陰キャリア充なひとりちゃん (粉物を作る時のダマの様な存在)
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1連符目 私は陰キャリア充。なんだその目は?言いたいことがあるなら言え!ひぇ、ごめんなさい。調子乗ってました。

 

 

ギターを片手に暗い押し入れの中で適当に鉄の弦を弾いていると、頭の中でフワフワと考えが浮かんでは消えていく。

 

「私ギター上手くなったなー」とか、横目で見た興味のないTVのこと、元気な妹のこと、飼っている犬のこと。

そして、自分のことも。

 

私は昔から、人と話すのが苦手……無理なタイプの人間で、同性の友達すら出来たことがない。

コンビニに入ることすら怖いし、他人と目を合わすことも出来ない。

 

そんなダメダメな自分を呪うこともある……というか、毎回の休み時間中に呪っていたけれど、「捨てる神がいるのならば拾う神もいる」ということわざは正しかったようで、私には異性の友達がいるのだ。

しかも、そこらのイケイケ女子のような普通の男友達じゃない。

 

幼馴染のイケメン男友達なのだ。

つまり私は陰キャリア充。

 

「ふへへ……エネルギー湧いてきた。嫌なこと思いつく前に私のゴミみたいなギターは辞めて、バンドのカバー動画アップしよ。」

 

ノートパソコンを開いて、先日撮ったギターの弾いてみた動画をYouTubeにアップロードし、概要欄を入力していく。

 

明日は高校の入学式!!

友達が1人もいない高校に入学するから緊張する〜(>艸<)

でも、彼氏も同じ学校に入学することになったから安心した(*˘ ˘*)

だけど彼氏にとっては滑り止めの学校だったから、複雑な気分(> <)

高校ではバンドを組んで学園祭を盛り上げるぞー٩(๑>∀<๑)۶

 

「よし。完璧。あとは、明日の入学式に備えて寝るだけ。」

 

自分の幼馴染を彼氏役とした、妄想垂れ流し概要欄を入力した私はノソノソと押し入れから出て、布団に入る。

 

明日からは花の高校生活。

小中学生の自分を知らない、新しい人間関係が待っているのだ。

 

バンド作って、放課後に喋りながら練習したり、一緒に昼ごはん食べたり、文化祭でライブして人気者になっちゃったりするかもしれない。

 

もしかしたら、告白されて、幼馴染カップルとして友達から羨望の眼差しで見られるなんてこともあるかも!

 

「ウヘ、ウヘヘヘヘへへ……へ…ヘヘ」

 

急に心が冷めていく。

現実に引き戻されてく。

 

「そんな事、ありえないのに。何回この妄想繰り返してるんだろ。」

 

私はメンタルを浮上させる為に、充電中の携帯を手に持ち、ロインのトーク画面を開く。

 

 

優くん(幼馴染)

:明日入学式だな。改めて高校でもよろしく

 

後藤ひとり

:こちこそよろしくね。

 

優くん(幼馴染)

:6時15分に迎えに行く。寝坊しないように

 

後藤ひとり

:わかった。

 

優くん(幼馴染)

:じゃあ、おやすみ

 

後藤ひとり

:おやすみ。

 

 

「ヘヘ…おやすみロイン……カップルみたい。やっぱり、私だとこれ位の関係性が精一杯だよね。それでも幸せだけどさぁ。」

 

優くんはアイドル並にイケメンで優しくて高身長で頭が良いとかなりの高スペック男子だ。

根が陰キャでヲタク趣味という欠点はあるけど、私ほどコミュ障じゃないし、ヲタク趣味に理解のある可愛い娘だって沢山いそう。

 

家が隣で親同士が友達という、神に与えられたかのような立場じゃなかったら、私なんて関わることも出来ないような人間だ。

 

「昔の時代に産まれたかったな……そしたら優くんと許嫁になれたし、私を苦しめるSNSだって存在しない。専業主婦にもなれる……」

 

私はトーク履歴を辿り、彼と撮った卒業式の時の写真を見る。

 

妹も優くんに抱き付いて笑顔で、お父さんもお母さんも笑顔で、優くんのお母さんに無理やり優くんとくっつけられた私はキョドりながらも笑顔で、そんな私を横目に微笑む彼。

 

クラスの集合写真の死んだ目をしている私じゃない。

 

蝋燭の火のような、私には勿体ない位暖かな日常を切り取った宝物の写真。

 

だけど、わかっている。

この日常は有限だ。

 

今は優くんが彼女を作る気が無いから、私との時間も作れている。

ご近所さん同士の子供が遊ぶ様な関係を続ける事が出来ている。

 

だから、私は自分の心を押し殺して、否定して、この蝋燭の火を不意に消してしまわない様に、大事に大事に守っている。

この蝋燭が燃え尽きるまで、ずっと守ると心に決めている。

 

 

液晶の中にいる彼の顔に触る。

 

「イケメンじゃなくて、いいのに。」

 

そしたら、私なんかでもお付き合い出来たかもしれないのに。

 

 

いつの間にか目から溢れてきた涙を拭う。

「私、優くん関連だと本当に情緒不安定すぎる。」

 

だけど、後藤ひとり15歳。伊達に今日まで、この押し問答を長年繰り返して来たわけでは無い。

 

私は押し入れに戻り、ダンボールの中から、一通の封筒を取り出す。

 

『メンタルが死んだ私へ』

 

こんにちは未来の私。

私は今絶望しています。

優くんと私がお付き合いする未来がどう考えてもありえないからです。

でも、今日いい歌に巡り会えて、私の目指す道がはっきりしたので、未来の私が落ち込んだ時、励ます為にこの手紙を書きました。

私に勇気をくれた歌はこう歌っていました。

「最後に笑えればいい」

そう。私は優くんと結婚する事を目標にします。

だけど、私には魅力が無いので、優くんを金で養う事を目標にします。

 

私はこれから夢の印税生活に向けて、ギターの練習を始めます。

社会にも出たくないし、頑張ろう!

