TS淫魔の俺が寝取られ勇者に聖女と勘違いされ、世界を救うまで (科学式暗黒魔女 )
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一話 闇の聖女と勘違いされちゃったんですけど

 

 皆様、寝取られというジャンルをどうお思いでしょうか。

 

 苦手な人は苦手でしょう、何なら憎悪まで抱いてる方まで居るとは思います。

 

 ですが自分はこのジャンルが好きです。

 

 寝取られた女が快楽に満ちていくのも良いですが、それによって寝取られた男が苦しむ姿を見て、情けねえと嘲笑うのも好きです。

 

 

 ですがあくまで創作物の中での出来事、リアルでそんな事が起きてしまえば、流石にドン引きです。

 

 そんな人間が異世界で淫魔として転生したのですが、美少女となってしまっていました。

 しかも淫魔ですよ淫魔。

 

 

 淫魔なのでボン・キュッ・ボンを期待していたのですが、残念ながら背の高い貧乳お姉さんとなってしまいました。

 

 スタイルは抜群で背丈も180センチと長身で、淫魔という肉体スペックは非常に高く、何の身分もない淫魔が手ぶらで異世界に放り出されても、悠々と生きてゆけるほどです。

 

 ですが刺激が少なく、何か面白い事がないかなと彷徨っていたところ、強烈な淫魔としての本能に導かれて向かった先では、中々とんでもない事が起こっていました。

 

 

「うぅ……ぐ……ぅぅ……」

 

 

 隣に座っている勇者の少年はたった今、寝取られエンドを迎えたばかりであります。

 眼の前で間男と幼馴染の情事を見せつけられ、しおしおです。

 

 流石勇者と言うべきか、涙までは見せませんがかなり堪えている様子で、同情を禁じ得ません。

 

 

 こんな異世界に淫魔と呼ばれる種族の女の子になった身である、この僕が軽くハグ程度の慰めならしてもいいと思ったのですが、問題が一つあります。

 

 彼の寝取られた子達は三人程度なのですが、もれなく全員おっぱいが大きいのです。

 

 対して、淫魔だというのにこの身は長身スレンダーな貧乳っ娘、果たして慰めになるのでしょうか? 

 

 

 いや逆に考えるべきかもしれません。彼の今を考えてみれば、巨乳に恐怖心を抱いてもおかしくありません。

 

 であれば、貧乳の僕の方が恐らくは慰めになると思うのですが、どうでしょうか。

 

 

「……あの」

 

「はい?」

 

 

 まさか彼の方から声をかけてくるとは。

 これはもしや、彼の方からヤラせてくれと言ってくる予感がしますね。銀髪美少女となった僕にそんな劣情を抱いても仕方ないと思いますが。

 

 

「なんで……、この場に居たんだ? 此処、俺の家なんだけども……」

 

 

 そうなのだ。

 此処は勇者である彼の家であり、幼馴染や女の子達といつか世界が平和になったら静かに暮らそうと、勇者がお金を溜めて買った家であった。

 

 だが間男がいつの間にか居座り、彼のハーレムをガンガン寝取っていき、今に至るわけだが……。

 

 

(淫魔なので強力な淫気を感じ取って、此処に来たんですけど思った以上でしたね)

 

 

 この世界の淫魔は淫行で肉体の栄養が補給出来る、異常な体質を持っているので、レズプレイ目的にやってきたわけだが、まさかこんな場面に出くわしてしまうとは。

 

 

「非常に可哀想ですね。哀れなので超絶美少女である、この私にハグをしても良いですよ」

 

「……結構だ、それよりもアイツと話をしなきゃ」

 

 

 アイツとは間男の事だろう。だが話を付けるとは恨み辛みでも言うつもりか? 

 寝取られモノでそんな事をしたら、尚の事惨めでしかない。

 

 

「辞めた方がいいですよ、彼にあたっても結局女の子達の気持ち戻らないでしょうし。

 それに何よりも惨めなので。そんなことしている暇があったら、さっさと世界でも救ったらどうですか?」

 

「……うん、そのつもりだ。だけども一つだけアイツに約束をさせなければならない。

 皆を大事にしてくれって。この旅は結局何時死んでもおかしくなくて、それを強いてきたのは俺だから。だったらこうなっても仕方ない……よなって……」

 

 

 血が出るほど拳を握る勇者を見ていると、流石に可哀想になってきた。

 その覚悟を無下にするわけではないが、そんなことさせるのもなぁ。

 

 

「その覚悟は認めますが、彼女たちが自らで選んだ道をわざわざ貴方が導線を引く理由はありません。

 裏切られたのならば、まずは世界を救い、英雄として讃えられ、道を間違えたことを後悔させた方がいいのではないでしょうか。

 そうすれば美少女も近寄ってくると思いますよ、そう僕みたいなね」

 

「そう……かもしれないけど。もう仲間も居ない。独りで戦って勝てるかどうか……」

 

 

 完璧に折れてしまっている。それでも優しさだけは失わないようにしている姿は痛ましく、淫魔として加虐性が少し浮き出してしまいそうになる。

 有り体に言うと、もっとズタボロになり、自分に依存していく彼の姿が見たくなってしまうのだ。

 

 

 これは淫魔としての性質であり、元男であるとはいえ、この強烈な本能に逆らえるものではない。

 

 そしてこの本能に打ち勝つ必要がないと理性では判断をしていた。

 元男である懸念点としては、性行為をする事のみで、それさえなければ依存されようが何をしようが、僕の玩具として幸せになってもらい、自分は他の女の子とゴールイン。

 

 道徳の無さに眼を瞑れば完璧と言える。

 

 

 ならこの場で僕が出すべき言葉はこれだ。

 

 

「ならば僕がついて行ってあげましょう」

 

「は?」

 

「だから勇者としての旅について行ってあげるというのです。世界を救う二人旅、いいでしょう?」

 

 

 我ながら唐突な提案だが、勇者くんはすんなりと受け入れてくれるだろうと思っている。

 

 だが心配事は勇者ともあろう人間が、淫魔と旅をしていいものかどうか。

 この先で辿り着いた街で、どんな扱いをされるかは分からないが、元々僕は行く宛もなく、淫魔としての生活にも飽きていたので、それはそれでバッチコイなのです。

 

 後は勇者の返答次第ですが、彼はとんでもないことを口走りだしました。

 

 

「もしかして……、アンタが闇の聖女か?」

 

「何を言ってるんですか?」

 

「そうだ間違いない。予言で言われたんだ、光の聖女と道を違えた時に闇の聖女が手を貸すと……」

 

 

 何だその予言は。このままではシチュエーションが変に噛み合ったせいでただの淫魔である僕が、闇の聖女と勘違いされてしまうぞ。

 

 

「そんなわけがありません。僕は闇の聖女でもなんでもないですよ? 聖女らしい、回復魔法とか聖魔法の類は何も使えないですし」

 

「預言者も同じ事を言っていた……、まさかアンタだったとはな……」

 

 

 まさか僕は本当に闇の聖女なんですか? 

 

 いやいやそんなわけがありません。だって僕のお尻には悪魔の尻尾が生えてあるのだから。

 

 これで聖女だなんて名乗ったら、本場の聖女に殺されてしまいます。

 

 

(……しかしよくよく考えたら、必死に弁解する必要はないのでは?)

 

 

 聖女としてだったならば、この姿を闇の聖女だからと言い訳が出来る。

 この男が勇者であるならば、彼が淫魔ではないと言えば、その街での信用が得られ活動がしやすくなる。

 

 だったら僕が闇の聖女として活動をしても問題はないのだろう。本物が出たらとっとと居なくなればいいわけだし。

 

 

「……はい、僕が闇の聖女です!!!!!」

 

 

 そういうことにした。

 

 

「……助かる。俺の名前は"レーヴァ"こんな男で悪いけど暫く頼むよ」

 

 

 勇者が手を差し伸べてくる。僕をすぐに闇の聖女として見たり、何かとこちらが面倒を見ないと騙されやすそうで心配になるな。

 

 

「僕の名前はニュクスと申しま──」

 

 

 今後、如何に世界を救うかの考えを張り巡らせながら、手を取った瞬間に身体に電流が流れた。

 まるでビリビリと脳が快楽物質を垂れ流して、堕落した感情と思考が抑えきれない。

 

 

「あ、はい……」

 

 ポーっと、トロンとした顔をしているのが自分でも分かる。まるで運命の人に出会ったみたいに心がドキドキしてしまうのだ。

 

 これはまさか雌落ちという奴だろうか? しかし何故? 答えは一向に出ないが、僕は間違いなくこの勇者と触れる事で発情状態となってしまう事だ。

 

 これは……まずい。

 

 

(戦闘になった時にコイツに触れた時……、どうなってしまうんだ?)

 

 

 どうやら世界を救うパーティーメンバーは寝取られ勇者とそんな勇者に触れられただけで、発情状態に切り替わってしまうただの淫魔の二人らしい……。



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二話 友達になってあげましょう え、ここで女が追加?

 

 

 

 この世界に来た理由の一切は覚えていない。この世界に来る前の記憶はあるのだが、来る直前と直後の記憶が一切なかった。

 

 だからこそ元の世界に未練はあれど、死んでしまったのか、もしくはただの転移なのかも分からないので悲観もしていません。

 

 

 ただの転移ならば元の世界に戻れる可能性もあるかもしれないと楽観的になれるし、死んだら死んだで逆にこの世界で生まれ変われて幸運なのだろう。

 

 そこまで難しく考える必要はない、要はこの世界で生き延びればいいのです。

 

 

 問題は生き延びるだけならば容易ではあるが、娯楽がない。

 

 

 淫魔は魔力を摂れば、睡眠以外の生命活動は必要としないらしい。

 

 この世界に来た時に魔術師の少女と偶然仲良くなり、淫魔について色々と教えて貰った為、詳しく調べたわけではない。

 だが実際に少女に連れて行ってもらった場所は魔力で満ちており、そこに数週間と飲まず食わずで滞在したのだが身体に不調を覚えず、食欲なども食べたい物はあれど特別欲する事もなかった。

 

 

 代わりに性欲が研ぎ澄まされてしまい、娯楽不足で手持ち無沙汰となった時に、強い淫気に引き寄せられ勇者の家に辿り着いたわけです。

 

 

 それがまさか勇者とパーティーを組んで、世界を救う戦いに放り込まれるとは思いもよらなかったですね。

 

 

 いやそれよりも当面の問題は……。

 

 

 

「ギッ……ガッ……?!」

 

 

 三つの頭部を持つ魔獣の心臓部位に、埋め込んだ拳を引き抜く。

 鋼鉄の皮膚を持ちながら、この淫魔の肉体の前ではその頑強性は意味を成さない。

 

 

「これで終わり……と。レーヴァ、そっちはどうです?」

 

 

