯と思われてたりする?」

「そんな雰囲気が」

「失礼なやっちゃなぁ」

 

 中には超パーティーに出演する人達も覗きに来ていて賑やかなムードになっていた。顔見知りが来てくれるのは嬉しいがリハーサルの方は平気なのかな?

 

「後5分で入場開始でーす!」

 

「そうだ。私のブースって何時公表したんですか?」

「八色さんはシークレットとして伏せてる現状で、とりあえず参加する事だけ公表してあります」

「……それありなんですか?」

「そうしないと会場がパンクしちゃうからね」

 

 未だに私の担当を公表してないのは炎上しそうなものだけど、果たして大丈夫なのだろうか……?

 もう時間も残り少ないし、何とかなると信じよう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

八色葵さんの居場所、未だに不明 part3

 

1:名無し@超会議 ID:GGEWx/+la

前スレ:八色葵さんの居場所、未だに不明 part2

関連スレ:ニコニコ超会議実況スレ part8

 

次スレは950

 

4:名無し@超会議 ID:WY4SmEmYJ

もう始まるんだが公式は睡眠中

 

5:名無し@超会議 ID:zy3EFsgTE

1週間前のお前ら「前日発表するんでしょ」

前日のお前ら「当日発表するんでしょ」

今日のお前ら「1時間前に発表するはず」

 

現在開演5分前、これ如何に

 

8:名無し@超会議 ID:2iRv4I5cl

>>5

運営を許すな

 

11:名無し@超会議 ID:985L+Sdp8

未だ生放送枠に変更なし

 

14:名無し@超会議 ID:DXnICGkIF

だって公表したらみんなそっち行くじゃん

 

15:名無し@超会議 ID:2L76Xa53a

もう分からんからコスチャレ行くお

 

18:名無し@超会議 ID:pVM7g2Vnx

うだうだ言ってないで葵以外のイベントを純粋に楽しめよ

 

21:名無し@超会議 ID:cw0VUVbgQ

>>18

正論は時に人を傷つけるんだぞ

 

22:名無し@超会議 ID:RC8LLFJtJ

簡単だよ

警備員が沢山いる所が奴の居場所さ

 

25:名無し@超会議 ID:Fwxpc0O3+

>>22

かしこい

 

27:名無し@超会議 ID:oaGt/psX7

ガチで生放送枠じゃないってことか

 

28:名無し@超会議 ID:0gCoaBHaY

もう時間ないし実況スレに戻るわ

 

31:名無し@超会議 ID:n4EPQZImv

世界の歌姫様だぞ

本来ならこんなイベントには参加してくれないんだから運営に文句言うのは辞めようね!

 

34:名無し@超会議 ID:ieQwiVeIu

確かになんであの子超会議に出席してんの?

 

37:名無し@超会議 ID:qI1yfU72U

なんでナマケットガールズ枠に居ないんだ?

 

38:名無し@超会議 ID:gafHDLKpd

名誉ニコニコキッズの八色葵さん

 

39:名無し@超会議 ID:e6IwvYhfd

分からんからとりあえず神主ビール飲んでくるわ

 

41:名無し@超会議 ID:vFzqag44L

>>37

前スレ見ろ

 

43:名無し@超会議 ID:Utcrcdn61

>>37

だって葵ちゃん1度もナマケットに参加してないもん

 

46:名無し@超会議 ID:svTffTb6J

何かの間違いでコスプレしててくれないかなー

 

48:名無し@超会議 ID:nY2ZyqIcG

デブ俺氏、フードコートで腹ごしらえするお

 

50:名無し@超会議 ID:XYL2wUuaU

果たして葵を生主と定義していいものなのか

 

51:名無し@超会議 ID:xwmhnZW9v

どうせ有料ブースだろ

 

52:名無し@超会議 ID:aUqX1Ibst

探すの諦めてる奴多いな

 

53:名無し@超会議 ID:no0wfh042

もうみんな諦めて他の楽しみ見つけに行ってるね

 

54:名無し@超会議 ID:9b+i2DQKR

しゃーない、切りかえてけ

 

56:名無し@超会議 ID:ah0OElPdh

開演だあああああああああ

 

58:名無し@超会議 ID:Ink+c6elH

あちこちに散らばる現地民

 

59:名無し@超会議 ID:e6IwvYhfd

居たら教えて、俺はアルコールを求めに行く

 

 

 

 

 

 

100:名無し@超会議 ID:e6IwvYhfd

【速報】八色葵さん見つかる

 

https://imgur……

 

可愛ええ可愛ええ

 

101:名無し@超会議 ID:qea3lwq89

メシうめー

 

102:名無し@超会議 ID:Kuwb5GpOf

>>100

ガチやんけ!

 

103:名無し@超会議 ID:MxX5iYVaX

>>100

メンツ凄くて笑う

 

105:名無し@超会議 ID:P7PD5XNsP

>>100

ZINビールかよ!

 

106:名無し@超会議 ID:f8kdiSFPB

>>100

東方、2ちゃん、歌の歪な組み合わせ

 

107:名無し@超会議 ID:e6IwvYhfd

みかん風味のエールとジュース売ってるぞ

数量限定だから急げー

 

108:名無し@超会議 ID:ZWiX7gImd

今から移動するンゴ

 

109:名無し@超会議 ID:CVL3gyBT+

>>107

葵ちゃんいるからジュースなのね

 

110:名無し@超会議 ID:eBZGJOIc5

今の場所から遠すぎてキレそう

 

111:名無し@超会議 ID:9HZHLdPu

現地民大移動始まってて草

 

112:名無し@超会議 ID:QGdlb3XVp

>>107

っぱ酒求めるのが正解よ

 

115:名無し@超会議 ID:vOlS8+IzA

みんな一方向に走り出したと思ったらそういう事ね

 

118:名無し@超会議 ID:QWWVanQ70

八色葵さん酒カス概念

 

121:名無し@超会議 ID:sso0hadgM

スマホ持ちが増えた弊害だな

情報伝達が速すぎる

 

122:名無し@超会議 ID:2wbFYk+AG

>>100

これ本当に小学生?JKに混じってもバレないぞ

 

124:名無し@超会議 ID:e6IwvYhfd

ちな初めてのお客さんって事でツーショット撮ってもらったお

いい匂いがしたお

 

126:名無し@超会議 ID:HHEfKC1JT

>>124

??????????

 

128:名無し@超会議 ID:g2NRYo6F1

>>124

は?

 

131:名無し@超会議 ID:AzsGViLMS

>>124

コイツを処せ

 

132:名無し@超会議 ID:lB3hd6Es6

>>124

…スぞ

 

135:名無し@超会議 ID:clXUoPE5o

>>124

俺氏キラ、デスノートに君のID書いたよ

震えて眠れ

 

137:名無し@超会議 ID:w2+fwqUfh

>>124

なんでそれ自慢したの???

 

140:名無し@超会議 ID:3d8X4rDge

>>124

死ね

氏ねじゃなくて死ね

 

141:名無し@超会議 ID:e6IwvYhfd

嫉妬民におハーブ生えましてよwwwwwwwwwwww

あっ、葵ちゃんのおっぱい大きくなってました

すっごくえっちでした

 

142:名無し@超会議 ID:3aUH7zi8E

買えたー!生葵見れたー!サンキュー>>100

 

144:名無し@超会議 ID:Iem7gZ1MP

>>141

そんなの最初の写真で分かってるわボケ

 

147:名無し@超会議 ID:DVq9uo30G

>>100

膨らみがシコい

それはそうと君は死刑だ

 

148:名無し@超会議 ID:AuWdFBBff

乗り遅れた民、長蛇の列を見て諦める

これもう無理ぽ……

 

https://imgur……

 

149:名無し@超会議 ID:ncn1H4SEE

葵ちゃん成長し過ぎwwwwwwwwwwww

 

150:名無し@超会議 ID:odpOczkjO

ロリコンさん憤死のお知らせ

なお年齢は12歳

 

152:名無し@超会議 ID:wXXuBdvbt

現地民の僕、無事にエールを購入

 

154:名無し@超会議 ID:eWLSpDIv5

もう赤ちゃん作れそうな体だねぇ

 

157:名無し@超会議 ID:2N+7n9z0+

これ直ぐに売り切れるじゃん

 

158:名無し@超会議 ID:sWyXVVK1u

普段の配信だと顔しか映らないからね

 

160:名無し@超会議 ID:tB8yREIr3

>>154

二番煎じはNG

 

162:名無し@超会議 ID:MokYod7DP

警備員必死に列維持してて偉い

 

165:名無し@超会議 ID:44ry0EOL+

お前ら実況スレに行けよ

 

168:名無し@超会議 ID:ExqGmWf0f

配信も胸像にしろ

 

169:名無し@超会議 ID:8SzHuYXkK

JSの姿か?これが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコニコ超会議実況スレ part25

 

369:名無し@超会議 ID:0YjZDKGP9

トークショーの時間だあああああああ

 

370:名無し@超会議 ID:335cWQGVg

ビール買えなかった民、救済

 

373:名無し@超会議 ID:jIj0n9BVd

ナマケット始まるお

 

374:名無し@超会議 ID:GWjCeyT59

リアルユーザー生放送なう

 

376:名無し@超会議 ID:/uZeyCj7C

博麗神主、2ちゃんねる管理人、グラミー賞歌手の夢のコラボ

 

377:名無し@超会議 ID:t0ps4gE8g

フードコートで飯を食いながらスマホで見てる民

 

380:名無し@超会議 ID:FDdJCFoQ9

何繋がりだよこの3人

 

382:名無し@超会議 ID:oTOfkCruL

ニコニコ界の大御所集めてみた感

 

385:名無し@超会議 ID:Ldn3JHoLn

生放送ってこうやるのね

 

388:名無し@超会議 ID:bRTmuFFeL

3人の対談見たいけどカラオケ大会の抽選ががが

 

391:名無し@超会議 ID:iZMBVN0CS

葵ちゃんおっきい

 

394:名無し@超会議 ID:6GMybjuHM

ひろあきとZINが仲良いのは分かる

でも葵は違うでしょ

 

397:名無し@超会議 ID:wIT5AXybJ

葵ちゃん神主と知り合いだったのかよ

 

398:名無し@超会議 ID:N4wUxmOuG

凄い画で草

 

401:名無し@超会議 ID:G623ZmqQg

司会「御三方はどのような繋がりで?」

 

404:名無し@超会議 ID:UWWAqJSgf

配信許可とる時ね、なーる

 

407:名無し@超会議 ID:cgbaH9loV

ひろあき顔色悪そうwwwwww

 

408:名無し@超会議 ID:/MJPHp5pQ

12歳が数年来の付き合いってギャグか?

 

411:名無し@超会議 ID:2TJlvOtBM

ひろあきと葵は大会議で会ってるか

 

412:名無し@超会議 ID:+2jIi70qb

売上向上委員会の八色葵さん

 

415:名無し@超会議 ID:Z7F/QQgbE

ひろあきフラフラで笑う

 

418:名無し@超会議 ID:ldPivSdQv

神主の懐の深さよ

サンキューZIN、フォーエバー東方

 

419:名無し@超会議 ID:fJCEr2WBg

オムライス買えたああああ!!

 

422:名無し@超会議 ID:V4ohQ7qAY

ひろあき「ア゙ア゙ア゙、ちょっと今やめてもらっていいですか」

 

425:名無し@超会議 ID:91QnsJLhM

こいつ超パ出れるの?

 

428:名無し@超会議 ID:+VkdA7CjC

【悲報】世界の歌姫さん、今日は歌わない模様

 

430:名無し@超会議 ID:Ed7ry12zR

のど自慢行ってくるお

 

433:名無し@超会議 ID:aa2PCfmgr

美人天気の時間だあああああ

 

435:名無し@超会議 ID:TzvnviU6N

フードコートゲロ混み

 

437:名無し@超会議 ID:UZeE4+82y

アーティストの八色葵とニコニコの八色葵は違うんだよなあ

 

438:名無し@超会議 ID:Y5ZS6hVgg

これがアルコールハラスメントちゃんですか

 

439:名無し@超会議 ID:ACx9Bkz/T

この時間から飯食う奴なんてデブしかいねえよ

 

441:名無し@超会議 ID:7wOrv7JkG

ひろあき「ZINさんと八色さんが執拗に乾杯するから僕も付き合ってしまって」

 

可哀想wwwwwwwwwwww

 

444:名無し@超会議 ID:wAoKW6cfa

葵ちゃん「私は酔いが回らなかったので」

 

447:名無し@超会議 ID:JOyEgyMYU

ノンアルで酔ったらいかんでしょ

 

448:名無し@超会議 ID:rXfmXsi/K

酒豪神主とノンアル葵に合わせるのが馬鹿

 

449:名無し@超会議 ID:tnfBa6q4Q

みかんジュースで酔うわけないだろww

 

451:名無し@超会議 ID:oQDeFDBYZ

ゴチャゴチャでワロタ

コンテンツ毎に実況分けろよ

 

452:名無し@超会議 ID:NqVlVbQow

神主余裕の表情

 

454:名無し@超会議 ID:i5b0z8nFq

元々酒は神事で使われる物だったからね

神主が強くても不思議は無い

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

『それでは御三方に大きな拍手をー!』

 

「八色さん、コチラに」

「ありがとうございます」

 

 12時になりトークショーの方はお開きとなった。ビールとジュースが思いの外早く掃けてしまったので私の出番もこれで終わりだ。お昼はフードコートのものを買ってきてくれるらしいがそれくらいなら自分で行くので断っておいた。

 

 控え室に戻り、衣装と髪の長さを変え、眼鏡とキャップを装着。鏡に映っている人物を見て「八色葵」だと分かる人は居ないだろう。我ながら完璧な変装技術に惚れ惚れするぜ。

 

「変装オーケー!千恵さん、行きますよ!」

「オーケーかなぁ……?」

「完璧じゃないですか?」

「まあ、葵さんとは思えませんが……」

「なら大丈夫です!」

 

「警備を回せ!だが絶対にバレるなよ!一般人として楽しみたいとの意向だ!」

「はっ!」

 

 腹が減っては戦ができぬと言うし、まずは腹ごしらえとしてフードコートに急ごう。

 そうして千恵さんを連れてやって来た食事処は既に大盛況となっていた。お昼時だし仕方ないか。

 

「千恵さんは何食べたいですか?」

「あお……ボスと一緒ので」

「ボス?……ああ、了解です。ならオムライスに並びましょう!ついでにポーションも飲みたいですね」

「オムライス……オムライス?王蟲では?」

 

 そりゃあ王蟲を模して作ってるからね。某兄貴系の料理でもいいけど私の年齢的にはネタにしにくいのでスルーだ。

 並んでる間にTwitterを確認してみるとどうやら結構な盛り上がりを見せているようだ。公式ツイが8万ふぁぼとか大分バズってるね。

 

「こ、こちらになりますっ!あああありがとうございましたっ」

「ありがとうございます」

 

 結構な時間並んで受け取ったオムライスはやはり衝撃的な見た目だ。千恵さんにスマホをパスしてその王蟲(オムライス)とのツーショットを撮ってもらった。後でTwitterにでもあげておこう。

 

「これ、結構重たいですね」

「ご飯と焼きそばの炭水化物爆弾ですので。食べ切れなかったら持ち帰りケースを貰えるみたいですよ」

「いえ、イケます。それよりボスがこの量を食べれるのが意外でした」

「成長期なので」

 

 なんなら160センチあるのに50キロに乗らない体が心配でもある。なので最近は栄養バランスに気をつけながら良く食べるようにしている。でもいくらカロリー取っても栄養が胸にいってる気がしてならない。個人的にはもうちょっと全体的な肉感が欲しいぞ。

 

「食後にポーションをグイッと」

「これ本当に飲み物ですか?色が……あっ、社長!」

「うわー、なんとも言い難い味。すっごい精力がアップしそう」

「子どもが飲むものじゃないですよ!ペッしてください!」

「お酒は入ってないので平気です」

 

 慌てている千恵さんを宥めゴミを片してから次の場所へ。

 あっ、ぶち猫さんの美人天気に間に合わなかったな。可能ならば見に行くって言った手前行かないのは申し訳ないし、ユーザー生放送の方に顔を出そうか。

 

「次はどちらに?」

「食後のもふもふタイムです。アルパカ君の所に行きましょう」

 

 最近、モフり欲が溜まってしょうがない。犬や猫を飼おうにも家を開けることが多いので寂しい想いをさせてしまうだろうし、この欲を発散させる場が欲しかったのだ。

 

「いた!しかも空いてる!」

「運が良かったですね」

 

 時間が良かったのか人も疎らだったので直ぐに私の番がやって来た。許された時間内で存分にモフり倒す。

 

「はぁ〜素晴らしいモフモフ感。もうこのまま眠りたい……」

「ウチの社長、天使過ぎるっ…いっぱい写真撮らなきゃっ」

 

 いっその事ペットショップでも経営するか……?そしたら好きな時にモフりに行けるし……いや、生き物を売るのはそれなりの覚悟が要るよな。早まらないようにしないと。

 

「それにしても、この子達は唾吐かないんですね」

「怖がったりしない限りはしないんですよ。やく…お嬢さんの居心地がいいのかもしれません」

「君はいい子って事だね。よーしよしよし」

 

 思う存分撫で回してから名残惜しみながら解放してあげる。

 時間も丁度いいのでユーザー生放送のブースに向かおう。

 

「おー!流石はトップ層、視聴者がいっぱいですね」

「ここは男性が多いですね」

「女性配信者の視聴者層なんてそんなものですよ」

 

 ぶち猫さんはナマケットガールズに選ばれるほどの人気配信者だ。しかも将来的にはスパチャを荒稼ぎするお人でもある。まあ、最後は色々あったみたいだが。

 

 その後もthumbfreeさんに会いに行ったり、何故か来ていたナナさんとお話したり、超パーティーを見させてもらったりと、その日のイベントをたっぷりと堪能した。

 

 ナナさんはあれか、自分の描いた絵を見に来てたのだろうか。のど自慢に出て欲しかったのだが、私が出るならと言うので諦めざるを得なかったのは残念である。まあメジャーデビューもしているナナさんだ、そのうち一緒に音楽番組に出る事もあるだろうし、その時を楽しみにしておく。

 

 プロ棋士との指導対局抽選に当たった際はバレそうだったけど、何だかんだ声もかけられずに無事に勝利を収められたので良しとしよう。

 

「ほら、バレなかったじゃないですか」

「そうですかね……?」

 

 度々私の変装を危ぶんでいた千恵さんではあるが、最後までバレなかったのはそれだけ完璧な変装だったという事だろう。そもそも皆が私を探してるなんて事は無いんだし、心配し過ぎなんだと思うけどなあ。

 

 とまれ、初対面の人とも交流出来たし、来年からは色々な人ともコラボ出来そうだ。それに、そろそろユーチューバー戦国時代が幕を開けそうだし、そちらも楽しみにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヲチ】八色葵ちゃんを見守るスレ part2432

 

1:名無しの観測者 ID:pOaAT3wSt

前スレ:【ヲチ】八色葵ちゃんを見守るスレ part2431

 

【テンプレ】

・私生活で葵ちゃんを見かけても声をかけないようにしましょう

→理由は分かれ

・住所が特定出来るような書き込みや画像の投稿はアウトです

→理由は当たり前だから

・口汚い言葉を使いたくなれば一旦お嬢様言葉に変換しましょう、きっと落ち着きます

 

次スレは950

 

 

765:名無しの観測者 ID:dF8KyF9sL

はー、モフモフ葵かわゆすぎる

 

https://imgur……

 

766:名無しの観測者 ID:6XPZtZLrE

あのオムライス並んでたら後ろに葵ちゃんきて胸がバクバクだったお

 

767:名無しの観測者 ID:birpuFyWP

>>765

かわよ

 

768:名無しの観測者 ID:fnDBHHv/i

>>766

うらやまC

 

769:名無しの観測者 ID:A/32x7rVN

>>765

速攻で保存した

サンキュー

 

770:名無しの観測者 ID:LP2qxRuFS

動物との絡みは反則では?

