一般星十字騎士団員だけど質問ある? (伊勢うこ)
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スレ①

千年血戦篇が良すぎたので投稿。見切り発車につき続きは期待するな。


1:一般星十字騎士団員

 なんかある?

 

2:名無しの滅却師

 えぇ・・・・・・?

 

3:名無しの滅却師

 一般星十字騎士団員とは(哲学)

 

4:名無しの滅却師

 あいつらの中に一般枠がいるの?

 

5:名無しの滅却師

 一般星十字騎士団員ってなんだよ・・・

 

6:名無しの滅却師

 てか地味にイッチエリートでは?

 

7:名無しの滅却師

 一般兵じゃなくて騎士団員なんか

 

8:名無しの滅却師

 幹部格やん

 

9:名無しの滅却師

 やるやんけイッチ

 

10:名無しの滅却師

 ちゃんとやれてるか? いじめられてないか?

 

11:名無しの滅却師

 やさしいせかい

 

12:名無しの滅却師

 やさいせいかつ

 

13:名無しの滅却師

 あの色物集団でやってくってイヤーきついっす

 

14:名無しの滅却師

 普通に殺し合いしてなかった?

 

15:名無しの滅却師

 団結力/zero

 

16:名無しの滅却師

 そろそろ誰かイッチになんか聞けば?

 

17:名無しの滅却師

 せやな

 

18:名無しの滅却師

 じゃあ聖文字教えてくれるかな?

 

19:名無しの滅却師

 聖文字キターーーー!!

 

20:名無しの滅却師

 てかイッチが騎士ってことは誰かおらんの?

 

21:名無しの滅却師

 確かに

 

22:名無しの滅却師

 一人分枠足らんな

 

23:名無しの滅却師

 どーなんイッチ?

 

24:一般星十字騎士団員

 >>18 Qだけど

 

25:名無しの滅却師

 あ

 

26:名無しの滅却師

 ッスーー

 

27:名無しの滅却師

 Qかぁ

 

28:一般星十字騎士団員

 え、なに? Qだとなんかあるんか!?

 

29:名無しの滅却師

 なんかあるっていうか

 

30:名無しの滅却師

 ほとんどなにもないというか

 

31:名無しの滅却師

 Qってなんの能力やったっけ?

 

32:名無しの滅却師

 異議

 

33:名無しの滅却師

 クエスチョン!

 

34:名無しの滅却師

 異議あり!

 

35:名無しの滅却師

 ほぼ描写なし

 

36:名無しの滅却師

 詳細不明

 

37:名無しの滅却師

 成歩堂のモノマネ

 

38:名無しの滅却師

 草

 

39:名無しの滅却師

 てか誰の能力だっけ

 

40:名無しの滅却師

 なんとかガブなんとかさん

 

41:名無しの滅却師

 しらね

 

42:名無しの滅却師

 誰?

 

43:名無しの滅却師

 記憶にございません!

 

44:名無しの滅却師

 ボロクソ言われてるやん

 

45:一般星十字騎士団員

 人のこと散々言ってくれるなおまいら

 

46:名無しの滅却師

 ん?

 

47:名無しの滅却師

 え?

 

48:名無しの滅却師

 イッチもしかして

 

49:名無しの滅却師

 憑依パターンか

 

50:名無しの滅却師

 あー

 

51:名無しの滅却師

 どんまい

 

52:名無しの滅却師

 強く生きろよイッチ

 

53:一般星十字騎士団員

 謝られる前に同情された・・・・・・

 

54:名無しの滅却師

 どんまい

 

55:名無しの滅却師

 一応名前言ってもらえる?

 

56:一般星十字騎士団員

 >>55 ベレニケ・ガブリエリです・・・・・・

 

57:名無しの滅却師

 あーいたかもそんな人

 

58:名無しの滅却師

 おったわそんなん。知らんけど

 

59:名無しの滅却師

 知らんのかい

 

60:一般星十字騎士団員

 自分でも影薄いとは思うけどさ

 

61:名無しの滅却師

 気にするなニーニョ

 

62:名無しの滅却師

 ニーニョwww 懐いwww

 

63:名無しの滅却師

 イッチが誰に憑依したか分かったのはいいけど、結局どんな能力なん?

 

64:名無しの滅却師

 それ

 

65:名無しの滅却師

 原作やとほぼ描写ないしな

 

66:名無しの滅却師

 どうなんイッチ?

 

67:一般星十字騎士団員

 え、分からん。俺ってそのクエスチョン? って能力なん?

 

68:名無しの滅却師

 へ?

 

69:名無しの滅却師

 は?

 

70:名無しの滅却師

 自分の能力やろ

 

71:一般星十字騎士団員

 聖文字はもらったけど、能力はまだ出てない

 

72:名無しの滅却師

 まじ?

 

73:名無しの滅却師

 もらってすぐ出るわけじゃないのか

 

74:名無しの滅却師

 わからん

 

75:名無しの滅却師

 人によるんじゃね?

 

76:名無しの滅却師

 かもな

 

77:一般星十字騎士団員

 知り合いに聞いたけどよくわからんかった

 

78:名無しの滅却師

 ふーん

 

79:名無しの滅却師

 知り合いって? 騎士団員?

 

80:一般星十字騎士団員

 そう

 

81:名無しの滅却師

 まさか女じゃないよな?

 

82:名無しの滅却師

 まさかな

 

83:名無しの滅却師

 俺たちのイッチに限ってそんな

 

84:名無しの滅却師

 そうだよなイッチ?

 

85:一般星十字騎士団員

 ソウダヨ

 

86:名無しの滅却師

 貴様ァ!!

 

87:名無しの滅却師

 この裏切りもんがああぁぁぁ!!

 

88:名無しの滅却師

 捕らえろ!

 

89:名無しの滅却師

 見つけ次第殺せ!!

 

90:名無しの滅却師

 生きて帰れると思うなよ!

 

91:名無しの滅却師

 久しぶりですよ、ここまで私を怒らせたお馬鹿さんは・・・・・・!

 

92:名無しの滅却師

 罪深いな

 

93:名無しの滅却師

 落ち着けおまいら

 

94:名無しの滅却師

 止めてくれるな!

 

95:名無しの滅却師

 この裏切り者に相応しい末路を!

 

96:一般星十字騎士団員

 能力ってどんなのがいいと思う?

 

97:名無しの滅却師

 これは、安価!?

 

98:名無しの滅却師

 安価だ!

 

99:名無しの滅却師

 ヒャッハーー!!

 

100:名無しの滅却師

 俺は信じてたぜイッチ!!

 

101:名無しの滅却師

 ばんざーーーーい!!

 

102:名無しの滅却師

 俺たち親友だもんな!

 

103:名無しの滅却師

 ズッ友だぜ

 

104:名無しの滅却師

 恐ろしく早い掌返し

 

105:名無しの滅却師

 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

 

106:名無しの滅却師

 手首が捩じ切れんばかりである

 

107:名無しの滅却師

 聖文字の能力って自分で決めれるの?

 

108:名無しの滅却師

 さぁ?

 

109:名無しの滅却師

 でもまだ発現してないんでしょ?

 

110:名無しの滅却師

 人に応じたものが出る的な?

 

111:名無しの滅却師

 実際どうなんやろな

 

112:名無しの滅却師

 まぁこんなんがいいなぁぐらいに考えとけばいんじゃね?

 

113:名無しの滅却師

 せやな

 

114:名無しの滅却師

 なにはともあれ安価じゃ!

 

115:名無しの滅却師

 安価! 安価!

 

116:名無しの滅却師

 能力なんてその内生えてくるじゃろ

 

117:一般星十字騎士団員

 不安になってきた・・・・・・

 

118:名無しの滅却師

 大丈夫だ、俺たちを信じろ

 

119:名無しの滅却師

 安価すると聞いて

 

120:名無しの滅却師

 ギブミー安価

 

121:名無しの滅却師

 頼むぞ

 

122:名無しの滅却師

 任せとけ

 

123:名無しの滅却師

 カモーン

 

124:一般星十字騎士団員

 Qで始まる俺の能力、絶対そうなるとは限らんけど

 ほい、>>160

 

125:名無しの滅却師

 ヒャッハーー!!

 

126:名無しの滅却師

 新鮮な安価だぁ!

 

127:名無しの滅却師

 待ってたぜぇ、この瞬間をよぉ!!

 

128:名無しの滅却師

 Qかぁ

 

129:名無しの滅却師

 なんかある?

 

130:名無しの滅却師

 もうquestion でいんじゃね?

 

131:名無しの滅却師

 原作と同じか

 

132:名無しの滅却師

 どんな感じになるかはイッチ次第やな

 

133:名無しの滅却師

 戦闘中に異議あり! ってすんの?

 

134:名無しの滅却師

 そう考えたら草生えてきた

 

135:名無しの滅却師

 振動 quake

 

136:名無しの滅却師

 ありそう

 

137:名無しの滅却師

 地味に強そう

 

138:名無しの滅却師

 地震も起こせそうやな

 

139:名無しの滅却師

 グラグラの実的な?

 

140:名無しの滅却師

 そうなったらやべーな

 

141:名無しの滅却師

 笑い方グララララになるの?

 

142:名無しの滅却師

 そうなったら草ァ!!

 

143:名無しの滅却師

 周りドン引きやろ

 

144:名無しの滅却師

 まぁでも世界を破壊する力やし、多少はね?

 

145:名無しの滅却師

 多少・・・・・・?

 

146:名無しの滅却師

 ナチュラルに笑い方リスク扱いされてて草

 

147:名無しの滅却師

 迅速 quick

 

148:名無しの滅却師

 ええやん

 

149:名無しの滅却師

 いいんちゃう

 

150:名無しの滅却師

 スピード特化か

 

151:名無しの滅却師

 目指せ星十字騎士団最速

 

152:名無しの滅却師

 最高速でぶち抜いたる!

 

153:名無しの滅却師

 直哉ェ・・・・・・

 

154:名無しの滅却師

 もう近いぞ、どんどん挙げてけ

 

155:名無しの滅却師

 口論 quarrel

 

156:名無しの滅却師

 レスバにでも強くなるんか?

 

157:名無しの滅却師

 まぁBLEACHだと強いかもな

 

158:名無しの滅却師

 The quality

 

159:名無しの滅却師

 静寂 quiet

 

160:名無しの滅却師

 Quincy 滅却師

 

161:名無しの滅却師

 queen!

 

162:名無しの滅却師

 ん?

 

163:名無しの滅却師

 あ

 

164:名無しの滅却師

 あ

 

165:名無しの滅却師

 草

 

166:名無しの滅却師

 もうクインシーなんだよなぁ・・・・・・

 

167:名無しの滅却師

 実質無能力では?

 

168:名無しの滅却師

 wwwwww

 

169:一般星十字騎士団員

 笑い事じゃないんだが!?

 

170:名無しの滅却師

 草

 

171:名無しの滅却師

 落ち着けよ、そうなるとは限らんぞイッチ

 

172:名無しの滅却師

 そうそう

 

173:名無しの滅却師

 この面の厚さ、これぞスレ民

 

174:一般星十字騎士団員

 ま、まぁ参考程度に聞いただけだしな

 

175:名無しの滅却師

 そうそう

 

176:一般星十字騎士団員

 まさか本当にこうなるはずないしな!

 

177:名無しの滅却師

 まさかな

 

178:名無しの滅却師

 まさかまさか

 

179:名無しの滅却師

 フラグ乙

 

180:名無しの滅却師

 ぶっちゃけイッチって強いん?

 

181:名無しの滅却師

 そら強ないと騎士なれんやろ

 

182:名無しの滅却師

 どうなんイッチ?

 

183:一般星十字騎士団員

 >>182

 普通よりは。でも騎士になれるとは思ってなかった

 

184:名無しの滅却師

 へー

 

185:名無しの滅却師

 なんでやろな

 

186:名無しの滅却師

 数合わせでは?

 

187:名無しの滅却師

 名推理

 

188:一般星十字騎士団員

 >>186

 >>187

 おまいら覚えとけよ

 

189:名無しの滅却師

 イッチは原作どんくらい知っとるん?

 

190:名無しの滅却師

 今どの辺?

 

191:名無しの滅却師

 いつ団員になったん?

 

192:一般星十字騎士団員

 >>189 実はあんまよく知らん。BLEACHなのは知ってる

 >>190 分からん

 >>191 一月位前、なんか急に

 

193:名無しの滅却師

 はえー

 

194:名無しの滅却師

 とりま千年血戦篇始まる前に鍛えとけ

 

195:名無しの滅却師

 情報少ないな

 

196:名無しの滅却師

 最近なにしてんの?

 

197:一般星十字騎士団員

 >>196

 そろそろ出撃あるらしいからその準備

 

198:名無しの滅却師

 どこ行くん?

 

199:一般星十字騎士団員

 >>198

 なんか尸魂界のセイレイテイ?に

 

200:名無しの滅却師

 は?

 

201:名無しの滅却師

 なん・・・だと・・・!?

