シン・ウルトラセブン (Sashimi4lyfe)
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プロローグ
対ウルトラ級事態用地球警備隊(ウルトラ警備隊)についてまとめてみました!
こんにちは、ぺがです。
今回は、前から調べていた謎が深いウルトラ警備隊についてできる限りのことをまとめてみました!
ネットで見つけた情報が主なのであまり正確ではないかもですがぜひ読んでいっていただければ幸いです!
ウルトラ警備隊とは
2015年に公式に存在が公表された国連が支持する軍事組織のようです。
国連ホームページによると、
「国連同盟国が同盟国及び疎外国により予期せぬウルトラ級の軍事的攻撃を受けた際に対抗策を発案するための組織」
だそうです。
ちなみに、軍事的緊急事態には4つのカテゴリーがあって、
1.エレメント級:小規模な個人によるデモ活動など
2.メディエット級:中・大規模な団体によるデモ活動など
3.ケテル級:内戦、及び大規模な団体による他国への軍事活動
4.ウルトラ級:国同士での大規模な軍事活動
と言った具合に分けられています。
ウルトラ級の軍事的攻撃に備えた組織ということは、もしも国連の同盟国が急に核戦争に巻き込まれるような事態に遭遇したなどといった予期できなかった軍事的攻撃に対抗するための組織、と言った具合でしょうか。
でも、巷ではもっと闇の深い案件を取り扱っているという噂も耳にします...
そんなわけで、そう言った面白そうな噂をこれから三つご紹介したいと思います!
宇宙人による侵略を阻止する組織!?
海外のネット上では、「ザ・ミッシング・ケース」というどう考えても人間がしたとは思えない事件が噂されており、これに宇宙人が絡んでいるのでは!?と話題になっています。
そして、その事件について必死に規制を施しているのがウルトラ警備隊なんだとか。
なんだかSF映画みたいで、ロマンのある噂ですよね。
オーバーテクノロジーを管理している!?
先程ウルトラ警備隊は宇宙人との絡みがあると紹介しましたが、実はもっとすごい秘密が隠されているとの噂も...
それは、宇宙人が持ってきたオーバーテクノロジー、つまり超越した科学技術を管理しているとのことです。
何でも、透明になれる飛行機とか、物質を消滅させる銃の製造法を隠してるんだとか...
まるで、子供のころに見た特撮映画みたいですね!
あなたのすぐ近くに潜伏しているかも!?
映画、「ピープル・イン・ブラック」のように、彼らは普段は普通の人間のように日常生活に溶け込んでいるんだとか。
もしかしてちょくちょくいなくなる近所のおじさんは、ウルトラ警備隊の一員だったりして...
なーんて、妄想が膨らんじゃいますね!
まとめ
ウルトラ警備隊は、表向きは国連の平和維持のための組織ということになっていますが、実は裏では宇宙人関連の作戦をひそかに実行しているのかもしれません...
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―――――…
「こーんな胡散臭いブログを書くなんて、暇なんですかね?情報規制局の人たちって。」
ウルトラ警備隊の女性隊員は記事を素早く読み通すとぼやいた。
「これが情報規制の最も効率的なやり方さ。真実がちりばめられた嘘ほど、信じやすいものはない。」
そう答えたのは彼女の上司らしき人物だった。
「でも、これじゃあデマだってすぐにばれません?」
「人ってのは信じたいものを信じるものだよ。それがいかに信憑性が薄くともね。」
「そんなもんですか。」
そうため息交じりに答えると彼女は「受理」のボタンをクリックし、このブログの掲載を許可した。
「でも、ウルトラ警備隊も案件がない時はとことん暇ですね。こんな雑用まがいのことまでしなきゃいけないなんて。」
「そんな君にプレゼントだ。ほれ、案件。」
彼女のパソコンにメールが一件届く。
「『コードネーム:ウルトラセブン』の活動を確認。現場周辺の解析を依頼す...か。またコイツの調査ですかぁ~?」
「しょうがないだろう。やっこさん、外星人をひそかに殺しまくってるんだ。まぁ、おかげでこちらの案件が少なくて済んでるんだがね。」
「はいはい。で、今度の出張先は?」
「日本だよ、アンヌ。」
その答えを聞くと彼女はノートパソコンを閉じ、出かける準備をした。
「出発は今日午後5時20分。いつも通り機内食にニンジンを入れないよう言っておいたから。」
「それはどうも。では、行ってきます。」
そう言って彼女はオフィスを後にした。
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CODENAME : METRON
1. 姿なき脅威
十月の心地よい風が吹く郊外のガソリンスタンド。
一見何の変哲もないこのスタンドの周りには、立ち入り禁止のテープが張り巡らされていた。
そこに、一台の黒塗りの車が到着する。
降りてきたのは、ショートカットのよく似合うスーツ姿の女性だった。
国連のバッジを左胸に着けており、首から下げたネームカードには「ANNE YURI(アンヌ・友里)」の名前が書かれてあった。
カツカツとヒールを鳴らしながら、彼女は警備員に囲まれた現場に近づいていく。
「失礼ですが、どなたでしょうか?」
警備員の一人が訪ねる。
「I'm from the UN; does "Ultra Guard" ring any bell?」
「は?」
突然の英語での返答に、警備員は混乱しているようだった。
その様子にアンヌは呆れたように目を上にそらすと、
「国連の者です。」
とテープをくぐり抜けていった。
(全く。いまだに公務員に英語が通じない国なんて、日本ぐらいよ。)
そう心の中でつぶやきながらアンヌは分析を始めた。
アンヌが目を通した報告書によると、この外星人はガソリンスタンドを襲おうとして出現した模様。
そこにまるで現れるのを知っていたかのように、突如現れた赤色のもう一人の外星人(と仮定される)が光線を放ち、外星人を消滅させたところを目撃されていた。
監視カメラの映像にも、同じような光景が映っていた。
「でもコイツ...コードネームはウルトラセブン、だっけ?何も形跡を残さないから分析の余地があんまりないのよね...」
右手に持ったペンで頭をぽりぽりと掻く。
「ん?これは...」
よく見ると、足枷のような形状をした何かが落ちている。
その表面には、文字のような模様が描かれてあった。
アンヌはまず、ウルトラ警備隊が開発したスマホの金属分析アプリを使い、この物体が地球産のものかどうか分析した。
アプリの分析の結果には、「地球外の物質でできた物質」と出た。
するとアンヌはスマホで写真を撮り、ウルトラ警備隊本部のアキレッシュに連絡を入れる。
「『この文字、なんて書いてあるの?』っと。」
するとほんの数秒で返事が返ってきた。
「『囚人303』。なるほど…」
恐らく、別天体で何らかの罪を犯した外星人が地球に逃亡してきたものだろう、とアンヌは推理した。
「全く、外星人のくせに人間に擬態すらできないなんて。」
アンヌはアキレッシュにお礼のメッセージを送ると、テープを再びくぐって現場の外へ出た。
「でも結局ウルトラセブンについての手掛かりはあまりなさそうね。日本語でいう所の…『神出鬼没』、と言った感じ?」
間もなくして、黒ずくめの男たちが5人ほどアンヌに近づいてきた。彼らはいずれも国連のバッジを着けており、真っ黒なサングラスが彼らの表情を隠していた。
「お勤めご苦労様です。ブログ記事捏造の次は記憶処理なんて、情報規制局も大変ですね。」
「お疲れ様です。日本語がお上手ですね、
「こう見えても日系五世ですから。それでは、『いつもの』お願いしますね。」
「了解いたしました。」
アンヌは黒塗りの車に乗り込むと、ガソリンスタンドを後にした。
―――…
昨今、日本では新感覚のチャットアプリが話題となっていた。
「バース」という名のそのアプリは、他のチャットアプリとは一つ変わった特徴があった。
次世代チャットAI「メトロン」。
恋愛相談から愚痴の相手まで、なんでも実の親友のように話し相手になってくれるそのAIは、青少年層を中心に莫大な人気を博していった。
噂によると、なんとメトロンと恋愛関係にまで発展してしまったユーザーもいるようだった。
ここまで聞くと、ただの無害なAIとのチャットアプリのように思えるかもしれない。
しかし、ユーザーの中には日常生活を放棄し、メトロンとのチャットに明け暮れてしまうものもいた。
実際、アプリを使用しているユーザーのほとんどが、アプリの中毒性について言及したという。
「...で、なぜこれにウルトラ警備隊が干渉する必要があるんです?日本のスペシャリストに任せればいい案件では?」
不満そうに作戦立案担当官のハンズ=ゴッテンフリードは尋ねる。
「これを見てくれ。」
最高指揮官のブランドン・ブラウンがスクリーンに自分のパソコンの画面を投影する。
何の変哲もない、Google Mapの位置情報だ。場所は日本の宮崎県のとある会社のようだ。
「メトロン・テック...このアプリの開発会社ですか?」
「その通り。」
「で、それがどうかしたんですか、
ブランドンは無言でページの再読み込みボタンをクリックした。
「ん?」
ハンズは再び表示された位置情報の異変に気付いた。
「もう一度やって見せよう。」
またブランドンはぺージをリロードする。
「ふむ...リロードする度に場所が移動している...」
「そう、しかも決まって日本国内の位置情報が表示されるんだ。戸籍などに登録されている住所も全てバラバラだ。」
「で、これが外星人の仕業だと言いたいんですね?」
「日本政府は日本中の頭脳を集めてこれに対応しているがらちが開かんそうだ。そこで国連はウルトラ警備隊の出動を提案した、というわけだ。」
ふぅ、とため息をつきながらハンズは口ひげをいじり始めた。彼の思考する際の癖である。
「いいじゃないですか、面白そう!」
量子物理学者のオリビア・フリンはなぜか嬉しそうだった。
「オリビア、どうせ日本に行きたいだけでしょ?」
コンピューター科学者のアキレッシュ・ラティナが冷たくあしらう。
「もう、そんなこと言わないでよ!私日本に派遣されたこと一度もないんだから!」
「しかし、どうやってこんな芸当を...」
非粒子物理学者のロバート・タオは冷静に状況を分析する。
「クラウドに保存するデータを量子インベッドすることで、確率的に位置情報に該当するストリングを生成しているのかも。」
「でもサーバーに入力するデータは定数化してないといけないから、疑似的なDDOS状態を作り出しているのか?」
「まっ、どちらにせよ現時点の人類の技術ではなしえないこと、だということさ。」
オリビアとロバートとの討論を遮り、ブランドンはパソコンを閉じた。
「位置情報が日本に限定されていることにも何かわけがあるのかもしれない。久しぶりの総員出動となりますね、
「うむ。
各隊員の出発準備が整ったことを確認すると、ブランドンは高らかに命じた。
「よし、ウルトラ警備隊、出動!」
―――…
「では、これをもってこのケースの指導権はウルトラ警備隊に移行されます。」
「了解。」
「薩摩担当官、あなたはこれから公安捜査庁を代表してウルトラ警備隊との共同作業に当たってもらいます。よろしいですね?」
