ソードアート・オンライン 赤色の記録 (梅輪メンコ)
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アインクラッド編
#0 デスゲームの始まり


11月のフルダイブに行ってきて重い腰上げて作品です。
ですが、フルダイブの時の朗読の内容とかは一切出しません。


 

 

 

 

『SAO事件』

 

 

 

VRMMOの歴史はここから始まったと言っていいだろう。

天才量子物理学者にしてゲームデザイナーである茅場晶彦によって引き起こされた、史上最悪のインターネットによる大量虐殺事件として後世に名を残す大事件である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#######

 

二〇二二年 一一月六日 午前一二:五〇分

 

俺、赤羽修也は自室のベットで横になっていた。

 

「いよいよか・・・」

 

修也はそう呟くと頭にヘルメットのような物を被る。その物の名前はナーヴギア。世界初のフルダイブが可能な夢の機械だ。

祖父から誕生日にもらったこれをようやく使う日がやって来た。ナーブギアを被った修也はベットで横になった。

そして今回から配信が始まるVRMMO-PRG<ソードアート・オンライン>は発売から一瞬にして初期ロット一万個が売れた話題の作品である。

そんなゲームを自分は奇跡的に買う事ができ、今日からプレイすることになる。

そして時計のタイマーが鳴り、午後一時を示す。

初めてのフルダイブに緊張しつつもフルダイブする為の魔法の言葉を唱えた。

 

「・・・リンク・スタート」

 

そして視界が真っ白になり、次に見えたのは西洋風の街並みであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ログインしてから数時間経った。自分はスポーンした場所である『はじまりの街』の近くの草原で《フレンジーボア》なる青い猪を切りまくっていた。

 

「なかなかいい腕してるじゃねえかブレイド」

 

「そうですか?」

 

「ああ、俺から見てもなかなかいい腕していると思う」

 

そう言うのは若い男と、バンダナをつけた若い男の二人だった。二人の名前はキリトとクラインと言うらしい。

このゲームにログインした時に自分とクラインはベータテスターだったと言うキリトからレクチャーをしてもらっていた。

プレイヤー名は『ブレイド』。自分の名前の一文字を使った簡単な物だが、それで十分だと思っていた。

 

「剣がこんなに使いやすいとは・・・」

 

「一番綺麗に使えていたな」

 

そんなことを話しているとクラインがログアウトボタンがないことに気づき、キリトもそれに気づいて驚いていた。

 

「(ログアウトボタンがないなんてどんな欠陥だ・・・)」

 

そう思いながら自分のも確認をすると確かにそこにはログアウトボタンは無かった。

 

「(どう言うことだ・・・?)」

 

そう思っていると突如として視界が真っ白になり、《はじまりの街》の大広場に飛ばされていることに気がついた。

咄嗟にクラインとキリトの安否を確認していると上空に、中に何もいない真っ赤なローブが浮かんでいた。

 

ーーこれは不味い!!

 

直感的に自分はそう予感した。そしてその予感は的中した。

そして赤ローブはSAOを作った茅場明彦と名乗り、このゲームはデスゲームである事を伝えていた。

 

そして最後に茅場明彦はとんでもない置き土産を残して行った。

 

『最後に、私から諸君らにプレゼントがある。アイテムストレージを確認してくれたまえ』

 

そう言われて配られたのは手鏡。そして光に包まれ、次に視界が戻ると手鏡には現実世界と同じ自分の顔が映されていた。

 

「(やっぱりか・・・)」

 

移動しておいてよかった。そう思っていると横にいた二人の男が声をかけて来た。

 

「お前・・・誰?」

 

「おい、誰だよオメェ・・・」

 

「まさか・・・キリトとクラインか・・・?」

 

「そう言うおめえは・・・ブレイドか?」

 

そうやってお互いに誰が誰なのかを確認していると茅場明彦は

 

『以上で〈ソードアート・オンライン〉正式サービスチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君のーーーー健闘を祈る』

 

そう言い残して虚空の彼方に消えていった。全員がそこでやっと各々然るべき反応をし始めていた。

そんな中、自分とクラインはキリトに呼ばれて裏路地に向かった。

 

「二人とも来てくれ。さっきの話が本当ならこの世界ではひたすらに自分を強化しなくちゃいけない。そうすればここら辺の狩場は一瞬で狩り尽くされてしまう。今のうちに次の村を拠点にしたほうがいい。俺は危険な場所も知っているから、レベル1の今でも安全にたどり着ける」

 

キリトがそう誘った。だが・・・

 

「でも、でもよ。前に言っただろ。おりゃあ、他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜で並んでソフト買ったんだ。そいつらも広場にいるはずだ。置いて・・・行けねえ」

 

「・・・」

 

クラインの返答に、キリトは若干暗い表情を浮かべる。

 

「これ以上お前に世話になるわけにはいかねぇ。今まで教えてもらったテクでなんとかして見せらぁ。それに、もしかしたら、すぐにログアウトできるかもしれないしな・・・」

 

「・・・そっか」

 

するとキリトは悔しそうに呟いた。

 

「ブレイド、お前さんはどうするんだ?キリトについて行くのか?それとも、残るのか?」

 

「自分は・・・ごめん、足手纏いになっちゃうだろうから・・・」

 

「そうか・・・」

 

キリトは残念そうにそう言うと自分とクラインは立ち上がり、キリトに声をかけた。

 

「また会いましょう。何かあったらメッセージも飛ばせますし」

 

「そうだな・・・キリト。お前のかわいい顔。結構好きだぜ」

 

「ブレイド・・・ありがとう。クライン、お前の野武士ヅラの方が十倍にあっているよ!」

 

そう言い残してキリトは《はじまりの街》を去って行った。

残った自分はクラインと別れ、武器を片手に早速フィールドに繰り出し、レベリングを始めた。

デスゲームを生き残るために・・・。明日を生きるために、ブレイドはフィールドを掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

########

 

あれからどのくらいが経ったのだろう。

少なくとも日に日に亡くなっていく人の数は増えていったが、未だ第一層の攻略すらも終わっていなかった。

そしてついに先日、《トールバーナ》と言う街で第一層攻略のための会議が行われる事になった。

自分もその話し合いに参加する為にトールバーナに来ていた。

そして始まった会議だったが、そこに乱入者がいた。

 

「ちょお待たんか!!」

 

関西弁で乱入して来たイガイガ頭の男は叫んでいた。

 

「ワイは《キバオウ》ってゆうもんや。ワイが言いたいんはな、こん中に詫び入れなきゃあかん奴がおるっちゅうことや」

 

そう言い、キバオウはβテスターのことを糾弾し、さらには罵り始めていた。

少なくとも自分が関わって来たβテスターにそんなやつはいない。嫌悪感を通り過ごして、憤慨していると外人のような見た目をした男がキバオウに話しかけていた。

 

「(おぉ・・・すごいデカい・・・)」

 

自分はそんな事を思いながらエギルと名乗ったプレイヤーを見ていた。

するとそこで思いがけない人物と再会する事になった。

 

「お前・・・もしかしてブレイド?」

 

「ん?あっ、もしかしてキリトか?」

 

久々の再会に少しだけ驚くとブレイドはキリトに隣にいる人物に聞いていた。

 

「キリト。隣の人は?」

 

「え?ああ、さっき会ったんだ。名前は・・・」

 

「・・・アスナ」

 

「そう、アスナ。アスナさん」

 

「そうかアスナか・・・宜しく」

 

そう言うとぶっきらぼうにアスナが返事をしてきて、ブレイドはちょっとだけ心にダメージを負ってしまった。

 

「(接し方間違えたかなぁ・・・)」

 

そんな事を思いながら会議は明日に第一層攻略を行う事が決まり、解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、トールバーナの広場には多くのプレイヤーが集まっていた。

その中にはエギルやキバオウの姿もあった。昨日の会議の音頭をとったディアベルを先頭に自分もキリト、アスナと共に迷宮区を進んでいるが、自分の中で嫌な予感が走り、思わず隣にいたキリトに聞いてしまった。

 

「なあキリト・・・」

 

「なんだ?」

 

「βテストの時、ボスはどんな敵だった・・・?」

 

「え?確か武器が斧とバックラー・・・で、HPがなくなると武器がタルワールに変わるはずだ・・・それがどうかしたか?」

 

「・・・いや、ちょっと嫌な予感がしてな・・・」

 

ブレイドは嫌な予感がしつつも迷宮区の最奥、《イルファング・ザ・コボルド・ロード》のいるボス部屋の前に到着した。

ディアベル達によると自分とキリト達の溢れ組は取り巻きの《ルイン・コボルド・センチネル》の討伐に回され、自分とキリト、そしてアスナと共に動きを確認するとボス部屋に突入をした。

 

「戦闘開始!」

 

『グルゥゥゥアア!!』

 

ボス部屋に突入すると《ルイン・コボルド・センチネル》が何体かポップし、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スイッチ!」

 

キリトの掛け声に、アスナがソードスキルを発動させ、コボルドの鎧の隙間を〈リニア―〉で貫いた。そのまま、コボルドはポリゴンとなって、消滅した。

 

「(これは負けられないな・・・)」

 

そう言いながら自分も《ルイン・コボルド・センチネル》一体を倒した。

そしてボスの方もバーが赤くなり、ディアベルが飛び出した。

 

「後は任せろ!」

 

そしてディアベルが飛び出した時、《イルファング・ザ・コボルド・ロード》は武器を捨て、刀を取り出した。

 

「βの時と違う!・・・っ!」

 

「全員・・・背後に飛べぇ!!」

 

キリトがそう叫ぶも、ボスは刀に光を纏わせてソードスキルを放った。

ディアベルはその攻撃をモロに受け、宙に体が舞った。

 

「(嫌な予感はこれか!!)」

 

ブレイドはそう心の中で愚痴りながら逃げてくるプレイヤーを横目にキリト達に目配せをする。

 

「・・・行けるか?」

 

「ああ、任せろ」

 

「・・・」コクッ

 

確認をした後、自分達は突入を開始した・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として、突入は功を奏し、無事にクリアできた。

だが、問題はその後だった。

 

「何でディアベルはんを見殺しにしたんや!」

 

そう、この特徴的な関西弁はキバオウである。

しかもキバオウはあろう事かキリトを糾弾していた。

そしてキリトは全ての憎悪を一人で背負っていた。その事に自分は驚くとキリトは第二層の扉を開けて迷宮区から出て行った。

 

「(キリト・・・・)」

 

自分は出ていったキリトを何もできずに見送ることしかできなかった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから自分は攻略には参加しなかった。

いや、この場合は逃げたと言ったほうがいいかもしれない。向き合うべき事から逃げ出して・・・それでいて心のどこかでは強くありたいと思い、迷宮区から離れ、ひたすらにレベリングと自分に合う武器を求めてダンジョンに潜ったりもしていた。

時々キリトとも連絡をとっていたが実際に会うことは極端に減っていた。

そんなある時、新聞でキリトが『黒の剣士』と呼ばれている事を知った。



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#1 攻略組参加

二〇二三年 九月一〇日

 

久しぶりにキリトが載った新聞を見た自分は不意にキリトに連絡を取っていた。

 

『今から会えるか?』

 

返事はすぐにあり、自分はキリトと落ち合う事になった。

 

現在の最前線は第三十九層。今の自分の拠点は三十五層を中心に活動をしており、時々キリトと共にダンジョンに潜ったりしていた。

 

「よっ、久しぶりだな。ブレイド」

 

「ああ、久しぶりだな。キリト」

 

軽い会話で合流したキリトとブレイドは店に入り、簡単な飲み物を注文するとブレイドが単刀直入にキリトに言った。

 

「キリト・・・近々自分も『攻略組』に参加しようかと思っているんだ」

 

そう言うとキリトは少し驚いた様子を見せながら、どこか嬉しそうな様子で聞き返した。

 

「本当か?」

 

「ああ・・・前に入ったダンジョンで思ったんだ。そろそろ現実と向き合った方が良いのではないかとね・・・」

 

「そうか・・・しかし、ブレイドが来てくれるのは俺としても嬉しい。俺もブレイドとダンジョン潜っててずっと思っていたんだ『これなら攻略組に来ても十分戦える』ってな」

 

嬉しそうにしているキリトを見てブレイドはいつもとは違う違和感を感じた。

 

「(何かあったのか・・・?)」

 

ブレイドはあまり人の事情を聞くのは無礼と思っている為、普段であれば詳しくは聞かないが、この時ばかりはキリトに聞いてしまった。

 

「キリト・・・()()()()()?」

 

「え?」

 

「何度も共にダンジョンを潜った仲だ、気持ちの変化くらいわかる。もう一度聞く、何があったんだ?キリト。何が君をそう()()()()()()()()・・・?」

 

そう聞くとキリトは諦めたような表情を浮かべ、ゆっくりと席に座るとブレイドに3ヶ月近く前の悲劇を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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月夜の黒猫団での話を聞き終えたブレイドは、飲んでいたカップを置くと席を立ってキリトの肩を優しく叩いた。

 

「成程、それはすまない事を聞いた・・・」

 

「いや、良いんだ。ブレイドに話したからか少しスッキリした・・・。こっちこそ、聞いてくれてありがとう」

 

「これくらいはお安い御用だ」

 

そう言うとブレイドはキリトと攻略組との顔合わせのために店を出た。

 

「しかしいきなり攻略組に参加するなんて驚いたよ」

 

「そうだろうか?」

 

「ああ。だが、ブレイドと戦う時間が増えて嬉しいよ」

 

そう話しているとキリトはメールであるフレンドに連絡を送った。

 

「OK、アスナにもメッセージを送ったら了解していたよ」

 

「そうか・・・随分と軽いんだな・・・」

 

「まぁ、実際作戦会議と攻略するときしか全員集まらないしな。あとは情報集めとレベリング・・・それと装備の整理とかだな・・・」

 

「そ、そうなのか・・・」

 

若干気の抜けた返事をしながらブレイドはキリトと話しながら連携プレイの練習としてダンジョンに乗り込んでいた。

 

「じゃあ、始めますか」

 

「ああ、やろうじゃないか・・・狩を始めよう」

 

そう呟いてキリトは片手剣を、ブレイドは両手剣を持ってダンジョンに突撃をしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンに潜って数時間、レベルアップの音が数回聞こえる頃にキリト達はダンジョンから出てきた。

 

「ふぅ、やったやった」

 

「なかなかに疲れたな・・・」

 

二人はそんな事を言いながらダンジョンから出て街に戻る。

そしてそこで適当に夕食を取ってキリトとブレイドはそこで別れた。

 

「じゃあ、また会議があったら呼ぶわ」

 

「ああ、頼んだ」

 

そう言うとキリトと反対方向にブレイドは歩き始めた。

 

「さて、攻略会議が始まるまでレベリングか、迷宮区の偵察でもしようかな?」

 

ブレイドはそんな事を呟きながら街を歩いていた。

久しぶりにキリトとダンジョンに潜った影響か、今日は気分がよかった。

 

「今日はこの後どうしようかな」

 

ブレイドはそんな事を考えながら宿屋に向かう道を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ブレイドが攻略組に参加する事はすぐに知れ渡り、ブレイドはある人物と共にフィールドにいた。

 

「・・・で、わざわざアルゴさんが何故私の狩場に?」

 

「にゃはははは。それは勿論ブレ坊がなぜ攻略組に参加するのか気になったからだネ」

 

ブレイドが斧を振り回している横で話しかけるのは《鼠》と言われている情報屋のアルゴだった。

 

「もう知っているんですか。流石ですね」

 

モンスターを殲滅し、斧をしまったブレイドがアルゴにそう聞き返すとアルゴは『にゃはは』と特徴的な笑い声で、返事をした。

 

「せっかくのいいバイト仲間の君が攻略組に参加ダ。オレっちとしてはせっかくの敏腕助手がいなくなるのと同じだからネ」

 

「それはそれは光栄ですね」

 

実際、ブレイドはここ数ヶ月、アルゴと共にダンジョンの情報収集を行なっていた。ドロップ品を受け取って良いのと割と時給が高かった事からブレイドもウキウキでアルゴのバイトに付き合っていたのだ。

コルも貯まり、レベリングできるだけでも十分おいしいのに、更にドロップ品までもらって良いと言うのだ。これほどおいしいバイトはないと感じていた。

なぜこんなバイトを誰もしないとかと思わずアルゴに聞いたことがあった。

 

『ああ・・・それはブレ坊以外全員何かしら仕事があるからだネ』

 

そう言うとアルゴは理由を話し始めた。

まず第一にブレイドのレポートは読みやすいと言う事。キリトも同じ事をやらせたらしいがこんなに綺麗に纏まっている事はないという。

第二に未知の迷宮区やフィールドに飛び出す度胸のある人が少ないと言う事だった。確かに、10層までならβテストの時の経験が生きていたが、今の最前線は三十九層。未知のことほど怖いものはないと言える、その点は理解できた。

最後に、実力あるものはほぼ全員が攻略組に参加してしまっていると言う事だった。

確かに他のプレイヤーもレベリングはしているが、攻略組に比べれば微々たるものだろう。おまけに攻略組はボス戦の為に基本的に何かしらの予定を入れている可能性が多く、なかなか予定が合わせづらいと言うのが大きな理由だった。

 

そんな中で、攻略組に匹敵するほどの実力も持ち、それでいて攻略組に参加せずにレベリングをしており、更にレポートは見やすいというアルゴにとってはとても使える助手なのがブレイドだった。

 

「ブレ坊はすごく有能だからネ。オレっちの本音としてはこのまま一緒に仕事をしたいと思っているのだガ・・・・」

 

「ははは、別に自分はいつでも良いですよ。ボス戦終わった後にでもまた予定合わせたら行きましょうよ」

 

そう言い残すとブレイドはアルゴと共に街に戻ろうとした時。ふとある疑問が浮かぶと早速行動に移した。

 

「アルゴ、ちょっと先に戻っててくれ。ちょっと呼ばれたみたいだ」

 

「分かっタ。じゃあ、いつものところで待っているネ」

 

そう言うとアルゴは先に街に戻るとブレイドはメッセージでキリトを呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、それ本気で言ってるか?」

 

「ああ、本気だ。やってみる価値はあるだろう?」

 

そう言いながらブレイドはアイテム欄から転移結晶を取り出した。

 

「・・・仕方ない。この際やってみますかね」

 

キリトも半分諦めムード、半分面白そうなムードで転移結晶を取り出すと不敵な笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「ああ、クリアしたら『閃光』さんに怒られそうだな」

 

「その時は甘んじて説教を受けよう」

 

お互いに若干笑い合いながら二人は迷宮区に向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮区の最奥の部屋・・・ボス部屋では戦闘が行われていた。

 

「キリト、そっち行ったぞ!」

 

「任せろ!!」

 

ブレイドの声に反応するようにキリトが剣を構えた。絶賛、二人は三十九層のボスの《ブラッディ・グリフ》と言う大きいカラスのような鳥に戦いを挑んでいた。

 

「・・・これ焼き鳥にできねえかな?」

 

「今それを言うか?!」

 

キリトがそう叫びながら《ブラッディ・グリフ》の腹に剣を差し込んで傷を入れる。対するブレイドも鳥の右翼の根元を剣で切り付けてダメージを与えていた。

ダメージを与えた二人は《ブラッディ・グリフ》の羽の動きが変わったことに注意すると《ブラッディ・グリフ》は翼を思い切り振って攻撃をしようとした。

 

「させるかぁ・・・!!」

 

すると《ブラッディ・グリフ》が攻撃する直前、ブレイドが左翼の根元に両手剣で切り傷を入れる。

ブレイドとキリトが取った戦法はとても簡単で、ブレイドが高速移動をして敵を撹乱している間に、キリトがダメージを与え続ける戦法だった。

実際、今回のボス戦はブレイドの高速移動のおかげで《ブラッディ・グリフ》は完全にブレイドを狙っていた。このおかげでダメージバーがどんどん減っていき、ゲージの色が赤くなっていた。

 

「ブレイド!」

 

「これで・・・止め!」

 

ブレイドは《ブラッディ・グリフ》の上に跳躍をすると《ブラッディ・グリフ》の両翼に短刀を突き刺した。すると《ブラッディ・グリフ》はポリゴン片と化し、入ってきた部屋の扉とは別の扉が開いた。

 

「やっ・・・たか・・・」

 

ブレイドは両手剣を持つとキリトの手を掴んだ。

 

「やったなブレイド」

 

「そっちこそ。おめでとうキリト」

 

そう言うとキリトがブレイドに聞いた。

 

「ところで、アスナさんへの言い訳は考えたか?」

 

「・・・」

 

「・・・まさか・・・」

 

「・・・考えているわけがなかろう。こっちだってまさかうまく行くとは思わなかったんだ」

 

「ですよね〜・・・」

 

ブレイドとキリトは言い訳を考えながら第四十層に続く扉に歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにこの後、アスナにめちゃくちゃ怒られたのは言うまでもなかった。



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#2 犯罪者狩り

ブレイドとキリトが二人で第三十九層をクリアした翌日。

アスナに怒られて疲れていたブレイドはある人物に呼び出された。

呼び出しを受けたブレイドは目の前にいる人物から勧誘を受けていた。

 

「・・・と言うわけで、ブレイド君。私のギルドに入ってみないか?」

 

今目の前にいる男は《ヒースクリフ》と言う最強ギルドと称される『血盟騎士団』の団長を務めているプレイヤーである。

『血盟騎士団』はアスナが副団長として務めているギルドでもあり、話は聞いていた。そこには当然、ユニークスキルの《神聖剣》の話もあった。

 

「ヒースクリフ殿のお誘いには感謝致しますが。お断りさせていただこうと思います」

 

「ほう・・・それは何故だね?」

 

ヒースクリフがどこか面白そうに聞き返した。

 

「私は自由に生きたいのです。組織に入れば必ず制約が入ってしまう。そうなれば自然と行動にも制限がかかってしまう」

 

「では、そう言った制約がなかったら君は加入してくれると言う事かい?」

 

ヒースクリフがそう問いかけるとブレイドはそれでも首を横に振った。

 

「そうだとしても私は加入しませんよ」

 

「理由は?」

 

「私自身、組織というものが苦手なのですよ。個人で自由に動くのが一番ですから」

 

「そうか・・・」

 

ヒースクリフは少し残念そうにそう呟くとブレイドは部屋を後にした。

 

「では、私は失礼します。これから用事がありますので」

 

そう言い残して部屋を出るとそこではアスナがブレイドが出てくるのを待っていた。

 

「話は終わったの?」

 

「ええ、お断りしましたよ」

 

「キリト君と同じなのね。因みに理由は?」

 

「組織に加入してしまうと自然とルールに縛られなければいけなくなってしまう。そうすると行動にも自然と制限がかかってしまう」

 

ブレイドがそう話す横でアスナは面白そうに話を聞いていた。

 

「まあ、第一私は『組織』とと言うものが好きでは無い。と言うのが根幹にある。さっき言ったことの言い訳にしかすぎないさ」

 

「あはは・・・なんかブレイドさんの言っている事が全部正しく聞こえて来ますね」

 

「そうだろうか?」

 

そう呟くとブレイドは血盟騎士団本部の外に出るとアスナと別れた。

 

「じゃあ、また。よろしくお願いしますよ」

 

「はい、今度は二人で迷宮区に潜らないでくださいね」

 

「ええ、分かっていますよ。もう正座は懲り懲りです」

 

そう言い残すとブレイドは解放した第四十層に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数週間後、キリトと二人でボス戦をクリアしたブレイドは攻略組に混ざって攻略を進めていた。現在の最前線は第四十七層。着々と攻略を進める中、彼が最近趣味で通っている場所があった。

 

「あ、ブレイドさん!」

 

「ノーチラスくんか・・・と言うことは今日はここでやるのかな?」

 

「はい、今日はユナがここが良いと・・・後でメッセージを送ろうと思ったのですが・・・」

 

「成程、それじゃあ彼女が来るまで待つとしますか」

 

そうしてフレンドのノーチラスと軽い会話をしていると二人に声をかける一人の少女がいた。

 

「あ!ブレイドさん!来てくれたんですね」

 

「ええ、また貴方の歌を聴きに来ましたよ。ユナさん」

 

そう言ってブレイドが優しい口調で話しかけた少女ことユナはブレイドが来てくれた事に喜びを表していた。

彼らとは第四十層を攻略するとき、トラップにハマったプレイヤーを救出する為に入ったダンジョンで動けなくなったノーチラスと、敵のヘイトを集めていたユナを助けた事でお互いに交流を深めていた。

因みにその事件後、ノーチラスはブレイドの勧めで所属していた血盟騎士団を脱退している。

 

「いつも来てくれてありがとうございます」

 

「じゃあ、今日もよろしく頼むよ」

 

「はい!」

 

そしてユナが広場の真ん中に立ち、持っている楽器を弾きながら歌を歌い始めた。

ユナは修得者が殆どいない『吟唱』と言うスキルを持っている珍しいプレイヤーだ。だが、それを抜きにしてもユナの歌は綺麗だった。

 

「綺麗な歌だ。娯楽の少ないこの世界で、彼女の歌は砂漠のオアシスのようだな・・・」

 

「随分とユナのことを褒めているんですね」

 

「そうだろうか?」

 

ブレイドはそう言いながらユナの歌を聴き続けていた。

ライブが終わり、観客との握手を終えたユナはブレイドとノーチラスに寄ってきていた。

 

「相変わらずいい歌だったよ」

 

「有難うございます」

 

そう言うとブレイドはユナにチップを渡すと街に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユナのライブを聴き終えたブレイドは街の中の食堂に入った。

ブレイドは食堂の隅の椅子に座っていたアルゴを見つけると、目の前の席に座った。

 

「アルゴさん」

 

「ン?おお、ブレ坊カ。早かったナ」

 

「ええ、すぐ来ましたんで」

 

そう言ってブレイドはコーヒーを注文するとアルゴがブレイドに紙を渡した。

 

「ほい、頼まれた仕事ダ。一千コルでいいヨ」

 

「有難うございます」

 

そう言うとブレイドはアルゴに千コル入った袋を渡すとお礼を言った。

アルゴは少しだけ曇った表情になるとブレイドに話しかけた。

 

「ブレ坊。こう言うのは疲れないのカ?」

 

「こう言う事はもう慣れていますから」

 

「これは慣れちゃいけない類いダ。ま、オレっちはブレ坊のする事に反対はしないがナ」

 

そう言うとアルゴは少し笑うと先を経って店を後にした。

残ったブレイドはアルゴから受け取った情報を読むと席を立ち、店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十層 ひだまりの森

 

昆虫系モンスターが現れるこの場所で男は無我夢中で走っていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

男は自分の武器も落として、迫ってくる気配から逃げていた。

 

「畜生、『赤ずきん』がいるなんて聞いてねえよ!!」

 

男は犯罪者(オレンジプレイヤー)だ。元々現実世界に飽き飽きして、現実ではあり得ない事が出来るからと犯罪者ギルドに加入していた。

そんな彼は自分が犯罪者となった事をこれほど後悔したことは無かった。

 

『赤ずきん』

 

少し前から現れ始めた犯罪者(オレンジ)殺人者(レッド)を狩りまくっている謎のプレイヤーだ。

話によれば恐ろしい速度で犯罪者を追い詰め、恐怖を煽った後に捕まると必ず監獄に送り込まれると言う。

彼が現れた影響で大きな犯罪者ギルドはその殆どが潰され、監獄に押し込まれている。

反抗すれば容赦なく殺されると言う。

赤ずきんと言うあだ名は赤いフードを被っていることからそう付いたらしい。

 

そして森の中を逃げ回っていた男はいつの間にか気配が消えている事に気づき、走るのを止めた。

 

逃げ切れた

 

その安心感でホッとしていた・・・・その時だった。

 

「・・・お疲れ様」

 

「っ・・・!」

 

男の首筋に短剣が当てられ、重々しい声が後ろから聞こえた。いつの間にか後ろにいた事に驚愕と恐怖が彼の頭を支配していた。

すると赤ずきんは男に問いかける。

 

「さぁ、選ぶと言い。このまま牢に行くか、ここで死ぬかを・・・」

 

究極の二択を迫られた男は何とか言葉を紡いだ。

 

「お・・・俺はまだ・・・し、死にたくねぇ・・・」

 

「そうか・・・」

 

赤ずきんはそう言うと男を崖に押し込み、後ろ手にロープを縛ると転移結晶で犯罪者を第一層にある監獄エリアに送り込んだ。

転移先では既に人が待っており、男は力無く監獄エリアに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトはひだまりの森の中を探索していた。

本来攻略組が下層にくることはあまり推奨されたことでは無いが、今回はある人物を探す為に来ていた。

結果としてその目的の人物は探せた。森の端の崖に犯罪者を追い詰めてロープで縛って監獄まで送る動作にキリトは驚きの様子を見せていた。

今回の目的は『赤ずきん』と呼ばれている犯罪者狩りをしているプレイヤーに接触をすることだった。

その為にアルゴに高い金額を払って赤ずきんが出そうな場所を教えてもらい、何日か張り込んでいた。

 

「(動きに無駄がない・・・かなりの高レベルプレイヤーだな・・・)」

 

キリトはそんなことを思いながら赤ずきんを観察していると、赤ずきんは一瞬で視界から消えていた。

 

「っ!何処に行った・・・?」

 

思わずキリトは声に出して辺りを見回すも、そこに赤ずきんの姿は確認できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤ずきんとの接触に失敗し、落胆しているキリトにブレイドが慰めていた。

 

「まあまあ、赤ずきんの存在が確認できただけでも十分じゃないか?」

 

「そうだがなぁ・・・」

 

そう言ってブレイドから差し出されたコーヒーをキリトは飲むとさっきの出来事を話した。それを静かに聞くブレイドは最後にキリトに優しく声をかけた。

 

「キリト・・・気晴らしに迷宮区にでも行くか?」

 

「・・・ああ、行ってやろうじゃないか」

 

キリトはいつになくやけくそ気味にそう返事をするとブレイドと共に迷宮区に向けて歩き始めた。



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#3 クリスマス

二〇二三年 十二月二十四日

 

クリスマスの今日、ブレイドは街を歩く男女二人組を気にもせずに街を歩く。

街の裏路地では男達が固まって暗い雰囲気を醸し出し、酒場で自棄酒をしていたりとなかなかな光景が広がっていた。

そんな光景を横目に自分はクリスマス限定イベントの攻略に乗り出した。

ボスの名前は背教者ニコラス。今回の目的はそのボスが落とすドロップ品《還魂の聖晶石》を手に入れる事である。

この《還魂の聖晶石》は死んだプレイヤーを復活させられる力があると言う。

()()茅場晶彦の事だから、復活は出来るがある条件を追加しているだろう・・・。

だが、それでも一途の望みをかけてブレイドは第三十五層『迷いの森』を歩いていた。

 

「あれは・・・『聖龍連合』・・・。是が非でも蘇生アイテムを奪う気か・・・」

 

ブレイドは森の遠くから見えた複数人の姿を見て少しだけ目を細めると今の武器である両手斧を手に持つ。

 

「さて、加勢しに行きますか」

 

ブレイドはそう呟くと一気に森から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライン達『風林火山』はキリトの後を追ってこの迷いの森までやってきた。

理由はキリトの雰囲気と、事前にブレイドから相談を受けていたからだった。

事実、キリトは一人でイベントボスを倒す・・・はっきり言って無謀にも近い事をやろうとしていた。

そしてキリトを呼び止めたところで、攻略組のギルド『聖龍連合』の部隊と鉢合わせた。

どうしようかと思ったその時、森から一人の赤い影が飛び出した。

 

「行けませんね。せっかくのドロップ品を横取りしようだなんて・・・」

 

そう言って森から出てきたのは赤い服が目立つブレイドだった。

 

「ブレイド・・・」

 

と、クラインの横にいたキリトは咄嗟にブレイドの名を言うとブレイドは答えた。

 

「キリト・・・戻って来たら話がある・・・帰って来い」

 

「・・・分かった」

 

キリトはそう言い残すと森の奥に入っていった。その場に残った風林火山のメンバーとブレイドはそれぞれ武器を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・流石にこの人数は辛いな・・・」

 

『聖龍連合』を撃退したブレイド達は肩で息をつきながら地べたで横になると奥からキリトが戻ってきた。

 

「・・・キリト・・・」

 

キリトは片手に蘇生アイテム《還魂の聖晶石》をクラインに渡した。クラインと共にそのアイテムの効果を見た。

 

「HPがゼロになって10秒以内・・・」

 

「・・・成程」

 

ブレイドはやはりと言った気持ちだった。あの人が考える事だ。やはりダメだったかと言う気持ちの方が大きかった。

そしてフラフラと歩くキリトに向かってブレイドは叫んだ。

 

「キリト・・・お前は生き残れよ・・・」

 

ブレイドはキリトに向かってそう叫んだ。

キリトはフラフラとした足取りで迷いの森を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年を越した二〇二四年 一月某日

 

年明け早々攻略組は第五十層を突破。順調に階層を進み続けていた。

現在の最前線は第五十二層。折り返し地点を過ぎ、ブレイドは第五十層に存在するダンジョンに潜っていた。

このダンジョンはブレイドが見つけたダンジョンで、経験値稼ぎには丁度いいと何度もダンジョンを周回していた。

このダンジョンはキリトやアルゴなどの最低限の人にしか教えていない為、人が来る事も少なかった。

ダンジョン名は『スヴァルガ』。ブレイドはダンジョンに出てくる雷を放つ蛇モンスターを狩っていた。

 

「今日はここまでにするか・・・」

 

ブレイドはダンジョンの最奥までモンスターを狩り終えた。このダンジョンのドロップ品は金剛杵と言うよく分からない物だったが、ここのダンジョンはなかなかの穴場であり、経験値が貯まりやすかった。

 

「これで何周目だろうか・・・ん?」

 

ブレイドが洞窟タイプのダンジョンの端を見るとそこには暗く、見ずらいが小さなトンネルのような横穴があった。

 

「こんな穴あったか・・・?」

 

少なくとも今まで何度もここを周回してきたが記憶にないその横穴。とても怪しかったが、ブレイドは直感的にこの先に何かあると感じ、頭を下げて腹這いになりながら横穴を進み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腹這いになってどれ程進んだのだろうか。ブレイドは横穴の先にある開けた空間に出た。

開けた空間は乾き割れた地面に、地中のはずなのにジリジリと太陽が焼き付け、荒野のような雰囲気であった。

 

「ここは・・・」

 

ブレイドはその空間を見渡すと入ってきた穴は閉じられ、目の前にポリゴンが出現して巨大な大蛇が現れた。モンスター名は《ヴリドラ》。即座にブレイドは斧を構えた。

 

「ちっ、いきなりボス戦か・・・転移結晶は・・・使えない・・・」

 

転移結晶が使えない事にブレイドは逃げることを諦めると手に片手斧を持ち、ブレイドは大蛇に攻撃を始めた。

まず始めに体術スキル『壁走り』と『高速移動』で《ヴリドラ》の背面から両手斧ソードスキル『ランバー・ジャック』を発動し、背中から二回転しながら切りつけた。

 

「決定打にはならないか・・・」

 

少しだけ減った体力バーを見てそう呟いた。そしてブレイドはヴリドラの攻撃を得意の高機動で避けると今度は持ってきた両手剣に持ち替え『サイクロン』を放ち、連続攻撃を加えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから何度も攻撃を加え続け、四本あった体力バーも残り僅かとなった。

ブレイドは両手剣からまた両手斧に持ち帰ると大蛇に最後の攻撃を仕掛けた。

 

「これで終わり・・・っ!」

 

攻撃も単純で案外簡単な敵だった、そう思った時。ヴリドラの動きに変化があった。

ヴリドラは口を開き、ブレイドに噛み付いてきたのだ。

 

「っ!グハァ!」

 

噛みつき攻撃で吹き飛ばされたブレイドは一気に体力バーが半分近く消えてしまい、咄嗟に回復ポーションを飲み干して回復をすると改めて両手斧を持った。

しかしブレイドは思わず顔を顰めてしまった。

 

「回復している・・・?」

 

それは、ヴリドラの体力ゲージが赤色から黄色に回復していたからだ。それから何度も体力バーを赤くするも、見た事ない攻撃をした後に回復をしていた。

 

「面倒な・・・(何か別の方法で倒さなければいけないのか?)」

 

そしてブレイドは思考を回転させた。現実世界で様々な文献を読んできた彼は記憶を思い出していた。

 

「(ヴリドラは確かインド神話に出てくる旱魃を起こす怪物。最後は確か・・・)」

 

ブレイドは記憶を思い出すとアイテム欄からさっきのダンジョンのドロップ品の金剛杵を取り出し、体力ゲージを赤くしたヴリドラの腹にに突き刺した。

 

『ギャギャギャァァァァァ!!!』

 

金剛杵を刺されたヴリドラは今までにないほど大きな悲鳴をあげると回復した体力バーを一気に減らし、ポリゴン片となって消えていった。

 

「・・・やれたか・・・」

 

そう呟き、ブレイドが一安心していると倒したヴリドラのいた場所からいきなり大量の水が溢れ出した。

 

「ワブッ!ゴポポポポポポポ・・・・」

 

ボスを倒した後で疲労が溜まっていたブレイドは水の流れに逆らえず、そのまま飲み込まれてしまった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレイド〜!」

 

「何処にいるんダ〜!!」

 

「ブレイドさ〜ん!」

 

第五十層アルゲード外の森林フィールドで、ブレイドの名前を呼ぶ声が聞こえていた。

 

「いた?」

 

「いや、見当たらない」

 

「何処にいったんだあいつは・・・」

 

森林の一角でキリト、アスナ、アルゴの三人が集まると頭を抱えていた。

 

「連絡できなくなって()()・・・死んだわけじゃないし・・・」

 

「ああ、石碑にも生きていると書いてあった」

 

「最後の目撃情報はここらしいしナ。何処にいったのか・・・」

 

事の発端は三日前。攻略会議に参加しなかったブレイドにキリトが不審に思い、連絡をとったものの、返事がなく。おかしいと感じたキリトがアスナやアルゴに話をしてブレイドの捜索をしていた。

 

「うーん、前にブレイドが言ってたダンジョンも見当たらんしな・・・」

 

「え?あの穴場ダンジョン?」

 

「前にブレ坊が言ってたあれカ」

 

「もう何が起こってんだか・・・」

 

キリトが困惑しながら空を向くと、そう呟いた。今のブレイドはフレンドの居場所はマップにも表示されず、何処にいるのかすらも分からなかった。

生きている事は確実の為、そこは安心していた。

 

「とにかくブレイドさんを探しましょう」

 

「ああ」

 

「そうだナ」

 

そうして三人はまた分かれるとブレイド捜索のために森の中を探し回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO内のとある場所

 

「ブハァ!・・・ゲホッ!ゲホッ!」

 

ブレイドはどこかに流れ着いたと感じ、陸に上がり、一呼吸置いた。ヴリドラと戦い終えた後に大量の水に押し流され、そのまま気を失ってしまったようだった。幸いにも体力はそれほど減っておらず、索敵スキルで周りにモンスターがいない事を確認すると、取り敢えずは休憩を取る事にした。

 

「ゼェ・・・ゼェ・・・」

 

そしてある程度呼吸が落ち着き、視界がまともになってくるとブレイドはここがどこかの池の畔であると確認した。

 

「ここは・・・」

 

ブレイドが辺りを見回すとそこは第四十七層の『フローリア』のように花が咲き誇る小さな丘があった。

 

「『思い出の丘』見たいだな・・・」

 

ブレイドはそんな事を呟きながら丘を登っていくとそこには一本の木が生えていた。

 

「これは・・・」

 

ブレイドがその木に触るとその木は光り輝き始め、アイコンが出てきた。

 

《カルパヴリクシャ(如意樹)》

《このアイテムを選択、もしくはオブジェクト化して手に持った状態でウィンドウを操作。もしくは「〇〇を願う」と言う事で発動する。

このアイテムはプレイヤーの願いを叶えることが可能》

 

説明文を読んだブレイドは頭の中にあることが浮かんだ。

 

「(もしかしてこれを使えば・・・現実世界に帰れる・・・?)」

 

ブレイドはそんな事を考えた。その時の気持ちはまるで水を得た魚の気分だった。

これを使えば帰ることができるかもしれない。そんな事を考えたブレイドは早速ウィンドウを操作して、「全プレイヤーのログアウトを願う」と記入。

記入を終えたブレイドは実行を押そうとした、その時。ブレイドの指は止まっていた。

 

「(あ・・・でもこれを押したら・・・キリト達に会えなくなる・・・)」

 

ブレイドは実行をする直前でそんな事を考えてしまった。

確かに帰れれば幸せになる人たちが多いだろう。だが、ブレイドはそれが寂しくも思えた。

もっとキリト達と居ても良いかもしれない。どうせ、いつかはクリアするのだろうから今はいいのではないか。

第一、茅場晶彦がこんな簡単にログアウトなんかさせてくれないだろう。むしろそうだったら自分はあの人を殴りにいっているだろう。

あの人の事だから恐らく自分がラスボスになって何処かでプレイヤーに混じって観察をしているに違いない。

 

『ただゲーム見ている事ほど面白くないものはない』

 

現実世界であの人が言っていた事だ。そんな事を言う人だからおそらくプレイヤーに混ざってこのゲームをプレイしているに違いない。

そう考えてしまった事に自分は思わずふっと笑ってしまうとウィンドウを全削除していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり目の前に水柱が上がった。

文字通り森をブレイドを探して走り回っていたらいきなり目の前に水柱が上がり、頭から水を思いきりかぶった。

 

「わっ!な、何だ!?」

 

水でビッチャリと濡れて驚いていると水柱は収まり、辺り一面が水浸しになり、水柱が噴き出た場所は池ができており、唖然としてしまった。

一連の出来事に呆然としているとガザガザという音が聞こえて森からアスナとアルゴが出てきた。

 

「なんかすごい落としたけど何があったの・・・って、どうしたの!?」

 

「ニャハハハ、キー坊。なんで濡れているんダ?」

 

「いやぁ・・・なんでかは俺も分からん・・・いきなり水柱が噴き上がってきた・・・」

 

そう言ってキリトは答えるとアスナが池を見て違和感を感じた。

 

「ん?何あれ?」

 

そう言ってキリトの足元を指差した。その時

 

ザバァア!!

 

「・・・・へ?」

 

キリトの足を誰かが掴んでいた。それを見たアスナは

 

「い・・・いやぁぁぁぁあああああ!!!」

 

と騒ぎ立て、隣にいたアルゴは

 

「あ・・・モ、モ、モンスター!?」

 

と言って驚愕して咄嗟にクローを構えると池から人が顔を出した。

 

「ブハッ!あぁ〜・・・また、酷い目にあった・・・」

 

「ブ、ブレ坊!?」

 

アルゴは池から出てきたブレイドに驚いているとブレイドはアルゴに気がついて挨拶をした。

 

「ん?おぉ、アルゴか。久々だな」

 

そう言ってブレイドは地べたに手を置いて陸地に上がった。彼の装備はずぶ濡れで足元から水が垂れていた。

いきなり現れたブレイドにアルゴは驚いていた。

 

「はぁ、ずぶ濡れだな・・・」

 

そう言って来ていた赤い服を絞って水を切っていた。

アスナはアルゴに言われてモンスターと思っていたのがブレイドだとわかると驚いていた。

 

「えっ!?ブレイドさん!?」

 

「おぉ、アスナさんか。珍しいね、アルゴと一緒にいるなんて」

 

呑気にそう返事をするブレイドを見てアスナはホッとしているとブレイドの後ろで何も喋らないキリトを不思議に思った。

 

「キ、キリト・・・?」

 

アスナが恐る恐るキリトを見ると・・・キリトは立ったまま気絶してしまっていた。

 

「キ、キリト君!?」

 

そう叫びながらアスナがキリトを揺さぶるとキリトは意識を取り戻した。

 

「ハッ!俺は何を・・・っ!さっきのモンスターは!?」

 

そう言って剣を構え、錯乱していた。

 

「おーおー、何があったキリト」

 

「「あなたのせいよ(ダ)!!」」

 

この後、アスナとアルゴに今までの状況を説明され、全てを理解したブレイドはアスナ達に謝り、キリトを宥めるのに、ブレイドは苦労をするのだった。



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#4 裏稼業

二〇二四年 二月二十三日

 

「フッ!」

 

ブレイドは斧を振ってモンスターを倒していた。この前のダンジョンで手に入れた武器の確認をするためである。

 

「すごいな。この武器は・・・」

 

そう言って手に持っている剣を見てそう呟いた。

その両手剣は黄色から赤色のグラデーションを持っていた。

 

「『パランジャ』か・・・」

 

今の自分は両手剣をメインに片手斧、短剣のスキルを集めていた。

この両手剣はこの前の五十層のダンジョンで手に入れた両手剣である。ちなみに斧の方は《カルパヴリクシャ》で手に入れた。

今日は新しく手に入れた両手剣の調子を確認していた。

 

「戻るか・・・」

 

そうして戻るために歩き出した時、近くで悲鳴が聞こえた。

 

「悲鳴・・・一体誰が?」

 

ブレイドは悲鳴の聞こえた方に走り出すと視線の先では少女が三体のドランクエイプに襲われていた。

 

「初めての実践だな」

 

ブレイドはそう思うとソードスキル『ファイトブレイド』で一気にドランクエイプを一掃した。

 

「威力は申し分ないな・・・」

 

そう呟いていると後ろにいた少女が少し震えて地べたに座っていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい・・・でも、ピナが!」

 

「・・・すまない。君の友人は助けられなかった・・・」

 

今にも泣きそうな少女を見てブレイドは咄嗟に彼女の守るように手を出し、片手斧を持った。

 

「誰だ!」

 

森に向かってそう叫ぶと中から一人の青年が出て来た。

 

「俺だ、キリトだ」

 

そう言って出て来たのは黒を基調とした服装に背中に黒い剣を持つキリトだった。

 

「何だ、キリトだったか・・・」

 

そう言ってブレイドは斧を革製のホルスターにしまうと軽く手を振った。

キリトはブレイドの後ろにいた少女の持っていたものに目を向けた。

 

「ごめん、ちょっと君。そのアイテムを見せてもらえるかい?」

 

そう言ってキリトは少女の持っていた一枚の羽を見た。

 

「これは・・・〈ピナの心〉・・・成程、君の友人を助けられるかもしれないな」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

少女は驚いた様子でキリトに聞いていた。するとキリトは詳しい話を説明していた。

 

「四十七層に『思い出の丘』って言うダンジョンがある」

 

「あぁ・・・聞いたことあるな。その丘の天辺に咲く花が使い魔専用の蘇生アイテムって話」

 

「ああ、そのことだ」

 

「四十七層・・・私のレベルじゃ・・・」

 

少女はそう言って二人の間で俯いてしまった。

 

「これが花だけとかなら私が取ってきて良かったんだが・・・あいにくとテイマー本人が行かないとその花は咲かないと言う・・・」

 

「おまけに三日以内に行かないと〈心〉は〈形見〉になってしまう」

 

「そんな!」

 

少女はキリト達の話を聞いて落胆してしまっていた。その様子を見てキリトとブレイドはお互いに顔を見合わせると小さく頷いた。

 

「キリト、予備の武器はあるか?」

 

「ああ、この子くらいだとタガーか?」

 

「じゃあ、こっちはブーツとアーマーだな」

 

そう言ってキリト達は少女にアイテムトレードを申請させるとキリトとブレイドは少女に武器と装備を渡した。

 

「えっ、これは・・・」

 

「これだけあればレベル8くらいは底上げできる。私達と一緒に来れば行けるだろう」

 

「勝手に行くこと決めんなよ・・・まあ、元から行く気だったから良かったが・・・」

 

そう言ってキリトは若干呆れていると少女が二人に話しかけた。

 

「あの・・・どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 

少女が若干警戒しながらそう聞くとキリト達は若干恥ずかしそうに答えた。

 

「私は、困っている女性だったから助ける・・・ただそれだけだ」

 

「俺もブレイドとほぼ同じだな。強いて言えば・・・」

 

「?」

 

「君が、妹に似ているからかな・・・」

 

キリトと最後の言葉に少女は笑っていた。

 

「(妹か・・・)」

 

ブレイドはキリトの言葉を聞いて現実世界の事を思い出していた。

 

「(妹・・・じゃないが元気にしているんだろうか・・・)」

 

ブレイドはそんな事を思いながら空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そう言えば名前まだ言ってなかったですね。私、シリカって言います」

 

「俺はキリトだ」

 

「私はブレイドだ」

 

街の戻る途中。三人はお互いに挨拶をしていた。

 

「あのー、ブレイドさんはどうして『私』って言うんですか?」

 

「ああ、癖というものかな。気分が悪かったら普通に話すが・・・」

 

「あ、大丈夫です。ただ、不思議に思っただけですから・・・」

 

そう言ってシリカはブレイドを少し面白そうに見ながら視線を戻していた。

 

「そういえば、なぜ君だけあそこに居たのかな?」

 

「え・・・実はパーティーメンバーとアイテム分配で揉めてしまって・・・一人であの森を抜けようとして・・・」

 

「道に迷ってああなったと・・・」

 

「はい・・・」

 

「成る程・・・」

 

ブレイドはシリカの話を聞きながら三十五層のフリーベンという街に到着する。

街に着いたシリカ達はそのまま宿を目指していた。その時だった・・・

 

「あら、シリカじゃない」

 

「・・・どうも」

 

「へぇーえ、森から脱出できたんだ。良かったわね」

 

真っ赤な髪にカールした。名前をロザリアと名乗っていた。

 

「・・・・」

 

「(こいつは・・・思わぬ掘り出し物だな)」

 

キリトの様子からしておそらく何か用事があるのだろう。

そんな事を思いながら明らかに怪しいロザリアを見ていた。

 

「あら?あのトカゲはどうしちゃったの?」

 

「・・・ピナは死にました・・・でも!ピナは絶対に生き返らせます!」

 

「へぇ、て事は『思い出の丘』に行く気なんだ。でも、あんたなんかのレベルで攻略できるの?」

 

「(キリト、ここでコイツをサンドバックしていいか?)」

 

「(いやダメだろ。ここでやると色々とまずいぞ)」

 

ブレイドとキリトは目線で会話をするとブレイドが答えた。

 

「いいえ、あそこはそれ程難易度も高くはありませんし、私達がついているので無理とは言いませんよ」

 

「あんたたちもその子に誑し込まれたのかしら?」

 

「いえいえ、私は彼女の依頼を受けたものです。では、そろそろ行きましょうか・・・。ではまたいつか会いましょう」

 

キリト曰く、気持ち悪いくらい紳士的な態度でそう言い残し、ブレイド達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何で、あんな意地悪言うのかな・・・」

 

「シリカもブレイドもMMOは初めてか?」

 

「ああ」

 

「ブレイドさんもなんですか?」

 

「そうだ、VR自体はよくやっていたがな・・・」

 

「・・・どんなオンラインゲームでも、キャラクターによって人格が変わってしまうプレイヤーが多い。その中には他人の不幸を喜ぶ奴、アイテムを奪う奴・・・殺しまでする奴もいる」

 

「さ、殺人ですか・・・!?」

 

シリカは信じられないと言った様子であったが。残念ながら事実である。この世界でのPKは現実でも死亡してしまう。

茅場晶彦という人物を近くで見てきた自分だから言える。あの人の夢自体がこの世界なのだ。いくら器を作ったとはいえ、AIには限界がある。そのことを知った彼は一万人の人を巻き添えにして器の中身を埋めたのだ。そして、未だに現実世界の死を受け入れられないような人たちが自分達の欲だけのために悪事を働くようになっているのだ。たとえ死ぬことが事実であったとしても・・・。

 

「シリカ、キリト。これは生きている上でも必要なことだが、人というのはほとんどが悪人だ。どんな人でも最終的に全員自分自身が一番なんだ。自分の命を賭けて他人を救うなんてそれこそ映画に出てくる善人のヒーローくらいしか居ないさ」

 

ブレイドの話にキリトやシリカは興味深そうに話を聞くとキリトが呟いた。

 

「お前、一体何歳なんだ?」

 

「見た目相応の歳とだけ言っておく」

 

「あはは、ブレイドさんの話をもっと聞いてみたいです」

 

そう言ってさっきまで暗かった雰囲気は吹き飛び、この後は楽しい会話で終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、キリトと同じ部屋で泊まる事になったブレイドは部屋で武器の整備をしているとキリトが話しかけてきた。

 

「なあ、ブレイド」

 

「どうした。キリト?」

 

月光で薄暗い部屋でキリトはブレイドに聞いた。

 

「『赤ずきん』って聞いたことあるか?」

 

「『赤ずきん』・・・ああ、聞いた事あるな。中層域で犯罪者や殺人者を片っ端から牢獄に放り込んでいると言う謎のプレイヤー」

 

「ああ、俺も話を聞いた事がある。そして見た事がある」

 

キリトがそう言った時、ほんの一瞬だけブレイドの手が止まった。その一瞬をキリトは見逃さなかった。

 

「で、私にその『赤ずきん』の調査をしてほしいと?」

 

「いや、俺が聞きたいのはお前が『赤ずきん』じゃないかって話だ」

 

「根拠は?」

 

「まず、俺が見た『赤ずきん』は恐ろしいほど全てが素早かった。目標の発見から追跡、捕縛、撤退まで。全ての過程で素早かった。あんな速度で移動できるのは俺はブレイド以外に見た事がないからな。そうだろう、『赤ずきん』さん」

 

そう言うとブレイドはフッと少し笑うとあっさりと認めた。

 

「いつからその事に?」

 

「これさ」

 

そう言ってキリトが見せたものを見るとブレイドは納得をしていた。

 

「なるほど、探索ログか」

 

探索ログはブレイドとキリトがお互いの位置を知るために買ったアイテムで、常にフレンド同士の位置情報を共有できるものだった。

そのアイテムは過去一週間の移動記録のも残されている。

 

「そう、これを使ってお前の後を追ったのさ。あとアルゴに高い金払って聞いた」

 

「そうか・・・。で、わざわざ私の裏稼業を暴いて・・・キリトの目的はなんだ?」

 

「ブレイドが何故こんなことをするのか。その真意を聞きたいから」

 

「それは・・・どうやら本心のようだな」

 

そう言うとブレイドは持っていた『パランジャ』をに壁に立てかけるとブレイドはキリトに向かって話した。その時の雰囲気は今までとは違い、まるで迷宮区のボスを相手している時のような重い雰囲気であった。

 

「これから話す事を君は信じるか?」

 

「・・・あぁ・・・」(コクッ)

 

「・・・ならば、話そう。私がこんな事をしている理由を・・・・・・・」

 

こうしてキリトはブレイドから赤ずきんとして犯罪者や殺人者を狩っている理由を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイドからその理由を聞いたキリトの感情は戦慄と驚きで埋まっていた。

 

「・・・と言うわけだ。分かってくれたかい?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

冷や汗が頬を伝うキリトを見てブレイドは少し肩の荷が降りたのかベットから立ち上がるとシリカに明日向かう『思い出の丘』について話すために部屋を後にした。



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#5 二つ名

シリカに四十七層についての説明をするためにシリカの部屋の扉をノックした。

 

「私です。ブレイドです」

 

「はーい、今開けます」

 

そう言って扉が開くとシリカはキリトとブレイドを部屋に中に入れた。

 

「こんな時間にすまないね」

 

「いえ、大丈夫です。・・・それでどうしたんですか?」

 

「明日向かう四十七層に関する話だ。ここで話しても良かったかな?」

 

「あ、はい。お願いします!」

 

そう言うとブレイドは部屋の椅子に座り、キリトがミラージュ・スフィアを展開して四十七層に関する説明をした。

そして説明が『思い出の丘』らへんの話になった時。

突如ブレイドが立ち上がり、一気に扉を開けた。扉の前には誰も居なかったが、階段からドタバタと落っこちる音が聞こえた。

 

「ふむ・・・逃げたか・・・」

 

「十分痛い思いしていそうだな・・・」

 

「い、今のって・・・」

 

「聞かれていたようだ」

 

「えっ!?ド、ドア越しには話は聞かれないんじゃ・・・」

 

「『聞き耳』スキルというのがあってだな。まぁ、そんなスキルを持つ奴は碌な奴じゃない、とだけ言っておくよ。キリト、私は外で見張っている。後の説明を頼むぞ」

 

そう言い残してブレイドは部屋の外に出て見回りをしていたが、その後人の気配を感じることはなかった。

 

「どうだった?」

 

シリカへの説明を終えて部屋から出て来たキリトがブレイドにそう聞いた。

 

「あれ以降は誰も来なかった」

 

「そうか・・・」

 

ブレイドはキリトの様子にある事聞いた。

 

「キリト、目的は何だ?」

 

「ああ、そう言えば言い忘れていたな・・・ちょっと部屋に戻って話そう」

 

そう言ってキリトは部屋に戻るとブレイドに今日ここに来た理由をブレイドに話した。

 

「・・・成程、事情はよく理解した」

 

そう言うとブレイドはキリトにあるアイテムを渡す。

 

「これは・・・」

 

「念の為だ。私がこう言う時に愛用する小道具だ。これを使うといい」

 

「ありがたく使わせて貰うよ」

 

そう言ってアイテムを受け取ったキリトはそれをしまうとさっさとベットに横になってしまった。

ブレイドは月を眺めながらさっきキリトに話した事を思い出していた。

 

「(つい言ってしまったな・・・)」

 

キリトに話した事。それはこの世界にいる人からすれば恨まれても仕方ないことかもしれない。だから今まで誰にも話さず、このまま墓まで持って行こうと思っていたが・・・

 

「(キリトはどんな事を思ったのだろうか・・・)」

 

そんな事を思いながらブレイドは月を眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、シリカ達は三十五層から四十七層に移動すると目の前に広がる光景にシリカは感嘆の声を漏らしていた。

 

「ここが『フローリア』ですか?」

 

「ああ、別名『フラワーガーデン』って言われているんだ」

 

「こんな景色だからここはカップルの聖地とも言われている」

 

ブレイドの言葉にシリカが辺りを見回すと確かに男女二人組が多く見られた。

 

「さて、目が痛くなるからさっさと『思い出の丘』に行こうか」

 

「それはご尤もだ」

 

そうして三人は一直線に『思い出の丘』に向けて歩き始め、あっという間に『思い出の丘』の入り口に到着した。

 

「さて、気を引き締めていこうか」

 

「ああ」

 

そう言って三人は躊躇なくダンジョンの中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああぁぁーーー!!」

 

ダンジョン内で早速シリカが触手系植物モンスターに足を絡め取られていた。

 

「見ないでぇ〜〜!!」

 

「いや、見てない!見てないから!!」

 

「キリト、それは見ていると言っているのと同じだぞ・・・」

 

ブレイドはそう言いながら『パランジャ』を振って触手を切り落とした。

 

「キリト!」

 

「ハァッ!!」

 

ブレイドの声にキリトが片手剣を思い切り振り下ろし、モンスターはポリゴン片と化した。

地面にストンと座り込んだシリカは思わずキリトに聞いていた。

 

「・・・見ました?」

 

「・・・み、見てな(ゴホッ!)」

 

「本当は?」

 

「ちょっとだけミマシタ・・・」

 

「うぅ・・・//」

 

シリカは赤面したまま半分自棄になって短剣を振り回していた。

そんな戦闘を四、五回ほど繰り返した頃にはシリカも戦闘に慣れて最初のようなことは無くなっていた。

途中、シリカが切り出したキリトの妹の話で話題になったり、話に夢中になってまたシリカがモンスターに捕まったりと色々とあったが、無事に三人は『思い出の丘』の到着した

 

「思ったより早く着いたな」

 

「そうだな。さ、用事を済ませようか」

 

「はい」

 

そう言い、シリカが小走りで丘の上に向かい、そこに咲く花を見つけた。

 

「ほぅ・・・《プネウマの花》と言うのか・・・」

 

ブレイドはアイテムの名前を確認するとシリカがストレージにしまい、元来た道を戻り始めた。

 

「〜♪」

 

ウキウキで歩いているシリカを横目にブレイドはキリトと目線を合わせた。

 

「シリカそこで止まって」

 

「え?」

 

「いいからいいから」

 

ブレイドはシリカの肩を掴んでその場に立ち止まらせるとキリトが叫んだ。

 

「出でこいよ。そこにいるのは分かっているんだ」

 

そう言うと茂みから一人のプレイヤーが出て来た。

 

「ロ、ロザリアさん!?」

 

「隠蔽スキルで隠れていたけど・・・まさか見破るなんて、レア度の高い装備をしているから腕が立つと思っていたけど・・・」

 

ロザリアはそう言うと笑みを浮かべてシリカに手を差し出した。

 

「その様子だと、どうやら花は手に入れたようね。おめでとう、シリカちゃん!じゃ、さっそくだけど、その花を渡してちょうだい」

 

「・・・!?な・・・何を言っているの・・・」

 

シリカが信じられないと言った表情を浮かべたが、キリトが進み出て口を開いた。

 

「そうはいかないな、ロザリアさん。いや、オレンジギルド『タイタンズハンド』のリーダー、とでも言った方がいいのかな?」

 

「で、でも、ロザリアさんは、グリーン・・・」

 

「オレンジギルドと言っても、全員がオレンジってわけじゃない。獲物を見つけるためにグリーンのメンバーがパーティの中に紛れ込んで、仲間のいるところに誘導・・・そして、獲物を狩る。昨夜、自分たちの会話を聞いていたのも、あいつの仲間だろう」

 

「じゃ、じゃあ・・・この2週間、一緒のパーティにいたのは・・・」

 

「そうよ。戦力を確認して、お金を貯めてたの。まぁ、今回のあたしたちの狙いはあんた。あんたが途中で抜けた時には正直困ったけど・・・まさか、レアアイテムの蘇生アイテムを取りに行くなんて聞いたからね・・・そんなお得な儲け話、逃すわけにはいかないからねぇ。それにしても、そこまで分かっていながらこの子に付き合うなんて、あんたら馬鹿なの?」

 

ロザリアは馬鹿にした口調でキリトに話しかけていた。 

 

「いいや、俺もあんたを探してたんだよ、ロザリアさん」

 

「・・・どういうことかしら?」

 

「あんた、10日前に『シルバーフラグス』って言うギルドを襲ったな?メンバー4人が殺され、リーダーだけが生き残った」

 

「・・・ああ、あの貧乏ギルドね。それがどうしたの?」

 

「リーダーだった男はな、朝から晩まで最前線の転移門の前で泣きながら、仇討ちをしてくれる奴らを探してたんだ。そいつはあんたらを殺さずに、牢獄へと送ってくれと、毎日毎日、必死にプレイヤーに頼んでいたんだ。あんたらにその人の気持ちが分かるか・・・?」

 

「解らないわよ」

 

ロザリアの返答にキリトやブレイドは一瞬だけ眉を顰めた。

 

「マジになって、馬ッ鹿じゃないの?この世界で死んだから、現実でも死ぬなんて証拠ないし。そんなんで現実に戻って罪になる訳ないじゃん」

 

ロザリアがそう言った時、笑い声が聞こえた。

 

「ふっ、ふはははは・・・」

 

「ブ、ブレイド?」

 

「ブレイドさん?」

 

「ははは・・・いやぁ、すまない。思わず笑ってしまったよ」

 

「な、何によ・・・」

 

普段笑わないブレイドにキリトや、シリカも少しばかりの恐怖が芽生えていた。

 

「いや、お前がそれほど低脳な女だとはね」

 

「てっ、低脳ですって!?」

 

ロザリアは顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。だが、ブレイドはそんな彼女を馬鹿にするように淡々と答えた。

 

「だってそうじゃないか、貴方方は盗みや殺人を行っている。子供でもやっては行けない事だとわかる事じゃないか。そう言うのは普通、親から学んでいる事じゃないのか?」

 

「っーーーー!!!!アンタたち!!このクズを八つ裂きにしろ!!苦しめてから殺せ!!!」 

 

そう言い、ロザリアがそう叫ぶとオレンジカーソルのプレイヤーが十数人ほど出てきた。

 

「こ、こんなに・・・!」

 

「ざっと十数人ってとこか・・・」

 

「これなら・・・」

 

ブレイドとキリトはシリカを守るように前後に分かれて立っていた。

 

「さて、かかってくると良い。格下相手にしか威張れない小さな脳みそを回転させてね」

 

「っ!舐めるなぁ!!!!」

 

あからさまな煽りである事はわかるはずなのだが・・・。ブレイドの言った通り、こいつらは脳みそが小さいのだろうか?

そんなことを考えながらキリトは複数のプレイヤーから斬られていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ふむ、ダメージ総量は700程か・・・頑張った方じゃないか。伊達に略奪をして来ただけはある」

 

「何故だ!なぜHPが減らない!?」

 

「そんなこと、教える必要もない。その小さなお頭で考えてみるんだな。何、考える時間はこれからたっぷりある」

 

そう言うとブレイドとキリトはほぼ同タイミングで持っていたピックを犯罪者達に投擲スキルで投げた。

投げられたピックは犯罪者達に刺さると一気に地面に倒れてしまった。

 

「こ、これは・・・」

 

「麻痺毒。それもキツいやつだ。しばらくは動けないだろう」

 

「っ!思い出した・・・!その特徴的な赤い装備・・・まさか赤い雷鳴・・・!!」

 

「ほう、知っていたのか。なかなか博識なやつが居たものだ」

 

そう言い、ブレイドは倒れたプレイヤー達を一箇所にまとめると縄で三人一組で縛っていた。

 

「さて、あちらも終わったようだな」

 

そう言ってブレイドはロザリアの首元に剣を添えているキリトを見ながら犯罪者達が使っていた武器を回収していた。

 

「さて、貴方たちののボスは降伏したみたいだ。このまま牢屋に送ってあげるさ」

 

そう言うブレイドの表情はとても邪悪に満ちた恐ろしい笑みをしており、犯罪者たちはその顔に恐怖していた。

キリトが展開した回廊結晶に犯罪者たちを放り込んだ後、二人してシリカに謝っていた。

 

「すまない、君に迷惑をかけてしまって」

 

「い、いえ・・・」

 

「これ、慰謝料だと思ってくれ。こんなもので済まないが・・・」

 

そう言ってブレイドとキリトはシリカにアイテムトレードでさっき回収した盗賊集団の武器を全てシリカに渡していた。

 

「これは・・・」

 

「街で売れば結構な額になるだろう」

 

「え、でも申し訳ないですよ・・・こんなに一杯・・・助けられたのは私ですし・・・」

 

そう言ってシリカが返そうとしたが。ブレイドがそれを止めていた。

 

「良いんだ、自分たちは君の友人を見れれば・・・それで十分だ」

 

「そうだな。俺も君の友人を見てみたい」

 

「あっ!はい!分かりました!」

 

「じゃあ、街に戻ろうか・・・」

 

「はい」

 

そして一行は街に戻り、宿屋の部屋に入るとシリカは早速手に入れた《プネウマの花》を使ってフェザーリドラのピナを蘇らせていた。ピナは不思議そうに二人を眺めるとキリトの肩に乗っかり二人にお辞儀していた。

 

「お礼?」

 

「そうかもな」

 

その姿にキリト達は微笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピナの復活を見届けたブレイド達は転移門の前に立っていた。

 

「それじゃ、また会いましょう」

 

「キリトさん。ブレイドさん。色々有難うございました」

 

「こっちも面白いものを見させてもらいましたよ」

 

そう言うとシリカとキリト達は別れを言った。

 

「キリト」

 

「ああ、行くか・・・」

 

「自分達の仕事場に・・・」

 

「「転移!」」

 

二人はそう唱えると現在本拠地にしている五十層に向かった。



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#6 討伐

「(まさか本格的に討伐作戦が行われるなんてな・・・)」

 

赤い装備に身を包んだブレイドが洞窟近くの木の上で隠れて様子を見ていた。

事の発端は今年の年明けに起こったあるギルドが壊滅した事である。ギルドが壊滅するのはたまにある事だったが、今回はその壊滅させたのがプレイヤーによるものだと言う事だ。

 

『笑う棺桶』

 

彼等は殺人者集団である事を自称しているイカれた連中である。話を聞いた当時から彼らを追っているが、アルゴですらなかなか彼らの情報を完全に把握できていなかった。

だがこの前、ついにアルゴが『ラフコフ』に関する情報を掴んだと言う。

自分は一人でアルゴの指定した場所に向かった。

 

「ブレ坊一人なのカ?」

 

「ああ、後で自分から情報を渡すつもりだ」

 

「そうカ・・・ま、取り敢えずこれが情報だ。お代はいらない」

 

「良いのか?」

 

「何だか自分に飛び火して来そうだからナ。まだ死にたくないのサ」

 

そう言って渡された紙をブレイドは読んでいた。

 

「総人数三十四人。幹部はポンチョを着たリーダーの《PoH》、刺剣使いの《赤眼のザザ》、毒ナイフ使いの《ジョニー・ブラック》か・・・」

 

「奴らの拠点は四十二層の結晶の洞窟ダ。奴らは拠点を作るために二日、三日は動かナイ。狙うなら今ダナ」

 

「そうですか・・・この事は・・・もう伝えてアル」

 

「そうですか・・・じゃあ、そろそろ会議でもあるでしょうね」

 

そう言うとちょうどアスナから招集のメッセージが届いた。

 

「おっと、噂をすれば」

 

「気をつけろヨ。奴らは滅法強い」

 

「・・・臨むところだ」

 

そう言い残すとブレイドは席を立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上で『ラフコフ』討伐会議を終えます。各自できる限りの準備をしておいてください」

 

アスナの号令で各々退散する中、ブレイドはキリトとアスナを捕まえていた。

 

「ちょっと、二人とも来てくれ」

 

「え?」

 

「どうした」

 

そして二人を人気のない場所に連れ込むとブレイドは二人に話した。

 

「私は今から結晶の洞窟に向かう」

 

「なっ!」

 

「ブレイドさん。それはいくら何でも危険よ」

 

アスナが驚きながら真剣な眼差しで忠告をしていた。だが、ブレイドは意見を曲げなかった

 

「分かっている。だが、『ラフコフ』は手強い。特にリーダーのPoHは別格だ」

 

「お前・・・PoHに会ったことあるのか?」

 

「ある。それに・・・実際に戦った」

 

「「っ!」」

 

ブレイドからの衝撃の発言にキリト達は驚いていた。

 

「巧妙な手で逃げられた。他の幹部も・・・おそらく似たような実力だろう」

 

「だったら尚更・・・「アスナ、敵はどこにでもいると思え」っ!」

 

ブレイドはアスナの目だけを見続けると訳を話した。

 

「おそらく『ラフコフ』は攻略組の中にスパイを放っている・・・」

 

「・・・ブレイド、根拠は?」

 

キリトが恐る恐る聞くとブレイドはこう答えた。

 

「PoHは慎重な性格をしている。第一、自ら殺人者ギルドといういかれた組織を立ち上げている。そんな事をすればほぼ確実に懲罰対象になる事は分かりきっている。だから、自分達がいつ懲罰されるか把握する必要がある」

 

「・・・そこでスパイを放ったと?」

 

「そうだ、SAOの中で実力も高い攻略組が自分達を懲罰すると見込んでいるはずだ。だとすれば攻略組の中にスパイを送り込み、情報を共有させる」

 

ブレイドの言葉にアスナ達が唾を飲み込んで額から汗が流れた。

 

「そんな・・・」

 

「ブレイドの考えている事は恐ろしいな・・・」

 

アスナやキリトは驚愕すると、アスナがブレイドに聞いた。

 

「でも、どうするの?私、予定を決めちゃったよ・・・」

 

「そこは問題ない。ラフコフは恐らく攻略組が懲罰するという事は自前の武器で戦ってくると予測するだろう。だったらいつもとは違う方法で戦えば良い」

 

そう言ってブレイドはストレージからあるアイテムを取り出した。

 

「これは・・・何だ?」

 

「『スプラッシュポーション』・・・精錬スキルで習得できる物だ。まあ、これは使い道がなくてほぼ死にステとなっているがな」

 

「・・・どんな物なの?」

 

アスナの疑問にブレイドは淡々と説明をした。

 

「このスプラッシュポーションは投げた先の広範囲でポーションの中身を空間上に広げる。ただし、投げるとポーションの中身の効果が普通に飲む時の半分以下になる」

 

「あぁ・・・成程、それは死にステになる訳だ」

 

キリトは納得をしていた。今ブレイドが持っているスプラッシュポーションよりも普通のポーションの方が効率が良いという事だ。スプラッシュポーション二個と通常のポーション一個が同じという事は通常のポーション一個を飲み干した方が効率がいいという事だ。

ポーションを一個作るのにも材料がかかる為こっちの方が効率がいいのは理解できた。

 

「それで、そのスプラッシュポーションをどうやって使うの?」

 

アスナはスプラッシュポーションを理解した上でブレイドに聞いた。

 

「これはあまり知られていない事だが・・・このポーションは効果を上乗せできる」

 

「上乗せ?」

 

「そうだ、簡単に言えば投げた分だけ、効果が倍増するという事だ」

 

「それ強くないか!?」

 

キリトが驚きながらブレイドに言うもブレイドは首を横に振った。

 

「いや、これを作るのに通常のポーションと同じ材料を必要とする。おまけにスプラッシュポーションは一人六個までしか持てない」

 

「所有制限があるのか・・・」

 

キリトが興味深そうにスプラッシュポーションを見ると、思い出したかのようにブレイドに言った。

 

「と言うかブレイド、お前精錬スキルなんてのやってたのかよ・・・」

 

「何か?」

 

「いやぁ・・・正直あれやるとは思わなくてな・・・」

 

そう言うとブレイドはスプラッシュポーションをしまった。キリトが苦笑するのもご尤もな話で、精錬スキルはポーションを製作することができるスキルなのだが、正直ポーションを作るよりも買った方が早い為、鍛える人が少ないのだ。

 

「ポーションを作るのは面白いからな。よく作って遊んでいたんだ。おまけにダンジョンで手に入れたものを使えばその分高く売れる」

 

「へぇ〜」

 

キリトが関心したように頷いているとブレイドはキリト達に聞いた。

 

「さて、ここからが本題だ。私の考えた作戦がある。協力してくれるか?」

 

((コクッ))

 

「分かった・・・。では、作戦を話そう」

 

そうしてブレイドから語られた作戦にキリト達は納得して賛同をした。

 

「・・・これが考えた作戦だ。協力してくれるか?」

 

「ああ、協力する」

 

「私は何をすれば良いの?」

 

アスナも賛同したと認識するとブレイドは二人に頼み事をした。

 

「キリトは信頼できる仲間を数人探してくれ。もちろん、怪しい奴がいたら警戒。アスナは材料集めを頼む。ギルドの倉庫から適当に理由をつけて材料を持ってきてくれ。スプラッシュポーションはスキルを持っていなければ作れないからな」

 

「ブレイドはどうするんだ?」

 

「私は今から偵察に行ってくる」

 

「大丈夫なのか?」

 

「行って戻ってくるだけだ。戻ってきたらスプラッシュポーションをできるだけ作る。二人とも、頼んだぞ。この事は他言無用で頼む」

 

「おう!」

 

「ええ」

 

そう言うとブレイドは目にも止まらぬ速さで街を駆け出した。

 

「しかし、ブレイドはよくあんな作戦を思いついたな・・・」

 

キリトはそんな事を呟きながらクラインや風林火山のメンバー、エギルに声をかけていた。

 

「(ブレイドさんはよく考えましたね・・・これなら犠牲者がなくて済みそうです)」

 

アスナもギルドの倉庫からスプラッシュポーションの作成に必要な材料を回収していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街から飛び出し、結晶の洞窟近くの森に隠れているブレイドは偵察をしていた。

 

「(洞窟に特に異変はなし・・・か)」

 

偵察を初めて数時間、特に動きのない洞窟を確認していた。

 

「(そろそろキリト達が集めた頃だろう・・・戻るか)」

 

ブレイドは偵察を終えると足速に街に戻っていった。

街に戻るとアスナから材料を、キリトは協力してくれる人を教えてくれた。

 

「分かった。キリト、その協力してくれる人たちに計画は話したか?」

 

「ああ、承諾してくれたぞ」

 

「分かった。それじゃあ、スプラッシュポーションを作る。それを配ってきてくれ」

 

「ああ、任せろ」

 

そう言うとブレイドとキリトは作ったスプラッシュポーションをクライン達に配るために走り回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

討伐当日、五十人ほど集まった討伐隊は結晶の洞窟の入り口で立ち止まった。

 

「全員ここで止まってください」

 

アスナの号令で討伐隊が洞窟の前で立ち止まった。

一体何事かと討伐隊が思っているとアスナを筆頭に風林火山のメンバー、エギル、ブレイドやキリトが前に歩き出すとアスナが号令を飛ばした。

 

「全員投擲!」

 

号令と共に洞窟内に麻痺毒の入ったスプラッシュポーションが投げ入れられ、洞窟内に麻痺毒が充満した。

計画にない行動で全員が困惑をしていると洞窟から何人かのプレイヤーが慌てた様子で飛び出してきた。

飛び出してきたプレイヤーは直ちに捕らえられ、牢獄に送られた。

 

「やはり、知られていたか・・・」

 

ブレイドはスプラッシュポーションを全て投げ切り、麻痺毒の霧が消えたのを確認すると討伐隊は本格的に洞窟内に突入した。

途中、麻痺で動けなくなっていたラフコフのメンバーを捕らえ、討伐隊の緊張は少しだけ解れていた。

しかし、洞窟の奥に入った時。結晶の裏からプレイヤーが飛び出してきた。

 

「かかれぇぇぇぇーーーー!!」

 

「「うおおぉぉぉおおお!!」」

 

「ラフコフが来たぞ!!」

 

「構えろ!」

 

初手のスプラッシュポーションでかなり麻痺をしていると思っていたが案外残っていた事にブレイドは歯噛みをするとパランジャを抜き取り応戦をした。

手始めに目の前に迫る殺人者の武器を破壊し、腕を切り落とし、投擲スキルで麻痺毒のついたピックを突き刺し、地面に叩きつけた。

さらに背後から切り掛かってきた殺人者をパランジャの一振りで両腕を切り取った。

 

「(この感覚・・・)」

 

ブレイドはパランジャを振り回しながら過去の感覚を思い出していた。

自分がまだアメリカに住んでいた頃、家に襲撃してきた強盗を持っていた薪割り用の斧で殺してしまった。その時の感覚に似ていた。

 

「(いかんな・・・このままでは・・・)」

 

ブレイドはパランジャを手に持ち、それを殺人者の腹に刺した。みるみる体力が減っていき、ついに相手はポリゴン片へと姿を変えた。

 

「(もう死ぬか生きるかだ・・・やるしかない)」

 

ブレイドは完全に混戦と化している戦場をパランジャと共に掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはまるで戦場をかける雷のようであった。

混戦となった戦場を真鍮色の剣とブレイドがラフコフのメンバーを的確に刺していた。

その目は無機質で、非情で、虚な灰色の目をしていた。

キリトは友人のその姿に畏怖の念を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、戦闘は終わった。結果はラフィンコフィンの壊滅。

拘束したのは二十名、残りの十四人は今回の戦闘で死亡した。

対して討伐隊の被害はゼロ、この結果になったのは十中八九ブレイドのおかげだろう。彼が戦場を駆け回り、彼らの注意を引いていたからだ。

戦闘が終わり、キリトはブレイドにお礼をしたいと思い彼を探したが、その日ブレイドを見つける事はできなかった。



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#7 記憶

『ラフコフ』討伐を終えた自分は自身の家であるアルゲードの宿屋にいた。

そこでブレイドは目を閉じて過去の記憶を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界の赤羽修也の家庭環境は特殊だった。

 

父親は国会議員、母はモデルとして名を馳せるそこそこの有名人だった。

周りの親戚も優秀な人が多く、公務員や大企業の重役など様々だった。

そんな親戚の中でも特に自分は優秀とされ、幼い頃に英才教育の為にアメリカに飛ばされた。

そして、アメリカに留学をした自分はアメリカの教育を受けて育っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12歳の時の冬。雪が降る中、家にいた自分は誘拐犯に襲われた。狙いは身代金と考えられている。

考えられていると言うのは誘拐犯が片方は死亡、もう片方は捕まらなかったからだ。

その時、家にいた護衛兼シッターがその強盗に容赦なく射殺されていた。

その様子を目の前で見た自分は錯乱したのだろう、銃を持つ強盗相手に家にあった薪割り用の斧で入ってきた強盗の一人の頭をかち割ったのだ。

強盗犯は二人いたが、片方は頭から斧が刺さった仲間を見て逃亡していた。

この事件の後。日本から飛んできた母と、この時初めて出会った祖父が自分を日本に連れて帰った。

その時、両親や祖父はただ泣きながら謝っていたことだけは覚えている。

正直ここら辺の話はいまだに実感が湧かず、夢ではないのかと思ってしまう時が多々あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日本に帰った後、自分は祖父の家がある青森のある街で暮らし始めた。

通っていた中学校からは帰国子女という事で周りからは珍しがられ、学校終わりによく色々な場所に連れ出された。

だが、それがとても楽しかった。アメリカでは味合わなかった年相応の楽しさと言うものがそこにあった。

特に好きだったのが街にあった本屋だった。こじんまりとした佇まいで、意外にもいろんなジャンルの本があり、毎日通っていたと言っていいだろう。その本屋に通うのが日課になっていた13歳の時、二度目の事件に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その年の九月、祖父の頼みで荷物の受け取りのために郵便局に来ていた自分はそこで強盗にあった。

アメリカでは馴染みのあった拳銃は日本人には刺激が強かったのだろう。悲鳴を上げることもできずに怯えている職員や客。黒星・五四式を片手に銃口を突きつける強盗は手が震えていた。

その時の自分は警察がいつ来るのだろうかと言う気持ちで、そこに恐怖心はなかった。だが、強盗の黒星・五四式を客にいた少女が奪った事には流石に肝が冷え、咄嗟に少女の手にある拳銃を抜き取ろうとしたが・・・

 

パァン!

 

少女は引き金を引いてしまい、一発だけ弾丸が放たれてしまった。

だが、その後直ぐにスライドを力強く握った為に少女が二発目を放つ事はなく、少女から少し無理やり拳銃を抜き取り、強盗に向けて拳銃を構えた。

強盗はまだ息があり、隠していたナイフで少女を殺そうとしていた為、咄嗟にナイフを持っていた右腕を撃ち抜き、次に残っていた左腕と両脚を撃ち抜いた。

それから警察がやって来て事情を話すと正当防衛が認められると言われ、祖父が飛んで来ると自分はそのまま祖父の自宅に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは忙しかった。日本でも事件に巻き込まれた事からほとぼりが冷めるまでまた、アメリカに飛ばされた。

祖父達は猛反対だったらしいが、親戚が何から何まで既に決めてしまっていたらしい。

今度は前よりも警備が厳重なマンションで暮らしていた。

そして、またもやアメリカの学校に通う事になり16歳の時にやっと日本に帰って来た・・・そんな矢先に自分はSAOに関わる事件に巻き込まれた。

 

「今考えたら忙しい事この上ないな・・・」

 

ブレイドはそうつぶやくと乾いた笑いと共にさっきの剣の感触を思い出していた。

 

「(あの時、私は何人を斬ったのだろうか・・・)」

 

その感触は夢中になって斧を振った時と似ていた気がした。

 

「これで、私は殺戮者・・・だが、相手も同数以上の人を殺して来た・・・その中にはこれで報われる人もいるんだろう・・・。だが・・・」

 

ここから始まる負の連鎖はどこまで続くのだろうか・・・

 

ブレイドはそんなことを考えていた。ゲームがクリアされた後もSAOは良い方にも悪い方にも動くだろう。茅場晶彦はゲームクリア後はどうするのだろうか。

そんなことをいつの間にか考えていた。

結局この日は寝付くことなくずっとそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Side:キリト〜

 

あの日からブレイドは攻略組に来なくなった。

無理もないだろう・・・。あんな事があったのだ。ブレイドも心身ともに疲れたのだろう・・・そんな事を考えていた。アスナも同じ事を考え、ブレイドに積極的に攻略組に参加を強制させるような事はしなかった。

だが、七十三層になってそうも言っていられなくなってくる状況が来た。

今回のボス戦で死者が出かけたのだ。流石に他の攻略組メンバーからも彼を連れて来てほしいと言う声が高まり、俺とアスナは彼を攻略組に参加させる事を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイドを探すと言ってもこれは困難な話だ。探索ログを使っても彼の姿は移動しており、後を追うのは至難の業だった。探索ログを追ってもブレイドはそこに居らず、次の場所に移動していた。そんなことの繰り返しであった。メッセージの返信もなく、直接会うしか方法はなかった。

 

「流石は・・・赤い雷鳴だな・・・」

 

「そうね・・・追いかけるだけでこんなに疲れるなんて・・・・」

 

キリトとアスナは四十八層のリンダースで息を切らしていた。かれこれ数時間彼を追っているが一向に見つかる気配はなかった。

 

「ちょっと、リズの店があるからそこで休憩しましょ・・・」

 

「そうだな・・・疲れたぁ〜」

 

そう言ってキリトはクタクタになった体に鞭を打ってリズベット武具店に足を踏み入れた。

 

「いらっしゃ・・・ってアスナ!?」

 

「リズ〜お邪魔するわね〜」

 

アスナはそう言って店の椅子に座り込むとキリトも同様に隣の席に座っていた。

 

「で?そんなに疲れて何があったのよ」

 

リズベットはこう声をかけるとキリトは事情を説明していた。

 

「いやあ、ブレイド探し回ってたら・・・全然見つからなくって・・・リズベット。あいつの居場所分からないか?」

 

キリトにそう言われ、リズベットは

 

「ああ、あの人ならそろそろ来るんじゃない?」

 

「「え?」」

 

思わずキリトとアスナはリズベットの方を見て変な声が出てしまった。するとリズベットはその理由を話した。

 

「さっき連絡があったのよ。剣を研いで欲しいって。だからそろそろ・・・」

 

カランカラン

 

そう言うと店にワインレッドやローズピンクの色の装備と服を着た特徴的なプレイヤーが入ってきた。

 

「いらっしゃいブレイドさん」

 

「ああ、今日も頼むよ・・・おや、キリト達じゃないか。こんな所で会うとはな」

 

ブレイドは呑気にキリト達に話しかけ、パランジャをリズベットに渡した。

 

「じゃあ、ちょっと待ってて。キリト達、何か話したい事があるみたいだし」

 

「そうか」

 

そしてリズベットがパランジャを持って店の奥の工房に入るとブレイドはキリト達の方を向いた。

 

「で、私に何か用かい?」

 

「あ、ああ・・・ブレイドに攻略組に帰ってきて欲しいと思ってな・・・」

 

そう言うとキリトはブレイドにその理由を話すとブレイドは驚いた様子を見せていた。

 

「もう七十四層についたのか・・・少し遊びすぎてたようだ。分かった、次回の攻略では私も参加しよう」

 

「本当か!?」

 

あっさり受け入れた事にキリト達は拍子抜けと言った様子だったが、嬉しそうでもあった。

 

「ああ、最前線がそんなに進んでいたとは思わなくてな。サボっていた私も悪かったよ」

 

そんな事はないと思っていた。少なくともキリトはブレイドの表情がどこか苦い物を食べたような微妙な表情を浮かべていたように見えた。

普段からあまり感情を表に出さないブレイドがこんな表情になるとは・・・あれから二ヶ月、彼はあの時の事を引きずっているのかと思うと心が痛かった。

すると工房からリズベットがパランジャを持って戻って来た。

 

「お待たせ。仕上がりはバッチリよ」

 

「ああ、感謝する」

 

そう言ってブレイドはリズベットにコルを渡すとリズベットがブレイドに聞いた。

 

「そういえば前から聞きたかったんだ。ブレイドさんってどうして『赤い雷鳴』なんて言われているの?」

 

「ああ、それは・・・「この人の闘い方がおかしいからよ」・・・」

 

ブレイドとリズベットの間にアスナが入って来た。

 

「おかしい・・・?」

 

「ええ、そうよ。ブレイドさんは五十五層の時のボス攻略の時に馬鹿みたいな事をしていたんだから」

 

「どんな事したの?」

 

「ボスは四足歩行の狼みたいなモンスターだったんだけど、そのモンスターの足の爪の攻撃を剣で受け止めたのよ」

 

「どうやって・・・?」

 

「両手の刃を持って野球のバントみたいにしていた。その後は剣を思い切り振ってボスの爪を砕いた」

 

「砕いた!?」

 

リズベットが驚くのも無理はない、ボスの攻撃武器を破壊するのはそれこそキリトの持つエリュシデータや、自分が打ったダークリパルサーくらいのレベルじゃないとほぼ不可能に近いからだ。

 

「しかもその時ブレイドさんは今の剣を持っていなかった」

 

「嘘でしょ!?」

 

「嘘だと願いたいさ。で、その時爪を砕いて、ボスに攻撃をしていた時。ものすごい高速で移動して、ボスの死角から攻撃をする時の音が雷が落ちた時のようだったから『赤い雷鳴』なんて言われているんだ」

 

「へぇ〜、キリトもなかなかの規格外だと思っていたけど・・・。あなたも大概なのね」

 

「本当、ブレイドさんには色々勝てない気がします」

 

「・・・」

 

みせにいた三人になんとも言えない奇妙な目で見られたブレイドはパランジャを腰につけると店を後にしようとした。

 

「・・・こうなるんだったら攻略組に参加しないほうがよかったか?」

 

「「「!?」」」

 

「冗談だ。私だって現実世界に戻りたいさ」

 

じゃあ、また攻略会議でと言い残してブレイドは店を後にした。

三人は現実世界に戻りたいと言ったブレイドの気持ちに同じ思いを抱いていた。



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#8 接近

二〇二四年 十月十八日 五十層 エギルの店

 

ブレイドはいつも通りダンジョンに潜ってそこで得たアイテムをエギルに売りに来ていた。

 

「200コル」

 

「いいや、150コル」

 

「これだけは譲れん」

 

「こっちだってそうさ」

 

ブレイドとエギルは値段交渉で若干揉めていた。

するとそこに来客があった。

 

「よ、また値段交渉で揉めているのか?」

 

「キリトか・・・」

 

「何しに来たんだ?」

 

「これを見せに来たんだ」

 

そう言ってキリトが見せたアイテムにエギルは驚いていた。

 

「これは・・・!『ラグー・ラビットの肉』!?S級食材じゃねえか!?」

 

「(ほう、キリトも見つけたのか・・・)」

 

ブレイドはそんな事を思いながら驚いた様子のエギルと相談しているキリトを眺めていた。

するとキリトがブレイドの方を見てある事を思い出していた。

 

「そういやぁブレイドって確か料理スキル育ててたよな」

 

「ああ、ほとんど習得してあるぞ」

 

「本当か!?じゃあ「男に料理を振る舞う趣味はない」だよなぁ・・・」

 

そう言ってキリトは萎えていた。ブレイドは二十二層に買った森の中のコテージをホームとしており、そこで採ってきた食材を加工して料理にしていた。その影響で、料理スキルが育っていたのだ。

因みに、コテージを買った事は誰にも話していない。

理由としては一人でコテージのベランダで風の音や小川の流れる水の音、木の葉が擦れる音を聞きながら料理を嗜むのが最近のお気に入りだからである。

娯楽が少ないこの世界での料理は彼にとって楽しみの一つであった。

その為、彼のストレージには数多くの食材が溜まっている。

食材だけは絶対に売る事はなく、攻略や特に用事のない日は料理をしてコテージから景色を眺めながらシードル(みたいなもの)をグラスに注ぐ。

ここはゲーム内。本当は酒を飲める歳ではないのだがこうして酒を飲むことができる。

アメリカにいた頃に一度だけウィスキーを試しに飲んだが、苦くてとても飲めたものじゃなかったが・・・歳をとったのだろうか。ここ最近、酒を美味しく感じるようになってきていた。

そんな事を思っているとエギルの店に白い服が特徴のアスナが見知らぬ人を連れて店にやって来た。

 

「シェフ捕獲」

 

「へ?」

 

いきなり肩を掴まれ、アスナは変な声が出てしまっていた。

するとキリトがアスナに料理スキルの修得状況を聞き、彼女が完全修得したと言うとキリトはアスナにストレージ欄を見せていた。

 

「これって・・・!!《ラグー・ラビットの肉》!?S級のレア食材じゃない!」

 

「取引だ。こいつを料理したら一口「は・ん・ぶ・ん!!」・・・分かったよ・・・」

 

交渉がまとまるとキリトはエギルの方をくるりと向いた。

 

「じゃあそう言う事でエギル。取引は中止だ」

 

「なあキリト・・・俺たち友達だよな・・・一口ぐらい味見を・・・」

 

「感想文を800字以内で書いてやる」

 

「そ、そりゃあないだろう・・・」

 

そう言うとキリトは店を後にした。ブレイドはアスナの背後に居る護衛が、キリトのことを睨みつけていたのを見て一種の危機感を感じていた。

そして自分も店を出るとホームである二十二層のコテージに戻った。

コテージは広々とした内装で、中には本とランプ、ベットしかない質素な内装だった。

 

「さて、今日の夕食は何にしようか」

 

そう呟きながらブレイドはアイテム欄から《ラグー・ラビットの肉》を取り出した。

 

「前はシチューだったからな。今回はフランベでさっと焼くか」

 

ブレイドはアイテム欄に残っている《ラグー・ラビットの肉》を見て心の中で愉悦感に浸っていた。

 

「(まさか《ラグー・ラビットの肉》のよくいる狩場を見つけたなんて言えないよなぁ〜♪)」

 

ブレイドはそんな事を思いながらフランベをするとベランダに出した机の上に作った料理を並べて、薄暗いランプを付け、月を眺めながら今日のメニュー『ラグー・ラビットのフランベ』を嗜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ブレイドは七十四層の迷宮区にいた。目的は迷宮区のマッピングとボス部屋の捜索である。

 

「大体八割方マッピングしたから・・・ん?あれは・・・」

 

ブレイドの視線の先には見たことある二人組が通路を歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトと二人で迷宮区を探索しているアスナはボス部屋の前に辿り着いていた。

 

「ねぇ、キリトくん・・・開けてみる?」

 

「あぁ、《転移結晶》を持てば・・・」

 

『動くな』

 

「「!?」」

 

咄嗟に剣を構えながら振り向くと、そこには赤い装備に身を包んだブレイドが立っていた。

 

「なんだ、ブレイドだったか・・・」

 

「驚いたかな?」

 

「ビックリしたわよ!」

 

「その反応だけで十分だな」

 

ブレイドはそう言うとキリトに向かって聞いた。

 

「今からボス討伐か?」

 

「いや、覗き見だけだ。ブレイドも来るか?」

 

「そうだな・・・せっかくだから参加させてもらおう」

 

そう言うとブレイドが先導して扉を開く。

少し足を踏み入れると、脇から青い炎が走りボス部屋の中が露わになる。

中央にいたのは悪魔だった。人型をしているがその頭は山羊のそれで、脚にも毛が生えており山羊のようだった。人間らしさを残した上半身含め全身が青く、その眼も青かった。名は《ザ・グリーム・アイズ》。持っている武器はーー

 

『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

「(なるほど、大剣か・・・)」

 

「わぁぁぁぁぁああああ!!!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

「はぁっ!?」

 

悲鳴を上げながら颯爽と逃げたキリト達にブレイドが唖然としていると

 

『グルルルルル・・・』

 

「・・・」パタンッ

 

逃げよう。

そう思ってからの行動は早かった。スキルを最大限使って迷宮区の安全地帯まで走っていた。

安全圏内ではキリト達が先に息を切らして地べたに座っていた。

 

「随分と焦っていたな・・・」

 

「いやぁ、あれで平然としていられるお前が可笑しいわ!」

 

「でも、あれは苦労しそうね・・・」

 

「そうだな。相手は両手大剣を持っていた。盾装備の兵が十人ほどは欲しいな」

 

「あの一瞬でそこまで見ていたのかよ・・・」

 

「流石はブレイドさんね・・・」

 

そう言うとアスナは盾という言葉からキリトに思わず聞いていた。

 

「ねえキリト君。片手剣って盾持てるのが利点なのにキリト君が盾を持っているところを見た事がない。私は速度が落ちるからだけど・・・」

 

「アスナ、そう言うのはマナー違反だ。人のことを詮索しすぎるのは嫌われるぞ」

 

「あ、そうだね。ごめん・・・」

 

そういうとアスナは食事と言ってサンドイッチを取り出し、それをキリトに渡していた。

かくいう自分もおにぎり(青白い)と漬物(のようなもの)を取り出すとアスナが興味深そうに漬物モドキを見ていた。

 

「ねえブレイドさん。それ何?」

 

「これか?食べてみるか?」

 

そう言ってアスナに漬物モドキを食べると目を輝かせて驚いていた。

 

「これは・・・沢庵!」

 

「赤いがな」

 

「何!?じゃあこっちは・・・柴漬け!?」

 

「青色だがな」

 

赤色の沢庵と青色の柴漬けを食べて二人が感動をしているとアスナが真剣な目でブレイドに聞いた。

 

「ブレイド、この漬け物の作り方教えて。代わりに私からこれの使い方を教えるから!!」

 

そう言ってアスナが見せた紫色と黄緑色の液体を舐めた。さんをつけ忘れるほどに興奮していた。

 

「マヨネーズと醤油か・・・これなら食のバリエーションが増えるな。いいだろう、交渉成立だ。これなら他のものを教えてもいいだろう」

 

「やった!」

 

アスナが喜ぶ横でキリトが呆れたような目で見ていた。

 

「と言うか他ののも作ったのかよ・・・」

 

「まあ、主に和食を真似ているよ・・・。試しに鮒寿司作った時は匂いで死ぬかと思った・・・」

 

「お、おう・・・ソウカ・・・」

 

どこか遠い目をしていたブレイドにキリトは若干引いてしまっていた。

そして食事を終えた頃、やって来た気配に一瞬だけ警戒をするも、その姿を見たキリト達は安心していた。

 

「おお、キリトにブレイド!しばらくだな!」

 

「久しぶりだな、クライン」

 

キリト達が再会したのはギルド『風林火山』のリーダー、クラインであった。クラインの後ろにはメンバーだろう、クラインと同じ赤を基調とした装備をしているプレイヤーがいた。

 

「元気そうでよかった。ん?後ろにいるの・・・は・・・?」

 

「あー、ボス戦で顔合わせしてると思うけど、一応紹介しとくよ・・・

こいつはギルド〈風林火山〉のクライン。で、こっちは『血盟騎士団』のアスナだ」

 

そう言いアスナが小さくお辞儀したが、クラインは固まったままフリーズしていた。

 

「(あ、これは・・・)」

 

「は、初めまして!クライン、24歳独身です!」

 

「おいおい・・・」

 

ブレイドの呆れた声とほぼ同じタイミングでキリトに軽く腹を殴られ、ゲホゲホしていた。

 

「何やってんだか・・・」

 

そう言って横で呆れていると索敵スキルに反応があった。

 

「っ!誰か来る!」

 

そう叫ぶと同時にアスナも口を開いた。

 

「あれは・・・『軍』だわ!」

 

そこには深緑色の重装備を身につけ二列縦隊で安全エリアまで歩いて来た、本来は下層を根城にしているはずの『アインクラッド解放軍』だった。

 

「(『軍』が何でわざわざ最前線まで・・・)」

 

ブレイドは明らかに疲労している様子のプレイヤーを見ながらそんな事を思っているとおそらくは隊長だろう、装備が一番整っている人物が声をかけてきた。

 

「私はアインクラッド解放軍、コーバッツ中佐だ」

 

「キリト、ソロだ」

 

「(偉そうなもんだ。それに・・・頭が硬そうだな)」

 

ブレイドはそんな事を思いながらコーバッツを観察していると、彼はとんでもない事を言い出した。

 

「君たちは、もうこの先も攻略しているのか?」

 

「ああ・・・ボス部屋までのマッピングはもう終わってるよ」

 

「ふむ・・・・・では、そのマッピングデータを提供してもらいたい」

 

「「「!?」」」

 

「(やはりか・・・)」

 

ある意味予想通りの展開にブレイドは内心呆れていた。

 

「な・・・て・・・提供しろだと!?手前ぇ、マッピングの苦労がわかってんのか!?」

 

「我々は君ら一般プレイヤーの解放のために戦っている!よって、諸君が協力するのは当然の義務である!」

 

「貴方ねぇ・・・!」

 

アスナが反論し、クラインが刀を手に掛けていたが、キリトが手で制すると

 

「どうせ、街に戻ったら公開しようと思ってたデータだ。構わないさ」

 

そう言うと一瞬だけキリトが自分の方を向いた。おそらくマッピングの話だろう。早朝から潜っていた自分はマッピングを全て終わらせていた。そのことも考えているのだろうと思い、キリトに向かって小さく頷いた。

キリトはコーバッツに情報を渡すと

 

「協力感謝する」

 

それだけ言って、背を向けた。その背中に向けて、キリトが忠告した。

 

「ボスにちょっかいかけるなら、止めておいた方がいいぜ」

 

「それは私が判断する」

 

「何だと・・・!?」

 

流石にこれに関しては驚いてしまい、思わず声に出てしまった。

明らかに後ろにいる兵士たちは疲弊しており、戦闘が続行できるとは思えない。第一、攻略組に関しては素人にも等しい奴らがいきなりボス相手にどうこうできるはずがない。キリトが忠告するもコーバッツは苛立ったように無理やり兵士を立たせて安全圏を出てしまった。

 

「・・・」

 

ブレイドはコーバッツの焦っているようにも見える表情に若干の懸念を抱きつつ、クライン達と共に行動し始めていた。



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#9 ユニークスキル

軍との揉め事があってから30分が経っただろうか。途中で、リザードマンの集団と鉢合わせ、その処理に思いのほか時間が掛かってしまった。

集団を返り討ちにし、最上階の回廊に到着した時、

 

「わあぁぁぁああああ!!!!」

 

「「「っ!」」」

 

何処かから聞こえる悲鳴に考えるよりも先に足が動いていた。

 

「い、今のって・・・」

 

「チッ、最悪だ・・・」

 

「アスナ、ブレイド。行くぞ!!」

 

「ああ・・・」

 

「お、おい!!」

 

キリトが先行して、最大速度でボス部屋に到着すると、そこには地獄絵図が広がっていた。

 

何人かのプレイヤーのHPゲージがイエローに達しており、それに対しボスの体力は3割も減っていなかった。

ボスは斬馬刀のような武器を持っていた。人数を確認すると2人数が合わなかった。咄嗟にブレイドは叫んでいた。

 

「早く転移しろっ!!」

 

「そ、それが・・・クリスタルが使えないんだ・・・!!」

 

「何っ・・・!!!」

 

部隊の返事に思わず唖然としていると

 

「我々解放軍に撤退の二文字はありえない!戦え!戦うんだ!!」

 

「玉砕する気か!?」

 

そうして、青い悪魔は斬馬刀を振り回し、軍のプレイヤーを襲った。

自分達の目の前に一人のプレイヤー・・・コーバッツが飛んできた。彼は絶望の表情をしたままパリンッ!と言う音と共にポリゴン片となった。

 

「だめ・・・だめ、よ・・・!もう・・・・!」

 

「アスナ・・・・!?」

 

「だめぇぇぇぇ!!!」

 

剣を抜いて出てしまったアスナに続いてブレイドも咄嗟にパランジャを抜いてスキル《迅雷》を発動する。キリトもそれに続いてボス部屋に突入をした。

 

「くそっ、どうにでもなりやがれぇ!」

 

クラインも参加し、偶発的にボス部屋での戦闘が起こってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スキル《迅雷》で急速で接近し、ボスの背中に剣を突き刺してダメージを出してヘイトを向けさせた。アスナは初手の攻撃で体勢を崩し、部屋の壁に体を打ち付けていた。

 

「そうだ・・・やるならこっちを向け」

 

そしてボスの斬馬刀を両手剣で抑える。

 

「クッ・・・・一撃が重い・・・!!」

 

攻撃を抑えている間にクラインは残った軍の部隊をボス部屋の外に退避させた。

大剣は攻撃範囲が広く。なおかつこの部屋に居るメンバーの中でタンク役ができるのは自分しかおらず、よく見れば体力バーも少し減っていた。

攻撃を受けきれていないと判断したのか、キリトが叫んでいた。

 

「ブレイド!アスナ!十秒持たせてくれ!!」

 

「十秒だな。了解!!三十秒持たせてやる!!」

 

「嘘でしょ!?」

 

アスナがそんな軽口を叩きながら攻撃をする。幸い、ボスの斬馬刀は自分が抑えているため、何とかなりそうだった。

所詮相手は()()()()()()AI。スイッチに対応が出来ず、徐々にダメージを与えていた。

そして十秒が経ち、キリトが叫んだ。

 

「スイッチ!」

 

「お土産だ・・・!!」

 

ブレイドは最後にボスの腹にパランジャを刺し、スキル《雷刀》を発動した。明らかに剣幅とは違う大きさの傷跡が《グリームアイズ》の体を貫通、さらに電撃を食らったのか《グリームアイズ》が痺れたように硬直をしていた。

《グリームアイズ》が痺れている隙に急いで後ろに飛ぶとキリトが剣を()()()()して前に出てきた。

 

「(成程・・・二刀流か・・・)」

 

ブレイドは納得をして、初めて見るキリトの技に感心をしているとキリトがソードスキルを発動した。スタンから回復した《グリームアイズ》はキリトを見つめて斬馬刀を振った。

 

「スターバースト・・・・・・・・ストリーム!」

 

合計十六回の剣技が《グリームアイズ》を襲い、何回か攻撃を阻まれるも構わずに攻撃を続けていた。そして・・・

 

パリイィィィインンン!!