 

202:名無しの滅却師

 オワタ

 

203:名無しの滅却師

 wwwwwwwww

 

204:名無しの滅却師

 あかんやん!

 

205:名無しの滅却師

 イッチしんじゃ〜う

 

206:名無しの滅却師

 あ ほ ら し

 

207:名無しの滅却師

 R.I.P

 

208:名無しの滅却師

 致命的だな

 

209:名無しの滅却師

 また来世でなイッチ

 

210:一般星十字騎士団員

 なに? どゆこと!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だろ・・・・・・?」

 

 

 新たに星十字騎士団に名を連ね、皇帝より聖文字を授けられて一月。

 青年は、自らに発現した能力に戸惑っていた。

 というのもーーーー

 

 

 滅却師 the Quincy

 

 

 聖文字は、その文字に応じた特殊な能力を所有者にもたらす。聖文字を与えられた滅却師に。

 

 青年はとっくの昔に滅却師である。なんなら先祖代々滅却師だ。

 幼い頃から訓練を受け、今やこの見えざる帝国の幹部格にまでなった。

 

 そんな人間に今さら『滅却師』なんて能力が発現したところで意味はない。人間にヒトヒトの実を食らわせるようなものである。

 つまり無意味。なんの意味もない。

 

 確かに何らかの能力が発現して欲しかった。それは確かだ。

 だからこそ転生掲示板に意見を求めた。結果は散々で、もう二度と頼るまいと誓ったが。

 

 所詮参考程度に意見を求めただけだった。本気になどしていなかったのだ。

 その内自分にもいい能力が出るだろうと信じて。

 

 しかし現実はどうだ。

 一体誰が安価通りの能力が発現すると信じられる。悪い冗談だと思いたいが、現実は非情だ。

 安価は絶対、という言葉が脳をよぎった。

 

 しかも元凶である彼ら曰く自分は近いうち死ぬかもしれないという。そんな危機的状況で手にした能力がこれ。

 

 

「終わった・・・・・・こんなの人に知られたら」

 

「邪魔」

 

「背中が痛いっ!?」

 

 

 唐突に背後から蹴られ、頭からずざーと音を立てて床を滑走した。

 ヒリヒリと痛む鼻頭と背を抑えながら、青年・ベレニケは下手人を見上げた。

 

 

「なにすんのさ、バンビちゃん・・・・・・」

 

「邪魔だったから退かそうとしただけよ。通路のど真ん中でウダウダしないでよね」

 

 

 見上げた先にいたのは、一人の少女。

 星十字騎士団の白い制服に身を包み、その上から五芒星の紋様が入ったマントを羽織っている。

 腰まで伸びた黒い髪と白の軍帽、その下にある端正な顔立ち。

 

 仲間内からも「見た目だけはいい」と評判の彼女、バンビちゃんことバンビエッタ・バスターバインは、呆れたような表情で目の前の青年を見下ろす。

 

 

「あとその呼び方やめて。知り合いだと思われるでしょ」

 

「だいぶ昔から知り合いなんすけど」

 

「それ人に言ったらぶっ殺すわよ!?」

 

 

 右手に能力で作られた霊子爆弾を出し、顔を真っ赤にしながら凄まれる。実に効果的で彼女らしい過激な脅しだ。

 なにもそんなに怒ることないだろうと思いつつもそれを口には出さない。口喧嘩になったところで負かされるし、そもそも反論したら余計に怒ってボコボコにされる。

 

 これ以上彼女を怒らせる前に、ベレニケは話題を変えることにした。

 

 

「この前はありがとね。ほら、聖文字の」

 

「あぁ、あったわねそんなの。別に・・・・・・って、アンタ自分の能力分かったの?」

 

「えっ!? いやぁ、それはですね・・・・・・」

 

「何よ、教えなさいよ! 爆破させて無理やり聞き出してもいいのよ?」

 

 

 なにを、とは怖くて聞けない。

 

 ベレニケは、彼女には教えたくなかった。

 教えれば絶対に馬鹿にされるのは目に見えており、それを知った彼女の口から他の騎士たちに伝わりでもすればこの先騎士団でやっていけなくなる。名誉的な問題で。

 

 しかし相談した手前、教えぬわけにもいかない。騎士団内に相談できる相手が彼女しかいなかったわけだが、それにしたって「さぁ? そのうちわかるんじゃない?」はないだろう。

 

 床に座ったまま胸ぐらを掴まれてガックンガックン揺すられる。

 諦めてゲロった方がいいかと観念した時だった。

 

 

『星十字騎士団各員に通達。これより尸魂界への進撃を開始する。直ちに戦闘準備を整え、太陽の門へと集結せよ。繰り返すーー』

 

 

「・・・・・・今日だったっけ?」

 

「違うけど、陛下がそう決めたんでしょ。先に行くから、あんたもせいぜい遅れないようにしなさいよ」

 

 

 そう言ってバンビエッタはマントを翻し、門のある方へと去っていった。

 結局能力については言わずに済んだが、それが後で思い出されると面倒なことになるのはこれまでの付き合いから明白だ。その時は菓子でも渡して機嫌をとろうと、ベレニケは打算的な思考をそこで止めた。

 

 

 さて。

 

 

 先程の放送から分かるように、これから自分たち見えざる帝国は死神たちとの戦争だ。

 きっと先輩騎士の皆々様方は、その一騎当千の力でばったばったと敵である彼等を薙ぎ倒すのだろう。どこかの誰かとは違って。

 

 妙な気分だ。

 

 自分が知っている通りならこの世界の主人公は向こうの方で、自分が属しているのはむしろその敵にあたる勢力のはず。

 この世界に生まれた時から、否、滅却師という言葉を耳にした時からそれは分かっていたことではあった。だがベレニケ・ガブリエリなんて名前は聞いた覚えがなかったから、どうせ出番のないモブAみたいなモンだろうとたかを括っていたのだ。

 

 それがいつの間にか敵組織の幹部。勘弁して欲しかった。

 

 こんなことならもっとちゃんと読んでおけば良かったと、前世の自分を少し呪った。

 

 死神との戦いは、正直あまり気乗りしない。

 負けるのが分かっているせいか。死にたくないせいか。死なせたくないせいか。

 

 

 まぁ、なんにせよーーーー

 

 

「嫌だなぁ、戦争は」

 

 

 ーーーー争いは嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Daten

 

 星十字騎士団 “Q“ 「滅却師(ザ・クインシー) 」 ベレニケ・ガブリエリ

 

 

 右側が黒く染まった金髪が特徴の青年。

 憑依転生者。3つの頃前世の自分を思い出し、周りの環境からBLEACHの世界にいることを知る。

 滅却師として己は特段優れていないと思っていたが、突如一般兵から星十字騎士団に抜擢。昇進して聖文字を授かる。何故昇進出来たかは本人も知らない。

 聖文字の能力が予想外のものになってしまい、途方に暮れている。

 

 

 特記事項

 

 霊◾️の(これ以降は文字が掠れて解読不能)

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
アニメ作画良すぎる・・・・・・動くバンビちゃんを見れて感無量です。


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スレ②

続きました。

皆様の沢山の感想と高評価のおかげです。謝謝。

ただ続きを書こうにも千年血戦篇が手元にないのでこれ以上は未定。細かいところが分からんので。設定とかかなりうろ覚えです。にわかBLEACHファンですまぬ・・・・・・。


421:名無しの滅却師

 イッチの能力どうなったかな

 

422:名無しの滅却師

 本人がこねぇと確かめようがない

 

423:名無しの滅却師

 そんなことよりもっと大事なことあるだろ

 

424:名無しの滅却師

 そんなこと(イッチの能力)

 

425:名無しの滅却師

 何?

 

426:名無しの滅却師

 イッチの知り合いだよ

 

427:名無しの滅却師

 あー

 

428:名無しの滅却師

 言ってたなそういや

 

429:名無しの滅却師

 あれだけ反応しておきながら・・・・・・

 

430:名無しの滅却師

 騎士団員で女でしょ?

 

431:名無しの滅却師

 そうなるとだいぶ候補絞れるな

 

432:名無しの滅却師

 バンビーズの誰かか?

 

433:名無しの滅却師

 じゃねーの?

 

434:名無しの滅却師

 誰や?

 

435:名無しの滅却師

 思い出したら腹たってきたわ

 

436:名無しの滅却師

 どうどう

 

437:名無しの滅却師

 ステイステイ! まだだまだだ!

 

438:名無しの滅却師

 まさかバンビちゃんじゃあるまいな?

 

439:名無しの滅却師

 まさかね

 

440:名無しの滅却師

 ハハ、なわけ・・・・・・

 

441:名無しの滅却師

 で、誰なん?

 

442:名無しの滅却師

 ジジ以外だったら○す

 

443:名無しの滅却師

 ジジはまぁ、うん・・・・・・

 

444:名無しの滅却師

 ワイはジジでもこ○す

 

445:名無しの滅却師

 >>442

 >>443

 >>444

 ジジ好き勢ワイ激怒

 

446:名無しの滅却師

 おまえらの好みとか聞いとらんわw

 

447:名無しの滅却師

 しかし遅いなイッチ

 

448:一般星十字騎士団員

 助けて

 

449:名無しの滅却師

 お

 

450:名無しの滅却師

 おっ

 

451:名無しの滅却師

 イッチや!

 

452:名無しの滅却師

 イッチ卿の帰還

 

453:名無しの滅却師

 乙ー

 

454:名無しの滅却師

 おかえりイッチ

 

455:名無しの滅却師

 なんかあったん?

 

456:名無しの滅却師

 話し聴こか?

 

457:一般星十字騎士団員

 特記戦力と会敵してもうた

 

458:名無しの滅却師

 あ

 

459:名無しの滅却師

 草

 

460:名無しの滅却師

 wwwwwwww

 

461:名無しの滅却師

 特記戦力ってことはつまり・・・・・・

 

462:一般星十字騎士団員

 相手は更木剣八

 

463:名無しの滅却師

 デスヨネー

 

464:名無しの滅却師

 どんまい

 

465:一般星十字騎士団員

 どうすればいい?

 

466:名無しの滅却師

 運命だ、どうにもならん

 

467:名無しの滅却師

 そいつがお前の死神(ガチ)だ

 

468:一般星十字騎士団員

 そうなの!? ワイ死ぬの!?

 

469:名無しの滅却師

 たぶん

 

470:名無しの滅却師

 そんなことよりイッチよ、聞きたいことがある

 

471:名無しの滅却師

 そんなことニキ登場

 

472:一般星十字騎士団員

 えぇ、このタイミングで・・・・・・? なんや、時間ないから早よ

 

473:名無しの滅却師

 お前が相談した女って誰や

 

474:一般星十字騎士団員

 それホントにいまじゃないとダメ!!?

 

475:名無しの滅却師

 あたりまえだぁーーーー!!!!

 

476:名無しの滅却師

 返答次第では命はないと思え

 

477:名無しの滅却師

 その命が今まさに無くなろうとしてるんですが

 

478:名無しの滅却師

 しかも大体4/5の確率で死ぬという

 

479:名無しの滅却師

 クソ仕様じゃな・・・・・・

 

480:名無しの滅却師

 ほら早く吐けイッチ

 

481:名無しの滅却師

 答えによっちゃ打開策っぽいのを授けなくもないぞ?

 

482:名無しの滅却師

 打開策(っぽい)

 

483:一般星十字騎士団員

 マジか!?

 

484:名無しの滅却師

 マジマジ

 

485:名無しの滅却師

 ワイらを信じろイッチ

 

486:名無しの滅却師

 さぁ知り合いの名前を述べよっ!

 

487:一般星十字騎士団員

 バンビエッタ・バスターバイン

 

488:名無しの滅却師

 は?

 

489:名無しの滅却師

 は?

 

490:名無しの滅却師

 あっ、ふーん・・・・・・

 

491:名無しの滅却師

 クソがよ・・・・・・

 

492:名無しの滅却師

 信じられんことだヨ

 

493:名無しの滅却師

 ふざけるなぁーーーー!! バカヤロォーーーー!!

 

494:名無しの滅却師

 絶許案件ですわ

 

495:名無しの滅却師

 もうイッチのファン辞めます

 

496:名無しの滅却師

 ぺっ

 

497:名無しの滅却師

 言っていいことと悪いことがあるやろ?

 

498:一般星十字騎士団員

 おまえらが言えって言ったんですけど!!??

 

499:名無しの滅却師

 それはそれ

 

500:名無しの滅却師

 裏山

 

501:名無しの滅却師

 つまりこいつは生バンビちゃん知り合い・・・・・・ってこと?

 

502:名無しの滅却師

 やはり罪深いな

 

503:名無しの滅却師

 タヒね

 

504:名無しの滅却師

 バンビちゃんだけでなく他のバンビーズとも知り合う可能性ががが

 

505:名無しの滅却師

 もうお前騎士団降りろ

 

506:名無しの滅却師

 おててクルクルやな

 

507:名無しの滅却師

 いい加減にせぇよイッチ君

 

508:一般星十字騎士団員

 こっちだっていい加減にして欲しいわ

 

509:一般星十字騎士団員

 いきなり特記戦力にぶつかるとかありえんやろ

 

510:一般星十字騎士団員

 こんなん親衛隊とかがやる仕事じゃん、ワイ新人よ?