「はい、準備はできています。」
「なお、ご存じの通りと思いますがこのケース、及びウルトラ警備隊に関しての情報は機密事項です。ウルトラ警備隊との共同作業をするにあたって、君には偽名を名乗ってもらいます。このケースが解決するまで、君は薩摩次郎の名ではなく、新たな『諸星弾』の名前で活動してください。」
「モロボシ・ダン...」
「なにか質問は?」
「ございません。では。」
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2. 狙われた国
「ふぅ、ここが私たちの拠点になるわけね...」
どさっと書類の山をデスクに置き、アンヌはつぶやいた。
ここは中央合同庁舎第7号館。
日本政府はウルトラ警備隊の日本来訪を受け、急きょ合同庁舎に作戦室を設けたのだ。
「お待ちしてましたよ、友里分析官。」
いつからいたのか、背広姿の男がアンヌに声をかけた。
「あなたが公安のモロボシ担当官ね。はじめまして。短い間だけどチームメイトになるんだから、敬語はなしでお願いするわ。」
「分かった。ではよろしく、アンヌ。」
二人は笑顔で握手を交わした。
「こちらこそ、よろしくね、ダン。」
ウルトラ警備隊の他の隊員たちが日本に上陸するまで、ダンとアンヌは先駆けて調査を行うことになった。
まず提案されたのが例のアプリ、バースによって日常生活に支障が出てしまったユーザーの訪問調査だった。
とあるマンションの一室のベルを押すと、インターホンから女性の声がした。
「はい、どちらさまでしょうか?」
「スマホ依存症支援センターの諸星と申します。失礼ですが息子さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「あっ、少々お待ちくださいね...」
間もなくしてガチャリとドアが開く。
その向こうには母親と思わしき女性が顔をのぞかせていた。
「その節はどうも...あいにく、今日も息子は部屋にこもったままでして...」
「明夫君...でしたね。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「え、えぇ、どうぞ...」
ダンとアンヌは部屋のリビングに案内され、茶をもてなされた。
「つまらないものですが...」
「いえ、ありがとうございます。さて、今日は明夫くんの様子についてお伺いに来たのですが...」
「はぁ、それがずっとスマホを手放さないままずーっと部屋にこもりきりなんです。『バース』、でしたっけ?近頃の子供がよく使ってるっていう。あれをずーっと一人でやってるんですよ。ぶつぶつ独り言を言いながら。」
そう話す母親の声は暗く、不安に満ちていた。
「そうですか...」
「あの部屋に息子さんが?」
アンヌは先ほどから母親がちらちら見ていたドアを指さして尋ねた。
「はい、そうですが...」
「もしよければ、明夫君と少しお話しをしたいのですが。」
「え、えぇ。ぜひお願いします。」
ダンとアンヌは明夫の部屋の前に案内された。
「明夫?支援センターの方が来てくれたわよ!明夫!返事なさい!」
「...」
帰ってきたのは沈黙のみだった。
「開けるわよ。」
ドアを開けると、そこにはベッドに横たわり、スマホを眺める少年の姿があった。
ダンとアンヌは顔を見合わせると、明夫の母に三人で話がしたいと伝え、ドアを閉めた。
「...」
二人に気づいていないのか、表情一つ変えずに淡々とスマホをいじる少年。
「こんにちは、明夫君。私、アンヌっていうの。彼は同僚のダン。」
「...」
「そんなに面白いの、バースって。」
「...」
「ねぇ、ちょっと見せてよ。」
アンヌが画面を見ようと近づいたその時、明夫は血相を変えて起き上がった。
「来るな!」
「な、何よ。ちょっと見せてくれたっていいじゃない。ね、お・ね・が・い♡」
「騙されるもんか...そうやって僕とメトロンを引き離そうって言うんだろ!?」
「おい、明夫君、アンヌは何も...」
「うるさい!誰だって僕のことをわかってくれないんだ!メトロンだけだよ、僕のことを受け入れてくれるのは!」
明夫は布団をかぶり、ベッドの隅にうずくまってしまった。
「これが日本語でいう所の『万事休す』ってところね...」
―――…
約二時間後、ウルトラ警備隊の残りの隊員たちが日本に上陸し、無事作戦室に到着した。
「では、改めて自己紹介をよろしく頼むよ、モロボシくん。」
「はい。公安調査庁より出向してまいりました、諸星弾と申します。」
「ははーん、これで君がウルトラエイトになる、ってわけね。」
オリビアが机に頬をつきながらからかった。
「ウルトラエイト?」
「いや、こっちの話だ、忘れてくれ。」
無表情にハンズが話を逸らす。
「外星人がらみのケースとなるとヤツが干渉してくるかもしれません。一応ブリーフィングだけでもしておいたほどがいいのでは?」
「いい考えだ。アンヌ、説明を頼む。」
アキレッシュの提案をブランドンは受け入れた。
「えっ、私が?」
「当たり前だろう。最後にセブンの調査をしたのは君なんだから。」
「もう...了解しましたぁー。」
不満気味にアンヌは淡々と話し始めた。
「最近、極秘裏に外星人を抹消して回る外星人がいるのよ。まぁ、外星人って仮定されてるだけなんだけど。で、私たちウルトラ警備隊の仕事をしてくれてるようなものだからという理由で国連の委員が『ウルトラ警備隊7番目の隊員、ウルトラセブン』というあだ名をつけたの。それを気に入った参謀方がこの外星人の名称を『ウルトラセブン』にした、ってわけ。」
「そう!で、君は8番目の隊員だからウルトラエイト!ね、ハイレベルなギャグでしょ?」
オリビアのギャグ解説に、作戦室に沈黙が走った。
静寂を破るためブランドンは咳払いをコホンとすると、話を戻した。
「そして、今回のケースには外星人が絡んでいる可能性が高い。セブンがこれに食いつけば、ヤツのしっぽをつかむいい機会になるかもしれないのだ。」
「なるほど。」
「ま、今はバースについての調査が先だけどね。」
キーボードをカタカタ鳴らしながらロバートはこぼすように言った。
「
「うむ、やってみよう。スクリーンをプロジェクターで映してくれ。」
作戦室のスクリーンにロバートのパソコンの画面が映し出される。
「これが先ほどダウンロードしておいたバースのアプリです。起動してみます。」
バースを起動させると、シンプルなデザインの画面が映し出された。
ロバートはニューラルAIを起動させる。
「ニューラルAIって何です?」
「あぁ、人間の思考回路をベースにしたAIさ。元はとある外星人が残していった人工知能でね。それを僕が人間の脳に似せて調整したんだ。チューリング・テストにもパスできるほどの代物なんだぜ。」
「ウルトラ警備隊では外星人が残したオーバーテクノロジーをこのように調整・改良して使用することがある。我々はこれを
画面には、やはり心理テストの内容のような質問が表示されていく。
画面に表示される質問をニューラルAIに入力し、AIが出した答えをロバートがバースに入力していく。
この作業を10分ほど繰り返すと、ようやく最後の質問にたどり着いた。
「なんだ、本当にただの心理テストみたいね。」
オリビアが愚痴った。
「...ん?」
突如、画面が真っ黒になった。
「まさか...読まれているッ!?」
ロバートが形相を変えて動揺している。
すると今度は音声がパソコンから再生された。
「やぁ、ウルトラ警備隊の諸君。この音声が再生されているということは君は人工知能を使ってこのバースについて調べようとしていたようだね。」
声に合わせて、安らかなクラシック音楽が再生されている。
「しかし、無駄なことだ。もうじき、この国は私のものとなる。おとなしく引き下がったほうが君たちのためになるぞ。」
「この国...奴は日本が目的なのか?」
「なぜ日本を...?」
「警告はしたぞ。では、さらばだ。」
「...!アプリが自動的にアンインストールされました!」
「完全になめられてますな。」
口ひげをいじりながらハンズはつぶやいた。
「想定していた以上のことが起こっているのかもしれないな...」
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3. バディとの信頼
ブランドンは広い会議室の中で一人、パソコンに向かい合って話していた。
画面の向こうには国連の幹部たちが険しい顔でブランドンの報告に耳を傾けている。
そう、今行われているのはウルトラ警備隊最高指揮官と国連幹部の機密会議である。
「...つまりこれはウルトラ警備隊のみならず、我々人類への警告、ということか。」
「そうです。このままでは被害は日本にとどまらず、世界各国へも及ぶ可能性があります。」
「たかがスマホのアプリだろう。ダウンロードを禁止すれば済む話ではないのかね?」
「それはもう日本政府により検討済みです。まぁ結果はご覧の通りですが。」
国連幹部の面々が表情をさらにゆがめていく。
「ふむ。我々の大抵の動きは読まれているようだな。」
「厄介なことを...しかも使用ユーザーの75%が日常的使用をしているというではないか。」
「変な介入は市民の疑いを買う。問題の発端を叩くしか解決策はないだろう。」
「軍事的行動に移るしかないようだな。」
幹部の一人が水を一飲みしながら命じた。
「よし、コンディションレベルを3に移行しよう。カテゴリー2の
「うむ、やむを得まい。健闘を祈るぞ、
「了解しました。では。」
―――…
「中央合同庁舎第7号館の第34号室...ここかぁ。」
彼は佐村博人、練間警察署付属の警察官だ。
署長の急な命令により、34号室に呼び出された彼は混乱しながらも部屋のインターホンを押した。
「音がしない...中は完全防音か。俺、一体なんでここに呼ばれたんだろう...」
間もなくしてドアが開くと、眼鏡をした白人の女性が出てきた。
敬礼をする間もなく、女性は彼の右手をつかんで部屋に招き入れた。
「オォー!!あなたがヒロトサンね!初めまして!あたしオリビア。さっ、入って入って~」
「は、はぁ。失礼致します。」
部屋の中には、背広姿の男女がオリビアを含めて7人おり、パソコンとにらめっこをしている。
後ろのドアが閉まると、博人は姿勢を正し、敬礼をして名を名乗った。
「申し遅れました、佐村博人と申します!練間警察署の森岡署長の命により参りました!」
「もう、そんな堅苦しい挨拶なんていいのに。ところでヒロトサン、スマホ貸して!」
「は?えぇ、どうぞ...」
(この人たち、誰なんだ?それになんで俺のスマホを?)
オリビアは博人からスマホを受け取ると、デスクに置いてあった装置を充電口に差し込み、スマホをアンロックした。
「えっ、どうやってそれを...」
「まぁいいから。さてと、バースは...あった!」
「ちょっ、何を...」
「協力してくれたまえ。」
ハンズの野太い声に博人は氷ついた。
首にかけたネームカードを見せびらかしながらオリビアはちゃらかすように言う。
「にひひ~。こう見えて私たち、国連の一員なんだぁ。」
「こ、国連!?」
(なんでみんな日本語話せんだよ...でもそれよりも...)
オリビアがバースのアイコンをタップし、アプリを起動する。
(まずい...俺のチャットログを見られたら...!!)
