ひとりちゃんは最高にかわいい (白ノ宮)
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ep1 第1話目に見せかけたプロローグ

勢い(急ごしらえ)で書いた。
次回からは二千字以上で投稿したいです。

そしてアニメの人気の割には...?って感じで正直驚いてる。


カーテンの隙間から差し込む陽の光。

 

起床してすぐに窓を開けて小鳥の囀りをBGMにそよ風に吹かれる可憐な美少女...それが私、暗城レンです。

 

とまぁ軽い冗談は置いといて、私には幼馴染が存在する。

 

後藤ひとりちゃん、ピンク髪でコミュ障を拗らせたかわいい女の子だ。

 

奇行も目立つし、普通なら関わりたくない人種の人間なのだがひとりちゃんは何故かそれがかわいいと思えてしまうのだ。

 

おそらく私の中身がおっさんだからだろう。

正直言って、女の子に転生した事を自覚した時は絶望の淵に立たされたのだが案外こういう生活も悪くないんじゃないかと思えた。

 

前世の世界であればひとりちゃんみたいな人間とは関わりたくは無かったのだが、この世界ではどうだろう。闇を纏ってるようなひとりちゃんでさえ、光り輝いているように見えるのだ。

 

成長していくうちにコミュ障具合は改善とは真逆の方向に向かっているが、本人はそれで良さそうなので私も気にしない方針でいる。

 

ここまで聞けばひとりちゃんは何の取り柄もない女の子だと思うだろう。

 

しかし、ひとりちゃんは素晴らしい特技を持っている。

 

極めて高いギター演奏技術だ。

 

元々は中学時代にバンドを組みたい一心で青春をギター練習に捧げてきたみたいだが、結局組めずじまいという非常に残念な結果に終わってしまった。

 

しかし、動画投稿サイトではチャンネル登録が万を超えるという快挙を成し遂げている。純粋な演奏技術だけでそこまで人を集めることができる彼女は最高な才能の持ち主と言える。

 

そんなひとりちゃんと同じ高校に進学して今日から高校生生活が始まる。

中学時代のしがらみをなくして高校デビューを飾りたいと言った彼女は県外の高校を志望したので私もそれに倣って同じところに進んだ。

 

片道2時間かかるという前世での通学時間を遥かにオーバーする圧倒的な遠さに一瞬気が遠くなったが、ひとりちゃんのそばにいれるという事実でチャラにできる。

 

私は素早く身支度を終えて、学生鞄を持って玄関に向かう。

靴を履いて誰もいない廊下に向けて

 

「行ってきます」

 

と告げて外に出る。

 

となりの後藤家の前に移動して高揚感に身を任せてルンルン気分でぴょこぴょこしていると後藤家の扉が開いてトボトボと私の幼馴染が出てきた。

 

「おはよっ!ひとりちゃん♪」

 

「おっ....おはっ...おはよ...レンちゃん」

 

相変わらず目が合わないが今日もひとりちゃんはかわいい。

 

「今日も元気そうで何よりだ♪さぁ、行こっか?」

 

「あっ....うん...」

 

さりげなくひとりちゃんと手を繋いで駅に向かって歩く。

転生したら高校生になって毎日通学デートをすることになるなんて夢にも思わなかっただろう。

 

実にこの生活は素晴らしい、そう思った。




暗城 レン

灰色の髪をツーサイドアップにしている。
後藤と同い年。
楽器はグランドピアノを8時間触った程度の経験しかない所謂トーシロ。
おっさんがTS転生した結果。


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ep2 TS主人公がママ属性持ちとかホント謎

TS要素って要る...?
最初っから女主人公って事にしといた方が良かったかもしれない。書いてて思ったんだけどおっさん成分ほぼ死んでるし、もうママじゃん。


電車内

 

朝5時半頃の電車に乗る。

いくら都内に向かう線でもこの時間帯は流石に空いているようで、端っこの席(優先席じゃないヨ)に隣同士で座った。

 

側からみるとルンルン気分の少女と朝から暗い少女といった真反対の人種が隣り合っている構図だが、私には分かる。

 

暗いオーラが出ていてもその中に、新生活への期待が微かに混じっていることを。

 

人も少なく、イヤホンをしている人しかいないのを確認してからひとりちゃんに抱きつく。

 

「わわわ....ど、どどしたのっ...」

 

急に抱きついてきた私に対して戸惑っているひとりちゃん、ほんとにかわいいっ。

 

「ん〜、ひとりちゃんかわいいなって思ってつい抱きついちゃった♪」

 

「そそそそそっかかかか...」

 

「もう、照れちゃうひとりちゃんもかわいいっ!」

 

こうしているとひとりちゃんの暗いオーラが吹き飛んで、顔を赤らめた女の子になる。こうなると更に可愛くなっちゃうんだよね。

 

とはいえ、中身おっさんがこんなことを言ってるんだって急に我に帰るとなんとも言えない気持ちになるんだけど...。

 

その後無言で抱きついていたらいつのまにかひとりちゃんが眠ってしまっていたので乗り換えの駅までずっと抱きついていた。

周りの目なんか気にせずにひとりちゃん成分を補給し続けていた。

 

過充電気味な私と一眠りして若干スッキリしたひとりちゃんは何事も無く学校に着いた。初日ということもあって早めに家を出たのだが迷うことなく来れてよかったと思う。

 

校舎内の掲示板の前でクラス一覧の名簿の中から自分の名前を探していると、隣にいるひとりちゃんが横からスッとひっついてくる。

 

君はアサシンか何かなのかな?近付いてくる時の気配がなさ過ぎて少し驚いてしまったのは秘密の話だ。

 

甘えたいのかなと思ってひとりちゃんの方を向くと、いつも以上に青い顔で少し心配になってくる。

 

脂汗をかいている様には見えないのでパニック的な意味を持った青い顔なんだろう。もはや血、通ってますか?と伺いたいぐらい青いので他の人からすれば救急車呼ぶ?ってレベルだと思う。

 

すぐに俯いてしまったので他の人に見られることがなかったのが幸いだったね。

 

とはいえこのまま腕に引っ付かせているのは何か違うなと、一瞬引っぺがして壁際に引っ張ってそこで正面から抱きしめる。頭を撫でるという行為も追加で行うのが大事なポイントです。

 

コレをしたらひとりちゃんのパニックは沈静化できる。やっぱり人肌って大事だよ。

私自身ももう一人の私にこんなことされたら落ち着くを通り越してオギャりたくなっちゃうよ。

 

ひとりちゃんを撫でながら再び目線を掲示板に向けると案の定、ひとりちゃんとは別のクラスだという現実を叩きつけられる。

 

「クラスは別になっちゃったけどそれ以外は一緒だからっ、ねっ?」

 

これで頷いてくれるかどうか...。

 

「むむむむむりりりりり.....」

 

だよね、知ってた。

 

「.....でも、がががんばって...みる...」

 

その言葉を耳にした瞬間、私の目頭から涙が少し溢れる。そしてギュムっと抱く力を強める。ひとりちゃんの顔がなにか赤い気がするが、そんな事は些細な問題だ。

 

「うんっ!頑張ろうねっ!ひとりちゃんっ!!」

 

私達はクラスに向かうため別れて行動をする。

 

□■□■□■

 

あれから入学式を無事終えて自分のクラスへ舞い戻る。そこからロングホームルームとして色々交流の場が設けられたのだが、私は小学校や中学校の時と違って消極的な姿勢を貫いた。そのおかげか見事孤高キャラとして成立したんじゃなかろうか。

 

...まぁそれは冗談だ。深い交流をするつもりはないが世間話をする程度の知り合いは数人作っておいた。

 

私は元来、人見知りなのだが社会人になってからは『これもビジネスのうちの一つ』という大義名分の下に交流を広めていった節があり、小中そして高では『友達作りも勉強の一環』と自分を無理やり納得させて動いている。

 

今回の場合はひとりちゃんとの時間をなるべく多く作りたいという事で、知り合い程度に抑えておいたという訳だ。

 

■□■□■□

 

自分のクラスのホームルームが終わって解散になったのでひとりちゃんのいるクラスを覗いてみると、後ろの席の方で沈んでいるピンク頭が視界に入る。

 

外界の情報をシャットアウトして要塞と化しているひとりちゃん、痛々しいけどかわいいっ!

 

このまま10分ほど見ていたい気持ちを抑えて少し声を張って呼ぶ。

 

「ひとりちゃん!かーえろっ♪」

 

私のクソでか美声にクラスに残っている人の視線が集まり、ひとりちゃんは私の声に驚いたのかガタッと大きな音を鳴らして私の集めた視線をそのまま自分の身に浴びる事になってしまった。

 

次第に興味を失っていき消えていく視線、ひとりちゃんが立ち上がり荷物を持って小走りで私に突進してくる。

 

足を肩幅に開いて受け止めて先ほどと同じように撫でる。本日2回目ぇ〜。

 

それにしても下向きで小走りに走ってよく人にぶつからないなと思う。

邪魔にならないように廊下の端っこに移動してからなでなでを再開して、「よく頑張ったね」「偉い偉い」とASMRのようにひとりちゃんの耳元で囁き続けた。

 

我ながら歪な友達関係だと思うがこういうのもありなんじゃないか?