 緋色に燃える剣で魔獣の頭部を切り落とし、勇者レーヴァは数十体もの魔獣の屍を踏みしめる。

 身体は余す所なく血に塗れているが、全て返り血であり、彼へのダメージは何一つない。

 

 

「こちらも終わった。ニュクス、怪我はないか?」

 

「ええ。こちらは何とも」

 

 

 世界を救う旅をたった二人で行う事に若干の不安は抱えていたが、杞憂であった。

 

 レーヴァの勇者としての戦闘力は、こちらの予想を遥かに超えていた。

 

 音速で飛び交う魔獣に囲まれようが見切り、返す刀で一撃で、確実に絶命させていく。

 派手さはないが、だからこそ攻撃の凶兆も読めず、魔獣の獣としての本能を置き去り、的確に生物として致命的なダメージを与える。

 

 同時に驚いたのは、その戦闘に付いていくことの出来る自らの肉体だ。

 魔獣の能力に遅れることなく、渡り合えた。

 

 

 淫魔はこんなにも優遇されていたのかと、女になったとはいえ生き残る術を持っている幸運に感謝は絶えないのですが。

 

 

「身体が軽く触れ合うたびに発情すんのは何とかなんないですかね……」

 

 

 いくら互いに怪我もなく戦えるほどの実力があろうとも、余裕があるわけではなく、ましてや動きを合わせる事もまだ出来ていない。

 

 身体に軽く触れるだけでも、過剰に魔力の巡りが加速し、発情状態に移行してしまうのだから困ったものです。

 

 

 そのせいで旅を始めてまだ一週間というのに、レーヴァへのセクハラが日課となってしまいました。

 

 

「はぁ~~……、この体質何とかならないもんですかね」

 

「そう言いながら、俺のケツを触るの辞めてくれないか……」

 

「いいじゃないですか、既に友達でしょう?」

 

 

 この状態になってから、レーヴァに後ろから抱きついたり、服の中に手を突っ込んでみたり、お尻をサワサワして落ち着かせている。

 

 男も喰っちまうようになったわけではないのだが、この程度ならば友達への悪戯の延長線上でしかない。

 これで厄介な発情デバフを解除出来るのならば、男へセクハラするという現状も我慢してやりましょう。

 

 

「そう言いながら、結構楽しんでないか……?」

 

「いえ全然。何が楽しくて男に抱きついたりケツをモミモミしなきゃならないのですか。まあ鍛えられてるわりには柔らかいので心地良いのは認めてやりましょう」

 

 

 生憎、女に転生する前から生来の無表情で感情が読み取れないとの評判でしたので。

 

 

「聖女に見せるように購入したエッチなシスター服で抱きついてあげてるのですから、役得くらいに思い、土下座して感謝するがいいです」

 

「ニュクスが抱き着くのに血が付いているの嫌だって言うから、服に余計な出費までかけてるってのに。まあそう思っておきますよ」

 

 

 やれやれと布団に入り寝る準備を行うレーヴァ。少しくらいムラついて、ちょっとトイレ! くらいは言って抜いてきてもいいくらいの美少女である筈なのですが。

 あの時の影響でアソコの元気を失ってしまったと考えるのが妥当でしょうね。そうでなければこの美少女のボディタッチに耐えられるわけがないのです。

 

 

「悔しいので今日も添い寝をしてあげましょう。これで元気を出してください」

 

「やっぱ楽しんでるだろお前っ!?」

 

「いえいえ、玩具としてです」

 

「玩具つったな今」

 

 

 始まってからずっとこんな感じだ。世界を救うというのに緊張感がありません。

 ですがそろそろ気になってきました。彼が何を背負い、世界を救おうとしているのか。そもそも何から救おうとしているのか。

 

 ここは分かりやすく魔王とかならいいのですが。

 

 

「そろそろ貴方のことを教えてください」

 

「言ったろ、勇者だって」

 

「ええ、役割はですけどね。何でそれに選ばれたのか、そもそも何と戦っているのか。何も教えてくれないなんてひどいですよ」

 

 

 レーヴァは唇を軽く噛み締めて、目を逸らした。その表情は寝取られ現場の時よりも悲痛で聞いてはいけない事なのかと、問い詰めたのを一瞬後悔したほどだ。

 

 だが彼は少しずつ言葉を紡いでいった。

 何故こんなにも苦しそうな表情を浮かべたのかはすぐに分かった。

 

 

「……俺が戦っている魔族なんだけど、本当に此処十年程度前に現れた存在でさ。自然発生じゃないんだ。誰かが人為的に産み出した種族」

 

「珍しい設定ですね。古くから戦っているものかとばかり」

 

「そうじゃないんだ。その魔族ってのを産み出したのが……、俺の親父。だから俺はその尻拭いをさせられているだけなんだ。勇者なんて名前で都合よく祭り上げられてな」

 

 

 聞いた事を少しだけ後悔をした。彼の背負っているものを考えると、この戦いは絶対に勝たねばならないもので……。

 何よりも……。

 

 

「……皆知った上であの男の快楽に堕ちてレーヴァを裏切ったんですか?」

 

「裏切ったんじゃないよ。ただ皆怖かっただけだ。自分の命を価値を知っているから。辛い道よりもただ気持ちいいだけの方が遥かに楽だから」

 

 

 少しだけ寂しそうだけど、世界を救うという確固たる意思は決して折れない。

 

 彼は本当の意味で勇者だったのだ。

 

 

 ──でもちょっとズルいですね。そんな事言われたらちょっと優しくしたくなるじゃないですか。

 

 

「……友達として少し優しくしてあげましょう。今日は手を繋いでいいですよ」

 

「玩具と書いて友達だろ?」

 

「友達と書いて友達です。そんなこと言うなら優しくしてあげませんよ? そんなんだから女の子達を寝取られるんです」

 

「悪かったよ。じゃあ今日だけはお言葉に甘えさせていただきますよ、ニュクスさん」

 

 

 フフと笑い合い、少しだけ震えた手をゆっくりと握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんですかこれ」

 

 

 起きた時に背中が強い違和感を覚えた。背中に何か引っ付いている感覚が拭えず、手を伸ばし取ろうとするも引っ張ると痛い。

 

 仕方がなく、湖に向かい水の反射で背中に何が引っ付いているかを確認する。

 

 

「……なんだそれ」

 

 

 いつの間にやらレーヴァも起きていたみたいで僕の姿を見て驚いたようだった。

 当然だ。何故ならば……。

 

 

「闇の聖女って6対の黒い翼が生えるんだな……」

 

「超絶不便なんですけど、その剣で何とかしてくれませんかね?」

 

「斬れと?!」

 

 

 どうしよう物凄く邪魔だ。一体何故こんな翼が生えたのか分からないが、素人の考察をするならば睡眠中にずっと触れ合った結果、淫魔として進化したのではないでしょうか? 

 いや何でもありですか淫魔。

 

 

「収納……出来ないですかね?」

 

「出来るよ」

 

 

 後ろを振り向くと同じように六対の翼を広げた……、勇者の家で間男に寝取られ堕ちた筈の白き聖女が立っていた。

 

 

「……一体どうしたって言うんですか?」

 

 

 警戒を強くし、僅かに拳を握り締める。あの間男がもしかしたら僕も狙っているかもしれないと思ったのだ。

 力尽くで組み伏せた後で僕を……。

 

 

「そう警戒しないで。私はあの男から逃げてきただけなの……。だって二人が楽しそうに旅をしているのを見て、快楽よりも私は二人に付いて行きたいって。信じてくれるよね?」

 

 

 ……え、見てたんですか?





勇者 レーヴァ
武器 緋色に燃える剣
格好 身軽な冒険者らしい服装

淫魔 ニュクス
武器 素手
格好 好きなエロシスターの格好を想像して


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三話 やはり僕が最強に可愛いんです

 

 

 

「翼は背中の力を抜きながら、背骨に収納していく感覚を意識するとしまうことが出来るよ」

 

 

 翼の収納方法を教えてくれる光の聖女が翼を触る手付きは、柔らかくてくすぐったい。少し変な気持ちになってしまいそうだ。

 

 

「自己紹介がまだだったね。私はエルザ、光の聖女よ。聖女同士宜しくね」

 

 

 軽く僕のほっぺにキスをするエルザ。

 何とも妖艶な笑顔で、赤い目を向けてくる彼女は自分よりも淫魔という種族に相応しい容姿をしていました。

 

 自分の容姿も負けていないと自負していますが、彼女の方がエッチな気もします。ぐぬぬ。

 

 何よりも彼女の悠々として掴みどころのない態度に、本当に間男なんかに快楽落ちするような女なのか疑問になります。

 

 

「あれま、まだ信用してくれてないかな?」

 

「当たり前じゃないですか、僕は貴女のこと嫌いですよ」

 

 

 レーヴァの意向で彼女を迎え入れる事に決めたわけだが、正直なところ僕は信用していません。

 決してエルザが加害者と言うつもりはありません。

 

 ですがそれでも彼を裏切ったという事実を友達としてはあまり許そうと思う事が出来ません。

 

 彼が一緒に居ても良いと言っているので追い出す権利は僕にはありません。

 

 

 けれども、二人で旅をしてたところに余計な女が混じってくるのは良い気はしませんね。

 

 

「そうだよね。レーヴァの前で他の男に跨る、自分の淫乱な部分を見せつけてたせいで、私は彼の心の傷になってしまったのだからね。本当に……、彼がこんなにも私を想ってくれてたなんて」

 

「何だこの女……」

 

 

 怖い、怖いですよこの女。何であの後でレーヴァが自分を想ってくれてた事を認識して笑顔になれるんですか。

 

 稀に寝取られジャンルというものには、意中の男を自分のモノにする為に男を仕向けるなんて物もありますが、まさかその手の女の可能性もあります。

 ますます警戒は解けません。

 

 

「疑わないでくれたまえよ。逃げてきたのは本当なんだよ? あの男は私達の身体だけでは飽き足らずに聖女の力を奪おうとしたのさ」

 

「聖女の力なんか奪えるものなんですか?」

 

「寧ろ、君の得意分野だと思うけどね。君の肉体を構成する大部分は魔力だ。そして魔力という物は性行為によって力を奪えるのだが、人と淫魔では効率が違う。君はそれに特化しているのさ」

 

 

 成る程、だから淫魔という種族はこんなに強いんですね。

 そして恐らくは僕が居たあの場所には様々な生物の魔力があり、そこに長時間滞在した事によって僕自身の魔力が強くなったと。

 

 

「レーヴァの母親、魔王はそれの究極形だ。並の人間だと近寄れもしないだろうね。だからこそ魔力を父親に根こそぎ奪われた彼が倒す運命を背負わされているのさ」

 

「だとしたらあの間男結構ヤバい奴なんじゃないんですか? おめおめと逃げるだけじゃなくて、何とかしてくださいよ」

 

「だから君に接触したんじゃないか~~~~」

 

 

