エヌとの生活! (破損)
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エヌと一緒に遊園地!
「あー...暇だな...」
朝なのに思わずそんな独り言が漏れてしまう。
というのも珍しく今日は平日なのに抱えている地上での任務や書類が無く、更にはこういった時によく指揮官室に来るラピやアニス、ネオンも今日に限って別の用事があるらしく、普段は賑やかな指揮官室も今は自分の声しか響かないような状態だ。
「こういう日は大人しく寝るに限るな」
こうして貴重な休暇を朝から寝るという贅沢な無駄遣いをする決意を固めたその時、机の上に出していた携帯が振動した。
こんな朝から珍しい、そう思って通知を見てみるとどうやらエヌがメッセージを送ってくれたようだった。
『先生、おはようございます!』
『今日先生はお暇ですか?』
『ああ、今日一日は暇だ』
『そうなんですか!』
『あの、先生がもしよければ私と一緒にお出かけしませんか?』
『私も今日一日やることがないんです!』
『そうだな、エヌが良ければいいぞ』
『ありがとうございます!』
『今から指揮官室に行きます!』
『待っているぞ』
どうやら今日は一日エヌと一緒に過ごすことになりそうだ。
待つこと数十分、他のニケ達にメッセージの返信をしていると指揮官室のドアが開いた。
「先生、おはようございます!」
「ああ、おはよう」
元気なエヌの声が指揮官室に響く。その表情は非常に明るく見ているこっちも笑顔になりそうだ。
エヌが自分の元に身柄を移されて暫く経つ。初めの頃は精神も不安定で暗い表情を見せることも多かったが今ではこうやって明るい表情を見せることも多くなった。
この表情をするエヌの日常を必ず守ってあげなければ、そう改めて決意した時エヌが声をかけてきた。
「先生、何か嬉しそうですね!何かいいことでもありました?」
「いや、別に何もないさ」
不味いな、少しニヤニヤしていたのがバレてしまったのか。恥ずかしくなりそのにやけを誤魔化すようにして言葉を続けた。
「そういえばメッセージで今日はどこに出かけるか決めてなかったな、今日も一緒にマイルドコロッケを食べに行くか?」
「うーん...マイルドコロッケも食べたいんですけど、先生!今日は一緒に遊園地に行きませんか?」
「遊園地か?」
遊園地と言えば恐らく前哨基地内にあるあの遊園地の事だろうが、普段エヌからあまり聞かない単語だった為思わず聞き返してしまった。
「はい!先生と一緒に行きたくて前からチケットを買っていたんです!」
そういって2枚のチケットを見せてくれる。何時からこのチケットを持っていたのか、若干疑問には思ったもののエヌの頼みを断る理由もない。
「そうだな、それじゃあ遊園地に行くか」
「ほんとですか!?わ~い!」
こうして私はエヌと一緒に遊園地に行くことになった。
バスの窓から見える前哨基地内にある様々な建物を見て目を輝かせているエヌを眺めながら揺られること数十分、バスは無事目的の遊園地の近くのバス停に到着した。バス停から遊園地までは少し距離がある為歩いて向かうことになった。
「先生!先生は何のアトラクションに乗りたいですか?」
「そうだな...あそこに見えてるジェットコースターに乗りたい」
「ジェットコースター!私怖い物は苦手なんですけど頑張ります!」
「無理はするんじゃないぞ」
「はい、先生!」
こうして並んで歩いていても隣のエヌがとてもワクワクしているのが感じられる。
そんなこんなで話をしながら歩くこと数分、ようやく遊園地に辿り着いた。平日という事もありスタッフにエヌの持っていたチケットを2枚渡すとあっさり入園できた。
ゲートをくぐり園内に入ると明るいBGMとこの遊園地のマスコットキャラクターだろうか?ウサギの着ぐるみが出迎えてくれた。
「わー!先生!すごいですね!」
エヌは初めて見る遊園地にすっかり夢中になっているようだった。
ゲートに入ってすぐの広場であたりを見渡しながら最初に何のアトラクションに乗ろうか、そう思案しているとエヌが声をかけてきた。
「先生!一緒にあのジェットコースターに乗りましょう!」
そういってエヌは入園する前私が乗りたいと言った大きなジェットコースターを指さした。
