九尾の娘は幻想に帰る 〜東方魂喰狐〜(※現在修正中) (百合お兄さん)
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幻想郷
一話(改良版)


取り敢えず生存報告を兼ねて改良版を1話目だけ投稿します。内容に変化はないけど一人称視点にしてみたり、ふわっとさせてた設定をしっかりさせてみたり。旧版とどちらがよかったか教えていただけると幸いです。


 

 

───────炎が舞う。

 

 

 

 

 

 血のように朱く染まった妖しい炎が。

 

 

 

 

 

───────少女が泣く。

 

 

 

 

 

 自らの運命を嘆いて。

 

 

 

 

 

───────獣が哭く。

 

 

 

 

 

 愛するものを失った哀しみで。

 

 

 

 

 

 そうして少女は獣と成り果てる。その泣き声はいつしか慟哭へと移り、周囲に響き渡る。

 

 

 

 その声は聴くだけで恐怖や畏怖を感じさせるものだが、どこか美しく魅了されてしまう。

 

 

 

 だが獣はそんな事も知らずに哭き続ける。

 

 

 

 それしかこのどうしようも無い哀しみを表す方法を知らなかったから。

 

 

 

 『ごめんね』

 

 

 

 そう言葉を残し、少女は初めて人を喰らった

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 「……………眠」

 

 辺りを見回す。自分以外誰も乗っていない電車だ。窓の外に目をやれば建物一つ見当たらず、遠くに山がポツンと見えるだけだ。

 

 「ふぁ………はぁ…。何で電車に乗ってたら眠くなるんだ……?」

 

 眠気眼になりながらも目を擦って意識をはっきりとさせる。………うん、はっきりとしてきた。

 

 改めて電車を見渡す。異様なまでに人がおらず、乗務員すら居ない。最近だと無人で走行する電車が出てきたそうだが残念ながらこの電車にそんな機能は持ち合わせていない。

 

 そんな電車を独り占めしている自分の姿を窓越しに見る。

 

 白いパーカーにジーンズといった現代的な服を着ているが、腰辺りから自分を人外たら締めている4つの尾が見える。ふわふわというよりかはスラッとした印象を受ける細長い尾。そして尾と同じ色の鮮やかな金髪に添えるように薄っすらと桜色のメッシュが入っており、頭頂部からはピョコンと狐の耳が生えている。これを見た人が一般人ならば良くてコスプレイヤー、悪くてアブナイ人にしか見られないだろう。

 

 「………服、着替えたほうがいいかな?」

 

 だが気にしているのは目立つ尻尾や狐耳ではなくその服装だ。なにせ自分が向かっている場所ではこの服装の方が異端になるであろう所だからだ。

 

 「昔着てたやつは……、うん。やっぱり小さすぎるな」

 

 何もない所へと手を突っ込み、取り出した服を自分に当てて見るがあまりにも小さすぎた。上から下を合わせても自分の膝まで届けばいい方のサイズでしかない。これを着るのは流石に無理だろう。

 

 「確か()()()が持たせてくれた服があった筈だよな」

 

 今しがた取り出した服を戻して再び空間を漁ると今度は自分でも着れそうなサイズの服が出てきた。白を基調としたゆったりとした中華風の服。青い前掛けに耳をすっぽりと覆い隠せる帽子がチャームポイントの懐かしい服だ。ふと顔を近づけてみるとそこからは懐かしい母の香りが………

 

 「……なんで母さんの匂いがするんだ」

 

 てっきり新品を持たせてくれたものだと思っていたが、まさか自分の着ていたものじゃないだろうな……。

 

 精神が昔よりも成熟したからこそ理解出来てしまった母の異常な愛に思わず苦笑いしてしまう。

 

 「仕方ない……。どうせこれしかないなら着るしかないか……」

 

 

 

 〜少女着替中〜

 

 

 

 何だ?着替えシーンでも描写してくれると思っていたか?諦めろ。

 

 『次は────。お出口は右側です』

 

 む、どうやら到着したようだな。

 

 本来予定されている順路じゃないからか音声が所々おかしくなっている電子音声を聞きながら電車が停止するのを待った。

 

 プシュー、という音を鳴らしながら開いたドアから出る途中、誰も居ない車内に「ありがとさん」と言う。誰も居ない筈の車内に。

 

 

 

 「───流石にもうボロボロだな」

 

 久しぶりにここに来るがもう何十年も人が手入れをしていないだろうと分かる程に風化していた。朱色の塗装が剥げて中の木材が雨ざらしになった事により腐り落ちた鳥居。草木が生えすぎて最早森と見分けが付かない境内。そして廃屋となんら変わらない本殿。こんなとこに神様が宿ってんのかよ。いや、()()にはもう居ないのか。

 

 人どころかまともな動物すら寄り付けないこの場所に手入れしに来いというのが無茶というものだがそれでもどこか思う所があるな。

 

 「まぁそういう位なら自分でやれって感じだけどな」

 

 そう思わず苦笑してしまう自分だったがどこか違和感を覚えた。

 

 「さて、あんまり時間をかけてもあれだからな。さっさと行くか」

 

 そう呟き俺は複雑な手印を組み始める。先程まで感じていた違和感を振り払うように意識を集中させ記憶にある術式に干渉し始める。

 

 「───博麗大結界との同期を開始……成功。権限『()()()()()()()』より封印されたプログラムを一時的に解封…………成功。これより約十秒後に転移を開始───」

 

 ……ふぅ。久しぶりにやるが上手くいったな。まぁ結界術に関してはしこたま叩き込まれたし、何ならつい最近もこれとは違うがやっていたからな。そう緊張するものではない、が、これをミスったら大変な事になるからな。これくらいの緊張感がちょうど良い。

 

 そう思考をしていると周囲がどんどん白くなっていき視界もぼやけてきた。どうやらそろそろ転移するようだな。

 

 「母さん達は元気にしているだろうか。橙はお土産喜んでくれるかなー────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は同じくして一人の少女が居た。

 

 「はぁ、今日もいい天気ね〜」

 

 そこは『幻想郷』の端に位置する唯一の神社である『博麗神社』。その拝殿にある空の賽銭箱の隣に座り込んでいる少女の名前は『博麗霊夢』。この神社の巫女をしている。

 

 「今日も相変わらず暇ねぇ……」

 

 否、神社の巫女に何の仕事も無いわけが無い。むしろこの神社にいる巫女は霊夢一人のため忙しくて然るべきである。

 

 「そうは言っても参拝者だって全然来ないんだし」

 

 確かに博麗神社の立地的にも人が来ないのは頷けるがそれでも何もしない理由にはならないだろう。

 

 「別にいーいのよ別に。そもそもウチの目的は神様を祀る事じゃなくて結界の…………」

 

 そこまで言った所で違和感に気づく。先程から自分に語りかけている人物がいることに。

 

 「………アンタ誰よ」

 

 「お、やっと気付いたか。全く、博麗の巫女ともあろうものが少したるんでるじゃあないのか?」

 

 「余計なお世話よ。で、誰よ。見るからに妖怪みたいだけど。追い払う(ぶっ飛ばす)わよ」

 

 「おぉ怖い。どうやら余計なお世話だったみたいだな」

 

 「ふん、当たり前よ」

 

 そう言い不満げな表情を見せる霊夢を見て、()()()()()()()と同じでかなり気が強そうに見える。

 

 「まぁいいか、割と博麗の巫女としてやっていけてそうで。あ、でもちゃんと巫女本来の仕事もやってくれてるとありがたいかなぁ」

 

 「いきなり現れて一体何様のつもりよ。それに言われなくても分かってるわよそんな事」

 

 「本当かねぇ」

 

 先程の独り言の件もあるため若干、いやかなり信憑性の無い台詞を言い放つ霊夢に、呆れの感情を込めた視線を浴びせるも怯むこと無く睨み返してくるのでまぁこの様子なら大丈夫かと思いこの場所を後にする。

 

 「さぁさぁ、用が無いならさっさと去りなさい。私だって暇じゃ無いんだから」

 

 「ははっ。まぁそれもそうか。まぁ言われなくてももう何処かに行くよ」

 

 「はぁ………、あっ、人里には近づくんじゃないわよ!アンタが何者かは知らないけど面倒事起こされて困るのは私なんだからね!」

 

 「はいはい、分かってますよっと」

 

 邪険に扱いながらも忠告してくれたかと思えば自分に迷惑が掛かるという利己的な理由だったというイマイチ性格が掴みきれない少女を後にして、博麗神社を後にするのだった。

 

 「────とは言ったものの何処に行こうかねぇ……。マヨヒガに行こうにも場所忘れちまったからなぁ。……白玉楼にでも行ってみるか?あそこなら紫様も顔を出すだろうし。いやその前に人里にでも行こうかな。案外買い物とかしてるかもだし」

 

 

 

 これは、幻想郷の賢者の式神にして九尾の狐の娘である『八雲宙』の物語である。



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2.人里

すいません…、修学旅行で全然書けなくて暫く筆が進みませんでした。
時々書き溜めたりすることもあるので気長に待っていただけると嬉しいです。


 「はぁ、全く幽々子様は……」

 

 人里の道で一人の少女が大きく膨らんだ風呂敷を抱えながら歩いていた。周囲に自身の半身である半霊を従えているその白髪の少女の名は『魂魄妖夢』、白玉楼に仕える剣術指南役である。

 そんな彼女がなぜこんな事をしてるのかというと……。

 

 「なんで死んでるのにあんなに食欲が凄いんでしょうか……」

 

 妖夢の主である『西行寺幽々子』の食欲の解消である。彼女はよく食べる。それはもうよく食べる。具体的には白玉楼でのエンゲル係数がそろそろ九割を超える程である。

 これはとんでもないことである。普通の一般家庭ならばまだしも、白玉楼の管理には少なくない費用がかかっている。それらを押しのけて幽々子の食費はダントツでトップなのだ。よって、妖夢はそんな主のために今日も昼ご飯の食材を購入するため人里へと赴いていた。

 

 「しかもなんであんなに食べてもスタイルがいいんですか……。あんなの反則でしょう」

 「おーい、お嬢ちゃーん」

 「幽霊だから変わらないとか言ってるけどそりゃないでしょう」

 「おーい聞いてるー?」

 「それに変わらないってんならあの胸はなんだって言うんですか!?」

 「それはもう君の私怨じゃねえかな」

 「なんですか!?もうもいでほしいんですか!?」

 「おーそりゃ怖い。でも俺のはもがないでくれよ」

 「そうですね、ちょうどこんな感じのやつでしたね!」

 「がっ!!!ちょっ、痛い!痛いイタいイタい!!」

 「はっ!あっ、ごめんなさい!」

 

 すると妖夢は前から聞こえてきた叫び声で先程から自分に話しかけていた人物に気がついた。

 

 「痛い……(´;ω;`)」

 「ほんっとうに、すいません!」

 

 妖夢が前を見るとその少女が涙目で自分の胸を押さえながら服の中をちらちら確認していた。

 

 「うぅ…なんでいきなり……」

 「本当にごめんなさい……」

 

 妖夢が平謝りすること数分、ようやく痛みが引いてきたのか胸を押さえるのをやめた。

 

 「ふぅ……やっと痛みが引いたな」

 「大丈夫…ですかね…?」

 「あぁ、もう大丈夫だっ、ア゛ッ゛ッ゛…」

 「ちょっ!ほんとに大丈夫ですか!?」

 「いや、いい。それよりも聞きたい事があってだね…」

 「あ、そういえば私に聞いてきてましたよね、どうしたんですか?」

 「いやなに。マヨヒガまでの道を知らないかなと」

 

 その名前を聞いて妖夢は主の友人のとある妖怪を思い浮かべていた。

 

 (マヨヒガですか……。マヨヒガといったらあの紫様達が暮らしているあのマヨヒガの事ですかね?)

 

 そうして改めて目の前の人物の姿を確認する。頭からは耳が生えていて、腰からは複数の尾が伸びている。その尾の形から恐らく狐の妖怪だろうか、そうなると思い浮かべるのはあの式神の九尾だが目の前の彼女は尾は九本もない。なにより雰囲気も全くといっていいほど違う。

 

 「えっと、あなたは誰なんでしょう……?」

 「俺か?俺の名前は宙。八雲宙だ」

 

 その名前を聞いてやはりと妖夢は思った。妖怪にとって『名前』とは重要で、そう簡単に偽れるものではない。しかし、目の前の宙と名乗る少女はなんの迷いもなく答えた。ならばそれが本名なのだろう。つまり……。

 

 「あなたは八雲紫様の式なのでしょうか?」

 

 八雲紫の式神といったら九尾の式神『八雲藍』ぐらいしか思いつかないがそれでも彼女しか式神しかいないというわけではないだろう。『橙』の様な例外もいるが彼女は八雲藍の式神で八雲紫の式神ではない。

 

 「ん、まぁ確かにお婆ちゃんの式神ではあるな」

 「おっ、お婆ちゃん……!?」

 

 確かに紫は年齢的にはお婆ちゃんとなる。だがその力故半端な存在ではそのことを指摘できるものはいない。だが宙は堂々とお婆ちゃん扱いして見せた。

 

 「だっ、大丈夫なんですか?」

 「大丈夫大丈夫。今は冬眠してるだろうから気づかねぇよ、……多分」

 「えぇ〜………」

 

 少し自信なさげに呟く宙に妖夢は白い目で見る。

 

 「それよりマヨヒガってどこにあるか分かる?」

 「あぁ、そういえばそうでしたね。うーん」

 「やっぱ知らない?」

 

 唸る妖夢に宙が残念そうに聞き返す。

 

 「いや、そもそもマヨヒガは通常は迷わないと入る事が出来ない仕組みになっているので実際にどこにあるのかは知らないんですよ」

 「あぁー、そういやそうだったな。どうしようかなぁ」

 「よろしければ白玉楼に来ますか?もしかしたら藍さんも来られるかもしれませんし」

 「白玉楼?アンタは幽々子さんとこの人なのか?」

 「えぇ、申し遅れました。私の名前は魂魄妖夢と申します」

 「へぇ、魂魄、ねぇ…」

 

 妖夢が名乗ると宙は顎を押さえ、考える素振りをしてから顔を上げた。

 

 「よし、じゃあどうせ時間はあるし連れて行ってくれるか?久しぶりに挨拶もしときたいし」

 「分かりました、じゃあこれ、持ってくれません?」

 

 そう言うと妖夢は抱えていた巨大な風呂敷を宙へと向けた。

 

 「……まさかこれが目的?」

 「いえいえ、まさかー」

 「まぁ別にいいけどよ…」

 

 そうして二人は人里を後にして白玉楼へと向かい始めた。

 

 

─────────────────

 

 

 人里の中にあるとある鮮魚屋にて二人の妖怪が買い物をしていた。

 

 「んにゃ?あれは……。ねぇねぇ、藍しゃま藍しゃま!」

 「ん?どうしたんだー、橙」

 

 藍と呼ばれた女性は品物の魚を目利きしながら橙と呼ばれた少女の言葉に返事を返した。

 

 「今そこで、藍しゃまみたいな人が居ました!」

 「ん?どういう事だ?私みたいなって、九尾でもいたのか?」

 「違うんです!すごいそっくりだったんです!」

 「?」

 

 橙の言いたい事がよく理解できない藍は頭にハテナマークを浮かべながら聞き返す。

 

 「いったい何が言いたいんだ?」

 「だーかーら、さっきそこで藍しゃまに!、そっくりな!、人が居、て………、ってあれ?もう居なくなってる」

 

 「私にそっくり…?まさか……⁉」

 

 そう呟くと藍は魚を店主に返すと急いで店を飛び出し、嬉々とした表情で空を駆けだした。

 

 「あっ!ちょっと待ってくださいよー!藍しゃまー!」

 「待ってろよー、宙ー!!」



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3.能力

どっかで宙の紹介とかいりますかね?