 ……どういう意味だろう。まさかあの間男とヤれと言うんじゃないでしょうね。

 

 

「そうじゃないさ、今のあの間男は僕たちの魔力を吸収した影響で肉体に接触せずとも、相手の魔力を綱引きのように引っ張る事が出来るのさ。淫魔の君ならばその綱引きに負ける事がないからね。一緒に倒して、レーヴァを二人で愛してあげようじゃないか」

 

「面の皮が厚過ぎやしませんか?」

 

「そう言わないでくれよ、ちゃんと反省したからこそ君を頼って確実に禍根を断ち切る努力をしてるんじゃないか。そうしたら私はレーヴァとまたキャッキャウフフが出来るんだしねぇ」

 

 

 遠くで休んでいるレーヴァを見て顔を高揚させるエルザの姿は、まるで乙女ではあるのだが、よくもまあそんな顔が出来るなと呆れが先に出る。

 

 それに間男を倒した後、この女は僕たちの旅に着いて来るつもりなのだろうか。勘弁して欲しいのだが。

 

 

「終わったら居なくなって欲しいですね、何度も言いますが僕は普通に貴女の事嫌いです」

 

「えぇ~~、どうしてだよ~~~。一緒の男を愛する者同士、仲良くやれると思うんだけどね」

 

「レーヴァは友達です、こう見えて僕は元男なので」

 

「それじゃあ私に惚れちゃった……とか?」

 

「何でそんな自信満々に言えるんですか?!」

 

 

 勘弁して欲しいです。確かに女の子が好きなままだが相手は選びたい。

 面は確かにいいのだが、こんなにも性格の悪そうな女と一緒に居たら、頭がどうにかなってしまいそうだ。

 

 

「それよりも来たよ」

 

 

 ドスン、ドスン──。

 

 深い森から顔を表したのは、人間とは思えない程に筋肉が膨れ上がった化け物でした。

 

 人型であるだけで人間の面影は残していなかったが、辛うじて頭部は人の形を保っており、その顔はあの間男のモノでした。もしや聖女の魔力を喰らった末路がまさかこれとは言うまいですね? 

 

 

「フゥ……、フゥ……、何だよこんな場所にいやがったのか……。探したぜぇ……。魔力がちょっと足りなくてよぉ……、お前ら二人をメスの顔にして魔力を貰ってやるから股を開きやがれぇ……」

 

 

 ギラギラとした眼は既に正気には見えず、完全に暴走している事が伺える。

 

 

「いや~~、魔力を奪われた時に過剰に魔力を流しちゃったら脳や筋肉繊維がその負荷に耐えきれなかったみたいでね。あんなんになっちゃった」

 

「お前本当に正気ですか?」

 

「そんな事言うなよ。私達なら勝てる……、だろ?」

 

「それは絆を深めた後で言う台詞ですよ。辞めてくださいよ、擦り寄ってくるの!!」

 

 

「何をゴチャゴチャ言ってんだぁああああああ!!!」

 

 間男は魔力を込めた拳を振り下ろす。

 しかしエルザはそれを容易く掌で受け止めては、その威力の感触を確かめていた。

 

 

「中々の威力だ、流石私の魔力だ。さあニュクス。コイツの魔力を奪い尽くしてくれ。私の魔力を持ったコイツを殺すのは骨が折れるのでね」

 

 

 刹那、先程の攻撃とは比べ物にならないほどの速度で、エルザは拳の雨を数十、百、千、あるいはそれ以上の攻撃を間男に浴びせていた。

 

 

「いでぇええええ……、いでぇええええ……!!!」

 

 

 拳が肉体を貫通し穴だらけとなる間男だが、肉体が再生能力を有しており瞬時に肉体が治っていき、どうにも死にそうにない。

 

 

「ほら早く。魔力を奪い尽くしてくれ」

 

「……そういう事ですか」

 

 

 エルザが間男を一方的に蹂躙している隙に、肉体に触れ魔力を奪う。

 すると巨大に膨れ上がった間男の肉体は枯れ木のように朽ちていき、ミイラと化していった。

 

 

「ふぅ……。悪は滅びた!!!」

 

「どの口が……」

 

 

 こんなに簡単に間男を葬れるとは。この女を助ける事は癪だが、ムカついていたのは確かなので鬱憤は晴らせたものではあります。

 

 

「レーヴァに報告しなければ。彼も喜んでくれるでしょう」

 

「だ~め。彼に言っては駄目だよ」

 

「……どうしてですか?」

 

「彼は絶対に喜ばないからね。この男ならば私達を自分の代わりに守ってくれるなんて甘い考えすら持ってそうだしねぇ。

 そこが彼の可愛いところではあるんだけども、とにかく人殺しとか彼は苦手なんだよ。だから私達でこいつの死体をボコって鬱憤を晴らそうじゃないか!」

 

 

 性格悪すぎるでしょうこの女。レーヴァもこんな女に纏わりつかれて可哀想です。

 僕が彼を守らねばなりません。

 

 出会って一週間しかありませんが、同情や友情を感じ、彼個人を友達として好きになったのは本当です。

 

 何よりもこんな女よりも、超絶美少女の僕が居れば何も問題はないのです。彼女にはさっさとお引取りになって頂こうと思います。

 

 

「やっぱり出てってください。彼は貴女が居ても心苦しいだけで喜ばないでしょうし」

 

「そ、そんなわけないだろうっ!? 彼は絶対に私が居た方が喜ぶはずさっ! 賭けてもいい! もし喜んでくれないなら、そのときは潔くこのパーティーを抜けようじゃないか」

 

「言いましたね?」

 

「言ったとも」

 

 

 この女は本当に喜ばれると想っているのでしょうか。

 まあこれでこの女を追い出す口実が出来たのは良い事です。早速彼にこの女の存在をどう思っているか確認しましょうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……正直に言うと一緒に居るのは辛いかな」

 

「ですよね~~~~~」

 

 

 流石に分かり切っていた事でした。

 寝取られプレイを目の前で見せられて、その女と一緒に居たがる男はただのマゾです。

 

 そんなマゾだったらどうしようと一瞬、不安になったが一般的な性癖そうで一安心をする。

 

 

「……それに今はお前と二人で旅がしたい」

 

「えっ」

 

「あ、いやそういう意味じゃなくて……。たの……しいからさ……。エルザも被害者ではあるから……、身勝手な事言っているって分かってはいるけど……。ってニュクス?」

 

「なんですか?」

 

「いや何でそんな笑顔なんだ?」

 

 

 笑顔なんか浮かべてないですよ? 

 いやもしかしたら浮かべているかもしれません。だって……。

 

 

 

 

 エルザが凄い顔をしてこっちを見ているので、それを見れば笑いなんか堪えられるわけもないのです。






エルザ

容姿 ハイライトのない赤目銀髪美少女

格好 何かエッチな聖女っぽい格好。各自でご自由にご想像ください


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四話 巨乳より貧乳を信じ続けてくれる限り、ズッ友ですよ。

 

 

 

「さ、これで分かったでしょう? 今の貴女はレーヴァの毒にしかなっていないんです。彼を想う心があったのならば出てってください」

 

 少々キツい物言いだけど、これくらい言わなければ面の皮の厚さが天元突破しているエルザには届かないでしょう。

 しかし、そんな事くらいでめげる女では毛頭なかったようで……。

 

 

「何時から……そういう関係に……?」

 

「何度も言っていますがそんな関係では御座いません。貴女は最初からあの人に好かれる権利があったというのに……」

 

 

「だ、駄目だよ。ニュクス……」

 

 

 まるで自分が悪いとなんかまるで思っていないように……。

 この女は身勝手に自分の思いだけをぶちまけてきたのです。

 

「私が最初にレーヴァの事を好きになったのよ……!!」

 

 

 エルザが右腕を微かに上に向ける。その動きを僕は見逃さず……、拳を同時に抜いた次の瞬間──。

 

 

「……僕の一撃の方が素早かったですね」

 

 

 一撃。左の拳がエルザの腹部の半分を吹き飛ばした。

 戦いと呼ぶにはあまりにも早すぎる決着。音よりも早く戦う者達の世界とは常にこういうものだ。

 

 レーヴァと旅をしていた、三人の魔力を多く含んだ間男の力を得た為か、僕の拳の速度は更に素早く、鋭く、強固となっていた。

 本来ならば僕などよりも遥かに速いエルザの拳を僅かに上回っていたのです。

 

 

「くっ……、そんな事言ってるけど……、本当は一緒に居ても良いと思ってるでしょ?」

 

「腹を半分吹き飛ばした相手に何を言っているのです。大人しく去ってください、これ以上は不快です」

 

 

 殺すつもりの一撃だったが、光の聖女という物はこの程度では死なないらしい。そしてこの期に及んで、まだこちらに居座れる僕の慈悲を期待していたとは。

 だがこの女にかける言葉は最早一つしか存在しません。

 

 

「さっさと失せろ。僕たちの前に姿を表すなよ淫売」

 

 

 流石に堪えたのかエルザは涙目でその場を立ち去る。チラチラとこちらを見てくる辺り、泣けば何とかなると少しでも思ってるのだろうが大きな間違いだ。

 これからエルザが僕達と共に旅をし、一緒の空気を吸うことすら僕は許す気はない。

 

 

「……百合もイケるよ?」

 

「お前の頭部をふっ飛ばしてやってもいいんですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうワケでエルザは、これ以上レーヴァを傷付けたくないと自分から出ていきました」

 

「そうか……」

 

 

 流石に追い出したと言えば、彼の事だから居座っても良いなんて甘いこと言って、エルザに付け入る隙を与えるでしょうし、少々心苦しいのですが騙しておく事にしました。

 

 それに彼の甘さを此処で僕が怒ったとして、それは治らないでしょう。

 その甘さこそがたった今、彼が勇者として立ち上がっている理由であって、そこを根っこから圧し折ってしまえばもう彼は立てなくなる。

 

 彼をこれ以上追い詰めるのだけは嫌でした。だから僕は彼の弱さも何もかもを認めて一緒に居てあげようと思ったのです。

 

 彼の旅の最終目標を最後まで教えてもらっていない僕では、彼の仲間としての信用を勝ち取れていないことは自覚している。

 それでも友達なのです。彼が友達を裏切るなんてしないと分かっているからこそ、僕は彼に着いていける。

 

 

 僕は彼女達とは違う、友情の想いを彼に捧げましょう。

 

 

 ならば彼に言うべき言葉はただ一つ。

 

 

「まだ話してくれてないこともいっぱいありますけど……、今は良いでしょう、ゆっくりと僕を信用してくれるまで待ってあげます。だから怯えないでください。僕は君の側に居ます」

 

 

 彼が慰めて欲しいと言ったわけではない。これは僕が君に捧げる誓いでしかないのだから、それが返ってくることを期待はしない。

 ああ、どうか君の行く手が穏やかでありますようにと。僕は祈りましょう。

 

 

「……やっぱり笑ってる」

 

「そうかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日間ほど歩きようやく街へ辿り着く。その間は元々料理が得意だったので、彼に料理を振る舞ったり、何時ものようにセクハラをしてた。

 

 楽しい。

 

 この世界に来た当初は、何も娯楽のないつまらない世界と少し此処に来た事を後悔していたが、友達が出来るとこんなにも楽しいだなんて以前の人生でも知らなかった。

 未だに彼と触れ合うとムラムラはするが、常に彼に引っ付いている為慣れてしまい、性欲はあれどそれ以上に彼と喋っている事でそれが緩和されていくのだ。

 

 淫魔なんて難儀な種族になってしまったが、それを乗り越えた友情と考えると、この関係性が余計に尊く思えて嬉しくなる。

 

 

「……世界を救い終わってもこうして旅が出来たらいいですけどね」

 

「まあな」

 

 

 我ながら彼に友情というものを些か感じすぎではないかと小っ恥ずかしくもなるが、これが男から女に変わった影響なのだろうか? 