 

そして、封筒に入っている、優くんの隠し撮り写真BEST3を眺めて、気持ちを高めていく。

 

「深夜テンションで手紙を書いちゃったけど、意外と使える。元気出る。」

 

私はギターを手に取り、ヘッドホンを着けてメトロノームを鳴らす。

 

「よし、やるぞ。」

 

 

とりあえず、

 

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

 

私は幼馴染との良縁を神に願いながらギターの練習をするのだった。

 

 

 



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2連符目 私は芋なのでダンボールに籠ります。

 

翌朝、私は鏡の前で硬直していた。

 

「わたし……イモすぎ。」

 

目にかかるくらいの整えられていない前髪。

無造作に伸びた長髪。

血色の悪い、病的に白い肌。

それに引きたてられる寝不足の隈。

リップを付けたけど、今日だけではどうしようもない乾燥したカサカサな唇。

 

一度気になれば、色々気になってきてヤバい。

むしろ、今までなんで気にとめて無かったんだろう。

 

優くんに初めて見せる制服姿だと思って、鏡の前で念入りに確認しなければ良かった。

 

高校生活のスタートがこんなので良いんだろうか?

 

良くない。

良くない。

良くない。

 

しかも、最悪の場合……

 

「俺、お前みたいな芋女と一緒に歩きたくない。」

 

とか言われるかもしれない。

 

そんなこと言われたら……

 

 

絶命してしまう。

 

 

いや、優くんなら絶対そんなこと言わないけど!わかってるけど!優くん好き!マジ天使!

 

けど……心の中までは分からないよなぁ。

 

「俺はいつまでこの芋女幼馴染の面倒をお隣さんのよしみで世話しないといけないんだ。」

とか思われてたら、本当に死んでしまう。

 

「そうだ。1週間位学校休んで、メイクの練習をして登校しよう。そしたら、ある程度グループも出来上がっているだろうし、陰キャっぽい所に入れさせて貰えるかも。」

 

この作戦、いいんじゃないかな。

なんで1週間も休んでたのー?

とか聞いてもらえそうだし。

話題性ばっちり。

そうと決まれば。

 

「お母さん。やっぱり高校行くの1週間くらい遅らせる。」

 

「え!?」

 

「じゃあ、そういうことだから。」

 

ごめん。お母さん。

でも…私は最高の状態で高校生活をスタートさせたいんだ!

 

「ひとり、高校生活が不安なのは分かるわ。けど、優くんもいるんだからきっと大丈夫よ。」

 

いや、優くんがいるからこそ休みたいんだけど…

 

「ごめん。でも……もう決めたことだから。」

 

私は引き留める母を置いて、自分の部屋に戻り、押し入れの中のノートパソコンを引っ張り出した。

 

「今はYouTubeでなんでも調べられる時代。メイクを習得するのだってギターに比べれば簡単なはず……」

 

「よし、今日から1週間忙しくなるぞ!」

 

\ピンポーン/

 

やばい!優くん来た!

メッセージ送らないと。

 

後藤ひとり

:ごめん。今日から1週間学校行かない。

 

優(幼馴染)

:今行く

 

今行く?

もう家に着いてるよね?

もしかして……部屋に来るの?

 

ヤバい!

私は押し入れに引きこもった。

 

タンタンタンと階段を上がってくる音が聞こえる。

 

「ひとり。入るよー。」

「ダ…ダメ」

「着替えは終わったの?」

「イチオウ…」

「じゃあ、遠慮なく。」スパン

 

アイツ、乙女の部屋に許可なしで入ってきたんだけど!

 

「やっぱり、押し入れの中か」

「ウジ虫ですいません……」

「いや、そこまで言ってないから。

ほら、ドラちゃん出てきなさ〜い。」

「コ…ここは開けちゃダメだから。」

「開けちゃダメって、押入れから出てこないと学校に行けないよ。」

「ガ…学校は行かない。1週間位。」

「ひとり、初日から行かなかったらどんどん学校に行くのが辛くなるよ。」

「それはわかってる。ケド…1週間あれば大丈夫。」

「なんなの。その1週間に対する自信は……」

「1週間なら、まだ巻き返せる。たぶんグループも出来上がって、陰キャグループに入りやすくなると思う。1週間何してたのーっていう話題も出来る。」

「また、取って付けたような理由を……そんな都合のいい事なんて無いって分かってるよね?」

 

え?そうなの…?

でも優くんが言うなら、そうなんだろう。

コミュ障の私なんかより、優くんはそういう事に聡い。

 

何も言い返せない。

でも……こんな私を見せたくない!

 

「別にいいじゃん。私の事なんて……」

「ハァ……じゃあ、せめて襖を開けてくれないかな?なんか距離を感じる。」

 

絶対めんどくさい女だと思われた!

絶対めんどくさい女だと思われた!

 

というか、その言い方は狡くない?

 

「ィ…イヤ。」

 

顔なんて、今1番見せたくない!

 

「じゃあ隙間だけでも開けてくれない?ちゃんと話し合おう。」

 

「それくらいならいいけど……」

 

私は3センチ程の隙間を開けて、

ピシャン

すぐ閉めた。

 

「え!?なんで閉めるの!?」

 

ヤバイ…やばい、やばい、やばい…

優くんがカッコよすぎる!

制服姿が新鮮!

なんか、大人っぽく見える!

 

私なんかの幼馴染がこんなにかっこいいはずがない!

 

「ご…ゴメン。やっぱりこのままでお願いします。」

 

「しょうがないか……」

 

すいません。耐性付くまで直視できないです。

 

「で、なんで学校に行きたくないの?」

「イ…言いたくない。」

「なぁ、ひとり。学校行くのが怖くなったのか?

俺も結果的には同じ高校に通う事になったんだし、できる限りサポートしたいと思ってるんだけど……」

 

ぎぁあああアアアアァ

そんな優しい声で話しかけないでぇ

ただ、高校デビューする準備期間が欲しいだけなのぉ。

 

罪悪感が凄い。

 

「ア…イヤそういうワケじゃ無くて…」

「やっぱり、俺だと力不足かな……」

 

アヴァ、それ いい!

その根っこの思考回路が陰キャな感じ!

親近感湧く〜、キュンキュンする!