 

511:名無しの滅却師

 荒ぶるイッチ

 

512:名無しの滅却師

 まぁ落ち着けイッチ

 

513:名無しの滅却師

 とりまウザってぇ話しないでおけ、喉引きちぎられるから

 

514:一般星十字騎士団員

 そんな攻撃してくんの!? 怖っ!?

 

515:名無しの滅却師

 やるで

 

516:名無しの滅却師

 イッチの憑依元の死因それな

 

517:一般星十字騎士団員

 マジかよ・・・・・・それより早く打開策ってのをおs

 

518:名無しの滅却師

 あ

 

519:名無しの滅却師

 逝ったか

 

520:名無しの滅却師

 逝ったな

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅーーはぁーー・・・・・・すぅーー」

 

 

 見えざる帝国 銀架城 太陽の門

 

 

 滅却師の帝国が誇る十数名の精鋭が集結を終え、出撃しようとしていた。

 

 間もなく開戦とあってか、ひりつくような空気をベレニケは感じていた。

 緊張を少しでも和らげようと深呼吸を繰り返す。

 だが全く落ち着かない。落ち着くはずもない。

 

 何せつい先ほど自分の能力が発現したばかり。それがどんなものかもわからぬまま出撃することになったのだ。

 

 

 帰りたい。

 だが帰れるはずもなく、そんなことをすればこの場で殺されても不思議ではない。敵前逃亡は銃殺刑、というか射殺刑か。

 

 戦いたくない。

 だがこの戦争でそれなりに成果を上げなくては陛下か最高位(グランドマスター)あたりに殺されるだろう。戦っても敵に殺される可能性大ときた。

 

 

 どうすれば良いか分からぬまま深呼吸を繰り返すが、呼吸音が耳に障ったのか自分の前に並ぶバンビエッタから無言の抗議を食らったのでそこでやめることに。

 

 

 彼女は怖くないのだろうか。

 

 これから起こる、いや、起こす大きな争いで命を落とすかもしれない。

 そう考えて恐ろしくはならないのだろうか。

 いくら強くとも人は人。いつかは必ず朽ちる。それが今日かもしれないというのに。

 

 怖いとは言わないだろう。それが本当であっても、虚勢であったとしても、彼女がそれを言葉にすることはおそらくない。

 

 自分が情けなく思えてくる。目の前の少女に比べて己のなんと弱気なことか。自分の脆弱な精神に眩暈さえしてしまいそうだ。

 

 

 そもそも自分がこの場にいることさえ場違いではないのか。

 彼女とも、この場の誰とも違い自分には何もーーーー

 

 

 

「そうナーバスになるなよ、新人くん。もっと余裕ってやつをもとうぜ」

 

「っ! ナックルヴァールさん・・・・・・」

 

 

 

 緊張する後輩の様子を見かねてか、ベレニケの隣に並ぶフランクな男が彼に声をかけた。

 

 独特の改造が施された、見えざる帝国の滅却師である証拠の制服。被ったフードから覗く癖のある黒髪。

 飄々とした態度の彼もまた、ベレニケよりずっと早く騎士に選ばれた猛者の一人。

 

 

 星十字騎士団 “D“ 「致死量(ザ・デスディーリング)」 アスキン・ナックルヴァール

 

 

「もうちょい気楽に行かねぇか? あんたも星十字騎士団に選ばれたってことは、そうそう簡単に死なないって陛下が思ったからだろ」

 

 

 緊張どころかリラックスさえしている様子さえ見える先輩の姿は、ベレニケの目にはとても頼もしく映った。流石は騎士団でも上位にいるとされる実力者。最初はちょっとダサく思えた彼の制服がオサレに見えてくる。

 

 

「安心しろとまでは言わねぇけどさ、よっぽど致命的なことでもない限りーー」

 

「オレ、自分の能力知らないんですヨ・・・・・・」

 

「マジかよ致命的だな」

 

「ナックルヴァールさん!?」

 

 

 まさかの手のひら返し。

 まぁ常識的に考えて、これから戦いだという時に自分の新しい能力について碌に知り得ていないというのは致命的と言っていいだろう。

 

 

「まぁ落ち着けよ後輩。余裕のないヤツはモテないぜ?」

 

「戦争前なのによく落ち着けますね・・・・・・」

 

「オレはいつでも余裕のある男でいたいんでね。そうだ、オレのカフェオレでも分けてーー」

 

 

「ーー総員傾注」

 

 

 静かな、されど場に響く声。

 

 騎士たちが並ぶ最前列に立つ、金髪に白い肌の男性滅却師。

 星十字騎士団最高位、ユーグラム・ハッシュヴァルトは感情を感じさせない表情と冷厳な声で告げる。

 その様は、まるで彼が神の代弁者であるかのよう。

 

 

「これより我ら星十字騎士団は、尸魂界への侵攻を開始する。死神を、一人残らず粛清せよ」

 

 

 下された命令は、殺戮。

 見えざる帝国と尸魂界、星十字騎士団と護廷十三隊の戦争が、今まさに始まろうとしていた。

 

 

 

 

「じゃ、お互い致命的なことにならないように祈ろうぜ」

 

「はい!」

 

 

 アスキンとの出撃前の最後の言葉を交わし、他の騎士たちに続くように尸魂界への移動を開始する。

 

 ベレニケは門の前でもう一度だけ深く息を吸い、呼吸を整える。

 大丈夫だ。

 たとえいきなり隊長格に遭遇しても、こちらにはあちらの奥の手を潰すメダリオンがある。そう安易と死ぬようなことにはならない筈。

 

 余裕を持て、騎士に選ばれた自分を信じろ。

 

 

「よしーーーー!」

 

 

 覚悟は決まった。

 

 太陽の門へ、二度と戻れないかもしれない戦いの入り口へ、一歩踏み出す。

 門をくぐった先で待っていたのはーーーー

 

 

 

「よォ、滅却師(クインシー)

 

 

 

 ーーーー絶対に遭遇してはいけない怪物だった。

 

 

 

(た、助けてぇーーーーーーーー!!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

833:名無しの滅却師

 帰ってこんなーイッチ

 

834:名無しの滅却師

 よせ、分かっていたことだ

 

835:名無しの滅却師

 辛いがこれも運命だ

 

836:名無しの滅却師

 仕方あるまい

 

837:名無しの滅却師

 おかしい人を亡くした

 

838:名無しの滅却師

 おかしいのはむしろワイらの方では・・・・・・?

 

839:名無しの滅却師

 死んだんじゃないの〜?

 

840:名無しの滅却師

 一体誰がイッチにあんな能力を!

 

841:名無しの滅却師

 A.ワイら

 

842:名無しの滅却師

 安価は絶対

 

843:名無しの滅却師

 >>840 鏡見ろ

 

844:名無しの滅却師

 ブーメラン乙

 

845:名無しの滅却師

 受け入れるしかないのか、この現実を

 

846:一般星十字騎士団員

 ただいま

 

847:名無しの滅却師

 !

 

848:名無しの滅却師

 !?

 

849:名無しの滅却師

 イッチ!

 

850:名無しの滅却師

 イッチ!?

 

851:名無しの滅却師

 イッチやん!

 

852:名無しの滅却師

 おかー

 

853:名無しの滅却師

 イッチ生存を確認!

 

854:名無しの滅却師

 よく生きてたな

 

855:名無しの滅却師

 まぁ言うて剣八って最初舐めプするし、逃げれたんちゃうん?

 

856:名無しの滅却師

 そういうの早く教えたれよ・・・・・・

 

857:名無しの滅却師

 打開策ってそれか

 

858:名無しの滅却師

 まぁ最初にブッパでもして一撃で倒すのが無難かもな

 

859:名無しの滅却師

 確かにそうだがそれが難しい

 

860:名無しの滅却師

 時間かければどんどん強なるしな

 

861:名無しの滅却師

 ほんとバケモン

 

862:名無しの滅却師

 しかしよく無事やったなイッチ

 

863:名無しの滅却師

 追いかけられなかったん?

 

864:名無しの滅却師

 いや、逃げたら粛清されるやろ

 

865:名無しの滅却師

 あー

 

866:名無しの滅却師

 確かに

 

867:一般星十字騎士団員

 いや、あの、戦ってですね・・・・・・

 

868:名無しの滅却師

 時間一杯持ち堪えたんか?

 

869:名無しの滅却師

 やるやんけイッチ

 

870:名無しの滅却師

 さすイチ

 

871:名無しの滅却師

 一次侵攻ってなんか活動限界あったよな

 

872:名無しの滅却師

 あったなそんなん

 

873:名無しの滅却師

 で、イッチはどう戦ったん?

 

874:名無しの滅却師

 喉ついてるか?

 

875:名無しの滅却師

 本来の死因だもんな

 

876:一般星十字騎士団員

 >>874

 喉は大丈夫

 

877:名無しの滅却師

 そんで?

 

878:一般星十字騎士団員

 戦ったら、その

 

879:名無しの滅却師

 ?

 

880:名無しの滅却師

 うん

 

881:一般星十字騎士団員

 なんか、勝っちゃった?

 

882:名無しの滅却師

 ファっ!!??

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
致死量さん第一次侵攻にいたか分かりませんが好きなのでぶっ込みました。許して。


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vs更木剣八 壱

皆がオサレと褒めてくれるので投稿。ありがとうございます。

期待に応えるような内容になっているか不安ですが、それでもよければどうぞ。


 

 戦いの幕は、唐突に切って落とされた。

 

 

 瀞霊廷内に突如として吹き上がる、霊子の火柱の群れ。

 

 見えざる帝国の皇帝・ユーハバッハの判断により、当初の宣戦布告で告げられた日数より早く尸魂界への侵攻が開始。

 十数名の選ばれた滅却師、星十字騎士団の手により護廷十三隊は僅か数分で千名以上の甚大な被害を出すこととなった。

 

 

 死神たちの予想を超える方法で侵入を果たした騎士たちは、各々が隊長格に勝るとも劣らぬ実力で彼らを追い詰める。

 

 

 各地で戦いが激化する一方。

 新人とはいえ星十字騎士団の一人としてこの戦いに参加することになった青年、ベレニケはーー

 

 

「よォ、滅却師」

 

 

 ーー人生最悪の出会いを果たしていた。

 

 

 

 太陽の門を潜り、瀞霊廷内に侵入した後。

 ベレニケの周囲には人一人としていなかった。

 先に廷内への侵入を果たした諸先輩方が早々に各地で暴れ回っているお陰か、隊士たちは皆そちらに回ったらしい。

 

 

 予想を裏切るあまりにも呆気ない展開に、気が緩んでいた。

 情報にあったような隊長・副隊長は見受けられず、これなら厳しい戦いをせずに済むと安堵。

 

 それから数分廷内を巡りーーーー

 

 

 ーーーー怪物が姿を現した。

 

 

 その男について、ベレニケは事前に得た情報から覚えがあった。

 

 右眼の眼帯。顔の左側を縦に走る傷。野獣のような凶悪な人相。不吉な笑み。

 護廷十三隊十一番隊隊長、十一代目「剣八」。

 

 

「特記戦力・更木剣八・・・・・・!?」

 

 

 死神たちの戦力の中でも特に注意するべき5人の敵。

 それぞれが何かしら未知数の力を有し、特に目の前の男はその「戦闘力」でユーハバッハに危険視されるほど。

 

 つまり生粋の化物。

 

 

(誰か! 誰か助けてーーーー!!?)