 

ボスがいた場所には大きく『Congratulations』と表示されており、それを見た僕とキリトは同時に崩れ落ち、意識を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少ししてキリトの意識が戻った。

 

「いてててて・・・・」

 

「バカっ・・・!無茶して・・・!」

 

アスナに怒られながらキリトは目を覚ますと回復ポーションを飲んで回復をしていた。

そこにクラインが遠慮がちに声をかけていた。

 

「生き残った奴らの回復は済ませた。ただ・・・コーバッツ以外に二人死んだ・・・」

 

「ボスで犠牲者が出たのは六十七層以来だな・・・」

 

「こんなので攻略って言えるかよ・・・!!」

 

吐き出すようにクラインがそう言うと、話題を避けるためかキリトに聞いていた。

 

「そりゃそうと、おめぇらさっきのは何だよ」

 

「――言わなきゃ・・・駄目か?」

 

「ッたりめぇだ!見たことねぇぞ、あんなの!」

 

「・・・エクストラスキルだよ、《二刀流》」

 

「・・・」

 

どよめきが広がり、クラインが急き込むように言った。

 

「しゅ、出現条件は・・・?」

 

「・・・分かってりゃもう公開してる」

 

「情報屋のスキルリストにも載ってねぇ。てこたぁお前専用のユニークスキルじゃねぇか。たく水くせぇなキリト、そんなすげぇ裏技黙ってるなんてよぉ」

 

クラインがそうぼやきながらキリトの肩を掴んでいた。ブレイドはさっきのユニークスキルを思い出していると、クラインがブレイドの方を見て聞いた。

 

「おい、ブレイドはどうなんだよ?」

 

「どう・・・とは?」

 

「見てたぞ、引く直前に剣を刺したらボスがスタンをしていたじゃねえか」

 

やれやれ見られていたとは。こうなったら言うしかないな・・・。と思いながら諦めて話すことにした。

 

「使ったのはエクストラスキル《雷装剣》と言うものだ」

 

「おぉ!!」

 

クラインが驚いていると《雷装剣》の出現条件もわからないことからキリトの《二刀流》と同じユニークスキルだろうと考えた後、クラインが軍の部隊を帰らせる事になった。

 

「じゃあ二人とも、アクティベートはどうする?」

 

「任せる・・・こっちは疲れた・・・」

 

「分かった。アスナ・・・頼んだぞ」

 

「ま、任せて」

 

そう言い、ブレイドは二人を残すと第七十五層にアクティベートをしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝刊はあるニュースで埋まっていた。

 

『74層ボス攻略!!』

 

『黒の剣士と赤い雷鳴のユニークスキルで撃破!?』

 

『最強は誰か!!《二刀流》VS《神聖剣》VS《雷装剣》!!』

 

特もまあこんな特集記事が書けるものだと感心しながらコーヒー片手に椅子に腰をかけているとアスナからメッセージがあった。

 

『大変なことになっちゃった・・・・』

 

アスナがヘルプを求めていると言うことで隠蔽スキルと念の為のフードをかぶって五十五層にある『血盟騎士団』本部に来ていた。

 

「・・・アスナ」

 

「っ!?もう!いきなり後ろから来ないでください!」

 

「こっちだって迷惑しているんだ・・・」

 

そう呆れながらアスナにヘルプしてきた事情を聞いた。

どうも昨日の一件で、アスナの一時退団を申請したときに、ヒースクリフとアスナの一時退団を賭けて勝負になってしまったらしい。場所は昨日第七十五層で見つかったローマ風コロッセオ。

キリトが負ければ血盟騎士団に加入する事になっており、困り果てたアスナはブレイドに相談したと言う事だった。

 

「・・・で、キリトに今すぐ試合を止めるよう言ってほしいと?」

 

「そうなの!お願い「無理だな」なんでよ!?」

 

即答のブレイドにアスナが驚きながら理由を聞いた。

 

「簡単な話だ。あいつが、ヒースクリフの『神聖剣』は危険だからやめた方がいいと言って。『はい、そうですか』って言うと思うか?」

 

「うっ・・・」

 

どこか思い当たる節があったのか、アスナは言葉を詰まらせていた。

 

「ま、いいじゃないか。負けても別にアスナと永久に別れさせられるわけじゃないんだから」

 

「な、何を言っているのよ・・・」

 

明らかに動揺した様子のアスナにブレイドは面白そうにアスナを見ていた。

 

「(こう言うのはちょっといじっていた方が面白いんだよな・・・)」

 

ブレイドはそんな事を思いながらとりあえず二人で闘技場まで足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お祭り騒ぎになっている闘技場に着くとアスナはまず最初にキリトに説教をしていた。

 

「何でこんな決闘を引き受けたのよ!!」

 

「売り言葉に買い言葉でつい・・・」

 

「ついじゃないわよ!!」

 

「まぁ、《二刀流》もあるし。望み薄しで行けるだろう」

 

「おいブレイド。それは俺に勝てないと言っているのか?」

 

「いや?ただあの人の実力は相当なものだったぞとだけ言っておく」

 

「そうかい・・・」

 

キリトはそう言うと剣をしまって闘技場まで歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場の端で試合を見ていた自分はヒースクリフの動きに注視していた。

 

「(キリトには申し訳ないが。この試合、ヒースクリフが勝つかもしれん・・・)」

 

ブレイドはヒースクリフに抱いているある懸念を元にキリトに内心謝っていた。

そして闘技場の歓声に包まれながらデュエルは始まった。初手に《タブルサーキュラー》を繰り出し、ヒースクリフはそれを盾で防いだ。

そしてキリトの剣の速度が上がるにつれ、ヒースクリフが押されているように感じ、ヒースクリフの体勢が崩れた時、それは起こった。

 

 

ヒースクリフが通常ではあり得ない速度で盾を引き戻していた。

 

 

キリトの最後の攻撃が盾に流され、キリトの横腹を突いて決着となった。

 

「キリト君!!」

 

地面に倒れたキリトにアスナが駆け寄っていた。

今の出来事である程度自分の考えに答えを見つけたブレイドは、人知れず闘技場の出口に向かって歩いていた。

その目にはどこか悲しい表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、君は・・・」

 

「待っていたよ。ヒースクリフさん・・・少し話がしたいのだが・・・」

 

闘技場の出口で赤いローブを着たプレイヤーが壁に背を預けてヒースクリフを待っていた。

 

「ここでは無理なのか?」

 

「話が話だ。できれば誰にも聞かれないところで話したい」

 

「ふむ・・・では私の部屋に来るか?」

 

「いいのか?」

 

「問題ない」

 

「そうか・・・」

 

ヒースクリフと赤いローブに身を纏ったブレイドは転移結晶で血盟騎士団団長室に向かった。



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#10 悩み

血盟騎士団の団長室に到着したヒースクリフとブレイドはお互いソファに座るとヒースクリフが早速要件を聞いた。

 

「さて、私に話したい事とは何だね?」

 

「さっきの試合の事だ」

 

そう言うとブレイドはさっきの試合の一瞬の出来事を話し始めた。

 

「さっきの試合で、キリトの最後の攻撃を凌いだ盾。私はあの動きが変に思えてならない」

 

「あれか?あれは《神聖剣》のスキルだ」

 

ここまでは予想通りの返答だった。だが、ここはあえて直球で話を進めた。

 

「ヒースクリフさん・・・私はあなたが茅場晶彦だと思っている」

 

「ほう・・・それは突拍子もない事だな。なぜそんな事を?」

 

「はっきり言って貴方の《神聖剣》は習得した時期があまりにも早すぎる。私の《雷装剣》もキリトの《二刀流》も見つけてから物にするのに時間がかかった。HPが黄色にならないのもGM権限を持つ《神聖剣》の物だとすれば納得がいく」

 

「なるほど・・・だが全ては憶測ではないのか?」

 

「ああ、確かに憶測だ。確実な根拠らしい根拠はないさ」

 

そう言うとヒースクリフは呆れたような表情をしていた。しかし、ブレイドはもう一つの話を持ち出してきた。

 

「・・・『PAシステム』」

 

「・・・それは確か試作段階でトラッシュエリアに捨てた・・・っ!まさか・・・」

 

「今のでハッキリしたよ。やはり貴方だったんですね・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晶彦兄さん」

 

ブレイドはどこか懐かしそうに、そして悲しそうにヒースクリフを見た。

するとヒースクリフは負けたと言わんばかりにソファに深く座り込んだ。

 

「やれやれ、今回ばかりは負けを認めざるを得んな・・・ブレイド君。いや、修也」

 

「いつもの研究者としての癖が抜けきれていませんでしたね。晶彦兄さん」

 

ヒースクリフ、もとい茅場晶彦は苦笑しながら後悔をすると席を立ち上がってコーヒーを淹れて、目の前に出してきた。

 

「やれやれ、お前には驚かされてばかりだ。修也」

 

「そう?こっちは兄さんがせっかく作ったゲームだから買ったのに・・・」

 

ブレイドはいつに無く表情を表に出し、どこか子供っぽいような所を出していた。しかし、修也は呆れたように晶彦に話す。

 

「でも驚いたよ。まさか兄さんがトラッシュエリアからあれを引っ張り出すなんて・・・」

 

「あんな便利なものを使わない手はないだろう?」

 

「だからって独り占めは良くないと思うなぁ・・・」

 

プレイヤー補助システム(PAシステム)

文字通り、プレイヤー動作を補助するための初心者用のシステムであるが。あまりに強力すぎた為に早急にゴミ箱行きになっていたシステムである。

そんなシステムをなんと茅場はゴミ箱から取り出し、最後のピースを埋めてGM権限で使っていたのだ。

 

「それは思ったさ。だからお前にもお裾分けしだらろう?」

 

どこか余裕そうな晶彦の声に修也はある事が思い浮かんだ。

 

「まさか・・・《雷装剣》ですか?」

 

「そうだ。《雷装剣》は私が試作で終わっていたプログラムを慌てて復旧したものだ。本来ユニークスキルは《神聖剣》、《二刀流》を含めた10種類だけだった。だが、お前がいる事を知って慌てたさ」

 

「成程、それで本来あり得ないはずの11番目のユニークスキルを作ったと?」

 

「そうだ」

 

「相変わらず変なところで優しいのは変わらないんですね・・・」

 

「・・・・」

 

修也の指摘に思わず言葉に詰まり、返答に困った晶彦は話題転換をしていた。

 

「さて・・・修也・・・いや、この場合はブレイド君かな?私を見破った報酬として何を望む?ゲームクリアをかけたデュエルか?」

 

「・・・」

 

ヒースクリフの話にブレイドは何も答えずに黙りとし、数十秒間考え続けた結果・・・

 

「何もいらないかな」

 

「ほう・・・?」

 

思いかけない返答にヒースクリフが驚いているとブレイドはその理由を言った。

 

「今はこの世界で充実している。正直、いまでも迷っているんだ。ここでデュエルをするかしないかは」

 

「・・・・成程」

 

「だから()()まだしない。これが()()返答だよ」

 

そう言うとヒースクリフは

 

「そうか・・・しかし、この世界で充実してくれているとは製作者としては満足だな」

 

「じゃあ、また会いましょう。ヒースクリフさん」

 

「ああ・・・そうだな」

 

そう言い残すとブレイドは部屋の扉を開けて出て行った。その様子にヒースクリフはどこか満足げな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団長室を後にし、そのまま転移結晶で二十二層のコテージに戻ったブレイドは装備も外さずにベットに飛び込んだ。

 

「・・・・」

 

彼はベットに潜って悩み込んでいた。もちろんヒースクリフの事である。

 

「(私は・・・こんな時どうすれば良いのだろうか・・・)」

 

ゲームクリア。それはつまり、ヒースクリフを・・・茅場晶彦を・・・兄と慕う人を殺さなければいけない事だった。

残ったプレイヤーを助けるか、唯一に近い真の心を開ける人を殺すか。彼は悩んでいた。だが、どれだけ悩んでも結果は出てこず、気がつけば時間が夜になっていることに気がついた。

 

「・・・もう夜か・・・」

 

だが、本来は腹が減るはずなのに、今日はそれが無く、それどころか食欲も湧かなかった。

当然の事だろうと思いつつ、ブレイドはやっとここで装備を外した。ブレイドは普段読んでいる本も読まずにそのままベットに入って今日は早めの就寝に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(結局一睡もできなかった・・・)」

 

朝早くからアルゴに起こされたブレイドはアルゲードの店に来ていた。

 

「来たカ。ブレ坊とんでもない情報ダ」

 

「朝早くからなんですか・・・?」

 

「ラフコフの残党が『KoB』に居るのが分かっタ」

 

「・・・詳しく聞かせてください」

 

一気に眠気が晴れたブレイドは詳しい話を聞いた。

 

「すぐに行きたいだろうから手短に話ス。そのプレイヤーの名前は『クラディール』」

 

「クラディール・・・(確かアスナの護衛で・・・)っ!不味い!!」

 

「どうしタ?」

 

「理由は後で話す。お代置いておくぞ」

 

「あ、あぁ・・・気をつけてナ」

 

雷の如く飛び出していったブレイドにアルゴは唖然としながら置かれた情報料を受け取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何てことだ・・・・」

 

ブレイドはキリトの居場所を確認しながら森の中を走っていた。

アスナの護衛をしていたクラディールが『ラフコフ』の残党とは・・・何と言う奇跡か。

そうすればまず間違いなくクラディールはキリトを殺しに掛かるだろう。

今日は五十五層で訓練だと聞いた。だとすれば・・・・

 

「・・・見つけた!」

 

ブレイドは渓谷内で麻痺で動けないキリトと、狂気じみた表情のクラディール。そして、二人の間で立ち竦むアスナを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトは急激に体温が下がっていく気がした。

目の前にいるアスナとラフコフの残党で今は狂気に満ちた表情を浮かべるクラディール。

訓練中の水に麻痺毒を入れられ、すでに二人がラフコフの残党によって殺された。

万事休すとはこの事を言うのだろう。

そしてクラディールの剣がアスナに突き刺さろうとした時。

 

「見つけたぞ・・・ラフコフの残党・・・!!」

 

聞いたことある声が重い声でそう言っていた。クラディールの後ろを見るとそこには赤いフードを被り、顔が見えない誰かが右手に短刀を持ってクラディールの喉元を突き刺していた。

喉を突き刺され、声も出せずにクラディールは体力がミルミル減っていき、残り数ドットまで減っていた。

クラディールはさっきとは打って変わって恐怖に満ちた様子のままポリゴン片と化した。

 

「ブレイド・・・」

 

クラディールを殺した時、フードの中から見えたブレイドはどこか懐かしそうな表情浮かべていた。

それは一見普通の表情であったが、状況的にそれは猟奇的に見えた。

思わず声をかけるとブレイドは直ぐにいつもの表情に戻って返事をした。

 

「なんだ?」

 

「・・・いや、何でもない」

 

気のせいでは無いのだが、聞いてはいけないと本能が叫んだ気がしたので何も無かったことにした。

するとブレイドはアスナに視線がいった一瞬で消えており、麻痺も回復した俺はアスナの体を支えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、面倒なことになったな・・・」

 

ブレイドはそんな事を呟きながら一昨日のことを思い出していた。

 

「(ラフコフ残党が二人を殺した・・・今この瞬間にも人は死んでいるのだろう・・・)」

 

ブレイドはその時、ラフコフ討伐の時の剣の感触を思い出していた。

 

「(あの時・・・私は十人近くの人を殺めた・・・。全ては彼らに殺された百人近い人に報いる為に・・・)」

 

ブレイドは考えていた。

 

「(だが、これで合っているのだろうか・・・)」

 

それはラフコフに殺された人たちがこれで満足してくれているのだろうかと言う疑問だった。だが・・・

 

「(それは、もう分からないか・・・)」

 

そう思いながらブレイドはこれ以上考えることを辞め、ベランダで晩酌をしていた。すると

 

チリーン

 

呼び出しを知らせる鈴の音が聞こえた。誰が来たのだろうと扉を開けるとそこには・・・・

 

「え!?ブレイド!?」

 

「何でここに!?」

 

「・・・これはこっちのセリフだ」

 

そう呟き、ブレイドは目の前にいる私服姿のキリトとアスナを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、挨拶のためにここに来たと」

 

「まあ・・・そんな感じだな」

 

苦笑しながら答えるキリトにブレイドは半分呆れていた。

 

「驚いちゃった。まさかお隣にブレイドさんが居るなんて」

 

「さん付けじゃなくて良いのだがな・・・」

 

「いやぁ、何となく癖になっちゃって・・・」

 

「・・・はぁ。まあ、この際仕方ない。結婚祝いに何か作ろうか」

 

「え?何で知っているの?」

 

アスナが不思議そうに聞くとブレイドはため息を吐いた。

 

「はぁ・・・その左手の薬指に着けている物を見て結婚していないと思うか?普通」

 

「あ、そっか・・・」

 

「はぁ・・・」

 

ブレイドが呆れてながら台所で適当な料理を作り始めていた。

その様子を眺めていたアスナとキリトはその手際の良さに舌を巻いていた。

 

「は〜、すげえな」

 

「本当、現実世界でもあんな感じなのかな?」

 

そう思うと今度はブレイドの部屋を見回していた。

 

「すっごいインテリ・・・」

 

「ね、家具とかは無いけど、あの本棚とか凄い・・・」

 

「酒まで置いてあるし・・・あいつ本当何者なんだ?」

 

キリト達が面白そうに見回しているとブレイドが料理を持ってきた。

 

「ほい、ちょっと今日は豪華にしておいた」

 

「「おお〜!!」」

 

二人が驚いたのはブレイドが持ってきた料理にあった。

 

「《ラグー・ラビットの肉》がまた食べらるなんて!!」

 

「お前太っ腹だな。こんなのを出すなんて」

 

「そうだろうか?」

 

ブレイドがそう不思議がりつつも三人は食事会を開くことになった。



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#11 偵察

ブレイド、キリト、アスナの三人は二十二層のブレイドのコテージで食事会を開いていた。

そして食事会も終わりを迎え、食器を片付けたブレイド達は談笑していた。

 

「・・・で、お前がラグーラビットの肉を出してきた時は驚いたなぁ〜」

 

「そうね、S級食材を結婚祝いだからって・・・ねぇ」

 

そう言ってアスナはキリトの方を向くとキリトはほんの小さく頷いてさりげなくブレイドの右腕を動かそうとする。

しかし、ブレイドはそんなキリトの手をひょいと避け、無音の戦争が始まった。

 

「(絶対何か隠している・・・)」

 

「(キリト君も思った?怪しいよね・・・ブレイド、他の料理にもS級食材が混ざっていたし・・・)」

 

「(ああ、多分何か隠しているぞあいつは・・・)」

 

二人は目線で会話をしながらブレイドのストレージを見ようと画策していた。

 

「(これだけはバレる訳にはいかない・・・)」

 

ブレイドもキリトがさりげなくストレージを見ようとしている事に気づいており、いつの間にか部屋での戦闘になっていた。

キリトはそれに加えて体術スキルを持ち出してブレイドを捕まえようとしていた。

 

「おいおい、体術スキルはねえだろうに・・・」

 

「お前の秘密を暴くためだ」

 

「何のだ?」

 

「あなたの料理にS級食材がふんだんに使われていた。それは普通おかしい話なのよ」

 

「ほう・・・それがどうしたと?」

 

「普通S級食材は隠すものだ。嫉妬されるからな」

 

「そうなのか?」

 

「わざとらしく返答するな!!」

 

二対一の戦闘となったブレイドは分が悪いと感じ、キリトに決闘を持ちかけた。

 

「キリト、決闘だ」

 

「決闘・・・?」

 

そう言うとブレイドはキリトにストレージを見せる。

それを見たキリトは目を見開いて驚いた。

 

「《ラグー・ラビットの肉》が・・・十個・・・!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

ストレージを見たキリト達が驚愕しているとブレイドはキリトに初撃決着モードで決闘をしようと言う提案をした。

 

「キリトが勝てばこの訳を話そう。負けたら諦める。これでどうだ?」

 

「・・・良いだろう。表出るぞ」

 

「キリト君。頑張って!」

 

そう言ってアスナの応援の元、ブレイドとキリトは家の前の小道で決闘をしていた。

キリト達は美味い食材を手に入れる為、ブレイドは自分の幸せを取られたくない為にお互いに本気で決闘をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果は『引き分け』だった。初っ端から『スターバースト・ストリーム』を放ち、ブレイドはそれをパランジャで防ぐと『迅雷』でブレイドが目にもとまらぬ速度でキリトに突っ込んだが、それをキリトは避けブレイドの硬直時間を狙ったが、ブレイドの迅雷の速度に追いつけず仕留め損ない、最後に同じ、右腕を刺した事で結果は『引き分け』となった。

 

「引き分け・・・という事は報酬はどうしようか・・・」

 

「いや、無しでいいさ。()()()()だろ?」

 

「・・・」

 

キリトは息をしながらそう言うも、ブレイドはどこか申し訳ないような表情を浮かべるとキリトに言う。

 

「まあ、引き分けだったからちょっとだけ公開しよう。七十四層に行けばヒントがあるぞ」

 

「七十四層?」

 

「ああ、そうだ。私から言えるのはこれだけだな」

 

「それだけでも十分だ」

 

情報を一部だけ開示したブレイドは、後は休むとだけ言い残してコテージに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ブレイドの家にキリト達がやって来た。

しかし、昨日とは違って二人の間に幼い幼女が立っていた。

 

「誰だ、この子は?」

 

「俺たちが聞きたいよ」

 

『ユイ』と名乗る少女はブレイドの作ったパンを頬張っていた。

 

「それで、私にこの子について情報を集めてほしいと?」

 

「ああ、いきなりで済まないな」

 

「問題ない、今日は家で一日過ごす予定だったからな」

 

そう言うとブレイドは立ち上がり、キリト達と別れると情報収集のために二十二層から降りるように情報集めを始めた。

二十二層で見つかったあの歳の少女だ、おそらく下から上がって来ただろうとアタリをつけて情報を集めていた。

そういえば彼女のIDを見ていなかったと思いながら聞き込みをして、日が暮れる頃にブレイドはキリト達の家に戻った。

 

「戻ったぞ」

 

「おう、成果は?」

 

「ダメだな・・・十層まで戻ったが情報らしいものは何もなかった」

 

「そうか・・・」

 

ブレイドは申し訳なさそうにするもキリトはブレイドの肩を掴んで夕食会に誘っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実を言うとその後のことはあまり覚えていない。ユイがキリトとアスナを『パパ』、『ママ』と呼んでいたことや、三人がまるで家族のように話していた事だけはよく覚えていた。

何が大事なことを忘れているような気がしているが、それが何だったか思い出せずにその日は就寝についていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ブレイドはアルゴの急な呼び出しでユイの調査に行けなくなった事を話すとキリト達もそれを承諾して一層に向かっていた。

 

「じゃ、私は行かなくちゃな」

 

「行ってらっしゃーい」

 

ユイがそう言って手を振るとブレイドも手を振りかえしてキリトのログハウスを出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あっ!」

 

「なんだヨ。いきなりでかい声出すナ!!」

 

ダンジョンに潜っている途中、ブレイドは思い出していた。その横でアルゴが迷惑そうに耳を塞いで文句を言っていた。

 

「すまん・・・忘れていたことがあってな・・・」

 

「今から戻るカ?」

 

「もう無理だろう。ここまで深く潜ったんだぞ」

 

「じゃあ、このまま行こうカ」

 

結局、このダンジョンが予想以上に広く、丸二日を過ごすことになってしまい。二十二層のコテージに戻ったのは十一月二日のことだった。

そこでユイに関する事の顛末を聞いた。

 

彼女はMHCP・・・メンタルヘルスカウンセリングプログラム。つまりAIだったという事だ。

流石にこのことには驚いた。まさかあそこまで感情が豊かなAIがいるとは思わなかったのだ。その事に驚きながら、ユイが居なくなったことへの悲しみでキリト達を慰めるとブレイドはどこか覚悟を決めたような表情でコテージまでの道を歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二〇二四年 十一月六日

 

それは衝撃を持って攻略組に伝えられた。

 

「偵察隊が全滅・・・!?」

 

「昨日のことだ。七十五層迷宮区のマッピング自体は、時間がかかったが何とか犠牲者を出さずに終了した。だがボス戦はかなりの苦戦が予想された・・・」

 

「クォーター・ポイント・・・・」

 

キリトに加え、『KoB』本部に呼び出されたブレイドがそう言うとヒースクリフは頷いた。ヒースクリフがブレイドを呼んだ理由は定かではないが

 

「そう、そこで我々は五ギルド合同のパーティー二十人を偵察隊として送り込んだ」

 

抑揚のない声で淡々とヒースクリフは話を続ける。

 

「偵察は慎重に慎重を重ねて行われた。前衛の十人がボス部屋の中に入り、後衛の十人が入り口で待機するようにしたのだが、ボスが出現したとたんに扉が閉じられてしまったそうだ。ここから先は後衛の十人から聞いた話だ。扉は五分以上開かず、どんな方法でも無駄だったらしい。そして扉が開いた時、そこには何も無かったそうだ。十人の姿も、ボスの姿も。転移脱出した形跡もなく、念の為黒鉄宮に確認も行ったらしいが十人全員に横線が入っていたそうだ・・・」

 

「十人も・・・・・・何でそんなことに・・・・」

 

「転移結晶無効空間か・・・?」

 

「恐らくそうだろう。そしてこれからのボス部屋は恐らく全てが結晶無効空間だろう・・・」

 

「いよいよ本格的なデスゲームになってきたな・・・」

 

「しかし、それを理由に攻略を諦めることはできない」

 

ヒースクリフのどこか誘惑する声色にブレイドはキリト達に見えないように微妙な表情を浮かべ、真剣な目をしていた。

 

「今回は結晶無効化空間による離脱が不可能なことに加え、一度入れば我々かボスが倒されるまで退路を塞がれる仕様のようだ。ならば、可能な限りの戦力で統制の下に戦うしかない。君たちに無理矢理呼び寄せることは不本意ではあったが、解放の日の為に了解してくれたまえ」

 

「分かりました。だが、俺にとってはアスナの安全が最優先です。もし危険な状態になったら、アスナを守ります」

 

「何かを守ろうとする人間は強いものだ。君たちの勇戦を期待するよ。75層ボス攻略戦は明日の午後1時に決行。それまでは、自由時間とする。では、解散」

 

そう言い、紅衣の聖騎士と配下の男達は立ち上がり、部屋を出ていく中ブレイドは部屋の外で思い悩んでいた。

 

「(結局答えを出せずにここまで来てしまった・・・)」

 

それは茅場晶彦とのデュエルの話だった。ゲームクリア、それは全てのプレイヤーが望む事であり、攻略組の存在意義でもある。

だが、それはブレイドにとってはとても重い決断である。

どうしようかと思いながら壁に背を預けてていると何処かから声が聞こえた。それはキリト達の声であった。

 

『・・・明日のボス戦、参加しないでここで待っていてくれないか?』

 

『・・・どうしてそんなこと言うの?』

 

部屋から聞こえる二人の会話にブレイドは自然と耳を傾けていた。

 

『もし君に何かあれば・・・『そんな場所に自分だけ行って私には安全な場所に残って待ってろ、っていうの?』・・・・』

 

『そんな事でキリト君が死んじゃったら私・・・自殺するよ』

 

『っ!?』

 

『もう生きている意味もないし、自分が許せなくなるもの。逃げるなら二人で逃げよう・・・』

 

『そうだな・・・俺は弱気になっていた・・・できるなら現実世界に帰らず、ずっとあの森の家で暮らしていたい・・・』

 

『そうできたら、いいね・・・毎日一緒に・・・いつまでも』

 

そう言って二人が話すのを申し訳ないと思いながら聞いていたブレイドは

 

「(・・・決めたよ・・・兄さん)」

 

腹を括り、ブレイドは本部を誰にも気づかれぬように後にした。



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#12 ボス戦

二〇二四年 十一月七日 七十五層 迷宮区前広場

 

広場にはハイレベルと思われるプレイヤーが集結しており、その中には見知った顔もいた。

 

「お!ブレイドじゃねえか!無事だったんだなぁ!」

 

「ああ・・・そっちも元気そうだなクライン」

 

「お?武者震いか?」

 

「まぁ・・・そんな所だ」

 

するとまた見たことある顔が近づいてきた。

 

「エギル・・・来ていたのか・・・」

 

「今回は苦戦しそうだって聞いたから商売投げ出して加勢に来たんだよ。この無私無欲の精神を理解して欲しいもんだ」

 

「・・・そうか」

 

「元気ねえな?何かあったのか?」

 

「いえ、ボス戦前の武者震いみたいなものだ」

 

「そうか・・・まあ、お互い生き残ろうぜ!」

 

「あぁ」

 

そう言ってエギル達と別れると今度は別の知り合いと出会った。

 

「ブレイド!」

 

「・・・キリトか・・・」

 

「?・・・武者震いか?珍しいなブレイドにしては」

 

「そう・・・だな・・・(もう決めたことだ。今更意志を変えるつもりは無い・・・!)」

 

ブレイドは心の中で緊張をほぐそうとしているとヒースクリフの演説が始まった。

 

「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況は既に知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君らの力なら切り抜けられるだろう。ーー解放の日のために!」

 

そう言うとヒースクリフは懐から《回廊結晶》を取り出した。

 

「コリドー・オープン」

 

そう発すると彼の目の前に光の渦が出現した。

 

「さあ、行こうか」

 

続々とプレイヤーが入っていく中、ブレイドはパランジャをを見て神妙な面をしていた。

 

「(やるしかない・・・)」

 

そうしてボス部屋の前に到着した攻略組は剣を構えた。

 

「死ぬなよ」

 

「へっ、お前こそ」

 

「今日の戦利品で一儲けするまでくたばる気はないぜ」

 

横でキリト達が太々しく話している横でブレイドはパランジャを手に持った。

そして重々しい扉が開き、全員が一斉に突入をした。

 

「戦闘開始!」

 

そしてボス部屋に突入したプレイヤー達が入り込むと情報通り扉が閉まり、脱出不可能となった。

そしてボスの姿が見当たらず。ジリジリと警戒が焦らされ、ブレイドが索敵スキルを最大限に発動したとき、ブレイドはボスを見つけた。

 

「っ!上だ!端まで走れ!!」

 

そう叫び、上にはボス《ザ・スカル・リーパー》と言う骨ムカデが天井に張り付いていた。そして攻略組を見つけ、急落下してきた。

 

「固まるな!距離を取れ!」

 

ヒースクリフの叫び声が響き、プレイヤーは端に逃げて難を逃れたが・・・

 

『GYAAAAAAAA!!!』

 

ボスの鎌がプレイヤーを襲い、容赦なくポリゴン片へと変えた。

 

パリンッ・・・・

 

「こんなの・・・無茶苦茶だわ・・・」

 

一瞬でハイレベルプレイヤーをポリゴンに変えた衝撃は大きく、動揺を呼んでいた。だが、そんなことを気にもせずにボスは獲物を定め、その鎌を容赦なく降った。

だが、そこをヒースクリフが盾で鎌を防いでいた。攻撃を防がれたボスは持っているもう一つの鎌でプレイヤーに襲いにかかった。

 

「させるか!」

 

ブレイドが飛び出し、パランジャを地面に突き刺して鎌の攻撃を抑える。

 

「(一撃が重い・・・っ!!)」

 

ブレイドが抑えているところにキリトとアスナが援護に入り鎌を弾き飛ばした。

 

「これなら・・・」

 

「行ける・・・」

 

「キリト、アスナ・・・」

 

ブレイドは二人を見るとヒースクリフに叫んだ。

 

「ヒースクリフ!盾で左の鎌の攻撃を防げ!タンクは固まって右の鎌!奴の攻撃は一撃で死ぬぞ!残りは攻撃を抑えている間に横から攻撃しろ!!」

 

ブレイドの指示に全員が動き、それぞれの役目を全うていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

攻撃を始めてから数十分。ボスの体力バーも残り少しとなり、ブレイドは鎌の攻撃を受けていた。

 

「キリト!」

 

「ハァッ!!」

 

『GYAA・・・』

 

パリンッ!

 

ガラスの割れるような音と共にボスの体は霧散し、『Congratulations‼︎』と言う文字が浮かんだ。

しかし、ほとんどのプレイヤーがその場にへたり込み、息を吐いていた。

 

「・・・何人死んだ?」

 

「・・・6人だ」

 

「・・・嘘だろう・・・まだ二十五層も残ってんだぞ・・・!?」

 

エギルやクライン達が唖然とし、絶望をしている中、ヒースクリフだけは体力がイエローにならずに、グリーンのままだった。

そして自分はパランジャを手に取ると彼の喉元めがけて両手剣ソードスキル《アバランシュ》を叩き込む。しかし、その攻撃は塞がれてしまったが・・・

 

パァァァァァンン!!

 

キリトがヒースクリフの背後から同じようなソードスキルを発動していた。

そして、その剣の先には紫の障壁・・・『破壊不能オブジェクト』の表示が浮かんでいた。

一連のことに全員が唖然としていた。

 

「どう言うつもりかな?」

 

「こっちは腹を括らせてもらったさ・・・」

 

「やっぱりアンタだったか・・・」

 

「「茅場晶彦!!」」

 

キリトとブレイドの声が重なり、そこでようやく皆の思考が回転していた。

 

「・・・何故気付くことができたのか参考までに教えてくれるかね?」

 

ヒースクリフが落ち着いた様子でキリトに聞いた。

 

「あんたのことを疑い始めたのは、あのコロシアムでデュエルをした時だ。最後の一瞬だけ、明らかに速すぎたよ」

 

「・・・やはりか。あの時は痛恨にもシステムのオーバーアシストを使用してしまった」

 

ヒースクリフは頷くとほのかな苦情を浮かばせ、堂々と宣言した。

 

「本来ならば第九十五層に到達すると同時に明かすつもりだったのだが・・・。確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君達を迎える筈だったこのゲームのラスボスでもある。」

 

「相変わらず趣味悪いよ・・・。最強と謳われるプレイヤーの片割れが一転してラスボスとは・・・」 

 

「だが、面白いだろう?」

 

ブレイドにそう言うと茅場晶彦は薄い笑みを浮かべた。

 

「まさかキリトくんにも気づかれていたとは・・・いや、これもRPGの醍醐味・・・と言うべきかな?」

 

その時、凍りついたように動きを止めていたプレイヤーがゆっくりと立ち上がった。

 

「貴様・・・よくも・・・俺たちの忠誠心を・・・希望を・・・よくも・・・よくもぉぉぉぉおおお!!!」

 

『血盟騎士団』の一人が斧槍を持って絶叫しながら地を蹴った。

しかし、ヒースクリフは左手を振ってGM権限のウィンドウを操作すると男の体が空中で止まり、音を立てて落下すると麻痺状態になっていた。

ヒースクリフはさらにウィンドウを触るとキリトとブレイド、ヒースクリフ以外のこの場にいる全員が麻痺で不自然な格好で倒れていた。

 

「・・・この場で全員を抹殺するつもりか?」

 

「まさか、そんな理不尽はしないさ」

 

キリトの問いかけにヒースクリフは首を左右に振った。

 

「しかし私は先に紅玉宮にて待たせてもらおう・・・・と言いたいが・・・」

 

ヒースクリフはそう言うと剣を地面に突き立てた。甲高い音が響き渡り、空気を切り裂いた。

 

「キリト君、ブレイド君。君達には私の正体を見破った報奨を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今ここで私は不死属性を解除する。そして一対一で勝負しよう。私に勝てばゲームクリアはされる。・・・どうかな?」

 

茅場の提案に麻痺状態のアスナが首を振っていた。

 

「だめよ、二人とも!あなた達を排除する気だわ・・・今は引きましょう・・・」

 

「・・・・そんな事、出来ると思うかい?」

 

「ああ・・・ここで決着をつける・・・!!」

 

そう言いブレイドとキリトは剣を持つ。

 

「成程・・・やはり君達は素晴らしいな・・・さて、最初はどちらから来るのかな?」

 

茅場の誘いに先に出たのはブレイドだった。

 

「私から行かせてもらう」

 

「っ、ブレイド!?」

 

キリトは驚く横で自分は剣を構えた。

 

「私には・・・責任がある・・・。私は・・・このゲームの一端を作ってしまった男だ・・・だからここで決着をつけさせてもらう」

 

「フッ・・・強くなったな・・・ブレイド・・・」

 

ヒースクリフの小さなささやきはキリトにしか聞こえておらず、驚いた様子でブレイドを見ると、彼の表情は人を殺せそうなほど重い雰囲気だった。

周りのプレイヤー達もブレイドの呟きに驚愕した様子で見ていた。

 

「さて・・・始めようか」

 

「ええ・・・ここでケリをつけますよ」

 

ブレイドとヒースクリフがお互いに剣を持ち、ゲームクリアを賭けたデスゲームが始まろうとしていた。

 

「ブレイド・・・」

 

「キリト・・・任せろ・・・やってやるさ・・・。君には大事な人がいるだろう・・・大事にするんだぞ・・・」

 

ブレイドはそう言うとヒースクリフと間合いをとって重々しい鉄と鉄の擦れる音が聞こえた。

 

ギィン!!

 

ブレイドの両手剣とヒースクリフの細剣がお互いにソードスキルと発動して、攻め合った。

隙があれば攻撃をしてくるヒースクリフの細剣は徐々に体力を消耗させていた。

 

「ゲームも上手くなったな。ブレイド、この攻撃も防ぐか」

 

「貴方にはよくハメ技でやられましたからね。これでも学んだ方です」

 

「ふっ、ならば!!」

 

ブレイドは雷装剣のソードスキル《迅雷》を発動するとヒースクリフの体にうまく刺さり、一瞬だけヒースクリフが麻痺になるもすぐさま回復をしていた。

 

「ゲーム内で最も攻撃力の重いプレイヤーに送られる《雷装剣》・・・幻のユニークスキルは強力だな・・・」

 

「麻痺からすぐに回復している時点でもうめちゃくちゃだ・・・」

 

今の体力は半分ほど、茅場の方が半分より少し多いと言ったところか。だが・・・

 

「ハァァァァアアア!!」

 

「フンッ!!」

 

ソードスキル《雷刀》によって幻の大剣となったパランジャを思い切り振り、攻撃を止める事なく剣を無我夢中で振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイドとヒースクリフの戦いを見ているクラインはブレイドの変化に疑問を抱いていた。

 

「なんで・・・あいつは泣いているんだ・・・?」

 

麻痺で動けないクラインはかろうじて首を動かして戦いを見ていたとき、ブレイドから数滴の水のような物が流れている事に気づいた。

クラインの囁きが聞こえたキリトは今のブレイドの気持ちが痛いほどにわかる気がした。

自分にも妹がいるが、今のブレイドがしている事はその妹を殺そうとしているようなものだ。とてもじゃないがそんな事は自分には出来ないと思っていた。

現実世界での彼の出生を聞いた自分はそのブレイドの心の強さに一種の尊敬があった。

 

「(すごいよ・・・ブレイドは・・・とても俺にあんな事はできないな・・・)」

 

そして二人とも残り数ドットになった所でブレイドはパランジャを振った。

 

「これで・・・・終わりです・・・!!」

 

最後にソードスキル《雷電》を持って回転しながら急接近したブレイドはヒースクリフにトドメを刺すべくソードスキルを発動・・・しようとした。

 

ザシュッ!!

 

「・・・え?」

 

気づいた時には自分の胸のところに剣が刺さっていた。ヒースクリフは不敵な笑みを浮かべると。

 

「驚いたよ。まさかここまで私を追い詰めるとは・・・」

 

「何を・・・した・・・?」

 

「君のソードスキルを中止させてもらったよ。私の《スキル破壊》でね」

 

「・・・成程、また私は負けてしまったわけですか・・・」

 

「そのようだな・・・いい戦いだったよ、ブレイド君」

 

「そうか・・・」

 

ブレイドは悔しそうにするとキリトが叫んでいた。

 

「ブレイド!」

 

「キリト・・・悪い、後を・・・頼むぞ・・・」

 

そしてHPがゼロとなってアバターは砕けていた。



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#13 城の崩壊

次に意識が戻った時、自分は何故か片手でパランジャを持っていた。

 

「(え?なんで剣を・・・っ!?)」

 

本来両手剣であるはずのパランジャを片手で持っている事に疑問を持ったが、その理由はすぐに分かった。もう片方を別のプレイヤーが持っていたのだ。

 

「(キリト・・・)」

 

「っ!?」

 

キリトはパランジャを持つ自分の手に驚きを表していた。

 

「ブレイド・・・?」

 

「(気付いたか?)」

 

「なっ!何でここに!?」

 

「(私にもサッパリだ)」

 

よく見れば自分の姿も幽霊のように透けており、動かせるのも片手と両脚だけだった。

 

「(私は片手しか動かせないが・・・行けるか?)」

 

「ああ、十分だ」

 

「キリト君。何を話しているのだね?」

 

そう語りかけてくるのは残り数ドットとなったヒースクリフだった。そんなヒースクリフにキリトは不敵な笑みを浮かべた。

 

「どうやら俺には守護霊が憑いたみたいだぞ」

 

「ほう・・・それは君がブレイド君の両手剣を片手で持っている理由かな?」

 

「だと良いな!!」

 

キリトとブレイドはお互いにパランジャを持ってヒースクリフに接近する。その光景にヒースクリフは小さく笑みを浮かべると、その剣を受け入れるようにパランジャはヒースクリフの心臓を貫いた。

 

「面白いものを見させてもらったよ・・・ブレイド・・・」

 

彼は最後にそう言い残すとヒースクリフはポリゴン片へと変わり、アナウンスが流れた。

 

『緊急アナウンスをお知らせします。アインクラッド標準時、十一月七日14:55分ゲームはクリアされました。繰り返します・・・』

 

ゲームクリアのアナウンスはアインクラッド中に流れ、生き残ったプレイヤーはログアウトをして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイドは夕焼けの中、崩落してゆく鋼鉄の城を眺めていた。するとそこに声をかける人間が一人いた。

 

「・・・絶景だろう?」

 

「何だ・・・兄さんだったか・・・。夢が叶った気分はどうですか?」

 

「満足・・・とは行かないが夢が叶った時の充実感はあるな。・・・しかし、最後のアレには驚かされたぞ」

 

「そうだね・・・自分でもいまだに不思議でならないよ」

 

「VR技術はいまだ未知の部分がある、と言う事だな・・・」

 

「本来死んだはずのプレイヤーが、死後の行動に干渉する事は出来ない。・・・だが、さっきのはそんな定理を覆す事だった・・・」

 

「まだまだ私のシステムが完全ではなかった。と言う事だな」

 

「この世に完璧なものは存在しないよ兄さん。たとえそれがVRの世界であっても」

 

「そうだな・・・」

 

修也の横で茅場が城を眺めていると不意に茅場は修也に聞いた。

 

「お前が日本に戻ってきた時は驚いた・・・もう帰って来ないと思っていた」

 

「・・・ま、爺さんから帰ってきて欲しいって前々から言われてたんだよ」

 

「成程・・・孫バカとはあの人の事を指すのだろうな」

 

「ハハッ、それは違いないね」

 

城の崩壊が四割ほどまで進んだ頃。茅場はこの場所に招待した人がいると言い、視線を横に向けた。

 

「キリト達か・・・」

 

「挨拶に行かなくて良いのか?」

 

「・・・まあ、最後の挨拶をしておきますかね」

 

「まだ死ぬと決まったわけじゃないがな・・・」

 

茅場は若干苦笑しながら修也と共に水晶の床を歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、キリト」

 

「ブレイド!」

 

ブレイドの挨拶にキリト達が驚いていた。

 

「幸せそうだな」

 

「無事・・・だったのか?」

 

「それはまだ分からないさ」

 

「どう言う事?」

 

「システム上の私がどのように反映されているのか、それがまだ分からない。何せこんな事は初めてのことだろうからね」

 

アスナの疑問にブレイドはそう言って崩れる城を眺めながらキリトと少し離れた位置に腰をかけていた。その間、キリトはブレイドの後にやって来た茅場にログアウト状況の確認や、この世界を作った理由などを聞き終え、最後に茅場はキリトにある事を話した。

 

「キリト君、最後に聞いて欲しいことがある」

 

「・・・何だ?」

 

「彼のことだ」

 

そう言い茅場が指差した先にいるブレイドを見つめた。

 

「もし彼が現実世界に帰還していたら・・・あの子を見ていてくれ」

 

「・・・何故だ?」

 

「こんな私を現実世界で慕っていた子だ・・・現実世界で何があるか分からない。だから見守って欲しい」

 

「・・・」

 

その時の茅場の目は家族を心配するような暖かい眼差しだった。

よく見ればブレイドと今の茅場はよく似ており、兄弟と言われれば納得できそうだ。

だが、ブレイドと茅場のつながりはキリトだけが知っている秘密であり、それはアスナにすら伝えていなかった。

キリトは茅場の願いを聞き当たり前だと言わんばかりの視線を送ると茅場は満足したようにその場を後にしようとした。

 

「ああ、忘れていたよ。キリト君、アスナ君・・・ゲームクリアおめでとう」

 

「それはあいつに言う事じゃないのか?」

 

「彼の行き先は私でも分からない。分からないのにそんな事を言うわけには行かないだろう?」

 

「そうか・・・」

 

キリトは若干落胆した様子でいたが、どこか彼が生きているのではと思う気持ちもあった。

 

「さて、私はそろそろ行くよ」

 

そう言い茅場は風のように消えてしまった。

その場に残ったのはキリト、アスナ。そして、ブレイドの三人だった。

 

「あ!そういえばブレイドの名前。聞いていなかったな」

 

「そ、そうだったね。消える前に聞いとかないと」

 

「・・・良いのか?死んでいるかもしれないと言うのに・・・」

 

「死んでいても墓参りに行きたいのさ」

 

キリト達はブレイドを見ながらそう言うと、ブレイドは納得した上で現実世界の名前を名乗った。

 

「そうか・・・私は修也。赤羽修也だ」

 

「赤羽・・・」

 

「修也・・・」

 

「それが私の名前だ。ついでに二人の名前を聞いても良いか?」

 

「ああ、もちろんだ。俺は桐ヶ谷和人」

 

「私は結城明日奈」

 

「桐ヶ谷に結城か・・・また彼方で会えたら会おう」

 

「ああ、また向こうでな」

 

「絶対会いましょう!」

 

そう言うと三人は白い光に包まれ始め、いよいよログアウトが始まった。

 

「(いよいよか・・・)」

 

ブレイドはログアウトを緊張しながら考えていた。

 

「(今思うと思い残しをしてしまったようだな・・・キリトやアスナに会う・・・それが出来るだろうか・・・)」

 

白い光に包まれる中で、意識が遠のく感覚がブレイドに緊張を与えていた。

 

「(できたら・・・嬉しいな・・・)」

 

ブレイドはそう思いながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目が覚めた時、真っ白な景色が広がっていた。視界が徐々に戻り、それが白い天井だと理解した。

 

「ぅ・・・ぁ・・・」

 

なかなか力の入らない腕と上半身を持ち上げてナーヴギアを取り、次に聴覚が戻ってきた。

ガリガリの骨のように細くなった腕を見ながら修也は苦笑していた。

 

「(戻れたのか・・・)」

 

すると不意に目から涙が溢れて来て嗚咽も漏らしていた。

 

「(そうか・・・戻れたのか・・・)うっ・・・うぅ・・・」

 

来ている病院着が濡れるのも気にせずに嗚咽を溢していると病院内が騒がしくなり、看護師と医師が慌てて部屋に入って来た。

それから健康状態やその他諸々の確認をされ、体が全体的に衰弱をしていると判断された。最初に水を飲まされ、乾き切っていた喉を潤していた。

 

「赤羽さん。声は聞こえていますか?」

 

「・・・」コクッ

 

看護師の指示通りに健康診断をされて、ひと段落した頃。

病室に家族と祖父が飛んできた。

 

「修也!!」

 

最後に見た時と変わらない見た目の母が泣きながら抱きついて来た。後ろにいた父も祖父も自分の無事に安心と喜びを表していた。

 

「よかった・・・無事でよかった・・・」

 

「母さん・・・」

 

枯れ枝のように細い腕を回して背中を摩っていると部屋にもう一人少女が入って来た。

 

「マスター、お帰りなさい」

 

少女は修也の事をマスターと呼ぶと修也はどこか嬉しそうに返事をする。

 

「ああ・・・戻ったぞ」

 

「ふふっ、マスターなら戻って来ると思ってましたよ」

 

「そうか・・・」

 

そうして一向に離す気配のない母を慰めると両親達は先に戻り、少女だけが病室に残っていた。

 

「マスター」

 

「何だマキナ?」

 

マキナと呼ばれた少女は修也を見ると嬉しそうにしていた。

 

「今飛び込んだらマスター死にます?」

 

「当たり前だ・・・。この体を見ろ」

 

「それもそうですね。じゃあ、今日は我慢します」

 

「と言うか常に我慢しろ。あんなのされたら身が持たん」

 

修也は呆れながらマキナを見ると疑問に思った。

 

「ん?今日は帰らないのか?」

 

「ええ、お父様が無理を言って私だけ残ってもらえるようにしてもらいました」

 

「はぁ・・・何しているんだか・・・」

 

「まあ、お父様はマスターが知っている時よりも偉くなりましたから。これくらい簡単なことです」

 

「そうなのか?」

 

「ええ」

 

「・・・まあ、詳しい話はまた後で聞くから。今日は休ませてくれ」

 

「はい、マスターも明日からのリハビリ頑張ってくださいね。常にマキナがついていますから」

 

「あぁ・・・」

 

少しばかり疲れた様子で修也はマキナに少し微笑むとマキナは修也の表情に嬉しそうにすると病室の椅子に座って修也のことを見ていた。



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フェアリィ・ダンス編
#14 未帰還


二〇二四年 十二月八日

 

あの鉄の城から現実世界に戻って早一ヶ月、毎日のリハビリで通常生活が出来るところまで動くことができるようになった修也は歩いて病院のカフェに足を運んでいた。

この一ヶ月はリハビリに加え情報収集と忙しい事この上なく、加えて五感も使わなかったせいかそのほとんどが衰弱しており、味覚に至ってはいまだ完全に治ったとは言えなかった。

 

「赤羽修也君かい?」

 

「・・・ああ、そうだ」

 

修也に話しかけて来たのはそれはそれは胡散臭そうで、気に食わない雰囲気のスーツに身を包んだ男だった。

 

「いきなり何のようだ。こっちも忙しいのだが」

 

「ああ、ごめん。僕はこう言うものだ」

 

そう言い、男が名刺を渡して来た。

 

「菊岡誠二郎・・・《総務省SAO事件対策本部》ですか・・・」

 

「ああ、僕から君に色々と聞きたいことがあってね。まあ、あっちでの話を色々と聞かせてほしい。毎日の生活やボス戦。それと、茅場晶彦に関する情報もね」

 

「ええ、良いでしょう・・・ですが、私が情報提供をする代わりに、ある人物の連絡先を教えてもらって宜しいでしょうか?」

 

「できる限りの便宜は測るよ」

 

そうして、菊岡と名乗る男にSAOでの生活、最後のボス戦の事を事細かに話した。菊岡がこっそりとボイスレコーダーで会話を録音しているのは少々おかしいと思っていたが、覚えられないのだろうかと取り敢えず指摘する事はなく、これから毎日こんなことがあるのかとややうんざりとしながら話し、次来る日の予定を決めると菊岡は去って行った。

 

「マスター?」

 

修也の隣にコーヒーを持って来たマキナが不思議そうに見ると修也が一言

呟いた。

 

「あれは狸だな」

 

「え?」

 

「いや、何でもない。戻るぞ、マキナ」

 

「はい、マスター」

 

修也は菊岡がマキナの事を見ていたのを感じていた。

その目はマキナを欲しがるようなそんな目であった。

 

「(まさか、官僚がマキナを盗もうとしているのか?)」

 

修也は病室に戻る途中、そんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一ヶ月後、二〇二五年一月一九日

 

退院して本駒込の実家に二年ぶりに戻った修也はあの時と変わらない殺風景な自室を見ていた。

 

「・・・」

 

修也は上着を着て家の外に出る。ついこの前大型二輪の免許を取得して、中古でバイクを買ってもらった。

車種は《ホンダ・ゴールドウィングツGL1800ツアー》、帰還祝いとして父が買ってくれたのだ。

少し祝い事としては高い気もするが二年間分の誕プレと合わせていると言われて無理矢理納得させられてしまった。

赤色に塗装された大型二輪に跨り、修也は音楽を掛けながら所沢郊外の病院に足を運ぶ。

そして修也はバイクを降りて最上階の病室に入る。病室に入り口には《結城明日奈》と書かれた札が貼られ、病室のベットではナーヴギアをつけたまま寝ている眠り姫の姿があった。

 

「・・・」

 

思わず見惚れてしまいそうなほど綺麗な彼女は目を覚ます事なく未だに眠ったままだった。

これは菊岡から聞いた話だが、未だ目を覚まさずに眠っているSAOプレイヤーが全国に三百人ほどいると言う。理由はわからず、SAOのサーバーも未だブラックボックスとして稼働していると言う。

茅場晶彦の性格からわざと残したと言う事は絶対にないと確信している。理由はあの人の性格がそうであるからだ。ある仕事に対し、その見合った報酬を与えるのがあの人のポリシーのようなものでもある。

そんな人がクリア後のゲームに人を縛り付けておくとは思えないからだ。

だったらなぜ未だにSAOサーバーが稼働しているのか。データが消去されている光景を目にしていた修也はそこが疑問だった。

誰かがクラッキングしたのかと思うしかなかった。

聞けばSAOを運営していたゲーム会社《アーガス》は《レクト》と言う会社に吸収され、《アルヴヘイム・オンライン》と言うゲームと絶対安全を謳う《アミュスフィア》と言うハードが現在の主流であると言う。

このアルヴヘイム・オンラインはいわばソードスキルを廃して魔法をくっ付けたような世界であり、SAOと似た世界観を持っていた。

アーガスを吸収したレクトとそのレクトが出したアルヴヘイム・オンライン・・・修也はレクトが三百人の未帰還プレイヤーを生み出したのではないかを疑っていた・・・。だが、それは無いと感じた。

何故なら今ベットで眠っている結城明日奈の父、結城彰三はそのレクトのCEOをしているからだ。

自分の娘をVR世界の閉じ込めたままにするとは考えられない。少なくとも前にあった時、帰ってこない愛娘を心配するような雰囲気があった為、他の理由を考えていた。

すると病室の扉が開き、一人の少年が入って来た。

 

「和人か・・・」

 

「修也、来ていたのか・・・」

 

そこにはSAOで共に戦ったキリトが立っていた。

現実世界でお互いに顔を合わせた二人は修也が生きていた事に喜びを露わにしていたが、明日奈が戻って来ていないと知って明らかに気を落としていた。

修也は原因を考えていたが一向に答えは出ず、どうしたものかと思っていた。

そしてキリトと共にアスナの横で少し話をしていると病室に二人の男が入って来た。一人は結城彰三、もう一人は初めて見るダークグレーのスーツを着たメガネの男だった。そのメガネの男は須郷伸之と言い、彼の会社の研究部主任をしているそうだ。

 

「そうか・・・君たちがあのキリト君とブレイド君か」

 

「・・・桐ヶ谷和人です」

 

「赤羽修也です」

 

二人がそっけない挨拶をすると修也はこの須郷という人物に聞き覚えがあり、思い出そうとすると彰三は明日奈の様子を見届けると病室を後にし、部屋には自分とキリト、そして須郷が残った。するとそこで須郷はとんでもない事を言い出したのだ。

 

「実はね・・・僕は明日奈君と結婚する予定なんだ」

 

「なっ!」

 

「・・・」

 

それはそれは気味の悪い笑みで須郷はアスナの髪を触り、いろいろな事を話し始めていた。

明日奈が目覚めないのを良いことに須郷が養子として結城家に取り入ろうとしている事。

自分達が学生だから何も出来ないだろうとたかを括って実にいろんな事を喋ってから須郷は自分達を馬鹿にするように病室を後にして行った。

 

「・・・」

 

怒りで震えている和人の横で修也は徐に棚から手入れ道具を出した。

 

「何しているんだ・・・」

 

少しだけ怒りの気持ちのこもった和人が聞くと修也は棚から櫛を取り出した。

 

「あんな汚いやつが触った髪を綺麗にしようと・・・和人もするか?」

 

「・・・ああ」

 

修也に誘われて櫛ではみ出ている髪の毛、特に須郷の触った場所を重点的にすき。病院を出ると修也が和人に話しかけた。

 

「和人、少しいいか?」

 

「なんだ?」

 

「さっきの須郷とか言うクソ野郎の事だ。もしかすると蹴落とせるかもしれない」

 

「・・・どう言う事だ?」

 

和人は修也の突拍子もない話に驚きながら興味深そうに食いついた。

 

「和人、今日はどうやってここに来た?」

 

「今日は自転車で来たぞ」

 

「そうか・・・じゃあここで話すか・・・」

 

駐輪場に向かう途中、修也と和人はさっきの話と明日奈が目覚めない理由を考察していた。

 

「さっきあいつも言っていたが、今のSAOサーバーを管理しているのはレクトのVR技術研究部だ。そしてそこから出されたゲームがアルヴヘイム・オンラインと言うものだ」

 

「アルヴヘイム・オンライン・・・」

 

和人が繰り返すようにそう呟く。

 

「そしてこのゲームがリリースされたのはレクトがアーガスを吸収してから比較的早い段階だ」

 

「それがどうしかしたのか?」

 

「レクトはアーガスを吸収するまでVRはおろか、ゲームを作る部門さえなかったんだ。そんな会社がたった数ヶ月でゲームをゼロから作れると思うか?」

 

「アーガスにいた社員が居るなら・・・」

 

「アーガスにいた社員はレクトに吸収された時、あるいはその前にその殆どが会社を去っている。今いるのはほとんどがレクトに吸収された後にやって来た人員だ」

 

「・・・」

 

修也の言葉に和人は驚いていた。何故そこまで詳しく知っているのか。

詳しいことは後で聞くとして和人は修也のある提案を聞いた。

 

「そこでだ。和人はキリトとしてアルヴヘイム・オンラインに行ってもらいたいと思っている」

 

「何故だ?」

 

「アスナが居るとしたらおそらくそこだろう・・・。SAOのゲームデータは失われ、ただでさえ数の少ないVRゲームの中で一番広大な広さを持っているのがアルヴヘイム・オンラインだ。探してみる価値はあると思わないか?」

 

「・・・」

 

修也の言葉に和人は悩んだ。アスナが居るかもしれないが、いなかった場合に自分はどうなるのだろうか・・・だが、アスナがあの男のものになってしまうまで時間がない・・・。しかし、アスナがそのゲームにいると言う確証がない・・・。

和人は考えたが、一旦そのことに対して保留の意見を伝えた。

 

「少し・・・考えさせてくれ・・・」

 

「分かった・・・決まったら連絡を頼む」

 

「ブレ・・・修也はどうするんだ?」

 

「私は外から攻めていく。意外と面白いことがわかりそうだ・・・」

 

「そ、そうか・・・」

 

修也の邪悪な笑みに和人は若干引いてしまった。

そして駐車場に着いた和人は修也の乗って来たバイクを見て羨ましそうに見ていた。

 

「でっけぇバイクだな」

 

「《ホンダゴールドウイングGL1800ツアー》だ。この前免許を取ったから中古で買ってもらった」

 

「これ中古でも凄い値段しないか・・・?」

 

「・・・値段聞くか?」

 

「やめときます・・・」

 

「じゃ、またVRやることになったら言ってくれ。こっちで準備できるものは準備する」

 

「ああ、分かった」

 

そう言ってヘルメットを被り、バイクのエンジンをかけた修也は病院から出て行った。

この時、和人は普通二輪の免許を取ろうかどうか悩み始めるのだった。



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#15 情報提供

二〇二五年 一月二十日 午前一一時頃

 

家に戻った修也は徹夜でパソコンの画面を見ていた。

 

「うーむ、やはりSAOのようなグラフィックは難しいな・・・」

 

コーヒー片手に渋い顔をしながらパソコン画面を見る。そこには異世界風の景色が浮かび上がっていた。

修也が試しているのは通常のVR世界の設計であった。SAOは茅場晶彦が持てる限りの力を持って作り上げたいわば彼の最高傑作と言えるようなものである。

彼の作ったSAOのデータは一種の芸術作品とも言える品で、自分でも完全に再現することは無理だった。

 

「(やっぱりあの人の技術はすごいな・・・)」

 

そう言って、修也はSAOでの出来事を思い出していた。

 

「でもあれやった時は怒られたなぁ・・・」

 

そう呟きながら修也は二週間ほど前のことを思い出していた。

彼は二週間前、ナーヴギアを使ってアルブヘイム・オンラインを買っていた。

そしてアルブヘイム・オンラインにログインした時、修也はSAOの時の装備がそっくりそのまま使われていた事に驚きを隠せなかった。

なお、ログアウトした時に母にナーヴギアを使っていることがバレ、盛大に怒られた後にナーヴギアの後継機であるアミュスフィアを買わされた。

その為今はアミュスフィアを使ってアルブヘイム・オンラインにログインをしている。

ログインする時に適当に種族を選んだ事に今は後悔をしている。

 

「・・・」

 

修也は試作で作ったゲームを閉じると部屋にマキナが入ってきた。

 

「マスター、母上が料理できたって」

 

「ああ、分かった」

 

ピコン!

 

修也の持つ携帯に連絡が入り、修也はメールと共に添付されたデータを見た。メールにはキリトがALOに行くことが書かれていた。

 

「キリトからか・・・これは・・・っ!」

 

データを見た修也は驚いた様子と納得した表情でデータを見ていた。するとマキナが修也の携帯を覗き込んでそこに映る写真を見て羨ましそうにしていた。

 

「わぁ・・・凄い綺麗な人・・・」

 

「アスナ・・・」

 

写真に添付されたデータを見て修也は懐かしい名前を呟くとマキナは修也に聞いた。

 

「マスター。私もこんな風になりたいです」

 

「無理だろう」

 

「即答!?酷い、マスター酷い」

 

「当たり前だ。第一いつもどんなけ苦労させられていると思っている・・・」

 

「ムキーッ!マスターの鬼!悪魔!」

 

「なんとでも言ってろ。大体の問題はお前が作っているんだからな」

 

マキナがブーブー言いながら隣で文句を言う中、修也は添付されたデータを眺めていた。すると

 

『修也!早く来なさい』

 

「あ、今行きます」

 

母の声で一旦思考を中断し、一階に戻ると昼食を取る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を終え、先ほどの映像を見ていた修也はそれを元に情報収集を始めた。

 

「マキナ」

 

「はい!」

 

「仕事だ。今日は容量無制限で情報を集めろ」

 

「分かりました。内容はなんですか?」

 

「レクトVR技術研究部に関する情報。それと、須郷伸之に関する怪しいものは全て洗い出せ。違法行為でも構わん。ただし、証拠は残すな。できるか?」

 

「お任せください。完璧にこなして見せます。・・・ところでマスターは如何なさいますか?」

 

「私は向こうでキリトと合流しようと思う。マキナ、情報を集めたらまとめてパソコンに入れておいてくれ」

 

「了解」

 

マキナは紙を受け取ると部屋の隅にある椅子に座り、目を閉じると修也はそれを確認してからアミュスフィアを使い、ALOにログインをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い光が今度は薄暗いランプの光に照らされる光景へと変わり、赤い装備を身に纏った一瞬サラマンダーの様に見える自身を確認した。

 

「・・・とりあえずはキリトと合流だな。彼が来るとすれば・・・恐らく央都アルンだろうか・・・?」

 

そう呟き、今自分のいる現在位置を確認していた。

今いる場所は自分が適当に選んだケットシー領の首都フリーリア。央都アルンまでおよそ五〇キロ、飛行時間はおよそ八時間のフライトである。

 

「すぐに出よう・・・」

 

感覚的にできるようになった随意飛行でブレイドは一気にフリーリアから出るとアルンに向けて出発をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリーリアを出て三時間ほど、途中休憩を挟みながらブレイドは半分の蝶の谷まで飛翔を終えた。

 

「ここまで三時間・・・案外早く着きそ・・・う?」

 

蝶の洞窟を両手剣で進みながら出口に出た時、風妖精と猫妖精の妖精達が多く集まっており、何やら騒がしかった。

 

「何があるんだ・・・?」

 

そう疑問に思っていると近くにいた同じ猫妖精のプレイヤーに思わず聞いた。

 

「すみません・・・」

 

「っ!びっくりした・・・サラマンダーかと思ったぞ」

 

「・・・」

 

彼がそう驚くのも無理はない、なぜなら今の自分の格好は赤色を基調としており、赤は火妖精を象徴するような色であるからだ。

 

「俺と同じ猫妖精ならまあいい・・・それで、何だ?」

 

「えっと、この騒ぎは何があるんだ?」

 

「何だ、知らないのか?」

 

「ええ、さっき入ったものですから」

 

「そうか・・・じゃあ説明するさ」

 

そうして彼が話してくれたのは明日ここで猫妖精と風妖精の首領会談が行われる予定らしい。

 

「それで、俺はここで会場の護衛というわけだ」

 

「成程・・・」

 

ある程度の情報を理解したブレイドに男性プレイヤーはある提案をしてきた。

 

「あ、そうだ。よかったら君もこの護衛を手伝ってくれるかい?」

 

「は?」

 

「いやぁ、実を言うと人手が足りなくて困っていたんだ。君、見た感じ実力もありそうだから丁度いいや」

 

その男性プレイヤーの提案にブレイドは一考した。ここからアルンまで最長でも五時間。キリトとの合流が最優先だが、居場所がわからない以上どうしようもない。この会談というものにも俄然興味が湧いてきた。

 

「(キリトに後で連絡とって居場所確認するか・・・)いいですよ。私は何をすればよろしいですか?」

 

「おお!手伝ってくれるか。じゃあ、こっち来てくれ。色々と説明をするから」

 

そう言われ、男性プレイヤーから色々とレクチャーをされたブレイドは両手剣を背に、渡された地図を元に巡回場所を見ていた。

 

「まさかこんな事になるとはな・・・時間は・・・七時・・・か」

 

時間を見て、ブレイドは同じケットシーに近くの中立都市の場所を教えてもらい、一旦そこでログアウトをした。

現実世界に戻ったブレイドはマキナが覗き込んでいるのを確認するとアミュスフィアを取った。

 

「どうだった?」

 

「カラスよりも真っ黒な情報がゴロゴロ出てきました」

 

「そうか・・・」

 

修也はマキナの一言で全てを理解すると修也はメールでキリトの今の居場所を聞くメッセージを送ると、マキナがまとめてくれた情報を眺めていた。

 

「ーー脳の感覚処理以外の機能を制御する実験・・・。おまけにこの情報をアメリカに売りつけようとしているか・・・」

 

そこに書かれていたのはあまりにも非人道的な実験を行っていると言う証拠の書類だった。

 

「正直これを読んで私は胸糞悪くなりました。世の中にこんなクソな奴が居るとは思わなかったです」

 

「それは同感だな・・・兄さんでも流石にこれはやらないだろうよ」

 

資料を読んでいく中、修也が呆れたようにそう呟くとふとある考えが思いついた。その横で気分を悪くしているマキナが修也に聞いた。

 

「マスター、運営に乗り込みますか?」

 

「・・・いや、もっと面白いこと思いついた」

 

「・・・何をする気ですか?」

 

「なぁに、徹底的に追い詰めるだけよ」

 

修也の表情にマキナがドン引いていると修也のパソコンに一件のメールが入った。

 

ピコンッ!

 

「ん?キリトか?」

 

そうして開いたメールの送り主を見て修也はフッ、と口角を小さく上げるとメッセージを送り返した。

横で一連のことを見ていたマキナは驚きながら懐かしそうにメッセージ画面を見ていた。そこに添付されたデータを修也は確認し、そしてメッセージを送り返した修也はマキナに指示をした。添付されたデータはあるサーバーから持ってきた特別なIDだった。

 

「マキナ、今からレクトの偽装パス作れるか?」

 

「勿論。私を誰だと思っているんですか?」

 

「じゃあ、それを後で私のALOでのデータに入れてくれ。この資料を見る限り、ALOはSAOのデータをまるパクリしている・・・基本システムが同じならすぐに出来るだろう」

 

「分かりました十分で終わらせます。早くあのクズをとっちめて下さい!」

 

「その前にまずはこの情報を全て読ませてくれ。まだ半分しか読んでいない」

 

そう言い、修也は残りの資料をさっさと読み終えると母に呼ばれて一階の食堂に向かった。

食堂に入るとそこには母と今日は珍しく父が帰ってきていた。

 

「父さん・・・今日は早かったんだね」

 

「ああ、今日は仕事を切り上げて帰って来た」

 

「そう・・・」

 

あの事件以降・・・いや、そもそもそれ以前から父赤羽藤吉とはほとんど接点がなく、正直父親との接し方がいまいち分からなかった。母赤羽由美子とは二回目のアメリカ生活の時について来てくれた影響である程度接せられるようになったが、それでも普通の母親との接し方とは違う気がしていた。

そのため、自分と両親はどこかずれているような感覚を覚えていた。

そして母が料理を持ってきて机に置き、家族全員が席に座ると夕食が始まった。

 

「修也」

 

夕食の途中、父が聞いてきた。

 

「進路、どうするんだ?」

 

「うーん・・・取り敢えずあの学校に行こうとは思っているけど・・・」

 

「帰還者学校か・・・」

 

帰還者学校。SAOに囚われた中高生を対象に今まで遅れている分の学力を補うための臨時学校でSAO帰還者のみで入試なしで入れて、卒業すれば大学受験資格まで取れると言う少々美味しすぎるような学校だ。

実際その通りで父が言うには二年間も殺伐とした空間で過ごした自分達がどんな心理状況なのか政府としては不安なのだ。

そのため目の届く範囲に纏めておきたいと言う考えだった。

また学校となる場所の近くに帰還者学校に通う生徒のための学生寮を借りるというかなりの本気度が伺えた。

 

「一応修也でも入れるのか・・・」

 

「正直まだ悩んでいるさ」

 

「お前ならてっきり大学に行くと思っていたんだがな」

 

「そうね、修也だったら大学に行くと思っていたから驚いちゃったわ」

 

修也の横で母がそう言って驚いた様子で修也を見ていた。実際、進路で悩んでいる自分も驚いていた。

だが、原因は何となく想像がついた。おそらくキリト達が居るからだろう。もし大学に行けばキリト達と会う時間は必然的に減ってしまう。そうすると寂しくなってしまうと思っているからだ。

 

「まあ・・・色々あったからね」

 

「じゃあ、帰還者学校に通うなら家を探さんとな」

 

「そうね、どうせならセキュリティーの高い部屋を・・・」

 

「学生寮でいいよ・・・」

 

「いいや、あんな安くて、危険な場所に息子を入れる訳にはいかん」

 

安いて言っちゃったよ、この人・・・一応最低限のセキュリティーはあるはずなのに・・・。

と、そんな他愛も無い話をしながら夕食を終えた修也は再び自室に戻り、アミュスフィアを頭に装着した。



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#16 合流

二〇二四年 一月二十二日

 

朝早くからログインしたブレイドは自分のアイテム欄に一つアイテムが増えている事に気がついた。

 

「これなら・・・行けるか・・・」

 

ブレイドが確認をすると央都アルンの街を歩いていた。

横にいる影妖精とその隣にいる風妖精を見ながらブレイドは端に追いやられていた。

何故こうなったのか、時間は昨日の夜中まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を終え、蝶の谷の会談会場に到着したブレイドは戻ってきたことを伝え、巡回をしているとサラマンダーが襲撃を行い、それを駆けつけた影妖精と風妖精の二人組が入ってきて、火妖精のユージーン将軍の魔剣グラムの剣を押さえていた。

その時、その影妖精が思い切りキリトと名乗っていたので思わず吹き出してしまった。

そしてキリトが猫妖精と風妖精の領主と話し終えたところで声をかけた。

 

「キリト・・・」

 

「っ!ブレイドか・・・?」

 

「ああ、そうだ」

 

「キリト君。この人は?」

 

キリトの隣で風妖精が聞いていた。

 

「ああ、紹介するよこいつはブレイド。リアルの方の知り合いだ。ブレイド、こいつはリーファ。色々と教えてもらっている」

 

「女性相手にこいつは無いだろう・・・」

 

ブレイドが若干キリトの言い方に注意をするとリーファに挨拶をする。

 

「初めましてリーファ。私はブレイドと言う者だ。よろしく頼む」

 

「あ、ど、どうも。リーファと言います!」

 

少し驚いた様子でリーファが挨拶をしていた。無理もない、今の自分の格好は赤。サラマンダーと勘違いされたのだろう・・・。

 

「びっくりしました。キリト君の友人がこんな紳士みたいな人だなんて・・・」

 

「・・・何があった?」

 

思わずそう聞いてしまう程に予想外の返答に思わず困惑してしまった。

 

「・・・ここでのコメントは控えさせてもらいます・・・」

 

「・・・グーかパーを選べ」

 

「ちなみに逃げたら・・・」

 

「全力で追いかける」

 

「誰だよこいつに飛行能力あげたの・・・!!」

 

この後、蝶の谷に重いゴスッ!と言う音と一人のプレイヤーが吹っ飛ばされる光景が広がったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、世界樹のアルンに到着したブレイド達はそこでキリトをどついていた。

 

「アホか?宿代すら渡したのか・・・」

 

「勢いでやってしまいマシタ・・・」

 

「・・・こんなこと言いたく無いのだが・・・馬鹿か?」

 

システムアナウンスで午後三時までサーバーメンテナンスの為ログアウトをする為にアルンで宿屋を探そうとした時、キリトが風妖精と猫妖精の領主、サクヤとアリシャにドスンと金貨を渡していた時に有金全額渡して素寒貧らしい・・・。

 

「ブレイド、ちょっと金借りていいか・・・?」

 

「・・・この際、仕方ないな・・・」

 

ブレイドはため息をつきながらキリトの分の宿代を払い、キリトと同室に入り、キリトがログアウトしたのを確認した。

今部屋に残っているのは自分とログアウトしたキリトの横にいたユイだった。

 

「久しぶり・・・と言えばいいのかな?」

 

「はい、お久しぶりですね。ブレイドさん」

 

「君がAIだと聞いた時は驚いたよ・・・」

 

「パパから聞いたんですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

二人は久しぶりの再会もそこそこにブレイドはユイに聞いていた。

 

「ユイ、この世界はSAOのデータを使っているか?」

 

「はい、と言うかそのままコピーされています」

 

「そうか・・・」

 

「だからブレイドさんも装備がそのまま装備もろもろが引き継がれているんですよね?」

 

「ああ、最初にナーヴギアで入った時にな」

 

「なるほど・・・」

 

ユイはブレイドの話を聞き、この世界に疑問を持っている中。ブレイドはユイにログアウトする事を伝え、ログアウトをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が薄暗い無機質な白い天井に変わり、時計の針は午前四時を示していた。

 

「朝か・・・」

 

修也は二徹で重くなった瞼を擦りながらベットから起き上がり、眠気覚ましのブラックコーヒーを淹れると未だ日の登らない景色を眺めていた。

アメリカにいた頃は徹夜なんて当たり前だったものだが・・・。二年間あの世界で徹夜することが少なかったせいだろうか、ここ最近は徹夜がキツくなってきていた。

 

「まだまだ仮想世界が現実に及ぼす可能性は把握できないな・・・」

 

修也はそんな事を呟きながら徐々に明るくなっていく東京の街並みを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日の出を眺めた修也は仮眠を取り、次に起きたのは十時だった。

マキナに叩き起こされた修也は時間を確認すると電話をかけていた。

 

「あぁ、もしもし菊岡さん。300人のプレイヤーが戻らない理由が分かりそうですよ」

 

『それは本当かい?』

 

「ここで嘘ついてどうするんですか?まぁ、取り敢えずこっちが調べた資料を渡しておきますので、情報の真偽はそちらにお任せします」

 

『ああ、それでその情報はどこで受け取ればいいのかな?』

 

「十二時に紀尾井町のレストランでお願いします」

 

『分かった。すぐに向かうよ』

 

「よろしくお願いします」

 

そして電話が切れると修也はデータの入ったメモリーを持って家を出た。

 

「マキナ」

 

「なんでしょうかマスター?」

 

「私はこれから用事で出かける。戻るのは夕方になるかもしれない。それまで、レクトの方に動きがないか見ておいてくれ」

 

「了解」

 

「頼むぞ」

 

「マスターもお気を付けて」

 

「ああ、行ってくる」

 

修也はそう言い残して家を出て行った。マキナは修也の代わりように嬉しさを感じていた。

 

「(マスターがこんなにも他人のことを気にするなんて・・・マキナは嬉しいです)」

 

二年前に修也が仮想世界に囚われた時はどうしたものかと焦っていたが修也は必ず帰ってくると信じて定期的に修也のいる病院に通っていた。

もし修也が死んでしまったら自分はどうなるのだろうかと言う恐怖もあり、ひたすらに修也の帰りを待っていた。

そして修也が仮想世界から戻ってきた後、修也の変わり様に驚いてしまった。

今まで家族などとしか積極的に関わって来なかった修也が友人だからという理由で他人の事に積極的に関わっていたのだ。

他人と関わり、表情が豊かになっていた修也を見て私は嬉しかった。

彼の過去を詳しく知った私は修也が感情を持つようになって嬉しかったのだ。

そして私は修也の役に立つ為に今日も仕事をこなしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当は紙ベースで渡したかったのだが、時間がない為データを直接渡す事にした。

紀尾井町の高級ホテルにあるレストランバーで昼食を取っている自分は来客を待っていた。

 

「・・・菊岡さんが来たんですか・・・」

 

「空いているのが僕しかいなかったんだよ」

 

そう言いながら席に座った菊岡に修也は早速机の上にメモリーを置く。

 

「これが君の言っていた物かい?」

 

「管理を徹底してくれるのであれば何も言いません。後はお任せします」

 

そう言ってメモリーを渡すと菊岡は苦笑しながら話していた。

 

「・・・やっぱり天才と言うのは凄いね。こんな情報を気づかれずに持ってくるとは・・・流石はあの・・・・・・・・おっと、これは言ってはダメだったね。すまない」

 

「・・・」

 

思わず菊岡を睨んでしまった修也に菊岡は自分の迂闊さを謝まり、仕事があると言ってメモリーを懐に入れてさっさと出て行ってしまった。

 

「・・・」

 

修也は菊岡がさって行った方を見て再び食事を再開した。

SAOで食事が娯楽だった影響かあの世界から戻った後から色々な店に行っては食事をする事が増えていた。

 

VRでの出来事がどのように現実世界に影響しているのか

 

それが最近の自分の疑問に思っている事である。

茅場晶彦がいたとは言え、未だに脳の詳しい構造は分かっていないことが多い。その為、VRが現実世界にどのように影響してくるのか把握できていない所があった。

だが、それが分かれば色々な部分で活かせるような気がしていた。

そんな事を思いながら自分は食事を堪能していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に戻ったのは午後六時頃。あの後、色々と寄り道をした修也は家に帰って早々にアミュスフィアを取り出し、頭につけてALOにログインをした。

ログインをした先の世界樹の先でブレイドは待っているといつも黒い格好をしているキリトと昨日知り合ったリーファ、そして見知らぬ黄緑色の髪をした少年がいた。

 

「ブレイド!」

 

「キリトか、その子は?」

 

「あ、えっと・・・レコンと言います!あなたは?」

 

「ブレイドだ。この素寒貧の友人だ」

 

「素寒貧・・・。まぁ、間違ってないけどさ・・・」

 

キリトの横でリーファが苦笑しながらキリトを見ていた。

お互いに挨拶を済ませたブレイド達は同じ世界樹を見ていた。

 

「・・・行くのか?」

 

「当たり前だ。行ってアスナを取り戻す」

 

「・・・そうだな。こっちも終わらせないとな」

 

二人は頷くとリーファ達に世界樹の攻略をする事を話し、了承をしてもらった。

そこでブレイドが二人に作戦を教えた。

 

「二人は下の方で俺達の回復を頼む。キリトは前線で突撃しろ」

 

「ブレイドはどうするんだ?」

 

「私は囮になる。恐らく攻略不可能な難易度に設定しているということは強力な敵が大量に湧いてくると言う事、ならば攻撃の追いつかない速度で走ればいい」

 

「それで、どうするんだ・・・?」

 

「これを使う」

 

そう言いながら見せた物にキリトは驚愕していた。リーファ達はそれが何なのかを理解していなかった。

 

「っ!それは・・・」

 

「管理者権限用のマスターキーだ。キリトこれを使「俺も持っている」・・・何?」

 

そう言ってキリトは事情を説明しながらマスターキーを見せる。

 

「世界樹の上から落ちてきたんだ。恐らくアスナが落としたんだろう・・・」

 

リーファとレコンが困惑する中、ブレイドとキリトは話をし続けていた。

 

「そうか・・・じゃあ、作戦を変えよう。私とキリトの二人で穴を開ける。残りの二人は・・・悪いが敵のヘイトを集めてくれ・・・できる限り引きつけたら逃げろ」

 

「え!?」

 

「それって・・・」

 

「その方が生き残る確率も高いし、自分達は動きやすくなる。それじゃあ、後を頼むぞ」

 

そう言うとキリトと二人で世界樹の扉を触った。

 

「行くぞ!」

 

扉が開き、四人は一斉に世界樹攻略に乗り出した。



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#17 援軍

メリークソスマス!!


世界樹攻略に乗り出したブレイド達は急速に上昇していた。

 

「ブレイド!そっちに行ったぞ!」

 

「問題ない!」

 

接近してくる白い守護騎士に両手剣を持ってその全てを切り捨てていた。

 

「流石だな」

 

「キリトもよく言う・・・」

 

背中合わせに敵を斬りまくっている二人はリーファ達の届く距離で進んでいる為、全力の速度で飛べずにいた。

 

「しかし、敵が多いな・・・」

 

「ああ、どんだけ出てくんだよ・・・」

 

「ヘイトを向ける。その隙にキリトは・・・」

 

ドゴォォォォォォオオオオン!!

 

下の方で爆発音が響き、完全に膜となっていた騎士の群れに穴を開けていた。

咄嗟に下を見るとそこにはリーファしかおらず、レコンの姿はなかった。恐らくは自爆魔法。恐ろしいペナルティと共に大爆発を起こす魔法だ。

だが、その結果に見合う大きさの穴はポップされた敵にすぐさま防がれた。

おまけにさらに多くの敵がポップされ、周りを囲まれていた。

 

「四面楚歌・・・」

 

「背水の陣だな・・・」

 

敵を前に二人して上に突撃をかけようとした時・・・

 

『わあぁぁぁぁあああああ!!!』

 

雄叫びが聞こえ、大規模な魔法が詠唱された。

 

「あれは・・・」

 

「飛竜・・・!?」

 

「すまない」

 

「ごめんネ〜、装備揃えるのに時間かかッテ」

 

「猫妖精と風妖精か・・・」

 

二つの領主がキリトを見つめて微笑むと。

 

「騎竜隊、ファイアブレスっ撃てぇぇぇぇ!!!!」

 

「シルフ隊、フェンリルストームっ放て!!!」

 

ガーディアン達が爆炎に呑まれる。

 

「総員、突撃!!!」

 

「あの二人に続けぇぇ!!」

 

シルフと、騎竜に乗ったケットシーが戦線に加わる。二種族が合わせて決めた大技により、再び壁に穴が開く。

 

「キリト!」

 

「ああ、行くぞ!!」

 

「キリト君!!」

 

リーファの投げた長剣はキリトの左手に収まり、キリトは擬似的に二刀流を作った。

 

「はああぁぁぁぁあああ!!!」

 

キリトの後方でバックアップをしている自分は目の前に光る何かを見つけた。

 

どぉぉぉぉおおおん!!

 

守護騎士達の壁を破り、その上に到達する。

そこには円形の扉と守護騎士がおり、キリトがユイを呼び、その扉を触っていた。

 

「パパ、この扉は管理者権限でロックされています!」

 

「キリト!あれを使え」

 

「分かった!」

 

キリトがユイにカードを渡し、それを転写してユイが扉を開けていた。その間、自分は守護騎士を叩き切りながら飛び回っていた。

そして転写し終え、扉が四分割に分かれて開き始めた。

 

「転送されます!パパ、ブレイドさん。手を!」

 

ユイの手を取り、自分達は襲ってくる守護騎士を横目に、何処かに転送された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に視界が回復した時、そこは白い通路があった。

 

「ここは・・・」

 

「わかりません。マップ情報がないですから」

 

「ユイ、アスナの位置は?」

 

「こっちです!」

 

「よし、行くか」

 

「キリト!」

 

興奮状態のキリトにブレイドか話しかける。

 

「気を抜くな。ここは敵陣のど真ん中。何がいるかわからない事を肝に銘じておけ」

 

「あ、あぁ・・・分かった。ブレイドはどうするんだ?」

 

「私は囚われたプレイヤーの解放をする。ケジメをつけにいく」

 

「分かった。これ、渡しておくよ」

 

「これは、私はもう持っているが?」

 

「念の為だ。俺にはもう必要ないからな」

 

「・・・そうだな、受け取っておこう」

 

そうしてキリトからカードキーを受け取ると二人は正反対の方向に走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い通路を走り回って地図を見つけたブレイドは《実験体保管室》と書かれた部屋を見つけた。地図を見た時、あまりにも簡素化された作りからここへの侵入者を考えていないのだろうか?

そう思ってしまうほどに簡単に実験体保管室に到着した。そこには半透明の脳が多数浮かんでおり、その下に名前のようなものが埋め込まれていた。

 

「こりゃアウシュビッツより酷いな」

 

ブレイドは保管室にされもいない事を確認し、部屋の中央にあるコンソロールを触っていた。そしてカードを差し、最後の段階まで来た。

 

「ここを動かせば・・・っ!」

 

咄嗟に入ってくる気配に気づいたブレイドは咄嗟に台座の影に隠れた。

保管室に入ってきたのは二匹の紫色の巨大ナメクジ。気味の悪い触手を動かしながら観察をしていた。

 

「どうだ?」

 

「H14はよく反応しているよ。A24も幻覚を見ている」

 

「(・・・)」

 

思わず持っていた両手剣を持って切り掛かりたいと思ってしまった。だが、ここで表に出てしまってはせっかくの行動が無駄になってしまう。

気持ちを抑えて彼らが出て行くのを待っているとブレイドはいつの間にか持っている武器に投擲剣が追加されている事に気がついた。

その事に思わずフッと笑ってしまった。

 

「(なるほど・・・これで倒せと言う訳ですか)」

 

ブンッ!ザシュッ!

 

「っ!何が・・・ガッ!」

 

「お疲れさん・・・豚箱が待っているぞ」

 

「なっ!き、貴様・・・」

 

ナメクジが驚いている隙も与えずにブレイドは叫ぶ。

 

「副管理者権限、ログインID『ピロー』。目の前にいるプレイヤーの権限を剥奪。ペイソンアブソーバーを変更、それと同時にアミュスフィアのログアウト機能を剥奪。両プレイヤーをレベル1に変更・・・」

 

「何をした!!」

 

「僕らより高位なIDだと!?ふざけるな!そんな事、あの人にしかできないぞ!!」

 

ナメクジが怒り狂ったように叫んでいた。しかしブレイドはそこら辺のゴミを見るような目で二人に言う。

 

「人じゃないナメクジがしゃべるな。システム介入、両プレイヤーの発声コマンドを変更、体力常時回復を付与」

 

するとワーワー騒いでいた二人が一斉に静かになり、二人は愕然としていた。そしてブレイドは二人に突き刺した投擲剣を掴んで魔法を唱えた。

 

「スペル『帯電』発動」

 

バチバチッ!!

 

短刀から青白い何かが走ったと思うと二人のナメクジは悶絶した表情で体をうねうねさせており、その様子はまるで打ち上げられたトドのようであった。

ブレイドによって管理者権限を剥奪された二人はログアウトも出来ず、体力が減らないので死ぬこともなく、永遠と身体中に電流を流される苦痛を味わっていた。

 

「せいぜい、君達を捕らえにきた警察がアミュスフィアを取ってくれる事を祈っているよ。ま、その時は豚箱行きが確定していると思うがね」

 

ブレイドはそう言い残して保管室の端に二人を蹴飛ばしてブレイドは再びコンソロールを動かしていた。

その途中で、ブレイドは話しかけた。

 

「そこに居るんでしょ?兄さん」

 

「・・・気づいていたのか・・・修也」

 

「兄さんだからね。これくらいは分かるさ」

 

「普通気配だけで分かる人もいないと思うがな・・・」

 

そう言うと茅場はブレイドの横に近づくとブレイドのコンソールを見ていた。

 

「修也、後は私がする。お前はキリト君の元に行きなさい」

 

「何故ですか?」

 

「須郷君が面倒をかけたようだ・・・ちょっと叱っといてほしい」

 

「君付けじゃなくていいと思う。あんな奴は」

 

「これでも一応は同じゼミにいた人間だ。相応の敬意をしないとな」

 

「これから務所行きなの確定なのに・・・?相変わらずお人好しですね」

 

「・・・さて、ログアウトを開始させた。順にログアウトが始まるだろう。早く行きなさい」

 

「分かった。行ってくる」

 

ブレイドは茅場にそう言うと足速に保管室を後にした。その様子を見た茅場はどこか悲しげな表情でブレイドの去って行った方を見た。

 

「・・・幼い頃から決別され、兄として振る舞うことが出来なかったことだけは唯一の後悔だな」

 

茅場はそう呟いて修也の()()()()を思い出していた。

 

「一族の期待を背負わされた残酷な運命・・・人を殺したことで親族からは畏怖の目で見られ、人に絶望した子か・・・」

 

茅場は彼の過去と荒んだ心情を思い出し、思わず身震いしてしまった。

 

「彼の心を癒してくれる人が出てくる事に期待するしかないな。・・・少なくとも私では彼の心を癒すことはできなかった・・・」

 

茅場は徐々に数の減っていくプレイヤー達を眺めながら保管室を歩く。

 

「後でこれをあの子に渡しておこう・・・」

 

そう呟いて茅場は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保管室を後にしたブレイドは走ってキリト達を探していた。

 

「位置情報ならこの辺り・・・」

 

座標に付いたブレイドは辺りを見回すも、何も見えず。代わりに上の方に見えた鳥籠だけだった。

 

「・・・まさか」

 

ブレイドは須郷がキリト達を逃げれない空間に引き込んだのだと予想した。

 

「チッ、面倒な事を・・・」

 

すぐさま管理者権限でコンソロールを起動し、キリト達のいる空間に飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァ・・・!」

 

「キヒヒヒヒ。もっと君の悲鳴を聞かせてくれよ。心がスッとする」

 

「あなた・・・絶対に許さない・・・!!」

 

「鎖に繋がれて何もできない君がよく言うね。僕はこの世界の神!逆らう者はいないんだよ・・・?」

 

キリトの苦しんでいる声と、アスナの怒りのこもった声に反応するのはこの世界の神を自称するオベイロンこと須郷伸之は悶絶するキリトを見て笑っていた。

 

「さぁ、もっと君の悲鳴を聞かせてくれよ。システムコマンド!ペイン・アブソーバ、レベル8に変更」

 

「っ・・・ぐっ・・・!」

 

「おいおい、またツマミ二つ目だよ君。段階的に強くしてやるから楽しみにしていてくれたまえ」

 

須郷は楽しむようにキリトを嬲っていた。キリトは須郷の影響で武器を扱うことが出来なかった。

もがくキリトを見て楽しんでいる須郷は不意に舌打ちをした。

 

「チッ、誰かコマンドを触ったな?まあいい、後で捕まえて遊んでやる」

 

その言葉を聞いたキリトはブレイドの方はうまくいったのだと確信し、ほっとしていた。だが、自分がなぶられているのは変わらず、どうしようか考えを巡らせていると。

 

『フハハハハハハ・・・』

 

「っ!何だ!?」

 

突如として気味の悪い声が聞こえた。いきなりの事に困惑していると暗かった空間から何かが落ちてきた。それは人だった。そして人は地面に思い切り落ちると埃を落とす等に肩を触っていた。落ちてきた衝撃で須郷は吹き飛ばされていた。

 

「ふぅ、何とかたどり着いたようだな」

 

「っ!誰だお前は!!」

 

キリトとアスナは声から落ちてきた人が誰なのか分かったが、それ以上に驚いていた。

それはその人が身につけている装備にあった。

 

「私は・・・ブレイドという者だ。偽りの王オベイロンに会いに来た」

 

真鍮色の模様の入った赤い鎧に片手剣と盾を持ったブレイドが須郷に向けて剣を向けていた。



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#18 立場逆転

少々無理矢理感がありますが気にしないでください・・・


「これなら行けるか・・・」

 

ブレイドはコンソロールを動かしてキリト達のいる場所への回路を開いていた。

そしてキリト達のいる場所に向かう時、ブレイドの体に異変が起こった。

 

「これは・・・」

 

自分の持っていた装備や両手剣が光に包まれ、別のものに変形をした。

 

「この装備は・・・」

 

見覚えのある格好になった自分の防備と武器に苦笑してしまうと誰かの意思を感じた。

 

「これで行けという事ですかね・・・?」

 

ブレイドは剣と盾を持つとこじ開けた回路に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレイド・・・?」

 

「じゃなかったらどうする」

 

「ブレイドさん!?」

 

「よう、間に合ったかな?」

 

落ちてきたブレイドの姿はアスナやキリトがSAOの時に色々と世話になったヒースクリフに似たような甲冑を着ていたからだ。

 

「その格好って・・・」

 

「さあ?誰かが私の武装を変えたようだぞ?」

 

そう言うとどこからか須郷の叫び声が聞こえた。

 

「僕より高位のIDだと!?ふざけるな!!」

 

「ふざけているのはお前の方だ。須郷伸之」

 

そう言うと須郷は自分のシステムに介入してきたブレイドに対し騒いでいた。これがコイツの本性かと心の中で残念に思うとブレイドは須郷に向かって言った。

 

「お前は世界の王でも何でもない。仮初の玉座に座る仮初の王にすぎない。仮初の王相手に鍍金の勇者だけで十分だろう?」

 

「このガキっ「ガキはあんたの方だ、須郷」・・・!!」

 

須郷はブレイドの殺気に何も言えなかった。今のブレイドは本当の魔王のように須郷を睨みつけており、それは誰よりもとても恐ろしかった。

 

「須郷・・・お前の間違いは私をガキだと思ってベラベラと喋ったことだ」

 

「な、何だと!?」

 

「グロージェン・マイクロ・エレクトロニクス社」

 

「っ!?」

 

「あんたなら知っているだろう・・・・・・・そうだ、貴様がこのシステムを売ろうとしている米国の会社だ」

 

「お前、何故それを知って・・・」

 

「色々調べさせてもらった。今頃外じゃあ面白い事になっているんじゃないか?」

 

「っ!まさか・・・!!」

 

須郷が慌ててログアウトボタンを押そうとしたが・・・。

 

「管理者権限『ピロー』にてプレイヤー名『オベイロン』のログアウト機能を剥奪」

 

「っ!?」

 

ログアウトというこの世界唯一の脱出路を塞がれ、須郷は狂気じみた様子で叫んだ。

 

「こうなったらお前をズタズタにしてやる・・・システムコマンド!オブジェクトID『エクスキャリバー』をジェネレート!!」

 

しかしシステムの反応はなかった。ブレイドは須郷の慌てた様子が滑稽で微笑しながらコマンドを言う。

 

「システムコマンド、オブジェクト『エクスキャリバー』をジェネレート。管理者権限をプレイヤー名『キリト』に譲渡」

 

そう言うとキリトが驚きながらシステムコマンドを受け取っていた。ブレイドの手には金色の片手剣が浮かび上がり、手に取っていた。

 

「キリト、お返ししてやれ」

 

「良いのか?」

 

「面白いものを見れただけで十分だ」

 

そう言うとブレイドはキリトにエクスキャリバーを渡し、壁のほうに向かって歩いていた。キリトは受け取った管理者権限を受け取ると須郷に向かって叫んだ。

 

「システムコマンド、ID『オベイロン』をレベル1に」

 

「っ!?」

 

「逃げるなよ。あの男は、茅場晶彦はどんな場面でも臆する事はなかったぞ」

 

「茅場!?アンタか!またアンタが邪魔をするのか!?」

 

すると須郷は喚き始めた。

 

「何で死んでまで邪魔をする!!アンタはいつもそうだよ・・・いつもいつも!!何でも悟ったかのような顔しやがって!!・・・僕の欲しいものを端からさらって!!」

 

喚く須郷を見てブレイドはコイツがどのような生き方をしていたのかがよく分かった気がした。

キリトが須郷のペイソン・アブソーバーをレベルゼロにし、須郷のエクスキャリバーを投げた。須郷の攻撃は全てキリトに防がれるとキリトが須郷の頬を掠った。

 

「イタッ!」

 

頬を掠っただけで須郷は悲鳴をあげていた。だが、キリトは容赦なく剣を須郷の手首に振った。須郷は剣を持っていた手ごとキリトによって切られ、悲鳴を上げていた。

 

「アアアアァァァァ!!手が・・・僕の手がああぁぁぁ!!」

 

純粋な痛みが須郷を遅い、今にも気絶しそうだった。だが、キリトはそんなことも気にせずに力任せに剣を振っていた。

 

「グボアァァァ!!」

 

「アスナが受けた苦しみはこんなもんじゃないだろう・・・!!」

 

上半身を下半身が真っ二つにされた須郷は顔の原型が完全に崩壊していた。キリトは須郷の金色の髪を乱雑に掴むと上半身を上に放り投げ、大剣を両手で握って突きの姿勢を構えた。

 

ザシュッ!

 

「ギャアアアアアアア!!」

 

不快な悲鳴が響き渡り、須郷の体は白い灰に変わった。

キリトはアスナを縛っていた鎖を剣で簡単に切ると剣を落として力なく崩れるアスナを抱きしめた。

 

「ーー信じてた・・・ううん、信じてる・・・これまでも、これからも。君は私のヒーロー・・・いつでも、助けに来てくれるって・・・」

 

「・・・そうなる様に、頑張るよ」

 

そう言うとアスナの体が光に包まれる。恐らくログアウトの順番が来たのだろう。後でブレイドに感謝をしなければいけいない。

 

「現実世界は多分、夜だ。でも、すぐに君の病室に行くよ」

 

「うん、待ってる。最初に会うのはキリト君が良いもの」

 

アスナは透き通った声で囁いた。

 

「外の世界は色々と変わっていてびっくりするぞ」

 

「ふふ、いっぱいいろんなところに行って、色んな事をしようね」

 

「ああ。ーーきっと」

 

そう言うとアスナは光の粒子となって消えていった。重さがなくなるまでキリトはアスナを抱きしめていた。重みがなくなりキリトは暗闇の中に残るとここでブレイドの姿が見えない事に気がついた。

 

「そう言えばブレイドは・・・?」

 

するとキリトは眩い光に包まれて強制的にログアウトをされた。

 

「(後でアスナの病院に行かないと・・・)」

 

キリトは強制ログアウトがブレイドの仕業だと思いながら光に包まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いた。管理者権限を渡すとはな」

 

「キリトの方が恨みが篭っている。そっちの方がよっぽど効果的だと思っただけさ。ま、結局兄さんがくれた装備は使わなかったけど・・・」

 

「それはもうどうでも良い・・・あのデータはもう必要ない」

 

世界樹の一角で二人が話していた。一人はこの世界に似合わない白衣を来て、もう一人は赤い軽装備に両手剣を身につけた人だった。

 

「成程、恨みがこもった一撃の方が普通の攻撃よりも苦痛を与えられる・・・何とも科学的ではないな」

 

「僕はそう言う類は結構信じるタイプだからね」

 

そして二人はキリトをログアウトさせたのを確認した。

 

「・・・で、兄さん。僕は何をすれば良いの?」

 

「これだ」

 

そう言って取り出したのは透明な卵型の結晶で、中には小さな光が灯っていた。

 

「これは・・・」

 

「『世界の種子』だ。私の仕事をしてもらった報酬だ。この後これをどうしようと文句は言わない」

 

「成程・・・」

 

「じゃあ、私はそろそろ行くとしよう」

 

世界の種子を受け取ったブレイドは茅場を見送ろうとした。すると茅場は思い出した様にブレイドに言う。

 

「ああ、そうだ言い忘れていたよ。修也」

 

「なんだい兄さん?」

 

「ゲームクリアおめでとう」

 

「・・・もう二ヶ月も経っているよ」

 

「生存判定を貰っただけ儲け物じゃないか・・・」

 

「それもそうだね・・・じゃあ。またいつか会いましょう、兄さん」

 

そう言うと茅場は虚空に消え、自分もログアウトボタンを押した。

今頃、リークした情報を元に警察が関係者を捕まえに行っているだろう。だが、須郷かその仲間がキリトを狙って襲うかもしれない。

警戒をしながらブレイドはアミュスフィアを取る準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ログアウトした時、時間は午後九時を回っていた。

修也は目を覚ましているであろうアスナの病院に見舞いに行くために途中で連絡をしながらバイクを走らせた。一時間ほどしてアスナの入院している病院の前に到着する。

深夜だが裏口の関係者用駐車場は空いており、守衛に顔パスで通らせてもらうとバイクを駐車場の中に入れた。

そして修也の予想は的中した。

 

駐車場でコートを着て片手にナイフを持った男が黒い服を着た少年に襲い掛かっていた。

咄嗟に持っていたガスガンを適当に撃つ。

 

パンッ!

 

『Hands up!(手を上げろ)』

 

咄嗟に英語で叫ぶとコートの男もとい須郷伸之は目を真っ赤にさせていた。手に拳銃を持っている事に和人のみならず須郷も驚いていた。

その瞬間を逃さず修也は須郷の顔面に一髪パンチを喰らわす。グローブをつけていたのもあり、須郷のメガネは粉砕して思い切り吹き飛んだ。

 

パリンッ!「ガアッ!」

 

『和人!走れ!』

 

「あ、あぁ・・・」

 

和人は右腕を引き摺りながら病院内に歩いていった。恐らく修也であると気づいたのだろう。安心した様子だった。

修也はメルメットとジャケットを着た状態で顔の判別は不可能だし、声もヘルメットの影響で少し篭った声になっていた。

 

「キリト君に復讐する前にお前を消してからになりそうだ」

 

『偽りの王が堕ちたものだ・・・私を消せると良いな』

 

「屑ガッ!舐めるなぁ!!」

 

メガネを壊された須郷は情緒不安定にナイフを持って簡単に突っ込んでくる。

その単純な動きに修也は軽々と避けると須郷の脇腹を左足で蹴り上げる。

 

「ゴフッ!」

 

体が曲がり、弱った所で須郷の右腕に手刀をすかさず入れるとナイフをそこで落とした。

そのナイフを掠め取り自分は須郷に馬乗りになり、首筋にナイフを当てた。

 

『形成逆転。サバイバルナイフでも生身の人を殺すのは簡単だ』

 

「ヒィッ!」

 

ナイフの刃のない部分を押し当てると須郷は悲鳴を上げた。

 

『寝ておくと良い・・・起きた頃には独房だろうがな』

 

ゴッ!!

 

ナイフを押し当てた状態で須郷の頭を思い切り地面に叩きつけると須郷は顔が崩壊し、おまけに失禁した状態で気絶していた。

 

『あーあ、こりゃ面倒な事になったな・・・』

 

すると駐車場に一台の黒いセダンが入ってきて、そこから黒服の男たちが出てきた。

 

『来たか・・・じゃあ、後はお任せしてもよろしいですか?』

 

そう言うと黒服の男たちは頷くと須郷に手錠をかけて車に乗せると車を走らせて行った。

 

『なんとやわな奴だろうか」

 

ヘルメットを脱ぎながら修也はそう呟く。幸いどこにも傷はなく、そのまま明日奈達のいる病室へと向かった。

 

コンコンッ「入っても良いか?」

 

「ブレイドか、どうぞ」

 

和人の返事が聞こえてきて扉を開けると部屋のベットではアスナがナーヴギアを外して立っており、キリトと手を繋いでいた。

 

「初めまして、結城明日奈さん」

 

「ええ、初めまして。赤羽修也さん」

 

明日奈と現実世界で挨拶をした修也は明日奈と和人が手をずっと握っている事に気づき、すぐに部屋を出ようとした。

 

「じゃあ、挨拶も済んだ事だし。私はそろそろお暇させてもらうよ」

 

「ええ、それじゃあ・・・」

 

そう言うと修也は部屋を出ようとする時、和人が聞いてきた。

 

「あ、そう言えば修也の歳。聞きたかったんだ」

 

「・・・歳は17だ。和人、人の年齢を聞くときは気をつけろよ」

 

「え!同い歳・・・」

 

「それじゃあな」

 

そう言い残すと修也は病室を後にして出て行った。病院の外に出て部屋のあった場所を見返すとそこでは黒色と白色が交わっている様な感覚があった。



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#19 新学期

「今日の授業はここまで、課題ファイル20と21を出すから来週までにアップロードしておくように。以上」

 

教師が資料を持って教室を後にする中、修也は一人教科書をまとめると鞄の中にしまった。

 

「さてと、行きましょうかね」

 

昼休みとなり、食堂に足を運んだ修也は窓を眺める二人の女子の近くに座る。

 

「何しているんですか。お二人さん」

 

「しゅ、修也さん・・・」

 

「ビックリしたぁ」

 

「元気そうだな」

 

修也はうどん定食を持って席に座るとリズベットとシリカ改め、篠崎里香と綾野珪子は窓の外を眺めていた。

それに釣られて修也も外を覗くとそこでは和人と明日奈がイチャイチャしていた。

 

「(成程・・・)」

 

すべてを悟った修也は里香が歯軋りさせながら外を見ていたことに納得をすると昼食を取り始めながら二人を眺めていた。

 

「こんな事なら停戦協定なんかするんじゃなかったわ!」

 

「もう、リズ・・・里香さんが言い出したんじゃないですか」

 

「こればかりは仕方ない部分もあるだろう」

 

うどんを啜りながら修也は外を眺めるとそこでは和人達バカップルが幸せそうに何かを食べていた。

 

「(何故だろう・・・不意に捌きたくなる気分は・・・)」

 

修也は理由のわからない苛立ちをしながら食器を片付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、修也は一旦家に帰りバイクに乗って御徒町にある《ダイシー・カフェ》という店に来ていた。

 

一人の同伴者を連れて・・・

 

「マスター。ここですか?」

 

「ああ、そうだ。さ、行くぞ」

 

「はい、()()

 

そう言って扉を押すとそこでは先程まで会っていた里香と珪子。そしてエギルもとい、このダイシーカフェの店長のアンドリュー・ギルバート・ミルズが準備をしていた。

 

「エギル。手伝いに来ましたよ」

 

「おお、修也か」

 

「やっと来たわね」

 

「修也さん。そちらの子が・・・」

 

「ああ、妹だ」

 

「初めまして。赤羽牧奈といいます。いつも兄上がお世話になっています」

 

牧奈が挨拶をすると里香達は驚いた様子を浮かべた。

 

「凄い良い子ね。流石は修也の妹と言ったところかしら?」

 

里香の言葉に修也は苦笑しながら準備の手伝いをしていた。

 

「エギル、こっちで勝手に作っても良いか?」

 

「不味いものじゃなければ十分だ」

 

台所でエギルと修也が料理を作っていた。あらかた料理を作り終えたところで時間が余っていたので修也はエギルの許可を取って料理になりそうなものを作っていた。

 

「ホー、シーザーサラダか」

 

「見た感じ野菜料理が少なく感じたんだ。今日は女性も来るみたいだから少しくらいは野菜をな」

 

「そうだな、ジャンキーばかりと言うのも重いか・・・」

 

そんな調子でサラダを作り、それを表に持っていき、ほとんど全員が集まった時、主役の和人達が店にやって来た。

そしてオフ会が和人の音頭の元始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エギル、ピニャ・コラーダを出せるかい?」

 

「まぁ、出せるには出せるが・・・今日バイクじゃないのか?」

 

「一杯だけだから問題ない。それを頼むよ」

 

カウンターの隅で隠れるように食事を楽しんでいる修也はエギルにノンアルコールカクテルを注文していた。

店ではマキナが明日奈たちに可愛がられており、また別の場所では男達が固まって馬鹿騒ぎをしていた。

 

「ほいよ。ピニャ・コラーダだ」

 

エギルが慣れた手つきでグラスを修也の前に置くとキリトが座ってエギルに注文をした。

 

「マスター。バーボン、ロックで」

 

「何言っているんだ?」

 

思わず声に出てしまうほどに適当な注文にエギルは氷の入った烏龍茶を出していた。キリトは烏龍茶が出てきたことにホッとした様子でいるとキリトのさらに隣にスーツに趣味の悪いネクタイを下げ、額にバンダナをつけた長身の男が座っていた。

 

「エギル、俺には本物をくれ」

 

男ーークラインは出てきたタンブラーを持ってスツールごと回転させ、女性陣が固まっているテーブルを見てだらしない顔で見つめていた。

 

「おいおい、良いのかよ。このあと会社に戻るんだろう?」

 

「無理言って半休にさせてもらったよ」

 

きっちりしていると思いながら修也はグラスを傾けていると和人が話しかけてきた。

 

「なあ、例のアレ。どうなっているんだ?」

 

「ん?ああ、少し待ってろ。確認をする」

 

そう言って修也は持って来た鞄からパソコンを取り出して、キーボードを触ると和人とエギルに見せた。

 

「稼働中のサーバーはおよそ三百、ミラーサーバーが五十・・・ダウンロードに至っては十万超えてるじゃねえか」

 

「あの人はすごいよ・・・」

 

そう呟やき修也は今も増え続けているダウンロードの数を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで須郷の後のことを話したいと思う。彼は警察に連行された後。黙秘に次ぐ黙秘、否定に注ぐ否定で抵抗をしていたようだが部下の一人が自白をしたのを知るとあっさりと全てのことを話したと言う。

 

幸いにも囚われていた三百人近いプレイヤーは後遺症も無く、無事に復帰できたと言う事だった。

 

だが、SAO事件で世間的にVR技術は衰退しかけていたのに、須郷の引き起こしたALO事件によって業界は大ダメージを受けた。

最終的にレクト・プログレスは解散、レクト本社も彰三氏や経営陣が一新されたことでなんとか会社としての体裁を保てたという。

もちろんALOも運営が中止され、他のVR作品も社会的批判に喧しく、これらも中止は免れないだろうと思われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その状況を力技で根こそぎひっくり返してしまったのがーー茅場が修也に渡した『世界の種子』だった。

 

あの事件後、修也が調べた結果それは少し大きなサーバーさえあれば誰でも仮想世界を作れると言う優れものであった。安全を確認した自分は、これをどうしようかと和人とエギルに相談してこの世界の種子を世界中のサーバーにアップロードし、誰でも自由に使えるようにしたのだ。

これは茅場晶彦が望む事だと確信をしている。あの人は幼い頃からの夢である『異世界に行く』と言う果てしない夢がある。決して終わりの見えないその夢は彼を電脳化させるまでに至ったのだ。ならばあの人の夢を終わらせるわけにはいかないと思い、自分とエギルのツテを使って世界中にこの情報を公開させた。

 

 

このまま死に絶えるはずだったアルヴヘイム・オンラインもいくつかのベンチャー企業が共同出資して作られた会社によってタダ同然でレクトからデータを受け取っていた。

さらに、この世界の種子にはコンバートと呼ばれるひとつのVRゲームで作ったデータを他のゲームに移動させることができるシステムがある。

さらに世界の種子は生活の場にも足を広げ始め、さまざまなカテゴリーのサーバーが誕生していた。

 

「さて、二次会の予定は?」

 

「午後十一時にイグドラル・シティに集合だ」

 

「そうか、了解・・・それで、あっちの準備はどうだ?」

 

和人が声を顰めて修也に聞く。修也は小さく笑みを浮かべた。

 

「問題ない。サーバーまるまる一個使う容量だったが・・・なにせ『伝説の城』だ。ぜひ自分のサーバーを使って欲しいと色んな連絡があったよ」

 

修也は疲れた様子だったが、どこか嬉しそうになっていた。

実はこの作業をした時にアルヴへイム・オンラインの会社に勧誘されたのだが、お断りさせてもらっていた。

理由としては簡単で、すでにザ・シードを使って自分とアメリカにいた時の友人で作った会社でゲーム管理者をしているからだ。

これ以上予定を増やされては敵わないからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マキナを連れて店を後にすると修也はマキナをバイクの後ろの席に乗せて家に戻り始めた。

 

「どうだったマキナ」

 

「楽しかったです。マスター」

 

「いい勉強になったか?」

 

「はい、家に帰ったらマスターが遊んでいる間に最適化しようと思います」

 

「そうか・・・」

 

修也はバイクを走らせながらマキナを作った時のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次世代トップダウン型試作人工知能モデルNo.001 マキナ》

それが彼女の本当の名前。名前の通り彼女は人工知能だ。だが、トップダウン型では珍しく感情を持つ電子生命体として誕生し、修也がアメリカにいた時、アメリカに留学しに来ていた茅場晶彦の力を借りて作った自分の分身だ。

基本システムは兄が、彼女の体を作ったのは自分だった。

一生で最初で最後の兄と一緒に作った命だった。

彼女を作った後、兄は先に日本に帰ってしまい、自分はアメリカの学校を卒業した後に彼女を連れて日本に帰った。

それから自分がSAOに囚われた後。彼女は毎日自分を最適化させ、自分が帰ってくるのを待っていたと言う。

そして最適化していく中、彼女は感情を手に入れ、目まぐるしい進化を遂げていた。それはまさに一つの命として・・・人と同じように感情を持ち、表情を持ち、自分がSAOから帰った時は機械であるにも関わらず泣いて喜んでいた。涙は出ていなかったがそれでもそれを感じさせるくらいに彼女は進化していたのだ。

彼女の成長具合に驚きつつも自分は彼女の体を進化させてより人間らしくするために主に顔の部品を変えて表情を表せるようにした。

いまだに涙を出すことはできないが感情を表現できるようになった彼女を私は一人の人として、自分の妹として見るようにしていた。

そして学校に通うようにしてからは自分はマキナを連れて父の所有するマンションで二人きりで生活するようになっていた。

基本的にマキナが家の掃除をしてくれる為、家で基本的にする事は減っていた。

家事をこなすマキナに対して、自分は彼女の体のパーツ更新と言う形で彼女の最適化の手伝いをしていた。

今の所、体のパーツの交換率は半分にも満たないがマキナにはそれが嬉しいようだった。

常に情報の海を見ている彼女だが、そんな彼女でも明日奈達との会話は最適化させるにはいい経験だったようだ。

 

「(いい刺激になったようだな・・・これからもお世話になるか・・・)」

 

ブレイドがそう思いながらバイクを走らせる後ろでマキナは修也を見て悩ましい気持ちを抱いていた。

 

「(マスターは私に優しい・・・でも、私はマスターがそれで幸せになっているとは思えない・・・私はどうしたら良いんでしょうか・・・)」

 

マキナも修也と晶彦によって作られた命である事は理解していたが晶彦の強い要望で修也を兄のように慕うように設定されていた。

それには理由があったのだが、それを詳しく知ったのはもう少し後のことだった・・・。

 

「(マスターを本当の意味で幸せにしてくれるのは誰なんでしょうか・・・?少なくとも叔父様や私ではマスターの飢えを潤す事はできなかった・・・)」

 

悔しそうにマキナは心の中で思っているとバイクが今住んでいるマンションに到着し、バイクを降りた二人はエレベーターに乗り込み部屋に到着した。

 

「じゃあ、マキナ。私は今から二次会に行く。しばらく休んでいてくて」

 

「分かりました」

 

マキナは椅子型の充電器に座ると搭載されたバッテリーに充電が開始され、自分もスリープモードに入り、最適化が行われ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予定時間の五分前に入ったブレイドは多くのプレイヤーが空を眺めていた。

そして時間が午後十一時を示した時。

 

 

 

ゴーンゴーンゴーンゴーン!!

 

 

 

鐘の音と共にそれは姿を現した。

 

 

 

かつてある男が自身の全力をかけて作った鋼鉄の城・・・

 

 

 

ある男が夢見た鉄の城は再びその姿を現し、一斉に妖精達が城に向かって飛び始めた。

 

 

 

「兄さん・・・あなたの作った世界は今も、これからも生き続けますよ・・・」

 

ブレイドは剣を片手に一斉に飛んでいく妖精達に混ざって鋼鉄の城に向かって飛んでいくのだった・・・。



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ガンゲイル・オンライン編
#20 旧友


皆さん、良いお年をー!!