 「そういえばさー」

 「ん?どうしましたか?」

 

 宙と妖夢は人里を離れた後、白玉楼へ向かう為、空を飛んでいた。

 

 「妖夢の近くにずっといるその人魂ってもしかして妖夢のか?」

 

 そう言うと宙は先ほどから妖夢の傍から離れない白い人位の大きさの人魂を指差す。

 

 「えぇ、そうですよ」

 「てことは、妖夢はもう死んで幽霊にでもなっているのか?」

 「あぁいえ、説明するとなると面倒なのですが、この子は私の半霊で、もう一人の私自身なんです」

 

 そう言うと妖夢は自分だという半霊を抱きかかえ口元まで持っていった。

 

 「へぇ、てことは妖夢は半人半霊ってわけか」

 「そうですね」

 「……半霊かぁ」

 「ど、どうかしましたか?」

 

 その時、宙の自分を見る視線が変わったことに妖夢は気づいた。それはまるで獲物に飢えた狩りをする獲物かのような眼をしていた。

 

 「いやぁ、俺はな、魂を喰えるんだよ」

 「……へっ?」

 

 それは突然のカミングアウトだった。それと同時に、少し離れて横に並んで飛んでいたはずの宙がいきなり妖夢の真横に現れた。

 

 「魂ってのはな、当たり前だがどんな奴にもあるんだが、やっぱり虫とか小動物みてぇなだとあんま美味くないんだよなぁ」

 

 「は、はぁ……」

 

 未だに宙の意図が読めない妖夢は肯定とも否定とも言えない中途半端な返事をする。

 

 「魂ってのは謂わばそいつの経験の、情報の塊だからさ、あんまり弱いと旨味がない。けどな……」

 

────人の魂ってのはうまい(・・・)んだよ────

 

 その瞬間ただでさえ近かった距離を更に詰めて妖夢の後ろから覆いかぶさる様に宙が抱きついてきた。

 

 「ちょっ!何するんですか!!」

 

 妖夢は顔を赤くしながら叫ぶ。だがそれに全く怯んだ様子もなく宙は更に言葉を繋ぐ。

 

 「まぁ落ち着けって、別に死にはしないさ。ただちょっとだけ味見させてくれるだけでいいからさ」

 「いやちょっとだけって……、ていうかそれより早く離れて下さいよ!」

 「サキッチョダケYO!!サキッチョダケダカラ!!」

 「嫌ですよ!?ていうかその喋り方はなんなんですか!?」

 

 尚も抵抗を続ける宙はようやく諦めたのか妖夢から離れる。

 

 「はぁ……、分かったよ。そんなに嫌ならやめといてやるよ」

 「はぁっ…はぁっ……、やっとですか…」

 

 未だに顔を赤らめ息を荒げる妖夢に、宙は何かに気づいたようにポンッと手を叩いた。

 

 「……あぁなるほど、妖夢はソッチ(・・・)の気があったのか。悪いな、やっぱ初めては好きな人が良いよな」

 「ブフゥー!?」

 

 そう宙が言うと、驚いて思わず吹き出してしまったのか、妖夢は少女らしからぬ声を出していた。

 

 「まぁ俺はどっちでもイケるからその気になれば相手になってやるよ」

 「勝手に勘違いしたまま話を進めないで下さい!?」

 「で、誰が気になってんだよ、もしかして幽々子さんか?」

 「話聞いてます!?そしてやめてくれません!?」

 

 そうして妖夢は宙に弄ばれながら白玉楼へと向かっていった。

 

 

─────────────────

 

 

 「宙ー、どこに行ったんだー!宙ー!」

 「藍さまー、私疲れましたー」

 「宙ー!どこだー!」

 「そもそも私が見た方向とは真逆の方向を探して一体どうするんですかー…」

 「なに!本当か、橙!」

 「そうですよー、最初に言ったじゃないですかー」

 「よし!なら今度はソッチを探してみるぞ!」

 「えー……」

 

─────生真面目な癖にどこか抜けている親バカ九尾と意外と苦労人な猫又少女が宙達と出会うのは意外と先になりそうであった─────



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4.白玉楼

ロスワをやってたら気づいたんですが東方虹龍洞に宙にそっくりなキャラが居ましたね……。あの子と宙は一切関係無いです。申し訳ありません……。
2022年12月17日追記:幽々子と宙の会話の一部を変更しました。


 「よーし、着いたぞー!」

 

 「はぁっ…、はぁっ……、疲れた……!」

 

 妖夢があらぬ疑いを掛けられてからしばらく、二人はやっと白玉楼へと辿り着いた。

 

 「いい加減、話を、聞いて、下さい…」

 

 「何だよそんなに息を荒げさせて、ナニ興奮してんだよ」

 

 「だから違いますって!?いい加減怒りますよ!?」

 

 そんな軽口を叩きながら宙は白玉楼の庭を眺めた。

 

 「にしても久しぶりだなぁ、ここに来るのは」

 

 白玉楼は昔ながらの和風の雰囲気を纏っており、その庭も『外』では見たことないほど豪華だが侘び寂びもしっかりしている日本庭園で思わず溜め息が出るほどだ。

 

 「今って幽々子さんはいるか?」

 

 「………別に居るんじゃないですか」

 

 「何だよ、まだ引き摺ってんのか?」

 

 「貴女の所為でしょう!」

 

 そう妖夢が叫んでいると……。

 

 「あらあら、妖夢ったら。そんな大きな声を出しちゃって、はしたないわよ~」

 

 「っ、すいません幽々子様」

 

 白玉楼の中から一人の女性が現れた。その女性は青色の着物を着こなし、口元を扇子で隠すように添えている。頭には幽霊を連想させる布を乗せていて不思議な雰囲気を纏っている。このどこかのほほんとした女性が妖夢の主人で白玉楼の主である『西行寺幽々子』である。

 

 「それに一緒に居るのは~……」

 

 「はい、この人は「まさか妖夢の彼女さん⁉」……は?」

 

 突然幽々子がそんな事を言い出した、それに妖夢もいきなり何を言ってるんだという顔をして幽々子を見ている。

 

 「ちょっ、幽々子様⁉」

 

 「ふふっ、妖夢もやっぱり女の子だものね~」

 

 「どういう意味ですか⁉」

 

 なんだかよく分からないが面白いことが起こっていると察した宙は、この流れに乗ることにした。

 

 「はい、今日は妖夢の主さんと聞いた幽々子さんに挨拶をと」

 

 「あらあら、礼儀正しいいい子じゃない~」

 

 「ちょっと何言ってんですか⁉あなたそんな口調じゃなかったでしょう⁉」

 

 「そんな事ねぇぞ、昔はそんな感じだったぞ。な?幽々子さん」

 

 そう言うと、幽々子は微笑みながら落ち着いて返事を返す。

 

 「ふふふ、久しぶりねぇ。宙ちゃん」

 

 「……ちゃん付けはやめてくれないか?」

 

 「あら~昔はそう呼んでたじゃな~い」

 

 「いや確かにそうだけどさぁー……」

 

 そんな風に幽々子と会話をしていると、妖夢がなんとも言えない表情でこちらを見ているのに気がついた。

 

 「どうしたんだ、妖夢」

 

 「……別に、ただ私とは随分と対応が違うなー、と」

 

 「胸」

 

 「うっ…」

 

 どうやら拗ねているらしい妖夢に一言声を掛けてやると表情が固まった。まるで彫刻のようになっている。やはり妖夢は弄りがいのある奴である。

 

 「ははっ、別にそこまで気にしちゃいねぇから気にすんなよ」

 

 そう軽く流してやっても未だにぎこちない様子だ。先程まではそんな感じじゃなかったんだがなぁ……、せや!(・∀・)

 

 「おいおいどうしたんだよー、胸揉ませてやっから機嫌直せよ~」

 

 「そういうとこですよほんと!」

 

 軽く冗談を言ってみると妖夢が怒ったように叫びだした。どうやら機嫌も直ったようだな(?)

 

 「妖夢~、イチャつくのもいいけど私そろそろお腹が空いたわ~」

 

 「あっ!すいません。今から作ってきます!」

 

 幽々子の要望により妖夢がご飯を作るため建物の中へと走っていった。……まだ四時だけどなぁ……。

 

 「妖夢かぁ……」

 

 「あら~、ホントに気に入っちゃったかしら~」

 

 「いやそういう訳じゃねぇけどさ、……あいつが妖忌さんの孫か?」

 

 「ふふっ、いい子でしょ~」

 

 「そうだな……」

 

 そう返事をしながら宙は昔よく構ってもらっていた人物を思い浮かべていた。その人物は厳格だが優しさも持ち合わせているまさしく人格者であった。

 

 「……やっぱりもう居ないのか?」

 

 「随分と昔に旅に出るとかなんとか言って居なくなったきりねぇ~」

 

 「ははっ……、あの人も変わんねぇなぁ」

 

 「そうねぇ~」

 

 二人の間に静かな空気が流れ出す。そんな空気を払拭するかのように幽々子が話題を変えた。

 

 「それにしても随分と大きくなったわねぇ〜、私よりも身長高いんじゃないかしら〜」

 

 「……いやまぁ、色々あったんだよ……」

 

 「あら~、どういたの~」

 

 そう幽々子が聞き返すと、宙は歯痒そうな顔で呟いた。

 

 「なんだかなー、あんまり思い出せねぇけど何か嫌なことがあったような気がするんだよ」

 

 そう煮え切らないような返事をした宙に幽々子が、

 

 「ふふっ、あなたも色々あったのね~。じゃあそろそろ中に入りましょ〜、私お腹がもうペコペコなのよ〜」

 

 そう言うと、幽々子は歩き出し妖夢が夕飯を作っている所へと向かい始めた。

 

 「そういえば、あなたもここで食べていくかしら〜?」

 

 「ん、じゃあお言葉に甘えて頂くか」

 

 そうして二人は白玉楼の中へと向かう。

 

────そして宙は忘れていた。幽々子の本当の恐ろしさ(食欲)を……



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5.今後

いや、サボってた訳じゃないんです……。ただ、ね?面白すぎるのがいけないんですよ。分かります?だから私は悪くねぇ!!


はい、すいませんでした。


 「ん〜♪美味しいわね〜」

 

 「あぁ……、そりゃ良かったな……」

 

 白玉楼についてしばらくして、幽々子と共に食卓を囲んでいた宙は珍しくぐったりとした様子を見せていた。それもそのはず……、

 

 「なぁ………、まだ食うのか……」

 

 宙の目の前では幽々子が運ばれてきた料理を物凄いスピードで完食している所だった。その食いっぷりは凄まじく、かき込むように、しかし決して下品ではなく品を感じられる所作で食べているのだからその凄まじさが強調されている。

 

 「えぇ、これでも普段よりかは遠慮してる方ですよ……」

 

 「まじか……」

 

 宙は幽々子がよく食うのは知っていたが実際に見るのは初めてで、幽々子を知る存在、……具体的には紫や藍から聞いてはいたが実際に目の当たりにすると迫力がとんでもないことになっている。

 

 そんな宙の問いに配膳をしていた妖夢が返事をした。妖夢は先程から無表情で機械的、いや、もはや機械そのものが如くご飯を運び続けている。

 

 そして幽々子の方はというと、それはもう美味しそうに口の中にご飯を運んでいっている。だがそれを見ても食欲が湧くことはないだろう。現に宙は見ているだけで胃もたれしそうな気分になっている。

 

 (妖夢が作り、妖夢が運ぶ晩御飯、座りしままに食うは幽々子。ってか…)

 

 そんなくだらない事を考えていると妖夢がまたお盆に沢山のおかずを載せてやって来た。

 

 「……俺も手伝った方がいいか?」

 

 「いえ、大丈夫です……、いつもの事ですから……」

 

 そう言う妖夢の背中が宙には大きくも悲しいなんともいえないものに見えた。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 「は〜、美味しかったわね〜♪」

 

 「はぁ…、やっと食い終わったか……」

 

 幽々子が食べ始めて一時間ほどして、やっと幽々子は満足するまで食べたようだ。

 

 「ったく、幽々子さんも相変わらずよく食うねぇー」

 

 「ふふっ、ごめんなさいね〜」

 

 そう微笑む幽々子は見た目相応に可愛らしいが先程の食事(惨劇)を見た後だとどうにも獣が獲物を狙ってるようにしか見えない。

 

 「はぁー、じゃあもう飯はいいんだな」

 

 「えぇ、もう満足ね〜」

 

 そう幽々子が言うと、妖夢は露骨にほっ、と息をついていた。

 

 「じゃあ私は食器の片付けをしてきますね」

 

 「よろしくね〜」

 

 そう言って妖夢は大量の食器を器用に重ねて顔も見えない程の高さになったものを両手に載せて部屋から出ていった。

 

 「さてと……」

 

 幽々子が口元をナプキンで拭いながら、こちらに向き直した。

 

 「貴女はこれからどうするのかしら」

 

 「あぁ?どうするって…、そりゃあ母さんの所に帰るさ」

 

 「それからは?」

 

 「それから?」

 

 幽々子の問いの意味がよく分からない宙は、首を傾げながら聞き返す。

 

 「紫に任されてるお仕事もあるでしょうけど、貴女自信がやりたいこともあるんじゃないの?」

 

 「俺自身が、やりたいこと……」

 

 そう言われて俯き考え込む宙。やりたいことが全くないわけではない。だが今まで宙はそんなことを考えたことはない。

 

 (しいて言うなら……)

 

 「楽しいことをしたいかなー……」

 

 何故そんな事を呟いたのかは宙には分からない。ただフッ、と思い浮かんできたのがそれだったからだ。

 

 「ふふっ、それは良いわねぇ~」

 

 幽々子はそんなあやふやな回答を気にせず微笑んでいた。

 

 「あぁ、何となくそれが良いかなって」

 

 「そうね〜、楽しいこと、か〜……」

 

 幽々子はそう呟いて、どこか遠くを見るような目をした。

 

