決戦!葦名城! (ポン酢おじや)
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突然の異変

ここは幻想郷。

現代世界からは結界により完全に隔離され、人間、妖怪、幽霊、神がバランス良く暮らす忘れ去られた者たちの最後の楽園。

 

自然豊かで危険な場所も多いが、皆不満無く暮らしていました。多分。

 

そんな幻想郷で結界の管理を任されている神社の巫女がいた。

 

博麗神社の巫女さん

博麗霊夢である。

 

特徴的な脇の出ている巫女服に、大きな赤いリボンを頭につけて今日も神社に落ちる木の葉を箒で集めていた。

 

「はぁ...もうすっかり冬ね」

 

霊夢は両方をゆっくりと吐く息で温め、首に巻いているマフラーを触る。

 

「雪が降ってないだけまだマシかな」

 

霊夢は掃除を再開すると、遠くの空から誰かが近づいてきた。

 

それは黒い魔女帽子を被って箒に跨がる少女で、霊夢の前にゆっくりと降り立つと元気よく挨拶してきた。

 

「よっ!霊夢!」

 

彼女は霧雨魔理沙。

幻想郷にある魔法の森で暮らす人間の魔法使いである。

 

霊夢は魔理沙の顔を見ると、慣れた様子で挨拶を返した。

 

「おはよう魔理沙。今日も寒いわね」

「そうだな。神社の周りの木もほとんど葉っぱ落ちちまって骨になったな!」

「骨って...それで、今日は何の用?」

「用がなきゃ来ちゃいけないなんてルールあったか?」

「...つまり暇だから来たのね」

「当たりだぜ」

 

霊夢は掃除をやめると、神社に向かって歩き始める。

 

「私も休憩にするわ。お茶飲む?」

「飲む!」

「はいはい」

 

霊夢は面倒くさそうに振る舞うも、その表情は穏やかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその瞬間、幻想郷全域に大きな振動と轟音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあっ!!」

「どわっ!?」

 

霊夢と魔理沙は巨大な振動と音に体幹を崩して地面に尻をついてしまう。

 

「ななな、何なんだ今の!?」

「知らないわよ!」

 

魔理沙はすぐに立ち上がり、箒に跨って空に飛び始める。

 

「ちょっと確認してくるぜ!」

「あーもう!湯呑とか無事なんでしょうね...」

 

霊夢はすぐに自宅に戻り、台所に置いてある皿などを確認する。

崩れてはいたが、幸い地面には落ちておらず無事なようだ。

 

「あーよかった」

「霊夢ぅ!!!」

「今度は何よ」

 

台所に立っている霊夢に慌てふためいた魔理沙が近づいてきた。

 

「よよよよ妖怪の山が!!」

「あぁ?今の妖怪の山の連中の仕業なの!?」

「ちち、違うんだぜ!とにかく見てほしい!」

「ちょ!まだ片付けが!」

 

魔理沙は霊夢の手を掴んで外に出し、共に空へと飛び立つ。

 

 

そして二人は幻想郷で最も高い妖怪の山を見て驚愕した。

 

「な、何よあれ」

「わ、わからんのぜ」

 

妖怪の山の頂上に巨大な城があったのだ。

 

しかもまるで無理矢理上から城を落としたかのようにだ。

 

山では叫び声や悲鳴がここからでも聞こえており、山に住む妖怪達もあまりの出来事に混乱しているのは明らかだ。

 

「とりあえず確認しに行くわよ」

「だな」

 

霊夢と魔理沙は妖怪の山へ急速に飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は妖怪の山頂上に現れた城を見て、改めてその巨大さと無理矢理感を実感していた。

 

「まったく無茶する奴もいたもんね」

「あれじゃあ守矢神社や天狗と河童の本部も滅茶苦茶だろうな」

「神奈子や諏訪子も敵に回すなんて。今回の犯人半殺しにされるわよ」

「ちげぇねぇ!だが願ったり叶ったりじゃないか霊夢?巫女と神社のライバルが潰れてよ!」

「この場で叩き落してあげようか?神社にライバルも何もないわ」

「おー、怖っ」

 

二人が人里付近の上空まで飛んでいると、いきなり目の前に人里で寺小屋を開いている上白沢慧音が現れ二人を制止する。

 

「止まれ二人共!」

「うおっ!」

 

魔理沙の箒は急ブレーキを踏んだように急停止し、霊夢は慧音の尋常ならざる表情をみてゆっくりと止まった。

 

「何よ慧音。異変解決の邪魔しようっての?」

「違うそうじゃない。異変解決には賛成だが今回のは危険なんだ」

「危険?」

「とにかく人里に来てくれ。あの謎の城の情報を得てから行っても遅くはないだろう?」

「遅いのよ。異変解決はスピードが命なんだから」

 

霊夢は慧音を通り過ぎようとすると、彼女は霊夢の肩を掴んででも止め始めた。

 

「...何なのよ」

「...あの城に本部を潰された報復として向かった天狗達や河童達がほぼ全滅してる。ようやく帰ってきた者達でさえ怪我が元で死者まで出ているんだ。頼む、話を聞いてくれ」

 

慧音の言葉を聞いて魔理沙は唾を飲む。

 

「マジかよ...」

 

異変で死者を出す事件は魔理沙もこれが初めてだろう。

死者を出す事件では()()()()()で解決できるものではないという可能性が出てきたのだ。

下手をしたら完全に戦争になる。

 

霊夢も流石に現状を理解したのか、慧音の言葉を聞いて通り抜けるのをやめる。

 

「...わかったわ。案内しなさい」

 

霊夢と魔理沙は急遽城行きを変更し、慧音の案内で人里へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慧音が案内した人里の空き家には、妖怪の山に住んでいる白狼天狗や河童、鴉天狗、果ては大天狗までいる始末。

全員怪我を負っており、傷ついていないものは一人もいなかった。

 

さらに空き家の外には大きな布で全身を被せられた者達もいて、お坊さん達がお経を唱えている。

 

霊夢はこの惨状でいつもの異変ではないと確信した。

 

慧音は近くにいる白狼天狗に話を聞き始める。

 

「怪我はどうだ」

「いえ...何とか大丈夫です」

「手当はしたが...どうだ、話せそうか?」

「はい」

「霊夢」

 

慧音は霊夢に場所を譲ると、彼女は白狼天狗に質問し始める。

 

「あの城は何」

「わ、わかりません。突然空から現れたんです」

「白狼天狗は鼻がいい。何か前兆みたいなのはなかったの?」

「まったく...誰も...気配すら」

「...返り討ちにあったそうね」

「はい...」

「城の中には誰がいたの?」

「人間です」

 

霊夢と魔理沙はその言葉を聞いて驚いた。

 

「人間...どういうことなんだぜ」

「あんた達も訓練された天狗でしょ?人間にやられたの?」

「...奴等は完全に武装されてました。鎧に刀、槍、弓、さらには鉄砲まで」

「鉄砲...狩りとかに使われる飛び道具ね。けど」

 

 

 

 

「私達はその程度じゃ負けはしませんよ」

 

 

 

話を聞いていた白狼天狗の近くにいたもう一人の天狗がゆっくりとの体を起こす。

彼女は白狼天狗の中でも実力が高く信頼も厚い犬走椛であった。

 

「椛...あんたまで」

 

霊夢と魔理沙は椛に駆け寄ると、彼女の腕からはまだ出血が止まらないのか包帯が血に染まっていた。

 

「確かに我々から見てもよく訓練された兵士でした。しかし河童達の飛び道具や大天狗様や鴉天狗様達の前では敵ではありません」

「なら何でやられたのよ」

 

すると椛が震え始め、顔から血の気が引いていく。

 

「我々は敵の城の中枢のような広場まで突破しました。けどそこには...そこには化物がいたんです」

「化物?」

「巨大な馬に乗って大槍を振り回す騎馬武者に河童達は蹴散らされ、私達は大弓を背負った武者に斬り刻まれ、空から攻めても大刀を構えた男に手裏剣で叩き落され、大天狗様達は...たった一人の老兵に一太刀で斬り伏せられました」

「...」

「私も含め逃げ出せたのはここにいる人達だけです。他の方々はもうどこにいるのかも...」

 

椛は目から涙を垂らし、項垂れてしまう。

 

霊夢は泣いている椛の肩に手を乗せると、空き家から出ていった。

 

そこには慧音が待っており、神妙な顔つきになっている霊夢に話し始める。

 

「...聞いた通りだ。この事件の危険さがわかったろう?」

「...そうね」

 

魔理沙も口元を抑えながら小屋から出て、二人の前でため息を吐く。

 

「まるで戦争だぜ...」

 

慧音は魔理沙の言葉を聞いて、顔を横に振る。

 

「魔理沙...これはもう戦争だ」

 

魔理沙も慧音の言葉を聞いて異変解決する前のテンションには戻れなかった。

霊夢は人里から見える城を見上げる。

 

「空からは近づいてみたの?」

「ああ。無事だった鴉天狗が空から偵察してみたが...」

「したが、何?」

「あの城に近づいた瞬間妙な白い霧に包まれ空からは何も見えなくなったらしい。そして鉄砲や弓、巨大な手裏剣のようなものまで出され迎撃してきたとか」

「ふーん...」

「無論鴉天狗の身体能力なら軽く避けて近づいたらしいが...その妙な霧は結界に似た効果があるらしく弾かれたらしい」

 

霊夢は腕を組んで悩み始める。

これでは彼女達の十八番である空中戦は無理だろう。

 

しかし正面突破といっても大勢の天狗河童でさえ返り討ちにされる戦力が待ち受けている。

 

どうしたものかと考えていると、三人の後ろの空間に一つの長い線が入り、線が開くと中には赤黒い世界と大量の目が浮き出る気味の悪い何かが現れた。

 

こんな奇妙な物を使うのは幻想郷では唯一人。

 

「早いご登場ね。紫」

 

その何かから現れたのは、妖怪の賢者と呼ばれ、実質幻想郷の長という立ち位置でもある最強クラスの妖怪。

 

八雲紫である。

 

「おはよう霊夢」

「丁度いいわ。あんたがあの城何とかしてよ」

「.....」

「何よ、出来ないっての?」

 

紫の顔はいつものヘラヘラとした表情はなく、霊夢に淡々と答えを返す。

 

「ええ、無理よ」

 

 




隻狼の同人誌見たら書きたい欲再開したのでよろしくお願いします


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不気味な城

紫の答えに霊夢は明らかに不満そうな顔になる。

 

「何よ。またいつもの修行って事?」

 

霊夢の愚痴に紫は反応せず、真面目な雰囲気を出しながら答える。

 

「あの城は何故か私の能力が通用しない。天狗達や河童が負けた敗因の一つもそれでしょうね」

「能力が通用しない?」

「ええ。いえ、使えないというのが正しいかしら」

「どういうことよ」

「そのままの意味よ。あの城では能力を使えないようにする淀みのような物が発生してるの。あれじゃあ中に入った妖怪はただ単に力押しすることしかできないわ」

「力押しすればいいじゃない」

「それを押し返せる戦力があそこにいるのよ。天狗達を見たでしょう?」

「ああ、そうだったわね」

 

紫は腕を組んで人差し指を額に当てる。

 

「正直お手上げよ。誰がこんなことしたのか見当もつかないの。それに幻想郷の住民の仕業ではないことは確かだし」

「...それで?あの城を落とすとして、正面突破が無理ならどうすんのよ」

 

紫と霊夢は城を見上げ、ジッと見つめ観察していく。

 

「完全に妖怪の山頂上にハマってる。周りは全部山の崖...天然の要塞と化してるわね」

「しかも入口は一つで本城への道は一本道。設計したのはかなりのやり手でしょうね。ここまでレベルの設計者なんて現代にいたかしら」

「しかも空からは霧で侵入できず。結界を解くにも集中しなきゃだし迎撃されてちゃまず無理」

「籠城するならこれ以上の城は無いわ」

「籠城が目的?」

「敵の数、食料の量、指揮官、わからないことが多すぎる。わかっているのは能力を封じられた妖怪でも歯が立たない実力者が複数いることと、敵の武装は戦国時代レベルのお粗末なものと言うことだけ」

 

二人が城について話し合っていると、後ろにいる魔理沙は慧音に話しかける。

 

「なぁ慧音。お前歴史の先生だったよな」

「そうだが?」

「あの城、お前が記憶してる歴史とかに登場してないのか?」

「うーむ、私もそれを考えていたんだが...あまりの見たことのない城でな。だが天狗達の話を聞く限り安土桃山の...戦国時代と呼ぶ時代の城である可能性が高いぞ」

「戦国時代ねぇ...昔本でちょいと見たことあるくらいだな」

「外の世界の歴史だからな。幻想郷で知る者は少なかろう」

「そういや戦国時代の人間は家紋を旗にして戦ってたらしいな」

「!そうか、その旗印があれば誰の城がわかるかもしれんな!」

 

慧音は直ぐ様寺小屋へと急いで帰ると、紫が霊夢との話を止めて魔理沙に話し始める。

 

「残念だけど無駄足よ。私が調べた限りあいつらの旗印は歴史に載ってないわ」

「それを早く言えだぜ。慧音行っちまったぞ」

「万が一もあるわ。調べさせておきなさい」

「まったく...」

 

すると霊夢は何か考えたのか、紫と魔理沙を見る。

 

「二人共。あの城の根本に行くわよ」

「!?」

 

魔理沙は驚き反論しようとするが、紫は魔理沙にもわかるように説明し始める。

 

「勿論攻める気はないわよ。陸からの偵察、でしょ?」

 

霊夢は頷くと魔理沙も安堵したのか、緊張の息を吐いた。

 

「驚いたぜぇ...ならさっさと周っていくか」

 

魔理沙は勢いよく歩き始め、霊夢と紫も付いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人は妖怪の山付近に近づくと、圧巻の城に思わず声を漏らす。

 

「改めて見るとすんごい規模とデカさね」

「男の夢が詰まった城だぜぇ...」

「これじゃあ歩いて攻略なんて大変どころじゃないわ。難攻不落ってやつ?」

「とにかく姿を隠しながら周りましょう。あと私のスキマもここじゃもう使えないわ。貴方達も空飛べない筈よ」

 

魔理沙は紫の言葉を聞いて飛ぼうとすると、まったく浮きもせず地面から足が離れなかった。

 

「うお、マジだ。飛べねぇぜ」

 

霊夢も飛ぼうとするも、魔理沙同様飛べなかった。

 

「本当ね。厄介な効果だこと」

「それと魔理沙。貴方も魔法使えなくなってると思うわ」

「へ?」

 

魔理沙は手を前に出し軽い火の魔法を使おうとしたが、掌からは何も出なかった。

 

「嘘だろマジかぜ!?」

「どうやら魔法も能力とみなされ制限されるようね。これじゃ貴方はただのか弱い女の子」

「く、く、く、屈辱だぜぇ...」

「ご愁傷さまね魔理沙」

 

三人は隠れながら進み、城の弱点を探っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし探れば探るほど弱点は見つからず、三人の表情はどんどん焦りへと変貌していく。

 

「時々城壁が崩れている部分もあるけど、断崖絶壁で登るなんて妖怪でも無理だわ」

「ったく...面倒くさい城を建てたもんね」

「建てたというか移動してきたと言うべきかしら」

「どうすんのよ紫」

「困った困った...」

 

すると霊夢は気になったことがあるのか、紫に質問し始める。

 

「ねぇ紫。私達は確かに飛べないけど、天狗は飛べたわ。何で?」

「天狗は元々飛べる種族だから、淀みからみて能力と見なされてないのかも」

「じゃあ例えばレミリアとか連れてきても、運命操る能力は使えないけど身体能力には問題無いって事ね」

「その認識で間違いないわ」

「なら萃香でも連れてきてもぶっ壊して貰うのもありかな」

 

三人が話していると、辺りから物音がする。

 

すぐに三人は警戒し、霊夢はお祓い棒を構え、魔理沙はミニ八卦炉を構え、紫も音がした場所を睨む。

 

すると木々の後ろから、ボロボロの鎧を着てボサボサの髷に顔には面頬をつけた男が現れたのだ。

 

「ふぅむ、また戻ってきたか。見知らぬ地ではどうも迷いやすい」

 

三人はその男が城から来た男と瞬時に悟ると、まず霊夢が飛び蹴りで男の顔を蹴り飛ばし、紫がその腕力を振るい押さえつける。

 

「はい確保」

「貴重な情報源よ。殺さないようにね紫」

「わかってるわ。魔理沙、ロープ持ってない?」

「本を結ぶやつなら」

「構わないわ。貸して」

 

紫は男の両手を縛り、軽く持ち上げ肩に乗せる。

 

「これ以上情報は得られなそうね。なら人里に帰るわよ」

「「賛成」」

 

三人は急いで人里へと走り出した。

 



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死なぬ捕虜

 「...ううむ」

 

男は目を開けると、眼前には睨みつける女達がいた。

どうやら気絶させられ捕虜となったらしい。

 

「...その珍妙な格好から察するに、其処許たちは城に攻めてきた女子共の仲間と見える」

「あら、察しがいいわね」

「良くなければこの戦乱生き残れぬでな」

 

紫は縛られ座っている男の前に屈んで、淡々と話し始める。

 

「名前は?」

「ふむ...それがしは彼岸の者ゆえ名前はないが...皆からは死なず半兵衛と呼ばれておる」

「半兵衛?ありきたりな名前ね」

「それで、それがしに何か用かな」

 

紫は何処から取り出したのか、手には包丁が握られており半兵衛の足に突き刺した。

 

「...」

「半兵衛さん。私達はあの城の情報が欲しいの。教えてくれれば手荒なことはしないわ」

 

紫の笑顔には怒りが感じ取れ、後ろにいる女性達も汗を垂らし恐れているように見えた。

しかし半兵衛は含み笑うと、紫に軽くと言い放つ。

 

「それがしは蟲憑きゆえ、心の臓を刺されても死なぬ。痛みは感じるが...拷問など無駄な事よ」

「へぇ?忠誠心が高いことで結構。けど」

 

紫は半兵衛の足に刺さった包丁を力よく抜くと、もう一度刺そうとしたその瞬間。

 

「まぁ待て。それがしは教えぬとは言っておらぬ」

 

紫は振り下ろす手を止めると、包丁を地面に置いた。

 

「なら教えなさい」

「何を話せばよいか」

「全てよ。貴方が知ってる城の情報全て」

「ふぅむ...それがしも葦名の城の内部はよくは知らぬでな」

「葦名?」

「あの城の名である。葦名にそびえ立つ難攻不落の葦名城。そしてそこに住まうのが国盗り戦の葦名衆である」

 

紫は知らぬ単語に歴史の専門家である慧音を見るも、彼女も首を横に振った。

 

「葦名衆ねぇ...」

「其処許ら、葦名衆を知らぬのか...その威光は過去の物とはいえ世間知らずと言えるな」

「悪かったわね。それでその葦名衆の目的は?」

 

すると半兵衛は不思議そうな顔をして、紫の問いに答える。

 

「其処許はそれがしが葦名衆に見えると?」

「違うの?」

 

半兵衛はため息を吐き、眼の前の女性が本当に何も知らないと確信して説明し始める。

 

「葦名衆はそれがしとは別物よ。整えられた装備に研ぎ澄まされた剣の腕、武勇...この戦乱を駆けた怪物達こそ葦名衆なり」

「なら貴方は?」

「それがしはただの葦名の流れ者。いや、むしろ田村についていた為敵だったとも言えるか」

「その葦名衆の敵だったなら協力してくれない?私達の仲間があいつらにやられてるのよ」

「ふむ...これも何かの縁か。他には何を話せば良い」

 

すると紫の後ろにいた霊夢が二人に割って入って質問し始める。

 

「敵の指揮官は誰よ」

「指揮官...此度の葦名の総大将は葦名弦一郎と聞く」

「弦一郎...そいつが悪の親玉って訳ね。他には?」

「鬼鹿毛に跨がる鬼刑部...葦名でも武勇を誇る七本槍...そして葦名一心といったところか」

「鬼刑部に七本槍に一心」

「特に一心は剣聖と謳われる男。既に家督は弦一郎に譲り病のため隠居の身と聞いておるが...それでも強大な内府が恐れるほどの者よ」

 

霊夢は立ち上がると、慧音の近くによって話し始める。

 

「本当に知らないの?」

「剣聖...それほど有名なら知っているはずだがな」

 

 

 

「何ですって!」

 

すると紫が大きな声を上げると、小屋にいる全員が紫を見る。

 

「どうしたのよ紫」

「.....半兵衛さん、もう一度お願い」

「ふむ」

 

半兵衛は紫に言われた通りゆっくりと話し始める。

 

「足軽達が話していたが...葦名の者はこれから『紅魔館』『永遠亭』『人里』『太陽の畑』とやらを攻めると話していた」

 

半兵衛の話を聞いて全員が驚愕した。

 

「ちょっとちょっと!どういうことよ!?」

「奴等は攻めようとしているってことよ」

「其処許ら。今の地名を知っておるのか?葦名にはない場所ゆえそれがしには分からぬが...」

 

すると小屋にいる全員が外に出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするんだぜ!?葦名城にいるやつが攻めてくんのか!?紅魔館と永遠亭と人里と太陽の畑に!?」

 

魔理沙が慌てふためいていると、紫も冷静でいられないのか考え込む。

 

「.....」

「すぐに対策練らないとやばいわよ紫。相手は武装して訓練されてる集団なんだから」

「とにかく...とにかく人里を最優先に守りを固めなきゃいけないわ。人里が陥落なんてしたら幻想郷のバランスが崩壊する」

「私と魔理沙、慧音、それにあんたで防衛するってことね」

 

すると紫は霊夢を見て、慌てた様子で話し始める。

 

「いえ、私は仕事ができた。防衛戦力は貴方達だけよ」

 

霊夢は少し驚くと、疑う様子で紫を睨む。

 

「逃げるんじゃないでしょうね」

「違うわよ霊夢。あいつの話が本当なら奴らは幻想郷の場所を把握してる」

「それが?」

「いきなり現れた奴らが何で知ってるのよって話よ。恐らく...幻想郷を調べ上げてる奴がいる筈」

「だからそれが」

「情報はどんな武器よりも厄介なの。その情報源を調べてすぐに排除しなきゃいけないわ」

 

紫の言葉に反論しようとしたが、霊夢も一理あるのか黙ってしまった。

 

「それに恐らく私はこの戦いじゃあまり役には立てないわ。例の能力制限されちゃったら...」

「!」

「すぐ紅魔館や永遠亭にこの事を伝えなきゃならない。能力が使えるうちに私は動く事にする」

 

霊夢も納得したのか、ため息をして魔理沙と慧音を見る。

 

「慧音、人里自警団の連中全員呼んですぐに人里の出入り口を封鎖し守りを固めて。そして住民には農具でも何でもいいから武装させ、女子供は地下のある稗田家に避難。狩人達も狩りから帰らせてすぐに戦闘準備」

「わ、わかった。すぐに伝えるよ」

 

慧音はすぐに自警団の建物へと走り出した。

 

「魔理沙はすぐに家から実験道具や魔導書やら何やら使えそうなもの全部持ってきなさい。それで人でも扱える魔法武器を作るのよ」

「そ、それって爆発魔法込めた魔法瓶とかか?」

「そうよ。敵がもし能力制限してきたら貴方の魔法に頼れなくなる。だから使えるうちに魔法を使って敵を倒せる道具を作るの」

「わ、わかったぜ!アリスとかにも協力してもらってくる!」

 

魔理沙は箒に跨り魔法の森へと急ぐと、霊夢は付近にいる住民に説明し始める。

住民は霊夢の必死の説明に嘘や冗談ではないと悟り、すぐに防衛の準備に移り始める。

 

 

紫も隙間を開くと、霊夢を見て呟いた。

 

「頼むわよ、霊夢」

 

紫はスキマの中に入り閉じて消えてしまった。

 

 

 



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準備せよ

幻想郷にある霧の湖付近

そこに全てが紅く巨大で不気味な館があった。

 

紅魔館である。

 

吸血鬼レミリア・スカーレットを長とし、各地、各勢力にいい意味でも悪い意味でも大きく影響を及ぼし、幻想郷でもまず名の上がる勢力である。

 

多数の妖精をメイドとして雇い、戦闘部隊や偵察部隊等もメイド長十六夜咲夜の指導の元に組織し戦力面でも有名である。

 

さらに幻想郷で唯一存在する図書館を保有しており、魔女であるパチュリー・ノーレッジが管理している。

 

そんな紅魔館に異変の首謀者とされる葦名衆が挑むという情報が八雲紫によりもたらされた。

 

紅魔館のメイド達は大騒ぎであり、レミリアはすぐに主要メンバーを会議室に集めた。

 

 

 

巨大な円のガラステーブルにレミリアは八雲紫から預かった手紙を置く。

 

その手紙を十六夜咲夜、パチュリー・ノーレッジ、紅美鈴、フランドール・スカーレットが見つめる。

 

「見ての通りよ。あのスキマ妖怪が朝っぱらからこの私を叩き起こして何しに来たと思ったら...」

「あの大地震を引き起こした集団が攻めてくる...ねぇ」

「懐かしいと思わないパチェ?私達吸血鬼と魔女に戦いを挑む人間なんて」

「そうね。何十年前かの吸血鬼ハンター集団の奇襲以来かしら」

「くくく...胸躍るとはこの事ね」

 

レミリアは足をテーブルに乗せると、メイド長の十六夜咲夜が紅茶を入れてカップを彼女の前に置く。

 

「しかし戦闘となると非戦闘員の妖精メイドは何処かへ避難しなければなりませんね」

「そうね...復活するとは言え目の前で死なれても目覚め悪いし」

「ではフラン様の地下室はどうでしょう。頑丈で扉を閉めれば人間では開けることは出来ないかと」

「そうして頂戴」

「かしこまりました」

 

咲夜は一礼してから会議室を出ていくと、紅魔館の門番である紅美鈴が心配そうにレミリアを見る。

 

「だ、大丈夫なんですかね」

「何よ、怖いの美鈴」

「い、いやぁ、私は大丈夫なんですが」

「なら安心なさいな。あんたは他人を気にせず暴れてればいいの」

「そ、そうですかね」

 

レミリアは用意された紅茶を飲むと、全員に軽々と話し始める。

 

「咲夜がいないこの場で言うけど、スキマ妖怪から援軍の要請も来ているの」

「ちょっとちょっと。敵が攻めてくるって教えといてわざわざ戦力削って援軍出せって...図太いなんてもんじゃないわよ」

「けどここで援軍を出せばあの八雲紫に貸しができる。これはでかいわよ」

「けど...」

「あら、私とフランじゃ不安かしら?」

 

パチュリーはレミリアの妹であり、幼い見た目からは想像できないが紅魔館勢力でも最強に相応しい実力を持つフランドール・スカーレットを見る。

 

「...そうね。レミィ達なら何とでもなるわ」

「その意気よパチェ」

「お姉様、暴れていいの?」

「館や味方を巻き込まない程度ならね」

「おー...楽しみ!」

「ええ、楽しみね」

 

咲夜が会議室に戻ってくると、レミリアは立ち上がり彼女に言い放つ。

 

「咲夜、貴方は人里へ行きなさい」

「!」

 

咲夜は一瞬動きが止まるも、すぐに頷いた。

 

「紅魔館からの援軍として霊夢に協力するの。ここの守りは私達で任せてね」

「.....かしこまりました。ではすぐに人里へ向かいます」

 

咲夜はお辞儀をすると会議室を出ていき、パチュリーは少し笑う。

 

「フフ...咲夜怒ってたわね」

「ちょっと怖かった」

「さて、じゃあ始めましょうか」

「そうね。さぁ楽しみましょう!」

 

会議室は開かれ、主要メンバーは戦闘準備に取り掛かる。

 

「パチェ、全部隊の指揮権を貴方に与えるわ。存分に活かしなさいな」

「了解」

「それと...小悪魔には虎の子を用意させときなさい」

「...まだ訓練段階の部隊よ?それにあれはスキマ妖怪にバレたら」

「だから援軍行かせたじゃない」

「...用意はさせとく。苦戦したら投入するわ」

「それでOKよ。美鈴」

「は、はい!」

 

呼ばれた美鈴はすぐにレミリアの前に立つ。

 

「一応精鋭部隊を一つ預けとくわ。流石に貴方程動けるわけではないけど助けにはなる筈よ」

「りょ、了解です!」

 

レミリアは最後に人形を持つフランを見る。

 

「フラン」

「なぁに?」

「貴方は私と一緒に紅魔館よ。敵が侵入してきたら...」

「倒す!」

「私と一緒にね」

「早く敵こないかなー」

 

妖精メイド達も館にバリケードを作るなど、武器防具の用意等をし始め、敵の到着を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして太陽が沈み始め、幻想郷に夜が訪れる。

 

その瞬間、妖怪の山頂上にそびえ立つ葦名城の門が開いた。

 

門からは武装した人間で構成される大規模な軍団が登場し、四部隊に別れ幻想郷の各地へと走り出す。

 

そして分厚い門は再び閉じて、葦名城は不気味な程静まり返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館の周りは篝火によって明るさを保たれ、補強された門は固く閉じている。

 

広い庭には紅美鈴率いる妖精メイドで構成された精鋭部隊が仁王立ちしている。

 

屋上ではパチュリー率いる飛び道具を持った妖精メイド達が待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

すると遠くから大勢の人間の声が聞こえてくる。

その声は地面を揺らし、妖精メイド達の耳を震わせ、いよいよ戦が始まると全員が確信する。

 

それは館にいるレミリアも感じていた。

 

「ククク....血湧き肉躍る戦を始めましょう」

 

 

 

 

紅魔館に迫るのは、巨大な馬に乗り、自分の身長を超える十文字槍を片手で持ち、片方の角が折れた兜を被った大男。

かつては葦名の賊として活躍していたが、一心の強さに惚れ込み国盗り戦の葦名衆として鬼と称された武将。

騎馬隊、鉄砲隊、槍隊率いる鬼庭刑部雅孝であった。

 

 

 

 



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決戦!紅魔館!

鬼刑部は明かりを灯して待ち受ける紅魔館を見て、一度手を上げ全部隊の止める。

 

「如何されましたか」

「敵は既に備えておる。どうやら攻め時を見誤ったか」

「...そのようで」

「だが我ら葦名衆を前によく逃げなかったものよ。久しぶりにいい戦ができそうだ」

「では」

「うむ」

 

鬼刑部は後ろを振り向き、持っている十文字槍を上に掲げる。

 

「皆の者!いよいよ戦の時!声を上げよ!」

「「「おおっ!!」」」

「我らの手であの館を踏み潰せ!」

「「「おおっ!!」」」

「いざっ!国盗りの時ぞ!!!」

 

歩兵の一人がほら貝を吹き、更にもう一人が太鼓を鳴らす。

 

そして兵士全員が怒号を上げて、紅魔館へ歩みを進め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチュリーは持っている魔導書を開き、現れた魔法陣に喋りかける。

すると紅魔館にいる戦闘員全員にパチュリーの声が響く。

 

「敵が来たわ。私達の家を、仲間を、家族を守るわよ」

 

その言葉に妖精メイド達は敵にも負けぬ声量で答える。

 

「「「はいっ!」」」

 

パチュリーは皆の答えを聞くと、ゆっくりと頷き指示を与え始めた。

 

「ボウガン隊、構え」

 

ボウガンを持った妖精達は、紅魔館の屋上で上空へ向けて構える。

 

 

 

 

 

 

 

「鉄砲組!前へ!」

「「「おう!」」」

 

葦名軍はまず鉄砲を持った足軽達が先に出て、紅魔館目掛けて構える。

 

「弾込め!狙うは屋根の敵ぞ!!」

 

指揮官の男が命令を下すと、鉄砲隊は全員火縄銃を装填し始める。

 

そして鬼刑部は槍を上に振り上げる。

そして十数秒経った瞬間、鬼刑部は槍を勢いよく振り下ろした。

 

「放てぇっ!!!」

 

鉄砲隊が命令と同時に引き金を引くと、火縄銃の銃口から爆発音と共に鉄玉が勢いよく飛び出した。

 

 

しかし鉄玉は紅魔館を囲む壁を越えようとした瞬間、魔法陣が現れ弾かれ地面に落ちていく。

 

「!なんと...!」

 

驚くのも束の間、紅魔館の屋上から大量の短矢が葦名軍の鉄砲隊に降り注いできた。

 

「がっ!」

「ぎゃっ!」

「ぬわっ!」

 

鉄砲隊は次々とやられていくと、鬼刑部はすぐに太鼓番に指示をして撤退の合図を鳴らせる。

 

「鉄砲組!引けぃ!」

 

そして鬼刑部は鉄砲が通じぬ敵とわかると、騎馬隊を前に出す命令を鳴らすよう太鼓番に指示。

 

「敵はどうやら摩訶不思議な妖術を扱うらしい。ならばこの手で直接叩き切ってくれるわ!」

 

鬼刑部は鬼鹿毛の手綱を引くと、槍を構え命令を下す。

 

「馬組!この鬼庭刑部雅孝に続け!!」

「「おおっ!」」

 

騎馬隊が槍を構え突撃を始めると、館の屋上から再び矢が飛んでくる。

運悪く当たるものもいたが、馬の速さで矢は照準が合わず当たらぬものが多かった。

 

パチュリーは持っている魔導書を置いて、次の魔導書を開き読み始める。

 

すると紅魔館の門への道に何十もの魔法陣が現れ、騎馬隊が踏んだ瞬間大規模な爆発を起こした。

 

「うわっ!!」

「地に光る文字には触れるでないぞ!!行くぞ鬼鹿毛!!」

 

鬼刑部は鬼鹿毛を巧みに操作し、地雷魔法陣を避けていくと、持っている十文字槍を振り回して紅魔館の門目掛けて投げる。

 

十文字槍の刃は魔法で強化し、妖精メイドが補強して頑丈にした門をいとも簡単に弾き飛ばした。

 

「他愛もないわ!門が破れたぞ!一気に攻め落とせ!!」

 

パチュリーは破られた門を見て驚愕する。

 

「!?何なのあいつ...本当に人間?」

 

鬼刑部は鬼鹿毛と共に紅魔館の庭に侵入すると、大きな声で高らかに宣言した。

 

「鬼庭刑部雅孝!!一番乗り!!!我に挑む者はおるか!?」

 

鬼刑部は近づいてくる妖精メイド達を十文字槍で薙ぎ払い、門から味方を続々と侵入させる。

 

すると馬上の彼に飛び蹴りを食らわせる女が現れた。

紅魔館の門番、紅美鈴である。

 

「よくも門を吹き飛ばしてくれましたね!」

 

しかし鬼刑部は蹴りを耐えて美鈴の足を掴み、地面に叩きつける。

 

「見事な蹴りよ!だがこの鬼の首を取るにはまだまだ弱い!」

 

美鈴はすぐに立ち上がり、鬼刑部の前に立つ。

 

そして妖精メイド達と、侵入してきた葦名軍が衝突した。

 

紅魔館の庭では至る所で戦闘が始まり、屋上にいる妖精メイドもボウガンを捨てて武器を取り庭への戦闘に参加する。

 

 

するとパチュリーは別の魔導書を開き読み始めると、空に巨大な魔法陣を出現させて紅魔館の外にいる敵に炎の雨を降らせ始める。

 

鬼刑部はその技を屋上のいる女が行っていることに気づくが、美鈴の体術に阻まれ阻止できない。

 

「おのれ...!どけぃ小娘!!」

 

鬼刑部は十文字槍を振り回し美鈴を叩き潰そうとするも、彼女はその華麗な身体能力で紙一重で避ける。

 

そして大振りな攻撃の後に出来る隙を見逃さず、跳躍して連続で蹴りと拳を食らわせた。

 

「むぐっ!!」

「呆れた...!随分とまぁタフですねぇ!」

 

鬼刑部は鬼鹿毛の手綱を引っ張ると、槍を振り回しながら紅魔館の庭を走り回る。

 

「国盗り戦の葦名衆!小娘!貴様にその戦を見せてやるわ!!」

 

走る途中妖精メイド達を蹴散らしながら、十文字槍を地面に刺して無理矢理方向を転換する。

そして構え直すと紅美鈴目掛けて突撃し始めた。

 