 

 

 間違っても自分のような者が正面からぶつかって勝てる相手ではない。何故自分がと思うも、こうなってはやるしかない。

 滅却師十字から、剣を召喚し臨戦態勢を整える。やや反りのある刀身をもつ、これといって特徴のない霊子兵装。

 怪物退治には心許ない得物だが、無いよりマシに思う他ない。

 

 

 

「安心したぜ」

 

「・・・・・・何にですかね?」

 

「テメェが出したその剣にだよ」

 

「・・・・・・?」

 

 

 何故敵が剣を持てば安心するのか。出した剣が想像より粗末なものであったからなのか。

 怪物の道理は、人でしかない青年には理解が及ばない。

 

 

「滅却師ってのは弓しか使わねぇみたいな話を聞いてたんだが、テメェは剣を持ってやがる。だから安心しただけだ」

 

「剣を持ってる滅却師なら問題なく勝てると?」

 

「バカが。勝つだ負けるだなんざハナから考えちゃいねぇよ。オレはただーーーー」

 

 

 

「ここいらでそろそろ、まともな斬り合いがしてぇってだけだ」

 

「!」

 

「ここに来るまでにテメェの仲間を二人斬った」

 

 

 

 鋒に付着した血を払いながら、剣八は自分が斬った敵について語り出す。

 

 

「最初は声だけで敵を吹っ飛ばす大猿に変身するやつだったんだが、こいつはカスだった。飛びかかって来やがったからつい真っ二つにしちまってな、斬り合いも何もあったもんじゃねぇ」

 

 

 彼が告げた特徴から、殺されたのは星十字騎士団 “R“ 「咆哮」 ジェローム・ギズバットだと分かった。

 

 

「次のやつは悪くなかった。なんせオレに化けたからな、そこそこ楽しめたんだが最初のやつの所為で耳がキンキンしててよ。途中でそれにムカついてきて、つい力が入った。お陰でこっちもすぐに終わっちまった」

 

 

 その次の犠牲者は星十字騎士団 “Y“ 「貴方自身」 ロイド・ロイド。

 剣八の語り具合からして恐らく相手の力をコピーするという“L“の方だろう。

 

 二人とも共にベレニケより早期に騎士となった先達であり、ものの数分で始末されるような相手ではなかったはず。しかし現実に、彼らはこの怪物の牙にかかり屠られた。こちらの常識が通用しない。

 

 

「要はテメェには少し期待してるってことだ。剣を出したってことは、ちったぁやれるってこったろ?」

 

「特記戦力であるあなたに期待されるなんて、光栄ですね・・・・・・」

 

 

 思ってもいないことを口に出す。気分は最悪だ。

 

 

「でも期待してるとこ悪いんですけどーー」

 

 

 柄を強く握る。

 

 

「ーーこれ弓矢に近いんですよねっ!!」

 

 

 かざした剣の鋒に、霊子を集束。

 コンマ5秒とかからず形成され放たれた青白い矢は、狙い誤らず剣八に向かう。

 

 命中、衝撃、轟音。

 

 それと同時に巻き上がる砂埃が視界を遮る。

 

 

「オレの神聖滅矢、こんなに強かったっけ・・・・・・?」

 

 

 ベレニケは自分が放った一撃が、以前のものより強力になっていることに驚愕した。

 

 滅却師は基本的に周囲の霊子を利用して戦闘に利用する。

 たった今放った神聖滅矢も然り。周囲から集めた霊子を霊子兵装に束ね、矢の形に整えて放つ。

 つまり使用者の腕だけでなく、環境の霊子濃度等によってもその力の強度は左右される。

 

 矢の威力が増したのはここが尸魂界であるからか。

 はたまた先日与えられたばかりで碌に詳細を把握しきれていない能力のおかげか。

 或いはまた別のーー

 

 

「つまんねぇ真似はよせよ、滅却師」

 

「!!?」

 

 

 巻き上がった土煙が無くなり、晴れた視界に映ったのは無傷で立つ敵の姿。

 

 一撃で倒せるとは思っていなかったが、しかしあれだけの速度、あれだけの威力の矢を、半ば不意打ちで受けてダメージ無しとはどういうことか。

 

 否、そもそも受けてなどいなかった。

 見れば矢の先端に近い部分を左手で掴んで止めている。

 

 これが特記戦力の一角。

 

 

「バケモノめ・・・・・・!」

 

 

 冷や汗が落ちる。

 あの威力の一撃を素手で止めるとはどういうことだ。こんな闘争の権化のような化け物を相手にどうすれば生き残れるというのか。

 

 

「言ったろうが。オレはテメェとーーーー」

 

 

 音を立てて、霊子の矢が握り潰される。

 

 

「斬り合いに来たってなぁっ!!」

 

「づっっっ!?」

 

 

 一瞬で距離を詰めた剣八は、そのまま右手で握る刀を振り落とす。

 大気を裂きながら振るわれた一撃を、ベレニケはかろうじて反応し剣で受け止めた。

 だがーーーー

 

 

(重いっ・・・・・・!!)

 

 

 踏み締めた地面に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

 受け止めたことで出血は免れたものの、衝撃までは殺せない。

 

 ギチギチと音を立てて鍔迫り合うも、その均衡はすぐにでも崩れるほど脆い。

 剣八が片手で行う攻撃に対し、ベレニケはそれを両の手で受け止めるのが精一杯。

 

 これほど勝ち目を感じられない戦いは、彼の経験の中にはない。

 

 

 不意に、剣八の左手が動く。

 すわ喉を狙われるかと思ったベレニケだが、剣八が掴んだのは彼の右腕。

 そのまま腕力に任せて強引に防御を引き剥がし、無防備になった相手の胴を斬らんと斬撃を繰り出すがーーーー

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 それは左腕に阻まれた。

 一撃を予想外の硬度に防がれて一瞬動きが止まった隙に、ベレニケは再び距離をとる。

 

 

(あ、あぶねーーーー!!)

 

 

 滅却師の基本戦術の一つ・血装。

 霊子を自分の血管に流し、攻撃と防御のいずれかの力を上昇させる。前者を動血装、後者を静血装と称する。

 斬られる前に左腕で静血装を起動していなければ、即死していたかもしれない。考えるだけで恐ろしい。

 

 

「硬くなんのか」

 

 

 斬撃を防がれた剣八は、何故か口元を歪ませて嗤った。

 

 何故そうも心底嬉しそうにしているのか、ベレニケには皆目見当もつかない。戦いを嫌う彼とは対極に、目の前の男は生来の戦闘狂だからであるからか。

 

 

「けどもう慣れた。前にも硬ぇ奴とはやり合ったからよ」

 

 

 感触を確かめるように二、三度刀を振り、次は斬るぜ、と刀を向ける剣八。

 

 

 慣れたってなんだ、と思いつつ、ベレニケはどうすればこの男に一撃喰らわせることが出来るかを考える。

 不意打ちの類は効かない。小手先の技もおそらく同様。

 遠距離から一方的に矢を撃ち続けるという手も、あの怪物はすぐに対応してくる気がする。

 ならば正面からしかないが、如何な手を使えばいいのか。

 

 カウンターを狙うしかない。

 幸いというか、今の攻防で分かったことは二つ。

 

 一つは自分の滅却師としての能力が上がっているのは、聖文字によるものであること。

 これは先程血装を発動させた時に能力の使用を自覚できた。授かった聖文字はどうやら無駄にならずに済んだようだ。

 

 二つ目は、今の己の静血装ならばあの更木剣八の攻撃を受け止めることが可能であるということ。

 

 

 特に二つ目が肝心だ。

 まず相手の攻撃を静血装を展開した左腕で受け止め、右手に持つ剣で攻撃。

 仮に斬撃を防がれても、霊子兵装である剣から至近距離で全力の神聖滅矢を撃ち込む。贅沢を言えば攻撃の際に動血装を発動させたいが、静血装と並列で使用できない以上、守りを優先せざるを得ない。

 

  

 これしかないだろう。

 剣を握り直し、小さく息を吐く。

 

 

 今度はこちらが仕掛ける番だ。

 

 地を蹴り、放たれた矢の如く敵に接近。

 ベレニケの攻撃を察した剣八がに刀を振りかぶる。

 

(来たーーーー!)

 

 

 敵の斬撃の軌道上に、左腕を置こうとしーーーー

 

 

 

 ーーーー自分の腕ごと首を落とされる光景が視えた。

 

 

 

(ーーーーーー!!?!??)

 

 

 

 ぶわりと身体中から脂汗が噴き出す。

 咄嗟に腕を引き、両手で構えた剣で斬撃を受け止める。

 先刻のものよりさらに激しい衝撃がベレニケを襲うも、かろうじて踏みとどまった。

 

(なんだ、今の。幻覚? いや・・・・・・)

 

 あれは未来だ。

 もしもあのまま左腕で受け止めていればそうなったという、もしもの未来。

 何故そんなものが鮮明に視えたのかは分からない。生物としての本能が鳴らした警鐘なのか。

 

 いずれにしろ、静血装が通じないような相手にこのまま近距離でやり合っては不味い。何か別の策を講じなければと考え出した瞬間。

 

 

 胴体側面に、衝撃。

 

 

 あまりの衝撃故に声を出す間も無く体が勢いよく吹き飛び、二度三度と地面をバウンド。十数メートルほど体を地に引き摺られたあたりでようやく止まった。

 体を横に倒し、そこで初めて自分が蹴られたことに気づいた。

 握っていた剣が、遠くで落ちる音。

 

 

「うっ・・・・・・げほっ、がふっ・・・・・・」

 

 

 体内から迫り上がった血が止まらず、口から溢れ出る。

 骨がイった。内臓にもダメージが入っただろう。

 呼吸が浅くなってきた。立ち上がる余力もない。

 

 

 死ぬ。

 

 

 たった一撃受けただけでこの有様。流石は特記戦力というべきか、いや単純に更木剣八という男が規格外過ぎたのか。

 勝ち目がない。対峙した時から解っていた。自分程度では相手にならないと。

 

 だが戦うしかなかった。

 勝つしか生き残る道がなかったのだ。負けても死ぬ、逃げても殺される。

 何よりここでこの化け物を味方の滅却師たちの元へ行かせては、例え星十字騎士団といえど甚大な被害を出すのではないか。

 

 

 死ぬ。

 

 

 そうなれば彼女は、あの先輩はどうなる?

 苦もなく倒してくれるかもしれない。親衛隊が出てきてくれるかもしれない。しかし、そうならなかったら?

 

 

 死ぬ。

 

 

 自分も、自分以外の誰かも。それは、嫌だ。

 

 あぁ。

 全く、これだからーーーー

 

 

 ーーーー争いは嫌いなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あらら、ありゃあ致命的だな」

 

 

 瀞霊廷へと乗り込んだ星十字騎士団の一人、アスキン・ナックルヴァールは廷内を一望できる塔の上に腰掛け、自身の後輩である男の戦いの一部始終を観戦していた。

 

 護廷十三隊の隊士を十数名ほど倒し、「まぁ最低限の仕事はしただろ」と判断した彼は、休憩にちょうど良さそうな塔を見つけるとその頂上で持参のカフェオレを飲んで一息つくことに。

 そうして寛ぎながらしばらく各地の戦況を眺めていると、つい先程知ったばかりの顔を見つけた。

 対するは特記戦力の一・更木剣八。

 

 うへぇ致命的だな可哀想に、とアスキンは彼の運の無さに哀れみを覚えた。

 

 あの陛下をして危険だと判断された要注意人物たち、それが特記戦力と呼ばれる5人の死神。

 そんな奴らを相手にするのは自分だって御免だ。ましてそれを相手にするのがつい先日騎士に選ばれた者とあっては、勝敗は火を見るより明らか。

 

 案の定というか、予想通り終始更木剣八が圧倒している。

 決着は時間の問題だろう。

 

 

 助けに行く気は起こらなかった。

 勝てるかどうかも怪しいヤツと戦う気はないし、知り合って数時間と経ってないヤツの為に命を賭けるつもりもない。勝てる相手にそれとなく勝つのがベスト、要らないリスクは冒さないのが自分だと理解している。

 他の騎士たちも他人の獲物を横取りするのは云々と、自分には理解が及ばない理由で介入しないだろう。

 

 

 騎士団では珍しく一般人に近い感性の持ち主で、話が合いそうな相手ではあった。

 亡くすには惜しいが、だからと言って自分の命とは比べられない。仕方がないことだ。己の不運を呪ってもらう他ない。

 

 敵の蹴りが彼の胴体にクリーンヒット。吹き飛ばされ、動かなくなった。無理もない。あんな一撃、自分が受けても只では済まないだろう。

 とどめを刺される瞬間を見る気にはなれなかったので、十字を切った後、視線を別の戦場に移そうとした瞬間。

 

 

 爆発的に膨れ上がる霊圧。

 

 

「ーーーー!!?」

 

 

 視線を戻せば、急激に膨張した霊圧による大気の圧力のようなものがこちらまで伝わる。

 そしてその中心に立つ、異様な雰囲気の後輩の姿。

 

 

「おいおいおいおい。なんだ、ありゃあ・・・・・・?」

 

 

 アスキンの注意は、否が応でも再びその戦いに引きつけられることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時同じくして。

 

 星十字騎士団 "E" バンビエッタ・バスターバインは、護廷十三隊七番隊隊長である狛村左陣とその部下たちと交戦していた。

 

 とはいえ開戦から幾ばくか時間が経ち、敵である彼等はもはや殆ど全滅。隊長を残すのみと思われた。

 その隊長も切り札である卍解を奪われ、万事休すといったところ。七番隊の敗北は既に決定したものと思われていた。

 

 バンビエッタは諦めの悪い犬面(本当に犬?)の隊長を相手にすることに段々と飽きを感じはじめる。さっさと片付けて次に向かおうと、己の能力で周囲一辺を吹き飛ばそうとしてーーーー

 

 

 ーーーー急激な霊圧の上昇を感じた。

 

 

「!?」

 

 

 一瞬敵のものかと思ったが、違う。これは、滅却師の霊圧だ。

 だが、覚えがない。

 

 

「・・・・・・なによ、これ。誰の霊圧・・・・・・?」

 

 

 距離があってなおハッキリと大きく感じる程に巨大な霊圧。騎士団のいずれかが滅却師完聖体にでもなったのか。だとすれば、敵に追い詰められたことになる。

 そのことに情けないとは思うが、それ以上にその霊圧の巨きさに戦慄を覚えた。いくら滅却師の最終形態とはいえ、この霊圧の上昇率は異常だ。

 