 「ん?どうしたんだ?」

 

 そう言うとはっとした表情をしたと思えばさっきまでののほほんとした表情に戻った。

 

 「いいえ〜。なんでも無いわ〜」

 

 「そうか、それなら良いんだが……」

 

 「そうよ〜、それよりも〜お迎えがきたみたいよ〜」

 

 そう幽々子が言った瞬間、宙に重い衝撃が加わった。

 

 「なんっ、うぐっ!?」

 

 そして体中になにかが巻き付くような感触を感じたと思えば、全身が完全に拘束されてしまっていた。

 

 「うぐーー!!??」

 

 「あらあら〜、久しぶりだわね〜。藍」

 

 そう幽々子が言ったので、首を後ろに向ける──首も固定されていたが無理矢理動かした──と……、

 

 「か、母さん……」

 

 自分の体に尾を巻き付かせた上、全身をピタリとくっ付けている自分の母、『八雲藍』の姿があった。




もしもし、そこのお方。よければ私に評価を恵んで下さいな。(評価乞食)


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6.白玉楼にて

会話とか考えるのむずいわー。あらすじとか前の話の修正とか色々やってたんで遅れたのは許してくれ……。
追記・やべぇ…タイトル変えてなかった


 振り返った宙の背後にいたのは宙の母である八雲藍であった。

 

 「かっ、母さん……」

 

 「すぅー……はぁー……、あぁ、ほんとに宙だぁ~……」

 

 「いやまじで何してんの⁉」

 

 しばらく見ない内に再会した自分の母が変態になっていた事に驚愕する宙。

 

 「ふふっ、藍に橙ちゃん、久しぶり~」

 

 「すぅー……、幽々子様、お久しぶりです」

 

 「にゃ~……、お久しぶりです~……」

 

 宙に抱きつく(変態)の後ろに橙と呼ばれたなにやら疲れ切って床にうつ伏せに倒れている猫耳を生やした少女の姿があった。

 

 「ん、お前……、もしかして橙か?」

 

 「にゃ~……、久しぶり……お姉ちゃん」

 

 「その姿てことは、橙ももう人化出来るようになったのか」

 

 そう聞くと橙は僅かに動く尻尾を揺らし、嬉しそうに返事をした。

 

 「うん、藍しゃまに稽古を付けてもらって、最近この姿になれるようになったの!」

 

 「へー、そうか。それはよかったなー。で、その藍さまは……」

 

 そう言い宙がチラリと後ろに目をやり……、

 

 「なぁ、母さん」

 

 「んー?なんd「いい加減邪魔だ」ウッ……」

 

 宙が藍を強く睨むと藍の動きが急に止まった。その目は虚ろで動く気配がしない。

 

 「あら~、宙ちゃんの『魂を喰らう程度の能力』、久しぶりに見たけど上手に扱えるようになったわね~」

 

 「ん、まぁな、さてと……、あれ?おかしいな……」

 

 宙が固まった藍を押しのけようとするが藍は抱き着いた状態で微動だにしない。

 

 「あれ?これって、もしかしなくても……母さんが起きるまでこのまま……?」

 

 そんな哀れな宙を悲しいものでも見るかのような目で見つめる橙と片付けが終わり戻ってきたばかりで何が起こっているか理解できていない妖夢とそんな光景を微笑みながら見守る幽々子の姿があった。

 

 

─────────────

 

 

 「………はっ、私は…って宙ー!」

 

 暫くして意識が戻った藍は目の前の宙に気が付くと抱き着く力を更に強めた。

 

 「うぐっ、か、母さん。いい加減放してくれねぇか?」

 

 「はっ!す、すまん……。今離れる」

 

 そう言った藍は宙から手を放した、がその体は引っ付いたまま離れない。

 

 「母さん……」

 

 「べ、別に良いだろう。久しぶりなんだから」

 

 「……はぁ、分かったよ」

 

 「!、宙ー!!」

 

 自分が知らない間にこんなにも自分の母が自分に依存していることに内心呆れながらも、宙自身も寂しくなかった訳ではないので甘んじて受け入れた。

 

 「それにしてもひどいじゃないかー、いきなり能力を使うなんて」

 

 「しょうがないだろ、母さんの力が結構強いんだから」

 

 そう言う二人の間に未だ状況をうまく理解できていない妖夢が問いかける。

 

 「そういえば宙さんもさっき言ってた能力って結局どういう事なんですか?先ほどのを見る感じ、ただ魂を食べるだけじゃなさそうですし」

 

 「あぁ、それはな……」

 

────『魂を喰らう程度の能力』────

 

 その名前の通り魂という存在を喰らうことが出来る。ここで言う魂とは妖夢の半霊や亡霊とは少し違く、魂にはそれぞれの所有者がいてその魂には所有者の情報が刻まれている。宙はその情報を喰らうことが可能なのである。そして宙が先ほど宙が藍に対して行ったのは、藍の今現在の記憶を構成している部分の魂を喰らって、文字通り『魂が抜けた』様な状態を生み出していた。

 

────────

 

 「なるほどー、そういう事だったんですかー」

 

 「ふふん、宙は凄いだろう」

 

 「いや、なんで母さんが自慢してんだよ」

 

 感心する妖夢に対し何故か当人ではない藍が鼻を高くし自慢している。

 

 「はぁー、まぁいいか。それじゃそろそろお暇させてもらいますかね」

 

 そう言うと宙は立ち上がった。

 

 「あら~、もう行っちゃうの~?もっと居てくれてもいいのに~」

 

 「あぁ、元々母さん達が来るかもってことで来たからな。そんなにお邪魔するわけにはいかねぇよ」

 

 「ふふっ、まぁ久しぶりに貴女の顔も見れたからいいわ~、またね~」

 

 「あぁ、またな~」

 

 「お邪魔致しました」

 

 すると藍も当然の如く引っ付いたまま立ち上がり、挨拶をした。いい加減気持ち悪い。

 

 「酷い⁉」

 

 「じゃあ離れろ、ほら橙」

 

 「はーい!幽々子様達、さようならー」

 

 「ふふっ、またね橙ちゃん」

 

 そうして宙達は白玉楼を後にした。




感想とか評価欲しいなー、すごい励みになるんだけどなー|д゚)チラッ


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7.変わらないこと

評価ほんとにありがとうございます!!やっぱりお願いしたらみなさん結構入れてくれるんですねぇ…(味占めた)


 「ふぅー、やっと帰ってこれたな」

 

 三人が白玉楼を出てから暫く、宙達はマヨヒガへと帰ってきていた。

 

 「宙はもう白玉楼で夕飯を済ませたんだったか?」

 「あぁ、だから飯はいらねぇよ」

 

 そう言うと、宙はすたすたと自分の部屋がある場所へと向かい始めた。

 

 「……あっ!そうだ!」

 

 突然宙は振り返り、藍達に叫んだ。

 

 「風呂入りたいから風呂沸かしといてくれー!」

 「はいはい、わかってるよ」

 

 それに対し手慣れた風に藍は返事をした。

 

 「……藍しゃま。覗いちゃ駄目ですよ……」

 「///っ……わ、分かっている‼」

 

 橙の冷ややかな視線を受け藍は頬を赤らめながら風呂を沸かすため風呂場に向かうのだった。

 

 「…………はぁ。全く藍しゃまったら、私が最近構ってあげないのもあいまって、今度はお姉ちゃんに引っ付いてる……、はぁ………」

 

 どうやら橙の苦難はまだ続きそうであった。

 

──────────────────

 

 「……ここに戻ってくるのも随分と久しぶりだな」

 

 そう呟きながら宙は自室の襖を開けた。その部屋は畳が敷かれたThe日本家屋といった部屋で、床にはけん玉やメンコといった昔ながらの日本の玩具から部屋の雰囲気には似合わないカラフルな配色の積み木の玩具があった。

 それらは床に置かれているが決して散らかっているわけではなく、きちんと整理されており、明らかに誰かが定期的に掃除をしている雰囲気だった。

 

 「…母さんのやつ、掃除はしなくていいって言った筈なのになぁ……」

 

 さっきまでとは違う自分の記憶にある母の姿を思い浮かべ、思わず苦笑してしまう宙。

 

 「全く、母さんは普段は真面目な癖に、なんでこうなったかなぁー」

 

 そう言いながら思い出すのは過去の記憶。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 ある日、まだ宙が外に行く前の事、宙は居間にて藍の姿を見つけた。

 『お母さまー!』

 『っ!ど、どうした、宙』

 『何やってるんですかー?』

 

 そう言う宙の視線の先には宙や橙の服などが置かれてあり、そのうちの一つを手に取り顔をうずめている藍が居た。

 

 『こ、これはだな⁉えーと……そ、そう!服を畳んでいたんだ!』

 『えー、なんで畳むのに匂いを嗅ぐ必要があるんですか~?』

 『匂っ…!い、いや~、ちょっと洗剤の匂いがきつかったかなって』

 『すんっすんっ、………そうですかね?あんまりしませんがね?』

 『そ、そうかな!じゃあもう一度洗ってくるよ!』

 

 そう言うと藍は傍らにあった洗濯物を抱えて行ってしまった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 「………いや、あんまり変わってないか」

 

 子供だったから気づかなかったが今思い返してみればあんまり変わってないように感じた宙。そんな母に呆れながら、この部屋に来た理由を思い出した。

 

 「ふぅ、さてと。思い出(笑)にふけるのもいい加減にしてとっとと着替えを用意するか。」

 

 そして部屋にある自分の箪笥を開けるとあることに気が付いた。

 

 「ん?俺の服減ってね?」

 

 そう、箪笥にしまわれている服が妙に減っていた。宙は外に行く時に何着かは持っていったがそれでも明らかに数が足りない。

 

 「……まぁあのサイズじゃもう合わないしいいか」

 

 そうして宙は服を取って自室を後にした。

 

────────────

 

 「…………そろそろいいか?」

 

 宙が出てから少しした後、宙が出た所から反対の襖から藍が現れた。その手には子供服が何着も握りしめられていた。

 

 「ふぅ…、まさか私としたことが戻すのを忘れていたとは…今のうちに戻しておかないとな……」

 

 そしてそろそろと箪笥に近づき、手に持っている服を戻そうとした。……その時、

 

 「なにをやってんだ

 

 「アッ………」

 

 不意に藍の背後から声が聞こえたかと思ったら藍は意識を失くしてしまった。

 

 「……んなこったろうと思ったよ、変わんねぇな」

 

 そこには先程風呂場に向かった筈の宙の姿があった。そして白目を向いて立ち尽くす藍に近づき自分の服を回収した。

 

 「はぁ、まったく、なんでこうなったんだ……?」

 

 そう呟き立ち呆ける藍をその場に放置し再び部屋を後にした。




みんなの評価、オラに分けてくれぇ!


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8.和解

居なくなったと思ったか?残念!まだ生きてます。最近ちょっとプロットやら書き溜めのようなナニカを書いてたら時間が空いちったよ。というわけで(どういうわけで)感想や高評価を恵んでください(い つ も の)


 「はぁ……、全く母さんは……」

 

 先程の出来事の後、宙は浴場にて入浴していた。頭の上にタオルを乗せて肩まで湯船に浸かっている。そこは八雲家の浴場で、家の外観とは反して非常に現代的なバスタブがあり、広さもかなりのものだ。そしてくつろいでいる宙の隣には便乗して入ってきた橙の姿がある。……猫って水嫌いなんじゃなかったか?

 

 「なぁ、母さんって俺が帰ってくる前からあんなんだった?」

 

 そう質問する宙に対し、若干呆れたような表情で話した。

 

 「そりゃあ藍しゃまはずっとあの調子よー。普段は真面目なのに私達、特にお姉ちゃんの事になったらもうだめねー」

 「まじかよ……、てかやっぱり橙もあんな風なことされてんのか…」

 「そうよー、大変だったんだからー」

 

 そう聞いて先程の藍の様子を思い出し同情する宙。

 

 「……大丈夫か?なんか嫌なことがあったら相談するんだぞ?」

 「大丈夫よー、それよりもお姉ちゃんの方がまずいんじゃないかしら?」

 「………そうだよなぁ…」

 

 なにせ服の残り香を吸うほど溺愛(?)されているほどだ。その依存具合は半端ではないだろう。

 

 「まぁ今は紫しゃまが寝てるってのもあるかもねー」

 「あぁ、そういや今って紫様冬眠してるけど起こして大丈夫か?」

 「ん?なにか用事でもあるの?」

 「あぁ。外についての報告とかしないといけないし、何より顔ぐらい見せておかないと拗ねるだろ」

 「あーそれもそうねー」

 

 そう聞いて橙は一際大きな溜め息をつき……、

 

 「ほんとに藍しゃまたちはなんで普段は普通なのにこんなにポンコツなんだろ」

 

 そう呟くのだった。

 

 

───────────

 

 

 風呂から上がり服を着替えたり嫌がる橙の髪をドライヤーで乾かしたりと色々あったあと、居間へ行くとそこには夕飯を作り終えて、先程の件での反省の意味を込めてるのか正座をしている藍の姿があった。

 

 「二人共、夕飯の準備を…って、宙はもう白玉楼で食べてきたんだったか」

 

 どうやら俺の分まで間違えて作ってしまったようだ。だが幽々子さんのあの食いっぷりを見てあまり食欲が無かったからあまり食べていないから丁度良かった。

 

 「いやもらっておくよ。あんまり食べてきてないからな。それに、折角作ってくれたんなら有り難く頂くよ」

 「宙……!」

 

 何だか母さんが感極まったような目でこちらを見てきた。全く、大袈裟だな……。

 そうして宙は苦笑しながら料理が並べられたちゃぶ台についた。

 

 「ん?なぁ母さん。なんか多くないか」

 

 宙が指摘した通りちゃぶ台の上には何故か四人分の皿が並べられていた。宙は頭の中で『母さんだろ。橙だろ。それに……』そこまで考えた所でこういうことをしそうな人物が思い浮かんだ。

 

 「おかえりなさい、宙」

 

 すると突然、目の前の空間がいきなり裂け、中から一人の女性が顔を覗かせていた。間違える筈もない。自分達の主、『八雲紫』だ。

 

 「はい、八雲宙、只今帰還致しました」

 「あら、そんな固くならなくても、さっきみたいに喋ってもいいのよ?」

 「えぇ、ですがまずは御報告をしなければと思い……」

 「そんなことより今はご飯を食べたいの、皆で食べましょ?」

 

 そう言うと裂けた空間、『スキマ』から全身を出して炊飯器から白ご飯をよそい始めた。

 

 「……はぁ、しょうがねぇなぁ」

 

 そう呟くと宙達も紫に続いてご飯をよそい始めた。

 

 

────────

 

 

 久しぶりに四人揃ってご飯を食べた宙は満足気に腹を擦っていた。

 