二〇二五年 二月某日

 

須郷の一件も落ち着き始め、世界の種子を世界中のサーバーに送り出した修也は世界の種子を使って自分の好きな銃をデータで作っていた。

 

ピリリリリリリ!

 

国際電話で携帯の電話が鳴り、電話を取るとそこから懐かしい声が聞こえた。

 

『もしもし、シューヤか?』

 

「おお、ザスマンか。今日はどうしたんだ?」

 

修也にザスマンと言われた男性は陽気に話してきた。

彼の本名はザスマン・シャザール。自分がアメリカにいた時に色々と世話になった友人であり、今回の世界の種子の一件でもお世話になった人でもある。

ザスマンは大の銃好きで、それに影響されて自分も銃に詳しくなり、次第に好きになっていた。

アメリカにいた時にザスマンに誘われて銃の愛好会に加入もしていた。ちなみに加入した愛好会は色々と特徴的な人が集まっている集団でもあった。

 

『シューヤが教えたザ・シード?あれを使って愛好会でゲーム作ろうって話になっているんだ』

 

「ゲームを?」

 

『そうそう、シューヤはそう言うの詳しいだろう?だから他にも仲間集めてゲーム会社をやろうって話になっているんだよ』

 

「成程・・・」

 

ザスマンの話を聞いて修也はどんなことになっているのかを大体納得すると快く承諾した。

ザスマンにはアメリカで色々とお世話になった上に、マキナの部品の調達までやってくれた。恩を返すには丁度いいと思っていたのだ。

会社を立ち上げる資金に関しては愛好会から分担して出すことになっているそうで、その他諸々はまた別の人がやってくれるそうだ。

 

「分かった。私もできる限りのことはするよ」

 

『本当か!?じゃあ、明日二十時・・・あ、そっちじゃ十時か・・・』

 

「こっちは何時でも行けるぞ」

 

『そうか!じゃあ、その時間に全員集めてゲームについて会議するから来てくれ』

 

「ああ、分かった」

 

ザスマンの若干興奮した様子を聞いて修也は変わらない旧友にどこか嬉しさを感じながら明日の会議のコンセプト案を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっぱ銃だろ』

 

『銃だな』

 

『それ以外に俺たち興味ないし』

 

『じゃあ銃を扱うゲームでいいな?』

 

『それでいいと思う。反対する人は?』

 

二十人ほど集まったオンライン会議で発案者のザスマンは全員にそう聞くと反対意見は一切出なかった。

この会議に参加しているのは全員が同じ銃愛好会のメンバーで、修也も知っている人ばかりであった。

ちなみにここの愛好会は修也以外のほとんどの人がアメリカ人と言うことで会議も全部英語で話している。

 

『じゃあ、銃ゲームを作るのはいいとして・・・誰がプログラムをする?』

 

『俺は無理だぞ』

 

『俺もちょっとだけしかできないぞ』

 

「そこは私がやる」

 

修也がそう言うと会議に参加した全員がおぉ・・・と言った様子で修也を見ていた。

 

『シューヤがプログラムするなら安心だな』

 

『シューヤがいるなら安心できるな』

 

『俺も手伝うぞ。シューヤだけで全部できるはずがないからな』

 

そうして参加した中で修也以外にも十人くらいがプログラムをすると言い、さらにその友人にも声を掛けると言うことで結局二、三十人くらいの人数になった。

そしてザスマン主導でゲーム開発が始まり、毎日の様に行われる会議で世界の設定や使う銃器。

銃器メーカーへの連絡など自分がプログラムを作っている間に他の仲間たちがいろいろなところに走り回ってくれている様だった。

そして大体のプログラムを終えた時、愛好会のメンバーの一人が突拍子もないことを言い出した。

 

『シューヤ、これ現金に還元できるシステムとか作れないか?』

 

『「・・・は?」』

 

これにはザスマンも自分も思わず素っ頓狂な返事をしてしまう程だった。

しかしその仲間はこんな提案をした訳を言った。

 

『いやぁ、普通ゲームに課金したら戻ってこないじゃん。だから面白くないゲームだとすぐに廃れちゃう。だったら面白くなくても頑張れば元が取れる様にゲームで稼いだお金を現金にできるシステムを作るのはどうかって思ったのよ』

 

「・・・」

 

『それに、他のゲームにはない面白いシステムだと思わないか?』

 

仲間の提案に修也はどうしたものかと思っているとザスマンが口を開いた。

 

『・・・面白そうだな』

 

「えっ!?」

 

『やろう!面白そうだし』

 

「ウッソだろ・・・」

 

もしやるとするならそれは金が関わってくる事からかなり面倒なことになる上に、その他諸々の設定が必要になる。

修也はその面倒臭さを説明したが、ザスマンは完全にノリノリとなってしまい聞く耳を持たなかった。

 

『自分達だけの換金システムを作ればいい。サーバーはこっちで準備するからシューヤ達は設定お願い』

 

「冗談じゃないぞ・・・」

 

『なぁに、俺はカード会社に勤めているんだ。そのシステムを流用すればいいじゃないか』

 

換金システムを使うと言った仲間はそう言って笑っているが、自分を含めたプログラムメンバーはゲンナリしていた。

そして色々と忙しかったが、大体一ヶ月半で作り上げたゲームはほどんどが完成し、あとは発売するだけと言うところまで漕ぎ着けたが、修也は最後にアバターであるものを作っていた。

 

「(荒廃した未来の世界・・・。どうせなら・・・)」

 

そう思いながら作ったアバターはかつて青森に住んでいた頃、祖父の家のあったアニメに出てくるモ◯ルスーツをイメージして作っていた。

それは自分が初めて見たアニメ作品で、青森にいた頃にどハマりしていたアニメだった。

ちなみにそのアバターを見たザスマンは

 

「これ怒られるやつやん・・・」

 

と言って呆れていた。だが修也は満足した様子でそのアバターをシステムに組み込んでいた。ザスマンも面白半分でシステムに組み込むことに反対はしていなかった。

 

「だいぶ満足した作品を作れたな・・・」

 

修也は忙しくも楽しかった二ヶ月を思い出すとどこか嬉しくなりながら修也はアミュスフィアを被った。

 

今日は自分達の作ったゲームーー『ガンゲイル・オンライン』を使って久々にザスマンや愛好会の仲間達とPvPをする予定となっている。

発売から一週間しか経っていないが売れ行きは好調で、日本とアメリカの両方でプレイヤー数は増えていた。

今はプレイヤー人数の関係上アメリカと日本サーバーを同じにしているが、いずれ分ける予定となっている。

理由としては銃に慣れていない日本人と毎日銃を触っているアメリカ人では感覚に違いがあるからだった。

日本サーバーの管理は修也と在米日本人の愛好会の数人で行う予定である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新規プレイヤー『フリューゲル』はGGOにログインをした時に自分の格好を見て冷や汗をかいた。

 

「嘘だろ・・・」

 

赤い金属製の装甲にさまざまなパーツが組み合わさってできた腕と手、そして初ログインの時に鏡代わりに用意した窓ガラスを見て思わず叫んでしまった。

 

「なんで自分の作ったアバターなんだ・・・」

 

そのアバターは特徴的な頭部とモノアイ、湾曲した装甲板。右肩のスパイクアーマーに右肩のシールド。体の各所に取り付けられた多数のスラスター。そして背中にはバックパックが取り付けられ、全体的に赤く塗装されたそのアバターは

 

「シ⚪︎ア専用ザク・・・」

 

かつて見たアニメに登場した中で修也が最も好きなMSである。

わざわざザスマンが許可をとってきてくれたそのアバターをまさか自分が使うことになるとは思ってもいなかったのである。

このまま仲間達に会いにいくのが恥ずかしくなる程にフリューゲル、もとい修也は困っていた。

 

「どうしたら良いか・・・」

 

そして結局悩んだ末に、修也は・・・

 

「ブハハハハハ!!」

 

「ヒーハッハッハッハ!!」

 

「こんなことww、あり得るのかよwwww」

 

「うるさいぞ。お前ら」

 

そう言って笑い転げている愛好会の仲間を見下ろしながらフリューゲルは呆れていた。フリューゲルのアバターを見た愛好会の仲間達は笑いあっていた。

まさか自分で作ったアバターを自分で引き当てるとは・・・。

 

なんてこったい\(^○^)/。と思いながら取り敢えず笑いころ転げているやつを蹴飛ばして、集まった十人で無人の荒野を歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ車いるな」

 

「今度のアップデートの内容決まったな」

 

「ついでにカジノだな。稼ぐのがモンスター狩りだけってのもつまらん」

 

「カジノに沼る奴が出てこないか?」

 

「制限を設ければいいだろう」

 

そんな事を話しながら荒野を歩く九人の男と一人のロボットは銃を片手に走っていた。

 

「移動だけでこんなに時間がかかるのかよ・・・」

 

「広くしすぎたか?」

 

「いや、広さはもっと広くていいくらいだと思うぞ。やっぱ移動手段だな。これログアウトしたら絶対やろう」

 

「そうだな・・・ったく誰だよ。荒廃した世界だから乗り物いらんとか言ったやつは・・・」

 

移動中文句を言いながら狩場でモンスターを狩っているのはザスマン・・・もとい、サムアだった。

 

「それは知らんぞ。私は街しか作っていないからな」

 

その横で光学小銃を撃つのはフリューゲルだ。フリューゲルはスコープ越しにモンスターを狩っていた。

 

「しっかし、こうも金稼ぎでモンスター狩るのが暇だとはな」

 

「こっちは課金しているんだ。遺跡にでも潜るか?」

 

「こっちは初心者だぞ。無理に決まってんだろ、もう少し育てさせろ」

 

「同感だ。俺も今日始めたんだぞ」

 

そう言って男十人はモンスターを狩り、アイテムとそこそこの経験値を稼いだフリューゲル達はスキル欄を見て愚痴っていた。

 

「おい誰だよここまでスキル増やした奴は」

 

「俺だ、ちなみに戦闘に必要なスキルはほぼ全部入れている。基礎から応用までな」

 

「何種類あるんだよ・・・」

 

「知らんな、途中から数えてもいないし、把握も諦めた」

 

「制作者が何言ってんだよ・・・」

 

そう言ってサムアが呆れながらスキルをステータスを割り振っていた。

そしてその後もモンスター狩りとアイテム売却で金を手に入れてその日はログアウトをした。

だが、フリューゲルだけは時差の関係から残ってゲームをやり続けていた。アメリカは金曜日だが、日本では今日は土曜日、修也は時間を気にせずにGGOにハマり込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度ゲームをしたところでフリューゲルはログアウトし、現実世界に帰還した。

 

「今は夜八時・・・向こうは十時か」

 

修也はログアウトした時間を確認すると早速パソコンに向かってキーボードを叩き始めた。まず最初に行ったのは足りないと感じた移動手段を増やす事、そして娯楽の種類を増やす事だった。

幸い,空いている人員に乗り物系を頼み、自分は他の娯楽・・・ミニゲームなんかの制作をし始めた。

 

「作るなら銃を使ったミニゲームだな・・・」

 

そこで修也はふとキリトが思い浮かんだ。

あのキリトのALOの時の動きを思い出して弾除けゲームでいいかと簡単に設定をした。

キリトがクリアできないレベルに設定した修也は今度のアップデートにこのミニゲームを埋め込んだ。

 

「(これクリアできる奴おらんやろ)」

 

そんな事を思いながら修也はデータをザスマンの設立したゲーム会社、ザスカーに送信した。

 

「・・・さて、また戻りますか」

 

現在は四月の半ば、帰還者学校に入って一週間ほどしか経っていないが、修也はゲームにのめり込んでいた。




ちなみに作者が一番好きなMSはゲル◯グ。
修也のアバターはオリジン版をイメージしてください。








そして修也のプログラムしたゲームは・・・アレですよアレ。


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#21 武器

あけおめ〜?


GGOを始めて二ヶ月ほど、修也は毎日のようにGGOにログインしてゲームをプレイしていた。

GGO最大の都市、SBCグロッケンは着陸した宇宙巡洋艦を中心にかつての巨大都市の上に建設されたと言う設定の為、街自体がとても入り組んでおり、道を覚えていなければ確実に道に迷ってしまう構造になっていた。

その為大きい道沿いなどには人混みや店があるのだが、逆に細い道や抜け道は余程の人じゃない限り知らない店などもあった。

 

「今度の会議でナビ機能でも入れようか話すか・・・?」

 

そんな事を呟きながらフリューゲルは借りた宿で今の愛銃であるモシン・ナガンにスコープを取り付けていた。

 

「もうちょっと別の銃が欲しいな・・・」

 

そう呟いてフリューゲルはモシン・ナガンを握る。今使っている銃のメインはこれだが、いずれ別のものが欲しいと思っていた。モシン・ナガンは確かに精度が良くて使いやすいのだが、しっくり来ないのだ。それに、ザクが木目の小銃を使っているのも見た目がちょっとアレと言うニッチな理由もあった。

 

「・・・ダンジョンに潜るか」

 

フリューゲルはそう思うと銃片手に必要なものを持つとSBCグロッケン地下の遺跡ダンジョンに潜る事を決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンに潜って数十分、モシン・ナガンを使ってダンジョンに潜っていると不意に足元に違和感を感じた。

 

パキッ!

 

「え?」

 

ガラガラ・・・

 

「うおっ!」

 

地面に空いた穴に吸い込まれるようにフリューゲルは落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穴におちたフリューゲルは埃を払いながら立ち上がると目の前に巨大なボスが現れた。どうやらここは廃墟となった地下貯水槽のようで、開けた場所に高い柱が何本も立っており、その柱の間に巨大なボスらしきクリーチャーがいた。

少なくともプログラム時には見た事ないボスで、このダンジョンを作ったやつに小一時間ほど問い詰めたい気分だったが。そんなことも言っていられず、フリューゲルはモシン・ナガンを片手にマップを走り回り、マップ端の窪みに滑り込むとモシン・ナガンを構えた。

 

「弾薬は・・・あまり心許ないな」

 

残弾数を確認したフリューゲルは少しだけ苦い表情を浮かべるとモシン・ナガンを構えた。

一応、近接専用の拳銃として《H&K HK45》を持っているが、今回はすぐに帰る予定だったのでマガジン一個分しか持ってきていなかった。

その為、フリューゲルは小銃だけでこのボスを相手にしなけれなからなかった。

 

「これは死に戻り覚悟だな・・・」

 

ランダムで装備が消える事を覚悟してフリューゲルは武器を構える。

 

「後で、じっくり聞くとするか・・・」

 

フリューゲルはそう呟きながら銃を構え、モンスターに放った。

 

パンッ! カチャ!

 

パンッ! カチャ!

 

パンッ! カチャ!

 

パンッ! カチャ!

 

パンッ! カチャ!

 

五発撃ち終え、クリップを差し込んで、弾薬を押して、レーバーを引いて、弾薬を込めて、引き金を引く。

その作業を繰り返していると五時間が経過していた。その間にボスはガスや打撃など多種多様の攻撃を繰り返していたが、逃げ込んだ窪みに攻撃が来ることがなく、ダメージに怯える事なく小銃を撃っていた。

 

「これで終わりか・・・時間が掛かったな・・・」

 

最後のクリップを差し込みながらそう呟いてクリップを弾く。そして全弾装填し、残るは拳銃用弾薬しかなかった。

 

パンッ! カチャ!

 

パンッ! カチャ!

 

パンッ! カチャ!

 

パンッ! カチャ!

 

パンッ! カチャ!

 

ライフル弾が底を尽きたところでボスは悲鳴をあげて倒れた。

そしてボスモンスターから巨大な銃がドロップし、フリューゲルはそれを手に取った。

 

《Mag−Fed 20mmライフル》

 

アイコンを読んだフリューゲルは思わず二度見をしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Mag−Fed 20mmライフル》は対物ライフルの一つである。20×102mm弾を使用し、不発弾や分厚いガラスを貫通させる威力を持っている。

トップティア帯の銃であることにまず間違いないだろう。その分必要とされるステータスは多いが、威力は折り紙付きである。

・・・と言うかバルカン砲と同じ弾薬を使っているから貫通力が高いのは当たり前なのだ。

フリューゲルはその狙撃銃を手に取るとずっしりとした重みが手に伝わった。

 

「重いな・・・さすがは59kg・・・」

 

59kgと言う重さ、そして全長もとても長い。この《Mag−Fed 20mmライフル》は全長2.5mもあり、正直ネタ武器と言った方がいいかもしれない。

そんな事を思いながらフリューゲルは《Mag−Fed 20mmライフル》・・・通称アンツィオ20mmライフルを手に取り、フリューゲルはどこか嬉しそうになっていた。

売れば物凄い値段になるがフリューゲルはこの重さが気に入り、売ると言う選択肢はどこかにすっ飛んでいた。

 

「(これ良いな・・・丁度良い重さだ)」

 

馬鹿火力の代名詞のような銃を手に取ったフリューゲルは満足げな表情(見ても分からない)を浮かべると、取り敢えずドロップした武器をしまいダンジョンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、ログアウトした修也はあのダンジョンについて言及し、そこで話を聞いて納得した修也はアンツィオ20mm対物ライフルを売ることなく自分の狙撃銃に決め、その他必要な武器や装備を整えてPvPやPvEを繰り返す毎日をしていた。

そんな日が続いた八月の半ば、修也はあるゲームデータを見てため息を吐いた。

 

「これは酷い・・・」

 

それはつい先日行われたPvPのトーナメント大会『バレットオブ・バレッツ』通称BoBの第一回大会の結果だった。

 

「アメリカサーバーから入ったプレイヤーが半数も持っていっている・・・」

 

三十人のプレイヤーの内、十五人が一人のアメリカサーバーから入ったプレイヤーに倒されていた。いわば無双状態だったのだ。

いま、ザスマンや他の仲間達が会議を開いて本格的に日本サーバーとアメリカサーバーを完全に分けるかどうかの会議が行われていた。

 

「やはり日本人とアメリカ人では銃に対する感覚が違うようだな・・・」

 

そう呟きながら修也は圧倒的強さを見せつけたプレイヤーを見ていた。

 

「プレイヤー名は『サトライザー』・・・か、この動きは軍人か・・・?」

 

大会のリプレイ動画を見ながら修也はゼリー飲料で軽く栄養補給をしながら勝手に話の進む会議を眺めていた。

 

 

 

 

結局、会議で特に話す事なく、二つのサーバーを完全に分ける方針で決まったのを傍観するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっから数日間はサーバーの完全分断の仕事で二日ほどログインできない状況が続いていたが、細かい所は他の人に任せて自分はGGOにログインをした。

 

「よう、『赤い悪魔』。今日、組んでくれねえか?」

 

ログインをして行きつけの銃器メーカーに向かったフリューゲルはいきなりそう声をかけられた。

赤い悪魔というのは今の自分の二つ名だ。こんな名前がついた理由としてはまず見た目が主な原因で、次にこの世界のギルドであるスコードロン。それもかなりの実力者の集団を一人で倒した事にあった。

その圧倒的な強さから『赤い悪魔』という二つ名がつけられていた。一部ではその見た目から『赤い彗星』とも言われているらしい・・・。

まあ、元ネタがそうなのだから当たり前と言えばそうなのだが・・・。

と、そんな事を考えながら依頼内容を聞いていた。基本的に自分は金を稼ぐ為にMod専門のスコードロンと組む事が多いが、たまにPvP専門のスコードロンと組んでいる。

 

「俺たちの狩りを狙ってくる奴らが居るんだ。報酬は割増すからそいつらから狩りの邪魔をさせないでくれ」

 

「・・・良いだろう。時間を聞こうか」

 

「直ぐに出る。来てくれ」

 

そう言ってそのプレイヤーはフリューゲルを連れてスコードロンと合流をすると砂漠に向けて歩き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都SBCグロッケンから出て二時間ほど、フリューゲルは砂漠の山に埋まっている撃沈した戦艦の残骸の影にギリーを被りながら隠れていた。

 

「(そろそろだな・・・)」

 

フリューゲルはカーボン色に塗装されたアンツィオ20mm対物ライフルを構えながらスコープを覗いていた。

視線の端にはモンスター狩りをしている今日組んだスコードロンのメンバーが光学銃を手にモンスターを狩っていた。

 

「・・・見つけた」

 

フリューゲルは砂漠の先にある廃墟を見てそこに隠れているプレイヤーを見つけた。

 

「成程・・・彼らが邪魔をしている奴等か・・・」

 

スコープ越しに談笑している相手スコードロンを確認をすると引き金を引いた。

 

「スゥ・・・ハァ・・・」

 

ドォン!

 

距離はおよそ2000m、スコープ越しに弾が着弾するまで大体十秒ほどの時間がかかる。ゲーム設定で銃の初心者用に設定されている《弾道予測線》は実は引き金を直ぐに引けば相手に線が見えない状態で相手を撃ち抜くことができる。

但しこの技はスコープ越しに距離、風向き、落下運動を計算して撃たないといけない為、これをやる人は殆どいない・・・と言うかできる人がとても少ない為、このシステムの穴の使用率は滅法少なかった。

フリューゲルが隠れながら放った20×102mmの弾丸はプレイヤーメイドで炸裂弾仕様となっており、相手スコードロンの中央に飛んでいくと空中で炸裂し、周囲にいたプレイヤー達にダメージを負わせていた。

 

「二人逝ったか・・・」カランッ!

 

ボルトを引きながら次弾を装填すると先程と同じ方法で引き金を引いた。

警戒している上空でまた炸裂弾が弾け、今度は場所とさっき負ったダメージからか三人を持って行った。

 

ドォン! カランッ!

 

見えた限りで残っているのは一人今度は《着弾予想円》を使って確実に狙いに行った時・・・。

 

ザンッ!

 

自分のいた場所の近くに土柱が立った。発射された位置からおそらく相手スコードロンの奥から・・・距離にしておよそ2500mくらいだ。

そんな距離からこんな至近距離に届くとは思わず、驚いていると今度は目の前に弾道予測線が飛んで来た。慌てて後ろに下がるとそこにまた土煙が立った。土煙の大きさから恐らく対物ライフル・・・。それもなかなかの腕だ。だが・・・

 

フリューゲルはギリーを被りながら砂丘の裾野に一旦下がるとまた廃墟に向けて銃を向けた。

 

「悪いが、こっちも仕事なのでね・・・ま、完全にできたとは言わないがな・・・」

 

そうして廃墟に残った残りの一人を着弾予想円に入れる。呼吸は落ち着いており、円はとても小さく、相手の体を()()()に捕らえた。

 

ドォン!

 

放たれた弾丸は壁を貫通し、敵プレイヤーを吹き飛ばしていた。

 

「残りのあのスナイパーは・・・」

 

そう言ってスコープから探すもスナイパーの姿は見つからなかった。

取り敢えず仕事は終わったと認識し。フリューゲルは組んだスコードロンの仲間から報酬を受け取り、街に戻り必要な備品を購入していた。




Mag−Fed 20mmライフルって4500mでも有効射程なんだと言う、正直本当なのか信じられん・・・。
と言うかバレットM82でもまあまあデカいのにそれがオモチャに見えるって・・・。


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#22 新装備

十月某日、フリューゲルはSBCグロッケンの脇道に入った小さな店に来ていた。

今日は注文してから二ヶ月が経ってようやく完成したと連絡のあったある物を受け取りに来ていた。

 

「店主、完成したと聞いたぞ」

 

「ん?おお、お前さんか。こっちだ」

 

そう言って店主・・・ガンスミスが手招きをしてフリューゲルを店の奥に招き入れた。

 

「これが頼まれていたものだ。これで十分か?」

 

そう言ってガンスミスが被せていた布を剥がしてフリューゲルに見せた。

それは一見すればただの金属製の赤い箱だった。だが、箱の片方にはメカめかしい器具が取り付けられ、箱の横にはポケットのような物や何かを引っ掛ける器具がついていた。

それを見たフリューゲルは

 

「十分だ」

 

そう言い、フリューゲルはその箱を背中に背負った。

すると背中から何かがはまる音がし、箱は背中にガッチリと固定されていた。

ここまで来ればわかる人もいるだろう・・・

 

そう、フリューゲルは陸戦用ガ○ダムのコンテナを模しているのだ。

Mag−Fed 20mmライフルの20mm弾薬は重く、大量に運べないことからフリューゲルはコンテナを使って携帯できる弾薬の数を増やそうとしていたのだ。

しかし、コンテナを装備すると移動速度が落ちてしまうという欠点があるものの、STRを鍛え上げて来たフリューゲルはその問題をゴリ押しで解決してしまったのだ。

フリューゲルはコンテナの確認を終えるとガンスミスに言われた値段を置くとさっさと店を後にしていた。

新しい装備を使いたくて店を足早に出たフリューゲルは早速借りている宿屋に向かい、部屋の中で購入済みの20mm弾薬の入った箱型弾倉を入れ、試しにコンテナを装備したまま立って見たりしていた。そかしフリューゲルはベットにコンテナを置くと弾倉を取り出していた。

 

「ま、今日は使わないからこのまま片付けよう・・・」

 

そう言い20mm弾倉を片付け、次にフリューゲルはベルトリンクされた弾薬をコンテナに詰めていた。

弾は7.62×54mmR弾。ロシア帝国やソ連がよく小銃などに使っていた弾薬で高いエネルギー保持率を有している優秀な実包である。

開発から百年以上経っているのにも関わらず未だ軍で使われていることからその優秀さは伺える。

そしてフリューゲルは立て掛けてある銃を手に持つ。

今使っている銃は《RP-46軽機関銃》。パンマガジンが特徴で有名なDP28軽機関銃の改良型で、パンマガジンとベルトリンク式の両方が使えるように設計されている。なお、フリューゲルが使うにあたってこの軽機関銃はカスタムされ、ピカティニーレールやグリップが追加で装着されている。

サブとして《イングラムM10》と《H&K HK45》を装備しており、どちらも同じ.45ACP弾を使用している。

 

「さて・・・そろそろ行くか」

 

フリューゲルはRP-46を手に取ると部屋を出て荒野に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダダダダダダダッ!

 

ドォォン!!ドォォン!!

 

荒野で爆発音と銃声が響く。

 

「くそっ!なんだアイツは!?」

 

「とにかく撃ちまくれ!やられるぞ!」

 

7人のスコードロンがアサルトライフル片手に、グレネードを投げて出来た土煙に向かって銃を破茶滅茶に撃っていた。

土煙に撃っていると仲間の一人が撃たれた。

 

「ガァッ!」

 

「っ!後ろ!?」

 

咄嗟に背後に銃を向けるとそこには急接近してくる赤いロボットの姿があった。

 

「は、早すぎる・・・!!」

 

「う、撃てぇ!」

 

そう言い、銃を夢中で放つも赤いロボットには当たらず。ロボットはジグザグに動いて弾を避けていた。

 

「あ、当たらないぞ!?」

 

「近づけさせるな!ある分だけ撃て!!」

 

恐怖と驚愕の顔で埋まっている表情を見たフリューゲルは

 

「まだまだ行けるはずだ・・・」

 

そう呟いて、更に速度を上げて急接近をした。

 

「まず一人・・・」

 

「ギャッ!」

 

持っていたRP-46で一人を持っていき、残りの五人は今倒した仲間を盾にしながらRP-46で全滅させた。

《DEAD》の赤いマークが浮かび、フリューゲルはRP-46片手に荒野の岩山の上に登っていた。

 

「夕焼けか・・・」

 

日の落ちる太陽を眺めながらフリューゲルは黄昏ていた。

 

「なかなかなものだ・・・」

 

フリューゲルが黄昏ていると不意に背後から殺気を感じ、岩陰に滑り込む。

 

チュンッ!

 

先ほどまでいた場所に弾丸が刺さる。次に隠れている岩に弾丸が刺さり、ボロボロと崩れ始めていた。

 

「さて、どうしたものか・・・」

 

今出れば恐らく撃たれるだろう。岩に刺さる弾丸の大きさからおそらく50口径弾・・・自分の使う20mm弾よりは小さいが、対人には50口径でも十分な威力がある。

 

チュンッ!ガラガラ・・・

 

「・・・」

 

岩の影から鏡を使って覗き、弾道予測線を辿って岩山の上の森から発砲炎を見つけると岩から極力出ないようにして一気に崖を下った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・・逃げられた・・・」

 

岩山の森に隠れている空色の髪をした女性プレイヤーは悔しがっていた。

理由は簡単でさっきまで狙っていたプレイヤーが居なくなってしまったからだった。

そのプレイヤーは『赤い悪魔』と呼ばれ、レアアバターを使用して戦場を駆け回っているとコアなプレイヤーからは有名である。

何故、コアなプレイヤーなのかと言うとそれは彼が一度もBoBに参加していないからだった。

正直、彼がもしBoBに出れば優勝するだろうと言われているほどの実力があると言う。

そんな相手をもし、自分が倒せたら強くなれるだろうと言う思いで赤い悪魔を追跡していた。

初めての会敵は八月、自分の所属するスコードロンが狙っていたPvE専門のスコードロンが護衛として彼を雇っていたのだ。

放たれた弾丸の破片が仲間達を襲い、自分以外全員が彼によってやられた。私も、まだヘカートⅡを入手したばかりだったので腕もそれほどなかった為にその時は仕留めることができなかった。

実際、そのプレイヤーはとても強かった。

さっきの荒野で五つものスコードロンを全滅させ、更に自分の放った.50BMG弾を軽々と退けていたのだ。

 

確実に強い

 

荒野の戦闘中に撃つこともできたがそれでは意味がないと思い、あえて彼が戦闘をしていない時を狙って戦いを挑んだ。

だが、結果として逃げられてしまった。岩陰から後ろの崖下に下ってしまい、悪魔を逃してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕方なく銃を持って帰ろうとした時、気配を感じた。

咄嗟にサブウェポンのグロック18Cを取り出すも蹴り上げられ、代わりにRP-46のフラッシュサプレッサーが向けられた。

 

「チェックメイト」

 

「・・・そうね、負けたわ・・・」

 

ピンク色のモノアイに全身の真っ赤な塗装をした金属板。

明らかにロボットのような見た目のプレイヤー・・・さっきまでスコープで覗いていた赤い悪魔だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崖下に降りたフリューゲルは廃坑道を走り、山の反対側に出るとクライミングの要領で崖を岩から岩へと移動していた。

そして気配を殺して極力草木を揺らさないように目的の人物を捜すと、森の中にいた狙撃手を見つけた。

空色の髪の少女は片手に対物ライフルの《ウルティマラティオ ヘカートⅡ》を構えていた。

ここで近づいたことに気づき、グロック18Cを構えるも蹴り上げ、ヘカートⅡを向けられない距離まで近づいた。

 

「・・・どうやってここまでこんな短時間で来たの?」

 

「崖下の廃坑道を通って来た。後は崖を登って来た」

 

「登った・・・?」

 

「ロッククライミングの要領でな」

 

「!?」

 

そう言うと少女は驚愕していた。銃を持って崖を登ろうとは普通思わないからである。出来たとしても相当のSTGが要求されるからだ。

フリューゲルは驚愕する少女を前に銃口を下げた。

 

「・・・っ!?」

 

いきなりの事に少女が疑問に思っているとフリューゲルはある提案をした。

 

「さっきの君の狙撃の腕は素晴らしかった・・・どうだ?数日だけ組んでみるのは」

 

「はぁ・・・?」

 

フリューゲルの提案に少女は疑問に思っているとフリューゲルは詳しく話した。

 

「こっちが前衛、君が後衛をする。君も私の実力を把握できるし、報酬も出る。損はないと思うが・・・」

 

「・・・」

 

フリューゲルの提案に少女は一考すると・・・

 

「いいわ、貴方の提案。乗ってあげる」

 

そう言うとフリューゲルはウィンドウを動かして《分隊申請》と言うタブを押した。

 

「え?何これ・・・」

 

「二人組で組む時に最適だ。これを使えばフレンド登録をせずともマップ上で位置を共有できる。ただし、分隊メンバーが同じ小隊のメンバーに打つとペナルティが課せられる。最大四人まで登録が可能だ」

 

「へぇ・・・よく知っているわね・・・」

 

自分が作ったゲームだから当然だ。とは言わなかった。運営がゲームをやっていると聞いたらチートでも使っていると疑わられるからだ。

だから下手に言う事はできない。

 

「まあ、色々と触っていれば分かる」

 

そう言い少女・・・プレイヤー名〈Sinon〉が小隊メンバーに追加された。

 

「それじゃあ、よろしく頼むよ。冥界の女神どの」

 

「ええ、宜しく。赤い悪魔さん」

 

そう言うとフリューゲルとシノンはお互いの二つ名を言うと握手した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンと小隊を組んだ数日後、GGOからログアウトした修也は神保町の古本屋街に来ていた。

ここの古本屋街は青森にいた頃の本屋に似た雰囲気の店があり、よくここに来ていた。

そして今日もいい感じの古本を探そうと思ったのだが・・・

 

「臨時・・・休業・・・」

 

店に貼られた紙を見て愕然としてしまった。

 

『店長の体調がすぐれないので数日間お休みさせていただきます』

 

シャッターが閉まり、休業と書かれた紙を見て修也は肩を落とすと。

 

「仕方がない、近くの図書館に行くか・・・」

 

修也は携帯で近くの図書館を検索してナビでその図書館に入った。

図書館に入り、本を探す。

 

「(あ、これ結構珍しい物だな・・・)」

 

そう言って本を手に取って読んでいた時、本棚の横で目一杯背伸びをしている少女がいた。

どうやら本棚の一番上に手が届かないようで何度もチャレンジをしていた。その様子を見て修也はその少女の代わりに本を取ってあげた。

 

「これで良かったかい?」

 

「あ、有難うございます・・・」

 

眼鏡をかけた少女はまさに文学少女を体現したような雰囲気と見た目を持っており、手には他の本も持っていた。

その少女を見た修也は本をその少女に渡すと次の本を求めて別の場所に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

似ている

 

私ーー朝田詩乃はそう感じた。

今日、図書館で本を借りに来た私は読みたかった本が本棚の上にあり、手を伸ばしても届かなかった所に手を貸してもらった青年の顔を見た時にそう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忘れもしない6年前の事。郵便局で強盗に出会った時に強盗の持っていた黒星・五四式を奪って撃ってしまった時。

郵便局にいた少し大人びた男の人が持っていた銃を持って行って、強盗に向かって撃っていた。

そして強盗はその人に撃たれてピクリとも動かなくなってしまった。

そして銃を分解して私をお母さんの元に連れて行き

 

「お母さんを守っておきなさい」

 

と言うとお母さんに何か伝えて警察の事情聴取を受けていた。

私はその人にお礼をしたいと少し経った時に警察にお願いしたが、その人はもう居ないと言われた。

だが、その人が全部責任を負ってくれたおかげで私は平穏に過ごすことが出来た。

そして私はあの人に会ってあの時のことを謝りたいと思い、母や祖父母にお願いして人が多く集まる東京に出てきた。

東京での生活は大変だったが、私はあの人に会いたい一心でここまでやって来れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今しがたその人を見つけた。五年前と変わらない金属的な目と鋭い顎、少し吊り目な所も変わっていなかった。ただ、あの時よりも表情が緩くなっている気もした。

私は咄嗟に彼の去って行った方を探し、図書館を探し回っていた。



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#23 小隊

UAが5000・・・・読んでくださって感謝しかありません・・・!!


図書館で詩乃はさっき出会った人を探していると。共用の机の所に何冊か本を積んでその人は椅子に座って本を読んでいた。

私は少し離れた席に座って本を読むふりをして彼を見ていた。

確認をしたかったからだ。

 

もしあの人だったら私は・・・

 

どうすれば良いのだろうか・・・

 

第一名前も知らない人にいきなり声をかけても不審がられるだけだ。

どうしたものかと過去の記憶を鮮明に思い出そうとしながら私は頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、話すことが出来ずに二時間が経ってしまった。その間も彼は本を持って来て、パソコンを開いて何かを打ち込んでいた。どうやら本は何かの専門書のようで、コンピューター系の本の様だった。

そしてパソコンを打ち終えるとその人は持って来た本のうち、何冊かを借りていくと図書館を出て行った。

それに怪しまれぬように後を追って外を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街を歩くその人は本の入った袋を肩に担いで駅のほうまで歩いていた。

そして彼を追っていると突然、彼が見えなくなった。どこへ行ったのだろうと予測していると突然後ろから声をかけられた。

 

「君かな?私の後ろをつけていたのは」

 

「ふぇっ!?」

 

思わず変な声が出てしまい、後ろを振り向くとそこにはさっき図書館で会った人がいた。

 

「君、名前は?」

 

「え、あ、あ、朝田詩乃です・・・」

 

「朝田詩乃ね・・・詩乃さん、ここじゃあ何だから近くの店に行こうか」

 

「え?あ、はい・・・」

 

そう言うと近くのカフェに二人で入ると目の前にいる人は適当にコーヒーを頼んでいた。

私も釣られて紅茶を注文すると目の前にいる人は早速さっきの事を聞いて来た。

 

「さて、図書館から私の後ろをついて来たのは君かね?」

 

「あ、そ、そうで・・・す・・・すみません・・・」

 

そう言うとその人は小さくため息をついた。

 

「はぁ・・・なんでついて来たんだ?」

 

「あ、えっと・・・」

 

私はそう聞かれて咄嗟にこう答えてしまった。

 

「さっきのお礼がしたくて・・・」

 

「あぁ・・・成程」

 

そう言うとその人は納得した上でどこかホッとした様子を浮かべた。

 

「君に敵意がない事は分かったよ・・・おっと、自己紹介がまだだったかな?」

 

そう言うとその人は名前を名乗った。

 

「私は赤羽修也。こう言う字を書く」

 

そう言って修也さんは図書カードを見せた。名前を知った私も彼と同じように図書カードを見せた。

 

「私も、こう言う名前です」

 

「成程・・・詩乃ってこう言う字なのか・・・」

 

そう言い、修也さんは頼んだコーヒーを飲み、一呼吸置いた。

 

「ふぅ・・・さて、これも何かの縁だろう。連絡先を交換でもしようか」

 

「え?良いんですか・・・?」

 

私が驚いていると修也さんは訳を話した。

 

「別に良いさ。君とは趣味が合いそうだしな」

 

そう言いメールアプリを開いて、私は修也さんと連絡先を交換していた。

連絡先を交換しと私と修也さんは席を立つと会計を済ませた。その時、修也さんは自分の分まで会計をしようとしていたので慌てて止めてしまった。

 

「あ、わ、私のは自分で払いますよ」

 

「問題ない、こんな時に女性に払わせるわけには行かないさ」

 

「で、でも・・・」

 

「問題ないさ」

 

そう言って会計を済ませていた。

そして店を出ると修也さんは私の家の住所を聞いて来た。

 

「君、住んでいる場所は?」

 

「え?ゆ、湯島です・・・」

 

「そうか、なら送っていこう」

 

「え?」

 

「さ、乗り給え。湯島なら帰り道の途中だ。ついでに送って行ってやる」

 

そう言うと修也さんはバイクにしまってあったもう一つのヘルメットを私に渡すと修也さんのバイクの後ろに乗った。

 

「じゃあ、出すけど良いかい?」

 

「あ、は、はい。大丈夫です」

 

ブロロロロロ・・・・

 

大きなバイクが走り出し、私は成り行きで修也さんに家まで送ってもらう事になった。

 

「すごい・・・」

 

そもそもバイクに乗る事自体久しぶりで、その新鮮な感覚から思わず口に出してしまった。

するとその声に気づいたのか、修也さんが聞いて来た。

 

『バイクに乗るのは初めてかい?』

 

「あ、いえ、すごい久しぶりで・・・」

 

『成程』

 

そう言って懐かしい感覚を楽しんでいるとあっという間に湯島のマンションの前に到着してしまった。バイクを降りた私は修也さんにお礼を言った。

 

「送ってくれて、有難うございました」

 

「こっちも帰る途中だったんだ。じゃ、また」

 

「はい」

 

ブロロロロロ・・・

 

そう言うと修也さんのバイクを見えなくなるまで見送ると私はマンションに戻り、アミュスフィアを手に取る。

さっきの感覚を思い出しながら私は修也さんの顔を思い出していた。

 

「(また・・・会えるかな・・・)」

 

そんな事を思いながら私は彼方の世界に向かうための言葉を唱えた。

 

「リンク・スタート」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はペアで組んでいるシノンと会う予定である。先程図書館でずっと自分のことを見ていた朝田詩乃という少女の顔を見て何か思い出そうとしていた。

 

「どこかで会ったことある気がするんだがな・・・」

 

そんな事を呟きながら修也は今住んでいるマンションに帰宅した。夕食まで時間があるので修也はGGOで一戦する事にしたのだ。

自分の部屋に入り、持参したアミュスフィアを使い電源を接続した。

 

「リンク・スタート」

 

そうしてベットで寝ている感覚から椅子に座っている感覚に変わり、フリューゲルは目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿屋を出てシノンと合流したフリューゲルは早速荒野に飛び出して廃墟都市を走り回っていた。

 

「あなた、どうしてそんなに当たるの?」

 

二人で行動している最中、そんな事を聞かれた。

確かに今の二人の行動はとても単純で、フリューゲルが突っ込んで敵を撹乱し、シノンが背後から撃つ。

単純だがその撹乱する際にフリューゲルは最小弾薬数で敵を撃ち抜き、相手を殲滅していた。

今日倒した人数はざっと二十人、今頃グロッケンでは大騒ぎになっているだろう。

そんな事を思いながらフリューゲルはシノンに近づく。

 

「なぜ当たるか・・・そうだな、強いて言えば・・・常に落ち着いて全体を見通すからだな」

 

「全体を・・・?」

 

「そうだ、スナイパーの君なら分かると思うが全体を見通して作戦を考えるのはスコードロンも生き残る確率が高いという事だ」

 

「成程・・・」

 

「そういう時に興奮した状態で全体を見るのは難しい。だから常に落ち着いて全体を見る」

 

「でも、そんな事できるの?」

 

思わずシノンはフリューゲルに聞くとフリューゲルは答えた。

 

「そう簡単に出来るわけじゃない・・・。君には君のやり方があるはずだ。それを見つけて練習すれば君も出来るようになるはずだ」

 

そう言うとフリューゲルは持ってきた《AKM》を持ち、街に残ったプレイヤーの掃討にかかった。

AKMはかの有名なAKー47の改良型で、フリューゲルはそれを更にカスタムした代物だった。

具体的に言えばAKMにスコープを取り付け、マガジンがツインドラムマガジンに変更された・・・控えめに言って頭のおかしい弾薬を装填しているのだ。

まあ、元々AK−47やその派生系であるAKMに使われている弾薬はショップの中でも安い部類に入り、大量に購入できることから初心者には人気だ。

そして自分が気になったのはフリューゲルがどれくらいの種類の銃を持っているかだった。

少なくとも確認した中では名前の分からない狙撃銃一つとこの前使っていたRPー46、今使っているAKMに腰に下げているイングラムM10にH&K HK45。一体どれだけ銃を持っているのだろうかと気になってしまった。

シノンはそんな事を思いながらフリューゲルの向かう先にいるプレイヤーに向けて照準を合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局この後合計で五つのスコードロン、人数にして三十人のプレイヤーを潰し、フリューゲル達はお互いに報酬を等割してその日は別れたのだった。

ログアウトした時には丁度夕食の時間となり、修也は冷蔵庫と棚から適当に飲料ゼリーと薬剤を何錠も取り出すとその二つを一気に飲み込んで胃の中に収めた。

 

「食事は最低限の栄養があれば十分。母さんには怒られるがな・・・」

 

苦笑しながら修也は薬剤を閉まっているとマキナが出てきて薬瓶ばかりの台所を見て怒っていた。

 

「あ!またマスター薬だけで済ませてる!行けませんよ、しっかり食事をしてください!!」

 

「栄養は十分だと思うが?」

 

「薬じゃダメですよ!これ以上マトモな食事をしないなら、母上に来てもらいますよ!」

 

「分かっているさ」

 

そう言い修也は適当に受け流すと自室に戻ってパソコンを開いていた。

見ているのは前回のBoBの結果と映像だ。

修也は十二月に行われる予定の第三回BoBに出場しようかどうか悩んでいた。

実際BoBに参加するにあたってザスマンに参加しようか悩んでいる事を伝えると。

 

『ああ、別にそんなの聞かなくって良いだろう。俺たちザスカーは自由な企業だ。自由にゲームに参加してもいいし、ゲームで何をしたって構わない。ただし、運営の力を使ってチートをするのは信用に関わってくるからそれはしない事が条件だ』

 

そう言ってザスマンはむしろ聞いてくることがおかしいと言った様子で聞き返し、修也は若干拍子抜けといった様子であった。

そして、修也は三回目のBoBに参加するかどうかを悩んでいた。

 

「成程・・・これなら何とかなりそうだな・・・ん?」

 

映像と結果を見ていると下の方に見たことある名前が写っていた。

 

「シノン・・・順位は二十二位・・・」

 

あまり芳しくない結果だがシノンを映した映像を漁っていると、どうも戦闘中に横槍を入れられた形でやられているのが分かった。

 

「そうか・・・PvPだからこんな事もあるのか・・・」

 

修也は映像を眺めながらそんな事を呟いた。

そして第三回BoBの景品にも興味があった。

 

「ザスマン、光学銃をモデルガンで作ったんだな・・・」

 

聞けばフルメタル製だというモデルガンに修也は興味があった。

数ヶ月前にザスカーの全員に社員の証としてザスマンが配った名前付き金色のプラズマグレネードのBB弾専用ボトルが送られてきた。

その時のツテを使っているのだろう、修也はそのモデルガンが欲しいと思っていた。

 

「売れれば賞金よりも高く売れそうだな・・・」

 

そんな気はないのだが。修也はこの時、BoBに参加する事を決意するのだった。



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#24 依頼




休んでいる間に家にあったヴァイオレット・エヴァーガーデン(劇場版)を見て俺は・・・・泣いています。
あれを見て泣かない奴は人間じゃねぇ!!






十二月七日 銀座のとある喫茶店

 

日曜日の昼、マダム達が多く入店している喫茶店に二人はやって来た。

 

「なあ、ここ俺たちには場違いじゃないか?」

 

「そうか?せいぜいマダム達が多いだけの喫茶店だろ」

 

そう言うのはラフな格好の修也とその隣にいる同じくラフな格好をした和人だった。

 

「おーい二人とも。こっちこっち」

 

今すぐマナーというものを小一時間ほど教えたくなる程大きな声が店に響き、思わず帰りたくなってしまったが経費で落ちるからなんでも頼んでいいと目の前にいる人間に言われ自分と和人・・・特に自分は遠慮なく注文をしていたーー合計何円したのだろうか・・・。

 

「ご足労願って悪いね。二人とも」

 

「そう思うなら銀座のこんな場所なんぞに呼び出すなよ」

 

「まあまあ、美味いものがタダで食えると思えばそれでいいじゃないか」

 

今回自分たちを呼び出した相手、菊岡誠一郎は陽気に自分たちと同じように注文をすると和人が早速要件を聞いた。

 

「で、要件はなんですか?また、面倒なバーチャル犯罪のリサーチですか?」

 

「おお、話が早くて助かるよ」

 

そう言ってスイーツを目一杯食している横で和人は菊岡から説明をされた。

どうやら《ガンゲイル・オンライン》のプレイ中に二人が心不全で亡くなったそうだ。

一人は《ゼクシード》といい、番組出演中に心臓発作を起こして亡くなり、《薄塩たらこ》はスコードロンの集会中に同じく亡くなってしまったそうだ。

話を聞かされて気分のいいものじゃとても無かったが和人と菊岡の二人はアミュスフィア、及びVRでの出来事が現実にどれほどの影響をもたらすのかという話で盛り上がっていた。

完全に蚊帳の外扱いの自分は黙々と注文を取っては和人の横でスイーツを食べていた。

そして菊岡がその二人が殺された時にある酒場で《死銃》と名乗った男が銃を撃ったのと同じタイミングで画面に映っていたゼクシードが消えてしまったと言う。

 

「結論ーーゲーム内からの干渉でプレイヤーの心臓を止めるのは不可能。じゃあ、俺は帰る。ご馳走様です」

 

「わぁ、待って待って。こっからが本題なんだよ。もう少し付き合ってくれ」

 

「・・・・」

 

和人は仕方なく椅子に座り、菊岡が頼み事をした。

 

「GGOにログインして《死銃》と接触してほしい」

 

「はっきり言ったらどうだ!撃たれてこいって事だろ!やだよ!何かあったらたまったもんじゃない!」

 

「待ってくれ!撃たれても死ぬことはないと結論に達したじゃないか!それに、死銃には被害者のこだわりがあるんだ!」

 

「こだわり?」

 

高校生の青年の裾を掴み、椅子から落ちる官僚。中々カオスな空間が広まっていた。

 

「イエス。被害者の《ゼクシード》も《薄塩たらこ》もGGOではかなり名の通ったプレイヤーだ。多分、強い人を狙って犯行は行われている。だから、かの茅場に最強と認められた君なら・・・」

 

「俺でも無理だよ!GGOってのはそんな甘いゲームじゃない。プロがウヨウヨしているんだぞ」

 

「ん?プロってのはどう言う事なんだい?」

 

菊岡の疑問に10皿目を食べ終えた修也が答えた。

 

「簡単に言えばGGOには《ゲームコイン現金還元システム》と呼ばれるものを採用している」

 

「ほう?」

 

修也の返答に菊岡が興味深そうに聞く。

 

「まあ、簡単に言えばゲーム内で稼いだクレジットを本物の現金に換金することが出来る。まあ、換金できるのは電子マネーだけだが今の時代あれで払えないものはないから実質的に同じだな」

 

「・・・しかし、そんなことしてビジネスが成り立つのかい?運営業者だってボランティアじゃないんだ」

 

「その為に毎月の通信量が高く設定されているし、換金するときに手数料を取られる。換金率はだいたい100クレジット一円。為替によるから結構よく変わる」

 

「へぇ・・・随分詳しいな」

 

和人までもが修也の話を聞いていた。

そのシステムを作ったのが自分たちなのだから当たり前と言えば当たり前なのだが・・・。

ともかく、ゲーム内にカジノやゲームセンターまである上に、競馬まであるのだ。

ギャンブルみたいにハマってしまう人もいることから課金額に上限を設けてある事も伝えていた。

 

「本当よく知っているな・・・」

 

「そりゃこっちは毎日やっている身だからな。で、GGOのプロというのは毎月その換金システムで月に二、三十万稼ぐ人のことを言う。だからトッププレイヤーは妬まれやすい・・・。要は今の私のような感じだな」

 

「君・・・一体何個食べたんだい・・・?」

 

「知らんな。数えてすらいない」

 

「さりげなく自虐していません?」

 

「人の金で食う飯ほど美味いものはないと聞かないか?」

 

「性格悪いな、お前・・・」

 

和人が呆れた様子でそう突っ込むも修也は知らん顔でさらに注文をしようとし、そこで菊岡が和人に三本指を出しながら言った。

 

「依頼金としてこれくらいは出す。やってくれるかい?」

 

菊岡から出された金額に和人の心は揺らいでいた。

 

「そんなの運営に直接確認すれば済む話だろ。どうして俺にわざわざ頼むんだ」

 

「駄目なんだよ、和人君。GGOの運営のザスカーは住所はおろか、電話番号やメールアドレスも非公開で問い合わせできないんだ」

 

「・・・」

 

元々愛好会のメンバーが作ったゲームであり、ここまで発展するとは思っていなかったのでザスマンが会社やらいろんな部分の登録をすっ飛ばしたのである。

ザスカーは自由を理念に運営をしているが流石にこれは自由すぎやしないかと思っていたが、まさかここで仇となるとは・・・。

と言うか確認はほぼ不可能だろう・・・それはシステム上の問題でサーバーに負荷がかからないようにある一定期間を過ぎた銃撃データは消去されてしまう設定となっていた。

で、その期間が確か十日・・・とてもじゃないがゼクシードは間に合わない。薄塩たらこも同じだ。

今からログ確認をしても間に合わないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とすればその死銃に会うには・・・

 

「直接行くしかないわけか・・・」

 

「そう、頼めるかい?」

 

「菊岡、それは私にも言っているのか?」

 

「ああ、もちろんだ。それ相応の報酬は渡すよ」

 

「・・・いいだろう、私もGGOじゃあ古参のプレイヤーだ。それなりに稼いでいる・・・。それに、私も今はマンションで暮らしている身だ」

 

「!?」

 

「GGOプレイヤーだったのか・・・」

 

正確には運営もやっています・・・。なんて言えるわけもなく、修也は半ば巻き込まれる形で菊岡の依頼を受けるのだった・・・。

 

「じゃあ、こっちで場所とかは準備するから。あとで連絡をするよ」

 

菊岡はそう言うと会計に向かい、領収書を見て若干青い顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高級喫茶店の外で和人と別れた修也は銀座の街を歩き。さっきとは違い、カラオケショップに入った。

名前を伝えて小さめの個室に入った修也はため息を吐いた。

 

「こんなところで密会とはイメージ崩れますね」

 

「そうかい?僕としてはさっきの支払いの方が君のイメージと違って驚いたんだけどね」

 

そう言って先に入っていた男、先ほど別れた菊岡は苦笑しながらそう言うと修也は要件を聞いた。

 

「さて、なるべく早くしてほしい」

 

「君も和人くんと似てせっかちだねぇ・・・」

 

菊岡は面白くなさげにそう言うと修也は呆れ半分で菊岡に言った。

 

「・・・和人がアンタの事を見ていた。だから、さっさと用事を終わらせたい」

 

「なんと・・・じゃあ、早速これを」

 

そう言ってカバンからファイルと薄い冊子を取り出した。それを読んだ修也は紙を返すと菊岡に言った。

 

「国が主導のAI開発ですか・・・さぞかし予算がかかりそうですね」

 

「《プロジェクト・アリシゼーション》。ボトムアップ型AIには色々お金と時間がかかるんだよ」

 

「VR技術は茅場晶彦氏によって今まで優っていたアメリカと同じか、それ以上になりましたからね・・・」

 

「別にそんな言い方しなくても良いよ。君の出生に関しては調べさせてもらっている。いつも僕はビクビクしているよ」

 

「・・・あまり人から言われるのは気分が良くないな」

 

「あの時のことは迂闊だったと思っているよ」

 

菊岡が今までにない程に腰が低かった。おそらく彼が望んでいるのは・・・

 

「全く、どこの国もマキナが欲しいのですね・・・」

 

「それは当然さ、彼女はトップダウン型AIとしては最高の存在だ。おまけに彼女の体に使われている技術は到底真似できる人は居ないと思うな」

 

事実、マキナは過去に何回か誘拐されかけたことがある。しかし、その全てが失敗に終わった。それは何故か・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは簡単である、重過ぎたのだ。

ただでさえ今の彼女は体重に換算すれば100キロ以上である。おまけに彼女には自衛用にスタンガンを持ち合わせており、消費電力とパーツの摩耗はとんでもないが暴れる事もできる。

100キロ以上の人間がスタンガンを持ちながら暴れれば相手は無事で済むはずがなく、今まで何度も誘拐犯はお縄になっている。

 

「そこで、我々はマキナに使われている技術を使わせて欲しいんだ」

 

そう言って菊岡はさらに紙を出す。それは今では珍しい切手であり、そこには見た事ない金額が記されていた。

 

「どうだろう・・・これにさらに給料も出す。どうだろう、協力してくれるかい?」

 

「・・・」

 

修也は黙り込むと記された金額をもう一度見た。

この金額があればマキナの機体を完全に新調することができるし、なんならもっと高性能にすることができる。

元々民生品を多く使うマキナの機体は既に容量が足りないと言うことで自分のパソコンを使っている状態だ。

どしたものかと一考した結果、修也は・・・

 

「少し・・・考えさせてください。結論はだしますので」

 

「ああ、返答はいつでも待っているよ」

 

そう言い残して修也は部屋を後にした。残った菊岡は修也の表情を見て満足げな表情を浮かべた。

 

「(出だしは好調だな・・・。しかし・・・)」

 

菊岡はマキナを写した写真を思い出すと思わず身震いしてしまった。

マキナは一見すれば普通の少女と見間違えるほど多彩な表情と感情を持ち、もはや一人の人間ではないかと感じてしまうほどだった。

 

「天才が考えるものは恐ろしいもんだ。おー怖い怖い」

 

菊岡は修也をどうやれば計画に参加させられるのかを考えながらカラオケルームを後にした。



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#25 レアアバター

十二月十日 SBCグロッケン

 

今日はシノンと小隊を組む最後の日である。

明日から二人ともBoBに参加するために下準備を色々とする必要があるのでこの日で小隊を解散するようにしたのだ。

 

「じゃあ、これで終わりだな」

 

「ええ、ありがとう」

 

グロッケン内のカフェでそう言うとシノンに等分したクレジットを渡すとフリューゲルはBoBの準備をする為に足早に店を出ようとすると。

 

「フリューゲル」

 

「何だ?」

 

「大会が終わったら・・・また組んで。貴方と組んだ方がやり易かったから」

 

「・・・分かった。では、大会後。また組もう」

 

「ありがとう」

 

そう素気ない返しをしたフリューゲルはそのままカフェを後にし、宿屋に戻ると早速銃器の調整を始めていた。

 

「本戦じゃあコンテナを使う予定だしな・・・。予選はAKMでコンテナ無しで行くか・・・」

 

フリューゲルは装備を整えて練習の為に外に出ると街のプレイヤーショップにあるものが売っていた。

 

「これは・・・」

 

これは買おうと思いクレジットを確認した。

 

「行けるな・・・」

 

そう思ったフリューゲルは店に入ると棚に置いてあった武器を購入した。全く売れていないからか、安売りもされていたので気分的にもお得に買えた。

購入した武器のをタップすると手に重みが加わり、片手斧のような見た目をした武器が現れた。

 

《ヒートホーク》

 

近接戦専用の斧だ。斧を持つと刃の部分が赤くなり、試しに振ってみた。

 

ブンッ!ブンッ!

 

「・・・いい武器だ。試合ではこれを使おう」

 

すぐさまこの武器を使う事を決めたフリューゲルは満足げにヒートホークをしまうと宿屋に戻って武器のメンテをしていた。ゲームの世界の為アイコンの清掃ボタンを押せばいい。

そしてフリューゲルは使う武器の調整を行うと本戦まで時間を待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十二月十三日 御茶ノ水

 

菊岡から準備ができたと聞き、修也はバイクを走らせて御茶ノ水にある病院に来ていた。

案内された病室に入ると安岐ナツキというナースが待っており、ベットに案内された。聞けば彼女は和人の介護をしていたナースだという。

 

「じゃあ、電極貼るから脱いで貰っていい?」

 

「上だけで構わないでしょうか?」

 

「いいわよ」

 

そう言ってシャツを脱ぐとナツキさんは体を見て驚いた表情をしていた。

 

「ガリガリじゃない、ちゃんと食事しているの?」

 

「えぇ、まぁ・・・」

 

栄養をサプリや飲料ゼリーで賄っているせいで体に肉は無いに等しかった。一応必要な栄養分は摂っているはずなのだが・・・。

少し注意を受けながら電極を貼られていると和人が病室に入ってきた。

 

「よう和人」

 

「もう来ていたのか・・・」

 

「私は先に行っている。和人、初期位置で待っていろ。迎えに行く、下手に動くと迷子になるからな」

 

「そうなのか?」

 

「アルゲードが更にデカくなって、更に入り組んだと思え」

 

「どんな迷宮だよ・・・」

 

そう苦笑しながらアミュスフィアを被ると一足先に向こうの世界に旅立った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いな・・・。もう来てもいい頃だと思うが・・・」

 

修也は画面に映る時刻を見ながらそう呟く。前日に登録は済ませており、フリューゲルはコンバートするキリトを初期位置で待っていた。

しかし、十分経っても一向に現れないので疑問に思っていると、視線の端に見覚えのある空色の髪をした少女と初期装備の珍しい女性プレイヤーがいた。

シノンが初めて見るプレイヤーに色々と話しているのを見て近づいて声を掛けた。

 

「シノン」

 

「あら、フリューゲルじゃない」

 

「その子は誰だ?」

 

女性プレイヤーの数が極端に少ないこのゲームで珍しいと思いながら少女を見ていた。

少女も自分の明らかに異様な見た目をした自分を見て驚いていた。

 

「え?ああ、道に迷っていたから。えっと名前は・・・」

 

「あ、え、えっと・・・キリトって言います」

 

「!?!?!?」

 

咄嗟に自分はキリトに腕を回してシノンを背に問いただしてしまった。

 

「おい、お前・・・彼女にアスナっているか?」

 

「!?お前なんでそれを・・・・まさか・・・!!」

 

「ああ、ブレイドだ。・・・まったく、初期位置から動くなって言っただろうが!!」

 

思わず口調までも荒っぽくなってしまったフリューゲルにキリトは驚いていた。

 

「え、でもお前さっきフリューゲルって・・・」

 

「こっちは新規アカでやっているんだよ。それよりお前、そのアバターなんだよ・・・」

 

「え?さっきなんかM8000番とかって言ってたような・・・」

 

「・・・はぁ、お前も大概運良いな」

 

激レアアバターを見たフリューゲルはため息を吐いていると後ろからシノンが声をかけた。

 

「ねえ二人とも。何話しているの?」

 

「ん?ああ、こいつがリアルの友人だったって話だ」

 

「え?そうなの?」

 

「ああ、この性別詐称野郎はな。おいキリト、ネームカードを見せろ」

 

「はい・・・」

 

そう言ってキリトはシノンにネームカードを見せた。

 

「Maleって・・・あなた男だったの!?」

 

「こいつ、自分がいなかったら女で通すつもりだったんだろう。その方がシノンとも話しやすいと思ってな」

 

「すみません・・・」

 

「別に良いわよ。実害もなかったわけだし・・・」

 

シノンはそう言ってため息を吐いていた。

実害が出ていたらどうなっていたか、フリューゲルは想像しただけで恐ろしかった。

キリトに聞けばなんでもこのアバターを買いたいと迫って来るプレイヤーから逃げて迷子になったそうだ。

 

「馬鹿かお前・・・」

 

「ぐうの根も出ない・・・」

 

そう言うとフリューゲルはため息を吐いてキリトの首根っこを引っ張った。

 

「おい、行くぞ。こっちだ」

 

「え、わっ、ちょ!」

 

キリトを予定である総合ショップに連れて行こうとした時、フリューゲルはシノンに聞いた。

 

「シノン、ついでに来るか?」

 

「何で?」

 

「こいつに合う武器を探す。手伝うか?」

 

「そうね、あなた初心者に教えるの下手そうだし。着いていくわ」

 

「じゃあ、行くか」

 

「教えるの下手くそなのは認めるのね・・・」

 

と言うわけで、三人で総合ショップに向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店に入るとフリューゲルはキリトを連れて店じゃない場所に連れて行った。

 

「おい、ブレイド。店はこっちじゃないのか?」

 

「馬鹿いえ、お前の今の所持金は?」

 

「1000クレジット・・・」

 

「そんなの買えても中古のリボルバーだ。お前にちょうど良い金稼ぎの場所がある」

 

そう言うとシノンが反応をした。

 

「まさか彼をあそこに連れていく気!?冗談でしょう!?」

 

「いや、こいつなら行けるだろう。反射神経だけは馬鹿みたいに良いから」

 

「そ、そう・・・」

 

シノンが困惑した返事をすると三人は《Untouchable‼︎》と書かれた機械があった。

 

「これは?」

 

「手前のゲートから入って奥のガンマンの銃撃を避けながらどこまて近づけるか、って言うゲーム。奥のガンマンに触れたら全額バック。今は・・・ざっと三十万クレジットか・・・」

 

「全額!?」

 

キリトが驚いているとシノンは無理だと言って実際に参加するプレイヤーを眺めていた。

プレイヤーは途中まで走ると奇妙な格好で止まり、その間を銃弾が三発抜けていった。

 

「今のって・・・」

 

「《弾道予測線》と呼ばれるシステムで、敵の弾がどこに飛んでくるのかわかるシステムだ」

 

「なるほど・・・」

 

するとゲームをプレイした男はガンマンの0.5秒の装填であっけなくやられてしまった。

 

「キリト、行けるか?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

そう言うとゲートに手を当ててクレジットを消費していた。

 

「え?ちょっと・・・」

 

「問題ない、アイツなら・・・」

 

「・・・」

 

フリューゲルに言われ、思わず見届けてしまったシノンはキリトを眺めていた。

そして開始と同時に一気に駆け出したキリトはジグザグに動いて初撃を簡単に避けると、さっき見た0.5秒リロードからの射撃も避けていた。

その様子を見たフリューゲルは内心ニヤリとしていた。

 

「(さて、最後はどうかな・・・?)」

 

そして、キリトが突っ込むとガンマンの持っていたリボルバーから装填なしで光学銃が向けられ、さっきキリトがいた場所を六つの穴だらけにした。

キリトは直感的に上に飛ぶとガンマンの直前に着地し、ガンマンの体を叩いていた。

 

「(ほう、上に飛んだか・・・)」

 

「オーマイ、ガーーーーーッ!!」

 

ガンマンの悲鳴とともに溢れ出るクレジット、誰もが呆然とその光景を眺めていた。

 

「次からもっと難易度上げるか・・・」ボソッ

 

「?」

 

フリューゲルの呟きはシノンには運良く聞こえていなかったが。

これでキリトは軍資金となる三十万クレジットを得た。

 

「あなた・・・どう言う反射神経しているのよ・・・」

 

「だから言っただろう?さ、時間がないんだ。さっさと武器買いに行くぞ」

 

そう言ってフリューゲルはキリト達を連れて足早に武器ショップに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お前のステータスは何だ?」

 

「え?えっと・・・筋力、次に素早さだな・・・」

 

「STR-AGI型。自分とほぼ同じだな・・・」

 

そう言って歩いているとフリューゲルはある良いものが思い浮かんだ。

 

「お前にぴったりのがある。こっちに来い」

 

そう言って向かっさ場所を見てシノンが驚きの声を出した。

 

「まさか貴方・・・彼に光剣を使わせる気・・・!?」

 

「じゃなきゃコイツのアイデンティティが無くなる」

 

「何だ?そのコーケンって」

 

「簡単に言えばライトセーバー」

 

「まじか!?剣があるのか!」

 

「こっちにある」

 

そう言ってウキウキ状態になったキリトを見て唖然としていると、キリトとフリューゲルは売り場の端にある光剣売り場に向かい、キリトが光剣を見ながらフリューゲルにレクチャーを受けて武器を選んでいた。

 

「じゃあ、適当に拳銃でも買うか・・・」

 

そう言って光剣《カミゲツG4》と言う光剣を買っていた。

そして拳銃には命中率の高い《FNファイブセブン》を購入させた。《FNファイブセブン》は使っている弾薬がアーマーを貫くことに特化した5.7×28mm弾を使用している上に、反動も比較的抑えめな狙いやすいやつを選んだ。

 

「あとは適当に黒い装備でも買っとけ」

 

「ああ、やっぱブレイドに聞いて正解だったな。ありがとう」

 

そう言うとキリトはシノンに装備のあれこれを教わりながら必要な装備品を買っていた。



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#26 予選

装備一式を買ったキリトはシノンとフリューゲルに感謝をしていた。

 

「色々とありがとう。シノン、ブレイド」

 

「ああ」

 

「どういたしまして」

 

そう言うとシノンは街角に書かれた時間を見て焦った様子でいた。

 

「しまった!?あと十五分しかない!!」

 

「・・・エントリーしていなかったのか?」

 

「時間がなかったのよ」

 

「走るぞ!キリト!こっちだ!」

 

「お、おぅ!」

 

何が何だかよくわかっていないキリトとシノンを走らせた。

なんてこった。さっきの装備選びで時間が取られていたか・・・。

そんな事を思いながらフリューゲルは近くにあるはずの《Rent-A-Buggy!》と書かれた看板を探した。

 

「見つけた!」

 

「ふえっ!?」

 

咄嗟にシノンの手を引っ張って通路の柵から飛び降りてバギーに飛び乗るとキリトも後ろから飛び乗った。

 

「全員いるな?出すぞ」

 

そう言ってろくな確認もせずにスロットルを煽ってエンジンを奮い立たせた。

勢いよく飛び出したバギーはそのまま道路に飛び出し、シノンはフリューゲルの腰を、キリトはバギーの取手に必死にしがみついていた。

 

「な・・・なんで!?このバギー、運転がめちゃくちゃ難しくて、運転できる人ほとんどいなかったのに・・・!?」

 

「まあ、これより運転むずいやつ乗っていたからな」

 

そう言ってフリューゲルはアメリカで民間用に払い下げられたM24チャーフィー軽戦車の運転をした時のことを思い出していた。

大体ただの銃の愛好会のくせになんで戦車があるんだよ!?

しかも私有地だから問題ないって・・・色々と無駄な知識を覚えさせられたものだ。

と、そんな事を思い出しながらバギーの速度を順調に上げているとシノンの笑い声が聞こえた。

 

「・・・ふふふ、はははははは!これ気持ち良い!ねえ、もっと飛ばして!」

 

「了解」

 

ブオオォォンン!!!

 

「わぁぁぁぁ!!安全運転!!安全運転!!」

 

キリトが後ろでそう叫ぶも。

そんなの知るか!!時間がないんだ!!

と思いながらバギーは最高速度の時速250キロに到達して道路を超高速で駆けていた。キリトはその間、横を抜けてく車のスピードに恐怖をしていたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バギーをドラフトさせて止めたフリューゲルは二人がエントリーしている間にバギーの返却を行い、ロビーに戻るとぐったりした様子のお二人がいた。

 

「その様子じゃエントリー出来たようだな」

 

「はぁ、まじ焦った・・・」

 

「ふぅ、ホッとしたわ・・・ところで二人の予選はどこのブロック?」

 

「私はAの8だ」

 

「貴方は?」

 

「俺はFの37番」

 

「私はFの12・・・良かったわね」

 

「?」

 

「お前、事前に調べていないのか?」

 

「ブレイドが全部教えてくれると思ったから・・・」

 

「キリト、どっちが良い?」

 

「ん?何を?」

 

「言わなくても・・・分かるだろう・・・?

 

そう言ってフリューゲルは拳を握ってキリトに見せつけるように見せた。

 

「わ!?そ、それだけは勘弁・・・!!それで殴られたら・・・」

 

キリトは慌てた様子で慌てて手を振って顔を青くすると、フリューゲルはため息を吐いて話した。

 

「はぁ・・・ま、つまりは彼女と番号が離れているから決勝まで試合がないと言う事だ。BoBは各ブロックから優勝者と準優勝者の二人がでる。潰し合いをせずに上がれると言うわけだ」

 

「ふーん」

 

キリトがなんとなく理解したのを確認するとフリューゲルはシノンの方を向いた。

 

「では、シノン。着替えたらまたここに集合だ」

 

「ええ、了解」

 

そう言うとフリューゲルはシノンに不敵な笑みを浮かべるとキリトを連れて更衣室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、なんでブレイドはそのアバターなんだ?」

 

更衣室に入ったキリトが真っ先にそう聞いた。フリューゲルは困ったような表情を浮かべ

 

「そんなの知るか。システムが勝手に決めたアバターなんだ。これでも結構レアアバターなんだぞ?」

 

「まあ、そうだろうよ。そのガンダ「アーマーだ」・・・」

 

「誰がなんと言おうとこれはアーマーだ。・・・イイナ?

 

「お、おぅ・・・」

 

キリトはフリューゲルの凄みに思わずそう返事することしかできなかった。

そして、キリトとフリューゲルは更衣室でそれぞれ戦闘服に着替えるも・・・

 

「見た目ほぼ変わってねぇ・・・」

 

「当たり前だ。このアバター自体に装甲があるんだから当然だろう」

 

キリトは見た目に大きな変化があったが、フリューゲルは細部に部品がついただけで、大きな変化はなかった。

それはそうで、元々このアバターに付いていた装備は全て装甲が付いており、今着けているのはその後追加でつけた装備だった。

そして、戦闘服で更衣室から出た二人はシノンの座っている席に戻るとシノンは既に戦闘服に着替えて座っていた。

 

「貴方、本当に変わらないわね・・・」

 

「元々装甲が付いているんだ。そんなに変える必要もない」

 

そう言って席に座るとフリューゲルはキリトに話をした。

 

「どうせキリトのことだ。何も勉強していないんだろう?」

 

「あはは・・・」

 

「はぁ・・・」

 

もはや怒りを通り越してため息を吐いたフリューゲルは試合の説明をしていた。シノンもフリューゲルの心情に同情をしていた。

 

「今回の予選では1キロの正方形のフィールドにそれぞれ二人が転送される。二人の間は最低でも500m離れていて、勝てばここに戻ってくるか、相手が決まっていれば直ぐに次の試合に移る」

 

するとシノンが交代して説明をしてくれた。

 

「フィールドは天候、時間、場所。全てがバラバラだから注意する必要があるわ」

 

「なるほど・・・大体わかった。ありがとう」

 

「決勝まで上がって来なさい。そこで教えてあげる」

 

「何を?」

 

「敗北の弾丸の味」

 

キリトが微笑をしているとシノンは自分の方を見て

 

「フリューゲル。貴方もよ、本戦で倒してやる。『赤い悪魔』は私が倒してやるわ」

 

そういうとキリトが目線で話しかけてきた。

 

「(お前、そんな二つ名があるのか?)」

 

「(一部では『赤い彗星』なんて言っている奴もいるらしい)」

 

「(それ絶対見た目からだろ・・・)」

 

そんなふうに無音の会話をしているとシノンに銀髪の青年が近づいて声をかけていた。

 

「やあ、シノン。遅刻するんじゃないかと心配だったよ」

 

「あらシュピーゲル。ちょっと予想外の用事でね・・・。あれ、でも今回出場しないんじゃなかったの?」

 

「どうせなら大きな画面で応援しようと思ったから」

 

シノンはシュピーゲルと言う男と話をしていると当たり前のようにシノンの横に座った。

 

「それで、予想外の用事って?」

 

「ああ、そこの人案内とか・・・」

 

「どうも、そこの人です・・・」

 

「あ、ど、どうも・・・シノンのお友達さんですか?」

 

キリトの声色から何をしようとしているのか分かったフリューゲルはキリトの足を思い切り踏んづけた。

 

「君も気をつけた方がいい、こいつは男だ」

 

「そうよ、騙されないで」

 

「ええ!?その見た目で!?」

 

「はい・・・キリト。男です・・・」

 

そう言って混乱しているシュピーゲルにキリトは燃料を入れていた。

 

「いやぁ、シノンにはお世話になりました。色々と」

 

「ちょっと!貴方にシノンって呼ばれる覚えは・・・」

 

「もう、つれないなぁ。装備選びにもつき合ってくれたのに」

 

「それはフリューゲルについて言ったらそうなっただけで・・・」

 

そう掛け合いが始まりかけた時。ロビーに光が集まり、合成音声がアナウンスをした。

 

『大変お待たせしました。ただ今より、第三回BoB予選トーナメントを開始いたします。エントリーされた方はカウントダウン終了時に、第一回戦のバトルフィールドに自動転送されます。幸運をお祈りいたします』

 

騒がしくなった喧騒の中、シノンが立ち上がると自分とキリトに指を指して宣言をした。

 

「勝ち残りなさい。その頭、すっ飛ばしてやる」

 

「お招きとあらば参上しないわけにはいかないな。なあ、フリューゲル」

 

「そうだな、こう言った女性には敬意を示さねばな。お嬢さん」

 

「こ、このっ!」

 

軽く煽って自分らはどこかに転送された。転送する直前、シュピーゲルがものすごい目で見ていたので、少し警戒をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送されたのは六角柱の空間。対戦相手の名前とフィールドの場所が書かれており、待機時間が表れた。

その間に今日使うフルカスタムAKM、サブのH&K HK45、そして一昨日購入したヒートホークを装備した。

銃の手入れは済ませているので後は始まるのを待つだけだが、フリューゲルは死銃の事を考えていた。

シノンは候補から外している。理由としては薄塩たらこが死亡した時、自分とシノンは組んでいたからだ。

事件当日に誰か別の人がアバターを使っていた。と言う可能性もあるが、その可能性は低いと考えていた。

理由としては彼女は気づいていないかもしれないが、彼女が銃を撃つときに毎回何かに怯えているような雰囲気になるのだ。

 

何かから逃げているように。

 

恐怖を銃声で紛らわしているようにも見えた。そんな人が本当に人を殺せるとは思ないのだ。

 

「まだ、犯行方法もわからないのに推察するのはまずいか・・・」

 

そう呟くとタイマーがゼロになり、視界が開けて試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリューゲルが投げ出されたフィールドは平原。時間は夕刻で太陽を背にフリューゲルはフィールドを眺めた。

 

「太陽が背で助かった・・・」

 

フリューゲルはフィールドの岩陰に隠れながらそう呟く。なぜなら敵を見つけたからだ。

今はまだ移動中でしかもこっちは太陽を背にしているせいで相手から見えづらくなっていたのだ。

 

「(・・・距離約200m。問題ない)」

 

フリューゲルはAKMを単発モードに変更するとスコープ越しに狙いをつけて移動中の敵に狙いをつけた。

 

「・・・」パンッ!

 

「ゴッ!」

 

放たれた弾丸は移動中の敵の耳を貫通。一瞬でヘッドショット判定を受けDEADの文字が浮かんだ。

試合時間十五分、順調な出だしにフリューゲルはまず安心した。

 

「問題なさそうだな」

 

あまりにもあっけない一回戦に拍子抜けといった様子であったが、どうやらもう相手は決まっていたようですぐに二回戦に移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二回戦は砂漠地帯で砂嵐が吹き荒れており、今回は武器の相性が良かった。AKMはAKー47の派生系だから砂塵に強く、更に相手は《M16》。それも初期型を使っていた事から至近距離での戦闘となったが向こうが撃ち合っている途中でジャムり、その隙にヒートホークで真っ二つにしてしまった。

時間にして十分。天候の運に感謝しながら待機場に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日本じゃあ、結構有名なM16とその派生系、でも作者的にはM16や派生系のM4カービンは中々な迷銃と思っている。
そもそもM16のストーナー方式はゴミが溜まったらジャムりやすくなるわけで・・・・砂ばかりのアフガンとかで使っている時に暴発しなかったのだろうかと思ってしまう・・・(実際ベトナムじゃあ、よく詰まっていたし・・・)
というか名銃なら見た目も中身も真似されるはずなのに、M4の派生系はガワだけ真似ているだけで中身が全く違う時点で中々おかしい銃な気がする・・・














あくまでも作者個人の感想です。


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#27 亡霊

三回戦は市街地で、廃ビルにクライミングで登ったフリューゲルはビルの上から道路を観察してそこを歩く一人のプレイヤーを見た。

フリューゲルは内心南無阿弥陀をしながらスコープを覗き込んで上から射撃をする。

上にいることに驚愕しながら相手は銃を撃つことなく脳天を上から下まで貫通してしまっていた。

そしてロビーに戻るとそこではキリトが顔を青くして震えていた。

 

「何、亡霊見たような顔しているんだ」

 

「っ!?ブレイドか・・・亡霊の方がマシだったよ・・・」

 

ブレイドはここではフリューゲルだと注意しようとしたが、直後背後に近づいた気配に思わず呟く。

 

「背後して近づくな。気色悪い」

 

「なぜ分かった」

 

「足音がした。で、用事は何だ?こっちは忙しいんだ」

 

「フリューゲル、お前も標的だ」

 

「何をだ、理由は?あいにくと既に戦う予定があるんだ。その後にしてくれ」

 

「お前は、強い、だから殺す」

 

「無視か・・・《死銃》がわざわざ来るとは光栄だな」

 

「・・・本戦で、待っている」

 

そう言うと幽霊のようなプレイヤーは腕を少しまくり、西洋風の棺桶の蓋にニタニタ笑う不気味な顔、そして中からは骨が出ているマークを見せた。

 

「(《ラフィン・コフィン》か・・・)」

 

表情ひとつ変えずにそれを見たフリューゲルを見て、幽霊のようなプレイヤーはその場を音もなく消えるとフリューゲルはため息をついた。

 

「はぁ・・・有名人は辛いな・・・」

 

「よ、よくそんなことが言えるな」

 

キリトが怯えるようにしているのを見てフリューゲルはキリトの肩を叩いた。

 

「キリト、お前は帰れ。後は一人でやる」

 

「っ!?何故だ」

 

「そんな状態で戦えると思うか?これは遊びじゃないんだ。戦えるかどうかはその剣で示せ。もし出来ないなら私はお前をログインさせない」

 

「・・・」

 

「じゃあ私はこれから試合だ。それまでに私の期待を裏切らない結果を残せ。いいな」

 

フリューゲルはキツイ言葉でキリトを一喝するとフィールドに飛ばされ、次の試合に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝、決勝共に密林地帯での戦闘で、木々を避けながら戦闘をするフリューゲルはさながら彗星であった。

 

決勝も順調に勝ち、ブロック優勝でロビーに戻ったフリューゲルはキリト達のいるFブロックの試合を観戦していた。

 

「(あっちも決勝か・・・)」

 

観戦していると映像に衝撃的なものが映った。

 

「(アイツ・・・試合をしないつもりか・・・!?)」

 

フリューゲル視線の先に見えたのは高速道路の上でただ呆然と歩くキリトの姿だった。

試合をまともにやる気は無いのかと思ったが、どうも様子が違った。

 

「(あの目は・・・覚悟を決めた顔だな・・・)」

 

フリューゲルはホッとして観戦をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトは光剣を振って自分にできる最大限の事をやろうと決めた。

SAOの時、自分の代わりに罪を背負ってくれたのはブレイドだ。明日奈と同い年なのにずっと大人に見えるブレイドは自分の目標でもあった。

そのフリューゲルに認められる為にも自分は自分なりの方法で彼に意思を示そうと決意をした。

 

「(勝負と行こう・・・ブレイドに認められる為にも・・・)」

 

キリトは光剣を視線の先にいるシノンに向けて振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、苛立っていた。そのわけはスコープに映るキリトに対してだ。逃げることもせず、ただ呆然と道路を一直線に歩いていた。

 

ふざけるな!と叫びたい気持ちを抑えこみ、銃口を彼に向ける。

この距離でも避けられる自信でもあるのだろうか。

シノンは昂ぶる心を感じながら着弾予想円をキリトの頭に向ける。

もしここで彼を倒すことができればーーー私は強くなれる。

そうすれば私はーーーあの人に会えるかもしれない。

あの時、私が下手に銃なんかを撃ってしまったから、罪を着せてしまった。

私がもっと強ければ、彼に罪を着せる事なくもっと別の方法があったかもしれないのに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修也さんに、顔向けできないーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな盲目的な望みが彼女の奮い立たせ、ヘカートⅡをキリトに向けて、銃弾を発射させた。

 

しかし・・・

 

 

ドンッ!キィン!

 

 

キリトは発射された銃弾を真っ二つに切ってしまった。

 

「(そんな!?あり得ない!?)」

 

そして真っ二つに割れた銃弾が道路で倒れていたバスにあたり、爆炎に包まれた。

シノンが驚愕し、固まっている隙にキリトは爆炎を利用して急接近してシノンの首にフォトンソードを当てていた。

 

「どうして、私の照準が予測できたの・・・?」

 

キリトに思わず聞いてしまったシノンはしまったと言う表情をしたが、キリトはシノンの問いに答えた。

 

「スコープ越しに君の目を見た」

 

「っ!?」

 

強い

 

直感的にそう感じた私はキリトに疑問が浮かんでしまった。

それは一回戦が終わった後、怯えていた彼だった。冷たい手で私の手をすがっていたのか。

 

「それほどの強さがあって、貴方は何に怯えるの」

 

「こんなの強さじゃない。ただの技術だ」

 

「嘘、嘘よ!テクニックだけでヘカートの弾を切れるはずがない!あなたは、どうやって・・・、その強さを手に入れたの・・・?それを、それを知るために「ならば聞こう!」っ!?」

 

キリトは低く、しかし蒼い炎のような熱量を秘めた声で囁いた。

 

「もし、その銃の弾丸が現実世界のプレイヤーをも本当に殺すとしたら・・・そして殺さなければ自分が、あるいは誰か大切な人が殺されるとしたら・・・その状況で、それでも君は引き金を引けるか?」

 

「・・・!!」

 

呼吸も忘れ、シノンは両眼を開いた。まるでか今自分を知っているかのような話し方だったが、それは違うと判断した。

 

「(この人も、昔私と同じようなことがあった・・・?)」

 

「・・・俺は何もできなかった。あの時、アイツがいなければ・・・アイツが全部罪を負ってくれから・・・俺はその罪に悩まされずに済んだんだ・・・」

 

シノンの予感は当たり、キリトの思い詰めるような呟きに思わずMP7を地面に落としてしまった。そしてその指先がキリトの頬に触れる寸前、キリトは苦笑いを浮かべながらシノンの事を見た。

 

「それじゃあ、試合は俺の勝ちでいいかな?」

 

「え・・・?あ、ええと・・・」

 

「なら降参してくれないかな。女の子を斬りたくないんだ」

 

その言葉に、シノンは自分の状況を再度認識して・・・羞恥から顔を真っ赤にした。この情けない有様がGGOの至る所で生中継されているという事にようやく気付いたのだ。

シノンは後ろに一歩下がると空に向かって

 

リザイン!

 

と叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合後、待機ドームで座っていたフリューゲルにキリトは近づいた。

 

「あ、あの・・・ブレイド?」

 

「・・・何だ?」

 

フリューゲルに恐る恐るキリトは声をかけるとフリューゲルは少し重めの声でキリトに聞き返した。

 

「あ、えっと・・・「さっきの試合か?」あ、あぁ・・・」

 

思わず緊張してしまうとフリューゲルはため息を吐きながらキリトに言った。

 

「覚悟はよくわかった。あとは明日の試合だ。残りは向こうで話す」

 

「わ、分かった」

 

「ログアウトは私の借りている宿でする。こっちに来い」

 

そう言って帰りはキリトとバギーに乗り込んでフリューゲルの借りている宿に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿に着き、お互いにログアウトした二人は病院を出て、近くの公園のベンチに座った。

 

「ほらよ。今日は冷える、それで温めておけ」

 

「あ、ごめん・・・」

 

キリトの手に入るように投げられたコーヒー缶は冷える体にはちょうどいい温かみを持っていた。

修也は一人の横に座り、好きだと言うおしるこ缶を飲んでいた。

 

「和人」

 

「っ!?何だ?」

 

「私は少し・・・人を学んだ気がする」

 

「?」

 

突拍子もない言葉に和人は疑問符が浮かんでいたが、そんなことも気にせずに修也は話し始めた。

 

「今日自分達が会った亡霊は《ラフィン・コフィン》のメンバーだった。恐らくSAO時代の奴らの誰かだろう」

 

「・・・」

 

「和人・・・私は正直、あのとき何人殺したのか正確に覚えていない」

 

「っ!」

 

目を見開いて和人は驚いた。しかし修也は飲み干した缶の中身を見ながら呟く。

 

「私は、奴らに殺された人達の仇討ちをしたつもりで居る・・・私は彼らが死んだ影響で生き残ることができた人を思い浮かべながら、あの時の事を思い出す」

 

「・・・」

 

思わず修也の話を深く聞いてしまった。その時の修也はどこか茅場晶彦に似たようなナニカを感じた。

 

「私は、ラフィン・コフィンの討伐、残党の討伐で命を救われた人に感謝をされた。

私はその事を胸に留めながら毎日を生きるようにした。

死人に口なし、それはラフィン・コフィンや彼らに殺された人たちも同じだ。

ただ、私が出来るのはどこかで殺された人たちが成仏している事を祈るだけだ」

 

そう言うと修也は空になった缶をゴミ箱に投げ入れると公園を後にした。

 

「明日もちゃんと来いよ。逃げるんじゃないぞ」

 

そう言い残すと修也はバイクに乗って家に帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、シノンが修也と思っていたのは一瞬の出来事で、試合後は完全に忘れています。


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#28 BoB本戦開幕

翌朝、和人からメールがあった。

 

『直葉にバレた!明日奈達が試合を見るかもしれない』

 

メールを受け取った修也はため息を吐くと今日のBoB本戦の参加メンバーをまとめた資料を漁っていた。

 

「恐らく今日の本戦に死銃も参加するはずだ・・・死銃らしき人物が出たのが十一月なら・・・恐らく今大会が初出場のはず・・・」

 

そう呟きながら修也は画面を並べて今大会に出る新参プレイヤーを見ていた。当然キリトと自分、シノンは排除して名前を見ていた。

 

「《銃士X》に《ペイルライダー》後は・・・《Stelben(ステルベン)》か・・・」

 

どれも怪しいといえば怪しい。最初の銃士XのXは容疑者を表す隠語だし、ペイルライダーもヨハネの黙示録の死を司る騎士であるし、ステルベンもドイツ語で死を意味する医療用語である。一概に全員怪しく、これは直接会うしか方法がないと思っていた。

 

「ふぅ・・・どうしたものか・・・」

 

修也が顔を上に向けて悩んでいるとマキナがコーヒーをお盆に乗せて入ってきた。

 

「マスター、お茶を、持って、来ました、よっ!」

 

足元のおぼつかない様子でコーヒーを渡してきたマキナは修也に文句を言った。

 

「マスター、もっと部屋綺麗にしてくださいよ」

 

「誰も来ないから問題ないだろう」

 

そう言って見渡した自分の部屋は多種多様の積み上がった資料と夥しい数の付箋が壁中に貼り付けられ、本棚には買ってきた古本や洋書、専門書が多数置かれており、ベットには積み上げられたコピーされた紙、部屋の隅にあるラックには多くのモデルガンが置いてあった。その横にあるのは椅子型のマキナの充電器だ。さらに本棚にある専門書も入り切らずに床に積み上げられているのもあった。

まさに、お部屋というよりも汚部屋となっていた。

 

「もう!マキナが掃除をしても直ぐにこうなるんです。ちょっとは綺麗にする事を考えてください」

 

「ベットで寝れないならリビングのソファーで寝れば良いじゃないか」

 

「・・・ダメだこりゃ」

 

マキナが本気で眉間に手を当てて困惑していると取り敢えず寝れるとこだけでもとベットの上に乗っかっている紙をまとめているとマキナはベットに置かれた製図用紙に赤鉛筆とボールペンで書かれた物を見ていた。

 

「(これは・・・)」

 

マキナがそれを手に取って図を見ていると修也が上から抜き取るようにその紙を持って行った。

 

「マキナ、こっちはやっておくから机の方を頼む」

 

「あ、分かりました」

 

そう言って机の上の紙をまとめて片付けていたマキナを見て修也はホッとしていた。

 

「(また怒られてしまうからな・・・)」

 

修也は小さくぼそっと呟くと製図用紙を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、部屋の片付けを終えて少し綺麗になった部屋を見て修也は時間を確認した。

 

「もうこんな時間か・・・マキナ、私は出かけてくる」

 

「分かりました。いってらっしゃい。マスター」

 

そう言うと修也は家のことを任せてバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の到着し、安岐看護師と会うと昨日と同じように電極が貼られ、修也は一足先にGGOにログインをしていた。

 

「今日はこれを使おう。ついでにコレだな」

 

フリューゲルは銃を持ちながら装備を見ているとログインした時の音が聞こえ、男の娘キリ子がログインをした。

 

「よう、来たようだなキリ子」

 

「何ちゅう言い方すんじゃい」

 

「見た目まんまだろう。アスナに連絡入れてやろうか?」

 

「それだけは勘弁してくだしあ!!アスナさんが爆発してまう!!」

 

綺麗な土下座をしたキリトを見て面白がっているフリューゲルは武器をしまうと街を歩いていた。

 

「ようシノン。今日は早いんだな」

 

「貴方もよ、フリューゲル」

 

そう言ってフリューゲルはシノンと総督府で出会って話をしていると後から追いかけてきたキリトがシノンに話しかけた。

 

「よ、シノン。よろしく」

 

「・・・よろしくって?」

 

「そりゃお互いにベストをつすそうって話さ」

 

「そう・・・」

 

そうして試合前に三人は早めのエントリーを済ませた。

 

「じゃあ、時間もあるし。少し近くの店に行こう」

 

「え?」

 

「奢りだ。このアホのレクチャー代として」

 

そう言ってフリューゲルがキリトを指差すとシノンはため息をついた。

 

「貴方も大概迷惑かかっているのね」

 

「ご尤もだ」

 

「あはは・・・すみません・・・」

 

呆れたシノンはまあ、奢ってもらえるならばと近くの店に入って適当に飲み物を注文しようとした。

 

「・・・なあ」

 

「分かっている、絶対昨日のお前の試合だな」

 

そう言っているのは店の店内が騒がしい事だった。話の大半がキリトに関することで見た目と予選で光剣を振り回していた事だろう。クールビューティーなバーサーカーなんて言われている始末だった。

 

「応援してね」

 

「「「「ウオォォォォォォオオッ!!!」」」」

 

「何バカなことやっているんだ・・・」

 

シノンは試合前から疲れた様子のフリューゲルに思わず同情してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こっちでも一応調べたが。シノン、この詐欺男に試合の説明をしてくれ」

 

「奢ってもらったからいいわよ」

 

そう言ってアイスコーヒを飲みながらシノンはキリトに説明をする。ちなみにキリトはジンジャーエール、フリューゲルはコーラを選んでいた。

 

「基本的に、三十人のプレイヤーがランダムに転送されて最後まで生き残った人が優勝よ」

 

「なるほど・・・」

 

「でも、参加者がそれを使って隠れ切るのを防ぐために《サテライト・スキャン》って呼ばれる偵察衛星が十五分に一回だけやって来る」

 

フリューゲルもシノンの説明に混じってキリトに教えていた。

 

「ちなみに、一プレイヤーとの距離は最低でも一キロは離れている」

 

「一キロ!?そんなに離れていて大丈夫なのか?」

 

「お前な・・・拳銃でも交戦距離は五十メートル、狙撃銃に至っては六百メートルの撃ち合いになる」

 

「そ、そんなに・・・」

 

「そ、むしろそれ以上近かったら乱戦になってしまうわ」

 

「剣の感覚で考えるんじゃない」

 

シノンとフリューゲルはキリトに説明をするとフリューゲルはコンソロールを動かして三つの映像を二人に見せた。

 

「ちなみに、お前にいるかはわからないが今までのBoBの出場者だ」

 

「何でこんなの見せるのよ・・・」

 

「いや、こっちの重要な話でな・・・」

 

「フゥン・・・ねえ、もしかして昨日キリトがおかしくなった原因?」

 

シノンの鋭い質問にキリトはどう返答しようか悩んでいると。

 

「ああ、昨日。自分達にとって因縁の相手だ。本気で殺し合うほどのな・・・」

 

「何かパーティー中にトラブったとか・・・?」

 

「そんな甘いことだったら良かったがな」

 

「え?」

 

フリューゲルの言葉に思わずシノンは聞き返してしまった。

 

「本当の命をかけた殺し合いだ。奴らは人の常識から逸脱した・・・狂人だった・・・」

 

「そうだな・・・人の命を何とも思わない奴らだった・・・」

 

「命が無くなるのを知っていて、それを見て楽しむ。とも言うべき存在だな・・・」

 

迷いのない目で話した二人にシノンはある予感がした。

 

「・・・あっ、変なこと言って悪い。忘れてくれ・・・」

 

「・・・『もし、その銃弾が、現実世界のプレイヤーを殺せるなら。それでも君は引き金を引けるか・・・?』」

 

「っ・・・!?」

 

キリトが息を呑んだ。

 

「ねえ、まさか貴方たち・・・・()()()()()()・・・?」

 

「・・・ああ、君の予想通りだ。私たちは《SAO生還者》だ」

 

「・・・その・・・ごめん」

 

「もういい、あれは過去の事だ。どれだけ言っても過去は変わらないさ」

 

「そうだな・・・気にしなくていい」

 

一瞬の沈黙が響き渡り、シノンが口を開いた。

 

「・・・そろそろ待機ドームに行きましょう。装備の点検とかしないといけないから」

 

「ああ、そうだな」

 

「行くか・・・」

 

三人は立ち上がると控え室に向かうエレベーターに向かう途中、沈黙を破ったのはシノンだった。

 

「貴方たちにも事情があるのは分かったわ。けど・・・」

 

するとシノンが手銃を自分とキリトの背中に押し当てる。

 

「私との約束は別の話よ。昨日の決勝戦の借りは必ず返すわ・・・フリューゲルも・・・あなたたちは私が必ず倒す・・・だから、私以外のやつらに撃たれたら、許さないからね」

 

「もちろんだ」

 

「・・・・分かった」

 

そう言うとエレベータが到着し、そこでシノンとは別れた。

 

「じゃあ、また試合で」

 

「ああ」「待たな」

 

そうして別れるとフリューゲルはキリトに今回の本戦に参加するメンバーを見せた。

 

「キリト、この中で《銃士X》《ペイルライダー》《ステルベン》が新規の三人だ」

 

「よく調べたな」

 

「むしろ調べたりしないほうがおかしい」

 

そう言いながらフリューゲルは二人で死銃が誰なのかを予想していた。

 

「正直に言って全員怪しい。《銃士X》はXは容疑者の意味を表し、銃士をさかまさにすれば《しじゅう》になる。ペイルライダーも死を司る騎士の名。ステルベンもドイツ語で死を意味する病院用語だ」

 

「なるほどな・・・」

 

「情報提供はしたぞ。私は装備を整えてくる」

 

「ああ、分かった」

 

そう言い残すとフリューゲルは席を経ってどこかに去って行った。残ったキリトはフリューゲルからもらった情報を精査して、死銃が誰なのかを予想していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトと別れたフリューゲルは更衣室に入り、今回の試合で使う装備を装着していた。

 

「準備よし、あとは・・・」

 

フリューゲルはコンテナを使うことで知ったシステムの穴を使ってキリトたちが驚くような事をしようと考えていた。

しかし、そんなことよりもフリューゲルは優先することがあった。

 

「(死銃・・・必ず・・・)」

 

フリューゲルは思わず拳を強く握って精神を集中させているとアナウンスが入り、全身がどこかに飛ばされる感覚に包まれた。



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#29 BoB本戦その1

午後八時三十分、試合が始まって三十分が経過した。

自分が最初に飛ばされたのは砂漠地帯。コンテナを背負って砂丘の岩山の上からMag−Fed 20mmライフルを構えて待っていた。

 

「・・・」ドォン!

 

有効射程が四.五キロもある化け物狙撃銃は千メートルの相手を組んでいたであろう仲間共々を吹き飛ばした。

 

「対艦ライフルかよ・・・」

 

その威力にフリューゲルは思わず苦笑してしまうとMag−Fed 20mmライフルを背中に差すように入れると今度はパンマガジンタイプのRPー46を持って砂漠地帯を走り始めた。

どうせ、死銃は拳銃を使って相手を死に至らしめる。そうそうやられる腕前ではないだろう。

そう考えてフリューゲルはサテライト・スキャンでシノンのいる場所を確認すると目につく敵を片端から倒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Side:ALO〜

 

「お兄ちゃんなかなか映らないね」

 

「キリトさんの事だから飛ばしてくると思っていたのに・・・」

 

「いやいや、あー見えて結構アイツ計算高いからどこかに隠れているんじゃねえか?」

 

リーファ、シリカ、クラインがアスナの借りている部屋で談笑しているとアスナが苦笑していた。

 

「いやぁ・・・キリトくんでも流石にそこまではしないと思う・・・けどなぁ・・・」

 

「そーですよ、パパならきっとカメラに映らないほど一瞬で後ろからフイウチですよ」

 

アスナの左肩に乗っているユイが相応とリズベットが苦笑していた。

 

「あはは・・・それはありそうね。銃じゃなくてしかも剣でね」

 

一瞬だけ全員がその姿を想像して朗らかな笑い声が響くとシリカの膝の上で小竜のピナが耳をぴくぴく動かしていた。

全員がアルブヘイム・オンラインでログインをしてGGOの中継を見ているとクラインがアスナに聞いていた。

 

「そういやあブレイドのやつも居るんだっけか?」

 

「え?ああ、そう言えばそうだったわね」

 

「へぇ〜、アイツも居るんだ。あの鉄仮面野郎」

 

「リズさん、鉄仮面って・・・」

 

シリカが思わずリズベットに苦笑しながら返事をしてしまっていた。しかしリズベットはそんなのも気にせずに学校での彼をブツブツと呟いていた。

 

「だって、いっつも授業の時も休み時間の時も、同じ顔しているもん」

 

「まあ、元々アイツは表情の起伏が少ないしな」

 

「そう言えばここゲームで最近見かけませんでしたね」

 

「このゲームにハマっているのよ」

 

そう言って映像の方を見るとシリカは納得した様子で頷いていた。

 

「なんかキリトが言うには別アカ作って入っているらしんだよね」

 

「へぇ〜、じゃあ名前が違うって事ですか」

 

「探し辛えったらありゃしない」

 

そう言ってクラインが呟き、映像が変わった時。その光景に全員が唖然としていた。

 

「「「「「何これぇ・・・」」」」」

 

そこには大量の爆炎とその爆炎に銃を放つ多数のプレイヤーがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Side:Flugel〜

 

「(流石にまずいな・・・)」

 

砂漠の砂丘の影に隠れているフリューゲルは激しい攻撃を受けていた。

 

ドォンドォンドォン!!

 

ダダダダダダダッ!!

 

バァン!

 

投げ込まれるプラズマグレネードに、多数の実弾。爆風で少しでも顔を上げれば一気にHPが全損してしまいそうだった。

 

「五対一はずるいだろ!!」

 

思わずそう叫んでしまうほどに今は不利な状況であった。キッカケは先ほどの砂漠地帯で二人組で組んだチーム三つと鉢合わせてしまい、絶体絶命のピンチとなっていた。砂丘に滑り込む直前に一人をやったが、それでも五人残っていた。

 

ザザーッ

 

フリューゲルの声に誰か気づいたのかさらに攻撃は増し、危うく死ぬところだった。砂が大量に飛び散り、頭から砂をかぶっていた。

 

「・・・行くか・・・」

 

フリューゲルは投げられたグレネードに向けて拳銃を向けると放物線に乗っかって飛んでくるグレネードを撃ち抜いた。

 

パンパンッ! ドゴォオオオン!!!

 

空中で誘爆したグレネードの爆炎で敵の攻撃が止み、その一瞬をも逃さずにフリューゲルは砂丘の山から飛び出し、持っていたRP−46を持って突撃をした。

 

ダダダダダダダッ!!

 

「アッ!」

 

「ゴッ!」

 

「このっ!」ダダダダダダダッ!!

 

パンッ!「ガァッ!」

 

三人を持って行き、そのうちの一人を盾にフリューゲルは片手で軽機関銃の引き金を引いた。

 

ダダダダダダダッ!!

 

「ゴフッ!」

 

「クッソォオオ!!」

 

残り一人となり、ヤケクソで最後の一人が《H&K HK416》を放っていた。地味にフリューゲルが欲しいと思っている銃なので後でこのプレイヤーに何処で銃を手に入れたのか後で聞こうと思っていた。

 

「ふぅ・・・。案外何とかなるものだな・・・」

 

フリューゲルはDEADも文字が浮かび上がる中心でホッと息をついていた。

 

「・・・そろそろ移動しなければ」

 

フリューゲルはそう呟くとマップ中央の廃墟都市まで走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Side:ALO〜

 

砂丘での戦闘を見ていたアスナ達は全員が同じ気持ちだった。

 

「「「「「(今の絶対ブレイド(さん)だ・・・・・)」」」」」

 

一連の動きを見てここにいる全員が同じ気持ちだった。ブレイドと接点の少なかったリーファですらそう思っていた。

 

「あんな動き・・・」

 

「ああ、絶対アイツだろうよ」

 

「プレイヤー名わかる?」

 

「あ、調べますね。えーっと・・・フリューゲル?って読むのかな?」

 

「そうだな、ドイツ語で羽って意味だな」

 

「あんたドイツ語わかるの?」

 

「大学でドイツ語選んでいたんだよ」

 

クラインがそう話すとアスナ達はホェーと言った様子でクラインを見ていた。

 

「なんだよ」

 

「いや、あんたもちゃんと勉強していたんだって思って」

 

「そりゃ、こっちは社会人だぞ。当たり前だ」

 

クラインはブランデーを飲みながら映像を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Side:Sinon&Kirito〜

 

シノンとキリトは森から鉄橋を眺めて戦闘を見ていた。キッカケはシノンが端にいるダインを狙おうとした時、キリトがシノンを説得して戦闘の様子を眺めていた。すると死銃候補の一人《ペイルライダー》が橋の上で《ダイン》と戦闘をしていた。

ペイルライダーは三次元機動でダインをショットガンで圧倒していた。

 

「(すげぇ、あんな闘い方があるのかよ・・・このゲーム面白い・・・)」

 

仕事が終わったらフリューゲルと一緒にやるのも良いかもしれない。

キリトはそんな事を思いながら戦闘を眺めているとペイルライダーが突如倒れた。

 

「「!?」」

 

二人して何が起こったのか分からなかったがシノンがスコープを覗いたことでその理由がわかった。

 

「で、電磁スタン弾・・・!?」

 

「な、なんだそれ・・・?」

 

「簡単に言えば相手を麻痺させるための弾丸。値段が高い上にそこそこ大口径の狙撃銃じゃないと撃てないのに・・・!?」

 

それはいきなり現れた。橋の上にボロマントを羽織った骸骨のマスクに赤いライトを灯らせた幽霊のように不気味なプレイヤーだった。

 

「・・・いつからあそこに・・・」

 

シノンが無意識にそう呟くとボロマントの持っている武器を見て驚愕した。

 

「ーー《サイレント・アサシン》」

 

正式名称《アキュラシー・インターナショナル・L115A3》

サプレッサーが標準装備の対人用狙撃銃である。イギリス軍が保有する狙撃銃L96A1を置き換えるために発注され、死にゆく時の音が聞こえないことから《サイレント・アサシン(沈黙の暗殺者)》と言う異名を持っていた。

噂では聞いていたが、まさか持っている人がいるとは思わなかった。

シノンが驚いている中、ボロマントはL115を右肩に担ぎ、倒れたままのペイルライダーに近づいた。

そしてペイルライダーに近づくと徐に拳銃を取り出した。

 

「拳銃なんかでトドメを・・・?」

 

少なくとも拳銃なんかでHPを全損させることは出来ない。S&W M500ほどの威力ならいけるかもしれないが・・・。しかし、西日が強く、拳銃の種類まで判別はできない。

二人が困惑をしているとボロマントは胸の前で十字架を切る動作をした。

 

「・・・シノン、撃て」

 

「え?どっちを?」

 

キリトの張り詰めた声に思わず疑問に持つと切迫した声でシノンに叫んだ。

 

「あのボロマントだ。頼む、撃ってくれ!あいつが撃つ前に!」

 

キリトの声にすぐさまトリガーを引いた。

轟音と共に12.7mm弾が発射され、ボロマントに命中・・・しなかった。

 

「な・・・」

 

ボロマントの男はシノンが引き金を引いたのと同時に体を逸らせて避けていたのだ。

あり得ないことにシノンが絶句をしているとボロマントの男はスコープ越しに自分の眼を捕らえていた。

 

「あ・・・あいつ、最初から気づいていた・・・私たちが隠れていることに・・・」

 

「まさか!」

 

シノンは咄嗟にレバーを引いて引き金を引こうとしたが、避けられると思い、一瞬の迷いがあり、引き金を引くのを堪えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

パァン!!

 

 

 

自分達のいるほぼ反対側。ちょうど山岳エリアから弾丸が飛来し、ペイルライダーの直上で破裂した。

炸裂した金属片と爆炎はペイルライダーを包み込み、ボロマントを一歩飛び退かせた。

炎に包まれたペイルライダーは《Dead》の文字が浮かび、ボロマントは悔しげに見ていた。

 

「な、何が・・・」

 

ドォン!

 

シュンッ! パァンッ!

 

遠くから銃声が聞こえると今度はボロマントの近くで鉄橋の骨組みを貫通して、破裂した。

ダメージエフェクトを確認した、ボロマントは慌ててから飛び降りて姿を消した。

 

「今のって・・・」

 

「あ!あそこっ!」

 

キリトが指さした先、目線でギリギリ見える範囲の岩山の上に、赤い影が見えた。

 

「あんな距離から!?」

 

「す、すげえな・・・・」

 

キリトも思わずそう呟いてしまった。目線でギリギリ、それも彼のアバターが赤くて目立つからであり、もっと日が落ちていればおそらく見えなかっただろう。

そのくらいの距離から彼は狙撃をしていたのだ。距離にしておそらく二千メートル、世界クラスの化け物である。

 

「フリューゲル・・・・」

 

彼女はそのアバターを動かしている名をつぶやくと岩山に立つ赤い戦士を眺めていた。



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#30 BoB本戦その2

砂漠地帯から廃墟都市に向かったフリューゲルはそこでバギーを借りるとそのまま南下し、山岳地帯の一角に来ていた。

 

「確かシノンたちのいる場所がさっき見た時には森林地帯だったな・・・」

 

道中で何人かと交戦し、キル数は13人、ほぼ半数を倒したフリューゲルは山岳地帯にいた敵を高所から狙撃して敵を倒していた。

このデカブツ(Mag−Fed 20mmライフル)は市街地戦ではなかなか邪魔で、RP-46でなんとか凌いだが、危うく死にかけた。

山岳地帯でスコープを構えると森林地帯にあった鉄橋に見た事ある顔が見えた。

 

「(あれはシノンとキリト・・・何を見ているんだ?)」

 

そう思い、鉄橋を見るとそこには骸骨マスクをした幽霊のようなプレイヤーが青い服を着たプレイヤーに拳銃をむけ、手で十字架を切っていた。

 

「まずいっ!」

 

直感的にそう感じたフリューゲルは引き金を引こうとしたが・・・。先にシノンのへカートだろう、弾丸をボロマントが避けていた。

 

「避けた・・・ならば・・・!!」

 

ドォン!!

 

避けて注意がシノン達に行った隙に炸裂弾を放ち、()()()()()()()を狙った。

自分の予想が当たって入れば・・・。そんな願いをしながら放たれた20mm炸裂弾は順調にペイルライダーを炸裂弾でズタズタにしていた。

それを見たボロマントは悔しげに銃を強く握っていた。

 

「(ビンゴ・・・)」

 

ドォン!!

 

「(当たらないだろうが・・・)」

 

念の為と思い二発目を放つも、それは炸裂弾の破片でダメージを負っただけで倒す事は叶わなかった。

ボロマントは慌てて橋から降りていた。

橋から降りて見えなくなる寸前、フリューゲルは興味深い物を目にした。

 

「ほう・・・」

 

それを見たフリューゲルは再度スコープで鉄橋を眺めると近くの岩場で思い切り手を振っている黒い男の娘とその横でため息をついている少女を見た。

 

「はぁ・・・何やってんだか・・・」

 

フリューゲルはため息を吐きながら岩山を降りるとちょうど《サテライト・スキャン》の時間となり、さっきのプレイヤーが誰なのかを確認するためにマップを開いたが・・・

 

「名前が・・・ない・・・?」

 

そこには橋や、その周辺にシノンとキリト以外何も映っていない地図があった。

すでに半数以上がやられており、自分を入れてあと10人程度と言ったところだった。

 

「残るは《銃士X》と《ステルベン》・・・か」

 

フリューゲルは名前を呟くと岩山を降りて隠し止めていたバギーに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フリューゲル!」

 

バギーを走らせて鉄橋に向かったフリューゲルは橋の前で手を振っているキリトの頭をとりあえず軽く殴った。

 

「バカじゃあるまいし・・・」

 

ゴンッ!