ジェットコースターからはそこそこ距離が離れているものの時々客のあげる悲鳴が聞こえてくる。
「でも本当にいいのか?怖いのなら無理しなくてもいいんだぞ?」
「大丈夫です先生!先生と一緒なら怖くありません!」
そうして二人でジェットコースター乗り場に向かう。ジェットコースターはこの遊園地の中でも比較的人気のアトラクションのようで平日にもかかわらず多少の待ち時間があった。その間も私とエヌは次に何のアトラクションに乗るか相談しながら待ち時間を潰した。
そして危うくエヌがジェットコースターの身長制限に引っかかりかけるという小さな事件はあったものの、無事私たちの順番がやってきた。
座席の場所は何と最前列。座席に座って安全装置を降ろし暫く待っているとカラカラという音と共にジェットコースターは徐々に上昇していった。
「せ、先生!思ったより怖いですね」
「残念ながら私も結構怖いと思っている」
そして山の頂点にたどり着いたジェットコースター。目の前からレールが消え眼前には遊園地の景色が広がる。と、ここでコースターが一瞬止まる。数秒しか経っていないはずなのに思ったよりも止まっている時間が長く感じる。
「先生!いつ動くんですか!」
「わからな...」
わからない。そう言おうと瞬間
がこん。
「おぉ...おわあああああぁ!!!!」
「きゃー-----!!!!」
突如動き出した速度の乗ったコースターが猛烈な勢いで坂を下り、下りきったと思ったら右に急旋回、したと思ったら今度は宙返り。周りの景色が目まぐるしく変わっていく。ちらりと隣のエヌを見ると微妙に泣きそうな表情をしながら叫んでいる。
そうこうしているうちにようやくジェットコースターは終着点にたどり着いた。
まだ一つ目のアトラクションに乗っただけなのにもう私とエヌは満身創痍の状態だった。
「せ、先生...さすがに怖かったです...」
「ああ...本当にそうだな...」
思わず死にそうな声が出てしまう。思ったより私はジェットコースターに耐性が無いと言う事を今日初めて知ることが出来た。
「でも先生、怖かったけど私はすごく楽しかったです!」
そう言ったエヌの表情は若干涙目だったもののどこか満足そうだった。
その後もエヌとメリーゴーランドに乗って遊んだり、出来立てのチュロスを食べたり、コーヒーカップを全力で回して二人で目を回したり、お昼ご飯を一緒に食べたり、お化け屋敷に一緒に入ってエヌが意外とお化けが苦手であることが分かったり、ゴーカートでレースをしたりして私とエヌは遊園地を目一杯楽しんだ。
遊園地を巡っているうちに時は夕暮れ、閉園の時間も近づいていた。
名残惜しいがもうそろそろ帰らなければな、そう思った時
「先生!最後にあれに乗りたいです!」
そう言ってエヌが指さした先にあったものはこの遊園地の一番の目玉でもある観覧車だった。
前哨基地内でトップクラスに目立つその観覧車の大きさはかなり離れた場所にあるはずの指揮官室の窓から見えるほどであり、いつも一体あれを建設する費用はどこの会社が出資したのか?と疑問に思うレベルだった。
「そう言えばまだあれに乗ってなかったな、他のアトラクションに夢中ですっかり忘れていた」
「先生と観覧車に乗るのがずっと楽しみだったんです!一緒に乗りましょう!」
そうやって私たちはゴンドラに乗り込んだ。
ゴンドラが上昇してしばらくの間エヌは周りの景色を見てはしゃいでいたが四分の一程度のところまで来た時急に私の方に向き直った。その表情は先程までの笑顔ではなく、どこか硬く何か緊張しているようだった。
「エヌ?」
思わずそう声をかけてしまう
「先生、先生はあの時の約束を覚えていますか?」
「あの時?」
「『私のこと、覚えててくれますよね?』」
「なっ...」
その言葉に思わず言葉が詰まってしまう。エヌは記憶を留めておくことが出来ない。あの手帳に書かなければ一日でその記憶は消えてしまう。そのはずなのに何故、何故その時の言葉を覚えているのか。その理由を尋ねる前にエヌは言葉を続けた
「先生、私には思い出が何もありませんでした。私の好きなマイルドコロッケも、ピンクのしおりも、三毛猫のぬいぐるみも、この手帳がないと何もわからないんです。」