「ちょちょちょ!!」 

 

美鈴は右にローリングをして避けると、鬼刑部はなんと槍を分解し紐で繋がれた刃の部分を美鈴目掛けて投げた。

 

流石の行動に美鈴も避けきれず、刃に足を斬られ地面に転がる。

 

「っ!!」

 

鬼刑部は地面に突き刺さる十文字槍の刃に着けられた紐を引っ張り回収すると、再び繋ぎ合わせ頑丈な槍へと戻す。

 

そして紅魔館の外で燃える味方を見て、ため息を吐いた。

 

「...正々堂々の戦で使いたくはないが、この戦に負ければ弦一郎に顔向けができぬ。許せ」

 

鬼刑部は十文字槍を地面に突き刺すと、両手を合わせて祈り始める。

 

「歪みよ起これ。全ての敵に災いを」

 

その瞬間鬼刑部を中心に桜色の気と鈴のような音が響き渡る。

 

それはまず空に浮かぶ魔法陣に影響に及ぼした。

 

紅魔館の外にいる敵を燃やしていた炎の雨は止まり、魔法陣は消え、門への道にあった地雷魔法まで消えてしまった。

 

パチュリーはその光景を見て目を見開き驚愕した。

 

「!どういうこと!?」

 

パチュリーは再び魔法陣を作り直そうとするが、いくらやっても魔法が発動しない。

 

紅魔館全域に八雲紫が言っていた能力を制限する淀みが発生していたのだ。

 

飛んでいた妖精達も地面に落ち、人間を圧倒していた自らの能力が使えず混乱していた。

 

そんな中、鬼刑部は十文字槍を掲げて号令を出す。

 

「今が好機!一気に攻め立てよ!!」

 

「「「おおおおっ!!」」」

 

葦名軍は士気を上げ、混乱する妖精メイド達を押し始める。

 

炎の雨も止まり、地雷も消えて外にいる残りの葦名軍も更に庭へと侵入してくる。

 

鬼刑部も続こうとすると、足を怪我したはずの美鈴が再び彼に攻撃する。

 

「ほう、まだ立つか」

「頑丈さだけが私の長所でしてね」

「ならば叩き潰すまで!」

 

鬼刑部は美鈴の攻撃を十文字槍で防ぐと、美鈴はすぐに馬の腹の下を通り抜け、反対側から蹴り上げる。

 

すると彼は手綱を引いて鬼鹿毛に回転させた。

 

「うわっ!」

 

巨大な馬の動きに美鈴は驚くと、今度は馬の蹄による蹴りが彼女の頬を擦った。

 

「人馬一体とはまさに貴方達の事ですね...!」

 

そして鬼刑部は鬼鹿毛上に立つと、両手で十文字槍を持ち美鈴目掛けて思いきり振り下ろした。

 

美鈴はその一撃を避けると、十文字槍は地面を大きく削り砂煙を引き起こす。

 

「ゲホッゲホッ!」

 

美鈴は目の前が見えなくなり、一瞬だけ構えを解いてしまった。

 

その瞬間鬼刑部の十文字槍による薙ぎ払いが彼女の腹を斬り裂き、壁に叩きつけられる。

 

「むぅん!!」

「がはっ...!」

 

美鈴はそのまま地面に座り込み、血が溢れる腹を手で押さえた。

体が頑丈な妖怪といえども、鬼と称された男の一撃は重く動けなくなってしまう。

 

(弾幕も出せない...あいつの攻撃の気も読めなかった...い、一体何が)

 

鬼刑部は鬼鹿毛に跨り直すと、まだ息のある美鈴に驚いた。

 

「なんと...!確実に胴体を真っ二つにしたと思うたが...まぁよい」

 

しかし美鈴が立ち上がれないところを見ると、鬼刑部は方向転換し紅魔館の内部へと向かった。

 

 

 

 

 

「お、お嬢様...」

 

 

美鈴の意識はそこで途絶えた。

 



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初戦の結果

鬼刑部は妖精メイドを蹴散らしながら、紅魔館内部へと侵入しようとする。

 

先程美鈴との戦いにおいて数十人の足軽達が既に館内に侵入しているのは確認済みであり、最早この戦の勝利は確信していた。

 

普通ならば敵の本拠地に味方が入れば、総大将は足軽達に抵抗し囲まれた討ち取られるか、逃走するかの二択である。

 

だが彼は知らなかった。

 

敵の総大将はその普通から大きく逸脱した怪物であると。

 

 

 

 

 

 

 

鬼刑部が紅魔館に侵入する瞬間、鼻に強い血の臭いが入り異様な身震いを感じさせる。

 

それもその筈。

 

紅魔館内部は大量の血で塗り潰されており、常人ならば発狂すると所だ。

 

「こ、これは!」

 

数多の戦を駆け抜けた鬼でも流石に驚き、階段から垂れている血の川に恐怖を覚える。

 

「不思議ねぇ」

「!貴様が足軽共を...!」

 

鬼刑部が見つめる先には、服に多くの血飛沫が染み付き、頬についた血を舌で舐めとりゆっくりと味わう幼き少女が座っていた。

 

「貴方の部下、色々殺してみたり食べてみたりしたけど...命を失うその瞬間灰となって消えていく...人間ってそうだったかしら」

「物怪の類いか...!」

「それに外から鈴の音が聞こえたと思ったらスペルカードや弾幕も出せなくなった。貴方の仕業?」

 

レミリアは立ち上がると、ゆっくりと大階段を降りていく。

 

鬼刑部は十文字槍を構え直し、レミリアを睨む。

 

「名乗れ」

「私の名はレミリア・スカーレット。紅魔館の主にして最強の吸血鬼...」

「鬼庭刑部雅孝...国盗りの為、葦名の為、その首貰い受ける!」

「いいわ、遊んであげる」

 

鬼刑部は鬼鹿毛の手綱を引いてレミリア目掛けて突進を仕掛ける。

しかしレミリアは紅く光る目で鬼鹿毛を睨みつけると、馬は急に怯えだして暴れ始める。

 

「むおっ!?」

「ほらほら、お馬さんが怖がってるわよ?」

 

すると鬼刑部は手綱を緩め、大きな声で鬼鹿毛に呼びかける。

 

「落ち着け鬼鹿毛!奴を恐れるな!」

 

鬼鹿毛は暴れているが、鬼刑部の声に反応して徐々に落ち着きを取り戻していく。

そしてもう微塵たりともレミリアを恐れず、むしろ睨みつけているようにも見えた。

 

「それでこそ鬼鹿毛よ」

「いい馬ね。もう私を恐れないなんて」

 

鬼刑部は再び手綱を引くと、鬼鹿毛は突進を開始する。

 

そして十文字槍を思いきりレミリアの頭目掛けて振り下ろすが、彼女は両手で刃を受けとめ地面には亀裂が入る。

 

「見事!我が槍を受け止めるか!」

「人間にしてはかなりの馬鹿力じゃないの!」

 

レミリアは十文字槍を弾き返すと、馬の頭を踏み場にして自慢の爪で鬼刑部の体を切り刻み、彼の着ている鎧の一部が地面に落ちる。

 

「ぐおっ!!」

「私の力の前じゃ鎧なんて無意味よ」

 

鬼刑部は更に連撃してくるレミリアに、十文字槍を振り回して対抗するも彼女は直ぐ様距離を取って槍を避ける。

 

「ぐっ...」

 

鬼刑部は地面に剥がれ落ちた五本の爪の跡がくっきりとついている鎧の部分を見て鳥肌が立つ。

これ程の敵は一心や田村との勝負以来だ。

 

「血湧き肉躍るとはこの事よ...!」

 

鬼刑部は立ち上がると、十文字槍を再び分解して振り回し始める。

 

「っ!」

 

レミリアはその場で跳躍して攻撃を避けるが、刃は紅魔館の壁を破壊し回転しながら再びレミリアの首元まで返ってくる。

 

彼女は両腕で刃を防ぐも、鬼刑部の怪力と回転の勢いには流石の吸血鬼でも耐えられず後ろに吹き飛ばされた。

 

さらに彼は刃をすぐに回収して槍に戻すと、鬼鹿毛の手綱を引いてレミリア目掛けて跳躍させる。

 

「飛べいっ!!」

 

レミリアが立ち上がろうとすると、顔の横に十文字槍の刃が掠り地面に突き刺さる。

 

流石の吸血鬼といえども刃渡りが大きい十文字槍が突き刺さればただでは済まない。

レミリアは鬼刑部の攻撃を避け続け、階段に登り跳躍すると彼の顔に回し蹴りを食らわせる。

 

「!」

「甘い!」

 

しかし鬼刑部はレミリアの蹴りを片手で受け止め地面に叩きつけると、鬼鹿毛が全体重をかけてレミリアを2つの蹄で踏み潰して押さえる。

 

「ガッ...!」

 

さらに鬼刑部は十文字槍をレミリアの首目掛けて突き刺そうとするが、彼女はとっさに片手で刃を防ぐ。

 

「片手で受け止めるか...!なんという力!度胸!ますます気に入ったわ!」

「人間に...気に入られても嬉しかないわ...!」

 

刃はレミリアの掌を貫き、自分の血が顔や服ににかかっていく。

 

「殺すには惜しいが...これも葦名の為!」

 

鬼刑部は両手で十文字槍を掴みさらに力を加えると、段々とレミリアの腕が顔に近づいてくる。

 

「仕方ないわね.....!出来れば戦場に出したくなかったけど!」

 

レミリアは大階段の上に向かって大声で叫ぶ。

 

「フラァァァァン!!!」

 

 

 

 

 

その瞬間、大階段の上からフランドール・スカーレットが現れ鬼鹿毛の顔にドロップキックをしてきた。

 

鬼鹿毛は吸血鬼の全力ドロップキックに堪らず体制を崩して地面に倒れ込む。

 

「ぐおっ!?」 

 

鬼刑部も鬼鹿毛が倒れて、地面に着地すると十文字槍を構える。

 

そして目の前にはレミリアに容姿は似ているが、髪は金髪で彼女とは違う狂気を全身で感じ身震いを感じる女が立っていた。

 

「もう一匹いたか...!」

「こんにちは♪あーそびーましょー...!」

 

鬼呼ばれた彼も流石に吸血鬼2体は分が悪いと判断したのか、鬼鹿毛の手綱を引っ張り立たせるとすぐに乗馬した。

 

「鬼鹿毛!」

 

すると鬼刑部は紅魔館の出口から庭へと向かう。

外にいる味方と合流すれば、あの吸血鬼二体でもこちらに勝機が生まれると予測したからだ。

 

しかし庭で待っていた光景は、彼の予測を裏切った。

 

「馬鹿な!?」

 

庭には味方が一人も居らず、残っているのは見たこともない鉄砲を装備した妖精メイド達と、二本の見たことがない短筒を装備した赤毛の女だけだった。

 

鬼刑部がレミリアと戦っている間に葦名軍は壊滅しており、彼はもう紅魔館は落とせぬと確信する。

 

すると館からレミリアとフランが現れた。

 

「私の切り札、小悪魔率いる近代兵器部隊よ。まだ訓練中だし幻想郷のパワーバランスを変える位強いから出したくなかったけど...」

「ぬぅぅっ!」

 

鬼刑部は拳を握りしめ、口からは血が垂れる。

 

「此度の戦は負けか...!だがこの屈辱忘れぬぞ!」

 

鬼刑部は鬼鹿毛の手綱を引いて門目掛けて突進し始めると、小悪魔と近代兵器部隊が鉄砲を彼目掛けて発砲する。

 

「撃ちまくれ!ここから逃がすな!」

 

しかし銃弾は彼の厚い鎧に阻まれ皮膚まで到達せず、鬼鹿毛も不規則に動いて照準をずらさせた。

 

「飛べっ!鬼鹿毛!」

 

部隊はすぐに銃のボルトを引いて次弾を装填し狙いをつけるも、鬼鹿毛は紅魔館を囲む壁を跳躍で乗り越えた。

 

「!!」

 

鬼刑部は壁を乗り越えると、そのまま葦名城へと急いで撤退した。

 

 

 

 

 

 

屋上でこの戦を見守っていたパチュリーはようやく一息つく。

 

「ふぅ...魔法が使えなくなった時は驚いたけど何とかなったわね」

 

パチュリーは魔導書を拾い、魔法が使えることに気づくとすぐに全員に命令する。

 

「皆良くやったわ。とりあえず防衛は成功よ」

 

パチュリーの言葉に妖精メイド達は歓喜の声を上げた。

 

「けどまた来る可能性もあるわ。負傷者はすぐに図書館へ運んで門を修復。見張りを増やして守りを固めるのよ」

「「はい!」」

 

妖精メイド達はすぐに行動を移すと、次々と負傷者が紅魔館に運ばれていく。

するとレミリアは壁に寄りかかる美鈴の近くに来る。

 

「珍しく怪我を負ったわね美鈴」

「...不甲斐ない姿をお見せして申し訳ありません」

「気にしないで。あんな人外モドキが来るとは予想できなかったもの」

「それでも...内部に侵入させてしまいました。こあさんが率いてる秘密の部隊まで出させてしまって...」

「実戦経験させたかったから丁度良かった」

 

美鈴は見るからに落ち込んでいると、レミリアは彼女に肩を貸して立ち上がらせる。

 

「お、お嬢様!」

「落ち込む暇はないわよ美鈴。あんたはいつも通り明るく振る舞って皆を安心させなさいな」

「.....」

「あんたが落ち込んでると調子狂うの。わかった?」

「...グスっ...はい!次こそは頑張ります!」

「...それでこそ私が認めた女よ」

 

 

 

 

 

紅魔館

鬼庭刑部雅孝率いる葦名軍を退け、勝利する。

 

 

 

 

 



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恐怖政治

自然溢れる幻想郷には侵入者を迷わせる森や場所がいくつもあるが、迷いの竹林はその中でも入ればまず自力で出ることは不可能と呼ばれる危険な竹林である。

 

幽霊や妖怪がさ迷っており、人が入れば骨となり地面に消えるだろう。

 

しかしそんな危険な場所の最奥に永遠亭はあった。

 

月の姫であった蓬莱山輝夜、月の頭脳と呼ばれた薬師の八意永琳、月の脱走兵である鈴仙・優曇華院・ イナバ、幸運の長命兎の因幡てゐ。

 

彼女らは竹林の奥地で偶に薬を人里に売りながらも平和に暮らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠亭 診察室

 

「成る程...わざわざご忠告感謝するわ。妖怪の賢者さん」

 

診察室では永琳と鈴仙が八雲紫の話を聞いていた。

 

「あいつらは必ず今日の夜に攻めてくる。どんな方法で来るのかもわからないけどね」

「し、師匠...!」

「了解したわ。あとはこちらで対処する」

「あぁ、そうそう...それともう一つ。これはお願いであって強制じゃないのを承知で頼みたいんだけど」

「何かしら」

 

紫は扇子で口を隠すも、笑顔で永琳に言い放つ。

 

「人里防衛に戦力欲しいから援軍送って欲しいの」

「.....」

 

永琳は暫く唖然であったが、頭に手を当てて悩むと答えを出す。

 

「なら優曇華を連れていきなさい」

 

永琳の言葉に優曇華は目を見開いて驚く。

 

「ちょっ!?師匠!?何で私が!?」

「私はここを守らなきゃいけないし、てゐは兎達の指揮官的な立場だし...姫様は論外」

「...」

「つまり援軍として適任なのは貴方しかいないの」

「いやいやいや、そもそも断ればいい話じゃないですか」

 

すると永琳は紫を見ると、彼女は笑顔で何か納得したように答える。

 

「援軍送ってくださったらそうですわねー...元月のお姫様に新しい玩具を送るのはどうでしょう?あと電気も通しておきますわ」

「.....」

「あ。あと貴方には過去に失われた薬草が入ったパック二袋。どうでしょう」

 

永琳は椅子から立ち上がると、紫と握手した。

 

「ちょ、うぇ!?ちょまっ...師匠ぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き叫ぶ優曇華は紫と共にスキマへ消えていき、永琳は直ぐ様てゐが従える全ての人型うさぎを庭に集める。

 

人型うさぎ達は何も聞かされてないので、団子配給でもあるのかと気楽な気持ちで待っている。

 

すると永琳が皆が聞こえる声量で説明し始める。

 

「私達の敵がやってきます」

 

永琳の言葉に全員が固まり、空気は一気に静まり返る。

 

「敵の狙いはここ。永遠亭及び姫様よ。それを防ぐため貴方達には色々働いてもらいます。日頃食べさせてる団子の分は働きなさい」

 

するとうさぎ達はざわざわと騒ぎ始めると、一人手を挙げる。

 

「はいはい、質問」

 

うさぎ達の中から出てきたのは、この竹林の主とも言える最長寿の兎である因幡てゐであった。

 

「てゐ、何かしら?」

「その戦いとやらは本当に私達参加しなきゃいけないの?」

「当然でしょ」

「だって正直私達は竹林に入った侵入者を迷わせるのが仕事だし。永遠亭のために戦うなんて契約違反だと私は思うね」

 

てゐの言葉に他の兎も納得して次々と永琳に対して反対の声を上げる。

 

「...」

「確かに団子とかは食べさせてもらったけど...果たして命をかける程か?って皆感じると思うなぁ...」

「つまりうさぎ達は今回の戦には不参加ということ?」

「いやいや、そんなことは言ってないよ。けど私達も命かけるんだからそれなりの報酬は欲しいなって」

 

てゐは嫌な笑顔を浮かべると、永琳をため息をして淡々と話し始める。

 

「貴方達、最近風邪になった者は?」

 

永琳の突然の問いかけに、純粋なうさぎ達の何人かは手を上げる。

 

「...なら最近体がだるいと思っているのは?」

 

するとまた数人のうさぎ達が手を挙げる。

 

そして永琳は少し口の広角を上げて、もう一つうさぎ達に質問をする。

 

「その症状が出たのはこの前振舞ったお団子食べ放題イベントをしてから?」

 

永琳の質問の意味が分からず、全員唖然である。

 

「何言ってるのかわからないって顔ね。なら教えてあげる」

 

永琳はてゐを近くに呼んで、いつの間にか持っていた串団子を半ば無理矢理食べさせる。

 

その瞬間てゐは真顔のままその場に倒れ、うさぎ達は騒然。

 

「このお団子に入っていたのはある劇薬よ。実はそのイベントで作ったお団子全てに希釈して入れておいたの」

 

永琳の発言に全員震え出した。前に食べたお団子に毒入ってましたと言われたら誰でもそうなる。

 

「勿論てゐのようにすぐ倒れるわけじゃないのはわかっているわ。今の貴方達を見てるから。けど風邪や怠さが出てきてるなんて...興味深いわ。これからどうなるのかしら」

 

永琳はゆっくりと手を口に当てて、不気味な笑顔を浮かべた。

 

「解毒薬欲しい人」

 

うさぎ達は全員が両手を上げて、永琳に駆け寄った。

 

「永遠亭、守ってくれるわよね」

 

うさぎ達は全員勢いよく何度も頷いた。

 

「じゃあ行動開始。竹林の警備を増やして全員武装準備。そして敵が来たら直ぐに知らせなさい。はい解散」

 

うさぎ達は全員が必死の表情で竹林へと向かっていくと、倒れたはずのてゐが匍匐前進しながら永琳の足を掴む。

 

「永琳んんん...!」

「あら、お早いお目覚めね」

 

永琳は懐から紫色の液体が入った瓶を取り出してゐに飲ませる。

 

彼女は震えながらも立ち上がれるほどに回復し始めた。

 

「なんてもん食べさせるんだよ!」

「私に吹っ掛けるなんて十万年早いわ」

「てか劇薬の件マジなの!?あの日めっちゃ食べちゃったんだけど!」

「嘘に決まってるでしょ」

 

永琳の言葉にてゐは唖然となり、段々とその表情は怒りに満ちてきた。

 

「騙された!」

「詐欺師としてまだまだ甘いわね、てゐ」

「くっそぉー!」

「貴方も永遠亭失ったら色々と困るでしょ?住処もだけど...この幻想郷で生きていく後ろ盾が無くなったら」

「あんた達は不老不死でしょうが」

「さぁ貴方も行った行った。私は永遠亭の守りを固めるから、うさぎ達にちゃんと指示してあげなさい」

 

てゐはまだまだ不満があったが、永琳の言うことにも一理あるため指示を聞くことに決めた。

 

「わかったよ。その代わりやられんなよ」

 

てゐは永遠亭の庭を乗り越え竹林へと走っていった。

 

 

すると永琳の後ろの襖から永遠亭の姫である蓬莱山輝夜が現れる。

 

「永琳」

「姫様」

「何やら騒がしいわね」

「どうやら永遠亭に危機が迫っているようです。姫様も狙われる事になるでしょう」

「あらあら、それは楽しみ」

「ご安心を。私がいる限り姫には誰も近づけません」

「そうね。つまらないの。そういえば優曇華は?」

「人里へ援軍に向かわせましたので、今はいません」

 

輝夜はさらにつまんなそうに頬をふくらませ、永琳をじーっと見つめる。

 

「敵が来るまで暇よ。優曇華の代わりに貴方が遊び相手になりなさい」

「はいはい。それで、何で遊びましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして太陽が沈み、夜が始まると迷いの竹林の入口に般若面の鼻を伸ばした面と鳥蓑を身に付けた姿の人間達が現れた。

 

先頭に立つのは、大太刀を背負い、鳥蓑を羽織った大柄な体に、長い白髪を足元近くまで編んだ男。

そして隣には全身にクナイを仕込んだ白髪の老いた女性がいた。

 

かつて葦名衆に仕えた二人の大忍び

大忍び 梟

まぼろしお蝶である。




UA300越えありがとうございます!
この前隻狼久しぶりにやったら腕なまってて悲しかった


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葦名の忍達

梟は後ろに控える寄鷹衆の方に振り向き、任務の説明をし始める。

 

「我らの任はこの竹林の先にある永遠亭を落とす事。邪魔する者は排除せよ。逃げる者は追わずただ突き進め」

 

梟が単純な説明会をすると、隣にいるお蝶が笑い出す。

 

「ククク...逃げる者は追わずか。あの梟も牙が抜けちまったようだね」

「口答えかお蝶」

「いや...それがあの若殿の指示なのだろう」

「...葦名を黄泉帰らせた暁には一心諸共食ろうてくれるわ」

「身に余る野心を持てば足元をすくわれるとまだわからんのか」

「ふん。よもやこの儂が倒されるとでも?」

「お主も年をとる。全盛はそう長くは続かぬものよ」

「生意気な...」

「さて、そろそろ行くか」

 

お蝶はクナイを両手に持つと、梟も背中の大太刀を抜いた。

 

「行け」

 

梟の合図で後ろにいる寄鷹衆全員が竹林へと突き進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寄鷹衆はその人間離れの身体能力を生かし、竹を踏み台にしながら地面に足をつけず空中を移動している。

 

すると一人の寄鷹衆が、いつものように竹を踏んだ瞬間急に凹んで上から魚を捕まえるような網が現れる。

 

「ぬおっ!?」

 

寄鷹衆の数人が網に捕らえられ、下へと転落していった。

 

そして落ちた地面は巧妙に偽装された落とし穴があり、捕らわれた寄鷹衆は全員斜めに斬られた大量の竹に突き刺さり死亡して灰となった。

 

それを見ていた寄鷹衆は直ぐ様散らばった他の仲間に聞こえるよう大声を出す。

 

「罠があるぞ!用心しろ!」

 

本来ならば声ではなく火花や音で他の仲間に伝える手筈だったが、迷いの竹林には濃霧が常に発生しており火花は勿論だが、近場でなければ音すら防がれてしまうようだ。

その為位置がバレてしまうが大声で注意を叫ぶ他ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寄鷹衆は竹の上を移動しているが、梟とお蝶は陸で移動していた。

彼と彼女も寄鷹衆のように移動もできるが、ここにいるうさぎ達を処理するためあえて陸を歩いている。

 

すると梟が傷の付いた竹を見つけ、辺りを見渡した。

 

「ふぅむ...」

「迷わされたね。ククク...中々いい場所じゃないか」

 

竹に付いた傷は先程梟が自分でつけた物であり、さらに場所も若干上に移動している。

 

「曲がらぬように来たと思うたが...」

「そう惑わせるのがここなのさ」

「解くことは出来るか」

「時間がかかり過ぎる。日が明けることは確実さね」

「既に寄鷹衆にも被害が出ておる。使う他ないか」

「待て、梟」

 

お蝶は後ろを振り向き六本のクナイを投げる。

すると二人の近くには数人の人型うさぎ達が潜んでおり、持っている弓がクナイによって折られて震えていた。

 

「ば、バレた!撤退撤退!」

「何で場所バレたの!?」

 

うさぎ達は逃げようとすると、お蝶はクナイをさらに投げる。

 

しかし彼女達は鍛えられた忍以上の跳躍でクナイを避けて、竹の上を移動して逃げてしまった。

 

「ほう...脚は中々鍛えられているな」

「ふふ...蝶が兎を逃したな」

「...これで敵はいない。さっさとやったらどうだい」

 

すると梟は大太刀を地面に刺すと、両手を合わせて祈り始めた。

 

「歪みよ起これ。敵に災いを」

 

その瞬間梟を中心に桜色の気が放たれ、鈴の音が広範囲に鳴り響く。

 

すると迷いの竹林を覆っていた濃霧が急に晴れ始め、遠くの景色も目視で確認できるようになった。

 

「便利なものよ」

「左に館がある。あれが永遠亭だろう」

「では、向かうか」

 

二人は濃霧が消えて露わになった永遠亭へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事!?なんで霧が晴れるのさ!」

「わかんないよ!私達の魔力を含めた霧が急に出せなくなったのさ!」

「てゐ!どうしよう」

「ぐぬぬ...こりゃ想定外だね...!」

 

てゐは迷いの竹林の霧が晴れ、これまでにない慌てようだった。

何百年と隠し続けた永遠亭も既に露わになっており、これでは罠もほとんど意味がなさない。

 

そして対人の訓練などしたこともない人型うさぎ達も、霧に紛れての奇襲だからこそ敵を倒せる可能性があったが、こうも丸見えでは奇襲もできずやられるだけだ。

 

「これじゃあ狩られるだけ...!」

 

すると遠くから他のうさぎ達の悲鳴が轟く。

それを聞いててゐは既に敵はこちらを見つけ、狩りが始まっていることに気づき大声で叫ぶ。

 

「永遠亭に全速力で逃げろ!!辿り着けない子は竹林の外でもいい!逃げるんだ!」

 

てゐの大声でうさぎ達は恐怖を露わにして命令通り永遠亭へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ...!」

 

てゐの指示は聞こえていたが、追ってくる寄鷹衆を撒けずうさぎがいた。

 

そして足に寄鷹衆の持っていた鎌が突き刺さり、転倒してしまう。

 

「あうっ!」

 

うさぎは立ち上がろうとするも、足に力が入らず引きずりながら移動するが眼の前に寄鷹衆の一人が降り立った。

 

「あ...」

 

寄鷹衆が鎌を振り上げ、うさぎの頭に突き刺そうとする。

 

しかしその瞬間、寄鷹衆の首に竹槍が突き刺さり灰となって消えてしまった。

竹槍を投げたのは、半ば息切れしているてゐであった。

 

「て、てゐ!」

「立てる!?」

 

てゐは負傷したうさぎに手を貸して立たせるも、やはり足の傷は深く歩けなかった。

 

「ど、どうしよう!」

 

すると二人の後ろから他の寄鷹衆が現れ巨大な手裏剣を投げると、てゐは地面を強く踏んで罠を作動させて、地面に紛れてた竹の壁で手裏剣を防ぐ。

 

「逃げるよ!」

 

てゐは負傷したうさぎを肩に担ぎ上げて、全速力で永遠亭へと走り出した。

 

「他の子は!?」

「大体は逃げたと思うけど...逃げ遅れた子は皆...!」

「くっ...何てこったい!」

 

てゐは他のうさぎよりも身体能力が高く力も強いためか、同じ体重の子を肩に担いでも寄鷹衆の移動速度を上回っていた。

 

「怪我は!?」

「痛いけど大丈夫...ごめん、てゐ」

「気にすんなさ!団子食えば治る!」

 

てゐは逃げていると、眼の前に今までの敵とは違った奴らに出くわした。

 

「む...?」

 

それは葦名軍の総大将である梟とお蝶であり、てゐはすぐに寄鷹衆とは別格の実力者だと察した。

 

「うげぇぇぇ...こりゃ私の幸運も尽きたかな...!」

「ど、どうしようてゐ!」

 

すると梟は抜いてある大太刀を構える。

 

「ここであったのもお主の運の尽き。諦めよ」

 

梟はゆっくりと近づいてくると、後ろから一本の矢が飛んでくる。

 

お蝶がその矢をクナイで弾くと、さらに二の矢がお蝶の額目掛けて飛んできた。

今度は梟が手裏剣で矢を弾くと、二人は矢の飛んできた方角を見る。

 

それは永遠亭の建物から飛んできており、相当な距離があるのに正確に地面に落ちず飛んできた矢に二人は驚いていた。

 

「どうやら何かがあそこにいるようだ」

「見事な腕...いや、最早人の技ではない」

 

二人が永遠亭に意識が向いている隙に、てゐは直ぐに全速力で逃げる。

 

二人はてゐなど見向きもせず、永遠亭へ歩みを再開した。

 

 

 

 




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これからも『決戦!葦名城!』をよろしくお願いします!


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決戦!永遠亭!

梟とお蝶は永遠亭へ歩みを進めていると、近くで何かが落ちる音が聞こえた。

 

二人は音の出処を見ると、そこには首に矢が突き刺さった寄鷹衆が倒れ灰となって消えた。

さらに続々と地面に落ちる音が鳴り響き、やがて静かになる。

 

「...全滅したようだね」

「よもや...あの寄鷹衆がやられるとは」

「私達を狙わないのは...避けられるとわかっているからか」

「急ぐか、お蝶」

「そうだな、梟」

 

二人は歩みを早め、永遠亭へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てゐは永遠亭に逃げ込むと、息切れしながら庭で弓を構えている永琳の所へと辿り着いた。

 

「永琳!」

「無事だったのねてゐ」

「霧が...竹林の霧が」

「わかってるわ。勿論貴方のせいではない。恐らく敵の術よ」

「ど、どうする!?敵が」

「安心して。敵のほとんどは始末した」

「!」

「その子怪我してるわね。後で診るから重篤患者室へ急ぎなさい。あそこなら外から隔離されてるから奴等にバレない」

「わ、分かった!」

 

てゐは担いでるうさぎと共に永琳の言っていた重篤患者室へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永琳はゆっくりと息を吐くと、永遠亭を囲む壁を簡単に乗り越えてきた梟とお蝶を見つめる。

 

「いらっしゃい、ようこそ永遠亭へ」

「ほう...お主が矢を放った者か」

「部下達は全滅させたわ。後は貴方達だけ」

「元より寄鷹衆はついで。若殿に無理矢理任せられただけよ...消えても問題は無い」

「たった二人でこの永遠亭を落とすと?」

「ふふっ...造作もない」

 

永琳はどこから取り出したのか、二本の長矢を片手に弓を構える。

 

「人間如きが永遠亭に挑んだこと、後悔させてあげる」

 

梟も大太刀を構え、お蝶はクナイを構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重篤患者室では多くのうさぎ達が避難していた。怪我するものはてゐの指示で応急手当をして永琳が来るまでまった。

 

「ふぅ、これでとりあえず血は止まるよ」

「ありがとうてゐ」

「動かないようにね」

 

てゐは立ち上がり他のうさぎ達の怪我を見ると同時に固く閉ざされた入口を見る。

 

「...無事でいてよ永琳」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

庭では二人の忍びと弓を扱う薬師の激戦が繰り広げられていた。

 

永琳の放った矢は弾かれ折れても、刃の部分は移動をし続け二人の喉元を狙う。

 

忍達の攻撃はどこも隙もなく、梟は近接で仕掛け、お蝶は遠距離からクナイを投げる。

そしてお互いに攻守を切り替え、怪物達が集まる幻想郷でも実力はトップクラスの永琳と渡り合っていた。

 

「飛んだり跳ねたり面倒くさいわね」

 

最初こそ永琳は二本の矢の同時撃ちを使っていたが、当たらない、弾かれるの連続で苛ついているのか、今じゃ十本の矢を放ちしかも同時に操っている。

 

空中には何十もの矢が地面に落ちず二人を狙い、流石の熟練の忍といえどキツくなってきたのか、矢を撃たせないため二人同時に近接を仕掛ける。

 

お蝶はクナイを握りしめて連続攻撃を行うが、永琳は矢を剣のように扱い彼女の攻撃を全て完璧に弾く。

 

「ただの矢ではないな」

「私が作ったの。頑丈でしょ?」

 

すると今度は後ろから梟が回転しながら跳躍し、兜割り仕掛けるも今度は弓で渾身の一撃を防がれる。

 

二人も流石に片手で自分の攻撃を防がれるのは初めての経験であった。

 

「ふん!」

 

梟は地面に降りると、懐から掌に収まる程度の大きさのある丸薬を取り出し火をつけて投げる。

 

すると丸薬は緑色の煙を放ち、永琳の全身を包む。

 

「うっ...」

 

永琳は直ぐに手で鼻と口を覆うも、お蝶の踵落としが邪魔をする。

 

「ケホっ...」

「梟の毒煙はよく効くだろう」

 

すると永琳はその場で高く飛び上がり、三十はあろう矢を雨のように二人目掛けて降り注いだ。

 

しかし二人は直ぐに避けてクナイ、手裏剣をそれぞれ投げる。

 

永琳は首目掛けて飛んでくる武器を、脚で蹴って弾く。

 

そして着地すると梟は爆竹をばら撒き、お蝶は白く光るクナイを十本程用意。

 

「むん!」

「はあっ!」

 

梟は火のついた爆竹が爆発すると同時に大太刀で炎を纏って薙ぎ払い、お蝶の投げたクナイには白く光る蝶が金色の粉を散らしながら共に永琳に襲いかかる。

 

「っ!」

 

梟とお蝶も確かな手応えを感じ、永琳から距離を取って様子を伺う。

 

爆竹の煙が晴れると、そこには腹から血を出し、左腕には数本のクナイが刺さった永琳が立っていた。

流石の彼女も着地時を狙われた二人の大攻撃は防げなかったらしい。

 

「自分の血を見るのは久しぶりね。それに」

 

永琳は血が止まらない自分の傷を見て、冷静に分析していく。

 

「イチイ、クサノオウ、トリカブト...あぁ、これはヒガンバナかしら?それと既に採れない薬草や毒草もいくつか混ぜてるか」

 

お蝶は何を言っているか分からなかったが、梟は額から一滴の汗を垂らす。

 

「中々の調合ね。あの煙を吸えば常人なら一瞬で意識不明に陥るでしょう...この私でさえ再生能力が遅れるほどの劇毒...」

「.....」

 

今永琳が言っていたのは全て梟が調合した煙玉の材料であり、臭いを吸っただけで何が入っているかを全て言い当てたのだ。

 

これにはいつも無表情の梟も驚愕した。

 

「ふぅむ...『歪み』を使ったにも関わらず...毒煙を吸っても、我らの一撃を受けてもまだ生きるか」

「蓬莱人とやらを甘く見すぎたようだね」

「人でも妖でもない不死の種族か...ふむ」

 

すると梟は背中に隠しているある武器を取り出した。

 

「!それを...使うのかい?梟」

「尋常なる術でも死なぬならば、これの使い時よ」

 

梟が取り出したのは、禍々しい黒い気を放つ両刃の刀であった。

 

永琳はその武器を見た瞬間、脳が警告を出した。

あれに触れてはいけない

不老不死であるはずの永琳が何百年振りに感じた恐怖が、眼の前の敵の持つ刀から発せられる。

 

「若殿から預かった『黒の不死斬り』...これで貴様を斬る」

 

梟は黒の不死斬りを構え永琳に襲いかかると、彼女は不死斬りに触れぬよう攻撃を避けて距離を取る。

 

するとお蝶は指を鳴らし、辺りに武器を持つ煙で出来た人間を数人生み出す。

 

「我が幻で、惑え」

 

お蝶が作り出した煙の人は一斉に永琳に襲かかり、彼女を押さえつけようとする。

 

「邪魔っ!」

 

しかし永琳は矢を放ってお蝶の幻をすべて消していく。

すると煙は光り輝く蝶の群れとなり、再び彼女へと襲いかかった。

 

蝶は的確に永琳の傷口に当たって彼女に血を出させ、彼女の表情は苦痛に歪む。

 

すると眼の前に不死斬りを振り上げた梟が現れ、永琳は素早く矢を彼の額に突き刺した。

 

「ぐはっ...!」

 

梟は後ろに倒れ、永琳はお蝶の方を向く。

 

「あと一人...!」

 

お蝶は弓を構える永琳を見て、笑い出した。

 

「ククク...まだまだ子犬よ」 

 

永琳はお蝶の笑いにある確認を忘れたことに気づく。

 

「しまった!」

 

永琳は直ぐ様倒した梟の死体を見ると、彼の体から大量の蝶が吹き出し永琳の視界を防ぐ。

 

そして次の瞬間、永琳の背中は死んだ筈の梟の持つ黒の不死斬りによって斬り裂かれた。

 

「ああっ!!」

 

流石の永琳もこれにはたまらず声を上げ、弓を落として床に座り込む。

 

「はぁ...はぁ...」

「お蝶は本物と区別がつかぬ幻を操る...流石の腕よな」

「ククク...惑うお前は見ものだった」

 

永琳は床に自分の大量の血が流れ、ある疑問だけが頭をよぎっていた。

 

(毒を吸っても、斬られても、クナイで刺されても、私の体は再生するはず...現に腹の傷は治ってきている。なのにあの刀で斬られた箇所は何故か再生しない...)