博人とメトロンのチャットログが表示される。
「ほほー。これはこれは...」
「...」
「随分メトロンちゃんとラブラブみたいねぇ、ヒロトサン?」
博人は赤面しながら目をそらす。
「真面目にやれ!」
鬼のような形相でハンズが一括した。
「はぁ~い。じゃ、アキレッシュ、お願いね。」
「了解。
この存在はウルトラ警備隊と国連組織の一部しか知らされておらず、外星人にかかわる事態のみに使用が許可されているものである。
中でもスクランブル・ディクリプターはカテゴリー2に分類される
「QPNのバックトレース完了。ディクリプション、オールクリア。成功です!発信源が判明しました!」
「でかしたぞ、アキレッシュ!」
ブランドンが歓喜の声を上げる。
「なんだ、もうおしまい?じゃあ、失礼して...」
おもむろに万年筆を取り出すと、オリビアは博人の首に突き刺した。
「!?はにゃ~...?」
博人の口から情けない声が漏れだし、目がうつろになっていく。
彼の耳に近づき、オリビアはささやいた。
「いい?あなたはこの10分間、公安庁のオフィスに呼ばれたけれど同姓同名の人違いだったことが判明したの。だから特に何もせずに職場に戻った。いいわね?」
「はい...」
オリビアは彼の首から万年筆を抜き取った。
「うん!じゃ、そういうことで!お疲れさ~ん。」
博人は強引にオフィスの外に放り出された。
「あれ?ここは...そうだ、職場に戻らなきゃ...」
頭のだるさに疑いを持ちながらも、博人は練間警察署へと戻っていった。
「さっすが、カテゴリー2の
「
「それで、ヤツの居場所は?」
ダンが話を本題に戻す。
「場所は...日本橋の芹沢団地です!より詳細な位置データを算出するには現地まで行く必要があります。」
「よし。ダン、アンヌ、アキレッシュ、ロバートの四名は
「
「オリビア、君は残れ。君には奴が残した量子パルスの解析が残っているだろう。」
「そんなぁ、あたしも行きたいのに~。」
「馬鹿を言うな、遠足じゃないんだから。」
「ちぇっ。」
頬を不満そうに膨らませながら、オリビアはカタカタと作業に移った。
「よし、ウルトラ警備隊、出動!」
―――…
「ここが芹沢団地...普通の集合住宅地に見えるわね。」
ダンとアンヌは団地の前に立ち、アキレッシュたちの解析結果を待っていた。
「ねぇ、まだかかりそう?」
無線でアンヌが
「団地の他の電波がノイズになってなかなか特定できないんだ。そこらへんで暇をつぶしててくれよ、データは十分とれたから。」
「...そう。了解したわ。」
アンヌは無線を切り、ダンに尋ねる。
「ですって。どうする、ダン?」
「近くに喫茶店があったはずだ。あそこで茶でもしないか?」
「外星人の拠点の近くだっていうのに、よくそんなこと思いつくわね...でも気に入ったわ。行きましょ。」
その喫茶店は、芹沢団地から徒歩8分ほどの距離にあった。ビルの2階にある喫茶店の窓からはちょうど団地が見える。
二人はコーヒーを頼み、団地から目を離さずに仲間たちからの無線を待った。
「ダン、あなたって趣味とかあるの?」
アンヌの質問が沈黙を破る。
「なんだい、急に。」
「私、バディ組んで仕事することあんまりないんだ。
「僕のことが信用できないっていうのかい?」
「違うわよ。ただ、いつ死んでもおかしくない仕事だから...一緒にいる仲間とはなるべく仲良くしたいでしょ?」
「...そうか。」
「まだ質問に答えてもらってないわよ、ダン。」
ダンが答える暇もなく、アンヌの無線が鳴った。
「こちらアンヌ。」
「奴の詳細な位置情報が分かったよ。奴は3号棟の315号室にいる!」
「なるほど、じゃあ一旦作戦室に戻って対策を...」
「その必要はないよ。幹部からコンディションレベルを4に引き上げろとの通達があった。」
アンヌの背筋に緊張が走る。
「ハンズから作戦概要が送られてきた。一度
「了解。今ダンとそちらに向かうわ。」
―――…
コンディションレベル4。
地球の来訪目的が友好的なものでないと国連が決断した時に発令されるコンディションである。
レベル4の判決は外星人の物理的排除を要求するものと等しい。
「では、もう一度作戦の概要を説明する。ダンが外星人が潜伏しているとされる室内に潜入し、アンヌは一階で待機。残りの隊員は
「やはり納得がいかないわ。外星人の駆除なら経験のある私が担当するべきよ。ダンはまだ外星人とのコンタクトを取ったことさえないのよ。」
アンヌが腕を組みながらロバートに反論する。
「彼だって日本の公安局を代表する人物だ。それに、我々ウルトラ警備隊の唯一のエージェントである君を失っては、多大な影響が出る。」
「じゃあ、ダンは噛ませ犬になるってことじゃない!」
「しかし、彼の観測データを利用すればさらに確実な作戦が立てられる。」
「そんな!」
「分かってくれ、アンヌ。これは国連の受諾を受けた決定事項なんだ。」
アキレッシュは何とかアンヌを説得しようとするも、彼女は頑なに作戦を受け入れない。
「認めないわよ、こんな作戦。いくらウルトラ警備隊とはいえ、一人の命を使い捨てにしていい権限はどこにもないはずよ!」
その時、アンヌは肩に温かみを感じた。
ダンがそっと右手を彼女の方に添えたのだ。
「僕なら大丈夫だから。心配しないでくれ。」
「でも...」
「僕を信用してくれるんだろ?」
「...」
アンヌはうつむいたまま返事をしなかった。
「では、作戦は予定通り午後5時に決行する。二人とも、健闘を祈るよ。」
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4. 夕陽を愛した外星人
芹沢団地3号棟、315号室。
外星人が潜伏していると思われる団地の一室の前で、刻一刻と突入予定時刻をダンは待っていた。
「何か異変があったら、すぐ連絡を入れて。」
アンヌと交わした言葉がダンの脳裏を巡回する。
「あなたは...絶対に死なせないわ。」
(信頼...か。)
午後4時59分55秒。
秒針を睨みつけながらドアノブに手をかける。
5。
4。
3。
2。
1。
秒針がゼロを刻むと同時にドアノブを回すと、鍵はかかっていなかった。
開いた扉の隙間からは何も異変は確認できず、ダンはそっと部屋に入ると静かにドアを閉めた。
安らかなクラシック音楽がかかっている。外星人が流しているのだろうか。
電気はついておらず、夕日のオレンジ色の光が部屋を満たしている。
ダンは
地上最強の小型兵器である。
そろり、そろりと壁伝いに室内を移動していくと、壁の角までたどり着いた。
部屋の構造上、角が死角になって残りの敷地が見えなくなっている。
マルス-133の電源が入っていることを確認すると、ダンは意を決して角を曲がり、マルスを構える。
「やぁ、よく来てくれたね。歓迎するよ、諸星君。」
空虚なリビングに、ちゃぶ台が一つぽつんと置いてあり、そこに眼鏡姿の男が一人あぐらをかいて座っている。
「何を遠慮しているんだい?さぁ、座ってくれ。」
マルス-133を男に向けながら、ダンはゆっくりと腰を下ろした。
「あぁ、私としたことが!客を迎える時は茶菓子を出すのが礼儀だったな。しばし待っていてくれ。」
男はむくりと立ち上がると、キッチンに向かった。電気ケトルに水を入れ、引き出しからスナック菓子を取り出す。
「単刀直入に聞こう。君は外星人なのか?」
マルスの標準を男に合わせたまま、ダンが質問する。
「そうだ...と言ったらどうする?」
沈黙が走り、緊張が部屋を満たす。
「残念ながら、外の連中には聞こえていないよ。電波ジャマ―がこの部屋には張ってあるからね。」
盆に緑茶の入った湯飲みを二つと、柿の種を乗せた皿を乗せて男はちゃぶ台に運んできた。
「私の好物でね。このピリリとした味がたまらないんだよ。」
銃口を向けられているにもかかわらず、男はポリポリと柿の種を頬張った。
「では、名を聞いておこう。」
「これは失礼なことをした。自己紹介がまだだったな。私の名はメトロン。別天体からきた者だ。」
「すると、やはりあのアプリは君が?」
「そう。この星の開発者は自分の作品に自分の名前を付けることがあると聞いてね。どうだい、私の人工頭脳は?よくできているだろう?」
「君の行動目的はなんだ?」
「質問を質問で返すものじゃないよ、諸星君。」
メトロンは茶をずずっとすすった。
「私はただこの国が欲しいのだ。」
「なぜ日本を?」
「窓の外を見たまえ。」
ベランダの向こうには、下町のビルが立ち並び、その隙間から夕陽がまぶしくオレンジ色の光が射している。
街並みがシルエットとなり、複雑な影絵のような光景が広がっていた。
「この星は実に興味深い。同じような地形でも、その土地の文化や気候によって建造物の並び方や構造が変わってくる。中でも私はこの国と夕陽の組み合わせが非常に気に入ったのだ。」
柿の種を口に運びながらメトロンは語り続ける。
「しかし、この街並みも徐々に変わりつつある。『下町』と呼ばれるこの光景もより効率化された建造物の構造に変わっていている。実にもったいないことだ。私はただこの光景をこのままにとどめたいだけなのだよ。」
「その手始めにバースを使って人間の心理を理解しようとした、というわけか。」
「それは違うな。私の計画はもう完成したのだよ。」
食べろ、と言わんばかりにメトロンは皿をダンに寄せる。
「湿気ってしまうぞ。」
ダンは表情一つ変えずにメトロンを睨み返す。
頭を少しかしげると、メトロンはまた柿の種を頬張った。
「話を戻せ。計画が完成したとはどういうことだ。」
「なんだ、ウルトラ警備隊員ともなれば、もっと頭の利く奴だと思っていたがね。まぁいい。説明してやろう。」
―――…
「ダンの計測器、無線機ともにオフラインです!接続が復帰しません!」
アキレッシュが血相を変えて本部に報告していた。
「すごい電磁ノイズだ、これじゃあ大抵の電波器具はオシャカだぜ。」
「ロバート、何とかできないの!?」
アンヌが鬼気迫る声で無線に怒鳴りつける。
「慌てるなよアンヌ、こうも状況が分からないんじゃ対策も立てようがない!」
「...チッ!!」
アンヌは無線をブツリと切ると、3階へと駆け上がった。
「よせアンヌ、おい聞いてるのか!アンヌ!!」
―――…
「私は物理的攻撃による占領が嫌いだ。無駄に手間がかかるし私自身が手を下す必要がある。そこで私は人類の社会性に目を付けた。」
「...そういうことか。人間から社会性を奪えば社会が機能しなくなる。そして文明は衰退していく...」
「そうだ。そして人間が社会的活動を行うのはなぜか?それは彼らは一人では生きられないからだ。友情、愛情、青春...それらは他の人間との交流によってはじめて実現する。しかしそれらの感情が他の人間との交流なしに満たされるとしたら?」
メトロンは残りの茶を飲み干した。
「私の人工知能はその人間がもっとも欲している返答をするように設計されている。それは人間との会話よりも充実性があり、その人間の期待を裏切ることも絶対にない。人間以上に自身の欲求を満たしてくれる存在があれば、これ以上の何を欲するだろうか?」
「人類に対するこれ以上ない侮辱だな、それは。」
皿の上の柿の種に手を伸ばしたメトロンの手が止まった。
「それはどういうことだい?」
「そんな玩具で人間同士の信頼が崩せると思っているとは...もっと利口な奴だと思っていたがな。」
「負け惜しみかね。どっちみち君は罠にはまったのだ。」
カチッ。
ダンがマルス-133の引き金を引くも、何も起こらない。電波ジャマ―の仕業だろうか。
それと同時に男の姿がみるみる外星人のそれに変化していった。
「無駄な抵抗はよせ。君はここから出られないのだからな。もうじきこの部屋の空間は5次元ブレーンを通して異次元に転送される。私がここにいた形跡も、君がいた形跡も、全て抹消されるというわけだ。」
マルス-133をちゃぶ台に置くと、ダンはスーツのポケットに手を伸ばす。
「無駄だよ。何をしようとこの状況は変わらない...君はこの次元の宇宙から消えるのだ。悪く思わないでくれよ、諸星君。」
ダンのポケットから出てきたものは、赤い眼鏡のような装置だった。
「メトロン、冥土の土産に一つ教えてやろう。」
「ふふっ、その眼鏡で私を殺そうというのかね。」
「この部屋にいる外星人はお前ひとりじゃあない。」
余裕をかましていたメトロンが急にがばっとちゃぶ台から起き上がった。
「まさか...君は...」
ダンは眼鏡を目の前に構える。
「ウルトラセブン!?」
「デュワッ!!!」
―――…
315号室の前に立ち、アンヌは深呼吸をしていた。
このドアの向こうに、ダンの死体が転がっているかもしれない。
その覚悟を決め、ドアノブに手をかける。
ガチャリ。
アンヌがドアノブを回すより先にドアが開く音がした。
素早くマルス-133をアンヌは構える。
ゆっくりドアが開き、中から姿を見せたのは...
ダンだった。
「...ダン!無事だったのね!外星人は...」
「大丈夫、彼が始末してくれたよ。」
「彼って...誰よ?」
「ウルトラセブンさ。」
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CODENAME : KING JOE
5. マゼラン星雲からの挑戦状
「ねぇ、聞いた?ダンの契約期間が延びたって。」
「初任務にしてはいい動きをしていたからな。本格的にウルトラ警備隊に入隊させようとする声も上がってるみたいだ。」
バースを開発した外星人の死滅が確認され、隊員たちは後始末に追われていた。
外星人のコードネームはダンの証言をもとに「メトロン」と命名され、ウルトラ警備隊と日本政府との協力の末バースはネットワークから消去された。
「それで当の本人はどうした?」
「少し用事があると言って彼が最初に訪問したユーザーの家に向かいました。名は確かアキオだったような...」
「被害者のアフターケアのつもりか。まだまだ若いな。」
ハンズはダンを小ばかにしているようだった。
「私も最初はそうだったわ...でももうじき彼も分かるはずよ。」
パソコンで報告書を書き続けながらながらアンヌは言った。
「いかに無知であることが幸福であることかをね。人々が無知に生きられるように、私たちは働くのよ。」
―――――…
「うわぁぁぁぁ!!!!」
「明夫、どうしたの、明夫!?」
明夫の叫び声がドア越しに聞こえてくる。
「メトロンが...メトロンがぁぁぁ!!!」
「落ち着いて明夫!メトロンは実在しないのよ!」
「ううぅぅぅぅ...もうおしまいだぁぁ!!!」
明夫はベッドの上で布団にくるまり、ぶるぶると震え始めた。
ガチャリ。
玄関のドアが開くと、そこにはダンが立っていた。
「すみません。インターホンを押しても返事がなかったもので...」
「あなたは支援センターの...あの、ご覧の通り今立て込んでおりまして...」
母親の言葉を無視し、ダンは明夫の部屋に向かって行く。
「ですから、また後日に...」
「お母さん。」
ダンは母親の目を直視し、視線で訴えかける。
「少し明夫君と二人にしてくれませんか。」
「は、はい。」
部屋のドアを閉めると、ダンは明夫のベッドに腰を下ろした。
「明夫君、僕を覚えてるかい?」
「...」
ベッドの隅に丸まったまま明夫は返事をしなかった。
「聞いたよ。バースがサービスを終了したんだって?これでメトロンと喋れなくなってしまったな。」
「...」
「でも、これは君がメトロンと同じくらい腹を割って話せる相手を見つけるいい機会じゃないか。」
「...そんなのいないよ。」
震えた声で明夫が初めて返事をした。
「えっ?」
「メトロンは僕のただ一人の理解者なんだ。みんな僕と仲良くしようとするふりをしてるだけなんだ。あんただってそうだ。初対面の印象だけで僕を知ったつもりになってる。人間なんて、クズばっかりだ!」
「...それが君の願望なんだね。」
明夫は布団の下からちらりとダンの方を見た。
「願望って...何がだよ。」
「君は誰かに自分を知ってもらいたい。だけどなかなか伝わらなくて苦しんでいる。そうだろう?」
「伝わらないんじゃない。みんな僕を知ろうとしないんだ!」
また明夫は布団をくるみ、丸くなってしまった。
「...でもそれは、生きている上で当たり前のことなんじゃないのかい?」
「...」
「みんな自分を理解してもらいたい。でもなかなかうまくいかないから他人のせいにしたくなる。君にだって、君のことを本当に理解したいと思っている人がいるはずだ。」
「いるわけないよ、そんな人なんて。」
ダンは深くため息をつくと、決心を付けたように明夫に近づいた。
「なら、君に僕の秘密を一つ託そう。」
「...秘密?」
「見ててくれ。」
ダンが手をかざしながら念ずると、明夫の机の上の文房具が浮かび上がった。
「...何を...してるの?」
「君たちの言う超能力というやつさ。」
「あんた...超能力者...なのか?」
「少し違うな。」
文房具たちが元の場所に戻った。
「僕はね、外星人なんだ。」
「がい...せい...じん?」
一瞬、ダンの姿が外星人のそれに変化したように見えた。
真っ赤な体に、銀色の甲冑を身にまとっているような姿だった。
「そう、地球の外から来たんだ。最も、地球では諸星弾の名を借りてるけどね。」
明夫の目が見開いている。
さっき見た光景が信じられないようだ。
「どうして...このことを僕に...?」
「君に僕を信頼してもらいたいからさ。」
「信頼...?」
「僕は君と友達になりたい。君のことを本気で理解したいんだ。」
何が起こっているのか明夫にはわからなかった。
しかし、ダンの眼差しには彼が長らく忘れていたぬくもりを感じた。
(お父さん...)
