海賊少年を百合の間に挟んでみる実験 (愛犬家)
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#1海賊と少女①

皆さま、初めまして。

この度仕事のストレスと逃げ込んだ先のアルコールに頭をやられ、
なぜか二次創作をかいてみようとなった愛犬家と申します。

正真正銘の初投稿なので、菩薩のような広い心で読んでもらえると非常に助かります!

それではどうぞ


1.

自機の右腕が鋼鉄を貫く音がした。

後方へと流れていったその異形のモビルスーツは、轟音を立て爆発した。

先ほどまで自分に向けられていた怨嗟に満ちた悲痛な叫びは、もう聞こえない。

 

コロニー・レーザー内部のミラーが爆発を繰り返す中、動きを止めた相棒に背を預け、トビア・アロナクスはどこか他人事のように思った。

 

 

UC136年、かつて地球への侵攻を目論み宇宙海賊によって撃退された木星帝国は新たな総統を迎え、地球に対しコロニー・レーザー「シンヴァツ」による木星圏から超長距離攻撃を地球にしかける「(ゼウス)の雷計画」を発動。

実行2週間前に何とか逃げ延びた前総統の後妻にして、新総統達の姉であるエウロペ・ドゥガチによりこの計画を知らされたトビア達「宇宙海賊クロスボーン・バンガード残党」は、紆余曲折を経てたった7人による特殊攻撃チーム「鋼鉄の7人」を結成、帝国の野望を阻止すべく作戦に臨む。

 

バーンズ、ギリ、ドレック…数多の仲間の犠牲の果て、新総統達による妨害を乗り越え、地球への直接攻撃の阻止、そして今、トビアは機体も気力も限界を迎えてなお、「シンヴァツ」本体の破壊に新総統「光のカリスト」の撃破を成し遂げていた。

 

 

長年一緒に戦い続けた相棒…クロスボーン・ガンダムX1はもう動きそうにない。もともと左腕部と左足を失っており、機動力の要を担う交差した骨のような背部スラスターも4本の内3本がだめになってしまっている。身を守るためのフルクロスも武装も全て失われていた。

「シンヴァツ」内部が爆発を繰り返しながら激しく光りだす。もう、ここも限界が近づいている。脱出は絶望的だった。

 

トビアが自分の生存をあきらめかけたその時、振りぬかれたまま動かなくなったX1の腕をつかむ者がいた。

「だめだ!エウロペさん!脱出して!」

それは、「鋼鉄の7人」の内の一人、エウロペの駆るアンヘル・ディオナの手であった。

「クロスボーン・ガンダムは…もう動か…ないっ、2機は…無理だっ!手を…離してっ」

トビアは必死に呼びかける。わずかでもMS(モビルスーツ)が動くのなら、自分のような余分な荷物を抱えずに急いで脱出しなければ。

「ありがとう、…トビア、でも、でも…私ももう…無理みたいだ…から。」

限界を迎えていたのはエウロペも同じだった。

脇腹からの出血を抑え、息も荒くなっている。

光のカリストによりコックピットに攻撃を受け、負傷していたのだ。

 

(だから)

「ああああ?エウロペさん⁉」

最後の力を振り絞り、エウロペはガンダムの腕を引き上げ振り回す。

ちょうど自分の機体の影になる位置に重なった瞬間を狙って、X1をコロニー・レーザーの外に向かって投げる。

「――――――!―――――――!」

爆発がより一層激しくなる。

 

(約束が、ある)

 

トビアの声は、もう届かなかった。

エウロペのディオナが爆発に飲み込まれ、光の中に消えていった。

「エウロペさあああん!あああああ!」

 

クロスボーン・ガンダムも光に飲み込まれる。

鉄が焼ける音の中、トビアの視界は徐々にまばゆい光で満たされていく。

 

そして何も見えなくなったところで、トビアは意識を手放した。

 

 

2.

けたたましい警告音が鳴り響く。

どうにも計器が異常を示しているようだ。

まだ頭がぼうっとする中、トビアは意識を覚醒させた。

 

すぐさま機体のダメージチェック、めまいを覚えながらも現状の確認に努める。

しかし異常はすぐ見つかった。

「どこにもダメージを…受けていない?フルクロスも、腕も何ともない⁉」

それどころか、先の戦いで破壊されたはずのムラマサ・ブラスターとピーコック・スマッシャーといった武装もまるで新品かのように装備しており、あれだけの激しい戦闘を経たというのに、まるで先ほどまで補給していたかのように推進剤も満タンだ。

 

「それに、この景色…コロニー?それに…雲?」

先ほどまで自分たちが戦っていたのは、地球から遠く5億9千万kmも離れた木星圏の宇宙だ。周辺には木星のコロニーがあるとはいえ、戦闘区域からは遠い。

なのに、今X1はまだ薄暗い空と分厚い雲の合間にて、雲に向かって落ち続けている。

「落ち続けている…?重力が…ある⁉これじゃまるで、地球じゃないか⁉」

さらに言うと、直径がたかだか6km程しかないコロニーに、ここまで分厚い雲ができることがおかしい。様々な宇宙線から住民を守り、頑丈さを保たせるために外壁が分厚くスペースを取られていることを考えると、居住ブロックである内壁にこんな大きな雲が生まれることがまずありえない。そして何より、雲が生まれる場所はコロニー内壁の中心部。本来雲に向かうためには飛び続けなければならない場所だ。

 

さらにトビアを混乱させる事態が起こる。

雲の下が少しずつ赤らんできたのだ。

採光のためのミラーとそれを届けるための窓が見当たらず、ディスプレイも存在しない。

なのに、作戦決行の前、「彼女」とほんのひと時だけ過ごしたグレートキャニオンで見た、あの時と変わらぬ太陽が昇ってきている。

もう、ここまできたら認めるしかない。

「ぼくはいま、地球に、いる」

 

とにかく、今自分がどこにいるか情報が欲しかった。

あの後、シンヴァツはどうなったのか?仲間たちは?どうして自分だけが?

なぜかX1のナビゲーションシステムも正常な座標を示さず、役に立たない。

いったい、自分はどこに落ちて行くのだろう?「彼女」の下に、戻れるのだろうか?

ぐるぐると色んな疑問が浮かんで、もはや頭はショート寸前だった。

スラスターも問題なく動くようなので、一度X1の姿勢を整えると、このまま落ちてみることにする。

いざとなれば、X1の推力で無理やり飛べばよい。そう割り切り、急降下にならないよう降りていく。

 

雲を抜けると、眼下に広がるのは600mは超える巨大な塔に、高層ビルの森だった。

まさかの光景に、トビアはうめく。

「できれば、連邦軍が近くに無いような場所に降りたかったなぁ…」

UC136年当時、地球環境の再生を掲げていた地球連邦政府は昔ほどではないにしろ、宇宙への移民政策を推し進めていた。現在では地球に残るのは移民待ちの住民と政府高官等の特権階級、それから一部の違法在留者ぐらいなもので、ここまで発展している街というのは連邦関係ぐらいである。

「こちとらお尋ね者の宇宙海賊だもんな~。ガンダムなんて見たら、すぐに連邦軍が出てくるだろうし…」

そこまで言って気づく。あまりにも静かだ。フル装備の未確認機が街の上空に出てきたというのに、何の対応もない。

「MSの一機も出てこない…?警告すら、来なかった?いったい何が?」

そのとき、視界の端に捉えていた塔から激しい爆発が起こった。

「!どこから!」

咄嗟に周りを見渡すも、MSからの攻撃は認められない。どうやら塔自体に仕掛けられていた爆発物によるもののようだ。

「MSを介さない攻撃?そんなことより、なんで軍が出てこない⁉」

次第に爆発が激しくなっていく。このままでは、あの塔は中間部から折れて、その残骸が街に降り注ぐ。被害がどれほど大きいものになるか考えたくもなかった。

 

少しずつ傾き始めた塔にいそいで向かおうとしたトビアだったが、唐突に頭の中に声が響いた。

 

『まだ、死にたくない…!だって、したいこと、まだ何もできていない…!誰のことも、助けられていないっ…!』

 

考える必要もなかった。トビアは声がした方向———塔の展望台デッキと思われる箇所へとX1を飛ばす。

 

「待ってろよ!すぐに助ける!」

その声の主に対して、力強く答える。

 

「まだまだもうひと踏ん張りだ!頼むぞ、X1!」

 

夜明けが近づく街の空で、ガンダムのグリーンのデュアルアイが一際強く輝いた。

 

 

 

3.

ついさっきまで、いたるところで聞こえていた乾いた音に怒声は、もうどこにもない。

代わりに下から轟音が響く。そのたびに、今いる場所の揺れがひどくなり、すこしづつ傾いていく。

ここから逃げるための階段とエレベーターは、先ほど使えなくなった。

 

展望台の外が見える位置に座り込みながら、錦木千束はどこか他人事のように思った。

 

「Direct Attack」、通称DAと呼称される組織がある。超高性能AIを擁し、犯罪の兆候を事前に察知し、対象者を速やかに暗殺することにより未然に防ぐための超法規的組織。その活動内容から世間はおろか、日本政府でも一部の人間のみが知るにとどまる秘密組織である。

 

その実働部隊に「リコリス」と呼ばれる少女たちが存在した。彼女たちは皆孤児であり、衣食住を保証される代わりに、幼い頃から殺しのための技術を学ばされる。射撃、体術、戦術、尾行、語学etc、そうして暗殺者として育てられたリコリスたちは、日本の治安を陰ながら守るため、鉄火場へと送り出されるのだ。

 

錦木千束(にしきぎちさと)は、そのリコリスの中でも最高位に属するファーストを、歴代最年少で取得した天才であった。彼女は目がいい、その目は相手の筋肉の動きを正確にとらえ、あまつさえすでに発射された銃弾を見てから避けるほどだった。唯一の懸念点であった先天性の心臓疾患も、才能ある人間に惜しみない支援を約束する匿名団体「アラン機関」によって人工心臓が提供され、克服している。

 

今回の電波塔の任務は、そんな彼女が初めて受ける実践任務であった。

千束は任務にあたり、自身の武装に一つオーダーを出していた。非殺傷弾、相手を殺すのではなく、気絶に留める生かすための弾丸だ。彼女は自分の命を救ってくれたアラン機関の「救世主」に憧れ、人を救うために戦いたいと願った。自身の戦技教官であるミカ謹製のその弾丸は、望みを叶えるのに必要なものだったのだ。

 

電波塔を占拠したテロリスト達をたった一人で鎮圧する。いくらバックアップが控えているとはいえ、無謀極まるその任務を千束は見事成し遂げて見せた。もちろん、死傷者は0人だ。

だが、いくら彼女が強かろうとまだ8歳にも届かない女の子であり、体力は限界を迎えていた。倒した敵もいない場所を探し、展望台へとたどり着いた後、気が抜けたのか座り込んでしまった。

いまだ夜は明けず、それでも徐々に空が赤らんできたその光景に見とれていた。

 

それがいけなかったのだろう、突如下層から轟音が鳴り響いた。

いそいで窓に近づき状況を確認すると、下層から黒い煙が昇っていた。おそらくテロリスト達が爆弾を仕掛けていたのだろう、踵を返し階段に戻ろうとすると今度は階段から轟音が響き、煙が立つ。退路が断たれ、その場で止まってしまう。

〈千束!どうした、いまの音は⁉〉

耳につけたインカムから、司令室にいるミカの声が響く。

「階段がやられた…、もう、脱出できそうにないかも…」

普段の自分のものと思えない、か細く呆けたかのような声が出る。

〈いいか、よく聞いてくれ!今から救助を出す!なんとか身の安全を図るんだ!どこか〉

「ごめん、もう傾き始めてる!ちょっと難しいかも…?」

おもわずミカの声を遮ってしまった。それでも、緩やかに傾き始めた展望台に安全な場所などないのは明白であり、今は少しでも落ちないよう中心部に向かって走っている。

〈千束…!〉

「ありがとう、先生。大丈夫、まだ何とか頑張れる…!」

また爆発が起きる。その揺れによってバランスを崩し、インカムが耳から外れ、窓側へと転がってしまう。

「あっ…!」

唯一他者からの声を伝えてくれるものがなくなり、千束は止まってしまう。

すこし前まで“自分の好きなアクション映画みたいだ”と無理にでも奮い立たせていたのに、途端に動けなくなってしまう。

 

その場で座り込み、救世主からもらったデトニクス・コンバットマスターを両手で握りしめる。

「私、ここまでなのかな」

ぽつりとこぼす。

涙がぽろぽろ落ちていく。

「したいこと、まだいっぱいあるのにな」

一度こぼしてしまえば止まらない。

目を思いっきりつぶり、絞り出すように叫ぶ。

 

「まだ、死にたくない…!だって、したいこと、まだ何もできていない…!誰のことも、助けられていないっ…!」

 

『待ってろよ!すぐに助ける!』

 

突然、力強い声が頭に響いた。

 

はじけるように顔を上げ、窓の外を見据える。

徐々に太陽が昇ってきていて、朝焼けが少しまぶしい。

 

「え…、何、あれ…⁉」

千束の目には、信じられないものが映っていた。

 

 

それは、ドクロをあしらったレリーフが胸と額にそれぞれ掲げられていて。

 

それは、背中に大きな骨を背負っていて。

 

それは、ジャケットのような、マントのような黒い装甲を纏っていて。

 

それは、金色に輝く2本の角が生えていて。

 

それは、鋭く前を見据えながらも、優し気なグリーンの眼をした、

 

————鋼鉄の巨人だった。

 

 

 

4.

「見えた!」

 

トビアは先ほどの声の主を見つけ、一直線にX1を奔らせる。

 

見たところ、真っ赤な制服を着た、まだ小学校に通い始めたかのような、小さなかわいらしい女の子だ。

そんな女の子が、持つにはふさわしくない、大きな銃を握っている。

(少年兵⁉)

いやな想像が頭をよぎるも、すぐに切り替え展望台へと機体を突っ込ませる。

まずは彼女の安全確保だ。

 

「え⁉ちょ、ちょ、ちょちょちょちょおおいいぃいい⁉」

 

千束は混乱と恐怖の渦に叩き込まれていた。

ただでさえあり得ない声が聞こえ、ありえない存在が現れたというのに、それがまっすぐこちらに突っ込んでくるのだ。おまけに右手を伸ばして向かってきていることから、あの巨人の目的は明らかだった。

 

(でも、さっきの声…)

それでもなぜか、不思議と不安はなかった。

さっき響いた声は、力強くも暖かった。

絶望に押しつぶされ、動けなくなってしまった自分に向けた、”助ける”という声。

まだ少年なのだろう、若く利発そうな声だった。

 

そこまで考えている間に、巨人はその身を突っ込ませ、こちらに大きな右手を差し伸べていた。

驚きのあまり固まっていると、胸の巨大なドクロレリーフが上下に開き、中からSFめいた黒い宇宙服のようなものを着た少年が出てきて、こちらへ駆け寄ってきた。

「大丈夫か⁉どこかケガしているのか⁉立てる⁉」

どこまでも自分の身を案じる言葉に、先ほどの声の主が目の前の少年だということが分かって、また涙があふれる。

「だい、じょうぶ。…大丈夫」

なんとか答えを返し、涙をぬぐいながら少年の差し伸べた手をとる。

「いきなり怪しい奴だと思うかもだけど、とにかく今はぼくと一緒に!」

少年はそのまま開いたドクロ——巨人のコックピットへと千束を連れていき、自分の膝の上に座らせるとすぐさま電波塔から離れ始めた。

 

少し上昇したところで、千束は改めて少年の姿を確認する。

瞳の色はブラウンで、意志の強そうな眼をしている。

髪の毛は、ヘルメットに隠れてよくわからないが、たぶん金色に近い色合いといったところか。

顔だちは整っており、おそらく日本人ではないことがわかる。

だが、何よりも目を惹くのは、鼻の上に一本通る傷だ。その傷のせいで、優しげな少年が一転、とてもワイルドに感じる。まるで少年漫画の主人公のようだ。

 

そして、ヘルメットの上部にとても気になるエンブレムがある。

ハートにドクロを足したものに、交差したサーベル。

 

この巨人といい、このエンブレムといい、まるでこの少年は、

 

「海賊?」

 

声に出して、”しまった”と思うも、少年がこちらを見る。

何か言われるかもしれないと少し身構えると、少年は少し照れ臭そうにはにかみ、

「ばれちゃった?」

とウインクをよこした。

思わず目をそらしてしまう。顔が熱くなって、まともに顔が見られない。なんだかとてもはずかしい…!

「へ⁉あ、う、うん!なんかドクロいっぱいだし、このロボットもマントつけてるし、おにーさん真っ黒だし、あ、で、でもカッコイイっていうか、優しそうっていうか、え、えと!」

何とか答えようとして、しどろもどろになってしまう。

「あははは、褒めてくれてありがとう!おれもコイツも嬉しいよ」

そう言って、少年は手元のコンソールを指で小突いておどけてみせた。

その姿がまた様になっていて、また目をそらしてしまって、恥ずかしくって…

 

————その時、眼下の電波塔が大きく傾きだした。

先ほどまで自分が戦っていた場所、日本の繁栄の象徴。

それが今、真ん中あたりから折れようとしている。

このままだと、塔が街に落ちる。あの大きな破片で、どれだけの人が危ない目にあってしまうのだろうか。

そこまで考えて、咄嗟に少年の顔を見上げてしまう。

「あ!あ…」

だが、言葉を発する前にブレーキがかかった。今自分は何を言おうとした?

いくら少年とこのロボットでも、できることは限られる。

ましてや、あの電波塔は半分でも300mは優に超える。

ただでさえ今、自分を助けて一杯一杯なのだ、これ以上は…。

 

そう俯いていると、少年が声をかける。

「ねえ、一つ確認したいんだけど…」

その言葉に千束が顔をあげると、少年は続けてこう聞いてきた。

 

「君はジェットコースターとか、平気なタイプ?」

 

 

 

 




ここまで書いといて主人公二人とも名乗らず!

しかもバカ長くなったせいで分割!

なんでみんなあんなに面白いもの、すっきりまとめられるの⁉


分割分は近いうちに投稿します。

それが終われば、次のお話は感想・評価・自分のモチベ次第になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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#2海賊と少女②

分割分、初投稿です。(様式美)

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。









……生ジョッキ缶、おいちい。


5.

電波塔の爆発が確認されてから、DA指令室は騒然としていた。

 

オペレーターの矢継ぎ早の状況確認報告に、バックアップ部隊への対応、現在投入されているファースト・リコリス錦木千束の安否状況の確認。

 

特に、少し前から千束からの通信は途絶しており、状況は不明。最後の通信では展望台に取り残されたと語り、自力での脱出は絶望的であった。

「千束っ!応答しろっ!千束っ…!」

ミカは藁にも縋る思いで通信を試みる。インカムが外れただけの可能性もあるが、万が一爆発に巻き込まれたのだとしたら…。

 

その時、あまりにも非現実的な光景がモニターに映し出された。

 

「一体、あれは何なのだ…?」

 

電波塔から遠く離れた上空から突如、巨大な人型が姿を現したのだ。

目視でおよそ15m前後、戦闘機の全長にも匹敵するその巨体は、あまりにも外連味にあふれていて、とても現実のものとは思えなかった。

 

額には二本の鋭い角、まるで外套を纏っているかのような黒い装甲、全身4か所に施されたドクロの装飾、そして、特徴的な背中の4本の大きな骨状のパーツ。

そのすべてがあまりに異質で、皆、職務を忘れ見入っていた。

 

いち早く正気を取り戻したリコリス司令官の楠木が指示を飛ばす。

「各員、これよりあの人型をアンノウンと呼称する!アンノウン周辺にドローン4機を飛ばせ!情報収集を優先させろ!」

「りょ、了解!これよりアンノウンに対する情報収集行動を開始します!」

慌ててオペレーターの一人が現場に指示を伝える。とにかくあれが何なのか、新たな脅威なのか、知らなくては。

 

 

すぐにアンノウンに動きがあった。

高度を下げたかと思うと、一直線に電波塔へと向かったのだ。とてもあの巨体が出せるとは思えない、驚異的なスピードで向かうのは、展望台。

「!奴の狙いは千束か!」

司令部に緊張が走る。アンノウンは右手を前に突き出し、まるで何かをつかみ取るかのように向かっている。

「千束!そこから離れろっ!…逃げてくれ!」

「ドローンを奴にぶつけろ!ありったけだ!わずかでも逸らすんだっ!」

「だめです!こちらのドローンでは追いつけませんっ!」

「ドローン4機、振りきられました!3機通信途絶!」

「くっ…!」

 

そうこうしているうちに、アンノウンがその右腕を展望台に差し込み、そのまま激突。

オペレーターが悲鳴を上げる。

「千束っ…、頼む返事をしてくれっ、千束っ!」

通信を続けるミカの背中が、あまりにもいたたまれなかった。

 

その時、何とかドローンの一機がアンノウンに追いついた。

「映像、でます!」

——そこには、千束に手を差し伸べる、黒い宇宙服のようなものを着た男が窓越しに映し出されていた。

「千束を救出した…?ならば、目的は拉致か…?」

少なくとも、ここで千束の無事が確認され、司令部の空気がほんの少し和らぐ。もちろん、アンノウンの脅威は健在であり、パイロットらしき人間に保護されているという、依然として予断を許さない状況ではあるが。

 

 

「アンノウン、上昇!」

「あの骨のようなパーツが推進器か…。4つあるということは、それぞれ位置を変えて推進力を変化させるということか?」

落ち着きを取り戻したミカによる、アンノウンの考察が進む。

「それはそれとして、あの男…。」

ミカの背中に炎が上がる。やはり、落ち着くにはまだかかりそうだ。

 

ドローンが追いついたことにより、より詳細な姿が明らかになる。

頭部と胸部には銃口らしきものがあり、腰部にあるハードポイントにはボウガンと大剣のような武装が確認できる。腕には人のように五指が備えられ、肘あてと思しきパーツの根元には可動フレームが伸びている。マントに隠れているが、脚部も備えており、つま先が動いているのもわかる。

人体を模倣してなおかつ、空まで飛んで見せる。まったくのオーバーテクノロジーであった。

「いったい、どこの組織があそこまでのものを作り上げたんだ…」

「それに加え、何が目的でこちらの作戦に介入してきたのか。鹵獲が必要になるかもしれません」

「あるいは、情報提供と協力を呼び掛ける、か」

ミカと楠木がアンノウンへの対応を話し合う中、状況は急変した。

 

「電波塔が…!」

中間部より爆発が繰り返されていた電波塔が、ついに限界を迎える。

先ほどまで千束が取り残されていた展望台は、もう人が立つことは困難な角度にまで傾いていた。

「バックアップ班へ緊急指令!離脱しろ、巻き込まれる!」

「バックアップ!緊急離脱!総員撤収!撤収!」

にわかに司令部が慌ただしくなる。作戦自体は終了しており、肝心の千束の回収も、アンノウンによって保護されたことで完了している。電波塔の倒壊を未然に防げなかった以上、この場でDAができることは皆無だ。

 

ここでまた、アンノウンが動く。

「アンノウン、再び下降…!倒壊部分の先端付近に移動します!」

「今度は何をするつもりだ!まさか…!」

「…倒壊を、止める気なのか」

 

 

 

6.

「え…?」

膝の上の女の子から、戸惑いの声が漏れる。

さすがにかっこつけ過ぎたかと、トビアはすぐに言い直す。

「ゴメン、分かりづらかったね?あの塔が下に落ちないようにする方法を、思いついたんだ」

「ほんと!?」

食い気味に聞かれる。真っ赤な瞳が期待に輝く。

彼女も、何とかしたいと思っていたのだろう、先ほど何か言いかけたのがいい証拠だ。

 

「でも、それをするためにはかなりの無茶をしなくちゃいけない。一緒に乗っている君にも、怖い思いをさせてしまう」

今、トビアの頭にはバイオ脳を乗せたMS…アマクサとの戦闘が思い浮かんでいた。

あの時のような動きを、今度は遥かにサイズが巨大な相手に対してやらなければならない。

どれだけ機体を振り回すことになるのだろう。乗っているこの子にかかる負担を考えると、とてもではないが軽々しく実行に移せない。

 

「私のことは大丈夫!思いっきりやって!」

即答だった。あまりのことに面食らってしまい、彼女の顔を見つめてしまう。

左側を赤いリボンで縛った金色に近いきれいな白髪、まるで人形のような端正な顔立ち、そして、覚悟を決めた力強い瞳。まだ詳細を話していないにもかかわらず、すでに彼女は戦士の表情をしていた。

いったい、何があれば、どんな経験をすればこんな表情をするのだろう。こんなにも小さな女の子が…。

そこまで考えて、彼女のことを何にも知らないことにトビアは気づいた。

——それこそ名前すら聞いていない。

 

「名前…、聞いても?」

「千束!錦木千束!海賊さん、あなたは?」

「トビア・アロナクス。ありがとう、ぼくも覚悟決めたよ…!」

 

 

そこまで言って、塔の先端へとX1を向かわせる。

「今からチェーンとワイヤーを使って、塔を引き上げる!折れた塔を上に乗っけるんだ!」

トビアはX1にスクリュー・ウィップを装備させながら、千束に対して矢継ぎ早に説明する。

「こいつのパワーなら、引き上げるのも難しくないはずだ!ただ、下手な所を引っ張り上げると塔が折れてしまう…!一回でできることでもないっ…!そのためにも構造的に強い箇所を探し当てて、なんども繰り返し引っ張り上げないとっ…!」

まるで、ジュピトリス9を撃破した時とは真逆のシチュエーションだ。トビアは何となくそう思った。だが難易度は何倍も違う。なにせ攻撃を加えるだけでよかった時と違い、塔を引き上げ、下に落ちないように立てる必要がある。横向きに乗っけたのでは、太い後半部からずり落ちてしまう。

 

そこまで説明して、千束から声が上がる。

「そこを探すの、私にやらせて!私、目いいから!」

「なんだって⁉」

「倒れそうなところで、壊れてるのが一番少ないところ!そこを狙えばいけるんじゃ⁉」

 

少し考えて、自分の直感を信じることにする。

「…わかった!任せたよ、千束!」

「がってん!任せんしゃい、トビア!」

 

すごい速度で電波塔の先端が近づく。

本当にジェットコースターみたい。千束はトビアに抱き着きながらそう思った。

 

作戦自体は非常にシンプルだった。トビアが操縦するこのロボットを使って、折れた電波塔を引っ張り上げる。いくら巨大ロボットといえど、大きさが違いすぎる。塔が近づくにつれ、不安になってきた千束は体を震わせる。

 

「大丈夫!信じて!」

頭の上から声がかかる。顔を上げると、冷や汗をかきながらも必ず成し遂げるといわんばかりに鋭く前を見据えるトビアがいた。覚悟を決めた、戦士の表情だ。

「うん…!」

震えは止まらない。それでも、彼の助けになるんだと決めた。改めて前を見据える。ワイヤーをひっかける場所を見つけないと…!

 

「トビア!そこ!」

どこに隠していたのだろう、挟み込むような形のフックがチェーンを伸ばしながら勢いよく飛び出した。指示したポイントにフックが挟まり、その横にワイヤーが絡まる。そして、機体が勢いよく上昇し、塔を倒れていた方向とは逆に引っ張り上げる。ワイヤーやチェーンは千切れそうになく、逆に絡まった塔のポイントから大きな音が響く。

と、ここで予想だにしなかったことが起こる。

 

「うそっ!ねじ切れた⁉」

急な方向転換が祟ったのだろう、根元からほど近い塔の一部が壊れる。

あまりのことに、頭が真っ白になる。自分が指示した場所は間違っていたのだろうか?

「大丈夫…!どちらにせよ、一度残っている部分を切り離さなくちゃいけない…!」

間髪入れず、トビアからのフォローが入る。作戦の一部だから、心配はいらないと。

「それよりも!…次の指示を頼むっ!頼りにしてるぜ、相棒!」

「!う、うん!」

気持ちを切り替えなければ。トビアは自分を信頼して、目を任せてくれている。その信頼に応えたい、トビアのことを助けてあげたい…!

「次はそこっ!」

「了解!」

命がけの引き上げ作業はまだ続く。

 

 

 

7.

「今度はそのまま左に向かって!」

「よしっ…!」

千束の指示は完ぺきだった。X1のカメラ越しで距離もあるのに、次々と引き上げるポイントを言い当てた。いったいどんな洞察力をしているのだろう。トビアはますます千束に対しての謎が増えていった。

 

「これで、ラスト…!」

最後のポイントを引き上げる。急制動を繰り返す機体と、少しずつ倒れていく塔をなんとか立たせるためにつなげていたアンカーとウェップは、酷使のあまりどこから見てもぼろぼろとなっていた。チェーンはひび割れ、ワイヤーも根元から何本か千切れてしまっている。

X1も、強制排熱のため、頭部マスクが開いていた。さっきからこちらを監視ドローンで見ている連中には、さぞ恐ろしい顔に見えているだろう。

「ふう、ふう、ふう、ふう…」

トビアの息が荒くなる。全身から汗が流れ、あまりの不快感にヘルメットを外す。全てがギリギリの勝負だった。宇宙空間ならまだしも、地球上でしかも常に浮いていなければならない上空での機動。フル装備で重量がもとの4倍を優に超え、推進剤がいくらあっても足りない有様だった。

 

「終わっ、たの…?もう…?下に…落ち、ない…?」

千束も、さすがに限界だった。激しい機動を繰り返すX1に目を回しそうになるも、次々と引き上げるポイントを指示しなければならない。はっきりいって重労働もいいところだ。

「うん、お疲れ様…。ごめん、無理させちまった…」

トビアは労わるように、ゆっくりと千束の頭をなでる。

「ううん、トビア、こそ、お疲れ、さま…」

千束のからもねぎらいの言葉がこぼれると、トビアに向かって手を伸ばしてきた。

「がんばって、くれて、ありがとう。わたしを、まちを、助けて、くれて、」

息も絶え絶えで、それでも必死に感謝を伝えてくれようとしてくれる彼女に、トビアは涙がこぼれそうになる。伸ばした手をつかみ、顔をぬぐいながらもトビアは伝える。

「千束も、がんばったね。…でも、ぼく一人で助けたわけじゃないよ。下、見てみなよ?」

 

トビアに促され、モニターに視線を戻す。

 

細かいガラスの破片や、外壁の残骸が落ちている。

それでも、大きな破片は見当たらず、街も、バックアップとして待機していた仲間たちにも、目立った被害は見受けられない。

 

「ぼくだけじゃ、ぼくとこいつだけじゃ絶対にできなかった。千束、君のおかげなんだ。君が指示をくれたから、…みんなを助けられたんだ。だから、ありがとう。ぼくを助けてくれて、みんなを助けてくれて。…君は、誰かを助けることができたんだ…!」

「あっ…!」

 

“誰のことも、助けられていないっ…!”

 

あのとき、叫んだ言葉が頭によぎる。

 

「そっかぁ…、私、誰かを助けられたんだぁ…」

 

そのことを自覚すると、また涙があふれた。

いったい今日1日でどれだけ泣いたのだろう。

 

最初は、あまりの心細さに。

次は、助かったことへの安堵で。

そして今は、自分のしたいことの一つが叶って。

 

また、思いっきり抱き着く。

トビアは何も言わずに頭をなでてくれている。

この不思議な海賊少年によって、短い時間でたくさんのことが起こった。

ひとしきり泣いた後、すっきりしたこともあって、聞きたいことがたくさん出てくる。

どこから来たのか、何が目的で出てきたのか、年齢は、出身は?

 

そして、一番に聞かなくちゃいけないことがある。

「ねえ、トビア。このロボットの名前、聞いてもいい?」

一緒に助けてくれた、この鋼鉄の巨人の名前を。

 

「…クロスボーン・ガンダム」

「クロスボーン…?」

「そう、クロスボーン。ぼくの大切な、相棒さ」

 

ゆっくりと地面に降りる。

朝日が巨人を優しく照らす。

 

 

ここに、海賊少年の新たな冒険の幕が開ける。

見知らぬ土地に、一人放り出され、

果たして、トビアは彼を待つ大事な人の下に戻ることができるのか。

この冒険の結末は、誰にもわからない。

 

 

 

「あ、ところで、ここってどこ?」

「⁉」

 

 

わからない!

 

 

 

おまけ

「えーと、ごめん、整理させて…。まずここは?」

 

「に、日本の東京」

 

スゥー「今年って、いつ?」

 

「2012年」

 

…「…年号って?」

 

「え、西暦だけど…」

 

「…どーすりゃいいの…?」

 

「?」

 




なんで最初っからこんなに長く書いちゃったの私…

しかし、せっかくクロスボーン出しておいて、やることが災害救助とは…
ただ、あんまりにもクロスボーンの武装が殺傷力高すぎて、活躍を考えると災害救助やMS出して切った張ったのチャンバラくらいしか…。

さて、今後の投稿ですが、実は私、BDを観ながらリコリコ勉強中でして、モチベ云々にかかわらず少しお時間をいただきます。

そもそもこういう百合百合した作品自体初めて観まして…
リコリコの事前情報が「令和のあぶない〇事」という触れ込みで、ずっと”どっちが舘〇ろしで柴〇恭兵なんだろう”と気になっている有様でした。

何はともあれ、最後まで読んでくれてありがとうございます。
たくさんの人に読んでもらえるよう、精進しますので
今後ともどうぞよろしくお願いします。


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#3海賊と10年①

早速感想をいただき、うっきうきなので初投稿です!

今回は、短編集のようにしてみました。

トビア君がその後どうなったか、独自設定もりもりで書きました。

……はい、例によってバカ長くなったので分割です。

それではどうぞ。少しでもお楽しみいただけたら、幸いです。




秋味おいちい。



1.

ふと目を覚ます。

時計を見ると、早朝4:30。

ランニングに向かうには、少しばかり時間が早い。

 

…それよりも、身体が重い。布団もふっくらと盛り上がっている。

まるで、人が一人入っているかのようだと、トビアは眠気眼をこすりながら思った。

 

布団を少しめくると、案の定女の子が一人、自分の上に乗っかっている。

「いや…、もうさすがに止めなって、千束。…もう17でしょ?」

「んー、あと1時間30分……。あと寒いから布団の中戻ってー……」

「かんべんしてくれよ…」

 

トビアがこの街に降り立ってから、既に10年近くが経っていた。

まだ小さな女の子だった千束も、背はすっかり伸びて、見た目だけなら立派なレディだ。

もっとも、行動がまるで成長を感じられないせいで、いつまで経ってもでっかい子ども扱いだが。

 

完璧に目が覚めてしまい、トビアは仕方なくベッドから出る。

「あ~、トビアの裏切り者ぉ~」とのたまう闖入者を尻目に、いつものランニングジャージを用意して洗面所へと向かう。さすがのトビアも、美少女が寝ている前で着替えるつもりはなかった。

 

「……結構攻めたつもりなんだけどなぁ」

 

一人残された布団で、小さく何事かがつぶやかれた。

 

電波塔事件、10年前のあの事件はそう呼称されていた。テロリストが旧電波塔を占拠し、爆弾を仕掛け、そのまま爆破した日本史上最大のテロ事件。首謀者・実行犯含め全員が死亡または行方不明とされ、旧電波塔自体も倒壊の恐れがあったものの、爆弾の仕掛ける位置が悪かったのか、はたまた倒壊を阻止したなにかによって、免れていた。現在は解体されており、代わりのシンボルとして「延空木」と名付けられた新電波塔の施工が進められていた。

この事件を最後に、日本では重大事件は起こらず、世界の治安度No.1を8年も維持し続けていた。

 

事態終息後、X1を地上に降ろしたあと、トビアを待っていたのはDAを名乗る武装組織に、自身が助けた千束と色が異なる制服を身にまとった武装少女たちであった。千束が前に出て必死にかばってくれてはいたが、一人で何かできる訳もなく、トビアはあえなくDA本部へと連行されることになった。

そして

 

——————トビアはなぜかDA所属のフリーエージェント兼喫茶店「リコリコ」の店員となっていた。

 

何が起こったか、少しまとめてみよう。

 

 

 

その1.尋問と対話

「薬でもやってんのか?」

「言うに事欠いて、それは無いでしょ⁉」

 

連行された先で、トビアは徹底的な取り調べを受けていた。

身ぐるみをはがされ、持ち物を没収され、身体測定、身体検査、薬物検査、etc…

そして今、尋問官からの質問に応じているのだが…

「そうは言っても、にわかには信じられないわよ、これ…。あんた、未来人なの?」

「まあ、おれも同じ立場にいたら、そう思うけどさ~…」

 

なお、X1は跪いている状態なのが幸いし、ビニールシートをかぶせて隠している。

重量が大きさの割にとても軽いこともあり、「不発弾が残っている可能性のある電波塔の残骸」としてDA本部へ運ぶ手はずのようだ。

 

トビアとしては隠すことでもないので、自分のこと、宇宙世紀のこと、乗ってきたのは何なのか、当たり障りのない部分を中心に話していた。

ある程度のことはX1のなかで千束と情報を共有しており、自分の異常性は十分に理解しているつもりだ。ちなみに、千束は「タイムマシーンだ!バック・トゥ・ザ・フューチャーだ!」と大はしゃぎだった。

 

「こんな話、どうやって報告書にしろっていうのよ…。次の尋問の時にはもっとマシな話にしときなさいよっ!」

「とうとう話作れって言ってきた⁉大丈夫、コレ⁉」

眼鏡をかけた、知的そうに見えた尋問官は投げやり気味に言いながら、席を立つ。

余談だが、彼女とは思わぬ場所で再会し、気心の知れた同僚になっていく。ヒントは喫茶店。

 

トビアが別室に収容され、暇を持て余しているところに思わぬ来客が訪れる。

「トビアっ!大丈夫っ⁉」

「うわっ!」

いきなりドアが開くと、千束がこちらに向かって飛び込んでくる。

今にも泣きそうな顔だ。

「ごめん…、ごめんトビア…。トビアは私を助けてくれただけなのに…」

「大丈夫、ひどいことはされてないから。…なんか面白い人だったし」

「…?」

 

ふと、千束の後ろを見やると、身体の大きな黒人男性が複雑な表情をしながら、こちらを見つめている。左手に杖を突いていることから、足が悪いのだろう。

 

「千束、彼と少し話をさせてくれないか?」

しばらく、千束が抱き着いていると、男性から声がかかる。

どうやら、彼女の保護者のようだ。

「先生、トビアにひどいことしちゃだめだよ」

「そんなことはしない。本当に話すだけだ。君もかまわないか」

そう言って、トビアを見据える。先ほどの顔は鳴りを潜め、敵意というよりは、より純粋な興味を感じる目をしていた。

「はい、…大丈夫です。」

「ありがとう。…千束、外で待っててくれるか?」

「……信じてるから」

“なにかあったらすぐ呼んで!”とトビアに強く念押ししたのち、千束は部屋の外へと出ていった。

「ふつう、逆じゃないかなぁ…?」

「ふふ、君もすっかり懐かれたようだな」

こちらを気遣ったのだろう、男性が柔らかく笑う。

 

「DA本部所属、戦技教官のミカだ」

「トビア・アロナクスです。」

まずは互いに自己紹介。なんでも、千束を見出してからは付きっ切りで、もはや家族のような関係なのだそう。

「…まずは、千束の命を救ってくれてありがとう。君のおかげで、損失は免れた。」

「感謝は受け取ります。でも、…その言い方は気に入りません」

組織として出た言葉なのだろう。

DAとリコリス、少女を暗殺者に仕立て上げ、国の治安維持を担わせる機密組織。とてもじゃないが、受け入れられる話ではない。千束から聞いた時も顔をしかめたし、先ほどの尋問官から聞いたときは、思いっきり噛みついた。ただ、その時の眼鏡の彼女の反応が「そう、だよね…。わかってる…」と妙にしおらしく、引っかかっていた。

 

ミカはトビアの言葉に「そうだな」と一言つぶやくと、

「いまのはDA戦技教官として。…これは、ただのミカとしてだ。トビア君、千束の心を助けてくれて、本当にありがとう。」

そして、深々と頭を下げた。

「どういうことですか?」

確かに命は助けた。何度も励ましたし、安心させるべく頭も撫でた。だけど、心とは。

「千束は、心臓を患っていた。」

「!」

「あの子は、戦いに対して天性のものを持っている。だが、激しい運動ができるような身体ではなかった。」

「え?でも、電波塔のテロリストたちを倒したのは…」

「人工心臓を移植したんだ。提供元は“アラン機関”。天才に無償の支援を約束する連中さ。聞いたことは?」

「いえ…」

「手術が終わったあと、千束は“アラン”から銃をプレゼントされてな、その時に言ったんだ。“これは人を救う銃だ”って。」

ここで、千束の謎が一つ解けた。

塔の倒壊を防ごうした時に見せた、あの戦士の顔は、彼女の信念の現れだったのだ。

「不殺…」

「さすがに気づくか…。あの子の信念だ。だから、君には“人を助けさせてくれた”と泣きながら喜んでいたよ。」

「…また、泣いたんですね?」

「ああ、千束は泣き虫なんだ」

和やかな空気が流れる。ここまで話してもらえれば、もうわかった。

千束自身もどこか、自分の才能は戦いの中でしか発揮できないと感じていたのだろう。才能を認めた「アラン機関」が銃を送ってきたことからも、想像がつく。だが、トビアはその才能を、その目の良さを、たくさんの人を助けるために使わせてくれた。そういうことなのだろう。

「君は、あの子にとって二人目の…恩人なんだ。だから、ありがとう。あの子を、救世主にしてくれて。」

そう伝えるミカの顔は、とても優しげなものだった。

「ところで、君の扱いについて相談なんだが…」

「あ、はい。」

「私たちと一緒に喫茶店を開かないか?」

「うん?」

「ここにいたのでは、千束は殺しを強要される。だったら、少しでも距離を取って遠ざけなくてはならない。」

「それは…」

「それに、トビア君。君も保護を名目にここに監禁、最悪の場合はあの人型だけ取り上げられて、処分されるかもしれない。」

「……」

「楠木…リコリスの司令にはよく言っておく。どうだ?」

「…教官って、司令に口出しできるものなんですか?」

「元、さ。直にそうなる。」

「答えになってない⁉」

 

 

その2.強要と脅迫

「お前の希望は分かった。千束と一緒にミカについて行くことは許そう。ただし、その人型…クロスボーンは置いていけ。」

「お断りします」

 

DA本部、リコリス司令室デスク。薄暗い部屋でトビアは目の前の人間とにらみ合っていた。

リコリス司令官 楠木。少女を戦わせ、死地に送り込む組織の直属の親玉。ただでさえ好感度はマイナスぶっちぎりだが、さらに彼女はX1を要求してきたのだ。

「ほう?お前は自分が今どのような立場にいるのか、自覚が足りないようだ」

「十分理解していますよ。X1が戦争の火種になることもね…」

あれだけのテクノロジーの塊だ、装甲の一つでも調べることができれば、日本の工業は頭2つ3つは抜きんでて、世界のトップに躍り出ることも可能だろう。そのようなものを、果たして他国が放っておくだろうか。必ずX1をめぐって争いが起きる。いざとなったら、自分が乗り込んで処分するためにも、阻止したいところだった。

「そもそも、あなた方、あれ動かせないでしょ?」

「お前が動かせばいい」

「そんな態度で協力すると?」

「お前の身柄を預かっているのは我々だが?」

双方の主張は、平行線をたどった。

楠木としては、ミカたちに戦力が集中しすぎるのは避けたい事態だし、なによりクロスボーン・ガンダムにはそれだけの魅力がある。

「…どうしても、ガンダムを諦めてはくれませんか?」

「そうだな、どうしてもだな。それで返答は?」

「………」

トビアは覚悟を決める。千束や仲良くなった眼鏡の尋問官から聞いた、この国にとって最大のトラウマを盾にすることに。

(やりたくねぇ~…。でも、こうでもしないと)

 

「…もう一度、言ってみろ」

楠木の声が震える。その可能性を考えなかったわけではない。あれだけの図体で、空中に飛んで浮かんで見せたのだ。いったい何を動力にしているのか。

「…核ですよ。クロスボーン・ガンダムは、核を動力にしています。」

核。原子力。日本は世界中でただ一国、原子力爆弾の被害にあった国だ。そのうえ、前年には東日本大震災に端を発した、原子力発電所の爆発事故が起きている。その脅威は嫌というほど身に染みている。

「あれは、核兵器の一種、ということなのか」

「ええ、操縦で動いて、戦闘もこなし、そして」

————ぼくの意思一つで自爆可能な兵器、です。

 

指令室の空気が凍った。

 

「よろしかったのでしょうか…?」

隣に控える秘書官から声がかかる。

結局、トビアの要求は通り、彼の所属するDA支部「喫茶リコリコ」は日本で最強の武装喫茶店として登録されることになった。

「よくはない、よくはないが…、上に正しくクロスボーンの報告を上げることのほうが、もっと良くない。」

やっとの思いで鹵獲した宝の山が、少年一つの意思で爆発する核爆弾となれば、政府の対応も変わってくる。

「幸いにも、殺し以外の任務なら受け付けるといっているんだ。せいぜい使いつぶさせてもらうさ、クロスボーンもろとも、な。」

戦力としてみるなら、極上の機甲戦力だ。隠ぺいは難しくなるだろうが、それでも戦闘ヘリや戦車と真っ向からやりあえるのは大きい。そして、今までは対応が困難だった災害復旧にも使える。DAの戦力は確実に大きくなる。

 

それに、

(千束と東京の恩人なんだ、少しくらいはひいきしても罰は当たるまい。)

 

彼女は、印象よりもはるかに、立派な人間だった。

「うっそ、ガンダムって原子力で動いてるの⁉」

「そうだね、パワーもすごかったでしょ?」

「やっぱデロリアンじゃん!タイムマシーンじゃん!」

「88マイルどころじゃない速度、出してたんだけどなぁ…」

 

 

その3.ガンダムと喫茶店

「え…?なんで、どういうことだ?」

〈トビア?〉

 

楠木との脅迫合戦に見事勝利したトビアは、まずはX1を格納するための隠れ家を探すことにした。なにせ、小型化の進んだ第2期MSとはいえ、15mを超える巨体だ。膝立ちにして格納するにしても、生半可なスペースでは隠すことができない。

幸いにもミカに伝手があり、喫茶店を開業する予定の錦糸町からほど近い、墨田川沿いにある工場跡を使わせてもらえるようになった。

 

その隠れ家に移動させるため、久々にX1を起動したトビアは、機体のチェックに入る。

エネルギー伝達、各部の稼働率、関節部の損耗率、武装の有無、推進剤の残量……

そこで、トビアは異常を見つける。

「推進剤の量が?戻ってる…?起動させてから、補給する予定だったのに?」

初めてこの街に降りた時を思い出す。あの時も、消耗していたものが元に戻っていた。

「まさか⁉」

シザーアンカーとウェップを確認する。チェーンは千切れかけ、ワイヤーもほとんどがダメになっていたはず。

「直ってる…⁉」

どこにも損傷が認められない。まるで、最初からそんなことはなかったかのように。

 

「……オカルトじゃないか、こんなの…」

〈トビア?大丈夫⁉ガンダムに何かされてた⁉〉

あまりのことに、少し呆けていたトビアだったが、コックピットの外で待機する千束の声に我に返る。

「あ、う、うん、大丈夫。むしろ何もなかったことに、ビックリしただけだから」

〈何かされてること前提⁉〉

元気なツッコミに笑みがこぼれる。

 

(…とりあえず、今は深く考えないでおこう。うん、得したんだし)

トビアは考えることを放棄した。

 

「ミカさん、とりあえず着てみましたけど、合ってます?」

「なんだ、様になってるじゃないか」

「おお~、トビアかっこい~!顔の傷がより一層ワイルドだぜぇ!」

「それ褒めてる?」

「大・絶・贊!」と満面の笑みでサムズアップを決める千束に、黒い和服に身を包むトビアは苦笑いひとつ。

 

この度開店する「和風喫茶リコリコ」。コーヒーと和菓子という一見ミスマッチな組み合わせがコンセプトだ。店員たちは和装に身を包み、席はカウンターもあるが基本的に座敷。都心にほど近い、錦糸町の住宅街に構えるなかなか小洒落たお店だ。

 

今はオープン前の、衣装合わせの最中。トビア自身は、こういった衣装を着るのは初めてで、勝手がわからず見てもらっているところだ。

「そういえば、トビアの時代の服ってどんなのだったの?」

着付けを手伝いながら、千束が聞いてくる。

「今と別に変わりはなかったかな。それこそ、映画みたいな変な服ってあんまり流行らなかったし」

「えー、つまんなーい」

「むしろ、あるにはあったんだな…」

ミカが宇宙世紀の服飾事情に少し引いていた。

「じゃあさ、トビアはどんなの着てたの?」

「えーっと、…ふつうのワイシャツに、ジーンズかな…?それ以外だと、基本的にツナギだったし…」

「ツナギ?海賊の制服だったの?」

「違う違う。何もないときは、運送会社やってたんだ。その時の制服」

「運送会社⁉ほほう、世を忍ぶ仮の姿ですかぁ~。ますます私たちと一緒じゃん!」

「よっし、かんぺっき!」千束がそう言って離れる。なるほど、結構ゆったり着れていいかもしれない。

 

それにしても

「…運送会社、かぁ」

「もっと似合うもの持ってくる!」といって、奥に引っ込んだ千束を見送った後、トビアはぽつりとつぶやく。やはり、あの後の海賊軍の仲間たちの安否が気になる。

虎の子のMSたる”フリント”は全機破壊され、補給パーツを使い切った“最後のクロスボーン・ガンダム”は時を超えここにある。もう海賊はできないだろうし、まじめに仕事でもしてるのだろうか?仲間たちは、…“彼女”は、元気にやってるだろうか。

「寂しそうだな?やはり元の時代が恋しいか?」

そこに、コーヒーを人数分用意したミカが話しかけてくる。

「あっ…ありがとうございます。そうですね、やっぱり仲間たちとはそれっきりでしたから…」

「そうか。…あまり、私たちにできることはないと思うが、どうか遠慮なく言ってくれ。君はもう、このリコリコの仲間だからな」

「…まだオープン前ですけどね?」

言って、笑いあう。そうだ、今の居場所はここなのだ。自分のことを受けて入れてくれる人たちがいる。一緒に、笑いあえる人たちがいる。ホームシックを患っている暇なんて、ない。

これから始まる新しい日々に思いをはせ、コーヒーを一口…

 

「…………」

「…………」

 

とりあえず、オープンまでに猛練習することが決まった瞬間であった。

 

「ところで、ミカさん。ぼくのこの格好なんですけど…」

「言わんとしていることは分かる…」

「これ、傷のせいでジャパニーズマフィアの」

「トビア、無理して言わなくていい…」

「お待たせ~!このサングラスとココアシガレットで、パーフェクトトビアの完成だぜっ!」

「「⁉」」

 

 

 




その1:才能って、別にそのこと一つにしか使えないってことはないよね、というお話。

その2:宇宙世紀のMSって、実は全部やばくない?というお話。

その3:このぐらいいっときゃ、メチャクチャやってもええやろ&和服、顔に傷…ひらめいた、というお話。


分割分は後日投稿です。

まとめる才能が欲しい…!

感想、評価お待ちしております。


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#4海賊と10年②

前回の分割分、初投稿です。

分割って言っておきながら、過去最長なのはご愛嬌!
むしろ分割とか言わないで、普通に投稿すりゃよかった!

なんでこんな長い文章しか書けないの?私…。

そういえば皆さん、月食見ました?
私はローソンで買った「ブラックさんのコーラチューハイ」片手に見てました。
あれ、月食?暗い月…シャドームー……

それではどうぞ。


その4.海賊と少女(2人目)

「なるほど、このレバーでチェーンを動かすんですね。こっちの画面は武装の…稼働率?必要な画面って結構多いんですね。戦闘中に気が散っちゃいませんか?それで、このコンソールってどんなことをするためのものなんですか?」

「ごめん、お願いだから?そろそろ落ち着いてくれない?」

 

 

4の1.

トビアがリコリコに所属してから、4年の時が過ぎた。ミカのコーヒーは無事上達し、千束もすくすく育ち、DAのやり方についていけなくなった、あの時の尋問官“中原ミズキ”という新たな仲間も迎え、常連も付き始めた喫茶リコリコは着々と評判を伸ばしていった。

その裏で、普通では対処できない仕事や、DAからの任務も時折入ってきており、今回もそういった対処の難しい仕事が舞い込んできた。

 

「つまり、X1によるバックアップを頼みたい、と」

〈そうだ。すでに対象車輌がゴルフ場に侵入したのが確認されている。被害の拡大を抑えるため、確実に出番があると思ってくれ、“スカルハート”〉

トビアに楠木から通信が入る。

 

本日17:00、京都府N演習場にて、装甲車3台と戦車1台の特殊車輌がドローン技術の応用による遠隔操縦実験の最中、突如暴走。自衛隊の操作を受け付けず、演習場付近のゴルフ場に向かって侵攻を始めた。DAは外部勢力によるハッキングによるものであると断定、ハッキング元を特定し、対象を殺害する作戦を開始。京都支部がこれにあたる。その間、暴走車輌が市街地に向かうおそれがあり、その対処と処理のためにX1の投入を決定したという。

「みんな、“威張ったコウペン”。デリバリー、一人でいってきます」

「そうか、よろしく頼む」

「トビア!気を付けてね!」

「寄り道せずに戻ってきなさいよー」

符丁を使って仲間たちにDAから任務が入ったことを伝えると、三者三様に言葉をかけられ、店を出る。

むかうはX1の待つ工場跡だ。

 

「「「………」」」

トビアが店を出た後の喫茶リコリコ。もう閉店時間が近く、本日のお客も全員帰り、昼ごろの喧騒が嘘のように静まり返る。

「…ミズキ」

「いやよ」

「まだ何も言ってない」

 

突然だが、喫茶リコリコにおいてトビアは最大戦力だ。DAよりスカルハートのコードネームが割り振られ、銃撃、格闘を高水準にこなし、どんな車両も使って見せる。X1の操縦も言わずもがな。

それは、喫茶店業務においても同じであり、なんでも器用にこなした。

優しげでありながら、顔の傷がなんともミステリアスな雰囲気でお客さんに少なくないファンがついているし、接客態度も落ち着いており、どんな話も親身になって聞く。キッチンを任せても、そつなくこなしピンチヒッターとしても大活躍。賄いを作ると、芋料理の比率が多くなるのが玉に瑕だが。

そもそも、トビアは海賊をしていないときは、仲間たちと運送会社の社員として働いており、様々な業務をこなしていた。クライアントとの交渉に、接客、持ち回りの料理と、事務作業。

 

そして、()()()()()()()

 

「だいたい、オッサンの店でしょーが!毎回トビアに押し付けて、いなけりゃアタシときた!自分で金ぐらい数えろやー!」

「い、いや、しかし、私も歳だし、数字だと目がすべって…」

「こ・の・メ・ガ・ネ・が!見えんのかぁー!」

“やってられるか!”と一升瓶を煽り吠えるミズキに、普段では考えられないほどうろたえるミカ。というのも、彼らはもともとDAにおいて戦技教官と情報部の人間である。相手の情報をまとめることはあっても、収支報告や経理といった裏方作業には、とんと関わってこなかったのだ。

なので、経験者たるトビアにおんぶに抱っことなるのは、当然の帰結であった。

「………」

「くおらぁっ!逃げるな千束ぉ!アンタ一番目ぇいいんだから強制参加じゃあ!」

「うえぇ⁉理不尽だよ!だいたい、キッチンの片づけだって終わってないじゃんか!」

「…そっちは私が先にやっておいた」

「先生⁉」

“トビアお願いだから早くかえってきてぇ~⁉”

千束の叫びが錦糸町の住宅街に木霊する。

 

これが4年経った喫茶リコリコの姿である。

 

 

4の2.

「こちらスカルハート、X1の発進準備完了。司令部、装備の確認を求む」

〈こちら司令部。ビーム兵器は極力避けられたし。あまり派手にされますと、隠蔽が間に合いません。〉

「スカルハート了解。武装はブラスターにリミッターをかけ携行する。」

〈司令部了解。スカルハート、X1発進してください。グッドラック、ミスター〉

 

千束が好きそうな映画のようなやり取りに、トビアは笑みをこぼす。

 

全身を覆う暗い色のマントをなびかせ、腰にムラマサ・ブラスターを差すと、クロスボーン・ガンダムが飛翔する。

時刻は17:30。まだ夜というには早い時間だが、X1は急加速、誰にも気取られず、あっという間に雲の中へと消えていった。

 

X1はその運用にあたって、いくつか制限が設けられた。

まず、基本的には夜間のみの運用。言わずもがな、15mの巨体が白昼堂々と街を闊歩するわけにもいかない。もっとも、X1が必要な場面というのは、相手も夜間に行動していることが多く、特に問題となっていない。

次に、装備は最低限。X1の武装は近接戦闘を念頭に置かれていたとはいえ、ビーム中心のためどれも現代日本では過剰だ。もちろん、他にMSが確認されていない以上、鉄壁の防御を誇るフルクロスもお役御免と言わんばかりに外され、倉庫でほこりをかぶっている。なお、ムラマサ・ブラスターはビームさえ発振させなければただの頑丈な金属の塊であり、意外と重宝されている。

最後に、起動には司令部の承認が必要となった。緊急時はともかく、このような超兵器を個人にゆだねるのだ、当たり前の措置といえた。

 

東京から京都まで、しばしの空中旅行。

航空機に見つかるとまずいので、少し遠回りになる。

X1は、木星圏の高重力下での戦闘もこなすその推力を、これでもかと発揮していた。

トビアはオートパイロットを起動させ、少し休憩をはさむ。

「それにしても、今回の任務は妙だな…?」

一介のハッカーがやるにしても、他国や組織が仕掛けるにしても大事過ぎる。そもそも、今回の実験は秘匿されたものであった。内部に協力者がいたとしても、やることが派手過ぎる。

「だいたい、実験を暴くにしたって、一台外に出すだけで十分だし。…もしかして、釣られた?」

だとしたら、相手は相当な手練れだ。なにせ、X1の存在は最高機密。運用条件を含めた一切のデータと記録が残っているのは、DA本部だけ。

「でも、楠木さんが気づいてない訳ないし?もしかしておれ、餌にされてない…?」

最近上昇気味だった楠木の株が、また下がり始める。

 

考えても仕方ない、と切り替える。すると、見計らったように通信が入る。

〈こちら司令部。スカルハート、現在地は?〉

「スカルハート、愛知伊賀を通過。現場のゴルフ場まで1分もかからない」

〈さすがですね、ミスター。……えっ⁉〉

「司令部?」

〈スカルハート、急いで!車両を監視中のエコーチームが攻撃を受けました!〉

「!早速か!状況は⁉」

〈セカンドリコリスが一名負傷!…回収完了!っ、サードリコリス1名が応戦中!囮のつもり⁉〉

オートパイロット解除。出力を上げ、ガンダムの速度を上げる。

「間に合ってくれよ…!気合い入れるぞ、X1!」

 

戦場は近い。

 

 

4の3.

今回、京都支部のリコリス2名に課された任務は、目の前の暴走車輌の監視。

本隊がハッカーを処理する間、逐一車輌の状況を報告するのが、彼女たちの役目である。

車輌の処理には、本部より派遣される“スカルハート”に一任すると、よくわからない指示が追加されたが、本隊が作戦目標を達成すれば、なにも問題ないはずであった。

 

〈こちらアルファ。司令部、これより目標に突入する〉

〈こちら司令部。許可する。突入!〉

「…本隊は勝負に出たわね」

「こちらは、まだ動きを見せませんね。定時連絡を入れます。」

「お願い」

ゴルフ場の安全木に身を隠しながら、青とベージュの制服に身を包んだ少女たちが、戦車と装甲車の群れを見つめる。その真上、距離を開けて中継器と思しきドローンが複数台飛んでいるのが見える。距離を取っているとは言え、狙われたらひとたまりもない。

「こちらエコー。対象に依然変化なし。ポイントを変え、引き続き監視を続行します」

黒髪の美しい、小柄なサードリコリスが司令部に通信を入れる。その間、先輩であろうセカンドリコリスが単眼鏡で監視を続行する。

 

〈こちら司令部。了解。次の連絡は5分後。次のポイントをCに変更し——〉

〈こちらアルファ!嵌められた!対象はすでに死亡!現場の端末よりコード確認!〉

「伏せてっ!」

「!」

切羽詰まった本隊の通信を聞いたのち、激しい破裂音。対象の内、こちらに一番近い位置の装甲車が発砲したようだ。

とっさに先輩にかばわれ、地面に押し倒される。

顔に血がかかる。

「っづああっ…!」

「先輩⁉」

見ると、彼女の右肩が被弾していた。青の制服が真っ赤に染まる。

「先輩っ、逃げましょう!気をしっかり!先輩!」

「ううっ…、はぁ、はぁ、はぁ」

すぐさま人員回収のために待機していた車両まで逃げる。幸いにも、木々が盾になっており、たどり着くのは容易だった。急いで先輩を車内に寝かし、止血処置を施す。

「私はそのまま対象をひきつけます!先輩を連れて逃げてっ!」

「ちょっと⁉」

返答も聞かずに飛び出す。

なんとか時間を稼がなくては、車ごとやられる。

すると、案の定木々をなぎ倒し戦車が顔を出す。装甲車では、突破できなかったのだろう。

必死に逃げる。装備以前に生身の人間が戦車に敵うはずがない。

息が上がる、足が恐怖でもつれる、…転倒。すぐに振り向き、状況を確認。迫りくる戦車に反射的に目をつぶる。そして———

 

轟音。

静まり返る現場。主砲を撃たれたのだろうか?いや、この距離なら機銃掃射で対処するはずだ。なにより、自分の体は倒れ伏してもいない。

 

おそるおそる目を開く。

 

そこには、

 

大剣を戦車に突き刺す、緑色に光る眼をした、ドクロマークの巨人がいた。

 

4の4.

「スカルハート、現着!これより作戦行動に入る!」

〈司令部了解!頼みます!〉

言ってすぐ、急降下。ブラスターの切っ先を下に構え、真下の戦車に突き刺す。

そして刺したまま、後方に放り投げる。ひしゃげる砲塔に、から回るキャタピラ。何とか誘爆は避けられたようだ。

 

まずは一機、と息つく間もなく、目の前で腰を抜かすベージュの制服を着た少女を見つける。

「おい!怪我は!動けるか!?」

外部スピーカーで呼びかける。

どこから声が出ているのか、一瞬見失った彼女は、こちらに目を向けゆっくりと頷いた。

 

「本部から来たスカルハートだ。とりあえず、乗ってくれ!」

膝立ちでコックピットハッチを開き、X1の左腕を少女に差し出す。

あまりのことに、頭が働いていないようだが、駆動輪の音が近づいてきていることに気が付き、急いで乗り込んでくる。

 

少女を膝に乗せ、ハッチを閉めて装甲車に向き合う。距離を開けて3台全てがこちらを囲むように配置している。

「そんな、全部向かってくなんて…!」

少女が絶望したかのようにうめく。

「…大丈夫!」

トビアは声を張り、力強く伝える。

「いきなり出てきて信頼も何もないけど、何とかする!」

それでも不安が残るなら…

「これからおれのやること、しっかり見ていてっ!」

なぜだか、この子にはこう言ったほうがいい気がした。

「え、…!はい!」

少女が勢い良くうなずく。

 

直後、体制を低くし、急加速。

瞬時にムラマサ・ブラスターをシザーアンカーで挟み込み、最初の一台の前で機体を右に一回転させる。

その遠心力を利用し、勢いよくアンカーをぶん回す。

(当たる直前に、ビーム発振!)

ブラスターがビームを発振させ、一台を撃破し、そのままチェーンを伸ばし2台、3台と切り裂いていく。

 

最後に、左腕を地面につかせブレーキをかけ、チェーンを回収、手元にブラスターを戻す。

 

対象はすべて沈黙。こちらは監視チーム1名が負傷したものの、死亡者0。

さらにその負傷者は回収済みで、先ほど戦闘区域からの離脱も確認。

任務完了。ようやく一息付けそうだ。

 

「すごい…」

あっという間の出来事だった。

 

戦力比3対1という状況下、いくらこの巨人が強いといえど、派手に立ち回っては近隣住民に気取られかねない。事実上、人質を取られているようなものだ。

にもかかわらず、スカルハートは見事な操縦で最低限の動きで最速で制して見せた。

破壊した車両からは、煙すら上がっておらず、いずれもエンジン部の直撃を避けて無力化されていた。何と恐ろしい技量か。

 

「君?結構怖かったと思うけど、大丈夫?気分は?」

頭の上より声がかかる。

スカルハートは、黒ずくめのパイロットスーツにヘルメットをかぶっており、バイザーが下ろされどんな表情をしているかうかがえない。背が低いわけではないだろうが、成人しているとは思えない高さで、まだ年若いのだろう。

怪しいことこの上ない。ただ、彼は先ほどからこちらを心配し、何度も声をかけてくれていた。

(優しい人、なんだ)

これが本部の、本物のプロフェッショナル。

 

「あっ」

そこまで考えて、ろくにお礼も言えていないことに気づく。

ここまでしてもらって、助けてもらえたのに、自分はお礼の一つも言えていない。

当の本人もあまり気にしていないのも相まって、焦りが募る。

「あ、あのっ…!」

「うん?」

「え、えっと!」

(あれ、なんていうんだっけ、お礼って。そういえばこの巨人ってなんなんだろう。なんでこの人顔見せてくれないの?なんで…)

どんどん考えがまとまらなくなり、咄嗟についた言葉が

 

「これどうやって動かすんですか?何で動いてるんですか?ボタン多すぎませんか?大体何をすればあんな動きができるんですか⁉」

「まってまってまってまって」

文句ともとれない、この巨人についてのツッコミだった。

 

4の5.

あれからしばらく経って。

きれいな花色のお目目がぐるぐると回り、焦点が定まってない少女をなだめていたトビアは、先ほどまで飛んでいたドローン全機が墜落していることに気づく。

「…やられた」

もう、必要な情報は粗方送り届けたらしい。どうやら、自分の考察はそこまで間違ってなさそうだと、ため息をつく。

 

〈こちら司令部。現時刻をもって作戦を終了。スカルハート、お疲れさまでした。別命あるまで待機願います〉

「スカルハート了解。…司令部、本隊の作戦結果を聞いても?」

どうやら、一杯食わされたようだ。京都市内のマンションより不審な電波をキャッチ、DAのスーパーAIラジアータの分析から件のハッカーと断定し、アルファチームが突入するも、被疑者はすでに死亡。直後、死体のそばにあるPC端末より攻撃コードが発信され、暴走車輌監視のためゴルフ場にいたエコーチームが襲われた、ということらしい。

〈DA司令部としての見解は…〉

「おれ、だね?」

「え?」

膝の上から、そんな声が漏れる。

〈…はい、スカルハートの情報収集が目的と思われます…〉

「まんまとおびき出された、ということか…」

「………」

 

機内に沈黙が流れる。

「…すまなかった」

スカルハートからの謝罪が響く。

「おれのせいで、君たちを危険な目に…」

「ふざけないでください」

思わず、鋭い声を上げてしまう。

 

「なんで、あなたが謝るんですか…!あなただって、嵌められたのに…っ!」

ぼろぼろと涙がこぼれる。どうして、自分はこの人に謝らせているんだろう。

「あなたがっ、いなければ、私たちは!もうとっくに死んでますっ!」

勢いあまって抱き着く。

「あなたがっ、助けてくれたんですっ!あなたの、おかげでっ!私は生きてますっ!」

でも、関係ない。何が何でも分かってもらおう。

「だから、そんなこと、言わないで…。あなたのせいじゃない、せいじゃないの…」

だって、あなたはこんなにも

「優しい人なんだもの……!」

 

「…ありがとう」

ゆっくりと髪をなでられる。大きな手だ。幼子をあやすよう、とはこういうことを言うのだろう。

「君は、本当に優しい子だね…。怖かっただろう?逃げ出したかっただろう?」

「怖かった…!逃げたかった…!でも、みんな死んじゃうと思ったらっ、そっちのほうがもっと怖かったっ…!」

思いっきり抱きしめる。今になって、その時の恐怖が押し寄せる。彼は決して振りほどかない。こちらが安心できるように、軽く抱きしめ返してくれている。

「だからっ…!」

だから、ちゃんと伝えよう。

「ありがとう…!私をっ、みんなを助けてくれて…、本当に…!」

心からの感謝を。

 

 

 

4の6.