 

梟は血を流す永琳を見て、黒の不死斬りを改めて見つめる。

 

「纏い斬りでも倒れなかった此奴が、不死斬りで斬ればこうも効果があるか。何とも奇妙で魅力を持つ刀よ」

「赤よりも余程使い勝手の良い刀よな」

 

二人は永遠亭に入ろうとすると、床に矢が刺さる。

 

「はぁ...はぁ...姫の元へは行かせないわ」

「無駄だ。もう決着はついておる」

「まだ私は死んでないわよ!」

「いや、貴様の事ではない」

 

梟とお蝶が永琳の方を向くと、永遠亭の中から一人の男が現れた。

髪をまとめ、ボロボロの鎧の上に橙色の袴のようなものを羽織り、左手には謎の素材でできた義手を装着している。

 

梟が戦場で拾い、忍びとして育てられた『狼』である。

 

そして右手には、紅く怪しく光り、刃毀れが酷い太刀を持っていた。

 

「為したようじゃな、狼よ」

「.....」

 

 

永琳はその男の持っている太刀についた血を見て、目を見開き驚愕した。

永遠に忘れもせず、二度と見たくないと思った己の仕える主の血。

 

永琳は震えだし、息が荒くなり、声を荒らげてその男に問いただす。

 

「姫様に何をした!!!!」

 

永琳は銀色に光る矢を手から出すと、狼の額目掛けて放った。

銀の矢は複数に別れ百を超える矢となり、梟とお蝶は直ぐに跳躍して避ける。

 

すると狼は矢が当たるその時、義手から縄で縛ってある黒い羽の束を目の前に出すと、彼はその瞬間羽を残し消えた。

 

捕まえたと思うても、手には羽しか握られぬ。

 

忍具 霧がらすである。

 

狼は永琳の前まで移動すると、持っていた太刀で彼女の肩から腹まで斬り裂いた。

 

「姫...様」

 

永琳は自ら吹き出る血に視界が染まり、意識がそこで途絶え地面に力なく倒れた。

 

 

 




梟とお蝶を同時に相手してみたい。きっと楽しいぞ!(白目)


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陥落、そして始まり

数十分前

 

永遠亭内部 姫の間

 

永琳が庭で戦っている間、輝夜はじっと座り彼女の帰りを待っていた。

 

「...」

 

本来ならばこの姫の間は永琳の術により侵入者を永遠亭内部に迷わせ永遠に辿り着けないよう細工しているのだが、輝夜はあえて術を解き、彼女か、それとも敵が来るかどうかを賭けていた。

 

それに興味があった。

 

長年誰も成したことのなかった竹林の霧を晴らす者達を、しかもあの永琳に喧嘩を売る者達を。

不老不死の我々をどう攻略するのかを。

 

 

すると姫の間の襖がゆっくりと開いた。

 

「...私の予想は外れたわね」

 

輝夜の予想していた結果は外れ、部屋に来たのは敵であった。

片手に古臭い義手を着け、紅く光る太刀を持っている。

 

梟の倅で熟練の忍でもある狼であった。

 

「お名前は?」

「.....」

「...うーん、じゃあご趣味は?」

 

狼はゆっくりと輝夜に近づき、刀を構える。

すると彼女はため息をついて、退屈そうに座り直した。

 

「弾幕も出せないし、何やらその刀から嫌な雰囲気出してるし...永琳は何をしてるのかしら。もしかして負けちゃった?」

 

狼は赤の不死斬りを勢いよく振り下ろすと、輝夜は刀をなんと素手で受け止め握った。

掌からは血が垂れ、床の畳を紅く染める。

 

「いたた...傷を負うなんて何百年前のことだったかしら。それにしても女性相手にいきなり刀振り下ろすなんて...」

 

狼は刀を輝夜の腕から抜こうとするが、かなりの力で握られており全く動かない。

 

「無礼な人」

 

その美しい細腕のどこにこんな怪力が潜んでいたのか。

 

「そんな貴方には....」

 

輝夜は刀を掴みながらゆっくりと立ち上がり、狼の前に立つとじっと見つめて何か珍しいものを見るような目をしている。

 

「?.....うーん、貴方...庭にいる人よりも...何かが濃いわね。それに...後悔の感情?」

「.....」

「何だろう...?それとも...いや、どう表現すればいいのかな」

 

すると輝夜は刀を離すと、床に零れそうになった血の着いた手を舐める。

 

「あぁ、そういえばこれが私の血の味だったわね。懐かしい」

 

狼は再び刀を構えると、輝夜はクスクスと笑い彼を見つめる。

 

「その()()じゃ、私を完全には殺せないんじゃない?暫くは動けなくはなると思うけどね。アイデアはいいけど...何で本物を持ってこなかったのかしら?」

「...」

 

輝夜はジッと彼を見つめていると、やがて警告する瞳からキラキラ珍しそうな物を見つけた目となった。

 

「...貴方に興味が湧いてきた」

「.....」

「本来ならばここでご退場願うんだけど...」

 

輝夜は隻狼を前にして両手を広げ、満面の笑みで彼を見つめた。

 

「貴方が求める結果を...その過程を...この異変という舞台を特等席から眺めさせてもらうね。もしつまらなかったら...私直々にお仕置きにしに行くから」

「.....」

「今度は誰を襲うのかしら?どこを攻めるの?誰がやられて誰が勝つ?ああ...やっぱり予測できない事態というのは格別に心を刺激するわね」

 

 

 

「.....承知」

「そう、いい子ね。じゃあ、突き進みなさいな。楽しませて頂戴...心折れた忍さん」

 

狼は不死斬りで輝夜の胸を突き刺し、抉って乱暴に抜いた。

 

彼女の口や胸からは大量の血が吹き出し、地面に倒れ動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして庭では永琳が狼によって斬られ、彼女は意識を失い倒れた。

 

梟は狼の肩に手を乗せて、彼の耳元で話し始める。

 

「よくやった、狼よ」

「...はい」

 

梟は不死斬りを鞘に納め、再び背中に隠すと辺りを見渡した。

 

「これで永遠亭は盗った。これで葦名の黄泉帰りに近づける」

「残りのうさぎ共はどうする」

「ここに住む姫と此奴さえ倒せばここは落ちたも同然」

「ならば長居は無用。葦名城へ戻らねばな」

「ゆくぞ、狼」

 

梟のお蝶は葦名城へと歩みを進めるが、狼は永遠亭をジッと見つめ、暫くしてから二人と同じように葦名城へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠亭

梟、お蝶、狼により蓬莱山輝夜と八意永琳が戦闘不能にされ陥落する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽の畑

夏には大量の向日葵が咲き誇り、幻想郷でも圧巻の景色を誇る場所。

そして最も危険で、怪物揃いの幻想郷の住民達が『本気の彼女ならば誰も倒せない』と言わしめる妖怪の女が住んでいる。

 

 

冬では大量の向日葵も元気をなくして、ほとんどが地面を向いている。

 

そして畑の中央にある一軒の家に、八雲紫が隙間を使って移動してきた。

 

しかし家には誰も居らず、月明かりが窓から差し込むだけで中は薄暗かった。

 

「一体どこ行ったのよ...早く伝えないと!」

 

その瞬間

 

 

「!!」

 

紫は外からかつて味わった事のない程の殺気を感じたのだ。

直ぐ様外に出ると、そこには日傘を地面に刺して葦名城がある方角を睨みつけている風見幽香の姿があった。

 

「幽香!」

 

幽香は紫の声を聞くと、ゆっくりと振り向いた。

 

「あら、気づかなかったわ。久しぶりね紫」

 

月に照らされる幽香が紫を見た瞬間、辺りに咲いていた花々や草木は頭を垂れて、まるで平伏しているかのようになっていく。

 

「す、凄い殺気ね」

「そりゃもう。あんなの向けられちゃ私も返さないと失礼だから」

「あんなの?」

 

幻想郷でも最強候補に上がる八雲紫でさえ、ビビってしまう幽香の殺気。

そしてそれは誰に向けられているのか?

 

紫は葦名城の方角から幽香に匹敵するもう一つの殺気を感じ取る。

 

「これは...」

「お客さんよ。話し合うつもりはないみたい」

 

二人が見つめる畑から、満月を背に一人の男がゆっくりと出てきた。

髪は白髪に染まり、あまりに痩せていて体は骨と皮しか残っていない。

白い袴を着て、見た目は死の迎えがそこまでやってきている老人だ。

 

しかしその老人から発せられる殺気は尋常ではなく、そこらの妖怪ならまず逃げ出してしまうだろう。

 

「...随分と歩いたが、ようやく会えたか」

 

男が喋ると幽香は笑顔で答え始める。

 

「ここは広いからね。夏ならもっと素敵で沢山のお花たちがお出迎えしてくれるのだけども」

「カカカッ...それは勿体ない時期に来たものよ」

「それで?ここに何の用なのおじいちゃん?」

 

 

幽香はニコニコしながら男に質問すると、彼は持っている一本の刀を腰に構える。

 

「風見幽香...という女を探しておる」

「あらあらあら...それなら目の前にいるわよ」

「ほう?お主がそうか...あれ程の殺気を放つ者...どんな鬼が出るかと思えば...」

「私もあんな熱烈な殺気を受けたからどんな怪物が来るかと思ったら...まさか死にかけのお爺さんだったなんて」

「カカカッ...!死にかけか...!この一心も甘く見られたものよ」

 

一心という単語を聞いて紫は半兵衛の言っていた言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

(「一心は剣聖と謳われる男。既に家督は弦一郎に譲り病のため隠居の身と聞いておるが...それでも強大な内府が恐れるほどの者よ」)

 

 

 

 

 

 

 

 

紫は自分も共に戦わなければと思った瞬間、幽香がこちらを見てくる。

 

「紫、邪魔だからさっさと消えなさい」

「!」

「今のあんたじゃあの老人相手はきついわ。私も守る余裕はないわよ」

「ど、どういう」

 

すると幽香は近くにいる花に手を向ける。

しかし花は反応せず、全く動かない。

 

幽香は花を操る能力を持っているのに、この結果はおかしい。

 

そして紫は理解した。

 

既にこの場にも淀みが発生しており、能力を制限されていると。

 

「わかった?」

 

これでは確かに邪魔になると紫は自覚し、淀みの範囲外まで逃げることにする。

 

「任せていいのかしら」

「ええ。久しぶりにいい殺し合いが出来そう」

「...気をつけて」

 

紫は二人から離れるように走って逃げていく。

 

そして辺りが静寂に包まれると、一心はゆっくりと刀を鞘から抜いた。

そして幽香も日傘を片手に持つと、肩に乗せてリラックスした。

 

「始めましょうか?」

「カカカッ...!さぁて、国盗りの時間ぞ」

 

 

 

 




UA1000突破!!
どうもあざざます!(スパイファミリー)
評価、お気に入り登録、感想書いてくれた方々には感謝しかありません。
『決戦!葦名城!』をこれからもよろしくです!

次回、幻想郷最強と葦名最強が激突



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決戦!太陽の畑!

幽香はゆっくりと歩くと、一心もゆっくりと摺り足で歩いていく。

 

「.....」

 

幻想郷最強の妖怪と葦名最強の剣士がお互いに隙を伺い、どこを狙えば倒せるか探り合いをしている。

 

二人の殺気がぶつかり太陽の畑には誰も近づけず、虫すら逃げ出した。

 

そしてとうとうぶつかる瞬間がやってきた。

 

「はぁっ!!」

 

先に仕掛けたのは幽香で、足の跡がくっきりつく程の力で地面を蹴って一心の頭目掛けて日傘を振り下ろした。

 

しかし彼は最小限の動きで彼女の日傘を避けて、一度その場で回り刀で薙ぎ払う。

 

「くっ!」

 

幽香はもう片方の手で一心の刀の鍔を押えて防ぎ、地面に突き刺さった日傘を振り上げる。

 

すると一心は刀を大きく振り上げると、彼もまた地面に足の跡がつく程の力で踏み込むと同時に刀を振り下ろした。

 

葦名流の基礎とも言える型 葦名一文字である。

 

「でやぁっ!」

 

幽香は日傘で一心の一文字を防ぐも、腕は痺れ、受け止めた瞬間地面にヒビが入る。

 

「いった...老人とは思えない」

「まだじゃ」

 

すると一心はもう一度一文字を行い、さらなる追撃を行った。

一文字が効かぬなら、もう一度叩き割る。葦名の一文字は、二連で完全となる。

 

日傘は一心の攻撃により真っ二つに斬られてしまい、幽香は日傘を放り投げて回し蹴りを食らわした。

 

彼は直ぐ様攻撃を弾くが、威力が強すぎて力を流しきれず三歩程後ろに下がる。

 

「ぬぅ...流水を以てしても流しきれぬか...!何という怪力よ」

 

一心は刀を鞘に納め、居合の構えをする。

 

すると幽香は回し蹴りの回転を利用し、彼の顔面目掛けて殴りつけようとする。

 

「カアッ!」

 

一心は鞘から刀を高速で抜くと、幽香の拳目掛けて十字に斬り裂いた。

 

疾く斬ることを一意に極めた 葦名流の奥義 葦名十文字である。

 

しかし幽香の拳は薄皮一枚切れた程度の血しか出ず、十文字を物ともせずそのまま殴りつけた。

 

一心は直ぐに回避すると、彼女の拳が地面に当たった。

 

その瞬間辺りに大きな地震が起こり、地面には拳を中心に巨大な亀裂が入った。

 

「...!」

 

流石の剣聖一心もこの威力と怪力に冷や汗が垂れる。

 

幽香はゆっくりと地面に突き刺さった己の拳を抜いて、手についた土を払った。

 

「手斬られちゃった。後で消毒しないと」

 

一心は全身の力を抜き、移動する瞬間再び全力を出して人間とは思えぬ速さで幽香の目の前まで移動する。

 

そして刀を振り下ろすと、なんと彼女は手の甲で攻撃を弾いた。

しかも金属音まで辺りに響いたのだ。

 

幽香は楽しそうに反撃すると、一心も再び弾いて反撃する。

 

二人の攻防はどんどん速くなっていき、よく見ると刀と拳が交わう瞬間血と火花が飛び散っていた。

 

幽香は心底嬉しそうな表情で思わず大声で笑いだす。

 

「あはっ!あははははははははっ!!!いいわよ貴方!!!ここまで力を出しても倒れる所か速度を上げて対応してる!!霊夢以上に戦闘の素質あるんじゃない!!?」

 

幽香は殴り、蹴り、殴り、殴り、殴り、殴りと戦闘方法はまるで獣のようで、一方一心は丁寧に、慎重に、そして流れるように弾き流し対応している。

 

すると一心も段々と笑みが溢れ、笑い出した。

 

「カカカカカッ!一撃でも食らわば死が避けられぬ.....何と懐かしい...!!既に血など枯れたと思うたが...何と、何と血が滾るものよ!!」

 

一心は刀で突き、足を狙い薙ぎ払い、紙一重で避けて反撃をし、一文字、一文字二連、十文字と人生で学びし技術を全て利用し戦っている。

 

しかし

 

 

「ゲフっ...!!」

 

一心は幽香の攻撃を避けた瞬間、口から血を吐き吐血したのだ。

 

「!」

 

幽香は一心の吐血を見ても攻撃をやめず、むしろ激しさを増してきた。

 

そして一度二人が同時に距離を取ると、一心は手についた血を払い、彼女は拳の骨を鳴らしている。

 

「まさか本当に死に損ないだったなんてね。なんのご病気?」

「...ふん」

 

一心は口についた血を地面に吐き出すと、ゆっくりと刀を構え直す。

 

「今宵の戦で...儂はすこぶる調子がいい」

「あら、奇遇ね。私もすんごくテンション高いの」

「病に蝕まれ...年波に勝てぬも、心の臓が滾れば...死にゆく体はついてくる。不思議なものよ」

「...言っとくけど病人相手だからって手を抜くつもりはないわよ。私に喧嘩売った時点で貴方はもう逃げられないし...逃がすつもりはない。貴方はもう...私のエサなの」

「カカカッ...!この一心が餌か!」

「...」

「ならば食ろうてみよ...風見幽香...!見事討ち果たし、この首を獲ってみよ!」

 

幽香は再び一心に近づき、彼の顔目掛けて殴りまくる。

しかし一心は全ての拳を弾き、一歩も下がらない。

 

すると段々と一心の反撃が彼女を押し始め、一歩、また一歩と進み始める。

 

「はぁ...はぁ...」

「随分辛そうね」

「カカカッ!まだじゃ風見ぃ!!」

 

一心の攻撃はさらに激しさを増すも、幽香はまだ余裕を隠している。

 

彼はその余裕に気づいていたが、既にこちらは限界に近い。

 

「ならば.....!」

 

一心は刀を鞘にしまうと、ゆっくりと時間をかけて力を溜める。

 

幽香は阻止しようと、全身全霊の一撃を食らわせようと仕掛ける。

 

「かぁぁっ!!」

 

一心は葦名十文字を拳に目掛けて繰り出すも、やはり彼女の拳は止まらない。

しかし一心は二連続で葦名十文字を繰り出し、さらに一文字を三連続、しかも高速で彼女の拳にぶつけた。

 

「っっ!!」

 

流石の幽香の拳も一心の連続攻撃には耐えられず、皮膚も深く斬られ血と骨の欠片が辺りに飛び散った。

 

「斬った...か!?」

 

しかし幽香は皮膚が深く斬れて、骨を砕かれた拳で一心の胸を思いきり殴りつける。

 

「はぁぁっ!!」

 

幽香は一心をそのまま地面に叩きつけ、地面はさらに亀裂が入って土埃が辺りに舞った。

 

「っ...!!」

 

一撃でも食らったら死は避けられないと最初からわかっていたが、最後にとうとう食らってしまった。

 

幽香は一心の胸から拳を抜くと、血塗れで骨まで見えている自分の手を見た。

 

「はぁ...はぁ...こんな怪我するの本当に久しぶり。しかも人間相手にこんなになるなんて...紫に小言言われそうね」

 

幽香は倒れる一心を見て、ため息をする。

 

「...病人を殴るのはあまりいい気分じゃないわ。あーあ、戦ってる時は楽しかったのに」

 

幽香は遠くにいる紫に会うため彼女が逃げた方角へ歩こうとする。

 

 

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽香は足元に小さな火があることに気づく。

 

「.....」

 

その火は大きくなり、範囲も広くなっていく。

 

「この火は....」

 

さらに火は次々と増えていき、熱い空気が辺りを包む。

 

すると幽香は後ろに気配を感じゆっくりと振り返ると、そこには刀を持って一心が立っていた。

 

「...何で生きてんのよ」

 

一心は口元から垂れる血を手で拭き取り、その血を見つめる。

 

「さて...儂も死を迎えたと思うたが.....何故か...」

 

そして潰れた筈の胸に触れて、一心は幽香を見る。

 

「.....儂も死合ている時は心躍ったものだが...」

 

一心は持っている刀を見て、血払いをすると幽香を睨む。

 

「これより先は...戦ぞ」

「.....へぇ...今までのは試合だったとでも?」

「.....」

 

幽香は再び一心に体を向けて、血が出ている右手の拳を強く握る。

 

「今度こそ叩き潰してあげる。もう病人なんて思わないわよ」

「...迷えば、敗れる」

「.....同感ね」

 

 

 

 




一心様の戦闘はやはり書いてて楽しかったです。


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剣聖の炎

一心は近くで燃える炎に刀を近づけると、炎は刀に乗り移り燃える刀が出来た。

 

「あらあら...熱そうな武器だこと」

 

一心は脱力して一瞬で幽香の元に移動すると、炎を纏う刀を振り下ろした。

 

幽香は攻撃を受け止めると、炎は幽香の皮膚を包み炎上状態にさせる。

 

「あっつ...!」

 

幽香は一心から距離を取って燃える手を払って火を消すが、一心はさらに距離を詰めて攻撃してくる。

 

幽香は素手で受けるのは危険と判断し、回し蹴りを行い靴底で一心の刀を弾いた。

 

一心は構わす連続で攻撃していくも、幽香は靴で弾いて対応する。  

 

「あちち...その火は厄介ね」

 

すると一心は後ろに下がり、刀を構えると力をため始める。

 

「かぁっ!」

 

刀を勢いよく振り下ろすと、辺りで燃えていたいくつもの炎が共鳴して大きくなり炎の柱が出来上がる。

 

幽香は炎の熱のあまり腕で顔を隠し、視界も遮られてしまう。

 

すると炎の中から刀を鞘に納め、居合の構えをした一心が飛び出してくる。

 

「っ!?」

 

一心は刀を抜き、一度だけ高速で斬ると直ぐ様鞘に戻した。

彼の渾身の居合は避けることも弾くことも出来ず、幽香は肩を斬られてしまう。

 

「!見えなかった...!」

 

しかし幽香はたった一度斬っただけで終わりかと拍子抜けし反撃しようとするが、次の瞬間全身で思い知らされることとなる。

 

「っ!!」

 

幽香の体は何十もの斬撃によって全身を斬り刻まれた。

あの刀を抜いた一瞬で彼は文字通り光速で斬り刻み、あまりに速すぎて斬撃だけ残されてしまったのだ。

 

そして最後に一心は速度ではなく、威力を重視した渾身の居合から繰り出す一撃を幽香に食らわした。

 

彼女は吹き飛び、この勝負で初めて地面に叩き伏せられる。

 

ただ斬ること。

その一事に、心を置く。

そうして放たれる連撃は神速である。

研ぎ澄まされた老境の剣聖一心だからこそ、為せる技。

 

己の名前をつけた剣聖の境地。

 

秘伝 一心である

 

「カハッ...」

 

風見幽香はゆっくりと立ち上がると、腕を抑え全身から出る血を見て笑みを浮かべた。

 

「はぁ...はぁ...お気に入りの...服だったのに」

 

一心は構えを解いて立ち上がると、幽香を見て笑った。

 

「流石風見よ...これを耐えるか」

 

幽香はゆっくりと息を吸い、思いきり吐くと拳を構える。

 

「さぁ...!続きをやるわよ!一心!」

 

一心は刀を振り上げ、幽香は思いきり勢いをつけた拳で弾いた。

すると彼は地面にある炎を刀に纏わせ、思いきり薙ぎ払うと炎が扇状に広がっていき、幽香を炎に包ませる。

 

「くっ...!舐めるなぁ!!」

 

幽香は大声で叫ぶと、彼女の中心から放たれる威圧と風で炎が消え去る。

 

「ほぉ...!」

 

一心は驚きつつも、威圧を物ともせず攻撃をし続ける。

幽香はもう炎を恐れず彼の連撃を拳で弾き、人間は勿論だが妖怪すら木っ端微塵になる程の力を込めて反撃した。

 

彼はそれすら弾いて反撃し、幽香も全力を込めて弾き返し、再び二人のぶつかり合いが始まった。

 

その余波は辺りを滅茶苦茶にしており、幽香の拳の風圧で畑の残った花は撒き散らされ、一心の炎は地面を燃やし尽くし舞い散る花びらに燃え移り火花が舞い散っている。

 

「こんのぉぉぉ!!」

「おおおおぉっ!!」

 

幽香の頬が刀により薄く斬り裂かれ、一心の頬も幽香の拳で擦られる。

 

彼女の拳はさらに血を吹き出し、一心の刀を持つ腕も痺れが生じてきた。

 

一発でこの辺りが完全に崩壊する一撃を流し続けては、剣聖と呼ばれる彼でも流石に腕に限界が来ているのだろう。

 

そして一心は今度こそ最後の一撃を決めるために刀を鞘に納めた。

 

幽香も一心が力を溜めていることに気づくと、彼女も距離を取って息を整える。

 

「ふぅー...ふぅー...」

 

幽香の拳は最早血で染まり皮膚はもう見えず、靴もボロボロとなり血が滲んでいる。

 

「お主を喰らい、儂は葦名を黄泉帰らせる」

「上等じゃない...喰らえるもんなら喰らってみなさい!」

「ゆくぞ!風見幽香ぁぁっ!」

「こい!一心!!」

 

幽香は右手に己の妖力全てを注ぎ込み、地面を抉り跳躍して一心の真上に移動し、彼の頭目掛けて高速で落ちていき拳を振り下ろす。

 

一心は全身全霊で刀を抜いた。

 

幽香は最初は何もできなかった神速の一撃をほんの少しだけ左手で弾くことができた。

 

「!」

 

しかし一心が刀を鞘に納めると、なんと先程とは違い幽香の右手を中心に炎を纏った十文字が大量に刻まれたのだ。

 

「ぐぅぅっ!!」

 

幽香の顔は苦痛に歪み、右手全てが紅く染まったが彼女は拳を止めない。

 

そして一心は最後に炎を纏った刀で鞘から出した時の横に薙ぎ払う一撃、そして振り上げた瞬間に光速の一文字による振り下ろし。

彼は威力と速度を強化した葦名十文字を放ったのだ。

 

秘伝一心すらを踏み台に放つ葦名流奥義。

 

「.....」

 

幽香は地面に着地すると、それと同時に近くに落ちる自分の血だらけの右腕を見た。

 

一心の十文字は修羅の腕をも斬り落とす。

だが今度の一心は最強の妖怪の腕を斬り落としたのだ。

 

「ぐ...ガハッ」

 

しかし一心の体は限界を超えて大量の血液を吐き、自らの両腕は秘伝一心 十文字型の反動からか皮膚は破れ血が溢れていた。

 

幽香は千切れた自分の腕を見つめて、大きくため息をついた。

 

「...まさか腕を斬られるなんてね」

「ぐ...」

「.....今まであった中で間違いなく一番強いわよ貴方。誇っていいわ」

「カ...カカッ...!お主も...見事の一言に尽きるわ...腕を斬られてもまだ立つか...!儂は既に戦えぬ...仕方なし...此度の勝ちは譲ってやろう」

「あら、光栄だわ」

「なれど...次こそ...儂が.....」

 

一心はそう言葉を残すとその場に倒れ、刀を落とし意識を失った。

 

幽香は燃え盛る炎が消えていくのを確認すると、花達が根を操り彼女の右腕を近くまで持ってきていた。

 

淀みが消え、彼女の能力も復活したのだ。

 

「また来世で殺り合いましょう。一心さん」

 

幽香は一心の頭目掛け、足で踏み潰そうとする。

その瞬間、後ろから巨大な手裏剣が飛んできて彼女の背中に当たる。

しかし手裏剣は幽香の鋼鉄と化した皮膚には刺さらず、音を立てて地面に落ちた。

 

「邪魔が入ったわね...一体誰よ」

 

幽香は後ろを振り向くも、辺りには誰もいなかった。

 

彼女は舌打ちをして再び一心の方に視線を向ける。

 

しかし目を逸らした隙に地面に倒れていたはずの一心が消えており、もう一度辺りを見渡すと幽香の家の屋根に一人の寄鷹衆が一心を抱えこちらを見ていた。

 

「.....」

 

幽香は睨みつけるも、すぐに寄鷹衆は一心を抱え葦名城へと走り去った。

 

 

幽香は追う事も考えたが、今は自らの腕をどうするかが先決と考え彼を見逃すことにした。

 

もしまだ一心が生きているのならば、またあの楽しい戦いが味わえるかもしれない。

そう願いを込めて、彼女は一心に背を向ける。

 

 

そして頬を紅く染めて、彼女は光悦の表情になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....ああ...大満足♪また殺りたいわぁ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽の畑

風見幽香が葦名一心により襲撃されるも、返り討ちにする。

 



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決戦?人里!

人里では霊夢と慧音の指示により、人里自警団、狩人、住民達によって順調に籠城の準備が出来つつあった。

 

狩人達は遠距離武器を自警団、住民にもしもの時の為に使い方を伝授し、霊夢は敵が矢を大量に撃たれた場合に備えて結界札の用意。

魔理沙は家からありったけの実験道具と、森に住む魔女であるアリスからも貰った薬や調合法を使い魔法道具を大量に生産していた。

 

そして太陽が沈み、辺りは暗闇へと包まれる。

 

 

 

 

 

 

人里の出入り口全てに頑丈なバリケード、霊夢の物理無効結界、魔理沙特性の魔法地雷道具を仕込んでいつ敵が来るかと待ち受ける。

 

すると葦名城がある方角から、大量の松明の火が見えると見張り台にいる慧音が直ぐ霊夢に報告する。

 

「奴等が出陣してきたぞ!」

 

下にいる霊夢は直ぐに自警団達に号令を下す。

 

「戦闘準備。直ぐに出入り口に皆を配置して」

 

自警団達は霊夢の言葉に従い人里にある各出入り口へと向かっていく。

 

「魔理沙、道具の準備は」

「バッチリだぜ!」

「私達はここ中央にいて、敵の大将が分かり次第そいつが攻撃してる門に向かうわ。大将を倒せばあいつらも逃げるでしょ」

「マジで本当の戦争だぜ...」

「半兵衛さんによるとあちらさんは戦慣れしてる。私達は出来ることをやったけど...勝てるのかしら」

「何だよ霊夢。弱音はくなんて珍しいな」

「私の判断ミスで人が死ぬのよ?弱音くらいはかせなさい」

「総大将がそんなんじゃ皆弱気になっちまうぜ?もっとドドーンと胸張ってろよ。いつもみたいにな」

「何よ。私はいつもそんな感じに見えるわけ?」

 

 

 

「自分勝手で貪欲。それが私のイメージだけど」

 

霊夢は後ろを向くと、そこには紅魔館からの援軍である十六夜咲夜がいた。

先程まで慧音と共に見張り台にいたが、能力を使ってすぐに降りてきたようだ。

 

「失礼ね」

「私は真実を言ってるだけ。それより本当にここ襲撃されるの?敵は分散しているようだけど」

「半兵衛さんが嘘ついてなければね」

「お嬢様が心配だわ...怪我などされてなければいいけど」

「吸血鬼なんだから大丈夫でしょ」

「吸血鬼でも怪我はするのよ!あの彫刻のようなお姿に傷がついたら...あの城ごと敵を斬り刻んでやる」

「目が怖いわよ咲夜」

 

 

 

 

「あ、あ、あの!」

 

霊夢と咲夜が同じ方向に振り向くと、そこにはオドオドしている永遠亭からの援軍である鈴仙がいた。

 

「わ、私、無理矢理連れてこられてまだよく状況理解できてないんですが」

「...なら覚えておきなさい」

「は、はい霊夢さん!」

「1.敵が来る、倒せ。2.死ぬな。以上」

 

すると霊夢は近くに置いてある鉄砲を鈴仙に渡した。

 

「ちょっ!これ鉄砲じゃないですか!」

「撃ち方や装填方法分かるわよね?それにあんたこういう武器得意っててゐから聞いたわよ」

「ま、まぁ剣とかよりは扱えますけど...」

「そう。よかった。なら見張り台に言って慧音と共に敵見張ってて。ほら早く早く!」

「は、はいぃ!」

 

鈴仙は鉄砲を背負うと、見張り台の梯子を登っていく。

その姿を見て咲夜はナイフの手入れと同時に霊夢に質問する

 

「ねぇ、霊夢。何であの子に銃なんか持たせるのよ。弾幕でいいじゃない」

「それがそうもいかないのよ。分からないけど敵は私達の能力を使えなくする術を使ってるの」

「能力を?」

「そう。咲夜なら時を操る能力だっけ?それ、敵近づいてきたら使えなくなるわよ」

「...あ、そう」

「そう。それに飛べなくなるし」

「...面倒ね」

「この戦いで近接戦闘においての主力は私とあんたしかいないの。今回のヤバさ察した?」

 

すると咲夜はナイフを服の中に隠し、霊夢の近くにある銃を見る。

 

「それなら私にも銃を1丁貸しなさいな」

「あんた使えんの?」

「前に私の持っていた銃とは違うけど、使い方は覚えてるから」

「ふーん...なら持っときなさい」

 

霊夢は置いてある予備の鉄砲を咲夜に渡し、彼女は銃を背負った。

 

「紫が各勢力に頼んでる援軍はもう来ないのかしら」

「敵が出陣した時点でもう時間切れと考えていいわ。私達で何とかするしかない」

 

すると見張り台にいる鈴仙が霊夢に向けて大声を出す。

 

「敵がこちらに来ました!数はおよそ500くらい所です!」

「こっちに来てる奴等は分散してる?」

「いえ、分散せず東に集まってます!」

「なら一点集中して東の出入り口を突破する考えね。直ぐに各門に伝達。最低限の見張りは残して後は東門に人を送るのよ」

 

自警団の数人は直ぐに各門へと伝えに走っていった。

 

「行くわよ咲夜」

「ええ」

「私も行くぜ!」

 

霊夢、咲夜、魔理沙は人里東の入口へと走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里 東門前

葦名軍は松明を大量に掲げて、葦名の旗印が火の明かりによって照らされる。

 

そして先頭には馬に乗ったある若武者が人里を睨んでいた。

背中には巨大な弓を背負い、長刀を腰に差し、整えられた鎧を着て兜には葦名の家紋がある。

 

すると馬の横で立っている鎧を着た武士が若武者に話しかける。

 

「殿、あれが人里でございます。どうやら敵は我々が来るのを知っていたようです」

「.....」

「如何しますか。早速総攻撃を」

「待て」

「はっ」

 

殿の呼ばれた若武者こそ、今回の葦名軍総大将である葦名弦一郎。葦名一心の血の繋がらない孫であり、現在の葦名家の長でもある。

 

「弓組、鉄砲組を前へ」

「はっ」

「奇襲の為太鼓は不要。気取られるな」

「!し、しかし...我らの動きは敵に知られております。奇襲は成功せぬとは思いますが」

「急げ」

「...承知」

 

武士は直ぐに後ろにいる兵士達へ説明しに行った。

弦一郎は人里をジッと見つめ、兵士の準備が整うまで待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢、咲夜、魔理沙は東門へ辿り着くと、そこには既に多くの自警団や狩人達が集まっていた。

霊夢は門の近くにある家の屋根で見張っている自警団に話しかけた。

 

「敵は!」

「そこに集まってるが、動きはない!」

 

霊夢も屋根に登り、自警団が指差す方向をみる。

 

「.....」

「なんか攻めて来ないんだよ。霊夢さん、あいつ等何考えてるんだ?」

「私も知らないわよ。とにかく警戒を続け...」

 

その瞬間霊夢は暗闇の中で葦名軍が弓と鉄砲を構えていることに気づく。

 

「伏せてっ!!!!」

 

霊夢は大声を出して、共にいた自警団の男を掴んで屋根から飛び降りる。

 

そして葦名軍から爆発音が響き渡り、人里を囲むように張ってある結界が光り出した。

 

魔理沙は驚いて両腕で顔を隠すも、何も飛んでこない事に気づいた。

 

咲夜は特に驚きもせず、屋根に登り敵軍を見る。

 

「霊夢の結界様々ね。鉄砲の玉は勿論、弓矢まで防いでくれてるわ」

 

すると霊夢も屋根にもう一度登って咲夜の隣に立つ。

 

「それでも貫かないとは限らない。油断しないことね」

「そうね。油断は禁物」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弦一郎は鉄砲の玉と矢が全てに人里へ入らずその前に弾かれ床に落ちるのを見るが、まるでこうなるのがわかっていたように全く動じない。

 

「鉄砲組は急がなくていい。攻撃を続けろ」

「しかし殿、これでは人里を陥落させることは」

「構わぬ」

「え...」

「松明をさらに多く増やせ。敵に我らの援軍が合流したと思わせろ」

「...ははっ!」

 



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閉じ込め

霊夢、咲夜、魔理沙は門の近くにある家の屋根で葦名軍を見つめていた。

 

葦名軍は一定間隔で鉄砲と矢を放ってくるが、全て霊夢の結界により防がれてしまっている。

 

咲夜もナイフをクルクル回して暇そうにしていた。

 

「ねぇ霊夢」

「何よ」

「戦いってこんな暇だったかしら」

「仕方ないじゃない。あいつら撃ってくるばかりで攻めてこないんだもの」

「流石にどんなバカでも飛び道具効かないって気づきそうなもんだけど」

「魔理沙の仕掛けた魔法地雷地帯の外から撃ってるし...」

「他の門からの報告は?」

「攻めてきてるのはこの門だけ。他の門にも攻撃はしてこないけど、ちゃんと敵はいる。つまり人里は包囲されてるってわけね」

 

魔理沙は魔法を使おうとするも、全く使えず自分の作った魔法道具を見つめる。

 

「しっかり能力封じて来てるんだぜ」

「まさか本当に能力使えないとはね」

「だろ?これじゃ私はただの運動神経のいい女の子だ」

「何が女の子よ。窃盗常習犯が」

 

三人は普段通りに話していると、慧音と鈴仙も屋根に登って合流してきた。

 

「霊夢、敵はどうだ」

「攻めてこないわ」

「うぅむ。これでは時間の無駄だな」

 

すると鈴仙は慌てながら霊夢に提案をし始める。

 

「こ、こっちから攻めるのはどうでしょう?」

「あの銃弾と矢の雨をくぐり抜けて?なら行ってきなさいよ鈴仙」

「え!?む、無理です!」

「私も無理よ。空飛べるならまだしも封じられちゃね」

「な、なら」

「そうね。そろそろ反撃するわよ」

「え?けど攻めるのは無理って」

「人里から出るのは反対よ?けどこっちには同じ飛び道具があるわ」

 

霊夢が手を挙げると鉄砲を持った狩人達と数本の鉄砲を持った住民達が屋根に登り、葦名軍に狙いを定める。

すると彼女は狩人のリーダーに話しかける

 

「狩人さん。ここから当たりそう?」

「...三割当たればいいほうだな。距離がかなり離れてる」

「なら外して撃って」

「なぜだ」

「異変の原因とは言え相手は人間。あんた達を殺人者にはしたくないの」

「.....そうか」

 

狩人のリーダーは味方にわざと外すように命令すると、縄に火をつけて引き金に指を伸ばす。

 

「撃て!」

 

霊夢の声で狩人達全員の鉄砲から玉を発射し、葦名軍のいる地面に命中させる。

 

葦名軍はあと少しで当たりそうだった事に怯え、混乱し始めた。

 

「次!」

 

霊夢の声によって狩人達は玉込めしてある別の鉄砲を住民から渡され、直ぐに構えて引き金を引いた。

 

葦名軍はさらに混乱し、反撃して鉄砲組が撃つも結界で弾かれる。

これでは葦名軍はジリ貧だ。

 

中には勇敢に門を攻撃しようとする者もいたが、他の仲間に止められ葦名軍は徐々に退き始めている。

 

その彼等の行動に霊夢は奇妙に思った。

 

何故攻めてこない?