 

771:名無しの観測者 ID:bnX8oFOwR

>>765

あ^〜癒される〜

 

772:名無しの観測者 ID:uDjVONqT4

貼り忘れてたわ

ポーションイッキ葵

 

https://imgur……

 

773:名無しの観測者 ID:CeiCLgSYd

相変わらずオアシスなスレ

 

774:名無しの観測者 ID:dztwTeZ8z

民度が高すぎる

 

775:名無しの観測者 ID:L3P5xKq+k

バレてないと思ってる葵さん尊い

 

776:名無しの観測者 ID:GwgDuYi5x

>>772

改めて飲み物の色じゃねえな

 

777:名無しの観測者 ID:ud8Cfc8K4

よく誰も抜け駆けしないな

 

778:名無しの観測者 ID:ghga8WmHy

変装しても可愛さと存在オーラは隠せないんだわ

しかもあの特徴的な目

どう見ても葵ちゃんですありがとうございます

 

779:名無しの観測者 ID:Z63PO87+A

問題行動起こしたらもう参加してくれないかもしれないからね

 

780:名無しの観測者 ID:spovgsNIS

単純にガチムチ警護が怖かっただけでは?

 

781:名無しの観測者 ID:3IfB+J/Ty

超会議実況スレにもテンプレで「変装した八色葵には声をかけないように」って貼ってあるし

 

782:名無しの観測者 ID:M1kzMV3Cq

ゴリマッチョのグラサンスキンヘッド集団が周りにいたからね

 

783:名無しの観測者 ID:OWogBW2ZR

なんで本人は気づかないんだよwwww

 

784:名無しの観測者 ID:J1ZW2Y+tV

その天然さも可愛いんだよなあ

 

 




これで小学生編は終わりです
次話より4話ほど間話が続き、そこで6年生の補足が入ると思われます


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幕間
天に愛された彼女は危なっかしい


以前要望があった幼馴染視点の話その1です


 彼女と出会えたこと。それが私の人生の転機だった。

 

 始まりは幼稚園時代に遡る。

 初めての幼稚園という環境、そして母と離れた寂しさ故に泣いてしまっていた私を慰めてくれたのが最初の出会い。

 幼いながらに、彼女の大木のように静謐とした、そして暖かな太陽のような雰囲気に安心感を覚えていた。

 

『お名前、なに?』

『私は八色葵。藤崎理華ちゃんだよね?よろしく!』

『——うんっ』

 

 そこからは暇さえあれば彼女の隣に陣取っていた。

 当時の彼女は周りの子と交流を取りたがらず、部屋の隅で本を読んでいるのが定番だった。私もそれに倣って絵本を読む事が多かったが、今思えば幼稚園生が読むのには適さない——きっと大人でも苦労するであろう——難しそうな本を読んでいた異常さがよく分かる。

 

 そう、彼女は昔から特別だった。

 年に見合わぬ知性、圧倒的な可憐さ。

 

 まるで、天からの祝福を一身に受けているかのように。

 

『きっと八色さん()のお嬢さんは天才児ね』

『そこまでなのか?』

『アナタも会ってみたら分かるわ。正直、人間とは思えない、魑魅魍魎の類に見えるわよ。まあ、それを補って余りある、可愛くて礼儀正しい良い子なんだけどね』

 

 初めて母と彼女が相対した夜、両親がそんな話をしていた覚えがある。それがどんな意味なのかは分からなかったが、今となっては全力で同意するだろう。

 それだけ周りから飛び抜けた少女だったのだ。それは成長した今でも変わらず、寧ろ差がより明確になっているように感じる。

 

 そんな彼女は幼稚園の頃からテレビに出演し、更には世界でも一目置かれる存在だった。

 彼女に勉強を教えてもらっているので数学という教科がどんなものかは理解した。それの最も難しそうな問題を幼稚園生が完璧に解くと言うのだから驚くのも無理はない。しかも得意なのは物理だとか宣ってくる。

 やっぱり世界のバグかなんかだよ。

 

『八色はヘンテコな目の妖怪女〜!』

『はいはい』

 

 小学校に上がると彼女にちょっかいを出す男子も増えた。同性から見ても圧倒的美を感じる彼女の容姿は、それはそれは同い年の男子を狂わせたに違いない。なんなら自意識が確率してきた今だと、そんな恐れ多い事をする奴らは皆無になった。

 

『おい、お前告白してみろよ』

『無理無理!お前こそ行ってこいよ!』

 

 その癖、陰ではしっかりと想いを募らせている光景は、傍から見れば面白くて堪らない。まあ、君らでは一切触れる事も叶わないんだけどね。

 

 一方で女子連中はと言うと対応が真逆になった。

 低学年の頃は周りの子から1歩引いた位置で皆を見守っていた彼女に、元気いっぱいの女子は大して興味を持っていなかった。

 どちらかと言えば孤立しがちな子をまとめて面倒を見ていたので、彼女も大人しい子という風に見られていたのかもしれない。

 

 それが変わったのは3年生の後半くらいだろうか。

 その頃になると男女問わず異性に興味を持ち出す時期になる。その興味が却って異性を遠ざけたりする反対の行動をとるのだから面白い。

 そうなってくると女子はグループを作って優劣をつけようとする。そうする事で自分達が最も魅力的であるとアピールするかの様に。

 そんな流れで他クラスではイジメの様なものが起きそうになったりしたらしい。くだらないと切って捨てる事ではあるが、当事者にとってはたまったもんじゃないだろう。

 

 しかし、私達の学年には彼女がいた。

 圧倒的な頂点たる彼女が。

 

 まずはクラス内の女子を併合、と言うより勝手に「彼女には何をしても無駄だ」と悟ったのだろう。彼女自身は何もしていない。低学年の頃から変わらず、1歩引いた姿勢で私達を見守っていただけだ。

 同時にイジメの噂を聞き取り他クラスの子に釘を差しただけ。

 

 それだけで学年の女子は彼女に傅いた。

 

 当時からテレビに引っ張りだこで、更には世界を飛び回っていたという面もあるのかもしれない。または潜在的に彼女に逆らう事は不可能だと感じたのかもしれない。

 あるいは勉強、スポーツ、そして容姿。全てのステータスに於いて圧倒的な差がある事を理解したのだろう。

 どんな理由があれ、女子の頂に立った彼女は、その時に絶対的不可侵の存在と化した。

 

 男子はそんな事なんのそのと分け隔てなく遊んでいるのは凄いことだ。何故ここまで性差があるのだろうか、不思議なものだ。

 

『藤崎ちゃんは葵ちゃんと幼稚園一緒なんでしょ?いいな〜』

『羨ましいよね〜』

 

 そんな彼女の隣に居座る私は、女子達から見て目障りな存在に違いない。

 トップにはなれないとしてもナンバーツーにはなれる。しかし昔から私がその場にいる事でそれも不可能になった。

 表面上では仲良く見せているが、裏でどんな事を言われているかは彼女達の目を見れば何となく想像がつく。

 

 そんな態度を葵のいる前で見せない事だけは評価するよ。賢い癖にこういうドロドロした事には疎い彼女はそのままでいい。

 

 白く、穢れのない彼女は、それだけ尊い存在なのだから。

 

 それに、葵の存在を怖がって直接的、間接的手段に出れない彼女達を怖がる必要もないからね。

 

 そして、成長するに連れ磨きがかかった彼女の魅力に対して、変わらない者も存在する。

 それがもう一人の幼馴染である男の子だ。

 

『あっ、涼くん』

『葵ちゃん!帰ろ!』

『ダメ!葵ちゃんは私の!』

『なんだコイツ』

 

 初めて奴に会った時は葵と親しそうな雰囲気に嫉妬した覚えがある。当時幼稚園生であった私は引っ込み思案だったので友達が葵しかいなかったのだ。それが盗られると思い焦っていたのだろう。

 最初の内は衝突を繰り返していたが、なんやかんや接していく内に気が置けない仲にはなった。それに、The陽の者な涼馬との交流は私の引っ込み思案も治してくれたのでそれは感謝する。とはいえ私の目の黒い内は葵は渡さない。

 そう、幼馴染の彼も葵に目を焼かれた人の一人だ。

 

 彼奴がその事を自覚したのは4年生くらいの時のように思われる。それまでも無意識に葵の事を気にしていた彼が、他者と彼女との対応を明確に変えたのだから。

 

『なんで葵の前では馬鹿なフリをしてるの?』

『なんでって……そっちの方が周りに茶化されないだろ』

『そう?』

 

 そんな事もない気もするが、事実彼の存在は女子の硬いプロテクトを通り抜けていた。

 そもそも運動能力に優れていた涼馬は男子のトップに立っていたし、容姿の方も、まあ、カッコイイ範疇だろう。クラスの子が奴を噂しているくらいだし。認めたくはないけどね。

 それに絶対的頂点たる葵が涼馬に対しては甘い事も作用していると思う。

 

 そして、それだけが理由ではなかった。

 

『それにさ、子どもっぽい態度の方が葵も安心するんじゃないか?』

『……?』

『あいつさ、なんか男子っぽいノリが好きみたいなんだよ。しかも、普段は大人ばかりの社会に属している。それなら私生活くらいは葵が自然体で居られる雰囲気が一番だ』

『そう……かもね』

 

 男子に甘いのは何となく気づいていた。普段のクラスメイトの男子を見る目は優しさが籠っているから。優しさと言うより懐かしさだろうか?どっちにしろ甘いことには変わりないか。

 

 その事実を鑑みて行動する涼馬は、他の男子とは明確に違った。だからこそ私も彼に協力してあげた。

 

 全ては葵のために。その意思は私も賛同する事だから。

 

 2人して、特に同性たる私が何故ここまで彼女を第一優先する様になったかは分からない。気づいたらこうだったのだから仕方ないよね。

 

『まあ一番の理由は葵の部屋に無遠慮に入れるからだけどな!』

『変態だ!』

 

 そう冗談交じりに言った言葉も嘘ではないのだろうし、警戒する事に変わりは無い。

 

 そんな彼はこの3月に小学校を卒業していった。中学からは同級生も成熟して来たので周りに対応を合わせるらしい。流石に子どもっぽすぎるのも嫌われると判断したようだ。嫌われると言うよりかは精神の遅れを心配される可能性の方が高い気もするが。

 

 そんな男子の目の上のたんこぶであった涼馬が居なくなってからは同い年の男子が活発になってきた。しかも攻め方を変えて来たらしく、なかなかどうして面倒極まりない。

 

『藤崎さん、好きです!付き合ってください!』

『葵目当てでしょ。知ってるから』

『い、いやっ…本当に…』

『男子連中で話してる内容って実は聞こえてるのよ。気をつける事ね』

 

 将を射んとする者はまず馬を射よ。そんな諺通りに行動して来るのは厄介だ。男なら潔く真正面からぶつかって砕ければ良いのに。

 

『理華ちゃん、これは由々しき事態だよ。私に告白が無いのはおかしい』

『可愛すぎるだけなんじゃない?』

『そんな事で男の子が止まるわけないじゃん。何言ってるの?』

『はは、こやつめ。……何、告白されたいの?』

『そんな事は無いけど……ほら、この子は私の事好きなんだなぁってニヤニヤ出来るじゃん?』

『悪女かな?』

 

 そうやって男子を狂わせている当人は呑気なものだ。自分の影響力を真に理解していないに違いない。

 そも、顔出しでネット社会で活動するのが間違いだよ。

 

『なんだこのコメントは……ブロック、と』

 

 葵の影響でサブカルにどっぷり浸かってる私もニコ動やようつべ、果てには掲示板を巡回している。掲示板はそういう物らしいのでとやかく言わないが、葵の目に入るかもしれない動画サイトは別だ。

 ようつべではモデレーターに設定してもらっているので彼女の配信の際にはブロック祭りが開催される。気持ちは分かるけど12歳に興奮した感情を見える所に綴るんじゃないよ、掲示板に行け。

 葵的には過度なコメント以外は「それもネットだから」と許容範囲らしい。でも調子に乗らすのはよくないので私が動く。削除、削除削除、削除ォ!

 

 こんな感じで幼馴染の彼女は自身の魅力を把握していない。

 主観的なランキングではあるが「世界で最も美しい顔100人」で現在2連覇中の容姿と、グラミー賞受賞歌手というぶっ飛んだステータス。しかも世界中の脳科学者の垂涎の的となっている天才的頭脳の持ち主で、更にはとある王族の直系と来た。

 正直、普通に生活出来ているのが不思議で仕方ない。

 もっと危機感を持って行動して欲しいのだが、果たして彼女が気づく事はあるのだろうか。

 

「この後先生に呼ばれてるから理華ちゃんは先に帰ってて良いよ」

「待ってるから早く行ってきな」

 

 今日も今日とて一人で帰る愚行をしようとする。帰り道にはシルバーさんが所々に立っているし家まで近いとは言え、それだけは止めてくれ。この地区の人が皆協力的だとしても、もしもがあるのだから。

 

「ごめん、お待たせ」

「ほいほい。で、何の話だったの?」

「私立中学に進学しないかって。そっちの方が時間の融通が効くかもしれないらしいの」

「へぇー。なんて返事したの?」

「家から遠いから断っておいた」

 

 季節は秋。普通の子であれば地元の中学に進学予定だ。ただ、勉強にも力を入れている地区であるからなのか、少なくない子が中学受験も考えている。

 そういう子は将来を見据えての受験であるが、葵はまたちょっと違う理由だね。

 

「別に平日に仕事を入れる訳でもないし、公立で問題ないんだけどね。お母さんの容態が変わった時も直ぐに駆けつけられるし」

「おばさんはもう平気の様な気もするけど」

「それでもだよ」

 

 お母さん大好きっ子の葵はおばさんの癌の再発を気にかけている。人によってはマザコンと呼ぶかもしれない。しかし家族の繋がりは大切なものだと考える私は、それが尊い関係性だと思う。

 それに、葵はマザコンと言うよりファザコンだと思うし。

 

「もしも私立を受験するなら私にも教えてね。私も受けるから」

「わざわざ遠い中学に通いたくないので可能性は0%です。そうなったとしても理華ちゃんは受かるかな?」

「とある幼馴染様のせいで中学範囲も修めてますが何か?」

 

 葵が私立に通うのであれば私も着いていく。そこでも無垢なる彼女を守るのが私の義務だと思うから。

 こんな勝手な信念を持っている事を彼女は知らないだろうし、寧ろ知られたくない。貴女には、伸び伸びと自由に羽ばたいて欲しいから。

 

「久しぶりにゲームやりたい」

「ん、いいよ。何やりたい?」

「DODの続きをやるわ。今度こそEエンドの音ゲーを——」

「一人用じゃん!しかもまたこっそりやってるし!」

「だって葵が隠してたら探したくなるじゃない」

「あれは理華ちゃんには早いよ……」

「葵と同い年なんだが?」

 

 彼女に置いていかれない為にも家では努力を欠かせない。ただし、それを彼女にも悟られない様にするのも大変だ。

 習い事もやってない私がこうなのだ。クラブユースで忙しい彼奴(涼馬)は死ぬ気で頑張っているのだろうな。

 

 それでも後悔はない。だって、特別な彼女の隣にいる為にはそれでも足りないと思うから。

 

 世界に輝く一等星の輝きを。

 天に愛された、それでいて少し抜けた愛しい幼馴染の笑顔を。

 それを一番近くで見れるのであれば、どんな地獄だって乗り越えてみせよう。

 

 彼女が愛する者を見つけるまでは、この場を譲る気は無い。



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修練

幼馴染視点の話その2


 昨日までの日々と変わらず、今日も己を鍛える。

 

「涼馬!」

「おお!」

 

 受け取ったパスを味方が囮になって生んだスペースへダイレクトで蹴り出し、そのままディフェンダーを置き去りにしてゴールを決めた。

 

「っし!」

「ヘイヘイヘイ!流石だなぁ涼馬!」

「おー、ナイス誘い出し」

 

 点を決めた俺に集まってきたチームメイトから手荒な祝福を受けた。バシバシと叩かれる背中が痛い。こいつら力加減を知らないのか。

 

 試合再開のホイッスルが鳴らされると前線からプレスをかけに行く。中盤と連動してコースを限定し、相手の選択肢を無くしていく。苦し紛れにゴールキーパーに戻されたボールを瞬間的に加速する事で奪い取り、そのままキーパーとの1対1を冷静に処理しゴールネットを揺らした。

 これでハットトリック達成だ。

 

「涼馬!交代だ!」

「はい」

 

 コーチからの指示により残り15分の所でベンチへと下がった。試合の大勢が決まった事でお役御免らしい。

 

「よくやった。体が冷える前にクールダウンをしておけ」

「はい」

 

 シューズを履き替えジョギングを開始。この後にやる静的ストレッチの内容を考えながら試合展開を見守っていた。スコアは4対1とリードしているし、残っているメンツも危なげない試合運びをしているので問題なく勝てるだろう。

 ジョギング後、ベンチにいた奴にストレッチを手伝ってもらっていると試合が終了した。これで関東ユースのリーグ戦は首位に立ったはずだ。幼馴染風に言えば「ようやっとる」結果だと思う。

 

「おふはれー」

「先におにぎり食ってんじゃねえぞ」

「んぐ。早上がりの特権だよ。ほら、さっさとクールダウンして来い」

 

 試合終了後の挨拶を終えた面々を梅干しおにぎりをパク付きながら出迎える。運動した後は30分以内に糖質、タンパク質を摂る事を推奨されているのでセーフだよ。

 

「涼馬、お前は年明けから1つ上のカテゴリーに移動になると思う。頭に入れといてくれ」

「了解です」

 

 プロテインを飲みながらベンチに座っていると監督に声を掛けられた。年明けからなら3ヶ月ばかりはレベルの高い環境に身を置けるな。有難い事だ。

 

 全体でのミーティング後に送迎バスに乗り込んで地元まで送ってもらう。周りの奴らは睡眠に充てたりスマホゲームをしていたりと思い思いに時間を潰していた。

 

「優等生の涼馬君はまーた英語のお勉強ですか。それ、楽しいか?」

「やってみると案外楽しいぞ」

「俺は馬鹿だからなんて書いてあるか分からん」

 

 隣の席の奴からのちょっかいを適当にやり過ごし、止めていた音楽再生アプリを再生させる。イヤホンから流れてくる音声を小さな声でシャドーイングしながら本を読み進めていく。

 こういった移動時間に出来る事は限られているので1秒足りとも無駄には出来ない。

 この勉強方法を教えてくれたのは、愛しい幼馴染だったな。

 

『英語の勉強なんて簡単な本を沢山読めば良いんだよ。所謂多読ってやつだね』

 

『もしくは内容を完全に理解している文章を音読しまくること。リスニング教材があれば尚良しだね』

 

『そんな簡単な事で良いのかって?勿論。だって、所詮は言語だよ。涼くんだって日本語を覚えようとして覚えた訳ではないでしょ?』

 

『まずは赤ちゃんと同じように聞く、話す、読むからだよ。書くことなんて授業で散々やるでしょ』

 

 彼女のアドバイスを中学一年の春から実践している。辞書なしで分からない単語は飛ばすという多読は最初は慣れなかったが今や要領を掴んでスイスイと読めるようになった。

 おかげで英語の成績は学年トップの座につくことが出来ている。

 いや、英語以外も、か。

 

 俺の幼馴染は、それはもう可愛い。世界一の美少女だと断言出来る。

 黒く艶やかな髪。宝石のように煌めいている美しい瞳。小さな唇は瑞々しく、きめ細かな真っ白い肌には汚れ一つない。日本人離れした長さの脚は不健康に見えないギリギリの細さを保っている。

 もしも美の神がいるのであれば是非彼女と並んで美を競い合って欲しい。きっと自信を無くして逃げ出す滑稽な姿を見れること間違い無しだ。

 

 そんな彼女は、数多の才能を持つ怪物でもあった。

 

「おっ、それ葵ちゃんの新曲じゃん!片耳貸して!」

「しゃーねーな。ほらよ」

 

 先ずは音楽の才能。

 弱冠9歳にしてメジャーデビューした彼女は、そこから世界のトップへと一気に駆け上がった。今や彼女の曲を知らない者は世界中には居ないのではないだろうか。

 そして、音楽の才能は作詞作曲、歌唱だけには留まらない。

 ファンの間では周知の事実ではあるが、ピアノの腕も一級品だ。一度テレビ番組にてその腕前を披露した時には世界中の音楽家が「彼女をピアニストに」と声を上げたくらいだ。

 勿論彼女は趣味の範疇でしか興味が無いので断っていたが。

 

 次に、学問の才能。

 これについては音楽の才能よりも早く世間に知られていた。発端となったのは国際数学オリンピックにおいて史上最年少で金メダルを獲得した事。当時僅か4歳という大偉業が世界に轟いた。

 更にはその姿をインタビューする各国のメディアに対し、それぞれの国の言語で、完璧な発音での返答をするのだから驚きだろう。

 先日、彼女が解いたことのある問題を興味本位で調べてみた。そして、そこに書いてある文を何一つとして理解する事は出来なかった。

 こんなものを高校でやるのかと戦々恐々としている俺に彼女は苦笑いを浮かべていた。

 