 

だけど罪悪感で押し潰されそうです。

 

「違う!!! ア…コエオオキスギタ」

「本当か!」

「うん……優くんは本当に頼りにしている。失礼かもしれないけど、優くんが第1志望の高校に落ちて、私と同じ高校に通うって知って……凄い嬉しかった。」

「それは失礼だね……」

「ご…ゴメン」

「いや、嬉しいよ。学校は怖くないのか?」

「うん……怖くない。高校生活は楽しみにしている。」

「そっか…安心したよ……おばさんにだったら、行かない理由をちゃんと話せそうかな?」

「お母さんだったら……大丈夫。」

「じゃあ、呼んでくるから、ちょっと待ってて。」

 

そうだよね。流石に理由も言わないで学校に行きたくないなんて、心配させるよね。

 

恥ずかしいけど……お母さんにはちゃんと説明しよう。

 

私は押入れから出て、2組のクッションを用意し、片側に座った。

 

「ひとり。入るわよ〜。」

「うん。」

 

部屋に入ってきたお母さんは私の反対側に座る。

 

「ヨイショっと。お母さん、ひとりがちゃんと話してくれて嬉しいわ。それで、どうして学校に行きたくたいの?」

 

「その……学校に行きたくないとかではないの。ただ……コ…高校デビューしたくて……その準備期間が欲しいだけなの……」

 

「……それは春休みにすることだと、お母さん思うなぁ」

 

「いや、そうなんだけど……なんというか気付かなかったというか……今日優くんに制服を見せる日だと思ったら、急に気になってきて……」

 

「あら〜。そういうことなら大丈夫よ!ほら、ひとり、立って立って。」

 

「?…うん。」

 

立った瞬間、いきなりお母さんに抱きしめられた。

 

「チョ……お母さん…恥ずかしいって。」

 

「いいのいいの。ひとりも立派な女の子ね。背も私と変わらなくなって……大丈夫よ、ひとりは可愛いわ。」

 

そう言って、お母さんは私の頭を撫でる。

 

…なんか複雑な気分だけど、凄い安らぐ。

これがお母さんパワー。

 

と、フワフワしていたら、急にお母さんが抱きしめる力を痛い位に強めてきた。

 

ぇ?

 

「ゆうくーん!!上がってきてー!!」

「チョチョチョちょっと、お母さん!?何してるの!?」

「ひとりなら大丈夫よ☆」

 

大丈夫じゃないから!

本当に大丈夫じゃないから!

 

まずい。

お母さんに捕まって、押し入れにも逃げられない!

 

「いや!お母さん本当に離して!」

「ふふ。だ〜め。」

「いやぁぁあ!やめて〜!」

 

優くんが部屋に上がって来るまでの間、私はなんとか角度を変えて、入口と私の間にお母さんを置き、優くんが見る方向から隠れることしか出来なかった。

 

「ひとり、入るよ〜。」

「ダメ!!!」

「気にしないで〜。」

「じゃあ、遠慮なく」スパン

 

だから!なんでアイツ許可なしで入ってくるの!?

 

「ひとり!押入れから出たんだな!それに、解決したみたいで良かったよ…そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。」

 

何も解決してないから!

そんな感動的な理由で抱き合ってるワケじゃないから!

お母さんと抱き合ってるのが恥ずかしいワケじゃないから!

拘束されてるだけだから!

 

「優くん、ありがとね〜。あとは最後のおまじないだけよ。」

 

そう言ったお母さんは私を半回転させて自分と同じ向きにした後、私と一緒に振り返って優くんの方へ向いた。

 

力が強い!目回りそう!

 

お母さんやめて!!!

私を優くんに見せないで!!!

 

「優くん。ひとり、可愛いでしょ?」

「はい。ひとり、似合ってるよ。」

 

え?

 

私は拘束の緩くなったお母さんの手から抜け出して、優くんに詰め寄る。

 

「本当?」

「嘘なんてつかないよ。似合ってると思う。」

「あ…イヤ…そっちじゃなくて…、イヤソッチモナンダケド…ウヘヘ」

「ん?あぁ、可愛いよ。」

 

 

「うへ。うへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

 

「あー…壊れちゃった。おばさん、ありがと。」

 

「こちらこそ、いつもごめんなさいねぇ。優くんのおかげで正直に話してくれたわ。ありがとう。これからも面倒見てあげて。」

 

「任せてよ。ほら、ひとり、時間押してるから早く行くぞー。」

 

「うへへへへへへへへへへへへへ」

 

「行ってらっしゃい。私達も後から車で行くからね。入学式、楽しみにしてるわぁ。」

 

「はい。行ってきます。」イッテキマス

 

 

ま、まぁ。優くんがそのままで良いって言うなら、それでもいいかなぁ〜。

 

やっぱり、メイクとか美容室とかってお金とか時間もかかるし?私はギター頑張んないといけないし、もし可愛くなって、優くん以外の男子から告白とかされても困っちゃうし ?それにもし結婚を目指すのであれば、すっぴんを見せることの方が多いいんだから、見せかけの虚構に何の意味があるんだって話だし?それにどうせならメイクとかキラキラした事が苦手な素の私を受け入れて欲しいし、やっぱり内面を磨いていくべきだよね!だいたい今は離婚も当たり前の時代になってきてるし、外見ばっかり磨いてもしょうがないというか、幸いお母さんとお父さんには家事とかもけっこう叩き込まれているから、メイクとかイソスタとか盛れる写真とかばっかりに時間を注ぎこんでいるイケイケ女子達には生活力という一点では勝ってるし?やっぱり結婚を目標にするなら一緒に居てストレスがない人を目指すべきだと思うんだよね。帰ってきて部屋が汚いとか優くんも嫌だと思うし?毎日のご飯が不味いとか地獄だろうし?それに優くんも私のギターを聞くのが心地良いって言ってくれてるし?無言でも気にならない関係というか、熟年夫婦みたいな感覚が私達にはあるし、それにもし可愛くなりすぎてリア充グループに入るなんて事があれば優くんとの時間も少なくなっちゃうし?

それに!………etc

 

 



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3連符目 私と同じクラス?無理だ。彼の不合格に運を全て使ったぞ。ウカールに‪‪✕‬を書いて吊るしてただろ?それ叶えたじゃん。でもおじさん、水筒に下剤を仕込もうとしたのはどうかと思うぞ。という夢を見た。

「うへへへへへへへへへ」

 

「しょうがないか。ほい、デコピン」

 

「痛!え?!ここどこ…?」

 

「ごめん。でも、もうすぐ駅に着くからさ。流石に自分の世界に入ったまま駅に入るのは危ないから、起こさせて貰った。」

 

「あ……ありがと。」

 

「じゃあ、改札入ろうか。」

 

「わかった。」

 

それにしても、優くんに可愛いって言われるなんて夢みたいだ。

 

お母さん。ありがとう!

