ハンターとモンスターの秘密のストーリー! (くるみもち)
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0 プロローグ

「ついに、ハンターがやってきたね……」
「はぅ……大丈夫かニャ……」
「大丈夫!なんてったって俺たち最強モンスター軍団がついてるからな!」
「なあシュウ。この戦いの決着の先に、何があると思うか?」
「そうだね……。人間もモンスターも戦わずに生活できる、そんな未来が待っているといいね」
「……そうだな。よし、そろそろ迎え撃つか。行くぞ!」
「「おおー!!」」


ここは密林。

蒸し暑いほどの晴天と湿気。

僕はオトモアイルー1匹を連れてジャングルの中を進んでいた。

 

「早く帰りたい……」

 

その環境の悪さから早々に逃れたいとついこの言葉をつぶやいてしまう。

しかし、そうはいかない。

僕はここでしか手に入らない珍しいキノコを見つけるため、せっせと密林を探索していた。

ランポスなどのモンスターが現れるたびに弓矢を引いて撃退する。

 

「はぁ、疲れたニャ……。本当にあるのかニャ……」

「大丈夫。本にはここにあるって書かれていたから」

 

オトモアイルーのザックがくたびれた様子を見せる。

まあ、ここにもう何時間いるかもわからないくらい探してるからなー……。

 

ちょっと休憩しよう。

 

そう思った時、突如空から大きな影が映し出された。

尻尾や翼の影を察するに飛竜。

そして、この辺りをよくうろついている飛竜は……。

 

火竜リオレウス。

 

本来のハンターならばここで探索をやめ、敵対することになるだろう。

でも、僕は違う。

僕は弓を構えることなくリオレウスへ歩み寄る。

リオレウスも威嚇することなく寄り添ってくる。

そして……。

 

「おーッス、シュウ!」

 

リオレウスは元気そうにそう告げてくる。

いや、本来普通の人間たちならば声を上げているようにしか聞こえないだろう。

そう、僕にはわかるのだ。

モンスターの声が。

 

「リオレウスかー。今採取の途中なんだよねー。消えてくれる?」

「いきなり冷たいな、おい!」

 

僕は軽くリオレウスをあしらっておく。

そして、すかさずリオレウスのツッコみ。

最近はこれが僕らのあいさつのようになってしまっている。

モンスターの声は、全員の声を聴けるわけではない。

特に小型モンスターは決まって声が聞けず、理解もしてもらえないため倒している。

ちなみに、僕が理解できるモンスターも、僕の声を理解できるようだ。

なぜこうなってしまったのかはわからない。

 

「で、なんの採取をしてるんだ?」

「ちょっとここにしかないキノコをね。リオレウス、知ってる?」

「いや、知らないなぁ」

「ちっ、使えねぇ……」

「使えなくてすいませんねっ!それで、なんでそんな希少なキノコが欲しいんだ?また新しい薬の調合実験か?」

「さしずめそういったところだね。ま、薬は薬でもアヤシイオクスリだけど」

「え!?」

「実験台としてリオレウスに飲ませてトリップさせようか」

「俺を!?トリップ!?なんか、一気に止めたくなった!!」

「この2人は会うといつもこうだニャ……」

 

隣でザックが呆れていた。

だってリオレウスはからかいがいがあるんだもーん。

僕は今、調合師を目指すためにたくさん勉強をしている。

でも、たまに調合実験を行うためにこうしてモンスターが生息するエリアへ行くこともある。

最初は怖かったけど、今は行く先行く先に顔見知りのモンスターがいるからだいぶ気軽に行るようになった。

 

「さてと、そろそろ探索再開しないと。リオレウスは……うん、帰っていいよ」

「そ、そうですか……!はぁ、ま、いいか。今度またゆっくり話そうな!」

「うん、ばいばーい」

 

リオレウスはそういって帰って行った。

彼は根は素直でポジティブだからとても話しやすい。

面白いくらい気の持ち直しが早いからついついからかってしまうけど……。

僕がモンスターと話せることを知っているのはオトモのザックだけ。

 

そうこれは、僕とモンスターだけが織りなす誰も知らない秘密のストーリー。




安定の糞内容(^。^)
これはあくまでプロローグなので次回からは舞台が変わります!
そして、冒頭の言葉だけはいったいどこへつながるのか……!
自戒を楽しみにしてくださったらうれしいです!!


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1 霧鮫宗の調合実験コーナー!被害者は誰!?

僕の名前は霧鮫宗。

温暖な地域であるプラット村の住人だ。

ここ、プラット村は狩りが盛んで上位ハンターも数多く存在する。

狩りが盛んな理由は近くの自然に多くのモンスターが生息しているからだ。

そのため、この村には多くのモンスターの素材が貯められていて、ほかの村との貿易も比較的行われている。

 

そんな村ではありながら、僕はあまり狩りをおこなわない。

一応武器である弓もそれなりに扱えるようになったし、ハンターとしての任務もたまのたまーに行うんだけど……。

僕にはとある夢があるからだ。

その夢とは調合師になること。

調合は複数の物を1つにするということだ。

ハンターも回復薬とハチミツを調合して回復薬グレートにするなど、日常的に行っている。

調合師とは、その調合を専門的に行うという仕事。

なぜ僕が調合師になりたいのか、その理由は3つある。

1つ目は、とても面白いからだ。

そう、僕は好奇心で調合師になりたいと思っている節がある。

まったく別の物同士を混ぜたら、またまったく新しいものが出来上がる。

新しい調合パターンを見つけるために何日間も部屋に閉じこもる……。そんな生活を送ってみたいのだ。ちょっと変わってる?

そして、2つ目の理由。

それは他人と別の道を歩んでいきたい、だ。

僕には兄が存在する。その兄の名は霧鮫駆(きりさめかける)。

一流の双剣ハンターだ。

双剣の扱いはもちろん、ハンターとしての腕前も村の中でトップクラス。

そのせいで、弟の僕もハンターデビューの時に過度の期待をされた。

そのプレッシャーに耐えきれず、周りをガッカリさせながらも一流ハンターへの道へ進むことを早々に諦めた。

そして、この村では絶対現れないであろう調合師という学者への進路を渡ろうと思った。

それこそもともと調合に興味があったというのと、みんながハンターに進むのはなんだかつまんないという気持ちがあったからだ。

そして何より、元からハンターには向いていなかったみたいで……。

その理由が3つ目に該当する。

それは、僕には特別な力があるからだ。

もちろんその特別な力とは、『モンスターと会話ができる』ということ。

相手には唸り声や鳴き声にしか聞こえないであろう音も僕にはしっかり言葉として耳に届くのだ。

この間のリオレウスとの会話もそう。

特にリオレウスは、僕と最初に会話ができたモンスターだ。あの時は驚いたなー。

どうやら全員と会話ができるわけではないらしく、本当に一握りのモンスターとしかしゃべれない。

そして、そのモンスターも人間の中では僕としか喋ることができない。

一体僕とモンスターに何故そんな力があるのか、検討もつかない。

僕は、色々な書類を読み、日々調合実験と共にその理由を探っている。

 

ちなみに僕の友達はオトモアイルーのザックとその会話ができるモンスターしかいない。

なんと人間の友達がいないのだ。何たる悲劇。

どうやら狩り中心のこの村で勉強ばかりしている僕はかなり浮いているようで、なんだか近寄りがたい雰囲気を出してるらしい。

初めは他人の視線は痛かったけど、今となっては慣れてきて完全にスルースキルを身に着けた。

そして、相手の方も「あいつはそういうやつだ」という認識が出てきたらしく、自然と変にみられることもなくなっていった。

それに最近は、

勉強→新しい調合に挑戦する→調合素材を取りに採取ツアーに出かける→モンスターと会話→帰ってきて実験

という生活がパターン化してきて、村人と喋ること自体少なくなってきてしまっている。

村人も僕がどんな実験しているかだなんてどうでもいいらしく、ぶっちゃけもはや忘れられてるんじゃないかという位置にまで来てしまっている。

まあ、また変に目を付けられて「プラット村から学者が出るかもしれないぞー!」とか言われてまた過度のプレッシャーを背負うよりもマシなんだけどね。うん、むしろ今のままの方が良い。

 