 何が起きているかは分からないが、あの霊圧が放たれている場所で何かが起きていることだけは明白。確かめるには、この場にいる虫の息同然の敵残存戦力を潰さなくてはならない。

 

 

 ーーーーそういえば、アイツどうなったんだろ。

 

 

 ふと、自分に舐めた口をきく昔馴染みの鬱陶しい男を思い出す。

 

 何の間違いか、先日自らと同じ騎士になったアイツ。一応この侵攻のメンバーに選ばれた、聖文字を与えられるも自分の能力すら把握していない半端者。いや、能力は分かったのだったか。

 その件を出撃前にはぐらかされたことを思い出すと、少し腹が立つ。

 

 死んでいなければ今度こそ聞き出してやろうと、バンビエッタは意識を戦闘に戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

(終いか)

 

 更木剣八は十数メートル先で倒れる滅却師の姿を視界に入れ、ため息をつく。

 始めは期待していたが、蓋を開ければなんのことはない。手応えのない敵だった。

 

 己の一撃を防いだまではよかったが、そこまで。そこから蹴りを入れると直ぐにダメになった。

 

 自分の雑な霊圧感知でもわかる瀕死の状態。風前の灯同然の敵に、剣八は興味を失くした。

 とどめを刺さずとも息絶える。そんなものをわざわざ相手になどしない。

 

 

「チッ」

 

 

 斬り合いどころか、互いに斬らず斬られず仕舞い。

 もっと楽しめると期待していた。だが終わってみれば実に退屈で、つまらない戦いだった。これなら自分の真似をした先の滅却師の方が余程マシというもの。

 

 

 地に臥した敵への関心を捨て、剣八は次の敵を探すべく踵を返す。

 次に見える者が、己の目に適う強者であることを期待してーーーー

 

 

 

 ーーーー背後で何かが蠢いた。

 

 

 

 敵だ。

 先程まで敵だった、斃れたはずの敵。動かなくなり、己の興味が失せた敵。

 

 それが立ち上がっていた。

 急激に上昇した霊圧がそう見せるのか、ソレの周囲に青白く輝く光が見える。

 

 異変はそれだけではなかった。

 辺りの床が、壁がひび割れ、そこから分解された霊子が斃れたはずの滅却師の元へ集う。強制的に徴収された霊子は黒い外套となり、滅却師を包み込む。

 

 

 踵を返し直す。

 先程とは比にならぬ程、敵への興味が湧く。尽きぬほどに。

 笑みが溢れる。更木剣八の機嫌は、ここにきて最高潮を迎えた。

 

 

「なんだ」

 

 

 予感がするーーーー

 

 

「やりゃあ出来んじゃねぇか・・・・・・!!」

 

 

 ーーーー愉しい殺し合いが、始まる予感が。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

簡単に勝っても面白くない。ここからが本番。
そういう訳で長くなったので分割しました。ゴメンネ。次は剣ちゃん目線で続きですかね。

一応言っておくと最後のやつは完聖体とは少し違います。多分ね。私も後先考えずに足した設定なので。許して。


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vs 更木剣八 弐

 総合評価1万突破&UA10万突破! ありがとうございます! 皆様のおかげでございます。いつもいただく感想や高評価が励みになっています。
 日間一位もいつの間にか達成していました。感謝の極み。

 アニメ千年血戦篇6話視聴完了。カッコイイ戦闘描写追加はいい文明。今のとこ100点、しゅごい。スカーいっぱい聴いてます。


 

 更木剣八の眼には、眼前の敵しか映っていない。

 

 

 再び立ち上がったことに対する疑問などない。至極どうでもいい。

 理由だの理屈だの原理だの、そんなものは放っておけば技術開発局の変態どもが分析やら解析やらを勝手にするだろう。特にその変態どもを統べる随一の変態が、その無駄に広い監視網を使って。よって微塵も興味はない。

 

 

 大事なのは愉しめるかどうかだ。

 ギリギリの死闘が出来るか、否か。そこさえ叶えば、後の諸々は一切関係ない。己の生き死にでさえ。

 

 

 噴き上がる霊圧が、次第に安定する。

 

 辺りの様子は既に先程までとは一変していた。

 床と壁はどこもかしこもヒビが入り、一部が欠け、一部は崩壊する有様。

 

 

 それら周囲の変化よりもなお変化したのは、対峙する敵の姿。

 周囲から簒奪した霊子で編まれたと見られる黒い外套を纏い、一度は立ち上がることも難しくなったとは思えないほど、しっかりとその両の足で立っていた。

 

 

「面白ぇ…………!」

 

 

 だからこそ、俄然斬り合いたくなるというもの。

 

 

「いいじゃねぇか!! なぁ、滅却師!?」

 

 

 昂る悦びを抑えきれないとばかりに、剣八は吠える。無意識に自分の口端が歪むことに気付かぬ程。

 ここからがやっと、自分が望んだ戦いだ。斬って斬られて、血を流し流させる。戦いとはそうでなくては。

 

 

 だが無手の相手に斬りかかるつもりはない。

 新しい得物を出すまで待つ。そうでなければ、意味がない。せっかくの闘争を、自分の手で台無しにするなど論外極まる。

 

 

 上空で、何かが光る。

 弓だ。巨きな弓。人が引くにはあまりにサイズ違いな青白いソレは、一人でに、或いは己の主人の意によるものか、そこから黒衣の滅却師の目の前へ何かを撃ち下ろした。

 

 撃ち出されたのは、矢ではなかった。

 

 剣だ。天にある弓と同様、鋒から柄の先まで青白い直剣。

 

 射出され地に刺さったその矢剣ともいうべき代物を、滅却師は手にする。

 これで、互いに戦闘準備は整った。あとは、どちらが始めるか。

 

 

「────おぉおおぉぉぉぉおおお!!!」

 

 

 先に仕掛けたのは、剣八だった。

 我慢出来ぬとばかりに、迷いなく敵に向かって前進。そのまま斬りかかった。

 

 

 互いの刃が交差する。

 

 轟音、衝撃。

 強大な霊圧同士がぶつかり合い、その衝撃波が周囲の人工物をさらに破壊する。

 

 完璧に防がれた一撃に、剣八の笑みが一層深まる。

 続けて二撃、三撃と繰り出すも結果は変わらず。刃を交える回数が増える度に、衝撃が炸裂する。

 

 幾合と切り結ぶ。

 高まる愉悦が、止まることを知らない。最高の気分だ。このまま永遠に続いて欲しいと思える程に。

 

 

 何度目かの衝突の後、互いに距離を空ける。

 ここまで互いに無傷。常ならばその事実に不満の一つも覚えるだろうが、今は逆にそれが喜ばしい。真に互いの力が拮抗するからこそ起こる現象だと理解出来た。

 

 

 静かに睨み合う。息を吐く。

 剣八が今一度斬り合わんと距離を詰めようと踏み出し────

 

 

 ────左胸部から右腹部にかけて、血が吹き出した。

 

 

「!!」

 

 

 己の前方にいたはずの白装束の男は、いつの間にか背後に回っている。

 

 

「ハッハァ!!」

 

 

 知覚が追いつかない一撃を喰らってなお、剣八の動きは欠けらも鈍ることはない。身体を捻り、横薙ぎの斬撃を敵目掛けて仕掛ける。

 

 しかしそれは受け止められた。

 霊子の剣ではなく、滅却師の首で。

 青く枝分かれしたような紋様が、彼の首元に走っている。先刻腕の硬度が増したのもこれのお陰のようだ。

 

 

 お返しとばかりに、今度は身体を反転させた滅却師の横薙ぎの一撃が、斬魄刀で受け止めた剣八を吹き飛ばした。

 地を数メートル滑り、前を向くより前に己の胸に走る横一筋の真新しい傷に気がつく。

 

 だがそれだけの損傷を与えてもなお、剣八は片膝着く様子すらない。それどころかその勢いはより果敢に、獰猛に、凶暴に。斬撃の鋭さが増していく。

 

 

 刃の応酬が続く。

 身体に無数の切り傷を刻む剣八とは対照に、未だ滅却師は纏う衣が数ヵ所浅く裂けたにとどまる。

 

 戦いはより一層激しさを増す。

 

 そして遂に、均衡が崩れ出した。

 

 

 黒外套の滅却師の上段からの一撃が、それを受けた斬魄刀ごと剣八の肉を深く切り裂いた。

 

 流血。折れた刀身が宙を舞う。

 たたらを踏み、後ろに下がった怪物は────

 

 

「ハッ」

 

 

 ────やはり怪物であった。

 

 

「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁ!!」

 

 

 そんなことでは、この男は止まらない。

 下がって距離を取るどころか、先程よりもなお、前へ。

 何度斬られても絶対に倒れない、最強の死神。それが「剣八」。そして彼は歴代の中で最もその称号に相応しい男であるのだから。

 

 全身を滴る血で濡らし、鬼の形相で浮かべる笑みを浮かべたまま。

 もはや声というより言葉にならぬ雄叫びをあげ、得物を振るう。

 

 その一撃は先程まで優勢だった滅却師の剣を押し返し始めた。鍔迫り合い、その驚異的な力で押された青白い刀身が、持ち主の身体に浅く沈み込む。

 

 これ以上この死神とこの距離で戦うのは危険だと判断したのか、滅却師は死神の腹を蹴ることで無理矢理距離を開く。

 蹴られたことなど意に介さず地を蹴り砕き、追撃を見舞おうと接近する剣八。

 振り上げた刀を斧のように振り下ろす────

 

 

 

 ────筈の右腕が、沈む。

 

 

「!?」

 

 

 右腕が青白い矢で射抜かれ、地に縫い付けられている。

 どこから飛んできたかは、考えるまでもなかった。

 

 上だ。

 あの矢剣を発射した巨大な弓は、消えてなどいなかった。高度を上げ、剣八の意識の外に置かれた今。再び一人でに矢を生成し、番え、狙いを定めて放ち、目標を穿つ。

 

 すぐさま突き刺さった矢を抜こうとする剣八の左腕をも、空から降る矢がまたしても射抜き、地に落とした。

 

 両腕を縫いつけられ、上体を起こせない姿勢となった剣八の背に狙いを定めた大弓が、三度矢を生み出す。

 

 ただし一つではない。

 十を超える矢が、彼の背に突き刺さった。

 

 ごぷりと、鮮血が口から漏れる。

 

 だが、まだだ。

 まだ、更木剣八の戦闘欲求は鎮まっていない。並の隊長格であっても敗北を悟り、諦める局面であろうとも。未だ彼の意志は死んでいない。

 

 矢による拘束を無理矢理にでも引きちぎろうと、満身の力を全身に込める。腕を貫く矢に亀裂が走り、弾けるその前に。

 

 

聖唱(キルヒエンリート)

 

 

 滅却師が、トドメの一撃を放つべく詠唱を開始した。

 既に崩れた周囲の建造物からまたも霊子を収集、左の掌に収束。そこから蒼く輝く帯のようなものが流出し、二人を囲うようにして地面に五芒星の結界を構築した。さらにその縁から、同じ輝きを帯びた柱が立ち上がる。

 

 これぞ滅却師が誇る攻防一体の極大防御呪法。その領域に踏み込んだ愚者をたちどころに神の光で裁く、選ばれた者のみが使用可能な滅却奥義。

 其は────

 

 

 

聖域礼賛(ザンクト・ツヴィンガー)

 

 

 

(チクショウが ・・・・・・)

 

 足元から光が立ち昇る。

 身動き出来ぬまま全身を切り裂かれる刹那、剣八の心に在ったのは敗北の悔しさと、それでも心踊った闘争への充実感。

 死への恐怖は無い。もう戦えないのは残念だが、まぁ仕方ない。死ぬ時は死ぬだろう。

 

 だが、それでもやっぱり。

 

 

(もっと斬りたかったなぁ────)

 

 

ベレニケ・ガブリエリ VS 更木剣八

 

 勝者

 

星十字騎士団 "Q" 「滅却師(ザ・クインシー)」 ベレニケ・ガブリエリ

 

 

 

 天に昇る光が消え、その痕跡だけが残った。

 

 その中心。全身を切り刻まれ、赤い液体に濡れたまま倒れ伏す死神の息を止めるべく、勝者である滅却師はその右手に持つ剣を宙に掲げた。

 抵抗も出来ない者を始末するのに、特別なことは何も必要ない。

 あとはただ、腕を振るう────

 

 

 ────その直前にバンと音を立てて剣と、纏っていた黒い外套が弾けた。

 

 

 瞬く間に霊子に分解され、溶けるように消えていく。あとに残ったのは、呆然と立ち尽くす白装束の男が一人。

 

 

「────……………………え、あれ?」

 

 

 気がつくと、ベレニケは知らない場所に立っていた。正確に言えば、見覚えはあるがすっかり様変わりしていた為に、最初そうだと気づくことが出来なかったのだ。

 

