獣が統べる!<作成中> (國靜 繋)
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黄金の獣ムソウ

エスデス様が可愛すぎたので書いてしまいました。
文章も短いですがご了承ください。



11月21日一部編集


人が次第に朽ちゆくように

 

国もいずれは滅びゆく

 

千年栄えた帝都すらも

 

いまや腐敗し生き地獄

 

人の形の魑魅魍魎が我が者顔で跋扈する

 

誰が言い出した事か、市井の間で囁かれるそれは、まさに真実であり現在の帝都の姿だ。

ただただ、弱者は搾取され、気まぐれで殺され、犯される。

誰もが暴力や権力、武力、財力と言った”力”に逆らえずなすがままに流される。

そしてこの帝国で最も権力を持ち、千年帝国を破滅に誘っている男こそ、暴飲暴食の権化であり三大欲求の中でも食欲を何よりも優先している超肥満体型の男であるオネスト大臣だ。

そのオネスト大臣と長い宮殿の廊下をともに歩いているのは、獅子の鬣の様な雄々しさを持つ黄金の髪、全てを呑み込むかのような王者の瞳も、やはり黄金。

人体の黄金律を表すような肉体を持つ男こそ、帝国の帝国保安部長官兼諜報部長官である黄金の獣と言われている、ムソウだ。

 

「大臣頼まれていたものだ」

 

「さすがムソウ長官、仕事が早いですな。これで陛下もお喜びになりますぞ」

 

そう言いながら、常に何かを食べている手を止め資料を受け取ると内容をパラパラと捲り見た。

そして、資料を見終わると資料を懐へと入れ食べ始めた。

 

「内容も完璧ですぞ。これで――」

 

そう言うと、大臣はより一層悪い顔をしながらニヤケたきった表情をした。

 

「では、私はこれで失礼する。今日は街を見て回る日だからな」

 

「相変わらず酔狂ですな。部下や保安部、帝都警備隊などに任せればいいですのに」

 

「これも上の仕事だ。下の仕事を理解できずして支持は得られぬからな」

 

ムソウは狩りをする獣のような顔で言い放つと、大臣から離れて行った。

ムソウの放つ言葉は、どれもがカリスマ性を感じさせるものだ。

だが、現状はまだ明確に敵対していないものの、お互いが何れは敵になると認識しているためか、それとも自身の欲望に忠実であるからかは分からぬが、大臣にムソウのカリスマ性が上手く発揮していない。

いや、発揮していないと言うのは語弊がある、性格にはそのカリスマ性を危惧していると言うべきだ。

 

(ムソウは公私を完全に割り切っている。それに政治に置いて文官でありながら武官、武官でありながら文官でもあり、帝国最強である彼女や大将軍を上回る世界最強の武力を持ち、頭も良く切れる。そして何より私と水面下で敵対しておきながらも簡単に殺せない。私の元にいる者や大将軍の庇護下にいる者達、良識派、大将軍の派閥にいる者でさえ必要とあらば裁く。そして、必要とあらば街一つを大虐殺も厭わない胆力と判断力。危険な存在ではあるが、あれが誰かの下に付くことはない以上反乱軍に加わることはない、それを断言できるだけは安心できますな。だがいつ表だって敵対するか分からない以上、どこかのタイミングで暗殺しないといけませんな)

 

大臣は自身が帝国を反乱軍などと言う不安分子を完全に排除したのち、完全に牛耳った後、ムソウが獅子身中の虫ならぬ、獅子身中の獣になることを恐れている。

それと言うのも、ムソウが持つ帝具を危惧してだ。

大臣自身も、皇帝の一族に伝わる至高の帝具を押さえているので、生半可な敵など歯牙にもかけないが、ムソウが持つ帝具は別だ。

始皇帝が財力と権力にモノを言わせ作らせた49個目の帝具にして唯一欠陥を抱えた失敗作。

誰も適合し使用することが出来なかったどころか、誰も触ることが出来なかったのだ。

いや、それ以前に直視しただけで駄目だと言う時点でどうしようもない代物だ。

事実あれは、完成と同時に制作に携わった者達全てが死滅した驚異的な代物とされているが、真実はそうではない。

あの帝具を制作させたと言うのは、始皇帝の見栄であり本当は、ただただ地面に突き刺さっていただけだ。

いつからあるのか、それは誰にもわからぬことだ。

唯分かっているのは、そこに存在するそれだけで、その槍は周りに圧倒的存在感を無差別にふりまき、見た者の魂を蒸発させる。

そのため誰も使用できない物であり、朽ちることも錆びることもなく、その黄金に陰りを見せることなく、ただただ存在し続けていた。

そのため帝具が49個あると言うこと自体誰もが忘れ去って行き、帝国にいる者達は48個しかないと思っている。

49個目の帝具など、所詮は夢物語、御伽噺と時代が進むにつれ忘れられて行った帝具であり、それが存在すると証明するのは皇帝が代々受け継いできた帝具の目録に名が乗るばかりであった。

ムソウと言う適合者が現れるその日までは。

所詮は御伽噺とされていた帝具であり、皇帝が付けた名が聖約運命ロンギヌス、その正体は聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)だ。

唯一にして正当な継承者であるムソウ(ラインハルト)のみが操ることができ、帝国に若くして仕官し、圧倒的力と才を遺憾なく発揮し敵を蹂躙し、強くなっていった。

その実力と将来性を期待され、若くして上級士官候補生となり丁度その頃、時の皇帝と謁見する機会が生まれた。

ムソウの才と力に魅入られた皇帝はムソウをいたく気に入り、時の諜報部長官が歳で辞めるのと重なったためポストに皇帝の権限で付くことになった。

贔屓による幹部入りは、どこでもあまり良い顔をされないものだが、ムソウの場合はそうはならなかった。

最初の頃こそ陰口を叩かれたものだが、公私混同を一切せず、誰にも媚びず靡かず、仕事を真面目に忠実に、そして成果を期待以上に仕上げ、必要ならば帝都の重役や官僚、富裕層、貴族、王族であっても害に成りえるのならば諜報部を使い調べ上げては、監獄送りにした。

だからこそ周りの誰もが期待し認め、恐怖し畏怖するようになった。

そうしてムソウは着実に上に上り今の地位を手に入れたのだ。

 

 

現在では、その実力が認められてか国家保安部と諜報部のトップを兼ねており、やり過ぎる者は例えそれが大臣派、大将軍であるブドーの庇護下にある者だろうと容赦なく裁く。

そこには一切の例外が存在しない。

一切私情を挟まず、ムソウの中にある天秤は微動にせず、例外なく裁く。

そんな姿を見ていつしか、皆口にするようになった『あれは、人の皮を被った黄金の獣だ』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

白い軍服に黒い外套を羽織ったムソウは、帝都の街を見て回っていた。

前皇帝陛下が亡くなり、新しい皇帝になってからと言うもの街には活気がなくなり、街の者達の眼から精気が消え失せるようになった。

それと言うのも、大臣が変わり今のオネストになってからだ。

現大臣オネストは、前皇帝がなくなると世継ぎ争いで一番幼い今の皇帝を勝たせることで、絶大なる信頼を得、今の地位と権力を手に入れた。

世継ぎ争いでは、ムソウは完全に中立であったため、誰もが欲する保安部と諜報部によりもたらせられる最新の情報と権力を使うことができなかった。

だからこそ、今の宮殿内でムソウは信用、信頼されていると共に恨みや妬みも一緒に買っている。

ムソウの中の天秤が一切ブレないのもあるが、一切ブレないがために諜報部の情報さえあったのならば、そう言った者達からは特に恨みを買っている。

そんなムソウが、兵舎前を通りかかった時だった。

兵舎から少年が勢いよく投げ捨てられ、ムソウにぶつかろうとした瞬間、ムソウは右手で優しく威力を落としながら少年を受け止めたのだ。

 

「大丈夫か少年」

 

「あ、ああ、すまねえ」

 

受け止められた少年は何が何だか理解できていない様だった。

しかし少年は、一目見ただけでムソウの力量を理解した、いや理解できなかった。

あまりにも圧倒的で、今まで出会った危険種が赤子のように思える。

それ程までに人と言う尺度で測ることの不可能な力がムソウと言う人の形をした器に収まっているのだ。

 

「人を投げるにしても周りを見てから投げるべきだったな」

 

「あんた、何を……む、ムソウ様!!」

 

少年を投げ飛ばした、兵舎で事務をやっている兵士は帝国内でも三指に入る権力者を前に振るえ上がっていた。

特にムソウは表向き不正や罪を犯す者には容赦がないことで有名だ。

自身の持つ権力を使い有罪を無罪に、無罪を有罪に仕立て上げる様なことはしないことから、市民からは大きな支持を得られている。

むしろムソウのことを恐れているのは、暴力や権力を笠に着て好き勝手している者達の方であった。

それこそ、一切の情が入る余地もなく滅ぼしにかかる。

危険分子であるかもしれないと言う憶測だけで滅ぼされた街も実際には存在している。

 

「で、何があったのだ?」

 

「それが、その、そこのガキがいきなり剣の腕の評価次第で隊長クラスから仕官させてくれと……」

 

頭を掻きムソウの機嫌を窺う様に言った。

 

「何だよ!!試すぐらいいいだろ!!」

 

「少年、名はなんという?」

 

「……タツミです」

 

「では、タツミよ。今、帝都でも不況の影響で職を探す者が大勢いる。それは兵士になるのも変わらない。特に今は兵士になろうとするものが大勢いてな、抽選制になるほどだ。だからお前だけを特別扱いできぬのだ」

 

「え、そうなの?」

 

ムソウが諭すように言うと、タツミは何も知らなかったのか、呆けた顔をして一瞬何を言っているか理解できなかった様だ。

 

「分かったなら、大人しく抽選を受けるか諦めるかだな」

 

それだけを言うとムソウはまた見回りをするべく歩きはじめた。

 

「おっちゃん。あの人誰だったんだ?まるで底か見えない」

 

「お、おっちゃん!?まあいい。あの人はムソウ様。この帝国で武力、権力共に三指に入るお方だ。あの人の前では嘘をつかない方がいいぞ。あの人は何もかもを見透かす眼力と嗅覚を持っているらしいからな。それでどうするんだ?受けるならもう一度書類を書きに来い。これで受けさせなかったと知られたら俺がムソウ様に咎められるからな」

 

それだけを言い放つと、事務をしていた男は頭を掻きながら兵舎に入って行った。

タツミは今後どうしようかなと、腐敗しきり、絶望する人々、搾取した金で豪遊する人々を平等に包み込み照らす青空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

それから二日後の朝のことだった。

 

「長官、朝から済みません」

 

軍の警備隊とムソウ直轄の保安部が朝から一つの富裕層の家に集まっていた。

元から目を着けていた一家の惨殺事件。

それだけならばどちらか一方が処理し、ムソウが書類に目を通して終わるだけだった。

だが、それが今帝都を騒がせている『ナイトレイド』と呼ばれる殺し屋集団の仕業ならば話が変わる。

奴らは帝都の重役や富裕層ばかりを狙う殺し屋集団であり、殺しの依頼は常に帝都に住む民からだ。

今まで殺された者達は、恨みを買う者や殺されても仕方がないと思われる者達ばかりなので同情の余地はない。

 

「やはり呪毒か……」

 

殺された護衛の男は、一目見ただけ分かるほど全身に呪毒が浮かび上がっている。

元からこの家の一家はやり過ぎていた。

諜報部によって情報が集まり、翌日にでも強制収容所に収容する予定だった者達だ。

むしろナイトレイドの手によって殺された現状の方が、この家の者達にとって幸福だったのかもしれない。

 

「後こちらで奇妙なことが」

 

そう言って部下に連れてこられたのは離れの倉庫だった。

中は凄惨なもので、この家の家主たちに拷問にかけられ殺された、地方の民の死体だらけだった。

その中で二つほど前日まで使われていた痕があるのに死体がない、と言う可笑しなものがあった。

 

「無くなったものは仕方がない。それより早く焼却部隊を呼べ、疫病の元になっては叶わん」

 

「はっ!!」

 

部下はムソウの命令を聞くと走り去って行った。

 

「所詮は弱者が淘汰される世界、か」

 

ムソウもまた青空を見上げながら誰にも聞こえない程度に呟いた。

何を思い何を想ったのかは、誰にも想像する事は出来なかった。



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獣と王

何か思った以上に人気があったんだけど……
これも獣殿の恩恵か!!




11月21日一部編集


「報告します。昨日、帝都警備隊隊長のオーガ、油屋ガマルの二人がナイトレイドと思わしき者達に殺害されました」

 

「ああ、あの二人か。またナイトレイドに先を越されたか」

 

部下の報告を聞きながらムソウは書類仕事に追われていた。

保安と諜報、その二つの長をやっていると必然的に仕事の量が多くなるものだ。

 

「しかしこうも立て続けに先を越されるとこちらの面子に関わるな。いっそのことナイトレイドの標的に成りえる奴らを統べて強制収容所送りにするか?」

 

などムソウは物騒なことを考えていたことを口にした。

それを聞いてしまった、不幸な報告するだけの部下は震え上がった。

帝都郊外にある強制収容所。

そこに入れらたが最後、出て来ることは不可能だと言う恐ろしい場所だ。

中で何が起きているかさえ不明であり、働いている職員でさえ内容を口外したら殺されそれを聞いた者も殺す徹底ぶりだ。

 

「今のは、聞かなかったことにしておけ」

 

「りょ、了解しました」

 

報告に来た部下はそれだけを言うとすぐさまムソウが零した言葉を忘れる、ムソウの執務室から出て行った。

それを確認するとムソウは、書類仕事に集中しだした。

内容は、諜報部にさせているナイトレイドについて、市井の中に溶け込ませ官僚や重役、軍人の不正を見つけ出し、更に反乱の意思を知ることに有る。

保安部は、諜報部から得た情報をもとに、罪を犯した者達を強制収容所に収容した報告書が殆どなので、目を通しファイリングするだけでいいので比較的楽な仕事だ。

問題があるとしたら諜報部の報告書で、マークしている者達のことが事細かに記されている。

中には、反乱軍の中に潜入させている者からのもあるため、その手の書類には細心の注意を払わなければならない。

その中でも一番繊細に扱わないといけないのが、現大臣の情報だ。

あいつはやり過ぎている。

自身がこの帝国を牛耳るためならば、無実の者さえも自身に反旗を翻す可能性がある、それだけで無実の罪を作り上げ処刑し、死体は見せしめのために吊し上げる。

ならばなぜ大臣が今なお生きていられるか、それは今の皇帝が関わってくる。

今の皇帝は幼く、そのため政治の殆どを大臣が司り、尚且つ皇帝が大臣を信頼しきっているので、例え皇帝に諫言した所で大臣がある事ないことを吹き込み諫言した者達を皇帝の命令で処刑させている、そのため不用意な発言や行動をしない様に官僚たちはしているため、未だ生きていられるのだ。

 

「長官、皇帝との謁見の時間です」

 

副官が執務室の扉を叩いて入って来た。

 

「もうそんな時間か」

 

そう言うとムソウは立ち上がり、椅子に掛けていた外套を纏い自身の執務室を後にした。

 

 

 

 

謁見の間につくと、近衛兵が扉の前に立っていた。

近衛兵はムソウに気が付くと、無言で扉を開け、ムソウはそれを当たり前のように潜り謁見の間へと入って行った。

そこには左右に文官と武官とで並んでいた。

武官の中には宮殿の警備と『武官は政治に口を出すべからず』と言う教えで、あまりこういった場に出てこないブドー大将軍や北の異民討伐に出ているエスデスの姿はなかった。

その中をムソウは進み、皇帝の席に最も近い文官の列に並んだ。

皇帝が来たのはその数分後だった。

皇帝の席の後ろに在る、皇帝専用の扉から幼い現皇帝が現れ、皇帝の席に座った。

 

「内政官ショウイ前へ」

 

幼さが残りながらもどこかカリスマ性を感じさせる声で、内政官の一人の名を呼んだ。

いきなり呼ばれた側は、何の心構えもなかったなかったのか驚いた表情、ではなくどこか既に覚悟を決めた表情であった。

あの男は、現皇帝を裏で操っている大臣排斥派であり、良識派と呼ばれる者の一人だ。

ショウイは皇帝の前に立つと片膝を突き、頭を垂れた。

 

「内政官ショウイ。余の政策に口を出し、政務を遅らせた咎により貴様を牛裂きの刑に処す」

 

いきなり皇帝が死刑宣告をしたため、参列していた者達は一同にざわめき出した。

 

「これで良いのだろう大臣?」

 

「ヌフフ、お見事です。まこと陛下は名君にございますなあ」

 

幼い皇帝がそう言うと、皇帝だけが使うことを許され、皇帝のみが上ることを許されているはずの不可侵にして神聖な場所である帝国で最も高い位置にある玉座、その玉座の後ろから大臣は肉壺を抱え、新鮮な生肉を食い散らかしながら現れた。

 

「また肉か?良く食べるなあ」

 

「フフフ、活きが良いうちにいただきませんとね。ヴォーノ、ヴォーノ」

 

皇帝と大臣が和気藹々と言った雰囲気でそんな会話をしている間、ムソウを除いた参列者は誰もが下を向き自分に飛び火しないことを願っていた。

死刑宣告されたショウイは、そんな中意を決し諫言を言おうとした瞬間だった。

 

「陛下、進言したい異議がございます」

 

「ムソウか、申せ」

 

「ありがとうございます。陛下は政務が遅れているからショウイ殿を牛裂きの刑に処すと申されましたが、後任を決めぬままショウイ殿を処刑されては、遅れている政務が更に遅れることになります。ですので、ここは一度ショウイ殿にチャンスを与えると共に後任を選定するのは如何でしょうか?」

 

「余としてもこれ以上政務は遅らせたくはないが、大臣の意見を聞いても良いか?」

 

「私としても陛下の政策が滞りなく進められるのならば問題はありませんな」

 

口調、表情こそ、優しげあったが内心はそうではなかった。

大臣の予定としては、ここで良識派の一人を吊し上げ、自分と皇帝の仲が良好であることを見せつけることで、良識派を牽制するつもりであった。

今回参列しなかった大将軍であるブドーの庇護下に在る文官にもある程度の効果があり、ブドーの配下であるから大臣の手によって、でっち上げで罪をなすりつけることは出来ずとも、皇帝の覚えを悪くする事は出来るのだと言う牽制にもなるはずだったのだ。

それをムソウは打ち砕いた。

いや、ムソウにはそもそも大臣の考えていたシナリオを壊そうとはこれっぽちも思っていなかった。

ただ政務が遅れているならば、遅らせた者に取り返させるだけだ、その考えだけだった。

ここで内政官を一人失えばその者が遅らせた分を他の者が分担処理しなければならなくなり、そうして更に他の政策が遅れると言う負のスパイラルを引き起こさせないためであった。

そのためムソウの発言に一切の情と言うものは含まれていない。

 

「分かった。ムソウの意見を取り入れ内政官ショウイ、貴様に今一度チャンスを与え遅らせた政策を速やかに実施せよ。成果によっては今回の罪を幾らか減刑しよう」

 

「ははっ!!」

 

ショウイは頭を垂れながら、生き残れた安堵と、大臣の考えた市民を苦しめる政策を実施させなければならない悔しさに板挟みされ、己の無力さを恨んだ。

 

「次だが、一度失踪し近頃帝都内に、”首切りザンク”なる連続通り魔がまた出没している。そやつは先代皇帝である父上が獄長に与えた帝具を持ち出している。速やかに討伐せよ」

 

「それでしたら、保安部、諜報部総力を挙げて目下捜索中です。一日猶予をいただけたならば討伐隊を編成し直ぐにでも討伐できるかと」

 

「さすがムソウだな。父上が困った時お前を頼っていたのがよく分かる!!」

 

幼い皇帝は、その幼さが分かる無垢な笑顔ではなく、カリスマ性を感じさせる顔つきでうなずいた。

 

「ありがとうございます、陛下」

 

ムソウは陛下からお褒めの言葉をいただいたため、形式上ではあるが頭を下げた。

本来忠義を誓っている臣下であるならば、泣いて喜ぶべきなのだろうが、生憎とムソウは誰かに心酔したり、忠誠を誓う様な者ではなかった。

むしろ逆で、跪かせ、従わせる王者の気質をムソウは持っている。

しかしそれが分かると反逆だと、大臣が喚き出すのが目に見えているの、そのため表面上とはいえムソウは忠義の姿勢を取っている。

 

「しかし相手は帝具を持っている。討伐できなかった場合はどうするつもりだ」

 

皇帝が訊いて来たのはある意味もっともなことだ。

 

「その時は、私自らが出陣し、断罪いたします」

 

そのことに、この場にいる誰もが驚いた。

この場にいる誰もがムソウの実力を知っている。

ムソウが出れば、一人ですべて解決するだろうが、その被害もまた計り知れないことになる。

上手いこと、保安部か帝都警備隊だけで解決すればいいが、と誰もが同じ不安を抱いた。

その不安は杞憂に終わるとはこの時誰も知りはしなかった。

 

 

 

――タツミside

 

俺はナイトレイドの一員となった。

出会いは最悪なものであったが、メンバーの誰もが今の帝国に憂い、帝国の腐敗をなくし苦しめられている帝国の人々を救いたいと思っていた。

そして新しく生まれる国が民に優しい国になると信じ俺はナイトレイドに入った。

そんな俺はと言うと、今帝都の市民を不安に陥れている”首切りザンク”を殺しに来ていた。

日も落ち、暗くなっている住宅地区からは人の気配をあまり感じることはなかった。

 

「うん。私達の受け持ちはこの地区だ」

 

アカメは渡された地図を見ながら言った。

 

「帝都住民は辻斬り怖さで、外出てないな。逆にやりやす――」

 

アカメにいきなり口を押えられ、建物の影に隠された。

そのすぐ後、複数人が走り去る音が聞こえた。

 

「帝都警備隊だ。ああいう連中はまだ問題ないが気をつけていこう」

 

「連中は問題ないって、他に何か危険な連中いるのか?」

 

「やはり、保安部と諜報部だな。特に保安部には気を付けた方がいい。下手をしたら強制収容所送りになって二度と出られないからな」

 

二度と出られない、それは監獄も同じだが、強制収容所、そちらの方が名前だけなのに恐怖してしまう何かが感じられた。

そんな二人の会話を遠く高い位置から額に在る人工的な目で見ている者がいた。

 

「んーっ。辻斬りに加えて殺し屋も現れたときたもんだ。全く物騒な街だねぇ……愉快愉快」

 

愉快愉快と自分で言うほどとても楽しそうな表情でいる男こそ、今帝都市民を恐怖に陥れている”首切りザンク”だった。

 



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獣の評価

11月21日一部修正


――タツミside

 

あれから数日が経った。

俺は首切りザンクを倒すことが出来ず、結果的にアカメに助けられてしまった。

 

「タツミ……そろそろ傷も癒えて来ただろう。ザンクから奪取したこの帝具、お前が付けて見ろ」

 

ナイトレイドのボスであるナジェンダの義腕が、握っていたザンクの持っていた帝具を俺に差し出してきた。

 

「いいの!?みんなは!!」

 

俺は、皆が持っている帝具を見ているだけに嬉しく思った。

 

「帝具は一人一つだ」

 

「体力、精神力の摩耗が半端ないからね」

 

元々優秀な軍人であり、帝国の腐敗っぷりを目の辺りにし帝国を見限ったブラート兄貴(ホモ疑惑あり)はキメ顔で、ただの変態と思う時もあるラバックは忠告気味に言った。

 

『あんまカッコ良くねーけど、この眼……凄い能力だしな』

 

俺自身が苦戦したからこそ分かる、厄介な性能を持った帝具を興奮気味に額に取り付けた。

 

「文献に乗ってなかった帝具だから謎が多いが……」

 

「心を覗ける能力があったろう。私を視て見ろ」

 

何故かアカメから期待混じりの視線を俺に向けて来た。

任せろ、俺ならできる内心そう思った。

 

「夜は……肉が喰いたいと思っている」

 

「完璧だな!!」

 

素で思ったことを言っただけなのに当っているとは、どれだけアカメは食い意地が張っているのかと思ってしまった。

けど、帝具自身の機能ではないのは確かだ。

 

「いや、まだ能力発動してないだろ」

 

「心を覗かれるなんて嫌よ。五視あるならもっと別の能力試しなさいよ」

 

さっきから皆文句ばっかり言いやがってと、不貞腐れ気味になるが、ここで拗ねたら本当に子供だと余計バカにされるので他の能力を試すことにした。

 

『俺の知らない残り一つの能力よ……発動しろ!!』

 

そう思った瞬間、額に装着した瞳型の帝具がカッっと見開きその帝具が見ている光景が頭の中に入って来た。

頭に入ってくる光景は、丁度目の前にいたと言うこともあり、アカメ、マイン、シェーレ三人の下着姿が視えてた。

 

『なんだ、この素晴らしい能力は……!帝具ってスゲ……』

 

桃源郷を見せてくれる帝具に感謝しようとした時だった。

頭の血管が切れ、血が噴き出した。

 

「まずいぜ拒絶反応だ!」

 

「急いで外すんだ!!」

 

「な、なんだ、急に疲労感が」

 

アカメが駆け寄り額に装着している帝具を外してくれた。

 

「これは革命軍本部に送ろう。解析し貴重な戦力にするだろう」

 

アカメから受け取ったナジェンダは義腕で帝具を転がしながら言った。

 

「多いだけ革命軍が有利って事か」

 

「そうだ、この帝具に関する文献を読んでおくといい」

 

ナジェンダから帝具の文献を受け取りパラパラと内容を見て行くと、帝具一つ一つが事細かに記されていた。

 

「ところで、一番強い帝具ってなんだ?」

 

ある意味、帝具を知るものならば誰もが思う純粋な疑問だろう。

それを俺は、帝具に詳しそうなボスに訊いた。

 

「用途と相性で変わるさ……だがあえて言うなら”氷を操る帝具”と”槍の帝具”だと私は思う。幸い片方の使い手は、北方異民族の征伐に行っているがな」

 

「へえ、どんな人が使ってるんだ?」

 

使い手を知らなければ当たり前の疑問、一般市民で終わる人達は関わらずに済む人たちでもある。

 

「片方は、ドSで政治や権力と言った物には興味ないが、もう片方は問題だな」

 

ボスがそう言うとみんな口々に言いだした。

 

「人体の黄金律と評されるほどの完璧な肉体を持つ、黄金の獣の様な男だ」

 

と兄貴が思い出すかのように、

 

「純血主義で、異民族の血を嫌っている最悪なやつよ!!」

 

とマインが怒り心頭と言った感じで、

 

「人を間違いなくかぎ分ける嗅覚を持っていて、敵味方を見分ける観察眼を持っている」

 

とレオーネが手を頭に回しながら、

 

「皇帝を裏で操っている大臣でさえ、意見具申によって完全に打ちのめされてるんだよ」

 

とラバックが頭を掻きながら、

 

「帝国の政治警察権力を一手に掌握しているんですよ」

 

とシェーレが眼鏡の位置を直しながら、

 

「粛清対象には一切の情を入れることなく抹殺する」

 

とアカメが凛としながらも、拳を震わせながら、

 

「それでいて、今の帝国が未だ存続できているのはそいつのおかげだな」

 

とナジェンダが言った。

誰も名前を言おうともしない。

革命を成功させるうえで最も障害となる男であり、その男が生きている限り革命は成功しないと言っても過言ではないだろうと皆が思っている。

だが、この男が死ぬことによって起きるデメリットもまた大きく、革命軍は何としてもこの男を味方に引き入れたいと考えている。

しかしそれが叶わないと分かるのはもう少し後になってからだ。

 

side END

 

 

――帝都宮殿、謁見の間

 

皇帝の前に一人の兵士が片膝を着きながら頭を垂らし報告した。

 

「申し上げます。ナカキド将軍、ヘミ将軍、両将が離反、反乱軍に合流した模様です!!」

 

その報告に謁見の間に集まっていた者達はざわめき出した。

ただ一人、ムソウを除いて。

 

「戦上手のナカキド将軍が……」

 

「反乱軍が恐るべき勢力に育っているぞ……」

 

「早く手を打たねば帝国が……」

 

誰もかれもが思っているのは、己が保身だけだ。

特に自身が諜報部に探られているとは知らない者、気づいていない者達ほど、それが顕著でありうろたえぶりが大きかった。

 

「うろたえるでないっ!!!」

 

そんな中幼き皇帝は、己が臣のうろたえぶりに喝を入れた。

 

「所詮は南方にある勢力、いつでも対応できる。反乱分子は集めるだけ集めて掃除した方が効率がいい!!」

 

威勢よく皇帝が言ったのは確かに利にかなっている。

が、それは先代皇帝の時だったらの話であり、今の帝国では兵士の士気、練度共に厳しいのが現状だ。

特に今の大臣になってから、大臣の気に入らない者達は地方に飛ばされている。

その者達はなまじ優秀なため、反乱軍に加われば、帝国は厳しい立場に追いやられることになる。

 

「……で、良いのであろう大臣?」

 

「ヌフフ、さすがは陛下、落ち着いたモノでございます」

 

新鮮な肉を喰いちぎりながら皇帝を褒め称えると、謁見の間にいる者達を見下ろしながら宣言した。

 

「遠くの反乱軍より近く賊、今の問題はこれに尽きます。帝都警備隊長は暗殺される、私の縁者であるイヲカルは殺される!首切り魔も倒したのはナイトレイドで帝具は持って行かれる!!!」

 

肉を喰いちぎり、食べながら言うが、その全てが事実なため誰もが押し黙らされた。

 

「やられたい放題……!!!」

 

「悲しみで体重が増えてしまいますっ……!!!」

 

(((((((いや、体重はあんたの食生活だろ)))))))

 

この瞬間ばかりは、皇帝とこの場に集まっている大臣以外の心が一致した瞬間だった。

 

「……あの異民族はどうしたのだ?アジトを見つけるプロなのだろう?」

 

「連絡を絶っています。おそらく消されたのでしょうな。それに穏健である私も怒りを抑えきれません!!北を制圧したエスデス将軍を帝都に呼び戻します」

 

エスデスを呼び戻す。

大臣がそう言った瞬間、集まっていた者達は将軍が離反したという報告を聞いた時以上に驚き、慌てふためきだした。

 

「て、帝都にはブドー大将軍がおりましょう!」

 

軍部所属の一人が、帝都にいる帝国の英傑と称され大将軍である、ブドーがいるのだからエスデスを呼び戻す必要はないと必死に大臣に諫言した。

しかしそれは聞き入れられることはなかった。

むしろ皇帝もエスデスを呼び戻すことに賛成だったので、他の者が否定しようと権限が皇帝に集約されている以上皇帝が是と言えば否も是となるのだ。

ムソウとしてもエスデスを呼び戻すことには賛成だった。

あの女以上に明確な判断基準がある者はいない。

喰うか喰われるか、強者か弱者か、狩るか狩られるかとシンプルなのだ。

 

「エスデス将軍を呼び戻すまでは、無能な警備隊に喝を入れなさい!!最早賊の生死は問いません。一匹でも多く、賊を狩り出し始末するのです!!」

 

余程賊の手によって、遠戚とはいえ縁者の者が殺されたのが堪えたようだ。

どの道賊の手によって殺されていなかったとしても、保安部に遅かれ早かれ強制収容所送りになる罪人だったのだ。

ムソウとしては、その手間が省けたから仕事が減った程度の認識でしかなったが。

 

「では今日はこれで解散します。皆さん各々の仕事に励み一早く賊を狩り出しなさい。さ、陛下行きましょう」

 

皇帝の背を押すようにしながら、大臣は皇帝とともに退席した。

この場に集まっていた者達も、皇帝が出て行くのを確認すると疲れた表情で扉から出て行った。

ムソウも早々に執務室へと戻ると、保安部第Ⅴ局、保安部の中でも刑事警察を司る部署の局長とその部長たちをムソウは集めた。

 

「これより、帝国の害悪となっている麻薬密売組織の一斉検挙、粛清対象の一斉粛清を執り行う。取り締まり、粛清対象は配った名簿通りだ。抵抗する者、粛清対象は全て殺せ、摘発対象で捕縛した者は全て収容所へ送れ、以上解散」

 

ムソウが言い放つと保安部の局長と部長たちは、ムソウの執務室を礼儀正しく敬礼し出て行くと慌ただしく駆け出して行った。

ムソウが一切の妥協を許さない人間であり、部下である者達の評価は、何を成したかで測っている。

ならば、測っていただける機会にどれだけ成すかでムソウから評価されるとなると、ムソウを崇拝に近い思いを抱いている彼らはがぜんやる気が出ると言うものだ。

そうしたものがあるからこそ、ムソウが指揮する保安部、諜報部は常に高い実績をたたきしているのだ。

取締、粛清対象の中にはナイトレイドが依頼を受けた暗殺対象もいたが、運良く保安部の動きを察知することが出来たため難を逃れることが出来た。

 

 

奇しくもムソウが取締、粛清を実施した日は原作でシェーレが殺される日でもあった――




シェーレが助かりました。
これが今後どういう風に物語に影響して来るか……


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獣と作戦

11月21日一部編集


その日、誰もが恐れる女傑が帝都へと帰って来た。

ドSの権化であり、魂の底から狩りと拷問を愛する女だ。

その名は――

 

 

 

謁見の間――

 

「エスデス将軍。北の制圧見事であった!!褒美として黄金一万を用意してあるぞ」

 

膝まで届く鮮やかな空色の髪を持ち胸元の開いた軍服を着こなす美しい女性。

ただし、猛禽類のような鋭い目は常に獲物を狩る狩人の様であり、滲み出る雰囲気はどれだけの人を殺せば着くのか分からないほどのものであった。

 

「ありがとうございます。北に備えとして残してきた兵たちに送ります。喜びましょう」

 

「戻って来たばかりで済まないが、仕事がある」

 

「帝都周辺にナイトレイドをはじめ凶悪な輩がはびこっている。それらを将軍の武力で一掃してほしいのだ」

 

皇帝としては当たり前の願いだ。

しかしこれは皇帝の意思で決めたと言うよりは大臣の願いである。

大方自身の派閥にいる者達をムソウにでも消され過ぎたかと、的を射たことをエスデスは考えていた。

 

「帝都にはブドー大将軍やムソウ長官がおりますが……」

 

「ブドーは大将軍として宮殿守護の仕事が在り、ムソウには反乱軍の方に今は集中してほしいのだ」

 

「……分かりました。それと一つお願いしたい事がございます」

 

「うむ、兵か?なるべく多く用意するぞ?」

 

「賊の中には帝具使いが多いと聞きます。帝具には、帝具が有効。六人の帝具使いを集めてください。兵はそれで十分、帝具使いのみの治安維持部隊を結成し、私が率います」

 

「……将軍には三獣士と呼ばれる帝具使いの部下がいたな?更に六人か?」

 

皇帝は、これ以上の力を個人の指揮下に集めてよいものか悩んだ。

そこにすかさず助け舟を出したのは、皇帝が最も信頼している大臣だった。

 

「陛下、エスデス将軍になら安心して力を預けられますぞ」

 

大臣の言うことは昔から正しい、幼いで済ますには既にすまされない領域に達しているほど大臣のことを信頼しきっている。

しかし皇帝は自身が傀儡と化していると気づくことは永遠にないことだろう。

 

「うむ、お前がそう言うなら安心だ。用意できそうか?」

 

「もちろんでございます。早速手配しましょう」

 

「これで帝都も安泰だな。余はホッとしたぞ!」

 

皇帝は肩の荷が下りたとばかりに、胸を撫で下ろした。

 

「まことエスデス将軍は忠臣にございますな」

 

陛下には見える形でニコリと笑顔を浮かべたが、内心思っていることは違った。

エスデスは政治や権力に全く興味がなく、戦いに勝ち、蹂躙することこそが全てであるため、大臣にとって最も扱いやすい手札でありジョーカーである。

ただ大臣にとって誤算があるとするならば、エスデスがムソウに対してある感情を抱いていることだ。

 

「苦労をかける将軍には黄金だけでなく別の褒美も与えたいな。何か望むものはあるか?」

 

「そうですね……あえて言えば」

 

エスデスは焦らすように言う。

 

「言えば……?」

 

「子を産んでみたいと思っております」

 

その瞬間、時が凍りつくように止まった。

皇帝も大臣も等しく固まり、何を言っているのか理解できていなかった。

軍官僚クラス以上になると、エスデスがムソウに恋心を抱き熱烈にアタックしていることは有名なことだ。

だが、ドS精神の塊が子を産みたいなど、ムソウに恋をしたと言うだけで誰もが似合わないと思ったと言うのに似合わないを通り越してあり得ないと皇帝と大臣は思った。

 

「そ、そうであったか!将軍も年頃だしな!!」

 

唖然としていた皇帝と大臣の時が動き出すと、今気が付いたと言った表情だった。

 

「ですので、もし生まれた際は皇帝が名付け親にでもなっていただけたらと」

 

「分かった。考えておこう」

 

皇帝は困った表情をしながらも確固たる意志で言うと、謁見は終わった。

 

「相変わらず好き放題の様だな大臣は」

 

「はい、気に食わないから殺す。食べたいから最高の肉をいただく。己の欲するままに生きることの何と痛快なことか、フフフフフフ」

 

「……本当に病気になるなよ。しかし妙なことだ……私が闘争と殺戮意外に恋に興味を持った時でさえ戸惑ったと言うのに、子を欲する気持ちになるとは」

 

「あぁ、生物として異性を欲するは至極当然のことでしょう。特に将軍が恋焦がれている相手が、強く優秀であるならばなおのこと。むしろその気になるのが遅すぎるぐらいですよ」

 

大臣はエスデスに悟ったように言うが、内心恋と言う言葉が全く似合っていないのに子を欲するとは、と思ってはいたが口に出すことはなかった。

特に相手があのムソウだ、子供ととても縁があるようには思えない。

だが、もし生まれたとするならば、ある種のサラブレットである事には間違いない。

 

「なるほど、これも獣の本能か……まあ今は賊を狩りを楽しむとしよう」

 

「それですが、帝具使い六人は要求がドSすぎます」

 

「だがギリギリ何とかできる範囲だろう?」

 

ある意味でお互いを知り尽くしているからこそ言える要求だ。

特に帝具使い六人、その戦力は計り知れず、個人の指揮下に入るには大きすぎる戦力だ。

 

「揃える代わりと言っては何ですが、いなくなってほしい人たちがいるんですよねぇ……」

 

大臣は蓄えた顎鬚を撫で下ろしながら悪い顔をしていた。

 

「フ……悪巧みか」

 

エスデスは呆れたようにため息を吐いた。

大臣とは確かに利害関係のみで築かれた信頼だ。

だが、エスデスとしても自分の闘争と殺戮の欲求を満たしてくれるならば、それが愛すべきムソウの敵対者であろうと今の所は文句を言うつもりはなかった。

しかし一度ムソウが大臣に牙を向けるならば、エスデスは迷わずムソウに付くだろう。

それ程までにエスデスがムソウに抱いている気持ちが本物であると言うことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮殿ムソウ執務室――

 

「またか……」

 

ムソウは保安部から提出された書類を見ながらぼやいた。

ここ最近連続して、二名の文官が殺されている。

そのどれもが大臣の派閥に属なさい、良識派と言われる者達だ。

ムソウは自身の手駒である諜報部に探らせているが、中々情報が集まらず、連絡が途絶えた者達もいる所を見ると殺された可能性が高いと考えている。

さらに大臣にとって都合のいいことに、『ナイトレイドによる天誅』と書かれたビラがばらまかれていることだ。

今の所、誰もナイトレイドの犯行だと思っていないようだが、あと一度でも良識派の者が殺されたならば、市井の者達はナイトレイドの犯行だと思うようになるだろう。

一斉に粛清した時、大臣派の者達も殺し過ぎたため、派閥の力が弱まったから焦りだしたと考えられる。

ムソウとしては、牽制として使える駒は多いことに越してことはないため、大臣にとっての政敵が消され過ぎるのは望むところではない。

しかし大臣の手の者によって殺されたと言う確たる証拠がない現状では、表だって大臣を非難する訳にはいかない。

下手に避難しようものならばこちらの弱みとされるため、ムソウとしては下手な発言を控えなければならない。

そうなると、必然的に良識派の人間を保安部の人間を使って護衛させるのが手っ取り早く済む手だが、あくまでも派閥争いでは中立の立場を貫き徹すため、ムソウの私兵と言っても過言ではない保安部を護衛に付けさせるわけにもいかない。

もしムソウの意思でそのようなことをするならば、大臣派の人間も護衛を付けなければならなくなる。

文官の連続殺人が終わるまで両派閥の人間の護衛を行わせると、使える手数が減るため犯人を捜索させる人数を減らさなければならないが、一応のメリットはある。

護衛の名目で監視が出来る、それが唯一のメリットだが、それならば諜報部の者達がしているため特段必要ではない。

むしろデメリットの方が大きいため、この手は使えずそうなって来るとムソウが切れる手札も限られてくる。

 

「……私自ら囮として動くか」

 

ムソウが直接動く、その事実だけで大臣の牽制にも餌にもなるだろう。

丁度良いタイミングに、異民族と交易し利益を革命軍に渡している村が在り、その村を滅ぼすために保安部の敵性分子を排除するための移動虐殺部隊と悪名高い部隊【アインザッツグルッペン】と帝国軍暗殺部隊の共同での虐殺が行われ、そこを視察する予定がある。

大臣としては、革命軍の戦力拡大となる原因を一つでも多く潰したく、ムソウとしては異民族と交易を持つ敵性分子を排除したいという、互いの利害が一致したために起きた極秘裏の作戦だ。

むろん、共同でなくてもどちらか一方だけでもお互い行動を起こしただろう。

その作戦を前倒しで行い、最近手に入った情報の一つに元大臣、チョウリが帝都へと戻ってくる日があり、その道中偶然遭遇できるように調整し、連続殺人犯が襲ってくるようなことが在れば、捕えることが出来るだろう。

大臣としても元大臣チョウリの存在は隠居しているならば、目障りな相手だったと言う過去形で済まされたが、帝都に戻ってくるとなると、元大臣という立場のため多くの場所に顔が利く。

そうなって来ると本格的に邪魔な相手になるため、大臣としては確実に消したい相手となるため、確実に襲わせるだろう。

そうと決まれば、直ぐに行動に移さなければ、そう思い執務机に備え付けられているベルの紐を引くと直ぐに人が来た。

 

「お呼びでしょうか」

 

「大臣に伝えてくれ、テンスイ村殲滅作戦を前倒しで始める、と」

 

「了解しました」

 

部下はムソウの伝言を伝えるべく大臣の元へと駆けて行った。

これで釣れるならよし、釣れなくても良識派の人間が増え、大臣を牽制できる。

どちらにせよこちらに利があり、損をするようなことはない。

だが、自身の命を天秤に賭けてまでやるほどの利があるかというと、そうではない。

たしかに今まで殺された者達は大臣にとって都合の悪い人物たちであり、ムソウとしても大臣の動きを若干鈍らせる程度には役立つ者達だったのは間違いない。

そう言った意味で言うならば、大臣にとっての最大の障害はムソウと断言できる。

自身の派閥の者、縁者を尽く殺され、自身の勢力拡大のための政策を潰され、挙句の果てには勢力を削られているのだ。

しかし大臣がムソウを消そうと思おうにも、なまじ本人の権力、武力が並外れており、現在ある執務室が宮殿内と言うこともあり容易に葬ることができない。

それに大臣が、ムソウを消すことに傾注すれば、間違いなくブドーや大臣を快く思わない者達に隙を見せることになる。

ムソウとブドーの庇護下にある者以外の政敵には、適当に犯罪をなすりつければよかったが、二人はそう言った手を使って消せるほど甘い相手ではないことを大臣自身がよく分かっている。

エスデスやエスデスの配下を使って秘密裏に消すにしては、ブドーは皇帝からの信篤く帝国の英傑として民からの支持も多いため消せず、ムソウに対してはエスデスが恋心を抱いているために嗾ける訳にもいかない。

下手に今表だってムソウと敵対すれば、エスデスと言う手札を失くし、敵対する恐れが大いにあり得るため明確な敵対をしてこなかった。

だが、内心は虎視眈々と上手く消せる機会を探っており、今頃は伝達された情報でそのチャンスが訪れたことに歓喜しているだろう。

ムソウは、大臣の考えていそうなことを考え、その裏をかくべく行動し始めた。



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獣と罠

更新遅くなりました。
更新してない間もランキングに乗り続けていたことに驚きを隠せずここまで人気があると、逆にプレッシャーになって逃げていいかなと思ってしまったり::


10月31日一部編集

11月22日一部編集

20150102 誤字修正


――テンスイ村

 

異民族と交易をし、その利益を革命軍に渡していた。

その罪により、重税を課せられながらも村一丸となり、いつの日か皆で優しい未来を掴み獲ろうと日々を楽しく過ごしていた、そんな村は地獄と化していた。

少し前までが幻想であったかのように屍の山が築き上げられ、流れ出した血は河となった。

この地獄を作り上げたのは、帝国の抱える闇の一つである、暗殺部隊。

そしてもう一つが、移動虐殺部隊として悪名高い、アインザッツグルッペン。

特にアインザッツグルッペンの名を知らない帝国軍人の中には、存在しないと言ってもいいだろう。

帝国において、虐殺や殲滅をする部隊であり、その対象は危険分子である可能性、敵性分子であり敵性分子を匿った村、街が対象だ。

つまり帝国民が対象だ。

アインザッツグルッペンが動くのは、ムソウが必要だと判断した時つまり、敵性分子と断定された存在か危険分子に成りえる者が居る時だ。

そして過去、アインザッツグルッペンが襲った村、街の生き残りは零だ。

そのアインザッツグルッペンの手によって老若男女区別なく、村人たちは次々と撃ち殺されて行き、大臣の用意した帝国軍暗殺部隊によって、切り殺されて行った。

殺され方は違えど、村人たちは悲鳴を上げ、逃げ惑う。

しかし誰も容赦なく殺し続ける。

 

「お願いだ、助けてくれ!!」

 

「子供だけは、子供だけは助けてくれ!!」

 

「来月出産なの、お願い助けて!!」

 

「年寄りを少しはいたわらんか!!」

 

「見逃してくれたら私を好きにしていいから。ね、お願い!!」

 

「こいつをやるから、助けてくれ」

 

「私を見捨てないで」

 

「まって、僕を置いて行かないで」

 

「あなたまって!!」

 

「離れろ!!俺だけ助かればいいんだよ!!」

 

「私達友達でしょ!!」

 

「パパ、ママおいてかないで」

 

青年が、母親が、妊婦が、老人が、若い美女が、子供が、泣き叫ぶ赤子が、誰もかれもが懇願し、悲嘆し、怒号を上げ、助けを求めた。

だが、無情にも頭を撃ち抜かれ、身体を穿たれ、一刀両断され死んでいく。

今の帝国の中でも、このテンスイ村が最も命の価値が安い場所となっていた。

そんなテンスイ村を小高い丘から見下ろしている者達がいた。

鳴り響く銃声。

離れていながらも聞こえる、怒号や悲鳴。

村に充満する硝煙の香りがこちらまで漂ってくる。

築かれていく屍の山。

それを満足そうに見下ろしており、今作戦を命令実行させた張本人であるムソウと周囲を警戒しながらも今起きている惨劇を記録している護衛係と記録係三百人の保安部員。

 

「後どれ程で終わる」

 

「村の人口も考えると後五分ほどで」

 

近くにいた、アインザッツグルッペン指揮官に訊くと直ぐに答えた。

 

「その位か、暗殺部隊も意外と使えるものだな」

 

村の人口に対して、アインザッツグルッペン、暗殺部隊で掛かれば、時間はそれほど掛からず殲滅できるだけの能力がある。

ムソウが直接指揮していないとはいえ、ムソウが視察している中で遊びが出来るほどアインザッツグルッペンは、怖いもの知らずと言う訳ではない。

むしろその逆で、アインザッツグルッペンが最もムソウの恐ろしさを知っている部隊だろう。

言葉一つで簡単に虐殺を命じる、それは権力者の特権と言ってもいいだろう。

だが、その権力を持っている者達は、誰一人として虐殺の現場に居合わせることはない。

恐いからだ。

虐殺を命じられた者は、命乞いをする者達を、愛し合っている者達を、親子を、時として自分の生まれ故郷でさえ自身の私情を殺し、虐殺しなければならない。

軍人である以上命令は絶対であり、本人が望む望まないにしろ殺さなければならない。

そんな殺し続けてきた者達が、いつ精神の限界が訪れ、壊れてしまい命令した本人にその牙を剥くか分からない。

過去に一度、精神の限界が訪れ命令した者に牙を剥いた、という事実があるのならばなおのことだその現場に居合わせたくないと誰もが考えるものだ。

 

 

 

 

少し前の話になるが、大臣の命令で虐殺をしていた部隊長がいた。

その者は虐殺を何度もやっている内に趣味と化してしまい、遂には適当な村を見繕うと自身の権力で部下に命令し虐殺をやらせた。

何度も何度も何度も何度も、数えることが馬鹿らしくなるほどの数を、命じられたがために、虐殺しなければならなかった側は、ついに精神的限界が訪れてしまい部隊員たちは虐殺するために与えられた矛を部隊長向け、殺し解放された部隊員たちの矛先は次に帝都へと向けられた。

一人二人ならば、部隊長になるだけの武力、知力を持っているので対処できただろう。

しかし矛を向けて来たのが、部隊員全員となると話は変わってくる。

四百人からなる部隊の反乱に対しその場で対処できる者は、エスデスやブドーと言った将軍、大将軍級やムソウと言った、ほんの一握りの例外位だろう。

しかし彼らは運がなかった。

偶然にも部隊長の趣味で虐殺していた村がムソウの通り道だったのだから。

アインザッツグルッペンを直接の指揮下に置き、西の異民族と内通し、異民族の侵攻の為に用意してある西の砦を滅ぼすためにアインザッツグルッペン約千名を引き連れていたのだ。

 

「報告します。この先の村で帝国軍の部隊が村を虐殺した形跡有、その部隊は部隊長を殺し反乱。こちらへと向かって来ております!!」

 

西の砦以外の西部方面では、反乱の可能性、劣等種である異民族との繋がりは確認されていないため、ムソウへ報告も上がっていない。

さらにムソウが通る道での反乱の兆候、虐殺する必要のある村や街はなく、大臣が虐殺を命じている部隊はここ最近存在していない。

つまり、この虐殺は部隊長、またはそれ以上権限を持つ地方役人の独断となりえる。

ここ最近、西方面で異常に虐殺が立て続けに起きている、という報告自体は存在していたため、諜報部に探らせていたが、その部隊が原因の可能性も十分考えられる。

諜報部からの報告がまだな以上決めつけは良くないが、十分に粛清対象だ。

そう結論づけた後のムソウの行動は迅速を極めた。

 

「分かった。お前たちは砦における殲滅戦が任務だ。これは任務外であり不測の事態だ。ならば不測の事態に対処するのは上に立つ私の仕事だ」

 

ムソウは、部下にそう言うと馬から降り、己の帝具を顕現させた。

黄金に輝く槍。

見惚れる様な造形美。

常人ならば見ただけで魂が蒸発する不滅の黄金。

しかしこの場に常人など存在しない。

誰もがムソウから聖痕を刻まれ、黄金の獣が鬣の一本となっているのだから。

顕現した帝具、聖約運命ロンギヌスの捻じれるように作られている持ち手を持つと、軽く振りかぶり溜める動作を見せることなく投擲した。

ロンギヌスは空間を捩じるかのように破壊を撒き散ら、黄金の軌跡を描きながら進み、こちらへと向かってくる部隊の中心に着弾した。

直後、巨大隕石でも落ちたかと思わせる衝撃が爆音に続き、ゼロコンマにも満たない僅かな間と共に、木々をなぎ倒す爆風と灼熱が襲いかかり何もかもを破壊しつくした。

まるで破壊がこの世の全てであると思わせるかのように。

殲滅、今までアインザッツグルッペンが手掛けてきた作戦もそうだが、桁が違いすぎるとこの場に居合わせた誰もが感じた。

投擲されたはずのロンギヌスはいつの間にかムソウの手元へと戻って来ており、ロンギヌスが着弾した場所は巨大なクレーターが出来上がっていた。

死体は一切残る事無く蒸発してしまった。

個の持ち得る力ではない。

帝具、そのカテゴリーに入るだけで済まされる破壊規模ではない。

それを一個人で、やってのけたのだ。

 

「何を立ち止まっている。障害物は払った、直ぐに進軍だ」

 

「はっ!!」

 

今までは誰もが、ムソウの持つ有無も言わずに跪きたくなるカリスマ性、皇帝を傀儡とし、思うがままに権力を振りかざす大臣に対抗できる神算鬼謀、武力で幅を利かせる警備隊を抑制する保安部の指揮、そして何よりも帝国軍全体を凌ぐ勢いのムソウの個人私兵である武装親衛隊。

その一つ一つが誰もが羨み欲すものであり、それを一手に持っているムソウは誰から見ても憧れであり、嫉む対象である。

そんなムソウが、軽く投擲するだけで巨大隕石の落下衝撃に等しい力を持っているなど悪夢に等しい。

いや、いっそのこと悪夢であってほしかっただろう。

このことが切っ掛けの要因の一つではあるが、ムソウは更に畏怖の象徴となった。

ついでに言うと、巨大なクレーター跡地は今では湖となっていたりする。

 

 

 

 

「報告します。テンスイ村殲滅完了しました」

 

テンスイ村を虐殺と言う名の粛清をしていた一人が報告しに来た。

 

「概ね予定通りか。暗殺部隊の遊びが多いのは目に余るが、今回の目的はこれだけではない。撤収準備だ、直ぐにここを発つ全員に伝えておけ」

 

「はっ!!」

 

報告しに来た隊員は、ムソウからの命令を聞くと部隊員全員に伝えるべく村へと駆けて行った。

今回の殲滅戦は、二つの目的がある。

一つは文字通り、劣等民族との交易をした村の殲滅。

もう一つが、元大臣チョウリの保護だ。

偶然を装い上手く合流し帝都へと向かえば、帝都へとチョウリを消したいと思っている大臣が刺客を送ってくるはずだ。

その刺客を一人でも捕縛できれば十分大臣の牽制になる。

襲ってこなくても良識派が増え、大臣の牽制にもなるどちらに転んでもムソウが損をすることはない。

 

「撤収準備整いました!!」

 

流石にムソウがいると全ての行動に無駄がなくなる様で、直ぐに撤収準備が出来た。

 

「暗殺部隊の方はどうなさいますか?」

 

「捨て置け、元々奴らの指揮系統は別だ」

 

暗殺部隊の方は、あくまでも大臣の方に指揮系統が在り、合同作戦と銘打ちながら指揮権はムソウに与えられなかった。

それ以前に暗殺部隊と言いながらもほぼ大臣の私兵に近いため、手駒を水面下で敵対しているムソウに指揮権を与えるはずがなかった。

今回はあくまでも視察であって、アインザッツグルッペンの指揮権は、通常通り部隊長に持たせておりムソウは持ってはいない。

ならば、何故命令が出来るかというと、アインザッツグルッペンそのものが、保安部員で構成されたムソウの私兵であるからだ。

少し前までは、形式上とはいえアインザッツグルッペンは保安部からの臨時動員とはいえ軍の一つの部隊であった。

しかしその任務の特殊性、機密性から軍では扱いの難しさも相嵌り、好んで使う様な者はいなかった。

臨時動員とはいえ軍の部隊でありながら、使うのがムソウだけであったと言うこともあり、いつの間にか軍の臨時動員と言う形で保安部から人数を軍が借り受けたはずの部隊であった、にもかかわらずそのまま保安部の方へと部隊名を持ったまま帰属したのだ。

 

「では撤収する!!」

 

ムソウの号令とともにアインザッツグルッペンは帝都へと向かい歩み出した。

 

 

 

 

 

帝都近郊――

 

「この村もまたひどいな……民あっての国だと言うのに」

 

