女王マリカを戴く狭間の地と呼ばれる、遥か彼方の大地があった。
何者かの手によりエルデンリングが砕かれた。
女王マリカの子であるデミゴッド達は、砕かれたエルデンリングの破片を手にした。
だがデミゴッド達はその力に狂い、破砕戦争と呼ばれる戦乱を引き起こす。
戦争は苛烈熾烈を極めたが、デミゴッド達の中でも傑出した力を持つマレニアとラダーンが最後に戦い、相討ちとなったことで、戦争は勝者無きままに終わりを告げた。
大いなる意志はデミゴッド達を見捨てた。
そして、嘗て瞳から黄金の祝福を失い、狭間の地を追われた「褪せ人」と呼ばれる人々に、祝福の導き齎した。
褪せ人は祝福に導かれ。
霧の海を超えて。
かつての故郷、狭間の地へ至り、エルデンリングを目指す。
―――エルデの王と成る為に。
この記録は、とある褪せ人の。
王と成らず、ただ狭間の地を生きていく。
ただそれだけの記録である。
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狭間の地の東。王都ローデイル。
黄金樹の麓にある、今なお戦火冷めやらぬ都。その巨大超大な城壁の末端にある湖。
そこに、二人の男がいた。
火にかかった鍋を眺めていて、その中には大量の小蟹がぎっちりと詰め込まれている。
一人は古びた服に、金属製の面を着けた男。
もう一人は、漆黒の外套を着けたこれまた漆黒の鎧に、黒い兜を着けた男。その背には大型の両刃剣を負っている。
「……まだ煮えねぇのかボギー」
漆黒の兜の男が鉄面の男に問いかける。
「さっき煮たばっかだ、何言ってやがるヴェルの旦那」
ヴェルと呼ばれた褪せ人は嘆息した。
「腹が減って仕方ねぇ」
「アンタ、俺が売ったカニはどうした」
「全部食った」
「……ちょっと待て、早すぎないか?それに……大量に買い込んでたよな?」
「うるせぇ、
ボギーには、この褪せ人が何を言ってるか半分は理解出来なかった。
狂っているようにも聞こえるが、だがその言葉が正気であるというのは何故か理解出来た。
「……わっかんねぇ、本気で理解出来ねぇ」
ボギーもまた嘆息した。この褪せ人はどこまでも理解できなかった。
初めてリエーニエで会った時も、何か仕掛けるでもなくただ首飾りを買い、少しして戻った来たと思ったら死にかけながらも次には「エビを売れ」とか宣った。売ったが。
その場でむしゃむしゃ食ってた。エビ好きに悪いヤツは居ない。だがコイツは狂ってた。
「アンタよぉ、ここで茹だるの待つは良いが「ルーン」は持ってんだろうな?」
鍋の中の湯が温まってきている。蟹はシメてある、湯にかかっても暴れることは無い。
「無いが」
「は?」
無い、と。ルーンとは、この狭間の地に置ける力だ。その力は、自らの力として使う事も出来る。
「安心しろ、
「なんか変なん見えんぞ、オイ」
「気の所為だ」
……本当にこの男は狂ってる。その背中の鉄塊みたいなデカブツで、何体の敵を葬ったのか。何体の褪せ人を斬り殺したのか。
そしてここに来たと思えばカニを食ってる。……カニ好きは良いヤツしか居ない。だがこの男は狂ってる。ド真性の狂人だ。
「……アンタ程の腕前ならエルデの王なんてあっという間だろーによォ…」
「王なんて興味無いな」
外壁の向こう側に見えた黄金樹を眺める、ヴェルと呼ばれた褪せ人。
その漆黒の兜から見えた赤い瞳は、黄金樹よりも遠いところを眺めているように見えて。
「何を見てんだよ、アンタは」
「さぁな。どっかのぶっ壊れた月やアパラチアやパルデアかも知れないな」
「……理解不能」
「しなくていい」
次々に訳の分からない単語ばかりが並べられてボギーは頭を抱えた。初めて会った時も、「原発ロックダウン止めるの飽きてここに来たら死にまくってワロタ」とか「ちょっとパームシティでポリ公おちょくってくる」とか話が通じなかった。