「……すさまじいな。あんな動きができるものなのか」

男が一人、端末の画面を眺める。よく見えるようにするためなのだろう、周りは薄暗くしてある。

「君たちの時代の、MSといったか、あの兵器は皆こうなのかい?」

『あれは一部だけさ。…もっとも、私には遠く及ばないさ…あんなもの』

スピーカー越しにくぐもった声が男に応える。

『それよりも、…どうだい?直してくれるんだろう?』

「まだかかるさ。そう、急かさないでくれ。なにせわたしたちにとっては、未知の代物だ。もっと調べたくなるものだろう?」

『なら、時間をかけてカッコよく仕上げてもらおうかな?ふふふ』

「ああ、楽しみにしていてくれ」

 

男が画面から目を離し、振り向く。そこは、あまりにも広大な空間だった。まるで映画の秘密基地のような、非現実的な空間。そこには、様々な機器につながれ、たくさんの人間にモニターされる巨大な何かが鎮座していた。

 

それは、左右別の色に塗られ。

 

それは、四肢と呼ぶにはあまりに歪で。

 

それは、人型と呼ぶには、あまりにほど遠く、

 

———どこまでも、「異形」であった。

 

「ただいまぁ~。みんな、どうっ⁉」

「………」(カウンターで頭を抱えるミカ)

「………」(酒瓶を枕に床で寝転がるミズキ)

「………」(座敷の隅っこで壁に向かって体育座りする千束)

「…。ミズキ、飲食店でそれはやめな?」

「なんでアタシだけ⁉」

 

 

2.

「男の部屋に泊まり込むんじゃないよ、まったく…。大丈夫か?あいつ」

ジャージに着替え、洗面台で顔を洗う。

水の冷たさに、眠気が完全吹き飛び頭がすっきりする。

蛇口を止め、鏡を見る。

いつもと変わらない、自分の顔だ。

 

この10年間、ずっと変化のない、自分の顔だ。

 

クロスボーン・ガンダムに起きていたことは、トビアにも当てはまることだった。

背は一切伸びないし、爪も、髪の毛も、体重すら変化しなかった。

そのくせして、腹は減るし、のども乾くし、汗はかく。

リコリコの仲間やDAはトビアの素性を知るがゆえに何も言わないでくれるし、

常連さんには、老けにくい家系とごまかしてある。

 

それでも、心理的なストレスは相当なものだった。

周りが着々と歳を重ねる中、自分だけが取り残される感覚。

千束にはまだ身長で負けていないが、時期に追い抜かれそうだ。

 

「……おれは、いつまで……。いや、決めたじゃないか、自分で」

トビアは鏡の前で独り言ちる。

そう、彼は千束たちと一つ約束を交わしていた。

 

——トビアがいつか帰っちゃう、その時まで、リコリコでみんなと一緒に!——

 

「よおっし!」

気合を入れて、思いっきり自分の頬を叩く。

 

梯子を上がり、玄関の戸締りをしっかりし、軽く駆け出す。

 

2022年2月。まだ春は遠く、肌寒さを覚えながらトビアは駆けていった。

 

「あれ、昨日って別に千束遊びに来なかったよね…?鍵も別に渡してないし…⁉」

 

走るスピードが上がったのは、言うまでもない。

 

おまけ

・いつかのDA本部、あるリコリス

「京都から転属になりました。よろしくお願いします」

「おう。何か聞きたいことはあるか?」

「あ、それなら、スカルハートさんはどちらに?」

「?なんであの人?」

「彼に大事なものを奪われたので」

「?」

「私の心です」

「⁉」

 




以下、筆者のメモ書き。読まなくても大丈夫です。
…ほんとだよ?

4の1、
・スカルハート→やりたかっただけ。
・京都のN演習場→あるにはある。でも、戦車は持ってこれないような広さ。
・威張ったコウペン→適当に考えたオリジナル符丁。DAからくる任務って、上司からくるってこと?じゃあ、偉そうなペンギンってなんだろ、皇帝かな!みたいな。
・デリバリー→派遣任務のこと。一人はそのまんま。
・賄いの芋→剥くのが得意。
・経理・会計業務→できないとマジで苦労する作業。お金のことだからね、仕方ないね。ちなみに筆者は、最近雇用保険料が上がって、11月の給料が少し減って泣いた。

4の2、
・司令部とのやり取り→書いてて楽しかった。以上
・XBガンダムの制限→正直緩すぎた。普通に核兵器だから、人を殺しちゃいけないとか書いときゃよかった。

4の3、
・黒髪のきれいなリコリス→のちの狂犬のつもり。
・ゴルフ場の安全木→ゴルフ場になんか生えてる木。ほかにも戦略木、景観木がある。なんのこっちゃ。
・装甲車の機銃→ぶっちゃけかすっただけで腕が飛ぶ。この子は正しくセカンドになる素養があったのだ…!(筆者のミス)
・空からX1→「スカルハート見参」聞きながら書いた。ピロピッピー。

4の4、
・本部から来たスカルハート→字面が面白すぎた。
・膝の上→この海賊いっつも膝の上に女の子乗せてんな。(実は原作からして)
・X1戦闘→難しすぎる!ほかの先生方すごすぎる…。参考にしたのは無印XBの地球でのデスゲイルズ戦とX-11のイオの回想。あとで書き換えるかも…。
・ムラマサ・ブラスター→ビーム使っちゃった。

4の5、
・お目目ぐるぐる→かわいいね。
・ありがとう→すみませんよりも喜ばれる言葉。なるべく使っていきましょう。

4の6→やりたかっただけ。
・男→???「誰だと思う?ジョースターさんッ!!!」
・異形→プレバンで買ったからプラモあるんですケド、これ、なんて表現したらいいんだ…?

2→弱気なトビア君を書きたかっただけです。こんな呪いを背負わせるつもりは…。あと、基本的に千束ちゃんがやべーやつになってきた。


さてはて、ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。
なんだかんだと読まれる方も少しづつ増え、嬉しい限りです。

次回投稿は未定です。
まだだ、まだリコリコの理解が足りないぃっ!

それでは、またお会いする日まで。

感想、評価、いただけると幸いです。





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#5海賊と物語の始まり①

気が付いたら評価バーに色がついていて、ビビり散らかしたので初投稿です。

今回より、アニメ本編の内容に入らせていただきます。
マジでほかの作家先生方、すげぇよ……
あれだけの作品書いておいて二番煎じなら、私のこれはなんだっての……

例によって長ったらしい文章ですが、少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

それではどうぞ。





ウィルキンソンも結構いけるなぁ…。



1.

赤い制服を着た少女と、トレンチコートに身を包んだ少年が、都心にほど近い雑居ビルの非常階段を全速力でかけ上がる。あいにく、この位でばてる様なやわな鍛え方をしてはいない。

「だからって、やりたいわけじゃないんだけどっ…!」

「ミカさん、現場の状況を教えてもらえますか⁉」

〈あくまで、こちらのポイントから確認できるものだが、今のところ人質に危害は加えられていないな〉

 

本日早朝、かねてよりAIラジアータが予測していた武器商人によるテロリストへの銃器提供を阻止すべく、DA本部は現場となる都内某所のビルにリコリスの投入を決定。しかし、事前情報と違い銃器はどこにも見当たらず、さらに目標の捕縛を念頭に置いていたこともあり、混戦の末セカンド1名が人質に取られてしまう。

 

そして現在、バックアップとして控えていた千束とトビア両名は、別方向からの奇襲及び人質を奪還すべく現場に急いでいた。

狙撃ポイントで待機しているミカが、対象を観測しながら2人に注意を促す。

〈だが、時間の問題だ。目標は興奮状態で、他の連中は逆に落ち着きを取り戻している〉

「それって、盾にされて一方的に撃ち放題されるじゃん⁉最悪!」

「本部からの通信は?」

〈依然途絶状態だ〉

「他の子たちが動けないのは、そういうことか…」

さらに、まるで謀ったかのように本部との通信がつながらなくっている。

リコリスは基本的に、本部の指示とそこにあるラジアータの予測をもとに戦う。

現場で判断するにしても、まず本部に一報入れることを徹底されており、独断行動自体がなかなかとれない。おまけに、仲間意識も強く、現在も人質に遠慮して攻勢に出られずにいる。

 

「先生、そこから狙えない⁉」

〈…だめだ、遮蔽物が多すぎる。それにこの弾丸じゃ、まともに当たらない…!〉

「千束、急ごう!おれ達で……、!ふせろぉっ!」

「のわっ!」

咄嗟にトビアが千束をしゃがませる。

直後、豪雨のごとき破裂音が鳴り響き、現場につながる扉が吹き飛ぶ。

いったい何が、と思う間もなく、ミカから通信が入る。

〈…二人とも、状況終了だ。すぐに撤収しろ〉

「えっ、どうして⁉」

〈一人機関銃をぶっ放したリコリスがいた。彼女によって対象が全員処理された〉

「ええ⁉」

「それは、また…。ミカさん?人質の子は?」

〈少し待ってくれ、…驚いたな、無傷だ…!〉

どうにも、自分たちはお役御免のようだ。

 

それにしても、

「無茶する子だなぁ、危なっかしいや」

「………」

〈………〉

半目でじっとりした視線をぶつける千束に、無線の先で何も言わないミカ。

「?二人とも?」

「その子、絶対トビアに言われたくないと思う」

「なんで⁉」

 

「本部、応答願います!本部!くそっ、どうなってんだ!」

「フキさんっ!こっちもダメです!繋がりませんっ!」

「現場判断で突撃できないのっ⁉」

「エリカが盾にされる!刺激は避けないとっ…!」

 

状況は最悪だ。セカンドリコリス井ノ上たきなは、自身のバディ春川フキが本部に通信を試みる声を聴きながら、そう思った。

捕縛任務のため、あまり積極的に攻勢に出られず、さらに仲間が人質に取られてしまった。今も壁をはさんで対象とのにらみ合いが続く。

「銃を捨てろ!お仲間が、こうだぞっ⁉」

「…うぅっ…!」

「エリカ…!」

本部ともつながらず、人質となった蛇ノ目エリカが殴られ、ぐったり俯く。限界だ。もはや、一刻の猶予もない。

なにか手段を、と足元を見やると、対象の一人が使用していたと思しきPKM機関銃が目に入る。何とか自分でも使えそうだ、そこまで考え、フキに声をかける。

 

「フキさん、頼みがあります。うまくいったら一発殴ってください…!」

「…はぁ⁉たきな、おまえふざけ…!」

「これからやるのは、私一人の責任です…!だから、見ていて下さい!」

「おいっ⁉何を言ってるん…っ、よせっ⁉たきなぁっ!」

言って、たきなは壁から出ると機関銃を一斉射。

うつむくエリカを避け、対象だけにぶち当てる。

彼らの背後にある窓ガラスや、非常口の扉が粉々に砕ける。

そして、対象全てが、動かなくなった。

 

「…っ!エリカぁッ!」

ほかのチームメンバーがエリカに駆け寄る。外傷は見当たらない。

あの距離で、人質に傷一つつけず、対象の全てを殺害。

まさしく、驚異的な射撃能力だった。

だが、彼女に意識はなく、早急に離脱し本部で診てもらう必要がある。

「……たきな」

後ろにフキが立つ。

振り向き、正面に向き合う。

「はい、……。お願いしますっ」

「こんのっ、馬鹿野郎がぁッ!」

振りぬき一閃。左頬を思いっきり殴られ、そのままたきなは倒れこむ。

「今のは頼まれたからやったが、お前、ふざけんじゃねぇぞっ!エリカの命を何だと思ってやがるっ!」

「……絶対に、当てない自信がありました。彼女を、絶対に助ける、自信がありましたっ…」

「……っ……!そこで頭冷やしてろっ!……そんなとこばかり、似ようとしやがって……っ」

そう言って、フキはエリカの前へと向かう。

 

たきなはそのまま座り込みながら、小さくつぶやいた。

「あなたのようには、いきませんね、スカルハート…」

 

状況終了、捕縛任務、失敗。

未だ、少女の憧れは遠く。

 

「………………」

「………………、えっとぉ、その、千束さん…?」

撤収するために階段を降り、各々が乗ってきた足に向かったリコリコの二人。

目の前には、上から降ってきた大量のガラスによって無残な姿になった、千束の愛車たる原付が横たわっていた。

 

「………………」

つーっと、音もなく落ちる涙。

トビアが、自分の乗ってきた軽自動車に親指を向ける。

「……乗ってく?」

「うん…、ありがと…」

夜が明ける。

朝焼けが二人を優しく照らす。

 

一名、哀愁が漂っていたが。

 

 

 

2.

「で?二人は仲良くそのままお泊りで?一日しっかり休みを取って?今日出勤してきましたぁ?ふっっっっざけんなぁあああああああああああ!!!!!!よくアタシがいる前でそんなこと言えたわねぇ⁉アンタら絶対ヤってきただろ!そうなんだろ⁉楽しいか!27歳いぢめて楽しいんか⁉適齢期越えた独身女性いぢめて楽しいんかゴラアアアアアアアアアあああああ!?!?!?!?」

「ミ、ミズキ?そんな、こと、まだ私たちには早いっていうか、えっとぉ、その、ね?」

「ミカさん、この前買ってきた豆で淹れてみたんですけど、どうでしょうかね?」

「……少し、酸味が強いな」

「男二人はせめてこっちに興味持てえええええええええ!!!!!!」

ミズキの叫びが開店前の店によく響く。

 

2日後、喫茶リコリコにて。

 

あの事件は、ガス爆発事故として世間に流されることとなった。現に、カウンター傍のTVでは、スタジオの解説付きで報道されている。事件は事故に、悲劇は美談に。

 

「それで、トビア?昨日一日千束と何をしてたんだ?」

ミカもミカで気になっていたらしい。眼鏡が光って瞳の奥がよく見えない。

「ハリウッド版ゴ〇ラシリーズ耐久マラソンですっ!」

冷や汗を垂らしながら即答するトビア。

“オッサン、あんたマジか”と自分のことを棚に上げドン引くミズキ。

未だ照れながら自分の世界から帰ってこない千束。

 

2022年、桜がちらほらと咲き始めた季節。喫茶リコリコ、10年目の春。平常運転である。

 

ちょうど切らしているものがあり、千束とトビアに買い出しに出てもらう。店内に残されたミカとミズキは、何気なくTVのワイドショーを見つめる。

『本日、東京都は現在建設中の延空木の開業セレモニーについて、スケジュールを公表しました。電波塔事件からはや10年。当時の現場からは考えられないほどに……』

「あれから10年ね…。花の十代だった頃が懐かしいわ~」

ミズキがカウンターでぼやく。言葉だけ聞くといつもの調子だが、その目は少しばかりの憂いが浮かんでいた。当時のミズキは情報部勤務で、トビアの尋問官になる前は、指令室で人手不足のオペレーターの真似事もやっていた。だから、当時の状況は鮮明に覚えている。

「そうだな。…トビアとガンダムがこの街に降りてきて、10年か」

ミカもつぶやく。

 

トビアは10年前から一切姿が変わっていない。いかなる理由か、本部の設備や病院、各種検査機関で調べても、一切分からず。本人が気丈に振舞っているのもあって、余計に心配だ。

『……旧電波塔は、テロリストに爆弾を仕掛けられていたにもかかわらず、倒壊を免れ、いまや日本の平和と奇跡の……』

「………日本はあいつに助けられたってのに、アタシらは何もしてやれないのね……」

今にも壊れてしまいそうな折れた塔を、トビアはガンダムを巧みに操って止めて見せた。

一緒に乗っていた千束の助けもあったが、あの場面は指令室では語り草だった。

だからこそ、恩人が苦しむ姿に、無力感が募る。

「ミズキ……」

普段とは違う彼女の姿に、ミカも言葉を詰まらせる。

 

『CMの後は、話題のスポーツ選手特集!先日、アランチルドレンを公表した……』

「……なーにがアランチルドレンよ。ここにも母となる才能が支援を必要としているのに……」

ワイドショーの話題が変わると、途端に湿っぽい空気が霧散する。ミズキもこれ以上引き延ばすつもりはなかったのだろう、酒瓶片手にテンションが切り替わる。

「アタシにもいい男を支援しなさーい!」

 

カランコロン。

来客の合図を知らせるドアのベルが鳴る。

そういえば、そろそろ来る時間だったか。ミカが入り口を見やる。

そこには、左頬に大きなキズパッドを付けた、青い制服を着たリコリスが立っていた。

 

「本日配属になりました、井ノ上たきなです」

 

「やっぱり、マグロばっか食ってる奴はだめだったなぁ…」

「あの映画、ゴ〇ラじゃなければ結構面白い部類だと思うな」

片手に一つずつ荷物を下げる千束とトビア。

必要な買い出しも終わり、帰路に就く。

昨日は家で映画三昧、その前は鉄火場。日の光がなんとも気持ちいい。

 

「…ね、トビアは、さ…。………ううん、なんでもない」

千束は遠慮がちに何事か聞こうとして、やめた。

ここ最近、トビアが少し元気がないことを気遣ったのだ。元の時代から飛ばされてもう10年。ホームシックどころに騒ぎではない。

「?……大丈夫、まだ、ぼくはここにいるよ。約束だもんね?」

「無理、しちゃやだよ?」

「ううん、むしろ嬉しいんだ。心配してくれて。千束こそ、大丈夫?原付あんなことになってるし」

「!ちょいちょいちょい、トビアくぅ~ん?まだ2日しかたってないのに、そういうこと聞くぅ~?」

 

トビアは、物分かりがいい。勘がいいのもあるが、相手の言いたいこと、伝えたいことをしっかりくみ取る。だから、話題が急に飛んでも安心して続けられるし、どんなことも聞いてもらえる。

でも、千束は、この物分かりの良さが嫌いだった。なにせ、分かったうえではぐらかされ、違う話題にすり替えられ、気を使われる。これじゃあ、まるで

(もっと、私を頼ってよ)

いつまでたっても、守ってもらう側のままだ。

 

「そういえば」

千束がふと思い出したかのように、声に出す。

「今日本部から一人、リコリスが配属されるんだってね。楽しみだなぁ~」

「おとといのこと考えると、確実にあのリコリスだろうね」

トビアは先日のことを思い出す。顔も見れていないが、なかなか、肝の座ったリコリスだった。

「絶対トビアと相性いいよねぇ~。……やっぱあんま来てほしくないかも」

「情緒どうなってんの?」

 

 

 

3.

「来たか、たきな」

目の前の和装の黒人男性から声がかかる。

すると、カウンターで瓶ごと酒を煽っていた着物姿の女性からも話しかけられる。

「…DAからクビになったってリコリスね。あそこも相変わらずだわ~」

いきなり失礼なことを言われた。たきなは少し語気を強め、反論する。

「クビになってませんっ。……あなたに学べと命じられました。私の理想に一番近いリコリスだと。錦木千束さん」

むきあって、その人を見る。顔だちは非常に整っており、眼鏡が知的な印象を観る者に与える。…その手に持つ酒瓶さえなければ。

「転属は本意ではありませんが、東京一のリコリスから学べる機会を得られて光栄です。この現場で自分を高め、本部への復帰を目指します」

「それは千束ではない」

え。

…まあ、リコリスというには、少し年齢が高い気がする。

裏方の人間なんだろうか。

「それっていうな!」

あと、掲げた酒瓶が地味に怖い。

 

でも、それなら、いったい誰が錦木千束なのだろうか。

たきなは、はっとした顔で男性を見やる。まさか…

「………」

「いや、そのオッサンでもねーよっ!」

違った。

 

「ここの管理者のミカだ。前は戦技教官をしていた。よろしく」

大きな手で握手を求められる。傷だらけの、戦士の手だ。

「彼女はミズキ。元DAの情報部の人間だった。」

「元…ですか?」

ここはDAの支部では。

「…いやになったのよ、孤児を集めて殺し屋にして命を捨てさせる、あんな組織に」

そう言って、また酒を煽るミズキ。

今までそういう見方はしてこなかった。現場と裏方の差だろうか。

 

「では、千束さんは今どちらに?外出中でしょうか」

「そうよー。どこをほっつき歩いてるんだか。…あら、噂をすれば」

外を見やるミズキ。すると、若い男女の話声が聞こえる。

「トビアって、猫好きだよね~」

「そうだね、今は世界で…6か7番目くらい?」

「意外と下の順位だ⁉…おっ、トビアこれ見て!」

 

「ほぉーら、やかましい連中が帰ってきたぞぉ」

そう言ってすぐ、店のドアが開く。

 

「ただいまぁ~!先生、大変!食べモグの口コミでホールスタッフに可愛すぎる女の子と主人公過ぎる男の子がいるって!これ私とトビアのことだよね⁉」

明るい声が響く。この喫茶店の制服なのだろう、赤い着物を身にまとった可愛いらしい少女と、色違いの着物を着た白人と思しき金髪気味の少年が店に入ってくる。急な二人の登場に、たきなは少し固まる。

「…はっ、アタシに決まってるじゃない?」

「冗談は顔だけにしろよ酔っ払い」

「はっ倒すわよ⁉」

赤い着物の女の子がミズキの発言をばっさり切り捨てる。金色にも見える白い髪に、はつらつとした赤い瞳。まるで人形のようなかわいらしい少女だ。彼女も、リコリスなのだろうか。

じゃれあう二人。なんだか言葉の割には仲がよさそうだ。

 

「ミカさん、冷蔵庫に入れちゃいますね。それと、これ領収書です」

「ああ、頼む」

「それより、…主人公過ぎる?どういうこと、というかなにその日本語?」

「あんた鏡見てきなさい。いるから、漫画の主人公」

「……?」

「あんたマジか」

少年のほうは、何だかよくわかっていないようだが、たきなはなるほどと思った。

意志の強そうなブラウンの瞳に、つんつんした金髪。何より、鼻の上を通る一本の傷。小さい頃に相部屋の先輩が見せてくれた、漫画の登場人物のような人だ。

 

「そういえば、そこの子は?」

「あっ、リコリスじゃん!めっずらし~い!先生、もしかしてこの子が?」

「ああ、例のリコリスだ。二人とも、挨拶しなさい」

2人の視線がこちらに向けられる。

「千束でぇすっ!よろしく」

「井ノ上たきなです。よろしくお願いしま…」

「たきな!初めましてだよね?」

「は、はい。去年、京都から転属になりまして…」

「転属!優秀だねぇ~、歳は?」

「16、です」

「私が一つお姉さんだ!でも、さん付けはいらないからね~?」

ものすごくぐいぐい来る。というか、この人が錦木千束か。

気圧されるたきな。このままでは言わなくていいことまでしゃべってしまいそうだ。

これが、東京一のリコリスの尋問術っ…!

「千束、そこまで。ぼくも紹介できてないし」

そこに、助け船が入る。少年は右手を手刀の形に変え、千束の頭に落とす。

「あだっ、インタビューを途中で止めるなよぉー」

「後でいくらでも時間取れるでしょうに…。大丈夫?なんか、ごめんね?」

「いえ、大丈夫です」

申し訳なさそうな少年、2人は同じくらいかと思ったが、彼のほうが年上なのだろう。落ち着いた雰囲気が、そう感じさせる。

「それじゃあ、改めて。トビア・アロナクスです。所属は一応DAのフリーエージェントで、作戦遂行が困難になった時の後詰めとか、バックアップで呼ばれることが多いかな」

“よろしく、たきなさん。”そういって、握手を求める少年。

「は、はい。よろしくお願いします…」

 

彼の手を握る。

瞬間、たきなの頭にあふれ出す、大切な記憶。

 

『いきなり出てきて信頼も何もないけど、何とかする!』

『君?結構怖かったと思うけど、大丈夫?気分は?』

『…ありがとう。君は、本当に優しい子だね…。』

 

あまりのことに、頭が真っ白になる。

「……?たきなさん?大丈夫?疲れてる?」

トビアから、心配そうな声が漏れる。

どうして、この少年から懐かしいものを感じるのだろう。

そういえば、あの時の彼の声も、こんな感じだった。

どこまでも人の身を案じる、優しい声…。

 

「……たきな?とりあえず、トビアから手を放そっか?」

不意に横から千束の声がして、はっとする。

そういえば、さっきから彼の手を握ったままだった。

「ご、ごめんなさい!」

慌てて手を放す。初対面の男性に対して、恥ずかしいところを見せてしまったと、たきなは顔を赤くする。

「いや、それはいいんだけど、本当に大丈夫?何か気になることでもあった?」

「いえっ、大丈夫です!」

反射的に答えてしまう。本当に恐ろしいのは、東京最強のリコリスよりもこの少年かもしれない。

 

「気になるといえば、そのおっきい絆創膏、どうしたの?この前の名誉の負傷?」

千束からたきなに質問が投げかけられる。

 

千束が怒鳴り込みながら春川フキに電話をかける1分ほど前の出来事だった。

 

 




以下、筆者のメモ書きです。
例によって読まんでくださいお願いっ!

1.
・トビアの格好→あんまいいの思いつかなかったので、鋼鉄の7人の時のギリのレストランに向かう時のもの。
・二人の無言の抗議→なお、千束ちゃんもトビアとミカから同じことを思われている模様。仲いいのね。
・一発殴って→たきなちゃんはべつにドMじゃありません。自分が責任を取るので現場責任者のフキちゃんに見せしめとして殴るようにお願いしました。覚悟ガンギマリです。
・見ててください!→俺の、変身!ではなく、スカルハートからの影響。実際、自分を糾弾してもらうためにも、フキちゃんにはしっかり見てもらわないといけません。
・憧れは遠く→「憧れは理解から最も遠い感情だ」もとい、拙作のたきなちゃんは憧れの本部から追い出される+憧れの人を真似したにもかかわらず結果につながらなかった、というデバフを抱えてリコリコに行ってもらいます。すまん、ここまで曇らせるつもりはなかったんや…
・千束の原付→何かオチを付けないと済まないのは、私の悪いとこ。

2.
・荒ぶるミズキ→書いてて楽しかった。
・荒ぶるミカ→絶対光る眼鏡似合う。
・ハリウッド版→結構堅実なつくりでびっくりした。なおエメリッヒ。
・大人二人の心配事→みんなトビアが心配。
・マグロ→おいしいよね
・ゴ〇ラじゃなければ…→ちゃんとモンスターパニック。
・物分かりのいいトビア→これは筆者のNT論みたいなものです。結局、彼らは「色んなことを分かってあげられる人」のことなんだと思います。そのうえで、ちゃんと寄り添ってあげられるか、はたまた突き放すか、それとも利用するのか。彼らの命運を分けたのは、そこかも。
・気を使われる千束→私だって、あなたを守りたい。
・情緒→ぐちゃぐちゃ。

3.
・ミズキの評価→黙れば美人。口を開けば元ヤン。酒を煽る姿は敗北者。
・酒瓶→もって暴れだしたら脇目も振らずに逃げましょう。命が大事です。
・猫→この世界で順位が下がった。トビアランキング!6位:猫 5位:喫茶リコリコ 4位:ミズキ 3位:ミカ 2位:千束 
1位:光の翼に乗って遠い所へ消えて行ってしまった女の子
・主人公過ぎる→顔に傷があって性格いいのは大体主人公。最近、別作品の虎杖君も仲間入りしたね。
・千束式尋問術→コミュ強の怖いとこ。でも、そこまで興味があるってことだから、頑張って答えてみよう。
・大切な記憶→ちゃんと存在してるから、ご安心を。
・千束カットイン→たぶん目にハイライトがない。…いいよなぁ、アニメや漫画は。ちゃんと分かりやすく目とか表情に効果いれるもんな…

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
感想も少しづつ読ませていただいてます。
まさか評価バーに色がつくとは思ってもみなかったので、結構な驚きです。
つづきは近日中です。

書けるか、私…?

それでは、皆さん。またお会いする日まで。

感想、評価、いただけると幸いです。



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#6海賊と物語の始まり②

つづき、なんとか書けたので初投稿です。

まーた長く書いちゃったよ、私ぇ…。

戦闘シーンが難しいうえに、あまり描写できないのなんなんだろう。
そのくせして別描写がなーがいなーがい。
読みづらーい……。

何はともあれ、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それではどうぞ。



ダルグナー、ヴァイツェン?…え、甘いぞこのビール!?


4.

「なあにも、殴ることないでしょ⁉」

〈あいつの勝手な行動を私が修正しなきゃ、誰がするんだってんだ!〉

千束が怒鳴りながら電話をかける。相手は一昨日の現場の指揮責任者、ファーストリコリスの春川フキだ。

 

たきなの怪我の訳を聞いた千束は、控えめに言っても大激怒だった。任務としては失敗だが、仲間の命を救ったその行動は称賛されるべきものであり、決して糾弾され、追い出されるような仕打ちを受けるものではないと。千束は勢いのまま電話をかけ、そのままフキとの激しい口論へと発展した。

 

1人が怒っていると周りの人間は冷静になるという。千束の怒声を遠く聞きながらトビアは現在、和装を解いてセーターを着こんだのち、カウンターに座ってコーヒーを待つたきなの隣に座る。横顔をうかがうと、彼女は事件のことを思い出したのか、少し沈んだ表情をしていた。

「千束のこと、想像と違ってた?」

「え…、あ、いえ、そんな…」

トビアが話しかけると、たきなは少し驚きながらもそう返した。

「もうすぐミカさんがコーヒー淹れてくれるから、待ってて。この店の自慢の一品なんだ」

「トビア、あまり持ち上げないでくれ。たきな、熱いから気をつけてな」

そう言って、ミカがコーヒーを渡す。

 

じっと、カップの水面を見つめるたきな。

「…たきなさん、君は、後悔してる?」

トビアが視線を合わせずに聞く。

「……わからないんです」

たきなからぽつりと、言葉が紡がれる。

「私は、あの子を助けようと、自分のできることをしたつもりでした。独断でしたし、作戦から逸脱した行為ということも分かっていたつもりです」

でも、

「……結局、あの子に怖い思いをさせて、ちゃんと謝れないまま、碌な準備もできずに本部から出ることになりました…。褒めてほしかったわけじゃないのに、気分が落ち込むんです。だから、よくわからないんです…」

また、カップに視線を落とすたきな。

 

「そっか…。じゃあ、…今はしょうがないね」

「…え?」

「だって、今のところよく分からないんでしょ?自分のことなのに」

トビアは、たきなに顔を向けて、諭すように話す。

「結局は、自分で納得できる答えを出さなきゃいけないんだ。どんなに時間をかけてもね」

「………」

「せっかく時間ができたんだから、ゆっくり考えなきゃ。まずは、そのコーヒーをどうぞ」

「……はい」

「…難しく考えることはないよ、たきなさん。コーヒーは、コーヒーだからさ」

「…はいっ」

少し、元気が出てくれたようでよかった。

クリームと砂糖を入れて、一口。“おいしい”と小さくつぶやくたきなを見て、トビアは安堵のため息をつく。

 

「そういえば、千束が静かになったな…。電話終わったのかな?」

 

「…………」

〈おい、千束ぉ…?無視するたぁいい度胸だなぁ…?〉

「ん、んんん!…なんだよ?」

〈…トビアさんが、なにかしてたのか?〉

「…………たきなのこと、励ましてた」

〈あの人たらしも、相変わらずだな…。というか、千束〉

「……なんだよ、フキ」

〈いつ告るんだ、お前〉

「は、はあああ⁉」

〈あの人の人気、ここ2・3年でまたすごいことになってんだぞ。もたついてるとお前〉

「ううう、うっせぇー!アホォー!!」

受話器を思いっきりたたきつける千束。心なしか、息が荒い。

 

「ふぅー、ふぅー、……はあ。よっし、たきなぁー!トビアー!」

少し呼吸を整え、二人を呼ぶ。

「早速、仕事行こう!私、着替えてくる!」

「あ、はいっ」

飲みかけのカップを置き、席を立とうとするたきな。

「おっと、まだ準備かかるから、先生のコーヒー飲んでていいからね!」

それを制止すると、奥へ向かう。ちらっとトビアのほうを見ると、すでに着替えており、準備は万端のようだ。

「千束、たきなさんに言わなきゃいけないこと、あるんじゃないの?」

すると、彼からそんなことを言われる。そうだ、大事なことを言い忘れてた

「たきな!」

「はい」

急いで戻り、満面の笑みでそれを伝える。

 

「リコリコへようこそ!」

 

 

 

5.

仕事というからには、どんな任務が待ってるのかと身構えていたたきな。基本的な暗殺・襲撃任務であれば、ツーマンセルでの行動が基本であり、今回のスリーマンセルのような編成となれば、特殊な任務が待ち受けているかもしれない。

 

はたして、たきなの予想は思っていたのとは違う形で当たっていた。

保育園で園児とお遊戯、日本語学校で臨時講師。暴力団事務所に立ち寄った時は、襲撃任務かと身構えたが、結局はコーヒーのデリバリー。

なんだか拍子抜けもいいところで、訳もなく疲れたたきな。

“ちょっと待ってて”と自販機へ向かったトビアを尻目に、公園のベンチに腰掛ける。顔を上げれば、太陽が傾き始めている。いったい、この支部は何なんだろう。ここで、成果は上げられるのだろうか。

「よっ、かーのじょ?隣いい?」

千束がおどけながら隣に座る。

並んで座る赤と青の制服の少女。周りの目には、同じ学校の先輩後輩くらいにしか映らないだろう。

「……千束さん、ここは、何をする支部なのですか?」

たきなは千束に問いかける。今日一日で普段の任務からかけ離れた内容に、戸惑いが隠せない。

「そうだなー、…DAが興味も持たない、困っている人を助けるための支部、かな」

「それは…、支部としてやる必要はないのでは?」

「でも、誰かがやらなきゃ。それに、私がしたいんだよね」

理解できなかった。

自分たちは日本の治安を陰ながら守る戦士。ここまで育ててくれた恩もあるが、このリコリスという仕事に、確かな使命と誇りを持っている。それなのに、彼女は自分がしたいという理由で、他のリコリスとは異なる仕事を優先させる。

「…よくわかりません。この支部も、あなたのことも」

「そっか…。ま、気長にいこうよ。これからこれから。あんまり長すぎると、困っちゃうけどね?」

そう語る千束の顔は、ほんの少し寂しげに見えた。

 

「ねぇ、あれ見える?」

ふと、千束が指をさす。それは、10年前の事件で変わり果てた姿となった旧電波塔だった。

「…はい、あなたが解決した現場でしたね」

「そう、だね。テロリストを倒したのは、私。でも、倒壊を防いだのは私だけじゃないよ」

「防いだ……?」

気になる言い方だ。あれは、テロリストが爆弾を適切に効果的な位置に設置できず、しかもうまく起爆しなかったものがあったおかげで倒壊を免れた、というのが京都支部で学んだ内容だ。

「そう、防いだの。爆弾はちゃんと起爆してたし、何だったらあのまま横倒しになって落ちてもおかしくなかった。」

衝撃の事実だ。これが本当だったら、DAは内部でも情報を改ざんしていたことになる。

「あのとき私、展望台に取り残されててね?助けてもらって、そのまま一緒に倒れるの止めたんだ」

「助け…?一緒に…?」

聞いていて、違和感を覚える。爆発が起きているときに、展望台へ誰が助けに向かえるのだろう。そして、そのまま倒壊を防ぐとは。解除しようにも、爆弾は外壁部にもあったというのに。

……ふと、6年前の出来事が頭をよぎる。

彼の操る、あの巨人なら、もしかして。

 

「そのときに、その人に言ってもらったんだ。君は誰かを助けられたんだ、って」

“目から鱗だったんだー”と続ける千束。まるで、大切な宝物を自慢するような、きれいな表情だった。

「私、人を傷つけることでしか、誰かの助けになれないと思ってたんだ。テロリストを撃つぐらいしかできないんだって。でも、そう言われて、それ以外のことでもできることがあるんじゃないかなって、思えた」

「…それが、あなたのしたいことなんですね」

満面の笑みで頷く千束。

やはり、まだ分からない事の方が多い。けれど、少しだけ、シンパシーを感じた。

 

彼女もまた、彼に救われたんだろうな。

目を輝かせる千束の横顔を見ながら、たきなはそう思った。

 

「ところで、トビア遅くない?」

「言われてみれば…見てきましょうか?」

「おーい?どっちか来てくれない?」

「お、呼んでる……なにやってんの?」

「いや、買ったらなんか別の商品も出てきちゃって。その繰り返しでこんな量に…」

「…当たり付き、と書いてありますね、この自販機」

「トビア……ロ〇6興味ない?」

「なんでもいいから、持ってくれない⁉」

 

「え?じゃ、最初から無かったの?」

「はい、相当な量が取引されていたはずなのですが…」

少し落ち着いて、一昨日の銃取引事件の顛末をたきなから聞く。

どうにも、取引自体がその時間に行われていなかったらしく、ラジアータも予測していないうえに、本部との通信途絶。控えめに言って、異常事態であった。

「なるほどね…。もしかして、違う日にやったかそもそもやってなかったか…」

「うーわ、ほんとに口封じ人事じゃん…」

“ウチを窓際部署扱いしおって~!”千束がうなる。確かに、自分たちの大切な居場所をそんな扱いにされればそうなる。

(でも、楠木さん、そんなことするかなぁ…)

なんだかんだとリコリス思いの人だ。案外、こちらの気質に合うと判断したのかもしれない。

 

「それで、何丁行方が分からなくなってるの?」

千束の声に、意識を向け直すトビア。確かに、当日のブリーフィングではなかった情報だ。

「………だいたい、1,000丁です」

「…んえ⁉」

予想だにしない数に変な声が漏れるトビア。例えマフィアの抗争でも見かけない数の武器だ。

「戦争でもする気なの?そいつら⁉」

「…たきなさん、おれ達も協力するから、必ずなんとかしような」

影響を考えると、自分たちも他人事ではいられないだろう。

「!はい!」

勢いよく返事するたきな。さっきまでの疲れ切っていた表情が嘘のようだ。

「………。随分と懐かれたね~、トビア~?」

千束が肩を小突きながらからかってくる。そういえば、彼女はたきなとの初対面時に結構しつこく絡んでいたせいもあって、少し距離を置かれていた。さっき二人にしたときは、並んで座っていろいろと話していたように見えたが、まあ、この位の嫉妬ならかわいいものだと、トビアは軽く流す。

 

「さあ、たきな切り替えて!これから向かうのは、警察署です!」

千束が声を上げて、たきなに促す。まだリコリコの仕事の途中であり、次は常連の阿部さんの職場である警察署だ。

「なんでも、ストーカー被害に遭ってる人がいて、相談を受けたんだって」

「?それは、警察の領分なのでは?」

「ところがどっこい、実害があったわけでもないらしくて、動けないんだって」

「ある意味、この支部の本領発揮だね」

トビアが続ける。犯罪抑止という意味では、こういう仕事もリコリスとしては間違っていない。

「なので、阿部さんから話を聞いて、その後に被害者と直接面談。もっと詳しいことを聞いて、その後護衛か対処か、どっちか決める!」

 

“気合い入れるぞー!”と手を上げる千束。なんだかよく分かってなさそうな、でも先ほどよりも柔らかい表情をするたきな。

 

とりあえず、今日一日で結構仲良くなれたなと、トビアは思った。

 

 

 

6.

〈それで、その沙保里さんって人が彼氏と撮った写真に例の取引の現場が写っちゃってて、どうにもそれが原因で狙われてたみたいなの!〉

「それは、また…。そのお泊りセット、お前が取りに来るのか?」

〈ううん、トビアに行ってもらってる!そろそろ着くはずだから、渡してね!〉

 

千束からリコリコに連絡が入った。なんでも、依頼として受けたストーカー相談なのだが、よく聞くと、たきなが左遷される原因となった取引がらみであったと判明。これから泊りで依頼人の護衛することになったとのことで、その準備を頼むとのことだ。

これは、タイミングがいいというべきか、はたまた運が悪いと見るべきか。

 

ミカがその電話を受け取った後、しばらくしてトビアが店に戻ってくる。

「ミカさん、準備はできてます?」

「ああ、持って行ってくれ」

「あんたも災難ねー。千束のパシリとか」

「まあ、ぼくも装備を少し取りに来たかったし、ちょうどよかったからさ?」

“それに女の子二人の方が安心できるでしょ”そう言って、ワイヤーガンと荷物を受け取る。

 

現在、依頼主の沙保里さんには千束とたきなの二人がついている。

現役のリコリスのコンビだ。よほどのことがない限り、二人で十分対処可能だろう、トビアはそう判断したうえで戻ってきた。

さすがに戻るまでの時間を考えると、徒歩では遠いため、店のバイクを借りる。

荷台に千束の荷物を括り付け、事前に打ち合わせした合流地点へと急ぐ。いくら安心できるとはいえ、何が起こるかわからない。

 

そうして、合流地点に到着するも、待ち人来ず。何かあったかと、周辺を見やるトビアが見たものは、タイヤが潰れたワゴン車と、にらみ合う二人であった。

「……、えっ、沙保里さん車の中⁉千束がついててどうなってんの⁉」

とにかく、合流を急ぐ。

 

たきなは、基本的には模範的なリコリスである。訓練所では銃撃に特に適性を示し、現場でも対象の排除・確保ともに優秀であった。しかし、リコリスに護衛という任務は、まず存在しない。任務の目標はあくまで殺害か確保することであり、誰かを守るなんてことはやってこなかったのだ。

 

その結果、

「たきな⁉なにやってんの⁉」

「あれなら彼女を囮に、下手人をあぶりだして対応した方が良いと判断したまでです。大丈夫です、彼女には当てません!」

「そういう問題じゃないでしょ‼」

たきなは、護衛任務を人質救出任務へと難易度を上げていた。

 

トビアがリコリコに戻ったのち、たきなは尾行するかのように周辺に位置どる不審なワゴン車を確認。千束が店に連絡を入れている隙を狙って、沙保里を囮にして出方をうかがうと

、案の定彼女を車内に拉致、頭にズタ袋をかぶせた。たきなはすぐさま車輌の運転席に向け発砲、ドライバーの肩に当てたのち、そのままヘッドライトとタイヤに銃弾を撃ち込み動きを奪ったところで千束に止められ、今に至る。

 

「だいたい、あなたが止めなければもう終わってます!」

「沙保里さんに当てる気⁉」

「そんなミスはしませんっ。この距離からでも射殺できます!」

「命大事だってば!」

2人の言い争いが続く。双方の主張は相いれず、平行線をたどる。

そうこうしているうちに、車内から武装した男たちが出てくる。どうやらここで自分たちを迎撃するつもりらしい。開いたドアを盾に、何事か叫んでいる。

 

「だいたい、人質に……。!」

千束がそこまで言って、気づく。ワゴン車後方に、トレンチコートを左手に抱え、肩にワイヤーガンを下げるセーターの少年を見つける。トビアだ。

彼は指を銃の形にして、こちらの近くの方向を差し示す。見ると、上空に滞空するドローンが見える。その指を少し跳ね上げたのち、男たちに指を向けるトビア。

「……ねぇ、たきな。射撃に自信があるんだって?なら、7時方向に飛んでるドローン、私の合図の合わせて撃ってくれない?サプレッサーなしで、音を出して」

「…何を、いえ、分かりました」

たきなに指示を出す。一瞬、不服そうな表情をするも、従うたきな。

破裂音とともに、音を立てて墜落していくドローン。

同時に駆け出す。

 

さあ、反撃開始だ。

 

「やあ、取引したいんだけど?」

「⁉」

言って、至近距離で撃たれる千束。しかし、彼女は特に慌てる様子もなく避け、盾にしていた開いたドアごと銃弾を浴びせる。赤い粉塵が舞い、倒れ伏す男。

一人やられた事に、男たちがにわかに騒ぎ出す。すると、男の一人が突然頭にコートを被せられ、その上からワイヤーが体に巻き付けられる。パニックになり、声を上げる男。そして、思いっきり顔を殴りつけられ動きを止める。やったのは、トビアだ。いつの間に戻ってきたのだろうか。

数十秒の間に一人になってしまった人質犯。急に現れたトビアに狙いをつけ、発砲しようとすると、背後の千束に撃たれる。痛みに銃を取りこぼし、うずくまるもそのままトビアに蹴り飛ばされる。

 

あっという間の出来事だった。流れるような連携に、洗練された手際。

たきなは、状況を忘れて見入ってしまった。

これが、東京一のリコリスに、フリーエージェントの実力。

「たきなちぁあああんんん!!!」

ズタ袋を取ってもらい、自由になった沙保里に抱き着かれて、ようやく意識が現実に戻ってくる。

2人の様子を見る。ドライバーの手当てをするトビアに、携帯に連絡を入れている千束。どうやら、男たちの処理と現場の片づけにクリーナーを呼ぶつもりのようだ。すぐそばには彼がやったのだろう、ワイヤーでまとめて縛られる男たちが転がっていた。

 

そこで、はたと気づく。手当?

「もしかして、誰も殺していない……?」

千束が撃った相手も、怪我こそあれど致命傷を負った者はいない。付着する赤い何かも、血ではなくそういう塗料みたいだ。

 

「……命大事にって、敵も何ですか…?」

思わずトビアに問いかけるたきな。

「……いつもじゃないさ。やれる時だけ」

「なんで、とどめを?刺さないんですか?」

「おれは、戦争をやってるつもりはないからな……」

“これでよし”そう言って治療を終えた男を改めて拘束するトビア。

 

なんだか、よくわからない。

この人は何を言ってるんだろう。戦争だったら殺していいのだろうか。人殺しは、人殺しなのに。

 

けれど、自分と同じことをやったのに、この人たちは誰も殺さずにやってのけたんだな。

 

沙保里を送り届けながら、たきなはただ、そう思った。

 

 

 

7.

「……いちゃついた写真なんて、ひけらかすもんじゃ無いっての……」

千束から端末を渡され、画面に映る一組のカップルをにらみつけた後、ミズキはそう吐き捨てた。

「僻むなよ…」

「僻みじゃねーしい?SNSへの無自覚な投稿による自分に降りかかる被害を一切考えない恋に浮かれた若者のインターネットリテラシーの低さに警鐘をならしただけだしいぃいい⁉」

「すっごい早口じゃん」

 

翌日、喫茶リコリコにて。

デブリーフィングと呼ぶにはあまりに緩いが、昨日の事件の顛末を説明していた。

 

「どこだ…?」

ミカが端末の画面を離したり、近づけたりと、なんとかピントをつけようと四苦八苦している。

「んーと、あ、ここ、ここ」

見かねた千束が画面を拡大し示す。

「あの日か?」

「3時間前だってさ。楠木さん、偽の情報でもつかまされたんじゃない?」

 

結局、1,000丁の武器取引は、作戦決行時にはすでに終了していたらしい。

DAがつかんだ情報は、まったくの嘘ではなかったが、取引時間に差異が生じていた。

おまけに、謀ったかのような通信障害。はっきりいって、組織の根幹システムを揺るがす事態である。

 

「クリーナー頼みやがって…。いくらすると思ってのよ、あんたら」

「DAに渡したら、殺されちゃうじゃーん。気分悪いよー」

「今度から自腹ね、あんた」

「それは違うじゃん!」

愚痴るミズキに、千束が噛みつく。

リコリコの財政を圧迫する要因の一つである。

 

「とにかくっ!DAもこいつ等追ってるんでしょ?私たちで先に見つければ、本部に凱旋できるだけの大きな手柄になると思います!どう?たきな!」

「やりますっ!」

千束の宣言に合わせて、店奥の扉が開く。そこには、青い着物に身を包み、長い黒髪をツインテールに縛ったたきながいた。

「おおお?ほっほー!かーわいいー!」

飛びつく千束、驚いて固まるたきな。

「いや、やめてあげなよ…。ほらみんな、コーヒー淹れたから飲んでよ」

そこに人数分のコーヒーをもって、厨房からトビアが出てくる。

「トビアありがとー!ね、みんなで写真撮ろうよ!全員集合!」

千束の号令で集まるリコリコの面々。中心には赤と青の着物少女、そしてすぐ後ろに黒い和装の少年。

「ぼく、真ん中でいいの?たきなさん入れたら?」

「だーめ。私の隣に置いとかないと、バランス悪いでしょ?」

どうやらこだわりがあるらしい。

 

端末をインカメラにして、写真を撮る。

満足のいくものが撮れたと、すぐさまSNSへ投稿。

「あんた、早速何してんのよ…」

「だいじょーぶ!お向かいさんにビルはないよー」

 

と、ここでトビアが声を上げる。

「そろそろお客さんが来そうだね。たきなさん、練習通りに」

「あ、はい」

 

カランコロン。

店のドアが開く。パリッとしたスーツを着こなした男性が入店する。

初めて見るお客さんだ。

 

「ほら、たきな?」

千束に促される。

 

「い、いらっしゃいませっ」

戸惑いはある。納得もいってない。

それでも、この状況にたきなは、そんなに不快感を感じていなかった

 

2022年、春。この日、喫茶リコリコに新しい仲間ができた。

 

おまけ

・その頃の本部

「司令、何を見てらっしゃるんですか?」

「クソガキどもの監視だ」

「?SNS、ですか?」

「まったく、いつまでたっても困った連中だ」

「ふふ、楽しそうな写真ですね」

「……………」

 

 

「………よかったな、たきな」

 




以下、筆者メモ。
恥ずかしい割には、書いてると結構かけちゃうんすよね…

6.
・フキちゃんの修正→「修正してやる!」もとい、たきなちゃんに頼まれたことは伏せてる。なんだかんだといい子だよね。
・わからない→この状態の人には、何言っても効果ない。自分の中で、ある程度の答えは出しましょう。誰も助けてくれないし、助けられない。
・コーヒーはコーヒー→シーブックリスペクト。それに何か意味を持たせるのは、自分次第。
・たきなのトビア評①→気遣いの上手なお兄さん。
・DA本部のトビア人気→そんなお兄さんが、女の園にいれば、ね?

5.
・疲れるたきな→とどめは保育園だった。
・長いと困る→この作品、なんでもない一言も油断できないよね。そんなつもりで書きました。
・DAの電波塔倒壊阻止偽装→正直、説明できなかったから隠したんじゃねーの?
・千束主観のあの言葉→傷つける才能あるっていわれるより、助ける才能あるって言われた方がうれしいよね。
・シンパシー→親近感+1
・自販機のアタリ→社会人になってから当たったけど、そんな嬉しくもないっスヨ?
・ロ〇6→あの時期になると銀行前に行列作ってんの、どうにかなんない?
・たきなに懐かれるトビア→わんこ。
・たきなのトビア評②→欲しいときに欲しい言葉をくれた人。
・千束の微妙な間→もてるの早すぎない?トビア…。
・かわいい嫉妬→前回の続きなんですが、やっぱり分かってあげられるだけで、分かってるかどうかは別問題。
・阿部さん→別にやらない(古のネタ)

6.
・ワイヤーガン→アニメで見て、割とごつくてびっくり。デスストランディングみたいなやつかと思ってた。
・現役リコリス2人の護衛→なお、女子高生の見た目で油断させる、というコンセプトの都合上、実は狙う側としてはチャンスにしか見えなかった模様。ぶっちゃけトビア残した方が守れた。男一人でもいれば、一気に警戒するものです。
・たきな暴走→ほぼアニメと同じ流れだが、実は手柄は一切考えておらず、沙保里さんの危険を確実に排除しようとしてたというイメージ。だって、最初っから射殺する気まんまんだったからね、うちの子。
・任務難易度変更→そもそも護衛は襲われても逃げればいいが、救出は確実にどこかで相手の排除が選択肢に入り込む。やること自体、ガラッと変わっちゃうよね、というお話。
・トビア発見→目ぇ、いいからね。
・トビアアクション!→むっず!!!MSよりも難しいですね、コレ!あまりトビア君に射撃がうまいイメージがわかず、そういえばヨナさんに拳法習ってたなぁと思い、こういう形にしました。でも、この海賊、ザビーネから撃たれたときに避けてんだよなぁ。
・トレンチコート→いきなり視界と口をふさぐのはやめましょう。過呼吸に陥り、最悪の場合ショック死に至ります。なお、こいつら沙保里さんに対して同じことやってた模様。
・トビアのセリフ→彼の信条のようなもの。ひいては、クロスボーン・ガンダム全体のテーマ。いくら戦争だと己を正当化していっても、結局は独りよがり。
・たきなのトビア評③→なんだか不思議なことを言う人。意外と強くてびっくり。
・自分と違う→アニメでもこの子近いこと思ってたんじゃないかな。

7.
・ミズキの僻み→でも、言ってること自体はそんなに間違ってない。
・ミカの目→でもお金くらいは数えられるようになった。
・たきなのリコリコ制服姿→かわいがりたくなるよね。
・集合写真→べったべたの展開だけど、めっちゃ好き
・新しいお客さん→???「来たぜッ、ジョースターさんッッ!!!」

・よかったな→なお、リコリコに流した張本人の模様。

今回は分割ではなく、わざと分けて書いたんですですケド、なんか労力が二倍になったような……。
そして結局伸びる文章量、改善できるのか?私…。

さて、今回も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

次回の更新は例によって未定です。

それでは、またお会いするその日まで。

感想、評価お待ちしております。


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#7海賊と一緒①

なんか次話の投稿が遅れそうな気がしたので、初投稿です。

今回は短編集っぽくしました。

そして、
なんと、
今回は大幅に短くまとめられました!!!!


そこ、内容薄いって言っちゃだめよ?
私自身そう思ってんだから。

少しでもお楽しみいただけたら、幸いです。
それではどうぞ。



やっぱ戻ってくるんだよなぁ、スーパードライに…。


その1.笑顔と練習

 

「たきなに足りないもの…それは、笑顔!」

「あ、トビアさん。またコーヒーの淹れ方のご指南、お願いします」

「ちょちょちょちょおぉーい?無視はひどくなーい⁉」

「準備するから、それまで千束の相手をお願いしてもいいかな?たきなさん」

「トビアー⁉」

 

たきなが喫茶リコリコの所属になってしばらく。最初こそ、飲食店での仕事ということに戸惑いが隠せなかったが、だんだんと慣れてきて、仕事をそつなくこなせるようになった頃。

たきなは仕事終わりに、千束によって奥の座敷に呼び出されていた。

珍しく真剣な表情で“自分に足りないものは、なにか”と問いかけられ、これはファーストリコリスらしく何かアドバイスをくれるのでは、と期待するたきな。結果はこれだったのだが。

 

「……それで、笑顔が、なんですか…」

「いや、たきなかわいいんだから、もっと笑った方がいいじゃんか~」

「なるほど、スマハラですね」

「スマっ!…んんスマハラ?なんだその単語?」

スマイルハラスメント。朝の挨拶で笑顔を強要される等のハラスメントである。

「まあ、DAじゃ笑顔なんて求められなかったかもしれないけど、リコリコではそうもいきませ~ん」

曰く、リコリコの任務で使う装備は、この制服。そして、武器は

「笑顔だよぉ、キミィ?」

らしい。

「別にいつも不機嫌な顔をして接客しているわけじゃないですし、仕事もできてると思いますけど…」

「うーん、まあ、そうなんだけどさぁー」

「ほかに何か理由でもあるんですか」

「見たいじゃん!たきなの笑顔!」

つまりは、

「わがままですか…」

「悪いかー?」

「質が」

「言うようになったなー⁉」

 

「そんなに拒否ることないじゃんよ~」

千束が少しすねたように口をすぼめる。

「別に拒んでるわけでは……」

表情の変化は少ないが、困ったように言うたきな。

「楽しければ、笑いますよ?」

「おっ!言ったなぁ?リコリコにいれば、話題に事欠かないよぉ~?」

座敷から立ち上がり、胸を張る千束。

「映画に漫画、この千束さんのレパートリー舐めるなよ!」

自信たっぷりに言う千束。はたして、たきなの反応は

「えっ…と、……はい…?」

「こーまーるーなー!」

はっきりした困り顔だった。

 

 

「準備できたよ、たきなさん。千束の相手ありがとうね?」

座敷にトビアがやってきて、たきなを呼ぶ。さっき話していたコーヒーの練習の準備が整ったのだろう。

「トビア?そろそろ泣くぞ?おん?」

「いえ、いい時間つぶしになりました」

「たきなぁ⁉」

確実にトビアの影響が出てきている。なんとかたきなを自分色に染め直さなければ……!

「それじゃあ、お疲れ様です」

そう言って、席を立つたきな。

「お疲れ~。私の言ったこと忘れるなよ~」

「………考えておきます」

「おっ?」

最後の言葉に少し驚く。

 

着替えも終わり、そろそろ帰宅という時間。

厨房にはまだトビアとたきなが残っているようだ。

こっそり二人の練習を覗くと、

「……なんだ、やっぱりかわいいじゃんか」

そこには、控えめに笑う黒髪の美少女がいたそうな。

 

 

それはそれとして、なんとなく腹が立ったので、今日の夜はトビアの家に突撃することが決定した千束だった。

 

「トビアさん、千束さんの対応の仕方なのですが」

「うーん、やっぱり構われすぎて、大変かい?」

「いえ、その、構ってくるのはいいんです」

「そうなの?」

「ただ、どう返していいのかがわからなくって…」

「そうだなぁ、おれがしているようにやってみたら?」

「…わかりました。少し当たりを強くしてみますね」

「⁉」

 

 

その2.海賊と常連

 

喫茶リコリコは、集客という面でいうと、繁盛店とはとても言い難い。店を構えるのは住宅街のそばで、メニューもコーヒーに和菓子となかなかに個性的。しかし、味がいいコーヒーにそれによく合う和菓子。落ち着いた雰囲気なのに、渋いマスターをはじめとする個性的すぎる店員。この、いい意味でまぜっこぜなリコリコにある程度固定客がつき、しかもなかなかに濃ゆい面子がそろうのは必然と言えた。

 

「トビア!今日こそは!しっっっかりと取材させてもらうわよっ!」

「伊藤さん?注文は?」

「ブレンドに、練羊羹!」

本日トビア絡んできた常連さんは、漫画家の伊藤。彼女は普段からネタに困ったり締め切りが近づくと、取材と癒しを求めてリコリコにやってくる。

今回は取材目的で来たようだ。

 

「前から言ってるけど、ぼく、ネタに出来るほどの人生送ってないですよ?」

「まーたまた~。どっからどう見ても漫画の主人公じゃんか~。なんでもいいから聞かせてよ~」

注文されたものを持ってきたトビアは、当たり前のように伊藤の席に座らされていた。

どうやら、漫画の登場人物のモデルにされているらしく、取材の頻度が最近増えている。

なお、その作品の主人公のモデルは千束であり、トビア似の彼はお助けキャラのような立ち位置とのこと。

「大体、あなたみたいな主人公主人公してるような子、滅多にお目にかかれないんだから!ちょっとくらいサービスしてくれてもいいじゃない!」

「伊藤さん、その発言ホントにやめて?そういう店じゃないから⁉」

どうも件のキャラに人気が出てきたらしく、その関係でエピソードを一本どうかと、編集部より打診されたということのようだ。

「そういえば、かわいい子入ったじゃない!たきなちゃんだっけ?どうなのよ、彼女」

「気になるなら、相手してやってくださいよ。あの子もまだここの空気感に慣れてないから、伊藤さんたちから話してくれれば、緊張もほぐれると思うんですよ」

話がたきなの事へと移る。今までなかなか新しく店員を入れなかったリコリコに、待望の新人、しかも千束とは別ベクトルの美少女だ。話題にならないわけがない。

「……ひらめいた。黒髪のライバル出して、トビアのキャラ取り合ってもらおう!」

「それの確認取るためにも、たきなさんに話しかけてあげて?」

さりげなくたきなを売るトビア。

でも、これが何かのきっかけになってくれればと、そんな思いを込めた。

 

なお、許可は取れずあえなく没となったそうな。

 

「千束さん、あのお客さんたちなんですが……」

「お、どうしたのたきな?…なんか疲れてる?」

「なんというか、注文取りに行くと、ものすごく話しかけられるというか…」

「あー…、みんな、たきなと仲良くなりたいんだよ。でも、疲れちゃうからほどほどに切り上げて」

「そうですね、がんばって切り上げられるように、努力します…」

「…………」

「トビア?何か言うことは?」

「いや、その、良かれと思って、…さ?」

「トビア?」

「フォロー行ってきますっ!」

 

 

おまけ

・いつかのDAその2

(彼のようなプロになる…その為にも、まずは模倣。特にあの戦いから…)

「おい、演習場の使用許可下りたぞ」

「ありがとうございます。ところで、武装の指定追加ってできますか?」

「まあ、RPGみたいなものじゃなければ、ある程度融通効くけど…」

「なら、チェーンと大剣を」

「ん?」

「チェーンと大剣を」

「んん⁉」

 




以下メモ書き

その1→スピンオフコミック作品リコレクトから
・コーヒーの淹れ方→なんだかんだハンドドリップっておいしいよね。
・スマハラ→マジであります。なんでもハラスメントの時代。でも、中にはシャレにならないものもあるので、どうぞお気を付けください。
・困るたきな→そりゃ、職場の先輩が急にどや顔かましてきたら、ね?
・家凸→なお、そのまま一泊。トビアの目は死んだ。
・当たり強め→はたから見たら、仲良し

その2
・伊藤さん→常連さんの中でも一等キャラが立ってる。
・トビア似のキャラ→金髪と顔の傷がトレードマーク。最近、腕をロボにする案が上がってきたそうな。
・たきなを売るトビア→「仲良くしてほしいし、ちょうどいいかなって」
・くたくたたきな→小さな親切、余計なお世話。
・「トビア?」→当たりが強いのはお互いさま。

おまけ→井ノ上たきなちゃん15さい。
・チェーンと大剣→「たきなのやつ、モン〇ンでも始めたのか……?」


今までが長すぎて、書いてて不安になってきた今日この頃。

それはそれとして、執筆時間が取りづらくなってきました。
これ、12月に入ったらどうなるんだ…?
年末進行、シャレにならないが?
もしかして私、死ぬ?

ここまで読んでいただいて、誠にありがとうございます。

やはり、次回の投稿は未定です。

それでは、またお会いする日まで。


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#8海賊とリスの着ぐるみ①

何とか書けましたので初投稿です!

そして例によって長くなったので分割です!
いやはや、ホント文章書くって難しい…
それでもなんだかんだと読んで下さる皆様には、頭が上がりません。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それではどうぞ。





よーし久々にニュートンのむぞぉ


1.

 

まだ日が昇り切らないうち、

薄暗い倉庫の中で、鋼の巨人の目に翠の光が灯る。

 

その場でゆっくりと腕を回す。

最初は右、次に左。

肘、手首、五指、そして手を合わせる。

その次は両脚。

そうして、身体を隅々まで確認するように動かす。

 

「No.126、チェック開始……クリア。司令部、確認を」

〈こちら司令部、モニター……問題なし。これで今回の定期動作試験は完了です。お疲れさまでした、スカルハート〉

 

トビアは早朝からX1の動作チェックを執り行っていた。このチェックは定期的に行われ、X1の挙動に問題がないかDA司令部監修のもとモニタする。

最も、

「それで、どう?どういう操作の上で、どう動かしたか分ったかい?」

〈…分かってて聞いてますよね?ミスター〉

トビアの操縦をモニタすることで、なんとかほかの人間でもX1を操縦するよう、探ることが本命だ。

 

〈大体、何ですかあの複雑な操縦系統……。10年近く見てきてるのに、さっぱりわからない〉

オペレーターから愚痴がこぼれる。片方のパネルの数だけでもめまいがするのに、それが左右に加え、両手側の操縦桿にペダル。それらを器用に使い、微妙な操作の違いで様々な動作を可能としている。

はっきり言って、これらを完璧に扱うトビアが異常だ。

そもそも、ざっと150年以上先の技術の塊なのだ。そう簡単にわかるものでもない。

「ま、おれとしては都合がいいけどね?早々に切られることもないだろうし」

〈今のDAでそれをやったら、いったいどれだけの離反者が出ることやら……〉

疲れたようにオペレーターがこぼす。

〈また、暇を見つけて本部にいらしてください。寂しがってる子も多いんですよ?〉

「えー、この前にライセンスの更新終わってるからなぁ。千束の付き添いぐらいしか、用事なさそうなんだけど…」

“なんでぼくそんなに懐かれてるの…?”と首をかしげるトビアだった。

 

司令室で深くため息をつくオペレーター。

 

はっきり言って、彼の人気は想像以上だ。

同年代の異性と触れ合ったことがないリコリスにとって、話しやすい・相談に乗ってくれる・カッコいいの三拍子そろった、THE優良物件。

いい兄貴分と慕うものは多く、何人か思いを寄せているのも聞く。

かくいう、スカルハートのオペレーターも人気職だ。通常のオペレーター業よりも特殊な事例が多すぎるせいで、中々交代できないが、同僚からの羨ましそうな顔は毎回向けられている。

実際、彼との会話はとても好ましく、任務の最中も映画のようなやり取りができて楽しい。

 

「スカルハート、上がっていいぞ」

〈楠木さん?いえ、了解しました。スカルハート任務完了。通常任務に復帰します〉

そこまで考えて、司令が彼に声をかけるところではっとする。やってしまった。

「まったく、たるんでるな。以後気をつけろ」

「は、はい!申し訳ありませんっ!」

恥ずかしさのあまり、声が上ずるオペレーター。呆れる楠木に苦笑いの同僚たち。

〈……今度、差し入れ持ってくから、元気出して?〉

「スカルハート⁉あ、ありがとうございます!」

こういう所だぞ。

司令室が一致団結した瞬間だった。

 

倉庫を後にするトビア。

日は完全に昇っており、朝日が目に染みる。

 

「さてと、今日はこのまま依頼かぁ」

あくびを噛み殺し、軽く伸びをしながら本日の依頼内容を確認する。

国内どころか世界最強と謳われるハッカー、ウォールナットからの国外逃亡するまでの護衛と逃走経路の確保依頼。

確認できるだけで、10人近くの武装集団に追われているらしく、かなり切羽詰まった状況のようだ。現にその報酬は前払い金の時点で相場の3倍を優に超え、ミズキの顔が大分やばいことになっていた。

トビアの役割としては、千束とたきなの3人体制で護衛、その後別に用意した移動手段で空港まで送ることになっている。

 

「しっかし、普通に考えたら“一度死んだことにしてから”逃げる方が、いろいろと楽なんだけどなぁ。微妙に詰めが甘いけど、大丈夫かな?」

 

トビアが自分の経験談から、そんなことをつぶやいた。

 

 

 

2.

 

「おお、トビア君。お邪魔してるよ」

「あれ?ヨシさん、今日はずいぶん早いお越しで。何かありました?」

「いいや、偶には早く来てみようかと思ってね。看板娘にも会えたし、よかったよ」

 

トビアがリコリコに着くと、すでに来客がいた。

吉松シンジ、たきなが仲間に加わった日の初めてのお客さんだ。

パリッとした身なりのいいスーツに、整髪料でかっちり決めた頭髪。

そして、左のフラワーホールにつけたフクロウのバッジ。

店としては、あまり来ないタイプのお客さんだ。

 

「あれ、ミカさんは?てっきり表に出てくると思ったのに」

「ああ、厨房に引っ込んでいったよ。注文したからね」

「あ、それなら代わってきますね。ミカさーん、遅れましたー」

さらに、ミカとも旧知の仲だという。なんだか、変わった雰囲気が流れるので恐らくそういう仲だったのだろう。

トビアは交代しようと厨房に足を運ぶ。

中ではミカがコーヒーと軽い食事の用意をしている。

「後、引き継ぎますよ。遠慮せず話してきてください。時間もまだ少し余裕があるでしょ?」

「トビア。…気を遣わせたな、すまない」

そう言ってカウンターへ向かうミカ。

そうして、注文のものを用意し終え、吉松の下へ出したのち裏へ引っ込む。

 

「あ、おはようございます。トビアさん」

「おはよう、たきなさん。ごめん、遅れた」

準備を終え、時間まで待機しようと奥の座敷へと向かうと、ちょうど装備の点検を終えたたきなと鉢合わせる。あの左頬の絆創膏も取れており、傷も残らなかったようだ。

「いえ、店長から別の任務があると伺っていましたので、問題ありません」

「そっか…。…ん、あれ?そういえば千束は?」

言って、気づく。あのかしまし娘が見当たらない。

「それがまだ来ていないようでして…」

「まーた徹夜で映画マラソンやったな、あいつ…」

呆れるようにため息をつくトビア。

「…トビアさんは、千束さんと長いんですか?」

「え?」

「いえ、なんだかやけに具体的だなと、思いまして」

「ああ、うん。10年近く一緒にいるからね?もう家族みたいなものだよ」

「家族…」

そう言って、少し考えこむたきな。

「ま、相棒のことだからね。たきなさんもその内分かるようになるよ」

「そうでしょうか……」

たきながリコリコの所属になってはや1か月。

彼女は、未だ千束との距離をつかめずにいるようだ。

「大丈夫、千束は単純だからね?」

トビアはそう微笑む。

なんだかんだと付き合いもいいし、相性自体は悪くない二人だ。

心配せずとも、もっと仲良くなれるだろう。

 

「お、遅れ、ましたぁ…!千束、ただいま到着ですぅ……!あれ、ヨシさんじゃん!」

と、ここでにぎやかな声が聞こえてきた。

時計を確認すると、依頼の時間までちょうどいい頃だ。

「よし、おれたちの相棒も来たことだし、出発と行こうか」

「!はい!」

たきなの元気な声を聴き、いつものコートを羽織り席を立つ。

まずは、寝坊助と合流だ。

 

「————逃走手順は以上です。最後に、羽田のゲートを潜ったところでミズキさんと合、流……」

特急列車の車内、向かい合わせの席に座ったトビア達は、たきなから簡易的なブリーフィングを受けていた。

事前にある程度状況を聞いていたトビアはともかく、千束は今回遅刻してきたため、情報のすり合わせを兼ねての事だったが、

「…千束さん、何を食べてるんですか……?」

「駅弁」

肝心の千束が駅弁をかっ込みながら聞いていた。

 

「んー……、依頼主って、凄腕ハッカーなんでしょ?どんな人なんだろ」

「うん、一度その手を止めようか?せっかく説明してくれてるのに、マジでたきなさんかわいそうだから」

さすがにトビアからツッコミが入り、“ゴメンゴメン”と言いながら一度箸をおく千束。

「やっぱり、メガネで痩せぎすな小柄な男かな?カタカタカタ、ッタァーン!」

「映画の見過ぎです」

おどける千束に呆れたように言うたきな。

 

しかし、何か食べておかないとこれからの任務に支障が出ると切り替え、乗車前に買っておいたものを出す。

「…お二人さん?何それ?」

「「ウィダー〇ンゼリー」」

「ちょいちょーい?今の状況分かってるの、二人とも~?」

「?依頼人に会う前に腹ごしらえするつもりだけど?」

どうやらトビアとお揃いだったようだ。

2人してゼリーを飲み干し、“何言ってるんだろ”とそろって首をかしげる。

「それがお昼⁉せっかくの特急だよ!駅弁食べようよ~!ほら、ちょっと食べなって!」

「いや、結構です……あの、卵ぐいぐいするの、やめっ…食べますからっ!」

千束の圧が強く、結局負けるたきな。

悔しいことに、なかなかおいしい。

「はい!次はトビア!それともお肉の方がいい?」

「え、いやぼくも…いや肉押し付けないでわかったわかったすっごいタレでべたべた⁉」

見るとトビアも被害を受けていた。

 

これから任務だというのに、何をやっているんだろうかこの人たちは。

はたから見ると、どうにもいちゃついてるようにしか見えない。

「これが夫婦漫才ですか……」

「え!た、たきな、そう見える…?」

「なんでうれしそうなんですか」

 

なお、この後すぐに降車駅に着いたため、千束は地獄を見ることになった。

 

 

 

3.