それにしても、可愛いなんて……へへへへへへへ

 

危ない危ない。今、自分の世界に入ったら、デコピンじゃすまい。

最悪、電車でボディをドンだ。

自重しなくては。

 

でも、今だったらすごい幸せな状態で死ねそう。絶対成仏できる。

普段死んだら悪霊に堕ちそうだしなぁ。

 

でも、優くんに取り憑くことができるならありかも。

そして、私に線香をあげる優くんを後ろから見守る生活……

 

今みたいに人生や恋や友達関係で苦しんでる生活よりはよっぽど良いかもしれない。

 

でも、お母さんとか凄い泣きそう……こんな妄想しててごめんなさい……

 

 

あれ?

 

お母さんといえば……今日の朝のやりとりって……もしかして、お母さんに私が優くん好きなのバレた?

 

絶対バレてるじゃん!

 

私が親でも、「幼馴染に不細工に見られたくないから学校行かない!」

なんて言われたら、全て察するよ!

 

ど…どうしよう……

 

そんな事を思いながら、私が頭を抱えていたら、電車が来たので、電車に乗り込み、東京へと向かう。

 

朝6時だからだろうか、人が少なくシートに座ることが出来た。

 

まぁ、お母さん天然っぽいし、なんとかなるよね…

いや、なんとかする……!なんとかしなければ……!

 

そんな事を考えていたら、隣に座った優くんが勉強を始めた。

 

偉すぎる。今日入学式なのに…

 

うぅ、勉強してて偉いね。って言って、会話でも初めたいけど、勉強の邪魔だと思われるかも……

そもそも「偉いね」って何様のつもりだよって感じもするし……

 

ダメだ。もう黙ってよう……

 

とりあえず、私の特技、超高速写真撮影で幼馴染をパシャリ。

勿論無音カメラだ。

 

優くんの新しい制服姿に未だに慣れない私はこの写真を眺めて耐性を付けなければならない。

 

私は携帯をスワイプするフリをしながら、優くんの写真を凝視する。

 

ヤバい、なんか……眠くなってきた。

そういえば、昨日全然眠れなかったなぁ。

 

でも、優くんに寝顔を見られるのは恥ずかしいし……何としても我慢しないと……

 

そうだ!

 

私にとって大事なことをすれば集中力も上がって眠気も無くなるはず!

 

私にとって友達を作ることは最重要事項!

だから、初対面の人との接し方や話題とかを勉強しよう!

 

これで眠気も無くなる!

 

 

クカー zzzzz

 

「あれ?ひとり、寝ちゃったか…目にうっすら隈も出来てたし、登校初日だから張り切ってるのかな。」

 

コテン、、、

 

 

「!。肩に頭が乗っかってきた……ど、どうしよう。」

 

 

クカーzzzzz

 

 

「どうしよう。絶対、起きたら取り乱すよなぁ……ハァ…キニシナイヨウニシヨ。」

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

「ひとり!起きろって!もう品川だぞ!」

 

「……しながわ……?…神奈川じゃなくて……?」

 

「品川だって!」

 

…………品川!?……え!?

私、寝ちゃった!?

優くんに寝顔見られた!?

 

恥ずかしい!

恥ずかしい!

 

しかも、頭が優くんの方に向いてたんだけど!

もしかして、私の頭、優くんの肩に乗せてた!?

 

「優くん、ゴメ、ゴゴゴゴゴメメ」

 

「いいから立って!送り返されるぞ!」

 

「ハ…ハイ!」

 

私達はなんとか人混みの最後尾に着いて、ホームへと降りた。

 

 

「優くん。ごめんなさい。」

 

「こっちこそごめん。よく考えたら、降りられなくても、次の駅で降りれば良いし、東京だったらどうにでもなったよ。むしろ、寝起きのひとりを無駄に急かして……そっちの方が危険だった。ごめん。」

 

や……優しすぎる。

 

優くん私に全然怒んないし、本当に一緒に居て心地が良い。

 

結婚したい……

 

だけど、なんか謝り返されると逆に照れる。

 

「あ…イヤ…私も…ほら、勉強の邪魔とかしちゃったし。」

 

「気にしないでいいよ。張り切るひとりの気持ちも分かるし。友達、出来たらいいな。」

 

優くんの中での私、遠足で張り切る子供みたいになってる!

 

だけど、言えない……

将来的に金を稼ぐためにギターの練習に打ち込んでましたなんて……

 

「うん。ありがとう。」

 

でも、元気出た。

 

頑張ろう!目指せ友達100人!

 

 

と、思ったら……ある事に気が付いて、私の心がドンドン冷えていく。

まるで……大事な物を忘れた事に気付いた時の様に。

 

心臓の鼓動が早くなっていく。

 

いや……大丈夫だ…私。

 

ドクンドクン

 

もう1回確認しよう。

 

ドクン

 

私は全神経を集中させた。

 

 

 

やっぱりだ……

口の端がカピついている……

 

「優くん!!!」

「ど、どうした?」

「その…私、も、もしかして、よよよ、ヨダレガ……」

 

 

「あー。気づいちゃった?」

 

終わった……………

 

拝啓お母さん。私の恋路は終了しました。

ついでに女の子としても終了しました。

 

なんか、色々な感情がごちゃ混ぜになってきた。

 

泣きたくなんてないのに、涙が溢れてくる。

 

「グス……」

 

「いや、本当に!全然!気にしてないから!ほら!ウェットティッシュ!口元拭きな!」

 

「う、ゥごべ、グス……ご、ゴメ…グス」

 

「本当に気にしてないって!そんな泣くようなことじゃないから!ほら!ベロベロバー!」

 

「わ…わた…し…サイ…あ、グス…グ」

 

「やばい、渾身のギャグも届いてない。とりあえず…座らせた方がいい…かな?」

 

 

最悪!ごめん!恥ずかしい!みっともない!恥ずかしい!見られた!終わった!最低!夜更かしのせいで!恥ずかしい!消えたい!お母さん助けて!押入れに戻りたい!通学するんじゃなかった!ごめん!消えたい!

 

 

「っあ、いゃ、駅員さん!痴漢に会った訳では無いんです!監視カメラとか見たら、この子がずっと席に座ってたのわかると思います!その……あの、大好きなおばあちゃんが急死しちゃったらしくて!」

 

 

おばあちゃん殺された。

 

汚い!見られたくない!なんで泣くの!恥ずかしい!最悪!怖い!弁償しなきゃ!嫌われたくない!申し訳ない!止まらない!

