音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話 (鐘楼)
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1.Don't Look Back
「新たな生を送る貴方に、一つだけ祝福を差し上げましょう」
悔しくて、悔しくて悔しくて。それしかないまま死んだから、願うものは決まっていた。
才能を。夢を勝ち取る才能を。人気になれる才能を。誰より売れる才能を。
「“音楽”の才能を、ください……っ!」
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今生を始めて15年。前世とは性別が違うことなど気にも止めなかった私は、圧倒的を超えて冒涜的なまでの音楽の才能を持って生まれたのだから、当然前世での挫折を振り切るように音楽の道を進んできた。趣味としては金のかかる部類だ。バイトもできない歳から稼ぐ必要があった私は、ネットで名声を得ることを選んだ。真っ当にクラシック奏者の道を歩む時間も惜しかったからだ。当時の私は、一刻も早く機材を揃えてこの才能を振るおうと躍起になっていたのだ。
まず、無料で手に入るDAWソフトを用いた個人サイトでのBGM配布。私の才能は最低限の音源しかないソフトだろうと何度でも聞いてしまいそうな神曲を作り上げ、大バズりさせた。
そのお金でPC、本格的なDAWソフトと人工音声ソフトウェアを手に入れた私はボーカル入りの楽曲も制作できるようになり、そこでも百発百中のヒットを飛ばした。
この恐るべき才能は“音楽”が関わっていれば悉く発揮されるようで、作詞作曲においても、前世の人気曲を模倣するまでもなく、最初から自分でやった方が良いものができると確信できる程に圧倒的だった。
楽曲の動画収入、サイトの広告費、たまに受けるサウンドクリエイターとしての依頼料で、子供の身の丈に合わない収入を得た私は、それを全て楽器集めに使った。
当然、演奏においても私の才能は遺憾なく発揮され、小一時間で手元を見ることもなくなった。今更自分で演奏してみた動画を上げるのも効率が悪いと思い、作曲の音源としてクオリティアップに使うだけだったが、この頃までの私はかつて「私は嫌われているのではないか」と考えかけた楽器たちがみな私の思うままになっているという事実だけで楽しんでいれたのだ。この頃は。
そしていよいよ、別の場所にも挑戦しようということで、前世から気に入っていたバイオリンを手に取り、コンクールに挑戦し……私は、自分が踏み躙ってきたものをその目で見た。
当然、同年代など相手にすらならず最優秀賞を掻っ攫った私だったが、決して、他のみんなの演奏が悪いわけではなかった。みんな、自分の努力をぶつけにきていた。そんな彼らは、私の演奏を聴き、色んな表情を見せた。燃え上がる人も聴き惚れる人もいれば、見てわかるほどに“折れた”人もいた。
……直視することができなかった。知っているのだ。前世の話だが、努力と共に日々を歩む苦しみと充足も、身を焦がすほどの悔しさと全てを無味に貶める挫折も、私は知っているのだ。
その日以来、人前で演奏することはなくなった。だが、それがきっかけで私は楽曲制作にも疑問を覚えるようになってしまった。
多くのミュージシャンが直面する、売れる音楽と自分の音楽の折り合い、とかそういうことでない。今の私は売れる曲も好きな曲も完璧以上に作れるし、両方を好きなだけ作っても平気な体力と引き出しもあるし、そもそも趣味を押し出した曲だろうと聴かせるだろうなという自信のような確信もあった。
問題は……そう、今の私は、前世で私を折ってきた数々の天才と同じように、多くの人を折っているのだ。それを気にしだして私は……初めてこの貰い物の才能が恐ろしいものだと気がついたのだ。
そこで、音楽家としての池揉優菜は、齢15にして、一度死んだ。
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弾きはしないが、外出する時はいつも愛用していたエレキバイオリンを背負うようにしている。あの才能のせいか、楽器が近くにあると身体のスペックが上がっているような気がするのだ。
ともかく、この日、私は野暮用で楽器を背負って新宿に来ていた。その野暮用は終わったが、帰るには少し早い。
当てもなく歩いていると、一つの看板で目が留まった。───ライブハウス。
気づけば、誘われるようにその『新宿FOLT』という箱に入っていた。自分は嫌いになってしまったけど、やはり自分は音楽が好きなのだ。
当日券を購入し、ぼーっとしたままドリンクを買う。ちょうど、『SIDEROS』というガールズメタルバンドが演奏を始めるところだった。
──そこで、私は大切なものを思い出すことになる。
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『SIDEROS』の……いや、あのギターボーカルの奏でる音を聴いて、確かに伝わってきた。理想の丈を。熱さを。努力と才の両方と真摯に向き合っている者の、今世で忘れかけていた何かを。
ライブが終わっても、私はしばらく動けないでいた。確かに未熟。このレベルのアーティストは前世でも多く見てきた。でも……なぜだろうか。今世で熱のある生演奏を正面から観たのは初めてだからだろうか。……だとしたら、雛鳥のようだな、なんて。
そんなことを延々と考えていたのが悪かったのだろう。
「あ゛っ……やべ……もう、限界……オェ」
「ちょっ……!?廣井、バカっ!」
なんかめちゃくちゃ酒臭いお姉さんに、思いっきり吐きかけられていた。
「……ふぇ?」
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2.STAR
「ほんっとうにすみません……!服は絶対に廣井に弁償させますので……!」
「いやー……悪いね〜……ほんとごめん……えっと、君名前なんて言うの?……グビッ」
「廣井!一旦飲むの止めろ!」
ぼーっとしてたらゲロをぶっかけられ、着替えを貸してもらった私、池揉優菜。
「本当にごめんね〜……廣井はどうせお金ないだろうし、ここはアタシが肩代わりするから……」
「あぁ……店長さん、それより」
私に思いっきりゲロをかけた泥酔しているお姉さんは、廣井きくり。一部に人気のあるバンド『SICK HACK』のリーダーらしい。四六時中酔っ払っており、今回は飲み過ぎて前後不覚になったところに運悪く私が。というあってないような経緯だそうだ。
廣井さんの横で必死に頭を下げるのはドラムの志麻さん。年下の私にも礼儀正しいのに廣井さんへの当たりが強いあたり、日頃の苦労が伺える。
新宿FOLTの店長である銀次郎さん。初見では取っ付きにくそうに思えたが口を開けば気さくで乙女を感じる良い人だ。肌綺麗だし。
けれど、今の私はそんなロックな人達の個性よりも、ずっと気になることがあった。
「あの……SIDEROSって……いつもここでライブしてるんですか?」
「えぇ……そうよ。SIDEROSの……というか、リーダーの大槻ちゃんの拠点はここね」
「大槻……」
「お〜?なになに?大槻ちゃんに一目惚れしちゃった?君、見る目あるね〜」
「廣井!少しは申し訳なさを……!……はぁ……あー、でも、今のSIDEROSは……」
ガチャン、と大きな音。志麻さんの言葉を遮るように、控え室からSIDEROSでベースを弾いてた子が出てきた。……表情を歪ませて。
「もう我慢できない……!何が反省会だ……毎回毎回偉そうに……っ!」
「あ……そ、そんなつもりじゃ……待って……」
「あー……私も、もうついていけません……ごめんなさい……」
「私も……」
続々と、箱を出て行くSIDEROSのメンバー。あれよあれよと、残ったのはリーダー……大槻ヨヨコただ一人になってしまった。
え……解散?それは……少し……いや、大分嫌だ。私は彼女を見つけたばかりなのに。
「あちゃ〜……またダメだったかぁ……」
「また、ですか?」
「大槻ちゃん、人間関係が下手でね〜……これまでも何度かメンバーが欠けたりしてたのよ〜 ……一気に全滅は初めてだけど」
「なるほど……」
なら、これからまたメンバーを集めて再出発するのだろうか。それは……とても強いことだ。仲間を失ってもまた歩きなおせるのは、きっと凄いことだ。ライブで感じたあの感覚は、間違いではなかった。
「ほらほら、落ち込んでないでよ大槻ちゃん」
「廣井姐さん……」
「ほら、この子大槻ちゃんのファンなんだって〜」
「えっ!?……そ、そうなの?」
急にこっちに話を振る廣井さん。びっくりしたが、私の言葉でこの子が元気になる可能性があるならと、大槻さんに向き直る。
「……うん。さっきのライブ、すごかった。特に……」
そのまま、思いつくままに良かったところを、直感的なところから見てわかった程度の専門的なところまで羅列する。次第に、大槻さんの顔が赤くなっていた気がする。
「ふ、ふーん……へ、へぇ……ま、まぁ?私はいずれ一番になるし……分かる人には分かるのよね……ふふ……」
「へぇー……君、結構詳しいんだね。今更だけど、楽器背負ってるし」
「う」
横で、大槻さんからパァァ、と音が鳴ったような気がする。
「ね、ねぇ?い、一応聞くけど……貴方、メタルロックの頂点に興味があったりしない……?
「ええっと……これバイオリンだから……メタルロックにはちょっと……」
本当はギターもベースもドラムも、プロ以上にできるけども。
……だけど。この子と、今以上に深く関われるタイミングは、もう来ないんじゃないか。そう考えると、口が勝手に開いていた。
「で、でも……ベースとかにも興味あったから……ロックも良いかなって」
「本当!?じゃ、じゃあ今度テストするから!貴方、名前は?」
「……池揉優菜、よろしく」
「大槻ちゃーん、その子はまだロックに興味があるとしか言ってないぞー」
なし崩し的に、私がSIDEROSのテストを受けることが決まってしまった。
……でも。心苦しいけど、私は大槻さんの前で……いや、もう人の前で本気で演奏したりはしないだろう。
もし……もしも、私のせいでこの子が折れたらと考えると、テストに本気で臨むなんてことは、私の選択肢にないのだった。
キャラエミュ大丈夫か……?
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3.雨上がりに咲く花
……この子、めちゃくちゃかわいいな。 なんて、はしゃいでる彼女を見ながら、私はぼんやりそんなことを考えていた。
「……ま、まぁ?こんなものかしら」
「凄い。ただ点数が高いだけじゃなくて、聴いてる人にメッセージを強く伝える力がある歌だった。声も芯から出てるし、普段からライブでバンドを引っ張ることを意識してるのが分かるよ」
「そ、そう?……ふーん、よく分かってるじゃない……」
今日、私は友達として大槻さんとカラオケに来ていた。よく一人で来ているようだが、それだけに内心浮かれているのがよく伝わってくる。
この前に連絡先を手に入れていたおかげで、この機会にありつけた。テストについての相談という目的で彼女を誘ったのだが、好意的に……というか食い気味で誘いに乗ってくれたのだ。
……やはり、私は彼女のバンドには入れない。今日は、それを伝える為の場所だ。
「ね、ねぇ?貴方も……ゆ、優菜も何か入れていいのよ?」
「……あー、私は良いかな。それより、もっと大槻さんのかっこいいところが見たいよ」
「そ、そう……?なら仕方ないわね……ふふ」
……当然、忌々しい私の才能は、歌唱もカバーしている。今世では自分の声を売り出した活動はしていないが、それは前世では歌とあまり縁がなかった名残だ。その気になれば、歌でも頂点を取れる。……だからこそ、彼女の前で歌いたくはない。
そのまま、大槻さんが歌い、私がただ褒めるという時間が続いた。なかなか素直に喜んではくれないが、嬉しいのが表情によく出てくるので、褒めがいがあって楽しい人だなと思う。今世で友達は作ってこなかったので、新鮮さも効いているのだろうか。……前世でも友人は少なかったし、その説はありうる。
「た、たまにはヒトカラじゃないのも良いものね……」
「他に一緒に来る人いないの?」
ピシリ、と大槻さんの表情が強張る。あんまり触れられたくないところだっただろうか。
「……うん。前のバンドメンバーも、なぜか私を誘ってくれないし……」
自分で誘ってたわけじゃないんだ……。
「仲良くしてくれるのは、廣井姐さんだけで……」
「廣井さんと仲良いんだ?」
「そ、そうなの!シャワーも貸してあげてるし!金欠で食べれない時はいつも私を頼ってくれるんだから……!」
「……え、えぇ……?それは仲が良いっていうか……その……」
「?」
……ダメだ。本気であの泥酔ベーシストのことを慕っているのだと、大槻さんの目が語っている。それにケチをつけることは、私にはできなかった。
「でも!これからは優菜がいるし……貴方がバンドに入ってくれれば……」
「……あー、その」
今だ。今、言わなければならない。
「……ごめんなさい。やっぱり私、大槻さんのバンドには入れないよ」
「…………そう……ま、まぁ……無理強いはできないしね……」
明らかに、気落ちした表情を見せる大槻さん。慌てて口を開く。
「で、でもね!私、前のSIDEROSのライブで、本当に感動したんだ。……だから、ずっと応援してる。大槻さんが一番になるまで、ずっと!」
「ほ、ほんと……?」
「そ、それに……大槻さんってオリジナル曲も作ってるんでしょ?実は私、そっちの方が専門だったりするから……いつでも相談に乗るよ」
……今更、ただのファンとバンドマンには戻りたくなかった。だから、作曲の相談をする相手としてのポジションを望む。……それくらいなら、良いだろう。
「そうなの……?じゃ、じゃあ……たまに頼らせて貰うわね……たまに……」
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それから、数ヶ月間、新たなバンドメンバーが見つかるまでの間、全くたまにではない頻度で私と大槻さんは会うようになった。
曲のアドバイスも、私が的確に、彼女の個性を尊重する助言をするものだから、彼女も私を有用だと思ってくれた……こともあるだろうが、きっと根本的に寂しがり屋なんだと思う。
「……ねぇ、貴方、本当に作曲は趣味止まりなの?それにしてはあまりにも……」
「い、いやその……まぐれだよ……」
『U7』。名前をもじっただけの活動名だが、動画サイトのチャンネル登録者数は500万ほどの、私の作曲家としての一面。もう更新しなくなってしまったが……当然、これも彼女には知られたくない。だって、大槻さんは何故だか数字へのこだわりが強く、前もトゥイッターのフォロワーとやらが五千の大台を超えたと自慢げに見せてきたのだ。
もちろん私の技量が露見してしまうというのもあるが……彼女が私の500万という数字を見たらと思うと、見せる気もなくなるというものだ。
そんなこんなで、私は新たなSIDEROSバンドメンバーが集まるまで、彼女を支え続けた。そして、今。
新生SIDEROS初ライブが始まろうとしていた。
当然私は最前列。何故か隣に陣取っている廣井さんも気にならず、前世含めても今までないくらいにワクワクしていた。
的確に、完璧に音を叩き、それでいて強烈に響くドラムは、長谷川あくびちゃん。大槻さんに付き合うよりも一人でゲームをしたいらしく、よく私に大槻さんを押しつけてくる困った子だ。私は全然構わないんだけど。
大槻さんにも負けない熱を持ったギター、本城楓子ちゃん。ふわふわした子で、私とも仲良くしてくれる良い子だ。
バンドの全てをまとめ、全体をまとめる技量を持つベース、内田幽々ちゃん。オカルティックなものが好きな不思議な子だけど、そもそもオカルトな方法で才能を手に入れた私はすんなりと受け入れられたから、よく話を聞いてあげたんだけど……多分、ちょっとは仲良くなれたと思う。
ともかく、その夢のようなライブはあっという間にすぎて……
全てのセットリストが終わって……あの日と同じように、私はしばらく動けなかった。でも、前とは違って……この日私は確かに、伝説が始まる音を聞いた。
ちなみにストックは常にありません
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Sd.長谷川あくび
自分、長谷川あくびには、変な先輩が二人いる。一人は、自分たちのバンド・SIDEROSのリーダー、大槻ヨヨコ先輩。もう一人は……自分がバンドに入った時には既に、SIDEROSのマネージャーのような働きをしていた不思議な先輩、池揉優菜先輩。
「優菜先輩……それ、自分らの新曲っすか?」
「あくびちゃん……うん、大槻さんにチェック頼まれて……」
「普通、そういうのバンドメンバーに相談するんじゃないんすかね……」
「ふふっ、大槻さん、みんなにはできるだけ良いところを見せたいみたいだから。それに、人に見せるなら可能な限りクオリティアップを、っていうのは作曲者ならみんなそうだと思うな」
「そういうもんっすか」
こうして話してみると、まるで物腰柔らかで優しい良い先輩みたいだ。彼女と一週間も付き合えば、そんなメッキもすぐに剥がれていくんですけど。
「あ、そうだ。優菜先輩、前に貸したゲームプレイしてくれましたか?」
「あ、凄い良かったよ……あのゲームのBGM」
「……あー、いや……確かに重要な要素ではあるんすけど……」
……これだ。この人は自分の興味のないことに無頓着なのか、それとも根からの天然なのか、ともかくかなりズレている人だ。初めて会った時、あの赤い配管工すら知らないというのだから驚いたものだ。
……それだけの世間知らずが、変な先輩一号ことヨヨコ先輩とニコイチなのだから困ったものだ。とにかく危なっかしいというか……心配だ。突拍子もなくズレたことをすることがあるヨヨコ先輩に、常識知らずで全肯定な優菜先輩。何をしでかすか分からない。
「そうじゃなくて、ちゃんとゲームを遊んだんすか?」
「えっと……ごめん、よくわかんなくて……」
……この人、本当にこれで大丈夫なのだろうか。何か、音楽以外の趣味を持った方が健全なのでは…‥そう考えて。
「優菜先輩、今度うちでゲームしましょう」
「え、でも……私とやっても……」
「だから、ちゃんと楽しみ方を教えてあげますって」
そんな約束をした。
……優菜先輩の変なところは、他にもある。音楽の話題で、彼女が詰まったところを見たことがない。自分の答えを期待していないぼやきのような問いにも、完璧に答えてくれたことだってある。……その割に、演奏するところを見せてくれなかったり。少なくともヨヨコ先輩と話ができる程度には作曲に精通しているはずなのに、経歴を聞くといつもはぐらかされたり。
……でもまぁ、それに関しては何か事情があるんだなと納得している。
……後日。
「ちょ、ちょっと……なんで私を誘ってくれないのよ……」
「うわ……」
自分と優菜先輩が遊ぶということが、めんどくさい方の先輩ことヨヨコ先輩にバレ、それはもう面倒な事態に陥っていた。
ヨヨコ先輩はプライベートでも次のライブに向けての練習の話だとか、そんな説教じみた話をするので、できれば休みの日に会いたくない人なのだ。……でも。
「大槻さん……!」
パァァと輝く優菜先輩の顔を見て、まぁ今日くらいはと、そんな気分になるのであった。
さよなら平均文字数
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Sd.本城楓子&内田幽々
「優菜先輩、買い出し付き合ってくれてありがとね〜」
「全然いいよ、これくらい……これ、お菓子の材料だよね?」
「ケーキを作るんだ〜、あ!優菜先輩も一緒にやりませんか?」
私、本城楓子は一つ上の先輩である池揉優菜先輩と、趣味のお菓子の材料を買いに来ていた。
ダメもとで誘ってみたけど、先輩は案外あっさりと快諾してくれた。なぜ先輩を誘ったのかと言えば、彼女に興味があったから。
優しくて、でも抜けていて。音楽に限ってだけど、物知りで……どこか影があって。その美貌も合わさってまるで少女漫画から出てきた人みたいなのだ。本人にそんな自覚が全くなさそうなのも、その神秘性に拍車をかける。
「私で良いの?あくびちゃんとか……」
「はーちゃんはねー……食べる方なら付き合ってくれるんだけどね〜」
そんなこんなで、家に先輩を招き、早速ケーキ作りを始める。薄力粉に、卵に、砂糖に……と調理を始めたのだが。
「えっと……えと……」
「あー!違いますよ先輩!」
優菜先輩は、かなりのポンコツだったのだ。最初はそれで苦労したが、気質は真面目なようでだんだんとレシピ通りにはできるようになり……やがて、まさに自家製!といった感じのケーキが完成した。
「ふふ、優菜先輩って〜、苦手なことあるんですね〜」
「その……ごめん、上手くできなくて……」
しゅん、と申し訳なさそうに俯く優菜先輩。確かに一人で作るよりもケーキの出来は落ちてしまったかもしれないけど、先輩の一面が見れて私は満足していた。
「ねぇ先輩〜、先輩のこと、ゆーちゃん先輩って呼んでもいいですか〜?」
「え……私のことはなんて呼んでくれてもいいけど……」
「じゃあ、私のこともふーちゃん、って呼んでください!」
「!……」
親しみを込めて呼んでほしい、と私のそんなお願いに、顔をほんのり赤く染める先輩。
「……ふ、ふーちゃん……どう、かな?」
「♪……ゆーちゃんせんぱーい!」
それから、先輩と二人で食べたケーキの味は、私の大切な思い出になった。
────────────────────────
「せんぱぁ〜い、お一人ですかぁ?」
「あ、うん。おつかれ、幽々ちゃん」
「も〜、幽々でいいですってぇ」
池揉優菜先輩。幽々にもよくしてくれる貴重な人で……とんでもないのが憑いた不思議な人。
「じゃ、じゃあ幽々。これ差し入れ、貧血なんでしょ?」
そう言って、先輩が差し出したのは、処女の生き血こと……幽々お気に入りの鉄分サプリ。いつもなら常備しているが、ちょうど切らしていたものだった。
「お〜、気が利きますねぇ……」
ちらり、と優菜先輩のことを見る。ふと、湧いた疑問が口をついた。
「優菜先輩ってぇ〜、幽々のこと不気味に思ったりしないんですかぁ〜?」
「え?……個人的にね、幽々の魔力っていうの……信じてもいいかなっていう体験があって……もっと知ってみたいっていうか」
「あ〜」
ちらり、と今度は優菜先輩に憑いたソレのことを見る。見たところこれは善いものなので幽々の趣味じゃないが、これだけ強ければ何か体験していてもおかしくない。
「それに……その、サタン様?もそうだけど、幽々のこともっと知りたいし、気味悪がってる場合じゃないからさ」
「っ……」
そう、なんの他意もなく言ってのける優菜先輩。
「……良いんですか〜?先輩みたいな人がサタン様に近づくと痛い目に遭うかもしれませんよぉ〜?それに、先輩にはもう……」
「……え?やっぱり、私何か憑いてるのかな?」
「……無自覚に変なことを言う悪い先輩には教えてあげませ〜ん」
そんな捨て台詞を吐きながら、幽々は……頬の朱色を見せないように、そのまま席を立った。
まぁぼざろで一番“ある”のはあくび×楓子だからな……
それとざっと読み返すと幽々が「ヨヨコ先輩」と呼んでいるシーンを見つけられなかったので年齢がわかりませんがここでは後輩ということで
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Sd.吉田銀次郎
アタシ、吉田銀次郎が経営するライブハウス、『新宿FOLT』で例のバイトを雇ったのも、少し前の話になる。
件のバイトの名は池揉優菜。彼女がSIDEROSのリーダー……大槻ヨヨコ目当てに応募してきたのは明らかで、本当はそういう人間は避けるべきなのだが……直感が、この子を引き止めるべきだと囁き、採用することに決めた。
彼女は少し抜けていて、ヒヤヒヤさせられることもあったが、慣れていくにつれそういったことも減っていった。彼女は勤務態度も良好で……SIDEROSメンバーとの距離の近さに目を瞑れば、並以上の働き手だった。だが、それ以上でもなかった……その日までは。
新生SIDEROS2回目のライブが終わった後、彼女の様子がおかしかった。何か熱に浮かされるような……普段よりも、瞳が輝いていたように見えた。
とはいえ、普段通りに仕事をこなしてくれていたので、その時は気にすることはなかった。
セトリも終わり、SIDEROS含めたバンドマン達が去っていき、バイトの仕事も終わった頃。ふと彼女の姿が見えないと思い、帰ってしまったのかと探そうとして……強烈にして鮮烈な“音”が響いた。
脳髄に染みてくるような、熱のこもったギターの音色。楽曲は、聴きなれたSIDEROSのものだ。そのはずなのに、ギターソロだというのに、まるで全く別のものに昇華しているかのように感じられる、劇的な演奏だった。
演奏を終え、アタシと同じく夢中になっていたのだろう、彼女は、池揉ちゃんはアタシを見て、顔を強張らせた。
「……素晴らしい演奏だったわ。ギターが本職だったの?」
「そういうわけではないんですが……いえ、勝手に機材を使ってすみません……それで、その……この事は……」
暗い表情で、怯えたようにアタシを見る池揉ちゃん。何か理由があって、人前で演奏することを忌避する子は少なくない。詳しい事情までは察せないが、彼女もその類なのだろう。
「大丈夫よ。誰にも他言しないわ。……アナタが望まない限りね……さ、もう帰りなさい!それと、今度からは許可を取るように!」
「っ!……はい!」
そうして、立ち去る池揉ちゃんの背を見ながら、考える。
ああは言ったけど、あの才能を埋もれたままにするのは間違いだと、そう叫ぶ自分も確かにいる。だが、やはり無理矢理ではダメなのだ。その未来を見るには、彼女自身がその道を選ばなければならない。
「なら、それができるのは……」
大槻ちゃん、なのだろう。
銀ちゃんのキャラ、合ってるよな……?
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4.スクランブル
SIDEROSの初ライブから、それなりの月日が流れた。新宿FOLTでバイトするようになり、SIDEROSのみんなとも仲良くなって……それから、私自身も少しだけ変わったと思う。
こうしてたまに……本当にたまにだけど、閉店後の新宿FOLTの他に誰もいないステージで、思いっきり演奏するようになった。
思うまま、愛用のエレキヴァイオリンで、思いの丈を好きなだけ奏でる。観客は店長さん一人だけだけれど、たくさんの観客を、私の音に酔いしれる人々を夢想しながら、揺るぎない自信を持って演奏をするのだ。……ステージの上の、最高にカッコいい大槻さんのように。
こんな私の我儘を聞いてくれる店長さんも、私の演奏をいつも楽しんでくれている。それでいて、私に何かを強制したりしないので、本当に助かる。こんなに良くしてもらって、感謝しかない。
……でも、楽しんでくれている私の演奏が、ズルして手に入れたものだって知ったら、やっぱり失望されてしまうのだろうか。
やっぱり、ダメだ。私に、ステージに立つ資格はない。
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「次のライブ、楽しみですね!」
「うん、みんな今回もすごい気合い入ってたから、期待して待ってて」
そんな風な話を、SIDEROSファンだという子と話す。
「店員さんは、作曲のお手伝いをしてるんですよね?」
「……うん。けど、私の助力なんて微々たるものだよ」
彼女とは、SIDEROSの物販がきっかけで話すようになったのだが、同好の士とは会話が弾んで楽しいもので、彼女は貴重な相手だ。……そんな彼女に、ズルして大槻さんに近づいている自分を申し訳なく思う気持ちもある。
彼女が楽しみにしている次のライブは、ほんのもうすぐに開催される。
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「ふふ……」
「あれ〜?嬉しそうだね池揉ちゃん!どしたの?」
いつも通り、清掃作業をしていると、ふいに何故か職場に居座っている酔っ払いに声をかけられた。
「……廣井さん……実は、SIDEROSのファンだって子達と話ができて……それが、楽しかったので……」
「へぇ〜!かわいいとこあるねぇ。私にもそんな時期があったんだっけかな……あ、飲も飲も」
グビグビと、私が働いている前で安酒を飲み始める廣井さん。正直迷惑だ。店長さんの優しさはこういう時に不都合だ。今日は志麻さんも引き取りにきてくれないし、私が追い出さないといけない。
「……廣井さん、もう閉めるので……あ」
「ん?なに?」
そういえば。今度廣井さんに会ったら、問い詰めないといけないことがあるんだった。廣井さんを見据えると、スゥー、と自分の目が険しくなるのがわかる。
「また大槻さんに奢らせたって、本当ですか?」
「……ひぇ」
だらだらと、廣井さんが冷や汗を流す様を、能面のような表情で見やる。
「私。前もちゃんと言ったと思うんですけど」
「あ〜!うん!覚えてる、覚えてるよ?でもさぁ、あの時は本当にお金がなくて……大槻ちゃんも出してくれるって言ってくれたし……」
「お金がない人は飲み会に行ってはいけないんですよ?」
「うぅ!じゃ、じゃあ、今日はもう出てくから!じゃーね!」
「あ……」
そう言って、慌てて出て行く廣井さん。……まぁ、面倒な酔っ払いを追い払えたので、良しとしよ……あ。
「ベース……」
前言撤回。廣井さんは『スーパーウルトラ酒呑童子EX』こと愛用のベースを忘れていった。多分また戻ってくるだろう。……いや、明日まで気づかないかもしれない。
ちなみに常習犯である。
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「ゆーちゃんせんぱーい!聞いてください!」
「ふーちゃん。どうしたの?」
嬉しいことがあったのだろう、三割増しの笑顔で、SIDEROSのギター、本城楓子が駆け寄ってきた。
「実は今度のライブ、お父さんとお母さんが来てくれることになったんだぁ〜!」
「そうなんだ……よかったね」
「はい!ゆーちゃん先輩も、楽しみにしててください!」
「もちろん。みんなのカッコいいところ、たくさん見せてもらうね」
「〜っ!はい!」
そうして笑うふーちゃんの顔は、私には今までのどれよりも輝いて見えて……鮮烈に、記憶に残ったのだった。
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「……いけるわよ!これくらい……っ!」
「ヨヨコ先輩!喋んないでください!悪化したらどうするんすか!」
そのライブ当日、SIDEROSに、最悪のアクシデントが降り掛かっていた。
誤字報告たすかる
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5.ファイアスターター
SIDEROSリーダー、ギターボーカル・大槻ヨヨコの喉の腫れ。ライブの当日にして、致命的なトラブル。
「でも、これくらい……!」
「ダメよ。今の大槻ちゃんをライブに出すわけにはいかないわ」
「……っ!だって、今日は……」
悔しさがありありと伝わってくる目で、大槻さんが視線を向けた先は、ギター・本城楓子。今日のライブには、彼女の両親が来る。当然、大槻さんもそれを知っていて、だからこそ意地を張っているのだ。
「ヨヨコ先輩……私のことは……」
口ではそう言うふーちゃんだが、気丈に振る舞おうとしているだけなのが見てとれた。
「あ……」
不意に、焼きついた彼女の笑顔がフラッシュバックする。それがきっかけで、楽しみだと言っていたファンの子やSIDEROS目当てにチケットを買ってくれた人たちの顔が出てきては消えていく。
「……どうします?今から代役探すのはさすがに無理ですし、キャンセルっすかね……自分らのせいで進行に穴あけちゃいますけど……」
「……わ、私!」
私の震えた声に、みんなが私に注目する。たかだかライブの一回、ではないと私は思う。その一回のライブにも、SIDEROSの為にチケットを買ってくれたお客さん達がいる。SIDEROSが出演することで出れなかったバンドの人達がいるかもしれない。何より、ライブに空白の時間を作ってしまっては店長に迷惑がかかる。SIDEROSの歩みを、そこで遅らせたくはない。
「……私が、大槻さんの代役をするよ」
私の言葉に、みんなが固まる。きっと、私が何を言っているか、すぐに理解することができなかったのだろう。
「……な、何言ってるんすか?できるわけないっす……!……そもそも」
「今日やる曲なら、全パート頭に入ってる」
「そ、そうかもしれないけど……優菜、貴方ギターは……」
「……やれるわ。池揉ちゃんなら」
確信したかのような店長の言葉にみんなが言葉を失う。その間に、私はギターを手に取り……口を開いた。
「時間がないから、今から合わせの練習しよう。できるかできないかは、それで判断してほしいな」
「……」
楽器を持ち、雰囲気が明らかに変わったと分かるだろう私に、みんなは顔を見合わせる。
「……そこまで言うなら、やってみましょう」
「──でも」
立ち止まり、大槻さんを見据え、譲れない一線を告げる。……それが、ただの先延ばしにしかならないことも分かっている。
「大槻さんは、外で待っててほしい」
「なっ、なんで──」
「お願い!」
それでも、まだ覚悟ができなかった。この手で、大槻さんを折ってしまいかねないことをやろうとする覚悟が、まだできていない。
「……ヨヨコ先輩。ここは自分らに任せてください」
「でも、やるからにはSIDEROSに相応しいライブをしなきゃ……」
「ヨヨコ先輩、大丈夫です。ゆーちゃん先輩だからって、私達は甘い評価なんてしませんよ!」
「幽々わぁ〜、どっちでもいいですけどぉ〜……優菜先輩のこと、ちゃんと見させてもらいますよぉ〜」
SIDEROSの面々が、それぞれの言葉で大槻さんに私の条件を呑むよう促す。
「わ、分かったわよ……」
そうして、私達は部屋に入り、音出しを始める。
ギターを構えれば、自然に感覚が、聴覚が極まっていく。軽く、声出しをして、喉の具合を確かめる。本気で歌うなんて何年かぶりかもしれないのに、まるでプロのような、全体を引っ張れる力強い美声が響く。
曲を、歌詞を、セットリストの全てを立体的に頭脳で浮かべる。今日の曲の半分以上は私も製作に関わったものだ。完璧に、頭に入っている。
極まった聴覚から、みんなの音を拾い集める。ギター、ベース、ドラム……果ては鼓動。セッションなど前世以来であるはずなのに、やれない気がしない。
そうして、ドラムのカウントで演奏を始め──
--------------------------
「……………………すごいっす……」
一通りの演奏が終わり、しばらくの間、部屋には静寂が訪れていた。それも、あくびちゃんの心からの呟きで、みんなの意識が戻ってくる。
「……せんぱぁ〜い、どうしてそんな実力を隠してたんですかぁ〜?」
「ゆーちゃん先輩、すごい!もしかしたら、ヨヨコ先輩よりも……あ」
「──っ!」
何気ない、だからこそ、本心から出た言葉なのだろうふーちゃんのその言葉に、思わず私は部屋を飛び出してしまう。
そんなことはない。大槻ヨヨコは、誰にだろうと負けない色を持っている……私は……そう思っていても……他の人は……。
--------------------------
『代役のお知らせです』
すぐに、本番の時間はやってきた。いつも通り、客は人気バンドに恥じない人数が入っていて……そこで、大槻ヨヨコの体調不良と代役である私の紹介が行われた。
「池揉ちゃんが……?」
……廣井さん。
「店員さん!?」
ファンの子も。
「……」
そして、心配そうに、私を、SIDEROSを見る大槻さん。……怖い。もし私が彼女を……と思うと、足がすくむ。
だけど、今だけは、忘れなければならない。私は今、責任を持って、最高にカッコいい大槻ヨヨコの代わりを務めなければならないのだから。
いざ、演奏を──
--------------------------
圧巻。静寂。大喝采。SIDEROSのセットリストが全て終わった時、新宿FOLTはかつてない熱狂に包まれた。
だけど、それに反するように、私の心は暗かった。演奏でのトランス状態が終わり、封じ込めた恐怖が、私を押しつぶすようにまとわりつく。
見れない。大槻さんを。ステージを去るまで、私は大槻さんの顔を見ないように、ずっと、俯いていた。
「……あっ!優菜先輩!」
あくびちゃんの呼ぶ声にも応えず、私はステージ袖から逃げ出した。
シリアスは一話だけと言ったな……
でも予定はライブ感に勝てないから(プロットを作っていない)
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Sd.大槻ヨヨコ
池揉優菜という少女に、私はどれだけ支えられてきただろう。
これまで何度も、何度もバンドメンバーを失ってきた。その度に、私は立ち上がってきた。夢があるから。何があっても一番になると決めているから。……けど、なんとも思わなかったわけがない。
少し厳しく言い過ぎてしまったり、タイミングが悪くてしようと思っていたフォローができなかったり。言うべきことを言っただけだから、今でも間違えたとは思っていない。だけど、彼女達が去っていったのは、私のせいだ。
『あぁ、またやってしまった』と、何度目かの失敗に折れそうになっていた時に、彼女は現れた。
バイオリンケースを背負い、白を思わせる風貌に、どこか影のある雰囲気を感じさせる少女。少し……本当に少しへこんでいた私に、彼女は「ファンになった」と勇気が湧くような言葉をくれ、私がギターボーカルとしてこだわっていたこと、努めて積み上げてきたもの、その全てに賞賛をくれた。
その時口には出せなかったけど、ただただ嬉しかった。
それから、彼女の存在は加速度的に大きなものへと変わっていった。バンドを始める前からコミュニケーションが苦手で、友達もいない私にとって、彼女との日々はあまりに甘美だった。
どうしても素直に人を誘えない私を誘ってくれて、普段一人で行くような機材選びや、カラオケなんかも二人で行くことが普通になった。彼女との時間は楽しくて……その、たくさん褒めてくれるから、好きだ。
やがて、新生SIDEROSが始動してからも、彼女との交流は続いた。
彼女には、マネージャーの真似事どころか、作曲の相談までしてもらった。彼女の助言は驚くほど有用で、私に気がつかなかった新たな視点を与え、確実に楽曲のステージを一つ上げてくれたと思う。
そんな人が、作曲したことがないなんてことはあり得ないはずなのに、私は彼女の曲を聴いたことがない。いや、聴かせてくれたことがない。
演奏も。いつも楽器を背負っているくせに、私はその音色を聴いたことがない。下手だから聴かせたくはない、といった風では無かった。そうであったなら、すぐにでも「下手でもなんでもいいから聴かせなさい」と言っていたけれど、あれは、なにかもっと深刻な理由な気がして……気軽には踏み込めなかった。
友達になって、たくさん私を知ってもらえた。『好きなことで人を見返したい』というのが原動力である私にとって、それは嬉しいことだったけど。
いつしか、私の方は彼女のことをほとんど知らないということに気づいた。
それが、とても寂しかった。
--------------------------
恐れていた事態だった。ライブの前の数日間はいつも緊張して眠れないのだが……それがいけなかった。
喉をやってしまった。ボーカルとして、あるまじき失敗だ。
……大切じゃないライブなんかない。楓子の両親とか関係……なくはないけれど、どのライブも私のミスでダメにしていいはずがない。
だから、無理にでも出ようとして──
「……私が、大槻さんの代役をやるよ」
その言葉の意味を、私はすぐに噛み砕くことができなかった。
「……な、何言ってるんすか?できるわけないっす……!……そもそも」
「今日やる曲なら、全パート頭に入ってる」
「そ、そうかもしれないけど……優菜、貴方ギターは……」
弾けないはずじゃないのか、そう口に出そうとした言葉を、店長が遮った。
「……やれるわ。池揉ちゃんなら」
確信を持った声音で、そう断言する店長。
「時間がないから、今から合わせの練習しよう。できるかできないかは、それで判断してほしいな」
「……」
ギターを手に取り、そう言い放った優菜は、とても様になっていて……演奏を聴いてみよう、とそう思わせる気迫があった。だけど。
「……そこまで言うなら、やってみましょう」
「──でも……大槻さんは、外で待っててほしい」
縋るような、痛ましいほどに心細さを感じる瞳で、正面から私を見つめる優菜の口から出た言葉は、拒絶だった。
「なっ、なんで──」
「お願い!」
これだけは譲れない、という意志を伴った叫びだ。
「……ヨヨコ先輩。ここは自分らに任せてください」
「でも、やるからにはSIDEROSに相応しいライブをしなきゃ……」
見かねたあくびが、私にそう提案するが……やるからには、SIDEROSの名前に恥じないライブをしなければならない。
「ヨヨコ先輩、大丈夫です。ゆーちゃん先輩だからって、私達は甘い評価なんてしませんよ!」
「幽々わぁ〜、どっちでもいいですけどぉ〜……優菜先輩のこと、ちゃんと見させてもらいますよぉ〜」
そう、私を説得する楓子と幽々。……みんなは、私の夢を共有する仲間は、優菜であろうと贔屓はしないと、そんなことは分かっている。
「わ、分かったわよ……」
引き下がるしかなかったが……私も、彼女の音を聴きたかった。
--------------------------
数分後、真っ先に出てきた優菜は、私と目を合わせずにどこかへ行ってしまった。
「……ダメ、だったの?」
「……いえ、それどころか……」
圧巻の、文句のつけようのない演奏と歌唱だったと、あくびは語った。
「だったら──」
何故、そんな顔をするの、優菜。
そんな問いを胸に、ライブの時間が訪れた。
言葉がなかった。圧巻。静寂。大喝采。今まで、SIDEROSのライブでこれほどの熱狂があっただろうか。
……悔しい。悔しい悔しい悔しい……!