「さてと、ここで車を拾って依頼人と合流、だけど…」

 

あれから少しして、トビア達はミカから聞いていた駐車場に向かっていた。なんでも、そこに車両を用意しているという話だったが

「おお!スーパーカーじゃん!すっげぇ!ねえ、私運転していい?いい?いい⁉」

「…目立ちすぎでは?」

「そもそも千束の反応にドン引きだよ、ぼく」

駐車場を見ると、存在を主張する真っ赤なスポーツカーが鎮座していた。

速い車ではある。だがいかんせん、目立ちすぎる。

興奮した千束は金網を掴み、がっしゃんがっしゃんさせながら騒いでいる。

 

何とかなだめようとしていると、不意に反対の車道から乗用車が生垣を飛び越えこちら側の車道に飛び込んできた。

あまりのことに一同が驚いていると、その車が前までやってくる。

ドライバーを見ると、なぜか着ぐるみだ。何だこの状況。

『ウォール!』

すると、ボイスチェンジャー越しの声が響いた。依頼人と決めた合言葉だ。

「ナット!」

すかさずたきなが返す。

 

『早く乗れ、追手がすぐそこまで来てる』

「……えっ。今のが合言葉?ダサっ!」

「言ってないで早く乗りましょう。トビアさんも!」

「あ、う、うん」

慌てて三人が後ろの座席に乗り込む。全員そこまで背が高いわけではないので、スペースにも余裕がある。

「あれっ、待って!あのスーパーカーは⁉」

「諦めてください。そもそもあんな目立つもの使えませんよ」

「えええー……」

千束の未練がましそうな声が車内に響く。

 

ふと、ウォールナットを見やるトビア。

(知ってる人の雰囲気がする…?)

何だか小骨がのどに引っかかったかのような違和感を残し、車が発進する。

ここに、依頼人が運転し護衛が後部座席に座り込む、奇妙なカーチェイスが始まった。

 

『予定と違ってすまない、ウォールナットだ』

「はーい千束でーす。隣からトビア、たきなでーす……。スーパーカー…」

「引きずりすぎじゃないですか?」

車内で簡潔に自己紹介を済ます千束。見るからにテンション駄々下がりである。

たきなにたしなめられ、一先ず気を取り直す。

 

そこで、先ほどから気になったことを尋ねる。

「なんというか、イメージしていたハッカーさんと大分違いますね~」

『底意地の悪い眼鏡小僧とでも?それは映画の見過ぎだね』

いや、着ぐるみも違うだろ。思わずそう突っ込む千束。

『なに、顔を隠した方が長生きできるってだけさ。JKの殺し屋の方がよっぽど異常さ。

コートの君も、学生ぐらいに見えるが、リコリスなのかい?』

話がトビアに向けられる。

「いえ、ぼくは、まあ協力者ってやつでして。この子たちがなかなか危なっかしいもんだから、保護者みたいなものかな?」

「ほほう、トビアさんや。君がそれを言うかい?」

「何さそのしゃべり方…。えっ、何その顔。なんで呆れてるの⁉」

『…仲がいいんだな。ますます異常に見えてきたよ、リコリス』

車内の雰囲気が少し緩まる。たきなは“またやってるよ”と言わんばかりだったが。

「まあ、私たちが制服着ているのだって、一種の擬態だしね。ほら、こんなの着ている女の子が、まさか銃を撃ってくるとは思わないでしょ?」

『なるほど、都会の迷彩服だったか。理にはかなっているな』

 

すると、今度はたきなから質問が上がる。

「ところで、荷物はそのスーツケース一つですか?」

『ああ、なるべく荷物は少ない方がいいだろう。それだけに、このケースにはボクの全てが詰まっている。くれぐれも丁重に扱ってくれ』

そう言って、助手席にシートベルトで固定された黄色いスーツケースに、少し視線を向ける着ぐるみ。

 

おや、と思う。着ぐるみの顔ごと向けるとは、やけに心配そうな仕草だ。

確かに自分の全てというからには大事だろうが、それにしてはまるで人に向けたかのような…。

 

「あっ」

隣のトビアから声が漏れた。

「トビア?」

「あー、うん、…そうだね、あとで話すよ。今ここでする話じゃない」

『どうした、何か違和感があるなら言ってほしいんだが』

「いや、…その着ぐるみがリスってことに気づいたことですよ」

咄嗟にごまかすトビア。

『いや、今更かい…?』

しかも正解だったらしい。千束は犬だと思っていた。

「えっ⁉」

そして、一番驚くたきな。いったいなんだと思ったのだろう。

それにしても、うまく後回しにされてしまった。何としても聞きださなければ。

 

と、ここで車の挙動がおかしくなる。高速に乗るはずが、わき道をそれて直進する。

心なしかスピードも上がり、カーナビにはデフォルメされた四角いロボットの顔が映し出された。

『……こちらの操作を受け付けない。どうやらハッキングされたようだ』

「「「え⁉」」」

 

トビアから聞き出すのは、まだまだ先になりそうだ。

 




以下筆者メモ

1.
・X1の定期動作試験→久々の登場。よく考えたらリコリコって、MSみたいなデカブツって活躍し辛いと思ったそこのアナタ、大正解。
・操作パネル→何をどうしたらあんなアクロバティックな動きさせられんだろ、MS全般。
・懐かれるトビア→見た目同年代で、中身はしっかり大人。そら群がる。
・オペレーターさん→中々交代要員が育たない人。でも役得とか思ってそう。
・そういうとこだぞ→なんでもない気づかいも、される方はうれしくなるものです。
・大分やばいミズキの顔→目が¥になり、拳を天に突き上げていた。みんなドン引き。
・死んだ方が…→実はトビア君の場合は、「いつの間にか死んだことになっている”だろう”」という想像でしかなかったりする。この少年、自分の戸籍碌に確認せずに海賊になってるぞ。”

2.
・ヨシさん→正直、上田耀司さんってあんな静かな演技できるんだ、とびっくりした。
・たきなのトビア評④→千束ちゃんと仲良すぎでは?
・映画マラソン→スター〇ーズの時は喧嘩になった。
・駅弁→海鮮系を頼みがち。(ただの好み)
・ハッカー観→私の場合はMGSシリーズのオタコンで固定されてしまってます。
・ゼリー→意外とあれって栄養そこまでなかったりする。
・卵と肉→ほっぺたべったべた。
・夫婦漫才→じゃれあい一つも尊き日々の思い出。
・地獄→駅弁って基本的にご飯ぎっちぎちだから、量多いよね。

3.
・スーパーカー→カッコいいんだけど、運転してるときはその外観が自分で見れるわけじゃないなと、最近気づいた。
・ダサすぎる合言葉→でも、シンプルな方が割と実用的。覚えやすいし。
・知人の雰囲気→NT的なアレ。でも、さすがに着ぐるみはどうかと思う。
・JKの殺し屋→字面で見てもドン引き。
・保護者→年齢期的にはそう。
・心配そうな仕草→着ぐるみの中から少し見ればいいのに、顔ごと向けてれば、ね?
・気づくトビア→なんだったら小柄そうだな、というとこまで気づくトビア君。
・驚くたきな→ぶっちゃけ熊には見えない。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
分割分は近日投稿予定です。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想、評価、いただけると幸いです。


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#9海賊とリスの着ぐるみ②

分割分、初投稿いっきまーす!(ア〇ロ)

毎回生身の戦闘が難しい、
正直今回のトビア君は強くし過ぎたかも…

でも二次創作だから、ご勘弁を!

そういえば、今週末はオタクにとっては気になるものがたくさん発売されましたね。
ブラックさんとデッカーのフィギュアーツ、エアリアル君ちゃんのロボ魂、ポケモン新作、そしてMGEXストフリ…

私は、ポケモンだけ何とか買えました。
おのれ転売ヤー!ゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!!!

それではどうぞ。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

ニュートン止まらぬぇ…グビグビ


4.

「さて、どうしたものかな…?」

『とりあえずさっきみたいに盾にするのは無しだからな⁉絶対だからな⁉』

「あの時はああするしか…いえ、すみませんでした…」

「まあまあ、たきなも悪気がなかったわけだし、ケースも無事だったんだから、ね?」

 

現在、トビア一行は近くの廃墟に避難していた。

先ほどのハッキングで、海に転落しそうになった一行。

中継器となっていたドローンを撃ち落としたはいいものの、結局車は破棄。白いワゴン車2台とアサルトライフルを装備したサングラスの集団が現れ、急ぎ近くの潰れたスーパーへと身を隠すこととなっていた。

なお、その際にスーパーに入ってきた追手から銃撃を受け、スーツケースを任されていたたきなが咄嗟に盾にしてしまい、現在ウォールナットから猛抗議を受けていた。

 

「千束、何人入ってきてるか分かる?」

「えー…と、ざっと8人、いやさっき撃った2人追加で10人だね。チーム2つに分けたから、挟み撃ちする気かも」。

事前に知らされていた人数と一致する。ここで勝負をかけるつもりかと、トビア達は身構える。

「結構な数の戦力、投入してきたな。…少しでも削るしかないかぁ」

そう言って、片耳にインカムを入れながら銃を取り出すトビア。

「トビアさん、銃も使うんですね…」

少し驚くたきな。そういえば、前回の仕事の時は、コートとワイヤーガンだけだったなと思いだす。

「あまり得意じゃないんだけどね。この弾、結構当たりづらいし」

そう言って、マガジンから非殺傷弾を取り出す。

「…やっぱり、命大事に、なんですね」

「ま、心配しないでよ。それよりもたきなさん、護衛頼んだよ?」

不満そうなたきなをいさめ、千束にも声をかける。

「千束!通路側の方は任せた!頼りにしてるぜ相棒!」

「!任せんしゃい!行ってらっしゃい、相棒!」

言って、店舗側へと駆け出す。こちら側には5人。あまり時間はかけられない。

 

 

まさか正面から出てくるとは思わなかったのか、一瞬動きを止める男たち。

その隙を見逃さず、一番近い2人の頭部めがけて撃つ。

倒れる二人を尻目に、3人目へと駆ける。ライフルから弾丸が発射される前に、銃を掴み、安全装置をかけたのちそのまま奪い取る。丸腰になったところに非殺傷弾を叩き込み、昏倒させる。これで3人、と息つく暇もなく、残りの男たちが銃撃を浴びせる。

たまらず物陰に隠れる、そう見せかけてコートを盾に向かっていくトビア。

しめたと撃ち続ける男たちだが、コートに穴一つ空けることができない。

 

「防弾か⁉あんな薄いものが⁉」

その内に懐に入り込まれ、腹に一撃。体を折り曲げたところに銃弾を見舞う。

最後の1人がライフルを捨て、サイドアームの拳銃を向ける。

 

弾丸が発射される。

 

トビアはそれを、()()()()()()()

 

「は?」

男は呆ける間もなく、顔面に拳を叩き込まれ意識を落とした。

 

 

「ふう、ふう、ふう。やっぱり、千束のようにはいかないなぁ…」

 

何とか5人の男たちの制圧を完了させ、一息つくトビア。疲れによるものではなく心労によるものだが、息が少し荒い。

「おっと、いけない。今日はワイヤー持ってきてないから、これで指縛っちゃわないと」

そう言って、結束バンドを取り出すと、倒れ伏す男たちの親指同士を縛る。

「くっ…化け物め…」

拳を受けた男が目を覚ます。

顔の中心めがけて叩き込んだため、鼻血か止まらない。

「少し待ってろ、詰め物くらいはしてやる」

「どういうつもりだ…?なぜ俺たちを殺さない…?」

応急手当てをするトビアを訝しげに見る男。

「……あんたたちを殺して、何かいいことあるのかい?」

「……」

それっきり、黙る男。

 

「…これでよし。お仲間も別に死んじゃいないから、安心しなよ。おれたちはさっさと退散するからさ」

そう言って、千束たちと合流するために裏口の方へ向かうトビア。

「待てっ!そっちはドローンがいる!待ち伏せされてるぞっ!」

男から声がかかる。

「!二人とも!」

インカムに手を当て、指示をだそうとする。

 

直後、銃声。

フルオートで発射された、弾丸の雨が降り注ぐ音だ。

 

〈…トビアさん、失敗です、護衛対象は死亡しました…〉

インカムからたきなの意気消沈した声が聞こえる。

「…二人とも、怪我はないね?」

〈うん、でも……〉

「千束、気持ちは分かるけど、切り替えて。ミカさん?」

〈状況は把握した。これから手配した緊急車両が到着する。遺体と荷物を回収し、すぐに離脱してくれ〉

「了解。千束、合流するから少し待ってて」

〈うん…、早く、来てね〉

 

通信終了。すぐに合流地点へと向かう。

「……すまなかったな」

男から謝罪の言葉が漏れる。

「いいさ、仕事だし。…でも、そうだな。あんたみたいな奴なら、今度は一緒に仕事したいね?敵じゃなくて、味方として、さ」

言ってその場を離れる。

 

彼のように人に謝れる人間も、殺し屋として雇われる。

それが、ひた隠しにされるこの国の現実だ。

そのことが何だか、もの悲しい。

 

コートを回収したトビアは、後ろを振り返らずに走った。

 

トビア達3人は、救急車の中で揺られていた。

眼前には、着ぐるみを着こんだウォールナットの遺体。

さっきから誰もしゃべらない。

千束は悲し気に遺体を見つめ、トビアは目をつむりじっとしている。

 

「すみません、私が目を離していなければ…」

ぽつりとこぼすたきな。

千束が残りの男たちを相手に大立ち回りを演じ、無事制圧した後。彼女が負傷者の応急手当を施している最中、警戒を厳にしているたきなをよそに、ウォールナットが裏口から外へと出てしまったのだ。

結果、待ち伏せに遭い狙撃された。

 

「たきなのせいじゃない」

千束はそう言ってくれるが、視線を遺体から外さない。

誰も責めてくれないのがつらかった。

 

「そろそろ、いいんじゃないの?趣味悪いぞ?」

ふと、トビアがそんな言葉を発する。

いったい何を、と思う間もなくむくりと起き上がる着ぐるみ。

「え、ええええ⁉」

驚く千束。かくいう、たきなもさっきから声も上げられず目を丸くしている。

そうしているうちに、着ぐるみの頭が勢い良く外れる。

そこから顔を出したのは、

「ふううう~、トビアぁ、あんたもうちょい空気読めないのぉ~?」

汗だくのミズキだった。

 

「な!え、なん、で、ええええええ⁉」

「これ…え、トビアさん!いったいどういうことですか⁉」

混乱する2人を尻目に、“あっつ~。ビールよこせ~”と要求するミズキ。

すると、運転席の方から缶ビールが投げ込まれる。

キャッチしてプルタブを開き、豪快に飲み干す彼女。

いったい自分たちは何を見ているのだろうか。

 

「なんでミズキが、ええええ⁉」

「落ち着け、千束」

「あれ、先生⁉何がどうなってるの⁉」

運転席からミカの声がして、ますます混乱が加速する。

「そもそもこの着ぐるみ防弾よ~。血糊も派手に仕込んだし、かなり重かったのよ」

「ミズキもそんないっぱい情報たたきつけないで⁉」

 

そこでふと、たきなが肝心なことを思い出す。

「あ、あの、じゃあウォールナットさん本人はどこに?」

「あ、そういえば!」

「たぶんここじゃないかな?」

そう言って、前の座席に置かれるスーツケースを小突くトビア。

すると、バガン、とこちらも勢いよく開く。

「おお、よく分かったな。さすがだな、海賊」

「いや、知ってる子に密航が得意技のがいたし、慣れっこというか。…ん、海賊?」

「気にしないでくれ。ボクの印象だ」

中からVRゴーグルをつけた黄色い髪の小さな少女が出てきた。

「ん、あれ、暗いな…あ、ゴーグルしたままだった…。改めて、ボクがウォールナットだ。」

 

つまりは、

「もともと、わざと撃たれる作戦だったんですね」

「ああ、追手から逃げきるには死んだと思わせること。いなくなってしまえば、それ以上は探しようがないからな。ボクとしても都合がよかった」

「都合?」

「いや、市ヶ谷にも目をつけられてな。どっちにしろ、何らかの方法で死を偽装する必要があったんだ」

そこまで言って“彼のアイデアだぞ”とミカに顔を向ける少女。

「3人とも、よく想定外の事態に対処してくれた。見事だったぞ」

「ちょ、ちょっと待って!聞きたいこと、まだあるけど!つまりは、最初っから予定通りで、そ、その、誰も……死んでない…ってこと…?」

千束がおそるおそる確認する。

 

「そうよぉ?」

「は、はぁあああ~…、良かったぁ~…みんな無事だったんだぁ……!」

ミズキが肯定し、脱力しながら安心したかのような声を上げる千束。

 

“金払い、いいから命かけちゃったわぁ~”とミズキがおどけ、千束が感極まってウォールナットに抱き着く。

車内の空気が緩んできた中、トビアが静かに口を開いた。

 

「ま、詳しい話は着いてからにしようよ。…ぼくもいろいろ聞きたいことができたし…」

 

“いいよね?ミカさん”そういった彼の顔は、それはそれはとてもイイ笑顔だった。

 

 

 

5.

「その、トビア、すまなかった。いや、信頼していなかったわけではなくて、むしろ信頼してたからだというのがあるんだが…」

 

喫茶リコリコに帰還後、カウンター席ではトビアに必死に釈明するミカという、非常に珍しい光景が繰り広げられていた。その横では千束がいじけている。

 

「…ま、途中から気づいてはいましたけどね。いくら何でも最初っから詰めが甘いと思ってたし。千束も、そろそろ許してあげよ?」

「事前に教えてくれればいいのに…。トビアはどのへんで気づいたの?」

「今も言ったけど、最初からどうにも腑に落ちなかったんだ。やっぱり、自分を死んだことにするっていうのは結構便利だしさ。そうしないのは何でだろう、って」

「言ってよぉ、恥ずかしい…」

「確信は持てなかったしね、それに千束嘘下手でしょ?やっぱりそういうのって、向き不向きあるからさ」

「そういうフォローはいらないいいぃぃぃ…」

伸びながら突っ伏す千束。

 

どうもこちらに伝えなかったのは、そこから相手に気取られるのを防ぐためだったらしい。

敵を騙すなら、先に味方からということだ。

 

「それに、そのおかげでこんなイイものを撮れたしいい~?」

そこにミズキがスマホを持って現れる。

「!ミズキそれ消せぇええ⁉」

どうやら、いつの間にか千束の泣き顔が撮られていたらしい。

「トビア絶対見るなよ⁉絶対だからね⁉」

「必死すぎない?」

 

「命大事にって、やっぱり無理がありませんか」

そうやって騒がしくなる中、たきなからそんな声が上がった。

 

「初めから3人で動いていれば、今回のようにはならなかったはずです」

一度口から出してしまえば、止まらない。

「スリーマンセルを徹底していれば…!」

 

「そうしたら、ミズキたちが困ってたよ。作戦が台無しだ」

トビアが静かに諭す。

「そもそも、目の前で人が死ぬのは放っておけないでしょ」

千束が続ける。

「私たちリコリスには殺人が許可されています!敵の心配なんて…!」

 

「たきなさん、君はどうしても殺したいのかい?」

 

トビアの言葉に場の空気が凍った。どうしても?殺したいか?

「そんなわけ、ないじゃないですか!」

たきなは大きな声を出す。

「でも、敵が生きていて、そのせいで味方が危険にさらされるようなら…!」

「今回の相手は、それほどの相手だった?」

「…それは」

千束からの問いかけに言葉を詰まらせる。

 

「…結果論だけどさ、今回はたまたま敵だった人たち、というだけだよ」

“誰も死ななくてよかった”そう千束は続けた。

 

「たきなさん、覚えておいてほしいんだ。殺していいと殺さなきゃいけないは、全然違う」

「殺していいと、殺さなきゃいけない……」

「今回は、前者だ。殺していいなら、殺さなくてもいい」

トビアが静かに言う。

またこの人は意味深なことを言う。

でも、リコリスとしてDAに居た時には考えたことすらなかった。

 

ここに来てからは、考えることばっかりだ。

この二人についていれば、理想に、

…スカルハートに近づけるのだろうか。

いつになったら本部に戻れるのだろう。

 

いつになったら、あの子に謝れるのか。

 

 

「お前たち、そこまでだ。騙すような作戦を立ててしまって申し訳なかった。お詫びのしるしだ、座敷で食べなさい」

ミカが空気を入れ替えるかのように、団子を用意して持ってくる。

「あー先生、買収だー」

「いらないか?」

「ううん、食べる!」

「たきなは?」

「…はい、食べます」

 

納得はいってないが、これ以上言い合うこともないだろう。

だって

「団子は、団子ですからね」

 

「………え、何だこれ」

「おお、確かトビアだったか。世話になる」

 

座布団を用意するために、奥の襖を開けたトビアだったが、そこにいたのはどこの司令室かとツッコみたくなる変貌を遂げた上の段に鎮座する、小柄な少女だった。

 

「…あ、ウチで匿うのね……」

「そういうことだ。まあ、お前たちの仕事を手伝ってやる条件でな。言っとくけど、格安だぞ?」

「トビアー、まだ……うお!なんかいる!」

トビアがなかなか来ないので、確認のために訪れた千束も驚く。

 

改めて向き合い、自己紹介。

「そっかー。また新しい仲間が増えたわけだ!」

「そういえば、君のことは何て呼べばいい?ウォールナットは死んだんだろ?」

「…じゃあ、クルミ」

「日本語に変えただけじゃん!よろしく、クルミ!」

「ああ、よろしくな、千束、トビア」

言って襖から出てくるクルミ。

「ところでお前ら、何やらうまそうなものを用意してるじゃないか。ボクにもくれよ」

「ああ、そうだね。一緒に食べようか」

「新入店員と親睦だ~」

“おい、喫茶店業務を手伝う気はないぞ”と抗議する彼女を連れだす。

 

「………」

ふと、何かが飛んでくるような気がして、顔を少し傾ける。千束も同じように避け、軽い音がクルミの額からする。

「あいた⁉」

見ると、たきなが驚いた様子でこちらを見ている。

ヘアゴムを飛ばしたのだろう、片方のツインテールが解かれている。

 

「え、なんで撃ったの……?」

困惑した声が千束から漏れる。

涙目で額をさするクルミに、申し訳なさそうに謝るたきな。

 

「……何だこれ」

呆れたようにつぶやき、座布団の準備を再開するトビアであった。

 

 

 

おまけ

 

「ところで、トビア、その、だな」

「ミカさん、しばらくレジ打ち手伝いませんからね」

「トビア⁉後生だ勘弁してくれ⁉」

「この際だから、いい加減覚えてください!」

「ダメだ、レジだけは、レジだけは……!」

 

「……あんな顔するんですね、店長」

「まあ、トビアが一人で依頼行ってるときは、たいてい修羅場だからね、この店」

「よく10年持ちましたね……」

 

 




以下筆者メモ

4.
・貴重なロボ太の活躍シーン→ダイジェストでカット。なんなら名前も出してない。
・白いワゴン車→社会に出ると、お客さんの先で結構社用車としてあるよね、ハイエース。あと基本的にべこべこ。
・あまり銃は…→そんなこと言っておいて、とんでもやらせちゃった。
・たきなのトビア評⑤→この人なんでもやれるな。
・トビアアクション!その2→やり過ぎた。マジで書き直すかも。ライフルを奪うとこは昔やったMGSVのプレイを思い出しながら。銃弾避けは、前も書いたザビーネの銃撃をかわしたシーンから。さすがのトビア君も、フルオートのライフルは避けられないので拳銃で。
・コート→ABCマントの代わり。防弾コート着てるキャラもいたし、いいかなって。
・結束バンド→そういう使い方をしているとこを初めて見たのは、漫画版パ〇レイバーでした。
・何かいいことあるのかい?→X11より。めっちゃ好きなシーンでした。
・趣味悪いぞ→言葉通り。トラウマになるわこんなん。
・ビール→汗をかいて、水分を欲しているときに飲むのはやめましょう。馬鹿みたいに酔いが回ります。一気飲みなど言語道断です。
・海賊→今は特に深い意味はない。
・知ってる子→今は会えない”彼女”。
・トビアの圧→たきなちゃんに「この店で一番怖い人」という印象が根付いた瞬間。

5.
・うろたえるミカ→#4を参照。
・ベストショット→乙女の恥。でもあなた、弁当あーんしてたよね?あれは恥ずくないの?
・どうしても?→アニメ見て思ったこと。この子めっちゃ殺したがるじゃん?
・殺していいと、殺さなきゃいけない→筆者がトビア君と千束ちゃんの不殺の違いについて思ったことです。誰彼構わず絶対に死なせないわけではなく、できる時だけと覚悟を決めるトビア君。その根底にはこういう考えがあるのでは。まあ、私の印象ですがね?
・頭ぐるぐるたきなちゃん→急に色々な考え方を言われて、大混乱。
・団子は団子→唐突なシーブックリスペクト。

おまけ
・レジ打ち→慣れてくると簡単だけど、結構混乱するよね。

ここまで読んでくれて、誠にありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
会話文大目にお送りしました。

いや、うん難産!
結構しっかりしたアクションの話だと、介入させる余地が無え!
X1は出せないし、トビア君絶対ただのパイロットから逸脱してる!

さて、次回の投稿は例によって未定となっております。
いい加減タグに不定期更新追加しなきゃ…。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想、評価、いただけると幸いです。


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#10海賊と一緒②

なんかまた次の投稿が遅れそうなので初投稿です

今回はまた短編集っぽくしてみました。
割と捏造設定やらかしましたので、ご注意を。

…まあ、最初っからやらかしてるか。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それではどうぞ。




意外と養命酒もいけるなぁ…


その1.海賊とリス(本体)

 

「お、制服届いたのか。似合ってるよ」

「トビアか…。ボクは表の仕事するつもりはないのに…」

「まあ、千束に捕まったら逃げられないさ。おとなしく頑張って」

 

黄色の和服を身にまとった、金髪でこっぱちのちびっこが出てきた。

先日の護衛任務の末、無事喫茶リコリコの仲間となった最強ハッカー、ウォールナットことクルミだ。

どうにも押し入れから千束に連れ出され、着替えさせられたらしい。

彼女は不満たらたらの表情を隠そうともせず愚痴る。

 

「大体、人手は足りてるだろうに…」

「まあまあ、やってみるとなかなか楽しいかもよ?」

“やらないうちから文句言わない”とたしなめるトビア。

2人の髪色のせいか、歳の離れた兄妹同士のやり取りにも見えなくもない。

なお、個人経営の喫茶店にしては、店長を抜いて5人の従業員は確かに多い。

 

「あと、表の仕事を持ってると結構便利だよ?いざって時には、それが自分の身を守ってくれるし」

「……まあ、それは分からなくもないが…」

素性を保証してくれるものは、多い越したことはない。

 

すると、クルミがこんなことを聞いてくる。

「しかし、それはお前の経験則かい?スカルハート」

 

緊張が走る。

はたして、トビアの反応は

「うん?あ、知ってたんだ。そうだよ、安心できるものだよ?」

あっけらかんとしたものだった。

 

「いや、もうちょっと動揺してくれよ……」

「別に隠してないからなぁ。ただ、DAとしてはなるべくおれのこと、隠しておきたかったみたいだけど」

せっかくハッカーらしく、暴いた情報を突き付けたというのにやりがいがない。

クルミはどこか不満げだ。

「そういえば、ダークネットじゃぼくの事なんて書かれてるの?」

「…ドクロの巨大ロボを操る海賊。あと、恐ろしく強い」

「割とざっくりなんだ…」

つまらなそうに話す彼女。すっかり機嫌を損ねてしまったようだ。

 

「ていうか、巨大ロボ、見れないのか?ぜひとも見たいんだが…!」

心なしか目をキラキラさせるクルミ。やっぱり、そういうメカものが好きなのだろうか。

「まだクルミの事ごまかし切れていないから、ダメだよ。格納場所、DAのカメラ入ってるから」

なにせ、トビア達のわがままでこちらの管理としてしまったのだ。あんな強大な戦力に、監視がつかないわけがない。

「カメラにダミーを走らせようか?」

「それをするためにも、もうちょっと待っててよ。まだDAのシステム周り、把握しきってないんじゃないの?」

「はっ、ボクを誰だと思ってるんだい?そんなものとっく………、あっ」

「うん?」

「い、いやっ!なんでもない。そういうことなら仕方ないな。楽しみにしてるよ、うん」

急に慌てだすクルミ。違和感を覚えるも、まあいいかと流すトビア。

 

「さ、とりあえずみんなに制服見せていこう。話逸らしてもダメだよ?」

「う、ダメだったか…。まあ、さっきから千束の無言の圧がすごくなってきてるしな」

見ると、部屋の出口で“早く来い”と手招きしている千束が見える。心なしか、表情が不満気だ。

「ほら、先輩の機嫌を損ねないうちに行った行った」

「ボクはお前たちより年上なんだがな…」

 

とぼとぼと出口に向かい、すかさず千束に捕まるクルミ。

また賑やかになるな。

そう思いながら、開店準備を進めるトビアであった。

 

「………」

「千束さん?」

「たきな、あれなんだけどさ」

「?トビアさんたちですか?」

「仲良くなるの、早くない?」

「……なんで悪いことみたいに言ってるんですか?」

「いや、悪いことじゃないんだけどさぁー…」

「それにしても何話してるんですかね。混ざってきたらどうです?」

「いや、まだここで監視してるっ!」

「…勝手にしてください」

 

 

その2.新入りと情報開示

 

「初めまして!先月より本部所属となりました!セカンドリコリス乙女サクラです!あのスカルハートにお会いできて光栄です!よろしくお願いします!」

「あ、うん。よろしくね。…あれ?」

 

ウォールナットからの依頼が来る前、トビアは自身のエージェントとしてのライセンス更新を終えるために、久々にDA本部を訪れていた。

電車を乗り継ぎ、駅に迎えの車、そして認証を経て本部に入ると、色んな職員から声がかけられる。特に群がるのは、リコリスだ。

何があった、この前の任務で大変だった、そっちはどうだったとにわかに騒がしくなる。

そんな中、紺色の制服を着た、中々カッコいい髪型をしたリコリスが前に出て挨拶してきた。

 

「あなたの活躍は北海道にいた時から兼ねがね…」

「あれ、ぼくがスカルハートってこと知ってるの?」

 

「DAの方で情報開示されたんですよ。お久しぶりです、トビアさん」

彼女がこちらの素性を分かっていることに疑問を抱いていると、その後ろから赤い制服を着た小柄な少女がやってくる。

春川フキ。スカルハートを除けば、最高戦力に数えられるファーストの名を冠するリコリスの1人だ。

 

「フキさん、久しぶり。元気そうで何より」

「はい。トビアさんはライセンス更新ですか?」

「まあね。それにしても、DAが情報開示?随分と気前が良いね?」

DAにとってスカルハートは鬼札。強力無比なX1に、それを手足のように操るトビア。投入される現場は非常に限られるが、出せば間違いなく勝てる。なるべくぎりぎりまで隠しておきたいはずだ。

それ以前に、秘密主義の塊のような組織だ。いったい何があったのだろう。

 

「ああ、それは単純に……」

「この本部だけの話です!なんでも、本部直属の職員にとってスカルハートの正体は公然の秘密状態!ならば本部に配属となった職員には明かしてしまっても問題ないだろうとのことです!」

すかさずサクラから注釈が入る。割り込まれたフキが不服そうだ。

「おい、サクラ…?今は私が話してるんだが…?」

「先にスカルハートと話していたのはこっちッスよ!割り込んだのはそっちじゃないですか!」

一触即発。身長差があるせいか、メンチの切りあいに迫力が増す。

「いや、お二人さん落ち着いて…。ていうか、本部から異動になる職員が出たら、ここだけにする意味ないんじゃ…」

「「本部から異動者を出すことは基本ありません!」」

「仲良しか君ら」

 

「じゃあ、また後でね」

そろそろ体力テストの時間が迫ってきた。一声かけ、振り返ると今度はプロレスのように取っ組み合いをしている。

「はい!また後で!」「ああ、スカルハート!まだお話ししたいことがっ……!」

“元気だなぁ”と、気の抜けた感想を漏らすと先を急ぐトビア。

 

「相変わらずだな、DAも」

先ほどの言葉を思い出す。

“基本的に”異動者は出ない。つまり、異動者が出るときは特殊な事情か、または……。

「…いや、今考えることでもないな」

 

10年経っても、この組織は好きになれそうもない。

あんな普通の学生みたいなやり取りをしている子たちに、こんなことを言わせるこの組織に。

 

「……さっさと更新を済ませよう」

そして、さっきの子たちと話してこよう。

少しでも、この場所以外のことを。

自分たちには、ここ以外にも生きられる場所があると、ほんのちょっとでも意識してもらえたら。

そんなことを思いながら、トビアは更衣室のドアを開いた。

 

「………あれっ、たきなさんからは特に聞かれなかった……?」

彼女にスカルハートとか興味ない可能性が出てきて、トビアは少しテンションが下がるのだった。

 

※たきながリコリコへ異動になってからの情報開示だった。

 

「で、どうだったサクラ?憧れのスカルハートと話してみて」

「いや、途中で割り込まれて碌に喋れてないんスけど…。まあ、はい、嬉しかったっス」

「ていうか、何だあの敬語。転属してきて初めて聞いたぞ、お前」

「だって粗相があったら悪いじゃないスか!…変な子だって思われたくないし…」

「…お前、トビアさんになんかしてもらったか…?」

「…北海道支部の時に、ヘリから助けてもらいました…」

「本人に言ってやれよ…」

「覚えていなかったら、キツいっス…」

「……なんで本部に転属する奴は、似たようなのばっかりなんだ……」

 

※なお、トビアには結局言えずじまいだったそうな。

 

 

おまけ

・いつかのDAその3

「チェーンも大剣も無いのですか…」

「いや、スカルハートに憧れてるのはよく分かるけど、いったい何を真似しようとしたんだ…?」

「…6年前に、スカルハートとドクロの巨人に助けてもらいました」

「…おう」

「その時に、巨人が対象を破壊するときにチェーンと大剣を使ってまして…」

「いや、そっちの方を真似するのかよ⁉」

 




以下筆者メモ

その1
・リコリコの人手→やっぱり多い。でも、2階まであるし、多少はね?
・表の仕事→トビア君たちのブラックロー運送は、運送どころの騒ぎじゃない事業規模になってた。
・実は知ってたスカルハートの正体→ラジアータに攻撃仕掛けたし、そら知ってる。
・緊張が走る→クルミの中で。
・あっけらかん→とは言いつつ、内心結構ビックリ。本部にしかない情報だから、あれ、もしかしてこの子……?
・別に隠してない→次の小話でやるのですが、本部じゃみんな知ってる。
・ダークネット→別にフォルテとかはいない。
・巨大ロボ→みんな大好き巨大ロボ。最近またアニメが増えてきて嬉しい。
・監視カメラ→24時間監視中。たぶんウォンバット定点カメラみたいなノリ。
・千束の圧→「何いちゃついてん。はよきいや」
・何も知らないたきなさん→あのサ店、そんなに距離ないはずなのに妙に聞こえ辛くなるときあるよね。

その2
・サクラ→髪型が男らしい。生意気口調の後輩キャラが、憧れの人の前だときっちりするのが好き(筆者の趣味)
・情報開示→ぶっちゃけ、本部の連中ほとんど知ってるし、開示してもいいんじゃね?の精神。ニードトゥノウと言えど、限度がある。
・フキカットイン→実はたきなちゃんのことで少し相談があったイメージ。詳細は次回で、…書けたらいいなぁ。
・メンチの切りあい→グレ〇ラガンのメンチの切り方大好き。
・異動者→あんな組織だからね。言葉通りとは到底思えません。情報部の出身のミズキだって、あれ実際は出向扱いで全然やめられてないのでは、というイメージ。
・仲良しか→バディだからね。
・こんなこと→あの2人は、異動者に込められたニュアンスを、ちゃんと理解してるイメージ。リコリスってその辺はしっかりドライな印象。あんなかわいい顔して、何人看取ってきたんだろう。
・さっさと終わらせて話してこよう→その結果パフェに興味津々。
・またしても何も知らないたきなさん→タイミング悪かったね。
・ヘリ→ヘリとやりあって勝てるのは某蛇だけです。くれぐれも真似しないように。
・似たようなの→この10年でどれだけフラグを立てたんやトビア君…。

おまけ
・そっちかよ→でも生身のアクションしてないから、参考にしようがないという割と悲しい事実。

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?

次回も例によって未定となります。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想、評価、いただけると幸いです。





ザビーネ・シャルに、安らかな眠りを


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#11海賊と少女の答え①

仕事が忙しすぎて吐きそうなので初投稿です。

今回も難産でした。
いやー好き勝手やると、しわ寄せがすんごいすんごい。
辻褄合わせがとんでもないことに…。

でも、二次創作なんで勘弁を!

あ、今回も長くなっちゃったので分割です。

少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
それでは、どうぞ。


え、…γGTB……?




1.

今日も朝から雨が降り続いている。

太陽を見なくなって、暫く経つ。

季節としては、梅雨入りの時期だ。

 

たきながリコリコに配属されて、そろそろ2か月が過ぎようとしている。

未だDAに戻れるめども立たず、ずっとくすぶっている。

「…いつまで、ここにいるんだろう。」

誰もいない更衣室の中、思わず言葉が漏れる。

鏡を見ると、目が左頬へと移る。

特に傷跡は残らなかったようだ。

もう、そんなになるほどここに居たのか。

それなのに、

「…まだ答えは見つかりそうにありません、トビアさん」

 

喫茶リコリコ、10年目の梅雨。少女の心は、未だ晴れず。

 

「閉店後恒例ボドゲ大会開催いいいぃぃぃぃ!」

「気合い入れ過ぎじゃない?」

「まあまあ、今回はトビア君もいるから。おじさんたちも気合入っちゃうよ~?」

「今日こそ勝つッ!見てろよトビアっ!」

「伊藤さん?締め切りは?」

「仕事の話はNG!そんな雑念を超えなえれば、あんたには勝てないッ…!」

「自分の仕事雑念扱いしちゃったよ、この漫画家…」

 

千束の気合のこもった宣言が響く。

ここ喫茶リコリコでは、閉店後に常連客も集めたボードゲーム大会が開かれる。

裏の仕事のこともあり、不定期ではあるが開けばお祭り騒ぎだ。

 

「ま、ま。仕事の話は止しましょ」

「気合入ってるね~。かくいう自分も勤務途中でね」

「お、刑事さんワルだねぇ~」

「それに、この前負けてからは悔しくてね」

「やっぱり、負けっぱなしは割に合わないからな…!」

「クルミちゃんも燃えてるねぇ」

最近は新入りのクルミもすっかりなじみ、こうして打倒トビアに燃えていた。

 

「なんでぼく目の敵にされてるの…」

「それ本気で言ってんのか、おのれ」

千束からジトっとした視線が飛んでくる。

というのも、トビアは読み合いとなると滅法強いのである。

持ち前の勘が鋭いのもあるが、とにかく決断が速い。相手が長考の末下した決断をノータイムで覆す。そうしてるうちに、ペースを乱されいつの間にか1位を取られている。

そんなこともあって、トビアの参加は月に1回か2回ほど。

さながらボス戦である。

 

「まずはトビア打倒!私たちの勝負はそれからじゃあ!」

『応っ!!』

「堂々とチーミング宣言しないで⁉」

なお、負けるときは普通に負けるので、トビアにとっては完璧に言いがかりである。

 

「トビアさん、レジ締め終わりました。誤差ゼロ、ズレもなしです」

1人レジ締めを行っていたたきなが、業務の終了を告げる。

「お疲れ様、たきなさん。代わりに入る?」

そう言って、トビアが席を指さす。

 

そこには、テーブルに頭を突っ伏した面々がそろっていた。

どうやら、またトビアの一人勝ちだったらしい。

「また、またなのか…」

特にクルミの落ち込みっぷりがひどかった。

 

「あれ、たきな終わったの?じゃあ一緒にやろーよー」

いち早く気付いた千束が声をかける。

「お、ならいけるね?」

「ほら、おいでよたきなちゃん」

「どーだー?来ないかーたきなー?」

口々に誘う常連とクルミたち。

なお、トビアにぼろ負けした後なので、別の勝負で口直ししようとしてるのは見え見えだった。

 

「……いえ、結構です」

たきなはそう言うと、店の裏へと引っ込んで行った。

 

「やっぱり、おじさん率が高いのかなぁ」

「お年頃なのよ、お年頃」

「というか、閉店後も遊んでる我々も大概ですな」

少し残念そうに話す常連たち。

このやり取りも、たきなが入ってから何度も繰り返されてきたものだ。

 

「………」

トビアと千束が心配そうにたきなの後姿を見つめる。

彼女の背中は、とても小さく映った。

 

「混ざってきたらどうだ?」

更衣室の前でミカがたきなに声をかける。

気を遣っての事だろう、どこか心配そうな表情だ。

 

「あれに混ざったら、DAに戻れますか?」

 

沈黙が訪れる。

「……いえ、すみません。まだ、私の中で整理がついてないんです。先に帰らせてもらいます」

そう言って、たきなは扉を閉めた。

 

まだ時間がかかりそうだと、ため息をこぼす。

ミカが踵を返すと、たきなに声をかけようとしたのだろう、千束とトビアの二人が裏に訪れた。

「先生、たきなどう?」

少し心配そうに声をかける千束。

静かに首を振るミカ。

 

「おれ、余計なことを言っちゃったかな…」

ぽつりとこぼすトビアに、ミカが声をかける。

「そんなことはないさ。何がきっかけになるか分からない、もう少し待っていよう」

再び沈黙。

 

ふと、千束を見てミカが思い出す。

「千束、体力測定と健康診断はもう済ませたか?」

「え。あ、いや、その、…あんな山奥まで行くのさすがに大変だしさ…?」

ライセンス更新の時期が迫っていたのだ。

案の定、まだだったようで目が泳いでる。

「……あれ、最終日確か明日じゃ…?え、なにやってんの千束」

「だってさー…、ていうかトビアは⁉そういう自分はどうなんだよう⁉」

「トビアは先月中に終わらせている。明日は定休日だから行ってきなさい」

“この仕事を続けたいなら”と続けるミカ。トビアも心なしか呆れている。

 

「トビアの裏切り者!そこは先生上手く言っといてよ~。先生の頼みなら断らないでしょ、楠木さんならさー」

そこまで言って、急に更衣室の扉が開かれた。

「司令と会うんですか⁉」

「バカ服ぅ!」

「男居ること意識して⁉」

 

たきなが着替えも途中に勢いよく扉を開いたのだ。

反射的に扉を閉める千束に、文句を言いながら顔をそらすトビアと目をそらすミカ。

 

「おい……」

「ん゛ん゛んっ」

「見てないですごめんなさいっ!」

男二人に千束が睨みを利かしている間に、リコリスの制服に着替えたたきなが出てくる。

「私も連れて行ってください。」

「はっや……」

「お願いします」

頭を下げるたきなに、トビア達は目を見合わせる。

 

「たきなさん、…答えは出たかい?」

トビアが静かに問いかける。

「…いえ、まだ考えがまとまりません。でも、…一度行って、自分が何をしたのか確かめてみたいんです」

“だから、お願いします”、たきなはそう言ってそれっきり黙る。

 

「分かった。一緒に行こっか」

「…ありがとうございます」

仕方ないなと笑って、千束は了承した。

 

これが少しでもたきなの為になるようにと、ミカは思わずにはいられなかった。

 

「あ、トビアも強制参加ね。責任もって最後まで見届けなさい!」

「ん?」

ついでに巻き込まれたトビアにも。

 

 

 

2.

電車に揺られる3人。

土砂降りの雨で景色も何も見えない。

隣には荷物を抱え眠そうなトビアに、何かを考えこみ、思い出したかのようにメモを読み返す向かいの席のたきな。

するとどうだ、会話が生まれない。

(気まずい…)

そんな二人に挟まれ、珍しく千束が静かに困っていた。

 

「…ねぇ、トビア」

「うん…?」

「その荷物どうしたの?」

眠気眼をこするトビアに申し訳ないと思いつつ、話しかける千束。

というか、その大荷物は何だろう。見ればお菓子と魔法瓶のようだ。

「ああ、この前差し入れするって言ったからさ…。いい機会だし持ってきたんだ…」

「いや多くない?」

「いつもお世話になってるオペレーターさんたちにと思ってね、ちょっと多めに用意したんだ…」

“ちょっと準備で早起きだったけどね。” あくびをしながら答えるトビア。

 

「……ゴメン」

何だかいたたまれなくなり、トビアに謝る。彼を誘ったのは、結局は自分のわがままだ。

「…いいよ、大丈夫。ぼくも心配になってたんだ。差し入れはただの準備不足だし、気にしないで…」

うつらうつらとしながら、トビアが手を伸ばす。

大丈夫と言わんばかりに、軽く頭をなでられる。

まるで、幼子を慰めるかのような手の動きだ。

 

…いつまでたっても子ども扱いだ。

やっぱり、トビアのこういう所は嫌いだ。

 

でも、こういうふうに気遣われてうれしく思う自分が、どうしようもなく情けなかった。

 

「……こんなとこでもイチャつくんですか」

「うっひゃい⁉」

対面に座るたきなが、じっとりした視線を向けながらそんなことを言ってきて、飛び上がる千束。

 

「い、いや、そのこれは、イチャつくとかではなく、家族のスキンシップみたいなものというか、ええと」

しどろもどろになる千束。咄嗟にいい言い訳を思いつくことができない。

「そ、そう言うたきなは何してるの⁉」

とりあえず、話題をそらした。

 

「はあ、…司令に何を言うか、何を聞くかまとめてるんです。それより、トビアさんの事、そろそろ起こした方がいいのでは?」

“駅近いですよ。”律儀に答えながら、そんなことを言うたきな。

確かに目的の駅まで、あと10分ほどだ。

「うわやっば!トビア、起きて!着いちゃう着いちゃう!」

「…なんか甘いものちょうだい……」

「飴あげるから起きてー!」

必死にトビアを起こそうと飴を突っ込む千束。

口元をもごもごしながら目をこするトビア。

 

そんな二人を尻目に、たきなは窓の外を見つめる。

 

到着は近い。

 

駅に着き、送迎用の車に揺られさらに1時間強。

森を超え、柵を超え、検問所を通り降車。物々しい雰囲気のエントランスへ。

その後手荷物検査に、目の虹彩認証と指紋認証を経て、ようやく受付へとたどり着く。

 

「錦木さんは体力測定ですね。隣の医療棟へお向かい下さい」

「はーい」

「アロナクスさんは差し入れとのことですが、私共でお渡ししましょうか?」

「いえ、せっかくなので顔を出してきます」

「かしこまりました。それでは1時間後に交代休憩となりますので、その時間に司令室にお越しください」

「はい」

用件を伝え、案内を受けるトビアと千束。

 

続いてたきなの番となる。

「井ノ上さんは……」

「…楠木司令にお会いしたいのですが」

「司令は現在会議中となっております。お戻りになられるのが2時間後になりますが、こちらでお待ちになりますか?」

たきなが受付に応えようとしたその時、声が聞こえる。

 

「あれでしょ、味方殺しの…」

「DAを追い出されたっていう…」

「組んだ子、全員病院送りにするんだって…」

 

少し驚き振り返るトビア。見ると3人ほどこちらを見て陰口をたたいていたようだ。

決して大きい声量ではなかったが、よく聞こえる話し方だ。

基本的にはここの子たちはいい子なので、こういうことをするとは思っていなかった。

見ると、3人もこちらを見て驚いている。

まさかトビアがいると思わなったのだろう、ばつの悪い表情をしてそそくさと去っていく。

 

「へっ、ざまーみろ。陰口なんか叩くからそーなんだよ」

「こら、そういうこと言わない。…でも、そっか。やっぱり普通の子供なんだな、リコリスも」

千束が3人を睨みながら鼻を鳴らす。それをたしなめつつも、どこか納得したかのような表情のトビア。

いくら暗殺組織と言えど、まだ10代の子供たちなのだ。そういうことをする輩も出てくるに決まっている。

 

「井ノ上さん?どうされますか?」

「あっ。…はい」

受付の言葉に視線を戻すたきな。しかし、表情は浮かないものだった。

「…訓練場に行ってきます」

「あっ!たきな!」

脇目も振らず速足で歩き去るたきな。

止めようと伸ばした千束の手がむなしく空を切る。

 

「…受付さん、やっぱり差し入れお願いしてもいい?」

「トビア…」

「たきなさんのことは任せて。でも、ぼく一人じゃ心配だからさ。検診と測定終わらせて、早めに戻ってきてね?」

どこかおどけながら、トビアがウインクする。

「…しょうがないなぁ~!待っててよ、相棒!」

千束が気合を入れ、医療棟へと駆けていく。

その背中を見つめた後、トビアはたきなを追いかけ訓練場へと向かう。

 

今のたきなには、誰かがついていなければ。

 

「……たきな。」

そんな彼らを見つめる視線が、一つ。

 

 

 

3.

右足を半歩後ろに引く。

肘と膝は伸ばし切らず。

構える。

撃つ。

 

たきなは無心を装いながらターゲットに向けて撃ち続ける。

放った弾丸はすべて急所に命中。

少しのブレも見当たらない、正確な射撃。

 

だというのに、たきなの顔は晴れない。

 

「どうして、ついてきたんだろう…」

自分が今本部でどういう目を向けられているか、十分に分かっているつもりだった。

独断専行に、仲間の命を危険にさらし、ターゲットを皆殺しにして作戦自体を破綻させた。

控えめに言って、落ちこぼれも同然だ。

「………」

思考がどんどん落ち込む。

何のために無理を言って来たのか。

何がしたくて、ここに来たのか。

射撃訓練がしたくてここに居るのか。

 

「なんで、…私ここに居るんだろう」

 

「答えを出すため、でしょ?」

唐突に後ろから声をかけられる。

振り返ると、トビアが立っていた。

「トビアさん?どうしてここに?」

「君の様子を見に来たんだ。…ぼくのせいで、悩ませちゃったからね」

申し訳なさそうに言うトビア。おそらく、リコリコに配属になった日のことを言っているのだろう。

 

“自分で納得できる答えを出さなきゃいけない”

でも、この言葉は、

「…いえ、トビアさんのせいではありません」

自分のやったことを肯定も否定もせず、ただこちらの判断に委ねてくれた。

“自分で分からないなら、しょうがない。ゆっくり考えればいい”

「そういうふうに言ってくれて、嬉しかったです。…ただ、ゆっくりしすぎたんです」

「…そっか。じゃあ、すこし手伝わなきゃな」

彼はそう言って、たきなの近くへ寄る。

「たきなさん、あの日の事、改めて教えてくれない?」

 

「あれ~?真面目なフキさんにしては遅くないですかぁ~?」

「オマエみたいにズボラだったわけじゃねぇ。バディが変わったもんでずっと忙しかっただけだ」

 

医療棟で検診を終えた後、体力測定へと歩を進めた千束。

隣には、同じくライセンス更新のために測定を受ける春川フキ。

どうにも任務と後輩の面倒で最終日までずれ込んでしまったようだ。

「誰がズボラだ、コラ」

「だったらさっさとトビアさんたちを解放して、独り立ちして見せろよ?」

“やんのか”とメンチを切りあう二人。

DAでかち合うと毎回このパターンだ。

「けっ。測定終わらせてさっさと模擬戦やんぞ」

「ほーう?やる気があって何より~。今日は勝てるかなぁ~?」

 

言って、体力測定を始める。

トビアがついてるとはいえ、たきなが心配だ。とにかく早く終わらせよう。

 

 

「先生は元気か?」

測定を終え、更衣室に戻るとフキがそんなことを聞いてくる。

「うん、変わりないよ。…そんな気になるなら来ればいいのに」

呆れながら言う。憧れの人の様子が気になるのは分かるが、そういうのは自分で確かめるものだ。

「リコリスは任務以外の外出厳禁。…お前だけだよ、それが許されてるのは」

逆に呆れられてしまった。

 

「なあ、たきなはどうしてる?」

「……えっ?」

思わず聞き返す。

自分で殴っておいて、今更何を気にしてるのだろう。

それとも、何か別の理由があったのだろうか。

「フキ、あんたもしかして…」

「いや、悪い。忘れろ。…模擬戦、互いのパートナー呼んでやるだろ?たきなが来ているのは聞いてるし、私もサクラを呼んでくる」

そう言って、更衣室を後にするフキ。

どこか、思いつめたかのような表情が気になる。

 

「あ、うん。…じゃあ、訓練場で待ち合わせで」

とりあえず、たきなとトビアに合流だ。

 

「それにしても、今回の事件、みんな拗らせすぎだろ……?」

一抹の不安を抱えながら、千束は足を速めた。

 




以下筆者メモ


・悔しがるクルミ→NT相手にその手のゲームってまあまあ酷。
・トビアの決断力→脱出にガンダムを囮にするのはトビア君くらいなもん。それ故にとにかく危ういんですけどね。
・負けるときは→NTは神様でも何でもありません。ただ、他の人よりも少しだけそういうことが得意なだけの、どこにでもいるただの人間なのです。
・テーブルに突っ伏す面々→チーミングなんてやっても、負けるときは負けるのでやめましょう。
・口直し→なお、たきなちゃんがトビア君よりも強い可能性は、一切考えていない模様。
・謝るたきな→なんだかんだ優しくされてる自覚があるゆえの謝罪。
・余計なこと→いくら親切のつもりでも、結局は自己満足。それでも、そういうことができる人になりたいものです。
・司令に会いたがるたきな→拙作では、どうしても戻りたいというよりは、煮詰まってきた自分の考えをまとめるためにも、何か打開策をという別の意味で必死なイメージ。自分で勝手に追い詰めちゃってる分、より悲惨。
・強制参加→すまんトビア君。君参加させないと話作れんかったんや。私の構成力の甘さを笑ってくれ…。

2.
・差し入れ→#8より。
・ふにゃふにゃトビア→朝一でコーヒーを用意するの結構大変。あの司令室、結構な人数詰めてるから猶更。
・謝る千束→むしろトビア君に謝らなきゃいけないの筆者なので、気にしないで。
・なでなでトビア→拙作のトビア君、なでポ多用しがちですが、基本的に年下の子供相手なので、落ち着かせるためとしか思ってなかったりします。
・うれしい千束→むしろなでる側になりたい。
・たきなのトビアと千束評→こいつらいっつもイチャついてんな。
・もごもごトビア→なお、眠気覚ましに飴を上げるのはやめましょう。のどを詰まらせたら大変です。
・アロナクスさん→まず呼ばれない呼び方。
・司令にお会いしたい→ぶっちゃけそこまで、というイメージ。
・陰口ーズ→一般通過リコリス。いつも構ってくれる優しいお兄さんに見られたくないところを見られてしまって、結構凹んだ。
・びっくりトビア→なお、トビアとしては普通の女の子らしさも垣間見えて少しほっとした模様。こんな組織でも、人間らしくあれるんだなぁ(しみじみ)
・受付に託した差し入れ→司令部少ししょんぼり。
・見つめる視線→蛇ノ目って苗字、すごすぎない…?

3.
・ゆっくり→締め切りって大事だね、というお話。期限がないと無限に終わらない。
・すこしお手伝い→人に話してみると、いつの間にか自分の中ですとんと落ちることあるよね。
・模擬戦→この二人はしょっちゅうやってるイメージがありました。
・たきなを気にするフキ→前話でトビアに相談しようと思ってたこと。この子、ホント優しいのよ。
・2on2→どうせなら、さっぱりした感じでやってほしかったので。
・拗らせすぎ→ごめんて(筆者)

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

好き勝手書くと、ホントに大変ですね…。
皆さん凄すぎる…。

でも、まだまだ書いていたいから、私頑張る!

さて、分割分はいつものように近日投稿予定です。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想、評価、お待ちしております。


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#12海賊と少女の答え②

仕事が忙しすぎて吐いたので初投稿です。

ああ、聞こえてくるぞ、年末進行の足音が…!

今回は前回の分割分となっております。

何とか書いたはいいけど、ホント二次創作は大変ですね…。
誤字脱字が怖いぞー(遠い目)

さて、今回も少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

それではどうぞ。



ど、度数少ないし、バドワイザーなら…。
え、ダメ……?






4.

「そうか、通信障害…」

「はい、本部とつながらなくなって…」

それを聞き、少し考えこむトビア。

「トビアさん?」

「…ん、いや、おれたちも現場にいたけど、ミカさんと普通に通信出来たなって」

「技術的なトラブルだと聞きました」

「そっか……」

どうにも納得はいっていないようだ。

しかしそれ以上何も言うことはなかったようで、話を締めるトビア。

 

「…トビアさん、私のしたことは間違ってたのでしょうか?」

たきなが顔を伏せ、そんなことをこぼす。

改めて他人に話して、少しだけ客観視できたが故の不安だった。

 

「たきなさん…」

「私には、憧れがあったんです。小さいときに助けてくれた、私のヒーロー…」

思い出すのは、あの夜の出来事。

 

先輩のリコリスが負傷し、離脱を支援するために単身囮になったあの日。

迫りくる戦車に絶望しきったその時、颯爽と助けに来てくれたドクロの巨人に、それを操る黒いパイロットスーツの男性。

「あの時の、あの人みたいになりたい。あの人みたいに誰かを助けられる人になりたい。…そう、思い続けていたんです」

でも、そうやって行動した結果、自分は居場所を失ってしまった。

 

「…どうすれば、よかったんですか…?」

いつの間にか、涙がこぼれていた。

今更、後悔が押し寄せてくる。

脳裏によぎるのは、気を失ったエリカの顔だ。

「…もっと、うまくやれていたら…。あんな方法じゃない、もっといい方法があったはずなのに…、私はっ…!」

 

「たきなさん」

今まで黙って聞いていたトビアが、声をかける。

「…他人の感想なんて聞いても、何にもならないんだけどさ、でもこれだけは言わせてくれ」

一体何を言われるのだろう。

また、糾弾でもされるのだろうか。それとも、アドバイス?

少し身構える。でも、顔は上げられないまま。

 

「君は、本当にすごい人だ」

 

「え…?」

思わず顔を上げる。

すると、彼が少し笑いながら頭をなでてくる。

電車の中で千束に対してしていたように、幼子をあやすように。

 

「指示も仰げない、一刻の猶予もない。誰も動けないそんな状況で、君だけは自分で決断を下し、仲間の命を救って見せた」

トビアは続ける。

「他の連中が何を言ったとしても、それは覆らない事実なんだ」

 

「おれからしたら、君はそれだけのことをした、優しくてすごい奴なんだよ」

 

その優しいなで方が、言い方が、懐かしく大切な思い出を想起させる。

「うそ…」

トビアの姿がどうしてもあの人に重なる。

涙が止まらくなる。

 

「おっ、と。…たきなさん…?」

思わず抱き着く。

トビアは少し驚くも、軽く抱きしめ返してくれる。

まるで6年前の、あの人のように。

 

(この人が、きっと……)

もしかしたら違うかもしれない。

でも、今のたきなにとって彼は間違いなく

 

———スカルハートその人だった。

 

「……ごめんなさい」

「いや、大丈夫だよ。…少しは落ち着いた?」

たきなが顔を赤くしながらトビアに頭を下げる。

流石に異性に抱き着くのは恥ずかしかったようだ。

 

「…トビアさん」

「うん」

たきなが表情を引き締め、トビアを見つめる。

「答え、完璧ではないけれど、出せました」

「…聞いてもいいかい?」

 

一呼吸、息を整えるたきな。

 

「私は、私の決断を、後悔しません。例えあの子に…エリカに恨まれ、拒絶されようと…!」

 

“私は、私の決断を、正しいものだったと思います”

 

いつまでもくすぶる女の子の顔は、もうどこにもいなかった。

 

そこには少し不安げに、それでも意地を張り続けると決めた、戦士の顔があった。

 

 

 

5.

「二人とも、おまたせっ!」

暫く訓練場で待っていると、千束がそんなことを言いながら入ってくる。

 

「あれっ、トビアは?」

「飲み物を買いに行ってくると。…今度は当たり付きは避けるって言ってました」

たきなはそう言い、ベンチに腰を下ろす。

 

「あらま、そんな柔らかい顔をするようになったんだ」

「え?」

千束が驚いたようにそんなことを言ってくる。

確かに、トビアと話してすっきりした感じはあるが、自分ではよく分からない。

 

「…さっすがトビア。出番取られちゃったなー」

“くっそー”と千束が悔しがる。それでもその表情は、どこまでも嬉しそうだった。

 

「じゃあ、もう大丈夫?」

それが何を差してるかは、なんとなく分かって

「はい、…いえ、まだちょっと迷いはありますけど。それでも、答えは出ました」

自分で言って、するっと出てきた言葉に驚くたきな。

 

「よーし、そんなたきなさんにスペシャルプレゼント!フキにリベンジ、したくない?」

「え?」

「いや、測定行ったらフキと鉢合わせちゃってさー。話の流れで互いのパートナーを交えて一戦どうか、ってなっちゃってね。どうかな?」

千束が笑いかけながらそんなことを言う。

 

春川フキ。

自分のパートナーだった先輩。

自分を殴った人。

…自分を、殴らせてしまった人。

 

「…ね、たきな。せっかくだから、試してみない?」

そんなことを考えていると、千束が静かに問いかけてくる。

 

「私たちと出会って、リコリコで得たすべて。ぶつけるには丁度いいと思わない?」

「リコリコでの、すべて…」

「そ。色んな人に会って、色んな考え方に触れて、そしてここで答えを出した。言っちゃえば、ここが今のたきなの総決算」

 

「それがどこまで通用するか、ちょこっとお試し。大丈夫、コレで終わりってわけじゃない。チャンスはまだまだたくさんある。その時が来たら、自分のしたいことを優先したらいい」

「したいこと…」

「そ!したいこと優先!…それにさ、たきな」

 

“今、どうしてもここに戻りたいとも、思ってないでしょ?”

 

「あ…!」

たきなは目を見開く。

そう、トビアと話していた時から薄々感じていたことだ。

自分のやったことに答えを出した今、本部にいるかどうかはさほど重要なことではない。

 

満面の笑みでたきなを見つめる千束。

「さあ、どうする?」

 

答えはもちろん

「やります…!やって、とことん試します!」

「よしきた!勝つぞー!」

 

そう言ってたきなに抱き着く千束。そのままぐるぐると回る。

「わ?うわわわわ⁉」

「あっはっはっは、たきなったら軽―い!」

 

「何やってんだ、お前ら…」

不意にそんな声が聞こえる。

回転を止めた千束と一緒に部屋の入り口を見やると、フキともう一人見慣れないセカンドリコリスが立っていた。おそらく彼女が、たきなの後任なのだろう

 

「来たぞ、千束。…元気そうじゃねぇか、たきな」

「フキさん…、お久しぶりです。……今日は勝ちます…!」

 

そう宣言するたきなに、フキは驚いた表情をすると、

「はっ、…やって見せろよ」

少し嬉しそうに、そう言って挑発した。

 

「お、…やってるねお四方」

トビアが飲み物を買って戻ってくると、ちょうどそんな場面に出くわす。

 

「トビアおかえりー!」

「おかえりなさい」

千束とたきなに労われ、訓練室に入る。

「お疲れ様です、トビアさん」

「お、お疲れ様でっす!」

フキたちもこちらに気づき、声をかけてくる。

「うん、お疲れ様。…水分補給は、模擬戦が終わってからかな?」

トビアは買ってきたペットボトルを見せながら、そう言った。

 

「あの、私いきなり連れて来られて、状況がまだつかめてないんですケド…」

サクラが困惑顔でそんなことをフキに言ってくる。

「あらま、フキ~?流石にかわいそうだよ~?」

「サクラ言っただろ?他のリコリスとの模擬戦だって」

「それ何の説明にもなってないっスからね⁉」

“どういう経緯でこうなったか説明が欲しいッ!”そう叫ぶ。

どうやらサクラは完全に巻き込まれた形のようだ。

 

そんなやり取りをする三人をよそに、こちらに近寄ってくるたきな。

「…トビアさん、私、リコリコに来てからのすべてを、私の答えをぶつけてみようと思います。だから、…“見ていてください”!」

「…!うん、ちゃんと見てるよ。頑張って」

「はい!」

勢いよく頷く彼女に頬が緩む。

 

「じゃあ、演習場で待ってるぞ。遅れるなよ。…トビアさん、また後で」

「あ、えっと、またっス!ト、トビアさんも!」

先に向かうフキとサクラを見送るトビア。

 

ふと、千束と目が合う。

お互いサムズアップ。

「じゃあ、思いっきりやってこい、相棒たち!」

「任せて!ねっ、相棒!」

「はいっ!」

元気な二つの声が響き、駆けていく。

 

その背中を、トビアはとても眩しそうに見つめていた。

 

 

 

6.