 

 

「お嬢ちゃん。人はそうやって大人になっていくのさ。辛い時は泣けば良い。人の為に泣けるのは立派な事だ。これからも頑張りなさい。」

 

 

いや、おばあちゃん死んでない。

 

最悪!もう高校生なのに!ごめん!恥ずかしい!辛い!帰りたい!恥ずかしい!嫌いにならないで!

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「落ち着いた?」

「うん。なんとか……本当に気にしてないの?」

「本当だって。」

「でも、下品な女…とか…思ったでしょ…」

「いや、俺も寝落ちしたら、涎で腕が濡れてることもあるし。生理現象なんだから仕方ないって。」

「そう……ブレザー、涎で汚してごめんね。弁償するから。」

「気にして無いって。弁償なんかしなくていいよ。」

「…じゃあ、クリーニングだけでもさせて。涎が着いたままなのは女の子的に辛い……」

「わかった。帰ったら渡すよ。」

「そうして頂けると、本当にありがたいです。」

 

はぁ。本当に辛い。

もう、自分を卑下する活力も湧いてこない…

 

子供みたいに泣きじゃくったし。

幸先が悪過ぎる。

 

何してるんだろ…私…

 

 

「なぁ、ひとり。俺は本当に気にしてないよ。」

 

「わかってるよ。」

 

わかってる。優くんは私に気を使っているだけだって。

 

私だったら、同性の女の人でも嫌な気持ちになるし、異性の男子高校生とかに涎を付けられたら、本当に気持ち悪いと感じると思う。

優くんのだったら…可愛いで済ませそうな気もするけど。

 

「それはわかっている人の顔じゃないって……ほら、ふたりちゃんの世話してる時、めちゃめちゃ涎とか唾とか食べカスとか付いただろ?それを俺が嫌がってたことあったか?」

 

たしかに優くんは嫌な顔せずに、私以上に妹の世話をしていた。

 

「たしかに……むしろ、喜んでた?」

 

「いや待って、癒されてただけだから!喜んでないから!変態にしないで!」

 

そういえば、看護師さんとか介護の人って、そういう事の世話を頻繁にするから、何も気にならなくなっていくという話は聞いた事がある

 

つまり、優くんって妹でかなり訓練されてる?

 

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

 

良かったー〜。

安心した〜。

 

 

ありがとう、ふたり!

優くんにヨダレ耐性を付けといてくれて!

 

あと、涎とか唾とか食べカスが着くの嫌がっててゴメン!

 

「よし、そろそろ行くか。」

「うん。そうだね。」

「じゃあ、ここからは相談した通り別行動で。」

「うん。私は五歩くらい後ろを歩くから。」

「わかった。俺の事見失ったらちゃんと連絡すること。」

「わかってるよ…」

 

 

これで優くんとの時間も終わりかぁ。

 

私達は同じ高校に進学することになった時に、中学の頃と同じ様に過ごすと決めた。

 

それは私達が友達だとバレないようにするという生活だ。

 

優くんの方は私達が友達だとバレても、何も問題が無いけど、私の方に問題がある。

 

まず他の女子からの顔を繋いで攻撃。

そして、女子からの牽制攻撃。

最悪、他の過激派女子から攻撃されかねない!

 

そんな環境、私には耐えられない!

 

という理由で、私達は品川駅からはお互い不干渉ということに決めた。

 

優くんと別れて歩き始める。

 

 

しかし、私には言わなければいけないことがあった。

 

「優くんちょっと待って!」

「どうした?」

 

 

 

「涎を垂らしたブレザーにファブリーズだけ、それだけはさせてください………」

 

 

もし……後で臭くなったりしたら……死んでしまう!

 



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4連符目 私が、友達100人できるかな♪と歌ったら誰もいなかった。幻の101人目は私

へへへ、優くん私に歩幅合わせてくれてる。

 

私は、ファブリーズでビショビショになったブレザーを抱えた優くんの後ろを歩いて、学校へ向かっていた。

 

こういう、私達だけしかわからない関係性みたいなのっていいよね……

 

まぁ、そんな後ろを歩いていると、周りの声もちょくちょく聞こえるわけで。

 

「あの人、電車で見たけど凄いイケメンだった。」

「ほんと?背も高いし。レベル高いね。」

「たぶん新入生だと思う。」

「1年うらやま。」

 

とか

 

「あの人、ウチらと同じ新入生だよね?」

「たぶん。明らかに荷物量が多い。」

「だよね!同じクラスになれないかなぁ。」

「わかる〜。」

 

わかる〜。

私も同じクラスがいいなぁ…

お互い不干渉だけど、やっぱりクラスで顔を見れると、精神の安定が違うよねぇ。

 

あの子、こういうこと話してたから、こういう風に話しかけたら?みたいなアドバイスもしてくれそうだし。

 

優くんと同じクラスになりますようにいぃぃぃぃぃぃぃ

 

·····

 

はい。ダメでしたっと。

そんな気はしてた……

 

そうだ。高望みをするな、後藤ひとり。

優くんと幼馴染ということが、最大の幸運。

私は既に勝ち組側なのだ

 

 

そして、ついに私は決戦の場所……教室の前に立った。

 

私は携帯を持ちロインのトーク画面を開く。

 

優(幼馴染)

:頑張れ

 

よし。

 

私は気合いを入れて教室に入る。

教室の皆が私を横目でチラチラ見るのがわかる。

 

ひぃ!

そんなに私を見ないでぇ……

 

久しく感じていなかった多数の視線に怯えながら、私はなるべく周りを見ないように、黒板の前まで歩いた。

 

黒板に張り出された自分の席を探す。

 

えっと。黒板側が上だから、あそこらへんかな。

私は自分の席に目を向ける。

 

最悪……

もう結構グループが出来始めている。

 

ヨダレの一件のせいで、学校に着くのが学校開始の10分前となってしまった私達。

 

完全にスタートダッシュを切り損ねていた。

 

私は緊張しながらも、大人しく席に向かって、自分の席に座る。

 

 

やっぱり話しかけられない……

 

皆、他の人と話す事に夢中だ。

 

そうだよね……

私なんて…皆興味無いよね…

 

そもそも私の存在って認知されてるのかな?