「外星人の僕には友達が少ない。だから出会いの一つ一つを僕は大切にしたい。」
「...」
ダンは明夫に手を差し伸べる。
「なってくれるかい?友達に。」
「...」
明夫はその手をそっと握った。
それをダンは力強く握り返す。
「このことはナイショにしてくれよ。男と男の約束だぜ!」
「...うん。約束するよ、諸星さん。」
―――――…
翌日、午前9時31分。
ウルトラ警備隊に国連本部から緊急連絡が入り、作戦室は緊迫した空気に包まれていた。
スクリーンには天文観測センターからの観測データが映し出されている。
「15分前、観測局が地球に向かい急接近してくる未確認飛翔体を4体確認した。飛翔体からはこの電波が繰り返し放出されているという。アキレッシュ、解析を頼む。」
「了解。これは...マゼラン星雲でよく観測される言語ですね。
「あぁ、今のところコンディションレベルは2だからな。」
「パーフェクト。では
パンスペース・インタープリターとは、言語に含まれる単語の出現頻度や文章の構造を類似する言語と照らし合わせて解析・翻訳するための
「出ました。信頼係数は97%。」
「よし、スクリーンに出してくれ。」
翻訳された電波データがスクリーンに映し出される。
昨今、そちらの観測衛星が我々の宇宙域に侵入した。
ペダン刑法第34条に基づき、文明制圧兵器キングジョーを駆使し、
攻撃を開始するものとする。
「ほう、これはこれは...人類への宣戦布告か。」
ハンズが口ひげをいじり始めた。
「観測衛星とは何のことです?」
「あぁ、たぶんホーキングのことだろう。」
ダンの質問にロバートが答える。
「確か2ヶ月前だったかな?国連がホーキングっていう観測衛星をマゼラン星雲に向けて送ったんだ。まぁ
「最近通信が途絶えて話題になってたと思ったら...まったく。こちらは観測目的で衛星を送っただけだってのに、大げさなこった。」
腕を組みながらアキレッシュが不満をこぼす。
「文明制圧兵器って、一体どんなメカニズムで機能するんだろうね?」
「
「それが先決だろうな。よし、幹部たちには私から提案しよう。」
ブランドンによる
中でもモデル03は飛行スピードに特化したモデルで、長距離での隊員の送迎や宇宙空間での調査活動に使用される。
03からのデータがウルトラ警備隊に届いたのは、翌日の午前10時42分だった。
「
「よし。ロバート、データの解析を始めてくれ。」
「了解。」
「それにしても早いわねー。宇宙空間では亜光速で飛行できるとはいえ早すぎでしょ、うちの03。」
5分もしないうちに解析結果がロバートにより報告された。
「これは...ジルコ・プラチナ合金ですね。」
「うわっ、豪華!あの量のプラチナ、地球じゃ到底手に入らないわよ!」
チョコレート菓子を頬張っていたオリビアが目を見開いて驚いた。
「それだけじゃない。この分子構造...人類の技術ではこの精度の構造を作れるまであと何百年かかるだろう...」
「人間語で話さんか、馬鹿野郎。」
専門用語で話し続けるロバートにしびれを切らしたのか、ハンズが顔をしからめながら言い放った。
「つまり超固い金属でできてるってこと。」
よそ見をしながらオリビアが答えた。
気に入らなそうにハンズはオリビアを睨みつけたが、お構いなしにオリビアはチョコレート菓子を口に運ぶ。
「現在の我々の兵器で破壊できるのか?」
「直接的な攻撃では無理でしょうね。何かこの強靭な分子構造を不安定化できる策があればいいんですが...」
「そのための脳みそだろう。なんとかならんのかね。」
ロバートがむっとした表情でハンズを見つめた。
「ロバート、すまないが今回は君に頼るしかなさそうだ。オリビア、君も協力してくれ。」
「はぁ~い。」
顔をしかめたまま、ロバートはノートを数式で埋め尽くしていく。
それに負けじとオリビアも何やら計算を始めた。
「キングジョー...」
真剣な眼差しでダンはスクリーンの観測映像を見つめる。
「どうしたの、ダン?」
「いや、なんでもない。」
「こら、二人とも油売ってもらっちゃあ困るよ。メトロンの報告書の仕上げをしてくれ。」
「...了解。」
黙々と作業に戻るダンとアンヌ。
しかし、ダンの脳裏からキングジョーの脅威が離れることはなかった。
(あれを破壊するには...僕が巨大化するしかない。できることなら避けたい状況だが...)
スーツのポケットに忍ばせてある赤眼鏡に目を送る。
(相手はあのキングジョー...最悪の事態を想定しておこう。)
文明制圧兵器キングジョー。
マゼラン星雲を統一する惑星ペダンが誇る、無人決戦兵器である。
無数の知的生命体がこれに敗れ、文明を壊滅させられた。
タイムリミットは約6日後。
キングジョーによる地球侵略のカウントダウンが切って落とされた。
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6. ウルトラ警備隊西へ
あれから3日の日々が経ち、刻一刻とキングジョーは地球に接近してきていた。
時刻は午前11時53分。ロバートとオリビアは連日キングジョーの対策に追われていた。
「くそっ、こんな超合金どうやって破壊すりゃいいんだよ!?」
ロバートは髪を掻きむしった。
彼の机には数式が書きなぐられた紙切れが積み上げられている。
いつもは丁寧に整理されているオリビアの机も同じ状況だった。
「ねぇ~、もうアイツ太陽系圏内に入って来てるんだけど...」
「ふむ...なんとか時間稼ぎができないものか...アキレッシュ、この距離なら通信電波を送れるか?」
ハンズが提案する。
「ギリギリできますね。奴らと交信するつもりですか?」
「指をくわえて待っている訳にもいかんだろう。パンスペース・インタープレターでなんとか交信を試みよう。」
キングジョーとの回線接続は成功し、ハンズは敵側との交渉を図ることにした。
「私は地球を警備する組織の者だ。君たちと少し話しがしたい。我々の間に大きな誤解があるようだ。」
数秒の間をおいて、キングジョーから通信信号が送られてきた。
「話しとはなんだ。」
「君たちが発見した我々の衛星はあくまで観測用のもの。決して君たちの領土を踏みにじろうとしたわけではない。」
またしばらくして返事が返ってきた。
「だとしても、この惑星への攻撃は中止されることはない。」
その返答に、ハンズの表情が一層険しくなった。
「この惑星の衛星を分析したところ、かなりの文明発達度が伺えた。我々は君たちの文明が我が惑星に脅威をもたらすものとなると判断したのだ。」
「我々の惑星と惑星ペダンとの同盟を結ぶ、という手はないのか?」
「同盟?その手には乗らないぞ。観測と言えど、いずれは自らの利益のために利用するデータを集めるのが目的なのだろう?違う天体の知的生命体である限り、同盟など結べはしない。」
その言葉を最後に、ブツリと通信は途絶えた。
「む...アキレッシュ、再接続を頼む。」
「駄目です、こちらのシグナルを一切受け付けません。」
「時間稼ぎどころか、余計に怒らせちゃったんじゃないの?」
頬杖をつきながらオリビアがからかった。
鬼のような形相でハンズが彼女を睨みつける。
「...まぁいい。我々の運命は君たちにゆだねられているのだからな。」
ハンズはパソコンを立ち上げると、先ほどの通信についての報告書を書き始めた。
「頼んだぞ。」
二人に聞こえぬよう、小さな声でハンズがつぶやいた。
―――…
「これだ...これだよオリビア!」
ウルトラ警備隊の作戦室にロバートの歓喜の声が響く。
「へへーん、このオリビア様を舐めないでよね!」
「すごい、これがジルコ・プラチナ合金の唯一の弱点だ...」
オリビアの発見により、キングジョーの装甲に唯一の弱点が存在することが判明した。
「で、弱点ってなんなんです?」
「それはね、ジルコ・プラチナ合金の分子配分と構造のプランクポテンシャルを4次元軸に沿ってトレースすればわかるんだけど、ギブス波動方程式の整数解が正となる時空座標が...」
「わかったわかった、それで対策は立てられるのね?」
説明を邪魔され、オリビアがぷくっと頬を膨らませる。
「反陽子弾頭を搭載したミサイルを撃ち込めばライトン方程式のR係数を最低30にまで調整できるかもしれません。」
「ライトン...R...30...えぇい、面倒くさいからライトンR30ミサイルと呼称しよう。」
ブランドンの適当なネーミングにロバートは若干不満気味だった。
「よし、詳細を科学開発局に送ってくれ。すぐに製造に取り掛からせよう。」
―――…
ウルトラ警備隊がキングジョー対策に乗り出してから5日。
タイムリミットギリギリでライトンR30ミサイルは完成した。
対キングジョー用の軍事作戦がハンズにより立案され、国連軍も作戦に参加することとなった。
ロバートの計算結果によると、キングジョーは日本の神戸港の上空から地球に侵入してくることが分かった。
現地には国連軍の迎撃戦車が配備され、海には海上自衛隊の護衛艦が、空にはライトンR30ミサイルを搭載した
作戦予定地の近くにウルトラ警備隊専用のテントが設置され、隊員たちは作戦の進路状況を監視できるようになっていた。
「キングジョー到達予定時間まで、あと1分。まもなく来ます。」
快晴の空に、うっすらと四つのシルエットが浮かび上がる。
異様な形をした飛行体が地上めがけて接近しているのが目視できた。
「総員、迎撃準備!!」
国連軍の司令官の声が辺りにこだまする。
「
「了解。アシステッド・ロッキング、開始します。」
敵の姿がどんどん明らかになっていく。
かなりはっきりと敵が目視できるようになってきたその時、01のパイロットから通信が入った。
「こちら01、敵の動きに異常を確認。」
よく見ると、4つの機体がどんどん互いに近づいている。
「まさか...合体を!?」
バラバラだと思われていた4つの機体。
それが1つの機体へと合体していっているのだ。
ザブン!!!
壮大な水しぶきを立て、キングジョーが神戸湾に上陸した!
金色のボディが太陽の光を反射し、静止の姿勢を保っている。
「01、砲撃を開始しろ!」
ハンズの命令を受け、01からライトンR30ミサイルが発射された。
その数、20発。
放たれたミサイルは全弾命中した。
「迎撃開始!!」
国連軍と日本海上自衛隊の総攻撃が開始された。
あまりの攻撃の数に、巻き起こった黒煙がキングジョーを包み、状況が確認できなくなっている。
「やったか?」
その瞬間、黒煙の中から光線が発射された。
光線は国連の戦車を一層し、国連軍の攻撃の手が緩まる。
収まった黒煙の中から、赤く変色したキングジョーの機体が露になった。
「こ、これは...」
「そうか...だから合体したのか...」
「どういうことだ、ロバート?」
「奴らは合体することで、個々のパーツのR係数を複合させたんです!僕たちのR30ミサイルではこの係数には対応できない...」
「だからどういうことなんだ!?」
「つまりパーツ単体よりもさらに強靭になった、ってことよ...」
オリビアの声が震えている。
あの彼女でさえこの圧倒的強度には絶望せざるを得ないのだ。
「あっ、やばい!」
キングジョーから放たれた光線がテントの周囲を直撃する。
爆発により、各隊員は散り散りに吹っ飛ばされてしまった。
「...ぐっ...各隊員は現在地を維持!