 整然としていた瀞霊廷の通路の一つ。そこが今や床は捲れ、壁は崩壊し、至る所に亀裂が走り、激しい戦闘の後であることを物語っている。

 

 一体誰がやったのだろうか。

 自分が知ってる限りでこんな惨状が作れそうな人間の候補として真っ先に上がるのは幼馴染の彼女だが、現場を見る限り少し違う気がする。

 では他の先輩方がと思うが、結局のところ判断するには難しい。

 

 一旦この場を離れようとした時、足下のそれに気がついた。

 

 

「うわあっ!?」

 

 

 小さなクレーターのような場所の中心地に立つ自分ともう一人。人というか、そうだったものとして紹介されそうな程に酷い損傷具合。

 

 それは更木剣八だった。

 

 そこまで来て漸く、ベレニケは自身の最後の記憶を思い出した。

 自分はこの目の前で倒れている剣八と遭遇。戦闘になるも奮戦虚しく敗北を喫した筈であった、と。

 

 それが今や立場が逆転している。倒れたはずの自分が立ち、立っていたはずの剣八が倒れている。

 

 何がどうなっているのか、ベレニケにはさっぱり理解が追いつかない。誰か事情を知っている者に詳しく教えて欲しかった。

 意味がわからない状況だが、とにかく自分はひとまず生き残ったらしい。勝利、と言っても良いかは不明だが、死なずに済んだことは喜ばしい。相手が動かなくなっている内に手元から離された霊子兵装を回収。

 

 

「どうするかなぁ…………」

 

 

 すっかり動かなくなった敵を前に、ベレニケは迷っていた。

 

 瀕死ならばトドメを刺さなければならないが、遺体ならばその必要はない。敵とはいえ必要以上に痛めつけるようなことは避けたい彼は、判断を下しきれずにいる。

 生きているのだろうか? だが死体と言われた方が納得がいく。

 

 頭が上手く働かない。剣八ほどではないが、自分も損耗具合が激しい。

 体のあちこちが軋むように痛み、頭が重く感じる。おまけに、何時(いつ)ついたのか分からない傷まで。

 

 仕方がないと、意を決した。

 気は進まないが、生死が不明な以上、念のためトドメの一撃を入れてから確かめるまで。

 

 そうして気乗りしないまま剣を抜き、怪物の生命を絶とうとして──

 

 

「はれ…………?」

 

 

 ──彼の意識は、唐突に暗闇へと沈んだ。

 

 更木剣八を下したのが自分である可能性に彼が辿り着くのは、それから暫く後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 意識が闇に呑まれる前。

 視界の端で何かがピクリと、動いた気がした。

 




 踏み込まれないと発動しないなら、先に踏み込めさせとけばいいじゃない!

 はい、すいません色々と。
 色々捏造しました。攻防一体なら出来るんじゃない? とか思ってやりました。選ばれた者のみが云々とか、滅却奥義とか。タグに独自設定つけててよかった。

 でも悪気はなかったなんです。俺はただ、原作で不遇な大技をカッコよくするために・・・・・・!


 あと今回ベレニケ君が手にした剣は陛下のものよりも一回り程小さめの設定です。


 最後になりますが、以前書いた通り千年血戦篇については知識がガバガバなので以後の更新速度はかなり落ちます。ご了承下さい。それでは。


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On the other hand

 いつも読んでいただきありがとうございます。
 忙しくて間隔が空いた上に少し短めになってしまいました・・・・・・ユルシテ


 

 一つの戦いの幕が降りたことを、その時瀞霊廷にいた多くの者が知った。

 

 ある者は信じられないと驚愕を、ある者は強大な霊圧同士の衝突の消失に安堵を、ある者はその動揺を悟られぬようにと沈黙を。

 誰も彼もが、その結末を無視出来なかった。死神も、滅却師も。

 

 

 

「一角…………」

 

「分かってる…………!」

 

 

 その戦いの結末を誰よりも重く受け止めたのは、護廷十三隊戦闘部隊の男たちだった。

 負けるはずがない彼らの頭目の霊圧が、感じられない。その事実が彼らに与える影響は、決して小さくなかった。

 

 

「ま、斑目三席…………」「更木隊長は…………」「これ、もう…………」「そんな……」

 

 

 波打つ水面の波紋のように、隊全体に伝う不安。

 ただでさえ瀞霊廷が危機的状況にある中での凶報。まさかの人物の敗退。戦意を失くし始めた十三隊随一の戦闘部隊は────

 

 

「狼狽えてんじゃねぇぞ、テメェらぁ!!!」

 

『『『!!』』』

 

 

 ────まだ折れない。

 

 

「あの人がこんなとこでくたばる筈ねぇだろ! テメェら忘れたのか!? 今まで誰の下でやってきたのか…………」

 

 

 十一番隊三席である斑目一角は知っている。

 自分達の上に立つあの男は、生まれながらの「剣八」であると。

 

 

「更木剣八だ!! 戦いじゃぜってぇ死なねぇ、最強の死神だぞ! そんな人が死ぬとこなんざ、想像できんのか!?」

 

 

 檄を飛ばす。それは、彼自身に言い聞かせているようでもあった。

 一瞬でもあの人の(敗北)を疑った自分へと。

 

 

『死んで初めて負けを認めろ』

 

 

「忘れたならもっぺん頭に刻んどけ。テメェらは護廷最強の更木隊で、テメェらの隊長は────」

 

 

 護廷十三隊最強の戦闘部隊隊長。最強の死神の名をもつ男。

 その名が意味するのは────

 

 

「────何度斬られようが、絶対に立ち上がるってな」

 

 

 

 

 

 

「何なのよ、いきなり出たと思ったらまた消えたし…………」

 

 

 時同じくして。

 星十字騎士団の一人、バンビエッタもその戦いの決着を感じていた。

 

 先に突如発生した巨大な霊圧に呼応するように、それと対峙するもう一つの霊圧も上昇。

 両者の幾度かの衝突の後、天に向かう霊子の柱が出現。それを合図とするように二つの霊圧は急速に小さくなっていった。

 

 自分だけでなく敵である犬面の隊長もそれを感じ取ったらしく、苦々しげな表情を浮かべている。

 

 

 面白くない。

 大きな力同士のぶつかり合いが終わったことに内心ほっとしたという事実が。自分より強いかもしれない存在が急に湧いて出たことが。

 何より滅却師側と思われる者の霊圧が、よりによってアイツと似ていることが。

 

 

「そんな訳ないでしょ…………!」

 

 

 所詮聖兵に毛が生えた程度のヤツが、こんな霊圧を放てるはずがない。

 滅却師としてずっと自分の下にいたヤツが、自分を超えるなんてあり得ない。

 

 何かの間違い、自分の勘違いだ。

 

 あの霊圧の正体が、あんな奴のはずがない。

 まぐれとはいえ星十字騎士団の一員にまでなったくせに、アイツは何も変わらない。見えざる帝国の滅却師のくせに、本当は戦うのが怖いことは知っている。

 自分だって別に戦うのが好きなわけではない。ただ死にたくなくて、だから戦って敵を殺す。それだけで、そこに疑問が介在する余地はない。

 

 でもアイツは違う。

 戦うしかないと分かっているくせに、それでもそれが嫌だと仕方なく剣をとる割り切れない半端者。殺されたくもないが殺したくもない臆病者。

 死にたくないなら、殺すしかないと理解しているくせに。彼のそういうところが、バンビエッタは昔から嫌いだった。

 

 

 滅却師として、ずっと自分の方が優秀だった。そしてそれは今も変わらない。変わらない筈なのだ。

 才能もない奴に、自分が追い越されるはずがない。だからあれはアイツではない。

 

 そう、だから。

 だからあれはやはり、何かの間違いに違いないのだ。

 

 

「ムカつく…………!」

 

 

 間違いなどない。

 これからも、そんな間違いは起こらないと信じていた。

 

 

 

 

 

 

 雨が降る。

 

 

「哀しいな、ハッシュヴァルト」

 

「と、仰いますと?」

 

 

 見えざる帝国の指導者であり、滅却師による瀞霊廷への侵攻を始めた張本人であるユーハバッハは、銀の円盤を手に呟いた。業火を封じた五芒星が刻まれたその小さな円盤を、哀れな目で視る。

 

 

「千年前。我らの同胞を悉く焼き殺し、あれだけ手を焼いた力も今やこの様だ」

 

「……………………」

 

 

 皇帝の側に控えるハッシュヴァルトは、主君の言葉に何も返さなかった。

 敵である死神の頭目。宿敵であり仇敵である山本元柳斎重國を屠った彼は、今何を思うのか。少なくとも感傷ではないだろう。

 皇帝の背後に控える配下は、ただ静かに見つめている。

 

 

「山本重國は死んだ。奴の卍解はこの掌の中。そして奴が護ろうとしたこの瀞霊廷も、今日終わる」

 

 

 円盤をしまい、眼下にできた底の見えない穴を見下ろす滅却師の王は語る。

 最早、彼を止める者は居ない。その術も無い。このまま滅却師たちは侵攻を進め、死神を打ち倒し、遅くない内に勝利を収めるだろう。尤も、現時点で勝敗は既に決しているようなものではあるが。

 

 

「陛下、この後は────」

 

 

 どうするのかと、皇帝補佐役が問おうとするより僅かに早く。

 遠くにある巨大な霊圧反応が二つ、急激に小さくなっていく。その片方には覚えがあった。つい先日騎士に任命されたばかりの男のものだ。

 

 これは────

 

 

「…………陛下。ベレニケ・ガブリエリと更木剣八の戦いですが」

 

「あぁ、終わったようだな」

 

「では…………」

 

()()は先に聖兵に回収させておけ。今は未だ、死なせるつもりは無い」

 

「畏まりました」

 

 

 雨水を滴らせながら、ハッシュヴァルトは主君からの命令を受諾し小さく頷いた。

 己の主人の背を、その碧い目で捉えたまま。

 

 

 

 ユーハバッハは、つい先刻見えた罪人との会話を思い出していた。

 

 

『面白いものを飼っているようだ』

 

 

 自身が示した特記戦力の一人、藍染惣右介はあれをそう評した。

 真央地下大監獄最下層:無間にて。自ら彼の勧誘に出向きその誘いを断られたタイミングで、あれの霊圧が地下からでも感じ取れる程大きくなった。

 対するは更木剣八。未知数の戦闘力を持つ特記戦力の一人を相手に、追い込まれたといったところだろう。

 

 面白いと、不敵な笑みを浮かべ終始余裕を保っていたあの男は口にした。

 藍染惣右介があれについて何処まで気づいたかは不明だが、問題はない。気づいたところで、こちらの手を取らなかったあの男に何が出来る訳でもなし。

 

 

「残る星十字騎士団各員に通達を出せ。死神どもを一人残らず────」

 

 

 祖王は命を下す。

 常から平和を好むと。争いは好まないと宣言するその口で。

 

 

「────殲滅せよ」

 

 

 (たたか)えと、己が配下に命を下した。

 

 侵撃は未だ止まらない。雨もまた止まない。

 尸魂界を覆う曇天を切り裂くように飛来する一振りの黒刀が、彼らの前に現れるまでは。

 

 

 

 

 

 

 気配が一つ一つ、ぽつりぽつりと消えていく。

 命の灯火が、その明るさを失くしていく。

 

 

「死ぬなっ…………!」

 

 

 黒崎一護は、それを確かに感じとっていた。

 

 虚圏にて見えざる帝国の襲撃を受けた破面たちを救出するべく、彼と仲間たちは滅却師キルゲ・オピーらと交戦。

 一護は卍解の力で彼を圧倒し、協力者である浦原喜助の助力により黒腔を通り尸魂界に向かおうとした。だが、キルゲが最後の力で発動させた聖文字の能力「監獄」により、黒腔内で閉じ込められる事態に。

 尸魂界への出口を封鎖され、自分も檻の中。外と連絡も取れなくなってしまった。

 

 自身の卍解による攻撃でも破壊不可能な程に強固な檻の中で、何故か通信機から一方的に聞こえてくる悲鳴と消えていく霊圧を感じながら必死の抵抗を繰り返す。

 しかし何度刃を振るおうと、傷一つつく様子がない。そうしている間にも、感じ取れる気配が減り、弱々しくなっていく。

 

 

「皆死ぬなっ!!」

 

 

 消えていく。小さくなっていく。

 見知った者の存在も、そうでない者の存在も。強者も、弱者も。一つ、また一つと。

 

 

「ルキア…………恋次…………!」

 

 

 己の世界を変えた彼女が。鎬を削りあった戦友が。

 

 

「白哉…………剣八…………!!」

 

 

 かつて自分の全てを懸けて戦った猛者たちまでもが。護廷の主力である彼らさえもが。

 

 消えていく。小さくなっていく。

 戦いで死ぬところも、負けるところも想像出来ない彼らであっても。

 

 自分の手の届かない所で、溢れ落ちようとしている。

 

 

「皆死なせねぇ…………!!」

 

 

 死なせない。

 死神も、瀞霊廷も、尸魂界も、全部。

 

 

「俺がっ! 護るんだよっっ!!」

 

 