 「いや〜、やっぱり母さんの油揚げは最高だな、……はぁ、これで服を盗まなきゃ手放しで褒めれるんだけど……」

 「うっ、だからそれはすまなかったって……」

 「けどなぁ、いくら寂しかったからって服の残り香を吸うってのはどうなんだよ」

 

 呆れた目でうろたえている藍を見る宙。そしてそれを残念なものでも見るかのような目をしている紫。……紫様も人の事言えないんだよなぁ……。

 

 「はぁ……、まぁもう帰ってきたからそんな哀れなことはしないでくれよ」

 「!! ああ!勿論だ」

 「あと橙にもあんまり迷惑かけんなよ」

 「うっ……」

 

 心当たりがそれなりにあるのか言葉に詰まる藍。やはりというか何というか……まだ俺ならば血縁関係もあるし理解(?)もできる。だが橙はほとんど家族のようなものとは言え式神としての契約を結んでいる、言い方は悪いが他人である。そんな相手にセクハラもいい所の行為をするのは如何なものか。……それも愛故なのは分かっている。だが、いやだからこそ適した距離感というものがあるんじゃないだろうか。橙だって愛をセクハラで表現されても嬉しくはないだろう。

 

 「お姉ちゃん……!」

 

 どうやら橙もかなり困っていたのだろう。感激したかのように瞳をうるわせてこっちを見てくる。

 

 「まぁ別に程々にしてくれりゃ俺たちも文句はいわないからよ、自重はしろって事だよ」

 「あぁ、すまなかったな。橙」

 

 そう言うと藍は橙に対し深々と頭を下げた。すると橙は慌てて返事をした。

 

 「ちょっ、べ、べつに藍しゃまは悪く、は………、悪かったかもしれませんけどそこまでおこってませんから頭をあげてください!」

 「橙………!」

 

 ……………何だろう。この胸が熱くなる気持ちは。成程、これが一部人間たちがよく言っていた『萌え』という感情か。とにかく二人の仲が深まったようで良かった。これから楽しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………あれ、もしかして私って空気?」

 「……あ、忘れてた」




高評価も嬉しい。めっちゃ嬉しい。死ぬ程嬉しい。でも実際に皆様の声を聞ける感想の方がめっちゃ嬉しいです。感想や気になる点、設定ガバなんかがあったら遠慮なく言ってください。そうすれば更新頻度が上がるようです(ワ○ップ並の信頼度)


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9.早すぎた再会

なんか書いてたら結構沢山書けたので分割して投稿します。けど修正とかがまだ途中なので次話はまだ先になりそうです。
追記2023/02/28:タイトルが仮題のままでした。すいません。


 「───────以上が外の世界での報告です」

 「はいご苦労さま」

 

 和気あいあいとした(忘れられていた紫除く)食事が終わり一息ついた後、宙と紫は報告会をしていた。先程の男勝りな口調とは打って変わってかなり固い口調(本人曰くお仕事モードだからと言っていた)で話しているが紫は特に変わった様子は無い。

 

 「ちゃんと任せていたことを期待以上にこなしてくれたようで嬉しいわ〜」

 「有難き幸せ」

 「そうだ、幻想郷に招いたって言っていた二柱の神はいつ頃に来る予定か聞いてるかしら?」

 「はい。どうやら外の世界に未練が残っているらしくそれを終えたらこちらに来る、と申していました。おそらくは一年掛からないかと」

 

 紫の質問に簡潔にかつ詳しく報告をする宙。本当に同一人物か疑いたくなるほどの変わり身である。事実この口調で話すのを初めて見る橙はさっきまでとのギャップに驚いて目を丸くしている。

 

 「すごい……さっきまでとは別人みたい………」

 「ん?あの状態の時の宙を見たことがないのか?宙は……、というか私達式神は普段の口調とは別にああいう口調で話すのが一般的でな。まぁ紫様が好まないから仕事の時以外ではあのような口調では話さないんだが」

 「……なんだかマジメなときの(・・・・・・・)藍しゃまソックリ……」

 「そうだろうそうだろう……、えっ」

 

 橙に、宙に似ていると言われて喜び、真面目な時という注釈に気づいてショックを受けたりと忙しい藍を横目に宙達の話し合いは進んでいく。

 

 「ふふっ、成長したわね、宙」

 「はっ、有難う御座います」

 「ふふっ、もうその口調じゃなくてもいいわよ?」

 

 そう紫が言うと宙は、ほぅ、と一つ溜め息をつき橙の記憶にある荒いがどこかフランクな口調に戻った。

 

 「ダぁーー!!疲れたー!」

 「はいはい、お疲れ様」

 

 終わった瞬間先ほどまでの真面目な雰囲気はどこへやら、早々に傍にあった座布団に頭を預けて、畳に寝っ転がった。それを見て紫はその光景を微笑ましいものでも見るかのような目で見ている。

 

 「宙ー、お疲れー!」

 「やめろ、くっ付くんじゃねー!暑苦しい!」

 

 そこにすかさず藍が宙の横にやってきて抱き着いてきた。

 

 「いいじゃないかー、なーなー」

 「あぁー、分かったよ!ほら、好きなだけ抱き着けよ!」

 「宙ーー!!」

 

 宙はもうヤケクソになったのか抱き着くことを許可すると藍は胴体が凹むんじゃないかと思うほど顔をめり込ませてきた。そしてそれをどこか遠い目で見つめる橙。どうやら似たようなことをやられていたようだ。

 

 「………それじゃあ私はもうそろそろ寝直すとしましょうかね。藍?」

 「すぅーーーーはぁーーーーー、はい、何でしょうか」

 

 深く息を吸い込みながら返事をする藍に何か言いたげな表情をしていた紫だったが諦めたのか、そのまま話を続ける。

 

 「前に言った計画は順調なのよね?」

 「えぇ、勿論で御座います」

 「そう、それなら……まぁ、うん、いいのよ。じゃあ何かあったら連絡してね」

 「畏まりました」

 

 そう言い残すと紫は手で空を斬ると、目玉や腕を覗かせた紫色の裂け目が現れその中へと消えていった。

 

 「じゃあ私もそろそろ寝るわね。おやすみなさーい、藍しゃま、お姉ちゃん」

 「あぁ、お休み」

 「あぁ……、ってちょっと待て。もしかしてこの状態で置いていくのか!?」

 

 そう宙が叫ぶと橙は一瞬肩を震わせた後、俊敏な動作で開いている襖へと駆け寄り素早く部屋を出た。

 

 「あっちょっ、逃げるな!ちぇえええええええええん!!!!」

 

 だが悲しい事に宙の悲痛な叫びは橙をこの場に引き止めるには弱かったようで無慈悲にも橙の気配が遠ざかっていく。

 

 「そんな……橙……信じてたのに…、ん?」

 

 宙が無情な現実を嘆いていると突然目の前に紙切れが降ってきたのに気が付いた。そこには、『ごゆっくり』、とだけ書かれていた。

 

 「あの野郎ーーー!!!!!!!!!!」

 「ふふっ、ほら。紫様もこうおっしゃっているんだ。すこし楽しもうじゃないか」

 「やめろーー!?」

 

 

 

 

 

────────この後めちゃめちゃモフられた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから八雲家は冬眠をしている紫を除く三人で暮らしていた。そんなある日、宙は藍からある事を教えてもらった。

 

 「弾幕ごっこ?」

 

 それは幻想郷における新しい戦闘方式だった。この幻想郷において本気で闘うとかなり不味いことになる。例えば挙げられる例としては『鬼』だ。妖怪として圧倒的な力を誇り、種としては恐らく最強ともいえる存在だ。拳を振るえば地形が変わり、足を踏み込めば地殻を破壊する。そんな存在同士が本気で闘えばどうなる?当然幻想郷どころか地球規模での危機だ。

 だから直接戦闘を避けるという点ではかなり良い案だと言える。だが問題はその弾幕ごっことやらをどうやって認めさせるかだ。妖怪は強い者ほど我が強く、言うことを聞かせるのも難しくなる筈だ。どうやって認めさせたのか聞いたら母さんは微笑むだけで何も言わない。……どうやらあまり詳しく聞かないほうがよさそうだ。

 

 「で、それを俺に教えようという訳か」

 「あぁ、話が早くて助かるよ」

 

 確かに幻想郷の管理者である俺たちが弾幕ごっこが出来なければ話にならない。となると紫様や母さん達はもう弾幕ごっこを出来るのだろうか。

 

 「なぁ、もう母さんは弾幕ごっこで戦えるのか?」

 

 そう聞くと藍は自慢げな顔をして尻尾をふりふりと揺らして来た。

 

 「ふっふっふっ。勿論だとも。私だけでなく橙もかなり物になって来たぞ」

 

 聞くとどうやら藍が教えたらしく、橙の出来がかなり良いから嬉しいのだろう。藍の贔屓目もあるだろうがそれでも上達してるのは間違い無さそうだ。

 というか、そうか。確かにこのルールならば橙の様に弱い妖怪でも紫のような大妖怪と肩を並べられる可能性があるという訳か。この幻想郷において重要なのは人間だ。その人間は俺達妖怪から見れば貧弱でか弱い。だが単純な力では無く技術力も試される弾幕ごっこならば人間でも妖怪と渡り合う事がやり易くなる。紫様も上手いことを考えたものだ。

 

 「成程な、事情は分かった。だが誰が教えてくれるんだ。母さんでも良いが大丈夫なのか?」

 

 主に甘やかしてしまうという点で。

 

 「……そのことなんだが、非常に不服なんだが私以外の者と相手をしてもらう事になった。私は納得していないが」

 

 ……どうやら俺と一緒に出来ないことがかなり不服そうにそう語った。だがそうなると誰を相手にすることになるのだろうか。紫様は冬眠してるし橙もまだ完璧では無いらしい。となると相手は外部の者になるけども八雲家に関わりのある人物………あぁ、そうか。

 

 「えぇそうですよ私ですよ」

 

 突然開かれた襖から藍にも負けず劣らずの不満顔を晒している白玉楼の剣術指南役、魂魄妖夢が居た。

 

 




感想とか読んでたらまだ3つしか無いのに凄いずっとニヤニヤしてられますね。


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10.弾幕ごっこ、の前に……

書き溜めて置いたんですが次話が中々行き詰まっちゃったんでもう投稿しちゃいます。戦闘シーンってやっぱ難しいですね(´・ω・`)


 「成程。つまりお前が相手をしてくれるって訳か」

 「えぇそうですよ」

 

 目の前の銀髪の少女、妖夢はそう答えた。どうやら藍に俺の弾幕ごっこの練習相手として呼ばれていてマヨヒガに来てたらしい。

 

 「なんだ、思ったよりも早い再開になったな」

 「そうですね。私としてはもう会いたくは無かったのですが」

 「おいおい、そんな事言うなよ〜。俺たちの仲だるぉ〜?」

 「ちょっ!?何勝手なこと言ってんですか!それに私達前会ったばかりでしょう!」

 

 そう冷たく言い放つ妖夢に対し宙はそんなこともお構いなしにだる絡みをし始めた。それに対し妖夢は、纏わりついてきた宙を引き剥がそうと試行錯誤している。

 

 「ほぅ…?もう二人はそんな仲なのか?」

 「貴女が出るとややこしくなるから控えててください!」

 「なぁ〜妖夢〜」

 「あぁーー!!だから私は嫌だって言ったんですよー!!」

 

 片やダル絡みをしてくるヤバイ奴()、片や嫉妬に狂うヤバイ奴()。前門の宙、後門の藍と化した妖夢の叫びは誰にも……、いや、妖夢の案内をしていた橙には届いていたがその手を差し伸べられることは無かった。

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 「はぁ…、取り敢えずこれが弾幕ごっこの大まかなルールです」

 

 ツッコミのしすぎで疲弊していた妖夢はさっさと終わらせるため早々にルールを教えて、触りの部分だけ模擬戦をして帰ろうとしていた。

 

 「成程ねぇ、スペルカードか。結構面白そうじゃねぇか」

 「えぇ。その際大事なのは如何に美しく自分らしさを表現することです。そうですね、藍さん」

 「くっ。悔しいがその通りだ」

 「いやなんで悔しがってんだよ」

 

 妖夢に対抗心を燃やしている藍が唇を噛みながら肯定していた。

 

 「ふんっ、私ならもっと上手く教えられるがな!」

 「じゃあ自分で教えて下さいよ……」

 「紫様がこうしろとおっしゃるんだから仕方ないだろう!」

 「あぁ道理で……」

 

 何故藍がこのような機会を自ら手放したのか分からなかったがこういう事だったか。まぁ紫様に任せて正解だったな。だって藍はこの有様だからな、こんな状態ではまともに戦えはしないだろう。

 

 「さて、ルールも理解したならば早くそれっぽいスペルカードを作って下さい」

 「………なぁ、ちょっといいか?」

 「ん?なんです」

 

 宙が神妙な顔付きで妖夢の方を向く。

 

「1度、弾幕ごっこじゃなくて剣で勝負しないか?」

 「……え?」

 

 唐突な提案に妖夢は困惑した表情で聞き返す。

 

 「いや、大丈夫なんですか?そりゃ弱いとは思ってないですが………」

 「ダイジョーブダイジョーブ。久しぶりに肩慣らししときたいだけだし、それに妖夢くらいじゃあ怪我しないし?」

 

 そう言われ妖夢は頭の中でプツンとなにかが切れる音が聞こえた。

 

 「ほ、ほぅ…?それほど豪語するのならばそれなりには剣も扱えるんでしょうねぇ?」

 

 妖夢には剣士としての誇りがある。確かに剣士としては、祖父に比べればまだまだ半人前と自覚しているが、それでも自分など相手にならないと言われて流せるほど謙虚では無かった。

 

 「おぅ、それじゃ決まりだな。俺は適当に準備してくるから先に庭に出ておいてくれ」

 

 そう言うと宙は居間を出て自分の部屋へと戻っていってしまった。

 

 「ふ、ふふっ。随分と言ってくれるじゃないですか……。えぇ、貴女がそのつもりなら私だって容赦はしませんよ……!」

 

 そして静かに闘志を燃やす妖夢も指定された場所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 「おや、やっと来ましたか、随分と遅かったですねぇ、てっきり怖くて逃げちゃったのかと」

 「悪いな、サラシがキツくて手間取っちまった」

 「グハッ!ホンっと!そういう所ですからね!!」

 

 宙の言葉に吐血するほど精神にダメージを受けてしまっている妖夢。それに対し宙は非常に落ち着いている雰囲気を纏っていた。いつものロングヘアを後ろで纏めてポニーテールにし、腰には木刀を携え服も真っ白の和服を着ていて、式神としての時とはまた違う雰囲気だった。

 

 「宙ー、その髪型も可愛いぞー!!」

 

 遠くから何か聞こえてくるが宙達は聞こえない振りをすることにした。

 

 「さて、ルールはどうする?」

 「……そうですね、では妖術や魔法、基本的には能力は使用禁止で剣術のみでの試合で、お互い寸止めで行うことにしましょう」

 「あぁ。さて、ルールも決まったことだし………さっさと始めようぜ」

 

 その言葉を皮切りに周囲から音が聞こえなくなり二人は持っていた木刀を両手に添えて構えた。

 

 「合図は母さんが頼む」

 「むっ、了解した」

 

 無視されて少々拗ね始めていた藍に合図を任せて、お互い木刀を構えた。

 

 そうしてお互いの間に無音の時が流れて、そして………

 

 「それでは、始めっ!!」

 

 二人の間で火花を散らした。




感想下さい……。何でも良いので下さい……。私はこのまま書き続けてもいいんでしょうか……?