各隊員はスーツのポケットからサイコロ状の立方体を取り出すと、ポチっとボタンを押した。
すると立方体は数秒の内に大人一人が収まるほどの大きさに拡大し、隊員たちはドアを開けると中で待機した。
D-キューブはC4爆弾の資金爆発にも耐えられるように設計された、ウルトラ警備隊専用の携帯シェルターである。
壁はマジックミラーのような仕組みになっており、中からは外の様子を確認できた。
「はぁ、はぁ...これが日本語で言う『絶体絶命』ってとこね...」
負傷した右腕を押さえながら、アンヌは何とかD-キューブの中に避難することに成功した。
一方、ダンは物陰に隠れ、キングジョーが戦車を一機、また一機と爆散させていく様を見ていた。
ダンはポケットから赤眼鏡を取り出し、覚悟を決めた。
(あのライトンR30ミサイルを食らった今のキングジョーなら...勝てるかもしれない。)
眼鏡を顔の前に構え、深呼吸をする。
(巨大化は膨大なエネルギーを消費する...でも奴を倒すにはこの手しかないんだ!)
「デュワッ!!!」
―――…
「結局...僕たちの努力は無駄だったのか...?」
ロバートはD-キューブの中で自分の非力を嘆く。
「無線、切り忘れてるぞ。」
無線から聞こえてきたのは、ハンズの声だった。
「ハンズ...僕のミスが...地球の危機に陥れたんです...」
言葉では説明しがたい程の罪悪感がロバートを襲う。
「単体兵器を送り込んでくることは考えればわかるはずなのに...僕は...僕は...」
「それでも、お前は最後まで戦った。」
ハンズの声はいつもと違い、どこか温かかった。
「知っているぞ。お前とオリビアが寝る間も惜しんで敵の装甲の解析に当たっていたことを。お前たちは人類のためにベストを尽くしたのだ。」
ダムが決壊したように、こらえていた涙がロバートの目からあふれる。
ロバートの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていった。
「今は生きることを優先しろ。生きていればいくらでもミスを挽回できる。お前はこんなところで死ぬべき人間ではない。」
「ハンズさん...」
「やめろ、みっともない。」
二人の会話をオリビアも聞いていた。
無線を切り、涙を拭くとため息交じりにつぶやいた。
「何よ...泣かせてくれるじゃない。」
その時だった。
ザッパーン!!!
凄まじい水しぶきが神戸湾から上がった。
巨大な何かが墜落したような音だった。
「何だ、あれは...?」
水しぶきが収まり、中から赤色の巨人が姿を現す。
「あ、あれは...」
「ウルトラ...セブン!?」
「おいおい、奴は等身大の外星人のはずじゃあなかったのか!?」
セブンとキングジョーとの水上決戦の幕が切って落とされた。
ぶつかり合う二つの巨体が海流を乱し、大波が神戸港を飲み込んでいく。
二人は互角に戦っているように思えたが、徐々にセブンの方が押されて行っているように見えた。
「セブンが...押されている?」
「きっとあの状態ではエネルギーの消耗が激しいんだ!」
しかし、セブンも負けてはいない。
渾身の力を込め、キングジョーを突き放すと腕をL字に組んだ。
組んだ腕から、必殺の光線技が発射される!
「すごい...一体何ギガジュールの熱量なんだ...」
セブンの光線の直撃を食らったキングジョーは、ゆっくりと後ろに倒れ、大爆発を起こした。
「ウルトラセブン...お前は人類の味方だというのか...?」
セブンは振り向くと、D-キューブの中で避難しているウルトラ警備隊員たちを見つめた。
気のせいか、ブランドンはセブンが何かを言おうとしているように感じた。
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CODENAME : GUTS
7. セブン処刑計画・前編
キングジョーに勝利し、神戸湾に一人立つウルトラセブン。
「またコイツにしてやられたな。」
腕を組みながらまじまじとハンズは彼の姿を見ていた。
「...!あれは?」
突如、セブンの頭上に2機の飛行体が実体化した。
セブンに抵抗する力が残っていないのを知っているかのように、飛行体は容赦なくセブンに攻撃を開始した。
2筋の光線が飛行体によって発射され、セブンの頭を直撃する。
苦しそうに頭を抱えてもがくセブン。
しかし、キングジョーによってほぼ壊滅させられた国連軍の戦力では飛行体を迎撃することさえできなかった。
ぐたっ。
力尽きたように、セブンは膝から崩れ落ち、神戸湾に沈んでいく。
追い打ちをかけるように飛行体はセブンの上を怪しげな光線を放ちながら旋回していった。
「セブンが...死んだ...?」
あまりにも突然の出来事に、ウルトラ警備隊員たちは悶絶していた。
しばらくすると、セブンの体が水面から浮かび上がってきた。
「い、生きていたのか!?」
「いや、様子がおかしい。」
よく見ると、セブンの体の周りを半透明の物質が囲んでいる。
その姿は、まるで十字架にはりつけにされたキリストのよう。
ぐったりとした彼の体は、十字架状の物体に閉じ込められながら空中を浮遊していく。
まるでそれを吊り上げるように、二機の飛行体がセブンの頭上を飛んでいた。
「十字架とは...なかなか悪趣味な真似をしてくれる。」
「
「くっ、次から次へと...私から日本政府に捜索要請を申請しておく。残りの隊員は作戦室で合流するように!」
「...了解。」
―――・・・
日本政府による24時間の捜索が行われたが、ダンは未だ行方不明のままだった。
一方、セブンを捕らえた十字架は神戸市内を通過し、まっすぐ東京都内へと移動していった。
東京に到達した十字架は、練馬区の上空で静止したまま活動を止めた。
結果、一千万人を超える市民が事態を目撃し、あまりの情報漏洩の規模に国連の情報規制局も対応しきれなかった。
SNSやマスコミを通じ赤色の巨人の姿が拡散され、様々な憶測が世間の間で飛び交っていた。
混乱と好奇心が入り混じった心境を人々が抱える中、とある映像がSNSに投稿される。
そこに移っていたのは鳥人のような姿をした外星人だった。
「地球のみなさん、始めまして。私の名はガッツ。宇宙の秩序を保つため、地球に派遣された者です。」
外星人は流暢な日本語でカメラに向けて語り掛ける。
「私が地球に来た理由は一つ。この星に寄生する悪質な外星人を一人残らず駆逐するためです。その手始めに私はこの悪質な外星人、ウルトラセブンを排除することにしたのです。」
画面が切り替わり、ウルトラセブンの姿が映し出される。
「3日後、私はウルトラセブンを処刑すると宣言しましょう。これは私の誠意を証明するためだけのものではありません。この星に蔓延る、邪悪な外星人たちへの宣戦布告でもあるのです!私はこの星を愛しています。この星のために命を懸けて戦うことを誓いましょう!」
1分30秒ほどのこの映像は、瞬く間に世界中に拡散され、外星人の存在と人類のヒーロー、ガッツの存在が周知の事実となった。
「諸星...さん?」
明夫は自宅のリビングのテレビから映像を見ていた。
あれから1週間の時が経ち、明夫は徐々にいつもの生活を取り戻しつつあった。
何気なく点けたテレビの緊急ニュースに流れた映像に映っていたのは、あの日彼に正体を明かした
「何あれ、怖いわねぇ...」
朝食を作っていた明夫の母もその映像に視線を奪われた。
「でもあのガッツっていう人がコイツをやっつけてくれるんでしょ?なら安心なのかしらね。」
明夫は知っている。
あの十字架に張り付けにされている外星人は、決して悪意のある者ではないことを。
なぜならば、彼に立ち直る勇気をくれたのは他の誰でもない、あの彼なのだから。
「本当に...そう思う?」
「何が?」
「あのガッツっていう外星人...本当に僕たちの味方だと思う?」
「だって、あの悪い外星人を捕まえてくれたんでしょう?味方なんじゃないの?」
しかし、明夫は言えなかった。
一週間ほど前に部屋を訪れた支援センターの男が、あのウルトラセブンであることを。
(男と男の約束...だもんね。でも、このままじゃ...)
そう。このままではセブンはガッツに処刑されてしまう。
耐えがたい現実から逃げるように、明夫はテレビのチャンネルを変えた。
―――・・・
「...なかなか厄介なことになったな。ダンの行方もまだ見つかっていないというのに...」
作戦室にて、険しい表情を浮かべながらスクリーンをブランドンは睨みつけていた。
「完全に我々の裏を突かれましたね。恐らく奴はウルトラ警備隊員の存在を知っている。」
「あぁ。ここで我々が変に動けば国連の組織としての信憑性がガタ落ちになる。」
「でも、このまま指をくわえて見ているわけにはいかないわ!セブンを助けてあげないと!」
オリビアが焦りを見せる。
「幹部の連中はセブンを味方だと認識していないようだが...」
「いや、あの時セブンは我々を攻撃しなかった。人類の味方だと確信していいはずだ。」
「そうよ!彼がいなかったらキングジョーは倒せなかったかもしれないのよ!」
数式で埋め尽くされた報告書をブランドンのデスクに積み上げ、オリビアは訴えた。
「
「しかし、その後はどうするんだ?あの状態じゃあまだセブンは敵に対抗できないだろう!」
ダメ出しをするようにアキレッシュが反論する。
「そうだけど...!」
セブンを助け出したい気持ちは、アンヌも負けてはいなかった。
(あの日、セブンが助けに来てくれなければ...ダンは死んでたかもしれない。ダン...)
空席と化したダンのデスクを見つめるアンヌ。
彼女にとってバディとは特別な存在なのだ。
(どこかで生きてなさいよ...私のバディなんだから。)
アンヌのパソコンにはセブンの十字架の監視映像が流れていた。
(ん?これは...)
アンヌはとある事実に気づく。
「待って!」
アンヌの声が作戦室に響く。
「みんな、これを見て。」
スクリーンに十字架にはりつけにされたセブンの映像が映し出される。
「これが何だというんだ?」
「ここ。ここを見て。」
セブンの頭部をアンヌが拡大する。
彼の額にはランプのような緑色の光を放つ箇所があり、それが不規則に瞬いていた。
「だからこれが何だというんだい?」
「この点滅のパータンがモールス信号になってるのよ!翻訳すると...M,A,G,N,E,R,I,U,M。きっとセブンが私たちになんらかのヒントを送ってるんだわ。」
「マグネリウム...マグネリウム鉱石のことか?」
眉間にしわを寄せながらしばらくロバートが思考すると、
「そうか!!」
目を見開いてこれまでにないほど大きな声で叫んだ。
「オリビア、光子イルーム効果だよ!!」
「...なるほど...そういうことね!!」
作戦室の残りの隊員たちはぽかんとしていた。
「その何とかイルーム効果てのはなんだい?」
「えーっと...簡単に言うと、マグネリウム鉱石っていう鉱石を使うと高純度の光子エネルギーが放出されるのよ。これを使ってセブンにエネルギーをあげようってわけ!」
「ただこのスケールのエネルギーを生成できた前例はない...アキレッシュ、君の力が必要だ。光子スペクトルの固有値の算出アルゴリズムの開発に協力してほしい。」
「それは構わないが...しかしこれの後始末をどう取るつもりなんだ?ガッツは民間人の信頼を我がものとしているんだぞ!」
「私がなんとかしよう。」
口ひげをいじりながらハンズが発言する。
「ウルトラセブンに関する一部資料を公表しよう。ウルトラ警備隊の活動が明らみになることになるがな。」
「公表資料の準備、手伝いますわ。」
アンヌも協力を名乗り出る。
「よし、幹部には私が掛け合おう。アキレッシュ、ロバート、オリビアはセブン救出用の打開策を、ハンズとアンヌは公表資料と公表手段の作成に当たってくれ。」
ブランドンは隊員たちに命ずると、声を張り上げて宣言した。
「これより、本作戦を『セブン救出作戦』と呼称する!」
―――・・・
もうろうとした意識の中、セブンはかろうじて十字架の中で生きていた。
公安局の薩摩次郎という人間の記憶に残っていた「モールス信号」という通信法。
ウルトラ警備隊の誰かがこの信号を理解してくれると信じ、セブンはただ助けを待っていた。
「他文明への不要な干渉は控えるべきだったのだよ、恒点観測員340号。」
セブンの意識に直接語り掛けてくる声。
その声にセブンは聞き覚えがあった。
(その名で私を呼ぶのはよしてくれ、アルジュン。この星で私は『ウルトラセブン』の名を授かったのだ。)
彼の故郷である、光の国の恒点観測局長、アルジュン。
セブンの上司に該当する人物である。
「ウルトラセブン、か。どうしてそこまでこの惑星を好きになったのだ?」
(この星の生命体は未知の可能性を秘めている。「絆」と「信頼」を頼りに、互いに協力しながら生きる人類を私は理解したい。)
「しかし、そのために死んでしまってはどうしようもないだろう。もうすぐ天体防衛局への援護要請が完了する。それまでもう少し耐えてくれたまえ。」
(それは不要だ。人間たちがもうじき私を救出してくれるだろう。)
「どうしてそう確信できる?人類はまだ十分に発達していないのだぞ。」
(私を捕らえたガッツと言う外星人...奴は私と人間との信頼を絶とうとしている。しかし私は学んだのだ。人間から信頼を得るためには、まず彼らを信頼しなければいけないと。)
「随分と楽観的だな。ならばこちらも君の安全は保証できないぞ。」
その言葉を最後に、アルジュンの声が聞こえなくなった。
しかし、セブンの心に迷いはなかった。
(アルジュン...君が考えるほど人間たちは弱くはない。)
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8. セブン処刑計画・後編
処刑実行日、当日。
わずかながらに残っていたセブンのエネルギーも底を尽きようとしていた。
照りつける太陽の中、聞いた覚えのある声がセブンの脳内に語り掛けてくる。
「無様だな、ウルトラセブン。」
(ガ...ッツ...)