「さてと……」

 

そろそろ実験でもしようかな。

 

「ザックー、手伝ってー」

 

僕は部屋の奥でのんびりくつろいでいたザックを呼んだ。

元はハンターのオトモをするはずなのに最近ではすっかり助手みたいになっていた。

 

「ニャー。また実験をするのかニャ?」

「そうだよ。僕はノートを取るから僕の指示通りにしてね」

「わかったニャ」

 

ザックは文句を言わず頷いてくれた。ザックは僕が調合師になるという夢を認めてくれただけでなく、積極的に手伝ってくれるから本当に助かる。

たまに僕の無茶な要求に門を言うこともあるけど……。

たとえば今日のような……。

 

「じゃ、まずは、密林で採ったキノコと一見アレな白い粉(NaHCO3)と制作手順極秘必須、触るな危険!の緑色の液体を順番に入れてすりつぶすように混ぜて」

「ニャ!?なんだかいつも以上にアヤシイニャ!特に最後!一体何を作るつもりだニャ!?」

「それはもちろんトリップ……じゃなくて、気分がスーッと気持ちよくなるクスリだよ?」

「やっぱりアヤシイ!そしてトリップって言いきっちゃってるニャ!リオレウスとの会話は冗談かと思ってたけど本気だったのニャ!」

「まあまあ、まだ本当にできるかわからないし。とりあえずやってみよー」

「こ、これは実験台に絶対にされたくないニャ……」

 

ザックは震えながらも僕の言うとおり、混ぜ始めた。

既にビーカーの中はモザイクをかけたくなる色をしていた。

 

「ふむふむこの3つを混ぜるとこんなに泡を吹くなんて……メモメモ」

「それは言葉にするものじゃないニャ……」

「よし、じゃあ次。鍋に移して沸騰させる!これは僕がやろー」

 

僕は立ち上がってビーカーを台所へ持っていき、鍋を取り出す。

僕は泡をぶくぶくふく液体を上手いこと触らないように鍋に移し、蓋をしてから火をつけた。

しばらく煮えたぎる地獄のような光景が移ったが、やがてバチバチと何かが弾けるような音がしだした。

さらに蓋の隙間から黒い煙を吹きだしてきた。

 

「こ、これ大丈夫ニャ!?」

「大丈夫、ここまでは計画通り。この状態にまでなったら火から離し、一気に冷水で冷やします」

 

鍋を熱しているうちに用意した冷水入りタライに鍋を半分鎮める。

するとすぐに弾ける音も黒い煙も止み、鍋には毒々しい紫色の物体だけが残っていた。

 

「良い感じ!」

「え、これが!?」

「あとは粉末状に砕いて空きビンに移して終わりっと……」

 

僕は空き瓶のふたを閉め、「んーっ」と伸びをした。

 

「出来たー!最期に実験最中の図をノートに描くだけ!」

 

僕はパパッとノートに図を記し、軽くまとめておいた。

 

「あとはこれを誰かに飲ますか……だけど」

「嫌だニャ!ボクは絶対に飲まないニャ!!」

「そんなかたくなに拒否らなくても……。気持ちよーくなれるかもよ?」

「だとしてもその方法で気持ちよくはなりたくないニャ!!」

「そっかー、残念。じゃ、やっぱりモンスターに犠牲になってもらうしか……」

「今言ったニャ!完全に『犠牲』って言ったニャ!!」

「昨日話しちゃったリオレウスには確実に警戒されてるだろうしなー……」

「そのクスリの色を見たら、何も知らない人でも避けると思うニャ」

「じゃ、やっぱりリオレウスにしよう」

「リオレウス、ごめんなさいニャー!!」

 

こうしてこのクスリの最初の犠牲者はリオレウスとなった。

 

「そうと決まれば、さっそく飲ませに行くよ!さあ、レッツゴー!」

「リオレウス、逃げて!」

 

僕はビンをポーチにしまい、リオレウスのいる密林へと再びでかけることにした。

 

 

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村を出てから数時間後。僕たちは密林に着いた。

今は日が沈み始めて視界が見えづらくなってきた。

この時間帯、リオレウスは巣にいることが多いから、直接そこへ押しかけることにした。

 

「実験上手くいってるかなー。駄目だったとしても被害を被るのはリオレウスだからいいけど」

「リオレウス、おいたわしいニャ……」

 

僕はルンルン気分でリオレウスの巣に向かっていると、ある1匹の飛竜と思わしき影が昇り始めた月に照らされて上空から降ってきた。

その影の主は緑色で一見リオレウスに似ているけど若干違った。

そう、その正体は……。

 

「リオレイアだ!」

「あら、シュウさんにザックさんではありませんか。こんばんは。今はなぜここに?」

「貴方の夫にちょっと用があってね」

「あらそうでしたの。ちょうど私も巣に帰るところでしたの。良かったら連れて行って差し上げましょうか?」

「あ、本当?ありがとー!」

 

リオレイアは親切に尻尾を下して登りやすいようにしてくれた。僕とザックは背中まで登っていく。

このリオレイアは僕の知るリオレウスの妻。彼女とも会話をすることができる。

年齢的には向こうの方が年上のようだけど、ため口で話される方が気が楽ということで、僕は敬語を使わないようにしている。

 

リオレイアはゆっくりと上空を飛び、一気に巣の方までひとっ飛びした。僕が歩いて向かうよりも何倍も早く。

 

「ところで、私の旦那にどのようなご用件で?」

「実はね……」

 

僕は事情を説明する。リオレイアはすぐに理解したように「そうですか」と微笑した。

 

「ああ、ついにはリオレイアも共犯者に……」

 

その一方でザックのリオレウスに対する不安は増すばかりだった。

彼らの巣に戻ると、横になって暇そうに尻尾を振ってたリオレウスがすくっと立ち上がった。

 

「ただ今戻りました」

「おう、おかえり!あれ、背中にいるのは……シュウ?」

「こんばんはー。会いに来たよー」

「おう、よく来たな!」

 

リオレウスは元気にそう言う。よし、ラッキーなことにクスリに関しては疑われていない……。やっぱり昨日のことは冗談と思われていたようだ。しめしめ。

 

「しゅ、シュウが悪い顔をしてるニャ……」

 

ザックがひっそりつぶやくも華麗にスルー。

 

「せっかく来てくれたんだ。晩飯も食べて行けよ!」

 

リオレウスはそう言い、僕たちに死にたて新鮮のアプトノスを出した。

僕はすぐに自分たちの分だけ分け、そしてこっそりとリオレウスの分にクスリをばら撒く。

そして、何事もなかったかのように焼肉セットで自分の分を焼く。

 

「じゃ、いただきまーす」

 

僕はリオレウスの反応を楽しみにしながらまずは一口。

うん、美味しい。若干血の味がするものの、それ以上に肉汁たっぷりで非常に満足できる一品だった。

ザック、リオレイアも食べ始め、そしてついに……。

 

「じゃ、俺もいただきまーす!」

 

リオレウスもついにガブリついた!