ただその感情だけが溢れてくる。それが、彼女との技量の差なのか、何故その実力を私に秘密にしていたんだというものなのか、分からない。
ともかく、早く彼女と話したい。
「あ、ヨヨコ先輩……」
「みんな。優菜は?」
「向こうです。ゆーちゃん先輩、終わったらすぐ行っちゃって……」
「……ねぇ、私一人に行かせてくれない……?」
「……正直、自分はよく分かってないんすけど……ヨヨコ先輩がそう言うなら……」
そうして、優菜がいる部屋へ入る。真っ先に聴こえてくる、聴き惚れるようなバイオリンの音。感情を震わせながら弾いているのがはっきりと分かる、素晴らしい演奏だ。
夢中になって、演奏の間、何も言うことができなかった。
そうして、演奏が終わり、思い直して何かを言おうとして……初めて正直から優菜の顔を認識する。
合わせ、ライブと同じく。あれだけの演奏をした人間とは思えないくらいに、悲痛な顔をしていた。
「……ギター、弾けたのね……歌も、あんなに」
辛うじて引っ張り出した言葉は、そんなもので……返ってきた優菜の言葉は、どうしようもなく震えていた。
「……それだけじゃない……ベースもドラムもキーボードも他の楽器も……全部やれる……だけど……だけど……ッ!それは、全部ズルして手に入れたもので……ッ!」
喚くように叫ぶ優菜に、何も言うことができなかった。言っていることも、正直、よくわからない。──ただ。
「それに!……努力もしてない私がこんなにできるのを知ったら……!みんなが潰れちゃうんじゃないかって──っ!」
その言葉だけは、看過できないものだった。
「貴方、私の何を見てき──」
ガチャリ。
泣き喚く優菜の肩をとり、自分の思いをぶつけようとしたところで、不躾な音色を伴って、部屋の扉が開いた。
「やぁー、邪魔するねぇ〜?いやー、凄かったよ池揉ちゃん……あ」
入ってきたのは、廣井姐さんだった。その視線の先には、涙目の優菜の肩を掴み、見つめ合う私達。
「あー……本当にお邪魔だった?」
「か、勘違いです!」
今更だけど、これ別にTS要素は要らんかったな
本当に今更だけど
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6.I want a place
「ふーん……なるほどねぇ……」
廣井さんの登場で、少しだけ落ち着いた私は、二人に色んなことを話した。
グビッ、と廣井さんは飲んでいたカップ酒を飲み干すと、勢いよく容器を置いた。そして、目を見開いて口を開く。初めて見たような気がする廣井さんの瞳は、吸い込まれそうな魔力を帯びていた。
「……池揉ちゃん。才能っていうのは、そもそも理不尽なものなんだよ」
「……でも、私のは……」
偽物だから、と言おうとして、それも廣井さんに遮られる。
「じゃあ、本当は才能のない池揉ちゃんは、自分より上手い人には音楽をやらないでほしいんだ?」
「っ……それは」
そんなわけがない。果ては折れてしまった前世でも、憧れた偉大なアーティストを呪うことなど一度もなかった。
「……あー、あと……最初に会った時にさ、君のこと見る目あるって言ったけど……あれ、撤回かな」
そう言って、廣井さんが視線を促した先には、神妙な表情の大槻さん。
「……優菜」
「は、はい……」
「貴方のライブ、凄かったわ。確かに、今の私よりも……少し、ほんの少しだけ上だったのかもしれない」
「……っ」
「悔しかった。でも……それくらいいつものこと。この前の対バンで相手の方が盛り上がってた時もめちゃくちゃ悔しかったし……!」
「池揉ちゃんに励まされてたもんね〜」
「姐さんは黙っててください!」
私との実力差など、数ある挫折の一つにすぎない。今回も同じように、すぐに立ち上がってまた進むだけだと、彼女は言う。
「とにかく、私は……私達は一番になるの!それくらいの挫折なんかで立ち止まったりしない!それを……なんで貴方が分かってないの……!?私のファンなんでしょ……!?貴方がどれだけ巧くても……私は!その貴方をファンにした女なのよ……!」
「大槻、さん……」
……嗚呼、そうだ。彼女に惚れ込んだのは他ならぬ私のはずなのに。どうして、信じてあげられなかったんだろう。
「それに……私達は、SIDEROSはいずれビルボードチャート一位を取るの!その過程で誰かの夢を……貴方風に言えば、潰してしまうかもしれない……そんな私達の道も、優菜は否定するの!?」
「そんなわけ……」
そんなはずがない。これから紡がれる彼女達の伝説に、恥ずべきところなど一つもない。
「だったら貴方も堂々としていればいいの……!貴方の演奏を聴いたぐらいで折れるような奴らに遠慮する必要なんかない!」
「で、でも……」
「それでも気にしてしまうっていうなら──」
未だ踏ん切りがつかない私を見かねて、彼女は、その言葉を。
「これからは、私だけを見なさい!」
「……ぁ」
光を、眩いばかりの光を幻視した。
「私は、私達は、貴方がどれだけ凄かろうと絶対に折れない!一番に……貴方を超えて一番になるところを特等席で見せてあげる!」
崩れる。壊れる。生まれ変わる。確かに、世界が変わる音を聴いた。
「……簡単なことじゃ、ないよ……?」
「上等!私達の心配より、貴方はもっと大きく……追い越しがいのあるような壁になりなさい!」
壁に。SIDEROSが超えるべき最高の壁になる。その甘美な目標のためなら、それを大槻さんが望むなら、私は何だってできると、そう思う自分がいた。
「……っ!大槻さんっ!」
「うぉっとと」
感極まって、思わず大槻さんに抱きついてしまった。こんなに思い切ったスキンシップは初めてだとか、そんなことを気にする余裕もなく、想いのままに抱きしめる。すると、大槻さんが、控えめに口を開いた。
「……ねぇ、ところでその……前から思ってたんだけど……どうして私だけ苗字呼びなの……お、おかしくない?」
「え……みんなは後輩だから」
「そ、そんなの誰も気にしてないと思うし……だからその、私も名前で……」
照れながらそんなことを言う彼女があまりに愛おしくて……浮かんだ言葉が、何のオブラートもなく口をつく。
「……ヨヨコちゃん……大好き」
「……ん゛っ」
そうして、しばらくの間、私達は抱き合っていた。
「良いところ全部大槻ちゃんに取られた上に、若さをこれでもかと至近距離で見せられて……はは、今夜もヤケ酒だぁ」
------------------
「……なんで手繋いでんすか」
「こ、これは……優菜がどうしてもって……」
「うん。私が繋ぎたくて」
「えぇ……いや、えぇ……?何があったんすか……」
ひたすら困惑しているあくびちゃん達に、私は浮き足だった心で……今思えば色々抜けた説明をする。
「だからね、私、ギターもベースもドラムも世界一上手いから!みんなそれを知ったらバンド辞めちゃうんじゃないかと思って!」
「……凄いこと言いますね……ドン引きっす……」
「ごめん!でも事実だから!」
「……キャラ変わりすぎっす……」
「ふふ、私達のライバルに相応しいでしょう」
「……ヨヨコ先輩。優菜先輩と何を話してたのか一から十まで詳しく話してほしいっす」
あくびちゃんに詰め寄られ、ヨヨコちゃんが私との会話を頭からつま先まで語る。みんなの反応は、私が心配しているよりも軽く……私が気にしすぎだったのだと、今になって気づかされる。
「もー!ヨヨコ先輩!また私達に相談しないで!」
「うっ……優菜をライバルにしてもよろしいでしょうか……」
ふーちゃんに責められ、今更事後承諾を求めるヨヨコちゃん。
「……まぁ、自分も優菜先輩と対バンとかしてみたいんで文句なしっす」
「幽々わぁ〜、今までよりも優菜先輩を観察できるなら文句はないですよぉ」
「ゆーちゃん先輩、よろしくね!」
そうして私は……みんなから認められ、改めて、SIDEROSのライバルとなる決意を持った。
「じゃあまずは手始めに……ネットでの活動を再開しようかな!……ほら!」
思い立った私は、スマホをいじって動画サイトのチャンネル管理画面をみんなに見せる。
「え、ちょ……『U7』って一年くらい前に失踪して死亡説も流れてた超大物じゃないっすか!」
『U7』。私が作曲活動を行なっていたアカウント。そのチャンネル登録者数は……500万人。
「ど、どどどドーム100個分!?」
「あれー、ヨヨコ先輩?絶対に折れないんじゃなかったんすかー?」
わいわいと、騒ぐみんなを見ながら、これからのことを夢想する。今日は、私が生まれ変わった日だ。
これからは、ヨヨコちゃんを……私の消えない太陽を、追いかけて生きていくんだ。
喉の腫れは猿空間に送りました
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エピローグ
「ちょっと優菜!後でサイン入りのあげるからウチの物販を買い占めようとするのは辞めなさい!」
「え、いやでも……他に使い道とかないし……」
今や私の存在の半分を構成するSIDEROSのグッズにお金を使おうとしたところ、ヨヨコちゃんから怒られてしまった。
……あれから私は、U7としての活動を再開した。私はコメントを見たりエゴサーチしたりとは無縁なので、反響とかは知らないが、数字は復帰前と遜色ないものが出ている。それで結構……いや相当な額の収益が得られているのだが、生憎彼女達以外の使い道が思いつかない。
「あと!ライブの時にSIDEROSの宣伝とか言って変な格好をするのを辞めなさい!」
「え……ちょっとでも役に立てばいいなと思って……」
それから、たまに新宿FOLTにてソロでライブをするようになった。ボーカル代わりの旋律楽器のエレキバイオリンを生で、それ以外はオケ音源のインストだ。録音とはいえ、オケ音源は全て私が一つ一つ収録したもの。人数などハンデにもならない自信がある。
最初はあまり気乗りしなかったが、ヨヨコちゃんが『貴方に釣られた客も全部私達に染める』と言ってくれたので、心置きなく全力を出している。
ちなみに、彼女が指摘している服装というのは、私が少しでもみんなの為にとSIDEROSのフライヤーを身体に貼ってライブしたことを言っているのだろう。
「だから、私達のライバルでいたいならビジュアルも気にしなさいって言ってるの!」
「わ、わかりました」
わかればいいのよ、と引き下がるヨヨコちゃんだが、SIDEROSと同等の衣装はさすがに当てがない。SIDEROSの衣装は幽々が担当で、それはもう素晴らしいクオリティだが、幽々に頼んで私の分まで負担させてしまうのは申し訳ない。
そんなことを考えていると、ヨヨコちゃんがチラチラと度々私を伺ったり、ソワソワと落ち着きがなくなっているのに気がついた。これは、何か言うことがあるけども言い出せない仕草だ。
「ヨヨコちゃん、どうしたの?」
「うぇっ!?え、えっと……その、実は……」
「ヨヨコ先輩、優菜先輩とコラボしたいみたいっすよ」
「ちょ、ちょっとあくび!」
言い淀むヨヨコちゃんを見ていられなかったのか、横からあくびちゃんがあっけなく用件を告げる。
「コラボ?対バンじゃなくて?」
「ほら、優菜先輩と同じステージに立ちたいんすよ。自分だけ仲間はずれにされたってうるさいんで自分からもお願いします」
「そ、そういうんじゃなくて……!お互いの為にね……!」
コラボ。SIDEROSとコラボ。やりたい。絶対に楽しいし、私もヨヨコちゃんと同じステージに立ちたい。だけど。
「い、いいの?でも──」
「でも。なに?言ってみなさい」
不敵に、自信に満ちた表情で続きを促すヨヨコちゃん。彼女は、私に、もはや遠慮を許さない。だから、心からの本音を口に出す。
「私が同じステージにいたら、みんなが霞んじゃうよ?」
「言ってなさい!客も貴方も、夢中になるのは私達だし!」
──嗚呼、私の太陽。ステージの上でなくとも、私はずっと貴女に夢中だと言うのに。
SIDEROS古参ファンの間で、語り草となっている伝説のライブがある。そのライブでは、バンドの編成にバイオリンが加わり、楽曲もその日の為に作られた特別製のものが奏でられた。
後に『SIDEROS feat.U7』と呼ばれるそのメンバーでライブが行われることは数えるほどしかなく、中でもその初回ライブでは、センターを彩るギターボーカルとバイオリンの二人が競うように高め合い、会場の全てを魅了したと言われている。
一応この後も本編開始後という名の蛇足が続きますが、ひと段落したので更新頻度は落ちます。主人公ちゃんは救われたわけなのでね……
評価感想で持ち上げられたら気分が乗って頻度が上がるかもしれない()
ぼざろの二次が流行ったと思ったら後藤ひとり単萌えみたいな作品ばっかりで失望したのをバネに書いた作品でしたが、楽しんでもらえたなら良かったです。
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【朗報】U7、復活
1:音楽好きな匿名さん ID:4dUw/2JN+
五億年待ってた(泣)
https:/ohtu.be/*********
>>47
2:音楽好きな匿名さん ID:9aMmDqBHV
釣り乙
3:音楽好きな匿名さん ID:2wBstd0kg
まじやん
4:音楽好きな匿名さん ID:16Q6iTMEr
またツミッターのなりすましかよwwwって言いにきた俺氏、困惑
>>7
5:音楽好きな匿名さん ID:y+bakpzmI
ふぁ!?
6:音楽好きな匿名さん ID:HCGyAV0Bu
あ、新曲きたのか
7:音楽好きな匿名さん ID:izqgd4jyO
>>4 あれ五人くらい出てきたよなw
8:音楽好きな匿名さん ID:yO9WS3d/s
正直◯んだと思ってました……
>>11
9:音楽好きな匿名さん ID:Tsl8AXmjh
一年以上空いたな
10:音楽好きな匿名さん ID:A5sAhn+5t
二年近くね?
11:音楽好きな匿名さん ID:DFUmu9Esl
>>8
◯んだってかなんか身内でトラブルでも合ったんじゃね?
十中八九U7ってグループだろうし
>>13
12:音楽好きな匿名さん ID:8guE01HDo
まぁあの投稿頻度と幅広さで個人なわけないわな……
13:音楽好きな匿名さん ID:++7IsuKk2
>>11 音楽性の違いからは逃れられないんやね
14:音楽好きな匿名さん ID:0Ugo5m8Xc
めっちゃいい曲やん……
15:音楽好きな匿名さん ID:QnTPqxc2Q
伝説再び
16:音楽好きな匿名さん ID:F+Q663LIs
でもグループならこんな自己主張ないのおかしくね?
作詞作曲も全部『U7』だし
>>19
17:音楽好きな匿名さん ID:w2Pnam05x
二年くらい前まで意味わかんない頻度で曲あげてたのがパタリとだもんな
そりゃ死亡説も流れるわ
18:音楽好きな匿名さん ID:eNbtFdMHA
全部全部宣伝垢すらないのが悪い
19:音楽好きな匿名さん ID:e+QQcZFOs
>>16 これが個人だったらバケモンなんだよなぁ
>>21
20:音楽好きな匿名さん ID:9H68Fs7rS
誰?って思ったら何曲か聞いたことあったわ
21:音楽好きな匿名さん ID:U2JSQ4xch
>>19 まるでグループだったら化け物じゃないみたいな物言いはNG
22:音楽好きな匿名さん ID:5hOsl1OP/
動画サイトで音楽聴いてたらどっかでU7に当たるだろうしな
23:音楽好きな匿名さん ID:CRn8Pnn+r
まじかよU7復活祈祷スレが終わっちゃうぢゃん
>>26 >>35 >>53
24:音楽好きな匿名さん ID:V/xUkyaEm
配信者だの動画投稿者だののよく聴くBGMも実はU7産だったりはあるある
25:音楽好きな匿名さん ID:X7znvWDnE
個人サイトで音源配布だっけ?よーやるわ
26:音楽好きな匿名さん ID:8pXth7L1X
>>23 あのキッショい文化が滅んでハッピーやね
>>28
27:音楽好きな匿名さん ID:0OZDsCRbR
サイトの方もずっと止まってたけどあっちも動かすんかな
28:音楽好きな匿名さん ID:kZ+1PV8Q3
>>26 まぁあのノリはちょっとな……
29:音楽好きな匿名さん ID:xgLuYwsJL
許してやってくれ
彼らもU7に脳をやられた被害者なんだ……
30:音楽好きな匿名さん ID:oL/3I22PB
俺らのアイドル完全復活や……
>>32
31:音楽好きな匿名さん ID:bd8Sq9jx5
おぉ……全然劣化してねぇな
32:音楽好きな匿名さん ID:T9DPUBZ1w
>>30 まじでU7ちゃんピチピチギャルのJKだったりしないかな
>>34
33:音楽好きな匿名さん ID:m1TTK6O1j
きも
34:音楽好きな匿名さん ID:x/JpqTARH
>>32 ねーよ
っていうかたまにセンスにおっさんを感じる
35:音楽好きな匿名さん ID:9SeHsFpJ6
>>23 ツミッターの偽物をバチボコに燃やしてたのだけは笑ったわ
36:音楽好きな匿名さん ID:O1VfxNXUb
相変わらず宣伝とかはないのか
それでこそU7だ
37:音楽好きな匿名さん ID:n8r6hSTOL
この求道者精神こそU7よ
概要欄から承認欲求が滲み出てるタイプの投稿者は反省してください
>>39 >>44
38:音楽好きな匿名さん ID:5/m8OJ6EU
またしても神曲
39:音楽好きな匿名さん ID:kgHYWmhG3
>>37 音楽やる動機なんてそんなもんでしょーが
こんなのを基準にしないでください
40:音楽好きな匿名さん ID:FYI1fyy4A
嘘つけU7さんも裏ではエゴサしてニチャニチャしてるに決まってるゾ
41:音楽好きな匿名さん ID:5bxS6db2R
だからグループだって
42:音楽好きな匿名さん ID:slgOkHg8E
グループだといよいよ主張がない説明がつかないんだよな
>>43
43:音楽好きな匿名さん ID:WfTstd3sc
>>42
まだU7が本当に他者の評価をおまけとしか思ってない作曲狂いの変態だった方が説明がつくという事実
44:音楽好きな匿名さん ID:uHLGJ9HVA
>>37 虚言くさい奴もおるしな
ギターヒーローとか
>>57
45:音楽好きな匿名さん ID:W+dq7LrO/
そろそろ人間ボーカルの曲も聞きたいねんな……
46:音楽好きな匿名さん ID:CMTrpTXRd
コラボ希望しようにも連絡先が……
>>48
47:音楽好きな匿名さん ID:pS/X4onUi
>>1 なんかメタルロック調やね
>>52 >>62
48:音楽好きな匿名さん ID:KEhWJRhll
>>46 一応サイトの方から仕事の依頼できるぞ
受けてくれたの一割くらいだったらしいが
>>50
49:音楽好きな匿名さん ID:211ukMjZt
求道者精神なのはいいけどさぁ……
他のプラットフォームでも配信してくれない?
50:音楽好きな匿名さん ID:qp3Uov9Vp
>>48 気まぐれな天才って感じでええな
カッケェわ
51:音楽好きな匿名さん ID:Fk+SEKr5+
動画だけだと還元できないもんな
52:音楽好きな匿名さん ID:RYZbyXKqe
>>47 なんか俺の好きなガールズバンドっぽい
>>54
53:音楽好きな匿名さん ID:rIOqj6nGn
>>23 覗いてきたら阿鼻叫喚で笑う
>>60
54:音楽好きな匿名さん ID:11YSIDt94
>>52 ストーカーはやめろよおっさん
>>56
55:音楽好きな匿名さん ID:rDOP34GBF
CDとかで欲しい……欲しくない?
>>71
56:音楽好きな匿名さん ID:RYZbyXKqe
>>54 アイドル路線ではないぞ
まじの実力派
>>59
57:音楽好きな匿名さん ID:3Q8YndERe
>>44 はーー??ギターヒーローさんは彼氏持ちの超絶リア充なんだが??
>>63
58:音楽好きな匿名さん ID:c5XidsYKd
泣きそう
まじで待ってた
59:音楽好きな匿名さん ID:wP94mQGMm
>>56 ほーん
なおきもいな
60:音楽好きな匿名さん ID:sfCllhei7
>>53 折角余計なこと言わないスタンスなのに厄介な信者ついててかわいそう
61:音楽好きな匿名さん ID:6GHIEH0MZ
俺はまだ若かった二年前を思い出して泣きそう
62:音楽好きな匿名さん ID:828gn7qPG
>>47 別に珍しくはない
復活の狼煙に勢いある曲が欲しかったから助かる
>>65
63:音楽好きな匿名さん ID:0kxQaM+qd
>>57 リア充はあんなジャージ着ない定期
64:音楽好きな匿名さん ID:CCh/597fu
>>60 U7はアンチも曲で黙らせられるからいいやとか思ってそう
>>67 >>70
65:音楽好きな匿名さん ID:Ddq2mraid
>>62
もはやU7はU7っていうジャンルだしな
66:音楽好きな匿名さん ID:JGefpUiIP
儲もファン活できないから煮えてるって側面もありそう
>>68
67:音楽好きな匿名さん ID:tqRs0d4T5
>>64 もう人間の視点ではないのよ
68:音楽好きな匿名さん ID:/nUZUy9Te
>>66 貢ぎ希望……ってコト!?
69:音楽好きな匿名さん ID:fzeORsR2h
なお相手にされてない模様
>>72
70:音楽好きな匿名さん ID:ibMvQWdUP
>>64 ジャンル網羅しすぎて誰でも何かしら刺さるからな
71:音楽好きな匿名さん ID:4+vS3DTky
>>55 レーベルの誘いガン無視してそう
っていうかしてる(確信)
72:音楽好きな匿名さん ID:5bb2jChz1
>>69 ファンにSなU7さん……きゅん
73:音楽好きな匿名さん ID:Ag8E02BbB
お?不整脈か?
74:音楽好きな匿名さん ID:FnXj28IVJ
まじで帰ってきてくれてありがとう
ところでこの休止期間はドSの焦らしだったって本当ですか?