そういって持っている手帳をちらりと見せる。
「でも先生、先生がいるときは、先生と過ごした思い出だけはこの手帳なんかがなくてもいつまでも消えないんです。」
「先生と一緒にマイルドコロッケを食べたことも、ホットコロッケを食べて、でも辛すぎて先生のマイルドコロッケと交換したことも、先生と地上の海に行く約束をしたことも全部、先生との思い出だけは残り続けているんです。」
「こんな何もない私の事を先生はずっと見守っていてくれました。ずっと傍にいてくれました。私を、忘れないでいてくれました。」
「だから先生、私はそんな先生の事が大好きです。私はこれからもずっと、ずっと先生と一緒にいたいです...」
そう、あの時の様にエヌは言った。
私はそれほど鈍感なわけではない。間違いなく彼女の言葉は親愛の言葉なんかではなく愛の告白だ。
だがニケと恋愛する、そんなことを世間は間違いなく許さないだろう。ニケは機械であり兵器、人間がニケに恋愛感情を抱くこと自体が異常であり、例え恋愛してもその事がバレてしまえば一瞬にしてその地位や居場所など一瞬で失われてしまうだろう。一般常識に照らし合わせるならそんなもの考えるまでもなく断るべきであり、何ならそんなことを言うニケは処分してしまったほうがいい。
エヌも恐らくそのことを理解しているのだろう。その表情は暗く視線も俯きがちで今にも泣きそうだ。
「エヌ、顔を上げるんだ。」
こんな告白断ってしまえばいい。その方が楽だ。だが、私は...
「私もエヌが好きだ。」
そう言った。
「え...?」
「私はエヌが好きだ。マイルドコロッケを食べてキラキラした表情を見せるところも、私と面談しているときに見せるあの楽しそうな姿も、地上での任務でラプチャーを倒すあの後ろ姿も、全て大好きだ。」
私は生憎世間一般の常識人ではない。ここ最近ではニケ達にすら異常と言われるレベルだ。
「今までの思い出がないなら私がこれからいくらでも作ってやる。だから」
いつからだろう、エヌに惹かれたのは。
初めは保護者のような感覚だった。だがエヌと一緒の時間を過ごすと共にその元気さが、その純粋さが、例え記憶を失ったとしても毎日を健気に生きる姿が、その笑顔が、エヌの全てが好きになった。
「エヌ、私と付き合ってくれないか?」
「先生...先生!」
そう言ってエヌは私の胸元に泣きながら飛び込んできた。私はエヌが落ち着くまで頭を撫でてやるのだった。
数分後、観覧車は一周し無事地上に戻ってきた。周りの景色を楽しむことは出来なかったが、一生の思い出が出来たから別にいいだろう。またエヌと一緒に改めて来ればいいさ。
「落ち着いたか?」
「はい!でも先生...すみませんそんなに服を汚してしまって...」
「別にいいさそんなことぐらい」
私の服はエヌの涙なんかで汚れてしまったが別にこれぐらいどうってことはない。それに
「私は暗い表情をしているエヌより笑っているときのエヌの方が好きだよ」
「わかりました、先生!」
そう言ってエヌは飛び切りの笑顔を見せてくれた。やっぱりエヌにはその表情がよく似合う。
そうしているうちに閉園の時間になった。ゲートから出て再びバス停まで戻ろうかというときエヌが少し恥ずかしそうな表情をしながらこんな提案をしてきた。
「えへへ、先生せっかくですし手を繋ぎませんか?」
「そうだな」
そういって私とエヌは手を繋ぐ。エヌの手は小さく、温かかった。
「先生の手、とても暖かいですね」
「ああ、エヌもな」
そう言って私とエヌは来たときと同じように並んで歩く。しかし来た時とエヌとの関係性は全く違ったものになっているのだから世の中分からないものだ。
「エヌはこれから先どこに行きたいんだ?」
「私は先生と一緒ならどこでも楽しいです!あ、でも海には行ってみたいです!」
「そうか、そうだな。これからもたくさん思い出を作っていこうな、エヌ。」
「はい!先生!」
これから私達には恐らく苦難と茨の道が待っているのだろう。だが大切なエヌと一緒ならそんな道も乗り越えていけると、そう確信している。
「ねえ先生、明日は何をして遊びましょうか?」
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エヌと一緒にプール!
許して!