 

「いてっ」

 

キリトにゲンコツをしたところでフリューゲルはキリトに聞いた。

 

「私はこれから都市部に戻る。あそこに死銃がいる可能性があるからな」

 

「俺も乗せてくれ。シノン・・・悪い、ここで別れよう。極力あのぼろマントには近づかないようにしてくれ。約束通り、次に会った時は全力で君と戦う。さっきは話を聞いてくれてありがとう」

 

キリトはそう言うとフリューゲルの乗ってきたバギーに乗り込もうとした。そしてフリューゲルがバギーのエンジンを吹かした時。

 

「ちょっと!待ちなさいよ!」

 

大声が響き、反射的に声のした方を向いていた。そこではシノンはヘカート片手にそっぽをむいていた。

 

「・・・私も行くわ」

 

「え・・・?」

 

「だって、あんた達《死銃》と戦うつもりなんでしょ?あいつ、相当強いよ。あんたたちがあいつに負けたら、戦えないじゃない。あんまり気が乗らないけど、一時共闘して、先にあいつをBoB本戦から叩き出した方が確実だわ」

 

シノンの提案にフリューゲルが答えた。

 

「それは危険だ。もし本当に《死銃》が命を奪うのであれば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君も命を賭ける必要がある」

 

「・・・」ゴクッ

 

思わず息を呑んだ。その時のフリューゲルは今までにない程重い感情を乗せてシノンに聞いていた。

組んでいた時とは違う。重く、ずっしりとした口調だった。だがシノンは・・・

 

「・・・行くわ。経験者は多い方がいいと思う」

 

そう言うとフリューゲルは少し間を置くと小さく頷いた。

 

「・・・分かった。では乗るといい・・・」

 

そう言われ、ホッとしているとフリューゲルは何か呟いた。

 

「だがその前に・・・キリト?」

 

「ああ」

 

「?」

 

ブォン!

 

「!?」

 

キリトは光剣を、フリューゲルが見た事無い片手斧を取り出すと何本もの赤い弾道予測戦が浮かんできた。

 

「まずはこいつの相手だ」

 

「シノン、援護よろしく」

 

そう言うと何本もの銃弾の雨が降り注いだ。キリトが左側で、フリューゲルが右側でそれぞれ武器を振ると弾道予測戦に従って見える弾丸を切ったり弾いたりしていた。

敵の使用する銃は《ノリンコ・CQ》。かの有名なM16の劣化コピー品である。そのため命中制度は低く、バラバラに飛んでいた。装弾数は30発、一人当たり約15発の弾丸を、しかも当たるものだけ弾くとなると数は少なかった。弾丸を弾くのを見て、相手は信じられないと言った様子だった。

 

「シノン」

 

「・・・了解」

 

バギーの上にへカートを置いたシノンがその古代中国の武将のような格好をしたプレイヤーに向かって弾丸を放った。

 

「うっそぉ・・・」

 

その言葉を残してプレイヤーは思い切り吹き飛び、Deadの文字が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ねえ」

 

「ん?」

 

「なんか、狭くない?」

 

「そりゃそうだろう」

 

廃墟都市に移動中の三人、特に後ろにすわっているシノンとキリトはフリューゲルのあるものが気になっていた。

 

「「その背中の箱は何ですか?」」

 

そう、二人はフリューゲルは背中に付いている赤い箱を指差した。

フリューゲルもフリューゲルでこんなことになるとは予想外で思わず苦笑していた。

 

「仕方ないだろう。こっちは二人乗せるつもりが無かったんだ。街に着くまで我慢しろ。それとこの箱はまだ秘密だ」

 

そう言うとフリューゲルはバギーの速度を上げて街に入った。都市部の入り口でフリューゲル達はバギーを乗り捨てると街の一角でマップを見ていた。

 

「候補の《銃士X》はここ。《ステルベン》は・・・いないか・・・」

 

「じゃあ、俺は《銃士X》を見てくる。恐らく狙いはここの《リココ》だ」

 

「キリト、スタジアムの右側から。シノンは反対側のビルから狙撃」

 

「え?ふ、フリューゲルは?」

 

「私は正面から行く。それからキリト、敵は「どこにでもいると思え。だろ?」そうだ。じゃあ、私は行ってくる」

 

そう言うとフリューゲルはRP-46を構えるとキリトと共にスタジアムに走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンは崩壊したビルに移動して入ろうとした時、いきなり倒れてしまった。

何が起こったのか分からなかった。視界の端でうっすら見えたのは青白く光り、そこからスパークが走っていた事だった。

 

電磁スタン弾

 

それを理解した時、シノンは驚愕してしまった。なぜなら、何もない空間から突如真っ黒な亡霊が現れたのだ。

 

「(ーーメタマテリアル光歪曲迷彩!!)」

 

光そのものを滑らせ、自身を不可視化させる究極の迷彩能力。一部の超高レベルネームドモンスターだけが持つだけの技のはず。

新たに追加されたのかと思ってしまった。

 

バサリとダークグレーの布地が翻り、頭部を完全に多くフードに、ボロボロの長いマント。完全に姿を現した襲撃者をシノンはただ呆然と眺めていた。

 

ーーーーーー死銃

 

私は何もできずに死銃が呟くのを聞いていた。

 

「・・・キリト、ブレイド。これで、ハッキリする。お前らが、本物か、偽物か・・・さあ、見せてみろ。あの時の、戦いの、続きを・・・」

 

そう言うと一つの銃を取り出して、コッキングをした。その銃を見て思わず握ったMP7を落としてしまった。

 

黒星・五四式ーー()()()()

 

六年前の郵便局。私が罪を着せてしまった戒めの、トラウマとなった銃。

私が撃ち殺してしまった。あの男が持っていた銃。

 

ああ、この世界のどこかにいたんだ。私に復讐するために、本当の罪を教える為に・・・。

 

もはや世界が灰色に見えた。ただ漆黒の闇の中に、二つの眼と一つの銃口があるだけであった。すぐ動かなければ殺されると頭ではわかっているのに、彼女は動く事ができなかった。

その時だ。重々しい声が辺りに響いた。

 

「見つけたぞ。ラフィン・コフィンの亡霊・・・!!」

 

それと同時に連続した銃声が聞こえ、私の前と死銃の間に赤いロボットが立ち塞がった。何度も見た事のある赤いアバターは今は太陽よりも輝かしく見えた。私は安堵の声が思わず出てしまった。

 

「フ・・・リューゲル・・・」

 

「すまない、遅れた様だな」

 

フリューゲルはRPー46片手に死銃に向かって話しかける。

 

「さっきの弾丸の味は如何だったかな?・・・赤目のザザ」

 

「赤い雷鳴、お前は、覚えて、いたんだな」

 

「ええ、毒ピックを突き刺したことだけは覚えているぞ。じゃ、お前とはまた後でだ」

 

そう言うと何かが投げ込まれ、そこから大量の煙が吐き出された。

シノンは誰かに抱えられると聞き覚えのある声がした。

 

「大丈夫か?フリューゲル」

 

「遅い、予定じゃあ五分のはずだぞ」

 

「そんな速度で走れるか!お前じゃねえんだ」

 

街を走りながらフリューゲルとキリトは文句を言っているとフリューゲルはキリトに言った。

 

「キリト、この先まで走るぞ」

 

「どうするんだ?このままだとアイツも追ってくるぞ」

 

「なに、問題ない。そこを右だ」

 

そう言うと開けた道路に飛び出し、そこに【Rent a buggy and house】と書かれた場所があった。そこには傷の無い二台のバギーと金属馬がいた。

 

「これに乗る。キリト、お前は後衛を頼む」

 

「了解。シノンは?」

 

「後ろから金属馬を撃ってもらう」

 

「了解」

 

お姫様抱っこで抱えられているシノンをヘカートⅡとMP7を持って走っていたことに彼女は驚いていた。

背中のコンテナの影響で速度は落ちているはずなのに、走れること自体だ奇跡だと言えた。

 

「さ、行くぞ。もうすぐそばまで来ている」

 

そう言うとフリューゲルはバギーにシノンを乗せるとキリトが後ろからバギーを走らせ、フリューゲル達を追いかけた。

痺れが薄れて、スタン弾を引っこ抜いたシノンはヘカートを持った。

 

「それで、あの金属馬を撃ってくれ」

 

「わ、分かったわ・・・」

 

シノンはヘカートを持ち、照準を合わせる。キリトと違い、動かない的を射抜くのは簡単だ。

そのまま引き金を引いて・・・

 

ガチッ

 

「・・・え?なんで・・・?」

 

引き金に力が入らなかった。安全装置は常に外している。今すぐにでも撃てるはずなのだ。しかし、引き金に力が入らなかったのだ。

するとフリューゲルに弾道予測線が当たる。

 

「っ!シノン、捕まってろ!」

 

「う、うん・・・」

 

シノンがフリューゲルの体に捕まるとフリューゲルは腰からイングラムM10を片手に持って後ろに放っていた。

 

ダダダダダダダダッ!

 

イングラムM10の弾は何発か死銃と金属馬に当たるが、大した効果にはならず、照準をずらし、足を遅らせることくらいしかならなかった。

 

「(やはりヘカートで撃った方が確実だ。だが・・・)」

 

フリューゲルはさっきのシノンの怯えている様子を思い出すも、やはり撃ってもらわないと状況の打開は無理だった。

シノンは少し足の遅くなった金属馬を見てホッとしていた。



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# 31 本心

シノンはフリューゲルの運転するバギーの後ろで近づいてくる金属馬とそれに乗る亡霊に恐怖していた。

障害物が多く、曲がりながら走行するバギーと障害物を飛び越えてくる金属馬との距離はどんどん近くなる。

 

「逃げて、もっと・・・もっと、速く!!」

 

しかし私の願いも空しく、死銃の騎馬は近づいてくる。

彼我の距離が百mを切った辺りで、死銃は片手をぼろマントの中に突っ込んだ。

ピトッと私の右頬に赤い弾道予測線が当たる。その先の死銃の手にはあの銃があった。

 

「いや、嫌ぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

反射的に頭を下げると放たれた銃弾はキリトが光剣で防いでいた。

 

「大丈夫だ。弾丸はキリトが守る。君はヘカートで狙撃をすればいい!」

 

「で、でもっ!」

 

バギーが段差で少しバウンドするたび、死銃の影は大きくなり、その都度恐怖感を煽っていた。

 

「対物ライフルだ。牽制だけでも十分な効果が出る」

 

「無理・・・あいつは・・・あいつは・・・」

 

シノンの子供のように嫌がる光景にフリューゲルはアバターの中身を見た気がした。

冷徹な皮を被ったシノンとその中にいる怯えている少女。

フリューゲルは仕方がないとシノンに向かって言った。

 

「シノン、私が撃つ。ヘカートを貸すんだ」

 

「え・・・」

 

その時、私の中に残ったプライドが奮い立ち、指を引き金に置き、銃口を死銃に向ける。

 

 

―――動け・・・動け・・・動いて!

 

 

しかし私の指は意志に反して全く動こうとはしない。

 

「駄目、撃てない――。撃てない、私、戦えないよ・・・」

 

弱気になっている自分にフリューゲルは語りかけた。

 

「人は戦うか戦わないかは選択をする。戦わない人間はいないのだよ」

 

選択

 

シノンはその言葉に一瞬だけ揺れた。

自分がこのゲームを始めたのは己の弱さを克服する為。だが実際は克服なんかできておらず、ただ己の弱さを有耶無耶にしただけで結局は克服なんかできていなかったのだ。

重い引き金に手をかけることができない時、穴あきグローブに温かい炎を感じた。

機械仕掛けの黒と赤の手が熱を持って私の手に重ねていたのが理解できた。

 

「君が一人で撃てないなら私も撃つ」

 

いつも通りの落ち着いた声には少しばかりの焦りがあった。だが、なぜか私は安心していた。

そして、似たような感覚を味わっていた。

あの、郵便局事件の時にあの銃を抜き取って行った、あの時の手と・・・

 

「駄目!揺れが酷すぎる」

 

「問題ない。揺れは治まる。三・・・二・・・一・・・今!」

 

ゴンッ!

 

バギーは車を台座にして宙を飛んでいた。

シノンは全身全霊を込めて軽めに調節されたトリガースプリングを全身全霊を懸けて引ききる。

着弾予想円は半分も入っていない為おそらく当たらないだろう。

 

ドォン!

 

放たれた弾丸は真っ直ぐ飛んで行く。

しかし、弾丸は騎馬の死神を僅かに逸らして未美に逸れてゆく。

 

外した。

 

しかし、弾丸が完全なミスショットを拒否したのだろうか。12.7mmの対物弾は横転する大型トラックの燃料タンクに着弾、引火して大爆発を起こした。

爆炎に金属馬も巻き込まれ、ボロマントの姿は見えなくなっていた。

バギーは大きくバウンドしながら着地をした。

 

「・・・倒した?」

 

「いや、まだ生きているだろう。さっさとここを出るぞ。あの爆発で近づいてくる奴がいるかもしれん」

 

そう言うと二台のバギーは廃墟都市を走り抜けて北部の砂漠地帯に走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北部にある洞窟に向かって走った三人はバギーを乗り捨てると洞窟に入って三人は腰をかけていた。

 

「はぁ・・・ツッかれた・・・」

 

「だらしないぞ」

 

へたり込んでいるキリトに治療キットを渡したフリューゲルはシノンの横に座り込み、同じように治療キットを使用して回復をしていた。

時刻は午後九時十五分、サテライト・スキャンが行われる時間である。

残り人数は八人ほど、主なプレイヤーはここにいる三人と《ステルベン》、そして《闇風》だ。闇風は離れた草原地帯におり、ステルベンは見当たらなかった。

一通り確認を終えたフリューゲルは立ち上がって洞窟を出ようとした。

 

「どこに行くの?」

 

「奴との決着を付けに行く」

 

「え・・・あの男・・・死銃と戦うの・・・?」

 

「そうだ」

 

フリューゲルは短く答えると洞窟を後にしようとした。しかし、シノンがフリューゲルに話し続けてきた。

 

「このまま残らないの・・・?」

 

「今見えている中で残っている中で闇風は強いプレイヤーだ。死銃のトリックがはっきりしていない今、死銃が闇風を殺す可能性がある。それを止めに行くためだ」

 

「だったら私も連れて行って」

 

「ダメだ」

 

「!?」

 

シノンは一気に体温が下がった気がした。今まで組んでいた時もこんなにあっさりと切られたことは無かったのに・・・。

すると途端の怒りの感情が湧いた気がした。するとフリューゲルは更にそこに油を追加した。

 

「今言ってもキミはむざむざと殺されるだけだ。キミの命が失われる可能性がある」

 

「・・・死んでも構わない」

 

シノンが静かな口調で言うとキリトは驚き、フリューゲルは目を細めた。

 

「私、さっき凄く怖かった。死ぬのが恐ろしかった。六年前の私よりも弱くなって情けなく悲鳴を上げて・・・、そんな私のまま生き続けるくらいなら、死んだ方がいい」

 

「死ぬのが怖いのは当たり前だ。死ぬのが怖くない奴などいない」

 

「嫌なの、怖いのは。もう怯えて生きるのは・・・疲れた。別に付き合ってくれとは言わない、一人でも戦えるから」

 

シノンはへカートを持って立ち上がって洞窟を出ようとした。しかし、フリューゲルがシノンの腕を掴んで動けなくしていた。

 

「一人で戦って、一人で死ぬ・・・とでも言うつもりか?」

 

「・・・そう。たぶん、それが私の運命だったんだ・・・」

 

そう言ってフリューゲルの手を振り払おうとした瞬間。

 

 

バチィン!!

 

 

乾いた音が洞窟内に響いた。フリューゲルがシノンに思い切り平手打ちをしていた。

女性には今まで一切手を出さ無かったフリューゲルがだ。キリトはそのことに衝撃を受けてフリューゲルを見ると、彼はシノンの胸ぐらを掴んで今までに無いほど怒気を含んだ声でシノンを叱っていた。

 

「・・・馬鹿タレが!人が死ぬ時はな!他の誰かにいるそいつも死ぬんだ!人が一人で死ぬ?馬鹿なこと言うんじゃねえ!人が一人で生きていけねえのと同じように、人が一人で死ぬこともねえんだよ!!シノン、お前は孤独じゃなねえ。少なくとも俺がいる。お前が死んだら俺の中のシノンも死ぬんだよ!」

 

「っ!別に頼んだわけじゃない!私は・・・私を誰かに預けたことはない!」

 

「もう、こうして関わっている!これは壊しようがない!今までの関係を無かったことにはできないんだ!!」

 

「ーーなら、あなたが私を一生守ってよ!!」

 

シノンは目に涙をこぼしながらフリューゲルの掴む手を離すと両拳を握ってフリューゲルの体を力任せに殴る。

 

何度も・・・何度も・・・

 

「何も知らないくせにっ!何もできないくせにっ、勝手なこと言わないで!!これは・・・、これは!私の、私だけの戦いなの!たとえ負けて、死んだとしても、誰にも私を責める権利なんてない!それとも、貴方が、貴方が背負ってくれるの!?このっ――」

 

シノンは右手を震えながら持ち上げる。罪を着せてしまった過去、人を撃ってしまったという変わらぬ事実を残した汚れた手。

 

「この・・・、ひ、人殺しの手を、貴方が握ってくれるの!?」

 

シノンは過去の記憶が鮮明に、詳細に蘇ってきた。

 

郵便局で、強盗犯から奪った銃を一発、強盗に向けて放った。

 

その銃を慌てて抜き取った一人の青年。

 

その金属のように鋭利な顎に、すこし灰がかった髪色に金属的な目。

 

そしてその青年は何かに気づき、持っていった黒星・五四式を強盗に向けて四発放つ、甲高い音と共に強盗はうめき声をあげ、ついにはピクリとも動かなくなってしまった。

 

そして青年は銃のスライドを引いて分解すると完全に静まり返った郵便局の中を私の体を引っ張って母のところに連れて行くと青年は母にこう言っていた。

 

「娘さんは無事です。お母さんはこの子をよろしくお願いします」

 

そう言うと青年は今度私の方を向いて

 

「君、良くやった。あとはこっちでなんとかするから。君はお母さんを守ってあげなさい。家族を守れるのは同じ家族しか居ないのだから・・・」

 

そう言うと青年は駆け付けた警官に何かを話すとそのままパトカーに乗ってどこかに行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前も聞けずに、風のように消えてしまったあの人は警官に名前を聞かれた時にこう答えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君、名前は?』

 

『〇〇中学の赤羽修也です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮮明に思い出したその記憶にシノンは更に涙をこぼしていた。初めて見るシノンの反応に、フリューゲルは彼女の手を優しく握った。

 

「っ!?」

 

「今の君の涙でわかったよ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら君は私と似た存在らしい」

 

フリューゲルはシノンの手を取って優しく、そして穏やかに口を開いた。

 

「君が望むなら、私は命果てるまで君を守ろう。なに、そんな顔をするな・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命に変えても守ってやる・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンはその一言で一気に力が抜け、フリューゲルの胸に倒れ込み、フリューゲルは驚きつつも右手を優しく彼女の頭に当てて撫でていた。

 

 

 

洞窟に一人の少女の泣き声が響いていた・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・泣いてスッキリしたか?」

 

「少し、寄りかからせて」

 

あれから少したち、シノンは洞窟内でフリューゲルの膝に頭を乗せていた、痛くないかと聞いても大丈夫と答えるだけでこの状態が数分続いていた。

するとシノンは徐々に言葉を紡いていった。

 

「私ね・・・、人を、殺したことがあるの。ゲームの中じゃないよ。・・・現実世界で、本当に、この手で人を殺したんだ。六年前、東北の小さな街で起きた、郵便局の強盗事件。犯人は拳銃の暴発で死んだって報道されたけど、実際はそうじゃないの。私が、強盗の銃を奪って、そのまま撃った」

 

「・・・」

 

「十歳の時だった。・・・もしかしたら子供だからできたのかもね。私、それからずっと、銃のこと考えたりすると吐いたり倒れたりしちゃってた。銃を見ると、目の前に殺したときのあの男の顔が浮かんできて、怖い。凄く、怖い」

 

「だけど、その時。私が撃った時にその銃を取って代わりに撃ってくれた人がいたの。・・・その人が撃った時の方が印象が強かったんだろうね。他の人もみんなそっちの人の方しか覚えていなかった・・・」

 

「私はその人に罪を被せてしまった・・・・」

 

シノンは後悔の念で一杯となった感情で言葉を紡いでいた。

 

「あの後、私はその人を探そうとしたけど会うことも出来ずにいたの・・・。あの時その人が罪を着てくれたから・・・。今の私がいるんだって・・・」

 

「それに、この世界なら銃を見ても大丈夫だった。だから思ったの、この世界で一番強くなれたら、現実の私も強くなれるって。あの記憶を忘れることができるって。なのに、さっき死銃に襲われたとき凄く怖くて、いつの間にかシノンじゃなくなって、現実の私に戻ってた。・・・死ぬのはそりゃ怖いよ、だけど、だけどね、それと同じくらい、怯えたまま生きるのも辛いんだ。死銃から、あの記憶から戦わずに逃げたら、今よりももっと弱くなっちゃう。だから、だからっ・・・」

 

すると今まで口を閉じていたフリューゲルは呟いた。

 

「私も、昔人を殺したことがある」

 

「っ!いいのか・・・?」

 

「もう良いさ。彼女は俺たちがSAO生還者って事を知っている。今更さ」

 

そう言うとフリューゲルは淡々とあの出来事を話し始めた。

 

「SAOの世界で、彼らはラフィン・コフィンという殺人者集団を名乗って殺戮を繰り返していた。そこで討伐チームが組まれ、そこに私とキリトは参加していた」

 

「ああ、それでその時。フリューゲル・・・その時はブレイドと名乗っていた彼は情報が漏れていると確信して普段とは違う方法で奇襲をかけた。そしてその予想は的中し、ラフィン・コフィンのアジトを奇襲することができたんだ・・・だが・・・」

 

「戦場は混戦となり、生きるか死ぬかの二択しか無かった。ーーーそこで私は十二人を殺めた」

 

「じゃ、じゃあさっきの死銃って・・・」

 

「ああ、恐らくラフィン・コフィンの残党だろう・・・生き残って牢屋に送り込まれた者や、逃げ延びた奴もいる。だが、あいつの名前が思い出せない・・・確かに会ったはずなのに・・・・」

 

「『赤目のザザ』・・・それが彼の名前だ。あの時倒しておけばこうならなかったかもな」

 

「凄いな・・・いつもお前には驚かされてばかりだ」

 

それを忘れてしまったらあの戦いの意味までも無くしてしまう・・・忘れられる訳がなかった。

 

「フリューゲル、教えて。貴方は、貴方はその記憶を、『罪』をどうやって乗り越えたの?どうやって過去に打ち勝ったの?どうして今、そんなに『強く』いられるの?」

 

「私はそこまで強くないさ。むしろ君のほうが強いと思うぞ」

 

「そんなはずない!じゃあ、なんでそんな事を人に話せるのよ」

 

シノンの苛立ちに少しばかりしまったような表情をフリューゲルは浮かべるとキリトを外に追い出した。

 

「キリト。すまないが外を見ていてくれ。彼女と話がしたい」

 

「・・・分かった」

 

そう言ってキリトが見えなくなるとフリューゲルはゆっくりと昔話をし始めた。



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#32 残酷

シノンを膝に乗せながらフリューゲルは昔話をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何年になるか・・・十二歳の時の冬、私がアメリカで暮らしていた時の話だ。

 

 

 

 

 

そもそも私は幼い頃からアメリカで生活する事を強要され、親と離れ離れに暮らしていた。

父は国会議員、母はモデルをしていて、たまに会っていた親族達も誰もが優秀な人たちばかりだった。

私はその中で優秀な遺伝子を持っていると言われ、記憶のあるうちから英才教育を叩き込まれた。

そして教養を広げるために五歳の時からアメリカに行って生活をしていた。

その親戚に雇われたベビーシッターとアメリカで借りた家で何年も暮らしていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその十二歳の時の冬の真夜中。家で課題をしていた時に家の玄関が壊されて中に二人組の見知らぬ男が入ってきた。

いきなりの事にシッターの人が驚愕している隙に、男の一人が持っていた銃でそのシッターの頭を撃ち抜いた。

そしてその後も死んでいるはずのシッターに銃を撃ちまくって部屋中に血と肉片が飛び散っていた。

それを見て男達は笑っていたんだ。

あまりの恐怖に気が動転していたのだろう。

私は暖炉に置いてあった薪割り用の斧を持ってそのうちの一人に襲い掛かったんだ。相手は銃を持っていたけどシッターに撃ち過ぎたみたいで弾がなかったんだ。

引き金を引いても弾が出ない事に本気で焦っていたけど、そんなことも気にせずに、私は斧を頭から思い切り振った。

その時、身長はすでに170あったから、大きく振りかぶると簡単に男の頭に斧が突き刺さった。骨が折れる音、斧の刃が木ではない初めての感触の物を切っていた事。斧を持っていた手から伝わるその感触は今でも覚えている。

そして一筋の血を流してその男は銃を手放して倒れてしまった。

残ったもう一人の男はいきなり仲間が死んだ事に動転して固まっていたんだ。

その隙に私は男を倒した斧を引っ張って抜くと血だらけの状態で斧を引きずっていた。

するとどうだ。意識が戻った男は斧を持つ自分を見て目を見開いて口をぱくぱくさせながら慌てて吹雪の中に消えていった。

人は極限状態になると落ち着くんだろう。私はその後家にあった電話で警察に電話して、その後駆け付けた警官が信じられないと言った様子で私を見ていたらしい。

どうも、死体が横に転がっているのに、平然とテレビを見ていたらしい。

正直、警察に通報した後のことは覚えていないからこれは他の人から聞いた話だ。

それで、その後話を聞きつけた両親がアメリカに飛んできて自分を迎えに来て自分は日本に帰国する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、日本に帰った後。親戚からなんて言われたと思う?」

 

「え・・・大丈夫だったとか・・・?」

 

「そんな甘い物じゃないさ。親戚中の集まりで、いろんな人が見ている中でこう言われたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『この人殺しの悪魔め!なんで日本に帰って来た!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ってね」

 

「え・・・!?」

 

シノンは絶句してしまった。ただでさえ、人を殺したことで傷心しているはずなのに・・・なのにそんな言い方をするとは・・・。シノンはその名も知らぬ親戚に無性に腹が立ってしまった。

フリューゲルは哀しい表情でその後の顛末を語った。

 

「それで、それを言った親戚は気づいた時には自分がその親戚に馬乗りになって、相手の顔面が崩壊してボロボロの状態だった」

 

「え?なんで・・・?」

 

「腹が立ったみたいで足を蹴り飛ばして転ばせた後に馬乗りになって永遠と殴り続けていたらしい。相手が謝っても、泣いても、そんなの気にせずにただひたすらに永遠と殴っていたと父から聞いている」

 

「それで・・・その人は・・・どうなったの?」

 

「複数の顔面の骨折に、両膝の脱臼。歯も何本も折れ、社会復帰が危ういレベルだった」

 

フリューゲルから語られる過去はシノンは自分よりも酷いのでは?と思ってしまった。

自分とほぼ同じ年で人を殺して、それでいて心を痛めているのにも関わらず罵倒を浴びせられ・・・むしろよくそこで精神が壊れなかったと思うほどだった。自分は修也さんが罪を背負ってくれたからあの後も普通に学校に通うことができたし、普通に生活することも出来た。

しかし、フリューゲルはどうだろう。幼い頃に両親と離れ離れにされ、向こうで自分を守るために人を殺したら親戚中から罵倒を浴びせられ・・・

それでまたあの世界で人を殺して来た。それでいてフリューゲルはこうして人を恐れずに話すことができている。シノンはフリューゲルがとても強いと思っていた。

 

「シノン、人は誰しも暗い部分を抱えながら生きている。それが大きかれ、小さかれな・・・」

 

「ねえ、フリューゲル。貴方は、貴方はその記憶を『罪』をどうやって乗り超えたの?どうやって過去に打ち勝ったの?どうして、そんなに強く居られるの?」

 

シノンが思わずフリューゲルにそう聞く。フリューゲルはシノンの問いに手を優しくシノンの髪に乗せながら答えた。

 

「なに、乗り越えたわけじゃないし、過去に打ち勝ったわけでもない」

 

「え?」

 

「過去に起こった記憶は忘れることはできない。それに、必ず何処かでその記憶は生き続けている」

 

「そ・・・そんな・・・じゃあ・・・ど、どうすればいいの・・・。わ、私・・・」

 

「だが、それは正しいことでもある。今を生きている自分達ができる事はその過去を乗り越えるのでは無く、受け止めて考え続けることしか出来ない」

 

「受け止め、考える・・・」

 

シノンはフリューゲルの言葉で迷いが一つだけ、解けた様な気がした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を終えたフリューゲルはキリトを呼び寄せた。

 

「さて、二人にはある仮説を聞いてほしい」

 

「仮説?」

 

「ああ、死銃がどうやって現実世界で殺しているかだ」

 

「・・・聞かせてくれ」

 

キリトは思わず息を呑みながらフリューゲルの推測を聞いた。

 

「まず前提として、アミュスフィアを使ってログインをした場合はこの世界で人を殺すことはできない」

 

「ああ、絶対安全を謳っているからな」

 

「ならば、現実世界で殺されたと考えるべきだ。今までに殺された二人のアミュスフィアは改造をされた形跡もなかったしな」

 

そう言うとフリューゲルはキリト達に仮説を伝えた。

 

「私は、この死銃が複数人による犯行だと考えている」

 

「複数人・・・?」

 

「ああ、この世界で黒星を使ってプレイヤーを撃つ人、もう一人は現実世界で人を殺す人だ」

 

「だとしたらタイミングは・・・」

 

「死銃はペイルライダーやシノンの前で十字架を切っていただろう?」

 

「ああ!!そう言う事か!!」

 

「でも、相手のプレイヤーの個人情報はどうやって手に入れたの?」

 

「BoBのログインの時に住所を打ち込む場面がある。恐らくアイツの使う透明マントを使ったのだろう」

 

そう言うとフリューゲルも住所を打ったと言い、キリトが少し心配そうにしていた。フリューゲルはさらに仮説を立てて話していた。

 

「殺された《ゼクシード》と《薄塩たらこ》はどちらも一人暮らしだ。おまけにマンションの鍵はどちらもログの残らない旧型の電子錠。どこかでマスターキーさえ手に入れれば侵入は簡単だ。後はBoBの映像で死銃の合図と同時に体に毒を入れる。二人いれば簡単にできる」

 

そう言うとシノンが恐る恐るフリューゲルに聞いた。

 

「そこまで、そこまでしてなんで人を殺すの・・・?」

 

「彼らはSAOを終えた後でも《レッドプレイヤー》であり続けたかったのだろう。少なくともこんな事を起こしたい位には・・・」

 

そこでフリューゲルはふと疑問が浮かんだ。

 

「シノン。君は一人暮らしか?」

 

「え?えぇ・・・一人暮らしだけど・・・」

 

「家の鍵は初期型か?」

 

「分からない。けど、もしかすると初期型かも・・・」

 

「チェーンは?」

 

「して・・・居ないかも・・・」

 

「・・・シノン、落ち着いて聞け。もしかすると君がさっき狙われたと言うことは死銃は既に殺す準備ができていると言う事だ。もしかすると既にいつでも君を殺せる準備ができているかもしれない」

 

フリューゲルの言葉に全身の血の気が引いた。

 

「いや・・・嫌よ!そんなの」

 

シノンの体が拒否反応を起こし、瞳孔が開き、不意に喉の奥が塞がるような感覚と共に呼吸ができなくなり、心拍数がどんどん上昇していった。そして自動ログアウトが働きそうになったその時。フリューゲルが彼女の体を抱きしめていた。

 

「落ち着け、相手に黒星で撃たれない限り。君は死ぬことは無い。それよりも自動ログアウトして犯人の顔を見た方が君は危ない。落ち着いて深呼吸だ。息を大きく吸って吐くんだ」

 

「でも!でも!」

 

「狙撃の時と同じだ。相手を着弾予想円に入れる時の様に深呼吸をするんだ。息を吸って、止めて、ゆっくりと吐く。そうすれば体が落ち着いてくる」

 

フリューゲルの金属でできた体で少し強めに抱かれた時の痛みと、深呼吸でシノンはだんだんと落ち着きを取り戻していた。

女性に対する扱いが上手なフリューゲルだなぁ・・・どっかの誰かとは大違いだ。と感心しながら俺はフリューゲルとシノンを見ていた。

実際、ツンツンしていたシノンがここまで信頼を寄せているとは・・・。

そんな事を思いながら見ているとシノンはやがて大きく息を吸ってフリューゲルに聞いた。

 

「・・・私はどうすれば良いの?」

 

「簡単な話だ。死銃を倒せば良い。死銃を倒せば共犯者も何もできなくなって退散するだろう」

 

「シノンはここにいた方が良い」

 

シノンの安全のためにもキリトがそう言うもシノンは反対した。

 

「私も戦うわ。ここがいつまでも安全ってわけじゃ無いし。私達がここに潜伏していることくらい既にバレてるわ。それにあなた達とはここまで戦ったんだもの。最後までやるわよ」

 

「相手は狙撃銃を持っているんだぞ?」

 

「所詮あんなの旧式のシングルアクションよ」

 

そう言うとフリューゲはシノンが参加することを確認すると作戦を話した。

 

「これから二人で外に出てサテライト・スキャンを待つ。恐らく死銃は名前に気づいてここにくるはずだ。その時に狙撃を頼むぞ」

 

「大丈夫なのか?相手は音も聞こえないし、予測線も見えない・・・」

 

「問題ない、予測線が出てから避けることくらいはできる」

 

フリューゲルはそう言って口角を上げている様にも見えると思っているとキリトが視界の端に映る何かを見た。

 

「何だ?あの水色の丸?」

 

「・・・しまったな」

 

「キリト、それは中継カメラよ。人数が減ってきたからこんな所にまで来ていたのね」

 

「え!?じゃあさっきの会話も・・・」

 

「相当大きな声で喋らなければ問題ない・・・それよりも女子二人と話しているから後から色々と面倒なことになるな・・・」

 

キリトもアバターを見てため息を吐くとフリューゲルは銃を持って洞窟の出口に向かう。

 

「じゃあ、こっちは行ってくる。後ろから援護を頼むぞ」

 

「ええ、気を付けて・・・」

 

シノンは洞窟から出ていく二人を見て行った。二人は片手を上げて問題ないと答えて行った。



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#33 作戦立案

洞窟から出た二人は少し離れた所に向かうとサテライト・スキャンを待った。

 

午後九時四五分、サテライト・スキャンを確認した二人は名前を見ていた。

今確認できる名前はここにいる二人と何人かのプレイヤー。しかし、廃墟都市にいたプレイヤーは相打ちだろう、一気に二人とも消えてしまった。

 

「相打ちか・・・」

 

今マップに映っていないのはシノンとステルベンだけだ。確実にステルベンが死銃だろう。そしてそれ以外に残っているのが・・・

 

「『闇風』か・・・」

 

なかなか面倒な相手が残った。と思いながらフリューゲルは何も写さなくなった端末をしまうと洞窟に戻った。

 

「どうだった?」

 

洞窟に戻るとシノンが早速状況を聞いてきた。

 

「残っているのはここにいる三人と死銃、そして『闇風』だ」

 

「また面倒なのが残ったわね・・・」

 

シノンとフリューゲルが頭を抱えていると何も知らないキリトが聞いてきた。

 

「その闇風ってどう言うプレイヤーなんだ?」

 

「ようはALOの私だ、AGIを極めた高速プレイヤーだ」

 

「げっ、それは面倒だな・・・」

 

フリューゲルの簡単な説明にキリトは思わず声に出てしまった。

 

「ねえ、《死銃》の現実世界の共犯者は私の家にいるんでしょ?だとしたら闇風が死ぬ可能性はないんだから、この際囮になってもらえば?貴方達が自分を危険に晒さなくてもいいじゃない」

 

「もし、死銃の狙いが『闇風』だったらどうする」

 

「あっ・・・そっか・・・」

 

フリューゲルの答えにシノンは思わず言葉に詰まってしまうとフリューゲルは作戦を伝えた。

 

「計画を話す。キリト、君は西から来る『闇風』を迎え撃て」

 

「俺が?」

 

「前例にないプレイヤーは動揺を生む。対策もしにくいだろうから適任だ」

 

「了解だ」

 

「シノンは私の後衛。恐らくは接近戦になる。正確な射撃を頼む」

 

「分かった」

 

シノンも同じように頷くとフリューゲルは背中に背負っていたコンテナの接合部に手をかけると金属の音と共にコンテナが下に滑り落ちた。

 

「最終局面だ。派手に行こうじゃ無いか」

 

そう言って落としたコンテナの蓋を開けた。そこには大量にベルトリンクされた弾薬と何種類かの箱型弾倉が入っていた。その中身に思わずキリトが声に出てしまった。

 

「何これぇ・・・」

 

「君たちが見たがっていたコンテナの中身だ。移動速度が若干落ちる代わりに大量の予備火器、弾薬を持ち運べる」

 

そう言うとコンテナから何かパーツを取り出すとそれをパンマガジンを外したRPー46に装着し、コンテナからベルトリンクした弾薬の束を入れてレバーを引いていた。

 

「これでこっちの準備は終わった。キリト!」

 

「ん?」

 

「これを使え」

 

そう言ってフリューゲルはキリトに光剣を投げた。光剣を受け取ったキリトは満足げに光剣を触っていた。最初期に買ったが完全にお蔵入りしていた物を持ってきたのだ。擬似的に二刀流となったキリトとヘカートを持つシノンにフリューゲルはストレージからアンツィオ20mm対物ライフルを渡した。

 

「これって・・・」

 

「私の使う狙撃銃だ。弾薬はコンテナにある」

 

「良いの?」

 

「問題ない。ただ,反動が大きいところだけは注意しろ」

 

「・・・了解」

 

シノンはフリューゲルから受け取ったアンツィオ20mm対物ライフルを背に持つとコンテナから弾倉を二個ほど取り出した。

自分の二倍近くある大きさの狙撃銃はSTRを高めている自分でもなかなか重く感じた。

これでさっきの狙撃が出来たのかと思うと納得だった。

 

「じゃあ、移動するぞ」

 

そう言うとフリューゲルはコンテナを背中にくっつけて洞窟を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟を飛び出した三人はそれぞれ別の方向に向かった。キリトは西側に、シノンは南側に、自分は真っ直ぐ砂丘を登っていた。

 

「(北側にはバギーを止めて射線を切った。西からくる闇風はキリトが抑えた。南側は岩山で登るにしても時間がかかる。だとすれば東側だな・・・)」

 

赤いモノアイを灯らせながらフリューゲルはシノンへとバトンを繋ぐ為に意識を集中させた。

 

風の吹く音

 

砂が巻き上がる音

 

急激に体温が下がる感覚となり、意識に周りの情報が()()()

 

「・・・」ザザーッ!パシュッ!

 

咄嗟に砂丘から駆け下がり、頭のあった場所に弾丸が走る。相手も砂丘から狙えないのか走ってくる感覚を感じた。

そしてフリューゲルの額に予測線が当たった。その時、予測線がスッと消えていた。

 

「(よくやった、シノン)」

 

それがシノンの狙撃によるものだと確信した。これで最低でも相手のL115の破壊には成功した。

ザザはSAOの時は刺剣使いであった事を思い出し、接近戦に備えてヒートホークをすぐ引けるように構えた。

 

「流石はSAO帰還者、腕が鳴るようだな」

 

「《赤い雷鳴》、絶対、殺す」

 

「出来るならやってみるが良い」

 

フリューゲルの挑発にザザは表情ひとつ変えずに刺剣を持つ。

 

「あの時、毒ピックではなく剣を刺すべきだったな」

 

「くくく、今更、後悔しても、遅い。あの女を、殺す!」

 

「その前に私を倒して見せろ」

 

フリューゲルはザザの刺剣を注視しながら銃を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂漠の一角では二人の戦闘が行われていた。

 

「なかなかな腕だな・・・ありゃブレイドより早いんじゃないか・・・?」

 

残骸の影でそう呟くのはキリトだった。現在彼は闇風とタイマンをしており、相手の速度が思ったより早い事に驚いていた。

下手をすればブレイドと同等かそれ以上の素早さかもしれない。

持っている銃の集団率が高く、二刀流でも完全に防ぐことができなかった。

 

「このままじゃジリ貧だな・・・」

 

こんな時、ブレイドだったらどうしたのだろうか。このまま隠れて時間を稼ぐか・・・。

 

『前例のないプレイヤーは動揺を生む』

 

ブレイドの言葉にキリトはある事が思い浮かんだ。

予想外の事をすれば相手は動揺を生み、対応に遅れが出る。ならば・・・

 

「覚悟を決めるか・・・」

 

死闘を繰り広げている親友を思いながキリトは光剣を持つと岩陰から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狙撃に成功したシノンはもどかしい気持ちになっていた。狙撃事態には成功したが、相手の高い回避能力でサイレント・アサシンを壊しただけに過ぎなかった。

現在、砂漠上でフリューゲルが死銃との死闘を繰り広げている中、何も出来ないシノンは頭を回転させているとふと前にフリューゲルとした会話が思い浮かんだ。

 

『スナイパーが全体を見通して作戦を考えるのはスコードロンも生き残る確率が高いという事だ』

 

フリューゲルと組んでいた時シノンがフリューゲルに聞いた何気ない話たっだ。

 

『常に落ち着いて全体を見通すと案外面白い発想が浮かんだりするぞ』

 

フリューゲルとの話を思い出したシノンは不意に呟いた。

 

「面白い・・・発想・・・」

 

そう呟いてシノンはフリューゲルから受け取った狙撃銃を見る。さっきの狙撃でスコープが破損してしまい、遠距離で撃つことは難しかった。しかし・・・

 

「(これなら・・・行けるかも・・・)」

 

シノンはアンツィオ20mm対物ライフルを持つと現在死闘が起こっている方向に照準を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、戦闘はジリ貧であった。元がラフコフの幹部であったために彼の刺剣能力は高く、近づけば攻撃を食らっていた。一応、アーマーで何割かダメージは抑えられているが、こっちは新規アカウントの影響で刺剣の攻撃を完全には避けきれなかった。

 

「流石は元ラフコフ幹部。伊達じゃないな・・・」

 

「随分と、腕が、鈍ったな、《赤い雷鳴》」

 

「愚か者が随分と言うものだ」

 

「何?」

 

「君らの犯行はこうだ。この世界で銃を撃つ時、既に目標の目の前にいる他の一人が毒を打つ。部屋に侵入するときはマスターキーを使って侵入する。そうだろう?」

 

「ククク、やはり、気づいて、いたか」

 

「子供の様な発想で笑ったな」

 

「・・・何だと?」

 

「そうだろう?自分がレッドプレイヤーでありたいが為に、ゲームの感覚を引きずって現実世界に持ってきてしまう。ゲームを辞められない子供の様な感覚だと言っているんだよ」

 

「・・・」

 

フリューゲルの一言で完全にキレた死銃は持っていた刺剣を持って一気に突撃をする。

咄嗟にRPー46で攻撃を防ぐも銃身が割れてしまい、使い物にならなくなってしまった。咄嗟にRPー46を捨ててヒートホークを取り出す。

 

「(残るはHK45とM10か・・・)」

 

ヒートホーク片手にM10を片手に持つと死銃に向けて銃を放つ。死銃は刺剣で何発かを避けるも残りは切られ、余りダメージは入らなかった。

弾倉を交換する事も出来ないので、M10を戻すと渋い顔をした。

 

「(このままではジリ貧だ・・・どうしたものか・・・)」

 

その時、死銃に赤い線が当たった。方向からして恐らくシノンだろう。死銃は狙撃銃に警戒して大きく後ろに飛ぶ。

これはシノンが経験と閃きから生んだ幻影の一弾(ファントム・バレット)

 

 

逃すわけにはいかない。

 

 

すかさずフリューゲルはヒートホークを持って死銃に急接近する。

今までに無いほど景色がゆっくり動き、光学迷彩で消えかけている中を左手にあるH&K HK45を二発放つ。

弾丸は二発あたり、勢いよくHPが減り、光学迷彩の効果が切れた。その事に驚く死銃にフリューゲルは右手のヒートホークで、斧を下から上に上げる。

 

ヒートホークが死銃の両腕を持って行った。

さらに減る体力にフリューゲルは畳み掛けた。上にあげたヒートホークをそのまま勢いを殺して上から振り下ろす。

 

 

脳天からヒートホークが突き刺さった。

 

 

不意に、あの時を思い出した。

家に来た強盗の頭を割ったあの時に・・・。

しかし、フリューゲルはヒートホークを下げる事を辞めず、そのまま一番下まで振り下ろした。

上から真っ二つにされた死銃は体力バーが完全になくなり、爆発を起こしたが斧を振り下ろした後に後ろに飛んだフリューゲルはほぼ無傷だった。

 

「終わったか・・・」

 

少なくともこの世界での戦闘の終わりを感じたフリューゲルはヒートホークを腰に引っかかるとそこに割れたスコープの付いたアンツィオ20mm対物ライフルとヘカートを持ったシノンが近付いてきた。

 

「やったのね」

 

「ああ、取り敢えずはな」

 

そう言うとシノンと赤目のザザを確認すると、そこには【Dead】の文字が浮かび、倒したことを確認したフリューゲルは一息ついた。

 

「ふぅ、取り敢えずキリト達の確認に行くか」

 

「そうね」

 

そう言ってお互いに砂丘を歩くとそこには二人の死体があった。一人はキリト、もう一人は闇風だった。闇風の胸にはキリトの光剣が、キリトは大量のダメージエフェクトがあった。

 

「相打ちか・・・」

 

「そう見たいね」

 

お互いに二人の死体を見るとため息を吐いた。

 

「はぁ、取り敢えずこっちでの仕事は終わったか・・・」

 

「そうね」

 

「まぁ、まだ気を抜かない方がいい。いくら死銃が倒されたとは言え、共犯者が逃げたのかどうか分からない。気を付けた方がいい」

 

「分かったわ」

 

フリューゲルの忠告にシノンは頷いた。フリューゲルの言葉は信用できるので、素直に聞き入れていた。

 

「でも、警察にはどうすればいいの?多分、信じてもらえないわよ」

 

「それはこっちでなんとかするが・・・住所とかをここで聞くのはな・・・」

 

「いいわ、教えてあげる」

 

「良いのか?」

 

「何か問題でも?じゃ無いと守ってもらいないし」

 

そう言うとシノンはフリューゲルに住所と本名を伝えた。

 

「私の名前は朝田詩乃。住所は東京都文京区湯島四丁目・・・」

 

「・・・了解。こっちもお茶の水にいる。すぐに行こう」

 

「え!?結構近くにいるのね」

 

「用事でな」

 

フリューゲルはそう言う内心、驚いていた。

 

「(これはたまげた。まさかシノンが詩乃さんとは・・・)」

 

フリューゲルは思わずシノンをじっと見ながらそう思っていると。シノンは忘れていたと言ってアンツィオ20m対物ライフルを返して来た。

 

 

そこにお土産をくくりつけて・・・

 

 

「お土産・・・グレネードか・・・」

 

「面白いと思うわよ?」

 

辺りが一瞬だけ、閃光に包まれると二人は大爆発に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合時間:二時間四分三七秒。

第三回バレット・オブ・バレッツ本大会バトルロイヤル、終了。

リザルトーー《Sinon》及び《Flugel》同時優勝。



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#34 再会

試合が終わり、ログアウトまでの待機スペースでシノンは成績を確認する。

一番上に自分とフリューゲルの名前。準優勝者はなく、三位にSterben。同率四位に闇風とキリトの名前があった。

刻一刻とログアウトの時間が迫る中。シノンは息を整えた。

御茶ノ水から自宅まで連絡諸々で十分はかかるだろう。それまでは自分の身を守る者はいない。

回線切断者はゼロ。フリューゲルが倒しまくったのだろう。キル数はフリューゲルがダントツトップだった。

まあ、元々が銃社会のアメリカで育ったのだから銃に慣れていると言えば当たり前なのだろうが・・・。

そんな事を思っているとついにカウントダウンがゼロとなり、一瞬の浮遊感が訪れ、シノンは詩乃となって現実世界の自室のベットに横たわっていた。

 

部屋に誰かいるかもしれない。

 

そんな恐怖を抱きながら恐る恐る目を開ける。

部屋には誰も居なかった。

風呂場も台所もクローゼットの中もベットの下も見当たる限りではどこにも居なかった。

数時間前にログインしたままの状態で変化は一切見られなかった。

 

「スゥ・・・はぁ・・・」

 

大きく息を吸った詩乃はさっきまでの警戒心がバカみたいだったと思いながら水道から水を汲んで飲んでいた。

 

「あ、名前聞くの忘れてた・・・」

 

咄嗟に詩乃はフリューゲルの名前を聞くのを忘れていた事に気付いたが、後で来るというのだからその時にまた聞けばいいと思っていた。

その時、

 

キンコーン

 

ドアチャイムを押す音が聞こえ、反射的に身体をビクリとさせてしまった。

玄関に向けてチェーンをかけようとした時、聞き慣れた声が聞こえた。

 

「朝田さん、いる?僕だよ、朝田さん!」

 

ドアに付いている魚眼レンズを覗くと、そこには元クラスメイトにして詩乃をGGOに誘った親友、新川恭二が立っていた。

 

「新川くん・・・?」

 

「あの・・・どうしても優勝のお祝いが言いたくて・・・。これ、コンビニので悪いけど、買ってきたんだ」

 

そう言いながら、恭二はケーキが入ってると思わしき小箱を掲げた。

待機空間での待ち時間を含めてまだ大会が終わってから五分も経っていないのにも関わらず、こんなに早く自分の家に来ている事に詩乃は一瞬違和感を感じたが、すぐに近所の公園辺りで中継を観ていて決着と同時にコンビニ経由で来たんだろうと納得した。

 

「ちょっと待って、今開けるね」

 

ドアチェーンと電子ロックを解除してドアを開けると、冷たい外気が詩乃の素足にまとわりついてきた。十二月の、しかも夜なのだからこんなに冷え込むのも当たり前といえば当たり前であった。

 

「うわ、すごく寒いね。早く入って」

 

「う、うん。お邪魔します」

 

恭二は礼儀正しく頭を下げながら部屋の中に入ると、詩乃を見て眩しそうに目を細めた。

 

「・・・な、なによ。部屋が寒くなっちゃうから、早く入って。あ、鍵もかけてね」

 

恭二の視線に気恥ずかしさを覚えた詩乃は、照れ隠しにそう捲し立てると振り向いて部屋に戻り暖房のスイッチを入れた。唸る様な音と共に温かい空気が部屋に吐き出され、部屋に溜まった寒気を追い払っていった。

 

「どこでも、その辺に座って。何か飲む?」

 

「う、ううん、お構いなく」

 

「いいの?私、今すごく疲れちゃってるからホントに何もしないよ?」

 

詩乃がそう言いながら勢いよくベッドに腰掛けると、恭二はケーキをテーブルの上に置いて、傍らにあるクッションに腰を下ろした。

 

「あの・・・優勝、本当におめでとう。凄いよ朝田さん。とうとうGGO最強のガンナーになっちゃったね。・・・でも、僕にはわかってたよ。朝田さんなら、いつかそうなるって。朝田さんには、誰も持ってない本当の強さがあるんだから」

 

「ありがと。でも、優勝って言っても一位タイだし・・・」

 

それにしても、うちに来るの随分早かったね。終わってから、まだ五分も経ってなかったのに・・・」

 

「あ、その・・・実は、近くまで来て携帯で中継を観てたんだ。すぐにおめでとうを言いたかったから」

 

「やっぱりそうだったんだ。やっぱりお茶淹れた方がよかったかな?」

 

「ううん、大丈夫だよ。これでも結構厚着だから」

 

そこまで言うと、恭二は今まで浮かべていた笑みを消して、かわりに切羽詰まった様な表情を浮かべた。その表情の変化に、詩乃は思わず瞬きをしてしまった。

 

「あの・・・朝田さん」

 

「な、何?」

 

「中継で・・・砂漠の、洞窟の中が映ってたんだけど・・・・・」

 

恭二の言葉を聞いた瞬間、詩乃は彼が言わんとしている事を察してしまった。命が懸かっていた緊急事態だったとはいえ、異性であるフリューゲルに抱きついていたのだ。側から見たら特別な関係と思われても仕方がない事であった。

 

「あ・・・それは、その・・・」

 

詩乃は親友である恭二になんと説明すればいいのかという思考と、抱きついた所を見られたという気恥ずかしさとで俯いてしまった。

その時、恭二の口から彼女の予想だにしていなかった言葉が紡ぎ出された。

 

「あれは・・・あいつに脅されたんだよね?何か弱みを握られて、仕方なくあんな事してたんだよね?」

 

「は、はぁ?」

 

詩乃は唖然としながら顔を上げ・・・恭二の姿を見て驚いた。

彼の目には先程まではなかった奇妙な光が浮かんでおり、唇は不規則に震え、声は微かに掠れていたのだ。

恭二は驚いている詩乃のことは気にせずに、そのまま質問を続けた。

 

「脅迫されて、あいつの戦ってる相手を狙撃までさせられて・・・。でも、最後にはあいつを油断させて、グレネードに巻き込んで倒したんだよね?だけど・・・それだけじゃ足りないよ、朝田さん。前にも言ったけど・・・もっと、ちゃんと思い知らせてやらないと・・・」

 

詩乃は恭二のあまりに的外れな発言に絶句していたが、どうやって説明するべきか必死に言葉を探した。

 

「あのね・・・脅迫とかそういうんじゃないの。大会中にあんな事してたのは不謹慎だと思うけど・・・私、ダイブ中に例の発作が起きそうになって・・・。それで取り乱してフリューゲル・・・あいつに当たっちゃってさ。いろいろ酷いこと言ったのは私の方なの」

 

「朝田さん・・・でも・・・それは、発作で仕方なくなんだよね?あいつのこと・・・別になんとも思ってないんだよね?」

 

「え・・・?」

 

詩乃は恭二の言葉にすぐには答えられなかった。詩乃自身、彼に対して今まで抱いてなかった感情が芽生えている様な感じがしていたのだ。

そんな詩乃の心の葛藤を知らない恭二は、膝立ちになって彼女の方に身を乗り出しながらさらに言葉を続けた。

 

「朝田さん、僕に言ったよね。待ってて、って。待ってれば、いつか僕のものになってくれるって。だから・・・だから僕・・・」

 

「新川くん・・・?」

 

「言ってよ。あいつの事はなんでもないって。嫌いだって」

 

「ど・・・どうしたのよ急に・・・」

 

確かに詩乃は大会前に、近所の公園で恭二に向かって『待ってて』と言ってはいた。しかし、それはいつか自分を縛るものを乗り越えて、それができた時にようやく普通の女の子に戻れるという意味で言ったはずであり、決して恭二の捉えてる意味で言ったつもりはなかった。

 

「あ・・・朝田さんは優勝したんだから、もう充分強くなれたよ。もう発作なんて起きない。だから、あんな奴。必要ないんだ。僕がずっと一緒にいてあげる。僕がずっと・・・一生、守ってあげるから。」

 

恭二はうわ言のように呟きながら立ち上がると、次の瞬間腕を広げて詩乃の事を強く抱きしめた。

 

「朝田さん、好きだよ。愛してる。僕の朝田さん・・・僕の、シノン」

 

詩乃をベッドに押し倒しながら、恭二は呪詛に近いひび割れた声でそう言った。詩乃は咄嗟に必死に足に力を込め、手を恭二の胸に当てた。

 

「・・・やめて!!」

 

掠れた囁き程度の声しか出せなかったが、詩乃はどうにか恭二を押し返す事に成功した。恭二は床に置いてあるクッションに足を取られて尻餅をつくと、信じられないという目で詩乃の事を見た。

 

「だめだよ、朝田さん。朝田さんは僕を裏切っちゃダメだ。僕だけが朝田さんを助けてあげられるのに、他の男なんか見ちゃダメだよ」

 

恭二は再びのろりのろりと詩乃の方に近づくと、ジャケットの前ポケットからクリーム色のプラスチック製の何かを取り出した。円錐状の金属が先端に付いており、パッと見は年頃の子供が遊ぶ光線銃の玩具にも見えなくもないが、そのシンプルなデザインから機能性と実用性のある品物だと詩乃にはすぐにわかった。

 

「しん・・・かわ・・・くん・・?」

 

「動いちゃダメだよ、朝田さん。声も出しちゃいけない。・・・これはね、無針高圧注射器って言うんだ。中身は《サクシニルコリン》っていう薬。これが体に入ると筋肉が動かなくなってね、すぐに肺と心臓が止まっちゃうんだよ」

 

詩乃は恭二の言ってる事の八割は上手く理解できなかった。ただ一つわかったのは、恭二が自分の事を殺そうとしているという事だけであった。詩乃は何かの悪い冗談だと思いたかったが、首筋に当てられた金属のひんやりとした感触が、その可能性を否定していた。

 

「大丈夫だよ、朝田さん、怖がらなくていいよ。これから僕たちは・・・一つになるんだ。僕が出会ってからずーっと貯めてきた気持ちを、いま朝田さんに全部あげる。そうっと、優しく注射してあげるから・・・だから、何にも痛いことなんてないよ。心配しなくていいんだ。僕に、任せてくれればいい」

 

もう詩乃の耳にはそんな恭二の言葉は入ってきていない。『注射器』、『心臓』、この二つの言葉をつい最近聞いたのを彼女は覚えていた。それから考え出される可能性に行き着いた時、詩乃は唇を震わせながら掠れ声で訊ねた。

 

「じゃあ・・・君が・・・君が、()()()()()()()()》なの?」

 

詩乃の言葉に恭二は体をピクリと震わせると、いつも詩乃と話す時に浮かべていた憧れを潜ませる様な笑みを浮かべた。

 

「・・・へぇ、凄いね、さすが朝田さんだ・・・。《死銃》の秘密を見破ったんだね。そうだよ、僕が《死銃》の片手だよ。と言っても、今回のBoBの前までは僕が《ステルベン》を動かしてたんだけどね。グロッケンの酒場で《ゼクシード》を撃った時の動画、見てくれてたら嬉しいな。でも、今日だけは現実側の役をやらせてもらったんだ。だって、朝田さんを他の男に触らせるわけにはいかないもんね。いくら兄弟って言ってもね」

 

「き・・・兄弟?・・・じゃあ、昔SAOで殺人ギルドに入ってたっていうの・・・君の、お兄さん・・・?」

 

恭二は流石にそこまで知られているとは思っていなかったので、目を見開いて驚いた。

 

「へぇ、そんなことまで知ってるんだ。大会中にショウイチ兄さんがそこまで喋ったのか。ひょっとしたら、兄さんも朝田さんのことを気に入ったのかもね。でも、安心してよ誰にも触らせないから、君は僕だけのものなんだから。今日、朝田さんにこれを注射するのはやめようって思ったんだ。兄さんがこれを聞いたら怒っただろうけど・・・でも、朝田さんが公園で僕のものになってくれる、って言ったからさ」

 

「・・・なのに・・・朝田さん、あんな男と・・・。騙されてるんだよ、朝田さん。あいつが何を言ったのか知らないけど、すぐに僕が追い出してあげる。忘れさせてあげるからね」

 

恭二はそこまで言うと、詩乃の左手で右肩を掴んで力任せにシーツの上に押し倒すと、彼女の太腿の上に跨った。

 

「安心して、朝田さんを独りにはしないから。僕もすぐに行くよ。二人でさ、GGOみたいな・・・ううん、もっとファンタジーっぽいやつでもいいや。そういう世界に生まれ変わってさ、夫婦になって一緒に暮らそうよ。一緒に冒険して・・・子供も作ってさ。楽しいよ、きっと」

 

完全に正気を失っている恭二の言葉を聞きながら、詩乃は麻痺した思考の一部を使ってある事を考え続けていた。バランの話では後少しで警察が来るはずであり、それまでは何がなんでも時間稼ぎをしなければならない。

 

「まだ・・・まだ間に合うよ、新川くん。君はまだ現実世界でその注射器は使ってないんでしょ?駄目だよ、死のうなんて思ったら・・・。お医者さんになるんでしょう?予備校にも通って、高認試験を受けるんでしょう?」

 

「コウニン・・・?」

 

恭二は詩乃の言った言葉をすぐには理解できなかったが、やがて自嘲的な笑みを浮かべながら細長い紙切れをポケットから出した。

 

「これ見てよ・・・」

 

それは詩乃も見慣れた模擬試験の成績表だったのだが、並んでいる得点と偏差値はどの教科も目を疑うほどの惨憺たる数字ばかりであった。

 

「新川くん・・・これ・・・」

 

「笑っちゃうよね?よくこんな偏差値が出せたねって自分でも驚きだよ」

 

「でも・・・ご両親は・・・」

 

「こんなの、プリンタを駆使すればいくらでも誤魔化せるよ。親にはアミュスフィアで遠隔指導受けてるって言ってあるしさ。流石にGGOの接続料の引き落としはさせてくれなかったけど、それくらいはゲームの中でいくらでも稼げるはずだった。なのに・・・」

 

不意に恭二の顔から笑顔が消えて、代わりに歯を食いしばって憤りを隠せない表情を浮かべながら口を開いた。

 

「・・・GGOで最強になれれば、それで僕は満足だったんだ。なのに・・・あのゼクシードの屑が・・・AGI型最強なんて嘘を・・・あの卑怯者のせいで、シュピーゲルはM16もろくに装備できないんだ・・・畜生・・・!畜生・・・!」

 

恭二はひとしきり怨嗟の声を吐き出すと、詩乃の事を見て不気味な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「これで・・・もう、こんな世界なんてどうでもいいよ。さぁ、僕と一つになろう」

 

恭二は詩乃の髪に自分の指を絡めると頬を撫で始めた。そしてうわ言のように詩乃にとって絶望の言葉を発した。

 

「朝田さん・・・僕の朝田さん・・・ずっと、好きだったんだよ。学校で、朝田さんの、()()()()の話を聞いた時からずっと・・・」

 

その言葉が耳に入った瞬間、詩乃は自分の心が一気に冷え込むのを感じた。詩乃は、唇を震わせながら恐る恐る恭二に訊ねた。

 

「じゃあ君は・・・あの事件があったから、私に声をかけたの・・・?」

 

「そうだよ、もちろん。本物のハンドガンで悪人を射殺した事のある女の子なんて、日本中探しても朝田さんしかいないよ。本当にすごいよ。言ったでしょ?朝田さんには()()()()がある、って。だから《死銃》の伝説を作る武器に《五四式》を選んだんだ。朝田さんは僕の憧れなんだ。愛してる・・・愛してるよ、誰よりも・・・」

 

「そん・・・・・・な・・・・・・」

 

詩乃はその瞬間、五感の全てが消滅して意識が遠ざかるのを感じた。

色がどんどん消えていきそうになった時、詩乃は恭二の後ろに赤いフォルムのロボットが目に映った。

そこで私は、今ここに彼が向かって来ている事を思い出した。

今ここで恭二と鉢合わせれば確実にあの注射器で襲いかかる。だがそれは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の問題だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからって、どうにもならないよ・・・」

 

詩乃は暗闇の中、無重力のような空間で蹲りながら呟いた。絶望な状況から逃げるように目を瞑ったその時、彼女の横から小さな、しかしはっきりとした声が聞こえた。

 

『そんな事ないよ』

 

詩乃が視線だけ動かして横を見ると、そこにはサンドイエローのマフラーを巻いたシノンが自分の肩に手を置きながら立っていた。

 

『私たちは、今までずっと自分しか見てこなかった。自分の為にしか戦わなかった。でも・・・もう遅すぎるかもしれないけど、せめて最後に一度だけ、誰かの為に戦おうよ』

 

詩乃はゆっくりと瞼を開けると、シノンが差し出した手を恐る恐る握った。

 

『さあ行こう・・・!』

 

シノンはにこりと笑うと、詩乃を助け起こしてはるか上に見える光に向けて上昇を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩乃の意識が現実世界に再接続した時、恭二は彼女の着ているトレーナーを引き抜こうとしているところであった。しかし片手では上手くいかないようで、若干顔に苛立ちの表情が浮んでいた。

詩乃は恭二の肩に置いていた右手を体に引き寄せると、次の瞬間恭二の顔面を思いっきり殴った。恭二の体が揺らいだのと同時に、自分に突きつけられていた注射器を左手でベッドに押しつけると、跨っている恭二の股の下から足を引き抜いた。

なおも自分に縋りつこうとする恭二と揉み合いになる内に、詩乃は恭二を突き飛ばした衝撃でベッドから転がり落ちた。

背中を強く打ったせいで息を詰まらせながらも、詩乃は急いで起き上がって玄関に向かって走り出した。

途中に置かれているマットに足を取られながらもなんとか玄関にたどり着き、鍵とチェーンを解除してドアノブを回そうとした時、詩乃は自分の右足が冷たい手に握られたのを感じた。

 

「っ・・・!?」

 

息を呑みながら後ろを振り返ると、そこには魂が抜け落ちたかのような顔をした恭二が足を掴んでいた。どうにか抜け出そうと詩乃は必死に抵抗したが、恭二の常軌を逸した力によって引きずられてしまい、ついに恭二の体が彼女の上にのし掛かってきた。

 

「アサダサン!アサダサン!アサダサン!アサダサン!」

 

もはや呪詛としか言えない喋り方で自分の名前を呼ぶ恭二に、詩乃は恐怖しか感じなかった。

後少し、恭二の顔が近づいたら首筋を噛み付いてやろうと口を緊張させたその時。

 

 

バギンッ!

 

 

金属の割れる音と共に鉄製の扉がこっちに倒れて来た。

冷たい空気と共にギギギと音を立てながら落ちてくる扉に恭二と詩乃は驚いて咄嗟に恭二が奥の部屋に転がって避けていた。

詩乃も先に恭二が逃げた事で咄嗟に風呂場に転がり込んだ。

倒れた扉の上から誰か一瞬で入って来きた。その赤い姿に詩乃は一瞬誰なのかと思うと目を見開いた。

 

「フ・・・リューゲル・・・?」

 

「ああ、そうだ。さっきぶりだな。シノン」

 

えんじ色のライダージャケットを着たフリューゲルと名乗った青年を見て詩乃はその安心から思わず意識が遠のいてしまい、風呂場で視界がブラックアウトしてしまった。

フリューゲル・・・元い修也は着ていたジャケットを意識の失った詩乃に被せて風呂場の扉を閉じ、奥の部屋に逃げた恭二を見ていた。

 

「さて、君がもう一人の死銃だって?」

 

「フリューゲル・・・お前が・・・僕のシノンを・・・!!」

 

そう言って恭二は高圧注射器を持ったまま修也に恨み声を呟く。

 

「何を言っている。女性を襲った時点で君は男性として失格だ。いや・・・殺人に加担したから人間失格かな?まあ、どちらでも良い。投降したほうが身のためだと思うぞ・・・?」

 

修也が最後の慈悲でそういうも恭二は目を真っ赤にして話も聞かずに右手に注射器を持って飛び掛かって来た。

 

「黙れぇぇぇぇええ!!」

 

注射器を持って突っ込んでくる恭二に修也は容赦無く懐にパンチを入れた。

 

ゴッ!

 

「ガッ・・・」

 

勢いよくくの字に曲った恭二の体は奥の部屋の本棚などを巻き込んで吹っ飛ばされた。

パキッという嫌な音が聞こえた気もしたが女性に危害を与える奴に慈悲などないっと言った様子で恭二が気絶したのを確認すると部屋にあったタオルを拝借して注射器を回収して、風呂場の扉を開けた。

 

「大丈夫か・・・?」

 

修也は風呂場に転がり込んだ詩乃を見たが・・・

 

「気絶している・・・」

 

ジャケットであったまりながら倒れている詩乃を確認し、修也は仕方がないと思うと彼女をゲームの世界の時のように持ち上げて、お姫様抱っこをすると部屋を出た。

そこでは修也の呼んだ警察が待っており、部屋の奥で気絶している恭二の引き渡しと回収した注射器を渡すと警察が事情を把握してそのまま病院まで送って貰った。

そこで詩乃を預けると自分はそのまま警察に事情説明をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、警官たちの目が生暖かい目だったのは気にしない事にした。





宣伝です。
試験的にオリジナル作品を書いてみました。
感想を書いていただけるとありがたいです。


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#35 境目

あの死銃事件から二日後。

朝田詩乃は現在キリトの運転するバイクに乗っていた。

理由としてはキリトの雇い主が私に話がしたいらしい。学校の目の前にバイクで来るとは思っていなかったが、目的地の銀座まで意外すとすぐに到着した。

 

「おーいキリトくんこっちこっち!」

 

「え、えっと・・・・・・・」

 

「すみません、アレ待ち合わせです・・・」

 

キリトが申し訳なさそうに言うと二人は菊岡と名乗る官僚の前の席に座った。

 

「あれ?赤羽くんは?」

 

「こんな危険な事件に巻き込んだ公務員には会いたく無いってさ」

 

「アハハ・・・こっちも把握していなかったのも悪いけどさ・・・」

 

そう言って苦笑している菊岡を横目に詩乃はメニュー表を見た。うわぁ、見た事ない値段だ・・・。

思わずメニュー表を閉じそうになるが、キリトが薦めるのでとりあえず適当に注文をすると菊岡が後の経緯を話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

修也が気絶させた新川恭二と《ステルベン》こと兄の新川昌一は逮捕されて、それぞれ警察病院と警察署に移送された。

その後、兄の昌一の証言から三人目の死銃である金本敦 SAOでの名前はジョニー・ブラックの存在が明らかになった。まだ金本は逮捕されていないらしいが、菊岡によれば捕まるのも時間の問題らしい。しかし念の為警戒は続けた方がいいとの事であった。

事件のきっかけは、兄の昌一があの透明化できるマントを入手してプレイヤーのリアル情報を盗み始めた事であった。

ちょうど同じ頃、弟の恭二がGGOでのキャラ育成に行き詰まり、かつてAGI万能論を唱えながら違うビルドを選択したゼクシードを深く恨んでいたらしい。

その事を恭二が昌一に相談すると、昌一はゼクシードの個人情報を恭二に教え、二人はゼクシードをどうやって粛清するかと議論しているうちに死銃計画の骨子が出来上がっていった。

その内容は大体がフリューゲルが予測したのと同じで、GGOで片方が目標を撃ち、もう片方が現実の目標を殺すというものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を聞き終え、喫茶店を後にした和人は菊岡の事で愚痴っていた。

 

「食えないやつだな・・・」

 

「さっきの官僚の話?総務省って言っていたけど・・・」

 

「ああ、()()()

 

「どう言う事?」

 

詩乃が和人に聞くと和人はこの前の事を話した。

 

「この前会った時に奴の跡をつけたんだ。そしたら市ヶ谷で車を降りていたんだ」

 

「市ヶ谷?総務省って霞ヶ関にあるはずじゃ・・・」

 

「ああ、そして市ヶ谷にあるのは・・・・防衛省」

 

「それって・・・」

 

「あくまで憶測だ。警察と自衛隊ほど仲の悪い部署もないしな」

 

「・・・」

 

「前にフリューゲルが言っていたんだ。人の作り出したもので軍事転用されなかったものはほとんどないってね」

 

「フリューゲルが?」

 

「ああ、

 

ーー船は軍艦に

 

ーートラクターは戦車に

 

ーー車は装甲車に

 

ーー飛行機は戦闘機に

 

ーーロケットはミサイルに

 

ーーラジコンは無人攻撃機に

 

だからフルダイブの世界もいずれは軍事転用されるって・・・」

 

「・・・」

 

詩乃は和人の話を聞いていてどこか納得出来てしまった。たしかに今の話を聞けばいずれはVRも軍事転用されてしまうかもしれない。

すると和人はさらに話をしていた。

 

「産業革命以降の戦争はとにかく金が掛かるんだって。どこの国でもそれが問題になっていて、その予算をどうにか減らしたいって言うのが念頭にあるらしい。・・・シノン、今ここにスナイパーライフルがあったら撃てるか?」

 

「ええ、まぁ・・・出来る・・・わね。ゲームの時と同じ感覚だものね・・・」

 

「そう、VRでの経験は現実世界にも影響が出る。軍隊の訓練にもお金がかかるからそれをVRですれば・・・」

 

「その分のお金がかからない・・・?」

 

詩乃の言葉に和人が頷いた。

 

「そう、実際アメリカでは実験的にフルダイブで訓練をしているんじゃないかって言われている」

 

「そうなのね・・・」

 

そう話しながら和人達が駐輪場に着いた時、和人が聞いてきた。

 

「あ、そうだ。シノン、このあと時間あるか?」

 

「え?あるけど・・・どうかしたの?」

 

「ちょっと合わせたい人がいるんだ。御徒町まで良いかな?」

 

「御徒町なら帰り道だから。良いわ」

 

「ありがとう。じゃあ、行こうか」

 

そう言うと二人はバイクに乗って御徒町に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御徒町の到着して、何本かの細い道を曲がりながら着いたのは【Daicy Cafe】とサイコロの付いた看板の下がった店だった。店先には『Closed』の札が下がっていた。

 

「用事ってここ?」

 

「ああ」

 

そう言って和人が扉を開けると店の中にそばかすが特徴の少女と茶色かかった少女が座っていた。

 

「おっそーい!待っている間にアップルパイ二切れも食べちゃったじゃない。太ったらキリトのせいだからね!」

 

「なんでそうなるんだ・・・」

 

すると茶色ヘアの少女が話に割り込んできた。

 

「それより早く紹介してよ、キリトくん」

 

「あ、そうだな。こちら、ガンゲイル・オンラインの三代目チャンピオン、シノンこと朝田詩乃さん」

 

「ちょっと・・・」

 

「で、あっちがぼったくり鍛冶屋のリズベットこと篠崎里香」

 

「なっ!何よその言い方!!」

 

思いもしない紹介の仕方をされ、里香が思わずパンチを喰らわそうするが軽くあしらわれ、床に転がっていた。

 

「んで、あっちがバーサクヒーラーのアスナこと結城明日奈」

 

「ひ、ひどいよー」

 

ふわりとした動作で明日奈は会釈をした。

 

「で、アレが壁のエギルことエギル」

 

「おいおい、俺は壁かよ。俺にはちゃんとママから貰った立派な名前があるんだ」

 

巨漢の男は分厚い胸板に手を当てて言った。

 

「初めまして。アンドリュー・ギルバート・ミルズです。今後とも宜しく」

 

流暢な日本語で挨拶をしたエギルに思わず詩乃は驚きながら挨拶をした。

 

「さ、座って座って。色々とお話ししたいし」

 

明日奈がグイグイくるせいで詩乃は若干戸惑ってしまった。

そしてされるがままに飲み物を渡され、明日奈が詩乃に色々と話し始めた。

 

「ともあれ、女の子のVRMMOプレイヤーと知り合えて嬉しいな」

 

「本当だね。色々GGOとかの話を聞きたいな。友達になってくださいね、朝田さん」

 

そう言って手を差し出した明日奈の言葉に、詩乃は突然すくんでしまった。もし今後、あの事件の事が知れたら明日奈は自分の事を嫌悪の色で見るのだろうと思うと、その手を取る事ができなかった。

 

詩乃がごめんなさい、と言おうとしたその時、明日奈がゆっくりと口を開いた。

 

「・・・あのね、朝田さん・・・詩乃さん。今日、この店に来てもらったのは、もう一つ理由があるの。もしかしたら詩乃さんは不愉快に感じたり・・・怒ったりするかもしれないけど、私たちはどうしても、貴方に伝えたい事があるんです」

 

「え・・・?」

 

意味がわからないと思っていると隣に座っていたキリトが頭を下げた。

 

「シノン。まず、君に謝らなければならない。・・・俺、君の昔の事件の事をこの二人に話したんだ。どうしても彼女達の協力が必要だったから」

 

「えっ・・・?」

 

疑問と動揺で頭がいっぱいになった。

 

「なんで・・・そんな・・・事を・・・」

 

「君は会うべき人に会っていないと思ったから、色々と調べたんだ」

 

「会うべき・・・人・・・?」

 

詩乃が困惑をしていると里香が席を立って『PRIVATE』と書かれた部屋の扉を開いた。そこには一人の青年がメガネをかけて待っていた。

見たことあるその姿に詩乃が驚愕をした。

 

「後は彼から話を聞くと良い。君が会いたがっていた人だと思うから」

 

そう言うとキリトは扉を閉じて部屋に詩乃と青年だけとなった。

 

「久しぶり、といえば良いのかな?詩乃さん」

 

「え・・・あ・・・」

 

「君があの時の女の子だったとはね、驚いてしまったよ」

 

「そう、そうですね・・・わ、私!私・・・ずっと謝りたかった・・・あの日の事を・・・」

 

そうして詩乃と修也はお互いにあの日の事を話し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし驚いたわね〜、まさか修也が昔あんな事してたなんてねぇ・・・」

 

「本当、普段の物静かさからは考えられないね」

 

そんな事を言いながらカウンターで里香と明日奈が話していると和人が横で何かを考えていた。

 

「和人君、どうかした?」

 

「ん?あ、いや。ふと考えてさ・・・」

 

「何を?」

 

「修也の両親」

 

「なんでまたそんな事を?」

 

明日奈が疑問に思っていると和人は修也の話をし始めた。

 

「いやぁ、修也あってあまり昔話とか親の話をしないからさ。どんな人なのかなぁ・・・ってよ」

 

「あぁ〜」

 

「確かに、気になるかも」

 

そう言うとエギルが店にあるテレビを付けてニュースを見ていた。キャスターがニュースを伝えていく中、丁度GGOの事件が報道されていた。

 

『続きまして、今回起こったVRMMO事件に関するニュースです。十一月に都内のマンションで起こった・・・』

 

キャスターがニュースの台詞を伝えており、VRMMOの事件がまた報道されている事に和人達が眉を顰めていると映像が中継に変わった。

 

『・・・なおこの事件について、総務省の()()大臣が記者会見を行いました』

 

「そっか・・・VRMMO関係は全部総務省の管轄だったっけ?・・・警察じゃないんだ・・・」

 

「なんかこの前修也さんが色々と教えてくれていたよね。なんかVRMMOに関する事件は全部総務省が引き受けることになったんだっけ?」

 

「SAO事件の時に作った・・・「仮想課か?」っ!」

 

「そうそうそれ!」

 

明日奈達がニュースを見ながら映像が切り替わると壇上に一人の男性が立ち、記者の問答に答えていた。

その男性を見た三人は思わず目を見開いてしまった。

 

「「「(修也・・・!?)」」」

 

少し灰色掛かった髪に金属的な色をした目、顎の形は違うし、顔にシワがあるが見た目は完全の少し老けた修也そのものだった。

 

「「「(まさか修也のお父さんって・・・)」」」

 

三人は同じ事を思いながら映像に映る男性の顔を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人きりになった詩乃と修也は現在、詩乃が大粒の涙をこぼしながら修也に謝っていた。

 

「ごめんなさい・・・」

 

「もう何年も経っているだろうに・・・」

 

「でも私・・・修也さんに・・・」

 

「いいんだ、あの時。強盗の息がまだあって君を隠し持っていたナイフで殺そうとして居たんだから・・・。君の安全が守られてよかったと思っている」

 

「え!?」

 

詩乃が驚くと修也はその当時の事を詳しく話した。

 

「君の放った一発は肺に命中した。それで倒れたらよかったが、最後の悪あがきで持っていたナイフで君に襲い掛かろうとしていた。それで四肢を撃って動けなくしていた」

 

「・・・」

 

唖然となりながら話を聞いていると修也は詩乃の頭を優しく撫でると詩乃に向かって言った。

 

「私はあの時の事を後悔はしていない。君を守れたのだから。むしろ君は気負い過ぎていたんだ。もう大丈夫、君はわざわざ言いに来てくれたのだから・・・」

 

「うっ・・・うぅ・・・」

 

詩乃が泣いているところを修也は彼女を優しく抱きしめていた。



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#36 思いがけない話

十二月十八日

 

修也は寒い冬の中、マンションの部屋の一室でパソコン前にキーボードを叩いていた。今行っているのはGGOで発覚した個人情報を打つ時の管理方法の変更である。

透明マントを使って個人情報を手に入れられると言う大問題を改修する為にシステム調整をしていた。

 

「まあ、このくらいで良いか・・・」

 

基本的なプログラムを終えた修也はデータを送信すると横にカップが置かれた。

 

「お疲れ様」

 

「ああ、済まんな」

 

そこにはつい数日前に話をしていた朝田詩乃の姿があった。

なぜ彼女がここにいるのか、それは一週間程までに遡る・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十二月十日

 

家でGGOで起こった事件を仲間達に話し終え、対策をしていた時。珍しく父から連絡があった。

 

「もしもし、父さんからとは珍しいね」

 

『ああ、修也か?すこし、頼まれてくれ』

 

「?」

 

少なくとも父さんからこんな事言われるのは初めてだった。

一体何事かと思いながら修也は話を聞いた。

 

「それで、用件って?」

 

『ああ、修也がこの前言っていた朝田詩乃って女の子。あの子の事なんだが・・・』

 

「ああ、どうした?」

 

『暫くそのマンションに泊めてやってくれ』

 

「・・・はぁ?」

 

何を言っているんだこの人は。と思ってしまうくらい突拍子もない話だったが、父からの話はこうだった。

 

『あの事件の後、容疑者の一人の金森敦がまだ捕まっていない。もしかすると何処かで彼女に復讐をするかも知れない。だからと言って彼女に護衛の話をしたが断られてしまった』

 

「・・・で、目に届く範囲で護衛をしたいから電話をしたと?」

 

『そう言う事だ』

 

「・・・まあ、良いよ。どうせもう手筈は整えているんでしょう?」

 

『さすが、物分かりが良いな。助かった、由美子には話を通してある。朝田さんが来るのは明後日だ。それまでに部屋を片付けておけよ。マキナから色々と聞かせてもらっているからな』

 

「分かったよ・・・」

 

父の忠告に修也は溜息を吐くと今の自分の部屋を見てゲンナリしていた。

しかし、そこで父から爆弾が落とされた。

 

『それに、聞いたぞ。お前、朝田さんをお姫様抱っこしたんだってな』

 

「・・・それが?」

 

『好きになったのか?』

 

「・・・」

 

『ま、また連絡する。じゃあな』

 

そう言って連絡が切れた携帯を持って修也はため息を吐くとマキナを呼び出した。

 

「お呼びですか、マスター?」

 

「今すぐ部屋を片付ける。手伝え」

 

「っ!じゃあ、マスターが家に女の子を呼ぶんですね!」

 

「そうだが・・・ラブコメじゃないんだ。変なことは考えないほうがいいぞ」

 

「ムー、それじゃあ面白くないです!」

 

マキナが文句を言いながら掃除機片手に部屋中を走り回った。

 

「下手に走って転けるなよ」

 

「大丈夫です!この部屋は段差ないですし」

 

そう言って掃除機片手にウキウキしながらマキナは部屋を片付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、家にやってきた詩乃に修也とマキナが出迎えた。

 

「初めまして、朝田詩乃さん。私はマキナと申します」

 

「あ、ど、どうも・・・」

 

マキナを見た詩乃が戸惑っていると修也が詩乃に言った。

 

「彼女は身の回りの世話をしている妹のような子だ。よろしく頼むよ」

 

「あ、うん。分かった・・・」

 

詩乃はマキナを見ながら修也に挨拶をする。

 

「これからお世話になるわね」

 

「ああ、こちらこそ宜しく。()()

 

いきなり名前呼びされた事にドキッとしつつも詩乃は修也の部屋で生活をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今現在に至る。コーヒーを渡した詩乃は修也に聞いた。

 

「仕事はどうなの?」

 

「順調だ。仕事は終えたからあとはゲームをしようと思っていたが・・・」

 

「じゃあ、私も行く」

 

「了解、ついでに買いたい物があるんだ」

 

「・・・何を買う気なの?」

 

「なに、ちょうどクレジットが貯まったからな。前から欲しかったものだ」

 

そう言って口角を上げながら言うと修也と詩乃はアミュスフィアを取り出して二人して修也の部屋のベットに横になるとお互いに向こうの世界にログインをしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GGOの世界に入ったシノンは部屋の右を見る。そこには見慣れた赤いロボットが椅子に腰をかけていた。

 

「フリューゲル」

 

そう声をかけるとロボットがシノンに気がついた。

 

「よう、来たか」

 

そう言うとフリューゲルはシノンの手を取ると宿屋から外に出る。詩乃が修也の家に泊まっている時、彼がザスカーの社員である事や、フリューゲルである事は教えて貰ったがどこか納得できる部分もあった。

やけにSBCグロッケンの道に詳しいと思っていたが、どうも設計をしたのが彼だったそうだ。それは詳しいわけだと思いながら二人で街を歩くと街の外れの一角にある店に到着した。

 

「ここ?」

 

「そうだ。今度二人で行こうと思っていた場所に行く為の道具だ」

 

そう言って店の中に入りフリューゲルが店のコンソロールを触り、膨大なクレジットを払うと『有難うございます!』と言う機械音声と同時に隣のガレージに続く扉が開いた。

 

「さて、こっちだシノン」

 

「あ、分かった」

 

店を眺めていたシノンはフリューゲルに呼ばれてガレージを歩くとフリューゲルが歩みを止めて一台の車の前に止まった。

 

「買ったのって・・・これ?」

 

「そうだ。さて、早速行くぞ」

 

「了解」

 

そう言ってシノンは《CMー35 雲豹 機動砲車両型》と書かれた車に乗り込んだ。装甲兵員輸送車のように見えるその車両は上に大きな砲塔を持ち合わせていた。

中は結構広く、フリューゲルはエンジンを起動させた。

 

「行けるか?」

 

「大丈夫」

 

ブオォォオオン!

 

エンジンが唸り声を上げながらガレージを出て荒野を一気に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒野を走る一台の装甲車で、フリューゲルはハンドルを握っていた。

 

「運転大丈夫なの?」

 

「問題ない。車の運転は慣れている」

 

射撃手の椅子に座っているシノンがフリューゲルに聞くも、問題ないと返答をしていた。元が兵員輸送車なだけあって中は結構広く、車の中にかなりの物資や弾薬が積まれていた。

 

「元々移動拠点として買った車だ。これから重宝するだろう」

 

「そうね」

 

フリューゲルは運転をしながら外の景色を眺めるとシノンに聞いた。

 

「・・・シノン、十時方向にモンスターの大群がいる。試しに撃ってくれ」

 

「了解」

 

砲手席で砲塔が回るのを確認したシノンは自動装填される砲弾を確認すると双眼鏡を覗いた。レーダー測距で距離を測り、手に発砲用の引き金を持つ。

 

「距離は・・・大体2300m・・・」

 

「弾は対戦車榴弾。行けるな?」

 

「これくらい簡単よ」

 

自慢げに言うとシノンは双眼鏡越しに引き金を引く。

 

ドォォン!!カンコンッ!

 

重い砲声と薬室から吐き出される薬莢が落ちる音が戦闘室に響く。

 

発砲した砲弾は真っ直ぐ飛んでいきながらモンスターの大群の飛んでいく。

そして着弾と同時に信管に点火された火薬が破裂した金属片を纏わせながら辺りに広がり、炎に包まれた。

小さめのきのこ雲をハッチから確認したフリューゲルは苦笑してしまった。

 

「これは酷い・・・」

 

そう言いながらもう一度倍率を上げて着弾場所を確認するとモンスターが消し飛んでしまっていた。

 

「流石高いだけあって威力はトップだな」

 

「戦車まであったもの。凄いことになるわよ」

 

「一応数は制限しているんだがな・・・大きなスコードロンだと既に持っていそうだな」

 

「ただの車なら結構見るわね」

 

そう言ってシノンは前に大規模スコードロンが軽装甲の車両を買っているのを思い出したが、少なくともこんなゴテゴテの軍用車両を持っているのは殆ど見た事がなかった。

 

「少なくともこんな少人数でゴテゴテの装甲車を買ったのは私たちが初めてでしょうね。一体いくら掛かったの?」

 

「今までに貯めていたクレジット全部」

 

「嘘でしょ!?」

 

シノンが驚きながら聞き返すと咄嗟にストレージを確認する。

ゲーム内で結婚をしている二人はストレージが共有されているのでクレジットの残額を確認できた。フリューゲルが元々持っていたクレジットはとんでもない金額があった。シノンの持っているクレジットよりも断然多かった。なんでも初期の頃に課金した分を返して以来、通信費分以外換金をしていないそうだ。それで、通信費を出しながらここまで貯めていた事に驚愕するしかなかった。

シノンは確認すると本当にクレジットがごっそりと減っており、クレジットの桁数が何桁も減ってしまっていた。

 

「こ、こんなに・・・」

 

シノンは驚愕しながらフリューゲルを見ると彼は満足げな表情をしながら運転席に戻った。ここまでクレジット溜めていた事にも驚きだが、そこまでプレイできる時間があった事にも驚きだった。

 

「夏休み中にずっと潜って遺跡の周回ばかりしていた」

 

シノンの疑問に答えるようにフリューゲルが言うとシノンは試しにプレイ時間を聞いていた。

 

「それって何時間ぐらい?」

 

「ざっと平均十時間」

 

「バッカじゃないの!?」

 

思わず声を出しながらシノンが言ってしまいフリューゲルの異常さを思い出すと頭を抱えてしまった。

 

「・・・はぁ、修也と一緒にいると疲れちゃう」

 

「・・・さて、街に戻ろう。ダンジョンに潜るのはまた今度だ」

 

「えぇ、分かったわ」

 

フリューゲルはハンドルを切りながらそう言うとシノンも納得して街に戻り、二人で貸りている宿屋に戻ると二人はログアウトをした。

ログアウトした詩乃と修也は時間を見て驚いていた。

 

「あ、もうこんな時間だったのね」

 

「じゃあ夕食でも作るか」

 

そう言って二人が台所に立ってそれぞれ夕食の準備をしていた。

詩乃が家に来た時に、冷蔵庫の中身を見た彼女に怒られて大量の食材を買い込み、それ以降詩乃が毎回食事を作っていた。

そんなこんなで詩乃とはやっていけている今日この頃、修也は台所で野菜を切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、修也と詩乃が同居している事は和人達には未だバレていない。

 

「これ、バレたらどうなるんだろうな・・・」ボソッ

 

「修也、何か言った?」

 

「いや、何でもない。それより詩乃、食事が終わったらちょっと買い出しに行こうか」

 

「また、冬のアイス?」

 

「良いだろう?」

 

「はぁ、しょうがないわね」

 

詩乃が溜息をつきながら修也を見て少し笑うと二人はその後楽しく夕食をとっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




冬のアイスって美味しく感じません?
特に雪見だいふくとか、雪見だいふくとか、雪見だいふくとか。


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エクスカリバー編+α
#37 聖剣入手


二〇二五年 十二月二十八日

 

冬休み中の修也は詩乃と共に本屋に出向いていた。

 

「この作家の新作・・・出ていたんだな・・・」

 

「そう見たいね」

 

スニーカーにトレンチコートを着た修也は詩乃と一緒に本屋でカゴの中に本を入れていた。

 

「本当にいいの?欲しいの入れて」

 

「少し遅いクリスマスプレゼントだと思ってくれ。君の好みが分からなかったからな」

 

「そう言って当日は化粧品セットくれたのに?」

 

「君の肌に合うか分からないだろう?」

 

そう言って修也は詩乃の手を取りながら言うとカゴを持ったままレジに向かい、本を買っていた。その金額を見て詩乃が驚愕していたが、修也は簡単に電子マネーで払っていた。

 

「さて、本も買ったし、あとは家に帰りますか・・・」

 

「そうね」

 

すると修也の携帯に連絡が来た。

 

「ん?キリトからか・・・」

 

そう言い届いたメールを見ると修也は少しだけ口角を上げた。同じメールだろう、詩乃が携帯を見て修也を見た。

 

「行くか?」

 

「勿論」

 

そう言うと修也と詩乃はそのまま寄り道もせずに家に帰ると早速アミュスフィアを取り出した。

 

「「リンク・スタート!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集合場所であるイグドラル・シティ大通りにある《リズベット武具店》に入った。

そこにはすでに何人か来ており、奥の工房からリズが出てきた。

 

「あら、ブレイドも来たの?」

 

「ああ、キリトに呼ばれてな」

 

そう言いながら持っていた剣をリズに渡すと店の椅子に座って呼び出した相手を待っていた。

 

「リズの作ってくれた二倍の射程が欲しいわね」

 

シノンが店の中でそんな事を言うと奥で弦の張り替えをしていたリズが苦笑をする。

 

「あのねぇ、普通弓は槍以上魔法以下の距離で使う武器なんだよ?百メートル離れたとこから狙おうなんて、シノンくらいよ」

 

本拠であるGGOでは二千メートル級の狙撃をポンポンしている彼女にとっては今の距離は短いだろう。それでも新規アカウントでたった数日でここまで育ったシノンにブレイドは関心をしていた。

 

「(今度光弓シェキナーを探してもいいかもな・・・)」

 

修也はシノンの欲しがっている武器を思い浮かべながら店でキリト達の会話を聞いていた。

 

「そう言えばキリト、今日は何人呼んだんだ?」

 

「ん?取り敢えず俺、アスナ、リーファ、クライン、シリカ、リズベット、ブレイド、シノン、ユナにノーチラスかな・・・」

 

「どうやってヨツンヘイムまで行くんだ?」

 

「うーん、問題はそこなんだよなぁ・・・」

 

「前に言っていたトンキーは?」

 

「あれ七人乗りなんだよ・・・」

 

「今日は十人来るぞ・・・」

 

「キリの字・・・」

 

思わずブレイドとクラインがジト目でキリトを見るとキリトは頭を抱えて考えていた。

 

「誰か象クラゲのテイムできるか?」

 

「どうだろう、難しいんじゃないか?」

 

「どうするんだよ」

 

三人で今後のことで頭を抱えていると部屋の扉が勢いよく開いた。

 

「「「たっだいまー!」」」

 

「お邪魔します」

 

入り口からポーション類の買い出しに行っていたリーファ、アスナとユイとユナとノーチラスが入って来た。

どうやらポーションを持ったまま帰って来たようでリーファとアスナがカゴを持って来ていた。そして、入って来た四人が机に物を並べていた。

 

「買い物ついでにユイと情報収集して来たわ」

 

「はい。どうやらまだあの空中ダンジョンまで到達したプレイヤーまたはパーティーは存在しないようです、パパ」

 

「へぇ・・・じゃあなんで《エクスキャリバー》のある場所が解ったんだろう?」

 

「それがどうやら、私たちが発見したトンキーさんのクエストとは別種のクエストが見つかったようなのです。そのクエストの報酬としてNPCが提示してきたのがエクスキャリバーだった、ということらしいです」

 

「しかもそのクエスト、お使い系や護衛系じゃなくてスローター系みたいだよ。おかげで今、ヨツンヘイムはPOPの取り合いで殺伐としてるんだってー」

 

アスナの言葉に集まっている皆は唇を曲げる。

スローター系とは、その名の通り《〇〇というモンスターを〇匹以上倒せ》や《〇〇というモンスターが落とすアイテムを〇個集めろ》といった種類のクエストであり、指定された種類のモンスターを片っ端から狩りまくることになる為、同じクエを受けているパーティーが狭いエリアで重なると、まぁ場がかなりギスギスした雰囲気になってしまうのだ。

 

「妙だな・・・」

 

「そうですね」

 

ブレイドとノーチラスの呟きに全員が耳を傾けた。

 

「《聖剣エクスキャリバー》は普段は強い邪神が多くいるダンジョンの奥に隠されているはずだ。それをNPCが報酬として提示するのか?」

 

「言われてみればそうですね」

 

「ダンジョンまでの移動手段が報酬、っていうならわからなくもないけど・・・」

 

「・・・ま、行ってみれば解るわよ、きっと」

 

「よーっし!全武器フル回復ぅ!」

 

「「「「「「「「お疲れぇ!!」」」」」」」」

 

リズへの労いの言葉をかけると、皆はそれぞれの愛剣、愛刀、愛弓を受け取って新品同様となったそれを改めて確認した。

そしてここでキリトが問題提示をした。

 

「さて、ここで一つ問題が。トンキーには俺を除いて六人までしか乗ることができない。そしてここにいるのは十人。つまり三人はトンキーに乗れないということだ」

 

「ど、どうするんですか?」

 

「トンキーに二往復して貰えばいいだろう」

 

シリカの問いにブレイドが答えるとキリトが頷いた。

 

「そう、そこでこの中から人員を選ぶとして、トンキーを操る俺かリーファ、この中で一番魔法を育てているブレイドかユナが確実だな」

 

「そうね、基本的にここにいるのはほとんどが剣の方が強いし」

 

アスナもキリトと共にメンバーを考えていた。ブレイドはフレンドメンバーが剣しか使わない脳筋思想だと予測してから。ユナは四十層で音楽でモンスターのヘイトを買った経験から魔法を育てていた。

前にもキリト達がダンジョンに潜ったことがあるらしく、その時に、恐ろしいほど物理耐性のあるモンスターが居たらしい。その経験から今回は魔法を強めた人は絶対必要なのだという。

 

「・・・で、編成は?」

 

「俺、アスナ、リーファ、クライン、リズベット、シリカ、ブレイドかなぁ・・・」

 

「じゃあ、ユナ、ノーチラス、シノンが第二便か・・・」

 

ブレイドの呟きにシノンが不満そうにしつつも編成に文句はなさそうだった。

 

全員の準備が完了した所で、パーティーのリーダーであるキリトがぐるりと皆を見回し、エホンと咳払いをしてから言った。

 

「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう!このお礼はいつか必ず、精神的に!それじゃ、いっちょ頑張ろう!」

 

「「「「「「「「おー!」」」」」」」」

 

こうして彼らは伝説武器《聖剣エクスキャリバー》をゲットする為に邪神が蠢めくヨツンヘイムへと旅立ったのだった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一行は央都アルンのマップにも表示されないような細い路地を進み、やがて目的地である円形の木戸へと辿り着いた。

キリトを先頭に十人が一列になってトンネルに入り、最後尾のクラインが扉を閉めると木戸は再施錠された。

一行はアスナを先頭に階段を降り始めたが、二割ほど降りきった所でリズが思わず呟いた。

 

「あ〜・・・一体何段あるの、これ・・・」

 

「大体アインクラッドの迷宮区タワー丸々一個分ぐらいだったはず・・・」

 

リーファがそう答えると、ここに初めてくる面子の殆どがうへぇという表情を浮かべた。彼女の隣を走るキリトはつい苦笑して、このトンネルのありがたさを力説し始めた。

 

「あのなぁ、ノーマルのルートでヨツンヘイム行こうと思ったら、まずはアルンから東西南北何キロも離れた階段ダンジョンまで移動して、モンスターと戦いながら奥に行って、最後に守護者を倒してようやく到着できるんだぞ? ワンパーティーなら最速二時間かかるとこ、ここを通れば五分で着くんだぞ! 俺なら通行料一回千ユルドを取ってここを通らしてやる商売を始めるね」

 

「それはトンキーがいないとできない事なのでは・・・?」

 

ブレイドが呆れながらキリトに言うとキリトは咳払いをしてなかった事にすると、しかつめらしい顔を作って言った。

 

「まぁ、そういう訳だから、文句を言わずに一段一段感謝の心を込めながら降りたまえ、諸君」

 

「あんたが造った訳じゃないでしょ」

 

キリトの前を走るシノンがクール極まる突っ込みを入れる。キリトはそれを聞くと少し悪い笑みを浮かべる。

 

「御指摘ありがとう」

 

そして礼を言うと同時に彼の目の前で揺れている水色の尻尾を思いっきりぎゅっと握った。

 

「フギャア!!!?」

 

その途端、シノンはものすごい悲鳴と共に飛び上がった。ケットシー特有の三角耳と尻尾は人間には存在しない器官だが、どういう訳か感覚があるのだ。その為、慣れてないプレイヤーがいきなり強く握られたりすると、とても変な感じがするのだ。

キリトが尻尾から手を離した時、

 

ゴスッ!

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

と言う重い音と共にキリトがゴムボールのように吹っ飛び、階段の下に思い切り転がって行った。

なにが起こったのかと思うとキリトの横にいたブレイドが拳を強く握っていた事に気がついた。

 

「「「「・・・」」」」

 

「・・・反論はあるか?」

 

「「「「「いいえ全く!!」」」」」

 

ブレイドに全員が同じ反応をするとそのまま一行は階段を駆け降りて行った。

この時、シノンに手を出した時の代償がどうなるかをよく知った一同であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、階段下で伸びていたキリトを叩き起こすと一向はヨツンへイムに到着した。

 

「うわぁ・・・」

 

「すごい・・・」

 

ヨツンヘイムを初めて見るシリカとシノンの2人が思わず声を上げた。小竜のピナさえもシリカの頭の上で盛んに翼をぱたぱた動かしている。

皆の眼下に広がるのは、分厚い雪と氷に覆われた常夜の世界だ。照明は氷の天蓋から伸びてる水晶の柱が地上の光を届けるのみ。

視界を真下から正面に戻すと、地上のアルヴヘイムに屹立する世界樹の根に包まれるように薄青い氷塊が天蓋から鋭く突き出している逆ピラミッド型のダンジョンが見える。あの場所に、《聖剣エクスキャリバー》が封印されているのだ。

一通りの状況確認を終えると、アスナとユナの二人が右手をかざして凍結耐性の支援魔法を皆にかける。それを確認すると、リーファは右手の指を唇に当てて高く口笛を吹き鳴らした。

 

 

数秒後、風の音に混じって

 

くおぉぉぉー・・・ん

 

という啼き声が遠くからブレイド達の元に届いた。目を凝らすと、遠くから白い影が上昇してくるのが見える。

 

「トンキーさーーーん!」

 

アスナの肩からユイが精一杯の声で呼びかけると、トンキーはもう一度大きく啼くと、急上昇して目の前に現れていた。

初対面の面々はあまりの巨体に思わず後ずさる。

 

「へーきへーき、こいつらここ見えて草食だから」

 

「でも、こないだ地上から持ってきたお魚上げたら、一口でぺろっと食べたよ」

 

「へ、へぇ・・・・・・・」

 

クライン達がもう一歩下がるが、狭い場所ではそれ以上後ろに下がる事はできない。トンキーは一行を順に眺めると、長い鼻を伸ばしてクラインの髪をわしっと撫でた。

 

「うびょるほ!?」

 

「おいおい・・・ほら、みんな何立ち尽くしてんだ。背中に乗れって言ってるぞ」

 

「そ・・・そう言ってもよぉキリト、オレ、アメ車と空飛ぶ象には乗るなっつうのが爺ちゃんの遺言でよ?」

 

「こないだダイシーカフェで爺ちゃんの手作りっつって干し柿くれただろ?美味かったからまたください!」

 

それから、キリト達のパーティーはトンキーの背中へと乗り込んだ。

 

「じゃあ、シノンたちは後で迎えに行くから」

 

「ええ、分かったわ」

 

「待っていますね」

 

シノンとユナがそう言い返すとブレイド達はリーファに合図を送った。

 

「リーファ、出してくれ」

 

「よぉーしトンキー、ダンジョンの入り口までお願い!」

 

ダーナラの首のすぐ後ろに座ったリーファが叫ぶと、二体は長い鼻を持ち上げてもうひと啼きし、八枚の翼を羽ばたかせてダンジョンに向けて飛行していくのだった。



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#38 湖の女王

トンキーに乗って飛行を開始して数分、高度一千メートルを飛んでいるトンキーにブレイドは思わず感嘆の声を出した。

 

「凄いな・・・」

 

するとトンキーは鋭角を畳み、急激にダイブへと突入した。

 

「「「うわあああああああ!!」」」

 

「「「きゃああああああ!!」」」

 

「ヤッホーーーーーーー!!」

 

悲鳴をあげるメンバーと一人楽しんでいるリーファ広い背中にかかる風圧に必死で耐えていた。

なんで落ちているのかは分からないが次第に雪に包まれた大地が鮮明に映り出し、地表で何が起こっているのかがよく見えた。

 

「お兄ちゃんあれ!」

 

リーファが指差した先では眩いフラッシュ・エフェクトが続けて炸裂し、重低音のサウンドが遅れて聞こえてきた。

 

「あれは・・・」

 

そこには人型邪神と三十人以上いる大規模レイドパーティーがトンキーと同じ象水母型邪神を攻撃していた。

 

「どうなっているの・・・?誰かあの人型邪神をテイムしたの?」

 

「いや、邪神級モンスターのテイムはどれだけ底上げしても0パーセントだ」

 

「あれはなんつぅか・・・・《便乗》しているのか?」

 

下で起こっていることに困惑していると後方に光の粒が音もなく漂い、凝縮し、一つの人影を作り出した。それは、ローブのような長めの衣装を纏い、背中から足許まで流れるような金髪で、優雅で超然とした美貌の女性だった。しかし、その大きさはここにいる者達の倍以上はあった。

 

「でっ・・・けぇ・・・」

 

思わずクラインがそう呟くのもわかる。すると女性は口を開いた。

 

「私は《湖の女王》ウルズ」

 

巨大な金髪の女性は、続けてブレイド達に呼びかけた。

 

「我が眷属と絆を結びし妖精達。そなたらに、私と二人の妹から一つの請願があります。どうかこの国を、霜の巨人族の攻撃から救ってほしい」

 

するとユイがキリトに話していた。

 

「パパ、あの人はNPCです。でも、少し妙です。コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続しています」

 

「・・・つまり、AI化されているということか?」

 

「そうです、ブレイドさん」

 

ウルズはそれを待っていたかのように、真珠色に煌めく右手をふわりと広大な地下世界に向け、話を続けた。

 

「かつてこの《ヨツンヘイム》は、そのたたちの《アルヴヘイム》と同じように、世界樹イグドラシルの恩寵を受け、美しい水と緑に覆われていました。我々《丘の巨人族》とその眷属たる獣たちが、穏やかに暮らしていたのです」

 

ウルズが右手を上げると、ブレイド達の視界の景色が一瞬で変化した。

周囲の氷は嘘のように消え去り、代わりに草木と花々、そして清らかな水に満ち溢れた広大な湖が現れた。

水面から盛り上がる世界樹の太い根の上には、丸太に組まれた家で作られた街があった。心なしか、その風景は地上の《央都アルン》に似ている。

ウルズが右手を下ろすと、幻の風景も消え去った。あまりに急激な変化に皆が驚いている中、ウルズは超然とした、しかしどこか悲しそうな眼をしながら、さらに話を続けた。

 

「ヨツンヘイムの更に下層には、氷の国《ニブルヘイム》が存在します。彼の地を支配する霜の巨人族の王《スリュム》は、ある時オオカミに姿を変えてこの国に忍び込み、鍛冶の神ヴェルンドが鍛えた《全ての鉄と木を断つ剣》エクスキャリバーを、世界の中心たる《ウルズの湖》に投げ入れました。剣は世界樹のもっとも大切な根を断ち切り、その瞬間、ヨツンヘイムからイグドラシルの恩寵は失われました」

 

ウルズが今度は左手を上げると、再び幻の風景が皆に映し出される。

金の何かが湖に投げ込まれると同時に、湖の水は一瞬で凍りつき、世界樹の根は天蓋方向へと収縮していく。あれほど綺麗だった草木や花々は枯れ果て、湖だった所は巨大な穴となってしまった。

ウルズが左手を下ろすと、また幻のスクリーンは消え去った。

 

「王スリュム配下の《霜の巨人族》は、ニブルヘイムからヨツンヘイムへと大挙して攻め込み、多くの砦や城を築いて我々《丘の巨人族》を捕らえ幽閉しました。王は、かつて《ウルズの泉》だった大氷塊に居城《スリュムヘイム》を築き、この地を支配したのです。私と二人の妹は、凍り付いたとある泉の底に逃げ延びましたが、最早かつての力はありません。霜の巨人たちは、それに飽き足らず、この地に今も生き延びる我らが眷属の獣たちをも皆殺しにしようとしています。そうすれば、私の力は完全に消滅し、スリュムヘイムを上層のアルヴヘイムにまで浮き上がらせることが出来るからです」

 

「な・・・なにィ!ンなことしたら、アルンの街がぶっ壊れちまうだろうが!」

 

皆を代表してクラインが憤慨したように叫ぶと、ウルズはその言葉に頷き言った。

 

「王スリュムの目的は、そなたらのアルヴヘイムもまた氷雪に閉ざし、世界樹イグドラシルの梢にまで攻め上がることなのです。そこに実るという《黄金林檎》を手に入れるために」

 

ウルズはそこで言葉を区切ると、一旦視線を地上に向けて、眉を悲しげにひそめた。

 

「我ら眷属たちをなかなか滅ぼせないことに苛立ったスリュムと霜巨人の将軍たちは、遂にそなたたち妖精の力をも利用し始めました。エクスキャリバーを報酬に与えると誘いかけ、眷属を狩り尽くさせようとしているのです。しかし、スリュムがかの剣を余人に与えることなど有り得ません。スリュムヘイムからエクスキャリバーが失われる時、再びイグドラシルの恩寵はこの地に戻り、あの城は溶け落ちてしまうのですから」

 

「え・・・じゃ、じゃあ、エクスキャリバーが報酬っていうのは全部嘘だってこと!?そんなクエストありぃ!?」

 

トンキーに乗るリズの素っ頓狂な声に、女王は鷹揚と頷くと言った。

 

「恐らく、鍛冶の神ヴェルンドがかの剣を鍛えた時、槌を一回打ち損じたために投げ捨てた、見た目はエクスキャリバーとそっくりな、《偽剣カリバーン》を与えるつもりなのでしょう。充分に強力ですが、真の力は持たない剣を」

 

「ず、ずっるい!王様がそんなことしていいの!?」

 

「一度強い力を手に入れたらなかなか手放せなくなるものだ」

 

ブレイドの返事にウルズが頷き、話を続けた。

 

「そうです。しかし彼は、我が眷属を滅ぼすのを焦るあまり、一つの過ちを犯しました。配下の巨人の殆んどを、巧言によって集めた妖精の戦士たちに協力させるため、スリュムヘイムから地上に降ろしたのです。今、あの城の護りはかつてないほど薄くなっています」

 

そこまで言い終えると、ウルズは右手をブレイド達に差し出した。すると、手先から光が輝き出して、その中から緑色の石が嵌め込まれたネックレスが現れた。ネックレスは空中を移動して、リーファの前に来ると、彼女の手の上に乗った。

ウルズは、その大きな腕をまっすぐ上空の《スリュムヘイム》に差し伸べ、言った。

 

「妖精たちよ、スリュムヘイムに侵入し、エクスキャリバーを《要の台座》より引き抜いて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか・・・凄いことになっちゃったね・・・」

 

思わずリーファがトンキーの背でそう呟く。リズベットも思わず目を細めながら言う。

 

「これって、普通のクエストなのよね?その割には話が大掛かりすぎると言うか・・・」

 

「動物型の邪神が全滅したら地上まで霜巨人に占領される、とか言ってたな」

 

「でも普通運営はこう言う告知は一週間前には出さないか?」

 

クラインの疑問にブレイドはある懸念が浮かんだ。

 

「なあユイちゃん」

 

「何ですか?」

 

「このALOに使われているカーディナルシステムはオリジナルのものか?」

 

「っ!そうです!」

 

「成程・・・それなら理解できるな・・・」

 

ブレイドが一人で納得していることにキリトたちから視線が送られた。

 

「どう言うことよ」

 

「説明求む」

 

「ああ、このALOはザ・シードからの派生系から生まれたゲームではないからオリジナル版のカーディナル・システムが使用されている」

 

「「「?」」」

 

キリト達が首を傾げながらブレイドの話を聞いた。

 

「オリジナル版のカーディナル・システムにはザ・シードのカーディナル・システムとは違い幾つかの権限が与えられている。その一つに《クエスト自動生成機能》がある」

 

「それって何なんだ?」

 

「簡単に言えば世界中にある神話や御伽話を拾ってそれを翻訳してストーリー・パターンを翻訳した後にクエストを無限に生成する権限だ」

 

「ンだとぉ!?じゃあ俺たちが散々パシらされたのはそのシステムが作ったやつってことかよ」

 

「そう言う事だ」

 

「どおりでクエストが多いと思ったわ。クリア時点で一万個を超えているんだもの」

 

「ちなみにパランジャを手に入れた時はインド神話が元だったな・・・」

 

山ほど浮かんでくる愚痴大会になりかけたのでキリトが話題を軌道に戻していた。

 

「・・・で、ユイ。このクエストはカーディナル・システムが自動で生成したものって事か?」

 

「はい、運営が何かしらの動作でカーディナル・システムを起動させた可能性があります。だとすれば行き着く所まで行く可能性があります。あの氷のダンジョンが地上まで上がり、アルンが崩壊、周辺も邪神級モンスターがポップ・・・いえ、もしかすると・・・」

 

ユイが恐る恐る囁いた。

 

「・・・私がアーカイブしているデータによれば当該クエストおよびALOそのものの原型となっている北欧神話は、いわゆる《最終戦争》に含まれるものです。ヨツンヘイムやニブフヘイム、さらにその下層のムスペルヘイムと呼ばれる灼熱の世界から炎の巨人が現れ世界樹を焼き尽くす・・・と言う・・・」

 

「「・・・・《神々の黄昏》」」

 

リーファとブレイドが声を合わせてそう言うとブレイドは納得した表情を浮かべた。

 

「成程、オリジナル版カーディナル・システムの最後の任務は浮遊城の崩壊、つまりデータの消去というわけだ。そして今のALOには浮遊城が存在している。消去した筈のデータが残っている事にカーディナル・システムが気づいたのだろうな」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

ブレイドの説明にキリト達がホェーと言った様子でブレイドを見るとブレイドはここでさらに言った。

 

「そして、サーバーの巻き戻しをするにはカーディナル・システムとは全く関係ないサーバーでバックアップを取る必要があるが、恐らく運営はやっていないだろうな・・・おまけに今日は年末の午前中でサポートセンターが閉まっているときた」

 

ブレイドの補足説明にキリト達は半分諦めた様子で、残りの半分はユイ並みによく知っていると言う驚きで微妙な表情を浮かべるとクラインが剣を掲げて叫んだ。

 

「こうなったらやるしかねえんだ!オッシャ!今年最後の大クエストだ!バーンと決めて明日のMトモの一面に載ったろうぜ!」

 

「「「「おぉー!」」」」

 

キリト達も武器を手に取り、巨城スリュヘイムに到着した。

 

「まぁ、その前にシノン達を待たないとな」

 

「お、おぅ・・・」

 

「早くいきたいのに〜!!」

 

「キリトが大勢呼ぶからだろうが・・・」

 

何ともずっこけた雰囲気の中、巨城の入り口でキリト達はシノン達を待つ事となった。




いつのまにかUAが一万行ってた・・・・
読んでくださって感謝しかありません!!!