75:音楽好きな匿名さん ID:TJc1KYvuH
こんな掲示板で変なキャラ付けされてて可哀想
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
初めてやってみたけど、書くのが楽しいからこればっかりになってしまう作者がいるのも分からなくはない
でも擦りすぎても寒いと思うんだよなぁ
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A1.Zero
未読でも分かるように書きますが、ネタバレダメな方は原作を買いましょう
「ぼっちちゃんこれあげる」
「えっこれ……」
下北沢に店を構えるライブハウス、『STARRY』。最近ここに居座っている泥酔ベーシスト廣井きくりは、目をかけている陰気なジャージ姿の、ゴミ箱に入った少女に一枚の紙を差し出した。
そのピンク髪の少女……後藤ひとりが所属するロックバンド・『結束バンド』は、メンバー全員が揃って初めてのライブで見事成功を収めた。
しかし、次のライブを文化祭で行うことになり、極度のコミュ障であるひとりは今までにないほど大勢の人間の前で演奏することが怖くなり、近頃ずっと悩んでいた。
それを見かねた廣井は──
「私の今日のライブチケット。良かったら見に来なよ」
-----------
「志麻さん、イライザさん。これからリハーサルですか?」
「池揉……あぁ、そうしたいんだが……」
お金がどんどん手元に入るようになったとはいえ、私は変わらず新宿FOLTでのバイトを続けていた。今日は志麻さんや廣井さんのバンド、『SICK HACK』のライブがある日だ。
初めて会った日と比べて、志麻さんの私に対する口調も大分砕けたものになった。悪く言えば乱暴な口調だけど、多分こっちが素に近いんだろうし……身内認定というか、前より親しみを感じられて私は好きだ。
「廣井さん、来てませんよね……」
「もう遅刻だヨ!いっそユーナがリハ手伝って〜」
「あはは……仕事中なので」
もう一人、イギリス出身の金髪お姉さんは『SICK HACK』のギター、イライザさん。サイケロックバンドのメンバーなのにアニソンが至上と断言する自由な人だ。
「廣井さん、最近全然見ませんけど、どうしたんですかね?……いや、全然困ってないというか、むしろ助かってるんですけど……」
「あぁ、あいつ、最近は下北沢で結束バンドっていう池揉やSIDEROSと同年代のバンドに付きまとってるらしい……」
「そ、そうなんですか……」
ここ数ヶ月、廣井さんを見かけることが格段に少なくなっていた。私は特段気にしていないどころか酔っ払いを帰らせる業務がなくなって助かっているくらいなのだが、彼女を慕うヨヨコちゃんは結構気にしていた。その分、私が一緒にいると思うのだが……私じゃ、不満なのかな。
それはともかく、その同世代のバンドに執心らしい廣井さんが迷惑をかけていなければいいが……介抱させたり、電車賃をせがんだり、シャワーを借りたり……さすがに年下にはしないと思いたいが……いや、普通に私やヨヨコちゃんにやっていた。許すまじ。
そんなことを考えながら仕事をしていると、ちょうど『SICK HACK』が二人でのリハーサルを終えたぐらいだろうか、噂の廣井さんがやってきた。4人、女子高生らしい子達を連れて。
「銀ちゃんに池揉ちゃんおはよ〜」
「あぁ?」
廣井さんの呑気な声にギロ、と治安の悪い反応を返す店長。……あ、金髪の子が固まってしまった。
「あっお姉ちゃんに会いたい……」
「ついに伊地知先輩まで!!」
「スターリーがめずらしいだけでライブハウスの店長なんて男ばっかでしょ」
「あら〜!ゲストの子達なのね♡ごめんね〜!吉田銀次郎37歳で〜す、好きなジャンルはパンクロックよ〜」
確かに、初見の店長は怖いかもしれないが、それも口を開けば霧散する。現に、彼女達は見た目とのギャップに混乱しているようだ。
「それで〜、こっちが池揉優菜ちゃん。池揉ちゃんはね〜」
「池揉です。ここでバイトをしている者です。今日は楽しんでいってくださいね」
「へ〜、珍しいですね!私たちもライブハウスでバイトしてるんです。同じくらいの女の子がライブハウスで働いてるの、初めて見ました!私、伊地知虹夏です!こっちはぼっちちゃんです」
「…………あっあっども……」
さっきまでここの空気に押し潰されそうになっていた少女は、伊地知さんというらしい。親しげなのは、私が店長や集まっている他のバンドマンよりも取っ付きやすく見えるからだろうか。そして、その伊地知さんにしがみついて全く顔が見えないピンクジャージの子が推定ぼっちちゃんだろう。
「あの」
「!?……は、はい?」
急な意識外からの一声に、思わずたじろぐ。いつの間にやら移動していた青髪の子が、耳元で声をかけてきたのだ。……そこで、私は彼女に見覚えがあることに気づく。
「今日はライブ、しないんですか」
「あー……そんなに頻繁にはしないですよ」
『SICK HACK』のライブの日に受付をしたことがある少女だ。それに、私がソロでライブをした日にも居たような気がする。
「店員さんもバンドやってるんですか!?あ、私喜多です!」
喜多という少女は、人好きそうな笑顔で私に話しかける。ピンクの子とは対照的に、人に慣れていそうな少女だ。
「池揉ちゃんはね〜、すごいんだよぉ〜!ソロなのにノルマも余裕なんだから!」
でもあんまり参考にならないけどね、と付け加える廣井さんに、青髪の子を除くみんながそれぞれ驚きや興味の顔を見せるが、それもリハーサルを終えた志麻さん達の登場で中断される。
「廣井、遅刻するなっていつも言ってるよな」
「もうリハ終わっちゃったヨ!」
そのまま、志麻さん達とお客さん達が話をするのを尻目に、私は仕事に戻った。そもそも私は勤務中である。
後に聞く話では、彼女達が噂の結束バンドだそうだ。
SIDEROSと同世代のバンド。果たして新たなライバルとなり得るのかどうか、いつかこの目で確かめられる日が来るだろうか。
(新章だしオマージュバンド変えるか……)
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A2.Pathos(前)
「でっかい……」
「うわ……めちゃくちゃ良いところじゃないすか」
今日は、あくびちゃんが「U7の仕事場を見てみたい」と言うので、ふーちゃんも一緒に自宅に招待した。
眼前には、小洒落た外観のマンション。どうしても防音は外せなかったから、防音完備で条件に合う物件を探したら、この辺りではそこそこ有名なかなりお高い場所になってしまったのだ。
「ふたりとも、こっちだよ」
エントランスを抜け、すっかり慣れた手つきでエレベーターを動かす。上昇中の独特な重力を感じていると、おそるおそるといった風に、あくびちゃんが口を開く。
「……あの、本当にここに一人で住んでるんですか?ご両親とかは……」
「あー……色々あってね。別居してるんだ」
特に配慮もせず、聞かれたことに素直に答えたのがいけなかったのか、二人の表情が固まったのを感じる。そんなに暗い話でもないのにな、と心の中で申し訳ないを感じる。
「あの、もしかして自分マズイ事に触れちゃいました……?」
「いや、つまんない話だよ」
エレベーターを降りて、自室の扉へ向かいながら、今世のことを思い返す。
「ちょっと……稼ぎすぎちゃってね」
言いながら、もうしばらく会っていない両親のことを思い出……そうとして、途中で霧散した。
「私がU7の活動を辞めた頃、お父さん、仕事辞めようとしてたんだって……勝手に配布サイトを有料にしようともしてたみたいで……急に活動を辞めた私に、二人は音楽活動を強要して……」
「……それで?」
「家族が煩わしくなって……今まで稼いだお金と引き換えに、別居を認めさせたんだ。もちろん、ここの家賃とか当面の生活費とかは貰ってるけど」
そもそも、彼らは私の音楽を……いや、『音楽』を理解していなかった。作曲も演奏も、「良かった」以外の感想を聞いたことがなかった。だから、私は彼らのことを……。
いや、だからか。私が彼らのことを両親として扱わなかったから、それが返ってきただけなのか。転生してから、自分の才能にしか興味がなかった私は、彼らのことを見ていなかった。私の中では「両親の愛は既に前世で受け取った」と勝手に完結させていたが、それは一体彼らにはどう見えていただろう。
結局、私の自業自得かと、今になって思う。
「……ゆーちゃん先輩!」
「ふ、ふーちゃん?」
そんな詮のないことをぼーっと考えていると、ふーちゃんが私の手を両手で強く掴んできた。顔が近い。金木犀を思わせる柔らかな香りが、私を現実に引き戻した。
「私達、ゆーちゃん先輩のこと一人にはしませんから……!」
「そ、そっか……ありがとね」
見れば、ふーちゃんの瞳は若干潤んでいた。少し、深刻に話しすぎたのかもしれない。もっと軽口みたいに言えば良かったかな。
「まぁ、うちのリーダーが決めたことなんで、嫌でも並んで見せるっすよ……っていうか先輩、それヨヨコ先輩に話したんすか?自分らが先だとまた拗ねられるんですけど」
「いや、聞かれなかったし……」
聞かれなかったから言っていないという私の答えに、めんどくさくなったヨヨコちゃんを幻視したのか、あくびちゃんがジト目になる。
確かに、言ってないけれど、ヨヨコちゃんにとって、この話はそんなに重要だろうか。私が彼女のことを知りたいと思っているのと同じくらいに、彼女も私を知りたいと、思ってくれているのだろうか。……だったら、うれしいな。
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A2.Pathos(後)
そんなこんなで、いよいよ二人を自宅へ迎える。機材やら楽器やらで整理はされていないかもしれないが、まぁできるだけ綺麗にはしているので、見せても恥ずかしくはない。
「うわ〜、楽器が一杯……!」
「壮観っすね……」
「本当はもう一つの部屋に纏めて置いておきたかったんだけど……ここにあるのは頻繁に触る楽器だね」
玄関すぐの部屋には、よく弾いたり触ったり収録に使う楽器が結構なスペースを使っていた。主にロックバンドでよく見る楽器群が目立つのは、長くSIDEROSの楽曲に関わっていたからだろうか。最近はU7の作風もそちらに寄ってしまっている気がする。
「お、あれが作業用のPCっすか。さすがに良さそうなの使ってますねぇ」
まずあくびちゃんが興味を持ったのは、私の作業用のPC。ゲームは入っていないけど一応ゲーミングPCなので、ゲーム好きなあくびちゃんは見覚えがあるのかもしれない。
DAWソフトを動かすだけなら、それ専用に組み立てるかオーダーした方が安く済むんだけど、そちら方面の知識が乏しい私はとりあえず高いが間違いのないパソコンを買った。ゲームをスムーズに動かせるPCなら、大抵のことはできるのだ。
「なんかゲームとか……入れてないっすよね優菜先輩は」
「あはは……」
大分私のことが分かってきているのか、あくびちゃんが自己解決してジト目で私を見る。曖昧に笑うと、少しの呆れを感じた。
「はーちゃん見て見てー!私たちのグッズだよ!」
「お〜、毎度ありがとうございますっす」
ふーちゃんが注目したのは、部屋の一角を占領しているSIDEROSグッズの数々。ヨヨコちゃんに怒られてしまったので最近は自重しているが、それでも私の唯一の趣味なだけあり、相当な数になっている。
「あ〜、私の色もあるー!」
「こうして見ると嬉しいもんっすね」
そうして、私の家を見て回る二人。と言っても、寝室とこの部屋以外の楽器置き場となっている部屋は足の踏み場もないので、ちらりと見せてあげることしかできない。グランドピアノみたいな大きすぎる楽器は持ち込めなかったが、この部屋にも中々に取り回しの悪い楽器が多い。私も用事がなければ入らない部屋だ……そろそろ掃除をしないと埃がやばい。大抵ケースに入っているとはいえ、楽器に良くないかもしれない。
ということで、案外すぐに見るものがなくなってしまう。パソコンの中を見せてあげてもいいけど、作曲は二人の専門じゃないから、あんまり踏み込んだ話はできないのだ。
「ゆーちゃん先輩、冷蔵庫開けていいー?」
「あぁ……いいけど……」
全然構わないけど、そこには纏め買いしたお茶しか入っていない。
「……ゆーちゃん先輩、えっと……普段何食べてるんですか?」
「ていうか、キッチンが使ってない人のそれなんで察せるんすけどね」
「れ、冷凍庫の方には冷凍食品あるよ?」
「もー、ダメじゃないですか!」
ダメだった。さすがに3日連続コンビニ食なんかは避けるようにしているんだが、ふーちゃんからすると考えられないことのようだ。
「決めました!今度ご飯作りに来ますから!」
「えぇ……?」
料理覚えてもらいます!と息巻くふーちゃん。それはまた来てくれるということで、正直嬉しい。
「ていうか、先輩お金余ってるって言ってましたよね。ならゲーム買いましょうよゲーム、一緒にできるやつ」
「いいけど……え、今から?」
そのまま、あくびちゃんに連れられて私達は買い出しに行った。この辺りにはゲームのあるビデオショップ以外にも色々な店が揃っているので、他にも足りない料理道具や食器も見繕ってもらった。バイト代が丸々余っているくらいなので、これくらいの出費はなんともない。ちなみに、二人は自然にコップと歯ブラシを買っていた。
それから、帰ってきた私たちは遊び倒した。ゲームをするのは、あくびちゃんの家にお邪魔した時以来だが、3人でやるものも存外に楽しく、夕食も宅配にして夢中になって楽しんだ。
「あ、電話っすね……ヨヨコ先輩っす……」
「あ、なら向こうの部屋に……」
「いや、ここでいいっすよ」
そんな時、あくびちゃんに電話がかかってきた。その相手はヨヨコちゃんらしい。離れることもなく、あくびちゃんはその場で電話を取った。
「なんすか?」
『ちょ、ちょっと……幽々から聞いたんだけど……楓子と優菜の家に行ったって本当……?』
「はい。ていうかまだ居ますよ。一緒にゲームしてます」
『なっ!?なんで誘ってくれなかったの!?』
「ヨヨコ先輩今日は忙しいって言ってたじゃないっすか」
『そうだけど……そうだけど!』
「あと自分用の歯ブラシ買いました」
『はぁっ!?と、泊まる気なの……?』
「今日は違いますけど、優菜先輩が良いって言うのでまぁいずれは」
『いずれ!?』
これは……スピーカーじゃないから、ヨヨコちゃんの方の声はよく聞こえないけど、なんとなくあくびちゃんがヨヨコちゃんを揶揄っているのはわかる。今度、私が埋め合わせしないとまた拗ねちゃうかもしれない。
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A3.シュプリーム
「客の盛り上がり過去最高でしたね〜」
「ねぇはーちゃん」
「みんなお疲れ。最高だったよ……!」
「優菜先輩はいつもそう言ってくれるから当てになんないんすよねー」
ライブ終わりの新宿FOLTで、今回も最高のパフォーマンスを見せてくれたSIDEROSを褒め称える。過去の出来事の印象は薄まるものだが、それでも今回のライブは私が代役を引き受けたあの時を超えていた……と、私は思う。
それなのに。
「……」
横目に、腕を組んで黙りこくるヨヨコちゃんを見る。最近、彼女は機嫌が悪い。私と話している時は和らぐのだが、気がつくと元に戻っている。その原因は──
「さっき動画サイトみてたら新着に面白い名前のバンドあがってて──結束バンドって言うんですけど」
結束バンド。まさに、あの時廣井さんに連れられてきた彼女達が、ヨヨコちゃんの不機嫌の原因。
「バンド名は激サムだけど、意外と曲は嫌いじゃないっすね〜」
「あ、あくびちゃん……今その話は……」
「あれ、優菜先輩知ってるんすか」
「それ貸して!」
「あ〜〜」
そう言って、あくびちゃんからスマホを引ったくるヨヨコちゃん。実は彼女達の曲を聴いたことがない私も、横からスマホを見せてもらう。
画面に映るのは、まだ少し初々しさが残っている少女達。
悪くない。──高校生にしては。あくびちゃんの言うように、曲は良い。素晴らしいとさえ言える。が、演奏……ベースは頭ひとつ抜けているが……ドラムは画面越しでも音から緊張が伝わってくるほどに固い。ギターは……確かな努力を感じる音色だが……やはり上手いとは言えない……いや、リードギターの方は要所要所で光るところがあるか。ボーカルも……音程は捉えているが……他の音にかき消されている。声の出し方がライブを意識したものではない。
「……これが?」
ヨヨコちゃんが、冷たい声をもらす。確かに、このままではSIDEROSと並べられそうもないけど。
「こんな再生数100回程度のバンド聴く必要ないわよ!」
「え、そこ?」
ぷいっ、と顔をそっぽに向けたヨヨコちゃんの代わりに、あくびちゃんにスマホを返すと、ふーちゃんがひそひそ声で私とあくびちゃんに話しかけてくる。
「ヨヨコ先輩、最近機嫌悪いですねぇ……」
「なんか気に食わない人がいるみたいっすよ」
「あー……それね、正に結束バンドみたいなんだよね」
「……マジっすか?」
「マジみたい……」
「な、なんで……?」
「それが……」
廣井さんがいつも結束バンドの話ばかりするから拗ねてるみたい。
------------------
「SIDEROSと結束バンドがゲスト出演……!?」
「元々前座で出る予定だったバンドが出られなくなって〜」
12月24日……クリスマスイブに新宿FOLTで行われるSICK HACKのワンマンライブに、SIDEROSと結束バンドをゲスト出演させる。
廣井さんが言い出したのは、そういうことらしい。
「あんな無名なバンド出してもメリットなんてないです!っていうか、それなら優菜を出せば良いじゃないですか!」
「あー、池揉ちゃんはね〜」
「私は元々一曲やらせてもらう予定だったから、もう自分の枠貰ってるんだよね」
「前誘った時に『そんなことしたら廣井さんのファンみんな奪っちゃいますよ』なんて言われちゃったらね〜、出てもらうしかないよね?」
「大袈裟なことを言ったつもりはないんですけどね」
本当なら遠慮したいところだったのだけど、つい挑発じみた事を……というかストレートな挑発をしてしまったせいで、そのまま私も前座をやることが決定してしまったのだ。
私の他の前座担当のバンドがキャンセルした時も、私がその分の時間も演奏する事を打診されたが、それは丁重にお断りした。別にどんな客でも満足させてみせるが、そもそもSICK HACKの客はロックを聴きに来ているのだ。SIDEROSや結束バンドはともかく、微妙にジャンル違いの私が出張るのも違うと思う。
「それに大槻ちゃん、メンバー以外に友達いないし友達作るいい機会かな〜って……」
「とっ友達はいます!」
廣井さんの言葉にヨヨコちゃんは食い気味で反応して、指を折り数え始める。
「ライブに来てくれる皆……あとトゥイッターのフォロワーの一万人!……とかも入りますよね?」
「いや入らない」
廣井さんの無慈悲な否定に項垂れるヨヨコちゃん、でもすぐに顔を上げ、私の腕をとった。
「っていうか優菜がいるじゃないですか!友達!」
「……うん。私で十分だよね」
「いやぁ……池揉ちゃんはなんていうか……友達っていうか……えっと、大槻ちゃんにはもっと健全な友達が必要だと思うな〜」
頬を掻き、曖昧に笑いながら私を不健全呼ばわりする廣井さん。
「なんですか。私のどこが不健全だって言うんですか」
「え〜っと、池揉ちゃん、週一で大槻ちゃんに高いとこ奢ってるでしょ?そういうのあんまり良くないと思うんだけど……」
「なら歳下の学生にお金借りて奢らせる人は健全なんですか!?」
「あー!!じゃっそんなわけで当日よろしくね〜〜〜!」
私に思いっきり痛いところをつかれて、そんなセリフと共に廣井さんは去っていった。
……正直、この人が結束バンドにご執心だからってヨヨコちゃんがなんでそれを気にしているのか全然分かんないけど。
「この煎餅噛み砕けない……!」
「ふざけてんの〜?」
私が彼女を本調子に戻さなきゃと、ディスクを煎餅だと言って噛もうとしているヨヨコちゃんを見て、そう思った。
いつか、廣井さんのことを忘れさせるんだ。
原作5巻の入手来週になりそう
泣きました
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A4.incomplete(前)
『次は〜 下北沢 下北沢です』
電車に揺られ、慣れない街へ赴く。隣には、いつもと違った装いのヨヨコちゃんが、不安げな顔をしていた。
「ね、ねぇ……この格好なら誰も私を大槻ヨヨコとは思わないよね……?」
「私はどんな格好でも分かるけど」
「それは……そうかもしれないけど!」
今日の彼女は、いつもの派手目なファッションから打って変わって静かな色合いの服装に加えて普段はしていない眼鏡もかけていた。『SIDEROSの大槻ヨヨコが結束バンドのライブを観に行った』という事実を知られたくないからなのだろうが、そういうところも彼女らしい。
「……結束バンド、気にしないんじゃなかったの?」
「気にしてないけど!優菜が行くって言うし……」
「ふふ、そうだね。付き合ってくれてありがとね」
元々、実際に見ないと分からないこともあるからと、いずれ結束バンドのライブを見に行こうと思っていたのだが、明らかに結束バンドが気になっているヨヨコちゃんを見て良い機会だと思い、誘うと二つ返事で一緒に行くことになった。「優菜に付き合ってあげる」みたいな返事だったけど。
そうして電車を降り、慣れない街を二人で歩き出す。『下北沢STARRY』は駅に程近いが、その短い道のりだけでも街の特色というのはあるもので、私の目には新鮮に映った。
けれど、ヨヨコちゃんはそうでもないみたいで。
「……どうしたの?」
少しの衝撃と共にふわりと好きな香りが鼻腔をくすぐったかと思えば、ヨヨコちゃんが私の腕を取って……というかしがみついていた。近い。
「慣れない場所居心地悪い……」
「急に弱気だね……」
この服装のせいだろうか。以前……彼女がバンドを始める前は今日のような服をよく着ていたと、前に聞いたことがある。そう考えると、彼女のいつものファッションは自分を勇気づけるといった意味もあるのかもしれない。
「もう、ライブに比べたら全然でしょ?それに……私もいるし」
「うん……ライブ終わったらすぐ新宿帰る……」
「えー?私はもう少しデートしてたいけどなぁ」
「で、デート……」
そんな話をしていながら歩けば、すぐにSTARRYの入口が見えてきた。受付の黒髪のお姉さんから、当日券を購入する。
「今日はどのバンド見にこられました?」
「……結束バンドです……」
「私もです」
中に入ると、すでに二十人前後の客が入っていた。失礼だけど、想像よりは多い。
「あれ〜、見たことない子たちだー!」
私とヨヨコちゃんが珍しかったのか、結束バンドのファンらしい二人組が話しかけてきた。
「あの〜今日初めてライブきた感じですか?結束バンドを見にきたんですよね?」
「名前なんて言うの〜?」
「えっっ、大つ……つっきー、です」
「何そのあだ名……!?」
私聞いたことないんだけど!
「つっきーちゃんって言うんだ!かわいい名前だね!あなたは?」
「池も……いや、えっと……ケミーです……」
「私の知らないあだ名……」
それはお互い様でしょヨヨコちゃん……いや、よく考えれば二人とも咄嗟に思いついた名前なんだろうけど。
「今度からライブ一緒に行こうよ!」
「あ、ロイン交換しよー」
その言葉に、いそいそとスマホを操作するも、「どうやるんだっけ……」とあたふたするヨヨコちゃん。それを見かねて、操作を手伝ってあげていると、思い直したようにヨヨコちゃんが口を開いた。
「いや!わっ私は別にファンじゃない……!」
「じゃあ何で今日見に来たの?」
「そっそれは……」
「……私がどうしてもって連れてきたんです。ね?」
「……そう、そうなの!」
「へぇ〜、ケミーちゃん分かってるね〜」
そうして、おそらく大学生の結束バンドファンの人達と交流していると、すぐにその時間がやってきた。
「あっ始まったよ!」
結束バンドの生ライブ。あの映像からどれだけ進歩しているか、見せてもらおう。
牛歩!
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A4.incomplete(中)
格段に上手くなっている。彼女達の色を持った楽曲は相変わらず素晴らしいが、目を引くのはメンバーの技量が目に見えて上がっていること。ベースもドラムも、何よりもギターボーカルの子の上達は著しい。聞く話によれば、彼女はギターを始めて一年も経っていないらしいが、とてもそうとは思えなかった。……だが。
引きずられている。
一瞬、見えたこのバンドの核心に、浮かんできたのはそんな感想だった。俯きがちでピンク髪のギターの子……後藤ひとりのポテンシャルに、他のメンバーがついていけていない。いや、こんなものではないのだろう。何らかの理由で、彼女は全力を出せていない。このままでは、いずれ……実力を取り戻した後藤ひとりに他のメンバーはついていけなくなってしまうのではないか──と、そんなことを考えていると、結束バンドのライブが終わった。
もし本当に後藤さんの真の力に彼女達が置いていかれるとしても、それは今日明日の話ではない。私の今の結束バンドに対する評価としては……SICK HACKの前座を務めるに値すると思う。……まぁ、それを決めるのはあくまで廣井さん達なんだけど。
でも、さすがにSIDEROSとはまだ比べるべくもないから、ヨヨコちゃんはやっぱりまだライブに出すのは反対なのかなと、隣のヨヨコちゃんを見る。
「宣伝力があまりないのかな……バンド名で検索しても引っかかりにくいだろうし……」
「あれ、ヨヨコちゃん、本当にファンになったの?」
「っ!?そ、そういうわけじゃない……」
「……そっか。それで、どうだった?」
「……ゲストやるレベルには達していないと思うけど……格段に良くなってると思う」
「確かにね。お客さんは二十人くらいだけど、もっと多くてもいいくらいだよね」
「そうそう!今の時代、いい曲作ったってすぐ埋もれちゃうんだから、SNSや配信サービスはどんどん利用していかないと……」
言いながら、ヨヨコちゃんは手元でスマホを操作する。結束バンドのことを色んな場所で調べているんだろう。素直に言葉にはしないけど、相当に彼女達のことを気に入った…‥んだと思う。
「つっきーちゃん、ケミーちゃん、物販も見たら?今日やってた曲のデモCDとかいろいろあるよ!」
「へー、結構色々あるんだ……ん?」
物販コーナーを見ると、引っかけられた4色の結束バンド(インシュロックの方)に、果ては『メンバーの私物』と書かれたものまで置いてある。
「あ!新作リストバンドでてるじゃん〜」
「ただの結束バンド!」
「普通のリストバンドはライブでしか使い道ないけどこれはコード束ねたりできるしね!」
「本業はそっちでは……?」
そんな話をしていると、ヨヨコちゃんが小声で私に耳打ちする。
(ね、ねぇ……顔見られたらバレるかもしれないし、もう帰ろ……?)
(……そうだね……わっ!」
「新しいファンの子達連れてきました〜!」
「えっ、ちょ……」
ファンの人たちによって、不意に結束バンドのメンバー達の前に出されてしまう私たち。前に一度顔を見られている上、凝った変装をしていない私はすぐに顔を逸らす。……いや、私は別にバレても構わないんだけど。
ヨヨコちゃんも同じように顔を逸らすが……その目は横目で後藤さんを捉えていた。……廣井さんが一番話題に出すのが彼女だから、なのだろう。複雑だ。
「じゃあ私達はこれで……!」
「みんなつっきーちゃんとケミーちゃんにサイン書いてあげてよ〜」
ヨヨコちゃんが私を連れてすぐにこの場を離れようとするが、ファンの人に思いっきり手を掴まれて阻まれてしまう。
「え〜サインなんて考えてないなー」
「えっあっ私も……」
そう言いながら、各々サインを書くメンバー達。
「あっどうぞ……」
渡されたサインは、メンバーが有り合わせのサインを書くなかで、後藤さんのだけが異様に完成度が高かった。
「ちゃんと作ってるじゃん!」
「お〜、かっこいいね」
……後藤さんは大人しそうに見えて、一人前以上に自己顕示欲はあるらしい。
「あれ?何か見たことある気が」
「きっ気のせいでは」
そういう欲求が達者なところは、どこかヨヨコちゃんに似ているかも……と山田さんに詰め寄られるヨヨコちゃんを見ながら、ぼんやりそんなことを考えていると。
「みんらぁ〜」
とてもよく聞き慣れた声が、入口の方から聞こえてきた。
怪しい小説表現でも、フィーリングで伝わればまぁ良くないか
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A4.incomplete(後)
「今日もライブよかったよ〜、あの〜〜あへ〜〜……4曲目エモの塊!」
「今来ましたよね……?」
急に現れては、適当に褒め言葉を並べる酔っ払いに、結束バンドのドラマー・伊地知虹夏さんは「3曲しかやってないです」と白い目でつけ加える。が、思い出したかのように表情を変えると、感謝の言葉を口にした。
「あっ、ゲストで呼んでくれてありがとうございます!今沢山ライブしたかったので助かります!」
「いーのいーの」
「でもどうして私達を?」
そんな喜多さんの素朴な疑問に、尚も廣井さんは赤い顔で、ごまかすような笑い方で口を開く。
「朝起きたら送信履歴にはいってたんだよね〜、魔法みたいな事もあるもんだ!」
「酔っ払って誤送信しただけですか!?」
でもシラフでも結束バンド呼んでたよ〜、とヘラヘラとつけ加える廣井さんと、それをやんわりなじる結束バンドの二人だったが、その発言を許容できない人間が、この場にはいた。
「やっぱり適当だったんじゃないですか……」
「ヨヨコちゃん、抑えて抑えて……」
未だ、結束バンドがゲストを務めることを認めていない……いや、感情面の反発の方が大きいとしても、今の廣井さんの発言は、ヨヨコちゃんには看過できない。それゆえ、つい声を出してしまったのだろう。
「え?大槻ちゃん?」
「えっいや違います!」
「っていうか普通に池揉ちゃんいるじゃん!」
「お疲れ様です」
……あっさりバレてしまった。いや、私が大して変装していないせいかもしれないけど、この様子では多分ヨヨコちゃん一人でもすぐにバレてしまうだろう。
「───ッ!……そうです!私が大槻ヨヨコ!」
「えっ!?誰……?」
「……ちょっ……待って……着替えるから…‥分かんないよね」
「あっうん……」
いそいそと、半ば変装の為に着込んだ冬着を脱ぎ、下に着ていたいつものステージ衣装が露になる。どこからか「アホの子なの?」という呟きが聞こえた気がするが、それが彼女の可愛いところだ。
「これでわかった?」
「シデロスの……何でここに……」
やはり、真の姿を現したヨヨコちゃんはオーラがあるようで、結束バンドの面々は気圧されていた。特に後藤さんは、いつにも増して深く下を向いていた。
「え〜……大槻ちゃんまだ納得出来てなかった感じぃ?」
「そうです!」
「酔った勢いとはいえ、私結構考えてるけどなぁ〜」
そこで一度言葉を切ると、廣井さんは目を開け、普段のヘラヘラとした声色を消した言葉をヨヨコちゃんに投げかける。
「それとも何?大槻ちゃんは私の目が節穴って言いたいの?」
……こうして、気迫のある廣井さんを見るのは私に活を入れてくれた時以来だろうか。意識してやっているのかは分からないが、こういう時の廣井さんは有無を言わせぬカリスマがある。中々見れる姿ではないので、この場は貴重な場面かもしれない。
「そんな意味じゃ……」
廣井さんの気迫のある強い言葉に、元々責められるのには弱いヨヨコちゃんは一度押し黙る。そして、堪えきれなくなったのか再び声を張った。
「帰ります!結束バンド!私と優菜と姐さんのライブを台無しにするのだけは許さないから!」
バタン、と大きな音を立て、ヨヨコちゃんは逃げるようにスターリーを出てしまった。
置いていかれてしまったが、あれは勢いで出てしまっただけに見える。ヨヨコちゃんのことだから、私がついてきていないと気づいたら引き返してきて入り口の前で右往左往しそうである。
「からかうのやめろよ」
「何か真面目でかわいいからつい」
「ちょっと廣井さん!いい加減ヨヨコちゃんで遊ぶのやめてくださいよ!」
「あ……池揉ちゃん……ご、ごめんね〜……別に取ったりしないからさぁ〜」
そこでようやく、私に注目が集まる。ヨヨコちゃんやさっきの廣井さんと違って、私はああいったオーラみたいなものがあんまりないから、霞んでしまっていたのだろう。楽器を持った時の印象は全然違って見える、なんてあくびちゃんやふーちゃんは言ってくれるけど、本当だろうか。
「あなたはFOLTのスタッフさんでしたよね?」
「……はい、池揉です。お久しぶりです、結束バンドの皆さん」
喜多さんに声をかけられ、思わず仕事の時の口調がでる。いや、仕事相手みたいなものだし、これで良いかな。
「当日はね〜、池揉ちゃんにも一曲やってもらうから!」
「そうなんですか!?あ、たまにライブもするって前に言ってましたよね!」
「初めて聞いたんですけど……」
「あれ〜、言ってなかったっけぇ?」
……大した説明もしてないのか、この人。呆れた目で廣井さんを見ていると、いつの間にか至近距離で山田さんが私を見ていた。
「わっ!?山田さん!?」
「一緒にライブできるの、楽しみです」
「あ、あぁ……こちらこそ」
表情を変えず、淡々とそんなことを言う山田さんに、ついついペースが崩される。そういえば、彼女は私のライブを見たことがあるんだっけ。
「リョウ、池揉さんのライブ見たことあるんだ」
「うん。すごかった」
「リョウ先輩がそこまで言うなんて!私達も負けてられませんね!」
そうして、盛り上がる結束バンド。もうヨヨコちゃんの宣言で萎縮した雰囲気も吹き飛んでいる。空気感も関係性も良好で、音楽性の違いとは無縁そうで何よりだ。なぜか後藤さんは一言も喋らないけど、あれが“ぼっちちゃん”たる所以だろうか。
「そろそろ私もおいとましますね……ヨヨコちゃんも、口ではああ言っていますけど、皆さんのことを嫌っているわけじゃないと思うので……ともかく、ライブ、一緒に盛り上げていきましょう」
そろそろ出ないと、外で待っているであろうヨヨコちゃんが痺れを切らしている頃だろうから、そう挨拶して出口へ向かう。あ、でももう一言かけておこうかな。
「──あ、でも安心してください」
結束バンドさんはライブの経験もまだ浅いし、アウェーでライブするのも初めてだろうし。
「多少失敗しても、お客さんは私がみんな盛り上げた後なので、心配する必要はありませんから」
最後にそう言って、私はスターリーを後にした。
……案の定、ヨヨコちゃんはすぐ外で待っていて、何を話していたのかと詰め寄られてしまった。
------------------
「あ〜〜、池揉ちゃん、あれで悪気はないから気にしないで……大槻ちゃんにもつい適当なこと言っちゃったし……ともかく、皆頑張ってね!」
池揉優菜が去った後のスターリーは、再び雰囲気が暗くなってしまった。
後藤さん、なんか喋りなよ〜(笑)
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A5.Interlude
最後のピース……ピアノのMIDIデータも無事一発で録り終え、ひとまずの息を入れる。まだ諸々のエフェクトを入れてみたり、楽器の音量バランスを調整したり、空間を意識してパンを動かしたりと、色々な作業があるが、どれも何年も前からこなしている慣れた作業だ。
『収録、終わったの?』
「……うん。ヨヨコちゃんはまた練習?」
0時を回り、SICK HACKや結束バンドとのライブが十数時間後にまで迫る夜。私はU7としての作業をこなしながら、ヨヨコちゃんと通話をしていた。もっとも、お互い音を出しているから、会話にならない時の方が多いけど、目的もなく、ただなんとなく繋がっている為の通話だから、それくらいでいいのだ。
『うん。いくら練習しても、足りないってことはないし』
ライブを控えた3日前あたりから、ヨヨコちゃんはいつもこうなる。緊張で眠れなくなり、その不安を誤魔化すためにひたすら練習に打ち込む。どうせ起きているならと、私が無理を言って繋いでもらっているのがこの通話だ。
「……もう、ちゃんと寝ないと本番で100%の力出せないよ?」
『……どうせ緊張で寝れないし。だったら、このまま必死に練習して、緊張したままライブして、その結果が今の私の100%の実力……優菜こそ、もう寝たら?』
「私は大丈夫だよ」
私も寝不足は人並みに辛いが、それは日常生活での話で……一度楽器を持てば、視界も思考もクリアになる……そういう身体を持っている。
『そういえば、明日使う音源もそうやって収録してるの?スタジオ借りて普通に録音すればいいのに』
「こっちの方が慣れてるし、スタジオに行かなくても家に機材はあるから……それに、ちょっとズルいかもしれないけど、後で小細工も入れやすいしね」
ヨヨコちゃんが言っている方法は、生演奏を録音してオーディオ音源を作るアナログな方法だ。対して、私がやっているのは、機械に繋いだキーボードや電子楽器で演奏し、いつどんな強弱でどんな音を出したかを記録したデータを作成する方法だ。最近のMIDI音源は凄いし、生収録のものを超えたクオリティを出せている自信がある。あと、私は一人しかいないので、生だと万が一パート1つでもズレると台無しだ。その分デジタルなら後で編集もしやすい。
『ふーん……明日、何弾くの?』
「ちょっとジャズっぽいピアノだけど、メインは私のバイオリン……みたいな。SIDEROSはいつも通り?」
『うん……って、毎回新曲の優菜がおかしいだけだから』
「あはは」
話しながら、ヨヨコちゃんの声が普段と比べて覇気がないのに気づく。……2日も寝不足なのだから、当然か。彼女なら空元気でも火事場の馬鹿力でも絞り出して明日を乗り切れるだろうが、やはり寝られるなら寝た方が良いだろう。
『……ねぇ』
「なに?」
『なんで、ライブで“U7”の名前を使わないの?』
「……それは」
私は、新宿FOLTでのライブパフォーマンスにおいて、まだU7の名前を使っていなかった。
「U7の力で集客したら、いつものお客さんがチケット取れなくなっちゃうかもしれないし……それに、ライブは売れたくてやってるわけじゃないよ」
『……優菜は、私達のライバルでしょ』
「……うん」
『じゃあ、私達と並ぶのに、U7の力は必要ないって思ってるんだ』
「……ヨヨコちゃん、私は全力でライブを……」
『バンド活動はステージの上だけじゃない。SNSや配信サービスも全力で使ってPRする……私はそうしてる。頂点を獲るために』
この点に関して、私とヨヨコちゃんのスタイルは対照的だ。彼女は順位や数字というものに、明らかに固執している。多分、そこなのだ。彼女がバンドを、音楽をする原動力がそこにあるのだろう。対して、私がライブをしているのは……たまには人前で演奏したいから。シデロスに近い場所にいたいから。ステージに立つ最高にかっこいいヨヨコちゃんに感化されたから。……いずれも、彼女のそれとは本気度が大きく違う。
『U7も含めて優菜の実力。出し惜しみなんかして欲しくない』
「……」
『だけど、分かってる……U7と今のSIDEROSじゃ、釣り合わないって……』
「……じゃあ、どうするの?」
『優菜がU7の力に頼らざるを得ないくらいに成長してみせる!それだけ、この話終わり』
「……そっか、楽しみにしてるね」
早口で言い切り、自分で完結した結論で締めるヨヨコちゃん。確かに、SIDEROSのライバルという立場なら、私のスタンスは失礼にあたるかもしれないと、少し反省する。
「ねぇ、私からも一つ聞いていい?」
『……なに?』
「結束バンドさん、上手くなってたのに……まだ気に入らない?……やっぱり廣井さん取られたから?」
『取らっ!?それだけじゃな……じゃなくて、そういうんじゃない……!』
「?それだけじゃないの?」
『あっ……』
しばし、沈黙が流れる。やがて、観念したのかヨヨコちゃんの微かな声が携帯から聞こえた。
『……優菜が』
「え、私?」
『優菜も結束バンドの方に行っちゃうんじゃないかって思うと……つい熱くなって……』
「…………わ、びっくりした」
思ってもいなかった答えを聞いて、しばしフリーズする。……普段のヨヨコちゃんなら、そういうことはこんなに素直に言ってくれないのだが……やはり、疲れているのだろうか。
ともかく、私は彼女に要らぬ心配をさせてしまったらしい。なら、その不安を解消させなければなるまい。
「……そんな心配必要ないよ。だって、約束だもん……私はヨヨコちゃんのことだけを見るから、だから──」
あの日、私がライバルになった時。いや、もっと前から私は……私の底まで照らしてくれた彼女に、心の大部分を占められている。
「ヨヨコちゃんが、私を敗かしてくれるんでしょ?」
『……うん……やく、そく……』
「…………あれ?ヨヨコちゃん……?」
途切れ途切れの返事が聞こえたかと思えば、そのまま声が聞こえなくなる。寝てしまった……いや、どうやらちゃんと眠れたようだ。
「……おやすみ、ヨヨコちゃん」
それならばと、私も眠ることにする。きっと、明日のSIDEROSはまた最高を更新するだろうと、そんなことを思いながら。
アニメ二期が来て、ヨヨコ先輩が出てきてからが本作の本領……
だと思いませんか
思いませんか……
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A6.standby(前)
「ボーカルさん、今度はボーカルください」
新宿FOLT、本番前のリハーサルで、スタッフさんにそう言われた喜多さんが、声を出そうとして、ゲホゴホと咳き込む。
「口の中カラカラになってる!」
すかさず伊地知さんのツッコミが入るが……それよりも目を引くのが。
「完熟マンゴー……?」
ステージの上、異様な存在感を放つ、やたら凝った作りのダンボールスーツ。胸の『完熟マンゴー』の文字の主張が激しい。
「ギターさんお願いします」
スタッフさんに求められ、くぐもったギターの音が鳴った。ということは、あれは後藤さんか……中々、奇抜なことをする人みたいだ。……そのあたりが廣井さんと波長が合ったのかな……?