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11.肩慣らし

はぁ………。何かが足りないってずっと思ってたんだ。それが今分かった。それはな、藍しゃまが書けてねぇ……。俺は藍しゃまのモフモフがモフモフするのを書きたくて小説を書き始めたのに一向にそういう展開にならねぇ‼︎‼︎これは由々しき事態だ。だから次辺りは番外編で藍しゃま書こうかなぁ……、と思っております。書かないかもしれない。そんな私を応援して下さい。


 開始と同時に急接近した二人はお互いの木刀をぶつけ合い鍔迫り合いの形に持ち込まれていた。

 

 (はっ、速い!?)

 

 妖夢は一瞬で終わらせようと素早く切り込んだはずが抑え込まれている事に衝撃を受けていた。この速度に反応してくるのは予想できていた。しかし現在鍔迫り合いしている位置はお互いの最初の立ち位置の中間よりもかなり妖夢側の位置だ。つまり宙は切り込んでくることを予想していたのか、はたまた見てから反応してきたのか分からないが妖夢よりも素早く動いているということになる。

 

 「おう、どうした。そんなに冷や汗かいて。そんな怖かったか?」

 「はぁッ……、はぁッ……」

 

 息を乱す妖夢に対し宙は至って普段通りでこの結果に疑問を持っている様子は無い。つまり………。

 

 「予想通りって、とこですか……」

 「あぁ、当たり前だ」

 

 そう言って不敵に笑う宙に妖夢は警戒を一段と強くする。

 

 「ほら、次いくぞ」

 「っ⁉」

 

 不意に木刀に掛かる力が軽くなったと思い、力んで瞑っていた眼を開けたらそこに宙の姿が見えなかった。

 

 「おらっ!!」

 「ぐっ、ふんっ!」

 

 背後から感じた僅かな気配を頼りに木刀を振りかぶると、ガキンッ!、という木刀から出るとは思えない音がした。

 

 「へぇ、やるじゃねぇか」

 

 そしてぶつかった木刀に力を入れると先ほどとは違い直ぐに振り払うことが出来た。どうやら込めた力を利用されその勢いで距離をとったらしい。そして流れるように中を舞うと、音もなく着地し砂利を踏みしめる。

 

 「中々やるじゃねぇか、妖夢」

 「ハァッ…ハァッ、そう、ですか」

 

 妖夢は一太刀交えるだけ息も絶え絶えだというのに宙は呼吸が乱れている様子は無い。それだけ地力が違うということなのか。それに……

 

 「なん、っで、私の、動きを……」

 

 宙の動きが妖夢と非常に酷似していた。【編集予定】

 

 「ん?あぁ。そりゃあお前、俺の能力を忘れたのか」

 

 宙の能力……。確か『魂を喰らう程度の能力』だったか。だがそれはルール違反なのではと妖夢は思いそれを問いただそうとした。

 

 「能力の、使用は、禁止だと……」

 「あぁ、悪い悪い。言い方が悪かったな。使ってるのは今じゃねぇよ。これはあくまで前に能力を使った影響だ」

 

 それを聞いて妖夢はいつ魂を喰われたのか思索しだす。

 

 (一体どのタイミングで……?無意識下で出来るとしても能力を使ったなら何かしら気づける筈……)

 

 「あぁ、どうせ何時やられたのか、なんて考えてるんだろうけど無駄だぞ」

 

 そう言われて妖夢は更に混乱するが、それも束の間……、

 

 『待宵反射衛生斬』

 

 突如、宙の姿が掻き消えたかと思うと妖夢は反射的に身を捩らせた。

 

 「ッ‼︎ぐぅ⁉︎」

 

 その瞬間宙のいた場所から一直線上に衝撃が走った。その威力は凄まじく、石畳の地面を深く抉り取り、未だその場所に残像を幻視してしまうほどだ。だがそれらよりも衝撃的だったのは宙が言った技名だ。

 

 「その技はッ……」

 

 「おぅ。お前の師匠のだよ」

 

 『待宵反射衛生斬』は妖夢が目指すべき境地に至ることで修得出来る奥義とも呼べる技。それを使っている所を見るのは初めてではない。

 

 「何故お師匠様の技を…‼︎」

 

 それは妖夢の祖父にして師匠である魂魄妖忌の技だったはずだ。それを何故彼女が扱えているのか、それは直ぐに理解する事が出来た。

 

 「まさか……お師匠様の魂を……」

 

 「おぅ、剣なんて使うの久しぶりだったからちょっと心配だったけどそこそこ上手だろ?」

 

 その言葉を聞き、妖夢は悔しさで下唇を噛み、震える手を抑えながら木刀を構えなおすが───

 

 「────っえ?」

 

 構えなおした木刀に無数の亀裂が入り、ピシッ、という乾いた音とともにその原型を崩す。

 

 「えっ、あっ.......」

 

 「まぁ、こんなもんかな?」

 

 呆気に取られて腰を抜かして動けない妖夢を尻目に自分の木刀を指でなぞり、傷が無いか確認している宙。

 

 「今…のは……」

 

 「『待宵反射衛星斬』。お前の師匠の技だ。まぁあの人ほどのレベルじゃねぇがな」

 

 そう語る宙は膝を突いて動けない妖夢に手を差し伸べ、妖夢はフラフラしながらもその手を掴み立ち上がった。

 

 「へへっ、悪いな。お前に初めて会った時から戦ってみたかったんだよ。やっぱ喰らった魂がかなり多いからか今まではなんとも無かったけどお前に会った瞬間ウズウズして堪んなかったんだわ」

 

 そう口角を歪めながら大きく笑う宙の姿に薄らと自分の祖父の姿が見えたのを妖夢は見逃さなかった。




小説にガバとかあれば教えて下さいな。誤字とか文脈とかその他色々。正直かなり間が空いたので心配になってきたのでよろしくお願いしますね。
 

 ちなみに宙は妖忌の魂を喰らってはいますが、量で言ったらつまみ食いレベルなのでそんなに問題はありません。







……あっ、高評価もお願いします。


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外伝 過去の記憶

HAHAHA。前の更新から一ヶ月経っちゃったよ。笑うしかないね。すいませんでした。もうこれだけ経ったら話すことがありすぎて困っちゃうゼ☆
なので纏めてみました。
①私のツイッターアカウントを表記しておきました。
②一話目の冒頭を書き直してみました。
③誠に申し訳ありませんでした。


 私の名前は八雲藍。昔は玉藻前だかなんだか呼ばれていたが現在はこの名前で呼ばれている。そうなった経緯も色々あるのだがその話はまた後で話そう。そんな私には大切にしているものが幾つかある。

 

 まず挙げられるのが、私の式神である橙の存在だ。橙は元々野良の化け猫だったが、私の式神として契約をした時に今の少女の姿になったのだがこれがとても愛らしい。

 勿論この姿ではなくても同じくらい愛しただろうが可愛くて駄目な筈がない。その可愛さはもうこの世のものとは思えない程可愛くて天使か何かと間違えてしまう程で、いやもう橙こそが天使だろうそうに違いない。特に頭を撫でてやると目を細めて気持ちよさそうにする表情が可愛すぎてな、………すまない、少々長かったか?

 

 次に挙げられるのは私の主人であり、私を式神として契約している紫様だ。私の八雲という名前はこの方の苗字から頂いている。

 紫様にはどうやら叶えたい夢のようなものがあるらしく、現在私はそのお手伝いをさせて頂いている。紫様は強大な力をお持ちになっているが普段は半日以上をお眠りになられている。故に、その間は私が紫様に頼まれている仕事をこなさなければならない。

 別にそれ自体は苦ではないのだが、橙と戯れる時間が少なくなるのが少し悲しい。それに私にはもう一人橙と同じ位可愛がっている子がいる。

 

 それが私の娘である宙だ。娘とは言っても私の胎から生まれたわけではなく、私の妖力溜まりから自然発生した野良の妖怪に近い存在だがそんな些細なことも気にならない位には愛している。

 妖怪としての力もかなり強く、妖狐の格を表す尾の数も既に()()もあり、並の存在では相手にならない位には成長している。

 式神としての知能は私にすら迫る程で紫様曰く、もう少し精神が成長したらある程度仕事も任せられそう、とのことだ。

 私としてはもう少し幼いままでいてほしい気もするが娘の成長は素直に喜ばしいことだ。………なんだ、橙。ん?膝に乗りたいのか。いいぞ、こっちにおいで。

 

 「ふにゃ〜〜」

 

 ふふっ、可愛らしいものだなぁ、あぁ……。

 その小さな頭に顔を埋めて肺いっぱいにその空気を詰めたい衝動に駆られるが何とか自我を保ちながら橙の頭を撫でていると、

 

 「藍〜、居るかしら〜?」

 

 どうやら紫様が私を呼んでいるようだ。橙を撫でる手を止めずに声だけで反応することにする。

 

 「紫様、どうなさいましたか」

 

 「さっきまで休んでたんだけどね、この子が布団の中に入って来たんだけど……」

 

 そう言う紫の腕の中には、小さく丸まっている子狐がすやすやと寝ていた。

 

 「クゥーー……スゥーー……」

 

 気持ちよさそうに眠っている子狐、宙はいつものように人の姿ではなく本来の妖狐の姿になっている。本当は人の姿に慣れてほしいのだが………、まぁなろうと思えば直ぐなれるからそこまで気にする程ではないか。

 

 「悪いんだけどちょっと預かってて貰えないかしら。暖かいけどちょっと寝苦しくて…」

 

 「かしこまりました。ほらおいで、宙」

 

 「んにゅぅ?」

 

 寝ぼけながら返事をする宙を、私は苦笑しながら自分の尻尾で包み優しく抱いてやる。

 

 「くにゅぁ〜……」

 

 「ふふっ。おやすみ、宙」

 

 そう言ってあげると、宙は再び可愛らしい寝息を立てながら私の尻尾の中で眠り始めた。

 

 「………その尻尾気持ちよさそうねぇ……」

 

 そう呟く紫様を横目に、私は橙の頭を撫でるのを再開した。いやはや、前には橙、背後には宙がいるとは此処は天国かなにかなのだろうか。

 

 「………ねぇ、藍」

 

 紫様がなにか言いたげのような表情をしながら此方に話しかけてきた。

 

 「どうなさいましたか」

 

 「私もその尻尾を触りたいんだけどいいかしら」

 

 どうやら宙を羨ましく思っているようだ。全く、この人ときたら………。

 

 「もう紫様もいい年でしょう。それに今は宙が使っておりますよ」

 

 そう言うと少し寂しそうな表情をするのが分かった。

 

 「………はぁ。また後でなら触ってもいいですよ。今日のところはまだ仕事も残っていますから無理ですが」

 

 「!!ふふっ、ありがとう。楽しみにしておくわね」

 

 何でもないかのように紫様は去っていったが嬉しそうにしているのが見え見えだ。全く、もっと感情を表に出すようにすれば胡散臭いなどと揶揄われることもないだろうに。

 

 そんな不器用な主が部屋に戻るのを確認すると、藍は再び膝下で丸くなっている橙を撫で始めた。

 

 「ふぅ……。さて、そろそろ仕事に戻りたいんだが……」

 

 ちらりと自分の膝を見ると既に眠りについてしまっているようだ。

 

 「……まぁ、こんな日もあっていいか」

 

 そうして二人が起きるまでの間、感触を楽しみながら日向ぼっこに興じる藍であった。




あの……、私のツイッターアカウントです……。フォローしてくれたら進捗などを呟きますので良ければ見ていって下さい。https://twitter.com/yuri_onisan

追記 URL貼り直しました!


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12.紅霧異変

『八雲藍』タグで調べて総合評価順に並べたら四番目にこれが出てくるってマジ?


 妖夢との模擬戦から暫く、宙はある仕事を任されていた。

 

 「はぁー……。初めての異変の監視及びサポート、かぁ……。紫様も無茶なこと言うね〜」

 

 妖夢との模擬戦後、弾幕の打ち方やスペルカードの作成などの弾幕ごっこに最低限必要なことはしたが、妖夢がかなり疲労していたため結局実際に弾幕ごっこは行えなかった。なので宙は弾幕ごっこに関しては初心者もいいところである。そんな状況で異変を任されるとは心外である。

 

 「………まぁ妖夢も清々しい顔してたしいいか」

 

 戦いを終えた後妖夢は、『貴女のことはあまり好きじゃありませんが機会があればまた戦いましょう』と言っていた。どうやら思ってたよりスキンシップが嫌がられてたようだ。………次からは自重するか。

 

 「にしても、異変の首謀者さんは派手なことをするねぇ」

 

 現在、宙がいるのは『霧の湖』と呼ばれる大きな湖で名前の通り、普段は深い霧に覆われていて薄暗い雰囲気をしている。今も霧は出ているが、

 

 「随分と真っ紅だなぁ、こんな霧は見たことねぇや」

 

 視界が真っ紅に染まるほど紅い霧が立ち込めており本来の霧すら覆い尽くしていた。

 

 「話には聞いていたけど随分と紅色がお好きなようで」

 

 別にこの霧を吸ったところでそこまで害があるわけでもない──人には普通にあるらしい──からあまり関係はないが、全く問題ないという訳でもない。具体的には、日が遮られるから日向ぼっこ出来ない。あと単純に目障りだ。

 

 「地味に嫌な嫌がらせみたいなことしやがって。どうせならもっとこう、ドカーンとでかい事件起こそうぜ。……まぁ被害が少なく(見かけは)派手ではあるという点では最初の異変には丁度いいってのも分からなくもないがな」

 

 そう。この異変は紫様が弾幕ごっこという制度をこの幻想郷に知らしめるいわゆるデモンストレーション。お披露目会のようなものである。

 

 正直こんな茶番じみたことにわざわざ自分が必要なのかと思索するが、主の命令は絶対であり、それにこの異変を見届けるのも楽しそうだと思い、割と楽しみにしながら宙は今回のターゲットとなる飛行している二人の少女を眺めていた。

 

 

 

───────そして時は少し前に遡る───────

 

 

 

 「ア゛ァ゛ァ゛〜、暇ね〜」

 

 おおかた、少女が出してはいけない声でぼやく少女が縁側で茶を啜っていた。ここは博麗神社、ぱっと見は一般的な神社だがこの幻想郷においては博霊大結界を維持するという重要な役割を果たしている。