『これは日本の指導要項から外れているから……まあ、高校数学はもっと簡単だよ』

 

 そう宣った彼女は、自身がその問題を幼い時分で解いた異常性を理解しているのだろうか。

 ……どこか抜けている彼女の事だ。きっと、それが当たり前だと考えているのだろうな。その天然さがまた可愛いのだが。

 

 更にはスポーツの才能、絵の才能等など、挙げれば枚挙に遑がない。きっと未だに挑戦していないだけで明らかになっていない才能も眠っているのだろう。

 

「葵ちゃんが俺の妹だったらなぁ!みんなに自慢して回ってるぜ」

「妹なんて結婚出来ないのに、バカか?そこは幼馴染だろ」

「お前が葵ちゃんと結婚出来るわけないだろ、バカか?」

「は?」

「あ?」

 

 そんな彼女が世界的に見ても美しい少女だというのだからやってられない。

 神様は彼女を作る時に致命的なミスをしたに違いない。もしもミスではないのだとしたらもう少し加減をしてくれ。

 

 彼女を追いかける身を、少しは考えてくれ。

 

「そういや涼馬が音楽聞いてるとこ見たことないな。なんか好きなアーティストとか居る?」

「家では八色葵の曲を聞いてるよ」

「へぇー!お前も現代っ子だったんだな!」

「同世代のスターだからな」

「分かるわー。しかもむっちゃ可愛い!」

「そうだな」

 

 彼女の隣に立つ資格。それは、如何程の偉業を成せば良いのか。

 

 分からない。何一つとして正解が無いように見える。

 

 しかし。

 

「お疲れ様!先ずはお風呂に入ってきちゃいなさい」

「ん、ありがとう」

 

 例えそうだとしても、自己を高める事を辞めていい理由にはならない。一度立ち止まってしまえば、追い付けない事だけは理解出来てしまっているから。

 

「ご馳走様。今日も美味しかったです」

「お粗末さまでした」

「じゃあ、勉強してくるから」

「涼馬、試合の日くらいは——」

「分かってるよ父さん。確認事項を確かめたら早く寝るさ」

 

 だから、今日もまた己を鍛える。

 いつか、彼女の隣に立つことを夢見て。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」

「あけおめー」

「理華は適当過ぎないか?」

 

 元旦、二人の幼馴染の家族と毎年恒例の初詣へ。

 メジャーデビューしてからのお馴染みの変装をした彼女を改めて見つめる。腰に届くまで伸ばされた髪は一体どこに隠しているのか、肩口までのボブスタイルに変わっている。裸眼でも視力1.0以上の瞳を覆うのは度が入っていない伊達眼鏡。ボリュームのあるマフラーで口元まで塞がれたとしても隠す事の出来ない可憐さ。

 今日も幼馴染は世界一の美少女だ。例え世界が暗闇に包まれようとも、彼女の周りは光り輝いて見えるだろう。

 

「1年間良い子でいた葵ちゃんと理華ちゃんにはお年玉をしんぜようではないか」

「有り難き幸せ」

「ははー」

 

 一般人なんて目じゃない程に稼いでいるであろう彼女は、今年も二家族からのお年玉を嬉しそうに受け取っていた。ウチと理華の家は恐らく平均額だろうけど、おば(リーナ)さんからのお年玉は少しばかり入れ過ぎ感もある。これが王室の金銭感覚か。

 

「着々とPC費用が貯まっていくわ」

「理華ちゃんパソコン欲しいの?私のお古で良ければあげようか?」

「良いの!?」

「うん。あっ、壁掛けだったからケースは買わなきゃいけないね」

「あのゴチャゴチャしてたのパソコン部品だったのかよ……」

「綺麗に収まってたでしょ?」

「そうかなぁ……」

「初代のケースは?」

「あぁ!それがあったね!」

 

 理華はどうやらパソコン関係にお熱らしい。俺は一切分からない分野なので話には混ざれない。そもそも自作するメリットって何だ?市販品を買えば間違いないような……

 

「自作PCのメリットなんて微々たるものだよ。上手く作れば既製品より安くなるくらい」

「意味ねえじゃん」

「性能を逐一アップグレードしたい人向けだね。まあそうすると既製品を長く使うより高く付く罠があるんだけど」

「涼馬、これは浪漫なのよ。男の子なら分かるでしょ」

「ええ……」

 

 参拝の列に並んでいる時でもパーツの話で盛り上がっている二人は果たして本当に女の子なのだろうか。俺よりも男子っぽい趣味してるぞ。

 

「何お願いしたの?」

「5000兆円欲しい」

「何でそんな中途半端な額なんだよ」

 

 そんな大金があっても理華は使い切れないだろうに。

 お金でふと思いついた事だが、葵の資産はどれくらいあるのか気になってきた。

 

「葵の自由に使える金額ってどんくらい?」

「うわっ。涼馬、デリカシーがなってないわね」

「理華も気になるんじゃないか?」

「それはまあ……」

「どれくらいと言われると困るけど……億とかの単位かな?」

「ふぁー」

「すげえ」

 

 あんだけCDが売れてればそれくらいになるか。それに、彼女をテレビで見ない日は無いと言える程にCMにも出まくってるし。……億って言ったけど、本当は10億単位な気もしてきたな。

 

「新年初っ端からお金の話ばっかりはやめようよ」

「それもそうね」

「すまん、つい気になってな」

「気になると言えば涼くんの身長だよ。何食べたらそうなるの?私まだ163センチなんだけど」

「遺伝でしょ。父さんデカいし」

「二人ともデカすぎるから」

 

 一時は葵に追い付かれそうになった身長も、今では10センチ以上突き放すことに成功している。例え色んな面で負けてるとしても背の高さだけは勝っておきたいからね。父の遺伝子に感謝だ。

 

「私の180の夢が……」

「そこまで伸ばしてどうすんのよ」

「そっちの方がカッコよくない?」

「葵は可愛い系だから諦めなさい」

「えー……」

 

 理華の言う通り、葵の身長が伸びた所でカッコいい系にはならないと思う。出来ればそのまま小さいままでいてくれ。

 

「3人とも。屋台はいいの?」

「私は興味無いかな」

「俺も」

 

 一昨年くらいからは俺も理華も屋台の食べ物に興味を示さなくなった。理華がどのような気持ちでそうなったかは分からない。もしかしたら二人とも葵の真似をしているだけに過ぎないのかもしれないな。

 

「今日のお昼はどうしましょう」

「八色さんと藤崎さんが構わないなら外で食べてく?」

 

「そういや二人の中学って俺と一緒?」

「うん」

「ならまた一緒に通えるな!」

 

 両親勢が昼食の相談をしているのを尻目に、この春からの進学先を聞いておいた。もしかしたら私立に行くかもと考えていたので肯定が返されたのは嬉しい。

 

「涼馬は朝練……と思ったけど帰宅部だったっけ」

「別に一緒で良いけど、涼くんは嫌じゃないの?」

「嫌?何が?」

「まあ、嫌じゃなければ良いよ」

 

 葵と登下校を共に出来るチャンスを誰がみすみす逃すものか。高校は恐らく別々の所になるだろうし、今くらいは良い思いをしたい。

 それに、幼馴染二人との日常は日々の疲れを癒してくれる。彼女達にその自覚はないだろうけど、本当に有難い存在だよ。

 

「3人とも、移動するわよ」

「はーい」

 

 正月は、普段忙しい葵が唯一のんびり休める期間だ。この一年葵と会う機会が少なかった俺としても存分に葵成分を補充させてもらう腹積もりだ。

 

 なお腑抜け過ぎると葵は勿論、理華にも置いていかれるので注意する。あいつ、最近は化け物みたいに能力を伸ばしているみたいだし。

 ……彼女と同性のくせに、何故あそこまで葵第一主義になったのだろうか。これが分からない。

 

 そんな一般から外れた幼馴染を二人持つ俺は凡人なりに努力しなければならない。

 彼女達の歩みに比べれば亀のようなスピードだろうと、一歩ずつ進んで行くしかない。

 

 例えどんなに周回遅れになろうとも、絶対に隣に並んでみせる。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「おはようさん」

「おはー……てか早いわね。なに、そんなに葵の制服姿が気になるの?」

「無論」

「……まあ、新鮮さはあるわね」

 

 4月。中学2年になった俺は下級生を迎える年代となった。それ即ち幼馴染ズが後輩となる事でもある。何やら今年度の新入生は馬鹿みたいに多いらしいが俺には関係ない。

 

 正直に言う。葵の中学校の制服姿が楽しみでならない。

 普段はオシャレな私服姿ばかり見ていた。それはもう最高なのだが、制服という魔性の衣に身を包んだ彼女は格別だろう。

 だから集合場所たる彼女の家の前に30分前から陣取っていたのも仕方ない事だ。

 

「いや30分前行動は馬鹿でしょ……」

「理華は良いよな、入学式で制服姿を拝めてさ」

「女子みたいな嫉妬しないの。イケメンが廃るわよ」

「葵以外にモテても意味ないからセーフ」

 

 幼馴染の片割れと軽い雑談を交わしていると件の家の扉の鍵が開けられる音が響いた。

 

「お待たせ!」

「おはよ」

「おはよー。二人とも早いね」

「早く起きちゃったからね。早速行きましょうか」

「ほーい。……あれ、涼くん?おーい……し、死んでるっ」

「叩けば蘇生するわよ。こうやって、フンッ!」

「……はっ!」

 

 突如目の前に降臨した天使に意識を奪われていたようだ。

 どうやら俺の幼馴染は遂に可愛さで人を失神させる所まで来てしまったらしい。罪深い、罪深いぞ!

 

「ほら、早く行こ?」

「あぁ……ありがとう、神様

「バカ言ってないでさっさと歩く!」

 

 普段から完璧な彼女がこうして可愛いの権化たる制服を身に付けるだけでここまでの可愛いの暴力が生まれるとは……恐ろしい真実を知ってしまった。これを他の奴らにも見せなきゃいけないのが惜しくて堪らない。

 

 ともあれ、この感謝の気持ちを捧げなければ。

 ありがとう、中学校。ありがとう、制服。ありがとう、神様。

 これで明日からも頑張れそうです。本当にありがとうございました。

 

 ……帰りに写真撮っていいか聞いてみよう。もしも許可が出るならスマホの壁紙決定だ。

 




光に目を焼かれたのは一緒なのに光の亡者っぽくならない安心感
っぱ恋心ですよ
ラブアンドピース!愛だよ愛!

なお幼馴染二人が"ケツイ"を固めている傍ら葵ちゃんは「隣にいる資格?そんなん好きなだけ居ればいいじゃん」と思っている模様

中学校の制服って芋っぽいイメージですがこの世界ではおかわわな感じの制服としておきます


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拝啓、親友へ

約1週間振りの更新である(遅くなってしまい申し訳ありません!)


 なあ、お前との出会いは6歳の時だったか。

 

 始まりはなんて事は無い普通の出会い。小学校で同じクラスになったから仲良くなっただけの、極々一般的な関係だった。

 

 ただ一つ、お前が特別な出自であった事を除いて。

 

 それ故にお前は小学生の時は交友関係に悩んでいたんだろうな。

 腫れ物を扱う様に接しられ、親世代からも特異な目で見られる。一般人な俺からしたら、それはそれは大変そうな少年時代だったと思うよ。

 

『……和真はさ、俺と一緒にいて御両親に怒られないのか?』

『は?逆に仲良くしろって言われてるけど。媚びを売っておいて損はないだろ』

『それもそれで何だかなあ……』

 

 親から接触を禁じられる者。その逆に積極的に仲良くなれと命じられる者。そんな連中に囲まれているんだからたまったもんじゃない。しかも実の両親を早くに亡くすという境遇。

 良く捻くれずに育ってくれたよ。

 

 そんなお前も周囲と上手く折り合いをつけた高校生の時、彼女と出会ったんだったな。

 とある国からの留学生。そして、お前の運命の人。

 

 たった半年間の交流で愛を育んだお前らはそのまま大学でも付き合いを続けたな。しかも向こうさんは将来を見据えて庶民になって再留学して来るんだから本気度が伺える。

 そして、大学生の時分でお前も彼女に続いたのは度肝を抜かれたよ。

 

『はぁ!?皇籍離脱って……おまっ、ええ!?』

『片方の国の王室に血を集めるのは良くないだろ。リーナが抜けたと言うなら俺も抜けるよ』

『いやいやいや!現代日本じゃ無理……でもなさそうか?』

『宮内庁にはもう話つけたから』

『判断が早い!』

 

 平成になって初の皇籍離脱、しかも男児がとなると世間はしばらくお前に注目せざるを得なかった。収入面等も心配されての事だろうけど、それはお前が在学中に司法試験に合格した事で収めたのは流石だったよ。

 

『改めて、八色陽仁です。これからもよろしくお願いします』

『素敵なお名前ですね!』

『なんで八色?』

『さあ?八色(やくさ)(かばね)から選ぶのは古いとでも考えたんじゃない?』

『それ由来だとしたらまんまじゃん』

『リーナは褒めてくれたもん、ねー』

『はいっ!』

『……野生のロイヤルバカップルが』

 

 まあ、マスコミが静まったのは交際相手が強すぎた面もあると思うけど。国際問題に発展させる蛮勇をメディアが持ち合わせていなかったのは良かったな。

 

『事務所まで一緒にする必要は?』

『おいおい、幼馴染だろ?嬉しそうにしろよ』

『ここまで着いて来られるのは予想外だろうが』

『実の所、結婚式における友人代表挨拶のネタ探しだ』

『しょうもなっ……えっ、マジでそれだけの理由?』

 

 大学を卒業してもお前との繋がりは切らなかった。それはある方々に頼まれたって事情もあるし、それとは別にお前と一緒に居たいって気持ちもあった。

 それだけお前との居心地が良かったんだ。

 

 1年の実務研修を終え、晴れて弁護士になったお前は速攻でリーナさんと籍を入れた。

 仕事も順風満帆。中々子宝に恵まれなかったものの、結婚4年目にして待望の第一子を授かったお前ら夫婦を見て。

 

『もう名前は決めたんですか?』

『折角なら和名がいいわねって事で悩み中です』

『和真!いまお腹の中の子が俺にハイタッチしたぞ!』

『リーナさんの青い目を受け継いでれば"あおい"なんて名前もあるんですけど、陽仁の茶色が優性だから難しいか』

『爽やかな感じがして良いね!候補に入れときます!』

『おっ!また動いた!』

 

 俺は、明るい未来が待っていると信じて疑わなかったんだ。

 

『リーナさん!陽仁はっ!?』

『……』

『残念ながら搬送された時には既に……』

『嘘……だよな?おい陽仁、返事しろよっ』

『我々はこれで……』

『お前……本当に……』

 

 出産予定日の2ヶ月前。

 あの日、お前が死ぬまでは。

 

『葬儀は俺が手配するから……だから、リーナさんは休んでてください』

『…………ありがとう、ございます』

 

 身重な体の彼女にはこれ以上の負荷を掛けられない。職場の理解もあり、葬儀を含めた様々な手続きに奔走したもんだ。

 その方が、お前の死という現実から目を背けられたから。

 

 しかしながら何時までもお前の事を引き摺ってはいられない。多大なストレスがかかった状態での出産は大変だろうし、何よりお前とリーナさんの出自の特殊性により頼れる先達()も皆無。そんな中で生まれて来る赤ちゃんの事も考えなくてはならない。

 だから、お前を墓に納める際に決意と同時に区切りをつけた。

 

 お前が残した二人を、必ず護ってみせると。

 

『おおっ!この子がリーナさんと陽仁の赤ちゃんか!可愛いなあ』

『名前は葵です。呼んであげてください』

『葵ちゃーん、怪しいおじさんじゃないでちゅからねぇ。……なんかこの子、すっごい凝視して来ますね』

『可愛いでしょ?』

『それはまあ。リーナさんとはまた違った綺麗な目ですし……いやこの目どうなってるんだ?』

『視力に異常は無いみたいです。突然変異ですかね?』

 

 だけどさ。聞いて驚けよ、我が親友。

 そんな決意とは裏腹に、生まれてきた赤ちゃんは俺の想像を遥かに超えていた。

 

『ママ』

『……は?』

『和真君!ほら!』

『かうまさん』

『濁点はまだ難しいかなー。葵ちゃん、かずまさん、だよ』

『これが生後3ヶ月……?』

『かう……かずまさん』

『偉いっ!いい子いい子〜』

『いやいやいや』

 

 生まれて間もなく日本語を堪能に操り。

 

『ハイハイ!あんよが上手、あんよが上手!』

『ママ、あのご本読みたい』

『はいどうぞ!』

『ありがとう』

『ごめんリーナさん。葵ちゃんって何歳だっけ?』

『先日1歳の誕生日をお祝いして貰いました』

『……丁寧に教えてくれてありがとう、葵ちゃん』

 

 1歳では自由に歩き回りお前の蔵書を読み漁って。

 

『金メダル獲ってきました。ぶいっ』

『わー、凄いなー』

『和真さん、なんか適当じゃないですか?』

 

 僅か4歳で歴史に残る偉業を達成し。

 

『法人化するので相談に乗ってください』

『なんて????』

『暇な日は何時ですか?』

『待って待って思考が追い付かないから』

 

 9歳でメジャーデビュー、それと同時に1つの企業の長となり。

 

『ただいま帰りました』

『社長!おめでとうございます!』

『また歴史に名を刻みましたね』

『皆さんのバックアップのおかげです。ありがとうございます』

 

 11歳という若さで名実ともに世界のトップに立った。

 

『あっ!葵ちゃんの広告!』

『なんでこの子こんなに顔が良いんだろ。神様は不平等だ……』

『そんなのどうでもいいから。コラボ商品だよ!絶対に買わなきゃ!』

 

『先輩。どこを見てもウチの社長が目に入るって面白い感覚ですよね』

『そんな子の近くに居られる幸運を噛み締めておけ。んで、進捗は?』

『罰金30万円に着地しました』

『そっちじゃなくて——』

『悪質な方は執行猶予が付きそうですね』

『ん、了解』

 

 聡明な頭脳。美しいなんて言葉では言い表せない容姿。そして、圧倒的な才能。

 世界そのものが全力で愛を注いでいるかのような。又は世界が生み出した突然変異種。現代に生きている人間の上位互換。

 完全無欠な女の子がお前の娘だよ。

 

 街のいたるところに彼女の姿が張り出され、テレビCMで彼女を見ない日は無い程に人気を得ている。

 本当に残念だったな。こんなに可愛い娘を見れないなんて。……そっちに行くのが早すぎるんだよ、このバカ。

 

 なあ、陽仁。見てるか?

 お前の遺した宝物は、今や世界中から愛される大スターに成長しているぞ。

 

「和真さん!来てくれたんですね!」

「そりゃあ勿論。娘同然の葵ちゃんの大事な節目なんだ、駆けつけないとね」

「……和真さんもそろそろ身を固めても良いのでは?」

「相手がね」

「和真君が夜遊びしているってタレコミも——」

「さあ葵ちゃん写真を撮ろうか!いやー目出度い!そして可愛い!何枚でも撮れちゃう!ほらポーズを取って!」

「話を逸らすの下手か?」

 

 そんな彼女が小学校を卒業するというのだから時の流れは早いな。お前の十三回忌が回って来るのも納得だよ。俺もおじさんになる訳だわ。

 ……今更ながら、弔い方は仏教で良かったのか?一応、神道のトップの家系だよな?……まあ、歴史的に見たら問題なさそうだし、お前もとやかく言う奴じゃないか。

 

「理華ちゃん達も来たみたいなので行きましょうか」

「はいはい」

「未婚なら遊んでても良いけど、和真君は子ども欲しくないの?」

「その話は終わった筈では……?」

 

 彼女の幼馴染も随分と影響を受けているみたいだぞ。情緒が未発達な子どもにまでここまでの変化が生じてしまうとは、お前の娘は劇物のようだ。あるいは純粋な子どもだからこそなのだろうか。

 

「や、八色さん!一緒に写真を撮ってくださいっ」

「私も!」

「はいはい!私もー!」

 

 到着した小学校では校門前に待ち構えていた女の子連中に取り囲まれていた。お前とは違って交友関係に問題はない。彼の家柄を捨てたお前の判断は間違ってなかったな。

 安心しろよ、男子は遠くから見るだけで行動に移す奴は居ないさ。彼女自身、恋愛には興味が無さそうだから結婚するのはまだまだ先だろう。

 まあ、もう一人の幼馴染は彼女に懸想しているようだがな!