銃はこちらには効かないのは既にわかっている筈。

 

人里にいる人達は非戦闘員ばかりであり、装備も魔理沙の道具以外はむしろ劣っている。

対して葦名軍は全員が鍛えられた兵士だ。

近接戦になればまずこちらに勝ち目はない。

 

ならば彼らがすべき行動は各門を同時攻撃して門を突破する事。

 

結界も飛び道具や物理攻撃を防ぐが限度がある。

銃弾なんかは何十発も耐えられないし、武器で攻撃されれば長くは持たない。

 

近接戦に仕掛けないのはこちらとしてもありがたいのだが、敵は何故攻める者を止めた?それが敵の指揮官の命令なのか?敵の狙いは何だ?

 

 

霊夢が考え事をしているところに、混乱する葦名軍の後ろからさらに多くの松明が現れた。

 

魔理沙はその光景に驚き指をさす。

 

「なんか松明増えたぞ!敵増えたって事じゃねぇか!?」

「そう...かもしれないわ。敵の援軍かしらね」

「どうするよ霊夢!」

「けど何かおかしいわ...」

 

「確かに、不可思議よ」

 

霊夢は後ろを振り向くと、そこには慧音と縄で繋がれた半兵衛がいた。

 

「ちょっと慧音。何敵を連れてきてんのよ」

「この人なら何かヒントをくれるかと思っていてな。それに情報教えてくれたのだから敵ではないだろう?」

 

霊夢はため息をするも、直ぐに半兵衛に話を続ける。

 

「不可思議って言ったわよね?何がなの」

「ふむ...松明の数を見るに、あれ程の数を揃えたならば、例え鉄砲を放ってきても攻めるべきであろう。なのになぜ葦名軍は攻めぬのだ」

「鉄砲を恐れてるんじゃない?」

「不倒の葦名衆と呼ばれておる者達が今更恐れるとは思えん。それに...戦に死は付き物よ。葦名の者ならば一番わかっていると思うていたが」

「...なら何で」

「攻められぬ理由があるのだろう。裏を返せば今ここが陥落しては奴等も困るということか」

「陥落しては...困る」

 

霊夢は半兵衛の言葉に疑問を抱き、ジッと考え込んでしまった。

 

すると霊夢は咲夜と鈴仙を見ると、少し納得したかのように話し始める。

 

「...敵の狙いが少しわかった」

 

すると咲夜や鈴仙が霊夢の説明を聞き始める

 

「!」

「紫が言ってたのよ。敵は幻想郷の場所を理解している。幻想郷を調べ上げてる情報源がいる筈と」

「それがどうしたのよ」

「奴等は私達がこの人里だけは陥落させるわけにはいかないと、戦力を集中させる事を予測していた」

 

咲夜と鈴仙は霊夢の言葉を聞いてもあまりピンときていない。

 

「実際に紫は咲夜や鈴仙を集めて人里の守りは固めた。けど今は包囲され、能力も使えず私達は孤立しているわ。こうして紅魔館と永遠亭の戦力は分散され、二つの場所はいつもより手薄となる」

「なら敵の狙いは戦力の分散ってこと?」

「けどまだ疑問が残るの」

 

すると鈴仙は霊夢の話に疑問を持ち、質問し始める。

 

「た、確かにここの防衛を集中させて他の勢力を手薄にすることとはわかりましたが...なら何で敵はここを攻めないんですか?すごい数の兵士がいるのに」

「ええ、私もそう思ってる。何故人里を総攻撃しないのかという疑問は解決してない。あの戦力なら攻めるべきと半兵衛さんも言ってるし」

「他の勢力を攻めてる人達の援軍待ちとかですかね?」

「なら攻めながらでもいいじゃない。攻めつつ援軍も待てばいい話よ」

 

 

霊夢、咲夜、魔理沙、霊夢、慧音、半兵衛が悩んでいると、狩人のリーダーが敵軍を見て大声を出した。

 

「敵が退いていくぞ!」

 

その言葉に全員が屋根から葦名軍を見ると、確かに葦名軍は全員葦名城へと帰還し始めていた。

 

住民達は歓喜の声を上げるも、霊夢達は疑問を解決できず納得のいかない表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葦名軍が徹底していると、他の道から鬼庭刑部雅孝、梟、お蝶、狼、そして一心を背負った寄鷹衆が現れた。

 

弦一郎は軍を止めて彼等の報告を聞いていく。

 

「紅魔館は」

「すまぬ弦一郎...兵士は全滅し、落とすことは叶わなかった」

「そうか...傷物にしたならばよい。永遠亭は」

「寄鷹衆を失いはしましたが、蓬莱山輝夜、八意永琳を共に討伐し、陥落させたも同然かと」

「...風見幽香はどうであった」

「一心様は風見幽香の命を奪うことまでは出来ませんでしたが、腕を斬り落とし、奴もこれでしばらくは動けぬかと」

 

弦一郎はゆっくりと息を吐くと、梟に話しかける。

 

「梟、使者として八雲紫にこの弦一郎が話し合いの席を設けると伝えよ」

「承知つかまつりました」

 

梟は立ち上がり、何処かへ走り去ってしまった。

 

「今宵の戦は終いだ。全員葦名城へと帰還する」

 

弦一郎は残った葦名軍を指揮し、葦名城へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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被害

長い夜が明け、太陽の日差しが戦を終えた者達を迎える。

 

そしてほとんど被害がなかった人里では、八雲紫、霊夢、魔理沙、慧音が集まりこれからの事を相談していた。

 

「...他の勢力を手薄にするのが目的...ね」

 

紫は手で額を押え、大きなため息を吐いた。

 

「けど、人里さえ守れれば幻想郷はまだ安泰よ。援軍を出してもらった紅魔館や永遠亭には悪いけど...それは事実」

「それで、これからどうするのよ。また攻めてくるわよ」

「戦力が完全に整うまで人里を防衛。それに変わりないわ。攻めようにも能力制限を何とかしなくちゃいけないし」

「...レミリアや輝夜達はどういう状況?」

「紅魔館は妖精メイドが数十名消失、永遠亭はお姫様と薬師が意識不明の重体、太陽の畑にいた幽香は片腕を失う重症よ」

 

紫の言葉に全員が驚き、この異変の危険さを再認識する。

 

「あの不老不死の二人が重体だなんて...妹紅が知ったらなんと言うか...」

「慧音は知り合いだものね。驚くのも無理はないわ」

「一体敵はどうやって二人を倒したんだ」

「鈴仙によるといつもならばすぐに塞がる傷が全くと言っていいほど治らないらしいわ。どうやら敵さんは再生能力を阻害する武器を持っているようね」

「何ということだ...」

 

すると魔理沙は紫の言葉を聞いて腕を組んでいつになく真剣な表情をする。

 

「幽香が...腕を失った」

「あの幽香の片腕を斬った男は半兵衛さんが言ってた例の葦名一心よ。死にかけの老人にしか見えなかったけど...実力は剣聖と呼ばれるに相応しかったということね」

「.....」

「...そういえば魔理沙は一時的幽香に色々教わってたものね。ショックを受けるのもわかるわ」

「いらん気遣いはよせだぜ。それにしても鬼すらタイマンで勝つくらいの幽香を倒すなんてそいつ人間じゃないぜ」

 

魔理沙は近くにおいてある湯呑に入ったお茶を飲み干し、机に足を乗っけて魔女帽子を深く被る。

すると霊夢は紫に質問する

 

「...紅魔館は?」

「紅魔館は流石としか言いようがないわ。敵をほぼ壊滅まで返り討ちにした上早速修理に取り掛かり、既に防御を固めてる」

「そう。なら安心ね」

 

三人は暫く黙っていると、紫はスキマから手紙を取り出し皆に見せる。

 

「何よこれ」

「...敵の総大将の葦名弦一郎から会談のお誘いの手紙」

 

それを聞いて慧音は立ち上がり、霊夢も目を見開いて驚く。

 

「敵が話し合おうと言ってきている訳か!?各地を滅茶苦茶にしておいて!」

「.....」

「紫、受けるんじゃないでしょうね?これ明らかに罠よ」

「わかってるわ霊夢。けどこれはチャンスだと思うの」

「チャンス?」

「ようやくこれで相手の目的を知れるわ。未だあの人達が何故幻想郷を攻めて来ているかわからないし、それに能力制限の淀みのことについてもわかるかも」

「...行くにしても護衛は誰にするの?まさか一人で行くなんて言うんじゃないでしょうね」

 

すると紫達が会議をしている家に、酒の匂いが漂ってきた。

 

その匂いの原因は二本の角の生えた幼い少女。

伊吹萃香である。

 

「やっほー霊夢!なんか戦ってるんだって?」

 

すると霊夢はため息をついて、魔理沙も安堵したかのように笑顔になる。

 

「ようやくご登場ねこの酔っ払い」

「萃香じゃねーか!こりゃ百人力だぜ!」

「彼女に同行してもらうわ。能力封じられてもいつも通り強いのは鬼か吸血鬼くらいだものね」

「私も行きましょうか?」

「霊夢はここにいて頂戴。もしも会談中にここを攻められた時の為よ」

「それなら...仕方ないか」

 

すると魔理沙は紫が出した手紙を持って内容を読むも、達筆過ぎるのか彼女には読めなかった。

 

「何だこの文字!全く読めないぜ!」

「私は読めるからいいの。場所は葦名城大手門前って書いてあるわ」

「会談場所は敵の城かよ!」

「まぁもしもの時は萃香が暴れるからいいでしょ」

 

紫は立ち上がると、瓢箪に入っている酒を飲んでる萃香も立ち上がり、会談場所の葦名城へと向かおうとする。

 

しかし霊夢も立ち上がると、紫を引き止めた。

 

「紫」

「何かしら」

「敵の情報源は見つかったの?」

「それがまったくよ。それも今回の会談で情報得られればいいけど...もしかしたら私が探していると察して隠れたかもしれないわ」

「あんたの能力使っても探せれないなんて余程隠れるのがうまいのね」

「じゃあ霊夢は引き続き人里の防衛をお願い。それと皆は紅魔館と永遠亭に誰か送って様子見してきて頂戴」

「わかったわ」

「じゃあ、行ってくるわ」

 

紫はスキマを開くと、萃香と共に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山 葦名城への道

 

紫はスキマを開いて萃香と共に降り立つと、閉じている門が今日は開いていた。

 

そして数人の兵士が八雲紫を見ると、近づいてくる。

萃香はすぐに前に出ようとするが、彼女は手を出して抑える。

 

「八雲紫だな」

「ええ」

「殿から話を聞いている。ついてまいれ」

「では、行くわよ萃香」

 

紫と萃香は兵士の後ろについていこうとすると、兵士の足の間を小さな狐が通り、葦名の門に行ってしまった。

 

「今のなんだ?」

「野良狐でしょう?幻想郷にはたまーにいますわ。イノシシじゃなくて良かったですわね」

「何だ狐か...それより護衛がいるなんて聞いてねぇぞ」

「あらあら、それは失礼を。能力を封じ込められても尚お手紙通り一人で来ると思ってらしたの?」

「...ちっ、仕方ねぇな」

 

紫はニコニコしながら対応してると、兵士も不気味に思ったのかすぐに認めた。

 

「紫、あいつムカつくぞ」

「ここで暴れたら情報を得ることなくもう一度戦争よ。許してあげて」

「ちぇ」

 

紫と萃香はしっかりと兵士についていく。

 

 




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会談

紫と萃香は兵士についていきながら、葦名城の内部をしっかりと観察していた。

 

しかし戦前に外で見た通り、ほぼ一本道で両脇には鉄砲等で狙えるように小さな建物に挟まれている。

 

「いい城だね」

「そうね」

「おい、あちこち見るな」

「はいはーい。ごめん遊ばせ」 

「ちっ...こんなふざけた使者があってたまるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして大手門前の広場に着くと、兵士達が帰っていき門が閉じられる。

 

紫と萃香は歩みを進めると、広場の中心に葦名の家紋の旗が掲げられ、置楯をつなぎ合わせて出来た机、そしていくつかの床机椅子があった。

 

そして奥にある床机椅子には葦名弦一郎、彼の後ろには鬼庭刑部雅孝が立っていた。

 

紫が置楯机に近づくと、兵士達が葦名家の家紋入りの垂れ幕を張って外から見えないようにした。

 

さらに浅葱色の袴を着た侍達も垂れ幕へ入ると、弦一郎達と紫達を囲んだ。

 

「随分警戒されてますわねぇ私達」

「総大将が人外と話すのだ。たとえ『()()』を作り出したとしても用心に越した事はない」

 

紫は弦一郎の歪みという言葉を聞いて、少しムッとする。

 

「歪み...それが私達を苦しめる何かの名前でしたのね」

「...歪みの前では人外の術も使えん。人が怪物に抗う術だ」

「抗うねぇ...ならそこら中でこちらを狙ってる鉄砲も用心の為でして?」

 

紫の指摘に弦一郎と鬼刑部以外が驚く。

確かにもしものときの為に鉄砲組が配置されているが、距離がある上隠れさせているため気配は感じられない筈である。

 

「その通りだ」

 

弦一郎は隠さずに言い放つと、紫も床机椅子に座り扇子を広げてパタパタと扇ぐ。

 

「では始めよう」

「ええ。それでお話とは?」

「簡潔に言おう。降伏せよ」

「...仰ってる意味がわかりかねますわ」

 

紫は扇子を閉じて、弦一郎を睨む。

 

「我々は紅魔館、太陽の畑にて敗北したが、いまだ葦名軍は健在よ。今一度戦場にて相見えるか...それとも降伏し安寧を得るか」

「...いきなり攻めてきて結果的に負けた挙げ句、今度は降伏勧告。図々しくて逆に笑えてきますね」

「...貴様は人里とやらを守るため奮闘しているようだが...我々が本気となればいつでも叩き潰せる」

「あらあら微妙な脅しだこと」

「人里が陥落すればこの幻想郷は崩壊するらしいな」

「!」

「幻想郷に住む全ての妖怪は人を喰わねば生きてはいけぬ。それ故に人が集まる村『人里』から生贄を出すことで、妖怪との均衡を保っていると。それが無くなれば、妖怪達は暴走する」

「...随分とお詳しい事ね。余所者の貴方達は一体誰から聞いたのかしらぁ?」

「...今降伏すれば、いくつかの条件は聞くつもりだ。無論その後は俺の命に従ってもらう事になる」   

 

 

弦一郎は近くの侍か用意した水が入った瓢箪を掴み、水を飲み干すと大きく息を吐いた。

 

「人里を攻めなかったのは、均衡が崩れ、妖怪に荒らされ、混沌に包まれた幻想郷に出来ればしたくない故」

「ほぼ無傷の幻想郷が欲しいと?というかそもそも幻想郷を手に入れてどうしたいのですの?」

「我らの目的は一つ。それは葦名の為」

「葦名...」

「葦名は我らの国よ」

「追われたと?それとも滅亡したのかしら」

 

弦一郎は紫の質問には答えない。

 

「さて、降伏するのか、それとも戦かどちらを選ぶ」

 

すると紫は萃香を見ると、彼女は懐から酒瓶を取り出し置楯机に置いた。

 

そして盃をいくつか取り出し、酒を注いでいく。

 

「その前に一献どうです?幻想郷ではどんな相手にもまずお酒を振る舞うのですわぁ」

 

萃香は弦一郎の前にも酒が入った盃を置くが、彼は手を出していらないと意思を伝える。

 

「まぁまぁ!毒なんか入っちゃいないよ!なぁ紫!」

「酒に毒なんか入れたら不味くなっちゃいますわぁ」

「というわけで、どうぞ!」

 

弦一郎は差し出された盃を見つめると、後ろに立っていた鬼刑部が盃を取った。

 

「我が毒見する!弦一郎、敵からの酒など飲むものではない!」

「...」

 

 

鬼刑部は盃に注がれた酒を飲み干すと、目を見開いて立ち尽くしてしまった。

その様子を見て弦一郎はため息をする。

 

「毒か」

「へ?いやいや、入れてませんわ!」

 

すると鬼刑部は持っている盃を落としてしまい、ようやく意識が戻ってきたのか落とした盃を拾う。

 

心配して駆け寄った侍達を押しのけ、彼は萃香の前に立った。

 

「おー。人間にしては背でかいじゃん。何の用?」

「その酒...何というものだ」

「これ?紫が作った八雲印の『ちぇぇん』だよ。美味いだろ」

「.....その酒瓶自体に毒が入っている可能性もある!貸せぃ!」

 

鬼刑部は萃香から酒瓶を取ると、弦一郎のところに戻っていく。

 

「?ちょ!私の酒!」

「貴方のじゃないわよ萃香」

 

すると鬼刑部は心配する侍達をよそに盃に酒を注いで飲み干すと、真顔でまた止まった。

再び動き出すと、盃に酒を注いで近くにいる侍に差し出す。

 

弦一郎は鬼刑部達に構わず紫と話を再開した。

 

「酒を振る舞うのがここの礼儀か」

「どちらかというと私の作法ですわね」

「...我々は葦名の黄泉帰りをする為行動している」

「黄泉帰り?」

「葦名は既に滅んだ。だが我らはこうして黄泉帰りしたが、帰る故郷がない。帰れもしない」

「ご愁傷様。私達には関係ない話ですね。無論攻撃する理由にもなりませんわ」

「...よかろう。狙いの一つに理由を説明せねば道理もないな」

「狙い?」

「我らの狙いは貴様、そして幻想郷に住む怪物達だ」

 

その言葉を聞いて紫は少し驚く。

 

「葦名の黄泉帰りには貴様が「この酒美味過ぎる!」

 

弦一郎の話を遮るほどの大声を鬼刑部が叫ぶと、他の侍たちも驚き騒いでいた。

 

「何と美味...!これ程の酒があるとは...」

「美味し...美味し...これ程の喉越しは味わったことがない」

「これは竜泉を超えるかもしれぬぞ...一心様もお喜びになるであろうに」

「何という酒であったか」

「ちぇぇんとかいう名らしいぞ」

「ちぇぇん?珍妙な」

「ちぇぇん...ちぇぇんか!この酒是非欲しい」

「大量に欲しいですな。皆も喜びますぞ」

「どんな料理に合うかの、この酒」

「いやぁ、合わぬものなど無いのではないか?」

 

弦一郎以外の葦名衆は警護などを忘れ、酒に夢中であった。

 

「.....」

「随分とお気楽なお仲間ですわね」

 

紫がそう言うと、弦一郎は額を手で抑える。

 




ちょっと私用にて投稿遅れます。すみませぬ


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重要な選択

「いい加減にしろ雅孝」

 

弦一郎の言葉に顔を赤くした鬼刑部は酒瓶を侍達に渡して彼の後ろに立った。

 

「.....」

「弦一郎、話を続けよ」

 

弦一郎は酒臭い鬼刑部の息に不安を抱きつつも、紫に話を続ける。

 

「我々の目的は葦名の黄泉帰り。しかしただ帰っても強大な内府が待ち受けている。その為まずは葦名に帰る手段として八雲紫の能力を。そして内府対抗の為、幻想郷に住む強力な妖怪共をぶつける」

「.....」

「戦は始めたが、それは我らの力を示すと同時に貴様を説得する為。貴様が降伏せぬならば幻想郷全土で戦を仕掛け、無論人里も今度こそ落とす」

 

紫は盃を持って酒を飲み干すと、ゆっくりと息を吐いた。

 

「...なぁるほど。確かに私ならば葦名とやらに貴方達を帰すことは可能ですわ。幻想郷の妖怪達ならばどんなに強大だろうと敵はいません。それに大切な幻想郷が戦により混沌に落ちるなんて私も嫌ですわねぇ」

「.....」

「ですが。お断りさせていただきます」

 

弦一郎はその言葉を聞いて、紫を睨んだ。

 

「...戦が望みか」

「貴方は私達と戦をし、既に被害が出ています。幻想郷の管理者の一人としてこのままはい降伏とはいきませんわ」

「.....」

「貴方の思惑通り私が動くとでも?出直してきなさいな、青二才」

「...そうか。穏便に済めばと思うたが...」

「幻想郷が崩壊すれば私も死ぬ時よ...調査不足でしたわね」

「...戦場で」

「ええ、またお会いしましょう」

 

紫は立ち上がると、弦一郎も立ち上がり侍達達は垂れ幕を上げて彼女を陣から出す。

 

「紫、戦が始まるな」

「そうね。早く準備しなくちゃ」

 

二人は大手門広場から出ていき、葦名城から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里 稗田家

 

霊夢、魔理沙、慧音は人里でも一番巨大な屋敷を持つ稗田阿求が住む稗田家で紫の帰りを待っており、彼女がスキマを使って帰るとすぐに会議が始まった。

 

そして紫は葦名家の目的、手段を彼女達に伝える。

 

「葦名の復活ねぇ...そんな理由で私達攻められたの?」

「彼らからすれば十分な理由なんでしょ」

「紫の能力と妖怪達が狙い...なんか計画が雑過ぎない?戦争おっ始めた理由が紫の説得なら普通に話せばいいじゃない。そんな事すれば逆に怒ることくらい予想つかなかったのかしら」

「ええ...穴だらけと言ってもいいわね」

「余程作戦立てるの苦手なようね。その総大将とやらは」

「話した印象ではそんな雰囲気はなかったけれども...」

「とにかく決裂したんだからこれからのこと考えないと」

 

すると紫はスキマを開き、中から地図が描かれた紙を取り出して霊夢達に見せる。

 

「決裂はしたけれど、それは勝てる見込みを見つけたからよ」

 

すると魔理沙が地図を興味深く見つめ、残る二人も地図を見た。

 

「これ...城の地図じゃない!」

「あそこでは能力は淀み...あぁ、彼らは歪みと呼んでいたわね。その歪みでは能力が制限されるのだけど...ならそこに私の式神を入れたらどうなると思ってね」

「藍のこと?」

「ええ、葦名城に近づいたら式神が解けて九尾の狐に戻っちゃったの」

「へぇ、式神化も能力に含まれるのね」

「九尾の狐の藍は元々知能も高く、自我も残ってたし、変化も出来たからいっそ狐になってもらって忍び込んでもらおうと思ってね」

「それで地図が出来たと」 

「ええ。時々食料と見なされて食われそうになったらしいけど」

「藍もやるじゃない」

 

紫は地図を使って三人に説明し始める。

 

「私達はこの大手門の広場で会談を行ったわ。正直ここまでなら侵入は簡単ね」

「それでその先は」

「大手門を越えた先は外からも見えた本城よ。建物が密集しててまるで迷路。それに高く狭間も多い」

「飛べない今の私達にとってはキツイわね」

「けど藍の調査によってこの城の弱点に気づけたわ」

「弱点?」

 

すると紫は建物の屋根の部分を指し示す。

 

「屋根よ」

「屋根って...どういうことよ」

「本城付近の建物の屋根を伝って行けば、簡単に本城に辿り着けるのよこの城...いや、外の世界のどの城も同じよね」

「伝っていけばって簡単に言うけどね...」

「つまり大まかな作戦はこうよ。まず少人数でこの城に忍込み、大将倒して指揮系統を滅茶苦茶にして、敵を混乱させてから大人数で攻め込むの。いきなり軍勢集めて攻めても被害が大きくなり、結果的に勝っても幻想郷のバランスに影響が出てしまうわ。勝つなら被害は最小限よ」

「その少人数ってのは誰にするの」

「そうね。霊夢、魔理沙、十六夜咲夜が妥当でしょう」

「咲夜も?また協力してくれるのかしら」

「紅魔館は協力を惜しまないと確約してくれたわ。咲夜も同意済」

「あの巨大な城に三人だけ...」

「人数については一人当てがあるわ。それに鈴仙にも声をかけて...」

「妹紅にも声をかけてみよう。彼女なら参加してくれる筈だ」

「それでも六人だぜ?」

 

すると魔理沙は冷や汗を垂らし、紫に確認する。

 

「も、勿論能力制限されちまうんだよな?」

「当然ね」

「おいおい...それ私役に立つか?」

「実は魔理沙にはお願いがあってね」

「お願い?」

「ええ」

 

紫は葦名城の地図にある、水手曲輪と書かれた場所を指差す。

 

「あいつらが使う歪みという敵の能力を制限させる謎の術。それが強く発せられてる場所があるの」

「発せられてる?どういうことだぜ」

「水手曲輪を越えた先には月見櫓という塔のような場所があるのだけれども、警備が多く藍も中までは見れなかったらしいわ。そして私が葦名城に入った時、水手曲輪の方角から強い力を感じたの」 

「ほほう」

「もしかしたらそこに歪みに関する情報が眠ってるかもしれないわ。解除する方法とか...歪みの原因とか」

「もし歪みを何とかすれば私も魔法が使えるようになるな」

「というか状況が一変するわ。そうなれば勝利確定よ」

「けど獣一匹侵入できない位だと忍び込むの難しいぜ?」

「近接戦が得意な咲夜と共にいきなさいな。それに侵入メンバーの中でこういう力や魔法の類いの解読に一番詳しいのは貴方よ。」

「ま、まぁ確かに何度かこういう技術解読の研究したことはあるが」

 

すると会議中に稗田家当主の稗田阿求が部屋に入ってくる。

 

「お話中すみません。慧音さんか紫さんのどちらかにお見せしたいものが」

「私はまだ作戦考えてるから慧音、行ってきて頂戴」

「わかった」

 

慧音と阿求が部屋を出ると、紫は作戦会議を続行する。




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奇襲

阿求は屋敷の奥にある分厚い扉の錠を解くと、地面のさらに下に続く階段を慧音と共に降りていく。

 

そして地下室へ辿り着くと、阿求はランタンに火をつけて明かりを灯した。

 

「ここは稗田家の書物庫。歴代の稗田家の人々が幻想郷縁起の他に手に入れた資料を保管している場所です。慧音さんは何回か利用されてますよね」

「ああ。ここには幻想郷ができる前の外の歴史資料もあるからな。教師として興味深い物も沢山ある」

「本当は私以外入ることは禁じられているんですけどね」

「初耳だぞ」 

「特別です」

「...ふふっ、それは感謝しなければ。これまでも、これからも」

 

阿求は笑顔を慧音に見せると、奥の棚にある巻物を取り出した。

その巻物は埃を被っており、かなりボロボロであった。

 

「かなり古いものだな」

「ええ。少なくとも四百年前の資料です」

「!そんな古いのか!」

「ええ。そしてこれに慧音さんがお依頼された『葦名』という言葉が描かれています」

「!?四百年前の書物にか!」

「今お見せしましょう」

 

阿求は巻物を開き、慧音に見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日が段々と落ち始め、空は蜜柑色に染まる夕暮れ時。

 

葦名城では多くの兵士が弦一郎の命令により、戦闘準備を行っていた。

 

その為本城へと繋がる門はまだ固く閉ざされており、見張りの兵士も最小限てあった。

 

そんな中、大手門前で準備している鬼刑部は、握り飯を食べている途中鳴り響いた轟音に口の中の米を吹いた。

 

「ゲホッ!ゲボっ!な、何だ!?」

 

鬼刑部は立ち上がり、櫓にいる兵士を見ると彼らもまた唖然であった。

 

葦名城の入口から謎の爆発と煙が上がっており、さらに大手門広場の門からも轟音が響き渡る。

 

鬼刑部はすぐに兜を被り、十文字槍を手に取り鬼鹿毛に乗る。

 

そして数十人の兵士が武器を構えると、門が吹き飛び壁に激突して木っ端微塵となった。

 

「なんと...!」

 

鬼刑部が驚くと、門から現れたのは萃香、霊夢、魔理沙、咲夜、鈴仙、そして紫の親友に仕え、冥界に住む二刀流の従者 魂魄妖夢であった。

 

「既に私達の倍はいるわね」

「やっぱりこんな堂々と真正面からいって良かったのかぜ?」

「お嬢様も仰っていたわ。『敵と同じよう正面から叩き潰せ』と」

「わ、私もお師匠様や姫様の敵を討ちます!」

「いい修行になると紫様に聞いたが...成る程、確かに良さそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前

稗田家 会議部屋

八雲紫は葦名城に攻め込むメンバー達を全員集め、どこから出したのかホワイトボードを用意し説明し始める。

 

メンバーは博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜、鈴仙、魂魄妖夢、藤原妹紅、伊吹萃香であった。

 

「これからの幻想郷を担う少女さん達には感謝しかありませんわ」

「んな挨拶はいらないからさっさと始めなさいよ紫」

「そーだそーだ。気味悪いぜ」

「貴方達...!ま、まぁいいわ。特別に許してあげる。では作戦を伝えるわ」

 

ホワイトボードに全員の名前を書き込むと、紫は円を書いてグループ分けをする。

 

「まず本城を奇襲するのは霊夢、鈴仙、妖夢。水手曲輪の月見櫓の調査は魔理沙、咲夜。虎口門には妹紅よ」

「虎口門?」

「虎口門は裏にあるもう一つの出入り口よ。霊夢達には正面から突撃して暴れてもらい、妹紅には虎口門や橋に火を放って足止め」

「足止めだけでいいのかい?妖怪の賢者さんよ」

「ええ。正面からの襲撃で敵は混乱するけど、なら裏口から出ていけばいいと考える筈。敵さんに人里でやられたことをそっくりお返しするのよ。あと火の勢いが強すぎれば中に入る霊夢も丸焦げになるから気をつけて」

「了解だ」

「能力制限されても貴方は蓬莱人。死にはしないけど敵は再生を阻害させる武器を保有してるわ。気をつけておきなさい」

 

紫は次に魔理沙と咲夜を見て説明し始める。

 

「妹紅以外のメンバーは萃香の突撃で大手門前まで突破し、魔理沙と咲夜は霊夢達と別れて月見櫓の調査をお願いするわ。敵の術である歪みについて何かわかればいいけど...もしも止められる術が分かれば問答無用で止めて頂戴」

「合点だぜ」

「今回の魔理沙は調査がメインだし、歪みのせいで戦闘で役に立たないでしょう。咲夜の護衛が頼りよ」

「わかってるわ」

 

紫は最後に霊夢、鈴仙、妖夢を見て、説明を始める。

 

「貴方達は正面から突っ込んで城へと進み、道中も暴れ回ってとにかく敵の気を引きなさい。そして隊長や指揮官を狙い指揮系統を滅茶苦茶にしちゃいなさいな」

「妖怪の賢者とか呼ばれてる奴がまさかの正面からの突撃作戦ね...」

「それと、葦名城には地下牢という場所があるわ。もしかしたら天狗や河童達が捕まっているかもしれない。もしいたなら解放して共に戦いなさい」

「わかったわ」

「...とにかく敵に余裕を持たせず、人里と魔理沙達に気を向けないようにね」

「萃香はどうするの」

「萃香は大手門前までは援護させるわ。終わったらここに戻ってこさせる。もしも霊夢達がやられた場合の人里防衛の要としてね」

「何よ。萃香がいれば楽だったのに」

 

すると紫は隙間から剣道などで使う篭手のような道具を取り出し、全員に渡していく。

 

「これは?」

「全員これを腕に装着しなさい」

 

紫の言う通りに全員装着すると、手の平に鉤爪と長いロープが現れる。

 

「おお!?何だぜこれ!」

「生き残った河童に作らせた機械よ。ロープに括り付けた鉤爪をボタンで発射し、高台とかに引っ掛けて再度ボタンを押すと高速でロープが巻かれてひとっ飛びできるわ」

「すんげぇぜ!」

「葦名城の屋根を登るときはこれを使いなさい。あとこれは電気で動くから何十回も使うと電気切れて使えなくなるから過度な使用は控えて」

「けどこれ引っ掛けて敵とかぶん投げられそうだぜ」

「意外と壊れやすいからやめて頂戴」

「何だつまんねぇぜ」

 

 

 

「さぁ、幻想郷の平和のために戦いましょう皆様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在

葦名城

大手門前広場

 

鬼刑部は六人目掛けて鬼鹿毛を走らせると、十文字槍を構え突撃する。

 

すると萃香は攻撃を避けて、槍を掴むとそのまま鬼刑部ごと一本背負いをして地面に叩きつける。

 

「意外と重いね人間のくせに!!ここは私に任せなよ!」

 

萃香の言葉に他のメンバーは頷いて、群がる足軽達をよそに大手門に篭手からロープ付き鉤爪を発射する。

そしてボタンを押してロープを巻き上げると、その勢いで大手門を乗り越えた。

 

「お、大手門を越されたぞ!」

「追いかけろ!」

「そうは...させない!」

 

萃香は地面を思いきりぶん殴ると、大きな亀裂が彼女の拳中心に入る。

そして地面に出来た巨大な土の塊を大手門前にぶん投げ、門の前にいた兵士と共に土に埋めた。

 

「いっちょあがり!」

 

萃香は手についた土を払うと、後ろを振り向き鬼鹿毛に再度乗った鬼刑部を睨む。

 

「あんたの相手は私だ。本物の鬼に挑めるなんて武士として光栄だろ?」

「おのれ...ならば槍の錆にしてくれるわ!」

 

 




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決戦!葦名城!