 かと言って悪い気分でもない。以前と違う自分を受け入れることは何とも簡単ではあった。

 

 

「しかし……、そろそろ話した方がいいかもな」

 

「何を?」

 

「俺の旅の最終目的をさ。何にも話してなかったからさ」

 

 

 そういえばそうだった。そんな事すっかり忘れてしまっていた。

 少々熱に浮かされすぎだなと、顔が少し赤くなる。

 

 

「前も言った通りに……、俺の父親が魔族を作ったと言っただろ? 元々協力者が数人居て、連中は"新人類"を生み出そうとしたんだよ」

 

「新人類……」

 

「そしてその為に俺を実験体にする予定だったらしいが結果は失敗。俺の身体から根こそぎ魔力が失くなるだけだった。だから次は母さんがモルモットになってしまったんだ。

 ありとあらゆる獣の細胞を母さんに埋め込んだ結果、実験は成功。母さんは自我と引き換えに、魔王と呼ばれる新人類"魔族"の頂点に君臨したんだ。

 母さんは自我を失う前に俺を助けようとしてくれて、俺は今生きてるんだ」

 

 ……まさか世界を救うというのは。

 

 

「ああ。父親と……母さんを殺す為の旅だ」

 

 

 その旅は過酷なんて言葉だけで表すにはあまりにも残酷で……、勝利を掴んだ先に何も救いが見えない戦いであった事を知りました。

 いや救いはあったのでしょう。エルザや残り二人の女の子達が、彼の救いとなるはずでした。

 

 それをあっさりと快楽で滅茶苦茶にされてしまったのです。

 

 

「え、えと……」

 

「そういう顔するから言いたくなかったんだよな~。俺は覚悟も何もかも決めてる、他人から辞めろと言われようがこの道を歩み続ける事を選んだわけだから」

 

 

 ……駄目ですね、上手く言葉が出てきません。どうしようか悩んだ末に僕は少しだけズルい方法を取ったのです。

 

 

 彼の背丈は170前半くらいで、決して低くはないものの。180センチ以上ある僕と比べればかなり小柄といえます。

 そして膂力も僕の方が高い為、簡単に押し倒す事が出来ました。

 

 

「お、おい……」

 

「黙って」

 

 

 彼を包み込むように強く強く抱きしめ、足を絡ませる。常にセクハラをし続けている僕ですが、こんなにも強く抱きしめた事はありませんでした。

 

 

「お前なぁ……、困ったら抱き付くの辞めろって……」

 

「……聖女様はこんな方法しか知らないんですよ」

 

 

 そう、これ以外のやり方が淫魔である僕に分かるわけがありません。女性ならばもっと優しい言葉をかけたり出来たのでしょうが、元男である僕は奮い立たせる言葉しか思いつかなかったのです。

 けれどもそんな言葉は残酷なだけだから、言いたく有りませんでした。だからこんな不器用な方法で彼に優しくする以外は思いつかないんです。

 

 何よりも僕が悲しいので。こうさせてください。

 

 

 ──ギュッと抱きしめていると、彼に魔力が無いせいだろうか。まるで乾ききった砂漠に、水を注いでいるような感覚に襲われる。

 すると魔力を根こそぎ奪われたと言っていた彼に少しの変化が起きたのだ。

 

 

「……おい」

 

「何だよ……」

 

「何おっ立ててるんですか……!!!」

 

 

 レーヴァのナニが元気になっていたのです。というか何かサイズがさっきからおっきくなって……、いや怖い怖い。

 本当に凄い膨張し始めてるんですが、何事ですか。

 

 

「分かんねえよ!? あの日以来全然元気になんなかったのに、何故か今凄い元気になってるんだが……!?」

 

 

 僕の魔力が彼に少し移った影響なのでしょうか……? いやこれは中々……。

 

 

 

 バンッ!! 

 

 

「ちんちんに魔力の反応ありなのだわっ!!!」

 

 

 突然ドアが開き、見覚えのある魔術師の姿のロリっ子が現れた。

 何処かであった覚えが……、何処だったっけ……。

 

 

「あらっ! 久し振りね転生者。あの場所から移動し、男でも捕まえたと思ったら我が弟子だったとはね。全く何の因果なのかしら」

 

「あ、思い出しました。あの時淫魔に教えてくれたロリっ子魔術師」

 

「ええ、覚えていてくれたのねっ、フフッ」

 

 

 思い出した。彼女はこの世界に来た時に自分が元男の転生者である事を説明も無しに見抜いて、魔力が濃い場所を教えてくれた魔術師だ。

 

 しかし弟子と言いましたか? もしかしてレーヴァのことでしょうか? 

 

 

「その通り! まあ弟子と言っても、魔術とか魔法の類は一切使えないから、魔術殺しを教えただけなんだけどね! そんな弟子がなんとチンチンから魔力を発しているじゃないっ!」

 

「チンチン連呼するの辞めてっ!?」

 

 

 やはり寝取られた原因は魔力がなくてチンチンに元気がなかったから……? 

 やっぱりレーヴァの父親が悪いんじゃないですか……。

 

 

「おっと、自己紹介が遅れたわね。私は弟子の父親と共に新人類を産み出した、ユダと呼ばれる者よ」

 

 

 ……裏切り者って意味でFAですかね?



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五話 ロリっ子と思ったらロリっ子じゃなくて、まさかの○○枠でした

 

 

 

 古代遺跡。

 

 遥か昔に滅んだ文明が残っているダンジョンらしく、これからの旅に必要だろうというユダの提案により僕達はダンジョンにやってきました。

 

 

「……とはいえ綺麗ですね」

 

「そうでしょ? 古代遺跡って聴くと危険な場所と思う人が多いのだけれど、実際は古くからの文明と技術が今でも見る事の出来る場所なのよ」

 

「危険な場所だとは想いますがね」

 

 

 確かに僕の想像していた場所とはまるっきり違っており、密度の濃さで視覚化された魔力に、虹色に照らされた科学文明がそこにはありました。

 昔はもっとファンタジーではなく、SFだったのでしょうか? 

 

 とはいえやはりダンジョン。先程から変形、合体を繰り返しながら数百といった機械の兵士が襲いかかってきています。

 

 

「しかしあの時のか弱い淫魔がこうも成長するとはね。弟子の側に寄り添ってくれるとは安心したわよ」

 

 

 レーヴァの師匠、安堵したような表情で"ユダ"は紅茶を啜っていた。恐らくは彼に悲劇があったことを知り、駆けつけて来たのだろう。

 だが彼女は魔力で人を探す事に長けていたため、魔力のないレーヴァを探すのにだいぶ苦労したのでしょうね。

 

 

「そうなのよね~。魔力の扱いが上手くなってからもう長いけど、魔力を用いない作業がまるで苦手になってしまっちゃったの。

 彼の事を聴いた時は誰よりも早く駆けつけてあげたかったのだけれど……、待たせてしまってごめんねっ」

 

「撫でないでくれ……」

 

 

 彼の頭を優しく撫でる彼女の見た目はロリロリしいが、その雰囲気は大人の余裕が醸し出されており幼さは感じさせない。

 寧ろ、長年を修羅の中で生きてきた威圧すら感じる程に、彼女は強者として完成されているのがわかりました。

 

 現に先程から襲いかかってくる、機械の兵士を一瞬の隙や慢心もなく素手で処理しており、警戒という物を集中すらせずに行える領域に彼女は立っている。

 

 

「しかし師匠、彼女は淫魔ではないぞ。エルザと同じ聖女であって、魔力を奪う魔獣じゃない」

 

「えっ?!」

 

 

 驚いた顔でユダは耳元でひそひそと。

 

 

「そういう事にしたの? 駄目よいつかバレるわよ。貴方は確かに普通の淫魔とは違うけど……」

 

「ええ、その方が色々と都合がいいのと聖女の魔力を奪ったので、今はあながち嘘でもありません」

 

「……確かに、エルザの魔力を感じるわね」

 

 

 ユダは少し悩みながらも、僕に一つだけ約束をさせました。

 

 

「……彼を騙している事は見逃してあげる。代わりにあの子を守ってあげてね」

 

「言われずとも」

 

 

 ああ良かった。この人はまともです……。この世界で出会った初の女があの淫乱聖女だったので、少々女性という物を信用しきれない部分がありましたが、これで不審にならずに済みそうです。

 やはりこの世界の女性が駄目なのではなく、あの女が駄目だったのですね。

 

 

「僕も信頼できる女性に出会えてよかったですよ。あのエルザとかいう女はまともではなかったので」

 

「えっ? 何のこと?」

 

「だからまともな女性に出会えてよかったと──」

 

「ああいやそっちじゃなくて……」

 

 

 少し困惑したようにハァと溜息を付いたユダはとんでもない事を口走った。

 

 

「あの……私は男よ?」

 

「はっ?」

 

 

 男? 何を言ってるのです? ユダの見た目は完全に可憐な少女のモノであり、骨格などを見ても男性と見分けられる要素は一つもないというのに。

 

 

「いや……、師匠で合っているよ。俺も最初勘違いしたけど一緒に温泉とか入った限り、その……確認できたしな」

 

「嘘ですよねっ!? 見せてください!!!!」

 

「嫌よっ?!」

 

 

 顔を真赤に股を隠す仕草も、非常に可愛らしい初な女の子の動作そのもので男性の要素など何一つない。

 そもそもその口調は女の物じゃないですかっ! ちょっと幼い見た目と口調でとても愛らしいのにっ!! 

 

 

「愛らしいってそんな……、レーヴァはどう思う?」

 

「まあ可愛いとは思うけど……」

 

 

 フフと笑うユダは子供をからかったような笑みを浮かべ、また彼の頭を撫でる。いちいち動作が可愛い。

 レーヴァもレーヴァです。僕が抱きついてもそんな顔見せた事ないじゃないですか。元男とはいえ、美少女の自信が少し揺らいでしまいます。

 

「あーもー離してっ!!」

 

「そんな嫌がらないでっ。久しぶりに会えて本当に嬉しいのよ?」

 

 

 何ですか? 僕はこれを見せつけられる為にこんな場所に来たんですか? 