 

 

いや、ヘコ垂れるな!後藤ひとり!

 

まだ、左斜め前の人だけクラスに来てない。

まずは、その人と友達になろう。

 

こんなギリギリに来るなんて、私と同じで人と関わる事が苦手な陰キャのはず……

 

それから数分後、ガララと扉が開く。

 

来た……女子!

絶対あの子が私の左斜め前の子だ!

 

見た目は、微妙な雰囲気だ。

陰か陽かわかんない。

 

「みんな、よろしくね〜」

 

あ。絶対陽キャだ。

 

陽キャじゃなきゃ、手をヒラヒラさせて挨拶しながら席に向かうなんて出来ない。

 

というか、挨拶って初対面の人ともするの?

私、何もしてないんだけど。

 

もしかして、私って非常識人間?

 

だから話しかけて貰えない?

 

やっちゃった!!

 

 

……いや、そもそも私が他人と挨拶なんて高等技術が出来るはずが無い……。

 

落ち着こう。後藤ひとり。

これから、挽回しよう。

 

むしろ、陽キャでよかった。

 

陽キャなら絶対、周りとロイン交換しようってなる場面があるはず……

 

そこに自然な感じで私も参加して、会話に混ぜて貰えばいいのだ。

 

私はロインのふるふる機能を準備して、その時を待つことにした。

 

こ……怖い……

私の足が先にふるふるしてきた。

 

自分から話しかけるなんて、幼馴染と家族以外にした事がほとんど無い……

 

そもそも私なんかが陽キャと仲良くして大丈夫なのかな。

イジメ…られないかな……

 

体が冷えていく

足の震えが強くなっていく

どんどん思考が悪い方へ流れていく

 

そんな時、スマホにロインのポップアップが流れる。

 

優(幼馴染):大丈夫

 

え?

驚いた私は教室の入口を見る。

そこには誰もいなかった。

 

「さっき通ったのって、噂のイケメン君?」

「だと思う…長身だったし。」

「3組の人でしょ?」

「そう。ウチらは2組だからニアピン賞だね。」

「そのニアピン賞になんの価値が……」

「ウーン。選択科目で同じクラスになる可能性がある位かな…」

「前言撤回。ラッキーだった。」

「わかる〜イケメンは目の保養。」

 

あ……やっぱり私の事見てたんだ。

 

わざわざ私の様子を確認しに来てくれたんだ………

 

う…嬉しい……

口角が上がってくる。

 

変な人だと思われないように、必死に口元を引き締めた。

 

さっきまで、かなり精神的には底の方に居たので、喜びの感情が溢れてくる。

 

いやいやいや、都合良く解釈しすぎだ私…フヘヘ…何か別の用事があったんだろう。

 

でも、ファブリーズ買いに行った時にトイレはしてたし、飲み物は水筒派だし…性格的に他のクラスの顔を見て回るなんてありえないし……

 

やっぱり、私の事気にかけて見に来てくれたの…かな?

 

なんだろう、すごく暖かい。

1人じゃないって思える……

私が震えてるのに気付いてくれたのも凄く嬉しい。

 

けど、私って優くんに元気貰ってばっかりだなぁ。

私が優くんの為になった事なんてあるのだろうか?

 

……彼女になれなくても、結婚出来なくても、この恩だけは返していきたい。

 

まずは優くんを安心させよう。

 

私は大丈夫だって、成長したんだって、友達を作って証明しよう。

頑張れ……私!

 

「ねぇ。ロイン交換しない?」

 

来た。あそこの会話に私も混ざる!

 

「いいよー。学年グループには入ってる?」

「いるよー。」

 

…?………学年グループ…?

 

え……なにそれ?

私って既にハブられてる?

 

あなた、さっき来たばっかりですよね?

 

え…なに…私と優くんだけ田舎だから、2日目登校でしたとか?

そんなハズないと思うけど……

 

「えーアイコンかわいい!」

「ありがと〜。そっちも可愛いね。」

「ありがと!クラスのグループに招待しといたよ!」

「どうも〜。じゃあ、皆のも追加しとくね〜。」

 

あ。終わった。

 

\キーンコーンカーンコーン/

 

 

終わった………

 

 

 

私のロインだけがふるふるの待機画面だった。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

私は今、体育館前の廊下で入学式の待機列に並んで座っていた。

 

終わった……

どうせ、私は幼馴染以外とはまともに話す事も出来ないコミュ障陰キャですよ……

 

あの後ホームルームで自己紹介があったけど、誰も私に話しかけてこない。その事実が誰の興味も得られなかった事を私に痛感させてくる。

 

せっかく優くんと練習したのになぁ。

 

こんな何の成果も出せないゴミみたいな自己紹介に貴方の時間を使わせてしまい、申し訳ございません……

 

 

クラスの列で皆が世間話をしてる中、私は俯いていた。

 

 

惨めだ………

 

なんでみんなこういう時、普通に話せるのかな?

私はこういう式とかの待ち時間って普段の3割増し位で胸が痛くなるんだけど…

 

俯いていたら、いつの間にか入場が始まる。

 

やっと、この苦しみから解放される…

 

私が列に並んで歩きながら進んでいると、丁度よく保護者席に座る両親と妹を見つけた。

すると私と目が合った3人が手を振ってきた。

 

あ〜。少しメンタルが回復する……

私、生きてて良いんだって思える〜。

 

そうして私のクラスが並び終わって着席した後、今度は優くんのクラスの入場となった。

 

そしたら周りもざわめき出す。

 

「そういえば、このクラスにイケメンがいるらしいよ…」

「あの人かな?やば、かっこいい」

 

噂になるレベルってやっぱり凄いよなぁ。

 

知ってますかお嬢さん。

その人私の幼馴染なんですよ。

 

ちょっとだけ優越感を感じた後、私は優くんが入場し、歩いているみたいなので、振り向いて様子を観察する。

 

優くん……なんか、ピリッとしている?

何かあったのかな?

 

そんな風に幼馴染を観察していると、聞き覚えのある声が体育館に響いた。

 

「ゆうくーーーーーーーん!!」

 

妹の声だ!

 

両親が居た場所を急いで見てみると、両手をブンブン振って、猛アピールしている笑顔の妹がいた。

 

は……恥ずかしい。

私だったら、絶対真似できない…

 

本当に私の妹?