 

 そして彼女はその博麗神社を管理するただ一人の人物であり、幻想郷においてもおそらく一人しか居ない巫女である。

 

 そんな彼女は現在絶賛暇なのである。昨日はなんやかんや境内を掃除することになった霊夢はそれなりに綺麗にはなったことで本当に暇を持て余していた。……本来は落ち葉なども一日でかなり落ちるため毎日やった方が良いのだがどうやら霊夢は普段掃除をしないためそこまでする気が回らなかったようだ。

 

 そして今日も変わらず茶菓子の前餅を食べながら道具屋から仕入れてきた茶を啜っている。するとそこに…………、

 

 「おーい、霊夢ー!!」

 

 空から箒に乗った少女が降りてきた。その少女は全身を黒いゴスロリのような服を着て頭にはこれまた黒いトンガリ帽子を被りまるで絵本の中にいるような魔法使いといった服装だ。

 

 「また来たの、魔理沙。アンタも懲りないわねー」

 「あったりまえだ。異変が起きたら霊夢なんかより早くこの魔理沙様だけで解決してやるんだからな!」

 

 魔理沙と呼ばれた少女が空中に浮いている箒から飛び降りるとなんの躊躇いもなく霊夢の傍らに置いてある皿から前餅を一つ摘んだ。

 

 「あっ!ちょっと何勝手に食べてんのよ!」

 「いいじゃんか。別に減るもんじゃないし」

 「減ってるけど!?」

 

 そんな平和なやりとりを二人がしていると、霊夢が突然明後日の方向を向いた。

 

 「ん?おい、どうしたんだ霊夢?いきなり黙って。前餅ぐらいで拗ねんなよ」

 「………ねぇ、あの紅い霧……」

 「ん?霧?」

 

 そう言われ魔理沙は霊夢が見ている方向を日光が眩しいのか手のひらを目の上に翳しながら見てみると確かに霧の湖から不気味な紅い霧が湧き出ていた。

 

 「なんだありゃあ、気味が悪いくらい真っ紅な霧だな。あんなの見たことないぜ」

 

 そう呟く魔理沙に霊夢は緊張しながらも何処か高揚を抑えられないような表情で返す。

 

 「ふふっ……、あれは、もしかしたら異変かもしれないわね?」

 

 その言葉を聞いた魔理沙は瞬時に飛びつくように霊夢の肩を掴んで揺らした。

 

 「おい、本当か!遂に異変が起きたんだな!」

 

 まるで新しい玩具を貰った子供のように跳ね回る魔理沙に気圧されながらも霊夢は語る。

 

 「えぇ。私の初めてのお仕事がやっときたわねぇ」

 「いや霊夢にはちゃんと巫女としての仕事があるじゃないか……」

 

 そうツッコミをいれる魔理沙も浮足立っており、人のことは言えない。そんな状態だからか、魔理沙は手に握っていた箒を強く握り込めるとそれに跨り空へと駆けていった。

 

 「よし!じゃあ私は先に行ってるからな。あんまり遅いと私一人で異変解決しちゃうかもな。はっはっはっ!」

 

 そう高笑いしながら魔理沙は紅い霧が湧き出ている方角へと向かっていった。

 

 「あ、コラ。待ちなさい!私を置いていかないで!」

 

 そうして二人の少女が初めて経験する異変、『紅霧異変』が幕を開けたのであった。




運良くストック的なのが出来たので割と早く更新できそうです(フラグ)
お気に入り登録、評価などしてくれたらありがたいです。


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13.道中

フゥーー⤴!!ストックすることもせずにもう投稿しちゃったゼ☆流石にもう書き溜めとかなくなっちゃったけどまぁ行けるやろ(白目)
いつもの如くお気に入り登録、評価、感想お待ちしております。
Twitterの方もよろしくお願いします。


 「なぁー霊夢ー」

 

 「何よ魔理沙」

 

 霊夢達は現在、紅い霧の発生源を突き止めるために霧の湖の上空を飛行していた。

 

 「この紅い霧の異変ってどんなやつが起こしてるんだろうなー」

 

 「さぁ?」

 

 「さぁ?って……」

 

 「相手が誰であろうと異変を起こすなら討伐対象なだけよ」

 

 「おー怖」

 

 こんな状況でも自分のペースを崩さない霊夢に、呆れたような尊敬するような複雑な感情を抱く魔理沙は自分の腕に抱えられている存在に話しかける。

 

 「なぁーなぁー。お前はどう思う?」

 

 「きゅー」

 

 それは魔理沙の小さい腕にスッポリ収まるほどの大きさの子狐だった。子狐は魔理沙の言葉を理解しているのか返事をするが残念ながら魔理沙は子狐の言葉を理解出来なかった。

 

 「ねー、そいつホントに連れて行くの?」

 

 「いーだろ別に。可愛いし、見たところ妖狐だから何かの役に立つかもだぜ」

 

 「妖狐って言ったてねぇ、まだ子狐だから大したことは出来ないじゃないの。そもそも異変だって時に変なもの抱え込むなんて何考えてんのよ」

 

 「何だよ、霊夢だってさっきまで撫で回してたくせに」

 

 「そっ、それとこれとは別でしょ!?大体ね────────」

 

 そうして二人が口論になっている間、囚われの身となった子狐、宙は思った。

 

 (ど う し て こ う な っ た)

 

 

──────────

 

 

 「ほえー、見れば見るほどあの二人はすごいねぇ」

 

 時は遡り、宙は紫に与えられた任務として二人の少女の動向を遠目で見ていた。

 

 「ほらほら!もう終わりかしら!」

 

 片方は紅白の巫女服を身に纏い、空を駆けながら自身に迫る無数の弾幕を落下するかのように軽やかに回避しながら自身もまた弾幕を放っている。相手の妖怪も能力であろう暗い闇を混ぜながら弾幕を放つが尽く霊夢に避けられている。

 

 「う〜、なんで当たんないんだ〜、うぎゃっ!?」

 

 あ、当たった。霊夢の相手の金髪の少女の姿をした妖怪、……ってあれはもしかしてルーミアか?なんであんな姿に……。………まぁいいか。そしてルーミアはそのまま森の中へと落ちていった。

 

 「うが〜、やられた〜」

 

 「ふふん。ざっとこんなものかしらね♪」

 

 どうやら初めての勝利にご満悦の様子の霊夢。体を反らしながらドヤ顔を晒している。

 

 一方、霊夢達から少し離れた場所には黒白の魔法使い、確か魔理沙と呼ばれていたな。魔理沙が手に持っている謎の道具から弾幕やレーザーを放っている。

 

 「はっはっは!やっぱり弾幕はパワーだぜ!!」

 

 「うおー!さいきょーのあたいが負けるわけないんだからー!」

 

 相手の氷精もかなり奮闘しているが、結構押されており、放っている氷の弾幕を魔理沙の放つレーザーで打ち消されており、あの感じはもうやられるだろう。

 

 「二人共人外相手は慣れてないだろうに、特に魔理沙はただの人間のはずなのによくやってるなぁ」

 

 妖怪退治を生業としている博麗の巫女ならばそういう術も学んでいるんだろうが魔理沙は何の変哲もない一般人。

 

 魔法を使っているようだが、あのレベルに至るまでにはどのくらいの時間と労力を掛けたのだろうか。

 

 「いい加減に終わらせてやる!恋符『マスタースパーク』ッ!!」

 

 「おっ!遂にスペルカードを使うのか?」

 

 魔理沙がスペル名を叫ぶと右手に構えていた金属の道具から光が満ち始め、明らかにエネルギーをチャージしているようだった。その様子を見て相手の氷精は慌てて射線上から逃げようとするが、それよりも早くチャージは終わった。

 その瞬間、魔理沙の右手から虹色に輝く極太レーザーが放たれた。それはまるで夜を切り裂くような輝きを放ち、周囲に立ち込めていた紅い霧を吹き飛ばしながら氷精へと向かっていく。

 

 「うきゃぁー!?!?」

 

 そして案の定直撃し、ルーミアと同じように森の中へと落ちていった。

 

 「へー、あれがスペルカードか。随分とド派手な技だなぁ。こりゃあ俺も負けてられな、ってやべっ」

 

 

 

───────

 

 

 

 「ふぅー、妖精にしては随分と強かったな。おーい、霊夢ー。こっちも終わったぜー!」

 

 氷精との弾幕ごっこを終えた魔理沙は、先に相手を倒していた霊夢に声をかけた。だが霊夢は地上を睨んだまま動かない。

 

 「おーい、どうしたんだよ」

 

 「……さっきから誰かに見られているような気がするのよ」

 

 「見られてるって、さっきの奴らの仲間でも居るのか?」

 

 「はぁ…、雑魚ならいいんだけどねぇ」

 

 そうぼやきながら霊夢は木々の間を掻い潜りながら視線の元へと向かう。

 

 「うーん、やっぱり何もいないぞ。考えすぎじゃないのか?」

 

 「…………そこッ!!」

 

 「キャン!?」

 

 霊夢がとある草むらに目を向け睨んだかと思ったら、巫女服の袖に仕舞われていたお札を投げつけた。すると甲高い動物の声とともに一匹の子狐が転がってきた。

 

 「って、あれ? 狐?」

 

 「おいおい霊夢〜。いくら何でも大人気ないんじゃないのか?」

 

 魔理沙は、そうからかいながら目を回している子狐を抱きかかえた。

 

 「おーよしよし。暴力巫女に乱暴されちゃったんでちゅね〜」

 

 「きゅ〜……」

 

 「だっ、誰が暴力巫女よ!?」

 

 赤ちゃん言葉で話しかけながら子狐を撫で回しながら霊夢を小馬鹿にする魔理沙に、多少の自覚はあったのか、焦りながら反論する。

 

 「むっ、こいつ、尻尾が複数あるな。ってことは妖狐か」

 

 魔理沙は霊夢の抗議を尻目に子狐をあやしていたら、尻尾が二本あることに気が付く。

 

 「妖怪のくせに霊夢の攻撃を食らってもピンピンしてるとは…、気に入った!連れて行こう!」

 

 「はー?妖怪を連れて行くなんて何考えてんのよ」

 

 「まぁまぁ、そう言わずにさぁ。ホレ、お前も少しくらい撫でてやれよ」

 

 「なんで私はそんなk──」

 

 と、そこまで言ったところで子狐と目が合う。

 

 「きゅ〜ん」

 

 子狐も目が合ったことに気がついたのか、瞳を潤わせながら霊夢を見つめる。

 

 「なっ、何よ?そんな目をしたって騙されないんだからね!?」

 

 「きゅ〜ん……」

 

 「……分かったわよ!撫でればいいんでしょ、撫でれば!!」

 

 そう言って、霊夢は半ばヤケクソになりながら狐の頭をガシガシと撫でた。

 

 「………結構触り心地いいのね………」

 

 「フッフッフッ、やっと認めたか」

 

 「何がよ」

 

 軽口を叩きながらも撫でるのをやめない霊夢。そうして結局その後、魔理沙が飽きて催促するまで霊夢に撫で続けられたのだった。




宙(眠くなってきた…………)


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14.夢〜目覚め

前回の投稿からもうすぐ一月経つので初投稿です。もうこれぐらいのペースで投稿しようかな……。



 夢を見ていた。

 

 上も下も分からない奇妙な空間に一人いた。

 

 

 さびしい

 

 

 ただ訳も分からずそう思う。

 

 そうしていると不意に体を持ち上げられて何かの上に乗せられた。

 気づいたら誰かの膝に乗せられて頭を撫でられていた。自分の目線の高さからまだ子供くらいの身長だろうか。撫でてくる手は力強くも優しい手つきで()の頭を撫で回してくる。

 

 上をちらりと見ると、黒髪の巫女服のようなものを着ている女性がいた。その容姿は美しく思わず見惚れてじっと見つめてしまった。

 

 そんな私の視線に気が付いたのか、私の顔を見つめたかと思うと、ニカッという効果音でも聞こえてきそうな程眩しい笑顔を見せてくれた。その笑顔は少年のような活発さと包み込むような優しさがあった。

 

 お母様とは違うが、また違った安心感を感じる。

 

 

 あなたはだれなの?

 

 

 その顔には見覚えがなかった。いや、違う。どこかで見たことがある気がするが何故か思い出せない。胸の奥から込み上げる不安感を表すように舌っ足らずなたどたどしい口調で言葉を話す。

 

 

 おいていかないで

 

 

 自然とそんな言葉を私は紡ぐ。何故そう言ったかは分からないが自然と口からこぼれ落ちた。

 

 それを聞いたからか女性は動揺したかのように瞳を揺らすと、寂しそうな表情をしながら微笑んで抱きしめてくれた。暖かく心地よい温もりが体を包む。

 

 

 『大丈夫。()()はずっとお前の傍にいるから』

 

 

 その言葉を聞いていると不思議と安心感を得られた。

 

 私が殺した癖に

 

───────

 

 

 

 「くぁ〜……」

 

 「おや、起きましたか」

 

 ドカーン、という辺りに響き渡る激しい爆発音を聞き、宙は目が覚めた。

 

 うん?目が覚めた。つまり、俺は今まで寝てたというわけだ。

 

 …………。

 

 「きゅぉーん!?(仕事中なの忘れてたー!?)」

 

 「わわっ、いきなり暴れないでー!?」

 

 慌てて起き上がり辺りを見渡すと一人の中華服を着た女性に抱えられており、その背後に大きくひしゃげた門がある。そしてその後ろには見るだけで目が痛くなるほど真っ紅な洋館がある。その大きさはかなり大きく中に住んでいる存在の強大さが伝わってくるようだ。間違えようのない、俺の目的地、『紅魔館』である。

 

 「きゅ、きゅ〜…(良かった、ちゃんと連れてきてくれてたのか…)」

 

 どうやら霊夢達はあのまま紅魔館まで連れてきてくれたらしく、そのことに安堵しながら値落ちする前の記憶を思い出す。

 

 (えーっと、確か霊夢たちに尾行がバレそうになったから人型から獣型に变化したけど結局見つかって……、それで……)

 

 と、そこまで思い出して宙は自分の醜態を思い出す。

 

 (あァァァァァーーー!?何で俺はあの時あんな事しちゃったんだァァァァ!?何が『きゅ〜ん』だよ!!ガキ見たいな事してんじゃねぇよあの時の俺ェェェ!!)

 

 あの時は久しぶりに獣としての姿に変化したからかその時の体の変化に精神が引っ張られ、精神が幼くなってしまっていたようだった。その時に霊夢達に取っていた態度を思い出してしまい、心のなかで叫びながらその身を転がせた。

 

 「ちょちょッ、落ちちゃうぅぅー!?」

 

 (ん?そういえば俺は誰に抱えられてんだ?)