牛車の中から村の様子を見て、毛根が死滅した頭を光らせながら老人は嘆息した。

 

「そんな民を憂い、毒蛇の巣である帝都へと戻る父は立派だと思います」

 

父と言っている以上老人の子供であろう、少女は父を褒め称えた。

この二人こそ元大臣チョウリとその娘スピアだ。

 

「命欲しさに全てをムソウ殿に任せ、隠居している場合ではないな……国が亡ぶ。こうなってはワシもあの大臣ととことん戦うぞ!!」

 

「父上の身は私が守ります、ですからご安心ください!!」

 

チョウリは優秀すぎる元同僚であるムソウに一抹の罪悪感を感じていた。

そんな父を思ってか、スピアは父を勇気付けようとした。

 

「良い子に育ったのう。勇ましすぎて嫁の貰い手がないのが玉に傷だが……」

 

「そ、それは今関係ないでしょう!!」

 

チョウリは優しい娘に感動しつつも結婚適齢期だと言うのに未だ嫁に貰われない娘に苦笑いしてしまい、スピアもそのことは気にしているのか、顔を赤らめブツブツと落ち込むと言う中々器用なことをした。

そんな時だった、牛車の前に立ちはだかる三人の人影があり、壮年の男性、巨体に斧のような物を担いでいる男、男か女か見分けのつきづらい子供、今まで襲ってきた盗賊の中でも異質であった。

 

「また盗賊か!?治安の乱れにも程がある!!」

 

ムソウの担当する場所や、保安部の管轄内では盗賊行為は一切起きていない。

正確には盗賊となり得る芽さえも摘んでいると言うのが正しい。

敵性分子や危険分子となり得る存在は、芽の段階で確りと処理しているからこそ、ムソウの目の届く範囲では盗賊が生まれることはないのだ。

ならば、他の場所から流れて来るのでは?と言う疑問も生まれて来るだろう。

だが、そんなことは起きえない。

保安部が見回っている範囲内でそのようなことが起きれば、すぐさま討伐隊が組まれ最後の一人まで殺し尽くすのだ。

そんな奴らが守っている所に好き好んで襲おうなどと考えるほど、盗賊どもも馬鹿ではない。

 

「今までと同じように蹴散らす!!油断するな!!」

 

牛車から降りたスピアは愛槍を構えながら、護衛を激高した。

 

「行くぞっ!!」

 

スピアが言うと護衛全員が賊へと襲い掛かった。

巨体の男は背中の巨大な斧へと手を伸ばすと、襲い掛かる護衛を横へ一閃、全てを薙ぎ払った。

辛うじて防御が間に合ったスピアは愛槍を真っ二つにされ、腹部を斬られただけで致命傷は避けることが出来た。

 

「へぇ……お姉ちゃんやるねぇ。ダイダラの攻撃で死なないなんて」

 

子供がスピアにそう言うと、懐からナイフを取り出した。

 

「でも、これから起こることを考えると死んどいたほうが楽だったかもね」

 

恍惚とした表情でありながら、背筋が凍りそうにスピアはなった。

巨体な男は護衛を全て倒し終わると、牛車を縦に一千真っ二つに裂き、中にいる標的を強制的に出した。

 

「お、お前は帝国の将兵!!」

 

「はい、貴方の政治手腕は尊敬しておりました」

 

「な、ならばなぜ私を狙う!!!」

 

チョウリは襲い掛かって来た賊を知っていた。

今の大臣に頑なに賄賂を送らなかったために更迭された将軍だ。

大臣の派閥に属さない穏健派と言ってもいい方だった。

それが、今では大臣の尖兵めいたことをしていると知ってはショックも人一倍だろう。

 

「主の命令は」

 

そう言い、チョウリの首を刎ねようとした時だった。

ダダダダダッンっと連続して轟雷のように腹の底から痺れるような銃声が響き渡った。

チョウリは反射的に頭を抱え地面に伏した。

 

「ニャウ、ダイダラ」

 

「ボクは大丈夫だよ」

 

「ああ、俺もだ」

 

壮年の男は仲間二人の無事を確認すると、銃撃のあった方を見た。

そこには、三段構えで銃を構えるアインザッツグルッペンの姿があり、今のが警告である事を察するのは難しくなかった。

一目で保安部の人間だと分かるのには理由があり、保安部は軍部とは違った黒服と言われる専用の制服が在り、誰もが一目で保安部員であると分かるようになっている。

だからこそ、帝都内でも保安部員は良く目立ち、帝都警備隊をも取り締まることが出来るのだ。

逆に言うと一目で保安部が不正をしている事が分かるため、保安部の不正は本来の罰則以上の刑になるのだ。

そんなもの達で構成されており、なおかつ纏う雰囲気が通常の部隊や保安部のそれとはかけ離れている。

それが、いくら帝国最強の攻撃力を誇るエスデス軍や帝国守護の要である近衛部隊と比べて尚異質であった。

あれ程”死”を濃密に感じられるのは、アインザッツグルッペンだけだ。

多くの戦場に出たエスデス軍でさえ、エスデス個人ならいざ知らず、部隊規模で考えるのならば見劣りしてしまうものを感じてしまう。

 

「仕方ない、引くぞ」

 

「おいおい、良いのか?まだ標的殺せてねぇぞ」

 

「そうだよ。ボクもまだ」

 

「お前たち良く見て見ろ、あれはアインザッツグルッペンだ。アインザッツグルッペンがいると言うことは、事前情報通りであるならば視察に向っているあの獣もまたいると言うことだ」

 

「「!!」」

 

二人は、男が何を言いたいのか瞬時に理解した。

自分たちの主を簡単にあしらうことの出来る化け物相手に勝てる、そう思うほど自惚れるほど三人とも馬鹿ではない。

 

「分かったよ」

 

「しかたねぇか」

 

「撤収するぞ」

 

チョウリを襲った三人は急ぎ逃げ去った。

 

 

 

「大丈夫か、チョウリ殿」

 

「ムソウ殿、すまぬな助けてもらって」

 

護衛は全滅し、斬られてしまったチョウリの娘は現在保安部の者に応急手当てを受けている。

腹部を斬られたとはいえ、致命傷は受けていなかったため大事には至らずチョウリはホッとしていた。

 

「チョウリ殿、襲ってきた賊はどのような者達でした」

 

「っ!!、一人は帝国の将兵だ。残り二人は知らぬが、巨体な男で巨大な斧を持っていたな。もう一人は少年とも少女とも取れる風貌の子供じゃった」

 

それだけの情報でムソウは犯人を確信とまでは行かずとも、可能性があるもの達に心当たりがあった。

三獣士、エスデスの部下でありエスデス軍の中核を担う存在だ。

穏健派の連続殺害もエスデスが帰って来てから起き始まった。

つまり、大臣がエスデスを嗾けたと言うことになる。

あの女は、自身の欲求さえ満たせれば例えそれが、愛すべきムソウの敵対者である大臣の命でも聞き入れてしまう。

ある意味一番危ない女だ。

 

「チョウリ殿、道中また何があるか分かりませんから私たちとご一緒にどうですか?娘殿も負傷しておられるようですし」

 

「すまぬ、なにからなにまで面倒を掛けて」

 

「いえ」

 

ムソウは、見惚れる様な笑みを浮かべながらも、内心大臣の政敵を増やせ動きを抑制できるなと計算していた。



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獣の決断

絶賛スランプ中です


11月22日一部修正


side ナイトレイド

 

「集まったな皆。悪いニュースが四つある……心して聞いてくれ」

 

ナジェンダは、全員が集まると話を切り出した。

その表情はとても神妙なもので、いつもの和気藹々としたものではなかった

 

「一つ、地方のチームと連絡が取れなくなった」

 

連絡が取れなくなった、その発言で地方のチームの事を知らないタツミ以外は驚きの表情こそすれ疑問には思わなかった。

殺し屋家業を続けているのだ、何時その報いが来ても可笑しくはない。

誰もが理解しておきながら、いざ仲間が殺されたとなって平静を装えるほど人として終わってはいない。

だが、簡単に表情に出すようではそれが逆に命取りになり、自身の命どころか仲間の命さえ危険にさらすことになる。

そのため常に平常心でいられるように皆心がけている。

 

「地方のチーム?」

 

「帝国は広い、私達が帝都専門の分地方で仕事をする殺し屋チームが在るんだ」

 

タツミの素朴な疑問に即座にアカメが堪えた。

簡単な疑問に対する問いを求めるだけで、ナジェンダからの報告を遅らせる訳にはいかない。

特に新しい情報は誰にとっても生命線であり、この瞬間、疑問に一々応えていて襲撃に会い情報を聞きそびれることこそが、一番恐れなければいけないことだからだ。

 

「今、調査中だが全滅の可能性もある。そう覚悟してくれ……」

 

「とりあえずアジトの警戒をより強める必要があるね」

 

「ああ、ラバック、糸の結界の範囲を広げてくれ。そして二つ目」

 

こちらの方が、深刻なようでナジェンダの顔つきが一際厳しくなった。

 

「エスデスが北を制圧し、帝都へ戻って来た」

 

地方のチームが全滅したと言う報告以上に皆ざわめき出した。

特にエスデスの力を知っている者達は尚更だ。

 

「予想を大幅に上回る速度だったな」

 

「アイツはいつだって悩みの種だよ!!ただでさえ保安部がいるってのに」

 

「エスデス隊の兵士たちは備えとして北に残されているそうだ」

 

「じゃあ、いきなり反乱軍討伐ってわけでもなさそうだな」

 

全員が悲痛の思いに暮れ、今後はエスデスの動向にも気を付けないといけないと思うと気が滅入りそうになっていた。

 

「次にあいつがどう動くかまだ読めん。今は日夜拷問官に真の拷問と言うものを叩きこんでいるらしい」

 

「レオーネ、お前は帝都へ行きエスデスの動向を探ってくれ。あと可能ならば奴の動きも頼むぞ」

 

「了解っ!!」

 

レオーネは勢いよく敬礼する中、タツミは名前だけしか知らないエスデスに凄く興味を持っていた。

 

「エスデスは殺戮を繰り返す危険人物だ、用心しろ」

 

「オーライ、オーライ」

 

フフッ、ってことは、隙あらば倒しちゃっていい人間だよね。

帝国最強と呼ばれるドS将軍と世界最強の黄金の獣。

どちらも仕留めがいがある!!!

そんなことをレオーネは思っていた。

本人を直接見たことがないからこそ言えること、とも言えるが。

 

「三つ目、奴が、ムソウが本格的に動き出し始めた」

 

ナジェンダがそう言った瞬間、全員が一瞬固まった。

タツミは、ムソウと言う名を少し前に聞いた記憶があるため、それを思い出すように記憶の糸を手繰り寄せた。

そして思い出したのだ、一切底が見えない力量、獅子の鬣の様にたなびく黄金の髪、総てを見下ろす王者のような黄金の瞳。

如何なる手段をもってしても朽ちることも不朽の黄金の姿を。

 

「先日のことだが、異民族と貿易しその利益を革命軍に渡してくれていた村が、移動虐殺部隊と悪名高いアインザッツグルッペンの手によって皆殺しにされた。他のみんなは、分かっていると思うがタツミの為に教えておこう。村が皆殺しに合った理由は、革命軍に利益を渡していたことではない、異民族と貿易していたことだ。ムソウは異民族を劣等種と蔑んでいおり、その劣等種と関わりを持つこと自体が、奴にとって皆殺しにするだけの理由としては十分なんだ」

 

「な!!あの人がそんなことを……」

 

「おいおいタツミ、お前アイツに合ったことが在るのか?」

 

「初めて帝都に来たとき、一度だけ」

 

「……そうか、なら大丈夫だな。俺たちの仲間になった後だったら今頃拷問か殺されていただろうよ。アイツは敵味方の区別を簡単に見極めるからな」

 

「そんなに危険なやつなのかあの人!?」

 

タツミは初めて会った時、助けてもらっている分、驚きも人一倍だった。

 

「アイツは、異民族の味方をする者や異民族と繋がりのある者以外には基本的には無害だからな。だがら、革命軍の上層部はアイツを味方に引き入れるために、西の異民族と手を切るか、西の異民族や他の異民族と手を組み、打倒をするか未だ考えがまとまらないんだよ。だけど、俺はどんな理由であれ虐殺をするアイツを俺は許すことが出来ないんだ!!」

 

タツミはブラートの悲痛そうな表情に何も言うことが出来なかった。

 

「そして最後に帝都で文官の連続殺人事件が起きている。被害者は文官三名とその護衛の人間六十一名。問題は殺害現場に『ナイトレイド』と書かれたこの紙が残っていること」

 

ナジェンダは今まで以上に真剣な顔つきで言った。

この行為は誰の目から見ても罠であり、ナイトレイドを陥れようとしているのが分かり切っている。

 

「分かりやすい偽物だな……俺達に罪を押し付ける気か?」

 

「でもさ普通バレるだろう。いきなり犯行声明何てワザとらしい」

 

「初めの一、二件はそう思われていたが、今は私達の仕業と断定されそうだ」

 

「なんで?」

 

タツミは若干の焦りを感じながらも平静を装った。

 

「事件が起きる毎に警備が厳重になるが、それでも殺されているんだ。四件目で元大臣チョウリは腕利きの護衛三十名近くが殺され、娘なんて皇拳寺で皆伝の達人が負傷したんだ。幸い二人は、偶々通りかかったことになっている、アインザッツグルッペンの手によって助けられたが、襲った賊はあのアインザッツグルッペンから逃げおおせたのだ。それが私たちが犯人だと言う決定打になったらしい」

 

一拍間を置くと、ナジェンダは煙草を懐から取り出し火をつけた。

 

「殺されたのは全員大臣の派閥に属さない良識派の人間だ。大臣から見れば煙たいだけのな。つまり大臣が強制的に消したんだ。ナイトレイドの所為にしてな」

 

「さらに言えば誘いだろう?本物をおびき出して狩る気だぜ」

 

「……これが罠だと分かった上で皆に言っておきたい。今殺されている文官達は能力も高く大臣にも抗う、かつ反乱軍のスカウトにも応じない国を憂う人間たちだ。そんな文官達こそ新しい国になった時に必要不可欠なんだ。後の貴重な人材をこれ以上失う訳にはいかない。私は偽物を潰しに行くべきだと思う!お前達の意見を聞こう!!」

 

ナジェンダの真剣な表情に覇気の籠った言葉でタツミは気圧されそうになった。

だが、タツミ自身にも引けない、引いてはならない一線はある。

 

「俺は……政治の派閥とかはよく分からねぇけど……ナイトレイドの名前を外道に利用されてるってだけで腹が立つ!!」

 

言い切ったタツミの表情は今までになく良い顔つきで、かなり成長したことが一目で見て取れた。

タツミの成長を人一倍信じ、何時か自分を追い抜く存在であると確信しているブラートはいつの間にか自身の思っていた以上に成長しているタツミのことをとても嬉しく感じていた。

 

「そうだな……その通りだタツミ!」

 

ナジェンダは皆を見渡すと皆タツミと同意見だと確信した。

 

「よし、決まりだな。勝手に名前を使ったらどうなるか、殺し屋の掟を教えてやれ!!!」

 

 

side END

 

 

 

 

 

 

「――以上がチョウリ殿から知ることが出来た情報です」

 

「分かった。下がっていい」

 

テンスイ村を殲滅し、予定通りチョウリ元大臣を保護したムソウは、その間に溜まった書類仕事をしていた。

特に皇帝が巡幸で使用する”竜船”完成セレモニーの為に帝国国内の要人、権力者、富裕層の人間が多く乗り込むため保安部も警備に駆り出されているため余計な仕事が増えている。

文官連続殺人事件を警戒してのことだと言うとこもあるが、そろそろナイトレイドが本格的に偽のナイトレイドを潰すために動く可能性があるからだ。

偽と断言できるのも、賊の顔を見たチョウリが帝国の将校が犯人だと教えてくれたからだ。

そこから突き止めた結果、エスデスの配下である三獣士の犯行である事までは突きとめることが出来た。

後は捕縛するだけなのだが、文官連続殺害の裏で大臣が糸を引いていると言う事実を得たい今、出来る限り三獣士を生きたまま捕縛したい。

しかしテンスイ村を殲滅作戦の際、自身を囮とする作戦の為に視察と言う名目を使ってしまい”竜船”に搭乗する暇がなくなってしまったのが痛い。

竜船には、大臣の派閥に属さない良識派の文官の一人が乗り込むのはすでに確認できている。

専用のボディーガードで周りを固めるらしいため、普通の刺客からは身を守ることが出来るだろう。

しかし帝具を持っている者が、刺客として現れるのならば話は変わってくる。

その帝具の性能や能力によって対策が変わるために明確な作戦を立てることが、本来ならば今の段階では出来ない。

だが、今回偽ナイトレイドとして暗躍している者達が三獣士と分かった今ならば作戦を立てることが可能だ。

奴らの持っている帝具は既に把握済みだ。

問題があるとすれば、搭乗可能な警備の人数と場所が船上である事だ。

最悪、襲撃の知らせを知ることが出来たならば、兵を犠牲に文官を護り通させ時間を稼ぐことが出来るのならばいくらでも援軍を出すことが可能だ。

だが、そこまでする価値があるかという話になると、実はそうではない。

確かに大臣に対する切れるカードの一枚にはなるだろうがジョーカーとはなり得ない。

いくら三獣士、果てはエスデスから大臣に命じられたと聞き出すことが出来ても、大臣が白を切ったらそこまでだ。

伊達に皇帝からの信篤く、皇帝に次ぐ権力を握っている訳ではなく皇帝が擁護して来たならばこちらが痛手を喰らう可能性もある。

 

「……今回は見送るか」

 

対大臣用のカードは多いことに越した事はないが、危険を冒してまで得るだけの価値が今回はない。

一つ目の書類の塔を捌き終えたムソウは、椅子の背にもたれ掛かると、執務机に備え付けられた紐を引いた。

 

「失礼します。お呼びでしょうか」

 

「第Ⅴ局局長に今回の警備人数は必要最低限でいい、と伝えておけ」

 

「了解しました」

 

呼び出された隊員は、ムソウの最低限の伝達命令を聞くと綺麗な敬礼をし執務室から出て行った。

それを確認したムソウは一枚の報告書を見た。

内容は安寧道という宗教についてまとめられた経過報告書だ。

 

「ナイトレイドや革命軍よりも先にこちらを潰すべきか、それとも……」

 

宗教の利用価値も知ってはいるが、それ以上に宗教の恐ろしさを知っている。

前世で反キリストだった影響か、今世でもあまり宗教と言うものを好きになることが出来ない。

だが、帝国内で最も信者が多い安寧道を利用した方が、ムソウの考えている”計画”の実行では都合がいい。

 

「これもまだ報告待ちか」

 

安寧道についてまとめられた経過報告書を他の書類とは別の場所に片づけるとまた書類仕事へと戻った。



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獣とドS

11月22日一部編集

20150102誤字修正


タツミ達が”竜船”に乗り込んでいる同時刻――

 

 

本当に珍しいことにムソウはエスデスと共に帝都メインストリートを歩いていた。

保安部の担当警備範囲を、エスデスが新たに率いる新部隊に引き継ぐため、と言う役割もあるがエスデスとしては、ムソウと二人っきりで帝都のメインストリートを歩いていると言う事実だけで十分満足、とはいえないものの、嬉しく思っていた。

流石に職務中ということもあり、腕を組んで歩くと言うことはなかったが、美形がそろって歩くだけで暗い影が差している帝都に光が差し込んで来たと言うものだ。

 

「それにしても、こうして二人っきりと言うのも久しぶりだな」

 

いつもドSを見慣れているエスデス部隊や大臣が見たら、誰だっ!!と言いたくなるほど、乙女な顔つきをしているエスデスは、満足そうな声音で言った。

 

「それもそうだな。お前は将軍職で忙しく、私は諜報部からの情報、保安部の報告、収容所の活動状況などを一人でやっていると必然的に忙しくなるからな」

 

諜報部のもたらす情報、保安部の上げて来る報告、そして収容所で行われていること等の活動状況など、極力見る人の数を制限または、減らす必要がある。

そうなれば必然的にムソウの仕事量は、一般職員の量をはるかに超えることになる。

しかし、ムソウの知能はもちろんのこと、情報処理能力、判断力なども一般人の尺度で測ろうと考えることさえおこがましく感じる程高い。

だからこそムソウが二つの組織の長官職についていながら、現在まで一度たりともシステムを破たんせずに機能させていることこそが、ムソウの能力の高さを逆説的に証明することになっている。

 

「それにしてもエスデス、お前はかなり人望あるな。私の場合は畏れられていると言うのに」

 

「それなら私よりもムソウの方が羨ましい。ムソウの場合は、その身に纏う圧倒的覇気とカリスマ性からくる畏れ。それに対して私に抱かれているのは恐怖心からくる恐れだ。私もいずれは覇気やカリスマ性で畏れられたいものだ」

 

見回りをしながら、メインストリートの中でも比較的力のある店などに挨拶や顔見せなどをしていると、ほぼすべての人が低頭で礼をしながらもどこか脅えた様子であった。

ムソウもエスデスも罪がなければ一般民には無害である事には違いないが、その圧倒的力におびえてしまうのは仕方がないとしか言いようがなかった。

 

「長官」

 

エスデスと歩き次の店へと向かおうとした時だった。

保安部の者がムソウの元へと駆けて来たのだ。

 

「どうしたんだ?」

 

「ああ、報告だろう。この先に甘えん坊という甘味処がある。先に行っておいてくれ、私も直ぐ向うから」

 

「そうか、分かった」

 

せっかく恋人と水入らずで過ごし良い雰囲気になってきたら、いきなり彼氏に仕事の電話が掛かって来て、雰囲気がぶち壊され落ち込んだ彼女のような雰囲気を纏いながら、エスデスは言われた通りに先に行くことにした。

ムソウは、エスデスが先に行っていることを確認すると駆けて来た者の報告を聞き出した。

 

「竜船は無事出向いたしました。乗船者を確認していたところ、怪しいものは三名ほどおりましたが、乗船時の確認では大臣からの特別招待状を持って居たため、乗船拒否できず乗船させてしまいました」

 

「大臣からの特別招待状?」

 

ムソウが疑問を感じてしまうのも仕方がないことだ。

竜船への乗船方法は、完全に分担しており、乗船に関することは文官がそれも大臣派の人間が仕切っている。

乗り込む者の中には、良識派の中でも反大臣意識の強い者が乗り込むため、警備の方は良識派が取り仕切ると言う線引きがされている。

そのため、ムソウは竜船に乗船する、乗船者リストを見る機会が存在せず、招待方法も知らされていない。

だからムソウが乗船者に招待状が配られていること、特別招待状なるものが存在することを知らないのも仕方がないことだ。

そして、その特別招待状こそが、大臣が標的を殺すため三獣士を乗り込ませるために用意させた特別枠である。

 

「それで、他に怪しい者達はいたか?」

 

「一人、若い少年が。招待状は本物の様でしたが、纏っている雰囲気や足運びなどが怪しかったため、第Ⅳ局ⅣCに問い合わせたところ、そのような者は存在しえないとの返答でした。しかし乗船に対して我々は一切手出しできない決まりになっているため、我々は止めることができずその若者は普通に乗船していきました」

 

「そうか、分かった。第Ⅴ局と帝都警備隊に竜船を回収するように命令を出しておけ」

 

「了解しました!!」

 

保安部の者は敬礼をすると、また駆け足で保安本部へと駆けて行った。

ムソウも部下が駆けて行きだすのを見届けず、エスデスに先に行く様に言った甘味処へと足を向けた。

 

 

 

 

「すまないな。待たせたか」

 

エスデスは店の前に在る長椅子に腰を掛けていた。

 

「いや、大丈夫だ。今店の者に名物を持ってこさせている所だからな」

 

「そうか」

 

ムソウはそれだけを言うとエスデスの横に腰かけた。

まだ視線を感じると言うことは、諦めていないのかとムソウは内心思った。

流石にこのタイミングで仕掛けるほど馬鹿ではないとしても、こちらに向ける視線と殺気が強すぎる、もう少し気配を消せないのだろうか、常に命を狙われる立場であるムソウや元々が狩猟民族であるエスデスにとって、刺客として送られてくる暗殺者の気配など手に取るようにわかる。

そこいらの刺客に比べたら十二分に使える部類だろうが、私の命を狙うならばもう少し、気配を抑える術を身に着け視線を露骨にこちらへ向けない様にするようにしないと、ムソウやエスデスの命を脅かす事は不可能だろう、いやムソウやエスデスの命を脅かすとなるとそれこそ一国を落とせるほどの者でなければほぼ不可能だろうが。

まあ、そのようなことはさておき。

 

「店主、茶を頼む」

 

「は、はい!!ただ今お持ちします!!」

 

そんなことをムソウ達を想っているとは全く考えていない、視線をを向けていることが気づかれている者はと言うと。

……エスデスとムソウと言う、革命を成功させるための最難関の二人が護衛も連れることなく仲良く外に出ている。

二人と敵対する者や邪魔だと思っている者達から見たら、刺客を送り込み暗殺するチャンスだと思うだろう。

だが、ムソウ達に視線を向けている者であるレオーネは、帝具で獣化している今だからこそ気が付くことができた。

あれは、刺客を誘い込む罠であると。

レオーネは帝具、ライオネルによって獣化しており、本能さえも獣化の影響で強化されているから、だからこそ感じ取ることが出来たのだ。

エスデスから滲み出る禍々しい殺意を。

そんなエスデスさえもがちっぽけに感じ取れる、常人では防衛本能によって強制的に気づけない様になっている、ムソウから発されるプレッシャー。

今すぐにでも無条件で跪きたくなるほどの存在感、だけではない。

それは表面上のものにしか過ぎない。

ムソウの内側に在るもっと悍ましく、恐ろしいもの。

ムソウに殺された者達の魂で作り上げられた骸の城。

そして、何よりもムソウの中に溢れかえる黄金の骸の軍勢――

 

 

はっ、と我に返ったレオーネは、見てはいけない何かを幻視しまった気がしていた。

冷や汗が雨のように落ちる。

震えが止まらない我が身を抱きしめ、自身を必死に落ち着かせると、ムソウとエスデスの暗殺を諦め本来の目的である動向を探るだけに留め、撤退することにした。

悔しいがここは本能に従い退く、レオーネは自身の力不足を感じながらも逃走を決断した。

この決断は、間違っていなかった。

ここで下手に誘いに乗ったのならば、死以外の結末は存在しなかったのだから。

 

「む?気配が消えた……誘いには乗らなかったか。残念だ、新しい拷問を試したかったのだが」

 

エスデスは、レオーネが居た場所を見つめながらぼやいた。

ムソウはムソウで、自分達を監視していた存在が消え去ったのを感じ取っていた。

一般兵では相手にならないだろうが、所詮は人の域を越えない存在だ。

脅威となるほどの存在ではない以上、これ以上気にかけても仕方がないと判断し、竜船に乗り込んだ不審な者達がどうなるか、また生きていたならばどのような名目で捕縛するかを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エスデスとの見回りを終えたムソウは、宮殿内にある自身の執務室へと戻った。

処理しなければならない書類が多いこともあるが、それ以上に常に報告される新鮮な情報を知り、早急に判断しなければならないことがあるからだ。

情報は、一日過ぎれば価値を失う場合さえあるからだ。

その中のでも今気にすべきものは二つ。

一つは、エスデスが今回新設する新部隊。

部隊名はまだ分からないが、招集られた者達は分かった。

帝都海軍所属のウェイブ

帝都警備隊所属のセリュー・ユビキタス

焼却部隊所属のボルス

帝国暗殺部隊所属のクロメ

ジョヨウの元教師で、現在はジョヨウの太守の元で働いているラン

帝都技術開発局のDr.スタイリッシュ

誰もからも個性的な面子であり、それぞれのプロフィールもまとめてあった、経歴も含めて。

誰もかれも、とは言わないが、集められた者達は一癖も二癖もある者達だ。

ある意味目立つのは、軍属ではないランだが、その経歴は招集された者達の中でも一部を除けば平凡だ。

だが、その一部こそランがこの召集に応じるに至る理由だろうとムソウは考えた。

ムソウ個人の意見で言えば、面白そうなのはランとクロメ位だ。

クロメの場合は、国に買い取られ、暗殺部隊の一員になるべく育てられ今では薬物着けの体にされていることをムソウは知って言る。

それこそが、クロメが帝国を裏切れない理由でもある。

薬が切れかかった時の禁断症状は、薬のレベルによって変わる。

そして、クロメに使われている薬のレベルはその中でも群を抜いて高く、その恩恵は大きいもののその反動もまた大きい。

そのためクロメが国を裏切るのは、即禁断症状との戦いを意味するため、禁断症状の恐怖心のため裏切らないと断言できる。

何故ムソウがそれを断言できるのか、という疑問を感じる者もいるだろう。

それは、ムソウも少なからず関わっているからだ。

薬物摂取によるドーピング、それによる強化兵の製造は、常に帝国の闇と共に進化してきている。

ならば、ムソウかその存在に気が付かない訳もなく、早い段階でムソウに害がある機関はつぶしている。

現在残っているのは、二つだけであり、一つはアインザッツグルッペンが使用する毒を生み出す機関、もう一つは大臣直轄の機関だけであり、クロメは大臣直轄の機関に所属している。

他の者は、比較的ありふれた経歴で面白みに欠けているものの一般兵に比べたら面白い程度の者達だ。

全員のプロフィールと経歴を見終えたムソウは、書類をまとめると手近な火を使い燃やした。

こういった情報は、誰が狙うか分かるものではないし、一度見てしまえば覚えてしまうので、これ以上所持していてもデメリットしかないから簡単に処分できたのだ。

元々が報告用の物であり、きちんと人事の方でも保管してあるから、と言う理由も、もちろんある。

 

「失礼します!!」

 

保安部の者が慌ただしく執務室へと入って来た。

 

「どうした?」

 

「竜船を監視していた者が、竜船付近で水竜の様なものが船上へ向かって突進したのを確認したため、第Ⅴ局と帝都警備隊の者達が緊急突入しました。こちらの損耗はないですが、船上にて、エスデス軍三獣士、リヴァ、ニャウ、ダイダラの三名の死体を確認、帝具は持ち去られた模様、水竜の様なものはリヴァの持っていた帝具によるものだと後程情報で断定。死者は他には確認できず名簿によりますと一名行方不明者が出ました。ナイトレイドおよび他の刺客の確認は出来ず、ただ今行方不明者の捜索をしております」

 

行方不明が一人に死亡したのはエスデス軍の三獣士のみで、帝具は全て持ち去られている。

ならば行方不明になったのは、大方ナイトレイドのメンバーか反乱軍の刺客のどちらかということになる。

今回はしてやられた結果になる。

警備を担当していた良識派もそうだが、怪しい人物を乗り込ませた大臣派も勢力を削られる結果になるのは明白だ。

 

「分かった。行方不明者の捜索は今すぐ打ち切り、通常の警備体制に戻せ」

 

「了解しました」

 

報告をしに来た者は、敬礼をするとすぐさまムソウの命を捜索している者達へ伝えるべく駆けて行った。

再度書類や報告書を見ようと目線を落とそうとした時だった。

自分の足にすり寄る一匹の猫に変装している者がいた。

 

「チェルシーか」

 

「あはははぁあ、やっぱりばれちゃうか」

 

一瞬煙が出ると、すぐさま晴れるとそこには、ヘッドホンをしているミニスカートを穿いているディーラーと一目で見るならば誰もが思う感想だ。

だが、その見た目に反しチェルシーは反乱軍に所属させている、ムソウの手駒の中でも優秀な暗殺者だ。

 

「そう言えば、お前が所属していた地方の部隊は壊滅していたな」

 

「あれは危なかったですよ~」

 

口をとがらせながら、チェルシーは不貞腐れ気味に言った。

 

「それでこれからはどうしたら良いんですか?」

 

「このまま反乱軍に居座り、そのまま仕事を続ければいい。身の危険を感じたならばすぐさまこちらへ戻って来ても構わん。お前の仕事はあくまで間諜なのだから。ことを起こす日取りが分かったならば私に直ぐ情報を寄こせ」

 

「りょーかいです」

 

チェルシーは可愛らしく敬礼をすると適当な保安部の兵に変身し執務室を後にした。

変幻自在ガイアファンデーション、質量さえ誤魔化してしまう辺り、戦闘には全くと言って良い程使い道がないが、裏方、それも諜報や暗殺向きの帝具であり使い、使い方一つでは戦闘向きの帝具よりも脅威となりえるのだ。

それはさておき、もう一つは安寧道だ。

諜報部からもたらされた情報によれば、安寧道は蜂起派が増え続け、信者もその気になるものが増えて来ている。

最も懸念すべきは、やはり大臣の息のかかった存在であり教主の補佐の座に収まっているボリックだ。

蜂起派がいくら増え様が、大臣による帝国のバックアップがあるため武装蜂起が起きることはない。

現状は大臣の手駒ではあるが、教主を殺し奴が教主にでもなれば、大臣は間違いなく我々に牙を向けさせるのは明白だ。

ならば、ナイトレイドの攻めに乗じて奴を処分するか……

ムソウは今後のことを考え決断をした。




久々の更新です。
今までと書き方が変わっていたらすみません。
今後も少しずつ書いて行こうと思います。


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獣と狩人

11月23日

20150105 誤字修正


「そう言えば、今日だったか」

 

ムソウはいつも通り、常人では一日費やしても捌ききれない量の書類を捌きながら、今日エスデスの作り上げる新部隊の隊員たちが到着する日だと思い出した。

ムソウとしては、大臣の私設部隊と変わらないと言っていい部隊が出来るのは好むところではないが、大臣の命は、陛下の命と変わらない今の帝国では覆しようのない絶対の命令となっている。

薬は時として毒となり、毒もまた使い方によっては薬となる。

大臣も時として薬となれば良いが、あれは毒でも薬でもない、膿だ。

諜報部に内偵させているだけでも、黒と言う結果しか出ず、むしろ探らせれば探っただけ出て来る。

大よそ人の犯せる罪と言う罪を犯しているのが大臣だが、最悪なことに現皇帝の信が厚過ぎるのもあるが、その罪を巧妙に隠し他の政敵に擦り付け、政敵を裁いているため、その罪で大臣を陥れることが出来ない。

最低でも、反乱軍の決起、安寧道の武装蜂起と同調する形で、何らかの手段を講じ陥れるのが現状最も好ましいが、人の準備した物を使って他人を陥れるのは、誰かの掌の上で踊っているようでムソウとしてはあまり好むところではない。

むしろ、他人を自身の掌で踊らせ、陥れることの方を好ましく思っている。

そうなると必然的に大臣を陥れる機会が限られてくるのもまた事実だ。

どうしたものかとあらゆる可能性を思考している時だった。

 

「長官、お時間です」

 

執務室の扉越しに部下が時間を知らせに来た。

元々予定はなかったのだが、今回急遽招集がかかったのだ。

理由は、おおよそ見当がついており、エスデスが率いる部隊の顔見世のためであろうと当たりを付けていた。

各軍、部署、または市民、商人とあらゆる者に成りすまし、忍び込んでいる諜報部からの報告によると急遽集められたのは、一部の文官と帝都警備を携わっている部隊の将軍たちだけという状況証拠から導き出すことができ、その答えが必然的にエスデスの新設する部隊員の顔見せと考えるのが自然であった。

 

「分かった」

 

それだけを言うと掛けてある外套を手に取り、一気に羽織ると執務室を後にした。

 

 

 

 

――謁見の間

 

「私が最後か」

 

謁見の間に着くと呼び出されていた文官武官たちは既に整列していた。

その中には、非常に珍しいことにブドー大将軍の姿もあり、仁王立ちの姿からぶれることなく立っていた。

後は、皇帝とエスデス率いる新部隊が来るのを待つだけのなのだが、ムソウが来るのを待っていたかのようにムソウが定位置に立つと皇帝は直ぐ入って来た。

エスデス達もあまり間を置くことなく謁見の間に入って来るのを見ると、本当にムソウが来るのを待っていたのではと邪推してしまうものがある。

 

「エスデス将軍、此度の新部隊設立、大義である」

 

エスデスは皇帝の前で跪き、いつも被っている帽子を胸に当て頭を垂らしている。

新部隊のメンバーは、エスデスよりも一歩引いた位置で跪き頭を垂らしているが、いきなり皇帝の前に連れてこられたためか緊張しているの者も何人か見受けられる。

 

「それで、新部隊の名前は何というのだ?」

 

「はい、我々は独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織……ゆえに特殊警察『イェーガーズ』と名付けました」

 

「『イェーガーズ』……良い名だな。うむ、ならば『イェーガーズ』に専用の建物を用意させよう」

 

幼い皇帝は満足そうにうなずいて言った。

大臣は大臣で、皇帝の横に立って自身の使える手駒が増えたことに喜んでいるようで、悪い笑みを皇帝に見えない位置で浮かべていた。

いくら皇帝の信厚い大臣とはいえ、軍の人事内情に深く関わってくるとなると、必ず帝国軍最上位に立つブドー大将軍が立ちはだかるのは必然だ。

帝国内のあらゆる情報は、その情報網故必ず一度はムソウの目に入るが、大臣は違う。

大抵の情報は一度ムソウの元に集まり、選別されてしまうため、大臣でさえ自身の情報網を使ったとしても、帝国内や国外の全ての情報を知るのは事実上不可能だ。

大臣が出来るのは、精々使える手駒を増やし自身の権力を高め、欲望を満たす事位だ。

むろんそのことを大臣が知ることはないのだが。

 

「陛下、これで陛下憂いを取り除くことが出来ますな」

 

「うむ、それもこれも大臣の尽力あってこそだな」

 

大臣はにこやかに皇帝に声を掛け、皇帝もにこやかに返事を返した。

そんな中、我関せずと言った表情でブドーは目を瞑り、なり行きを静かに見守っていた。

ブドーの担当が近衛を率いての宮殿警備であるため、帝都内の賊とはほぼ関わりがなく、関係してくるとすればそれは宮殿に賊が攻めて来た時くらいなものだ。

ムソウはムソウで、この様な無駄な形式だけのものの為に呼び出されたのが気に食わないためか、こちらもブドーと同じで我関せずの態度を取っていた。

元々形式だけの謁見と新部隊員を皇帝に紹介するだけだったため直ぐに謁見は終わった。

謁見が終了するとブドーは、今回の謁見で一言もしゃべる事無く直ぐに謁見の間から立ち去った。

大臣と明確に敵対している数少ない人物でありながら、帝国に無くてはならない存在であるからこそ許される振る舞いだ。

それを言うならムソウもそうだが、態々この様なことをする方が器が知れると言うものだ。

むしろ強者だからこそ余裕を持った振舞いが求められるものだ。

 

「陛下この気に一つお願いしたことが」

 

「ムソウが余に願いとは珍しいな。言ってみよ」

 

「ここ最近、ナイトレイドや反乱軍の活動が活発化しており、諜報部と保安部を別々の組織のまま命令指揮しておりますと、末端まで命令が伝達されるのに遅れが目立ってきております。ゆえに、この気に諜報部と保安部を統合し保安本部としたいのですが、いかがでしょうか?」

 

暗に諜報部と保安部を一つの組織にしろと言っているムソウだが、そこは幼く経験も少ない皇帝だ。

そこまで深く考え着くわけもないが、大臣は違う。

あの手この手で、他の帝位継承者を蹴散らし、今の皇帝を帝位就任させただけにその裏もしっかり理解できているため、苦い顔つきをしている。

 

「余としてもムソウには今後も大いに働いてもらい、千年帝国繁栄のための忠臣だと思い叶えてやっても良いと思うが、大臣はどうだ?」

 

あくまでも皇帝にとって大臣の意見が一番か、口にすることはなかったがムソウは内心そう吐露した。

こういった判断で、自身の裁量を計られていることに気付かぬとは、良識派は未だ何故この皇帝が真実に気づくと、僅かな可能性を信じているのか理解に苦しむと、ムソウは呆れ気味に思いつつも表情には出さなかった。

一方大臣はと言うと、してやられたと思っていた。

エスデス将軍の為に態々帝具使いを6人も集めておいて、ムソウの意見を一方的に却下する訳にはいかない。

さらに二つの組織の長であるはムソウであり、その二つの組織を一つにした場合の利便性が上げるのであれば、本来なら歓迎すべきことであり、そもそも拒否する理由にはならない。

だが、二つの中規模組織を一人で指揮するのと一つの大規模な組織を指揮するのではその権力、権威の上がり具合は推して計るべきだ。

 

「そうですな。ムソウ殿には日頃苦労をかけておりますから、陛下が良いと思われるなら私が否定する理由は有りませんよ。そうですね、一緒に専用の建物を渡してはどうでしょう?」

 

その発言に大臣派の者達は大臣の言葉に自身の耳を疑った。

水面下とはいえ敵対している者の力が増すことを許可したのだ。

そんな大臣はと言うと、皇帝には甘い顔で許可しながらも、実際は腸が煮えくり返る思いだった。

 

「うむ、ではムソウ。余の名において諜報部と保安部を統合し保安本部と名乗ることを許可し、新たに宮殿近くの建物を見繕い渡そう」

 

「ありがとうございます。陛下」

 

専用に建物を渡すと言うことは予想外ではあったが、許容範囲内であったため、ムソウは上手くいったと頭を垂れながらほくそ笑んだ。

 

「他にこの場で余に言っておきたいことのある物はおるか?」

 

ついでにと言わんばかりの陛下の物言いだが、他に何かを言える者はいなかった。

むしろ、この様な場で言えるのは限られた者位で、ムソウを除くとなると後はエスデスとブドー位のものだ。

皇帝は一通り見通し他に言う者がいないのを確認すると、玉座から立ち上がり、大臣を連れて謁見の間を出て行った。

 

「上手くいったな」

 

召集された面々も皇帝が出て行ったのを確認して出て行き始める中、ムソウは一人呟いた。

勝算があったからこそ、このタイミングで願い出たのだ。

でなければ、あのようなタイミングで言い出すわけがない。

下手をしたらムソウが政治的基盤を築きたいために言い出したと、大臣派が言い出しかねないからだ。

だが、エスデスに帝具使い6人を付けた手前簡単に否定しようものならば、発言者の立場が危うくなるため言い出せなかったと言うのもあり、上手く行くことができた。

ムソウの権力、権威、武力が上がるにつれ、大臣は外の革命軍、内の保安本部とブドー率いる近衛の三つに注意を向けなければならなくなったと言うことになる。

今後どのようなことをしてくるか楽しみだ。

そう思いながら、ムソウもまた他の者と一緒に謁見の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

執務室に戻ってからの仕事はいつも以上に熾烈を極めた。

二つの組織を一つにまとめ上げると言うことは、それだけで指揮系統や命令系統の調整、二つの組織の人事とその長であるムソウだけが出来る判断が多くあるためだ。

ある程度の目途が付けば、保安本部に二つの人事をまとめ作り上げた第Ⅰ局(人事局)に人事のことは任せることができる。

その間に、調整した命令系統や指揮系統を伝達すればいい。

少し問題があるとすれば、国外の諜報を行わせている者達に、この事が伝わるまでにタイムラグが有り過ぎることくらいだが、その位ならどうにかなるだろう。

そんなことを思っている内に構想が形を成していき、納得のいく形になった。

 

「ああ、そうだ。折角の機会でもある、エスデス達の新部隊を祝いに行ってやるか」

 

保安部と諜報部が現在緊急でやらなければならないことは既にやってしまい、忙しいのは人事を中心とした場所ばかりで他は、専用の建物に移動するための準備をしている位だ。

ならばと思い立ったムソウは、ムソウがやらなければならないことを終えると、訪問者を持成すために常備されているワイン(一本で帝都市民が中央部で一年は遊んで暮らせるお値段)を二、三本見繕うとエスデス達の居る元へと向かった。

 

 

 

イェーガーズが現在使用しようする為に割り当てられたのは特別警察会議室だ。

皇帝が用意させると言った建物が見つかるまでの間ではあるが。

ノックをすると中から、『はーいっ』と言った声が聞こえ、こちらへとパタパタと駆け足で向かってくるのが聴こえる。

 

「どちら様ですかー……って、ムソウ保安部長官!!」

 

出迎えて来たのは、セリュー・ユビキタスであった。

セリューはセリューで、いきなり帝国内でも一、二位を争う程の大物が訪ねて来て驚き、どう対応して良いのか分からず固まってしまった。

 

「ムソウではないか!!態々どうした?」

 

セリューが大声を上げて驚いたため、エスデスも直ぐに気づき此方へと歩み寄って来た。

 

「何、お前が新部隊立ち上げの祝いを持ってきたのだよ」

 

正確には、それを利用させて貰ったからそのお礼であるのだが、それを言うほどムソウも野暮ではない。

 

「そうか、態々すまないな!!」

 

部下の前だからか毅然と振舞っているようだが、付き合いが比較的長いムソウは、一目で照れていることを察することが出来た。

 

「これは、祝いの品だ」

 

「良いのか?これはかなりいい品のはずだが」

 

「構わんさ。まだたくさん物はあるからな」

 

それにして、プロフィールなどは見てはいるが、改めてイェーガーズの面子を見るとかなり濃い者達ばかりだな。

ドSにオカマ、親が殺された者に親に売られた者、守っている者諸共殺し続けて来た側に、守らなければならなかった者を殺されてしまった側、この中でウェイブが一番真面(普通)であった。

むしろウェイブこそが本来正常で、他の者達の経歴が異常なまでに汚れているだけとも言える。

しかし癖が強くとも、その実力は一つの部隊に集めるには過剰すぎる戦力と考えて問題ないだろう。

むろん、その実力を発揮させきるかはエスデスの手腕だが、エスデス自身の実力も考えると問題なく機能するだろう。

だが、問題なのは保安本部との縄張り争いだ。

執行権の優先順位ではこちらが上だが、イェーガーズの後ろ盾は大臣だ。

エスデス本人は、ムソウのことを愛しているが、仕事では完全に割り切れる人間である。

そのため今回保安部と諜報部を一つの組織にしたため、大臣がどのようなことをしてくるかわからない以上対策を練らねばならなくなっている。

 

「しかし中々いい帝具使いを集めることが出来たな」

 

「大臣には貸しがあるからな」

 

エスデスは、胸元の開いている軍服で胸を張ったためかなり谷間が見える形となっているが、公務中であるムソウを靡かせるのは、如何にエスデスであっても不可能であった。

 

「お話し中すみません、ムソウ長官にお聞きしたことがあるのですが、宜しいでしょうか?」

 

エスデスと話していると、ランが礼儀正しく断りを入れながら割り込んできた。

 

「かまわんよ」

 

「ありがとうございます。『チャンプ』、この名に心当たりがあるのでしたら、この者が今どこにいるか教えてもらえないでしょうか?」

 

「……ああ、知っているとも。あのようなシリアルキラー常に監視をさせているにきまっている」

 

「できれば、教えていただけないでしょうか?」

 

「それは出来んな」

 

ムソウが断った瞬間、一瞬ランは顔を顰めたが、すぐさまいつものニコやかな表情に戻った。

 

「私としては教えても構わぬのだがな。今奴は大臣の息子である、シュラの庇護下に在る。その意味が分からんほど馬鹿ではあるまい」

 

「……そうですか、分かりました。すみません、無理を言って」

 

ランは頭を下げて、ウェイブたちがチョウリした料理をテーブルへと運ぶのを手伝いに行った。

エスデスは、なにがどういうことかさっぱり分からんと言いたげな表情をしていた。

 

「ランの出身地はしっているだろう?」

 

「ああ、だがそれがどうした?」

 

「隠したのだよ、大量殺人の事実をな。むろん隠蔽に加担した者達は、全て罪を犯したことになるからな既に逮捕済みだ。まあ、詳しく知りたいのなら本人の口から聴くのが一番だな、私は書類でしか知らぬから何とも言えないが」

 

「そう言うことか。いや、こう言ったことは本人から言わなければ意味がないからな。そうだ、ムソウも一緒にパーティに参加しないか?1人分くらいならばどうにかなると思うが。大丈夫だろウェイブ?」

 

「食材はいっぱいありますから大丈夫です隊長!!」

 

暗にもう1人分用意しろと言われたウェイブは、急遽もう1人分用意しようとしたがそれは杞憂に終わった。

 

「いや、遠慮しておこう。今回は親睦を深める意味でもお前たちだけで祝うべきだ」

 

それだけを言うと、ムソウはイェーガーズの居る特別警察会議室を後にした。

さて、イェーガーズ使えるならば良し、直ぐ壊滅するまでならばそれだけの存在だったと言うことだ。

私を楽しませるだけの力があるか、今から大いに楽しみだ。

ムソウは僅かに口元を釣り上げ気味に思った。

その表情は、奇しくも獣が好敵手を見つけた時と同じであった。




水銀とかいないとか最初の頃言ってましたけど、水銀出したり徐々に史実のラインハルトの意思が消えはじめ、最終的にはDiesのラインハルト殿にとか考えてたりしますけど、どうしたら良いでしょうかね~
水銀出し始めたらもう、いろいろ止まらなくなり黒円卓のメンバーも出し始めるけど問題ないですかね?といった感じのアンケートを活動報告の方に出しますのでそちらの方にコメントください。


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獣と狩人Ⅱ

11月23日一部編集


「失礼します。ギョガン湖周辺の調査が終わりました」

 

保安部と諜報部を統合したことにより、同一の報告を二つの機関で別々に処理していた頃よりも、一つの報告として纏まってくるようになり処理する仕事の量が減ったことで、時間に余裕が生まれるようになった。

そのため、ここ暫くできていなかった帝都の見回りをしていた時だった。

ギョガン湖周辺に山賊が砦を作り上げていることを比較的早い段階から知っていムソウは、元保安部出会った時から部下に早い段階から探りを入れさせ周辺地理も含め細かく調査させていた。

そして、山賊たちが砦を作り上げ、賊たちの駆け込み寺として機能していることも、ムソウにとっては既に知っている事実でしかない。

本来ならば早期に処理すべき案件であるが、ムソウはあえてそれを放っておくことで、帝都周辺にばらけて潜伏されるよりも、一ヶ所に集まらせることで、人を多く割いて索敵させる手間を減らすことにしたのだ。

賊とはいえど人である。

人は数によって安心感を持ち単独で潜むよりも注意力、危機管理能力が低下し狩りやすくなる。

そして今、その機が熟した。

エスデスが逃がすとは考えてはいないものの、他の帝具使いの実力をムソウは書類上知っているだけであり直接見た訳では無い。

エスデスの部下として十全に力を発揮することができるか、僅かにでも不安の芽があるのならばそれがそれが開花する前に摘み取るのがムソウの役目だ。

仕方がない、念には念を入れておくべきか……と思い、ムソウは報告しに来た部下にそのまま命令を下した。

 

「報告ご苦労。ふむ、新たに設立したイェーガーズの実力を測るいい機会だ、その情報を全てイェーガーズの方へ回せ。ああ、あとイェーガーズがどれ程使えるか見極めるために私も同行するとエスデスに伝えておけ」

 

「了解しました!!」

 

報告に来た隊員は、新たに下された命を実行するため、イェーガーズの元へと向かうべく、人ごみの中へと消えて行った。

さて、本当に使えるか見極めさせてもらおうか、イェーガーズのまだ見ぬ実力に僅かばかりの期待をムソウは寄せた。

敵に情けを掛け、任務を全う出来ないような者は、軍人として下の下である。

そのような者は、味方に損害を出しかねない。

そのような者がいないと信じたいが、一応連れて行くかと、ムソウは一度身支度をする為と第Ⅰ局ⅠD1(懲罰部規律維持)を動かすために必要な物が全てある執務室へと戻ることへとした。

 

 

 

 

 

 

イェーガーズside

 

イェーガーズの面々は、正式に割り当てられることになったイェーガーズ本部で親睦を深めていた時だった。

いきなり扉が開くと、帝国兵とは別に独自の黒を基調とし、居るだけで周囲に威圧感と抑止力としての効果を果たす制服に身を包んだ保安部員が入って来た。

 

「失礼します!!ムソウ長官より伝達、ギョガン湖周辺にある砦を落とせとのこと。また、そこに根付いている山賊については、殲滅を基本とし方針については、そちらに一任するとの事です」

 

「……このタイミング。丁度良いな。お前達初の大きな仕事だぞ」

 

エスデスがそう言うと、イェーガーズの面々は先ほどまでの和気藹々とした雰囲気から一変、締まりきった表情へとなった。

 

「む?どうした、まだ何かあるのか?」

 

伝達だけならば、伝えただけで仕事が終わるはずだ。

なのに未だ居続けることにエスデスが疑問を感じるのは当然のことだ。

 

「はっ!!長官よりエスデス様へ、今回の任務に同行しイェーガーズがどれ程まで使えるか見極めさせてもらう、との事です。伝達事項は以上」

 

伝達すべき内容をすべて伝えた保安部員は、ギョガン湖周辺の情報がまとめられている書類を手渡すと、敬礼し出て行った。

 

「ムソウが着いて来るとなると、そもそもかけるつもりはないと思うが、下手な優しさや敵への情けは一切許されない。下手に敵に情けを掛けられたら私からの拷問と保安部からの懲罰が間違いなくあるからな」

 

エスデスは拷問と言う単語を言う瞬間とてもいい顔をしていたが、その意味を察したイェーガーズの面々は背筋を凍らせた。

ドSで拷問好きだと言うことは既にイェーガーズ全員周知の事実だ。

そのエスデスが拷問をすると言ったら間違いなくする、それも拷問官以上に壮絶で過酷な拷問を。

 

「敵が降伏してきたらどうします隊長?」

 

「降伏は弱者の行為、そして弱者は淘汰され強者の糧となるのが世の常だ」

 

「あはっ、あははっ!悪を有無を言わせずに皆殺しに出来るなんて、私、この部隊に入ってよかったです」

 

降伏してくる敵さえ殺し尽くせと、暗に言っているエスデスの発言にセリューは、思い人と付き合えるようになった乙女のような表情で言った。

 

「心ゆくまで殲滅すると言い」

 

「ハイッ!!」

 

セリューはエスデスに心酔するように返事を返した。

その様子をウェイブは、何だこの会話……と呆然とした表情で見ていた。

 

「出陣する前に聞いておこう。一人数十人は倒して貰うぞ。これからはこんな仕事ばかりだ。きちんと覚悟は出来ているな?」

 

「私は軍人です。命令には従うまでです。このお仕事だって、誰かがやらなくちゃいけないことだから」

 

一番最初に覚悟を表明したのはボルスだった。

顔は全身を覆う防護マスクの様なもので見えないが、その表情は決して笑顔ではないことだけは確かだろう事は見て取れる。

現にボルスは、今までも全て命令を完全に成し遂げ、多くの命を燃やし尽くして来ている。

 

「同じく……ただ命令を粛々と実行するのみ。今までもずっとそうだった」

 

クロメは凛とした表情で決意を表した。

ただし、クロメが命令を唯々諾々として従って来たのはドーピングさせられている薬の鎮静剤を貰う為でもある。

そうでなければ、禁断症状が体を蝕み、理性を保つことさえできないからだ。

むろん、そのことを知っているイェーガーズのメンバーは、エスデスとそっち方面に詳しいDr,スタイリッシュくらいの者だ。

 

「俺は……大恩人が海軍にいるんです……その人にどうすれば恩返しできるかって聞いたら、国の為に頑張って働いてくればそれでいいって……だから俺はやります!もちろん命だって賭ける」

 

ウェイブは暗い表情を一瞬見せながらも、一瞬で思いを切り替えやる気に満ち溢れた表情で答えた。

 

「私はとある願いをかなえるために、どんどん出世していきたいんですよ。その為には手柄を立てないといけません。こう見えてやる気に満ち溢れていますよ」

 

呼んでいた本を閉じ、決意を表したランの表情は、普段の柔らかい表情とは違い一本の切れる刃の様であった。

 

「ドクターはどうだ?」

 

最後に残ったスタイリッシュにエスデスは問いかけた。

 

「フッ、アタシの行動原理はいたってシンプル。それはスタイリッシュの追及!!!」

 