「あっ、全体的な返し大きくしてもらっていいですか?よく聞こえなくて……」
「だから脱ぎなさい!」
やいのやいのと、ステージの上で賑やかなやりとりをする結束バンドの面々。私は微笑ましいと思うけど、隣でその光景を睨んでいる彼女にとってはそうではないらしい。
「……緊張してるね。本番までに解れるといいんだけど」
「……話にならない。数時間前にこんな調子じゃ、本番の出来もたかが知れてる」
不機嫌そうに、そう吐き捨てるヨヨコちゃん。私は身を翻すと、彼女の視界の正面に移動して、顔を覗き込んだ。
「……な、なに」
「血色良いね。よく眠れたんだ」
いつものライブ前の彼女は、エナドリ片手に緊張と寝不足で酷く険しい顔をしているのだが、今日は普通に水を飲んでいて、表情も柔らかい。
「……あ、あれは……優菜と話してたら……安心して……」
「……ふふ、私と話すだけで眠れるなら、いくらでも付き合うよ」
口にするのが余程気恥ずかしかったのか、顔を赤くして俯くヨヨコちゃん。愛らしいけど、あんまり弄るとへそを曲げちゃうから、話題を変える。
「……でも、緊張って部分なら、ヨヨコちゃんは結束バンドのこと言えないんじゃない?」
視線をステージの上に戻す。ちょうど、結束バンドがサビから演奏を始めたところだ。気持ち、走っているように感じるが……地力は前より更に上がっている。
「確かに今も緊張してるけど!……でも、私はそれを乗り越えて最高のライブをするから良いの!」
「……そうだね。ヨヨコちゃんはいつもそうだよね」
どんなライブでも、どんな大舞台でも、今と変わらず緊張するのなら。不安で眠れぬ間もがむしゃらに練習に打ち込み、緊張を飲み込んでライブに臨む。それが彼女のスタンスで……今もずっと、緊張を乗り越える練習をしている……ということなんだろう。
「すごいね、ヨヨコちゃんは……普通はできない割り切り方だと思う」
「……優菜はどうしてるの?」
「私?私は……うーん」
緊張……緊張か。初めて知らない人達の前で楽器を持ち、興味や値踏みの視線に晒され、失敗の可能性に恐怖し、言いしれぬ孤独の幻痛に足がすくんで……いや、これは前世の記憶だな……。
今世……今世で緊張……うーん。
「ない、かな……失敗するはずがないし、緊張する理由がないよ」
「……あんたね」
ヨヨコちゃんの珍獣を見るような視線は、新鮮で……少しだけぞくぞくした。
短
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A6.standby(後)
「そういえばちゃんと挨拶してなかったですよね。自分、長谷川あくびです」
「私は本城楓子です」
「内田幽々です」
ライブを目前に控えた楽屋で、SIDEROSと結束バンドのメンバーが集結していた。
「結束バンドの曲、自分は好きっす!同世代のバンドと出会う機会少ないんで仲良くしましょう!」
「こちらこそ〜……メンバーの入れ替わり激しいって聞いてたから、もっと殺伐としてるのかと思ってた」
「あ〜それは……」
「結束バンド!」
実際のSIDEROSの雰囲気に拍子抜けしたらしい伊地知さんがそう言い、あくびちゃんがメンバー入れ替わりの理由を話そうとした時、当の理由であるヨヨコちゃんがそれを遮る。
「ゲストだからってシデロスと同じ土俵に立ったと思わない方がいい。言っとくけど私のトゥイッターフォロワー数は1万人だから」
「突然急カーブして謎のマウントとってきた!」
「そのくらい人を惹きつけてるって事!幕張イベントホールと同じ」
「へー」
ふんす、と誇らしげにフォロワー数を語って胸を張るヨヨコちゃん。30分に一回はフォロワーの増減を確認して一喜一憂しているくらいに、彼女はその数字を誇っている。山田さんの微塵の興味もなさそうな相槌が酷い温度差を象徴している。
「私も、イソスタなら最近人気投稿に入ったみたいで一万五千人いるんですけど……」
「なっ!?」
「喜多ちゃん武道館じゃん!」
「〜〜っ!バンドマンなら演奏技術で勝負しなきゃだめでしょーが!」
「自分から言い始めたのに!」
誇りである数字で負けて、折り返しUターンで数字の話を流すヨヨコちゃん。
「こんな感じで大槻先輩がコミュニケーション下手なので人間関係上手くいかないだけです」
「なるほど」
「すぐ吠えちゃうわんこみたいで可愛いじゃん」
「……そう見えてるのは優菜先輩だけっす」
あんまり甘やかさないでください、と言いたげな、いつもの三割増しのジト目で私を見るあくびちゃん。でも、ヨヨコちゃんを甘やかすのは私の生きがいの一つだし……。
「池揉さんはソロの人なんだよね?シデロスとは……」
「マネージャーみたいになってますけど、元は熱心なファンですよ……自分達の、というより大槻先輩の、みたいな感じしますけど」
「ちゃんとみんなのことも追ってるよ?」
私がそう訂正すると、あくびちゃんは顔を背けて少し黙り、話題を変えた。
「……というか、先輩達二人で結束バンドのライブ行ってたんすよね……失礼がなかったらいいんですけど」
「あー……ヨヨコちゃんはピリピリしてたねぇ」
「いや池揉さんも……」
伊地知さんのジト目が私を刺す。あれ、あの日の私ってそんな目で見られるようなことしたかな……?流石にヨヨコちゃんのように真正面から喧嘩を売った覚えはないし、むしろフォローした記憶があるんだけど……。
「……あー、なるほど……」
「……無自覚なんだよね?」
「配慮がゼロか百かの人なんですよ……」
うちの先輩達が迷惑かけてほんとすみません、と言って、ぺこりと頭を下げるあくびちゃん。全然気にしてないよ、と慌てる伊地知さん。二人の間に、何故だか親近感のようなものが湧いているようにも見えた。なぜ……。
「ドーム2個分!?」
その時、ヨヨコちゃんの血を吐くような叫びが響いた。
「なになに?」
「すごいですよ〜、ぼっちさんのネットの別名義なんですって!」
ふーちゃんが見せてくれたスマホの画面には、“guitarhero”というチャンネルが映っていた。
「お〜、再生回数えぐいっすね」
あくびちゃんの言う通り、伸びているものでは相当な再生数を稼いでいた。見たところ全て普通のギターカバーをひたすら投稿しているようだが……それだけでここまで来れるのはかなり凄いこと……だと思う。私はあんまり数字に詳しくないからはっきりとは言えないけど。登録者も十万人超え……ヨヨコちゃんがダメージを受けたのはこのせいか。私の時も大分引きずってたし。
そうして画面をスクロールしていると、一つの動画で目が留まる。
「あ、一番伸びてるこれ、私の……」
「優菜先輩!そろそろ始まりますよ!トップバッターですよね?」
「あ……うん!すぐ準備するね!」
後藤さん、私の曲も弾いてるんだ。と、久々に自分の影響力の一端を感じながら、私は楽器を手に取った。
賞狙いでオリジナル書くんでさらに頻度が死にます
このまま遅延して二期まで引っ張るか……
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A7.Relief
「ふ〜」
「お疲れ様です!ゆーちゃん先輩、やっぱりすごかったです!」
「ありがとふーちゃん」
自分の演奏を終えて、楽屋に戻ってきた。ステージには入れ替わりで結束バンドが立つ。軽く準備を終えたらMCを始めるだろう。……初めての箱でのMCは大変勇気がいるだろうが、頑張ってほしい。
「敵にアドバイスして何やってんだろ私……」
ぶつぶつと、ヨヨコちゃんが何か呟いている声。見れば、ヨヨコちゃんは隅でスマホをいじりながら萎れていた。
「……どうしたの?」
「ヨヨコ先輩、結束バンドのみなさんにアドバイスしてたんすよ」
「へ〜、偉いねぇ」
「でもやっぱりぼっちさんの数字を気にしてたみたいであれっす」
「あ〜」
ヨヨコちゃんのスマホを覗いてみると、たしかに『ギターヒーロー』について色々と調べてるみたいだった。
「後藤ひとり何者?十万って……で、でも優菜はその50倍だし……」
「ヨヨコ先輩、さすがに人の数字を借りるのはどうかと思うっす」
そんなやりとりを聞きながら、私もギターヒーローの適当な動画を一本、イヤホンで聴いてみることにする。結束バンドのMCが終わるまでに、一本くらいは見られるだろう。
「上手い……」
これは確かに後藤ひとりの演奏であると、所々のクセで分かる……が、普段の彼女とはレベルが違う。初めて生で結束バンドの演奏を見た時の、あの直感……後藤ひとりは本気を出せていないという私の直感は正しかったようだ。
やがて、結束バンドの演奏が始まるので、イヤホンを外してそちらに集中する。結束バンドは着実に成長している。それはすぐに分かった……が、後藤ひとりに限って言えば……やはりまだ、ギターヒーローの姿とは程遠いと感じた。
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「「「「「メリークリスマス!」」」」」
グラスが当たる音と共に、そんな陽気な声が響き渡る。
「今日はStarryクリスマスパーティに集まって頂きありがとうございます!司会進行は伊地知と喜多が務めさせていただきます!」
「短い間ですが皆さん楽しんでくださーい!」
だが、そんな明るい雰囲気とは対照的に、私のいる場所の空気はあまりに暗かった。
「……クリスマスって誰かを弔う日でしたっけ?」
「逆のはずだけど」
伊地知さんと喜多さんが私達のテーブルを見ながらそんなことを話す。こちら側には私、ヨヨコちゃん、後藤さん、山田さんが座り、先程から一言も言葉が交わされていないくらいには空気が死んでいた。何故かポテトの減り方が異常だ。
ヨヨコちゃんは3人以上の集まりが苦手だから、無理に来なくてもよかったと思うんだけど、SIDEROSの皆が当然行く空気だったから流されちゃったんだろう。今もポテトを口に運びながらこの空気に耐えかねているように見える。こうなるんだったら、私が先に誘って二人きりになった方が良かったかも……クリスマスだし。
「……あれ?こんな所にトゥイッチが落ちてる。暇だし4人でゲームでもする?」
「いやいい」
痺れを切らしたヨヨコちゃんが、びっくりするくらいの棒読みでゲーム機を取り出し、不自然な流れで皆を誘うが、山田さんに見もせずあしらわれる。悲しすぎる……ちなみにあのゲーム機はさっき買ってきたものだ。後で私がいくらでも遊んであげよう。
「あっリョウ先輩は一人が好きな人で……あっ気にしなくて大丈夫ですよ……」
オロオロと、無言で怒りに震えるヨヨコちゃんを慣れなさそうにフォローする後藤さん。耐えかねていたのは彼女も同じだったのか、助けを求めるように私の方に俯きがちな顔を向けた。
「あっあの……池揉さん、凄いバイオリニストだったんですね……その……えと……」
「……ふふっ、ありがと」
「いや、優菜は……」
言いかけるヨヨコちゃんを手で制して、私は後藤さんの顔を覗き込む。全然目が合わないのはともかく、彼女には聞きたい事があるし、ちょうどいい機会だ。
「……ねぇひとりちゃん」
「ひゃいっ!?な……なんですか?」
「ひとりちゃんはギターヒーローなんだよね?」
……勢い余って仕事口調が剥がれたどころか名前呼びしてしまったが、まぁライブは終わったし、彼女は歳下だしセーフだろう。
「あっ……はい、で、でも私人見知りで……だからバンドだと上手く合わせられなくて……いっ今の私なんて全然ヒーローじゃないですよねすみません!」
「まだ何も言ってないけど……でも、どんどん良くなってるし、すごいじゃん。性格由来の欠点は、愚直に練習すれば治るものじゃないしね」
「……!」
私が褒めると、ニマァと表情が崩れるひとりちゃん。……若干顔の輪郭まで崩れている気がする。バンドマンとして心配になるくらいに気弱そうだけど、承認欲求が高じてバンドしてるタイプなのかな。ヨヨコちゃんみたいに。
「そっそう!演奏の出来と客の盛り上がりは関係ないから!」
そのヨヨコちゃんが、立ち上がって虹夏さんのフォローをしていた。あくびちゃんによると、結束バンドの出番前に「大丈夫!」と背中を押したらしいから、思うより盛り上がらなかったのが気まずいんだろう。
「でも本当に感謝しかないから。今の結束バンドが絶対出られないような場所でさせてもらったし……大人数の前でのライブの経験も積めたし、あとは曲数増やして練習をかさねるだけだね!」
「はい!」
「何かあるんすか?」
「未確認ライオットってフェスに出ようと思ってて……」
そんな会話を聞いて、何か考え込むヨヨコちゃん。それに流されたのか、私も昨日ヨヨコちゃんに言われたことを考える。
(『U7も含めて優菜の実力』か……)
その後も、雪まみれの廣井さんが乱入したりもしたけど、私はあまり集中できなかった。
---------
「結束バンド!」
パーティもお開きになった帰り道、ヨヨコちゃんが高らかに宣言する。
「私たちも未確認ライオット出場するから!今決めた!」
「えっ!?」
「書類選考で落ちるなんてダサい事されたくないし改善点まとめてあげたから!ありがたく読めば?」
「マネージャーですか?」
宣言したかと思えば、さっきいそいそと書き込んでいたメモを虹夏さんに渡すヨヨコちゃん。変なところでお節介なのだ。
「私ら聞いてないんすけど」
「相談はちゃんとしましょうよ!」
「あっ出ても……いいですか……?」
「イマイチ決まらない……」
そういう所で皆やめてくんですよ!、とふーちゃんに言われ、気まずそうに確認をとるヨヨコちゃん。
そんな彼女を見て、私も決めた。
結束バンドと別れた帰り道、私はおもむろに口を開く。
「ねぇヨヨコちゃん」
「なに?」
「もし未確認ライオットで、SIDEROSがグランプリ獲ったらさ」
立ち止まり、しっかりとヨヨコちゃんを見据える。息を吸って、その言葉を紡ぐ。
「U7の名前で集客して、ライブするよ」
「……っ!それって……!」
「まじすか」
それが……私とヨヨコちゃんにとって、その言葉が意味することは……私が、SIDEROSをU7の名前を含めた全力を以って挑むべきライバルだと認めるということ。
「あとボーカルも解禁するし、演奏動画とかもやってみようかな」
「結構飛ばしますね……」
そんな私の宣言に、ヨヨコちゃんは。
「なら、今から準備しておけば?なんたって……私達は絶対一番になるんだから!」
今日一番の笑顔で、そう言い切った。
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A8.RAINBOW(前)
「ふ、ふーん……さっさすが優菜ね……ま、まぁ私には及ばないけど……私には及ばないけど!」
「ありがとヨヨコちゃん」
私はヨヨコちゃんとカラオケに来ていた。いつも勝手についてきてたからか、最近はヨヨコちゃんの方から誘ってくれるようになったのは、結構な進展だと思う。まぁ、最初から私が同伴することは満更でもなかったんだろうけど、だとしてもヨヨコちゃんが素直に自分から誘うのはハードル高めなので、そういう意味ではの進展だ。
普段と違うのは、私も歌っていること。クリスマスの日、SIDEROSが未確認ライオットでフェスを獲ったら私はU7としてライブをして……ついでにボーカルを解禁するという話になったのだが、ヨヨコちゃんが「どうせ歌うことになるんだから今のうちに喉を暖めておけ」と言うので、その言葉に甘えている次第だ。
ちなみに、あの日の後SIDEROSのみんなで集まったのは初詣に行った日だ。本当ならあくびちゃんとふーちゃんと三人で行くことになりかねなかったんだけど、当初乗り気でなかった幽々も私が頼み込んだら来てくれた。ヨヨコちゃんは何故か誘われていなかった。私が呼ばなきゃまたしばらく拗ねられるところだった。
「あ、私飲み物取ってくるね。ヨヨコちゃんは何がいい?」
希望を聞いて、部屋を出る。少し混雑していたので、遅れて部屋の前まで戻る。
「たまたま優菜が席を外してただけでヒトカラじゃないから!」
「大槻さん!?」
「それを勝手に勘違いして気を使ったのかもしれないけどあの態度はないんじゃないの? 後藤ひとり!とゆうかあれだけでヒトカラ来てるって決めつけるのが失礼じゃない? 貴方私がしょっちゅうヒトカラ来てる人間だと思ってるのかもしれないけどそんなことないから! いやヒトカラを悪く言ってるわけじゃないんだけど……」
「あっ、すみません……」
「どうしたの? ……あ、ひとりちゃんに喜多ちゃんだ」
何事かと思えば、ヨヨコちゃんが一人で盛り上がってるところをひとりちゃんに見られたらしい。それだけで押し掛ける? とは思うけど、ヨヨコちゃんにとって見栄はとても大事だから……。
それから、喜多ちゃんの厚意でご一緒させてもらうことになった。基本的にSIDEROSのみんなはヨヨコちゃんのカラオケに来てくれないから、実は貴重な機会だ。
「それじゃ大槻さんもなにかどーぞ!その次は池揉さんが!」
「いいの? じゃあお言葉に甘えちゃおっか」
「気は乗らないけど……」
そう言うヨヨコちゃんは、口と顔では嫌がる素振りを見せていたが、内心乗り気なのが分かる手早さでSIDEROSの曲を入れ、機器を私に渡した。
「じゃあ私のバンドの曲でも……」
「え〜〜!カラオケに入ってるんですか!?」
カラオケの曲は、それなりの数のリクエストがあれば配信される。ちなみに今ヨヨコちゃんが入れた曲は身内に頼んで票を入れてもらって配信にこぎつけたものだ。私は言われなくても全曲に票を入れている。
「あっでもリクエスト申請したら入れてもらえるみたいですよ」
「じゃあ私達の曲も入れてもらいましょうよ!」
そんなことを考えていると、ふと気になって、手元の機器で“U7”と検索してみるが……私の曲は入っていなかった。いや、流石に登録者が500万人もいてリクエストがないなんて……あ。
「ふん!それにはたくさんの人のリクエスト票が必要だけどね」
「なら無理かしらね」
そういえばU7って、面倒で著作権関連の契約に手をつけていないんだったっけ……じゃあ、どれだけリクエストがあってもカラオケの配信はされないし、それどころか歌ってみたも弾いてみたも私が許可を出してないから違法で……ちょっと考えるのやめよう。
「……って、池揉さんどうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない……だいじょぶ……」
つい問題を先送りにしてしまったが、こういうところは私の悪い癖だと自覚はしている。音楽から外れた煩雑なことには中々手が動かないのだ。ちなみに、私は昔U7の収益が大きくなった年、一度税金関連で大やらかしをしている。
そんなことを考えていると、ヨヨコちゃんが歌い出す。いつも通り、十代トップクラスの名に恥じない素晴らしい歌唱だ。
「はい」
「大槻さん、さすがだわ〜」
「あ、そういえば次私だったね……」
渦を巻いていた思考は、マイクを持った瞬間に霧散する。才能の力で、身体が調整された感覚だ。適当に歌われている曲から選んだので、一、二度しか聴いたことがない上、男性ボーカルの曲だったが、何も問題はない。
私の音域は低音対応の6オクターブなのだから。
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A8.RAINBOW(後)
「あの……池揉さんって、バイオリンの人、ですよね……?」
「ライブだとそうだね。でも、今度ステージで歌う機会がありそうだから、軽く練習してるんだ」
「練、習……」
私が歌い終えると、なぜか二人の空気がおかしかった。喜多ちゃんの疑問に正直に答えると、前に会った時の底抜けの明るさは鳴りを潜め、俯いてしまった。横のひとりちゃんは何を言っていいのか分からないのか挙動不審だ。変な顔してる。
そんな空気を読むはずもなく、予約された曲が始まる。喜多ちゃんの番だ。ひとりちゃんは歌わないらしい。
マイクを持ってからも、喜多ちゃんの顔はどこか暗い。これは……私のせいか。
折ってしまったかもしれないと、久々に感じる罪悪感。私は、ヨヨコちゃんが見てくれる限り、もう自分を抑えることはしないと決めたとはいえ、さすがに迂闊だったかもしれない。
やがて、喜多ちゃんが歌い終わると、ヨヨコちゃんが口を開いた。
「……もしかして、今日はただ遊びに来ただけじゃないの?」
「実は練習に……」
暗い顔の喜多ちゃんが言うには、結束バンドのMVを何度も聴いているうちに、自分の声に違和感を覚えて、それで練習を重ねるべくひとりちゃんを連れてカラオケに来たらしい。
「……聞き返してるうちに違和感覚えて自信なくなっちゃって……でも何がダメなのかよく分からなくて」
「とりあえずもう少しお腹から声出したら?」
悩める喜多ちゃんに、ヨヨコちゃんは一切の遠慮なく言葉を続ける。……こういう時、ヨヨコちゃんはとりあえず現状の欠点をオブラートなしで言い放つ。無論、後でフォローも入れるつもりなのだろうが、そういうところで嘗てのバンドメンバーを失ってきたというのは否定できない。肝心のフォローも、ヨヨコちゃんなりの、が頭につくわけだし。
「あとカラオケが上手いからってレコーディングやライブも上手いとは限らない。カラオケ感覚でやってたら変なのは当然でしょ」
ヨヨコちゃんの言葉は、全て正しい。ライブとカラオケでは、喉の使い方が違うのだ。フロントマンとして、Aメロだろうがサビだろうがほとんどマックスの声量で歌わなければならない。当然、喉で声を出していてはやっていられない。あと、カラオケ気分で歌うボーカルは仲間の音を聴けていない……聴けるだけの耳を持っていないことが多い。それでは周りに合わせられずに歌声が突っ走る。まぁ、前のライブを見るところ、喜多ちゃんは合わせるのが抜群に上手いのでそこは問題ないだろうけど。
「バンドのボーカルはフロントマンだから、音程が合ってればそれでいいってわけじゃない。……まぁ、今の貴方には結束バンドのボーカルである必然性は感じられないわね。少し歌える程度じゃ……」
「……」
……まぁ、これを前置きのつもりで言っているにしても、やっぱり言い方はキツいものがある。今まさに悩んでいる喜多ちゃんには相当くるものがあるだろう。私はヨヨコちゃんのことを分かってるから全然気にしないけど、やっぱりちょっと注意した方がいいのかな。
「あっあの!!」
だが、私がやんわり口を挟もうとする前に、ひとりちゃんが立ち上がり、聞いたことのない大声を出していた。
「いっ言ってることは正しいのかもしれないけど……喜多ちゃんじゃなくていいなんて事はない……です!」
「ひとりちゃん……」
付き合いの短い私でも分かる、彼女は普通こんなことをするタイプではなく、相当勇気を出したんだろう。喜多ちゃんのために。
「私頑張るから!」
「あっはい……」
「ひとりちゃん、かっこいいところあるんだねぇ」
「そうなんですよ!」
「わっ」
なにか変なスイッチを押してしまったのか、矢継ぎ早に“カッコいいひとりちゃん”を語り始める喜多ちゃん。なんであれ、ひとりちゃんのおかげですっかり本調子だ。よかったよかった。
……それとは対照的に、ヨヨコちゃんは苦い顔をしている。あそこからアドバイスをするつもりだったのを遮られてしまったからだろう。ここはフォローしてあげよう。
「と、ともかく!喜多ちゃんはライブの経験少ないんでしょ? だったらライブ向きの声の出し方なんて知らないのも無理ないし、ヨヨコちゃんの言う通り、お腹を意識するのと、喉をもう少し開けるのを心がけて練習するのがいいと思う。それで大分変わるんじゃないかな」
「……はい! 参考になります!」
「……その優菜は初めてのボーカルで私の代役を完璧に果たしたわけだけど」
「……まぁ私のことは置いておいてね」
真っ当にアドバイスをしてみると、ヨヨコちゃんにジト目で口を挟まれ、半ば無理やり話を流す。さすがに私の話はノイズになってしまうだろう。
「……あー……私、昔から人に合わせるのが苦手で……中学の頃は浮いてて……曲作りを始めた時はその時の苛立ちとかを歌詞に込めてたの」
彼女なりのアドバイスをするのだろう、ヨヨコちゃんは辿々しく、けれど率直な思いを口にしだす。
「そういう曲って、凄く気持ちを乗せて歌えた……貴方も技術的な事だけじゃなくて、自分たちの曲がどういうものか、もう少し歌の内面的な所も考えてみたら?」
「大槻さんって優しいのね……」
「貴方達があっさり審査落ちたら姐さんが面倒なの!」
私はキライ!と突っぱねるヨヨコちゃんと、目を輝かせる喜多ちゃん。最後は素直になれなかったけど、とても良いアドバイスだ。
「結束バンドの曲って、作詞はひとりちゃんだよね?」
「えっ……あっはい……」
「よく分かりましたね!」
「なんとなくねー、じゃあ、ひとりちゃんが喜多ちゃんに歌詞の意図とか解説してあげればいいんだ」
「え゛っ」
私の言葉に、喜多ちゃんは目を輝かせてひとりちゃんに迫る。
「とってもいいアイデアね! ひとりちゃん、色んなお話聞きたいから、今週末お家に泊まらせて!」
キターン!なんて幻聴が聞こえてきそうな笑顔で、そう言った。ちなみにひとりちゃんの方はめちゃくちゃ嫌そうだった。断れないみたいだけど。
------------------
解散して、二人と別れて、ヨヨコちゃんとの帰り道。
「……良いね〜、仲間ってかんじで……結束バンド、良いバンドだね」
「……そ、それなら……わっ私と優菜も……仲間みたいなものだし……だから……」
「……私が悩んだら、元気づけてくれるの?」
私のその言葉に、ヨヨコちゃんは表情を変えて一度黙った。
「……優菜はもう、悩まないかもね」
「あの時ヨヨコちゃんに背中を押してもらったばっかりだからね……だから、次にヨヨコちゃんに勇気を貰う機会があるとしたら……」
立ち止まり、しっかりとヨヨコちゃんと向き合い、言葉を紡ぐ。まるで宣戦布告のように。
「それは、ヨヨコちゃんが私を倒してからのお楽しみだね?」
「望むところ」
駅へ向かう道のりで、私たちはそんなことを話した。
「あっ、でもヨヨコちゃんが悩んだ時は私が年中二十四時間いつでも支えになるからね!」
「よ、余計なお世話……ではないかもしれないけど……!」
余談だが、今日この後私の曲の扱いについて調べたところ、動画サイトに二次利用動画は結構あった。どうやら一度も申し立てがないからなあなあになっているらしい。とりあえず、急いでチャンネル説明のところに動画サイト内での二次利用許可の旨を追加した。これがまぁ穏便だろう、多分。正直私の下位互換の動画がどれだけ増えても気にならないし。
あ、それで著作権管理の委託……は、後でやろう、後で。そんなに急ぎではないだろう……。
長め
homete
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A9.回春(前)
4月。寒さも過ぎ去ってきた今日この頃の池袋を、一人闊歩する。今日はバイトも、人との約束もない日だ。
さすがの私も、SIDEROSのみんなといつも一緒というわけにはいかない。例えば今日なんかは、今頃スタジオで練習に励んでいるところだろう。一応は部外者である私が、邪魔をするわけには……いや、結構な頻度でお邪魔しているけど、節度というものがあるわけだ。
こういう日、私がやることと言えば、家でU7の曲を作るか、一日中楽器を触っているか……或いは、今日のようにチケットの取れそうな初見のライブハウスに赴くかの三択だろうか。
というわけで、丁度ライブの予定がある池袋のライブハウスに向かって歩いているわけだが、こうして一人で歩いていると、色々なことを考えてしまう。
例えばそう……進路とか。以前ヨヨコちゃんとあんな会話をしておきながら、私は二ヶ月ほど前までこの件についてかなり悩んでいた。
現在私は、通信制高校に在籍している。これは、一度音楽を辞める前の当時の私が、『高校進学に必要性をあまり感じないが、それはそれとして高卒という肩書きの重要性は理解している』という考えのもと、バランスをとって出した結論で、間違いだったとは思わない。
それで、二ヶ月と少しほど前の話だ。いつにも増してそわそわしたヨヨコちゃんが、不自然な流れで進路について聞いてきたり、これ見よがしに芳大のパンフレットを置いていったり。彼女らしくやはり明言はしないが、その意図は明白だ。
……正直なところ、かなり悩んだ。一度音楽から離れれば、私もただの人。受験には相応の労力が必要な上、成績優秀なヨヨコちゃんらしく、芳文大学はそれなりに良い大学だ。けれど、私には前世での貯金がある。狙えないレベルではなかった。
だからこそ悩んだのだが、結局進学を目指すことにした。U7の活動を義務として捉えるなら、忙しいと言えなくもないし、音楽以外に時間を使いたくはないのだが……それは、ヨヨコちゃんも同じなのだ。彼女が飲み込んでいる不利を、言い訳にはしたくない。
それに、私がヨヨコちゃんと同じ目線で同じ目標を見られる機会は、他にはないと思った。
いや、大学はそんな動機で目指すものじゃないとか、もし私のせいで本当に入りたかった人が落ちたらとか、そういう思いもあったが、私は既にヨヨコちゃん以外は見ないと決めた身。やりたいようにやるだけだ。
なんてことを考えていると、目的のライブハウスに到着した。
「当日券お願いします」
「本日はどのバンドを観に来られましたか?」
「特に決めてないです」
中に入れば、人はそこそこに……居るものの、少し空気に違和感を覚える。雑多、と言えばいいだろうか。とはいえ、ライブハウスの色なんか多種多様なのだから、こういうハコもあるのかと一人納得し……そこにいた見覚えのある人物に目が留まった。
「あ、STARRYの店長さん」
「無自覚傲慢彼女面娘……」
「え、それ誰のことですか?」
比較的人の少ない端の方に移動すると、何故かコソコソしているSTARRYの店長さん……伊地知星歌さんを見つけた。クリスマス以来だろうか。
「奇遇ですね。ライブとかよく見に来るんですか?」
「いや……なんだお前、知らないのか……出るんだよ、あいつ等が」
「……え、結束バンドですか?」
……未確認ライオットの予選はネット投票。知名度で劣る結束バンドは少しでも多くの箱で多くのライブをしたいところだろうから、その線か。
「聴いてください『憂愁の鐘』」
丁度、今日のトップバッターであるくたびれたスーツの男性が、自己紹介を終えて演奏を始める。内容は、哀愁漂う弾き語り。確かな実感が籠った歌詞には思わず感情を揺さぶられる。あの歳でギターを始めたと言っていたが、それにしてはかなりの才能が……って、それは良いのだが。
「……この空気で結束バンドが出るんですか?」
「……このライブハウス、方向性無視して目についたアーティストを適当に呼んだだけのブッキングするから評価悪いんだよ……虹夏には言えなかったけど」
「なるほど……」
ブッキングライブ。ライブハウス側が企画する形式のライブで、方向性が近いバンドを集めて相乗効果を狙うのが一般的だが……どうやら、ここの企画者はお世辞にも真剣とは言えないらしい。ちなみに、今のところ私はFOLT以外でライブをするつもりはないので、基本的に出演依頼は断っている。
「まぁでも、多少ハードルは上がるかもしれませんけど、別ジャンルのファンを稼げる良いチャンスじゃないですか」
「多少って……そうは言うけどな」
「空気なんて塗り替えれば良いだけじゃないですか、私いつもそうしてますよ。あ、次アイドルですよ」
「すごいなお前……色んな意味で……」
次にステージに上がったのは、メンバーが黒髪で統一された地下アイドル、天使のキューティクル。前の方に彼女達のファンらしい、はちまきを巻いた一団が息のあったコールで盛り上げている。固定ファンも多そうで、かなりレベルが高い。そもそも、オリジナルの曲がある地下アイドルは結構な上澄みだ。
やがて、天使のキューティクルがパフォーマンスを終える。
「次はロックバンドか」
「ロック聴かないしな〜……」
「このライブ何でジャンルがバラバラなの?」
次はいよいよ、結束バンドの出番だ。
「こんばんは!結束バンドですっ!」
研究結果:傲慢力が高まると感想が増える