性格が真逆すぎる…

 

そしたら、優くんが今までの真面目な表情から一変して、とても柔和な笑顔で妹に手を振り返す。

 

その瞬間、保護者席から生徒席までざわめきが走った。

 

「ヤバ、かっこよ。推せるわ。」

「え?見えなかったんだけど。何があったの?」

「あのクラス羨ましすぎる。」

「あのちっちゃい子、可愛いい〜」

「イケメンは罪」

「わかる。」

 

などなど。

 

ちなみに私は…

 

「へへ…ふたり、ありがと。」

 

バッチリとその姿を盗撮したのだった。

 

学校シチュでの妹に向ける笑顔も趣があっていいよね。

 

 

そんな感じでホクホクしながら、自分の世界に入っていると、長い校長の話とは違い、聞き流す事が出来ない音声が私の耳に飛び込んできた。

 

「生徒代表、普通科、3組、高咲優。」

 

「はい。」

 

「ェ?……ンン、グフグフ」

 

ヤバい!変な声が喉から出た!

私に発言権なんて無いのに!

 

私は急いで両隣を横目で見て、確認するが誰も気付いた様子が無い。

 

というか、周りもかなりザワついている。

私の声はその中に紛れ込んで気づかれなかったようだ。

 

「あいつ完璧かよ……」

「え…3組って、普通のコースだよね?難関選抜コースじゃないよね?」

「神は不公平。」

「漫画みたい……」

「惚れた。」

「ドンマイ。絶対に叶わないよ、それ。」

「あれが天才か…」

 

いや、優くんはちゃんと努力もしてるから!

通学の時間は全て勉強時間にするって言ってたし。

 

そういえば…この高校受ける時、第一志望の高校の試験のために難関選抜のテストを練習で受けたって言ってた……

 

まさか、生徒代表に選ばれる程の高得点を叩き出しているとは……

 

代表挨拶するって、教えて欲しかった……

おかげでかなり焦った。

 

壇上で喋る優くんを見る。

 

かっこいいな……

 

私はただただその姿に見惚れていた。

 

 

式の締めだった優くんの挨拶も終わり、私はある事を思いながら、入学式を退場していった。

 

 

私なんかの幼馴染がハイスペックすぎる……

 

 

 



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第5連符目 私の幼馴染のペルソナが激しすぎて、多重人格を疑う事もたまにあります。

すいません……
ちょっと難産で遅れました。


入学式も終わり、ぼっちが確定した私は、優くんの様子を見に、クラスまで来たのだが……ちょっとした人だかりが出来ていた。

 

会話を聞く限り、優くんを見に集まったそうだ。

 

私もその方が観察し易いので、その人混みの端の方に紛れて、優くんを見る。

 

そこにはお硬い顔で本を読みながら、机に座っている幼馴染がいた。

 

中学と変わらないなぁ。

優くんのあの感じ。

 

実は中学の頃から、ワザと無口な無愛想キャラを優くんは演じている。

本当は優しくて、冗談とかも結構言うし茶目っ気がある感じなのだけど、それを表に出そうとはしない。

 

イケメンという理由で陽キャグループに強制加入させられたくないって言ってた。

 

友達を作るのすら四苦八苦している、ぼっちな私からすれば、何贅沢な事をしてるんだって思っちゃう。

 

だけど……幼馴染だから優くんの事情もある程度は知っている。

 

優くんは小学生の頃だけクラスの中心的なグループに属していた。

これは私の予想だけど、それが辛かったから、優くんは仮面を被り人付合いを避ける様になったと思っている。

 

幼馴染の癖に、私も何があったのかはよく知らないんだよなぁ。

優くんのお母さんに聞いた話から推理しているだけだし……

 

前に聞いた時も黒歴史ってはぐらかされた。

私にはたとえ幼馴染でも、それ以上に踏み込んで行く度胸もないし……

というか、それを聞くだけでも1ヶ月位かかったし…

 

そういえば…小学生の時に優くんがなんか変だと感じて、理由を聞いた時もはぐらかされていた気がする。

 

実際、あの頃の優くんはちょっとおかしかった。

やたらと妹の世話をしたがるし、ため息を吐いたり、悩んで頭を抱えてることもあったから、かなり辛かったんだと思う。

 

 

あとは……普通に1人が好きなタイプだ。

 

中学生になって、他人との付き合いを辞めた優くんはかなりイキイキとしていた。

 

お小遣いを貯めて、アニメの聖地?だっけ……まぁ、アニメの舞台になった場所を1人で訪れたりしていた。

 

 

でも……やっぱり羨ましいなぁ。

 

自分からアクションを起こさなくても話しかけて貰えるなんて、私には夢の様な環境だ。

 

優くんに嫉妬しちゃう。

八つ当たりだって分かってるけど……

 

 

あれ?……よく見たら優くん、澄まし顔してるけど、かなりピリついてない?

 

いや、こんなに人に囲まれて見られてたら、そりゃストレス溜まるよね。

 

そこは同情する……

 

 

「何してるんだー、こんな所で。」

 

っぎゃ!!

 

「おー、佐藤氏。こっちこっち。」

 

なんだ……私の近くにいる女子が話しかけられただけか…

変な声出るところだった。

 

「で、何してんのお前。」

「今、面白い場面でね。それを見てる。」

「イケメン眺めるのがそんなに良いのか?私にはわからん。」

「それは拙者もわからん。面白いのはこのクラスの局面だね。」

 

近いから、会話の内容がよく聞こえる。

 

女の子なのに拙者って……

話しかけた方の女子も男勝りな感じだし……

私と違ってキャラ濃いな。

なんか気になってきた。

 

「局面?どういう事だ。」

「今ここで学年の覇権グループが決まろうとしている。」

「面白そうだ。説明してくれ。」

「うむ。状況としてはあのイケメン君を取り込みたい、同じクラスの男女グループAとB、という構図だね。」

「なるほど。あのイケメンくんは確保したいわな。」

「そう。高咲優はジョーカー。学年・学内はもちろんのこと、他校にまで通用するかもしれないスーパーカード。このカードを持つだけで売り手市場に突入。最も学年で優位なグループ……つまり、覇権グループとなれる。」

「そんなに上手くいくか?」

「愚問。この状況がそれを証明している。何もイケメン見たさで、皆様方がここに留まっている訳じゃない。見定めているのさ。負けた側のグループと付き合う訳にはいかないからね。つまり、そういう意識をさせていること自体が圧倒的勝者たる証明。」