 

 先程から自分の頭上から聞こえる声にようやく気が付いた宙は上を見上げる。

 

 そこにはさっき周囲を見渡していた時に見えた女性だと気が付く。どうやら俺に話しかけていたようだ。

 

 「おっ、やっと見てくれましたね。体調はどうですか?」

 

 そう優しく話しかけてくる女性は鮮やかな赤髪をしており、中華服を着ているからか爽やかで健康的な印象を受ける。

 

 「言葉を理解出来るようなのでまずは自己紹介でもさせていただきますね。私の名前は『紅美鈴』。この紅魔館の門番をやらせて頂いてます。あっ、紅魔館というのはですね─────」

 

 聞いても居ないのに(まぁ話せないから聞けないが)ペラペラと自分の素性を話し始めた紅美鈴と名乗った女性。良くも悪くもマイペースなのか、仮にも敵である霊夢達から受け取ったであろう俺に話しかけてくれる。

 

 「────それでお嬢様は人前ではカリスマがあるのに、」

 

 「いやもう良い」

 

 美鈴の話がそろそろただの身内自慢になり始めた辺りで会話を打ち切った。これ以上聞くと何だかマズイものでも聞きそうな予感がしたのもあるが、言葉を理解しているとはいえただの獣だと思われている状態で話されると何だか気まずい。というか今は大丈夫だがまたさっきのように精神が幼児化してしまわないか心配だ。

 

 「えっ、喋ッ」

 「此処まで面倒見てくれて悪かったな。でももう大丈夫だから」

 

 そう俺は言うと肉体を獣の姿からいつもの人型へと変化させる。うん。やっぱりこっちの姿の方がしっくりくる。

 

 「えっ、人!?」

 

 突然目の前で俺の姿が変わって混乱している美鈴を横目に紅魔館の門へと近づく。ぱっと見大丈夫そうに見えるが、所々凹みが見られる。犯人は恐らく、というかほぼ確実に霊夢達だろう。傷の状態からかなりの激戦だったのが見て取れる。

 

 「じゃっ、お仕事お疲れさん。多分もうそろそろ異変も終わるだろうから後はゆっくり休みな」

 

 そう言って俺は紅魔館の上空の方を向く。そこには陰陽玉を周囲に浮かび上がらせ臨戦態勢になっている霊夢と、そんな彼女に対峙している青銀髪の幼い少女だ。だがその片手には紫色に輝く巨大な槍を携え、彼女の身を覆うように紅霧が濃くなっている。十中八九、彼女が異変の首謀者だろう。

 

 「監視っつても初回の異変だしそこまで気張らなくてもいいとはいえ……、まぁ最後くらいは見届けますかね」

 

 そうして俺は未だ戦闘音が鳴り響く紅魔館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 「モフモフが行っちゃった……」

 

 ……後ろで美鈴が何かを呟いていたが無視して紅魔館へと向かった。




今更ですが紅魔郷は結構あっさり目になる予定です。
みんなが感想書いてくれたら投稿するの一週間ぐらい速くなります。多分……。


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15.そうして異変は佳境へと

書けちゃったから早めに投稿するよ〜ん。


……あれ?書き溜めするつもりだったんだけどなぁ?


 「それは私の本よ、今すぐ返しなさい!!」

 

 「良いだろ本の一冊ぐらい!?」

 

 「駄目よ。大体、貴女にその本の価値が理解出来るはずがないでしょう」

 

 「ムッ。私だって魔法使いの端くれだ。魔導書の価値ぐらい理解っている!!」

 

 「だったら尚更返しなさい!!」

 

 「うわッチッチッチ!?」

 

 紅魔館の館内にて、紅魔館の外観からは想像も出来ないほど広大な空間に魔理沙はいた。そこは無数の本が収納された本棚が延々と連なっており、スケールが大きすぎるのを除けば図書館と呼ばれる場所だった。そんな場所で彼女は何をしているのかというと、

 

 「火符『アグニシャイン』ッッ!!」

 

 「うぎゃー!?」

 

 燃やされていた。

 

 少女の周囲を囲む様に炎が渦を巻き、その炎の一つが魔理沙の手に持っていた箒へと直撃した。

 

 魔理沙は箒に燃え移った炎を振り払うかのように箒を地面へと叩きつけ消火活動に当たっていた。

 

 「はぁっー…、はぁっー……、ふぅ〜〜……。おいおい酷いじゃないか。いきなり燃やしてくるなんて」

 

 「貴女がさっさと本を返さないからよ。これで分かったでしょう。早く本を返しなさい」

 

 そんな魔理沙に対峙するのは紫色の少女だった。紫色の髪に紫色のゆったりとした服装にナイトキャップと呼ばれる帽子を被っている。帽子には三日月の形をした飾りが付けられている。

 そんな暖かそうな服装をした彼女は、今にも射止めそうな視線を魔理沙へと向けている。理由はまぁ、彼女が先程から叫んでいることだろう。

 

 「やーだね。大体、ここには腐るほど本があるからいいだろ」

 

 「ちゃんと防腐魔法を掛けてるから腐らないわよ」

 

 「そういうことじゃねえよ」

 

 「それに、ここにある本はどれも世界に何冊もない貴重品ばかり。他人にあげられるほど私は優しくないわ」

 

 「借りるだけだって言ってるだろ?」

 

 「じゃあいつ返しに来るのよ」

 

 「私が死ぬまで」

 

 「それを人は泥棒というのよ」

 

 「泥棒だなんて人聞きが悪い。私は立派な魔法使いだぜ」

 

 二人はここが初対面だとは思えないほど息のあった掛け合いでまるでコントのようだ。

 

 「もう良いわ。これ以上話したって聞きやしないでしょうし、無理やりにでも返してもらうわよ」

 

 

 『金符「シルバードラゴン」』

 

 

 そう少女が呟くと周囲に銀色の魔法陣が浮かび上がり、そこから銀色の球体が成った。それはみるみるうちに形を変化させ気づけば竜の頭となっていた。そして竜頭は自らの肉体を形作りながら魔理沙の方へと飛び出していく。

 

 「ッ!?ちィッ!!」

 

 魔理沙は咄嗟に避けようとしたが、竜が蠢くたびにその身からにじみ出る魔力が銀の弾幕へと変わり周囲を埋め尽くし逃げ場を潰していた。

 

 「竜が何だってんだ。私を倒したけりゃもっとでかいのを連れてこい!!恋符『マスタースパーク』ッ!!」

 

 そう魔理沙が啖呵を切ると手に持っていたミニ八卦炉を銀竜に突き出しスペルカード名を叫んだ。その瞬間ミニ八卦炉から虹色の閃光が迸り竜と激突する。

 

 「くッ!?」

 

 やがてその均衡を崩れる。お互いの魔法がぶつかりあった結果発生した衝撃波でホコリが巻き上げられたのか、周囲を砂煙が覆う。そしてだんだんと煙が晴れ、そこに立っていたのは……、

 

 「ゲホッゲホッ、うひゃー凄い威力だな」

 

 握り拳を口に当ててむせている魔理沙だった。

 

 「へっへっへ。どうだ見たか!!」

 

 「ゴホッゴホッ……私は、ゲホッゲホッ…、喘息持ちなのよ、ゲホッゴホッ……」

 

 むせながらも人差し指を向けながら勝ち誇る魔理沙に相手の少女は魔理沙よりも酷い咳をしながらヨロヨロと立ち上がる。

 

 「へっ、負け惜しみは聞かないぜ。じゃっ、これは貰っていくぜ!」

 

 「あっ、待ちなさッ、ゲホッゲホッ…」

 

 魔理沙はそう言い残すと箒に跨がりながら、帽子の中から一冊の本を取り出して少女に見せびらかしながら飛び去っていった。

 

 ………そんな一幕を遠目で眺めている影が2つ。

 

 「あっ、魔理沙さんどっか行っちゃいましたね………」

 

 「そうだな」

 

 ヒソヒソ声で会話する二人は本棚の裏からコソコソと顔を出した。

 

 「なんか本持ってかれたけど大丈夫なのか?」

 

 そう聞くのは特徴的な狐耳が生えた少女、宙である。

 

 「多分咲夜さんとかが取り返してくれると思いますから大丈夫かと」

 

 もう一人の声の主は、鮮血のように鮮やかな赤髪に蝙蝠のような小さな羽が頭から生えている可愛らしい少女だった。名前はどうやらないらしく、彼女の種族である悪魔から小悪魔と呼ばれているそうだ。

 

 「パチュリー様ー、大丈夫ですかー?」

 

 「ゲホッゲホッ……、小悪魔、と誰?分からないけどさっさと起こしなさい」

 

 紫の少女、パチュリーは声を掛ける小悪魔に気づき呼びかけた。

 

 「おや?また喘息を起こしてますねー。薬持ってくるのでちょっと待っててくださいね〜」

 

 だが、小悪魔はパチュリーが咳をしていることに気が付くと何処かへ飛んでいってしまった。

 

 「………」

 

 「………」

 

 そして後に残されたのは突然知らない人物が現れて困惑するパチュリーと、気まずい空気に耐えられず無意味に周囲の景色を眺め続ける宙だった。

 

 

──────────────────────

 

 

 「───で、貴女誰なの」

 

 そんな空気が続くこと数分、小悪魔が戻ってくる様子も無く暫く二人の間で微妙な空気が流れている、と、唐突にパチュリーが口を開く。どうやら彼女もこの空気に耐えられなかったようだ。

 

 「俺か?俺はな、う〜ん……」

 

 「いやなんで悩むのよ」

 

 そうパチュリーがツッコミを入れるがこちらにも事情があるというもの。

 

 (霊夢たちにガッツリ見られたとはいえ一応影からコッソリ監視しろって言われてるからなぁ……)

 

 監視の他にサポートも任されている宙だがそれはあくまでも陰ながらという意味だ。元々姿を現す予定ではなかった。

 

 (くそっ、これならさっさと霊夢(本命)の所に行っとけばよかったぜ)

 

 そう内心悪態を吐く宙だったがパチュリーは依然としてこちらを見つめてくる。

 

 「なに?言えないなら不審者ってことでさっきの魔理沙みたいに焼き払うけど」

 

 「いや言う!!言うから待って!?」

 

 パチュリーがどこからか取り出した魔導書片手に炎を浮かび上がらせる。いやさっきまで咳き込んでた奴とは思えねぇな。

 

 「ん゛ん゛ッ。俺の名前は宙、訳合ってお宅にお邪魔させてもらってます。まぁすぐ帰るから気にしn」「訳合ってじゃ駄目。ちゃんと言いなさい」

 

 「………異変の解決を見届けるため霊夢と魔理沙の監視をしていました」

 

 誤魔化そうとしたがジト目で見つめながら魔導書を見せびらかしてくるパチュリーの圧に負けたのか、宙は耳をペタンと倒しながら渋々話す。

 

 「異変の解決を……?なんであなたが……」

 

 「因みに俺の名字は八雲だ」

 

 「………あぁ、そういうことね」

 

 宙がそう言うとパチュリーは納得したかのようにうんうんと頷いた。

 

 「あの胡散臭い妖怪の式神と言ったところかしら」

 

 「oh……。胡散臭いって……、まぁ否定はしないけどさ」

 

 どうやら紫様は相変わらず外面が以上に胡散臭いようだった。昔から彼女は公の場では気取った態度を取っているようだがそれが以上に胡散臭く(紫自身はかっこいいと思っているようだった)、周囲からかなり、その、うん。これ以上はやめておこう。……ハヤクキヅイテネ。

 

 「確かに胡散臭い妖怪が来た時に狐の従者が居た気がするけど、随分と雰囲気が違う気がするんだけど」

 

 「あぁ、そりゃ母さんだな。俺はその時外に居たからな」

 

 「外って幻想郷の外ってことかしら」

 

 「そうだな」

 

 「懐かしいわね。私達も少し前にこの幻想郷に引っ越してきたのよ。まさか引っ越して早々面倒事に巻き込まれるとは思っても居なかったけど」

 

 以外にも会話は和やかな雰囲気で進み、暫くしたら何か大きな箱のようなものを抱えた小悪魔が飛んで戻ってきた。

 

 「パチュリーさm、ぶべらッ!?」

 

 「遅いのよ。貴女が薬を探しに行ってから一体どれくらい時間が経ってると思ってるの」

 

 パチュリーは飛んできた小悪魔に手に持っていた魔導書を投げつける。かなり分厚いものだったので痛そうだ。

 

 「ひ〜ん。だってぇ、喘息の薬がどれだかわかんなくって暫く探してたんですけど見つかんなかったから薬箱ごと持ってきたんですよ〜」

 

 「もうかなり時間も立ってるから咳ももう収まってるし、そもそも喘息の薬は分かりやすいように別に分けて置いてたでしょ」

 

 そうパチュリーが言うと小悪魔は暫く呆けた顔をしていたかと思うと、顔を青ざめさせた。

 

 「パッ、パチュリー様ー!!ごめんなさい〜!!」

 

 「ちょっ!?小悪魔、泣きつかないでちょうだい。暑苦しいわよ!!」

 

 「だってぇ〜!!」

 

 そうパチュリーたちが賑やかにやりとりをしていると───

 

 「ん?なんだ?」

 

 地下から重く、地響きのような音が聞こえてくる。上ならば霊夢たちが戦っているから分かるが何故地下から……。

 

 「なぁ、ここって地下室みたいなのってあるのか?」

 

 「………一応あるけど。それがどうしたの?」

 

 「さっきから下から地響きみたいなのが聞こえるんだが何かやってるのかなぁって」

 

 「!?……まさかッ、小悪魔、逃げッ!?」

 

 パチュリーが何かを言い終わる前にそれは現れた。

 

 「あはっ、あははははははは!!!!」

 

 床を破壊しながら、甲高い嘲笑を高らかに上げて少女が姿を現す。

 

 「あははっ、お外ってこんなに楽しいのね!!あはははは!!!!」

 

 その少女は狂ったように笑いながら周囲を見渡し始める。

 

 「いーちにーさーん。あはっ、沢山だ〜。あはははっ!!」

 

 まるで値踏みをするかの様に指を差しながら数を数えていく。間違いなくこちらの人数のことだろう。

 

 「あははは!!玩具がいっぱいあるなんて〜、私嬉しいわ!!」

 

──だから、精々こわれないでね

 

 そうして異変は唸りを上げ、終幕(フィナーレ)へと向かっていく。




皆さん、感想を書くのです。それだけで救われる人がここに居るのです。一度書いてくれた人でもいい。全然いい。むしろばっちこいです。感想ってね、私にとっては誰か1人書いてくれただけでも嬉しいんです。2人書いてくれれば泣くほど嬉しい。みんな書いてくれたら喜びすぎてで嬉死泣きします。さぁ、もう一度言います。感想を書くのです。


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16.破壊少女

随分と遅れてしまいました。本当に申し訳ありません。それと言うのも理由がありまして、ゼルダのティアキンやっていやすいません本当にすいません。いや別に執筆サボってた訳じゃ無いんですよ?今回結構難産でしたし、その割に文字数多いし。そして何より活動報告にも書いてたこの小説のR-18版のやつも書きましたし。というわけで興味ある方は是非ご覧下さい。https://syosetu.org/novel/326676/