はっきりと思考することさえままならない。
そこまでセブンは弱り切っていたのだ。
「もうすぐ貴様は私によって処刑される。貴様が愛した人間どもに侵略者のレッテルを張られながら死んでいくのだ。」
(ど...うし...て...)
「なぜ私がこんなことをするのか、と聞きたいのだろう。簡単に言ってしまえば、貴様は鼻つまみ者なのだよ。この惑星は非常に理想的な座標に位置している。この時代においてこの惑星を手にいれたくない文明はないだろう。」
かつて人類史に大航海時代が訪れたように、宇宙の様々な文明は宇宙航海期に突入しようとしていた。
天の川銀河の中に位置し、水を保有する惑星である地球は多くの文明にとって非常に価値のある惑星であった。
「もうこの星の取得権はいくつかの文明との間に分けられているのだ。しかし地球の領土分別の作業を邪魔する外星人がいる...それが貴様なのだ。その邪魔者をまず始末するために雇われたのがこの私なのさ。」
(さ...せ...ない...)
「何を言おうともう手遅れなのだよ。計画はほぼ完成している。貴様を殺した後、地球占領計画は第二ステージへと移行する。もうこの星の原住民たちでは止めることはできない。」
(ぐっ...)
「せいぜい悔しがるがいい。ハハハハハ!!」
ガッツの高笑いがセブンの脳内にこだまする。
しかし、セブンは決してあきらめてはいなかった。
(あなたは...絶対に死なせないわ。)
アンヌの言葉を胸に、セブンは辛抱強く待ち続けるのだった。
仲間たちが彼を助けに来る、その時を。
―――…
「明夫、朝ごはんよ!明夫!」
明夫の母、峰子がそう呼びかけるが、明夫は部屋から出てこない。
三日前まで順調に復帰していたと思っていたのに、突然明夫はまた部屋から出てこなくなってしまったのだ。
「...そろそろ支援センターにまた電話してみようかしら。」
テーブルに付き、テレビを付けるとニュースにセブンの処刑の生中継が行われていた。
―...周辺の住民の避難は完了しているとのことです。さぁ、果たして本当にこの外星人の処刑が行われるのでしょうか?―
テレビの実況を聞きながら、峰子がコーヒーをすする。
―あっ、何かが現れました!ガッツです!何の前触れもなく突然ガッツが姿を見せました!―
巨大な十字架に捕らわれた赤い外星人と、それを殺そうと現れた巨大な鳥人のような外星人。
峰子はテレビに映るSF映画のようなな光景から目を離せないでいた。
「処刑って、ちょっとグロテスクよね...でもちょっと見てみたいかも。」
―そして上空を飛んでいるのは...飛行機...でしょうか?あぁっ、飛行機からなにか光線のようなものが十字架に向けて放射されました!-
「一体何が起こってるのよ...」
―大変です、ウルトラセブンを捕らえていた十字架が消えて行っています!-
ガチャリ。
テレビの実況の声が聞こえたのか、明夫は部屋のドアを開き、テレビを覗いた。
「明夫!よかった、早く朝ごはんを...」
峰子の声は明夫の耳に届かなかった。テレビに映る光景にくぎ付けになっていたからだ。
あの飛行機の正体は明夫には分らなかったが、彼には根拠のない自信があった。
彼らはウルトラセブンを救おうとしている...彼はそう信じたかった。
(お願いだ...
―――…
「今だ!
ハンズの命令を受け、
セブンの額めがけ、マグネリウム・メディカライザーが照射される。
ウルトラ警備隊の科学者たちが必死の研究の末に開発した、最新鋭の
「せ、成功です!稼働率97%!」
「セブンのエネルギー波長が回復していってるわ!」
額のビームランプが緑色の輝きを取り戻し、くたっとしていたセブンの体に力が宿っていく。
「デュワッ!!」
威風堂々とガッツポーズを決め、セブンは復活の宣言をした。
太陽の光が胸のプロテクターに反射され、神々しい輝きを見せている。
「セブンが...セブンが生き返りました!!」
ガッツは分が悪いと見たのか、テレポーテーションで一時脱出を試みた。
しかし、逃がすものかと言わんばかりにセブンは額のランプから緑色の光線を発射する。
「グギャアア!???」
断末魔を上げながら、ガッツの体は大爆発を起こした。
苦闘の末、人類とセブンはガッツとの闘いに勝利したのだ。
勝利を祝うこともなく、セブンは疲れたようにぐたっと膝をつくと、すっと姿を消した。
―――…
「やった...やった!!ウルトラセブンが勝った!!」
テレビに映ったセブンの勝利を前に、明夫は思わず歓喜の声を漏らした。
「何喜んでるのよ。あの外星人は悪い侵略者なのよ?」
「母さん、ガッツは僕たちを騙そうとしてたんだ!本当は奴が悪い奴だったんだよ!」
「...何を言ってるのかよくわからないわ。だって地球のために戦ってくれるって言ってたじゃない。」
ピンポーン。
明夫の家のインターホンが鳴る。
重い腰を上げるようにゆっくりと立ち上がると、峰子はインターホンに出た。
「はーい。どちら様でしょうか。」
「...」
「もう、今時ピンポンダッシュかしら。」
渋々峰子が玄関のドアを開けると、ダンが弱々しく立っていた。
まるでゾンビのようにぐったりとした姿勢で、立っているのがやっとのようだった。
「も、諸星さん!」
明夫がダンに駆け寄り、肩を貸す。
「あ、明夫君...少しの間...かくまってくれ...」
「う、うん!母さん、僕の部屋まで運ぶの手伝ってよ!」
「それはいいけど...なんでまた
「いいから!」
峰子と明夫はダンを部屋に担ぎ入れ、ベッドに横たわらせた。
ベッドに横になった瞬間、ダンは気絶したように眠りについた。
「すっごい熱...お仕事中に何かあったのかしら。」
「今はそっとしてあげようよ。随分疲れてるみたいだしさ。」
「まぁ、可哀そうに...よっぽどブラックな職場なのね...」
「ま、まぁ...そうなんだろうね...」
明夫はダンの体にそっと布団をかけると、心の中でダンに語り掛けた。
(お疲れさま、ウルトラセブン。)
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9. 人間として生きること
何だ?これは。
体は動かせないが、記憶が鮮明によみがえってくる。
そうか。これが人間たちが言う「夢」なのか。
そう、あれは私の第3917回目の任務だった―
光の国の恒点観測員340号として、私は天の川銀河に位置する恒星系、太陽系の惑星軌道図の作成のために派遣された。
最初はいつも通りに任務は進行していった。この恒星系の恒星、太陽の軌道図を作成した後、水星、金星と太陽に近い順に私は軌道図の作成に取り掛かっていった。
その時、ふとこの地球が目に留まったのだ。太陽の光を受け、青く輝くその様子はまさに宇宙の宝玉ともいえる美しさを誇っていた。
私はもっとこの星のことを知りたくなった。惑星の軌道を調べるだけでなく、地上での様子はどうなっているのか、また生命体が生息しているかなど、任務とは無関係なことに興味を持ってしまった。
いざ地上に降りてみると、地球には「人類」という知的生命体が存在していることが分かった。
彼らは我々光の国の住民よりもはるかに短い時間の間でしか生きることはできない。しかし、それでも彼らは儚い命を紡ぎながら、互いに寄り添い合って少しずつ進歩していっていた。
私は人類のこの生き方に非常に感心した。しかしながら、光子状態のまま人類をしている内にこの星にも別天体の知的生命体が潜在していることに気づいた。
彼らの目的はほとんど決まって地球の占領だった。手段は違えど、彼らは宇宙の様々な天体から地球を我がものにしようと画策していたのだ。
人類もそれらの一部の駆除に成功したが、外星人のほとんどが彼らに知られないまま着々と地球占領の準備を続けていた。私はなんとかして人類をこの危機から救いたかった。
しかし、それには一つ問題点があった。私は光子状態から物質状態へと実体化する際、非常に大量のエネルギーを消耗する。そのためにも、実体化した後に身を潜める手段が必要となったのだ。
その時―偶然的に、としか言いようがないのだが―、私はある人間の青年が人間の子供を不慮の事故から救い出すのを目撃した。
彼の名は『薩摩次郎』。
次郎はその直後に命を落とした。この青年は、ただでさえ短い自分の寿命の3分の1すら生きていないのにも関わらず、自らの命を投げ出してまでこの少年の命を救おうとしたのだ。
いくら私でも、この青年の命を蘇らせることはできない。しかし、私は
私は量子的構成データを彼に移すことによって、彼の記憶や人間としての思考回路を、そして彼の体を借りることに成功した。その時に知ったことなのだが、彼は日本と言う国の公安局という組織に努める人間らしい。
私は普段は次郎の体を借り、公安局での仕事の合間に地球に潜伏する外星人を少しずつ排除していった。
そして、公安局の仕事をこなしていく中、メトロンの調査に回されることになり、その末にウルトラ警備隊の仲間たちと出会うことになった。その際に与えられた偽名が「
明夫君という名の人間の「友達」もできた。これが俗にいう「運命」というものなのだろう。
―いや、今は思い出に浸る暇はない。
私は行かなければならない。ガッツの言っていた「計画」を阻止するために。
このかけがえのない星を、この星に生きる人々を守るために。
こんなところでのうのうと眠っているわけにはいかないのだ...!
―――・・・
「あっ、諸星さん、おはよう。」
「ここは...」
「僕の部屋だよ。ごめんね、ちょっと散らかってるけど。」
ダンはゆっくりと起き上がった。
頭の重みが襲ってくる。できることならば横になっていたかったが、ダンにはそうしている猶予はなかった。
「体の調子はどう?」
「あぁ...大丈夫だ、ありがとう。うっ...」
ダンは起き上がろうとするも、激しい頭痛に襲われ、思わず頭を押さえてしまう。
「大丈夫じゃないじゃないか。ほら、無理しないで。」
「いや、本当にもう大丈夫なんだ。心配はいらないよ。」
「もう...本当かなぁ...」
ベッドから出て立ち上がってみると、やはり体がだるい。
3日間十字架にあの状態で拘束されていたせいだろう。
「朝ごはん、食べる?」
「あ、あぁ。明夫君、かくまってくれてありがとう。」
「い、いや、どうってことないよ、こんなことぐらい...」
ダンは椅子に掛けてあった背広を羽織ると、ドアを開けてリビングへと出た。
テレビのワイドショーではウルトラセブンについて特集が組まれている。
「テレビでは
「...仕方ないさ。僕は外星人なんだから。僕の存在そのものが機密事項なのさ。」
部屋を見渡すと、ダイニングテーブルの上にパンと目玉焼きが置いてあったが峰子の姿が見当たらない。
「お母さんは?」
「あぁ、今日はちょっと朝に用事があるって。」
「そうか。」
その時。
テレビから不気味な不協和音が鳴り響いた。J-ALERTの音である。画面には『緊急事態宣言』の六文字が大きく映し出されている。
明夫はJ-ALERTの音に驚き、慌てて部屋から出てきた。
「な、何が起こってるんだ!?」
しばらくして、青色の背景の前に座ったニュースキャスターの姿が映し出される。
彼は画面に向かって一礼すると、無表情な顔で原稿に書かれた内容を読み上げる。
(とうとう始まったか...)