カッっと目を見開きスタイリッシュは言い放ったが、セリューは拍手をし、ウェイブは引き、ランは苦笑いし、ボルスはマスクの所為で表情が分からないが直立不動、クロメは我関せずと皆それぞれリアクションを取っていた。

 

「お分かりですね?」

 

「いや分からん」

 

スタイリッシュは理解されているのを前提にエスデスに問いかけたが、エスデスは一切間を置かずバッサリと切り捨てた。

それにたいしてスタイリッシュは残念と言った表情を浮かべながら語り始めた。

 

「かつて戦場でエスデス様を見た時に思いました。あまりに強く、あまりに残酷、ああ、神はここに居たのだと!!!そのスタイリッシュさ!是非アタシは勉強したいのです。さらに冷酷で無慈悲、圧倒的武力に、神算鬼謀を打ち立てるあの頭脳、まさにアタシの求めるスタイリッシュさその者であるムソウ様に見ていただけるんですもの、頑張るしかないじゃないですか!!」

 

一言一言の度にジョジョ立の様なポージングを取りながらスタイリッシュは言い放ったが、エスデスはしらけた様な目で見るだけだった。

 

「皆迷いがなくて大変結構……そうでなくてはな。それでは出陣!!ムソウの前だあまり下手なことは見せられないからな!!」

 

 

side END

 

 

 

 

 

 

 

ギョガン湖周辺――

 

ムソウはエスデスと共に全てが一望できる岩山の頂上付近に座っていた。

背後には、護衛と保険両方の意味も含めて懲罰部隊が休めの体勢で整列している。

軍を狩るための部隊、同数の数で殺し合わせたならばブドー率いる近衛兵にも引きを取らない強者たちだ。

 

「私達はあいつらの戦いぶりをここで見物していよう」

 

「ふむ、アイツらは使えるのか?」

 

「私の見たてでは、十分使える者達ばかりだぞ?」

 

お互い並ぶように座っていたら、エスデスはムソウの手の上にそっと自身の手を置き、拷問時のドS状態とは比べ物にならない程優しく乙女の顔をしながら握って来た。

 

「さて、お手並み拝見と行こうか」

 

ムソウは足を組むとイェーガーズの働きを見るために目を向けた。

 

 

砦で夜の見張りをしている賊の一人が数人此方へと向かって来ているのに気が付いた。

暗闇の為ハッキリと見えないが、目を凝らしてみると帝都警備隊の軍服を着ている女が見えた。

 

「敵だ!!みんな集まれ!!」

 

かなりの接近を許してしまったため、声を荒げながら叫んだ。

賊たちは見張りの荒げた声に気付き慌てながら砦から出てきた。

 

「おいお前達、ここがどこだか知ってて来てんのかぁ!?」

 

「正面からとはいい度胸じゃねぇか!!」

 

「生きて帰れると思うなよ!!?」

 

賊たちは口々に罵りながら銃や刃物をイェーガーズへと向けた。

 

「うっはーっ!!可愛い女の子もいるじゃねぇか」

 

「たまらねぇなぁ連れて帰って楽しもうぜ」

 

下衆な視線をセリューとクロメに向けながら賊たちは舌なめずりしながら言った。

 

「まずは私とドクターの帝具で道を開きます。コロ、5番!!」

 

セリューがコロと愛称を付けている、生物型の帝具であるヘカトンケイルは二頭身の姿から一変2mを優に超える大きさとなりセリューの右腕に噛みついた。

 

「ナイトレイドを殺すために覚悟をし、ドクターから授かった新しい力……」

 

”十王の裁き”と言うドクタースタイリッシュが、セリューの為に作り上げた十もの専用兵器。

その一つ正義、閻魔槍と言う名前の螺旋上の形をし高速回転する槍で直進し、賊たちは貫かれるか巻き込まれ引き千切られるかのどちらかの運命をたどった。

閻魔槍は線で攻撃するにはその突撃力を発揮することが出来るが、面で展開している敵を殲滅するには向いていない。

取り逃がした敵をコロは巨大な口を開き、二重に生えている巨大で鋭利な牙で賊を喰いちぎる。

 

「ヤバイぞアイツ!頭に知らせろ!!」

 

「山門を閉じろ早く!!」

 

賊たちは、攻めて来た敵の脅威を認識するや否や慌てながらも冷静な判断を下した。

 

「次、7番」

 

正義、泰山砲、セリューの身の丈で考えるならば倍以上の長さを誇り、自走砲を個人武装にしたような砲だ。

その一撃は、頑丈な門を一撃で粉砕するほどでありながら、衝撃は人一人で受け止められる程度のものと言う規格外の代物だ。

 

「実に見事な殲滅力ですね」

 

「もあいつ一人でいいんじゃないかな?」

 

ウェイブは、ここにまともな女子がいないことを改めて認識すると若干目が死んでいた。

 

「ふふ、今のはアタシが造りだした兵器よ」

 

「ドクターが?」

 

「神の御手”パーフェクター”手先の精密動作性を数百倍に引き上げる、んもう最高にスタイリッシュな帝具なのよ!!アナタ達がどんな怪我をしても死んでない限りアタシが完璧に治療してあげる。体に武器までくっつけちゃうオマケつきよ」

 

「武器は遠慮しておきます」

 

語尾にハートを付けながら言い切るドクターをランは引き気味にバッサリと拒否した。

 

「治療は嬉しいけど、支援型の帝具ならドクターには護衛が必要だな」

 

「うふふ、その優しさはプライベートにとっておいて」

 

語尾にハートを付けながら、ウェイブにすり寄ってくるドクターにウェイブは後ろへと引いて逃げた。

捕まったら喰われる、ウェイブは本能的にそれを理解したからだろう。

 

「出てきなさい!強化兵の皆さん!!」

 

スタイリッシュが、指をパチンと鳴らすと、のっぺりとした仮面をつけた者達が無数にジョジョ立をしながらスタイリッシュの背後に立っていた。

 

「うお!」

 

「いつのまに」

 

全く気配を感じていなかった者達が、いつの間にかスタイリッシュの背後に立っていたのだ。

油断をしている心算はこの場にいる誰もなかったが、これが敵であったのならば既に自分達は殺されていた。

それを理解している軍属だからこそ、ウェイブとボルスは驚愕したのだ。

 

「彼らは帝具で強化手術を施したアタシの私兵。将棋で言えば”歩”ってところね」

 

「武器とかも作れちゃうなんて、凄く応用性の高い帝具なんだね」

 

「いずれ帝具と並ぶスタイリッシュな帝具を作るのが、アタシの夢よ」

 

オカマでさえなければ、凄く男らしい背中なのだろうが、オカマと分かっているとやはり今一凄みが欠けて見えてしまう。

 

「あの……話している間にクロメさんもう突入してしまいましたが」

 

「はやっ!」

 

「あの小娘人の話を聞きなさいよ!!」

 

ボルスとウェイブがスタイリッシュの話に聞き入り、スタイリッシュが熱弁しているのを邪魔しては悪いと思い空気を読んで、クロメとセリューが突入したのをランはあえて切り出すのを待っていた。

 

先に突入したクロメは、帝具八房の能力を使わずただ刀としての性能だけで斬り裂いていた。

 

「この女、可愛い顔して何て腕だ!!」

 

人体を真っ二つにするのは、人が思っている以上に難易度の高いものだ。

骨と骨の隙間を見極め切断しなければならないし、僅かにでもぶれてしまうと切り裂くことは不可能だ。

それを悠々とやってのけるクロメの技能は、薬物によって強化されていることを差し引いても賞賛されるべきだ。

 

「全部片付いたら組み替えて遊んであげる、お人形さんたち」

 

クロメの目は濁りきっており、帝都の闇を表すにこれ程適切なものはないだろう。

そんなクロメを建物の影から様子を見計らっていた賊が銃で撃とうとした時だった。

ウェイブが建物の二回相当まで飛び上がると、そのまま賊の顔面目掛けて跳び蹴りをかました。

 

「なぁにフォローの礼はいらないぜ。チームだろ?」

 

「や、気づいてたし」

 

「マジで!?」

 

かっこつけた心算のウェイブだが、クロメにバッサリと切り捨てられ、落ち込んでしまった。

未だやる気はあるのだが、空回りし続けるウェイブが報われる日は来るのだろうか。

 

 

所変わって、城壁付近――

 

 

賊たちは近接戦では勝ち目がないと分かるや否や、砦の利である城壁の上から弓を使っての遠距離攻撃を試みることにした。

そこに攻め込む波、ガスマスクの様なものを常時している鍛え上げられた巨体の肉体を持つボルス。

ボルスは背中に巨大なタンクの様なものを背負いその巨体に見合うだけの力強い足取りで走っていた。

 

「それっ、射殺せ!!」

 

賊の中でも上位に位置する者の掛け声とともに弓を構えていた賊たちは一斉に矢を放った。

矢はボルス目掛け雨のように降り注ごうとしたが、ボルスは冷静に腰につけていたノズルのような物を取り出すと、そこから炎を放出した。

これこそ、火炎放射器の帝具、煉獄招致”ルビカンテ”だ。

 

「これもお仕事ですから」

 

何処か諦めきったような言い方でボルスは言うと、ルビカンテから極大な炎を放出、砦その物や中にいる者達を燃やしきることは出来なかったが、城壁にいる者達はその炎を浴びてしまい、まさに地獄のように阿鼻叫喚な様子となった。

 

「あぢいよおおおお、なぁんだよこの炎!!なんで水かぶってもきえねぇんだよおおおおお」

 

「だず、だずげでぐれぇええええ」

 

帝具であるルビカンテの炎がただの炎であるはずもなく、一度着いてしまった炎は対象が燃え尽きるまで消えることはない。

 

「冗談じゃない、こんな地獄さっさとおさらばしてやる!!」

 

何人かの賊たちは、仲間の様子を目の当たりにするや否や簡単に見切りをつけ逃走し始めた。

しかし、それが許されるはずもなく、満月を背に上空にて様子を見ていたランの持つ翼の帝具、万里飛翔”マスティマ”の羽によって頭を貫かれてしまった。

 

「一人も逃がすわけにはいきません」

 

 

 

 

その様子を見ていたムソウの感想はと言うと。

 

「一先ず、及第点だな」

 

「ムソウが及第点と言うなら十分戦力として見込めるな」

 

一方的虐殺を繰り広げながらも、ムソウの下した評価はとても辛口だった。

むしろこの程度の賊たちに苦戦しているようでは、今後とてもではないが使い物にならないからだ。

そんな時だった、懲罰部隊とは別の諜報と索敵をやらせていた部隊の者が耳元で面白いことを教えてくれた。

 

「さて、戻るぞ。いつまでもここにかかりつけと言う訳にはいかないからな。ああ、今度スタイリッシュを借りるぞ。アイツの持つ私兵は使えるからな」

 

ムソウは立ち上がると、報告された案件を思案しながら懲罰部隊が整列する方へと向かった。

やはりな、広域索敵で帝都から北に10km以上の場所へと向かわせた者だけが帰ってこない。

つまりその場所に何かがあるか、何者かが消しているかということになる。

事実確認を取るにもスタイリッシュの持つ私兵を使えばいい。

スタイリッシュの持つ私兵は変えが幾らでもいるので使い潰すことが出来る。

後詰にアインザッツグルッペンを展開しておけば、結果はどうあれ最悪の事態だけは防げる。

さて、鬼が出るか蛇が出るか、たとえどちらが出てこようと私を満足させるだけの者が出て来るだろうか。




反対多数で、水銀含め黒円卓のメンバーは出しません。
例えだしたとしても、名前だけの部下と言う形ですね。
例えばアインザッツグルッペンの指揮にシュライバーやザミエル卿とか……


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獣と変態

11月23日一部編集

20150105 誤字修正


「ふふ、臭いや足音を消した努力の痕跡、それは認めるわ。でも匂いってものは限りなく消しても完全には消しきれない。それをアタシの手術で嗅覚を強化したものが追えば」

 

「スタイリッシュ様、臭いはこちらに続いています」

 

異常なまでに鼻が肥大化し、最早くちばしと言ってもいい大きさの鼻を持つおさげの髪型をし、のっぺりとした表情の読み取れない仮面をしている者が言った。

 

「ありがとう”鼻”。初めての実戦投入だけど予想以上の性能よ」

 

「前方に糸、結界の様です。私と同じ動きで避けてください」

 

そう言ったのは、眼が異常なまでに大きくなり常人の二倍ほどあろうかというもので、ベレー帽に革のジャケット、短パンを着た全身筋骨隆々の大男。

 

「さすがね”目”」

 

「前方から微かに人の声が聞こえます」

 

そう言ったのは耳が異常なまでに肥大化し、頭よりも大きく上まっているほどで、唯一一目で性別が分かる女の子だ。

 

「いい感じよ”耳”」

 

スタイリッシュは、五感の内一つだけを極端に強化した強化兵の性能にとても満足気味だった。

 

「それにしても、まさかムソウ様の方からご使命があるとわね。んもう、頑張るしかないじゃない」

 

スタイリッシュは、ムソウからの直々の命令に歓喜していた。

収容所から罪人を融通してもらうこともあったのでスタイリッシュからしたら、全くの初対面と言う訳では無かったが、ムソウからしたら一科学者程度の認識しかなかったので、それ程気にも留めていなかった。

良くて精々優秀な科学者である、程度の認識だが、イェーガーズ発足を気に裏取りから経歴までを含め詳しく調べさせたら、なかなかどうして使い勝手のよさそうな科学者ではないか。

特に独自の技術で強化した兵は使い捨て出来る便利な駒ではないか。

ならば、使い潰した所で、こちらとしてはどうということはない、と言う考えに至り、今回の任務にスタイリッシュの私兵を含め起用することにしたのだ。

スタイリッシュ自体を失うのは惜しいので、後詰にアインザッツグルッペンと言う、凶悪な虐殺部隊を控えさせているのだ。

 

「うふ、招集をかけたコマが揃い次第、スタイリッシュに侵攻開始よ」

 

顔は男らしいキメ顔なのに口調がオカマなので全てが台無しな、スタイリッシュだった。

 

「スタイリッシュ様、到着しました」

 

「あら、早かったわね、トローマ」

 

「カクサンやトビー、強化兵も間もなく到着します」

 

「そう、ならトローマ、貴方は先行して敵地へ侵入なさい。なるべく損壊なく殺しなさい」

 

「任せてくださいスタイリッシュ様!!」

 

ジャケットを開けさせ、ジーンズを着こなし、つばが広く薔薇のような造花のアクセントが付いている帽子をかぶっている天然パーマな男、トローマは相手に気取られない様に姿勢を低くし駆け出した。

 

「スタイリッシュ、首尾はどうだ?」

 

「あら、ムソウ様じゃないですか!!どうしてここに?アインザッツグルッペンの指揮を執っているのではなかったのですか?」

 

「問題ない、むしろここで見ていた方が状況を把握しやすいからな。それに強化兵が使い物になるのか実際この目で見て見ないとな?前回の任務ではその性能を見せてもらっていないしな」

 

ムソウはそう言うと、腕を組み岩山の切り立った崖を切り抜いてその中に作られている砦を見ながら言った。

まだ、ムソウ自身はここがナイトレイドのアジトと断定できている訳では無かったが、砦の最上部に刻まれている紋章はナイトレイドの物で間違いない。

ナイトレイドを語った偽物でない限り、ここがナイトレイドのアジトだ。

ムソウはそう確信していた。

 

「任せてください、ムソウ様!!私の強化兵はとてもいい子達ばかりですから」

 

スタイリッシュは自身の体を抱きしめるようにしながらキメ顔で行った。

 

「けひっ、やりましたスタイリッシュ様。このトローマが一人仕留めましたぜぇ!引き続き任務を続行します!――とのことですスタイリッシュ様」

 

片膝を着き、何かを聞くことを集中しているスタイリッシュは”耳”と呼んでいる女の子が言った。

 

「上出来よ、さすが桂馬の役割、敵地へ飛び込んだわね」

 

スタイリッシュがそう言っている間にも、背後の森の中には続々と気配が集まりだしていた。

スタイリッシュも自身の強化兵だからか、その存在に気づいており、機が熟したと感じ取っていた。

 

「さあ、チーム・スタイリッシュ、熱く激しく攻撃開始よ!!」

 

スタイリッシュが熱烈に言い放つと、森の中から大勢の気配が文字通り飛び出しナイトレイドのアジトへと攻め始めた、スタイリッシュの傍に居た”目”、”鼻”、”耳”に加え、”目”以上に筋骨隆々で、腕の太さなど大木並みに太く、顔はとても濃い男や、見た目はインテリ系で、眼鏡をかけたメカメカしい体を男たちは、それぞれジョジョ立みたいなポージングをしていた。

 

「いい!?なるべく死体は損壊しないで持って帰るのよ!生け捕りなんか出来た人は一晩愛してあげるわ!」

 

 

 

 

 

 

所変わってナイトレイドアジトでは――

 

「クソッいきなり大量の敵!?しかもこんな近くに!!」

 

ラバックは自身の張り巡らせた糸の帝具、千変万化”クロステール”の糸の結界を通り抜け、かなり接近されていたことに焦っていた。

早くみんなに伝えないと、そう思い急ぎみんなの元へと向かっていた時だった。

天井が壊れながら人影が落ちて来た。

 

「……中まで入りこんでいるのか」

 

「敵……コロス!」

 

それだけを言うと落ちて来た敵は低い姿勢のまま襲い掛かって来た。

ラバックはそれを右に避けながら、糸を操り敵の首に巻きつけ締め上げた。

ゴキッと、骨の外れる音が響いた。

 

「まずいな、早くみんなと合流しないと」

 

敵が思っていた以上に内部まで侵入していたことが更にラバックを焦らせる結果となった。

だが、それでパニックになるほどラバックも馬鹿ではない。

まず敵の数が把握できていない今は、まず仲間と合流してから反撃に出る。

ボスであるナジェンダがいない以上、それが適切な判断だ。

そう思った時だった、確かに首の骨が外れたはずののっぺりとした仮面をしている敵は、外れた首のまま背後にいるラバックを見つめて来たのだ。

そして、一閃、鉤爪の着いた右手で横薙ぎにされそのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「糸にはこんな使い方もあるってこと!」

 

ラバックはとっさに糸で急所や関節を巻きつけることで、衝撃を和らげまた攻撃から身を護った。

 

「そして、束ねればこんなことも!!」

 

右に左に上に下にと縦横無尽に糸を操り一つの形に束ねあげ、一本の槍を作り上げそれを襲い掛かってくる敵に投げつけ、その槍は敵を貫いた。

 

「グッ、ナントイウ応用力ダ……」

 

それだけを言うと、敵は今度こそ息絶え倒れた。

 

「俺は貸本屋、糸の使い方なんて店にある漫画にいっぱい書いてあるのさ」

 

カッコ良く決めたラバックは、背後にまた敵が現れたのに気が付いた。

 

「!また着やがった……の………か……だ、団体さんはちょっと、ご遠慮願いたいわけ、で」

 

頬を書きながら言ったラバックは、ぞろぞろと増えて来た敵を背に全力で走りだした。

今までで一番速く走れていると自負できる速さでラバックは駆けだした。

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!けっこう速ぇ!!」

 

全力で駆けぬけている時だった。

 

「私の後ろへ!」

 

「アカメちゃん!!」

 

生者に無類の強さを誇る帝具、一斬必殺”村雨”とナイトレイドでも一位、二位を争う強者であるアカメの登場にラバックは安心しつつも、フリルの着いた可愛らしいパジャマに着替えていたことに不謹慎ながら驚いていた。

アカメは右手で鞘を持ち左手で一閃、襲い掛かってくる大量の敵をたったの一撃で両断した。

 

「ヒュウー、さすがだぜ!」

 

「敵ながら見事な腕前」

 

「また新手!」

 

白く足元まであるコートを着ている細身の男と背後にいる巨体の持ち主二人が悠然とこちらへと向かって来ている。

アカメはその三人を見て強い、素直にそう感じた。

特に細身の眼鏡をかけた男が、後ろの二人よりも強いと感じ取っていた。

 

「我が名はトビー、アカメ殿に一騎打ちを所望する!!」

 

トビーはそう言うと、両腕に仕掛けられている刃を出現させながら駆け出し、これで攻撃すると思わせながら壁、天井を蹴り上げその勢いで跳び蹴り状態で足の裏に仕込まれている刃で首を斬り落としにかかった。

だが、百戦錬磨のアカメは一瞬で見切り、紙一重で避けると隙だらけに為ったトビーの背後を横一線切り裂いた。

ガキィン!!と切り裂いたはずなのに人が切れる音ではなく、金属と金属を叩きつけた様な甲高い音が鳴り響いた。

この手応え、さっきまでの奴らと違い全身が機械なのか。

全身機械となると、村雨の利点である傷口から呪毒を流し込むことが出来ない。

 

「アカメちゃん!!」

 

そのことをラバックも気づきすぐさま援護しに行こうとしたが、トビーとともにやって来た二人がその行く手を妨げた。

 

 

 

 

また別の場所では、インクルシオを身に纏ったタツミが壁を壊しながら外へと出た。

 

「うぉぉおおおおおらぁあああああああああ!!」

 

血反吐を吐くような大声を出しながら、スタイリッシュの強化兵の顔面、鳩尾、こめかみを撃ち貫き一撃でダウンさせた。

 

「出てきた、出てきたぁ!やあ鎧のにいちゃん。お前の相手は俺らしいぜ」

 

インクルシオを纏ったタツミが出て来るのを待っていたカクサンはその背中に合った巨大なハンマーを背負っていた。

 

「来ないのかい?鎧のにいちゃんよ!!」

 

カクサンは挑発気味にタツミに言うと、タツミは簡単にその挑発に乗り、村を出てから今まで愛用して来た剣で斬りつけた。

 

「無ん!!」

 

挑発に乗って来て斬りかかって来たタツミに対しカクサンは、カウンターではなく両腕を組み、頭を収め、中腰になると一気に前進に力を込めた。

ミシィッと服が破ける音がするほど膨張し、血管が浮かび上がるまでに固めた筋肉をタツミは縦に一閃、腕を切り落とすつもりで振り下ろした。

しかし、バキィっと人を切り裂く音ではなく、鋼の砕ける音が鳴り響くと共に今まで愛用していた剣をタツミは折る結果となり、動揺し一瞬隙を見せてしまった。

 

「肉を切らせて、骨を砕く!!」

 

カクサンは背中に背負っていた巨大なハンマーを勢いよく振りかぶると空中で身動きの取れないタツミがジャストミートする位置に落ちて来ると振り切ろうとしたタイミングで、ジェット推進力でハンマーは勢いを増した。

スタイリッシュがただのハンマーを渡すわけもなく、この巨大なハンマーは振り切る瞬間ジェット推進機で音速に近しい速度に増すようになっていたのだ。

巨大なハンマーに見合うだけの筋力と勢い、更にジェット推進機で増したスピードで吹き飛ばされたタツミはアジトにぶつかったが、その勢いを殺しきることが出来ず壁を壊し、崩壊した壁の瓦礫に埋もれてしまった。

 

「カハッ!!」

 

インクルシオの鉄壁の防御力で降って来る瓦礫で怪我をすることはなかったが、ハンマーの衝撃までは無力化できず、肺の中の空気を全て出してしまったタツミは、息の出来ない魚のように空気を求めるようにもがいた。

 

 

 

 

 

 

「予想通り、村雨とインクルシオに対して優勢です」

 

「計算通りね!でもカクサンにもっといい武器を渡せたらよかったのだけどね」

 

「ただ、歩兵がずいぶん倒されてます。雑音が多すぎて正確な情報は分かりませんが、深刻な被害かと」

 

「悲しい犠牲ね」

 

顎に手を置いてスタイリッシュは心底悲しそうな表情をしているが、その内心は全く違った。

ふふ、なーんてね。

兵隊なんざいくらでも変えがきくっての元々コイツらは罪人。

罪の減刑と引き換えにアタシと契約をしたつもりの間抜け達。

本当は死ぬまで、実験体なんだけどね。

 

「ふむ、スタイリッシュよ、このままでは全滅の様だな。数の利でせめて質で押し返されているようだが」

 

「ま、待ってくださいムソウ様。まだアタシは切り札があります!!」

 

スタイリッシュは、ムソウが心底失望したと言いたげな表情に慌てて訂正を入れた。

 

「まあ、いい。今回はあくまで性能テストだ。一般兵以上の働きが出来ているのだ、今後に期待しておこう」

 

「そ、それじゃあ」

 

「ああ、約束通り収容所に入れている罪人を好きな数、持っていくがいい」

 

「ありがとうございます。ムソウ様!!」

 

スタイリッシュはその言葉を聞くと、語尾にハートマークが付き、目線からハートを飛び出してきそうな程とてもうれしそうな表情をした。

元々一定以上の性能を示せたなら収容所の中の罪人を好きな数、持って行って良いと言う話だったのだ。

スタイリッシュの人体実験は、人の損耗量が半端ではない。

そのため、帝国の持つ大監獄からの供給だけでは、全くと言っていいほど実験体の数が足りていない。

そんなスタイリッシュにとって、ムソウからの提案はまさに渡りに船だったわけだ。

だからそこ、スタイリッシュはいつも以上に力が入れてる。

ムソウとしても収容所の罪人が収容所の中で行われていることに対して、余りが多く出ており、収容所内が飽和気味である現在互いに損の無い話である。

 

 

 

 

痛みをこらえながら瓦礫を払い、出てきたタツミに対し強化兵たちは容赦なく攻め立てた。

 

(エクスタス)

 

そう聞こえた瞬間、強大な光が辺りを埋め尽くした。

 

「何だこれは!!」

 

片手で目を押さえながらカクサンは吼えた。

 

「大丈夫ですか?タツミ」

 

「シェーレ!!」

 

「何、苦戦してんのよ!だらしないわね!!」

 

「マイン!!」

 

巨大な鋏の帝具、万物両断”エクスタス”を構えるシェーレに巨大な銃の帝具、浪漫砲台”パンプキン”を肩から提げているマインがタツミの前に立っていた。

 

「ちっ、雑魚は足止めも出来なかったのか。合流されてしまったじゃないか」

 

カクサンは、頭を掻きながらぼやいた。

 

「さっさと片付けるわよ、シェーレ」

 

「分かっています、マイン」

 

タツミは二人の息ピッタリの背中を見て、俺もすぐにみんなの足を引っ張らない様に為らなければ、とさらに決意を固めた。

 

「さっさと片付けるぅ!?おいおい今の状況考えてモノ言えよ!アジトを発見されて敵に突入されて、総攻撃喰らってんだよ!!」

 

「だからこそよ」

 

ピンチになればなるほどその威力が強くなるパンプキンにとっては、最悪な状況程その真価を発揮することが出来るのだ。

 

「すみません」

 

淡々とした口調をしながら、冷徹な表情でシェーレは巨大な鋏でカクサンの巨体を両断しようとした。

勢いをつけすぎておりバックジャンプでは間に合わない、左右からはあらゆるものを両断する刃、カクサンは上空にしか逃げる場所が無く、速度を殺すのではなく、利用し飛び上がった。

それをマインは、冷静に照準を合わせ、パンプキンから衝撃波を放った。

カクサンも言った通り、アジトを発見され、敵に総攻撃を喰らっていると言うピンチはパンプキンの力を最大限に発揮できる。

その状況から放たれる一撃は、天を貫かんばかりの威力を持ち、圧倒的熱量と衝撃波、上空に逃げたカクサンを文字通り跡形もなく消滅させた。

 

 

 

 

「……カクサンがやられました。歩兵もごっそりと数が減っています」

 

「あらいやだ、誤算だわぁ。仕方ないわね、こうなったら」

 

スタイリッシュが何かを言おうとした時だった。

”耳”が何かの音を感じ取り、空を勢いよく見上げた。

 

「空だ、何かが近づいて来る」

 

「え?それはどういう……」

 

次の瞬間だった。

圧倒的大きさを持つ何かが背後から風を切りながら現れた。

 

「特級危険種のエアマンタ」

 

「人が乗っています。あ、あれは!!元将軍のナジェンダです!!他にも二名乗っている模様です!!」

 

「なーんてスタイリッシュ!!特級危険種を飼いならして乗り物にするなんて!!」

 

「感心してる場合じゃありませんよ」

 

スタイリッシュは子供のように楽しそうにはしゃぎ、それを”鼻”が諌めようとするがスタイリッシュは聞く耳を持たなかった。

 

「どうやら、情報通りだな」

 

反乱軍の中でも暗殺能力では一、二位の力を持つチェルシーがナイトレイドに入るのは必然であり、百人切りと言われた元軍人のブラートが死亡したのでその補充要因としてチェルシーが入るのを事前に知っていた。

だが、このタイミングでナジェンダ諸共戻って来るとは流石のムソウとしても予想だにしていなかった。

今回の計画は思案から実行までほぼラグがなかった以上、反乱軍が事前に察知したとは考えにくい。

となると、ムソウが把握していない帝具が危険を知らせたか、遠見が出来る帝具で此方の動きを把握していたことになる。

それにスタイリッシュが率いている強化兵だが、今のレベルでの強化ではこれ以上の戦果を望む事は出来ないようだ。

そのせいか、続々とナイトレイドの面子がアジトから出て来ている。

一人もかけていない様子を見ると、最初のトローマの報告も誤報と言うことになり、実際に暗殺は失敗したことになる。

 

「どうするつもりだ、スタイリッシュ。どうやら一人も殺せていないようだが?」

 

「まだ、アタシにはこれがありますから」

 

そう言って、スタイリッシュは白衣の内側より細長い試験管を二つ取り出すと、それを目の前で投げ割った。

丁度ナイトレイドのアジトが風下のため、中に入っていた液体は直ぐ気化し風に乗って行った。

効果が発揮する量が流れるまで時間が少しばかりかかったが、その効果はてきめんで、インクルシオを纏っている者以外は生身であったため、抜群の効果を示した。

 

「毒か」

 

「切り札その1、スタイリッシュに配合した超強烈な麻痺毒、それも一気に最強を散布させて貰ったわ」

 

殺し屋ともなれば毒に耐性または、抗体を持っているものだがかなりの効果を示している辺り、伊達に帝国の中でも最上位に君臨する科学者ではない訳だ。

これで終わるか、と案外あっけない終わりだったな、ムソウは内心思った。

だが、それは帝国にとっては悪い意味で、ムソウとしてはいい意味で裏切られた。

ナジェンダが連れて来ていたうちの一人が、エアマンタより飛び降りて来たのだ。

頭の左右に角、大きく開いている袖口に、バッサリと切り開いている肩の部分に、白を基調とした宮司と神主の服装を足して割ったような感じの服装を更に戦闘向けにしてある。

そして、何より目立つのは胸元にある勾玉状の鉱石だ。

もし知識と情報が合っているならば、あれは生物型の帝具、電光石火”スサノオ”。

生物型の帝具ならば、スタイリッシュ得意する毒も効果の無い相手だ。

さて、どう対応するかとスタイリッシュを見ていると、どうやらナイトレイドの生け捕りは諦めたようだ。

 

「ふふっ、特別仕様の人間爆弾よ!これで一丁上がりね」

 

スタイリッシュの出したスイッチを押すと、強化兵たちは海老反りになりながら膨れ上がり連鎖的に爆発した。

爆発に巻き込まれたスサノオは、左腕は吹き飛び、所々の肉が抉り取られ焼かれていた。

次の瞬間、大気中に在る何かが破損部位に収束し始めると瞬時に修復していた。

やはり、帝具人間かと、ムソウは実物を実際に見たことがなかった為、確証を持てなかったが、実際に再生している所を目にしたことで、知識と情報が正確であったと確証した。

ムソウは確信しながら、後方に待機しているアインザッツグルッペンを呼び寄せるために胸ポケットに入れていた笛を取り出すとそれを勢いよく吹いた。

ピィィィイイイイイっと甲高い音が鳴り響き、それはエアマンタに乗っているナジェンダを含む、ナイトレイドの面々にも聞こえるほどだった。

音が鳴り響くと、後詰に待機していたアインザッツグルッペンはすぐさまムソウの元へと集まりだした。

帝国軍とはまた違う独特の軍服を身に纏い、濃密なまでの死を感じさせ、処刑場よりも濃い死臭を漂わせるアインザッツグルッペンは、その姿だけでも不吉さを感じさせる。

 

 

 

ナジェンダは笛の音が聞こえたと瞬間、そちらの方を双眼鏡で覗き、舌打ちした。

ナジェンダも元が付くとはいえ、帝国で将軍になった実力者だ。

帝国で要職についている者達でさえ、名を知ってはいるが決して口にしない禁忌に近い部隊、アインザッツグルッペン。

その存在を直接見た者は少なく、ナジェンダもムソウの背後に整列しているその部隊がアインザッツグルッペンである事は知らない、だが部隊が発する不吉な気配から整列している部隊がアインザッツグルッペンだろうと感が教えていた。

そして、何よりもまずいのはムソウの存在だ。

やっている職務は、文官職だがその武力はブドーやエスデスを優に超している。

そんなムソウが直接指揮を執っているアインザッツグルッペンの恐ろしさは、帝国最強の攻撃力を誇るエスデス軍や、帝都を守護している近衛部隊に並び称されるほどだ。

幸いであるとするならば、ムソウ直属の武装親衛隊が来ていないことだ。

武装親衛隊がもし展開していたのならば、既に全滅している。

それだけが、唯一の救いであるが、それでも現状が、崖っぷちに立たされていることには間違いなく、『不味い、このままだと全滅だ』と不安を駆りたてないため口にはしなかったが、内心思った。

ナジェンダは背中に冷や汗を掻きながら、どう対処すべきか考えていた時だった。

襲い掛かってくるとばかり思っていたアインザッツグルッペンが、急遽引き返したのだ。

運が良かった、今回はまさにその一言に尽きる。

しかし、ムソウ程の人物が目の前の敵を見逃すとは考えにくい。

 

「帝都で何があった……」

 

 

 

 

 

時間はほんの僅かばかり遡る――

ムソウが直接アインザッツグルッペンの指揮を執りナイトレイドを殲滅しようとした時だった。

緊急事態を伝えるべく早馬がやって来たのだ。

 

「このまま失礼します。スタイリッシュ殿の研究施設が何者かの襲撃に合い、研究所内に捕縛されていた、罪人や危険種が逃亡、帝都が大混乱です!!」

 

「なんですって!!」

 

スタイリッシュは、自身の研究施設が強襲された事よりも、せっかくの実験材料が逃げたことに対してショックを受けていた。

 

「報告ご苦労。直ぐ退却する」

 

目の前に獲物が弱った状態で居る。

これで狩らなければいつ狩るのか、ということになるが、事が事だけにムソウは今回は見逃す事にした。

それに、ナイトレイドと言う敵がいた方が、大臣の動きを鈍らせる事も出来る。

そう言った思惑もあり、ムソウは帝都へと引き返すために号令する。

 

「全軍!!急ぎ帝都へと戻るぞ!!」

 

ムソウは全部隊員に伝わるように声を張り上げながら告げた。

今回は相手の戦力も十分把握できたので、ムソウとしては最低限の目的を達することができた。

そのため、次があればその時いつでもムソウは、ナイトレイドを狩ることが出来る。

ムソウはナイトレイドのいる方を一瞥すると、馬に乗り急ぎ帝都へと戻った。




何とかナイトレイドの面々は生き残ることが出来ました。
運が良かった、今回はそれに尽きますね。
最初からムソウが動いていたらと思うと、ゾッとしますね。


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獣の休日 *番外編

久々に書いたためキャラ崩壊が起きています。
一部だけ本編と関係していますが、残りの殆どは本編とは関わりがないのであしからず。

12月1日一部修正

20150105 誤字修正


スタイリッシュの研究施設から逃亡した罪人や危険種の対応に珍しいことにブドー率いる近衛隊とエスデス率いるイェーガーズ、そしてムソウ率いるアインザッツグルッペンと帝国内でも、最も力を持った三人が受け持つ部隊全てを自身で指揮すれば一刻もしない内に事件が解決するのは当たり前だ。

何故珍しくブドーが動いたか、という疑問を持つもの達もいたが、罪人や危険種が数体ほどブドーが守っている宮殿に侵入したと言う事実を知れば、『それもまた必然か』と頷くことが出来る。

もし宮殿に侵入しなければ、ブドーは動かず静観し今頃エスデス率いるイェーガーズと帝都警備隊、戻って来たムソウ率いるアインザッツグルッペンで処理しただろう。

事件が解決して発覚したのだが、スタイリッシュの研究施設を襲撃した犯人は未だ見つからず、逃げ出した人工危険種が一体も見当たらないそうだ。

犯人も上手く逃走したのか、どの部隊も捉えることには成功していないと言う事実は、三人にとって耐えがたい屈辱だ。

簡単に三人が指揮する部隊全てから逃げ遂せられるなど、本来ならば万に一つの可能性もなく、不可能と断言できることだ。

帝都を護る外周は無駄に高くそびえたつ壁に守られ、唯一の出入り口は全て閉められていた。

袋の鼠状態なはずなのに逃げ遂せ、さらにスタイリッシュ作の人口危険種も消えた。

まるで、中から外へと空間ごと移動したかのように、……いや一つだけ心当たりの有る帝具がある。

もし、アイツの仕業ならば納得はできるが、証拠が今の所一つもない。

これは少しばかり調べる必要があるかもしれないな。

ならば、第Ⅲ局、第Ⅳ局に動いてもらうかとムソウは顎に手を当てながら思案していた。

第Ⅲ局と、第Ⅳ局は史実においては、別の名称で、更に恐怖の代名詞とさえされていた部隊だ。

SDとゲシュタポ、ナチス第三帝国を詳しく知らない者達でさえ、一度はどこかで目にするか、耳にする名前だ。

ムソウと言う絶対秩序の名のもとに史実以上にゲシュタポは必要とあらば文字通り何でもする組織となり、きちんと成果を上げたのならばどのようなことも黙認されている国家保安部の中でも一種の治外法権的機関となっている。

それこそ裁判で無罪を証明できたものでさえ、異民族や革命軍との関わりが疑わしいのならば保護拘禁と言う名のもとに強制収容所送りにすることさえ可能な権利を有しており、その権力を濫用しないために常にSDが見張っている状態だ。

そもそも組織を運営する上で最も気を付けないといけないのは、組織の権力を私欲に使うことと腐敗を自浄出来る自浄能力がきちんと働いていることだ。

ムソウの否、史実のラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒの他の誰がやっても、自分の利益を図るか、組織を濫用するかしてしまうが自身ならば私欲に走らずどのような汚れでも清濁併せのむように冷静に受け止めることが出来るからこそ運用できる、という絶対的意思とそれを可能とする手腕があって初めて保安本部の運用が実現できている。

それを本格的に動き出させたと言うだけで、ムソウの本気さを感じ取るには十分だろう。

 

そんな、SDとゲシュタポに命を下しアインザッツグルッペンを率いていた翌日のムソウは、いつも通りそびえ立っている書類の塔を処理している――と言う訳では無かった。

本当に珍しく、192日ぶりの休暇を取ることが出来たのだ。

次の休暇がいつになるか、それはムソウ本人も分からない。

むしろこんな時期に、休暇が取れる方が本来異常なのだが、いろいろな偶然が重なった結果取ることが出来たのだ。

 

「で、何故エスデスがここに居るんだ?」

 

せっかくの休暇と言うこともあり、いつもの堅苦しいイメージのある保安本部の制服を脱ぎ、ラインハルトのまさに人体の黄金律と称される肉体美を表せる体にフィットした爽やかさを感じさせる服装だった。

そんなラインハルトの腕に自分の胸を押し付けるように抱きついているのは、帝国きってのドS将軍であるエスデスだ。

そんなエスデスの格好は、胸元のあいたシャツに皮ジャージを羽織、ミニスカートと比較的治安の良い帝都内であっても普通の女がするには危険な格好だ。

下手に挑発的格好をしていたならば、賊ではなく帝都警備隊のガラの悪い警備隊員に拉致強姦される可能性さえあるのが今の帝都だ。

そんなことをすれば保安本部が動き、その先の未来がないのは帝国軍に所属する者ならば誰もが知っていることだ。

 

「なに昨日ムソウが、久々の休暇を取ると耳にしてな。私も休みを貰ったのだ!!」

 

エスデスは、花も恥じらう乙女のような笑顔をこちらへ向けながら言い切った。

これが公務中ならば、エスデスと言えど自重しただろうが今はお互いにプライベート、周りの目が気になる位で他に気にする様なものは一切ない。

 

「それとも既に予定があったか?」

 

エスデスは、嬉しそうな表情から一転、捨てられる子猫のような表情で見て来た。

いつものドS具合とのギャップがあるため、日ごろのエスデスを見慣れている人であったのならば誰だ!!と叫びたくなるだろう。

 

「分かった、エスコートさせて貰おう」

 

ムソウは、嘆息しながらエスデスの願いを了承した。

どの道、急にとれた休暇だったため予定どころか暇を持て余していたのだ。

暇つぶしと言ったらエスデスには悪いが、ムソウにとってエスデスに付き合うのも吝かではなかった。

決断してからのムソウの行動は早く、エスデスが腕に抱きついた状態で、帝都メインストリートへと出かけた。

案の定と言う訳ではないが、無駄に人目を引きつける。

日頃制服姿しか見せることのないムソウとエスデスが私服姿で来ているのだ、注目するなと言う方が無理な話だ。

 

「それで、どこか行きたい所は在るか?」

 

「そうだな、私はムソウとならどこでもいいのだが……そうだ、服を選んではくれないか?」

 

「服か、……ふむ、いいだろう」

 

そう言うと、エスデスはムソウの手を引くようにして、いろいろな服屋を見て回った。

女性服と言うのもを男性であるムソウが詳しい筈もなく、エスデスが試着して見せたもので色が好みかエスデスに似合っているか?と言う率直な感想しか述べることが出来なかった。

まだ服の段階ならばムソウと言えど受け入れることが出来た。

問題は、段々ヒートアップしていったエスデスが、ムソウを下着の専門店へと連れて行ったのだ。

幸いと言う訳では無いが、エスデスが連れて行ったのは貴族や高官、富裕層御用達の店であったことから市民には手が出し辛い場所であったため、客が居なかった事だ。

 

「こんなのはどうだ?」

 

エスデスは際どいものや、本来ならば目のやり場に困る様な下着を平然と見せて来ている。

中身が史実のラインハルトよりとはいえ、一切Dies Iraeのラインハルトが入っていない訳では無い。

何が言いたいかというと、ムソウはエスデスの姿に恥ずかしがるでも憶するでもなく、感想を言い切ったのだ。

 

「ふむ、私の好みとは少し違うな。私の好みとお前のこの身を考慮するならばこれなんてどうだろうか?」

 

むしろムソウは臆面もなく別の下着をエスデスに渡したのだ。

 

「ふむ、ムソウはこっちの方が好みだったか。少し待っていろ着替えて来る」

 

エスデスはムソウに手渡された下着を手に持つとまた試着室へと戻って行った。

 

「少しきついな、店主もう少し大きめのサイズはないのか」

 

「は、はひっ!!も、申し訳ございません。現在そのサイズしか……」

 

店主はいきなり呼ばれた事に声を呑んでしまっていた。

それも仕方がないことだろう、帝国軍最強と名高いエスデスや帝国最大の警察組織の長であるムソウがいきなり店に現れているのだ。

むしろそうならない者がいたならば、そいつは相当図太い奴なのだろう。

 

「そうか、ならば今からサイズを計ってオーダーメイドで作って」

 

「は、はい」

 

特注で買ってくれるのは嬉しいのだが、エスデスのような帝国でも上に立つ人の肌に障るのは恐れ多いと内心怯えつつも店主は店員たちが見守る中エスデスのスリーサイズを計りだした。

ムソウの目から見て、店主には商才はあるようだが、それ以上の脅えが見て取れた。

その脅えは危機管理からくるものならば、なかなか得難い才能なのだが脅えすぎと言うのも些かどうかとムソウは思いはしたが口にはしなかった。

 

「では店主、完成したら宮殿の方へと届けておいてくれ」

 

「畏まりました」

 

測定が終わり、生地などを細かく決め支払いを終わらせてきたエスデスがやって来た。

流石にスリーサイズを計る時などはムソウと言えど店の外に出て待っていた。

 

「待たせたか?」

 

「いいや」

 

ムソウと言えど、ここで「待った」などと空気の読めないことを言うほど鈍い男ではない。

むしろ空気や状況判断に関しては人一倍機敏と言えるだろう。

 

「買い物も終わったのならば、そろそろお昼にでもするか」

 

「そうだな」

 

朝からいろいろな店を周って居たため二人そろって空腹だ。

荷物は幸いなことに店側が全て宮殿に配送してくれるとの事なので邪魔になる様な事はないので、敷居が高そうな店だろうと気にせず入ることが出来る。

だが、ムソウもエスデスも格式ばった敷居の高い店は、公務や接待される時などに行き慣れていて真新しさを感じることはない。

人生で何よりも恐ろしいのは飽きることだ。

そのことを良く知っているムソウは、物珍しさも含め市井の者にとって、少し背伸びをしたならば行ける様な雰囲気の良い店に入った。

 

「いらっしゃいませ!!」

 

ムソウとエスデスが入ると、店員が愛想良く出迎えてくれた。

 

「二名様ですね。ご案内します!!」

 

店員に誘導される様にして二人は、席に着いた。

 

「こちらがメニューになります。お決まりになったら、こちらのベルを押してお呼びください」

 

店員は、そう言うと去って行った。

ムソウはメニューを見ると、市井の者達はこういったものを食べているのかと割と豊富な種類のメニューを見ながら思った。

現在の帝都の状況が状況なため、食べる物に困らないまでも豊富とまでは行かないとムソウは思っていた。

 

「私は決めたがムソウはどうだ?」

 

「ああ、私も決めたところだ」

 

店員に言われた通り、ムソウはベルを押すと、音が鳴りすぐさま店員がやって来た。

確り教育が出来ているなと、ムソウの中で店の評価が少しばかり上がった。

だからと言って、次から利用するかと言われたらそうではないが。

ムソウとエスデスは店員に注文を伝えると、店員はすぐさま厨房へと向かって行った。

そこまでも待たされることなく料理は出され、ムソウはエスデスと他愛もない会話を楽しみながら日頃口にしない様な料理に舌鼓していた。

食べ終わると食後に頼んでいたコーヒーが出され、味も悪くなかったなと思いつつ一息ついていた時だった。

見せに新たな客が入って来たのだ。

一人の好青年と言えた風貌の持ち主の後ろに三人の帝都に来たばかりと言わんばかりの風貌の少女たち。

それを見て、ああ、売られてきたのかといつものことだとムソウは思っていた。

帝国内でも、きちんと国から許可を得た商人ならば身売りをすることが許されている。

むろんその審査は厳しく、定期的に商人自身の査定と身売りされてきた者達の査定、数の確認などを行っており、誤魔化し利益を計ろう者ならば即打ち首と厳しく取り決められている。

中には無許可で人身売買を行う者達もいるが、そう言った者達はもれなく帝国内にある大監獄か強制収容所のどちらかに送られることになっている。

正確に言うならば、帝都警備隊に捕まるか保安本部に捕まるかによって送られる先が違うだけだ。

 

「どうかしたかムソウ?」

 

「いや、何でもない。ただ珍しく取れた休みを荒そうとする輩が居るからな」

 

先ほどの四人組とは違い、次には行って来たのは多くの黒いスーツにサングラスを掛けたボディーガド達とそれに守られてやって来た三人の金持ちたち。

せっかく美味いコーヒーを飲んでいたと言うのに台無しにしてくれる。

 

「ゴミ掃除は公務の日だけにしたいものだ」

 

「行くのか?」

 

「美味い物を食った後に気分を害されたのだ。どの道罪人とはいえ報いは必要だろ」

 

「なら、私も行こう」

 

黒服たちは、三人の少女たちの背後に回ると両腕を拘束するように掴み上げていた。

二人の少女たちは戸惑いを見せていたが、一人の少女は戸惑いよりも怒りの方が上回っていたらしく柔軟な体を活かし、拘束している男の顔を蹴り上げた。

だが、拘束している男も伊達に今の帝国でボディーガードをしている訳では無く、少女の蹴りを顔で難なく受け止めた。

 

「イナカモンの拳法かよ!!」

 

左腕だけで拘束し、右腕で少女の腹を殴った。

鈍い音が店内に響き、少女は灰の中の空気を吐き出した。

 

「ファルちゃん!」

 

ファルと呼ばれた少女は、床に投げ捨てられるとピクピクと痙攣を起こしており、三人の少女を連れて来た青年はそれを見下しながら、

 

「あーこのハネッかえりな少女を楽したのはスカさんです?」

 

興味が湧かないかのように後ろに立っている三人のうちの一人に話しかけた。

 

「はいはい、こういう娘を少しづつ刻んでいくのが面白いんですよ」

 

「了解、それじゃ両足折っちゃってよ」

 

笑顔で巨漢の男に青年は命令し、巨漢のボディーガードの男はにやけた面で実行しようとした時だった。

背後から伸びて来た手に顔面を掴まれると一気に、吹き飛ばされ窓ガラスを割りながら大通りへと出た。

 

「誰だ!!」

 

「誰でも構わんだろ。食後の後味を悪く為る様な事を私の前でして、それなりの覚悟は出来ているのだろう?」

 

ここにいる者達の中にムソウを知らない者達はいない。

だが、日ごろ軍服に身を包んでいること、そして何よりムソウのような高官がこんな庶民の店に来るとはこれっぽっちも考えておらず、ただのそっくりさんだと安易に決めつけてしまった。

 

「おい、こいつをさっさと排除しろ」

 

青年は周りにいるボディーガード達に命じた。

屈強そうな肉体を持つボディーガード達から見たら、ムソウの体つきはひ弱に見えたことだろう。

ムソウ自身としては、今までの人生においてここまで侮りの視線を受けたことは初めての体験だった。

誰もがその姿に畏怖し、畏敬の念さえ向けて来ていた。

そんな人生の中で初めて侮られたのは、ムソウとして、そして何よりラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒとして新鮮さを感じさせつつも苛立ちを覚えさせるには十分だった。

一斉に襲い掛かってくるボディーガードたちに対しムソウは、一切の無駄なく全てを紙一重でかわして見せた。

前後左右から無秩序に繰り出される拳の群れだが、所詮はボディーガード止まりの者達の拳はムソウに触れることが叶わず逆にムソウの繰り出す拳の全てが平等に顔面やこめかみ、みぞおちなど全てが急所に決まり一撃で戦闘不能に陥らせた。

中には、逃げ出そうとした者達もいたがその者達は平等にエスデスの手によって大の大人が悲鳴を上げながら凍りづかされた。

 

「ぼ、僕は大臣の縁者だぞこんなことをしてただで済むと思っているのか!!」

 

この時点で、片方がエスデスであると気づけたはずだが、いきなりの出来事に青年は気が動転し苦し紛れに大臣の名前を出してきた。

確かにこれが事実でも事実でなくても帝国に住まう者達に絶対的効力を発揮することが出来るだろう。

青年もその効力を知っているが為に出したのだろうし、大臣の名前を出した以上自身が優位だと信じて疑わない表情を浮かべた。

そして、丁度良く付近の住民の誰かが通報したのか帝都警備隊とイェーガーズのメンバーであるウェイブとランがやって来た。

 

「ちょ、丁度良い所に来た、こいつらがいきなり襲って来たんだ。助けてくれ」

 

「そ、そうじゃわしらは何もしておらぬ」

 

「そうじゃ、わしゃこんな事される身に覚えはないのじゃ」

 

青年たちは、すがるように帝都警備隊の方へと助けを求めた。

それに対して警備隊員たちの表情は冷ややかだった。

 

「あんたらいいかげん諦めろ」

 

「なんてことをいうのじゃ、わしたちを誰だと思っている」

 

「誰であろうと関係ねえよ。あの人の前で犯罪を犯した時点でアンタらは終わってんだ」

 

ウェイブが最終判決を言う様に言いきった。

 

「何を……」

 

ここで青年はやっと理解できた。

ああ、自分達がそっくりさんと決めつけた相手が当人だったのだと。

青年は膝から崩れ落ちると、他の者達ともども帝都警備隊の手によって連行されて行った。

 

「しかしムソウ様や隊長がこの様な店に来られているとは思いもしませんでしたよ」

 

帝都警備隊を見送ったランがこちらへとやって来て話しかけて来た。

 

「なに、いつも行くような店と違いを出すのに良かったからな」

 

ムソウはそう言いながら、迷惑料を含めた金額を店に払った。

ムソウとしては端金だが、店としては一日二日で稼げるほど安い金額ではなく若干戸惑いを見せつつも嬉しそうだった。

 

「各種手続きなどは任せて構わぬか?」

 

「ええ、大丈夫です。せっかくの休みですのに災難でしたね」

 

「なにこの程度問題はない。今はそれ以上に気になることがあるからな」

 

ムソウは大臣の息子であるシュラのことを考えながら言った。

もしあれが帰って来るなら少しばかり警備を厳重にしないと無用に命を散らす者が増えてしまうからだ。

ムソウ自身とて配下の手で、敵性危険分子かもしれないと言うことで保護拘禁をしているが、シュラの場合は完全に趣味や悦楽の為だけに行っている。

自身のことを棚上げする様だが、シュラは少しばかりやり過ぎているのだ。

 

「どうしたムソウ?恐い顔をして」

 

「いや、何でもない」

 

「そうか、ならいいのだが」

 

ムソウとエスデスは、ウェイブやランと分かれると、またメインストリートでいろいろな店を見て回った。

 

 

 

完全に余談になるのだが、その日の夜、ムソウはエスデスと共に一夜を明かしたのだが、何があったかはきっと想像するとおりだろう。



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獣の戦力

久々の投稿になります。
ハッキリ言って今回の話書いてて、あれ?本当に革命軍勝てるの?とついつい思ってしまいました。

12月7日一部編集

20150105 誤字修正


エスデス一夜を明かした次の日、いや日付的に見たら当日の朝――

ムソウは情事の後特有の生臭い臭いをを落とす為シャワーを浴び、未だ気持ちよさそうに寝息を立てているエスデスを起さない様静かに部屋を後にした。

向かった先は最もムソウの権威が反映されている保安本部。

その保安本部の一角にある執務室だ。

一日休みを取ることが出来たからと言って、その間に仕事が増えないと同義ではない。

その為ムソウの執務室には、書類が無駄に聳え立っていた。

適当な枚数書類を取って見ると、そのどれもがある一つのモノに対する報告にたどり着いていた。

即ち、帝都周辺に出現した新型危険種。

現在目撃されているのは、密林や鉱山ばかりなため、人的被害は今のところ軽微だ。

だが、最初の目撃情報から一日と経たずにあり得ない量の報告がありまるで、いきなり出現したかのようであった。

ムソウとしてもいつ人口密集地に現れても可笑しくわないため油断できない状況であるため、直ちに多くの情報を集めさせるために保安本部を動かした。

特に気になるのは姿形だ。

姿形は人間に近く、その性格はいたって獰猛。

耐久力もあるので、物理的に潰すか頭を潰さない限り殺すことはできない。

イェーガーズや帝国軍も本格的に動き出しているので早い段階で駆除できるだろうが、新型危険種がスタイリッシュの元から消失した人造危険種の可能性が高い。

出現しだした時期と、今まで一度たりとも目撃されずにいたわりに急に増えだした目撃情報の多さ、確認のためにも一体ほどサンプルが欲しい所だとムソウは考えた。

生け捕りが好ましいが、それを可能とする手駒をムソウは現在手元に持っていない。

エスデスに頼めば快く引き受けてくれるだろうが、公私混同をしないムソウがプライベートで関係を持っているエスデスの好意を公務で利用することは限りなくない。

だが、それが利となるのならば個人的な好意を利用する判断もしなければならないのが一つの組織の長だ。

スタイリッシュに確認を取る必要もあるため、どの道イェーガーズに一任すれば直ぐに解決するだろう。

スタイリッシュとて、自身の作品が他人に使われているのは嫌だろうからスタイリッシュも直ぐに解決策を提供するだろうとムソウは踏んでいた。

後は、公文書を作成しイェーガーズに討伐を依頼する形で命じれば新型危険種の討伐に関する問題は解決するだろうが、別の意味で問題があるとすればやはり大臣だろう。

あれは、新型危険種について興味を持ち始めている。

エスデスに捕獲を命じるよりも早くこちらが駆逐すればいい。

必要があるとなれば、最悪帝国全域に亘って展開している我が武装親衛隊を呼び戻すか、とムソウは悩んだ。

武装親衛隊、国家元首やそれに類する人の身辺警護をする武装組織であり、形態は軍隊の一部である場合あり、元首府直轄で軍隊からは独立しているも場合り、ムソウの親衛隊はまさに軍隊から独立している。