 「ねーねー魔理沙ー」

 

 「ん?何だ?」

 

 紅魔館の地下室にて、二人の少女が床に座り込み話している。そこは地下であるということを忘れてしまうぐらいファンシーな部屋だった。カラフルなチェック柄の壁紙に、少女らしい可愛らしいぬいぐるみがたくさん居る大きなベッド。そして二人の手にはその中のぬいぐるみのなのかクマのぬいぐるみが抱えられていた。それを抱えた少女は愛らしく、誰が見てもただの少女だと思うだろう。

 

 それらがボロボロに破壊されていなければの話だが。

 

 壁紙は無数の引っかき傷でボロボロに剥げて、本来の壁の色が見えている。ベッドは大きくひしゃげ、機能を十全に使うことは難しいだろう。ぬいぐるみもほとんどが破裂し中の綿が出ていて、ただのぬいぐるみと分かっていても非常にグロテスクになっている。少女達が抱えているのはある程度形を保っているが、少女のか細い両腕に抱えられた圧力によりその形を大きく歪め、今にも破裂してしまいそうだ。

 

 そんな狂った部屋の主は来客であるもう一人の少女にまるで親友であるかのように親しげに話しかける。

 

 「お外ってそんなに楽しいの〜?」

 

 そう聞く彼女はパタパタと背中の翼を動かした。その翼は皮膜も無く、黒い枝のような骨格が伸び、そこから八つの宝石が対になるように連なっている。それは生き物の器官とは思えない形状をしており、非常に不気味だがそれが美しさすら感じるような翼だった。

 

 そんな翼を持つ少女は開いた口元から伸びる細い牙が彼女が人外であることを主張している。

 

 そんな奇妙な少女、『フランドール・スカーレット』は自分と向き合って人形遊びに付き合ってくれているもう一人の少女、魔理沙にそんな質問を投げかけた。

 

 「あぁ、楽しいぞ〜。なんてったって自由だからな」

 

 「『自由』?」

 

 「そうだ。何をするにしても自分で決められて自分のしたいことをできる。まぁルールの範囲内ならの話だけど」

 

 「それって楽しい?」

 

 「あぁ、楽しいぜ」

 

 「お人形遊びよりも?」

 

 「それは人によると思うけど私は楽しいぞ」

 

 「じゃあ私とのお人形遊びはつまらなかったってこと?」

 

 「うっ、いやそういうわけじゃ……」

 

 言葉巧みに誘導されてしまう魔理沙。事実、魔理沙は少女とはいえもう恥じらいを持つ年頃だ。ただでさえ口調を男っぽくしている魔理沙にとって、お人形遊びといった可愛らしいものをするのは少々気が引けていた。それを見透かしてかフランはケラケラと笑いながら、仄かに顔を赤らめさせる魔理沙をからかう。

 

 「謝らなくたっていいわよ別に。私もそろそろお人形遊びにあきてきた頃だし」

 

 何でもないように微笑みながらそう言うフランに安堵した魔理沙はホッと小さく息をついた。それというのもフランからはかなりの魔力を感じているからだ。可愛らしい少女の外見に似つかわしくない禍々しい魔力。魔法を嗜んでいる者ならば人目で異常だと理解出来てしまう。魔理沙もこの少女がいきなり癇癪を起こして殺しにかかる程短気ではないとまだ僅かな時間しか関わってないが理解していた。だがそれでも万が一があってはマズイとそれなりには警戒している。それなりではあるが。

 

 「お外って貴女みたいな人間がたくさんいるのかなぁ?」

 

 「そうだなー、人間なら霊夢とかぐらいしか、いや、そういえばここのメイドって人間何だっけ?それくらいかな」

 

 「えー、全然居ないじゃーん」

 

 「確かに人間ならそれくらいしか居ないかもだけど人外なら沢山いるぜ」

 

 「へー、すごいなー。私も行ってみたーい!」

 

 魔理沙から外の話を聞いて両手をブンブンと振り上げるフラン。その様は無邪気な子供そのもので魔理沙も苦笑いしながら対応する。

 

 「行きたいなら行けばいいじゃないか。力だってあるしここから出るのは簡単だろ?」

 

 そう魔理沙が問いかけると、

 

 「……でも」

 

 途端にフランの様子が変わり、先程までの明るい表情から悲しみを含んだ表情へと変化した。

 

 「お姉様が『貴女は狂っていて危ないから外に出ずに此処に居てね』って……」

 

 それを聞き、魔理沙は理解すると同時に納得いかない感情を感じる。確かにフランの力は強大で危険だが実の姉妹を地下に押し込めた挙げ句、気狂い扱いなんてあんまりだと思った。故に…、

 

 「じゃあ一度外に行ってみないか?」

 

 

────────────

 

 

 「あッはははは!!ほらほら、どうしたの!!?もっと遊ぼうよぉ?あははははは!!」

 

 「くっ、いい加減にしなさいッ!!」

 

 甲高い笑い声が響く中パチュリーは狂った笑い声を上げ続けるフランと戦闘をしていた。

 

 「これでも食らいなさいッ‼︎」

 

 そうパチュリーが叫ぶと同時に彼女が持っていた魔導書から青い光が溢れ出た。すると、部屋の中を縦横無尽に飛び回るフランの周囲から見る見るうちに水の球体が湧き出て、フランを覆い尽くすように広がった。それは彼女が先程まで使っていたスペルカード(お遊び)とは違い美しさを重視したものでは無く、非情なまでに冷酷で確実にフランを倒す為の正真正銘の魔術だった。だがそれでも─────

 

 「あはッ、無駄無駄〜!!」

 

 フランは少しも怯む事なく部屋中を飛び回る。

 

 「あははッ。それが弾幕ごっこなの〜?私も混ぜてよ〜あはッ」

 

 それどころかフランは、左手を大きく翳したと思えば、唐突に手のひらに現れた火が空間に燃え広がるようにその火力を増大させていき、その手には燃え盛る巨大な剣が握りしめられていた。

 

 「いっくよ〜、『レーヴァテイン』!!」

 

 神話に名を刻む杖の名を冠した禁忌の剣を、まるで子供が木の棒を振り回すようにフランは振り翳す。だがパチュリーとはかなりの距離があり、空振ったかと思われていたら、

 

 「なっ!?」

 

 「あははッ、それそれそれ〜!!」

 

 剣の軌道上に無数の炎弾が生み出されており、それらは周囲に広がりながら放たれた。そんなフランの弾幕の対処をしていると、更に追い打ちをかけるように剣を振り回し弾幕を量産していく。

 

 「ほらほら〜、避けてばっかじゃ負けちゃうよ〜?」

 

 「ほーん、それはどうかな」

 

 「へ?」

 

 唐突に背後から聞こえた声に、振り向いてレーヴァテインで対処しようとしたフランは全身がなにかに拘束されてしまった。

 

 「まぁ落ち着けよお嬢ちゃん。そんなに遊びたいならちょっと待ってくれるか」

 

 それは自身の尾をフランの四肢に巻き付かせつつ羽交い締めにしている宙だった。フランは拘束を外そうともがくが、尾の力が強く、且つ全身をピタリと密着させられているため身動ぐのも難しかった。

 

 「待ったら遊んでくれるの〜?」

 

 「あぁ、まぁ遊ぶのは多分俺じゃないがな」

 

 そういって宙はちらりと上を見上げる。宙の仕事はあくまで監視。面倒事は当事者達に丸投げする魂胆だった。

 

 「うーん」

 

 「どうだ?一旦待ってみないか?」

 

 「やだ、今貴女で遊ぶ!!」

 

 その答えを出すのと同時に、フランは右手を大きく開き、何かを掴む仕草を見せる。それは少女の持つある『能力』を発動するためのトリガー。

 

 「ッ⁉︎まずい、今すぐ逃げなさい‼︎」

 

 それを見たパチェリーは普段出す事は無いだろう声量で宙へ叫ぶ。

 

 「ギュッとして────」

 

 「やめなさいッ、フラン‼︎」

 

 そんなパチェリーの必死の制止を横目にフランは右手に掴んだモノを思い切り握りしめようとした。

 

 「どか『おっと、そいつはやめて貰おうか』──ふぇ?」

 

 ある声が聞こえた。今にも不敵そうな表情が見えてくる、そんな声色で少女の行動を咎めた。

 

 その声に反応して尚右手を握りしめようとしたが思っていたよりも固く、握りしめることができない。普段そんな経験が無く、驚いたフランが自分の右手を呆然と見つめていると再び声を掛けられる。

 

 「ん、どうした。何かするんじゃ無かったのか?」

 

 「っ!?離れてー‼︎」

 

 「おっとっと」

 

 不意に寒気を感じたフランは柄にもなく慌てて拘束を振りほどこうと暴れる。そしてそれは幸か不幸か抜け出すことに成功する。

 

 「どうしたんだ急に。そんなに嫌がられるとお姉さん悲しいなぁ」

 

 「はぁーッ、はぁーッ……」

 

 宙から距離を取り息を整えるフランに最早先程まで笑い狂っていた少女の面影はない。

 

 「ふむ、やっぱりだな」

 

 そんな様子を見た宙は一人納得する。

 

 「お嬢ちゃん、別に発狂してなかったな?」

 

 「ッ!?そ、そんなこと──」

 

 「嘘だね」

 

 宙にそう言われた途端動揺しはじめたフランは慌てて否定し始める、がそれすらも遮られてしまう。

 

 「さっきお前の魂を味見してみたんだが確かに狂ってはいたが理性はしっかりと働いていた。つまりさっきのあれも演技だったってわけだ」

 

 「ち、違うもん!私は──」

 

 「大体、そんなふうに否定してるってことは狂っていると思わせたいってことだろ?」

 

 つらつらと根拠を並べ立てる宙にフランがたじたじになっていると、宙はこう問い掛けた。

 

 「なぁ、なんでこんな事したんだ?わざわざ狂っている振りまでして」

 

 そう問い掛ける宙は母親譲りの聡明な瞳をフランに向ける。

 

 「私は、私は………寂しかったの………」

 

 ぽつりぽつりと、少女は己の内面を吐露する。

 

 「地下にいるのは別に嫌じゃなかった、けどね、誰も私と遊んでくれなかった。ううん、違うわね。遊んでくれてもすぐにこわれちゃう」

 「お人形達は怖がらずに遊んでくれてもいっつも私がこわしちゃう。どんなに丁寧に扱ってもすぐに遊んでくれなくなっちゃうの」

 「たまに咲夜達が遊び相手に人間や妖怪を連れてきてくれることがあってもみんな私を化け物っていって逃げていっちゃう」

 「それでも私は良かったと思ってた」

 「でももう嫌なの」

 「何も知らずに生きていくのは」

 「地下で誰とも遊べないのは」

 

 

 「私はお人形なんかじゃない‼︎」

 

 まるで悲鳴を上げるように叫ぶ少女は酷く小さく、それでも踠こうとするように見えた。

 

 「そうか、それがお嬢ちゃんの出した答えか」

 

 「……うん」

 

 二人の間に冷たい風が吹く。

 

 「……まぁ、俺はどうでも良いがな」

 

 「……え?」

 

 「俺は当事者じゃ無いし、親でもない、ただの部外者だ。俺が勝手に決めてええもんじゃねぇしな」

 

 そうあっけらかんと言い放つ宙を見て、緊張が解けたのか深く息を吐き出すフラン。

 

 「まぁ、なんだ。聞いちまったもんはしょうがねぇし、確か姉が居るんだっけか。そいつに話を通してやるくらいはしてやるよ」

 

 「ほんと⁉︎嘘じゃ無いよね⁉︎」

 

 その言葉を聞き宙の胸ぐらを掴み揺すり何度も聞き直すフラン。

 

 「おっ、おぉ。別に嘘なんか付かねぇよ」

 

 「わーい‼︎」

 

 そうして嬉しそうに部屋中を飛び回るフランを見て、ちゃっかり部屋の隅に隠れていた小悪魔を引きずり出すパチェリーが宙の前に現れる。

 

 「何か綺麗に纏まっちゃったがこれでいいか?」

 

 「纏まっちゃったじゃ無いわよ全く……。まぁ別に丸く収まるってんならそれで良いけどね、あの子の狂気はそう簡単には治らないわよ」

 

 「あぁ、それに関してなんだがな、あれなら何とかなりそうだ」

 

 「……はぁっ?」

 

 「俺の能力であの子の狂気だけうまーく取り除けそうだった、てかさっきちょっと見てみたけど、既にそれなりには喰らえたからまぁまぁ狂気も治ってる筈だぞ?」

 

 「そんな事……、……あるようね」

 

 「だろ?」

 

 ドヤ顔でパチュリーを見る宙にパチュリーは呆れたような怠そうな表情で見つめ返す。

 

 「はぁー、私が一体何百年掛けて対策を考えてきたか貴女分かってるのかしら。全く大体貴女はね───」

 

 「悪いな、今それどころじゃ無いんだ」

 

 パチュリーの愚痴を途中で打ち切る宙。その顔は見えないが何やら落ち着かない表情のようだ。

 

 「おーい、お嬢ちゃん……、いや、フラン‼︎」

 

 今も嬉しそうに図書館中を飛び回るフランに声を掛ける宙。

 

 「さっきは途中で中断されちまったから結構溜まってるんじゃ無いのか⁉︎どうだ、俺と一戦やらないか‼︎」

 

 「ちょっ、ちょっと貴女?」

 

 「いいよー、弾幕ごっこー?」

 

 「おぅ、細かいルールはまぁ良いだろう」

 

 「わーい。私、あなた大好きー!」

 

 そう言うと、フランは飛び回るのをやめ、空中の一点に留まった。

 

 「早く遊ぼーよー」

 

 「待ってろ!直ぐ行くからなー!」

 

 「ちょっと貴女、折角収まったのに何してるのよ⁉︎」

 

 「悪ぃな、パチュリー。どうやらフランの狂気にあてられちまったみたいでさっきから体がウズウズしてたまらねぇんだよ」

 

 そう言う宙の瞳はフランと同じような真紅の色に染まりギラギラと輝いていた。

 

 「はーやーくー‼︎」

 

 「おう‼︎直ぐ行く!ルールはどうする‼︎」

 

 そうしてフランと同じ高度まで上がり楽しそうにまるで子供がなんの遊びをするか決めているかのよう、いや、本人達はそのつもりだろうが出る被害の大きさを予想したパチュリーはもう何も知らないと言わんばかりにその場を離れ、せめて被害の出ない場所へと向かっていくのであった。




脳内審議の末、フランちゃんは狂ってるけど理知的である。と言う結果になりました。発狂フランちゃんも出したかったけれどなんか丸く収まっちゃった。(物語に振り回される駄目作者)


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