 

「保護者の方はこちらにお進み下さい」

 

「私達も行きましょうか」

「そうね」

「俺はリーナさんの隣で良いんですよね?」

「もちろん」

 

 自分の子どもの写真を撮り終わった家族から移動を開始している。俺達もその流れに乗って卒業式の会場となる体育館へと足を運んだ。リーナさんの隣に座る事は許してくれ、別に狙ってる訳では無いのだから。

 

「ねえ、リーナさん」

「うん?」

「葵ちゃんの活動を休止させるつもりはありませんか?」

 

 葵ちゃんが卒業証書を受け取るのを見ながら、最近の悩み事を打ち明けた。

 お前の娘はな、本当に可愛いんだ。それこそ「千年に一人の」という枕詞が力不足に感じる程に。

 

 そんな子が匿名性の高いインターネット上で活動する事の意味を、2000年に死んだお前は果たして理解出来るか?

 セクハラまがいの書き込みは優しい方だ。

 

 虚偽のレッテル貼りや人格否定、ただの噂を下にした悪辣な書き込み、更には殺害予告まで。

 

 お前が生きていたら一体どんな行動を起こしたのやら。

 未だに中学生にもなっていない少女に対するものでは無いよな。でも、それが普通に横行しているのが今の世の中なんだ。

 技術の進歩は必ずしも利点のみを生み出すだけじゃない。光がある所には影があるのも世の常だ。

 

「あの子が自分で辞めるまでは静観する予定です」

「危険では?」

「そんな事から守るのも私達大人の役目ですよ」

「そうは言っても……」

「和真君には以前に話したよね?私があの子を止めない理由」

 

 勿論覚えているさ。その時からも顔出しでの活動に反対だった俺を一応は納得させたのだから。

 それは、ある種の宗教。

 彼女の存在を、誰も否定しないと信じる馬鹿げた想定。

 それでもその作戦は成功していた。

 

『私達のせいで葵ちゃんには無垢な信頼を向ける相手が少ないの。なら、世間の大多数の人に味方になってもらいましょう』

 

『普通に暮らしてても遅かれ早かれアクシデントは起きると思うわ。そうならない環境作り、手を出してはいけない状況を作る為には持ってこいの事だと思うの』

 

『現に未だに問題は起きてないでしょ?』

 

 芸能界デビューをしていなかった当時は確かに事件は発生しなかった。結果論だと断じても良かったが、ネット住民も一応は幼女に対して配慮した動きだったので様子見を続けた。

 

 ただし、世間に広く知られた今は違う。

 

 ——あの子がいるせいで○○ちゃんの出番が無くなったから

 ——アイツが存在するだけで他のアイドルグループが輝かなくなってしまった

 ——出来心だった。彼女が羨ましくて堪らなかった

 

 本人は気にしていない様だが我々保護者組は見逃せない。リーナさんは勿論、俺だってお前らの大切な人を害する者は許せないさ。

 起訴された奴らの言い分は皆似た様なもんだ。「生理的に無理」という理由が無い事が異常であるとも言える。

 

「加えて5月から侮辱罪の厳罰化が始まるわ」

「それでも所謂無敵の人は出て来ます。葵ちゃんが狙われた事はありませんが、未来がどうなるかは分からないじゃないですか」

「それこそ私が絶対に守るわ。私達の宝物を害せると思ったら大間違いなんだから」

「そうではなくてですね……」

 

 お前の愛する奥さんは、どうしてここまで頑固なのだろうか。「命に代えてでも」なんて言いかねない危うさがある。

 俺個人の意見としては、もう生涯年収を遥かに超える金額を得ているのだし、後は静かにゆっくりと暮らして欲しいものなのだが。

 

『あの子の可能性を私如きが縛って良い権利は無いよ。大きく羽ばたくのを支えるのが私の役目だから』

 

 過去にそう語ったリーナさんは、怪物とも言える子どもを持った故の覚悟だったのだろうか。

 なあ、陽仁。お前が生きていたらどう対処したんだ?俺には正解が分からないよ。

 

「そもそもの話、インターネット上で活動していなくても歌手デビューした時点でこうなってたとリーナさんは思うのです」

「更に言えば普通に暮らしててもメディアに嗅ぎ付けられたか、ですか」

「この急速なネット社会の構築を見るに、そうなっていたでしょうね」

 

 そのインターネットの普及に葵ちゃんが関わってそうな件について。

 まあ、彼女が普通に暮らしていた世界なんてタラレバを言ってもしょうがない。今ある事実を受け止め、彼女に危害が加わる事の無いように頑張るさ。

 お前に誓った通り、リーナさんも含めて護ってみせるよ。

 

「取り敢えずは理解しました」

「詳しい話はまたの機会にしましょう」

「ところで、葵ちゃんは歌わないんですね?」

「先生方が周りの子に配慮しているのかなーと」

 

 式も大詰めに入り、卒業生一同が合唱にて感謝の気持ちを伝えようとしている。そんな中で葵ちゃんは壇上にあるピアノの前に腰掛けているのが目に入った。

 リーナさんの言う通り、彼女が児童に混ざっても存在感は隠せないからな。この措置も仕方がない。回していたカメラを調整して葵ちゃんに合わせる。

 

「この動画、東と近藤が欲しがってたんですけど」

「ん〜……あの二人なら他所に流すような事しないだろうし、オッケー!」

「家宝にする所まで未来が見えました」

 

 葵ちゃんの会社には、多かれ少なかれ彼女を崇拝している様な奴が集まってるんだよ。

 高々小学生に対して大袈裟だと思うだろ?

 ところがどっこい、今でも採用して欲しいって連絡が後を絶たない。それも、とびきり優秀な奴らばかりだ。

 リーナさんの想定通りと言って良いのか、葵ちゃん教みたいな存在が、社会全体として出来上がりつつある。一人の少女に対して大多数が盲目的になるのは傍から見ればホラーだよ。

 ……やっぱりお前の娘、魅了バフか何かを標準装備してるぞ。

 

『これより卒業生が退場します。皆様、どうか大きな拍手でお見送りください』

 

 例年よりも参加者が多い卒業式は無事に終了した。歩きながら此方を見つけ笑顔になった彼女もしっかりとカメラに収める。

 

「あなた、今の見た!?」「くぅ〜っ」「かわっ……」「あなた!自分の息子を無視してどうするのよ!」

 

 身内にしか見せない自然な笑み。それにやられた人の声がそこかしこから聞こえてくる。

 俺も幼い頃から付き合ってなければ同じ様な反応になってたんだろうな。そも、12歳にして既に完成された身体が凶悪だわ。彼女に狂わされたであろう同年代の少年達には黙祷を捧げておこう。

 

「お待たせ!アルバムにサインが欲しい子が多くて手間取っちゃった」

「滅多に書かない葵ちゃんのサインが貰えるなんて、ここの子達は恵まれてるね」

「言われてみれば書く機会が……サイン会でも開きます?」

「安売りするのは良くないでしょ。しかも葵がナンバーまで振ってるんだから」

「別に特別感を出そうとしてる訳じゃないんだけどね」

 

 まあ、なんだ。

 これからも大小様々な問題が彼女に降り注ぐと思う。

 

「よーし!では家に帰ってパーティーの準備をしちゃいましょう!」

「おー!」

「葵ちゃんは主賓の一人なんだからお休みだよ?」

「ヘラジカ肉の調理、楽しみだったのに……」

「今でも趣味の塊なのにジビエ要素まで加えてどうするのよ」

 

 それでも、彼女の笑顔が曇らないように。

 お前の遺した大切な宝物を、そして今や世界の宝物となった彼女を。

 必ずや守り抜いてみせるよ。

 

 そっちに行くまでは、お土産話を楽しみに待っていてくれ。




早めの年末休暇をもぎ取ったのでボチボチ書き溜を作っておきます


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掲示板回

 

八色葵(11歳)「史上最年少三冠です」 ←こいつwwwwww

 

1:名無しさん ID:t+uvFnlY8

すごい

 

3:名無しさん ID:sNQ6gYZGQ

化け物定期

 

4:名無しさん ID:5ef/zcqyQ

1億円でいいから俺にくれないかな

 

6:名無しさん ID:U7G9/fXIS

ニュース速報出てからスレ立てるの早杉ない

 

8:名無しさん ID:t+uvFnlY8

これでまだ生まれ持った才の一つってんだから頭おかしい

 

10:名無しさん ID:Yy1cUzwwS

正直怖い

 

11:名無しさん ID:/NCvhK0MH

11歳……11歳?

 

12:名無しさん ID:94467IHPt

>>10

あんな可愛い子を怖がるって何だよ

 

15:名無しさん ID:JpS014xMi

化物of化物

 

17:名無しさん ID:pvvHVBzzv

もうお前がトップでいいよ

 

18:名無しさん ID:XDcnc22Ml

片手間なJSに負ける海外アーティストさん達wwwwwwwwwwww

 

19:名無しさん ID:MMuDB5MM0

若者の現実離れ

 

21:名無しさん ID:t+uvFnlY8

>>18

煽りカスはお帰りください

 

22:名無しさん ID:SQA0raRV6

>>18

スペック的にお前も負けてるんだよ

煽る前に気づけ

 

24:名無しさん ID:ig/uswOqt

1回取っちゃったから次回からは難しそう

 

25:名無しさん ID:lMyU7SCNa

所詮は東日本大震災をエサにしたクズじゃん

他のノミネートされた人が可哀想

 

26:名無しさん ID:NVc6DloPZ

俺のお嫁さんになるんだからこれくらいは楽勝よ

 

28:名無しさん ID:ft9QKPd1n

>>25

出たわね

 

29:名無しさん ID:t+uvFnlY8

>>25

アンチスレに篭ってろ

 

31:名無しさん ID:LGpu+tBb6

>>25

なお予言者として感謝されてる模様

 

32:名無しさん ID:JzqtC6lQf

世界一のJS

 

35:名無しさん ID:aKMjpp0q7

>>25

君はさっきのアンチスレにも居た子じゃないか

逃げるなよ

 

36:名無しさん ID:GmNwXDT3E

単発ガ○ジにムキになってもしゃーないぞ

 

37:名無しさん ID:kF/QCW006

嫌いな奴の話題にシュバって来るの笑う

暇そうな人生羨ましいわ

 

38:名無しさん ID:lMyU7SCNa

盲目葵信者さん、誰も理論的に反論出来ない模様wwwwww

 

40:名無しさん ID:MAD2/BsuE

アンチスレでボコされたからこっちに流れて来てるんだよなあ

居場所無くて可哀想

 

41:名無しさん ID:aKMjpp0q7

>>38

お前討論勢に理論武装されてボコられてたじゃん

 

43:名無しさん ID:5IuserqRn

>>38

草生やすのは負けと同一だぞ

 

44:名無しさん ID:v8MMGHwrb

【お嬢様専】八色葵お嬢様に対するお小言ですの part3678

 

八色葵氏による言動の是非を討論するスレ part1689

 

【言論弾圧系独裁者】八色葵アンチスレ part1023【他人の不幸で成り上がる屑】

 

ほい有名どころのアンチスレ

 

45:名無しさん ID:o5dQdryol

スレチなんだよなあ

荒らしに触れる奴も荒らし定期

 

47:名無しさん ID:Sb8XKI70G

>>44

上2つをアンチスレに混ぜるな

 

48:名無しさん ID:rAMedPVAw

討論勢とかいう幼稚なアンチをも焼き尽くす異常者集団

コイツら本当にアンチ勢でいいのか?

 

50:名無しさん ID:aj3ooOwHX

ドレス葵えっち過ぎない?

 

https://imgur……

 

51:名無しさん ID:7MbJK/yu7

この子が未だ11歳という事実

他のアーティストは震えて眠れ

 

54:名無しさん ID:rpZQjPP5P

>>50

存在自体のシコリティが高すぐる

 

55:名無しさん ID:kFRD68mAA

中継見れる奴ええなー

俺も課金しておけば良かった

 

56:名無しさん ID:XvGcthxRY

>>50

露出が少ないのにエッチなの何で?

 

57:名無しさん ID:0Xkj3lPKu

ただただ感嘆する

 

58:名無しさん ID:bHSpFh1O8

国民栄誉賞確定

 

59:名無しさん ID:TZEAihD5a

>>48

アンチ乙

あいつらはアンチ界のダークヒーローだから

 

61:名無しさん ID:UgS4sW7B6

世界がJSに屈した瞬間である

 

63:名無しさん ID:7jyo1DN4+

あの子のやることなすこと大体が現実離れしてるから慣れてきたわ

 

65:名無しさん ID:oZGcRavmY

パパ君も草波の影で泣いてるわ

 

67:名無しさん ID:3NgiYWftN

>>59

どっちかと言うとファンの中のダークヒーローでは?

 

69:名無しさん ID:Ilzh1YO3X

>>65

勝手に殺すな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この葵ちゃんエッチすぎwwwwwww

 

1:名無しさん ID:XzzFrqeUm

  ∧,,∧

 ( `・ω・) ようこそID腹筋スレへ!

 / ∽ |

 しー-J

 

ここはsageずに書き込み、出たIDの数字の回数だけ腹筋をするという、硬派なトレーニングスレです。

 

例1 ID:ikoh5Gu14 の場合 5×14=70 なので70回頑張りましょう。

例2 ID:aoichankawaii の場合 数字がないので今日は一休み。

 

さあ、存分に腹筋するがよい。↓

 

2:名無しさん ID:oF6Iczg2p

クソが

 

5:名無しさん ID:auJHl8X8X

は??????

 

7:名無しさん ID:qS7afMvcJ

そんな餌で俺様が釣られクマー

 

10:名無しさん ID:XMQz8XApc

うんこ!

 

11:名無しさん ID:D8+XNQwCE

引っかかったの今日で3回目なんだが

 

13:名無しさん ID:Z3KvPpS54

イッチさあ……人の心無いんか?

 

16:名無しさん ID:xSCLOMgIH

>>13

あっ……

 

17:名無しさん ID:pe7Dr+Uhm

>>13

 

19:名無しさん ID:lRga2UyNk

>>13

じゃあの

 

22:名無しさん ID:td+AuD3Ho

葵ちゃん使う腹筋スレ禁止にしろよ

避けられる訳ねえだろ

 

24:名無しさん ID:4QXSmsCaJ

テスト

 

26:名無しさん ID:pC+oPn1Ty

俺の一番嫌いな釣りスレ

 

29:名無しさん ID:NfBoriMAV

クソがああああ

 

31:名無しさん ID:NfBoriMAV

と思ったけど助かったわ

サンキューID

 

32:名無しさん ID:SG2+jJnQq

まだ天文学的数字は出てないな

 

34:名無しさん ID:XzzFrqeUm

皆が可哀想だから癒しも貼ってあげるよ

 

https://imgur……

 

36:名無しさん ID:pC+oPn1Ty

>>34

イッチは神!!!!!

 

37:名無しさん ID:Bn0f0OOJG

>>34

ムホホのホ

 

40:名無しさん ID:tugFzg6G5

>>34

スレタイに偽り無し

これで思う存分腹筋出来るわ

 

42:名無しさん ID:XzzFrqeUm

ほらほら、心の栄養補給だよ

 

https://imgur……

 

44:名無しさん ID:i6fFpRL4r

>>42

氏ね

 

45:名無しさん ID:JHMiD5L5o

>>42

○ス

住所教えて

 

46:名無しさん ID:pC+oPn1Ty

>>42

お前ほんと死ね

氏ねじゃなく死ね

 

49:名無しさん ID:gM8BPB4jo

何どうしたん?

 

50:名無しさん ID:Qfz/rd8N7

何かを察した僕、2枚目は開かずに腹筋開始

 

51:名無しさん ID:9lyqml1Ii

1枚目で油断する方が悪いよね?

 

52:名無しさん ID:5OptTE+vG

ホラーフラッシュはいかんでしょ

 

54:名無しさん ID:fUEHP7fgz

>>49

ビックリ系gif

開かない方がいい

 

55:名無しさん ID:sSsfCAkjn

マジで葵ちゃんで釣る腹筋スレと葵ちゃんサムネのホラーgif辞めろ

 

56:名無しさん ID:td+AuD3Ho

釣りの重ねがけはNG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【悲報】八色葵さんのパッパ、誰も知らない

 

1:名無しさん ID:sGkFc0SEi

某王族を射止めた秘密を知りたい

 

2:名無しさん ID:sGkFc0SEi

葵ちゃんの言葉を信じるなら単身赴任中のサラリーマン

 

3:名無しさん ID:sGkFc0SEi

てか家に帰ればあの二人が居るのズルすぎるだろ

 

6:名無しさん ID:QuSJHrpxz

ヒント:俺がパパだから

 

7:名無しさん ID:dvAOHEpqG

実は俺なんだ

 

10:名無しさん ID:EOA2qzpNi

パパ偽るのは妄想の中だけにしとけよ

 

11:名無しさん ID:MWzSr4d92

八色なんて苗字珍しいから同じ会社居たら気づくよな

 

14:名無しさん ID:sGkFc0SEi

単身赴任ってそこまで帰らないもんか?

 

15:名無しさん ID:H4s55Ana/

兄弟いるのかも気になるお

 

17:名無しさん ID:dz7PnKsmm

>>14

会社による

 

18:名無しさん ID:mswNpCfpv

>>14

海外への単身赴任なら数年単位で帰らない事もあるぞ

 

20:名無しさん ID:sGkFc0SEi

そんなもんなんだ

 

23:名無しさん ID:PlDBJLQxO

あんな可愛い子を置いて行くなんて可哀想

 

24:名無しさん ID:4d9UQNtZJ

別に今の世の中離れててもテレビ通話出来るんだし問題ないだろ

 

27:名無しさん ID:u4JQTvzzn

実は既に亡くなってるに1票

 

30:名無しさん ID:O6EWzzTkU

俺お兄ちゃん、パッパは娘の稼ぎにビビって引きこもってるよ

 

32:名無しさん ID:vxHc4naVD

>>30

引きこもりはお前だろ働け

 

33:名無しさん ID:rKDxaUNPY

他人の家庭事情そこまで気になる?

 

34:名無しさん ID:tjpMhAjiJ

年末年始の仕事も大晦日の歌番組だけだし帰って来てるパッパと過ごしてると予想

 

36:名無しさん ID:JZWtdbUyi

あのマッマを抱いたって考えると羨ましすぐる

 

37:名無しさん ID:TU84lDrqq

八色葵さんファザコン概念じゃん

 

38:名無しさん ID:tnNBtWTOE

そんなもん詮索してもいい事無いだろ

 

41:名無しさん ID:WfSbFpi/U

パッパはお星様になったんだよ

 

43:名無しさん ID:n5JnRauUQ

忍術使えそうなパッパはカモフラージュ

本当は石油王

 

44:名無しさん ID:V4seRNDq9

ファザコンかどうかは置いといて

葵ちゃんって結構なマザコンだよな

 

46:名無しさん ID:gRkgHTe4+

仲いい家族はいい事よ

 

47:名無しさん ID:vi7GamWsi

お母さん好き好きが恥ずかしくなってくる時期だから見納めかもな

 

50:名無しさん ID:AH1mZWEq7

思春期葵ちゃんwktk

 

51:名無しさん ID:HRFDJlTZf

パパ君の顔見たいわね

絶対美形

 

53:名無しさん ID:fatFWITGE

マザコンファザコンを恥ずかしがってる奴wwwwwwww

大阪と海外じゃ普通だから気にするな

 

56:名無しさん ID:SDgEYs7hh

>>53

大阪「解せぬ」

 

57:名無しさん ID:gF++ceBVx

マッマ好き好き感出てる葵は可愛いから続けて欲しい

 

60:名無しさん ID:fatFWITGE

だって大阪はオカン大好きじゃん

 

62:名無しさん ID:R9Gby6oua

>>60

そんなん人によるわ

 

64:名無しさん ID:sGkFc0SEi

で、お義父さんの職業と居場所は何?

 

66:名無しさん ID:XVqh4dmNp

イッチ「スレチは許さへんで」

 

69:名無しさん ID:Dp2Op8UGc

葵ちゃんは大阪住みだった……?

 

72:名無しさん ID:MsExDLafn

>>64

お義父さん表記はNG

 

75:名無しさん ID:FAdyVncW3

実際どこ住みなんだろ

 

76:名無しさん ID:K/eWHCKdh

日本史選択僕、八色の姓しか思いつかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【速報】幼馴染Aちゃん、Twitter開設

 

1:名無しさん ID:DJvTEvExm

 

とある幼馴染

@osananazimi_a

携帯買って貰ったので始めてみました。幼馴染の写真や言動を呟いていきます。

 

 

 

 

写真を表示

 

 

 

 

2013年3月28日10時36分

2389186

 

はい

 

2:名無しさん ID:QpbtLLlN0

マシソ……マジじゃねーか!