全員の視線がリオレウスに集まる。どうなる、トリップするか――

 

 

「うっ……!?」

 

 

「「!?」」

 

リオレウスの反応は僕らが予想したものと違った。

リオレウスは苦しそうに呻きだす。

 

「うげ、なんだこれ……うぷっ……!?」

 

食べた瞬間、リオレウスはリバースしてしまった。

 

「あれれー、おかしいな。もっと気持ちよくなれるはずなのに」

「しゅ、シュウ!?お、お前まさか昨日の……うごぉ!?」

「実験失敗。ただし、飛竜も吐くほどの強い嘔吐作用がある……と」

「何こんな時のノート書いてんだよぉおおおおうげぇええええ!!」

 

実験は失敗に終わった。でも、リオレウスの哀れな姿を見れた僕とリオレイアは非常に満足だった。

 

「ああ、ボクだ食べてたら死んでたかも……」

 

 

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「じゃあ、僕そろそろ帰るね」

「おい……これだけしにわざわざ来たのかよ……」

 

ようやく嘔吐が収まったリオレウスにキッと睨まれる。

 

「なにぶん暇なので」

「はあ、まったく……。ハンターとして仲間を狩られるのも困るが、これはこれで……」

「シュウさん、帰りも連れて行って差し上げましょうか?」

「ううん、大丈夫。帰るついでに新しい調合素材探すから。それにリオレイアはリオレウスの後始末をしなきゃいけないから」

「それもそうでしたね。まったく、迷惑をかける夫です」

「俺のせい!?明らかに今日のは俺が被害者だよな!?」

「さえずらないでください」

「ぐぬぬぅ……!!」

 

相変わらず不憫なリオレウスだった。

 

「それじゃ、お邪魔しましたー。リオレウス、また来るねー」

「く、クスリは二度と持ってくんなよ!!」

 

リオレウスは叫びながら伝えてきた。

……うん、今日も楽しかった。

実験は失敗したけど、なぜだか成功だった気もした。

……リオレウス以外はね♪




この小説はこんな話です^^


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2 回想~リオレウスとの出会い~

最近モンハンやってなかったけどこれ書いてたらやりたくなってきた。


「大型モンスター……ねぇ」

 

僕は部屋で依頼主からの手紙を読んでげんなりしていた。

ハンターという職業に手を伸ばしてから早数か月、とうとう僕のもとにも大型モンスターの狩猟依頼が来たのだ。

僕は採取や小型モンスター、たまーにドスランポスなどの中型モンスター程度のクエストしかやったことがない。

しかも、ハンターは副業としてやっているので村の大半を占める本職ハンターと比べると経験も薄い。

僕の村は小さいため15歳程度から強制的にハンターにさせられてしまうのだ。

もちろん、強制といってもさっき言った通り副業としているハンターには依頼量も少なく、大型モンスターの依頼なんて基本的には来ない。

しかし、最近は温暖の気候になりつつあり、それに伴い大型モンスターが出没するらしい。

そのため、副業としているハンターにも大型モンスターの依頼を任されることがあるのだ。

 

「まさかその依頼が僕に来るとは……はぁ、やりたくない……」

「でも、シュウが選ばれたということはそれくらい期待されているということなんだニャ。それきっと喜ぶことなんだニャ」

「簡単に言ってくれるよ。ま、ザックはちょっと傷ついたら逃亡しちゃうような子だもんね」

「ぐ……。そう言われると心外だけど言い返せないないニャ……」

「しかも、そのターゲットがよりにもよってリオレウスってどういうことなの……」

 

僕はてっきりイャンクックあたりだと思い込んでいたけど……。

ガチじゃん!これ意外とガチモンじゃん!!

 

「僕の人生もここまでか……。最後にセブンスヘブンにトリップ出来るクスリを……」

「それは絶対ダメだニャ!」

 

僕がクスリの便を取り出そうとして手を弾かれてしまった。

 

「もう冗談だって。ま、大型モンスターと言っても行動パターンは決まってるだろうし僕は弓使いだからそうそう攻撃にも当たらないでしょ」

「突然死亡フラグが立ったニャ……」

「えっと、密林への出航は……うん、まだ、時間があるから支度したらちょっとだけリオレウスについて調べておこう」

 

このとき僕は知る由もなかった。

まさかモンスターと××してしまうということを……。

 

 

 

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時刻は回って翌朝。

僕は深夜にどんぶらこどんぶらこと舟を漕いで密林へとやってきた。

もう既に太陽が昇っている今は8時。

リオレウスについて調べていたため、睡眠時間はほとんど取れなかったが、元々夜通しすることが多いからさほど眠くない。

「主に火属性攻撃をしてきて、弱点は雷と龍……。ここは基本だね」

といっても、僕は雷属性の武器も龍属性の武器も一切所持していないため武器はパワーハンターボウIII。というかこれしか持ってない。

下位ハンターでも作れ、大型モンスターの素材を必要としない武器としては最強クラスのためうまく立ち回れば問題ない……はず。

防具はイーオスシリーズ……なのだが、火属性耐性は申し訳程度。

とはいえ、今はこれが限界だからしょうがない。攻撃を受けないようにうまく立ち回ろう。一応毒耐性ついてるし。

 

ボックスから必要なものは全部取り出したし、準備満タン!

 

「よし、じゃあ、そろそろ行こうか」

「ボクも頑張るニャ!」

 

初の大型モンスター狩猟ということで気合が入っているザック。いつも最初はこんな感じなんだけど、いざ鉢合わせるとすぐに逃げてしまうビビりザック。今回も逃げるんだろうなぁ……。

 

「ギシャァアア!!」

 

途中で居合わせる小型モンスターを弓で打ち抜いていく。弓は元々雑魚戦にはあまり向いていないけど、ずっと弓一本でやってきた僕にはちょちょいのちょいである。

 

「……あ、これ今ちょうど切らしてたキノコだ。これでまた再実験ができる!」

「再実験ってあの緑色のゲル状の何かが発生したあの実験のことかニャ……?」

「そうそう。あれ成功するとあんころもちになるはずなんだけど」

「あんころもち!?絶対嘘だニャ!」

「おらぁ、あんころもちがぁ、食いてえだぁ」

「初大型モンスター狩猟のはずなのに全然緊張感がないニャ!!」

 

ザックのツッコみではっと目が覚めた。ふぅ……危うくまたボケを連発してしまうところだった。

 

「……あ、近いニャ!」

「え、ホントに?」

 

僕はとっさに弓を構える。ザックは耳をピンと立てる。

 

「上だニャ!」

 

ザックが声を上げると同時に僕も空を見上げる。

そこにはザックの言った通り、火竜・リオレウスがいた。

リオレウスはちょうど僕たちがいるエリアへ降りてきた。

僕は間合いを取りながら様子を見る。

着地する寸前、リオレウスは僕たちの方を見た。すでに相手にはばれてるようだ。

僕は毒ビンを装着させ、弦を引き――

 

 

「うわ、ハンターかよ。せっかく引っ越してばかりだっていうのによ」

 

 

 

「……え?」

 

今、誰かの気怠そうな声が聞こえてきた。

え、い、今の声って……。

 

「ザックの声?」

 

ザックの聞いてみるも首を傾げるだけだった。

 

「え?何がだニャ?」

 

この様子……心当たりはないようだ。

ザックは一応会話までとはいかないけどモンスターの声を理解することはできるため、違和感を覚えてないみたい。

だとすると、やっぱり……。

 

「り、リオレウスの声……?」

 

僕は思わず声に出してしまう。聞き間違い……だよね?うん、モンスターの声が理解できるわけ――

 

「ん?今誰か俺の名前呼んだか?」

 

ガクガクガクガク……。

い、今反応した!?僕の声に反応した!?そして、その声も僕聞き取れた!?

いや、ちょっと待ってどういうことなの考えさせて!!

 

「んー?気のせいか?」

 

どうやら相手の方は気づいてない様子。

これは良いことなのか悪いことなのか……。

いやでも気づいてないってことはこのままじゃ……。

 

「ま、気のせいならいっか。おっしゃ俺達の新居を壊すニンゲンは追っ払うぞ!」

 

戦闘が始まる!!

 

「ちょっと待ってぇえええええ!!」

 

僕は思わず大声を出して戦闘開始を阻止する。ザックは何事だとビックリした形相でこちらを見る。

リオレウスは本来ならば僕の叫び声なんて無視して戦いを始めるはず。

だけど……。

 

「ちょっと待ってって……。え、えぇええええええ!!?!?」

 

リオレウスの方もようやく僕の声が理解できる……ということを理解したようだ。

 

「は!?い、今の声……このニンゲンの!?は!?ど、どういうことだよ!?」

 

リオレウスもパニックになっていた。モンスターもこんな感じに喋るんだ……。

 

「ちょ、ちょっといいですか!」

 

僕はパニック状態のリオレウスに声をかける。リオレウスもはっと正気を戻しおとなしくなる。

 

「ぼ、僕の声が理解できるんですか……?」

「お、お前こそ俺の言ってること、わかるのか……?」

 

自分のほっぺをぺちんと叩く。……うん、夢じゃない。

ということは……。

 

「ふ、二人はお互いの言ってることを理解できるのかニャ……?」

 

 

 

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とりあえず、僕たちは争うことをやめた。

リオレウスの方もイレギュラーな事態のため、戦う気がなくなってしまったという。

 