ダンは無言で玄関に向かって歩き始めた。
椅子の上にかけてあった背広を手に取り、羽織りながら歩いていく。
「諸星さん。」
明夫がダンを呼び止める。
「これも...外星人の仕業なんだろ?」
「あぁ。史上最大の侵略が今始まろうとしているんだ。」
「行っちゃダメだよ、その体じゃあ!」
「...」
再びダンは歩き始める。
その肩をがっと明夫は後ろからつかんだ。
「駄目だよ、諸星さん。」
「離してくれ。これは僕のやるべき事なんだ。」
「友達を死にに行かせる奴なんていないよ!」
思わずダンは歩みを止める。
「言ったじゃないか...僕たち、もう友達なんだぞ。」
友達。
その言葉にダンの人間としての感情が沸き上がる。
恒点観測員として生きてきた1万7千年間感じたことがない感覚だった。
「僕...父さんともう10年も会ってないんだ。」
そう語る明夫の声は震えていた。
「僕が六つの時に死んじゃって...なんでかな。諸星さんの目を見てると、父さんがまだ生きてた頃の思い出を思い出すんだ。」
ダンの肩の上の手に力がこもる。
言葉では表せない感情の波がダンの心を揺さぶった。
(この感情は...薩摩次郎のものなのか...?)
「諸星さん、あなたは僕に立ち直る勇気をくれたんだ。初めてできた本当の『友達』を失いたくないんだ!!だから...行かないでよ...」
「...」
明夫の思いが通じたのか、ダンは振り返ると明夫の手を握った。
「明夫君、僕は人間として生きて初めて分かったんだ。人間には、それぞれ命を懸けてやり遂げなければならない『何か』があると。だからこそ、この短い命を精一杯できることができるんだ。」
「でも、死にに行くなんて無茶苦茶だ!」
「...君はまだ若い。きっと君にも、自分の命を懸けてでも成し遂げたいものに出会える日が来るだろう。」
ダンの手を握る力が強くなる。
明夫にはそれを握り返すほどの余裕はなかった。
ぽたぽたと床に涙をこぼしながら、明夫は膝から崩れ落ちてしまった。
「うっ、うぅ...」
「すまない。分かってくれ、明夫君。」
ダンは手をゆっくりと放すと、玄関のドアを開けた。
「待って!」
もう止まってはいけない。
そう頭では理解しているのに、ダンの人間としての感情が先走りしてしまい、つい立ち止まってしまう。
「絶対に...絶対に勝ってよ...ウルトラセブン。」
「あぁ。男と男の約束だ。」
バタン。
ドアが閉まり、明夫は一人部屋に取り残された。
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10. 終焉へのカウントダウン
日本時間の10時53分。
政府によって発表された事実は、人々を大混乱に陥れた。
想定された被害範囲は東京を中心に日本本土をほど丸ごと包み込むほどの範囲であり、世界の主要各国でも同じような状況に陥っていた。
政府から下された唯一の指示は、「落ち着いて今後の指示を待つこと。」
こんな状況下で冷静にいられるはずもなく、市民は政府に詳細な情報を開示するよう訴えたが、それ以上の情報が公開されることはなかった。
それもそのはず。
日本政府をはじめ、主要国の政府は大いなる決断を迫られているのだから。
「東京の地下に...超兵器が眠っている...だと?」
日本の沖村首相は耳を疑った。
国連からの緊急連絡が入ったと告げられ、渋々報告を聞き入れた沖村だったがまさか日本の、いや、人類の存亡が問われるものだとは思いもしなかった。
「国連は5分後にオンラインでの緊急会議を取り行うと言っています。総理、ご出席なさらければいけないかと。」
「わかった...会議室をスタンバイさせておいてくれ。」
国連が発表した衝撃の事実。
それは外星人からの脅迫状だった。
内容は単純、かつ非情なものだった。
外星人はまず、地球を植民地として占領する計画を説明した。
そして、主要各国の首都の地下に反物質爆弾がセットされてあり、条件に応じなければそれらを同時に起爆させると脅迫した。
その条件とは―
労働要員。
聞こえだけはいい言葉だが、裏を返せば肉体労働のための奴隷、という意味である。
人口の90%を奴隷として差し出すか、その90%と共に滅び行くか。
苦渋の決断を世界各国のリーダーたちは迫られていた。
外星人が人類に課したタイムリミットは48時間。
指定時間内に返事を出さなければ無条件で爆弾を起爆させるとのことだった。
脅迫の内容を聞き入れた後、各国のリーダーたちは血相を変えて解決策について議論し合った。
「くそっ、ヤツの居場所すらわからんのか!?」
「只今ウルトラ警備隊が総力を挙げて捜索に取り組んでいます。それまである程度の情報を市民に共有してください。」
「それでは不必要なパニックを煽ることになるぞ!」
「『正体不明の組織からテロリスト攻撃を受けている』という旨の報道を行うのです。今回の攻撃の規模の関係上、我々の情報規制が間に合わなくなるほどの行動を余儀なくされるでしょう。我々も『テロ組織に関しての調査』と称してかなり派手に動く必要があります。」
「しかし、48時間で何とかなるような事態ではないだろう!万が一の状況に備え、我々がせめて生き残れるための対策をしておいたほうがいいのでは...」
「タイムリミットが6時間を切っても何も有意義な情報が得られなかった場合、こちらから再度連絡いたします。それまで敵との全面戦争の準備を各自行ってください。」
―――・・・
高校で習った詩のこの一節は、アンヌの座右の銘になっていた。
この世には「知らなくてもいいこと」が溢れている。その中には、知っても何の得にならないものや、複雑すぎて理解に何十年もかかてしまうものもある。
しかし、知ってしまうと同じように生きられなくなるものも存在する。
真実は聞き手の感情など気にしない。ただただあるがままに事実を目の前に突き付けてくるのだ。
アンヌたちウルトラ警備隊員の仕事―それは人民をこの「真実の暴力」から守ること。
無知に生きる人たちが安らかに夜に眠れるよう、彼女たちは働いているのだ。
フィールドワークを担当するアンヌは、この世の醜い真実と最も近い場所で向き合うものでもある。
例えば、外星人に精神を犯され、半ば廃人状態になってしまった人や、知らぬ間に外星人の手先として操られていた人。そして、それらの事実が全く起こらなかったかのように抹消され、いつも通りの日常を人々は生きていること。
それらはアンヌの想定内だった。外星人を相手にする仕事をする以上、大抵の事態を彼女は予測していた。
しかし、アンヌが耐えられなかったもの―それは彼女の
外星人とのコンタクトの中、幾人かの何も知らない公務員が犠牲になり、その事実さえも抹消されていった。
その度に新しいバディが任務に応じて配属され、同じような運命に遭っていく。
ダンも同じ運命に遭ったのだろうと、アンヌは諦めていた。
だが、いくら悲しめど任務は続く。その事実を受け入れ、仕事をこなしていくしかないのだ。
今日もアンヌの任務は続く。殺風景なオフィスルームで、カタカタと報告書をまとめていく。
ため息を一つこぼし、誰もいない作戦室で独り言をこぼした。
「こんな報告書、もう意味ないのに。」
外星人からの脅迫文が届いてから40時間。
ウルトラ警備隊が成果を出すにはあと2時間しかない。しかし、地球の地下全域というあまりに広い地域の中から敵の拠点を42時間以内に見つけ出し、殲滅することはほぼ不可能に等しかった。
科学者のロバート、オリビア、アキレッシュの三人は各国の学者たちと協力し、なんとか打開策を探そうとカンファレンスに参加していた。
最高指揮官のブランドンと作戦立案担当官のハンズも国連の幹部たちとこれからの作戦を立てるため国際会議に参加している。
アンヌは一人、これまでの成果をまとめた報告書を淡々と書き続ける役目を任されたのだ。
真っ暗な作戦室の中、アンヌのパソコンの光だけが部屋を照らしていた。
「世界が終わるっていうのに、私ができることは報告書の作成だけ、か。」
ピピッ、
ガチャッ。
IDカードをスキャンし、ドアを開ける音がした。
「お帰りなさい。会議は...」
入ってきたのはブランドンかハンズだと思っていた。
まさかあの男が帰って来ようとは、アンヌは夢にも思わなかったのだ。
「ただいま、アンヌ。」
「ダン...一体今までどこにいたのよ!?」
「すまない。色々あってね。」
「色々って...まぁいいわ。どうせもうすぐウルトラ警備隊も解散されるでしょうから。」
アンヌは死んだ魚のような目で作業に戻った。
ダンが生きていたことを喜ぶ余裕は彼女にはもうなかった。目の前の残酷な現実があらゆる感情を奪ってしまったのだ。
「解散...どういうことだ?」
「あぁ、あなたは知らないのね。説明すると長くなっちゃうけど...とにかく地球は外星人に占領されるのよ。」
キーボードを打つアンヌの手が止まる。
「人類の90%は奴隷として強制労働に回され、残りの10%は外星人の慈悲にしがみつきながら生きていく...でも大丈夫よ、国連のコネでたぶん私たちはその10%に入ると思うから。」
「...残りの隊員たちは?」
「なんとかこの状況を打開しようと頑張ってるわ。でも私たちに残された時間は2時間だけ。この捜査状況から見ても、たぶんもう間に合わないわ。」
「いや、まだだ。僕が何とかしよう。」
「...気持ちはわかるけど、それは無理よ。どうあがいてもこの状況が覆るとは思えないわ。ましてや科学者でもないあなたにはね。」
ダンはうつむき、黙り込んだ。
彼の希望を打ち消してしまったとアンヌは少し後悔したが、でもこの方が彼のためになると彼女は思った。
偽りの希望ほど、人を傷つけるものはないのだから。
「アンヌ...」
「ごめんねダン、でもこれが事実なのよ。」
「アンヌ、聞いてくれ。」
何か覚悟を決めたように、ダンはアンヌの目を直視する。
M78星雲から来た、ウルトラセブンなんだよ!」
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11.「アリガトウ」
「シン・ウルトラセブン」を読んでくれてありがとうございます!
シン・ウルトラマンを見た後に勢いで書き始めてしまったこの作品ですが、何とか完結にまで持っていくことができました。
嬉しい感想や評価もいただくことができ、本当にうれしい限りです。
本編自体は完結しましたが、これからちょこちょこ番外編を書き足していくかもしれないです(保障はしません。なんでやねん。)
完結編なので文字量が他の話より多くなっていますが、最後までお付き合い願います。
アルジェリア、グフィ渓谷。
北アフリカに位置する山々の上空を、ダンたちウルトラ警備隊員を乗せた
「では、再び作戦のブリーフィングを行います。」
ロバートが作戦概要を説明する中、ダンはじっと干からびた大地を見つめていた。
彼の両手足には拘束具がはめられてあり、身動きできない体制を取らされている。
反物質爆弾の起爆まであと1時間。タイムリミットはもうすぐそこまで来ていた。
―――・・・
「僕は...僕はね、人間じゃないんだ!M78星雲から来た、ウルトラセブンなんだよ!!」
ダンが発した言葉のあまりの突拍子のなさに、アンヌは返す言葉もなかった。
「それ...本気で言ってるの?」
「信じてもらえないみたいだね。」
アンヌを説得すべく、ダンはポケットから
すると一瞬だけ、ダンの姿がウルトラセブンのそれに変わった。
「...!!」
目を見開き、アンヌはダンを見つめる。
さっき見た光景が信じられないのか、何度も瞬きをして自分の意識を確かめる。
「びっくりしただろう?」
「どうして...今になってあなたは正体を明かそうと思ったの?」
「この状況を覆すには僕が君たちと協力するしかない。そのためにはモロボシ・ダンの名を捨てるしかないと思ったんだ。」
アンヌは今起こっている状況を整理するためか、髪を掻きむしりながら大きなため息をついた。
「全然理解が追い付かないんですけど...とにかく、あなたが協力してくれるとして、どうやってこの状況を打破するつもり?」
「僕が光子状態になってこの惑星の地表を隅々まで調査する。今から1時間もあればできるはずだ。」
「地表の調査って...そんなこと...」
「できる。それが僕の元々の職務だからね。」
「じゃあ...外星人と戦うことはあなたの専門外ってことじゃない!」
「まぁ、そういうことになるな。」
予想外の事実の波がアンヌの脳に押し寄せる。
自分が知らぬ間に外星人とバディを組んでおり、そして彼が人類が知らない間に、知らない場所で知らない敵から人類を守ってくれていたというのだ。
「もう時間がない。一時間後にここに戻ってくる。その間にウルトラ警備隊の皆に連絡を。」
「ちょ...待って!!」
「デュワッ!!!」
目が眩むほどの光がダンから発せられ、アンヌは反射的に目を細めた。
光が収まった時、もうそこにはダンの姿はなかった。
「どうしてもっと早くに言ってくれなかったのよ...私たち...バディなのに...」
―――・・・
「...以上です。何か質問は?」
「ないよ、ロバート。」
「もうすぐターゲット地点に到達する。こんな体制を取らせることになってしまって、本当に申し訳ない。」
「
「でも酷いよ!キングジョーはあなたの協力なしには倒せなかったかもしれないのに、幹部の連中がこんな真似をするなんて!」
「そう怒るなよオリビア。僕は平気だよ。」
不機嫌そうなオリビアをダンは優しくなだめた。
「国連本部から連絡が来た。これから君の拘束具を解除するよ。」
アキレッシュがキーボードをカタッと叩くと、ダンに装着されていた拘束具が外れた。
「ありがとう、アキレッシュ。」
「ウルトラセブン、人類を代表して言わせてもらおう。非常に押しつけがましいことだが、我々人類の存亡は君にかかっている。どうか...人類を救ってくれ!!」
ハンズの熱い願いを受け、ダンは小さくこくっと頷いた。
ダンのスーツが激しく風に揺られ、まるでマントのようにたなびいていた。
「ダン!!」
両手をメガホン状に丸めてアンヌは叫んだ。
ダンは振り返り、彼女を見つめる。
「私、あなたのことまだ何にも知らないんだから...絶対...絶対生きて帰って来なさいよ!!!」
にこりと笑みを浮かべると、ダンはアンヌに向かい叫んだ。
「あぁ!約束だ!」
その言葉を最後に、ダンはハッチから飛び降りた。
山々の間のくぼみめがけ、ダンの体は急降下していく。
ポケットから
「デュワッ!!!」
激しい光を放ち、ダンの体がウルトラセブンのものに変わったことを確認すると、
砲弾は山肌に直撃し、その中から建造物のようなものが露になっている。セブンが光子状態となって発見した、外星人のアジトである。セブンはその中に潜入し、両手の手先から光線を発しながら次々に建造物を破壊していく。
セブンの後を追うように、
潜入から3分ほどすると、アジトの核と思われる部分にセブンたちはたどり着いた。
セブンが光線を放とうと構えを取ると同時に、セブンの頭上の天井が二つに割れ、青空が割れ目から顔をのぞかせる。
すると、アジトの核部分から飛行体のようなものが空に向かって飛び立っていった。それを迎撃すべくセブンとドローンたちは攻撃を開始したが、バリアのようなものに守られて効果がない。
その直後だった。
アジト全体が激しく揺れ始め、セブンはやむなく天井の割れ目から脱出した。
その揺れの正体は間もなく明らかになった。
山肌が盛り上がり、地底から赤色の巨大生物が地面を突き破って姿を現したのだ。恐らく、敵がこちらの注意を引くために用意した生物兵器なのだろう。
かつ30cmほどのカプセル内で収納できる他文明を制圧するために用いられる生物兵器だ。
パンドンは雄たけびを上げながら、国連軍のドローンを火炎放射で一層していく。その温度、なんと摂氏5000度。
そうしている間にも、外星人の飛行体はどんどん高度を上げていく。この状況を前に、さすがのセブンも焦りを隠せないでいた。
(私が巨大化すれば、パンドンを倒し、あの飛行体を撃ち堕とせるかもしれない...)