元々親衛隊は前皇帝の時代にムソウの職務と立場、権力のために暗殺される危険性を考慮し特別に許された護衛組織であった。

だが、前皇帝が病床に臥せられてから権威が落ちた時を見計らい、一気に政敵を粛清その規模を増した。

前皇帝からの信頼が厚かったため、この粛清は帝国の危険分子であると言う偽造証拠を見せ事後承諾の形で前皇帝からの許可が下りたためムソウは一切の処罰なく、むしろ皇帝からは「良くやってくれたこれで憂いはないな」と弱弱しく言いながら、褒賞として武装親衛隊の拡大の許可などいろいろと便宜を図ってくれることを皇帝は確約した。

それから現在に至るまでに志願制とはいえ勢力を拡大し続けた武装親衛隊は、総人数90万以上を有するまでになり、もはや一国の軍といっても差し支えないだろう。

その武装親衛隊員90万人全てが、ムソウの言葉一つで自由に扱うことが可能であり帝都に集結可能な武装親衛隊と言う名の私兵というのは、大臣にとって恐怖でしかないのは言わずと知れたことだ。

エスデス率いるイェーガーズに頼むか、早々にことを収束させるために武装親衛隊を呼び戻すべきかムソウが悩んでいる時だった。

礼儀正しく三回ノックがあり扉の外から「失礼します」と言う声と共に一人の女性帝国軍人が入って来た。

いつもならば、必ずアポイントメントがとってあるはずだ。

しかし、今日は誰かと会う約束や会食の予定は入っていなかったはずだと、ムソウはもしや自分が忘れていたのかと言う可能性も考えたがその可能性は女性軍人の口から発せられたことで否定された。

 

「至急大臣がお会いしたいとのことです。いつもの場所で待っている、とのことです」

 

大臣が今至急会いたいと言うことは、新型危険種についての案件しか思い当たらないが、ムソウとしては一つ大臣に問い質しておかなければならないがあったので丁度いいタイミングと思っていた。

 

「分かった。直ぐに向かおう」

 

ムソウは掛けてあった黒いコートを肩から羽織るように掛けると、執務室を後にした。

 

 

 

 

 

いつもの部屋とは、大臣と皇帝が良くお茶をする時に使う部屋のことだ。

そんな部屋を使うのは恐れ多いと思うのが普通だろうが、生憎とムソウにはそれが通用しない。

ムソウが部屋の中に入ると、中から鼻に付いて胸やけをを起こしそうになるほどの甘ったるい臭いが部屋に充満していた。

 

「おお、待っておりましたぞムソウ殿」

 

そんな部屋の中に入ると大臣はケーキをホールのまま齧り付きながら愛想のいい笑顔で出迎えた。

 

「それで、至急と言うことだったが?」

 

ムソウは対面の席に座りながら大臣に聞いた。

 

「ええ、最近現れたと言う新型危険種、その捕獲をお願いしたいのです」

 

「そのことか、だが新型危険種は殲滅すると言うことで私とブドーは合意したが?」

 

「そのことは存じていますとも、軍とイェーガーズが総力を挙げて狩りたてていることも」

 

腐りきっても大臣なだけはあり、きちんと最新の情報に耳を傾けるだけの理性は残っていたかとムソウは感心した。

 

「そこで、無理を承知で一つムソウ殿に新型の危険種を捕獲してほしいのです。私はあれをぜひとも調べてみたいのです、スタイリッシュ殿には既に協力を仰ぎ、了承を得ています。彼に調べてもらい特効の毒を作ってもらえれば早く処理が出来被害も少なく済みます。あとは件の新型危険種あれのサンプルを手に入れるだけです」

 

大臣はあくまでも被害を少なくするために必要と言った表情で言っているが、内心では面白そうな玩具を欲していると言うことを察するのはムソウにとってそう難しいことではなかった。

 

「確かにスタイリッシュの持つ技術力ならば特効の毒を作ることもたやすいだろう。だが、今の私には捕獲を可能とする手駒がないのでな。南と西の異民族警戒のために配置している私の武装親衛隊を帝都に呼び戻すが構わないか?」

 

武装親衛隊を帝都に呼び戻す、その単語を聞いた瞬間大臣は渋い顔をした。

それもそのはず、武装親衛隊はムソウの私兵であり前皇帝より全権をムソウは与えられている。

唯でさえ、軍部は大臣派と大将軍であり近衛を率いているブドー派、帝国最強の攻撃力を持つエスデス派の三つに分かれている。

幸いなことに、ブドーとエスデスは政治に対して干渉してこないため大臣にとって問題ではなかった。

だが、ムソウは違う。

隙を見せたのならばその爪牙で食い殺そうとする、獅子身中の虫ならぬ獅子身中の獣だ。

現状でさえ、移動虐殺部隊と悪名高いアインザッツグルッペンという戦力を保有している、これ以上の戦力増強はそのまま死に直結することが分からない程大臣は頭の回転が悪い訳ではない。

 

「なるほど、ですが西と南に対する警戒を怠るのはまずいですな。特に革命軍などと自称する反乱軍と西の異民族が繋がっていると聞きます。西と南双方とも常に警戒をしないといけない場所だからこそムソウ殿にお願いをしてムソウ殿が保有する最大戦力であり信頼できる武装親衛隊を派遣してもらったのですがね」

 

「そのことについては私なりに考えがある」

 

「問題がなければお聞きしても構いませぬかな?」

 

「ああ、別にかまわん」

 

そう言って、ムソウは大臣に説明した。

戦力を見せるだけ抑止力としては働くだろうし、現状でも鉄壁に近い布陣で異民族の動きをけん制している。

だが、このままではその抑止力を上回る力で攻めてくる可能性がありわざと穴を見せることで適度に異民族の戦力を削っておくべきだとムソウは大臣に伝えた。

大臣もその可能性には思い至っていたらしく、珍しく食べる手を止め顎鬚を手で撫でるようにしながら考えさせられていた。

 

「ですがリスクの方が大きいと思いますな」

 

「なに呼び戻すのは第一師団のみだ」

 

現在武装親衛隊は、38の師団単位に分けられ西と南の異民族牽制、更に南に陣取っている革命軍の動きをけん制するために配置してあり、第一師団はその中で西の異民族牽制に配置されている部隊だ。

一年単位で人員は交代しており、待機中の武装親衛隊員は部隊が展開している場所から程近い地方都市に待機と言う形で過ごさせているため、緊急の場合はそこから新たに部隊を編成し送り込めば、万が一異民族が決死の覚悟で都市まで攻め込んだとしても問題なく対処できるとムソウは結論付けている。

大臣がもしムソウの考えている異民族の強襲について不安に思っているのならばまだ救いがあるのだが、大臣はムソウ自身に力が戻ることを警戒しているのだろうとムソウ自身理解しており、事実その通りで、大臣はこの様な些細な事態でムソウの手元に戦力が戻ることを警戒している。

あの手この手を使い裏で軍部の方へ手を回し、皇帝令を皇帝に出させることでやっとはぎ取ったムソウの力の象徴の一つをこうも易々と取り戻されては大臣の面目丸つぶれも良い所だ。

例えそれが第一師団だけだとしても十分大臣にとって危険だ。

 

「私としてもムソウ殿を信用していますから願いを叶えてあげたいのですがね、いきなり一つの部隊を帝都に戻すとなるとそれなりに準備をしないといけないですからな」

 

「なるほど、それもそうだなだが、大臣とて急を要するのであろう。ならばその程度のこと些細なことではないか」

 

「確かにならそうですね……でしたら武装親衛隊を戻すことに一つだけ条件を付けさせては頂けないでしょうか?」

 

「条件、か。武装親衛隊を寄こせなどと言う無理を言わない限り構わん。今の情勢が情勢だからな」

 

「私とてそのようなことは言いませんとも。何、条件と言ってもそれほど難しくはありませんよ。安寧道、その最新情報が欲しいのです」

 

安寧道の最新情報、現在の情勢と併せて考えると大臣にとって黄金に匹敵する価値を持っている。

腑に落ちないのは、安寧道には大臣の息のかかったボリックと言う男が教主補佐をしていたはずだ、ならば私の手元に来る情報よりもより確かなものが大臣の手元にあるはずだがと、ムソウは訝しげな気持ちになりながらも、それを表情に出しはしなかった。

 

「その程度のことなら構わん、後でまとめた物を早馬で届けさせよう」

 

「ええ、それで充分ですとも」

 

大臣は満足げな表情をしながら食べかけていたホールケーキを食べ尽くした。

 

 

「私から一つばかり聞きたい事があるが構わぬか?」

 

「貴方が質問するとは珍しいですね」

 

「何確認したい事が一つあるだけだ」

 

「私で応えれる範囲なら応えましょう」

 

「奴と、シュラと会ったか?」

 

「いいえ、帝国の外へ行かせていら会っていませんね。しかし、分からないですね。貴方が質問するだけでも珍しいのにそれがシュラとは」

 

「何、ただの確認だ。最近帝都周辺でシュラと酷似した容姿の者が何度か目撃されていたからな。大臣はスタイリッシュの研究施設の襲撃があった際、スタイリッシュが作り上げたの人工危険種が一体残らず消えたのは知っているな」

 

「ええ、それは知っておりますが、それがどうかしましたか?」

 

「スタイリッシュの元から消え去った人工危険種と、最近帝都周辺で目撃されている新型危険種が似ているらしいのだ。更に人工危険種を作っていた場所は研究所の中に在って隠された場所に在り、その場所を知っているのはスタイリッシュとその親友であるシュラだけらしいのだよ」

 

「つまり、ムソウ殿は今回の事件はシュラがやったと言いたいのですか?」

 

大臣は食べる手を止めることこそなかったものの、険しい顔つきで此方を見て来た。

 

「現状では何とも言えんな、これと言った核心に迫る証拠がある訳では無いが、その件も含めて後でまとめた物を送ろう」

 

ムソウは、話はこれまでと言わんばかりに立ち上がり、大臣に背を向け扉を開けようとした時だった。

 

「では、後のことはお願いしますね」

 

大臣は含みのある笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

 

 

ムソウは、自身の執務室へ戻ると直ちに第一師団に帝都へ戻るよう早馬を出すと、大臣の要望通りの物を幾つか脚色し送った。

ただの脚色、されど脚色。

ムソウの元へ武装親衛隊最精鋭の部隊が戻ることにいつもよりも幾許か冷静を失っていた大臣は、ムソウから早馬で送られてきた書類を読みボリックに幾許かの疑念を持つのであった。




愚痴になりますが、
ハッキリ言って今回の話でかなりの人がお気に入り解除したり、低評価付けるんじゃないかと思ってついつい更新できませんでした。
メンタル弱くて済みません。
次の話を楽しみに待っていてくれる方がいるのなら楽しみに待っていて下さい。
以上


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獣と忠臣

大臣も快く?快諾してくれたため、武装親衛隊第一師団を帝都に召集令を発するのは容易だった。

帝都へ招集された武装親衛隊第一師団が集まるのに要したのは二日。

西の異民族牽制のために配置されていたため本来なら四、五日は掛かる距離を二日で招集に応じたと言うことは、実質最西端から寝る間も惜しんで帝都へと向かったということになる。

これだけでも、武装親衛隊がムソウに向ける忠誠心の高さを理解することが出来るというものだ。

流石に昼夜問わず招集に応じたため、一切疲労が無いと言う訳ではないためムソウは一日休息を与え、武装親衛隊作戦本部局集団A、AmtVⅢ兵器局とAmtⅨに第一師団の武装機材、そして帝国に在って唯一、戦車や装甲車と言われる車輌という馬や馬車以外の鉄の塊で作り上げられた乗り物が配備されている。

そのためか、帝都へと入って来たときには既に市民が大勢帝都の入口へと集まり、物珍しさのため多くの市民が見に来ていたのは記憶に新しい。

そして第一師団が帝都で休息を得た翌日からムソウの命令の元帝都周辺に20個の大隊編成をさせ、昼夜問わず駆逐するために常に5個の大隊を4交代制で運用することで、被害と目撃情報は劇的に減りはじめた。

むろん、ムソウは大臣に頼まれていたサンプルを3体ほど生け捕りで捕獲し渡した。

 

――ナイトレイド side――

 

帝都から北東15Km地点――

 

ムソウの武装親衛隊第一師団が帝都へと戻りついた日、ナイトレイドの面々は新しく出来上がっているアジトを見上げていた。

 

「なんかさ、新しいアジトって感じしないな」

 

タツミは特級危険種エアマンタに乗せられ連れてこさせられた新しいアジトを見上げながら言った。

 

「見つかりにくさと逃げやすさを考えると自然と元のアジトと似る」

 

「また温泉があるのは嬉しいわよね!!」

 

「仕事が終わったらそこで一杯やろー」

 

「いいねー!!」

 

「マイン、またのぼせて溺れないでくださいね」

 

「分かってるわよシェーレ!!」

 

女性四人組は楽しそうに話している中、タツミは何かを思い出したかのように、「切り落とされる……」と頭を抱えながらぼやいていた。

 

「ナジェンダさん、アジトの周囲に結界張り終えました――」

 

ラバックが自身の帝具で糸の結界を張り終えたことを遠くから叫びつつ走って来ていた。

 

「よし」

 

「緊急避難用の抜け穴も掘り終えたぞ」

 

「おっ、早いな流石スサノオだ。これで新アジトも本格稼働だな」

 

「勝ったと思うなよ!!」

 

「何を言っている」

 

ラバックは、自身の仕事に対して褒めてもらえるかと思ったら、それ以上のことをスサノオがやり終えて来たことで、ナジェンダの関心がスサノオの方へと向き褒めてもらえなかったことにジェラシーを感じていた。

が、それは人型帝具であるスサノオへ届くことは一生なく、ある種のコントのようにタツミは呆れる様に見ていた。

 

「よし、各自荷物を置き次第一度集合だ」

 

ナジェンダが声を張り上げて言うと、皆新しいアジトへと入り各々の部屋へと向かい荷物を置くと前と変わらない会議室へと集まった。

 

「戻って来て早速だが、今回の標的は例の新型危険種どもだ」

 

「奴らは群れで行動するケースが多く、わずかながら知性も見受けられる。個々の身体能力は高く、腕試しの武芸者たちも挑んではやられているらしい」

 

一度間を置くために、ナジェンダは皆を見回し煙草の煙を肺一杯に吸い込み吐き出した。

 

「今では帝都から南部の鉱山・森林に広く潜み貪欲に人や家畜を喰らっている。毎日のようにイェーガーズや帝国兵が駆逐しているが数が多いらしくまだ残りがいるらしい」

 

「帝国側も手を焼いているってことは罠じゃなさそうね」

 

「行ってしまえば帝国に協力する形になるが……いいな?」

 

今にも落ちそうになった灰を灰皿に落としながら今一度みんなに確認するように見渡し、

 

「もちらんだぜ!!今回は事情が事情」

 

「話を聞く限り速やかに葬るべき連中だ」

 

「兵士と鉢合わせだけは勘弁願いたいけどね」

 

レオーネも呑気に言っているが、その一言でナジェンダは固まると、神妙な顔つきになり、雰囲気が変わったことを誰もが感じ取った。

 

「私達はナイトレイドだ、帝国側が休む夜中に動けばいい、といつもならいうところだが今回はそうもいかない」

 

「どういうことですか?ボス」

 

「ムソウが、武装親衛隊第一師団を呼び戻した」

 

その瞬間、武装親衛隊という言葉を初めて聞いたタツミ以外の面子は固まった。

 

「え、え?どうしたのみんな」

 

タツミはみんなが何故そんな表情を取っているのか分からず戸惑い、アタフタとしていた。

 

「それは確かな情報なのか?」

 

「ああ、チェルシーに帝都へ偵察に行かせていてな。武装親衛隊が帝都へ入って行く姿を多くの市民と共に見たそうだ」

 

アカメの問いにナジェンダが堪えているが、タツミは何が何だかさっぱりと言った様子だ。

 

「そう言えば、タツミは武装親衛隊について教えてなかったな」

 

「武装親衛隊ってなんなんだ?」

 

「武装親衛隊、読んで字のごとく武装しているムソウの親衛隊だ。数にしておよそ90万南と西の異民族を牽制するために常に配置されているムソウ個人の私兵だ」

 

「90万って!!、それに私兵ってことはもしかして軍と違って自由に使えたり……」

 

「そうだ、その数をムソウは自身の意思一つで扱える。帝都攻略で最も恐れるべきはエスデス軍やブドー率いる近衛ではなく武装親衛隊ということになる。今武装蜂起した所で反乱軍は帝都へたどり着く前に圧倒的数の前に殲滅されるだけだ」

 

タツミは圧倒的数に驚きつつ、私兵と言う単語に聞き漏らすことなくもしかしたら違うと言う可能性を信じボスであるナジェンダに聞いたが、返答は最悪のものであった。

 

「じゃあ、ボス新型危険種の駆逐は武装親衛隊に任せていいんじゃないか?」

 

「レオーネ普段ならそれでもいいが、今回ばかりはそうはいかない。さっきも言ったが新型危険種は帝都から南部にかけて潜んでいるんだ。特に重要なのは南部までに潜んでいる所。新型危険種は反乱軍が集結している場所の近くまでに潜んでいるため武装親衛隊と反乱軍が鉢合わせにでもなったらそのまま総力戦になりこちらが潰されてしまう。それだけは何としても阻止しなければならない」

 

「成程、ってことは私達が南部から駆逐して行けば武装親衛隊と反乱軍が鉢合わせすることはないってわけか」

 

「お前たちを危険にさらすことになる……もう一度訊くがやってくれるな?」

 

「任せとけ、反乱軍の今後が掛かってるとあってはなおさら頑張らないとな!!」

 

タツミが皆の意見を代弁するかの如く宣言すると、皆それに同意するように頷いた。

その様子を壁に背を預けながらチェルシーは傍観するように見ていた。

 

side END――

 

ノックが三度規則正しくなり、室内に一人のSSの制服として有名な黒い勤務服ではなく、戦車兵であることを示す黒服を着ている男が入って来た。

 

「失礼します。武装親衛隊第一師団101重戦車大隊長ミハエル・ヴィットマン参りました」

 

ミハエルは、入って来た扉を閉め背筋を伸ばし敬礼をしながら言った。

ミハエル・ヴィットマン、史実において撃破数は戦車138両、対戦車砲132門。

最も多くの敵戦車を撃破した戦車兵の一人である。特にノルマンディー戦線で、彼が単騎でイギリスの戦車部隊に壊滅的打撃を与えたヴィレル・ボカージュの戦いは有名な英雄と呼べる男でありムソウが信を置いている部下だ。

そして、現在新型危険種の駆逐を言い渡している武装親衛隊第一師団に在りながら、ムソウが特別に別の命令を与えその任に着かせている101重戦車大隊の大隊長である。

 

「よく来た、楽にして構わん」

 

ムソウがそう言うと、ミハエルは敬礼から両手を背中で組み、左足を肩幅に開き休めの姿勢を取った。

 

「さて、報告を聞こう」

 

「はっ、Landkreuzer P1500 Monsterの製造は順調です。超級危険種を素材とすることで鋼材で製造するさいの予定重量を大幅に軽量化、強度を増すことに成功。完成している主砲の試射も済ませ無事成功しております」

 

ムソウがミハエル率いる101重戦車大隊に今回特別に命令を与えたのは、大臣や皇帝、エスデスやブドーにさえ秘密にし製造している、アドルフ・ヒトラーが関心を示し、開発を指示したが多くの問題点を含むため開発計画を中断されたナチスの空想超兵器であり、陸上巡洋艦と直訳できるラントクロイツァーP1500モンスターの完成した主砲を秘密裏に試射させることだ。

モンスターの性能は折り紙つきであり、モンスターの全長は42mと想定されており、全重は1,500t、250mmの車体前面装甲を持ち、MAN社製の4基のUボート(潜水艦)用ディーゼルエンジンを装備しするが、搭乗員は100名以上を必要ととする欠点もある。

主兵装は800mm ドーラ/シュベーラー グスタフ K (E) 世界最大の列車砲、副兵装として2基の15cm sFH 18重榴弾砲、および口径15mmのMG 151 機関砲多数を装備しする予定であった。

史実、Dies iraeともに作られることはなかったが、ラインハルトであったことには変わりなくその計画、性能など企画書類を目にし、どちらのラインハルトも不可能な妄想であると結論付けた物である。

だが、この世界は危険種、特級危険種、超級危険種と言われる生物がおり、兵器を作る上での素材としてこれ以上ない程の物であり、事実帝国の始皇帝は、それらを素材とすることで帝具を作らせている。

そして帝具は超兵器としての役割を現役で全うし、その性能を上回る物は未だ出来ておらず、出来て精々臣具と言われる帝具よりも一回りも二回りも劣る物だけだ。

ムソウは危険種を素材とした帝具が現役であることに目を付け、偶然ではあるが武装親衛隊作戦本部AmtⅨ技術及び機械開発より提出されたP1500モンスターの開発許可申請が同時だったため条件指定ののち許可した。

 

「それで、性能はどうだ?」

 

「おおよそ初期段階の計画と同等の性能を発揮しております」

 

「分かった下がっていい。以後、101重戦車大隊は第一師団へと戻れ。そののち第一師団へ与えた命令に従事せよ」

 

「了解しました!!」

 

ミハエルは敬礼をし退室した。

 

「それで、何時まで盗み聞きするつもりだ。盗み聞きはあまりほめられた趣味ではないぞ」

 

ムソウしかいないはずの執務室、だがムソウは盗み聞きする存在の気配を敏感に感じ取っていた。

 

「やっぱり気づいちゃいますよね~」

 

窓から入って来た一匹の猫が窓から入って来ると一転、ドロンっと使い古された擬音と白い煙幕の様なものを立て現れたのは、ナイトレイドに居る時の服装とは違う武装親衛隊の着ている勤務用の黒服を着ているチェルシーだった。

スカートは短く、服もピッタリと合うためチェルシーのボディーラインを強調していた。

 

「それで、命令通り情報を渡したのだろうな?」

 

「もちろんですよー」

 

「それで、ナイトレイドはどう動いた?」

 

「皆は予想通り、南部の方から優先的に駆逐する様です」

 

チェルシー今回の一件で一つ新たに命令をムソウは下していた。

ナイトレイドに武装親衛隊が戻って来たこと、南部の方に新型危険種が潜伏していると言う情報を与え、ナイトレイド、反乱軍双方に南部の方に潜伏している新型危険種へと意識を向けさせることだ。

下手にP1500モンスターの試射に気付かれては面倒であることは必然だ。

地方軍に気付かれるようであれば一人残らず殲滅しておけとミハエルに命令していたが、その報告がなかった以上地方軍と遭遇していないとムソウは結論付けた。

 

「そうか、なら反乱軍に気取られてはいないと考えて大丈夫だな?」

 

「反乱軍の目的はあくまでこの国の打倒で、帝都には目を光らせても地方までは行っていないから」

 

「ならばよし、後は時が来るのを待つだけだ」

 

「一つ報告が」

 

ムソウは、下がってよいと言おうとした時、それをチェルシーが遮った。

命知らず、ムソウと言う絶対的存在の言を遮ると言うことは即ち死を意味すると誰もが考えるが、事実はそうではない。

基本時に空気の読めない様な無能が遮るために死ぬだけであり、有能なものは自身の死を厭わずして諫言をする者でありそう言った有能な者をムソウは切り捨てる様なことはしない。

 

「申せ」

 

「反乱軍の次の目標は安寧道、教主補佐のボリックです」

 

「ああ、奴か。確かにあれが教主になるのは好ましくないが、だが奴はどこまで行っても大臣の犬だ。犬が主人や周りに噛みつけばどうなるか位の頭はあるはずだ」

 

その程度のことを気づくことができないようでは、”死”のみが待っている。

僅かばかりに漏れ出すムソウの絶対的存在感が何を言いたいのかチェルシーは肌で感じ取り、無意識下で震え跪いていた。

だが、その心は別であり心酔すべき対象であるムソウの圧倒的存在感が自身を蹂躙し、征服し、支配されることにこの上なく満たされていた。

 

「だが、反乱軍の目標がボリックと言うことはナイトレイドが動くか。そうなると、イェーガーズもそれを追うか、大臣がボリックの警護にイェーガーズを付けるな…………チェルシー、次のボリック暗殺の際、道中ナイトレイドを離れ、保安本部へ戻れ。代わりの死体はこちらで用意しておく」

 

保安本部へ戻れ、その一言をチェルシーは一日千秋の思いで待ち焦がれていた。

それが遂に叶うのだ、喜ばないはずがない。

 

「分かりました」

 

チェルシーは弾むように言うとそのまま退出した。

 

「さて、どう出る大臣」

 

ムソウの提出した報告書で現在進行形でボリックに疑念を覚えている大臣がどこまで手を出すか。

安寧道を重く見るのは分からなくもないが、さてどうなることかなと、ムソウは自身の掌の上で踊る存在に嘲笑を隠せずにはいられなかった。




どこぞの這い寄ってくる混沌並みに後付け設定が増えて行っています。
特に、P1500モンスターはやり過ぎかなって思ってたりします。



以下愚痴です無視してくれて構いません。

卒研で更新がかなり遅くなる可能性もありますがそこのとこご了承ください。
Linux詳しい人いたらマジで助けてほしい
何なん、卒研でシェルスクリプト利用してコマンド作成って
データベース利用して出力って
ファイルのパラメータ出力とか無理だろ
変更ごと変更前を両方出せとか不可能だろ



すみませんお見苦しいものを……


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獣の鬣

どちらかというとナイトレイドメインの話です


ナイトレイド side

 

「今回の案件は、安寧道と呼ばれる広く民衆に信仰されている宗教だ」

 

「あ、それ俺の村にも広まって来てたぜ!!旅立つ時に村長が渡してくれた神の像もその宗教のヤツだ」

 

その像のおかげでアカメの持つ帝具村雨から助かったんだと思うと、タツミは改めて像を持たせてくれた村長に感謝の念を送った。

それと共に、金を盗られた時本気で売ろうと思ったが売らなくてよかったとその時の自身を褒めてやりたいとも思っていた。

 

「安寧道はこの10年で信者を増やし帝都の東側で大きな勢力となっている。近々この安寧道が武装蜂起、つまり宗教反乱を起こす、私達はこれを利用する考えだ」

 

「ちょ、ちょっと待て、そんな反乱が起きたら一体どれだけの民が死ぬんだ!!むしろ反乱は止めた方がいいんじゃないのか!!」

 

「帝都の腐敗政治は民を虐めすぎた。安寧道の反乱を防いだとしても必ずどこかで民衆の怒りは爆発する。もうそこまで末期に来ているのだ……この国は」

 

タツミの言いたいことは分かる。

ナジェンダとて、意味もなく人が殺されるのを嫌い、革命軍へと入ったのだ。

だが、人の上に立つ存在となると必ずどこかで決断しなければならない時が来る。

今回がまさにそれだ。

悔しい、悔しくないと言った私情の問題ではないのだ。

ナイトレイドや革命軍は簡単なミスが即死につながる。

そのことはタツミとてナイトレイドに入ると決め、仕事をしてきて十分わかっている。

だからと言って、「はい、そうですか」とそう簡単に割り切れる問題でもない。

 

「まあ、話は最後まで聞いて方がいいよ」

 

葛藤に駆られているタツミを見て、チェルシーはため息を吐きながら言った。

 

「前に話したバン族の反乱や北の勇者のことは覚えているだろう?」

 

「どちらもエスデスに鎮圧された反乱だろ?」

 

「あれの失敗は単独で帝国に楯突いてしまったことにあると思う。帝国の力は未だ強大だ、安寧道の反乱だってしばらくすりゃ鎮圧されちまい多くの血が流れる」

 

ラバックがタツミを諭すように言い切った時だった。

 

「そこでいよいよ革命軍の出番だ」

 

バンッと叩きつける様にナジェンダは地図をテーブルに広げながら言った。

 

「安寧道の武装蜂起が始まった瞬間、私達と同盟関係にある西の異民族や帝国打倒の暁に不可侵条約を結ぶことで利害の一致を計った南と北の異民族に攻め入ってもらう。これで帝国は内外を敵で包囲されてしまった状態になる。だがそれでもまだ持ちこたえられるだろう。そこでトドメとして革命軍が南側で武装蜂起開始、帝都へ向けて進軍し、帝国を打倒する」

 

帝国の外側を取り囲んでいる異民族全てが同時に攻めて来たのならば帝国軍の戦力を大幅に割かなければなくなり、さらに武装蜂起の鎮圧に革命軍の蜂起へ地方軍に帝都に常駐している帝国軍を向けさせなければなくなり、帝都に残るのは帝都警備隊と宮殿を守護する近衛だけになる。

脅威となるエスデス軍や武装親衛隊は異民族の方へ向かうと予測されており、帝都で脅威となるのは近衛だけということになる。

 

「なるほど、三段構えってヤツか」

 

「帝国は革命軍をナめているのさ。反乱分子と言う膿を一点に集めているからありがたいとすら思っている。拠点は帝国の辺境だ。そこから帝都にたどり着くにはいくつもの関や城を突破しないといけないが、私達は既に何人もの城の太守に内応を取り付けてある。中央でまじめにやってた連中が左遷されたケースも多いからな、話は通しやすかった」

 

むろん話を通す際、難航する場合もあった。

地方に左遷されたからと言って大臣の手の者がいない訳では無い。

そう言った輩は、大抵常に賄賂を受け取り、酒と女を楽しんでいるものだ。

だが、大臣の手の物である事には変わりなく、大臣の名を笠に着て太守を脅す場合も暫し見受けられた。

そう言った奴を狩ることで、話を通しやすくすることもあった。

最も難航したのは、保安本部の者が出入りする所であった。

下手に狩ろうものならば、すぐさま保安本部が動きだすのが目に見えており、話を通すどころでは無くなり、逆に自身の首を絞める結果となってしまうのは誰の目から見ても明らかだ。

だが、情勢が不安定なためかムソウの配下である保安本部の者は引き揚げ代わるように帝都の文官が左遷されてきた。

討つべき相手である大臣に感謝する日が来るとはその日まで誰も思わなかったと言う。

 

「だが、それでも帝国の切り札であるブドーとその近衛隊が迎撃して来るだろう。しかし宮殿の警護力は激減するわけだ」

 

「その時こそ大臣暗殺の好機……私達は宮殿に突入し大臣を葬る!!帝都を中から切り崩すんだ」

 

アカメの今までにない気概を感じタツミは自身が未だどこか甘かったと恥じた。

徹底的なまでに準備をし、多くの犠牲を払ってでも帝国を変えようと思う志を持つもの達が集まっているのだ。

私情一つが志半ばで倒れた者達を侮辱する行為であるとタツミは改めて理解した。

 

「ま、ああいうずるがしこい奴は最後に逃げちまいそうだからな」

 

「そんなことさせない、元凶なんだ。キッチリ死んでもらわないとな」

 

ラバックが笑いながら冗談じみた風に言ったことに、レオーネは子供が見たら怯える様な雰囲気を纏いながら手の骨を鳴らした。

 

「西の異民族には協力の見返りに領土を返還すると言うことで話は着いている。南と北はさっき言った通りだ」

 

「返還?」

 

「もともと、帝国の西に在る一部の地域は異民族のモノだったのよ。それを奪還するのが悲願みたい」

 

マインは腕を抱きしめる様にしながら悲しげな表情を浮かべた。

それを見かねたシェーレがマインの後ろに回るとそっと抱きしめた。

 

「シェーレ?」

 

「大丈夫ですマイン、きっと革命は成功します」

 

「帝国が崩壊し悪法がなくなれば民の怒りも収まる、迅速に帝都陥落まで事を運べば流れる血も少なくて済むだろう。納得いったかタツミ?」

 

「ああ、途中で突っかかってゴメン」

 

「計画が出来ているなら後は実行するのみだが……それが出来ない問題が今回の仕事につながってくる訳だな」

 

一瞬ナジェンダは、呆けた表情をした次の瞬間――

 

「その通りだスサノオ!!流石私の帝具だ!!」

 

自身の帝具であるスサノオを喜びながら褒め、それを見ていたラバックはスサノオに敵愾心を露わにしていた。

ある意味お約束な展開で、緊張感が漂っていた室内の空気が少しばかり和らいだ。

が、ナジェンダが次に発した言葉が一気に室内に緊張感を戻させた。

 

「全ての鍵を握る安寧道が、今、内部は揺れているらしい」

 

安寧道は、絶大なカリスマを誇る教主の力で一気に急成長した。

その教主の補佐で信任の厚いボリックがいるが、それは大臣が送り込んだスパイである事は既にナイトレイドの面々は説明されている。

 

「ボリックの目的は安寧道を掌握し、武装蜂起をさせないこと、何時か教主を殺して本当の神にしてしまい自分が頂点に立つ気なんだ」

 

煙草に火を付けながらナジェンダは、説明する。

 

「内部に情報を渡して粛清する事は出来ないのか?」

 

タツミの意見はもっともだ。

だが、事はそう簡単に済むものではない。

 

「ボリック派と言われる連中が大きな権力を握っている、それに帝国のバックアップがあるからな」

 

肺を満たしてる煙を吐き出しながらナジェンダは残念そうに言う。

 

「そこで今回の任務だ。私達は安寧道の本部まで行き、ボリックを討つ!!奴は一部の信者には食物に少しずつ薬を混ぜて中毒にし忠実な人形としている外道と言うことが密偵の報告で確定している。遠慮はいらんぞ」

 

ナジェンダの言葉に一人の男と一体の帝具が今までにない気迫で立ち上がった。

 

「きっと女をとっかえひっかえして遊んでいるだろうなあ」

 

「食材に薬を盛るとは食材に対する侮辱でしかない…」

 

「「絶対に許せねぇ(せん)!!」」

 

怒るポイントこそ話の全体からズレている者の、通じ合うところがある二人は見つめ合い手を取り合った。

女には分からない男同士だからこそ通じ合うものが二人の間に芽生えた瞬間でもあった。

「どうせすぐラバックがスサノオに敵愾心を抱くだろうな」と誰もが思ったが、口にすることはなかった。

 

「最後にイェーガーズとムソウについて、イェーガーズは今全力で私達を狩ろうとしている。このまま後手後手ではいつか捕まってしまうと確信した」

 

「実際踏み込まれた時も私の能力じゃなきゃヤバかったしね」

 

財政官を暗殺した時、ナイトレイドが来ることを予め予知していたかの如く踏み込んできたイェーガーズだったが、紙一重で気づくことが出来チェルシーは助かったのだ。

チェルシーの場合、最悪保安本部としての肩書を使い、ムソウの命令で革命軍に潜入捜査をしており、信頼確保の一環でやったと言えばいくらでも助かる余地はある。

むろんそのことをこの場にいる者達全てが知らないので、そのようなことを言うつもりは毛頭ないし、ムソウの信頼を裏切るようなことをそもそもチェルシーはするつもりはない。

 

「ならば今回、帝都の外まであいつらをおびき寄せて、そこで仕留めようと思う」

 

「いよいよ全面対決ってわけね!!」

 

シェーレに後ろから抱きかかえられていたことで落ち着きを取り戻しいつもの強気なマインへと戻っていた。

 

「イェーガーズの中でもクロメとボルスは機会があれば消しておいてくれと本部から依頼が来てるしな。そしてムソウだが、あれの相手は現状するな、あれの相手をしていては犬死を増やすだけだ。本部も何度か交渉役を送った様だが、その全てがムソウに接触する前に消されている。しかし、奴が敵であるか味方であるか、それだけで大幅に革命を有利に進められる。そこでだ、チェルシーお前にムソウとの交渉役を頼みたい。お前の帝具ならば潜入も楽なはずだ」

 

「……それって、私に死ねって言ってるような気もするんだけど」

 

傍目から見たらそうだろう。

何せムソウの相手をしろとは即ち死ににいけと言っていると同義だ。

チェルシーの本来の立場ならば会うのも容易だろうが、そうならばナイトレイドや革命軍に正体がばれることになる。

そうなれば、ムソウの手を煩わせてまで偽の死体を用意してもらい保安本部復帰が遅れることになりかねない。

それだけはチェルシーは避けたいと思っている。

 

「確かに、内容を考えるとそう取られても仕方がない。だが、それが可能なのはチェルシーお前だけだ」

 

「……はぁ~分かりました。やりますよ」

 

頭を掻きながらチェルシーは任務を受けることにした。

最悪、失敗したと言うことにして偽の死体を使っても良い。

予定が少し変わるだけだ。

背中を壁に預けながらチェルシーは今後のことを考える様に天井を見上げた

 

 

side END

 

ムソウはいつも通り執務室で書類の決裁を――してはいなかった。

帝都から南西、西と南の異民族そして帝国の領土の三つが面している常に張り詰めた空気が満たしている土地へと来ていた。

土地柄常に警戒をしており、その関係上武装親衛隊の師団が3師団配備されている。

そのため最もムソウの息のかかった土地と言っても良く、だからこそ大臣に知られてはいけない様な危険な兵器や実験を行うことが出来る場所だ。

そんな場所に来た理由は一つだけ、完成したと報告があったP1500モンスターを実際に見るためだ。

史実では、巨大すぎる性質上どうしても避けられなかった重量を超級危険種を素材とすることでクリアしたP1500モンスター。

しかし、実際に目にしてみると圧倒的質量感を醸し出し、常に整備を怠っていない印と言わんばかりに機械油のにおいが発している。

全長42メートル、全幅18メートル全高7メートル総重量は、1500トンを大幅に減らし750トンと半分の重量へとなってなお、それ以上の重量を感じさせるP1500モンスターにムソウは満足げな表情を向けていた。

 

「これはいつでも稼働可能か?」

 

ムソウは、P1500モンスターから目を離さず、一歩下がった位置にいる親衛隊作戦本部局集団A,Amt VIII 兵器局局長へ問い、局長は間を置かず、

 

「可能です」

 

その返事にムソウは更に満足した表情をした。

 

「他の兵器はどうだ」

 

「P1000、ラーテの建造も順調です。他の車輌兵器は整備を万全にしており、いつでも命令一つで動かせます」

 

「まだ時ではない。しかし準備は怠るな」

 

「はっ!!」

 

機械が金属を削り出す甲高い音に、溶接するために発生する強い光とP1500モンスターを中心にあちらこちらでラーテを建造するため多くの人が工廠で汗水たらしながら働いていた。

そこから一区画先になると、圧倒的数量の戦車が並んでおり、ヤークトティーガ―、ティーガーI、ティーガーIIと言った連合国を苦しめた第二次世界大戦時の有名な戦車だ。

そして第二次世界大戦時に存在した機械的欠点を見逃す程甘いムソウではなく、欠点などは優先的課題とし改善策を講じさせ、あらゆる方法を使い既に改善されている。

その先区画を抜けると、大きな鋼鉄の扉が道を塞いでいた。

鋼鉄の扉が、重低音を鳴らしながらゆっくりと開き眩しい光が差し込んで来る。

ムソウは躊躇することなく歩み進め、目が段々と為れていき、光が差し込んでくる先には規則正しく整列されている武装親衛隊の姿があった。

三つの師団と言うこともあり人数が膨大であり見渡す限り人人人である。

しかし武装親衛隊全体から見たら極一部の人数でしかない。

これ程の相手をしなければならない相手はどれだけ不憫であるか、ムソウの一歩後ろを着いて歩いて来た兵器局局長は思った。

そして、それだけの者を統べる者に近しい位置に居れる自分がどれだけ幸福であるかということを再度認識し、これからどこへと向かっていくのかとても期待した眼差しを向けていた。

 

「決断の時は近い」

 

ムソウがどちらの勢力に着くのか、その決断次第で全てが変わってくる、それは革命軍、帝国軍、ナイトレイド、イェーガーズその全てが知っていることだ。

 

「戻るぞ、帝都へ」

 

 

 

 

人が次第に朽ちゆくように国も何れは滅びゆく――――――――

 

新国家の誕生を目指すために光を捨てた者達と、国を護るために国の闇を知って行く者達――

 

思想、理念、目的、全てをたがえた彼らは避けられぬ運命によって、衝突の日を迎える。

 

必殺の武具をその身に纏い決戦に挑む!!

 

 

 

 

 

 

 

 

この時は、誰もが知らなかった――

 

黄金の獣が刻々と己の爪牙を研ぎ澄ましていることに――



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獣と暗殺未遂

活動報告にアンケート第二弾があります。
暇だったら見て下さい。



「イェーガーズが発ったか」

 

報告しに来た部下が執務室から出て行ったのを確認するとつぶやいた。

相も変わらず同じ作業の繰り返しだが、情報の機密性を考えるとムソウが一人でしていた方が安全であるからだ。

むろん情報は生ものの様に鮮度が命であり、一分、一秒でその価値が変動してしてしまう。

価値が下がった情報は、部下に任せても問題ないため完全に情報を一括集約していると言う訳ではない。

 

「長官、お客様が参られております」

 

扉越しに部下が報告したことにムソウは疑問を感じた。

今日は誰との面会もなかったはずだ、況してや前回の様に大臣が至急と言うほどの事件が起きている訳ではない。

もしそのような事件が起きているならば、帝国内で最も早くムソウの手に来るはずだ。

 

「誰が来ている?大臣の手の者ならば追い返せ、私は今忙しい」

 

「大臣の手の者ではありません。元大臣のチョウリ殿です」

 

「なに?」

 

チョウリ、元大臣と言う地位もあり大臣の政敵となり得る政治手腕があるからこそ助けた人物だ。

そんな人物が態々ムソウに会いに来ると言うことが解せずにいた。

特に、今が一番デリケートな時期であり、自分の身の振り方を考えている者達で宮殿は溢れている。

大臣派に付くか、穏健派に付くか、ブドーの庇護下に入るか、はたまた最も敵が多いとされているが、それ以上の力を持つムソウに付くか。

大臣派に付いたのならば既得権益が守られ、大臣の名のもとにやりたい放題出来るが、ブドーとムソウに目を付けられ粛清される恐れがある。

穏健派に付いたのならば、比較的良心的なものが多いため内部での裏切りはないだろうが、その分大臣から目を付けられるため出世し辛く、下手な発言はそのまま死罪もあり得るリターンの少ない場所だ。

それでも、人としての良心がある者が集まっているため内部での信頼はどの派閥の中でも一番だろう。

ブドー派は、大将軍の家系であり『武官は政治に口を出すべからず』と言う教えを未だ守り続けている堅物の庇護下に入っている文官の集まりだ。

正確に言うならば、大将軍の家系と代々関わりの深い文官の家系の者達が集まったと言うべきであり、中には大臣派に近しい思想の持ち主も居るが、全員の思想の根源は『皇帝と帝国を護る』ことである。

そのため、たとえどのような汚れ仕事や仲間を裏切る結果と為ろうともそれが、『皇帝と帝国を護るため』であるなら仕方なしと割り切れる者達ばかりだ。

最後にムソウ派だが、派閥とは他の者達がムソウを恐れるがあまり勝手に言っているだけで、そのような派閥は存在していないと。

もしそんな派閥が存在するとするならば、穏健派をムソウ派と言うべきだろう。

穏健派自身はそのことに気が付いていないが、裏で糸を引き、大臣の政敵とすることで限度こそ有るが抑止力としての力を持てているのは、ムソウがバックに付いているとチラつかせているからだ。

でなければ、今頃、穏健派は大臣が裏切り者と言うでっち上げた事実で処刑されている。

そして訪れたチョウリは当たり前のように大臣と敵対する穏健派に所属しており、敵の敵は味方と言う考えで穏健派とムソウは比較的良好な関係を維持し続けていることになっている。

裏でムソウが糸を引いていると気づかずに。

 

「まあいい、通せ」

 

「はっ!!」

 

扉越しに部下がどこかへと駆けて行く足音が聞こえ、僅かな時間が経つと二人程の足音が静まり返った廊下に響き渡りながら向かって来ているのをムソウは感じ取った。

コンコンコン、規則正しく3回ほど扉を叩く音が聞こえたので、ムソウは「入れ」と返事をした。

 

「失礼します。チョウリ殿をお連れしました」

 

「分かった。お前は下がれ」

 

「はっ!!」

 

チョウリを案内して来た部下は、敬礼をするとそのまま扉を閉めて立ち去った。

 

「久しぶりだな、チョウリ殿」

 

「そうですね、ムソウ殿」

 

ムソウはチョウリにソファーに座るように勧めた。

柔らかいクッションが中に敷き詰められている、革張りの高級感を見ただけで感じさせるソファーであるため慣れない者は座ることさえ躊躇するだろう。

そんな中チョウリは、元大臣と言う立場もあったためか慣れた様にムソウの対面に腰かけた。

 

「今日はどんな用件で?」

 

「要件と言うほどの物ではないが、ただお礼を言いに来ただけですよ」

 

そう言うと、チョウリはムソウとの間に在るテーブルに手を着くと額が付け深々と礼を言った。

 

「頭を上げられよ、チョウリ殿。私は礼が欲しくて助けた訳ではない」

 

「そうかもしれぬ。ムソウ殿は合理的なお人だ、私を助けたのはそれなりの理由があるかもしれぬ。だが、命を助けられたのにもかかわらず、ここで礼を失すればそれこそ人の道から外れると言うもの」

 

頭が固い、誰もがそう思ったことだろう。

事実ムソウも、チョウリに対してその印象を抱いた。

だが、元大臣と言う立場を持つチョウリが使えると言う印象をムソウが持つのもまた事実だ。

今は地方へと飛ばされた有能な文官達と一線を退いた後でもチョウリは密な関係を持っていたため、地方の表の情報はチョウリの方が詳しい。

ムソウは役職柄、どうしても表に出せないような情報ばかりを追う必要があるため、その辺りを疎かにしている訳ではないが、チョウリやその場を治める太守程詳しくはない。

だからこそムソウは、チョウリのことを無碍にすることが出来ない。

 

「はぁ、分かった。その礼を受け取りましょう」

 

チョウリは安心したかのように頭を上げたが、一瞬だけだチョウリの顔に陰が射したのをムソウは見逃すことはなかった。

 

「それで、それだけのために来た訳ではあるまい?」

 

「何のことでしょう?私は先ほども言った通り礼を言いに来ただけです」

 

「そうか?ならいいが」

 

訝しげな思いをしつつもそれを表情に出す程ムソウは愚かではない。

 

「では、私はこれで」

 

チョウリが扉を開け、ムソウの執務室を後にしようとした時だった。

パリンッ!!っとガラスの割れる音がし、振り返ったムソウが見たのは――

 

「爆弾か」

 

ムソウは焦ることなくチョウリを執務室から押し出し、振り返りざまに帝具を顕現させた。

常人ならば直視しただけで魂をも蒸発させる聖槍。

自身を扱うものを選ぶ黄金の槍は、相応しくない者は触れることさえ敵わない。

だが、唯一の主と認めた黄金の獣が命ずるならば聖槍が発揮する力は無敵である。

だが帝具の一振りで街を軽々と消し飛ばす力を持つムソウが、この様な場で一割に満たない力であろうとその力を発揮するは出来ない。

もしその力を発揮しようものならば帝都が文字通り灰燼と化してしまう。

必然的にその力を極限までセーブしても無駄である、ならばその力に指向性を与えれば済む話だ。

だがどこへ向ける?と疑問に対して指向している暇はない。

被害を最小限に抑えるには力の向きを上空へと向ければいい、その回答にたどり着くのに一秒にも満たなかった。

幸いにしてムソウの執務室は最上層界にあるため、犠牲は帝都の上空を護る危険種だけで済む。

解答が出たならば実行するのみ、ムソウはロンギヌスを下から上へと片手で切り上げたのと爆発したのは同時だった。

その時、帝都に住まう多くの市民が黄金の柱が天を貫き徹すのを目撃した。

 

 

 

 

 

 

「長官ご無事ですか!!」

 

爆発音に気づき駆けつけた保安本部員達はは信じられない光景を()の当たりにした。

ムソウの執務室に爆弾が投げ込まれた、この事実だけでも本来ありえないことなので信じられないと思うだろうが、保安本部員達が思ったのはそこではなかった。

確かにムソウの執務室は消し飛んでいた。

高級感あふれるソファーもテーブルも執務机も革張りの椅子もなくなっている、天井もろとも跡形もなく。

本来爆弾による爆発ならばいくら衝撃が強かろうと少なからず残骸は残るものだ。

なら、残骸が残らない程強力な爆弾だったかと訊かれたら否と応えるだろう。

扉周りの壁は、シミ一つなく綺麗な白色だ。

だが、窓があった方は消し飛び、左右の壁や床はある一線を除き黒々と炭化しきっている。

 

「私は無事だ。それよりも犯人を捜し出せ」

 

「は、はっ!!」

 

駆けつけた者達はすぐさま賊を探すために慌ただしく駆けて行き、帝都内に厳戒態勢が敷かれるのにそれほど時間はかからなかった。

 

「すまなかったなチョウリ殿。私を襲う賊の攻撃に巻き込んで」

 

「いえ、私はあの時助けられていなかったら死んでいた身ですので、このくらいのことどうということはないです」

 

「いや、先ほどのはこちらの落ち度、宮殿に戻られるまでこちらで護衛を付けさせましょう」

 

ムソウは、近くを通りかかった部下を呼び止めると数人チョウリの護衛に付くよう人事部に命令を伝えさせた。

僅かな時間が経つと黒い軍服を身に纏った男たちが現れた。

顔には影が差しており、好き好んで近づきたくはないオーラを纏っている。

 

「このままチョウリ殿を宮殿まで護衛しろ」

 

「「「はっ!!」」」

 

「すみませんな、護衛など付けていただいて」

 

「私の暗殺に巻き込まれたのだ。これ位のことは当然の償いだ」

 

「では、私はこれで」

 

チョウリは若し日の名残りを完全に失っている、光り輝く頭を下げて去って行った。

それに続くように護衛のために呼ばれた保安本部員達も一人を除き着いて行った。

 

「チョウリから目を離すな、何か裏がありそうだ」

 

「はっ!!」

 

残っていた者も敬礼をすると僅かに駆ける足取りでチョウリの護衛に付いた者達の後を追った。

 

「杞憂であればよいが……」

 

書類を含め跡形もなく消し飛んだ執務室を見ながらムソウは誰にも聞こえない声で呟いた。

 

「さて、当初の予定通り第一師団を向かわせるか」

 

本来ならばこのタイミングで自身の守りを少なくするのは愚の骨頂である。

しかし護衛対象であるはずのムソウが護衛を担当する者達以上の力を保持し、なおかつ個で量に勝るのだからどうしようもない。

ムソウが暗殺されかけた、それも自身の領域である保安本部で。

その事実で、保安本部全体が慌ただしくなっており一階に降りたムソウが目にしたのは、慌ただしくも的確な指示が飛び交っている様子だった。

そんな中一人の隊員がムソウの姿に気が付き敬礼をすると、他の者達も気づき敬礼をし、慌ただしい雰囲気が一変し、張り詰めた空気となった

 

「私はこの通り傷一つ追っていない。皆安心せよ」

 

その言葉に安堵の息を吐く者もいた。

 

「これよりは当初の予定通りに事を進める。第一師団はボリックの抹殺とチェルシーの回収。保安本部は引き続き賊の捜査と並行しシュラと思わしき者を調べろ。あれが戻って来ているのならば、ろくでもないことをしでかすだろう。以上解散、各自すぐさま持ち場に付け」

 

先ほどまで慌ただしさの中にも的確さがあった保安本部内は、ムソウの指示一つで慌ただしさは治まり、通常時の保安本部へと戻った。

ただ一人が命令するだけでこれほどまでに統率されるのも、圧倒的という言葉がかすむほどのカリスマ性があるからだろう。

 

「しかし、これでしばらくは思う様に動けなくなったな」

 

損失した書類は報告書が主である以上再度提出させればどうとでもある。

一度目にした書類や重要案件、秘匿情報などはムソウ自身が覚えているので、これも然程問題ではない。

問題なのは、書き記し、今後のために残しておく必要のある書類が消失してしまい、損失した分だけ書き出さなければならない所だ。

幸いと言うべきか前日、地下に存在する公に出来ない情報から他愛もない情報まで保安本部が関わった案件すべてを収めているアーカイブへ収めたばかりだったので被害は少なくて済んだ。

そしてこんな時期に警戒されたとしてもムソウの動きを止めようと考える人間は一人しかいない。

 

「まあいい、それよりもやるべきことをしなくては」

 

使い物にならなくなった執務室の代わりにムソウは応接室を臨時に執務室として使うことにした。

唯一気がかりなのはチョウリのことだ。

一瞬見せた陰にムソウは何かがあると、半ば確信に近い何かを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ムソウの執務室が襲われてから一刻が過ぎようとした時だった。

応接室で紛失した情報の書き出しをしていたムソウの元へ部下が一人駆けて来た。

 

「失礼します。長官の執務室を襲撃した犯人を捕らえました」

 

さすが、と言う以外の言葉はないだろう。

どんな警察組織だろうと犯人を見つけ出すのに一日は要すだろう。

だが保安本部は違う。

必要とあらばどのようなことでもする、例えそれが汚れていようとも。

その点で言うならばムソウ程、清濁併せのむと言う言葉が似合う人間はいないだろう。

どの様な組織だろうと自浄作用が働かなくなっては腐敗するだけであり、帝国の自浄作用を司っていると言ってもいいのが保安本部であり、それを率いるムソウのことだ。

腐敗の元である汚れを切り取るために自分が汚れる、綺麗であろうとすればするほど汚れが目立ち汚れを落とすために自身が汚れる。

汚れを取る人間が汚れている人間以上に汚れている、汚れて行く。

笑うしかないだろう。

 

「分かった。それでそいつは何と言っている」

 

「自分は大臣に命じられてやったと、そればかり繰り返しております」

 

「やはりか、他には?」

 

「自分を早く解放しないと人質がどうなっても知らないとも」

 

「人質だと?」

 

もしそれがチョウリの陰と関係するならば、人質にしているのはチョウリの一人娘であるスピアになる。

しかし、情報通りならスピアの腕は皇拳寺で皆伝をもらっている腕前だと情報に記されていたはずだ。

ムソウが僅かばかりでも疑問を感じるのも可笑しくはない。

 

「賊は帝具や皇拳寺で修行したと言った情報はあるか?」

 

「いえ、帝具は所持しておらず、めぼしい情報はありません。特に要注意リストに入る様な人物でもなければ、リストに上がる様な盗賊団のメンバーでもない、ただのコソ泥程度です」

 

「ならばなおのこと分からんな。裏で大臣が糸を引いているにしては稚拙すぎる」

 

ムソウの動きを止めたいと言う思惑が大臣に在るにしては、人質を取り剰え簡単に口を割る様な人員を使うと言うのが解せない。

いや、今回の一件、大臣だけが裏で手を引いているという考え方がそもそも間違っていると言う可能性がある。

思惑自体は大臣に在るだろう、だが実際に裏で糸を引いているのが別の者だとしたら?その裏で糸を引いている人物を更にその裏で大臣が糸を引いているならば、大臣にまでこの一件で火の粉が掛かることはないだろう。

何せ、裏で手引きしている者がトカゲのしっぽみたいに大臣に切り捨てられるのだから。

大臣にしてみれば、殺せたら上等、殺せずとも足止めできればそれだけで十分なのだろう。

後は、トカゲのしっぽみたいに切り捨て、大臣自身が帝国の重鎮であるムソウを暗殺しようとした罪で死刑を承認すれば十分だ。

それだけで、建前上は関係ないと言い切れる。

 