感想とかくれたら自分はプリバディのようにチョロいので死ぬほど喜びます
「最近は本当に暑いな...エヌはその格好で暑くないのか?」
「はい!私なら大丈夫です!あと先生、朝ご飯ありがとうございます!」
とある休日の朝、私とエヌは朝ご飯を一緒に食べながら最近の気温について話していた。
前線基地にも厳しい夏がやってきて最近は外に出るだけで溶けそうな気温と化していた。
勿論ある程度軍人として、前線に出る指揮官として鍛えてはいるが流石にこの暑さは堪える。そんな中でもいつもと変わらないエヌの元気さを若干羨ましく思いながらも他愛のない会話を続ける。
あの日遊園地でエヌと恋人同士になってからこうして休日は二人きりで一緒に過ごすことが多くなっていった。とはいえまだ恋人らしいことと言えば買い物デートと指揮官室で一緒に過ごすこと、そして手を繋ぐぐらいの事しか出来ていないが、これから先ゆっくりと色々なことが出来たらなと思っている。
「今日は何かしたいことはあるか?」
「う~ん...今日は特にありません!昨日は先生と沢山お買い物できたので満足です!」
「それもそうだな、今日一日どうしようか」
このまま何もせず一日エヌとのんびり指揮官室で過ごすのも悪くない、そう思った時ふとこんな日にいい物を貰っていたことを思い出した。机の中を探してみるとそれはすぐに見つかった。
「そういえば最近ヘルムからアークにあるプールのペアチケットを貰ったんだがエヌ、一緒に行くか?」
そう言って机の中にあったプールのペアチケットをエヌに見せた。
なんでもヘルムはそこの常連でプールの運営から何枚か優待チケットを貰ったはいいものの微妙に余らせていたらしい。そこで普段のお礼にと言う事で先日私にプレゼントしてくれた。
「本当ですか!でも先生、私まだ水着を持っていません...」
「私も持っていないからついでに水着を買ってから行かないか?」
「そうですね!わかりました、先生!」
そう答えるエヌの表情は私と一緒に出掛けることが出来るからか、プールという初めての体験が出来るからか、いつもの数倍増しで嬉しそうだった。
こうして私たちは近くにあるショッピングモール内にある水着売り場にやってきた。やはり夏真っ盛りと言う事もあってか様々な種類の水着が所狭しと並んでいる。
エヌはこのショッピングモール自体には来たことがあってもこの売り場には初めて来たようで目を輝かせていた。
「一旦自分の水着を選ぼうか」
「はい!そうしてみます!」
私とエヌは自分の水着を決めるために一度別れることにした。
しかし別れたはいいものの別に私は水着にこだわりなんて無い。エヌと別れて1分も経たない内に無難な黒のショートパンツタイプの水着に決めてしまった。
こうしてあっさりと自分の水着は決まってしまった為ついでにニケ用の浮き輪も買い物カゴに入れつつ時間つぶしも兼ねて店内にある水着を見て回った。中には誰が着るんだ?と問いたくなる布面積の水着もあったり、これを買う人間が1人しか思い浮かばないようなド派手な水着もあったりしたが意外と見て回るのは楽しかった。
しばらくしてからエヌの所に戻ってみるとどの水着にしようかまだ悩んでいるようだった。
水着を両手に手に取りうーんうーんと頭を悩ませている。
「エヌどうだ?水着は決まったか?」
「う~ん…中々決まりません…あ!それなら折角なので先生に選んで欲しいです!」
そう言ってエヌは私の横に並ぶと同時に手を繋ぎに来た。
エヌに頼られるというのは嬉しいことなのだがとても困った。エヌの水着を選ぶとなるとどれも似合いそうで一つに決められそうにない。店内を巡りながらエヌはあの黒のビキニが似合うんじゃないか?いや、あっちのワンピース型の水着もいいな、だがこの花柄のショートパンツとレースのトップスもいいんじゃないか?と自分の水着を選んだ時間の軽く十倍以上の時間を掛けてようやく
「この水着はどうだ?」
そう言って私は白のフリルが付いたビキニ型の水着を手渡すことに成功した。
「うわぁ!先生、ありがとうございます!それじゃあ私はこれにします!」
「でも一応試着とかしなくて良いのか?」
「サイズは大丈夫だと思います!それにここで見せると先生の楽しみが無くなっちゃいます!」
「ああ、楽しみにしてるぞ」
「はい!」