弦一郎は城の天守にて鎧を着込み、部下の寄鷹衆からの報告を受けていた。

 

「やはり奇襲してきたか」

「人数は少ないですが、既に大手門は突破されましたかと」

「...大手門から引き虎口から兵を出陣させよ。指揮は七本槍共に任せておけば良い」

「承知」

 

寄鷹衆は天守から飛び降り、他の仲間に知らせに戻った。

 

「.....葦名の為...葦名は俺の全て。だが、我らは何故黄泉帰ったのだ...?いや...俺は...誰に殺されたのだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大手門を越えた霊夢、魔理沙、咲夜、鈴仙、妖夢は早速手荒い歓迎を葦名軍から受けていた。

 

霊夢は兵士の武器を無力化してから得意の体術で意識を奪い、魔理沙はたんまり用意した魔法が込められた瓶を投げて爆発や炎を起こす。

咲夜はナイフで敵を切り裂き、妖夢は楼観剣と白楼剣で敵を翻弄して斬り倒す。

 

そして鈴仙は敵の火縄銃を何丁も奪い取り、高台へ登って狙撃する。

 

たとえ戦国を生きた葦名軍でも、人よりも遥か強い妖怪、神を相手してきた少女達を抑えられない。

 

五人は敵を蹴散らしながら葦名城の本城前にある大階段へ到着すると、霊夢はすぐに皆に指示を出す。

 

「魔理沙と咲夜は左へ行って水手曲輪に。私と妖夢はこのまま本城へ。鈴仙は両脇の建物にいる銃持った敵を制圧し援護」

「わかったぜ。霊夢も気をつけろよな」

「咲夜、魔理沙を死なせんじゃないわよ」

「わかってるわ」

 

魔理沙と咲夜は右腕につけた機械のボタンを押してロープ付き鉤縄を飛ばして建物を乗り越え行ってしまった。

 

鈴仙も右側の建物入口に置いてある置楯を破壊して、建物へと入っていく。

 

「行くわよ妖夢。ついてこれなかったら置いてくからね」

「わ、わかってる!」

 

霊夢と妖夢は階段を駆け上がり、邪魔をしてくる兵士を薙ぎ倒しながら走り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大手門広場

「おおおおおっ!!」

 

鬼刑部は十文字槍を振り回し、目の前にいる角の生えた幼女に連撃を仕掛けるも全ていとも簡単に弾かれる。

 

「ぐぅ...!」

 

鬼刑部はかつて紅魔館で戦いを挑んだ美鈴、レミリアよりもさらに格上の剛力を持つ萃香相手に悔しさと恐怖が混ざったような複雑な表情をしていた。

 

「怪物め!」

「人間一人で鬼に挑もうなんて無謀どころか自殺もんだよ?」

「黙れぇい!!」

 

鬼刑部は十文字槍と巧みな馬捌きで人馬一体となり萃香を攻撃していく。

 

鬼と称された彼の実力も、本物の鬼には遠く届かない。

 

既に周りの兵士も萃香の拳によって倒され、残るのは鬼鹿毛と己のみ。

 

「葦名の為...貴様に勝たなければならんのだぁ!!」

 

鬼刑部は十文字槍を分解し縄を括り付けて振り回し始め、回転の勢いを乗せて槍の刃を萃香にぶつける。

 

しかし刃は大きな音を鳴らしながら弾かれて地面に落ちた。

 

「!」

 

そして萃香は刃についた縄を掴むと、力を込めて引っ張り鬼刑部をこちらに引き寄せた。

 

「どっ...せいっ!!!」

 

鬼刑部は鬼鹿毛が離れ空中に投げ出されると、引っ張られた勢いと共に萃香の剛拳が腹に当たる。

 

鎧は砕け、彼の口からは大量の血が地面に撒き散らされた。

 

そして彼は地面に倒れると、鬼鹿毛が心配そうに駆け寄ってくる。

 

「.....」

「嘆くことはないさ。相手は鬼なんだから」

「.....弦一郎.....済まぬ」

 

鬼刑部は意識を失うと、鬼鹿毛と共に灰となって消え去ってしまった。

 

「さて、人里に帰らないとね。霊夢、気をつけるんだよ」

 

萃香は葦名城を後にし、人里へと帰還を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

霊夢と妖夢は階段を突き進むと、葦名城の扉が勢いよく開いた。

鬼刑部並の大鎧を着込み、大槍を持った大男が足軽達を引き連れ出てきたのだ。

 

「ふん!たった二人ではないか!ならば葦名七本槍、山内式部利勝!参るぞ!」

 

利勝は大槍を振り回すと、霊夢目掛けて構える。

 

「なんか強そうなの来たわね」

「私がやろう。霊夢は周りの敵を頼む」

「いいけどやられんじゃないわよ。あんたそこまで強くないんだから」

「無礼だぞ霊夢!」

 

妖夢は楼観剣と白楼剣を構えると、利勝の前に立った。

 

「二刀流か。ならば我が槍を受け止めてみよ!」

 

利勝は大槍を構えて妖夢目掛けて思い切り突くと、彼女は二本の刀で弾いた。

そして刀で十字に斬り裂くも、彼の鎧は厚く体までは届かない。

 

「今のを弾くか!その見た目でなんという技の持ち主よ!」

「見た目は余計だ!」

 

妖夢は二本の刀を操り連続で攻撃していくが、利勝は全て弾いていくと大きく振り回し始めた。

 

「むぅん!!」

 

そして辺りの草が舞う程の風を生む薙ぎ払いを妖夢に仕掛け、彼女は防御するも大きく後退した。

 

「くっ...!なんて一撃!」

「まだまだぁ!」

 

利勝は大槍を巧みに扱い、妖夢を追い詰めていく。

 

既に雑魚を蹴散らして積まれた兵士の山の上に座る霊夢は、妖夢の動きを見て考え事をしていた。

 

(そういえば妖夢は歪みの影響どう受けるのかしら...弾幕は出せなくなってる筈だけど)

 

すると妖夢は利勝の攻撃を完璧に弾くと、大槍を掴む手が強く痺れた。

 

「ぬぐ!」

 

利勝は一瞬姿勢を崩すと、妖夢は楼観剣を両手で握り大きく振り上げた。

 

「断命剣『冥想斬』!!」

 

そして力強く踏み込むと同時に楼観剣を振り下ろすと、利勝は防御するもあまりの威力に体制を崩した。

 

妖夢はその隙を見逃さず、白楼剣を鞘から抜いて彼の喉元目掛けて突こうとする。

 

「させぬわっ!!」

 

しかし利勝は片腕で白楼剣の攻撃をずらして喉ではなく肩にその刃を受け入れた。

 

「!」

 

妖夢も攻撃がずらされ驚きすぐに白楼剣を引き抜いて後ろに下がる。

 

「凄い判断力ですね...肩くらいくれてやる覚悟ですか」

「葦名七本槍の儂にそんな脇差なんぞ効かぬわ!」

「ならば今度こそ貫いてやる」

 

妖夢は楼観剣を構えると、ゆっくりと利勝との距離を詰めていく。

 

そして二人の武器が交差しぶつかり合い、さらに二人の弾き合いが続く。

 

しかし妖夢がゆっくりと押され始め、彼女の攻撃が当たっても鎧に弾かれあまりダメージは無い。

先程の大技を仕掛けようにも、利勝が大槍で突き攻撃を仕掛け阻止されてしまう。

 

「くっ...」

 

妖夢は楼観剣で攻撃を弾くことしかできず、中々攻撃に転換できない。

 

すると一騎打ちを見ていた霊夢が、妖夢に向けて大声で叫ぶ。

 

「これは殺し合いよ!刀だけで戦っても誰も褒めちゃくれないわ!」

「!」

「使えるもんは何でも使いなさい!死んだらそれまでよ!」

 

妖夢は霊夢の言葉を聞いて頷くと、利勝の攻撃を避ける。

 

そして利勝の薙ぎ払いが来ると、今まですべての攻撃を楼観剣で受け止めていた妖夢は跳躍して彼の頭を踏みつける。

 

「ぐおっ!?」

 

そして妖夢は地面に着地すると、重い背撃を利勝の胸にくらわせさらに楼観剣で薙ぎ払った。

 

その一撃は鎧ではなく内部にダメージが入り、彼は嘔吐し始める。

 

さらに妖夢は拳を彼の顔面にお見舞いすると、堪らず彼は目を閉じた。

 

「くらえっ!」

 

妖夢は白楼剣と楼観剣を交差させ、利勝の体に八の字を刻んだ。

そして蹴りをもう一度腹にくらわせ、回転すると同時に白楼剣を彼の喉元に突き刺した。

 

「がぁ...」

 

妖夢は白楼剣をゆっくりと引き抜くと、利勝は喉から大量の血を吹き出して倒れ、灰となって消えていった。

 

その様子に霊夢は軽い拍手を送る。

 

「流石剣士。あんたの戦闘には歪みの影響は関係ないようね」

「当たり前だ」

 

妖夢は楼観剣と白楼剣を鞘にしまう。

 

「弾幕に頼らず、刀と己の体のみ使う戦いこそ私の真骨頂だ」

「その割にはまぁまぁ苦戦してたじゃない」

「こ、これは...まだ未熟者だから」

「どんな理由よ。さぁて、門番倒したし城の中へと進むわよ」

「了解」

 

 




UA5000突破!ありがとうございます!


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鷹を撃ち抜く兎

霊夢と妖夢は葦名城に入るも、奥にある門に阻まれていた。

 

「まさかの二つ目の門があるとわね」

「斬っても殴っても全く開く気配もない。さらに白い霧のような物を纏っているな」

「それも歪みとやらの影響かしら」

「本城に入れれば屋根に上る必要もなかったが...仕方ない。紫様の作戦通り屋根から行こう」

「そうね」

 

二人は本城を出て、左側にある屋根へと鉤縄を引っ掛け登り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が本城の屋根へと着地すると、目の前には多数の寄鷹衆が出迎えてきた。

 

「早速出たわね」

「押し通る!」

 

寄鷹衆は全員が鎌、巨大手裏剣を取り出し二人に襲いかかる。

 

霊夢は寄鷹衆の攻撃を紙一重で避けつつ反撃の蹴りをくらわせ屋根から落とし、妖夢は彼らの連続攻撃を弾いて押し切っていく。

 

しかし寄鷹衆も負けずと得物である大手裏剣の重みで 回転の勢いを生み、攻撃と退避を同時に行う寄鷹斬りで彼女らに対応し始めた。

 

「弾いて反撃しようにも逃げられてしまう...」

「攻撃して壁際に追い込みなさい妖夢。そうすれば逃げ場を無くせるわ」

「りょ、了解!」

 

霊夢と妖夢は離れられても走って距離を詰めながら攻撃するが、寄鷹衆は遠距離武器を使って足止めをし始める。

 

そして火を纏った手裏剣を持つ寄鷹衆が近接戦を仕掛け、二人を段々と苦しめ始めた。

 

「や、厄介過ぎる!」

「面倒くさいわねぇ...」

 

すると奥の城の屋根に長い紐で繋がれている凧から、大声が響き渡る。

 

「!?」

 

二人は大声が聞こえた方角を見ると、こちらに向かって勢いよく飛んでくる寄鷹衆を見つける。

 

「ちょっ!」

「あ、あんなの避けられ...!」

 

すると飛んでくる寄鷹衆が二人に当たる瞬間銃声が鳴り響き、彼は血を吹き出して軌道がズレて屋根から落ちてしまう。

 

「「!」」

 

寄鷹衆も銃弾が飛んできた方向を見ると、先程二人がいた階段を挟む建物の屋根に火縄銃を構えた鈴仙がいた。

 

「鈴仙さん!」

「へぇ。やるじゃないの」

 

すると寄鷹衆の数人が鈴仙のいる屋根へ飛び移ろうとするが、彼女はすぐに後ろに置いてある玉が込められた火縄銃に取り替え引き金を引いた。

鷹のように素早く飛び立つ彼らでも、鈴仙の銃弾は避けられず額を確実に撃ち抜かれ落とされていく。

 

狩りの達人である鷹が元来餌である兎に落とされていた。

 

 

しかし鈴仙のいる建物の下にいた複数の寄鷹衆が屋根まで登ってきて、手裏剣や鎌を構えて彼女に襲いかかる。

 

「!」

 

だが鈴仙は襲いかかる寄鷹衆の腕を火縄銃の台株で殴り、さらに銃身を握りしめて混紡のように扱い始めた。

 

寄鷹衆の攻撃を台株で弾きそのまま横顔を叩きつけ、床に散らばった弾込めしてある銃を拾って起き上がろうとする寄鷹衆の顔面に至近距離で引き金を引いた。

 

他の寄鷹衆が倒れる仲間を踏み台にして鎌を彼女の顔に突き刺そうとすると、直ぐ様火縄銃を捨てて彼等の武器を持つ手を掴み、胸元を掴んで柔道の一本背負いのように屋根の瓦に叩きつける。

 

さらに他の寄鷹衆が登ってくるが、鈴仙は火縄銃を二丁拾って左右に構え、彼等の顔面目掛けて引き金を引いた。

 

その華麗で機械的な動きはいつもオドオドしている普段の彼女からは想像できない非常に高度に訓練されているものだった。

 

 

 

それを見ていた霊夢は口笛を鳴らす。

 

「迷いもなし。それにいい動きね」

「元兵士とは聞いたことあったけど...あの人数相手でも余裕とは」

「あの変な奴等は鈴仙に任せましょ。私達は本城のどっか入口探さないと」

「はい!」

 

霊夢と妖夢は本城の屋根を走り抜け、上に柵がない窓を見つけて鉤縄を引っ掛け本城へと侵入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は葦名城内部に入ると、浅葱色の袴を着て長刀を腰に差した侍達が辺りを警戒していた。

 

妖夢は音を消しながら彼等の背後に回り込み、白楼剣で胸を刺して引き抜いた瞬間楼観剣で背中を斬ってとどめを刺す。

 

霊夢は下の階まで突き抜けた場所にいる侍を後ろから蹴って突き落とす。

 

そうして敵を倒し次の階に進むと、道場のような場所に辿り着く。

 

妖夢は道場の奥に座る男を見た瞬間、ゆっくりと楼観剣と白楼剣を抜いた。

 

霊夢もその男から発する殺気に汗を垂らす。

 

「何よあいつ...」

「...死にかけたが、相当の手練だ」

 

座っている男は全身のあちこちに血で濡れた布が巻かれており、白の袴を着ている。

 

そして片手には酒壺、もう片方には盃を持って一人で楽しんでいるようであった。

 

その男は風見幽香の片腕を斬り落とした剣聖 葦名一心であった。

 

「...おう、もう来たか」

 

一心は盃を置くと、大きく息を吐いた。

 

「この死にかけの爺にお主らを倒すことはできん。遠慮せず入れ」

 

霊夢と妖夢は一心の言葉に警戒しつつも、道場に入っていく。

 

「...名前は?」

「一心」

「!あんたが幽香の腕斬り落としたっていう...」

「カカカッ...思い出すだけでも血が滾る女よ」

 

一心は酒壺を掴んで盃に酒を注いでいく。

 

「...我が孫、弦一郎を止めに来たか」

「そのつもりよ」

「...ならば、いい」

「...」

「弦一郎の行いは間違っておる。できるものならば止めてやりたいが...何故か...儂は逆らえぬのだ」 

「どういうこと?」

「葦名の為...その言葉が脳に染み付き離れぬのだ。葦名の為ならば誉れすら捨てる。まるであ奴の思考が乗り移ったかのようじゃ」

 

霊夢と妖夢はお互いに顔を見て、一心が何を言っているのか分からなかった。

 

「梟、お蝶、雅孝、弦一郎、そして葦名の者達は全員気づいておらぬ」

「何に気づいてないのよ」

「己が存在する理由じゃ。皆殺された筈だが...黄泉帰りしたと思うておるのだ」

「?」

「最早葦名の黄泉帰りなど出来ぬ。死すら忘れた亡者には決してな」

 

すると一心は酒を飲み干し、道場の奥に飾られていた刀を掴んで立ち上がる。

 

「弦一郎は上に進んだ天守におる」

「...なら通してよ」

「.....弦一郎は総大将。儂は守らなければならぬのだ。葦名の為にな」

 

すると妖夢は楼観剣と白楼剣を構えた。

 

「行ってくれ霊夢。この人の相手は私が」

「...お願いするわ。死にかけとはいえ油断しないでよ」

「わかっている」

 

霊夢は道場の左側にある窓から外に出て、天守へと向かった。

 



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迷えば、敗れる

妖夢は楼観剣と白楼剣を構え、一心は刀を鞘から抜くも構えられず刃も下を向いている。

 

「哀れよな...この一心が構えられぬとは」

「出来れば怪我人は斬りたくないので...退いてくれればありがたいのですが」

「儂の思考がそれを許さぬ。意志では道を譲りたいのだがな」

「よくわかりません」

「カカカッ...儂もじゃ」

 

妖夢は二本の刀に力を込めて思い切り振り下ろすも、一心は紙一重で避けると一回転してその勢いを使い刀を薙ぎ払った。

 

彼女も避けられたことは驚いたが、すぐに防御し後ろに下がる。

 

「...」

「振ることもできぬが...これならば殺れるか」

 

妖夢は白楼剣を鞘にしまい、楼観剣を両手で掴んで構える。

 

「背丈に似合わぬ刀よ」

「う、うるさい!」

 

妖夢は楼観剣を連続で振るい猛撃するも、一心はまるで攻撃がくる方向が全てわかっているかのような動きで避けまくる。

 

「太刀筋は悪くない...が、戦慣れしておらん」

「!」

「惑わされるな。敵を斬ることだけを考えよ」

「て、敵に教えられるほど弱くはない!」

 

妖夢は楼観剣を構えると、一心目掛けて思いきり突き攻撃を仕掛ける。

 

しかし一心は避けると楼観剣を思いきり踏みつけた。

 

「うわっ!!」

 

妖夢はすぐに楼観剣を引き抜くと、踏まれた衝撃で両手に少し痺れを感じた。

 

「カカカッ...隻狼を真似てみたが...成る程のぅ...」

 

妖夢は目の前の死にかけの男相手に汗をかき始め、息も荒くなり表情にも焦りが出てきた。

 

どんな技を使っても避けられるイメージしか浮かばない。

 

こんなことは初めての経験であった。

 

妖夢は楼観剣で何度も一心の頭目掛けて振り下ろすも、彼は全て避けてしまう。

 

さらに彼女は連続攻撃の途中で白楼剣も抜いて二刀流の猛撃を仕掛けるも、彼は距離を取って攻撃を受けないよう立ち回る。

 

次第に妖夢の息が切れかけ、両手や足にも疲れが見えてきた。

 

しかし対する一心は疲れどころか息一つ乱れていない。

 

「な、何なんですか貴方...!」

「.....」

「...なら!」

 

妖夢は楼観剣を鞘にしまうと、居合の構えを取った。

 

一心は脱力した瞬間力を込めて彼女に近づくと、一回転して刀を振るう。

 

そして妖夢は床の木が折れるほどの力で踏み込み、高速で一心の後ろへと移動した。

 

「!!」

「剣技...桜花閃々」

 

一心は直ぐ様刀で防御するも、何十もの強力な一撃を一瞬でくらい、妖夢が通った場所には桜色の斬撃が残る。

 

彼の刀は耐えられずに真っ二つに折れて天井に刃が突き刺さった。

 

「...何と美しい技よ」

「...それはどうもです」

 

妖夢は振り返ると、一心の姿に驚いた。

 

彼はあの大技を受けても、光速の居合の一撃を使っても、傷ひとつなかったのだ。

確かに刀は折ったが、むしろその程度で済んてることに妖夢は驚いたのだ。

 

さらに彼女はある疑問も脳裏に浮かんでいた。

 

何故技の後攻撃しなかったのか。

 

刀を折ったとはいえ、まだ刃は半分ある。

 

それで背中を斬りつけられれば形勢逆転していたはずだ。

 

 

すると一心は刀を捨てて、その場で正座をする。

 

「な、何を」

「見事。刀が折られては、儂も敗けと認めなければならん」

「...」

「そして...儂は迷うてしまった。お主の剣技に見惚れてな」

「んなっ!?」

 

妖夢は堂々と自分の技を褒められて、顔を赤くする。

 

「ま、まぁ...悪い気はしません。ありがとうございます」

 

すると一心は照れる妖夢を見て、少し笑う。

 

「.....カカカッ...素直な娘よ」

「...」

「その素直さ。あの男にも見習うて欲しかったが」

「あの男?」

 

すると一心は今自分が行った言葉に目を見開いて何か驚いた様子になる。

 

「隻狼...いや、あの男は...儂は...止められなかったのか」

 

一心はすぐに立ち上がると、妖夢の前まで歩いてくる。

彼女は少し警戒したが、彼の焦りの表情に敵意がないことがわかりすぐに警戒を解いた。

 

「よいか娘よ」

「わ、私は魂魄妖夢だ」

「...妖夢よ、今すぐに隻狼を探せ。そしてあ奴を」

 

 

 

 

 

その瞬間

 

 

 

 

 

 

一心の胸から紅く光る刀が突き出し、彼は胸を貫いた刃を掴む。

 

そしてゆっくりと後ろを見ると、そこには不死斬り『拝涙』を構えた忍の狼がいたのだ。

 

「隻狼...!!」

「.....」

「な、何を!!」

 

妖夢はすぐに白楼剣を鞘から抜いて、一心を刺している狼を攻撃する。

 

しかし狼は腰に差した刀を抜いて妖夢の攻撃を防ぎ、一心から不死斬りを引き抜いて力を溜め始める。

 

そして思いきり薙ぎ払うと、黒と紅の斬撃が彼女の体を引き裂き壁に叩きつけられた。

 

「ガハッ!」

 

妖夢は倒れはしなかったが、楼観剣を支えにしなければ立っていられない。

 

狼は胸を抑える一心を見て、不死斬りを振り上げた。

 

「隻狼よ...またもや...止めてやれぬか...」

 

狼は不死斬りを振り下ろし、一心の肩から腰まで一刀両断した。

 

血が地面に飛び散り、狼は不死斬りを背中にある鞘にしまうと足の底から濃く白い霧を生み出した。

 

そして霧が晴れる頃には狼の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢は斬り傷を抑えながら一心に近づくと、彼はまだ息をしていた。

 

「...」

 

妖夢は一心の傷を見て、もう助からないことがわかった。

 

「...何か残すことはありますか」

「.....修羅」

 

一心はそう言い残すと、息絶えその体は灰となって消えていった。

 

「...修羅...?」

 

すると妖夢も胸の傷が痛み始め、その場で倒れてしまった。

 

 

 




UA6000突破!
ありがとうございます!
ストック溜めたので、また毎日投稿できると思います。 
具体的には7話くらい


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虎口門

 

弦一郎の命により多くの兵士達は虎口門へと集合していた。

 

中には侍大将や七本槍も居り、準備が整えばすぐにでも進軍を開始できる状況であった。

 

すると一人の足軽が開かれた門に立つ一人の女を見つけ、すぐに近くにいた侍大将の一人に報告した。

 

侍大将は大太刀を鞘から抜いてその女にゆっくりと近づいていく。

 

「何者か!!」

「ただの死なない女さ」

 

立っていたのは藤原妹紅であり、彼女は見張り台にあった油を侍大将の前に投げる。

 

「!」

「ほぅら。火傷注意な」

 

すると妹紅は手から炎を生み出し侍大将の足元へ投げつける。

 

すると辺りは油によって火に包まれ、葦名軍は混乱に包まれる。

 

「能力制限か...私の妖術もかなり弱くなっちゃったな。長い経験で学んだ知識だけど、能力に見なされちゃったかね」

 

すると妹紅は掌から小さな炎で出来た不死鳥を大量に生み出し虎口門のあらゆるところに飛び出たせる。

 

妹紅はあちこちに置いてある油に不死鳥を向かわせ、あっという間に虎口門は大火事となる。

 

兵士達はすぐに消火作業と入るが、指揮官達は怒り狂い刀を抜いて妹紅へ襲いかかる。

 

しかし妹紅は攻撃を避けずにあえて受け、直接手を彼等の体に触れ、炎を出して敵を火だるまにした。

 

かつて蓬莱の薬を奪い取り、その罪を償うように痛みも恐れも慣れてしまった不死身の体を最大限利用するのが藤原妹紅の戦い方である。

 

「...さぁ、次は?」

 

妹紅は火だるまとなった敵を蹴り飛ばし、両手を広げて敵に挑発する。

 

しかし葦名軍は刀の達人である指揮官達があっという間に火だるまとなって倒れた姿を見て、誰も前へと足を踏み出せない。

 

すると葦名軍は左右に別れ、まるで妹紅に虎口門を明け渡すように足軽達は歩を進める。

 

「?なんだよ、もう降参か」

 

妹紅は呆気ないとため息をついた。

 

 

しかし彼女は知らなかった。

 

 

 

 

葦名軍が左右に別れたのは、これから来る怪物に自分達が被害を被らない為であることを。

 

その瞬間虎口門の扉が吹き飛び、角に火のついた藁をつけられた巨大な牛が現れたのだ。

 

「!?」

 

火牛は妹紅目掛けて突っ込み彼女はすぐに横に避けるも、火牛は地面に角を指して無理矢理軌道変更してもう一度突っ込んだ。

 

妹紅も避けられずに火牛の突進を受けて空中に投げ飛ばされる。

 

「がっ...!」

 

妹紅は地面に叩きつけられると、腕が逆の方向を向き、足からも血が出ていた。

 

「なんつうもん出してきたんだ...!」

 

妹紅はなんとか立ち上がるが、待っていたのは火牛の突進である。

 

再度吹き飛ばされて虎口門に叩きつけられると、妹紅は大量の血を吐いた。

 

「がはっ...こ、こりゃ...一回休みかな」

 

火牛は治まることがなく、扉に叩きつけられた妹紅に突撃してとどめを刺した。

鈍い骨の折れる音が鳴り響き、妹紅はその場で息絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし妹紅は目を覚まし、まだ自分の腹目掛けて角を抉っている火牛の目に掌を乗せて炎を出した。

 

火牛は目を焼かれて直ぐ様暴れ出し、辺りを駆け回る。

 

「さぁて、復活したはいいけどどうするかな」

 

妹紅は全ての傷が完治していることを確認すると、火牛が再び突進してくる。

 

彼女は避けて牛を虎口門にぶつけさせると、上で消火をしていた兵士の一人が落ちてきた。

 

刀を持った兵士は立ち上がるも、すぐに火牛に吹き飛ばされた。

 

すると妹紅はその兵士が持っていた刀を拾い、火牛の腹に突き刺す。

 

「おりゃ!」

 

火牛は苦しみ出すが、頭を左右に振って妹紅を吹き飛ばす。

 

すると今度は火縄銃を持った兵士が落ちてきて、妹紅は火縄銃を奪い取って火牛目掛けて引き金を引く。

 

玉は牛の腹にめり込み、更に苦しそうな声を上げ始めた。

 

「ざまーみろ」

 

火牛は更に怒ったのか、妹紅目掛けて突進する。

 

彼女は避けると近くの高台にいる兵士の近くへと飛び上がり、彼が持っていた槍を奪い取る。

 

「借りるよ」

 

妹紅は高台から跳躍し、火牛乗って槍を思い切り突き刺した。

火牛は暴れまわり、彼女も突き刺した槍を手放し地面に落ちる。

 

その瞬間火牛は妹紅の腹に角を突き刺し、そのまま壁へと突撃した。

 

「ぐっは...!」

 

再び鈍い音が響き渡るも、妹紅は気にせず火牛の腹に刺してある刀を掴んで何度も刺して引き抜いた。

火牛も早く死ねと言っているかのように妹紅の腹に力を込めて突進し、彼女も負けじと刀で抉る。

 

「こんのぉ!!」

 

すると妹紅の背中から炎で出来た翼が生え、今までとは段違いな再生能力を発揮する。

 

そして生えた翼から火の粉が辺りに飛び散り、油保管庫にまでいったようで虎口門が大爆発を起こす。

 

その爆発によって虎口門が崩れ、火によって包まれ消火していた兵士達の多くが灰となって消えた。

 

妹紅は刀を抜くと、火牛の目を貫いた。

火牛は妹紅から離れてその巨体で辺りを跳ね回り、近くの石垣に強く頭を打ってしまった。

 

すると脳震盪を起こしたのか、火牛はぐったりと倒れてしまう。

 

妹紅は火牛の頭に近寄ると、目に刺さった刀を引き抜いた。

 

「.....火を恐れていただけか」

 

妹紅は火牛に残った片目を見て、ため息をしながら耳に刀を思いきり刺した。

火牛は一瞬体を揺らすも、すぐに力が抜けて息絶えた。

 

「怖がらせてごめんよ」

 

妹紅は刀をそこらに放り投げて、辺りを見渡す。

 

虎口門は炎に包まれ、あんなに集まっていた葦名軍もいつの間にか城に逃げていなくなっていた。

 

「...これなら任務完了って言っていいだろう」

 

妹紅は虎口門を燃やし尽くし、暇になったと彼女も城へと歩みを進める。



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地下牢

鈴仙は火縄銃で寄鷹衆を撃退するも、さらに他の建物から銃を持った兵士が彼女を撃ち抜こうと狙ってくる。

 

しかし鈴仙はすぐに持っている火縄銃を使い狙ってくる兵士を撃ち抜き、敵から奪い取った火薬と鉄玉を使い装填する。

 

「はぁ...はぁ...ど、どうして私がこんな目にぃ...」

 

鈴仙は屋根を移動していたが、このままでは囲まれてしまうと判断すると鉤縄を利用して屋根から降りていく。

 

すると丁度降りた場所に木で出来た扉のような物があり、鈴仙が着地した瞬間重みに耐えきれず壊れてしまった。

 

「ギャッ!!」

 

鈴仙は壊れた木の扉に乗りながら、城の地下へと通じる階段をすごい勢いで滑りながら下っていく。

 

「ちょちょちょちょちょ!!と、止まってぇぇぇぇぇ!!」

 

何十秒か経ったあと、鈴仙は階段を降りきり木の扉も木っ端微塵となって転がって倒れた。

 

「あいたたたた...」

 

鈴仙は手で腰を押えて、立ち上がり直ぐに火縄銃を構える。

 

鈴仙が辿り着いた場所は、かなり薄暗く火の明かりがなければ何も見えなくなってしまうだろう。

 

ここは葦名で赤目の実験が行われている地下牢。

葦名の闇そのもの。

 

死が漂う場所であり、外の冷気とは違う命を縮めるような寒気が襲いかかる。

 

鈴仙は火縄銃を構えながら進み、近づいてくる謎の虫を踏み潰しながら探索する。

 

すると奥の檻から声がしたのでゆっくりと近づき、中を確認すると意外な者達が捕まっていた。

 

「神奈子ぉ...お腹すいた」

「私達神は餓死なんかしないよ」

「けどお腹は減るの!」

「そこらにいる虫食べな」

「不味そうだからいやだ!」

「ちょっとお二人共。喧嘩は駄目ですよ」 

「早苗ぇ...なんか食べ物ない?」

「捕まった日に諏訪子様がぶん殴って灰になっちゃった男が持ってきた謎の握り飯なら」

「いらないよ。腐ってるじゃん」

 

葦名城が現れそれ以来行方不明となっていた守矢神社に住まう神である八坂神奈子、洩矢諏訪子、東風谷早苗であった。

 

すると鈴仙はすぐに三人に話しかける。

 

「さ、早苗さん?」

 

鈴仙の声に早苗はすぐに檻を挟んで駆け寄った。

 

「れ、鈴仙さん!どうしてここに!?」

「ちゃ、着地に失敗して階段滑ったらここにいたんです」

「こ、ここから出してください!なんか私達の能力使えなくて、この檻も神奈子様ですら開かなくてぇ!」

「離れてください!」 

 

鈴仙は火縄銃を構え、扉の錠目掛けて引き金を引いた。

 

銃弾は錠を破壊し、檻が開いた。

 

すると早苗は鈴仙に抱きつき、奥にいた二柱もゆっくりと出てきた。

 

「あー...やっと出れたね。感謝するよ永遠亭の兎さん」

「本当だよ!もう何日もここに閉じ込められてさぁ!」

「そ、それは良かったです」

「檻から出して貰って悪いけどさ、ここはどこなんだい?私達神社にいて凄い音が聞こえてきて気がついたらここに閉じ込められててさ」

「えっと...話すと長くなりますが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙は紫に聞いたこれまでの状況を三人に説明すると、早苗は狼狽え始めた。

 

「葦名城!?妖怪の山にそんなものが!?」

「あのデカい音の正体は城が上から降ってきた音だったのか」

「神社どうなってるですかそれ!?」

「まぁ、十中八九潰れてるんじゃないか」

「そんな他人事みたいに!」

「それよりもこれからどうするんだい?」

 

神奈子は鈴仙に質問すると、彼女はオドオドしながら答え始める。

 

「えっと...この城では歪みという能力を制限してしまう何かが発生してるので...」

「なら私達はあんまり役に立たないかもね。あ、そうそう。この奥に河童やら天狗やらが捕まっていたよ。そいつら助け出してここを脱出と行こうじゃないか」

「あ、紫さんも妖怪達が捕まってるとか言ってました。ということはここが地下牢...なんですかね」

 

神奈子、諏訪子、早苗、鈴仙は地下牢の奥へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥に進むと、神奈子の言う通り河童や天狗が捕まっており、鈴仙は錠を破壊して次々と脱出させる。

 

早苗も檻を開けて、中で倒れている白狼天狗を起こそうとする。

 

「大丈夫ですか!」

「...う...」

 

早苗は白狼天狗の体を起こすと、意識がないのかうめき声しか出さない。

 

「外傷はないようですけど...」

 

早苗は白狼天狗を揺らして意識を取り戻そうとすると、彼女はゆっくりと目を開けた。

 

「!?」

 

しかし早苗は白狼天狗のその目に驚いた。

 

紅く光っていたのだ。

 

そして白狼天狗は勢いよく起き上がると、早苗に襲いかかる。

 

「きゃあっ!!」

 

早苗の悲鳴を聞いて神奈子が檻の中へと入り、彼女に襲いかかろうとする白狼天狗の顔を掴む。

 

「うちのもんに何するんだい!」

 

神奈子は掴んだ白狼天狗を壁に投げつけると、彼女は全く効いていないのか神奈子に襲いかかる。

 

「こんの!!」

 

能力を制限されているとはいえ、神である神奈子は人の何十倍も力は強い。

そんな彼女が白狼天狗を思いきり殴ると、首の骨が折れて狭い檻の中を何度も弾いて地面に落ちる。

 

早苗は口を手で抑え震えているため、鈴仙が彼女に手を貸して外に出した。

 

神奈子は倒れる白狼天狗を見下ろすが、首の骨が折れて息絶えた筈なのに起き上がって再び襲いかかったのだ。

 

「!」

 

しかし神奈子は白狼天狗の顔を掴み、地面に叩きつけた。

地面には血が溢れ、ようやく彼女は死んだ。

 

「随分と頑丈だ...何か嫌な雰囲気が感じるね」

「神奈子様!」

 

神奈子は早苗の呼ぶ声に反応し、すぐに檻の外に出る。

 

すると外には先程と同じく目が紅く光る白狼天狗や河童達が、早苗達に近づいてきたのだ。

 

「あれ全部さっきと同じか」

「ど、どうします!?」

「永遠亭の兎、ちょいと手を貸しな」

「りょ、了解です!」

「諏訪子、早苗!解放した山の連中と共にここを脱出しろ!」

「脱出って...神奈子は!?」

「私達はこいつらの足止めさ!」

 

神奈子は襲いかかる河童達を力でねじ伏せ、強力な妖怪達をまるで玩具のように扱う。

 

鈴仙は火縄銃を棍棒のように扱い、妖怪達を地面に組み倒して頭を撃ち抜き復活させぬようにする。

 

その間に諏訪子は神奈子の言う通り解放した妖怪達を率いて地下牢から脱出を始める。

 

「中々動けるじゃないか兎!」

「そ、それはどうも!」

「さぁ、あいつらが脱出するまで時間稼ぎだ!」

「どのくらい倒せばいいんですかね!」

「さぁね!」

 

二人は赤目達相手に暴れ続ける。




UA7000突破!
ありがとうございます!