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A9.回春(後)
「今日は来てくれてありがとう!いきなりだけど、メンバー紹介いきますっ!」
景気良くドラムを鳴らし、快活な声でMCをする虹夏さん。少なくとも傍目からは、空気感に負けているようには見えなかった。
「ベース、山田リョウ!」
続いて、リョウさんが自信に満ちた表情でベースをかき鳴らす。変わらず、高いレベルで安定した演奏だ。それも相まって彼女に見惚れている観客も多そうだ。
「先輩、ソロ演奏なんて滅多にしないから心なしか嬉しそうだわ……!」
「今日は私達の演奏で疲れた心を癒やし安らぎのひと時をお過ごしください……」
「何いってんだこいつ」
そんな観客の様子に満足したのか、リョウさんがすごい得意気な顔で何か言っている。ここはステージから遠くてマイクが入っていない声は聞こえないが……そんなリョウさんに喜多ちゃんや虹夏さんも何か言っていて、ともかく雰囲気は良好と言えるだろう。
「リードギター、後藤ひとり!」
そして次は、ひとりちゃんのギター。その音色は確かな成長を……いや、どちらかと言えば……あの時動画で見たギターヒーローの片鱗を感じさせるものだった。ソロだから、そう聞こえるのだろうか。
「ギターやばくね?」
「生粋のメタラーである俺まで痺れさせるとは一体何者……」
周りのお客さんからも、彼女の技量に対する驚きの声が上がる。そんな反応に対してひとりちゃんは……こっちに背を向けて虹夏さんの方を向いた。
「あっ……うへ……へへ……」
「客に背を向けるな!あと長い!」
……でも演奏以外のところでは、未だに残念というか何というか。
「ぼっちちゃんもういい!え〜ボーカル喜多ちゃん!」
「はーい!」
ひとりちゃんの演奏が切り上げられ、最前に立つ喜多ちゃんが軽くギターを鳴らす。さすがにひとりちゃんに比べれば見劣りする……が。
「不思議なライブだけど、これも何かの縁! 今日はみんな一緒に楽しみませんか!」
ボーカル用のマイクから響く明瞭な声と、様になった可愛らしい笑みは、喜多ちゃんの唯一無二の武器。現に、彼女のMCで前列の客中心に確実に良い空気になっていた。私やヨヨコちゃんにはできないやり方だ。
その後、ひとりちゃんが唐突に歯ギターの真似事をしてその空気を急速に冷やしたけど。あれ、私もできるけど危ないからやりたくないんだよね。
「じゃあ一曲目やりまーす」
そうして、結束バンドの演奏が始まる。以前ライブを共にしてから、四か月ほど。映像で初めて見た彼女達のライブと比べて、劇的なまでの成長だ。これなら、未確認ライオットでも通用するかもしれない。
……と、私が聴き入っていると、横でドン、と人と人がぶつかった音が耳に入ってきた。
「あっごめん……」
「げっ……ぶりっこメルヘン年齢鯖読みライター……」
「出会い頭にそんなすらすら暴言出る!?」
「いや全部事実だし……」
見れば、星歌さんと黒髪の知らない女性が軽い口論になっていた。かと思えば、次の瞬間には星歌さんがその女性にヘッドロックをキメていた。
「それはそうとお前何で来てんだよ」
「あたしは暇があればなるべく色んなライブ観るようにしてんの……」
「お前が余計な事言ったせいであいつ等気にして……」
「べっ、別に嘘は言ってないでしょ! ギターヒーローさんが才能を無駄にして結束バンドで燻ってるのもったいないじゃん」
そこまでの会話で、私はこの首に包帯のようなものを巻いた幼く見える女性の正体に見当がついた。
「あぁ、貴女が結束バンドに“ガチじゃないですよね”って言ったライターさんですか」
「って……そういうあんたはFOLTの変態バイオリンじゃない」
「え、なんですかその知られ方」
「通の間じゃ有名よ? シデロスの代役でちょっとバズった奴がソロでやるって話で集めた客を纏めて深みにはめて固定ファン獲得。とんでもないリピート率を誇る癖して、二度と同じ曲は演奏しない。その上MCは八割シデロスの宣伝だし。自分の宣伝はしてないみたいで知名度はそこまでだけど、その分濃いファンがついてるらしいわね」
「お前そんな奴だったのか……」
「そんなことになってたんですか……」
「何でお前が驚いてんだよ」
そんなこと言われても、本当に初耳だ。SNSのアカウントは一つ持っているが、それはSIDEROSのみんなの投稿を見る為だ。私はヨヨコちゃんと違って、エゴサとかはしないし。
でも、そうか……軽く考えていたけど、2回目のライブからチケットノルマを払うどころか店長さんから収益を貰えるようになったのは、その固定ファンの人たちのおかげなのか。
「まぁ、私の事は良いとして……凄いですよね、結束バンド。あなたも、ひとりちゃんの才能が無駄になっているとはもう思っていないからここに来たんですよね?」
「……この前、たまたま路上ライブ見て……それで考えが変わった。あの時はギターヒーローさんの才能に、他のメンバーがついていけなくなるって、思ってたけ……ど……」
おかしなタイミングで言葉が詰まり、何事かと顔を見ると、星歌さんと揃って同じ方を見ながら固まっていた。その視線の先には、軽薄そうな男性が何やら寝言を呟いていた。
「え〜そろそろお店以外でも会おうよ〜……いつも同伴してるのに……」
「いいライブ
「真剣に
やってんだからちゃんと見ろ!!」」
次の瞬間、二人はすごい剣幕でその男性に掴みかかっていた。どうやら、あの人が噂の不真面目なブッカーらしい。
「あのさぁ、この箱あんたが適当なブッキングするから評判散々よ?たまにいるのよね!スケジュール埋め優先でバンドのことなんて考えてないブッカー!」
「すっすみません……」
「……お前って意外と嫌味なだけのやつじゃないんだな」
「あたしはバンドに対してはいつだって真面目よ!」
と、星歌さんがライターさんを見直したように、私の中でも彼女への評価が上がっていた。バンドというものには真摯に向き合っているようだし、結果的に、結束バンドに発破をかけたのは彼女ということになる。ライターというのも、音楽好きが転じたのだろうか。
「にしてもいいドラムね……アウェーなライブの空気を一変させたわ……」
その言葉で、私も意識をステージに戻す。一皮剥けたというか、結束バンドは一段上のステージに昇ってきたと感じさせる、素晴らしい演奏だ。
「ラスト!新曲やります!『グルーミーグッドバイ』!」
---------------------------
ライブが終わり、足早に去っていくライターさんと、こっちに……星歌さんに向かって小走りでやってくる虹夏さんを見て、私も帰ることに決めた。
「それじゃ、私はこれで」
「良いのか?」
「私、偶々いただけですし」
それに、姉妹の空気に水をさすわけにもいかないということで、私は足早にライターさんを追いかけに行った。
「おねーちゃん!……あれ、池揉さんといたの?」
「あぁ……偶然な」
読み込みで俺の3巻がボロボロや
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A10.SHOCK(前)
「ライターさん」
「……なに、あんたも出てきたの?」
「私、普通に部外者ですし」
ライブハウスを出て、ライターさんに追いつき声をかける。彼女はさっさと出て行ってしまったので、追いつけるか心配だったのだが、杞憂だったか。
「で、何の用?」
「名前聞いてなかったので」
「……」
とりあえずの話題として私が名前を尋ねると、ライターさんは立ち止まり目を逸らす。
「…………ぽいずん♡やみ」
「はい?」
「ぽいずん♡やみよ!」
「……わざわざ自分で恥ずかしがるような名前で活動しなくても……」
「普段はキャラ作ってるから平気なの!でも今日は調子狂いっぱなしなんだから今更名乗らせないでよ!」
ライターさん改めぽいずんさんに理不尽にキレられた私は、夜の池袋を歩く。
---------------------------
それで。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい、以上で」
そのままの流れで、私はぽいずんさんと外食に来ていた。私も彼女も食べて帰るつもりだったので、折角だからというわけだ。
「……それで、いきなりパソコンですか」
「熱が冷めないうちに記事にするためのメモを取ってるの。早い方が良いでしょ」
「じゃあそれ、結束バンドの?」
「……悪い?」
どうやら、ぽいずんさんが熱心に書き込んでいるのは、記事のもとになる今日のライブの感想らしい。
「……負い目ですか?」
「……違う。今日のライブ、凄く良かったから取り上げるべきだと思っただけ……でも、悪かったとは思ってる」
私はクリスマス会の時、虹夏さんがぽいずんさんとの一悶着について話していたのを聞いている。『結束バンドは本気でプロを目指しているバンドにみえない』『こんなところではギターヒーローの才能が腐る』だなんて、だいたいそんな事を言っていたらしい。けど、虹夏さんはそれを図星な部分もあると言っていた。
「ぽいずんさんと結束バンドに何があったのか、概ね聞いてますけど、あの事があったから未確認ライオットのエントリーを決めたそうですよ。結果的には、プラスじゃないですか」
「……」
「それに、初めて結束バンドのライブを見た時、私も思いました。ひとりちゃんに他のメンバーは追いつけないんじゃないかって」
義理も興味もあんまりない身だったから、口には出さなかったけど。でも、ぽいずんさんには口を出す理由があったんだろう。
「ファンなんですよね? ギターヒーローの」
「……そうよ」
「だったら、より良い環境に身を置いて欲しいっていうのは間違ってないと思いますよ」
とはいえ、あのひとりちゃんが他所でやっていけるとは到底思えないけど。でも、そういう憧れの人に対しては盲目になってしまうというのもよくわかる話だ。
「……なんか、情けないわね。歳下に慰められて……」
「あれ、ぽいずんさんおいくつですか?」
「じゅうよ……な……いや、23……」
「おぉ、幼く見えるけど少し上くらいかなって思ってました」
「!……ほんと!? まだいけるわよね!」
「え、はい、そうですね」
思ってたより歳上だったけど、失礼どころか何故か喜んでいる。まぁ怒っていないなら何よりか。そこでふと、バンドに詳しい人に聞いてみたいことがあったのを思い出した。
「……ところで、ぽいずんさんは未確認ライオット、どこが優勝すると思いますか?」
「……順当に行けば、シデロスかケモノリアでしょ。この二組が東京会場なのはかなり厳しい……けど、今日のライブを見て確信した。結束バンドにも、チャンスはある……!」
「なるほど……」
第三者のぽいずんさんから見ても、変わらずSIDEROSは優勝候補らしい。それならば、私も本格的に準備を……いや、違うな。
何度間違う気だ、私は。他ならぬヨヨコちゃんが必ず優勝すると言ったのだから、私はそれを信じて行動しなければならないのだ。
「?……どうしたの? あ、あんたはシデロス推しなんだっけ。心配しなくても──」
「どんな結果になろうと、私の一番はSIDEROSですよ……ただ」
「ただ?」
逡巡の後、考えてみれば隠す理由もないなと、手元の携帯を操作しながら、言葉を続ける。
「私、ヨヨコちゃん……SIDEROSの大槻さんと、もしSIDEROSが優勝したら私はネットで活動している名前で宣伝してライブするって約束してるんです」
「へー、あんたネットで活動してたんだ。ま、今時珍しくもないか」
「これなんですけど」
「まぁギターヒーローさんレベルはそうそう──ぶッ!!???」
ぽいずんさんに掲げるように見せた私のスマホの画面には、U7のチャンネルアナリティクス。正真正銘、本人にしか見れないデータに、ぽいずんさんは凄い顔で固まる。
「あのU7が十代で、個人!?」
「声大きいですって」
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A10.SHOCK(後)
「いやいや、ありえないでしょ!だってU7の活動開始って10年くらい前……!その時あんたは」
「7歳でしたね。最初はタブレットについてたソフトで作曲してたんですよ」
「な……」
未だ信じられていないらしいぽいずんさんが、再びフリーズする。確かに、自分でも常軌を逸しているとは思うけど、本当のことだから仕方がない。
何回かさっきみたいなやり取りを繰り返した後、ぽいずんさんは何とか自身の中でU7の正体を受け止め、落ち着きを取り戻した。まぁ、そもそも確固たる証拠があるわけだし。
「……それにしても、意外ね。U7がバイオリニストだったなんて」
「私、弾けない楽器の方が少ないですよ」
「はぁ……?」
いや、まだ落ち着きは取り戻せていなかったようだ。またぽいずんさんが固まってしまった。
「……まさか、あのU7がこんなのだなんて……」
「なんかすみません」
「っていうか、あたしライターなんだけど。話して良かったの?」
「まぁ、記事になるほど大袈裟な秘密じゃないと思うので」
「そう思ってるの世界であんただけよ!」
いかにも頭が痛いという風に、こめかみを押さえるぽいずんさん。そんなに深刻な話でもないと思うのだが、気負いすぎではないだろうか。
「それで、記事にするんですか?」
「…………できないわよ」
「できない?」
私の聞き返しに答える代わりに、ぽいずんさんはスマホを操作してある画面を見せつける。そこには、『U7 正体』というワードでの検索結果が映っていて、相当な件数がヒットしていた。目立つのは過激な見出しのネット記事で……もちろん、全て心当たりがない。
「U7の正体なんてネタ、出尽くしてるの。知らないだろうけど、あんたの偽物、何度も出てきては炎上してるんだから」
「そうなんですか」
つまり、私の正体についての記事はセンセーショナルではあるものの、似たような記事が大量に存在する上、偽物だらけで読む側も食傷気味だから大した旨味がないと。
「証拠だってさっきの画面だけだし、そもそもあたし、ライターとしての信用が……あ、さっきのスクショして送ってくれたりは……」
「いや、記事にして欲しいわけじゃないので」
「だよねー……」
目に見えて落胆するぽいずんさん。「こんなネタが降ってくるならPV稼ぎのクソ記事なんて書かずにライターとして信頼を築いておくんだった……」なんて呟いている。この人、そんなに悪名高いライターだったのか。
「……はぁ、なんかさっきまでの話全部吹っ飛んだから、最初から話して欲しいんだけど」
「だから、もし未確認ライオットでSIDEROSが優勝したら、U7の名前でライブをするんです。FOLTで」
私が改めてそう言うと、ぽいずんさんは今日何度目かのフリーズに見舞われた。
「……ちょっと待って。U7の初ライブを、一介のライブハウスでやるつもりなの……?」
「そうですけど」
「ちょ、それは……チケットとかって……」
「え? いつも通りで……あ、常連さんを優先するかもしれませんね」
「あ、あたしの分も! 告知する前に買わせてくださいお願いします!」
「いや、まだやると決まったわけじゃ……」
「決まったらでいいから!」
固まったかと思えば、何か焦った様子のぽいずんさんに押され気味になる。まだやると決まったわけじゃないライブに、必死になりすぎではないだろうか。
「……っていうか、他人のフェスなんて関係なくやりなさいよ、ライブ」
「いや、これは約束なので……それに、ぽいずんさん風に言うと、私“ガチじゃない”ので」
「あんたよりガチにならなきゃいけない人間は音楽界に存在しないんだけど……?」
頭痛が増したのか、眉間を押さえていたぽいずんさんはふーっ、と息を吐くと、意を決した顔で私の方を向き、口を開いた。
「結束バンドにあんなこと言った手前、言い辛いけど……やっぱり言うべきだと思ったから言わせてもらう。……あんたは、U7はこんなところでアマチュアと遊んでいていい人じゃない。今すぐメジャーで、誰津や腱ドロを相手にしていくべきだと思う」
「……」
つまりは、ライブハウスで半ば遊びのライブをしている場合じゃなく、U7にはもっと相応しい場所があると、そういうことか。残念ながら、今の私にはその気がないというだけの話ではあるが。
けれど、ヨヨコちゃんは私がU7を含めた全てを以て活動することを望んでいる。もしSIDEROSが優勝してライブをすることになっても、まだ私はFOLTから出ようとはしないだろう。それは、ぽいずんさん的には怠慢と映るかもしれないが……やはり要らぬ心配だ。
「活動する場所は、そんなに問題じゃないと思いますよ。だって──」
私が、持てるあらゆる力を使って全力のライブをする。それならば。
「私が立つ場所が、メジャーになりますので」
「────前言撤回。やっぱあんたU7だわ」
---------------------------
「……ところで、なんであんたの曲って有名所で配信されてないの?」
「あー、なんか面倒で……必要あります?」
「あるに決まってるでしょ……じゃ、じゃあ著作権管理を委託してないのは……」
「申請しようしようとは思ってるんですけど……ついつい……」
「J◯SRACに書類送るだけでしょーが! そんな適当な理由で配信してないって知られたらあんたのファン卒倒よ!」
「えー……そんなにですか?」
「当たり前でしょ! さっきのファンとしての心情みたいな話はなんだったのよ! あんたが一番ファンのこと考えてないじゃない!」
「えー、まぁ私のことは良くないですか」
「良くないわ!」
……その後、ぽいずんさんは親身に書類やら配信・サブスクサービスへの申請を手伝ってくれた。U7の曲は多すぎてめちゃくちゃ大変だった。悪かったのでバイト代を払った。
※日本のメジャー・インディーズには明確な定義があります
沢山の評価が持病に効きました。
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【朗報】 U7曲、配信開始&サブスク解禁
1:音楽好きな匿名さん ID:hOyPKOKiL
一生待ってた
2:音楽好きな匿名さん ID:ryMAuItzr
遅くね?
3:音楽好きな匿名さん ID:WXKQUf6VC
マ?行ってくる
4:音楽好きな匿名さん ID:d6CaQo+Sb
>>2
5年くらい遅いぞ
5:音楽好きな匿名さん ID:zVZSRfMaa
U7スレ狂喜乱舞で草
6:音楽好きな匿名さん ID:/4rQo7eT3
>>4
10年なんだよなぁ
7:音楽好きな匿名さん ID:c7ztQJVXC
古参来たな
8:音楽好きな匿名さん ID:XsLhXaRR4
マジで待ってた
9:音楽好きな匿名さん ID:wvsbrECTQ
急に来たな
なんでこんなタイミングなんだろ
10:音楽好きな匿名さん ID:8FdRUG4zd
アナウンスとかあったん?
11:音楽好きな匿名さん ID:GrP10FR+Q
ないよ
12:音楽好きな匿名さん ID:Htj4q/WhH
うわ
すげー網羅されてんな
これ手続き大変だっただろ
13:音楽好きな匿名さん ID:eqFJCDdCy
>>11
じゃあなりすましでは?ついに金儲けに使おうとする奴が出たのかも
14:音楽好きな匿名さん ID:OzblGC2Ec
>>13
本人確定はしとる
15:音楽好きな匿名さん ID:umi5IpCkM
>>13
でも最新動画の説明欄にリンクあったから本人ではある
16:音楽好きな匿名さん ID:NzuyQhhkV
「配信開始しました」ってだけのやつなw
17:音楽好きな匿名さん ID:aXLBLUnpR
コメント味気なさすぎて逆にU7
18:音楽好きな匿名さん ID:Nh0us58f7
にしても、あっさり解禁したよな
19:音楽好きな匿名さん ID:htrYMcuhq
これさー当然のように全曲ランキング独占するのでは?
20:音楽好きな匿名さん ID:fBZU6Xo2u
>>18
U7のことだからなんか深い考えがあるはずだし、何があったんだろ
21:音楽好きな匿名さん ID:LSz53vuZ2
サブスク毛嫌いしてそうとか色々言われてたよなw
22:音楽好きな匿名さん ID:+wKWBntG1
>>19
んなわけ…といいたいがU7だしな……
23:音楽好きな匿名さん ID:HC/kdqa+6
ありうる
24:音楽好きな匿名さん ID:VyKilROVp
この時期、新曲出す方々に黙祷
25:音楽好きな匿名さん ID:WfLnTbCZM
カワイソス
26:音楽好きな匿名さん ID:UBKfTOcSq
カワウソ
27:音楽好きな匿名さん ID:n5eRvO1k2
それじゃあ歌番組とか企画崩壊ぢゃん
28:音楽好きな匿名さん ID:JTHtZ2TBW
今更金儲けに走るとか
見損ないました
29:音楽好きな匿名さん ID:4LUSgU52M
>>28
ファンはずっと金使わせろって言ってきたんだよなぁ
30:音楽好きな匿名さん ID:sUlDBJPnm
俺、U7が配信したら札束で殴るのが夢なんだ
31:音楽好きな匿名さん ID:xarZ1w3nc
まぁでもチームやろ?オーナー変わって方針転換とかなら嫌なんだが
32:音楽好きな匿名さん ID:FduTuYI9I
>>30
なんか動じてくれなさそう
33:音楽好きな匿名さん ID:UG2PC/nxM
ジャケは動画の一枚絵使い回しか
34:音楽好きな匿名さん ID:bgyW3jRyN
>>31
だから複数人でこの主張のなさはありえんって
35:音楽好きな匿名さん ID:wRVFa7SWl
言うほど個人ならあり得るか?
36:音楽好きな匿名さん ID:/j7Mzak6G
>>33
そういえばU7曲のイラストって絵柄コロコロ変わるよな
あんまり同じ絵師見ない
37:音楽好きな匿名さん ID:4ZF2AIrX/
早速鬼リピしてる
38:音楽好きな匿名さん ID:ARQf02jvl
基準がわからん
39:音楽好きな匿名さん ID:ADCSVcuIn
>>20
いやー案外適当なんじゃね?
結構流れでやってそう
40:音楽好きな匿名さん ID:Y7RrraN1j
U7さんは絶対何か考えがあるって
41:音楽好きな匿名さん ID:2H0EgPgvT
いつもの論争きたな
42:音楽好きな匿名さん ID:4zNnJO2bY
何もかんもU7のパーソナリティが見えないのが悪い
43:音楽好きな匿名さん ID:+FicDt9Vk
でもやっぱり本人は素知らぬ顔してそう
44:音楽好きな匿名さん ID:PYoOjulQb
>>38
俺実はイラスト提供したことあるよ
45:音楽好きな匿名さん ID:ZgR6PBQVM
>>44
まじ?どんなかんじだったん?
46:音楽好きな匿名さん ID:r6/Y6U/vD
気になる
47:音楽好きな匿名さん ID:PYoOjulQb
>>45
メールで普通に
U7だって最初わかんなくて
宣伝するからURLくださいって言ったらU7で腰抜かした
ちなみにやりとりはマジでビジネスだった
48:音楽好きな匿名さん ID:D/87N/CMj
>>47
はぇ〜
単発なん?どの曲?
49:音楽好きな匿名さん ID:pv+pM0OMi
やっぱそんな感じか
とぅいったで同じような話聞いたわ
50:音楽好きな匿名さん ID:N2VYHOSOp
結局見えない人物像
51:音楽好きな匿名さん ID:PYoOjulQb
>>48
『帷飄々』
52:音楽好きな匿名さん ID:upiQ4z+3X
あー
53:音楽好きな匿名さん ID:zHu/UPEeT
俺より上手いから誇っていいよ
54:音楽好きな匿名さん ID:WDnNZ2OPY
聴いてるとなんか神絵に見えてきたから胸張って
55:音楽好きな匿名さん ID:PYoOjulQb
>>53 >>54
キレそう
56:音楽好きな匿名さん ID:u0TWgtVYF
もうトレンド入ってんじゃん
57:音楽好きな匿名さん ID:poI6z+8JM
結構なニュースだもんなぁ
58:音楽好きな匿名さん ID:UmMvgoBNw
世界トレンドで草
59:音楽好きな匿名さん ID:g6nPCC7md
こりゃ日本のランキングどころの話じゃないかもな
60:音楽好きな匿名さん ID:GONHs+T0L
そういえば、編集は自分でやってるんかな
61:音楽好きな匿名さん ID:DbBZjAvwS
>>60
じゃない?動画師が依頼受けたって話は見たことない
62:音楽好きな匿名さん ID:+1NlHoTZz
まぁ編集は結構最低限なとこある
63:音楽好きな匿名さん ID:vAUQEDCZm
人間アピール助かる
64:音楽好きな匿名さん ID:nbEJT0w4Q
>>61
ていうかMV作らせてほしい
営業かけよっかな
65:音楽好きな匿名さん ID:h+i/8g8Eg
>>64
連絡先非公開定期
66:音楽好きな匿名さん ID:AGRWuvxB9
載せないけど、U7のアドレス自体は流出してるっていう
67:音楽好きな匿名さん ID:40/Ey2UNp
あれ返信来ないって話だったよな
68:音楽好きな匿名さん ID:SgXQ2aI+V
>>66
まじ?悪用されそ
69:音楽好きな匿名さん ID:Ycl8Urv5c
まー案件も依頼もメアド使うしな
70:音楽好きな匿名さん ID:IEuM4Bx8h
>>64
お前のような奴の多くが歯牙にも掛けられず散っていったのだ
71:音楽好きな匿名さん ID:zNrb5iR+Z
何でもいいから早くSNS初めてほしい
そういえばぽいやみ出る二次創作は大分希少ですね
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小話Ⅰ 詰められ魔王
「わぁ……」
配信での収益が加わり、なんだか今までとは桁が違う額の数字が刻まれた通帳を見て、他人事のような息が漏れる。これだけあっても、使い道がパッと浮かばないのは良いのか悪いのか。楽器やらは昔買い尽くしたのだ。そもそもこれ以上は場所がない。
「あ、優菜先輩」
「おはようみんな……あれ、ヨヨコちゃんは?」
あくびちゃんに声をかけられ、見ればそこにはSIDEROSのみんながいた……ヨヨコちゃん以外の。
「ちょうど良かったっす。ヨヨコ先輩ならこの中ですよ……面倒なんで後はよろしくっす」
「え? どういう……」
「ゆーちゃん先輩、頑張ってください!」
「ふ、ふーちゃん?」
「幽々たちわ〜外で見てますねぇ〜面白そうなので〜」
「面白い……?」
そんなことを言われながら、促されるままに扉の中へ。
そこには、スマホの画面を見つめて動かないヨヨコちゃんが、一人椅子に佇んでいた。私も、ヨヨコちゃん歴は結構長くなる。その経験からすると、今の彼女は、結構な不機嫌だ。それも、トゥイッターでリムられた?時より、若干。
「お、おはよう、ヨヨコちゃん」
「優菜……」
ご機嫌斜めなのは分かったが、その原因は見当もつかない。おそるおそる、私は彼女に向き合う形で椅子に座った。
「ねぇ」
「う、うん」
「U7の曲、配信始めたんだ」
「あ、そうだよ。なんか仲良くなったライターさんに押し切られちゃってさ、その人が親切でいっぱい作業手伝ってもらっちゃって……あれ、ヨヨコちゃん?」
……おかしい。とりあえず世間話を、と思って話したらさらに空気が冷えた気がする……。
「ゆーちゃん先輩……」
「バッドコミュニケーションってやつっす」
……聞こえてくる外野の声から推測するに、これは私が悪いらしい。
「……私もできたけど」
「え?」
「そういう手続き、私もできたんだけど!」
「あ、あー……SIDEROSは曲の配信積極的だもんね……」
これは……そうか。なんの相談もせずに配信を決め、報告も何もなかったことにご立腹なのか。ひいては、自分に頼って欲しかったってことなのかな……。
「その……ごめんね。本当に成り行きだったんだ。そうじゃなかったら、絶対にヨヨコちゃんを頼ってた…………多分」
「……優菜は私の作曲をいつも手伝ってくれるのに、私は優菜の為に何ができるんだろうっていつも思ってて……優菜は事務系が杜撰だから、そこでなら役に立てるんじゃないかって、それで……」
……ヨヨコちゃんは、そこに在るだけで私を照らしてくれているのに。役に立っていないだなんてとんでもない。私が歩けているのは、変わらず私と向き合ってくれる彼女が居てこそなのだから。でも……ヨヨコちゃんはそんな風に思っていたのか。
「あの──」
「で?」
「え?」
「そのライターって奴、どこで知り合ったの?」
「あ、あぁ……ほら、前のSIDEROSの練習の日、私が行かなかった時に結束バンドのライブで」
「私達の練習に来ないで、結束バンドのライブ……!?」
……あ。
「も〜! 今日のゆーちゃん先輩鈍いよぉ!」
「次々地雷を踏みますね……」
ま、まずい……100%正真正銘偶然なのに、言い方がまずかった! それにこの前「私が結束バンドに目移りするなんてありえない」だかなんだかそういった趣旨の話をしていた気がする!
「ねぇ……? 私だけのことを見るって、約束したはずなんだけど……?」
「ぐ、偶然! たまたま! 行ったライブに偶然結束バンドが出てたの!」
「そもそも、練習には毎回来て! 誰も優菜が居て迷惑だなんて思わないから!」
「い、いや、節度とかあるし部外者だし」
「だから! 誰も部外者だなんて思ってないから!」
……この後、あの日の出来事を洗いざらい喋らされたのだった。
誤字報告は早めに開封しよう!(二敗)
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A11.adulteration(前)
『渋谷〜』
今日はSIDEROSの練習の日。早速参加することになった私はみんなと慌ただしくスタジオに向かっていた。
「ほら! 早くしないとスタジオ遅れるよ!」
ヨヨコちゃんのそんな声に従い、渋谷駅を進もうとして、見覚えのある顔が目に留まる。それは向こうも同じだったようで、彼女は一瞬硬直した後、凄い勢いで首を180度反転させた。
「ダイナミック回避!」
首からすごい音が鳴っていた。
「後藤ひとり! なんで毎回無視するのよ、ちょっと傷つくんだけど! ちょっとだけね!」
「あっいや……」
目が合ったと思えば気づかなかったフリを敢行し、今も頑なに目線が下を向いている少女、後藤ひとり。ついこの前ステージで見たばかりだが、話すのは結構久しぶりだ。
「ぼっちさんこんな所で何してるんすか? ウチら今からスタジオ入るんで良かったらどうすか?」
「わ〜たのしそ〜来て来て〜!」
「あっはい!」
……威勢よく返事をしているが、私はひとりちゃんの顔が強張っているのを見逃さなかった。反射で返事をしてしまい、撤回しづらい空気になって後に引けないといったところか。……私もひとりちゃんの話を聞いてみたい気もするし、無理に助け舟は出さなくてもいいかな。
「ちょっと勝手に決めないで!私は嫌だからねっ」
「面白そうでいいじゃないすか〜」
「良いじゃん、私だけメンバーじゃないのも気まずいし」
「……ゆ、優菜……そんな風に思って……」
「……あ」
あくびちゃんに同調しようとしたが、乗り方が悪かった。拗ねかけのヨヨコちゃんに弁明をしている間、ひとりちゃんは居た堪れないといった風だった。
------------------
「ちょっと、時間もったいないから早く準備してよね」
「あっはい!」
スタジオに入るや否や、黙りこくってスマホのホーム画面を無意味にスライドさせていたひとりちゃんが、ヨヨコちゃんに注意される。
「えっあっじゃあギターから音出しワンツー……」
「なんで貴方が仕切ってるの!」
……見てられない。やっぱり無理に誘うべきじゃなかったのかな。顔すごいことになってるし。
「やっぱ来るの嫌でした? 無理やり呼んですいません」
同じことを思ったのか、あくびちゃんが申し訳なさそうにそう話しかける。そんなあくびちゃんにつられて申し訳なさそうな顔をしたひとりちゃんは、少し考え込んだかと思えば唐突にあくびちゃんの顔に手を当てた。え……?