最近なんかじゃ「シャーレハーレムすぎて草」とか、「トレセンの連中面白すぎて芝」とか……聴いてるこっちはどんな顔すりゃいいのか。
「……あ」
ヴェルが小さく声を上げる。
ごそ、と腰にしたポーチから取り出したのは、金の小偶像。
この世界の各地にある、殉教者の偶像と呼ばれるものを模した小さな道具だ。
「呼ばれた、行ってくる」
「健闘を祈るぜ、旦那」
「戻る頃には、煮えてんだろ」
ぐつぐつと鍋の湯が沸騰し始めたのを見て呟くヴェル。
「ガッツリ稼いできてくれ、上手いカニ食わせてやっからよ」
ヴェルの姿がゆっくりと半透明になっていく。
そして間もなく、その姿は光に解けるように消えていった。
――――この物語は、狭間の地を生きた一人の褪せ人の物語。
王と成らず、王を目指すことも無く、ただ生きた褪せ人の物語。
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第2話
ストームヴィル城。
リムグレイヴ半島を街道沿いに進むと、それはある。
嵐の丘、強風の絶えない丘に聳え立つ城だ。
その手前、突風に吹き晒された朽ちかけの小屋。
そこに、黒衣の褪せ人は
「宜しく頼むよ」
掛けられた声に振り返ると、オーソドックスかつシンプルな騎士装備を携えた男の声。
一見
「……
「
フン、と小さく鼻を鳴らすヴェル。
……随分なんか裏に見えたが……まぁ、そういう事にしておこう。とでも言うような素振りで頭を振る。
「行先は?」
「城の手前の
「……了解した」
見た感じ、この騎士装備の男の獲物も普通じゃなさそうだ。直剣に中型のカイトシールド。果たして裏に何を仕込んでるものか。
出発。
どうやらこの鉤指の主は、もう一人の協力者は呼ばないらしい。二人旅、それも少しの道すがら。まぁ慣れたことだ。
朽ちた木造の家を出て直ぐ、遠くにゴドリックの兵士と雑兵が二名ずつ、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。街道を少し外れて草陰に隠れればやり過ごせる、が。
「邪魔だしぶち殺そう」
ヴェルが呟いた。あれくらいの小型の相手ならば、
「任せるよ」
騎士装備の男は後方で様子見。なら自由にやらせてもらおうか。
「正面から行かせてもらう。それしか能がない」
背中にした両刃の特大剣――グレートソードを引き抜く。
無骨、巨大、鈍重。そんな単語が似合う、
「……参る」
街道を見張るように歩く一団に駆け出していく、黒い剣士。
雑兵も甲冑の兵士も、それに気付き各々獲物を抜く。
直剣の雑兵が、剣を上段に構えてよたよたと突撃してくる。
グレートソードを下段に。地面をガリガリと削りながら距離が詰まっていく。
「……ぬぅ、ん!!」
直剣のリーチに入るよりも先に、ヴェルが剣を横凪に、力任せに振るう。その一撃が、布と金属を組みあわせた鎧をいとも容易く引き裂いて、その胴体を横一文字に両断した。街道の石畳に赤黒い血が飛び散って濡らしていく。
槍を持った兵士が横からヴェルに襲い掛かる。とん、と地面を蹴りバックステップ。槍が虚空を突く。
踏み込んで、隙だらけの兵の腕を槍ごと力一杯に縦に切り裂く。そしてそのまま再び横にグレートソードが舞う。もう一人も、胴体からその大質量を受け上半身が吹き飛んでいく。
「……!」
幾分か豪華な、紋章を象った前掛け布をあしらった鎧を着けた二人は、盾を前面に構え防衛体制を取りつつ、じり、とこちらの様子を見ていた。
盾なんて無意味。受けた所で盾ごと吹き飛ばすまで。だが二対一。
無理を通せば二人からの攻撃を受ける。最悪そのまま死ぬだろう。……想定通りでなければの話だが。