「おもしろ。負けたら赤っ恥だ。」

「勝ったら覇者だからね。リスクもでかいさ。ヒリヒリするね。」

 

横の人達の話、なんか難しくてよくわかんないけど……

優くんが人気なのはわかった。

 

「さあ、あと6分。この休み時間が終わり、次のホームルームの後は午前授業だから放課後だ。この休み時間中に地盤を固めておきたい所だが……」

 

そんな時、とあるグループから声が聞こえた。

 

「なに?由美ちゃん達、あの高咲君?が気になる感じ?俺、友達になってこようか?」

「エ!イイノ!?」

「任せろって。俺、コミュ力は高いんだぜ!」

 

 

「おい。あの男、突撃するみたいだぞ。」

「ああ。果たして、あの男が女子にとっての英雄となるのか、ゴミとなるのか、楽しみだね。」

「予想は?」

「あの突撃する男を知らないからなんとも言えない。まぁ、ベストアンサーは唯一笑顔を見せた妹君の話題かな。バッドは顔の良さ、若しくはこの囲まれている状況に対する事で、無難なのは部活動の勧誘辺り。」

 

惜しい!

無難な話題は「今期のアニメ、何が面白い?」だ。

誰がわかるか。って感じだけど……

 

それにしても……よく見てるなぁ。

無難な話題以外は合ってる……

 

「なんで、イケメンがNGなんだ?良いじゃねぇかイケメン。」

「本人がそれで喜ぶならね。この囲まれている状況で動揺も浮つきもない。良くて無関心、最悪コンプレックスという可能性がある。前者なら会話が続かないし、後者ならそれこそ最悪。実は内心喜んでるなんて、今の状態から推察出来ない主観的な妄想をファーストコミュニケーションに選ぶなんて、頭がおかしいか馬鹿だけだよ。」

「どうせ私はバカですよ〜。てか、誰もそこまで考えて生きてねぇよ。」

「すまんね。熱くなった。でも、本当に仲良くなりたいなら、それぐらい気づくでしょ?」

「良い話風にまとめんな。」

「これは手厳しい。まぁ、静かにしようか…突撃しに行ったみたいだし。」

 

びっくりした〜

け…喧嘩になるかと思った…

でも、穏やかな雰囲気だ……羨ましいな。

じゃれてるだけな気がする。

 

 

因みに優くんに突撃する男子はたぶん撃沈する。

 

優くんの苦手なタイプの人っぽいし。

相手からの会話のボールを全て叩き落とす未来が見える。

 

だけど……たしかに優くんは私の妹の話題を出されたら弱いと思う。

優くん、妹のこと大好きだし……

 

優くんが私の家族以外で妹の話をする場面を見た事が無いから、何も予想できない……

 

もし、優くんが妹の赤ちゃん時代の写真を見せてマシンガントークでも始めようものなら……

 

なし崩し的にグループに入る事になって……

 

「俺、渋谷のナイトプールでサーフィンしに行くから、今日は1人で帰って。」

 

みたいな事が増えていって、最悪の場合……

 

「俺、同じクラスの由美ちゃんと付き合うことになった。だから…もうひとりと一緒にいられない。でも、ふたりちゃんには会いに行くから、その時に友達として接してくれたら嬉しいよ。」

 

 

いやぁぁぁぁあ!

 

その覚悟は出来ているけど、やっぱりキツい!

できることなら、高校3年間はこのままの関係性が良い…

 

さすがに同じ大学に通うとかは無理だから、初カノはその時にして欲しい。

どうか私の知らないところでお願いします……

 

優くんが大学生の間に、私は印税で暮らせるようになって、優くんを養う。それが私の夢なのだ。

 

 

遂にクラスの男子が優くんの目の前に立った。

 

優くん!チャラ男なんてぶった斬って!

お願い!

 

 

「高咲くん!お前モテモテじゃん!すげぇな!」

「なにが?」

 

あ。終わった。

皆も注目していたせいか、クラス中が静まり返る。

 

「ぇ?……イヤ、」

「ごめん。強く言いすぎた。でも、こういうのは苦手なんだ。ちょっと廊下で頭を冷やしてくるよ。」

「お……おう。」

 

うわ……流れる様な会話の拒否。

言外に話しかけんなって言ってることがこっちにまで伝わって来る……

 

私が初対面で話しかけた人にあんな対応されたら、一生他人に話しかけられなくなるよ……

 

 

教室の外に出た優くんは歩いて何処かへ消えていった。

すると、周りもざわめきだす。

 

「かっこいい。」

「ね!めっちゃクール!」

「優様……」

「媚びない姿が最高。」

 

え?

普通の女子目線だとアレがかっこいいに変わるの?

イケメンって凄いな……

私からしたら、拗らせた男子にしか見えないんだけど…

 

すると、近くに居た拙者女子達も話始める。

 

「拙者は感動した。まさか人が偶像になる瞬間を目撃できるとは……」

「相変わらずお前、時々変なこと言うよな。」

「今、高咲優は不可侵な存在へと変わった。あんな対応を見せつけられれば、まともな男女は話しかけられなくなる。それが空気を作り、彼自身の美貌がその空気を高潔な物に変換し、やがてこの学校の偶像となる。」

「なるほど。」

「そんな瞬間に立ち会えたんだ。感動的だろ?拙者個人としても、顔がいいことを鼻にかけて好き勝手してるよりは好感が持てる。」

「それはわかる。教室戻って話そうぜ。」

「そうだね。」

 

私も教室に戻るか……

結構人も散り始めたし。

 

戻りたくないなぁ。ぼっちだし……

 

 

クラスに戻ると、クラスの女子達は優くんの話題で持ちきりだった。

その横を素通りして、私は自分の席に座り、携帯をいじる。

 

結局、私はぼっちな優くんを見て、ぼっちな自分を慰めるしか無いのか……

 

はぁ。中学と何も変わらないよ……

 

すると携帯が震える。

優くんからのロインだった。

 

優(幼馴染)

:俺のクラスで何してたの?

 

後藤ひとり

:ぼっちになったから、ぼっちな優くんを見てた。

 

優(幼馴染)

:ドンマイ。俺を精神安定剤に使っちゃダメよ〜ダメダメ! 

 

 

これ、本当に同一人物?

 



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