「久しぶりだな、トビア」

「ああ、ご無沙汰してます、楠木さん」

 

演習の様子を一望できる部屋にて、トビアは楠木と二人きりになっていた。

「珍しいですね、一人で」

「なに、面会予定者にほっぽり出されてな。何をしているか見に来た」

 

モニター越しのキルハウスにて、二組のリコリスが模擬戦を繰り広げている。

たった今、千束の銃撃を受けサクラが脱落した。

哀れ、胸部と肩口にペイント弾数発。反撃のために撃った弾は、掠りすらしない。

 

その一方、フキはたきなを撃破することができずにいた。

姿勢を低くし、果敢に攻めることでフキをその場に縫い付けるたきな。絶え間なく動き回り、時折壁に隠れる、と見せかけてフェイントを挟む。決して狙いをつけさせない。その動きはまるで、

「お前のようだな、スカルハート?」

「別に何も教えてもないんだけどなぁ…」

“今度、防弾コート渡してみるか”とつぶやくトビア。

ここで千束とスイッチ。たきなとは違う動きに惑わされ、焦りの表情を浮かべるフキ

 

「それで、楠木さん。ラジアータのメンテは済みましたか?」

何でもない事のように問いかけるトビア。

「…何のことだ」

「いえ、なんとなく必要そうだなぁ、と。…別にクラッキングされた、とか考えてないですよ?ただの想像ですからお気になさらず」

 

たきながフキの背後をとる。

『フキさんッ!』

声を上げ、拳を振りかざす。

驚き、慌てて振り返るフキ。

『ありがとう、ございましたぁああッ!』

そして、そのまま左頬をなぐりつける。

 

「組織の信頼を揺るがす事態だ。…ああいう形で隠蔽する必要があった」

「たきなさんの人事の事、ですね」

「…トビア、私を軽蔑するか」

「いいえ。…ここがなくなれば、割を食うのはあの子たちですから」

 

殴られたフキは、すぐに体制を起こしたきなに狙いをつける。

勢いがつきすぎて転がったたきなも、すぐさまフキに銃口を向ける。

間に立つのは、千束。

 

「それでも、ぼくはここを好きになれそうにはありませんけどね」

“迎えに行くか。”そう言って伸びをするトビア。

 

たきなの模擬弾が発射された。

千束はそれを、身体の位置をずらすことで避ける。

 

遮蔽物を失い、真っすぐ飛んだその弾丸は、フキに命中した。

 

ハイタッチを交わす千束とたきな。

模擬戦終了。文句なしの完全勝利だ。

 

「…ここに、お前の居場所はねぇよ。もう戻ってくんな」

「フキさん。…ありがとうございました」

たきながそう言ってフキに頭を下げる。

 

「ふん」

鼻を鳴らした後、殴られた左頬をさすり、その場を後にするフキ。

後ろ手に手を振るその姿は、とても様になっていた。

 

エントランスにて、千束とたきなはトビアを待っていた。

外を見るとすっかり晴れており、朝から降り続いていた雨が嘘のようだ。

 

「たきな、流石だったね?」

「はい。…結構すっきりしました」

「やっぱり殴られたこと、根に持ってたんだ?」

「いえ、それは私が頼んだことです」

「うえっ⁉なんでそんなことを⁉」

 

そう言って、じゃれ合う二人。

その姿は、年相応の無邪気な子供のようだ。

 

「それにしても、トビア遅いねー。何してんだろ?」

「まだ10分も経ってませんよ…。でも、どうしたんでしょう?」

「“今日は何もしてないから、最後に一仕事してくる”、なんて言ってさぁ」

「…むしろ一番仕事してませんか?あの人…」

まるで、漫画で見る様な部活動のマネージャーみたいなことをしている、そんな気がした。

千束とそんなふうに好き勝手言ってると、遅れてトビアがやってくる。

 

「二人とも、お待たせ」

「あ、おかえりなさい」

「遅いよー、トビア。結局何してたの?」

「あー、ちょっとした仕込みをね?」

千束の問いに頬をかきながら答えるトビア。

「仕込み?」

「まあ、見てからのお楽しみ」

 

そうしていると、送迎用の車がやってくる。

「お、来た来た」

車に乗るため、外に出る一同。

「あ、たきなさんは窓の方を見てて」

トビアからそんなふうに言われる。

「?はい…?」

少し不思議に思うも、言われたとおりに窓際に座り、外を見るたきな。

 

エントランスが見える。

すると、そこに見覚えのある一人のリコリスが出てくる。

 

「あ……!」

 

「たきなー!」

そのリコリスは、大声でたきなを呼ぶ。

 

「助けてくれて、ありがとー!」

急いで窓を開ける。

 

「エリカ…!」

たきなが涙ぐむ。

「私は、大丈夫―!」

エリカも涙交じりに叫ぶ。

 

「だから、だから!たきなも、がんばって…!」

 

車が動き出す。

このまま駅へと向かうのだろう。

エントランスがどんどん遠くへと流れていく。

 

「たきな」

 

「は、い」

 

「よかったね」

 

「はい…!」

 

窓から差し込む日差しが眩しい。

 

今日だけで、たくさんのものをもらった。

 

—————二人についてきて、ここに来て本当に良かった。

 

 

 

7.

夕暮れの電車の中、トビア達3人は揺られていた

 

行きと違い、千束とたきなが隣同士でトビアが対面だ。

 

「あっ!そういえば楠木さんと話せてないじゃん!たきな良かったの⁉」

「はい、あの場で話すことなんて、結局聞き入れてもらえませんでしょうし。それに、そんなことよりも大切なものを見つけましたから」

メモをカバンの奥にしまいながら語るたきなの顔は、とても晴れやかだった。

 

「あ、そうだ。たきな私のこと狙ったでしょ」

飴をトビアとたきなに配りながら、千束がそんなことを聞いている。

心なしか視線がジトっとしている。

 

「どうせ避けると思ったので。非常識ですから、”千束”は」

 

お、と思う。いつの間にか敬称が抜けている。

あの戦いは二人の距離をしっかり縮めたようだ。

千束も、そのことに気づき笑みを浮かべた。

 

「たきなもやんちゃしてたじゃ~ん。あれってトビアの真似?」

「はい。”トビア”も非常識な動きしてましたから、そのリスペクトです」

「!…非常識な動きって何さ」

少し驚くも、彼女なりの距離の詰め方に微笑ましくなる。

 

「…”たきな”、吹っ切れた?いい顔してるよ」

「!ええ、来てよかったです。」

ちょっと仕返しのつもりで、呼び捨てにするトビア。

たきなは驚くも、すぐにうれしそうな顔をする。

 

「おーう、お前ら。私を抜きにして楽しそうだなぁ~?」

千束が絡んできて、にわかに騒がしくなる。

と、ここでスマホに通知が入る。

 

開くと、リコリコからメッセージが届いていた。

見ると簡素な一文に、常連たちと遊ぶリコリコの面々が写った写真が添付されていた。

 

「二人とも、大会延長のお知らせだって。どうする?」

 

千束とたきなが顔を見合わせる。

「もちろん、参加で!」

 

“写真送ろー”とスマホのカメラを起動する千束。

「ほらほらお二人さん、よってよって!」

たきなを挟み三人でパシャリ。

 

「よし、さっさと帰ってたきなの歓迎大会だね」

 

そう言って、たきなを見るトビア。

 

夕日を浴びる彼女は、今まで見せることのなかった柔らかな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

おまけ

「たきな、見てよこれ。クルミがコロンビアしてる…!」

「コロンビア?」

「このポーズのことだよ。…ドヤ顔すごいね、これ」

「ぷぷ…、ん?また写真…、あ」

「あー、ミカさん…」

「…なんだかすごい剣幕、ですね」

「これは…」

「うん…」

「「マサルだ」」

「……日本語でしゃべってもらえます?」

 




以下筆者メモ。

4.
・納得いかないトビア→というか、楠木さんのあの説明で納得いく人の方が少ない気がする。
・ヒーロー→でもそのヒーロー、めっちゃドクロついてるけど大丈夫?
・もっといい方法→”やらなきゃよかった”が出てこない時点で、やっぱこの子すごいで。
・他人の感想→聞いてもしょうがない、というよりは、もう自分で答え出てんのに人の意見なんて聞いてもしょうがない、という意味。
・自分で決断→できる人間て本当に尊敬します。
・なんか察するたきなちゃん→よく考えたら声も似てるとか思ってそう。
・たきなちゃんの答え→1)仲間も助けられたし、けじめもつけたのに何で左遷させられたんだろ…。2)人に話してみて不安になってきた。もっといい方法なかったかな…。3)しっかり肯定された。自分に足りなかったのは、この答えの自信だ!みたいなプロセスのイメージ。なんだったら、最初っからちゃんと答え持ってたというオチ。
・戦士の顔→今更だけど、クロボンでちょくちょく出てくる、トビア君や主人公たちがする目の奥が光ってるかのような、覚悟を決めたかのような表情のこと。

5.
・当たり付き→もちろんジョーク(激寒
・出番→こんなに展開マイルドにしちゃったからね、仕方ないね。
・殴らせた→ほっときゃ勝手に殴ってきただろうけど、頼んじゃったし余計なもの背負わせたかなー。
・たきなちゃんのしたいこと→自分の答えを試してみたい。
・戻りたい場所→別にここに戻んなくても、謝れるじゃん。
・嬉しそうなフキちゃん→代わりにトビアに相談する必要がなくなった。
・何も知らないサクラさん→せっかく閑話でかわいらしい後輩キャラにしたのに、アニメのような嫌味なキャラにしたくないなと思った結果、今回一番のとばっちりを受けることに。
・見ていてください→私の、変身ッ!
・相棒たち→…たぶん、ぼくがいなくても君たち二人なら大丈夫。

6.
・ほっとかれる楠木さん→まあ、あんな嫌味を言わせるよりは、いいかなって。
・第1脱落者→ホント不憫にしちゃった。ごめんねサクラちゃん。
・たきなアクション!→トビアの代わりに頑張れ。弾丸恐れずにダッシュで突っ込んでくるのも、結構怖いと思うの。
・感謝の正拳突き→スポ根。でも、あんなかわいい女の子たちが殴り殴られってのも今時な気がしますね。
・フキのフェードアウト→カッコいい子なのよ、あの子。
・殴られた理由→たきなさん、マジ男前。
・マネージャー→今回のトビア君の役回りは”彼”になった後のような、フォロー役のイメージ。飄々と、軽口をたたきながら、そんなフォローができる大人になりたいものです。
・最後にエリカ→アニメでこういうのがなくて、少し寂しかったので入れました。でも、あの組織でこういう青春、やれないだろうな~…。

7.
・楠木キャンセル→拙作では正直そこまで楠木さんを悪役にする必要はないので、キャンセルだ!展開でミスったともいえる!!
・たきなちゃんの距離の詰め方→アニメでも思ったけど、なんかかわいらしい。
・たきなのトビアと千束評②→ありがとう、私のスカルハート。

おまけ
・コロンビア→めっちゃクルミ馴染んでるなー。
・マサル→他にもバリエーションありそう。
”油にポーン!!””マッサルマッサル!!””ウラーラーラーラー!!”

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

アニメのこの回、マジで何か挟み込む余地少ないんだよなぁ…。

さて、次回の投稿は例によって未定となっております。

12月が怖いいい………。
年末進行やだぁああ………。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#13海賊と一緒③

タイヤ交換で疲れたので初投稿です。

いよいよ12月、一気に寒くなり皆さんいかがお過ごしでしょうか。
私は実家からの要請で、車2台をスタッドレスタイヤに履き替えてました。

久々にやって、めっちゃ背中張って痛いです…。

さて、今回は頭空っぽで作った短編になります。
ゆるーく楽しんでいただければ幸いです。

それではどうぞ。



数値なんて知るかッ!
私はスーパードライをかっ込むぜッ!!!


その1.青と大会

 

「11」

「ん~、13!」

「じゃあ、16」

「よし、21!」

「コヨーテ!」

 

ある日の喫茶リコリコ。

毎度恒例のボードゲーム大会にて、常連たちの楽しげな声が響く。

今回はカードを額につけ、その場の合計値を予想し、順番に予想していくゲームのようだ。

 

「よし、じゃあ合計のチェックだ」

トビアの号令で、額のカードをちゃぶ台に並べる面々。今残っているのはこの5人だ。

 

「さーて、今度こそ勝っちゃう、ぞ、お……」

コヨーテを宣言した千束。言葉がどんどん尻すぼみに小さくなっていく。

眼前に広がる数字は、10,2,4,15,そして、MAX→0のカード。

合計16。見事、コヨーテ失敗だ。

 

「だぁああ~!またかよ~!」

頭を抱え大げさにのけぞる千束。

ほかのプレイヤーには横にカードがおいてあり、人形が描かれている。。

その数がプレイヤーの残機を差すので、カードがそもそもない彼女はこのターンで脱落となった。

 

「はぁ~。やっぱトビア混ざると、この手のゲームは一気にバランス崩れるわね~」

「なんの、強敵に挑まなくては楽しくないでしょう」

「…皆さん、あとどれくらい残機残ってます…?」

「「「………」」」

「やめて?化け物見る目でぼくの事見るの、本当にやめて⁉」

つまりは、こういうことである。

 

なにも、トビアは特殊なことをしたわけではない。

とにかくそれっぽい表情をしただけである。今回では初めに回ってきたのでともかく、自分の番になるとそれはとにかく意味深な表情をするのだ。

わざとらしいすっとぼけ方をしたと思ったら、次のターンには神妙な表情。時折「おっ」なんて声を出しては場の空気を不安にさせる。かと思えば、その次には表情を読ませないポーカーフェイス。周りはたまったものではない。

 

「だいたいトビア、顔うまく使いすぎでしょ~」

千束が口をすぼめながら文句を言う。トビアの心理攻撃の被害に一番遭っていたのは彼女だ。

彼がそんな行動をするたびにいちいち反応して、周りを疑心暗鬼にさせる。そしてそれを見て、千束自身も不安になるという悪循環が出来上がる。

 

「ま、所詮はハッタリだよハッタリ。その位でいいんだ」

じっとりした視線を周りから向けられてもトビアはどこ吹く風だ。

 

 

「………」

そんな彼らとはテーブルを別にして突っ伏している顔が一つ。

たきなだ。

何を隠そう、真っ先にトビアの餌食になっていたのは彼女だ。

 

トビアの表情を勝手に解釈し、コヨーテを宣言。1敗。

今度は騙されるかと気合を入れ、周りの空気にのまれ疑心暗鬼になり、またもや宣言。2敗目。

最後はトビアにコヨーテを宣言され、見事に的中。トビアの前の順番だったため3敗目。

ぐうの音も出ないほどの完敗だ。

たかがゲームと言えど、流石に凹む。

 

「なんで、なんで一勝もできずに…」

「元気出せー、たきなー」

横でクルミが慰めとも煽りともとれるトーンで突っついてくる。

 

たきなが本当の意味でリコリコの一員となったあの日。

初めてボドゲ大会に参加し、それから何度かの大会を経て自信をつけた。

そしてこの日、初めてトビアに挑んだのはいいものの、いいようにやられた結果、ここで不貞腐れている。

 

「大体なんですか、あの勘の鋭さ…」

「まー、そこでやられるよな。トビアの奴、周りをひっかきまわしておいて、ここぞというときにぶっこんでくるからな」

“猫みたいなやつだ。”クルミもそうぼやく。

 

「それでも、あいつ負けるときは負けるからあんまり気にするなよ。人生系の奴とか」

「今日のラインナップに無いじゃないですか、それ…」

クルミと一切目を合わせないたきな。いよいよ面倒くさくなってきたなと思ったその矢先、もっと面倒なのがやってきた。

「たきな…悔しいと思わないの…?あの海賊少年に吠え面掻かせたいと思わないの?」

「千束…」

たきなが顔を上げると、先ほどトビアに完敗した千束が仁王立ちでこちらを見ていた。

ちなみにクルミはなんだか面倒な雰囲気を察して、そそくさとトビア達の方へ避難していった。

 

「私たちは一人づつトビアに負けた…。手も足も出せず、完敗だった…」

「……」

拳を握り演説を始める千束に、黙って見つめるたきな。

「だが!しかし!私たちが組めば、一矢報いることも不可能じゃないのではないかあ⁉」

「私たちで…」

「そう!1人じゃだめなら2人で挑む!これもお試しだよ!どこまでトビアに通用するか!」

「どこまで…!」

千束が気炎を上げるたびに、同調するかのように立ちあがってゆくたきな。

クルミはバカを見る目で2人を見つめる。

 

「さあ!やってみないか、たきな君!」

「やります!2人でトビアを倒しましょう!」

「堂々とチーミング宣言すんな」

クルミのツッコミは届かず。

 

なお、今やってるゲームではチーミングも何もできるはずもなく。

 

揃ってテーブルに顔を伏せるバカ2人が居たそうな。

 

「そもそも、トビアってどんなのが苦手なんですか…」

「あ、アクションゲームが結構苦手そうだったなー」

「なんか意外ですね…」

「思った動きができなくてイライラするって言ってた」

「コントロールが下手なのでしょうか?」

「いや、逆に上手すぎてゲームの方がついてけてない。前にコントローラーのスティック、親指でねじ切ってたし」

「斜め上過ぎません…?」

 

 

その2.赤と朝食

 

トビアの朝は早い。

朝の5時には目を覚まし、軽く顔を洗ってジャージに着替えたのち、ランニング。梅雨も空け、日差しが暑く感じる。

たっぷり1時間は走り、6時30分ごろに帰宅。

いつもの仕掛けを起こしたのちに、シャワーを浴び、予め用意していた部屋着に着替え朝食を作る。

 

「今日はリコリコ午後からだし、少し豪勢にしようかな?」

そう言って卵を割り、牛乳とチーズを加えよく混ぜる。スクランブルエッグを作るつもりだ。

「トビアー、コーヒー濃い目の方がいーいー?」

「うん、濃い目でお願いー」

フライパンをあまり熱し過ぎないように気を付け、作った卵液を注ぐ。

目指すは半熟だ。

「付け合わせはベーコン?ウインナー?」

「じゃあ、ウインナーにしておこう」

用意されていた皿にレタスとミニトマトと一緒に盛り付ける。

セットしていたトースターから、勢いよく4枚の食パンが出てくる。

別のフライパンで火を通していたウインナーも出来上がり、準備完了。

 

最後にコーヒーを淹れ、テーブルにセッティング。

両手を合わせて

「「いただきます」」

 

「……いや、いつからいた⁉」

「…6時くらいから?」

「結構怖いんだけど⁉」

 

なぜか一緒にいた千束と一緒に。

 

「来るなら来るって言ってよ…。ていうかどうやって入ってきたんだ?」

「あ、先生から合鍵もらったんだー」

「ミカさん⁉」

朝からトビアが元気にツッコむ。

“そういえば割と前に、朝からいた時もあった…”と頭を押さえている。

それに対してにっこにこの笑顔を見せる千束。なんだか満足げだ。

 

「それで、何かあった?」

朝食を終え、一息ついてトビアから一言。

「ん、いや、最近こういうことしてなかったな~と思ってさ。軽くドッキリしてみた!」

元気いっぱいな千束の回答。対して彼は少し疲れているようだ。

「ああ、うん。なんだろ、そんな気はしてた…」

「まあまあ、美少女からのコーヒーサービスですよー?」

ポッドから2杯目を淹れ、トビアに渡す。

「……まあ、いっか。朝ごはんも手伝ってもらっちゃったし」

「あ、スクランブルエッグめっちゃおいしかった!あれ、お店に出せない?モーニングとかさ!」

 

「そういえば、たきなとクルミが来てから、こういうことも少なくなってきたしね?寂しかった?」

トビアが微笑みながら、そんなことを言う。

「え、や、まー、ね?だって最近、前みたいに2人きりってことも、少なくなってきたしぃ…」

どこかしどろもどろな千束。どうにも図星を突かれたようだ。

「偶にはいいかもね…何さ、その顔」

「やー、うん。考えてみたら、結構恥ずかしいことしてたなー?みたいな?」

「今更…?」

顔を赤くしながら照れ笑う千束に、呆れるトビア。

 

「まったく…。ありがとう、千束」

「トビア?」

不意に、優しげな顔をするトビア。

何かと首をかしげる。

「……。いや、今日はこのまま午後までここに居る?」

「うん!ちゃんと映画持って来たぜっ!」

「時間的に2本だけね?」

“あれ、また呆れた顔になった。”

まあいいかと千束がBDをプレイヤーにセットする。

今回のチョイスは、アメリカの某警察学校を舞台にしたコメディー映画だ。

 

隣に座るトビアの顔を見る。

「…ぷ。ふふふっ…」

先ほどの疲れはどこへやら、とてもすっきりした笑顔だった。

 

「そういえばさー、たきな、スカルハートに憧れてるみたいだよ?」

「うっ」

「あれ~、トビア知ってたんだ~?言ってあげないの~?」

「いや、その、タイミングが、さ?」

「ほ~ん?やに消極的じゃない?」

「…自分で言うのも違うじゃんか…。恥ずかしいし…」

「…私が伝えてあげよっか?」

「いやっ、それも止めて⁉まさかあの時の子とは思ってもなくて…!」

「トビア、その話詳しく」

「…え⁉」

「詳しく」

 

 

 

おまけ

・いつかのDAその4

「大体真似するなら、そっちじゃなくてスカルハート本人をだな…」

「ですが、私は見たことないですし…。フキさんは何か知ってますか?」

「………」

マントを敵に投げ、視界をふさいだ後にマウントを取り殴りつける姿。

ゼロ距離で非殺傷弾を顎に打ち込む姿。

敵の頭を掴み、アスファルトの上に擦り付けながら走る姿。

「………」

「フキさん?」

(確実に悪影響を与えるっ⁉)

 




以下筆者メモ

その1.
・コヨーテ→4人以上でやるとめっちゃ盛り上がる。(主観)
・勝ち方→トビア君のやり方は、私の友人のやり方から。ちなみにその友人は最終的にパロスペシャルを食らってたので、あまり真似するのはお勧めしません。
・しょせんはハッタリ→???「世の中、それぐらいでちょうど良いのじゃ!」
・いじけるたきな→3連敗決められてどんより。やっぱり一勝ぐらいはしたいよね?
・突っつくクルミ→ちびっこがそういうことするの、なんか和むよね。
・人生系→流石にああいう運ゲーはNTでも無理。
・バカ2人→流石にズルして迄は挑む気概はなかった模様。書いてて思ったけど、コヨーテのチーミングってなんだろ?(他人事)
・スティックねじ切り→P〇3でやりました。マヨナ〇アリーナです(実体験)

その2.
・早朝ランニング→たまに短距離走の速さで走ってく人何なんだろ…
・スクランブルエッグ→クッ〇パッド見ながら作った思い出の料理。意外とうまくいくからバカにできない。
・どこでも千束→現実にやられると怖いやつ。報・連・相は絶対。
・映画→ポ〇アカ観ながら飲むバドワイザーはおいしいぞぉ。

おまけ
・頭を掴み→Brack Sunより。とてもじゃないがヒーローの戦い方じゃ無くてびっくりした。…まあ、ブラックさんの場合は、なんかすすき野みたいな所だからまだマイルド…?
・悪影響→トビアのせいでその気遣いもおじゃん。

今回も、ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

……
あの、お気に入りいつの間にか100件超えてるんですケド…。
う、嬉しいんですよ?
まさか私の拙作が、こんなにも大勢の人に読んでもらい、お気に入りにしてもらい、評価される。本当に夢のような状況です。

でも、やっぱり謎にプレッシャーがががが……。


あ、それはそうと次回の投稿も未定となっております。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想・評価、お待ちしております。


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#14海賊と少女たちのお買い物

最近風邪をひいたので初投稿です。

正直、このご時世で風邪と言われてかなりヒヤッとしましたね…。
まあ、新型ではない既存のコロナと言われてホッとしましたが。

さて、今回も分割となっております。
……パンツ回で分割?
私、割とマジでヤバない?(38.5℃)

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それではどうぞ。


ビ、ビール、ダメっスか…?え、カロナール錠……?


1.

 

乾いた音が鳴り響く。

放たれた弾丸が真っ直ぐに的へ

———向かわない。

右へと大きくずれ、人型の枠の外へ当たる。

 

その後、マガジン一つを丸々使い射撃するも、中心へと狙った弾は1発も当たらず、

そのほとんどが枠外へと流れる。

 

「何なんですか、この弾…!」

「ひひひひ、やばいっしょコレ?」

射撃に絶対の自信を持つたきなが戦慄し、その隣では千束がいたずらに成功したかのように笑う。

 

ここは、喫茶リコリコの地下にある射撃場。

普段から腕を錆び付かせないために、開店当初からミカによって用意された場所だ。

 

今回、たきなは千束とトビアが普段扱う非殺傷弾に興味を持ち、どんなものかと試し撃ちしたのだが、結果は見ての通り。

「2人はよくこんなもの使えますね…」

たきなが信じられないといった表情で2人を見る。

 

「いや、この距離じゃぼくも千束も当たらないからね?」

「そ。だからこそ、私たちは近づいて撃つ!」

そう言い的を近づけて撃つ千束。

銃を両手で握り、顔の前でやや斜めに傾けながら放たれた弾丸は、見事的の中心を貫いた。

「有効射程距離が2mもないじゃないですか…。ああ、だから2人は…」

「うん、あそこまで近づかなきゃならなかったんだ」

そう言って、次はトビアが同じ距離で撃つ。

的の中心から少しずれて命中。流石に千束ほどではないが、それでも十分通用するだろう。

 

思い返せば、二人の戦闘スタイルは最早近接格闘と言わんばかりの超近距離戦だ。

何なら、

「トビアに至っては、殴る蹴るでしたもんね…」

「だって、わざわざ撃つよりも早いし。弾も節約できるから便利だよ?」

「私もよく蹴るし?」

あっけらかんと2人揃ってそんなことを言う。

 

「……私には無理そうですね。この命中率じゃ、自分の身も守れませんよ」

たきなが呆れたように言い、実弾に換え射撃を再開する。

今度は見事、全弾急所へ命中。先ほどの結果は何だったのかと言わんばかりの命中率だ。

 

「うっわ、すごいじゃんたきな。機械みたい…」

「うん、無理してあの弾使う必要はないね。これなら急所も避けて当てられるな」

「急所に当てるのが仕事だったんですが?」

そう言ってたきなが苦笑い。

「もう違う、でしょ?ささ、もう戻ろ?開店準備しなくちゃ」

てきぱきと千束が後片付けをしながら促す。

 

階段を上がり、梯子を上り座敷にたどり着く。

畳を戻し、しっかり梯子を隠した後、カウンター奥へと向かう。

 

「お前ら、お疲れー」

席に座っていたクルミからそんな声がかけられる。

手元にはタブレットが握られており、どうやらカメラを通じて射撃場を見ていたらしい。

「それにしても、こんな住宅街のど真ん中でバカだよなー。バレたらどーすんだか」

ふと、そんなことを言われる。

「?防音設備は充実してますし、いつでも訓練できて便利ですけど…?」

不思議そうに首をかしげるたきな。

 

「……そういえば、そっち側だったなお前……」

なぜかクルミに呆れられてしまった。

 

 

 

2.

お客さんが帰り、そろそろ閉店するかといった時間帯。

トビアは一人レジ締め作業を行っていた。

厨房ではミカがキッチンを片付けており、ミズキはカウンターを布巾で拭いている。

 

「………あ、い、つ、ら~!」

「レジ締め終わり。…ミズキ抑えて抑えて。いつものことでしょ」

ミズキが布巾を握りしめ、わなわなと肩を震わせる。

「だっ!こんのー!」

「お、相手結構うまいな。有効打かわされてるぞ」

目の前の座敷から千束とクルミが楽しげな声を上げる。どうやらあの二人は閉店作業をさぼってVRゲームをしているようだ。

 

「……今月のトイレ掃除はあの2人で決定だな…」

かくいうトビアも腹には据えかねていたようで、軽く青筋が額に浮かんでいる。

「ちょ!トビアやめ……うあああああああああ⁉」

と、ここでゴーグルを着けた千束が声を上げる。どうやら動揺のあまりプレイングミスをしたらしい。

「あ、キル獲られたな。…え、トビアまさかボクもトイレ掃除か?嘘だろ⁉」

気の抜けた声を上げていたクルミも、トビアの発言に跳ね起きた。

 

 

「ただいま戻りました。…何してるんです?トビア?」

「おかえり、たきな。…なんだろ、梅干し?」

「ぬ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛⁉」

“トイレ掃除と制裁、どっちがいい?”と二人に選ばせ、制裁を選んだ千束のこめかみをグリグリしていると、買い出しに出ていたたきなが戻ってくる。

この光景にだいぶ困惑しているようだ。

「あ。また千束がさぼってたんですか?」

「正解。ついでに後ろで震えてるクルミもね」

普段からは考えられない叫び声を上げる千束にすっかりおびえ、涙目で震えるクルミ。

「クルミ、…悪いことは言わないから、掃除にしておきなさい。偶にはあたしも手伝ってあげるから」

「ミ、ミズキぃ…!」

先ほどまでの怒りはどこへやら。慈母のごとき表情を浮かべたミズキにより、説得されたクルミ。ちなみに今日のトイレ掃除の当番はミズキだ。

 

「だいたい、ムキになり過ぎじゃない?」

「ててて…。だって名前がムカつくし~っ!」

ゴーグルを外し、モニター画面を指さし主張する千束。

「えーと、“FUKI”…流石に偶然では?」

画面をのぞき込むたきなとトビア。

何だか聞き覚えのある名前が表示され、納得。

「!そうだ、たきな!私の代わりにやってよ!仇は任した!」

「え?」

そう言ってたきなにゴーグルを装着させ、コントローラーを渡す千束。

「お?おお…、結構リアルですね、これ…」

戸惑いながらもゲームを始めるたきな。

 

「…はあ、しょうがないか。たきな、買ってきてくれたのはぼくが冷蔵庫に運んでおくから、今日は仕事やんなくていいからねー」

トビアはため息を一つこぼすと、買い物袋をもって厨房へと向かう。

 

「…すっかり馴染んだなあ…」

ふと振り向く。

千束が横で応援し、クルミがモニターを見て状況説明。

そして、ゴーグルで顔は見えないがどこか楽し気な雰囲気を醸すたきな。

 

「10年目でまた騒がしくなったな?トビア」

「ミカさん」

後ろからミカがやってくる。

どこか柔らかな表情だ。

 

「最初は私と千束にトビアの3人だけだったのにな…」

「次にミズキで、今年に入ってたきなにクルミ、ですもんね?まさかの倍増だ」

視線の先では楽しそうな3人と、少し離れて彼女たちを見守るミズキ。

なんだか感慨深いものを感じる。

 

「…おっといけない、早く入れちゃわないと」

「ああ、私が入れてくる。お前もあっちに入ってくるといい」

そう言ってトビアから荷物を受け取るミカ。

「…じゃあ、お言葉に甘えて」

と、このタイミングでたきながバク転を繰り出した。

どうやら相手の銃撃をかわしたらしい。

「あーあー、女の子がはしたない…。あ、でもちゃんと短パン履いてたな。関心関心」

千束が何だか信じられないものを見たかの表情でたきなに驚いているが、まあいつものように変なこと言いだすだろうとあたりをつけ、放っておく。

 

「お、一勝したんだ。さ、撤収撤収。そろそろ片づけて」

手を2回鳴らし、3人に促す。

 

喫茶リコリコ、10年目の夏を目前にした一幕だった。

 

 

 

3.

「……ねえ、トビア。たきなのパンツって見たことある?」

「なに言ってんの?」

作業も終わり、いざ帰ろうかという時分、千束にそんなことを言われ素っ頓狂な声を出すトビア。

言った本人は腕を組みながら座敷に座り、思案顔。

「なんだー?たきながどしたー?」

ゲーム機を片付けたクルミが顔を出す。

「クルミはどう?たきなのパンツ」

「?なんだ、ノーパン派か?」

「いやいやいや、そうじゃなくてさ」

「なら、何履いててもたきなの自由だろ」

「…あの、ぼく居るんですケド…?そういうトークやめてもらってもいいですか…?」

急に始まる女性のえぐみのあるトークに、トビアは居心地悪そうに抗議した。

「…まあ引き伸ばしてもあれだし。言っちゃうけどさ、私、さっきのバク転で見たんだよね」

“たきながトランクス履いてるのを”

 

静まり返る店内。

「…ん?女性用のもあるし、そこまで変じゃ…」

「男物にしか見えなかった」

クルミが意見を言うも、ばっさり切り捨てる千束。

再び沈黙。

 

「……ん⁉あれ短パンじゃなかったの⁉」

ようやくトビアが再起動。

「……やっぱ見てたんじゃん……」

ジトっと視線を向ける千束。

それはさておき、

「…トビアのせい、というわけでもない訳か…」

「まさかの容疑者⁉」

 

「ああ、店長からの指示でして…」

「先生⁉」

 

あの後、更衣室から出てきたたきなに事情を聴くと、リコリコ配属時にミカから“制服は支給するからそれ以外は自分で用意してくれ”と言われたらしい。

「それで、どんな下着がいいか分からなくて、ミカさんに聞いたと…」

「いや、それでなんでトランクス⁉」

トビアがまとめるが、今の段階でトランクスを選ぶ理由が全く見えず、ツッコむ千束。

“何を言った⁉”と言わんばかりの視線をミカに向け、先を促す。

「ああ、好みを聞かれたからな」

「アホかッ!……なんでドヤ顔⁉」

「あ、でもこれ履いてみると結構開放的で…」

「誰も聞いてないよ⁉ていうか、トランクスのレビュー⁉」

ボケの波状攻撃に晒されるツッコミ2人。

“何だこの天然…”と、トビアがダウン。千束もため息が止まらない。

 

「っはぁ~。…たきな、明日の昼12時に駅前に集合」

「仕事ですか?」

「違うわッ!パンツっ!買いにっ!行くのっ!」

ずかずかと店の出入り口へ向かう千束。

と、出る直前に

「あ、制服着てくるなよー。私服で来て、し・ふ・く・で!それからトビアも強制参加ね」

そんなことを言ってドアを閉める。

 

「………はっ⁉え⁉なんでぼくも⁉」

トビアが我に返り、千束を追うため店の外に出る。

「ぼく絶対必要ないよね⁉ちょっと⁉千束⁉」

「たきなの服も見繕うの!その荷物持ち!」

「流石に服は大丈夫でしょ⁉たきなに失礼だ⁉」

外からでも響くその声もだんだんと遠ざかっていく。

 

ふと、何かに気づいたかのようにたきなが問う。

「指定の私服ってありますか?」

「………」

あんまりな発言に、ミカは天を仰ぐのであった。

 

 

 

4.

翌日、正午前、北押上駅前にて。

一足先に到着したトビアが腕時計を確認していた。

「…まだ時間に余裕、あったな。それにしても…」

周りから視線を感じる。いくら観光客が来るといっても、やはり純外国人というのは目立つ。

おまけに、

「…この傷かなぁ」

鼻の上を奔る傷跡をかく。

名誉の負傷だ、海賊として箔がついたなんて言っていたが、こういう場所では周りの視線がなんとも煩わしい。

「はぁ、絆創膏かなんかで隠すべきだったかなぁ」

“こっちに来るまではそんなことなかったのに”と独り言ちる。

 

そもそもトビアのいた宇宙世紀は、大きなものこそ直近の木星戦役位だが、規模の小さな小競り合いはいたるところで起こっており、大なり小なり傷を負う人も珍しくはなかった。

ついでに、人種ごちゃまぜな宇宙時代にトビアの容姿を気にするものもいるはずもなく。

 

「どこか、喫茶店探して入ろっかなぁ…」

とりあえず、落ち着ける場所を探すため駅前から移動しようとしたその時、背後から元気な声が聞こえてきた。

「へーい、かーれしっ!おっまたせー!」

「お、来たな元凶。…おっと、“今来たとこだよ”?」

「ノるならノりきってよ!」

べしっと背中をはたく千束。

「おっとっと。それにしても、赤のアウターとはね。似合ってるよ?」

「…まーたさらっとそういうこと言う…。トビアもその青いのいいじゃん」

丁度対になっているかのような組み合わせに、二人して笑いあう。

 

さて、これであとはたきなが来るだけだ。

「どんなの着てくるかな?」

「まあ、ああは言ってたけど、なんだかんだ大丈夫だとは思うなあ」

そんな風に話していると、約束の12時になった。

 

「お待たせしました」

「お、来たなーたき、な、…おお、なんか、新鮮…」

集合時間ぴったりにやって来たたきなに言葉を失う千束。

見れば、Tシャツにジャージのズボン、そしていつもの武装鞄。

傍から見れば、まさしく

 

「…アラサーの休日の部屋着……?」

「トビア、私だって傷つくことがあるんですよ…?」

言葉選びに失敗したようで、涙目にさせてしまう。

平謝りするトビアであった。

 

「それはそうと、貴様、銃持ってきたな?」

千束が笑顔のままたきなに詰め寄る。リコリスの基本装備である武装鞄には、防弾のためのエアバックに、弾薬と応急キット、そして下部にすぐ取り出せるよう銃が仕込んである。

「…ダメでしたか」

「絶対抜くんじゃねぇぞ…?」

念を押す千束。

実際、リコリスが銃を携行して任務に当たれるのは、その制服を着用しているからなので、この懸念は当たり前だ。

 

ここで、2人の格好を見る。

黒のシャツに白のホットパンツ、赤のアウターを着こなす千束に、

青のデニムシャツとその下に黒いTシャツを着こみ、下は薄い青のジーンズのトビア。

「2人の衣装は、自分で?」

「衣装じゃないよ…?」

なにやら戦慄するトビア。喪女扱いは流石に傷ついたが、確かに二人に比べたらあまり適切な服装ではなかったかもしれない。

 

「ねえ、たきな。スカートとか1枚も持ってないの?」

「…アラサー扱いされるくらいですからね。制服だけですよ」

ちょっと不貞腐れてしまうたきな。慌ててトビアがフォローを入れる。

「ちゃんと選ぶから!なんならぼくがお金出すから!有り余ってしょうがないから!ね!」

「お、トビア君たら太っ腹~。私たちで選んであげるからさ、先に服買って行こ?」

「…まあ、二人が選んでくれるなら。…あと、お金は別にいいですよ」

そっぽを向きながら了承。

ほっとするトビアに、何やら嬉しそうな千束。

 

いつも部屋で一人過ごすのとは違う、そんな休日が始まった。

 

「お~!いいじゃん、かわいいよたきな~!」

「…あの」

「あ、こういうのはどう?ジーンズなんだけど」

「む!トビアもいいの選ぶね!カッコいい系かぁ」

「ふ、2人とも…?」

「あ、ロングも結構似合うね?」

「おおー!たきなっ、めっちゃ可愛いよ!」

「…ど、どうも」

 

目的地のショッピングモールにて、たきなの服を買うべくショップを訪れた千束たちは、

彼女を着せ替え人形にしたファッションショーを開催していた。

 

着せ替えるたびに写真を撮る千束に、そんな姿に軽く引きつつも服を次々と持っていくトビア。たきなも慣れていないながらも、照れながらされるがままになっている。

 

「よっし!完璧!」

「うん、似合ってる。…さっきはごめんね?」

「もう別にいいですって…。その、2人とも、ありがとうございます」

結果、夏の到来を感じさせる灰色の半そでに、紺色を中に覆った白のロングスカートのコーディネーションに決定した。

 

たきなの服も決まり、店を後にする。

買い物袋を受け取ったトビアは、千束にこの後の予定を聞く。

「んー、とりあえず予定通り下着買いに行くかなー」

「そっか。じゃあ、その間おれは時間つぶしてるから。終わったら連絡してよ?」

 

「?トビアも一緒に来ないんですか?」

ここで、たきなが爆弾を放り込む。

 

「………はい⁉何言っちゃてんの⁉」

千束がいち早く再起動。

「でも、さっき“ちゃんと選ぶから”と言っていましたし…」

「服だからね⁉流石に下着はダメ!」

あまりの事に思考が停止するトビア。なんだか猫を彷彿とさせる表情だ。

「トビアも何とか言って⁉」

「………はっ⁉」

ここで帰還。

「あー、…たきな、流石に異性に聞くものじゃないから」

とりあえずたきなを諫めるトビア。

“またこの流れか…”とげんなりしている。

「そういうものですか…」

少ししょんぼりするたきな。本当に表情豊かになったなと、トビアは現実逃避義務にそう思った。

 

「でしたら、アドバイスをください。どんなものがいいか、どういう基準で選んでいいか」

切り口を変えて聞いてくるたきな。

何が何でもトビアを関わらせようという、強い執念を感じる。

「うん⁉…えー、とぉ…、そう、だな。とにかく試着して、気に入ったものを、かな?」

隣の千束に助けを求める視線を送りながら、なんとか答える。

「なるほど、ここでも試すんですね」

なにやら納得のいったたきなに、ほっと胸をなでおろすトビア。

「…じゃあ、待ってるね」

「はい、また後で」

「…なんか、ごめんね?トビア」

そう言ってランジェリーショップへ向かう二人を見送るトビア。

 

「………本屋ないかなぁ…」

気疲れの為か、肩を落として歩くその姿はどんよりしたオーラを身にまとっていた。

 

 




以下筆者メモ

1.
・地下にある射撃場→いくら地下とはいえ、住宅街のど真ん中にシューティングブースはやばくない?
・非殺傷弾→スピンオフノベルによると、赤い粉末状のプラスチックゴムと金属粉固めた「プラスチック・フランジブル弾」とのこと。バットで殴られるのと同じぐらいの衝撃て、当たり所によってはコレ、相手死ぬのでは…?
・そっち側→常識:マイナス評価

2.
・VRゲーム→あのゴーグルにモーションセンサーでもついてるのかな…?
・トイレ掃除→嫌がる人も多いけど、ちゃんと装備をそろえて臭い対策したうえでやるとすいすい汚れが取れて、中々の爽快感(ドMの考え方)
・梅干し→地域によって呼び名が違う不思議な技。筆者の地域ではそのまま「グリグリ」
・掃除当番→ラクができそうでミズキもにっこり。

3.
・パンツ見た?→なんで男子に聞いたし。
・男物→そういえば何で知ってるんだろ、この子。映画で見たのかな?
・えぐみのあるトーク→男を意識しなくなると、ナプキンだろーが生理だろーが平気で話す。そんなもんです。
・ジトっと→流石に不可抗力なので許してあげて。
・ドヤ顔ミカさん→確かになんでドヤ顔してたんだ?あの人…。
・トランクスのレビュー→そんなン聞かされても困るに決まってる。
・ボケの波状攻撃→今回のトビア君と千束ちゃんの役割は、ツッコミです。
・トビア参戦→ツッコミ役の確保。彼にとってはいい迷惑。
・指定の私服→中々のパワーワード。

4.
・目立つトビア→顔に傷のある金髪の少年。そりゃ目立つ。
・海賊として箔がつく→昔やったスパロボVでこんなこと言ってたような気がしました。
もはやうろ覚え。
・小競り合い→宇宙世紀の怖いとこ。広義で言えば、オールズモビルとの闘いも小競り合いみたいなものだからまあ酷い。
・さらっと→こういうふうに人を褒められる、そんな大人になりたかった…。
・トビアの服装→やっぱりいいものが思いつかなかったので、無印第1話のスマシオン号での服で。色についてはガンダムウォーのカードから。だってトビア君、基本ツナギのイメージが強くて…。
・たきなの服→正直あれにサンダルとビニール袋下げてたら完璧だった。でも部屋着としてはまともな方。
・涙目たきなちゃん→ちゃんと女の子なんですよ…?
・いつもの休日→あの踊る花、もしかして自分で買ったの…?
・トビアのジーンズ推し→ぶっちゃけ筆者の趣味。こういうのを着こなす女の子ってカッコいい。
・宇宙猫と化したトビア→宇宙海賊で猫っぽいし、いいかなって。
・ここでも試す→ちゃんと教えが根付いてるようで何より。
・どんよりトビア→勘弁してやって

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

ちさたきデートは入り込む余地ないからホントに大変だぁ…。

さて、例によって分割分は近日中に投稿予定です。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想・評価、お待ちしております。


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#15海賊とさかな

熱が37.5℃まで下がったので、初投稿です。

特に書くことないなー、と思ったんですけど、一言だけ。
スウゥゥゥ…ダイナアアァァァァァ!!!!

なんのこっちゃと思ったあなた、デッカー 21話 で検索を。

ほんの少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

それではどうぞ。



トローチおいちい。


5.

「たきな、トビアにもうちょっと手加減してあげて…?」

「手加減、とは?」

「うん、デリケートな話題だから疲れちゃうのよ。そもそも、男の人が女の子の下着の事なんて分かる訳もないし」

「…トビアでも分からないことがあるんですね…」

「何その厚い信頼」

向かう途中、そんな会話を繰り広げる千束とたきなの2人。

たきなの天然ぶりに早くもたじたじだ。

 

そうしてたどり着いた目的の店。

様々な種類の下着が陳列されている中、“どーよ”とたきなに視線をよこす。

「………沢山ありますね」

「好きなの試してみな?」

「好きなの…。仕事で使える様なのはどれでしょう…」

「ガンアクション前提⁉そんなのあるか!」

ふと、この前トビアと一緒に観た映画のワンシーンが脳裏によぎったが、すぐに切り替える。

「そういう意味では、このトランクス結構いいんですよね。通気性もあるから不快感は少ないし動きやすいですし。流石は店長って思ってたんですケド」

「いや、そこまで考えてる訳ないから!…だいたい、トランクス履いてるなんて人に見せられないでしょ…」

呆れた声を出す千束。まさか男物の下着にそんな副次効果があるとは…。

「いえ、パンツ自体人に見せるものではないのでは…?」

「いざって時どーすんのー」

反射的にそんなことを言う千束。

そう言われたたきなとしては、

「いざって。…どんな時のことを言うんですか?」

こう尋ねざるを得ず。

 

「え。………」

思わずフリーズ。本日2度目だ。

(いざ、いざ、いざ……。まあ、ソウイウコトをする時というか、なんというか)

またもや先日の映画のワンシーンが脳内再生。ギャグとして描写されていたが、あれは間違いなく……。

そして、同時にトビアの横顔が出てくる。

(あ!ダメな奴だコレ!まずいまずいまずい、トビアで想像しちゃう!)

2人で並んでベッドに腰掛ける。どちらともなく自然に倒れこみ、そのまま……

 

「しっ!しししし知るかぁ!バカたれー!」

寸前で何とか軌道修正。顔を真っ赤にしながらも声を荒げることで、話題を強制終了しようとする千束。

 

「うーん………」

対するたきなは、思案顔で唸る。

「た、たきなさん…?」

なにか嫌な予感を感じ取った千束は、たきなから距離をとろうとする。

が、それよりも早くたきなが千束の腕をつかむと試着室に連れ込む。

「うえっ、えええ⁉」

素早くカーテンを閉められ、鏡を背にして追い詰められる。

目の前のたきなにじっと見つめられ、沈黙。

 

「…な、何…?」

たまらずたきなに問いかける千束。

すると、とんでもないことを言われた。

「千束のを見せてください」

「は、はいいい⁉」

「見られて大丈夫な下着というのを知りたいんです」

真剣な表情のまま、前にしゃがみ込むたきな。

 

あんまりな理由に固まる千束。

「早く!」

「急かすな⁉」

仕方がないと、謎の焦燥感に駆られて自分のホットパンツを下げる千束。

 

その顕わになったパンツを食い入るように見つめるたきな。

控えめに言って、地獄だ。

 

「うーん、……これが私に似合うっていうと、ちょっと違いますね…」

「そうだね!なんで見せた私!」

やけくそ気味に叫ぶ千束。

既に涙目だ。

 

「とりあえず、これが見せてもいい下着ということですね」

たきなは満足したようで、試着室から出ていく。

 

もうこのまましゃがみ込んで泣いてしまいたい、そう思っていた千束は、今のたきなの言葉に違和感を覚える。

「…あれ。たきな、もしかして見せる予定が……?」

急いでズボンを履きなおし、試着室を出る。

 

この後めちゃくちゃ問い詰めながら下着を買った。

 

「おーい!トビア、こっちこっちー!」

連絡を受けたトビアは、待ち合わせ場所に指定されたカフェに向かっていた。

なんでもハワイをテーマにしているらしく、パンケーキが有名なお店のようだ。

 

「ふう、お待たせ、2人とも。…そのパンケーキデカすぎない…?」

千束とたきなの前に鎮座しているパンケーキは、とても常識的な量とは思えないトッピング盛りだくさんのものだった。

「お疲れ様です、トビア。…やっぱり大きすぎますよね、それ?」

「なんだよー、2人してさー。それだけカロリーを必要としてんのー!ほんっっっとに疲れたんだからっ!」

そう言って、パンケーキにありつく千束。見てるだけで胸焼けしそうだ。

「あ、アイアスコーヒーを一つ」

とりあえず注文。ここに来るまでは、パンケーキの一つでもと考えていたが、流石に憚られる光景だ。

「う~ん、美味し~」

「食べ過ぎですよ、千束。おいしいのはいいことですけど…」

「野暮なことは言わな~い。寮じゃこんなの食べられないし~」

「寮の食事もおいしいですけど…」

「そりゃ、宮内庁の総料理長やってた人が作ってるからね。レベルはダンチよ」

「……そうなの⁉」

ここで意外な事実が判明して、驚くトビア。

 

「あれ、トビア知らなかったの?何度か寮の食堂使ってなかったっけ?」

「いや、そこまで頻度多いわけじゃないよ?任務が長引いて、夜遅くでリコリコに帰れないときぐらいで…。え、ホントに?」

「というか、トビア、寮の食事知ってたんですね…」

意外そうな目を向けるたきな。

確かに言われてみれば、男の自分がDAという女の園で食事をとっているというのは、違和感がある。

「まあ、トビアもフリーでやって長いからねー。で、話し戻すけど、あそこのスイーツってかりんとうだけじゃん!流石に飽きるって~」

「あー、なんとなくその気持ちは分かるなー」

「私は好きですけど、かりんとう」

「そりゃ来たばっかだからでしょ!大体、人間一生のうちに食べられるものは限られてるんだから、チャンスがあればどんどん食べてかなきゃ!」

そう言って大きく口を開けて頬張る千束。

言わんとしてることは分かるが、あんなに食べて今夜は夕食が入るのだろうか。

 

と、ここでたきながぼそり。

「……太りますよ」

「貴っ様、言ってはならんことをー!」

“道連れじゃぁー!”

千束からパンケーキ攻撃を食らい、沈黙するたきな。

「………」

トビアは我関せずといった雰囲気を醸し出し、アイスコーヒーを飲みながら2人を眺めるのであった。

 

「トビア、千束とは長いんですか?」

「え?」

千束がメニューが読めずに困っている観光客らしい男女を助けに行っている間、いい機会だと思いトビアに質問をぶつけるたきな。

「あー、軽く話したっけ。そうだね、かれこれ10年くらいかな」

「10年、…もしかして電波塔事件の頃から?」

「そう、だね。あれが初めて出会ったときかな?」

そう言って、旧電波塔跡を眺めるトビア。とても懐かしそうな顔だ。

 

 

電波塔で出会った。つまり、千束が話していた彼女を助けた人というのは、まず間違いなく彼の事だろう。

そして、そのまま崩壊を止めたのも。

ふつうに考えれば、たった2人で止めることなど不可能だ。

だが、自分はそんなことが可能なものを知っている。

あのドクロの巨人だ。

6年前のあの時、空からあの巨人はやってきて、そして空を飛んで帰っていった。

ということは、あれには飛行能力があったということ。

電波塔の崩壊を止めるために、空を飛びながら作業に当たるというのも決してできない事ではないだろう。

 

だとしても、分からないことがある。

10年前ということは、トビアもそれ相応の年齢だったはずだ。

千束や自分とそんなに変わらないように見えるため、おそらく7,8歳。

果たしてそんな年齢であれだけのものを操縦できるだろうか。

 

それに、あの巨人のパイロットだった彼は、自分を助けてくれたとき、すでに10代中ごろか後半だったように思える。

年齢が微妙に合わない。

 

でも、あの時の声は、間違いなく…

 

 

「…たきな?」

ここまで考えて、トビアに声をかけられて、たきながはっとする。

「!ご、ごめんなさい。ちょっと考え事を…」

「…今の短い質問に、悩ませるような何かあった?」

首をかしげるトビア。

いけない、放っておき過ぎた。

気を取り直して、別の質問をしようとするたきな。

 

「………、きゅ、休日は何を…?」

「お見合かな?」

なんだろう、チョイスを間違えた気がする。

 

観光客はフランスから来たらしく、店員も対応しきれなったようだった。

彼らの通訳までこなし、残りのパンケーキを食べようと席まで戻ろうとした千束が見たのは、ぎこちなくもトビアに質問をぶつけるたきなであった。

 

「じゃあ、最近の休みはいつも…?」

「そうだね、ドッグタグなんて、て思ってたけ作ってみると結構面白くて…」

「ちなみにその機械って、いくらしたんですか?」

「確か…」

 

自分の新しい相棒が、大好きな人に積極的に距離を詰めに行っている。

そのことはとても喜ばしいのに、なぜだろう、心の奥がつっかえる感覚がする。

これは、何だろう。

「……。ふう、んっ!」

ぱちんと自分の頬を挟み込む。

「………嫉妬なんてらしくないぞ、私」

小さく声に出して、自分の中から追い出そうとする。

 

「よしっ。……私抜きで楽しそうだなぁ、お前ら~?」

たきなに嫉妬するくらいなら、自分から入っていこう。

席に戻って残りのパンケーキをかっ込む。

 

「さ、食べ終わったらいいとこ行くぞー!」

とりあえず、これから行くのは気晴らしにうってつけの場所だ。

 

たきなにも、好きになってもらいたいな。

 

自分の心に蓋をしながら、そう思うのだった。

 

 

 

6.

「いいとこ…、ここが?」

「そ、水族館~!きれいでしょ?」

千束に連れられてきたのは、街中にあるのは珍しい水族館だった。

立地の関係もあるのか、そこまで大型の展示物は少ないが、それでも多種多様な水棲生物が集まっている。

 

「よく来るんですか?」

たきなは水槽を遠めに眺めながら、千束に聞いてみる。

「うん、私たちは年パス持ってるし、常連だよ」

「……私たち?」

「あ、うん。ぼくもあるよ」

意外にも、トビアも千束と同じパスを持っていた。

「トビア、こういうの好きなんですか?」

「いや、何だか珍しくってさ。前いたところじゃ滅多に見れなかったし」

そう言って、照れくさそうに頬を掻くトビア。

なぜだろう、水がたくさんあるところで妙に様になる。

 

「……トビアに見とれてたでしょ、たきな~?」

「ひゃっ」

後ろから千束に声をかけられびくっとしてしまう。

「まあ、こういうとこ来るとさ、トビアって傷跡が相まって海賊というか、海の少年的な画になるんだよね」

「なんだよ、海の少年って…」

なるほど、言われてみれば確かにそんなイメージがぴったりだ。

そういえば、クルミに海賊呼ばわりされていたこともあったな、たきなはそう思い返す。

でも、海賊というよりは

「…どっちかというと、ピーターパンですよね」

そんなことをぽつりとこぼす。

 

「おお、新解釈!それもありじゃん!」

千束が新しいおもちゃを見つけたかのような笑顔を見せる。

対してトビアは、驚いた表情してこちらを見ていた。

 

「トビア?」

「…え、あ、うん。ゴメンゴメン。ちょっとびっくりしちゃって、さ。…前にも、似たようなこと言われてね」

 

“ちょっと懐かしくなっちゃったんだ”

そう言って、少し寂し気な笑顔を向けるトビアが印象的だった。

 

「タツノオトシゴって、魚なんですね…」

「お前、ウオだったのか…」

あれから、少し気を取り直して水族館を見回る。

たきながスマホをいじり、展示されている生き物の解説をして千束がリアクションを返す。

「チンアナゴ…、どうしてこのような形に…。千束?」

「チンアナゴ~」

ゆらゆらとチンアナゴの真似をする千束。

「リコリスが目立ってどうするんですか…」

「制服着てないときはリコリスではありませ~ん。…お、トビアなんかいいの見っけた?」

一方で、トビアは一つの水槽の前で引きつった笑いを見せて立ち止まっていた。

「ん、オウムガイ…?これ、貝なんですか…?」

「おー、英語でノーチラス…。ネモ船長だ~!…あれ、トビアどしたの」

「いや、ちょっとトラウマが……」

「オウムガイに⁉」

あの激闘が不意に蘇り、額に手を当てるトビア。

(というか、木星のMSってこうやってみると海の生き物多かったな…)

この場で言えることでもないので口をつぐむ。

不思議そうに首をかしげる千束とたきながなんだかかわいらしかった。

 

暫く経って、3人はひときわ大きな水槽の前でベンチに腰かけていた。

輝く水の中を悠々と泳ぐ魚たち。

幻想的な光景に、トビアは目を奪われていた。

 

「…2人はいつからあの弾を?」

隣に座るたきなから、そんなことを聞かれる。

「んー、旧電波塔の時に作ってもらったのが初めてかな」

「ぼくは、そうだな、千束とミカさんと出会ってこの仕事をするようになってすぐ、かな」

「あれを使うのに、何か理由が?」

「なーに~?私たちに興味があるの~?」

「タツノオトシゴよりは」

「オウムガイより?」

「……茶化すならいいです」

そっぽを向くたきな。

「ああ~ごめんて~。…といっても、あんまり大した理由じゃないよ?」

水槽を見つめながら語る千束。

「殺しちゃうの、気分悪いから。ホントにそれだけ。」

「気分?」

「そ!悪人にさ、そんな気分させられるの腹立たない?だから死なない程度にぶっ飛ばす!」

そういって拳を空に突き出す千束。

「それにあの弾、当たるとめっちゃ痛いよ~。バットで殴られたときみたいに。あれなら死んだほうがましだな~」

「バットで殴られた経験が…?」

軽く引くたきな。

だが、すぐに吹き出し軽く笑う。

「なんだよ~、変かな?」

「変、というか謎、です。もっと博愛的な理由かと思いました」

「おおー、謎ときたか!ね、トビア。私たちミステリアスガールにボーイだって!」

「そんな難しい話だったかな…?おれたちは」

「したいこと優先、ですね?」

「お!いいね、覚えてるねぇ」

「それと、戦争をしているつもりもない?」

「あー、人に言われると何だか恥ずかしいね、それ」

思わず照れてしまうトビア。

 

「トビアのそれは、どんな意味が?」

たきなからそう問われる。

少し考えて、口を開くトビア。

「…人間てさ、戦争て言葉を使っていろんなことを正当化しようとするんだ。無関係の人を犠牲にしたり、街を壊したりとか。少なくとも、おれが前まで戦ってた相手は、そんな連中ばっかりでさ」

だから

「あんな連中と一緒にされたくない、負けたくないっていう意地、かな?」

“あんまり難しい話じゃないでしょ”と結ぶトビア。

結局、あの木星戦役から今日まで戦い続けたのは、そういうことだったんだろう。

 

「やっぱり2人とも謎です」

そう言って微笑むたきな。

疑問が晴れたのか、少しすっきりした様子だ。

しばらくして、

「でも、どうしてDAを出たんですか?あそこにいても、殺さないってのはできたと思いますけど」

続けてそう問われる。

「あー、と…。今日は、やけにぐいぐい来るね?たきな」

「配属初日に千束にやられましたからね。お返しです」

「うへー、まさかここで返ってくるとは…」

「それも、したいこと優先?」

千束は観念したかのような表情で、胸元からフクロウを象ったペンダントを取り出す。

 

「人探し、なんだ」

 

「…確かにこのペンダントと同じですね」

休憩スペースまで移動して、スマホを使いニュースサイトを眺めるたきな。

画面には、アランチルドレンに関する記事と千束のペンダントと同じものが表示される。

 

「アラン機関、才能を世界に届ける、支援団体……。千束には何の才能が?」

「んー…。分からなあい?」

うっふんとでも言いそうな、すぐそばにあったポスターと同じポーズをとる千束。

「「それはない」ですね」

即座にたきなとトビアに否定され、撃沈。

机に顔を突っ伏す千束。

 

「あー、と。千束はかわいい系だからさ?方向性が違うから、ね?」

「トビアぁ…」

「なんだか久々に見ましたね、その漫才」

千束をあやすトビアに呆れる。

最近は見慣れてきたと思ったが、やはり2人の距離は近いような気がする。

 

「まー、2人はさ、自分の才能って何かわかる?」

「いえ、…何かあれば、とはおもいますけど」

「でしょ?トビアはどう…どしたの嫌そうな顔して」

千束の隣に座るトビアを見る。

今までにないしかめっ面だ。

「あんまり才能とか、そういうのいい思い出なくてさぁ…。別に得意なことで良くない?」

「本当に過去に何があったんですか…?」

なんだろう、さっきの質問の答えといい、彼はいったいどんな人生を歩んできたのか気になる。

それはさておき、

「それで、見つかったんですか?これをくれた人」

「んや、ぜーんぜん」

「10年も探してるのに?」

「…うん」

そう言って、水槽に目を向ける千束。

 

「もう、…会えない、かもね。ありがとうって、伝えたいだけなんだけど、ね?」

 

寂しそうな顔に、何も言えなくなる。

こんな表情はここ数か月で初めてだ。

だからだろう、たきなは普段の自分じゃ考えられない行動に出てしまった。

 

立ち上がり、水槽の前へ出て、ポーズ。

「さ、さかなー!」

 

「へ、…そっか、魚かー。…チンアナゴ~!」

すると千束も乗ってきて先ほどのようなチンアナゴの真似をする。

2人してトビアを見やる。

彼は“仕方がないな”といわんばかりの笑みを浮かべ、千束の隣に立つと一言。

 

「エンゼルフィッシュー」

 

「「オウムガイじゃない⁉」」

「絶対やらない!」

「「本当に過去に何があった⁉」」

 

ぷ、と誰からともなく笑いあう。

見れば千束もトビアもおなかを抱えて笑っている。

気づけば、自分も大笑いだ。

 

「ふふっ、千束、そのペンダント隠さない方がいいですよ?」

「はえ、そう?」

「ええ、…めっちゃ可愛いですよ?」

そう言い、ニヤリ。

 

「あ、こいつぅ!…よっし、次はペンギン島だ!行くぞ2人とも!」

「ペンギン!」

ウキウキで先導する千束に、それに釣られて笑いながらついて行くたきな。

すると、後ろからトビアがやってきてお礼を言ってくる。

「…ありがとね。おれも千束も元気がでちゃった」

「いえ、…よかったです。それに、深い意味は無いですよ?だって」

 

“さかなは、さかなですから”

 

買い物も終わり、駅前に戻ろうとするとトビアは違和感を感じた。

「…千束、たきな」

「うん、いくら何でも、多いね」

「リコリス…、いったい何が」

 

視界の端々に見えるのは、自分たちにとっては見慣れたベージュの制服の少女たち。

リコリスだ。

日本の治安を守る以上、街中にいるのは珍しくはないが、それにしたってこの数は異常だ。

 

たきなが背負った鞄から銃を取り出そうとする。

「たきな、銃は出しちゃだめだ。今のぼくらは手を出す資格がない」

「そうだよ、制服を着てない以上私たちはリコリスじゃない。おとなしく任せよう」

何とか2人してなだめる。

 

そうこうしているうちに、駅の入り口近辺へと到着するも、閉鎖されていて中に入ることができない。

 

「…地下構内で、テロリストがいるってことですか…」

「たきな、抑えて?」

「…分かってます」

険しい顔をして、答えるたきな。

やはり、自分が何もできない状況ということに歯がゆく思っているのだろう。

しかし、トビアはそれとは別の懸念に顔をしかませていた。

(なんだ、この嫌な感じ…。悪意、というわけじゃない?)

 

「トビア…?」

そんな様子に気づいたのだろう、千束が心配そうに声をかける。

 

直後、轟音。

地面が揺れ、駅の入り口から土煙が噴き出す。

 

あまりの事態に悲鳴が上がり、パニックに陥る群衆。

 

「…!」

たきなが走りだしそうになる。

「ダメだ!」

咄嗟に手を掴む。

「もう、…ぼくたちにできることは、何もない」

「トビア…」

悲し気に、一言

「……帰ろう、2人とも」

 

ふと、後ろを振り返る。

混乱を何とか収めようとする警察と、周りから見えないところで、本部と連絡を取り合おうとしているリコリスたち。

 

「何が、スカルハートだよ…」

 

やるせなさを嚙み締め、帰路に就く。

沈みゆく太陽が目に染みた。

 

 

 

7.

「はいっ、これも捨てます!捨てます!これも、これも!」

 

翌日、喫茶リコリコにてたきなの了解を得て彼女のロッカーからトランクスを処分していく千束。

 

「はーい、これ、も…」

次々とゴミ袋に入れていくも、ふと手を止めてたきなの言っていたことを思い出す。

 

「通気性、ねぇ…」

するっ、すちゃっ。

 

「お?おお、意外とこれは…」

魔が差した、とはこういうことを言うのだろう。

意外にも履き心地が良く、新たな発見にはしゃぐ。

 

「千束、いつまでさぼって……」

それが良くなかったのか、ミズキに更衣室を急に開けられる。

 

「いやちがうんですよこれ」

「いいいいやああああああ⁉ハレンチぃいいいいいいいいい!!!!!」

ミズキ絶叫。

「お前、ついにトビアとやったな⁉やったんだろふっざけんな!!??昨日トビアん家に泊まり込んだなそうなんだろ!!!???」

「違うから⁉これたきなの、たきなのだから!」

「嘘つくにしてもマシなのつきやがれ!不潔よ不潔ぅ!!!」

 

すると幸か不幸か、このタイミングでたきながやってくる。

「おはようご、…あの、ミズキさんなに」

無言でスカートをめくり、たきなの下着を確認するミズキ。

たきなの顔は真っ赤だ。

「かわいいの履いてるじゃねぇか」

 

「だから、それは昨日買った…ちょちょちょ!ミズキぃ⁉」

「みなさーん!この店に……」

「マジでやめろ⁉」

 

ミズキを止めようと急いで追うも、逆にミズキに捕まりスカートをまくられる。

「うえ、ちょっ!シャレになんないって!ミズキ!」

「クルミ、アンタ扇風機持ってきなさい!」

「ん?これか?」

「ちょおおおおお⁉やめろおおおおおお⁉」

羽交い絞めにされ、ぶおーとスカートの中身をさらされる千束。

 

さらに運の悪いことが立て続けに起こる。

「すいません、少し遅れま、し、た……」

昨日の疲れからか、珍しく遅刻したトビアが出勤してきたのだ。

 

「…………」

「…………」

ばたん、カランコロン。

 

「ちょっ!!トビアぁああ⁉」

無言で扉を閉めるトビア。

 

 

 

 

「もうすぐ夏だな………」

 

遠い目をしたミカが一言。

喫茶リコリコ、本日も平常運転だ。

 

 

 

おまけ

「トビア、お疲れ様です」

「ああ、うんお疲れ。…どうしたの?たきな」

「いえ、その、見てもらいたいものがありまして」

「?」

「それ用を昨日買ってきたんです」

「え?」

「その、これなん…」

「千束!昨日たきなに何言ったの⁉」

「あ、待ってください!」

「いや追ってこないで、…なんでパンツ持って迫ってくるの⁉」

「感想を!」

「は⁉」

「このパンツの感想を!!」

 

 




以下筆者メモ

5.
・下着関係→正直男から女に相談しても普通に事案。
・厚い信頼→すっかり懐かれるトビア君。
・トランクス→実物見るまでドラゴンボールのあの青年のことだと思ってました。
・映画のワンシーン→タッ〇ルベリーで検索だ!筆者はオース〇ィン・パ〇ーズも大好き。
・涙目→男でも同性にこんなんされたら泣くと思う。
・パンケーキ→20代中ごろ過ぎるときつくなってくる食べ物の一つ。みんな若い頃に色々食べとくんやで…?
・かりんとう→よく考えたらあれも結構砂糖使ってたな…?
・寮で食事→絵面が結構あれな光景。
・夕食→野暮ではあるが、別腹も限界あるよ…?
・名探偵たきな→年齢だけがネック。あともうちょいよ?
・質問のチョイス→困ったときの「休日何してる?」。多分あの時と一緒でお目目ぐるぐる。
・フランス語→ポケ〇ークもまだまだ役不足。
・ドッグタグ→意外と作れるおしゃれアイテム。でも、器具だけで平気で20万、30万する上にプレートも買わなきゃいけないから結構高くつく。
・やきもち千束ちゃん→この位ならかわいいものです。

6.
・街中に水族館→すごいとこだとイルカもいたりする。
・トビアも年パス→そもそもスペースコロニーにそんなのを作る余裕がある訳もなく。
・ピーター→詳しくはXBガンダムスカルハート「星の王女様」より。
・チンアナゴ→ウミディグダ、マジでどうした…?
・オウムガイ→初めて見た時絶対アンモナイトといわれるやつ。ちなみに貝ではなくイカやタコの仲間。何と触手の数は90本以上はあるそうです。
・トラウマ→カラス先生、強烈だったからね。仕方ないと思う。
・木星のMS→どちらかというとMAの方が海っぽい。カニ、クラゲ、さかな、オパビニア…オパビニア?
・気分が悪い→案外ドライな千束ちゃんらしい言葉。なお、この後続く言葉の通りなら、
「殺すのは嫌だから、バットでぶん殴ってぶっ飛ばす」というひどい文言になる。
・戦争をしているつもりはない→ちなみにトビア君、「これは戦争ですからね!」なんて言うシーンがあったりします。ヒントは、彼なりに不器用ながらも一人の女性を元気づけようとしたシーンです。
・意地→???「意地があんだよ…!男の子にはなぁッ!!」
・ぐいぐいたきなちゃん→初日のあれは確かに根に持つ。
・フクロウ→……もしかしてミミズクだったりする?
・才能→トビア君にとっては嫌な思い出が蘇るワード。ヒント、先生と貴族主義。
・さかなー→かわいい。
・チンアナゴ→かわいい。
・エンゼルフィッシュ→その昔、ペズ・バタラというMSがおってな…。
・トビアの過去→現在明かされた情報によると、①オウムガイにトラウマがあって、②戦争を理由にメチャクチャやるやつらと戦って、③才能とかそういう言葉が嫌いで、④やっぱりオウムガイが嫌い。何だこいつ。
・さかなはさかな→すでに使いこなすたきなちゃん。なお冷静に考えると意味不明な模様。
・何かを察知→ああいう思想犯て、自分なりの哲学をもってやるもんだから性質が悪い。
・何が→トビア君、あなたの本分はパイロットです。どうか気にしないで。

7.
・トランクス→なぜ店で履いた…?
・ミズキの反応→いや、恋人の下着履くって相当特殊なプレイよ…?
・スカートめくり→同性同士でもセクハラ認定はあります。
・そっ閉じトビア→こんなん関わりたくないに決まってる。
・夏だなぁ→……そうですねー(目逸らし)

おまけ→被害者:トビア とばっちり:千束

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

過去一長くなってしまった……。
やっぱ体調整えて書くものだなぁ…。

早く治さないと、年末調整まで間に合わないぃぃぃぃ……。

さて、例によって次回の投稿は未定となっております。

皆さん、どうかを風邪をひかないように気を付けて。
社会人になってからの風邪は、本当につらいものです。

それでは、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#16海賊と一緒④

風邪がまだ治らないので初投稿です。

何のかんの1週間に1・2回は投稿できていたのに、遂にペースを崩してしまった…。
まさかこんなところで不定期更新のタグ通りになるとは…。

そういえば皆さま、たくさんのご感想をいただき、ありがとうございます。
皆さんカラス先生好きですねぇ。
そんなあなたに朗報!
ガンダムエースにて「機動戦士クロスボーン・ガンダムLove&Piece」好評連載中!
若かりし頃のカラス先生が見れますよ!(ダイマ)
ちなみに私は、キゾ中将にしか見えませんでした。

さて、今回は短編になります。
茹だった頭で書いたお話ですので、例によってゆるーくお読みいただけたら幸いです。

それではどうぞ。


やっぱり薬をスーパードライでかっ込んだのがいけなかったのかな…?