両者の需要と供給が一致し合っているのでWIN-WINなわけだからこんな幸せな関係って他にないと思うの。




【悲報】作者さん、百合がどういった概念か明確に理解していなかった

1.唯一無二の作者
それでも止まるわけにはいかないから毎日投稿とは言わないけど連載頑張ります...!

2.名無しの読み手
おう、無理せず毎時毎分毎秒投稿してくれや

3.名無しの読み手
期待せず待ってるわ

───────
作者の脳内は今こんな感じだったりする。


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ep3 ホントは前半だけど一つの話として扱いたい!

今回思ってたより文字数がいかなかった...。

そういえば暗城レンって私の理想のヒロイン像な気がしてきた。


あの後ひとりちゃんを10分程癒して、ある程度まで元気にした。私はどうやらヒーラーの才能があったようだ。

 

ひとりちゃんを横に引っ付けて駅に向かう。

 

さっきの様子からしてひとりちゃんの輝かしい高校デビューはあえなく玉砕したようなのでせめて、高校生活初日を乗り切った記念日として祝ってあげたい。

横にいるひとりちゃんは今でも十分幸せそうな顔をしているが、ならばもっと幸せになって欲しいと思うのは傲慢だろうか?

 

「ねぇ、ひとりちゃん。今日はうちに泊まっていかない?高校生活初日を記念するっていうことで!...どうかな?」

 

「うんうんうんっ!......レンちゃんと...お泊り......ウェヒヒヒッ...」

 

特徴的な喜び方をするひとりちゃんを横目にスマホでひとりちゃんのお母さんに連絡を取ると即時許可が下りたので、別のアプリで家のお風呂とセットしておいた炊飯器のスイッチを遠隔操作でONにする。ホント便利な時代になったものだ。

 

電車内

 

「この時間はあまり学生は多くないんだね。やっぱり下北沢が近くにあるとそっちに寄り道しているのかもね」

 

私が何気なくそう呟くとひとりちゃんが反応する。

 

「...陽キャ多い...怖い...!」

 

トラウマセンサーが反応したひとりちゃんをそっと抱き寄せる。

 

「大丈夫だよ、私がそばにいるから」

 

今のひとりちゃんは比較的落ち着いた状態だ。その状態で抱きしめると照れているのかすぐ赤くなるので、見ていてとてもほっこりする。

 

■□■□■□

 

長時間電車に揺られて漸く我らが故郷の神奈川に戻ってこれた。

これ、学校生活で凄く疲れることがあった時無事帰ってこれるのかな?と心配になるが、最悪タクシーでも呼べばいいから大丈夫だろう。

 

「ひとりちゃん、今日はお泊りする訳だけど、夕食は出前と私の手料理どっちがいい?」

 

「...手のかからない出ま...」

 

「そうそう!手料理なら、ひとりちゃんの好きな肉じゃがにしようと思ってるんだけど?」

 

「アッ....手料理でお願いしましゅっ!」

 

「うん、了解っ♪」

 

相変わらずひとりちゃんの遠慮するタイミングがわからない。

とはいえ私を気遣ってくれるのは嬉しいんだけどねっ♪

 

スーパーの入り口に置いてあるチラシを手に取り内容を吟味する。

 

(ふむ、じゃがいもと豚バラ肉が安いな。たしか調味料はどれも問題ないからそれに加えてにんじんとしらたき、卵と後は...よしっ)

 

ひとりちゃんにカートを押してもらい、私は買うものの選別を行う。

途中で視界に入ったカップルを見て、急にひとりちゃんに悪戯心が湧いたのでひとりちゃんの耳元で

 

「私達、カップルみたいだねっ♪」

 

と囁いてからかってみる。

 

期待を裏切らないひとりちゃんは頭から煙を出して、擬音を付けるとしたら『ボンッ』と顔が赤くなった。

思春期って感じでかわいいっ♪

 

全てレジに通した後、持参したエコバッグに詰めて肩にかける。

丁度そのタイミングでカゴとカートを元の位置に戻して来てくれたひとりちゃんを撫でてから店を出た。

 

□■□■□■

 

我が家についた。

私の家は4〜5人が住む事を想定された二階建て住宅だ。

しかし、住んでいるのは私だけ。使っていないスペースの掃除は半年に一回する程度だ。

 

私がこんな大きい家で一人暮らしをすることになったきっかけは確か林間学校の時だ。その時に両親が旅行に行き、飛行機のエンジントラブルで墜落してしまい帰らぬ人となった。

不思議なことに親族はおらず、そこから私は並々ならぬ遺産とこのローンの無い大きな家で過ごすこととなった。

その時私は、今世では両親が忙しくて家事をやることが多かったので前世の経験を含めて練度は相当高いものになっていた。

 

ひとりちゃんのご両親に時々頼る事はあったが、ほぼ自分の力で生活ができていた。時々頼った際に力を貸してくれたひとりちゃんのご両親には頭が上がらない。

 

って私の自分語りは置いといて。

 

「ぉ..じゃまします...」

 

「そんな畏まらなくても大丈夫だよ。もう一つの家だと思ってもっとリラックスして?」

 

「...うん..」

 

「あ、そうそう。手を洗ったらリビングにあるテレビとかゲームとかで時間潰してて?」

 

するとひとりちゃんはモジモジし出してなにか言いたそうな雰囲気を出す。

 

「どうしたの?」

 

ひとりちゃん曰く、手伝いをしたいそうだ。

 

「うーん..。私だけでやったほうが多分早いから気持ちだけ受け取っておくね?ありがとう♪」

 

「...あっ...はい...」

 

ひとりちゃん家事出来ないのにわざわざ手伝いをしようとしてくれるなんて、そんな健気な一面もすっごくかわいいよ!

よしっ!腕によりをかけて作っちゃうよ!




はい。
前半ですね。
次回は後半としてキャッキャウフフなお泊まり会の場面をお送りしたいと思います。

あと二次創作の作品が少しずつですが増えて来ていて嬉しかったりします。

そして
お気に入り登録や感想や評価、ありがとうございます!


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IF:ep1 なんか違うひとりちゃん視点

ひとりちゃん視点の要望があったので試しに書いてみたら、コミュ障が軽減されたひとりちゃんが出来上がってしまった...。

ちなみに土曜と日曜は基本的に執筆しないので土日投稿はほぼ気まぐれになります。

今回は初めてお酒を摂取してみたので、アルコールでのブーストを期待して書いてみました。

普段出てこない言い回しが出てきてすごいですね。ただ、漢字を思い出す力が弱くなるのか、ノートに下書きを書く際はちょっと苦戦しました...。

それでは短いですが本文をドゾッ!



平日の早朝

 

けたたましく鳴る携帯のアラームに叩き起こされ、のそのそと起き上がる。

 

「えっと...今日は確か...」

 

そうだ、今日は待ちに待った高校生活初日だ。

 

私は神奈川県に住んでいるのだが、私がボッチでいる事を誰も知らない状態で高校デビューを飾りたいが為に、県外の高校に進学した。

 

片道2時間近くかかる計算だが、花の女子高生ライフを過ごす為ならこれぐらいの犠牲は必要だ。

 

これならたくさんの友達を作れるはず...。

 

これからの事を妄想していると笑みが溢れる。

 

私のかけがえのない親友も、私に合わせて同じ学校にしてくれたのだ。中学校は別の所だったのだが、その時も私が落ち込んだ時などたくさんお世話になった。

 

新生活への不安もあるが、それと同時に暖かな安心感もあった。

 

私が通う秀華高校はある程度服装の自由が効く場所で、制服がベースになっていればある程度のアレンジをしても容認される。

 

そして学校には豊かな種類の色のジャージがあり、私の髪の色に因んだピンク色のジャージを上着代わりに着てみる。その中にはしっかりとシャツを着込んでおり、ファスナーを下ろしても何の問題も無いようにしてある。

それに合わせてスカートを着用して、ソックスを履く。

 

鞄を持って姿見の前に立つと案外しっくりくる格好で、これなら人気者間違いなしだろうと確信が持てた。

 

一階に降りて洗面所で申し訳程度に髪を整える。

 

ぴょこんと存在を主張していて、どれだけ櫛を通してもすぐ飛び出るこの一房の髪に髪飾りを着けてそれっぽく見せるのを忘れない。

 

「お姉ちゃん、おはよう!」

 

後ろから元気な女の子の声がしたので、振り返って挨拶を返す。

 

「おはよう、ふたり」

 

妹のふたりだ。私とは対照で社交的、明るい性格の持ち主だ。

 

多分、母の性格を色濃く受け継いだんだろう。願わくば私のような暗黒の学生生活を送る事が無く、そのまま元気に育っていってほしい。

 

私に挨拶を済ませたふたりは、我が家の愛犬であるジミヘンと戯れながらリビングの方へ向かった。

 

身嗜みを整えた私は玄関で靴を履く。

 

新品のローファーはまだ硬く、フィット感について違和感があるのだが、次第に慣れていくはずだ。

 

トントンっと爪先を床にあてる。足の調子も問題なさそうだ。

 

リビングの方へ「行ってきます!」と言うと「「いってらっしゃーい」」と母とふたりの重なった声が返ってきた。

 

私は意気揚々と玄関のドアを開けた。

 

家から出ると、私の家の門でこちら側に背を向けて待っている親友兼幼馴染みである暗城レンちゃんが待っていてくれていた。

 