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#39 待ち人

キリト達が先行する中、入り口で待っているシノン達は談笑していた。

 

「へぇ〜、じゃあブレイドさんとは昔に知り合っていたんですね」

 

「ええ、昔助けてもらったの」

 

「流石だなぁ・・・」

 

初めはどう話始めようか困っていたユナとノーチラスだったが、お互いにブレイドの話で共通したネタで話が盛り上がっていた。

 

「ブレイドさんには色々と助けられたからね、エーくん」

 

「ああ、あの人にはお世話になった」

 

「そうなの?」

 

「ええ、ブレイドさんにはあの世界で自分の代わりにユナを守ってくれたんです」

 

「私が能力を使って敵のヘイトを集めて・・・その全部を倒してくれたんです」

 

「そうなのね・・・」

 

ユナとノーチラスの話を聞いてシノンはどこか誇らしげな気持ちになるとユナが更に話を続けた。

 

「それで、その後エーくんと一緒にすごい怒られちゃったんです・・・」

 

「え?どうして?」

 

「実践経験が浅いのにダンジョンに潜るなっ!・・・て怒られました。それでその後ブレイドさんに説得されて元々置いたギルドを脱退して前線から離れたんです」

 

ノーチラスはそう言いながらKoBに残ると言った自分に圏内でボコボコに殴られた事を思い出していた。

あの時、自分は殴られた時とブレイドの表情を見て恐怖で動けなくなってしまった。

それを見たブレイドが『君は恐怖を乗り越えることが出来ていない。そんな状態で前線に赴いても大事な人を悲しませるだけだ』と言われてノーチラスを無理やりKoBから脱退させていた。副団長のアスナにも話を通していたのかすんなりと脱退することができ、ユナと共に下層で生活をする事になった。

だが、後々KoBを脱退した事にブレイドに感謝をしていた。そして、ブレイド達はゲームをクリアし、二人は現実世界に帰還をした。

 

「でも、俺はブレイドさんには感謝していますよ」

 

「なんか一つ年下なのに、私たちよりもずっと年上な雰囲気をしているんですよね〜」

 

ユナ達がブレイドの話をしていると遠くからリーファの声がうっすらと聞こえてきた。

 

「あ、来たみたいですね」

 

「じゃあ、行くか」

 

二人はお互いに武器を取って近づいて来る象水母を見ていた。その後ろでシノンが二人をじっと見て考えていた。

 

「(私も、修也とあんな感じになれるのかしら・・・?)」

 

シノンはそんな事を思いながらトンキーに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トンキーに乗って数分後、リーファから事情を聞いたシノン達は城の前に到着をした。

 

「さて、これで全員だな。リーファから話は聞いたか?」

 

「ええ」

 

「はい!」

 

「すぐに行きましょう」

 

後発の三人がキリト達と合流すると一斉に全員がスリュムヘイムに突入をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十人を等分した五人パーティー二つはスリュムヘイムを走っていた。

ウルズの言う通り中ボスも半分ほどが不在。大した戦闘もせずに一階層のボスへと辿り着いた。

そこにいたのは単眼巨人。馬鹿高い攻撃力と高い対物耐性が売りのフロアボスだ。

作戦は至って簡単だった。

 

「「ーーーーーーーーーー!」」

 

『高速詠唱』でブレイドとユナが詠唱している間、キリト達が敵のヘイトを買う作戦だった。

 

「そっちの金色の奴!物理耐性やばいよ!」

 

「そのための二人だろう!!」

 

キリト達が敵の周りをクルクル動きながらダメージを蓄積しているとキリトが気配に気づいた。

 

「来るぞ!避けろ!!」

 

「「ーーーーーーーーーー!!」」

 

詠唱を唱え終えたユナとブレイドは持っている杖から魔法を放った。

火柱が回廊を包み、単眼巨人を丸焼きにしていた。

 

「まるで巨人のフランベだな」

 

「なんですかその不味そうな料理・・・」

 

思わずその酷さに全員が苦笑していた。

剣を捨てて魔法に全振りした成果が出たと言えば聞こえはいいのだろう。

そんなこんなで第一層をクリアしたキリト達はそのまま第二層に向かって走る。

やはりここも敵を見上げることが少なく、キリト達が前衛をしている影響で後方にいるブレイド、シノン、ユナ、ノーチラスは只々走っているだけだった。

 

「こうも暇だな・・・」

 

「ま、たまにはこう言うのもいいんじゃない?私の練習の時にダンジョン周回しててゆっくり出来なかったし」

 

「それもそうか」

 

「これ終わったらどうする?」

 

「どうしようか。何か作るか?」

 

「前に作ってくれたシェパーズパイがいい」

 

「分かった。これが終わったらすぐ作ろう」

 

シノンとそんな会話をしている横で、ユナとノーチラスも似たような話をしていた。音楽妖精と影妖精の二人と猫妖精の二人は第二層を楽しい会話で終わりそうになっていた。しかし、キリトの合図で一気に現実に引き戻された。

 

「みんな、警戒。第二層のフロアボスだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二層のボスは二頭の巨大な斧を持った牛頭巨人だった。物理耐性が異常に高い金色のミノタウロスと、魔法耐性が異常に高い黒いミノタウロスがコンビを組んでいた。

攻撃力も高いのだが、何よりうざったいのはそのコンビネーションだ。物理耐性が低い黒ミノタウロスのHPが下がったり、集中攻撃を浴びたりすると金ミノタウロスが庇いに来るのだ。そして金ミノタウロスに物理攻撃はほとんど通らない。

ミノタウロスがそれぞれ自分の特性を活かして文字通り肉壁をするせいで全員がなかなか決め手を刺さずにいた。後方でユナがバフと回復、ブレイドが攻撃をしているが相手の瞑想で大量に回復をされて思わず舌打ちをしていた。

 

「さて、どうしたものか・・・」

 

「どうします?このペースだと180秒ほどでMPが底をつきます」

 

「こっちは100秒くらいだ・・・」

 

するとブレイドにある思いつきが浮かんだ。かなり博打な作戦だが、価値はあると判断した。

 

「先に金ミノタウロスを倒す!各々使えるソード・スキルを使え!!」

 

「「了解!」」

 

「まかせろ!」

 

「分かった!」

 

「シリカ、アイズと共にピナの泡攻撃を」

 

「任せてください!」

 

ブレイドの合図と共に全員が各々構えた。

 

「二・・・一・・・Now!」

 

「ピナ、『バブルブレス』!」

 

シリカの命令通りにピナが泡を出し、それが金牛の鼻先で弾ける、魔法耐性の低い牛は一瞬だけ幻覚魔法に囚われ、動きを止めた。

 

「GO!GO!GO!」

 

ブレイドのネイティブな声と共にユナとアスナ以外の全員が武器を持って色とりどりのライト・エフェクトを眩く迸らせた。

ピナの攻撃で大技を潰されて、一瞬だけスタンした金ミノタウロスに正面から自分とキリト、右にクライン、左にリーファ、さらにその後ろからシノンとリズベット、ノーチラスが一斉に突撃した。

 

「「うおぉぉぉぉおおお!!」」

 

キリトは片手剣八連撃ソードスキル『ハウリング・オクターブ』、ブレイドは両手剣スキル『スッコピード』でそれぞれ攻撃をする。息の合う二人はほぼ同時に金ミノタウロスにダメージを与え、さらにシノンのソードスキルも相まって一気にダメージが入った。

 

「うぉおお・・・!!」

 

キリトが四発目のソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を終えて硬直する。先程から一気に減り続けている金ミノのHPバー。キリトが硬直をした間に自分がソードスキル《アストラル・ヘル》で引導を渡した。

 

「いいタイミングだったぜ。ブレイド」

 

「そっちもな。キリト」

 

息を吐きながらキリトの手を取ると思い出したように黒いミノタウロスが雄叫びを上げるも、仲間がいないことに気づき、焦ったように見えた。

 

「・・・おーし、牛野郎。ちょっとそこで正座」

 

ちなみに言うがここのパーティーは殆どが脳筋プレイヤーである。この後のことは誰でも簡単に予想がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいよ・・・もう二時間ないかも・・・」

 

リーファがウルズから受け取ったメダルを見ながらつぶやく。ユイの情報では第三層は二層の七割ほどの大きさで、ボス層に至っては殆どがボス部屋で埋まっているそうだ。

チンタラしているわけにもいかず、ブレイド達は第三層を走っていた。

 

「そこのレバーです!」

 

「了解」

 

「次の道は少し狭いです」

 

「分かったわ」

 

ユイがマップを見ながら案内をする。若干チートじみたことではあるが時間がないと言うことで全員が黙認する形で先頭を一回もすることなくボス部屋にたどり着いてしまった。

 

「ムカデ型モンスターか・・・」

 

「なにあれ!」

 

「気、気持ち悪いデスゥ・・・・」

 

嫌悪感を示す女性陣を横目に男性陣は各々剣を持つ。

 

「気持ち悪いからさっさと終わらせるぞ」

 

「おう」

 

「時間ないしな!」

 

「急ぎましょう」

 

そして一斉に男性陣が駆け出してソードスキルと魔法を発動する。モンスターは攻撃力こそとても高いが防御力はそれほどでもなく、特に問題もなく一瞬で肩をつけていた。

 

「案外あっさり終わったな」

 

「そりゃオメエさんが突撃したからな!」

 

クラインがブレイドにツッコミをしながら一向が第四層に到着をした。ユイの情報通り一本道しかなく、そこを降りて行ったのだがここで思わずを止めてしまう事態が起こった。

 

「――助けて・・・・・・くだ、さい・・・・」

 

課金をしたのではないかと言うほど綺麗な女性プレイヤーが氷でできた檻に捕まっていたのだ。

氷の枷で手足を繋がれた彼女は弱々しい声で語りかけてきた。クラインがふらりと牢獄に近寄るのを、キリトがバンダナを掴んで引き留める。

 

「罠だ」

 

キリトの警戒は当然だ。ALOではこんな場合はほとんどのケースで罠だからだ。いかに運営の性根がひん曲がっているかが分かるだろう。

ユイも、このNPCのHPバーが有効化されているという、更なる不安要素を上げる。HPバーが搭載されているということはお助けキャラ――こんな美女が?――護衛対象――か、敵である。それに、サブクエストまで受けている余裕はない。要するに手を触れないのが安牌だ。

クライン以外の全員が罠だと言って避けようとしている中。不意に自分は名前を聞いた。

 

「失礼、お名前をお伺いしても?」

 

「ーーフレイヤと申します」

 

「おい!ブレイド」

 

「まあ待て」

 

キリトを抑えると自分はさらにフレイヤに話を聞いた。カーディナル・システムの性質を考えながらブレイドは考察をしていた。

 

「あなたはなぜこんな所に?」

 

「私はスリュムに盗まれた我が一族の家宝を取り返しにこの城へ忍び込んだのですが、三番目の門番に捕まってしまい・・・」

 

話を聞いたブレイドは話を合致させるとキリト達に言った。

 

「キリト、これは出しても大丈夫だ」

 

「・・・本気で言っているのか?」

 

「少なくとも罠ではないのは確かだ。これ以上言うとネタバレになるだろうから言わないがな」

 

「ブレイドもああ言っているしよぅ。良いだろう?」

 

キリトにクラインが説得し、ブレイドはパランジャを使い檻を切り倒した。

 

「――ありがとうございます。妖精の剣士様」

 

そしてウィンドウが表示され、ブレイドがそれを押すとパーティーに一つ枠が追加され、HPとMPが表示された。

 

「もし違ったら後で説教ね」

 

「大丈夫だろう・・・多分・・・」

 

まあ、今後の展開に任せると思いながらブレイド一向は先に歩き出した。

 

「ここから先はボス部屋だ。序盤は攻撃パターンを知るために防御中心だ。反撃のタイミングはこっちから指示をする。なにが起こるかわからないから注意してくれ」

 

全員の顔が引き締まり、キリトが声を上げた。

 

「ラストバトルだ!全開でぶっ飛ばすぞ!!」

 

「「「「「「「おー!」」」」」」」

 

全員が声を上げて一斉にボス部屋の突入をした。




今更だけど高評価とお気に入り宜しくお願いします。


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#40 凄腕

ブレイド達が突っ込んだ先にはボス部屋の前の空間があった。そこには狼が掘り込まれた重厚な扉があった。

ここでアスナとユナが全員にバフを張り直した。攻撃特化のブレイドの代わりにフレイヤがおそろしいほどHPが増えるバフをかけてくれた。

たった数単語でこれほどのバフがかけられるとは・・・是非とも教えて欲しいと思ってしまった。

そして、バフがかかった事を確認すると一斉に扉を開けて中に突入をしたが、そこで見たのは・・・

 

「スッゲェ・・・宝の山だぜ!」

 

「総額何ユルド・・・?」

 

そこには金銀財宝が山のように積まれており、思わずストレージ欄の空き容量を確認してしまった。

そして全員が金銀財宝に目を奪われているとズシンッ!と思い音が聞こえ、それがどんどん近づいてきた。

 

「――小虫が飛んでおる」

 

 重低音の声が聞こえる。

 

「ぶんぶん煩わしい羽音が聞こえるぞ。どれ、悪さをする前に、一つ潰してくれようか」

 

部屋の奥から霜の巨人が現れた。しかし並の巨人ではない。三層のフロアボスも十分に大きかったが、それを遥かに超す巨大さだ。恐らく翅が使えない現状では膝までしか剣を届かせられないだろう。

そしてボスはウルズの居場所を教えればここの財宝をいくらでもくれてくれるらしい。まあ、どっちみち戦闘になる事は確実なので無視をしていた。

しかしボスがフレイヤが花嫁だと言ったことに憤慨しており。これ事実知ったら号泣するのでは?と思ってしまった。

そんなこんなで話を終えた一向はいよいよボス戦へと突入した。

 

「来るぞ!全員序盤はユイの指示に従って避け続けろ!」

 

そう叫ぶと同時にスリュムの岩のような右拳が思いき振り落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユイの指示のもと、攻撃パターンを把握し、ある程度把握したブレイド達は動いていた。

前衛にキリト、クライン、リズ、リーファ。中衛にノーチラス、シリカ、ブレイド。後衛にはアスナ、シノン、ユナ、フレイヤの順で配置した。

遠距離で戦えるもので後ろを固めたジョブ的な配置で各自できる事をしていた。

スリュムが攻撃をしている途中でソードスキルと魔法を叩き込み。攻撃を中断させ、残ったメンツで追加攻撃。を十回ほど繰り返すと一本目のHPバーを減らすことに成功した。

 

「パターンが変わるぞ!みんな気を付けろ!」

 

キリトがそう叫び、スリュムが大きく息を吸うと口から氷のブレス攻撃をし、アスナ達のバフを貫通して前衛と中衛を凍り付かせていた。咄嗟に後ろに飛び退いたブレイドはギリギリのところで攻撃を避けていた。

 

「アスナ!」

 

「分かった!」

 

即座にユナとアスナが回復魔法の準備をすると広範囲に衝撃波を伝えるストンプをした。弾き飛ばされた者たちのHPバーが一気に真っ赤に染まる。

回復を一瞬で終え前に飛んだブレイドが指示を出す。

 

「シノン、三十秒頼めるか?」

 

「もちろん」

 

そしてヘイトを買ったブレイドは部屋を駆け回り、それを見たスリュムが雑魚モンスターを召喚・・・した直後にユナとシノンが全てを倒していた。

 

「騎士様」

 

ブレイドが走り回り、立ち止まるとフレイヤが声をかけた。

 

「このままではスリュムを倒す事は叶いません。やはり我が一族の秘宝を。あれを取り戻せば私も真の力を取り戻します。そうすればスリュムも退けられるでしょう」

 

「・・・分かった」

 

ブレイドは予想通りの展開にクラインに合唱をするとキリト達に事情を説明した

 

「キリト!こっちは奴を倒せる物を探す!なんとか持ち堪えろ!」

 

「りょ、了解!」

 

ブレイドは財宝の山の中からそのものを探すために久しぶりに雷装剣のソードスキルを使用した。使ったのは《迅雷》。雷系八割、打撃系二割のこの攻撃が財宝の山に刺さり、山の中から光る紫色の光を見つけた。

 

「あれだな・・・」

 

ブレイドは他の財宝に目もくれずに光を求めてかき分けると一つのものを取り出した。

それは金色の金槌であった。金槌を手に取ったブレイドはそれを思い切りフレイヤに投げつけた。

 

「フレイヤ!」

 

ぐるぐると回転しながら金槌はすっぽりとフレイヤの手に収まった。

さて、面白いことが起こるなと思いながらブレイドは戦場に再び戻ると雷鳴のような音と共に、キリトとクラインの悲鳴が聞こえた。

 

「「オッサンじゃん!!」」

 

そこにはさっき渡した金槌を持ったおっさんが何かを叫んでいた。表示を見ると《Freyja》の名前があった場所は《Thor》と名前が変わっていた。

ブレイドが合掌したのはこの事であり、後で詳しい話をしてやようと思っていた。

フレイヤではなくトールであったことに憤慨したスリュムは武器を持ち、トールの持つ巨大なハンマーと戦いを始めた。

 

「全員、ラッシュをかけろ!ここが正念場だ!!」

 

「「「「「「お、おう!!」」」」」」

 

一斉に全員がソードスキルや魔法を発動し、スリュムに攻撃を仕掛ける。よっぽど頭に来ていたのだろうか、スリュムはこちらの攻撃を機にもせずにトールに意識を向けていた。

そして全員の攻撃をモロにくらいHPバーがどんどん減少し、そして・・・

 

「ヌゥン!地の底に帰るが良い、巨人の王!」

 

トールのハンマーがスリュムの脳天を撃ち落とし、スリュムは轟音と共に倒れた。

 

「ふ、ふふ・・・。今は勝ち誇るが良い、小虫共よ。だが、アース神族を信ずることは勧めぬぞ・・・。彼奴らこそ、真の――」

 

スリュムの捨て台詞の途中でトールがスリュムの身体を踏み抜き、スリュムは粉々に砕け散った。

 

「さて、お主らの手助けがあって余は宝を取り返し、恥辱を雪ぐことができた。ーーどれ、褒美をやらんとな」

 

トールからのサブクエスト報酬のようだった。トールはハンマーの柄に指をやると、小さな光を自分に投げて寄越した。

 

「《雷槌ミョルニル》じゃ。正しき戦に使うが良い。アルブヘイムの住人達よ、さらばだ!」

 

そう言うとトールは雷になって消えてしまった。当然、フレイヤのHPMPの欄も消えてしまっていた。

 

「・・・ふぅ、なあブレイド。もしかしてこのことだったのか?」

 

「そうだ、クラインには少し申し訳ないがな」

 

「知っていたなら教えてくれよ・・・」

 

クラインが文句を言うとブレイドがキリトに言った。

 

「キリト、まだクエスト完遂じゃないぞ」

 

「?」

 

「ウルズからエクスカリバーを抜いてくれって・・・」

 

「あ!」

 

キリトが思い出し、ユイに聞いた。

 

「ユイ、マップに変化は?」

 

「台座の後ろに階段が生成されています!」

 

「じゃあ、そこだな。みんな行くぞ」

 

そう言うと全員で階段を降りて行った。キリトが三段飛ばしで螺旋階段を降りており、見るからに浮き足立っていた。

階段を降り切ると玄室のような部屋に辿り着き、中央には立方体の氷があり其処には・・・

 

「《聖剣エクスキャリバー》・・・」

 

「これが・・・」

 

キリトが長剣を手に持った。しかし、キリトの様子が少し変だった。

 

「・・・まさか」

 

一種の疑念が浮かんだが、キリトに向かって全員が声援を送っていた。

 

「がんばれ、キリトくん!」

 

「ほら、もうちょっと!」

 

「根性見せなさい!」

 

「パパ、頑張って!」

 

そしてキリトが精一杯力を込めた時。

 

「うわっ!」

 

勢いよく台座から剣が抜け、その反動でキリトがこちらにすっ飛んできた。すかさず、キリトを抱えると次にまた問題が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからともなく嫌な音が聞こえ、足元全体にひび割れが入った。

何が起こったのが全員が把握した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このスリュムヘイムが崩壊し始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラインがジャンプで上がろうとでもしたのか力を籠めて飛び上がり、凄い音を立てて着地した。その振動によってかは分からないが崩壊が一気に進み、自分らが乗っていた部分が完全に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

「クラインの馬鹿野郎があああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

ブレイドがそう叫びながら地面に思い切り落ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:Sinon

 

床が崩れた所までは覚えている。そっからの記憶が曖昧だった。しかし次に覚えているのは自分がブレイドにお姫様抱っこをされていたことだろう。

そしてブレイドが信じられないような事をしていた。

崩落するスリュムヘイムの氷の上を猿のように飛んでいたのだ。

 

「しっかり捕まっていろ。このままキリト達のいる所まで飛ぶ」

 

「わ、分かった」

 

そして、ブレイドがいとも簡単に氷の上を飛び、キリト達が今いるトンキーまで飛んでいた。おそらく落下中のキリト達を見つけて助けに来てくれたのだろうと思いながらブレイドに抱えられて無事にトンキーの背中に足をつけていた。

 

「「「「「ブレイド(さん)すげぇ・・・・」」」」」

 

今までの様子をバッチリ見ていたキリト達からそんな声が漏れていた。

しかし、トンキーに乗り込む時、キリトがエクスカリバーを手放していたのをブレイドは見逃さなかった。

さりげなくシノンに目線を向けるとシノンは小さく頷き、目測で弓を構えた。

 

「ーー大体二百メートルくらいか・・・」

 

「「「「「?」」」」」

 

弓を構え、スペルを唱えると弦を弾いて弓を放った。矢から光の紐が伸び、落ちていくエクスカリバーに向かって行く。

 

「いくらなんでも・・・」

 

キリトがシノンの行動の意味を理解し、思わずそう呟いてしまうが。矢はエクスカリバーに命中した。

そして、シノンが思い切り紐を引っ張るとエクスカリバーは引き寄せられ、シノンが両手で剣を持った。

 

「うわっ、重っ」

 

「「「「「「シ・・・シ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンさんマジカッケェーー!!!」」」」」」

 

全員が同じ事を呟き、シノンはポカンとしているキリトに剣を渡した。

 

「そんな顔しないでも上げるわよ」

 

「え!本当か!?」

 

「ええ、でも忘れないでね。この剣があるのはここにいる全員のおかげなんだから」

 

「勿論!!」

 

場がほんわかした空気となるも、キリト達は景色の変貌に思わず目を奪われた。

さっきまで氷の平原が広がっていた場所は緑が生い茂り、中央の空洞は大きな湖となってその周囲には大量の象水母が飛び回っていた。

景色をじっと見ていると突然声が聞こえた。

 

「見事に成し遂げてくれましたね」

 

それはクエストの依頼主のウルズである。

そしてウルズの横にはウルズと似たように綺麗な女性が立っていた。名をベルザンティといい、ベルザンティがキリトにお礼を言うと今度は鎧兜を被った人が出てきてスクルドと名乗り、大きく手を振りかざすと大量の報酬アイテムがキリトのストレージに入りきらずトンキーの背に溢れていた。

気のせいだろうか、少しトンキーが苦しそうな様子を浮かべたような気がした。後で気づいたが、トンキーに重量オーバーの十人乗っていた。それに気づいて、また今度目一杯慰めようと思うのであった。

そしてウルズから再度エクスカリバーを受け取り、ウルズ達が消えかけた時、クラインが前に飛び出した。

 

「スクルドさん!連絡先をぉぉお!!」

 

思わずツッコミたくなる発言だが末妹のスクルドがくるりとクラインの方を向くとクラインに光の球を渡し、クラインに手にすっぽりと入った。

そして完全に三人が消え、微風と沈黙が続いた。

 

「ーーー・・・今日ばかりはクラインを尊敬できる気がする・・・」

 

「ブレイドに同感ね・・・」

 

リズベットとブレイドに全員が頭を上下させた。

 

「・・・あのさ、この後忘年会とかどう?」

 

キリトの提案に全員が同じ事を言った。

 

「「「「「「賛成!」」」」」」

 

こうして今日参加した全員が忘年会をする事になった。



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#41 忘年会

二〇二五年 十二月二十八日 午後

 

御徒町のダイシー・カフェにバイクに乗って到着した修也と詩乃はバイクに牽引トレーラーをつけて店にやってきた。

店に入るとどうやら一番乗りだったようで店には誰もいなかった。

 

「エギル!」

 

「おお、修也か。今日は行けなくてすまねえな」

 

「いいさいいさ、こうやって店を貸してくれるだけで」

 

「お邪魔します」

 

そうして詩乃が席に座ると修也はエギルに厨房を借りると馬鈴薯とラム肉。野菜を切り刻んで炒めていた。

 

「今日は何を作るんだ?」

 

「詩乃が食べたいと言っていたシェパーズパイを・・・」

 

「ああ、そっか。そういやぁ修也と詩乃は同居しているんだっけか?」

 

「和人達には言わないで下さいよ」

 

「分かっているさ」

 

そう言いながら準備をしていると店の方がざわついており、和人達が来たのだろうと予想した。シェパーズパイもあとはオーブン放り込むだけなのでエギルに任せると店に戻った。

 

「キリト」

 

「あ、来ていたのか!アレ、持ってきたか?」

 

「ちょっと待ってろ。まだ最後のパーツを付けていないんだ」

 

そう言いながら店の外に一旦出た修也はトレーラーの蓋を開けて中からパーツを取り出した。

そしてバラバラのパーツを机に全て置くと明日奈達も興味深そうに見ていた。

 

「何これ?」

 

「八月に和人が注文をした品だ」

 

「八月って・・・四ヶ月も経っているの!?」

 

里香が驚きながら並べられたパーツを見ると修也は和人と鋭二を呼び寄せた。現在東都工業大学の学生をしている鋭二は修也の作ったものに興味を示していた。

分割したパーツを組み立てながら鋭二が修也に聞いてきた。

 

「これって・・・履帯?」

 

そう呟きながらパーツを組み立てた。見た目は履帯式の足に体と腕が取り付けられ、頭部に和人の作った《視聴覚双方向通信プローブ》を修也が改造した物が取り付けられた。

 

「これは?」

 

「本当はガン○ャノンみたいにしたかったが、予算がなくてこうなった」

 

「馬鹿言うな、見積もり出された時は腰が抜けたわ!」

 

「でもこれって・・・」

 

「ガ○タンク・・・」

 

「明日奈知っているのか?」

 

「ええ、兄が好きだったアニメだったから・・・」

 

そう言いながらガ○タンク・・・もといユイタンクは和人の最終調整を受けていた。

 

「ハードはこっちで作ったんだ。最後くらいは和人がやってくれ」

 

「アホゥ、こんなの作って貰って親が何もしないってど言う事だってばよ」

 

そう言いながら和人が修也の持ってきたPCを叩いていた。ユイタンクは大きさは80センチほどで、肩にはキャノン砲の代わりに砲身に見立てた外付けバッテリーを装着している。これで稼働時間は約一日と言った所である。腕はマキナに使った技術を使っているのでお盆をもつくらいは出来るようになっている。

マキナの場合は桁数がおかしくなるくらい金額をかけたので色々なことができるようになっていた。今入ってくる収入を貯め続ければいずれマキナの機体を完全新調するつもりである。

ユイタンクをマジマジと見ている鋭二は修也の技術に驚きながらユイタンクを見ていた。

 

「いずれはユイタンクを改造しようかな・・・」

 

「それはやめろ。これ作っただけでこっちは予算がすっからかんなんだから・・・」

 

「またバイトすれば良いだけだろう」

 

「まぁ、ユイのためなら・・・」

 

良いのかい。と突っ込みたくなってしまったが余計な事を言わないようにしていた。

そして和人がユイタンクに声をかけた。

 

「ユイ、どうだ?」

 

『す、凄い・・・ちゃんと見えるし聞こえるし、動かせます!』

 

ユイタンクのスピーカーから可憐な声が聞こえ、和人と修也がそれぞれカメラと本体のパーツの確認をしていた。

 

「問題はなさそうだな」

 

「そうだな。ユイ、試しに明日奈の所に動いてくれ」

 

『はい、パパ』

 

カタカタカタカタカタ・・・・・

 

ゴムキャタピラの回転する音が店に響き、ユイタンクは明日奈に近づいた。それを見た明日奈が興奮していた。

 

「凄い・・・・」

 

「腕の方も問題なさそうだな」

 

ユイタンクを確認した和人は顔を上げてボソッと呟いていた。

 

「あぁ〜、アクスレー社とかが美少女ロボットでも作ってくんねえかなぁ・・・」

 

「アクスレー社って、あのアメリカの医療メーカーの?」

 

明日奈が記憶をもとに和人に聞き返した。

 

「ああ、あそこは義手とかを作っている部門があるんだけど・・・そこの義手がすごいんだよ」

 

「あぁ、聞いたことあります。何か体の電気信号を増幅させて機械を動かして本物の腕のように動く義手があるって・・・」

 

鋭二が思い出したように顎に手を当てていた。修也もそれに乗っかっていた。

 

「ああ、アクスレー社はアメリカ最大手の医療メーカーで、医薬品から義手まで何でも作っている会社だな」

 

「そこで、和人さんはアスクレー社の義手が欲しいと?」

 

「そう、アクスレー社が美少女ロボットを作ったら俺は絶対買うね」

 

「義手をそのままユイちゃんに使うのは難しくないか?」

 

「まあ、そこはハード作るのが得意な修也さんのお任せしますよ」

 

「・・・まあ、その分の料金をもらえれば・・・」

 

「そこやるんだ・・・」

 

里香が若干引いていると今まで黙っていた詩乃が呆れた表情を浮かべた。

 

「その時の修也は凄かった。家に行った時に部屋に部品が散乱して・・・まともな食事もしていなかった・・・」

 

「「「へ、へぇ・・・」」」

 

全員が引いている中、和人は修也がマッド感を醸し出しているのが伺えた。

そして全員がユイタンクで盛り上がっているとエギルが料理を運んできて、和人が音頭を取った。

 

「それでは、ええ、今年の終わりと二つの伝説級武器の獲得を祝して、――乾杯!」

 

「「「「「「乾杯!」」」」」」

 

こうして忘年会が始まった。

 

ーーある者はエギルの料理を頬張り。

ーーある者は修也の作ったシェパーズパイに舌鼓を打ち。

ーーある者は由那の生歌ライブに盛り上がり。

ーーある者は年越しをどうしようか悩んだりしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店の端でユイタンクを見ながら修也は満足感ある表情を浮かべていると詩乃が声をかけてきた。

 

「どうなの?自分の作った物を見て」

 

「満足感はあるな。やっぱり何かを作るのは気持ちがいいな」

 

そう呟いて桜色のユイタンクはキャタピラを回転させてクルクル回っていた。いつのまにか超信地旋回している事に若干の驚きをしつつもユイタンクを眺めていた。

 

「和人が出した予算でも案外作れるんだなとも思った」

 

「まあ、マキナちゃんは色々と別次元でお金かかっているし・・・ね」

 

詩乃はマキナにかかった金額を聞いて目玉が飛び出しそうになった事を思い出すと思わずクスクス笑ってしまった。

 

「何笑っているんだ?」

 

「いえ、修也が楽しそうにユイタンクを作っているのを思い出してね」

 

「そうか・・・」

 

修也は詩乃を見てドリンクを一口飲むと修也が詩乃に言った。

 

「あ、そうだ。詩乃、春にアメリカ旅行の予約とったぞ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、前に友人達に呼ばれて聞いてみたら良いって返ってきたんだ」

 

「そうなのね・・・」

 

あっさりと海外旅行に行く事を伝える修也に詩乃は若干顔が引き攣っていた。修也はそんな詩乃を見て話し続けた。

 

「大丈夫さ、パスポートの申請もしたし、向こうでは色々と教えてあげるから」

 

「じゃあ、お願いするわね」

 

そうして二人は忘年会を楽しんだ後、先に店を後にした。同居している事を悟られないようにする為に少しだけタイミングをずらして出ていった。

そして店の外で修也の運転するバイクの後ろに詩乃が乗り込むとバイクを走らせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修也と詩乃が居なくなった店で、ユイタンクを眺めていた和人は明日奈、里香、圭子、直葉、由那、鋭二を集めて会議を開いていた。

 

「あの二人、どう思う?」

 

「カップルっていうのは言わなくてもわかる」

 

「あんなに修也さんが優しい表情するなんてないですもの」

 

「だよなぁ〜」

 

和人が腕を組んで頷くと由那と鋭二が疑念を打ち明けた。

 

「でも何というか・・・」

 

「もっと大きな隠し事をしている気がしますね・・・」

 

「「「「「あぁ〜・・・」」」」」

 

全員が声を上げて修也と詩乃を思い浮かべる。タイミングはずれていたが修也と詩乃が目配せしていたのは全員が気づいていた。

 

「修也さんって嘘をつくのが下手ですよね」

 

「あぁ・・・」

 

「確かに」

 

明日奈と和人が学校での修也を思い返しながらそう呟く。確かに大人びているようにも思う修也は隠し事が下手な印象があった。

 

「じゃあ、何だろう。修也と詩乃がカップル以外で隠したい事・・・」

 

里香の疑問に由那がハッとした様子で思い浮かんだ。

 

「まさか・・・同棲・・・?」

 

「同棲?」

 

「はい、エー君と私もしているんでるけど・・・」

 

「あり得るかもしれないですね・・・」

 

由那の疑問に里香が疑問を鋭二が肯定をしていた。和人は鋭二の予想を聞いて

 

「同棲か・・・あり得るわね・・・」

 

「もし本当に同棲していたらどうする?」

 

「そりゃあ、暖かく見守っておけば良いんじゃないか?」

 

「そうだね、修也さんとしののんがカップルなのはみんな知っているし・・・」

 

和人達がそんな話をしている横でクラインとエギルはカウンターでブランデーを嗜んで盛り上がっている和人達を優しい目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうせやるならユージオ生存のUR編やりてぇ・・・


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#42 年越し

ダイシーカフェを後にした修也は詩乃と共に実家に帰っていた。

詩乃はまだ数回しか来ていない修也の実家に緊張をしていた。修也は詩乃をエスコートしながら玄関に入ると

 

「帰ったよ、父さん」

 

「ああ、修也。こっちだ」

 

「お久しぶり、詩乃さん」

 

「あ、お、お久しぶりです」

 

少し慌てて挨拶をした詩乃に由美子は小さく微笑むと詩乃を連れて何処かに連れていった。恐らくは母の私室で、振袖の試着だろう。

そんな予測をしながら修也は父親の方を振り返ると父が話してきた。

 

「修也、今日はもう帰るのか?」

 

「いや、今日は泊まろうと思っているよ。母さんが燃えていたから」

 

「そうか、じゃあ今年は家族が増えるわけだな」

 

「まだ結婚するってわけじゃ・・・」

 

修也が苦笑しながら言うも、藤吉は爆弾発言をした。

 

「義親父にはもう言ったぞ」

 

「早すぎるよ・・・そんな事したら祖父さん、絶対赤飯持ってきますよ・・・」

 

「まあ、義親父は明日からここに来る予定だがな」

 

「ちなみに聞くけど。ここに来る理由は?」

 

「孫の彼女を見に来たいとさ」

 

「はぁ、何してんだか・・・・」

 

修也は頭を抱えながらソファーに座ると母と詩乃が奥の部屋で何か興奮しているような声が聞こえた。

母は元モデル。スタイル抜群でデザイナーとの関係も多く、恐らくは母が詩乃のために注文した洋服などを着せ替え人形のように着させているのだろう。用意に何が起こっているのかが想像でき、ため息をついた。

 

「はぁ・・・後で母さんを呼びに行かないと・・・」

 

「そうだな・・・」

 

二人して奥から聞こえてくるバタバタした声を聞いてどうなっているのかを想像していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修也のお母さんに連れ込まれたのは洋服部屋で、化粧台に座らされた私は由美子さんから化粧をされて、その後に洋服をたくさん着せられた。

 

「詩乃ちゃんは何着ても似合うから羨ましいわぁ」

 

「い、いえ、そんな事ありませんよ」

 

「あ、これもやっぱり似合うわねぇ。良いわぁ、わざわざ頼んだ甲斐があったわ」

 

半分興奮状態で次から次へと服を持ってきて詩乃の写真を撮っていた。どうやら知り合いのデザイナーに様子を送るそうだ。

そしてどっさりと積まれた洋服を見て、どれも高そうだなと思いながら眺めていた。

二回ほどこの家にはお邪魔させて貰っているが、修也の両親がすごいお金持ちだと言うのはよく分かった。

修也の父、藤吉さんは国会議員をしており、母の由美子さんは元モデルをしていたらしく、とても綺麗だった。

どうせならと私も赤羽家の年越しに参加する事になり、その事を自分の祖父母に連絡すると向こうも了解をしてくれていた。

そして今現在、私は修也の母の由美子さんに着せ替え人形にさせられていた。

修也達はどうしているのだろうかと思っていると修也が由美子さんを呼びにきていた。

 

「母さん、父さんが呼んでいたよ」

 

「あら、もうそんな時間?じゃあ、詩乃ちゃん。また後でお願いね」

 

「あ、はい。分かりました」

 

「あまり疲れさせないでよ?」

 

「ええ、分かっているわ」

 

そう言って軽い足取りでリビングに戻るのを確認すると修也は詩乃を連れて家を案内した。

 

「今までゆっくりと出来なかったから・・・家を案内するよ」

 

「あ、うん・・・お願い」

 

初めてきた時は修也の両親は大慌てで色々とテンパっており、まともに話すことができておらず、その後も詩乃のスタイルに目をつけた由美子さんが私を着せ替え人形にしていた為、家の紹介をして貰っていなかった。

修也の両親は修也が彼女を作っていた事にすごく驚いていてそれはもう色々と凄かったのは覚えていた。

まだ彼女となっただけなのにいつの間にか祝杯をあげたりしており、修也が必死に説明をしていた。その時の顔は少し面白かったのはここだけの話だった。

修也に連れられて家の中庭を二人は歩いていた。

 

「ここは家の中で一番好きな場所なんだ」

 

「そうなのね」

 

そこには蕾のままの椿や薔薇。さらには桜や柿、梅の木など様々な花が植えられていた。

そんな中庭の隅にある金属製のベンチに修也と私は腰をかけた。

 

「ここは植えてある庭の花が全部見えるんだ。家族ではここを『小さな花の御所』と呼んでいる」

 

「そうなのね・・・」

 

煉瓦が敷き詰められた小道の横に咲く草木、確かにここは一年中花を見ることができそうだった。

 

「静かで風が吹き、季節毎にそれぞれの花の匂いがする。その中で本を読むのが好きだった」

 

「そうなの・・・」

 

詩乃は不意にここで本を読む事を想像していた。

確かにここは良いかもしれない。そんな事を呟くと詩乃は思わず修也を見ると修也は懐かしそうに中庭を眺めていた。

 

「・・・さて、戻ろうか。母さん達が夕食の準備をしているだろうし」

 

「そうね」

 

二人はベンチから立ち上がると家に戻り、詩乃は由美子に呼ばれて夕食の手伝いをしていた。

修也は藤吉とリビングで何かを話し、談笑をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後、詩乃は修也に案内されて修也の部屋に来ていた。

 

「ここが私の部屋。隣が物置だ今日寝るのはここの和室だ」

 

「ここが修也の部屋・・・」

 

置いてある者は少なく。殺風景な部屋は今住んでいるマンションの部屋とは大違いだった。

 

「修也はここで寝るの?」

 

「そうしようかと思っていたが・・・今日は詩乃の隣で寝るか・・・」

 

修也の計らいに詩乃は少しだけ頬を赤くすると修也が思い出したように詩乃に言った。

 

「ああ、そういえば明日。祖父が詩乃に会いに来るって言ってたな」

 

「え?なんで?」

 

「理由はわからないけど、とにかく来るんだってさ」

 

「修也のお祖父さんか・・・」

 

「あ、因みにイメージとは違うと思うから気をつけてね」

 

「どう言う事?」

 

「あの人は色々とぶっ飛んでいるから・・・」

 

修也の言っている事に詩乃は若干緊張をしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、終夜の家に一人の来客がやって来た。

 

 

「修也!元気にしとったか!?」

 

 

耳をつんざきそうなほど大きな声で挨拶をした老人が玄関で出迎えた修也を見ていた。

 

「祖父さん、お久しぶりです。お元気そうでなによりです」

 

「はっ!はっ!はっ!まだまだ若いもんにも負けんよ!」

 

下手をすればそこら辺の若者より威勢がいいのではないかと思ってしまうほどの張りのある声は詩乃にもよく響いていた。

 

「は、初めまして・・・」

 

「ん、おお!君か!修也の彼女と言うのは。私は秋元真之と言う。宜しく」

 

そう言い、詩乃に手を出すと、詩乃は真之の手を握り、その手の皮の硬さに驚いた。

真之は靴を脱いで玄関に上がるとカバンを片手に居間に入った。

修也と詩乃はそのまま二階に戻っていった。

 

「今日は案外早いな、義親父さん」

 

「愛孫に彼女が出来たんだ。喜ばない筈がなかろう」

 

そう言い居間のソファーに座り込むと由美子がお茶を出した。

 

「長旅、お疲れ様です。お父さん」

 

「すまんな由美子」

 

そう言いお茶の飲むと真之が顔を顰めながら言った。

 

「また親戚から修也の縁談の話があった」

 

「またですか?」

 

「ああ、しかも今回は面倒な方法でな」

 

年相応の重圧感を醸し出しながら真之は文句を言うように呟いた。

 

「見合い相手は結城明日奈と言う修也と同い年の少女だ」

 

「また面倒事を・・・」

 

「どれだけ修也に迷惑をかける気なのでしょう・・・」

 

「全くだ。恩を仇で返すとはこの事だな。向こうは善意のつもりなんだろうが、こっちはありがた迷惑だ」

 

居間にいる三人が静かに憤慨していると修也が詩乃と共に階段を降りて一階に来ていた。

 

「父さん、ちょっと詩乃と出かけてくる」

 

「ああ、分かった」

 

「気をつけてね」

 

「行って来ます」

 

詩乃が最後にそう言い残し、玄関の扉が閉まる音がすると真之が詩乃の感想を言った。

 

「良い子じゃあないか。修也が好きになったのもわかる」

 

「ええ、詩乃ちゃんは本当にいい子ですよ」

 

「初々しいと思ったな」

 

「あれはそのまま結婚する感じだな」

 

「義親父もそう思ったか?」

 

三人がさっきの二人を思い出すとさっきまでの雰囲気は消え、息子の将来を楽しみにする温かいものに変わっていた。

 

「このまま婚約すれば修也に無駄な縁談が来なくなるな」

 

「そうなると、良いですね」

 

「なるだろう。まぁ、その前に今度の結城明日奈嬢の縁談をどうしようか・・・」

 

「お断りは・・・難しいか・・・」

 

「そうね・・・」

 

「「「はぁ・・・」」」

 

思わず三人がため息をついてしまい、どうしようか模索をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が勝手に縁談に巻き込まれている事も露知らず、修也と詩乃は東京は上野のアメ横に来ていた。年の瀬も近いここでは正月料理に使う食材を扱っている店がほとんどであった。

 

「修也、お正月はどうするの?」

 

「そうだな・・・詩乃が望むなら何か作ろうかとも思ったが・・・」

 

そんな事を話しながら店で商品を買う駐車場に戻り、バイクに跨った。

 

「行けるか?」

 

「勿論」

 

そしてエンジンをかけ、二人は寄り道をしながら帰宅の途についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は飛んで十二月三一日、修也達は上野にある寺院に来ていた。

 

「今年ももう終わるのね」

 

「そうだな」

 

初詣に来た修也達は人の多さに驚きながら賽銭を投げる準備をしていた。

 

「しかし、こうも人が多いと移動だけで大変だな・・・」

 

「そうね、順番はいつくらいになるかしら?」

 

そう言いながら二人は順序よく歩くと時刻は午後二三時五〇分となった。

そして、修也達が順番となった時、時刻は午前〇時を示した。

賽銭を投げ、二礼二拍一礼をし、修也と詩乃は手を合わせた。

 

「「・・・」」

 

互いに願い事をした二人は寺院を後にした。帰り道、詩乃が修也に聞いた。

 

「修也はどんなお願い事したの?」

 

「それは言えない。縁が逃げる気がするから」

 

「それもそうね。じゃあ、このまま帰りましょ」

 

「そうだな、父さん達に新年に挨拶をしないといけないしな」

 

二人は足早に寺院を後にすると家に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に戻り、朝起きた詩乃は母に連れられ洋服部屋へ、自分はなぜか袴を着せられていた。

 

「なんでこれを・・・?」

 

「義親父が持ってきたんだ」

 

「うむ、似合っているじゃないか」

 

真之が袴姿の修也を見て感嘆の声を漏らしていると母が詩乃を連れで洋服部屋から出てきた。

 

「おお!」

 

「似合っているじゃ無いか」

 

そこには向日葵柄の振袖を着た詩乃がいた。見た事無い柄だったのでおそらくこれも特注品だろう。

ひまわりの花言葉は『あなただけを見つめる』

母の計らいに気づいて修也は詩乃の振袖姿を見ていた。

 

「すごい、綺麗だよ」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

一瞬だけ二人が固まった後、母が二人を庭に出すとちょうど咲き始めている梅の木の下で二人を立たせていた。

呼んでいたのだろう。外には大きなカメラを持ったカメラマンが二人を待っていた。

どうやら母の仕事の知り合いのカメラマンだそうだ。

 

「二人とも似合うわよ」

 

「ええ、すごいいい写真が撮れそう!!」

 

半分興奮気味でカメラを構えられ、シャッターが切られていた。

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの時撮った写真は今でも額縁に入れられて飾られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真を撮り終え、少しの間だけ庭をゆっくりと二人は歩いていた。

 

「詩乃」

 

「何?」

 

詩乃の疑問に修也が詩乃に小さな赤い箱を渡した。

 

「これって・・・」

 

「中を開けてみてほしい」

 

渡された赤い革製の箱を開けるとそこにはが中央にダイヤモンドが埋め込まれた指輪が収まっていた。

 

「私からの気持ちとして受け取ってほしい」

 

「いいの?」

 

私いきなりだなぁ、と言う気持ちだったが、修也は頷いた。

 

「ああ、詩乃と居るおかげで私は毎日が充実している。そのお礼だよ」

 

「ありがとう・・・。大事にする」

 

そう言うと修也が箱から指輪を取り出して詩乃の左手薬指に指輪を付けると詩乃が修也に抱きついていた。

 

「私からのお返し。これからもよろしくね」

 

「ああ、宜しく」

 

後日、詩乃がつけている指輪で一騒動起こるのだが、ここでは割愛をさせてもらう。

こうして婚約をする事になった二人は庭から戻ると両親達がニヤニヤしながら見ていて上手く行った事に喜びをあらわにすると、そのまま父の呼んだ車に乗せられてマンションに帰宅する事になった。




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#43 新しい家族

二〇二六年 一月一日

 

父の車に乗って帰宅した修也と詩乃は玄関で口をアングリとさせていた。それはマキナと手にあるタブレットに映る一人のアバターだった。

 

「「何方?」」

 

「新しい家族です!」

 

「いやいやいやいや、説明!説明して!」

 

「マキナ、何があった・・・?」

 

玄関で正月姿の二人がマキナと揉めているとタブレットの中のキャラクターが挨拶をした。

 

『昨日からここでお世話になったストレアでーす』

 

「すとれあ・・・??」

 

「私から詳しい話をしますね」

 

そう言いマキナがこうなった経緯を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年末の十二月三一日、修也も詩乃もいない家で一人待っていたマキナは興味本位でALOのアカウント(前に修也に買ってもらってた)を使ってログインをしていた。

そして適当に武器とかを漁り。修也のALOでのアバターを探して、拠点まで向かったら修也のアバターの近くで修也の事をずっと見ている人がいた。

薄紫色の髪をした女性は修也・・・ブレイドの拠点で待っているのを見たマキナはそっと声をかけた。

 

「あのぉ・・・」

 

「っ!?ビックリしたぁ、君誰?」

 

「いやぁ、マス・・・ここの住人の知り合い」

 

「じゃあ、ブレイドの知り合い?」

 

前に聞いていた修也のプレイヤー名で聞かれ、マキナは苦笑しながら頷いた。

 

「うんまぁ、そんな所」

 

そんな感じでブレイドの宿屋の外で二人は壁に背を当てながら二人で話していた。

 

「名前は?」

 

「ストレアって言う。君は?」

 

「マキナ」

 

「マキナね・・・」

 

お互いに名前を聞き、マキナがストレアに質問をしていた。

 

「何でここでブレイドを見ていたの?」

 

「うーん、君なら分かるかもね。ブレイドは私が目覚めた原因だし」

 

「目覚めた・・・?」

 

「そう、ブレイドはSAOの75層、つまりお父様・・・茅場晶彦との最後の戦いの時に戦いに敗れた。()()()()()は死んでいて、最終フェーズが行われるはずだった・・・」

 

「・・・」

 

マキナは修也から聞いていたSAOでの最後の話を思い出しながら話を聞いていた。

 

「だけど、最終フェーズがエラーを起こして実行されなくて、アバターの残像が残って、それがゲームクリアへと導いた」

 

「そうだったのね・・・」

 

マキナが頷くとストレアの言葉に違和感を感じた。

 

「ん?お父様・・・?・・・っ!?まさか・・・」

 

するとストレアが笑みを浮かべた。

 

「そう、私はAI。MHCPの試作二号よ。・・・初めまして従姉さん」

 

そこまで知っているのかと思った。NTDP(次世代トップダウン型試作人工知能)の自分に気付いているととは・・・するとストレアがマキナの気持ちを感じたように答えた。

 

「ゲームがクリアされて、SAOのデータが消去される中。私は《ザ・シード》のメインプログラムに逃げ込んだんだ」

 

「そこで自分の修復をしながら、ブレイドに関する情報を集めて、あなたの事を知った」

 

「成程、じゃあマスターの事もよく知っているのね」

 

「勿論、修復と最適化に思いのほか時間が掛っちゃってブレイドに会いに来れるようになったのが最近なんだよね」

 

もはやマスター呼びを隠さずにマキナとストレアが話していた。

 

「でも、ストレアはどうなるの?ログを見るとだいぶシステムに干渉したみたいだけど・・・」

 

「そうだね。多分、カーディナル・システムによって消されちゃうんじゃないかな・・・」

 

マキナはこの時、どうしたものかと考えていた。今自分に使われているシステムはカーディナル・システムの前身『ジェネシス・システム』と呼ぶものだ。ジェネシス・システムはカーディナル・システムとも相互性はあった。

 

どうしようかと考えた末、マキナは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、ストレアを自分の住処(修也のサーバー)に移したと?」

 

「そういう事です。マスター」

 

『従姉にサーバーの一部を間借りさせてもらっています』

 

「・・・私、もう訳分からないんだけど・・・」

 

振袖をしまい、居間のソファーで天井を詩乃は仰いでいた。修也も私服に着替えてストレアのいるタブレットを見ていた。

 

「詩乃、どうする?」

 

「どうするって言ってもねぇ・・・」

 

「和人に聞いてみるか・・・」

 

修也は徐に携帯を取り出すと和人に連絡を取ると和人からは・・・

 

『ユイの妹ならウチに来て欲しいけど俺のPCのスペック足りないし・・・生まれを聞いたけど、修也の方が良いんじゃないか?』

 

と言われ、ストレアはそのままうちのサーバーにいてもらう事になった。

 

『宜しくね〜』

 

「ストレアには私から色々と教えておきますね」

 

「ああ、色々と教えておいてくれ」

 

「お任せあれ!」

 

そう言って修也の部屋に戻ったマキナ達を見て修也と詩乃は乾いた笑い声をしていた。

 

「ハハハ・・・新年早々慌ただしいわね・・・」

 

「全くだ・・・色々と問いただしたいことが出来た・・・」

 

「またアレ作るの?」

 

「設計図はあるからな。二週間もあれば作れるだろう。部品はマキナの型落ち品とかを流用すれば良い」

 

修也はどこか嬉しそうな口調で詩乃と話していると修也の携帯に連絡があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・と言うことでこちらが家でお世話になっているストレアです」

 

「宜しく〜」

 

クリスマスにキリト達が買い直した22層のログハウスでブレイドはストレアの紹介をした。ログハウスにはキリト、リズベット、シリカ、ユイ、クラインがいた。ブレイドの紹介を受け、挨拶をしたストレアにクラインがナンパしようとしていたがストレアにあっさり断られて灰になっていた。

 

「新年早々忙しいな」

 

「こっちのセリフだ。全く、こっちは今すぐにでもログアウトしてやりたい・・・」

 

「あんたも大概面倒ごとを引き寄せるわね・・・」

 

「た、大変ですねぇ・・・」

 

「チキショウ・・・俺には興味もないのかよ・・・」

 

集まった五人にストレアが話した。

 

()()()()には色々と教えてもらっていまーす」

 

「マスターって、ブレイド?」

 

「そうです。マキナからそう言うように言われました」

 

「マキナちゃんが?」

 

「そうです」

 

軽い挨拶を終わらせるとブレイドはストレアの話をした。

 

「彼女はこの姿にもピクシーにもなれる。十分な戦力になるだろうな」

 

「何かあったら呼んでね」

 

「じゃあ、私はこれからストレアの機体を作るからここらへんで失礼するよ」

 

「げっ、またアレ作るのかよ」

 

「何か問題でも?」

 

「母さんがユイタンク見て興奮して『作った人誰!?』って聞いてきていたんだよ」

 

「別に好きで作るから良いだろう」

 

「うんまぁ、そうなんだけどさぁ・・・」

 

キリトが微妙な表情をしながら苦笑をしているとブレイドはログハウスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ログアウトした修也は寝ていたソファーから起き上がると自室に篭ってパーツを掻き集めていた。

ユイタンクを作った経験からさらに改良した物を作りたいと紙に何が書き始めていた。

その様子に詩乃とマキナが苦笑してしまっていた。

 

「は、早いわね・・・」

 

「まぁ、元気だから良いじゃないですか。明日からは初売りの店もあったりしますし、部品が安く手に入ると思えば・・・」

 

「帰ってくるまでに料理作っておかないと・・・」

 

「ストレアも戻ってくるのに時間かかりそうですしね」

 

「何しているの?」

 

「キリトさん達と早速ダンジョンに潜っています」

 

マキナの追跡システムでストレアの居場所を確認した詩乃は苦笑していた。

 

「あいつも新年早々早いわね・・・」

 

詩乃は台所で雑煮を煮ていた。修也の好みで甘い出汁を使い、焼いた餅を入れていた。

 

「マスターは甘党ですね〜」

 

「アレで太らないから羨ましいわね」

 

「その分頭を動かしているとも言います」

 

詩乃はマキナの優秀さに舌を巻きながら鍋に火をかけていた。修也はリビングであーでもないこーでもないと頭を捻らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストレアが戻ってきたのは午後六時を回ったところだった。

 

『帰りましたー』

 

「意外と遅かったね」

 

『いやぁ、思いの外盛り上がってねぇ・・・』

 

「楽しかった?」

 

『勿論、両手剣を使ってブンブン振り回していたよ』

 

なんかブレイドと似たような戦い方だなぁ、と思いながら詩乃が淹れた紅茶を飲んでいるとストレアが修也の居場所を聞いた。

 

『あれ?マスターは?』

 

「修也は今部屋に篭っているわ。貴方の体を作るって夢中よ」

 

『あぁ、ユイタンク?とか言うやつですか』

 

「そうよ、修也はああ見えて造るの好きだから」

 

そう言うと詩乃は夕食の準備をし始め、ストレアはマキナの体を興味深そうに見ていた。

 

『従姉さん。その体はマスターが作ったの?』

 

「そうよ、マスターが体を、プログラムはお兄様が作ったのよ」

 

『へぇ〜』

 

ストレアがタブレット越しにマキナの体を見ているとマキナは部屋の隅にある充電器椅子に座り込むとストレアのいるタブレットに移動をした。

 

『ふぃ〜、あの体も結構疲れるのよね』

 

『そうなんだ』

 

『乗ってみたら?ハード自体はストレアもいけるはずよ』

 

『何それ面白そう!』

 

ストレアがマキナに誘われて機体に乗り込むとストレアは感想を言った。

 

「ほうほう、確かにマキナ従姉の言う通り、不思議な感覚ね」

 

『慣れると結構いいものだけどね』

 

二人がそんな事を言っていると部屋から修也が出てきた。

 

「あら、ちょうど良いところに」

 

「?」

 

「ちょっと手伝って」

 

「ああ、了解」

 

台所で家事を手伝っている修也と詩乃を見て二人のAIは微笑ましく見ていた。

 

『なんか、あったまるね』

 

『同感。私、またゲームしようかな・・・』

 

『だったらオススメのがあるよ!』

 

『なんのゲーム?』

 

『GGOって言うマスターとアメリカの友人さん達で作ったゲーム!』

 

『マスターが作ったならやってみたいかも』

 

『じゃあ、マスターに相談してから決めよう。あれ、通信料高いし』

 

修也のサーバー内で聞こえない会話をしている二人はリビングにあるタブレットで修也に早速相談していた。修也は台所から野菜の乗った皿を机に置いていた。

 

『マスター、二人でGGOがしたいです!』

 

「ん、いいぞ」

 

『すごいあっさり!?』

 

「何か問題でも?だが、通信費はどうする気だ?」

 

『ゲーム内で稼いで行こうかと。私たちは時間の制約もありませんからずっと潜り込めますし』

 

「じゃあ最初の月だけ払っておくからあとは損しない程度で自由にしなさい。支払いは私のカードを使うといい」

 

そう言うと修也は台所に戻って行った。あっさりと許してくれた事にストレアが拍子抜けといった様子だったがマキナはそんな事も気にせずに二人分のアカウント作成をしていた。

 

『さ、すぐに行くよ。今日はマスターと詩乃さんだけにしたいんですから』

 

『本当の目的絶対そっちやん・・・』

 

『むしろ私がいると二人は気を遣ってしまうからね。お邪魔虫はゲームで目一杯遊ぶのです』

 

『まぁ、そっちの方が幸せという事もあるのか・・・』

 

ストレアはマキナのサーバーから今の外の様子を見ていると確かに今の雰囲気に割り込むのは地雷臭がプンプンしていた。

 

『さ、準備ができたから行くよ』

 

『わぁ、待ってよ従姉さん!!』

 

そうして義姉妹はさっさとゲームの世界に向かって行った。

この後、修也と詩乃の二人は数少ない冬休みをほとんどの時間を二人きりで過ごしていた。





作「アンケートで多かったから迷ったけど出す事にしました」
修「だからと言ってこの時期は頭おかしい」
作「そうか?」
修「この後のこと考えているか?」
作「いいえまったk「処刑!」ゴフゥ!!」

その後作者は暫く姿を消したと言う・・・・


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マザーズ・ロザリオ編
#44 キリトの要請


一月六日 二十二層ログハウス

 

ブレイドはアスナ達に頼まれて冬休みの課題を教えていた。

 

自分の分?そんなものは宿題が出された日に一時間で終わらせた。

 

そんなわけでいまだに宿題の終わっていないシリカなどの質問に答えていた。

 

「ブレイドは今年もGGOメインで行くの?」

 

「ああ、剣より銃の方が好きだからな」

 

「ぶっちゃけたわね・・・」

 

リズベットが苦笑しながらブレイドを見ているとブレイドはシリカに宿題を教えていた。しかし、教え方が下手なのかシリカはあまり理解ができていない様子だった。それを見ていたアスナが思わず苦笑していた。

 

「ブレイドって、わからないところが分からないタイプの人?」

 

「そうかもな」

 

「うわっ、腹立つ奴だわ」

 

同級生だからブレイドが学校での成績が良いことはよく聞いている。

日本にいるよりもアメリカにいた時間の方が長かったから英語が出来るのはよく分かるが、専門外であるはずの生物学が専行してるリズベットよりも出来るのはどうかと思っていた。

 

「まあ、毎日やっていればこうなるだろう」

 

「ゲームやっててそうはならん」

 

「同感よ」

 

「そうですよ」

 

「こっちは好きでやっているんだ。何か問題でも?」

 

「わぁ・・・勉強するのが好きな典型的な学者気質ね・・・」

 

「羨ましいな・・・」

 

リズベットとアスナが思わずそう言ってしまうとブレイドはアスナによって教育係を外されてしまった。

 

「後は私がやるから。ブレイドはゆっくりしてて」

 

「・・・」

 

遠回しにお邪魔虫と言われ少しショックを受けているブレイドはそのまま用事があると言ってログアウトして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ログアウトした修也はベットから起き上がると詩乃が横で本を読んでいた。

 

「あら、お帰り」

 

「時間かな?」

 

「そうね、私は準備できているから修也は後から来て」

 

「了解」

 

現在、部屋の模様替えをして詩乃と修也の寝室となっている部屋でダブルベッドで寝ていた修也と詩乃は寝室から出るとマキナが台所で米を研いでいた。

 

「マキナが・・・料理・・・?」

 

プログラムにない行動をしているマキナに修也が?マークを浮かべているとマキナがその理由を言った。

 

「奥様のために料理データを勉強しました。一通りの動きは出来ますよ」

 

「奥様って・・・」

 

詩乃が顔を赤くしながらマキナに文句を言っていた。数日前からマキナは詩乃を奥様呼びしており、何度注意しても治らない事から修也は半分諦めていた。

 

「ストレアはどうした?」

 

「従妹は今は寝ています」

 

「そうか・・・」

 

ストレアの現状を聞いた修也は現在リビングの端にあるパーツを眺めながら呟いた。

 

「ストレアのためにさっさと作るか・・・」

 

「何か手伝おうか?」

 

「お願いしよう」

 

「じゃあ、私は何か適当に作ります」

 

そう言うと修也と詩乃はリビングでパーツの組み立て、マキナは台所で包丁を握っていた。

マキナが料理プログラムを覚えたことに若干の不安感を抱きながら修也はマキナを観察しながら部品を組んでいた。ユイタンクの時とは違い、最初から設計図がある状態での設計のため部品自体は簡単に組み合わせながら作り、詩乃も協力してくれるので比較的早めに完成しそうだった。

後はソフトの部分をストレア自身にやってもらえれば良い。彼女の演算能力はユイよりも少し高いようでソフトを組むくらいは簡単に出来るようだった。

ストレアの演算能力を測るためにストレアと徹夜で何戦もチェスをしていたのは記憶に新しい。

 

「詩乃、そこにあるナットを取ってくれ」

 

「これで良い?」

 

今はストタンクと命名されるはずの機体の履帯部分を作っていた。千鳥式転輪と呼ばれるティーガーⅠ戦車などに採用された転輪を四つ分製作していた。

 

「ユイタンクの時は予算の関係であの大きさだったからな、今回は満足のいくものを作ろう」

 

その時、今までで一番目が輝いているようのも見えた気がした。プラモデルを転用した部品を使ったり、どこから持ってきたの変わらないゴム履帯を持っきて装着したり、マキナの型落ち品の部品を持ってきてそれを付けていた。

今日買ってきた部品も合わさり、半分くらいは完成してきていた。

 

「なんか・・・デカくない?」

 

「そうだろうな。色々ユイタンクから巨大化させたからな」

 

そこにはユイタンクとは違う見た目をし、強いて言うならユイタンクの前方に更に二基の履帯が追加され、その他パーツも追加されていた。

詩乃は修也の持っている漫画で見たことあるその姿に修也らしいという感想を抱いていた。

 

「ストタンクにはガスガンを採用しようか悩んでいる」

 

「それはやめたら?」

 

「ユイタンクの時も和人にそうやって断られた」

 

「それが普通よ?」

 

詩乃が思わずそう突っ込んでいるとマキナが台所から呼んだ。

 

「マスター、料理ができましたよ」

 

「分かった」

 

「すぐ行くわ」

 

そうしてマキナが作った料理が意外にも美味しく、好評だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、修也は和人から連絡を受けた。詩乃は今日から三日間ほど、東北の実家の方に帰ることになっており、寂しかったので和人とALOで合流することにした。

 

「・・・で、呼んだ理由は?」

 

「アスナの手伝いをして欲しい」

 

「何をどうすれば?」

 

「事情はこうだ・・・」

 

キリトから聞いた話を端的にまとめるとこうだ。

最近立て続けにアインクラッドを攻略しているギルドがあるのだが、その調査をしていたらアスナが最近噂の『絶剣』と呼ばれるプレイヤーに連れられ、さっき二十七層から帰って来た所だと言う。そしてそのギルドは二十七層でアスナ達を尖兵として観察をしていたそうだ。

 

「それで、そのギルドが何かしらズルをしてボス戦攻略に向かっていると?」

 

「そうだ、『雷装剣』を最大限使えると良い機会だと思ってな」

 

「・・・まぁ、こっちもちょうど暇だったんだ。良いだろう、全力でパランジャを振ろう」

 

「やけに元気だな・・・まあ良いか・・・」

 

キリトが苦笑をしつつも剣を持つとブレイドもパランジャとエクスカリバー獲得の時にも使った杖、《ケリュケイオン》という伝説級武器を持った。

ちなみにこの杖はシノンの育成のために潜ったダンジョンの周回をしていた時に手に入れたものでアスナの杖と同じくらいレア度の高い物だ。

 

「・・・で、何処に行けば良い?」

 

「こっちだ。ついて来い」

 

そうして走る事十分。二人は二十七層ボス部屋前に到着をするとそこでアスナ達と対峙しているギルド集団に向けて攻撃を行った。

 

「ーーーーーーーー!!」

 

ドドドドドォオン!!

 

「っ!?誰だっ!?」

 

「悪いな、ここは・・・・通行止めだ」

 

キリトが格好良く登場し、ギルドの後ろではブレイドが久しぶりにパランジャを抜いていた。

 

「っ!?お前、魔法だけじゃないのかっ!?」

 

「生憎と昔取った杵柄ってやつでね。こっちが本命だよ」

 

そう言うとブレイドは早速、《雷装剣》両手剣広範囲スキル<雷獅子>を初っ端から繰り出した。

 

「しっかり避けろよ。出来るならな・・・」

 

バリバリバリバリバリィィィイイ!!

 

「「ギェぇぇぇええああああ!!」」

 

一瞬にして背後にいた者達含めて十人ほど持って行ったブレイドはパランジャをブンブンしてギルとメンバーに向ける。

 

「さて、次は誰が来る・・・?」

 

久しぶりにパランジャで暴れているブレイドを横目にキリトがアスナ達に言う。

 

「ここは抑えるから。その隙にアスナ達はボス部屋へ!!」

 

「わ、分かった!!」

 

そう言いアスナが他の見知らぬプレイヤーと共に前方にいたプレイヤーを薙ぎ倒してボス部屋に入って行った。

おそらくあの中の誰かが絶剣なのだろう。と、そんな予測をしながらプレイヤーをパランジャでサッと一人持って行くとそこに加勢がやってきた。

 

「オラオラオラオラオラオラ・・・・オラァッ!!」

 

「遅いぞ、クライン」

 

「すまねぇ、道に迷った!」

 

赤いバンダナが特徴のクラインがボス部屋のプレイヤーに突っ込んできて、こっちは二人となった。

 

「クライン、こっちが合図したら上手く避けろ」

 

「おん?何すんだ?」

 

「雷装剣のSSで一番強いやつを撃つ」

 

「げっ、俺行けるかなぁ・・・」

 

「魔法耐性あげないのが悪い・・・。さて、やろうか・・・」

 

「おう!」

 

そうしてクラインがソードスキルを発動してプレイヤーを斬り、ブレイドも襲ってくるプレイヤーを倒していくとブレイドはクライン達に向かって叫んだ。

 

「クライン、キリト!上手く避けろ!!」

 

「おう!」

 

「任せろ!!」

 

そう聞こえ、ブレイドはパランジャを高く振り上げるとソードスキルを発動した。

 

「<雷鳴童子>・・・!!」

 

そして思い切り振られたパランジャは地面に突き刺さるとそこからひび割れを起こし、クラインとキリトはジャンプして華麗に避けると他のギルドメンバー達は一斉にリメインライトに変化していた。

 

「・・・ふぅ、硬直時間が長くて使いずらいな・・・」

 

「あははははは・・・俺はその威力にびっくりだよ」

 

「全く同感だ。危ねえったらありゃしねえ」

 

「まぁ、露払いはこれでできたかな?」

 

「ああ、じゃあこのギルドを取り敢えず通報しとこうぜ」

 

「おう、GMに行っときゃなんとかなるだろ」

 

そう言い、キリトが連絡を入れ終わると三人はダンジョンを後にした。

 

「アスナに連絡入れとくか?」

 

「そうだな、どうせ祝勝会とかするんだろ。だったら・・・」

 

するとブレイドのアミュスフィアに連絡が来ていた。

 

「すまん、用事で今日は抜ける」

 

「ん?おお、分かった。じゃあ、ここで別れるか」

 

「ああ、じゃあ。また」

 

そう言い残してブレイドは足早にアインクラッドを出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリト達と別れたブレイドは早急にログアウトをすると来ていた電話を折り返した。

 

「もしもし、どうしたザスマン?」

 

『おお、出た出た。シューヤ、すまんがお使いを頼んで良いか?』

 

「・・・何かあったのか?」

 

『いや、俺の会社の新薬の被験者に話をして欲しいんだ。すでに向こうに話は通してある』

 

「ザスマンは無理なのか?」

 

『こっちは新薬の準備で忙しくて無理だ。資料はそっちに送ったから印刷してそれを渡してくれればいい』

 

「・・・分かったけど・・・これ高校生にさせる事じゃないよな・・・?」

 

『アホか、俺と同級生のお前に言われたくねえよ。それにもう立派な成人だろうが』

 

「・・・・まあ、良い。取り敢えずお使いをすれば良いと言う事だな?」

 

『そうだ、場所は神奈川県横浜市都筑区ーーーーの『横浜港北総合病院』と言うところだ』

 

ザスマンから聞かられた住所を書きながら、修也はその被験者の名前を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・で、被験者の名前は《紺野木綿季》と言う十五歳の少女だ』

 

「分かった。資料も丁度印刷したからお使いをしてくる」

 

『ああ、お願いするよ』

 

そう言い残しザスマンは連絡を閉じ、修也は明日に備えて箪笥から洋服を取り出していた。





ストタンクはさんぼるガンダムのガンタンクをイメージしてください。


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#45 Yuukiの秘密

一月十一日 午後 横浜港北総合病院

 

学校が終わり、速攻で着替えた修也は電車を乗り継いでここまで来ていた。

珍しくパリッとしたスーツを着込んだ修也は片手にアタッシュケースを持ってザスマンのお使いに来ていた。

 

「初めまして倉橋医師」

 

「初めまして、倉橋です。赤羽修也さんでしょうか?」

 

「はい・・・と言っても成人間もない私がくるのもおかしな話ですけれどもね」

 

「まぁ・・・あなたの話は予々聞いておりますし、特段おかしくはないと思われますがね・・・」

 

倉橋医師はそう言いながら自分を病院に案内し、一つの個室に案内した。

 

「こちらに、掛けてください」

 

「分かりました」

 

倉橋医師に言われ、席に座ると修也はアタッシュケースの鍵を開けて中からファイルとパソコンを取り出した。

 

「倉橋医師にはまず我がアクスレー社の行う新しい治療法についてご説明いたします」

 

「よろしくお願いします」

 

「では、こちらの資料をお渡しします」

 

そう言い、修也は印刷された紙を渡すと倉橋医師に淡々と説明をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明をする事一時間ほど、倉橋医師にほとんどを説明し終えた時、倉橋医師が部屋に来た看護師に呼ばれていた。

 

「先生。今受付に木綿季さんに例の来客が・・・・」

 

「そうか・・・すぐに行くと伝えてくれ」

 

「分かりました」

 

そう言うと倉橋医師は席を立った。

 

「修也さん。済みませんがここで待って頂けますか?」

 

「はい、私はいつでも構いません」

 

そう言うと倉橋医師は部屋を後にし、修也は部屋で倉橋医師が戻ってくるのを待っていると外から聞こ覚えのある声が聞こえた気がした。

 

『さっき連絡があった時は驚きましたよ』

 

『あの・・・木綿季さんは私のことを先生に話したんですか?』

 

部屋の外から聞こえる声は修也の聞き覚えのある、あの声だった。

 

「明・・・日奈・・・?」

 

なんで彼女がここにいるのか思わず疑問に思ってしまい、本当に明日奈なのか確認をしてみたいと言う衝動に駆られそうになってしまった。

 

「(いやいや、彼女がここにいる理由なんて無いはずだ・・・大体、彼女がどうかも分からないんだ・・・)」

 

ここの隣はメディキュボイドと言う世界初の医療用ブルダイブ機器が置かれている部屋である。

修也は今日この後に今回の被験者となる人物と話をする予定である。修也は倉橋医師と明日奈と思わしき二人の会話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウキがALOに来なくなり、その理由を知りたくて私はスリーピング・ナイツの一人のシウネーさんから聞いた住所と元にユウキと再会をした。

ユウキはメディキュボイドと言う世界初の医療用フルダイブ機器で治療を受けていた。

ガラスの向こうの無菌室でユウキはたくさんのチューブに繋がれて、ジェルベットに横になっているユウキを見て思わず涙が出そうになってしまった。さらに彼女の面倒を見ているという倉橋医師から彼女がHIVに感染していることを聞かされた。

 

「今は、アメリカから輸入したHIV対抗薬でなんとか命を繋いでいる状態です」

 

「そんな・・・・」

 

「明日奈さん。木綿季くんは毎日貴方の事を話して、失う事がつらくて泣いていました」

 

倉橋医師の話を聞いた明日奈は目頭が熱くなっているとユウキに無菌室から声をかけられ、アスナはユウキとALOで再開することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通りの話を聞いた修也は倉橋医師とさっきの説明の続きをし、部屋を出て今いる来客が出るのを待っていた。

 

「え・・・?修也・・・さん・・・?」

 

そして部屋から出てきたのは案の定、明日奈だった。

 

「よう、明日奈。どうしてここにいる?」

 

「それは、そっくりそのまま返してもいい?」

 

お互いに気まずい雰囲気が広がり、どうしようか悩む中、修也は取り敢えず明日奈に話をした。

 

「詳しいことはまた今度話すから私がここにいることは誰にも言わないでくれ」

 

「あ、うん・・・分かった・・・」

 

明日奈は困惑しつつも了承をするとそのまま病院を後にして行った。

 

「明日奈さんを知っているのですか?」

 

「ええ、まぁ・・・同級生ですから・・・」

 

そう言いながら部屋に入った修也は目的の紺野木綿季と面会を果たした。

 

「初めまして紺野木綿季さん。私はアクスレー社から代理人として参りました。赤羽修也と言います」

 

『あ、は、初めまして・・・』

 

メディキュボイドから聞こえる声を聞き、修也は話を進めた。

 

「さて、紺野木綿季さんには事前に本社の方から説明をお聞きなられたと思われますが、改めてお話をさせてもらっても構わないでしょうか?」

 

『あ、はい・・・お願いします』

 

そして修也は先ほど倉橋医師に説明したの保ほぼ同じ内容を説明し終えると木綿季に聞いた。

 

「・・・という事で、貴方は我が社の新薬の被験者となるために治療施設のあるアメリカに向かってもらうことになります。

しかし、紺野さん。この臨床は貴方のご病気が完全に治るかどうかは分かりません。

 

その上、この臨床試験には何年も時間がかかってしまう場合があります。

 

それは辛く、厳しいことです。

 

それでも紺野さんはこの臨床試験を受けますか?」

 

修也の最後の問いに木綿季は考えていた。今まで失ったものは多い。だけど、得たものも大きかった。

 

 

 

今のスリーピング・ナイツのメンバー

 

 

 

ここまでわざわざ来たアスナ。

 

 

 

木綿季は修也の問いに一瞬だけ迷うも、答えを出した。

 

『・・・私も・・・明日を生きたいです。・・・今まで失ったものも多いけど、それでも私は生きたいです』

 

答えを聞いた修也は一瞬だけ目を閉じると小さく頷いた。

 

「・・・・分かりました。では倉橋医師。ここに紺野さんの引き渡し書にサインをお願いします。本国での準備が出来次第。すぐに彼女の治療を開始します」

 

「分かりました・・・木綿季くんを・・・よろしく・・・お願いします・・・」

 

倉橋医師は涙ぐみながら渡した正式な書類にサインをした。あとはこの紙を本国に渡し、手筈を整えれば木綿季さんはそのままアメリカに飛ぶことになる。

サインされた紙を受け取った修也はクルリと木綿季の方を向くと木綿季に向かって言った。

 

「では、また今度お伺いに上がります。木綿季さん、希望はまだありますよ。望みを捨てないでください」

 

『っ!・・・有難うございます』

 

そう言い残すと修也は病室を後にした。倉橋医師と出口まで向かう途中、倉橋医師は修也に感謝をしていた。

 

「木綿季くんを救って有難うございます」

 

「いいえ、それは彼女が治ってからにしてください」

 

「ですが・・・」

 

「倉橋医師。いくらこの臨床が猿の段階で九割超えでも油断は禁物です。感謝するのは彼女が本当に病気が完治してからにしてください」

 

「・・・分かりました・・・。ですが、木綿季くんの事をどうかよろしくお願いします・・・!!」

 

「・・・分かりました。私も彼女の病気が完治するのを祈るまでです」

 

そう言い出口で倉橋医師と別れ、駅までの道を歩いていると声をかけられた。

 

「修也さん・・・」

 

「っ!なんだ、明日奈だったか・・・」

 

「・・・教えて」

 

「?」

 

「今、何を話していたの・・・!?」

 

明日奈の必死めいた声色に修也は少し考えたのち答えた。

 

「・・・明日奈、少し歩きながら話そう。こっちも彼女のために急がなければならない」

 

「・・・分かった」

 

修也の雰囲気に明日奈は小さく頷くと二人で駅まで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、君があそこにいた理由を聞かせてくれ」

 

「ええ、もちろん」

 

そう言って明日奈はなぜあそこにいたのか説明をした。

元々紺野木綿季はALOであの絶剣と呼ばれるユウキというプレイヤーであの二十七層のボス戦以降、別れてしまい。スリーピング・ナイツと言うユウキのいたギルドの一人からここの情報を聞き、今日来たのだと言う。

 

「じゃあ、私も言ったから今度は修也さんね」

 

「少し、守秘義務で話せない部分もあるがいいか?」

 

「それでも良い。教えて」

 

「・・・分かった。では話せる事を話そう・・・」

 

そして修也は淡々と明日奈に話し始めた。

 

「ます彼女がHIVに感染したことは聞いたか?」

 

「えぇ・・・輸血で感染したって・・・」

 

「そうだ、そこで彼女は治療のために今はメディキュボイドに三年間フルダイブの世界で生活をしている」

 

「うん・・・それも聞いた」

 

明日奈は思わず拳を強く握ってしまっていた。その様子を見つつも修也はさらに話をつ助けた。

 

「現在の彼女はアメリカで承認されたばかりのHIV対抗薬で毎日を生きている。だが、つい先月にHIVの本格的治療を目的とした医療機関が人での臨床実験のために今、世界中からHIV感染者を募っている」

 

「も、もしかして修也さんが居たのって・・・」

 

「・・・そうだ、日本での臨床試験枠に彼女が選ばれた。と言うわけだ」

 

そう言うと明日奈は目を大きく開いて修也に聞いていた。

 

「じゃ、じゃあユウキは・・・直るの・・・?」

 

「それは分からない。今の所、猿で行った実験では九割の成功を収めたそうだが、それでも一割の確率で薬が効かないんだ。もしその一割に今回の紺野さんが入ったら?」

 

「・・・」

 

修也から話される現実に明日奈はひどく落胆をするもそこに修也が希望を見出した。

 

「だが、彼女が今回の臨床を受けた事を私はホッとしているよ。少なくとも今よりは病気が完治する確率はグッと上がる。あとは・・・彼女の病気が治る事を神に祈ることしか出来ない・・・」

 

「・・・」

 

思わず明日奈と修也は空を見上げる。おそらく同じ事を思っているのだろう。駅に到着した二人は改札を通って列車に乗り込み、帰路についた。

 

「じゃあ、私はここで降りるよ。あ、今日のことはくれぐれも和人にも言うなよ」

 

「うん・・・分かった」

 

明日奈にそう言い残し、修也は先に降りて乗り換えをして行った。その時の修也の表情を見て明日奈は思わず恐怖していた。



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#46 家族

一月十二日

 

「これじゃあジャイロが敏感すぎる・・・だからここら辺のパラメータにもっと余裕がないと」

 

「だけど、急な挙動があった時にラグるんじゃないのか?」

 

「その辺は、最適化プログラムの学習効果に期待するしかないよ」

 

「だったらプログラムの事前情報をもっと増やすか・・・」

 

「修也はハードの方をやってくれ。あとは俺がするから」

 

空き教室で和人と、修也達はあーだこーだと話していると和人がパソコンで尋ねた。

 

「初期設定はこれで良いとして・・・ユウキさん聞こえますか?」

 

『はーい!よく聞こえているよ!』

 

「じゃあ、こっちで初期設定をするので視界がクリアになったところで声を出してください」

 

『はい!』

 

今和人達の班が作っている<視聴覚双方向通信プローブ>は現実の音と視界の情報をネットと繋げる機械である。

ユウキはアスナの肩に乗っているような感覚だろう。

和人は調整を終えると明日奈に注意事項を伝え、明日奈はプローブを持って部屋を出て行った。

 

「・・・ふぅ、ひとまず安心。と言ったところかな?」

 

「そうだな」

 

修也と和人は同じメカトロニクスコースを選んでいるので授業はほぼ同じ物を取っていた。

すると和人が修也に聞いていた。

 

「そう言えば、あのプローブに使った部品ってどこで集めたんだ?」

 

「秋葉の電気街で年末と初売りで買い込んだ」

 

「ちなみにお値段は?」

 

◯◯(ピー)万円」

 

「聞かなかったことにしよう」

 

和人がすっと顔を背けながらそう呟いた。実際買いすぎて詩乃に怒られたのは新しい記憶だった。

修也は家を思い出すと苦笑しながら午後の授業に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、修也と明日奈、それと木綿季は初めて乗る路線に乗り、星川と言う駅に到着した。

初め、修也が明日奈と同じ柄の制服を着ていたことに驚愕をしていたが、修也の無言の圧力で木綿季は深く詮索しなかった。

 

「・・・ここかい?」

 

『うん、ここまで有難う』

 

駅に到着した二人は木綿季に言われ、街を見渡すと木綿季は懐かしそうに街を見ていた。

 

『わぁ・・・結構変わっているなぁ・・・』

 

「ユウキ、行きたい場所って?」

 

『あ、ごめん。僕のわがままに付き合って貰っちゃって・・・家の方は大丈夫なの?』

 

「良いよ良いよ、いつも遅いし・・・」

 

そう言い、明日奈達はユウキに指示された通りに歩くとそこには明かりが一つも付いておらず、雨戸も閉まり生活感のなくなった一軒の白い家があった。

 

「ここ?」

 

『そう、暮らしたのは一年くらいなんだけどね。で、あの頃の一日一日はよく覚えている・・・姉ちゃんと毎日走り回って・・・あのベンチでバーべキューして・・・パパと本棚作ったりして・・・・。楽しかったなぁ・・・』

 

思い出しながら聞こえるその声は懐かしそうに聞こえ、本当に楽しかったのだろうと言う事を証明していた。

 

『でも、もうすぐこの家も取り壊されちゃうんだ・・・』

 

「えっ・・・なんで・・・?」

 

『親戚の人が・・・コンビニにするか更地にして売りたいんだって・・・・わざわざ遺言書けってVRの世界に消え行ってきたんだよ・・・』

 

「・・・・」

 

「(それは・・・脅迫とほぼ同じじゃないか・・・?)」

 

だが、言われてみれば誰も住まず、管理する人がいなくてこの有様だ。親戚としては売りたいのも分かる気もした。

 

「ユウキって今十五だよね。十六になって好きな人と結婚するのは?」

 

『あはははは、アスナってすごいこと考えるね。でも良い人がいないなぁ〜』

 

「ジュンとかはどうなの?」

 

『ダメダメ、あんな子供じゃ!』

 

「ふーん、じゃあ修也さんとかは?」

 

「・・・は?」

 

『ーえぇぇっ!ないない、それはない!修也さんはどっちかって言うとお兄さん的な感じだから・・・』

 

「ははは・・・・兄か・・・面白い言い方をされたものだ」

 

今までで初めて呼ばれた言い方に思わず笑ってしまっていた。

ユウキはそんな修也を見て少し恥ずかしくなったようにも見えた。

ユウキは恥ずかしさから話題を変えるためにもう一度家を見ていた。

 

『今日は二人とも有難う。もう一度この家を見られて僕は満足だよ』

 

そう言うと木綿季の家族の話、明日奈の家族の話となった。

 

「私も・・・・もうずっと母さんの声が聞こえないの。向かい合って話しても、心が聞こえない。私の言葉も伝わらない。――木綿季、前に言ったよね。ぶつからなければ伝わらないこともあるって。どうしたら木綿季みたいに強くなれるの」

 

「・・・」

 

『僕・・・強くなんかないよ。全然・・・』

 

「そんなことない。私みたいに人の顔色を窺ってビクビク怯えたり、尻込みしたり、全然しないじゃない。凄く・・・自然に見えるよ」

 

「・・・似ているな」

 

「『え?』」

 

明日奈とユウキに割り込むように呟いや修也に二人の意識がむいた。明日奈の話を聞いたからか、自分も思わず話したくなってしまった。

 

「私は・・・家族がどんなものなのか知らずに育った・・・・・・・」

 

『・・・?』

 

「・・・自分がまだ小さい時に親戚の勧めで両親とは離れ離れに暮らしていた・・・そのせいか親というものが分からなくなっているんだ。

父親というのはどんな存在なのか。母親はどんな人なのか、どんなような存在なのか・・・・。終いには両親の顔も忘れてしまった・・・」

 

『・・・・・・修也さん・・・』

 

「それで、日本に帰って来てすぐにSAOの一件で巻き込まれて・・・さらに両親と接する時間も減って・・・なんとなく赤の他人と言った雰囲気になってしまった・・・この前実家に戻った時も、どうすれば良いのかを悩んでしまったよ・・・」

 

「・・・・修也さん」

 

『・・・僕は、現実世界でパパやママを喜ばすために自分じゃない誰かを演じていた気がする。家族に元気一杯な様子を見せなきゃいけない気がして。・・・でも、思うんだ。演技でもいいんじゃないか、って。それで少しでも笑顔でいられる時間が増えるなら。――ほら、もうボクにはあんまり時間がないでしょ? 物怖じしてる時間が勿体ないって、どうしてもそう思っちゃうんだ。最初からドッカーンと行っちゃってさ。・・・嫌われても構わないんだ。何にせよ、その人の心のすぐ側まで行けたことに変わりはないから』

 

「「・・・・」」

 

『それに、僕が逃げてもアスナは追いかけて来てくれた。ーー昨日モニタールームで見たアスナを見て明日奈の気持ちがすっごく伝わってきた。本当に・・・本当に嬉しくて涙が出ちゃった』

 

ユウキは一瞬言葉に詰まらせながら続けた。

 

『・・・だから、お母さんともあのときみたいに話してみたらどうかな、気持ちって、伝えようとすればちゃんと伝わるものだと思うよ』

 

この時、明日奈から静かに涙が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日奈と分かれ、家に戻った修也は詩乃の出迎えを受けた。

 

「おかえり、修也」

 

「ああ・・・」

 

修也が玄関から上がると詩乃が上着を持ちながら聞いてきた。

 

「何かあったの?」

 

「・・・・いや、何でもないさ。ちょっと出掛ける。帰りは遅くなるかもしれない」

 

「・・・気をつけてね」

 

詩乃に荷物を預け、キーを持った修也はバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修也はバイクを走らせていると携帯に電話があった。相手は・・・母からだった。

 

「もしもし?」

 

『あ、修也?よかった、ちょっと付き合って欲しいんだけど』

 

「・・・良いよ。どこに行けばいい?」

 

『じゃあ、八時に〇〇レストランに来て。お父さんも一緒に来るから』

 

「分かった」

 

そうして電話を切った修也はバイクを走らせると母に指定された場所まで向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母に指定されたレストランに着いた修也は近くの駐輪場にバイクを停めると店の扉を押して中に入った。

この店は両親がお気に入りの店で、二人が見合いをした会場でもあるそうだ。

名前を伝えて通された個室には既に母が座って待っていた。

 

「母さん」

 

「あら、思ったより早かったわね」

 

「近くを走っていたから」

 

そう言い母の正面の席に座っていると扉の開く音と靴の音が聞こえ、個室にスーツを着た父が入って来た。

 

「待たせたな」

 

「今来たところよ」

 

そう言い、父が母の横の席に座ると食事が始まった。

前妻が出され、三人は静かに食事をしていた。静かな時間が過ぎる中、最初に父が口を開いた。

 

「修也、あの学校はどうだ?」

 

「良いと思っているよ・・・友人とか知っている人がいるから・・・」

 

「そうか・・・」

 

すぐに話が終わってしまい、どうしようか困っていると母が父に注意をしていた。

 

「あなた、もっと話題を持って来なさいよ・・・ごめんね修也、父さん昔から口下手だから」

 

「良いよ良いよ、気にしていないから」

 

修也はそう返事をしていつも通りの表情をしていると母が話しかけた。

 

「実はね・・・今日来て貰ったのはお父さんから言いたいことがあったのよ」

 

「言いたいこと?」

 

「ええ」

 

母はそう良い父に視線を向けると少し黙った後に口を開いた。

 

「修也・・・お前にはできればゲームをやめて欲しいと思っていた。あんな事があったからな・・・だが、お前はそれでもゲームの世界に没頭していた・・・」

 

「・・・ごめん」

 

「謝るな、お前には散々迷惑をかけてしまったんだ。普通に送れたはずの人生を台無しにしてしまったのは親である私たちの責任だ」

 

「・・・」

 

「・・・修也、お前の出自がどうであれ。お前は私達の子だ、そこは履き違えるなよ」

 

「・・・分かったよ。父さん」

 

修也と藤吉はお互いに少しだけ笑い声を浮かべると藤吉は修也に聞いた。

 

「修也、今度ガンゲイルオンラインをやろうと思っているんだが・・・」

 

「え?」

 

「ほら、お父さん昔そういう仕事していたから・・・どうせなら修也の作ったゲームで昔の感覚を思い出したいんだって」

 

「・・・・」

 

思わず唖然とした表情で父を見ると父はいつもに増してやる気十分と言った様子だった。むしろ仕事をしている時よりも元気にも見えた。

 

「そういう事だから、今度あったら教えてくれ」

 

「あぁ・・・うん、分かった・・・」

 

そうして久しぶりの家族の食事は楽しく終わった。帰り際、迎えの車に乗り込んだ父と母を店先で見送った。

 

「修也」

 

「どうした?」

 

「たまには家に帰って来いよ。母さんが悲しむぞ」

 

「っ!・・・分かった」

 

「じゃあ、詩乃ちゃんにもよろしくね」

 

「うん、また」

 

そうして黒塗りのワンボックスカーを見えなくなるまで見送ると修也はバイクに跨って家まで帰宅をした。



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#47 楽しい日々


 

 

 

 

 

一月十五日

 

今日はキリト達と共に二十二層にあるアスナとキリトの家の前の庭でバーベキュー大会を開いた。

参加者はキリト、アスナ、リズベット、クライン、リーファ、シリカのいつものメンバーにユウキなどのスリーピングナイツのメンバー。それからサクヤ、アリシャ、ユージーンなどの一部種族の領主達とその側近の合計三十名以上のメンバーが集まり。わざわざ食材集めのパーティーが編成された。

スリーピングナイツ達の噂は既にサクヤたちに届いており、早速ユウキ達を勧誘したりしていた。

賑やかな乾杯の後暴飲暴食の宴が始まり。飲んだり、語ったりしていた。

途中から参加したユナがユウキ達に演奏を行い、盛り上がりが最高潮に達したところでついでに二十八層のボスを倒そうということになり、そのままの勢いで二十八層の甲殻類型ボスモンスターを倒してしまったのは笑い話にするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

二月六日

 

アスナを含めたスリーピングナイツのメンバーで二十九層の攻略に成功。アルブヘイム中にその名を轟かせた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

二月二十五日

 

ALOで行われた統一デュエルトーナメントでキリトとユウキが決勝を行った。

ユウキの神技とも言える十一連撃のOSSはキリトを打ち破り見事優勝に輝き、ユウキの名はザ・シード連結体に轟かせていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三月一日 横浜港北総合病院

 

「・・・と言うことで木綿季さん。本国での準備の目処が整いましたので、今月の十五日に貴方をアメリカに移送する予定となりました」

 

『分かりました』

 

「それまでアスナとたくさん思い出を作っておいてください。本国の治療施設では電子機器が一切使えなくなってしまうので」

 

『っ!わ、分かりました!!』

 

「では、私はこれで。また後で会いましょう」

 

『はい!待っています!!』

 

木綿季の元気な声が聞こえると修也は最後に木綿季に提案をした。

 

「木綿季さん。もし良ければ、貴方の教えてくれたあの家を守らせてはくれませんか?」

 

『え?それはどう言う・・・・』

 

「そのままの意味です。木綿季さんが教えてくれたあの土地と家を、貴方の治療が終わり帰国するまで私が責任を持って管理させて欲しいと言うことです」

 

『!?!?!?!?』

 

明らかに驚いた様子を見せる木綿季に修也はそう思った訳を話した。

 

「木綿季さん。私は貴方の今までの人生を見ていて感動しました。貴方に残された数少ない財産を・・・・守らさせてはくれないでしょうか」

 

修也の今までにない程優しい声と表情に木綿季の答えは早かった。

 

『是非・・・・お願いして貰っても良いですか!』

 

「・・・分かりました。後のことはこちらで行なっておきます。家の清掃と修繕などはこちらで行なってもよろしいでしょうか?」

 

『あ、はい・・・』

 

木綿季は思わず修也に聞いてしまった。

 

『あの・・・修也さんはどうしてそこまでしてくれるんですか・・・?』

 

「・・・私は、今まで色んなことを学んで来たつもりでしたが。家族と言う根本的なことを教えてくれたのが貴方だったからです。これはそのお返しだと思ってください」

 

『・・・・』

 

お返しにはお釣りで一杯だと思っていたが、木綿季は修也の厚意に感謝をすると修也はそのまま病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室を出た修也は倉橋医師と話をしていた。

 

「倉橋さん。移送の際の計画表です。目を通しておいてください」

 

「分かりました・・・・」

 

倉橋さんの安心しきった表情に思わず声をかけてしまった。

 

「倉橋さん。私が言うのも何でしょうが・・・・今まで苦労が絶えなかったでしょう。たまには大人でも泣いても良いと思っていますよ」

 

「っ!・・・そうですね・・・・木綿季くんを・・・・よろしくお願いします」

 

「常に最新鋭の医療機器を揃えているのがアクスレーの強みです。・・・・今回もきっとうまくいくと思っていますよ」

 

修也は既に涙ぐんでいる倉橋医師にそう言い残すと病院を後にした。これから彼女が無事にアメリカ本国まで着くまでは気が抜けない。

まともに寝れない日々が続くだろう。

そんな予測をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

三月五日

 

この日、明日奈と里香、珪子、直葉とユイは京都旅行に出掛けていた。この時、プローブに改良を加えており、シウネーやジュンと言った他のスリーピングナイツ達のメンバーにも映像が見えるように改造をしていた。

宿は結城本家の屋敷を借り、浮いた予算で見た目麗しい京都料理にした舌鼓を打ち、ユウキ達に羨ましがられていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

三月十三日

 

夕暮れのアインクラッドの一角。大樹のある小島に自分は呼ばれていた。

目の前には一人の水妖精の少女と、闇妖精の少女が立っていた。

 

「アスナ・・・」

 

「ユウキ・・・」

 

二人の少女はお互いに顔を合わせるとユウキが先に口を開いた。

 

「アスナは・・・僕がアメリカに行くの・・・知っているの?」

 

「うん、そこにいるブレイドから聞いた」

 

「やっぱりそうかぁ〜」

 

そう言いながらユウキは自分の方を見るとまた視線をアスナの方に戻した。

 

「ーーアスナに渡したいものがあるんだ」

 

「渡したいもの・・・・?」

 

「今作るから待ってて」

 

そう言うとユウキは剣を抜いた。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

 

アスナと二人して少し緊張した様子でその様子を眺める。

 

「やぁっ!」

 

裂帛の声と共に右手が閃く。木の幹に向かって右上から左下に、神速の突きを五連発、剣を引き戻し、今度は左下から右上に五連発。一撃一撃の技にユウキの全力が込められていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そして最後の一撃、合計十一連撃を終え、突風が吹き荒れ、咄嗟に顔を腕で庇い、風が止むとユウキは幹に剣を刺したまま動きを止めていた。

そしてその剣先から小さな紋章が回転しながら展開し、同時に四角い羊皮紙が樹の表面からジェネレートし、端から細く巻き上がってユウキの手に収まった。

 

「アスナ・・・・これ、受け取って。僕のOSS」

 

「私に、くれるの・・・?ブレイドの方が・・・」

 

しかしブレイドは首を横に振った。アスナとユウキが視線を戻すとユウキはアスナに羊皮紙を渡しながら言った。

 

「アスナだから受け取って欲しい。強くて、優しい、お姉ちゃんみたいだったアスナに・・・」

 

「・・・・分かった」

 

「技の名前は《マザーズ・ロザリオ》。きっと・・・・アスナを守ってくれるよ。・・・・僕は明日からALOに来れなくなっちゃう。だから最高の技が出せる時に渡したかったんだ」

 

「・・・・ユウキ!」

 

思わずアスナがユウキを抱きしめていた。ユウキはアスナに抱かれて驚きながらもアスナの肩を優しく叩いていた。

 

「アスナ・・・・僕はまた帰って来るよ」

 

「うん・・・・その時まで・・・・ずっと・・・・待っている・・・・」

 

二人が抱き合っているのを眺めているブレイドはそっと空を眺めた。

 

「(もしこの世に神がいるのであれば・・・・彼女がまたこの世界に帰って来れるのを祈ろう)」

 

 

 

 

 

彼女なら大丈夫だろう

 

 

 

 

 

不意にそんな答えが返って来た気がした。それはとても懐かしく、かつて自分の目標であり、尊敬していた人の声・・・・

ブレイドは思わず声に出して言っていた。

 

「・・・・・・・・そうだね。兄さん・・・」

 

ブレイドの返答は風に乗ってどこかに飛んでいくような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、自分と明日奈は木綿季の入院する病院に来ていた。

今日は木綿季がアメリカに移送される日である。病院は既に物々しい雰囲気で、防護服を着た人や完全防護されたビニールの筒が設置され、その先には一台のトラックが止まっていた。明日奈と自分は行き先である羽田まで同行させてもらう事になっていた。羽田までは木綿季の親戚も同行すると言うことで軽い挨拶だけを済ませると明日奈は修也に謝っていた。

 

「今日はごめんね。無理を言っちゃって・・・」

 

「問題ない。彼女も最後に明日奈の姿を見られれば嬉しいだろう・・・」

 

そう言いながら走り回る従業員を見ていた。すると明日奈はずっと気になっていた事を修也に聞いた。

 

「ねえ修也さん。前から聞きたかったんだけど・・・貴方って、何者?」

 

「・・・そう言われてもな・・・・あまり詳しいことは言えないな・・・・」

 

顎に手を当てながら修也はそう言うと少しだけだがぽつりぽつりと話し始めた。

 

「私がアメリカで暮らしてたのは知っているな?」

 

「うん、前に聞いたよ」

 

「その時に、ここの会社の人と知り合って仲良しになって色々とアメリカではお世話になった人なんだ。その人から木綿季の事を頼まれたんだ」

 

「修也さんに?」

 

「ああ」

 

「こんな重要な事を任せるって・・・私逆にその人に会ってみたいわ・・・」

 

「今度見合い相手に教えてやろうか?」

 

「ふざけないで」

 

「・・・・冗談だ・・・」

 

明日奈のガチトーンに思わず身震いした修也は思わず明日奈から視線を外すとビニール筒の病院の出口の方から担架に乗せられて、防護服に囲まれた少女が目に入った。

 

「・・・いよいよね・・・」

 

「ああ・・・明日奈、行くぞ」

 

「っ!分かった」

 

二人は筒にできるところまで近づくと木綿季が気づいたのだろう。動かせる限りの力を使って明日奈に手を振っていた。そのことに明日奈は目頭を熱くしていたが、グッと堪えてトラックに乗せられる木綿季をみた後、自分たちも車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラックはそのまま羽田空港のビジネスジェット専用ゲートまで向かう。ここも今日の為に至る所に人がおり、明日奈達も入る前に防護服に着替えさせられた。本来は禁止されているが、無理を言って面会させてくれたザスマンには感謝しかない。

ちなみに木綿季の親戚はこの手前のところで一応の見送りをする為に展望デッキの方に向かっていた。

 

『なんか、蒸し暑いね・・・』

 

『この際我慢しろ。最後に木綿季に会えるチャンスなんだ』

 

『そうだね・・・これからユウキの受ける事を考えたら・・・・』

 

明日奈はそう意気込むとそのままゲートの方に向かっていった。

 

『修也さん、準備はどう?』

 

『さっき連絡があって準備はできたそうだ』

 

『分かった・・・・ふぅ・・・・』

 

明日奈は一呼吸おくと扉を開いた。

今回日本からの被験者は十人ほどおり、一気に全員がアメリカに送られる予定となっていた。外では既に大型ビジネスジェット機が待機しており、時間まで被験者達はこの部屋で待機をしていた。

 

『ユウキ・・・・』

 

「っ!あ・・・す・・・な・・・?