「あっかわい……っ、肌……白……ぐふっ……ロインID教えて……?」
「距離の詰め方えぐいっすね……」
お、面白い子だなぁ……。
「やばい人連れてきちゃったかもっす……」
「そんな事言ったら失礼だよ!」
あれよあれよと、唐突に焦点の合わない瞳で創作の過激なナンパみたいなことをしだしたひとりちゃんに、みんなが距離をとる。
「ふーちゃん後ろに……!」
「幽々貧血なんでセッションまで休んでます〜」
「あっあっ」
そして、話し相手をなくして右往左往するひとりちゃんは、私の方にやってきた。けれども、話しかけてくるでもなく、何故かニヤニヤと作り笑いを浮かべてくるだけだ。
見かねて、先のライブについて話してみる。
「……池袋のライブ、見てたよ」
「えっあっ、そうなんですか?」
「うん。ずっと上手くなってたし、それに相応しいくらいの盛り上がりだった」
「あっありがとうございます……で、でも……」
そこで、ひとりちゃんは言い淀んだ。そういえば、駅で会った時も落ち込み気味だった……気がする。その原因には心当たりがあった。
「……中間結果?」
「あっ……そ、そうです……」
未確認ライオットのネットステージを突破できるのは、100組中30組。それを決めるネット投票において、結束バンドは48位だったのだ。ついでで確認したが、当人達は焦っているだろう。応援したいけど、当然私の票はSIDEROSに行くし……やらないけど、もし私が結束バンドに票を入れたらヨヨコちゃんが今日の比じゃないくらい拗ねそうだ。ちなみに、SIDEROSは3位。
……まぁ、その事に関しては色々な意味で私に言えることはない。
「……とにかく、今は練習しよ? ほら、ギターの準備して」
「あっはい……あれ、池揉さん……」
ギターを手に取ったひとりちゃんの目が私の手元に留まる。そして、ごく当然であろう疑問を呟いた。
「それ、ベース……」
創作の過激なナンパ(喜多のまねのつもり)
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A11.adulteration(中)
「ひとりちゃん、遠慮しないでいいからね」
「えっあっはい」
なぜ私がベースを携えているのかというひとりちゃんの疑問を「いいからいいから」と流し、二人で軽くセッションしてみることにする。こういう時、実際にやってみせるのが一番早いということを私は知っていた。
ついでに、一切遠慮は必要ない、ソロのつもりでやってくれというオプション付きで。十中八九、ひとりちゃんは人に合わせるのは苦手だろうし、ましてや初めての相手だ。下手に合わせようとすれば、彼女の良さは霞んでしまうだろう。
そして何より、私も結束バンドの後藤ひとりではなく、ギターヒーローを乗りこなしてみたかった。
「じゃ、いくよ」
演奏が始まるも、ひとりちゃんは私の言葉をそのまま受け取っていないのか、遠慮がちに私を伺う演奏をする。だけど。
「……!?」
それなら、この手で本性を引きずり出すまで。ベースは標、私が刻むリズムと共に演奏するということは、大木に身を委ねるような安心感をもたらし、自らの上達を錯覚し……やがて、調子に乗る。
「──っ!」
……これが、ギターヒーローか。正しく音に夢中になっている今のひとりちゃんは、最早私への遠慮など微塵も持ち合わせていない。それどころか、私を置いていかんばかりに突っ走る、嗜虐的な独奏状態。
上等だ。音に癖を聴き、私の方から彼女に寄り添う。今だけは、ギターヒーローの独壇場を支えるステージになってやろうではないか──
──やがて。あまりに短い合奏が終わる。
「──あっ、ごっごめんなさ」
「気持ちよかった?」
「……は、はい……」
弾き終わった後、少しの間呆けていたひとりちゃんが申し訳なさそうにそう答えた。……さっきのひとりちゃんの演奏は、それはもう暴走も良いところで、普通ならついていけないだろう。だからこそ、彼女の中のギターヒーローが見れたのだが。
「いいよ、そうなるように弾いたのは私だし。あ、リョウさんに同じこと求めちゃダメだよ?」
「わっ分かってます! ……あの、池揉さんは一体──」
「あの〜お二人とも、そろそろみんなでやらないっすか?」
「あ、ごめんごめん。ほら、ひとりちゃんも」
「はっはい」
---------------------------
「い、池揉さんって、ベースも弾けたんですね……しかもあんなに上手く……」
「ベースだけじゃないよ。ギターもドラムも、あれくらいはできるかな」
「え゛っ」
「今日ベースを持ってきてるのは、幽々に頼まれて……って、ひとりちゃん?」
「いいいいイキってすみません……」
「え?」
全体での合わせを終え、休憩をとりながらひとりちゃんとそんな話をする。あ、なんか泡吹いてる……。
「おーい、ひとりちゃーん?」
「…………はっ」
ずっと泡を吹いたままだったので少し揺すると、まるで夢から覚めるようにひとりちゃんが戻ってきた。この子、すぐ自分の世界に入るから言動に突拍子がないな……心の中は賑やかだったりするんだろうか。
「あっあの、結束バンドの為に私ができることってなんだと思いますか!?」
「え?あー……未確認ライオットのこと?」
「そ、そうです」
……ひとりちゃんとしては、ライブ審査の場に立てるかどうかの瀬戸際で居ても立っても居られないんだろう。ただ、そんな彼女の迷いに対する答えを私は持ち合わせていなかった。
「うーん……そういうのは私よりヨヨコちゃんに聞いた方が良いんじゃないかな……私、バンド活動はしたことないし」
「……あの、池揉さんってバンドやったりしないんですか……?」
「私?」
私がバンド……正直言って、さほど興味はない。なぜかと言えば、今のままで充実しているからだけど……あ、あった。もっと大きな理由が。
「自信がないんだ」
「え? ……はい?」
「結構前のことなんだけどね、私、SIDEROSと一緒にライブしたことがあるんだ。すごく楽しかった」
「? ……そうなんですか」
「だけど……それはそのライブが特別な時間だったからなんじゃないかって、つい思っちゃうんだ」
「はぁ……」
「だから、もし人とライブをやるのが当たり前になって、ふと夢から醒めてしまった時、私は──」
……バンドっていうのは、みんなの個性を重ねた音で、そのバンドだけの色を持つ音楽を作っていく……少なくとも、それが理想だと私は思っている。だけど。
「『これなら全部私で良いじゃん』って、思わない自信がない」
「───」
そう思ってしまった時、私は大切だったバンドを自分の手で壊してしまいそうで、怖いのだ。
あ、単純にSIDEROSの追っかけをしている時間の方が大事だというのももちろんある。やっぱりそっちの方が大きいかもしれない。
後藤ひとり、絶句──
お気に入り8000突破、ありがとうございます!
再三のお願いですが、私は評価を食べて生きていますので
まだの方はぜひ評価をください!
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A11.adulteration(後)
これで向こう一ヶ月は生きられます
これからも無限に評価を待っています
「ちょっと、後藤ひとり! 優菜に相談なんかするのはやめなさい、この認識についていけるのは私ぐらいなんだから」
「えっあっはい」
「え?」
何故か呆気に取られているひとりちゃんに、結構前からこっそり話を聞いていたヨヨコちゃんが声をかける。私が相談に向いていない……? ヨヨコちゃんの悩みはたくさん聞いているのに……いや、バンドの話ならヨヨコちゃんの方が適任なのはそうなんだけど。
「で、聞きたいことがあるなら私が答えるけど」
「あっじゃ、じゃあ……大槻さんはなんでフェスに出たいんですか?」
「そんなの一番になりたいからだけど?」
「何かヨヨコ先輩って、一番とか数字にいじょーにこだわるんですよ〜」
困惑気味のひとりちゃんに、横からあくびちゃんが補足する。彼女の言う通り、ヨヨコちゃんは頂点に固執していて、その欲求がヨヨコちゃんの音楽活動の源……なんだと思う。というのも、私もヨヨコちゃんにはっきりとそう聞いたわけではないし、なぜ頂点を欲するようになったのかも詳しくは知らない。いつか、教えてくれるんだろうか。
「かっ仮に優勝できなかったらどうしますか……?」
「絶対一番になるけど」
「いやかっ仮に……」
「……まぁ万が一億が一優勝できなかったら死ぬほど悔しいけど、たかが一度の挫折で一喜一憂なんてしない」
そこで、ヨヨコちゃんは一度言葉を切り、聞き入っているひとりちゃんから視線を外し、私の方を見た。
「今の私達にとっては大きなバンドになるためと……最大のライバルに勝つための、ただの通過点だし。何があっても立ち止まらない! 最後に私達が一番だったらそれでいいの!」
「何かうちら悪役みたいっす……」
「目標はビルボードチャート一位グラストシベリー・フェスティバル大トリ!」と、いつか聞いた夢を高らかに宣言するヨヨコちゃんを見て、私は一人目を閉じた。
ヨヨコちゃんは強いなぁ、と心底思う。彼女は、どんな挫折にも、その度に思いっきり悔しがり、その分だけ前に進める人だ。そんな人が、必ず私を超えると約束している。変わらず私を見据えていてくれる。こんなに幸せなことがあるだろうか。
「とか言って対バン相手の方が盛り上がってると裏で毎回泣いてるくせに〜!」
「なっ泣いてない!」
そんなやり取りと、突然ひとりちゃんが立ち上がる音で、私は目を開けた。
「あっありがとうございました!私今日はもう帰ります!」
「あっ、私もちょっと聞きたいことが……」
……そうして、どこか晴れやかな顔でひとりちゃんは帰って行った。結局、私は何の力にもなれなかったけど、ヨヨコちゃんの言葉に何かを見出せたみたいで良かった。まぁ、ヨヨコちゃんはすごいからね。
「……ところで、優菜」
「なに、ヨヨコちゃん?」
「なんで私じゃなくて後藤ひとりと最初にセッションしてたの?」
「……え」
「あ、それ今日もやるんすね」
有意義な時間だったなぁ、なんて考えながら片付けをしていたところで、ヨヨコちゃんがそんなことを言い出した。
「えっと……ちょっとギターヒーローの技量が気になって……」
「私の方が上手いけど」
「あ、そ、そうだね……でも、ヨヨコちゃんとは暇さえあればやってるし……」
「私ならもっと優菜に合わせられるけど」
……なんか、ヨヨコちゃんは結束バンドもといひとりちゃん関連だとすぐにこうなる。おそらく、これは廣井さんが結束バンドに目をかけ始めたのが遠因なわけで……うん、全部廣井さんが悪いんだ。
この後めちゃくちゃセッションした。
私はギターギーローとヨヨコ先輩の実力は互角だと思っています(根拠はヨヨコ先輩の「私に追いつきたいなら一日六時間は練習……」発言)が、どう思います?(露骨なコメ稼ぎ)
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A12.examination(前)
未確認ライオット、ライブ審査当日。
本当なら私は、前にライブで着た特製の服……SIDEROS激推しを全身で表現した衣装に身を包んで応援の準備をしているはずだった。
だが、実際には会場の準備で忙しなく動いている私の姿があった。というのも、ライブ審査は新宿FOLTで行われることになり、バイトとはいえFOLTのスタッフである私も手伝いに駆り出されているのだ。まぁ、それは全く構わないのだが。
「いげッ……おは……ッ……もッ……ぢゃ……ッ」
「…………廣井さん、店長が水を買ってくるまで待っていてくださいね」
空のパック酒に囲まれて、仰向けに倒れながら何か呻いている廣井さんを適当にあしらうことは、多分業務に含まれていないはずだ。
今日は普段FOLTに来ない人もたくさん来るだろうし、本当なら今すぐ追い出すべきなのだが、何の間違いなのかこの人もといSICK HACKは本イベントのオープニングアクト、ゲストなのだ。なぜか。
ちなみに声がカッスカスで何を言っているのか分からないのは酒やけのせいである。日常茶飯事だけど。
「水買ってきたわよ! 生き返って〜〜!」
「業務外で足引っ張られてる!」
ようやく店長さんが水を持って帰ってくると、聞き覚えのある声もそこにあった。
「あ、池揉さん! 準備お疲れ様です!」
「虹夏さん」
店長と一緒にやってきたのは、ひとりちゃん達結束バンドだった。四人揃っているのを見るのは実は久しい。
未確認ライオットのネット投票において、中間発表では当落線を下回っていた結束バンドだったが、最終順位では見事30位圏内に滑り込み、無事ライブ審査へと駒を進めていた。それに一役買ったのが、あの時ぽいずんさんが書いていた記事だという話らしい。ぽいずんさん、やっぱり良い人だよね。
「それで、なんでこの人は大事なライブの日にこんなお酒飲んでるんですか?」
「さぁ……」
「なんで運営さんはこんな人をゲストに!?」
本当になんでなんだろうか……? これならもう私が軽く演奏した方がマシなんじゃないか、なんて思っていると、水で少し喉が回復したらしい廣井さんが声を出す。
「……まだ未来のある失敗してもやり直しがきく若者達を見ていたら飲まずにはいられなくなって……」
などと、涙を流しながら語る廣井さん。まさに今若者達の邪魔をしている自覚があるのだろうか。
「やり直したい……」
「これ人選ミスでは?」
「廣井さん、早くそこどいてください」
いつまでも床に寝そべられては邪魔で仕方がないので、さっさと立って楽屋の方へ行くように促す。
「にしても普段のライブでは見ないような人もちらほらいるね……」
「主催のお偉いさんとかレーベルの人とかいてなんだか堅苦しいわよね〜。あまり意識せずやっちゃいなさいね」
忙しいながらも、店長さんは結束バンドに向き直り、エールを送る。
「ちなみにあたしも審査員の一人。身内だからってもちろん贔屓なんてしないわよ。だって、そんな事しなくても結束バンドは客を魅了できるもの持ってると思うからね」
「はい!」
そんな店長の言葉に、虹夏さんが元気よく返事をする。私も、何か言葉をかけておくべきだろうか。まぁ、店長みたいな激励を言える自信はないけど。
「……では、皆さんはあちらの楽屋の方へ。……ヨヨコちゃんが知らない人だらけで緊張していると思うので、声をかけてあげてください。それから──遅れたけど、ライブ審査進出おめでとう。今日ここに来ているバンドはどこもレベルが高いけど、結束バンドも遜色ないと思う。良いライブを見せてね?」
「っ!……うん!」
そうして、私に背を向ける結束バンド。……結局、一回もひとりちゃんと目が合わなかったな……少しは仲良くなったと思っていたのは私だけだったのか……?
「ゔぅ……若者の絆……ダメだ、もう一杯飲も……」
「廣井さん、それに口つけたら持ってるお酒全部捨てますからね」
牛歩(いつも)
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A12.examination(後)
「いいバンド揃ってるじゃん。楽しみだね」
「ね〜〜〜ッ!」
「そうですね……」
予選を勝ち抜いた指折りのバンドがリハーサルをしているのを、廣井さんと店長と眺める。こうして見ていて一際目を引いたのは、ぽいずんさんの事前評価通り『ケモノリア』。キーボード兼任のボーカルのカリスマが目を引くエレクトロロックバンドだ。
ここからファイナルステージに進めるのは、たったの二組。この場に集った選りすぐりのバンドに対して、あまりにも狭き門。それでも、ヨヨコちゃんが……SIDEROSが勝ち抜くことを、私は疑っていなかった。
根拠は、ミュージシャンとしての分析でも、才能の力でもない。ヨヨコちゃんが必ず勝つと言ったのだから、私はそれを信じるだけだ。
------------------
『全国の十代バンドからまだ見ぬ才能を発掘するこの未確認ライオット!今年も3000を超えるバンドが応募してくれたぜ!』
リハーサルも終わり、未確認ライオットのライブ審査がいよいよ始まろうとしていた。一般の客も入り、私はその対応をしつつもMCを聞いていた。
『君たちが次世代バンドの目撃者になるんだ!最後まで楽しんでいってくれ!じゃあオープニングアクトはゲスト・SICK HACK!会場を温めてくれ!』
『うぇ……二日酔いなんでエチケット袋持ちながら歌わせてもらいます……吐いたらごめん……』
……初見のお客さんも多いというのに、廣井さんは完全に平常運転だった。現に、多数の客からドン引きの声が上がっている。FOLTの評判に響いたらどうしてくれるんだろうか。
「あれ、店長と……」
「……あ」
「あ、池揉ちゃん、聞いて聞いて〜」
不意に、店長さんが誰かと話し込んでいるのが目に入り、近づいてみれば、その相手はぽいずんさんだった。
「この方、今日取材で入ってる記者さんなんだけど〜!」
「こんにちは、ぽいずんさん」
「やみって呼んでって言ったでしょ」
「あら〜、知り合い?」
「色々あって仕事を手伝ってもらったんです」
「……遅れたけど、世界チャート一位おめでとう」
「え、そんなことになってたんですか?」
「あんたねぇ……」
私の言葉に、呆れているやみさん。彼女と実際に話すのは久しぶりだが、偶に連絡を取る仲だ。ちなみに最近新しいバイトを始めたらしい。
店長さんが盛り上がっていた理由も、私にとっては既知の情報で、結束バンドのネット投票通過にやみさんの記事が大きく貢献したという話だった。
『トップバッターはキュートでポップでロック! エレクトリック・ロックバンド、ケモノリアだ!新時代を感じさせる音楽で会場を熱くさせるぜ!』
「……あ、始まった……」
ケモノリアの演奏が始まったことで、自ずと会話は中断される。何より、そうならざるを得ないほど惹き込まれる音だった。
そのままの流れで、出番は次のバンドへと移行する。二番手……即ち、ヨヨコちゃんの出番だ。
『続いては、かわいい顔で凶暴な音を鳴らすガールズバンドSIDEROS!』
「ヨヨコちゃん……」
そして、SIDEROSの演奏が始まり──会場の空気が一変した。私の心にも、この場の全員の心にも、今日の主役は誰なのかを刻みつけるような力強い、私の愛する音。
ここからではみんなの顔を見ることはできないけれど、その音からは、ヨヨコちゃんの自信と意気込み、挑戦の意志が、私に確かに届いた。
圧倒的だった。演奏を終えても、暫く喋る気も起きないほどのライブで、そして。
「あの二組が抜きんですぎてるよなぁ」
「残りは可哀想だけど消化試合だな」
そんな声が聞こえてくるほどに、圧倒的だった。この空気では、結束バンドは相当に厳しいだろう、と考えていると。
「あー結束バンドちゃんいい所に!」
店長さんがその結束バンドに声をかけた。
「この方今日取材で入ってる記者さんなんだけど〜! 結束バンドちゃん達のことをねー……」
そのまま口を挟む間もなくやみさんの紹介を始め、記事の件を話す……寸前に、やみさんが店長の首を絞めにかかった。
「とーって……もこごごご」
「何でも縛れて便利ですよねって話したんですよね!」
「突然何を!?」
そして、脱兎のように逃げ出すやみさん。彼女は結束バンドに負い目があるから、ちゃんと謝れる心の準備が整うまでは話したくないんだろう。
「あっあの人がどうしたんですか?」
「あの子ぼんらぼってサイトであなた達の事書いてくれたらしいのよ〜!」
「ぽいずんさんがあの記事を……?」
「……!」
そんなやみさんの心境を露知らず、虹夏さんにそのことを話す店長。やみさんの意には反しているだろうが、聞かされた虹夏さん達には良い刺激になったようで。
「あっまだ時間あるからギリギリまで練習しませんか?」
「そうだね!」
そうして、出番までの幾許かの猶予を練習に費やす結束バンドを見守りつつ、私は仕事に戻った。
本当ならケモノリアと絡みたいけどあまりにも情報が足りない
掘り下げられる日が来るのか……?
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A13.victory(前)
「最終ステージに進むのは……SIDEROSとケモノリアだ!全くとんでもねぇバンドが出てきたぜ! 審査員も最後まで悩んだんだがどのバンドも皆いいライブをしてくれた! 本当にありがとな!」
------------------
「ケバブください廣井さん」
「ゔぇ〜ん、池揉ちゃんが私を笑いに来たぁ〜」
「黙って仕事してください、借金減りませんよ」
泣く泣く肉を削ぐ廣井さん。この人はここ未確認ライオットファイナルステージの会場にてバイトをさせられている。全ては店長の計略であるが、全部借金を返さない廣井さんが悪い。
「あっ! ケバブ!ロックフェスといったらやっぱりお肉ですよ!」
廣井さんから肉を受け取っていると、背後からそんな聞き覚えのある声が。
「結束バンドさん」
「いらっしゃいませ〜……元気だね君ら……」
「廣井さんに池も……み……さん?」
やってきたのは、結束バンドの皆々。近づいてきたかと思えば、皆一様に私を見て固まっている。
「……な、なんですかその格好……?」
「ヨヨコちゃんの晴れ舞台だから、応援だと思って勝負服着てきました」
「池揉ちゃんねー、たまーにその格好でライブ出てるんだよー、面白いよね〜」
「えぇ……?」
今の私の服は、ライブオーディションにて 泣く泣く断念したSIDEROS宣伝衣装である。今着ないでいつ着るというのか。
「今日はこれでヨヨコちゃんの優勝を見届けたいと思っているので」
「き、気合入ってるね……」
「大槻さん……」
何故か目を逸らす喜多ちゃんと虹夏さん。ひとりちゃんとリョウさんは一歩どころか三歩くらい下がってダルそうにしていた。如何にも人混みが苦手そうな二人だ。
そのまま、廣井さんからケバブを受け取る結束バンドの面々。
「おいし〜! フェスで食べるご飯は格別美味しく感じますよね!」
「あるあるだね〜!」
「廣井さんが切ったにしては美味しい」
「……その、なんであの人あそこで働いてたんですか?」
「うちの店長がお酒で釣って働かせてるんだって」
「ゲストに呼ばれたイベントで最後はそんな扱い……」
むしろ最初にゲスト扱いだったのが異常だったのではないだろうか。いや、私個人が廣井さんに厳しいのを抜きにしても、もっと適任がいたのではないだろうか。人間的に。
「ぼそぼそする……」
「味が……濃い……」
「場の空気で美味しく感じるマジックがフェス嫌い達には効いていませんね」
「まぁ実際は微妙ってのもあるある」
廣井さんのケバブは、人混み嫌い組には不評そうだ。確かにそこまで美味なものでもないが、私は味を気にするタイプの人間じゃないし不満はない。むしろ食べられればなんでもという立場だ。
それこそ、ふーちゃんやあくびちゃんに怒られるまで私は壊滅的な食生活を送りがちだった。
『ついに未確認ライオット最終ステージ! 全国から勝ち進んだ大注目の若手バンド達が──……』
「あっ始まりますよ!」
------------------
『一組目は福岡からやってきた──』
「もっと前の方で聴きましょうよ!ほら!」
「えっ!?」
急いで肉を食べ終え、観客が集まるステージ前へ。こんな前線までひとりちゃんを連れてきて大丈夫だろうか。
「ひっカップル!」
あ、顔が溶けてる。やっぱりダメだったみたいだ。
「うわっ何か変なのいる!」
「ちょっとー!置いてかないでよ!」
そんなひとりちゃんを見て、蜘蛛の子を散らすカップル。すごいなひとりちゃん。
「ひとりちゃんって人よけに良いのかな」
「うちのぼっちちゃんを虫除けみたいに言わないでください!」
「モッシュ!モッシュ!みんな輪になって!」
そんな話をしていると、騒がしい男の人の声。モッシュとは観客同士が身体をぶつけ合う押し競饅頭のようなものだが、私はしっかり音を聞きたいし、フィジカルも強くないので遠慮願いたい。
「やりましょやりましょ!」
喜多ちゃんが乗り気だ。そのまま、ひとりちゃんもリョウさんも私もなし崩し的に巻き込まれていく。まずい、ヨヨコちゃんの番の時のために前線から離れるわけにはいかない──!
仕方がないので、ズルを使うことにする。手が空いた時を見計らって、首に下げた小さな笛をくわえる。これも歴とした楽器、私の頭が冴え、身体能力が上がる。
ズルの結果、私は喜多ちゃんと虹夏さんとは逸れずに済んだ。
しかし、ひとりちゃんとリョウさんの姿はなかった。
描写されない間にタメ語の中になったということで……
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A13.victory(後)
「フェス案外悪くない。ウェイウェイ」
「あっはい! 陽キャ最高!」
「暑さで頭やられてるよ……」
一時は行方不明になっていたひとりちゃんとリョウさんが戻ってきたかと思えば、どこでもらってきたのか星形のサングラスをつけていた。ついでにテンションも壊れている。
「まぁ合流できてよかったよ。もうSIDEROSのライブ始まるよ!」
とにかく、SIDEROSの出番に間に合って良かった。今に、舞台袖から皆が出てきたところだ。
「あっ出てきました!」
「……」
マイクに手をかけるヨヨコちゃん。心配ではなかった。ヨヨコちゃんなら、今日この舞台で必ず最高のライブをしてくれるという確信がある。だから、私はただ楽しませてもらうだけだ。
『あーSIDEROSです。観客の皆、暑い中朝からお疲れ様』
いつも通りに、彼女は緊張しているはずなのに、いつも通りにそれを客には読み取らせない。私の心を奪ったあの日よりも、一回り大きくなった大槻ヨヨコがそこにいる。
そして、そんなヨヨコちゃんの視線が、ひとりちゃんに向いた……気がする。
『……今立ってるこのステージを目指したバンドを今回たくさん見てきました。……良いバンドばかりだった、凄いギタリストにも出会った。でも、それを退けて私は今ここに立っています……それに』
一度言い切ったヨヨコちゃんは視線をずらし、今度ははっきりと、私と目を合わせた。
『このライブを、私たちの最高のライバルが見てるの。だから、ここに立てなかったみんなも、それを全部背負ってる私たちも、凄いんだってその子に見せたい!初っ端から死ぬ気でトばすから! 最後までついてきなさい!』
そうして、SIDEROSの演奏が始まる。だけど、私は少しの間それに集中できなかった。ヨヨコちゃんの言葉が頭に残っていたからだ。
ヨヨコちゃんやみんなも、ライブ審査で散ったバンドも凄かったって、分かっている。だけど、彼女が言いたいのはそういうことじゃないんだろう。私の“凄い”が、決して私自身と比べてではないことを見抜いていて、それが気に入らないんだって、そう言っているんだ。
だが、そんな思考はSIDEROSの音に押し流された。そうだ、今はただ、このライブを楽しまなければ勿体ない。
そのまま、私を含めた観客の全員が熱狂に包まれ──SIDEROSは、優勝を勝ち取った。
------------------
「はー……楽しかったー、結局SIDEROSが優勝かー」
「大槻さんのドヤ顔凄かったですね」
「ドヤ槻ね」
長く続いた未確認ライオットも終わり、虹夏さんと喜多ちゃんがそんな話をしているが、私はとても混ざる気にはなれなかった。
「フェス終わっちゃいましたね」
「……名残惜しいけど、あたし達も帰ろっか」
誰もいないステージを見つめ、涙を流すひとりちゃんにも、私は声をかけられない。
「? ぼっちちゃん、ぼーっとしてどうしたの?」
声をかける役割は私のものじゃない、というのもあったけど、一番はこれからのこと。
「帰る準備するよっ……!」
ヨヨコちゃんは優勝した。私は約束通り、全力でU7としてのライブに臨まなくてはならない。
「ぼっちちゃん!?」
「あっ」
「えっ、大丈夫!?」
「どこか痛いの!?」
「あっ、やっやっぱり……悔しくて……」
嗚咽を漏らすひとりちゃんに、思わず視線が吸い寄せられる。
「みっ皆で今日……大きいステージに、たっ立ちたかったです……もっと……たくさんの人に……結束バンドの曲……聞いてほしかった!」
「誰かに力を認めてもらうとか……そういう事より……もっと」
「……やめてよ」
そんなひとりちゃんに釣られたのか、次々涙ぐむ結束バンドの面々。
「私だって……皆と今日、ライブしたかったよ……」
「伊地知先輩……」
「がっ我慢……してたのにー……」
悔しさを噛み締める四人を、眩しいような気持ちで見やる。私は今、これからさらに大きくなっていくバンドの姿を見ている。それに比べて、私はいつまで立ち止まっているのだろうか。
進まなければならない。応えなければならない。示さなければならない。本当のライバルになるために。
「ちょっと!!」
「!?」
そこに、そんな空気を吹き飛ばす声が響いた。見れば、ライブ審査以来に見るやみさんの姿があった。
「えっ、ぽいずんさんなんでここに……」
「ぜっ、絶対来てると思ったから探し……て……」
言いかけたやみさんの視線が、スライドして横にいた私と目が合う。私を見るや否や、固まったやみさんに今は話を続けるように目線で促す。
「……ぽいずんさん?」
「あ……ど、どうしても、言いたいことがあって…………ごめんなさい。ギターヒーロー以外お遊びって発言、撤回するわ」
そう言って、頭を下げるやみさん。彼女はずっとこのことを気にしていたから、ようやく勇気を出せたといったところだろうか。結束バンドの皆もやみさんの記事のことを聞いているから、もう気にしてないだろうけど。
「ライブ審査の演奏を見て分かったの。ギターヒーローさんの居場所は結束バンドじゃなきゃダメだって……あの時、私にとっては結束バンドが一番だったから。……それだけ」
「追い打ちかけないでくださいよー!」
「ええ!?」
感極まって泣き出す虹夏さんに、またやらかしてしまったかとあたふたするやみさん。そこへ、やみさんの傍らから見知らぬ女性が声をかける。
「あの……お取り込み中悪いんですが、そろそろいいですか」
「そっそうだ! 今日会いたかったのはもう一つあって、この方を紹介したかったからなの」
「ストレイビートというレーベルでマネジメントをしています、司馬都と申します」
久々に見る気がするしっかりとした大人といった印象の女性は、そう自己紹介をした。ライブ審査で爪痕を残したバンドにレーベルの人間が声をかける。これは……もしかしなくても、そういうことだろう。
「レ……レーベル?」
「はい。先日のライブを観て気になったのでお話できたらと思ったのですが」
「え…………」
レーベルからの誘い。これは、素直に祝福だ。レコードレーベルと契約して、そこから楽曲をリリースする。その域に至れるバンドは、一握りで、本物の証だ。私にも、そういう誘いは来たことがない。いや、ソロのヴァイオリニストと契約したがるところなんてそうそうないからなんだろうけど。U7としては……もうしばらくメールボックス開いてないから分かんないや。怖くて今更見られない。
「レーベル〜〜〜!?」
「ちょっとうるさい!」
「あのまだ話が……」
「にっ虹夏ちゃん! また夢に近づきましたね……」
「ぼっちちゃん……」
「いつか必ずフェスのステージに……いやロック音ジャポン出場だー!」
「おーっ!」
「Nステも出れちゃったり!?」
「冠番組も遅くないですかね!?」
先程までとは打って変わって、朗報にはしゃぐ結束バンド。意図せず彼女達の転機を目撃することになったわけだが、そろそろお暇させてもらおう。今すぐ準備をしたい気分だ。
「……結束バンドさん。レーベル契約おめでとう」
「池揉さん! ありがとう!」
「私にできることがあれば、微力だけど手伝うから……じゃあ、私はもう帰ろうかな」
「あれ? 大槻さんのところに行かなくても良いんですか?」
「今すぐ準備しないといけないことがあるから……ヨヨコちゃんも、私がそうすることを望んでいると思う」
当然、よく分かっていないという顔をする虹夏さんに軽く手を振り、この場を立ち去る……前に、私はやみさんの前で立ち止まった。
「……な、なに?」
「やみさん。約束なので……チケット、必ず用意しますね」
もう一歩距離を詰め、やみさんの幼く見える顔を覗き込む。やみさんの、息を呑む音が聞こえた。
「本気のU7を、やみさんに見てほしい」
まだここにいるみんなにはU7のことを話していないから、やみさんの耳元でそう囁く。
「っ〜〜!」
「後悔はさせません。むしろ、やみさんの一番を奪ってしまったら、ごめんなさい」
それだけ言って、顔を赤くしたやみさんを尻目に私はこの場を後にした。
---------------------------
「……ちょ、調子乗んな……っ!」
「……彼女は?」
「こ、今度説明する……!」
「……池揉さん、よくあの格好でかっこいいこと言えますね……」
「よくわかんないけど様になってたのが逆に凄いと思う……」
---------------------------
(あ、あれ? 優菜は……?)
「あ、なんか優菜先輩から先に帰るって連絡来てるっすね」
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【速報】 U7、初ライブ決定
1:音楽好きな匿名さん ID:N+Ig/uIP4
?????
2:音楽好きな匿名さん ID:vbKMpu7kz
ソースは?