彼女も今日が楽しみだったのかぴょこぴょこと身体を揺らしており、普段ではあまり見られない子供っぽさにギャップを感じてかわいいと思う。

 

「おはよっ!ひとりちゃん♪」

 

「おはよう、レンちゃん」

 

私に気付いたレンちゃんは眩くて優しい笑顔で私に挨拶してくれる。まさに天使と言える存在だ。家族以外で目を合わせて会話できるのは彼女だけである。

 

「今日もひとりちゃんはかわいいねっ!」

 

「ふぇっ!?あ.....ありがとう...///」

 

不意打ちは卑怯だ。それに私から見たらレンちゃんの方が可愛いと思う。

 

人当たりのいい性格に、煌めく笑顔、辛い事があれば優しく包み込んでくれて、容姿やプロポーションも整っている。

 

なぜこんなハイスペックな存在が天使ではなく人間なのかいたって疑問である。

 

これを直接本人に伝えられたら不意打ちへのやり返しができるのだが、私にそんな度胸はない。

 

「どうしたのひとりちゃん?行こっ?」

 

「え...あ、うん」

 

少しボーッとしていたようだ。

 

それにしてもさり気なく手を繋いでくるのも卑怯なポイントの一つだと思う。

 

こんな感じでずっと過ごしていたら、私がレンちゃんと離れた時に48時間経ったらレンちゃん不足で砂になってしまうんじゃないかと感じた。

 

多分...レンちゃん無しだと生きられなくなってしまうような...。

 




なんかこのひとりちゃんなら孤立しなさそうな気がしてきた。

あと、感想をいただいていて感じたのですが、あれって次回を書くモチベーションが結構上がりますね。

感想といっても一言言ってくだされば簡単にやる気が上がるんですよね。ホント自分て単純...。

今回の作品で他の作者様方が感想を募集する理由が少しわかった気がします。

さてさて、次回はおそらく月曜(正しくは火曜の0時台)ですね。

お泊り会後編の予定ですので、期待せずにお待ちください。

では。


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ep4 物語の展開が遅いのはいつもの事

スランプかと思ったらそうでもなかった。

コミュ障のキャラって何気に書いた事なかったので、所々おかしいとこは出ますね。

大体、日常系自体あまり書かないから初めての事がたくさんあるんだろうけど...。


「よし、完成っと!」

 

私は慣れた手つきで次々と料理を完成させる。作業中も出来る事は全てやったため、後片付けもあまり時間はかからないだろう。これでひとりちゃんとの時間も多めに確保する事ができる。

 

「ひとりちゃん、料理出来たよー♪」

 

「...!手伝いますっ!」

 

「助かるよ、ありがとね♪」

 

「えへへ...」

 

盛り付けられた料理をひとりちゃんとテーブルに並べていく。

 

今夜のメニューは、『白飯』と『わかめと豆腐と味噌汁』と『肉じゃが(豚肉ver)』と『スクランブルエッグ』と『胡瓜と人参の浅漬け』である。

 

所々不自然なモノが混ざっているかもしれないが、家庭の料理って基本はこんなものである。

 

「ひとりちゃん、白飯はいつもの量でいいかな?」

 

「...うんっ。大丈夫」

 

「はい、肉じゃがも味噌汁もお代わりはあるからたくさん食べてね♪」

 

「...ありがとう」

 

このぐらいの年齢の子はダイエットがどうとか言って無理に痩せようとする傾向があるからね。

 

しっかり食べて体力をつけてもらわないと、今後ただでさえ遠い通学路を行く事になるんだから体力が持たなくなる。

 

それでは...

 

「「いただきます」」

 

食事を開始しよう。

 

先ずは白飯、艶は正直どうでもいいが硬さはどうだろう。

コシがあるが、硬いわけでもない。よし、いつも通りの美味しいと感じる柔らかさだな。

 

次に肉じゃがだ。味見した時の感じは問題ないからひとりちゃんの様子をみて見よう。

明るい表情で食の進みが止まらない様子だ。

 

全く無問題だな。

 

ひとりちゃんって好きなものを食べてる時は纏っている暗めのオーラが吹き飛んで逆にキラキラし出すんだよね。

 

ひとりちゃんの最終目標はその暗いオーラが制御出来るぐらいになるってとこかな。うん、ひとりちゃんなら可能だな。

かわいいし。

 

「レンちゃん、おかわりっ!」

 

ひとりちゃんが元気よく空っぽになったお椀を差し出す。

 

好きなものになると急に食欲が倍増するのってあるあるだよね。

 

見ていて非常に気分が良い。

 

口いっぱいに頬張る姿はリスのような小動物を彷彿とさせるようでセラピーに近い効果を受けられる...そんな気がする。

 

「おっけー♪」

 

あの表情からしてさっきと同じ量だな。

お椀にご飯を再度盛って渡すと、もきゅもきゅと食事を再開する。

 

ひとりちゃんは普段使う食材では嫌いなものがないのが偉い。

 

稀に高校生にもなって人参が苦手とか野菜全部やだーとか言い出す人がいるのは

まぎれもない事実である。

 

料理を出す側としても相手が何が嫌いだとかを気にする必要がないのは楽でいい。

 

食事を終えて、明日の分も合わせて作った肉じゃがと味噌汁を冷蔵庫に保存して、食器を洗う。

 

ひとりちゃんにはお皿拭きを担当してもらい、本人もご満悦だ。

 

そうだよね、人の役に立てるって思ってたより幸福だなぁって感じるときあるよね。

 

食休みとして二人でソファに隣り合ってボーッとしていると、ローテーブルに置いていたスマホがブルっとバイブレーションをかき鳴らす。

 

気を抜いていた私たち二人は突然発生した音に驚いてバランスを崩しかけたが、ぎゅっと密着して両足で踏ん張って事なきを得た。

 

食後のリラックスタイムに痛い目には会いたくはない。

 

なんの通知なのかと画面を見るとただの電車の遅延情報だった。

 

...通知きっとけばよかったかもしれない。

お陰で横からのジト目がやばい。

 

ひとりちゃんのジト目は珍しい表情の一つであり、本来は『キタコレ!』となるのだが今回のは私に非があるのでそんなリアクションは出来ない。

 

少しの間、微妙な雰囲気がリビング内を漂った。

 

時計を見ると食事から35分程経っている事に気付き、私は立ち上がる。

どうしたの?という視線を横から感じたので、私はひとりちゃんの方へ向けて言った。

 

「お風呂入ろっか♪」

 

「そうですね」

 

それにしてもテンションが低くなると敬語が着くのは何故なのか。

常にタメ口でいいのにな。




さて、お風呂シーンは初挑戦だぞ。
うまく描写できるか心配だな。

頑張りますね。


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ep5 これがtake4とかいう事実

サブタイトルの通り、take4です。
take1は主人公がただのおっさんになって、作者が発狂しかけたので即消去。
take2と3はいかがわしい展開になった為、ボツに...。
take4でやっと健全なのが書けました。

疲れがたまっているのもあって、いつもより淡白に感じられるかもしれませんが、ご了承ください...。


「うーん...、このぐらいでいいかなっと」

 

シャワーの温度設定と湯船の温度を確認する。若干湯船が熱かったので水を少し追加してベストな湯温にした。

 

〔カラカラカラ...〕

 

私の後ろにある脱衣所と風呂を隔てる扉が開いてひとりちゃんが入ってくる。

 

「はーい、ひとりちゃん。こっちこっち」

 

ひとりちゃんに手招きをして用意した椅子に座るように誘導する。

それにしても先程から無言だがどうかしたのだろうか?

 

俯いているにしては少し目線が上に向いているような...。

 

ん?あー...、なるほどね。

 

「ほらほら、胸なんか後でも見られるんだから寒くなる前に早く座りなさいな♪」

 

「ひゃいっ!ごごごっごめんなさい...」

 

別に謝る事ではないと思うんだけどなぁ。

ボディーソープが入った容器を手に取り、自分のそばに置いておく。

 

「それじゃっ、背中流すよー♪」

 

「お願いします...」

 

いきなり直接は熱いと感じてしまうかもしれないので、私の手にシャワーを当てて、経由するようにしてお湯をひとりの色白の肌に掛けた。

 

全体にお湯が行き渡った事を確認するとノズルのボタンを押して一旦お湯を止めて、手にボディーソープをつけて泡立てる。

 

もこもこっと泡立った手を背中につけて、撫でるようにして洗う。

 

自分の肌はともかく、ひとりちゃんの肌質についてはよくわかっていないため、なるべく刺激を与えないように優しく洗う。

 

「どうかな、痛くない?」

 

「レンちゃんの手、すべすべできもちいい...」

 

リラックスしているようなので、おそらく問題ないはずだ。

ついでにひとりちゃんの肩もマッサージしておく。

やはり予想通り、結構凝っている。

 

若いとはいえ大きいからなぁ、なぜか私は全く問題ないんだけど体質的な問題なのかな?