 

3:名無しさん ID:Dnn9ZrOLE

私服可愛すぎか?

 

6:名無しさん ID:6hgpT91j+

合成じゃね?

 

8:名無しさん ID:G/frpZmM4

唐突に部屋を晒される八色さん

 

9:名無しさん ID:DJvTEvExm

最初のフォロワーが葵だから多分マジ

 

10:名無しさん ID:0rhqJmTeJ

速攻でフォローしに行った

 

11:名無しさん ID:oxdmPs3Rf

部屋着かわよ

 

12:名無しさん ID:CN5i3KsNv

理科年表揃えてあって草

 

15:名無しさん ID:X5WgT+sgG

俺らの需要をよく分かってるわ

 

18:名無しさん ID:3g9xtuetp

積みゲー積み本多すぎwwwwwwwwwwww

 

19:名無しさん ID:8u3xw17Mw

マジじゃねーか!

 

20:名無しさん ID:Fkc6NCVEI

ホントに幼馴染Aちゃん?B君の可能性もあるよな?

 

23:名無しさん ID:TMbeWDZH2

ヲチ民総大将が爆誕してしまったか

 

26:名無しさん ID:DHZOQ+089

大草原不可避

 

27:名無しさん ID:r0+mi88iS

身内に刺される葵ちゃん

 

28:名無しさん ID:jWzqPGuix

夏は海かプールに行ってくれ

頼んだぞ

 

29:名無しさん ID:BQzEGmrt8

葵ちゃん部屋写ってるのによく許したな

 

31:名無しさん ID:ZT3tesjmz

テレビでっか

 

33:名無しさん ID:PHQqHUd8+

大スターにプライベートなんて存在しないぞ

 

34:名無しさん ID:tgv1rU5XK

公式かアーティスト仲間か動画クリエイター仲間しかフォローして来なかった八色さんの初めての一般人フォロー

 

36:名無しさん ID:my/I0xoAs

カーテンは閉まってるか、チッ

 

39:名無しさん ID:xBW1KAN4W

部屋にテレビあるのええな

 

41:名無しさん ID:GeD6xYdLB

案の定広い部屋

 

42:名無しさん ID:/BMOLoo5K

白と黒のシンプルな家具

解釈一致です

 

43:名無しさん ID:V3jHYh2eN

中学の制服見つからなかったお……

 

44:名無しさん ID:d35OL/t9L

完全遮光カーテンが憎い

 

46:名無しさん ID:zaWQbTocu

流石に身バレには気を使ってるでしょ

 

48:名無しさん ID:/KHcy7vnN

ダブルピースの写真撮って欲しい

他意は無いよ

 

51:名無しさん ID:WWNfUVmFS

ヲチスレざわついててワロタ

 

52:名無しさん ID:htBdaaQZq

外人ニキネキは気づくのかな?

 

54:名無しさん ID:vItzFZx0l

18禁ゲームは隠してるようだな

 

57:名無しさん ID:ZAxNi0YQd

今の人生に絶望してましたが夏まで頑張ってみようと思います!

夏になったら……分かってるよな?

 

58:名無しさん ID:rwnVdvp4t

エロ売りする必要ないんだから水着は諦めとけ

 

60:名無しさん ID:cANFyHc02

肌の露出が多いだけでもご褒美なんだよなあ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某No.2ユーチューバーさん、夢が叶いそう

 

1:名無しさん ID:ggTpamK0I

八色葵さんが8月の日本のYouTubeイベントに出演決定

 

https://……

 

4:名無しさん ID:uoTys23Ea

よかおめ

 

7:名無しさん ID:oRnUR3kJu

ユーチューブ君も頑張ったわね

 

10:名無しさん ID:9ZhYbXcg5

よかおめ

 

14:名無しさん ID:HpAvufgjc

奴は今頃嬉しさのあまり失神しているかもしれない

 

16:名無しさん ID:5Kw6ue10Q

正直ユーチューバー嫌いだけど真摯な想いは伝わってくるから許したろ

 

19:名無しさん ID:kE1RCqLAV

普通のユーチューバーはドッキリやら何やら頑張るもんだぞ

むしろ配信や旅動画メインの葵ちゃんが異質なまである

 

21:名無しさん ID:+mqLeEylq

ニコ動勢とようつべ勢だとノリが違うからね

 

25:名無しさん ID:Vl44hjPfs

メントスコーラとか誰が楽しむんだよって思うけど伸びてるんだから人気なんだろうな

 

26:名無しさん ID:Tn3TmBg2C

YouTube君はあっさり公表するんだな

 

30:名無しさん ID:qdJFGLRDu

ピカキンに迫られてる現状で夏までにNo.2の地位を守れるか?

 

33:名無しさん ID:79s+sI7bM

一時期はようつべにもニコニコ勢が湧いてたのにあっちも収益化したら流入が減ったよな

 

35:名無しさん ID:Gq7TJ5TSv

イッチのソースにあるやつって海外勢来ないんか

 

36:名無しさん ID:muWDsPOmE

昇天してそう

 

39:名無しさん ID:P+R8HJshZ

葵ちゃん一人でお釣り取れるからな

海外勢を呼ぶ必要はない

 

42:名無しさん ID:Yea2LffOm

なお速攻で動画をあげた模様

 

https://……

 

45:名無しさん ID:mBmdvsdSR

wwwwwwwwwwww

 

46:名無しさん ID:q0EcQpM5U

無編集3分wwwwwwwww

 

47:名無しさん ID:0nSNWAMCt

今から自己紹介文作るのキモすぎワロタ

 

48:名無しさん ID:ICMFoYedL

野郎の限界オタクは需要無いぞ

 

50:名無しさん ID:QUmhneJ8h

憧れの人に会えるんだからしゃーない

 

52:名無しさん ID:A5ZXA7IgY

トイレで動画撮るのはもうこだけで十分なんだよなあ

 

56:名無しさん ID:GHyuqz+Wz

お前そろそろ周りに抜かされるぞって言ってやりたい

 

60:名無しさん ID:qmx0LOjTy

金稼げるの広まってからどんどんユーチューバー増えていってるからな

 

63:名無しさん ID:/6Bxnp/lc

動画投稿界隈マジ乱世

 

 

 

 

 

 



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3.動画投稿者戦国時代
入学式


メリークリスマス


 2013年4月、私もとうとう中学生へ学年が上がった。幼かった周りの子達も随分と大人染みて来たのは感慨深いものがある。子どもの成長は早いね。

 

 この春から変わった事と言えば、由希さんが産休及び育休を取っている事くらいだろうか。

 つい先日、無事に健康な女の子を出産した彼女は幸せに満ち溢れている様子だった。私も赤ちゃんを抱かせてもらったが、こんな小さな子が十数年で大人になる神秘を思うと不思議な感覚だ。まあ、他の動物に比べればそれでも遅い方なのだろうけど。

 何はともあれ健やかなる成長を願っているよ。

 

「——はい、こちらで問題ありません。お忙しい中御足労頂きありがとうございます」

「いえ、時間の都合も良かったので気にしないでください」

 

 そんな春休みのある日、進学先の中学校へと足を運んでいた。

 内容は入学式における新入生代表挨拶について。日本でのライブも一段落ついていたので断る理由も無く依頼を受けた次第だ。

 汚文字にならないよう気を使って式辞を書くのも慣れたものである。なお中学校の先生が低姿勢で対応して来る事には違和感を覚える模様。もっと普通の生徒と同じように扱って欲しいのだが……

 

「それにしても、今年は新入生が多いみたいですね。去年の原稿と比べると2クラス分も増えているような」

「これでも学区外から来ようとしている人達を結構な人数弾いているんですよ」

「学区外?」

「珍しい事に」

「へぇ〜」

 

 計算すれば1クラス40人になりそうだし、大分ギチギチな教室になりそうだ。逆行前を含めてこんなに人数が多いクラスは初めてなのでどんな生活になるのか楽しみでもある。

 ……冷静に考えてみれば、これって私のせいの可能性が高いような気もする。迷惑をかけたお詫びと言ってはなんだが、私の出来る事があれば可能な限り手伝ってあげよう。

 

「では入学式の日にまた会いましょう」

「はい!これからよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 私の担任になる先生とも顔合わせをして解散となった。そのまま学校前に来ていた車に乗り込み新しいオフィスへと送迎してもらう。

 4月1日より部屋数の多い建物を借りており、引越し作業もつい先日終わらせた。衣装部屋も併設されているので、スタイリストの高野さんが違う場所へ行く必要も無くなった。

 みんなの顔を一斉に確認出来ない点が寂しい所だが、配信部屋も用意出来たので良しとしよう。

 

 車に揺られる事1時間弱、3階建ての小さなオフィスビルに到着した。守衛さんに挨拶をしてカードリーダーに社員証をかざしカギを開ける。

 2階に上がるとコーヒーの良い匂いが漂って来た。お昼時なので誰かがコーヒーサーバーを動かしているのだろう。

 

「おはようございます」

「社長!お疲れ様です!」

「おはようございます!」

 

 休憩スペースでお昼ご飯を食べていた会計組に挨拶をしてから自分と母に割り当てられた部屋へと向かった。

 特にこれと言ってやる事は無いのだが、日当たりのいい立地なので動画編集等をここでやるのが最近のトレンドだ。眠っちゃってもお母さんが起こしてくれるし最高の環境である。

 社長とは名ばかりのぐうたら生活を出来るのも優秀な社員が居てくれるからこそだ。ありがたやー。

 

「葵ちゃんはご飯食べてきちゃった?」

「移動時間にサンドイッチを摘んだよ」

「ならお野菜も摂らなきゃね。ママのお弁当と一緒に頼んじゃうから」

「はーい」

 

 去年から1年おきでアメリカ、ヨーロッパを巡るツアーをしているので、昔ほど長期休暇の予定がギチギチになる事も無くなった。その分海外のテレビ番組のカメラが来る事も増えたが弾丸ツアーよりは楽なので無問題です。

 

 それから偶にやって来る書類を捌きながら夕方まで作業を続けた。世間の社長様もこんなに簡単な業務なのか謎ではあるが、起業した特権と思っておこう。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「うーん予想通りの可愛さ。その格好で電車に乗っちゃダメよ」

「乗る機会は無さそうだけどね。それはそうと日常的にスカートを履くのは慣れないね」

 

 そんなこんなで迎えた入学式の日。我が家までやって来た理華ちゃんに制服姿を褒められながら登校の準備をする。

 勿論この時代にはパンツルックの女子用制服なんて存在しないので学校生活は四六時中スカート姿です。夏は風通しが良くていいのだが、冬は寒そうだ。ストッキングが手放せなくなる予感がある。

 

「お母さん、準備出来たよ」

「ではでは参りましょう!」

 

 今年は天候に恵まれており、未だに咲き誇っている桜を登校途中でも確認する事が出来ている。この調子であれば校門前での記念撮影もいい感じに撮れそうだ。日本人としての心を持つ私的にも背景に桜があるのは風流を感じるので好きな撮影ロケーションである。

 

 その予想通り中学校の校門前では満開の桜の木が待ち構えてくれていた。「入学式」と書かれた看板前には多くの新入生がたむろしているので、時間の節約の為に理華ちゃんと一緒に写真を撮る。

 その際に小学校が同じ子達に声をかけられたが、この後はリハーサルがあるので丁寧に断りを入れて職員室へと向かう。申し訳なさもあるけど一人ひとり対応していたら遅れちゃうからね。

 

「失礼します。八色葵です。本日の入学式のリハーサルの件で参りました」

「あれが……」

「リアルで見ると——」

「ハイハイ!私が行くから外でちょっと待っててね」

「承知しました」

 

 ザワザワしている先生方を横目に担任の先生が出てくるのを待った。あれだね、小学校の時は途中から世間に知られたけど、最初っから芸能関係の人が入ってくる中学校はそこそこ注目を集めそうだ。変な行動をして悪評を広められないように気をつけよう。

 

 1分程後に出て来た先生の誘導の下、体育館へと向かい校長先生等に囲まれながらリハーサルを終えた。入学式に参列する為に来ていた市長の対応は面倒であったが有名税としておこう。笑顔の仮面を貼り付けるだけの簡単なお仕事だ。

 

 その後は教室へと移動し、新たな学友達と親睦を深めた。半分以上は初めて見る顔なので、小学校みたいにヨイショされる事も無くなってくれるだろう。と言うよりそうなって欲しい。

 

「もう終わったんだ」

「動きの確認だけだからね。八色葵です、よろしくね」

「はっ、はいっ」

「本物だぁ……っ!」

「はーい、席についてー」

 

 なお相変わらず理華ちゃんは同じクラスの模様。ここまで行くと作為的な意図を感じるが、真相は如何に。

 担任の先生の軽い自己紹介を経て廊下へ整列。出席番号順で並ぶ為私は最後尾に近くなるが、動きやすい様に1番後ろに着く。

 隣の男子が挙動不審になっていたが思春期にはよくある事なので気にしないであげよう。可愛い子が近くに来ると焦るよね、分かる分かる。私も男子校時代そんな感じだったし。

 

「よろしくね」

「よよよろしく」

 

「は?殺す」「許すまじ」「協定違反だ!処せ!」

 

 まあ、仲良くしようじゃないか。大丈夫、私は気持ち悪いとは思わないから存分に話しかけてくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『新入生代表挨拶。1年1組、八色葵』

 

「はい」

 

 鈴を転がすような美しい声が響く。立ち上がり壇上へと向かうその声の主を誰もが目で追っていた。

 彼女を知らない者は存在するはずも無く、保護者や学校の係の者が一様にカメラを構えているのが分かる。世界の大スターに、誰もが目を奪われていた。

 

「やべえよ、マジで可愛すぎる」

「この中学に入れてよかった…もう死んでもいいわ」

 

「俺、絶対に告白する」

「鏡を見てから出直せよ」

「あ?」

 

 そこかしこで生徒が小声で彼女の事を話している。それも、男子に限らず女子もだ。

 

「藤崎さんは同じ小学校?」

「幼稚園からの付き合いよ」

「えぇ!いいな〜」

 

 両隣の子からの聞かれ慣れた質問に答える。相変わらず私の幼馴染様は他者の羨望を集めずには居られないようだ。中学からは腹黒い子も出て来るだろうし、注意を払っておこう。

 

「ねね、後でLINE交換しようよ」

「学校にスマホ持って来てるの?」

「内緒にしてね?それより、どう?」

「私は持って来てないからIDだけ教えるわね」

「やった!追加しとくから藤崎さんもよろしくね」

「いいな〜。私スマホ持ってないよ……」

 

 小学校では気にならなかったSNSサービスに熱心な子も居るようだ。これからは対面だけでなく電子の世界でのコミュニケーションが中心になるのかもしれない。

 それに乗り遅れる子も出て来るだろうし、差別やイジメは色んな形に発展しそうだ。便利は便利だけど、嫌な世の中になったもんだ。

 

「中学生でも半分くらいは持ってないんじゃないかしら。気にしない方がいいわ」

「そうだけど〜……私も八色さんと気軽に話せるかもしれないじゃん?」

「葵はLINEあんまり見ないよ」

「そうなの!?」

 

 案の定LINEに誘って来た子も幼馴染目当てだったようだ。分かるけど、もうちょっと本心を隠してくれ。まあ、害にならない存在なら問題無いけれど。

 それに、葵がLINEを見ないなんて事は嘘である。むしろ暇な時は速攻で既読を付けてるので、忙しそうなスターとは何ぞやと思う事もしばしばだ。

 「スマホ依存症には気をつけないとね」等と忠告してきた彼女自身にブーメランが刺さっているような。

 

「まあ、葵のLINEは本人に聞いてみてね。断られはしないと思うから」

「うっ……ハードルが高い」

「等身大の葵として接してあげると喜ぶから、心に留めておいて」

「ほえ〜、そんな感じなんだ」

「りょーかいっ」

 

 そんな話をしていれば幼馴染の式辞も終わりに近づいていた。毎年似たような内容だろうに教師は彼女に目が釘付けの様子。おかげでお喋りしていても怒られそうにないので有難い。

 

 入学式後、簡単な部活動紹介を挟んで教室に戻ると幼馴染の机の周りには人垣が形成されていた。朝の時間は話せなかった人が多いので仕方ないか。クラスメイトが彼女に慣れるまではこの光景がデフォになるんだろうね。

 

「クラスのグループには入るんだ」

「そりゃ入るでしょ。人数は少ないみたいだけど、情報共有は出来るからね」

 

 帰り道、今日あった事を聞いてみればLINEの垢を教えたようだ。本人の好きにすればいいと思うけど、男子連中が無謀な特攻をしそうな予感もある。せめてリアルで仲良くなってから突っ込む事を周知しておこうかしら。

 

「ちなみにLINEで告白ってどう思う?」

「別にいいんじゃない?なに、理華ちゃんされたの?」

「葵の話よ」

「私の場合は断るけど……」

 

 本人もこう言ってるのだし、男の子の皆さんには気を強く持って頑張って欲しい。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「はい」

 

はい

やあ

はい

おはよう!

はいじゃないが

カメラの角度変わってる!

はい

胸像キターー!

こんばんは

むしろ何故今まで顔だけ映していたのか

 

 新しい学校生活にも慣れてきた5月。平日の夜ではあるが、いつも通りYouTubeを開いてライブ配信を開始した。最近要望が多かったカメラの角度も胸まで映るように調整してあるので不満は出ないだろう。

 

「今日は時間が時間なのでマイクラの整地配信という虚無空間をお送りします。ラジオ替わりに使ってくださいね」

 

そういえば普段より1時間くらい遅いね

デスクワークをしながら聞くことにするよ

無理はしないで

まーたエンドが更地になるのか

この翻訳はどうやっているんだい?

虚無はワロタ

あれ、同時通訳出来てるじゃん

何かあったの?

未だに死んでないスティーブ君

ワオ!英訳が表示されているじゃないか!

ブランチマイニングでもいいぞ

 

「遅れた理由は病院に行ってたからなんですが、特に何処が悪いという訳でも無いので気にしないでください。翻訳作業は色々やった結果出来るようになりました。ツールを作ってくれた方に感謝ですね」

 

 そう言いながら掘りたい山の近くにビーコンを設置し採掘速度を上昇させておく。後は適当に雑談しながらひたすら無心で露天掘りするだけだ。

 

病院!?

休んで

どこも悪くないのに病院に行く奴があるか

両手は塞がってるのに英訳が可能とは、日本はまたクレイジーな発明をしたな

病気?

今日はエンド行かないのね

どうやって文字打ってんの?

見慣れた横移動式整地作業

無理しないでね

 

「病気ではなく血を抜いて貰ってるだけなんですけどね。文字についてはお行儀が悪いですが足の指で打ってます。慣れると案外速くタイピング出来るようになるんですよね」

 

血を抜くって何事よ

?????

確かに行儀が悪いwwwwwwww

葵は吸血鬼の親戚なのかい?

謎を増やすな

足の動き見たすぎる

つまりどういうことだってばよ

足の指で俺より速く打ってて草

????

これがブラインドタッチちゃんですか

お行儀が悪いですわ!

そういえば葵ちゃんの血液型って何?

ドラキュラは血を吸い取る方さ

相変わらず整地がはやぁい!

多分O型

足目線の動画出して♡

もしかして稀血?

 

「おっ、正解です。血液型はOで——匠さん!?無言で背後から近寄ってくるなぁ!」

 

大慌て葵かわよ

忌まわしい緑の悪魔め

建造物じゃないのでセーフ

匠さん、今日も元気に地形破壊

葵ちゃんはO型な気したわ。大雑把だし

整地を手伝いに来てくれた良い奴じゃないか

クリーパー「喋れないのにそんな無茶な」

ハードコアにおける最大の敵の一つ

葵ちゃんの方が地形破壊してるんだよなあ

お前そろそろ死んでも良いんだぞ?

性格的にO型は解釈一致です

で、なんで血抜くの?

環境破壊は楽しいぞい

 

「結果的に地形を大きく削ってくれたのは有難いですね。流石匠さん、プロの仕事だ。O型は大雑把っとか言ってる人達は悔い改めて、私が雑なだけですので。そも、血液型性格診断なんて信じてるのは日本くらいなんじゃないですか?」

 

 言いながら「血液型性格診断」をどのように訳すかを少し悩む。欧米の人は初めて聞くだろうしちょっとだけ詳しく説明しておこうか。

 

「珍しい血液型らしいので定期的に血を抜いて冷凍保存してるんですよ。病院へ行ったのはそれが理由です」

 

長文書き出してワロタ

珍しい血液型?