 

 

「違うわよもう……、そうじゃなくて魔力の使い方や意味を正しく教えてあげようと思ってね」

 

「魔力の使い方……ですか」

 

「そうよ。肉体の大半が魔力で構成された貴方は感覚で魔力を扱っているけども、魔力とは何なのか、その力をどう扱うのかを正しく理解しなきゃね」

 

 

 魔力の使い方ですか、思えば考えた事もありませんでした。回復魔法とかそういった物が使えるようになるのでしょうか? 

 

 

「そんな便利な物じゃないわ。そもそも魔力は貴方が考えているようなファンタジー的な代物じゃなくて、あくまで肉体を強化する要素でしかないの。口で説明するのも難しいけどそうね……」

 

 

 そっとユダは戦いに巻き込まれ、怪我をしているネズミを見つけると鷲掴みにする。そして肉体の魔力を操作してネズミに流し込んだ。

 するとどういった事か、ネズミの肉体がボコボコと回復していき完治したのだ。

 

 更に驚く事に地面に逃したネズミは通常のネズミとは比べ物にもならない、亜音速で駆け出していったのだ。

 一体どういうカラクリなのでしょうか? 

 

 

「このように回復魔術っていうのは、無から肉体を再構成するのではなく、"生命の進化を施すのよ"。魔力は言い換えれば全ての生命が平等に持つ"生命の進化の源"。魔術はその進化の操作を行っているに過ぎないの」

 

「つ、つまり……?」

 

「魔術とか魔法は貴方が考えるようなファイア! とかサンダー! みたいな代物じゃなくて、肉体強化が基本と覚えておけばいいわ」

 

 

 成る程、だからあの聖女も回復魔法とか使いそうな見た目だったのに肉体派だったのですか。

 

 そしてあの間男……、あの姿は"間違った進化をした姿そのもの"なのでしょう。

 

 

「そしてこれを攻撃用に転換すると──」

 

 

 ドンッ!!! 

 

 

 拳の先端部から衝撃波が広がり、音が遅れて聴こえた。

 強化された僕の眼にもその拳を捉える事は出来ないが、超音速ほどの速度は出ていた事が分かる。

 

 

「このように攻撃時に魔力を一点に集め、一瞬だけ進化をするのよ。すると肉体の進化の負荷を殆どなく攻撃が出来るの。魔力で構成された淫魔と言えども、この負荷は無視出来るものじゃないから覚えるといいわ」

 

「これを覚えて帰れと……。今の段階でも、そこら辺の魔物や魔獣には勝てるのですが、魔王という存在はそれほどまでに強いんですか?」

 

「まあね。やろうと思えば大陸一つくらいは、生物の魔力を草一つ生えない砂漠に出来るんじゃないと思うわよ。貴方も今のままじゃ簡単に魔力を吸われて終わりでしょうね」

 

 

 思ったよりとんでもない相手でした。どうしようちょっと怖くなってきちゃいました。

 何なら、なんだかんだで魔王ならレーヴァと僕で余裕余裕くらいに思っていたのですが……、大陸一つ簡単に滅ぼせてしまう相手だなんて……。

 

 自分の身体が小刻みに震えているのを悟ったのか、レーヴァがそっと肩を抱き寄せてくれたのです。

 

 

「……別に今此処で逃げたって──」

 

「だから修行よ修行っ!!」

 

「いい……、最後まで言わせろよ!!」

 

 

 勿論ユダはそんな僕を逃がすつもりなど毛頭なかったようでして、腕を掴まれてしまいました。

 そして魔力が可視化されているほどに強いダンジョンの中でも、特に強い場所に連れてこられ、彼はとんでもない修行方法を言ってきたのです。

 

 

「今から聖女以外の魔力に対して、完全なる耐性を持つレーヴァを使って修行をするわよ!」

 

「レーヴァを?」

 

「ええ。彼の父親の実験で肉体が一度バラバラになっていたのだけれど、魔王が彼を救う為に特殊な進化を彼に施したの。そして彼は魔力の絶縁体であるから、私達の魔力も乱れて非常に扱いにくくなるわ。まあ難しい事を言ったから簡単に言うと……」

 

 

 

 

 

「彼とこれから魔力を完全に扱い切れるようになるまで、私と貴方でレーヴァをサンドイッチ状態にして、魔力を流し込みながらイチャラブチュッチュするわよっ!!」

 

「お前もただの変態か~~~~い」





ユダ

容姿 紫髪の前髪ぱっつんのポニーテール
    胸は少し膨らんでいる。

格好 肩や脇を露出させたミニスカ魔術師


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六話 我々が天に立つ

 

 

 

「ちょ、師匠何処触ってんだよ?!」

 

「難しいのよ、魔力調整!!」

 

 

 引っ付いて早数時間、魔力の扱いを上手くなる為の訓練ではありますが、ハッキリ言って何をしているか分かっていません。

 

 確かに感覚で操作していた魔力が、今では上手く扱えない状態になっていますがこれで本当に上手くなるのでしょうか? 

 

 いくら疑問を抱こうが、魔力の初心者なのは僕の方なので諦めて従いますが、これでは単にレーヴァに二人で抱きついてわいせつな行為をしているに過ぎません。

 嫌いではないのですけど、やるならもっと大胆な事がしたかったですね。乳首くらいは弄り回したいです。

 

 ……やってもいいのでは? 

 

 この状態であるならば、普通に乳首くらいは弄り回してもユダのせいに出来ますし。やりましょう、そうしましょう。

 

 そしてスウ……と、手をレーヴァの乳首に触れようとした時……。

 

 

「おいっニュクス!! 乳首イジるなよ!!」

 

「まだ弄ってないです!!!」

 

「まだっ!? いやそれよりも、じゃあ師匠!!」

 

「私じゃないわよ!?」

 

「わたくしでもありませんわ」

 

「じゃ、誰だよ……。……んっ?」

 

 

 折角乳首を弄ろうとしたのに邪魔されてしまいました。全くユダは自分じゃないと言ってましたが、他に誰もいないじゃないですかもう。

 仕方ありません、もう一度ゆっくりと乳首に手を伸ばした時……、"同じ方向から伸びた手に触れた。"

 

 やっぱりユダだ。自分じゃないと言っておきながら、レーヴァの乳首を……。

 

 ……あれっ? 自分と同じ方向から伸びた手? ユダは……向かい側……。

 

 

 そっと後ろを振り向くと……。

 

 

「初めまして、レーヴァの運命の姫の"シグマ"と申します」

 

「うわぁああああああああああっ!?!?!?!??!」

 

 

 ゴンッ!!! 

 

 

 びっくりした拍子に地面を手で押し上げ、天井に頭を激突してしまう。

 痛い、滅茶苦茶痛い……!!! 

 

 

「シグマ……!? 何でお前こんな場所に……!!」

 

「もうレーヴァ、愚問ですわ。わたくしは貴方に謝罪に来たのですよ」

 

 

 彼女の風貌はまさに白雪姫と言うのが相応しく、白い肌と水色の長い髪の爆乳お姫様はゆっくりとレーヴァの元に跪き宣言をした。

 

 

「お詫びにわたくしはレーヴァの一生の愛便器ですわ──って危ないっ!?」

 

 

 とんでもねえ事を口走りやがったので問答無用で首を吹き飛ばそうとしたが、ひらりと躱されてしまう。

 この体になって以来、史上最高の一撃だったのに非常に残念です。

 

 

「貴方もあのクソ聖女と一緒ですか。死んでください」

 

 

 あっさりと人殺しという選択を選ばせるほどに、とっくの昔に我慢の限界を迎えていた。後悔も反省も要らない死ね。

 一撃で終わりにしようとシグマの頭部を頭蓋ごと脳みそを吹き飛ばさんとする勢いで殴りつけるが、頭部から発する音は思いもよらないものであった。

 

 

 ガンッ!! 

 

 

「ッ!?」

 

 

 まるで鋼鉄でも殴っているようだった。実際の鋼鉄程度ならば既に粉々に出来る筈の右手は見事に血を吹き出し砕けてしまう。

 

 

「なに……!?」

 

「まだ魔力の扱いが……、進化の方向が雑に設定しすぎてるようですね」

 

 

 まさか皮膚が固くなっているとでもいうのか? 

 

 

「改めまして。わたくしの名は<鋼鉄の処女>シグマと申します。得意な魔術は肉体を硬くする事。あっご安心ください、レーヴァへ差し出すお股はフワフワですので」

 

 

 シグマはレーヴァの方向を一点を見つめ、顔を赤面させている。そして既に僕など敵ではないと言いたげに、僕の存在を無視してユダへと話しかけた。

 

 

「ユダ、彼を解放しなさい。そろそろこんな辛い旅をさせる必要などありません。彼にはもっと大事な事があるのです。

 これからはわたくしが彼を守り、この身体を一生愛便器として捧げねばならないのですから」

 

「だって言ってるわよレーヴァ。この弟子がそんな事を望んでいるとは思えないのだけれど」

 

 

 当のレーヴァは彼女の言動をどうにも信じられないと言いたげに、顔色は真っ青に塗り替えられていく。

 仮にも彼の旅を着いてきた仲間であった女の子から聴きたい言葉ではない。反論など既に無意味。

 

 だが黙ってはいることも許されず、無理矢理に彼は彼女との問答に付き合わされてしまう。

 

 

「……あの男は?」

 

「死んじゃいましたっ。まあナニしか取り柄のない男ですし、まあどうでもよくないと思いませんこと?」

 

「なんで……!! 快楽でとはいえ、俺の旅を辞めて選んだ男だろうっ!? 何でそんなにあっさりと……!! 最後まで旅に着いてきて欲しかったと思ったのは本当だ! でも……、押し付けちゃいけないと、旅を無理に共にさせるわけにはいかないって……! 思ったから……幸せになってくれるならって……!!」

 

 

 すると彼女はニッコリと微笑み、ハッキリと言ったのだ。

 

 

「だから反省してしっかりとレーヴァに身体を捧げたいと思って……、あっ! そういう事ですねっ!! そこの二人にもわたくしを使わせろと! ちょっと恥ずかしいですが、寝取らせ趣味があるのならばわたくしは付き合ってあげますわよ?」

 

 

 この女の口から吐き出された言葉は、何とも容易くレーヴァの心を抉り取る。

 彼が求めていた関係性はこんな物ではない、ただ彼は側に居て欲しいだけだったというのに。

 

 何もかもを快楽に結びつける事しか出来ずに、それだけが絆や愛と称してこの女はレーヴァと接する事しか出来ないのだとまざまざと見せつけられました。

 

 