 

「ふみゅっ....んんっ...」

 

艶っぽい声を出すひとりちゃん。

しかし、色気という要素を持ち合わせていないため、不思議と健全である。

 

肩をほぐしてから別の部位を優しく洗ってシャワーで流す。

 

「よし、次は髪だね」

 

「あ、髪は自分でやりますっ」

 

「あれ、そっか。うん、じゃあ私も一通り洗うから何かあったら声かけてね♪」

 

「はいっ...」

 

のそのそとシャワーで自分の髪を流すひとりちゃんを横目にもう一つのシャワーを手に取って自分に掛ける。

 

ちょっと熱めのお湯を肩にかけながら、目の前の鏡を手でなぞって曇りを取る。

 

ホント、我ながら良い容姿をしているな...。

 

灰色の長い髪は不自然に光を吸収して輝きを放つが不気味には見えない。

長い理由は、ただ単にこの容姿で一番似合うからである。

 

ゲームとかで美少女を操作キャラとして作成した場合、一番ピンとくる髪型にすると思う。それと同じ感覚だ。

 

目線を下に向けて、たわわに実ったブツを左腕で下から押し上げる。

ずしっとした重さが腕に伝わるが、特に何か思う事はない。

 

いくら精神が男とはいえ、転生前の時点でほぼ枯れていたのだ。別に年齢は大して取っていなかったがな。

それに加えて転生で十数年間この体だ。

 

慣れや時間の経過で自分の中の青く激しく燃え上がるバーナーの様な炎は、いまや安いライターの弱々しい炎の様になってしまっているため、若かりし時に感じたあの感情が懐かしいと思うまでだ。

 

ただ、この体は一般的な人間の体とは違いがある。

 

蒸れそうなところが蒸れなかったり、汗自体あまり掻かなかったり、他にも現代人からしたら羨ましく感じられる様な能力がこの体に備わっている。

 

超能力の類ではないが、あるのとないのとではあった方が便利という程度。

 

自分の体をゴシゴシと擦って汚れを落とす。

正直言って汚れているのか視認できないので、ほぼボディーソープの匂いを擦り付けていると表現した方がいい様な気がしてくるが...。

 

自分の髪に手櫛をしてみる。

 

どんな時であっても手櫛に髪が引っかかる事はなく、特にケアしているわけでもなくサラサラであるため、もうそういうものなんだと納得して前世とほぼ同じ洗い方をしている。

 

一通り洗い終わるとひとりちゃんも丁度終わった様で、髪をまとめ上げていた。

 

私は髪をポニーテールにしておけば邪魔になることはまずない。

というか複雑な髪型は練習してもできないことに気付いた。

なにか強制力が働いている様な気がしたが...。

 

□■□■□■

 

大人三人で入っても余りある大きな浴槽で私とひとりちゃんは溶けていた。

 

水溶性とかそういう意味ではなく、丁度良い温度の湯に浸かってリラックスするという意味でだ。

 

とはいえ、その場では特に話す事は何も無く、ただただゆったりとした時間が続いた。

 

□■□■□■

 

お風呂から上がっていつもの部屋着になった私たちは、私の部屋にいた。

(ひとりちゃんはジャージ姿で、私はTシャツと半ズボン)

 

時刻的には少し早い気がしたが、ひとりちゃんがウトウトしはじめたため、明日に備えて休息をとることにした。

 

ひとりちゃんと同じベッドに入る。

 

「今日は色々あったねー...」

 

「うん...」

 

私も少し眠かったのでいつもより間延びした口調になりながらひとりちゃんの頭を撫でる。すると自然に抱きついてくるので受け入れて、包み込む様にする。

 

「明日もがんばろー...。おやすみ、ひとりちゃん」

 

「...ぅん、おやしゅみ...レンちゃん......すぅ....」

 

私達はお互いの温もりに安心感を感じて、そのまま意識を沈めていった。

 




次は時間が大幅に飛んで1話に行きたいと思います。
グダグダし過ぎていると作者のアニメ本編の記憶が危ういことになってきますので。

アニメ本編見る度にひとりちゃんがどういったキャラなのかわからなくなってくるという不思議な現象...、なんだろうね。


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ep6 お金の利用は計画的に

やっとアニメ本編入りましたね!
いつもよりサクサク書ける(気がする)。


薄暗く、少し埃っぽい空間。

私は今、自宅の地下にある倉庫に居た。

 

そこで楽器を探している。何故唐突にそんなことをしだしたのかというと、それは数時間前の事...。

 

──────

────

──

 

入学から1カ月経ち、ひとりちゃんの友達を作ろう作戦が頓挫しかけていた。

 

ひとりちゃんの家にお邪魔していて、先程から青春の哀しさを漂わせるオリジナルソングが押入れから聴こえてきており、ひとりちゃんの歌声良いなぁと和んでいた。

 

歌が終わったタイミングでスススっと移動してひとりちゃんに気づかれない様に息を殺して押入れに侵入する。

 

防虫剤の匂いが充満する空間だが、言い換えればひとりちゃん成分100%(常にひとりちゃんに抱きついている状態)みたいなものなので、ある意味私のリラックススポットみたいなものである。

 

ひとりちゃんはパソコンの画面に顔を近づけて何か唸っている。おそらく頭の中で無駄に多い文章量のモノローグが生産されているのだろう。

 

画面には、ひとりちゃんがギターヒーローというユーザー名義(後藤父のアカウントだと思われる)で投稿している演奏動画についたコメントがいくつも載せられており、それが唸りの原因だろう。

 

なになに?

【この曲バンド組んで弾きました!

全校生徒盛り上がりました〜!】

 

うわっ、ひとりちゃんの青春コンプレックスを刺激するコメントだな。

 

そして返信欄には...?

【うちも軽音部のメンツでやりました!】

【いいなぁ、うちの高校にもギターできるやついないかなぁ】

 

あー...、ひとりちゃんが何か突飛な行動に出る予感がするなぁ。

 

あの感じだとギターを背負ってバンドガール感全開で学校に行く可能性がある。失敗する様な気がするが折角ひとりちゃんが閃いた事なのだ。止めるわけにはいかないだろう。

 

ならせめて失敗した際の痛みを軽減してみせようじゃないか。

 

確か倉庫に両親が趣味のために購入して結局開封すらしていない楽器がいくつかあった筈だ。その中で持ち運べそうなものを見つけておこう。

 

「あ、あの」

 

ひとりちゃんの声を聞いて目を開けてみると、なんとそこには私に気付いてビビり気味のひとりちゃんが私を凝視しているではありませんか。

 

「ん?あぁ、忍者の真似だよ。ほらっ、隠密の術〜ってね♪」

 

「そ、そっか」

 

「うん♪それじゃっ、やる事あるし今日は帰るね〜」

 

「あ、うん。また明日」

 

───────

────

 

とまぁ、こんな経緯があって私は埃っぽい場所にいるのだ。

 

結果的に私が見つけたのは、

 

・エレキギター

・キーボード(電子ピアノ)

・ベース

・ポータブルドラム

・カホン

・カリンバ

・ウクレレ

・鍵盤ハーモニカ

 

の8つだ。

 

いくらなんでも買い過ぎだろ...と思う。

 

その内の四つでもうバンド一つ作れるし...両親は一体何をするつもりだったのだろうか?

 

この中で若干使えるものは...鍵盤ハーモニカだな。

折角なので開封してみることにした。

 

肩掛けのバッグ状のケースのファスナーを開けて本体を取り出す。

 

「うわっ...派手な色...」

 

本来学校とかで見かける鍵盤ハーモニカであれば青とかピンクとか緑色がある部分はメタリックな黒で、黒鍵の部分はワインレッドでメタリックカラー。白鍵はそのままだが、よく見る鍵盤ハーモニカよりもサイズが大きいため余計に目立つ。

 

説明書には37鍵と書かれておりネットで調べてみると、一般的に【27鍵・32鍵・37鍵】とある。学校で採用されているのは32鍵だ。

 

鍵盤ハーモニカは趣味でも初心者が手をつけやすい楽器だと紹介されており、部屋の消音性さえクリアしていれば周辺機材が要らない良い楽器なのだ。

 

肩掛け用のベルトを鍵盤ハーモニカに取り付けて、マウスピースも装着して持ってみる。

 

うん、取り回しは問題なさそうだ。

 

マウスピースを外して卓上演奏用のホースを取り付ける。

使うとしたら慣れていないのでこちらでやっていったほうが良さそうである。

 

鏡の前に立ってみると案外悪くないかもしれないと感じてしまい、自分はあの両親の子供で間違いないなと思った。

 

■□■□■□

 

自室

 

パソコンで鍵盤ハーモニカがどういったシチュエーションで活躍しているのかを調べてみる。

 

ふむふむ、鍵盤ハーモニカ奏者としてソロパフォーマンスやバンドとのセッションも一応可能..,と。

 

まぁ、ひとまず音ぐらいは聞いておこうか。

 

先程の状態のままの鍵ハモを持って黒いホースを咥えて、鍵盤を押しながら軽く息を吹き込んだ。

 

すると、予想していたより厚みのあるメロディが部屋に響き渡る。

 

(...!?マジか...なんか、スゴイ!)

 

自分の中で何かが燃え上がる様な、そんな感じがした。

 

個人的にも極めるまでには至らなくても真剣に練習してみようと思い、楽曲探しから始め...いや、今日はこのぐらいにしておくか。

 

多分これを始めてしまうと深夜まで続いて明日の朝起きるのが大変になる。

 

ホースやベルトを外して諸々の部品の手入れをしてバッグに仕舞って明日に備える。

 




まさかレンちゃんも楽器を手にするとは...!?
とはいえ現時点では結束バンドに参加させるつもりはないです。

どちらかというとソロ路線かな...?