「……で、お前、名前は?」

「え?」

「いや、ニンゲンって一人ひとり名前ってのがあるんだろ?名前があるのにニンゲンって呼ぶのはなんだか気が引けるし……」

「はぁ……」

 

あれ、意外と良い人……じゃなくてモンスターだ。

 

「えっと、宗、です」

「シュウ……か。わかった。あ、一ついいか?」

「な、なんでしょう……」

「敬語、やめないか?」

「え?」

「身体の大きさは全然違うけど、喋ってる感じだとあんまり年齢変わんないみたいだし。それに俺、敬語とか苦手だからさー。……それにあいつのこと思い出すし。あー、とにかくタメ口で頼む!」

「あ、うん……わか……った」

 

なんとかタメ口にする。元々ザックと兄以外にはほぼ全員敬語だったから難しいな……。

 

「で、そっちのネコは?」

「ニャ!?」

 

ザックは突然話を振られて驚いていた。

 

「いや、よくわかんないけど俺、お前の言葉も理解できるみたいだからさ。オトモアイルーってやつにも名前あるんだろ?」

「え……。あ、えっと、ザックだニャ……」

「ザックか。よし、覚えたぞ」

 

リオレウスはここでいったん深呼吸をして、話を切り出した。

 

「えーと、ま、まあ、俺達は会話ができるということが判明したわけだが……」

「うん……」

「うおおおなんだこの違和感は!」

 

リオレウスは再びパニックに起こしそうなところを何とか自制する。

 

「ったく、なんなんだ……。今までこんなことなかったのに」

「僕もこんなの初めてだよ……」

 

一体全体どういうわけなのか……。

 

「まあ、せっかく話ができるんだ……。ちょっとニンゲンの事情も知りたかったし、いろいろ話を聞かせてくれ」

「まあ、それくらいなら……」

 

変なことを言って言いふらされないためにも最低限の情報にしておこう……。

 

「まず、だ。ここに来たってことは俺を倒そうとしたってことだろ?なんで俺を倒しに来たんだ?」

「それは確か……。リオレウスが現れて危険だから倒してくれって……」

「……ん?」

「え?いや、これだけだけど……」

「そ、それだけ?」

 

なぜだかリオレウスは焦っていた。

 

「別に俺、何にも悪いことしてないよな?な?」

「まあ、引っ越しに来ただけだから悪いことをしたわけでは……」

「うわぁ……。これってここに来たのがシュウたちじゃなかったら死んでたかもしれないってことだよな?あ、別にどんな奴が来ても負けるつもりはなかったけどな!」

 

リオレウスはふんすと胸を張る。これがモンスターのプライドなのか……。

 

「あ、ところでこれから俺と戦うっていうわけでもないよな?」

「ま、まあ……。でも、倒さなかったらまた別の人が貴方を狙いに来る可能性が……」

「そ、そうか……。無駄な戦いは避けたいんだけどなぁ……」

 

リオレウスは困ったなぁといわんばかりに頭を押さえる。モンスターのこの動き……なんて新鮮なんだろう……。

しばらく考えたのか、リオレウスは「そうだ!」と声を上げる。

 

「俺のこと、倒したってことにしてくれないか?」

「え?で、でも……」

「俺はニンゲンに見られないようなもっと奥の方に移動する。そうすれば万事解決!」

「それって……隠居?」

「まあ、そういうことになるな」

「でもそれって大丈夫なの?」

「なんとか頑張れば大丈夫!」

 

な、なんという根性論。そしてなんというポジティブシンキング。

 

「そうとなれば早速引っ越しの準備しないとな。あ、レイアになんて言おうかな……」

 

レイア……リオレイアのことかな。

 

「あ、そうだ。また、密林で俺と会ったら話そうぜ!」

「え?」

「敵じゃなくて会話ができてしかも同世代!これはもう友達だろ?種族を超えた友達っていうのもなんかかっこいいし!」

 

友…達……。

僕は思わずふふと笑ってしまう。

 

「どうした?」

「ううん。僕にとっての最初の友達がモンスターだなんてって思って」

「え、お前友達いないのか?」

「村ではあんまり人と話さないからね……」

「そうなのか……」

 

少しリオレウスのテンションが下がっていた。聞いてはいけないことを聞いた気持になっているのだろうか……。

 

「でも、大丈夫……」

「え?」

「まだ、ちょっとだけ違和感はあるけど……。また会ったときはもっと話そうね」

「……おう!」

 

リオレウスはそう元気よく返事をして飛び立っていった。

 

「……本当に会話してたんだよね」

 

僕はそっと胸に手を当てる。

あれだけパニックになっていたのに、いつの間にか友達になってる。

不思議……なんだけど、なんだか不思議じゃない。なんでだろう……。




シュウ「あれからリオレウスの新居に行ってリオレイアとも話せることがわかって……」
レウス「実験台にされたり実験台にされたり実験台にされたり……」
シュウ「だってクスリの実験結果って誰かに飲まさなきゃわかんないし」
レウス「おいちょっと待て。そもそも友達=実験台と思ってないか?」
シュウ「いやいやリオレウス=実験台だよ」
レウス「こいつ……!!初めて会ったときはこんな奴とは思わなかったよ……」
シュウ「でも、その前に1番の友達だよ」
レウス「な、なんだよ急に……。でも、ありがとよ」
ザック「なんか途中でボクの存在がかき消されてる気が……」
二人「はっ!?す、すみませんでした!」


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3 厨二で紳士なゴア・マガラ

「さぁてと、次は何の実験をしようかなー」

 

密林から帰ってきて数日後の昼時。

僕は椅子に座り頬杖をついて新たな実験内容を考えていた。

 

「また新たな犠牲者が増えてしまうニャ……」

 

ザックが隣でボソッと呟く。

僕はたいそう心外だったため反論する。

 

「いやいやザック。僕だって失敗作をわざと作ってるわけじゃないんだよ?あ、前回のは失敗じゃなかったんだけどね。むしろ成功なんだけどね」

「ホントに失敗じゃないと思ってるニャ!?」

「うん、ちょっと黙ってて。今、考えてるから」

「ニャ!?」

 

ザックのうるさいツッコみはスルーすることにした。

 

「たまにはまともなやつもいいよねー。回復薬とか……」

「今さり気に普段作ってるのがまともじゃないと認めたニャ……。でも、回復薬なら薬草とアオキノコを……」

「ああ。『心の』回復薬ね」

「やっぱりそっちだったニャ!!」

 

僕がそんな面白みのない薬を作るとでも思ったか、馬鹿め!

 

「……となると、行く場所は孤島、峡谷、遺跡平原だね。孤島と峡谷は今日の時間じゃ無理だから……遺跡平原だね。決まり!出発は夜。ザック、準備しておいてね!」

「はぁ……わかったニャ」

 

ザックはしぶしぶといった感じで了解してくれた。

さて、僕も準備を始めよう!

 

 

 

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僕たちはいつも通り採取ツアーを申し込んだ後、少し寝てから村を出た。

遺跡平原に着いた時間は明け方だった。

 

「ふぃー、相変わらず朝の風は気持ちいいねー」

「気持ちよくなってまた眠くなってきたニャ……」

「ほぉら、寝る暇はないよ?今日はここにしかない古い骨を取りに来たんだから」

「なんでそんなものが必要なんだニャ」

「長年放置されたモンスターの骨は特別な栄養があるのに砕きやすいの。実験にピッタリ♪さあ、行くよ!」

「ニャ、待つニャー!」

 

僕はザックを置いていく勢いで拠点から出発した。

 

「ふんふふーん♪」

「今日はいつも以上に上機嫌だニャ」

「だってさ、遺跡ってなんだかわくわくしない?それにここには……」

「ああ、あれかニャ。……って、そう言っている間にもいたニャ」

「え?……ああ!ホントだ!」

 

そっか、エリア1も行動範囲って言ってたもんね。それにしても来て早速会えるだなんてラッキー!