その1.ネコとフクロウ

 

「やあ、お邪魔するよトビア君」

「あれ、いらっしゃい吉さん。ちょっとぶりですね?」

お客さんがあまり来ない時間帯に、彼はやって来た。

 

吉松シンジ、たきなの初めてのお客さんにして、ミカとは旧知の仲。

あまり頻度が多い方でもなく、客足が少ない時間を狙って来るタイプのお客さんだ。

「シンジ。…2週間ぶりか?」

「正確には、12日ぶりだね。ブレンドとおはぎをお願いできるかい?」

「おっと、じゃあ今日はミカさんが用意します?」

「そうだな、シンジ少し待っててくれ」

そう言って厨房に引っ込むミカ。

 

「そういえば、千束ちゃんとたきなちゃんは留守かい?」

「配達に行ってるんですよ。タイミング悪かったですね?」

「いやいや、そんなこともないさ。君と二人っきりというのも珍しいしね」

「?そう、ですか?」

確かにあまりない組み合わせではあるが、そこまでだろうかとトビアは首をかしげる。

 

「せっかくだし、君のことを教えてくれないかい?」

「そんな人様に話せるようなおもしろい人生、送ってませんよ」

そう言ってはにかむトビア。

「そうかい?なかなかミステリアスだと思うけどなぁ。例えば」

“その顔の傷は、どうしたんだい?”

おや、と思う。

他のお客さんからも、なんだかんだ聞かれたことのない質問だ。

吉松からは、からかい目的というよりは純粋な興味を感じる。

「…ああ、自分で被ってたヘルメットが割れましてね、その時のガラスで切っちゃったんですよ」

嘘は言ってない。

「おや、バイクにでも乗っていたのかい?」

「まあ、似たようなものに。ちょっとやんちゃな乗り方をしちゃったもので…」

乗り物というのも、特に嘘でもない。

 

「……ふーむ、これは手ごわそうだね?」

もっとも、吉松は本当のことを言ってないと感じたのか、少し不満げな表情をする。

「ま、ミステリアスボーイってことで、どうか一つ」

そう言って、トビアは笑ってごまかすのであった。

 

『……私は、アランから支援を受けていなければ、このような舞台に立つことはできなかったでしょう……』

ふと、カウンター横のTVからそんな声が聞こえてくる。

見てみると、海外から来日したピアニストのインタビューのようだ。

首元には先日千束から見せてもらったものと同じ、フクロウのペンダント。

彼女は、左手首を義手に換えており、それがアラン機関からの支援なのだろう。

「素晴らしいと思わないかい?」

吉松から、そう声がかけられる。

自分と同じようにTVを見つめている。

「彼女は、幼いころから天才ピアニストとして名を馳せていてね。数年前に事故で利き腕を失ってしまったんだ」

「それを、アランが…?」

「それだけ、彼女の才能が素晴らしいものだったんだ」

目を細めて語る吉松。

その表情は、トビアにとって嫌なものを思い出すものだった。

 

「おや、どうかしたかいトビア君?怖い顔してるよ?」

吉松に声をかけられ、はっとする。

いけない、彼は関係ない。

 

「ああ、と、…すみません。それより、彼女ってそんなにすごい人なんですか?」

いささか、へたくそな話の逸らし方だ。

それでも吉松は気を悪くせず、彼女のついて教えてくれる。

「ああ、数々のコンクールを総なめし、新たな演奏技法を編み出した。まさに神からの贈り物さ」

「へえ、…それならこれからも楽しみですね。作曲とかもできたりするのかな…」

そうトビアがこぼすと、あれほど饒舌に語っていた吉松がぴたりと止まる。

 

「なんだって?」

「え、だってそれだけすごい演奏ができるなら、新しい曲も編み出せないかな、って?」

思わずきょとんとしてしまう。

何か変なことを言ってしまっただろうか。

 

「…どうして、そう思ったのかな?」

「いや、いくら何でもピアノの演奏しかできない、ということもないと思うんですよ。才能って言っても、それ一つじゃなくて色んな使い方があるじゃないですか」

明らかに様子がおかしくなった彼に戸惑いつつも、言葉を重ねるトビア。

「だから、せっかく色んな事できるなら、やってみないと」

 

「いや、…それは使命に反する行いだ…」

「ヨシさん?」

絞り出すような言葉に驚く。

「才能は、神からの贈り物だ。必ず授けられた意味がある。決して無為に消費されるべきものではない」

「それが、使命…?」

「そうだ、世界に貢献する、才能を持つ者の意味だ…!」

 

すこしの間、沈黙。

これが、彼の、…もしかするとアラン機関の信条なのだろう。

スーツに輝くフクロウのバッジが存在感を増す。

 

「ヨシさん、考え方は人それぞれだからさ、あんまり気にしないでほしいんですけど。…おれは、そうは考えない」

 

“だってそれじゃ、つまらないじゃないか”

 

ちゃんと向き合って、自分の言葉を伝える。

信じられないものを見たかのような表情をする吉松。

「つまらない…?」

「そんな一つの事しかさせてもらえないなんて、つまらないですよ。…それにさ、才能が神様からの贈り物だとしたら、それこそ一つだけしかできないってのは寂しいじゃないですか?」

”神様だって、そんなつまらないことはしないだろうし”

 

「………、君は、独特な考え方をするんだね…?」

ふと表情をやわらげ、吉松が苦笑い。

 

「考え方は人それぞれですって。…色んな人がいてもいいじゃないですか」

こっちも頬を掻き、苦笑い。

「……君も、結構才能あるね?」

「やめてよ、ヨシさん。ぼくはいいや、ただの人間で充分!」

「2人とも、打ち解けてきたじゃないか」

ちょうどいいタイミングでミカがコーヒーとおはぎをもってやってくる。

 

「ミカ、妬かないでくれよ」

「そういうからかい方は、嫌いだ」

2人の間で雰囲気が作られる。

「あー、と。お二人ともごゆっくり」

 

とりあえず、ここは退散だ。

2人を残して厨房へと引っ込む。

 

それにしても、

「あの目…」

あいつを、…先生を思い出させるあの目が頭から離れない。

 

「アラン機関、思ったよりもやばそうなとこだなぁ…」

千束には悪いが、一抹の不安を覚えるトビアであった。

 

「そういえば、才能という言葉にあまりいいイメージをもってなさそうだね?どうしてだい?」

「ああ、…昔そんな感じの事言われて強引に勧誘されたことがありまして…」

「それはまた…。そのことがトラウマに?」

「それが、そのこととは別に“君はまだまだ強くなる”“生き延びたら、私の生徒にしてあげます”なんて言われて、重機みたいなのと対決させられたり…」

「うん、君に対して謎しか深まらないな?」

 

 

 

その2.海賊とまかない

 

「えーっと、…たきな?」

「なんですか?トビア」

「お昼、用意する話だったけど…」

「?はい、用意してありますよね?」

「……なにこれ?」

「プロテインです」

“バナナ味ですよ?”

全員分のシェイカーを配り終え、そんなことを言いながら首を傾げるたきな。

 

とある日の喫茶リコリコ。

ここでは昼食は店員間の持ち回りで決まっているため、毎回バラエティに富んだものが出される。

例えば、ミカが当番の時は手軽に食べられて満足度の高いものが出るし、

千束の場合は突発的に作りたいものや食べたいものが出るので、満足度だけは高いものが出る。

 

しかし、今回のたきなの場合、極端なものが出てきてしまっていた。

「いや、プロテインって。…あ、ちょっとおいしい」

ツッコミながらもシェイカーを振り、トビアが一気に飲み干す。

意外と味がいいのが感想を困らせる。

「国産の、質にこだわった逸品です。…皆さん、どうしました?お客さんが来る前に飲んでしまいましょう。それとも、…チョコレート味の方がよかったですか?」

「違う、そうじゃない」

おもわず鈴木〇之の往年の名曲のようなことを言って、ミカがツッコミを入れる。

「もっと、こう、食事というか、昼食らしいものの方が……」

「昼食らしさ、とは?」

「……なんだろうな…」

しかしたきなから質問され、答えに窮してしまう。

 

「えーと、たきなさん?君はなぜプロテインを用意したのかな?」

飲みながらも質問する千束。

と、いうのも前にたきながまかないで作ったのは、里芋の煮っころがしに冷奴と煮ひじき、それにご飯とみそ汁、漬物のTHE和定食だったのだ。

かなりしっかりしたお昼で、とてもおいしかったので印象に残っている。

「仕事の合間に摂取するものですし、手早くできて栄養バランスも考えるとこれが一番合理的でした」

しれっと言うたきな。

なんだろうか、言っていることは間違ってないのだが、肝心の部分が致命的に間違えている気がする。

 

カランコロン。

来客を知らせるベルが鳴る。

「あ、お客さんが来ましたね。私出てきます」

そう言って席を立つたきな。

残された面々は、顔を俯かせ座敷で唸る。

 

「というか、たきなの奴、昼食を摂取と呼び始めたぞ…」

クルミが誰の責任だといわんばかりに周りを見やる。

「あれ、ミズキそう言えば、この前たきなが作ってたのケチつけてなかったっけ?“満席なのに、いつまでもまかない作ってないでフロア出やがれっ!”って」

「ハア⁉アタシのせいだっての⁉お客さん入ってきてるのに、芋煮込み始めたのよあの子⁉んな悠長な事させられっかっての!」

「意外とそういうとこ真面目だな、お前」

千束の指摘にミズキが切れ、クルミが呆れた視線をよこす。

 

「…とりあえず、ぼくも飲み終わってるから仕事に戻るよ。…お昼足りなきゃ、あとで何か作るから、とりあえず飲んじゃいなよ?」

「ト、トビア…!」

救いの神を見たかのようにトビアを仰ぐ千束。

他の面々もどこか安心したかのような様子だ。

「そうだ、ついでで構わないから、たきなにまかないを教えてやってくれないか」

「え」

ミカからそんなことを言われる。

「そうよ、アンタならもしかしたら…!」

「リコリコの食事事情はお前にかかってる、頼んだぞトビア!」

ミズキとクルミに期待を込められた視線を受ける。

 

「……なんだろう、このまったく燃えてこないシチュエーション」

とりあえず、お客さんの対応が先だ。

 

「トビア、さっきのまかないなんですけど」

「あ、うん。…どうしたの」

「いえ、みんなの反応が思ったよりも良くなかったな、と」

「一応気にしてんだ…」

ある程度客足も捌け、少し余裕が出てきた時間帯。

トビアにそう相談するたきな。頭によぎるは、先ほどの皆のリアクションだ

 

「そうだな…、たきなはさ、なんでみんなそんな反応になったと思う?」

「なんで…、プロテインが嫌だったから、でしょうか…?」

考えながらも答える。

「少し惜しいかな。正解は、お昼ご飯を食べられると思ったらプロテインが出てきたから、かな」

「それは、どう違うんですか…?」

そう言って、困惑。

「例えば、ご飯を食べるためにお店に入ったのに、いきなりプロテイン出されたらがっかりするでしょ?そういうことだよ」

「でも、前に作った時はミズキさんにいつまでも作るなと怒られてしまいましたし、時間を考えたらそうなったんですが…」

「おれやミカさんは、あまり時間をかけずに作るでしょ?」

「まあ、確かに…」

言って思い返す。

ミカの場合は丼ものが多かった気がするし、トビアの場合はサンドウィッチや昨晩の夕飯の残りといって事前に自宅から料理をもってきて温めなおすといった事もやっていた。

「そうやって、程よく手を抜いて用意するものなんだ」

「程よく…?」

「そう、程よく。なるべく簡単に、尚且つ満足度の高いものを作る」

それは、また

「…難しくないですか?」

なんとも要求が多い。

 

「慣れてないうちは難しいね。だからさ、次は一緒に作ろうか」

すると、トビアからそう提案される。

「一緒に、ですか…」

そう言って、想像してみる。

 

一緒に並んで厨房に立ち、

一緒に料理を作って、

調味料なんかも交換し合ったりして、

みんなの分を用意する。

 

それはなんとも

「…いいですね、それ」

 

「なーにがいいのかなぁ~?」

「ひゃっ」

 

突然後ろから声をかけられて、ビックリする。

見ると千束がじっとりした視線をこちらに向けながら、ぬっと出てくる。

「たーきなさーんは、なーにを想像したのかなぁ~?」

「いえ、別に変なことは…」

まあ、この前千束に押し付けられた映画のワンシーンに、似たようなものはあったのでそれを当てはめてはいたが…。

 

「あ、それなら千束も一緒にやります?」

もしかして、一緒にやりたかったとかだろうか。

「うーん、それなら、ま、いっか。トビアー?」

「まあ、先生役は多くてもいいし、それでいこう」

少し難しい顔をした千束だったが、すぐに了承。

トビアに確認を取り、たきなに対してのまかない講習会に参加の運びとなった。

 

リコリコに来てからそろそろ4か月になろうとしているのに、まだまだ新しく知ることが多い。それでも、特段面倒だとは感じていないことにたきなは薄く笑う。

 

そろそろ夏も中盤戦。

そんな喫茶リコリコの一幕。

 

「そういえばトビアってジャガイモ料理多いですよね?」

「あー、なんか家で結構作っちゃうんだよね…」

「好きなんですか?ジャガイモ」

「と、いうよりは癖というか」

「癖?」

「芋剥きやってると、何だか安らぐんだよね…」

「船乗りか何かやってたんですか…?」

 




以下筆者メモ

その1.
・ネコ→言わずもがな。
・ヘルメット→これ書くにあたって、改めてスカルハート読み返したんですけど、なんかいきなりケガしてるんですよね…。私見落としたかな、どこだろ?ザンバー抜こうとして壊されたとこかな?
・やんちゃな乗り方→むしろMSでやんちゃしないパイロットはいない説。
・VSヨシさん→結構難しいところ。別に喧嘩させたいわけじゃないから、筆者なりの解釈で書かさせていただきました。…アランさんて、おせっかいすぎる気がしますね?
・先生→しっかり哲学を持った厄介な相手。なんだかんだ最後は助けてくれたのがまたなんとも複雑。…F91プリクエルにもいたな、そういえば。
・勧誘→シェリンドンさん、そういえばあれから出てこないなぁ。L&Pででてくるかな?
・重機みたいなの→なぜあの状況で勝てる。

その2.→スピンオフ小説より
・プロテイン→子供の時に観たTVの影響で、パッションな人がやたらと勧めてくる飲み物の印象。
・違う、そうじゃない→MVは一見の価値あり。
・まったく燃えない→託される(食事改善の)意志。
・気にするたきな→良かれと思ってパターン②。でも、なんだかんだ言ってみんなのまかないみてたら分かると思うの。
・まかない→言われてみるとなかなか難しいオーダー。世のお母さん・お父さん方も直面する献立の問題。食えればいいは独り身の特権です。
・一緒に台所→それを遠目に眺めて徐々にフェードアウト、最後はスタッフロールが流れると幸せな気持ちになります(これを書いた筆者、この時38.9℃)
・じっとり千束→「ぬ~け~が~け~?」
・しれっと参加→結果挟まるトビア君。タイトル回収だね!
・夏も中盤戦→筆者の勝手なイメージなのですが、どうもあの小説アニメの4話と5話の間のような気がするんですよね…。ま、二次創作なのでご勘弁。
・お芋→トビア君のまかないメニュー!(芋抜粋)・コロッケパン(自宅から夕飯の残り)・ポテサラ丼(自宅からの略)・じゃがバター(ミズキにのみ提供。見た目とうまさに二重の意味で泣いていた)


ここまでよんでくださり、誠にありがとうございます。

風邪が治らないまま年末調整の計算に突入し、死にそうになってる筆者です。
国税局爆発しねぇかなぁ…。

しつこいようですが、皆さんどうか風邪をひかないようご自愛ください。

それではまた、いつかお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#17海賊と闘いの日々

飾っていたメタビルX1フルクロスのスクリュー・ウェップの柄が行方不明になったので、初投稿です。

マジでなんであんなに取れやすいんだ…。

今回は、”そういえばこの子たち戦う人だったわ”と思いだしたんで、戦闘に関する短編となっております。
後、久々にあいつの登場。
そして、新しく設定を生やしたせいで自分の首を絞める筆者。
こんなんやって、話畳めんのか?私ぇ…。

ほんのちょっとでもお楽しみただけたら、幸いです。

それではどうぞ。



ダメだ…、蒙古タンメンとスーパードライの組み合わせに箸が止まらない…!


その1.戦い方と憧れ

 

「千束とトビアって、不殺を掲げてる割には正反対な戦い方してますよね」

「ん?そうかな?」

 

東京湾にほど近い、廃工場。

DAよりリコリコに課された任務は、この場所を拠点とする新興麻薬密売組織の制圧及び主犯格の捕縛。

今回はトビアが別任務のため参加できず、千束とたきなのコンビで当たっていた。

当初は隠密行動の上制圧する予定だったが、敵の反撃を許してしまい作戦変更。

クルミのハッキングにより工場への送電と回線を遮断し、夜明け前ということもあり暗がりを利用し1階部分を制圧。

そして、主犯格が潜伏していると思しき地下に向かう途中、たきながそうこぼした。

 

「だって、トビアの場合は派手に動いて格闘で制圧。対して千束は最小限の動きで銃弾を躱し近距離で銃撃。似ているところなんて、対象に至近距離で攻撃する部分しかありませんよ」

「あー、言われてみれば、そうだよねー」

まだ敵は残っていないか、慎重にクリアリングしながら話す。

物音も聞こえず、今のところは安全のようだ。

「まあ、私たち得意なことが全然違うからね」

「得意、ですか?」

地下に続く階段室を前にして、物陰に隠れ様子を窺う。

 

「そ。例えば、まあたきなには負けるけど私は銃で戦うのが得意。でも、トビアが得意なのは格闘なの」

「…そういえば、前に銃は得意じゃないって言ってるの、聞きました」

「逆に、私はトビアに比べたら、格闘は苦手。そもそも性別が違うからねー」

そう言って、少しづつ階段の入り口へと近づく。

なるべく音は立てず、鞄から閃光弾を用意する千束。

 

「…男の人ってさ、私たち女の子が必死に訓練して、ようやく戦えるようになる身体を標準で備えてるの。教官とかから聞かなかった?」

「はい、基礎講習で学びました」

「それに彼ってさ、私たちよりは大きいけど男の子としては背が低いでしょ?そのうえで格闘能力が高いってなると、実はとんでもなく有利に働くの」

ピンを抜き、ゆっくり歩きながら階段へと向かう。

そして起爆するタイミングすれすれで、ドアを開けて投げ込む。

 

直後、閃光。

下の方から悲鳴と転げ落ちる音がする。

「その特徴を活かして、トビアが前衛と陽動。で、私は中衛及びとどめ役。しっかり役割は分かれてるんだ」

“よっし、突撃だ!”そう言って階段を駆け下りる千束。

遅れないようについて行くたきな。

 

「まあ、真似するとしたらトビアかな?私はちょびっと特殊だし」

「ちょびっと…?」

銃弾の雨の中を真正面から避け、悠然と歩きながら射撃するのはちょびっとなのだろうか。

「私のことはいいの~!…実際、トビアが戦い方教えて、結果出してる子もいるんだからね!」

「トビア、教官もできたんですね…。私も知ってる人ですか?」

閃光に目をやられてうめく連中に非殺傷弾を撃ち込み、無力化しながら進む千束。

たきなの弾丸は通常の9㎜パラベラム弾のため、頭を強く踏みつけることで意識を刈り取る。

「知ってるも何も、フキだよ?」

「え!フキさんが⁉」

衝撃の事実だ。

確かに彼女は小柄な身体を活かした戦法を得意としており、特に超低姿勢からの高速接近と近接攻撃は他のリコリスを凌駕する戦果をたたき出していた。

思い返して気づく。

「あ、…確かにトビアの動きに近いですね」

「そ。ただ、トビアみたいに拳一発で昏倒とかはできないから、まったく一緒とはいかないけどね」

「そういえば、この前本部に行ったとき、トビアに対して敬語で接してましたね」

階段を降り切り、廊下を抜け地下の最奥部の前へとたどり着く。

L字状になっているので、曲がり角にはいかにも誰かが待ち構えているといった雰囲気だ。

 

「さ、おしゃべりはここまで。気を引き締めていくよ」

「はい。…どうしました?」

先行してる千束が一瞬顔を出し、即座に引っ込める。

 

「……やっばいのがいた」

どうやら、一等気を引き締めなおさなければならない相手がいるようだ。

 

結果としては、全ての敵を無力化することに成功した。

最後の相手となったのは、全身を防弾アーマーで覆い、軽機関銃にドラムマガジンを装備した2mはあろうかという巨漢であった。

 

古き良きアニメーションに出てくるブルドックのような棘付きのゴツい首輪をした彼は、こちらを確認するなり機関銃を乱射。流石の千束もこれには参った。

結局、千束とたきなの2人は彼の弾切れを狙い、何とか制圧。

指は千切れ飛び、あばら骨も何本か折り、とどめに鉄仮面に覆われた顔面にマガジン一つ分の非殺傷弾の嵐。

死んでないのが不思議なぐらいの重傷を負わせた。

 

地下には大量の商品と、武器が保管されていた。

しかし、肝心のターゲットはどこにもおらず。

どうにも逃げられたようだ。

「千束、この通気口、ちゃんとした広さがあります。ここから逃げたのでは?」

「うっそ、ハリウッドかよ~⁉ああ、映画観る時間が~…」

「やけに急いでたと思ったら、そういうことでしたか…」

悔しそうに言う千束に呆れるたきな。

“こんな時まで映画か”といわんばかりの顔だ。

「時間的にもトビアも帰ってくるし、ちょうどいいかなって…」

〈残念ながら、残業確定だな。とりあえず、上の階に戻って…待った〉

ドローンを使い、オペレートしていたクルミから静止の指示だ。

 

〈まずいな…〉

「クルミ?」

〈この工場、すぐそばが海だろ?武装船が乗り付けてきた〉

「まさか、増援⁉」

こちらはもう弾薬が心もとない。

武器こそ大量に保管されている分があるが、殺傷能力が高いものばかりだ。

最悪の事態を想像し、緊張が走る。

 

と、その時上の階から破裂音が鳴り響く。

〈…いや、あいつめちゃくちゃに撃ってくるぞ!ミニガンまでついて…!〉

「うっわ、最悪…。たきな、とりあえず退路の確保!地下に取り残されちゃう!」

「はい、急ぎます!」

直後、階段方面から轟音と土煙が上がる。

階段で残してきた男たちの悲鳴も聞こえ、その場で待機。

 

「……どーするよ?」

「……どーしましょ?」

顔を見合わせる2人。こうなっては階段も使えない。

かといって、主犯の逃げた通気口も安全であるという保証はどこにもなく。

万事休す、そう思ったその時、インカムに通信が入る。

ミカからだ。

 

〈お前たち、朗報だ!救援が今そっちに向かってる!〉

「おお、ナイスタイミング!」

〈ああ、任務終わりでついでに寄って来てくれるとのことだ〉

「……任務終わり?」

ミカの言葉に引っかかるたきな。

“ついでで、どうにかなるんですか…?”と首をかしげている。

 

「…あっ。そっか、確かにいい時間かも」

一方で、あたりを付けた千束。

腕時計を確認して、納得。

確かに時間的にはそろそろ戻ってくるころだろう。

〈まてミカ!武装船が一方的に攻撃を加えてる状況だぞ?下手な救援はかえって足手まといになる!〉

〈いや、その心配はいらない。極上の切り札が駆けつけてくれる。しっかりドローンで見るんだ〉

〈極上…?いったい誰が来るっていうんだ…、あれは⁉〉

クルミが驚いたかのような声を上げる。

そして、少し遠くから何かが爆発したかのような音が響く。

 

そして、先ほどまで鳴り響いていた銃声が止んだ。

 

途端に静まり返る工場内に、戸惑うたきな。

「いったい何が…!」

「ああ、落ち着いて。たぶんだけど、たきなが一番会いたい人が来たから」

身構える彼女をなだめる。

「千束、何を…⁉」

「とりあえず、廊下まで戻ろっか。大丈夫、私たち助かるよ」

そう言ってたきなの手を引く。

「なぜ、部屋の外へ?」

「そっちの方が安全だから、かな。ほら、見てみなよ」

そう言って、先ほどまで自分たちがいた部屋を指さす。

すると、天井が崩れ巨大な腕が入ってくる。

 

見覚えのある、その腕に目を見開いたたきなが走り寄る。

「まさか、あれは…!」

 

「そう、海賊が来てくれた」

 

穴の開いた天井から、額にドクロを掲げるグリーンに光る眼が顔をのぞかせていた。

 

「ドクロ…!スカルハート!」

たきなは目を輝かせる。

6年前、自分を救ってくれた時と違い、右目の部分にアイパッチのように厳めしいセンサーがついている。

そして、朝日が徐々に昇ってきていることもあって、暗い色のマントで覆ったその巨体が強調されている。

 

「ほらたきな、呆けてないでおいでよ?上まで送ってくれるってさ」

はっと我に返ると、巨人の手のひらに千束が乗り、こちらを呼んでいる。

本当にいいのだろうかと巨人の顔を窺うと、大きくうなずかれる。

「は、はいっ!…では、失礼、します…」

「なんでそんなにかしこまってるの…?」

おそるおそる乗り込むと、千束に呆れられてしまう。

 

そして、地上まで送ってもらい降ろされる。

すぐに終わってしまい、少しだけ残念に思う。

 

「おおう、派手にやったなー…」

千束の言葉を聞き、改めて周りを見渡す。

さっきまでいた工場はその姿を大きく変え、もはや原形をとどめていない。

クルミの通信の通りなら、ミニガンで掃射を受けていたのだ、いたるところが穴だらけになり、強度の足らなくなった柱が折れ、そこから天井が崩れ落ちている。

幸いにも、先に制圧した麻薬組織の雇われ兵達に結構な数の生存者が見られ、その運の良さに呆れを通り越して感心した。

 

そして、先ほどまでの騒音の元凶である武装船は、船体の中心部を何か大きなもので叩き折られたかのようにひしゃげさせ、炎を上げながらゆっくりと沈んでいく途中だった。

巨人の方をよく見ると、マントに隠れてはいるがあの時と全く同じ大剣が腰に差してあり、それで船を攻撃したのだろうと察することができる。

「あれ、船の中にいた人たちは?」

〈ドローンで見てたけどな、どうも誰もいなかったようだ。自動操縦かはたまた遠隔操作か〉

”いずれにしろ、とんでもない技術だ”とクルミがぼやく。

 

〈それよりも、…ようやくお目にかかれたな!ドクロの巨大ロボ!〉

急にクルミの音量が上がり、思わずインカムを外してしまうたきな。

「うわあ、興奮してるねー」

〈興奮せずにいられるか!何だあの巨大な人型!まるでアニメか特撮じゃないか!〉

「おーう、火に油ぁ…」

“だめだこりゃ”と千束もインカムを外す。

 

「あとは先生に任せよ…。で、たきな、どーよ?すごいっしょ?」

そう言って巨人に指を向ける彼女。

「千束は、以前から…?」

「知ってたかって?まあね、東京に居れば大なり小なり関わるから。なるべく秘匿しなきゃいけないから、あんまり言いふらさないようにしてるけど」

 

すると、巨人が背中から轟音を立て、宙に浮く。

「あっ…」

「あータイムリミットか。明るくなってきたもんねー」

「タイムリミット…、あっ。もしかして夜間しか活動許可が下りないんですか?」

「イグザクトリー!…こんなでっかいのが白昼堂々出てきたら、みんなびっくりしちゃうからねー」

“さ、私たちも仕事仕事”そう言ってインカムを付け直す千束。

確かに、自分たちは任務の途中だった。

逃げた主犯格を負わなくては。

同じように付け直し、ふと、巨人の方を向く。

 

「…あっ!」

すると、こちらに気づいたのか巨人は向き直すとたきなに向かってピースサイン。

そして、すぐに振り返り飛び去って行く。

 

「たきなー、良かったねー?」

あまりの事に立ち止まっていると、すぐ後ろから千束がからかうように声をかけられる。

「………」

「…さ、たきな切り替えて。まだ状況は終わってない」

そう言って肩をたたく彼女。

「彼に、…誇れるような仕事、しよ?」

「…はいっ!」

言って、頬をぱちんと両手で挟み込む。

 

スカルハートからのエールを胸に、気合を入れなおす。

差しあたっては、標的の捕縛だ。

 

クラクションが聞こえる。

後ろを見ると、車で迎えに来たミズキが見える。

 

「…行きます!」

 

そんなたきなの背中を、朝日が優しく照らしてた。

 

〈トビア、助かった。任務終わりにすまなかったな〉

「いえ、…2人が無事でよかった。あんなに打ち解けて…。ぼくがいなくても、もう大丈夫そうですね?」

〈…どうした、そんなこと言って〉

「いえ、…。」

〈トビア?〉

「…詳しくは戻ってから、ですね。それよりも先に司令部と対応を話さなくてはいけませんが」

〈いったい何があった〉

「ミカさん、…恐れていたこと以上の事態が起きました」

〈…なんだと?〉

 

「ぼく以外の、ガンダム以外のMSらしきものが、確認されました」

 

 

 

その2.海賊と恐れていた展開

 

「こちらスカルハート。標的のタンカーを確認。スキャン実行許可を」

〈司令部了解。センサー起動、内部スキャンを実行してください〉

「スカルハート了解、センサー起動。スキャン実行」

 

まだ日も昇らない時間帯、東京湾沖から遠く離れた海上にて。

航行許可の下りていない巨大タンカー船を発見、海上保安庁の船舶が通信を試みるも返事を返さず。

そのまま保安庁の船に体当たりし日本の領海内へと侵入。

DAはX1によるタンカーの調査及び処理を決定、出撃要請を受けたトビアはスカルハートとして任務にあたっていた。

 

「しっかし、外付けのスキャンセンサーとはね。DAもよく考えるよ」

今回の任務にあたって、以前から開発が進められていたX1の外付けオプションパーツが装備されている。

「俗にいう、非破壊検査、か…。乗組員が被ばくしなけりゃいいけど…」

頑丈なゴムバンドにより、ガンダムの右目に装備されたゴツい眼帯状の装置、これが新装備だ。

理屈としては、X1の照準に使われるアイパッチ式のセンサーを予め展開させ、その上からガンマ線照射装置と観測装置の複合装置を被せ、撮影、観測するというものだ。

「複合センサーゆえの、強引な拡張だな…。ガンダム本体がいじられなくて済んでよかったかな?」

なお、DA技術部としてはX1そのものに組み込みたかったが、現代の技術では構造を理解できず、仕方なく外付けにしたという経緯がある。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか…。なっ…!」

〈スカルハート?どうされました?〉

思わず声を上げる。

X1のカメラ越しに映し出される画像は、タンカー自体が巨大な格納庫のようになっていることと、ヘリらしき物体が4機積まれているといったものだった。

これだけなら、予め予想されていた事態の一つではあるのだが、問題はそのヘリの形状だ。

通常のヘリとは異なり、テールローターが見当たらず、独楽を反対にしたかのような形状。

そして、その左右には

 

五指を備えた、腕のようなパーツが確認できた。

 

「まさか?なんで?あれは…、おれ以外に…⁉」

すると、タンカーの上部が左右に開き始める。

「!司令部、対象に動きあり!…スモークを焚いて見えづらくしてやがる…!」

〈スカルハート!こちらでも確認しました、攻撃を許可します…なに、あれ…⁉〉

 

そして、スリットから瞳のようなセンサーを光らせ、ヘリたちが一斉に飛び立つ。

 

「あれは、間違いない…!MSだ⁉」

 

X1のスラスターを吹かせ、急接近。

腰に差したブラスターを抜き、ビームを発振させる。

ヘリたちがすぐさまこちらに気づき、腕を向け発砲。

出てくるのは、実弾だ。

(ビームじゃない⁉)

危なげなく避けたトビアは、まず最初に一機を切りつけ撃破。

両断された残骸が真下のタンカーに落ちていく。

 

すぐに逃げ出す別の1機に向かって頭部と胸部バルカンを発射。装甲部分も貫通し、ローターも破損、そのまま海に墜落し、爆発。

(装甲がもろい…?これは、むしろ…!)

そして残りの2機が直線状に並ぶ。

すぐさまブラスターを銃撃モードに切り替え、撃つ。

両機もろとも見事貫き、爆散。

 

「はあ、はあ、はあ。…くそっ!」

感情に身を任せ、拳をたたきつけるトビア。

〈スカルハート…?〉

「前から考えていたことではあったんだ…、本当に自分だけか?って…!」

流石に自分だけとは思ってはいなかった。もしかしたら、鋼鉄の7人のメンバーもと期待したこともあったし、会いたくない宿敵の可能性も考えていた。

 

だが、事態はさらに深刻だ。

「…この世界の人間が、MSを模倣して、作り出している…!」

〈…!そんな…〉

その相手が、この世界に技術を広めてしまっていた。

未だ宇宙に進出しておらず、その技術を支えるミノフスキー粒子も発見されていない。

しかし、生み出されてから50年近く進化を続ける兵器の技術だ。それがどんな影響を与えるか、想像もつかない。

その上、あの特徴的なセンサーは、自分が長年戦い続けていた相手のものと一致している。

そして、ヘリのようなMSを運用していた相手など、1人…いや1組しか考えられない。

 

「来ているのか、…カリストっ…!」

 

 

「よかったのかい?君の存在がバレたんじゃないのか?」

『別に構いやしないさ。…いずれ借りを返さなくてはいけないしな、いやでも私を意識してもらわなければ』

 

男と異形が語らう。

その傍にはモニターが置かれ、自分たちの作り上げた機体たちがガンダムによって今しがた破壊される瞬間が映し出されている。

 

「しかし、こうも簡単に壊されると自信を無くすな。選りすぐりの“才能”達に作らせたのだけれど」

『無理もないさ、何せ基礎となる技術は何も見つかってない。そんな中、ヒントを与えたとはいえ、あそこまで形にしたんだ。誇っていい』

機械越しのくぐもった声が男を慰めるかのように語りかける。

声質の割には、親しげな様子だ。

 

「さて、私もそろそろ準備しようかな?使命をちゃんと果たしているか、確認しないと」

『おや、原則接触は厳禁じゃなかったのかい?』

「なに、ちょっとした親心さ。…おっと、いけない」

そう言って、端末を操作する男。

すると、モニターの向こうで爆発。タンカーが音を立てて沈んでゆく。

 

「遊んだのなら、後片付けもしっかりしないと」

その様子を満足そうに見つめる彼のスーツには、フクロウのバッジが光っていた。

 

 

「そんなことが…」

〈はい、…いずれ、おれもリコリコを出て事に当たる必要が出てくるかもしれません〉

「……」

〈それと、気になるものも見つけました〉

「まだ何かあったのか?」

〈そのヘリもどきを撃破したとき、誘爆せずにタンカーに落ちたのがいたんですが、その、変なパーツが見えまして〉

「変なパーツ?」

〈動力炉と思しき物に付随してたんですが、どう見ても形状が〉

 

“機械でできた、大きな心臓だったんです。”

 

 

 




以下筆者メモ

その1→スピンオフ小説より
・廃工場→やたらと多いこういう場所。たぶん〇映あたりが撮影場所として使ってそう。
・主犯格→アジア人てあだ名、結構好き。
・ちさたきコンビ→意外と書いてなかったなー。…マジで反省。
・格闘が得意なトビア君→でも本人はそっちも特に得意とは思ってなさそう。
・銃は得意じゃない→いや、君片手で撃ってけん制してたやん?(鋼鉄の7人より)
・閃光弾→やってることがエー〇ックス。
・ちょびっと→アニメ2話の戦闘シーンは地味に怖いと思うの。真正面からアサルトライフル掃射を避けるのは流石にアカンて。
・フキちゃんの戦い方→なお小説ではG呼ばわりされてて、流石にかわいそう。
・ブルドック→リコリコのネーミング、絶妙に気が抜けてて逆にリアルだよね。なおサイレントジン。
・通気口→カリストプロトコルのダクトの抜け方好き。
・天井からこんにちわ→実は結構怖いシチュエーション。横浜のガンダム見てみ?顔がゆっくりこっち向いてくるの結構すごいで?
・廃工場(掃射後のすがた)→またガス爆発になるんだろうなー。
・ミニガン掃射後もまあまあ生きてる雇われの皆さん→まあご都合主義なんで、多少はね?
・武装船→無人でミニガン撃つって、まああり得ないシチュエーション。…どうすり合わせよ(ノープラン)
・クルミ大興奮→なお、この時になるまでまだ見せてもらえなかった模様。
・あとは先生に→ミカもどう説明したものか困ると思う。
・ピースサイン→スカルハートより。ああいうの好き(筆者の趣味)

その2→最近X1出してないなー、という理由で作った。
・ゴツいアイパッチ→ビリーなんてものがあるんだから、このくらい出してもいいよなーの精神。
・非破壊検査→橋や道路の検査に使う技術。多くの場合は超音波と放射線。どっちにしろ人に向けたらとんでもないことになる。なお、基本的にほぼゼロ距離でぴったり装置をくっつけてやるものなので、今回のは明らかにオーバーテクノロジー。
・ガンダムのセンサー→実は特に説明がない設定の一つ。とりあえず赤外線は使ってるみたい。
・へりもどき→やっちゃった☆モデルはエルコプテという、何気にビームローターまでついてるとんでもMA。理由としては、空飛んでんのあいつ等かクァバーゼ位なんで。あれをダウンサイジングさせたイメージになります。…そういえばあいつ、木星の瞳センサーつけてないんだよなぁ…。
・ブラスター→複合兵装の強み。なおピーコックスマッシャー。
・彼の名前→出しちゃった☆
・フクロウ→まあ、あんなん作れるのあの人達くらいなんで…。

・心臓→あまり考えずに入れちゃった設定。まあ、エネルギーの循環とかそのためのものとして、ってことで。イメージとしては、初めて作ったもんだからとにかく色んな技術を試しに投入してみて、そのうちの一つという感じ。…やっべ、今後どう活かそ、この設定…。

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

もうすっかり冬の気候となり、寒い日が続きますが皆さまいかがお過ごしでしょうか?
私は37.5℃が平熱扱いになってきて戸惑ってきております。
もはやヤケです。ビールでアルコール消毒してやる。

例によって、次回の投稿は未定となっております。
書くとすれば、アニメ5話の内容かなぁ。

それでは、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#18海賊とおかしな護衛

お待たせ、待った…?(震え声)

皆さま、お久しぶりです。

年末、仕事でミスして仕事納めきれずに残業。
ずるずる引きずりメンタルがボロボロになり、何とか持ち直そうと今更ながらパルデアで宝探ししてたら、思いかけずに癒されたので久々の初投稿です。

コライドン、私、頑張るよ…!

さて、今回はアニメ5話の内容になります。
例によってバカ長くなったので、分割だ!

…本当なら正月の話とか考えてたのですが、一升瓶飲み干してぶっ倒れたり、雪かきしてたりと、今年は碌な目に遭わなかったのでなしです。

なんだか久々だから、おかしな書き方、誤字脱字があってもご勘弁!

それではどうぞ。


……五苓散、二日酔いに効くなぁ。


1.

 

タブレットPCを片手に、ゆっくりと歩く。

 

座敷にはトビアとたきなにミズキ、カウンターにミカ、そして2階にクルミ。

 

千束は軽く息を吸って、気合を込めて宣言。

 

「全員、注目ゥゥゥゥっ!」

 

「注目も何も千束待ちだったんですが?」

「そこまで気合い入れて言う必要ある?」

「千束、うるさい。気が散る」

 

座敷と2階から総ツッコミ。

 

千束はいじけた。

 

「気を取り直して、諸君!今回の依頼内容の確認といこう!楽しい楽しいお仕事だ~!」

 

トビアがなだめること2、3分。

どこからともなく取り出した“TAKE2”と書かれたスケッチブックを片手に、千束が音頭をとる。

 

依頼の説明となると、いつもは千束も聞く側であるため中々に珍しい光景だ。

「というか、ミズキさんが説明しないんですね?私、もう内容読みましたけど」

たきなが隣のミズキにそう聞く。

そもそも、ブリーフィングは基本的にミズキかミカが司会を務めるため、自分と同じように座敷でおとなしく聞いてることに違和感を感じる。

「なーんか今回、あの子やたらと乗り気なのよねー…」

“タブレット取られちゃった”と言い、手をぶらつかせるミズキ。

ちなみにクルミは2階でいつものゴーグルを着けながらゲームに勤しんでいる。

先ほど“ちゃんと聞いてるから気にするなー”と手をパタパタさせていたので、千束も特に触れていない。

 

「まあ、本人がやる気なのはいいことだよ。それで千束、肝心の説明は?」

「よくぞ聞いてくれた!それでは説明しよう!」

トビアがご機嫌取りと言わんばかりに千束に話を向け、彼女も気をよくしたのか説明を始める。

 

「今回の依頼人は72歳の日本人男性。過去に妻子を何者かに殺害され、自身も狙われたことから長らくアメリカにて避難生活。現在は、…えーと、き、…き、筋委縮…そ、側?」

「いや読めないのかよ」

すかさずミズキがツッコむ。

 

「筋萎縮性側索硬化症、ですね」

「通称ALS、国の指定難病だね。イギリスの有名物理学者の患った病気、と言えば通じるかな」

たきなとトビアがすぐさまフォロー。

というか、ここでつっかかっては話が先に進まない。

 

「そう!それそれ!とにかく大変な病気だから、自分で動くことも難しいの。そして去年余命宣告を受けて、最後に故郷の日本、それも東京を見て回りたいってことみたい」

「つまりは、観光、ということですか」

「そ。ただ、まだ身の危険が解消されたわけではないから、ウチに依頼が来たというわけ!つまり、今回の私たちのお仕事はこの人のボディガードをします!」

そう締めくくる千束。

「なぜ狙われているんですか、この人?」

「それがさっぱりでね~。どうにも大企業の重役らしいから、敵が多すぎて絞れないのよ。…その分、報酬もがっぽりよ?」

ミズキがすごい表情でそんなことを言って来る。

そう言えばクルミの時も同じ様な顔をしていたなとたきなは思った。

 

「まあ、今回はクルミの時と違って仕込みなしの護衛だから、スリーマンセルを徹底する。もちろん、場合によっては二手に分かれるけど、最低2人は依頼人についてもらうよ」

トビアから補足が入る。

前回は敵の数とそもそもの前提条件が違っていたこともあったが、今回は少しは安心できそうだ。

 

それにしても、

「…結構、護衛依頼って多いですね?」

たきながリコリコに配属になってしばらく経つが、その中で護衛任務というのは今回で3回目となる。

「まあ、他の支部じゃやってないし、そもそもリコリスにそういう任務求められてないからね~。…たきなも最初の頃はアレだったし?」

「…忘れてください…」

思わぬ飛び火にたきながダウン。

しばらくここで仕事を熟してきて、あの時の自分がいかに無茶なことをしたのか分かるだけに何も言えない。

「まあまあ、…たきなもあれから成長してるし、ぼくはあんまり心配してないから。元気出して、ね?」

「トビア…」

過去の自分に落ち込んでいると、トビアが慰めの言葉をかけながら頭をなでてくる。

なるほど、これはいいものだ。千束が良くやってもらっているのも分かる。

自然と目を細め、されるがままになるたきな。

 

「おーう、お前らぁ…?私抜きでなぁにしてんだぁ…?」

いつものように千束が絡んでくる、が、どこか影のある笑い方をしながらこちらに迫ってくる。

 

「お前ら…、アタシへの当てつけか…?喧嘩なら買うぞオラアァン⁉」

ミズキのブチギレスイッチが完全に入るまで、あと3秒。

 

「そういえば、今回のトビアの装備はどうするんですか?」

「…え?」

 

“行先はこっちに任せるんだってー!”そう言って意気揚々とプランを練る千束を横目に、たきなからそんなことを聞かれるトビア。

一体どういう意味の質問なのだろう。

「私たちは制服を夏服仕様にすることでこの季節に対応していますが、トビアの場合あのコートが武器ですよね?こんな暑い中、あんなの着れないじゃないですか」

「ああ、そういうことね」

トビアの普段の装備は、防弾仕様のトレンチコートに非殺傷弾を込めた拳銃にワイヤーガン。

特にコートは銃弾から身を守る以外にも、敵に投げつけて視界をふさぐなど攻撃の起点にも使われている。

 

そう言えばたきなに見せたことなかったな、トビアはそう思い立つ。

「たきなの言う通り、あれは夏に着れないから、代わりにこれをもっていくんだ」

そう言って、傍らに置いていたボディバッグから装備を取り出す。

「…何ですか、これ?マント…?」

「正確にはシートかな。コートにする前の生地なんだけど」

それは、トビアが来ているコートと同じ色の一枚布だった。

「流石にコートは目立つからね。とりあえず緊急時にこれで対応するんだ。…あ、少し小さいサイズもあるし、持ってく?」

そう言ってたきなに渡す。

「はあ、…思った以上にしっかりしてますね」

「リコリスの制服よりは性能は上だからね。鞄や腕に巻いて防弾性能を上げられるし、結構重宝するよ」

「トビアも結構不思議な道具持ってますよね…」

トビアから渡されたそれをしげしげと見つめた後、自分の鞄にしまうたきな。

いざという時の備え位にはなるだろう。

 

「それにしても、今回の依頼は妙だなぁ…」

「何が、ですか?」

そうこぼすトビア。

「いや、あの病気って自分で動けないどころか指の先まで動けなくなるものらしくてさ。そんな状態の人なら元からボディガードはついてるだろうし、なんでわざわざウチに護衛の依頼を出してきたんだろう、ってさ。おまけに行先はこちら任せなんて…」

まるで、自分を餌にして狙う者を誘き出しているかのような…。

「依頼人の身辺調査の結果は問題なかったんでしょう?心配のし過ぎでは…?」

たきなからそう返される。

「クルミとミズキの調べではね。…まあ、あまり気にし過ぎてもしょうがないか」

そう言って席を立つ。

 

カウンターを見ると、千束がスケッチブックに何か書き始めていた。

「今度はどうしたの?」

「旅のしおり作ってるの!せっかくならここで凝らないと!」

満面の笑みを見せる彼女。なんだか先ほどまで依頼内容のことで疑っていたことがばからしくなってくる。

「出来上がったら、クルミにデータにしてもらいなよ?」

「え?なんで」

「ALSってことは動かせるのも指何本なんて状態だろうし、ページをめくるのも難しいでしょ?今は視線入力もあるし、データの方が都合いいと思うよ?」

「トビアさっすが~!クルミー!」

「おい、トビア!ボクの仕事増やすなよ⁉」

2階から抗議の声が響く。

 

周りは“仕事ができてよかったな”なんて笑っている。

クルミは“冗談じゃない”と叫び続ける。

 

当日は、いい仕事になればいいな。

そんなことを思いながら、トビアは一緒に笑った。

 

 

 

2.

明くる日、先方より到着の連絡が入り、ミカと千束が店内で出迎える。

「あっ、…お待ちしておりました~!」

「遠いところから、ようこそおいで下さいました」

 

『少し早かったですかね?何分、楽しみだったもので申し訳ない』

そう機械音声で応え、黒服のSPと思しき男と店内に入ってきたのは、モニターのついた電動車椅子に乗った瘦せこけた小さな老人だった。

人工呼吸器から呼吸音がし、目には視力を補うためとデバイスの画面を映すためかと思われる大きなゴーグルを装着している。

そして手元は指すら動かせないようで、身じろぎ一つもしない。

『松下と言います。本日は、どうぞよろしくお願いします』

 

あまりの痛ましいその姿に周りが何も言えずにいるなか、千束がはっと気づき返事を返す。

「…はい、よろしくお願いします!旅のしおりもばっちり用意してますので、準備も万端ですよ!クルミ、お願い!」

「はいよ。データ用意するぞ」

『助かります。…あとはこの方たちにお願いしますので、下がってもらってもかまいませんよ』

そう言って、SPを下がらせる松下。

「……ん?」

その様子にかすかな違和感を覚えるトビア。

(あのSPの視線が、どこか松下さんを向いていない…?)

まるで、松下を通して別の誰かに向いているような気がする。

いったいどういうことだろうか。

 

トビアがそんなことを思っている間、周りの雰囲気を察したのか松下がこんなことを言う。

『見ての通り、今の私は機械に生かされている身です。…おかしいと思うでしょう?』

その言葉に、千束がすかさず返す。

「そんなことないですよ。…私も、同じですから」

そう言って、手をハートの形にし胸の前に持っていく。

『ペースメーカーですか?』

 

「いえ、丸ごと機械なんですよ」

 

「え……?」

「………ッ」

たきなから声が漏れ、クルミが視線を向ける。

 

『なるほど、人工心臓ですか』

「アンタのは毛がびっしり生えてそうだけどねー?」

「機械に毛は生えねぇよっ!」

「…ま、度胸はいっちょ前ってことで」

「トビア⁉」

 

そんな2人をよそに、ミズキとトビアが茶々を入れる。

固まってしまった彼女たちへの、分かりやすい配慮だ。

 

「さて!それでは東京ツアーにしゅっぱーつ!」

千束が松下の車椅子を押しながら、店外へと出る。

 

「あ、あの、今の話って…」

「たきな、ストップ」

たきなが戸惑いの声を上げ、千束を呼び止めようとするがトビアに止められる。

「後で必ず説明させるから、今は任務に集中しよう。…大丈夫、ちゃんと答えてくれるから」

「…はい」

トビアの言葉に渋々といった様子で返事を返すたきな。

 

「たきな、トビア!早く行こう!」

外から千束がこちらを呼ぶ声がする。

たきなに言ったばかりだ、こちらも気合を入れなおす。

 

それにしても、

(なんで、松下さんから意思を感じられないんだ…?)

少しばかりのしこりを残し、依頼が始まる。

 

夏の厳しい日差しをよそに、河川上を奔る水上バス。

水上の風がなんとも気持ちがいい。

 

今回の千束のプランは、陸路での移動を避け、なるべく水上を利用したものだった。

というのも、東京には水路として利用できる川が多く、混雑しがちな道路と違いスムーズに移動できるためであり、重病を患う松下の身体を思っての采配であった。

 

浅草の下町風景を抜け、橋げたを潜り抜けたところであるものが目に入る。

旧電波塔跡地だ。

かつての日本の象徴は平和の象徴としてその骸をさらしていた。

『やはり、壊れてしまっていますね…』

松下がポツリとこぼす。どこか寂しそうな声音だ。

「ああなる前をご存じで?」

『こうやってみるのは初めてで…。昔、娘と約束していたんです。“首を痛めてでも、あの塔を一緒に見上げよう”、なんて。…いい土産話ができそうです』

「気が早いですよ!まだまだこれから!それに今年中には新しい電波塔もできますよ!」

『ああ、延空木ですね。…実は私の知り合いも設計にかかわっているんですよ』

「本当⁉すごいじゃないですか、ますます土産話が増えちゃいますね!…さあ、早速次の目的地に着きますよ~!」

松下に対し努めて明るい声をかける千束。

 

「たきな、トビア。準備はいい?」

左右を固める2人に確認をとる。

「はい、大丈夫です。いつでもどうぞ」

先ほどまで強い動揺を見せたたきなも今は落ち着きを取り戻しており、まっすぐこちらを見て頷き返している。

…ただ、その目は“後で必ず説明を”と言わんばかりの色を宿しており、後に控える事情説明を思い思わずげんなりしてしまう千束。

「自業自得だよ。…まあ、ぼくも人のことは言えないから、これ以上は何も言わないけど」

そう言って、呆れる様な、そしてどこか同情的な視線を向けるトビア。

「まあ、うん。…あとで頑張る。言わなかったのは私の落ち度だもんね…」

少しでも文句を言おうかと思っていたが、相棒に伝えなかったのは自分のせいなので素直に受け止める。

松下のガイドに護衛、そして今たきなへの自分の心臓の説明が加わった瞬間であった。

 

それにしても、

「…というか、ホントに人の事言えないからね?」

“フォローできないよ?”

 

「か、覚悟決めます………」

そういうトビアの顔は、明後日の方向を向いていた。

 

 

3.

 

「……千束、今朝の話なんですけど」

「ああ、うん。…そうだね、ちゃんと説明できてなくて、ごめんね?」

 

浅草寺でのガイド、途中祭りを冷やかしに行ったりして、射的で大人げなく景品を総どりしたり、お面を買ったりと松下と観光を楽しんだ後。

 

一行が水上バスに戻り次の目的地へと歩を進める最中、日差しに疲れた松下が中へと戻り、護衛としてトビアがついて行き図らずも千束と2人っきりになる時間を得たたきな。

バスのベンチに座り、早速今朝のことを聞くことにする。

 

「心臓の話って、本当ですか?」

「…うん、本当。すごいよ、これ?鼓動が全然なくてびっくりするぞー」

そう言って胸を軽く小突く千束。

その様子に、思わず手が伸びてしまう。

「ちょ!ちょいちょい、何しようとすんだ!」

「いえ、確かめてみようかと…」

「公衆の面前で人の乳触ろうとすんな!」

ばっ、と自分の胸元を隠すように両手で覆い、たきなから距離をとる千束。

流石に恥ずかしかったのか、顔は真っ赤に染まっている。

 

「こんの天然め…」

「たきな、同性同士でもセクハラは成立するからね…?」

千束が悪態をつくなか、バスの中から呆れた顔をしながらトビアがやってくる。

 

「トビア、松下さんは?」

「その松下さんから休憩するように言われてね」

そう言って、たきなの隣に腰掛けるトビア。

「それで、聞きたかったことは答えてもらえた?」

たきなにそう問いかける。

「…はい、もっと早く教えてくれれば、とも思わなくもないですが」

「ごめんて~。自分から言うことでもないじゃんか~」

千束がそう言いながら肩を組む。

 

「ま、人はそれぞれ秘密を抱えてるってことさ。隠しておきたかったり、言うタイミングがなかったりと人それぞれだけどね」

そう言うトビア。どこか、憂いのこもった表情だった。

「トビアも、そういうのあるんですか?」

「もちろん。最も、言うタイミング逃したものばっかりだけどね?例えば…」

「例えば?」

「ぼくの年齢って、いくつだと思う?」

「…見た目は、私たちとそこまで変わらないように見えますが、…21、とか?」

そう答えるたきなに、いたずらっぽく微笑みながらトビアが言う。

「残念、今年で28歳だよ」

「28⁉」

衝撃の事実だ。とてもそうは見えない。

まさかミズキよりも年上だとは。

「これこそ言うタイミングを逃した、ってやつでね。年齢なんて意外と聞かれないし。あ、いまさらさん付けなんてやめてよ?距離感じるし」

そう言ってはにかみながら頬を掻くトビア。

だが、今までの彼の言動や立ち振る舞いを思い出すと、納得のいく答えではある。

 

「…私、知らない事ばっかりです」

「しょうがないよ、私たちだってたきなの事全部知ってるわけじゃないし。…これからこれから!」

「あの、ちょ、痛い、んですけど…」

不貞腐れたように手すりにもたれかかるたきなを、肩をバンバン叩きながら慰める千束。

力がこもってるのか、微妙に痛い。

「さて、そろそろ到着だ。次は皇居のお堀で、その次は美術館だっけ?」

「おっと、それじゃあ中に戻らないと!休憩終わり!」

そう言って、松下の待つバスの中へと駆けていく千束。

 

急いで戻ろうと千束の後をついて行こうとすると、後ろを振り返り河川横の道路を見つめるトビアに気づく。

「トビア?」

「…たきな、クルミに連絡だ。こっちを見ている奴がいる」

トビアの視線の先を確認、河川沿いの道路から黒いコートにフルフェイスヘルメットを被った人間が双眼鏡を片手にこちらを見ていた。

そして、こちらを確認したのか、傍らのバイクに乗り込み並走するように走り去る。

 

緊張が走る。

「とにかく、バスを降りてからが危ない。千束にも伝えて」

 

 

〈トビア、追跡者がわかったぞ。ジン、ベテランの殺し屋だ。静かな仕事ぶりからサイレントなんて呼ばれてる奴だ〉

「二つ名があるような相手なのか…」

美術館に向かう途中、インカムからクルミの通信が入る。

先ほど見つけた不審な人物についてのようだ。

「今出てきたってことは、松下さんが狙いなのはまず間違いないか…」

〈ジン、厄介だな…〉

「ミカさん?」

〈トビア、千束とたきなにも言っておくが、奴の実力は本物だ。15年ほど前、DAに来る前は警備会社で一緒に仕事をしていた〉

ミカから追加で情報が伝えられる。どうやら、噂に違い無い実力の持ち主のようだ。

〈今はミズキがドローンで追跡している。その後、発信器をつけてモニター、あちらの動きが分かれば、最低限対処ができ…〉

〈くっそ、気づかれた!ドローンが落とされた!〉

ジンを追尾しようと高度を落としたミズキのドローンからの通信が途絶。

作戦変更、予備のドローンをミズキが飛ばし、改めて追跡だ。

〈予備はまだか、ミズキ!〉

しかし、飛ばすためにも人気の少ないところを探す必要がある。

〈あんたも現場出ろっての!〉

〈急げよ、お前もそこから…ミズキ?〉

〈————ザ…————〉

クルミとの言い合いの最中、不意にミズキの声が聞こえなくなる。

直後、甲高い破裂音。

インカムが壊されたようだ。

 

〈…通信途絶。こちらで予備は飛ばすが、現着するまで時間がかかる。ジンが仕掛けてくると思え、トビア〉

どうやら一刻の猶予もなさそうだ。

ミズキの安否が気にかかる。

「…了解。二人とも、聞いた?」

 

松下の護衛として張り付いていた二人に確認をとるトビア。

「私が出ます」

直後、たきなが向かおうとする。

「たきなっ…」

「護衛には最高戦力を。…私に任せてください、相棒」

そう言って駆け出すたきな。

あっという間に見えなくなる。

「…とりあえず、たきなに任せよう」

心配そうな千束にトビアが軽く肩をたたく。

『どうかしましたか?』

ここで、松下から声がかかる。咄嗟に答える千束。

「えっ、とぉ、トおイレに行って来るみたいですぅ~!」

ただ、うまいことは言えず、声が上ずってしまっている。

あまりの嘘の下手さに思わず手を額に当てる。

 

しかし、いくら何でもタイミングが良すぎる。

まるでこちらの動向を正確に把握しているかのようだ。

観光プランは千束が前日に立てたもので、相手は知る由もないであろうに。

思わず松下を見つめるトビア。

 

(やはり、松下さんの本当の依頼は、自分を囮にした…)

 

「…トビア?」

「いや、…ごめん。とりあえず行こうか。松下さん?」

『ええ、引き続きお願いします』

千束に声をかけられ、気を取り直す。

今自分ができることは、たきなを信じて千束と一緒に松下を護衛することだ。

とにかく、ここから移動しなければ。

 

 

 

 




以下、久々の筆者メモ

1.
・冒頭→書いてて楽しかった。以上。
・タブレットPC→iP〇dよりもWi〇dows系っぽい
・筋萎縮性側索硬化症→身体の各部位の筋肉が瘦せて硬くなり、次第に動かせなっていく病気。専門的な話はさっぱりだが、どうやら脳内にある”筋肉を動かせ”と命令する神経が機能しなくなることが原因だそうな。
・イギリスの有名物理学者→言わずと知れたあの人。モノホンの天才やで…。
・ミズキの表情→次第に誰も振れなくなったそうな。
・護衛依頼→そもそも暗殺任務が主なリコリスにはなかなか酷な任務。
・たきなさん、ダウン→護衛つってんのに、護衛対象囮にして人質にされたのはどこのどいつだ~?
・トビア君のフォロー→も、もう大丈夫だよね…?
・ミズキのブチギレスイッチ→一升瓶持ち出す前に早めに逃げましょう。
・防弾シート→今回唯一といっていいほどの数少ないクロスボーン要素。ABCマントの代わり。夏場にトレンチコートは流石に目立つからね、仕方ないね。
・しれっともらうたきなさん→微妙に装備が増えたたきなちゃん。
・視線入力→文字通り、操作する人の視線だけでPCの操作、入力を熟すシステム。何気に6,7年前からある技術。何だったら、こういう操作だけで遠隔操作するロボットもあるくらい。…すごくない?
・クルミ、仕事が増える→ゲームしてたんだからこの位は、ね?
・いい仕事→になれば、ホント良かったんだけどね…。

2.
・黒服のSP→1人だけって、何だか違和感が…。私だけ?
・黒服の視線→グラサンかけてても、横から何となく見えるもの。
・機械の心臓→原子力使ってないだけまだ現実的(戦闘妖〇雪風)
・松下の意思→意識のない人なのに、めっちゃ意思を感じられる声がして、トビア君大混乱。
・水上バス→筆者は小さなころに、し〇がわ水族館のそばから出ているものに乗ったことがあります。…ガチのバスが川に突っ込んでく様子はなかなか衝撃。
・旧電波塔と延空木→現実の東京タワーとスカイツリーのデザインがあべこべになったようで面白いですよね。直訳でスカイツリーだし。
・たきなさんの目つき→説明、してくれますね?
・人のこと言えない→トビア君の隠し事、引き伸ばし過ぎたなぁ…、やっべ、どうしよ。

3.
・公衆の面前で→元のアニメからしてとんでもないシーン。たきなさん、あの、常識…?
・同性同士のセクハラ→女の子同士なら百合。男同士だと途端に”うん⁉”
・トビア君28さい→10何話かけてようやく明かされた秘密の一つ。まさかのリコリコ内で2番目に年齢が高いという。
・サイレント→エンドクレジットで演者を見てびっくりした。石堀…いやダークザ…、志藤さん…?


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。

パルデアでたくさん元気もらったので、今年も好き勝手に書いて参りますので
どうぞよろしくお願いいたします。

分割分は近日投稿予定です。

それでは皆様、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#19海賊とおかしな護衛②

メタビルフルクロスのスクリュー・ウェップの柄が見つかったので初投稿です。

失くしたわけじゃなくて、本当に良かった…。
ああいう完成品トイのパーツ、やたらと細かくて辛い…。


今回は分割分、その後半になります。

少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

それではどうぞ。


プレモル嫌い多くない…?


4.

 

鞄から銃を取り出し、サプレッサーを取り付ける。

〈たきな、スマホに相手の画像を送っておいた。確認しておいてくれ〉

「了解。解析はいつ始められそうですか?」

柱の物陰に隠れながらたきなはクルミに問いかける。

〈さっき飛ばしたドローンが到着するのが後10分。屋内の監視カメラに顔認証かけるから、そのくらいの時間になる〉

「ミズキさんは…!」

〈500mほど離れた地点で連絡が途切れたままだ…。美術館の入り口はデパートの入り口側、館内のカメラでボクが見てる。たきな、出口側は?〉

「目視で確認してますが、まだ何も…」

窓に目を向け、確認。出ていく客ばかりで誰かが入ってきている様子はない。

 

すると、クルミから再び通信。

〈ちょっと待て、…ミズキの奴、ジンに発信器をつけていたようだ…!反応を拾えた、死んでも情報残したぞ!〉

〈まだ死んだと決まったわけではない…〉

「…気が抜けるんで、そういうこと言わないでください…」

あまりにもひどいクルミの言い草に、ミカと一緒になってツッコむ。

DAではまず考えられないオペレートだ。

 

気を取り直し、状況を確認。

「それで、位置は?」

〈…もう美術館の中だ!〉

直後、悪寒が走る。

咄嗟に頭を下げると同時に、銃撃される。

柱の一部が砕け、ローリングしながら3連射、ためらいなく撃ちこむ。

そのまま撃ってきた相手の姿を確認。

クルミから送られてきた顔写真と同じ、爬虫類を思わせる鋭い目つきに長髪。

そして先ほどバスの上から確認したように、どこか中華衣装を思わせる黒いコート。

(あれが、サイレント…!)

ミカが注意を促した、本物。

こちらが右腕を狙って撃った3発は、火花を散らしすべて防がれる。

その姿にトビアの装備が思い起こされる。

 

「!防弾コート…!」

ジンは舌打ち一つすると、通路の先へ逃げ込む。

たきなは追いながら、クルミに通信。

「このまま千束たちから引き離します!敵はどこへ⁉」

〈了解、…今扉を出て右に走っていった〉

「追います!」

言って、鞄から先日トビアに渡された防弾シートを取り出し、左腕に巻く。

相手も同じ装備を身にまとっている以上、こちらとしても出し惜しみしている余裕はない。

 

直後、自分の足元に銃撃。床が砕け、破片が飛び散る。

ジンによるけん制だ。

構うものかとシートを巻いた左腕を盾にしながら突っ込む。

銃弾をはじくたきなの腕を見て、ジンも装備に気づいたらしく、踵を返し速力を上げ逃げていく。

 

屋外へと出ていくジンを追いかけるたきな。

美術館の屋上からパルクールの要領で飛び、隣の建物へと向かう。

ここで、クルミから通信が入る。

〈たきな、朗報だ。ミズキが生きていた。特に怪我もないようで、依頼者を迎えに東京駅まで行ってもらっている。それまで何とか持ちこたえてくれ!〉

「…了解!」

これでミズキが松下の護衛についてくれれば、千束かトビアのどちらかが応援に来てくれる。

あるいは、両方来てくれればそれだけで勝負が決まる。とにかく、それまでに松下から遠ざけつつ、合流がたやすい位置へと誘導しなければ。

 

〈ジンの動きが止まったぞ、そこから15m先の室外機、裏の方だ〉

動きを追っていたクルミから情報が入る。

教えられた位置に目を向けると、室外機の裏からコートの端がはみ出して見える。

休憩か、待ち伏せか。

銃を構え、慎重に回り込みながら近づく。

相手に気取られないよう、角を出てすぐに銃を突きつける。

だが、そこには肝心のジンがおらず、来ていた防弾コートのみが残されていた。

慌てながらもそのコートを確認すると、襟元には小さく点滅する発信器。

やられた。

「クルミ、見失いました!コートしかない!」

〈…了解、千束たちは東京駅の近くだ。二人にも伝えておくから、たきなは合流を急げ!〉

「くっ、…了解」

悔し気に呻きながら、東京駅に向かうたきな。

 

(あの2人なら、大丈夫。…でも…!)