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ep7 高校生になってから楽器をやり始める人は結構いる

私は今、放送延期(艦これ)と放送再開(異世界おじさん)の報せを知って悲しみながら喜んでいます。




いつも通りの朝、玄関ドアの覗き穴からひとりちゃんの格好を見る。

 

もしもギターを背負っていたとしたら、私も鍵ハモを持っていこうと思う。クラスも違うしひとりちゃんの邪魔にはならない筈だ。

 

少し待っているとひとりちゃんが現れる。

格好は...やっぱりギターを背負っていた。

 

少しそわそわしていていつもより多少テンションが高い様に見える。

それでは合流するとしよう。

 

「おはよう、ひとりちゃん。待たせてごめんね?」

 

「あっ、いえ、おはようございます...。ってそれ...」

 

私の背負っているものを指差して疑問を呈するひとりちゃん。困惑している顔もかわいいことで...。

 

「いやはや、ギターを長いこと頑張っているひとりちゃんのことを見たら触発されてね。丁度倉庫にあった鍵ハモでも始めてみようかなって事で、持ってきちゃった♪...ってあれ?ひとりちゃんもギター持ってきたんだね!」

 

「学校でバンド組んだりしたいなって思って......」

 

「そっかそっか♪じゃあ頑張らないとだね。影ながら応援してるよ〜」

 

「うんっ...」

 

□■□■□■

 

ひとりちゃんと別れて、自分のクラスに入る。席の側に鍵ハモを置いて、リュックから教科書を取り出して机に入れる。

 

「あっ!暗城さん、おは〜」

 

クラスメイト女子が私に気付いて挨拶をしてくれる。それにしても誰だったっけ...。

...あ、そうだ。東雲さんだ。

東雲 立海、パッション系の少女で黒髪ボブカット。クラスでのカーストは上の中。人気者のポジションで間違いない筈だ。

 

「おはようございます、東雲さん。今日もお元気そうでなによりです」

 

「あたしはいつでも元気だよ。んー?暗城さんって楽器やってたの?」

 

「いえ、昨日倉庫の整理をしていたら出てきたんです。折角なので趣味としてこの楽器を練習してみようかと思いまして♪」

 

「趣味として楽器か〜。何か弾ける様になったら聴かせてくれるっ?」

 

「えぇ、良いですよ」

 

「わーい!じゃあ楽しみにしてるねっ!」

 

そう、こんな感じに反応してくれる子はひとりちゃんのクラスにもいる筈だ。

 

...あれ?ひとりちゃんってクラスメイトとはいえ、話したことのない人から急に話しかけられても反応できたっけ?

 

可能性を信じてあげたいのだが吃りまくるか、声が出ないとかで友人ゲットとかにはならないビジョンしか見えてこない。

コミュ障さえ無ければなぁ...。

 

陰キャでも友達は作れる。しかし、そこにコミュ障が追加されると同じ陰キャの友達すら作るのに難易度が急上昇する。

 

私は人見知り程度なので最初だけ無理すれば後はどうとでもなるのだが、コミュ障は常に無理をしていないと...していてもどうにもならない場合もある。

 

あんまり落ち込まないといいなと思った。

 

──────

───

 

授業中、問題に載っている数式を見て、溜息を吐きながら答えを書き込む。

 

前世と比べて高いレベルの学校に入って、記憶に残っている高1で習う範囲や速度に差異が生じるのは仕方ないだろう。

とはいえ今世では油断せずにしっかり勉強を行なっていたお陰か、苦手教科は英語だけだ。

 

逆に言えば英語は頑張ってもダメな事がわかった。とはいえ赤点には及ばない程度だから何の問題も無いのだが...。

 

とはいえ今世の脳は英語の事を抜いて考えてもスペックは相当高いと思える。前世も中々当たりを引いていたが集中力に大きな問題を抱えていたが今回はそれもクリア。個人的には文句なしの性能といえる。

 

高校の定期テストはもうそろそろだろうが、普通にやれば平均点は超える筈だ。

 

勉強が嫌いな事に変わりはないがな。

 

■□■□■□

 

午後の授業も終えて帰り支度を整えてひとりちゃんのクラスに向かう。

 

やけに静かな教室に、失敗したショックで先に帰ってしまったんじゃないかという懸念が浮かび上がるが、ひとりちゃんは連絡もなしにそんな事をする人間ではない。

 

一旦深呼吸して教室の扉を開け放つ。

 

そこには、おそらく寝たふりで外界からの情報をシャットアウトしたひとりちゃんがポツンと存在していた。

 

(い つ も の)

 

うつ伏せのひとりちゃんの傍に寄ってしゃがみ込む。

 

「ぁ...れ...?この匂い...」

 

恐る恐るといった様子で顔を上げるひとりちゃん。すると私と目線がぶつかる。

 

「じゃーん!レンちゃんだよ〜♪」

 

ニコッと微笑みながら戯ける。

 

ひとりちゃんは俯いて立ち上がる。

あれ、もしかして地雷踏んだか?

 

「うぉっと!...よしよし」

 

そのまま私に抱きついてくる。勢いがあったからか尻餅をついてしまったがしっかり受け止めて頭を撫でる。

 

「作戦失敗しちゃった?」

 

「...うん」

 

「そっか。とりあえず今はこのままでいよっか」

 

「....うん...」

 

こういう時は、敢えて話しかけまくる事をするのは避ける。

静かな慰めというのも時には必要なのである。

 




さり気なくオリキャラを追加していくスタイル。優しい陽キャです。

あとこの作品のひとりちゃん、メンタル弱体化してるしコミュ障が悪化している様に感じる...。

次回からはレンちゃんに対しても流暢に会話できる様にしておくかもです。ほら、一緒のベッドで寝る仲なのに相方と会話する際に吃りまくるのって違和感しかない気がしませんか?

それはそれとして、UAが15000行きましたね。珍しく続いてる作品なのでこのまま突っ走って行きたいです。
完走目指すぞー、おー!

という事でまた次回お会いしましょう。


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ep8 ひとりちゃん、すごい頑張る①

あの黄色い原作キャラが出てきます。
念を押して置きますが、キャラ解像度は低いのでキャラ崩壊注意です。

11/29 01:32追記:誤字報告ありがとうございます!
早急に反映させていただきました!


静かな安心感というものをひとりちゃんに供給していると、ひとりちゃんは自分から抱きつきを解除した。

 

「落ち着いた?」

 

「うん、ありがとう」

 

「どういたしまして♪」

 

────

──

 

場所は変わって公園のブランコに二人並んで座っている。

 

特に会話は無い...というか隣のひとりちゃんを見る限りスマホの画面を見て何かを考え込んでいる様だ。

 

ここからだと画面はよく見えないため、考え事も察しがつかない。

 

ベンチに一人だけで腰掛けているスーツの男性も何か悩みでも抱えているのだろうか。

 

ひとりちゃんがスマホから目を離して男性の存在に気付くと表情が同情的なものとなった。

 

相当失礼な事を考えてるに違いない。

 

そこに妻と娘と思わしき存在が現れて男性と一緒に歩いて行った。家族仲が良いのは素晴らしい事である。あとどれくらいその仲の良さが続くかは不明だが。

 

...おっと、こういう考え方は良くないな。反省しておこう。

 

家族団欒のキラキラを直視したひとりちゃんは脱力して、今にも液体化しそうである。

 

私が言うのもなんだが、ひとりちゃんって人間なのか怪しい時がある。両親が人間なのでひとりちゃんもおそらく人間の筈だ。それでも確信に至らないというのは不思議なものだな。

 

脱力しているひとりちゃんを横目に立ち上がろうとグッと足に力を入れた。

 

「あーっ!!!ギター!!!!」

 

急な少女の甲高い大声に驚き、バランスを崩しかける私とひとりちゃん。

 

何があったのかと前を向いてみれば、金髪の少女がこちら...いや、正確にはひとりちゃんの方を見て走り寄ってきた。

 

少女から得られる情報はあくまで容姿的なモノしか無いが不審者では無さそうだ。初対面でいきなり叫ぶ人間は果たして不審者じゃ無いのだろうかという疑問は捨て置く。

 

「それってギターだよね、弾けるのっ!?」

 

あくまでも目線は合わせながら前のめりに問いかける金髪少女。ここまで積極的なタイプはあまりいないだろうな。

 

「....ぁっ........ぅ....」

 

私や家族以外の会話が久しぶり過ぎるのか、緊張のし過ぎで声が出ていない。

それでは呻き声である。顔の青白さと合わさってゾンビと勘違いされてもおかしくないまである。

 

「あれ?...おーい!」

 

このままではシカトになってしまうので私が時間でも稼ごうか。多分すぐに声は出るようになるだろうし。

 

「あのー、本人が緊張で固まってしまっているので少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

 

「あー、うん。えっと...あなたは?」

 

「私は暗城レンと申します。彼女と同じ秀華高校一年です」

 

「さっきは急に大声出しちゃってごめんね?私は下北沢高校二年の伊地知虹夏っていうんだ、よろしくね!」

 

「はい、よろしくお願いますね」

 

「それにしても暗城ちゃんって一年生だったんだ。落ち着いた雰囲気を纏っているから私とタメか、三年生かと思ったよ」

 

「私っ!後藤ひとりですっ!!」

 

「うわっ!」

 