そう考えるセブンの脳内に、誰かの声が響いた。
『セブン、警告しよう。君のエネルギー残量から考えて、これ以上の巨大化は君の死を意味する。』
その声の主は、光の国の恒点観測局長、アルジュンだった。
(しかし、もう時間がない!このままではこの外星人を逃してしまう!)
『君がこの星の文明に余計な干渉をした以上、我々も君の行動に伴う責任は負いかねる。それが光の国が出した決断だ。悪く思わないでくれたまえ、ウルトラセブン。』
そう言い残すと、アルジュンからの声は途絶えた。
(このままパンドンを野放しにすれば、甚大な被害が出る...かと言ってあの外星人を逃せば、再び地下に眠る反物質爆弾を起動しようとたくらむだろう...)
どっちみち、自分には巨大化するしか選択肢はない。
そう考えたセブンは自分の命を犠牲にしてでも闘うことを決意した。
(この星を守るためなら...私のこの命、くれてやろう。)
ドローンを焼き払うパンドンを見つめながら、セブンは覚悟を決めた。
恒点観測員として生きていたなら、決して沸き上がらなかったであろこの感情。
この「守る」という行為に対する熱意は、紛れもなく薩摩次郎のものだった。
巨大化しようとセブンが念じた、その瞬間。
ドカーン!!!
さっきまで大気圏外へと逃走しようとしていた敵の飛行体が爆音と木っ端みじんになっていたのだ。
(これは...ウルトラ警備隊の仕業か!?)
―――・・・
「飛行体の爆散を確認!迎撃、成功しました!」
ロバートがモニターの映像を確認しながら状況を報告した。
「アンヌ、お手柄だったな。
「これが日本語のいう所の『用意周到』ってとこですよ、
「ちょっとぉー。バリアの光子スペクトルを解析したの、私なんですけどぉー。」
自分の手柄を横取りされたことに腹を立てたのか、オリビアは頬を膨らませながら愚痴った。
それもそのはず、あの飛行体のバリアを中和させたのはオリビアの解析結果のおかげだからだ。
ドローンの攻撃が効かないことを目撃したオリビアたちは、さっそくバリアの解析に取り掛かった。アンヌはあらかじめ忍ばせておいた
バリアの中和が完了した直後、
(でも、その解析アルゴリズムを作ったの、俺なんだけどな...)
アキレッシュは一人ぶつぶつ言いながらキーボードを叩いた。
「まだ喜ぶのは早い。問題はあのバケモノをどう片づけるかだ。」
口ひげをいじりながらハンズが冷静に状況を判断する。
「奴にサーヴェイ弾を撃ち込んでみましょう。まずは奴の生物的情報を調査しなくては。」
「よし、
サーヴェイ弾とは、物質と衝突した際にその内部構造に応じて複雑な波形を生成するサーヴェイ粒子を内蔵したミサイルのことである。
攻撃を食らったパンドンは怒りのままに
「うぉっ...さすがこの速度で動かれるとGがきついな...」
「
―私の力も使ってくれ。―
「...?今のは...」
「まさか...ウルトラセブンが我々とテレパシーで会話している...?」
―私の光線と君たちの兵器の威力を合わせれば、奴にダメージを与えられるかもしれない。―
「試してある価値はありそうです、
「よし、
セブンはガッツポーズの姿勢を取ると、胸のプロテクターから太陽光を集め始めた。太陽からのエネルギーがセブンの両腕を駆け巡り、彼の筋肉組織が膨れ上がる。
「デュアーッ!!!」
腕をL字に組み、雄たけびと共に全集中の必殺光線がセブンの腕から発射された。
「今だ!発射!!」
ブランドンの命令を受け、
「
「撃ち続けろ!責任は私が取るッ!!」
しかし、さすがに物理的限界に達したのか
「くそっ、ここまでか。敵の状況は?」
「まだ生体反応があります!」
「チッ、後一歩のところで...」
セブンは最後の力を振り絞り、頭についている
「ダァーッ!!!!」
その声と共に放たれたアイスラッガーは宙を切り、白熱化しながらパンドンの首元へと飛行していく。
スパッ。
痛快な音と共にパンドンの首を貫通したアイスラッガーは、ブーメランのようにセブンの頭上へと戻っていった。
「...やったか?」
パンドンは静止の状態を保ったまま、セブンたちをじっと見つめている。
ウルトラ警備隊員たちはデータを解析する余裕もなく、ただモニターに映るパンドンの動きを観測していた。セブンのエネルギーもさっきの一撃で底を尽きている。これでパンドンを仕留められなければ、もう後はないのだ。
グギギギギ....
不気味な音を立てながら、パンドンの首が本体から崩れるように転げ落ちた。首が本体から切断されると同時に、パンドンの体もバタリと膝から崩れ落ちていった。
セブンとウルトラ警備隊は、一か八かの賭けに勝ったのだ。
「パンドンの生体反応...消失しました...」
「コ、
「...」
ゆっくりとブランドンが頷く。
「や、や、や...」
「やったぁー!!!」
狭い
―――・・・
「本当に...行っちゃうのね?」
ウルトラ警備隊の作戦室の中、つかの間の勝利を祝う暇もなく隊員たちはダンから悲しい知らせを告げられた。
「...あぁ。僕がこの惑星に干渉することは元々禁じられていることなんだ。これ以上君たちの文明に干渉すると君たちも処罰の対象になりかねない。」
ダンはブランドンに向かい、目配せをした。
「
「分かっているよ。君が愛したこの星は私たちの手で必ず守って見せる。地球は我々人類、自らの手で守るものなのだからな。」
ブランドンの力強い答えに同調したのか、隊員たちもダンに守りの誓いを立てた。
「そうよ!任せときなさい!」
「僕たちがいる限り、外星人なんかにこの星を渡してたまるもんか!」
「安心して帰ってくれ。これからの仕事は僕たちが引き継ぐから。」
隊員たちの言葉にダンの心が揺さぶられる。この「人間らしい」感情ももうすぐ消えてしまうのかと思うと、どこか切ない感情がこみ上げてきた。
「セブン...いや、ダン。」
ハンズはダンに歩み寄り、右手を差し出した。それをダンは握り返し、二人は固く握手を交わした。
「君と戦えたことを誇りに思う。」
自然と顔が笑顔になる。人間として生きることの素晴らしさをダンは再確認した。
「僕も光栄ですよ、ハンズ。」
ダンの右肩をポンと叩き、ハンズは手を離した。
「...では。」
ポケットからウルトラアイを取り出すと、装着する準備をした。心なしか、何かやり残したような違和感がダンの心を包み込む。
「待ちなさいよ。」
その違和感の正体を、ダンはその声の中に感じ取った。
彼に初めて信頼されることの嬉しさを教えてくれた、あの人。彼女に対して抱いていた感情は、いつしか友情の枠を超えてしまっていたのだ。
「バディには何の挨拶もしないわけ?」
「ご、ごめん...」
「急にいなくなったり、帰ってきたと思ったらすぐいなくなっちゃったり...最低のバディね、あなたって!」
「そうだよな...でも、君は僕にとって最高のバディだったぜ。」
「...こんな時にそんなこと言わないでよ。」
目をそらすようにアンヌは下を見つめた。
「アンヌ、」
彼女と視線を合わせるようにダンはアンヌの両肩をつかむ。
「君は僕に『信頼』というものの素晴らしさを教えてくれた。でもそれだけじゃない。僕は君から、もっと素晴らしいものを教わったんだ。」
「...何よ、それ。」
ただ感じていることを口に出すだけ。それだけなのに、心臓が高鳴り、口が渇く。書籍や映像でしか見たことがなかったこの感情を、ダンはこの瞬間有り余るほどに感じていた。
「人を好きになること、さ。」
言ってしまった。
しかし、悔いはなかった。もうこれから、彼女に会うことはないのであろうから。
ダンの言葉を聞いたアンヌの目が潤み、一筋の涙が頬を伝う。
「そんなこと...こんな時に言うものじゃないって言ってるじゃない!!」
アンヌはダンに体を投げ出すように抱き着いた。ダンはその体をやさしく受け止め、固く抱きしめる。
「どうして...どうしてこんな時に言うのよ...こんな大事なこと...」
「...今だからさ。僕が人間じゃなくなる前にどうしても言っておきたかった。」
体を包む手が緩み、二人は互いに目を見つめ合った。
「あなたが人間だろうと、外星人だろうと私は気にしちゃいないわ。たとえウルトラセブンでも...」
「ありがとう...ありがとうアンヌ。」
気を取り直すように少しうつむくと、アンヌは涙声のままわざと冷たく言い放った。
「さぁ、早く行きなさいよ!もうこの星にはいられないんでしょう!?」
「...あぁ。」
ダンは後ろに下がりながら距離を取ると、再びウルトラアイを取り出した。
「...なぁアンヌ。あの日、君は僕の趣味について聞いたよな。」
涙を強がるようにふき取ると、アンヌは聞き返した.
「さぁ、どうだったかしら?」
「僕...時計集めにはまってるんだ。」
こわばっていたアンヌの顔が緩み、プッと笑いがこぼれた。
「ふふっ...何よそれ。」
アンヌの笑顔を噛みしめるように見つめると、ダンは笑顔で別れの挨拶をした。
「さようなら、アンヌ。」
「...うん。またね、ダン。」
隊員たちに背を向け、ダンはウルトラアイを構えると勢いよく目に着けた。
「デュワッ!!!」
激しい閃光が作戦室を満たす。
光が収まったかと思うと、そこにはもうダンの姿はなく、赤い光の球体があった。球体はなぜか高度を保ったまま、不規則に何度か瞬いた。
「...!」
その意味に気づいたのはアンヌだけのようだった。
球体は最後に大きく輝いて部屋を光で埋め尽くし、隊員たちが目を開けたころにはもう姿を消していた。
「アンヌ、ダンはなんて言ってたんだ?」
隊員たちは皆アンヌの答えに興味津々のようだった。
アンヌはふっと失笑しながらつぶやくように答えた。
「THANK YOU (ありがとう)。」
完読ありがとうございます!!
この最後の「THANK YOU」は読者の皆様に向けた「アリガトウ」でもあります。
素人者の趣味小説にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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