「賊からもう少し情報を聞き出せ。あとは人質の解放に帝都警備隊と連携し救出しろ。たまには帝都警備隊にも手柄をやらんと面倒なことになる」

 

それだけを言うと部下をムソウは下がらせた。

 

「やってくれたな」

 

左手で目元を抑えながらムソウは呟いた。

その表情は憎々しさ――ではなく、むしろ笑いを堪えているようであった。

今まで敵対する存在であると互いが認識し合っても、現状反乱軍やナイトレイド、異民族等と明確に敵対している存在が目の前にいた。

なのでお互いが後回しにしていたのだが、今回の一件。

安寧道が、燻ぶっていた火種を燃え上がらせる結果となった様だ。

 

「もっと私を楽しませてくれよ」

 

まるで子供が新しいおもちゃを買い与えられた時のような、そんな気持ちを抱いていた。




明日から少しの間、ある場所に行かなければならなくなったので更新が少しばかり遅くなります。


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獣と変幻自在

中々評価が上がらない~


ムソウが襲われてから二日後――

 

消失した書類を全て作成し直したムソウは、珈琲を飲みながら一息ついていた。

襲われたムソウの執務室は、現在急ピッチで修復されており、ついでとばかりに保安本部全体の保守点検も行っているため、保安本部全体が騒がしくなっている。

襲撃事件が起きて直ぐに警備体制は見直された。

保安本部は、保安部と諜報部を一つの組織にした際指揮系統をまとめるために宮殿近くに帝国でも一、二位を争うほど大きな建物を皇帝より貰い受けた。

保安本部の仕事内容は、敵性分子を諜報・摘発・排除する政治警察機構の司令塔であるため、比較的一般人も敷地内に入りやすくなっており、ボディーチェックも行われていないため警備が緩いと思われがちだ。

そもそも敷地内と言っても建物が在るのは宮殿近くにあり、保安本部と他の建物との距離自体も10メートルと離れておらず、同等の高さの建物が並び立っている行政区でもあるため、宮殿と同レベルまでの警備を期待する事は出来ない。

もしそのようなことをするとなると、保安本部に隣接する建物すべてに常に警備員を配置しておかなければならなくなる。

そのようなことは事実上不可能であるため、どうしても万全と言えるほどの警備を期待する事は出来ない。

だからと言って、保安本部の警備を疎かにするムソウではない。

ムソウは、万全な警備を期待できないならばと、6交代制で保安本部内部、周辺を警備させるようにすることで周りに対して威圧感与えることでこれまで警備させていた。

しかしそれで不完全であると露呈した今、警備体制をそのままにするムソウではない。

建物自体も侵入が出来ない様に保守点検と同時に出入り口や窓を改修し、警備の人数の増強、屋根の上に物見用の場所も新たに設置し昼夜問わず交代制で警備にあたらせた。

さらに怪しい動きをする者は無条件で逮捕許可を出しており、逃亡を図った場合は射殺の警告を一度することで殺害の許可も出すと言う徹底ぶりだ。

むろんムソウの仕事はそれだけではない。

書類を作成し直し、警備体制の見直しの会議にも出席しているその間にも次々と寄せられる書類は、塔を作り上げて行ったが、持ち前のスペックが常人の比でなかったため、苦もなく捌き終っている。

いや常人の比ではない超人であっても、その量を二日と言う短い時間で捌ききるのは不可能であり、ムソウだったからこそ可能なのだ。

 

「さて、エスデス達は今頃どうしているだろうか」

 

キョロクへと向かわせた武装親衛隊第一師団から早馬ならぬ軍用バイクでもたらされた情報によると、昨日キョロクへと向かう途中のロマリー街でエスデス達と遭遇、その際ボルスがナイトレイドの手によって殺され、こちらの手に欲しかったルビカンテは自爆により消失したと、報告がもたらされた。

ルビカンテが無くなってしまったのは惜しかったが、無くなってしまったものを悔やんでも仕方ないのでムソウはルビカンテを無かったものとし、今後についてまとめている計画の草案を書き変えた。

この草案事態、秘匿度が高く内容を知っているのは武装親衛隊の中でも師団長または作戦参謀の一握りだけだ。

そしてその内容と言うのが、帝国に対するクーデターだ。

クーデター、革命とも取れるこの計画が帝国側にばれるとムソウは一瞬にしてその立場を失い、帝国そのものを敵に回すことになる。

それ自体はムソウとしては問題ない。

だが、現状内と外その全てを同時にすのは好ましくなく、下手をしたら帝国、反乱軍と異民族を敵に回す結果となり、結果的に無駄な消耗をしてしまうだけだ。

ならば、反乱軍と帝国軍、異民族その全てが程よく疲弊した頃を見計らってやるべきだ。

未だ草案段階の分厚い計画書を一束にまとめ上げたムソウは他の書類と一緒に地下に在るアーカイブへと向かった。

地下のアーカイブへと向かうには複数の鍵が必要だ。

地下へと降りる入り口には常に二人の警備がおり、ムソウ以外の者が入るには手形とサイン、許可書の三つが揃ってなければならない。

そうして初めて、一つ目の扉が開き、地下へと降りる螺旋階段が現れる。

螺旋階段を下りて行くことおよそ十分、二つ目の扉が現れ特別に貸し出された鍵を差し込み明けることが出来る。

二つ目の扉から更に1時間ほど経つと、地下のアーカイブへとたどり着くことが出来る。

そこにも、もちろん扉が道を阻んでおり、その大きさは今までの比ではない。

扉の面積だけで、一戸建ての家が建てられるほどでその重量も見た目通り、いや見た目以上にある。

その重量こそが最後の鍵であり、その扉を開けられるほどの者でなければ入ることが出来ない。

ある意味鍵を管理する以上に安全なものかもしれない。

その扉をムソウは両手で左右同時に押すと、重々しく重量感を感じさせる音を立てながら開いて行く。

本来ならばこの扉を両方とも同時に開かせるのは不可能に近いため、力自慢を含め複数人で片方を開かせるのが精いっぱいだ。

それを両方同時に開かせるムソウはまさに超人を越えているだろう。

そして、最後の扉が開かれ中に入ると、そこには無限に広がっている本棚が永遠と感じるほど立ち並んでおり、天井も高く見上げるのに首が痛くなるほどだ。

本棚一つ一つが天井いっぱいいっぱいまでの高さにあるため、専用の足場があり場所によっては区切り訳がされているためそれ相応の立場でなければ入れない様にされている。

そんな中ムソウは目指すべき場所が分かっているような足取りで歩き、誰も居ないこの場所はとても静かでありムソウが歩くたびに靴底が床を踏む音がどこまでも反響している。

反響している音だけが占めるアーカイブの中、ムソウは目的地へとたどり着いた。

唯でさえ入るのが困難なアーカイブの中に在って更に厳重に鍵がかけられている。

専用に作られた特殊な形をした鍵が五つ必要であり、開けるのにも正しい順番が必要だ。

そのカギを取り出したムソウは左上、右下、中央、右上、左下、そしてもう一度中央の順番で解錠していく。

開けられた扉の中に入ると中央に一つの机と椅子、左右に本棚が在るだけの小さな部屋であった。

その左中央の本棚にムソウは計画の草案をまとめた物を入れた時だった。

一つの書類が本棚から落ちて来た。

 

「これはまた、何とも懐かしいものを」

 

落ちて来た書類を拾い上げたムソウは、その書類のタイトルを見てチェルシーとの出会いを思い出した。

 

 

 

 

数年前――

 

「それで、この報告の裏取りは出来ているのか?」

 

ムソウは自身へともたらされた報告書を見ながら、報告しに来た諜報部の人間へと問いただしていた。

 

「はっ、街での調査、役場への潜入その全てが黒であると判明しております」

 

休めの体勢でムソウへと諜報部の人間は報告する。

 

「このリスト以外に怪しい者はいなかったか?」

 

「一人、怪しいとまでは行かないまでも少し挙動不審なものがおります」

 

「その者の名と経歴は分かるか」

 

「名前はチェルシー、経歴はいたって普通であり、地方の一般家庭の出身であります」

 

一般家庭の出身と言うことは、それまでの間帝国の闇に触れてこなかったことになる。

帝国の闇は深く、中央になるにつれてその闇はどのような善人であろうと蝕み闇へと引きずり込む。

それが例え闇の深さが浅い地方の役場であろうと変わらない。

ならば、程度の差はあれ挙動不審な態度を取ってしまうのも致し方なしとムソウは判断した。

 

「その程度ならば捨て置け、大方帝都の闇になれておらぬだけであろう」

 

ムソウは、一つの書類を書き上げると報告しに来た者に渡した。

 

「それを人事部へと持って行け。明朝一斉摘発を行う」

 

休めの体勢から気をつけの姿勢を取り敬礼をした諜報部の者はそのまま退室していった。

 

「しかし、ここまで酷くなるとは。やはり前皇帝は、良くも悪くも凡人であったか」

 

今は亡き皇帝を思い出しながらムソウは、椅子の背もたれに体を預けた。

前皇帝は、ムソウのことを気に入りいきなり高い位置へと着けた人物であり、そのせいで周りの人間とムソウとの折り合いは最悪だった。

だったと言うのも、与えられた職務以上の成果をだし、時として帰属であろうと高官であろうと容赦なく取り締まったことにある。

これにより、ムソウは力ある者達や後ろ暗い背後関係を持つもの達から畏怖されるようになった。

この時からだろうか、何をやってもそれなりの成果しか出せていなかった皇帝が最も評価されたのは。

そして、老衰に見せかけて暗殺されたのも、ムソウと言う脅威を目に見える形で作り上げ、武装親衛隊為るものの設立を許してしまい、剰えその指揮権限をムソウに与えてしまったからだろう。

詳しく調べればいくらでも証拠は出てきそうなものだが、皇帝の遺体であり、目に見える形での外傷がなかったため直ぐに国葬で弔われた。

そこからが泥沼で、誰が次代皇帝に付くかという跡目争いが起きている。

現在最も皇帝の席に近いと言われているのは、文官でありオネスト派と言われる者達が推している皇帝の子で最も幼い皇子と現大臣であるチョウリ派が推している、皇帝の嫡男である。

ブドーは武官は政治に関わらないと言って、我関せずだ。

ムソウとしては、どちらが勝とうと然程興味がないため、ブドウとは違い中立の立場を保っている。

チョウリが勝っても、オネストが勝ってもムソウの地位は変わらない、いや変えることが出来ない。

その後、地位の向上があったとしてもそれより下に落ちることはない。

知り過ぎている、切れるカードを持ちすぎている。

これから地位を得る者、今の地位を護ろうとするものすべてに有効な手札をムソウは持っており、そして何よりもムソウの地位を脅かせないのは、作られてからこの方誰も触れるどころか見ることさえ敵わなかった、規格外の帝具をその身に宿すことになったのが主な要因だろう。

 

「さて、今日はこれで終わりとするか」

 

日も既に落ちきっており、今は宮殿の一角を借り受けている保安部にある自身の執務室の窓から帝都の夜景を目にしていた。

帝都と言うだけあって、その夜景は綺麗なものだが、その光を際立たせている闇の中で今多くの人の命が奪われ、ムソウの手の者によって捕縛されるか、断罪されている。

帝都警備隊もいないことはないが、如何せんあの中も帝都の闇に侵されているため、はっきり言って使い物にならないとムソウは思いながら、執務室に鍵を掛けその場を後にした。

 

 

 

翌日の早朝のことだ。

日も上がり切っておらず、起きている者も少ないが、その日ばかりは違った。

静かな朝である事には変わりないが、いつもと違い帝都の外縁部には異様な光景が広がっていた。

アインザッツグルッペン、帝国内においてその名を口にする者はいない。

武装親衛隊やムソウ、保安部、諜報部、その全ての名前を押しのけて口にしないのは、その部隊の性質のせいだろう。

アインザッツグルッペン、その部隊の任務内容は敵性分子の殲滅だ。

敵性人物であると判明したならば、問答無用で虐殺し異民族であるならば殲滅する。

名目的には、帝国に敵意を持っている人物や、帝国民に成りすましテロリズムや攻撃を行おうとしている異民族を狩りたてることだ。

 

「さて、では向かうぞ!!」

 

ムソウが馬に跨りながら先導する。

軍用バイクを使えばいいと言う考えもあったが、今の帝国に技術力、そして何より石油と言う手札の存在を教える訳にはいかない。

教えでもしたならば、スタイリッシュなどの科学者がその有用性、利便性に気が付くのにそう時間が掛からないだろう。

そうなれば、今でさえ荒れている帝国が、己が利権と権力、保身のために石油のある可能性がある場所に攻め込むのは必然だ。

馬が走るたびに上下に揺れながらムソウは、現在勢力を伸ばしつつある反乱軍に付いてどう対応を取るか考えていた。

出来れば内部へとスパイを送り込み、常に新しい内部情報を欲しいとムソウは常々思ってはいるものの、中々上手く情報を得る方法がなかった。

中へと何人かスパイを送り込むこと自体は出来たものの、今は末端の立場であるため、得られる情報はたかが知れている。

その者達が上に行けたら今度は内部の重要な仕事を回されるが、代わりに知る人が限られる情報のため内部リークした者がばれる可能性が跳ねあがる。

難しい綱渡りだが、それを可能とする帝具がある。

戦闘には一切向いていないが、変装や潜入に向いている変幻自在ガイアファンデーションだ。

所在と所有者を探させてはいる者の得られる情報はほぼ皆無だ。

出来れば見つけ出し、こちらの手に欲しい。

ムソウがそう思っていたら目的地へとたどり着いた。

帝都から南方へと進み、反乱軍と帝都のほぼ中間に位置する街をムソウは見下ろしていた。

背後には続々と集結しつつあるアインザッツグルッペンの面々が装備を確認しながら整列している。

ムソウは、一度振り返ると馬に跨ったまま、端から端まで流れる様に見た。

 

「目標は事前に教えたとおりだ。情けは掛けるな、一人が掛けた情けが、今横にいる者達の命を奪うと思え!!」

 

ムソウはこの時のためだけに持ってこさせた、8.8cm FlaK 37が三機照準を太守の住まう城へと照準を合わさせた。

 

「撃て」

 

ムソウの一切感情を感じることの出来ない声と共に、独特の発射音が静かな朝の静寂を壊すように街々へと響き渡った。

開戦の号砲となるアハトアハトの発射音と共に、アインザッツグルッペンはゆっくりと進みだしたムソウを追い越しながら目標のいる場所へと走り出した。

いきなりの砲撃に戸惑っている一般市民を尻目に、アインザッツグルッペンは役場や太守の住まう城、役人の住む家々を目指し進む。

ムソウは、家屋に責められた役人たちは戸惑い、保身のために逃げ出す者、なすすべなくアインザッツグルッペンの手によって尽く銃殺されていく者、命乞いをする者その全てを無視し、太守の住まう城へと一直線へと向かう。

 

 

チェルシー side

 

その日も静かな朝が来た。

地方の一般家庭で育った私は、勉強が良くできたので領内の役所に勤めることになった。

その時の私は、贔屓目に見ても自身の容姿が整っていることを自覚していた。

この調子で出生して、帝都の宮殿働きにまでなり、上手く玉の輿にのり景気よく暮らそう、そんな気楽な考えを持っていた。

だが、そんなものは仕事を初めて直ぐに消えた。

帝国の役場は賄賂が当然、渡せなければ出世の道は絶たれる汚い世界。

それだけならまだしも、私が勤めている太守は狩りを獣ではなく人で楽しむような畜生だった。

秘密裏に行われる賄賂や狩り、次第にその光景を見ることになれていく自分に嫌気が指してきた。

むろん、私は帝都の方へと密告しようと思ったこともあったが、バレでもしたら女としての尊厳を奪われるのは目に見えており、最悪殺される恐れもある。

女一人ではどうしようも出来ない虚無感で魂が死にかけていた、そんな時だった。

貞操こそ守り通しているものの、太守に気に入られた私は城への出入りの自由を得ることが出来た。

そして、偶然城の宝物庫にあった帝具ガイアファンデーションと出会った。

誰にも使うことが出来ない為に保管と言う名目で埃を被るだけになっていた帝具。

でもそれを見て私は直感した。

帝具が呼んでいる、自分なら使えるそう確信した。

後は時間を掛けて帝具を盗み出すだけだ。

私は今日にでも決行しよう、そしてその力を使って太守を殺しみんなをあの暴君から助けよう。

そう思っていた時だった。

腹の底から響き渡る様な独特な音が街を駆け抜け、数瞬の間もなく建物が爆発し崩れ去る音が響き割った。

私は何事かと急いで、家の外へと出ると大勢の人が雪崩れ込んで来ていた。

まさか、こんな場所まで異民族が!!、そう思った私は急いで金目の物をまとめる、扉を壊す勢いで勢いよく開け放ち逃げ出そうとした。

 

「動くな!!動くと撃つぞ」

 

既にすぐそこまで迫っていたのだろう、襲い掛かって人に私は銃を向けられていることを悟った私は言うとおり立ち止まった。

あ~あ、短い人生だったな、せめてあの太守位私の手で殺せたらな。

悲壮感に狩られながらもどこか諦め気味だった私は、回り込んで襲撃して来た男に銃口を向けられながら顔をじろじろと見られた。

まさか、犯されるのでは!!、死ぬよりももしかしたら辛い目にあうそう私は思ったが、挿話ならなかった。

 

「今回の標的ではないな。もう行って良いぞ」

 

あっさり解放された私は、どこか拍子抜けた顔をしていたに違いない。

 

「どうした、もう行って良いと言っている」

 

「えっと、あなた方は?私は殺されるんじゃあ?」

 

「先ほども言った通り、貴様は標的ではない。それに我々がどこに所属していることは言えないが、目的の説明は許可されているから教えよう。我々はこの街で賄賂や人狩りを行っている太守と役人を抹殺しに来ただけだ。貴様が邪魔をしない限り殺されることはない」

 

それだけを言い去ると男は去って行き、私はそれをただ見送ることしかできなかった。

そして、男の言っていることは事実の様で、抵抗している太守や私設軍と名ばかりの傭兵共や役人が自身の保身のために雇った者達位しか殺されていない。

私は自身の手を汚さずに済んだことにもしかしたらどこかホッとしたのかもしれないが、次の瞬間自身を呼んでいるガイアファンデーションのことを思い出し、持ち出した金品は家の中に放り投げ走り出した。

渇ききった心をあの帝具を使えば渇きを潤せるのでは、そう思っていた私はいてもたっていられなかった。

向かう先は、先ほどの建物が壊れる音の正体である事は一目瞭然の城、その宝物庫だ。

近道や隠し通路を熟知している私は、人に会わないように宝物庫にたどり着けた。

 

「良かった、まだあった」

 

ショーケースを持ち上げ、私が帝具を手に取り逃げ出そうとした時だった。

 

「貴様ここで何をしている!!ここにある宝は全てワシの者だぞ!!」

 

最悪だ、このタイミングで太守に出会うとか我ながら運がない。

 

「それに貴様が手にしている物、それは帝具ではないか!!」

 

鈍重な動きながらこちらへと太守が手向けて来た時だった。

私も人狩りの者達の様に殺されるのでは、今まで連れて行かされた人狩りの光景がフラッシュバックした。

私はいつも護身用にスカートの中に隠し持っているナイフを手に取ると、こちらへと手を向けて襲い掛かってくる太守の首を突き刺した。

後から思い返すと、あの頃は本当に力も何もないただの女だったのでかなり焦っていたのだと理解できる。

 

「かはっ!!」

 

「こ、殺した?」

 

私は初めて人を殺したのではと、動悸が激しくなり、過呼吸気味になり、一気に不安感が襲い掛かって来た。

確認のため、そう私は自身に言い聞かせながら太守へと近づき、軽く蹴って確認しようとした時だった。

 

「ひっ!?」

 

「よ、ぐも、ごのような」

 

太守はいきなり私の足を掴むと、血を吐きながら呪詛の様に口にした。

生理的嫌悪感を感じ、後ずさろうとするも、万力に匹敵すると感じてしまうほど強く掴まれているため逃げようにも逃げ出せない。

そんな時だった、二発の乾いた銃声が室内に響き渡ると、太守の背中に二つほど穴が穿たれ血が飛び出し、そこから血が溢れだしてきた。

完全に力尽きたのか、私はその手を払いのけ後ずさり音のした方を向くと、そこには黄金の獣が未だ硝煙が上がっている拳銃を持っていた。

 

「ほう、こんな所にあったか」

 

私が抱きしめる様に持っている帝具に黄金の獣は興味を示していることは誰の目から見ても一目瞭然だが、私は黄金の獣が私を見下ろしていると錯覚してしまった。

帝具に対して興味を示していると気が付いていたなら、抱きしめている帝具を渡して命乞いをするべきなのだろうが、私はそうすることが出来なかった。

見惚れてしまい、動けなかったのだ。

あまりにも完成された存在である、黄金の存在。

我ながらちょろいなと思うが、異性同性問わず黄金の獣に見下ろされれば分かるだろう。

格の違いもさることながら、この人には敵わない、屈服させられても構わない。

そう感じてしまった私は悪くないだろう。

 

「あ、ああ、あの。あなたは?」

 

やっと絞り出せた震える様な声で、私は黄金の獣に問いかけた。

本来ならばあり得ないことだろうが、私を見下ろす存在のことを訊かずにはいられなかった。

 

「私の名は、ムソウ。帝国保安部長官兼情報部長官だ」

 

これが、私と黄金の獣の初めての出会いだった。

この直ぐ後にムソウ様が帝具に興味を示している事を知り、私は自身の有用性を売りつけ尚且つ私が今持っている帝具を使えることを教えた。

むろんただで買っていただけるとは思っていなかったので、ムソウ様にその価値を示すために反乱軍に潜入し帝具の力を使い情報を何度かリークすることで認めてもらい保安部へと入れてもらえることになった。

私はこの時から、心の渇きが治まり、潤いを感じ始めていた。

 

side END

 

 

 

 

 

 

 

 

ムソウは僅かな時間、思い出に浸っていたか、すぐさま他にもやるべきことがあるため地上へと向かった。

 

「ムソウ長官」

 

地上に出て、執務室代わりにしている応接室へと向かっていた時だった。

部下の一人にムソウは呼び止められた。

 

「どうした?」

 

「先ほど大臣がエスデス将軍へ早馬を出しました。内容はボリックの護衛です」

 

「何、いや、分かった。下がっていい」

 

このタイミングでボリックの護衛にエスデスを向かわせたと言うことは、ムソウの渡した報告書で疑心暗鬼になっているにも関わらずそれ以上に安寧道を重く見ていると言うことになる。

 

「報告があります!!」

 

「今度はどうした」

 

「安寧道を探らせていた者達から、新たに報告が上がってきました」

 

「内容は」

 

「ボリックの護衛に皇拳寺羅刹四鬼が付いているとの事です」

 

「分かった、下がっていい」

 

ムソウは合点がいったと言った表情をしていた。

ムソウの渡した報告書よりも常に警護をしている皇拳寺羅刹四鬼の報告を大臣は優先したと言う考えが出来る。

ならば、このタイミングでエスデスにボリックの護衛を命じることが出来る。

しかしそうなると、羅刹四鬼にエスデス、ナイトレイドに武装親衛隊第一師団、さらにボリックの警備に安寧道の警備隊。

混戦になるのは目に見えているため、ムソウは自身が直接出向くことを決めた。

 

「車を回せ。私が直接出向く」

 

事の重大さを考えると、人任せに出来る状況を逸している。

ならば最高決定権を持つムソウが直接出向くのが、何事にも対応できるため向いている。

ムソウは、自身の黒いコートを羽織ると保安本部の扉を開けた。




アンケート結果は、3が多かったので第三勢力で書いて行きます。
他の票に入れてもらった方々申し訳ありません。


そして、このペースで書いて行くと原作に追い付いてしまうと言うこの現実、ほんとどうしましょう……
まあ、シュラをギリギリまでボコりまくって話を伸ばすのもありかな?とか考えてます。

以上

次の更新をお待ちください。


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獣の過去

最近更新頻度が遅くなってきてる……


キョロク――

 

帝都のはるか東に位置するこの街は、豊富な地下資源により経済的な躍進を遂げる。

地下資源と言っても、石炭や希少金属類であり石油や核燃料になり得るウランの存在には未だ気が付いていない。

近年は安寧道の教団本拠地と言うこともあり宗教施設が数多く建設され、独自の文化を形成する巨大都市と化している。

帝都で見られないような工芸品や食べ物も多くあり、態々帝都やほかの地方から訪れる人が居るほどだ。

そんな帝国内で爆発的人気を誇る安寧道があるため人々の顔には、帝都では少ない生き生きとした活気に満ち溢れているが、その裏では生活するため土地が日に日に不足して来ており、それが安寧道上層部の悩みの種となっている。

キョロクへと集まって来ている者達の殆どが信者であるため、無碍に扱うことも出来ず、上層部の中には帝国の現状を利用し武装蜂起を考えている者達さえいる。

だが、それはボリック派と呼ばれる者達が安寧道の内にある派閥の殆どを占めているため、計画は阻まれており武装蜂起どころか計画することさえ叶わない。

そんな安寧道に目を付けた反乱軍は、安寧道の武装蜂起の計画を知り、それを利用一気に帝都まで攻め込み、諸悪の根源である大臣を討とうと考えている。

そもそも反乱軍の勝利条件は、諸悪の根源である大臣の殺害だ。

対する大臣要する帝国は、反乱軍の殲滅である。

たった一人を殺せばいい反乱軍、全てを倒しきらなければならない帝国、何も知らない人間が見た場合反乱軍の方が有利に見えるだろう。

だが現実はそう甘くはない。

反乱軍の士気自体は帝国軍のそれを上回っているが、総数は未だ帝国軍の方が多い。

更に帝国には二枚看板の将軍が鎮座しており、帝国最強の攻撃力を誇るエスデス軍、帝国軍最上位に君臨しているブドー大将軍率いる近衛軍。

この二枚を抜けて初めて大臣の元へとたどり着くことが出来る。

むろん、これは帝国軍だけで考えた場合だ。

そこに帝国保安本部長官であるムソウ率いる武装親衛隊のことも含めて考えると現実がどれ程までに絶望的かが、よく分かる。

武装親衛隊総数およそ90万、保有技術力は帝国が保有するよりもはるかに進んでいる。

下手な小国ならば一夜にして滅ぼせるだけの戦力をムソウは個人で所有しているが、これにムソウ個人の力を加えたとすると単純な戦力だけで考えるならば一日で帝国さえ滅ぼせるだろう。

これだけで反乱軍が大臣を討つ可能性はゼロであると言えるだろうが、実はそうではない。

反乱軍に勝機があるとするならば、ムソウが帝国に付く気がさらさらないと言うムソウの意思が関係してくる。

ムソウの中に在るのは劣等種である異民族の排除。

その一点に尽きる。

何故ムソウは此処まで異民族にこだわるか言うと、その話はムソウの青年期まで遡ることになる。

 

 

 

 

ムソウが生まれたのは帝国の南のに位置する地方都市の都市部だった。

父母共に職業は何の因果か、史実と同じ音楽を仕事にしている音楽家であった。

父は初めは歌手としてデビューをしたが、歌手としては二流、三流止まりであった。

だが、作曲家としては一流を以上であったため、歌手として大成した。

母は宮廷で宮廷顧問官を務める音楽研究科であり、父との出会いは、当時の皇帝である先々代皇帝の誕生祭に使う曲を作詞せよと、時の皇帝より直接命じられた時であったらしい。

詳しいことはムソウ本人も聞かされていないし、ムソウ本人も父母の馴初めなど初めから興味がなかった。

結果的に父が作詞した曲を皇帝はいたく気に入り、皇帝お抱えの作曲家となり二人の会う頻度も増え気が付いたら愛が芽生えて、二人の間に子供が出来た。

それがムソウと言う風にムソウ自身は聞かされている。

これだけを見たら順風満々なように見えるが、その幸せは突如として崩れ去ることになった。

元々帝国事態が、異民族に対して排他的であったこともあるが、決定的になったのは、ムソウが帝都にある国立学院に入学している時、南の異民族が攻め込んで来たのだ。

異民族が攻め込んで来たことにより、多くの人的被害をあった。

だが、それはやられた者が弱かっただけであり、そのことについてムソウは何とも思ってはいない。

問題があったのはその後だった。

父が南のの異民族と内通していると、どこからか噂が立ったのだ。

むろんそのような事実はなく、時の皇帝が父の作る曲を気に入っていたと言う幸運も重なり確りと無実であると証明され、噂の出元も確りと処罰された。

噂の出元は、父が台頭するまで皇帝お抱えであった作曲家だ。

原因は妬みから来るものであったが、皇帝が無実であると口にするまでの一週間が地獄であった。

昨日までの友が、これからも隣人であると信じていた者達が、今まで笑顔を向けて来た者達が、皆皆皆が手のひらを返し、憎悪の表情を向けて来たのだ。

結局の所、良い顔をしてきていた者達は皇帝お抱えである父に、宮廷顧問官である母に媚び諂っていただけだったのだ。

家に居ては石を投げ込まれ、買い物に行っては誰も何も売ってもらえず、街を歩けば暴行に遭う。

父はノイローゼにかかり、母は精神的に病み、その後病にかかり床に伏した。

ムソウは、学生の時代からいや生まれた瞬間から圧倒的風格、カリスマ性を持っており、それを裏付けるようにあらゆる物事に必要な技能を持っており、その技能技術は他の追随を許さぬものであった。

そのためか、ムソウに対する嫌がらせや差別などをする勇気あるものはおらず、直接的な被害は一切なかった。

だが、ムソウ本人に被害がなかったとしても身内には被害があった。

それが許せなかったとは言わない。

はめられた父が悪い、弱者は淘汰される。

それを分かっているムソウではあるが、身内のことであるため簡単には割り切れるはずもなかった。

それがある種の転機でもあった。

その日を境に元々他人とは距離を置いており、ムソウに友と呼べる様な存在おらず、作ろうともしなかったに拍車がかかり、ムソウの持っていた人としての良心と言う枷が完全に外れてしまったのだ。

そこからは、首輪や枷の外れた獣のようにムソウは、自身に不足しているモノを再認識すると権力や武力、手駒を増やすように尽力した。

その過程で、顔を広めると言う意味でいろいろな集会や団体にも所属し、反異民族と言う思想に少なからず影響を受けた。

顔を広めることに成功したムソウは皇帝と会う切っ掛けが出来、一気に権力を手にすることが出来たムソウはある報告書を目にした。

両親を貶める切っ掛けとなった噂の出元である下手人である、父の前任者である作曲家に噂を流すように囁いたのは南の異民族であった。

南の異民族としては、噂が真実であると言う、帝国軍の将軍との密約や内部の情報を渡していると言う証拠を使わせ南の帝国軍の指揮官を失脚させようと企んでいた。

その作曲家が元々皇帝お抱えであると言う事実が噂の真実味をさらに増させてしまったのだ。

結局、それを私怨に使われてしまい南の異民族は敗走してしまったのだが。

ここで終わればムソウとしては異民族に対して排他的であるだけで済んだだろう。

一年と経たず、もう一度攻め込んで来たのだ。

これも直ぐに排除できたのだが、問題はこの後だった。

両親は療養のため地方都市から地方の田舎に引っ越していたのだ。

そこを偶然南の異民族が襲った。

父はその時吊し上げるかのように殺され、母は使える場所は徹底的に使われ、殺された。

今の帝都でも見られる光景だが、それを直接目にしていないとはいえ実の親にされると堪ったものではない。

この事件こそが、ムソウを更に排他的にさせる切っ掛けであった。

 

 

 

 

あらゆる思惑が渦巻いていおり、その中心となっているキョロクを見下ろす位置にムソウ率いる武装親衛隊第一師団は陣を敷いていた。

 

「陣の構築はどうだ」

 

「滞りなく進んでおります」

 

ムソウにそう答えたのは、第一師団大佐であり、今回ムソウの副官に着任したヨッヘン・パイパーの相性で親しまれている、ヨアヒム・パイパーだ。

 

「エスデスの動きとナイトレイドの動きはどうなっている」

 

「キョロクへと偵察へ向かわせた者達は未だ戻って来ておりませんので、明確な情報をお教えする事は出来かねます」

 

「そうか、ならば偵察が戻り次第報告を聞こう」

 

ムソウはそう言いながら、自身の天幕へと入って行った。

天幕の中は野営中かと疑いたくなるほどゆとりのある空間であり、作戦指揮や会議を開けるように大きな机が置かれており、机の上には正確に測量されている地図が敷かれその上に透明のアクリル板が敷かれている。

急に訪れたのにも関わらず、ムソウの望んている様に設置されていた。

 

「ヨアヒム、一度会議を開く、全連隊、大隊長を私の天幕に集めろ」

 

「はっ!!」

 

今一度、ボリック抹殺計画に対する打ち合わせをするため、ムソウは全隊長を呼びつけた。

エスデス率いるイェーガーズがボリックの護衛に付いたのならば、計画の変更などは特にないが、ボルスの抜けた穴が誰がどう埋めるかなどを押さえておかなければならない。

当初の予定通り、遠距離狙撃による暗殺が無難ではあるだろうが、エスデスが直接護衛に付いているならば警戒しているはずだ。

だが、エスデスの第一の標的はナイトレイドであり、ナイトレイドの対策こそしているだろうが、武装親衛隊の対策はしていないはずだ。

ならば、最悪ナイトレイドと足並みをそろえ、隙を見て殺せばいい。

 

「最悪私が直接殺すか……」

 

エスデスが直接身辺警護している以上何事も楽観視できない。

羅刹四鬼も警護に付けているため、さらに難易度が上がる。

ボリックが羅刹四鬼を攻めにでも使おうとバカな考えを抱かない限り、最終手段であり、最も愚策であるが確実な手であるムソウが直接ロンギヌスをボリックに向けて投げると言う手段がある。

他に手段があるのならばそちらがいいのだが、とムソウは頭を悩ませた。

狙撃に失敗した場合、リスクを覚悟でチェルシーにボリックの傍に潜ませ暗殺させると言う手もあるが、今チェルシーと言う手札をナイトレイド側に見せるのは好ましくはない。

しかし、ムソウが直接手を下したと言う事実もあまり好ましくない。

そうなると、必然的に第一師団の者達に遠距離狙撃でボリックを暗殺させそれが成功するのが一番好ましい手だ。

ならば、それを確実にするために内部の手引き、援護や配置なども考えなければならないな、とムソウは隊長たちが集まるまでに大よその構想を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトレイド side

 

「たった今、帝都に居る革命軍のメンバーから連絡があった」

 

「どうしたんだ、ボス?そんな顔をして」

 

レオーネは、未だかつて見たことない程思いつめた表情をしているナジェンダに訊いた。

 

「黄金の獣が、ムソウが、ムソウがキョロクへと向かったと連絡が来た」

 

「「!!」」

 

ムソウ、その名にいち早く反応したのは直に危険性を確認したレオーネと帝国の暗殺部隊に居たアカメだった。

 

「ついに、アイツと正面衝突か」

 

「行けるか、アカメ。奴を殺すことが出来るとしたら、お前と村雨しかない」

 

「大丈夫だ、私が必ず葬る!!」

 

「ナジェンダ、一つ聞きたいのだが」

 

「どうしたスサノオ?」

 

「俺は、ムソウなる人物について知らない」

 

スサノオは、ナジェンダが革命軍本部に着いたその日まで目覚めることがなかった帝具だ。

ならば、ムソウに付いて知らないのも仕方がないと言うものだ。

 

「ムソウに付いて詳しく説明すると難しいが、帝具であるスサノオに一言で分かりやすく説明するならば、帝具ロンギヌスの使い手だ」

 

「何!!ナジェンダ、今後に影響するだろうが今は引くべきだ!!本当にロンギヌスの使い手であると言うならば絶対に戦ってはならない!!」

 

「それは出来ない。今回の作戦がどれ程重要かスサノオとて分かっているだろ!!」

 

「分かっている。俺は帝具だから主の命令には従う。だが、主に命を捨てさせるような事は出来ない」

 

スサノオとて、今回の作戦が如何に大事であるか理解している。

だが、帝具として生まれているスサノオはロンギヌスが如何に危険な帝具か知っているが為に、主であるナジェンダや、仲間と言ってくれた者達の命を散らせたくないためにも譲ることが出来ない。

ナジェンダもスサノオが自身を心配してくれていることは分かっている。

だが、ナジェンダとて今回の作戦が革命軍の今後を左右すると言っても過言ではないため引くことが出来ない。

仲間割れではなく、お互いの譲れぬ信念のために二人は衝突した。

 

「分かってくれスサノオ、今回の作戦が成功しなければ、もっと民に犠牲が出る。私はそれが嫌で革命軍に付いたんだ。ここで自身の命可愛さに作戦を中止したならば殉死していった者達に合わせる顔がなくなる」

 

「だが、あの帝具によって殺されればそれこそ……」

 

スサノオは必死にナジェンダを説得しようとしたが、ナジェンダのあまりにも決意に満ちた表情に言葉を詰まらせた。

 

「分かった。だが、危険と判断した場合お前達だけでも逃げてくれ。俺ならば壊されても囚われることはないからな」

 

この場にいる誰もが、『壊されるのに囚われる』その意味が分からずにいた。

スサノオの性能を考えると、例え壊されても間を置かずに修復する。

しかし、コアが壊されてしまえば、いかに帝具人間であれ修復することはなく、人で言うところの死を意味する。

そのことをこの場にいる何人が理解できただろうか。

 

「スーさん。いくらスーさんの頼みでもそれは出来ない!!俺ら仲間だろ、仲間なら助け合うべきだろ!!」

 

タツミが拳を震わせながらも、力強く言った。

アニキと呼び慕っていたブラートを目の前で失ったのだ。

時には仲間を犠牲にしてでもやり遂げなければいけない、それはタツミとて分かっている。

だからこそ、可能性が残っている段階で諦めるなんてこと認める訳にはいかなかったのだ。

 

「ああ、そうだ。よく言ったタツミ!!分かったかスサノオ、これがナイトレイドだ。たとえお前が帝具であろうと仲間である事に変わりない」

 

スサノオが改めて周りを見ると、皆が皆ナジェンダと同じ意見である事が一目で分かった。

 

「そう、だな。始まる前から弱気ではいかんな」

 

「そうと決まれは、偵察だ!!敵の情報と戦力を削っておけば誰も死なずに済むかもしれないしな!!」

 

タツミは気合十分といった表情で言った。

 




今回の話を自分なりに読み返して、あれ?この程度なら獣殿の思想に影響しそうにないなっと思いつつも、これ以上の物が出来なかったので、自身の才能の無さを恨んだりして……

そして、今度の更新はさらに遅くなります。
と言うのも、一度全部の話に加筆修正を加え、矛盾点などを失くして行こうと思います。


以下余談――

最近思いついた小説ネタが、
ケンイチの世界に刀語の七実を入れるか、七実ではなく、錆白兵を入れる

ゼロの使い魔にイリアが転生して、サモンサーバントでバーサーカーを召喚

劣等生の世界に転生した主人公が、伝勇伝の魔法やとあるシリーズの魔術を使える

他にも番外編で、マキナをブドーと並ぶ大将軍にしたり、ザミエル卿を将軍にした話、シュライバーにアインザッツグルッペンを率いさせたりとかですかね。



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獣と道

久々の投稿


ムソウの号令の元、第一師団の隊長たちがムソウの天幕に集まった。

 

「今回の作戦だが、成功率を上げるために私も共に出る」

 

第一声の内容が、いきなりムソウ本人の出陣であったため一気に天幕内がざわついた。

それもそうだろう、手足を自由に扱えるのに頭を先に出す者がいるはずがないからだ。

しかしそれは、他の組織に限った話だ。

ムソウに、黄金の獣にとっては、武装親衛隊だろうと保安本部員であろうと所詮は鬣の一本でしかなく、爪牙足りえていない。

であればこそ、獲物を狩るためには獣自身が出陣しなければならないのだ。

 

「ちょ、長官自らですか!!長官自ら出陣なさずとも」

 

続けざまに何かを言おうとした部下の発言をムソウは手で制した。

 

「出ると言っても、お前達が一撃でボリックを殺せば、私が直接戦闘をする必要はなかろう」

 

「確かにそうでは、ありますが……」

 

「それとも私が前線に出て困るようなことでもあるのか?」

 

「いえ、そのようなことはありません!!」

 

ムソウの黄金の瞳に睨まれた者は、ただ自身の意見を否定するしかなかった。

それもそうだろう、黄金の獣に睨まれてなお、自身を保ち続けられるものなどそう多くはない。

むしろ自身の意見の否定であったとしても、はっきりと意見を言えるだけその者は十分凄いと褒められるべきである。

 

「それと、幾つか今回の作戦の変更点を伝える。一つ目だが、ボリック暗殺はナイトレイドが攻めてからだ。二つ目、警備体制が当初の予定よりも強化されている。その中には、強化されているスタイリッシュの強化兵が多数配置されている」

 

強化されているスタイリッシュの強化兵、これがムソウにとって予想外であった。

ナイトレイドのアジト襲撃の時よりも強化兵の強化具合が上がっており、スタイリッシュが強化兵を将棋の駒で例えていた。

その例えになぞって言うならば、歩兵だった者達が成金になった具合には強くなっており、その装備もスタイリッシュが手掛けているため、性能は相応の高さを持っている。

他にも香車、桂馬、銀も金と成り、角行や飛車も竜馬と竜王と成っている。

間違いなく手ごわくなっており、正面からぶつかったのであれば、一人一人の質という面で間違いなくスタイリッシュの私兵に負けてしまう。

だからと言って、それがイコールで人的損耗に繋がるかとか言えば、そうではない。

何故ならば、既に武装親衛隊総勢約90万、保安本部約20万、総数約110万は、既にムソウの帝具であるロンギヌスによって戦奴に変えられており、死した後はムソウの城の一部に戻るだけであり、直ぐに再成させられる。

約110万と数値で見ただけでも絶望であるのにも関わらず、その実はムソウを殺しきるその時までその数は無限であると言えるのだ。

 

「長官、一つ質問が」

 

「なんだ」

 

「何故ナイトレイドが攻めてからなのでしょうか?ナイトレイドが攻める前であれば、いくらでも付け入る隙があると思いますが」

 

「私が欲しいのは、ナイトレイドがボリックを殺した。その事実だ」

 

「ナイトレイドが殺した、ですか……」

 

「そうだ。あくまでもボリックを殺したのはナイトレイド。そのように周知されるのが、私にとって一番好ましい結果を得ることができるからだ」

 

ムソウにとっての最善は、安寧道による武装蜂起だ。

当初は安寧道諸共潰すことで、国民の心のより所を潰し不安を煽り、民の蜂起や反乱軍の進軍を早めさせる予定であったが、大臣との敵対が、水面下から表面上に浮き彫りになって来た今、使える物は、例え心情的に好きになれない宗教であろうと使うのがムソウだ。

そしてムソウにとって最も好ましい結果と言うのは、”武装親衛隊がボリックを助けようとした”その事実である。

実際がどうであれ、そうであったと言う過程さえあれば、ムソウとしては問題ない。

下手に武装親衛隊がボリックを殺そうとしたと大臣に伝われば、敵対している以上何らかの行動を見せるのは分かり切っている。

その行動がムソウにとって都合が悪くなることも、だ。

 

「分かりました」

 

「他に聞きたい事のあるものはいるか?」

 

「私も一つ」

 

「何だ」

 

「スタイリッシュの私兵が仕掛けてきた場合、殺しても構いませんか?」

 

「かまわん。貴様らに牙を向けると言うことは即ち私に牙を向けると言うことだ。殺してしまっても構わん」

 

武装親衛隊は、獣の首元を護る鬣だ。

ならば、鬣に牙を向けると言うことは、即ち獣の首元に牙を向けようとしているのと同義である。

いくら敵対者が鬣に攻撃をしようと思っただけで、獣には攻撃するつもりがないと言いはろうとも、獣が耳を貸さず、反撃されるのは必定だ。

敵は、好奇心から鬣に喧嘩を売ることが、逆に獣によって全てを奪われれ、食い尽くされることになる。

安易な思い付きが、逆に高い買い物をさせられることで、自身の愚かしさを学習することになるだろう。

 

「了解しました!!」

 

「部隊編成はどうなされますか?変更がなければ当初の予定通りで宜しいでしょうか?」

 

「編成、部隊配置は、突入部隊以外は変わらん」

 

「突入部隊はどのように?」

 

「当初の予定での正面からの突入を中止し、部隊を半分に分け一部隊は暗殺のバックアップと警護、もう一部隊はボリックの屋敷に通じる抜け道の捜索と発見した場合は、そこからの突入だ」

 

「抜け道に関しましては、それと思われるモノを郊外にある大墓地で発見したと、先ほどありました」

 

「ほう、中々優秀ではないか」

 

「ありがとうございます!!」

 

ムソウに褒められたことに、その部隊を指揮していた部隊長は表面上こそ普段通りだが、内心とても喜んでいた。

と言うのも、ムソウの方針として出来て当たり前であり命令前に期待以上のことをしなければ褒めない。

そのため、ムソウが褒めると言う行為をするとするならば、まさに命令前に既に結果を出している今のような現状でなければならない。

 

「私も一度確認しておきたい、数刻後に出るため発見した部隊を陣の前で待たせておけ」

 

「了解しました!!」

 

「各自、状況開始まで持ち場にて待機。以上、解散!!」

 

確認事項や変更点を伝えたムソウは、解散の号令を唱えると各隊長たちに自身が率いる部隊へと戻らせた。

 

「後は、時が来るのを待つだけか……」

 

ナイトレイド、イェーガーズ、武装親衛隊。

ここに小規模ではあるが、革命軍、帝国、ムソウによる小さな小さな、しかし何れ起きる大きな戦争の前哨戦が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

数刻後――

 

ムソウが直接向かうと言うこともあり、部隊の士気は最高潮であった。

ただの護衛と言うなかれ、自身が所属している組織のトップを直々に護衛できるのだ。

武装親衛隊と言う組織を知っている者ならば、その理由を話さずして理解できるだろう。

 

「待たせたな」

 

黄金の髪を靡かせ、腰にサーベルを携えたムソウは現れた。

纏う風格は、一目で獣を連想させるほど荒々しく、しかし獲物を狙うかのように静かであった。

 

「では、私が離れる一時の間指揮を任せるぞヨアヒム」

 

「ご期待に添えて見せます!!」

 

ヨアヒム以下第一師団隊長陣が見送る中、ムソウは一個小隊を率いて、ボリックの屋敷に通じると思われる抜け道の下見のため、キョロクの郊外にある大墓地へと向かった。

キョロク郊外にある大墓地に埋葬されている死者の殆どが、安寧道の信者だ。

そのためか、墓地でありながら大きな安寧道の宗教施設がある。

 

「それで、抜け道と思われるのはどこにあったのだ?」

 

大墓地へと向かう途中、ムソウは部隊の指揮官へと訊いた。

隠密行動が要求されるため、今回小隊とはいえ、広範囲に展開することで索敵能力を上げ、また固まって動くことによるリスクを軽減しているため、ムソウの周りは最低限の護衛を残しているのみとなっている。

 

「はっ、場所は……」

 

詳しい情報を聞きながらムソウは、月明かりが照らす静かな夜道の中大墓地へと向かった。

ただ、その静けさが嵐の前であるかのように、ムソウに同行している武装親衛隊の小隊員は感じていた。

 

 

 

 

side ナイトレイド in アカメ

 

アカメは現在革命軍密偵チームと合流し、キョロク郊外にある大墓地へと来ていた。

 

「調べでは青銅からボリックの屋敷を経由して、この墓地のどこかに地下通路が通っていると思われます」

 

「暗殺決行の際には、念のためここにも人員を配置して置くと良いかと」

 

アカメは、密偵チームの報告を骨付き肉に(かじ)り付きながら聞いていた。

 

「通路の入り口が分かれば、逆にそこからボリックの屋敷地下に行けるな」

 

キリッとした表情でアカメは言ったが、銜えている肉がその表情をとてもいい感じに台無しにしていた。

 

「見つけるのは困難です!!なにぶんこの広さですし」

 

「地下通路に罠が張ってる可能性もあります!!」

 

密偵チームが地下通路を探し出す困難さをアカメに諭している時だった。

 

「危ない!!」

 

上空から殺気を感じたアカメは、銜えている肉を落としながら両手で密偵チームを引っ張るように跳びだした。

次の瞬間、アカメ達がいた位置に大量の羽根が突き刺さっていた。

 

「もしやと思い牽制してみれば、やはりアカメですか」

 

羽根ばたく音のする方をアカメが見ると、そこには満月を背にしながら羽根ばたいているランがいた。

 

「空からの偵察、やってみるものですね」

 

村正を抜刀したアカメは、抜身の刃と化した。

 

「帝具マスティマ!イェーガーズか!!」

 

「悪いですが一方的に攻撃させてもらいます」

 

ランが宣言すると、大きく羽根ばき、そこからマシンガンの様に羽根を射出した。

無差別に放っているように見えて、的確にアカメを狙っている所を見ると、ランの技量が如何に高いかを見て取れる。

しかしそれをものともせず、紙一重でかわすアカメの技量こそが信に称賛されるべきであろう。

 

「おい、もっと離れよう。アカメさんの足を引っ張りかねん」

 

「そうだな、応援することしか出来んのが歯がゆい」

 

帝具戦において古来から続く絶対的鉄則がある。

それは、帝具使い同士が叩けば必ずどちらかが死ぬと言うものだ。

むろん何事にも例外があり、片方が最初から逃げるつもりであったり、マスティマの様に空が飛べ、村雨の様に白兵戦特化しているのであれば、マスティマが逃げに転じ、空を飛び続けたのならば両者生存できる。

 

「(距離が空き過ぎて羽根の威力が落ちてますね……ならばもう少し降下して)」

 

威力があり、なおかつ上空と言うアドバンテージを活かせる距離まで降下したランはアカメを囲むように羽根を飛ばした。

それをアカメは、薄皮一枚でかわし、かわすことの出来ないものは村雨で切り裂き、かすり傷程度で済むようにした。

それを見たランは、惜しいもう少しで近づけばと、もどかしい気持ちを抱き、さらに降下しようとした時だった。

自身がいつの間にか当初の位置よりも大幅に下降していることに気付いた。

常に冷静なランだが、あと一歩でと焦らされたならば僅かばかり冷静さを曇らせてしまうものだ。

だが、自身の状況を客観的に捉えられるランは、このままでは村雨の間合いに入る、それのことが意味することを理解しているランは、自身の役目である偵察に徹することを選ぶことにした。

アカメは、もう一度紙一重でかわせば、村雨の間合いに入れることができると、常に冷静であれるように心に余裕を持たせるようにしていた。

次で、アカメがそう思っていたらランは、攻めるどころか背を向けキョロクへと飛んで行った。

 

「……逃げたか、冷静な男だ」

 

村雨を鞘に納めながらアカメは、ランのことをそう評価した時だった。

 

「へっへっへっへ」

 

背後から薄気味悪い声が聞こえた。

アカメは聞き覚えのあるこの声の主のいる背後に振り向いた。

 

「殺し屋が姿観られた敵を逃がしちゃうなんて大失態だねーっ。可哀想だから俺が遊んであげるよ、アカメちゃあーん」

 

「イバラ!!キョロクに来ていたのか!?」

 

羅刹四鬼と闘うのは大臣暗殺、最後の決戦時だとアカメは思っていた。

大臣お抱えの処刑人を自身の傍から離れさせると思っていなかったからだ。

 

「へっへっへ、帝国を裏切った悪い子には、お尻ぺんぺんしないとね」

 

そう言ってイバラは薄暗いため良く見えない何かを投げて来た。

それが何かアカメは、足元に落ちた瞬間に理解するとそのままイバラに襲い掛かった。

 

「葬る!!」

 

「やってみなぁ!!」

 

イバラがそう言うと同時に両指の爪が勢いよく伸び、アカメを貫こうとしたが、アカメは直線的であるイバラの伸びた爪をかわし詰め寄った。

勢いを活かし、全身をひねるようにして抜刀、横一線にイバラの胴を切り裂くはずであった。

しかし、人体構造上ではあり得ない動きで、イバラは器用に胴体だけを村雨の刃が届かぬ位置まで引いた。

さしものアカメも予想できなかったため、絶句を禁じ得なかったが、だからと言って止まっていい状況ではない。

急ぎイバラの間合いからバックステップで飛び退いた時だった。

イバラの全身から何かが飛び出してきた。

 

「へっへっへ、俺達羅刹四鬼は壮絶な修行に加え、寺の裏山に棲むレイククラーケンの煮汁を食べて育ったせいで、身体の操作は自由自在よ」

 

ゴキっと、関節が外れる音が静かな夜に響き渡る。

ゴキゴキと更に関節を外すイバラはゴキンと一際大きく全身を震わせながら関節を外した。

 

「その禍々しい刀を避けることだって出来るし、こんな事も可能なんだぜェェエエ」

 

イバラは関節と言う駆動限界を排した両腕を鞭のようにしならせながらも、槍の様に鋭く突いて来た。

速い、純粋にアカメはそう評した。

身体の自力ではそもそもイバラに軍配が上がる。

暗殺者として育てられたアカメは、瞬発力や奇襲成功のための隠密行動などが最優先で鍛えられているのに対し、イバラは皇拳寺で育て鍛えられたイバラは、暗殺技能に加え白兵戦技能も鍛えている。

更に性別の壁があるため、どうしても力において劣ってしまうところもある。

 

「ほぉおらほらほらぁぁああああ!!どぉぉぉおうよアカメちゃぁぁあああん」

 

そう言ってイバラが攻めている時だった。

アカメもイバラも同時にその場から飛び退くと、同じ森の方を見た。

 

「ふむ、さすがアカメとイバラと言った所か」

 

張り上げた訳では無い。

にもかかわらず、確りと両者の耳に届いた声。

割の中から複数の人に囲まれているその声の主の瞳は総てを見下ろし、夜の闇においてひときわ輝く黄金。

アカメもイバラも声の段階で既に誰だか分かっていた。

忘れられるわけがない、あのような存在を。

 

「何故だ……」

 

アカメは村雨を抜刀しながら声の主へと駆けだした。

アカメとムソウの間に周りにいる者達が割り込もうとしたが、ムソウはそれを手で制した。

 

「何故ここに居る。ムソウぅぅうううううう!!」

 

かすり傷でさえ確実に殺せる村雨。

ならば首や頭と言った小さな的でなく、胴体等大きな的を選ぶのは必然であろう。

特にそれがムソウであるならばなおのこと。

しかし激情に流されているアカメの太刀筋はムソウに簡単に見切られ、腰に携えていたサーベルであっさりと受け止められた。

サーベルと村雨がぶつかり火花が散った。

 

 

side END




バトルシーンが難しい。
どんな風にすればいいかアドバイスが欲しいです!!