僕は早速声をかけることにした。

 

「おーい、ゴマたーん!」

 

僕は大きな声でその名を呼んだ。少し距離があったが、彼はすぐに気が付いた。

 

「おお、その声は我が友切鮫宗か。煌く太陽から舞い降りたのだな」

「舞い降りた舞い降りたー」

 

僕もゴマたんにあいさつをする。……あ、これ「おはよう」って意味ね。

このゴマたんとは黒蝕竜ゴア・マガラのことである。

やたらややこしい言葉を使うが、『ゴマたん』というかわいらしい愛称は気に入っているらしい。

 

「今日は、何ゆえにこの地に?」

「古い骨を探しにね。……あ、もちろんあなたのもいただくよ!」

「やはりか。ふ、任せよ。友のためなら私の全てを捧げよう」

「その言い方だと語弊があるニャ……」

 

あ、そっか。正確にはゴマたんの狂竜ウイルスのことである。吸い込んだり付着したりすると危険だから丁寧に扱っている。

 

「先に遺跡を回りたいけど……。せっかく先にあったんだからウイルスから集めようかな」

「よかろう。好きなだけ取っていくが良い」

 

僕はゴマたんの言葉に甘えで空き瓶を取り出し、慎重にウイルスが付着している鱗を入れていく。

そして、しっかりふたを閉めて密閉していく。

 

「採取完了!ありがとね」

「我が呪われし力は常人には受け入れられぬ。たとえ、私の言の葉を理解できようものでさえもな……。丁重に扱うのだぞ?」

「大丈夫大丈夫。さて、これから骨集めに行くけどついてくる?」

 

僕がそう聞くとゴマたんは「うむ……」と悩み始めた。

 

「そなたと共に行動することは望んでいるものの……。やはり我が力に触れてしまわぬか不安だ……」

「あー、そっか……」

 

ゴマたんは見た目は禍々しくて少し怖いけど、このように優しい性格をしているのだ。

僕自身もゴマたんが好きだからついてきてほしい意を表すことにした。

 

「狂竜ウイルスは僕の方が気を付けるから気にしないで。一緒に行こ?」

「おお、良いのか。さすが我が友よ。そなたに近寄るものがいようものならこの闇の力で葬ってやろう」

「あまり暴れて人間の狩猟対象に入らないようにね……」

 

ただでさえ黒蝕竜は目撃例が少ないため、何もしなくてもそこにいるだけで狩猟対象に入りやすいのだ。特にゴマたんは僕と出会ってからよく遺跡平原を出歩くようになったらしいから、狙われないか少し心配……。

まあ、ゴマたんに限ってそう簡単にやられることはないだろうけど……。

 

「私の黒き鎧も操作できればそなたを背中に乗せられるのにな……。煩わしい力を持って生まれてしまったものだ」

「常に抜け落ちてるんじゃしょうがないもんね」

「それに少し距離も置かねばならぬ。姿を見ることも出来ぬとは、不便な身体だ」

「まあまあ、そんな力も好きだよ」

「ふ、嬉しいことを言ってくれる。だが、やはりそなたの姿だけでも見てみたいものだ。我が身体はまだ未熟ゆえ、成長すればいつかは……」

 

そういえば、ゴマたんはこう見えてもまだ成体ではないらしい。黒蝕竜については情報量が少なくて詳しく知らないからゴマたんがどんな風に成長するのか見てみたい。

 

「む、この辺りにそなたの求める物の気配を感じるぞ」

「あ、ホント?おおー、あったあった」

 

崖の上まで来たあたりでゴマたんがそう言う。

周りを見渡してみるとゴマたんの言うとおり、昔生きていたのであろうモンスターの骨を発見した。

 

「ありがとー。これくらいでじゅうぶんかな」

「そなたの力になれたというのならば私も嬉しいぞ」

 

相変わらずゴマたん素直。かっこいいのに可愛い。

僕は一通り集めたところで立ち上がった。

 

「よっこいしょっと。重いっ……。ちょっと取りすぎたかな。足元が……あ……!?」

 

バランスを取るため足を少し後ろに下げたところ、突然足場がなくなった。

が、崖だったこと忘れてた!

 

「うわぁああああ!」

「あ、危ない!」

 

僕が落ちかけたところ、突然誰かに支えられた。ビックリして骨を崖下に落としてしまったが、僕は何とか助かった。

助けてくれたのはもちろんゴマたん。ゴマたんは抱えた前足を地上に運び僕を戻してくれた。

 

「大丈夫か!?」

 

珍しくゴマたんが焦っている。こういうゴマたんは新鮮だから楽しみたいが……。

 

「だ、大丈夫だけど……狂竜ウイルスが……」

 

どうやら、感染してしまったみたいだった。そのことがゴマたんを余計に焦らす。

 

「し、しまった……。くっ、こんな忌々しい力などなければ……」

「そんなに自分を責めないで。狂竜ウィルスは放置しとけば治るから……。でも、ちょっと暑い……」

 

そもそも狂竜ウイルスは病原体でもはないため、一時的に免疫力が弱まるだけし、割とすぐ治るしで何ら命に別状はない。本当に不思議な力だ。

ウイルスに感染して、少し暑くなってきたけど、しばらく放置していたら、熱も引いてきた。

 

「あ、治ったみたい」

「真か!?ああ、良かった……」

「だから、そんなに心配する必要ないって」

 

狂竜ウイルスはそれをばら撒いてる対象を執拗に攻撃することで克服できるけど……ゴマたんに対してそんなことが出来るわけがない。

 

「そなたを守ると言っておきながら、こんなことでは……」

「本当に大丈夫だって。それに僕が崖に落ちそうなところを助けてくれたんだし」

「だが、そなたが集めた物が……」

「確かに骨は落ちちゃったけど……。でも、まだたくさんあるみたいだし、一緒に探そう?」

「……ああ。そうだな」

 

ゴマたんはなんとか元気を取り戻してくれた。その後僕たちは一緒に骨を探し集めた。

 

 

 

「んー、いっぱい集まったし楽しかったー!ゴマたん、今日はありがとうね」

「ああ。だが、今日は迷惑をかけてしまったな。本当にすまない。私はそなたの真の友になるべくまたそなたがこの地に降り立つまでに鍛錬をしておこう」

「真の友か……。うん、ありがとう。また、来るねー!」

「ああ。安息の時を過ごすのだ!」

 

ゴマたんは最後に「さよなら」と言って飛び立った。

僕は彼が去った後に狂竜ウイルスが詰まった空き瓶を取り出した。

 

「ふふ、これがあればいつでも一緒だね。また、綺麗な結晶をつくるよ♪」

 




ザック「なんでこんなにボクの出番が少ないんだニャー!?」
シュウ「だって、ザックが無駄にしゃべると話がグダグダになるんだもーん」
ザック「え、ひどくない?」


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4 不思議なロアルドロスとは!?

9月まだ1回も更新してなかったとは\(^o^)/


「あれ、これなんだろう?」

 

ある日。僕が外出から戻ってくるとポストに一通の手紙が入っていた。

 

「どうしたんだニャ?」

「家に珍しくも手紙が入っててね。……あ、もしかして実験のオファーだったり!?ついに天才宗くんに目を付けた人が現れたか!良いセンスしてるなー」

「うん、それは絶対ないから手紙の中身を見てみるニャ」

「ぶー。ちょっとは乗ってくれてもいいじゃんー」

 

とか言いつつ自分でもそれはないなと思ってい普通に家の中に戻って便箋を読み上げる。

 

「えーっと、なになに。『最近、孤島で不思議なロアルドロスの目撃情報が相次いでいます。しかし、目撃者に何が不思議が聞いてみてもなぜか耳をふさいで教えてくれませんでした。そこで、学校でもレポートをまとめるのが得意な切鮫君にそのモンスターの偵察をし、まとめて欲しい』……!?」

「なんと、ハンターとしての依頼だニャ!しかも依頼主はシュウの学校の先生だニャ!」

「いや何これ!納品でも討伐でも捕獲でも撃退でもない!新しい!!」

「授業をまともに取り組んでいる成果が表れたニャ」

「そういうことかなのかなぁ……」

 

でも、まあ確かに誰かがやらなきゃいけないことだし、それにわざわざ僕に送るほど期待してくれてるのなら……ね。

それに……。

 