会話のリズム関係なしに声のボリューム調整間違えて急にブッ込んできたひとりちゃん。

 

伊地知さんも驚いて一歩引いてしまっている。しかし、復活してよかった。

 

「えーと...、あっそうそう!後藤ちゃんってギター弾けるのっ?」

 

「あ......そこそこかとぉ」ニチャア

 

「もしかして伊地知さんは何か音楽活動をなされているのでしょうか?」

 

「うん!あたし、バンド組んでて今日ライブなんだけど急にボーカル&ギターの子が蒸発しちゃってね?だから後藤ちゃんにサポートギターをお願いしたいなぁって」

 

「そういう事でしたか。...ひとりちゃん、どうします?」

 

「えっと...その...」

 

ひとりちゃんは判断に迷っている様子。

伊地知さんのバンドのサポートギターをやればそういった界隈に知り合いが出来てあわよくばボッチ状態からの脱出が伺えるかもしれない。ここで巡ってきたチャンスを失うのは如何なものか。

 

しかし、その反面。もしも大きな失敗をしてしまってひとりちゃんの心に大きな傷を作ってしまい、再起不能に陥ってしまったらと思うと軽く後押しが出来ない。

 

これはひとりちゃんが選ぶべき選択肢で私が出しゃばるべきではないだろう。

 

「が...」

 

「んっ?」

 

「頑張ってみます...!」

 

「そっか!ありがとう後藤ちゃん!じゃあ早速行こう、ついてきてっ!」

 

そう言っておきながらしっかりひとりの手を取ってライブ会場へと向かい出す伊地知さん。

 

ん?ひとりちゃんの顔面蒼白がだんだん色濃くなっているような...。

あ、これは私も行かないと途中で倒れそうなパターンかな?

 

振り返って自分の荷物と鍵ハモを持ち上げていると後方で伊地知さんの焦った声でひとりちゃんに呼びかけ始めた。

 

今回の事でわかった事がある。

ひとりちゃんは度を超えたストレスを受けている状態で私から離れると気絶してしまうという事。

 

私は充電スポットか何かなのだろうか?

ワイヤレスで電気を飛ばす機能はついてないはずなんだけどなぁ...。




書いてる途中に眠気が急に襲ってくるあの現象はなんなんでしょうね。

話は変わりますが、ボイスロイド実況動画で毎回の様に視聴者のお腹を破壊する台本を書く投稿者って本当に凄いですよね。尊敬します。

とはいえ、私の場合はそれより先に習得すべき技術が山の様にあるんですけどね。

今回のシーンでも、キャラの動きや背景の描写をより明確に出来れば分量も増えますし、もう少し分かりやすい文章が作成できると思うんですよ。

脳死で書いてる時の悪い癖だなぁ...。
だが、まずは完結させるのが先だ。

という事で、また次回お会いしましょう。


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ep9 人を盾にしていると思ってたより会話が回ってこない

難産でしたねぇ...。

えーっと...他に何か書こうとしてたけど一瞬で忘れたな。
ど忘れってなんかモヤモヤしません?


ダウンしてしまったひとりちゃんを見て慌てている伊地知さんに事情を説明して同行を許可してもらった。

3分ほどしてひとりちゃんが再起動したかと思うと私の後ろにサッと隠れてしまった。

 

とはいえ、帰りたいというワードを含んだ独り言は聞こえないのでおそらく私を盾にした状態でいきたいと言う事だろう。

 

私はヒーラー兼タンクだった...?

自分の新たな職業適性に納得していると伊地知さんが何かを聞きたそうな顔をしていた。

 

「暗城ちゃんっ!」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「もしかしてあたし、後藤ちゃんに嫌われた!?」

 

「え?...そんな事はないと思いますよ。ね、ひとりちゃん?」

 

背中にひっついているひとりちゃんに目線だけ向けて訊いてみる。

 

「...キライニナッタワケジャナイデス....」(超小声)

 

声ちっさ!質問者は私じゃなくて伊地知さんだよ、ひとりちゃん。

伊地知さんが心配そうにこっち見てるよ、絶対聞こえてないって!

 

大きな声でもう一度言う気配が無いので私が伝える事にする。

 

「嫌いになった訳じゃないです、だそうですよ」

 

「なら良かったよー!色々勢いに任せちゃったから心配だったんだ」

 

ほっとしましたのテンプレの様な、胸に手を当てて『ほっ』と息を吐く仕草をする伊地知さん。やたら絵になるのは何故だろう。

 

□■□■□■□■

 

場所は変わって下北沢駅付近。

 

件のライブ会場と言うのはこちらの方面にあるのだろうか。

 

普段寄り付かないオシャレそうな街という印象だが実際のところはどうなのだろうか。

 

「暗城ちゃんと後藤ちゃんって下北の方は初めてだったりする?」

 

「そうですね。私とひとりちゃんは基本的にこちらでは寄り道しませんから、下北の方は今日が初めてです」

 

「そうなんだ、と言う事は家って遠くの方なの?」

 

「えぇ、神奈川の方で片道2時間といったところです」

 

「すっごい遠いね!あれ、でもなんでそんな遠くからこっちに?」

 

「うーん、そうですねぇ...」

 

ま、まずい。ここで本当のことを言うとひとりちゃんの面目が丸潰れだ。

何か良い理由...あっ!あるじゃん、若者が使いそうなやつ。

 

「強いて言えば、東京への憧れ...ですね」

 

「へぇ〜、意外!...ん?でも寄り道はしないんだね?」

 

「先程言った通り片道2時間かかるので、まずは通学慣れる必要があるんですよ。寄り道は慣れた後にする予定でしたよ」

 

「ほほう。あ、もうすぐでライブハウスに着くよ!」

 

「ライブハウス...ですか?」

 

「うん!でもでも、安心してね。大きいとこじゃ無いから」

 

ライブハウスとなれば大小分かれるが伊地知さんが言う大きいとこじゃ無いと言うのは小さめの箱という認識でいいのだろうか。

 

まぁ結局はその場に行ってみないとよくわからないと言うのが結論だ。

 

「そう言えばさ、暗城ちゃんの肩にかかってるその大きなバッグって何が入ってるの?」

 

「コレですか?鍵盤ハーモニカです。実家の倉庫に未開封のものがありまして、せっかくだから練習してみようかなって持ち歩いている次第です」

 

「学校で使う様なアレとは違うの?」

 

「はい、学校で多く採用されている鍵ハモは32鍵で私が今背負っているのは37鍵です。学校のより幅広い音域に対応出来るんですよ」

 

「なんか凄そうだね!」

 

「その分大きくて重いので、肩に掛ける為のベルトが付属しているんです。でも結構格好いいんです♪」

 

「そっか!練習頑張ってね!」

 

そんな感じで会話していると目的の場所まですぐだった。

 

 

 

「あっ!ここだよ!私が言ってたライブハウス『STARRY』。お姉ちゃんが店長やってて、あたしもここでバイトしてるんだぁ〜」

 

意気揚々に話す伊地知さんの目線はひとりちゃんの方に向けている。しかし、悲しいことにひとりちゃんは私の肩に顔を埋めている。

 

「他のスタッフさん達も優しい人ばかりだから、後藤ちゃんでも安心だよ!」

 

「...ッ」ビクッ

 

せめて顔出して頷くぐらいの反応しようよ...。なんかひとりちゃんのコミュ障具合が悪化している様な気がしてくるなぁ。

 

─────

──

 

地下一階にあるライブハウス『STARRY』。

地上と高さを比べると実際には地下二階に位置していそうなその場所は、何か薄暗い雰囲気を醸し出している。

 

これはそろそろ前に出てきてもらったほうがいいかなと思った。

 

「伊地知さん、ほんの10秒お待ちいただけますか?」

 

「うん?いいよー」

 

その場に荷物を置いて身軽になったところで、高いジャンプをして、ひとりちゃんを軸に反転し、ひとりちゃんの背後に降り立った。

 

二人が呆然としているうちに荷物を拾って、ひとりちゃんに後ろから抱きつく形で前に押し出す。

 

「わぁ!暗城ちゃんアクロバティックぅ!」

 

「うぇ!?な...なんで?」

 

「ひとりちゃん、流石にそろそろ前に出て貰わないと..,頑張るんですよね?大丈夫、私が後ろにすぐ付いていますから」

 

「....う、うん....」

 

「暗城ちゃん大胆だね〜。んじゃ、入ろっか!」

 

伊地知さんがライブハウスの入り口を開き、私達はその中へと歩みを進めた。

 




伊地知ちゃんは明るさで乗り切るタイプの様なので『!』多めに使うと思います。

作業に使うBGMをバンドと無関係な作品のものを使ったら、途中で作品の雰囲気が壊れ掛けることがわかった。

では、また次回お会いしましょう。



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ep10 人間は幽霊よりも恐ろしい

燃え尽きかけましたね、そのせいで今回はとても短いです。

リアルが忙しくなると燃え尽きる可能性が高くなることがわかりました。


扉を潜った先は未知の空間だった。

ライブハウスに来た経験は前世を含めて全くない。

 

自分で進む気があまりないひとりちゃんを転ばない程度に押して進めて伊地知さんの後に続いていく。

 

ライブハウス内は薄暗さ(照明がしっかりついているが雰囲気的なもの)があり、適度な圧迫感が聞き手や演奏者に何か良い効果をもたらしそうだ。

 

「私の家...♪」

 

「あたしの家なんだけどなぁっ!?」

 

先程から纏っていた緊張感は幾分か緩和されて肩に入った力も少しだけ抜けていた。

 

薄暗くて閉鎖的なところが好きなのは置いておいて、他人の家で自分の家宣言をするのはひとりちゃんしかできないだろうな。

あんまりしないで欲しいけど。

 

「えっと...あの人が照明さんで、そっちの人がPAさんね」

 

照明さんやPAさんなどのスタッフさん達は実にロックな格好をしているね。睨まれたら後退りしてしまうかも。

これひとりちゃん大丈夫かな?