3:音楽好きな匿名さん ID:0FxOFDv61
新曲の概要欄見ろ
4:音楽好きな匿名さん ID:f2vEg6YXG
素人が……通は必ず概要欄を確認するというのに……
5:音楽好きな匿名さん ID:paLjgTyvh
SNSの公式アカウントがない弊害だよな
6:音楽好きな匿名さん ID:WtyIvBi4z
>>4
U7が情報発信する場所がそこしかないだけなんだよなぁ
7:音楽好きな匿名さん ID:soMMs/xle
初ライブさらっとしすぎで草
8:音楽好きな匿名さん ID:9pwGzRw8W
これマジ?意地でも行かなくては……
9:音楽好きな匿名さん ID:ow/1B4YI6
新宿……東京かー……
10:音楽好きな匿名さん ID:XNdFbKj/q
新宿FOLTってどこだよ
11:音楽好きな匿名さん ID:utDIXZ9Ds
調べたらライブハウスだった。いや収容人数……
12:音楽好きな匿名さん ID:eyjLKnswF
ほう…開催場所はライブハウスですか…大したものですね…
13:音楽好きな匿名さん ID:Tz9objtGN
は???
14:音楽好きな匿名さん ID:gmWzYySbq
>>10
優良ライブハウスだぞ
15:音楽好きな匿名さん ID:GOMls7MTB
こーれ普通の手段じゃチケット入手無理だろ
16:音楽好きな匿名さん ID:eooghw5kl
こんなん転売ヤーがチケット買い占めて終わりジャン
17:音楽好きな匿名さん ID:ozOnMC/rt
報告スレ待ってるわ
18:音楽好きな匿名さん ID:8BP38NqIX
チケット争奪大乱闘発生不可避
19:音楽好きな匿名さん ID:Pb5T+Yf0t
これは血を見ることになりますね……
20:音楽好きな匿名さん ID:EVjAPrE9t
一般ライブハウスでライブするってマジ?
21:音楽好きな匿名さん ID:BfSanZ107
>>14
経験者か? kwsk
22:音楽好きな匿名さん ID:uHGEwcEVY
>>16
夜道に気をつけろルート突入
むしろ俺が襲撃する
23:音楽好きな匿名さん ID:R0/SnajwS
どれほどの量のファンがいるのかご自覚なし??
24:音楽好きな匿名さん ID:5ME/c0TYJ
初ライブがそれでええんかU7
25:音楽好きな匿名さん ID:D8alIQ5mx
>>5
なんかSNSバカにしてそう
26:音楽好きな匿名さん ID:gmWzYySbq
>>21
レベル高いバンドも拠点にしてる
名物店長とか雰囲気も好きで良いライブハウスや
ちなみにミーハーが沢山来そうで古参ワイは顔を顰めている
27:音楽好きな匿名さん ID:S39EoX2Eg
>>23
実際興味なさそう
28:音楽好きな匿名さん ID:Oacc8PGLu
悪いことは言わないから今すぐドームのスケジュール取らないか?
29:音楽好きな匿名さん ID:109mx27c6
>>26
あそこ拠点って言ったらSICK HACKか?
あとこの前十代フェスで優勝してたSIDEROSか
30:音楽好きな匿名さん ID:xQB7sS2nk
>>15
う、ウワァ……
泣いちゃった…!!
31:音楽好きな匿名さん ID:HvR9PeppN
人間辞めてライブの空気になりたい……
32:音楽好きな匿名さん ID:XFsE7O5GD
>>29
まじで知らん
33:音楽好きな匿名さん ID:g5gAAj+x0
U7はそういうことする
34:音楽好きな匿名さん ID:6JvlPXBQe
武道館1人で行けるレベルの人間がライブハウスで初ライブ開催#とは
35:音楽好きな匿名さん ID:OLSPuHmkP
>>5
仮にアカウントできたとして業務連絡だけになりそうだよな、この分だと
36:音楽好きな匿名さん ID:bTAT1N9Ds
>>32
しゃーなし普通はそんなもん
試しにこのSICK HACKのライブ映像を見てみなさい
めちゃくちゃ万人受けするからきっと気にいるよ
https:/ohtu.be/*********
37:音楽好きな匿名さん ID:kx4B91Q/f
今来たが……初ライブ……?
38:音楽好きな匿名さん ID:MgoADgLhH
>>36
こいつさぁ
39:音楽好きな匿名さん ID:u9IL6bccK
>>37
U7初ライブ
場所:ライブハウス
人死ぬ
40:音楽好きな匿名さん ID:bacTnCFTX
>>35
充分定期
41:音楽好きな匿名さん ID:vVoeJ0Uy5
うーんU7はやらかしてる自覚無さそう
42:音楽好きな匿名さん ID:DctW3Is4X
>>36
言い回しが嫌な予感しかしないんですが
43:音楽好きな匿名さん ID:fsH+cOw6O
あれでは?気づけた人間の早い者勝ちみたいになるから大きく宣伝してないのでは?
44:音楽好きな匿名さん ID:5Ul2nPPLP
もう拡散されまくってて無意味だぞ
45:音楽好きな匿名さん ID:+N2yoqd0z
普通のライブハウスで何すんの?DJ的な?
46:音楽好きな匿名さん ID:CbfF/bTxp
そらもう演奏やろ
47:音楽好きな匿名さん ID:iHanpDrls
演奏もできるのか……
48:音楽好きな匿名さん ID:PlT3Q0B1T
>>41
悲しき作曲マシーンだからファンの事情とか興味ないんや……
49:音楽好きな匿名さん ID:SnjrXQ8Ln
>>47
明らかに生音源使ってるみたいな曲の時もクレジットにU7以外の名前なかったし、多分本人
つまり演奏、余裕です
50:音楽好きな匿名さん ID:jESkJCSak
えぇ……
51:音楽好きな匿名さん ID:nCqk7jns3
楽器弾ける作曲家は別に珍しいもんでもないから……
52:音楽好きな匿名さん ID:SI4Q8KKzK
>>51
おかしいのは生音源疑惑の楽器が累計10種類以上なことだぞ
ってU7スレ民が言ってた
53:音楽好きな匿名さん ID:ucSo6ESvn
うせやろ? 流石に協力者いるだろ
54:音楽好きな匿名さん ID:CbDOGYVwe
名前も出さずに? 提供されてるのに名前だしてないってこと?
55:音楽好きな匿名さん ID:wAXEhF+2H
普通に全部自分で収録してるんやぞ
56:音楽好きな匿名さん ID:0OELKSoIn
>>53>>54
つっても名乗り出てるやついないしなぁ……協力者は無理筋じゃね?
57:音楽好きな匿名さん ID:5fozjZspI
だからU7はグループなんだって
58:音楽好きな匿名さん ID:NTBk/WRiL
まー複数人なら筋が通ることも多いが……
59:音楽好きな匿名さん ID:NfaEIOoe7
>>57
ありそうなのはこれだが、U7ならいくらでも楽器弾けるだろという謎の確信がある
60:音楽好きな匿名さん ID:2/rdbrhS7
わかる
61:音楽好きな匿名さん ID:fIaj5OGK7
てゆーか普通のライブハウスってことは顔出しってこと?ま?
62:音楽好きな匿名さん ID:8ZwBmVA2v
>>59
なんなら自分で歌えそう
63:音楽好きな匿名さん ID:C4Kob6VY0
>>61
気づくのが遅いぞ
64:音楽好きな匿名さん ID:lqfI0sVwC
>>62
盛りすぎだろ
65:音楽好きな匿名さん ID:w+g0RP3Si
>>36
ボーカル頭おかしくて草
楽しそう(行きたいとは言っていない)
66:音楽好きな匿名さん ID:s1JucrxbS
>>63
怖くなってきたわ
67:音楽好きな匿名さん ID:J85u/Hudy
>>64
自分で歌い出すPもまた多いという事実……
68:音楽好きな匿名さん ID:PG792BNIA
答えは現地民のみぞ知る
69:音楽好きな匿名さん ID:WJkrNoLd6
それより顔出しの話しようぜ
70:音楽好きな匿名さん ID:zOfXDRBCq
なんかお面とかしてそうだけど
・
・
・
・
・
・
・
500:音楽好きな匿名さん ID:l84Dqhaxo
このスレのU7
・必ず誰かしらに刺さるあらゆるジャンルの曲を高クオリティかつ意味のわからない頻度で投稿、配信解禁で即世界一
・最低でも楽器10種以上を弾きこなす
・なんなら自分で歌った方がクオリティ高い
・美少女
君たちさぁ……妄想逞しすぎないかい?
ついにU7のライブがと思ったか……全然引っ張ります
皆様の評価の甲斐あって、念願のぼざろ総合一位達成しました。ありがとうございます!
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Sd.STARRY
「みんらぁ〜」
「げ」
下北沢にの一画に位置するライブハウス、STARRYにいつものように招かれざる客の声が響く。当然の如く準備中の出来事である。
「お前また来たのかよ。仕事の邪魔だ、帰れ」
「せんぱーい、実は良いもの持ってきたんれすよ〜」
「聞けよ」
酒瓶を持ちながらずかずかと店に入ってきた客の名は廣井きくり。誰も歓迎していない上に、現在進行形でSTARRYのイメージダウンの元凶となっている彼女を、いつもの通り店長である伊地知星歌が追い払おうとする。
そんな星歌をのらりくらりとかわし、廣井きくりは懐からあるものを取り出した。
「じゃじゃ〜ん!」
「廣井さん、なんですかそれ……ライブのチケット?」
廣井きくりが取り出したのは、ライブのチケット。それも、今話題となっているライブのもの。それに気づいた伊地知虹夏が声を上げる。
「ってこれ、U7さんのライブじゃないですか! 良いんですか!?」
「池揉ちゃんがね〜、良かったらどうぞって。私はおつかい」
「池揉さんが……?」
あのU7が新宿FOLTでライブをする。それはもちろん知っていたが、何故そこで池揉優菜の名前が出てくるのか、虹夏は合点がいかなかった。そこへ、同じくシフトに入っていた結束バンドのメンバー達が、声を聞きつけ集まってきた。
「伊地知先輩、どうしたんですか?」
「廣井さんがU7さんのライブのチケットをくれるっていうんだけど、池揉さんが……」
「あれ〜、池揉ちゃん言ってなかったの? ……実はね〜、U7って池揉ちゃんのネットでの活動名なんだって〜、びっくりだよね〜」
「え──」
ここにいる全員が、廣井の言葉を咀嚼するのにかなりの時間がかかった。必然、この場に静寂が訪れる。沈黙を破ったのは、虹夏だった。
「そっ、それって! 池揉さんがU7ってことですか!?」
「そうだよ〜? そのライブの準備で銀ちゃんも大忙しで私追い出されちゃったの、しばらくここに居させて〜!」
「家に帰れよ」
星歌と問答する廣井を他所に、結束バンドのメンバー達はU7の正体について、各々考えていた。
「U7って、私でも聞いたことありますよ! それが、池揉さん……」
「だからFOLTでやるんだ……」
「でも、何か安心しました。普通の人じゃなくて」
「ま、まぁ所々でオーラが出てた気も……」
「それもあるんですけど……それだけじゃないんです。以前、池揉さんとカラオケに行く機会があって……池揉さん、信じられないくらい上手くて、ちょっと自信なくなったことがあったんですけど……なんか、凄い人で安心したっていうか……」
「そんなことがあったんだ……」
ゆっくりと心境を語る喜多郁代。
「にしても、池揉さん歌も歌えたんだ。じゃあ、U7のライブもいつものバイオリンじゃないのかな」
「あの……」
「ぼっちちゃん?」
ライブの内容についての疑問を口にする虹夏に、今まで黙り込んでいた後藤ひとりが口を開く。
「この前……SIDEROSのスタジオ練習に混ぜてもらって……その、その時の池揉さんはベースを弾いていたんです」
「えっ、じゃあベースもできるってこと?」
「い、いえ……その、ギターもドラムも同じくらい完璧に弾けるって、池揉さんはそう言ってたんです……」
「そ、それは流石に……」
「でもU7なんだよね……?」
後藤ひとりからの新情報で、さらに謎が深まる。U7のライブについて、更に興味が湧いた中、一人ずっとスマホを忙しなく弄っていた山田リョウが口を開く。
「に、虹夏。このチケット50倍に高騰してる、売ろう!」
「ダメに決まってんでしょーが!」
そんなやりとりを聞きながら、後藤ひとりは目を閉じて、再び『U7の正体が池揉優菜』という事実を噛み締める。
後藤ひとりに……ギターヒーローにとって、U7とその楽曲は思い出深いものだった。初めは流行っているからという理由で、ロックでもバンドでもないU7の曲の弾いてみたに手を出した。だが、U7の多彩な曲の中には後藤ひとりの嗜好に完璧に合致するものもあり、その曲に辿り着いた後藤ひとりは早速最大限に気合を入れて弾いてみたにのぞみ、その動画は未だにギターヒーローのチャンネルの中で最も再生数が多い。
そんなU7が、こんなにも近くにいた。その事実に、後藤ひとりは奇妙な縁を感じざるをえなかった。
──これでぼっちの出番は終わりだと言ったら、君は信じるか──
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A14.preparation
「お疲れ様です、優菜先輩」
「あ、あくびちゃん!」
U7としての、初のソロライブ。その日程が決まって告知も終え、今はその日に向けての調整の最中だ。無事決定するまでには紆余曲折……主に店長と色々あったが、『FOLTに恩返ししたい』と言ったらFOLTでのライブを了承してくれた。
まぁ、U7として宣伝すると言っても、U7のSNSアカウントがあるわけではないし、いつも通り概要欄で告知しただけだ。これなら、収容人数を超過した人数が押しかけたりもしないだろう。
「調子はどうっすか?」
「もうセットリストは決まったから、いつも通りやるだけかな」
肝心のライブ内容は、我ながらかなり挑戦的だ。ボーカルもやるが、それも半分ほど。折角ならば様々な楽器を弾きたいと、色々と準備をしている。その方が、よりU7を表現できると思ったのだ。
「ゆーちゃん先輩、これなんですか?」
「電気三味線だよ、ふーちゃん」
「どんなライブするつもりなんすか……」
あくびちゃんと話しているうちに、遅れてやってきていたふーちゃんが置いてあった楽器の一つについて聞いてきた。家から持参してきたこの電気三味線も、当然ライブで使うつもりだからここにある。
「……にしても、本当に良いんですか? 頼んでくれれば自分ら、バックバンドやれますけど」
「そうですよ! U7の初ライブなんですから、私達も力になりたいです!」
バックバンド。サポートメンバー。後ろで生演奏をしてくれる、ソロのアーティストが一定以上の規模でライブをするなら必須とも言える鍵。彼女達ほどの実力者がそれを買って出てくれるのなら、これほどありがたい話はない。けれど。
「……ありがとう。気持ちは嬉しいけど……やっぱり、みんなには真正面から私を観ていて欲しいな」
SIDEROSのみんなは、このライブを一番に届けたい相手。だからこそ、後ろではなく正面からライブを観てほしいのだ。オケ音源は私が予め用意したものを流すいつものスタイルになってしまうが、それだけのことでU7は霞まない。
「ほんと、大した自信よね」
「ヨヨコちゃん!」
呆れながら褒めているといった風な声に振り返ると、そこには穏やかな面持ちのヨヨコちゃんがいた。
「調子はどう? ……って、聞くまでもないか。優菜、前にライブで失敗するはずがないって言ってたし」
「え、そんなこと言ってたんすか」
「あれ、そんなこと言ったんだっけ……」
「言った。私、ライバルの言葉は聞き逃さないから」
言ったんだっけ……いや、言ったような気がする。そんな、私にとっては何気ない言葉をヨヨコちゃんは覚えてくれている。私が彼女の言葉を聞き逃さないのと同じように。……ライバルだから。
……ライバル。ヨヨコちゃんは私との関係をそう定義するけれど、私はまだ本当の意味で彼女とライバルになれていないと思っている。私の方はまだ、本気でぶつかっていないから。
だから、このライブで、U7を見てもらうんだ。
「ヨヨコちゃん」
「なに?」
「ライブ、楽しみにしててね。もしかしたら、私をライバルに選んだこと、後悔しちゃうかもだけど──」
「優菜」
私の言葉を遮って、ヨヨコちゃんが正面から私を見据える。
「それだけは、ありえないから」
「っ……そ、そっか」
ヨヨコちゃんの瞳に、リズムを崩されてちょっと間の抜けた私の顔が映る。ちょうど、この前やみさんに囁いた時のような気分だったのが、思わぬ反撃で面食らってしまった。
「それより、そんなに余裕そうなら時間はあるんでしょ?」
「え? うん……あるけど」
「そう……幽々」
「ひゃっ!? ゆ、幽々!?」
ヨヨコちゃんが名前を呼んだや否や、さっきから姿が見えないと思っていたSIDEROS最後のメンバー、内田幽々が背後から抱きついてきた。
「えっ……な、なに?」
「優菜貴女……U7の初ライブなのに、まさかいつもの適当な衣装でステージに立つつもりじゃないでしょうね?」
「え、あー……さすがにみんなの宣伝服は着ないよ?」
「それ、ほぼ普段着みたいな服の方で出るつもりだったってことじゃないっすか」
「アーティスト名乗るならビジュアル面も気にしなさい! 私のライバルでしょ! 幽々、採寸!」
「はぁい。せんぱぁ〜い、動かないでくださいね〜」
「えっ、え!? 幽々が衣装作ってくれるの!?」
SIDEROSのステージ衣装を作っているのは幽々だ。そんな彼女の腕なら間違いはない。が、流石に悪い。
返上しようとしたが、二人はどうしても譲らないみたいだし……幽々の衣装を着れるのは嬉しかったから、私はそれを素直に受け入れることにしたのだった。
プルヒッターばりの引っ張り
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A15.highlight / Sd.大槻ヨヨコⅡ
ステージに立てば、数多の懐疑の目線が降りかかる。この懐疑は……おそらく、U7のライブと聞いて来て、出てきたのが私のような小娘だったからだろう。最初にやみさんに明かした時の反応を見るに、世間はU7に私とはかけ離れた像を抱いているらしいし。
「どうも、U7です」
明るく照らされたステージとは対照的な暗闇に、幾つものどよめきが起こる。これは……この空気は、人によっては精神的にかなりキツイものがあるかもしれない。私は気にならないけど。元々『お客さんのことを考えてライブ!』なんてタイプじゃないのもあるけど、何より──どうせ彼らは一小節目で掌を返すのだから。
ざわめきを断ち切るように、手元のギターの弦を軽く弾く。
「今日のために、U7を最大限に魅せられる最高のセットリストを時間ギリギリまで用意しているので──」
“音楽の才能”に、MCの技術は含まれていなかった。だけれど、それを惜しむことはない。私が聴かせたいのは、御託なんかじゃないから。
「どうか最後まで、耳を逸らさずに」
そこまで言って、スタッフさん達に合図。最初の曲は──この中の何人が知っているだろうか、私の最初の活動である配布BGMのバンドアレンジメドレー。これらの曲のDL数は相当なもの。ということはつまり、それだけ色々な場所で使われているはず。例え私の曲だとは知らずとも、知名度はあると踏んでいたが、どうやら正解だったらしい。声を抑えるよう努める観客の漏れ出るような歓声がそれを証明している。とはいえ、選曲の第一の理由は結局私が楽しく弾けるかどうかなんだけど。
足元に並べられたエフェクターの一つを素早く操作して音色を変えながら、思考を次に回す。次の曲は私にとって思い出深い、初めて合成音声を使った曲……世間的には、U7の名を知らしめる一助となった楽曲。必然、ボーカル曲にシームレスに突入することになる。そんなことをノンストップで三時間続けるわけだが、体力的に問題ないことは実証済み。ステージに立った私は常に絶好調だ。
そんな思考の後、いよいよボーカルへ。ライブで喉を使うのは、あの日ヨヨコちゃんの代役を買って出たあの日以来。ヨヨコちゃんの顔色ばかりに気を取られていたその時とは違う。今日は堂々と、胸を張ってライバルの姿を見せられる。彼女を見据えることができる。そしてやはり、思う存分歌うのは気分が良い。
歌い、弾きながら、一瞬視線を横にずらす。次の楽器の位置の再確認だ。私の立つステージには、手の届く場所に色々な楽器が立て掛けられている。当然全て自前だが、色々弾けた方が私が楽しめるから用意した。次に手に取るのは電気三味線。和ロック調で使う。選出の時に思ったが、手で持てて口を塞がずアンプを使える楽器となると案外選択肢がないものだ。
視界に入る最前列の客が、惚けた顔に眼だけを輝かせて私を見ていた。まだ二曲目なのに、きみ。そんなんじゃ、最後まで持たないよ?
歌い終え、一時的にスポットライトが消える。スピーカーからアウトロの音源が流れているうちに、素早く楽器の持ち替え。
……ふふ。
再び私を照らすスポットライトの熱さの、なんと心地の良いことか!
ああ、楽しい、楽しい! こんなに楽しいのは、あの子が見てくれているから!
今の私を見て、他の誰が折れようと構わない! ただ、大槻ヨヨコに見てほしい! U7を、君の最強のライバルを!
---------------------------
言葉がなかった。よく知っていたはずの彼女が支配するこの場所が、慣れ親しんだ私達の
アンコール前の最後の曲。慣れ親しんだバイオリンを弾くあの子に見惚れて、そして──理解した。私の焦がれる一番は、あそこにある。
その差を、無情なほどに叩きつける彼女はどこまでも楽しそうで──その姿こそ、私が望んだもの。何の遠慮もなくぶつかってくる彼女は、最高の形で私に応えてくれている。
そんな姿を、こんなライブを見せられて、私の中に燻る思いがあった。
「──あくび、楓子、幽々」
「……なんですか?」
「その……」
言い淀んだ私の手を楓子が掴む。
「楓子……」
「ヨヨコ先輩……きっと、みんな気持ちは一緒です。ね、幽々ちゃん!」
「幽々わ〜何でも良いですけどぉ〜……先輩の行く場所にならお供しますよぉ〜」
……SIDEROSを結成してから、リーダーを辞したいと思うことはなかったけれど。至らない部分ばかりで、向いていないんじゃないかと迷うことは多々あった。
だけど、そんな私にみんなは、素晴らしい仲間がついてきてくれている。
「夢、増やしてもいい?」
「……ヨヨコ先輩。先輩の夢は、自分らの夢です。どんな夢でも、全力でサポートするっすよ」
「あくび……」
ステージの上で、溢れんばかりに輝く優菜に手をかざす。
「私は──私達は、あそこに……優菜を迎えに行く」
好きな音楽で一番になる、それが私の夢だ。海外フェスの大トリも、未確認ライオットも、その夢の通り道。だけど、それとは別の叶えたい夢。あの子の、U7の立つ場所に立ちたい。追いつきたい、追い越したい! その景色を貴方の独り占めにはさせない!
そんな新たな想いが、蒼炎の如く胸の中を渦巻いていた。
「今の私は……優菜と比べたら、まだまだ及ばないかもしれないけど……」
「……らしくないっすね。心配しなくても、支えがいならヨヨコ先輩の圧勝ですよ」
「ちょっと! ……で、でもSIDEROSでなら! どこまでだっていける」
だから、優菜がどれだけ遠くても必ず届いて捕まえられる。
---------------------------
ライブはつつがなく終わった。アクシデントもなく、予定通り。最高に楽しい時間だった。U7としての全力を三時間。流石に疲れを感じる。
アドレナリンが引いていく。冷静さを取り戻していの一番に感じたのは……不安だった。
「成長、しないなぁ……」
『貴方をファンにした私を信じろ』、そう約束したはずなのに、今も心のどこかでヨヨコちゃんが折れていないか、あの輝きが失われていないかと、不安が収まらない。
そんなことを考えていると、ガチャリと楽屋のドアの音が鳴った。
「優菜!」
「ヨヨコちゃん」
「聞いてほしいの。私の、SIDEROSの新しい夢──」
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エピローグⅡ
『私の、SIDEROSの新しい夢──優菜を迎えに行くこと!』
『今の貴方がどれだけ遠くても、必ず同じ場所に立てるようになってみせる。だからそれまで……私のそばで待っていてくれる?』
『ゆ……優菜? なんで泣いてるの? なっなんかまずいこと言った!?』
「ふへ……へへへ……」
瞳を閉じれば、瞼の裏にU7のライブの日のヨヨコちゃんの言葉が思い起こされる。自覚はある。あの日から、私はおかしい。
バイオリニスト、歌手、ギタリスト、作曲家、編曲家、作詞家、トラックメイカー。方向性は様々だが、前世からずっと、私の存在の全ては音楽でできていた。
それが変わったのは、初めてヨヨコちゃんと言葉を交わしたあの日。……初めてだったのだ。私の心に、他人が入ってきたのは。それから、私の中でどんどんと彼女の存在は大きくなっていった。それでも、私の心では音楽と彼女が50:50で均衡を保っていた。
……そんなところに、あの言葉だ。
ライブを終えて、身勝手にも不安を感じていたあの時の私にヨヨコちゃんは最高の言葉をくれた。その言葉で、私の心の均衡は決壊。
つい彼女を視線で追ってはぼーっと眺めてしまうし、彼女と通話をしていると作業が手につかないし、作詞をしようとすればつい彼女のことを歌った詞を書いてしまう。
U7として、数々の恋愛ソングを書いてきたけど、今では自分で書いたその詩達に後ろから刺されているようだ。
「あ……そろそろ準備しないと」
今日は、ヨヨコちゃんと一緒に自動車教習所に行く約束をしている日だ。あるに越したことはないからと、夏休みを使って免許を取る予定なのだ。
「これで……いいのかな……変じゃないよね?」
なけなしの私服を着て、鏡の前で唸る。今まで気にしたことなんてなかったから、服なんて全然分からない。でも、ヨヨコちゃんはお洒落だし、私もちゃんとしたい……幽々に相談するのがいいのかな。
------------------
「えっ! 結束バンド……」
「あれ! 大槻さんに池も……あれ、池揉さん……だよね?」
「近い」
「どっ、どうも……なんか最近ずっとこうなのよ」
受付を済ませ、中に入る。すると、驚くべきことに虹夏さんとリョウさんが先客だった。堂々と腕を組んでいる私達に好奇の目を向ける二人。
「え、えっと……あ、この前のライブ! 本っ当にすごかった! にしてもあのU7が池揉さんだったなんてびっくりだよ〜!」
「ふふ、ありがとう」
「それで、もしかして二人も機材車用に免許取りに来たの?」
「うちはマネージャーが運転してくれると思うけど、あるに越したことないから」
「ヨヨコちゃん」
「なに?」
「合格したら、高級車買ってあげよっか」
「優菜は私をどうしたいの!?」
「私ありきの生活を送ってほしい……」
「重いわ!」
預金ばっかり貯まっていくし、ヨヨコちゃんが喜ぶことなら私はいくらでも使えるのに、なんてことを考えてながら渋っていると、ヨヨコちゃんが私の肩を掴んできた。
「っていうか! それよりまず自分の生活見直しなさい!」
「え……わ、私のことはどうでも……」
「良いわけないでしょ! 楓子がまた食事抜いてたって怒ってたんだから!」
「そ、それは……」
心当たりはある。前とは違って、今は何がなんでもヨヨコちゃんと同じところに進学したいから作曲と並行して勉強に打ち込んでいる。前世の頃から、集中力だけは自信があるので、自分でも順調だと感じている。
ただ、FOLTのバイトを辞めることになってから家に篭りがちになって余計に生活リズムが狂ってしまっている自覚はある。集中しすぎでいつのまにか半日経っていた、なんてことはザラだ。
ちなみに、バイトを辞めることになったのはバイト中の私にU7目当てのお客さんが殺到したから。名残惜しかったけど、これ以上の迷惑はかけられない。
「病気で勝ち逃げなんてしたら承知しないんだから! ずっと私のそばでって約束でしょ!」
「……んっ……わ、わかった……ごめん……」
さらりとすごいことを言いながら、強めに迫ってくるヨヨコちゃんに、思わず視線を逸らす。……顔、赤くなってるよね……。
ともかく、ヨヨコちゃんの言う通りだ。前……まだ家族と暮らしていた頃、作曲に集中しすぎて倒れてしまったことがあった。その時は親がいてくれたから良いものの、今同じことをしでかしたら冗談では済まない。まして、“才能”の適用外である勉強では勝手に体調が良くなったりはしないし……反省だ。
「な、なんかすごい進展してる……!」
「ゆ、U7が……“あの”U7が……色ボケ……」
「……リョウ、現実見なよー」
それから、みんなで教習を受けた。何故かリョウさんはマンガを読んでたけど。軽く止めたんだけど、格上だからとヨヨコちゃんはMTコースを選んでいたが、最初の技能で躓いてATに移ったので私もそれについていったり、虹夏さんとレーベルの話をしたりと色々あった。別れ際に、虹夏さんも同じ大学を志望していることが分かって吃驚だ。
「ヨヨコちゃん」
電車に揺られ、慣れ親しんだ新宿へと帰る道のりの中、私は改まって彼女の名を呼ぶ。
「なに?」
隣に座るヨヨコちゃんが、聞き返しながら私を覗き込む姿が、差し込んでくる夕陽と重なる。かわいいなぁ、と二度目に会った時とは同じようで違うことをぼんやりと考える。
「これからも、よろしくね?」
笑って、そんなことを言うと、彼女は恥ずかしそうに顔を逸らして、口を開く。
「……こちらこそ」
追いついて、迎えに行くと、そう約束してくれたから。私はここで、君の隣でずっと待っている。
というか、私の方が追っかけている立場なんじゃないかなぁ。なんて、取り留めのないことを考えながら、私は彼女の手を握った。
というわけで最終回にして新キャラの完堕ち優菜さんです。
……えー、というのもですねぇ、現在刊行中の原作ぼっち・ざ・ろっく!5巻では結束バンドの新たな挑戦レーベル編が描かれているわけなんですが、SIDEROSの出番が大体六割減していて、優菜さんがヨヨコ先輩にべったり&我々ほど結束バンドに興味がないせいで非常にプロットが組みづらいです。
なので、今後はしばらく未回収の話(ライブ感想スレ、焼肉、SIDEROSチャンネル)をやりきって、その先がどうなるかは6巻の内容次第ということになります。
義憤で書き始めた話でしたが、ここまで付き合っていただきありがとうございました。
もう一位になったけど感想・評価してくれてもいいんですよ?
(そのまま評価ページに飛びます)
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【感想】U7ライブ観てきました
1:音楽好きな匿名さん ID:pBg4RCga1
さ゛い゛こ゛う゛で゛し゛た゛
2:音楽好きな匿名さん ID:pLsL6S70W
詳細はよ
3:音楽好きな匿名さん ID:pmVitoOBt
ここが自慢スレですか
4:音楽好きな匿名さん ID:NSQc5M20n
ライブ帰還者だ! 囲え囲え
5:音楽好きな匿名さん ID:lN5mRMcWn
敗北者が多いですね……
俺もソーナノ
6:音楽好きな匿名さん ID:g7p1CGrOO
とりあえずU7の正体だけ知りたい
7:音楽好きな匿名さん ID:O5SrrSc+j
>>5
みんながみんなライブ見れたと思うなよ
8:音楽好きな匿名さん ID:NBy7C0D7s
なぜ配信しなかったのか(全ギレ)
9:音楽好きな匿名さん ID:RjOzJMYRU
どうか敗者の我らに供給を……
10:音楽好きな匿名さん ID:CRNkU1IAO
>>8
技術的に無理ではないはずなんだがな……
11:音楽好きな匿名さん ID:NBOJVBOn/
っていうか歌ってたん?
12:音楽好きな匿名さん ID:eBitfVJJ+
次回はあるんやろか
13:音楽好きな匿名さん ID:X1hu+93wo
複数人論者爆死って聞いたがほんとか?
14:音楽好きな匿名さん ID:FYTJoD4Od
U7スレ爆伸びで草
こわい
15:音楽好きな匿名さん ID:6bxjslkPq
>>12
特にアナウンスはないからなぁ
16:音楽好きな匿名さん ID:nLo2KHtwD
はよ感想言えや
17:音楽好きな匿名さん ID:ZF3YVY1pQ
>>1
あーあ、あのチケット手に入れられたとか一生分の運使っちまったな
18:音楽好きな匿名さん ID:RK1Gc83R3
嫌いなライターがレポート記事書いてて憤死してる
なんであんなのが……
19:スレ主 ID:pBg4RCga1
>>16
め゛ち゛ゃ゛く゛ち゛ゃ゛よ゛か゛っ゛た゛で゛す゛
20:音楽好きな匿名さん ID:MIrttpk6Y
スレ立てしておいて語彙力逝ってるじゃん
21:音楽好きな匿名さん ID:gGO32TK6c
>>19
お前もか
トゥイッターのライブ帰還者みんなこんなだからな
22:音楽好きな匿名さん ID:Hyc0Aao9o
>>18
見た見た
徳なんてこの世にないんやね……
もし正規入手じゃなかったら正気を保てる自信がない
23:音楽好きな匿名さん ID:mDLtxYvuV
>>21
一体どんなライブだったんだ……
24:スレ主 ID:pBg4RCga1
なんかもうU7のことしか考えられない
25:音楽好きな匿名さん ID:IRHX2azQY
しゃーない
イッチの代わりに転売価格勢のワイがレポートするやで
とりあえず例のスレの妄想バチ当てした
26:音楽好きな匿名さん ID:bBM98WnRT
はい?