雄叫びと共に襲いかかる二人の兵士。同時に襲いかかることで意表を着いたとでも言うのか。そんなの、意味が無い。むしろ好都合でしかない。
「ッ」
ずん、と一歩大きく踏み込む。剣を構えたまま。
兵士の剣が二本同時に振り下ろされる。それを漆黒の鎧で受ける。
「――ぜぇい!!」
更に体勢を低く。石畳を踏み切って、振り抜いて、グレートソードが勢い良く、横に一回転した。
凄まじい勢いでの回転斬り。剣を受け止められた二名の兵士は、横から襲いかかるグレートソードに成す術もなく、豆腐のように切り裂かれ吹き飛んだ。
「……お見事」
ぱちぱちと、ヴェルの後ろから拍手の音がした。騎士の男は、その戦闘スタイルに賞賛する。
「真正面から受け止めて切り開くスタイルか、嫌いじゃない。
「お褒めに預かりどうも光栄だ」
「皮肉じゃないさ、今となっちゃそんなスタイルなんかこっちが枚数有利取ってなきゃ出来やしない」
兵士たちの死体を一瞥する。
想定の範囲内――
「シケてんな」
「こんな場所の敵の落し物に何を期待してる?ロアの実でも?そこらへんでむしればいい。…そんな事よりも、ほら」
す、と指さされた先を一瞥する。見えてきた。
「……本命が見えてきたよ」
騎士装備の男が、強風の中呟いた。少し歩けば見えてくる。突風で視界が悪い中でも目立つ、ひとつの砦。
「さっさと越えようか、黒騎士さん」
「了解」
騎士の言葉に頷く。
さて……どうなることやら。ただひとつ言えるのは、確実に一筋縄では行かないだろう。
序盤も序盤。だが――油断すれば足元を掬われて、そのまま死んでいく。
それが、この「狭間の地」なのだから――
Black fencer/黒い剣士、ヴェル
Lv150
生命力60
精神力25
持久力43
筋力60
技量16
知力9
信仰9
神秘7
重厚グレートソード25(踏み込み(回転薙ぎ))
重厚大型ナイフ24(猟犬のステップ)
重厚大型ナイフ24(黄金樹に誓って)
滑車の弩10(爆発ボルト/逆棘ボルト)
重厚セスタス24(パリィ)
夜騎兵シリーズ一式(頭部のみ軽装兜)
竜印の大盾
アレキサンダーの破片
鉤指の偽装鏡
自由枠(略奪のカメオ/祖霊の角/大山羊/緋琥珀2)
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第3話
「……ふん」
遠くから、砦の門前の一団を見る。バリケードに松明を掲げるゴドリックの兵士数人、脇道にそれれば草陰や木のある林ががある。石畳の街道を行けば正面からぶつかる。林を抜けるのがセオリー、ではあるが。
「……正面からぶち殺してもいい。横合いから殴りつけて不意にぶち殺してもいいな」
ヴェルが呟く。勝手知ったる道ではある。どう言ったって構わない。どうせ油断すれば死ぬ。
「それはそうだ。
騎士の男の声にちらりと見る……その様子に驚いた。いつの間にか防具が変わっているからだ。
ちょっと驚いた。所々に焼け爛れたような痕を持ち、首から燃え残ったような黒い外套を身に付けた装備――「指痕の騎士 」。
「いいだろ?見た目気に入ってるんだ」
「概ね同意するが趣味悪いな、オタク」
騎士の男は朗らかに言う。確かに見た目はいいが何となく異形というか、薄気味悪さを感じる見た目ではある。鉄なのに、まるで指を押し付けて焼き付けたような意匠。
「(……つまりコイツ……ああ、やっぱり)」
その片手に持つのは、やはりこちらも焼け爛れた意匠の長槍。そしてもう片方の手も、明るい黄色に輝く物が握られている。
それだけ見てわかった。こいつは敵に回したらこっちが簡単にぶち殺される。それこそ、赤子の手を捻るように、あっさりと。
「……で、どーする、黒い剣士さん」
騎士の男改め、指痕の騎士はのんびり答えた。
「そうだな、俺としては……」