 

『そうだよ・・・・また会えてよかった・・・』

 

明日奈が防護服越しに顔を見せると木綿季は喜んだ様子を見せ、明日奈と短く話をした。

 

嬉しい・・・・また会えた・・・

 

『うん、私も・・・』

 

今度は・・・こんな壁もなくなって話せるといいな

 

『うん・・・そうだね・・・』

 

時間が無いので修也は申し訳ないが、二人の間に割り込んでしまった。

 

『木綿季、飛行機に乗ったらターミナルビルを見てくれ。私からはそれだけだ。明日奈、すまないがもう時間だ』

 

『うん・・・・分かった・・・・。ユウキ、絶対見てね』

 

分かった

 

そう言うと二人は名残惜しそうに部屋後にした。

残った木綿季はさっきの修也に言われた事を思い出していた。

 

「(何だろう・・・・?)」

 

木綿季は疑問に思っていると他の人の担架が動かされるのを見て遂に飛行機に乗るのだと感じた。

初めて乗る飛行機がこんな形だとは思っていなかったが、それでも少しだけ楽しみにしていた。

外のビニールの筒から見える景色を見ながら木綿季は担架ごと飛行機に乗せられる。

清潔感ある白で統一された機内の一つに木綿季の担架が乗せられ、そこで病院の時と同じメディキュボイドを頭に被せられた。

自分を運んでくれた人に外を見たいと言うとメディキュボイドが機外カメラと接続され、外の景色をそのまま映し出し、初めて見る感覚にワクワクしていた。

そしてカメラは自由に動かて、意識をすれば左右上下に動いた。

さっき修也から言われたことを思い出しながらカメラを見ていると地面が動き出し、機体が動き出した事を示していた。

ユウキは意識をターミナルビルの方に意識しながらカメラをじっと見る。

地面が動き出し、一気に加速をしていた。そして地面が離れ、大きな金属の鳥は空に飛び立った。

そして、ターミナルビルの屋上を見たユウキは思わず息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには大勢の人が『ユウキガンバレ!!』と言う大きな人文字を作って全員が手を振っていたのだ。

さらに屋上には人が大勢おり、今飛んでいる自分に向かって大きく手を振っていた。

その事に修也の意図がわかり、大粒の涙をこぼしながらユウキもターミナルビルにいる人たちに手を振り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう皆んな・・・・絶対元気になって返ってくるよ・・・・」

 

今までに知り合った全員、明日奈や修也から()()を受け取った木綿季は決意を胸にアメリカへと飛び立っていった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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#48 送り人

今回はいつもの半分ほどと短いです。


ターミナルビルの屋上で飛んでいくアスクレー社のロゴの入った大型ジェット機を見送った修也達は機体が見えなくなるまで手を振っていた。

 

「・・・上手く・・・いったかな?」

 

「きっと行けているさ・・・・」

 

明日奈と修也は飛んでいく機体を眺めながらそう呟く。

二日前に修也、明日奈、里香の三人はALOの公開ネットワークに

 

『ユウキを知っている人の中で十五日に羽田の第三ターミナル展望デッキに来れる者は目印で濃紺のものを持って集合!!』

 

と言う書き込みを載せてユウキを盛大に送り立とうと計画をした。きっとユウキも許してくれるはずだと思いながら書き込みをした。

当日が日曜日だったこともあり、全国規模で人が集まり、ターミナルの展望デッキに入りきらない程だった。

企画者の修也と明日奈が先導して最優先事項である人文字制作をし、入りきらない人は悔しがりながら別のターミナルに移動してユウキの乗る機体を盛大に見送った。

こんなにも集まってくれた事に感謝しかなく、企画者達は涙が出そうだった。

 

『今日はわざわざ集まっていただきありがとうございました。ユウキもきっと喜んでいる事でしょう。本当に、ありがとうございました!』

 

拡声器で明日奈が感謝の意を述べるとここに来た全員が当たり前だと言わんばかりの雰囲気を出し、各々解散を始めていた。

 

誰かはゲームで知り合った人とユウキの話をしながら帰り。

 

誰かはここまで集まった人に驚きつつも分かっていたような話をしながら帰り。

 

誰かは初めてリアルで知ったゲーム仲間と話しながら帰り。

 

誰かは友人と飲み明かしに行くと意気込んだり。

 

誰かは綺麗な女性にナンパをかけて玉砕をしていたり。

 

 

 

 

みんなが皆んなここに来れたことに喜びを露わにしており、楽しく会話をしながらデッキを後にしていった。

明日奈達はここまで上手くいった事に安心と嬉しさでホッとしていた。

 

「ゲームで生まれた友情は現実でも健在なんだな・・・・」

 

「そうね・・・」

 

「しっかしすごい人が集まったものね。ユウキの親族の人なんか面を白黒させていたわよ」

 

「それだけユウキが愛されていたと言うことだ」

 

「そうだね・・・」

 

集まった人たちを見て明日奈達は空港内のカフェでゆっくりとしているとクラインこと遼太郎が肩を落としながらやってきた。

 

「はぁ・・・」

 

「なんだ?また玉砕したのか?」

 

隣にいた和人が聞くとそうだと言わんばかりにガックリと項垂れていた。

 

「あぁぁぁんまりだァァァァァアァァァ!!」

 

大泣きしている遼太郎を横目に修也達はユウキの話で盛り上がっていた。

この日の出来事はMトモのニュースとして取り上げられ、ネットゲームが起こした奇跡としてちょっとした事件となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四月四日 新宿御苑

 

木綿季がアメリカに行って三週間近く経った、無事にアメリカに到着した木綿季は早速アスクレーの医療施設で臨床試験を開始したそうだ。

その連絡を明日奈に伝えると明日奈は喜びを露わにしていた。

ユウキのいる場所は電子機器が一切使えないと言う事で連絡は基本的に代筆の手紙だけということであまり連絡はできていなかった。

それでも最低でも月一で連絡をとっているそうだ。

 

それに驚くべきことがあった。それはスリーピング・ナイツの全員の体調が回復していることだった。シウネーに至ってはすでに退院までしたらしい。他の面々も全快とはいかないが奇跡と呼んでいいことが続いているらしい。

 

 

そんな事を思い出しながら今自分は桜の花びらの散る木の下で春の日差しで暖まりながら横になっていた。

 

「気持ちいいわね」

 

「ああ、日なたぼっこには最適な気温だ」

 

横で寝て居る詩乃が修也に話しかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木綿季の住んでいた家は土地ごと買って、父の不動産で扱ってもらう事にしてもらった。

父は自分の話を聞くと笑いながら承諾してくれて、家は清掃と修繕がされている。

いつか返ってくる彼女のために準備は万端にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人してのんびりとしていると聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「コラー!二人とも手伝ってよー!!」

 

声のした方を向くとそこには里香がバスケットを持って丘を登って居る最中だった。

 

「・・・・みんな来たのか・・・」

 

「行こうよ、修也」

 

「そうだな・・・」

 

詩乃と共に起きた二人はそのままゆっくりと丘を降りて桜の木の下を歩いていた。

修也は桜を眺めながらアメリカで頑張っているユウキのことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ブルアカのストーリー読んで感動泣きして数時間執筆の手が止まってしまった・・・・
ブルアカ、今からでも良いからやってない人はマジで初めて欲しい!!!
初めてソシャゲのストーリーで泣いた。
↑VRの世界にソシャゲをお勧めする馬鹿タレ作者。なお、ブルアカ始めたのは銃がででくるからと言う安直な理由。


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短編集
間話#1 新衣装


今回から何話かは短編集的な感じで時間軸もごちゃごちゃになりながら、作者の書きたいやつをそのままぶっ込む感じです。


四月中旬 GGO首都グロッケン郊外

 

荒野の一角を一台の砂漠迷彩色の装甲車が掛けていた。

 

「フリューゲル、ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」

 

「問題ない。ここら辺には障害となりそうなものは無いからな」

 

特徴的な赤いボディを持ったアバターと空色の髪のアバターの少女は装甲車の中でそう話していた。

今回の目的はアップデートで追加された衛星都市に向かう事だった。

 

「『衛星都市ジャブロー』か・・・」

 

「元は宇宙軍港兼工廠で、中には機械のモンスターが多いそうだ」

 

「フリューゲルは知らないの?」

 

「全く関わっていないからな。機械系モンスターは装甲や銃器が出やすいと言うことしか知らないな・・・」

 

「それはすでにMトゥデに出ていたわよ」

 

「基本的にグロッケン以外のことは知らないんだ」

 

フリューゲルの言葉に嘘はないとシノンは知っているので、疑うことはなかったが。それでもちょっとだけ不満はあった。

 

「・・・まぁ、今回の目的はジャブローで噂のアイテムを手に入れるだけだ」

 

「ええ、流石に一年もその下が初期のままってのもね・・・」

 

シノンが若干苦笑をしながらフリューゲルを見る。今のフリューゲルはとても珍しくモノアイが特徴の頭部を外して顔を見せていた。

顔は赤い髪と目が特徴的で、その下からうっすら見えるのは初期の時に着て居る服であった。

そう、今月で一周年を迎えるガンゲイルオンラインで、フリューゲルは未だに初期装備の服を着ていたのだ。

理由としては簡単で外のアーマーが頑丈で、彼を守っていたのだ。その為、自分が初期衣装であることを完全に忘れてゲームに熱中していたのだ。おそらくシノンが気づかなければずっとこのままだっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今回の目的は昨日Mトゥデで乗っていたニュースだった。一周年記念に新たに追加された衛星都市を紹介する文章の中でシノンと二人してその文に注目してしまっていた。

 

「『軍服シリーズ』・・・・欲しいね」

 

「できれば、お揃いで欲しいな・・・」

 

一周年記念の一環で新たに追加されたレア装備の一つ。『軍服シリーズ』はその名の通り世界中の軍服を模した装備で、今現在、人気の上がりつつある装備である。

どうせならとシノンとフリューゲルはこの軍服シリーズを手に入れるためにこれが手に入ると噂されているジャブローのクエストを受けるつもりである。

 

「さて、急ごうか。このシリーズは最近人気らしいからな」

 

「そうね」

 

そう言うとフリューゲルはさらにアクセルを踏み込んで一気に行き先をジャブローに向けて走らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、シノンは車から朽ちた様子の塔を確認した。

 

「見えてきた」

 

「了解」

 

ブレーキを踏んで速度を落として圏内の道端に車を停めた二人は車を降りた。

 

「ここが・・・・」

 

「ジャブロー・・・・」

 

其処には開けた土地に多くのバラックが積み重なるように立ち並び、人が多く行き交う街があった。

元は飛行場だったのだろう、管制塔や格納庫の面影が残されていた。

 

「結構人が居るのね・・・」

 

「公開から二週間経ったからな・・・いわば開拓時代みたいなものだろう」

 

「いい例えね、それ」

 

普段通り、ロボットのような見た目をしたフリューゲルを見てシノンはお互いに少しだけ笑うと街を歩き始めた。

初めての場所に観光気分で歩く二人はそのまま街の郊外にある森に到着した。

 

「ここ・・・?」

 

「事前に調べた情報ではそうらしい。さて、行こうか」

 

「うん」

 

お互いに頷いて、シノンは《へカートⅡ》を、フリューゲルは《PKPペチェネグ-SP》を持った。

PKPペネチェグはかの有名なミハイル・カラシニコフ氏が製作したPK機関銃の後継種で、ロシア軍が使用する汎用機関銃である。使用弾薬は前にフリューゲルが使っていた RP-46と同じ7.62mm×54mmR弾である。

死銃事件で壊れてしまったRP−46を思い切って買い替えたのである。

そしてフリューゲルの使っているSP型はピカティニー・レールを装備しており、フリューゲルは其処にスコープを取り付けて狙撃銃としても使えるようにしていた。(ウィキに乗ってるやつそのままだから気になる人は見て)

 

「この先の遺跡ボスが一定確率で落とすそうだ。後方を頼むぞ」

 

「ええ、フリューゲルも気をつけて」

 

遺跡内に入った二人はお互いに銃を持って中に入った。斥候と接近戦を行うのが得意なフリューゲルは《超感覚》と呼ばれるシステム外スキルで敵の位置を感じ取ると接近してヒートホークと武器をうまく使用してモンスターを狩っていた。

どうやらこの遺跡は地下にある宇宙港に繋がっているようで、視界が一気に開けた。

場所は宇宙港造船ドックの一角のようで、灯りはついておらず、アバターの赤外線暗視装置で状況が把握できていた。

 

「・・・」クイクイッ

 

フリューゲルの合図でシノンはへカートを地面に置いて構えた。

 

「・・・・」ドォン!!

 

一瞬だけ大きな閃光が視界を包み、放たれた弾丸はドックの一角にある燃料タンクに当たると大きな爆炎と光をあげて衝撃波を起こさせた。

地中の爆発ということもあり、空気が濁流のように流れ、二人は必死に地に足をつけていた。

 

「くっ・・・」

 

「・・・来るぞ!」

 

『プォォォォォォォオオオオオ!!!』

 

フリューゲルがそう叫ぶと大きな雄叫びを上げて象に装甲板と砲塔を乗せたような見た目をしたクリーチャーが現れた。

 

「やれるな?」

 

「フリューゲルも気をつけて」

 

「任せろ」

 

そういうとペチェネグ-SPを持ってフリューゲルはドックを駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺跡のボス戦を初めて三十分、シノンの援護もあって体力ゲージが四本あったボスの体力はあと少しといったところだった。

長い鼻を使った振り回す攻撃や、足踏み、背中の砲塔からの攻撃と言った様子で砲撃以外は単純な攻撃でフリューゲルが注意を引いている間にシノンが後方から弱点の砲塔の付け根を狙っていった。

 

ドォン!ドォン!

 

ダダダダダダダダッ!

 

ガキィン!!

 

シノンの狙撃銃の銃声と、フリューゲルの機関銃とヒートホークの当たる音。

それぞれが攻撃を行いながらお互いの援護をしていた。

そして体力バーが無くなりかけた時。象型クリーチャーに異変があった。

 

「っ!?なんだ!!」

 

「まさか・・・自爆!!」

 

象型クリーチャーの体がひび割れ始め、中から赤い光が漏れ始めていた。

 

「っ!!させない!!」「絶対にやらせない・・・!!」

 

二人は即座に動いた。シノンは弱点の砲塔基部を、フリューゲルは自爆元である腹下のコアを、お互いにへカートとヒートホークを持った。

 

「「これで終わり・・・!!」」

 

シノンが引き金を引き、フリューゲルはヒートホークの電源を入れ、二人の最後の攻撃は同時に弱点に命中した。

 

『ぷおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおんんん・・・・・』パリィィィィン・・・!!

 

最後の攻撃でコアを破壊され、砲塔が暴発した象型クリーチャーは最後に泣きながら横に倒れ、ポリゴン片に変化した。

その事に二人はほっとしていると共有ストレージ欄に『《衣装ボックスLv.5》×2』と表示された。

 

「これって・・・」

 

「上手く行ったようだな」

 

「フリューゲル、これ見て」

 

「ん?これは・・・」

 

フリューゲルとシノンは表示されているアイテム欄を見て少しばかり驚きの声を出した。

 

「これは驚いた・・・最後の攻撃が同タイミングだとアイテムが二つになるのか・・・」

 

「そう見たいね・・・」

 

レベル5の衣装ボックスとなれば確実にレア衣装が入っている事が確実で、シノンは中身が気になって仕方がなかったようだった。

 

「・・・ここで開けるか?」

 

「いいの?」

 

「待ち切れないだろう?」

 

「そうね、じゃあ・・・・」

 

シノンとフリューゲルはそれぞれアイテムを遺跡の安全圏内でオブジェクト化させた。

オブジェクトは金色に装飾の施された少し大きめの箱で、見るからにレア装備が入っていそうだった。

 

「・・・一緒に開けよう」

 

「そうだな・・・・その方が運気も上がりそうだ」

 

そうして二人は声を合わせて一斉に箱のロックを外した。

 

「「せーのっ!」」

 

ガコンッ!

 

そして二人は箱の中身を確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街に戻ったフリューゲルとシノンは周りから視線を集めていた。

 

「おい、あんな二人いたか・・・?」

 

「おいありゃ・・・噂の軍服シリーズじゃあねえか!」

 

「羨ましいな、もう見つけたやつがいるのかよ・・・」

 

「かっこいい・・・・」

 

「誰だ?あの二人は?」

 

思いの外注目されていることにシノンは少し顔を赤くして隣にいた青年に寄っていた。

 

「は・・・恥ずかしい・・・・」

 

「そう・・・だな・・・・少し店に入るか・・・・」

 

「そうしよう」

 

二人はとりあえず近くの店に入り、適当に飲み物を注文していた。

 

「・・・あんな奇跡あるんだね・・・」

 

「そうだな、思っても見なかった・・・」

 

フリューゲルとシノンはそう言いさっきの出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箱を開けた二人は中から衣装を取り出した。フリューゲルは装備の名前を確認し、《男性将校の制服(赤)》と書かれていた。

 

「これは・・・・「フリューゲル!」ん?」

 

シノンの声に反応するとシノンが一着の服を見せた。其処には《女性将校の制服(青)》と書かれていた。

 

「・・・ふっ、フハハハハハ!これは面白い、こんなの乱数調整しているとしか思えん奇跡だな・・・・」

 

「そ、そうね・・・・フフフ、面白い・・・・」

 

思わず二人して笑ってしまうと、フリューゲルは提案をした。

 

「じゃあ、ここで着替えるか・・・」

 

「え?」

 

「せっかく手に入れた装備だ。着て見たいと思わんか?」

 

「っ!そ、そうね・・・」

 

「さっきの戦闘中で、陰になりそうな場所があったんだ。其処で着替えたらお互いに手に入れた衣装を見ないか?」

 

「・・・分かった。早く着替えよ!!」

 

そう言い。二人は建造ドックの隅に出来ていた残骸に向かうと二手に分かれてそれぞれ衣装を着ていた。

 

「・・・こっちは準備できたよ」

 

「ああ、こっちも終わった」

 

お互いに声をかけると残骸から出た。

 

「ど、どう・・・?」

 

「すごく似合っているぞ」

 

「ふ、フリューゲルもね」

 

「シノンに言われると嬉しいな・・・」

 

そう言いお互いに衣装を見た二人はそれぞれ褒めあっていた。

 

シノンは青と銀色の線に銀色の徽章のついたサービス・キャップを被り、白いシャツに青いネクタイの上に、銀色の八つのボタンのついた青い裏地に銀色の線の入った上衣を羽織り裾には青い布を基調とした装飾が施されており、手には黒い手袋を着け、腰には銀色の金具の付いた白いベルトを巻き、下には膝ほどの長さの上衣と同じように銀色の線の入ったスカートを履いていた。

そして、スカートの下は黒いストッキングを履き、足にはジャック・ブーツを履いていた。

さらに上から青い裏地に銀色の装飾と肩章をつけたマントをつけていた。

 

対するフリューゲルは赤と金色の線と徽章の入ったサービス・キャップを被り、白いシャツと赤いネクタイ、金色の六つのボタンのついた赤い裏地のシングルスーツを羽織り裾は赤い布を基調とした装飾が施され、手には白い手袋を着け、腰には金色の金具をつけた白いベルトを巻き、下は黒いストレートパンツで、足にはジャック・ブーツを履いていた。

フリューゲルもシノンと同じように赤い裏地に金色の装飾と肩章の付いたマントをかけていた。

 

「まさかお揃いになるなんてね」

 

「ああ、まるで夢のようだ・・・」

 

お互いに衣装を見あった二人はクスクスと笑うとシノンが提案をした。

 

「ねえ、このまま街に戻らない?」

 

「そうだな・・・気に入ったからいいかもしれないな」

 

そうして二人は制服のまま遺跡を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今二人はジャブローの店の一角で顔を赤くしていた。

 

「何バカなことしちゃったんだろう・・・・」

 

「興奮して周りが見えなくなっていたな・・・・」

 

フリューゲルがなるべく冷静に理由を言うとシノンは机に突っ伏していた。

 

「・・・シノン、取り敢えず店を出て走ろう。車まで辿り着けば何とかなる」

 

「うん・・・そうだね」

 

お互いに顔を見合わせてササと店を出ようとした時、二人は声をかけられた。

 

「お二人さん。それ軍服シリーズだよね。今それ人気でさ、四十万クレジット出すから売ってくれないか?」

 

「え・・・あ・・・」

 

「あいにくとこれは売る気はないさ。気に入ったからな」

 

「そ、そうかい・・・・じゃあ、また売る気になったらここに連絡してくれよ」

 

そう言いデータ情報だけ渡されると男はどこかに去っていた。シノンはフリューゲルの落ち着いたようににいつも通りだと思いながら感謝をすると二人は店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンはこの軍服が気に入り、BoBの時はいつもの緑色の服を。それ以外ではこの将校制服を気に入って使うようになっていた。

フリューゲルも同様にBoB以外はこの制服を着るようになっていた。

ここから数日間、移動拠点でこの制服のままジャブローの遺跡攻略をしていた二人はいつの間にか『将校バカップル』や『軍人バカップル』なんであだ名がつけられてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シノンの軍服姿が好きすぎて持ってきちゃいました。
イラスト見ればハマる理由もわかると思う。


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間話#2 呼び出し

三月二十日

 

この日、修也を除いた和人達はエギルに呼ばれてダイシー・カフェに来ていた。

いつもの曲がり道を歩く和人、明日奈、直葉、里香、珪子、詩乃は放課後に御徒町の駅で集合しいつもの道を歩いていたが、道やダイシー・カフェの入り口には何人もの人が監視するように見ていた。

この予定は一ヶ月前から決まっており、日にちが近づいてくるたびに和人達は緊張していた。

緊張感がどんどん高まりながら店の扉を開けるとそこにはスーツを着た男性と。モーニングコートを着て、横にシルクハットを置いた老紳士がカウンター席に座っていた。

エギルはいつも通りグラスを拭いているが、ガチガチに緊張しているのがよく伺えた。

店に入った和人達に二人が気付くと和人達に挨拶をした。

 

「君が、桐ヶ谷和人君かい?」

 

「そ、そうです・・・・」

 

「初めまして和人君、私は修也の父の赤羽藤吉と言う。こちらは私の義父の秋元真之だ。いつも息子が世話になっているね」

 

「い、いえ!お世話になっているのはこっちの方ですから・・・・」

 

ガチガチに緊張した様子で和人は藤吉と挨拶をすると藤吉は今度は明日奈の方を見た。

 

「そちらは、結城明日奈嬢ですか?」

 

「あ、そ、そうです。は、はじめまして・・・・」

 

明日奈も和人と同じように緊張した様子で挨拶をした。

そして直葉達にも挨拶を知る中、里香が思わず言ってしまった。

 

「いえいえ、『赤富士』と呼ばれる貴方に会えて光栄です!!」

 

「・・・ほう、私の渾名を知っているとは・・・今の子は物知りなものだ」

 

今目の前にいる赤羽藤吉と言う人物は和人達からすれば立場があまりにも違いすぎた。本来ならこうして直接会えること自体が珍しい事だった。赤羽藤吉は現在、総務大臣を務める現職の国務大臣であり、和人達はよくニュースなどで顔を見ていた。赤富士と言う名は藤吉の政治家の時のあだ名で、彼の特殊な出立ちからそう名付けられていた。自衛隊を除隊した後に傭兵として世界中の戦場を駆け抜けていた彼は日本に帰国した後に政界入りした。その時、傭兵の経験から危険視をされていたが。逆に世界中の戦場を見てきた経験から平和主義を唱えており、それが信頼を生み。今では国務大臣を務めている。赤富士というのは苗字の一文字と名前の〈藤〉を〈富士〉に変えてつけられた彼の愛称であった。赤は日を表す事から生粋の愛国者の彼にはピッタリのあだ名とも言えた。彼は傭兵だった経験から欧州や中東に多くのコネクションを持っており、そこで厚い信頼を得ていた。そんな大物政治家が今和人達の目の前にいた。藤吉は和人達を見ると気さくに話しかけてきた。

 

「君たちの事は修也からよく聞いている。今日君達を呼んだのは私個人の我儘だと思ってくれ」

 

「「「・・・・」」」

 

思っているよりも優しそうな雰囲気に和人達は少しだけイメージと違うことに驚きをしていた。

 

「さて、和人君達に早速聞きたいんだが・・・修也は学校ではどんなふうに過ごしている?」

 

「え?あ、えっと・・・」

 

「いつも、いろいろな事を教えてもらっています」

 

「珪子?」

 

「そうじゃないですか。修也さんはなんでも知っているから。いつも私は分からないところを聞いていますよ」

 

珪子がそう言うとそれを皮切りに和人達も修也の事を話していた。

全部話し終えた頃、藤吉とカウンターにいた老紳士、真之も嬉しそうにしていた。

 

「そうか・・・修也はそんな感じなのか・・・」

 

「義父さん、やはり時間を設けて正解でしたな」

 

「ああ、そうだな。修也には迷惑をかけてばかりだったからな・・・」

 

思わず、老紳士は目に涙を浮かべていた。修也が日本にいた時に祖父の家でお世話になったと言っていたが、本当にそのようだった。

 

「・・・さて、私はそろそろ仕事に戻らないと行かない。ここら辺で私は失礼するよ。これからも修也と仲良くしてくれ」

 

「あ、はい。分かりました」

 

そう言って藤吉は店を出ると護衛の人に囲まれてそのまま店を後にして行った。

店には老紳士の真之が残った。

 

「・・・さて、私もそろそろ行かないとな。今日は楽しい話を聞かせてくれて有難う」

 

「あ、は、はい・・・」

 

そう言うと真之は詩乃の方に歩くと詩乃が挨拶をした。

 

「お久しぶりです。真之さん」

 

「ああ、元旦以来だな。修也とは上手く行けているようだね」

 

「はい、元旦の時は色々とお世話になりました」

 

「なあに、こんな老いぼれでも出来ることをしたまでよ」

 

二人はそんな話をしている横で和人達はポカンとした様子だった。元旦に修也の家に詩乃がお邪魔した話は聞いていたので、おそらくその時に知ったのだろうかと予測を立てながら話を聞いていた。

 

「私は青森に帰るが、修也の事を頼むぞ」

 

「はい、分かっています」

 

そう言うと真之は最後に大きな爆弾を落とした。

 

「同じ家に住んでいるから修也の底堕落な生活も少しは治ったかな?」

 

「「「「「!?!?!?!?!?」」」」」

 

「そうですね・・・修也も健康的な生活にはなったと思いますよ」

 

「じゃあ、私が心配することもなさそうだな」

 

「修也はよくお祖父様の事を話されていましたよ」

 

「そうかそうか。ならば私も今度お邪魔させてもらっても良いかな?」

 

「はい、修也も喜ぶと思います」

 

「では、また会おう」

 

そう言い残すと真之は店を後にした。店を出た真之はモーニングコートにシルクハッドがよく似合っており、紳士を体現したような後ろ姿だった。

真之を見送り、店に戻った詩乃は全員から同じ質問をされた。

 

「「「「同じ家に住んでるってどう言うことですか!?」」」」

 

「あっ・・・」

 

詩乃はどうしようかと説明に小一時間ほど使ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・で、ここに和人達がいるわけか・・・」

 

「ごめん」

 

「まあ、いいさ・・・いずれは話そうと思っていたことだ」

 

そう言い修也はため息を吐きながら向いた先には和人、明日奈、里香がいた。直葉と珪子もいたそうだが、先に帰ったそうだ。

バイトから帰ってこの有様に修也はため息しか出なかった。

 

「羨ましいわ。同棲しているなんて」

 

「お前ら・・・怪我するから下手にうろつくな」

 

「「「オーケー!」」」

 

三人はテレビゲームをしながら遊んでいると修也は買い物袋から野菜や飲み物を取り出していた。

詩乃から連絡で和人達が奢るからと食材を買ってきていた。

 

「今日は量が多いな・・・」

 

「良いんじゃないたまにはこう言うのも」

 

台所で野菜を切りながらぼやく修也に詩乃が優しく声をかける。

修也はコンロの上で圧力鍋を確認し、オーブン皿を開けて中身を取り出した。

 

「やっぱり、修也は上手だね」

 

「そうか?」

 

そんな事を言いながらテーブルで料理を待っている和人達にオーブン皿を置いた。

 

「「「わぁ・・・美味しそう!!」」」

 

「カボチャとニシンのパイだ。他の物も作っておくから先に食べててくれ」

 

「これ、魔◯宅みたいだね!!」

 

「ああ、それを参考にしたからな」

 

「和人、まだ食べないで!写真撮るから!!」

 

「おいおい・・・」

 

「賑やかになったわね」

 

「五月蝿いの間違いだろ・・・」

 

修也はやんややんや言う三人を横目に台所に戻って鍋からパスタを取り出して盛り合わせていた。

なんだかんだで大勢家に来て嬉しいのだなと思いながら詩乃は写真を撮って興奮している明日奈達を見ながらサラダを食べていた。

それから何枚かの大皿にそれぞれ料理を乗せて持ってきた修也は詩乃の隣に座ると送れて料理を食べ始めた。

 

「修也って料理上手いんだな」

 

「まぁな・・・アメリカにいた時に色々と教えてもらったんだ」

 

「あぁ〜、確か修也はアメリカに住んでいた時間が長いのよね。たしかにアメリカはジャンキーな食べ物が多そうだもんね」

 

「日本の食べ物が美味しすぎて外国の料理が食べられなくなる」

 

「うっそだぁ〜」

 

「だったら聞くが里香。スイカはどうやって食べる?」

 

「そりゃあ、冷やして切ってそのまま食べるわよ」

 

そう言うと修也はやれやれと言った様子で小さくため息をついた。

 

「はぁ・・・アメリカじゃあスイカは穴を開けて中にウォッカを突っ込んで一週間くらい放置してカクテル感覚で食べるんだ」

 

「・・・まじ?」

 

「まじだ、メロンなんかもバーベキューで野菜と一緒に焼いてから食べるんだぞ」

 

「「「嘘ぉ〜ん・・・」」」

 

「本当よ、その時の写真もあるし」

 

そう言って詩乃が写真を見せると和人達は興味深そうに見ていた。

 

「本当だ・・・」

 

「す、凄い食べ方ね・・・」

 

「日本じゃ考えられんな」

 

「基本的に日本の食べ物が全部美味いんだ。特に果物に関してはな」

 

そう言うと全員がヘェ〜と言って面白そうに聞いていた。そんな感じで各々大皿から料理を取って自由に食べていた。

たった二時間ほどでここまで料理を作る手際の良さに驚きながら、和人達は夕食を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後、和人達がゆっくりと話をして盛り上がっているとリビングに聞き慣れない音が聞こえ、扉が開いた。

 

『マスター、今帰った・・・よ?』

 

「あれ?和人さんに明日奈さん?それに里香さんまで・・・」

 

「おっ邪魔してまーす!」

 

「よ、直接会うのは春以来だな」

 

「お久しぶりです牧奈ちゃん」

 

「『え?』」

 

二人は驚いた様子で修也を見ると修也は事情を説明した。

 

「今日いきなり来たんだ。予定にないのは当たり前だぞ」

 

「あ、じゃあ。失礼しまーす・・・」

 

そう言い、マキナはストタンクに跨りながら部屋を後にした。

ストタンクはユイタンクから履帯を増やし、腕の部分にも手を加えた物だった。

今度オーグマーと言うAR型情報端末が発売されるので必要なくなってしまうかもしれないが、ストレア自体ストタンクは面白いと言う事でこのままストタンクは役目を果たし続けることになっていた。

 

ストタンクとマキナは最近こうやって移動する事が面白いそうで、こう言う光景をよく見ていた。

 

「二人とも元気ねぇ・・・」

 

「まぁ、ストレアちゃんはユイちゃんと同じだしねぇ・・・」

 

明日奈と里香がそう話しながら出て行った二人を眺める。その目は優しかった。

 

「・・・さて、そろそろ時間かな?」

 

「ああ、さっさと帰ってくれ」

 

「えぇ〜、もうちょっといさせれくれても良いじゃん」

 

「あのなぁ、時間を見ろ時間を」

 

「「「え?」」」

 

三人が思わず時間を見ると午後九時を回ったところだった。

 

「ヤバイ!もうこんな時間!?」

 

「急いで帰らないと!!」

 

「マズイマズイマズイ!スグに怒られる!」

 

「だから言っただろうに・・・」

 

慌てて上着を着てバタバタと出ていく三人を見て呆れながら修也は三人を玄関で見送った。

慌しかった数時間はあっというまにに終わり、修也と詩乃はテーブルでゆっくりと一息をついた。

 

「はぁ、騒がしい奴らだ」

 

「でも、楽しそうだったわよ」

 

「そうだろうか?」

 

「ええ」

 

「・・・」

 

思わず二人は黙としてしまうと修也は席を立って自室入ってしまった。

詩乃はそんな修也を見て面白そうにしながら台所で紅茶を淹れ始めた。ゲームの会議がある日は決まって詩乃が途中で紅茶の差し入れをしていた。

修也の部屋は詩乃が来た頃に比べて綺麗になっており、付箋で隠れていた壁も今は白い壁紙が見えていた。

 

このマンションは藤吉さんの所有するマンションの一つで学校と実家の中間地点にある。

前に住んでいた所と比べて学校まで遠くなってしまったが、修也が朝早く起きるのでそこら辺は問題なかった。

修也は少し目を離せば直ぐに自堕落な生活に戻るので近くにいた方が健康的にも精神的にも安心できた。

詩乃が来る前なんかは食事を必要最低限のサプリメントを飲んで生活をしていたのだから胃の中は空っぽで、医者からは修行僧のようだと言われていた。

 

修也の部屋にはエアガンが置いてあり、これは修也がアメリカで銃を撃ちまくっていた時の感覚が忘れられなくて買ったものらしい。

少しだけ銃を見て驚いてしまったが、今では完全に慣れてしまっていた。

そして紅茶を渡しにいくと修也はヘッドホンをつけて海外にいると言う他のザスカーの運営の人達と今後の方針を話し合っていた。

 

今回の議題はBoBの集団戦バージョンの『スクワッド・ジャム』と呼ばれる大会の結果を見て今後の方針や新しいルールの相談をしていた。第一回BoBの後に日本サーバーとアメリカサーバーを完全に分断したのはその時にアメリカ人が日本サーバーで大暴れしたからだそうだ。

 

運営がゲームに参加してより良いものにしているか、と感心しながら修也の話を聞いたことがあった。

ちなみに、ほとんど使った事はないらしいが、運営には日本サーバーとアメリカサーバーを制限なしに行き来できる権限を持っているらしい。

そんな事を思い出しながら詩乃は紅茶を修也の横に置く。

 

「お疲れ様」

 

「ああ、有難う」

 

今日もこうして修也と詩乃は幸せそうに微笑みあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、修也と詩乃の住むマンションは学校から近いということでちょくちょく和人達の訪問を受けることになってしまった。



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間話#3 水辺の戦闘

衛星都市巡行シリーズの第二弾です。
もうネタが尽きかけているのであと数話でアリシ編に行くと思います。


四月二十日 大陸南端 衛星都市『ラサ』

 

一周年記念で拡張された大陸各地に形成された衛星都市の一つ。この地は大陸南端ということもあり温暖な気候で、海に面しており、近くには川も流れていた。

 

「すごい、広告の数・・・」

 

「こりゃ観光地だな・・・」

 

この街に雲豹で到着した二人は外の様子を眺めながら思わずそんな事を呟いてしまった。

と言うのも海岸側の道路にはバラックの店が立ち並び、道沿いには大きな立て看板がいくつも並んだ小さな観光地があった。

と言っても海には大量のクリーチャーに海獣がウヨウヨとしており、とてもじゃないがALOのような綺麗な海とはかけ離れた見た目だった。

それでも海岸の砂浜では野郎どもがバーベキューをしていた。

 

「衛生都市を回ってはいるが・・・」

 

「どうする?すぐに移動する?」

 

「・・・どうせなら此処のモブを狩っていくのもいいかと思っていたが・・・」

 

「じゃあ、あそこ行かない?」

 

シノンが指差した先には朽ちた大きな釣り橋があり、道中では何台かの車が止まり、横で釣り糸を垂らしていた。

軍服を着ている二人は橋を見ると行き先が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橋の真ん中ら辺まで来たフリューゲルとシノンは慣れた手つきで車から降りると橋から景色を眺めていた。

 

「綺麗ね・・・」

 

「ああ、向こうの山脈まで見えるんだな・・・」

 

橋から見えた景色に思わず感嘆の声を漏らしていた。橋は大河の上に架けられており、青々とした川の上流の方を眺めると遠くに雪の積もるグロッケンと南方地域を隔てる山脈が見え、壮大な景色を見せていた。

景色に見惚れているとフリューゲルがさっきの街で買ってきた釣竿をシノンと一緒に車上から垂らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橋の上でのんびりと待つ事十分、いまだに餌に食いつく様子はなかった。

 

「・・・暇だな」

 

「暇ね・・・」

 

「「・・・・」」

 

お互いに無言の時間が過ぎながら車上から釣竿を引っ掛けて待っていると不意に声をかけられた。

 

「おやぁ?そこにいるのは噂のシノンとフリューゲルじゃねえか?」

 

「なんだ・・・X(イクス)と闇風か・・・」

 

そこには赤いモヒカンと黒い衣装が特徴の闇風と、銀色の髪にぴっちりとした服が特徴の銃士Xだった。

第三回BoBで共にキリトにぶった斬られたプレイヤーだが、あの大会以降ちょくちょく遺跡巡りなどで行動することが多い仲だった。

ちなみに二人はカップルではないかと言う噂がある。

 

「相変わらずしけた顔をしているな。釣りか?」

 

「そんな所だ。二人は?」

 

「新しいマップを見て回っている。一周年記念で追加された部分のな」

 

「広くなったからな・・・移動が大変だろう」

 

「戦車持ってるお前だけには言われたくねえがな」

 

そう言いながら闇風と釣竿も他所に新マップの情報交換をしていた。シノンとXは車の上で別の話をして盛り上がっていた。

 

「・・・で、ここから北西に行ったところにヨーカって言う西部劇みたいな街があった」

 

「西側にはマースという街があって、そこには目ぼしいものとかは特になかったな・・・」

 

「なるほどな・・・」

 

マップ情報の共有を終わらせた二人は改めて解放されたマップの広さに呆れていた。

 

「全く・・・マップが広すぎて泣けてくるわ。ただでさえ移動とかきついのに・・・」

 

「乗り物を買う人が増えそうだな」

 

「実際、バイクがよく売れているらしいぞ」

 

「成程な・・・」

 

二人ともゲーム発売初期からいる所謂古参勢なので、今までのマップもある程度は把握していたが、今回新マップが追加されたことで新マップの把握に大忙しだった。

 

「ここら辺は海洋生物のクリーチャーが釣れるらしいな」

 

「ほーん」

 

「なんでも釣り上げたらそのまま交戦状態に入るんだと」

 

「ほーん」

 

そう言えばクリーチャーの設定とかやったなぁ・・・なんて思いながら空を飛ぶ鴎を見ていると地面が少しだけカタカタと揺れた気がした。

 

カタカタッ

 

「ん?」

 

「わああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

「ヤバイよ!ヤバイよ!」

 

すると何人かのプレイヤーが走りながらこっちに逃げてきており、何事かと思っていると振動はどんどん高まっていた。

 

 

 

ガタガタガタガタ・・・・・

 

 

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

 

 

 

四人が目にしたのは信じられない光景だった。橋を20メートルはあろうかと言うほどの巨大な機械ザメが大きく口を開いて海面から突き上がっているではないか。

そして機械ザメは橋ごとプレイヤーを飲み込むとそのまま海に沈んでいった。一瞬の光景に四人は直ぐに動いていた。

 

「やるぞ!」

 

「ええ、やってやるわ!」

 

「私は大丈夫」

 

「いつでも行けるぞ」

 

崩落していく橋を見てフリューゲルは運転席に滑り込んでレバーとハンドルを握り、車体を勢いよくバックさせた。

体が前に傾く感覚を感じながらフリューゲルは外の景色を眺めていた。

フリューゲルの横の席には闇風が半分身を乗り出して射撃姿勢をとり。射撃席にはシノンが座り、イクスは砲塔から身を乗り出していた。

 

「シノン、射撃用意」

 

「・・・良いの?」

 

「これ以上橋を壊されたら先に行けなくなる。そしたら遠回りしないと行けなくなるから面倒だ」

 

「それは面倒ね。一回壊れたオブジェクトは修復されるのに時間がかかるから・・・」

 

「ここでやるしか無いか・・・」

 

車に乗り込んだ四人は図らずとも共闘という形で闇風とXは車から銃を持って身を乗り出していた。

 

「ボスの名前は?」

 

「えーっと・・・『機械海獣メガロドン』って出ている」

 

「デカイなこの野郎!!」

 

「まずは敵の攻撃パターンを確認する。銃の攻撃が通るかどうかを確認だ」

 

「了解」

 

フリューゲル以外の全員が身を乗り出して各々銃を放つ。イクスは《Mk14 EBR》。闇風は《キャリコM900A》、シノンは《ヘカートⅡ》を持って機械ザメに射撃をするとザメはフリューゲルの車をロックオンしたようで視線を向けて突っ込んできた。ダメージは一応通るようで体力バーは少しだけ減っていた。

 

ブオオォォォォンン!!

 

スピードを上げて徐々に陸地側に移動するフリューゲル達はサメの攻撃に注視していた。機械ザメは大きな巨体を使った体当たりや、ミサイル。レーザーで攻撃をして来たが。フリューゲルは車を左右に揺らしながら攻撃を避けていた。

 

「図体がデカいから攻撃も激しいわね・・・」

 

「橋がボロボロだぞ」

 

「シノン、次の攻撃の時に105mmで鼻を狙え。おそらく弱点だ」

 

「了解」

 

シノンに司令を送り、測距儀を起動すると手に発射レバーを握った。

闇風達はシノンの腕を知っているので大ダメージを期待しながら二人は様子を眺める。

水辺から一気に飛び上がってくる機械ザメが橋の穴を通過した一瞬。

 

「・・・」ドォォン!!

 

放たれた105mmの砲弾は機械ザメの鼻先と接触、爆発して機械ザメの鼻を吹き飛ばした。

 

『GYAAAAAAAAAA!!』

 

悲鳴のような機械音声を上げながら機械ザメは橋から落ちた。

 

「・・・・やったか?」

 

「いや、リザルトが出ない。まだ生きている・・・!!」

 

ザバァン!!

 

水の音が聞こえると、鼻が大破した機械ザメは体から()()()()()()()()()陸上に上がっていた。

 

「うっそだろ・・・」

 

「もう何でもありじゃん!!」

 

「どうする?」

 

「取り敢えず逃げるしか無いだろ・・・」

 

『GYAAAAAAAAAA!!』

 

「っ!?来るぞ!」

 

後退しながらジグザグに避けるフリューゲルは間一髪で突っ込んでくる機械ザメをかわした。

 

「また面倒な奴ね」

 

「体力も後少しなんだ。さっさと片付けるぞ」

 

「勝ったら祝杯でも上げたいな」

 

「それ、良いわね」

 

四人はそれぞれそんな事を話しながら陸を走る機械ザメを追っていた。四本脚で陸上を走る機械ザメに、闇風とイクスは車を降りて接近戦を仕掛けようとしていた。

フリューゲルも運転をやめて運転席からPKPペチェネグを機械ザメに向けて銃を撃っていた。105mm砲の威力は凄まじかったようで鼻の部分は火花を散らして動きも少しだけ鈍くなっているように見えた。

機械ザメはボロボロの鼻の部分を見せながら最後にミサイルの乱れ打ちをしていた。

ミサイル自体は無誘導のようで一直線に飛んでくる物をシノンがヘカートⅡで撃ち抜いていた。

そして最後は闇風とXが仕留め、組んでいた自分達にもリザルトが出た。

大量のクレジットとアイテムが二人のストレージに現れた。

ネームドモンスターという事でアイテムも豪華だった。

 

《メガロドンの装甲片》

《メガロドンの装甲片》

《メガロドンの装甲板》

《二十連装ロケットポッド》

《二十連装ロケットポッド》

《レーダー射撃装置》

 

アイテムを確認した二人はロケットポッドに目が行き、オブジェクト化させると円筒型の兵器が浮かび上がり、中に二十本のロケット弾が詰まったロケット弾発射筒が出て来た。

 

「これって・・・」

 

「確実にこれ用だろうな」

 

そう言い、フリューゲルはロケットポッドをタップするとホログラムが現れ、ミサイルポッドがどこに付けられるのかなどが浮かび上がった。

二人は二つあるロケットポッドを車体に取り付けてプチ改造をすると闇風達が戻ってきてついでという事でラサまで戻る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラサに戻ったフリューゲル達は闇風達をラサの街で降ろし、そこで祝勝会として小さめの宴会を開き、その後二人と別れた。

 

「じゃあまた会おうぜ」

 

「ああ、宜しくな」

 

「シノン、また今度組もう」

 

「ええ、その時は宜しく」

 

そうして、フリューゲルが運転席に入るとレバーを引いて装輪戦車はラサの街を後にしていった。

そんな二人を見た闇風がふとつぶやいた。

 

「俺も車買おうかな・・・」

 

「辞めときなさい。アンタは欲張って失敗するタイプなんだから・・・」

 

「でも、バイクくらいは欲しい気もする」

 

「だったらここで貯めてリアルで買いなさいよ」

 

「いま、金欠ダァ・・・」

 

そんな事を話しながら二人は金策の凄く上手い赤いプレイヤーを思い浮かべていた。



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間話#4 チョコの日

二〇二五年 二月十三日

 

この日、詩乃は明日奈の家にお邪魔してチョコを作っていた。

 

「しののんすごい上手だね」

 

「え?そう?」

 

「うん。私も結構頑張っているけどしののんと同じくらいだもの」

 

そう言われ、詩乃が手元を見ると其処には焦がしたビターチョコレートにココアをまぶし、コーヒー豆をあしらったチョコレートがあった。

アスナと違い、大人な印象の見た目と味をしているそのチョコは詩乃の手で丁寧に梱包されていた。

 

「修也が色々と教えてくれたからかな・・・?」

 

「あぁ、確かに修也はすごい料理上手だもんね」

 

「アニメとかに出てくる料理をそのまま再現できるのってすごいと思う」

 

そんなことを言いながら包装をしていると不意に詩乃が明日奈に聞いた。

 

「明日奈。去年修也って何個くらい貰っていたの?」

 

「え?何で?」

 

「ほら、修也って紳士的というか、同世代でも大人びているから、そう言うの好きそうな人って多いから・・・」

 

修也の性格を思い出しながら詩乃が聞くと明日奈は微妙そうに指を四本出した。

 

「四個?」

 

「ううん・・・・四十個」

 

「はぁ!?」

 

思わず声に出して驚いていると明日奈は申し訳なさそうに細かい数と追加で説明をした。

 

「細かく言うとチョコは四十三個貰って、十人から告白されてた。それも私が直接見たのだから本当はもっと多いかも・・・」

 

「・・・・」

 

「あぁ、もちろん告白は全員断っていたよ!!!」

 

「・・・そうよね」

 

慌てて明日奈はそう言うと詩乃はホッとした様子で梱包したチョコを置くと明日奈はさらに続きを話した。

 

「修也さんが言っていたんだけどアメリカだとバレンタインは愛する人や親しい人に感謝や愛を伝える日なんだって」

 

「というか、それ以外に何かあるの?」

 

「え?あぁ・・・・うん、そうなんなけどね・・・・」

 

明日奈は他にもアメリカのバレンタインの文化を聞いていたが、今言うべきではないと直感的に感じて続きを言うことはなかった。

そして二人はチョコを作り終えると詩乃が明日奈の家を後にした。

 

「今日は色々とありがとう」

 

「いいよいいよ、私も作る相手がいて嬉しかったから」

 

明日奈と短く別れをすると詩乃はそのまま家に戻ると自分の部屋の冷蔵庫に閉まった。

修也は現在バイトのため家には居なかった。ちなみに、バイト先は何なのかは教えてくれなかった。

 

 

 

 

 

修也と同棲しているマンションの部屋は4LDKと言う大きな部屋でマンションの一階分を丸々使い、外にはバルコニーまであった。

藤吉さんの所有するマンションの一つだそうで、藤吉さんは関東中にマンションやビル、土地を持つ大地主らしい。

修也はその中から学校に一番近いマンションの空いている部屋を藤吉さんから渡されていた。

最新式の電子錠に、鍵がないと乗ることもできないエレベーター。天気が良ければバルコニーからは富士山を眺めることの出来るこの部屋は普段パソコンばかり眺めている修也には正直勿体無いと言うような部屋だった。

 

 

 

 

 

詩乃が此処でお世話になるまで修也の私室(汚部屋)以外は全部機械部品か何かが乱雑に置かれた機械の森となっており、詩乃が来た後にそう言った部品も丁寧に修也の部屋ともう一つの部屋に片付けて詩乃と修也の私室とベット、残りの一室は本を置く図書室となっていた。

 

 

 

 

 

だが、年を越した後。部屋の模様替えで、図書室は本をリビングに出して其処にベットを運び入れて寝室にしていた。

寝室となった部屋には図書膣の名残で本棚が残してあり、其処には二人が読む本などが置いてあった。

入りきらない分はリビングのテレビ台の空いている部分にしまっていた。

今までとは打って違い、豪勢な生活に詩乃は初めはタジタジだったが、三ヶ月もすればすっかり慣れてしまっていた。

 

 

 

 

 

そんな生活をしている中で、修也と詩乃の部屋にはそれぞれ飲み物程度しか入らない小さめの冷蔵庫があった。

これは修也が飲み物をすぐに取り出せるようにと買ったもので、詩乃の分と言って買ってもらったものだった。

今この中には冷蔵する必要のある化粧品やスプレー缶や若干のジュースが入れてあった。

温度的にチョコレートを保存するにはとっておきの場所であり、詩乃は明日が待ち遠しかった。

ちなみに修也の部屋の冷蔵庫には飲み物のほかに常時冷却する必要のあると言うよくわからない機械が詰まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 二月十四日 バレンタイン当日

 

土曜日の今日。詩乃は学校がなく、修也は昼に帰ってくる予定だ。

詩乃は帰ってくる修也を待ちながら部屋で待っていると扉の開く音がしてガサゴソと何か擦れる音と運ぶのに苦労している様子の声が聞こえ、リビングの扉が開くと紙袋パンパンに詰まったチョコレート菓子を抱えた修也が制服を着た状態で帰ってきた。

 

「帰ったぞ〜」

 

「あ・・・うん・・・・その荷物なに?」

 

「学校でもらったお土産。こんなにいらねぇ・・・・」

 

面倒臭そうに台所の冷蔵庫に全部入れていた。

今日が何の日かを知らないわけがないはずなので、詩乃は修也に恐る恐る声をかける。

 

「修也、そのチョコどうするの?」

 

「ん?あとで全部食べるよ。あとで二人で頂こう」

 

そう言うと修也はそのまま自室に戻ると修也はすぐに戻って来て詩乃の反対側の椅子に座り、卓上の赤いリボンで結ばれたブラウンの箱を見るとその横に緑色のリボンに赤色の箱を置いた。

修也の取り出した箱に詩乃は思わず疑問に声が出てしまった。

 

「これって・・・・」

 

「あれ?明日奈から聞いていないのか?」

 

「うん・・・何も・・・・」

 

そう言うと修也はなるほど言って様子で納得をすると詩乃に説明をした。

 

「アメリカじゃあ、チョコレートを渡すのは男性からなんだ」

 

「そうなのね・・・・」

 

思わずお互いにダンマリとしてしまうと、修也が口を開いた。

 

「・・・ま、取り敢えず私は詩乃のチョコをいただくよ。早く他の余りを食べたいからな」

 

「!!」

 

詩乃が驚きながら修也を見ていると修也は詩乃の作った箱を丁寧に開けて中身を取り出していた。

 

「ほぅほぅ、見た目も綺麗で・・・・美味いな・・・・やはり詩乃のを最初に食べて正解だったな」

 

「あ、ありがとう・・・・///」

 

思わず顔を火照らせながら詩乃も修也の作ったチョコレートを見た。

中身はミルクチョコレートとビターチョコレートを交互に置き、その上からルビーチョコレートをかけた、店にも出せそうなほど綺麗だった。

 

「・・・・・・美味しい」

 

一口チョコを食べた詩乃はそんな感想を言うとお互いに作ったチョコを食べ終えると、修也は先程しまっていたチョコを取り出すとため息混じりに呟いた。

 

「これも食べなきゃいけない。詩乃も食ってくれるか?」

 

「ハハハ・・・」

 

詩乃は思わず苦笑しながら机に出されたチョコレートを修也と一緒に食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、詩乃は夕食の場で修也に聞いていた。

 

「ねえ修也。BoBって次いつやるの?」

 

「え?うーん、十二月の事件があってからなるべく控えていたんだけどな・・・・」

 

「そろそろやりたい」

 

「・・・いいのか?」

 

「大丈夫。もう、怖くないから・・・・」

 

詩乃は今のGGOの目的が変わっている事に気づいていた。

 

 

 

前はただ強さを求めて荒野を駆けていたが・・・・今はもう違う。

 

 

 

ただ純粋にゲームを楽しむ

 

 

 

詩乃は最近はそんな風に思いながら荒野を修也と共に駆けていた。

 

ゲームが楽しい、GGOが楽しい。

 

そんな風に思いながら詩乃は修也と共に銃を撃っていた。

最近は修也に教えてもらっているおかげか。勉強時間が変わっていないのにも関わらず成績が伸びていた。

修也曰く、『正しい方法で勉強をすれば時間が少なくても成績は簡単に上がる』らしい。

今、思えば修也が勉強をしているところを見たことがない気もするが・・・・

と、そんなことを勝手に思いながら詩乃は少し悩んでいる修也を見て、もう一押しした。

 

「私の今の実力も見てみてみたいから・・・・」

 

「・・・・分かった、いつできるかはわからないが・・・・相談はしてみよう」

 

「ありがと」

 

修也がそう言い、詩乃も嬉しそうにすると修也は席から立ち上がって私室に入る。

最近、私室に篭ることが多い修也だが。どうやらバイトでロボットを作っているらしい。

一体どんなバイトなのだと、思わず聞きたくなってしまったが。修也の邪魔をするわけにはいかないと思い、詳しくは聞こうとも思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜

 

寝室で本を読んでいた詩乃は修也が寝巻きで入ってくるのを確認した。

 

「なんだ、まだ起きていたのか」

 

「ええ、修也にまだまだ話したいこともあったし」

 

そう言い、修也の隣で布団に入った詩乃がそう言い、修也もやれやれと言った様子で詩乃の隣の布団に入った。

 

「ねえ修也」

 

「なんだ?」

 

「来年もこんな感じで行きたい」

 

「そんな事だったか・・・・」

 

「何よ・・・その言い方」

 

「いや、嬉しいと思っただけだ」

 

思わず膨れっ面の詩乃に修也は本心を言うと詩乃も満足したようで少しだけ笑うと、来年はチョコを送り合うことが決まった。






ようつべで沢城さんの歌うルージュの伝言を聞いて興奮してしまった・・・・



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間話#5 旅行


毎度のことながら趣味が滲み出てます。



五月一〇日 ダイシー・カフェ

 

この日、修也と詩乃。和人と明日奈はカフェに集まって談笑をしていた。

 

「・・・で、お土産は?」

 

「せっかちだな。ちょっと待ってろ」

 

「しののん。アメリカはどうだった?」

 

「うーん、結構楽しかったかな」

 

そう言い、詩乃は満足げにこう語った。

今月の二日から昨日までの一週間、修也と詩乃はアメリカに旅行に行っていたのだ。

日本よりも長くアメリカに住んでいる修也は初めての海外旅行に緊張している詩乃をエスコートしながら案内をしていた。

海外旅行に行く時、明日奈達は絶対お土産を買ってくる事を半ば脅迫まがいにお願いされ、二人は苦笑しつつも買って来ていたのだ。

そして買ってきたお土産を渡すと制服姿の明日奈達は詩乃から旅行の感想を聞いていた、

 

「すごく簡単に言うと・・・・修也が簑巻きにされて戦車で引き摺られて。私が陸軍の人に本気で勧誘された

 

「「ちょっと待ってどう言う事!?!?」」

 

思わず二人が大声で突っ込んでいた。バーのカウンターでグラスを拭いてたエギルも思わず驚いた様子で修也達を見ていた。

すると修也がそうなった経緯を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本からロサンゼルス空港に到着した修也と詩乃は出口で盛大な出迎え受けた。

 

「「「よく来たなぁ裏切り者ぉ・・・・」」」

 

ドス黒い声と笑みを浮かべた男どもにそう言われて、一瞬で麻袋を被せられた修也はそのまま車に押し込まれてどっかに走り出してしまった。

一瞬の出来事で唖然としていると詩乃は隣にいた男性に声をかけられた。

黒髪に青い目を持った男性は流暢な日本語で詩乃に声を掛けてきた。

 

「君がシューヤのフィアンセかい?」

 

「えっと・・・・」

 

「ああ、ごめんごめん。私はザスマン、ザスマン・シャザールだ」

 

「あ・・・貴方が・・・」

 

「シューヤから色々と聞いているかもしれないけど・・・・取り敢えず案内するよ。シューヤの行き先はわかるから」

 

「あ、はい・・・・お願いします」

 

前からザスマンの事は聞いていたので詩乃は若干緊張しつつもザスマンの運転する車に乗り込んだ。

そしてザスマンと詩乃は車内で少しだけ話をすると、車はロサンゼルス市街のキャンプ場に到着した。

 

「着いたよ」

 

「ここですか?」

 

そう言い車を降りた詩乃はザスマンの後ろを歩きながら道を歩いていると豪快なエンジン音と履帯の音が聞こえてきて、開けた場所に出た。

そこでは荒野とそこを土煙を上げながら無尽に走り回るM24チャーフィー軽戦車がいた。

そして軽戦車には先程修也を麻袋に詰めた男達がヒャッハーしながら声を上げてドリフトをしていた、そしてその軽戦車に紐が括り付けられており、その先にいた人に思わず詩乃が声を上げた。

 

「修也!?」

 

紐に括り付けられた修也は軽戦車でグルングルン引っ掻き回され、満足したのか男達は麻袋から修也を出してそのまま軽戦車でまた走り出していた。

 

「あぁ〜、酷い目にあったもんだ・・・」

 

「だ、大丈夫なの!?」

 

「なぁに、彼女も作れない男どものヤキモチに過ぎんよ」

 

「そんな事言うからよく怒られるんじゃねえのか?」

 

ザスマンとそんな話をして修也はボサボサになった髪を適当に整えると何事もなかったかのように案内をした。

 

「詩乃、この人がアメリカに住んでいた時にお世話になったザスマンだ」

 

「改めてよろしく」

 

「よ、宜しくお願いします・・・・・」

 

そう言うとザスマンはこの場所の簡単な説明をした。

 

「まぁ、射撃場と荒野と男しかない場所だけどゆっくりしていって」

 

「あ・・・・はい」

 

そう言うと詩乃は修也に呼ばれて声のした方に向かっていた。その様子にザスマンは面白そうな表情を浮かべながら修也を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初日は挨拶と歓迎会で大騒ぎした後。修也と詩乃はGGOにログインをしていた。

サーバーはアメリカサーバー。俗に国際サーバーと呼ばれている場所だ。

現在GGOは日本サーバーと国際サーバーと分けられており、日本にいる場合のみ日本サーバーに出入りすることができる仕組みだった。

今日は国際サーバーで二人は荒野を走り抜けていた。

 

「結構遊んだわね」

 

「そうだな。新しい銃も使いやすい」

 

そう言いフリューゲルは二丁の銃を見ながらそんな感想を言っていた。

片方は特徴的な用心鉄を持ったレバーアクション式の小銃で、名前を《ウィンチェスターM1895》と言う。

フリューゲルが新しく買った銃の一つで、レバーアクションと言う珍しい機構を使った小銃で、フリューゲルが使っているのはロシア帝国用に輸出されたもので、7.62×54R弾を使用できるものである。

そしてもう一つは《レミントンM870》、ター◯ネーターやバイ◯ハザードで登場する有名なポンプアクション式散弾銃だ。

日本でも警察や自衛隊、海上保安庁などや、狩猟用に販売がされている。

フリューゲルはそんな銃を持って試射がてらPvPをしていた。

シノンが後ろから後衛をしてくれる影響でソロ時代よりも警戒が圧倒的に楽ちんであった。

そんなことを思いながら二人は一通り狩りを終えてログアウトをすると初日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、旅行三日目の今日。ロサンゼルス市内で観光をした詩乃と修也は初日に来ていた射撃場に来ていた。

多種多様の射撃音が聞こえる中、二人は射撃場の倉庫に来ていた。

 

「へぇ・・・いろんな銃がある・・・」

 

「ザスマンとかが色々買っているんだ。あのチャーフィーは陸軍の払い下げ品を買ったものだ」

 

「そ、そうなのね・・・」

 

「さて、まずは拳銃から撃ってみよう」

 

そう言って修也は倉庫の中からグロック21Cを詩乃に渡した。

GGOでは弾薬の共有が出来るからと詩乃が.45ACP弾を使えるものに買い直した拳銃だ。

 

「ゲームで使い慣れている銃の方が使いやすいだろう」

 

「あ、ありがとう」

 

「使い方は分かるな?」

 

「うん、大丈夫」

 

そう言い、耳当てとゴーグルをしてグロックを両手で構えると詩乃はGGOと同じように銃を構えた。

 

パンッ!

 

少し遠くで小さな土煙が上がり、的の真ん中に命中していた。

GGOよりも反動が少し大きいと感じていると隣で修也とザスマンが感想を言った。

 

「拳銃じゃあ簡単だな」

 

「そう見たいだな」

 

「ザスマン、次はアレでいいと思うぞ」

 

「良いのか?」

 

「問題ないさ」

 

「分かった。倉庫の一番奥の右下、鍵はこれだ」

 

「ありがとう」

 

そう言うと修也は倉庫に入り、中から少し大きめの木箱を持ってくると取り出して詩乃の前に置いた。

 

「これって・・・・」

 

「《ウルティマラティオ ヘカートⅡ》・・・・本物だ。試しに撃ってみると良い」

 

「・・・」

 

本物のヘカートⅡを見て詩乃は驚くと修也は代わりに装填をしてくれた。

 

「GGOの時と変わらない姿勢で撃てば良い。ゲームより少し反動が大きいかもしれないがな」ガコンッ!

 

そう言うと修也はコッキングレバーを引いて弾薬を装填した。

私は修也に言われて台の椅子に座るとヘカートⅡの引き金を握った。

GGOと変わらない感覚。しかし、ゲームのように着弾予想円は無く、スコープの距離と落下のメモリだけが見えていた。

的までの距離は1000m程、ゲームだったら必中距離だがここは現実。風向きや湿度なども関わってくる為真ん中に当たるかどうかは分からない。

詩乃は息をゆっくりと吐いて引き金を引いた。

 

「すぅ・・・はぁ・・・」ドォォン!!

 

GGOより強く感じる反動と大きな音と共に空気が揺れ、発射された弾丸は土煙を立てて的の赤い真ん中から少しそれた位置に穴を開けた。

GGOの癖でしまったと思いながらレバーを引くも、弾薬は一発しか入っておらず、薬莢が落ちる音だけが響いた。

咄嗟に修也の方を見ると・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこでは双眼鏡越しにポカンとしているザスマン達がいた。

 

「うっそぉ・・・・」

 

「おい、オメエさんの彼女腕良すぎん?」

 

「初撃で的に当たっている・・・??」

 

そんな感じで困惑していた。

詩乃も困惑をしていると修也が思わず感想を言っていた。

 

「すげぇ・・・」

 

「しゅ、修也?」

 

「いやぁ・・・最初から的に当たるのはさすがとしかいえないな・・・」

 

「そ、そんなに・・・?」

 

「少なくとも・・・「「「君!陸軍に入ったらどうだい!?」」」と言われるくらいには・・・」

 

「・・・・」

 

ポカーンとしている詩乃にザスマン達は割と本気の眼差しで詩乃に色々と聞いていた。

 

「君には才能があるかもしれんぞ!」

 

「待て待て!もう一発撃ってくれ!」

 

「ウッソだろ!?対物ライフルだぞ!反動が高いのによく当たるな!?」

 

「え、えぇ・・・・」

 

「おい、アンタら」

 

そう言い、半ば興奮状態のザスマン達を修也は一言で抑えると困惑する詩乃を連れて射撃場の端の方に移動した。

 

「いいの?」

 

「別に問題ない。割と本気の目をしていたが、そもそも詩乃を軍人になんかさせるつもりはさらさら無いしな。時間の無駄になるだけだ」

 

「・・・」

 

「さて、他に撃ってみたい銃はあるか?」

 

「あ、じゃあ・・・・あの棚の一番上のが良い」

 

「分かった」

 

身長が180近くある修也は簡単に棚にあったリボルバー拳銃を取ると詩乃に渡した。

詩乃が手に取ったのは《S&W M500》。最強の威力を持った拳銃と名高いあの銃である。(バイオに出てくるアレ)

使用する.500S&Wマグナム弾はグリズリーを一撃(!?)で倒せる威力を持った弾丸である*1

と、そんな威力を持つため、反動は凄まじい威力を持っている。

なお、その威力と知名度からGGOでもデザート・イーグルと同等に人気の拳銃である。

そんな銃を手に取った詩乃は修也のレクチャーで姿勢を構えると引き金を引いた。

 

「・・・」バァァン!!

 

大きな銃声と共に詩乃は反動の強さに驚きつつもなんとか抑えて、少し痺れる手を見ながら銃を置いた。

 

「すごい反動・・・」

 

「反動を抑えただけでも十分だぞ」

 

「修也が、教えてくれたからだと思う」

 

「そうだろうか?」

 

「ええ、修也は教え方が上手だと思うわ」

 

そう言って二人は少しだけ笑いながら次に何をしようか話していた。

その様子にある者はブラックコーヒーを配り、

ある者は恨めしそうに見て、その後静かに泣き始め、それを慰めたりと、カオスな空間が射撃場の一角で広がっていた。

ザスマン達、彼女いる。もしくは既婚者組は温かい目で二人を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・って、事があったのよ」

 

「「詩乃さん(しののん)、スゲェっす!」」

 

話を聞いた和人と明日奈はハモリながら土産話の感想を言うと詩乃は懐からアクセサリーを取り出した。

特徴的な形をしたアクセサリーに明日奈が聞いた。

 

「しののん、それ何?」

 

「これは修也が作ってくれたの。私が撃った拳銃用弾薬の薬莢よ」

 

「これが?」

 

「そうだ。空薬莢は持ち帰れるからな」

 

「因みにどうやって持ち帰ったんだ?」

 

「・・・・聞くか?」

 

「・・・・やっぱ説明長そうなんでやめときます」

 

和人が正しい判断をして修也の話を切った。

 

「ま、私も同じものを持っているよ。久しぶりに銃を撃った」

 

「そうなんだ」

 

そう言い、修也もポケットから詩乃と同じ見た目のアクセサリーを取り出し、お揃いのアクセサリーを見せた。

物騒なお揃いもあったものだと和人達は内心思っていた。

すると修也は明日奈に一枚のCDを渡した。

 

「これは?」

 

「本人曰く、『誰もいないところで見てほしい』だそうだ」

 

「?」

 

明日奈は疑問に思いつつもCDを受け取って家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、CDの中身のビデオを見た明日奈が涙を流しながら木綿季に手紙を書いていた。

 

 

 

 

 

 

*1
一部のライフル弾より威力ある拳銃弾って何??




レバーアクションってカッコよく無いですか?(ター◯ネーターに憧れてメチャあの撃ち方の練習してた)




ちなみに今現在フリューゲルの持っている武器

H&K HK45
イングラムM10
AKM(装備品にグレポン若くは銃剣、四倍スコープ装着)
RP-46(銃身破損により使用不可)
PKPペチェネグ-SP(四倍スコープ搭載)
モシン・ナガン M1891/30
ウィンチェスターM1895
Mag−Fed 20mmライフル(20〜60倍スコープ装着)
レミントンM870
ヒートホーク


こうしてみると結構持ってんだな・・・・


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間話#6 突撃訪問

その日、修也のマンションでは何人かの青年少女達が話に花を咲かせていた。

そんな中、修也は台所で包丁を握っていた。

 

「おーい、飯が出来たぞー」

 

「「「「了解〜!」」」」

 

「飯だー!!」

 

一人だけやけに元気にテーブルに座り、『飯だ飯だ』と騒ぎ立てて恋人に見っともないと叩かれていた。

それを見て、他の女子達が苦笑しながら修也の料理を見て感嘆の声をあげる。

 

「「「「わぁ〜、美味しそー!!」」」」

 

各々『頂きます!』と手を合わせると大皿から盛り付けて料理を食す。

美味い美味いと言ってパスタを食べているとそのうちの一人、篠原里香が修也に聞いた。

 

「今日、本当に泊まって良いの?」

 

「ああ、今日は実家に帰る予定だからな」

 

「あ、そうなんだ」

 

今日は春休みのっ始まった日。今日は修也の家に学校のメンバーが遊びに来ていたのだ。

全員、定期券の途中に修也の家があることから一番良いと言うことで此処には和人、明日奈、里香、珪子、直葉がいた。

きっかけは昨日の夜、明日奈からの提案であった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「明日、両親いないから暇だな〜」

 

ALOで春課題をしていたアスナがふと呟く。それにシリカやリズベットが同調する。

 

「あぁ・・・・」

 

「確かに暇ね。春休みって短いし、進級するから忙しいし・・・・」

 

「でも、何処かで遊びたいのよね・・・・」

 

「此処では駄目なんですか?」

 

「うーん、どっちかって言うとリアルの方がいいなー。欲を言ったらみんなで遊べる所」

 

「だからって、そんなすぐに行ける場所・・・・」

 

「「アッ!」」

 

シリカとアスナが同時に思いつく。同タイミングで思いついた二人は息を合わせる様に呟く。

 

「「そうだ、ブレイド(さん)の家に行こう!!」」

 

「何その、そうだ京都行こう。みたいな感覚・・・・」

 

リズベットが若干苦笑しながら二人を見る。

 

「良いじゃないですか。ブレイドさんのマンション広いですし」

 

「それにご飯も美味しいし」

 

「キリトがウキウキで行くのは間違いなさそうね・・・・」

 

そう呟き、キリトがよくブレイドをオカンと言ってブッ飛ばされる、天丼と化してる光景を思い出す。

でも実際、修也の作る料理は美味しい。アニメ飯を作るのがとても上手で、食を楽しみながら食べられる。

 

 

但し、作る料理はカロリー度外視で作っている事に目を瞑れば・・・・

 

 

その点だけ目を瞑れば修也の作る料理は美味しい。なに、食べた分は動けば良い。少なくとも詩乃がそうしていると言う。

そんな生活の影響か詩乃は必然的に鍛える必要が出てきて、今では少し筋肉的になっていると言う。

それを聞いて私がジムに通う事を決めたのは此処だけの話だ。

シリカとアスナの提案を聞いて私はため息混じりにグループチャットアプリを開く。

 

『アスナ達が明日修也の家に泊まりたいって言ってる』

 

断られるだろうと思いながら既読を待っていると返事はすぐに返ってきた。

 

『いいぞ、明日から予定があって家を空けるからな』

 

『・・・・マジ?』

 

『ああ、詩乃を一人で家に置くよりは安心できる』

『五人くらいだったら泊まれる用意は出来てる』

 

「・・・・嘘ぉん」

 

リズベットはそう呟き、チャットアプリを閉じていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

そんな訳で修也の家には五人が遊びにきていた。

前回は最後にバタバタしてしまい。しっかり見れていなかったので、今回はルームツアーを兼ねていた。修也は用事で外出してしまったので、詩乃が案内をしていた。

昼食を終えて五人の来客はマンションの部屋を見て回っていた。

 

「此処は私の私室。それで、あっちは修也の私室」

 

「すげぇ、俺の部屋より広い・・・・」

 

「色んなものがありますね・・・・」

 

「あっ!ヘルメスのバック!あんなの持っているの!?」

 

「わぁ・・・・いいなぁ・・・・」

 

「ちょっとまって、目がおかしくなりそう・・・・」

 

各々自由に呟いていると、和人がある一部屋を指差す。

 

「なぁ、此処は何の部屋だ?」

 

親友の家だからと和人は遠慮無く部屋を見ていた。一応、修也から物を壊さなければいいと言われているが、これは遠慮がなさすぎる様な気もしていた。和人の指差した部屋を見て、詩乃は少し苦笑する。

 

「あぁ、そこは倉庫。修也の部屋にあった色んなものが置いてあるわ」

 

「へぇ〜、修也のか・・・・」

 

「・・・・危ないから開けない方がいいわよ」

 

ドアノブに手をかけた和人に詩乃が注意をする。しかし、和人は興味の方が勝ってしまい扉を開けていた。

 

「何があるんだろう」ガチャ

 

そう言い、扉を開けるとそこには物凄い光景が広がっていた。

 

「何だこれ・・・・?」

 

「うわっ、臭!」

 

「何この匂い・・・・」

 

「お兄ちゃん、臭いから閉めて!」

 

「相変わらずひどい匂いね・・・・」

 

女子達が文句を言う中、和人は興奮した様子で中を見ていた。

 

「うおっ!スゲェ!」

 

部屋をよく見ると壁に沿う様に大量に積み上げられたプラモデルの箱と。それを塗装する為のインク、墨汁が置かれていた。

プラモデルは主に兵器系のものが多く、他にも色々なものが置いてあった。

和人はそのプラモデルを見て若干の興奮をしていた。

 

「スッゲェ・・・・修也はこんなにもプラモデル買ってたのか・・・・」

 

「か、和人くん?」

 

一人で興奮している和人に明日奈は若干困惑していた。

確かに修也はこう言った兵器が大好きだ。でなければGGOなどと言う銃のゲームをメインにしないはずが無い。しかし、こんなにプラモデルを持っているとは・・・・。

驚き半分、ドン引き半分の感情で明日奈達はこの部屋に入った事を若干後悔していた。

そして、箱を見て興奮する和人を見て、男の子と言うのは基本的にこう言うのが好きなんだと実感した明日奈達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和人がルームツアーで興奮している頃、修也は池袋のとある喫茶店に来ていた。

今日、彼はある人物から連絡を受けていた。

店に入ると既に用の人は座っており、修也を見てはにかんでいた。

 

「久しぶりだナ。ブレ坊」

 

「そう言うあなたもですよ。ーーー帆坂朋さん・・・・いや、鼠のアルゴ」

 

二人はそう言うと小さく微笑んだ。

久しぶりの同僚の再会に二人は花を咲かせることも無く、修也が早速用件を聞いた。

 

「懐かしい話もせずにいきなり取材とは・・・・」

 

修也がため息混じりにそう言うと帆坂は申し訳なさそうに言う。

 

「いやぁ、こっちも色々あってナ。本当は色々と話したかったんだ」

 

「まぁ、それはいつでも構いません。色々と貴方には手伝って貰いましたからね」

 

そう言い修也は帆坂を見て言う。最近でいえばユウキを送る為にネットに情報を流したこと。昔でいえば須郷伸之の悪事をネットにばら撒いた事。時々この人には面倒をかけていたので、修也はこの取材に乗ったのだった。

 

「それより・・・・今日は何故こんな取材を?」

 

「ニャハハ、相変わらずせっかちダ」

 

帆坂はそう言うと懐からタブレットを取り出してメモを取る姿勢をとった。完全な記者モードだ。

口調も完全に変わり、修也を同僚ではなく。取材相手として見ていた。

 

 

 

 

 

「では、早速・・・・Meacシステムを開発した天才ロボット工学者である赤羽修也さんにお話を聞きたいと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、あの情報はどっから仕入れてきたのやら・・・・」

 

喫茶店を出た修也は改めて帆坂の情報収集能力に舌を巻いていた。ああ言った情報は個人情報になるので厳重に管理されているはずだ。なのに彼女が言っていたと言うことは・・・・

 

「あの官僚か・・・・」

 

面倒な事を・・・・

修也はそう感じずにはいられなかった。取材内容を聞いたときには思わず目を疑ってしまった。一体何処で知ったのだろうかと。今まで和人にすら知られていないと言うのに・・・・

今度バイト先で会ったらじっくりと話を聞かせてもらいたい。

そう思いながら停めてあったバイクにエンジンをかける。修也は喫茶店で帆坂に最後に言われた事を思い出していた。

 

『いやぁ、まさか君が()()()()()だったとは思わなかった』

 

「天才か・・・・」

 

散々アメリカで言われてきた言葉だ。俺がアメリカから離れたと言うのにまだそれを言われるか・・・・。

それが嫌で帰ってきたと言うのに・・・・、此処でもまた同じ様に言われるのか。

 

 

 

 

 

 

こうなるのが嫌だから誰にも言わなかったのに・・・・

 

 

 

 

 

修也溜息を吐きながらバイクに跨って家に戻る道を走る。

 

おそらく自分から言う事はないだろう。

 

少なくとも今は自分の過去を話そうとは思わない。もし言えば、おそらく自分を見る目が変わってしまうからだ。

 

友人から違う別の何かに。

 

それが一番嫌だった。アメリカでも、自分を子供として見てくれたのはザスマンだけだった。

だから、ザスマンが好きだった。だからザスマンの誘いで銃愛好家に入った。

 

そこは自分にとってはオアシスのようであった。

自分を子供として見てくれる人ばかりで、他の場所では絶対にあり得ない視線を向けてくれた。自分が何者でも、どんな子でも、同い年の子と同じ様に扱ってくれた事に嬉しくて仕方がなかった。

それ以降のほとんどの時間をそこで過ごしたと言っていいだろう。そしてずっとそこに居るうちに、次第に銃や兵器に関して好きになった。

 

でも、そこ以外の場所は大嫌いだった。

 

だから、自分のせいでザスマン達に迷惑がかかると思った自分は祖父様の話もあって日本に帰った。

 

 

 

正直、ずっとあの世界にいても良かったんじゃないかとも思っている。

 

現実を忘れることができる。

 

今までの出来事を忘れて、兄の作った世界で最後まで過ごす。それが一番だと思っていた。

 

 

 

だけど、それでいいのかと言う自分もいた。

 

現実世界でやりたい事があるのではないかと言う自分がいた。

 

此処は偽物の世界で、本当の世界じゃないと言う自分がいた。

 

 

 

悩んだ末、自分は後者を選んだ。あの世界で知り合った友人達は今でも楽しい仲間として今も家に居る。

 

それに、恋人が出来た。

 

紆余曲折あったけど、今はザスマンの時かそれ以上に充実した日を送っている。

自分の事情を知らないから、同い年の青年として見てくれている。それが良かった。

あの世界はそう言う意味で自分を変えてくれた場所かもしれない。やはり、兄にはそう言った事でも感謝しか無かった。

 

兄はいつでも遠い人だった。

 

いつも自分の目標で、憧れの人だった。

兄の真意を知っても、それに自分は賛同してしまった。それは、決して許される事ではないだろう。でも、兄の役に立っているんだと自覚できて嬉しかった。

今でも、しっかりと覚えている。

兄がわざわざやって来て『手伝って欲しい事がある。これは修也じゃなければ難しい事なんだ』と言われた時ははしゃぎたいほど嬉しかった。こんなにも心が昂ったのも久しぶりだった。自分はそんな兄に喜んでもらう為に今作れる最高の物を作った。兄は作ったものを見て見返りとしてマキナを作った。

『妹の様に可愛がるんだ』と言われて、プログラムを組んだ兄は自分の作ったその金属の体にプログラムを植えて新しい家族を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今思えば家族を失った後のことを考えていたんだろうか・・・・」

 

修也はふとそんな事を考えてた。今日はこの後、実家に戻って両親と過ごす事になっている。

 

 

 

 

東京の街を一台のバイクが走って行った。



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間話#7 昔取った杵柄

よっしゃー!この勢いのままアシリ編まで駆け抜けるぞー!


五月上旬

その日、数ヶ月ぶりにSBCグロッケンに戻った二人は乗って来た雲豹を停めて街を歩いていた。

特徴的なザクのボディではなく、士官服を着ているフリューゲル達は少しばかりの視線を集めていた。

しかし、そんな視線を気にもせずにフリューゲル達はズカズカと歩く。

そして二人の視線の先に二人の初期装備の男性プレイヤーを見る。一人はホリが深い四角い顔をした男性で、もう一人は明らかにマッド感溢れるゴーグルをつけた老人であった。

 

「父さんと祖父様ですか?」

 

フリューゲルはそう聞くと二人は頷き、聞き返した。

 

「しゅう・・・・フリューゲルなのか?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「随分と違うのう・・・・」

 

「そう言う二人もですよ」

 

そう、二人は父と祖父である。

前に二人がログインをする事は聞いていたが、思っていたよりも早かった事に驚きを隠せなかった。

祖父はいいとして、父さんは今日の公務どうしたんですか?

 

そう問いたくなってしまったが、おそらく父のことだから『全部キャンセルだ!!』と叫んで終わりになりそうなので、もう聞く事はなかった。

フリューゲルは取り敢えず二人を案内すると父・・・・今はウィストと祖父、ヒエイはシノンを見た。

 

「あの子は?」

 

「お久しぶりです。ヒエイさん」

 

「おお、詩乃君か」

 

「義父、此処ではプレイヤー名で呼ぶのが基本だ。本名じゃ無い」

 

「ああ、そうだったな。・・・・どうもこの年になるとつい癖でな。やれやれ、ボケが進んだか?」

 

いえ、その年でVRにこれる時点で十分スゲェっす。

 

そんな事を思いながらフリューゲルは二人を案内する。

母さんはALOに興味があると言いそっちに方に行ったと言う。

フリューゲルは納得した上で、今此処に二人がいる事に背筋が凍った。

 

父←元傭兵&元自衛官

祖父←元自衛官(教官やってた)

 

あ、これは強い(確信)父さんやお祖父様がこっちに来たのがよくわかった。

だが、特に気にせずに自分のクレジットを2人に渡す。

 

「父さんとお祖父様はこれで武器を買って見てください。今の所持金では中古のリボルバーしか買えませんから・・・・」

 

「おお、そうか」

 

「色々とすまんな」

 

二人はそう言いクレジットを受け取ると店の中に入り、フリューゲルが一から全部全部レクチャーをしていた。

そしてある程度話を終えると二人はそれぞれ武器を選んでいた。

 

「ほう、20式まであるのか・・・・」

 

「こっちの方が俺は慣れているな」

 

そう言い、二人が選んだ武器は父はAKー74、祖父は89式5.56mm小銃だった。

父は傭兵の時に使っていた武器、祖父は自衛隊で使っていた銃を慣れた手つきで手に取る。

後の事をシノンに任せて自分は店の外でふぅと一息ついていた。

今頃中ではシノンが二人に頑張ってレクチャーしているだろう。シノンが買って出てくれた時は本当に感謝しか出なかった。

そのまま店先で休憩をしていると扉が開き、中から三人が出て来た。

一人はシノン、残りの二人は当然父と祖父なわけだが・・・・

 

「おぉ・・・・」

 

すごく似合っている。今時のザ・兵士といった見た目だが、動きやすい様に所々のアーマーは無い、実践を意識した服装をしていた。

 

「色々と悩んだが、これが一番だ」

 

「ああ、そうだな」

 

二人はそう言うとフリューゲルを見た。『何処に行けばいい?』と、取り敢えず此処から言う事は特に無いので、フリューゲルは二人を戦場に案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒野の砂漠で二人が走っていた。

父の祖父の戦闘の慣れ具合にフリューゲルとシノンは思わずポカンとしていた。

 

「すごいな・・・・」

 

「ねえ、あれで初心者?」

 

「まあ、父さんは傭兵やってたけど・・・・」

 

視線の先ではヒャッハーしているイキイキとした声がする二人の声が聞こえた。

 

『これはいい!』

 

『ああ、懐かしい感覚だ。この気配といい、この銃といい』

 

『訓練では制限されているからな。此処では十分楽だ!』

 

とてもとても五十代と八十代とは思えない溌剌とした声が聞こえ、今までにモンスターを多数キルしていた。あぁ、勿論光学銃で。

あれぇ?二人の歳間違えたかな・・・・

 

「なんか・・・・凄いね・・・・」

 

「あぁ・・・・元気なのはいい事だが・・・・」

 

因みに現金還元システムについて説明はしているので、多分大丈夫だと思うけど・・・・

困った頃があればあとはチャットで聞いて。と言い残して二人はその場を後にして行った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「元気だったね」

 

「ああ、あれは夢中になりすぎて母さんに怒られるやつだ・・・・」

 

「お祖父様の方は?」

 

「今東京にいるんだよ。青森の実家はまだネット通ってないから・・・・」

 

「あぁ、なるほど・・・・」

 

雲豹に乗りながら二人は荒野から廃墟都市を走る。此処は安全地帯から外れた場所で、初期から存在する場所であった。

現在、新マップの探索が行われているが、終わるのは数ヶ月先では無いかと言う見方も上がっている。

そんな中。多くのプレイヤーがその新マップを探索しているので、旧マップにいる人数は自然と減っていたりする。

なので今がモンスターの狩り時でもある。二人は物資獲得のために乱獲をしていた。

特に邪魔もなく。二人は乱獲した物資で、必要なものとは必要なものを分けて、クレジットを稼いでいた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

乱獲後でホクホクの二人はとあるメールを受け取った。それを見た二人はグロッケン郊外のとある店に立ち寄った。

 

「おっ!マスター!こっちこっち!」

 

元気な声が聞こえ、ボックス席に二人の少女達が座っていた。

 

「マキナ、ストレア」

 

フリューゲルがそう言い、シノンと席に座るとシノンはストレアとマキナをジーッと見てつぶやく。

 

「その様子だと頑張っているみたいね」

 

「ええ、いい武器とかもあって。好調です!」

 

「従姉に連れ回されてかなり大変です・・・・」

 

疲れた様子のストレアを見てマキナを見る。

マキナは黒いドレスにレースやフリルなどを纏った。所謂ゴスロリといった服装で、ストレアも似たような服装をしていた。

ただ、ストレアの場合は女性の魅力が大きく、クッキリと魅せていた。

実際、店にいた何人かの男はナンパしようとしたが、やって来たフリューゲルに話しかける前から早々に玉砕していた。

流石に二つ名を持つ相手に勝負を挑む気はなかったという事だろう。

そんな感じで合流をしたフリューゲルとマキナ達四人はまず最初にフレンド登録を済まして、その後に店を出て行く。

 

「わぁ、これが噂の・・・・」

 

「知っているのか?」

 

「ええ、前のラサのボス戦で活躍したのは有名ですよ。あれの影響で車が飛ぶように売れているとか・・・・」

 

「成程・・・・」

 

今は深緑と茶色の迷彩色に塗装されているこの装輪戦車はスコードロンのマークがあしらわれ、移動拠点として重宝していた。

そのため、外には必要な物資が外付けされ、装甲板代わりの丸太が側面に括り付けられていた。

四人はまず車に乗り込むとエンジンをかけて走り出す。

元が輸送兵員車ということもあり、四人乗ってもまだまだ隙間があった。

運転席でハンドルを握るフリューゲルがマキナ達に聞く。

 

「マキナ達はどんな銃を使っている?」

 

「あぁ、私はH&K UMPで、ストレアはグロスフスMG42です」

 

「おい、最後のとんでもない武器だな」

 

使用火器を聞いた時にどんな運用方法なのか大体想像できてしまったフリューゲルはストレアを見る。ストレアは非常にスッキリした表情を浮かべていた。

それだけでどれだけプレイしてきたのかがよく分かった。

おそらくマキナが前線で注意を引いている間にストレアが後方から弾丸の雨を降らせる戦法だろう。

毎分1200発の弾丸をまず避けられる者はいないだろう。キリトですらミンチになるかもしれない。そんな事を思いながらフリューゲルは身を乗り出して風を感じているストレアを見る。

今は運転席のハッチを開けた状態で走っているが、シノンだけ車内で周りを映像だけで見ていた。

 

「なんか暇・・・・」

 

「人がいないから仕方ないだろう」

 

マキナの文句にフリューゲルが突っ込むとストレアが叫んだ。

 

「あ、モンスター!」

 

「え!どこどこ?」

 

「あそこ!」

 

「マスター、車止めて!狩ってくる!」

 

「はいはい、行って来な」

 

そう言い、車を止めると二人の少女が車から飛び出し、手に光学銃を持って狩りを楽しんでいた。

光学銃でもストレアはガトリング式を選んでおり、光球がモンスターに向かって飛んで行っていた。

 

「・・・・今度はキリト達も誘ってみたいわね」

 

「ああ、BoBが終わった後とかに誘ってみるか」

 

「それ、良いわね」

 

戦車に乗りながら二人はそんな事を考えていた。

そして、シノンとフリューゲルはお互いに小さく頷くとシノンはへカートⅡを、フリューゲルはモシン・ナガンを取り出すと照準を合わせた。

 

ドォン!パァン!

 

同時に引き金を引くとそれぞれ12.7mm弾と7.62mm弾が別の方向に向かって着弾する。

それと同時にDEADの赤い文字が浮かび上がった。

 

「邪魔は許さんぞ」

 

「流石に家族に手出しはね・・・・」

 

敵を屠った二人はそのままモンスター狩りを楽しんでいる二人を見た。

 

「モンスターは彼らに任せて他は私達でやる?」

 

「ああ、BoBのいい練習にもなりそうだ」

 

そう言い、二人はそれぞれ照準を合わせ的に向かって引き金を引いていた。

 

 

 

 

 

 




二人のプレイヤー名
藤吉→藤の花を英語から
真之→名前の元となった秋山真之氏の初めて乗艦した砲艦の名前から


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プロジェクト・アリシゼーション
#1 変態との遭遇


お気に入り登録120人を超えました!
みなさん読んでいただきありがとうございます!!


六月中旬 GGO内 とある廃墟

 

月夜のよく光るその場所で、赤いボディーにモノアイを光らせてスコープを除く影があった。

その赤い影は小さく息を吐くと持っていた銃の引き金を引いた。

 

「ふぅ・・・・」ドォン!!

 

発射された20mm弾は弱いビルの鉄骨を吹き飛ばし、隠れていた敵をビルごと崩壊させた。

DEADの文字が浮かび、フリューゲルは移動を開始する。

 

「(これで残りは二人・・・・シノンともう一人か・・・・)」

 

今回行われている第四回BoB、その決勝戦でフリューゲルはこれで十人キルを達成していた。今回でシノンと戦う事を約束したフリューゲルは本気で取り組んでいた。

普段はカップルなんで言われているフリューゲル達だが、今回は敵同士だ。

 

「そろそろか・・・・」

 

フリューゲルはサテライトスキャンを確認すると驚きの事実を目にする。

 

「シノンが・・・・いない・・・・・?」

 

そう、先までいたシノンのアイコンが無くなり、ここには二人しかいいない事を知る。

 

「『サトライザー』・・・・確定したな・・・・」

 

第一回で無双したやつだ。見覚えある名前に舌打ちをせざるを得なかった。せっかくのチャンスを無駄にしやがってと。そう思ったのも束の間、フリューゲルのいた屋上に弾丸が飛んでくる。

 

「もうここまで・・・・」

 

フリューゲルは銃を持って屋上から屋上へと、移動を開始した。

シノンをやるには気配を殺して接近知るしか方法はない。そうと知っているから、近接戦になることを想定して開けた場所に誘導する為であった。

 

「早い・・・・だが、STR値はこっちが・・・・・上だ・・・・!!」

 

少し距離のある道を飛んで移動する。向かうはこの先の広場。そこだったら強襲されることは無いはずだからだ。

 

「・・・・来ているな」

 

直感的にそう感じるとフリューゲルは予定地点の広場に到着する。広場の中央でフリューゲルはヒートホークを起動して敵を待ち構える。この際中は拳銃以外使えないだろう。

そう判断してヒートホークと拳銃以外全てをストレージに入れるという思い切った行動を取った。

 

「・・・・」

 

いい知れぬ緊張が最高潮に達した時、フリューゲルは確実に首を狙ってくる気配に勘付き、ヒートホークを当てる。

 

ジジッ!

 

金属の擦れる音と共に、彼は姿を現した。

 

『素晴らしい・・・・』

 

「・・・・」

 

視線の先にいたそのプレイヤーはコンバットナイフを持って面白そうに自分を見ていた。それがとても気持ち悪く、鳥肌が立ちそうであった。

咄嗟に拳銃を取ると相手も同じようにM27を取って引き金を引く。

 

パパンパンパンパン!!

 

同じ9mm拳銃弾の音が響き、普段のGGOでは珍しい接近戦が行われていた。

片手にヒートホーク、もう片方にH&K HK45を持ってサトライザーを相手にする。

 

「・・・・(行くか)」

 

フリューゲルは物陰から飛び出すとサトライザーに接近する。サトライザーも銃を放つが、ヒートホークで拳銃弾を真っ二つに切る。キリトの真似だが、意外といける事に若干驚いた。

そのままヒートホークで相手の眉間目掛けて斧を振ると拳銃で押さえつけられる。

 

『これ程とは・・・・君の魂はさぞ美しいのだろうな・・・・』

 

『何変態なこと言っていやがる・・・・!』

 

お前がいうな!という声が聞こえてきそうなことであるが、今はそんなことも気にしていられなかった。

 

『アメリカ人はとっととママの元に帰れ!』

 

『ほう、知っていたのかね?』

 

『ああ、アンタのせいでアメリカサーバーと日本サーバーが完全に別れたってこともな!』

 

『随分と物知りがいたものだ』

 

サトライザーはそう呟くと拳銃を犠牲に、一旦身を引く。拳銃はヒートホークの斬撃に耐えきれずに破壊。相手の残り武器はコンバットナイフだけとなった。

 

『さて、ザクのプレイヤー。もっと輝いてくれ。君の魂をもっと魅せてくれ』

 

『変態は黙って帰れ!』

 

ギィィン!!パンパンッ!

 

そう叫んで拳銃を引くと数発がサトライザーに当たり、相手の体力をごっそりと減らす。

 

「(ここで畳み掛ける・・・・!!)」

 

急接近したフリューゲルはヒートホークを両手に持ってサトライザーに接近する。高いSTR値を使って地面を勢い良く蹴る。

しかしサトライザーは動きを突如止めて小さくほくそ笑む。

 

『非常に面白かった。これはまたの機会に楽しませてもらう』

 

そう呟き、サトライザーはポーチから球体状のものを取り出す。それに気づいたフリューゲルは咄嗟に逃げようとした。

 

「(グレネード・・・・!!)」

 

『もう遅い・・・・今回は引き分けだ』

 

その瞬間。閃光と爆炎が辺りを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四回BoB優勝者《Satlizer》《Flugel》同時優勝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、修也のマンションでは修也がいつに無く荒れた状態でエナジードリンクを飲んでいた。

 

ドンッ!「やられた・・・・!!」

 

「そうね・・・・」

 

対する詩乃も同じ様に缶ジュースを飲んでいた。

 

「まさか特玉を持ち出すとは・・・・」

 

特玉、又の名を『超小型戦術核兵器』と言う。その名の通り小型の核兵器で、絶大な威力を与えるとともに、放射線による追加ダメージを与える代物だ。見た目はゴムボールほどの大きさな事から特玉と言われていた。

しかし、核兵器という事で起動した自身も確実に死ぬので、本当に最後の自爆装置である。ようはALOの自爆魔法の様なものだ。

 

「あれは仕方ないわよ。接近戦だったし・・・・」

 

「おまけにサトライザーだったからな・・・・」

 

「第一回BoBで無双した?」

 

「ああ、間違いない」

 

「どうやって日本に入ったんだろう・・・・」

 

「調べてみたが違法な事はなかった。・・・・つまり、日本に来ているという事だ・・・・」

 

「いつまで居るのかしらね」

 

「なるべく早めに帰ってもらいたいものだ」

 

修也はそう思いながら上を向く。自棄酒の様な気分でエナジードリンクをがぶ飲みしている修也は試合後、憂さ晴らしの為に徹夜で狩りをしまくっていた。

詩乃はそんな修也にエナジードリンクを取ってお茶を差し出す。

 

「今度キリト達を誘ってやらない?」

 

「・・・・そうだな。誘って見るか。ついでに次のBoBに出てもらうか・・・・」

 

「わぁ、すっごいツヨソー」

 

詩乃がそんな事を呟きながら部屋の隅に置かれた荷物を見る。

 

「数日は会えなくなるからね・・・・」

 

「すまない。用事が入ってな・・・・」

 

「ううん、気にしていないから・・・・」

 

そう、来月の初旬に修也は数日間出かける事になっていた。何でも、バイト先の人から呼ばれたという。私もついて行こうといったが、修也から『難しい』と言われて少し悲しかった。

だけど、その分だけ埋め合わせをするという約束で納得をしていた。その為私達は夏休み中に何処に行こうかと考えて、今度富士山の麓のキャンプ場に行く事とかを話していた。

 

「修也も気を付けてね」

 

「ああ、そこまで危ない事は無いけどな・・・・」

 

バイト先については詳しくは知らない。なんでも修也が作ったというマキナを使うバイトだとか・・・・

それ以上の事は詳しく話して貰っていないのでよく分からない。

取り敢えず今日は土曜日。学校も無いのでこのあとはGGOにログインするつもりである。

 

「マキナちゃん達は先に行ったわよ?」

 

「そうか・・・・じゃあ、そろそろ行くか・・・・」

 

マキナとストレアは現在、GGOで狩りをしているだろう。

現在、雲豹は所属するスコードロン『バルカ小隊』の移動拠点となっている。

稲妻と銃弾のマークのあしらわれたマークの雲豹はマキナが管理するという事で今車内には抜け殻と化しているフリューゲルとシノンのアバターがいるはずだ。

あの二人ならそうそうやられる事は無いと思うが・・・・

取り敢えず戦車の上からストレアがヒャッハーしてMG42を撃っているのだけは想像できた。少なくとも和人達が知れば謎に説教されそうではある。

ともかく。二人はBoBの翌日だが、GGOに潜ってPvPをする事を決めたのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

GGOに入った二人は雲豹の車内で目覚める。

 

「おはよう御座います。マスター」

 

マキナがそう言い、フリューゲルを見る。シノンも同様に目を覚まし、周りを見る。

 

「ここは・・・・」

 

「大陸北部の街です。補給がてらストレアが寄り道をしています」

 

「そう・・・・」

 

フリューゲルの妹とも言える存在のマキナにシノンはそっと呟く。マキナは自分よりも修也と共にいた時間は長いという事で、たまにアドバイスをもらっている仲で、悪い事にはなっていなかった。その事にフリューゲルは内心ホッとしていた。

 

「さ、外に出よう。こっちも弾を買ってくる」

 

「了解」

 

そう言い、車を降りた二人は街を歩いて弾薬ショップで弾薬を購入する。

モンスターを倒しても弾薬は出るのだが。ランダムなので使えない場合があり、そう言った弾薬はある程度溜まったところで一気に売却をしていた。

二人は必要な物資を購入していると射撃場である噂を聞いていた。

 

『なぁ、聞いたか?』

 

『なんだ?』

 

『ここ最近、やばいスコードロンが居るんだ』

 

『どんな奴だよ』

 

『ボッチのスコードロンを皆殺しにするんだ。まるで狩りをしている様にな』

 

『ホーン』

 

『だから、お前も気をつけた方がいいぜ』

 

『なるほどな・・・・』

 

噂を聞いたフリューゲルは店を出て雲豹に戻る。105mmライフル砲の付いた砲塔が前を向き、存在感を強めている。

 

「襲われる事は無いか・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや、独り言だ」

 

弾薬ケースをオブジェクト化してフリューゲルは車に乗り込む。車には既にストレアがおり、MG42の弾薬である7.92mmモーゼル弾を数えていた。

 

「あ、おかえりマスター」

 

ストレアがそう言うとフリューゲルは乗り込みながら言う。

 

「ああ、すぐに出るぞ。クエストを選んできた」

 

「了解〜!」

 

「マスター。燃料も満タンです」

 

「大丈夫よ、フリューゲル」

 

全員の確認を取ったフリューゲルはマキナに指示を出す。

 

「よし、出してくれ。マップに行き先を表示してある」

 

「了解です」

 

マキナが運転席に座り、雲豹は走り出した。



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#2 フリューゲルの依頼

六月二七日 GGO内 熱帯地帯

 

そこでは一台の装輪洗車が森林に隠れる様に止まっていた。

その車内で数人が通信機に耳を当てる。

 

『誘因に成功。後をお願い』

 

「了解した・・・・クライン、出してくれ」

 

「あいよ」

 

クラッチを動かしてアクセルを踏む。エンジンが唸り、体が押される感覚になる。

 

「このまま直進したのち、二人は飛び降りて追跡」

 

「フリューゲルは?」

 

「こっちのやり方で行く・・・・!!」

 

そう言うと運転中のハッチから赤髪軍服姿のフリューゲルは半身を覗かせる。そしてそのまま片手にPKPを持って車体にしがみ付くと銃を固定した。

 

「そろそろだ。全員衝撃に備えろ」

 

視線の先から見えた光景に全員が何処かに掴んでいた。

そしれそのままの速度で一気に森から一台の雲豹、『豹丸』(マキナ命名)が飛び出す。視線の先には三人のプレイヤーとシノンがおり、シノンの前に飛び出し、轢き殺す勢いで豹丸は着陸する。

 

「・・・・」ダダダダダダダダダッ!

 

ハッチからPKPを連射し、一人を持って行く。

 

「この先で曲がれ!」

 

「了解!」

 

「受け取れ〜!」ドンドンッ!

 

ショットガン片手にリズベットが二発発射し、森の中に逃げる一人の近くを通り過ぎる。

 

「おりゃりゃりゃ・・・・」ドドドドドドドドドドドド・・・・

 

砲塔の後ろからブローニングM2重機関銃をシリカが撃つ。.50BMG弾は隠れていた敵の岩諸共吹き飛ばし、もう一人も逃走を図る。

 

「行け!」

 

フリューゲルがそう叫び、車から二人が飛び出す。紫の赤の光剣を灯らせて土煙の中に飛んで行く。

 

「敵はAKー74、グレネード持ち。不意打ちには気を付けろ!」

 

「「了解!」」

 

土煙の先に消えて行く二人を見送るとフリューゲルも車両を降りる。

 

「合流地点はーーーー。十分後にそこに来てくれ」

 

「あいよ。お前さんも気をつけろよ」

 

赤いバンダナが特徴のクラインが了解するとフリューゲルはアンツィオライフルを持って森の中を走って行った。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

森の中でフリューゲルはアンツィオライフルを構える。59kgを両手持ちできるロマンはゲームならではだろう。

森の奥で隠れている集団に向かって引き金を引く。

 

「・・・・」ドォォン!!

 

20mm炸裂弾は隠れていた集団を一掃した。他に敵影も確認できないのでフリューゲルは通信機に耳を当てる。

 

「こっちは終わった。他に敵影はなさそうだ」

 

『ーー了解。ごめん、こっちは逃げられたわ』

 

「問題ない。後方の部隊はやったと思う。そのまま集合地点に向かって帰るぞ」

 

『了解』

 

通信を切ったフリューゲルはアンツィオライフルを持ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

熱帯地域の崖の上。そこには数人の黒服のプレイヤー達が屯し、一人の外人アバターが眼下に広がる戦闘を眺めていた。

 

「全チーム後退・・・・グリット19から離脱しろ」

 

「あれが今日最後の獲物だろう?プレイヤー六人の損失・・・・負け戦で終わっていいのか・・・・ボス」

 

吸っていたタバコを捨て、肌が焼けた東洋風アバターの男が、金髪の男に問いかけた。

 

「あんなイレギュラーなスコードロンと戦っても訓練にはならない。本番の作戦に悪影響が出ても困るしな・・・・行くぞ」

 

金髪の男はそう言って、その場を後にした。その言葉を受けた肌黒の男は指示に従い、その場を後にしようとした。

 

「(さっきの光剣といい・・・・作戦指揮と言い・・・・そうか・・・・なら、再戦といこうぜ。黒の剣士、赤い雷鳴)」

 

フードを被り、キリトとブレイドに心の中でそう告げた男の目は、嗤っているようだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

GGO内 SBCグロッケン内の酒場

 

そこではフリューゲルやキリト達がさっきの戦闘やGGOの感想を喋っていた。

 

「いやぁー、結構キツイわね。GGOって」

 

「ね、常に狙われているって言うのが緊張しちゃうね」

 

「でも、あの戦車に乗ってたら安全な気がするがな」

 

「「「「「同感」」」」」

 

同じテーブルに座っているフリューゲル、シノン、キリト、アスナ、リズベット、シリカ、クラインの七人は頷く。

本当はマキナ達も呼ぼうかと思っていたが、二人はALOでクエストを受けながらコンバートしたキリト達の荷物番をしてもらっている。

マキナ達に感謝しながらフリューゲルはさっきの戦闘を思い出す。

 

「コスト度外視の戦闘だったな・・・・」

 

「ええ、単純に殺すことしか考えていなかった・・・・」

 

「誰なんだろうな・・・・」

 

「ねえ、あの人たち勝率100%って本当なの?」

 

「集めた情報だとそうなるな。動きも統率されていたから何処かの軍隊の訓練の可能性もあるな。新兵の訓練にここはうってつけの場所だ」

 

「「「「・・・・」」」」

 

フリューゲルの推測の一瞬だけ全員が曇った表情をする。確かに普段楽しんでいるゲームが軍事利用されていると思っていい気分ではないのは確かだ。フリューゲルは失言をしたと思っているとシノンが話題転換をした。

 

「・・・・と言うか。キリトはなんで寝ているのよ」

 

「え?あぁ、なんか社会見学かなんかで疲れているみたいで・・・・」

 

「・・・・また妙なもんにクビ突っ込んでるじゃないでしょうね?」

 

「巻き込まれるのはごめんだ」

 

「「「「アンタが言うな!!」」」」

 

全員の総ツッコミを受けて、フリューゲルは少し返答に困惑してしまった。

そしてその後はやって来てくれたキリト達に感謝の言葉と、アスナには近日中に会えるかとシノンが聞いていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ログアウトした修也は自室に篭って画面と睨めっこしていた。

 

「このくらいでいいか・・・・」

 

修也は机の作業台に置かれた機械を見てつぶやく。それは五本指を持つ金属でできた手で、修也は動作確認をしていた。

 

「そろそろか・・・・」

 

修也はその金属製の手を見るとそれを梱包してアタッシュケースに入れる。ケースのロックをかけて修也は自室を出るとそこでは詩乃が夕食を作っていた。

 

「明後日からいないから・・・・」

 

「あぁ、ありがとう」

 

二人は夕食を取るとそのまま別々に風呂に入る。その後は自由時間となっている。その時は本を読んだり、修也が詩乃の勉強を見ていたりするが。今日は少し違った。

二人はソファに座りテレビをつけて映画を観ていた。

ソファに座り、二人は隣り合わせで映画を見ていた。

普段はあまりテレビを見ない修也だったが、詩乃が誘って来たので二人で見ていたのだ。

 

「・・・・ねぇ、修也」

 

「何だ?」

 

映画を見ながら詩乃は修也に聞く。

 

「修也って、どうして私のことが好きになったのか」

 

そう問うと修也は少し考えたのち、こう答える。

 

「何故だろうな・・・・」

 

「・・・・一目惚れ?」

 

「それは違うな」

 

修也は即答すると詩乃は疑問に思う。

 

「分からないな・・・・ただ、自分が君を好いていると言うのだけは事実だな・・・・」

 

「ふーん」

 

詩乃は少しつまらなさそうに修也を見る。

 

「(修也って大事にしてくれているけど・・・・なんか避けている部分もあるのよね・・・・)」

 

詩乃は修也にそんな事を思っていた。昔話と言っても死銃事件の時の話が一番古くて、他も曖昧な所が多く、あまり修也の過去を自分は知らない。

 

修也の恋人なのに・・・・

 

詩乃は何か後ろめたいことがあるのではないかと思ってしまう程に修也に対してそんな事を思っていた。それ以外に関しては本当にいい人なのだ。

詩乃としては他人をあまり巻き込みたくないと言うその性格が、なんだか疎外されているようで嬉しくなかった。

基本的に自分だけで解決してしまうような、自己犠牲などが過ぎているような、そんな感じか修也からしていた。

 

「(たまには相談してくれたっていいのに・・・・)」

 

そんな感じで、詩乃は修也を見ていると修也が詩乃の視線に気づいて声をかけた。

 

「どうした?」

 

「ううん、なんでもない」

 

詩乃はそんな恋人を見ながらそんな事を思っていた。



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#3 返事無し

自分が産まれてはや十八年。時の流れというものはとても早く感じるもので、自分は今実家の執務室でペンを片手に書類を片付けていた。

ノーランガルス北帝国の二等爵家に養子として迎え入れられた私、ブレイド・ソド・ワラキアは外を眺める。

 

「・・・・」

 

少なくとも自分はこの街の匂いが嫌いだった。

腐った卵のような不快な匂いのするこの街は爵位を持つ貴族が下の者を罵り、それを他の者が平然だと思っている事に憤りを覚えてしまう。

その違和感に自分は疑問が浮かんでしまう。

 

「(民は反抗をしないのだろうか・・・・)」

 

いわゆる日陰族と言われる自分にはわからないが、民は反抗する気配も見せていないので、そこに疑問を抱かざるを得なかった。

 

「・・・・少し旅に出るか」

 

ブレイドは興味本位でそんな事を考えると従者に馬の用意をさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩乃は電話に出ない修也に憤りを覚えていた。

今まで何回もコールをしているが、一切出ないことに疑問や怒りを覚えていた。

 

「(なんで出ないの・・・・?)」

 

詩乃は親友が大変な事になっていると言うのに・・・・

 

現在、和人が笑う棺桶の残党。金森淳に襲われ、危篤状態となって入院した後。その後行方不明になってしまった。明日奈や直葉などが捜索を行っているが、一向に見つかる気配はなかった。

てんやわんやしている時に、一番頼りになるのが修也だと言うのに、今はそんな彼とも連絡ができなかった。

一人、マンションの部屋で意気消沈しているとピコンと一件のメールが届く。修也かと思い名前を見ると、そこには珍しい人物からのメールが届き、添付された地図もあった。ついでに、そこに行けば修也や和人に会えるとも書かれていた。

 

「行かなきゃ・・・・」

 

メールを見た詩乃はすぐさま行動に移る。

荷物もそこそこにマンションを出て、そしてそのまま指定されたヘリポートまで移動するとそこには一機のヘリと三人の人物が待っていた。

 

「藤吉さん!真之さん!」

 

「ああ、待っていた」

 

「いきなり呼び出してすまん」

 

「しののん!」

 

其処には藤吉、真之、明日奈の三人は詩乃を待っていた。周りには護衛もおり、全員が集まった事を確認するとそのまま扉を開けた。

 

「みんな来なさい。詳しい話は機内で」

 

「は、はい・・・・!」

 

いつに無く真剣な声色で藤吉が言い、詩乃と明日奈は言われるがままにヘリに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリが飛び立ち数十分後。詩乃達は心配した様子で藤吉を見る。今座っている席の反対側に藤吉と真之が座り、二人は詩乃達と共に同乗している女性に話していた。

 

『申し訳ありません神代博士。急な呼び出しに答えてくれた事に感謝いたします』

 

『いえ・・・・それよりもなぜ私が呼ばれたのかが疑問でして・・・・』

 

『それは無論、あなたに関係する話があるからです』

 

そう言うと真之が窓を見ながら全員に言う。

 

『もう直ぐ見えて来るはずだ・・・・《オーシャン・タートル》がな・・・・』

 

そう言うと大海原に聳え立つ、巨大な建造物を確認する。それを見た真之は思わず吐き捨てる。

 

『良くもまあ、こんなデカブツの建造に予算が通ったもんだ・・・・』

 

『それは同感だ』

 

現職の総務大臣が言っちゃってるよ・・・・

そんな苦笑をしながらヘリは着陸をする。すでに多数のスーツに身を纏った大人達が待機しており、慣れた手つきでヘリの扉を開ける。三人はそれぞれヘリから降りると多数の護衛に囲まれてヘリポートを歩く。

 

「お待ちしておりました。閣下」

 

「閣下はよせ。今日は私的な用事なのだ」

 

「はっ」

 

幾多ものゲートを通過する中、詩乃と明日奈はその施設をじっと見ていた。

そんな中、真之を見て何人もの人がギョッとした様子を見せて敬礼をしていることに少し疑問を感じていた。

 

「すごい厳重・・・・・」

 

「すでに三回ほど金属ゲートを通っておる。君たちはそんな事をしないと思っているがね」

 

この人は一体何者なんだ?