なにそれ

そんな迷信があるんだね、興味深いよ

葵ちゃんのウィキが更新されてまう

Rh陰性でもそんな対応取らないぞ

それはアジアの文化なのかい?

A型は云々言う奴らな、†悔い改めて†

口と手と足で別々な動きさせてるのヤバいな

中東住みだが初めて聞いた

足の動き見てぇ、絶対気持ち悪い動きしてる

これは日本人がバカにされる予感

ある種の差別に繋がらないか?

マルチタスクの鬼

葵ちゃんRh型血液型って分かる?

科学力あるのにそんなのを信じる人もいるのか、日本人は面白いね

なんかコメントのIQ高くない?

 

「あらダイヤ発見。Rh抗原は持ってません」

 

どういうこと?

ファーwwwwwwwwwwww

Rh?

ワオ!

黄金の血で草ァ!

この高さだとダイヤは珍しいね

ウィキ更新よろしく

やっぱり突然変異じゃないか!

研究させてくれないか?

つまり?

お前てんこ盛りすぎるだろ

知らない人はRh nullでググれ

希少な要素をガン積みされた女

 

「マグマ溜まりを埋めて、と。遅れた理由はそんな所です。さっきも言ったように心配する必要はありません」

 

 稀血と言っても、他の血液型グループを含めれば結構な人数が該当しそうなものなので大袈裟にする事も無い。ただ万が一の際に危ないというだけだ。

 

病気じゃないなら安心した

葵の血を俺に入れることが可能なんだね

それより勉強しなくていいの?

休日に行かないんだ

なるほど

そんな事も病院でやるんだ

ほーん、分からんけど理解した

キモい海外コメあってワロタ

なんで山削ってるの?

中学校はどうよ

 

「整地しているのは拠点を広げるためです。ついでにそろそろトラップも作りたいので」

 

まーた悪い事考えてら

村人農場かと思ったら違うのね

アイアンゴーレムを溜めてるのは解消しないのかい?

村に隣接する崖を消す理由なんて一つだよね

【悲報】アイアンゴーレム君、未だに解放されない

刑務所に突っ込まれた村人を供養しろ

葵ちゃんはオープンワールド作らないの?一緒に何かしたい

 

 未だにアイアンタイタンは作っても意味な無いが、丸石や木材の生産所は無駄にならないので用意しておこうと思う。

 コメントでは一緒にプレイしたい勢も湧いているのでそのうち視聴者参加型のワールドでも作っておこうかな。まあ、その前にコラボ用のワールド生成の方が早くなりそうだけど。

 最近になってやっとウコンちゃんとコンタクトに成功したのでニコ動勢とはコラボを沢山していこう。



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特異技能

あけましておめでとうございます



積みゲーなどを消化していたらこんな時間に……
あ、ボッチちゃんとキタちゃんが可愛かったです


 雨が多くなってきた6月、世間では日本が誇る名山たる富士山が世界文化遺産に登録された事で盛り上がりを見せている。

 それに伴い海外観光客並びにインフルエンサー擬きのユーチューバーも大勢日本を訪れるようになった。中には樹海に訪れ不適切な動画をアップロードした事で燃えた人もいる。

 この時期はまだ再生数を回すための過激派が少ないと思っていたのだが、想像よりも早く動画投稿サイトが繁盛しているために、逆行前との違いも出て来てしまってるね。

 日本人でも個人間のドッキリ企画が流行り始めているので、視聴者層がどう流れていくか注意深く観察しておこう。

 

「瀬戸際拡杉の動画見たか?」

「すまん、俺アイツあんまり好きじゃないんだ」

「これだからニコ動キッズは……これからの時代はユーチューバーが引っ張って行くってのに」

「いやいや、ネタの最先端は——」

 

「男子はくだらない事で争うのね」

「きのこたけのこ戦争だって似た様なもんでしょ」

「それとは話が違うと思うよ……」

 

 また、日本人ユーチューバーのマネジメント事務所も創立された事から案件動画等が増えている様にも感じる。YouTubeメインで活動している人達は続々と事務所に合流をしているが、ニコ動メインの人達は未だに個人での活動が主流だ。

 まあニコ動勢は事務所に入らなくてもコラボは多発しているようだし、現状維持で問題無いと判断しての事なんだろうけど。

 そもそも配信勢も多いからね、それを切り抜いてYouTubeにあげるだけでも再生回数は稼げるので、わざわざピンハネされる事務所に入る必要が見当たらなそうだ。

 

「私は断然きのこ派」

「ちなみに葵ちゃんはどっち派なの?」

「たけのこ」

「どうやら私達は敵同士のようだ。戦場で会おう!」

「じゃあ私もたけのこ」

「あっ!裏切り者!」

 

 中学でも相変わらず暇な時間は私の周りに集まってくる女子諸君は滅多に動画系の話題を出さない。専ら他所のクラスの恋バナやらファッション、化粧品の話でいっぱいだ。化粧品なんて使わなくても十分な肌質だと思うんだけどなあ。背伸びしたい年頃なんだろうか。

 

「八色!ちょっと来てくれ」

「はーい。呼ばれたから行ってくるね」

「いてらー」

 

 学年主任の先生に連れられ職員室棟へと向かった。要件は今度のテレビ取材の流れの確認。映して良い所とダメな所も再度確かめた。

 中学校名は勿論、外観もモザイク処理する事になるので、使われる映像は教室内での授業や一部の生徒や教師へのインタビューくらいだと聞いている。

 

「——こんな所か。後日改めて局の関係者が来るんだよな?」

「そのように伺ってます」

「それにしても、中学1年生が『仕事のスタイル』に出るなんて、相変わらずお前は一般の枠に収まらん奴だ」

「ご迷惑をおかけします」

「構わんよ」

 

 その番組の懸念点として住所の特定に繋がりそうな所が挙げられるが、どうなるやら。ネット上では贔屓の球団の事もあり関東圏だろうとは既に予想されている。それを更に深掘りされないように番組構成には気をつけてもらわねば。

 

 教室に戻る道中では多くの生徒に見られているのを感じる。数年前からあるこの視線の雨にも慣れてしまったので特に思うところは無いが、()()()()()()をこれでもかと浴びるのはむず痒いものがある。

 

「ただいま」

「お疲れさん」

「おかえりっ」

「何だったの?」

「仕事の話でちょっとね」

 

 我がクラス内でもそれは変わらず、教室内は私に対する感情で溢れている。男子諸君からのピンクな感情も感じるし、この不思議な感覚のオン・オフ機能が欲しい所だ。

 

 今月に入ってから私はとある能力を身につけたらしい。

 

 それは、他人からの感情を色のイメージで受信可能になった事。

 

 「らしい」と言うのは朝起きたらそうなっていたからであって、私が何かをした訳では無い。

 すわ脳に異常でもきたしたかとも思ったが、具合が悪くなる様な事も無いのでとりあえず放置している。危険そうな輩か否かも判別着くからね。

 

 なお人間離れが著しい点については無視している。体つきの割には身体能力が異常だったりするし、一体全体何が起きているのやら。

 ……この世界、もしかしたら私の夢の中の妄想だったりするのだろうか。それはそれで「実は変身願望持ち」という事になるので何だかなあ……

 

 とまれ、変な異能も使い方によっては便利なので気にしないでおこう。もしかしたら共感覚の一種なのかもしれないし考えるだけ無駄だからね。

 

「あ、雨が止んだみたい」

「梅雨は髪がうねるから早く明けて欲しいわ」

「髪の毛?」

「葵ちゃんは苦労してなさそうだもんね。トリートメントとか何使ってるの?」

「普通だと思うけど」

「葵に髪や肌の手入れを聞いても無駄よ。諦めなさい」

 

 雨が上がった空には虹がかかっていた。そろそろ夏の訪れを感じさせてくれる気温にもなって来ている。

 確か今年の夏は暑くなるんだったか。熱中症患者が増えないように気をつけて欲しいね。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「うぇー……何これ分からん」

「それより配られたプリントやった方が良いんじゃね?」

「てか何で今回は頑張ってんの?」

「八色さんの隣に名前を刻みたいだろ!」

「お前天才か?」

 

「……葵の隣は私なんだけど」

「ん、何か言った?」

「何でもないわよ」

「葵ちゃん!次ここ!」

「はいはい」

 

 7月中旬、中高生は最大の長期休暇を前に勉強に明け暮れていた。試験まで1週間と迫った今日は休み時間も対策に追われている子がチラホラ見える。

 中間試験の時ははここまで熱が入ってなかったのに、何が切っ掛けだったのだろうか。

 

「葵も理華も余裕そうなのズルい」

「そうだそうだ!」

「持つ者は持たざる者に奉仕すべきだと思うの」

「そうだそうだ!」

「ヤジが煩いわね……」

「希、ステイ」

「くぅーん」

 

 そんな雰囲気にあてられて私に分からない所を聞いて来る子も出て来てしまった。

 その上昇志向や良し、と言ってあげたいが趣味の読書の時間も削られているので微妙な気分だ。

 

「佳奈は何がお望みなの?」

「明日勉強会しよ。葵のお家で」

「葵ちゃんの家!?行く行く!」

「私明日は無理だよ〜……」

「あたし塾……」

「八色さんの家なら這ってでも行く」

「待て待て待て」

 

 マンツーマンで躓いている箇所を対応してあげていると、気づけば土曜日に皆で集まる話になっていた。

 中学の同級生を家へ招いた事は無かったので良い機会かな。明日は仕事も入ってないので問題ないし。

 

「そもそも葵本人が許可してない——」

「良いよ」

「良いんだ……」

「決まりだね」

「やったっ」

「え〜!ズルいよ!」

「葵の家に行きたいだけでしょ」

「そうとも言う」

 

 そんな訳で、勉強会だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

「こんにちは!」

「いらっしゃい」

「理華は?」

「部屋でゲームしてるよ」

 

 急遽決まったイベントなので人数は私含め6人。もっと人数が多ければリビングも使わなければならなかったが、これくらいなら私の部屋で十分だ。

 

「お母さん、全員揃ったよ」

「はーい!みんな、ゆっくりしていってね!」

「はじめまして、飯田佳奈です」

「上野希です!」

「中村陽菜です」

「渡辺香織です!」

「あらあら、ご丁寧にどうもー。後でお菓子持っていくわね!」

 

 今回のメンバーは理華ちゃん以外は中学で知り合った子なので、顔合わせもしておく。高校では離ればなれになると思うけど3年間は付き合う可能性があるからね。

 

「ここだよ。入って」

「失礼しまーす」

「ひろっ!」

「ふわぁー、流石お金持ち。庶民と違うわ」

「そんな事も無いと思うけど……」

「あら、もう来たのね」

 

 12畳の広さは東京住みで無ければ案外あるんじゃないかな。まあ、子ども1人に対して、と言われれば同意するしかない。恐らく2つの国の税金で建てられたであろう家なので私からは何も言えない。

 

「あれ、前にTwitterで見た感じと違うね」

「私と葵で片付けたわ。この子、言われないと動かないから」

 

 流石に幼馴染組以外が来るなら片すよ。そうじゃなきゃ机置けないし。

 

「てか佳奈ってTwitterやってたんだ」

「葵も理華もフォローしてるよ。フォロバは何時返ってくるのか」

「いや佳奈の垢知らないから。本垢は無理だからサブ垢教えるわね」

「本棚もすごっ!後で読んでいい?」

「一段落したらね。さあ、始めようか」

 

 女三人寄れば姦しいと言うように、放っておけば延々とお喋りが続きそうなので待ったをかける。折角集まったからには実りのある勉強会にしてもらいたい。

 

 各々の苦手教科の教材を広げそれを理華ちゃんと手分けをして対応する。まだまだ優しい内容なんだけど、ウンウンと頭を悩ましている光景は微笑ましい。

 

 高校時代は勉強会という口実のカラオケ大会やゲーム大会だったし、大学時代に家庭教師をしていた子はデキが良かったので、こういう子達を教えるのは新鮮だ。

 

 そういえば、家庭教師先だった茜ちゃんもミレニアムベイビーだったか。もしも逆行前と同じ大学に行くなら同級生になるのかな。

 向こうは私の事なんて覚えてないだろうけど、出会う事があれば仲良くしよう。

 

「何で歴史は年号まで覚えなきゃいけないんだろ。どういう理由で、どんな流れで、何があったかの内容の方が重要じゃない?」

「希ちゃん、いい視点だね。でも残念ながら試験に出るから。頑張ろう」

「葵ちゃんに褒められた!テストの点数プラス100点くらい貰えそう!」

「バカ言ってないでワーク進めなさい」

「はーい……」

 

 ごもっともな指摘だと思うけどお上(教師)には逆らえないからね。高校や大学へ行けばそういう事も減ると思うので少しだけ我慢してくれ。

 

「八色さんが国に掛け合えば指導内容も変わるんじゃない?」

「私の事をなんだと思ってるのさ。一個人の、それも高々12歳の意見を聞いて貰える訳無いじゃん」

「そうかなぁ?」

 

 私も学校の指導に思うところは有るけれど、そう簡単に変えられるものでも無いのは理解している。それに、最近の学力調査は近年稀に見る良い結果らしいので、国は変える気も無いんじゃないかな。

 

「普通の12歳ではないと思うの」

「香織、手が止まってるわよ」

「1時間やったんだし休憩を所望する!」

「そうだそうだ!」

「希、あんたね……」

「集中力も切れちゃったみたいだし、休憩にしようか。おやつを持ってくるから待っててね」

「やったー!」

「じゃあ私は漫画を」

 

 部屋にある物は自由に使っていい許可を出してから部屋を出ると、甘い香りが漂ってきた。

 匂いの出処のリビングへ向かうとお母さんが焼き菓子をお皿に並べていた。うむ、素晴らしい焼き加減だ。

 

「いつの間にマドレーヌの生地寝かしてたの?」

「お昼ご飯の後にちょちょいとやってたのよ」

「へえ。一つ食べていい?」

「みんなには内緒だよ?」

「やたっ」

 

 摘み食いの許可を貰ったので1番上に乗せてあったやつを口に運ぶ。焼きたてなので外はカリッと、中はフワッとしていてとても美味しい。牛乳か紅茶が欲しくなる甘さだ。

 

「美味しい!」

「その笑顔が見れればママも嬉しい!さ、飲み物を持って行きましょうか」

「はーい」

 

 人数分のグラスに事前に聞いていた要望のジュースを注ぐ。私の分は冷蔵庫で冷やしていた水出しのアイスコーヒーにしよう。

 そのグラスをお盆に乗せて部屋まで行くと、みんなが1箇所に集まって何かを覗いているようだった。変な物は置いてなかったはずだけど。

 

「お待たせー!おばさん特製のマドレーヌよ!」

「あっ!ありがとうございます!」

「いい匂い」

「美味しそう!」

「ではでは、ごゆっくりー」

「何見てたの?」

「世界のスターの知られざる姿」

 

 佳奈ちゃんの掴めない返答を流して手元を見てみれば私の幼い頃の写真が。どうやら本棚に突っ込んでいたアルバムを引っ張り出したらしい。

 

「葵ちゃん、こんなちっちゃい頃から本読んでたんだ」

「生まれた頃からの記憶は残ってるよ」

「ほんとに人間?」

「生物学上はね」

 

 真実は強くてニューゲーム中のTS女の子なんだけどね。そう言ってもUFOに攫われたと宣う人と同じような扱いをされそうなので口を噤んでおく。こんな不思議体験を一発で信じられる人は果たして存在するのだろうか。

 

「この女の子は理華ちゃん?」

「そう!この頃は人見知りが激しくてねー、私の後ろに隠れてたのが懐かしいなぁ」

「へー!かわいー!」

「今なんて『葵の隣は私よ』みたいなふてぶてしさが有るのに」

「事実無根の発言に異議を唱えるわ!」

「甘いよ理華ちゃん。幼馴染のアルバムを見せるということはこうなる事も想定していなきゃ」

 

 実際ここまで社交的な性格になるとは思わなんだ。人って変わるもんだね。

 

「この男の子は?」

「それは1つ上の幼馴染君。そこのベランダ伝いに渡れる部屋の子だよ」

「何それ漫画の設定か?」

「出雲涼馬よ。陽菜の想い人の」

「はあ!?」

「理華ちゃん!?」

 

 赤くなってテンパっている陽菜ちゃんを見ると、理華ちゃんの言い分もあながち間違ってないようだ。

 へぇ、あの涼くんがモテるのか。確かに外見は爽やかイケメン君だし、年上に憧れる子は好きになりそうだ。涼くんも隅に置けないね。

 なお彼の矢印は未だに私に向いている模様。私の性自認があやふやだし、早めに諦めて貰えるように働きかけてみようかしら。

 

「陽菜、大人しいのにああいう系が好みなのね」

「そうだよ!カッコイイもん!」

「あらー、ヤケになっちゃって」

「大人しい割にはっちゃけ癖がある佳奈の方が大概では?」

「失礼な。私は不思議ちゃん系だから」

「佳奈ちゃんのお家、神主さんだもんねー」

「希、それだと因果関係が皆無よ」

 

 会話が止まない彼女達をベッドの上から眺めていると、随分と精神年齢が高くなったんだなと感じる。佳奈ちゃんなんかは私の事を一般人として接してくれるし有難い存在だ。出来れば高校生になっても関係を保ちたいな。

 

「動画で知ってたけど、幼い頃からこんなに可愛いのは不平等さを感じる」

「ビジュが良すぎるよね」

「おっぱいもこんなに大きくなっちゃって。今のサイズって?」

「トップ80のアンダー58」

「……ガリガリ!もっとご飯食べて!ほら、私のマドレーヌあげるから!」

「食べても胸に脂肪つくだけだから」

「ガリガリ……ガリガリ?」

「やっぱり不平等だわ……」

「希は間接キスさせたいだけでしょ」

 

 最近は縦の伸びに栄養が使われていないような気がする。胸についたコイツのおかげで体重は50キロに到達したけど、今度は逆に運動の邪魔だし、本当にままならないよ。

 

「さて、そろそろ再開しようか」

「まだ早いよ!」

「香織さんは午前中部活があったのでもう少し休みたいであります!」

「私もこの巻読み終えたい」

「あんた達ね……陽菜を見習いなさいな」

「陽菜ちんは前回53位なんだから余裕組だよ」

「なら尚更200位代の3人は頑張らなきゃでしょ!」

「理華、正論は時に人を傷つけるんだよ?」

 

 ぶつくさ文句は言うものの再び教材を開き出した3人を見て、私もベッドから降りて教師役の任に着いた。

 うん、やっぱり人に何かを教えるのも面白い。逆行前は教員になっても良かったかもしれないな。

 

「そういえば、何で期末に力入れてるの?」

「だって点数と順位と一緒に名前が張り出されるじゃん。少しでも上に行かないと恥ずかしいよ!」

「ああ〜」

「そんなものもあったわね」

「このワンツーコンビめ……」

 

 我が校では定期テストの結果がランキング形式で廊下に掲示される。逆行前の中学には無かった文化なのであまり気にしていなかったけどそういう人もいるんだね。

 

「葵さんは覗きに行きませんでしたよね」

「全教科満点だったから、順位はその時点で分かったし」

「悪気のない自慢が私を傷つける……」

「その頭脳を私に分けてくれないか?」

「はいはい、さっさと手を動かす」

 

 その後も理華ちゃんのオカン感を堪能しながら17時まで勉強会を続けた。

 大分苦手箇所を潰せたはずなので結果は良くなると思う。これで悪くなっていた日には責任を感じてしまうので4人には是非頑張って貰いたい。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「世間の学生は期末試験らしいので、私もそれっぽいお勉強をしてみようかと」

 

 超パで顔を繋いだ人も多くいるし、YouTubeのイベントもあるのでコラボ配信増やすぞ!と意気込んだのは遠い昔。

 私は今日もひとりぼっちで配信を始めた。

 

お勉強配信だあああああああ

僕のレポートを手伝ってくれても良いんだよ

どうせテスト勉強じゃないゾ

おててが見える!

ノート見せて♡

2週間後のライブを楽しみにしてるよ!

たまーに自分の年齢を思い出す八色さん

その鉛筆洗った?