ここはどちらか片方が横の森に入り、もう片方が囮。数名を誘き寄せて、森に潜んだ片方がこっそり忍び寄り、
――そう答えようとした、その刹那だった。
ぞわり、と背筋が冷える感覚。この感覚を知ってる。それは指痕の騎士も同じものを覚えた。
そして次の瞬間。空を斬る音がした。
「―――ッッッ!!」
グレートソードを正面に構えた。そこに、巨大な鉄の杭が撃ち込まれる。ギリギリ咄嗟に間に合って、特大剣がその一撃を防いでくれた。
その奇襲の源は門前に備え付けられた、バリスタからの射撃と思われる。
だがおかしい。割とかなり離れたこの距離ならば見られないし撃たれないはずだが。……となると、もう選択肢は一つだけだ。
「
苦々しく吐き捨てるヴェル。いつ侵入してきた?全く分からなかった。侵入してくる奴がいれば、何となく感覚で分かるはずなのに。
「
「どっちだって構うもんかよ!」
今立ってるのは街道、もし侵入者がこちらを見ていて、油断している所を遠距離から狙撃してきているのであればこちらが圧倒的に不利だ。開けた場所に立つ的なんて当ててくれと言ってるようなもの。
「バリスタか大弓。どちらにしろ次弾は直ぐ来るね」
指痕の騎士は言う。どちらにしろここに立っていれば待つのは死。
言うやいなや正面に動き始めた。その後にヴェルも続く。
この判断力の早さは鈎指としては有難い。モタつけばそれだけ歩みは遅くなる。即ち、死に繋がる。
即断即決。不確定要素が多い中に飛び込んでいく勇気。それを持てればこの世界では少しだけ長生きできる。
遠くでぎりぃ、と何かを引き絞る音がして。その数秒後に指痕の騎士目掛けて何かが撃ち出された。
「馬鹿にしてんのかよ 」
ぽつりと呟いて、それが近付いてくるのもお構い無しに正面にローリング。その僅か横を太い杭が突き刺さり地面を抉った。
「流石にそれは見える。二流だね」
更に林の側へ逃げて、太い木を盾に一息つく。
「おい、良いのか。こっちには」
「分かってるさ」
騎士の後に続くヴェル。
林側も実は安全ではない。こちら側にも、ゴドリックの兵士が松明を掲げて掻き分けるように侵入者を探しているからだ。
「狙うは」
また、ぎりぃと引き絞る音がした。それに合わせて騎士が木の陰から飛び出る。狙っているのは、フレイルを持ち笛を腰に提げた兵士だ。
「……お前!!」
兵士がこちらを見れば直ぐにその腰の笛に手を伸ばす。あの笛を鳴らすことで、他の兵士たちに敵が居るぞと伝えることが出来るからだ。
地を蹴り、指痕の騎士が手にした長槍で兵士の胸元を貫く。深々と突き刺さり、その槍に焼き付けられた黄色い炎が兵の身を焦がす。
「これで……」
然しながら、まだ危機は脱してない。
「――うおっとぉ!」
指痕の騎士のすぐ横を杭が唸りを上げて通り過ぎる。
「
煽るように言う。こういう事態は慣れてるかのように。
先程の戦闘を嗅ぎ付けて他の兵士がぞろぞろと現れる。
フレイル、直剣、大盾を持ち槍を構える兵士。
「選り取りみどり」
「……こっち忘れてんじゃねぇぞクソが!」
後ろに構えていたヴェルが一人の兵士のがら空きの背中に特大剣を叩き込む。
一撃目で仰け反り、二撃目で吹き飛ぶ。
「さて、上手く切り抜けないとね」
指痕の騎士は楽しそうに言う。それに頷く黒の剣士。
ああ、楽しいさ。
死ぬほど楽しい。やはりこうでなくてはならない。
互いに見合わせる。焼け爛れたような黄色の瞳と、赤と白の瞳が鎧越しに交錯して。互いに何も言わず頷いて、兵士たちに躍り出た。
指痕の騎士のビルドシート?知らない子ですね(震え声)
技量信仰ビルドでヴァイク着て右ヴァイク槍左狂い火でスロット狂い火祈祷ガン盛りって感じで……(震え声)
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