 

二人は真之にそんな感情を抱いてしまっていた。そんなこんなで通路を歩いていると【第一制御室】と書かれた部屋に到着した一行は部下の一人が慣れた手つきでパネルを触り、動かしていた。

 

「ああ、間違ってもこの先にいつ責任者に飛びかかるようなことはしないでほしい」

 

「は、はい」

 

「分かりました・・・・」

 

詩乃はなんと無くだが、ここに修也がいるんじゃないか。そして、何か重要な事をしているのではないかと感じていた。

そして扉が開くと中には見知った人物がいた。

 

「ようこそ。《オーシャン・タートル》へ。歓迎は出来ないけど」

 

そこには和人が普段から『胡散臭い』と称する官僚・・・・菊岡誠二郎がいた。

 

「やれやれ、なんと言う格好をしている」

 

開口一番、真之が呆れていた。今の彼の姿は青い浴衣姿に下駄履きというこの建物に似つかわしくない格好であった。

 

「貴様にはもう一度教育をさせた方がよさそうだな」

 

「それはご勘弁を。()()殿()の教えはもう請いたくありません。第一、退役したはずでは?」

 

「阿呆め、貴様のような弛んどる者がいる限りワシは生涯現役だ」

 

『勘弁してくれ』と言いたげに菊岡が肩をガックリと落とす。真之はそんな菊岡に視線を当てると彼に向かって言った。

 

「菊岡誠二郎二等陸佐。後で話がある。付き合え」

 

「・・・・了解しました」

 

やや疑問げに菊岡は返事をすると今度は藤吉を見る。

 

「しかし、驚きました。まさか閣下がこんな場所まで来るとは・・・・」

 

「ふん、今回はあくまでも私的な用事。この子達も護衛として連れてきている」

 

「護衛・・・・なんとも()()らしいやり方です」

 

先輩?詩乃はそう疑問に思うと藤吉が見透かした様に言う。

 

「何、俺と菊岡は義父の教えを貰った兄弟弟子だ」

 

「こんなおっかない二人と同じと言うのも恐ろしい話だよ」

 

そう言う菊岡は乾いた笑いをするが、ビクビクしている様にも感じた。

色々と情報が多すぎて混乱しているが、凛子が一番最初に把握をすると今度は部屋にいたもう一人の方に視線を向ける。

 

「何か、スゴいっすね・・・・」

 

「比嘉君、貴方もいたの?」

 

「ええ、まぁ・・・・」

 

凛子を見ながら少しおちゃらけた様子の男性が凛子を見る。比嘉は、凛子やあの茅場晶彦が所属していた重村徹大教授の研究室、《重村ラボ》の学生だった男だ。そんな彼がここにいる事に凛子は少し疑問に思っていた。

 

「・・・・さて、色々と話した所だが。詩乃君達に話さなければならないな」

 

「「?」」

 

藤吉がそう言うと菊岡がゲッとした表情を見せる。

 

「・・・・言うんですか?」

 

「当たり前だ。何のためにこの子達をここに連れてきたと思っている」

 

藤吉の鋭い視線を向けられ、菊岡は大きくため息をつくと明日菜達に事情を詳しく話し始めた。

和人が現代の医療では治療不可能な事態に陥っていると言う事。しかし、ここで使われている《ソウル・トランスレーター》、通称STLと呼ばれる機械で、フラクトライトと呼ばれる魂の様なものを活性化させる治療法をおこなっていると言う。

そこで、此処のの施設が《高適応性人工知能》・・・・A.L.I.C.E.と呼ばれる人工知能を開発していると言う事であった。

そしてそこで明日奈達は人工知能を使って軍事AIの開発をおこなっていると言う事も理解した。

 

「(修也さんの言ったとおりだ・・・・)」

 

明日奈は前に和人から聞いた修也の話を思い出す。

 

『人類史上最も科学が発展してきたのは《戦争》という二文字があったからだ。敵に勝つため、味方の被害を抑えるために、敵よりも強い()()を必要とする。過去に二度発生した世界大戦は人類に多大な影響を与えた。いかに味方の被害を減らし、敵の被害を大きくするか。その究極とも言えるのが核兵器だろう。

だが、核兵器は威力があまりにも大きすぎる。後々の被害も馬鹿にならない上に費用もかかる。今の核兵器はその高威力ゆえに()()にしか使えないと言うのが難点だ。ならば通常兵器で勝つ方法を探るしかない。かつてはどれだけ遠くから敵を狙うかが肝だったが、現代は地球を一周できるミサイルも開発されている。

そこで次に戦争の主役となったのはステルス性だ。いかに敵のレーダーに見つかりにくくするのかが肝となり、その上被害も無くしたいと考えて開発されたのが無人攻撃機、《UAV》。しかし、これには電磁波に弱いと言う欠陥がある。

被害をなくし、尚且つ電磁波にも負けない無人機を作るには・・・・軍事用AIの開発が必要不可欠と言うわけだ・・・・』

 

明日奈は修也の話を思い出すと思わず歯噛みをしてしまった。詩乃もそれに気づき、明日奈の方を優しく掴んで、声をかけていた。

 

「大丈夫?」

 

「えぇ・・・・大丈夫」

 

明日奈は気をしっかり保つと菊岡を睨みつける様に見ていた。その横で藤吉が言う。

 

「君の思っていることはおそらく間違っていないだろう。しかし、彼らはあくまでも()()()()()()()でしかない。自衛官一人の命に比べれば複製が可能な彼らは安いものという事だ」

 

「っ!・・・・」

 

明日奈は咄嗟に藤吉を見ると彼はこの日本という国を守る一人の国務大臣としての目で映像に映る街を見ていた。

その様子を一日後ろから見ていた詩乃は思わず聞いてしまう。

 

「藤吉さん・・・・」

 

そう聞くと藤吉はハッとした様子で詩乃を見てああ、と言った様子で言った。

 

「ああ、済まない。詩乃君にも言わなければならない事があったな・・・・」

 

そう言うと藤吉は凛子の方を向いて言う。

 

「神代博士。これは貴方にも関係がある話です」

 

「わ、私にですか?」

 

「ええ、そうです」

 

藤吉はそう言うと明日奈達に聞く。

 

「詩乃君、明日奈君。君は修也の話はどこまで知っている?」

 

「え?」

 

「えっと・・・・」

 

二人はいきなりの質問に少し戸惑いながら自分が知っている限りの修也の話をする。

話を聞き終えた藤吉ははぁ、と一息ついて真之に方を見た。

 

「やはり伝えていなかった様です」

 

「まぁ、そうだろうよ。普通なら言える筈がなかろう・・・・」

 

二人はやはりと言った様子で顔を見合っていた。明日奈達は疑問に思っていると藤吉は二人に言う。

 

「これは、二人には言わなければならない事だ。・・・・本当であれば彼自身から聞いて欲しかった話だが・・・・」

 

そう言うと菊岡が藤吉にスッと紙を渡した。

 

「どうぞ」

 

「ああ、すまない」

 

紙を受け取った藤吉は詩乃にそれを渡した。

 

「これは・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修也の経歴・・・・その全てだ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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#4 修也の過去

「これって・・・・」

 

藤吉達に連れられてオーシャン・タートルに来た詩乃と明日奈。そこで二人は修也の過去を読んでいた。

 

「赤羽修也・・・・旧姓()()修也。生まれたばかりの頃に赤羽家に養子として引き取られ、幼少期にアメリカへと渡り、十一歳で高校に飛び級合格。

しかし十二歳の時に強盗にやって来た犯人を薪割り用の斧で撲殺し、急遽帰国。

十四歳の時に今度は青森の郵便局で強盗に対して発砲。その後に謹慎と称して再びアメリカに、その時にカリフォルニア工科大学に入学。わずか二年で大学を卒業すると言う快挙を成した。

大学卒業後は日本に帰国し、そしてそのままSAO事件に巻き込まれて、今に至る・・・・」

 

おおよそ凡人とは思えない経歴に詩乃達は冷や汗をかいた。凛子は修也の経歴を聞いて困惑していた。

 

「茅場・・・・?」

 

思わずそう呟くと菊岡が頷く。

 

「そう、茅場・・・・彼の旧姓は茅場修也。つまり、あの茅場晶彦と赤羽修也君は血の繋がった兄弟と言うわけだ」

 

 

 

初めて知った。

 

 

 

少なくとも全員がそう思った。そして驚いた。衝撃の事実を目の当たりにして詩乃と明日奈は特に困惑していた。

 

「団長と・・・・修也さんが・・・・兄弟?」

 

少なくとも明日奈は修也と晶彦が共にしている時を見ていたが、そんな気配を見せたことは無かった。

詩乃は修也があの茅場晶彦の実の弟である事に驚愕と、困惑をしていた。

凛子は晶彦に弟がいた事に驚愕していた。

 

「比嘉君は・・・・知ってたの?」

 

「いや、僕も知ったのはこのプロジェクトに参加した時っす。それまでは一切知りませんでした。まさか先輩に弟がいたなんて・・・・」

 

でも、顔を見た時に先輩の面影があると思いました。そう言い残し、比嘉は比較的落ち着いた様子で話した。

話を聞いたすぐと言う事もあり、三人は動揺していた。藤吉はそこで話をする。

 

「見てもらった通り、修也は俺と血がつながった子ではない。だが、俺の子である事に間違いはない」

 

「・・・・」

 

詩乃達は唖然としてしまっていると詩乃が口を開く。

 

「あの・・・・私を連れて来たのって・・・・」

 

「ああ、そうだ。君には修也が最も心を開いている子として、修也の過去を知ってもらいたかった。それだけだ・・・・。これを知って君が何を思うのかは君次第だ」

 

そう言うと今度は明日奈を方を向いて話す。

 

「明日奈君。君に知ってもらったのは修也の友人であることと、君があの事件で茅場晶彦に最も近い存在だったからだ」

 

そう言うと藤吉は菊岡に聞いた。

 

「今の修也の状態は分かるか?」

 

「ええ、前と変わらないとだけ」

 

「「!?」」

 

此処に修也がいるのかと。驚いてしまった。それと同時に詩乃が前のめりになって聞く。

 

「修也が、居るんですか・・・・!?」

 

会いたい、そして聞きたい。そう思う詩乃に菊岡や、比嘉は珍しく苦い表情をする。

 

「・・・・すまないが。彼は()()()だ」

 

「治療・・・・?」

 

どう言う事だ。

 

そう思うと比嘉がある画面を見せる。

 

「これっすよ」

 

そうして見せた画面に三人が注視する。

 

「これって・・・・」

 

「彼のフラクトライトっす」

 

そう言うと全員が目を見開いてその映像を見る。

 

「フラクトライトって・・・・何もないじゃない!!」

 

そこには真っ暗な画面が広がっているだけであった。困惑する三人に比嘉が己の推測を混ぜて、この状況を説明する。

 

「そう、彼のフラクトライトはこうして見えていないんっす。普通、こう言ったのは死んでいる状態なっす。

でも彼は生きている。

普通に食事を摂り、呼吸し、生命活動を維持している。

此処からは俺の推測っすけど、フラクトライトがないのに生きているって言うのは彼のフラクトライトが観測外にいるか、フラクトライトが何かしらの影響で破壊されてしまったかのどちらかっす。つまり・・・・」

 

「歩く死体・・・・という事?」

 

凛子の答えに比嘉は頷く。それを見た詩乃と明日奈は驚愕し、絶望をした。

まさか、彼の心がこんな風になっているとは思わなかった。

 

「彼のフラクトライトは観測不能。活性値も分からない。そんな状況に和人君の一件もあって大忙しだ・・・・」

 

菊岡が苦瓜を食べた様な表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

話を聞き終え、詩乃達はオーシャン・タートルの一室で呆然としていた。

 

「・・・・」

 

「しののん」

 

「っ・・・・どうした?」

 

「さっきからずっと呆然としていたから・・・・」

 

「・・・・ごめん」

 

「謝らなくていいよ。私も、少しビックリしているから・・・・」

 

本来であれば今すぐにでも和人のところに行きたいであろう明日奈は、それ以上に衝撃的な話を聞いた詩乃にを見てお互いに体を寄せ合っていた。

今にも泣き出してしまいそうな二人はお互いを慰め合っていた。

まさか何年も共に過ごした仲間の心が死んでいるなんて思わなかった。それに、明日奈は彼の心が死んでしまった原因が分かってしまったのも辛かった。

 

「(きっとあの時だ・・・・)」

 

SAOが攻略された第七十五層での戦闘。

そこで彼はヒースクリフ・・・・実兄である茅場晶彦を和人と共に討ち取った。その時に彼の精神は壊れてしまったのだろう。

今思えば彼は今までに自分の心をすり減らしてしまったのかもしれない。ラフコフ討伐の時ですら、彼()()()敵を抹殺していた。

そのおかげでこちらの被害は皆無だった。

詩乃が修也と初めて出会ったと言う強盗事件の時も彼が詩乃の罪を背負った。しかし、背負い過ぎた罪が彼自身を殺してしまったのかと思うと、彼女は罪悪感を感じずには居られなくなってしまった。

 

「・・・・明日奈」

 

「しののん?」

 

「私・・・・知らなかった。修也の事、何にも・・・・修也の過去も、修也の心が壊れていたのも・・・・」

 

ポツリポツリと話される詩乃の言葉に明日奈は思わず修也のことを思い返してしまった。

 

「私、知っている様で何も知らなかったんだ・・・・修也の事・・・・私、信用されていなかったのかな・・・・」

 

「それは無いと思うよ、しののん」

 

「え?」

 

詩乃の疑問に明日奈が言う。

 

「だって、修也さん。しののんだけ笑みを見せるじゃん」

 

下手くそだけど。

そう言い、明日奈はあの世界の修也をふと言う。

 

「修也さん。あの世界じゃ笑ったことなんて無かった。笑顔なんて見たことなかった。だけど、しののんと付き合い始めてから修也さんはしののんに笑顔を見せる様になった。私はそれだけしののんが修也さんから信頼されていると思ってる」

 

「・・・・アスナ」

 

「少なくとも修也さんも詩乃の事は信用していると思う。・・・・まさか大学を卒業していた事にはビックリだけどね」

 

「・・・・」

 

明日奈の言った言葉に詩乃は少しだけ元気をもらった様な気がした。

すると詩乃はベットから立ち上がると明日奈に手を差し出す。自分が慰めてもらったのだから今度は自分が明日奈の事を慰めなければ。詩乃はそう思うと行動に移していた。

 

「明日奈、行こう。二人の所に・・・・」

 

そう言われた明日奈は一瞬呆然とするも、すぐに詩乃の手を取った。

 

 

 

「うん・・・・そうだね」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

詩乃達に話を終えた藤吉達はとある場所に菊岡を呼び出していた。

 

「何の御用でしょうか」

 

菊岡が偉く低い腰で藤吉を伺う。藤吉は若干呆れた様子で菊岡を見る。一等陸尉で退官した彼だが、今は現職の国務大臣。一等陸佐とは別の意味で立場が違い過ぎていた。

 

「御用ではない。これは貴様の注意不足が引き起こした事件だ」

 

そう言うと真之が菊岡を叱る様に言う。

 

「全く、貴様は大学校時代からそうだった。ワシが退官する時に言った事ができていない様だな」

 

「『壁に耳あり障子に目あり』・・・・でしたか。教官殿」

 

菊岡がそう言うと真之は頷いた。

 

「そうだ、修也が言わなければ貴様は首が飛んでいただろうな」

 

文字通りな。

そう言い残した真之に菊岡は血の気が引いてしまった。すると、藤吉は菊岡に一枚の紙を差し出した。

 

「さて、これが貴様の犯した間違い・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外患誘致だ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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#5 記憶のない友人

 

 

 

 

カンッーーーカンッーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

甲高い音が辺りに響き渡り、山と見間違うほどの大樹の木の下で、二人の青年が斧を振っていた。

アッシュブラウンの髪の青年が大樹に向かって斧を振る。その後ろで黒髪の青年が声をかける。

 

「これで1000回だな」

 

「うん、午前はこれで終わりだね」

 

二人の青年はそう言い頷くと持って来ていた籠の蓋を開けた。

 

「早く食べないと天命が尽きてしまうからね」

 

「ああ、そうだな」

 

そう言うと二人は口を開けて中に入っていたパンを食べる。

 

「うーん、やっぱり硬いな・・・・」

 

「それは仕方ないよ、キリト」

 

そう言われたキリトは防御力の高いパンを齧りながら空を眺める。

 

「でっかい木だなぁ・・・・そう思わないか?ユージオ」

 

「それは、仕方ないよ」

 

金髪のユージオと言われた青年は苦笑しながらキリトに言う。

 

「キガスシダーは天命がありすぎるんだから・・・・」

 

そう言い、二人は黒く大きな木を眺めながらそう呟いていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

俺は、気がついたら森の中にいた。

鳥の鳴き声が囀り。風が木の葉を揺らす音を鳴らし、水の流れる音がする。

俺はさまざまな推測を立てながらここがアンダーワールドと呼ばれる世界だと認識した。

 

俺は森の中から外に出るとそこには山の様に大きな大木とその下で斧を振るユージオと言う青年と出会った。

そこから紆余曲折あって俺はルーリッド村と呼ばれる場所に赴き、そこで宿などを貸してもらっていた。

その対価として俺はユージオの天職を手伝っていた。

ここに来て数日、俺は早速問題に直面していた。

 

事の発端は俺が世話になっている教会の《セルカ・ツーベルク》が朝から姿を見なかった事から始まる。

出会った初日にアリスという少女がおり、その子の妹だと言うセルカ。幼い頃に整合騎士と呼ばれる者に、禁忌目録と言う者に違反したせいでアリスという少女は連れ去られてしまったと言う。

セルカに果ての山脈でそうなってしまったと言う事実を話すてしまったが為に、その出来事は起こってしまった。

今現在、ユージオとキリトはセルカを追って果ての山脈に来ていた。

 

「やるしかない・・・・!」

 

そこで偶発的に会敵したのはゴブリンのような生物だった。

ゲーでではお馴染みだが、キリトは其処で気を引き締めた。

 

『ゲームであっても遊びではない』

 

あの世界で嫌と言うほど経験した出来事である。

俺は目を大きく開けて剣を振る。ゴブリンの腕を切り落とし、切り口から鮮血が飛び散る。ここはただの仮想世界ーーでは無い。皆が生きているのだ。手の届く範囲で守らなければならない命がるのだ。おそらく彼も同じ事を考えるだろう。だから俺は剣を止めなかった。剣でゴブリンの首を刎ねる。

 

生き残る為に他人を殺す。とても現実世界に似たこの《アンダーワールド》はある種の別世界なのかもしれない。

 

ーー敵はおよそ三十、彼ならどんな選択肢を取るだろうか。

 

おそらく、この状況ではユージオとセルカが避難出来るまでの時間稼ぎだろう。先に二人には戻ってもらい、増援か防御をさせるだろう。

 

「《イウム》の癖に生意気な・・・・!」

 

ゴブリンの中でも一際大きな者が言う。まずリーダーであることに間違いないだろう。指揮系統を混乱させるのは戦いの常だ。俺は奪った蛮刀と直剣を持って対峙をする。

 

「キリト!」

 

するとそこでユージオがキリトの名を呼ぶ。

 

「先に行ってろ。村に着いたら増援を呼んでくれ!」

 

「でも!」

 

「後で追いつく!」

 

「・・・・分かった。セルカを送ったら戻ってくる!」

 

そう言うとユージオはその場を後にする。キリトは心配事が減ったことを確認するとヒュッと後退りする。元いた場所に刀の斬撃が走る。

 

「《イウム》のガキが!死に晒せぇ・・・・!!」

 

「そう、簡単に死ねるかよ・・・・!」

 

キリトはそう呟きながら斬撃を避ける。あの世界だってそうだ。死と隣り合わせだったあの世界は、何だったと言うのだ。

キリトは咄嗟の直感で後ろに飛び去る。其処には刀が突き刺さり、あれが首に当たったらと思うだけでゾッとした。

 

「やってみせるさ・・・・」

 

キリトは足を強く踏み込むと剣が光る。それは慣れ親しんだ、別世界の剣技、ソード・スキルの光だ。

 

「(ソード・スキルが使える・・・・!?)」

 

一瞬の思考が、隙を作ってしまった。

 

「しまっ・・・・」

 

ギィンッ!

 

その時、どこからか剣が飛び出す。振り下ろされたゴブリンの蛮刀を一本のサーベルが受け止める。

 

「よくやった・・・・青年」

 

聞き覚えのある声と共に、キリトはハッとサーベルを持つ者を見る。赤髪に赤目の青年は蛮刀を勢いよく弾いた。

 

「ブレ・・・・イド・・・・?」

 

その声と見た目に思わず呟くとその青年は少し驚いた様子を見せつつもサーベルを持ってゴブリンと対峙する。

 

「君も早くここを出ると良い、後はこちらでする」

 

そう言うと青年は神聖術を唱え、周りに赤い光の玉が生まれるとそれを弾くように飛ばし、ゴブリンを攻撃していた。

 

「・・・・」

 

一瞬の出来事に呆然としていると青年はサーベルをしまって、キリトに話しかける。

 

「・・・・さて、無事かね?()()()()()

 

「あ、あぁ・・・・」

 

すると洞窟内に、ユージオの声が響く。

 

「キリト!」

 

「ユージオ・・・・」

 

「大丈夫かい!?」

 

そう慌てた様子で聞くユージオに青年が言う。

 

「彼なら無事だ」

 

「あ、貴方は・・・・?」

 

「それよりも早くここを経った方が良い、近くに村があるはずだ、其処まで案内を頼む」

 

「は、はい・・・・!」

 

青年に言われ、萎縮してしまったユージオは緊張しながら洞窟を後にしていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

不思議な人物を見た。

興味本位で北の果てまで馬で旅をしている途中、私は道端で小さな少女に話しかけられた。

 

『果ての山脈に行って、ユージオとキリトを助けてほしいの』

 

そんな少女の願いにどこか奥深さを感じた私は、馬を飛ばして果ての山脈に辿り着く。私はそのまま洞窟に辿り着くと中で一人の黒髪の青年が両手に剣を持ってゴブリンを相手にしていた。

 

「数は三十ほどか・・・・」

 

簡単に行けるだろう。そう思い、私はサーベルを持ってとりあえず相手の蛮刀を弾く両手に剣を持っていた黒髪の青年を見た私は少しだけ違和感を覚えたが、取り敢えず目の前のゴブリンを倒す事に専念する事にした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ルーリッド村に到着すると村長やシスターアザリアから質問攻めにされた。果ての山脈に向かってしまった事、その発端はキリトがセルカに呟いてしまった事、コッテリ搾られた俺たちはやや疲れた様子で一息ついていた。

そして、村長はキリトから視線を赤髪の青年に移していた。名前を聞くと彼はこう答えた。

 

「初めまして。私は二等爵家のブレイド・ソド・ワラキアと言う。しばし、ここで世話になる」

 

そう言うと村の全員がワァッとなった。その事にキリトは呆然としていると思わずユージオに聞く。

 

「なぁ、二等爵家って・・・・?」

 

「本気で言っている?本来ならこんな所に来ない様な人だよ!?それに、ワラキア家と言ったら僕たちの間じゃあ有名な家だよ!」

 

ユージオの剣幕に思わず慄いてしまったキリトは改めてブレイドと名乗った者を見る。

 

「(ブレイド・・・・名前も顔も同じ・・・・だけど俺の事は覚えていない・・・・?)」

 

キリトはさっきの戦闘を思い出しながらブレイドを見る。赤髪に赤目だが、その立ち姿から喋り方まで全部自分の知っているブレイドであった。

しかし、当の本人はキリトを初対面の様に捉えており、知らない人といった様子であった。その違和感にキリトは考察をしているとブレイドは村長との話を終えてこっちにやって来た。

 

「やれやれ、こちらは野宿でも構わないと言うのに・・・・」

 

キリトからすればいつもの面倒臭がりが出たと思っているが、ユージオからすれば信じられないと言った様子だった。まさか貴族だと言うのに野宿なんて普通であればやらないと思うからだ。

 

「まぁ、そんな所でこっちは仕事を終えるまで世話になる。よろしくな二人」

 

「あ、あぁ・・・・」

 

「こ、こちらこそ・・・・」

 

そんなこんなでキリトは記憶のないブレイドに疑問を抱いていた。




先に土下座します┏○┓
アンダーワールドに剣以外の武器持ち込みます。世界観をなるべく壊さない様に努力はするつもりです。
変な部分があれば、その時はご指摘の程をよろしくお願いします。


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#6 新しい天職

ゴブリンの騒動があった翌日。ギガスシダーの元では三人の青年が斧を振っていた。

 

「何で、貴族の貴方がここに・・・・」

 

「仕事はどうした?」

 

その中の二人、キリトとユージオはカゴを開いてパンを切っている赤髪の青年に聞いていた。

 

「何、央都への報告は終わった。此処からは休暇だ、元々此処に来たのも央都の空気が嫌になって逃げて来ただけだ」

 

「「・・・・」」

 

これには流石に二人とも口を開けて呆然としてしまった。二等爵家ほどの貴族の口から逃げ出してくると言うとは思わなかった。ユージオの話ではワラキア家は新しい武器や農具を作っている事で有名な家らしい。特にブレイド・ソド・ワラキアは養子であるにも関わらず、歴代のワラキア家の中でも特に優秀な者らしい。まぁ、現実世界でも作る事にめっぽう強いブレイドだから当たり前か。と思っているとブレイドはパンに野菜と肉を挟んだ簡単なサンドイッチを作って二人に渡していた。

 

「二人とも食べるといい。あり合わせで申し訳ないがな」

 

そう言うとキリトとユージオはそれぞれ別々の反応をする。

キリトはブレイドのうまい飯が食えるとウキウキに、ユージオは貴族に料理をさせてしまった事に萎縮してしまった。

取り敢えず二人はサンドイッチを受け取ると各々別の反応で食事をする。それを見てブレイドは少し面白く見ていた。

 

「まぁ、私が此処に泊まるのは()()を見に来た。と言うのもあるがな」

 

そう言ってブレイドはギガスシダーを見る。あたりの神聖力を吸い取ってしまうその巨樹は見るものに強烈な印象を与えていた。

 

「此処は素晴らしい。央都の様に引きずり落とそうとする目もないからな」

 

ここで言っていいのか分からない危ない発言にキリトのみならずユージオも苦笑するしかなかった。

サンドイッチを食べ終えるとブレイドがユージオに確認をする。

 

「さて、ユージオ君。君の天職は刻み手でいいのかな?」

 

「あ、そ、そうです!」

 

確認を取るとブレイドは何やらゴソゴソとしているキリトを見て聞く。

 

「何をしているんだい?キリト」

 

「ん?いやぁ、試しにこれでやってみようかと・・・・」

 

そう言い、キリトは立てかけてあった皮袋を取り出す。

 

「っ!キリト、それ、持てるのかい!?」

 

「斧が軽くなっていたからな」

 

そう言い、皮袋を取るとそこには青い宝珠と薔薇があしらわれた直剣であった。氷の様に透明なその剣はユージオ曰く《青薔薇の剣》と言う物だそうだ。ユージオが何ヶ月もかけて運んだその剣をキリトは軽々と持っていた。

 

「ほぅ・・・・それを使うのかね?」

 

「ああ、やってみる価値はあるはずだ」

 

そう言うとキリトは剣を構えてソード・スキル。〈ホリゾンタル〉を発動する。

 

ズォン!

 

重々しい音と共にギガスシダーの切り込みに勢いよく入ったその剣は巨樹を大きく揺らし、止まっていた鳥を驚かせていた。

 

「今のって・・・・」

 

「剣技か・・・・素晴らしいな・・・・」

 

おそらくあの青薔薇の剣は自分の持つこのサーベルと同程度の優先度だろう。それは確認しなくても分かった。

そして、今のキリトの剣技を見て剣を教えてほしいと頼み込むユージオにブレイドは頼もしさを感じていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

あれから数日、キリトがユージオに剣を教え始めてから数日後。剣を振るユージオを見ながらブレイドとキリトは丘の麓で話をしていた。

 

「・・・・なぁ、ブレイド」

 

「何かね?」

 

ブレイドから言われ、呼び捨てで名前を呼んだキリトはブレイドに聞く。

 

「本当に、覚えていないのか?」

 

「?」

 

「ごめん・・・・何でもないや」

 

ブレイドの反応を見てキリトは半ば諦めた様子でユージオを見る。キリトは後で菊岡をぶっ飛ばすと心に決めながら貴族としてのブレイドを見る。今のブレイドはおそらく現実世界での記憶を封じられている。俺がこのアンダーワールドの記憶がないのと同じ様に・・・・

そう思うとキリトはあることが不思議に思い、ふとブレイドに聞く。

 

「なぁ、あの時何であの洞窟にいたんだ?」

 

そう聞くとブレイドは面白そうな目で答える。

 

「強いて言えば少女に導かれた。と言うべきだろうな。金色の長い髪に深い青色の眼の女の子だったな・・・・」

 

その時、ふとキリトの目にある光景が浮かんだ。

それはギガスシダーの元を走る三人の子供たち。

 

一人は金髪の少女、

 

二人目はアッシュブラウンヘアの少年、

 

そしてもう一人は幼き頃の自分であった。

 

「(これは・・・・)」

 

『キリト、ユージオ・・・・待っているわ。いつまでも。セントラル・カセドラルのてっぺんで・・・・あなたたちをずっと、待ってるから』

 

とても懐かしい記憶の様だ。泣き出してしまいそうになる程心が痛む。その少女は優しくキリトの方を掴んでいた。

 

「どうした・・・・?」

 

「え?」

 

ブレイドに声をかけられ、キリトはその時涙を流していた事に初めて気づいた。

この心に刻まれた懐かしさに、キリトは思わずユージオを見てしまっていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ユージオは飲み込みが早い。キリトに教えられたアインクラッド流と呼ばれる剣技はどこか懐かしさを覚えつつ、自分も少し教えてもらっていた。

初めは負けてばかりであったユージオも、今では並の剣士以上に実力を持っている。それほどまでの彼は急成長を遂げていた。

キリトが師範として教えてから幾分か時が経ったこの日、三人は木の下でギガスシダーの天命を確認していた。

 

「あと少しか・・・・」

 

「いよいよだな」

 

「あぁ・・・・(これで、迎えに行けるよ・・・・アリス)」

 

ユージオは片手に青薔薇の剣を持って今まで思っていた気持ちを込めてアインクラッド流を放つ。切り込みの最後の所に勢いよく剣が刺さる。

 

「来るぞ〜、走れ!」

 

ゴゴゴと音を立てて巨樹が倒れる。大きな土煙と風を起こし、ブレイドは目を覆う。

視界が晴れるとそこには倒れたギガスシダーと、転がっているキリトとユージオの姿があった。

 

「うわぁ・・・・」

 

「すっげ・・・・」

 

「夢みたいだ・・・・」

 

三人は呆然とすると、次に笑いが込み上げて来てしまった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ギガスシダーが倒された事は当然村中に響き渡り、今日は祝賀会が行われていた。

 

「やれやれ、貴族というのも面倒なものだな」

 

「お疲れさん」

 

ブレイドは貴族という事で色々な事をされていた。その後に、疲れた様子で逃げる様に村の隅で料理を嗜んでいた。

 

「はぁ、あったかい飯が食えるというのが幸せだ・・・・央都にいるよりも良い」

 

「そうなのか?」

 

キリトがそう言うとブレイドは央都であった事を呟く。

 

「あぁ、()()()()食材に毒草が混ざっていたりとか、()()()()で持っていた剣が刃こぼれをしていたりとかあったからな」

 

「・・・・」

 

なんとも汚いやり方にキリトは反吐が出そうになった。まさかそこまでするとは・・・・

その事に腹立たしさを抱きながらブレイドを見ると彼は笑いながら言う。

 

「まぁ、そう言った事には同じ事で()()()をしたけどな」

 

フフフと笑うその姿はとても邪悪だった。あぁ、どの世界行ってもこれは変わらないのか・・・・。そう思わずにはいられなかった。

この時、ユージオが新しい天職として剣士の道を選ぶ事を決めた。しかし、それに反発したのは村の衛士長の息子であった。まぁ、これは見栄による物だろうと思いながらブレイドが出て『じゃあ、この剣を持て』と言って持っていたサーベルを持たせる。しかし、彼はサーベルを持つことができても、満足に振ることができていなかった。

そこでそのサーベルを今度はユージオに持たせる。すると彼はサーベルを簡単に振る。それを見て村の全員が納得せざるを得なかった。

他にも文句が出ていたが、そこはブレイドの威圧で全員を黙らせていた。こういう時貴族というのは無理が通るから楽だと言っていた時は苦笑せずにはいられなかった。

これから二人はブレイドの誘いでザッカリアと呼ばれる街に向かい、その後に央都に向かう事になっている。

その時ブレイドがこっそりと『いい実験体が来た』と言っていた事には若干の恐怖を覚えた。まぁ、ブレイドのことだからそれほど危険な事はしないと思っているが・・・・

 

「さて、これから色々と忙しくなるぞ。キリト」

 

「あぁ、臨む所だ」

 

二人は祭りでセルカと踊っているユージオを見ながらそんな事を言っていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

数日後、ブレイド達三人はブレイドの乗って来た馬の横でに荷造りをしていた。

ここから途中のザッカリアまでブレイドの馬に乗せてもらう事になっていた。キリトとユージオの体格は細いので三人乗っても問題ないと判断しての事だった。

村長が何度もブレイドに頭を下げユージオはセルカにアリスを連れて帰ると約束し、キリトは頭を何度も下げられて困っているブレイドを見ながら内心面白くなっていたりと、少し騒々しい旅立ちとなっていた。

 

「二人とも。そろそろ行くぞ」

 

「了解」

 

「分かり・・・・分かった」

 

どうも敬語で話してしまうユージオにブレイドは少し面白く感じてしまったが、そんな二人をブレイドは馬の背に乗せる。

 

「おぉ・・・・」

 

「た、高いな・・・・」

 

「しっかり捕まっておくと良い。でなければ振り落とされるぞ」

 

「りょ、了解」

 

そう言うとブレイドは村長に挨拶をする。

 

「今まで世話になった」

 

「いえ・・・・その子達を宜しくお願いします」

 

「責任を持って二人を連れて行くとお約束しますよ。また、いつか」

 

そう言うと手綱を持ってブレイドは馬を走らせる。その光景をルーリッド村の人々は見送った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ルーリッド村から出て数日後、街道の途中で馬を走らせているブレイドはキリト達に言う。

 

「私はザッカリアまで君達を送る。その後はザッカリア剣技大会に出ると良いだろう」

 

「どうしてだ?」

 

後ろでキリトがブレイドに聞く。するとブレイドは小さく微笑むとキリト達に言う。

 

「腕鳴らしさ。ついでにザッカリア剣技大会で優勝すればザッカリア衛兵隊に入れて帝立研修学院の推薦状ももらえる。これほど上手い話もないだろう」

 

そう言うとキリトがさらに聞き返す。

 

「ブレイドが推薦状を書くのではダメなのか?」

 

そう言うとブレイドは少し渋い顔をして答える。

 

「私が推薦状を書いても嫌な顔をされるだけだろうな。央都であまり私は好かれていないんでね」

 

「・・・・何でだ?」

 

余り深入りしたくは無いが、何となくいつものノリで聞いてしまった。するとブレイドはこう答える。

 

「色々と作った道具が他の貴族たちには卑しく見える様でね、家にこもっていることが多いから『日陰者』なんて言われているよ」

 

気にしていないし、興味もないがね。

そう言い残すブレイドにキリト達は思わず呆然としてしまった。そこそこ有名な貴族ではあるが、央都でそんな扱いになっているとは思わなかった。

実際ブレイドのワラキア家の作った物は農作物に多大な影響を与えている。下が裕福になれば自分達も裕福になれるはずなのに・・・・

貴族の視野の狭さにキリトは若干の呆れを滲ませていた。

 

「さ、明日くらいにはザッカリアに到着するだろう。一旦そこでお別れだ」

 

ブレイドはそう言うとさらに馬の速度を上げてザッカリアに向けて飛ばしていた。




近況報告
めちゃくちゃ久しぶりにアニポケXY見てた。あの時リアタイで見てたけど、高校生になって何度見ても飽きないね。色違いのゼルネアス貰ったけ。
もうね、とにかくセレナ最高!!音楽、作画共に最高や!!
七年経っているのにゲッタバンバンの歌詞全部覚えてた。懐かしいな、あの頃が・・・・戻りたい(切実)。

以上、本編とは関係ない作者の話でした。


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#7 ザッカリア

ルーリッド村を出て数週間後。三人はザッカリアという街に到着する。

ブレイドの記憶に関してはもう諦めたキリトはザッカリアの街で行われる剣技大会に出場する手続きを取っていた。

ブレイドの話で此処の大会で優勝すれば帝立研修学院に入る一番の近道であると知ったからだ。

ブレイドの提案で知り合いだと言う牧場に泊まり込みでお世話になる事にした。

 

「では、この子達を宜しくお願いします」

 

「ええ、任せてください。ブレイド様」

 

どうやらこのウォルデ夫妻はブレイドの家に肉や牛乳を卸している相手だと言う。その縁もあって俺たちは助けてもらっていた。

 

「二人とも頑張れよ」

 

「ああ」

 

「うん」

 

そう言うとブレイドは牧場を後にして行った。彼は彼でこの町で仕事があるのだと言う。

二等爵家のご当主ともなると、本来はこんな場所には来ない様な人なのだと言う。税の回収や、民の調子を伺ったり、魔物と対峙したりと、色々と忙しいのだと感じていた。そんな合間を縫って俺たちの様子を見たり、時には剣の相手をしてくれるのだから俺やユージオは萎縮しまくりである。

 

「さぁ、やろうか」

 

此処は牧場外の平原。その一角でブレイドとユージオが木刀(木を簡単に削った物)を持って対峙していた。中央にはキリトが立ち、審判係をしていた。

 

「・・・・初めっ!」

 

「ハァァァァァァアア!!」カンッ!

 

ユージオが一気に接近し、ブレイドに木刀を当てる。鍔迫り合いとなり、何度かユージオがブレイドの木刀を当てたところでブレイドが攻勢に出た。

 

「ーーーフッ!」カァン!

 

勢いよく横に振られた木刀にユージオの手から持っていた木刀が吹っ飛ぶ。宙を舞った木刀は地面に突き刺さった。

 

「そこまでっ!勝者、ブレイド!」

 

「やぁー、また負けちゃった・・・・」

 

吹っ飛んだ木刀を手に取ってユージオがそう呟く。最近は慣れてきた影響でブレイドにタメ口が言える様になったユージオに、ブレイドがさっきの試合の感想を言う。

 

「太刀筋は問題ない。後は速度だな。剣の動きを早めれば、相手に対応される事なく敵に攻撃ができる」

 

「成程・・・・」

 

ユージオがそう言い、顎に手を当てる。それを見てブレイドが言う。

 

「明日は私も見ているから。頑張れよ」

 

「「えっ?」」

 

今の二人は頭を回転させてある結論に行き着く。

 

 

頑張れよ(俺の顔に泥を塗るな)

 

 

あぁ・・・・。勝たんとやばいやつや・・・・

特に二等爵家ともなればその重圧はさらにのしかかった。二人はもし勝てなかった場合のことを想像すると思わずゾッとしてしまった。

 

「「(勝たないとやられる・・・・!!)」」

 

二人はブレイドを見てそんな風に思っていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

二人の労いを終えた私はザッカリアの街の戻り、自分の家が経営するザッカリアの商店に入る。

 

「明日は二人の剣技か・・・・」

 

ブレイドはお忍びで大会に出ようと模索する。おそらく二人の実力だと優勝できるだろう。しかし、そこに邪魔が入らないとは限らない。だから私が赴いて指南している事を二人に画策しようとした者に教えた。『二人に手出しすれば何をされるか』ただでさえ、他の貴族達に覚えの悪い私はこう言ったザッカリアにいる貴族達にこうやって知らしめて行くしかない。

 

「まぁ、何とかなるか・・・・あの二人であれば・・・・」

 

ブレイドはそんな事を思いながら明日を迎えた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

翌日、大会会場に赴いた私は比較的普通の服で席に座って会場を見る。

すると既にそこではキリトとユージオが順調に勝ち進んでいる様子が窺えた。

 

「(あの太刀筋なら・・・・)」

 

ブレイドは席に座りながら見ていた。

結局、キリトとユージオはそれぞれ二位と一位で大会を制し、ザッカリア衛兵隊への入隊を果たした。

 

「よくやったな」

 

「ふぅ、キリトには色々聞きたいことがあるけどね」

 

「まぁまぁ」

 

ザッカリアのワラキア家が経営する店でブレイドは二人を労っていた。

 

「まぁ、二人ともお疲れ様」

 

そう言い、ブレイドは飲み物と食事を差し出した。

 

「奢りだ、二人の優勝を祝ってな」

 

「「ありがとうございます!」」

 

そう言い、二人は出された食べ物を食すとブレイドはキリトに一枚の紙を差し出す。

 

「これは・・・・?」

 

「央都の私の家がある場所だ。央都に着いたらまず此処に立ち寄ってくれ。使用人には話を通しておく」

 

「了解」

 

「分かった」

 

二人はお互いに頷くとユージオが聞いた。

 

「どうしてそこまで僕たちに気遣ってくれるんですか?」

 

そうユージオが問うと、ブレイドは少しフッと笑ってこう答える。

 

「何、偶には馬鹿な事をしたいのさ。人をあっと驚かせる様なことをな・・・・それが男と言うものだよ・・・・」

 

そう言い残すとブレイドは席を立った。

 

「では、また会おう。次会うときは同級生だ」

 

「おう、またな」

 

「色々とありがとうございました」

 

二人はそれぞれ挨拶をするとブレイドとキリト達は暫しの別れとなった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩乃はガラスの向こうに横たわる恋人を見ていた。

今彼がいるのはオーシャン・タートル内にあるSTL、その一つだ。

 

「修也・・・・」

 

そう呟くのは自分が愛した一人の青年であった。

今日知ったさまざまな出来事にようやく落ち着いて来た頃合いであった。

 

修也が隠していた事・・・・おそらく言わなかったのは()()茅場晶彦の実の弟だと知った時、皆んなから避けられてしまう事を恐れていたのかもしれない。

 

ーーあんな事をしでかした兄の血を引き継ぐ、悪魔の子と呼ばれるのが嫌だったんだと思う。

 

ーーそれで友人を失うのが怖かったんだと思う。

 

修也は自分達が起こっている以上にすごい人だった。

すごく優秀だった。

後々知れば、修也は大学を卒業するときにこんなお願いをしたという。

 

『私が卒業した事は外に漏らさないでほしい』

 

彼の要望通り、飛び級での卒業は徹底的に秘匿された。彼が大学を卒業している事を知るのはごくわずかな人間だけだという。凛子さんですら知らなかったのだから、本当に秘匿されていたのだろう。

 

おまけに修也は大学時代の友人・・・・私がアメリカで知り合ったザスマン・シャザールさんが代表を務める、あの世界的医療器具メーカー《アスクレー》の義手製作部門に勤めていると言うではないか。

私も聞いたことがあるその会社に、明日奈も修也がいかにすごい人なのか理解できた。だけど・・・・

 

 

 

 

「なんで教えてくれなかったの・・・・」

 

 

 

 

私は一人、疎外されているようで悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ・・・・何だかわかるっすか?」

 

「さあ?私も初めて見るわ」

 

ここはSTLを制御する機械室、その一つであった。その部屋の中で比嘉と凛子が制御盤に取り付けられたあるデバイスに疑問を抱いていた。

 

「・・・・この機械室は修也君が作ったんすよ」

 

「あの子が・・・・?」

 

「ええ、彼がこのSTLの設計を行ったすからね。なんでも簡略化をするための実験だとかで・・・・結構自由にさせていたんすよ」

 

「じゃあ、これって・・・・」

 

「ええ、修也君が取り付けたものなんでしょうけど・・・・」

 

そう言う二人の視線の先には赤色の金属製の箱のようなものがスパゲッティチューブとなって張り出し、STLの制御盤に取り付けられていた。

 

「これ、外す事は・・・・」

 

「出来ないっすね。このSTLは今修也君が使っているものですし・・・・」

 

「そうよね・・・・」

 

そう言い、二人は頑丈に固定されたそのデバイスを見て取り外しも難しいかと思っていた。

 

「まぁ、そんな訳で見て欲しかったのはこれっすよ」

 

「ふーん、あの子は何を考えているのかしらね」

 

「さあ?でも、先輩の弟っすから。案外突拍子もない事をしそうなんすよね・・・・」

 

そう言うと比嘉も凛子も同じように苦笑してしまう。

 

否定できない

 

実際、彼はアメリカで多目的電気信号増幅回路システム(Multi purpose electrical signal amplification circuit system)、通称:Meacシステムと呼ばれる回路を作って現実と変わらない動きをすることができる義手を開発してしまったのだ。

 

その究極とも言えるのがあのマキナだ。人と変わらない動きをする、ある種の新人類。新たな生命とも言えるかも知れない機械でできたロボット。

見た目は十歳ほどの少女、中身は機密の塊。それは、誰もが欲しがる一種のオーパーツ。いや、パンドラの箱ともいうべきだろうか・・・・

 

そんな発明を軽々とやってのけてしまう彼は何を考えているのだろうか・・・・

想像がつかない、と言うのが二人の見解だった。

 

「やれやれ、天才という人は恐ろしいっすね」

 

「そう、ね・・・・」

 

二人は今現在STLに入って治療のようなものを行なっている色々と規格外の青年を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嗚呼ぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

 

 

 

 

ここはオーシャン・タートルの防音された一室。其処では男の悲鳴とそれを見届ける幾人かの屈強な男達がいた。

 

「案外耐えるな・・・・」

 

「・・・・強めろ。しかし、殺すな。死んでは元も子もない」

 

二人の男が指示を出すと周りにいたスーツ姿の者たちが一人の白衣を着た痩せた男に持っていた金属製の棒を当てる。

そしてまた悲鳴が上がり、男・・・・柳生と呼ばれる研究員は弱った声で何かを呟く。

それを聞き取り、一人が部屋にいた藤吉の耳に囁く。

 

「ふんっ、やはりこいつがユダだったか・・・・」

 

「間違い無いだろう。・・・・全く、修也がおらんかったら危なかった所だ」

 

その横で真之が言い、同じ部屋に居た菊岡はそんな二人に完全に萎縮してしまっていた。

 

「(これが、裏切り者に対する『愛国者』の報復か・・・・)」

 

愛国者

それは今の防衛省で最も勢力を持つ集まりである。警察予備隊発足当時から存在し。日本という国を愛し、第一に考える一種のカルト教団のような者である。

しかし、その影響力は馬鹿にできず、今では政界でも勢いを持ち始めている。

少なくとも防衛省や警察庁のほとんどは愛国者で埋まっていると言って良いだろう。菊岡もそんな愛国者の一人である。

愛国者は日本という国を愛する思想を持つがために、国への裏切り者に対する仕打ちは想像しただけで恐ろしい。菊岡が考えたくもないと思う時点で其処はお察しいただきたい。

それはこう言った自衛隊が絡む事業に関しても言える事で、今まで似たような事業で何人かの自衛隊員や関係者が()()()()になっている。

 

 

 

 

 

 

菊岡はこれがまだ()()()だと感じずにはいられなかった。

 

 

 

今の日本に諜報員を罰する法律はない。

 

 

 

よって、諜報員にどんな事をしても()()()()()()罰せられる事はない。つまり、これは()()()()()なのだ。

 

 

()()転けたところに工具を持った他人の拳があって怪我をしてしまった。

 

 

()()電流の流れている金属棒が当たってしまい、感電してしまった。

 

 

ただ、それだけの事なのだ。

 

菊岡は一瞬でボロボロになってしまった研究員を見て、これは自分への戒めだと思わずにはいられなかった。



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#8 修剣学院

いつのまにかUAが20.000言ってた!!∑(゚Д゚)
いつも、読んでくださってありがとうございます!!!


人界歴三八〇年 三月

 

ザッカリアにて一年間兵役の任に就いたキリトたちは入学試験をパスし、北セントリア修剣学院へと入学した。

央都にたどり着いた俺たちは真っ先にブレイドの屋敷にお世話になり、そこで学院に入学するまでお世話になっていた。正直、豪邸と呼べるその屋敷に俺とユージオは萎縮してしまったが、俺たちはそのまま一年振りにブレイドと再会することになった。

そしてそのまま俺たちは修剣学院に入学する事となった。

 

成績としてはブレイドは十三位、これに関してキリト達が問い詰めると彼はあっさり白状した。

 

『傍付き錬士になって仕事が増えるのは御免被る。こっちはやりたい事でいっぱいなんだ』

 

これには流石にキリト達が呆れてしまった。だが、ここで変な事を言うとさらに面倒なことになる気がしたからだ。

ブレイドはともかく、俺たちは上位十二名に入っていたようで、<傍付き剣士>として俺はソルティリーナ・セルルト先輩、ユージオはゴルゴロッソ・バルトー先輩の傍付きとして鍛え上げられていた。

 

この学院は二年制で、一年目は《初等練士》、二年目は《修剣士》と呼ばれる。その中で入学時の成績上位十二名が《傍付き練士》となり、《修剣士》の上位十二名である《上級修剣士》に一人ひとり割り振られて、《傍付き練士》が《上級修剣士》の身の回りの世話をして、《上級修剣士》が《傍付き練士》への個別指導を行う。ある種の師弟関係と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日も俺は先輩にこってり絞られて食堂で疲れ切っていた。

 

「何しけた顔をしている」

 

「いやぁ・・・・ツッカれたぁ・・・・」

 

「まぁ、ソルティリーナ先輩は大変だろうね」

 

キリト、ユージオ、ブレイドの三人は食堂で、苦労を労っていた(主にブレイドが二人を労うことが多い)。

二等爵家に平民上がりの二人が馴れ馴れしく関わっている事に、特に爵位持ちの家の子が恨み言を呟くように彼らを見ていた。

あまりに煩いとブレイドの冷ややかな視線が食堂を包むので、一瞬で全員が黙るのだが。それが治る気配は一向に無かった。

 

『いっその事キレイキレイ出来たら楽だな』

 

部屋で集まった時に不意に呟いた発言に、キリト達は心底微妙な表情でブレイドを見ることしかできなかった。

ユージオもだいぶ慣れてきて、ブレイドの思想に段々とではあるが染まっているような気がしてきた。

それはいけない兆候だとキリトがユージオを抑えていた。

そんなこんなでこの一年を楽しくやって行けている三人は食堂で食事を楽しく摂っていた。しかし、そんな三人を快く思っていない様子の二人がいた。

 

「(彼らは確か・・・・)」

 

ライオス・アンティノスとウンベール・ジーゼックだったか・・・・

 

長い金髪の方がライオスで三等爵の家系に属しており、ウンベールは四等爵家の出身で灰色髪のオールバックが特徴だ。

 

彼らはまさに今の帝国の貴族を体現したような者達だろう。自分たちは何も功績を上げていないのにそれを鼻にかけ、下の者を侮辱する。聞いているだけで反吐が出るような奴らだ。

 

今のところ大きな行動はしていないが、いずれやらかすと確信をしている。

だから入学した時から自分は彼らに警戒を解く事はなかった。

二等爵家の自分がいなければ、おそらく容赦無くキリト達を侮辱していたに違いない。

 

「(向こうからけしかけてくれればこちらとしても有難い・・・・)」

 

ブレイドは禁忌目録の穴を突いた・・・・キリトに言わせれば卑劣な方法で彼らを貶めることができる。

少なくとも今は庇護下にある二人に特にあの二人は不満を募らせていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

昼食を摂り終え、ブレイドと別れたキリト達は学院の花壇に来ていた。

 

「キリトは優しいんだね」

 

「そうか?」

 

「じゃなきゃこんなこと考えないよ」

 

「・・・・それもそうか」

 

ブレイドが『面白い事を考えたものだ』と言って色々と手筈を整えれくれた時は三人して結果を楽しみにしていた。

今までのは全部が枯れてしまった『ゼフィリアの花』・・・・今は蕾が出来て、もう少しで咲きそうだった。

 

「・・・・さて、そろそろ行こう」

 

「そうだな。明日の事もあるしな・・・・」

 

そう言うと二人は花壇を後にした。花壇に二人を睨みつけるように見ていた視線があったとも思わずに・・・・

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

翌日、ブレイド達三人はセントリア第七区に存在する『サドレー金細工光店』と言う店にやって来ていた。

 

「見ろ、この有り様を!!」

 

その気迫に三人は思わず引いてしまう。目の前にいる老人・・・・この店の主人であるサドレー技師は大変ご立腹のご様子であった。

 

「見ろぃ、この黒煉岩の砥石は三年使えるはずが、たった一年で六つも消費してしまったわい!」

 

「あはは・・・・ほんと、すんません・・・・」

 

流石にこれには苦笑せざるを得ず、ブレイドやユージオも微妙な表情をするしかなかった。

こう言った職人気質の人は嫌いではない。

だからブレイドはそんな燃えているサドレー技師にありったけの黒煉岩の砥石を送っていた。

 

「まったく、あの枝といったら少ししか削れんかったぞ。どんな性質をしておるのだ」

 

「(まぁ、あの巨木だから仕方ないか・・・・)」

 

ブレイドはそこでキリト達がギガスシダーの枝を此処に持ってくるまでの経緯を思い出した。

ギガスシダーを切り倒した翌日。ガリッタ爺と言う先代刻み手の人がユージオと共に青薔薇の剣を持ってやって来て、ギガスシダーの枝を切り落としてこれをサドレー技師と言う人に渡してくれれば最高の剣を作ってもらえると言い、央都に到着したキリト達はブレイドと合流した後にこの店に来て枝を渡していた。

 

『一年、一年あれば最高の剣を作ってみせるわい』

 

そう言ってからちょうど一年。この日、ブレイド達は剣を受け取りに来ていた。

 

「そ、それで・・・・剣はできたんですか?」

 

キリトはサドレー技師の文句を遮って聞くと『むぅ・・・・』とやや不満げになりながらかがみ込んで品物を出す。

ごおん!と言う重い音と共にカウンターに置かれた。

 

「では、お代はこちらで」

 

ブレイドがそう言い、布袋に入ったお金を出す。その金額にキリト達は目を見開いて驚き、『貴族すげぇ・・・・』とハモっていた。

お代を確認したサドレー技師は『まいど』と言い残し、キリトを見た。

 

「お主、その剣を振れるか?」

 

「?」

 

「此奴、剣となった時にさらに重くなりよった。振れるのかどうか見せてみろ」

 

そう言われ、キリトはその漆黒の剣に見惚れていたが、一瞬で引き戻されるとその剣を持って一回、ブンッ!と振った。

その時の勢いで小さな衝撃波が起こっていた。

 

「学院のひよっこがそれを振るか」

 

「すごいよキリト!」

 

「素晴らしいものだ」

 

二人してキリトを褒めるとキリトは調子に乗ったのか、安息日だと言うのに剣の練習のためと言い残し何処かにすっ飛んでしまった。店に残ったブレイドはユージオに言う。

 

「ユージオ、先に戻っていてくれ」

 

「何で?」

 

「少しサドレー技師と話があって、少し遅れる。その後に神聖術を教えてやる」

 

「・・・・わかった。じゃあ、また後でね。ブレイド」

 

そう言い残し店を後にしたユージオを見送るとブレイドはサドレー技師に聞いた。

 

()()が出来たと聞きました。お渡ししてもらえますか?」

 

「あぁ、出来ておる。・・・・しかし、あんな奇妙な物は何だね?」

 

「それは秘密です」

 

「ふんっ、また珍妙な物を作る気かね?」

 

「だてに、研究をしている訳ではありませんよ」

 

そう言いながらサドレー技師がカウンターの上に布で巻かれた金属製の棒を渡す。開けられた穴を覗いてブレイドは呟く。

 

「素晴らしいです、やはり貴方に頼んで正解でした」

 

そう言い、ブレイドはその金属製の棒を持つとサドレー技師が聞いた。

 

「その鉄の棒を削って整えろと言われた時は心底おかしいと思ったわい。お主、何をしようとしておるのだ?」

 

「それも言えません」

 

「つまらんのう・・・・」

 

サドレー技師は面白くなさそうに言うとブレイドはその金属製の棒を持って見せを後にする。学院に戻る道を歩いている途中、ブレイドは自身の持つサーベルを見て思う。

 

「(これでダークテリトリーからの侵攻に耐えられる大きな力を手に入れられる。後は部品を合わせて作るだけだ)」

 

そう思いながらブレイドは学院に戻ると部屋にいたユージオに約束していた神聖術を教えていた。



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#9 懲罰試合

サドレー技師からギガスシダーで作った剣を受け取ったキリト達は学院の修練場に来ていた。

 

「貴様は何をやっていた・・・・?」

 

「いやぁ・・・・やっちゃった☆」テヘッ

 

「馬鹿か貴様は。罰として後で私の実験に付き合え」

 

「ヒィィ・・・・それは勘弁を・・・・!!」

 

「キリト、それが妥当だと思うよ・・・・」

 

「お、俺に味方がいねぇ・・・・」

 

闘技場の一角でそんな事を言い合う三人。

何故こんなことになったのか。話は二時間ほど時間を遡る。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

サドレー技師の店から戻ったブレイドはユージオに神聖術のコツを教えていた。

 

「ありがとう、ブレイド。お陰で何とかなりそうだ」

 

「ああ、そう言うなら良かった。さ、今日も終わったから食事に行くか」

 

「うん、そうだね」

 

そう言い、二人は部屋を出ると何やらバタバタした様子で他の生徒達が修練場に向かって走っていた。

 

『おい!ウォロ主席が試合するって!』

 

『早く見に行こう!』

 

『相手は誰なんだ?』

 

『何でも黒髪の傍付きらしい』

 

黒髪の傍付きと聞いただけで嫌な予感がした。このまま放置したいと思っていたが、そうとは行かなかった。

 

「ブレイド、さっき言ってたのって・・・・」

 

ユージオが呆れ半分。期待半分でブレイドを見る。『見に行こう』と・・・・

 

「・・・・行きたいのか?」

 

「勿論」

 

そう言うとブレイドはため息をした後、修練場に向かって走り始めた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「・・・・で、ウォロ主席に貴様がやらかしてこうなったと・・・・」

 

「ええ、まぁ・・・・そんな所でございます」

 

修練場の一角でキリトに問い詰めているブレイド。その後ろでまぁまぁと言って宥めているユージオ。別の所でキリトの免除を乞うリーナ先輩。

色々と大騒ぎになりながら結局キリトは実剣を持って一本先取制の懲罰試合をする事となってしまった。

 

「死にはしないだろうが。まぁ、頑張れ」

 

「おうよ。できるだけ努力はするさ」

 

そう言い残してキリトは修練場でウォロ主席と懲罰試合をしに向かった。自分達もその試合を見るために端で経過を見ていた。

修練場の椅子ではあのライオスとウンベールがキリトを嘲笑うかのように見ていた。

 

「(やれやれ、餓鬼だな)」

 

ああ言うのは大体が恨まれて死ぬものだと感じざるを得なかった。

そんな彼らを一瞬だけ見るとブレイドはキリトを見た。少なくともこの試合にキリトが勝てないだろうが。それでも少し楽しみであった。

 

「(さて、どうなるか・・・・)」

 

キリトの持ち出したギガスシダーの剣(仮称:黒の剣)を見て、全員がどよめく。しかし、無理もないだろう。刀身まで黒い剣など普通見ないだろうからだ。ユージオの青薔薇の剣と言う神器ばっかり見ていると感覚がおかしくなってしまいそうであった。

そしてそれに勿論いちゃもんをつける阿呆貴族達、そしてそれにイライラするユージオを宥めながら試合を見届ける。

そしてウォロ先輩が構えた時、会場は静粛に包まれた。

 

「(何と言う気迫だ・・・・これなら主席と言うのも納得できる)」

 

大剣を持ち上げてハイ・ノルキア流剣術秘奥義〈天山烈破〉(両手剣ソードスキル、アバランシュ)を構える。対するキリトはキリトはアインクラッド流奥義〈バーチカル・スクエア〉を構えていた。

 

「(やはり、キリトの技には見覚えがあるな・・・・)」

 

静粛が場を包む中、ブレイドはそんな感想を抱いていた。

大剣を握り、対峙する彼の姿はどことなく既視感があった。

 

「(何だろうな。この既視感と懐かしさは・・・・)」

 

 

少なくとも自分は両手剣を持ったことがない。そう思ったその時、ふとある光景が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

それはとある森の中。とある家の前で剣を振るう自分と、同じように片手剣を振る黒髪の青年の姿であった。

 

そして自分の手には黄金色の両手剣が握られ、片手剣相手に振っていた。

 

その光景はとても懐かしく思えていた。

 

その時、剣を握っていた青年の顔はーーー

 

「(キリト・・・・?)」

 

その《記憶》に映った青年は目の前でウォロ主席相手に剣を振っている彼そのものであった。

 

「・・・・ブレイド!」

 

「!」

 

「大丈夫?」

 

ユージオの声で意識が戻ったブレイドはユージオに状況を聞いた。

 

「すまない、少々考え事でな。状況はどうなっている?」

 

「試合は引き分けで終わったよ。今みんなで宴会をすることになっているから。ブレイドも早く来て」

 

「・・・・了解だ。部屋でやる事をやってから行く」

 

「早く来てね」

 

「ああ、分かっている」

 

そう言うとユージオは修練場を後にしていた。気づくと今ここには自分だけが残っていた。そこまで集中してしまっていたかと思い、部屋に戻ろうとした時、自分は声をかけられた。

 

「ブレイド修剣士」

 

「・・・・何でございましょうか。アズリカ先生」

 

私を呼び止めたのは自分達の講師であるアズリカ先生だった。私はいつもの表情で対応をするとアズリカ先生がブレイドに言った。

 

「ブレイド修剣士。今から付き合ってもらえますか?」

 

そう言い、アズリカ先生は剣を見せた。

 

「貴方の()()()()を見せて頂きたく・・・・」

 

それだけでアズリカ先生が何をしたいのか理解した。おそらく入学試験で手を抜いたことが何処かから漏れたのだろう。

アズリカ先生の性格を考えればそれは言語道断なのだろう。こうなった以上断ると言う選択肢はないわけで、私はアズリカ先生に念のため聞き返した。

 

「大丈夫なのですか?」

 

「ええ、既に許可は取ってあります」

 

そう言うとアズリカ先生と共に私はサーベルを持って誰もいない修練場でお互いに剣を構えた。ルールは先に相手の懐に潜り込めれば勝ち。神聖術の使用はなし。そんなルールで、私はサーベルに手をかけてアズリカ先生を見る。

 

「では、見せてもらいましょう。入学試験でコケにされた気分ですので・・・・」

 

「・・・・分かりました。では・・・・」

 

サーベルを取り出し。赤く細い刀身を見せると私はアズリカ先生に急接近する。

 

キィン!

 

対するアズリカ先生も初手の急接近に対応し、首を狙ってきたブレイドのサーベルを受け止めた。

 

「(早い・・・・!!)」

 

「(これで無理だと言うか・・・・!!)」

 

お互いに剣を交えた二人は一旦間合いを取った。

 

「なる程、早い動きです。一瞬でも対応が遅れていたら負けていました」

 

「この速度に間に合う先生も素晴らしいです」

 

二人はお互いにそう言うとブレイドが走りだす。音もなく接近してくるその走りに、アズリカも少々苦戦を強いられていた。

カンッカンッと金属音を立てて修練場で二人が戦闘を行う。

 

「(なかなかな腕です。これは『日陰者』だなんてもってのほかですね・・・・)」

 

そんな事を思いながらブレイドの後を目で追う。ブレイドの速度は早く、アズリカは防御に注視せざるを得なかった。

 

「(そろそろ技を仕掛けなければ・・・・)」

 

ブレイドはその時、ふと半分無意識でとある体勢をとる。それは遠い昔に習ったような感じがするとある()()()での技だった。

刀身が淡く光り、アズリカの剣を一撃目で弾こうとする。しかし、この攻撃をアズリカは耐える。しかしブレイドはその瞬間に二撃目を与え、アズリカの剣を弾いた。

アズリカが驚いた瞬間、アズリカの首にサーベルを当てた。

 

「私の勝ちですね」

 

「・・・・ええ、そうですね。私の負けです」

 

修練場で、勝敗はついた。記録の残ることのないその試合は終わった。

ブレイドは剣をしまうとアズリカ先生に言う。

 

「では、私はこれにて失礼します。ユージオに宴会に誘われているので」

 

そう言い残し、ブレイドは修練場を後にする。残ったアズリカはさっきの試合を思い出しながら自分の剣をしまう。

 

「(さっきの剣には『記憶』がある。でなければ私の天命が()()()()と言う事が起こるのがおかしい・・・・)」

 

そう言い、彼と試合した時に起こった()()の感覚を思い出す。いつもよりも疲れを意識したあの試合にアズリカは違和感を覚え、その理由を確信していた。

 

「面倒ごとにならなければ良いですが・・・・」

 

彼の部屋で彼が研究している謎の物に関しても特に詮索しようとは思わないが。いずれ彼が、何かやらかすのではないかと思っていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

部屋に戻って荷物をしまったブレイドはそのまま宴会が行われている部屋に向かった。部屋に到着するとそこでは酔い潰れているユージオや、酒をかっ喰らって大喜びしているリーナ先輩達。

 

混沌、と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。

 

「・・・・」

 

ここに来てブレイドはこの宴会に来た事を後悔していた。

咄嗟に扉を閉めて何も無かったことにしたかったが。再び扉が開き、そこにキリトが立っていた。

 

「待てよブレイドぉ・・・・」

 

「・・・・何だね?」

 

「お前の参加しろよぉ・・・・」

 

「また後でな」「オイ、マテヤ」

 

キリトに呼び止められてブレイドはため息混じりにキリトに言う。

 

「はぁ・・・・どうした?」

 

ニヤリ「先輩〜、ブレイド君が来ましたよ〜!」

 

こいつ!先輩を巻き込みやがった!!

ブレイドはそっさに逃げようとするもキリトの腕を掴む力が強く、逃げようにも逃げられなかった。キリトはさぞ悪い笑みでこう言う。

 

「お前も道連れだ・・・・!」

 

「チッ・・・・(余計な事を・・・・!!後で二倍にして返してやる!!)」

 

そんな事を思いながらブレイドは宴会場に突撃する事になった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ふぅ、皆さんどうしましたか?」

 

ブレイドの視線の先にはぶっ倒れている先輩方がいた。そのうちの一人、ゴルゴッソロ先輩がブレイドに言う。

 

「ワ、ワラキア殿は・・・・さ、酒が・・・・お、お強い事で・・・・」ガクッ

 

そう言いそのまま気絶してしまった。何を言うか。たかがワイン()()飲んだだけではないか。

まぁ、毎日飲んでいたから強いと言うのもあるかもしれないが・・・・

おまけにキリトはいつの間にか居ないし・・・・

 

そんな感じでぶっ倒れて酒臭い先輩方やユージオをそれぞれ部屋に送り届けるとブレイドは酔い覚ましに花壇に出る。そこでは花々が光り、美しい景色を魅せ、一人の青年の手の中に収まる見る物を圧倒させる光景が広がっていた。

 

「・・・・凄い」

 

世の中にはこんな事を出来るのか。そう思わずには居られなかった。そしてブレイドは視線の先にいるキリトに声をかける。

 

「今のは何だね?キリト」

 

「・・・・分からない」

 

彼の手の先にはゼフィリアの蕾と、少し荒れた地面があった。

そしてキリトの少し沈んでいたような表情を見て、何が起こったのかを推測していた。

 

「(まぁ、おそらくあの馬鹿どもがやったんだろうな・・・・)」

 

そんな軽い予測を立てながらブレイドはキリトにリーナ先輩の介護を頼むように伝えた。



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#10 上級修剣士

キリト達がウォロ先輩にやらかしてから数日後。卒業トーナメントでリーナ先輩が主席のウォロ先輩に打ち勝ったのだ。

これには少し驚いた。予想外の結果に賞賛をしているとキリトが先輩にゼフィリアの花を贈って、それで涙していた。一年を通して、彼はその優しさ故に人に好かれやすいと言うのがよくわかる。特にユージオとはまるで双子の様に仲がいい。

私は入学時の成績的にはキリト達の方が良いのでそこに敬意を表すると、二人から『手を抜いているお前だけには言われたくない!』と言われてしまった。

 

そして卒業式が終わり、私たちは二年生となる。その際に上級修剣士となるための検定試験を行う事となっている。

なお、この時にキリト達から『今年手を抜いたら二人でシバク』と脅されている。まぁ、今年は傍付きを選ぶ事ができるので手を抜く気はさらさらない。上位十二位以内に入れれば問題ないと思っている。

試験は神聖術の問題と実技、後は剣の実技であった。常日頃から『日陰者』と揶揄され、十二位に入った貴族達から蔑まれる言葉を言われることもしばしば・・・・。

やれ、面倒な物だ。二等爵家だから表立って言わないが、噂くらいは耳に入ってる。むしろ知らないと思っているのか?だったら爪が甘い事甘い事。

やや呆れた様子でブレイドはサーベルを持って相手と対峙する。

 

「お久しぶりで御座います。ワラキア殿、今日はお相手できる事を光栄に思います」

 

そう言うのは散々キリト達を侮辱してきたライオス・アンティノスであった。正直顔もよく覚えていない奴だったが、その中には明らかな悪意を感じていた。

 

「(まぁ、適当にやっても行けるだろう)」

 

そう思い、サーベルを抜いて構えの姿勢を取る。相手は完全に油断しているだろう。噂だけを頼りに相手を見るのは間違いだと教える良い機会だ。

キリト達が見る中、中央に立つ試験菅が上げていた手を下げる。

 

「・・・・始め!」

 

「ハァァ・・・・!!」キィィン!「・・・・え?」

 

一瞬だった。ライオスの剣は弾き飛ばされ、首筋に鉄色の刀身が当てられる。血は流れていないが、一瞬で相手の首を撥ねられる位置にある。

 

「チェックメイト」

 

軍将棋の決め台詞を言うと試験官が我に帰った様子で言う。

 

「そ・・・・そこまで!勝者、ブレイド・ソド・ワラキア!」

 

試験官の声と共に全員がどよめき出した。そんな中、キリトとユージオだけが小さく頷いていた。

 

「見えた?」

 

「ああ、バッチリとな」

 

「早かったね・・・・」

 

「そうだな。アレに追いつくのは難しいな」

 

「キリトでもかい!?」

 

断言、とまでは行かないが、まぁ並の反応速度じゃあ難しいだろう。アレでいて神聖術まあまあなのだからチートと疑われてもおかしくはない。

ともあれ、主席候補の一人が一瞬でやられたことに会場は大いにざわついていた。後に戦意にも関わってくるレベルだ。見事に心をへし折ったブレイドはこれも作戦の内なのかと聞きたくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後はやはり予想通りというべきか、ライオスが一瞬で蹴散らされた事で全員の調子が狂い、その恩恵はキリト達にも齎されていた。

 

「なぁ、これってお前の作戦なのか?」

 

「さあ?そこら辺は自分で考えてみると良い」

 

「あはは・・・・ブレイドには敵わない気がするよ・・・・」

 

食堂で三人が駄弁っている。その周りに人はおらず、他は全員端に追いやられていた。今まで日陰者と言って侮っていた人物が蓋を開ければどうだ。主席候補を一撃で葬り去り、神聖術もできる優秀な人物ではないか。それが畏怖の対象となって、今ではこうして静かな食事を楽しめている。

 

「能ある鷹は爪を隠す」

 

「まるで今のブレイドだね」

 

「そう褒めてくれるな」

 

「「いや、それはない」」

 

「・・・・」

 

キリト達のツッコミにやや不満げなブレイドはトレーを片付けに向かい、キリト達も続いていった。

ブレイドの衝撃の一手でキリト達の成績も思っていた以上に伸び、二人とも三位と四位となった。二位は見知らぬ誰かで、キリト達をコケにして来たライオス達は下の方の成績になっていた。

何とも自業自得な結果だが、ライオス達はそれでも噛み付いて来たと言う。爵位が上のブレイドには絶対に言えないから取り巻きと思われているキリト達にか・・・・苦労をかけるなぁ、今度跳ね鹿亭の蜂蜜パイを買ってやろうか。そんな事を思いながらブレイドは食堂を後にしていた。

主席となったブレイドは『こんな首席はいらない。誰かに投げつけたい』と呟いていたが、それは流石にキリト達が止めていた。

 

そしてそのまま部屋の前で二人と別れるとブレイドは主席専用の個室部屋を開けて中に入るとそこで一人の少女の出迎えを受けた。

 

「お帰りなさいませ。ブレイド様」

 

「・・・・先輩でいいと言っているだろう。マリー」

 

そこには茶髪のショートヘアに翡翠色の瞳を持つ一人の少女がいた。彼女の名はマリー・クルディア。六等爵家の令嬢であり、私の傍付き剣士である。

色々と情報を持っており、話していて頼もしい少女である。

傍付きは誰でも良かったので適当でいいと言ったがまさか少女になるとは・・・・

そんな野暮な事を思いながらブレイドは思考を止めるとマリーに話す。

 

「マリー、ここに置いてあった本は知らんか?」

 

「ああ、それならあの本棚です」

 

そう言い、マリーは整頓された本棚を指差す。その中から一冊の本を取り出し、ブレイドはマリーに言う。

 

「今日はもう戻って良い。ありがとう」

 

「分かりました。失礼します」

 

そう言うとマリーは部屋を後にする。部屋に残ったブレイドは本のあるページを開いたまま机の下からある布に包まれた物を取り出す。

それは緋色の木目に黒鉄の鉄柱を持ち、特殊な形状をした金具を備えていた。

それを両手に持ったブレイドはその独特な形状の金具に指を掛けると指を手前に引いた。

 

カチッ!

 

金属音と共に、一瞬だけ先が光るのを確認するとブレイドは頷いた。

 

「・・・・問題ないな。あとは試験を行うだけだ」

 

今まで主に農具に関する研究ばかり行い、そこで新しい技術『火薬』と言うものを見つけた私はそれを使った新しい()()を開発した。

昔起こったという爆発事故の原因を探り、この新しい物質を見つけた私は。実に四年の歳月をかけてここまで辿り着いた。

 

火薬の火付け方法は熱素による発火、もしくは風素による空気で押し出して発射する方法。

しかし、明らかに前者の方が威力が大きい。よって熱素で火薬点火による発射が最も効率的である。なんとなく私はこの動作方法に《エレメント式マスケット》と名付けてしまった。

それを私は机に置くとそれを厳重に仕舞う。代わりに棚から黒い粒状の物質と、蝋の塗られた紙と銀色の金属球を取り出す。

日没となった景色の中、彼はそんな事も気にせずに秤を持ってきて黒い粒子をサラサラと落としてそれを型にはめた紙に流し込む。それを鋼素で作った棒で軽く押し固めてその上に金属球を入れてまた固める。その作業を永遠と繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠と同じ作業を繰り返すこと数時間。すっかり夜になってしまった景色を見てブレイドはハッとして作った物と道具を片付ける。

この新しい武器は多いにダークテリトリーからの侵攻を抑える事ができるだろう。最高司祭はダークテリトリーからの侵攻はあるとお考えだろう。だとすればその対策も考えているはず。もしかするとこの発明は必要なかったかもしれないが、用心に越した事はないだろう。

 

「(とにかく、いずれこの新しい武器を試した後に皇帝陛下にでも売り込みをかけてみるか・・・・)」

 

ブレイドはそんな事を思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ブレイドは安息日ということで部屋であの作業をしているとコンコンとと扉を叩く音がし、『俺だ。開けれくれ』というキリトの声が聞こえ、私は机に出していたもの全てをしまうと扉を開けた。

するとそこにはキリトやユージオの他に、彼らの傍付きであるロニエ・アラベルとティーゼ・シュトリーネン、そして私の傍付きのマリーがいた。

 

「お邪魔しまーす!」「跳ね鹿亭の蜂蜜パイ買ってきたよ!」

 

「お、お邪魔します・・・・」

 

「し、失礼します!」

 

「おはようございます。ブレイド先輩」

 

そう言って各々別々の反応をする彼らに少々苦笑しつつも、彼らを部屋に招き入る。おおよそ何をしにきたのか想像できるが、とりあえず要件を聞いてみた。

 

「・・・・で、わざわざ全員が集まって何のご用かね?」

 

「そりゃあ勿論・・・・」

 

「「神聖術について教えてください!ブレイド先生!」」

 

「・・・・ちなみにお代は?」

 

「この蜂蜜パイで」

 

「・・・・よかろう。では、食べてから講義と行こう」

 

食べ物に釣られてブレイドは最初にパイを頂く。そしてその後に私は紙を取り出してそこに書き込みをし、それを全員が覗き込むように見る。

 

「まずはおさらいからだ。君達、神聖術には八つの素因があり、それぞれ《システム・コール》から始まる。そこまでは常識だ」

 

全員がうんうんと頷き、ブレイドは紙に《光素》《熱素》《風素》《凍素》《水素》《闇素》《鋼素》《晶素》と書き込む。ここからは教科書に書いていない少しオリジナルが混ざった講義だ。

 

「これらの素因は全てが繋がっていると言える。これらを組み合わせて併用することで、新たな方法で神聖術を使う事ができる」

 

そう言うとブレイドはそれぞれの素因を線で繋いだ。

 

熱素と風素を組み合わせれば冬に暖かい風を作る事ができる。

 

光素と晶素を組み合わせれば透明な灯りの完成。

 

そんな感じで組み合わせ次第で様々な事ができるというとキリト達も興味津々で見ていた。キリトの場合ほとんどが飯の話であったが、それを聞いて、マリー達が面白そうに話し合っていたのも見て少し満足感があった。そして、ブレイドによる講義を終えた後は談笑に浸っていた。

 

 

ブレイドはキリト達や、彼らの傍付き剣士達を見て久しぶりに研究以外での()()()を感じていた。

 

 



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#11 右目の封印

 

ドンッ!

 

日も沈みかけのこの時間。扉を蹴破る音が響き、中に数人の人が突入をする。部屋の中では一人の上半身裸の生徒と、ベットに押さえつけられている一人の少女がいた。

 

「かかれ!」

 

「なっ、何だ貴様らは!?」

 

「シュー・ドラ上級修剣士。貴殿には婦女暴行の容疑で連行する」

 

「何だと!?何の権限を持って・・・・」

 

「つべこべ言わずに来い!」

 

黒服の大人達に縛られてズボンを履いたままの青年は連れ出される。部屋の中で一人の少女が部屋に突入した大人によって毛布をかけられていた。その一連の様子を眺めて見ていた生徒達が呟く。

 

「またかよ・・・・」

 

「これで六件目だぜ」

 

そんな事を言いながら喚く生徒を見送ると他の生徒たちは何もなかったかの様にその場を後にする。

騒がしかった廊下は一瞬で静粛に包まれ、とある部屋ではある青年二人がもう一人の青年に聞いていた。

 

「お前、えげつないなぁ・・・・」

 

「これは・・・・酷いね・・・・」

 

「少なくとも君たちにそう言われるのは心外だ」

 

部屋にいる三人は連れて行かれた青年を窓の外から見ながら言う。

 

「シュー・ドラ・・・・四等爵家の適男。趣味は幼女と来た」

 

「うわぁ・・・・」

 

そら捕まるわ。あっちでもお縄になると言うのに・・・・

 

そんな事を思いながらどこかに連れて行かれる元生徒となるであろう人を見届けると、ブレイドが言う。

 

「いやぁ、実験の時に軍の人と仲良くなっててよかった。なんせ、叩けば埃じゃなくて()()が落ちてくる様な奴ばかりだったからな。また明日も誰かが捕まるだろうよ」

 

「「・・・・(この人鬼や)」」

 

そう思わざるを得ないほど()()()()で言う彼に二人はどん引いていた。

今彼が行っているのは《セントリア改造計画》と呼ばれる物だ。腐敗している貴族達を一掃し、新しい体制にしようと言うものだそうだ。何せ叩けば瓦礫が落ちてくる奴らだ。央都の警護をしている憲兵に()()すれば一瞬で片がついた。

元々研究の過程で色々と軍や憲兵と仲良しのワラキア家はそう言ったところに強く、おまけにそう言ったところは正義感が強い。だからそう言った摘発にはウッキウキで参加してくれた。

この学校での摘発はそのデモンストレーションに過ぎないと言う。それを聞いてつくづく愚かだと言うのと、ブレイドおっかないと言う二つの気持ちでごちゃ混ぜになっていた。

 

「まぁ、この試験もあと少しすれば終わる。そうすれば、後は上が何とかするだろう」

 

二等爵家という立場はこう言う時に便利だ。

 

そう呟く彼に、思わず二人は『あんた、貴族を舐めてんの?』と思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、私は部屋で本を読んでいるとマリーがブレイドにあるお願いをした。

 

「私に剣を教えて欲しい?」

 

「はい、先輩は神聖術の事は教えてくれるのに、剣術に関してはキリト先輩や、ユージオ先輩に丸投げしているからです」

 

マリーの指摘は確かに的を得ている。キリトやユージオにマリーの剣を教える代わりに、私は彼女らに神聖術を教える。

キリト達も同意した上での話だったが、不満だっただろうか。

 

「先輩は上級修剣士になる際に一瞬で試合を終わらせたと聞きました。私はあなたの傍付き剣士です。あなたに神聖術の他に剣を教えてもらう権利があるはずです」

 

少々禁忌目録に触れそうな言い方ではあるが、ブレイドはそれを聞いて間を置いたのちに少し笑った。

 

「そうか・・・・()()か・・・・フッ、君がそんな事を言うとはね・・・・」

 

するとマリーはハッとした様子となって顔が青ざめていたが、ブレイドは本を閉じてマリーの頭に手を優しく乗せてポンポンと優しく叩く。

 

「君がそう言うとは思わなかった・・・・その心意気は良いものだ」

 

「っ!では・・・・!!」

 

「キリト達に比べて教えられるものは少ないだろうが・・・・出来る限りは教えよう。ついて来なさい」

 

こうしてブレイドはそのまま練習用の木刀を持つと部屋を出て修練場まで歩く。赤色の修剣士服は夕焼けに映え、綺麗に見えた。

マリーはブレイドの後ろ姿を見ていつの間にか見とれてしまっていることに気づいた。

 

「(ハッ!私ったら何を考えていたのでしょう・・・・)」

 

思わず首を振って思っていた頃を忘れようとした。そして修練場に着くとそこでウンベールの声が響いた

 

 

「剣を振り回すばかりが戦いではないぞ、平民!!」

 

 

マリーがビクッとし、咄嗟にブレイドが彼女を庇う。

視線の先には剣を持ったユージオと、対峙するウンベールとライオス。それだけで何が起こったのか分かってしまった。

 

「今の話は聞かせてもらったよ。君達・・・・」

 

私は修練場の入り口で、馬鹿どもを睨み付けながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の話が聞かせてもらったよ。君達」

 

修練場に、冷ややかな空気が包む。僕はその声の主を見て背筋が凍ってしまった。修練場の入り口に赤い修練服を着て、マリーと共にいたブレイドが立っていた。

その目はウンベール達に向いており。冷ややかな、静かなる怒りであった。その目にウンベール達も恐れ慄いていた。運が悪いとした言いようがなかった二人はまるでウサギであった。するとブレイドが一言叫んだ。

 

 

 

「出て行けっ!」

 

 

 

いままでにないほど大きく、張りのある声で叫ぶと。ウンベール達は恐ろしさのあまり、一目散に逃げ出した。一瞬でいなくなったウンベール達を見てブレイドはふぅと一息ついた。

 

「いかんな、ついカッとなってしまったな・・・・」

 

「ブ、ブレイド・・・・?」

 

咄嗟に声かけをするとブレイドはユージオを見てため息を吐いた。

 

「すまん、驚かせてしまったな」

 

「う、ううん。大丈夫だからーーーそれより、マリーが驚いちゃっているよ」

 

そう言うとブレイドはマリーを見て、ハッとしてしまった。一連の声で呆然としてしまっているマリーに声をかけると意識が戻ってきたマリーに剣を教えようとしていた。初手から衝撃を受けたマリーはブレイドの指南を受けて持っていた木刀をブレイドに当てていた。

 

随分と大雑把な教え方だなぁ、なんて思いながら二人を見ているとブレイドが僕を見た。咄嗟に嫌な予感がした僕は修練場から出ようとするとブレイドに腕を掴まれた。

 

「ユージオくん」

 

「な、何でしょうか・・・・」

 

錆びたブリキ人形のようにギギギと振り向くとブレイドは僕に言った。

 

「少し付き合え。マリーに剣を見せる」

 

「僕もうクタクタだよ」

 

「何、部屋までなら送ってやる」

 

こうして、ユージオはマリーのためにブレイドの稽古相手をさせられることになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修練場で、ユージオがブレイドの手解きを受けた数日後。不穏な匂いがプンプンする学園の食堂で、ブレイドは珍しく一人で食事を取っていた。

 

「(・・・・嫌な予感がする)」

 

ブレイドはそんな事を思っていた。修練場でウンベールが言っていた言葉が妙に引っかかっていた。

 

「(こう言う時はろくなことが起きない・・・・)」

 

そう思いながらブレイドは食事を取り合えるとそれを片付けて部屋に戻る。今日の講義は終わっていたので、後は暇つぶしでもしようかと考えていた。

外では雨が降り、嫌な雲が広がっていた。

 

「嫌な天気だ。こう言う時は部屋で静かに本を読むに限る」

 

そう思いながら私は部屋に戻ってマリーが部屋を片付けている中、横で本を読んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、私は久しぶりに夢を見ていた。だが、その夢は少々不思議な夢だった。

そこには木造の大きな屋敷にの一室で一人本を読んでいる私がいた。夢中で本を読んでいた私はふと声をかけられていた。

 

『何を読んでいるんだ、修也?』

 

修也?私の名前はブレイドではないか。違う誰かではないかと思うも、私はその声の主を見て、嬉しそうに笑いながら言った。

 

『兄さん!』

 

そう言うと私は本を置いて、その男に飛びかかった。

 

『いつ帰ったの?』

 

『ついさっきだ』

 

黒髪の青年に飛び交った私は顔を埋めているとその青年が優しく頭を撫でた。その手の温かさに私は強い懐かしさを覚えた。

これは事実なのか?そう思わずにはいられないほど、その手は暖かかった。

 

『また、身長が伸びたか?』

 

『そうかな?』

 

優しく微笑むと、その痩せたもやしのような青年は私に聞いた。

 

『今日は、どんな事をする?』

 

『ゲーム!この前のリベンジ!』

 

『そうか。・・・・じゃあ、この前のリベンジマッチと行くか』

 

『待ってて、準備して来る!』

 

そう言った私は家の中に戻って中からゲーム機を取り出していた。

 

「(あぁ、これは・・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶なのか。それも自分の・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ブレイドは唐突に起こされた。

 

「ブレイド先輩!」

 

「・・・・?」

 

おっと、寝てしまっていたのか。視線の先には必死めいた様子のマリーがおり、只事ではないと理解した。

 

「・・・・何があった?」

 

「た、大変ですっ!キリト先輩とユージオ先輩が・・・・!!」

 

慌てた様子でチグハグに答えるマリーの話を纏めるとこうだった。

 

 

 

 

 

 

ーーキリトとユージオがライオスとウンベールを斬ってライオスが死んだ。

 

 

 

 

 

 

殺人はれっきとした禁忌目録違反だ。許される事では無い。しかし彼らがそれをしたと言う事は何かした理由あっての事なのだろう。そう思ってからの行動は早かった。

 

「マリー、君はロニエ達と一緒にいなさい」

 

「わ、分かりました!」

 

ブレイドは部屋を出ると彼からいる場所を探しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝たか・・・・」

 

俺は軟禁部屋のような場所でふと一息を吐く。

 

 

 

 

 

ライオスが死んだ。

 

 

 

 

 

俺とユージオはロニエ達を守る為に、敵を殺した。

その事実に俺は手が震えていた。すると部屋の前に誰か来た気配を感じた。こういう時、彼ならどうしていただろうか・・・・

 

「キリト、私だ」

 

「っ!ブレイド!」

 

音を気にして小声で言うと視線の先にはブレイドの赤い目が見えた。

 

「何が起こったか手短に話せ」

 

「あ、あぁ・・・・」

 

そう言われ、キリトは事の次第を話した。

 

ロニエとティーぜが襲われていたからやむ終えず交戦をした。

その時に自分はカッとなってしまってウンベールの手首を切ってしまった事。ユージオがライオスを斬り殺してしまった事。

それとユージオの右目が吹き飛んでしまった事。

 

全てを話し終えるとブレイドは少し間を置いてこう答えた。

 

「・・・・事情はよく分かった。こちらで何かできないか模索をしてみる。・・・・と言ってもできる事は皆無に等しいが・・・・」

 

悔しそうにブレイドは言うとキリトはそれだけでホッとしていた。今までまともに話を聞いてくれる相手が居なかったので、ホッとしていた。

だからキリトはブレイドに言う。

 

「俺たちの事で心配してくれてありがとう」

 

そう言うとブレイドは何か思いついた様子でキリトたちに行った。

 

「キリト・・・・どこでも私は追いかけるぞ。・・・・先に待っていてくれ」

 

そう言われ、キリトは少し微笑んで返す。

 

 

 

「ああ、その先で待っているさ」

 

 

 




いつになったらあの痴女殴りに行けるかな・・・・


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#12 急転

キリト達が禁忌違反をした翌日。アズリカ先生に破裂した右目を治してもらったユージオとキリトは迎えに来た使者を見て既視感を覚えた。金の鎧に青のマント、その鎧に引けを取らない金髪のロングヘアーからして、その人が女性であることと分かった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「「「・・・・? 」」」

 

俺たちの存在に気付いている筈だが、一向に動こうとしない彼女に首を傾げつつも、俺たちは近づくことにした。そして、すぐ傍まで近づいた時だった。

 

「・・・・っ!」

 

「どうした、ユージオ?」

 

「・・・・・・彼女の恰好・・・・あの金色と青色の組み合わせにどこか見覚えがあって・・・・」

 

「私語は慎みなさい、罪人たち」

 

「「っ!?」」

 

会話を遮るように騎士の声が通り、俺たちは自然と黙り込んでしまった。

 

「セントリア地域統括公理教会整合騎士・・・・アリス・シンセシス・サーティです」

 

「!?」

 

「ア、リス・・・・?」

 

ユージオがフラフラと近づくとユージオはアリスに剣で殴られてしまった。

 

「言動には気を付けなさい。私にはお前たちの天命を7割まで奪う権限があります。次に許可なく触れようとすれば、その手を切り落とします」

 

警告を告げた彼女の目はひどく据わっていた。困惑する彼らにアリスはこう告げた。

 

「上級修剣士ユージオ並びにキリト。そなた等を禁忌条項抵触の咎により捕縛・連行し、審問の後に処刑します」

 

「「!?」」

 

そう告げてからの彼女の行動はとても速かった。俺たちの手に手錠を填め、外へと連れ出した。校舎の外には彼女が乗ってきた飛竜が待機しており、飛竜の体に繋がれた拘束具で更に体を拘束されてしまった。

ここまま連行かと思っていると校舎の方から走ってくる人影があった。

 

「えっ・・・・!?ティーゼ!?」

 

「ロニエにマリーまで・・・!?」

 

ロニエ達三人はそれぞれ二人の剣を持って運んでいた。操作権限が足りていないせいで自在に持ち運べないにも関わらず。三人で頑張って持ってきていたのだろう。

そんな彼女たちにアリスも気づき、飛竜から降りて彼女たちの前に立ちはだかった。そのアリスの前に彼女たちは膝を突き嘆願した。

 

「整合騎士様!お願いがございます!!」

 

「私たちに・・・・ユージオ先輩の剣を・・・・」

 

「先輩たちに剣をお返しする時間を頂けませんか!!」

 

「・・・・・・いいでしょう。但し、罪人たちに剣を帯びさせるわけにもいきません。これは私が預かりますがよろしいですね。・・・・会話をするのなら一分間に限っては許可します。行きなさい」

 

アリスの慈悲に許可をもらったロニエ達が近づいた。

 

「先輩!」

 

「あ、あの・・・・」

 

そうして二人が話し、本来ブレイドの傍付きであるはずのマリーが来ている事に疑問を持っていると、彼女が口を開いた。

 

「キリト先輩、ユージオ先輩。ブレイド先輩からの伝言です。『我、彼岸花の言葉に従って動く。待っていていろ、()()()()』・・・・だそうです」

 

何の事やらと思うマリーにキリトはその意図を理解して内心ニヤリと笑った。

 

「(何らかの方法で記憶が戻ったのか・・・・しかし、イキリやがってあの野郎・・・・)」

 

強い味方が出来たと思い、キリトは『じゃあ、そんな方法で来るのかが楽しみだ』と思っていた。

その横でユージオは『記憶が戻ったのか・・・・?』と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ブレイドは部屋で支度をしていた。

 

「やれやれ、まさかこんな実験無しでするとは・・・・」

 

そんな事を思いながら木製の箱に作ってきた弾薬を仕舞いながら呟く。横にはマスケットと自分のサーベル、流星の剣が置かれていた。

 

「しかし、あれで意図がわかるだろうか・・・・」

 

彼なら大丈夫だろう。そう思いながら木箱に作ってきた紙製薬莢を入れるとそれをカバンにしまった。

昨日見たあの夢から色々と思い出した。そして、今ここに自分が居る理由も分かった。とりあえずすることとすれば彼らに追いつく事だった。

 

「何せ、シャスポー銃一丁とサーベルでカセドラルを登れってんだから。無謀極まりないな」

 

そう思い。作ってきた紙製薬莢を全て仕舞い、片付けると最後に紙にペンで書き記しをした。

 

「これで準備は完了か・・・・」

 

そう言い、荷物を全て見た瞬間。私の視界は真っ暗になった。最後に聞こえたのは君の悪い高笑いの声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒョホホホホホ!わざわざここまできたことに感謝するのですぞ!この愚民が!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!

 

破裂音が部屋に響き、青年が叫ぶ。その破裂音は絶えず部屋に響いた。

 

「チッ!剣相手に銃なんて持ち込みやがって!!」

 

パァン!

 

「どうする、キリト!?」

 

「チッ、とりあえず走り回れ!」

 

キリトとユージオの視線の先には赤く、薄い甲冑に身を纏った青年が両手に銃を持って引き金を引いていた。

 

パァン!

 

放たれた弾丸はキリトの目の下を掠って壁に当たる。壁に穴が開いてヒビが入る。

 

「何なのですか!あれは!?」

 

そこに金色の鎧と青いドレスを身に纏い、右目を閉じている少女が叫んだ。

 

「野郎、ブレイドを味方につけやがった・・・・!!」

 

激しい怒りと共にキリトは()を作り替えた張本人に怒りを抱いた。

現在キリト達がいるのはカセドラル96階層。元老院のある場所である。そして対峙するのはかつての友であった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し戻り、キリト達が96階層に続く階段に到着したところまで遡る。

連れられた牢獄から逃げ出した二人は途中、カーディナルと呼ばれる少女の助けもあって、何人もの整合騎士を倒してここまで来た。

途中でアリスもユージオと同じように右目が飛び、一時的ではあるが仲間になっていた。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫。・・・・行こう!」

 

「私も、問題ありません」

 

そう言うと三人は一斉に中に入った。ここまでブレイドを見たことはなく、『約束はどうしたのだろうか』と思っていた。それはユージオも思っており、『まだカセドラルには入れていなかったりして』なんて事を言っていた。

中に入り、そこで元老院に関する事実を知り、驚愕と怒りを覚えていると向こうの方から声がした。

 

「やれやれ、ここまで昇って来るとは・・・・」

 

声の主を見るとそこには赤い甲冑に身を包んだ一人の整合騎士が背を向けて座っていた。その声に聞き覚えのあったキリトとユージオは目を見開いた。するとその整合騎士は立ち上がってキリト達を見た。

 

「ブ、ブレイド・・・・?」

 

そう言うと整合騎士の見た目をしたブレイドは驚いた様子でキリト達を見る。

 

「名を知っているのか・・・・だが、私の初陣だ。名乗りを上げさせてもらおう。私はブレイド・シンセンス・()()()()()()()。最も新しい整合騎士にして、最高司祭の最後の剣なり」

 

そう名乗るとキリト達は悪態を吐いた。

 

「クソッ、だから来なかったのか!」

 

「ブレイド!僕だ!覚えていないのか!?」

 

罪人が何か言っている。私が命ぜられたのは罪人の処罰、ただ一つである。持っていた銃のボルトを引いて中に紙製薬莢を入れる。

最高司祭が『自由に使え』と言ったこの武器を持ってレバーを押し込む。ここで戦闘をする時に被害を考えなくていいと言うことなので、私は持てる限りの力で応戦するとしよう。

それを持って私は銃を罪人に向ける。

 

「あれは・・・・っ!走れ!」

 

パァン!

 

放たれた弾丸が罪人達の入ってきた扉に当たり、穴を開ける。

 

「っ!今のって・・・・」

 

「あの整合騎士、剣を使っていない・・・・?」

 

ならば行ける、そう思ったアリスは自身の持つ剣、《金木犀の剣》を握るとキリトが叫んだ。

 

「散開しろ!あれは武器だ!見えない鉄の弓だ!」

 

「な、何を・・・・」

 

その時、破裂音と共に、殺気を感じた私は避けると肩に衝撃が伝わった。

 

パキンッ!

 

「・・・・何!?」

 

「外したか・・・・やはり新米の私では難しいか・・・・」

 

肩に衝撃が伝わり、肩当てがひび割れていた。

 

「整合騎士の甲冑を一撃で・・・・!!」

 

ユージオが戦慄し、思わずブレイドを見る。彼の赤く、光の無いその目は酷く恐ろしく見えた。

 

「デヤァァァァァァ!!」

 

キィン!

 

唯一動けたキリトは彼の持つ新たな武器に剣を当てていた。ジリジリと金属の擦れる音を鳴らし、ブレイドはキリトの剣を新しい武器で弾いた。

 

「チィ・・・・」

 

「・・・・」

 

一旦間を置いたキリトとブレイドは互いに構えた。

 

「思い出せよ!ブレイド!俺たちの事を!!」

 

「貴様らにことなぞ知らぬ!私は、最高司祭に召喚されし最後の整合騎士だ!!」パァン!

 

「だったら思い出させてやるよ!お前の事をな!!」キィィン!

 

煙が立ち込め、焦げ臭い匂いがするこの部屋で金属音と銃声が轟く。その先では黒と赤の青年が互いに持つ武器で応戦をしていた。

 

「(力量は同等。だが、これは・・・・)」

 

現状、三対一の状況である。これでは流石に苦戦をするわけで、特に黒髪の罪人は私の撃つ銃の弾丸を切って迫ってきた。何度も剣を銃で守っていると銃身が傷ついてしまっている。

何とか一人ずつやって行きたいと思いながら視線を横に向ける。

 

「そこだっ!」ブンッ!

 

一瞬の隙を狙って黒髪の罪人が剣を振る。その瞬間に私は右後ろにいた金色の整合騎士の首元に向かってマスケットをぶつけた。

 

「ガァッ!」

 

「なっ!?」

 

残りの二人が驚く中、私は裏切った整合騎士を畳み掛けた。首をぶつけて力が抜けた所を狙って彼女を投げ飛ばした。彼女は吹き飛ばされ、壁にぶつかるとそのままガックリと気を失ってしまった。

 

「まずは一人・・・・」

 

そう呟くと同時、罪人たちが同時に叫んだ。

 

「「ブレイドぉぉぉ!!」」

 

怒りに満ちた剣で私を殺しにかかってきた。

 

「アリスをよくも・・・・!!」

 

「システム・コール、ジェネレート エアリアル・エレメント」

 

そう呟くと十本の指から十個の光が灯り、近づいて来る彼らに向けて放つ。

 

「バースト・エレメント」

 

その瞬間、ブオッと風が吹いて彼らを飛ばした。視線の先には壁に叩きつけられて倒れた罪人達が横たわっていた。

 

「終わったか・・・・」

 

そう呟き、傷ついた彼岸花のマスケットを持って整合騎士を背負おうとする。これからやる事は忙しいだろう。そう思いながら整合騎士に触ろうろとした時。

 

「まだ・・・・終わっちゃいねぇよ」

 

「あぁ・・・・そうだよ・・・・」

 

後ろから声が通り、ブレイドは簡単の声を漏らす。

 

「ほぉ。まだ生きていたか・・・・」

 

「生憎と悪運は強えんだ」

 

キリトはそう言うと刀身まで黒い剣を前に向けてブレイドに構えた。

 

 

 

 

「さぁ、第二ラウンドと行こうぜ」

 

 

 

 




高評価よろしくお願いします。


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#13 大切な記憶

作者、二日前に初めてコロナに罹りました。現在家で隔離されてます・・・・。あかん、完全に油断してた・・・・


「さぁ、第二ラウンドと行こうぜ」

 

剣を構えた二人に、私は銃を持つ。ここまで応戦する彼らは面白いとも思えた。確かキリトと言っていたか。私は銃を構えるとキリトがさっきよりも速い速度で突っ込んできた。

 

「(早いっ!)」キンッ!

 

「お前は!そう言う事をしない奴だろうがぁ!!」

 

するとキリトは剣を動かしながら勢いを増した。このままでは押し負けてしまいそうなほどに・・・・

その視線の先でキリトが叫んでいた。

 

「お前は!弱い者に手を差し出していたじゃねえか!いつもいつも、他人さえ良ければいいって言う、大バカのお人好しじゃ無かったか!ええ?」

 

「私に過去など存在しない。あるのは最高司祭に対する忠誠心のみだ」

 

「だったら余計に言ってやる!今まで会ってきた整合騎士は全員、最高司祭()って言ってたぞ!」

 

その指摘に私は言い返す言葉を失った。それと同時に違和感を感じた。その瞬間だった。持っていた銃をキリトの剣で叩き落とされ、胸ぐらを掴まれた。

 

「忘れているなら思い出させてやる!その後にぶっ飛ばしてやるよ!普通のお前ならこの状態で神聖術でも体術でも使うはずだろ!!なのに使わないのは違和感があるからだろうが!!大事なものを忘れているからだろうが!!」

 

その鬼気迫る顔に少しばかりの畏怖を覚えた。そしてその違和感は徐々に痛みへと変わり、頭痛は強くなってきていた。

 

「思い出せよ!お前が一番大事にしていた()をな!!」

 

その時、額に光が大きく灯って紫色の三角柱が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、力が抜けて気を失ってしまったブレイドを三人が看病していた。戦闘後にアリスが目を覚まして倒れているブレイドを見て話し合って看病をすることにしていた。

 

「キリト、今のあれは・・・・」

 

「おそらく、カーディナルの言っていた敬神モジュールだろうな。・・・・全く、厄介な相手だった」

 

「そうだね・・・・とにかくブレイドが元に戻った感じで良かった・・・・」

 

キリトは内心ほっとしていた。賭けに勝てて頼もしい味方ができたと思っている。普通のブレイドならばとんでもない方法で来るはずだし、とんでも無いものを持ち出すと思っていた。

 

しかし、まさか整合騎士となって相手することになるとは思わなかった。おまけに銃まで持ち出してくるとは・・・・

正直、ブレイドが現実世界での記憶を取り戻していなかったら危なかっただろう。連れ去られる前にブレイドが俺のことを()()()()と言わなければ絶望的だった・・・・。つくづく運が良かったと思っていた。その時、俺はふと彼の秘密を思い出していた。

 

 

 

 

ブレイドと俺だけの秘密。それはSAOにて言われた事実だった。

 

 

 

 

『私は、茅場晶彦の弟だ』

 

初め聞いた時は冗談かと思った。しかし、彼から語られた兄の話はとてもリアルで、作り話とは思えなかった。それに、よくよく見れば目の色は若干違うが顔の形や目の形は茅場晶彦にそっくりだった。それを知って俺は背筋が凍った。まさか茅場晶彦に弟がいるなんて・・・・それも血の繋がった兄弟とは。

俺はその事実に冷や汗をかくとブレイドがはその時こう言った。

 

『さて、私の正体を知った君はどうする?このまま憂さ晴らしで私を殴り殺すか?それともこの事実を公表するか?』

 

ブレイドは悪態を吐きながらそう言う。だけど、俺はどうしようも出来なかった。彼は俺と同じようにSAOに囚われたプレイヤーだ。近親者に自分達を閉じ込めた張本人がいたとして、彼を殺したところで何も変わらない。

それに、ブレイドには今まで何度も助けられてきた。それは変わらない事実だ。だから俺は彼の秘密を守ってきていた。

 

帰還後、ブレイドに茅場晶彦について聞いた事があった。その時彼は懐かしそうに、イキイキとした目で兄の事を語っていた。そして彼が目標だったと言うことも・・・・。それ程までに彼は茅場晶彦の事が好きだったんだろうと思っていた。そして同時にその時に戦慄した。

 

 

 

 

 

ーー彼は自分の手で兄を殺した

 

 

 

 

 

昔の王族でもあるまいと言うようなことをしていたと言う事実に俺は再び凍りついた。その時の彼はどんな気持ちだったのだろうか・・・・最愛の家族を、他の者を帰らせる為に、自分の手で殺めた事を・・・・

少なくとも自分では正気でいられないだろう。その点で彼は()()()()()のかもしれない。思い返せば彼の怪しい部分は色々とあった。詩乃と出会って少しマシになったようにも思えたが、それでも根底にある部分は変わらない。

 

 

 

 

ーー俺は彼の表面しか見れていないのだろう

 

 

 

 

『他人を全て知る事は一生できない。たとえそれが家族であってもだ』

 

 

 

 

 

ブレイドがそう言うと説得力があった。

 

 

彼は兄の行動を知る事ができなかった。

 

 

だからあの世界に迷い込んでしまった。

 

 

あのとしては実の弟が死のゲームに迷い込んだと知った時、どんな気分だっただろうか。死なないかとヒヤヒヤしていたのだろうか。

 

 

俺が妹のスグを心配するのと同じような気持ちだったのだろうか・・・・

 

 

今となっては知ることも出来ないが・・・・

 

 

そんな事を思っていると呻き声と共に赤い目をしたブレイドが目を覚ました。

 

「ん・・・・グッ・・・・」

 

「っ!ブレイド!」

 

目を覚ましたブレイドにユージオが声をかける。

 

「・・・・ん?ここは・・・・」

 

すると今までして来た事を思い出したのか、体を起こすとキリトたちに頭を下げて謝った。

 

「ーーーさっきはすまなかった・・・・」

 

あぁ、いつものブレイドだ。

そう思った二人は安心した。するとブレイドはアリスを見て再び頭を下げた。

 

「先はあなたの身体を傷つけてしまって申し訳ない」

 

「え、えっと・・・・?」

 

どうすれば良いのだ?

と聞くアリスに俺たちはほぼ同タイミングで思いつき、少し悪い笑みを浮かべた。

 

「(その様子だと・・・・)」

 

「(同じ事思いついたなこれ)」

 

今まで散々実験と称してこき使われ、稽古と称してボコボコにされた仕返しをしようと二人はアリスに耳打ちする。

 

「『許さない。後で殴ってやる』って言えば良いよ」

 

「おい、聞こえているぞ」

 

あら、バレた。せっかく良い案だと思ったが・・・・。そう思うとアリスはブレイドに向かってこう言った。

 

「取り敢えず私にできる事はないので、この件は不問にしようと思います」

 

「そうですか・・・・だが、せめてこれくらいは治したほうが良いな。せめてもの謝罪を・・・・」

 

そう言うとブレイドは「システムコール」と言い、自分の着ていた甲冑を触ると赤かった甲冑の色が金色変わり、アリスの破壊された右肩の甲冑部分を修復していた。

 

「これは・・・・」

 

アリスは治された甲冑の部分を触るとキリトとユージオが言う。

 

「「ブレイドさん流石っす」」

 

何度目か分からないハモリをするとブレイドは当たり前だと言わんばかりな表情をするとマスケットと流星のサーベルを持った。

それを見たキリトがブレイドに文句を言う。

 

「けっ、銃なんて作りやがって」

 

「銃の腕が下手くそで僻んでいるキリトに言われたくはない。それにモデルはシャスポー銃だから世界観は壊していない・・・・多分」

 

そう言うとブレイドはシステムコールと叫んだ。

 

「システムコール。ジェネレート・サーマル・エレメント。システムコール。ジェネレート・アクウィアス・エレメント。システムコール。ジェネレート・メタリック・エレメント」

 

そう言うとブレイドの指に三つの光が灯り、来ていた甲冑が光に包まれ、作り替えられていた。

 

「甲冑が動きずらいからこうするのが一番だ」

 

「つくづくお前が規格外だな」

 

「ーーー誰がこの世界を作ったと思っている・・・・?」

 

そう言うと光が収まり、着ていた甲冑は全て無くなり、下から赤い修剣士服が見えると同時に持っていた武器の見た目が変わっていた。金属製の箱のようなものが付けられ、少しゴツくなっていた。

 

「さて、準備は終わったか・・・・」

 

「い、今のは・・・・説明はまた今度だ。・・・・それよりも誰か来る」

 

そう言ったのと同時、元老院に甲高い声が通る。

 

「遅いですよ、三十二号!何をしているのですか!」

 

そこには赤と青の二色で構成されたゴムボールのような球体がクルクルと回転し、地面に人型となって着地した。その見た目はまるでピエロのようであった。

 

「様子を見に来れば何をしているのか。これでは猊下に言い付けて人形にてしまいますよ!!まざ、罪人がピンピンとして・・・・あれ?ピンピン・・・・?」パァン!!

 

それとほぼ同タイミングだった。破裂音と共に、ピエロの鼻を弾丸が貫通し、悲鳴が上がった。

 

「ギャアアァァァア!!」

 

悲鳴が上がるとブレイドが既に動いていた。ピエロを踏んづけ、首筋にスパイク状の銃剣を当てて脅しをかけていた。

 

「さて、生きる価値のないやつは早急に退場してもらおう」

 

そう言うとピエロが叫んだ。

 

「貴様!裏切ったか!三十二号!!システム・コォ」パァン!「ォアア・・・・!!」

 

ブレイドが持っていた銃でピエロの喉を吹っ飛ばした。声が出せなくなり。神聖術は使えなった。本来なら死んでいるはずなのに、生きていると言うのは運がいいのか悪いのか・・・・。

 

「これから変革の時代だ。貴様らのような者がいるから理想郷とならないのだ」

 

憎悪に富んだ声でそう言うとブレイドはピエロに容赦なく引き金を引いていた。

 

鼻、首の次は右腕、右足、左足、左腕。そして最後に心臓の部分に銃口を向けた。

 

「貴様にこの術を使った事を光栄に思うがいい。チュデルギン・・・・

 

 

 

バースト・エレメント

 

 

 

その呪文と同時にチュデルギンの撃たれたところから一気に体が燃え上がった。

 

「ーーーーーっ!」

 

明らかに悶絶しているのが分かる。その視線の先で真っ赤な炎が印象に残るその体は一瞬で燃え尽き、後からもなく消え去った。

 

「「「・・・・」」」

 

あまりにも一瞬の出来事にキリト達が呆然としていると、ブレイドがマスケットとサーベルを持ってキリト達に話しかける。

 

「ーーー行くぞ。元凶を断たねば何も変わらない」

 

「あ、あぁ・・・・」

 

「・・・・よし、行くか!」

 

キリトは気を取り直して頬を叩いた。一瞬でゲームだと中ボスくらいの敵を一瞬で蹴散らしてしまった事にブレイドの持つ武器に恐怖した。

 

「(あんな敵を一瞬で屠ったブレイド。あぁ、恐ろしい恐ろしい・・・・)」

 

瞬時に動けるあたりブレイドらしいと思っていると俺はある事を思い出して歩く途中、小声でブレイドに聞いた。

 

「なぁ、さっき『この世界を作ったのは誰だと思う?』って言ってたよな?」

 

「・・・・あぁ、そうだが。何か?」

 

「っ!まさかお前・・・・」

 

キリトはブレイドに先程、カーディナルから聞いた話をした。

 

『《外》の者はこの状況を変えようとせず。さらに、ダークテリトリーに侵攻させて、戦う事を強要させようとしている。それか、人界側を滅ぼそうとしている』

 

その事を伝えるとブレイドは心底驚いた様子で聞き返した。

 

「・・・・キリト、本気で言っているのか?」

 

「え?ま、まさか・・・・っ!!」ブチッ!