ショッピングモールで会計を済ませてから私とエヌはアーク行のエレベーターに乗り込んだ。そしてアークに着いてから更に移動すること数十分、灼熱の太陽(もどき)に焼かれながらも私とエヌは目的地のプールに着いた。やはり最近の暑さもあってかプールの周りには大勢の客たちが集まっていた。
「わぁ~!先生、人が多いですね!」
「まあ皆もこの暑さに耐えかねているんだろうな。さすがにこの暑さはキツい」
そんな雑談も挟みながらも入場のための受付を終わらせる。
「じゃあ、また後でなエヌ。足元には気を付けるんだぞ」
「はい!」
そうしてそれぞれ更衣室に向かった。
水着に着替え外に出てみるとまだエヌは着替え終わっていないようでエヌの姿は見当たらなかった。
ただ待つのも暇なので奇跡的に空いていた入口から比較的近い日陰に荷物を置いて買ってきた浮き輪を膨らませながらエヌの事を待つこと数分
「先生!お待たせしました!」
そう後ろから声がした。振り向いてみると先程買った水着を着ていつも着ているパーカーを片手に持ったエヌが満面の笑みを浮かべて立っていた。
余りにも可愛い、可愛すぎる。その白く透き通る様な肌に白のビキニがよく映える。
そのあまりの破壊力に声も出さず思わず見惚れているとエヌがほんの少し不安気な声で話しかけてくる。
「先生、この水着似合いませんでしたか?」
「いや、余りにも可愛すぎて見惚れてただけだ。とってもよく似合ってるぞ、エヌ」
「えへへ、ありがとうございます!」
「それじゃあここに荷物を置いて行こうか」
「はい!」
そう言ってエヌと手を繋いでプールに向かった。
「先生!気持ちいいですね~!」
エヌと私はそれぞれ浮き輪にすっぽり嵌りながら流れるプールをどんどん流れていく。強い日差しで火照った体に冷たい水が掛かり非常に心地よい。
ここ最近は地上での任務にシュエンのワガママ、中央政府上層部の対処や前哨基地での厄介ごとの解決など疲れの溜まる出来事が多かった。プールではしゃぐのもいいがこういう風にただ流されるだけというのもいいな、と思いながら私とエヌ時々会話も挟みながら流れるプールで流れされていった。
結局私たちは流れるプールを3周もしてしまった。
そんなこんなでまったりしていると少し小腹が空いてきた。中央の時計台で時間を見てみるともうお昼の時間になっていた。
「いったんお昼休憩でもするか」
「そうですね!私もおなかが空いてきてしまいました!」
一度荷物置き場に戻り荷物を一度纏めながら辺りを見回す。
確か今いる位置から向こう側に飲食スペースがあったはず、そう思いプール中央の橋を渡って向こうに行こうと歩を進める。しかし中央の橋は皆同じ様な考えをしているようで向こうの飲食スペースに行こうとする人や一度更衣室に戻ろうとする人でごった返していた。
流石にあそこを通り抜けるのは難しそうだと思いもう一度辺りを見渡してみるとどうやら向こうの茂みのある方は遠回りになるからかあまり人が居ないようだった。
このあたりはプールから少し離れた位置にあるからかプールの方からその喧騒が聞こえてくる程度で
そして茂みの横を抜けようとしたときエヌがいつもより少し小さな声で話しかけてきた
「先生、あそこの茂みの向こう側に誰かいませんか?」
「どうした...?」
そう言われて茂みの向こうをちらりと見てみた。確かに誰かがいるようだ。こんな所で何をしているんだろう?そう思って目を凝らして見てみた。
するとそこでは水着姿のカップルだろうか、その二人が抱き着いてそしてキスをしている真っ最中だった。
エヌにその事実をぼかしながら伝えようと思ったがエヌもその姿をしっかり見てしまったようで顔を真っ赤にさせている。
「先生...あれって...」
「エヌ、邪魔したら悪いしこっそり離れようか」
「は、はい!」
そう言ってこっそり、少し駆け足で私たちはその場から離れた。
飲食スペースについてからもさっきの光景の刺激が強かったのか、エヌはどこか上の空で私からの呼びかけにも反応が薄かった。しかし時間がたつと落ち着いてきたのか、いつもの様な笑顔と反応を返してくれるようになった。
「先生!このサンドイッチとてもおいしいですね!」
「本当だな、マイルドコロッケとどっちが美味しいと思う?」
「う~ん、このサンドイッチもとてもおいしいんですけどやっぱりマイルドコロッケが一番です!」
「そうか、次の休みの日にまた食べに行こうか」
「わ~い!嬉しいです!」
お昼休憩が終わった後私とエヌは再びプールに入った。
しばらくはさっきと同じように流れるプールを楽しんでいたが