 

「ピィッ....!!」

 

「あらら」

 

小さい声で悲鳴をあげて涙が零れ落ちている。

違うよ、ひとりちゃん。照明さんやPAさん達はお化けじゃないよ。

その反応は夜道で出てきたのっぺらぼうとかテケテケとかに遭遇した時の反応だからね、決して人に対してして良い反応じゃないからね。

 

「お、帰ってきた」

 

すると新たな人物の登場だ。この少女は誰かね?

 

「あっ、リョウ〜!」

 

伊地知さんがそう反応した。知り合い...いや、もっと近い間柄の様な気がする。もしかしてバンドのメンバーだろうか?

 

髪色は...青寄りの黒だろうか...?男女両方に人気の出そうな中性的な容姿をしていて、気怠げな雰囲気を醸し出している。

 

伊地知さんがこちらに振り返る。

 

「紹介するね、こっちにいるのが私のバンドメンバーであり、幼馴染の山田リョウ!」

 

「ども、山田です」

 

「.....」

 

「こんにちは。暗城と、私の前で気絶しているこの子は後藤っていいます」

 

「気絶?」

 

「えぇ、ちょっと負荷が一気にかかったみたいなので強制終了してしまったみたいです」

 

「へぇ、なんか面白いね」

 

「そうなんですかね...?」

 

山田さん、人が気絶しているのをみて面白いと面と向かって言うのはどうなんだい?もしかして変人なのか?

 

「もしかしてこの二人がバンドメンバーに...?」

 

「いえ、気絶している後藤さんが参加で、私は付き添いですね」

 

「楽器持ってるのに...?」

 

「なんで楽器って一目でわかったんですかね...?」

 

「さぁ?」

 

「えぇ...」(困惑)

 

本当に何を考えているんだろうか?もしかして私は今天才と会話しているのではなかろうか?凡人と天才では会話が合わないってどっかで聞いた覚えがある。

 

「暗城ちゃん、リョウはね〜変人って言ってあげれば喜ぶよ〜♪」

 

「えへへ」

 

おぉう。本気で喜んでる...。

 

「私、これまでの人生の中でここまでレベルの高い変人を見るのは初めてです」

 

「...そんなに褒めても何も出ないよ」

 

「褒めたつもりはないんですがね...」

 

本当すごいなこの人。

 

「はっ!?」

 

ひとりちゃんが少し大きめの声を上げて復活した。

 

再起動時に起動音としてメロディが鳴るのって旧世代のパソコンみたいだな。

 

声に出すとおそらく山田さんに反応されてしまいそうだから心のうちに止めておこう。

 




少しずつキャラの言動を変化させてます。

ではまた次回お会いしましょう。


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ep11 ひとりちゃん、すごい頑張る2

我々がスタジオに移動して少ししてから伊地知さんがひとりちゃんに複数枚の紙を渡した。

 

「はいっ!後藤ちゃん、今回演奏する曲の楽譜だよ」

 

「あ、ありがとうございます...」

 

ひとりちゃんの後ろから楽譜を覗き込む。

 

うん、さっぱりわからないや。

でも曲名からしてひとりちゃんは多分弾いたことがあるんじゃないだろうか。

 

「ひとりちゃん、弾ける?」

 

「...ッ///」ビクッ

 

「ごめん、近すぎたね」

 

「だ、大丈夫です...」

 

あ、やば。不意に後ろから耳元で囁く形になってしまった。

 

それでこの大丈夫は曲の事と今の事を含めてだと思う。

 

「暗城ちゃん、後藤ちゃんは何て?」

 

「特に問題は無さそうです。ひとりちゃんは流行りの曲などもある程度網羅しているので大抵は対応出来るはずですよ」

 

「そうなんだ!じゃあ早速合わせてみよう!」

 

伊地知さんは山田さんとアイコンタクトで楽器の演奏の準備を行う。

 

「ひとりちゃん、頑張れっ」

 

「うん、頑張るっ」

 

ひとりちゃんにエールを送ると力強く頷いて、楽器の準備を始めた。

 

少しして全員の準備が終わり、合わせを兼ねた演奏が始まる。

 

一体、どういったハーモニーが発生するのだろうと少々期待して聴力に意識を集中させていった。

 

────

──

 

リズム隊が奏でる音の速さを無視して掻き鳴らされるひとりちゃんのギターは、演奏の調和を見事に破壊し、リズム隊の練習に部外者が妨害しにいっているような...そんな演奏だった。

 

「ド下手だっ!」

 

伊地知さんがそうなって当たり前の反応をする。

山田さんも何もいってはいないが、伊地知さんの意見に同調する様に軽く頷いている。

 

「な...なんで...?」

 

ひとりちゃんはどうやら原因がよくわかっていないようで、クエスチョンマークが頭の周りをぐるぐる回っている。

 

なので私は、原因を教えてみることにする。

 

「ひとりちゃん、聴いていた側の意見なんだけどね。ひとりちゃんの演奏がリズム隊の速度を無視して突っ走っていってるんだよ」

 

「な、なるほど」

 

「そういえばひとりちゃんって人と演奏を合わせるのってこれが初めてじゃなかったっけ?」

 

「...そうだった...。全然大丈夫じゃなかった...、これじゃ私人間失格...」

 

「え、ちょっとそれは言い過ぎなんじゃ...?」

 

ネガティブスイッチが入ってしまったのか床に寝転がり、白くなり始めた。

 

「どうもー、プランクトン後藤でーす....」

 

「なんか売れない芸人みたいなこと言い出した!?これ大丈夫なの!?暗城ちゃんっ!」

 

伊地知さん、ナイスツッコミです。

 

「えっと、多分大丈夫だと思います...。ちょっとまってくださいね、復旧作業入りますので」

 

「え、ん?復旧作業?」←唐突に関係ない単語を聞いて混乱する伊地知さんの様子

「うん、おもしろい」←なんかおもしろいので返答してから観察に入る山田さんの様子

 

引っ張り起こしてからボフっと、ひとりちゃんを自慢の包容力で抱きしめる。

こういう時こそ囁きの出番である。

 

「ひとりちゃん、よく頑張ったね。えらいえらい、でもこれで人に合わせる演奏で大失敗することはもう無くなったはずだよ?後はそこから上手くなっていくだけだから、ね?だから大丈夫だよ、安心して♪」

 

「なんか作品が違うような...」←唐突に発生したピンク空間に顔を赤らめつつ、メタな発言をしだす伊地知さん

 

「...ふーん...」←思っていたよりおもしろいことにはならずに少々不満気な山田さん

 

頭を撫でているとひとりちゃんに色が戻り始めて、20秒ほどでいつものかわいいひとりちゃんに戻った。

 

「伊地知さん、もう大丈夫そうです」

 

「あーうん、復旧作業お疲れ様。暗城ちゃん」

 

「暗城、褒めて遣わす」

 

ひとりちゃんが完全回復したのはいいが、これで人前でライブは出来るのだろうか。

 

「それにしても、今回のライブってお客さんはどれ程のものなんですか?」

 

気になった事を質問してみると、何か含みのある答えが返ってきた。

 

「ん?あー...私の友達が複数人来る感じかなぁ」

 

「このクオリティで行けるんですか?」

 

「うん、ぶっちゃけて言うとね。普通の女子高生に演奏の良し悪しなんて分からないからさっ!まったく問題なしっ♪」

 

おぉ、ホントにすごいぶっちゃけたな。

 

...?それにしてもさっきからなんか重いような?