そして、ロザリオとバンパイアのSS少ないなと思って、主人公を境界の彼方にしたものを書いてみたいと思っています。
まあ、それよりも書かないといけない物が多いんですけどね。
主に小説とか卒論とか卒論とか卒論。


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獣と鬼狩り

絶対期待に応えられてない確信だけは有ります。
戦闘シーンの向上のためアドバイスがあると嬉しいです。


「はぁあああああああああ!!!」

 

アカメは叫びながらムソウに斬りかかるもののその全てを尽くサーベルによって阻まれていた。

首、腕、胴体、足、どこでも掠りさえすればアカメの勝利だ。

だが、ムソウは有象無象とは違う。

アカメの鋭い太刀筋を見切りその尽くを余裕を持って阻む、

 

「その程度か。あまり私を落胆させてくれるな」

 

鍔競り合いになった時、ムソウはアカメに聞こえる程度の声で囁いた。

そして、そのまま競り負けたアカメは、バックステップでムソウと距離を取った。

 

「アカメちゃぁああぁん相手は一人じゃ何だよぉぉおお」

 

イバラがバックステップでムソウと距離を取った隙をついて来た。

 

「くっ!!」

 

とっさに回避したたが、無理な体勢での回避だったため脇腹をかすってしまった。

アカメは、ムソウとイバラ両者に気を配りながら村雨を正眼で構えたその時だった。

 

「どういうつもりだイバラ」

 

ムソウは自身の首筋を狙ったイバラの突きを、左手で受け止めながら言った。

完全な死角からの攻撃だった。

にも関わらずムソウは難なく受け止められたことにイバラは動揺して……いなかった。

相手は、帝国最強のエスデスやブドーを差し置いて、世界最強などと呼ばれている人物だ。

この程度のことで動揺していては、仕事ができないと言うものだ。

 

「へっへっへ、さすがムソウ様。一筋縄ではいきませんね。でもまあ、それでこそ殺し甲斐があるってもんですかね」

 

ムソウの自身の腕を掴んでいる腕に対して攻撃することで、何とか離させることができたが、万力に誓う強さで握られていたため、掴まれていたか所は赤くはれ上がっていた。

 

「大臣の差し金か、イバラ」

 

「さぁあ、どうでしょうねぇえ?もしかしたら独断かもしれませんよぉ」

 

「どちらにしろ、敵対した以上関係ない。ただ処断するのみ」

 

三絡みの状況だが、状況はムソウにとって非常に有利なものだ。

武装親衛隊第一師団と言えば、武装親衛隊の中でも精鋭中の中の精鋭だ。

それが小隊規模であったとしても変わらない。

そのため、ムソウの指示がなくとも二人を囲む檻が、静かにしかし着実に完成しつつあった。

もし檻が完成したならば、イバラとアカメは完全に腹を空かせた獣の檻の中に閉じ込められることになる。

 

「っと、アカメちゃぁああぁん、どこに行こうとしてるんだい。一人だけでこの状況を脱することができると思ってるのかい」

 

一歩下がったアカメに対し、イバラは直接アカメを視ずに牽制を掛ける。

いや、アカメのことを直接見ることができないのだ。

それはアカメも同じで、アカメはムソウが現れてから一度たりともイバラを視界に入れていない。

両者ともムソウを視界から外すことができないでいた。

瞬きでもしようものなら、その瞬間自身の首が胴と永遠に分かれてしまう。

全ての決着は、一瞬にして決まる。

イバラとアカメがそう思った時だった。

一歩、ムソウが足を進めた。

目測の距離にしても十分距離がある、そのはずなのに二人は目の前まで、距離を詰められる幻視をした。

 

「そろそろ覚悟は出来たか」

 

ムソウがそう言った瞬間、イバラとアカメは同時に駆けだした。

逃走ではない、ムソウ相手に背を向けるのはそのまま死へと直結してしまう。

ならばと両者は同時にムソウへと襲い掛かった。

イバラはアカメにした攻撃と同じで、両腕を鞭のようにしならせながらも槍の様に鋭い突きでムソウに襲い掛かる。

ムソウは、その全てをわざと紙一重でかわして見せた。

 

「くそがぁああああああ」

 

ムソウがイバラをサーベルで真っ二つになるように斬りつけようとした時だった。

背後からアカメが、ムソウの背中を横薙ぎに切り裂こうとした。

ムソウは斬りつけるのを中止し、手首を曲げそのままサーベルで村雨の刃を受け止めた。

そしてそのまま、ムソウはイバラの恐ろしく速い突きを空いている左手で受け止めると、勢いよく背後にいるアカメめがけて回し当てた。

 

「「ぐっ!!」」

 

ぶつかった二人は、そのまま弾き飛ばされ、二度三度、地面でバウンドして止まった。

イバラは羅刹四鬼と言うこともあり、修行でこういったことにも慣れているためか、打撲程度で他に目立つ負傷は見当たらない。

しかしアカメはあくまでも暗殺者として育てられたため、柔肌を擦り傷切り傷だらけと成り血で滲ませていた。

 

「耐えたか。そこは流石だなと褒めるべきか」

 

「痛っ!!」

 

アカメは全身から血をにじませながらも毅然とした表情で立ち上がった。

 

「いてててて。流石はムソウ様、それでこそ」

 

再度仕掛けて来たイバラに対し、ムソウは天高く掲げたサーベルで一刀の元断ち切って来た。

それをイバラは、白羽取りの要領でサーベルの腹の部分を掴み取った。

しかしムソウはそれを意に介さず、そのまま振り下ろした。

 

「ぁぁあああああああ!!」

 

イバラの手の皮が、圧倒的力で振り下ろされたサーベルの所為で剃り落されてしまった痛みで、絶叫した。

いくら修行で体を鍛え、痛みに耐性をつけようとも、自身の皮を削がれるようなことを想定していない。

そのため、両掌から血が絶え間なく流れ、感じさせられる痛みは尋常なものではない。

しかしその痛みこそが、冷静さを失い攻撃するなどと言う愚策にイバラを走らせず、むしろ頭をクリアにし、ムソウと距離を取らせた。

両手から滴り落ちる血は、体の操作が自由自在であるイバラにとって意識せずとも修復できるもので、すぐさま皮が再成し、止血した。

 

「さすがにこれでは限界があるか」

 

ムソウが使っていたサーベルは、ムソウの力に耐えきれず、ボロボロになりながら刃は根元から折れ、地面に落ち自壊した。

 

「これで十分と思ったが……ふむ、ここは貴様らに敬意を表し私も少し力を見せてやろう」

 

上から目線、しかしそれは総てを見下ろす立場にあるムソウだからこそ許される。

そのためか、アカメもイバラも上から目線の物言いにイラつきを覚えるどころか、ムソウだからそう納得した。

そして二人は同時に後悔することになった。

ムソウの手に黄金の輝きと共に一振りの槍が現れた。

常人では直視することさえ許されない黄金。

手にする者は、世界を支配すると言われる槍。

ムソウだけが持つことが許される、絶対的な力の象徴。

帝具、聖約運命ロンギヌス。

49個目にして唯一の失敗作。

そのため当時の始皇帝が、帝具は48個と偽ることとなった原因。

それを目にした二人は、自覚のないまま震えていた。

恐怖――

人類に残された数少ない野生の本能。

蛇に睨まれた蛙ならぬ、獣に睨まれた草食動物今の現状を例えるならばまさにそれだろう。

草食動物とて座して死を待つわけではない。

時として肉食動物に自身の持つ武器を最大限活かして反撃してくるのだから。

だからこそ、獣に睨まれた草食動物、その表現が一番適しているのだ。

 

「さて、では次はこちらから行くとしよう」

 

ムソウがそう言った瞬間、ロンギヌスの刃がイバラに迫った。

完全に反射の域で、かわしたイバラだが今のをかわせたのは本当に運が良かった。

そう表現するしかない。

次は文字通り存在しない。

アカメも今の攻撃に関して完全に見切れていなかった。

もし自身がされていたら、イバラの様に避けられたか、そう思いつつもムソウの背に向って斬りつける。

アカメとイバラに残された防御手段は、攻撃することのみ。

護りについた瞬間、終わりが待っている、そのことを二人は自覚している。

 

「その程度では私には届かないぞ」

 

「くっ!!」

 

背後からの奇襲に聖槍でムソウは難なく対処し、そのままアカメは吹き飛ばされた。

そこを突くように、イバラはムソウに仕掛けた。

 

「皇拳寺百烈拳!!!!」

 

岩さえ砕くその拳から繰り出される百にも及ぶ回数の拳。

ムソウは、それに対して槍で早く素手で襲い掛かる拳を全て叩き落とした。

その隙を突きアカメはムソウに斬りかかる。

横に、上から、下から、斜めにあらゆる角度あらゆる方向から斬りかかる。

ムソウは、イバラの拳を相手をしながらアカメの斬撃を全て聖槍でいなした。

羅刹四鬼にナイトレイドでも頭一つ飛びぬけているアカメ。

本来なら両者の内どちらかと対峙するだけでも厳しいのに、両者を同時。

自殺志願者と思われても仕方がない現状だろうが、それらと相対しているのはムソウだ。

この程度難なく成し遂げても不思議ではない。

 

「この程度では、私を本気にすることは叶わんぞ」

 

聖槍で村雨を叩き上げ、左手でイバラの拳を叩き落としたムソウは、聖槍の石突でアカメの横腹を殴りつけ、そのまま円運動でイバラの頭を殴りつけた。

墓石を砕きながら吹き飛び転がる二人の口からは、最早人の声とは到底思えない声が漏れ出る。

圧倒的、今の状況を語るには、それ以外の言葉が見当たらない。

語彙が豊富なものならばまだ言いようがあるだろうが、その様子を見ている武装親衛隊の面々はその言葉しか見当たらなかった。

 

「期待外れか……」

 

アカメに近づき、聖槍で止めを刺そうとした時だった。

 

(エクスタス)

 

その声と共に目をくらます光が、月明かりの身だったこの場を覆った。

ムソウも虚を突かれたため、目を手で覆った。

その僅かな隙を突き、アカメに糸が巻きつくと、勢いよく引っ張られ、引っ張られた先で痛みにこらえながら、見上げた先にはシェーレとラバックの姿があった。

 

「大丈夫かアカメちゃん」

 

「す、まない。たすか、った」

 

途切れ途切れながらも、アカメはラバックとシェーレに感謝を伝えた。

そして、アカメが勢いよく引っ張られ回収している時、もう一組がムソウに襲い掛かって来た。

 

「皇拳寺百烈拳!!!」

 

「ほいっと!!」

 

目を覆っている僅かな隙を突くように左右から、ムソウに対し百にも及ぶ回数の拳が襲い掛かる。

計二百にも及ぶ回数が襲い掛かる中、ムソウは聖槍を地面に突き立てると左右からくる拳を全ていなす。

 

「うそ!!」

 

褐色肌で、袴に襟袖のみで、後は胸を隠している以外肌を見せている少女は、まさか一撃も入らないとは思ってもいなかったためか驚愕を露わにした。

目元を覆っていた手を放したムソウの目に入って来たのは、イバラとアカメ両者に対する増援の姿だった。

 

「イバラがあんまし遅いから見に来たら、あんたなにしてんのよ」

 

「ちっ、来なくても俺一人でどうにか出来たぜ、メズ、シュテン」

 

「アンタ今の姿を見てもういちどいってみなよ」

 

「そうだイバラ、相手はあのムソウ。ならば我らも加勢せねばなるまいて」

 

「ちっ、好きにしろ」

 

三人の鬼はムソウに対し、独特の構えをとった。

 

「私達はこの隙に逃げます」

 

「ああ、そろそろ包囲網が完成しつつあるからな」

 

「なら、私を置いて行け。このままでは足手まといになり、二人を余計な危険にまきこむだけだ」

 

村雨を杖にしながら立ち上がったアカメが、二人だけで撤退しろと言う。

 

「そんなことするわけねーだろ」

 

「そうですよアカメ、何のために私達が来たと思っているのです」

 

二人の出した解答はノーだった。

 

「とりあえず羅刹四鬼がいるんだ。少しは時間稼ぎに役立つはずだ」

 

ラバックが慎重に全体の様子を見ながらも、クロステールで森の中にはっている感知結界で包囲網の状況を感じていた。

 

「逃がすと思っているのか」

 

ラバックが一歩後退したのを感じ取ったムソウは、背を向けたまま牽制を入れる。

元々標的であり、今後自身の命を狙う賊を見す見す逃がす程ムソウは御人好しではない。

更に負傷者もいるのだ、この気に消しておかない手はない。

三つ巴の中、羅刹四鬼とナイトレイドの組のみ緊張感が漂う。

ムソウの髪を靡かせる夜風が止んだ、次の瞬間――

羅刹四鬼とナイトレイドが動いた。

前からはシュテンが、左右からメズとイバラが、背後からエクスタスを構えたシェーレ上空から編み上げた槍を構えたラバックが。

逃げ場は完全に断たれ、かわすのは不可能。

絶体絶命の窮地、客観的に見れば誰もが思う中、ムソウは僅かに口元を釣り上げ心なしか嬉しそうな表情をしていた。

地面に突き刺していた聖槍を抜くと、天高く掲げると一歩前に出、振り下ろす。

全力でなく、力を溜めただけの一撃で街一つを容易に吹き飛ばす聖槍だ。

全力でなくとも、人一人殺すのは容易だ。

とっさに横に飛び退いたシュテンだが、ムソウは聖槍の矛先が地面に付く前に鋭角に曲げ、シュテンを切り裂く。

 

「すみません」

 

そのままイバラも切り裂こうとしたが、背後から迫って来たシェーレの持つ帝具、万物両断エクスタスがムソウを両断しにかかる。

ムソウはそれに対し、ハサミ型であるが故の弱点である、ねじの部分を石突を叩き上げそのまま下に潜り込み、シェーレの足を払いバランスを崩した所を更に蹴飛ばす。

 

「くそがぁぁあああ!!!!」

 

上空から迫るラバックと左右からくるメズとイバラ。

 

「これでどぉぉおおおよぉおおお!!!」

 

「はぁああ!!」

 

全力の突きのラッシュと一撃必殺を込めた拳、しかしその全てがムソウの前では見切られていた。

ロンギヌスの持つ能力は、「槍の一撃を受けると聖痕が刻まれ、戦奴となる」「聖痕を刻まれた者に殺害された人間も戦奴となる」 である。

即ち、聖痕が刻まれた団員とその団員が殺した人間の力をムソウは持つため、総合的な魂の容量が桁違いな上に一人一人の経験さえもムソウの元の成っている。

ムソウの手によって殺され、城の一部となった者の中には元羅刹四鬼や皇拳寺の師範代、師範も含まれている。

ならば、ムソウが皇拳寺羅刹四鬼の技を見きれぬ道理はない。

左右からの攻撃をかわし、いなしながらムソウは上空より迫るラバックの持つ槍を突き刺した。

一瞬火花が散ると、ラバックの作り上げた槍はただの糸へとほどかれてしまった。

そもそもただの槍と聖槍では質と格が違うのだ、こうなることは見えていた結果だ。

迫る聖槍に対しラバックは、『これまでか』と諦めながらもせめて一矢報いようとしたが、それはいい意味で裏切られた。

全身の痛みに耐えながらもアカメはムソウの聖槍を村雨で斬りつけた。

そのため聖槍が貫くはずだった標的から逸れ空を切り、ラバックはそのまま地面に転げ落ちた。

 

「すまねえアカメちゃん、助けるつもりが逆に助けられちまって」

 

「いい、それよりも」

 

「ああ、分かってる」

 

そう言いながらラバックはムソウの足元を見ると、一矢報いるために使おうとした小型爆弾がいくつも散らばっていた。

後は衝撃を加えるだけでムソウの足元はまさに地雷原の様に爆発する。

 

「シェーレ!!」

 

「はい『(エクスタス)』!!」

 

「二度も効かん!!」

 

シェーレの持つエクスタスが発光すると思ったムソウは、とっさに聖槍を勢いよく地面に突き付け、その衝撃で地面が抉れ土砂が舞い上がる。

それで光から目を護ろうとしたが、それが返って裏目になった。

ムソウの与えた衝撃が、そのまま足元に散っていた爆弾の起爆キーとなってしまった。

 

「今の内だ!!」

 

檻が完成する前に、ラバックはアカメを背負い急いで逃走し始めた。

 

「ちぇっ、良い所とられたか」

 

メズがそう言って、ムソウの死体を確認しようとした時だった。

舞い上がった土砂がカーテンの様にムソウの姿を隠していたため、気づくことができなかった。

ムソウは生きていたのだ、しかしムソウもまた土砂のせいで、様子が分からなかったが声のした方に聖槍で突き刺したのだ。

 

「かはっ!!」

 

腹を貫かれたメズは、そのまま血を地面一杯に吐き出した。

聖槍を一振りし、血を振り落したムソウの姿は傷一つなかった。

爆発のせいで、所々破れてはいるもののムソウ自身に目立ったどころか、血の滲み、スリ傷、切り傷、打撲、捻挫。

そのどれもが見当たらなかった。

 

「逃げたか、まあいい鬼は狩れた」

 

背後から土砂の音に紛れ中が、奇襲をかけて来たイバラに対し先ほどとは打って変わって、一切容赦ない一撃が迫る。

イバラが最後に見たのは、一筋の黄金の軌跡のみだった。

 

「すみません長官、檻が完成する前に穴を突かれ」

 

「よい、当初の目的は別にあるのだ。直ぐにその場所へ案内しろ」

 

「了解しました!!」

 

ムソウは、土砂のカーテンの中に居ながら一切汚れの着いた様子の無い髪を靡かせながら、部下に先導させた。

 




原作で言うところの八巻がこの話で完結したと思ってください。
次は、ボリック暗殺変ですかね~
もう少ししたら、シュラが……
シュラがどの位の話数でフェードアウトするやら。
10巻の冒頭にあるボリック暗殺から3か月の空白の三か月に、零の話やオリジナルを少し混ぜて行こうかなとか思っています。


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獣と分岐点

遂にアニメアカメが斬るも最終話です。
しかしオリジナル展開になってからが微妙と感じてしまったのは私だけだろうか。
ブドー大将軍の声優が何か想像してたのと違うな~とも感じたりといろいろありましたが最終話です。
この作品もきちんと完結させたいです。



抜け道を確認したムソウは、そのまま陣の敷いてある場所まで戻った。

ムソウは極力人目を避ける様に自身の天幕に戻るようなことはせず、堂々とした様子で戻った。

満月が天高く輝いているため、その明かりがムソウの状況を鮮明に隊員たちに見せつける。

中には、ムソウの所々に焦げ目が付き、破れているコートや軍服を見て、何があったのか聞いて来る隊長たちもいたが、ムソウは簡潔に、そして楽しそうに一杯喰わされたと答えた。

そのため報復に向うことを進言する者もいたが、ムソウはあえてそれを止めた。

 

「所詮物などいつか壊れるもの、それが今日であっただけだ。それに私自身には傷を付けることが叶っておらん」

 

ムソウはそう言って聞かせたが、ムソウに盲信的な者は不服そうな表情をしていた。

天幕へと戻ると早々にムソウは、ナイトレイドにスパイとして潜入させていたチェルシーを呼び寄せた。

 

「しかし、ナイトレイドの糸使い、私に傷を付ける事は叶わずとも逃げ遂せるとは中々やるな」

 

「糸使い、てことはラバックですね」

 

「ほう、奴の名はラバックと言うのか」

 

「もしかして長官の服やコートをボロボロにしたのは」

 

「そのラバックだ」

 

それを聞いた瞬間チェルシーの瞳から光が一瞬消えた。

もしこの世界にヤンデレなる言葉が生まれていたならば、間違いなくみんな口を揃えて『チェルシーがヤンだ!!』そう言うだろう。

 

「気にするな、むしろ私は嬉しい。私を楽しませてくれる可能性があるのだからな」

 

声にこそ出して笑わないが、その表情だけで如何にムソウが喜んでいるのかが、チェルシーは見て取れ、何故自分ではその表情を作らせることができないのか、とその内に黒い何かが渦巻掛けていた。

 

「まあ、この様な些細な事はどうでも良い。それよりも本題だ、チェルシーお前に一つ命じる。我らがボリックを抹殺する僅かな間、あらゆる方法で教主を見張っておけ。あれに今死なれては、武装蜂起が起きる可能性が少なくなる。そうなれば私の予定が崩れる」

 

「分かりました。その命令喜んでお受けします」

 

チェルシーは恭しく頭を下げ命令を受けた。

そもそもムソウに盲信を通り越し、狂信の域に入っているチェルシーに、ムソウの命令を聞かないと言う選択肢がそもそも存在していない。

ムソウに見とれた日から、そして命が尽きるその日まで、チェルシーは間違いなくムソウに忠誠を誓い続ける。

 

「さて、チェルシー」

 

ムソウが、意味ありげにチェルシーの名を呼ぶ。

それだけでチェルシーは総てを察した。

そもそも、この程度の命令を伝えるだけならば夜が明けてからでも十分間に合う。

それを態々夜に呼んだのだ。

他に何かがあるからに決まっている。

中身が史実、見た目がdiesのラインハルトであり、変わったのは名前だけだ。

そのため絶対的に変わっていないものがある。

それは、女癖の悪さだ。

史実では海軍中佐待遇の軍属の娘との交際のもつれから軍法会議にかけられ、海軍を不名誉除隊させられており、diesでは、『女はしょせん、駄菓子にすぎん』と言い切る様な人たちだ。

そんなラインハルトが、一人の姿に集約したのだ。

何も起こらないはずがない。

 

「私の裸何て見ても嬉しくないかもしれないけど……」

 

そう言って、チェルシーは胸ボタンを外す。

服によって隠されていた綺麗な谷間が露わになる。

一枚、また一枚と服を脱いで行き、身に纏う物全てを脱ぎ捨てたチェルシーは生まれたままの姿になった。

シミ一つないきれいな肌ではあるが、ムソウの命令の元反乱軍に入って居たため傷がないと言う訳では無い。

治っているが綺麗に消えていない後もある、だが寧ろそれが一層生身であると実感させるものがある。

そしてその傷の一つ一つが、ムソウの命令を遂行する上で付いたものだ。

そのような忠臣をムソウが愛さない訳がない。

 

「おいでチェルシー」

 

そう言ってムソウはチェルシーを自身の閨に誘い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日が経った。

ムソウの指揮の元、周辺の索敵およびボリックの監視を昼夜休みなくさせている。

屋敷周辺の監視や抜け道の罠などの確認も既に終わっており、抜け道の罠外しも既に終了しており、ムソウの命令一つでいつでも突入可能な状態を維持させている。

しかしムソウは未だに命令を下していない。

ナイトレイドが動かないからだ。

あくまでもムソウの計画では、ナイトレイドの手によってボリックが殺されることになっている。

そこだけはムソウにとって、絶対に譲ることができない部分であった。

しかし、これ以上悠長に時が過ぎるのを待つことが、ムソウは出来ない。

帝都での仕事もあり、保安部の報告や決済、武装親衛隊の定期報告や新しくすべき命令、完遂した命令の報告と結果による今後の計画の修正などがある。

それを一時とはいえ放置してまでキョロクまで来ているのだ。

成果を上げないまま帝都へ戻っては、計画に支障を来す可能性がある。

それだけは、絶対に避けねばならないことをムソウは理解している。

安寧道の武装蜂起、反乱軍の進撃、異民族の侵攻、民による蜂起。

その全てが揃ってこそ、初めてムソウの計画が始動する。

ムソウが唯一懸念していることは、大事な時期に帝都を離れていること位だ。

大臣が良からぬことを考えている可能性がある以上、これ以上帝都を離れているのはリスクばかりが高くなり、リターンがあまり見込めない。

リスクとリターンを天秤にかけ、リターンが得られるのはあと一日、それが限界であるとムソウは判断した。

そんな時だった。

 

「緊急のため失礼します!!」

 

いきなり天幕に副官であるヨハイムが入って来たのだ。

 

「どうした」

 

「先ほど、ボリックを監視していた者達よりナイトレイドが攻め込んで来たと連絡がありました」

 

「遂に動いたか。全部隊に通達これよりボリック行動を開始する」

 

「了解しました!!」

 

ヨハイムは、一度敬礼をすると全部隊に伝達すべく、駆けて行った。

 

「ついに動き出したか」

 

この作戦が成功するか否かで未来が変わってくる。

勝てば官軍、負ければ賊軍。

いくら負けた側が正しく、勝った側が悪くとも勝ったその瞬間から正義になるのだ。

それは多くの歴史が証明して来ており、勝者が自身の都合のいいように歴史を捏造して来ている。

若しかしたら暴君と呼ばれた者は、賢者だったかもしれない。

聖人君主と謳われた者は、畜生にも劣る存在だったかもしれない。

大量殺人者と言われた者は、ただの一般人だったかもしれない。

そのもしもを、今生きるものが知るには歴史を学ぶしかないのだ。

それが正しい、正しくない関係なくだ。

しかし今作戦はそのどちらにも当てはまらない。

成功しようと失敗しようと、この作戦の実情が日の当たる歴史として記されることは、未来永劫あり得ないからだ。

だがこの作戦の成否によって、この後起こり得る事が変わって来る。

失敗すれば大臣の天下だが、成功すればムソウの望んだとおりにことが進む。

その違いが今後に大きく関わってくるが、成功するか失敗するかは、運命の女神のみが知っている。

その女神が誰に微笑むのか、それはムソウにも分からないことであった。

 

「私も準備するか」

 

ムソウは椅子から立ち上がると新しく用意させたコートをマントのように羽織ると天幕から出た。

 

 

 

 

side ナイトレイド in タツミ

 

時間は少しばかり遡る――

 

アカメ達が負傷して帰って来たときは、流石にみんな驚いていた。

特にアカメに至っては、全身擦り傷切り傷、打撲に捻挫、怪我をしていない所を探す方が難しい程ボロボロだった。

何があったかとボスが訊いたら、イェーガーズと出会い戦闘になったが逃してしまい、そこに羅刹四鬼のイバラと言う奴とやって来て戦闘となり、戦闘中に武装親衛隊を率いていたムソウと出会ってしまったとのことだ。

むしろ良く生き残ったとボスが言っていたのは、よく覚えている。

そんな俺達は、ついにボリック暗殺を決行した。

ムソウ率いる武装親衛隊と言う不安要素があったが、これ以上長引かせれば形勢不利になるとボスが判断したからだ。

そして俺達は、街が寝静まる夜中に行動を起こした。

ボスが考えた作戦は簡単だ。

まずは地中から陽動班が突入、俺がインクルシオの奥の手である透明化を活かして警備を無力化。

大聖堂の中庭まで見つからずに進入を目指す。

気を付けないと外側で見つかると大量の警備兵や信者が駆けつけて来るからだ。

中庭までくれば、後は目の前の建物にボリックやエスデスがいるから、騒ぎを起こしてエスデスを中庭まで引っ張り出す。

 

「うぉぉおおおお!!」

 

建物の前に居る大量の警備兵に向って、俺、姐さん、ボスにスーさんは無力化すべく駆けだした。

気がかりなのは、負傷しているアカメやラバック、マインやシェーレを一纏りにしていることだ。

だが、エスデスを引っ張り出し戦闘になるのを想定しているこっちに比べたら、まだましだろうとも思っている。

あくまでも今回の標的はボリックだ。

エスデスやクロメも標的ではあるが、ボリックさえ殺せば革命軍が動く。

そして革命が成功すれば、村のみんなや民が笑顔でいられる世界になるんだ。

そのためなら俺は…………

 

side ナイトレイド in 襲撃班

 

ボリック暗殺の実行部隊である、アカメ、マイン、ラバック、シェーレはエアマンタに乗って上空より襲撃を掛けようとしていた。

 

「よし!このまま大聖堂の天上へ突っ込む!!」

 

暗殺の成否が自分達にかかっているとなると、襲撃班の士気も必然的に高く為る。

不安があるとするならば、アカメの傷が思ったよりも治っていないことだ。

骨が折れていないだけ良かったと思うべきなのだろうが、この作戦の重要性を考えると、不安を感じてしまうのも仕方がないと言うものだ。

 

「マインちゃんは突入直前になったら、パンプキンで天井にいい感じの穴開けてくれ!!」

 

「分かってるわ準備OKよ!!」

 

「にしてもパンプキンは頑丈な帝具だよね。爆発に巻き込まれても大丈夫だったとか」

 

「そこもだけど、ボスが使っていた時の話聞くとホント良く壊れなかったと思うわ」

 

「射線がぶれてたりしてないよね?」

 

「ぬかりないわ。臆病ねぇ任せときなさい」

 

そう言って、マインはタツミと会ったばかりの時『射撃の天才なんだろ?』と信じてもらった時のことを思い出し、僅かに頬を赤らめた。

 

「何たって、アタシは射撃の天才だからね」

 

そうマインが言った瞬間だった。

エアマンタの横を高速で何かが張り着くように飛んできた。

 

「な!?」

 

「やはり空からの別動隊、今度はこちらの読み勝ちの様ですね」

 

そう言って、エアマンタの横を高速で張り付いて来たのは、帝具マスティアの所有者でありイェーガーズでもあるランだった。

いつもの柔和な笑顔と違い、その目は猛禽類の様に鋭くまさに狩人を思わせるものがあった。

 

「しかし私と言う存在を知りながら、領域である空から攻撃を仕掛けて来るとは”愚策”と言わざるおえませんね」

 

エアマンタの下に回り込んだランは、先制攻撃と言わんばかりに右の翼、その羽根を全てエアマンタの柔らかい腹に向って放った。

一斉に放たれた羽根はさながら白い槍の様で、エアマンタを貫くことは出来なかったが、その一撃で命を奪い取る事は出来たようだ。

 

「う……」

 

いきなり飛行能力を失ったため、エアマンタは螺旋状に回転しながら墜ちていた。

 

「うわぁああああああああああああ」

 

女性陣は、冷静であるが、唯一の男性であるラバックは大きな悲鳴を上げていた。

その様子を見上げている存在達に気付くことなく。

 

side ALL END

 

「状況は」

 

「はっ、戦況はイェーガーズ有利で進んでおります」

 

ムソウが現れた時には、既に戦闘は終盤に差し掛かっていた。

 

「配置はどうなっている」

 

「既定の通りとなっております。突入部隊も突入せずに済みそうなため、既に内部潜入班の脱出用として抜け道を確保させ、援護するよう命令してあります」

 

ムソウが命じる前に命じようとしていたことを実行していたため、流石ヨハイムと内心評価を上げた。

念のためとムソウは、かなり離れた位置から双眼鏡で戦況をその目で確かめた。

エスデスはムソウの気配に敏感だ。

恋する相手として、圧倒的実力を持つ強者としての二つの要素もあるが、それ以上にムソウの存在感がどんなに消そうとしても消しきれない程強大である事が原因でもある。

もし本気のムソウの前に立つのならば、ムソウに許可をもらわなければ息ができない程息苦しくなるほどに強大だ。

それを良く知っているのは、他でもないエスデスだろう。

何せ3度もムソウに牙を剝いたのだから。

その時のことをムソウは懐かしむように思い出しながらも、今は目の前の作戦に集中すべきだと意識を切り替えた。

 

「私の合図とともに合図の照明弾を打ち上げろ」

 

「はっ」

 

ムソウは着実に打ち抜けるタイミングを見計らっていた。

そして、スサノオがエスデスの手によって粉砕しようとした瞬間。

 

「今だ」

 

ムソウの合図とともに、上空へ合図の照明弾が撃ち上がり、その光が夜の闇を打ち消していく。

次の瞬間、三発の銃声が夜のキョロクに響き渡った。

眉間に一発、腹部に二発。

それも重要な臓器の部分にだ。

次に発煙弾が10を優に超える数撃ち込まれ、建物全体が煙に覆われた。

そのさまは、まさに火事のようであり、その様子に気が付いた信者たちが慌てた様子で向かって言ってるのをムソウは見下ろしていた。

 

「あっけないものだな」

 

綿密に立てた作戦もこの一瞬のためだけに存在していたのだ。

 

「スタイリッシュの強化兵がいないようだが……」

 

ムソウは思い出したかのようにヨハイムに訊いた。

 

「スタイリッシュは、今朝帝都に呼び戻され、その際強化兵を連れ戻したようです」

 

「帝都に……」

 

大臣がまたよからぬことを考えている可能性を考慮したが、その可能性をムソウは否定した。

むしろスタイリッシュと仲の良いシュラが、帝都へ戻ってきた可能性の方が高いとムソウは考えた。

そうでなければスタイリッシュのみを呼び戻す必要がないからだ。

 

「……私のいない隙を突いたか」

 

ムソウは保安本部にシュラの捜索をさせていた。

発見後は、監視するようにも命令書を置いて来ているため問題はない。

しかし大臣が横槍を入れてきた場合は、また勝手が違ってくる。

ムソウが直接帝都に居る、それだけで大臣の抑止力に成りえるが、いない今、大臣はシュラの行動を好きにさせ、保安本部員が例え逮捕しようとも直ぐに大臣が釈放手続きを済ませ釈放させることは目に見えている。

シュラが行動を起さなくても、間違いなく碌でもない連中を大臣の息子であると言う権力の元居れる可能性もある。

虎の威を借りる狐ではあるが、その虎の持つ力が強すぎるため、ただの人ではどうしようもないのだ。

 

「潜入班の全員脱出後直ぐに帝都へと戻る」

 

ならば早めに帝都に戻るまでだ、と決めたムソウの行動は早かった。

 

「そしてこの瞬間より計画は第二段階に移行する!!」

 

その意味を理解している者は、この場で隊長各や将校の地位をムソウより頂いている者達だけだった。

 

 

 

この時が後世に残る歴史の決定的分岐点であった。

しかしこの事実を後世の歴史家が知ることは永遠になかったと言う。




次からが少しの間オリジナル展開になります。
オリジナルいいから原作進めてくれと言う人が居るかアンケート取りたいと思うので、活動報告で確認してください。

以上



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獣と仕度

はい、と言うことで今年最後の更新となりました。
思い返せば、アニメが終わってしまったことでテンションが下がり、卒論で時間が無くなり、今年最後の更新が間に合わなくなるかと一時は不安になりましたがギリギリ間に合いました。



武装親衛隊の手によってボリックが暗殺された翌日、安寧道内部は荒れに荒れていた。

安寧道内で最大派閥のリーダーであるボリックが暗殺されたのだ。

この気にボリック派の勢力を削ごうと対抗派閥が、ボリック派の悪事を全て暴こうとするのは必然の流れだ。

保安本部Amt IV(第IV局)通称ゲシュタポ内にある、IV Bは宗派を専門に取り扱う部署が存在する。

そこに多くボリック派の対抗派閥メンバーによる内部告発が持ち込まれており、その量は、IV Bが今まで取り扱ってきた物の比ではなく、仕事の量に対し人手が全く足りておらず、他の部署も臨時で応援を寄こすようにムソウが命令するほどであった。

それに比例するようにムソウの仕事量は増えており、引っ切り無しに報告や確認を保安本部員や武装親衛隊員が訪れに来るほどだ。

幸い爆破で壊されていた、ムソウの執務室が直っていたこともあり、スムーズに仕事をすることができている。

 

「安寧道は、今どうなっている」

 

「はっ、予想通りボリック派の勢力は衰えを見せて来ており、武装蜂起派が大多数を占めて来ております」

 

「そうか、引き続き監視を怠らせるな」

 

「了解しました」

 

「次」

 

そう言って、安寧道を監視させている者を退出したのを確認したムソウは次の者を入室させた。

ボリックが死んだだけでこれである、大臣を殺した時のことを考えると、もう少し根回しが必要だと言うことをムソウは改めて実感した。

 

「ナイトレイドの捜索は、現在も難航しております」

 

「そうか、引き続き捜索しろ。見つけた場合は交戦せず、すぐさま報告と監視。監視は常に一定距離を保つよう徹底的に周知させておけ」

 

「はっ!!」

 

「他には何かあるか?」

 

「ナイトレイド捜索中に通る村や街でも、市民が蜂起する兆しが見えて来ております」

 

「そうか、今の所はそれに取り締まるつもりはない。こちらに敵対行為をしてきた場合を除き、放っておけ」

 

「了解しました」

 

市民が蜂起するまでが、ムソウの計画だ。

大きな街や地方都市には、民衆を扇動するために潜入させているムソウの息のかかった者もいる。

そう言った者達の存在が大臣に気付かれることなく、その役割を全う出来ていれば、遠からずその矛先を大臣と皇帝に向けさせることができる。

そうしてやっと計画の第一段階が完全に完了したと言える。

第二段階はその先、反乱軍と繋がっている異民族をある程度帝国内に侵攻させ、ムソウ自身が大臣の手の者によって暗殺されることだ。

そのためには、異民族が帝国領内に侵攻してきたためと言う大義名分を手に入れる必要があり、なおかつ大臣に自身を暗殺するよう嗾ける必要がある。

異民族侵攻の際には、P1500モンスターは投入しないが、内輪で”超巨大戦車”と呼ばれているラーテを初めから投入する予定である。

破壊力はすでに実証済みであり、ラーテ一輌だけでも単純な戦力値だけで考えるならばオーバーキルな代物だ。

それが二桁にとどかない数とはいえ、既に建造されているのだ。

知らない方が幸せであるとは、まさにこの事だろうと建造に携わった親衛隊作戦本部局集団A,Amt VIII 兵器局の局員および、開発に携わったAmt IX 技術および機械開発の全員が思ったことをムソウは知らない。

そしてこの兵器軍の存在を大臣はもちろん、皇帝も知らない。

もし大臣の耳にでも入ったならば、間違いなく国家に反逆する恐れがあると言いムソウの権力を削ぎに来るのは目に見えている。

そのため兵器局、技術および機械開発に関しては、その情報機密を最上位に設定してある。

大臣と言えど簡単に知ることの出来るレベルではなく、もし知ろうとすれば間違いなくムソウに気付かれる。

しかし大臣が暗愚であれば全く問題ないのだが、悲しいことに大臣は頭が良くキレる。

それこそ、最も皇位継承権の低かった現皇帝を皇帝に据えるほどに。

逆に言うならばそこに、ムソウを暗殺するように嗾ける糸口がある。

 

「次」

 

「兵器局よりモンスターの製造は完成、後は動作確認のみ、ラーテは3両完成、残り2両も近日中に完成するとのことで、こちらも残すは動作確認だけとのことです」

 

「他の車両のメンテナンスも怠らせるな。それとモンスターとラーテ専用を含む全車両および銃火器の銃砲弾の製造ラインの状況はどうなっている?」

 

「既に昼夜問はず稼働です」

 

「そうか、引き続き製造ラインは銃砲弾を優先するが、最優先は車両機器の消耗部品だ」

 

「はっ!!」

 

銃砲弾のような消耗品も重要だが、肝心の車両が有事の際部品がなく、修理できません、では話にならない。

そのことをムソウはきちんと理解しているので、下の者達も安心できる。

こういった細かいことを理解出来ていない上司がいるのといないのとでは、部隊の士気に雲泥の差が生じる。

ようやく午前最後の報告が終わり、ムソウが一息つこうかと席を立とうとした時だった。

三度執務室のドアがノックされた。

 

「入れ」

 

「失礼します。陛下より長官に緊急招集が掛かりました」

 

「分かった。直ぐ行こう」

 

どうやら休憩はまだまだ先になるなと、ムソウは内心思った。

それと同時に、大臣が行動を起こすのがムソウが予測していた時よりもはるかに早かった、とも思っていた。

ムソウとしても、大臣が遅かれ早かれ皇帝を使い自身を招集することを予測していた。

内容もここ暫く帝都を離れていた理由であろうことは、ムソウにとって既に予想済みである。

予定よりも早いが、大臣を少し嗾けておくか、しかし大臣がどのタイミングで暗殺しかかるか分からない以上少しこちらでコントロール必要があるな。

ムソウは大臣がどのように動くか、招集された謁見の間に着くまでの間考え抜いていた。

 

 

 

 

 

 

 

謁見の間――

 

「いきなり呼び出してすまぬなムソウ。どうしても大臣が訊きたいことがあると言うので呼び出させてもらった」

 

帝国内で最も高い位置に存在する席に座っている現皇帝は、席の横に侍る大臣に目配せしながらムソウに告げた。

 

「いえ、作業は滞りなく済んでおりますので、今しばらく私が席を外しても問題はありません」

 

「そうか、流石だな!!」

 

皇帝は感心したかのように何度も肯いて見せた。

 

「それで、私に訊きたいこととは何でしょうか?」

 

「おお、そうであった。大臣、そちが訊きたいことがあると申していたが」

 

「ええ、陛下。少しばかりムソウ殿に訊いておかなければならないことがありますので」

 

大臣は器用に皇帝に見える左半分の顔は、慈愛に満ちた笑顔であったが、死角となっている右半分は、ムソウをその眼光で射貫かんばかりに睨んでいる。

 

「よい、好きに訊くがいい」

 

大臣は、ニコリと皇帝に笑みを浮かべ一歩前に出た。

丁度表情が皇帝の位置から死角になるため、大臣は取り繕っていた表情を崩し、本性を表した下衆な笑みを浮かべた表情になった。

 

「ムソウ殿に訊きたいことがいくつかありますが、やはり一番お聞きしておきたいのは、ここ暫く帝都に居なかったと聞きまして、どちらへ行かれていたかお聞かせいただけますか?」

 

「そのことならば、ここ暫く諜報より異民族の動きが活発化していると聞いてな。武装親衛隊全部隊を直接見て回って来ただけだ。武装親衛隊が展開しているのは広いからな。それで遅くなっただけだ」

 

「そうですか」

 

大臣は顎鬚を撫でながら、ムソウを見下ろしていた。

 

「しかし、安寧道のボリックと言うものが暗殺された日に帰ってくる。あまりにも都合が良過ぎませんかね~?」

 

大臣はあくまでもムソウを陥れたいらしい。

 

「ふむ、確かにそれは今朝の報告で見ている。しかしそれはナイトレイドの犯行なのであろう?」

 

「確かに、早馬の報告ではそうらしいですね。ですが、エスデス将軍からの報告では外部からの狙撃と妨害があったと書いてありましたが」

 

「狙撃ならばナイトレイドのマインではないのか?あれはナジェンダが持っていた帝具・パンプキンの今の使用者であろう。不満があるならば死体をスタイリッシュ辺りに見聞させればよかろう」

 

「それもそうですね。しかし残念なことに、安寧道の信者の手によってボリックの死体は、既に埋葬されてますからそれは叶わないですね」

 

「そうか、それは残念だ」

 

「ですが、ムソウ殿の容疑が晴れたわけではありませんよ。できればムソウ殿が見回っていたと言う確固とした証拠が欲しい所ですが」

 

「ならば、大臣が自ら武装親衛隊全員に聞いて回るか?」

 

「いいえ、そこまではしなくていいですよ」

 

大臣は持ってきていた肉塊に齧りついた。

 

「話はそれだけか?」

 

「いえいえ、ムソウ殿には少しお願いしたい事があります」

 

ここで願いと来たか。

ムソウの予定では、武装親衛隊を使って安寧道に対し牽制を掛けろと大臣が言うと思っている。

正確には、大臣が考え皇帝が命令する。

立場的にムソウはあくまで帝国の官僚でしかない。

現状、計画に支障を来さないためにも従っておくのが無難であるとムソウは瞬時に理解した。

 

「願いか、私に出来ることならば構わんが、不可能なことは断らせてもらうぞ」

 

「ええ、構いませんとも。ムソウ殿とムソウ殿の私兵である武装親衛隊ならば可能なことです」

 

「武装親衛隊は、西と南の異民族牽制に使われているのは理解しているだろう」

 

「全部動かせと言うわけではありません。一部だけならば他の部隊で補えるでしょう?」

 

「やることによって、どの程度兵を動員しなければならないか、分からないからな、一概に可能とは言えんな。それで大臣いい加減本題に入ったらどうだ」

 

「おおっと、そうですね。ムソウ殿にお願いしたいのは、反乱軍と繋がりのある傭兵や暗殺者狩りです」

 

ムソウの予想を斜め上を行くお願いに、一瞬だけだが内心驚いていた。

反乱軍とつながりがある、今の帝国内では、どれほどの規模に膨れ上がっているがムソウと言えど、流石に全容を完全にはつかめていない。

精々ムソウが掴んでいる情報は、異民族と貿易し、その利益を反乱軍に流している可能性がある村や街や都市や太守についての情報だ。

この情報だけでも十分だが、ムソウとしては可能性があるだけでは不満があり、完全な裏取りを現在進行形で取らせている。

しかし大臣がムソウにお願いと称した命令は、傭兵や暗殺者狩り。

全く手元に情報がないと言う訳ではないが、ムソウとしても無駄な手間だと思っている。

 

「その願いを叶えるとなるとかなりの人数を要すことになるぞ」

 

「そうですね。ならば真西から北に掛けての守り代わりの部隊を送ります。それでどうですかな?」

 

もし大臣の言うとおり真西から北に掛けて展開している部隊を使えるようになるならば、第1師団、第7師団、第8師団、第12師団の四つの師団を手元に戻せることになる。

そうなればムソウの計画はかなり大部分まで推し進めることが可能となるため、デメリットどころかメリットの方が大きい。

むしろメリットが大きすぎるため、大臣が何かを隠していると考えるのが自然だ。

 

「陛下としてもどうでしょう?ムソウ殿に反乱軍とつながりのある者を、この機会に粛清してもらっては」

 

「そうだな。ムソウにならば、安心して頼めるな!!」

 

まるで事前に打ち合わせたかのように、トントン拍子に話が進んでいく中ムソウは、大臣の狙いを考えていた。

今さら大臣が、暗殺者程度を恐れるとは考えにくい。

と言うのも、大臣は基本的に宮殿の外には出ない。

その宮殿も、守りはほぼ完璧と言っても過言ではない程厳重だ。

下手に騒ぎを起こそうものならば、近衛とそれを率いる帝国の英雄と呼ばれる大将軍、ブドーが直ぐさま駆けつける最高のセキュリティーだ。

 

「陛下もこう言っておられます。どうでしょうムソウ殿?」

 

下衆な笑みを浮かべながら大臣は、位置的な関係もあるがムソウを見下すように告げた。

 

「分かった。しかしそうなると、また帝都を暫く開けることになるが構わんか?」

 

「ええ、構いませんとも。ムソウ殿がいない間も保安本部は確りと機能していましたしね」

 

「分かった。3か月、その期間ですべて終わらせよう」

 

「何と!!3か月で、流石ですなムソウ殿」

 

大臣は、わざとらしく驚いて見せる中、その真黒な腹の内で、あらゆることを計算していた。

その一つが、ムソウに長期的に帝都から離れさせることで生まれるメリットについてだ。

ムソウが帝都に居るのといないのとでは、何かを企むにしても安心できないからだ。

そして自身と敵対している者を処刑するにも、ムソウと言う存在がどうしても邪魔になる。

僅かな隙、綻びを見せずとも見つけ出し、そこを突いてくるため、大臣に敵対する派閥は今なお存続できているのだ。

しかしムソウが長期的に帝都を離れると、ムソウと言う絶対的な守りがなくなるため、大臣の敵対派閥は何も装備しない状態で、激戦区を駆けぬけるような状態になってしまう。

大臣はまさにこの期を狙っていたのだ。

目障りな存在である、敵対派閥を消す好機を。

 

「では、お願いしますねムソウ殿。陛下からもムソウ殿に激励を送ってはどうでしょう?」

 

「そうだな!!ムソウお前には期待しているぞ!!」

 

「はっ!!」

 

ムソウは跪きこそしないものの、頭を下げるとそのまま謁見の間を出て行った。

 

「ヌフフフフ、期待していますよ」

 

ムソウが出て行き、扉が閉まる瞬間、大臣は誰に対してか分からぬ不気味な笑みを浮かべながら呟いた。

その姿が、閉まる瞬間の扉の間から黄金の瞳が一瞥していると気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムソウは自身の執務室に戻ると今後の指示を各部署に伝えていた。

大臣が考えている可能性のあるものを二つ予測した。

一つ目は、ムソウが傭兵や暗殺者狩りを始めた、と大臣が自身の手の物を使い密告し、危機感を煽らせようと考えていると思った。

そうすることで、逆に傭兵や暗殺者を、大臣自身が依頼や命令したという事実が存在せず、自主的に動かすことで目的通りに使うことができる。

ムソウの暗殺と言う目的に。

しかし大臣とて、バカではない。

程度の知れた連中ではムソウを暗殺することが叶わないことくらい、分かっているはずだ。

それこそ、一時期チェルシーに潜入させていた暗殺結社オールベルグ全員に帝具・村雨を装備させなければ不可能だ。

二つ目は、帝国へと戻って来ているとほぼ確証できる、シュラに何かしらの権限を与えることだ。

ムソウがいなければ、ことを容易に進めることができる。

一度権限を与えてしまえば、ムソウと言えど簡単に取り上げる事は出来ない。

精々度が過ぎない様に保安本部を使い、昼夜問わず監視をさせ、何かがあればムソウ自身が向かい止めること位だ。

現在の帝都は、宮殿にブドー、帝都にムソウとエスデスとどれ程の大軍が進んで来ても攻略できない完璧な布陣だ。

しかし、帝都からムソウがいなくなり、ボリックが暗殺された失態をカバーするためにエスデスが離れれば、その前提は覆る。

宮殿自体は、防御結界の帝具とブドーがいるから問題ないが、帝都自体には容易に刺客が入りやすくなる。

保安本部やイェーガーズがいるとはいえ、カバーできる敵の絶対値が決まってしまうからだ。

 

「これより私は暫くの間、帝都を離れる。緊急の連絡は無線機を使え。周波数は――」

 

シュラに対する対策は、既に保安本部員に伝えてある。

後は大臣がどこまでシュラを擁護するかだなと、ムソウは自身が離れることで、帝都で起きるであろうシュラによる遊び(殺し)を抑制できるか考えていた。

 




また来年からもよろしくお願いします。
来年は、卒業しての就職。
ニートになれず、作品を進めるスピードが下がるでしょうが、見捨てず温かい目で見守っていて下さい。

追伸
ツイッターアカウント作りました



来年も応援お願いします!!!!!


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一斬必殺の過去と過去の獣

新年一発目は零を題材としたものです。
まあ、零が完結する前位に限のいいところで切りますが……
原作11巻も出たことですし、ぼちぼち原作の方にも触れて行きたいと思っています!!

と言うことで、今年も獣が統べる!!よろしくお願いします!!