 己の大事なものを護る為に、彼はまたしても己の全てを懸けて戦う。

 自身のことは、何も知らぬまま。

 




 最後まで読んでいただきありがとうございます!
 クリスマスプレゼントに文才が貰えないかな・・・・・・それかBLEACH原作千年血戦篇全巻とか。


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束の間

 お久しぶりです。
 バンビちゃんが無事アニメでリョナられてたのでやる気が湧いて書きました。長い間お待たせして申し訳ありません。
 シテ・・・・・・ユルシテ・・・・・・。


 

 第一次瀞霊廷侵攻は、死神達に壊滅的な打撃を与えた滅却師側の撤退により幕を閉じた。

 

 死神と滅却師。

 侵攻された側と、侵攻した側。

 かつて勝利した者達と、敗北した者達。

 

 水と油。

 千年に渡り溝を生んだ彼等。

 互いに相容れぬ両者の激突は一旦の静寂を見せたが、これがこれから始まる大きな戦いの序章にすぎないことは、誰の目にも明白だった。

 

 

 

 

 

 

 銀架城  とある一室。

 

 滅却師の王が率いる見えざる帝国。

 その幹部格にあたる星十字騎士団員に与えられる個室の一つ。

 椅子ではなく机に腰掛けた少女は、自分一人しか居なくなった部屋で誰に聞こえることもなく小さなため息をついた。

 

 少女──バンビエッタはフラストレーションが溜まっていた。

 一度目の侵攻が終わり、直ぐに集められると彼等の王は唐突に自身の後継者を発表。

 その後継者が騎士団員の内の誰かならばまだ納得がいっただろうが、こともあろうに指名されたのはポッと現れた何処かの馬の骨。

 そのあまりに突然な知らせに困惑したのは自分だけではないだろう。

 実際あの場にいた滅却師は一部を除き驚きを露にしていた。

 自分も含め、皇帝がその席を譲るとすればそれは彼の補佐を務める男に他ないと思われていたのだから。

 

 もう一つ軽く息を捨て、足元に転がる()()を見た。

 若い男の滅却師。ただし、半死半生の、という前置詞がつく。

 

 顔面が見るも無惨なことになっていた。

 鼻を中心に陥没し、だらだらと小さな川のように赤い液体が止めどなく流れている。

 見えざる帝国において指折りの滅却師の、ストレス発散に付き合わされた者の末路がそこにはあった。

 

 昔ならもっと酷いことになっていたが、何処ぞの口煩い生意気な男のせいでこの程度に収まっている。

 

「うわぁ……また派手にやったなぁ……」

 

 噂をすれば影。

 部屋の入り口から細い声が聞こえた。

 そのすっかり聴き慣れた声の主は、つい先日星十字騎士団員に選ばれた新人であり、遺憾ながら彼女にとってそれなりに付き合いの長い相手であった。

 

「なによ、文句あるわけ?」

「文句というか、その、やっぱ仲間半殺しはマズくない?」

「うっさいわね。アンタが言ったんでしょ、殺さずにって。あたしはそれをワザワザ守ってやってんのよ」

「う〜ん……」

「それより来たんなら、それ片付けといて」

「うえぇ……」

 

 生意気にも自分に文句を言う新人ことベレニケ・ガブリエリは、顔色を若干青くしながらも床に転がるソレの後始末を始める。

 

 自分で命じておきながら、適当な聖兵にでもさせればいいのにと、バンビエッタは思った。

 彼が騎士に任命される前はよくあることだったが、任命された後も変わらず従うあたりに彼等の力関係は変わらないようだ。

 

 バンビエッタがつまらなさそうに後始末を眺めていると、ふとベレニケは何故かその手を止めた。

 

「あのさ、バンビちゃん」

「何よ。文句なら……」

「うん、それもあるけど、その前にですね……」

「?」

 

 どうにも様子がおかしい。

 顔を赤くしてチラチラとこちらを覗き見て────

 

「前をもう少し隠してもらえると──」

「どこ見てんのよ変態っ!!」

「目が痛いっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「陛下の後継者?」

「あっきれた。アンタあそこで何聞いてたのよ。寝てたわけ?」

 

 応急処置を済ませた負傷者を通路を通りかかった聖兵に任せ、ベレニケはバンビエッタの部屋で彼女の話に付き合うことに。

 話の中身は、やはり例の後継者について。

 いま現在最もセンセーショナルな話題であるはずの皇帝の後継者を、しかしどういうわけか彼は知らずにいた。

 というのも。

 

「いやぁ、オレさっきまで医務室に居たから」

「はぁ?」

 

 今回の侵攻で、滅却師側の被害は然程大きいものではなかった。

 確かに幹部格である星十字騎士団のうち数名が敵に討ち取られることにはなったが、死神側の損害に比すれば微々たるもの。

 だが目の前の男は医務室に居たという。

 つまり。

 

「なに、負けたの? 騎士になったのに? ダッサ〜!」

「事実だから何も言えねぇ……」

 

 バンビエッタの機嫌は急上昇した。

 騎士に選ばれておきながらアッサリ敗北して医務室送り。自分とは違い、おそらく卍解も奪えていないだろう。

 そしてそんな無様を晒したのは目の前の男だという。

 その事実で、先の不機嫌が嘘であったようにバンビエッタは端正な顔をニヤニヤと歪めた。

 

「星十字騎士団に選ばれておいて負けるとか、アンタ終わったわね。残り短い人生、精々有効に使いなさい」

 

 星十字騎士団に敗北は許されない。

 それは見えざる帝国に属する滅却師ならば誰でも知っていることだ。

 常から彼等の無茶が通るのは、その圧倒的な戦闘能力があるが故のこと。

 だからこそ、敗けることは許されない。

 まして、因縁の相手である死神には。

 

 だが────

 

「でもさっきハッシュヴァルトさんに何も言われなかったけど……」

「はっ?」

 

 ハッシュヴァルト。

 ユーグラム・ハッシュヴァルト。

 星十字騎士団最高位を預かり、皇帝の補佐も務める彼等見えざる帝国のNo.2。

 皇帝の意思に最も忠実で、なにより規律や規則に厳格なあの男が、敗北した者に何も言わなかった? 

 

 何故────? 

 

「アンタなにかしt────」

「バンビちゃーん」

 

 

 声を遮って部屋へと入ってきたのは、白い装束を纏った少女四人組。

 それぞれ個性的な格好の彼女たちは一見すればただの10代の若者だが、彼女達もまた歴とした星十字騎士団の一員である。

 

「チッ。おい、バンビ! また男連れ込んでボコしたのかよ!」

「メシ不味くなるから外でやれっていつも言ってんだろ、クソビッチ」

「そういう問題でもないと思うの……」

「あれれ、一緒にいるのって」

 

 キャンディス・キャットニップ。

 リルトット・ランパード。

 ミニーニャ・マカロン。

 ジゼル・ジュエル。

 

 見た目とは裏腹に、全員が滅却師の王から聖文字を授かる一騎当千の実力者。

 部屋に薄らと残留した血の臭いに愚痴を言いながらも遠慮なく部屋に押し入った彼女たちは、珍しく先客がいることに気がついた。

 

「コイツあれだろ、新入りの」

「あぁ、聖兵から繰り上がったってヤツか」

「もしかしてバンビちゃんのかr──」

「殺すわよジジ」

「ウソウソ、ジョーダンジョーダン」

 

 冗談でも許さないと、部屋の主人は般若のような顔でジジことジゼルを睨みつける。

 少女が一人から五人に増えたことで姦しくなり始めた。

 

「お、オレ医務室に行ってくるので──!!」

 

 そのタイミングで、居心地を悪くしたのかいたたまれなくなった青年は迅速な挙動で退室。

 

「……なんだありゃ」

「医務室?」

「スゴく元気そうに見えたの……」

 

 突如部屋から走り去る青年を、少女達は怪訝な顔で見送った。

 新人星十字騎士団員、ベレニケ・ガブリエリ。

 彼は幼馴染以外の美少女に対する耐性が、まるで無かったのだった。

 

 

 青年が去った後。

 以前聞きそびれた能力を聞き出そうとしていたバンビエッタは、再度聞きそびれたことよりも、ふと気になったことを口に出した。

 気のせいかもしれないが。

 

 

「アイツ、あんなに黒髪多かったっけ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 バンビエッタの自室を出たベレニケは、訓練室の方へ足を進めていた。

 

 頭に浮かぶのは、先の戦いのこと。

 更木剣八と戦い、自分は負けた、と思う。

 

 あの戦いの内容について、ベレニケが覚えていることは少ない。

 彼と対峙し、剣を振るったこと。

 実力差に手も足も出なかったこと。

 

 だが気がつけば血塗れの剣八が、自分の足元で倒れていたこと。

 

 どうにも記憶が曖昧で、何処からが現実なのかさえ自信がない。

 だが再び彼と相見えたら、自分では勝てないことは確かだ。

 

 瀞霊廷への第二次侵攻は、そう遠くない内に行われる。

 それまでに少しでも強くならなければならない。

 自分は他の星十字騎士と違い、まだ与えられた聖文字を使いこなせてもいないのだから。

 

 そうして決意を新たに歩みを進めているところに、彼は現れた。

 

 金の長髪、蒼い双眸。

 冷徹な雰囲気を纏う、己の王に最も忠実な騎士。

 

「ハ、ハッシュヴァルト、さん」

「ベレニケ・ガブリエリ」

 

 ベレニケが医務室を出てから最初に会い、しかしその時は何も言わずに過ぎていった彼が、どうしてか今になって自分から姿を見せた。

 

 やはり敗北したことが不味かったのでは。

 陛下の気が変わって「アイツやっぱ死刑☆」みたいなことになったのではと、ベレニケの小さな肝は急速に冷え始める。

 

 だがそんなことはお構いなしとばかりに、騎士の長は言葉を続けた。

 

 

「来い。陛下がお待ちだ」

 




 読んでいただきありがとうございます! 

 ベレニケ君の髪、黒い部分が増えたんだってー。なんでだろー。フシギダナー。
 明日も一話投稿する予定です。(あくまで)予定です。

 感想、高評価などいただけると嬉しいです! それでは!

 


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卍解

 いつも読んでいただきありがとうございます!
 アニメ神作画過ぎて毎回震えてます。
 


 

 二度目となる滅却師の瀞霊廷への侵攻は、またしても唐突だった。

 

 見えざる帝国。

 その名の通り、彼等は瀞霊廷の影の領域に潜み襲撃の機を窺っていた。

 そして瀞霊廷を自分たちの拠点に塗りつぶすという、護廷十三隊の予想を超える方法で侵入。

 侵攻を開始した彼等は、瞬く間に死神たちを蹂躙する。

 

 卍解という切り札を抑えられていた死神達であったが、浦原喜助が開発した侵影薬により力を戻すと反撃を開始した。

 死神と滅却師の戦い。

 その第二幕は、かくして再び切られた。

 

 

 

 

 

 ベレニケは、自分って実は呪われているのではないかと思った。

 

 騎士に選ばれたと思えば最初の戦闘で特記戦力に遭遇し。

 案の定ボコボコにされたかと思えば、失神してる間に何故か相手が倒れている。

 

 そして今回は────

 

 

「テメーが更木を倒したってヤツか」

 

 

 またしても敵の主戦力にいきなりエンカウント。

 与えられる情報から、卍解の使い手を含め隊長格は凡そ把握している。

 

 銀の短髪。鋭い目つき。

 鍛え上げられた体躯。

 鳩尾の辺りに刻まれた69という数字。

 袖のない白い羽織。

 

 

「貴方は……」

「九番隊隊長、六車拳西だ」

 

 

 彼だけではない。

 

 三番隊隊長 鳳橋楼十郎

 九番隊副隊長 檜佐木修兵

 十一番隊三席 斑目一角

 十一番隊五席 綾瀬川弓親

 

 護廷十三隊が誇る戦力が、自分一人に向いている事実に頭を抱えたくなった。

 どうして出撃してすぐにこんな目に遭うのか。

 呪われているとしか思えなかった。

 

 ちくしょう、と歯噛みする。

 いくら何でも酷すぎるんじゃないか!? 

 何で新人の自分の所に隊長格が集まるのか!? 

 五対一なんて勝てるわけないだろ馬鹿野郎いい加減にしろと叫びたい。

 

 誰か、誰か来てくれないのか。

 一人でもいい。

 こんな状況をひっくり返す、そんな英雄が。

 

 

「徒党を組んで一人を、だ。許してくれとは言わねぇよ。存分に恨んでくれて──」

「まてぇ────いっっ!!」

 

 

 若者の悲痛な願いが天に届いたのか。

 何処からか「とぅっ」と掛け声が聞こえると、彼等の間へと何かが音を立てて降ってきた。

 地面に勢いよく衝突し土煙を立ち上らせるソレは、一体何者か。

 鳥か? 

 隕石か? 

 否、それは────! 