「不思議なロアルドロスっていうのは私的好奇心をくすぐられるよ。文章見る限りだとなかなか恐ろしい生態を持つみたいだし。うん、やろう」

「わー、簡単に釣られてるニャー」

「えーと、時間は……『昼に出没するようです。1週間以内に偵察し、なるべく早めにレポートを提出してください』と。別にいいんだけどさ。これ、断らせる気一切ないね。ま、明日暇だし朝一で行こうか」

「わかったニャ」

 

この村の生徒はほぼ全員ハンターのため学校に行く暇がない。それゆえに基本家庭勉強となっている。だから、学校にも狩りにも行かない僕はある意味常に暇と言っても過言ではないのだ。

僕は軽く準備をしてから、今日は早めに寝ることにした。

 

 

NOW LOADING……

 

 

朝起きてすぐに小舟に乗り孤島に着いた僕たち。

でも、プラット村から孤島まではそう遠くないため予定よりも早く着いた。

僕はせっかくだからロアルドロスの復習をしておくことにした。

 

「ロアルドロス、通称水獣。メスのルドロスを集めていわゆるハーレム状態で行動する。偵察するならルドロスにも気を付けた方が良いかもね。無駄に攻撃して怒らせるのもアレだし……」

「ハーレム、良いニャぁ。ボクも逆ハーレムしたいニャぁ」

「あ、そっか。ザックってメスだったね」

「そ、そうだニャ!ていうか、自分でザックだなんて男の子みたいな名前付けておいて間違えないでほしいニャ!」

「ごめんごめん」

 

僕は軽く謝っておく。でも、一人称がボクだと余計に間違われやすくなるんじゃ……とはあえて言わなかった。

 

「ちょっと早いけど行こうかな。パパッと見つけてパパッと観察してさっさと帰ろうか」

「ずいぶん軽いニャ……。襲われることだけはないようにしてほしいニャ」

「わかってるって。じゃ、レッツゴー!」

 

 

 

「目撃情報によるとこのあたりだよね」

 

その場所とはエリア6の陸地であった。周りを見渡す限りまだ来ていないようだ。

僕たちは岩陰に隠れて待つことにした。

そのまま数十分……。

 

「……あ、来た……!」

 

水獣が海辺から陸に上がってくるのを丁度目にした。パッと見普通のロアルドロスよりも小さめのような気がした。

まず第一に疑問に思ったことは……。

 

「ルドロスがいない……?」

 

いくら待ってみてもロアルドロス以外に海辺から上がってくる気配がなかった。

ルドロスを巣で待たせているのだろうか……?

しかし、この直後。

そんな疑問を吹っ飛ばす出来事が起こった。

 

 

「誰もいないよな……?よし、安心安心!ちょっと泳ぎ疲れたし休もーっと」

 

 

「……え?」

 

今の声……え?ろ、ロアルドロス!?

まさかまだ僕と話せそうなモンスターがいるとは……。

もしかして、変わった行動ってこれのこと?いや、でもモンスターと話せるのは僕だけのはず……。

一体どういう……。

 

――ポチャ

 

「っ!!」

 

僕はうっかりペンを岩場の水たまりに落としてしまい、小気味良い音が鳴り響いた。

当然それはロアルドロスにも届き……。

 

「わ!?誰だ!オレの休憩の邪魔するつもりか!?」

 

そう叫びながらロアルドロスが近づいてきた!

こ、こうなったら話しかけてみるしかない……!

大丈夫、相手は小さいうえにルドロスも引き連れていない。万が一襲われても倒せるかも……!目的変わっちゃうどころか失敗な気がするけど!

よし!

 

「そ、そこのロアルドロス!ちょっといいかな!!」

 

ビシッと人差し指を指して話しかけてみる。

反応は……。

 

「うわぁ!?え、え?あれ?オレ、今……」

 

やっぱり僕の声を理解できてるようだ。

困惑した様子であたりをきょろきょろ。僕と話せるモンスターおなじみの動きをする……

かと、思いきや彼は少し違ったようだ。

 

「も、もしかしてこれって兄ちゃんが言ってた……。おいそこのハンター!」

「なに?」

「ちょっと兄ちゃん連れてくるから待ってろ!」

「兄ちゃん?待ってろ?え?」

 

――バシャン!

 

ロアルドロスはそれだけ言うとまた海中に戻って行ってしまった。

なんなのだろうか……。

僕は仕方ないから言われた通り待つことにした。

しばらくして……。

 

「ほら、兄ちゃんこっちこっち!」

 

ロアルドロスが戻ってきた。その兄ちゃんというのも連れて。

まだロアルドロスしか顔を出してないからわからないけど……。

身体の大きさを考えるとまだあの子は子供なのだろうか?それで兄ちゃんというのは大人になった彼の兄。

それなら納得が――

 

「いったいなんだというのだ。私は今パトロー……は、しゅ、シュウ!?」

「ら、ラギアクルス!?」

 

僕の想像を一瞬でぶち壊してきましたとさ。

 

 

 

「なんと、ロアルまでもシュウと話せたとは……」

「僕が出会った話せるモンスターの中では一番小さいよ。まだ成体じゃないみたいだし……」

「こ、子供みたいに言うなー!」

 

ロアルドロスが連れてきた兄ちゃんとはなんとラギアクルスのことだった。しかも、僕と話せるタイプの。

そういえば、前会ったとき「弟のような存在がいる」と言っていたけど、この子のことだったんだ。

 

「それにしてもラギア。あんまり僕のこと言いふらさないでよね。アイルー経由とかで村人にばれたら大変なんだから」

「う、そ、それはすまない……。だ、だがこのことはロアルにしか……」

「でも、ロアルドロスがうっかり外部に漏らすかもしれないという事もあるでしょ?」

「こ、こいつはそんなことは……!!……いや、これはそういう問題ではないか……。本当にすまなかった……」

「まあ、聞いてる限りだとかなり信用してるみたいだし。大丈夫だと思うけど。……大丈夫だよね、ロアルドロス?」

「もちろん!兄ちゃんと他人に言わないって約束してたもん!」

 

ムンと胸を張るロアルドロス。どうやらお互いの信頼関係はかなり深いようだ。

 

「ところで、どうしてラギアはロアルドロスを?」

「ああ。それは私がいつものようにパトロールをしていたら、親から離れてしまったこいつを見かけたのだ。まだ小さいから泳げず溺れていたところだった。すぐさま助けに行ったらこの通り好かれてしまってな」

「当たり前だ!だって兄ちゃんは命の恩人だもん!オレ、兄ちゃんのこと大好きだぞ!」

「や、やめてくれ。照れるだろ」

 

ラギアは視線を外しながらも嬉しそうに笑う。

 

「違うモンスターだというのに優しいね」

「当然だ。私は困った者がいたら極力助けてやりたいのだ。それに種族は関係ない」

 

このラギアクルスは正義感が強く、この孤島の海でもよく慕われているという。

どうやら本当に「海の王」として活躍しているようだ。

それに体中に古傷があることから戦闘経験が豊富ともみられる。実は相当強いのでは……?

僕はここであえてラギアを困らせる質問をしてみた。

 

「じゃあ、もし僕の村のハンターが困っていたら助けてくれる?」

「あ、そ、それは……」

 

予想通りシュンと少し暗くなる。

 

「すまない、シュウ……。私たちにとってむたみやたらに攻撃してくる人間は敵なのだ。みな、シュウみたいに言葉を交じりあうことができればな……」

 

人間の話題となると僕と話せるモンスターでさえ否定をする。これが人間とモンスターとの間で生まれた本能なのだろうか。

それでもラギアは和解を望んでいるようだ。……やっぱり優しいなぁ。

 

「ふふ」

「ど、どうしたというのだ?」

「ううん。ラギアのそういう答えを聞きたくてね」

「そういう……?は、ま、まさか私を試したな!?」

「あはは、ごめんね」

「まったく……」

 

ラギアは「はぁ……」とため息がつく。ラギアは正義感は人一倍あるけど、たまに天然というか、抜けている部分があるから今みたいにイタズラな質問をしたくなってしまうのだ。まあ、イタズラだけが理由ってわけじゃないけど。

 

「でも、こういうところがみんなから慕われる理由なんだね」

「こういうところ?どういうところだ?」

「兄ちゃんっていつもはかっこいいけどたまに可愛いよなー」

「か、可愛い!?ろ、ロアル、何を言ってるんだ!?」

「あはは、なんでもないよ、兄ちゃん!」

「むうぅ……。気になるな……」

 

やはり自覚がないようで困惑していた。うん、今日もカッコ可愛い!