ボリックを暗殺したナイトレイド一行は、帰還時の襲撃を警戒し、大きく迂回して、南から帝都に戻るルートを選択していた。

 

「アカメ大丈夫か?お前が一番怪我が酷いんだ」

 

「痛みはもう引いて来ているから大丈夫だ」

 

私は、皆に無理矢理寝かしつけられながら安心するように嘘を吐いた。

痛みは引いてなどいない。

むしろ日を重ねるごとに痛みを増して来ている。

 

「そうか、もし痛むようだったら行ってくれ」

 

「分かった。しかしナジェンダは少し心配し過ぎだ」

 

ナジェンダもスサノオの奥の手を使って生命力を著しく消耗しているのに、人の心配をして優しいな。

 

「アカメ達はみんな大切な仲間だからな」

 

「仲間、か……」

 

仲間。

その言葉に帝国の暗殺部隊に居た頃のことを思い出した。

しかし、暗殺部隊に居た頃の仲間は、私を残して他は誰一人も生きていない。

そんな嫌なことを思い出しながらも、私はみんなに甘える形になると分かりながらも、襲い来る睡魔に勝てず眠りについた。

 

 

 

 

 

始まりはあの頃だった。

両親にクロメと共に帝国に売られた日。

 

「お姉ちゃん」

 

「大丈夫だクロメ。何があってもお前だけは守って見せる」

 

何も知らされないまま、私達は他に帝国に売られた子供達と一緒に、深い森の縁へと連れてこられた。

 

「これから君たちを試験をする」

 

左目側だけに片眼鏡をはめ込んでいる、骸骨を思わせるほど肉が付いておらず、むしろ骨に皮を張り付けた様な初老の男が言って来た。

いきなりの事態のため、クロメが震えた手で私の手を握ってきたため、落ち着かせるために私は強く握り返した。

 

「なに、試験と言っても簡単だ。君たちにこの樹海を突破してほしい。場所はこの位置から丁度反対に位置する場所だ」

 

簡単と言ってるが、そうじゃないことは誰にでも分かることだ。

しかしクロメだけは確りと守り通す。

 

「期限は、明日の日が昇り切るまでだ。ああ、言い忘れていたが、逃亡はそのまま死刑である事を忘れないように」

 

骸骨のような男はそれだけを言うと、この場を離れて行った。

 

「おら、なにをしているさっさと行かないか」

 

確認のために残されている兵の一人が、槍のように長い棒を使い、私達を追い払う様に樹海の方へと追いつめる。

 

「行こう、クロメ」

 

「うん!!」

 

私はクロメの手を引きながら樹海の中へと駆けだした。

これが地獄の始まりだと知らずに。

 

 

 

 

 

百を優に超える数の子供を帝国各地より買い集め、無垢であり無知である子供を帝国の暗殺兵器に変えるための計画。

今の帝国は多くの火種を抱え過ぎている。

既に何代も続けて皇帝が無能だったと言うのもあるが、中央地方問はず、汚職は当たり前、権力者の気持ち次第で簡単に尊厳は奪われ、命さえ散らす程腐敗が進んでいる。

稀に無能ではない皇帝がいたとしても、皇帝の取り巻きが自身の利益のために邪魔をする為、既に千年続いた帝国は、ほぼ死に体であることは誰の目から見ても明らかだ。

そんな帝国を変えようとする者達が、増え始め小規模だった組織は、日に日に同志や同じ思想の組織を取り込むことで巨大化し、ついには軍と言っても差し支えない規模にまで膨れ上がっている。

帝国側は、分かりやすくするため、その組織を反乱軍と呼称しているが、その実は今の帝国を変えるために集まった革命軍であることは、帝国上層部にいる者達は知っている。

だが、その事実を上の者達は、下の者達に教えることはしない。

都合が悪いからだ。

下には、まじめに働いている者もいれば、正義感を持つ者もいる。

そう言った奴らは上の者にとって、都合が悪いが使い方次第では便利な手駒にも成りえるためにそう簡単に切り捨てはしない。

上の者が最も恐れているのは、諜報部と保安部を一手にまとめる黄金の獣だ。

今回の計画は、表上は帝国に仇なす者の排除ではあるが、その裏で自分達にとっての明確な脅威であるムソウの排除が含まれている。

しかしその計画がムソウに気付かれた場合は、国家反逆罪を適用させ処刑、最悪の場合は強制収容所送りだ。

この様な綱渡り、本来ならば誰も進んで取り組むような愚か者は存在しないはずであった。

あらゆる犯罪に手を染めて来た上層部だ、保身には人一倍気を使っている。

だからこそ、ムソウと言う存在を恐れているとも言えるのだが、一人だけ例外がいた。

オネストだ。

文官の中でも頭一つ飛びぬけている男であり、その罪状は読み上げるだけで日が沈むと言われるほどだ。

そこまで分かっていながら、何故捕まらないかと言うと、その保身が人一倍どころか、人の何倍も上手いからだ。

捕まろうとすれば、迷わず部下を切り捨て、政敵に罪をなすりつけて、のらりくらりとやって来ている。

皇族の中でも最も若く帝位継承では下の方に居る皇子に取り入っていると言うのも理由である。

 

「そんなものを喰って腹を壊すぞゴズキ」

 

「はっはっは。面白いことを言いますね。元とはいえ羅刹四鬼がこの程度で腹を下しませんよ」

 

狩った危険種の上に座り込み、ゴズキと呼ばれた男は解体した部分を刀で串刺しにして生で齧り付いていた。

 

「しかし樹海に放った子供の数、どう見ても百を超えていたぞ」

 

「良いんですよ。どうせ弱った個体は此処で脱落しますから」

 

「まあそうか。それでゴズキお前は何人まで教育できる」

 

「んー……考えましたが、俺のキャパでは七人が限界ですね」

 

「よかろう、ならばランクを着けた後上位七人の精鋭を渡す。残りはすべてこちらが貰う」

 

そう言っている傍から最初の到達者が現れた。

 

「よく到達した。試験はもちろん合格だ。手当てを受けると良い」

 

一番最初に到達した子供に、奥に見える救護テントを示すとまたゴズキの元へと戻って行った。

 

「一番最初が来たと言うことは、優秀な者達は、そろそろ到達しだす頃合いだな」

 

「そうですね。しかし俺は思うんですけどね。この子たちを教育するのに十数年かかりますよ。その頃にこの国が続いてくれていればいいんですけど」

 

「幾ら腐敗したとはいえ、千年続いた帝国だ、そう簡単になくなりはせん。それにあの獣がいるんだ、むしろ我らが狩られるかもしれんぞ」

 

「そしたら狩り返すだけ……と言いたいところですが、そう簡単にいきませんからね……」

 

二人は、この場にいない黄金の獣の恐ろしさを知っている。

その黄金の獣に今回の計画を認めさせるため、オネストをはじめとした高級官僚たちは多くの者達に根回しをし、陛下に獣が気づくよりも早く許可を取ることで認めさせたと言うよりは、無理矢理承諾させたのだ。

 

「ゴズキ、この計画の裏はお前にかかっているようなものだぞ」

 

「責任重大ですなぁ、そっちもきちんと動きを把握しておいてくださいよ。鉢合わせになってしまっては計画が露呈して、皆さんの首も危ないんですから」

 

「分かっておる。その為に作り物の村まで用意するんだからな」

 

「おっ!!今度は二人揃ってのお出ましだ」

 

「ほう、これはまた、仲睦まじいですなぁ」

 

男は、二人の少女に腰に手を回した状態で近づいて行った。

 

「試験は合格、手当てを受けると良い」

 

「やったぞ!!合格だってクロメ」

 

「うん、ありがとうお姉ちゃん」

 

二人の少女を見送った男は、そのままゴズキの元へと戻った。

 

「後のことは総てお前に任せる。上位七名以下は総て残した兵に任せればいい」

 

「分かりましたよ」

 

乗ってきた馬車に乗ると男は、そのまま帝都へと戻って行った。

 

「さ~て、試験の結果でも伝えに行きますか」

 

愛刀である、帝具村雨を腰に差し、ゴズキは先ほど着いた二人が、手当てを受けているテントへと向かった。

 

「試験の結果を発表しよう」

 

日の向きもあり、ゴズキの顔が影で隠れている。

そのためか、一層その存在感を強く感じさせている。

 

「クロメはキルランクNo.08。アカメはキルランクNo.07。妹を庇いながらこの結果はすごいぞ」

 

ゴズキは一旦二人を見回し、一拍間を置くと、二人にとって絶望的な事を告げた。

 

「お前たち試合は別々の場所で教育を受けることになる。アカメは俺と来い、クロメは帝都行きだ」

 

「いやだ!!私はクロメといる!!」

 

「お姉ちゃん……」

 

アカメはクロメを強く抱きしめ、クロメもアカメに抱きつきと弱弱しくアカメに縋った。

しかしゴズキが指を鳴らすと、外で待機していた兵がアカメを取り押さえ、クロメを無理矢理引き剥がし、二人の中を無情にも引き裂いた。

 

「大丈夫だ、離れるのは一時的、お互いきっちりいい子にしていれば、必ず会えると約束してやる」

 

「クロメ、クロメ!!」

 

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」

 

二人の叫び声が響くが、現実は非情あった。

 

「悲しむことはないぞアカメ。俺がお前の新しい家族だ。『お父さん』と呼んでいいぞぉ?」

 

アカメを見下ろすゴズキの表情は、まるで無力なお前が悪いと言わんばかりのものであった。

この二人に生まれた格差は、後々二人の仲を引き裂き敵対させる序章となる。

 

 

 

 

 

 

「そうか、分かった」

 

黄金の獣と言われるムソウは、諜報部と保安部、更に自身の私兵である武装親衛隊から持ち寄られる情報を処理し、適切な指示を出していた。

そして今持ち寄られた情報は、ジフノラ樹海と言われる帝国でも屈指の樹海を使い、金にモノを言わせて買い揃えた子供を、暗殺者に育て上げるためにまずはその実力を知るため、という名目の実力選定の結果が届けられた。

この時点でかなりの子供たちが死亡したこと、突破した子供たちは総て帝都近郊にある処刑場でまずは殺しに慣れさせると言うものであった。

この情報は完全にムソウの配下にある諜報部とは別の諜報機関が担当しており、その諜報機関より出された報告書であるため、総てを鵜呑みにするほどムソウは愚かではない。

 

「しかし陛下も愚かな選択をしたものだ」

 

文官であるオネストを初めとした、オネスト派と呼ばれる派閥に皇帝が唆され子供を買い集め暗殺組織を組織しようとすることを承認させたのだ。

むろん、ムソウはこの様なことを当初より反対していた。

リスクとリターン、更に子供を買い集める金そのものが無駄であるからだ。

更にその育成にも金がかかり、その全ての子供に殺しを慣れさせると言うことは、それだけの罪人を集めると言うことにもなる。

無能で無力で、その機能を殆どはたしていない地方軍に一部の太守。

賄賂が横行し、罪なき人に罪を着せ自身はその欲を満たすために罪を犯す無能な官僚と、それに付き従う帝都警備隊。

ハッキリ言ってこの国は腐りきっており、何時国民の我慢の限界が訪れても可笑しくはない。

 

「失礼します」

 

礼儀正しく三度扉をノックする音がムソウの執務室内に響き渡った。

 

「入れ」

 

「報告書をお持ちいたしました」

 

「見せて見ろ」

 

ムソウが受け取り、報告書の中身をパラパラと流し読みしていた時であった。

一つ気がかりな文が入っていた。

北西の辺境にあるロウセイ山。

その近辺に新たに村が生まれたと書いてあったのだ。

村がそう簡単に生まれる訳がない。

特に帝国の存続が末期に近い今、新たに村が生まれる様な余力はどこにも存在していない。

にもかかわらず村が生まれた。

無垢で無知な子供を利用した暗殺者集団と新たに生まれた村。

接点は全くないと言っていい。

若しかしたら偶然生まれたと言う可能性もあるが、逆にそれが怪しくも思える。

考え出したらそれこそ限がないため、ムソウは一つ保安部を動かし確認することにした。

どの道、村が生まれたと言うならば、色々と確認を取っておかなければならない。

 

「分かった下がっていい」

 

ムソウはそれだけを言うと報告に来た部下を下がらせた。

 

「保安部に出向かせ諜報部に調べさせるか。位置的には武装親衛隊が近いが……」

 

敵性分子もいないかを調べるならば、保安部の仕事だ。

しかし長期的に潜入させるならば諜報部、位置的に近いのは武装親衛隊だ。

 

「武装親衛隊を動かした場合、異民族以外に内部にもいらぬ疑いをかけられる恐れがある。ならば、他二つを使っておくか」

 

ムソウは、保安部による確認と、諜報部による長期的内部調査を行う決断をした。

もし、諜報部であると言う確信を官僚の誰かが気が付いた場合、間違いなく裏があることになる。

結果を出すにしても5,6年もあれば十分だろう。

村が人工的に作られた者であれば、反乱軍であれ内部の不穏分子であれ、何かしらの情報を得ることができる。

例え鬼や蛇が出ようとも、ムソウの前では等しく無力である。

ムソウを抑え込もうと思うならば、それこそ伝説とされる超級危険種が群れで襲い掛からなければ無理というものだ。

そのことが比喩でないことを、帝国に使える者達は事実であると捉えている。

だからこそ、ムソウにすり寄ってくる者が後を絶たず、また恐れ排除しようとするものが徒党を組むのだ。

それが無駄であると分かっていながら。

利害の一致でムソウと一時的に組むことができる者もいないこともないが。

 

「さて、後は向こうの諜報機関だが」

 

暗殺部隊の育成に向こうのトップが精力的になるのは、予想できる。

成果次第では、十分出世できる可能性があるからだ。

しかしムソウと敵対するには時期尚早であること位分かっている。

念のためと潜入させていた諜報員の報告待ちか。

ムソウは後手に回らないためにも、情報収集を現状優先する方針をとることにした。




ツイッターのフォロワー中々増えないな~
そして、他の作品も更新しないとな~主にストブラとかストブラとかストブラ
以上ただの愚痴でした。



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死者行軍の過去と獣の動き

今回はいつもよりも短いです……


ジフノラ樹海を突破した子供たちの内上位7名に入れなかった子供たちは、馬車に無理やり乗せられていた。

目的地は、帝都処刑場だ。

そこには、斬っても斬っても余るほどの罪人がいる。

最も多いのは、帝国最大の大監獄であり、次に多いのは黄金の獣が管理している強制収容所だ。

しかし数が多いからと言って、大監獄の中に居る者達が全員罪人かと聞かれるとそうではない。

それは強制収容所にも言えたことだが、怪しいから、疑いがあるからと言っただけで抑留されている者達もいる。

無実の罪で捕まっている者もいるが、そう言ったものは強制収容所にはいない。

異民族か、異民族とつながりがあると言うだけで十分罪を適用される。

強制収容所にはどちらかというと、そう言った者の方が多い。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

 

馬車に無理矢理乗せられ、最も信頼し、愛する姉と離ればなれにされたクロメは、俯き譫言のように同じことを呟き続けていた。

 

「着いたぞ。全員下りろ」

 

馬車を覆っていた布をめくり上げながら、一般兵はめんどくさそうに告げた。

ジフノラ樹海を突破したからと言って、正規の兵に勝てると思うほど子供達も馬鹿ではない。

特に樹海を突破したばかりで体力が落ちているのならばなおのことだ。

一人一人順番に降りて行く中、クロメだけが姉と離ればなれになったショックからか、座り続けていた。

 

「おい、さっさと降りろ!!」

 

一向にに降りようとしないクロメに業を煮やした兵が、馬車の中に乗り込むとクロメの髪を掴み引っ張った。

 

「痛い痛い、やめて!!」

 

髪を力任せに引っ張られたクロメは痛みを訴えるが、それを聞き入れる様な優しい人間が、この様なことをそもそもする筈がない。

 

「ほらさっさと降りろ」

 

投げ飛ばされる様にしてクロメは、無理矢理馬車から降ろされた。

 

「きゃっ!!」

 

「ほら、さっさと立て」

 

クロメはゆっくりと落ちあがると、他に連れてこられた子供たちの最後尾に並び着いて行った。

生き残った子供たちが連れてこられた先は、処刑場であった。

帝都処刑場と言う名称を指すところではなく、文字通り人を殺す場所であった。

晴天の元に在り、綺麗に清掃が行き届いているが、それだけでは隠すことができない程の死が蔓延している。

多くの人の命が散っているこの場所は、慣れない者を強く拒む感覚を子供たちに植え付けた。

 

「思った以上に残っていたようだな」

 

自分達を親から買い取った張本人が子供たちの目の前に現れた。

肉付きは悪く、骨の上に直接皮がはりついている様な感覚を感じさせる片眼鏡を左目に埋め込んでいる男は、背筋を凍らせるような笑みを浮かべていた。

 

「では、これより五人一組のチーム分けをする。チーム分けは試験結果に基づき振り分ける」

 

男は、兵から渡された紙を見ると、子供たちの方へと向き直った。

 

「Aチーム、クロメ、ギン、ナタラ、ウーミン、レムス。Bチーム……」

 

誰がどのチームになり、誰と一緒になるのかを淡々と告げていった。

 

「今呼ばれたのが、今後生活仕事を共にする仲間だ。さて、次にお前達には人を殺すことに慣れてもらう」

 

いきなり人殺しに慣れてもらうと男は言った。

いきなりのことに子供たちは誰一人理解が追い付いてはいなかった。

 

「何、殺してもらうと言っても国を安寧を乱す輩だ。死んで当然の悪党を君たちの手でこれからも殺すんだ。ならば慣れるのは早いことに、こしたことはないであろう?。では、Aチームからやってもらう。他のチームは割り当ててある部屋で待機だ。部屋につれていっていろ」

 

「「「はっ!!」」」

 

男の横に控えていた兵たちは、敬礼すると他のチームの子供達を連れて行った。

中には状況を理解できていない子供もいるようだが、そう言った子供たちは暴力によって黙らされた。

これが今の帝国の現状だ。

それを子供たちは痛みによって痛感させられていた。

 

「さて、残った者達には、これから処刑される罪人を殺してもらう。先ほども言ったが全て国を乱す反逆者だ、遠慮はいらん。まずはクロメからだ」

 

いきなり名前を呼ばれたクロメは、身体をビクリと震わせた。

慣れない環境と言うのもあるが、今のクロメは最愛の姉であるアカメと無理矢理離れ離れにされているのだ。

その精神状況は、最悪の一言に尽きる。

 

「この刀を使いなさい」

 

しかし男にとってクロメの精神状態など知ったことではなかった。

求めているのは、使えるか使えないか、ただそれだけである。

使えなければ切り捨てる、使えるならばキルランク上位であるエリートたちと同じ性能を引き出せるように薬を使ってドーピングする。

人道的、倫理、人権、そのようなものはこの場には存在しない。

あるのはただ一つ、自身の有用性を証明し続け、生かされ続けることのみである。

 

「あれが罪人だ」

 

兵たちによって、既に拘束されている男が連れてこられた。

 

「俺は無実だぁぁぁぁあああああ!!全てぇええオネストが悪いんだぁあああ!!」

 

男は恥も威厳もかなぐり捨て、泣き叫んでいた。

 

「何をしている。あれを斬りなさい」

 

「無理です無理です」

 

クロメは首を横に振り、自分には出来ないと必死に告げる。

 

「君が良い子にしていないと、君の大好きなお姉ちゃんの迷惑になる。それに会えなくもなるぞ」

 

お姉ちゃんの迷惑になる、会えなくなる。

その言葉がクロメの心に突き刺さる。

自身を守ってくれる愛しのお姉ちゃん、困った時何も言わずに手を差し伸べてくれるお姉ちゃん。

お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん。

クロメはアカメのことばかりを考えながら駆け出した。

そして初めて持った刀を目を瞑って振り下ろした。

 

「がっ!!」

 

丁度急所を切り裂けたためか、男は血を吐きながら倒れ伏した。

 

「おお、よくやった!!」

 

男は一人目にして一撃で、殺したこの事実を嬉しく思い拍手と共にクロメに賛辞を送った。

しかしクロメは口元を抑えたが、いきなり人を殺したためか堪えきれず吐き出した。

 

「では次ギン。君だ」

 

名前を呼ばれたギンと言う少女は、びくりとクロメと同じように肩を震わせ、おずおずと前に出た。

男はクロメが使った刀とは別に用意されている刀をギン手渡した。

残された面子も、いきなり人が殺される所を見せつけられたため気分が悪そうだ。

しかし男には関係ない。

 

「さあ、やりたまえ」

 

連れてこられた罪人に向ってギンは駆けだした。

 

 

 

 

 

 

兵の中に混じっている、ムソウの部下である諜報員は、現状を確りと頭の中に記憶していた。

堂々と何かに書いていたら、それこそ『私はスパイです!!』と自らばらしていることになる。

そのため、諜報員には記憶力や捕まった時のために、自決手段が最低でも二通り以上用意することが義務づけられている。

他にも逃走手段や、変装術、暗殺術など広く深く技術技能を持っている。

それほどの技能を身に着けていなければ諜報員は務まらないのだ。

 

「さすがにまだ子供か。使えるようになるには、まだ時間が掛かるようだが中々の人材たちだな」

 

ムソウに提出する報告書に何と書いたものかと諜報員は悩んでいた。

現状をそのまま書き連ねて提出しても問題はないが、その程度のことは他に潜入している諜報員が、既に提出しているであろうことは予想できる。

ムソウが気に掛けている機関に対し、諜報員が一人だけということはまずありえない。

他の諜報員と決定的に差をつけるには、どうしても報告する内容の質が左右する。

 

「後は、最近出入りしているスタイリッシュくらいか……」

 

諜報機関の長とスタイリッシュが、近頃二人っきりで良く話をしているのは有名だ。

何について話をしているのかは誰も知らないし、知らされてもいない。

調べるだけの価値は十分だろうが、危ない橋を渡ることになるのは、誰の目から見ても明らかだ。

だからこそ、その情報に価値があるのだが、一人で調べるにはリスクが高すぎるのも事実であり、他に入り込んでいる諜報員と手を組むのも考えられる手段である。

しかし他の諜報員までもが見つかってしまった場合のリスクも考えると足踏みしてしまう。

そんな時であった。

 

「ああ、君」

 

「はっ!!何でありましょう?」

 

いきなり背後から諜報機関の長である男に声を掛けられたのだ。

 

「ドクターの元へ行って制作状況を確認しに行ってくれ」

 

「ドクタースタイリッシュの元へですね」

 

「出来るだけ早く結果を出したいのでね。遅れている様なら速める様に催促して来てくれ。何ならある程度の報酬を払っても構わん。そこの采配は君に任せる」

 

「了解しました」

 

いきなり呼びとめられたことに驚いていたが、これはチャンスだと諜報員は思った。

制作状況が何を指しているかは、諜報員にはおおよその見当はついている。

ドーピングするための薬物だ。

被検体のことなど無視した物で、副作用や後遺症など一切考慮していないものだ。

詳しい実情は知らないが、ある程度の情報は諜報機関に働いていればおのずと耳にするものだ。

向かう先が向かう先のため、その足取りは決して軽やかではないが、ムソウが望む情報を手に入れるため向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告御苦労。下がっていいぞ」

 

ムソウは、報告書を提出した諜報員を下がらせると、報告書に目を落とした。

ムソウの執務室内では、報告書をめくる音だけが静かに立っていた。

報告書を読み終えたムソウは、軽く息を吐いた。

 

「思ったよりも早い段階で、面白い情報が手に入ったな」

 

諜報員の有能さに、ムソウは満足げな表情を浮かべていた。

諜報機関に入り込んでいる者からの報告書には、買い取った子供たちをドーピングで、地力を底上げすること。

更に子供たちをランク分けしていること。

最も興味が引かれたのは、ランクが8位からしか存在していないことだ。

つまり上位7人は、どこか別のところにいると言うことになる。

諜報機関であるのにも関わらず、数日と掛からず情報が手に入るのだ。

諜報機関でありながら、簡単に情報が知れるこの体たらくでは、その機能や存在意義そのものを疑ってしまう。

 

「そうなると、もう一方の方も、少しばかり力を入れて調べさせるか」

 

北西の辺境にあるロウセイ山。

その近辺に新たに生まれた村。

新たに生まれるにしては、タイミングが良過ぎるため疑うなと言う方が無理である。

そのためすでに何人も諜報員を派遣してはいるが、場所が辺境に位置している関係もあり、未だに情報は入って来てはいない。

最悪の展開としては、諜報員が全て消されていることだ。

内容が内容のため年単位で音信不通もありえなくはないため、ムソウとしても迂闊に動いて職務の邪魔をするわけにはいかない。

そのため、どんなに情報がなくとも生存報告を兼ねて5年に一度は報告書を提出させるようにしている。

任務前に事前申告がなければ、消されたと判断するための判断材料にするためだ。

 

「別件で北方太守を調べさせているが中々尻尾を出さないか……最悪、道中少し遠回りになるが直接出向くか」

 

北の異民族と領土が隣接しているラクロウ城、その太守が内通している可能性が出て来ている。

完全な確証がないため、諜報員と保安部員を既に派遣しているが、流石に太守と言う地位。

異民族と内通すると言うリスクを冒しているだけあり、未だ尻尾を出してはいない。

まとめて処理するか、ムソウはそう結論づけると、次の案件に思考を切り替えた。




誤字がないか日頃から探してはいるんですが、中々見つからないです。
評価を付けてもらえるのは嬉しいのですが、そのたびに誤字が指摘されていて……


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魔神顕現の過去と獣の狙い

また更新するのに時間がかかりました。
待っていて下さった方々申し訳ないです。

ふとエスデス様ヒロインとタグに書いておきながら、絡みが少ないなと感じたためエスデス様メインで書きました。



キョロクから帝都へ帰還した翌日のことだ。

イェーガーズは、負傷したメンバーを除いて既にナイトレイド捜索に取り掛かっており、ウェイブは一日の報告をするために一人エスデスの元を訪ねていた。

 

「そうか、まだ見つからないか」

 

「すみません隊長、あの時俺がもっと確りしていれば」

 

「いい、お前は役目を全うした」

 

「ですが!!」

 

「もういいと言っているだろ!!何度も言わせるな!!」

 

「……すみません」

 

エスデスにもウェイブの気持ちが分かる。

護衛対象であるボリックが殺されたのは、自身の未熟が原因だ、と反省する余地があり次にと切り替えることができる。

しかし、仲間を殺された気持ちを簡単に割り切り、切り替えるには経験が必要だ、それも仲間が殺される。

ウェイブには決定的なまでにその経験が足りず、自身が原因であると自身を追いこんでいるがために、焦る気持ちを余計なまでに募らせている。

武力と言う一面で見れば、既に完成していると太鼓判を押してもらえるウェイブだが、精神面ではまだ未熟であるが故に、焦ってしまう。

エスデス自身が、危険種専門の狩猟民族出身であり、幼少期から弱肉強食の喰うか喰われるかの世界で教えられ育ったためか、焦れば焦るほど自身が不利になることを直感で理解している。

ウェイブも、その未熟さが経験を積めば解決してくれるであろうと、エスデスは直感的に感じていた。

 

「俺はこれで失礼します」

 

「ああ、今日はゆっくり休め」

 

エスデスはウェイブを見送ると、自身がやらなければいけない仕事に取り掛かった。

将軍職もあるが、そちらは簡単な報告だけで良いため楽である。

だが、イェーガーズの職務はそうはいかない。

表面上は大臣とも仲良くやっているため、常日頃ならばそこまでも難しくはない。

しかし、今回ばかりそういう訳にはいかない。

護衛対象を殺されてしまったため、面倒な書類が増えているのだ。

エスデスは憂鬱な気持ちになりそうになりながらも、書類をまとめていた。

本人は、書類作業のような地味な作業が自身に向いてないことを良く理解しており、それよりも人や危険種関係なく、爽快で刺激的な狩りをやりたい気持ちでいっぱいだ。

そんな時だった。

 

「失礼するわよ、隊長」

 

「ドクターか」

 

「隊長に頼まれていたことだけど、もう大丈夫よ。クロメの症状は、ドーピングしている薬の副作用の様なものだから、アタシが調合したスタイリッシュな薬で一発で治ったわ」

 

「そうか。ならクロメは明日から、いつも通りの仕事ができると言うことだな」

 

「ええ、何なら今すぐ危険種の討伐に行かせても大丈夫よ。アタシが保障するわ」

 

「さすがの腕だな、ドクター」

 

クロメがドーピングで、地力を底上げしているのはイェーガーズ内で暗黙の了解となっている。

そのため定期的に薬を何らかの方法で摂取しなければ、副作用や禁断症状に犯され精神的肉体的の両方から苦痛を感じるのだ。

そのインターバルが最近は特に短くなってきており、さらに追い打ちを掛ける様に、ボリック護衛任務で長期的に帝都を離れたことも重なり、任務中に薬が切れてしまったのだ。

そんな状況の中でも、クロメは任務続行の意思を見せたため、最後まで任務に同行させる許可を出したのが仇となってしまった。

 

「それで、クロメは今どうしている?」

 

「あの子なら、今は部屋で寝ているわ」

 

「……そうか、分かった」

 

「じゃあ、アタシはこれで」

 

「ご苦労だったな、ドクター」

 

スタイリッシュが退室するのを確認したエスデスは、気晴らしに窓の外を見た。

外は既に日が落ち、月明かりと家々に灯る火の光が光り輝いているのみであった。

 

「もう、そんなに時間が経っていたのか」

 

エスデスが書類仕事を始めた時間が、昼食をとった後からと言うことを考えるとかなりの時間が経ったことになっている。

 

「私も今日は帰るか」

 

エスデスはあまり着飾ったり、物を持たないため、身支度に時間を掛けることなく手早く済ませると、イェーガーズ本部を後にした。

表面上は賑わっている帝都だが、一歩脇道に入れば光はなく闇のみが広がっている。

老若男女問わず死体が転がっているのも日常茶飯事だ。

そんな帝都のメインストリートを抜けると、帝国の威信の象徴とも言える宮殿が待ち構えている。

エスデスは、いつものことであるため何の気負いもなく入って行った。

 

「お疲れ様です、将軍」

 

「お疲れ様です、エスデス将軍」

 

「お前達もご苦労」

 

門番に対しても高圧的ではあるが、労いの言葉を掛けてエスデスは宮殿の中へと入って行った。

宮殿の中は、夜であることいこともあり静まり返っていた。

時折見回りをしている近衛兵とすれ違う程度で、他はいつもと変わらずエスデスは宮殿内にある自室へと着いた。

 

「ふぅ」

 

エスデスは、軽く息を吐くとおもむろに軍服を脱ぎだした。

形の良い胸が服と言う枷から解き放たれ、その存在を自己主張させる。

見た目だけならば、誰もが手を伸ばしたくなる存在である。

しかし昔から綺麗は華には棘があると言うよおに、エスデスと言う華には物理、精神に効く毒を持っている。

そのため理性的である者であれ欲望で忠実である者であろうと、エスデスの持つ毒が如何に危険か、触れる前から分かり切っているため手を出すようなことはない。

そのような者達が、エスデスと言う華が既に一人の男の物になっていると知ればどのような顔をするか、想像するのは難しくはない。

エスデスは服を脱ぎ終わると、そのままシャワーを浴びに行った。

目を閉じお湯がエスデスの全身を温め、白い肌を紅く染め上げる。

 

「クソ!!やってくれたなナジェンダ」

 

エスデスは、いきなりシャワー室の壁を力いっぱい殴りつけた。

部下の前では見せられない、怒りとも憤りともつかない表情を浮かべている。

 

「もう同じ手は食らわんぞ。次会った時は蹂躙してくれる」

 

静かに決意を新たにしたエスデスは、シャワーを止め髪の水気がなくなる程度に拭き全身を拭くと、帝国の男どもが金を出してでも見たいであろうYシャツだけの姿でベットに倒れ込んだ。

そしてゆっくりと睡魔に身を任せたエスデスは、その日、懐かしき日のことを夢として見た。

 

 

 

 

 

数年前――

エスデスが帝国軍に仕官した日のことだ。

 

「帝国軍人とは言え、この程度か」

 

背の丈が現在と比べると二回りほど小さく体型も今ほどメリハリがないエスデスは、殺しこそしていないものの気を失わせた帝国兵を踏みつけながら告げた。

当時は、まだ不況の影響が表面化になっていなかったため、軍に仕官したエスデスはあっさりと入隊することが叶った。

帝国も自然界と同じで弱者は淘汰され、強者が生き残る弱肉強食の世界だ。

ただし必要な強さが、必ずしも武力であるとは限らない。

そんな帝国を護る盾であり、敵を葬る矛である軍人たちが常日頃から訓練している練兵所で、弱肉強食の精神を示すためにエスデスは、さっそく問題を起していた。

 

「新入り、いい加減にしろ!!」

 

「ふん、私は弱い者の下に付く気はない」

 

「何だその口のきき方は!!少しは慎んだらどうだ!!」

 

「弱者が何と囀ろうと、私には関係のないことだ」

 

「何だと!入ったばかりの小娘が!!」

 

「なら、その小娘に倒される程度の部隊員の隊長は、余程指導する才能がないんだな。こんなのが私の上司だと思うと、帝国軍に入ったのを今からでも取り消したいものだ」

 

「……どうやら少し教育する必要があるようだな」

 

エスデスが配属された部隊の部隊長である男は額に青筋を立てながら、腰に差している剣を抜き放った。

一点の曇りもなく、刃こぼれしている様子は見受けられない新品の様に綺麗な剣だ。

余程丹念に手入れを施しているのか、一度も使ったことがないかのどちらかだ。

部隊長は残念なことに後者に当る。

軍の上層部に親戚がおり、そのコネで部隊長に成り上がっている男であるため、部隊長に必要な実力が一切ともなっていない。

口調こそ出来る男を装っているが、その実態は、権力を笠に着て女を買いあさる様な小物だ。

 

「確かお前は、危険種を狩って生きて来たんだったな。なら、俺は剣を使うがお前は訓練用の剣で十分だな」

 

訓練用とはいえ当たれば痛いが、あくまでも訓練用。

刃引きがされているため、斬ることができないので簡単に致命傷を与えることはできない。

せいぜい鈍器として役立てるくらいしか、使い道がないものだが、頭や顔、喉などの急所ならば致命傷を与えることも可能だろうが、的の小さいため相応の技量が求められる。

エスデスは、求められる技量を十分以上に身に着けている。

 

「ハンデとしては十分だな」

 

刃引きされている剣を無造作に構えながら、エスデスは上から目線で言い放った。

それが癇に障ったのか、男は何の合図もなしにいきなり斬りかかった。

しかし所詮は、権力で得た地位の持ち主だ。

剣の筋はブレており、これではまともに人を斬るどころか訓練用の人形でさえ斬れない。

エスデスはそんなブレブレの太刀筋で振り下ろされる剣を、横から思いっきり刃引きされた剣で殴りつけた。

握りが甘かったのか、男が持っていた剣はそのまますっぽ抜け、剣は明後日の方へ向かって飛んでいきご都合主義の様に剣が地面に突き刺さるようなことはなく、そのまま地面に落ちると練兵場全体に金属特有の高い音を響かせた。

 

「思ったよりもあっけないな」

 

「い、今のは油断しただけだ!!」

 

「命のやり取りをしようと言う者が油断か、お前の命は余程安いらしいな」

 

「な、何を!!」

 

今にも激高しそうな様子の部隊長を見かねた、他の部隊員が部隊長を抑えにかかった。

 

「部隊長抑えてください」

 

「ここで問題を起したら大変なことになりますよ」

 

「そうですよ。特に今日は――」

 

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!!あんな小娘に虚仮にされたんだ、相応の償いはさせないと気が治まらん!!」

 

抑えにかかった部隊員を暴れた振りほどこうとするも、所詮は訓練された兵と成り上がりの部隊長。

その力の差は歴然であり、部隊長は直ぐに取り押さえられた。

その様子を遠巻きに見ていた、他に練兵場を利用している別部隊の隊員たちは、よりによって今日問題を起こすなよと心中穏やかではなかった。

何故今日問題を起こすなと思っていたかというと――

 

「何の騒ぎだ」

 

たった一言。

声量も張り上げた様な大声ではなく、あくまで話しかける様なものだが、その一言は騒がしい練兵場に居ながら全ての者達の耳に届いた。

格の違いを思い知らされる存在感、黄金の髪をなびかせ、総てを見下ろすような二つの黄金の瞳。

帝国において武では大将軍であるブドーを優にしのぎ、文において並び立つ者がいない皇帝以上に皇帝らしい風格を身に纏った黄金の君。

その名を――

 

「ム、ムソウ長官!!い、いえ何でもありません!!」

 

「その割には、そこの男が喚いていたようだが?確か軍で部隊を預かっていると記憶しているが」

 

「問題ありません!!少し身内内でごたついているだけです!!」

 

「そのことを問題と言うと思うが、まあいいだろう。だがそこの娘の意見は違うらしいな」

 

ムソウが見ている視線の先には、部隊長が持っていた剣を拾い上げ今にも襲い掛かろうとしているエスデスがいた。

 

「おい誰か!!新入りを止めろ!!」

 

エスデスが何をしでかすか、いち早く察した者が声を張り上げた。

その声で周りにいる者達は、エスデスを取り押さえるため、エスデスに向かって駆けだした。

唯でさえ部隊長が喚いている様子をムソウに見られているのだ。

エスデスがムソウに襲い掛かりでもしたら、ただでさえ悪くなっていると思われる心証を更に下げることになる。

ムソウの心証を悪くしたことがある。

その事実が存在するだけで、帝国に仕える者の昇進する機会が奪われることになるからだ。

それだけはこの場にいる者達全員避けたいと思っている。

 

「長官、お下がりください」

 

「あの者達では、あの娘を取り押さえる事は叶わないでしょう」

 

ムソウの護衛に付いている者達がムソウの前に立ちつつも、的確にエスデスの戦力を計っていた。

エスデスが将軍と呼ばれるまでに成長した時ならば、ムソウの護衛に付いている者達を完封できただろう。

しかし、今のエスデスでは危険種相手の豊富な経験を有しているが、ある一定レベルを超えた対人のスペシャリスト相手には勝てない。

特に、その地位から常に命が危険にさらされているムソウを護衛する者達だ。

その者達が命を懸けてとなれば大将軍であるブドーの足止め、人数が集まれば一矢報いることさえ可能な者達だ。

 

「いや、大丈夫だ。あの娘は私と闘いたいようだからな。お前たちが組み伏した所で諦めまい」

 

「しかし、長官の身にもしものことがあれば!!」

 

「長官の護衛が私どもの職務ですので」

 

どこまでも職務に忠実な者達だ。

その職務に対する忠誠心はムソウにとっても好ましく、護衛に付いている者達の評価を上げるに値する。

 

「邪魔だ!!」

 

エスデスは、自身を取り押さえにかかってくる兵士たちを、殺さないように手加減していた。

もし殺しでもしたら、自身が狩るに値すると上から目線で評価した黄金の男、ムソウと戦わずしてムソウの前に立ちはだかっている護衛たちに殺されると直感で察したからだろう。

 

「それなりの技量はあるようだな」

 

「ええ、間違いなく将軍級の器ではあります」

 

「将来的には我々では守り通せないでしょうが、今の技量では我々だけ十分です」

 

「だからこそ私自ら技量を計る。この様な場所で終わらせるには惜しい人材だからな」

 

だからと言って、諜報部や保安部にスカウトするかというとそうではない。

既に軍に入っているため、利害関係のことも考えると引き抜くことは得策ではない。

また、動きを一目見ただけで、諜報部や保安部の職務に向いていないことを察していた。

ならば、ムソウに出来ることは、せいぜい軍の上層部に圧力をかけるか、いい報告を上げることだ。

軍の上層部に親戚のいる程度の部隊長が悪い報告をしたとしても、ムソウの報告と天秤にかけ、どちらを優先するか、それは自明の理だ。

 

「ですが、我々の職務は長官をお守りすることです」

 

「ふむ、それも確かだ。ならば命令だ。私の背後に控えておけ」

 

「!?分かりました」

 

「……了解しました」

 

ムソウの護衛に付いている者達は、不服であると内心思っているが、命令である以上従わない訳にはいかない。

最上位に位置するムソウからの命令だ、従わなければ、それこそ軍法会議にかけけられる。

そのことを理解してか、護衛たちはムソウの背後に回り、周囲を警戒することにした。

 

「私はムソウ、帝国で諜報部と保安部の長官だ。娘、お前の名前を聞いておこうか」

 

「私の名前はエスデスだ」

 

「エスデスか。名は体を表すと言うが、まさにお前のためにある様なものだな」

 

加虐的な笑みを浮かべているエスデスに対してムソウは告げる。

 

「それは褒め言葉として受け取っておこう」

 

年齢から考えると言葉遣いが部不相応ではあるが、帝国に仕官する前まで一人で危険種を狩り続けて来ているのだ。

そこからくる絶対的な自身が、性格に影響を与えている。

 

「私に全力を見せて見ろ」

 

ムソウが不敵な笑みを浮かべながら言うと、エスデスは一気に駆け出した。

一気にムソウと距離を詰めったエスデスは、そのままムソウの首に斬りつけた。

とった!!エスデスは内心、絶対的確信を抱いていた。

しかし剣の刃から、人の肉を斬り骨を断つ感触が未だに感じられず、それどころかエスデスの予想に反して、金属と金属が衝突した甲高い音が鳴り響いていた。

ムソウは一瞬のうちにサーベルを抜くと、自身の首とエスデスの剣との間に割り込ませたのだ。

 

「実力は十分、才能もある、努力もしているようだ。しかし欲望を何より優先する姿勢はいただけない」

 

ムソウは空いている手でエスデスの顔を掴むと、地面に叩きつけた。

 

「っ!?」

 

「ほう、耐えるか」

 

「まだだ!!」

 

「そこから立ち上がるとは、気概もあるようだな」

 

ムソウに勝には気概だけでは足りない。

そのことをムソウは、一瞬のやり取りで感じ取っていた。

しかしエスデスとて、弱肉強食の野生の世界で今まで生き延びて来ているのだ。

簡単に引き下がりはしない。

だが、立ちはだかる壁は高く超えることが不可能と感じてしまうほどだ。

 

「ならば、敬意を表し少し本気を見せてやろう」

 

ムソウがそう言った瞬間、エスデスの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エスデスが目を覚ましたのはムソウが帰った後であった。

起き上がり周りを見渡すと、今いる場所が見慣れた自身の部屋であるとエスデスは理解した。

そして、それと同時に自身が敗北したことも。

今まで敗北を味わったことのなかったエスデスは、言い知れぬ感覚が自身を支配していることを理解できずにいた。

欲望と本能と直感で生きて来たエスデスは、ある意味野性的であるとも言える。

そして、自身の中に在る普遍的なルールが『弱肉強食』である。

弱者は淘汰され、強者に従わされる。

そのルールに当てはめるならば、自身の意識を一瞬で刈り取ったムソウに自身が従わなければならないことになる。

だが、それを簡単に認めるほどエスデスは弱くはなかった。

『次こそは、次こそは自身が勝つ』、それだけを今エスデスは考えていた。

結果的にエスデスはムソウに勝ことは未だ叶っておらず、帝具を得た当初でさえムソウに簡単にロンギヌスを出させることは叶わなかったが、今では早い段階でださせれる様になかったのが唯一の誇りでもある。

何度も襲撃する内に、初めて敗北した時感じた気持ちが、敗北感であると理解し、次に理解したのがムソウが世界でも比類なき強者であると言うことであった。

そんな中でエスデスの中に残る女の部分が、ムソウと言う圧倒的にして絶対的強者に惹かれて行ったのだ。

ある意味でお約束とも言える展開でもあったが、納得できる者でもあった。

自身にどこまでも素直とも言いかえることができるエスデスだ。

その行動もまた早かったとだけここに記す。




次は零1巻の最後に乗っている話をベースに書きたいと思います。
もしくは、本編が見たいと要望が有ればそろそろシュラを『自主規制』してもいいんじゃないかとも思ってます。
どのタイミングで『閲覧禁止』するかなんですよね~

以上
ではまた次の話で。

P.S.誤字脱字などは随時教えていただけたら修正します。


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元一斬必殺と獣の遭遇

更新遅くなりました。
ホント申し訳ないです。
その分文章量は、いつもの平均量の2.7倍です。


アカメやクロメ達が帝国に買われ、暗殺者としての教育を受け始めて8年の月日が経った。

そんな中、帝国最上位に位置する皇帝陛下に最も近しい権力を持つ、大臣や大将軍に並ぶ存在であるムソウは、帝国北部にあるラクロウ城の太守ラギリと、ラクロウ城に働く者達を一人残さず殲滅作戦するため、作戦の細部に関して密に詰めていた。

太守でありながら異民族と内通すると言うことは、国家に対する反逆であり、その瞬間から帝国の逆賊である。

ならば情け容赦をかける必要など一片の欠片も存在しない。

そのためにムソウは、自身の手駒の中で最も虐殺や殲滅を手掛けてきており、最も”死”と言うものに触れてきた部隊、アインザッツグルッペンを使うことにした。

アインザッツグルッペンのメンバーには既に準備に取り掛からせており、一刻もしない内に準備が完了する。

ただしこの作戦において、一つだけ予定外のことが組み込んである。

それが、8年前に突然生まれた村だ。

派遣した諜報員が未だに何一つ報告がないと言うことは、消された可能性もある。

そのために当初予定していた日程よりも前倒しに実行することになっている。

 

「ふむ、こんなものか」

 

ムソウは、不測の事態をも想定した作戦指示書を作り上げると、外套を肩から羽織り執務室から出て、外へと向かった。

外では、保安部の部下が一人休めの体勢で待っていた。

その部下は、ムソウの姿を確認すると背筋を伸ばし敬礼して出迎えてきた。

 

「長官お待ちしておりました!!」

 

「首尾はどうだ」

 

「万事滞りなく済んでおります」

 

「では、何時でも出撃できるな」

 

「はっ!!長官の命令があればいつでも」

 

一歩下がった位置で着いて来る部下を引き連れながら、ムソウは帝都のメインストリートを通り、帝都大正門へと向かう。

人でにぎわう帝都メインストリートだが、ムソウが一歩歩みを進めれば、目の前の人々が進行の邪魔にならない様に左右に割れる。

人々に恐れられるゲシュタポやちょっと当たっただけで因縁を付けて来る帝都警備隊であってもあり得ない光景だ。

ムソウはその光景に違和感を覚えるどころか、今さらと言った感じで歩みを進める。

 

「強行軍になるが、士気はどうだ?」

 

「長官自らが指揮を執るとのことで、部隊の士気はこれ以上ない程と言えるまでに高まっております」

 

「そうか」

 

表情こそいつも通りだが、ムソウは内心では非常に満足していた。

 

「弾薬の量はどうなっている」

 

「指示との通り揃えております」

 

「今回は使用する弾薬の量、長期間の任務なため食料も多い。警備は通常時の任務よりも数を増やして置け」

 

「了解しました。直ぐに手配しておきます」

 

懸念すべきは、やはり食料だ。

食料はそのまま部隊の士気に影響するため、その守りを硬くする必要がある。

ムソウが直接部隊を指揮する以上、部隊内での略奪はあり得なくとも治安がいいとは言えない地方へ行くのだ。

守りを固くするに越したことはない。

 

「諜報部からの連絡はどうなっている」

 

「ロウセイ村に関しての報告は未だ無いようで、諜報部はロウセイ村に向った諜報員に関して、正式に死亡したと判断したいとのことで、後日長官の元へ書類か届けられると思います。ラクロウ城と城下町に関しては、既に潜入している者達から連絡があり、太守ラギリが異民族の護衛を付けたとのことです」

 

「ラクロウ城から内部告発はなかったか?異民族の護衛を雇ったと言うことは、ラクロウ城に居る者全てが周知しているはずだ」

 

「いえ、内部告発はありません」

 

「太守である以上、権力で黙らせた可能性もあるが……」

 

「どうなさいますか長官。当初の予定通りラクロウ城の者全てを」

 

「ああ、計画を変更はしない」

 

「了解しました」

 

計画の最終確認をとりおわると同じタイミングで、ムソウは帝都大正門へと着いた。

大正門を通り抜けると、そこにはムソウが大量に人を殺す場合に用いる部隊、アインザッツグルッペンが整列していた。

今回は規模が大きいと言うこともあり、6つのアインザッツグルッペン、16のアインザッツコマンドー、総員3000名が招集してある。

 

「これより、帝国北部国境付近に位置する、ラクロウへと向かう。標的はラクロウ城の太守であり、一帯を陛下より任されているラギリと、ラクロウ城に働く者全てだ。邪魔する者、障害と成りえる者の排除は任意で行え」

 

ムソウは声高らかに告げると、アインザッツグルッペンの面々が野太い声で返事を返した。

 

「山賊や盗賊に関しては、攻めてきた場合のみ撃滅する。また、道中反乱軍や異民族と内通していると確認が取れた村や街に関しても殲滅をする。異を唱える者はいるか」

 

整列している部隊員を端から端まで見渡したムソウは、沈黙は容認であると認識した。

 

「ではこれより出発する。先遣隊としてアインザッツグルッペンⅠより出発、以下番号順に出発せよ」

 

改めてムソウが、声高らかに号令するとアインザッツグルッペンⅠの面々は先行し進行の安全確認の任もあるため、一斉に乗馬すると蹄が地を踏みこむ音だけが鳴り響きながら出発した。

 

「では、私も向かうとしよう」

 

ムソウは、武器弾薬、食料を運ぶアインザッツグルッペンⅢの部隊長と並列しながらラクロウ城へと向かった。

僅かに遠回りになるが、ロウセイ村を通る進路で――

その様子を帝都をぐるりと囲っている城壁の上から片眼鏡をし、骨の上に皮を張り付けた様な男が見下ろしていた。

 

「思ったよりも早く動いたな。早急にゴズキに知らせねばな」

 

男はそう呟くと、出発していくムソウ達に背を向けながら諜報機関の方へと戻って行った。

本来男の立場で知りえるはずの無い情報、ムソウが、ロウセイ村に向っている事を知らせるために―――――

 

 

 

 

 

 

 

いつもの様に帝国にとって都合のいい暗殺者を作り上げるために子供たちに訓練を付けている時、一匹の鳥が手紙を携えてやって来た。

鳥の足に結び付けられている筒を開け、手紙を取り出し内容を呼んだゴズキは途端に苦々しい表情をした。

 

「どうした父よ。そんな苦々しい顔をして」

 

「ん、ああナハシュか。帝都から厄介な相手がこちらへ向かって来ていると連絡があっただけだ」

 

「厄介な相手。それは反乱軍か?」

 

「反乱軍程度ならいくら来ようと物の数じゃないんだがな」

 

ゴズキは、額に手を添えた。

厄介な相手が、反乱軍や伝説とまで言われる暗殺結社オールベルグならまだ戦い用はいくらでもあった。

しかし相手が、黄金の獣と言われるムソウでは話が変わってくる。

あれとさしで戦うには、分が悪いなんて話ではない。

個人で帝国を革命する方がまだ可能性があると言うものだ。

 

「ではどうするのんだ父よ。厄介な敵がこちらに向かって来ているのであろう」

 

「ああ、だから今夜この村から出る。俺達を知っている者達を生かしておくわけにはいかないからな、村に住む者達を皆殺しにしてからだが」

 

「分かった。他の奴らには俺から伝えておく」

 

「おう、頼んだぞ」

 

ナハシュが皆の元へと戻る背中を見ながら、ゴズキは一つ大きなため息を吐いた。

ムソウだけでも相対したくないと言うのに、今回はさらにアインザッツグルッペンを全て投入して来ると言う。

それだけの何かがあるのだろうが、そのことについて詳しく知るすべをゴズキは生憎持ち合わせていないために、ゴズキは勘違いをしていた。

狙いがロウセイ村であろうと思い込み勘違いしてしまったのだ。

 

「やはり、いきなり村が一つ出来るとなると怪しむか……」

 

ムソウのことを快く思っていない、貴族や高級官僚たちが裏でいくら手を回したとしても限界がある。

今回の育成計画では、臣具を持ち出しているため遅かれ早かれ気づかれるのは時間の問題でもあった。

特に相手が個人で派閥に勝る発言力、個人の采配で貴族や高級官僚であろうと断罪する権限を有しているのだ。

むしろあの獣相手に8年の時間が稼げたのは運が良かったと思う方が自然だ。

なまじ断罪するだけの確固たる証拠があるため、余程の理由か、将来帝国に益をもたらすと思われていても庇うことを躊躇わせる。

下手に庇おうものならば、運が良ければ共犯とみなされ一緒に裁かれてしまうだけだが、最悪の場合、家族も加担していると裏付ける物が出たら、一族郎党強制収容所送りか処刑されるのだから。

 

「まあ、相手が大物過ぎるから動きを簡単に把握できるのはありがたいな」

 

「父よ全員に伝えて来た」

 

「おお、そうか」

 

「しかし父が確実に全員を殺させると言うことは余程の相手なのか?」

 

「お前達には教えていなかったな。何れはお前たちが狙う標的でもあるんだが、如何せん隙を一切見せないからな」

 

「毒殺は無理なのか?」

 

「そんなもので殺せるなら俺達は苦労しないな」

 

他の6人のリーダーとして確りと役割を全うしているナハシュだが、その発想は誰にでも思いつくものだ。

経験が乏しいと言うのもあるが、このままでは老獪な相手が敵になった場合、全滅する可能性もあり得るとゴズキは今後の育成計画を少し修正する必要があるな、と思った。

 

「今はまだ気にする必要はない。それよりもお前も訓練に戻れ」

 

ゴズキがナハシュに対して、手で払う様な動作をして自身の訓練に戻した。

 

「さて、どうしたもんかな」

 

ゴズキの思いとは裏腹に、空は雲一つない晴れやかなものであった。

 

 

 

その日の夜、ロウセイ村は一人残さず惨殺され、村に火を付けられた。

ただ殺すだけでは成長が見込めないと思ったゴズキはアカメ達に一つの課題を出していた。

その課題とは、『最も自身に馴染み深い者から殺せ』である。

今後、暗殺任務が帝都より依頼される。

その時、長期に亘って潜入する任務も有ることは既に予想できることであり、長期間潜入することで暗殺対象に情が芽生えて、殺せないなんてことは許されないからだ。

 

「俺達は終わったぜ、親父」

 

「パパ、私達も終わったわ」

 

「俺も終わった」

 

「流石俺の子供たちだ!よくやった!!」

 

予定よりも早く帰って来た、ガイとグリーンのチームにコルネリアとポニィのチーム、そしてナハシュをゴズキは大いに褒めた。

 

「後はアカメちゃんたちだけだね」

 

「でもパパいきなり村の人達を全員殺せって、どうしたの急に?」

 

「悲しいことに村の奴らは、俺たちのことを反乱軍に教えようとしたんだ」

 

「ええ!?そうなのお父さん!!」

 

むろん嘘だ。

そもそも村自体がアカメ達を洗脳教育するための箱庭であり、村人たちは国と何らかの取引をして命を売った人間たちであり、そのことを教えることは厳禁とされている。

そして洗脳教育が終わった今、この村が存続する必要はない。

むしろこのまま村が存続している方が、情報漏えいの危険を考えると都合が悪い。

本来ならば二度三度と、洗脳教育に使うことで支出を取り返す予定もあったが、ムソウが動いたと知らされた今、村が存続している方が損失が大きい。

後ろ盾として支出をした者達にとっても、そこから自分達にたどり着かないはずだが、相手がムソウとなると保身に長けた者達だからこそ”もしも”というIFを恐れてしまう。

金の損失も惜しいが、それ以上に黄金の獣の黄金の眼に睨まれる方が恐ろしいからだ。

 

「すまない、遅れた」

 

「遅い、雑魚は雑魚らしく仕事くらい時間を守れ」

 

「でもチーフ、まだ時間が……」

 

ツクシが何かを言いかけたが、ナハシュは遮ってゴズキに報告した。

 

「父よ、これで全員そろった」

 

夜空を染め上げる様な赤。

暗い筈の夜は、村一つが燃え上がっているため明るく、見下ろす位置に居る全員に熱気を伝える程であった。

 

「これだけ騒がしいならば、そろそろ危険種共も騒ぎながらやって来るだろうからな。全員移動するぜ!!」

 

ゴズキの号令のもとアカメ達精鋭暗殺部隊は今後帝都より送られてくる任務を実行するために移動し始めた。

家屋が燃え落ちる音が響き渡り、火と轟音の所為で興奮状態に陥った危険種の鳴き声や遠吠えのみが木霊している森の中をアカメ達一行は駆けぬけて行った。

それから一刻とおかずに爆音が鳴り響き、その音はアカメ達の元まで聞こえた。

 

「これで完全に家が無くなっちゃったね」

 

「そうだな。だが私達は初めから後戻りできない立場だ」

 

「よく言ったアカメ!!それでこそだぜ。ツクシも見習えよ」

 

「はい、お父さん」

 

そんな会話をしながら、一行は森の闇中に溶け込むように消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカメ達一行が村人を殺戮し、焼き払った数日後にムソウ達はロウセイ村に着いた。

村の入り口から目にした光景は、炭化しきった人であったであろう物や野ざらしにされている人の死体。

焼け落ちた家々には、生活していたであろう痕跡が残らない程であった。

しかし誰もがこの光景に対して、『酷い』と言った思いを抱かなかった。

自身が背負い、これからも背負い続ける業を理解しているからだ。

 

「一足遅かった様だな」

 

「長官どうなさいますか?」

 

「5個小隊で村を捜索、10個小隊と1個中隊で村周辺の索敵。残りは此処より離れた丘の上に野営の準備だ」

 

「分かりました。5個小隊で村を捜索、10個小隊と1個中隊で村周辺の索敵。残りは此処より離れた丘の上に野営の準備ですね。直ぐにとりかからせます」

 

「村の捜索は、疫病などの恐れを鑑み、防毒装備をさせておけ」

 

「了解しました!!」

 

意見を窺いに来た部下にムソウは、そのまま命令を下した。

死体や村の焼け残った家々の様子から見て、事が起きたのがそう古くないことが分かる。

一月も立っていない、せいぜい数日前に起きたであろうとムソウは状況や痕から推測した。

見ただけで分かるムソウの眼力は本物であり、それを裏付けるほどの経験もまた持ち合わせている。

そして今さら捜索や索敵した所で、望むほどの成果を出すことができないこともムソウは分かっている。

だからと言って、何もしないのは愚かな所業だ。

一欠けらでも情報を有しているのと、何も情報を持っていないのとでは、切れる手札の数、情報を持っていると臭わせるだけで相手に行動を躊躇わせることで得られる時間が大幅に変わってくる。

ムソウは、そのことを誰よりも理解している。

だからこそ、帝国で後ろ暗い背景を有している者達は、ムソウに情報が渡らない様に再三に亘って注意し、隠蔽しようとするのだ。

 

「捜索、索敵部隊の編制終わりました」

 

「捜索、索敵を行うのは日が沈むまでだ。これ以上は、本来の任務に差し支える」

 

「分かりました。日が沈むまでですね」

 

「では、順次行動を開始させておけ」

 

「はっ!!」

 

「それと、村の捜索には私も向かう」

 

「長官もですか!?」

 

ムソウが直接出向くと言うことで、伝令を伝えた旨をムソウに伝えに来た男は驚いた表情を浮かべた。

 

「そうだ。何か問題でもあるか?」

 

「い、いえ。問題ありません!!」

 

「で、あれば直ぐに伝えに行け」

 

長官の心証を悪くしてしまったか!?と伝令を伝えて来た男は、内心焦っていた。

しかしムソウは、この程度のことで心証を悪くするほど狭量ではない。

これが、腐敗しきりムソウの粛清対象になっている者達や、今はまだ”ムソウにとって”利用価値があるとムソウが判断し、生かしている者達ならば、難癖付け処刑や浮浪者を使って殺害にかかる恐れもあったであろう。

 

「わ、分かりました!!」

 

敬礼をすると、ムソウの命令を伝えるべく、伝令係の男は駆けて行った。

駆けて行く背を見送ったムソウは防毒装備で身を固めると、一人一足先に村の中へと入って行った。

村の入り口でさえ凄惨な光景に見えた現状が、村の中に入ってからは一層ひどく目に映った。

物が燃えた焦げ臭さや人の放つ死臭が鼻につく。

目に映るのは、炭化しきった人であった物か、炎にまかれずに済んだ死体は蛆虫が湧きはじめていた、家屋は総て焼け落ちたており、原形を留めている物は少なく家具なども原形が分かるのは金属製の物に限られる。

観賞ようであったのであろう植物は、総て炭と化しており、どれほどひどい火災であったかは直ぐに分かった。

 

「この中で生存者がいたらどれほど奇跡だろうか」

 

軽く呟いたムソウは、そのまま村の中を隅から隅まで見て回った。

細かい位置は、後から入って来た部隊が捜索している。

日も落ちかけて来たため、そろそろ部隊を退かせるようにムソウが指示を出そうとした時であった。

 

「生存者がいたぞ――!!」

 

どの部隊の誰かと言うことまでは分からないが、その声で生存者がいたと言う事実だけが分かった。

ムソウが村の中に入って呟いた奇跡が実際に起きていたのだ。

他の部隊の者達もその声につられて集まっていたようだが、ムソウがの存在を感じ取ると、左右に割れた。

 

「生存者はどこだ」

 

「こちらです。現在応急処置を施しています。生存者とはいえ、重症でして息をしているのが精一杯と言った所です」

 

そう言って部下の一人に先導された先には、全身に包帯が巻かれているため、性別がどちらか分からない状況になっている者が一人だけ横たわっていた。

それに付き添う様に衛生兵たちが忙しそうに手を施しているが、今出来るのはどんなに手を施しても応急処置がやっとだ。

回復させようと思うのならば、相応の機材施設でなければ、無理であることは誰の目から見ても明らかである。

 

「今は鎮痛剤を打っているため比較的呼吸は安定していますが、このままでは2日と持たずに死にます」

 

「貴重な情報源だ殺すわけにはいくまい。ここから南に南下した所に武装親衛隊が管理している街がある。そこならば誰も手出しできんからな」

 

ここでムソウに選択が迫る。

本来の任務は、ラクロウ城の太守でラギリとラクロウ城に務める者達の殲滅だ。

しかし貴重な情報源を失うのも惜しい。

その情報を持っている者が最後の一人と言うのならば、なおのことだ。

数瞬にも満たない僅かな時間で悩み抜いた末、決断したムソウの答えは――。

 

「3個小隊からなる1個中隊でこの被害者を街まで送り届けろ。編成は任せる」

 