 

 

「悪党め、一対五とはなんと卑怯な! それも罪なきワガハイのファンを狙うとは……許せん!! そうだろうジェイムズ!?」

「へぇ! ミスターの言う通りデス!」

 

 

 現れたのはプロレスラーのような覆面を被る偉丈夫と、小さな少年(中年?)だった。

 

 

 星十字騎士団 "S " 「英雄」(ザ・スーパースター) マスクド・マスキュリン

 並びにその付き人 ジェイムズ

 

 

 ベレニケは現れたのが味方であることに安堵する。

 いつの間にかファンになっていたことは驚きだが、一先ずそれは無視して覆面の英雄に声をかけることに。

 

 

「あの、マスキュリンさん……」

「ワガハイが来たからにはもう心配ご無用! このスゥパァスタァが華麗に悪党を懲らしめるところを見ているがいい!」

 

 

 あ、この人他人の話聞かないタイプだ。

 HAHAHAと大笑する英雄を見てそう悟ったベレニケは、諦めて大人しく下がっていることにした。

 匙を投げたとも言う。

 

 それはともかく。

 乱入した二人の参戦により、状況は五体三。

 先程よりはマシになったとはいえ、以前数字の上では不利。

 しかも一人は非戦闘員。

 

 どうしたもんかとベレニケは考える。

 それは敵である護廷の死神たちも同様であるようだ。

 

 

「またえらく珍妙なのが来やがったな」

「どうする、拳西。ここは僕らも二手に……」

 

 

 状況の変化から作戦を組み立て直す隊長二名へ向け、マスキュリンは唐突にビシッと指を向けた。

 

「……何だ、筋肉マスクマン」

「君一人で僕等二人と戦うつもりかい?」

「二人? ノーノー。貴様ら悪党全員を、ワガハイが相手すると言っているのだ」

「あぁ!?」

 

 舐められていると認識した一角と弓親は、相手の態度に激しく反応する。

 それは確実に、的確に十三隊きっての戦闘部隊の癇に障った。

 

「上等じゃねぇか……っ!」

「そのクソダサいマスク引っ剥がして汚い面拝んでやるよ!」

「威勢のいい悪党のようだ! オゥケイ、ジェイムズ! ゴングを鳴らせ!」

「へぇ!」

 

 マスキュリンの合図に応えてジェイムズが小さなゴングを鳴らす。

 英雄による、悪党退治の始まりを一方的に告げる鐘が。

 

「隊長、あのマスク男は俺たちが何とかします。その間に鳳橋隊長と──っ!?」

 

 

「スターダブルラリア────ット!!」

 

 

「!?」

「お前ら!!」

 

 想定外の速度で一瞬の間に距離を詰められ、マスキュリンの攻撃を受けた一角、弓親、檜佐木の三人はそのまま遠くへと吹き飛ばされた。

 離れた位置から轟音と土煙。

 倒壊した建物が、スーパースターが繰り出した技の威力を物語る。

 

「クソっ、仕方ねぇ! ソイツ暫く任せるぞローズ!」

「オールライッ、そっちこそ油断禁物だよ!」

 

 三人とマスキュリン+いつの間にかいなくなったジェイムズを追い、六車はその場を離脱。

 その場に残された二人の死神と滅却師は、互いに得物を構えた状態で対峙する。

 長い金髪とフリル付きの死覇装が特徴の死神、ローズこと鳳橋は、戦闘に臨むとは思えないほど優雅に口を開いた。

 

「君を見ていると、何故だか不思議なメロディーが浮かんでくるよ」

「はぁ、メロディー、ですか……?」

「聴いたことのないメロディーだ。爽やかだけど、おどろおどろしくもある。ここにギターが無いことが悔やまれるよ」

 

 この人も癖強いなぁ、とベレニケは思いながらも油断はしない。

 目の前にいるのは紛れもなく敵の主戦力の一人。

 呼吸を整え、懐に忍ばせた円盤に少し意識を向ける。

 

「君が油断ならない相手なのは、重々承知しているよ。実際今も嫌な予感がする」

「それは過分な評価をどうも」

「だからこそ、最初から全力のアップテンポでいくよ」

 

 

卍解

 

 

 金沙羅舞踏団

 

 

 闘いの幕が上がる。

 現れるは死を奏でる舞踏団。

 全身が始解状態の金沙羅の鞭で構成され、頭部も鞭の先端である薔薇の花弁のようになっている踊る人形群。

 指揮者であるローズの意のままに踊り、音を生み出す。

 

「第一演目、海流(シードリフト)

 

 死の舞踏会、開演。

 タクトが振るわれる。

 一矢乱れぬ舞踊が、潮騒の調べが、海の激流を出現させた。

 

「第二演目、火山の使者(プロメテウス)

 

 続けて吹き出される焔。

 演目の名の通り、大地から湧き上がる高温の炎がベレニケの肌を焼いていく。

 

「水と炎……」

 

 斬魄刀の属性は基本一つのみ。

 まして水と炎という、対極にある力を一つの斬魄刀が有していることはない筈だ。

 しかし。

 

「あり得ないって顔をしてるね。そう、これは幻覚。まやかしさ。でも僕が奏でる音楽は、現実となって君を追い詰める」

 

 ローズが操るのは、「音」。

 聴覚から作用する幻に過ぎない。

 だがその幻の激流と大火が、現実のベレニケを襲う。

 聴く者の心を奪うまやかしの音色が、彼の命を絶とうと鳴り響く。

 

「そしてこれが最終演目……の、前に」

 

 ローズは指揮棒を持たない左手を、自らの顔に当て。

 

 

「護廷十三隊隊長としては、あまり使いたくなかったんだけどね────ダメ押しだ」

 

 

 頭部に顕れた、白い仮面。

 鳥類を模したような、或いはペストマスクに似たそれを被ったことにより、ローズの霊圧が急激に上昇。

 それに伴い、霊圧も通常より荒々しいものに変化する。

 

「さぁ、いこうか。君に送るに相応しい一曲」

 

 白面の指揮者の指が揺れる。

 変化した霊圧に呼応するように、少しずつ激しく。

 舞踏人形の群れも、その足取りを徐々に早める。

 

 彼等は踊る。

 まやかしに心奪われた者が、息絶えるその時まで。

 

 そして一つの生き物となった楽団が、三度蠢いた。

 

 

死と変容────!!」

 

 

 奏でられた、最後を飾る一曲。

 踊り狂う金色と死の舞踏団。

 命を奪う旋律が、今まさに若き滅却師のその生涯に幕を下ろそうと響き渡り──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卍解

 

 

 

 

残火の太刀

 

 

 

 

 蒼い爆炎に、焼き尽くされた。

 

 

 

 

 ★★★

 

 Daten

 

 残火の太刀

 見えざる帝国の皇帝、滅却師の王であるユーハバッハが死神の長である護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國から簒奪した卍解。

 第一次瀞霊廷侵攻において奪われた五つの卍解のうち、唯一元の所有者が死亡したため還ることのなくなった力である。

 また見えざる帝国による宣戦布告時に卍解を奪われ散った雀部長次郎と合わせると、一番隊の推定卍解所有者は全員が卍解を奪われた上で死亡していることになる。

 




 読んでいただきありがとうございます!
 ローズ登場させたけど、こんな感じで大丈夫でしたかね?
 卍解の最後の技については他の技も交響詩が元ネタっぽかったので、そちらから。
 あと原作では出なかった残火の太刀とローズの虚化、出すことにしました。出したかったんだもん・・・。
 今回で話のストック無くなったので、次は一週間後とかかも。乞うご期待。

 感想、高評価等いただけると嬉しいです。それでは。
 


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残火

 いつも読んでいただきありがとうございます!

 一週間後の予定でしたが、早く出来たので投稿しました。
 今回は少し短めです。


 

 その蒼い大焔の出現は、否が応でも死神達の度肝を抜いた。

 

「あれは……っ!」

「莫迦なっ!!」

 

 彼等が見間違える筈がない。

 その卍解は、先日まで彼等を率いていた偉大な先達のものであり、そして先の第一次瀞霊廷侵攻にて千年ぶりに発揮されたばかりであったのだから。

 

 尸魂界の水分がゆっくりと、ゆっくりと消えていく。

 乾いていく。

 渇いていく。

 そんなことを引き起こしているのは間違いなく────

 

 

「残火の太刀」

 

 

 銀の城に君臨する王は、その炎を目に写して静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 しかしその力を解放した本人は。

 

(重いっ……!!)

 

 荒れ狂う力を、完全には御しきれずにいた。

 

 無理もない話だ。

 滅却師の王をして自らしか扱えぬと言わしめる、巨大な力。

 その王から直々に授けられたとはいえ、簡単に扱いきれるような代物ではない。

 

「これで、出力40%か……っ!」

 

 銀の円盤から放たれる業火の力。

 メダリオンが持つ卍解を奪い、滅却師に扱えるようにする機能を用いて出力を制限させていると、王は語っていた。

 それがなければ扱えないと判断したのだろう。

 実際そうでなければ、ベレニケは今ごろ灰になっていたかもしれない。

 枷をかけられた業火の中心で、自らが火傷を負わないようにするだけで精一杯だ。

 

 力の制御に苦心する傍ら、脳裏に浮かぶのは「何故」という疑問と、ここに来る前の光景。

 

 騎士団最高位のハッシュヴァルトに連れられ、ベレニケは二度目となる皇帝への謁見を果たした。

 跪く若き配下に、皇帝は星の紋様が刻まれた銀の円盤を授けた。

 

 メダリオン。

 卍解を、即ち死神の力の真髄を奪うもの。

 ベレニケも持ってはいるそれとは違い、その円盤には力が封じられていた。

 それが残火の太刀。

 最も古く、強力な、かつて数多の滅却師と皇帝すら討ち滅ぼした忌むべき力。

 

 何故、陛下はこの卍解を自分などに下賜したのだろう。

 直々に仇敵から奪った絶大な力。

 若輩には過ぎた、手に余りある力。

 それを何故、自分のような未熟者に渡したのか。

 不甲斐ない部下を憐れんだのか。

 無力な配下に向けられた慈悲なのか。

 それとも。

 

 自分などには分かるはずもないと、一度考えを切り上げ意識を制御に戻す。

 

 

 力の解放により文字通り爆発的に拡がった蒼い炎が、徐々に刀身へと収束していく。

 周囲は焼け焦げ、所々に小さな火が燻っている。

 解放の際、勢いよく開けた蛇口から噴出する水のように炎は拡散していった。

 

 味方を巻き込んではいないだろうか。

 その心配を晴らすために確認へと行きたいところだが、その前にやらねばならないことがある。

 

 爆炎による煙が消えていく。

 熱せられた地に這いつくばっていたのは、一人の死神。

 先程まで死の音と人形群を操っていたその男の意識は、とうに途切れていた。

 被っていた虚の白い仮面も既に見当たらない。

 

 焼けた肉の臭いが鼻につく。

 近距離からあの爆炎を浴びたのだろう。

 酷い有様だ。

 死んではいないが全身に火傷を負い、とても戦える状態ではない。

 

 こうなればあとはもう作業だ。

 手早く片付けよう。

 そしてマスキュリンや、他の仲間の加勢に行かなくては。

 

 焼けた刀身を、死神の首に添える。

 果たしてその様子は、死神が生者の首に鎌をかける様によく似ていた。

 

 ゆるりと、鎌が首から離れる。

 そして振り上げられた刃が振り下ろされ────

 

 

「……なんで」

 

 

 ────る前に、強烈な違和感が彼を襲った。

 

 自分は今、何を……? 

 戦い、負けた相手を倒す。命を奪う。そこに疑念はない。覚悟していたことだ。

 戦場に立った以上、個人としての好き嫌いを優先するべきではないのだから。

 

 だが、そうではなく。

 

 何故自分は今、何の罪悪感も抱いていないのか。

 何故、こんなに冷静でいるのか。

 

(オレ)は……」

 

 汗が滲む。

 

 更木剣八に不自然な勝ちを納めた時に感じたそれを、今は何故か感じない。

 

 まるで、負けた者から奪うことが当たり前であるかのように。

 

「いや、違う」

 

 これでいい。

 自分は滅却師だ。死神の敵なのだ。

 敵を討つことに、間違いなどありはしない。

 この違和感は、敵が虚と違い人の形をしているからだ。

 

 ブレるな。

 

 奪え。

 敵から。

 命を。

 

 握る柄に力を込める。

 迷いは無い。

 ない、が。

 

「ごめん……っ」

 

 何に対する言葉かは、口にした本人にも解らなかった。

 命を奪うことに対してか。

 或いは他人の、それも倒れている彼にとって味方の形見といえる力で勝利したことに対してか。

 或いは別の何かか。

 

 いずれにせよ、変わらないのはただ一つ。

 命を終わらせることだけ。

 

 そして今度こそ刃を振り下ろし────

 

 

「────バンビちゃん……?」

 

 

 よく知る少女の霊圧が、消えていくことを識った。

 

 

 




 読んでいただきありがとうございます!
 次回はベレニケ君がなんで残火使えたのかとか、聖文字の能力とか、そういうのを明かしていければと思っています。

 感想、高評価等いただけると励みになります。それでは!


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