 これが快楽に屈して、愛していた男以外に快楽で靡いた女の思考の末路であり、レーヴァに対する呪いそのものだった。

 

 

 レーヴァはその場に絶望を遂に隠す事が出来ずに倒れ伏す。寝取られプレイを見せつけられた時も溢れさせなかった涙が遂に決壊を迎えていたのです。

 

 

「う……ぁぁぁあああああああああああ!!!」

 

 

 レーヴァの絶叫が迷宮に鳴り響く。

 

 ユダは今にも噛み千切ってしまいそうな程に、自らの唇を噛み締め耐えていた。

 涙で溢れた彼を抱きかかえ、何度も彼の目の前でかつての仲間を、師匠が殺してしまう惨劇を見せつける事のないように必死に堪えていたのだ。

 

 

「泣くほど嬉しいのですかっ!? はわわわ、ちょっとわたくしビックリしてしまいましたよ。しかしレーヴァの為です! しっかりと愛便器としての役割を果たしてみせましょう!! ところでユダさんのおちんちんはおっきいのかなっ? レーヴァよりもおっきいと興奮しちゃいます~~」

 

 

 殺意という殺意、その全てが心に容易く入り込み、怨嗟と怒りで捻れていくのが分かりました。被害者であったはずのこの女の全てを許す事が出来ない。

 あの時、エルザに対して向けていた感情が漏れ出てゆく。それはもはや止めようの無い憤怒でありました。

 

 

「よりにもよって」

 

 

 お前は言った、また彼を壊そうとした。お前は、お前は、絶対に言ってはいけない言葉を彼に言ったのだ。お前はどうして貰えると思ったのだ。

 無意識に口から言葉が発せられている事に僕は気付く事が出来ない。

 

 レーヴァが喜んで身体を貪るとでも、折角謝りに来たのにと、これでまた自分はレーヴァに愛されるとでも? 

 

 

 もう先はない。

 

 

 砕けたはずの右手は、痛みすら忘却して握り拳を作り出す。

 

 怒りで自らが進化していく実感を確かに感じていたのです。それは今までの勘で行っていたものとはまるで違う、確かなモノで。

 

 

 振り上げた一撃はユダの物よりも、遥かに鋭く、速く、重かった。

 

 

「無駄ですわッ──」

 

 

 ドスッ!!! 

 

 

「ガァッ……!!? どう……して……!?」

 

 

 先程は傷一つすら付けられなかったはずの肉体を貫き、心臓を消し飛ばした。エルザの時とは違う、確実に生命を奪う一撃で、レーヴァの仲間だった者を殺したのだ。

 

 

 ドサッ。

 

 

 シグマの死体を見下し、ユダの目論見通り魔力の扱い方を学ぶことには見事に成功したな、なんて人殺しをしたばかりとは思えない思考で埋め尽くされる。

 

 だけどそれよりも……。

 

 

「レーヴァ……、泣かないで……。もう残酷な物を君に近付けさせたりしないから……。泣き止んでください……」

 

 

 震えるレーヴァを何時ものように……、優しく抱きしめた。

 

 

 

 

「やるじゃないかニュクス。だけど最後に勝つのは私達だよ」

 

 

 

 

 抱きしめる彼の前に腹を抉ったはずのエルザが無傷でそこに立っていた。一体何故だ、あの怪我は簡単に治る筈のものでは。

 

 

「聖女を舐めないで欲しいな。まあいい、これより君たちは私達の敵となったわけだ」

 

「彼をこうやって奪いに来るのですか? でしたら覚悟してください、僕は貴方達などには絶対……!!」

 

「違うね、もっと崇高に、そして華麗に彼を奪う方法を思いついたのさ」

 

 

 エルザはくるくると何とも楽しげに、シグマの遺体を担ぎ上げ、ダンスを踊り始める。攻撃を仕掛けようにも、以前とは違いまるで隙が見出だせない。

 何よりも彼を奪う計画とやらを聞き出さねばならない、コイツをこの場で殺しても、他の女がその計画を共有していた場合に、対処が遅れる可能性があるからだ。

 

 それだけは避けたい。だからコイツのやり方だけは聞き出さねばならない。

 

 

「……魔王となることさ」

 

「なにっ? 

 

「そのままさ、ところで名乗り遅れてしまったね」

 

 いつの間にかエルザの隣には女騎士が立っており、死体となったシグマを抱きかかえ、構えを取っている。

 

 

 

 

「我々は奪還者。そして君たちよりも早く魔王を殺し……、私が天に立つ!!」

 

 

 ドン!!!! 

 

 

 

 




シグマ

容姿 白い肌に水色の長い髪。
    そしてムチムチの爆乳ボディをしたお姫様のような女


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七話 僕から私になるとき

 

 

 

「何……言って……」

 

 

 正気ではない。それで彼の心が戻ると本当に思っているのか。

 彼はそんな事は望んでいない、本当に望んでいることは対等な関係であった筈なのに。

 

 

 もう我慢する必要はない、最初から何一つ抑える必要はないのです。

 此処で殺す、それだけは絶対に変わらない。そう誓い、構えを取った瞬間……。

 

 

 エルザと隣に居た女騎士の首を涙を流したまま、レーヴァが剣で同時に斬り落としていた。

 動きや気配を一切感じ取る事も出来ず、エルザでさえ何時自分が斬られたのか気付いていない様子でした。

 

 

「……なん……で……」

 

「魔王となると言ったな。なら殺す、確実に殺す。お前は言ってはいけない事を言ったんだ」

 

 

 彼は仲間を大事にしていた、裏切られていても彼女達の幸福は祈っていた。だけど彼女たちは言ってしまった、魔王となると。

 心が圧し折れても魔王だけは殺すと誓った男だ。そんな彼の目の前で魔王となると言ってしまえばこうなるのは分かり切っていた結末だった。

 

 

「魔王は殺す、絶対にだ。それだけは抑えられない、親殺しの汚濁を被ってでも……」

 

 

 レーヴァは倒れてしまった。とっくのとうに心は限界を迎えていたのだ。

 恐らくはもっと前から、既に壊れきってしまっていた心を無理矢理奮い立たせ、張り付くような笑顔を僕に向けていたに過ぎなかったのです。

 

 

 両親を殺す為だけに傷付くしかない旅をし続け、人に裏切られていた彼を、僕は軽んじていたことを自覚させられたのです。

 

 

「……帰ろっか、連中の死体はそのままでいいよ。機械達が分解して自らのエネルギーに変えるから。……ごめんね、私のミスだ」

 

 

 ユダは自らの認識の甘さを悔やんだ。こうなるだなんて思っていなかったと言い訳が出来る事態ではない。

 下手をしたら、彼が首を掻っ切ってもおかしくもなんともなかったのだから。

 

 だけどユダばかりを責める資格なんて僕にはなかった。

 

 

「……もう少し彼の心に寄り添えてたらな」

 

 

 この心の痛みは取れる事はないだろう。もし取れるとしたら……、彼が本当の意味で救われる時だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿に戻った僕は、虚ろな目で天井を見つめ続ける彼を後ろから抱きしめ、頭を撫で続けている。

 なんと言葉をかけていいのか分からず、こんな慰めを繰り返し続けるしかありませんでした。

 

 思えばレーヴァのことを知っている事は上っ面だけで、彼の本心も何もかもを聴いた事がない。あの女達よりも僕は彼の事を知らないのだ。

 

 それが悔しく、彼を抱きしめる腕が不意に強くなってしまう。

 

 

「……痛い」

 

「あ、ごめんなさい……」

 

 

 少しだけ調子が戻ったのか、まだ張り詰めているけども笑顔だけは浮かべる事が出来ている様子です。

 

 けれども、それは僕を心配させないようにと、無理をしているようにしか見えません。

 もうこれ以上は彼の心の負担にはなりたくない、だけどこんなただ甘やかすだけの存在に成り下がるのも嫌だ。ならば僕が取るべき行動はたった一つでした。

 

 

「……君の事を聞かせて」

 

「だから魔王を倒して……」

 

「そうじゃない。そんな事じゃないんだ、君の心を、本当の過去を全部……、『私』に教えて……」

 

 

 話したくないこともあるだろう、だけど聞き出さねばならない。彼の事を。

 

 

「……父親は科学者だったんだ。同時に数百年以上を生きた魔獣の肉体を持ち、進化を操る魔力を初めて操る事の出来た、初めての人類でもあった。

 だけどそれは偶然の産物で、全人類に進化を施すには科学力も研究もまるで足りていなかったんだ。

 

 何十人もの科学者が、何とか魔力という物を解析しようと必死に研究を繰り返してきたけども、研究が行き詰まった。

 そんな時……、父さんは俺を実験対象に選んだ。だけどまだ幼い俺は実験の負荷に耐えきれずに、俺は全ての魔力を失った。

 だが確かな手応えを感じた、アイツは母さんを次の実験対象に選んだ。結果実験は成功。そして……、魔王が誕生した。

 

 今でもアイツの言葉は覚えている、お前は最初から実験用に産ませたモルモットだってさ」

 

「ッ……」

 

 

 言葉が出ない。勇者という存在のあまりにも悍ましすぎる称号の正体は、狂人が産み出した産物の後処理でしかなかった。

 知っていた、彼から聴かされていた筈なのに真実はもっと恐ろしかった。

 

 

「その時、母さんは自我を失う前に必死に俺をその場から逃してくれたんだ。ユダも研究に加担した男だったが、その惨劇を見て離反を決意し、父さんを倒す為に手を貸してくれている。

 このまま逃げ続けても良かった。でもいずれ世界は父さんに壊されてしまい、人類は全て獣と融合した、新人類に変えられてしまうだろう。

 

 だけど僕は魔力を失った代わりに、魔力を受け付けず無効化する力を得た。ニュクスに抱きつかれた時は何故か少しだけ戻ったけどね。

 とにかくその力さえあれば、攻撃の手段が魔力である魔王と父さんに対抗出来る。

 

 ……俺しか居ないんだよ。奴らを倒せるのは」

 

 

 否応なしに落とされた地獄をもがき這い上がるのではなく、突き進む事を選択した彼の顔はあまりにも優しかった。

 殺意で動くのではない、人類への愛で動くのがレーヴァだ。

 

 止める事なんて出来っこない、その権利すらもない。だけど……だけども……。

 

 

「……君だけじゃない、私もいますよ」

 

 

 気付いた、気付いてしまった。心は男性のままであり、女ではない。それは今も、そしてこれからも絶対に変わらない事だろう。

 

 でも彼が好き、レーヴァの側に居たい。ずっとずっと側に居たい。

 

 どっか行けだなんて言わないでください、私が私の為に君の側に居たいのです。抱きしめてあげたいのです。

 

 

 私は不意に彼にキスをする。離れようとする彼を優しく抱きしめる。

 私は裏切りません、私はレーヴァだけにこの唇を捧げます。

 

 