 

「おーい、ひとりちゃん?」

 

引き剥がすと、そこにはスヤスヤと気持ち良さげに眠りこけるひとりちゃんの姿が...。

 

「暗城ちゃん、どしたの?」

 

「いや...、ひとりちゃん、寝ちゃいました」

 

「えぇっ!?こんな短時間で!?」

 

「多分、暗城のその胸を枕にして寝たんじゃない?」

 

「おそらくそうですね...」

 

白くなったり眠ったりを短時間で行うひとりちゃんは面白くてかわいいなー。




アニメの記憶がとても薄くなっていく...。

そういえばディスコード(スマホアプリ版)をバージョンアップしたら急に使えなくなりましたね。日本だけでなく、諸外国のユーザーも困っているようで...。新しいバージョンをダウンロードしても変わらずで、運営様はすごく苦戦しているようです。

本編についてはダンボールのくだりをどうしようかなーと考えている次第です。

ではまた次回お会いしましょう。


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ep12 マンゴーかみかんの違い

私の作品のサブタイトルってあんまり意味は込められてないんですよね。
強いて言えば、全体を見た私の感想的な...。


我々はひとりちゃんを起こしてから、人前で演奏する際に暴走してしまう対策の案を出すことになった。

 

トップバッターは言い出しっぺである私だ。

 

「確かひとりちゃんって手元見なくても演奏できるよね?」

 

「うん...できる、よ?」

 

「よし、じゃあこれだね」

 

そう言っておもむろにポケットから取り出したのは...。

 

「目隠し...?なんでそんなものがポケットに?」

 

伊地知さんが疑問に思うのも仕方がない。

 

これは昼休みにお昼寝をする際に必要なものだ。

瞑った視界を真っ暗にするだけでも睡眠の質は向上し、万全とまではいかないが調子のいい状態で午後の授業を受けることができる。そう言った内容のものを告げた。

 

とはいえ、まだテストが実施されたわけではないのでクラスでの私のイメージはおそらく『いい人ではあるんだけど不思議な人』というイメージだろう。

 

「ひとりちゃん、着け心地はどう?」

 

「あ、ばっちり...です。でもなんか...眠...」

 

「駄目そうですね」

 

ふらふらしだしたので目隠しを取ると、急に明るくなったせいなのか目を抑えて『聖なる光が...!』と言い出した。

スタジオの照明なんだよなぁ。

 

次、伊地知さん。

いい案を出してくれると期待して、伊地知さんが発言するのを待つ。

 

「えっとぉ〜.......。あっ、そうだ!そこにあるのをかぶってみたらいいんじゃないかな!?」

 

半分ヤケになっているように見える伊地知さんの指差した先には、可燃ごみと書かれたゴミ箱が...。

コレを被れと!?

 

ひとりちゃんはなんの躊躇も無くゴミ箱を被って見せた。しかし欠点はすぐに浮き出た。

 

「こ、これじゃ...演奏...できないです...」

 

「だよね〜、あはは...」

 

そう、腕の可動域が狭すぎてギターが演奏出来ないのだ。

ゴミ箱の高さがもっと低ければ大丈夫だったんだろうけども。

 

最後、山田さん。

 

「人前で演奏するのが苦手なら...アレがいいんじゃない?」

 

山田さんが指差した先にはみかんの入っていたであろうダンボールだ。

たしかにアレなら穴を空けて腕の可動域も確保できるし、程よい暗さと狭さを与えてくれるだろう。

 

早速、穴を空けて装着してもらった。

 

「け、結構いい感じです...!」

 

「テンションのボルテージが少し上がりましたね」

 

「人って環境が違うだけでそんなにも違うものなんだね...」

 

「箱ギタリスト...ププッ、我ながらおもしろい」

 

活き活きとしているひとりちゃんもかわいいな。

 

「みっ、みなさーん、下北を盛り上げていきましょーう!」

 

「この変わり様...さっきのがまるで嘘みたいだね...」

 

「おー、いいぞー」

 

問題は綺麗に片付いた。

 

「んー、そういえば後藤ちゃんの名前どうする?」

 

「な、名前...ですか...?」

 

伊地知さんから新たなる問題が投下された。

こちらは些細な問題なので静観していてもいいかもしれない。

 

「うん、ライブで紹介する時に本名を言っちゃっても良いのかなって。ニックネームってある?」

 

「え、えっと...中学では《あの〜》とか、《きみ》とか呼ばれてました...」

 

「いや後藤ちゃん!それ絶対ニックネームじゃないって!」

 

「そ、そうなんですかね....?」

 

「絶対違うよ!?」

 

まぁ、名前が出てこない場合とかあんまり親しくない場合とかもそんな感じの呼び方になるよね。特に《あの〜》の汎用性が高い。

 

「後藤のフルネームって後藤ひとりだったよね?」

 

山田さんが何か閃きそうな目でひとりちゃんに問いかける。

 

「あ、は、はい。そうです...」

 

すると山田さんはひとりちゃんの名前をブツブツと連呼し始めた。

 

「.....????」

 

ひとりちゃんは絶賛困惑中。

 

「ひとり...ひとり...ひとりぼっち...?よし、今日から君は《ぼっち》だ!」

 

「うっわまたデリケートなことを...」

 

「ぼ、ぼぼぼぼっちですっ!」

 

「喜んじゃってるし...。なんか悲しくなってきたよ」

 

ロクでもない筈なのに何かしっくりくるのがもどかしいな。本人が気に入っている様なので言及は控えておくとしよう。

 

そうしているとスタッフさんから声がかかった。

しかし、バンド名が独特な響きでひとりちゃんと私は一瞬バンド名だと認識できなかった。

 

「結束バンド...ですか?」

 

「あっ、いや〜...その、ねっ?仮のっ!仮の名前だからっ!絶対変えるからっ!!」

 

「私的には面白くて好き」

 

「い、いいんじゃないでしょうか...」

 

伊地知さんが羞恥的な意味で顔を赤くして蹲る。

結束バンド、一度締めたらペンチで切るまで取れることは絶対にないプラスチック製品だったか。

 

格好良さとかからは程遠いけど、言霊としては相当いいんじゃ無かろうか。

 




原作乖離(完熟マンゴー→みかん)

UAが30,000超えてましたね。
たくさんのアクセス感謝です。

それではまた次回、お会いしましょう。


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ep13 約90日間の空白

三ヶ月ぶりですね、この作品。
ただの黒歴史になりつつありますが、読み返してから書き掛けのep13に取り掛かりました。
どうにか書き上げましたが、お察しの通り短いです。


「さぁっ!もう出番だよっ!結局一曲しか合わせられなかったけどなんとかなるはずっ!」

 

「大丈夫、この私に任せて」

 

「ほ、本番....が、頑張るっ」

 

みかんのダンボールギタリストのひとりちゃんは思いのほか大丈夫そうだ。

 

三人とは別れて控室から観覧スペースに移動する。

 

この視点から見てもひとりちゃんの容貌は異様だ。ダンボールを被って楽器演奏を行う人間というのは私から見てもネットで動画を投稿している人がおふざけ企画でやっているものぐらいだ。

 

ライブハウスでの演奏でそんな奇怪な事をする人はまずいない筈だ。

 

ボーカルが蒸発したという事でインストバンドに急遽変更となったわけだが、みかんダンボール仮面以外のメンバーの顔つきから変に緊張している様子ではなさそうだ。

 

そして演奏が始まる。

ひとりちゃんはダンボールの構造上前しか視界がないので周りと合わせて演奏する事自体難易度が高い。しかし、先ほどと違って暴走はしていないので演奏という形を崩壊させずに、下手な演奏という枠組みに抑えている。

 

不可に近い可という表現がぴったりだろう。

それでも演奏しきる事は出来ていたのでひとりちゃんにとって今日という日は思い出に残る素晴らしい日になるだろう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

演奏が終わって再び控室。

 

そこにはダンボールをパージして白くなっているひとりちゃんとそれを見てどうすればいいかわからなくて困っている伊地知さんと燃え尽きたひとりちゃんをジッと観察し続ける山田さんの姿があった。

 

なんだこの状況は。

 

「あっ!暗城ちゃ...おわっ!」

 

私に気づいた伊地知さんが私の名詞を呟いた途端にひとりちゃんがガバッと起き上がり、その急な動作に驚く。

ひとりちゃんはユラァと立ち上がり、走って勢いよくこちらに飛びついた。

 

「おっと...!全く、ぶつかり稽古じゃないんだから...」

 

そう言ってひとりちゃんの頭を撫でる。

意外としっかり手入れされている髪はいつ触っても撫で心地が良い。

 

「なんかこう見ると姉妹みたいだね...」

 

伊地知さんがにこやかにそう言うと山田さんも無言で頷く。

 

姉妹か...。そう言った捉え方も有り得るな。

 

撫でる手を止めずにいると再びこちらにかかる重さが増した。

おそらく寝てしまったものだと考える。

 

「あの、伊地知さん...」

 

「ん?どうしたの?」

 

「ひとりちゃん、再び眠っちゃってます」

 

「え!?打ち上げやろうかなって思ってたんだけど...。それなら仕方ないか、リョウは?あれ?」

 

気付けば山田さんは扉に手をかけており、こちらに振り返って一言。

 

「今日は疲れたから帰る。じゃっ」

 

感情の読めない整った顔でウインクをしてから帰っていった。

 

「嘘ぉ...」

 

打ち上げが出来ずに残念がる伊地知さんを不憫に思いながら、こちらも帰る準備を行う。幸いにもひとりちゃんは自分が燃え尽きる前にギターをしっかりケースにしまっておいてくれていたので二人分の荷物を持つだけだ。これぐらいなら何の苦にもならない。

 

その上でひとりちゃんを背負う。

二つの楽器のせいか見た目が少々凄いことになっているが、私自身は重いと感じていないのでこのまま帰ろうと思う。

 

「伊地知さん、あまり遅くなると親が心配するので私達も帰りますね」

 

「え?あ、うん。おつか...え?それ本当に帰れるの?」

 

「はい、何の問題もありませんよ。それではまた機会があればお逢いしましょう」

 

伊地知さんから見ても凄かったみたいだ。

 

「あ、うん。頑張れー」

 

本日は困惑することが多かった伊地知さん。大変お疲れ様でございます。

 

その後、無事にひとりちゃんを親御さんのところまで送る事ができた。




これ作風変わってるよなぁ...と思ったり。
第1章が終了したのでお次は幕間ですね。
オリ主を主体にした話を『予定』しています。
予定←これ大事


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