千束とトビアなら対処も可能だろうが、万が一を考えてしまう。

速力を上げる。

1秒でも早く、あの2人の下へ。

 

「千束、見つかった?」

「待って。…あっ、松下さん?こんなところまでどうしたんですか?行きたいところが?」

 

電話でミカたちから指示があり、迎えに来るミズキを待っていた千束とトビア。

彼女の無事に胸をなでおろしていたのもつかの間、連絡を取っていた千束と時刻表の確認をしていたトビアが目を離していた隙に、松下がどこかに移動してしまったのだ。

 

殺し屋が来ている中、護衛対象が行方不明なんてシャレにもならない。

二手に分かれ、必死に探す千束たち。

 

駅構内から出て、東京駅の外観が良く見える広場まで出てようやく松下を見つけた。

トビアも合流し、松下に問いかけるも反応が薄い。

「…松下さん?」

 

『彼が、ジンが来ているんだね?』

 

思わず絶句。

まさか、誰が来ているかまで言い当てるとは。

「松下さん、やっぱりあなたの本当の依頼は…」

「トビア、どうしたの?」

トビアが険しい顔をしながら松下に近づく。

『…彼の考えている通りだ。奴は私の家族を殺した、確実に私を狙って来る。』

語りながら、松下がこちらに体を向けてくる。

『日本にいる限り、必ず殺しに来るだろう』

「だったらなおさらです。今仲間が迎えに来てます、一度店に戻って」

『私には、時間がないんだ…!』

「その相手を、おれたちにさせるのが、本当の依頼ですね?」

トビアの言葉に驚き、松下の顔を見つめる千束。

表情に一切の変化がないのに、どんどん感情がこもっていくかのような機械音声に怖気が走る。

これは一体。

 

『千束さん、私は君の使命を知っている。それを果たしてもらいに来た』

松下の言葉に、身体が固まる。

胸元のフクロウのペンダントを握ってしまう。

『彼の言う通り、本当の依頼は…』

 

思わず、視線が外れる。

駅の改修工事のため建てられた足場と、その周りを囲うバリケードが目に入る。

 

その上、足場から銃で松下を狙うジンの姿。

 

先に気づいたトビアが松下の前に立ち、背負ったバッグからシートを取り出し構える。

 

「2人とも逃げてっ!!」

すると、ジンの横からたきなが現れ、タックルするように突き飛ばす。

 

そして、そのまま一緒に高所から落ちて行ってしまう。

 

「たきなーっ!!?」

たまらず叫ぶ。

あれほどの高さでは、ただでは済まない。

 

「はあ、はあ、はあ、やっ、と、着い、たぁ…」

ここで、ミズキが合流する。

松下を任せられる相手ができた。

もうためらう必要はない。

「ミズキ、松下さんをお願い!トビア、一緒に!」

「了解!ミズキ、人の多い場所を徹底して!」

矢継ぎ早に指示を出し、トビアと一緒に駆ける。

 

たきな一人に負担をかけ過ぎた。

彼女の無事を祈りながら走る。

 

ここから反撃開始だ。

 

 

 

5.

 

「うっ、…く、げほ…!」

背中の痛みにまともに声が出せず、むせる。

 

ジンを突き飛ばしたたきなは、そのまま下に広がる工事現場へと落下。

どうやら土嚢を積み上げていたところに落ちたらしく、幸いにも外傷は見当たらない。

 

意識だけは落とすまいと意地を張り、何とか体を起こそうとする。

と、右手から握っていたはずの重みが感じられないことに気づく。

「しまっ…!」

銃を探す間もなく、銃撃される。

ジンだ。

どうやら自分と違って上層に落ちたらしく、上から狙いをつけて撃ってくる。

攻撃手段のないたきなは必死に逃げる。

左腕の防弾シートで時折銃撃を防ぎ、何とか致命傷を避ける。

 

そうして、なんとか建築途中の改修部分の物陰に隠れることができた。

鉄骨でできた柱を背に、体力の回復に努める。

日陰になっており、狙いがつけづらくなるはず。

 

だが、それでもジンの銃撃は止むことはなく、激しさを増すばかりだ。

そのせいで、たきなはその場から動けずにいた。

そうしているうちに相手は確実に距離を詰めてきており、とうとうその銃撃がたきなの右足を掠めた。

「くあっ…!」

あまりの痛みにたきなの体制が崩れる。

 

そして、そんな隙を見逃す相手でもなく。

 

ジンが銃口を合わせる姿がはっきりと見える。

 

対してこちらは傷のせいで動きに遅れが出ていた。

 

(千束、トビア…)

たきなの頭によぎるのは、自分を相棒と呼んでくれた二人の顔。

 

(まだ、負けられない…!)

歯を食いしばりながら、左腕を顔の前へと持っていく。

負けてなるものか。

少なくとも、応援が来るまでは持ちこたえてみせる…!

 

その時、銃声とともにジンの足元に真っ赤な粉塵が舞う。

あれは二人の扱う非殺傷弾のものだ。

と、いうことは——

 

「たきな!大丈夫⁉」

「…千束!」

応急キットを片手にこちらに駆けてくる千束。

「じゃあ、今相手にしてるのは…」

「そ、トビアだよ」

簡単に止血を施した後、銃を取り出し構える千束。

 

「まだ隠れてて、とどめを刺してくる」

それだけ言って飛び出す彼女。

 

物陰から二人の戦いをみる。

 

上部からトビアが向かい、千束が下から撃ちこむ。

ジンとしては攻撃を仕掛ける千束を先に排除したいようだが、意識をそちらに向けると近づいてきているトビアから銃撃が飛ぶため、なかなか相手を絞り込めない。

 

そして、トビアがジンの立つ足場にたどり着く。

 

姿勢を低くしたトビアが防弾シートを盾に突貫。

その場で銃撃を続けるジンだったが、有効打を生み出すことができない。

仕方なく後退するも、そのタイミングでトビアが手にした銃を投擲。

 

咄嗟のことで一瞬動きが止まるジンに対し、一気に距離を詰め懐に入るトビア。

勢いを殺さず右の拳をジンの鳩尾にねじ込む。

あまりの衝撃に身体をくの字に曲げ、足が浮くジン。

 

その真後ろには、足場を上ってきたのだろう、銃を構えた千束。

 

殴られたばかりで、まだ宙に浮いているジンに背後からストライクパーツのついた銃で殴りつけ、そのままゼロ距離で非殺傷弾を撃ちこむ。

 

以前聞いた通りなら、さながら飛んできたボールにバットを打ち付けたようなもの。

「かっ…は…!」

海老反りになり、口から空気が抜け切る音を上げ、吐き出す唾に血が混じりながらジンがダウン。

そのまま前に倒れこむ。

 

ふと、以前の任務で千束から聞いたことを思い出す。

「…前衛のトビアが陽動、そして、千束がとどめ…」

 

右足をかばいながらも、2人のそばまで歩くたきな。

それに気づくトビアに千束。

助けてくれたことにお礼を言おうとするも、少し悔しさもありこんなことを言ってしまう。

 

「私に任せて、って言ったのに」

ただ、その言葉に悪い感情はこもっていなかった。

 

『殺すんだ!』

 

不意に背後から機械音声が聞こえ、振り返るトビア。

松下だ。

こちらに電動車椅子を走らせながら向かって来ている。

 

その後ろでは、ミズキが何とか追いつこうと息を切らしながら走ってきている。

どうやら松下一人でここまでやって来たらしい。

 

『そいつは私の家族を奪った、殺してくれ!』

「ま、松下さん…?」

あまりの豹変ぶりに言葉に詰まる千束。

たきなも驚きのあまり言葉を失っているようだ。

 

『本当なら、20年前のあの時…、家族を殺されたときに、私の手で殺すべきだった…!』

言葉に熱が入る松下。

だが、ここでミカが異を唱える。

〈そのころは、私と仕事をしていたはず…!〉

「…なんだって?」

証言の食い違いに戸惑うトビア。

いよいよきな臭くなってきた。

 

『千束、君の手で殺してくれ!君はアランチルドレンのはずだ!何のためにその命をもらったのか、その意味を考えるんだ…!』

「!」

そして、松下の口から決定的な単語が紡がれる。

 

アランチルドレン。

その才能を認められ、世界に使命を果たすためにアラン機関から支援を受けた、本物の天才。

 

(まさか、松下さんの正体は…!)

脳裏によぎるのは、フクロウを象ったあのバッジ。

 

「松下さん」

千束が静かに語りかける。

「私は、人の命を奪いたくない」

『な、何を…』

松下が動揺したかのように機械音声を震わせる。

「私、リコリスだけど誰かを助ける仕事がしたいんだ。…これをくれた人みたいに」

そう言って、胸元のペンダントを見せつける千束。

「それにさ、…戦う以外に、私にもできること教えてもらったんだ。だから、松下さんのお願いは、聞けません」

”ごめんなさい”

そして、頭を下げて謝罪。

 

『何を、…言っているんだ?千束?それでは、アラン機関が…!その命は……!』

混乱しているのか、まるでうわごとのように言葉を発する松下。

 

しかし、その直後、憎悪に満ちた声を発する。

 

 

『君が、…お前が、彼女を変えたのか、…海賊ッ!』

 

 

「えっ…!」

明らかにこちらへと向けた言葉。

 

「松下さん?あなたは?いったい…」

真意を問いただそうと、松下に近づくトビア。

だが、ここでサイレンの音が響き渡る。

どうやらジンを見た作業員がいたらしく、通報されたらしい。

「うっわ、面倒なことになるまえにさっさと逃げちゃお!ほらほら!」

ミズキが急かす。

「とりあえず、場所を変えて、落ち着いてから…。あれ、松下さん?…松下さん⁉」

千束も、慌てながらも松下に逃げるよう促す。

『…………』

だが、一切の反応を示さない。それどころか、先ほどまで爛々と輝いていた車椅子のモニターが暗転しており、松下の首もくたっと傾いている。

 

「何が、…どうなってるんだ」

トビアのその疑問に答えるものは、どこにもいなかった。

 

夜の帳が落ち、すっかり暗くなった時分。

 

喫茶リコリコにて、座敷にあおむけになって寝そべる千束。

 

彼女は今回の顛末を思い出していた。

 

 

 

「ミカ、3人ともお前の部下たちか。…まだ若いだろうに、いい腕だな」

ジンは意識を取り戻した後、ミカが事情を聴いて解放した。

曰く、金払いのいい女が現金一括前払いで依頼してきたとのこと。

依頼人の詮索はしない主義が災いし、どのような素性か一切分からなかった。

「ジン、20年前だが、彼の家族を殺したことは?」

「その頃はお前と組んでいたから分かるだろう。…身に覚えがない」

そう言って、彼は去っていった。

…河川敷、それもすぐ傍を犬の散歩をしている通行人がいる中、

腰をさすりながらバイクでゆっくり去っていく姿は、いささか締まらないものだった。

 

問題はその次だ。

 

「クリーナーから連絡があったわ。指紋から身元が判明、先々週から施設から消えた薬物中毒の末期患者のものと一致。…もう、自分では動くことも、話すこともできる様な状態じゃなかったようね…」

ミズキの運転でリコリコに戻る途中、車中で受けた報告だ。

「そんな!みんなで喋ってたじゃん⁉」

〈ネット経由で誰かが話してたんだ。ゴーグルはカメラ、車椅子はリモート操作、機械音声はスピーカーだ。…おまけに、ジンがこちらの動向を把握してたのも、車椅子から位置情報を発信してたんだろうな〉

「つまり、松下さんは、…存在、しない?」

千束の疑問にクルミが答え、たきながそうまとめる。

「…今回の依頼は、最初から囮を使った殺害依頼だった。それも、こちらの人員と事情をある程度把握したうえでの…」

助手席のトビアが口にしたことで、その得体の知れなさが際立つ。

口座に入金されたその多額の報酬が、ひどく不気味におもえた。

 

「じゃあ、…だ、れが」

千束の声が震える。

「誰が、…私に?なんで殺しを?何のために…っ⁉」

自分で発したその言葉が、恐怖に駆られたものなのがよく分かった。

 

 

 

「松下さんにさ、いいガイドだ、って言ってもらったんだ」

誰に聞かせるでもなく、口をつく言葉。

隣にはたきなとトビア。

2人とも、何を言うでもなくそこにいる。

「あれも、嘘だったのかな…」

「…いいガイドだったというのは、本当だと思いますよ。ね、トビア」

「うん。…おれたちは、結構楽しかったよ、千束のガイド」

何でもないようにたきなが答え、トビアが同意する。

そんな2人がありがたくて。

「……ありがと、2人とも」

 

空けた窓から入ってくる風に、それに揺られ音を鳴らす風鈴。

いつもは風情を感じられたその音色も、今はひどく空虚なものに聞こえる。

 

ぽすん。

不意に胸元に重みを感じる。

ちょうど心臓がある位置にたきなが倒れ掛かった。

「ちょいちょいちょいちょい…」

「今は私たちしかいませんよ」

どうやら水上バスで話した心臓の件を確かめているようだ。

 

しばらくそのままにする。

「本当に、聞こえませんね…」

「…そうだぞ、すごいだろ…。でも、こっちの方がいいぞー」

そう言って、たきなをどかした後トビアを寝っ転がす。

「うえっ、ちょ…」

ぼすん。

先ほどのたきなのように、トビアの胸元に耳をつける千束。

「ほら、たきなも」

「ち、千束?」

トビアの抗議の声を無視し、たきなも誘う千束。

「じゃあ、失礼して」

「たきな⁉」

同じように耳をつけるたきな。

心なしか、トビアの心臓の鼓動が早まったような気がした。

 

何もかも嘘だった今日の依頼。

でも、この暖かな鼓動はどうしようもなく本物で。

 

喫茶リコリコ、10年目の夏。

風鈴の音が窓から夜へと溶けていった。

 

 

 

6.

 

「よーしよし、まずは1人目」

 

特徴的なぼさぼさ頭に、あまり見かけない黄緑色の頭髪。

どこか軽薄な印象を与えるアロハシャツに、それを覆い隠すかのような真っ黒なアウタージャケット。

 

自身が乗っていた車両から顔を出し、男は笑う。

視線の先には先ほど仲間と一緒に仕留めた、ベージュ色の制服の少女。

所持品を改めれば、やけに多機能な鞄に黒光りする拳銃。

 

「あと何人仕留めればたどり着くかなぁ?」

 

スマホをいじりながら、楽し気にネットサーフィン。

画面に映る掲示板には、ある人物について様々な憶測交じりの情報が並ぶ。

 

曰く、巨大ロボを操る。

曰く、恐ろしく強い。

曰く、日本にいる。

 

曰く、それは海賊。

 

「男かな、それとも順当に考えれば、女か?」

 

スマホをしまい、空を見上げる。

「あのブリキ頭も面白いもんを知ってる。…これは流石にずるいなぁ」

少し前に使うことにした自称最強ハッカーのことを思い出す。

その見た目通りの、ロボット好きだった。

 

「やっぱり、…バランスは、取らないと。なあ?」

 

“スカルハート”

 

 

 

おまけ.

 

「サイレント、しゃべりましたね」

「そりゃあ、しゃべんないと仕事できないでしょ…」

「それに、開放する場所、河川敷なんですね」

「…うん?」

「夕日に、河川敷。なんか昔のドラマとかにあった、拾ってきた子犬を戻すような…」

「たきなストップ」

 




以下筆者メモ

4.
・たきなVSジン→全然いじれなかった戦闘シーン。精々たきなちゃんに防弾手段を持たせたくらいでした…。いや本当に難しいな、これ。
・見失う2人→東京駅のシーンから。先に時刻の確認をしていたトビア君と、そのあと連絡があった千束ちゃんのイメージ。トビア君スマホで確認しなよ…(筆者のミス)でも、最近の山手線、あと何分としか表示しなくなってきたんだよなぁ…。それにしてもこれ、文京区のシビックセンターに向かってるのかな?
・ジンを言い当てる松下→この回の不気味ポイントその1。
・使命について語る松下→さらに不気味なポイントその2。何で知ってるのというツッコミ以前にただ怖い。
・飛びつきたきな→割と高いあの工事現場。あんなん見たらそら叫ぶ。
・反撃開始→あのBGM大好き。

5.
・土嚢の上→に落ちたとはいえ、あの高さから落ちて外傷無しってどういうこと…?
・トビア&千束アクション→千束ちゃんがジョン・ウィックなら、トビア君は香港警察みたいなアクションかな?いや、クロスボーンの戦い方書いちゃえ!というイメージで書きました。あと、YouTubeでジャ〇ボール聞きながら書いてたからその影響は入ってるかも?
・『殺すんだ』→この回の不気味なポイントその3。ここらからだんだんおかしくなってきますよね。
・アランチルドレン→アニメでもターニングポイントでしたね、この単語。
・ごめんなさい→そういえば、アニメではそう言った謝罪はなかったなぁ、と思って追加。
・海賊→もはや使いすぎて、書いてないと不安なレベル(筆者のミスその2)
・バイバイ、ジン→不意に癒されたシーン。
・車中での会話→放映時期的にも、しっかりホラー回だったなぁ。
・またしても百合の間に挟まるトビア→「あの、恥ずかしいんで止め…あのぉ⁉」

6.→やっちゃった☆
・頭が緑の人→最初見た時勝手にモリゾー呼ばわりしてた。

おまけ.→完全にあのシーンを見た筆者の感想。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


1月に入ってからいろいろありましたね。
フレッシュトマト味だったり、元祖殺さない真っ赤なガンマンだったり。
今年も面白そうなものがいっぱいで楽しみな限りです。

…エアリアル改修型、予約できなかった…

例によって次回の投稿は未定となっております。
そろそろ鬼門の6話かぁ、どう戦わそ…。

それでは皆様、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけると幸いです。


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#20海賊と一緒⑤

マン・バイトに今更ながらハマったので初投稿です。

は?バカ面白いが?

今回はお茶濁しも兼ねて短編となります。
いつにも増して頭空っぽで書いたので、正直クオリティ低すぎるかも…

ほんの少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

それでは、どうぞ。


…大ジョッキ、買おうかなー


その1.海賊とドライブ

 

「トビア、寝てていいのよ?わざわざ起きてなくても大丈夫だって」

「ミズキ一人じゃ大変でしょ?いいよ、眠くないし」

 

任務帰りのある朝。

捕縛した対象の引き渡しに時間がかかり、状況が終了したのが早朝4時頃。

ミズキが車で迎えに来ており、トビア達3人は朝日を眺めながらリコリコへと向かっている途中だ。

 

後部座席では千束とたきなが寝息を立ててぐったりしていた。

2人とも夢を見ているらしく、時折寝言をつぶやいている。

 

「…ああ、どうしてそんな姿に、ミズキ…。死ねぇ…」

「いやどんな夢だ⁉」

流石のミズキもツッコミを入れる。

どうやら千束の夢の中では処理されたらしい。

「…うあー…バットが、折れたぁー…」

「しかもバットで殴られてるな?これ」

「んにゃろお、起きたら覚えておけよ…!」

どうどう、と助手席からトビアがなだめる。

運転するミズキの負担を考えてのことだったが、まさかの効果発揮だ。

 

「…たく。それで、トビア?2人には伝えたの?もしかしたらDA本部勤めになるかもしれない件」

「ああ、うん、…まだ、です…」

 

トビアが海上で初めて遭遇した日以降、あのMSと思しきヘリもどきは現れなかった。

だが、事態を重く見た上層部は、対抗可能なX1を完全に管理下に置くべく、トビアに対して本部に戻ってくるよう何度も要請を出していた。

「でも、今のところ強制力はないし、向こうの意図も透けて見えてるから応える気はないよ」

もっとも、現状敵が確認できないのと、被害が特に出ているわけでもないため、こちらが突っぱねている状況だ。

 

「だから別に言わなくてもいいかな?って」

「まったく、そういう所は変わんないわね、アンタ…。まだ自分の事、たきなに伝えて無いでしょ」

「あっ、とぉ。…まったくおっしゃる通りで…」

ばつの悪そうな顔をしてそっぽを向くトビア。

「さっさと言っちゃえばいいものを…」

呆れた声を出すミズキ。

 

「いや、だって、…イタくない?自分でそういう事を言うのって?」

「そのイタい名前出したのどこのどいつよ…」

「だって、そっちに使われるとは思ってもみなかったんだよォ…」

 

経緯としてはこうだ。

トビアとX1を戦力として組み込むにあたって、コールサインを決めようとしたDAだが、どれもしっくりこず。

案として挙がったのは、キャプテン、ティーチ、バーソロミューと言った海賊をイメージさせるものばかり。中にはフックなんてものもあった。

困ったDAは、トビアに“元の世界では何と呼ばれていたか”を聴取、そこで上がった名前のうち“スカルハート”に目を付けた。

「…でもあれは、“X1のこと”って、ちゃんと伝えてたはずなんだよなぁ…」

ちなみにこの名前、誰が言うともなく勝手に付けられたものであり、トビア達海賊は一切関わっていなかったりする。

「使い勝手良かったんじゃない?なんとなく伝わるし」

「普通に恥ずかしいよ…。この前DA行った時だって“お疲れ様です!スカルハート!”なんて言って来るし…」

“慣れたけども…”となおもぼやくトビア。

DA曰く、特徴を正確にとらえたうえで、事情を知らないものからすれば何のことかさっぱりなところが良かったそうな。

 

「…向かうなら、ショッピングモール、よりも…駐屯所へ…」

「いやこっちもこっちでどんな夢見てるんだ…?」

たきなから聞こえてくる寝言に思わずツッコむ。

なんだろう、バットと言いショッピングモールと言い、2人ともゾンビ映画みたいな夢でも見てるのだろうか。

「……いいよぉ、車出してぇ…」

「…正面、突破します……」

「いや、同じ夢見てない…?」

「夢の中で会話しだしたぞこいつら」

シンクロニシティどころの騒ぎじゃないのでは?

 

「…トビア、大丈夫なの?」

「え?」

不意にミズキからそんなことを言われる。

「そこのバカのお守りに、新しい子が追加。それにDAから戻って来いってせっつかれて、よく分からない相手も出てきて…」

「………」

運転中ということもあり、お互い目は合わせない。

だが、その声音からミズキが本気で心配してることが分かる。

 

「ねえ、…もしこの状況が負担なら、さ。こっちのことは気にしないで、帰る手立てを探しに行っても…」

「ミズキ、大丈夫」

言葉を遮る。

「確かに、大変だけどさ。…別に昔のエースに殺されかけたわけでもないし、凶暴なサルの乗ったMS襲われてるわけでもない。みんな心配してくれるしね?それに…」

振り返り、後ろの座席を見る。

 

「トビア、どこだぁ…」

「……トビア…」

 

「寝言でも、人のことを呼んでる甘えん坊が2人もいるし。…おいそれと出てくことはできないかな」

「…相変わらず、甘いわね…」

ミズキが苦笑い。

“まだまだ自分は必要とされている証拠”

そう言ってトビアは微笑む。

 

「…こいつらにかまけて、帰りを待ってるヒトに愛想つかされても知らないわよぉ~?」

「そっ、…その、時はまあ、そのと、時に…?」

「声震えてんぞー?」

ミズキがいたずらっぽく笑う。

いつもは恋愛関連でからかわれる側だからか、声が少し弾んでいた。

 

「……行くぞぉ、トビア、たきなぁ…必殺のぉ」

「こっちはこっちでなんか展開してるなぁ」

後ろの座席では相変わらず寝言がひどい2人。

どうやら、何か必殺技でも出すらしい。

 

「オーロ〇、プラズマ返しぃ…」

「………お、オーロ〇プラズマ返し…」

 

「「……オーロ〇プラズマ返し…?」」

 

なんだその技。

 

「行くぞ、2人とも!あの怪獣を倒す必殺技だ!」

「おお~!」

「いや、あの、トビア?千束?色々気になるところが…。というかこのロボットって、もしかして…!」

「太〇剣、オーロラ〇ラズマ返し!」

「オーロラ〇ラズマ返し~!」

「あ、無視ですか、そうですか。…お、オーロラ〇ラズマ返し…?」

 

『オーロラ〇ラズマん返しぃ~!』

 

「「しゃべった⁉」」

「え、なにそれ知らん。怖…」

「「⁉」」

 

 

 

その2.海賊とアフォガード

 

「トビアさん!エスプレッソとバニラアイスお願いします!」

「いらっしゃい、カナちゃん。すっかり通な食べ方覚えたね」

 

喫茶リコリコに響き渡る元気な声。

彼女はカナ。この店の常連で一際若い中学生の女の子だ。

 

「いやあ、伊藤さん達におごってもらってからすっかりはまっちゃって…」

「この分ならその内、エスプレッソ単体でも注文できそうだね?」

「え゛。…いや、でも、ここは挑戦しておくべきなのか…!」

「無理にしなくても大丈夫だから…」

カウンターに座りながら葛藤する彼女に、苦笑いを浮かべながらたしなめるトビア。

とりあえず、注文の品を用意しなければ。

 

「それで、カナちゃん。…引っ越しはいつごろになりそう?」

他にお客さんもいないことから、気になってることを聞く。

「準備はほとんど終わってるから、明後日にでも。…あの時は本当に、ありがとうございました」

トビアに深々とお辞儀をするカナ。

「お礼なんていいよ。君はおれたちに依頼して、その結果助かった。…それだけなんだからさ」

 

 

彼女は、この夏にリコリコの依頼として処理した案件の被害者だった。

前提として、カナは中々に複雑な状況に追い込まれていた。

もともと彼女の家は崩壊も同然、蒸発した母にいつの間にか家に居座っていた継母のような女、仕事から帰ってこない父親。俗に言う、ネグレクトだった。

さらに追い打ちをかけるように学校では嫌いな教師から嫌な視線を感じ、クラスメイトには撮られたくもない写真を撮られ、それを盾に脅される日々。

 

そんな中、ふと訪れた錦糸町で見つけたのが喫茶リコリコ。

ここに居る間は、そんな現実を忘れられたと語っていた。

 

だが、ここで思わぬ事件に巻き込まれることになる。

偶然彼女が電車の座席から拾った本物の拳銃。これはリコリコが以前捕縛した麻薬組織の主犯格が持っていたものだった。

突如手にした人を殺す手段に気の迷いが生じる。

 

今まで自分を虐げてきた者に復讐を、と。

 

だが、周りの状況は彼女に決意を固めさせる間もなく一変していった。

教師の乱暴未遂、そしてクラスメイトからはお茶会と称して薬物の強要と販売に加担させられかけた。

 

リコリコはカナの様子に気づいてはいたものの、迂闊に介入できず彼女の観察と保護に徹していた。

 

だが、傍から見ても、彼女の限界はすぐそこまで来ていた。

トビアが彼女を見つけた時は、自分でこめかみに銃を突き付けている状態だった。

今思い出しても冷や汗が止まらない。

 

結果としては、カナから“自分を助けてほしい”という依頼を受けた形にしてこれを解決。

銃の出所が出所ということで、DAを巻き込みこれを正規の任務としても登録。

お茶会に関しても情報をDAにリークし、リコリスにより処理させた形になった。

脅される原因となった画像も、クルミがクラスメイトの端末データごときれいさっぱり破壊、たとえネットに流出したとしても学習させたAIを使って選択消去。乱暴教師もミズキが制裁、見事病院送りとなった。

 

 

「…皆さんには、なんてお礼を言っていいのか…」

その時のことを思い出しているのだろう、頭を下げながら、カナの言葉に涙が混じる。

そんな彼女の前にエスプレッソとアイスクリームを用意しながら、トビアはカウンター越しに肩をたたく。

そして一言。

「君が、無事でよかった」

「は、い…!」

 

プルルルル

「おっと。ごめん、すぐ終わらせるから」

そう言って、電話の応対のために引っ込むトビア。

 

涙をぬぐいながらその背中を見て思い出すのは、自分のこめかみに銃を突き付けて、引き金を引こうとしたあの瞬間。

 

 

 

突然、何かが引っ掛かったかのように引き金が引けなくなる。

驚いて銃を持つ手を見ると、いつからいたのかトビアが引き金の間に指を入れ、これ以上動かないようにしていた。

あまりの事に頭が追いつかなくなるが、それでも口を突いて出た言葉は拒絶だった。

「…はなしてっ…!」

「………」

「もういいっ、離してっ!離してよっ!」

叫ぶように言い放つ。

邪魔しないでと。

自分はここで終わりにするんだと。

だが、彼は大きな声で問いかけてきた。

 

「どうしてっ!」

 

「…え?」

まさかそう言われるとは思ってなかったのもあって、答えに窮する。

「この手はおれが、好きで掴んで…」

ぐぐっと強い力で頭から降ろさせられる。

「離さないでいるだけなのに!」

そして、マガジンを排出し、そのまま奪われる。

「離したら、いい事あるのかい?」

もう、その手に銃は握っていないというのに、なおも手を握り続けるトビア。

 

「あっ…!」

掴んだ手を起点に背負い投げの要領で背負われる。

そして、その手の中に紙をねじ込まれる。

「ところでさ。…ウチ、コーヒーセットの無料券やってるんだ。どう?飲んでかない?」

背中越しに話しかけられるその声は、どこまでも今まで通りで…

 

「…うっ、くぅっ…!」

その声に涙がにじむ。

トビアはカナを背負い、その背中を濡らしながら、なおも手を離さず歩き続ける。

彼が向かう場所は明白で、今の彼女にとってどこよりも安心できるところだった。

「…セットだからさ、もう一つなんでも注文できるんだ。どうかな?」

だからだろう、素直な気持ちが言葉として出てくる。

「…トビア、さん。…注文、いい、ですかっ…!」

「うん、…どうぞ」

 

「助けて…!」

「任せて」

 

そう返すトビアの横顔は、いつもと変わらない表情で。

 

そんなに様子に涙は堰を切ってあふれ出し止まらなくなる。

背負いづらいだろうに、片方の手は強く握ったまま。

その手の温かさが、とにかく嬉しかった。

 

 

 

「はい、はい、…かしこまりました。はい、ええ失礼します…」

ガチャン。

トビアの電話は終わったらしく、カウンター前に戻ってくる。

 

「トビアさん、注文いいですか?」

カナの手には、あの時もらった無料券。

「うん、どうぞ」

 

カナには大好きな人たちがいる。

 

まるで父親の理想像のような、優しくおおらかなミカ。

気楽に、雑に扱ってくれる姉のようなミズキ。

頭はいいのにどこか抜けていて、一緒にボドゲ大会に誘ってくれたクルミ。

しっかり者で、誰が相手でも物おじしない黒髪美人のたきな。

自分がこの店の常連になるきっかけとなった、溌溂と愛嬌が服を着てるような千束。

 

そして、今目の前で微笑む、自分のことを救ってくれた、鼻の上に傷が奔る少年。

 

彼のことを思うと、胸が暖かくなり、この店に足を運びたくなる。

会いたくなる。

話をしたくなる。

これは、いわゆるそういう事なのだろう。

 

…助けてもらってばっかりなのだ、そろそろ自分で踏み出していかないと。

「エスプレッソ、単体でお願いします!」

「……お残しは、許さないよ?」

 

まずは、自分の苦手に挑戦。

少しずつ、されど着実に、1歩ずつ。

 

「ううっ…、香りはいいのに、苦ぁい…」

「砂糖と、ミルクも置いとくね」

 

そしていつかは、この思いを伝えられたらな。

 

カナはそんなことを考えながら、エスプレッソに挑むのであった。

 

「たきなさんや」

「なんです?」

「カナちゃん来てるね」

「来てますね」

「…トビアに近くない?」

「…近いですね」

「……近すぎない?」

「……近すぎますね」

「………」

「………」

 

「…お前たち、ここで出歯亀するくらいなら、混ざってきたらどうなんだ…」

 

 

 




以下筆者メモ

その1.→ノベルより。というか、今回の短編みんなノベルから。
・夢オチ→最初っから夢オチって明言してるのも珍しいなと思いました。
・折れたらしいバット→ここ読んで龍騎の1話を思い出した私はもう末期。
・本部への帰属→書いてて思ったケド、X1帰ってくるときとか本部の位置バレるのでは?
・未だ言えないトビア君→自分から言うのは、結構あれだよね。
・スカルハート→誰が言ったか、クロスボーンを指して名づけられたもの。何気にハリソン大尉も使ってる辺り、結構普及してるみたい。
・ゾンビ映画→最近よく走ってるイメージ。ノーマン大好き。
・心配ミズキ→アニメでも思いましたが、彼女ってホントイイ女ですよねぇ。男運がないのと理想が高すぎるのがアレですが。
・昔のエース→「アムロ・レイを、さらわれたアムロ・レイを、奪還してほしい」
・凶暴なサル→「おおおオフィシャルではございませぬぞ!」
・声の震えるトビア→やっぱり気になるところ。あんな別れ方したので猶更。
・オーロ〇プラズマ返し→感想を返したときに思い付いたネタ。結構豪快に剣ぶん回しててビックリ。初めて知ったのはラジ〇ンジャーです。

・しゃべった→サン〇ルカンロボのあの声、どっから出てたんだ…?

その2.
・アフォガード→イタリア語で溺れたアイスクリームの意。何だったらポットから直に入れる時もあるそうな。
・カナ→あのノベルで、ある意味一番の主人公まである。
・引っ越し→ここは独自設定。あんな目に遭って、あのまま同じところには暮らせないだろうなー、という想像です。
・彼女の事件→正直胸糞すぎて、あんまり思い出したくないお話でした。でも、こんなの普通に現実であるんだよなぁ…。何だったら、もっと救いのない…。
・リコリスによる処理→これ、下手するとあのクラスメイト達も処理してるよなぁ…、うわあ…。
・この手は…→正直今回の短編、これやりたかっただけ。
・コーヒーのセット券→中々粋な演出でした。ちょっとクサいくらいでちょうどいいんですよねぇ。
・モテモテトビア→ただ、彼には心に決めた人がいます。そんな彼の一途さがかっこいいのですが。

・出歯亀ーず→語源調べてゾッとするシリーズ。まさか殺人までやってるとは…。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

もう週一とかも難しくなってきた…。

いい加減、プロットなしで思い付き突発投稿をやめるべきなのか…。

次回の投稿は、例によって未定となります。
いよいよ6話かなー、どうしよ。

それでは皆様、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#21海賊と天秤①

ようやくPS5普通に変えたので、初投稿です。
よっしゃ、早速ホグワーツに入学や!

大変長らくお待たせしました。

まさかの1ヵ月ぶり。

ふつうにスランプなのと、仕事がバカ忙しくて、つい…。

さて、今回は鬼門の6話。
とりあえず、真島さんにはひどい目に遭ってもらわないと…(鋼鉄の意思)

ほんの少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

それではどうぞ。



サッポロ黒ラベル、いいよね…



1.

 

まだ朝日が昇ったばかりの時間。

日課のランニングを終えたトビアは帰宅後シャワーを浴び、コーヒーでも入れようかと準備を進める中、その凶報は舞い込んできた。

 

「…被害は?」

〈今日までに4名、いずれも殺害されています。〉

 

DAからかかってきたその電話は、リコリスが夜間単独行動中に狙われたというもの。

手口は正確には分かっていないものの、本部と通信中に襲われた者がおり、音声解析の結果車両による追突の後、複数人による一斉射撃を受けたようだったと言う。

検分の結果、他の被害者にも同じような目に遭った痕跡が確認できたとも。

 

「特定方法は?被害者の共通点は?」

〈依然として不明です。現場も二子玉川、お台場、立川、品川…バラバラで、彼女たちも単独行動中のサードとしか共通項が見いだせず…〉

「…こっちでも警戒しておきます。差しあたっては、単独行動の禁止位ですかね?」

〈お願いします。あと、あなたも狙われているかもしれません。気を付けて、スカルハート〉

「了解。このことはミカさんには?」

〈すでに連絡がいっています。今日中に共有を済ませるとも。それでは〉

 

通話終了。

この10年間で今までにない異常事態だ。

そもそも、リコリスを知るものが極端に少ない。

基本的にリコリスが投入されるのは暗殺・殲滅・そして捕縛。

目撃したものは監視され、敵対者はここを除き捕縛されようと最終的には消される。

それなのに、ピンポイントで狙ってきた。おまけに、いずれも同じ手段で。

「…何らかの宣戦布告、と言ったところか…?」

まるで“お前たちのことは分かってるぞ”と言わんばかりの手口だ。

「以前に、DAからの攻撃をしのいで、生き残った…?」

考えられるのは、そういった生き残りによる復讐。

「…だめだ、情報がなさすぎる。決めつけるのは危ない、か…」

言いようのない不安が頭をよぎる。

否応なく巻き込まれる、なぜだかそんな気がした。

 

 

ピンポーン

インターホンが鳴り、現実に引き戻される。

モニターを確認すると、意外な人物が写っていた。

「…たきな?」

彼女がここに尋ねてくるのは初めてだ。

そもそもここの住所を教えていただろうか。

とにかく、表に出て応対する。

「おはようございます、トビア」

「たきな、どうしたの?…え、なんだその大荷物」

玄関を開けると、大きなバックを担いだたきな。

まるで、どこかに旅行するかのような…。

 

「これから一緒に千束の家に行きますよ。早く準備を」

「………えっ」

早速巻き込まれたトビアであった。

 

 

 

2.

 

「……で、ウチに来た、と」

「はい、3人いればある程度のことは対処できますし、何よりトビアの勘は役に立ちます」

「信頼は嬉しいんだケド、事前に説明が欲しかった…」

 

自身のセーフハウスで千束がたきなから連絡を受けたのが数分前、内容はリコリスが連続して襲われているという物騒なもの。

外にいるのか音声が少し乱れており、後ろの方からは蝉の鳴き声が聞こえる。

そして“早速一緒に行動しましょう”と電話口で言われたと同時にインターホンが鳴る。

モニターを確認し、玄関を出ていくとバッグを担ぐたきなに疲れた顔のトビア。

 

「ん?ということは、2人ともウチにお泊りってこと…!」

相棒同士3人、一つ屋根の下。

何やら楽しそうな状況に心躍らせる千束。

だが、脳裏に今の部屋の状況がよぎる。

 

脱ぎ散らかした衣服。

未だ片付けていないBDの山。

開けっ放しのお菓子の袋etc…。

 

あかん、人が泊まれる部屋じゃない。

 

「えっ、とォ、その、片づけが…。も、もう少しだけ、待ってくれない…?」

冷や汗が止まらない。

そういえば今日は夏日だったな、そんなどうでもいい感想が浮かんでくるあたり、もうだめかもしれない。

「なら、一緒に手伝います。それならすぐに終わりますし。トビアも…」

「ちょっ!トビアはダメ!たきなだけでお願い!」

大きい声が出る。

いくら10年も一緒にいるとはいえ、自分の脱ぎ散らかした服を見られるわけにはいかない。

 

「トビアはもうちょっと待ってて!たきな、早くやろ!ハリーハリー!」

これ以上話がこじれない様にするためにも、まくしたてるように一方的に宣言。

勢いよく扉を閉め、たきなの背中を押す。

とにかく急がなくては。

 

「…………、これ帰ってもいいかな……?ダメかなぁ…」

玄関の外にはトビアがポツンと一人。

蝉の鳴き声が鳴り響くなか、外の暑さにじんわり汗がにじむ。

どこまでも不憫な彼であった。

 

何もない部屋に“プロだ…”と感動し、それでは先ほどの片付いてないといった慌てようは何だったのかと首を傾げ、直後姿を現した壁の回転扉と下の部屋へ続く梯子に驚き、言っていた通りの散らかりようにたきなが呆れたのが数十分前。

 

片付け終えたたきなは千束の部屋にて荷物を広げ、泊まるための準備を進めていた。

「なんなんですか、この部屋…」

そうつぶやくたきな。

仕掛け扉に実際の生活スペースである階下の部屋。

どういう意図をもって、こんな七面倒くさいことになっているのか。

「セーフハウス第1号!他にもあと3件あるかなぁ」

「そんなに…」

“こんな仕事やってると、いろいろあるのさー”千束はそううそぶきながら、軽く伸びをする。

外で待っていたトビアを気遣って早く終わらせようと張り切ったのだろう、少し疲れているようだ。

 

「ところでさ、なーんで特定されてんのかねぇ」

千束がアイスコーヒーを3人分用意しながら聞いてくる。

「それが、分からないないんですよ。例のラジアータへの攻撃と関連があるとは思いますが…」

「被害者の状況から、手口は一緒みたいだよ」

そこに、トビアが自分の荷物をもって降りてくる。

「トビアはトビアで、なんでそんなこと知ってんの?」

「司令部から直に連絡あったからなぁ」

「本当に何者なんですか、トビアは…」

こちらはリコリス担当医の山岸から聞いたというのに。

もうそろそろ数ヶ月の付き合いになるが、彼のことは謎が深まるばかりだ。

 

「…さて、しばらく私たちが共同生活するにあたって、家事分担を表にまとめてきました」

そういいながら、画用紙をテーブルの上に広げるたきな。

なるべく公平さを心掛けた自信作だ。

「…ごめんたきな。ぼくは洗濯から外してくれない…?その代わり料理は全部ぼくでいいから」

トビアが引きつった笑いを浮かべながらそんなことを提案してくる。

その隣の千束も“激しく同意”と言わんばかりに頷いている。

「……?あ、下着なら見られても大丈夫なように、あの時買ってきたものにしましたが…」

「私が嫌だって言ってんの⁉さすがにそこまでズボラじゃないよ⁉」

顔を真っ赤に染めながら千束が主張する。

そこまで言われて、はたと気づく。

「そうですね、人に見せていいもの以外の下着もありますものね。分かりました」

ここは彼女の家なのだ、そういったものもあると理解するたきな。

「違えよ!…いや、もうそれでいいや…」

がっくりうなだれる千束に疑問を覚えるも、仕切り直す。

 

「それで、トビアの割り振りは決まりましたが、他に何かありますか?」

「……それならさ、あらかじめ決まってるのもつまんないし、じゃんけんで決めない?」

千束が悪い顔をしながら、そう提案してくる。

なぜだろう、嫌な予感がする。

「千束…さすがにそれは…」

「トビアは黙ってて。…さんざん辱められたんだ、ここで憂さを晴らさせてもらおう…」

ふっふっふっふっ

そんなふうに笑いながらこちらを見る千束。

怖い。

「さあ、いっくよー…?最初はグー!」

こちらの返答も聞かずにいきなり始める千束。

どこか鬼気迫る表情が入り混じった笑顔に身がすくみあがる。

それでも負けじと咄嗟に反応するたきな。

「じゃん!けん!」

 

その予感の通り、碌な結果にはならなかった。

全敗。

見事分担表はたきなの名前で埋まり、料理以外の家事を全て受け持つこととなってしまったのだった。

 

 

 

3.

 

「おはよう!労働者諸君!」

「おはようございます」

「はよー、聞いたわよー、大変なことになってるって。…労働者はお前もだろうが、何の映画に影響されたのよ」

「“わたくし、生まれは柴又葛飾で姓は…”」

「あ、もういいわ。トビアの趣味ね、それ」

「なんでバレた…?」

 

3人で仲良くリコリコに出勤。

ミズキが大量のスイカをさばきながら挨拶してくる。

ミカに聞かされていたのだろう、話題に上がるのは先のリコリス襲撃事件だ。

 

「まあ、私らDAじゃないし。関係ないかなー」

「千束、可能性は0じゃないんですから…」

「ぼくも同意見。警戒くらいはしておこう」

どこまでも楽天的な千束を諫めるたきなとトビア。

 

更衣室に向かおうとすると、通話中のミカが目に入る。

「…被害を抑えるためにも、必要だと思うが…。はあ、分かった。」

電話を切るミカ。

「先生、今のって楠木さん?」

「司令は情報くれそうでしたか?」

「極秘、だそうだ。…トビア、お前の方はどうだった?」

「そっちとそんなに変わらないと思いますよ。…一応、手口と狙われた状況だけは聞きましたが」

「ああ、それは私も聞いた。…やれやれ、こうも秘密主義が過ぎると、な」

トビアの返答を聞いて、呆れたように頭を振るミカ。

DAとしてはこれ以上の情報共有をするつもりはないらしい。

 

「まあ、あとはこっちで勝手に見ればいいさー」

通りがかったクルミが口元をもぐもぐさせながらそんなことを言う。

手元にはスイカ、どうやらつまみ食いしてきたらしい。

何とも頼もしい発言だ。が、

「…それ、堂々とDAハッキングするって言ってません…?」

そのまま押し入れへと入っていくクルミを見て、微妙な顔をするたきな。

「ま、今気にしてもしょうがないってね?」

「…それもそうか」

こんな非常事態でも平常運転なリコリコに、変な安心感を覚える3人だった。

 

「ごちそうさま!トビア、和食の腕上げたね~」

「ごちそうさまでした。…まさか、肉じゃがが出てくるとは思いませんでしたが」

「お粗末様。ぼくも日本暮らしは結構長いからね」

 

ある日の夜、一同は食事を一手に引き受けることになったトビアの料理に舌鼓を打っていた。メニューは肉じゃが定食、安定の芋料理だ。

多めに作られたそれは、残りをタッパーにしまい冷凍庫へ。次の日のまかないへと回されるようだ。

 

「あ、トビア。洗い物は私がやりますよ?」

食器を運びながら、たきながそうトビアに話しかける。

「なら二人でやろうか。ぼくが洗って、たきなが拭く。どう?」

「なるほど、合理的ですね」

そう言い、二人並んでシンクで洗い物をする。

この数ヶ月で育まれた、確かな絆が垣間見える後ろ姿だ。

 

そんな二人を面白くなさそうに見つめる千束。

 

家事分担をかけたじゃんけんで見事全勝、たきなとトビアの2人が居る限りは掃除も洗濯も免除され、一人ソファで映画を観ていたものの2人の様子が気になりちらちら。

「…なーんか仲間外れ…。ねぇ、どっちかこっち来ない?一緒に映画みよーよォ」

とりあえずちょっかいをかけてみる。

「今洗い物してるので、あとで」

「終わったらコーヒー淹れて持ってくるから、それまで待ってて」

にべもなく断られる。

さながら、わがままを言って両親になだめられる子供だ。

自分の得意分野で大人げなく勝ってしまった手前、おいそれと手伝いに混ざるのも憚られるため、もやもやが募る。

 

その時、千束のスマホがけたたましく鳴り響く。

「⁉千束、それは…?」

あまりの音量にたきなが警戒をにじませる。

画面を見ると、赤い文字で“Intruder Alert”の表示。

「うわっちゃー、まーたチンピラだよー…」

言って、愛銃と弾丸の準備。

「トビア、手伝ってくれない?」

「大丈夫、準備はできてるよ」

トビアに声をかけると、腕に防弾シートを巻き、戦闘の準備を終えた彼の姿。

「2人とも、何を…」

「たきな、ちょっと待ってて。…GO!」

フラストレーションが溜まってきているときに来たのだ。

せっかくなので、チンピラ達にはとことん付き合ってもらおう。

隣のトビアにはそんなことを考えているなどおくびにも出さず、駆け出す千束。

さあ、戦闘開始だ。

 

「…千束、あまり八つ当たりしないように」

バレテーラ。

 

迎撃のため、上の階へと向かっていった千束とトビアに置いて行かれたたきな。

天井からどったんばったん大騒ぎ。盛大にガラスが割れる音も聞こえる。

その内、外から男たちの“殺さないでくれ”という情けない叫び声が聞こえ、途端に静まり返る。

 

「この為の、セーフハウス…」

「そ。これでも前に比べたら頻度は減ったんだよー」

得心がいったたきなに、千束がそう返しながら戻ってくる。

「前はもっとひどかったんだよ?リリベルが攻めてきたり…」

その後ろからトビアが戻りながらそう答える。もっと襲撃の頻度が多かったのか。

それはそうと、聞きなれない単語が一つ。

「リリベル?」

「あー、なんて説明したらいいかな…。リコリスの男の子バージョン?」

千束からそんなことを言われる。初めて聞いた情報だ。

「それは、何をする人たちなんです?」

「基本は私たちと変わらないはずだけど、…うーん、よく分からないかな」

少し困り顔の千束。どうやらそこまで詳しいわけではなさそうだ。

「なーに?たきなったら男の子に興味深々?」

「別に。…興味があるのは…」

「………?」

千束にからかわれとっさに否定の言葉を口にするも、目線はトビアを追ってしまっていた。

 

「な、何…?」

「…いえ、別に?」

そう、別に他意はない。

なんでリコリスの自分が知らない情報を持ってるんだとか思ってない。

ついでに、この前の隠し事の件についてなんて思ってはいない。

何だったら、年齢の矛盾が無くなったので6年前何してたかとか聞きたいことが増えたわけではない。

無いったら無い。

 

「……トビアさん、年貢の納め時ですよ~?」

「覚悟、決めます…」

「この前も言ってなかった?」

 

 

そんな彼らの一部始終を収めたドローンが一つ。

ついぞ気づかれることはなく、映像は持ち主の下へと送られる。

 

事態がまた一つ、動き出す。

 

 

 

4.

明くる日、喫茶リコリコにて。

押し入れの中、PCの前でクルミが千束に話しかける。

内容は、DAから得られた情報についてだ。

「この前の地下鉄襲撃事件にリコリスの襲撃犯、例の銃が使われているそうだ」

「例の銃…。もしかして、あの取引で?」

千束の言葉に、画像を表示させる。

沙保里の写してしまったあの写真だ。

 

「うーん、もしかして、あの時DAハッキングしたのも同じ奴の仕業?」

「…うっ」

ビクッと反応するクルミ。

「?」

「や、ど、どーかなぁ。…もう少し、調べてみる…」

なんだかぎこちない。

 

「と、ころで、トビアはどうしたんだ?」

「え、あ、うん。DAから単独指名。一人になるなと言っておきながら、まったく…」

クルミの露骨な話題のすり替えに不思議に思うも、トビアの任務について伝える。

「定期動作試験…クルミは先生から説明受けた?あの時のロボットがらみ」

「ああ…!なかなかイかすデザインだったな…!」

先日の海沿いの倉庫のことを思い出し、目を輝かせるクルミ。

聞けば存在だけは知っていたとのこと。

「というか、聞いたら本人肯定してたな…」

「まあ、トビアも別に隠してるわけじゃないからなぁ…。あれ、もしかして…」

ここではたと気づく。

 

トビアのことを知らないのって、もしかしてたきな一人だけ?

 

「…うわーお」

このことを知ったたきなの反応を想像し、げんなりする。

絶対面倒なことになる。

間違いない。

もしそうなったときは、全力で逃げよう。

 

「ま、それはそうと、連中なに見てリコリスって識別してるんだろ。別に女子高生が襲われたってニュース観ないから、無差別ってことはないんだろうケド…」

「さあなぁ…、一応ボクの見立てではその制服のせいじゃないかと思う。色はともかく、デザイン共通だろ?」

そう言い、千束の着るその制服に目を向けるクルミ。

「お?…ああ~、確かに一度覚えちゃえば分かるか…。まあ、しょうがないんだけどねぇ…」

納得のいく考察だ。

リコリスのコンセプトの都合上、学生服を想起させる服装であることが求められる。

だが、あまりに特徴が一般的なものと同じだったりバラバラの制服だと、任務の際に味方の区別がつきづらくなったりといらぬ混乱が起きてしまう。

それを避けるために、統一されたデザインであることは仕方がなかった。

だが、

「味方の識別ができるってことは、相手にとっても敵だと識別できる。都会の迷彩服もこういう時は不便だな」

なまじっか、今までリコリスと相対して生き残った者がいなかったゆえの弊害と言えた。

 

「んー、じゃあ制服を隠すものが必要かぁ」

「まだ確実なことは何も言えないがな?」

これが事態に対する備えになればよいのだが。

 

「うーん………」

夕方も過ぎ、そろそろあたりが暗くなってきた頃。

たきなは腕を組み、座敷で一人唸っていた。

 

「?どうしたの、たきな」

それを見つけたミズキが声をかける。

その後ろには、ミカの顔も。

「あっ、いえ、その千束にどうしても勝てなくて…」

「なにで?」

「じゃんけんです」

たきながそう言うと、二人は“ああ~”と納得のいったかのような声を出す。

「…たきな、あんた最初はグーってやつ、やってるでしょ」

「?え、ええ…」

「…それでは千束に勝てる訳はないな」

「うん、無理無理」

「は…?それって、どういう…?」

彼女たちの反応に戸惑う。

どこか同情的なのも気になる。

 

「まず始めに、千束が弾丸避けやってるのは知ってるでしょ?」

「は、はい」

ミズキから説明が入る。

曰く、その絡繰りは偏にその化け物じみた動体視力にあるという。

「あいつ、服どころか筋肉の動きを見て予測して避けるのよ。そんな奴が、じゃんけんなんてやったらどうなると思う?」

「……えっ、まさか…?」

「ああ、最初はグーなんてやったら読まれ放題だ。変えないと分かればパー。変えると分かればチョキを出して、絶対負けない」

とんでもないことを言われる。

確かにアサルトライフルの掃射を避けるというトンチキなことをやっていたが、まさか見て避けていたとは。

 

ということは、

「もしかして、引き分けできる確率が3割で、勝つことは不可能…?」

「そうだ、もし勝負しようと思ったら間髪入れずに先手を取る必要がある」

「え、ええ…?マジ、ですか…?」

「マジ、よ」

なんだそれは。

つまりは、千束は自身の最も得意とする方法で家事を免れていたということだ。

それは何というか、

「大人げ、なさすぎる……」

「千束はそういうやつよ…。トビアから教えてもらわなかった?」

「いえ、一度も…」

どうやらトビアも知っていたみたいだ。

教えてもらいたかった…。

 

そこで、ふと疑問が浮かぶ。

「あれ、もしかしてトビアも…?」

流石に拳銃相手ではあるが、同じく銃弾避けをやってのけたトビアのことだ。

ボドゲ大会の戦績のこともある。

「ああ、あいつの場合もっと性質悪いわよ?なんせ心でも読んでるんじゃないかってほどえげつないから」

知りたくなかった…。

 

「組長さんとこに配達行って来る~…、あれ、どしたの?みんな?」

そこに、更衣室からでてきた千束が合流。

おもわず呆れたような、微妙な表情を浮かべてしまう3人。

「いえ、別に…。?どうしたんですか、その恰好?」

見れば、千束は黄色いポンチョを身に着けており、ひらりと一回転。

「へへっ、どーよー?クルミとも話してたんだけど、制服でリコリスの事見分けてるんじゃないかって」

「ああ、それでその恰好…。少し待ってください、私も準備しますので」

「や、だいじょーぶ!別に組長さんとこ遠くないし、歩きで行くから。それにチンピラ程度どうこうされるようなタマじゃないよ」

そう言って準備を進める千束。

「ですが、トビアもまだ帰って来ませんし…」

「心配し過ぎだよ~!大丈夫、やばくなったらすぐ逃げるから!」

“じゃ、行ってきまーす”そんなふうに、軽やかな足取りで外に出ていく千束。

いくら心配しようとどこ吹く風。

実際、千束の戦闘能力に信頼をおいていることもあり、後ろ髪をひかれながらも見送るたきな。

 

何事もなければいい。

 

「あ、あ、あああああああ!」

そんな思いが裏切られるのは、クルミの叫ぶ声が上がってすぐの事だった。

 

「これで、今回のチェックは終了、か。…なんだか珍しい時間帯にやりましたね?いつもは早朝なのに」

〈すみません、スカルハート。例の事案でどこも手が回っていない状況でして、今回は前倒しさせていただきました〉

 

X1の定期動作試験も終わり、コクピットの中でオペレーターと会話を交わすトビア。

あまりない時間帯での試験に理由を尋ねると、返ってきたのは例の事件。

「何か分かったことで、こちらに流せる情報は?」

〈…ご配慮、ありがとうございます。ですが、今のところ有力なものはありません…〉

やはり簡単には流れてこないようだ。

「場所の一貫性もないし、…その子たちが参加した作戦とかが、手がかりか…?」

〈そうですね、…こちらでも似たような線で調べていますが、サードは基本的にどの作戦でも投入されるので絞り込みができていない状況です〉

「…そうか、分かりました。引き続き、単独行動を避け警戒を続けます。情報ありがとうございました」

〈………あっ。図りましたね、スカルハート…!〉

「それでは通常任務に戻ります。通信終了」

言って通信を切る。

 

最初は制服で判別してるのかと思ったが、それにしては随分と人数が少なかった。

都内にどれだけのリコリスがいることか。任務の性質上、単独行動の者も多いはず。

無差別にリコリスが被害に遭ってるのではなく、標的を絞って襲撃をかけている印象だ。

「彼女たちが参加した作戦…、被害が出たのは最近になってからだから、ここ1年以内か…?」

コクピットの中、ひとり呟くトビア。

最近の作戦で、それも標的や関係者が逃れられるような、特殊な事案…。

 

「待てよ…、まさか…!」

そこで、はたと気づく。

一つだけ、思い当たるものがあった。

上記の条件に加え、前代未聞のラジアータへのハッキングという事態が起こった事件。

そして、自分たちも関わった、未解決の事件。

「銃取引…!だとしたら!」

まずい、もしそうだとしたら、自分たちも標的だ。

 

いそいでスマホを取り出す。

リコリコに連絡を入れ、確認をとらなければ。

と、ここでスマホのバイブレーションが鳴る。

発信元はミカだ。

「もしもし、ミカさん?」

〈トビア、お前は無事か⁉〉

電話に出ると切羽詰まったミカの声。

一体何があったのか。

〈クルミから解析の結果が出た、被害者は全員例の取引の作戦に参加していた者だ…!〉

「やっぱり…!それで、ぼくらも標的でしたか…?」

〈ああ、連中どうやらあの時のDAのドローン映像を入手していたらしく、千束も映っていた!〉

「!」

こちらの予想が当たってしまった。

 

「千束は⁉」

声が大きくなる。

彼女のことだ、自信の腕を正確に把握しているからこそ、たきなを連れず単独行動に出ることもためらいがないだろう。

周囲もすっかり暗くなっており、敵が仕掛けてくる可能性も高い。

〈一人で組事務所まで出た…!今たきなが連絡を、……なんだとっ!〉

ミカの声が焦りを含んだものになった。

“代わってください!”電話の先、少し離れた位置からたきなが大声を出している。

〈トビアっ!千束が襲われました!〉

たきなが焦りながらこちらに状況を伝えてくれる。

 

その声を聴いて、トビアは倉庫のシャッターを遠隔操作で空け、X1を起動させる。

 

「たきなたちは急いで千束の救出に!おれもすぐに向かう!」

明確なDAとの契約違反だが、そんなものは千束を助けてから考える。

 

「無事でいてくれ…っ!」

横にあるマントを引っ掴み、発進。

クロスボーン・ガンダムの目に光が灯る。

 

背部のスラスターを吹かせ、鋼の巨人が夜空を舞う。

 




以下、いつもの筆者メモ
1.
・リコリス襲撃事件→正直5話のラストのあれ、あんな人通り少ないことある…?なんて思ってみたり。まあ、深夜2時ぐらい回ると東京あんな感じですが(残☆業)
・宣戦布告→最初のイメージ。まあ、実際はリコリスの端末からDAの位置を割り出すための襲撃だったのですが…。
・巻き込まれる予感→まあ、巻き込んでなんぼなんでね。仕方ないね。

2.
・お片付け→正直、あんだけ散らかってたら、異性は上げられないと思うの。
・千束家→ああいうからくり屋敷は、いつ見ても心躍るものです。私も戸隠でハッスルしたっけなぁ…。(忍者村)
・家事分担表→アニメで見た時、実はたきなちゃんもウキウキだったのでは?と思ったのは内緒。
・見せていい下着→15話から引っ張ってきたネタ。感想で結構おもしろそうなネタもあったし、また擦ってくかも?
・じゃんけん→最初はグー、ド〇フが発祥だと最近知りました。

3.
・労働者諸君→BS〇レ東で、釣り〇カと交代で毎週やってるイメージ。まだ子供のころのDr.コ〇ーがいてびっくり。
・トビアの趣味→時代劇とか、邦画特有の人情モノとか好きそうな勝手なイメージ。少なくとも七〇の侍は履修済みのよう(鋼鉄の7人第1巻より)
・秘密主義→観てた当初は「あれ、リコリコ支部なのでは…?」と思った場面。
・肉じゃが→安定のジャガイモ料理。自分で作ると結構大変。
・洗い物2人→どっからどう見ても新婚さんのそれ。
・チンピラ→ピッキングしてたケド、今時のマンションって鍵二つ付いてない?1個だけってまあまあ怪しい気もする。
・リリベル→もうちょい彼ら活躍させてもいいのでは?スピンオフとか…
・名探偵たきな→うさみちゃん風味≪●≫≪●≫

4.
・リコリス制服→デザインはともかく、色が意外と抑えめ。
・千束じゃんけん→アニメでもよく見ると、ちゃんと微妙に後出しじゃんけんぽくなってる、気がしてくる(錯覚)
・トビアの場合→NT相手に無謀な戦い。
・ポンチョ→あのめくり方はよくないと思うの、私。
・組長さん→喫茶店から歩いていける距離にある組事務所って、何?
・どたばたクルミ→ちょっとかわいい。でも結構シャレになってなかった。
・クロスボーン、発進→というわけでね、真島さんはひどい目に遭っちゃってください(ひろ〇きメーカー)

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
もはや月間投稿と言わんばかりに間が開いてしまった…。

またしてもバカ長くなってしまったので、分割になります。
後編は近日投稿予定です。

…流石に今週中にしますよ?ホントですよ?

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#22海賊と天秤②

飲酒してダ〇・オブ・サーズデイ組み立てという闇のゲーム開催してたら、人差し指をデザインナイフでざっくり逝ったので初投稿です。

みんなはお酒飲んでプラモデルはやめよう☆

さて、今回は分割分、その後半になります。

ほんの少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それではどうぞ。



ニュートンが、…ニュートンがどこにも売っていない…?


5.

 

〈今回は被害ゼロだぞ!文句はないだろ⁉〉

「ああ、分かった分かった。良い作戦だ、ハッカー」

 

耳元のインカムから聞こえる声にそう返しながら、倒れた千束に近づく緑髪のぼさぼさ頭の男が一人。

周りには、部下と思しきツナギの男たちが見える。

いつぞやのストーカー事件の犯人たちを思い出させる格好だ。

 

たきなから電話がかかってきて、千束がそれに応えている最中だった。

突如ハイビームを点灯させた乗用車が真っ直ぐ突っ込んできた。

なすすべもなくはねられ、宙を舞う体。

なんとか受け身をとり、ダメージを抑えつつ反撃の隙を窺うために、こうやって倒れたままになっている。

 

「あ?こいつ…。へぇ、なーるほどなぁ」

男が近づいてくるのがわかる。

行動を超すなら、今だ。

「うお、ラァッ!」

ここで、着ていたポンチョを投げつける。

「なっ⁉」

男の視界をふさぎ、そのまま周囲のツナギたちに発砲。

そのまま逃走を開始する。

 

「ああ、くっそ、ポンチョもったいないっ!」

とにかくがむしゃらに逃げる。

車を使った手口に、複数の人間。

あれが、一連の犯人という事だろう。

それに、その服装も気になるところだ。

「あれ、沙保里さん襲った連中と同じカッコじゃん…!もしかしなくても、取引がらみ…!」

まるで制服であるかのようなツナギにサングラス。

もしかして、自分たちのように組織なのだろうか?

 

「だあっ、しつっっこい!」

敵の追跡がなかなか止まない。

おかげでどこかに隠れるということもできない。

先ほどのリーダー格らしき男は、インカムでどこかと話していた。

おそらく後方支援担当がいて、ドローンか何かを飛ばしてこちらを追いつつ、オペレートしているといったところだろう。

 

「待てよォ!また吹っ飛ばしてやるっ!」

「!げぇっ…!」

千束が何とか海沿いの公園まで逃げ込んだ時、後方から乗用車が突っ込んでくる。

その後部席のドアを開き、先ほどの男が身を乗り出し、拳銃で狙いをつけている。

 

仕掛けるなら、ここだ。

 

背を向けるのをやめ、相対すると、銃を斜めに構える千束。

男が笑みを深め、銃撃。

千束はそれを真正面から避ける。

「なんっ…!」

直後、反撃。

相手の車のフロントガラスを射撃で割る。

そして、バランスを崩した男の頭に1発。

 

「だっ…、がっ…!」

そのまま車から落下する男、勢いよく地面にたたきつけられ転がっていく。

 

「動くな。…アンタが襲撃の犯人?」

「てて…、ひでえこと、すんなぁ…」

油断なく銃をか構えながら近づく。

その間に起き上がり、こちらへと顔を向ける男。

呆れるほどのタフネスさだ。

「うっわ…」

頭部から出血しており、街灯に照らされたガラの悪い人相がさらに壮絶なことになっている。

あまりの状態に思わず声が出る千束。

男のぎらついた目つきは一切衰えず、不気味ささえ感じる。

 

とにかくこいつの無力化が先だ。

後ろに回り、拘束を試みる。

おそらく目の前の男が一連の事件の主犯と見ていいだろう。

クルミの情報が確かなら、銃の取引どころか、先日の地下鉄事件にも関わりがありそうだ。

 

「…ぷッ!」

「うわっ…!がッ!」

そんなことを考えていたのが悪かったのか、突然銃を持つ手を掴まれ、男に何かを吹きかけられ視界が真っ赤に染まる。

そして、そのまま制服を掴まれ拳をふるわれる。

 

「はっはー!引っ掛かりやがった!」

「くっ…!」

「いいぞー!真島さーん!」

「やっちゃってくださーい!」

こちらを揶揄する野太いヤジが響く。

いつの間にか囲まれていたらしく、周りの車からヘッドライトに照らされ、男たちの影が伸びる。

 

「はんっ、こんなゴム弾じゃなくて実弾にしときゃよかったな~?」

「かはっ、ごほっ…!」

指で非殺傷弾をもてあそびながら近づく男。

どうやら、こちらの弾丸を口の中でインクに戻し、それを顔に吹きかけてきたようだ。

 

「殺されねぇって分かってりゃ、こっちのもんよォ!」

「がっ…!」

そのまま蹴り飛ばされ、地面を転がる。

頭を強く殴られたせいか、インクで視界が狭まったうえにうまく焦点が合わない。

何とか体を起こすも、近距離で突きつけられる拳銃。

 

流石の千束も、こんな状態では避けることも反撃も難しい。

(……万事休す、か。こんなに危ないのは10年ぶりかな…。あの時は、どうだったっけ…、どうやって助かったんだっけ…)

少しふらつく頭によぎるのは、あの時の事。

(そっかぁ…、トビアとガンダムに助けられたんだよね…)

今度はそんなうまい話はないだろうな、そんなことを思いながら、自分を狙う敵の顔をまっすぐ見据える。

 

「おい、お前の使命はなんだ?」

「…?」

突然、男が問いかける。

目線は千束の胸元。

そこに揺れる、一つのペンダント。

 

「それだよ、それ」

「これっ、は…」

「お前のアランチルドレンとしての使命は、なん」

 

直後、目の前の男が何かにくるまれて吹き飛ばされる。

暗い色のそれは、トラックの幌を大きくしたかのような、巨大な何かをくるんでいそうなマントのように見えた。

 

そして、男が消えたと同時に、千束の前に巨大な影が立つ。

 

それは、千束にとって命の恩人と言えるモノ。

背中に骨を背負い、額と胸元にドクロを掲げる鋼鉄の巨人。

10年前のあの時の光景が、どうしようもなく重なる。

 

「クロス、ボーン…、トビ、ア…?」

『無事か⁉けがは⁉』

 

クロスボーン・ガンダムが、…トビアが降り立つ。

 

「…!ミズキさんっ、店長っ!」

「…間違いない、な…!」

 

組事務所へと向かうルートの途中、千束のポンチョとスマホを発見。

車を使い別ルートで向かっていたミズキとミカと合流し、車に乗り込んだたきな。

 

リコリコに残り、ドローンを使い街中のカメラを乗っ取って何とか千束の位置を割り出したクルミに従い、急ぎ向かう。

トビアからは先に行くと言われており、彼の合流を待たずに急ぐ。

 

その時、上空から巨大な影が一直線に降りてくる。

場所は、こちらが割り出した千束がいると思しき地点だ。

 

「スカルハート…!いったい何が…!」

直後、車体が急ブレーキ。

「現着ッ!たきな、早く千束を!」

運転していたミズキから指示を出され、ドアを開けすぐに飛び出す。

見れば、あの巨人は千束を背中にかばうようにして立っている。

 

カシャン、コォォ。

 

「ひ、ひいいいっ」

「逃げろ、逃げろぉ!あいつ怒ってるぞ!」

巨人の口元が開き、熱風ともに光を排出する。

まるで、千束を傷つけられたことに対して怒っているように見えた。

その姿にほとんどのツナギ姿の男たちは、蜘蛛を散らすように逃げ始める。

 

その隙を見逃さず、たきなは何人か残っている男たちに銃弾を見舞う。

「があっ!」

「どこからっ、…がっ!」

いのち大事に。

リコリコのルールを守り、致命傷は避ける。

そのまま駆け出し、千束の下へ。

「千束!」

「たき、な…!」

巨人の後ろにたどり着くと、千束に肩を貸す。

「動けますか?」

「……うん、だい、じょうぶ。…大丈夫」

軽く頭を振り、自分で頬をはたく千束。

額から目元にかけて真っ赤な何かがついているが、血の匂いがないことからインクか何かをかけられたのだろう。

 

逃走経路の確認と、目の前の巨人を見やるたきな。

いつもと違いマントを羽織っておらず、背中には4本のパーツが伸びている。

噴射口が見えることから、スラスターか何かであるようだ。

腰には何も差しておらず、今回は丸腰で来たらしい。

 

「かっはっ…、ゲホゲホッ!…ずいぶんな、挨拶だなぁ…。ドクロ…、お前が、スカルハートか…!」

その時、芝生の上に転がっていた大きな布の塊をかき分けて緑髪の男がはい出てきた。

頭からはひどく出血し、だらんとした左腕をかばい、ふらふらと立ち上がる。

時折する咳には血が混じっており、内臓を傷つけられたことが察せられる。

さっきまでくるまれていたそれは、よく見ると巨人がいつも使うマントのようだ。

おそらく、スカルハートはそのマントを使い、男をくるんで投げたのだろう。

だが、それでもなお立ち上がりこちらを睨んでくるとは、いくらなんでも頑丈すぎる。

「はぁ、はぁ、はぁ…!お前ら、あいつらを、絶対逃がすな…!」

息を荒くしながらも、周囲に指示を出す男。

その指示に、逃げ出していたツナギたちも、顔を恐怖にゆがませながらも武器を取り出す。

 

ここで、巨人の頭が動き、こちらを確認するようにグリーンの眼が光る。

 

そして、スピーカーから聞きなれた少年の声が響く。

 

『たきな、千束のことを頼んだ!おれはこのままコイツらをけん制するっ!』

「…あっ…!」

 

声が漏れる。

 

それでも、驚きはない。

 

あの時にかけられた言葉。

懐かしさを思い起こす声。

そして、これ見よがしに使うマント。

年齢を聞いた時から、薄々感ずいていたことだ。

 

『2人とも、早くっ!』

「……任せてください、()()()っ!千束、走りますよ!」

「うんっ…!トビア、頼んだ!」

こちらの返答を聞き、改めて男たちへ顔を向ける巨人。

 

その隙に、ミカとミズキの待つ車へと走る2人。

「こっちだ!早く!」

後部座席のドアを開け、ミカが手を伸ばす。

「千束、先に!」

そう言いながら千束を押し込むと、たきなは威嚇射撃を続ける。

「!RPG…!」

ツナギの1人がロケットランチャーを構え、こちらに狙いをつける。

今にも撃ち出しそうだ。

〈させるかっ!〉

サポートとしてクルミが飛ばしていたドローンが、彼女の操作によってツナギにクリーンヒット。

別の男たちが乗りこもうとした車両へと飛んでいき、着弾。

これで大幅に足をとどめられる。

 

「たきなっ、早く乗れ!」

ミカに促され、たきなも乗り込むと急発進。

みるみる内に現場が遠のいていく。

その奥には、ドクロの巨人。

 

「トビア…」

流石に少し心配になっていく。

敵はロケットランチャーすら用意している連中だ。

対して、スカルハートはいつもの大剣を装備していない。

武器になるものを身に着けていなかったのだ。

そんな状態で狙われたら…

 

「大丈夫、X1はそんなにやわじゃないよ」

隣の千束から、そう声をかけられる。

「X1…?それが、あの巨人の?」

「そう、名前。クロスボーン・ガンダムX1。全身が武器みたいなものだから、心配いらない。…むしろ、こっちがやばいかも。ミズキ…!」

「…分かってるっ!」

鋭い声を上げるミズキ。

目線の先には、無人と思しき車輌。

それがまっすぐこちらに突っ込んでくる。

「行っくわよォっ!」

まだ、この修羅場は続くらしい。

 

 

そんな彼女たちから離れて、上空。

ローター音を響かせて、それはゆっくりと降りてきていた。

独楽をひっくり返したようなヘリもどきに、

X1とは異なる体躯の巨人。

 

夜はまだ終わりそうもない。

 

 

 

6.