虚無配信じゃねーか

 

 理由はいくつかある。私が日程の融通が効かない事が一点、年齢差の事が一点。そして、私の影響力が大きすぎる事が挙げられる。

 最後の原因は想定外すぎて思わず笑ってしまった。

 「迂闊な発言すると燃えそう」「女の子と1体1はちょっと」「登録者数が段違いすぎて売名で叩かれちゃうよ」等など。

 言われてみれば確かに。見切り発車で突き進んでしまったのが痛かったよ。

 

 ——お前ら、そんな事気にするような人だったか?

 などと無責任な事も言えない。何やらSNSやコメント上での誹謗中傷は逆行前よりも大分少ないものになっているが、私が切っ掛けで自殺されては目覚めが悪い。というより流石にメンタルに来る。

 今は急速に発展し過ぎた為に歪になっている部分もあると思う。もう少しこの界隈が成熟すれば問題も無くなってくるだろうし、少しばかりの辛抱と思っておこう。

 

「お料理配信以外で洗った厨が出張ってくるのはNG。今日はタイ語をゼロから学んでいきます。皆さんも一緒に覚えてみてください」

 

 そんな訳で、いつも通りの代わり映えしない私オンリーの配信だ。

 

洗浄族、俺は好き

お前お勉強って言ったじゃねーか!

その辞書洗った?

覚える(完全習得)

分厚い辞書出てきてワロタ

ええ……

期末試験勉強と言ったな、あれは嘘だ

スワヒリ語じゃないのか

誰が言語習得RTAしろと

英タイ辞典?

オープニングトークと全然関係ねえじゃねーか

俺の母国語だ!

普通のお勉強配信どこ…ここ?

先生!着いて行けません!(先読み)

 

「日タイ辞典と英タイ辞典、そしてタイ本場の辞書も取り寄せてあるので準備は万端です」

 

 今回タイ語を選んだのは文法が英語や中国語に似ている事、疑問詞の使い方は日本語に似ている事、冠詞や時制、活用、名詞の性別が無いため覚えやすそうだと判断したからだ。ついでに言うと文字が可愛い。

 

「まあこんな感じで単語間にスペースが無かったり、発音が難しそうなんですけどね」

 

確かに文字は可愛い

やはり我が英語がナンバーワンのようだな

こ無ゾ

男性名詞女性名詞?

発音記号多すぎwwwwwww

英語なんて欠陥言語だよ。我がドイツ語こそ至高

へぇーって言いながら聞いてたら後半で絶望が見えた

早速罠を仕掛けてくる八色さん

艦これのおかげで船はsheって知ったお

中国四千年の歴史を軽視するなよ

外人ニキがレスバしてるwwwwwwwww

で、覚えられるの?

有能僕、この配信をラジオにする事に決定

 

「という訳で発音も理解したので例文を読みながら単語を覚えていきます」

 

???

どういう訳で?

は?

速すぎワロタ

葵はアンドロイドなんだからこれくらい普通だよ

せんせー、八色さんがチート使ってまーす

は?

メイド・イン・ヘブン定期

?????

ペラペラ捲りすぎwwwwwwww

こんな可愛いロボットが存在するはずがないだろ

それ読めてるんですか?

一緒に覚えさせる気無いだろ!

お前おかしいよ

ザ・ワールドなんだよなあ

こんなキュートな人間が存在するとでも?

定期的に人間を卒業する女

お前ら勘違いしてるようだけどこの配信は葵ちゃんのふつくしいお顔を観ることがメインだぞ

 

「実は私、動体視力と記憶力には自信があるんです。これくらいなら余裕で読めますよ」

 

知ってる

知ってた

実はでも何でもない

【定期】一緒に覚えましょう

ええ!?そうなの!?とはならんでしょ……

逆に自信ないもの教えろよ

知ってた定期

びっくり人間代表八色葵さん

知らないけど想像はついた

自分の基準を視聴者に押し付けるな

文法を事前に学んでたならゼロからではないのでは?

これ、そのうち速読もしかねないだろ…

 

「速読……そんなものもありましたね。便利そうなので今度練習しておきます」

 

あーあ

言わなければ気づかなかったのに……

戦犯を指名手配しとけ

今も擬似速読しているようなもんでは?

速読?

化け物具合に磨きをかけてどうすんのよ!

もう半分までいっててワロタ

それ終わったら1回自己紹介してみない?

覚えたらタイに来てください!

お前らがお勉強してる姿見たいって言ったからだぞ

このよく分からない配信を200万人が視聴している狂気

 

 コメントで試しに話してみて欲しいと要望があったので出来るところまでやってみようか。

 

「んんっ……八色葵です。最近、さる北欧の国から入学祝いが届きました。高そうな万年筆だったので未だに使えていません。よろしくお願いします……どうですか?」

 

知らん

知らん

知らん

発音が少し怪しかったけどパーフェクトだよ!

知らん

すごいねー

タイランド出身者の出番だよ

知らん

誰が判別出来るんだよ

ほーんええやん、知らんけど

北欧って認めてるじゃんwwwwwwwww

4chanでは青のプリンセス呼ばわりされてるし今更さ

怒涛の知らんにおハーブ生えましてよ

後で誰か翻訳して切り抜いておいて

理解してる日本人もチラホラいる件について

稀に賢い人が混ざってるチャット欄

 

 現地の人と思しき方にもお墨付きを貰えたのでとりあえずヨシ!

 

 ずっとこのままだと飽きる人もいるだろうし2時間くらい経ったら終わりにしようかな。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

八色葵さんのお勉強方法wwwwwwwww

 

1:名無しさん ID:3bn51SJoQ

お前おかしいよ……

 

https://……

 

4:名無しさん ID:1xWqy8Wjq

定期試験中に舐めプする八色さん

 

5:名無しさん ID:huspwOtxe

流石に異常

 

7:名無しさん ID:oV2F0QDxk

前もって学習してただけなんだよなあ

 

9:名無しさん ID:1ec5JooOi

恐ろしい速度で把握されていくタイ語君、恐怖に震えてそう

 

11:名無しさん ID:bEvlviDGA

葵ちゃんファンなら一緒に覚えなきゃ

 

13:名無しさん ID:IJWVEME2F

>>11

人は自力で空飛べないんだよ?

 

14:名無しさん ID:mCu+3dQwK

>>11

それ過去にタイムリープしろと言ってるようなもんだからな

 

17:名無しさん ID:SwLPcuxKf

>>11

人間卒業試験に合格するところからスタートだゾ

 

20:名無しさん ID:RwGzgPBBr

テスト勉強した事無さそうだし突飛なことしてもしゃーない

 

22:名無しさん ID:bY/khmGPv

一般人と比べるなとあれほどうんたらかんたら

 

25:名無しさん ID:rBosyCAqi

瞬間記憶能力は持ってないって言ってたけど怪しいんだよなあ

 

26:名無しさん ID:WDCRKwiw0

定期的に常識をかなぐり捨てる癖がある八色さん

 

29:名無しさん ID:l/ydsCseX

結局葵ちゃんは何て言ってたの?

 

30:名無しさん ID:I5jwne/hw

>>25

興味ある事柄に対しては驚異的な記憶力を発揮するオタク気質な人間なんだよ

 

31:名無しさん ID:i8UHYI7/F

>>29

北欧の国から入学祝いとして高そうな万年筆が届いた

 

33:名無しさん ID:gA58d5PD8

ジッジバッバからの贈り物wwwwwwwwww

 

35:名無しさん ID:Xy9kdskSo

遂に認めたか

 

38:名無しさん ID:TsHyMFxQu

知 っ て た

 

41:名無しさん ID:kL2nRbQcL

特大の匂わせムーブ

なお周知の事実な模様

 

44:名無しさん ID:5Zt4psx4E

みんな知ってるならもうバラしてもええかの精神

 

47:名無しさん ID:InIrgWeKF

ただの親戚がいるだけかもしれないだろ!

 

49:名無しさん ID:cly3nzfcN

関東圏なのも分かってるから都道府県もバラしちゃお?

 

52:名無しさん ID:8HD7krseL

>>49

そのうち観光大使とかやるだろうし焦る必要は無いぞ

 

54:名無しさん ID:WfcWbdc3h

前に4ちゃん覗いたらブルーブラッドブルーみたいなダジャレあったな

 

55:名無しさん ID:xcNEbsKDY

あんだけ舐めプしてもAちゃん曰くテストは満点とってるらしい

改めて異常

 

56:名無しさん ID:BgSK/2NIZ

>>31

もう隠すのやめたんだ

 

58:名無しさん ID:haq1L2Lng

>>54

それダジャレか?

 

59:名無しさん ID:H7PBZR49Y

他国の税金が葵ちゃんのもとに

 

60:名無しさん ID:psgVdX12Z

いつか葵ハウスのお宝探検やってほしい

 

 



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小休止


更新が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした
新年早々日本から離れてましたが帰国したので投稿再開です


 

 セミの鳴き声が響く中、終業式が行われた。

 夏場ということもあり校長先生の話は比較的短めに終わり、それに比して諸々の注意事項をそれはそれは丁寧に話された。内なる京都人が「良い時計してますなぁ」と苦言を呈す程である。京都に住んだこと無いけど。

 

「通知表と一緒に期末試験の総合結果も配るよー。順位はホームルーム後に張り出されてると思うから楽しみにしててね?じゃあ荒川君から」

 

 終業式が終われば各クラスにて夏休み関係の書類の配布がなされた。

 今はそれの大トリとなる成績表が配られている。ちょっとした総括と共に出席番号順に渡されたそれを見て、喜ぶ子もいれば落胆している子もいる。近くの子と見せあってるのはいつの時代も変わらないね。

 

「八色さんは特に言う事はありません。夏休みは気をつけてね」

「ありがとうございます」

 

 渡された通知表をその場でチラりと確認すれば全て5の数字で埋め尽くされていた。ヘマはしなかったみたいで安心するよ。

 

「ちなみになんだけど、先生のテスト問題、簡単だった?」

「満点阻止を狙った設問についてであれば、あの難易度で十分だと思います」

「そういう割にはしっかりと点数取るんだから敵わないなー」

 

 担任の先生の科目以外でも見るからに私に対する挑戦状が散見された。まあ、逆行前は職業・研究者を目指していた身なのでそれくらいは対処可能だ。むしろその煽りを受けた他生徒が可哀想でもある。

 

「八色さん、どうだった?」

「ん、良い評価をして貰いました」

「見てもいい?」

「騒がないでね」

 

 先に配られた前の席の子とよくある絡みをしながらクラス内を見渡す。

 皆自分や近くの子の成績に夢中になっているようで、私に色を向けているのは周囲にいる子達だけみたいだ。

 

「すっご」

「そっちは?」

「私なんてダメダメ。帰ったらママにドヤされそう」

「1年生の一学期なんて誤差だよ」

「うーむ、高みからのお言葉ですな」

 

 内申点なんてよっぽど酷くない限り飾り派に属する私はあまり気にしなくても良いと思うんだけどな。それぞれの家庭で教育方針は違うだろうから滅多なことは言わないけど。

 

「——ではでは、夏休みはさっきの注意事項に気をつけて楽しんでね。号令っ」

「起立!」

 

 夏休みに浮かれた皆の元気な挨拶を最後に中学1年の一学期が終了した。

 終業式だろうと変わらず部活に駆け出す者を見送りながら、わらわらと集まってくる女の子達の相手をする。携帯を持ってない子は今日までに予定を合わせなくちゃいけないからね。

 

「——じゃあ大筋はそんな感じで!」

「葵ちゃんが来れる日少ないのは仕方ないか……」

「私のことは気にしないで。お土産話を聞かせてくれたら満足だよ」

「一緒に行きたいだけなんだけどなー」

「無理言っても仕方ないよ。それよりさ、順位見に行かない!?」

「行く行く!」

 

 プールやら海やら祭りやら。同級生の子達には未成年の特権たる夏休みを存分に楽しんできてほしい。この年頃でしか経験出来ない思い出もできるはずだよ。なお私は海外を堪能する気満々だ。

 

「おっしゃー!かおりんに勝ってる!」

「167位と170位……まあ順位上げたからヨシとしましょう」

「理華ちゃん優しい!好き!」

「はいはい」

 

 廊下は部活や用事が無い生徒で溢れていた。自分の順位は通知表と一緒に渡された紙に書いてあったと思うんだけど、それはそれ。友達や知り合いの名前を探してキャッキャと騒ぐのも青春だね。

 

「さて注目のトップ10は……」

「私は前回と同じ順位よ」

「私も」

「バラさないで!」

 

 下の方から順に見て回っているが、上位になるにつれ見覚えのある名前が出てくる出てくる。同じ小学校の子達は存外優秀な子が多かったみたいだ。こりゃ凄いや。

 

「1人だけ百の位が9なのってバグですか?」

「ふぁー」

「この1位の子、ナーフしなきゃ」

「家庭科とかあっても関係なかったかー」

 

 私の名前の下には瑕疵なき数字が並んでいる。逆行前含めここまで来たからには最後まで無傷で走り抜けたいな。

 なお理華ちゃんも20点差で私に続いていた。小学生の時は気づかなかったけど、この子も大概おかしい。どのような道に進むのか少し楽しみだ。

 

「2位と3位が30点差の辺り2人ともヤバい」

「こわ〜」

「あれ?期末は他学年の上位も載ってるんだ」

「先輩方が860点くらいで首位争いしている現状に一言」

「対戦ありがとうございました。gg」

「煽りよる」

 

 3年生はよく知らないけど2年生のトップには我が幼馴染の名前が。ユースが忙しいだろうによくやるなあ。

 

「明日時間あるなら水着でも買いに行く?」

「あり」

「行く!」

 

 順位を見終わったところで荷物を持って昇降口へ。

 全くの余談だが、よくある創作のように下駄箱に手紙が入ってるなんてことは未だに起きない。まあ衛生的にどうなの問題もあるから別に構わないのだが。

 

「八色さんも来る?」

「ごめんね。明日は無理なんだ」

「あれ?オフじゃなかった?」

「そうなんだけど……他県にモフモフ成分を補充しに、ね」

「もういっその事飼えばいいのに」

「それは真面目に考え中」

 

 そんなこんなで、夏休みの始まりだ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 8月の頭。ヨーロッパでの仕事を終え一時帰国をした私は理華ちゃんを連れ新潟へと来ていた。

 目的は夏の風物詩たる花火大会。

 ここ、長岡で行われるそれは前世から大好きな行事のひとつだ。

 

「それにしても、よくチケット取れたわね。調べてみたら倍率凄いじゃない」

「ふふん。協賛スポンサー様にちょちょいとお願いすれば容易いものよ」

「お主も悪よのう」

 

 実際は広告関係のお仕事を貰ったのでその謝礼のようなものだ。

 今世でも幼稚園の時に1度当選して見に来ているが、普通に有料席を取ろうとしたら運が必要だからね。一般の人には申し訳ないが許してくれ。

 

 現在時刻は12時。会場に行くにはまだ早いため腹ごしらえをしようと寺泊にやって来た。単純に海の幸が食べたくなったとも言う。

 お昼時と言うこともあり、市場の通りは多くの人で溢れていた。そこかしこで魚が干されているのも面白い。

 

「おっ、浜焼き。理華ちゃんとお母さんは何か食べる?」

「じゃあイカを」

「ママはカニつくね!」

「ほいほい」

 

 店主のおじさんにまとめて注文をして商品を受け取る。その際にオマケも付けて貰えたので最高だ。やはり可愛いは正義。女の子はお得だね。

 

「んん〜!」

「うまー」

 

 つぶ貝のコリコリ感を楽しみながら通りをぶらつく。日本海側ということもあり、カニやノドグロ(アカムツ)などの名産品が目につく。海有り県はこういう所が強いよな。羨ましい。

 数あるお店の中でも良さげの海産物を涼くんや理華ちゃん一家へのお土産として購入。配送サービスがあるので手に持たずに済むのは有難い。

 ついでに自分用の岩のりも買っておいた。これ、ラーメンに入れると美味しいんだよね。

 

「よっしゃ。後は存分に食べるぞー」

「海鮮丼!」

「それはマストとして他にもあるから見て回ろうか」

 

 サザエのつぼ焼きからホタテ、カキの網焼き、そして海の幸がたっぷりと乗った海鮮丼を頂いた。

 暇な時は東京にあるあのお寿司屋さんに通っているけど、魚介類はいつ食べても美味しいわ。食は幸せの第1歩だね。

 惜しむらくはハタハタが食べれなかったことくらいだけど、それはまたいつかの冬の楽しみにしておこう。お酒のあてにも持ってこいなので早く成人したいものだ。

 

 昼食を済ませた後はタクシーに乗り込んで信濃川へと向かった。14時30分に会場へ着いたのでとりあえずお偉いさんに挨拶回りをしておく。県知事や主催の方達と笑顔で握手を交わして写真を撮るだけの簡単なお使いです。

 

「すっごい人混み」

「今日明日の2日間で100万人くらい集めるらしいからね」

「100万!?」

 

 日本三大花火大会は伊達ではないということだ。こちら側だけでなく対岸もギッシリと埋まるのだから凄まじいね。

 有料エリアに入場する前に屋台で軽食や飲み物も買っておいた。金時豆を使った醤油赤飯があったのは嬉しい。これ、冷めてても美味しいんよな。

 

「ベンチ席チケットをお持ちの方はこちらへ並んでくださーい!」

 

「もう入場出来るみたいだけど、トイレは行かなくても平気?」

「うん」

「大丈夫です」

「おっけー、じゃあ並んじゃいましょうか」

 

 本来なら左手に見えるマス席の方が近くで見れるがこっちのエリアでもさしたる差は無いので問題ない。ほぼ真下から花火を見上げられるのがこの花火大会の醍醐味だ。

 

「プログラムによるとスターマインのバーゲンセール状態なんだけど」

「まるで将棋だな」

「違うが?将棋を何かと勘違いしてないか?」

「見所さんは天地人、フェニックス、尺玉100連発だよ」

 

 理華ちゃん的には長岡駅にあった三尺玉が気になっているようだ。打ち上げは1発だけだけど、あの大輪の花の壮観さと言ったら凄いからね。楽しみにしとくといいよ。

 その後も適当に駄べりながら終了後のお礼の練習のためにスマホをフリフリしつつ開始時間を待っていると、軽快な音楽が辺りに鳴り響いた。

 

「さあ、始まるよ」

 

 理華ちゃんが普通の花火では満足出来ない体になってしまうだろう、私的世界に誇れる最高のショーの開演だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は21時過ぎ。理華ちゃん待望の三尺玉も見終わり、プログラムも残すところあと3つとなっている。当人は初めての経験に年相応にはしゃぎっぱなしで可愛い。プログラム間の小休止中でも脇に上がる花火が目を楽しませてくれるため、心のエンジンはかかりっぱなしだ。

 かくいう私もフェニックスには大興奮だったし人のことは言えない。名曲『Jupiter』と共に打ち上げられる、視界に入りきらない程の色とりどりの花火の素晴らしさは筆舌に尽くし難い。音楽と花火の共演、これもまたこの花火大会の醍醐味だ。

 

「さて、初めての長岡花火はどうだったかな?」

「もう最っ高よ!個人でも花火を出せるのも面白いわ」

「結婚記念で打ち上げてもらう人とかもいるよ。理華ちゃんが結婚したら私がお金出して上げて貰おうかな」

「恥ずかしいからやめて」

「葵ちゃんの時はママ名義でやって貰おうかしら」

「恥ずかしいからやめて」

「似たもの同士ね〜」

 

 そも結婚するか以前に異性を好きになるかすら怪しい。もしやこれがアセクシャルか?この身体に生を受けてからはや十年、精神が肉体に引っ張られることも無いし、寿命が来るまではこのままの気がするな。

 お母さんが「孫が見たい!」なんて言い出したら困るけど、その時はその時だ。遠い国の甥や姪で満足してくれると有難い。

 

「もう帰り支度する人もいるのね」

「この後は混み合うからね。土手の無料エリアはもう移動してる人もいるはずだよ」

 

 大トリとなる花火は会場から離れてもよく見えるのでそれを考慮しての事だろう。私は近くだからこその体に響く破裂音も楽しみたいので最後まで居座る派だ。帰りも駅へ向かうことなく旅館が出してくれた車に乗る予定なので心配は無い。

 そんな些事を横目にプログラム最後——正確には最後から2番目——の演目のカウントダウンが始まる。これで見納めかと思うと寂しさを感じるが、生きてさえいれば来年以降もまた見に行けるさ。その時は今回来れなかった涼くんも連れて骨抜きにしてやりたいね。

 

『打ち上げ、開始でございます!』

 

 夏の夜空に計100輪となる華の一陣が咲き誇る。火の粉のシャワーを思わすしだれ柳を見上げながら、来年以降の平穏な日々に思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 新潟二日目の今日はもう地元に帰らなくてはいけない。許されるならば佐渡に行ったりしたかったんだけどね。慌ただしくなっちゃって理華ちゃんには申し訳ないな。