 

「とこでシュウ。今日は何しにここへ?」

「ああ。忘れてた。最近、ここら辺で不思議なロアルドロスが来るということで偵察しに来たんだけど……。まあ、ほぼそこのロアルドロスのことかと」

「だろうな。だが、別段不思議だと思うことは……」

 

ラギアはそう言いながら長い首を動かしてロアルドロス全体を見てみる。が、やはり見た目で変わったところはないようだ。

僕は手紙をもう1度読み直してみる。

 

「耳をふさいで誰も教えてくれないってことは恐怖を植え付けられたから?もしかすると……」

 

僕はラギアとじーっと見つめてみる。

さすがの彼もずっと見られてたじろいできた。

 

「な、なにをそんなにジロジロ見てるんだ……?」

「もしかして、原因はラギア?」

「な、わ、私!?」

 

自覚がないからかかなり驚いているようだ。

でも、たぶんこの原因は事実……。

 

「だって、このロアルドロスは本来引き連れてるはずのルドロスを引き連れていない。でも、代わりに海竜ラギアクルスが近くにいることが多い。これはもう確信犯でしょ?」

「た、確かにロアルは子供だから近くで子守することが多いし、人間が近づいたときは威嚇をして追い払っていたが……。。まさか、人間にそこまで恐怖心を植え付けていたとは……」

 

いくら嫌いな人間といえど知らないところで逆に嫌われていたというこにとはショックだろう。しかも、何もしていないとなるとなおさら……。

 

「兄ちゃん!子供って言うなー!」

「はぁ……。本当にロアルが大人になってくれたらな……。いや、でも、ロアルの素材は人間の間でもよく使われると耳にしたことがあるし、やはり放っておけん……」

 

……まあ、ラギアの過保護な部分にも少し問題がある気がするけど。

 

「ま、何はともあれ、ロアルドロスの不思議な部分っていうのがわかったし、そろそろ帰らないと」

「えー、もう帰っちゃうのー?」

 

ロアルドロスはつまんなそうに言う。

 

「こら、シュウだってやることあるんだから。それにここに長くいて他の人間たちにばれたら大変だろう?」

「むー、そっか……」

 

ロアルドロスはふくれっ面になりながらも納得してくれたようだ。

僕は最後に頭を撫でていく。

 

「孤島はよく来るし、見かけたら声かけてね」

「ああ!あ、そうだ!今度人間のこと色々教えてくれよ!いっぱり知りたいなー!」

「うん。ただ、これぐれも外部に漏らさないことね?」

「大丈夫だって!」

 

ロアルドロスは元気にそう言う。今まで会ったモンスターはみんな大人だったからこう言う無邪気なの良いなー。

 

「じゃあ、そろそろ……。あ、ラギア」

「どうした?」

「ロアルドロスとはなるべく片時も離れないようにね?」

「な、なぜだ?それだと余計に私の評価が……」

「とにかく!それに本当に悪口言われてるかなんてラギアにはわからないから気にしないの」

「まあ、それもそうだな……」

「え、これから兄ちゃんとずっと一緒にいてくれるの!?わーい!」

「だが、あまり人間が目を引くような行動取るんじゃないぞ?それに、敵が来たら真っ先に逃げるんだ」

「えー、俺兄ちゃんと一緒に戦いたいー!」

「駄目だ」

「えー!」

 

相変わらずラギアの過保護っぷりがすごかったけど、なんだかんだでお互い納得してくれたようだった。

 

「じゃ、また来るよ。またねー」

「ああ。帰りにモンスターの襲われるんじゃないぞ」

「また一緒に話そうなー!」

 

こうして、僕は孤島を離れた。

さてと……なるべくラギアとロアルドロスが狙われないようなレポート書かなくちゃ。




「『噂の不思議なロアルドロスはどうやらラギアクルスと共にいることが多いようだ。我々人間が近づいてきたときは激しく威嚇をしてくるが、危害は加えてこなかった。よって、見かけても速やかに立ち去るのが無難。間違っても攻撃しないようにした方が良い。』っと。ま、こんなんでいいかな」
「シュウにしてはかなりまともだニャ」
「あれ、ザックいたんだ。ラギア達と一緒にいたとき一切喋らなかったからどこかへ行っちゃったかと思ってた」
「え、ひどくない?」


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5 憧れの先輩は舞雷竜!?

「え?峡谷で岩塩を採取?」

 

それは、ラギアクルスたちと会ってから約2週間後の夕方のこと。さっきまでしていた勉強がひと段落ついたのでベッドで休んでいたとき。ザックがそんな依頼を受け取ったというのだ。

 

「そうだニャ。でも、今は環境不安定らしいニャ」

「環境不安定か……」

 

神出鬼没なモンスターはいつ出現するかわからない。環境不安定というのは、その大型モンスターが出現する可能性が高いことを示唆している。

「どうするニャ?行くニャ?」

「うーん。まあ、パパッと行ってパパッと取ってパパッと帰るだけだし。大丈夫じゃない?」

「その油断が隙を呼ぶニャ」

「大丈夫大丈夫。一応、モドリ玉持っていくから」

そう言いながら僕はボックスの中から以前意味もなく、ただ興味本位で調合したモドリ玉を取り出す。

 

「準備満タン!ところで、出発はいつ?」

「明日の朝ニャ」

「じゃあ、体力温存のために早めに寝ようか」

「分かったニャ」

 

僕は少し峡谷について調べた後、夕食を食べ、すぐに眠りについた。

 

 

 

NOW LOADING

 

 

 

「ふわぁ~……」

「あ、おはようニャ」

 

早朝。まだ、日が昇って間もない時間だ。

僕はあくびをしながらうんと腕を伸ばす。

既に起きて毛づくろいをしていたザックに挨拶をしてから、僕は眠気を覚ますために顔を洗いすぐに朝食をとる。

 

「いただきまーす」

「頂きますニャー」

 

今日の朝食はオニオニオンとシモフリトマトのサラダ。そして、朝から贅沢にもこんがり肉である。

そんなふんだんな量でありながらも案外ペロッと食べてしまう僕も結構ハンターに慣れてしまっている気がした。

 

「えーっと……ピッケルと、モドリ玉と……」

 

食器を片づけてから荷物の確認をする。昨日寝る前もしたから泥棒が来ない限り大丈夫なのだが、それでも再確認してしまうものだ。

 

「じゃあいこっか」

「ニャ」

 

 

NOW LOADING…

 

 

「わ、風が強い……」

 

渓谷についてすぐの感想がこれだ。

渓谷には以前採取ツアーで1度だけ来たことがあるけど、結構前の話だからまるで初めて来たかのような感覚だった。

 

「目印となるものがあまりないなー……」

 

周りを見れば、ほとんどなにもなく、ただあるとすれば、サボテンくらいだろう。

岩塩が取れる場所は既にリサーチ済みであるものの、少し緊張していた。

 

「まあ、手には地図もあるし何とかなるかな……」

 

僕はそう思いながら岩塩のあるエリアへ向かった。

しばらくして……。

 

「……ここどこ?」

 

ま、迷ったー!!!!!!!

さて、ここはどっこかなー?

予習したのに!地図もあるのに!さっぱりわからない!

「あれれーおかしいなぁ……」

「ニャ~……。シュウはいつから方向音痴になったんだニャ……」

「そ、そんなこと言わないでよ!そんなこと言うならザックが案内してよ!」

「ニャニャ……。……あ、そうだニャ!こんなときこそモドリ玉使うんだニャ!」

「おおー、ナイスザック!よし、それでは早速!」

 

僕はポーチからモドリ玉を取り出し、地面に叩きつけた。途端に緑色の煙が吹き出し、瞬く間に目が開けられないくらい煙に包まれていった。

 

 

「……あ、ここは?」

 

目を開けて周りを見ると、なんとそこはベースキャンプだった!」

 

おおー、やったやった!へぇー、モドリ黙ってすごい!本当に戻れちゃうんだ!不思議ー!