「……レーヴァ。好き、好きです。大好きです」

 

 

 互いに赤く染まった頬を合わせて、もう一度レーヴァに唇を重ねる。

 貴方が幸せになるまで、私は絶対に貴方を離しません。絶対に。

 

 

「レーヴァ、大好き……」

 

 

 




やっとメス落ち書けました。


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八話 魔王を倒す決意

 

 

 

同じ時間、別の部屋で一人。ユダはレーヴァの運命を改めて目の当たりにし、自らの行動が正しかったのか悩んでいた。

 

本当に彼を生かすべきだったか、死が救いだなんて戯言を真に受けるつもりは彼には毛頭ない。

だけども、レーヴァはただ生きているだけで苦しみ続けている。

 

そんなあの子を本当に生かし、両親を殺すなんて汚濁を背負わせる事が本当に正しかったのか。

 

未だに答えは出なかったのだ。

 

 

「……駄目ね。大人がそんな気概じゃ子供が報われない。死んだ方が良かったなんて絶対にあり得ないのだから」

 

 

あの時、実験に加担してしまった罪を一生かけて償わねばならない。その一つとして彼の旅を応援する事を決めた。

子供があんな目に合わねばならない理由など何処にもないのだ。

 

 

 

「ふんっ。相変わらず貴様は、下らん人間性を持ち続けているようだな」

 

「ッ!?」

 

 

 

何時からそこに居たのか。ユダの部屋にはレーヴァの父、アーカーシャが立っていたのだ。

上半身は裸に白衣を纏っており、その素肌からは無数の獣の特徴が伺える。

 

 

「どうしたのよ、わざわざ旧友にでも会いに来たの?それとも愛息子と会いに?だったら良かったわね、孫が見れそうよ」

 

「ふんっ闇の聖女か。確かに奴に今後の役割を考えれば感謝しきれんがな。既に光の聖女の進化すら取り込んでいる、期待通りだ」

 

 

ピクリとユダが反応を見せる。今此処で殺してしまえれば良いが、勝てるかどうかは五分だ。

いやそもそも本体が此処に来るとは思えない。アーカーシャという男は用心深く、酷く臆病であり、単独で自分の目の前に姿を表さない事をユダは知っていた。

 

恐らくは幻覚のようなもの。これも魔力が為し得る技なのだろうが……。

 

 

「進化ねぇ。実のところ魔力の事を何も知らないのよね、教えてくれるかしら?」

 

「……ふんっ。良いだろう、だが人類はこの力を魔力と呼んでいるのか。滑稽にすぎるな」

 

 

尊大な態度に多少の怒りを覚えるが、ユダは拳を握り締めて我慢する。

 

 

「魔力……、貴様ら矮小な人類が考えつきそうな名称だ。この力は神の恵みそのものだというのに。

 良いか?これは宇宙から降り注いだ、生命の進化の種なのだ。しかし今の人類はその恩恵を最大限に引き出す事は出来なかった。

 

 だからこそ、我々は獣と融合を果たし新たな人類となるしかなったのだよ!!!そのエネルギーも魔王を動かすには全く足りていないがね。

 だから丁度いいエネルギー炉を生み出す必要性があったのだよ。

 

 それは通常の進化とエネルギーの蓄えの効率が遥かによく、それが死んだ時……、全てのエネルギーが魔王の元に向かうように設定してある。

 

 そうして魔王が復活した時、ようやく人間は"他の種族を滅ぼしていた本来の姿に戻る事が出来るのだ"。

 

 ……光の聖女が死んでも4割程度の力しか魔王は未だに発揮出来ていない。私の息子に女をあてがって旅をし、聖女を進化させる機会をやったというのに、役に立たん奴だ。

 そちらの聖女には生き延びて貰わねば困るのだがなぁ……」

 

 

ドゴォッ!!

 

 

ユダは幻覚と分かっていた筈なのに、その拳を抑える事が出来ずに怒りをぶつけてしまう。

無意識に流れる魔力を込めていたせいで、幻覚は掻き消えこれ以上の話を聞き出す事は最早不可能だ。

 

 

「……あの女共はお前が仕向けたものなのね。恐らくだけど知っていた女はエルザのみで、他二人は本当に間に合わせか……」

 

 

歯をギリィと食い縛る。これではレーヴァがただのピエロだ。

ただ意味もなく心を傷付けられ、良いように使われてボロ雑巾のように捨てられるだけの存在だと、実の息子にアーカーシャは言ったも同然。

 

それよりも問題は奴がニュクスを狙っている事であった。ユダは動けないわけではなく、魔王はただ動かないだけだと思いこんでいたのだ。

 

しかし動きだせていないだけならば、動く理由があれば次第に奴は世界を滅ぼす。

それをさせない為にもニュクスだけは絶対に守らねばならない。

 

 

「そもそも魔力とは一体何?魔王が動いて何が起こるというの……」

 

 

人類とは何か、魔力とは一体何なのか。その答えを確かめるにはアーカーシャを倒すしか無い……。




今回は短めです。


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九話 新たなる旅立ち/新たなるヒロイン

 

 

 

「ほらご飯ですよ。食べてください」

 

「うん……」

 

 

 この数週間、あの日から自分で食事すらしなくなったレーヴァの食事などの面倒を見続けていた。

 性的な行為もその時から一切していない。

 

 そのせいでずっと性欲だけが溜まり続けているが、彼にそれを向けて良いのか分からないまま、独りで処理する毎日だ。

 

 

(……性欲は抑えられない物ですけど、このタイミングでレーヴァにそれをぶつけてしまえばあの女共と同じになってしまう。それは……嫌ですね)

 

 

 淫魔の肉体は持て余しており、何度も彼と身体を重ねたい、もう一度唇に触れたいという欲望が延々と渦巻いているが矜持で何とか耐えている。

 性欲以上に今の"私"は彼の愛が欲しい。一体これが女の身体になった影響か、それとも私となった自分の心の影響なのか、未だに答えは出ない。

 

 その答えが出るまで、彼を世話し続ける事にしたのだが……。

 

 

「今日はゆっくり食べられそうだ」

 

「あんまり無理はしちゃいけません、消化の良い物は用意しましたが苦しいならすぐに吐いてもいいですからね」

 

 

 レーヴァは食事をあまり受け付けなくなっている。上手く寝る事も出来なくなって、身体の筋肉は衰えて細くなり続けている。

 流石に動いた方が良いと思い、散歩にも連れてっているのだが、レーヴァは既に外の風景を見ても何も反応しなくなりつつあった。

 

 

「……今日は良い天気ですね」

 

「……え? あ、ああ……うん……」

 

 

 今のように意識が飛んでしまう事がよく有り、うわ言のように、魔王を殺さねばと呟き続けている。その時は正気を失っており、一度剣を持ち暴れた事すらあった。

 その時の出来事で彼から剣を引き離してしまった。それが原因か分からないが、常に剣を手探りで探す動作を無意識で行い続けているが、それはつまり……。

 

 彼がこの生涯の中、一時も剣を手放す事が出来なかったのを意味する。

 

 一体いつから彼は戦い続けていたのだろう。それを考える度に、彼が日常を生きる事がドンドン難しく感じられてしまい、一生このままの姿を思い描き恐怖してしまう。

 

 戦いが終わったらなんて簡単に言ってしまったが、確かに終わらせる事は出来るだろう。

 それだけ私と彼の力は強く、魔王であろうと負けはしないと思う事が出来る。だけど、その結果は両親殺し以外に何もないのだ。

 

 

「……どうしたらいいんでしょう、ユダ」

 

「私もわかんないわよ……」

 

 

 ユダはこの生活を手伝ってくれており、料理なども彼から教えてもらってから僅かだが一通りミスなく作れるようになっている。

 

 

「とは言いつつもね。不可能という点を除けば、彼をこれ以上苦しめずに済む方法はあるのよね」

 

「……やはり」

 

「そう。私と二人だけで魔王を倒すことよ」

 

 

 私が魔王を倒す。彼の話では大陸を干上がらせるくらい訳無いという魔王を二人で。

 

 そんな自殺にも等しい行動を前に、私の心は揺らぐ事はなかった。最初から決めていたのだ、それくらいは成し遂げみせると。

 寧ろ中々言い出してくれないから私から言ってやろうと思ったくらいだ。やっとかと、笑いかけるとユダは何とも悲しそうな表情で──。

 

 

「……君達の姿を見てたら、もしかしたら私が独りで行くべきなんじゃないってね。でもそれでは勝てないのよ、だからこそ君を誘う必要があったんだけど……、中々決心が付かなくてね」

 

 

 彼は何処までも大人であった。

 

 子供を巻き込まんとする理想とそれでは不可能と断ずる現実、その両方を理解し妥協点を見出そうと苦悩している。

 ならばこそだ。彼に言うべきなのだ、それはそれでこれはこれだと。

 

 ユダが関わった研究のせいで魔王が生まれたとしても、全てを彼が独りで背負うべき罪ではない。だが同時に彼に罪がないわけでもないのだ。

 その罪に向き合い、清算が出来るのはただ一人、貴方だけであり、途中で死んでしまってはただの逃げだ。

 

 

「死んで逃げようだなんて思わないでくださいよ。最後まで魔王を倒す旅に着いてきてくれないと困るんですから」

 

「心配しないで頂戴。そんなやわな生き方なんてしてないのだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿屋にはたった独り、レーヴァが置いてかれ、ニュクスとユダは既に旅立っていった後であった。

 

 今の状態では彼は食事や睡眠すらせずに衰弱死してしまうからか、ユダは宿屋に大金を払い彼の介護を命じていた。

 金を貰った以上は仕事はしっかりこなす、信用の出来る宿主だ。彼女達が旅立って早数日だが、彼の健康面が損なってはいなかった。

 

 

 そんな約束を遵守する宿主であったが、どうにも今日はレーヴァの前に姿を見せずにいたのだ。

 彼を知っている者であれば、遅刻は有り得ず、放ったらかすなど以ての外。何か事情があったのだと思うだろう。

 

 それもその筈、彼は宿の事務所で気絶をしていたのだ。

 

 気絶した宿主を見下ろし、眠った事を確認すると泊まっている客の情報のメモを漁る"胸の大きな褐色の女"が一人。宿主を気絶したのも彼女である。

 

 その眼には強い憎しみと殺意が込められており、その憎しみと殺意の矛先を向ける相手を見れば、すぐにでも殺してしまいそうな程の剣幕だ。

 

 

「此処だ……」

 

 

 ギラギラとした眼でメモを見回すと目標の敵の名を見つけ出す事に成功したのか、ニヤリと笑い、女は駆け出す。

 

 敵は此処に居る、俺をこの身体にした復讐を成し遂げる為に。

 

 そんな身勝手な欲望の主人はドアを勢い良く開け、レーヴァの元へ現れたのだ。

 

 

「よぉ……、久しぶりだな……」

 

「……誰?」

 

「あー、そうかそうか。確かによぉこの姿じゃ分かんねえよなぁ……」

 

 

 すると男は上半身の人の顔よりも大きな褐色の乳房を見せつけ始める。

 レーヴァはその行動に何の意味があるのかが、最初は理解が及ばなかったのだが少しずつ記憶が掘り返されていく。

 

 そう、その乳房にはほくろがある。それは"光の聖女エレナの物と同じ……"。

 

 

「あの性女の魔力を吸収しといて良かったぜ……。俺はこんな身体にしたあの馬鹿女共の復讐の為によぉ! まずは八つ当たりにテメエに会いに来た!! テメエの女共を寝取った男なんだよぉ!」

 

「……嘘だろ?」

 

 

 この褐色爆乳女はなんと聖女の魔力によって女体化、蘇生を自らの意志力と才能で果たした間男であったのだ。




腰痛めて養成してました。


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十話 マゾ雑魚肉便器ちゃん

遅れました。とある同人誌にハマってました。


 

 

 男、いや元男と言うべきだろう。

 小柄な見た目にそぐわない、豊満過ぎる胸を揺らしながら彼は激昂していた。

 

 自慢の男根を失ってしまったのだから当然だろう。それどころか男根と比例して胸も大きくなった事実を彼自身も薄っすらと気付いている様子であり、彼が最も見下し、都合の良いオナホールとしか思っていなかったミニマム爆乳女に自分がなってしまっている事実など耐えきれる筈もないのだ。

 

 

「テメエのせいでこんな姿によぉ……。どうしてくれるんだ……、最も劣等な女の姿になっちまったんだぜ……? 