 

「おんぶにだっこだし、私は大丈夫よ。連れて来てくれてありがとうございます」

「どういたしまして。まあ最後に美味しいお蕎麦でも食べて帰ろうか」

「蕎麦?」

 

 理華ちゃんの疑問を置いて南魚沼のとあるお蕎麦屋さんへ。

 ここは湯沢にスキーで来る際によく食べに行っていたところだ。蕎麦や天ぷらの量も多く、食べ盛りの男子学生だった私達には素晴らしいお店である。

 そこで食べられるものと言えば——

 

「へぎそば?へぎ?」

「器の名前だよ。ざる蕎麦のざると一緒」

「それは5へぇ」

「評価が辛い……」

 

 とりあえずそのへぎそばを3人前、舞茸天を2皿を注文した。女性3人ということもあり、量の確認もされたが問題ないと思う。

 

「3人前が3人前じゃないってどういうこと……?」

「ちょっと多いんじゃないかな?前回来た時は私とお母さん2人だけだったから、1人前を半分にしたんだよね」

「懐かしいねー。葵ちゃんがネットで見つけたって言うから行ったんだけど、美味しくて驚いちゃった」

 

 実際、表記されている量より1人前から2人前分多かったような。某喫茶店のようなダイナミック逆詐欺ほどではないけど、初めての人は目を見張ると思う。

 待つこと数分、先に運ばれてきたつゆに薬味を適量入れ準備は整った。理華ちゃんはと言うと何やら携帯を触ってるので私も見てみることに。今朝からLINEの方は確認していなかったので通知が溜まってるようだ。

 

 

<99+

幼馴染部屋(3)

 

Ryomaがグループ名を幼馴染部屋に変更しました。

グループ名を弄っちゃいけません!めっ! 11:18  
      

 

でも客観視したらハーレム野郎じゃん 11:24   
      

葵に置いてかれて寂しいからってグループ名変えちゃダメだよ 11:24   
      

 

エグいブーメラン投げてくるじゃん 11:25  
      

 

私は寂しくないので当たり判定ありません 11:25   
      

 

てか葵は 11:26
      

 

 
既読2

11:26

愛しい涼馬!おはよー!チュッ(笑)

 

某球団監督の真似はやめるんだ 11:26  
      

 

涼馬に野球ネタ通じるの笑う 11:27   
      

 

 

 

 

 

「試合終わったみたいだね」

「さっきの文面に触れたい衝動が。アンタ、他の人、特に男子にもこんな文章送ってないでしょうね!?」

「相手は選んでるからへーきへーき」

 

 荒ぶる理華ちゃんを治めていると舞茸天と一緒に今回の主役がやって来た。布海苔が練り込まれ僅かに緑色になっているそれは相変わらず量が多い。まあ、これくらいなら何とかなるでしょ。

 独特の盛り付け方をされたへぎから一口分の塊をつゆに潜らせ口に運ぶ。普通の蕎麦と違った風味とツルツルの喉越しが堪らない。

 

「おいしっ」

「だよね!」

 

 理華ちゃんの舌にも合うようで良かった。舞茸天の方も塩で楽しむも良し、つゆに突っ込んでも良しで最高だ。夢中になっている理華ちゃんとそれを見つめる私へ、お母さんは優しそうな笑顔を向けていた。

 

 食後にはつゆにそば湯を注いで余韻を楽しむ。確かな満足だ。麺類は数あれど、蕎麦に関しては新潟と長野が抜けてるわ。バイクの免許をとったら八十八ヶ所巡礼ついでにうどんを食べに行きたいな。

 

「新幹線の時間もあるし、そろそろ行こうか」

「はーい」

「その前に御手洗に行ってくるわね」

「あ、私も」

 

 2人がトイレへと行っている間にお会計を済ませようとすると、店員さんから何やら熱い視線を貰った。もしかして、バレちゃった?

 

「お会計お願いします」

「はいっ!」

 

 対応してくれた方にはキラキラした目で見詰められ、その後ろにいる店員さんの手には色紙が見える。これはバレてますね……

 

「あ、あのっ」

「あー、外で書きましょうか。まだ待たれているお客さんも多いので」

「じゃあやっぱり!あっ、裏から出るので待ってて頂けると嬉しいです!」

「分かりました」

 

 小さな声でキャーキャーと声を上げている店員さん達はよく気づいたな。正直バレない自信しかなかったんだけど。

 トイレへ行っていた2人と合流し、約束通り外の裏手近くでサインをした。忙しいだろうに店主も顔を見せに来てくれたので一緒に写真を撮ってあげる。

 

「それにしても、よく分かりましたね」

「最初は声が似てるなーって。食事中はマスクを外されていたので、蕎麦湯を持っていったタイミングで確信しました」

「あー……」

 

 声は盲点だった。それにオープンな場所での素顔晒しもよろしくないらしい。でもそんな事を気にして生活するのも息が詰まるんだが。

 

「ぶっちゃけ、眼鏡をかけようがマスクを外したらそっくりさん所の騒ぎじゃないからね。どこからどう見ても葵よ」

「葵ちゃんの可愛さは隠せないからねぇ」

「まだ2アウトってところか……?」

「3アウトでゲームセットよ」

 

 駅へ向かう道中に今更感溢れる指摘を貰った。

 あれ?じゃあ化粧を覚えれば雰囲気を変えられるのでは?シャオマオみたいにわざとそばかすを入れたりするのもアリだよな。今度のテレビ収録の際にいつも暇しているメイクさんに聞いてみよう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

【悲報】八色葵さん、ガチオタクだった

 

1:名無しさん ID:iwgQg8bPO

現在海外ニキ達と宇宙のお話で大盛り上がり中

配信はこれ↓

 

https://youtube.……

 

4:名無しさん ID:O3QLbjDfH

宇宙オタさん大歓喜

 

5:名無しさん ID:96mGZjXYv

何をいまさら

と思ったけどそっちね

 

7:名無しさん ID:NwqK8z7x7

日本人も会話に混ざってる定期

 

10:名無しさん ID:Ip2jg5uJt

実況スレに行けと何度言えば

 

13:名無しさん ID:iwgQg8bPO

>>10

あっこは流れが速すぎる

 

14:名無しさん ID:U/cPM8T6x

起床僕、今見始めるも葵ちゃんが何言ってるか理解不能

 

15:名無しさん ID:Gist70Qka

早口で草なんだ

 

18:名無しさん ID:vXrZYHDrl

ここではリントの言葉で話せ

 

21:名無しさん ID:JZPQPMOll

見てないけど宇宙の話題ならなんとなく分かるんじゃないの?

 

22:名無しさん ID:nHzVUsFF0

オタク特有の長文早口wwwwwwwwwwww

 

23:名無しさん ID:iwgQg8bPO

>>21

いや、天体の話とかじゃなくてマジで専門っぽいことばかり話してる

しかも興奮してるのかコメントの言語に合わせてそのまま喋るから多言語入り交じってて誰一人全理解出来てないと思われ

なお超速で流れていくコメント

 

26:名無しさん ID:Fcegq31Wo

日本人視聴者「ポアンカレ予想から宇宙の形はドーナツ型じゃないらしいね」

葵ちゃん「その解釈は誤りです」

 

ここからの長々説明は日本語だったのに分からなかったゾ

 

28:名無しさん ID:YCKBBftUR

コメ欄の物理クラスタ共が悪いよー

 

29:名無しさん ID:xnY1n/8SL

たまに忘れちゃうけど、この子数物大好きっ子だったね

 

32:名無しさん ID:p9SxjyQqr

>>29

本人は「数学は道具であって好きなのは物理」と言ってたぞ

 

33:名無しさん ID:AOkAqhsV6

マジで何言ってるか分かんないwwwwww

 

36:名無しさん ID:TMMBe2UlA

最初は超伝導とかの話だったのにどうして……

 

38:名無しさん ID:mY8niiSUE

今北産業

 

41:名無しさん ID:PQdlA+m2Q

>>38

遅すぎる

パパの精子から

やり直せ

 

42:名無しさん ID:iwgQg8bPO

>>38

国内移動の話からリニア新幹線の超伝導が気になる人出現

「電子対が〜なんとか理論は破綻し〜」と呪文を唱える

おびき寄せられた視聴者が色々話を広げて宇宙の話題に

 

45:名無しさん ID:mY8niiSUE

>>42

オレ、オマエ、スキ

>>41

葵ちゃんの卵子からやり直すわ

 

47:名無しさん ID:mY8niiSUE

いや、説明読み返しても意味わからないな

 

48:名無しさん ID:M8dnSyow/

>>47

今の配信の方がイミフだぞ

 

49:名無しさん ID:OGBcAu+W9

超伝導の説明で自発的対称性の破れに触れた時点で怪しかった

そこから統一理論に繋がるのはまあ自然な訳で

 

51:名無しさん ID:kHI+0MvVt

>>49

何一つ自然じゃないが????

 

54:名無しさん ID:iwgQg8bPO

とりあえず葵ちゃんの欲しい物リストの1つが室温超伝導体?ってことだけは理解した

 

56:名無しさん ID:sPsFy4HGo

>>54

つ金属水素

 

59:名無しさん ID:iwgQg8bPO

>>56

俺が分からないレスはNG

 

61:名無しさん ID:iVC98U8/t

みんな突っ込まないけど専門性の高い話を何故あんな多くの言葉で喋れるの?

日常会話程度ならいざ知らず、おかしいだろ

 

64:名無しさん ID:iwgQg8bPO

「だって葵ちゃんだし」でFA

 

65:名無しさん ID:5gyaSvB22

>>54

葵様はエネルギー革命を御所望か

俺がいっちょやってやるぜ

 

68:名無しさん ID:4xyLFDpks

なんかこのスレ理系さん多くない?

文理比率ってこんなんだっけ?

 

69:名無しさん ID:reEUzQcOZ

【悲報】八色葵さん、光の速度を遅すぎると言ってしまう

 

70:名無しさん ID:WZNsFj0IF

この子何にでも答えてくれるじゃん

ちょっとスリーサイズ聞いてくるわ

 

73:名無しさん ID:vPYSgNb9s

>>70

服のブランド・サイズ感からBは80って推測されていたはず

ソースはこれ

 

【お嬢様専】八色葵孃のお胸の成長を見守るスレですわ! part173

 

74:名無しさん ID:WZNsFj0IF

>>73

1分足らずでソース付きでレス返してくるの控えめに言ってキモすぎる

つーかお嬢様専にしたところで下劣さは隠せないだろ、無駄な悪足掻きだな

 

76:名無しさん ID:jRHhhWSKE

>>68

数年前から理系志望は増加傾向にある

しかも女子比率も飛躍的に上がってる

 

78:名無しさん ID:iEGgVjV6I

>>76

ん?俺は言語学志望が増えたみたいな記事を読んだ記憶があるぞ

 

80:名無しさん ID:jRHhhWSKE

>>78

そっちも増加した

原因はお察しの通りだろうね

 

83:名無しさん ID:WZNsFj0IF

スリーサイズ聞いたらモデレーターからキックされたわ

 

84:名無しさん ID:b+3Wl6nbF

お前らまだ6時にもなってないのに早起きしすぎだろ

てか同接400万なのもおかC

 

85:名無しさん ID:iwgQg8bPO

葵ちゃんが配信予定書いてくれてるんだから見るのは当たり前だよね

 

AOI YAKUSA

@aoi_yakusa

8月16日19時(GMT)より配信します

2013年8月15日19時47分

506k   1.2m   3m   

 

87:名無しさん ID:hHvOBHy5x

>>83

残念でもないし当然

 

90:名無しさん ID:UwxjiW0Ce

いつもみたいにもっと分かりやすく説明して︎;;

 

91:名無しさん ID:PTFb0Jy6Z

あの子が理解できない時はニコニコ笑顔を楽しめ

それだけで幸せになる

 

94:名無しさん ID:hl5778+KD

今更だけどいつもの背景と違うね

 

96:名無しさん ID:WVsCCs0Hr

>>94

ヨーロッパツアー中だから向こうのホテルだろうよ

 

99:名無しさん ID:a6bB4874K

>>94

画角も違うぞ

おかげでお胸がよく見える

 

102:名無しさん ID:pUI0vS0Kt

>>90

IQが20違うと会話が成立しないって言うししゃーない

 

104:名無しさん ID:D+MlegIfb

物理好きに軽率に「シュレディンガーの猫」を出すのはやめるんだ!

 

105:名無しさん ID:NSkdjVm4b

漢八色葵、ニワカ知識は許さない

 

106:名無しさん ID:5ShKgN18j

女の子なんだが?

 

108:名無しさん ID:6gw2MbsGu

>>102

この場合は専門性が高すぎる故の弊害だと思うの

そもそも葵ちゃんは自身のIQを110程度って予想してる

 

109:名無しさん ID:jjv7IJkfI

うーむ美しいお顔だ(脳死)

 

110:名無しさん ID:QHB8Zja2o

これまーだ続きそうですかね?

 

111:名無しさん ID:iN8y7+P1q

IQが全てとは思わないけど110に収まるわけない

 

114:名無しさん ID:mzXbCzrR0

あの子自己評価低いもん

前にギフテッドに言及された時「私如きがギフテッドな訳ない。本物は新しい理論や概念を作り出せる人。ガロアが決闘しなかった世界線を見たかった」みたいな事言ってたし

 

116:名無しさん ID:2pE0Wnp2T

>>96

オルフェーヴル見に行ったらしいね

向こう陣営があげてる葵ちゃんに大人しく撫でられてる暴君の映像見てると草生える

今年の凱旋門は頑張って欲しい

 

118:名無しさん ID:oVbRgJOVa

自称MIT教授出現wwwwwww

 

120:名無しさん ID:wfGSTrys9

嬉々として超弦理論の話を再開する葵ちゃんかわいい

 

123:名無しさん ID:hwNDTONw5

話の内容が可愛くない

 

124:名無しさん ID:LVSRckxdO

30分程離席してたらまだ話しててワロタ

いい加減寝ろ

 

127:名無しさん ID:GdX8gnEyr

本業ミュージシャンがライブ前日にしていい配信ではない

 

130:名無しさん ID:IHpoJofYK

>>127

葵ちゃん曰く本業は配信者だぞ

 

132:名無しさん ID:4G9vBz4H6

実際どれが一番稼げてるん?

 

135:名無しさん ID:TEWpLlRs4

チャット欄に早起き脳死可愛いbot大量発生中

 

138:名無しさん ID:ZZpZBHi0Q

アメリカのどっかの集計より、去年の収入は

 

動画関連:3.2億ドル

歌手関連:6.3億ドル

広告(スポンサー)関連::1.1億ドル

 

これに番組等のギャランティーが乗せられる

 

139:名無しさん ID:+81fZEwRq

>>138

ファーーーーーwwwwww

やばすぎワロタwwwwwwwwwwww

 

141:名無しさん ID:qA7swVUEC

>>138

これ単位間違ってない?大丈夫?

円高ドル安考慮しても狂ってるぞ

 

142:名無しさん ID:mVPyDaSZE

東北に200億突っ込んでたから納得ではある

 

144:名無しさん ID:26bRYZXEw

>>142

色んな研究機関にも2010年くらいから総額300億くらい投資してるぞ

他にも孤児や世界の子供たち対象の活動に結構使ってる

 

147:名無しさん ID:ZJaOLVYhE

税金考えると内部留保が…と思ったけど案外余裕そうか?

 

149:名無しさん ID:gYKoEL09h

>>147

軽く100億は余る

 

152:名無しさん ID:y1/fXIUkF

葵ちゃん、いや葵様、俺を雇ってくれ

 

154:名無しさん ID:5ywf9EoqU

>>138

12歳の個人がこれだけ稼ぐのは流石に異常

 

157:名無しさん ID:v6Kg6dvUK

多言語展開パワーがここで活きたか

 

159:名無しさん ID:ajP4wSzAf

>>138

資本主義極まったな

ドル建てしとけ

 

162:名無しさん ID:uqQC2z3Ms

本業が稼げてないやんけ!

 

164:名無しさん ID:5SbIVy/GH

>>138

1億くらい盗んでもバレへんか

 

166:名無しさん ID:hRQmsaokM

なお当人は新事業に関わる噂も

ソースはこれ

 

https://……

 

167:名無しさん ID:TrVtXwQjv

>>138

役員報酬とかめんどくさい事になってそう

 

169:名無しさん ID:zSH7f5KOe

>>166

有料記事の癖してソースが噂だらけで笑う

てか本当に関わるなら桁が2つくらい足りないぞ

 

172:名無しさん ID:yKC31ZOCs

一瞬にしてお金スレに変貌しててワロタ

 

173:名無しさん ID:fBtQDRfqd

ニコ動・ようつべだけで200億オーバーは夢がひろがりんぐ

 

174:名無しさん ID:9MpXTNM6+

>>138

2011年から積極的にドル建てしてたなら円安になった時に爆益狙えるな

 

177:名無しさん ID:iwgQg8bPO

スレチなんだよなあ

お前らお金の話大好きかよ

 

179:名無しさん ID:cUyhiE/G5

視聴者を置いてけぼりにする八色さんサイドに問題がある

 

182:名無しさん ID:GbpUsUOmy

土曜日の朝っぱらから謎の話を聞かされてもね……

 

183:名無しさん ID:Ojl2yoVDR

何度も言わすな

葵ちゃんが宇宙人語を話してる時は可愛さだけを感じ取れって

 

184:名無しさん ID:InfFaZGyE

誰かブラベクトルって言わせて「ブラ」の部分だけ切り抜いておいて

俺はこれから出勤してくる、頼んだぞ

 

186:名無しさん ID:JP9c42hF5

>>184

とっくに言わせてる

 

189:名無しさん ID:InfFaZGyE

>>186

天才かよ

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「蒸し暑い……」

「日本に帰ってきたって感じですね」

「南半球に行きたい」

「葵さんがイベントの参加を決めたんですから諦めてください」

「YouTubeのだけ出ないのも申し訳ないからね」

 

 8月も終盤に入り、夏休みも残すところあと数日となっている。今夏に予定されていた私のスケジュールも2日後に行われるグーグル先生主催イベントで最後だ。

 

「葵ちゃんっ!こっち来てー!」

「葵ー!!」

 

「暑い中ありがとー!また今度ね!」

 

『キャァァァァァ!!』

 

 相変わらず何処から情報を仕入れているのか分からないファンに手を振りながら空港を後にする。あれか、私の公開スケジュールから帰国日を絞って張り込んでるのかな。空振りも有り得るだろうによくやるなぁ。

 

「千恵さん*2は直帰でも良いけど、どうする?」

「自分のところの長を置いては行けませんよ」

「なら事務所に戻りがてらお昼でも食べようか。鰻の気分です、鰻」

「経費で落とせませんよ?」

「私の奢りだから気にしないで」

「では、ご馳走になります」

 

 移動中、国内のニュースにざっと目を通していると「バイトテロ」なる文字を確認した。そういえばこの時期だったな。

 

「ああ、またみたいですね。無いとは思いますが葵さんも気をつけてください」

「私は基本的に文字しか投稿しないから」

「念の為です。それにしても、まだ若いのにこんなことで人生を棒に振ってしまうとは」

 

 Twitterは動画も投稿できるようになってしまったし、逆行前よりもSNSの普及が早い事を考えると、ちょっとばかり不味いことになりそうだ。

 

「今は自分から晒すのが主流だけど、そのうち総監視社会が築かれて——ああ、いや、気にしないで」

「ちょっ、気になるところで止めないでください!」

「普段から誰が見てるか分からないので気をつけましょうという話です」

 

 まあ、図らずも媒体を広げてしまったような存在なので、何かしらの手は打っておこうか。それだけでこの様な輩が減るかは神のみぞ知るってやつだ。

 

 

 

科学大国復権か?先端材料系企業合同会議

 眠れる獅子が再び目を覚ますかもしれない。

 先週土曜日に行われた国内の先端材料系企業のコンファレンスにて、数年内に合同で新企業を設立する案が出された。事業内容は次世代半導体から人工知能、量子コンピュータ、果てには新エネルギー材料に至るまで多岐にわたる。この案には国内自動車メーカー、IT企業も熱視線を向けているようだ。追い風となるのは国が補助金制度を見直し、先進技術開発に総額4000億円を追加投資するとの噂だ。

 無論これら全てを実現させることは不可能だろうが、この一連の流れはとある小さな投資家の影響が少なからずあるだろう。……

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*2
マネージャー




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