地味に初体験だったモドリ玉にさっきまでの状況を忘れ、感動してしまう。

 

「ほらそこ、感動は良いから岩塩取りに行くニャ」

「ええー。ザックは無関心だなー」

「良いから行くニャ」

「はーい」

 

僕たちは、気を取り直し、最初から進むことにした。

しばらくして……。

 

「……あれ?あれれ?」

 

も、もしかして……。

 

「ま、また迷ったのかニャ……?」

 

ザックの核心的な一言に地図を落とし、膝をつく。

 

「な、なんで……?地図をしっかり見ているはずなのに……」

 

僕は落胆しながら渓谷の地図を見渡す。

……うん?

今、何か違和感を感じたような……。

 

「ねぇ、ザック」

「なんだニャ」

「ここは、どこでしたっけ」

「え?何言ってるニャ。峡谷に決まってるニャ」

「じゃあ、この地図が示しているのは『峡谷』ではなく『渓谷』である件についてはどう思われますか」

「…………」

 

僕たちはしばらく沈黙した後。

一斉に口を開く。

 

「「そういうことかぁあああああああああ!!」」

 

確かに!峡谷も渓谷も名前若干似てるけど!地図間違えますかねスタッフさん!!

はぁあ……。

僕はそうため息をついて地面に座り込む。

というか、地図が全く違うのになんとなく正解だと思って進んでいた僕も馬鹿というか天然というか……。

 

「どうしよう……。一回村戻ろうかな……。あ、でも、もうモドリ玉ないし……」

 

当然、モドリ玉は環境不安定の緊急用として持ってきていたため、予備の調合材料は持ち合わせていない。

……あ。

 

「今、環境不安定なのか。万が一のこともあるし、少し安全な場所に移動しないと……」

 

『大丈夫。その必要はないよ』

 

「え……?」

「ニャ……!?に、逃げるニャー!!」

「え、え?」

 

僕が聞いたことのない声にぽかーんとしていると、急にザックが地面に潜ってしまった。何事かと思い後ろを振り向くと……。

 

「え、べ、ベルキュロス……?」

『ああ、そうだ。俺はベルキュロス。君たちが噂の声が聴こえる――』

「おんぎゃぁあああああああ!?」

「え!?」

 

僕は何も考えず一目散に走った!

が、転んだ!

 

「うわ!」

 

ゴロゴロゴロとすさまじく地面を転げまわる僕!

う……もうだめだ!こんなことならモドリ玉使わなきゃよかった!

そんなことを思いながら目を瞑っていると……。

 

『ちょ、ちょっと落ち着いて!別に俺は襲うつもりなんてないから!』

 

「……え?」

 

恐る恐る目を開けてもう一度ベルキュロスの顔を見る。

 

『そんなに怖がらないでいいよ。本当に襲うつもりなんてないから』

 

声が聴こえる……。

も、もしかして……。

 

僕はとりあえず、ベルキュロスと話をした。終始ビクビクしながら。

 

「えっと、つまり、ベルキュロスはリオレウスと知り合いで、僕たちのことを前々から知っていて……。それで、偶然僕たちを見かけて、話しかけてみようって思ったわけですか?」

『そういうことだ。それにしても驚いたよ。なんてったって、人間の声が理解できたんだからね。これはもしやって思って、アプローチしてみたけど、正解だったよ』

 

僕はその言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろした。

このベルキュロスとは初対面。前回のロアルドロスに引き続いてまだ話せるモンスターがいただなんて。

 

「良かったです。ベルキュロスがリオレウスと知り合いで」

『まあ、仮に俺が君のことを知らなかったとしても襲うなんてこと、しなかったけどな』

「え?どうして……」

「俺にとって無害だからかな。君が俺を初めて見たとき、一目散に逃げていたけど、君がシュウ君じゃなかったらそのまま見逃していたつもりだよ」

 

な、なんて賢くて優しいモンスターなんだろう……。確かに舞雷竜はモンスターの中でもかなり賢いモンスターとは聞いていたけど、まさかここまでとは。

それに優しいだなんて……。なんというか、彼に完璧・理想という言葉が浮かんだ。

なんか、かっこいいなー……。

 

『ところで、今日は何しにここに?』

「え?あ、えーと、今は岩塩を探していて……」

『岩塩?あー。あっちの方にあるよ』

 

ベルキュロスが指した方向は、崖と崖のだった。そこからそよそよと風が吹いていた。

 

「あ、ありがとうございます」

『俺あそこ入れないからここで待ってるよ』

「え、でも……」

『いいのいいの。ほら、俺が見ているから、安心して』

 

や、優しい……!

僕はそんなベルキュロスを待たせるわけにも行かず早急に岩塩へ向かった。

岩塩は思った以上にあっさりとゲットできた。

僕がベルキュロスの元へ戻る途中、いつの間にか戻ってきていたザックが小声で話しかけてきた。

 

「だ、大丈夫ニャ?ボクはとっても不安だニャ……」

「いつからそこに……さっき逃げた気が……」

「確かに逃げたニャ。でも、ずっとここで会話訊いていたニャ」

「ええー……。まあ、リオレウスの友達だって聞くし、性格もすごくいいから大丈夫だよ、きっと。じゃ、僕は戻るね」

『あー、じゃあボクはここで待機を……」

「はいはい」

 

なんだかんだで臆病なザックをここに置いて僕はベルキュロスの元へ戻った。

 

『あ、おかえり。どう、岩塩は取れた?』

「はい。良いのが取れました。ありがとうございます」

『はは、いいよ、お礼なんて』

 

笑いながらそう言うベルキュロス。

僕はベルキュロスに対する恐怖は既に消えていた。それと同時にベルキュロスの容姿が目に入ってきた。

……立派な鬣に長く伸びた鉤爪で見た目だけでも強いと感じる。

強さも心も容姿も素晴らしいだなんて少し憧れてしまう。

こんな感じな先輩がいたら嬉しいなー……。

 

『ん?どうかしたか?』

「いえ、ちょっとかっこいいなって思って……あ」

 

思わずそのまま口にしてしまった。

それくらいキリッとした凛々しい表情だった。

 

『はは、いいよ、お世辞は。俺自身まだ自分に満足していないから』

 

ま、まだ己の高みへ目指しているだなんて……ますます憧れる!

 

『あ、そういえば、さっき……俺とシュウ君が出会う前、オトモアイルーの……えーと……』

「あ。ザックです」

『そうそう、ザック君。その子と迷子になってるって話を聞いたんだけど』

「あ、そうなんです。もう戻る術がなくて……」

『じゃあ、俺がキャンプまで送っていくよ』

「え?ホントですか!」

『いいよ。今日から同じ仲間だし』

「ありがとうございます!」

『あ、でも、ザック君がここにいないけど……』

「大丈夫です!」

『で、でも……』

大丈夫です!大丈夫なんです!」

『そ、そうなのか。わかったよ』

 

僕の強い押しにベルキュロスは圧倒されていた。でも、気にしない。

だって……。

 

(同じ仲間かぁ……嬉しいなぁ……ふふ)

『じゃ、飛ぶよ!しっかり捕まってて!』

 

にやけながらそう思っていたらいつの間にか空を飛んでいた。僕は慌ててベルキュロスの身体を掴む。少しだけ身体に電気が伝わる。

その飛行能力は、空の王、リオレウスよりも正直上手い気がする。

そして、ベースキャンプへの道にあっという間に着いてしまった。

 

『はい、到着。この道を真っ直ぐ歩けば、君たちの拠点に』

「ありがとうございます!」

 

僕は、初めて出会った時とは打って変わって笑顔でお礼を言う。

もはやベルキュロスは本当に憧れの先輩のような感覚だった。

 

『あ、そうそう。これからは俺のことはため口で――』

「いえ!敬語で大丈夫です!むしろこっちの方が良いです!」

『え?そ、そうか?まあ、シュウ君がいいなら別にいいよ。じゃ、またね』

「はい!」

 

ベルキュロスは少し戸惑いつつもすぐに受け入れ、この場を離れた。

僕がザック以外の他人に対してここまではきはきと喋るのは初めてだった。

また、会いに行きたいな~。

そう思いながら僕は村に帰った。




急ピッチ更新!後に細かい訂正とかあるかも!


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