 こんな歩く肉便器みてえな姿……、マゾ雑魚の劣等種族そのものじゃねえか……!!!」

 

「言い過ぎじゃないか……?」

 

「煩え!!! テメエのせいでこの姿になったんだ……、テメエが俺を非難する事なんて出来ねえんだよ!!」

 

 

 ブラも付けずに何とも豊満な風船おっぱいをブルンブルンと揺らす姿は何とも見苦しい無様な醜態を晒しているが、今の姿では愛らしく振る舞っている犯され待ちの雑魚雌としか男性は認識しないだろう。

 彼、今は彼女と言うべきだろう。レーヴァがEDなのが救いだっただろう。

 

 今の彼は言語を理解し、オスから興奮させ孕ませられる為だけに存在する家畜の身体そのもの。EDのレーヴァだからこそ、この場は無事に済んでいるだけで、外に出てしまえばひとたまりもない。

 だからといってレーヴァと同等かと問われてしまえば、それは大きな間違いである。

 

 

「糞が……!!」

 

 

 先程からレーヴァを殺そうと前進しようとするが、身体が言うことを効かない。それも当然であろう、彼の身体は復活したとはいえベースは光の聖女のエルザの物であるが故に、今無意識下では彼とエルザの凄まじい支配権の引っ張り合いが起きているのだ。

 潜在意識で引き起こっている事が故に、自覚は出来ていないが彼は途方も無い力で精神が雌に近づきつつあるのだ。

 

 

「この……俺が……、俺様が……!! このぉっ! ヘラクレス様がぁっ!!!」

 

 

 ヘラクレス、それがこの男の名だ。だがそんな名にはもはやそれほど意味はない。

 そんな勇ましい名を名乗れるほどの男ではなくなってしまった事は明白、駄肉などに改名した方が良いだろう。

 

 だがそんな駄肉に優しく寄り添う男、それがレーヴァだ。

 

 

「……大丈夫か?」

 

 

 自らを辱め絶望に陥れた元凶の男を、心配し手を差し伸べる。彼の博愛主義は何とも素晴らしいとも言えるが、それは相手に優しさを受け入れるほどの度量がある場合に限るのだ。そしてヘラクレスには当然そんなものがあるわけがない。

 

 当たり前のようにヘラクレスは彼の手を払う。問題はその為に彼の手のひらに触れたときだ。

 

 

「……んぎぃいいいいいいっ!!??!!??!」

 

 

 突如感度が数千倍となったのだ。空気に触れるだけでもイキまくるマゾ雑魚家畜の身体は、一切の抑えが効かずに絶頂の波に畜生にも劣る声を撒き散らす。

 

 真っ白になる一瞬前、何故こうなったのかを冷静に分析するヘラクレスは一つの答えに辿り着く。

 

 

(負けたがっている!? この……俺様が……?!)

 

 

 そう彼の身体は負けたがっているのだ。一体誰に? レーヴァただ一人にだ。何故そんな本能に目覚めたのかもまた明白で、エルザの意思の物である。

 彼女の死後、その念は強い呪いとなり彼への執念そのものが魔力と反応した結果、間男ヘラクレスとエルザの魂は融合を果たして今に至っている。

 

 本来ならばありえはしない奇跡だが、魔力とはそういう物だ。通常ならば絶対にありえないだろう進化と奇跡を引き起こす代物。

 一つでも誤ってしまえば成し得なかった所業を彼らは今果たしたのだった。

 

 だがその結末がこれはあまりにも無様に過ぎる。所詮はヘラクレスもエルザもこの物語ではただのやられ役でしかなく、こうしてレーヴァに触れただけで敗北する歩くオナホール以下でしかないのだから。

 

 しかしそこは鈍感なレーヴァ。博愛主義を極めすぎたせいかレーヴァは心配をしてヘラクレスに触れ続ける。

 その度に絶頂を繰り返すのだが、自分が原因とは毛ほども思わぬ彼の鈍感さが、彼の中の雄を徹底して殺し尽くしていくのだ。

 

 

「もっ……やめっ──」

 

「おい、どうしたんだよ……」

 

 

 無自覚に他人を壊し続けるレーヴァ。思えばこれが初めてではなく、ニュクスの事も彼は壊している。

 これは一種の才能なのだろう、いわば女難の才。加えてTSした女を壊す才能。この二つに関して言えば、他者の引けを取る事など出来ない。

 

 最も壊されてしまったのはこの二人ではなく……、もう一人……。

 

 

 

 

 

 魔王城。

 

 レーヴァが打ち倒すべき魔王の玉座に美しい女性が一人、ようやくといった表情で何とも満足げに自分の身体を見回していた。

 

 

「ああ長かった……、これでようやくだ……」

 

 

 意思の無い人形だった筈の魔王は何とも艶っぽく感情豊かに、乳房を揉み上げ自分の身体を撫で回す。

 

 

「あぁ……息子よ。早く来ておくれ。パパと子作りをしよう……」

 

 

 そこには息子を雄として見ている元男の姿があった。



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11話 パパが息子の赤ちゃんを孕むからねっ!!

 

 

 

 魔王が居る場所までは案外あっさりと着いてしまいました。

 

 数多くの敵が現れましたが、今の私と彼女で対処がそう難しい相手でもなく、何とも容易く拍子抜けをしてしまったのが正直なところです。

 ですがここから先の魔王城、此処は違う──、そう本能が語りかけてきます。

 

 今までの敵とは比較にならないほどの邪悪な気配。殺気や敵意とは違う、邪悪な意思そのものを強く感じている。

 それはそう……。

 

 

「あの女共と同じ……」

 

 

 強烈な淫気と醜悪さがこの空間には漂っている。通常の人間であれば発狂しかねないほどだ。

 これに抗えているのは魔力を持っているからに過ぎず、それがなければ淫魔の身でもどうなるか分からない。

 

 今までとは違い、此処からは慎重にならざるを得ず、構えたままに突き進む。だが……。

 

 

「おいおい隙だらけじゃないか」

 

「ッ!?」

 

 

 少しの気配も感じられないまま、背後を取られ組み伏せられてしまう。必死に抗うが、力の加え方が上手く抜け出す事が出来ない。加えて首に手をかけられ、下手にすぐにでも殺せるとアピールされた事でユダはその場で呆気にとられるしかない。

 

 

「あんまり動かないでよ。この子の肉体はこれから必要なんだから……」

 

「お前……、意思を失くした筈じゃ……!!!」

 

「ええそうよ。消えたわ、妻の意思は……」

 

 

 ニヤリと妖艶に微笑む女は、Kカップはあろう爆乳を揺らしながら舌舐めずりをして、私の身体を弄ってくる。

 最初はレズビアンの類かと思ったが、その触り方はどちらかと言うと品定めのような……。

 

 

「良いな……、これならレーヴァも気にいってくれる……」

 

「まさか……!!」

 

「「流石ユダ、気付いたのかい? "この俺の計画に"」」

 

 

 魔王の背後から男が現れ、魔王の唇や動作と全く同じ動きを繰り返す。奇妙な光景だがそれ以上に、そのどちらもが作り物のような薄気味悪さを感じる。これは……まるで……。

 

 私は何かに気付いてしまい、一瞬でその事を後悔する。これから語られる何ともおぞましい計画に私は正気ではいられないかもしれないからだ。

 

「冥土の土産だ……、俺の目的を教えてやろう……。俺が二人となってレーヴァの子を孕むことだ……。

 と言ってもわからないかそりゃ。例えばだ、レーヴァから見て俺はどんな親に見える?」

 

「殺すべきクズよ! わかってるんじゃないの!?」

 

「おぉそうだ、その通りだよ。レーヴァは今必死で戦い親殺しを成し遂げようとしているだろう。

 だが今の彼を見てみろ、心は圧し折れて既に動ける状態ではなく、誰かが救ってやらねばならない。そう救いの手を差し伸べたらあっさりと受け入れてしまうだろうから、救うべき人間を正しく選別してね……。

 

 結果としては俺以外に存在しないがな。だが敵である私では務まらない、だったら一つ茶番劇でも見せてやろうとな……。

 つまりだ、俺は今から貴様の脳みそを乗っ取り、この妻の身体と戦わせ、上手い具合に妻の自我を取り戻した事にする。

 そうして男の肉体を私と君で倒しハッピーエンド。二人の私が末永く、レーヴァの精子を子宮に納める事が出来る。良い計画だろう?」

 

 

 こんな話を聞かされて正気でいられるほど、私の心は強くはない。

 何度も嘔吐しかけたが、この男を何とかしなければという感情で何とか抑え込む。

 

 この男はあの女共と同じ……、いや彼女らすらマシに見えるほどの淫売だ。

 こんな人間が存在していいのか? どうしてそんな考えに至ったのかを聞き出す事すら拒むほどの狂気。

 

 

「しかしレーヴァが来るまではしばらく時間がかかりそうなのでね。少し君らには眠ってもらおうか」

 

 

 こんなヤツに負けてたまるかと意志の力は強く持とうとするが、魔王から発する魔力が私とユダを無理矢理睡眠へと誘う。

 このままでは……。

 

 

「レーヴァ……、来る……な……」

 

「無駄だよ、来てもらう」

 

 

 必死の抵抗も虚しく、私の意識は虚無へと堕ちていった……。



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