物語も後半入りまくってるので最後までよろしくです!


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梟と蝶

魔理沙と咲夜は霊夢達と別れた後、水手曲輪へと向かっていた。

 

途中敵の妨害もあったが、咲夜の超人的なナイフ捌きであっという間に敵を倒し、魔理沙を護衛していく。

 

「なんかお前に護衛されるなんて妙な気分だぜ」

「お嬢様の命令だから仕方なく。なんなら一人で行ってきていいのよ」

「勘弁してくれたぜ」

「その月見櫓とやらはどこかしら」

「紫の地図によると、この建物入って降りた場所がそうらしいぜ」

 

咲夜は建物の扉を開き、ロープを使って下に降りていく。

 

そして降りた先にある扉を開くと、その先には小さな神社のような建物や奥には崖があり、そして右側の最奥に櫓があった。

 

「あれだ!塔みたいな建物だぜ!」

「距離はあんまりないわね。急ぐわよ」

「ああ!」

 

魔理沙と咲夜は月見櫓への走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は月見櫓の姿が完全に見える所まで近づくと、櫓の屋根から二人の男女が降りてきた。

 

「よく来たのぅ...」

「蛇か鬼か出るかと待ちわびたが...子供か」

 

月見櫓を守ってるのは大忍びの梟とお蝶であった。

 

「な、なんかやばいのぜ」

「...」

 

咲夜はナイフを構え、魔理沙は懐から魔法が込められた瓶を取り出す。

 

「さぁて、若殿の命によりここより先は行かせぬ」

「とはいえただ返すわけにもいかんな」

「その命...置いてゆけぃ」

 

梟は背中にある大太刀を鞘から抜き、お蝶はクナイを取り出した。

 

「魔理沙、油断するんじゃないわよ」

「が、合点だぜ」

 

梟は咲夜に狙いをつけて兜割りを仕掛けると、咲夜は簡単に避けてナイフを投げる。

しかし彼は直ぐ様防御し弾いたナイフを掴むと、咲夜目掛けて投げ返した。

 

彼女は投げられたナイフを掴むと、跳躍して梟に斬りかかる。

 

「ふぅむ...中々の身のこなし」

「あんたもその細腕の割に強いわね」

 

梟は咲夜の攻撃を簡単に弾いて反撃し、大太刀の重い攻撃に咲夜の腕は衝撃で痺れる。

 

「っ...!ナイフで受けるものじゃないわ」

 

梟は全身の力を振るって大太刀を巧みに扱い、咲夜を苦しめていく。

 

 

 

 

 

一方魔理沙は、お蝶の投げるクナイから全力で逃げ回っていた。

 

「能力制限中に飛び道具は卑怯だぜ!!」

 

魔理沙は逃げながらも魔法瓶を投げて爆発や炎上させるも、お蝶は人間離れした速度で避けていく。

 

「どうすればいいんだぜ!?」

 

魔理沙は新たな魔法瓶を取り出し蓋を取ると、青い光が溢れて星型の八卦炉が二つ現れる。

 

「弾数制限あるけど弾幕なら今の状態でも撃てるぜ!」

 

魔理沙の両隣に浮かぶ八卦炉から大量の光る弾が発射されると、お蝶はクナイで避けられない弾だけを弾き飛ばし後は避けながら進む。

 

「くそっ!来るんじゃないぜ!」

 

魔理沙はそろそろ弾が尽きそうになると、爆発瓶を投げてお蝶を近づけないようにする。

 

しかしお蝶は後ろに跳躍すると、なんと空中に留まり魔理沙を見下ろしていた。

 

「うえぇ!?」

「ククク...不可思議な飛び道具を使うな小娘」

「な、何で浮かんでるんだ!?」

 

魔理沙は浮かんているお蝶を見て、あることに気がついた。

 

お蝶の足元にはかなり見えにくいが、細い糸のような物が張られていた。

 

「い、糸!?」

 

お蝶はクナイを取り出し空高く飛び上がると、魔理沙の頭目掛けて落ちてくる。

 

「うわわっ!」

 

魔理沙は全力で走ってお蝶から逃げると、直ぐ様別の瓶を開けて八卦炉を召喚して弾幕を出す。  

 

しかしお蝶は既に弾幕を見切っており、クナイを思いきり投げた。

 

「がっ!」

 

お蝶が投げたクナイは魔理沙の肩に突き刺さり、彼女は転倒してしまう。

 

「いてぇぇえ!!」

「騒ぐな。見苦しい」

 

魔理沙は突き刺さったクナイを抜こうとするも、掴んだ瞬間痛みが走って離してしまう。

 

お蝶がゆっくりと近づいてくると、魔理沙は立ち上がって他とは違った大きな瓶を取り出す。

 

「もう許さないぜ!これでもくらってろ!」

「?」

 

魔理沙は大きな瓶の口をお蝶に向ける。

 

「何をする気だ」

「さぁな!」

 

すると瓶の口から虹色に光る巨大な光線が放たれ、お蝶は驚きすぐに空中に逃げるも糸は光線によって焼かれて彼女は跳躍して魔理沙から距離を取る。

 

魔理沙の有名なスペルカードであり、幻想郷でもトップクラスの威力を誇る魔法 恋符『マスタースパーク』である。

 

「.....」

 

マスタースパークは空へと消え、貫いたものは丸焦げになった。

 

滅多なことでは驚かないお蝶でも、今の技には肝を冷やしたであろう。

 

そして魔理沙は別の魔法瓶を叩き割ると、中に入っていた赤い魔法の玉を空へと掲げた。

 

すると魔法玉からお蝶を追撃する星型の光る弾が大量に発射され、彼女はクナイで弾くも防ぎきれず走って避け始めた。

そして魔理沙の近くまで寄ると、クナイで彼女の首を斬った。

 

「がっ...」

 

しかし斬られた筈の魔理沙が光り出して、大爆発を起こした。

お蝶は爆風と火傷によりダメージを負い、地面に着地する。

 

「くっ...」

 

すると後ろから光る弾が撃ち込まれ、お蝶は弾をクナイで弾いていくと先程倒したはずの魔理沙が目の前に立っていた。

 

「...斬ったはずだが」

「残念だったな。さっきのは幻影魔法だぜ。そっくりだったろ?」

 

お蝶は魔理沙の言葉に眉間にシワを寄せ、右手を前に出して指を鳴らした。

 

「この私を騙すとはな...ならば、我がまぼろしにも惑え」

 

するとお蝶の周りと魔理沙の周りに武器を持った灰色の足軽兵が現れ、彼女に襲いかかる。

 

「うおっ!?何なんだぜ!?」

「それ。倒さねば死ぬぞ」

 

魔理沙は兵士の攻撃を避け、瓶を開けようとするも他の兵士に瓶を取られて邪魔をされる。

 

魔理沙は兵士から逃げていると、後ろから梟の連撃を受けて苦戦している咲夜とぶつかった。

 

「さ、咲夜!やべぇぞ!」

「こっちもヤバいわよ!」

 

魔理沙と咲夜は背中を合わせ、梟とお蝶を睨む。

 

 



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月見櫓

咲夜は梟の攻撃は受けず、避けに専念して反撃の機会を待つ。

 

しかし彼は手裏剣や爆竹等を扱い反撃の隙を見せず、さらに大太刀の巧みな扱いに避けるのもキツくなってきていた。

 

「はぁ...はぁ...厄介ね」

 

咲夜は足技とナイフを組み合わせた連撃を仕掛けるも、梟は大太刀で弾いて背撃を仕掛けて大きく薙ぎ払う。

 

防御した咲夜のナイフの刃が折れるが、彼女は折れた刃を蹴って彼の肩に突き刺した。

 

「むぅ...!」

 

しかし梟は後ろに跳躍して空中にいる瞬間手裏剣を投げ、その一つが咲夜の腹に突き刺さる。

 

「いった...!」

 

咲夜はすぐに手裏剣を抜いて、梟に投げ返した。

 

しかし彼は手裏剣を避けると、大太刀を両手で握りしめて突撃と同時に横に振るう。

 

咲夜は屈んで避けると、両手にナイフを握り素早い攻撃で彼の背中を斬りつける。

 

「むっ...」

 

梟は咲夜が自分の速度に追いついてきていることに気づき、懐から毒煙玉を取り出し彼女の前に投げた。

 

しかし咲夜は直ぐ様距離を取ってナイフを六本同時に投げた。

 

「!」

 

梟は跳躍してナイフを避けると、爆竹を咲夜の上空にばら撒き爆発させる。

 

「きゃっ!」

 

咲夜は思わず手で顔を覆うと、梟は兜割りと同時に爆竹の炎を大太刀に纏い振り下ろした。

 

彼女は直ぐ様回し蹴りで大太刀の鍔を蹴って軌道をずらし、刃が地面に埋まると同時にナイフで脇を刺した。

 

「ぐおっ!」

 

流石の梟も脇にナイフを刺されては表情にも苦悶が現れ、すぐに距離を取って刺さったナイフを抜いた。

 

「ぬぅ...見事な女よ。ここまで儂を相手に戦うとは」

「紅魔館のメイド長を舐めるんじゃないわよ」

「殺すには惜しい...が、葦名の黄泉帰りの為、殺す他ない」

「ならさっさとかかってきなさい。無駄な時間は嫌いなの」

 

咲夜はナイフを取り出して構えると、近くの地面に魔理沙が倒れてきた。

 

「ちょっと魔理沙、邪魔しないでよ」

「あ、あの婆さん強すぎるんだぜ...もう魔法瓶なくなってきてるんだよぉ!」

「だからって私にどうしろってのよ」

「...なぁ、咲夜」

「何よ」

「賭けに出てみないか」

「賭け?」

 

すると魔理沙は立ち上がり、咲夜の耳元で敵に聞かれぬよう小言で話し始める。

 

 

 

 

 

 

「.....それ本気?」

「このままじゃ私達に勝ち目はないぜ」

「賭けに負けたら問答無用で私死ぬわよ」

「そん時は私も一緒に死んでやるぜ」

「.....」

「どうする?」

「あー、もう。わかったわよ。好きになさい」

「さっすがメイド長」

「あんたも我慢しなさいよ」

「おうよ。全く散々な一日だぜ」

 

咲夜はナイフを構えると近づいてくるお蝶と梟目掛けて投げて二人を足止めすると、魔理沙は魔法瓶を地面に投げる。

 

魔法瓶からは煙が一気に吹き出し四人を包み込んだ。

 

「ぬぅ...」

「梟、惑わされるな」

「わかっておる」

 

梟は手裏剣を五つ取り出し二人の所に投げ、お蝶は幻影兵を二人に襲わせる。

 

煙が晴れると二人の姿は無く、梟とお蝶は上を見る。

上空では咲夜は魔理沙を掴んで、なんとお蝶目掛けて投げ飛ばしたのだ。

 

「行け!」

「おう!」

 

魔理沙はお蝶に突撃するが、彼女は顔面に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

「がはっ!!」

「何をするかと思えば...この程度か」

 

お蝶は近づいてとどめを刺そうとするが、その瞬間魔理沙は隠し持っていた瓶を彼女にぶつける。

 

「っ!」

 

そしていつのまにか後ろにいた咲夜がナイフを大きく振り上げお蝶に斬りかかり、魔理沙から遠ざけた。

 

「おのれ...」

 

しかし梟がそれを黙って見ているわけもなく、お蝶と斬り合っていた咲夜を背中から一刀両断する。

 

「!」

 

しかし斬ったはずの咲夜からは血を吹き出すこともなく、煙となって消えていった。

 

「まぼろしか...!」

「!梟、後ろだ!」

 

お蝶の言葉に梟は後ろを振り向くと、なんと今眼前に倒れている魔理沙とは別の魔理沙が月見櫓へと全力疾走していたのだ。

 

「何...!?おのれ謀ったか...!」

「作戦成功!このまま月見櫓調べて歪みを消してやるぜ!」

 

梟は手裏剣を投げて魔理沙を止めようとするが、その瞬間倒れていた魔理沙が起き上がりいつの間に持っていたのかナイフで彼の腕を突き刺す。

 

「ぐぬっ!」

 

ナイフを突き刺した魔理沙の全身から煙を出し、中から咲夜が現れた。

 

「幻影魔法よ。さっき斬ってくれたのは魔法で私の姿を模倣した偽物。騙されたわね」

「おのれ...!」

 

するとお蝶はクナイを取り出し、魔理沙目掛けて何本も投げた。

 

「!?」

 

しかしクナイは魔理沙に突き刺さることなく煙と消えてしまい、彼女は気にせず走り続ける。

 

「まさか!」

 

お蝶は体の装備を見ると、今投げたクナイの数と体に仕込んでいるクナイの数が合わない。

 

「さっき貴方にぶつけた幻影魔法が込められた魔法瓶は貴方のクナイに化けたわ。ご愁傷さま」

「おのれ...二度も騙すとは...!」

 

梟とお蝶は咲夜に襲いかかる。

 

「魔理沙!早めに頼むわよ!」

「任せとけ!」

 

魔理沙爆発魔法が込められた魔法瓶を構えながら、月見櫓の扉を蹴って開ける。

 

しかし中には何もなく、大量の本や奥には開けられた檻等があるだけであった。

 

「う、ウッソだろ」

 

すると梟とお蝶の猛撃を紙一重で防いでいる咲夜が魔理沙に向けて大声を出す。

 

「魔理沙ぁ!そろそろ限界!」

「駄目だ咲夜!ここには何もねぇ!!」

「っ!!冗談でしょ!?」

 

すると梟の攻撃が咲夜のナイフを飛ばし、魔理沙の魔法瓶を貫いた。

 

「うわっ!?」

 

咲夜は倒れてしまい、お蝶のクナイと梟の大太刀を首に向けられる。

 

「終いだ」

「くっ...」

「安心しろ。貴様を殺し、後にあの小娘も送ってやる」

「お、お嬢様...」

 

 

 

 

 

 

その瞬間

 

魔理沙のナイフに貫かれた魔法瓶が地面に落ちると、込められた魔法が発動して大爆発を起こした。

 

その爆発は葦名城全土を揺らし、青い光が城全体に広がった。

 

「な、何なんだぜ?」

 

すると魔理沙は崩れ始める月見櫓の中に、黒いボロボロの着物のような服を着て、黒髪の一部が白く染まっており、紅く光る姿をした少年を見た。

 

「だ、誰だぜ!?さっきまでそこにはいなかったのに」

 

するとその少年は魔理沙を見て、ある方角を指さした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が忍びを止めてくだされ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年が指差す方角には、太陽の畑があった。

そして月見櫓は完全に崩壊し、その少年は瓦礫と共に消えた。

 

魔理沙は呆気にとられていると、すぐに咲夜のことを思い出して彼女の方を向いた。




UA8000突破!ありがとうございます!!


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葦名の為

霊夢は城の最上階へと続く階段を登り切ると、雪や壊れた扉、ボロボロな畳がある天守閣へと辿り着いた。

 

そこには鎧を着込んだ弦一郎が待ち受けており、霊夢を睨む。

 

「...」

「あんたが親玉ね。さっさと退治されちゃいなさい」

「俺は葦名を黄泉帰らせるまでは死ねん」

「んなの私が知ったこっちゃないわ。さっさと倒されて私の平凡な日常返して頂戴」

「...平凡か」

「何よ」

「いや...懐かしいと思うてな」

「懐かしい?」

「...名は」

「博麗霊夢よ。幻想郷に喧嘩売ったこと後悔させてあげる」

 

弦一郎は刀を抜いて霊夢に向ける。

 

「ならば、ゆくぞ」

 

すると霊夢は天守閣入口に飾られている鎧と刀を見て、刀を取ると鞘だけを取った。

 

「何のつもりだ」 

「私は博麗の巫女よ。人殺しはしない。突き落としたりはしたけど」

「...」

「あんたなんぞこれで十分ってことよ」

 

弦一郎は走り出すと下から上へと刀を振るい先制攻撃を仕掛けるも、霊夢はいとも簡単に鞘で弾いた。

彼女の持つ刀の鞘は一応は鉄でできているものの、刃を納める為に空洞ができているので振るった威力は木刀以下だ。

 

しかし霊夢は鞘を弦一郎の首に思いきり当てると、彼は少し蹌踉めいて刀を構え直す。

 

「くっ...」

「ほぅらさっさとかかってきなさい」

 

弦一郎は走り出すと背中にある大弓を構え矢を放つが、霊夢は簡単に弾いた。

 

そして彼は刀を構え腰を低くすると、高速で流れるような剣技に、回転の勢いも加えた八連撃の攻撃を仕掛ける。

 

流れるような動きと手数により敵を圧倒する葦名流の剣技ではあるが、葦名の外から来た者が伝えたゆえ異端に当たる技術。

 

浮き舟渡りである。

 

しかし霊夢は全ての連撃を紙一重で避け、鎧に覆われていない脇の下を鞘で思い切り突いた。

 

「ぐあっ...!」

「遅いわ。弾幕ごっこより簡単な動きね」

「まだだ...!」

 

弦一郎は刀を大きく振り下ろして回し蹴りを仕掛けるも、刀は鞘で弾かれ、さらに足は手で掴まれ蹴りの勢いを利用されて投げ飛ばされた。

 

合気にも似た技術に彼は驚き、すぐに立ち上がり刀を構え直す。

 

すると今度は霊夢が鞘を握りしめて弦一郎に攻撃し始めると、なんと先程彼が仕掛けた浮き舟渡りを完全に再現してきたのだ。

 

弦一郎は刀で防御するも、体幹はかなり削られ腕が痺れ始めた。

 

「こんなところかしら。似てた?」

「おのれ...!」

 

弦一郎は刀を振るい、霊夢は弾いて反撃するも、彼も弾いて反撃する。

 

二人の武器が何度も交差し、辺りには火花が散っていく。

弦一郎は一旦距離を開けると、跳躍して大弓を構えて矢を四連続発射した。

 

しかし霊夢は最初の三本は弾き、最後の矢を手でいとも簡単に掴むと投げ返して彼の胸に当てた。

 

「っ!?」

 

鎧の分厚さのお陰で矢は体に到達しなかったが、弦一郎は眼の前の敵に恐怖を覚える。

 

すべての攻撃が弾かれ、傷一つつけられないのだ。

 

「負けるわけにはいかぬ...負けられぬ...!!」

 

弦一郎は渾身の兜割りを仕掛けるが、霊夢には弾かれさらに突き攻撃をする。

 

「甘い」

「!」

 

しかし弦一郎の攻撃は霊夢の脚によって踏みつけられ、大きく体幹を削られた。

 

すぐに彼は刀を引いて構え直し、彼女の脚を狙い薙ぎ払う。

 

「単調過ぎる」

 

霊夢はその場で軽く跳躍し、空中で回転すると弦一郎の頭に踵落としをくらわせた。

 

「ぐあっ...」

 

弦一郎は片膝を地面につけて、霊夢を睨みつける。

 

「筋はいいけど、まだまだ修行が足りないわ」

「はぁ...はぁ...何者なのだ貴様は...」

「素敵な素敵な巫女さんよ」

「ふざけるな!」

 

弦一郎は浮き舟渡りを仕掛けるも、今度は全て完璧なタイミングで弾かれた。

 

さらに彼は彼女との距離を開けながら大弓を構えて矢を放った。

 

「!」

 

霊夢は矢を弾くと、弦一郎は大きく前転して刀を振り下ろしたが、完全に弾かれさらに反撃をくらってしまう。

 

「今のは良かったわ」

「貴様...!」

 

弦一郎は霊夢の首目掛けて突き攻撃を仕掛けるが、彼女は姿勢を低くして避ける。

 

そして彼の胸に掌底を打ち込み、蹌踉めいた瞬間回し蹴りを横顔にくらわせた。

 

「がぁっ...!」

 

弦一郎は吹き飛び、天守閣の隅にある柱に叩きつけられた。

 

「はぁ...はぁ...」

 

弦一郎は刀を支えに立ち上がるが、胸を抑え苦しそうにしている。

 

「ほらほら、今の一撃で呼吸苦しいでしょう?もうこんな茶番止めにしない?」

「茶番だと...!」

 

弦一郎は重い鎧を脱ぎ始め、身軽に上半身裸になった。

 

「葦名の為ならば俺は...どんな物であろうと従えてみせる...!貴様のような怪物でもだ」

「誰が怪物よ」

 

弦一郎の体の至る所には黒い痣があり、彼は刀を構えると辺りの天気が急変してくる。

 

そして雷、雨、小さな雹が辺りに降り注ぎ、彼の持つ刀に雷が当たり轟音が鳴り響く。

 

「きゃっ!ちょっとびっくりするじゃない!」

「巴の雷...見せてやろう...!」

 

弦一郎はその場で跳躍し、刀を空に掲げる。

 

すると空を降り注いでいた雷を刀で受け止め、雷を纏い巨大な剣を作り出した。

 

「っ!!」

 

弦一郎は雷を纏った刀で薙ぎ払うが、霊夢は逆に彼の足元へ近づき攻撃の範囲外へと出た。

 

「あっぶな!雷纏うなんてあんた人間!?」

 

弦一郎は地面に着地するとすかさず浮き舟渡りを仕掛け、続けて兜割りをする。

霊夢は冷静に対処するが、弦一郎は最後に全身全霊を込めた一撃を振るった。

 

霊夢は鞘で受け止めた瞬間雷にも負けぬ巨大な金属音が辺りに響き渡り、そして彼女の持っていた鞘が真っ二つに斬れて地面に落ちる。

 

「っ!」

 

流石の霊夢も武器が壊れてしまい汗を垂らすが、弦一郎はその隙を見逃さずに再び跳躍して刀に雷を纏う。

 

「踏みにじらせはせぬぞ!」

「や、やば」

 

弦一郎が雷を纏った刀を振ろうとした瞬間、水手曲輪の方角から大きな爆発音が鳴り響く。

 

「!!」

 

そして青色の光が葦名全体に広がるが、弦一郎は気にせず霊夢の頭目掛けて刀を振り下ろした。

 

刀が地面についた瞬間畳が舞い上がり、霊夢の姿が一瞬見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

「!」

 

弦一郎は刀に手応えがない事に不審に思い、辺りを見渡した。

 

しかし彼の周りに霊夢の姿はない。

 

「!まさか!」

 

弦一郎は天井を見上げると、なんとそこには空中に浮かぶ霊夢の姿があった。

人間でありながら、幻想郷を自由に飛び回る孤高の巫女。

彼女の空を飛ぶ程度の能力が復活したのだ。

 

そして持っているお祓い棒には雷が纏っており、彼女は空中を浮遊しながら薙ぎ払った。

 

「ぐあっ...!!」

 

弦一郎は霊夢の振るう雷を受け、全身に痺れと衝撃が走る。

 

「ば、馬鹿な...なぜ飛べるのだ」

「...やったわね魔理沙。特上の大金星よ」

 

霊夢は爆発が起こった水手曲輪の方角を見て、ホッとしたような表情を見せる。

 

弦一郎は片手で祈り、歪みを再び起こそうとする。

 

「歪みよ起これ!敵に災いを!」

 

しかし霊夢は空中に留まり、弦一郎は何も起きない状況に明らかな焦りを見せ始めた。

 

「お、おのれ...!」

「残念だったわね。ほら見てみなさいな。貴方達の敗北が始まったわ」

 

霊夢がそういうと、葦名城のあらゆるところから爆発が起き始めた。



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敗北と疑問

水手曲輪

 

梟は咲夜の頭目掛けて大太刀を振り下ろした。

その威力は石の階段が真っ二つに斬れてしまうほどで、人間が喰らえば骨すら同じ結果になる筈だ。

 

しかし彼は斬ったはずの敵がいつの間にかいなくなっている事に気づき、驚き目を見開いた。

 

「!」

 

すると辺りを見渡した瞬間突然眼の前に何十ものナイフが現れ梟の方へ向かってくる。

 

熟練の忍びである梟でさえ全てを弾くのは容易ではなく、何本かのナイフが体に突き刺った。

 

「ぐぅっ!」

 

咲夜は階段の上から血が地面に垂れる梟を見下ろし、大きなため息を出した。

 

「本当に間一髪...あと数秒遅れてたら死んでたわよ」

「貴様...」

「さっきはよくもやってくれたわねお二人さん。さぁ、反撃開始よ魔理沙」

 

咲夜は後ろを振り向くと、崩れた月見櫓から猛スピードで箒に乗った魔理沙が現れた。

 

「おう!もう負けはないぜ!」

「小娘が...!」

 

お蝶はクナイを上空にいる魔理沙目掛けて投げるが、彼女は懐から八卦炉を取り出し箒の穂先に着けてまるで流星のように素早くそして力強く移動し始める。

 

「!!」

「ブレイジングスター!!」

 

魔理沙は箒に乗りながら高速でお蝶の目掛けて突撃し、最初は避けるもすぐに軌道修正して彼女の背中へと箒をぶつけた。

 

「がっ...!!」

 

お蝶は吹き飛んで地面に叩きつけられる。

 

「!」

 

梟はお蝶が吹き飛ぶ姿を見て驚くが、次の瞬間咲夜がいきなり目の前に現れ、全身が斬り刻まれた。

 

「傷魂『ソウルスカルプチュア』。貴方の時間は既に私の物よ」

「ぐはっ.....」

 

梟はたまらず大太刀を手放し、片手を地面につけた。

 

「幻想郷に喧嘩売ったのは間違いよ」

「その通りだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下牢

神奈子は赤目となった妖怪達を相手していると、急に敵全員が頭を抱えて苦しみ始めた。

 

「おや?」

 

神奈子は後ろを振り向くと、後ろで援護していた鈴仙が波長を狂わす狂気の目を発動していた。

 

「よ、ようやく能力使えるようになりました」

「ほぉ、やるじゃないか」

「これでここは大丈夫です。早苗さん達を追いかけましょう」

「そうするとしようか」

 

二人は地上へと続く階段を登り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎口門付近

 

妹紅は城へと歩みを勧めていると、城側から諏訪子、早苗が率いる妖怪達が現れ驚いた。

 

「!?何だ何だ!?」

「あ!貴方は確か妹紅さんでしたよね!?」

「そういうあんたは...ああ、もう一つの神社の巫女だったか」

「た、助けてください!なんか城の入口は開かなくてこっちに逃げてきたんです!」

「そうなのか?そういえばここから逃げていった敵と遭遇しなかったのか」

「諏訪子様と皆さんが片付けてくれたんです」

「そうか。けどここ戻った所にある虎口門は私燃やしちゃって通れないよ?」

「うえぇ!?」

「いや能力が弱くなったからさ、油とか使っちまってそりゃボーボーよ」

 

早苗はどうするかと迷っていると、集団の後ろから浮いてる諏訪子が近づいてきた。

 

「早苗ー、なんか飛べるようになった」

「ええっ!?牢では飛べなかったじゃないですか!」

「地下牢から出た時も力使えなかったんだけどね。なんか爆発音が聞こえてから使えるようになったよ」

「なら...」

「...決まりだね。皆ー!飛べるようになったから空に逃げるぞー!」

 

諏訪子の言葉に妖怪達は半信半疑で浮かぼうとすると、今まで使えなかったのに急に飛べるようになり、全員が歓喜の声を上げた。

 

そして皆空を飛んで葦名城から脱出し、早苗、諏訪子、妹紅も飛んで人里へと帰還し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歪みが消え去り、あちこちから爆発と煙を起こす葦名城を紫は人里から見ていた。

そして心から安堵し、大きく息を吐いた。

 

「これで異変は解決しそうね」

「どうする?一気に攻めるか?」

 

紫の横にいた萃香は紅魔館から来た紅美鈴率いる妖精部隊を見下ろし、攻撃の合図を送ろうとする。

 

「いえ、霊夢達が戻って来てからでも遅くはないわ。それにもう歪みはないから私が一掃してもいいのだけども」

「?なら何でやらないんだ?」

「...少し気になる事があるの」

 

紫は目の前にスキマを開くと、その中に入っていく。

 

「ちょっと席外すわね」

「どこいくんだい」

「幽香に話を聞いてくるの」

「幽香に?今更何を?もう決着つきそうなのに」

「疑問を残したまま宴会はいやなの。霊夢が葦名城を脱出するのを確認したら勝手に攻めちゃって」

「...わかったよ」

 

紫はスキマと共に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫は太陽の畑へと移動する合間に、彼女の脳裏に浮かぶ疑問の答えを考えていた。

 

(この戦...弦一郎とかいう若造は葦名に戻るために私の能力、そして内府とかいう組織に対抗するため幻想郷に住まう妖怪達が目的だと言った。そして各地を攻撃したのは葦名軍の武力の証明と幻想郷全域を戦争に巻き込むという私への脅しとも...)

 

紫はゆっくりと歩みを進め、太陽の畑への隙間を開こうとする。

 

(紅魔館、永遠亭を攻めた理由はわかる。各地に影響を及ぼしている勢力だし、主力メンバーは幻想郷でも強い部類に入る奴等ばかり。倒せば『紅魔館、永遠亭すら倒した俺達は人里なんて簡単に落とせる』と証明してハッタリだと思わせない材料になるわ)

 

 

紫は太陽の畑に降り立つと、炎で焦げた花々が辺りをまだ舞っていた。

 

(けどそれならば何故『太陽の畑』まで攻めたの?幻想郷を調査済みならば、ここの戦略的価値は無いに等しいのはわかってる筈なのに...それに幽香を悪戯に怒らせれば計画が滅茶苦茶になるわ。幻想郷では常識の筈である『風見幽香を怒らせるな』は知らなかったとでもいうの?)

 

紫は太陽の畑にある幽香が住む一軒家の扉を叩いた。

 

(敵はここを攻め落とさないと...いえ、幽香を倒すもしくは戦闘不能にさせる必要があった。その理由は何?)

 

すると扉からは、幽香ではなく見知らぬ女性が出てきた。 

髪をまとめて赤の着物の上に黒の羽織を着て、顔の整った美人で、色々な薬の匂いを放っている。

 

「どなた?」

「.....」

 

その女性は紫を怪しみ、近くに置いてある農具の鍬を掴む。

 

「エマ、その人は知り合いだから大丈夫よ」

 

すると女性の後ろから、包帯を巻かれているが斬られたはずの左腕がくっついている幽香が現れる。

 

「幽香!その腕...」

「話は中でしましょ。丁度会いたかったのよ」

 

 




UA9000突破!
なんか予想より伸びすぎてて驚いてます!
やっぱ隻狼は永遠だ!

連続投稿は一旦終了です。

また少しストック溜めます

追記
やっぱ連続投稿再開します。楽しすぎて書いちゃった


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消滅

葦名城 天守閣

 

弦一郎は天守閣から大手門まで突破された道、燃える虎口門、破壊された月見櫓、逃げ惑う兵士達、倒れている多くの寄鷹衆を見て、持っている刀を落としてしまった。

 

「...これで...終いか」

 

霊夢は畳の上に着地すると、明らかに落ち込む弦一郎に話しかける。

 

「終わりなら質問していいかしら」

「.....」

 

弦一郎は答えないが、霊夢は勝手に質問し始めた。

 

「下にいた一心って男が葦名の奴等は自分が存在する理由を知らないって言ってたけど、何のことかしら?」 

「お祖父様が...」

 

弦一郎は霊夢の方を振り向くと、彼女は他の質問をし始める。

 

「なら...今から言う歌について心当たりがあったら言って頂戴」

「歌...?」

「幻想郷に残ってた唯一の『葦名』に関する情報らしいわ。慧音と阿求が探し出してくれたの」

 

すると霊夢はゆっくりとその歌を歌い始める。

 

『野にはむくろが、山となり

 

竜泉川は、あけの川

 

鬼はおおかみ、あけの神』

 

「!!!」

 

弦一郎はその歌を聞いた瞬間、全身が震えだし汗を垂らす。

 

「...その歌が書いてあった巻物には他にも『兵士、民草あわせて、死者数千。生き残りは、殆どなし。葦名には、鬼が潜んでいる』って書いてあったそうよ」

 

弦一郎は何も答えられない。

 

「葦名の復活願ってるようだけど、その巻物から察するにあんたの故郷ではかなり悲惨な事が起きたみたいね」

「葦名...俺は.....そうだ、俺は.....御子の忍びに斬られ.....黒の不死斬りを手に入れ...梟に.....」

 

弦一郎はブツブツと何かを呟いていると、何も前兆もなく彼の体が紅い炎に包まれる。

 

「!?」

 

霊夢は驚くが、それは弦一郎も同じようである。

 

「これは.....」

 

しかし痛みや熱さはないらしく、弦一郎は燃える体を見て悲しげな表情になった。

 

「思い出した...俺は...梟に斬られ...死んだのか...」

 

霊夢は燃える弦一郎をなんとか救おうとするも、近づいた瞬間炎が大きく燃え盛り近寄れない。

 

「.....葦名の黄泉帰りなど...最初から出来ぬことだったのか.....ならば何故俺はここにいる?何故俺は...」

 

すると弦一郎は自分の燃え盛る体がゆっくりと白い灰になっていくのを見て、大きく目を見開いた。

 

「ああ、そうか.....これは.....記憶か。俺は...最初から黄泉帰っていなかったのだな」

 

そして弦一郎はその場で倒れて、灰となり消えてしまい燃え盛る炎は天守閣に広がっていく。

 

霊夢は最早ここにいられないと悟り、すぐに下にいる妖夢と共に脱出することを決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葦名道場

 

霊夢は階段を駆け下りて、道場に到着すると倒れている妖夢を見て驚いた。

 

「妖夢!」

 

霊夢はすぐに妖夢に駆け寄り体を支えると、彼女はゆっくりと目を開けた。

 

「れ、霊夢...」

「何があったのよ」

「い、一心と戦っていたら...変な男が現れて...そいつに斬られた」

「!」

「霊夢は...敵の総大将はどうした」

「...もういないわ。とにかくここから脱出するわよ」

 

霊夢は妖夢を抱えると、すぐに窓から出て飛行し人里へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水手曲輪

 

魔理沙と咲夜は大忍びの二人と戦っていたが、城が燃え盛る光景を見て戦闘を止めてしまっていた。

 

「し、城が燃えてるぜ...」

「どうやら終わりのようね」

 

二人は梟とお蝶を見ると、二人は城の方をジッと見つめて動かない。

 

「...梟よ」

「.....」

「どうやら...ここまでのようだね」

「...思い出した。儂は...倅に...狼に、いや...修羅に」

 

すると梟の体から紅い炎が吹き出し、彼はその場に倒れ灰となって消えてしまった。

 

その姿を見てお蝶はため息をついた。

 

「...ふぅ...己の野心のために狼を巻き込み、修羅へと変える手助けをしたのか。馬鹿な男よ」

 

お蝶は魔理沙と咲夜を見ると、クナイを地面に落として空を見上げる。

 

「誰かに作られたまぼろしとわかっていたが...まさかあ奴が創り出していたとは。腕を上げたね...狼」

 

するとお蝶の体からも炎が溢れて、その場に倒れて灰となって消えてしまった。

 

「な、何が起こってるんだぜ」

「わからないわよ...」

 

すると水手曲輪のあちこちから同じ紅い炎が現れ、すぐに辺り全体を炎の海へと変貌させた。

 

「とにかく脱出するぜ!」

「同感!」

 

魔理沙と咲夜も浮遊して、人里へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里

葦名城に侵入していた全員が人里へと帰還すると、その場にいた全員が燃え盛る葦名城を見つめていた。

 

そして城はどんどんと灰となって空に舞い上がり、やがて妖怪の山の頂きが露わとなってくる。

 

そして数十分後には城は完全に消え去り、幻想郷から消え去ってしまった。

 

妖夢を地面に置いて霊夢は城があった場所を見つめる。

 

「.....これで.....終わり?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽の畑

紫は椅子に座りエマの話を聞いていた。

この異変の真実を、葦名の城、そして葦名の者達が現れた理由を、そして歪みの正体を




最終話書き終えました。
最後までよろしくお願いします!