 

「はあ、はあ、くっそ、ずりぃなぁ!機銃があるなんて聞いてねぇぞっ!」

「真島さん、このままでは車が全滅です!」

「…ちっ、潮時か…!」

 

X1の頭部からマズルフラッシュ。

狙われた車が瞬く間に鉄くずへと変わっていく。

相手からも銃撃があるが、ガンダムの装甲に阻まれて軽い音がするばかり。

 

あまりに一方的だった。

いくら大量の武器があろうと、MSの装甲を抜けられる兵器があるわけでもなく。

人間相手に使う銃器しか持たないツナギの集団が、X1に敵う理由はなかった。

ロケットランチャー等も、そもそも機銃掃射により撃たせてもらえずにいる。

 

トビアは車輌の破壊とけん制に留め、千束たちの離脱を邪魔しないように努めていた。

あくまで目的は千束の救助であるため、それが達せられている以上はこちらに敵を集中させて時間を稼ぎ、折を見て離脱、またはリーダー格の捕縛が望ましい。

だが、こちらは一息手を緩めた途端、凄惨な現場を容易に作り出すため、かなり神経をすり減らしていた。

(まずいな、意外と戦意が高い…!)

おまけに、すぐに逃げ出すと思われた彼らが、予想外にしつこく攻撃を加えてきている。

リーダーと思しき緑髪の男によって統率されていたのも大きく、なかなか機会を得られずにいた。

 

このままでは戦闘が長引き、こちらの存在が世間に露見されかねない。

いくらラジアータでも、隠蔽は難しくなってしまう。

一方で、相手も疲弊してきているらしく、じりじりと後退を始めていた。

何より、緑髪がふらふらだ。

車両をわざと1・2台見逃していることもあり、撤収の気配をにじませている。

 

「…ああ?なんだ、あれ…?」

誰かのつぶやきが静かに広がる。

直後、上空よりヘリのようなローター音が聞こえてくる。

 

まさか。

 

直後、敵意を感じ、X1を動かす。

破裂音、先ほどまでいた地点の地面が砕ける。

 

「っ!逃げろッ!」

緑髪の鋭い声が上がるも、何人かのツナギが巻きこまれる。

 

見れば、あの時のヘリもどきと、それとは別の影。

それは、潜水ゴーグルのようなものをつけた、小柄な体躯のMS。

 

トビアにとって10年ぶりに見た、おそらく1番相手したであろうMS。

 

「…バタラまで、コピーしたのか…!」

ミニガンを改造したと思しき武器を手に持ち、ヘリもどきの手に捕まってこちらに狙いをつけるその姿。

細部に異なる部分が見られるものの、木星軍の主力MSである、バタラそのものだった。

 

すぐにX1を飛翔させる。

千束たちの方に向かわれたら大変だ。

あれらをこのままにしておくわけにはいかない。

 

こちらに向けてミニガンを撃ってくるバタラ。

おそらく、技術的な問題があったのだろう、ビームを使って攻撃をしてくる気配はない。

わざわざ当たってやる義理もなく、下へと回る。

 

瞬間、腰部のアンカーを射出。

ヘリもどきを捉える。

 

そのままスラスターをふかし上昇。

相手のバランスを崩し、上に自機が来るように位置をとる。

 

X1の右の肘あてを可動させ、ナックルダスターのように前に出す。

そして、ビームを発振。X字上に展開させる。

 

「落ちろぉっ!」

そのまま拳を振りぬき、殴りつける。

ヘリもどきもろともバタラをビームで貫き、加速。

海面へと押し込める。

 

そして水中で撃破、誘爆を防ぐ。

 

「ふう、ふう、ふう…。まずいな…、もうこのレベルのMSが作れるようになってる…」

この技術を広めたであろう、彼の目的はよく分からない。

自分に対して何かしら、…それこそ復讐を目論んでそうではあるが。

ただ、分かったことがある。

「…あのマリモ頭を、助けた…?」

緑髪の仲間を巻き込んでいたが、それでもあのタイミングに仕掛けてきたのは狙ったもののような印象を覚える。

まるで、彼らの撤退を支援したかのような…。

 

「…、何にせよ、1度上がらないとな…。千束たちのことも心配だし、こいつらを解析してもらわないと」

海底の残骸をアンカーのチェーンで巻き付け、抱える。

 

どこで製造されたか、どんな技術で作られたか、調べなくては。

 

「………あっ」

それはそうと、司令部に許可をとらず、勢いで出撃してしまったことを思い出す。

もしかしなくても規約違反だ。

「…こっちも、どうにかしなくちゃ…」

 

新たな敵に、新たな謎。

1つずつ、片付けるしかない。

そう腹をくくり、トビアはいつもの倉庫へとX1を向かわせるのだった。

 

「………ハッカー、映像は撮れてるか?」

〈あ、ああ。しっかり撮れてる。あのドクロと別の2機だな?〉

 

どこかの船室と思しき一室。

そこでは治療を施された真島と呼ばれた緑初の男が、ソファに身を沈めていた。

耳元のインカムからは、ドローンで後方支援を担当していたハッカーの声。

確かロボ太なんて名乗っていたか。

 

「……画面に出してくれ」

そう指示し、手元のスマホに先ほどの3機の画像を出してもらう。

独楽をひっくり返したかのような腕のついたヘリ。

水中ゴーグルを着けているかのような間抜け面。

 

そして、額にドクロのレリーフを掲げた、いかつい顔。

 

「……こいつら、揃いも揃って俺たちを無視しやがって」

 

思い返せば、てんで勝負になっていなかった。

こちらがいくら撃ちこもうと跳ね返される頑丈な装甲。

頭部から発射される、掠っただけで車がスクラップになるような大口径の銃弾。

おまけに、空まで飛んで見せるでたらめさ。

そもそも大きさだけで少し小さめのビルを相手にしているようなもの。

とてもじゃないが、人間が敵う相手ではない。

 

あの後、真島たちは命からがら逃げだしていた。

使える車もほとんどなく、散り散りになりながらもなんとか拠点まで戻る。

あれだけ入念に作戦を練って人員も投入したというのに、いとも簡単にひっくり返され、最後は相手にもされなかった。

 

まったくもって、

「…バランス、悪すぎんだろっ…!」

 

痛む身体を抑えつつ、立ち上がる。

左腕は吹き飛ばされたときに利き腕をかばって負傷したため、三角巾でつられている。

「おい、ハッカー。…あいつら、1機でも獲るぞ。作戦の練り直しだ」

〈!そう来なくちゃ!あのダセェドクロ取っ払って、僕のイかすエンブレム彫ってやる!〉

 

次の段階だ。

ちまちましたリコリス狩りは、店終い。

 

面白そうなアランリコリスに、海賊。

 

DAにカチコミをかけるよりもよっぽどやりがいのある相手だ。

 

「さあ、忙しくなってきたぜ…!楽しもうぜぇ、海賊どもぉ…!」

新たな獲物を見つけた真島は、満面の笑みでそう呟いた。

 

 

 

7.

 

X1が倉庫に戻ると、抱えていた残骸を中に降ろす。

次の日にでもDAの解析班に来てもらって、調査してもらわなくては。

 

「と、その前に言い訳考えないと…」

今回の出撃は、司令部の許可を得ずに出たものであり、何とか緊急事態という事にしない限りは規約違反だ。

上層部に騒がれたらたまったものではない。

「接収だ何だ言われる前に、何とかしないとな…」

 

X1を跪かせ、コクピットを降りるトビア。

すると、それを待っていたかのように、人影が飛び出す。

 

「「トビアっ!」」

「おっ、とぉ!…千束、たきな?2人とも無事だった⁉」

駆け寄ってきたのは、今回の事件で一番の怪我を負った千束と、救出のために前線を張ったたきなだった。

 

「トビア、…ゴメン。あれだけ1人になるなって言われてたのに…」

「…たきなやみんなに、ちゃんと謝った?」

「…うん」

「なら、ぼくから言うことはないよ。…本当に、無事でよかった」

いつにも増してしおらしい彼女に苦笑しつつ、安心させるかのように頭をなでるトビア。

もう応急処置を済ませたのか、千束は左腕に包帯を巻き、顔に吹きかけられた塗料もきれいさっぱりとれている。

 

「トビアの方は大丈夫でしたか…?そっちの方は、別の巨大ロボが出たってクルミが…」

たきなからそう心配される。

なんでも、もう1機飛ばしていたクルミのドローンがその姿を捉えていたとのこと。

あまりの事態に大興奮だったそうな。

「そっちも大丈夫、残骸も持ってきたし。…まあ、DAから無許可で出撃したから、交渉材料にしなくちゃ」

少しおどけて、そんなことを言う。

この後の交渉を思い、ほんのちょっとげんなりするトビア。

 

「……2人とも、無事でよかった…!」

たきながそう言いながら、千束とトビアを強く抱きしめる。

「たきな…」

千束と一緒になって、驚く。

「…うん、心配してくれて、ありがとう。助かったよ、たきな…」

「そうだね、助けてくれて、ありがとう」

そして、お礼を言う2人。

 

春先にリコリコに来たときからは、考えられない事だった。

彼女の向けてくれる優しさがうれしく、そして誇らしく思えた。

 

 

 

「———それはそうと、2人とも」

途端に、抱きしめる力が強くなる。

“ん?”と疑問に思う2人。

「私に、何か言うことはありませんか」

ぎりぎりぎり。

そんな音が聞こえてきそうな強さだ。

「た、たきな、さん?」

「そう、例えば」

そこまで言われて、はたと気づく。

 

「そのドクロの巨人、…クロスボーン・ガンダムのこと、とか」

そう言えば、クロスボーンで普通にスピーカー使って会話してた。

 

ぎちぎちぎちぎち。

「いだだだだだだだだだ⁉」

「あの!ちゃんと!話すから、…力緩めてぇっ…⁉」

「根掘り葉掘り、聞かせてもらいますから、どうぞ覚悟しておいてください」

もはやベアハッグ。

声のトーンが一切変わらないのが、本当に怖い。

 

ふと横を見ると、いつの間に居たのか、呆れた顔のリコリコの仲間たち。

目線で助けを求めるも、自業自得と言わんばかりの表情で手を合わせてくる。

なーむー。

 

「ていうか私!関係、なくない⁉」

「知ってて黙ってたようなので、有罪です」

隣で一緒に締められてる千束が抗議の声を上げるも、たきなはバッサリ。

 

(………、隠し事、するもんじゃ無いなぁ……)

とうとう鯖折りみたいになってきたトビアは、激痛にあえぐ中そう思った。

 

彼の明日はどっちだ。

 

ぐりん。

「黙ってた皆さんも、同罪ですからね?」

「「「⁉」」」

 

ついでに、リコリコメンバーの明日も。

 

 

 

おまけ.

翌日、山岸の病院にて。

「よっしよっしよっしよっし…!」

「え、うそ…。負けた…?なにこれ、夢…?」

「いや、ショック受けすぎでしょ。たきなだって対策立てるって」

「いや、でも、ええぇぇ……?」

「今の私なら、トビアにも勝てます…!じゃん、けん!」

「え、やる流れ…?ぼくの意思は…?」

「ぽん!」

トビア:パー

たきな:グー

「……」

「……」

「……」

「…えっと」

「……」

「…た、たきなさーん…?」

「…グスっ」

 

「…あんたら、いいトリオだわヨ」

 

 




以下いつもの筆者メモ

5.
・VS真島→これもほとんど変えられなかった場面。
・タフネス→この人、こっち方面の才能強くない…?
・囲むツナギ→結構絵面がひどかったシーン。
・Kick Back真島→なんか忘れちゃってるんだ。もとい、一晩で2回もなんか投げつけられる真島さん。
・スカルハート見参2回目→ピロピッピー
・たきな合流→正直途中まで車に乗ってった方がいいような気がしたので、つい…
・フェイスオープン→そういえばあんまりやってこなかったシリーズ①。ねじ込みました。傍から見れば、そら怖いよね。
・真島が立った!→もはや異能生存体。アストラギウス銀河出身ですか、あなた?
・バレるトビア→ようやっとバらせた…!長かった…もう22話なんですケドぉ⁉
・そんな驚かないたきな→「いや、結構怪しい部分出してましたし…。ていうか、声一緒…」
・全身武器→手持ち武器がなくても・頭部バルカン×2、・胸部バルカン×2(レリーフの眼孔内)、・襟元ビーム・サーベル兼ビーム・ガン×2、・両腕部ビーム・シールド兼ブランド・マーカー×2、・右腰シザー・アンカー、・左腰スクリュー・ウェップ、・両脚部ヒート・ダガー×2…多くない?

6.
・お互い攻め切れず→真島一味は単純な決定力不足。トビアはトビアで気を抜くとすぐに「やめなっさいっ!」〈フレッシュトマト味。
・潜水ゴーグルのあいつ→やっちゃった☆空は飛べないのでエルコプテもどきと一緒に登場。でも、XBの名前を出してる以上、登場させないとどうしようもなかったんです許してつかぁさぁい!(ゆうきまさみ)
・ミニガン→流石にビームは無理。ビームシールドもサーベルもついてません。
・ブランド・マーカー→そういえばあんまりやってこなかったシリーズ②。やっぱりXBといえばこの武器の印象の方もいるのでは?ちなみに、意外とビーム伸びたりする。(エレファンテ戦)
・無断出撃→さーて、どーごまかそー
・真島さん、おこ→まあ、MS相手に生身で挑むこと自体が…(経験者トビア)なお、宇宙空間ではあるものの、撃破迄やってのけた先生がいたり…。
・新しい獲物→トビア君追加(顔は知らないけど)

7.
・ベアハッグ→またの名をジーグ・ブリーガー。
・鯖折り→ハニワ原人じゃないからへーきへーき。

おまけ→喜んでるたきなちゃんがとてもかわいかったので、幼児退行させてみました。
そしてこれ書いてるときに檸檬堂1本空いてました(そしてダ〇・オブ・サーズデイへ…)

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回は今まで以上に強引な展開になっちゃった…。
まあ、2次創作なんでどうかご容赦ください次

例によって次回の投稿は未定になっております。

そろそろ前の投稿ペースを取り戻したい…!

あと今日買ってきたルブリスウル作っちゃいたい…!(黒ラベル装備)

それでは皆様、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけると幸いです。


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#23海賊と一緒⑥

微妙にモチベが上がらなかったのですが、今月分のマン・バイト読んでたら元気出たので初投稿です。

なんのこっちゃと思うあなた、どうぞ今からでもそこまで遅くないのでぜひご一読を!
まさか、あんなん出すとは…!


さて、今回はお茶濁しの短編集です。

ほんの少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それではどうぞ。



WBCの日本快進撃にビールが止まらない……!


その1.夏の風物詩と成長

 

「お、重い…。千束、トビア、いい加減、これが何なのか、教えて、欲しいんですけど…」

「んー?それはねー、これから行くところの手土産だよー?丸くて、赤―い実がたっぷり詰まってるー…」

「…なるほど、首ですね」

「どこへの土産⁉」

 

照りつける様な日差しに、蝉の声。

千束たち3人は、各々手荷物をもって移動していた。

向かう場所は、いつもの保育園。

 

「冗談ですよ。私だって冗談の一つや二つは言えるんです」

ふふん、と言わんばかりのドヤ顔を見せるたきな。

「や、やるじゃん…。言うようになったな、こやつ…」

「冗談に聞こえなかったのは、ぼくだけ…?」

そんなたきなに引きつった顔を見せる千束とトビア。

 

今回は保育園からの依頼で、子供用プールの掃除を頼まれていた。

子供用と言えど、ビニールプールのようなちゃちなものではなく、浅いながらもしっかりと作られたもので、きちんと掃除をする必要がある。

 

「もう、すっかり夏ですものね…。夏の風物詩、というやつですか」

「あのさ、そう言いながらお土産抱えてなでるのやめて…?さっきの冗談のせいで恐ろしいものに見えてくるから…!」

「冗談です」

「なんで楽しそうなの…?」

どうやら千束たちを振り回せるのが楽しいのか、かわいらしく微笑みながらそんなことを言って来る。

 

「ホントに変わったなぁ…」

思わず、しみじみ。

まだ1年にも満たない付き合いではあるが、随分と彼女は笑うようになった。

梅雨入りの少し前まで悩んでいたあの物憂げな顔が嘘のようだ。

「あなたたちに揉まれましたからね」

いたずらっぽく言うたきな。

「私だって、成長するんです!」

夏の日差しに照らされた彼女は、とても眩しい笑顔をしていた。

 

 

「まあ、これが何なのかはわかりましたが、トビアが持っているのは何ですか?」

たきなが巾着袋に入れた大きなスイカを抱えながら、トビアに聞く。

彼の肩には大きな保冷バッグが掛かっており、これで釣り竿でも持っていればそのまま海にでも行ってしまいそうな大掛かりな荷物だ。

「これはスイカを切った奴とパイナップルとミカンの缶詰、それに2ℓサイダーを何本か。フルーツポンチでも作ろうかと思ってね」

そう言うトビアは、大荷物にもかかわらず少しの疲れもにじませない。

「大体、保育園に包丁とかある訳ないし、スイカは見せる用と先生たちへのお土産になりそうだからさ。こっちはこっちで子供にお土産」

「なるほど、結構考えてますね…」

保育園側の事情も考慮し、子供を思いやるトビアに感心するたきな。

 

一方で、隣の千束が何やらしまったと言わんばかりの表情だ。

「…そうじゃん!どうやって食べればいいんだ⁉うわチョイスミスったー‼」

「…こっちは何も考えてなかったんですね…」

ジトっとした視線を向けるたきな。

「たきな、そういうことは思っても言わない。自分が一番分かってるんだから」

トビアがどうどうとなだめる。

「追い打ちやめて!掃除で挽回するからぁ~!」

千束の叫び声が夏空に溶けていった。

 

「そういえば、お祭りのときとかも保育園で行ったりするんですか?」

「流石に夜は危ないから、昼間の出店とかだね」

「みんなで法被着たりとかもするよー」

「なるほど。それでふんどし締めて太鼓とか叩くんですね?」

「たきな~、流石に引っかからないよ~。今時そんなのしないよ?からかいすぎ~」

 

「えっ」

「「えっ?」」

 

「「「………えっ?」」」

 

 

 

・その2.海賊とサシ飲み

 

「珍しいですね、ミカさんが飲みに誘うなんて」

「まあな。お前の外見もあるから、外の店でというわけにもいかないが…」

 

とっくに閉店時間を過ぎた喫茶リコリコ。

そのカウンターにミカとトビアの2人が並んで座る。

その手元には、グラスとウイスキーの瓶。

「とりあえず、乾杯」

「乾杯」

グラスを鳴らし、一口。

酒が飲める年齢になってから8年近く経つが、のどを焼く感覚はまだ少し慣れない。

 

「それにしても、なんで誘ってくれたんですか?」

「まあ、そんなに深い理由はないさ。…今日は質問攻めで大変そうだったからな。その慰労だな」

「ああ…、うん、お気遣いありがとうございます…」

思わず疲れた声が出る。

 

今日は、事情を今まで知らなかったたきなとクルミに対しての質問会があった。

あの夜の時に軽い説明はしていたものの、今回はもっと踏み込んだもの。

クロスボーン・ガンダムの説明に加え、宇宙世紀のこと。

おまけに、興味を持った千束が途中参加し、いかに自分が海賊に参加したのか、そう言った自分語りもさせられたため、トビアの精神はゴリゴリ削られていった。

 

「流石に恥ずかしいって…」

「付き合いの長い私たちも聞いたことなかったんだ。それぐらいは仕方ないさ」

ぐったりとしながら一杯煽るトビアに、ニヒルな笑みを浮かべるミカ。

どこか対照的な2人だ。

 

「それにしても、クルミのガンダムに対しての食いつきはすごかったな」

「あ~、まさか武装構成から装甲材まで聞いてくるなんて…。この時代に無いんだから聞いてもしょうがないだろうに…」

ちなみに、クロスボーンの過剰なまでの接近戦を意識した武装構成に“これはスポーツ用の機体か何かか?”とはクルミの感想。

「それでも、ドクロのレリーフは意外と高評価でしたね…」

「そういう遊び心は大切だ、だったか?」

ウモンじいさん辺りとは趣味が合いそうだ。

 

「それに、宇宙世紀自体にツッコミが集中してたっけ…」

「それはそうだろう。人口の半分が犠牲になってるのに、なんでああも紛争と戦争を繰り返してるんだ…」

“このシャアという人、いったい何がしたかったんですか…”とはたきなの感想。

地味に腐敗を続ける地球連邦にも、“なんで戦争起こされたか分かってるんですか、この政府”と辛口評価が下されていたが。

 

「あと、木星戦役の話をした辺りから、千束とたきなの目つきが鋭くなってましたね」

「あ、ああ、うん。…そう、だな」

“やっぱり彼女たちも戦士なんだな”と思い返すトビア。

 

自分が元々は木星との交換留学のために訪れた、ただの学生であったこと。

木星帝国の恐ろしい計画を目の当たりにして、殺されそうになったこと。

そこから宇宙海賊に助けられ、木星と戦う彼らの活動に参加することになったこと。

木星圏の過酷な環境と、そこに生きる人々の苦しみを垣間見たこと。

恩師だと思っていた人と戦い、分かり合えないまま、助けられたこと。

そして、この戦いの全ては、ただの人間が起こしたものだったということ。

 

話す内容が多くて、ところどころとっ散らかりながらもなんとか伝えた、自分の物語。

わりかし恥ずかしかったのだが、まるで冒険譚だと喜んでくれたのが少しうれしかった。

 

ただ、千束とたきなの目つきが時折険しくなるときがあった。

たしか、彼女の話をした辺りだ。

ベルナデット・ブリエット。

木星帝国を率いる総統の娘で、父の暴走を止めようと一人海賊に参加した少女。

 

そして、トビアにとって大切な、戦う理由の一つ。

 

「ペズ・バタラやX3の話をしたときは、結構目を輝かせてたのになぁ」

「ん、んん!…まあ、あいつらもいろいろあるのさ…」

ふと、同じ戦いに関する事柄を語った時と違った反応をしていたことを思い出し、首を傾げる。

特にクロスボーン・ガンダムの3番機、X3に初めて乗り込んだ時の話なんて一番食いつきが良かった。

“主人公じゃん!かっくい~!”という千束の称賛ともからかいともつかない感想が、なんともこそばゆかった。

“伊藤さんにネタ提供しなければ…!”と言われて必死に止めたが。

 

「……トビア、聞いておきたいことがある」

「ミカさん?」

不意に、ミカが真剣な表情でトビアに向き合う。

「どうしても、元の世界に戻りたいか?」

「?え、ええ」

 

「…最後の、この時代に来る直前の戦いを聞いて思ったことがある」

「はあ、どのことですか?」

 

「コロニーレーザーを破壊したあたりだ」

「………」

「お前は、そこから脱出する際に気が付いたらここに居た、と言ったな」

「……はい」

「それは正確ではないな?」

「………」

正直、この人は気づくだろうなとは思っていた。

 

トビアが最後に参加した作戦“鋼鉄の7人”

約6億km離れた木星から地球をコロニーレーザーによって直接攻撃する”神の雷”作戦の阻止を目的とした、少数精鋭の特殊作戦チーム。

数多の犠牲を払い、新しい総統とレーザー本体の撃破を成し遂げ、そこから逃げる途中、気が付いたらこの時代に来ていた。

 

我ながら随分と都合よく語ったものだ。

トビアはグラスを手に、話し始める。

 

「…爆発を繰り返すコロニーの中、クロスボーン・ガンダムはもう限界を迎えていました…」

「………」

「指一本も動かせない中、同じく限界を迎えていた…仲間の機体に助けられました」

「………」

「その機体にX1の手を掴まれて、勢いよく投げられて、……それとほぼ同時にレーザー本体が大爆発を起こしました」

「…その仲間は…」

「……はい、巻き込まれていきました…」

「……お前は、どうだったんだ…?」

ミカが、静かに問いかける。

もう予想がついたのだろう、目線は手元のグラスに戻っている。

「……爆発の光が、目を焼いていく感覚はありました…」

「…トビア、もし戻ったら、お前は…!」

「ミカさん」

言って、向き合う。

 

「それでもおれは、帰りたいんだ」

「トビア…」

「またな、って約束したんだ。だから、何が何でも帰らくちゃ」

「……」

ミカは悲しそうに目を伏せる。

 

果たして、自分は今笑えているだろうか。

そんなことを思い、トビアも目線を手元に戻す。

 

グラスの氷が解ける音がいやに大きく聞こえる。

男2人、カウンターから動かず。

 

喫茶リコリコの夜は更けていく。

 

「X1の正式名称って、クロスボーン・ガンダムじゃないですか。クロスボーンはあの背中のスラスターの事だとして、ガンダム?と思いまして」

「ああ、確かにそうなるよね…。うーん…」

「トビア?そんなに悩むことが?」

「まさか、あの名前に何か意味が…!なんか顔もカッコいいし!」

「確かにあのデザインはかなり趣味的だよなぁ…!」

 

「いや、何というか、…正直、売れる名前と顔、としか答えようが…」

「「「え?」」」

 

 

 

 




以下、いつもの

その1.→スピンオフより
・冗談→真顔で言うもんだから2人ともビックリ。
・ドヤ顔たきな→かわいい。
・スイカなでなで→なんでか思いついちゃった画。元ネタ何だっけと思ってたら、そらおとでした。
・フルーツポンチ→缶詰のシロップも入れて、中身をくりぬいたスイカに入れるとなかなかの迫力。

・ふんどし→感想欄のネタその2。そう言えばちっちゃい頃、親戚のおじさんに赤ふん買ってあげるなんていわれたことあったなぁ。(どセクハラ)

その2.→ぶっちゃけ説明回。回想の回想という訳の分からない構成に…。
・ウイスキー→洋画だとやたらバーで飲んでるイメージ。向こうの人にとって、バドワイザーすらジュース扱いだとか。
・質問会→まあ、バレちゃったし仕方ないね。
・XBガンダムの武装→すごい速度ですっ飛んできて、シールドごとぶった切る。結構怖い画だとおもうの。
・ドクロのレリーフ→実は額にこれがない状態のXBガンダムが描かれてるシーンがあったりします。
・宇宙世紀→結構短いスパンで終末戦争を繰り返す魔境。
・シャア→誰よりも坊やだった人(個人の感想)それでも宇宙世紀全体で見ても1・2を争うエースだったのは間違いない。
・地球連邦→実はクロスボーンでもあまり良く描かれてなかったりする政府。
・木星戦役→無印版クロスボーンのこと。全6巻で読みやすいので、まだの方は是非!(ダイマ)
・ベルナデット→実は拙作で名前出すのは初めてだったり。
・X3→立体化するたびに、あまり口元を再現してもらえない不憫な主人公機。(メタビルはしっかり再現してた)戦闘回数が4・5回ぐらいしかないからかな?(VSエレゴレラ、死の旋風、連邦基地、ノーティラス、ディビニダド)
・神の雷作戦→ミノドラ無ければ打つ手なしだった辺り、かなりどうしようもなかったトンデモ作戦。
・仲間の機体→アンヘル・ディオナ。人の顔のようなフェイスパーツが特徴だが、実質バタラなコマーシャル機体。何だったらビームシールドすら装備してない。
・戻ったら…→正直、原作でもその後の展開がなければ死んだものだと思いかねない、そんなワンシーンでした。
・何が何でも…→「トビア・アロナクスは行けなくても…」

・ガンダム→宇宙世紀の住民、結構そんなこと思ってるヒトも多そうだな、という妄想。

そう言えば、私以外にもリコリコとガンダムをクロスオーバーさせる命知らずが増えてきて、嬉しい限りです。
ていうか、私よりも面白いんですケド…。
悔しい…!でも一緒に頑張ろうな!の気持ちでいっぱいです。

さて次回の投稿ですが、例によって未定です。
7話相当になるかな…あんま変えるとこないんだよなぁ、あの話…。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけると幸いです。


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#24海賊と少女の恩人

ま、待った…?

年度末から年度はじめ、忙しすぎる…。

とうとう1か月以上超えてしまった…。

お待ちいただいた方々には本当に申し訳ありませんという事で初投稿です(強引)

今回はアニメ第7話の内容、正直そんなに変えるところないので結構な難産でした。

そのせいでまた長くなっちゃった…。

それではどうぞ。


あ、シン・仮面ライダー観てきました。結構よかったです(小並感)


1.

 

捜査用似顔絵描画。

事件の容疑者に対して、目撃者から容姿の特徴を聞き出し、紙に書き起こす捜査手法の一つ。

歴史は古く、江戸時代に行われていた人相書きが始まりとされ、場所・機材問わず短時間で作成可能な現代まで続く有効な手法だ。

 

「………」

「えっ、と……、これ……?」

先日、喫茶リコリコの面々が遭遇したリコリス狩りの犯人と思われる武装集団。

それらを束ねる、“マジマ”と呼ばれていた主犯格と思しき男の特徴を聴取するため、リコリス司令の楠木は実際に相対した錦木千束、井ノ上たきな、及びスカルハートにDAへの出頭を命じていた。

現場の状況、構成人数、武装、手口……

そして、主犯格の似顔絵を描くよう命じ、その提出を千束とたきなの両名から受けたのだが。

 

「……それで、マジマというのは、それか?」

「ぷぷー、たきなの絵、楠木さん困惑してるよー?」

「千束の方でしょ…、何ですかその目…、少女漫画の見過ぎです…!ぷふ…」

「…………」

顎のとがり方が尋常じゃない男の絵に、4・5歳くらいが書いた“ぼくのおにいちゃん”なんてタイトルがつけられそうな男の絵。

楠木とその秘書は、とても反応に困る絵を2人に見せられていた。

 

ちなみに、基本的には専門の捜査官が似顔絵を作成するのが似顔絵捜査のセオリーであり、それを見た2人がそろって似てないと発言、結果参考までに絵が必要となったことを付記する。

 

コンコンコン

 

部屋のドアをたたく音がする。

「入れ」

「失礼します、スカルハートをお連れしました」

「楠木さん、ご無沙汰してます。真島の…、うん?」

ファーストリコリス春川フキに連れられて、スカルハートことトビア・アロナクスが入室。

楠木の持つ2人の書いた似顔絵を見て、こちらも困惑の表情を浮かべる。

「トビア、どっちのが似てる?」

「もちろん、私ですよね?トビア?」

千束とたきながトビアに圧をかけてくる。

 

「お前ら、司令の前で…」

「フキは黙ってて。トビア?」

「トビア、どっちが似てますか?トビア?」

「えっ、えっ…?」

フキが諫めようとするが、千束がぴしゃり。

その横でたきながトビアに詰め寄る。

何だこの状況。

 

「……い、色がついてる分、千束の方かな…?」

「いよっし!」

「…納得いきません、もっとよく見てください。こことかそっくりです。ほら、ほら、ほら…!」

「いや、絵ぐいぐい押し付けないで…!見えない、見えないからぁっ!」

「………千束、たきな。お前たち二人は退室していいぞ。ご苦労だった」

これでは話が進まないため、2人に退室を促す楠木。

というか、顔に紙を押し付けては何も見えないのでは…?

そこまで指摘する者はこの部屋にはいなかった。

 

「ひどい目に遭った…」

「お、お疲れ様です、スカルハート…」

「とりあえず、これでも飲んでおけ」

「ありがとうございます…。馴染んでくれたのは嬉しいんですけどね…」

 

席に着くトビアと楠木の両名。

楠木に勧められ、後ろに控える秘書からお茶をもらい、一服。

ちなみに、突然始まった似顔絵対決は、初めに書いたフキの絵で一応の決着がついた。

その絵もいささか写実的すぎていたが“2人のよりははるかにマシ”という評価が下された形となる。

本当はクルミがドローンで撮影した“真島”と呼ばれる主犯格の映像があるのだが、彼女がラジアータのクラッキング実行犯ということが発覚したせいで、下手にデータを渡すとそこから特定されかねないので提出できずにいた。

クルミの告白に思わず真顔で“何やってんの?”と詰め寄ったのも記憶に新しい。

 

「…落ち着いたか。早速本題だ、先日お前が回収した残骸について解析が終わった」

「それって…!」

トビアが落ち着くのを待って、楠木が切り出す。

内容は、真島との睨み合いの最中に割り込んできた、あの鋼の巨人たち。

「そうだ、お前の言う“モビルスーツもどき”についてだ」

秘書から資料を受け取るトビア。

あの戦いの後、回収した残骸はX1の倉庫内で徹底的な調査が行われた。

本当は本部に持ち帰り、解析するのが望ましかったのだが、

「…まあ、変に発信器でも生きていたら大変でしたからね…」

「こちらとしても、その可能性は否定できなかった。渡りに船だ」

 

今回トビアが本部に出頭を命じられたのは、真島に関しての聴収のほかに、その解析結果を聞いたうえで意見を求められたがゆえだった。

先ほどの調査に関しても、ずっと立ち会えたわけではなく、トビアとしても非常に気になるものだった。

「まず、装甲材についてだが、こちらは目新しいものは見られなかった」

「……大部分がFRPに、強度が必要な部分には劣化ウランやチタニウムの複合素材…。既存のものを組み合わせたものですか…」

紙をめくりながら説明を受ける。

初めて遭遇した時の、こちらの実弾が簡単に装甲を打ち抜いていたことに対して謎が解けた形だ。

「動力部に関しても、大容量バッテリーにジェットエンジン、それから前にお前が報告をよこした心臓のようなユニットを確認した。これが循環器としてエネルギー効率を上げていたらしい」

「………」

さらに読み進めると、気になる箇所が出てくる。

「“仮称中枢頭脳ユニット”…、これは…!」

「そうだ、お前に一番意見を聞きたい箇所だ。…これをどう見る、スカルハート」

 

そのページにある“仮称中枢頭脳ユニット”。

写真には、コックピットが設置されている腹部に収納されていた、あるユニットが写されている。

それは、控えめに言っても“容器に収められた、ある臓器”にしか見えない。

この物体を、トビアはよく知っている。

あらゆる資源に乏しい木星が生み出した、生体パーツを利用した高速演算処理装置。

その通称は、

「…バイオ脳…!」

「…やはり、分かるか」

 

それが、あのMSもどきに積まれていた。

その事実に、トビアは自身の心が冷えていく感覚を覚える。

「…幸い、と言っていいのか分からないが、DNAを調べた結果、使われたのはイルカの大脳皮質だ」

「…単純に、人の脳は使えなかったのでしょう…。しかしこの技術は間違いなく…」

「お前のいた時代のもの、か…」

沈黙が流れる。

バタラといい、バイオ脳といい、どこまでも自分にまとわりつく木星の影。

まるで、“お前はこの世界の異物なのだ”と突き付けられているかのようだ。

 

「さて、この調査結果を経て、DAとしての指令を伝える。スカルハート」

「………」

来た。

トビアは体をこわばらせる。

ヘリもどきが出てきた時も、こちらをDA本部に呼び戻す話が出ていたのだ。

あの時はまた出てきたわけでも、被害が出たわけでもなかったから突っぱねられたが、今度はそうもいかない。

それも、姿を現したばかりか、新しい仲間を引っ提げてこちらに攻撃を仕掛けてきたのだ。

(なんとかして、断らないとな…)

本部に拘束されたら、どうなるか分かったものではない。

最悪、自分だけ殺されてX1を奪われるかもしれないのだ。

そして、それ以上に千束とたきな達、リコリコのことが気になる。

(…すっかり、染まっちまったなぁ…)

そんな自分に、少しだけ苦笑するトビア。

 

「お前には、これまでと同じくリコリコに所属してもらう。異論はないな?」

「はい。………はい?」

まさかの発言に目が点になる。

 

「まあ、お前の反応も分からないでもない。実際、途中まではDAに呼び戻すことで話が進んでいたからな」

「では、なぜ…?」

「先ほどの懸念が当たった」

ため息をこぼし、該当のページを指し示す楠木。

「ごく微量ながら、残骸から電波が発信されているのを感知した」

「!」

「追跡を試みたが、こちらが確認してからすぐに信号が途絶えてな。X1の保管場所は割れているものと判断した。こちらとしては、下手に呼び戻して本部の位置を知られるリスクは侵したくない」

「それは、まあ…。ぼくとしては、ありがたいですけど…?」

「それに、唯一対抗可能なお前の機嫌を損ねてしまえば、どうなるか…」

「……楠木さん」

今のでなんとなく察することができた。

おそらく、楠木が上層部を説得してくれたのだろう。

職務に厳しい人ではあるが、まったく人情がないわけではない。

もちろん、先ほど言っていたリスクの事もあるだろうが、こちらの事情をほんの少しでも考えてくれた。

その事実が、トビアの心を軽くさせる。

「ありがとうございます」

「何、礼を言われるようなことはしていない。…当面は、X1の保管場所周辺の警備員を多くすることで対応する。近いうちに引っ越すことも考えておけ。…そのレポートを持って通常任務に戻れ、スカルハート。退出してよし」

「…はい!スカルハート、通常任務に復帰します」

 

こんなところにも自分を気にかけてくれる人がいる。

自分は一人じゃない。

そのことを胸に刻みながら、トビアはDAを後にした。

 

 

 

2.

「皆さん、突然ですが、リコリコ閉店のピンチです」

「え?」

 

翌日、リコリコへ出勤したトビア。お客さんが特に多い日で、いつもはさぼるクルミも駆り出されるそんな中、集中ができていないのか千束が何か考えているように唸っている姿が散見された。

流石に不思議に思ったトビア達は、閉店後のタイミングを見計らい事情を聞きに行く。

すると、千束はミカが傍にいないことを確認し、神妙な表情でそんなことを言ってきた。

突拍子もないことを言うのは彼女の特徴ではあるが、いくら何でも脈絡がなさすぎる。

 

「えーっと、…何で?」

トビアが代表して千束に問いかける。いったい何があったというのか。

「…お昼ぐらいかな、先生のスマホの画面が見えちゃって。誰かとのメールの文面みたいなんだけど、そこに“千束の今後について話したい”って書いてあって…」

「他人のスマホ画面盗み見るんじゃねぇよ」

ミズキの鋭いツッコミ。

「だって見えちゃったんだもん…」

口をとがらせながらそんなことを言う千束。

目がいいというのも考え物だ。

「目がいいと余計なものが見えるんですね」

「パンツとかな。…っだぁ!」

「頭がいいと余計なことを言っちゃうんだな…」

クルミがたきなにお盆ではたかれるのを見て、おもわずツッコミ。

「てて…トビアうるさい。それで、なんで千束の今後でリコリコが閉店になるんだ?」

頭を押さえながらクルミが問う。

「…あのメール、楠木さんからだと思うんだ。先生を誑し込んで、私をDAに呼び戻すための…!」

「ふーん…、結構なことですね、必要とされてて」

たきなの目が据わる。

「あ!いや、そう言うつもりじゃ…ゴメンてぇ~!」

「…うん?結局どういうことだ?」

「ああ、ここ小さいとはいえDAの支部だからねぇ。ファーストリコリスが1人もいなくなると存続できないのよ」

機嫌を損ねたたきなに抱き着く千束を余所に、ミズキがクルミに説明する。

 

「でも、やっぱりおかしな話だよ?ぼくの所にはそういう話は出てきてないし」

首を傾げるトビア。

というか、DAの最高戦力たる自分がいる時点で支部としてはしっかり成立している。千束の予想は完全に杞憂だ。

「えー?トビアも呼び戻されるんじゃないの?この前本部行ったとき、そういう話無かった?」

「…むしろ“戻ってこなくていい”、て言われたな」

「話自体はあったんですね…」

 

「…まとめると、千束の危惧は今のところ杞憂に終わりそう、ということになりますね」

「雑にまとめないで⁉」

トビアの証言もあり、リコリコ閉店の危機はひとまず問題なさそうだ、とまとめるたきな。

 

それはそれとして、誰がミカにそんなメールをしたのかに話の焦点が移る。

「場所や日時の指定はあったの?」

「うーん…、日時は明後日の21時で、場所は…“Forbiddenで”って…」

「Forbidden…フォビドゥン?物騒な名前ねー」

 

Forbidden。禁止という意味のForbidの過去形、“禁断の”といった使われ方をする単語だ。

あまり聞きなじみのないその単語にミズキが訝しがる。

「うーん、バーの名前か何かか…?クルミ」

「今調べてる…、普通のウェブじゃ引っかからないな…ヒット。“Bar Forbidden”…会員制の店だな」

さらに調べを進めると、紹介制の所謂一見さんお断りの高級バーということが分かった。

「秘匿性は高いな…。普通に逢引の可能性はあるんじゃないか?仕事の話をするような雰囲気じゃないぞ、これ」

タブレット端末の画面を見せながらクルミが問う。

画像には、大型の水槽に落ち着いたイメージのバーカウンターが載っている。

 

「…店長と司令は愛人関係、という事でしょうか?」

たきなが画像を見ながらぼそり。

「愛人て」

「アンタの口からそんな単語が出るとはね…、これはこれで…」

「?」

妙な反応を返す2人に首を傾げる。

何か変なことを言ってしまっただろうか。

「…でもさー、そういうことだろう?これって」

クルミがもっともな感想を漏らす。

「いやあ、ないかな」

「うん、ない」

「ないない」

トビア、ミズキ、千束の順番で否定される。

確証があるのだろう、ノータイムの否定だ。

「なんでだよ。あり得るだろ?」

「「「ないないないないないない」」」

3人息の合った手振り付きの否定に疑問が募る。

一体、どんな根拠のもとで言ってるのだろう。

 

「……で、なんだ。結局尾行でもするのか」

「ま、そうなるよね~」

「下手すれば、完全に出羽亀になるぞ?」

クルミの忠告に、一瞬間が開く千束。

 

「……でも、ちょっとでもリコリコが無くなる可能性があると思ったら…」

そして、少し寂し気な表情で、そんなことを言う。

「……まあ、私は養成所戻りですし」

そんな顔を見てしまったからか、自然となくなったら困る理由を話し出すたきな。

「まだここに潜伏してないと、ボクは命がないなー…」

「私も出会いの場が無くなる…!」

たきなに続いて、次々と理由を語る仲間たち。

「ぼくも、ここが無くなるのは寂しいかな…」

そして最後にトビアがぽつり。

 

「…まあ、偽造は簡単だから、手伝ってやるよ。尾行、というか潜入のメンバーはいつも通りでいいのか?」

クルミがそう言いながら、準備の為か押し入れの方へと向かう。

「…うん、私、たきな、トビアでお願い」

千束が代表してそう答える。

「名前とかはこっちで決めるか?今ならリクエスト受けるぞー」

「あ、それなら…」

ここでトビアがリクエスト。

…どうやら、特定の人物の名前のようだ。

「誰か、知ってる人の名前ですか?」

たきなはトビアにそう聞く。

「そういうわけでもないんだけど。…まあ、そうだね。予行練習の一環、かな?」

 

そう答えるトビアの顔は、どこか寂しげなものだった。

 

2・3台の自動車が人目の付きづらい路地裏に駐車している。

乗員は示し合わせたかのようなサングラスにツナギ。

その中に、サングラスもせず、アロハシャツに黒のアウター姿の男が助手席に一人。

 

「ハッカー、この前の後から乱入してきたやつ、ヘリとゴーグルの方の確認が取れたんだって?」

〈ああ、僕のスポンサーの商品だった。なんでも“今度出すからそのテストだった”だとさ〉

耳元のスマホから聞こえてくる報告に、真島は顔をしかめた。

あの夜、拠点に戻り改めてロボ太と協力関係を結んだ後、そのロボ太に一本の連絡が入った。

内容はスカルハートとの間に割って入った、巨大ロボ達に関するもの。

〈ご丁寧に型番まで教えてくれたよ。ヘリが“EMAー11IM・エルコプテE”ゴーグルの方が“EMS-06IM・バタラE”だって〉

「…何だその名前。バタラだかタラバだか知らねえが、スカルハートに一蹴されてたじゃねえか。あいつみたいなのは無いのか?」

もっと言うと、一切攻撃を当てられずに一方的にやられていた。

まるで相手にされていなかったとも言える。

〈あれはテストタイプ!今度はビームも積んで強化するって言ってたぞ!希望があれば提供するって言ってくれたし…くうぅう~~~!!!エンブレムどこに付けよう…!〉

「…提供、ね」

“支援、の間違いだろ?”

その言葉を飲み込み、真島は頭を搔く。

確証があるわけではないが、ロボ太が誰のことを言ってるかなんとなく分かった。

世界であんなものを作れる連中は限られてくる。

…あの才能至上主義者どもが裏で噛んでいる。

「…いや、利用すりゃいいだけか…」

〈…?〉

割り切ればいいだけだ。

使えるものは何でも使う。

それだけの事だ。

まだ痛む左腕を摩りながら、真島は独り言ちる。

 

「…で、このUSB、署長室にあるPCに挿せばいいんだっけか。ハッカー?」

〈その通り!DAにハッキングするにも、あのAIのせいで下手にアクセスするとこっちがパクられるからな…。物理的な裏口を用意しないといけないんだ〉

右手でロボットのマスコットの付いたUSBメモリをもてあそびながら、ロボ太に確認をとる。

今回の作戦の肝だ。

「それがこのUSBねぇ。…なあ、もうちょい軽くできねえのか?世界一のハッカーなんだろ?」

ただ、その為に大規模な作戦をとることになったのだ。

ただでさえ、先日のアランリコリスとの対決で弾薬の消費が激しくなっている。

特にスカルハートに対しては何の効果も与えられず、いたずらに減っていた。

しばらくは補給に徹したい。

〈…あのねぇ!これを作れるの僕だけなんだからな⁉DAのAIに仕掛けられる奴なんてもうこの世界に1人だっていやしないんだ!〉

堰を切ったかのように声が大きくなるロボ太。

どうやら地雷だったようだ。

思わずスマホから耳を離す真島。

〈それさえ、成し遂げられれば…!僕は名実ともにトップとして…!〉

「ああ~、うん分かった分かった…。要はお前さんの夢がかかってる訳ね…」

〈……そうさ!〉

何とかなだめる。

このハッカーの扱い方が何となく分かってきた。

 

〈僕にできないことは、世界の誰にもできない事だと思ってくれ!〉

「おうおう、頼もしいこって…。とりあえず、こいつ挿してくるよ」

〈ああ、君の計画を達成するための第一歩だ〉

「…はんっ、俺たちの、だろ?」

目的地に近づく。

「ジャミングに逃走経路の確保、頼んだぜ?トップハッカー」

〈OK!さぁ~てさて、5分で終わらせろよ?テロリスト〉

今回、ロボ太がDAにハッキングを仕掛ける。

その間はリコリスたちが現場に来ることはない。

自分たちの仕事は、そのわずかな隙が勝負だ。

 

武器を各々携え、仲間を引き連れながら歩を進める。

目の前には、警察署。

ここの署長がDAと繋がりがあるのは調査済みだ。

 

「…君たち、警察にそういうオモチャは困るよ…。しまってしまって」

入り口前に立つ警察官から声をかけられる。

見ると、拳銃は携帯しておらず、警棒やこん棒くらいしか持っていない。

つくづく平和ボケした連中だ。

「…ああ、悪いね?こんなオモチャで」

 

銃声が鳴り響く。

 

作戦開始だ。

 




久々のいつもの。
1.
・捜査用似顔絵描画→実はそんな正式名称があるそうな。
・顎のとがり方が尋常じゃない男→「僕プリン!」コロコロデビューおめでとう。
・色がついてる分→なお、実際の捜査では髪色とかは簡単に変えられるので、そこまで書くことは少ないとか。
・フキの絵→最初の似顔絵、実は誰が書いたかはっきりと言ってなかったり。

・前回のMS戦リザルト→ヤバ気なもの、たくさん詰め込みました。
・装甲類→実際の戦車を参考に。流石に比率までは非公開でしたが。あと、意外にも装甲がFRPの巨大ロボもいることはいます。ヒント:警察。
・エンジン→こちらも実際のヘリのエンジンを参考に。だからこそ、稼働時間は非常に短め。実はこっちもジェットエンジンやディーゼルで動く巨大ロボがいます。ヒント:火星VS地球
・バイオ脳→やっちゃった☆ちなみにサナリィのF9グレード機には、似たようなシステムのバイオコンピュータが積んであったり…。
・イルカ→流石に人間の脳はちょっと…。こちらも前例があります。ヒント:勇者王の次。
・トビア、リコリコに残る→正直悩んだんですけど、私ではとても書けそうになかったので無理やり残ってもらいました。その分X1が大分危ないことに…。

2.
・頭がいいと→アニメ見た時の私の感想。今言う?それ。
・Forbidden→なんだかすごい名前つけるよなぁ。
・ノータイムの否定→まさかマジでそういう関係とは思わなかった…。
・セリフの順序入れ替え→印象代わるかなって。…正直あんまり変わってないかもしれないですね(ドツボ)
・特定の人物の名前→言わずと知れた、彼のこと。正解は次回にでも。

・エルコプテとバタラもどき→型番のIMはイミテーションモデルという意味で、名前の後のEはイージーという事でどうか一つ。というか、エルコプテ型番決まってなかったので、ディビニダドの次の番号を割り振ってます。
・背後関係を訝しがる真島さん→そりゃ、あんなん作れるとこ、あそこくらいですからね?
・荒ぶるロボ太→あの被り物どうなってんの?
・警察官→描写されてないけど、あの襲撃死傷者結構出てそう。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

やっぱりバカ長くなったので、分割分は今週中に投稿予定です。

それでは皆さん、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#25海賊と少女の恩人②

急にいろんな仕事が入って死にそうなので初投稿です。

連休前はいつもこう…。
余裕ないのは分かるケド、それは私たちだってそうなのよ…?

さて、今回は前回の分割分、後半になります。

ほんの少しでもお楽しみいただけたら、幸いです。

それではどうぞ。


最近ガンプラ買うだけで並ぶの、どうにかならないかなぁ。
ビッグオーとか簡単に買えたのに…。


3.

尾行作戦当日。

 

午後になり客足が落ち着いたリコリコの店内。

休憩がてらカウンターに座り、なんとなしにテレビを見ていたミズキが声を上げる。

「…ねえ、この警察署って阿部さんの所じゃない?」

「?」

 

ミズキの声に反応したトビアがのぞき込む。

見ると、ニュースのようだ。

『…現場は暴力団によって荒らされており、この事件により…』

「うっわ、すんごい紋紋…」

それは、北押上署が暴力団によって襲撃を受けたというものだった。

制圧された後なのだろう、立派な刺青を入れた半裸にさらしを巻いた男が警察官に取り押さえられている様子が画面に映し出されている。

「うん…?なんかあからさまじゃないか?この映像…。今時こんな…」

 

カランコロン

 

トビアが映像に違和感を覚え、もっとよく見ようと画面に近づこうとしたとき、不意に店の扉が開く。

お客さんかと思い姿勢を正すと、そこにいたのは2人のリコリス。

フキとサクラのコンビだった。

「この前ぶりです、トビアさん。千束はいますか?」

「お、お久しぶりです!」

「いらっしゃいフキさん、サクラさん。今呼ぶよ。千束―?」

厨房にいるであろう千束を呼び出す。

何か緊急の案件があったのだろうか。

「お、いらっしゃーい、フキ!」

「いや騒がしいな…。とりあえず説明の前に、お前に見てもらいたいものがある。トビアさんも」

「あ、その前にテレビ消しますね」

サクラがリモコンを手に取り、スイッチオフ。

2人がカウンターに座る。

「…ん?見ない顔が増えてるな」

 

びくっ

 

ミズキと同じく、休憩中だったクルミに気づき、フキが声をかける。

見覚えがないこともあって、じっと見つめられ震えるクルミ。

なにせ、以前DAにハッキングを仕掛けた張本人、ウォールナットその人だ。

気まずいどころの騒ぎではない。

何だったら、死亡したと確証が得られていないので目下捜索中だったりする。

なので、

「デっ、ディっDAの、者、デス…」

クルミは冷や汗と震え声で、何とか嘘をつこうとするのであった。

「……そうなんですか?」

フキは訝しがりながらも、確認のためトビアに聞く。

「あー、…そうだね。DAからの紹介でね、ウチの電子担当なんだ」

流石にかわいそうなので、乗ってあげることにするトビア。

実際、もうリコリコに欠かせない大切な仲間だ。

売るような真似はする訳にはいかない。

「それなら、少し借ります」

トビアがあまりにも自然に流したため、フキは特に気にせずクルミのタブレットPCを借りる。

手には、1本のUSBメモリ。

それを差し込み、動画を再生させる。

 

「…それは?」

「先ほどのニュースで流れていた襲撃事件、その元データです」

そこには、先ほどのニュースと違い、暴力団ではなく非常に見覚えのあるサングラスとツナギ姿の集団が警察署を襲っている姿が映し出されていた。

「ニュースまんまじゃねーじゃん!何、あいつらがやったの?」

「報道はカバーしてるに決まってるじゃないっスか」

ミズキが指摘すると、サクラがそう答える。

先ほどの違和感はコレか、と納得するトビア。

だが同時に一つ疑問が生じる。

「…ラジアータが察知できなかった?」

「……はい」

サクラが意気消沈したように答える。

こういった事件が起こる前に制圧するのがリコリス。

そしてそれを可能とするスーパーAIラジアータ。

だが、今回の事件を防げなかったということは、ラジアータが正常に機能していなかったという事。

1度ならず2度もやられた。

事態は想像以上に深刻だ。

 

「おや?珍しいお客さんだな」

映像を見せられていると、店の奥からミカが出てきた。

「あっ……、ご、ご無沙汰してます…」

その様子に顔を赤くするフキ。

マジか、とトビアに顔を向けてくるサクラとクルミ。

「…2人とも、何か注文は?せっかくだから何か食べていきなよ」

とりあえず空気を換えようと、トビアがフキとサクラに話しかける。

「そうだな、せっかくだから何か頼んでいくといい」

ミカが後を引き継ぎそう声をかける。

「あ、それならこの抹茶団子セットというのを…」

「千束ぉ!どれだぁ!どいつだぁ!!」

「うおぉわぁっ!そんな大声出さなくても分かるって……あああっ!」

 

照れ隠しの為か、大きな声を上げ千束に確認を促すフキ。

すると、千束が画面を一時停止。

そこから少し逆再生し、また一時停止。

 

そこには、カメラをはっきり認識したのだろう、画面を向いた緑髪のアロハシャツの男が映し出されていた。

「あー!コイツだコイツ!ねえ、トビア、たきな!」

「…ですね、私たちが見た相手です!」

「うん、間違いない。…左腕、吊ってないな。あの時の怪我は、もう治った…?」

真島の姿を見つけた千束がトビアとたきなを呼び寄せ、確認を促す。

「そう、か…こいつが……!」

何人もの仲間を屠ってきた仇だ、フキが画面を睨みつける。

 

「これ髪型は絶対私のだろー?」

「色だけじゃないですか!絶対私の方が正確です!」

「うん、空気読んで?2人とも」

この前の似顔絵の事で言い合う千束とたきなに、思わずツッコむトビアであった。

 

「…確認はとれた。お邪魔しました、トビアさん。行くぞ、サクラ」

フキはそう言うと、席を立ちサクラの制服の襟をつかむ。

「…え⁉まだ頼んだの来てないんですケド⁉」

そのまま引っ張り店の出口へと歩いていく。

「いいから行くぞ!」「なんで⁉先輩⁉」

抵抗むなしく引きずられるサクラの姿に何も言えなくなるトビア。

カウンター傍ではまだ2人がどっちが似てるだの言い争ってる。

なんだこれ。

 

「…トビア、見ろよ」

タブレットPCで先ほどの映像を見ていたクルミから声がかかる。

どうやら何か見つけたようだ。

「……うわあ」

思わず声が漏れる。

そこは署長室と思しき部屋、荒れ果てたその壁に真っ赤な塗料で一文。

 

“勝負だ!リコリスども!”

 

真島からの宣戦布告、そのものだった。

 

 

 

4.

「…腹減ったわねー」

「…おうどんでも湯がきます?」

「いいわねぇ、他に食べる人は?」

「食べまーす!」

「お、じゃあぼくも」

「はーいよ、じゃ準備するわ」

 

その日の夜、営業も終わりこれからどうしようという時分。

作戦決行までの時間が迫ってきた。

差し当たっては、ミカに怪しまれないよう気をつけなければならないが…。

「…ああ、悪いが私は少し出てくる」

店のドアの前に立ち、ミカが声をかけてくる。

「ミカさん?どちらへ?」

さりげなく行先を確認するトビア。

「……なに、野暮用だ。戸締りは頼むよ」

そう言い、扉を閉めるミカ。

 

「…よしっ」

そう言い、準備を始めるトビア達。

何せ、会員制の秘密バーだ。

衣装を合わせるだけでも準備が大変だ。

「すまん、言い忘れたがガスの元栓……どうした?」

 

しかし、ここでミカが戻ってくる。

全員、準備の途中で変な動きになっておりミカは首を傾げる。

咄嗟に納戸をのぞき込んだトビアはまだましな方で、ミズキは謎体操、クルミはジャンプを繰り返し、千束とたきなは鞄の開け閉め繰り返し。

何だこの状況。

「…何をしているんだ、お前たち…」

「いやあ、うどんを、探してまして…。ここに入れたと、思ったんだけどぉ…」

なんとか取り繕うトビア。

「…こ、こっちは、なかったヨー?」

「…わ、私の鞄にもありません、デシター」

たどたどしく返す千束とたきな。

まだこっちはいいとして、ミズキたちはどうフォローすればいいのか…。

「…うどんならトビア、その納戸にあるはずだ」

「……あ、あった」

「…?まあ、とにかく頼んだぞ」

そう言い残し、今度こそミカが店から出ていく。

「………寿命縮んだわー」

「それ冗談にならないんでやめてください…」

千束の余りにもあんまりな言葉にツッコミを入れるたきな。

 

何はともあれ、作戦決行だ。

 

「で、ぼくはこの格好?まあSPっぽさはあるか…」

「おお、意外と様になってるねぇ。サングラスとスーツ!」

「……顔の傷が違和感消してますね」

 

ミカに付けた発信器の信号をもとに、いつもの乗用車で追跡する5人。

運転とナビゲーションの2人を余所に、千束たち3人は後部座席で会話を交わす。

 

千束は真っ赤なドレスに身を包み、たきなは黒いスーツを着こなし男装の装いだ。

対するトビアは、たきなのものに比べると飾りっ気のないスーツに、黒いサングラスをかけている。

顔の傷も相まって、歴戦のSPのようだ。

「…まあ、説得力が増した、のかな?ただでさえ成人には見えないから、変なとこで助かったけれど」

苦笑いを浮かべ、頬を掻きながらトビアが独り言ちる。

 

「さて、データの偽造はしっかり済んでる。ちゃんと名前もそのカードの通り答えろよー?」

「……通るんですか?この名前」

ナビとして助手席に座るクルミから渡されるカードに目を通し、たきながぽつり。

やはりトビアのように希望を出しておくべきだったか…。

「だいじょーぶ、データ自体いじってるからバレないよ。安心して名乗ってくるといい…!」

駄菓子をかじりながらクルミが笑う。

このハッカー、確実に楽しんでいる。

 

トビアを挟んで座る千束がフクロウのペンダントを首にかける。

「今朝もニュースで金メダルとったって言ってましたね、アランチルドレン」

「あーら、そう。私にもあっちゃったり~?そういう才能」

なんとなしにそう声をかけるたきな。

と、いうか

「…弾丸避けるのは、誰にでもできることではないと思いますけど…」

「あれは勘だよー、トビアだってできるし。ま、弾丸より早く動ければメダル獲れるんだけど」

おどけながら千束にそう返される。

「まあ、確かに同じようなことできる人がそばにいますけど…」

「トビアは基準にしちゃダメよー?そいつ、ただでさえ色々できるんだから」

「……それもそうですね」

運転席のミズキからそう言われると、納得するたきな。

確かに、トビアも十分おかしい側だ。

 

「…え、ぼく何気に異常扱いされた?」

「アランさんの手違いだな」

「なんちゅうことを言うんだ、貴様」

「ねえ、無視?スルー?ええ?」

トビアの抗議をスルーし、千束をいじりだすミズキ。

「ま、メダルなんて取れなくたって、人の役には立ててるでしょ?…DAになんて戻ってられないよ」

 

「やりたいこと優先、ですもんね?」

たきながそう返すと、千束は満足げに笑うのであった。

 

「…凝ってるなぁ」

「壁に隠されたパスコード入力機…すごいセキュリティ意識ですね…」

 

バーのあるホテルにたどり着き、受付を済ませ入り口まで進み、傍の壁を軽く押すトビア。

一見何の変哲もない壁だが、押した箇所が開き入力機が現れる。

事前にクルミから聞いていたパスコードを入力すると、扉が開く。

「流石はウォールナット…」

扉の先を軽くのぞき込む。

そこから垣間見えるのは長く続く廊下。

「…まだ受け付けは先か」

「…私、この名前受付に言うの嫌なんですが…」

隣でたきながげんなりしながらそんなことを言う。

まあ、確かにあの名前はない。

「文句言わないの、希望出さなかった私たちが悪いんだから」

千束がそうたしなめるが、思う所はあったようでその表情は少し優れない。

 

「…じゃ、気を取り直して…ミッションスタート」

千束の号令に合わせて、受付へと進んでいく3人。

トビアとしては2人の護衛というポジションのため、少し後ろを歩く。

「ようこそいらっしゃいました。恐れ入りますが、お名前をお聞かせ頂けますか?」

受付スタッフから声をかけられる。

ここがある意味正念場だ。

「…蒲焼太郎」

「わさびのり子」

…2人はなんとか顔に出さずに言えたようだ。

インカムの向こうでクルミの笑いをこらえる声が漏れる。

リクエストしておいてよかった、トビアは心の底から思った。

「…そちらのお付きの方も、お名前をお願いします」

トビアに順番が回ってきた。

 

正直、今でもこの名前を使ってしまっていいものかという迷いがある。

エウロペから託された、自分によく似ていると言っていた人の名前。

…あの子の隣に立つために、被らなくてはいけないその名前。

 

「…護衛の、カーティス・ロスコ」

 

“本当のカーティス・ロスコは、一体どんな人だったんだろう”

少しでも恥じぬようにと、胸を張ってトビアは名乗りを上げた。

 

 

 

5.

「ト…カーティス、いつまで立ってるの?隣に座ればいいのに」

「いえ、奥様。私はあくまで護衛ですので。旦那様と2人でお楽しみください」

 

席へと通された千束一行、目の前にはシャンパンの注がれたグラスが3つ。

座るたきな達2人を余所に、トビアは1人後ろに立ち周りを見渡す。

どうやら、まだミカは来ていないようだ。

 

「…クルミ、監視カメラの掌握は終わった?」

インカムに耳を当て確認をとるトビア。

〈ああ、ばっちりだ。こっちでも見ておくから、お前も席に座って大丈夫だぞ、トビア〉

「いやあ、護衛って言っちゃってるから、なんか座りづらくって…」

頬を軽く掻き、ばつの悪そうな表情をしている。

「…カーティス、護衛は大丈夫です。あなたも一緒に楽しみましょう」

ここでたきなかがフォローを入れる。

こういう一言があれば、座っても違和感はないだろう。

「……はい、それでは、ご一緒させていただきます」

許しを得たという体で座るトビア。

なんだかんだ慣れない環境で少し疲れたのか、ため息をついている。

 

「なーんで私ので座ってくれないのー?」

千束が少しむくれながら文句を言う。

たきなの許しで座ったのが気に食わないようだ。

「こういう場合は、やっぱり男の方が上に見られるからね。許可を出すには違和感が少ないと思うよ」

「男女差別―…」

「?私女ですよ?」

「そういう事じゃねぇー…」

こうやって過ごすこと少し、遂にお目当ての人物がやってくる。

 

「…ミカさん来たね」

「え、なにあれ、先生バッチリ決めすぎじゃない?」

「これ、本当に逢引じゃないんですか…?」

たきな達の目に映るのは、黒いシャツに真っ白なジャケットを羽織ったミカ。

首元に光るネックレスがいやに映える。

〈…なあ、ボクの言った通りじゃないか。楠木が来る前に撤退した方がいいぞ〉

クルミがそうぼやく。

確かに気まずくなるくらいなら、さっさと出た方がいい。

〈いや、でも楠木って……〉

「「女性、だからなぁ」」

「………え?」

インカムの先でミズキがそう言うと、同時に呟く千束とトビア。

どういう意味だろうか。

いや、女性だから考えられない、という意味なら……?。

「あ、誰か来た…!」

「え、あれ、うっそ…」

カウンターに座るミカの隣に、軽く手を上げながら近づく影が一人。

 

それはいつものスーツを身にまとった、吉松シンジその人だった。

 

「…本当に逢引だったかぁ」

「だね。…うわ悪いことしたなぁ」

「え?」〈…ええ⁉〉

トビアが断定、それに同意する千束。

余りの衝撃発言だ。

インカムの先でもクルミが似たようなリアクションをとっている。

「さ、帰ろう。二人の邪魔しちゃ悪いよ」

「うん、そうだね。行こ、たきな」

「え、あ、ええ?」

トビアの号令で席を立つ千束。

そして、まだ状況が追いついていないたきな。

〈…待て待てお前ら、ミカはそうなのか⁉それ先に言えよ⁉おい!〉

クルミが何かに気づき、わめきたてる。

「他人の趣味趣向を言いふらすわけ無いでしょ…」

「愛の形は人それぞれなんだよ、たきな」

「は、はぁ…?」

千束に言われ、首を傾げるたきな。

なんだか暴いてはいけない秘密を暴いた気分だ。

 

「こっちこっち」

「いや、リコリコの常連ですし、挨拶くらいは…」

「いや気まずいだけだから。あとで教えてあげるから、今は帰ろう…!」

トビアが先導し、千束の後ろに並びながらそそくさと出口へと向かう。

植木越しに見える2人は、背中を向けていることもあってよく分からないが親しげな雰囲気だ。

時折聞こえる会話も和やかなもの。

 

だが、ここで吉松の声音が固いものとなった。

「手術を終えた後、私はあの子を君に託した。その意味を忘れたのか?ミカ」

 

前を行く千束の動きが止まる。

急な停止に、たきなが千束にぶつかる。

それを余所に、吉松は決定的な言葉を吐く。

 

「何のために千束を助けたと思っているんだ?あの心臓だって、アランの才能の結晶なんだぞ?」

 

「え…ヨシさん、なの?」

千束の顔は2人へと完全に固定されていた。

「千束?帰るのでは…」

「ヨシさんだよッ!」

「!ばっ、出ちゃダメだって…!」

そのまま植木をよじ登ってでも2人の下へ行こうとする千束を、何とか諫めようとするたきなとトビア。

 

だが、千束はこちらのことなどお構いなしに前に出てしまう。

「ヨシさんなの?」

「!…千束…⁉」

声をかけられ、咄嗟に振り向くミカと吉松の2人。

「ミカ…!」

「違う!!」

責めるようにミカの名前を呼ぶ吉松。

「違うの!先生のメールうっかり見ちゃって…ごめんなさいっ!」

慌てながらも必死に頭を下げる千束。

「……千束だけに謝らせられないね」

「…ですね」

そう言って、トビアと一緒に前に出るたきな。

こちらに気づき、顔をしかめるミカたち。

「お前たち…」

「ごめん、ミカさん。止めるべきだった」

「司令に会うのかと…、ごめんなさい」

そして、頭を下げて謝罪。

 

「でも、その、今の話……ちょっとだけ、ちょっとでいいからヨシさんと話をさせてっ!」

がばっと頭を上げ、そう言う千束。

以前聞いた、喫茶リコリコを開く理由の一つだった自分を助けてくれた救世主との再会。それが叶えられたのだ、無理もない。

「……なにかな」

そんな千束の視線に折れたのだろう、カウンターに身体を向き直し話を聞く体制に入る吉松。

 

「……千束、ぼくたちは先に出てる。後はミカさん、頼みます。行こう、たきな」

「…はい、失礼します」

トビアと一緒に軽く会釈し、その場を後にする。

 

ここからは、当事者3人の話になるのだろう。

それこそ邪魔をするわけにはいかない。

 

ただ、少し気になることが一つ。

自分たちが千束に続いて物陰から出てきた時のこと。

(吉松さん、なんでトビアのことを…)

あんな、敵であるかのような目で見たのだろう。

 

ホテルの出口で千束たちを待つトビアとたきな。

思い返すのは、先ほどの吉松の事。

 

(…やっぱり、ヨシさんはアラン機関の人間…)

そもそも、小さくて気づき辛いがスーツのフラワーホールにフクロウのバッジを付けていた。

アランチルドレンのペンダントと、まったく同じデザインのものだ。

(そして、千束の才能を見出した張本人、支援した救世主その人…)

だが、なぜこのタイミングで現れたのか。

ただの親心で様子を見に来たとは考えにくい、あるいは旧知の仲であるミカに会いに来たのだろうか?