1個中隊が護衛に付くとなると、野盗たちでも簡単には手出しできない。

口封じのために帝国軍を動かしてくる可能性もある、と推測を立てる事も出来るが、それは真っ先に無いと言い切れる。

アインザッツグルッペンの持つ悪名は、帝国内において比類する物が存在しえない。

そのトップがムソウとなればなおのこと、帝国に仕えている者達が手出しするとは思えないからだ。

 

「何をしている直ぐにとりかかれ」

 

ムソウの叱咤号令のもと、唯一の生存者の周りに集まって居た者達はすぐさま自身に出来る役割を探しては行いだした。

 

 

その日の夜のこと。

 

「よろしかったのですか長官。3個小隊編成による1個中隊も護衛に使用して」

 

「構わん。もし口封じがあると考えられるならば、それは道中だ。街に入ってしまえば武装親衛隊が固めている。不正に入ることも出ることも困難だからな」

 

「ですが……」

 

「言いたいことは分かっている。だが、奴が持っているであろう情報には価値がある」

 

どれ程の情報を持っているかは定かではないが、間違いなくムソウに敵対している者達に関する明確な証拠を得られる足がかりにはなる。

何故言い切れるのか、という疑問を持つ者もいるだろう。

だが、その疑問を持つのは諜報部の力を知らない者達だけだ。

どこで何をしているのかが分からない諜報員たちだ。

信頼していた部下が諜報員である可能性だってあり得るのが今の帝国だ。

むろん、情報を何も持っているに越した事はないが、ムソウとしては情報を持たなくても問題ない。

村人を一人残らず殺したと相手側は思っているのだ。

生きている者がおり、それをムソウが武装親衛隊が詰めている街で保護している。

それだけで相手側の動きを鈍らせれ、殺しに来たところをこちら側が逆に抹殺すれば済む話だ。

 

「分かりました。武装親衛隊から連絡があり次第報告に参ります」

 

「分かった。下がっていい」

 

「失礼します」

 

部下を下がらせたムソウは、少し間を置いて外へ出た。

奇しくも村が燃えた時と同じ、月明かりが全てを見ているかのような雲一つない天気であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムソウとアインザッツグルッペンがロウセイ村に入った日のことだ。

アカメ達は、いきなり反乱軍の一味であり同志を集めるために帝国内を旅芸人に扮して回っていた、サバティーニ一座を皆殺しにしていた。

いきなりの仕事ではあるが、それを成功させることで自身たちの有用性を帝国内にいる者達に示していた。

そのため次任務が直ぐに舞い込んでくるのも、また必然であった。

 

「次の標的は北の異民族と内通しているラクロウ城の太守、ラギリだ。これはなかなか大物だぜ。今まで教えて来た知識を活かしてお前達だけで仕留めて見な!」

 

と言うゴズキの言葉の元ナハシュが全体の命令を出し、コルネリアが城に潜入する女性陣に更に侵入時の命令を出す形をとって作戦が始まった。

 

「あー……おいナハシュ暇すぎるぞ。もう夜になったら城に突撃してヤればいいじゃん」

 

「黙ってろ雑魚。コトはそう単純ではない」

 

「城の中は罠満載でしょ。太守が内通何て危ない橋渡ってるならなおさらさ」

 

「へっ。グリーンその格好似合ってるじゃん」

 

ガイが似合っていると言った、グリーンの格好はカフェのウェイター服であった。

見た目もガイほど筋肉質でないことも相嵌り、ガイが言うとおりとても似合っていた。

 

「ボクのこだわりのコーヒーを名物メニューにすべく奮戦中さ」

 

「おい、本来の目的を忘れるなよ雑魚」

 

「分かってる。まずは各所に潜入して情報収集でしょ?」

 

「俺も何か働きてーな!!」

 

シャドーボクシングをしながら、ガイは言うが、実際は誰がどこに潜入するかという話し合いの段階で、ガイは潜入に向かないと言うことが全員一致で決まったため、ガイが潜入するような任務はまずありえない。

もしガイが潜入するとなると、鉱山の採掘のような汗臭い重労働に限られる。

 

「お前は騒ぎを起こしそうだから大人しくしてろ。その分任務の時働け」

 

「けっ、ナハシュは何もしねぇのかよ」

 

ガイが悪態吐くように言うが、ガイ自身はナハシュのことを認めている。

力もそうだが、頭が切れるところもやり辛く敵に回したくない相手であると。

 

「司令塔はそう言うものだ。その代り全責任はもってやる」

 

「けっ、なら俺のツケも代わりに責任とってもらいたいもんだよ」

 

「それ完全に個人の責任だろ」

 

ガイの場合、任務で長期的に街に潜伏したりすると必ずと言って良い程問題を起こす。

それも遊郭で。

そのため、各所の街でガイは借金取りに追われているため、一度は言った街にガイは必ずと言って良い程顔が知れ渡ってる。

仕事がそのせいでやり辛くなったのも一度や二度の話ではない。

 

「ちっ、そうかよ」

 

「そう悪態吐くなよガイ」

 

「未だに童貞なグリーンには分からないだろうな。遊郭で遊んでこそ一人前の男ってもんだぜ」

 

「あー、はいはい。何でガイはそんなに年増が好きなのか理解できないからね」

 

二人のやり取りを聞き流していたナハシュだが、一瞬その目が鋭くなった。

 

「おい雑魚共」

 

「ああ、分かってるぜナハシュ」

 

「今の人、間違いなく僕ら側の人だよね」

 

それも今まで殺してきたどの相手よりも強い。

標的ではないが、間違いなく違う勢力がこの街に入り込んでいることを三人は察した。

その三人の視線の先に居るのは、一見何気ない風貌を装った人だ。

しかし、隠そうにも隠しきれない程滲みだしている死の気配を3人は敏感に感じ取っていた。

 

「今夜のうちにでも、コルネリアたちに警戒するように伝えておかねばな」

 

ナハシュがそう呟くと、手に持っていた本に視線を落した。

 

 

 

 

 

ナハシュ達3人が、気が付いた死の気配が滲み出ている男はと言うと。

3人それも子供か、と視線を向けて来た相手を確り把握していた。

この男の正体は、ムソウの受け持つ諜報部の諜報員だ。

今夜仕掛けると、ムソウから伝達を受けた男と、男とは別に潜入している諜報員たちは他に潜伏しているであろう敵を判別するために、”わざと隠そうとして隠しきれずに死の気配を滲みださせている男”と言う危険極まりない役を演じていたのだ。

そして、その成果が今の三人だ。

その成果をムソウに伝えるべくムソウ達が現在陣取っている場所へ戻るため、一旦路地裏に入った時であった。

 

「あいつらもまだまだだな。なあ、あんたもそう思うだろ?」

 

「!?」

 

いきなり背後をとられたため、男はとっさに前に跳びながら背後の敵を確認すべく振り返った。

まさか自身が背後を取られるとは、と思いながらも事実は事実であるため、そのことを男は受け止めながら背後をとった男を見ると、その男は男たちにとってとても見知った相手であった。

 

「貴様は、元羅刹四鬼のゴズキ!!何故貴様のような男がここに」

 

「俺のことを知ってると言うことは、やはり一般人じゃねぇな。なら少しお話を聞かせてもらわねェとな」

 

相手が羅刹四鬼クラスとなると、分が悪いことを男は分かっている。

ゴズキも潜入任務出来ているのであれば、街中であることを踏まえて、人目に付くような極端な大技や身体操作を使わないと思われる。

だが、それを差し引いてもゴズキは、帝具村雨を持っているため油断できない。

 

「生憎だが、こっちは話す用事何て無いのでね。直ぐにでも去りたいところなんだが?」

 

「それは出来ないそうだんだなぁ」

 

ゴズキが一歩歩みを進めれば、男は一歩下がる。

情報が目的である以上、殺しはしないだろうが、だからと言って油断できる状況ではない。

出来る限り早く戻り、情報を伝えたい男としては逃げるのがベストなのだろうが、背中を見せるのは好きに繋がる。

 

「逃げるなんて考えるなよ。どの道顔を見られたんだ、生かしては帰さねぇがな」

 

「選択肢をそちらだけが握るってのはフェアじゃないと思うんだが?」

 

男はそう言いながら、最悪の場合所持している情報を守ることと自身を追いつめる存在がいることを他の仲間に知らせるためにも自爆する準備を出来る限り気づかれないように進める。

 

「そうか、なら一応選択肢を与えようか。このまま殺されるか、情報を吐いて殺されるか」

 

「面白いことを言うな。それを選択肢と言うのをはじめて知ったよ」

 

「そうか?俺はいつも使ってる選択肢だがな、っと!!逃げようと思うなよ。それと右手もだ。ゆっくりと手に持ってるものを下ろしてもらおうか」

 

男はこれをチャンスと捉えた。

精々人一人をばらばらにする程度の威力しか持っていない爆弾を、ゆっくり下ろす振りをしながら安全ピンを抜き、ゴズキの方へと手が滑ったように見せて転がした。

丁度ゴズキとの中間地点辺りに転がったあたりで、爆弾が起爆し爆風が二人に襲い掛かる。

あくまでも自爆用であるため、金属片などが飛び散って周囲を破壊し尽くすと言うことはない。

男は、そのことを知っているため爆風で僅かな隙を見せたゴズキの隙を突き、そのまま逃走を図った。

 

「簡単に逃げられるようじゃあ、羅刹四鬼は務まらんのですよ」

 

「かはっ!!」

 

背中から声が聞こえたと同時に、男の腹から刃が突き出してきた。

 

「一斬必殺村雨。まあ俺の名前を知っている時点でこの帝具のことも気づいてたみたいだがな」

 

「せ、めて。おま、えも」

 

かすれた声で途切れ途切れに男が言うと、懐にしまってあるもう一つの爆弾のピンを抜いた。

死角になる位置と言うこともあり、ゴズキは気づいていない。

死ぬにしても道連れだ。

男は内心ほくそ笑んでいた。

だが、それは悪い意味で裏切られた。

 

「まあ、そう上手く引っかかるわけにはいかんわけよ」

 

ゴズキの声と同時に手榴弾が起爆し、轟音と爆風、さらに金属片が周囲を蹂躙する。

せめてもの救いが、広場ではなく路地裏であったため無用に一般人を傷つけずに済んだことだ。

 

「こほっ、全く埃っぽいまねを。だが、こんなものを2つも持っているってことは間違いなく”あの獣”の配下だな」

 

ゴズキは起爆と同時に羅刹四鬼ならではの身体操作を活かし、髪を全身に巻きつけ硬質化させた。

さながら繭の様に身を守ったゴズキは、周囲に舞っている粉塵の所為で軽く咳き込みながらも、手榴弾を2つも持っていた男の正体がムソウは以下の諜報員であると当たりを付けた。

 

「獣の諜報員がいるってことは、狙いは多分俺達と同じだろうな。ったく、帝都に居る奴らもいい加減な仕事しやがって、なにが『狙いはロウセイ村だ、村に一切の証拠を残さず殲滅しろ』だ」

 

ゴズキは砂埃を払いながら、二度の爆発の所為でざわめき声と共に人が集まって来ていることに気づき、三角跳びの要領で壁を蹴りながら建物の屋根に飛び乗った。

 

「さて、どうした物かな」

 

ゴズキはラクロウ城を見つめながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

その日の夜のことであった。

 

「長官、本日合流する予定であった諜報員が一名殉職したとのことです」

 

「誰にやられたか分かるか?」

 

「はっ、目撃証言などを踏まえて、我々で検討した結果一番有力な候補者として、元羅刹四鬼であり帝具村雨の所有者ででもあるゴズキであると思われます」

 

「ゴズキだと。あれはたしか任務で南方に居るはずだが」

 

ムソウは手を顎にそえて、幾つかの可能性を思案した。

そして最も可能性が高いとムソウが思ったのは、ゴズキに与えられた任務とムソウが知り得た情報が一致していないだ。

一人二人が情報を捏造した所で直ぐにボロが出る。

だが、今の今までムソウが知りえなかったとなると、余程情報操作が上手いのか、余程の大人数が裏で手を組んでいるかのどちらかになる。

前者はあり得ないと言い切れる。

今の帝国にそこまで、内政などを含めて文官でキレる人物はいない。

一番あり得ると言い切れるのが、後者でありムソウ自身でも自身の役職を含めて嫌われる要因が多いことを自覚している。

だが、今までここまで大がかりなことを実行しするにしても中心人物となれるような人物はいなかったはずだ。

見落としている可能性も含め、ムソウは今一度文官を洗い直すべきであると結論付けた。

 

「まあいい、任務には支障はない。準備出来次第決行する」

 

「了解しました」

 

「長官、急様なため失礼します」

 

ムソウに報告しに来ていた者を下がらせようとした時であった。

いきなり別の者が入って来たのだ。

 

「何だ騒々しい」

 

「申し訳ありません。が、ラギリが護衛を引き連れ森に狩りに行ったと報告がありました」

 

「このタイミングで、か。ならば、ラギリは私がアインザッツグルッペンⅠを率いて討つ。残りは城に居るものを一人残らず殲滅しろ」

 

「はっ!!直ちにに手配します」

 

報告しに来た者を下げたムソウは、黒い外套を肩から羽織ると幕舎から出た。

外では、直ぐにでも出れる様に慌ただしく準備が進んでいた。

 

 

 

日も落ちかけて来た夕暮れ時に、護衛を引き連れた白髪をオールバックで固めた男を中心に狩りに来ていた。

 

「ええい、獲物がおらんではないか!!ラクロウバンビの群れが出たのではなかったのか!?」

 

白髪をオールバックで固めている男、ラクロウ城の太守であるラギリは獲物が一匹もいないことに憤慨していた。

 

「申し訳ありません!!今捜索させていますので、今しばらくお待ちください」

 

太守の補佐をする立場に似る男は、冷や汗を掻いているためハンカチで拭いながら、ああ、早く見つかってくれないかと胃腸にダメージを現在進行形で受けえていた。

そんな様子を見ている者達がいた。

アカメ達は距離をとった位置でいつでもツクシをサポートできるようにしており、ツクシはマズルフラッシュによって気づかれないようにするため、銃全体を布で覆いいつでも狙撃できるように木の上で待機していた。

本音を言えばサイレンサーを付けたかったところだが、一点ものの臣具であるためそのような便利な物はなかった。

リーダーであるナハシュの合図とともに木の上で待機していたツクシは、臣具プロメテウスの引き金を引いた。

プロメテウスは、連射すると精度が落ちると言う欠点があるが曲射や跳弾などを自在に出来る使用するタイミングさえよければ、敵にとってかなりの脅威となる臣具だ。

そのため、狙撃した方向が左側からであったとしても、Uターンする形で曲射すればあたかも右側から狙撃した様に装うことが可能なのだ。

 

「ああっ!!ラギリ様!?」

 

「ラギリ様!!」

 

「己貴様ら、何の役にも立たないではないか!!」

 

「今は犯人を捕まえるのが先だ!!」

 

「銃弾はあちらから飛んできた!!」

 

そう言い、ラクロウ城の護衛の兵士たちはそのまま銃弾が飛んできた方へと馬を走らせた。

しかしラギリの護衛に付いていた異民族の護衛は違った。

銃弾が飛んできたのは風下だが、硝煙の匂いが風上から来ている。

その僅かな違和感に機敏に反応した異民族たちは、経験に基づき硝煙の匂いがする風上に向かって駆けだした。

 

「どうだ!これも俺様がスーツ着て土の中からバンビを散らしたおかげだぜ」

 

「うん、おかげで標的が奥まで来たよ」

 

仕事を終えたためか、軽い会話をしているが木々を避け、森の中を走り抜く速度は野生の獣に迫る者であった。

 

「ところでチーフ……」

 

「いつごろ始末付けんだ?」

 

「……流石に全員分かっているか。気づいていない雑魚は説教するところだった」

 

「でも相手何で気づいたんだろう?気配漏れてたかな」

 

「それかもしくは、硝煙の匂いか」

 

「全員反転、つけて来ている奴らを迎撃する」

 

リーダーであるナハシュの号令のもと、全員が急停止し反転した。

僅かな時間を置いて、追手である異民族の護衛たちも追い付いた。

 

「ガキども、俺達が護衛してたってのによくも赤っ恥をかかせてくれたな」

 

「アジトに案内する気がないなら力ずくだ。壊しながら黒幕と居場所を吐かせてやるよ」

 

声こそ抑制を聞かせているようだが、内容から相手が激怒していることを感じ取れる。

 

「こいつらは標的ではないが……分かっているな?」

 

「うん、ハッキリ見られた以上生かして帰せないね」

 

「私達を追跡して来ているし手強いよ、注意して」

 

「良い気になるなよガキども!!」

 

異民族の護衛として雇われた者達は、各々の得物を構えアカメ達に襲い掛かって来た。

それに合わせてアカメ達も自身の得物である臣具で迎え撃った。

 

「下がれ!!」

 

一番後ろで待機していた異民族の男が大声で告げた。

粉砕王で撲殺され、桐一文字で惨殺されようとした瞬間、周囲の木々の枝や蔓、根や葉が刃となって襲い掛かった。

 

「チーフ、今のは」

 

「間違いない。帝具だ」

 

ナハシュがそう言うと、一番後ろで待機していた異民族の男は拍手をした。

 

「さすが後ろ暗い事をしていると、いろいろ知っているみたいだな。そうこのイヤリングは森林共鳴・シャングリラ。植物ならば何でも自在に操作できる便利な代物だ」

 

自慢げに能力まで教えてくれたが、だからと言って弱点らしい弱点がない。

いや、弱点ならばある。

植物を自在に操作できると言うことは、言い返せば植物がなければ無力と言うことだ。

しかし隠密行動が基本のアカメ達にとって、森を燃やすと言うことはそれだけで人の目耳を集める結果となる。

それだけはアカメ達にとって避けたい。

そのためどうやって攻略しようかと、休む暇なく襲い掛かる木々や、行動を妨げる雑草たちを避けていた時だった。

複数の銃声が、森の隅々まで響き渡った。

その轟音で、鳥たちが一斉に飛び立ち森に棲む生物たちが慌ただしく行動し始める音が聞こえる。

誰かが狙撃されたか?そう思ったナハシュは、一瞬のうちに全員を見渡し、全員が無事なことを確認すると、木々による攻撃が止んでいることに気が付いた。

 

「どこ、から」

 

それだけを呟くと帝具を持っていた男はあっさりと地に伏した。

 

「ふむ、まさか異民族まで帝具が渡っているとは。これならば諸国にも行方の分からなくなった帝具が渡っている可能性もあるな」

 

木々の間から覗くは、総てを見下ろすような黄金の双眸。

森林の闇の中に在って一際異彩を放ち、威圧感を与える。

 

「まずは、異民族だ。やれ」

 

黄金の双眸の持ち主が、そう言ったのと同時に銃声がまた鳴り響く。

連続的に轟音が響き渡り、その音と共に異民族共が肉塊に変えられる。

アカメ達は一塊にはならず、されどお互いの死角をカバーするような位置取りをする。

 

「さて、次は貴様らだ。何故貴様らは臣具を持っている」

 

臣具、自分達が持って言える武器を一瞬で臣具であると見破った男にナハシュ達はさらに警戒を強めた。

 

「それが貴様とどう関係がある」

 

「それこそ貴様らが気にするようなことではない。さて、まず誰が後ろに付いているかそこからだ。口が利ければ十分だ、ヤれ」

 

黄金の男の言葉と共に周囲の闇から一斉に銃声が鳴り響く。

僅かなタイミングで、アカメ達は一斉に木々の枝に飛び乗ったが、銃弾はアカメ達のいた場所に襲い掛かることはなかった。

 

「どうした」

 

「敵襲です!!第一分隊がやられました」

 

「敵は誰かわかるか」

 

「依然不明です。しかし羅刹四鬼相当のしんt――」

 

報告している途中で報告している者の首が、一刀の元撥ね飛ばされた。

首からは、おびただしい血が噴水の様に吹き出すと言うことはなかったが、ドサッと言う音と共に倒れ伏し、血が流れ出す。

続けざまにその凶刃が黄金の男に迫る。

 

「その程度では、私を殺すことは叶わんぞ」

 

「やはりあんたか、ムソウ」

 

黄金の男がムソウと言う名である事を知ったアカメ達だが、それ以上に驚いたのが、声の主が父と慕うゴズキであること。

そして何よりも驚かされたのが、ゴズキの本気の一撃を何もなかったかのように捌いたことだ。

 

「お前たちは逃げろ。お前たちが玉砕覚悟で攻めたところで傷一つ付けることは叶わん相手だ!!」

 

「そこまでして逃がす、か。しかし奴らが逃げ切れると思っているのか?」

 

「逃げ切れるさ。半数以上がラクロウ城を攻めている今なら、な」

 

「だがお前はどうする気だ?まさか私から逃げ切れるとでも」

 

「もちろん。何も準備せずに来る程俺も馬鹿じゃないんでね」

 

帝具村雨が木々の間柄僅かに降り注ぐ光で怪しく光る。

そんな中でもムソウは帝具を出さない。

目的が後ろに誰がいるかを問い質さなければならないと言うのもあるからだ。

早々に戦奴に落としてもいいが、せいぜい最下層の髑髏行きだ。

それでは情報を聞き出すのに時間が掛かかる。

 

「ならば私はその策を受けてなお、捕獲するとしよう」

 

ムソウが初めて攻めに転じた。

支給品とは一線を画すサーベルでゴズキに斬りかかる。

刺突は肢体ならばともかく、胴体は内臓を傷つけ致命傷を与えかねない。

それは身体操作と言う反則技を身に着けている羅刹四鬼でも変わらない。

地を裂き、木々を斬る斬撃は鋭い。

ゴズキも帝国内で屈指の実力者ではあるが、相手がムソウでは分が悪い。

 

「ちっ!!相変わらず手加減を知らないやつだな」

 

ギリギリのところで、行動不能に成りえる攻撃をかわし続けるゴズキは、アカメ達がムソウと距離を開けたのを確認すると大きくムソウと距離をとるとスイッチを入れた。

次の瞬間、轟音が連続的に鳴り響くと、地鳴りを起し始めた。

事前調査で、この森の下全域に亘り地底湖があったはずだ。

 

「成程、準備とはこう言うことか」

 

崩れ去る地面に巻き込まれる形でムソウは落下していくが、ゴズキも巻き込まれて落ちて行くと思われた。

しかしゴズキは、準備と言うだけあって、爆発も計算されていたかのようにゴズキの場所だけ地面の落盤が遅い。

 

「思った以上に周到の様だな。ならば今回は見逃してやろうが、背後にいる者達は別だ」

 

ムソウがそれだけを言うと、土砂と一緒に地底湖に落ちて行った。

その様子を見届けたゴズキはと言うと、何もかもがギリギリでどれか一つでも遅れていたり間違っていた場合間違いなく全滅であった。

そのため珍しく疲れた表情を見せていた。

しかしこのままこの場に居ると武装親衛隊も駆けつけてくる可能性もある。

流石にあの数を相手にするほどゴズキとて馬鹿ではないため、早々にアカメ達と合流することにした。

 

 

 

 

 

ムソウが地底湖に落ち、ゴズキが離れて直ぐのことであった。

 

「思ったよりも汚れてしまったな」

 

言葉だけで聞くと、服など全体的に汚れていると思うだろうが、実際は叩いたら落ちる程度の砂埃で服が僅かに汚れているだけであった。

黄金の髪は、まるで汚れること自体があり得ないと断言できるほど服の汚れとは裏腹に一切汚れていなかった。

ムソウは、服の汚れを叩いて落とすと軽く助走をつけて、一気に地上まで飛び上がった。

 

「長官申し訳ありません。言い訳と受け取られるでしょうが、ゴズキの妨害が思った以上に激しく一人とて確保することが叶いませんでした」

 

「よい、私もゴズキにはめられ地底湖に落とされた」

 

「ラクロウ城の方は万事滞りなく済んだようです」

 

「分かった。では帝都に戻るぞ。汚名を返上したくば帝都で雪げ。仕事は増えた以上お前たちの出番も必然的に増える」

 

「分かりました」

 

「では、各部隊指定のポイントに集合しだい帝都に戻るぞ」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

アインザッツグルッペンの面々の返事と共に、ムソウ達もまた夜の森の闇に消えて行った。




途中何度挫折したか……
とりあえず、一旦過去編は此処で区切って、一度本編に戻ります。
感想で何度も盛り上がった、シュラがある意味主役の10巻の話になります!!


誤字脱字がありましたら報告お願いします。

以上


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獣の帰還

 さて、Twitterで更新するする詐欺を何度か行いながら、やっと更新いたしました。
最終更新日より約八ヶ月、本当にお待たせしました。
皆さんの望んだ内容ではないでしょうが、面白く読んでいただけたら幸いです。


 ボリック暗殺から三ヶ月が経ち、帝国の各地で不満を持っていた民達が、安寧道の武装蜂起と連動するように蜂起した。

更にそれに合わせて、三方を囲んでいる異民族たちも帝国に進行して来たため、帝国軍はもちろんのこと、武装親衛隊や帝国近衛軍までもが、反乱分子や異民族を殲滅するために動き出した。

文武官が仕事に追われている真下、珍しくオネスト大臣がムソウのいる保安本部の爆破騒ぎで修繕されたばかりの執務室に訪れていた。

 

「さすがムソウ殿ですな、反乱軍とつながりのある傭兵や暗殺者狩りを終わらせるだけでなく、西と南の異民族を押さえつけるとは。あとは、望むとすれば帝国内から追い出していただけると嬉しいのですがなぁ」

 

「それは皆、武装親衛隊の成果であり、私の成果ではない。賞賛の言葉は、我が兵にこそ向けるべきだ。そして帝国内から異民族を追い出すには、我が武装親衛隊だけでは兵力が足りぬ」

 

「そうですかな?ムソウ殿の武装親衛隊なら可能だと思いますが?」

 

 流石のオネストとて、ムソウの絶対領域である保安本部、それも執務室内で食べながら喋ると言う品性の欠片もない愚行は犯さなかったが、神経を逆なでするような表情を浮かべている。

 

「確かに不可能とは言わぬが、そうなると反乱軍鎮圧に向ける兵力を軍のほうに任せるが構わんか?」

 

「ええ、よろしいですとも。無欠開城など帝国の領主として相応しくない者たちの粛清も行わなければなりませんからな」

 

内と外両方に向けている武装親衛隊の攻撃を外のみに向けた場合、簡単にとムソウは言わないが帝国領から完全に排除することは可能だ。

そもそも反乱軍の最終目的地が帝都である以上、異民族を排除次第攻め込めば帝都防衛につく軍と挟撃することが可能だ。

 

「ああ、そうだムソウ殿。一つお願いがありまして、強制収容所の中から幾人か罪人が欲しいのです。譲ってはくれませんか?」

 

「藪から棒に、それで理由は何だ?内容によっては考慮せんこともないぞ」

 

「実力を見たい者達がいるのですが、手ごろな罪人が手元にありませんでして。それでムソウ殿が管理されている強制収容所に保護拘禁(収監)しています罪人、おっと違いましたな。反社会分子を幾人か見繕ってほしいのですよ。無論、死刑囚(無期限保護観察対象)じゃなくても構いませんよ」

 

「その実力を見たい者達の実力を試す際に、私も同席してもかまわんか?」

 

ムソウが自身が同席しても良いかと訊いた瞬間、大臣の目が鋭くなった。

見た目では典型的な腐敗しきった貴族そのものと言って過言ではない大臣だが、その実力は幼い皇帝を権力闘争や帝位継承を勝ち抜かせた切れ者だ。

だからと言って、中身が腐っていないとイコールではなく、その実態は無駄に頭が切れるだけの見た目以上に腐敗しきっている外道だ。

 

「ええ、かまいませんとも。ただ、今の情勢下でムソウ殿もお疲れの様子。私としても、これ以上ムソウ殿に心労を掛けるのは心が痛んでしまいますからなぁ。このような細事にムソウ殿が直接来られなくてもいいと思いますが?」

 

大臣は、心にもないことを無駄に蓄えている髭をなでながら言い放った。

ムソウもそのことを見抜いているが、あえて口にするような愚かなことはしない。

見られては困るものが、あるのは今の大臣の態度ではっきりとした。

そして保護拘禁している反社会分子という名の罪人をこのタイミングで求めたのも、シュラが背後で絡んでいることをムソウは見抜いた。

大方報告にあった、シュラが連れてきた人材の実力を図るのが目的なのだろう。

しかしあの程度の奴に、わざわざオネスト自身が出張るとは、それだけ価値があるのか、それとも別の目的があるのか。

ムソウとしては、自身が不在の間に大臣がシュラへ何かしらの権限を与えるとばかり考えていたが、その権限もしくは権力を渡していないこと自体が意外であった。

むろんムソウとて何も考えていなかったわけではない。

大臣が動けばすぐに知らせが来るように常に大臣の周りには国内諜報を司るAmt Ⅲ ⅢAの者に監視を行わせていたし、牽制となる情報を幾らか握っていた。

そのため、手札を切らずに済んだと思うべきかムソウは珍しいことに少しばかり悩まされた。

 

「そうか、大臣の心遣い痛み入る。ならば、使った後の処理はそちらで行ってもらうが問題はないな」

「ええ、始めからそのつもりですぞ」

 

大臣はムソウがあっさりと引き下がったことに違和感を感じながらも、あえて虎の尾ならぬ黄金の獣の尾を踏むようなまねはしなかった。

これが、ただの文武官ならば気がかりであると感じた瞬間に、適当な罪をでっち上げて裁く大臣だが、相手がムソウとなるとそうもいかない。

不安定な情勢の元、ムソウと明確に敵対すれば大臣を見限る者が出てくるとも限らない。

そして見限り自身の派閥からムソウに近しい派閥に入閥されでもしたならば、危うい均衡で成り立っている宮中勢力のバランスが崩壊してしまう。

大臣は内心は兎も角として、表面上は同じ帝国に仕える忠臣として仲良くやっていきましょうといった表情をすることで場の空気を濁すことにした。

 

「ならばいい、強制収容所にはこちらから連絡を入れておく。必要になったら取りに行くがいい」

 

「お手間を取らせましたな」

 

大臣はそれだけを言うとムソウの執務室を出て行き、その姿が見えなくなるのを確認した、ムソウは高級感を一目で感じ取ることができる革張りの椅子に体を預けた。

それと同時に、扉を三度ノックされた。

 

「入れ」

 

居住まいを改めず、ムソウはノックをした者に入室の許可を出した。一人の保安本部隊員が入ってきた。

 

「失礼致します。大臣の息子シュラが帝都へと連れてきた人物とその経歴をお持ちいたしました」

 

「あの小僧のことだ、各国でも指折りの危険人物を引き連れてきているであろう」

 

「はっ、すべての人材に犯罪歴があります」

 

「資料をもらおう」

 

ムソウは隊員から資料を受け取ると、ほんとに読んでいるのかと疑いたくなる勢いでパラパラと資料に目を通した。

切裂き魔に、西の国の魔女裁判で有罪になった者、人体実験に海賊、シリアルキラー。

そのうち4名が帝具持ち。

ムソウの計画に支障をきたすほどの者たちではないが、余計な仕事を増やされることを想像するのは難しくない。

 

「なるほど、ハインリヒにゲシュタポを使いこの者たちへの監視体制の強化及び常時排除可能の装備を装備させるように伝えろ」

 

「はっ!!」

 

おおよそ大臣が次に動く手が見えてきたムソウは、先んじて手を打つことにした。

監視下に置く者の中で5人中4人は帝国内で今現在は犯罪を起こしていない。

1名はすでに中央部のジョヨウで子供の大量虐殺を行っているため、常時監視下に置いていた。

そのため、シュラが連れてきた者たち全員の情報を早く正確に手に入れることができていたのだ。

 

「さて、大臣とシュラがどのように動くか少し待つとするか。ブドーのことも気になるからな……」

 

反乱軍の動向は各地に潜ませている諜報員から寄せられる情報で知っているムソウは、ある程度の情報をわざと大臣やブドーなどに流している。

むろん意味もなく情報を流しているわけではなく、反乱軍という分かりやすい光を見せることで、その裏で動いている計画の目くらましに利用している。

光が強ければ強いほど闇は深く不落なるものだが、光が強すぎるがゆえに闇に気づくことができず、気づいた時が1000年もの続いた帝国の最後の時である。

そのことに気づくのがいつになるか楽しみだ、ムソウは内心自身の計画に気づき潰そうと動く強敵が現れることを期待している。

そうでなければ、あまりにも……退屈(つまらな)過ぎるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

Side オネスト

 

「やれやれ、反乱だ進行だと最近はめんどくさいですなぁ…ストレスで退場が増えてしまいますよ」

 

「ギャハハ喰い過ぎだぜ親父」

 

「土産がうまいですからね」

 

笑いに品性がないと思いながらも、それを口にはせず肉にかぶりつく。

 

「可愛い子には旅をさせよと言いますから、帝国の外に出しましたが、なかなか立派になって帰ってきましたね。嬉しい限りですよシュラ」

 

「いろいろ巡ってきたぜぇ、世界各地をよ。で、思ったけどやっぱりこの帝国は相当の先進国だわ。南方諸島とか北野凍土とか田舎すぎたぜ。鉄砲とかねーし」

 

「この帝国に次ぐ文明というとやはり西の王国が一番でしたか?」

 

「ああ、錬金術とか独自の文化があって面白かったぜ。心残りは、東方未開の地と言われた島国に行けなかったことかな」

 

「東海の果ては未知の領域ですから仕方ありません」

 

「でもよぉ、旅の宿題として出されてた”使えそうな人材集め”はきっちりこなしてきたぜ親父」

 

「ほほう、それではさっそく見てみましょうか。なかなか手ごわい相手をわざわざムソウからいただいてきましたから」

 

オネストは、シュラが自身の期待を裏切らない人材を集めて来ていると信頼し、集めてきた者たちを試すためにムソウから帝都警備隊では手に余る罪人を得てきた。

 

「てことは親父、認めてくれたら帝都で自由にできる権限とエスデスの姉ちゃん見たいな組織を作らせてくれよ」

 

「はぁ、まあいいでしょう。ですがあまりおいたをしないで下さいよ。いくら私でも今はムソウと正面からぶつかりたくないですから。特に調子に乗っている良識派を潰し終わるまでは」

 

ゾッとする様な笑みを浮かべている大臣(親父)に対してシュラは、越えなければならない壁がいかに高いかを改めて自覚させられていた。

 

「さて、練兵場に行きますよシュラ。あなたが連れてきた人材がどれほど使えるか私に見せていただきますよ」

 

「ああ、全員実力者ぞろいだ。期待していろよ親父」

 

大臣は持てるだけ食べ物を持つと、立ち上がり練兵場へと向かい、シュラは待たせている仲間たちの元へと向かった。

 

 

 

 

――練兵場

 

雪が降る中、ローマのコロッセオに似た構造の中央には、20人を超える者たちが剣や槍、斧など各々が得意とする武器を持ち固まっている。

それを見下ろすような観客席とはまた違う、一段と高い位置から大臣とシュラは見下ろしていた。

 

「よぉ、オマエら!!このままだと処刑させられちまうらしいぜ!!そこでどうだ、俺とゲームしてみねえか?俺が勝てばお前らは全員死刑、お前らが勝てば無罪放免、とてもシンプルなゲームだ!!」

 

手すりに足を乗せ、体を乗り出しながらシュラは声を張り上げると、ガコッ音を響かせると杭のように打ち付けられた門が上がり、そこから背の高い者低い者、太った者様々な者たちが練兵場内に入ってきた。

 

「おいおい、まさかたった5人で俺たちを殺す気でいるのか」

 

「笑いさえ出てこないレベルだぜ!!」

 

「ねえ、殺していい殺していいよね、もう殺すね、殺そう!!」

 

大臣がムソウより譲り受けた、保護拘禁という名目の反社会分子たちは5人殺すだけで無罪放免で釈放されると分かると殺気立ち始めた。

例えこの場から逃げられたとしても、すぐに保安本部に拘束されることを想像できていない時点で、知能のレベルがわかる。

大臣は、なんて品がなく頭が悪い連中なんでしょうねぇ、と思いながら肉にかぶりついていた。

 

「シュラ、さっさと始めさせたらどうです。こんな寒いところに居ては、温かい食べ物が覚めてしまうでしょう」

 

「分かってるぜ、親父」

 

大臣に催促されたシュラは、改めて声を張り上げた。

 

「お前ら、さらに追加だ。お前らが俺が用意した5人を殺し切れば賞金をくれてやるぜ!!殺した奴は1人につき100万でどうだ!!」

 

「金か、金をくれるのか!!」

 

「全く死刑囚は、どれもこれも気楽で単純ですねぇ。私も反乱軍や異民族を殲滅しないとストレスで、食欲がなくなりますよ」

 

「親父はいつも食ってるから、たまには減らす程度でちょうどいいんだぜ」

 

「言うようになりましたねぇ、シュラ。反抗的な子供には、親の愛として少しお仕置きが必要ですかな」

 

「はっ、この程度反抗どころか、気にもしていないくせに」

 

シュラが鼻で笑いながら言ったとおり、大臣は気にせず練兵場内を見下ろした。




次の更新がいつになるか、未定ではございますがお待ちいただけたら幸いでございます。

誤字脱字に関しては、教えていただけたら幸いです。


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獣の歩

今回は短いです。

2015年10月25日一部修正
天国も地獄も髪も悪魔も神羅万象、三千大千世界の悉くを。

天国も地獄も神も悪魔も神羅万象、三千大千世界の悉くを。


「では、じゃんけんでの取り決め通り、拙者が一番でござるな」

 

袴姿に陣羽織を羽織っているまさに侍といった風貌の男、イゾウがコートを投げ捨てると、一歩集団から前に出た。

 

「おお、愛しの江雪、今食事を与えてやるからな」

 

唾を鳴らし刃をわずかに出すと刀に対して狂ったまでの愛情を注ぐ男は走り出した。

座座座座座座座座座座斬っ!!

上から下、右から左、斜め切り捨て、切り上げ、縦横無尽な刀捌きが反社会分子に襲い掛かる。

一瞬の出来事に何をされたのか認識する前に殺す……はずであった。

 

「お~、あぶねぇな」

 

「にぃちゃんよぉ、すこしはてかげんしてくれよぉ~」

 

「ひひっひひひひひ!!」

 

反社会分子と保安本部に認定され保護拘禁という名目で拘束されていた者たちだが、その実力は帝都警備隊どころか帝国軍人に匹敵するレベルの者たちばかりだ。

油断や慢心があって殺せるほど甘い連中ではない。

そのため、イゾウによる斬撃の強襲を察知した者たちは、一瞬の判断で少ない数の味方……ではなく同種の人間を犠牲にし生き残ったのだ。

 

「じゃあ、次はこっちの番だよなぁ」

 

反社会分子たちが各々の得物を構えた。

全て近接戦の武器ではあるが、こいつらには十分なものだ。

むしろそれ以下の得物を利用していた者さえいるほどだ。

そんな奴らが一斉に孤立した立ち位置にいるイゾウへと襲い掛かる。

 

「少しはできる者たちもいるようでござるな。江雪今回の食事は歯ごたえがあるようだ」

 

イゾウが襲い来る者たちへの反撃を刹那の中で考え抜く真下、見下ろす位置にいるシュラは驚いていた。

 

「おいおい、マジかよ。イゾウの斬撃で生き残るとか」

 

「シュラ、私がただの囚人を用意するわけないでしょう。特に宿題の成果を確認するためにわざわざそろえた者たちですよ」

 

「だが、イゾウを殺せるレベルの奴はいないな。なんせあいつら全員世界レベルの実力者だからな」

 

「そこまで言い切るのであれば、少しは期待に応えてほしいものですねぇ」

 

イゾウが反社会分子として拘禁されていた者と切り結ぶ姿を見ながら大臣が言った。

 

「そろそろコスミナちゃん行きまーす!!」

 

コートを脱ぎ捨てた下には、うさ耳カチューシャにプリンセスショートドレスを着ている眼鏡を掛けた女、コスミナが大きく息を吸い込むとマイクを取り出した。

 

「安らぎの歌で逝かせてあげましょう!!」

 

歌声が超音波となって襲い掛かる中、反社会分子たちは人一倍体格がでかく太っている奴の陰に隠れた。

 

「あで?なんでみんなおでのうじろにがぐれるだが?」

 

太っている奴がそう聞くのと同じタイミングで超音波が襲い掛かった。

 

「おおおおおお、ぶるえるだよ」

 

本来であれば全身の骨を粉々に砕くはずの超音波は、肉の壁に阻まれ本来の効果を発揮できなかった。

むしろダイエット器具と同程度の効果しか生んでいない。

 

「はっ!!少しはできるようじゃねぇか、よ!!」

 

コートの下からは細身な男、エンシンが腰にさしている曲刀を振るうと曲刀の軌跡から真空の刃が発生した。

真空の刃は切り結んでいるイゾウをを巻き込む形で反社会分子たちへと襲い掛かる。

 

「ぎゃぁぁあああ!!」

 

「腕がぁぁあああ、俺の腕がぁああ!!」

 

反社会分子たちは、真空の刃を止める手段がなく、腕や足を切り落とされてしまい、うまくかわした者たちもその隙を突かれイゾウの手によって切られてしまった。

 

「案外あっけないものじゃな」

 

イゾウの胸のあたりまでしかない小さな身長の見た目女の子ドロテアが、エンシンの帝具による真空の刃で切り殺されている者たちの元へと歩み寄り蹴り飛ばした。

その瞬間、死体の下より小柄な者が飛び出してきた。

小柄であり、他の者の陰になる位置に偶然いたため、追撃を免れスキを突き突き刺すように凶刃がドロテアに襲い掛かる。

 

「おお!!」

 

間一髪、凶刃をかわしたドロテアは、相手の腕をつかむと一気に自身に引き寄せると、首筋に甘噛みするかのようにかみついた。

傍から見たら可愛らしい光景かもしれないが、その実態はとても悍ましいものであった。

噛みつかれた場所から、血を吸い取られ、全身の水分という水分が奪われミイラのように干からびていく様は、あまりにも残酷であった。

 

「少しは使えるようですが、彼の相手はできますかなシュラ?」

 

「あん?どれだ?」

 

大臣が指さした先には、練兵場の壁に寄りかかりわれ関せずの態度で腕組している男がいた。

 

「あの程度問題ないだろ?どうせ一人だ。一対一で俺が集めた奴らが負けるわけねぇだろ」

 

「そう言い切れますかな?あれは元暗殺部隊所属で、命令無視多数、命令外の虐殺、味方への襲撃などなど多くの罪状で拘束されていた者ですよ」

 

「命令無視し拘束されてなお生きてるってことは、薬物での強化型じゃないようだが」

 

「ええ、実力はありましたから薬物は投与されていませんし、こちらが拘束する前にムソウの手に落ちてしまいましたからね。今回あれをこちらの手に戻せたのは本当に運が良かった」

 

父親であるオネストの口より聞かされた経歴の数々に、どれだけ使える者か見定めようとシュラは見つめた。

本当に使えるのであれば、それこそ親父に頼み作るつもりの組織にシュラは組み込むつもりでいる。

しかし、組織に組み込むことに関してはオネストより待ったがかかった。

 

「シュラ、先に言っておきますがあれに関しては、この場で必ず殺しなさい。下手に自由になる権限を与えると後々ムソウがうるさいですからねぇ」

 

「仕方ねぇか、面白い奴みたいだったから仲間に入れようと思ったんだがなぁ。なら親父俺も旅をしている間にどれだけ強くなったか見せてやるよ」

 

「それはそれは、ではどれだけ強くなったか見せてもらいましょう。ですが、決して私の期待を裏切らないで下さいよシュラ」

 

練兵場内へと飛び降りるシュラは、食事する手を止めたオネストが発した恐怖を感じさせるだけの力を持った言葉を背中で受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長官、よろしかったのですか。大臣に拘束している者たちを引き渡して」

 

「反社会分子だ。減ったところで問題ではない。それよりも大臣の目を西部戦線と南部戦線から目をそらせることができるだけあれらも使えたと言えるものだ」

 

報告しに来た部下を見ることなく、手元にあるP-1000ラーテの稼働率と戦果報告書を見ながらムソウは答えた。

 

「しかし長官、大臣が引き渡す際に要求した者たちの中には……」

 

「気にしているのは、拘束していた奴であろう」

 

「はっ、そうです!!帝国暗部の一つである暗殺部隊。その中でも最悪に部類される戦闘凶を引き渡してよろしかったのでしょうか」

 

「あの程度問題ではない。私の敵には値しない、捕られようと思えばいつでも捕らえられる程度のものだ。それよりもだ、計画を次の段階に進める」

 

計画を次の段階に。

その言葉を聞いた瞬間、報告を行いに来ていた隊員の雰囲気が変わった。

計画の段階が進み、全隊員に周知されている。

内容はいたって簡単だ。

腐敗しきった帝国の崩壊と再建だ。

腐敗の原因である皇帝を始め、大臣派も大将軍派も穏健派も貴族も太守も等しく浄化することだ。

穏健派は、と思う者も出てくるだろうが、結局腐敗を止めるどころか命惜しさに皇帝へ帝都の現状を伝えようともせず、むしろ諫言を述べることで処刑されることを恐れている。

穏健派という耳障りの言い言葉で身を固めている者たちを使えるから使うが、ムソウにとって助ける理由にはならない。

 

「P-1500の配備にだけは常に注意を怠るな。あれが見つかると厄介だ」

 

「承知しております」

 

P-1500、その巨体からくる鈍重さはムソウを持ってしても解決できるものではなかった。

超級や特級危険種を素材にしてなおその重量は重く巨大であるが、その破壊力は想像を絶するものだ。

たった一発町の中心に落ちようものなら壊滅的な打撃を与えることが可能だ。

むろん使用する弾頭も種類が多く、中実、炸薬、可燃物に化学薬品などがあり、そのどれもが凶悪なまでに性能がいい。

化学薬品などは言葉を濁してはいるが、実質的には有毒兵器だ。

人を人とみなさない悪魔のようで、現実を直視したくない悪夢のような兵器だ。

しかし、そのような兵器開発を許した張本人たるムソウは、否混じり合う二人の魂と肉体は(ラインハルト)は総てを愛している。

差別区別なく、すべてを平等に。

故に全てを破壊しつくす。

天国も地獄も神も悪魔も神羅万象、三千大千世界の悉くを。

そして、それを知っているがために武装親衛隊はムソウに忠を尽くす。

他でもないムソウ(ラインハルト)破壊され(抱かれ)ているのだから。

忠を尽くさず、裏切るはずがない。

 

「もう少しだ、ああ、もう少しだとも。新世界の創造がなされるのだから」

 

いくら混じり合おうともその()ムソウ(ラインハルト)のモノであり、その覇道を止めることは誰にもかなわない。

報告しに来ていた者が出て行き、執務室には一人となったムソウが窓から人々が営み暮らす帝都の街を見下ろしていた。




仕事が忙しく今後も更新期間が開くでしょうが、温かく見守っていただければ幸いです。
別のSSをたまに考えたりしてしていますが、現段階では獣が統べる!!>アンチェイン>不死の王の優先順位ができています。
(赤屍さん+No.37564)+緋弾のアリア=新作を考えていたりもします。
七実+ケンイチも書きたいので、更新速度を上げないとも考えていたり……

では、また次の話で!!


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次元方陣とワイルドハント

ワイルドハント――

 

ナイトレイドとの戦闘で、大幅に戦力を失ったイェーガーズの穴を埋めるべく結成された秘密警察。

建前としては中々面白いものではあるが、実態はオネスト大臣の私設部隊だ。

ムソウ率いる秘密警察(ゲシュタポ)は、ムソウの名と絶大なる力により絶対的な統率を敷かれている。

そんなムソウ率いる秘密警察には大臣でさえ、おいそれとは手出しできるものではない。

そんな存在に対して、大臣の名を借る小物(役人)小物たちにとっては面白くない存在どころか、ただただ目障りでしかない。

そこに現れたワイルドハントを自由に自身の思惑通り利用できるとは回らない頭でも分かっている。

自分たちの派閥長であるオネストの息子であるシュラが率いているのだ。

下手なことを言おうものなら、オネストに知られるどころかシュラに殺されること十二分にあり得る。

その様な未来を誰も望んでいないので、せいぜいムソウや秘密警察(ゲシュタポ)の邪魔をしてくれれば良い程度にしか思っていなかった。

そんな思惑が絡み合っている秘密警察(ゲシュタポ)は、わざと監視していることをシュラ達に意識させるように監視の任を全うしていた。

 

「しっかし、自由にヤリタイ放題できるとおもったんだがな」

 

シュラは頭を掻きながら肩で風を切るように歩いていた。

その横には、シュラにとって役に立ちなおかつ数少ない友人と言える、白衣姿のスタイリッシュの姿があった。

シュラとスタイリッシュの一歩後ろを歩くように、ワイルドハントのメンバーたちも後を追う。

 

「あら、別にいいじゃない。不自由な中に自由を求めるのも一つのいいじゃない」

 

「だがな、ああも監視されてたら自由も不自由もクソもねぇだろスタイリッシュ」

 

「それに関しては同意するわ。ほんと、無粋でスタイリッシュじゃないわよね」

 

頬に手を当てながらスタイリッシュはため息を吐いた。

 

「シュラ殿」

 

「ああ、分かっていんよイゾウ。お前を引き込む際の話をなかったことにはしねーよ」

 

愛刀江雪の柄に手を置いているイゾウに対し、シュラは振り向くことなく手を振るだけで返事を返した。

そもそも、各個人を仲間に引き込む際シュラは各々に仲間になるだけのメリットを提示している。

それが履行されない恐れがあるだけで、一部の者にとっては裏切るとまでは行かずとも、シュラの命令に従うだけの理由がなくなる。

 

「だったら俺らを見張ってるやつらを皆殺しにしちまえばいいだろ」

 

「やれるなら早々にヤってるっての」

 

エンシンに対して、それが出来ないから困ってるんだと言わんばかりに、シュラは頭を左右に振った。

 

「ああ?あんな奴らすぐヤレるだろ」

 

「愛しの江雪も血を求めているでござるよ」

 

「エンシンもイゾウも今は待てよ。それにあいつ等程度消すこと自体は簡単だが、その後が面倒なんだよ。あいつ等の上にいる奴を今的に回すのは得策じゃねぇんだよ」

 

「上でござるか?」

 

「なら、そいつもまとめて殺そうじゃねぇか」

 

ムソウの存在をよく理解していないイゾウとエンシンにとっては、自分達こそが絶対強者であると疑っていない。

しかしシュラは違う。

帝国生まれ、帝都育ち、オネスト大臣の息子。

これだけの条件がそろえば嫌でも、ムソウに関しての情報を耳にする。

 

「でもまあ、このままだと面白くねぇよな」

 

「あら、何か考えでもあるの?相手はあの長官よ」

 

「ああ、いくつか考えてある。でもそれにはお前とドロテアお前たちの力を借りることになるがな?」

 

「なんじゃ?」

 

「何、二人である物を作ってもらうだけだ」

 

シュラは狂気を孕んだ邪悪な笑みを浮かべながら振り返り、答えた。

 

「妾は元々スタイリッシュの技術に興味があって来たのじゃ。そのスタイリッシュとの合作と言う事であれば、断る理由はないんじゃが」

 

チラリとスタイリッシュのほうへドロテアは目配せし、それにスタイリッシュも気が付いた。

 

「あら、私もドロテアの錬金術には興味があったから、願ったりかなったりね。私の技術とドロテアの錬金術の合作なんてまさにスタイリッシュじゃない」

 

「なら詳しい話は宮殿に戻ってからだな。こんなさびれた街中で話せばあいつ等にも聞かれるからな。その点、宮殿であればあいつらと言えど好き勝手に諜報行為はできないからな」

 

監視している秘密警察(ゲシュタポ)に意識を向けつつ言った。

 

 

side END---

 

「一部の城主や地方の太守が反乱軍と内通し無血開城の内通している証拠と、一部が帝国軍内部が武装親衛隊を陥れるため異民族と手を結び背後から強襲する用に手配を行って報告となります」

 

シュラの監視を開始してすぐに情報が入るようになった。

それ自体は問題ではない。

ムソウが気にしているのは、思想的には反乱軍寄りであるが帝国の民を憂い帝国内部に残った真に国を思う者たちが、よりにもよってシュラと密会しているのだ。

大臣の息子である、シュラに近づくと言う事はその情報が大臣に筒抜けであるのは明白だ。

そんなことを考えられない人間は帝国の官僚や役人にはいない。

であるとすれば、大臣と組んででもムソウを陥れたいと考えるほうが、筋が通る

 

「ご苦労」

 

ムソウはただ一言そう言うと提出された書類を速読するかの用に一読した。

そして、内容は核心をついておりムソウが秘密警察(ゲシュタポ)や武装親衛隊を動かすには十分の情報がそろっている。

ただ腑に落ちない、敵の敵も味方の考えは今の帝国には通用しない。

敵の敵も敵であり、大臣の敵であるムソウも味方とは言えないのが、事実大臣と敵対している派閥の考え方にここに来て至っている者たちがいる。

なんせ、ムソウに情報を多く持たれているのに対し、役人や官僚たちはムソウに関して何一つまともに情報を持っていないのだ。

秘密警察(ゲシュタポ)や武装親衛隊による防諜や監視があるのも理由であるが。

 

「無血開城を画策している地方に対してアインザッツグルッペンの出動命令を出す、命令書を出す直ちに出動させろ。帝国軍に関しては、秘密警察(ゲシュタポ)を敢えて秘密警察(ゲシュタポ)であると分かる監督隊として派遣させろ。動きがあれば即座に部隊の将軍格の処刑を許可する」

 

ここに居たり、ムソウは今まで以上に苛烈な手段を取り始めた。

 

「よろしいのですか。大規模に動けば大臣が難癖をつけてくる恐れが・・・」

 

「それこそ今更だ。計画を進めるうえでいずれは起きえたことだ。ならば計画を進める事こそがメリットになる」

 

当初は計画の邪魔になるシュラとその連れを如何にして消すかを考えていたムソウであるが、腹案として敢えて帝都を離れることでシュラを自由にすることで証拠を掴む案もある。

既にシュラが帝都に引き込んだうちの一人は、秘密警察(ゲシュタポ)が追っていたシリアルキラーのチャンプであることが割れている。

だがシュラをつるし上げるには、弱い。

オネストが背後にいる以上、幾らでも皇帝からの支援が見込めるからだ。

ならばリスクを背負う覚悟で、動くのがムソウ(ラインハルト)である。

 

 

 

side END

 

 

「シュラ、あなたもなかなか面白いことを考え付きますねぇ」

 

「考え付いても、実際に出来たのはあいつ等のおかげだ。スタイリッシュの技術とドロテアの錬金術あいつらの技が加わればこの程度簡単なことだぜ」

 

「それはそれは、心強い」

 

「それにこのまま行けば、いずれはあの獣も帝都を離れざる負えないからな」

 

「東に宗教、南に反乱軍、西に異民族。はぁ~害虫が湧きすぎてチーズ1ピースの食欲が失せてしまいますよ」

 

「そのための、秘密警察に武装親衛隊なんだろ。それにあいつが離れれば俺たちも動きやすくなるからな」

 

「そうですか。では今後も好きに動きなさい。ただし決して付け入るスキを与えて、私を失望させないで下さいよシュラ」

 

「ああ、分かってるぜ親父」

 

シュラは、扉を勢いよく開けオネストの部屋から出て行った。

 

「しかし、面白いものですね。まさか人を意のままに操る装置を作るとは。これなら、至高の帝具に手を加える際に使ってみますかね」

 

肉に齧り付きながら大臣は考えた。




久々の更新となります。
最終更新日が2015年10月25日(日)とか、ほぼ2年7ケ月ぶりの更新になりますので、矛盾点とかが指摘あれば教えてください。
内容自体変更するので、見直しが足りなかった自分が悪いんですが。

因みにTwitterで更新するする詐欺してましたが、更新したので許してください。

PS 次の更新は応援と評価によるモチベーション次第です。
ENDは一応考えてました・・・3年前の自分が次も頑張って更新します


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