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真相

「さて...まず何から話しましょうか」

 

紫はテーブルに幽香が用意した紅茶を飲むと、扇子を広げてパタパタと扇ぐ。

 

「全て最初からお願いしますわ。そもそも貴方は誰ですの?」

「私はエマ。葦名の城にて薬師をしております」

 

紫は葦名城と聞いて少し眉間にシワをよせるも、すぐに幽香が話に入る。

 

「こいつは城の連中とは違うわ。なんせこの腕をくっつけたのもこいつよ」

「傷薬瓢箪と縫合だけでまさか繋がるとは思いませんでした。妖怪とは不思議なものですね」

 

紫はそれを聞くと、息を吐いてエマとの話を続ける。

 

「まず貴方は何を知っているの?」

「葦名城が突如現れた原因を、この戦の真実を、葦名の全てを」

「!」

「そもそも、貴方は葦名という地を知っておりますか?」

「...いえ、どれだけ調べても葦名という地はどこにも残っておりませんわ」

「私も幽香さんから聞いて驚きました。そして現代から計算すると葦名は約四百年程前に存在した国の名前です」

 

紫はそれを聞いて納得の表情になる。

 

「それであんな武装なのですわね。戦国時代の人達なら納得ですわ」

「そして葦名は滅びました。たった一人の忍びによって」

「...」

 

すると紫はスキマを開いて慧音と阿求が探し出した巻物をエマに見せる。

 

「これは」

「現代に残ってた葦名に関する資料よ」

「拝見します」

 

エマは巻物を読んでいくと、悔しそうに目を瞑ってため息を吐いた。

 

「鬼...彼の事ですね...」

「彼?」

「.....葦名を滅ぼした忍び...かつて狼と呼ばれておりました」

「狼...!それって巻物に書いてあった『鬼はおおかみ あけの神』の...」

「はい。彼は熟練の忍びでしたが、斬ることに喜びを覚え、何故斬っていたのかすら忘れた修羅となりました」

「修羅...ねぇ」

「主を裏切り、私を斬り、救い人を斬り、義父すら斬った。そして内府の軍も、葦名の兵も、民も斬り尽くした」

「!貴方も斬られた?なら貴方は...」

「はい。私は死人同然です」

「けどこうして目の前で生きているわ」

「後々説明します」

 

そのことを聞いて流石の紫も緊張の顔つきとなる。

 

「.....彼はその強さと竜胤によって不死の存在となっており、どんな強者でも彼を止められる者は誰もいなかった」

「不死...それに竜胤...長く生きてきた私も聞いたことがありませんわ」

「当然です。知っている者は皆彼に斬られたのですから」

「成る程」

「この葦名に関する巻物も残っていることが奇跡でしょう...書き手は斬られているでしょうが」

 

するとエマは巻物を紫に返し、立ち上がって窓から空を見上げる。

 

「すべてを斬り尽くした修羅は、やがてある後悔と願いに取り憑かれます」

「後悔?」

「それはかつて主である九郎という少年を裏切ったという後悔、そして再び相見えたいという願いも生まれたのです」

「...」

「修羅があらゆる者を斬っている最中に九郎殿は病にて亡くなっています。それに気付いた時には遅すぎました」

「裏切っておいて勝手ですわね」

「そこで修羅は葦名の地にあった『薄井の森』という霧が深く、幻が彷徨う場所で修行を積み、『歪み』と『現れ』という高度な幻術を編み出しました」

 

紫は歪みという言葉を聞いて目を見開く。

幻想郷の住人を苦しめた能力制限の術であり、紫もかなり苦戦させられた。

 

「歪み...修羅はそれを作り出した」

「まず『歪み』とは、広範囲の対象者の意識に己の意志を潜り込ませ、自分自身に制限をかけされる幻術です。例えば熟練の剣士に歪みをかければ、その剣士はこれまで学んだ筈の技術を使えないと認識させ、制限させてしまうのです」

「!じゃあ本当に制限されてるんじゃなくて、勝手に能力が使えないと思い込んでただけって事!?」

「そう心の底から思わせるのが『歪み』なのです。九郎殿の御守りに込められた力を真似て応用し、利用したもの」

 

紫は扇子を閉じて両目を手で抑える。

 

「なんとまぁ...厄介な幻術だこと。私もすっかりスキマが使えないと思わされたということね」

「次に『現れ』とは、修羅の記憶したあらゆるものを広範囲に出現させる幻術です。あくまでも幻術ですが、出現した人々は本物のように喋って動き、触れもします」

「!まさか」

「はい。葦名城...葦名一心、葦名弦一郎、梟、お蝶、そして葦名軍の全員は修羅の編み出した『現れ』によって生み出された幻術なのです。そしてこの幻術を使い九郎殿に再び会おうと彼は考えました」

 

紫はエマの話が信じられなかった。

これまで相手にしてきた葦名軍や、悩みに悩んだ葦名城が全て存在しない幻術と言われれば誰でもそうなる。

 

「そ、そんなことが可能なの?」

「かつて葦名にはお蝶という幻術使いがいました。彼女は幻術によって兵士を生み出し敵を襲わせるという戦法を使います。修羅はそこから案を得て長い年月をかけて発展させたのでしょう」

「なら...貴方も」

「はい。私は既に死んでおりましたが、修羅の『現れ』によってこうしてここにいます」

「...って待って...『歪み』や『現れ』が発動してるってことは、その修羅はこの幻想郷にいるってことよね」

「...それも今ご説明します」

 

紫は腕を組んで考え始めるが、エマは話を続けた。

 

「修羅はその幻術を編み出すために時間をかけ過ぎました。ようやく完成した頃には誰からも忘れられ、最早修羅の事など誰も覚えていなかった」

「!」

「幻想郷をお造りになられた貴方ならおわかりでしょうが...修羅は幻想郷に受け入れられる条件を満たしていました。誰からも忘れられ、思い出しても貰えない者が行き着く最後の楽園への割符を持っていたのです」

 

紫は再び頭を手で押さえて大きく息を吐いた。

 

「そして修羅はこの幻想郷にて九郎殿に会うために幻術を使いました」

「ちょっと待って。それならその九郎とか言う人を出現させるだけでいいじゃない。なんで城が出てきたのかしら」

「...そう。修羅の誤算は正にそれでした」

「!」

 

エマは悲しそうな顔で紫を見る。

 

「修羅が経験した葦名の記憶は既に朧気であり、九郎殿を思い出せなくなっていたのです」

 

 

 




UA10000突破!!
こんなにこの駄作を見ていただき感謝の極み!
最終話まであと少しなので、よければもう少しだけお付き合い頂ければうれしいです!



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遡る記憶

「朧気って...自分の主だったんでしょ?思い出せないって」

「...修羅が最後に主にあったのは既に四百年も前。流石の彼も記憶が曖昧になるのは仕方のないことです」

「.....」

「しかし主には会いたいという願いは確実にあった。そこで修羅は最初から思い出すことにしたのです。主と出会った葦名の記憶を」

 

紫はそのことを聞いて、何かに気づいた。

 

「だから葦名城が出現したと...?」

「はい。『現れ』によって葦名の記憶を思い出し最初から再現した結果、九郎殿だけではなく葦名城やかつて戦った者達、兵士達がこの幻想郷に出現しました」

「それが葦名軍の、そしてこの異変の真相」

「はい。全てはかつての主である九郎殿に会いたいが為の修羅の幻術のせいなのです」

 

紫はエマの話を聞いて、ようやく真実を知ることができ、疑問が晴れていく感覚を覚える。

 

「...」

「...葦名の者達が幻想郷を襲ったのは、葦名の為などではなく...いえ、彼らは葦名の黄泉帰りの為とそう思わせられていたのですが」

「修羅の幻術を邪魔しないように、私達の気を向かせるためのいわば囮」

「はい。そして彼らも四百年前の曖昧な記憶を再現した幻術なのか、思考が変であったり、彼ら自身何か違和感を感じていたかもしれません」

「...」

 

すると紫は他のことを質問し始めた。

 

「貴方は何故そこまで知っているの?葦名の者なら貴方も『葦名の黄泉帰り』のため行動するのでは?」

「.....それはわかりません。何故私が修羅の記憶を知っているのか、何故私は自由な意思を持っているのか...」

「...そういえば半兵衛さんも葦名の黄泉帰りなんて特に言ってなかったわね」

 

エマは再び座って幽香の用意した紅茶を飲み干す。

 

「それで結局その修羅とやらはどこにいるの?」

「はい。それは恐らく...幽香さんが関係しているかと」

「!」

「わ、私?そんな奴と関わってたかしら」

 

紫とエマは幽香を見ると、彼女は何かを思い出して話しだした。

 

「そういえば...一心が来る前にいつものお花達の見回りの時...人の気配を感じたわ」

「!?」

「迷い込んだ人里の誰かと思って簡単に探したけど...というか探してる最中に一心の殺気を感じてそれどころじゃ無かったのよ」

「まさか...太陽の畑が、幽香が狙われた理由は」

「...幻術を作り出していた修羅に近づいた為...?自分の居場所を知っているかもしれないと疑った幽香さんに修羅は...一心様を向かわせた」

「なら修羅はここ太陽の畑にいる...!?」

 

紫はその衝撃の事実に驚いて立ち上がると、幽香とエマも汗を垂らす。

 

「...色々納得。葦名の奴等が...いえ、彼らを生み出した修羅がどうやって私の目を掻い潜ってこの幻想郷の情報を調査していたのか疑問に思ってたけど」

「...」

「ここ太陽の畑を拠点にしてたのね。確かにここは私が調べるのを避ける場所の一つだわ。スキマ使ったら優香にバレて怒られるからね」

「何よ、私のせい?」

「あんたの凄まじい実力をいい隠れ蓑にしてたってことよ。ここはあの風見幽香がいるから人はもちろん妖怪や幽霊もほとんど近づかないわ。地形的にもバレにくいし、侵入者が来てもあんたが対応してくれるし」

「.....否定できないのが悔しいわね」

 

すると幽香の家の扉から叩く音がして、扉が開くと霊夢、魔理沙、咲夜が現れた。

 

「ここに紫がいるって萃香から聞いたんだけど...」

 

霊夢は紫を見つけて、一安心したのか息を吐いた。

 

「異変は解決よ。城は消えて敵も全員消えたわ」

「霊夢...事はそう簡単じゃなくなってきたの」

「.....そんな気はしてたわ」

「...いつもの勘?」

「ええ」

 

紫は霊夢達にエマから聞いた話を全て話し、逆に霊夢達も葦名城であった出来事を話していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『現れ』『歪み』そして修羅...面倒くさい技を作り出したものね」

 

霊夢は椅子に座って隣りにいる魔理沙と用意された菓子を食べていた。

 

「しかしその『歪み』ってのは修羅って奴が編み出して使ってるんだろ?何で月見櫓が崩壊した瞬間能力使えるようになったんだ?」

「私もそれが気になったわ。確かに月見櫓から『歪み』の力が強く発せられていたけど...」

 

するとエマは魔理沙と紫の疑問に答え始める。

 

「修羅は九郎殿に会うために記憶を遡り『現れ』で再現していました。月見櫓は...かつて彼がまだ狼と呼ばれていた頃、九郎殿と三年振りに再会した場所なのです」

「つまり...どういうことだぜ?」

「四百年経った修羅の記憶の中で、最も九郎殿の記憶が残る場所だったのでしょう。『現れ』を月見櫓に集中させて九郎殿の出現を待ち、その間誰も近づけぬように櫓には強い『歪み』をかけ、梟とお蝶という強力な者達で護衛させた」

「...じゃあやっぱ私が見た子供は」

「仰っていた容姿から察するに...九郎殿で間違いございません」

 

すると咲夜は魔理沙の行動を思い出して、少し笑った。

 

「そんな大事な場所を貴方は吹き飛ばしたのよね。フフ...その修羅って人も魔理沙にカンカンじゃない?」

「う、うるさいぜ!」

「恐らく月見櫓が崩壊したことにより意識が乱れてしまい『現れ』の幻術が解かれ、『歪み』も一時的に解除されたのでしょう。二つの幻術はかなりの集中力が必要ですから。葦名城が消え去ったのもその影響かと」

 

「それで?歪みや異変の真相を知って私達はどうするの?」

 

咲夜は霊夢を見ると、彼女は腕を組んで悩み始める。

 

「.....」

 

するとエマはある提案をするため話し始める。

 

「私としては...修羅を止めてほしい」

「...」

「『現れ』が解除され葦名城が消えたとはいえ、私は未だここにいます。つまりまだ完全に解除はされていません。となれば...修羅は再び記憶を遡り、もう一度最初から思い出す為、葦名城を出現させる筈」

「!倒したのにまたあいつらも出るのかぜ!?」

「彼等も所詮は修羅が生み出した幻術に過ぎません。修羅を止めぬ限り倒してもまた黄泉帰り、記憶も無くし再び幻想郷を攻めるでしょう」

 

それを聞いて紫は立ち上がり、霊夢を見る。

 

「なら決まりね。修羅を倒すしかないわ」

「...」

「奴をこのまま生かしておけば再び幻想郷に混乱を招く」

 

すると魔理沙も立ち上がり、エマの意見に賛同した。

 

「私もそれに賛成だぜ。なんせ月見櫓でその九郎って奴に頼まれちまってさ...我が忍びを止めてくれって」

「異変の元凶を倒してないならまだ異変は終わってない。そうでしょ霊夢」

 

そして霊夢はため息をしながら立ち上がると、お祓い棒を肩に乗せて全員の顔を見る。

 

「...終わらせるわよ、この異変を」

 

霊夢がそう話すと全員が頷き、幽香の家の扉を開いて太陽の畑へと出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし全員外に出た瞬間背筋が凍る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽香の家の前にボロボロな鎧を着て、体の至る所に火の粉が付き、片目を隠し、片腕が義手の男が立っていたのだ。

 

その姿を見てエマは手で口を覆う。

 

「...狼殿.....!」

 

この男こそ、この異変の元凶

 

斬ること喜びを覚え、何の為に斬っていたかすら忘れた修羅

 

数千、数万の命を斬った葦名に住まう鬼

 

かつては熟練の忍びで、剣聖一心すら止められなかった怪物

 

 

霊夢は修羅の姿を見て、何度も大規模な異変を解決してきた彼女でさえ汗が吹き出し動けない。

 

それは全員同じであった。

 

 




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修羅

修羅は幽香の家から出てきた霊夢達をその虚ろな目で睨むと、彼女達全員がまるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。

 

彼から発せられる気味の悪い何かは、歴戦の妖怪である紫や幽香すら不安にさせる。

 

するとエマは彼女達の前にでて、修羅に訴えかける。

 

「狼殿...九郎殿に『現れ』を使い会ったとしても、なにも満たされはしません。最早貴方が本当の九郎殿に会う方法はないのです」

「.....」

「...何故私は他の方々とは違って自分の意志を持っているのですか?貴方は私に何を伝えたいのですか」

 

修羅はエマの問いかけに答えず、ジッと彼女の目を見つめていた。

 

「お答えください...おおか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、エマの胸には修羅が投げた楔丸が突き刺さり、血を吐いて彼女は両膝を地面につける。

 

「かは...」

 

エマの口からは血が溢れ、修羅を見つめた。

 

「後悔を.....願いを見出しても.....貴方は.....やはり...修羅...なのですね」

 

 

 

 

 

 

 

エマが倒れた瞬間、霊夢は爆発する護符を投げ、魔理沙は八卦炉を構え、咲夜は時を止めようと準備し、紫は修羅の近くにスキマを開けて、幽香は日傘を構えて力を溜める。

 

 

しかし修羅は両手を合わせて目を瞑った。

 

「...大歪み」

 

その瞬間修羅の体から黒い気が幻想郷全域に放たれ、それを受けた紫と幽香はその場で気を失い倒れてしまった。

 

霊夢、魔理沙、咲夜の人間組はなんとか意識は保つも、能力は勿論使えなくなった。

 

「早速『歪み』を使ったわね。また浮遊出来なくなったわ」

「けど今までのとはまるで別物よ」

「ゆ、紫と幽香が気絶しちまったぜ!?」

「どうやらあいつか使う『歪み』は人以外の生物をそもそも活動させないって感じらしいわね...」

 

修羅は背負う二刀の大太刀を鞘からゆっくりと抜く。

 

右には赤の不死斬り『拝涙』を、左には黒の不死斬り『開門』を握り、二つの刀から発せられる赤と黒の気が混じり合って不気味な光景を生んでいた。

 

霊夢はお祓い棒を構え、魔理沙は念の為に用意していた魔法瓶を取り出し、咲夜はナイフを構えた。

 

「霊夢、咲夜。マスタースパークはいつでも撃てるぜ。合図してくれ」

「「了解」」

「それと霊夢、お祓い棒が使えなくなったら言ってくれ」

「わかったわ」

 

霊夢と咲夜は構えながらゆっくりと修羅に近づいていく。

 

「行くわよ」

 

まず最初に動いたのは霊夢であり、跳躍して空中で回転しながらその勢いと共にお祓い棒で薙ぎ払う。

 

しかし修羅は簡単にお祓い棒を弾くと、直ぐ様反撃するが彼女は避けて足払いを仕掛ける。

 

だが彼は跳躍して霊夢を踏みつけると、空中にいながら忍義手から黒く光る手裏剣を咲夜に投げた。

 

「っ!」

 

咲夜はナイフで防ぐも、手裏剣は止まらず回転し続け黒い気は彼女の体を傷つけた。

 

霊夢は踏みつけられ、手で頭を押さえる。

 

「咲夜!仕掛けるわよ!」

「わかってるわ!」

 

霊夢は回し蹴りを仕掛けると、咲夜もナイフで近接戦を仕掛けて修羅を斬り刻もうとする。

 

しかし彼は二つの不死斬りで全てを防ぎ斬ると、後ろに下がり腕の力を抜いて刃を下に向ける。

 

霊夢はその姿に嫌な雰囲気を感じて、動こうとする咲夜を手で押さえる。

 

すると修羅は二つの不死斬りを同時に振り上げ、二つの奥義不死斬りを使った八の字の斬撃を彼女達に向かわせる。

 

「!?」

 

霊夢と咲夜は受けようとは全く思わず、すぐに横に避けて魔理沙は紫と幽香を引きずって移動させた。

 

斬撃は幽香の家をまるで豆腐のように斬り裂き、断面は磨かれたように綺麗であった。

 

「あ、あっぶな!」

「あんなの受けたら...」

 

霊夢と咲夜は二刀の不死斬りを構えた修羅を見て、焦りと共に武器を構え直す。

 

すると修羅はその場で軽く回転すると、不死斬りから斬撃を出して回転の勢いと共に飛ばした。

 

霊夢は姿勢を低くして避け、咲夜は跳躍して避けた。

 

「これでもくらいなさい!」

 

霊夢はお祓い棒を両手で握りしめて、隻狼の頭を思いきり叩きつけた。

咲夜はナイフで首、脇の下、太腿を斬り裂き最後には後ろ蹴りを喰らわして吹き飛ばした。

 

「どんなもんよ!」

 

霊夢と咲夜は吹き飛んだ修羅を見ると、彼はすぐに立ち上がって何事もなかったかのように立ち上がった。

 

「!」

「冗談でしょ...」

 

修羅は二人に向かって走り出すと、跳躍し一回転して赤の不死斬りを霊夢の頭目掛けて振り下ろした。

 

彼女は攻撃を避けて反撃しようとすると、彼は直ぐ様黒の不死斬りを振り上げて跳躍しながら後転して距離を取る。

 

これは寄鷹衆が使っていた寄鷹斬り・逆さ回しである。

 

「今のって...」

 

さらに二刀の不死斬りを鞘にしまって赤の不死斬りを腰に構えると、霊夢の近くまで移動して素早く抜刀し、赤い残像を残して十字に斬り裂いた。

 

葦名流奥義 葦名十文字である。

 

霊夢は受けるしかなく、神樹で出来た堅いお祓いはいとも簡単に斬られた。

 

「魔理沙!」

「おう!」

 

魔理沙は霊夢の合図と共に魔法が込められた瓶を投げると、彼女は受け取って砕いた。

 

すると砕かれた瓶の中から青色に光る魔法で作られた棍棒が現れ、修羅の赤の不死斬りの刃とぶつかり合う。

 

赤い火花と青い火花が辺りに散らされ、修羅と霊夢の力比べが始まる。

 

 

 

 



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大歪み

二人の鍔迫り合いを制したのは修羅であり、彼は霊夢の魔法棍棒を弾くと彼女の胸に掌底をくらわし、次に肘で顔を殴り、最後は背撃で彼女の体を吹き飛ばした。

 

次に咲夜が両手に持つナイフを高速で操り修羅に襲いかかると、彼は忍義手から血で汚れた黒い鉄扇を出して広げ、巨大な黒い鉄傘に変形した。

 

「!?」

 

咲夜のナイフは黒い鉄傘を斬れず、ならば貫けばいいと構えて刺した瞬間修羅は傘を回してナイフを強く弾いた。

 

「盾!?」

 

修羅は傘を閉じて鉄扇に戻すと、不死斬りと同時に咲夜の体に八の字を刻んだ。  

 

咲夜は防御するがナイフは破壊され、彼はその場で跳躍して回転すると、足の甲で咲夜の頭を蹴り落とした。

 

そして回し蹴りを彼女に仕掛けて地面に叩き伏せる。

 

仙峯寺に伝わる流派技の仙峯脚である。

 

「かはっ...」

 

咲夜は立ち上がろうとするも、修羅は不死斬りを振り上げ彼女の首を落とそうとした。

 

しかし霊夢が魔法棍棒で不死斬りを防ぎ、修羅の顔面に拳をお見舞いして吹き飛ばした。

 

「はぁ...はぁ...」

「め...珍しいじゃない霊夢...あんたの血を見たの初めてかも」

 

霊夢は口、そして鼻から血を出しており、袖で拭うも血は止まらない。

 

「なんか...勘が働かないのよ。あんたも随分遅れ取ってるじゃない?」

「うっさいわね...」

 

咲夜は霊夢の手を掴んで立ち上がると、懐からナイフを取り出し構える。

 

「...まさかとは思うけど、さっきあいつがやった歪みでいつもの実力が出せなくなってるかもしれないわ」

「!」

「気のせいだと信じたいけど...私が戦闘で血を出すなんて何年もなかったからね」

「それが本当なら厄介ってレベルじゃないわよ...」

 

修羅はゆっくり立ち上がると、再び二刀を両手に握り構える。

 

「エマの言ってたこと覚えてる?」

「何をよ」

「幻術は集中力が必要だって。何とかして奴の意識を乱して歪みを解除させれば勝ち目が出てくるわ」

「結構攻撃してダメージ与えたけど...全く乱れてないじゃない」

「不死だから攻撃くらうのなんぞ慣れてるんでしょ。どこぞの姫もそうだったし」

「じゃあどうすんのよ」

「そこで魔理沙の出番よ。前に宴会で幻影魔法使って騒がせてたじゃない?」

 

霊夢は魔理沙を見て、咲夜も頷いた。

 

「私も月見櫓で助けられたわ」

「そこで...」

 

霊夢は咲夜にだけ聞こえるよう小声で話すと、彼女は納得した表情になった。

 

「いけるかもしれないわ」

 

すると修羅は跳躍して刀を振り上げ、二人に襲いかかる。

霊夢は彼の攻撃を魔法棍棒で弾き、咲夜を後ろに退かせる。

 

「魔理沙に伝えなさい!」

「了解!」

 

霊夢は修羅の攻撃を弾き返すと、すぐに連続攻撃を仕掛けて咲夜から気を逸らす。

 

しかし修羅は強く踏み込むと同時に片手で持つ赤の不死斬りを振り下ろし、彼女に葦名一文字を仕掛ける。

 

「ぐっ...やるわね」

 

霊夢は一文字を難なく弾くと、なんと彼女は修羅の技を真似て葦名一文字を彼に仕掛けた。

 

「!」

「中々いいじゃないこの技。腕の痺れも少し取れたわ!」

 

修羅は葦名一文字を一度見ただけで再現され少し驚くが、直ぐに攻撃を再開する。

 

二人の攻撃と弾き合いは辺りに耳が痛くなるほどの連続した金属音を響かせ、激しさを増していく。

 

すると魔理沙に作戦を伝えた咲夜は霊夢と修羅の弾き合いに参加し、ナイフで彼女を援護する。

 

しかし修羅は霊夢と咲夜の同時攻撃すら完璧に弾き、むしろ押しつつあった。

 

「化物ね...!」

「合図したら退くわよ!」

「了解!」

「1...2...3!!」

 

霊夢の回転の勢いを利用した渾身の魔法棍棒の一撃と、咲夜はナイフを靴にはめての回し蹴りを仕掛けて防御した修羅は大きく後ろに下がる。

 

その瞬間後ろにいた魔理沙が跳躍して、魔法瓶を彼の足元に投げた。

 

瓶が割れると大量の煙を放出し、その中から魔理沙がかつて月見櫓で見た少年が現れる。

 

修羅はその姿を見て大きく目を見開き、構えていた不死斬りを刃を下に向けて止まってしまった。

 

 

 

 

 

「.....御子.....様」

 

 

 

 

 

 

修羅はそう呟くと、不死斬りを持った片手で少年に触れようとする。

 

しかし帰ってきたのは霊夢の膝であり、さらに魔法棍棒による連続攻撃を全身でくらった。

 

さらに彼女の周りに出現させた巨大で様々な色を光らせる七つの玉を修羅に全てぶつけた。

 

玉は当たると爆発し、その衝撃は修羅の体を地面から離れさせて大きく吹き飛ばす。

 

博麗霊夢の最も得意とするスペルカード。

霊符 夢想封印である。

 

さらに後ろに吹き飛んだ先にいきなり咲夜が現れ、次の瞬間何十というナイフが彼の全身に突き刺さっていた。

無敵と称される時を操る能力を使い、誰も認知も動くこともできない彼女だけが活動できる時の世界にて、敵に大量のナイフを突き刺す。

スペルカード 咲夜の世界である

 

 

魔理沙は魔法陣を五つ召喚し、それぞれ光る魔法玉からレーザーを発射し修羅の体を貫かせる。

魔理沙が魔法研究で編み出した高威力のスペルカードの一つ。

 

恋符 ノンディレクショナルレーザーである。

 

修羅の体、口から血が吹き出し、彼は不死斬りを支えに何とか倒れないようにする。

 

 

 

 

「今よ!!」

 

 

 

 

 

霊夢の大声が辺りに響くと、修羅の後ろの草原からなんと居合の構えをして飛んでいる妖夢が現れた。

 

そして楼観剣を素早く鞘から抜いて、光速で斬り抜けた。

 

修羅の体に真っ直ぐな刀傷を負わせ、彼を遠くの地面に叩き伏せた。

一瞬で敵を斬り、その一撃は確実に相手の魂を現世から遠ざける妖夢渾身のスペルカード。

 

人符 現世斬である。

 

咲夜は妖夢の姿を見て、驚いていた。

 

「妖夢!どこに行ったかと思ったら!」

「私がここに来る前に隠れさせてたのよ。こんなことになるだろうって思ってね」

「...流石の勘だわ」

「霊夢!とりあえず斬ったけど良かったのか!?」

「バッチリよ!」

「ようやく調子が戻ってきたぜ!さっさとあいつ倒して異変解決だ!」

 

全員が渾身の一撃を使い、修羅の倒れる場所へと向かった。




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無双

霊夢達は太陽の畑の奥に飛んでいった修羅を追っていくと、彼がいる方角から炎の柱が現れる。

 

それは葦名城の強者達を燃やした炎と同じ、紅くしかし不気味な色であった。

太陽の畑に咲いている花が次々と炎に焼かれて、黒い焦げとなり辺りに舞っていく。

 

霊夢達は修羅が倒れている場所にたどり着くと、彼から桜色の気が発せられ、上空から桜の花びらが舞い落ちていることに気づく。

 

「何よあれ」

「ピンク色のなんか出してるぜ?」

「...皆気をつけて...第二ラウンドよ」

 

霊夢の言葉に全員が聞き入ると、修羅はゆっくりと不自然に起き上がる。

 

「.....」

 

修羅は二刀の不死斬りを構え直し、霊夢達を睨んだ。

先程の幻影に不快感を感じているのか、明らかに怒りの雰囲気を出している。

 

「ここからが本番よ。気を引き締めなさい」

「能力使えるようになったのよ?ならもうあいつに勝ち目はないわ」

「咲夜!ちょっと待ちな」

 

咲夜は懐から懐中時計を取り出し、能力を使って時を止めた。

 

「既に貴方の時間は私の物...直ぐに楽にしてあげるわ」

 

咲夜は修羅の近くまで移動すると、ナイフを彼の喉元に近づけた。

 

「これで異変は終わりよ」

 

咲夜はナイフを動かそうとした瞬間、こちらに手を伸ばして大きく口を開けている霊夢を見てしまった。

 

「...?」

 

咲夜は霊夢が何を心配しているのか分からなかったが、それは次の瞬間思い知ることになる。

 

「!!!」

 

咲夜がナイフを動かそうとすると、なんと修羅の目がゆっくりと彼女の方を向いたのだ。

 

「なっ!!?」

 

咲夜はすぐに修羅から離れて、ナイフを構えた。

 

そして修羅は咲夜が時を止めた世界の筈なのに、ゆっくりと動き始め彼女の方に向かってきたのだ。

 

「ありえない...!」

 

咲夜は修羅から十分距離を取って能力を解除した。

 

霊夢達から見れば咲夜がいきなり移動したのは当然と思うが、彼まで少し移動していることに驚いた。

 

「!あいつも移動したぞ!?」

「良かった...咲夜は無事ね」

「な、何が起こったんだぜ?」

「咲夜が時を止める瞬間、あいつからほんの少し『歪み』の力を感じたのよ」

「け、けど私はまだ魔法使えるぜ?」

「恐らくほんの一瞬だけなら集中もそこまで必要なく弱い『歪み』を使えるらしいわね。咲夜の時を止めた世界もおかしかったから」

「おかしい?」

「時を止めたならいくら私でも咲夜の行動は見えはしないわ。けど今回はあいつらが動いてるのわかっちゃったのよ」

「そ、そうか?私は見えなかったぜ?」

「超光速で動いてたからね。私か...妖夢も少しはわかったんじゃない?」

 

霊夢の言葉に妖夢も頷いた。

『歪み』によって能力を阻害され、咲夜の時を操る能力が不完全に発動してしまったのだ。

正確には完全に時が止まった世界ではなく、止まったかのように思えるほど時間がゆっくり進んでいる世界へと。

 

咲夜は霊夢の説明を聞いて冷や汗をかき、これでもう能力を安易には使えないと奥の手が封じられたのだ。

 

すると妖夢は楼観剣を構えて、大きく振り上げ刀身に妖力を溜める。

 

「断命剣!冥想斬!」

 

妖夢は妖力を溜めて巨大な光る刀身になった楼観剣を修羅目掛けて振り下ろした。

 

彼女の攻撃は辺りに衝撃と爆風を靡かせるも、修羅は二刀の不死斬りで楼観剣を受け止めていた。

 

「!?」

 

自分の一撃がまさか防がれている事に驚くも、妖夢はさらに力を込めて修羅を潰そうとする。

 

しかしその瞬間、修羅は忍義手から黒い羽を縄でまとめた物を前に出した。

 

妖夢は急に彼の抵抗が緩んだ事に好機と見て楼観剣で叩き潰す。

 

「!」

 

しかしその時黒い霧のようなものが妖夢の体を通過し、黒い羽と赤い羽根が彼女の周りに飛び散った。

 

ほして先程まで楼観剣の下にいた修羅が、彼女の後ろへといつの間にか移動していた。

 

「いつの間に...!」

 

妖夢はすぐに振り返ったが、次の瞬間彼女の周りを舞っていた羽が発火し炎に包み込まれる。

 

「ああっ!!」

 

霊夢達は妖夢が炎に包まれた姿に驚き、魔理沙はすぐに妖夢に水魔法を当てて炎を消した。

 

「だ、大丈夫か!?」

「はぁ...はぁ...な、何とか」

 

妖夢は楼観剣を地面に刺して支えとし、倒れるのを防ぎ修羅を睨む。 

 

「おのれ!」

 

妖夢は白楼剣も鞘から出して、修羅に襲いかかる。

それを援護するように咲夜はナイフを投げ、魔理沙は箒を召喚して八卦炉をつけて猛スピードで修羅に突っ込み始める。

 

すると修羅は二刀の不死斬りの刃を地面につけると、ゆっくりと目を閉じた。

 

そして襲いかかる妖夢達目掛けて二刀の不死斬りを振り上げると、拝涙から出る赤い気が人の形に形成し始めた。

開門からも同様に黒い気が人型に変化し始める。

 

妖夢が楼観剣と白楼剣を同時に振り下ろすと、その攻撃を受け止めたのは修羅の不死斬りではなく、なんと赤い気で出来た人型の何かであった。

 

その人型の何かは気でできた刀を持っており、妖夢の二刀を弾き返す。

 

「!!貴方は...!」

 

妖夢はその人型に見覚えがあった。

かつて葦名城で争い、自らの技を美しいと褒めてくれた一心だったのだ。

 

開門から出た黒い気は魔理沙と咲夜相手に互角以上の実力を発揮した梟に形成した。

 

そして一心は妖夢に葦名十文字を仕掛けて弾き飛ばし、梟は突撃してくる魔理沙に爆竹で妨害し纏い斬りを仕掛け、咲夜が飛ばしたナイフは修羅が弾いてお返しと手裏剣を投げる。

 

「ぐわっ!」

「いでっ!」

「くっ...!」

 

妖夢は防御するも斬撃は防ぎきれず肩と横腹を斬られ、魔理沙は直撃は避けたものの大きく転倒し、咲夜は手裏剣の回転を防ぎきれず左腕を怪我した。

 

修羅は不死斬りを構え直すと、隣りにいた一心と梟は灰となって消えていった。

 

「あれが例の幻覚の一つ『現れ』らしいわね」

「まさか一心を出すとは...」

「咲夜!あの月見櫓で見たおっさんが出てきたぞ!」

「言われなくてもわかってるわよ」

 

すると霊夢は片手に魔法棍棒と、魔理沙達が攻撃している間に自らの霊力と護符で作り上げた特製のお祓い棒を持って修羅に近接戦を仕掛ける。

 

霊夢は修羅の突き攻撃を見切って踏みつけると、その間に攻撃を仕掛ける。

 

しかし彼は鉄傘を展開して彼女の攻撃を弾き、踏みつけられている不死斬りを引き抜き反撃に出る。

 

「!」

 

修羅は奥義不死斬りを放ち霊夢は魔法棍棒で弾き、棍棒はヒビが入り砕けてしまった。

 

彼は好機と見るやすぐにもう一度奥義不死斬りを行うも、彼女は護符を目の間に張り出し四角形の結界を二つの召喚して攻撃を防いだ。

 

そしてお祓い棒で攻撃し、修羅も不死斬りで弾く。

 

二人の攻め合いは熾烈を極め、修羅は一歩も譲らず猛攻し、霊夢は攻撃を受け流し相手の体力切れを待つ。

 

「す、凄いんだぜ」

「流石霊夢ってとこね...」

「...」

 

修羅は奥義不死斬り、葦名流、旋風斬り等あらゆる技術を使い霊夢を攻撃するも、彼女はまるで全ての攻撃がわかっているかのように流し弾いている。

 

ありとあらゆる攻撃を流し、紙一重で避け、相手にも傍観者にもその無駄のない完璧さに見惚れさせる。

これこそ博麗の巫女であり、幻想郷で唯一異変解決屋として名を轟かせている博麗霊夢の本来の実力である。

 

「.....」

「.....」

 

修羅と霊夢は共に何も言わずただ己の武器を振るい、相手を倒すことだけに集中していた。

 