しかし、今回は“千束の事で話がある”ということで呼び出している。

目的が千束であるのは間違いないだろう。

で、あるならば、なぜ今になって…。

 

「…うん?」

「?トビア、どうしましたか?」

ふと、あることが頭をよぎる。

 

そう言えば、千束のリコリスの任期はいつまでだっただろうか?

それは、そんなに先の話ではなかったのでは?

そんなタイミングで現れた。

そこから考えられるのは、

「まさか、千束に替えの…?」

 

そこまで考えていると、不意にエントランス付近に吉松の姿が見えた。

「…トビア、挨拶だけでもしていきましょう。今日の事も…」

「そう、だね。…うん、ちゃんと謝っていこう」

たきなに袖を引かれ、彼の下に向かう。

 

「ヨシさん」

こちらの呼びかけに顔を向ける吉松。

迎えの車にちょうど乗り込むところだった。

「…今日は、お邪魔してしまって本当にごめんなさい。でも、千束は喜んでました」

たきながそう呼びかけるが、彼の表情は冷たいものだった。

とてもリコリコで見かける吉松とは似ても似つかない。

「…また、お店に来てください。千束も、僕たちも一緒に待って——」

「君たちなら分かるはずだ」

吉松がトビアの声を遮る。

「千束の居場所はそこではない。」

冷たい声だ。

「トビア君、誰もが君のようにどこに行っても才能を活かせるわけじゃない。それぞれ決められた場が用意されているんだ」

「ヨシさん…?」

「だから、たきなちゃん。君には期待している。」

「…え?」

不意に名前を呼ばれ、驚くたきな。

「ヨシさん?それはどういう…」

「トビア君、君には伝言が一つ」

そしてそのままトビアに話しかける吉松。

脈絡も何もあったものではない、どこか不気味な雰囲気だ。

そしてその言葉にトビアは目を見開くことになる。

 

「“シンヴァツの借りは返す”…私の友人からだ」

 

「……な、…!!」

 

言いたいことは言ったという事か、こちらを見ることもせずそのまま車で走り去っていく吉松。

 

「トビア、今の“シンヴァツ”って…」

「…おれが、こっちに来るきっかけになった、最後の作戦目標だ……!」

彼の口からこの単語が出たということは、あいつと少なからず関係があるという事。

それと連なるように、嫌な想像がよぎる。

まさか、あのMS達は本当に…。

「何を、企んでるんだ…、ヨシさん、……カリストッ!」

 

拳を握り、彼の去った方向を見つめるトビア。

その表情は、非常に険しいものだった。

 

吉松と話した後、千束はひとりカウンター席にて黄昏ていた。

一緒にいたミカは彼を見送ると言って席を外しており、一人待つ形だ。

 

「……受け取って、くれなかったなぁ」

ずっとお礼を言いたかった。

あなたのおかげで、自分は助かった。

今度は同じように、自分も誰かを助けたいと思って、今日まで頑張ってきた。

そう伝えたいが為に、DAを出てリコリコを始めたといっても過言ではないくらいだ。

なのに、

“それを認めることはできない、そういう決まりなんだ”

“君は、リコリスだろう?”

“アランチルドレンには役割がある。ミカとよく話しなさい”

 

「…ヨシさん、またお店に来てくれるかな…」

自分の最後の言葉はちゃんと伝わっただろうか。

 

そして吉松の去り際の一言が、千束の胸を締め付ける。

 

「…“男は選びなさい”、か…。ヨシさん、なんで…」

 

いつも声をかけてくれる相棒たちはここにはいない。

誰かの声が聞きたい。

「……先生、早く戻ってこないかな」

不安な気持ちを抑えきれず、千束はぽつりとこぼす。

 

 

 

6.

「阿部さん、大丈夫だったの?警察署襲われたって…」

「いやあ、運が良かったよ。ちょうどあの時間は外に出てて…」

 

翌日の喫茶リコリコ。

この日は閉店後のボドゲ大会が予定されており、いつもより常連が多く集まっていた。

近場の警察署が事件にあったというのに、いつもと変わらない様子の店内。

特に、自身の職場をめちゃくちゃにされたというのにケロッとしている阿部には脱帽だ。

 

だが、そんな中で修羅場真っただ中の人間が一人。

「…終わらない、というかまとまらない…!」

漫画家の伊藤だ。

どうやら締め切り間近らしく、唸りながら手元の端末を睨んでいる。

催促でも来ているのだろう、先ほどからテーブルの上のスマホが振動を繰り返している。

「…はい、伊藤さん。少しは休まないと、書けるものも書けないよ?」

「トビアぁ…」

ボドゲの誘いも断るほど追い詰められており、見かねたトビアがブレンドとともに座敷に上がる。

「…トビアだったらさ、ここの悪役、殺しちゃう?」

「うーん、…情けをかけて生かした方がいいかなぁ。で“自分を生かしたことを後悔させてやる”って言わせるんですよ」

「ほほう、…それでこの後にもちょくちょく再登場させて?」

「で、主人公が負けそうになると“おまえを倒すのは自分だ!”と颯爽と登場!…どうかな?」

「…ベタだけど、熱い展開。それに、このキャラ単体で話も作れる…!」

どうやらギアが入ってきたようだ。

「やっぱりトビア達の意見の方が参考になる~…。編集代わってもらいたいくらいよ~」

「その編集さん泣くからやめなさい」

目がマジだから笑えない。

 

「…千束、今日は遅いですね」

「そうだね、昨日は色々あったし…正直おれも考える時間が欲しいかも?」

アイデアを得て作業を再開する伊藤から離れ、カウンター傍でたきなと合流するトビア。

昨晩の吉松の“伝言”により、トビア自身もかなり疲れてはいた。

「ま、ゆっくり寝たらスッキリしたし、おれは別に大丈夫」

「切り替え早いですね…」

呆れたように言うたきな。

 

「…今日くらいは休ませてやろう」

カウンター越しにミカが言う。

…どうやら、千束は吉松とうまく話せなかったようだ。

今のミカの態度でなんとなく察する。

自分たちでさえアレだったのだ、無理もない。

 

「おいっ、ミズキ⁉日の高い内からなんちゅう格好してんだ⁉」

「ミズキちゃん、決まってるねぇ。お出かけかい?」

「まあねぇ?」

「どこ行くつもりだよ…」

「決まってるじゃなぁい、昨日のバーよん」

 

「…いつも通りだなぁ」

「…いつも通り、ですね」

「……だな」

何やらミズキがきわどい恰好で外に出ようとしていた。

手には昨晩自分たちが使っていた会員カード。

「あれ、そう言えばあのIDってもう消したのでは…?」

「……あっ、逃げた」

クルミにそのことを指摘され、駄々をこねながら店外に駆け出すミズキ。

 

いつもの騒ぎ、いつものリコリコの風景。

「この分なら、来るだろうね」

「……ですね」

一つ確信をもって、トビア達は微笑む。

 

カランコロン。

「千束が来ましたあああぁぁ!!」

 

だって、ここが彼女の居場所なのだから。

 

 

 

おまけ

 

「それで、他の商品はどんなのだ?」

〈え?〉

「まさか2種類だけってわけじゃないだろ。もうちょい用意してるんじゃないか?巨大ロボ」

〈あー…まあ、作ってる最中でバリエーション考えてるとは言ってたんだケド…〉

「…?んだよ、やに勿体ぶるじゃねぇか」

〈その、デザイン、というか、扱える場所、というか…〉

「扱える場所?」

〈……海、限定、だそうです…〉

「は?……、デザインは?」

〈……オウムガイ〉

「は?」

〈オウムガイ〉

 

 

 

 

 

 




以下いつもの筆者メモ。

3.
・警察署襲撃→今の令和の時代ではあまり考えられない事件。沖縄?あそこは例外です(目逸らし)
・フキ・サクラコンビ入店→アニメでは、言動がどう見てもみかじめ料もらいに来たそういう方々。
・気まずいクルミ→どころか、命狙われてる。
・トビアに確認をとるフキ→信用の差。
・フキの男の趣味→いい趣味してると思う(熱いミカ推し)
・真島さんの腕→あの人異能生存体かなんかなので。仕方ないね。アストラギウス銀河の出身だな?おめー。
・宣戦布告→あんだけ鮮やかな赤ならペンキかな?…ペンキであってほしいな。

4.
・湯がく→私の地元では使ってなかったので、聞いた時”?”となった言葉。香川とかでも使われてるそうな。
・クルミのジャンプ→いったいどんな言い訳を想定してやってたんだろう。
・寿命縮んだ→ホントに君が言うとシャレにならないんだが?
・トビアの格好→スーツにグラサン。もちろんワンレン。
・駄菓子→蒲焼〇郎おいしいよね。ビッ〇カツとか。
・トビアの扱い→すっかりやべーやつ。でも少年漫画の主人公なんてそんなもん。(ド偏見)
・壁の中に…→やりすぎでは?
・2人の偽名→本編でクルミが言った通り、データだけ信じても碌なことはないですよね。

・トビアの偽名→正直、キンケドゥ・ナウとどっちにしようか迷いました。

5.
・シャンパン→ペリエの可能性も…。
・ミカの勝負服→ちゃんとカッコいいのズルいと思う。
・そしていつものヨシさんの服装→逆説的に、常に決めてきてるということかな?
・店内の観葉植物を乗り越えようとする千束→5歳児かな?
・VSヨシさんその2→いい案が出なかったのもありますが、こっちの方が不気味さが出るかな?
・トビアの才能→書いてて思ったケド、何だろう?決断力?…海賊?
・チラつく木星の影→という訳で、カリストさんにはアラン機関側に付いててもらいます。

・千束とヨシさん→演出のせいもあって、かなりかわいそうだったなぁ。
・男は選びなさい→筆者もそう思う(おい)。

6.
・職場を荒らされた阿部さん→逞しすぎない?
・修羅場の伊藤さん→「締め切りなんてね、言ってる側も大体3日ぐらい余裕もって言ってんのよ」「やめなさい」
・決めたミズキ→その恰好でわさびのり名乗る気…?
・逃げるミズキ→その恰好でいずこへ…?

おまけ→実はノーティラス、XB本編から30年くらい前のUC103にはすでにありました。とんでもなくシンプルな構造だから、作れるかな?って…。

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
まーた長くなっちゃったよ…。
文字数も投稿迄の期間も…。(倒置法)

次回もやっぱり未定です。
ゴールデンウィーク、休めっかなぁ……

それでは皆様、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけると幸いです。




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#26海賊と一緒⑦

お待たせ、待った?







………仕事が終わらぬぇえええええええ!!家族も入院したしあああああああ!!!!
書く余裕が作れねえええええええええ!!!!ああああああああああああああ!!!!

そんな訳で初投稿です。

今回は久々に書くのもあって、お茶濁しの短編となります。
色々と思い出しながらの執筆でしたので、変な所もあるかと思いますがご容赦ください。

それでは、どうぞ。



その1.海賊の装備

 

「来ましたねスカルハート!見た目も完璧にできてますよみてくださいさあさあさあ!」

「落ち着いて?」

 

ツナギ姿の職員にテンション高めに袖を引かれ、トビアは若干顔を引きつらせる。

DA本部の装備課にて。

ここでは武器弾薬の管理・整備が行われ、さらに武装鞄やワイヤーガンをはじめとした、DA独自の武装が開発されている。

トビアの用いる防弾コートにシートもこの整備課謹製だ。

 

「それにしても、連絡もらったときはびっくりしましたよ。…何せここ何年も停滞していましたし?」

「この間、あなたが持ってきた残骸が役に立ちました。それこそ、私たちが目指すべき物の完成品そのものでしたからね!」

今回トビアが出向いたのは、DAが10年間望んでやまなかった、それでいて限りなく不可能だったあるプロジェクト、その進展があったと連絡を受けたからだ。

職員の案内で奥へと進む。

そしてたどり着いたのは、高い天井に広大な空間。

工廠だ。

 

DAは基本的にエージェントを育成・運用する組織であり、独自の機甲戦力は皆無のため、このような施設は不要だった。

しかし、10年前に現れたX1に対し野ざらしでそのままとはいかず、急遽作られたのがこの工廠だった。

現在では、この10年で得られたX1の解析結果をもとに、追加装備や技術実証が行われている。

以前、X1が装備した眼帯もここで作られたものだ。

 

そんな空間で、一際目立つ巨大な人型。

「これが…」

それは、五指をそなえ、2本の足でしっかり立つ巨人。

鋭いアンテナが2つそびえ立ち、光のないグリーンの眼が目立つ。

全身が下地の灰色一色であること、そして特徴である4本のスラスターとドクロのレリーフがないことを除けば、その形はクロスボーン・ガンダムそのものだ。

 

「よくもここまで形に…」

「スカルハートの持ってきたMSもどき、でしたか。特にバタラとかいうのが大きかったですね。なにせ、関節部のマテリアルの配分、装甲の強度、どれをとっても見るところばかりでしたから」

目の前の機体に複雑な表情を向けながらも、感嘆の声を漏らすトビアに、説明を続ける職員。

DAがトビア達を迎え入れてから何度も試みてきた、クロスボーン・ガンダムのコピー。

その実証機が今目の前に鎮座ましましている。

「もっとも、装甲類はほぼFRPですし、武器もダミーですけどね」

言われて襟元のビームサーベル兼ビームガンを確認すると、銃口が無い。

塞がれているというよりは、最初から空けられてないようだ。

 

「稼働時間は?あまり長くは動けないだろうケド…」

「あー…」

詳細を聞くと、だんだんと声の張りが失われていく職員。

おや、と思うも次の言葉に納得がいく。

「…今のところバッテリー稼働でして、その、良くて5分ほど…」

「え…」

思った以上に短かった。

だが無理もないのかもしれない。

何せ15mはある巨体だ。

核融合炉も積まずにこんなものが5分でも動くのであれば大したものだろう。

「それと、重量が思った以上にかさばりまして…。稼働試験するたびに関節部は丸ごと交換が必要で…」

「…それ、パイロット大丈夫だったの?」

付き合わされる試験パイロットの安否が非常に気になる。

「ああ、いえ、流石に危なくて乗せられないので遠隔操縦です。…倒れでもしたら、15m上から落下するのと変わらないですし…」

「………」

どうやら、まともに稼働させるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

「ふう…」

その一方で、どこか安心したかのように胸をなでおろすトビア。

もし、X1のコピーが上手くいっていたら、既にコピーの済んでいるバタラたちへの対抗に使われる。

それは、宇宙世紀のMS戦闘がこの時代でも再現されてしまうという事だ。

そうなってしまえば、もはや技術の拡散に歯止めが利かなくなる。

互いに互いを超えようとする、際限のない競争だ。

 

「………」

「スカルハート?どうされました?」

「…いや、そう言えば、X1の装備で相談がありまして。今後の事を考えて、擬装用の外装を…」

そうなる前に、自分とX1が決着をつける。

 

隣の職員に気づかれぬよう、トビアはひそかな決意を胸にするのだった。

 

「そう言えば、新しい装備がまた試作されまして」

「…なんだろう、嫌な予感が…」

「X1の武装から着想を得まして…」

「待って?それ人が扱えるやつ?」

「重量が300㎏超えましたけどまあ大丈夫です!」

「何をもって⁉ぼく使わないよ⁉」

「え…」

「残念そうな顔したって駄目!」

 

 

 

その2.海賊の仮装

「たきな、魔法使いは流石に安直じゃなーい?」

「千束のドラキュラよりはマシです。トビアにはこっちが似合ってます」

「………」

「いいや、絶対ドラキュラだね!」

「いいえ、魔法使いです!」

「……早くしてくれない…?」

 

10月も終わりが近づく中。

この日、喫茶リコリコでは翌日に控えたハロウィンに向けての準備が進められていた。

ジャックオーランタンやゴーストのステッカーが窓に張られ、カボチャケーキといった限定メニューが並べられ、それを持ってくる店員達は各々仮装を身に纏う。

流石に1週間にも満たない短い期間だが、毎年の恒例行事であり、今年は店員が2人も増えたため色々と期待されている。

 

そんな中、どんな仮装がいいか話し合っていた中、トビアの衣装をめぐって千束とたきなが対立。

間に挟まれたトビアは深くため息をついていたのであった。

「……ていうか、海賊じゃダメなのか~?」

その様子をカウンターで見ていたクルミが声をかける。

どうやら猫がモチーフの衣装に決めたらしく、早速着込んでいた。

頭に付けた黒い猫耳カチューシャがかわいらしい。

そこはリスではなかったようだ。

 

「ぼくも最初それでいこうと思ったんだけど…」

「毎年同じだからつまんない」

「正直ありきたりすぎます」

「……だってさ」

にべもなく切り捨てられるトビア。

海賊少年、ここに来てアイデンティティの否定である。

 

「別にどれ着てもいいじゃない…。何か理由があるの~?」

衣装のカタログをめくりながら、ミズキが話しかけてくる。

いくつか候補が決まっているのかカタログに付箋がついており、どれも眼に毒そうなものばかりなのが気になる。

「だいたい、2人ともそこまで理由なんてないんじゃ…」

「ミズキ、露出度高いの着てもイイ男は釣れないからね。毎年それで失敗してるでしょ」

「というか、それ男性から普通に引かれますよね。毎年やってるんですか?正気ですか?」

ここで飛び火。

2人の容赦ないダメ出しにミズキがダウン。

的確なだけに何も言えず、座敷に突っ伏す。

 

「それにしても、いやにその衣装推すじゃないか2人とも。何か理由があるのか?」

キッチンから顔を出したミカがそう聞く。

頭には巨大なボルトを模した被り物しており、どうやらフランケンシュタインの仮装のようだ。

背が大きいこともあり、服装はいつもの和服ながら非常に似合っている。

「よくぞ聞いてくれました!説明してしんぜよう!」

「なるほど、プレゼンですね。任せてください」

「………え、これ聞かなきゃいけないやつ?」

トビア、審査員に就任。

 

「まずは私から!」

少しばかりの時間をおいて、千束が声を上げる。

…なぜか自分が選んだ衣装を着ながら

「…肩、出し過ぎじゃない?寒いよ?」

千束の衣装は悪魔モチーフのかわいらしいものだった。

ハロウィンらしくカボチャ色が良く映える。

ただ、肩が大きく出ており、少しセクシーよりではあった。

「この位で体調崩すようなやわな鍛え方してませーん。そ・れ・よ・り・も!」

言って、スケッチブックを自信満々にめくる。

「じゃーん!どうよ!」

そこには、頑張ってカタログから写して書いたであろうドラキュラ衣装を身に纏ったトビアが描かれていた。

大ぶりなマントに、きっちりしたベスト。

顔の傷に相まってなかなかよさげに見える。

付け牙でもすれば様になりそうだ。

…案の定、目はキラキラで、顎のとがり方がものすごかったが。

顔の右下に書かれた“イェア”の文字は何の意味があるのだろう。

 

「………以上ッ!」

「しかも見せるだけ見せただけ⁉」

「見た方が早いし、下手な言葉は不要!トビアにはこれが似合う!」

「なんでこれで自信があるんだよ…」

潔すぎる千束のプレゼンに、カウンターのクルミが呆れた声を出す。

「これは負けてられませんね…」

「いや、今のは火が付くほどのプレゼンじゃねーだろ⁉」

対抗心剥きだしで、静かに燃えるたきなにツッコミを入れるミズキ。

と、いうか。

「なんでたきなも着替えてるの…?」

「プレゼンのためです」

トビアの質問にしれっと答えるたきな。

大きな魔女帽子に、体を覆う黒いマント。

千束とはまた違った、露出も少ないかわいらしい衣装だ。

これにお菓子を入れたかごでも持てば、完璧だろう。

 

「…私の番ですね」

スケッチブックを手に、たきなが席を立つ。

「やっぱ絵なんだ…」

かつての真島の人相書きを思い出し、顔が引きつるトビア。

「いえ、今回は趣向を変えました」

そう言いながら、たきなはスケッチブックをめくる。

「…あ、カタログから衣装の写真、切り抜いたのね」

そこには、トビアと思しき絵の上にカタログから切り離したであろう写真が張り付けられたものがあった。

「残念ながら、私の絵は写実性よりも芸術性の方が強いようなので、確実に伝わる方法をとりました」

ふんす、と自慢げに言うたきな。

「………」

カタログ見た方が早いとは、とてもじゃないが言えそうになかった。

 

「私がお勧めするポイントは、まずは何といっても着替えるのが簡単なところです。極論、ローブと帽子さえつけていれば、下に何を着ても様になる部分が非常に合理的です」

そして始まるプレゼンテーション。

主なセールスポイントは、その手軽さ。

仮装のハードルが千束の提案したものに比べて低く、着脱も簡単だ。

「それに伴い、予算が安く抑えられます。まさにローコストハイリターン」

「ローコストて。…まあ、安く済むなら悪くはない、かな?」

 

「そして、一番のポイントは…」

少し溜めて、声高に言う。

「私とお揃いです!」

「ちょっとまったぁ⁉」

 

すかさず千束がインターセプト。

「それはもう違うじゃん⁉たきなだけのメリットじゃん⁉」

「いいえ、同じ仮装が二人いるだけでも羞恥心は薄まります。明確な利点です」

表情を変えず、しれっと答えるたきな。

「単に自分と同じ格好させたいだけでしょ⁉」

「それは千束もでしょう⁉なんですかドラキュラって!人外つながりで自分の悪魔と合わせたいだけでは⁉」

「ちっ…がうし!」

「なんですか今の間」

そして始まる言い合い。

トビアの衣装なのに本人そっちのけである。

 

「…話は終わったか?トビア」

「ミカさん?」

カウンターの奥からミカが出てくる。

手にはコーヒー豆の粉が入った袋。

「あ、配達ですか?ぼくが行きますよ?」

「そうか?なら頼もう。…あの二人は放っておいていいのか?」

トビアに手渡しながら、千束たちを見やるミカ。

「だいたい千束は…!」

「私はトビアのことを考えて…!」

あーだこーだと2人はヒートアップ。

「もうこっちのことはほったらかしだし、大丈夫です。」

「そ、そうか」

袋を受け取りながら疲れた顔のトビアに苦笑い。

「結局、衣装はどうするんだ?」

「去年と同じでお願いします。まあ、あの衣装も着替えは簡単だし、2人のリクエストがあれば着てあげますよ。じゃあ、行ってきます」

そう言いながら、カランコロンとドアの鐘を鳴らしながら店の外に出るトビア。

これは戻ってきた時大変そうだな、と他人事ながら思い見送るミカ。

 

そして振り返ると、表情を無くした千束とたきなの2人。

 

「………」

「………」

 

「ごっはぁ⁉」

この後、帰ってきたトビアが2人から“ダブルラリアットちさたき砲”を食らうことになるのだが、それはまた別の話。

 

「他に何かいい衣装は無いの?」

「そうですね…、これなんかどうです?」

「…なんだ、このカボチャと黒タイツ」

「反省を促すカボチャマスクだそうです」

「なんて?」

「これを着て反省を促すダンスを踊るのがベストだそうです」

「だからなんて???」

 




いつもの筆者メモ

その1.
・DAの装備工廠→独自設定。流石に全部が全部自社開発ではないだろうケド、性質上ありそうだなぁって。
・テンション高めの職員→職人に対する熱い偏見に基づきこんなキャラに…。好きな整備士はシゲさんです。
・クロスボーンもどき→バタラも出しちゃったし、別にいいかな?って。フリントと違いガワはX1とほぼ一緒。
・稼働時間→元ネタは実写版パ〇レイバー。むしろあんなデカいものが5分も動けるのは結構すごいと思う。
・重量→あのサイズで9.5tはありえないでしょ…。善美重量でも24.5tて。
・倒れたら…→子供の時から私が抱いていた感想でもあります。なんでぶっ倒れた時無事なの?パイロット…。

・新装備→ぶっちゃけ書きたかっただけ。本編に出せるかどうかは私の技量次第。

その2
・ハロウィン→あのくらいの喫茶店ならやっててもおかしくないかな?って。
・クルミの衣装→似合うと思うの。
・ミカのフランケン→似合うと思うの。
・千束の衣装→日中はともかく、この時期にしては寒くない?
・イェア→ボイス出せ。
・ドラキュラ→最近某サバイバーにはまって、つい…。なお、厳密にはヴァンパイアとは全く別なんだとか。まあ、串刺し公なんて呼ばれてるケド、別に血をすすってたわけでも何でもないですしね?
・プレゼン→わりかしインパクトが大事。筆者はGセルフのデザイン会議の時のあきまんさんのプレゼンが大好き。(ラジオで聞いた)
・たきなの衣装→正直この位の衣装のが好み。
・魔法使い→とりあえずローブに帽子、杖にワイシャツでそれっぽくはなる。
・お揃い→この位ならかわいいものです。
・ダブルラリアット→俗に言うツープラトンの一種。ボカロやザンギじゃないっスよ?

・反省を促す…→トビア君たちの時代、マフティー動乱はどう伝わっているのやら。一応スパロボVでは軽く言及がありましたが…。

・ついで→モナームだったか…(前回のネタ)

改めまして、お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。
まさか5か月近く伸びるとは…。
待ってくれた方々には感謝しかありません。

まだまだ仕事も忙しいので、この先不透明なのですが、
更新速度を上げていけるよう頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願いします。

それでは皆様、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけると幸いです。


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#27海賊と出稼ぎ①

ちょっと出張先のルビコンから戻ってきたので初投稿です。

初アーマードコアでしたが意外と遊べました。
あんなヘタクソだったのに3週できるんだもんなぁ…(遠い目)

ごす、エア、戦友、自称企業、ドンマイグアス…
キャラクターの顔も出ないのに、よくもまああんなに濃ゆいキャラクター出せるもんだなぁ。

さて、今回はある意味伝説のパフェ回となります。

ほんの少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。
それでは、どうぞ。

え、1日の飲酒量、ビール500ml…?
今私の横に転がってるのは、300ml4缶…⁉


1.

 

海もほど近い、草原と巨大な施設がある島。

この島に、聞きなれない足音が響く。

それは、3本指の動きがぎこちない両腕で大きなコンテナを掴み、工場のような施設の前へ運んでいく。

高さは見上げるほどの巨体で、15m以上はある。

正面は、のっぺりとしたクラゲのような上半身と、その真ん中にはレールの上を左右に動く一つ目。

背中には丸い筒状の大きなパーツが斜め下に引っ付いている。

全体的に野暮ったいかと思えば、下半身は人の足のようになっており、上半身に比べて随分とスタイリッシュだ。

 

見る者が見れば、“なにか上に被せている”という事がまるわかりな鋼鉄の巨人。

この巨人の中で、ヘルメットにツナギ姿の少年がため息一つ。

 

『トビア君、そのコンテナで今日はおしまいだ。早めに上がってくれて大丈夫だよ』

「はい、分かりました。お疲れ様です」

通信に答え、コンテナを設置し終えると、首にかけていたタオルで額をぬぐう。

いつもよりも視界が狭く、独特の緊張感に気疲れを感じていたトビアは、作業を終わらせると機体を格納庫へ戻し、コックピットから顔を出す。

「お疲れ!」

「流石に早いな、助かるよ!」

「この分ならスケジュールもだいぶ早まるよ!」

「お疲れ様でーす!」

トビアに気づいた作業員が口々に感謝を伝えてくる。

初日の困惑した表情が嘘のようだ。

 

ここは、種子島宇宙センター。

日本で最大の宇宙ロケット発射場である。

夕日に照らされたロケットガレージ、そのすぐ傍に仮設で建てられた格納庫の前でトビアは大きく伸びする。

「ん~~~…!さて、みんなはちゃんと稼げているかな…?」

胸ポケットに忍ばせていた携帯を取り出し、電話を掛ける。

なぜ自分がここでロケットの打ち上げに関わっているのか、その原因を思い返しながら。

 

ある日の喫茶リコリコ。

この日も看板娘の千束が元気に注文をとっている。

「へいお待ちぃ‼」

「居酒屋じゃないんだから…」

そう千束に返す伊藤が頼んだのは、最近千束が考案した豪勢なスペシャルパフェ。

これでもかと具材を載せて、たった1200円ぽっきり。

正直、喫茶リコリコで一番の高額商品ではあるのだが、これでも採算が合っていないぐらいには安く抑えている。

「お、昼から飲めるのかい?」

居酒屋というワードに反応して阿部がそう返す。

「ありますよー?ミズキの飲みかけ」

「阿部さん…!勤務中ですよ…!」

一緒に来店していた後輩の三谷にたしなめられる阿部。

悪い悪い、と言いつつ千束に注文。

「にしても、今回のパフェは一段と大きいな…。じゃあ、あのパフェ2つ頼むよ」

「喜んで―!あ、北村さんもいかが?」

「お、食べる食べる」

「俺もいいかい?」

「なら、私も!ブレンドお替りも一緒に!」

「おお、スペシャル5丁追加にブレンドね!毎度ありぃ!トビア、先生!」

自分が考えたパフェが大盛況だ。

千束は嬉しそうに厨房へと注文を伝える。

 

「はいはいっとぉ…。あれ、たきな?」

「トビア…」

まあ、味はいいし見た目も華やかだしなぁ、と考えていたトビアにたきなが遠慮がちに話しかける。

「このままだと、マズいです」

「?マズい、て言うと…まさか」

だんだんトビアの顔が引きつっていく。

その表情に、神妙な顔をしたたきなが頷きながら、一言。

 

「赤字です」

 

事の発端は、たきなのこんなつぶやきだった。

 

 

 

2.

 

営業終了後、座敷に置かれたノートPCを全員で囲む。

今月の収支に、経費で落ちていく項目、さらに依頼で稼いだ報酬額と、その経費。

そう言った項目を表計算ソフトで計算していった結果…。

「…ものの見事に、赤字だね…」

絞り出すように、トビアがぽつり。

 

「依頼の報酬を合算してこれですよ?弾丸や仕事でかかる経費はどうしてるんですか」

「DAから千束の活動費として支援金が出てるのよ。リコリスの活動費って名目ね」

たきなの疑問にミズキが答える。

「完全に足が出てるじゃないですか…」

深くため息。

「大体、こいつがバカ高い弾丸使いまくるからよ!」

「あのパフェもぶっちゃけ採算度外視だし…」

「クリーナーも頼みまくってるもんな」

ミズキ、トビア、クルミの千束への連続攻撃。

「…あの弾丸、そんなに高価なんですか?」

「1発で9㎜パラベラムの4倍よ、あれ」

余りの額に、呆れ顔。

「あれだけ独立を謳いながらも、実費はDA持ちだったと…」

そして最後に、たきなのとどめ。

「楠木さんみたいなこと言わないでよ⁉うわーん!」

千束は泣いた。

「ていうか!トビアも弾使ってるじゃん!なんで私だけ⁉」

半べそでトビアを指差す。

「いや、トビアあんまり銃使いませんし…。なんだったら誰よりもお金かけてないですケド…」

「正直撃つより殴った方が早いし」

「そう言えばそうだった…!味方がいねぇ…⁉」

ついでに言えば、彼の防弾コートやシートは思いっきり自腹だ。

「……わかりました」

深く息をつくと、たきなは声高に宣言する。

「これから私が経理を担当します!」

 

ここに、リコリコ財政大改革が始まった。

 

〈…で、こちらに実入りのいい仕事を紹介してほしい、と。いっそ清々しいほどの頼りっぷりだな?スカルハート〉

「いや、返す言葉も、ございません…」

トビアは電話の向こうに額に青筋を浮かべた楠木を幻視した。

 

宣言の後、たきなは現在のリコリコの問題点を徹底的に洗い出していた。

ズボラなミズキの冷蔵庫の開けっ放し、クルミのドジによる皿の破損、ミカのレジ打ちの遅さに起因する店の回転率の悪さ。

千束は喫茶店業務に対しては満点であったが、依頼に際しての弾丸消費量とクリーナーによる出費が顕著であった。

特にクリーナーの現状復帰にかかる費用が群を抜いていたので、現在はあまり現場を荒らさないための戦術転換に迫られており、あーでもないこーでもないと頭を悩ませている。

 

そして肝心のトビアは、裏も表もそつなくこなしていることから特に改善点はなかったため、稼げそうな仕事はないかとDAに連絡を取っている最中だ。

〈というか、そういうことを直接私に聴くのはどうなんだ?〉

「いや、その、初めは普通に担当のオペレーターさんに連絡したんですケド…」

“それなら司令にお繋ぎしますね!”といい声で言われてしまい、遠慮する暇もなく直通。

正直トビアも困っていた。

〈…はあ、それで、なんだ。稼げそうな任務だったか?あいにくだが間に合っている〉

「ですよねー」

まあ、ダメもとだったのだ。

最悪、がむしゃらにアルバイトを入れるか、はたまた投資に手を出すか…。

〈…と、いいところだが。運が良かったな、スカルハート。お前に直接指名だ〉

「……はえ?」

予想外の言葉に、変な声が漏れる。

「それは?いったい…」

〈DAに技術を下ろしてもらってる種子島からだ。今度打ち上げるロケットに組み立て作業の遅れが出てきているようでな、X1の力を是非とも借りたいそうだ〉

「え、X1を⁉」

今度こそ驚きを隠せない。

相手が相手なので、軍事転用目的ではなさそうだが、まさかX1の力を求められるとは。

「そもそもX1を表に出してもいいんですか?下手したら大パニックになるんじゃ…」

〈以前、お前が注文を出していた偽装装甲が完成してな。今回は今後を見据えて、こちらの事情を知る者の監督下での運用試験、という事だ〉

 

今後。

おそらくこの前に見せられたクロスボーンのコピーの運用を指しているのだろう。

確かに今回のように偽装を施していれば、特殊作業重機だとなんとか押し通して運用できる…?。

「…15mで人型の重機は無理ありません?」

言ってて不安になってきた。

大丈夫だろうか、この仕事。

〈それを含めた試験、だ。日程と詳細は追って伝える、ではな〉

 

ブツッ

音を立てて切れる電話。

あの口ぶりでは、もうやることが決定しているらしい。

 

スマホをしまい、しばし無言の後、軽くため息。

「……やるかぁ」

トビア、種子島で出稼ぎ決定。

 

 

 

3.

 

〈…でね!たきなが合格点出してくれてさ!いやー、私ってばカンフーの才能もあったみたいでさー〉

「案外、どうにかなってるようで何より」

 

電話口にて、千束が自分が種子島に向かってからのリコリコの様子を教えてくれている。

今回は爆弾解除の依頼の終わりに依頼主に料金をちょろまかされそうになったようで、たきなが中途半端に解除されていない爆弾を手に交渉したそうな。

千束の方も、弾薬の消費を抑えるために近接格闘で制圧できたようで、それは嬉しそうに報告してくる。

〈トビアの方はどお?うまくやれてる?〉

「うん、最初こそ大変だったケド、今はちゃんと馴染めてるよ。作業自体も早く終わりそうでいくらか手当も付きそう」

〈さっすが!〉

最初のころはまあ、信用はされていなかった。

なにせ、巨大人型特殊作業重機とそのパイロット。

いかに現物があろうと胡散臭いことこの上ない。

その上こちらの見た目は完璧に10代半ば。

信用しろという方に無理があった。

それでも組み立て作業の補助に入ると評価は一変。

ただパーツを港から持っていくだけでも車両に積み替えて運ぶよりも早く、大きさもあるからそのまま組み立ての作業やその補助にも入れる。

「でも、視界が狭くて結構神経使うから大変かな?」

〈…さすがの私もあの写真見て、笑うよりもぽかんとしたなぁ…〉

言って格納庫のX1を見やる。

ブラックロー運送の時に使用した偽装装甲そのまんまを頼んでいたのだが、流石に性能までそのままとはいかず、特にセンサー周りやカメラに苦労した。

それにしても別の意味でインパクト大の姿をしている。

どことなく、ベルナデットが乗せられていた、総統のバイオ脳付きMAに似ている気もするが、どうだろう?

 

〈…そういえば、X1どうやって運んだの?まさかあの格好のまま飛んで…?〉

「いやいやいや…。ていうかこの状態じゃ飛べないから…」

運び方としては、事前に鹿児島近海に偽装装甲を載せたタンカーを用意。

そこまでは自力で飛んで、船に着艦ののちに装甲を装備。

あとはそのままタンカーで運ぶといった具合だ。

 

〈はえー、結構手間暇かけましたなー。あ、じゃあそろそろ電話切るね。明日は新メニュー会議だし、またかけるね〉

「変な案出すなよ?じゃあ、また」

通話終了。

果たしてどんなメニューが飛び出すのか、楽しみやら不安やら。

「やあ、トビア君。今日もお疲れ様」

「…鈴木さん、はい、お疲れさまでした」

自身にかけられる声にトビアが顔を向けると、一人の小柄な老人がこちらの側にまで歩いてきていた。

彼の名前は鈴木実。

DAの事情を知る、数少ない種子島宇宙センターの職員だ。

「…最近は減ったけど、私を見るたびに微妙な顔をするのはなぜなんだい?」

「え゛。…あ、まあ、じつは知り合いにそっくりな人がいまして、ははは…」

…名前といい、容姿といい、どうしてもあの作戦の仲間の1人を思い出させるせいで、トビアとしてはぎこちなさが出てしまうのが悩みどころである。

「さっきの電話は、君の仲間かい?」

「ええ、少し心配だったんですけど、何事もなかったみたいで…」

そこまで聞いて、鈴木が冗談交じりにぽつり。

「…DAの喫茶店なんて、何の冗談かと思ったが、存外普通のお店みたいだね?」

どうも電話の内容を聞かれていたらしい。

 

「そう言えば、鈴木さんはどこでDAと関わりを?」

ふと、気になったことを聞いてみる。

正直な所、鈴木自体はベテランではあるものの組織の中核にはいない。

今回の依頼も鈴木が関わったわけでもない。

存在自体が機密だらけのDAをどこで知ったのだろう。

「…そうだね、あれはもう14・5年以上は昔になりますか。ウチへ国が予算をあまり上げてくれなくなった時がありまして…」

話としてはこうだ。

実施中のものも含めいくつかの探査プロジェクトを控えていた種子島だったが、時の政権交代のあおりを受け、大幅に予算が減らされていたとのこと。

「今あの人達に“例の質問”を聞いてみたいところだねぇ」

「………」

ふふふふふふふ。

スズキの黒い笑みにトビアは何も言えなかった。

それはさておき、どうにか予算を確保したい彼らに資金提供を持ちかけたのがDAだったとのこと。

「その交換条件として、こちらの技術提供を求められましてね…。私はその時の技術スタッフとして関わったのですよ」

「なるほど…」

DAの持つ超技術のルーツが見えた気がした。

考えてみれば、何もおかしな話ではない。

エアバック機能まで持たせた多機能過ぎる武装鞄に、ワイヤーガンといった特殊武装。

そして何より、自分が愛用する防弾コート。

そういった装備の源流がここにあったという事だろう。

 

 

「…しかし、君は本当にDAなのかい?さっきの電話といい、どうにもらしくないというか…」

「あ、ははは…」

心底不思議そうな顔を向けてくる鈴木。

DAがどういう組織か理解しているからこその反応だ。

(やっぱり思う所はあるよな…)

自分たちの宇宙へと向かうための技術が、年端もいかない子供たちが人を殺すために使われる。

腸が煮えくり返るような思いに違いなかった。

そんなところからやってくる人間なんて、とてもじゃないが信用なんてできなかっただろう。

 

「世代は変わった、という事かね?」

最初の頃よりも険が取れた取れた顔で、鈴木が笑いかける。

「まあ、ぼくらは特殊でして…。鈴木さんも東京にいらしたときは是非来てください」

そう言って、鈴木にリコリコの名刺を渡すトビア。

「錦糸町じゃあ、それなりに名の売れてる喫茶店なんですよ、ウチ」

「…つくづくらしくないねぇ。分かったよ、楽しみにしてる」

そう答える鈴木は、柔らかな笑顔だった。

 

「…トビア君、この話題の喫茶店てもしかして…」

「…………いったい?何が、どうして……?」

後日、“下品なパフェを出す喫茶店”とSNSでバズるリコリコを見つけ、白目をむくトビアの姿がそこにあった

 




恒例の筆者メモ

1.
・働くモビルスーツ→実はずっとやりたかったネタ。当初は宇宙で働かせるつもりでした(無謀)
・種子島→困ったときのJ〇XA。

・スペシャルパフェ→あの量はもう食べられないなぁ。…若いときに食えるものは食っとくべきだなぁ(後悔)
・そんなパフェを注文する常連の皆さん→胃袋頑丈すぎない…?

2.
・弾丸の値段→1発だいたい21~50円前後。これの4倍といってもそんなに高く感じないかもしれないが、拳銃の1マガジン装弾数が大体15~18くらいなので結構な出費。
・たきな財政改革→経理もうそうだしお金に関わる仕事はある意味一種の才能が必要です。だからこそ、ココのたきなちゃんが凄すぎる。
・楠木直通→オペレーターさんのトビアに対する信頼が厚すぎる。
・15mの人型重機→明らかにデカすぎる。レイバーでさえ4~8m前後だってのに…。

3.
・ロケット組み立て→横に倒したまま作って、その後立てるのがセオリー。
・偽装のデザイン→クラゲっぽいし、エレゴレラとなんか関係がありそうな、なさそうな…。
・鈴木さん→やりたかったネタその2。ただ、こういうことをして違和感がないキャラクターってスズキさんかウモン爺さん位なので難しいものです。
・例の質問→あんまりそのまんま書くと、特定の個人・団体に対する誹謗中傷につながりかねないのでぼかしました。分からない人は、政権交代 仕分けで検索だ!…ぼかした意味無くなったぁ⁉(怒られたら消します)
・DAの装備の源流→やはり困ったときのJ〇XA。まあ、N〇SAもそういう事してるし、いいよね?の精神。

・下品なパフェ→こんなネタを百合アニメでやるスタッフさんは本当に頭がおかしいと思う。(誉め言葉)

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
後半は近日投稿予定です。
まーた長引いてしまった…。

それでは、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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#28海賊と出稼ぎ②

ロボット魂のアンカー見てきたので初投稿です。

用事があって秋葉原まで行って来たのですが、イカリマルデカすぎない…?サーベルエフェクト大ぶりなナイフぐらいはあったんだけど…?

さて、今回は前話の後半となります。
近日…ギリ近日中にという予定が守れそうで一安心。
今週職場に局の監査入ってバカ忙しかったんスよ…許して、許してクレメンス…。

ほんの少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それではどうぞ。

…吞みながら三世〇正のプラモ作ってたら、血まみれになっちゃった…。どうしよ…これ…。


4.

 

「…なんかもうすいませんでした!」

「怒ってるわけじゃなくて、困惑が勝ってるんだけど…?」

トビアが種子島から帰ってきた日、千束は彼を迎えにX1の格納庫を訪れていた。

 

「しっかし、なんであんなパフェが…?」

「いやあ、たきなの天然が炸裂しまして…」

下品なパフェ、もといホットチョコレートパフェ。

これから肌寒くなる季節にぴったりの新メニューとしてたきなが考案したものだ。

その特徴は何と言っても強烈な見た目。

皿に盛られたとぐろを巻くチョコレートにホカホカのチョコレートソースが存在感を放つ。

性質が悪いことに、味がしっかりしていることもあり“見た目とのギャップが強烈!”とSNSでバズっていた。

「おかげさまで大繁盛で…、具体的にはロボット店員や食洗器、レコード買えるくらいには余裕ができまして…」

「予想外にもほどがある」

真顔でツッコむトビア。

因みにたきなはそんな風に言われているとはつゆも思わず、ほくほく顔で売上表を見ていた。

 

「気を取り直して…、トビア、この後ファミレスでもどう?私ちょっとおなか減っちゃったなー…」

あはは、とお腹をさする千束。

目線が泳ぎ、どことなく嘘くさく感じる仕草だ。

「……ああ、そんな時期か」

呆れたように息をつくトビア。

…実を言うと、彼の出迎えに来たのは、これが目的でもあった。

「…まあ、ぼくもお昼まだだし、いいよ。ただし、山岸先生の所はちゃんと着いてくからね」

「…はぁーい」

つまりはそういう事である。

 

「いい加減一人で行けるようになってよ…」

「…怖いものは怖いんだよ…」

そっぽを向きながら行きつけの店へと歩を進める千束。

正直、自分でも恥ずかしいとは思ってはいるものの、恐怖が勝ってしまっている。

この時期、毎年トビアに付き添ってもらわないと、山岸の病院まで行くこともできないのもいつも通りだ。

「まったく…。そんなんじゃ海賊に来てもやってけないぞー?」

「行く予定無いから別に…。ていうか、海賊でもそういう事やってたの?」

「指紋とか変えてた」

「何のために⁉」

トビアがなかなかに恐ろしいことを言ってきた。

「木星のコロニーに潜入するためにね…。もっともその当時は入りたてだったし、ぼくの身分が必要だったからその措置受けたのは先輩だったケドね?」

さらに言うと、戦死した木星の兵士の手から数字のタトゥーも写したとか。

「宇宙世紀こわい」

「そもそも宇宙なんて過酷な所で生きてるんだから、そのぐらいどおってことないよ」

宇宙世紀人がタフすぎる…。

 

そうこうしているうちに、目的の店へとたどり着く。

「うわ…ちょっと予想外…。どうしよ?」

「まずはお店に聴こう。店員さーん?」

もう昼過ぎだというのに、店内は混みあっていた。

幸いにもほかに待っている客はおらず、とりあえず座れるかどうかを確認しようとトビアが店員を呼び出す。

「すみません、2人なんですけど…」

「申し訳ございません、ただいま大変混雑しておりまして…。ほかのお客様との相席となってしまいますが、よろしいでしょうか?」

「あ、全然大丈夫です。ね?」

「うん、お願いします」

申し訳なさそうにそう返す店員に対し、構わないと答える2人。

「それでは、相席してくださるお客様を探してまいりますので、少しおまちくださ…」

 

「おーい、こっち空いてるから来てもらえよー」

 

「「…はぁ⁉」」

今とんでもなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あ、あちらのお客様が大丈夫そうですね…。ご案内します」

「「………」」

気のせいであってほしい。

そんな気持ちを隠そうともせず店員について行く2人。

表情が引きつっていくのが自分でよく分かる。

 

「よぉ、久しぶりぃ。今日は男連れか?」

「「うっそだろお前…!」」

 

その席には、非常に見覚えのある緑髪の男が、軽薄な笑顔を浮かべながら待ち構えていた。

 

沢山のお客さんが入り、賑わいを見せる喫茶リコリコ。

特に若い女性が多く、皆一様に例のパフェを頼んではその凶悪なビジュアルに腹を抱え、写真を撮ってSNSに上げたのち、そのおいしさに驚きながらも舌鼓を打つ。

『オマタセシマシター、ドウゾ―』

余りの盛況ぶりに、急遽導入した配膳ロボット通称ロボリコまで使い商品を運んでいくリコリコの面々。

 

そんな忙しい時間が過ぎ、休憩といったところで奥の座敷にてノートPCを前に頭を突っ伏している少女が一人。

「……………」

「たきなー、元気出せー」

「…………もう、あのパフェ、やめます……。トビアに顔向けできない……」

「こりゃ重症ねー…」

このパフェの考案者であるたきなである。

 

きっかけは些細なものであった。

余りの盛況ぶりにSNSやネットで評判を調べた結果、人気の理由が発覚。

自分としては真面目に考案した商品なだけにショックも大きかった。

「……もう、そのパフェ処分しておいてください…」

『オマカセ―』

「…まてまてまて!トイレに行くな!流すな‼つまるぅう⁉」

たきなの指示を受けたロボリコがトイレに向かおうとするのを必死に止めるミズキ。

なんかもうどこもかしこも混沌としていた。

 

Prrrrrr

「おい、スマホ鳴ってるぞ、たきな?」

「………」

のそりと腕を伸ばし、傍に置いてあるスマホを掴み、タップ。

「…もしもし、たきなです…」

〈ああ、たきなちゃん?山岸よ。千束はそこに居る?〉

電話はリコリス担当医の山岸からだった。

「?千束なら、トビアを迎えに行ったのちに病院へ向かうと聞きましたが…」

〈それがまだ来ないのよ。電話にも出ないし、トビアの方も連絡なし。悪いけど、あなたからもけてみてくれない?〉

「分かりました」

今日は千束の定期検診があり、そのついでに種子島から戻ってくるトビアを迎えるとのことだったが、まだ来ていないうえに音信不通らしい。

何か連絡は来ていないかとスマホを確認すると、30分ほど前に千束から“トビアとファミレス寄って来ます!”と言う文言とともにお店の住所のリンクがトークアプリに張り付けられていた。

「……検診前に何か食べていくつもりですか…?」

呆れながらも、千束の連絡先をタップするたきな。

大方、そんな寄り道が長引いているのだろう。

「もしもし?千束、検診行ってないんですか?まだ道草ですか?」

〈…ゴメン、野暮用ができちゃって。山岸先生には遅れるって伝えといて。じゃ〉

ぷつっ。

千束がいやに早口でそう言うと、すぐにつながらなくなった。

「……いったい何が?」

不自然な感じがする。

まるで、余裕がないような…。

「…まずは、確認しないと…」

そう思い立ち、席を立つ。

 

「何事もなければいいのですが…」

準備を終え、リコリコの外へと向かうたきな。

言いようのない不安は、どこか懐かしく。

思い返すのは、

 

「…何だか数か月前の騒動を思い出しますね…」

 

 

 

5.

 

「そんな警戒すんなって、ここじゃ何もしねぇよ。あのリコリスにこの前負けてるしな」

「………」

「あの弾避けはどうやってんだか…。やっぱ、ココに種でもあるんかね?」

そう言いながら、胸のあたりをトントン、と小突く男。

「………」

「いやぁ、しっかしとんだ偶然だな?まさかお前にも会えるなんてよ?」

「…ぼくとあなたは初対面のはずでは?」

「そうつれないこと言うなよ、…“海賊”?俺のことは分かるか?」

 

とんだランチとなってしまった。

今のトビアはそんな心境でいっぱいだった。

 

千束に誘われて入った店で相席になった、目の前でガムシロップを入れたコーヒーを啜る男。

特徴的な緑髪に、据わった目。

軽薄そうなアロハに黒のアウターを身に纏っている。

以前に千束を追い詰めた、ツナギの集団の親玉。

たしか、名前は…

「…真島」

「おっ、何だよ知ってるじゃねぇか。この前は世話になったな?」

そう言いながら、左腕を指差し笑って見せる真島。

どことなく楽し気な表情だ。

 

「電話は終わりか?ダメだぜ?健康診断はちゃんといかないと」

「…お前に言われる筋合い、無いんだけど」

少し離れて電話をかけていた千束が席に戻ってくる。

いつでも真島に対して行動を起こせるように、席の端に位置取る。

ついでなのか、ドリンクバーで取ってきた2人分のコーヒーを手に持っていた。

「で、どうしてここにいる?」

「だから偶然だって」

飲み終え、カップを皿に置く真島。

ご丁寧にナプキンで口を拭いている。

「ま、もともとはお前に会いに来たんだけどな?リコリス」

「私に?」

「お前の部屋は分かってたからな、行ってみたんだ。でもだーれも出て来やしねぇ。物音一つもしないし、出直すかと思ってここに寄って飯を食ってたらドンピシャッ!ってとこ」

「まず普通に部屋割れてるのが怖すぎんだけど」

一気に警戒を強める千束。

もしかしなくても、トビアとたきなが千束宅に泊まり込んでいた時のあれが原因だろう。

「てか、なんで私?」

「なに、ちょっとした確認にな。……お前、俺のこと覚えてるか?」

「…は?車で轢かれて唾かけられて殴られたんだけど」

「それより前だよ」

「前…?」

本当に心当たるがなさそうな千束。

確かにこんなのに前に会っていたなら気づきそうなものだ。

「ちょっとヒントでも出そうか?…10年前、電波塔」

「……はあ⁉あんたあそこに居たの⁉」

 

そこで語られるのは、真島から見た電波塔の英雄の姿。

仲間が何人もいて、索敵も充分で、スモークも焚いて身の回りも万全。

なのに、一方的に蹂躙され、終いには自分もやられた。

しばらくしてから意識を取り戻し、苦し紛れの起爆。

どんな結果を得られたか、正確に把握もできずにまた意識が落ちる。

そんな、負けた記憶の昔話。

 

「まあ、確認はそれだけじゃないんだが…。どうだ、思い出したか?」

「ぜんっぜん!お前の事なんか知るか…人のこと化け物みたいに言いやがって…!」

語気を強め、真島を睨みつける千束。

対する真島は、納得したるかのように笑って見せる。

「ははは、だろうなぁ。と・こ・ろ・で…」

そう言って、ポケットを探り中から何かを取り出そうとする。

一気に警戒を強める2人を余所に、真島はそれを見せつけながら笑う。

 

「じゃーん、俺も持ってるんだよなぁ、これ」

「な、ん…⁉」

「…‼」

 

その手に握られているのは、フクロウを象ったペンダント。

千束が首にかけたものと同じだ。

「なんで、それを持っておいて…」

「あん?」

「なんであんなこと…!」

隣に座る千束が目を吊り上げる。

相当頭に来ているようで、声のボリュームを下げてはいるもののドスが強まっている。

「それを持ってるってことは、アンタにもすごい才能があるんでしょ…。誰かを、世界を幸せにするような…」

 

でも

「アンタがしてるのは、その真逆…!たくさん傷つけて、たくさん壊して…!!」

「お前だってこっち側だろ。何人傷つけてきた」

千束の言葉に冷徹に返す真島。

何を言ってるのか分からないといった表情だ。

「一緒にするな…!私は人助けしてる…!」

「…お前、アランの事相当いいとこだと思ってるんだな」

ペンダントを胸元のポケットにしまうと、ふう、と一息つく真島。

「ニュースでも鵜吞みにしたか?メダリスト養成機関じゃねぇからな?」

バカにしたような、諭すような声音だ。

「…何を言われようと、私にはヨシさんとの約束がある…!」

そう言いながら、胸元のペンダントを握りしめる千束。

「…“ヨシさん”?接触したのか?支援者と?…もしかして、お前アランと繋がりが…?」

彼女の言葉を聞き、驚いたのか真島の表情が変わった。

(?……あ)

その顔を見たトビアは、一つ関係がありそうな事柄を思い出す。

“アランはチルドレンに対し、支援を行ったと認めることはできない。”

あの夜、吉松からそう伝えられたと千束から聞いた話だ。

つまり、原則としてアランチルドレンたちは支援してくれた人間を知らされることはなく、接触も最初と支援時のみということだ。

 

そして、偶然とはいえ知ることとなった千束は特例中の特例だ。

そもそもが、支援者である吉松が彼女と接触したのが原因であって、他のチルドレンとは違う、特別扱いそのものだ。

真島の表情の変化は、そのことに関してなのか。

それとも、

 

「自分と同じだから…?」

 

そう、呟いてしまったがためか。

真島はトビアの方を向くと、今まで見たこともないような満面の笑みを見せてきた。

 

「へえ…!やっぱすげえな、海賊。そこまで読めるのか…!」

面白いおもちゃを見つけたかのような、そんな声音だ。

「トビアっ、それってどういう…!」

「たぶん真島にも接触があったんだ、直接か間接かは分からないけど。そして、その理由が…」

 

「こいつが言ったとおりだ、リコリス。俺もお前も、アランに見出されたのは、支援者が様子を見に来ないと分かりにくい才能」

真島がトビアに被せて話しかけてくる。

 

「…殺しの、才能さ」

「絶対、違う」

彼の言葉に毅然として言い返す千束。

「アンタが何を言おうと、私はやりたいようにやるだけ。トビアやみんなと一緒に」

まっすぐ見つめ返すその瞳は、力強いものだった。

 

「はっ、…いいね、いいものが見れた」

そう言うと、伝票を持ち立ち上がる真島。

「待て、帰る気か?…帰れると?」

トビアは懐に忍ばせた銃に手を添える。

「ああ、お前たちの相棒が来たからな」

真島は何ともないかのように応える。

「それと…」

そこまで言うと彼は軽く手を上げる。

すると、店内のあちこちから男たちが席を立つ。

「!まさか…!」

「帰してくれりゃ、何もしねえさ。もっとも、…俺たちは一向にかまわないぜ?」

 

やられた。

初めから複数で来ていたのだ。

少ないとはいえ、店内の客を人質にするには充分な数だ。

 

「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」

「連れが二人いまして、どの席に…!」

店の出入口に新しい客が入る。

たきなだ。

千束のメッセージと電話から確認のため来たらしい。

こちらを見て目を見開いている。

 

「じゃあ、またな。電波塔のリコリスに、海賊。…近いうちに遊ぼうぜ?」

そう言いながら、余裕しゃくしゃくといった風に男たちを引き連れながら店外へと向かう真島。

そこでたきなが対峙するが、公衆の面前で銃を抜くわけにはいかず見過ごすしかない。

 

まるで嵐のような時間だった。

「……は、あ…」

一気に疲れが来る。

知らずの間に力が入っていたらしく、銃に触れる手がこわばっていた。

「千束…」

「大丈夫。…私は、平気」

様子を見ようとトビアが顔を向けると、少し俯く千束。

ああは言ったが、やはり多少なりとも思う所があったようだ。

 

「無理だけは、しないで」

溜まらずそう声をかける。

色々なことが起き過ぎた。

少し落ち着く必要があるだろう。

 

「とりあえず、ここを出て……」

「トビア」

 

店外に出るように声をかけると同時に、聞き覚えのある声が耳に入る。

ゆっくり顔を向けると、久しぶりに見る相棒の姿が無表情で立っていた。

 

「とにかくリコリコに戻りますよ。ざっくりといいので、道すがらなにがあったか教えてください」

 

たきなのいつもよりも3倍増しの迫力に気おされながら、トビアは千束を促しファミレスを後にするのであった。

 

「…え、支払い済み…?」

なお、トビアと千束の分のコーヒー代は真島が律儀に払っていったそうな。

 

「真島とコーヒー飲んでたぁ⁉」

喫茶リコリコにて。

 

あの後、山岸の診療所は翌日にしてもらい、報告を兼ねてまっすぐ帰った一同。

ファミレスでのあらましを聞いてミズキが叫ぶ。

 

「で、やったのか?たきな?」

「他人の目が多く、何もできませんでした…」

真島を倒せたのか、クルミが問いかけるも無念そうに答えるたきな。

ただ、他に人がいなかったとして確実に始末できたかといわれると、それも自信がない。

そんな不気味さを感じた。

 

「…あいつも、これ持ってた」

千束がポツリと、首にかけるフクロウのペンダントに手をかけながらつぶやいた。

 

『…え!?』

トビアを除く一同が驚愕する。

「あいつにどんな才能があるってのよ!」

「テロリストも支援されるんですか⁉」

支援を受けたアランチルドレンたちは、普段ニュースでオリンピックやそれに準じた大会でしか活躍を聞かないため、驚きが隠せない。

「ミカ、お前の恋人は何か…」

「ふっ!」

クルミが余計なことを聞かないうちに、ミズキの恐ろしく鋭い手刀が首に入る。

ぐらりと頭をゆらし、シャットダウン。

本当にこの人は情報部なのだろうか。

「どうせ拾いものでしょ、あんなの…。ヨシさんが、…ヨシさん達がそんな連中支援するはずがない…」

「千束…」

言い聞かせるかのように千束がつぶやく。

それを見て、トビアが心配そうに肩に手を置く。

「そうでしょ、先生。…先生?」

同意を求めるようにミカに話しかける千束。

だが、肝心の彼は心ここにあらずだ。

「……あ、ああ。そう、だな」

話自体は聞いていたらしく、何とか受け答えするミカ。

どことなくぎこちない。

 

「…何にせよ、あいつは近々また遊ぼうなんて言って来た…」

ここでトビアがつぶやく。

「今度は直接こちらを狙って来る、気を引き締めていこう」

「そうですね…、でしたら一つ決めごとをしましょう」

たきながこんなことを言う。

「決めごと?」

「千束!」

「は、はい⁉」

ば、と千束に向き合う。

「私からの電話は3コール以内に出てください!出ない場合は次のワン切りですぐに向かう通知とします!トビアも!」

「え?…え、おれも⁉」

ぐりん、とトビアの方を向くたきな。

「あなたの行動を制限するだけで、X1という切り札が使えなくなります!自身の重要度をしっかり自覚してください!」

「は、はい…」

余りの剣幕に頷くトビア。

 

「…このトリオのボスは、たきなね」

その様子を見て、ミズキがぽつり。

「もしくはオカ…」

「何か言いました?」

そのまま余計なことを言いそうになった彼女にぐさり。

「な、なんでもないですぅ…」

そのままリコリコのボスへとレベルアップしそうなたきなであった。

 

「………俺の店なんだがなぁ」

ミカのそんな呟きが空気に溶けていく。

 

いつもの雰囲気を保ちつつ、なにかが変わろうとしている、そんなことを感じさせた。

喫茶リコリコ、秋も深まり、冬を目前としたそんな一コマ。

 

 

 

おまけ。

「注射が怖いって…、銃向けられてもひるまない癖に…!」

「しょうがないじゃん!怖いものは怖いんだよ!」

「笑っちゃうよね、注射よりも怖いもの向けられて平気なくせにさ…!」

「はあ⁉じゃあトビアは苦手なもの無いっての⁉」

「並大抵のことは平気だよ?色々経験してきたからなぁ…」

「なにおぅ…!て、なんでそんな遠い目してるの?」

「トビア?」

「ふ、ふふ、ふふふふふ…。恩師に撃たれて、捕まって素っ裸にされたと思ったらアサルトライフル一丁持たされて、そのままガンダムと殺し合いさせられたら大体の事なんて…!」

 

「……」

「……」

「宇宙世紀」

「こわい」

 

 

 

6.

 

「ふふん、いいなぁこれ」

後日、山岸の病院にて。

待合室に座る千束は自身の鞄に付けられたフレンチブルドックのキーホルダーを見つめながら嬉しそうに微笑んでいた。

 

あの後、たきなからプレゼントされたそのキーホルダーは、先日手伝いに行った保育園で配られていたものだ。

子供たちが嬉しそうにもらっていたそれを、千束が大人げなく羨ましそうにしていたのを覚えていたらしく、せっかくだからとたきなが用意したものだ。

 

「トビアからもこれとは別に何かくれるそうだし、儲かった儲かった♪」

相棒からのプレゼントにほくほくの千束。

これから行われる定期検診を前にご褒美をもらえた気分だ。

 

「…錦木さん、お待たせしました。検査を始めます、こちらへどうぞ」

「あ、…はーい、今行きまーす」

新入りだろうか、初めて見る顔の看護師に呼ばれて席を立つ千束。

注射は相変わらず怖いけど、さっさと終わらせてトビアに催促しよう。

そんなことを考えながら歩を進める。

 

いつだって、終わりは突然だ。

 

誰もかれも教えてはくれない。

 

その時が来れば、こちらの都合なんてお構いなし。

 

この時、彼女はそのことがすっかり頭から抜け落ちていた。

 




以下、いつもの筆者メモ
4.
・困惑トビア→確かに何がどうなってあの商品が出てきたのか、疑問だと思う。
・ホットチョコレートパフェ→前も言ったケド、あのビジュアルこのアニメに出したのホントに頭おかしいと思う。
・ロボット店員→最近ファミレスとかでも見かけますね、配膳ロボとか。あと身体に障がいがある方がお仕事するための遠隔操作系ロボット店員もいたりします。視線入力で動くんだからとんでもねぇ…。
・寄り道千束→身体検査の意味なし。
・苦手なもの→この前ワクチン打ってきたケド、筆者も嫌い。
・指紋→実は現代でも手術で変えれたりします。記事を見たのが相当昔なのですが、その当時だと130万円くらいだったかな?
・宇宙→冷静に考えたら、原発なんて比じゃない量の放射線が飛んでて、水も空気も重力もない、大小さまざまな岩の塊が浮いていて、時にはすごい速度で衝突、爆発…そんな場所でコロニー作って暮らしてる宇宙世紀の住人て相当タフでは?
・ファミレスにて遭遇→トビアを絡ませるための苦肉の策。

・突っ伏すたきな→真実を知った後。子供が大好きなアレを知らないって、正直リコリスの情操教育どうなってんの?と思わなくもない。
・トイレ→流していいものだけを流しましょう。筆者は健康診断のための検尿カップをうっかり流して地獄を見ました。

5.
・VS真島→ランチ後。がっつり食べた後のイメージ。
・海賊→まあ、思いっきりスピーカー使って喋ってたし、そりゃバレるよね。
・車で轢かれて~→改めて文章にするとひどすぎる。
・10年前の真島→包帯の上にグラサンの意味が分からない…。目の手術後だったとか?でも安静にしてなくちゃまずいし…、病院抜け出して参加した?
・メダリスト養成機関→アニメの平和推進機関よばわりがちょこっと気になったので変えてみました。
・支援者の確認→この辺は私の独自解釈です。メダリストやコンクールホルダーならともかく、こういった裏の世界の人間が使命を果たしてるかどうかは分かりづらいはずなので、直接かどうかはともかく何らかの監査はあるんじゃないかなー、と。……局に監査入られたから思いついた訳じゃナイデスヨー?
・真島のお仲間→流石に一人は無いんじゃないかと。アニメのお宅訪問も一人で行くにしてはなかなかリスキーな気がする。
・何もできなかったたきな→人質兼目撃者。こういうのやりたかった(本音)
・たきなおこ→お前らまたこっちがいない所でやらかしてんな、という表情。
・伝票→こういう所は大人な印象。

・テロリストに支援→こう書くと本当にヤバい団体に聞こえるから不思議。
・ミズキの手刀→オマエ本当は元リコリスだろ。
・ミカの心ここにあらず→本当のかわいそう。
・トリオのオカン→でもこういう真面目な人が一人いるとかなり助かる。

おまけ→無印第4巻より。改めて文章に書くとすごいことされてるな、トビア君…。

6.→こういうことやりたかった(2回目)

ここまで読んでくださりありがとうございました。
例によって次回更新は未定です。
いい加減更新速度あげなくては…。



それでは皆様、またお会いする日まで。

感想・評価、いただけたら幸いです。


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