27:音楽好きな匿名さん ID:6PDc5cy5h
>>25
例のスレとは
28:音楽好きな匿名さん ID:V68/JC+ja
まさかあのキモ妄想スレじゃないだろうな
29:音楽好きな匿名さん ID:IRHX2azQY
>>27
これ
この板で事前予想してたやつ
https://syosetu.org/novel/302134/39.html
30:音楽好きな匿名さん ID:Y5etoVsfc
えぇ……
31:音楽好きな匿名さん ID:OE7l5EbXh
妄言やめーや
32:音楽好きな匿名さん ID:nc8/TG4tf
>>29
落ち着いて記憶を掘り起こすんだ
ライブに行けたのも妄想なんだろ?
33:音楽好きな匿名さん ID:xMGdk5QcN
幻覚症状って何科だっけな
34:音楽好きな匿名さん ID:IRHX2azQY
酷い言われようで草
ほとんどあたってたからしゃーないやん……
35:音楽好きな匿名さん ID:GUFPsk2Eq
>>34
ちょっと待って下さい! 宮沢さん……
まさかU7が最低でも楽器10種以上を弾きこなしてなんなら自分で歌った方がクオリティ高い美少女ソロアーティストだなんてオタクの妄想を言うつもりじゃないでしょうね
36:音楽好きな匿名さん ID:/nwaBQ1/s
属性過多も大概にしろ
37:音楽好きな匿名さん ID:C1DTzePnX
こんなんフィクションでも勝てないぢゃん
38:音楽好きな匿名さん ID:KK5ow+Y3b
っていうか女なの?
39:音楽好きな匿名さん ID:G2gcw/c8w
結局どんなライブしたのか教えてくれよ
40:音楽好きな匿名さん ID:ZOs/Pne+Q
>>21
調べたら限界垢大量で草
何があったんや……
41:スレ主 ID:pBg4RCga1
落ち着いたから事実だけ話すぜ
○完全ソロライブ。バックバンドも無しで音源は録音っぽかった。
○選曲はU7の歴代曲が八割で残りが知らん曲だった。全部アレンジされてて熱すぎ。最初のU7BGMメドレーで古参俺氏蒸発。
○U7らしく色んなジャンルの曲やってたんだけど楽器取っ替え引っ替えして全部の曲でメロディーやってた。完璧に。
○半分くらいボーカルだったけどこれも上手すぎて意味わからんかった。っていうか何故今まで生声出し渋ってたの??なんで???
すまん事実書こうとしたら感情混ざったわ
42:音楽好きな匿名さん ID:32tLZcNVw
一言いいか
めっちゃ行きたかった
43:音楽好きな匿名さん ID:Cu2ZODhPz
>>40
>>41
44:音楽好きな匿名さん ID:1LiSSRqBo
昔の曲も拾ってくれたんか
45:音楽好きな匿名さん ID:ulNQovVtK
新曲……あとで配信あんのかな……
46:音楽好きな匿名さん ID:v3RY8pyS7
>>41
んでスレ主、>>35はマジなの?
47:音楽好きな匿名さん ID:CZ/Ps3bf7
っていうか生身の人間だったのか
48:音楽好きな匿名さん ID:pBg4RCga1
>>46
まぁはい……概ね……
49:音楽好きな匿名さん ID:vtjXdbtg6
えぇ……
50:音楽好きな匿名さん ID:ScgoSU349
>>47
機械説論者……!?
実在していたのか……
51:音楽好きな匿名さん ID:IUU8Ef1zb
>>38
そこじゃないぞ問題は
おかしいのはどう見ても十代なとこ
52:音楽好きな匿名さん ID:G0kJEQLXe
>>48
マジで言ってる?
お前も幻覚が……
53:音楽好きな匿名さん ID:9eizCmcRX
余計に行きたかった
54:音楽好きな匿名さん ID:DYaWq0GIe
>>51
はぁっ? それおかしいだろ
U7の活動開始は10年以上前だったと記憶しているが……
55:音楽好きな匿名さん ID:V95QqphBm
勝者ワイ、ニヤニヤが止まらない
56:音楽好きな匿名さん ID:m4Z9SB2IG
>>40
不幸にも最前列で脳を焼かれてしまった限界女子の呟き好き
57:音楽好きな匿名さん ID:XUYc50Rj8
>>51
いや偽物じゃね?
58:音楽好きな匿名さん ID:/RYUM5//g
>>57
どうやってなりすますんだよ
59:スレ主 ID:pBg4RCga1
>>57
断言するけど偽物にあのライブはできない……
60:音楽好きな匿名さん ID:IRHX2azQY
>>59
それな
U7は彼女しかありえないってのを徹底的に分からせられるライブだったわ
まぁなんもかんも勝者の特権なんやけどな
61:音楽好きな匿名さん ID:JupO+MsiO
次回はよ
62:音楽好きな匿名さん ID:QNZUCLIrt
>>60
殺す……
63:音楽好きな匿名さん ID:Jcv+ApQbX
>>51
どれくらいに見えたん?
64:音楽好きな匿名さん ID:IUU8Ef1zb
>>63
たぶん高校生くらい
65:音楽好きな匿名さん ID:AV1z9rhx8
やっぱ人間じゃないのでは?
66:音楽好きな匿名さん ID:zOBhMP1S3
>>47
>>50
>>51
すまんやっぱ機械説あってるかもしれんわ……
67:音楽好きな匿名さん ID:9KQKTOXeW
>>66
いーや吸血鬼だね
68:音楽好きな匿名さん ID:ZShtMqANS
ファンタジーに逃避するな
69:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
FOLT常連だけど、U7名乗って出てきた娘がメチャクチャ知ってる子で言葉失っちゃった
70:音楽好きな匿名さん ID:aIoNLbO1f
ワイバンドマン、もう笑うしかない
71:音楽好きな匿名さん ID:LSY8fXLK5
>>69
はい?
詳細くれ
72:音楽好きな匿名さん ID:k6epN7avL
>>69
どゆこと?
73:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
>>71
>>72
これはマジなんだけど
U7さんはFOLTでバイトしてます
あと前から結構な頻度で別名義のライブしてます
74:音楽好きな匿名さん ID:b/AJ3L4aK
は??
75:音楽好きな匿名さん ID:P0enlpDe9
衝撃の真実
76:スレ主 ID:pBg4RCga1
>>73
え、聞いてない聞いてない
77:音楽好きな匿名さん ID:p+FwSzaN0
>>73
ワー幻覚者三人目ダー
78:音楽好きな匿名さん ID:KoyAhhHoU
は?バイト??
79:音楽好きな匿名さん ID:hcxzt4r0P
U7レベルならバイトなんかいらんやろ……
80:音楽好きな匿名さん ID:dhjpk4zu4
>>77
現実見ロッテ
81:音楽好きな匿名さん ID:nMcvc2nNT
世界的なトップアーティストが普通にバイトをしている…… ?
82:音楽好きな匿名さん ID:jklElosRu
別名義ってどゆこと?
83:音楽好きな匿名さん ID:sxPIVuq+G
>>80
見れなかったんだよ!!!!!!
84:音楽好きな匿名さん ID:8dJC6lXVA
草
85:音楽好きな匿名さん ID:4V/1ocPjA
>>83
なんかすまん……w
86:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
>>82
言葉通り告知してないだけで何回もライブしてる
いつもはバイオリンオンリーだから今回のはびっくりしたけど
>>81
あの子そんな自覚なさそうだけどなw
ちなみに常連なので別ルートでチケット買えましたw
87:音楽好きな匿名さん ID:Zb67cpXnb
は〜〜〜?
88:音楽好きな匿名さん ID:VA228Mp4H
>>86
なぁこいつ処していいか
89:音楽好きな匿名さん ID:L37kK5LvI
え、なんですか
FOLTの民は実質U7の曲聴き放題だったってことですか
90:音楽好きな匿名さん ID:IRHX2azQY
>>86
すまんワイらの負けや
お前が真の勝者だ
仲良くしよう
91:音楽好きな匿名さん ID:QxnBNGU+2
ちょっとバイトの応募見てくる
92:音楽好きな匿名さん ID:pMAkOfkh6
FOLTの民ずるすぎないか……
93:音楽好きな匿名さん ID:4I/bHADWa
>>90
いや許さないが
94:音楽好きな匿名さん ID:TAjszAwBZ
まぁ待て、つまりその別名義のライブとやらのチケットは比較的容易に手に入ると言うことじゃないか
95:音楽好きな匿名さん ID:7Aiowp620
>>91
凸はやめい
いやまじで
96:音楽好きな匿名さん ID:CHS0r4yWs
>>86
ってバイオリンメインなんか
97:音楽好きな匿名さん ID:13iao0h97
>>96
お言葉ですが他の楽器もあれだけ弾けるならサブでもなんでもありませんよ
98:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
>>96
多分趣味感覚
遊びでやるとして一番楽しめるのがバイオリンってことなんじゃないかな
U7名義でやる時との違いはそこだと思う
まぁそれでもコアなファン量産してたが
99:音楽好きな匿名さん ID:tktbi9Sdk
>>98
ってことはその別名義もそこそこ有名なん?
100:スレ主 ID:pBg4RCga1
めっっっっっっっっちゃ羨ましい
101:音楽好きな匿名さん ID:6JKI7aCY8
>>99
まぁ……ある意味有名ですね
102:音楽好きな匿名さん ID:xygyEgA7o
?
103:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
含みがありますね……
104:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
界隈だとFOLTの変態バイオリンとして有名
服のセンス終わってることと毎回新曲で同じ曲を二度とやらないからそう呼ばれてた
だから多分新曲希望のおまいらは成仏です
105:音楽好きな匿名さん ID:aZOCBztBv
えぇ……
106:音楽好きな匿名さん ID:BleyQIKxj
ツッコミどころが多い……多い……
107:音楽好きな匿名さん ID:jRWG2cDTv
>>104
新曲……
嘘だ! 俺はU7さんを信じる!
108:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
ちなみに同じくFOLT拠点のガールズバンドのSIDEROSとちょっと疑われるくらい蜜月ってことでも有名
109:音楽好きな匿名さん ID:Lfo0FX1vV
>>107
U7がファン想いならこんな事態にはなってないと思うんですけど
110:音楽好きな匿名さん ID:XrxHEiPNW
>>108
SIDEROSってあれ? この前の未確認ライオットの?
111:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
>>110
そうそう
ちなみにそのFOLTの公式チャンネルにたまに出てるからそこでU7ちゃんのご尊顔見れるよ
112:音楽好きな匿名さん ID:bkO0luzCT
は?
113:音楽好きな匿名さん ID:BEERVDy65
え、行ってくる
114:音楽好きな匿名さん ID:nom+MEwv4
……さらっと超爆弾発言出てない?
115:音楽好きな匿名さん ID:W///pJ2nw
まじ? ……拡散は時間の問題だな……
・
・
・
・
・
・
・
185:スレ主 ID:pBg4RCga1
ちょっとSIDEROSに興味出てきちゃった……
これが常連の計……
優菜自身はゲーマーでもオタクでもないので、チートという単語を使わせないようにしていますがこれが意外と面倒
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小話Ⅱ FOLT.ch
「……ヨヨコ先輩、さっきから何見てるんすか?」
「なんか、ずっとひとりちゃんのチャンネル見てるみたい」
唸りながらスマホと睨めっこしているヨヨコちゃんを遠巻きに見ながら、あくびちゃんとそんな話をする。ひとりちゃんの別名義『ギターヒーロー』は、結束バンドでの彼女からは考えられない程上手い演奏動画をアップしているアカウントだ。私はよく知らなかったけど、かなりの知名度があるらしい。
主に廣井さんのせいで、ひとりちゃんのことをやたら意識しているヨヨコちゃんとしては、彼女の10万人という登録者数を見過ごせないんだろう。……私の存在もあって、登録者数のインパクトには慣れていると思っていたけど、そんなことは全くないらしい。
「……私が一番じゃなきゃ……よし!」
「?」
何かを決意したらしいヨヨコちゃんは、私達に得意げにスマホの画面を見せつける。
「とゆーわけで大槻ヨヨコ、オーチューブアカウント開設!」
そこには、そのまま『大槻ヨヨコギターちゃんねる』の名前で先ほど作られたであろうアカウントが映っていた。
「私だって実力では後藤ひとりに引けを取らないわけだし、同じことをすればすぐ10万人行くはず!」
「そんなうまく行きますかね〜」
「いずれは優菜にだって追いつける!」
「……優菜先輩、今何人でしたっけ?」
「えーっと……最後に見たのは500万人ちょっとだったかな……」
「……」
朧げな記憶を頼りに私がそう答えると、あくびちゃんがヨヨコちゃんに哀れむような目を向ける。そんなあくびちゃんの目線にも気づかず、意気揚々と手元を動かす。
「早速シデロス本人が弾いてみた動画投稿よ」
最初の動画に選んだのは、SIDEROSの曲を自分で弾いた演奏動画らしい。
「よ、ヨヨコちゃん、それは……」
「……優菜先輩、お昼いきましょう」
「えっ、あ、うん」
「あっ、ふーちゃんもお昼外で食べませーん?」
最初からそういう動画は……と、思わず口を出そうとすると、あくびちゃんに遮られ、そのままふーちゃんと一緒に外に食べに行くことになってしまった。
一心不乱に画面を見つめているヨヨコちゃんを尻目に、私達は外へ出た。
---------------------------
「どーっすか?」
私達が帰ってくるまで、なんとヨヨコちゃんは微動だにせず画面を見続けていたらしい。時間が止まったんじゃないかと思うくらい表情までそのままだ。
そんなヨヨコちゃんはあくびちゃんの言葉に反応するや否や崩れ落ちた。
「伸びない……!」
「どんまいっす」
「後藤ひとりと私の動画、一体何が違うの……!?」
「あのね、ヨヨコちゃん。本気で伸ばしたいなら再生回数を見てないで一本でも多く動画を作った方がいいと思うな」
「すごい正論っす」
「あと、一時間じゃどんな人でも伸びないよ。私だって伸びるのに一ヶ月もかかったのに」
「なんで一ヶ月しかかかってないんすか?」
「それに……演奏動画のことはあんまり詳しくないけど、いきなりオリジナルの曲はハードルが高すぎるんじゃないかな」
「後藤さんは流行りの曲片っ端から弾いてってるね〜」
ふーちゃんがそう言って、ギターヒーローのチャンネルを見せてくれる。そこには、私の曲も含めてこれでもかというくらいストレートに流行に忠実なラインナップが映っていた。
それに、ヨヨコちゃんが衝撃を受ける。これに関しては、プライドが邪魔をしてヨヨコちゃんでは真似できない部分だろう。
「そもそも、弾いてみたで登録者増やすってのがハードモードっすよね……それなら優菜先輩みたいに作曲で行った方が……」
「後藤さんはかなり昔から投稿してたみたいだしね〜」
「先見の明があったんすね〜」
ふーちゃんとあくびちゃんが、口々にひとりちゃんを褒めちぎる中、ヨヨコちゃんは黙ってゴソゴソと何かを取り出す。
「もうこの際後藤ひとりに勝てるなら何でもいいわ……念の為に面白い企画だって実は考えてきてたし」
「おっ、何かあるんすか?」
そう言って彼女が取り出したのは……何かのお菓子とコーラだった。
「メントスコーラ!」
「うそだろおい……」
「? それで何するの?」
「……うそだろおい」
面白い企画……と言うが、ヨヨコちゃんが持っているのはなんの変哲もないソフトキャンディとコーラにしか見えない。
「〜っ! 優菜、よくぞ聞いてくれたわね! 見てなさい」
そう言って、ヨヨコちゃんはカメラをセットして、テーブルの上に置いたコーラにお菓子を落とした。
すると、一瞬でコーラが泡立ち、ブシャ〜と音を立ててペットボトルから溢れ出した。
「……?」
「お〜……」
「……」
初めて見た現象に、なんとなく手を叩く。が、肝心のヨヨコちゃんは無表情のままコーラを見つめて固まっていた。……これ、動画として面白いのかな?
「……そんな手垢まみれのネタで受けるわけないじゃないっすか。無難にゲーム実況やってれば伸びるんすよ。アカウント借りますよ〜」
「私もオーチューバーなりたーい!」
「幽々も〜〜」
あくびちゃんの言葉を皮切りに、ヨヨコちゃんを置いてSIDEROSのみんなが盛り上がる。
「……ヨヨコちゃん、コーラ、掃除して片付けよっか」
「……うん」
------------------
それから少し後、FOLTではオーチューブチャンネルの話題で持ちきりだった。あくびちゃんのゲームコーナー、ふーちゃんのスイーツコーナー、幽々の霊視コーナー、廣井さんの安酒レビュー、まとまりはないけれど、各々が好きに動画を投稿した結果、登録者はひとりちゃんの10万人に届きそうな勢いになったのだ。
私も、自分で何かをしたりはしていないけれど、あくびちゃんやふーちゃんに呼ばれたりで参加していた。
「わー、ゲーム動画もう5万再生だよ〜!」
「ふーちゃんの動画も伸びいーっすよ。あ、優菜先輩もコメントで人気っす」
「えっ、あ、そうなんだ」
「え〜! 何あんた達面白そうな事してるじゃないの〜! あたしも混ぜて〜!」
そうして、店長も加わり、『大槻ヨヨコギターちゃんねる』はFOLTのチャンネルへ姿を変えて進み続ける。
「わ、私の……私のチャンネル……」
……ヨヨコちゃん一人を残して。
さ え お 0:00/0:43
メントスコーラやってみた
チャンネル登録者 8.7万人
怖い
右の子誰?
↪︎FOLTでバイオリン弾いてる子
BGMとかつけない?
右の子かわいい
この動画だけ異質すぎる
お気に入り10000突破記念コーナー
U7さん畜生発言ランキング未使用部門TOP3
第3位
「でも、私の曲を聴いてファンになるのは当然のことじゃないですか?」
第2位
(なんて言おう……“盛り上がっていこー”……? いや、私が弾き始めれば勝手に盛り上がるだろうしな……)
第1位
「……無駄な努力だなんて思ってないよ。私と比べるのが間違ってるだけ」
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【感想】U7ライブ観てきました(続き)
116:音楽好きな匿名さん ID:aoow+4cMb
一応チャンネル貼っとくね
https:/ohtu.be/*********
117:音楽好きな匿名さん ID:f/NbBLWQ+
カオスなチャンネルだなw
118:音楽好きな匿名さん ID:pYkc+pT9F
・ゲーム実況
・料理動画
・オカルト
・メイク動画
・酒
なんやこれ……
119:音楽好きな匿名さん ID:aAH4/cNH2
てっきり無難な宣伝してるのかと思ったら好き放題やってて草
微笑ましい
120:音楽好きな匿名さん ID:mo0Bpkjx9
U7どこで出てんの?
121:音楽好きな匿名さん ID:s1vcPR2AJ
切り抜き見たことあって草
122:音楽好きな匿名さん ID:BzxqUs1l2
>>120
いろんな動画にちょくちょく
担当企画とかはないっぽい
123:音楽好きな匿名さん ID:RAG2JC4aj
SIDEROSのリーダー?いなくね
124:音楽好きな匿名さん ID:Kp0BvDqdd
登録者十万超えやん
普通にすごい
125:音楽好きな匿名さん ID:T0cn5dK9+
前話題になってんの見たわ
126:音楽好きな匿名さん ID:P4YeRRhpg
>>123
最初期の動画にだけ出てるぞ(^^)
https:/ohtu.be/*********
127:音楽好きな匿名さん ID:AR9Z6j5c/
>>118
しかも意外と再生リストが整っていて見やすい……!
128:音楽好きな匿名さん ID:QKbFDXIt6
>>126
メントスコーラ……メントスコーラ!?(二度見)
129:音楽好きな匿名さん ID:3/0qGTR/M
>>126
古典派が過ぎる
130:音楽好きな匿名さん ID:1kzkjNFv2
>>118
廣井が解釈通りの私生活で安心したよ俺は
達者でな肝臓
131:音楽好きな匿名さん ID:uwwFLS/pX
>>124
こっからU7ブースト入るってマジ?
132:音楽好きな匿名さん ID:B3ej19O1Y
>>126
温度差ありすぎてシュールだ……
133:音楽好きな匿名さん ID:ojqWKo1/G
>>126
こわい
134:音楽好きな匿名さん ID:62DxxilQR
>>127
U7のチャンネルより見やすくて草
135:音楽好きな匿名さん ID:tt8cHdwi8
>>126
表情死んでて草
SIDEROSのライブだとこんなんじゃなかったよな……?
136:音楽好きな匿名さん ID:gvgowLN7D
>>126
U7ちゃんぱちぱちかわいい
137:音楽好きな匿名さん ID:/Nq3NmV1A
>>126
右がU7?
138:音楽好きな匿名さん ID:N17uTFPCV
>>136
>>137
え、この子がU7なん?まじ?
まじなんかライブ帰還民
139:音楽好きな匿名さん ID:gnaxd9hln
そうだよ(肯定)
140:スレ主 ID:pBg4RCga1
>>138
いやうん……本人は本人だけど……
いやほんとか? これが俺らを弄ぶU7なのか?
顔は間違いないけど……
141:音楽好きな匿名さん ID:ERS0r6yWp
わかるわかる、楽器持ってないと雰囲気変わりすぎるんだよな
142:音楽好きな匿名さん ID:CZsvrybjr
>>140
>>141
てことはまじなんか……
143:音楽好きな匿名さん ID:uxGRehEPY
ミスタースレ民
最初期はチャンネル名が大槻ヨヨコギターちゃんねるだったって話してもいいですか
144:音楽好きな匿名さん ID:59joxQjKp
ライブ動画もあげてくれないかなー
145:音楽好きな匿名さん ID:lB4ivB6PJ
>>143
初耳
146:音楽好きな匿名さん ID:6zMbJqaeT
>>143
チャンネル乗っ取られてるじゃねーか!
147:音楽好きな匿名さん ID:m6xEOSd6g
それで最初期の動画にしか出てないてどういうこと……
なんかあったんか
148:音楽好きな匿名さん ID:N7t426ixB
大槻不憫属性だったのか
149:音楽好きな匿名さん ID:wVJkKYap+
>>147
企画任せたらメントスコーラするからしゃーない
150:音楽好きな匿名さん ID:NuiA7UCL1
草
151:音楽好きな匿名さん ID:HnXM3FuWP
って、さすがに書かないけど普通に本名で呼ばれてんな
152:音楽好きな匿名さん ID:UWoNdLTme
機械説でるくらい非人間的な無機質さが嘘みたいだな
153:音楽好きな匿名さん ID:HbFF9Aojz
>>151
まぁU7名義使わずライブする時も本名でやってるっぽいしね
154:音楽好きな匿名さん ID:7xT3I23lg
この名前どっかで聞いたな……ってしばらく考えたら思い出した
あれだ、競演会の伝説
155:音楽好きな匿名さん ID:iNantYU19
なんそれ
156:音楽好きな匿名さん ID:6LHfqanIo
>>154
解説くれ
157:音楽好きな匿名さん ID:v0bfBqSs8
あれよ、結構前にバイオリンのコンクールで期待の新人全員薙ぎ倒して無名が特賞掻っ攫ってったやつ
審査のプロがコメントで折られてて騒がれた
158:音楽好きな匿名さん ID:M6eRlRVAY
知らねー
調べれば出てくる?
159:音楽好きな匿名さん ID:IO4/YGZEj
あーー、一瞬話題になってたな
160:音楽好きな匿名さん ID:UHCjUD4Xd
>>157
じゃあクラシックでも伝説残してたってこと?
161:音楽好きな匿名さん ID:cYSumdGbm
でもそれほんとに関係あるの?
U7の活動開始からだいぶ後じゃん
162:音楽好きな匿名さん ID:ugFtMu8XI
>>144
アーカイブで何度でも見たい
163:音楽好きな匿名さん ID:hYz4AeGXk
>>160
まぁあんだけバイオリン上手かったら自然ではある
164:音楽好きな匿名さん ID:RLoYMUH9p
>>161
むしろ逆で
あのコンクールの日がU7失踪の時期と一致してるんだ
165:音楽好きな匿名さん ID:EiIvp/m0h
>>160
まさかバイオリン以外も引っ提げて再浮上してくるとはこのリハクの目をもってしても
166:音楽好きな匿名さん ID:PKN8d9ekQ
>>164
はぇー、じゃあそっから姿消してたってこと?
167:音楽好きな匿名さん ID:mfftePoiw
推測しかできないけどなんかあったんやろな
168:音楽好きな匿名さん ID:yXhLV9Mp0
てか、U7が居るって広まったFOLT色々大丈夫なん?
169:音楽好きな匿名さん ID:IrQoEym4p
>>165
お前は何なら見抜けるんだ定期
170:音楽好きな匿名さん ID:xL6lBvjhA
>>168
大丈夫じゃないかもしれんなー
ライブ見にいくだけならいいんだけどね
171:常連 ID:ERS0r6yWp
ちなみにU7がライブするのは不定期だと一応言っておこう
172:音楽好きな匿名さん ID:m7Rgkmjtf
えぇ……
173:音楽好きな匿名さん ID:5ns1peQIe
>>170
儲が増えると凸だいっけぇとなるバカも混じるんだ
悔しいだろうが仕方ないんだ
174:音楽好きな匿名さん ID:7ja15yZXl
>>172
全ては気分
U7らしいだろう?
175:音楽好きな匿名さん ID:9QyfUHeV4
>>171
となると尚更突撃増えそうだな
176:音楽好きな匿名さん ID:I0J6IUhRp
バイト辞めなきゃいいけど
177:音楽好きな匿名さん ID:lvUkFLFrH
>>174
否定できない……!
178:音楽好きな匿名さん ID:q1TDgUuwc
>>176
そっかバイトしてるのか
厄介なファン現れそうやね
179:音楽好きな匿名さん ID:/+V3K7jwk
っていうかここまで話題になるとSIDEROSの方も気になってくるな
結構知ってた民多いっぽいけど初見だから気になってる
180:音楽好きな匿名さん ID:4VC81Zmvx
バイト凸は誰かしらやる(確信)
181:音楽好きな匿名さん ID:JEFNYxsgJ
>>179
世代ではトップのバンドだし曲がりなりにもここは音楽板だからね
182:音楽好きな匿名さん ID:K6gXyPB4G
SIDEROSいいぞ(いいぞ)
183:音楽好きな匿名さん ID:B3ej19O1Y
はっ…… !
気づいたらずっとFOLTチャンネル見ている……
184:音楽好きな匿名さん ID:BsyDIMP3N
早速沼ってるのおるやん
185:音楽好きな匿名さん ID:7oQMfOFpI
ちょっとSIDEROSに興味出てきちゃった……
これが常連の計……
癖になってんだ
こっそりマネモブ混ぜるの
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小話Ⅲ 打ち上げ
「ライブはどれも一度きりなんだから、いつもベストを出せるようにして。反省会終わり!」
「「「おつかれさまでした〜」」」
ライブの後、SIDEROS恒例の反省会もヨヨコちゃんの号令で解散だ。あくびちゃんもふーちゃんも幽々も、足早に楽屋を出ていく。
「とまあ色々厳しい事は言ったけど……このあと……皆で打ち上げとか……行ってもいいけど?」
「あの……ヨヨコちゃん」
部屋に残されたのは、同席していた私と、いつものように誘い待ちを空振りしたヨヨコちゃんだけだ。
「みんな、もう行っちゃったよ」
「……」
------------------
「幽々ちゃん、たまには皆でご飯行こうよ! 少女漫画に出てきそうなかわいいケーキ屋さんみつけたんだ〜!」
「幽々わ〜処女の生き血があるから大丈夫ぅ〜」
「それ鉄分サプリじゃないすか……じゃあうちでゲームします?昨日面白いゲーム買ったんすよ」
「本当ゲーム好きだねぇ。じゃあはーちゃん家でゲームで打ち上げパーティに決定!」
「ちょちょちょまった!」
自然にヨヨコちゃんを省いて打ち上げに行こうとするメンバー、それを引き止めるヨヨコちゃんに回らない足で追いつく。
「ヨヨコ先輩なんすか?」
あくびちゃんの無慈悲な言葉に、ヨヨコちゃんは固まって震える。このままでは自分で誘えないだろうから、私が助け舟を出す。
「ほら、ヨヨコちゃん打ち上げやりたいんだよ、みんなと」
「……優菜先輩」
すると、あくびちゃんが私の方に寄ってきて、こっそりと耳打ちしてくる。
「打ち上げ行くとまたライブのダメ出し始めるから嫌なんすけど」
「あっ、そういう……」
……ヨヨコちゃん、思ったよりがっつり煙たがられている……たしかに、結構前に打ち上げに行った時もずっと説教みたいなことを言っていたけど。私も、音楽の指摘なら是非何でも言ってみてほしいとなるけど、これがスポーツやらの話だとしたら、食事の席でそれはかなり嫌だ。
いっそ、今日はこのままヨヨコちゃんと二人で……と思っていると、あくびちゃんが再び口を開く。
「……優菜先輩は自分らと打ち上げ、行きたいですか?」
「え? ……う、うん。みんなが良いなら行きたいよ?」
「……しょうがないっすね……」
あくびちゃんはそう言って、未だもじもじと視線を泳がせ続けるヨヨコちゃんの方に向き直った。
「ヨヨコ先輩……打ち上げ、行きましょう」
「ほ、ほんと?」
「じゃあカストとかでいいっすか?」
「わっ、私はいいけど? 行くなら今回は特別におごってあげる!」
「いきまーす!」
ヨヨコちゃんが奢りという言葉を口にした途端、急に乗り気になるあくびちゃん。それに続いてみんなのテンションも上がっていく。
「じゃあカスt……」
「じゃあ幽々JOJO苑がいい〜!」
「おっいいっすねぇ〜」
「え〜! せっかくなら高級ホテルのスイーツビュッフェ行きたいなぁ」
「みんな調子いいなぁ……」
どんどんとエスカレートしていく要求に、ヨヨコちゃんは苦い顔をしている。
「ごちになりまーす」
「久々の屍肉……」
だけれど、こんな空気でヨヨコちゃんが突っぱねられるわけもなく。
「…………行くわよ!JOJO苑!」
「やった〜!」
ということで、高級焼肉店での奢りが確定してしまったのだった。
「……ヨヨコちゃん、大丈夫?」
「だっだだ大丈夫……」
声をかけると、震えた声でそう返して歩き出すヨヨコちゃん。……あの顔は、まぁ大丈夫じゃないんだろう。
「……もう、お金の心配なんかしなくていいのに」
------------------
「肉が! 肉が輝いてるっす!」
「あっあんまり食べすぎないようにね……」
卓上に並べられた、なにか洒落た盛り付けをされた肉の皿に、ヨヨコちゃん以外が感嘆をもらす。食べ物はよくわからないけど、私でも高そうだなとは思わせられる逸品だ。
「やっぱ高い肉は違うっすね」
「フルーツソースでたべたら甘くて美味しい〜!」
「はっ早食いすると満腹中枢が刺激されずに食べすぎちゃうからよく噛んで食べて……」
バクバクと、気持ちいいくらいに遠慮なく食べ進めるあくびちゃんとふーちゃんに、ヨヨコちゃんがベラベラと理屈をつけて止めようとする。
「ちなみに健康にいいとされているのは腹八分目なのカロリー制限によって老化を遅らせる事ができるのよ生活習慣病の予防には腹八分目貴方達の体の事を思ってるだけで食うなってわけじゃな」
「ヨヨコちゃんなんでも知ってるねぇ」
「ヨヨコ先輩、そんなに私達の体を気遣ってくれて……ありがとうございます! もっとたくさん食べて大きくなります!」
「っ〜〜!」
さらに食べるスピードを上げ始めたふーちゃん達に、ヨヨコちゃんが声にならない叫びを上げる。
「ヨヨコちゃんも、もっと食べたら?」
「いっいやちょっと食欲がね断じて会計のことを考えてるわけじゃないんだけどね優菜も遠慮なくほどほどに食べていいんだからね」
「もう、そんなに心配しなくても、ここは全部私が持つよ」
私が当然のことを口にすると、何故か場に静寂が訪れた。
「い、いや……ここは私の奢りって……」
「? 私のお財布はヨヨコちゃんのものでしょ?」
「……」
「……ふーちゃん、ちょっとペース落としましょうか」
「そ、そうだね〜」
ヨヨコちゃんを安心させようと事実を伝えたが、逆にヨヨコちゃんは絶句し、あくびちゃんとふーちゃんは箸の動きが鈍ってしまった。
「え、なんで? 好きなだけ食べなよ」
「いや、自分この前も練習パッド買ってもらったばっかなんで……あと優菜先輩の奢りはなんか……重いっす」
「気づいたらダメになってそうだよね〜……」
「じゃ、じゃあやっぱり私も程々に……」
「ヨヨコ先輩は手遅れなんで毎日奢られたら良いんじゃないっすか」
「どういう意味よ!」
……みんな、どんどんダメになっていいんだけどな。
「幽々は〜、遠慮なく奢られますね〜」
「うん! 好きなだけ食べてね!」
「はい〜、先輩大好きですぅ〜」
なお、幽々だけは食べるスピードに一切変化はないのであった。
半年間さんきゅ
ばいびー
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