そして二人の勝負にいよいよ進展が起こった。

 

修羅は霊夢の攻防に慣れてくると、目を閉じて開門からはお蝶、拝涙からは弦一郎を出現させて、彼女にはクナイを投げさせ、彼は大弓で四連続の矢を撃たせた。

 

霊夢は両脇に結界を張って二人の攻撃を防ぐと、修羅は先程幽香の家を壊した不死斬り二刀で八の字に刻む斬撃を放つ。

 

霊夢はスライディングで斬撃をかわし、止めようとしてくるお蝶、弦一郎を地面に張った結界で足の動きを止めて、お祓い棒で二人の後首を弾き消し去った。

 

修羅は鉄傘を展開して霊夢の攻撃を防ごうとするが、彼女は懐から封魔針を取り出し思いきり投げて傘に突き刺した。

 

そしてお祓い棒を両手で握り、刺さった針目掛けて全力で薙ぎ払う。

 

お祓い棒で押された封魔針は硬い鉄傘を貫通し、修羅の左腕にある忍義手を貫いた。

 

「!」

 

忍義手にダメージが入り鉄傘が展開できなくなると、霊夢はお祓い棒で忍義手を突き刺し抉る。

 

そして忍義手で持っていた開門を蹴り飛ばすと、お祓い棒を忍義手から抜いて思いきり振り下ろした。

 

「その義手は...もう終わりね!」

 

忍義手は完全に破壊され、修羅の体から離れ地面に落ちてしまった。

 

 

 

 

 

霊夢は直ぐ様とどめを刺そうとすると、彼の左手から妙な炎が吹き出した。

普通の炎とは違い妙に明るい色をしている不気味なもので、見るだけで嫌な気配をさせる不可思議な炎であった。

 

「っ!」

 

霊夢はすぐに修羅から離れると、彼の左腕を燃やす炎はどんどん大きくなっていき、やがて全身を包み始める。

 

「ちょっとちょっと!どうなってんのよこれ!」

 

すると後ろで見ていた三人が霊夢の隣に立って、魔理沙が八卦炉を修羅目掛けて構える。

 

「今がチャンスだぜ!これで最後だ!」

 

魔理沙は八卦炉からマスタースパークを発射し、修羅を消そうとした。

しかし彼の左腕から吹きでる炎は巨大な手に変化させ、なんとマスタースパークを止めたのだ。

 

「!?うそぉっ!?」

 

魔理沙もその光景に驚愕し、八卦炉のパワーをさらに高めてマスタースパークをファイナルマスタースパークに変化させて修羅を倒そうとした。

 

しかし彼から出る炎の腕は全く衰えず、魔理沙の攻撃を受け止めている。

 

そして八卦炉からファイナルマスタースパークが出なくなり、完全にパワー切れとなった。

 

修羅から生える炎の腕は段々と小さくなり、歪な形をしているが、彼の新たな左腕として完成する。

 

 

 

この結果に流石の霊夢も唾を飲み込み、ゆっくりと立ち上がって全身から炎を灯して赤の不死斬りを構える修羅に恐怖を感じる。

 

「魔理沙」

「...ああ」

「咲夜」

「...ええ」

「妖夢」

「...うむ」

 

「あの化物を倒すわよ...何としても!」

 



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修羅の怨嗟

霊夢はお祓い棒を構えて修羅に近接戦を仕掛けると、彼は燃える左腕を横に振るい何個もの巨大な火の玉を彼女の進む道に吐き出すように着弾させる。

 

「!」

 

霊夢は火の玉をなんとか避け、お祓い棒で修羅の横腹目掛けて薙ぎ払う。

 

しかし彼は右手に持つ赤の不死斬りで受け止め弾くと、燃えた左腕を上に掲げて巨大な炎の柱を作り出す。

 

「んなっ!?」

 

霊夢はすぐに目の前に結界を何十も張って防御すると、修羅は燃える左腕を霊夢目掛けて振り下ろした。

 

炎の柱は霊夢の結界に防がれるも、すぐに亀裂を入れて氷菓子のように溶かし始めた。

 

 

 

すると彼の両脇から魔理沙、咲夜が霊夢を援護するため襲いかかる。

 

「星符!メテオニックシャワー!」

「傷符、インスクライブレッドソウル」

 

魔理沙は箒に乗りながら片手を前に出し、掌から星型の弾幕を高速で打ち出し、咲夜は両手に握るナイフを超高速で操り多数の斬撃を飛ばす。

 

すると修羅はその場で空高く跳躍して二人の技を避けると、着地すると同時に燃える左腕を地面につけて大爆発と強い爆風を生み出した。

 

「おわぁっ!?」

「くっ!」

 

魔理沙は箒と共に爆風で吹き飛ばされ、咲夜は時を止めて修羅から距離を取って事なきを得る。

 

そんな中妖夢は楼観剣を大きく振り上げ、妖力を注ぎ込み全力で振り下ろした。

 

すると爆風は妖夢の楼観剣から別れ、霊夢達を炎と爆風から守る。

 

「いい仕事ね妖夢」

「風と炎を斬る事なんて造作もない」

 

霊夢は結界を解いて上空に浮かび上がると、修羅の足元に護符を何枚も張って祈り始める。

 

「神技、八方龍殺陣!」

 

修羅の足元にある護符が赤く光出し、彼の周りに結界を張らせる。

そして結界内が強く光りだして彼の体に強い衝撃を起こさせる。

 

「その結界は中々硬いわよ」

 

霊夢は着地すると、結界内で暴れる修羅を見て腕を組んで大きく息を吐く。

 

その近くに魔理沙が現れ、今のうちに作戦を立てるため話し合う。

 

「さぁて、少しの間閉じ込めたばいいけど...」

「どうするんだぜ霊夢」

「正直あんたのマスパを止めるなんて驚きだわ」

「ああ。肝を冷やしたぜ」

「もう幻影魔法の手も使えないし...」

「なぁなぁ」

「?」

 

魔理沙は懐からあるものを取り出し、霊夢の前の地面に刺した。

それは先程修羅が落とした刀の一振り。

黒の不死斬りである『開門』であった。

 

「あんたそれあいつの刀じゃない」

「値打ちもんだと思って拾っちまったけどさ...なんか持った瞬間気持ち悪くてよ...」

「何よそれ」

 

すると妖夢が開門を手にしてその刃を見ると、まるで怪物でも見るような恐れる目つきに変わる。

 

「この刀...なんと禍々しい」

「何よ、確かに不気味だけど...」

「不気味というレベルじゃない。なんというか...妖刀に近い部類の刀だ」

「妖刀?」

「それにあの男が持っている刀と似た気を感じる」

 

すると妖夢は着ている服を捲り、霊夢に血で滲んでいる包帯で巻かれた刀傷を見せた。

 

「...これは葦名城で現れた奴に斬られた傷だ」

「...完全に治ってはいないわね。それが?」

 

妖夢は服を元に戻し、修羅の持つ赤い刀を見つめる。

 

「私は半分は人間だが、もう半分は違う。普通の刀ならこんな傷でも半日もあれば完治する。だが、城で現れたあいつに斬られたこの傷だけは治りがかなり遅いんだ」

「.....」

「霊夢に合図で呼ばれてあの男を見た時驚いた。私を斬った奴と同じ刀を持っていたからだ」

 

霊夢は妖夢の説明を聞いて人里で紫が話していた言葉を思いだした。

 

「まさか...修羅が持つ刀は永遠亭の奴等を倒したっていう再生を阻害する武器...!?」

「恐らくそうだ。その刀と同じ気を持つこの黒い刀も同じ性質を持つだろう」

「.....それなら」

 

霊夢は妖夢から開門を受け取ると、禍々しい黒い気を放つ刀身を見つめる。

 

「この武器なら不死のあいつを倒せる...?」

「!」

「修羅と戦う場合、不死相手にどう勝つかって問題がこれで解決するかもしれないわ」

「やる価値はあるな」

「ええ、それなら私も奥の手を使う。援護して」

「咲夜と魔理沙にも伝えよう」

 

霊夢は開門を背負い、妖夢は咲夜と魔理沙に今の話を聞かせて彼女の援護に回る事にする。

 

そして修羅が結界を破ると、その勢いで奥の手を使うため霊力を貯めている霊夢を狙い拝涙を振り上げる。

 

「させない!」

 

妖夢は楼観剣と白楼剣で修羅の攻撃を受け止めると、鍔迫り合いを仕掛けたお互いに睨み合う。

 

「お前...やはり城で一心を背中から刺した男だな」

「.....」

「容姿はまるで違うが、その刀、そして装着していた義手...」

 

修羅は妖夢との鍔迫り合いを制すると、片手で持つ拝涙を巧みに操り攻撃していく。

 

しかし彼女も負けじと反撃を仕掛けると、彼の燃える左腕がムチのように伸び始めた。

 

「!」

 

修羅は一旦妖夢から離れると、ムチのように伸びた燃える左腕を真っ直ぐ横に伸ばして走り出した。

 

「うわっ!!」

 

妖夢は燃える左腕を楼観剣と白楼剣で防ごうとするが、触れた瞬間炎が彼女に襲いかかり弾き飛ばされる。

 

「ガハッ...」

妖夢は空中に投げ出されるも、楼観剣と白楼剣を鞘にしまい楼観剣を腰に構えて居合の型を取る。

 

そして修羅目掛けて現世斬をもう一度仕掛けるが、彼は拝涙で完璧に弾いてみせた。

 

「!?馬鹿な...一度見ただけで...」

 

妖夢が持っていた楼観剣は弾かれ遠くの地面に突き刺さる。

 

すると咲夜が能力を使い修羅の前に現れ、ナイフを構える。

 

「傷魂!ソウルスカルプチュア!」

 

咲夜はナイフを高速で扱い連続で修羅を斬り刻もうとするが、なんと彼は拝涙で全ての攻撃を防いで見せる。

 

「!」

 

咲夜は目を見開いて驚き、懐から大量のナイフを取り出して空中に投げた。

 

するとナイフは全て修羅の方へ向き、一気に速度を上げて襲いかかる。

 

「幻符、殺人ドール」

 

修羅は燃える左腕を目の前に出し、炎の壁を作って飛んてくるナイフの勢いを殺して地面に全て落とす。

 

「便利な左腕ね!」

 

すると修羅は燃える左腕を巨大な手に変化させて咲夜を掴もうとするが、彼女は能力を使い時を止めた。

 

しかし彼は『歪み』を使い能力を不完全にし、咲夜の世界でも止まらず動き、彼女は避けられず掴まってしまう。

 

「あああああっ!!」

 

咲夜の体は炎の手で燃やされ、苦しみの声を上げる。

 

「やめろ!!」

「咲夜を離すんだぜ!」

 

妖夢は修羅の背中に白楼剣を突き刺して止めようとし、魔理沙は水魔法を唱え燃える腕に大量の水を放射する。

 

しかし水は炎をすり抜け地面に全て落ちていった。

 

「んなっ!?何で炎が消えないんだ!?」

 

そして彼は拝涙の持ち方を変えて後ろにいる妖夢の腹に刃を突き刺し、燃える左腕を爆発させ咲夜と近づいてきた魔理沙を共に吹き飛ばした。

 

「げほっ...」

 

咲夜は遠くの地面に叩きつけられ、妖夢は自らの拝涙の刃を抜くもそのまま倒れて意識を失った。

 

魔理沙は地面に落ちるが、霊夢に向かわせない為立ち上がり、燃える修羅の前に立った。

 

「はぁ...はぁ...まだだぜ」

 

魔理沙は八卦炉を構えると、再び魔力を溜め始める。

 

「これが最後だぜ!!くらって地獄に行ってろクソ野郎!!」

 

魔理沙は八卦炉に己のすべての魔力を注ぎ込み、最大出力でマスタースパークを撃ち出した。

しかし今までのマスタースパークは虹色に輝く巨大な彗星のような技であったが、今回のはドス黒くまるでブラックホールのように全てを引き込み無に還すような印象を受けさせた。

 

山を消し飛ばすと言われているファイナルマスタースパークよりも威力は上とされているスペルカード。

妖器『ダークスパーク』である。

 

 

しかし修羅は左腕の炎を右手に持つ拝涙に流し込み、奥義不死斬りよりも高威力な秘伝 不死斬りを放つ。

 

ダークスパークは真っ二つに割れ、修羅の後ろ以外の畑を吹き飛ばした。

 

 

 

 

魔理沙はダークスパークを破られ、両膝を地面につける。

 

「.....」

 

全魔力を注ぎ込んだ渾身の魔法を使ってしまい、魔理沙は腕を上げる力も入らず眼の前で見下ろす修羅を睨む。

 

「...ケッ.....余裕そうな表情しやがって」

 

魔理沙は手に持っていた八卦炉を使おうとするも、手に力が入らず落としてしまった。

 

「...畜生...あいつの約束守れねぇじゃねえか....畜生」

 

修羅は拝涙を振り上げると、全力で彼女の首目掛けて振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、魔理沙の首を跳ねる筈の拝涙が黒い両刃の刀によって防がれた。

 

「!」

 

修羅は驚き刀の持つ手の先を見ると、そこには光る八つの陰陽玉を周りに浮かばせ、全身が半透明になっている霊夢が開門を片手に修羅を見ていた。

 

「時間稼ぎ、よくやったわ魔理沙」

「...へへ。私で倒してお前の残念がる顔を見たかったんだがな」

「ゆっくり休んで。起きれば次は宴会よ」

「...楽しみだぜ」

 

魔理沙は意識を失い倒れると、霊夢は修羅の持つ拝涙を弾いて開門に力を溜める。

 

そして彼が使ってきた技である奥義不死斬りを使い、彼を遠くへと吹き飛ばした。

 

「さっさと異変を解決して、酒を浴びるほど飲んでやる」

 

 




UA13000突破!
ありがとうございます!!


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夢想天生

霊夢は開門を片手にゆっくりと修羅の倒れる方へと歩き出し、彼は起き上がって燃える左腕を構える。

 

「無駄よ」

 

修羅は左腕の炎を増幅し巨大な火の手に変化させ、霊夢の頭目掛けて振り下ろす。

 

しかし炎は霊夢には当たらず、貫通して地面へ落ちた。

 

「!」

 

修羅は巨大な手を左腕に戻し、奥義不死斬りを仕掛け赤い斬撃を霊夢に飛ばす。

しかし斬撃は彼女の体には当たらず、すり抜けて後ろの花々を斬り尽くした。

 

すると霊夢の周りに飛んでいる陰陽玉から光る玉、護符、針を大量に発射し始め、空の色が隠されるほどの弾幕を張った。

 

「この量を弾けるもんなら弾いてみなさい」

 

修羅は燃える左腕を大きけ広げて盾のように扱うも、全ては防げず体の全身でその弾幕を受ける。

 

彼はさらに攻撃を受けつつ反撃を仕掛けるも、霊夢の体には当たらずすり抜けるのみ。

 

葦名の強者を全て殺し、内府の軍勢すら殺し尽くした男が、目の前にいるたった一人の少女に手も足も出ない。

 

殺しの技術を学び、修羅と呼ばれ、人斬りの天才すら勝つことを許さない。

 

あらゆる物から孤高に浮かび飛ぶ事で何者にも干渉させず、全ての攻撃は雲一つない空に消える。

 

歴代の博麗の巫女は必ずこの技を持っており、誰も寄せ付けない己の最強の奥義のみにその名をつけることが許される。

 

つまりこれは博麗霊夢の最強の技。

 

即ち、夢想天生である

 

 

 

霊夢は弾幕を止めて、ボロボロとなった修羅の前に立つ。

 

「.....」

「...私は人間は殺さないわ。けど...妖怪や怪物は別」

「.....」

「貴方はもう人間じゃないわ。ただの化物よ」

 

修羅は拝涙を振り上げ霊夢の頭目掛けて振り下ろしたが、やはり当たらず刃は地面に刺さった。

 

そして霊夢は開門を振り上げ、修羅目掛けて振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

「...」

 

 

 

 

 

開門から溢れる黒い気は修羅の体を斬り裂き、彼は体から血を吹き出して倒れる。

右手に持っていた拝涙は地面に落として転がっていき、左腕から吹き出している炎も消えてしまった。

 

霊夢は血の付いた開門を強く握りしめて、大きく息を吐いた。

 

「...化物とはいえ、人を斬るのは嫌な気分になるわ」

 

霊夢はその場に座ると、倒れる修羅に話しかける。

 

「...エマって人から聞いたわ。九郎とか言う主人に会いたかったそうね」

「.....」

「だんまりか.....」

 

霊夢はゆっくりと立ち上がると、開門を修羅の首目掛けて刃を向ける。

 

「...」

 

あとは刃をこの男の喉元に突くだけ。

そうすればこの異変は終わる。

 

なのに霊夢の腕は震え、修羅の喉に刃を突き立てることができない。

彼は確かに怪物だ。

しかし彼の姿、異変を起こした理由、思いや願いは人である。

 

霊夢は心の中で本当に自分は化物を殺すのかと何度も自問していた。

 

今から殺すのは人間ではないのか?

 

そう考えると霊夢の手は震えて汗が吹き出る。

 

「はぁ...はぁ...」

 

霊夢はやはり刃を突き立てることはできず、後ろに下がって頭を手で押さえる。

 

「私は博麗の巫女...異変を解決しなければいけないの」

 

霊夢は開門を握りしめるも、汗が大量に吹き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめておけ。其処許には辛かろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢は声のする方向を振り向くと、そこには瀕死のエマに手を貸した半兵衛がいたのだ。

 

「あ、あんた!」

「人里では人以外の者が全員倒れ大騒ぎであった。だが、それがしは何故かここが原因とわかっておってな」

 

半兵衛はエマと共に修羅へ近づき、彼の前に彼女を降ろした。

 

「それ、逝く前に伝えよ」

「狼殿.....」

「.....」

 

エマは修羅の姿をじっと見て、静かに涙を流した。

 

「...一度は修羅に墜ちましたが...心の底ではまだ九郎殿が残っていたのですね」

「.....」

「ならば...もう終わりしてください...狼殿。九郎殿は既にこの世にいないのです。彼も...そう願っている筈」

 

修羅はエマの言葉を聞いて、空を見上げながらゆっくりと答える。

 

 

 

「.....承知」

 

 

 

エマは狼の言葉を聞いて安堵し、地面に倒れて目を閉じた。

そして灰となり空へと舞って消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

半兵衛はエマが消えるのを見届けると、霊夢の持つ開門を手から離させ受け取った。

 

「後はそれがしに任せよ。其処許は他の者を救いに行け」

「...私は博麗の巫女よ。この異変は私が...」

「...なれば見届けよ。この結末を」

 

半兵衛は霊夢にそう言い放つと、開門を狼の喉元に突きつける。

 

「.....それがしも思い出したのだ」

「.....」

「其処許が葦名の城に行く前、不死斬りで...願いを聞き届けてくれた」

 

狼は何も言わず、右手で開門をゆっくりと掴んだ。

 

「.....」

「その恩を返したいとは思うていたが.....あの時とは逆になってしまったな」

「.....」

「成る程...其処許がそれがしを斬る前、何故今一度本当にやるかと聞いたのか、今ならばわかる。我ら戦国の世を生きてきたとはいえ、恩人を自らの手で死なせたくはないものだな」

「.....そうか」

「では、共に参るぞ。痛みはあまりない...そう体感したゆえに」

 

半兵衛は狼の喉元に開門を突き刺し、抉ると勢いよく引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「九郎様..........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼は灰となって消えていき、それと同時に幻術『現れ』も完全に解除された為、半兵衛も灰となって消えていった。

 

霊夢は地面に刺さった開門を見て、大きくため息を吐いた。

 

「...終わりね。これでやっと」

 

霊夢は夢想天生を解くと、魔理沙達の元へと向かった。

 




心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶

紫にお願いし、戦いの記憶と向き合うことで、
攻め力を成長できる

斬る喜びに飢えた修羅、かつては葦名に住まう熟練の忍びであった







心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶
今はその残滓のみが残り、
記憶は確かに少女達の酒のつまみとなった

あらゆる強者を斬り、あらゆる弱者を斬った男
怨嗟すら己の力と変え、二刀の不死斬りを操り、全てを極めた

血に染まり、笑みを浮かべるその姿、まさしく鬼

だが、その全ては斬る喜びの為ではなく、かつての主を救う為だったということは、最早知る由もない









『歪み』
拝めば敵の流派技を制限し、弱体化させることができる
形代を消費して、使用する

今は亡き、狼の主がくれた御守りを、無惨に散らし、その願いを利用したもの
それは斬る喜びに墜ちた、修羅だからこそ、編み出せる技なり

歪みの前では、全ての強者がただの餌と化す









『現れ』
拝めば心中の強者達を召喚し、敵に攻撃させる
形代を全て消費して、使用する

かつて狼の忍びの師が見せた、まぼろしを大いに発展させたもの
心中にて思うた事を出現させ、虚を実とする技

しかし忘れぬことだ

所詮はまぼろしであり、既に死んだ者は、決して黄泉帰らぬことを


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狼と九郎

異変の犯人である修羅の死亡により異変は解決した。

 

彼が行った幻術『歪み』により幻想郷の人以外の生物は気を失っていたが、彼が死亡後すぐに全員目を覚ます。

 

博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜、魂魄妖夢が幻想郷の管理人の一人である八雲紫に、修羅の死亡ならびに異変の終結を伝えた。

 

すぐに霊夢達の治療が行われ、異変は解決を幻想郷全土に宣言される。

 

こうして幻想郷史上最大最悪の異変は幕を閉じた。

 

河童 

九名死亡

 

天狗 

白狼天狗、鴉天狗、大天狗含む三十六名死亡

 

永遠亭の兎達

六名死亡

 

その他の妖怪 

名前の確認が取れたのは十七名 取れなかった者は三十四名

 

この異変で百ニ名もの死者が出た。

 

だが妖怪よりも遥かにか弱い人間が誰一人死ななかったのは奇跡である。

 

歴代の異変でここまで死亡者が出るのは間違いなく今回が初めてであろう。

 

 

 

 

 

 

紅魔館では異変解決により戦闘状態が解かれて、紅魔館の修理が急ピッチで行われ、虎の子部隊に関する隠蔽工作に頭を悩ませたとか。

 

十六夜咲夜は大火傷を負う怪我にもかかわらず、主人の忠告すら退け紅魔館復旧工事の総監督として働いている。

 

 

 

永遠亭では永琳や他の兎達が鈴仙の処置や看護もあって目を覚まし、今では人里で異変の被害者達を診ている。

 

戦死した兎達はてゐの主導の元、手厚く葬られた。

 

輝夜については鈴仙が葦名城から帰還すると、最重要患者室から消えており、どこに行ったかしばらく不明であったが、異変解決後には普通に帰宅しベッドに寝ていたとか。

 

鈴仙や永琳がどこに行っていたかと聞いても、『舞台を見に行ってた』『熱かったから冷たい飲み物持っていけばよかった』『もっと血みどろな結末じゃなくて残念』『あの人にハッピーエンドは似合わない』などと呟いているらしい。

 

藤原妹紅いわく、『またあいつの悪い癖の『自分の楽しみ優先』がでたのだろう』と言い放った。

 

 

妖怪の山は一番被害が大きく、死者も出ているため再建には一番時間がかかりそうだ。

河童達は同志たちを手厚く弔い、天狗達もトップである天魔の指導の元に大規模な葬式をやるとか。

そこに神奈子、早苗が関わっていないはずもなく、守矢神社再興の為にこれから彼女達は大変な日々を送るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽の畑では魔理沙とアリス、パチュリーの魔女達が畑修復の為に奮闘していた。

幽香が修羅死亡後目覚めて畑の光景を見て、幻想郷を崩壊させるのではというほどブチ切れたのだ。

 

あれだけ大切にしていた花畑が燃やされ、抉られ、斬られ、ボロボロになっては当然である。

 

なので魔女や八雲紫の協力で太陽の畑には向日葵を含む多くの花の種が埋められ、魔法の成長促進魔法により冬の季節におかしいかもしれないが、かつての満開の畑になるだろう。

 

これで幽香の機嫌が治ればいいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして異変解決後の恒例である大宴会が博麗神社で行われていた。

 

死者も出ている異変だが、死んだ者が平穏に眠れるように、我々は同志の分まで生きるのだと酒を飲んで陽気に振る舞った。

 

なにより、辛気臭いのは幻想郷には似合わない。

 

今回は河童や天狗、守矢神社、人里、紅魔館、永遠亭までもが参加し、あまりの大人数の為に博麗神社へ繋がる階段にまで人や妖怪が宴をしている。

 

 

異変解決の功労者である魔理沙は酒のシャワーを浴びて気絶し、咲夜はレミリアのそばを離れずお酌をしている。

 

妖夢は主人である大食い幽々子の料理提供に忙しそうだ。

 

皆いつもと変わらない。

 

そして霊夢は神社の屋根に座り、一人酒瓶を片手にラッパ飲みしていた。

 

巫女とは思えぬ所業である。

 

 

 

すると霊夢の隣に紫がスキマを使って現れ、酒壺を持って座った。

 

「お疲れ様霊夢」

「まったくよ」

 

霊夢は飲み干した酒瓶を横に置くと、大きくため息をして寝っ転がる。

 

「今回の異変は...私も未熟だったわ」

「?」

「あいつがやったことは当然許せない。けどやっぱり...人は殺せなかった」

「...」

「半兵衛さんがやってくれたけど...私もまだまだね」

 

すると紫は霊夢の頭を撫でて、左右に動かす。

 

「それで正解よ。博麗の巫女は殺し屋なんかじゃない。異変解決屋」

「...」

「本来なら私がこの手でとどめを刺してやりたかったけど...」

「怖いこと言うんじゃないわよ」

「...私の幻想郷に喧嘩を売り、死者まで出させた奴に慈悲なんてないわ。実際今も腸が煮えくり返るほど怒ってるんだから」

 

すると紫はスキマから三本の刀を取り出し霊夢の隣に置いた。

 

それは修羅が使っていた楔丸、拝涙、開門であった。

 

 

「あいつの刀じゃない」

「これは不死すら殺す道具...幻想郷には危険すぎる物よ。私が保管してもいいんだけど、盗られたらまずいから外の世界に返すことにした。面倒な置き土産よね」

「外の世界に?」

「ええ。一緒に来ない?軽い散歩として」

「...しかたないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲紫と二刀の不死斬り、そして楔丸を持った霊夢は外の世界でかつて葦名と呼ばれた山奥に来ていた。

 

雪が降り積もり、寒い風が吹いている。

 

「寒いわね...」

「ここが異変の犯人、修羅の住んでいた元葦名よ」

「とはいっても四百年も昔の話でしょ?何も残ってる訳ないわ」

「そうね」

 

紫は雪の上を歩いていくと、最早建物と呼ぶにはあまりにもボロボロで屋根すらない木の残骸を見つける。

 

二人はそこに入っていくと、残骸の奥には木で彫られた仏や錆びて頭のない小さな仏像等があった。

 

「んで、ここに置くの?」

「ここじゃなくてあの洞窟」

 

紫は右にある山の斜面のような場所を指差し、二人はその眼の前まで移動する。

 

「これが何なのよ。ただの岩や石ころばかりじゃない」

 

すると紫は地面にスキマを開き、坂に積まれていた多くの石をスキマ内に入れて別の場所へと移動させる。

 

すると山の斜面から洞窟が現れ、二人は入っていく。

 

「...こんな洞窟が隠されてたとはね」

「これはかつては葦名城に繋がっていた隠し通路だったらしいわ。そして...」

 

二人は洞窟の奥へと辿り着くと、そこには小さな石がいくつも積み重なっていた。

 

「これ...もしかして墓?」

「正解。かつてあの男が仕えていた九郎という男のね」

「!」

「ここを探すのに苦労したわ。阿求の持ってた資料を元にそれはもう...調査に調査を重ねてようやく見つけたんだから」

「...こんな寂しい場所に。しかも墓石もないとはね」

「病にて命を落とした...と聞いているわ」

「.....」

「こんな山奥には誰も近づかないわ。けど墓とわかるものがあるだけマシかしら」

「暴走した自分の部下を止められずに死んだなんて無念でしょうね」

 

紫は霊夢から三本の刀を受け取り、その墓の前に置いた。

 

「ここならあいつも喜ぶでしょ。会いたがってたんだし」

「...そうね。それに...九郎さんも自分の忍びがようやく止まって安堵してるわ」

 

二人は手を合わせて、九郎という少年と、それに仕えた狼に安らかな眠りをと祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う...そなたは...

 

そなたは修羅ではない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての主人がそう叫んでいる。

 

目の前には己が刺した義父が倒れている。

 

後ろには強かった者と、女が死んでいる。

 

城が燃え、辺りには悲鳴が鳴り響いている。

 

斬れる者は、まだいる

 

さらに斬れば...さらに殺せば.....

 

どうなるのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして誰もいなくなった。

 

逃げ延びた者は血を吐き死に、向かってきた者は斬った。

 

全てを斬り尽くし、何もない時だけが残った。

 

ある日、斬る喜びに慣れ、飽きてしまった。

 

ふらりと立ち寄った雪に埋もれる荒れ寺にて、鈴の音を聞いた。

 

そして思い出した...かつての主人の最後の言葉を。

 

修羅ではない。

 

頭から離れぬその言葉の真意が聞きたい。

 

だがもうそれは聞けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば会おう。

 

用意は整った。

 

もう一度、主人に会い、真意を聞こう。

 

何故、あの時、修羅となった己に修羅ではないと言ったのか

 

あの月見櫓で

 

主人に再び仕かえる事となったあの場所で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修羅は立ち尽くしていた。

真っ暗な空間にただ一人だけ。

 

ここは地獄か

 

修羅になってあらゆる者の命を奪った己には相応しい場所だ。

 

そう思っていると、目の前にはかつて己が修羅になった時の光景が広がった。

 

エマを斬り、一心を斬り、義父を殺し、九郎を裏切ったあの時だ。

 

 

 

違う...そなたは...!

そなたは修羅ではない!

 

 

 

 

九郎が狼に向かってそう叫ぶと、彼は涙を流し、言葉を続ける。

そこからの言葉は彼は覚えていなかった。

修羅へと堕ち、既に心は染まっていたからだ。

 

そして今初めて、狼は九郎の言葉の真意を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そなたのよう心優しき者が...修羅などになるわけがない...

 

幾度も我が身を案じ、救い出してくれたそなたが...

 

信じぬ...信じる筈がない!

 

 

 

 

 

狼よ.....そなたを...心より修羅に染めることなどさせはしない

 

 

 

 

 

私がそうはさせない

 

 

 

 

 

 

 

必ず戻して見せる

 

 

 

 

 

 

 

それが我が為す事だ

 

 

 

 

 

 

 

為すべきことを、為す

 

 

 

 

 

 

 

 

そう教えてくれたな、狼よ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼はその言葉を聞いて、立っていることしかできない。

 

かつての己の忍びに元に戻す為、九郎は行動したのだ。

 

山奥の葦名に誰も来ぬように

 

狼がもう誰も斬らずに済むように

 

葦名を訪れよう人は止め、警告の詩を渡した

 

しかし気づいた時には残された時間は少なかった

 

かつての竜胤の御子であった丈と同じく、病にかかっていたのだ

 

そして最後に九郎は、荒れ寺にて鈴を置いた

 

狼の中に、己の記憶があると信じて

 

鈴の音で思い出せるよう祈りを込めて

 

 

 

 

 

 

 

修羅ではない...

 

眼の前で修羅に染まったあの時でさえ、彼は仕えてくれた忍びを信じていた

 

そして今、彼の悲願はようやく為されたのだ。

 

「九郎様.....」

 

狼は修羅に手を伸ばす九郎の幻影の手を取り、深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

「.....遅くなったことをお許しください......今、貴方の忍びが戻りました」

 

 

 

 

 

すると九郎は灰となり、辺りは怨嗟の炎に包まれる。

狼はその中を身を置いて、やがて全てが炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これが最終話です。
ここまで見てくださり、ありがとうございました!

後書きもあるのでよければどうぞ!


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あとがき

どうも、ポン酢おじやです。

 

この度は『決戦!葦名城!』を最後までご覧いただき本当に感謝しております。

 

皆様の感想やお気に入り登録、ここすき、評価等が支えとなり、何とか最終話まで書けました。

 

重ねて、皆様には感謝しかありません。

 

誤字脱字が本当に酷く、シリアスな雰囲気でも間違ってる事もあると思います。

 

何度も見返してはいるのですが、やはり注意不足なのか視聴者様から誤字報告を受け取ることもありました。

 

本当に感謝しています。

 

感想を書いてくれた方々にも、毎回嬉しくてニヤニヤしながら返信させていただきました。

 

見てくださった方々には本当に、本当に感謝しかありません

 

 

 

 

 

さて、『決戦!葦名城!』のストーリーはいかがでしたでしょうか?

ガバガバ設定や、ここおかしくね?という所が多々あったと思います。

 

例えば修羅ルート狼が思い出を出現させてたとしたら、『幻影破戒僧』や『獅子猿』、あとお米ちゃんの所の猿ども(怒)が出てきてないやん!と思う方もいたかもしれません。

 

言い訳をさせてもらいますと、一応考えてはいました。

 

例えば獅子猿はチルノ達と仲良くなり、襲いかかる葦名軍を共に薙ぎ倒す話や、チルノが獅子猿に乗りながら遊んでたら落ちそうになって首にある刀を掴み、『忍殺』してしまったとかネタも考えてました。

 

幻影破戒僧は幻想郷を観光して、秋姉妹や雛と仲良くなって幻想郷をふらつくなんて考えてました。

 

しかしそうなると破戒僧はともかく、獅子猿まで敵になったら葦名の人達超苦戦するので、出さないことにしました。

 

狼の記憶も曖昧だからね、あいつらは思い出せなかったのだろう(震え声)

 

九郎死んだのに狼なんで不死なんだ?と思われた方もいると思います。

正確には不死ではない設定なのです。

 

狼は修羅となってめっちゃ殺しました。

そして殺した奴から力を奪い、無限に思える量の形代と、無限に思える回数の回生の力を溜めたのです。

 

それは最早不死といっても違和感ない生物だと思います。

 

しかし不死斬りは回生の力を無視して殺すことができると自分は思っている(人返りルートにて、拝涙による狼の自刃が根拠)ので、霊夢(と半兵衛)は狼を殺せました。

 

他にもガバガバ設定あると思いますが、一応この辺で

 

 

 

 

 

オリジナル設定の『歪み』『現れ』も理解できましたでしょうか?

説明が分かりにくく、知らん!となった方もいるでしょう。

 

表現力や言語能力低くて申し訳ありません。

 

他にも戦闘が分かりにくかったり、ごちゃごちゃしててわからなかったかと思います。

 

文章力低くてすみませぬ。

 

しかし自分はかなり楽しく書けました。

一心VS幽香や、修羅VS霊夢達の所は本当に楽しく、ウキウキしながら書いてました。

 

これも皆様の応援があってこそです。

 

最後の九郎と狼の話は勝手に自分解釈しましたが、皆さんはどう解釈しましたでしょうか?

 

修羅ではないという言葉の意味...

 

最初の自分は『(一心とエマに苦戦してるお前なんぞ)修羅ではない!』と解釈してました。

 

くっそムズいんだもんあの2連戦。

まぁ死にまくりました(特に酒乱野郎エマ)

 

 

他にも色々ありますが、本編終わってあとがきが長くなると読むのダルいと思われると思いますので、

 

名残惜しいですが、これであとがきとさせて頂きます。

 

 

 

この作品を見てくださった皆様には本当に感謝しています。

これにて『決戦!葦名城!』は終となります。

 

最後まで見てくださり、ありがとうございました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ皆さん、隻狼のバグなしで『トロコンできるまで眠れない』をやってもらおうか(修羅)

無論艱難辛苦ですよ。

 

流派技?忍具?アイテム?回生?

 

いりませぬ。たとえ一度、破れるとも

命を賭し、主を必ず取り戻す

それが、我が忍びなれば(鬼畜)

 

さあ皆様方、コントローラーを手にとって。

 

為すべきことを、為さるのです(ゲス顔)

 

 

ちなみに自分は3週目破戒僧で寝落ちして、心が折れました

ではでは、ノシ

 



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