「先生!一緒にあれに行きませんか?」
そう言ってエヌはウォータースライダーを指さした。今はお昼を少し過ぎたタイミングと言う事もあってか来た時よりかは空いていそうだった。
「よし、それじゃあ行こうか」
「はい!」
ほんの少しの待ち時間を経て私達の順番が回ってきた。
「一人乗り用のボートと二人乗り用のボートとございますがどちらにされますか?」
そうスタッフの人が笑顔で問いかけてきた。
「二人乗りでお願いします」
「はーい!わかりました!ではこちらにどうぞ!」
そうしてスタッフの人が用意してくれた小さなボートにエヌと私と向き合うような形で乗り込んだ。
「先生、ドキドキしますね!」
「そうだな、楽しみだ」
時々水の飛沫が掛かってひんやりとする。
「それでは、いってらっしゃい!」
スタッフの人が声を掛けると共にボートが押し出された。スライダーを滑るボートは徐々に速度を付け飛沫を上げながら右へ行ったり左へ行ったり、そしてあっという間に一番下のプールにたどり着いた。
「先生!とっても楽しいです!もう一度やりませんか?」
「ああ、今なら空いているしもう一度行こうか」
そうして私とエヌは何回もウォータースライダーに乗り込んだ。
ウォータースライダーを楽しんだ後も初めの流れるプールだけでなく温水プール、普通のプールをエヌとを楽しんでいるうちにあっという間に時間は流れ、気づけば夕方になっていた。
「先生、今日はありがとうございました!とっても楽しかったです!」
「エヌが楽しんでくれたなら良かったよ」
プールからの帰り道、アークから前哨基地に向かうエレベーターの中で私とエヌは今日の思い出について振り返る。
思い出を語るエヌのその表情から今日のプールをとても楽しんでくれたことがすぐに分かった。
一通りの思い出を振り返ったところでエヌが
「そういえば先生、一つ聞きたいことがあるんです」
「どうしたんだ?」
「先生、恋人同士になった人っていうのはキスをすることが普通なんですか?」
そんな言葉がエヌから飛び出してきた。
あの昼の出来事を目撃した後しばらくエヌがどこか上の空だったのはこの事を考えていたからなのだろう。
あの遊園地での告白の後から私達の関係はあまり進んでいないと言ってもいい。恐らくエヌはその事実に焦っているのかもしれない。だが少し悩んで私はこう答えた。
「確かに恋人同士になればキスだったりあるいはそれ以上の事をするのが普通なのかもしれない」
「でも無理にエヌがそうしようとする必要はないさ。私達には私達なりの関係の深め方があるからな、エヌが思うようにすればいい。私はそれに応えるようにするだけだから」
確かに私もエヌともっと深い関係になりたいと思う事はある。しかしそれはエヌ本人の意思を無視してまでするべき事ではないとも思っている。例え無理やり深い関係を迫って、それがきっかけでエヌが傷つくなんてことがあったら私は私自身を許せないだろう。だから私はそう答えた。
「えへへ、先生はやっぱり優しいですね」
エヌは笑った。
「先生、目を瞑って少ししゃがんでもらって良いですか?」
「これでいいか?」
エヌに言われたとおりに目を瞑ってしゃがんだ。エヌが何をしているかは見えないがどうやら目の前まで近づいてきているような気配を感じる。
そして...
チュッ
頬に柔らかく、少し湿った感触が伝わる。その感触に驚いて目を開けると
「えへへ、やっぱり恥ずかしいですね!先生」
そんな事を言うエヌが目の前に立っていた。
そこでエレベーターは前哨基地に辿り着いたのか動きを止めた。エレベーターから出ると昼間のあの暑さが嘘のような涼しさになっていた。
「先生、明日は何をしますか?」
「明日は前哨基地で訓練だな。ラピやアニス、ネオンも一緒だ」
「ほんとですか?頑張ります!」
私とエヌは来た時と同じように手を繋いで歩き始めた。私とエヌの関係性はあまり変わっていないように思えるが少しずつ、確実に深まっているのだろう。
「またいつか先生と一緒にプールに行きたいです!」
「そうだな、またいつか行こう。後はもし地上をいつか奪還出来たら、その時はプールじゃなくて本物の海に行こうか」
「とっても楽しみです!先生!」
「これからも沢山思い出を作りましょうね!先生!」
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