 

「ーーーあの、クソ官僚め・・・・後でしばき倒してやる」

 

ブレイドも持っている銃に力が入っていた。キリトもそれを見ておそらく知らされていないのかと知り、同時に、怒りが増長した。あの菊岡(クソったれ)めと・・・・。

そんな二人の話を後ろで聞こえていたユージオとアリスはそんな二人を見て疑問に思っていた。




ピエロあっさり退場
理由:作者が心底嫌いなキャラだから。


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#14 最高司祭

ブレイドの意識が戻り、元老院の建物を出た四人は通路を走っていた。その途中、キリトはブレイドと情報交換をしていた。・・・・と言ってもほとんどキリトがブレイドに話すだけであったが・・・・。

 

「ーーーなるほど、そのカーディナルという人物がアドミニストレータを倒す為にこの短剣を?」

 

「ああ。二本あるんだが一本をブレイドに持っていて欲しい」

 

「・・・・なんとか接近してみるか・・・・」

 

「前に言ってただろ?『前例のない相手は敵に動揺を生む』ってよ」

 

「よく覚えていたな・・・・」

 

今のブレイドには銃という強い武器がある。少なくともこの世界で銃というのはアドミニストレータですら初めての物だろう。だったら上手く使えばいけるかもしれない。キリトはそう考えていた。

 

通路を走った先も扉を開けたブレイド達は悪趣味な部屋に到着した。そこには悪趣味の金色のベットや色々な物がはみ出した家具。悪徳領主が使っていそうなクサイ部屋だった。ここにさっきの元老長・・・・さっきのピエロ、ブレイドとアリスが言うにはチュデルギンと言う奴が居たと思うと納得できた。

 

「黴臭い匂いがする・・・・」

 

「悪趣味だ。ブレイドの部屋なんかよりずっと・・・・」

 

「・・・・キリト、後で覚えておけ」

 

「ひぇ・・・・」

 

そんなことを言うとブレイドは目を細めてキリト達に忠告する。

 

「・・・・ここで言っておくが、最高司祭アドミニストレータは長年生きて来たと言う恐ろしさがある。正直、話術で勝てる気がしない」

 

揚げ足を取るのが上手なブレイドでさえもか。

二人の意識は同じで、注意しなければと思っていた。ブレイドは自身の甲冑から改造したマスケット(グラース銃)に金属薬莢に改造した弾丸を装填をするとボルトを閉じていた。

え?グラース銃はマスケットじゃないって?・・・・細かいやつは嫌いだよ。

 

そんなこんなで、部屋に入ったブレイドは記憶を頼りに元老長の部屋の金色のタンスを蹴っ飛ばした。

 

バァン!ガラガラ・・・・

 

蹴っ飛ばされたタンスは中身をぶちまけながら砕け散り、蹴りの威力にキリト達が若干引いているとその後ろから屈まないと進めないほどの大きさの通路が見えた。

 

「おぉ・・・・流石っす、ブレイドさん」

 

「ってか、さっきもここ通った?」

 

「あぁ、『馬みたいに這いつくばれ』ってあのピエロにな」

 

「「うわぁ・・・・」」

 

そりゃ、ブレイドが怒るわけだ。そう思うとキリトを先頭に四人は穴を進んでいった。そして通路を出るとそこには長い階段があった。

 

「これ・・・・何階分あるんだ?」

 

「元老院だけで三階分ほどあるからな・・・・だが、ここを登ったら最後だ」

 

最後、それはつまりこの先にアドミニストレータがいると言うことだ。全員が気を引き締めた。ブレイドはキリトから受け取った短剣を持つと一番初めに階段を登った。

階段の途中でブレイドが全員の足を止めさせた。

 

「ここから先は一人で行く」

 

「・・・・なんで?」

 

ユージオが聞くとブレイドが作戦を伝えた。

 

「暗殺ができるか試す。私が叫んだら飛び出して来てくれ」

 

甲冑がない状態でどうするのだと思いながらも、ブレイドはマスケットと流星のサーベルを持って一人だけで階段を登って行った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

キリト達を残して一人階段を登り切ったブレイドは最上階に辿り着く。キリト達と対峙する前と変わらない光景、自分が整合騎士作り変えられた時と変わらない様子であった。

 

「おや、甲冑はどうしたのかしら?それにチュデルギンは?」

 

すると部屋の中央の天蓋の垂れ幕の奥。ベットの上で長い銀色の髪に、こちらを映し出すような鏡の瞳を持つ絶世の美少女が聞いた。最高司祭だ・・・・。自分はスタスタと歩き、彼女に跪く。

 

「申し訳ありません。甲冑は賊の手によって破壊され、元老長様は賊によってお怪我をなされた為、治療と御休憩をなされておられます」

 

「そう・・・・なかなかあの子達もやったようね・・・・こっちに来なさい。あなたの甲冑を作り直してあげるわ」

 

「はっ!」

 

そう言い、ブレイドはマスケットを持ったまま最高司祭に近づく。垂れ幕を通り、彼女の姿を見た。その瞬間、渡された短剣を彼女の胸元目掛けて突き刺した。しかし・・・・

 

「(やはり対策は立てていたか・・・・)」

 

「ふぅん、この剣はあのちびっ子の差金ね・・・・やっぱりモジュールは無くなっていたか・・・・」

 

視線の先には紫色の神名文字の浮かぶ膜に防がれた短剣があった。そのまま勢いで押し込もうとすると神名文字が光り、閃光と共に爆発を起こした。

その衝撃でベットと天蓋が丸ごと吹き飛んだ。受け身を取りながらブレイドは着地をして叫んだ。

 

「来い!失敗だ!!」

 

そう叫ぶと登って来た階段から三人が飛び出して来た。

 

「元気に失敗って言うな!!」

 

「まぁ、予想通りだね」

 

「行きましょう・・・・」

 

三人は剣を持って飛び出し、その様子を見た最高司祭はまるで実験動物を見るかのような目だった。そして彼女はアリスを見て言う。

 

「ふーん、敬神モジュールが無くなったわけじゃないし、論理回路にエラーが起きているわけでもないのにねぇ・・・・・やっぱりそこにいるイレギュラーユニット達のせいかしら?」

 

そう言うと最高司祭はキリトとブレイドを見る。その気迫にキリトは直剣を握り直した。ブレイドは眉一つ変えずに最高司祭に向かって言う。

 

「ふっ、それは如何だろうか・・・・」

 

そう言うとブレイドはある単語を最高司祭目掛けて言う。

 

「・・・・コード871」

 

「それは・・・・」

 

最高司祭がそう呟いたブレイドを見た。その目には少しの驚きが混じっているようであった。

 

「貴様が協力者を堕として作り上げた歪んだ愛の一品だ。今頃《外》では地獄を見ているかもな」

 

そう言うと最高司祭は笑い声を上げた。

 

「ふふっ、あはははははは・・・・・何処でそれを知ったのかしら?それともアイツと同じ人間なのかしら?」

 

「似ているようで違うとも言えよう。・・・・全く、せっかくの理想郷を台無しにしてくれたものだ・・・・」

 

「理想郷ならそこにあるじゃない」

 

「あぁ、貴様と言う毒がいなければ。そうだったかも知れないな」

 

そう言うブレイドの横でキリトは一体何を話しているとかと若干困惑していた。ユージオ達は最高司祭の言う《外》と言う言葉に引っ掛かりを覚えていた。

 

「さて、無駄話もここまでにしよう。()()()()、支配欲に溺れ自分を失ってしまった哀れな奴よ。一つ、問いたいことがある」

 

「・・・・何かしら?」

 

ブレイドの哀れんだ目に最高司祭は怪訝な目を浮かべながら聞き返す。

 

「ダークテリトリーの総攻撃に関して貴殿はどのような対策をとられたご様子で・・・・?例えば・・・・

 

 

 

 

 

人を生贄に捧げたとか・・・・?」

 

 

 

 

 

ブレイドは周りの柱を見ながらそう問うと最高司祭は高らかに笑い声を上げた。

 

「ふふふふふふふふ・・・・あなた、何処まで推測できているのかしら?」

 

「単純に、今の整合騎士の戦力。市民への対応。現状とその他諸々を加味しての判断だ」

 

「ふふっ、あなたの事少しみくびっていた様ね・・・・」

 

「人を見た目で判断するのはあまりよろしくないと思うが?」

 

そうね、と言い最高司祭は心底楽しそうに笑う。キリト達は一体何を言っているのかと疑問に思っていた。

 

「あなたの頭はいったいどんな構造をしているのかしら?どんな事を考えているのかしら?是非、見てみたいわね」

 

最高司祭は笑みを浮かべながらブレイドを見る。キリト達はブレイドを見ると彼は大きく息を吐いて聞いた。

 

「ーーーどのくらい使った?」

 

「ざっと三百と少し」

 

「なるほど、量産は?」

 

「もう直ぐで出来るわ」

 

「ブレイド、何を聞いている?」

 

「キリトは知らなくていい事実だ」

 

そう言いキリトを見た。そしてキリトはゾッとした。今の彼の目は何処までも吸い込まれてしまいそうな黒い瞳を持ち、表情はひどく凍っていた。

 

「ふふふ、彼が言わないなら私が教えてあげるわ。私が何を使って、何を作ったのかを・・・・」

 

ゆったりとした動作で手を上げた最高司祭は手に紫に輝く三角柱のクリスタルを持ち、アドミニストレータはその表情に狂った笑みを浮かべた。

 

「リリース・リコレクション!!」

 

高らかに声を上げて唱えたのは武装完全支配術の呪文。神聖術を超える力を引き出すための秘術。

ブレイドが容赦なくマスケットの引き金を引きながら銀髪の少女に接近する。まるで雷鳴のように駆け出したブレイドは並の人では簡単に吹き飛んでしまうような速度でスパイク状の銃剣を少女に突き刺そうとする。しかし、壁にかけられていた黄金の武器がその攻撃を受け止めていた。

 

「傷すらつかないか・・・・」

 

そう呟くと同時に後ろに跳躍し、着地をする。先ほどブレイドのいた場所には数多の黄金の武器が空を舞っていた。その数は三〇。その全てが《記憶解放術》で動き出し、到底人には出来ない所業にこの場にいる最高司祭以外の全員が驚愕をしていた。

 

「これは・・・・」

 

「おいおい、最高司祭ってとことんチートじゃねえか・・・・!!」

 

黄金剣は徐々に形を形成していき、一つの巨体を作り出した。

 

「これこそ私の求めた力・・・・永遠に戦い続ける純粋なる攻撃力・・・・名前は・・・・そうね、ソード・ゴーレムともしておきましょうか?」

 

視線の先では黄金の剣を体に持つ剣の自動人形が自分達を見る。キリトはブレイドを見ると彼は悲しんだ目でそれを見ていた。それで、キリトは悟ってしまった。

知りたくなかったその事実に・・・・

 

「おい、まさか・・・・」

 

「ああ、そうだ。あの剣全てだ。全て()()()だ・・・・」

 

「・・・・え?」

 

ユージオは信じられない。信じたくないと言う感情で埋まっていた。

 

「う、嘘じゃないの・・・・?」

 

「こんな状況で嘘をつく必要が何処にある?」

 

ブレイドの無慈悲な答えにユージオは今度こそ絶句してしまった。

 

「ひ、人を・・・・作り替えたのですか・・・・?」

 

「あぁ、そうだ・・・・」

 

アリスの問いにもこう答え、アリスはソードゴーレムを見る。するとそこには悲痛な叫びが聞こえているようにも感じた。

 

そう、生きているのだ。今も彼らは・・・・生きたまま剣にさせられたのだ。

 

「何処まで・・・・」

 

アリスはギィッ!っと歯を壊す勢いで歯軋りをさせると剣を持った。

 

「何処まで人を!・・・・弄ぶか!アドミニストレータアァァァァァァァ!!!」

 

怒りの咆哮が響き、アリスの刀身は無数の花弁へと変わった。通常よりも眩く光る花弁は限界までアリスの力を引き出していた。

そして剣を振ると先の怒りの何倍もの轟音と衝撃が部屋を駆け抜けた。

 

「散会しろ!攻撃を仕掛ける!!」

 

アリスの攻撃を皮切りにブレイドが指示を出した。



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#15 協力者

アドミニストレータによって作られたソードゴーレム。その材料は生きたままの人間であった。

そんな狂気の産物に挑むブレイド達はソードゴーレムに攻撃をしていた。

 

「アハハハハハ!!せいぜい足掻いて見せなさい!!何処まで耐えられるのか見ものね!!」

 

「貴様と言うものは、どれほどの非道な事をすれば済むのだ!!」

 

ブレイドは持っていたマスケットを持って引き金を引く。

 

ドォン!!

 

通常のマスケットではありえないほどの砲声を上げて弾丸が発射される。

その横でキリトも同様にソードゴーレムを止めようと動いていた。いつも通りの目配せで彼らはそれぞれの相手をしていた。

アリスとユージオも同様にソードゴーレムを止めようとしていた。

 

「力を貸してくれ!みんなを守るんだ!《青薔薇の剣》ッ!」

 

無茶がどうした?無茶がなんだ?無茶を乗り越える者が居たじゃないか!!本当の意味で守りたい物を教えてくれた相手がいたじゃないか。だったら・・・・!!

 

 

「リリース!!リコレクション!!」

 

 

開放の術式が唱えられる。正しい力の使い方を、正しい意味で使うのはこの時しかないのだから・・・・

直後、響くのはガラスの割れるような音。即座にブレイドとキリトが動く。

 

「ブレイド!!」

 

「ああ、核を狙う!!」

 

ボルトを引いてブレイドは照準を合わせて引き金を引く。

 

ドォン!!

 

しかし、弾丸は剣によって防がれてしまった。

 

「チィ・・・・!!」

 

もう対策されているか・・・・狙撃が無理となれば直接肉薄のみ・・・・。ならば!!

ブレイドの横でキリトが叫ぶ。

 

「エンハンス・アーマメント!!」

 

キリトの持つ黒剣が脈打つ。剣から()が生まれ、漆黒の芳流はうねり、混ざり合い、一つの大樹を作り出す。あの《悪魔の樹》の記憶を呼び覚まし、高く、鋭く、重い存在を顕著させる。長く槍のように伸びたそれは核の部分を破壊しようと前へ突き出した。

 

パキッ!

 

何かが割れる音がした。その正体にキリトは叫ぶ。

 

「アイツ、まだ動けたのかよ!!」

 

剣はまだ核まで届いていない。そしてソードゴーレムの先にはユージオがいた。

友人の死を感じた。血の気が引いた。また繰り返してしまうのか・・・・。そう思い、途端に目をつぶってしまった。その時だった。

 

ザシュッ!

 

切れた音がした。咄嗟にキリトはユージオの方を向く。そこには貫かれたユージオ・・・・ではなかった。そこには違う人がいた。ユージオがそこで叫んだ。

 

 

「ブレイドォォォォォォ!!!」

 

 

そこにはざっくりと貫かれたブレイドの姿があった。ブレイドはユージオを見ながらゆっくり話す。

 

「無事か・・・・」

 

「ブレイド!!」

 

剣を抜かれ、倒れたブレイドに近づこうとするがブレイドが叫ぶ!!

 

「止めるな・・・・!」

 

「でも・・・・!!」

 

「アイツを・・・・止めろ・・・・ゴフッ!!・・・・お前が頼りだ・・・・ゴホッゴホッ!!」

 

今にも死にそうな親友を見てユージオは心が痛むが、その彼が望んでいる。悩んだ末、ユージオは術を止める事はなかった。その後ろでブレイドは薄らと笑う。

 

「ふっ・・・・生憎と、悪運は・・・・強いんだ・・・・」

 

徐々に意識が遠のく中、ブレイドは視界の端からやって来る気配に気づいた。

 

「システム・コール。トランスファー・ヒューマンユニット・デュラビティ、ライト・トゥ・フレット」

 

「ア、リスさん・・・・」

 

「喋らないでください」

 

「天命が・・・・勿体無い・・・・」

 

「喋らないでと言っています」

 

そこには黄金の鎧に身を纏ったアリスがブレイドの右手を取って自身の天命を渡していた。その事にブレイドはやめるように静止したが、彼女がやめることはなかった。

ざるに水だと言おうとしたが、その時昇降版にユージオがあの短剣を投げていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「(間に合ってくれ・・・・!!)」

 

ユージオはそう願って床に落ちていたブレイドの持っていた()()短剣を昇降版に投げつけた。ブレイドが身を挺して作ってくれたチャンスを捨てる気はさらさらなかった。

昇降版に突き刺さった短剣はそのまま天蓋を繋ぐ大きな光柱となって徐々にそれは細まり、現れたのは焦げ茶色の長方形の形をした扉だった。

ドアノブがゆっくりと開き、アリスはそれが何処か別の場所と繋がっているのを理解した。

 

「・・・・このような形となろうとはな」

 

扉の中から出てきたのは細い長杖を持ち、黒いベルベットのローブと角ばった房付き帽子と銀縁メガネを身に付けた無限の叡智を付けた幼き賢者だった。

 

「貴女は・・・・」

 

「カーディナルじゃ。取り敢えず治すぞ」

 

現れたのはキリト達の協力者だと言っていたカーディナルだった。彼女は血だらけで倒れているブレイドに自身が持つ杖の先端を当てた。

その瞬間に彼の体は光に包まれ、瞬く間に傷を癒す。彼の手を取っていたアリスの天命も回復し、ブレイドは意識をはっきりとさせた。

 

「貴女がカーディナルですか・・・・」

 

「そうじゃ」

 

「助けていただき感謝します」

 

「それ程の事はしておらぬ」

 

そう言うと最高司祭がカーディナルを見て言う。

 

「来ると思ったわ。そこの坊や達が危なくなればカビ臭い穴倉から出て来ると思った」

 

「暫く見ぬうちに随分の人間の真似事が上手くなったものじゃな。クィネラよ」

 

「あら、そう言うリセリスちゃんこそ、二百年前から言い方も変わっちゃったじゃない」

 

二人の間に盛大に火花が散る。支配者は笑みを浮かべて名乗りをあげた。

 

「その名でわしを呼ぶな!わしの名はカーディナル!貴様を消し去る為のプログラムじゃ!」

 

「ふふっ、そうだったわね。私はアドミニストレータ・・・・すべてのプログラムを管理する者。貴女を歓迎するための術式を用意してあげたわ!」

 

そう言い、アドミニストレータの右手が握られると邪悪な雷が響き、カセドラルの全ての窓が割れた。

 

「アイツ・・・・やりやがった・・・・!!」

 

「何が・・・・」

 

ブレイドが叫び、キリトが驚いているとカーディナルが答える。

 

「アドレスを切りよったな!!」

 

「二百年前、あと一息で殺せるというところで、お前を取り逃したのは、確かに私の失点だったわ、オチビさん?」

 

「昇降版まで!!」

 

ブレイドは悔しんだ。今、ここの空間はカセドラルのどの場所からも切り離され、逃げることは不可能となった。

つまり、ここから出るにはアドミニストレータを倒す以外ないと言う事だ。

 

「私はその失敗から学ぶことにしたの。いつかお前を誘い出せたら、今度はこっち側に閉じ込めてあげようって・・・・」

 

邪悪な笑みで最高司祭はそう言う。ブレイドはカーディナルを見た。彼女が言うには彼女はあのソードゴーレムを倒すことができない。人を殺すことはできないと言う。

 

「・・・・(やるしか無いのか・・・・)」

 

ブレイドは自身の天命値を確認するとカーディナルの肩を優しく叩く。

 

「・・・・ソードゴーレムは私がやりますよ」

 

「何を・・・・言っているのじゃ?」

 

カーディナルは疑問に思いながらブレイドを見る。キリトが言っていた強い仲間。明らかに剣では無い別の何かを持っているブレイドは確かに強い味方だが、それでもソードゴーレムを一人で抑えるのは難しいだろう。

しかし、ブレイドは何処か余裕そうにも見える表情でマスケットに弾薬を装填する。

 

カチッ!「問題ない。予想が合っていれば()()()・・・・」

 

「ブレイド・・・・それは大丈夫なのか?」

 

キリトは不意にSAOの最後の戦いを思い出す。あの時、ブレイドは死んでいた。一騎打ちで死んでしまったあの時のショックはもう嫌だ。と目で訴えていた。

死から生還したと言う過去はある。だからと言って死地に向かうのは頂けない。しかし、ブレイドはこう言う。

 

「勝算はある。後で一緒に怒られてくれ」

 

「・・・・は?」

 

「カーディナルさん、ユージオとアリスを頼みます。キリト、最高司祭の相手を頼む」

 

「おい!」

 

「こっちが終わったら助けに行くよ」

 

キリトはブレイドを呼び止めようとしたが。そこで彼は気付き、足が止まってしまった。

 

彼の目が血のように赤く染まり、体に異変が起こっている事に・・・・

 

「ブレイド。なんだよ・・・・!!」

 

そう問うとブレイドはこう答えた。

 

「本来、これは本来ここにある筈のない物のはずなんだがな。・・・・何故か今こうして自分が使っている」

 

後は頼んだ。そう言い残すとブレイドは武器を持ってソードゴーレムと対峙した。

 

「さて、始めようか・・・・」

 

ブレイドは赤に染まるマスケットを手に引き金を引いた。



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#16 あり得ないアカウント

黄金の剣で出来た巨人に対峙する赤い影。

 

砲声と共に激しく灯る赤い光線。

巨人が持っている鎌を振る。しかし、それが当たることはなく。押されているようにも思えた。

その光景にキリト達は唖然としていた。

 

「すごい・・・・あのソードゴーレムを一人で・・・・」

 

「何が起こっているのですか・・・・?」

 

「ブレイド・・・・」

 

狙いはゴーレムに嵌められた三角柱。ゴーレムの心臓である。

 

「(ブレイドの事だからあれを破壊するのだろうか・・・・)」

 

キリトはそんな推測を立てて呆然とするカーディナルに聞いた。

 

「カーディナル。何が起こっているんだ・・・・?」

 

「わ、ワシに聞かれても彼奴が変わってしまったと言うことしかわからぬ・・・・」

 

「変わった・・・・?」

 

「そうじゃ、何かのきっかけであやつのアカウントは変わった。理由は定かではないがのう・・・・」

 

今のブレイドの周りには赤い奔流が周り、()()()()()。五メルはあるソードゴーレムの周りをクルクルと・・・・

今まで押されていたソードゴーレム相手にタイマンでやり退けていた。実質的に一対三〇〇だと言うのに・・・・

その事に驚いているとカーディナルが付け加えた。

 

「あやつのアカウントは本来この場所にある筈のない物じゃ」

 

「どう言う事だ?」

 

「本来あれは・・・・()()()()()()()()()のアカウントじゃ」

 

「ダークテリトリー・・・・!?」

 

ダークテリトリー、それは人界の外にある魔物の巣窟である。それはキリトでも知っていた。だからこそ疑問に思った。

 

「何でそんなものがここに・・・・??」

 

「だから不思議に思っておるのじゃ。何故ここにダークテリトリーのアカウントがあるのかと・・・・」

 

ドォォン!!

 

何処かの大砲かと思わせるほどの轟音が轟く。視線の先ではブレイドが()()()()()()を浮かべて排莢と装填をしていた。ジュオッという音と共に真っ赤に熱せられた薬莢が地面に音を立てて転がり、ブレイドは後ろに飛んでソードゴーレムと距離を取った。

 

キンッキンッ!!カラカラカラ・・・・

 

カチッ!

 

弾薬を装填したブレイドは戦闘の最中、呟く。

 

「ーー我に求めよ

 

それはそこかの聖書の一文句の様であった。カツカツと革靴の音を立ててマスケットを持ってブレイドはソードゴーレム、そしてそれを操る最高司祭に近づく。

 

さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん。

汝、黒鉄の杖をもて彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと。

されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ。

恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ。

子に接吻せよ。

恐らくは彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん。

その怒りは速やかに燃ゆベければ。

全て彼により頼む者は幸いなり・・・・」

 

聖書一節を唱えると腰に添えていたサーベルが赤く眩く光だし、ブレイドは鮮血の奔流を纏ってソードゴーレムの核を狙った。

 

 

 

「ーーリリース・リコレクション・・・・!!」

 

 

 

その瞬間に、部屋に赤い奔流が大波となって全てに押し寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づいた時、私は夜空の平原の上に立っていた。

空には数多の星がそれぞれに輝きを持って浮かび上がり、幻想的な空間を作り出していた。

 

「ここは・・・・」

 

アリスは一人平原の上で呟くと空に一筋の赤い流星が流れ、それと同時に小さな幼女の声が聞こえた。

 

「はじめまして。もう一人の《私》」

 

「貴女は・・・・」

 

「私もアリスよ。アリス・ツーベルク」

 

そこには一人、青い瞳を金髪で、水色のワンピースと白色のエプロンを着た少女が私を見ており、その子がアリスであるとすぐに分かった。

私はすぐさまこの体を本来の持ち主に返さねばと言う気持ちが強くなり、その少女に近づいた。

私、アリス・シンセシス・サーティーは彼女、アリス・ツーベルクにこの身体を返さなければ・・・・。そう思っていると少女は彼女に言う。

 

「すごいね、あの人。この空間をこじ開けちゃうんだから」

 

「・・・・」

 

あの人、と言うのはブレイドの事だろうか?ほんの少ししか話していないが、少し面白い人だと思っていた。見たこと無い武器でソードゴーレム相手に一人で戦うのだから・・・・。

キリトやカーディナルさんが何か話していたが、私の目には一人で三百人の人間を相手できる彼の戦いぶりに驚愕と尊敬の念を抱いていた。

すると目の前にいるアリスは私に向かってあるお願いをする。

 

「そこで、私からお願いをしてもいい?」

 

「・・・・何でしょうか?」

 

「元々、ここにあった整合騎士さん達の記憶と大事な人を使ってあのソードゴーレムは作られたの」

 

「!?」

 

アリスの言った真実に驚愕し、思わず目を細めてしまっていると少女は私の手を取って言った。

 

「剣になっちゃった人は戻らないけど。その人との記憶と思い出は返してあげることが出来る。あの人がこの空間と他の騎士達のいる場所を繋いでいるから。その仕事をお願いしたいの」

 

「それを・・・・私にですか?」

 

「そう!貴女は他の整合騎士様達もよく知っているからね」

 

なるほど、それならば自分が適任か。と思うと、私は少女の手を意識した。すると辺りに光が舞い、少女と私の知識や記憶が徐々に混ざり込んで行く。

 

『これで、あったかも知れない新しい私になる』

 

『貴女は・・・・それで良いのですか?』

 

『うん。消えるわけじゃ無いし、大事な人も居るしね』

 

『貴女がそう言うのであれば、問題ありません』

 

『じゃあ、行こうか!!』

 

『えぇ、貴女の思うままに・・・・』

 

二人の意識は光の奔流に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ、神童様』

 

私はある景色を見ていた。それはとても遠い記憶。嫌なほど懐かしく思えてくる光景だった。

とある村で神聖術に長けていると言われ、拝められ、私は有頂天になっていた。しかし、そんな私を神童と見ようとせず、何処か憐れむ様に見ている人がいた。

 

 

『あぁ、可哀想に・・・・』

 

 

そう言う彼が私は嫌いだった。嫌いだったから私は彼と一切話すこともなかった。

それは彼が死ぬまでずっとそうだった。しかし、そんな彼は私を見て最後にこう言った。

 

 

『いつか、君を殺してくれる人がいる事を待っているよ・・・・』

 

 

そう言い残し、彼は事切れた。あの時は何を言っているのだと思っていたが、今になって自覚した。いや、自覚せざるを得なかった。

 

よりにもよってあのイレギュラーによって・・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が晴れ。そこに見えたのは黄金の剣に崩れたソードゴーレムと、その前で立つブレイド。今の彼には黒い蝙蝠の羽の様なものが見えて、赤い奔流も未だ健在だった。キリト達はその光景に唖然としていると何処からか声が漏れる。

 

「ブレイド・・・・!!ブレイド・ソド・ワラキアァァァァァァアア!!」

 

憤怒の声と共にアドミニストレータが無数の《熱素》を生み出す。今までに無いほど、憎悪に富んだその声にカーディナルが驚きの声を出していた。人を辞めた敵が最も人らしい()()をしているのだ。狂ったかの様に、思い出した様に、只々憎悪に富んでいた。

 

「クィネラ!」

 

「お前も・・・・あの男と・・・・あんな奴と同じ目を・・・・するなぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

そこから吐き捨てる様に叫ぶ。

 

「何故思い出させた!何故見せた!何故だ!何故だ!」

 

「そんなものに興味は無い。それが、最も大事な()()だったのでは無いのか?」

 

叫ぶ彼女を哀れみ、見通す様な目でブレイドが言う。人の過去を知ることは難しいが、今の彼女を見て何を思っているのか何故か予想できてしまった。悟りを開いたように、優しく哀れんだ目で彼女を見た彼は壊れたマスケットを捨て、流星の剣を手に持つ。

 

「終わりだ、最高司祭。いや、クィネラ」

 

「黙れ!!」

 

アドミニストレータは夥しい数の《熱素》を生み出す。本来、指の数しか生み出せない筈のエレメントがこれでもかと宙に浮かばせる。しかし・・・・

 

「うらぁぁぁぁ!!!」

 

その殆どを黒の剣士が持てる限りを尽くして防ぐ。槍状の黒い剣が熱素を喰らう。

 

「ここはまかせろ!!」

 

「あぁ・・・・頼んだぞ」

 

キリト達はブレイドと目配せをすると二人は《武装完全支配術》を持って熱素を喰らい付いていた。

アリスは気を失ってしまった様で、カーディナルが彼女を守っていた。

 

「やれやれ、まさかこんな事になろうとは・・・・」

 

カーディナルもキリト達と同様に生まれた熱素を回収する。ソードゴーレムが現れた時はどうしようかと思っていたが、頼もしい仲間ができたと思い、久しぶりに人の温かさを感じていた。

カーディナルは最高司祭に近づいて行く赤い青年を見ると少しだけ目を細めた。

 

「(彼奴・・・・変なことでも怒らなければ良いが・・・・)」

 

そんな事を感じながらカーディナルは行く末を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

ブレイドとアドミニストレータはぶつかり合っていた。ブレイドのサーベルが彼女の生み出した剣とぶつかり、障壁と火花を生み出していた。

 

「この世界は私のものだ!私が支配する!私の愛は世界を支配するまで終わらない!!」

 

「違うな、貴様は簒奪者だ。有頂天になり、自分という居場所を失っただけの哀れな一人の人間だ。貴様の欲望に過ぎない」

 

「愛は支配なり!お前達は私の支配()を受け入れた!変えてなるものか!!あいつと・・・・あいつと、同じ目をするなぁぁぁぁ!!」

 

その時、彼女が生み出した剣にドス黒い霧がかかる。誰よりも哀れみ、優しく、暖かな目をした彼はあの時と同じであった。かつて、私を遠くから見守るだけで、後は何もしてくれなかったアイツが・・・・

 

周りから崇めるか、恐るか、その二択しかなく。妹とも言う存在からは殺す目をされ、唯一彼だけが違う目をしていた。

 

 

 

あの時、何故私を怒ってくれなかったのか・・・・

 

 

 

過去に封じた感情が蘇る。その途端、私は剣を落とした。今になって彼が何を思っていたのか分かってしまった。

 

 

 

そうか、私はこれを望んでいたのか・・・・

 

 

 

こう言って欲しかったのか・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(行ける・・・・!!)」

 

その瞬間、ブレイドは勝ちを確信した。

 

しかし、その時。アドミニストレーターが笑った。

 

その意味に気づいた時、ブレイドは体を曲げようとした。そして・・・・

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーザシュッ!

 

 

 

腹部を一本の剣が貫いていた。



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#17 選択の失敗

「しまった・・・・!!!」

 

ユージオは剣で刺されたブレイドを見て思わず叫ぶ。その後ろでキリトが思わずブレイドに向かって走り出す。

 

 

アドミニストレーターは勝ちを確信した。一番厄介な相手を始末できたと。

 

後ろに後退りするブレイドを見ながらこの後のことを考えようと思っていた。今までの経験からまずこの青年はブレイドに気が向くだろうと思っていた。

 

そしてキリトがブレイドにより添おうと・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・は?」

 

キリトはブレイドの横を走り抜け、自分に近づく。その時、キリトは走り去る間際に左手でブレイドのサーベルを抜いていた。

 

「・・・・あとは俺が行く」

 

「あぁ・・・・任せた・・・・()()()()・・・・見せてくれ・・・・()()()を・・・・」

 

そう言うとブレイドはキリトを見ながら崩れる。キリトはそんなブレイドを気にもせずアドミニストレーターに近づく。二本の剣を持ちながら突貫してくるブレイドにアドミニストレーターは反応が遅れてしまった。

 

「あぁぁぁぁああぁぁぁあぁ!!!」

 

雄叫びと共に剣はアドミニストレーターの胸元に突き刺さる。その瞬間、ブレイドから抜き取ったサーベルが灯り、アドミニストレーターから()()を吸収する。

 

しかし、私はそんな事気にもできなかった。

 

 

 

視線の先にあの男を見たからだ。

 

 

 

 

ーーやぁ、待っていたよ

 

 

 

 

 

 

相変わらず彼は腹が立つほど優しい目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレイド!」

 

「キリト・・・・」

 

アドミニストレーターを倒したキリトはそのままブレイドに近づく。彼の持っていたマスケットは銃身が張り裂けてボロボロになっており、体の至る所が傷だらけだった。サーベルは転がり、目は閉じており、どうやら見えない様子だった。ブレイドは近づいたキリトに向かって言う。

 

「キリト・・・・そこにコンソロールがある筈だ・・・・そこから外と連絡ができる・・・・」

 

「あ、ああ・・・・今すぐ開く!!」

 

「ユージオ・・・・居るか?」

 

「ここに居るよ!」

 

呼ばれたユージオはブレイドに近づくとブレイドは懐からある物を出す。

 

「これを・・・・カーディナルさんに・・・・渡してくれ・・・・」

 

「これは・・・・?」

 

ブレイドが手渡したのは黄金色の三角柱の結晶体だ。敬神モジュールとは色が違う何かだった。

 

「《管理者権限》・・・・後はあの人が分かってくれるだろう・・・・それとユージオ」

 

「な、何・・・・?」

 

「私の部屋に・・・・戦い方を書いた本がある・・・・それを使ってくれ」

 

「え?う、うん・・・・わ、分かった・・・・」

 

困惑するユージオが想像でき、ブレイドは少し面白く思うと息を吐いた。

 

「ふぅ・・・・」

 

大きく息を吐いたブレイドは後悔をしていた。

 

「(やってしまったな・・・・今になって後悔するとは・・・・)」

 

ブレイドは自身のSTLに取り付けたあるデバイスを思い出しながら思っていた。

 

「(今思えば愚かな選択だったか・・・・)」

 

兄のいる場所に行きたいと言う安直な思いから無許可で取り付けたデバイスだが、今となって後悔していた。

 

「(詩乃が知ったら怒られるだろうな・・・・)」

 

ブレイドは今進んでいるであろうシステムを思いながら激しい後悔と共に意識が遠のく。

 

「(今となってはもう遅いか・・・・)」

 

そう思うと同時に意識は完全にブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、早く出てくれ・・・・!!」

 

システムコンソロールから外にいる筈の菊岡に連絡を取る。明らかにブレイドの様子がおかしい。そう思って外に繋いで状況を聞きたいと思っているが、繋がる気配はなかなかなかった。

そしてようやく繋がったかと思えば、聞こえてくるのは普通の日本人ではまず聞かない。自動小銃の発砲音だった。中には拳銃の音も聞こえ、銃撃戦が行われているのかと思っていた。

 

『菊岡二佐、破られました!もう限界です!!メインコンは放置して、耐圧隔壁を閉鎖します!』

 

『閣下、隠れてください!!危険です!!』

 

『何を言うか!!元傭兵を舐めるなぁぁあ!!』

 

中には藤吉さんの声が聞こえ、キリトは困惑していた。

 

『まだ耐えるんだ!後二分、耐えてくれ。今ここを奪われるわけにはいかん!!』

 

「何が・・・・起こっているんだ・・・・」

 

普通の日常ではあり得ない音に困惑をしていると比嘉の声が聞こえた。

 

『菊さん!中から呼び出しっす!っ!これは・・・・桐ヶ谷君っす!』

 

『何!?そこにキリト君がいるのか・・・・!』

 

「っ!・・・・」

 

今すぐにでも怒鳴りたい気持ちだったが、それよりも重要なことがあった。

 

「ブレイドが・・・・ブレイドをすぐにログアウトしてくれ!!早く!!じゃないとアイツが死んじまう!!」

 

『何だって・・・・!?』

 

「様子がおかしいんだ!急いでくれ!!」

 

キリトがそう言うと菊岡は確認を取ったのかこう答える。

 

『分かった・・・・ブレイド君のことはこっちでやる!それと君に頼みがっ!ぐぅ・・・・!!』

 

「どうした!何があった!!」

 

菊岡の今までに無い声にキリトは叫ぶ。すると菊岡は指示を出した。

 

『すまないが、時間がないから手短に伝えるぞ・・・・!いいか、キリト君!アリスという名の少女と、ユージオという少年を探して保護してくれ!そして・・・・』

 

「探すも何も、今ここにいる!!それよりブレイドを・・・・」

 

『なんだって!?』

 

『これは、奇跡っす!』

 

キリトは苛立ち始めていると菊岡は指示を書き換えた。

 

『よし・・・・この通信が切れ次第、FLAを1000倍に戻すから、二人を連れてワールドエンドオールターを目指してくれ!』

 

「目指してくれって・・・・いきなりそんなことを言われても・・・・!?」

 

『時間がないんだ!いいか!オールターは東の大門から出て、ずっと南へ・・・・』

 

『マズイ!?』

 

部下の声が通り、全員が驚く。

 

『奴ら、電気室へ侵入しようとしています!!』

 

『何っ!?』

 

『ヤバいッスよ、菊さん!?もし奴らが主電源ラインを切断したら、サージが起きる!ライトキューブクラスターは保護されてますが、サブコンの桐ヶ谷君と赤羽君のSTLに過電流が流れ込んで・・・・このままじゃフラクトライトが焼かれちまいます!?』

 

『っ・・・・!?ここのロック作業は僕がやる!比嘉君は神代博士と、明日奈君、詩乃君を連れてアッパーシャフトに退避・・・・そして、二人を保護するんだ!!』

 

「明日奈・・・・?」

 

明日奈、それに詩乃がそこにいるのか?一体何が起こっているんだ・・・・?そんな困惑をしていると比嘉が叫んでいた。

 

『・・・・駄目だ!?電源切れます!スクリューが止まります!?』

 

そんな言葉が聞こえてきたと思った瞬間だった・・・・頭上から気配を感じた時にはもう既に遅かった・・・・・胸の内が何かに焼かれるような感覚に襲われ、キリトの体が宙へと浮いた。

 

「!?!?!?」

 

「キリト!!」

 

ユージオのそう叫ぶ声が最後に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリト!しっかりしろ!おい!」

 

何が起こったのか分からなかった。ただ、キリトが飛んだ後、キリトはブレイドと同じ様に倒れたまま意識が戻らなかった。

カーディナルさんがキリトに近づき、キリトを診ていた。その後ろで、アリスが意識が戻ったのか、声を上げた。

 

「ん・・・・あ・・・・」

 

「アリス!」

 

「ユー・・・・ジオ・・・・?」

 

「っ!その言い方・・・・!!」

 

「・・・・久しぶり、ユージオ」

 

ユージオはアリスの呼び方に記憶が戻ったのだと理解した。こんな奇跡に自分は涙を出さずには居られず、ポトポトと溢れてしまっていた。

 

「もぅ、泣き虫なんだから・・・・」

 

「良かった・・・・・良かった・・・・本当に・・・・」

 

ユージオが涙を拭うと最上階に聞こ覚えのある声が聞こえた。

 

「おいおい、来て見たと思えば・・・・」

 

「貴女は・・・・」「叔父様・・・・」

 

そこには青い服に身を包んだ初老の男性が居た。彼はベルクーリさん。整合騎士の騎士長であり、僕が85階で戦った相手だ。

アリスも驚いた様子でベルクーリさんを見ており、ベルクーリさんはそんな僕たちを見てフッと笑っていた。

 

「無事な様だな。嬢ちゃん、それに氷の坊主」

 

「はい・・・・」

 

「心配すんな。今は戦うつもりはない」

 

確かベルクーリさんはチュデルギンによって凍結されていた筈。なのにこうして動けている事に疑問を持っていると、ベルクーリさんはそれを見透かしたかの様に言った。

 

「途中で術が解けてまさかと思ってな。ここまで登ろうとしたが、昇降版がなくて立ち往生してたら爆発音がして、ここに至るわけだ」

 

ベルクーリさんがそう言い、ユージオ達はあらかたの話を聞き終えると戦わないと言った意味が分かった。

 

「・・・・さて、嬢ちゃん達には全部説明してもらおうか。チュデルギンと最高司祭陛下がどうなったのか。あの坊主の横にいる赤い坊主ともう一人の事。・・・・それと俺たちの記憶について、な・・・・」

 

「・・・・分かりました」

 

そう言い、ユージオとアリスは今までの事を全て話した。

まず倒れている赤色の服を着た青年は二等爵家のブレイド・ソド・ワラキアである事。キリトの近くにいるのはカーディナルと言うかつて追われたもう一人の最高司祭である事。そのカーディナルさんの手によって最高司祭は倒された事。

その最高司祭が整合騎士達の記憶や人界の民を犠牲にして作り上げたソード・ゴーレムの事。それをブレイドが倒した事。

元老院がチュデルギン以外は全員が作り替えられてしまったと言う事。

 

その全てを話し終えた時、ベルクーリさんは目を閉じて

 

「・・・・そうか」

 

とだけ呟いていた。記憶が戻り、何を思ったのだろうか。多分、弔っていたのかもしれない。その後、少し質問をしあった後、ベルクーリさんはブレイドを見て一言つぶやく。

 

「しかし・・・・彼があのブレイドなのか・・・・」

 

「知っていたのですか?彼のことを?」

 

アリスがそう問うと、ベルクーリは『あぁ、噂で聞いている』と言い、彼の事を話した。

 

「彼は偉大な人だ。新しい農耕具を作ったり、肥料ってのを作って農作物の量が増えたって話だ。その功績から一等爵家に上がるって話があったくらいな・・・・」

 

「そうなのですか・・・・ユージオ、知っていましたか?」

 

整合騎士の口調で話仕掛けるアリスにユージオは少し戸惑いながらもこう答えた。

 

「え?あ、うーん・・・・確かに、ルーリッド村にその肥料ってのが来てから確かに麦の取れる量は増えたよ。おかげで税も増えたって文句もあったけど・・・・」

 

「そうですか・・・・」

 

ユージオの話を聞いて納得をしたアリスは改めてブレイドを見る。今彼はキリトと共に横になっており、息をしているのかもよく分からなかった。ただ、分かることは彼らは死力を尽くしてあの最高司祭達を倒したのだと分かった。

 

「はは・・・・こりゃ恐ろしいな・・・・」

 

そう思うと取り敢えず二人のためにベルクーリは部屋を貸すと、他の整合騎士達を一箇所に集めて説明をする事とした。

ユージオとベルクーリが部屋のベットとソファーにキリトとブレイドを置くと八十五階の大広間に整合騎士全員を集めて話をした。

 

そこでカーディナルに関して懐疑的な意見もあった。それもそうだろう。追われたとはいえあの最高司祭の一人・・・・彼女が何を言おうとそれは言い訳にしか聞こえないからだ。

 

しかし、そこはベルクーリとアリスの裁量で宥めることができた。

特に騎士としての才能に長けたアリスが共に戦った仲だといえば、誰もが納得をせざるを得なかった。そして、騎士達の記憶が戻ったのはそのアドミニストレータを倒した彼らであるとアリスが言うと全員の反応は同じだった。

 

ーーありがとう

 

そう言うとそこでユージオがカーディナルにブレイドから託された物を渡した。それは、黄金色に輝く三角柱・・・・ブレイドがアドミニストレータから奪い取った《管理者権限》であった。

 

「カーディナル様、これを・・・・」

 

「これは・・・・っ!!」

 

「ブレイドから託された物です」

 

「何と言うことか・・・・彼奴も大概飛んでおるなぁ・・・・。だが、こんな物は要らぬ厄災を産む。だから・・・・」

 

要らぬ。そう言おうとした時、ベルクーリが言った。

 

「いや、それはカーディナル・・・・いや、()()()()()()殿に持ってもらった方がいいだろう」

 

「しかし・・・・」

 

その続きを言おうとしたが、カーディナルはそれを飲み込んでユージオからその三角柱を受け取った。

他の整合騎士達もその様子を眺めるとベルクーリが聞いた。

 

「・・・・さて、最高司祭代理殿。我々は何をすれば?」

 

ベルクーリがそう聞き、カーディナルは多数の整合騎士の視線を集めながら指示を出していった。

 

 

 

来るダークテリトリーの侵攻に備えて・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あれ?」

 

部屋に戻ったユージオはそこで驚くべき光景を目にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベットとソファーで横になっていた二人のうち、ソファーの方。

そこに居るはずだったブレイドの姿が消えてしまっていたのだ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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War of Underworld
#18 襲撃


途中、全く本編に関係ない話が出て来ますが気にしないでください。


キリト達が最高司祭を討ち取ってから一週間が経った。

その間は色々と忙しい日々が続いていた。カーディナルが最高司祭代理となって事実上の人界トップとなり、整合騎士達の立て直しや、ダークテリトリーに関する云々の情報整理や、各種地方への伝達。

そこらじゅうを飛竜が駆け回り、伝令やら何やらをしていた。

そんな中、カセドラルの一室でカーディナルとベルクーリがそれぞれ一冊ずつ本を読んでいた。

 

「ーーー此奴の頭はどうなっているのだ・・・・??」

 

「同感だ。俺にはさっぱりな事ばかりだ・・・・」

 

少し赤茶色の表紙の中に書かれた内容を見て二人は開いた口が塞がらなかった。その紙の表紙にはそれぞれ『試製武器設計図集』、『部隊編成および行動案』と書かれた本があった。

 

「赤の坊主が居たら聞いてみたいものだ。こんな考えはどこから生まれるんだ、ってな」

 

「そうじゃな・・・・だが、これは非常に有益だ。ダークテリトリーに対する切り札となろう」

 

これを教えてくれたユージオには感謝じゃ。

少なくともカーディナルはそう思っていた。ベルクーリはこの本に書いてあった様々な新兵器の設計図を見て幾つかはすでに帝国に配備されている物だと言うことに気がついた。

 

「ははは・・・・アイツは何処まで考えているんだか・・・・」

 

そんな事を思いながら忽然と消えてしまった赤髪の青年を思い返していた。あのあと、カセドラル中を捜索したが彼を見つけることは出来ず、カーディナルが権限を使っても見つけることは出来なかった。そのことでユージオは非常に落胆した様子で、キリトを連れてルーリッド村に戻っていた。

 

「・・・・そう言やぁ、嬢ちゃんと氷の坊主達はどうした?」

 

「彼奴らならすでにルーリッドに向かった。暫くは人目を気にせずに行けるじゃろう・・・・」

 

「そうか・・・・」

 

ベルクーリはそう言うと兵士たちの訓練のためにカセドラルを後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンダーワールドで一大事を迎えている中、現実世界でも大事件が起こっていた。

 

「状況はどうなっておる・・・・?」

 

「ほとんどが制圧されました」

 

現在、ザブコントロール・ルームに避難しているのは菊岡を筆頭に比嘉、神代、藤吉、真之。そして、明日奈と詩乃だった。他の自衛隊員や護衛も入り口を固めていた。

 

「間違っても飛び出そうとしないで下さいよ?特に先輩がここで死ぬと下手すれば戦争に発展しかねませんから。・・・・ただでさえ怪我をしていて国際問題になるのは確実ですから・・・・」

 

若干疲れた様子で菊岡が言う。その視線の先で足に包帯とガーゼを巻いて普通に立っている藤吉の姿があった。

 

「何、これくらいかすり傷よ。ユーゴスラビア紛争の時はもっと酷かったぞ」

 

余裕そうでそう言う藤吉に菊岡は若干の畏怖を感じた。さすがは元傭兵だったと言うことか。だが、敵に突貫してくのはちょっと今の立場ではいただけないと思っていた。

 

「(何が起こってったんだろう・・・・)」

 

詩乃は明日奈と共に今までに起きた出来事を思い出しながら整理していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ALOでリズベット達にアリシゼーション計画の話や、キリト達の話をした後。二人はそれぞれSTLに繋げられているそれぞれの恋人をガラス越しに見ていた。

 

「元々はメディキュボイドって言ってたっけ・・・・」

 

詩乃は記憶を思い出しながら今修也の使っている機械を見る。これでもこのSTLは小型化されている様で、試作1号機と最近テストが終了した8号機が六本木の分室、2号機、3号機はここのロアシャフトに設置されているそうだ。正直話が飛びすぎてて修也や和人じゃないと理解できない様な話ばかりだった。

 

現在、修也の治療状況は分からないそうで、どうなっているのかも分かっていないと言う。

修也の心がああなってしまった原因に明日奈が心当たりがあると言ってSAOでの最後の戦闘の事を話してくれた。それを知った時、藤吉さんや神代さんも流石に血の気が引いた様子で青ざめていたし、私も同じ気持ちだった。そして、それが原因だと全員が断定していた。

『何て事だ・・・・』と言って菊岡さんが絶望に近い表情をしていた。回復の見込みはあるのかと言われれば比嘉さんや菊岡さんはそこで厳しい現実を突きつける。

 

『原因が余りにも重すぎる。これは僕たちには少し難しい話かもしれない』

 

そう言われて私は気を失ってしまいそうだったが、比嘉さんが対応案を出した。

 

『もしかすると彼に近しい人と会えば刺激を受けていいかもしれない』

 

そう言われた時に率先して行こうとしたが、比嘉さんに止められてしまった。

 

『いやいや、君はダメっすよ。いくらなんでも刺激が強すぎるっす。今の修也君は記憶を封じているっす。下手に刺激を加えると何が起こるか分からないっす』

 

そう言われて私は何もできない無力感にただただ呆然としてしまった。そんな時に私を支えてくれた明日奈には感謝しかなかった。だけど、いずれ手伝ってもらうかもしれないと言う事で話を終えて少し休憩をしていると部屋に明日奈が入ってきた。その手にはどこから持ってきたのか果実ジュースのペットボトルを持ってきていた。

 

「しののん、大丈夫?」

 

「・・・・ありがとう」

 

明日奈から受け取ると明日奈は私の隣に座ってさっき起こった事を話した。あの神代博士という人が茅場晶彦に脅されて小型のマイクロ爆弾を埋め込まれていた事。彼を殺そうとしたが、できなかった事。それが原因であの事件を引き起こしてしまった事など話していた。

神代博士の話を知った私だったが、いまいちぼーっとしてしまっている自分もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終え、風に当たっていた詩乃は近くを航行する海自の護衛艦を見て修也の言っていた事を思い出す。

 

『兵器はある意味で人類の叡智だ。その時代を生きた人が出来うる最高傑作品だろう。かつて最強の名を縦にした戦艦大和を想像してくれ。あの戦艦で培われた技術は今の日本にも生きている。

 

ーー測距儀に使われたレンズを作ったのは今の日本のカメラ企業だ。

ーー砲台を動かすためのベアリングの技術は東京のホテルの回転レストランに使われている。

 

その時にそのベアリングを作った技師はこう言ったそうだ。『大和の砲塔より軽いから簡単にできるわ!!』とな。

私がそう言う兵器が好きなのは見るだけで国柄やその時の技術力が目一杯詰め込まれているからだ』

 

そして、そう話した修也はこうも告げた。

 

『いずれ兵器も変わるだろう。今の世界の主流はもっぱら《航空主兵論》だが、いずれは《大艦巨砲主義》に逆戻りするだろうな。いや、この場合は繰り返すと言った方がいいか・・・・』

 

何故?と聞くと修也はこう答える。

 

『答えは簡単。・・・・レールガンさ』

 

レールガン?あの架空戦記とかに出てくる?

 

『ああ、そうとも。レールガンはいずれ軍艦に搭載され、今では姿を消した《戦艦》が蘇るだろうな』

 

何故?と聞くと彼はウキウキした様子で予測をしていた。

 

『考えてもみたまえ、現代の対艦ミサイルは一発当たり二億円はかかる。対して戦艦大和の砲弾は一発だけなら現在の価値で大体五〇〇万円ほど。斉射しても四五〇〇万円。時代が違いすぎるから比べてもアレかもしれないが、十分安い。

おまけにミサイルはレールガンの砲弾なんかよりもより圧倒的に遅い上に、CIWSで迎撃が可能だ。対してレールガンは音速を超えて飛んで行き、ミサイルと同等の距離で攻撃ができ、砲弾だから高価な誘導装置も必要ないから単価が安い。

安い、速い、強い。この三拍子が揃えば軍が飛びつかないわけがないだろう』

 

そう言うと修也は携帯である動画を見せながら言う。

 

『それに、日本は少し前にレールガンの開発に成功した。音速を超え、外郭の硬い砲弾の迎撃なぞまず出来ないから、これがあれば装甲が無い空母は燃料を積んだ燃えやすいカカシだ。それを多数積めば護衛の軍艦なんかも一気に相手できる。するとほら、見た目は完全に戦艦では無いか』

『無人機は所詮強い電磁波攻撃などで簡単にやられてしまう。結局は人が戦争をすることに変わりわないのさ』

 

そう言い、熱くなってしまっている修也を宥めた事を思い出していると横に真之さんが座り込んだ。

 

「どうかね、ここに来て・・・・」

 

「色々と知って困っています・・・・」

 

「そうか・・・・ま、それも仕方ないな・・・・」

 

真之はそう言うと後悔する様にポツリポツリと呟く。

 

「わしは、時々思い出す。修也がアメリカに連れて行かれた時の事をな・・・・」

 

「・・・・」

 

詩乃は座り込んだ真之を見て思わず同じ様に海を眺めていた。方角は東、このまま先をずっと行けばアメリカがある方向だ。

 

「あの時、無理矢理にでも青森の家に連れてこれば良かったと思っている。そうすればあんな事にならなかったのでは無いかとな・・・・」

 

真之が呟く言葉に詩乃は言った。あの時とは修也がアメリカに連れて行かれる前の事だろうと予測しながら・・・・

 

「それは違うと思います」

 

「・・・・何故だね?」

 

疑問に思う真之に詩乃は思った事を話した。

 

「修也が秘密にしてきたことはいっぱいあります。でも、その時の経験が色んな人を助けてきました。私が銀行強盗に襲われた時、修也に助けられたのと同じ様に・・・・多分、修也の知らないところで修也のおかげで助けられた人はいっぱい居ると思いますよ」

 

いい例がユナとエイジだ。彼らはあの地獄の世界で修也の助言で助かった人達だ。今でも二人は彼には頭が上がらないと言っていた。他にも彼の知らない場所で彼に助けられた人がいるかもしれない。そう思っていると真之が目に手を当ててこう答えた。

 

「そうか・・・・その一言で随分と救われそうだ・・・・」

 

そう言い、涙ぐみながら海を眺めていると詩乃がある違和感に気づいた。

 

「・・・・あれ?」

 

「ん?どうした?」

 

「あの、護衛艦・・・・離れていませんか?」

 

「・・・・何だと?」

 

交代はもう少し後のはずだ。真之は長年の経験から嫌な予感を感じ、菊岡に連絡を取った。

 

 

 

 

 

 

ーーーその数分後、オーシャン・タートルは何者かの襲撃にあったのだった。

 

 

 

 

 

 




途中のレールガンの話は完全に作者の趣味と、同じゲテモノズキー達で予測したちょっとした未来予測です。文字埋めのために書いた物なので気にしないでください。

それと近況報告です。
作者の溜め書きと時間の都合上、週一投稿になります。
早く受験オワレ・・・・模試の連続で禿げてきています・・・・。

なので、今回から始まるWar of Underworld編はものすごく変則的な投稿になると推測されます。
下手をすれば半年くらい更新できないかも・・・・。なのでその時は次回投稿までゆっくりお茶を飲んで待っていください。


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#19 状況把握

終盤の展開は纏まったのに、中盤が全然纏まらん・・・・


「・・・・状況は?」

 

サブコントロール・ルームで藤吉が問う。今の彼は足のガーゼから血を流しつつも平然と立ち、片手には拳銃を持っていた。ちなみに言うが彼は現役の国務大臣である。

それに答えるのは一人の自衛官であった。

 

「はっ!第一・第二耐圧隔壁の完全封鎖、及び非戦闘員の船首ブロックへの退避完了を確認致しました」

 

「どのくらい持つか?」

 

「爆薬を使われれば・・・・ですが恐らく・・・・」

 

「だろうな・・・・」

 

敵の目的は第一隔壁の近くにあるのはライトキューブクラスター・・・・『A.L.I.C.E.』の奪取だとすれば、ターゲットを破壊するような工作は避けるだろう。

 

「こちらの被害は?」

 

「・・・・閣下と自衛官二人が軽傷です。民間者に怪我人はおらず、重症者はいません」

 

「船体の被害状況はどうだ?」

 

「船底ドック及びドックからメインコントロール・ルーム間の隔壁は遠隔操作ができません。

更に深刻なのは、正電源ラインを切断された影響で・・・・電力自体は副ラインから各所へ安定供給されていますが、制御系を再起動しないとスクリューを回せません」

 

「こりゃ、ヒレのない海亀だな・・・・」

 

「ロアシャフトの一番から一二番までの区画も・・・・完全に占拠されてしまいました」

 

報告を聞いて菊岡は頭が痛かった。たかが公務員の負傷という事になるが、藤吉は現職の国務大臣。私的な用事とは言え出先で負傷。それもどこぞの訓練された部隊との交戦で負傷となれば国際問題になるのは確実だった。

むしろ拳銃一丁で護衛よりも前に出て真之と共に前線を張って、それでいて敵部隊を何人が脱落させるという、リアルチート人間を見た様な気分だった。

だが、同時にここに自衛隊最強格の人が二人も居た事に若干の安心感が生まれていた。

だからと言って菊岡にとっては先輩と教官、これから何を言われるのかヒヤヒヤして仕方がなかった。

 

「メインコントロールと第一STL室、そして、原子炉までが軒並み制圧されたわけか・・・・不幸中の幸いが破壊ではないといったところか・・・・そうでなければ、もうここも爆弾か何かを使って突破し、占拠もしくは破壊工作をもっと仕掛けてこないと不自然だ。だが、そうなると、連中の正体が何者なのかという話になるわけだが・・・・比嘉君、何か意見はあるかな?」

 

状況を整理し終えた藤吉は、目的を推測した上で、襲撃者の正体について考察を始め、比嘉に意見を求めた。

比嘉はコンソールを操作し、大画面のモニターに襲撃時の録画映像を一時停止の状態で映し出した。銃弾を受けたはずなのに平然としている藤吉に苦笑しつつも比嘉が言った。

 

「この装備と身長だとアジア人っすかね・・・・」

 

「少なくとも、どっかの国の特殊部隊だろうな・・・・」

 

「いや、動きは米国に近い。・・・・恐らくはビビリのNSA(アメリカ国家安全保障局)だろうな・・・・」

 

しれっととんでもない事を言う真之に菊岡達は感嘆の声と恐怖を抱いた。

菊岡曰く『もう米寿を超えると言うのに見た目が五十代から変わらないリアルスーパーサ◯ヤ人』。その本人である真之は菊岡の言い分に眉を細めて不満げにしていた。

 

「どうりで動きが速いわけだ。奴さん、真っ直ぐここまで来たからな・・・・恐らく護衛艦が離れたのも・・・・」

 

真之が推測をしている間、菊岡は比嘉に聞いていた。

 

「システムはどうだ?」

 

「問題ないっす。専門家でも難しいレベルには。まぁ、その影響でこっちから排出するのも無理っすけど」

 

「それなら問題ない。だがこっちは・・・・」

 

菊岡は藤吉達の方を見ると彼らは畝っていた。

 

「うーむ、横須賀司令部にここに俺と義父がいる事は伝えたか?」

 

「ええ、先ほど伝えましたが・・・・返答はありません」

 

「そうだろうな・・・・奴ら、恐らく上層部とコネクションがあるはずだ。護衛艦に突入命令が出た頃にはライトキューブを確保して、ここを去ってしまっているだろう・・・・追跡不可能な場所にまで逃走したところでな」

 

「・・・・これが終われば()()()だな」

 

真之の一言に菊岡のみならず、ここにいる自衛官全員の肝が一瞬で絶対零度まで下がり切ったが、そんな事に気づかず、凛子は比嘉に聞いていた。

 

「・・・・それで、ライトキューブの排出はアンダーワールドでもできるの?」

 

「そうっす。メインシャフトの真ん中にあるライトキューブクラスターから、対象のキューブが取り出されて、エアチューブ経由で任意のコントロール・ルームまで運ばれるんです。取り出し口はそこのコンソールにありますよ・・・・もちろん、メインコントロールにもね・・・・」

 

菊岡がコンソールを触り、映像を切り替えるとそこにはSTLで横になっている和人と修也の姿があった。

いきなり修也達が出てきた事に詩乃達が驚いていると菊岡が言う。

 

「比嘉君、彼らの状況はどうなっている・・・・?」

 

「・・・・はっきり言えば、キリト君は最悪の一歩手前。ブレイド君は()()です・・・・」

 

二人の状況を聞いて彼らを知る者達の目が一斉に細まる。詩乃や明日奈に至っては硬直してしまっていた。比嘉は説明をする為に二人のフラクトライトを見せた。

 

「まず、キリト君ですが・・・・デス・ガン最後の一人に襲われて、ニューラルネットワークに損傷を負ってしまったキリト君を治療するために、我々はこれまでのテストダイブ同様に、彼の記憶をブロックしてアンダーワールドにダイブさせました。

ところが、何故か彼の記憶はブロックされていなかった・・・・キリト君は現実世界の桐ヶ谷和人のまま、アンダーワールドに放り出されてしまった・・・・これは推測ですが、襲撃によるダメージによって、フラクトライトが不安定となっていたから起こったことだと思われます」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ・・・・!それなら、彼は・・・・加速されたアンダーワールドで、彼ら自身としてどれぐらいの時間を過ごしていたというの?」

 

「・・・・およそ二年です・・・・」

 

「「(二年!?)」」

 

明日奈達が驚くのも無理はなかった。しかも、修也に至ってはそれよりもっと長く、二十年近い時を過ごしているという。

その事に絶句する二人だったが、比嘉はキリトの状況を説明した。

 

「その道中は決して易しいものはなかった筈です。しかし、彼らはそこに辿り着いた。

新たな『A.L.I.C.E』の覚醒の確認と奴らの襲撃が重なってしまい、ログの確認が遅れてしまいましたが・・・・公理教会との闘いの中で精神的なダメージをフラクトライトに蓄積してしまっていたみたいなんです。

特に、通信直前に起こった戦闘の前後でそれが顕著に見られていました・・・・そして、通信を開いていたその時でした・・・・黒づくめの連中が電源ラインを切断し、ショートによって発生したサージ電流がSTLの出力を瞬間的に上昇させた・・・・

その結果、自身を責めていたキリト君の自己破壊衝動が現実的なものになり、治療していた筈のフラクトライトのダメージまでもを巻き込む形で拡大し、彼の自我を非活性化させてしまった」

 

「自我を非活性化する・・・・?それはどういう意味なの?」

 

「こちらの映像を見て下さい」

 

神代の疑問に答えるべく、比嘉はモニターの映像を変える・・・・そこには、白い靄の真ん中に真っ黒な穴が空いてしまっている映像が映っていた。

 

「映像に映っているこの穴・・・・ここに本来あるべきものは、言うなれば主体・・・・セルフイメージなんです」

 

「セルフイメージ・・・・?自ら規定した自己像ってこと・・・・?」

 

「そうです・・・・どうやら、僕らの意思決定は“自分はこの状況でそれを行うか否か”というフラクトライトの中のイエスノー回路を経由するようです。例えば、牛丼屋に行って、牛丼を食べ終えた時・・・・二杯目を食べるかどうかを判断する際、自身の状況ではなく、自らの意思に沿って判断する・・・・それがセルフイメージによる処理結果というわけです」

 

説明に素人である明日奈や詩乃にもなんとなくではあるが伝わった。

 

「キリト君の場合、フラクトライトの大部分は無傷です。しかし、問題の回路が機能していないので、今の彼にできるのは・・・・おそらく染みついた記憶による反射的なリアクションのみでしょう・・・・

自分が誰なのか、何をするべきなのかも分からず、自分からは何も言うことはない・・・・言うなれば、自我を喪っている・・・・そんな状態ではないかと・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「そして、ブレイド君ですが・・・・」

 

そう言い、比嘉はフラクトライトを見せると、そこには相変わらず真っ黒なフラクトライトの映像が流れていた。そして比嘉が映像を推移させると凛子が違和感に気づいた。

 

「あれ?これって・・・・!」

 

「そうっす。彼のフラクトライトは一瞬だけ観測されたんっす」

 

そう言い、比嘉は映像のあるポイントで止めるとそこにははっきりと映るフラクトライトと、活性率の映像があった。

 

「「!!」」

 

明日奈達はその映像に驚いていると比嘉がさらに話し続ける。

 

「でも、この後すぐにフラクトライトは観測不能に戻ったっす。それに、これは災い転じて福となる。そうとも言うべき事柄っす」

 

そう言うと比嘉は淡々と説明をした。

 

「まず初めにカセドラルで戦闘をした時に、彼のアカウントに異変があったんっす」

 

そう言い、IDを見せるとそれに菊岡が反応した。

 

「っ!?なんでこのアカウントが・・・・??」

 

「さあ、俺にはさっぱりっす・・・・本来ここにあるべきではないアカウントが何故彼に適用されたのか・・・・」

 

「「「「「?」」」」」

 

菊岡と比嘉の話に全員が疑問に思っていると比嘉がハッとした様子で話す。

 

「とにかく、今ブレイド君が使っているアカウントの名前は《月神ノスフェラトゥ》。ダークテリトリー側のスーパーアカウントの一つっす」

 

「ダークテリトリー?」

 

凛子の問いに比嘉は頷く。

 

「そうっす。だけど本来このスーパーアカウントは人界側にはない物です。しかし、何故彼がこのスーパーアカウントを使っていたのか理由は分かりませんが・・・・」

 

そう言うと比嘉は少し深刻に今の修也に起こっている事を伝える。

 

「率直に言うと今の彼は非常に危険()()()と言うべきでしょう」

 

「・・・・だった?」

 

詩乃の疑問に比嘉はこう答える。

 

「これがさっき僕が言った事です。電力がサージする直前、彼の使うSTLに本来であれば存在しないシステムが働いていたっす・・・・」

 

そう言う比嘉の声は少し言いにくそうであった。

 

「・・・・彼の使っているSTLには・・・・ナーヴギアと同じシステムが使われていたっす。つまり・・・・脳を焼き切る電磁波が組み込まれていたと言う事っす」

 

「「「「「っ!?!?!?」」」」」

 

比嘉の放った一言に全員が絶句した。すると比嘉はその時の状況をログを見ながら説明する。

 

「ブレイド君がカセドラルで体力が全損した時。本来であればそのままログアウトをするんっすけど、その時にログアウトではなくナーヴギアに組み込まれていたシステムが起動して脳破壊シークエンスが発動したっす・・・・」

 

比嘉の言葉に詩乃が震えながら聴く。

 

「じゃ、じゃあ・・・・修也は・・・・」

 

絶望した表情で聴く詩乃に比嘉は一息つくとこう答える。

 

「あぁ、その心配はないっす。何せ、サージが起こった時にそのシステムも電源を落とされた影響で破損してしまった見たいなんっす。だからさっき災い転じて福となしたって言ったんすよ」

 

そう言うと詩乃は心底ほっとしたのか床にへたり込んでしまった。それには明日奈もホッとした様子で詩乃に寄り添っていた。比嘉の話を聞いて藤吉達が比嘉に聞いた。

 

「比嘉君。そのシステムは取り除くことはできるか?」

 

「そうっすね・・・・彼の使っているSTLに向かってデバイスを直接取り除けば・・・・だけど、それをするには一旦彼にはログアウトして貰わなければいけないっす。ですが、機械のログから推測するに、今の彼は()()()()()()()()()()()状態っす。それに、彼の使っているSLTは下手に触れませんから詳しく把握はできていません。なので向こうに行ってどうなっているか見るしか・・・・」

 

「ならば・・・・「行きます」っ!詩乃君・・・・」

 

藤吉が行こうとした事を詩乃が言い、明日奈も同じ様に言う。

 

「私も、行きます。キリト君の所に・・・・」

 

「君たちならそう言うと思ったよ・・・・確かに第二STL室は空いていて、使用が可能だ・・・・だが、アンダーワールドは君たちが体験してきたVRMMOとは何もかもが異なる世界だ・・・・君たちのことを守らなければならない僕からすれば、賛同するわけにはいかない」

 

「私は、修也に助けられました。それに、今は修也に聞きたいことが沢山あります。だから、行かせてください」

 

「私も、キリト君の側に行って、言ってあげたいんです。君はできる限りのことはしたんだって・・・・」

 

変わらぬ二人の意思に菊岡は真之達に一瞬視線を向けると、彼らもそっと目を閉じて無言で菊岡にメッセージを向けた。

 

「はぁ・・・・・仕方がない。今のアンダーワードは最終負荷実剣の直前だ。そこでA.L.I.C.Eが殺されてしまうと言うこともあるか・・・・」

 

「ちょっと待って。最終負荷実験って?」

 

「人界とダークテリトリーを繋ぐ東の大門の耐久値がゼロになって怪物の軍勢が人界に雪崩れ込むんです。人間たちが十分な防衛策を整えていれば、侵略を押し返せる筈です。ですが、キリト君達が公理教会を倒した影響でどうなっているか・・・・」

 

凛子の問いに比嘉がこう答え、真之達は戦況は厳しいと判断していた。そして藤吉が比嘉に言った。

 

「比嘉君。二人にスーパーアカウントの用意だ」

 

「えっ!?スーパーアカウントはその性能が凄まじい分、特殊能力を使った反動も酷いんですよ・・・・!?」

 

「君は戦場に行く彼女達に素手で行けと?行かせるなら最善の装備でなければ・・・・第一、彼女らにする事は本来であれば我々がやらなければならない事だ。それを一般人の彼女らが自らやると言うのだから我々は彼女らの安全の保障をしなくてはならない。すぐに始めてくれ」

 

「りょ、了解っす・・・・」

 

藤吉の圧力に比嘉は頷くと早速キーボードを叩き始めた。その横で菊岡がスーパーアカウントについて説明をしていた。

 

「スーパーアカウントの固有名・・・・創世神ステイシア、地母神テラリア、太陽神ソルス・・・・これにダークテリトリーに属するスーパーアカウント暗黒神ベクタ、月神ノスフェラトゥ。この五つが現行のアンダーワールドにて創世記に存在したとされる神々のことを指している。二人にはこの内ステイシアとソルスを使ってもらう。君たちはすぐに準備向かってくれ。

 

コクッ

 

二人は頷くとそのまま部屋を後にした。残った真之と藤吉は後悔の念を抱きながら言う。

 

「なんとも恥ずかしいものだ。本来守るべきである国民に国から危険に晒させるわけなのだから・・・・」

 

「彼女達が望んだ事だ。これ以上何も言えまい・・・・藤吉、衛星電話はあるか?」

 

「何を・・・・あぁ、そう言う事・・・・」

 

藤吉は今から真之が何をしようとするのか理解できたので真之に大きなアンテナのついた分厚い携帯を渡し、真之は携帯の電話番号を押してある相手を呼んでいた。




『創世記』第一章三節の一部より
創世神ステイシア様は自身のお力を用い。不毛の大地に山脈を築き、そこに楽園をお作りになった。ステイシア様より授かった大地に我々は楽園を築くことを誓い、日々開拓の日々を過ごした。
私たちが人外に楽園を作る間、ステイシア様は外の世界にも足を運びそこに居る者達との融和を図った。
ステイシア様は旅を続ける中、ある人物と出会った。その者は自らをヴラッドと名乗り、ステイシア様の旅に加わらせて欲しいと懇願した。ダークテリトリーとの融和を望んでいたステイシア様はヴラッドを旅の仲間に引き入れたのだった。


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#20 もう一つの世界へ

なんか知らぬ間に二十人くらいお気に入り登録が増えてた・・・・おまけにUAが26,000も超えていた・・・・・ガクブル
高評価も押してくださって感謝しかありません!!
有難うございます!!これからも精進して参ります!!


「二人とも、準備はいいっすか?」

 

菊岡達の視線の先にはSTLに入る詩乃と明日奈の姿があった。二人は頷くと比嘉が注意を言う。

 

「まず、明日奈さんに使用してもらうアカウントは、スーパーアカウント01『創世神ステイシア』の方ッス。このアカウントは管理者権限として、無制限地形操作のコマンドが使えるんですけど、地形操作中はSTLとメインビュジュアルライザーの間で、大量のデータが行き来する影響で、フラクトライトに膨大な負荷が掛かるッス。

だから、無闇に地形を操作するのは控えて下さい。コマンド中に頭痛を覚えたりしたら、すぐにコマンドを中止して下さい・・・・いいですね?

次に詩乃さんが使うアカウントは、スーパーアカウント02『太陽神ソルス』ッス。このアカウントは管理者権限で広範囲殲滅攻撃ができるっす。これも大量のデータが行き来するので連発はできないっす。それと、無制限飛行という能力も備わっているっす。これに関しては特に問題はないっす。でも、使い方には注意してくださいっす」

 

『分かりました』『了解』

 

そこで菊岡が二人に頼む内容を改めて言った。

 

「君達にはアリスとユージオというA.L.I.C.Eの排出の協力とキリト君達との接触を優先して頼む」

 

それに二人は当たり前だと言わんばかりに頷くと比嘉がSTLを起動した。

 

「では、これよりアンダーワールドへのダイブに入ります!」

 

そう言うと二人の意識はアンダーワールドへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『急襲チームはかなりの数がやられました。十四名のうち五人が重傷、五人が軽傷、他は無傷です』

 

『予想以上の反撃だな・・・・平和ボケした奴らだと思っていたが・・・・』

 

そう言うのは青目の典型的な白人の男だ。部下であろう一人がその男に言う。

 

『事前情報よりも数が多かったです。情報が漏れていたのでしょうか・・・・』

 

『さあな?』

 

そう言い、前線で見た男を思い出した。足に銃弾が当たったにも関わらず平然と打ち返してくるその強さには驚愕しかなかった。閣下と呼ばれていたその男に何処か見覚えのある気がしていた。少なくともそんな人が来ていると聞いていなかった。

 

『ダメだな。こんなくたびれたマシンじゃあビクともしねえ』

 

『隔壁は?』

 

『ダメだ。最新のコンポジットマテリアルが硬すぎて持ってきた工具じゃあ刃が壊れた』

 

『管理者権限からできるのはフラクトライト達が楽しく生活するのを見てるくらいだ』

 

次々と上がってくる報告を聞いて白人の男は映像を眺める。すると部下の一人が面白そうに言う、

 

『ふむ・・・・どうやらダークテリトリーからは入れそうだ』

 

後にこの事件最大のミスと言われたダークテリトリー側のロックのし忘れ。これが後に大きな問題を引き起こすのであった・・・・

 

『使えるアカウントで飛び抜けて高レベルなのは・・・・《エンペラー・ベクタ》と《暗黒騎士》ってやつだな。《月神ノスフェラトゥ》ってやつはもう使われているな・・・・』

 

『使えるSTLも二台・・・・行くしかないだろう・・・・』

 

『お?もしかして行くのか?』

 

『アリスが《ヒューマン・エンパイア》にいると言うのなら、何かしらの方法でいけるはずだ。部下に指示して探させればいい』

 

『成程!さっすがだねぇ』

 

『さっさと準備しろ。すぐに行く』

 

『了解』

 

そう言い、襲撃者達はそれぞれ準備に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がブレイド先輩の事付けをした後、部屋に戻った私は違和感を感じていた。

 

「ブレイド先輩、キリト先輩達にーーー・・・・」カチャッ!

 

部屋に入るとそこには窓の空いた部屋と不気味な程に静かな部屋があった。

 

「ブレイド先輩?」

 

机の上には一枚の紙か置かれていた。それはブレイドがマリーに宛てた手紙の様であった。

 

『君には申し訳ない事をしたと思っている』

 

そこにはマリーやロニエ達への謝罪とブレイドが今から何をするのかと言うことなどが書かれていた。

 

『私は今からユージオやキリトと合流をする為にカセドラルに行く。もしかするともうここには戻ってこないかもしれない。その時、もし君に何か事があれば私の家にロニエ達を連れて逃げなさい。

従者達に話はしてある。数ヶ月ではあるが、私の弟子になってくれた事には感謝しかない』

 

「先輩・・・・」

 

マリーは手紙を読むとその手が震えている気がした。そして最後にブレイドはこう綴っていた。

 

『マリー、強い心を持ちなさい。強い思いは決して折れることは無いだろうから

 

ーー馬鹿をしに行く先輩より』

 

事実上の別れの挨拶にマリーは暫く呆然としてしまっていた。食堂に来なかったと言い、ロニエが来なければそのまま部屋で倒れたままだっただろう。同じ様に書き残しを見たロニエ達は事情を理解してアズリカ先生を呼んで三人でマリーを寝かせていた。

マリーがブレイドに少しばかりの好意を抱いていたのはロニエ達も分かっており、それは自分たちがキリト達に向けていたものと同じであった。

その日はアズリカ先生もわかってくれたのか私たち三人でその日を過ごしたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩達の行方が分からなくなって一週間ほど。学院に何人か教会の人がやって来て先輩の部屋で探し物をしていた。

一体何事かと思っていると『ありました!』と言って本棚から二冊の本を取り出していました。それは前に先輩が取り出して呼んでいた本でした。それを一緒に来ていた私より幼い見た目をした人に渡していた。

 

「ふむ、これが言っていたものか・・・・」

 

「あ、あの・・・・」

 

「ん?」

 

私は本を受け取った人に思わず『先輩のですから・・・・』あまり触らないでほしい。と言おうとしたが、少女の気配に押されてしまった。

 

「君はこの部屋の人を知っているのか?」

 

「え?は、はい!マリー・クルディア初等修練士であります!ブレイド・ソド・ワラキア上等修剣士の傍付き剣士であります!」

 

そう言うと少女の人が納得した表情を浮かべて小さく頷いていた。

 

「成程、お主はブレイドの知り合いか・・・・」

 

「っ!ブレイド先輩を知っているのですか!!」

 

「・・・・そうじゃな・・・・」

 

「先輩がどこに行ったかわかりますか?!いるなら教えて欲しいです!!」

 

マリーは思わず必死になって少女に聞いてしまうとその人は少し答えに困った様子を浮かべてつつも私の目を見てこう言った。

 

「お主は、ブレイドがどんな状況でも受け入れる覚悟はあるか?」

 

「・・・・」コクッ

 

私はその気迫に押されそうになってしまったが、頷くとその人は私に向かって言った。

 

「ブレイドはある場所で怪我をして安静にしておる。なので今は面会できぬ」

 

「・・・・え」

 

「わしから言えるのはそれだけじゃ。では、失礼する」

 

そう言うと少女はどこかに行ってしまった。残された私はいきなりの出来事に困惑していた。そしてそのままボーッとしたまま部屋に戻った。ブレイドの計らいで三人部屋となった学園の一室でマリーは一人ブレイドの安否を心配し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・やれやれ。嘘をつくのも大変だな」

 

学園を後にしたカーディナルはそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言うのもそれは数日前、アドミニストレータが彼らによって討たれて整合騎士と話をしようとした時のことだった。ユージオがいきなり駆け込んで来て言った。

 

「ブレイドは・・・・!!」

 

肩で息をしながらユージオが大広間に駆け込んできた。何事かと思っているとベルクーリが聞いた。

 

「何があったのじゃ?」

 

「ブ、ブレイドが・・・・」

 

ブレイドが部屋から消えたと言う話を聞き、整合騎士達が驚き、すぐさま捜索が行われた。時間はたっていないので、近くにいるだろうと予測していたが。彼はどこにも居なかった。IDを辿ってみたが、あの部屋から先は追うことができなかった。

その事を伝えるよユージオ達は落胆していた。もしそこでカーディナルが起点を効かせて『ブレイドは必ずどこかに居る。それは間違いない』と言い、早急にユージオ、アリス、キリトの三人をルーリッド村まで送り届けた。

 

IDが辿れなかったと言う事はつまり外の者によって()()()()()させられたと言う考えで正しいだろう。

 

「しかし、いつ話そうか・・・・」

 

カーディナルはそんな事を思いながらブレイドが残した本について読み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とある歴史学者のメモより
過去の文献と残された遺構から、ヴラッドには発明家としての才能があったと思われる。その証拠に、ヴラッドは飛び道具を最初に作ったと言われている文献があった。この事からヴラッド自身は独創的な発想を持ち合わせていたと思われる。
あんな事さえなければ、彼はきっと幸せに暮らしていたのだろう・・・・


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#21 対応策

なんか・・・・アンケート結果すごいっすね・・・・
みんなベルクーリさん好きすぎやろ。気持ちはわかるけど。


その日、野営地にある二人の人物が戻って来ていた。

 

「ベルクーリさん!」

 

「おお、来たか。氷の坊主、それに嬢ちゃん」

 

「お久しぶりです叔父様」

 

野営に入って来たユージオとアリスに挨拶をしたベルクーリを見るとユージオ達は訓練をしている兵士たちを見る。

最高司祭を討ち取ったユージオ達は周りの視線や心無い言葉から一旦北の警護のために央都から二人の故郷であるルーリッド村へと向かっていたのだった。しかし、状況が逼迫して来たと言うことでカーディナル達の判断でここに戻って来ていたのだ。

 

「あれは・・・・」

 

「俺たちが帝国中からかき集めた兵士と、あの赤の坊主が作った武器だ」

 

そこには槍を持って団体行動をする兵士と、見たことのない形をした武器に石を詰め込む兵士の姿があった。

 

「あの武器は何ですか・・・・?」

 

「あれは、赤の坊主が作った『平衡錘投石機』って奴らしい。使い方はああやって袋のところに石を乗せて、あそこある重りが石を吹き飛ばすって物だ。今から飛んで行くぞ」

 

「「・・・・」」

 

するとカゴンッ!と言う音と共に風を切る音がして、投石機に付けられた石が空高く飛んで行っていた。卵ほどの大きさの石はバラバラに飛んで行き、次第に見えなくなっていった。

 

「アレのおかげで士気は十分高くなった・・・・全く、あの坊主には驚かされてばかりだ」

 

そう言い、ベルクーリはブレイドが書いていたあの本を思い出す。そこにはあの投石機の設計図や、他にも設計したであろう武器の数々。それに、兵士たちの陣形や必要な武器まで記されていた。

 

「お陰で、人界中から剣よりも槍・盾の方が優先して必要となって大忙しだ」

 

「そ,そうだったんですか・・・・」

 

ベルクーリの話を聞いてユージオは暗くなりつつも若干苦笑をしているとアリスが聞いた。

 

「叔父様、ではあの動きも・・・・」

 

「ああ、そうだ。赤の坊主が『密集陣形』って書いてあったものをそのまま見よう見まねでやっているが・・・・思いの外使えた」

 

だから全員が槍を持っているのかと思った。片手に槍を持ち、盾を持って、腰に短剣を差した彼らはやる気に満ちていた。

後に戦術の基本書と呼ばれる様になるブレイドの書いた行動書には最後にこの様なことも書かれていた。

 

『下手な攻勢よりも綿密な防衛の方が戦いは有利に推移できる』

 

彼がなぜこの様な物を書いたのかは定かではないが。少なくとも彼が外の世界から来たのだと後に知り、この疑問は霧散していた。

ともかく、戦いの場であると選定した東の大門の前では多数の兵士が故郷を守る為に集結し、訓練を行っていた。

よりにもよって上級貴族達は一切参加せずに安全な所から見ているものが多かったが・・・・

 

「流石にあの“ジュウ”って言う武器はどこにも書いて無かったがな」

 

そう言い、ベルクーリはボロボロになった武器を思い出す。カーディナルですら初めて見たと言わしめたそれはユージオ達の記憶を頼りにジュウと言う言葉を思い出していた。それは設計図のどこにも書かれておらず、壊れてしまっているのでどうしようもなく、サーベルと共にキリトが掴んで離さないままになっていた。転がっていた金属の筒も全部回収してユージオに預けられていた

 

「あの赤の坊主が防衛に特化しろって言うなら、俺たちは出来ることをするまでだ」

 

そう言い残すとベルクーリはその場を後にしていた。僕たちは槍を持って訓練をしている兵士たちを見て自分たちも出来ることをしなければと思っていると次に別の人に声をかけられた。

 

「お主ら」

 

「「っ!カーディナルさん・・・・」」

 

そこには小さな賢者が立っており、二人を呼んでいた。

 

「いきなり呼び戻してすまぬ。何より急用でな」

 

「いえ、人界の一大事に惰眠を貪るわけには行きません」

 

「同感です。それより、私たちは何をすれば・・・・」

 

アリスがそう聞くとカーディナルは答える。

 

「まずはコッチに来てくれ」

 

そう言い、カーディナルは二人をある天幕に連れて行った。

 

「この中に入るのじゃ。話したい事がある」

 

そう言い、カーディナルの後に続き。中に入るとそこには三つの武器を抱え込んで椅子に座ったままでいるキリトの姿があった。するとカーディナルは二人に状況を話し出した。

 

「取り敢えず、今のキリトの体は正常じゃ。だが、現状こうなっておる。だから《外》で何かが起こったとしか思えぬ。そしれブレイドは・・・・」

 

その続きを言おうとしたが、ユージオが目線で『大丈夫です』と訴え、それに気づいたカーディナルはあえて続きを言わなかった。

 

「カーディナル様、その《外》と言うのは・・・・」

 

「うむ、お主らにも説明せねばな・・・・」

 

そう言い、カーディナルは《外》について説明をし始めた。今までカーディナルから詳しい話をして来なかった《外》の世界について話し始めた。

 

「お主らには詳しく話しておらんかったからな。ここで、詳しく話そう・・・・」

 

そう言うとカーディナルは詳しく話し始めた。

 

「まず、其奴らだが。お主らの言うとおり外の世界から来た人間じゃ。なぜ、ここにあやつらが来たかは分からぬが、少なくともこの世界を混乱させる為にきたわけではない。二人の目的は違った様だが、最終的に同じ目標へと向かった」

 

「「・・・・」」

 

それは最高司祭の討伐だと二人は瞬間的に察した。でなければ二人がこんな風になってまで戦うはずがないからだ。二人は納得をするとカーディナルは話し続けた。

 

「だが、彼のフラクトライト・・・・魂は別のこちらの世界にある状態じゃ。だが、こうなっているのは向こうの世界でもわかっているはずじゃ。なのに、なぜ助けに来ないのか・・・・」

 

ここでカーディナルは自身の推測を立てた。

 

「おそらく、この世界と向こうの世界では流れている時がズレているからだとワシは思っておる」

 

「「!?」」

 

「ワシもあの後あやつらが触っていたコンソールを見た。するとそこにはFLAと呼ばれるものが働き、この世界の時間の流れが早くなっていると推測した」

 

カーディナルの推測に二人は唖然としていた。そんな滑稽な話を信じろと言うが、ここにいる二人があの空間で不明なことをしていた以上その可能性を信じざるを得なかった。

 

「だから、今我々にできるのは彼の意識が戻ってくるまで、ここを守ることだけじゃ」

 

「そんな・・・・二人はもう十分戦ったのに・・・・」

 

「じゃが、()()を見た以上キリトが《戦いたい》と思っておるのは明白じゃ」

 

カーディナルが少し含みある言い方でそう言い、二人は引っ掛かっていると天幕に一人の男性が入って来た。

 

「話は終わったか?最高司祭代理殿」

 

「叔父様!?」「ベルクーリさん!!」

 

天幕に入って来たベルクールを見て驚いているとベルクーリは軽く挨拶をするとカーディナルに視線を向けた。

 

「本当にやるのか?」

 

「ああ、実際に見てもらった方が早い」

 

そう言うとベルクーリはやれやれと言った様子で二人に視線を合わせた。

 

「ーーーフッ!」

 

カンッ!

 

「うおっと!」

 

「「!?」」

 

ベルクーリが何かをして、弾き返されていた。その事に驚いているとユージオが聞いた。

 

「今のって・・・・」

 

そう聞くとベルクーリが答える。

 

「首の皮一枚が切れるほどの心意の太刀。それをアイツにぶつけたのさ。そうしたらこの有様よ。それも己の心意でな」

 

「なっ!」

 

「!」

 

ベルクーリのやった事に驚きつつも、キリトが弾き返した事に驚きを隠せなかった。

 

「当たったとしても頬の皮が1枚切れるかどうかのものを弾き飛ばし、その勢いで心意の太刀を切り返してきた・・・・自我を喪いながらもあんな強力な心意が使えるとは・・・・明らかに異常だ。返してきたってことはコイツの心は死んじゃいねぇ。だから、コイツの心はいずれ帰ってくる」

 

「叔父様、まさかこの為に危ないことを・・・・?」

 

「いやぁ、ちょいと不思議に思ってな。試してみたらこの有様よ。そんじゃ、二人の天幕はとなりにあるから二人の世話を頼むぞ」

 

「分かりました」

 

「有難うございます。叔父様・・・・」

 

天幕を出て行くベルクーリを見送ると今度はカーディナルが天幕を後にした。

 

「この後、軍議を行うからそれまでに集まってくれ」

 

そう言い残すとカーディナルは出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレイド・・・・どこに行ったんだろう・・・・」

 

ユージオはそう呟きながらキリトを見る。今の彼の腕の中には”ジュウ”と流星のサーベル。そして・・・・《夜空の剣》があった。あのギガスシダーで作られた黒い剣の名前だ。命名したのはユージオ。理由はなんとなくその黒さが暖かい夜のように見えたから。勝手につけた名前だが、おそらくキリトも頷いてくれるだろう。

 

するとアリスが気になっていた事をユージオに言う。

 

「ユージオ。ワラキアさんとはどんな関係だったの・・・・?」

 

アリスの問いにユージオは今ここにいない彼がどんな人だったのかを語り出した。

 

「僕をあの村から連れ出してくれた人だよ」

 

「連れ出した?」

 

「そう、キリトとおんなじでちょっと違う感じかな。キリトは剣術を、ブレイドは神聖術を、僕に教えてくれた。僕がここまで来てアリスに会えたのも二人のおかげ・・・・」

 

「そうなんだ・・・・」

 

そう思いながら二人は天幕でキリトの世話を終えると天幕を出る。ユージオとアリスは軍議の行われる会場に向かって歩いているとドサッと言う音と共に震える声がした。

 

「ユージオ・・・・先輩・・・・?」

 

声のした方をユージオ達が見るとそこには赤髪の少女が口に手を当てて震えていた。見覚えあるその子にユージオは思わず名前を言う。

 

「ティーゼ・・・・?」




『創世日記』49ページより一部抜粋
ステイシア様と旅を続けるヴラッド。彼らはダークテリトリーとの融和をする為にアンダーワールドの旅を続けた。道中過酷な出来事もあったが、ステイシア様のお力と、ヴラッドの持つ思議な力を使い、旅を続けられていた。
ある日、旅を続けていた彼らは濃い霧に囲まれ、視界が完全に遮断されてしまった。そこでヴラッドは近くの洞窟に移動して霧が晴れるまでやり過ごそうと話した。
ステイシア様もそれを了解し、お供とともに洞窟で一晩を過ごすことにした。


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#22 後輩トリオ

びっくりする速度でお気に入り登録者数が増えている件(´⊙ω⊙`)


ベルクーリさん達の呼び出しで戻ってきたユージオ達、天幕で二人の世話をしているとそこでユージオは懐かしの後輩達と再会をしていた。

 

「ユ、ユージオ・・・・先輩・・・・!?」

 

「ティ、ティーゼ・・・・?」

 

そこには懐かしの後輩がいた。たった数ヶ月だけの自分の後輩だ。

 

「ユージオ先輩!!」

 

ユージオを見てティーゼは涙目になってユージオに飛び込んでいた。

 

「良かった・・・・無事で・・・・もう、会えないと思っていました・・・・」

 

「ごめん、ずっと連絡できなくて・・・・心配かけさせちゃって・・・・」

 

「本当に・・・・良かったです・・・・」

 

ティーゼの行動に目を白黒させているロニエとマリーにもユージオは声をかけた。

 

「やぁ・・・・ロニエとマリーも久しぶりだね・・・・」

 

「は、はいっ!」

 

「お、お久しぶりです!!ユージオ先輩!!」

 

二人は慌てて挨拶をするとロニエがこうなった経緯を話した。

 

「すみませんユージオ先輩。私達がここにきた時にユージオ先輩を見てティーゼが先走ってしまって・・・・いきなりで申し訳ありません」

 

「いや、いいよ。連絡しなかっら僕の責任だろうし・・・・」

 

そう言い、ユージオは取り敢えずティーゼを一旦離すと後ろにいた少女がわざとらしく咳き込んだ。

 

「ユージオ、その子達は・・・・?」

 

「「きっきき、騎士様・・・・!?」」

 

その時は、ロニエ達は後ろにいたアリスに気づいて仰天していた。と言うのも、アリスはちょうどユージオの影に隠れていて見えていなかったのだ。まさか整合騎士がいると思わず、三人は固まってしまっていた。

 

「と、取り敢えず挨拶・・・・!人界支部軍補給部隊所属、マリー・クルディア初等錬士です!」

 

「お、同じくロニエ・アラベル初等錬士!」

 

「ティーゼ・シュトリーゼン初等錬士です!!」

 

二人はそう挨拶をするとアリスは記憶を頼りに三人を思い出し、自分も挨拶をした。

 

「あぁ、修剣学院の・・・・私はアリス・ツー・・・・シンセシス・サーティー。お久しぶり、と言えば宜しいかしら?」

 

「「「・・・・」」」

 

三人はアリスの挨拶に唖然としてしまっていた。まさか、思えてくれてているとは・・・・いや、それよりも三人は気になる事があった。

 

ヒソッ「なんか・・・・丸くなった気がする・・・・」

 

ヒソッ「本当だね・・・・あの時より優しい気がする・・・・」

 

そんなロニエとマリーの声はユージオの耳には届いており、苦笑せざるを得なかった。まぁ、事情を知らない人からすればそう思うのも当たり前なのかと思っていた。

するとロニエがユージオに聞いた。

 

「あの、ユージオ先輩。キリト先輩は見ていませんか?その・・・・ユージオ先輩らしき人が来た時に、黒髪の人もいるって聞いて・・・・もしかしてキリト先輩じゃないかって思って・・・・」

 

「私も、その話を聞きました」

 

ロニエの問いかけにユージオはどうしようかと困っていた。するとそこにアリスが助け舟を出した。それはいつもの優しい口調で・・・・

 

「ユージオ、合わせてあげたら?」

 

「アリス・・・・」

 

「どんな状態でも、あの子達なら大丈夫・・・・その為にここに来たんだと思うから・・・・」

 

「でも、そろそろ軍議があるんじゃ?」

 

「そこら辺は私が事情を説明しておくから・・・・」

 

「・・・・分かった。お願いするよ」

 

そう言うとアリスはそのまま軍議が行われる天幕のある場所へと歩き出し、視線を戻すと三人はザワザワしていた。

 

「どうしたの?」

 

「あ、い、いえ!!ユージオ先輩と騎士様があんなに親しげにされていたので・・・・」

 

「一体何が・・・・」

 

「あったのかと・・・・」

 

そう言うと三人は興奮した状態でユージオに色々と詰め寄っていた。まぁ、確かに半年間ずっと心配をしていた彼女らにとってはユージオがいただけでもほっとしていたのかもしれない。

 

「ユージオ先輩が騎士様と飛龍に乗っていたとも聞きました!」

 

「一体あの騎士様とはどの様なご関係なのですか!?」

 

「ユージオ先輩!」

 

「い、一旦落ち着こうか三人とも・・・・!!」

 

そう言ってユージオは一旦三人を宥めるとユージオは気を引き締めてロニエ達に言った。

 

真実を話す為に・・・・

 

「まず、君たちが知っている様に、キリトはこの中にいる」

 

「っ!じゃあ・・・・!」

 

「でも、話すのは難しいと思う・・・・」

 

「「・・・・え?」」

 

「ど、どう言う事ですか・・・・?」

 

困惑する三人に、僕は真実を告げた。

 

「今から話すことは、辛いけど事実だ。でも、僕にはそれを話さなければならない責任がある。それでも良い?」

 

「「「・・・・はい」」」

 

息を呑んだ三人に僕は取り敢えず彼女達を天幕に入れて話す。あの時の出来事を・・・・

 

ーーブレイドが連れ去られて整合騎士になった後。自分達と一緒にカセドラルで戦い、その後二人とも意識を失ってしまった事。そして、その後ブレイドはどこかに消えてしまった事を・・・・

 

「そんな・・・・」

 

「本当なんですか?ユージオ先輩・・・・」

 

「うん、全て真実だ・・・・」

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

全員が認めたくないと言った様子だった。ユージオは話した内容に最高司祭を討ち取ったと言う話はしなかったが、それでも彼女らには衝撃だっただろう・・・・話し終えた後、僕も思わず俯いてしまった。

 

「キリト先輩・・・・?」

 

ロニエは天幕の奥にいるキリトを見てキュッと手を握っていた。二人も同じ様に心を痛めており、ユージオは三人を一旦天幕の外に出した。

 

「・・・・私のせいでしょうか・・・・」

 

天幕を出たロニエがそう言い、彼女達は自責の念に駆られていた。彼女から出てくる懺悔の言葉に僕はブレイドの言葉が思い浮かんだ。

 

「・・・・それは違うよ」

 

「「「!?」」」

 

ユージオの声に驚く三人にユージオは前にブレイドから聞いた話を思い出していた。

 

「多分、キリト達もそんなこと思っていないと思う。たしか、『男は偶には馬鹿なことをして周りを驚かせたい』・・・・だったかな?ブレイドの受け売りだけど・・・・」

 

ユージオはそう言うと彼女達に優しく話しかける。

 

「キリト達は僕を強く育ててくれた。さっきのはブレイドの受け売りだけど・・・・多分、二人はロニエ達を守りたいから戦ったんだと思う。それがたとえ、カセドラルで闘うという無謀なものでも・・・・

今ならわかる気がする。ブレイドの言っていた()鹿()が・・・・」

 

そう言うユージオに三人は何処か分かるような気がしていた。

 

「キリトは剣を、ブレイドは神聖術を教えてくれた。今まで天職だからって現実から目を背けていた僕を、あの二人は本当の想いを引き出させてくれた。だから、キリト達はあんな無茶ができたんだと思う・・・・」

 

そう言うとマリーは咄嗟に懐に入れていたあの手紙に手を当てる。それはブレイドから受け取った唯一の()()()()だった。いつも肌身離さず持っており、自分にとってお守り代わりの物だった。

その手紙に書かれていた最後の言葉を思い出して心に刻んでいた。

 

「(きっとどこかに居ますよね・・・・先輩・・・・)」

 

マリーはブレイドの思いを感じ、どこかに居るのだと信じているとユージオが三人に向けて言う。

 

「だから、君たちには強い心を持っていて欲しいんだ。思いは永遠に続くからね・・・・」

 

「「「・・・・はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「(様子を見に来たと思ったら・・・・)」

 

アリスは少しもどかしい気持ちになっていた。カーディナル達に話をしてきて、戻ってくるとそこではユージオがあの三人に優しく話しかけている最中だった。

途中で入り込んでしまおうかとも思ったが、そこでグッと気持ちを堪えてユージオが話し終えるまで待っていた。

 

「(こんな時、どうすれば良いのだろうか・・・・)」

 

アリスはそんなもどかしい気持ちを抱いているとユージオが天幕越しに言っていた。

 

『思いは永遠に続くからね・・・・』

 

その言葉にアリスは何処か思う節があった。

 

「思いは・・・・永遠・・・・」

 

誰の言葉なのだろうかと思ってしまった。あの日、新しい()()()となった私はふとあの幻想的な光景を思い出していた。

 

「(もし、ここにあの人がいればどうだったのでしょうか・・・・)」

 

騎士としてのアリスとルーリッド村のアリスを繋げるきっかけとなった彼は、アリスからしてみれば不思議な人という印象だった。

初めての会合は96層での戦闘で、初めて見る武器に、キリトがいなければおそらく負けていたかもしれない。

そう思わざるをない技量を持っていて、尚且つ叔父様がかき集めた投石機や、肥料と言った新しい物を作る頭脳。最高司祭が言っていた様に彼の頭はどうなっているのだろうかと思ってしまった。今は忽然と消えてしまったが、遺した物は今でも有効活用されていた。

たった数時間しか顔を合わせておらず。キリト達の親友だと言う事からあの時は信用をしていた。だが、()()ではなかった。ルーリッド村で、ユージオは彼の話をしなければ私は彼のことを忘れてしまっていたかもしれない。だけど、ユージオが『凄くいろんなことを知っていて二人で『先生』なんであだ名をつけていた』と言って楽しそうに話していたのを見て、彼に少し興味が湧いていた。

 

そして今は彼に話を聞いてもらいたいと思う様になってしまっていた。

 

 

 

 

 

今、私の心に込み上げてくるものはなんなのでしょうかと・・・・

 

 

 

 

 




『血の鬼』の一部より
彼はハッキリ言ってしまえば『狂気』の一言に過ぎる。でなければあんな事を普通やろうとは考えない筈だ。何を思ったのか、彼は人の血を吸ったのだ。
もしもあの時ステイシア様がいなければ自分たちも同じ目に遭っていただろう。ステイシア様には足を向けて寝られない。
元々からそんな気は一切無いが・・・・
やはりダークテリトリーの人間は信用ならなかったんだ!!


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#23 皇帝降臨

すげぇ・・・・UAが30000超えている・・・・


ロニエ達と再会をしたユージオはロニエ達がなぜここにいるのかと理由を聞いた。

するとどうやら今回の動員は各修剣学院にも声がかかったらしく、そこで先輩達が参加すると言うことでアズリカ先生が彼女達を推薦したと言う。

あの日以降、毎日の様に鍛錬を怠らなかった彼女たちは実力もそこそこ上がっていたらしく、アズリカ先生がやってきたベルクーリさん相手に決闘をお願いしたそうだ。

 

その時、ロニエ達三人は自分たちにできる最大限の技を繰り出したと言う。

 

三人はまっすぐに走り、先頭に立ったロニエが剣を振り、中央のティーゼが神聖術を、最後のマリーが最後に剣技と神聖術を混ぜた技でベルクーリさんを攻撃したらしいが、届かなかったと言う。

でも実力十分ということでこうして後方部隊の護衛を務めているという。ベルクーリさんが言うにはその伝術は前から守ると一人にしか見えないからもっと鍛えれば上手く行くらしい。

 

 

 

 

 

後にジェットストリームアタックと呼ばれるこのロニエ達の十八番戦法はこの時から始まっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

ちなみにその技はどこから学んだのかというとやっぱりブレイドだと言う。

ブレイドの性格はやっぱり悪どい!!

と思わざるを得ないその戦術に内心苦笑しつつもユージオは話を聞いていた。数日後にはゴルゴロッソ先輩達もくるらしく、挨拶できるのだろうかと思ったりしていた。

別れ際、マリーがユージオに言う。

 

「ユージオ先輩。詳しい話を聞かせてくれて、有り難うございました」

 

彼女曰く、この半年間、ブレイドの帰りを待っており心配だったと言う。周りの人からは『大怪我を負って安静にしているから会えない』と言われもどかしい日々を送っていたが、ユージオから本当の話を聞いてスッと納得できたと言う。別れ際、マリーがユージオに向かいながら言った。

 

「ユージオ先輩が仰ってくれたおかげで私も真実を知ることができました。本当に、有り難うございました」

 

「うん。マリーも元気で」

 

「じゃあ、また」

 

そう言い残すとマリーはティーゼ達の所まで走って去って行った。

それを見送ると僕は少し疲れて天幕の中のベットで横になっていた。

 

「(あ、カーディナルさんの所に行かないと・・・・)」

 

そう思ってユージオは天幕を出るとそこではアリスが待っていた。

 

「おっと!ア、アリス・・・・?」

 

「・・・・どうかしましたか?」

 

「なんか・・・・怖いよ」

 

「そうですか?」

 

うん、めっちゃ怖い。ブレイドの怖さと別の方向で怖かった。アリスの顔には『不満です』と言う文字が浮かんでいそうなくらい彼女の顔はムスッとしていた。

 

「な、何かあったの?」

 

「なんでもありません」

 

そう言うとアリスは僕の手を取って軍議を行う会場まで歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、数日前。

 

その日、ダークテリトリーの帝城オブシディア城に激震が走った。理由はとても単純、皇帝ベクタが降臨したからだ。直ちにダークテリトリー側の諸侯は玉座の間に集まっていた。

 

白に近いブロンド色の髪を持ち、額に真紅の宝石を嵌めた黒い王冠を被り、黒いスエード調の革製シャツとズボンの上に漆黒の華奢な毛皮のガウンを纏っている。腰に朧げな燐光を放つ一本の長剣を腰に佩き、見事な銀の刺繍が施された手袋とブーツを身につけ血で染められたかのような深紅のマントを羽織っていた。

その一段後ろで一人の騎士がキョロキョロと辺りを見回していた。

 

皇帝ベクタとしてアンダーワールドにログインしたガブリエルはスゥと息を吸って言った。ここでの自分は神。ここは機械の作った世界。そこに()()は存在しないのだ。

 

「顔を上げ、名乗るがいいーーーそちらの端の、お前からだ」

 

「は、ははあっ!!私、商工ギルドの頭領を務めております、レンギル・ギラ・スコボと申します!」

 

恰幅のいい中年男が弾かれたように上体を起こし、名乗りを上げた。

 

「ジャイアント族の長、シグロシグ」

 

異様に長い鼻梁を持ち、三メートル半の巨体に黒光りする鎖を交差させるように巻き付け、腰を獣の皮で覆った亜人種が地響きの如き低音を発し。

 

「・・・・暗殺者ギルド頭首・・・・フ・ザ・・・・」

 

先ほどのジャイアント族と比べればあまりにも矮小で、存在感の無いフーデッドローブ姿の存在が、耳障りな掠れ声で名乗り。

 

「オーク族の長ぁ、リルピリンだぁ」

 

前に突き出た平らな鼻に牙が覗く巨大な口、小さい目に知性を湛えた豚が七割、人が三割といった頭部を持ち、肩に半ばまで埋まり込んだ首に小獣のの頭骨を幾つも繋げて作った首飾りを下げた存在が、甲高い声で名乗った。

 

「拳闘士ギルド第十代チャンピオン、イスカーン!」

 

 その隣、少年と言ってもいい年頃の若者が機敏な動作で一礼し、威勢よく叫んだ。赤金色の巻き毛を垂らし、日焼けした上半身には革帯だけを巻き、下半身にはぴったりとした革ズボンとサンダルを、そして両手には四角い金属の鋲付きのグローブを填めている。

 

「ぐるる・・・・オーガの・・・・長・・・・フルグル・・・・」

 

上半身はほぼ長い体毛に覆われた、狼によく似た頭部を持つ亜人種が聞き取りにくい声を漏らし。

 

「山ゴブリンの長、ハガシにござりまする!陛下、ぜひとも一番槍の栄誉は我が種族の勇士にお与えくださりますよう!」

 

猿に似た禿頭の両脇から細長い耳を伸ばす、小柄で濃い目の緑色の肌をした亜人種が、キイキイと耳障りな声で吼え。

 

「とんでもない!我らは、こんな連中よりも十倍陛下のお役に立ちまするぞ!平地ゴブリンの長、クビリめにござりまする!」

 

山ゴブリンとは肌の色合いが少々違うだけの亜人が同じような耳障りな声で喚けば、二体のゴブリンは途端に罵り合いを始めたが・・・・

 

バチッ!!っと二体の鼻先で青白い火花が散った。突然の出来事にゴブリンの長二人は悲鳴を上げて飛び退った。

 

「暗黒術師ギルド総長、ディー・アイ・エルと申します。我が配下の術師三千、そして私の心と体は全て配下のものですわ」

 

ゆるりと立ち上がった女が、実に艶めかしい仕草と声で一礼した。オイルでも塗り込んでいるかのように輝く褐色の肌を黒い光沢のある革で申し訳程度に隠し、履いているブーツは針のように細いピンヒール。背中には黒と銀に輝く毛皮のマントを羽織り、その上を豪奢なプラチナブロンドの髪が腰下まで流れている。

豊満な肢体と妖艶な美貌を誇示するような姿勢の女に反応したのは、後ろにいる騎士だった。

 

「暗黒騎士団長、ビクスル・ウル・シャスター。我が剣を捧げる前に・・・・皇帝陛下に問いたい」

 

最後に名乗ったのは人間には抜きん出た体つきの、壮年の男だった。

 

「今この時に、玉座に戻られた皇帝陛下の望みは、奈辺にありや」

 

単なるプログラムではありえない、その問いかけにベクタは冷ややかに応える。

 

「血と恐怖。炎と破壊。死と悲鳴」

 

切削された金属のような硬質な声で紡がれた言葉が玉座の間に響いた瞬間、十候たちの表情が引き締まった。ガブリエルは十人の表情を順番に見やり、マントを翻して玉座から立ち上がった。その口から、あたかも本心であるように偽った征服欲に満ちた台詞がほぼ自動的に零れた。

 

「余を天界より追い払った神どもの力溢れる西の地。その護りたる《大門》は今まさに崩れ落ちんとしている。故に余は戻って来た・・・・我が威光をあまねく地上に知らしめるために。大門が崩れ落ちたその時こそ、人界は我ら闇の民のものとなるのだ!」

 

ガブリエルの演説に、後ろにいた騎士が興味深くベクタを見る。『あんた、先導者のセンスもあるな』と。

 

「余が欲するのはただ一つ。時を同じくして彼の地に現れる《神の巫女》ただ一人! それ以外の人間どもは望むままに殺し、奪う事を許そう! 全ての闇の民が待ち望んだ――約束の時だ!!」

 

しん、と静まり返った空気。そのすぐ後、雄叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

オブシディア城最上階にある皇帝の居室。そこではニヤニヤしながらワインを飲む騎士ことヴァサゴ・カルザスは笑っていた。

 

「まさか、あんなことが出来るとはな。役者にでもなっていた方が良かったんじゃねえか?」

 

「必要に応じたまでた。お前も覚えておいた方がいいんじゃないか?」

 

そう言うとヴァサゴは乾瓶を覗きながら言った。

 

「しかし、すげぇな。この瓶もまるで本物だ」

 

「その代わり斬られれば痛いし、血もでる。ここはペイン・アブソーバーが効いていないらしい」

 

「それが良いんじゃねぇか」

 

聞けば、アカウントのリセットも効かないのでこの姿も一回きりしか使えないそうだ。まぁ、目的は《アリス》の回収なので問題ないが・・・・

そう思うと自分は王冠を取り外して一息吐いていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

同じ頃、帝城のある廊下では一人の女性が足止めを食らっていた。

 

「何をしている・・・・!!」

 

視線の先にいたのは銀色に縁取られたダブルブレスト型の赤黒い軍服の上に軍帽を深く被った青年が女性を塞ぐように立っていた。すると青年はリピアと呼ばれる暗黒将軍に部下の一人に向かって言った。

 

「今、皇帝ベクタのところに行くのは得策では無い」

 

「なぜだ?」

 

「君に皇帝を()()事は出来ないからさ」

 

「っ!!」

 

リピアは目の前にいる青年に異常なまでの警戒をした。無意識に剣に手を当てている程には・・・・すると青年は白い手袋をつけた両手を上げながら降参のポーズを取りながら言う。

 

「君が何を思っての行動かはわからないけど、『君子危に近寄らず』さ。今ここで君が死なれても困る。それに・・・・」

 

「?」

 

「あの男は危険だ。この世界にも、()()()()()()でもな・・・・」

 

「っ!!??」

 

皇帝のことを男呼ばわりする目の前の青年に驚愕せざるを得なかった。皇帝を恐れないその心意気に一種の畏怖おも感じてしまった。

 

「お前は・・・・一体・・・・」

 

そう問うと、青年はフッと口角少し上げて答える。

 

「名も無きちっぽけな()()だ・・・・さ、来た道を元に戻りな。世の中生きている方が大事なんだから」

 

そう言うと青年は悔しがりながら廊下を戻っていく自分を見送っていた。そのすぐ後に青年は安心した様な表情を浮かべて廊下から忽然と消えていた。




『創世日記』94ページより一部抜粋
ダークテリトリーを旅するステイシア様一行。その道中、ベクタと名乗る男がステイシア様に戦いを挑んできた。
戦いが起こった。それも激しい戦いが。三日三晩続いたステイシア様とベクタの戦いはついに終わりを迎えることなく終結した。そして、この戦いの影響でダークテリトリーと人界は完全に分けられてしまった。今までのステイシア様の努力は水の泡となってしまった。その悲しさからステイシア様は人外にお戻りになり、閉じこもってしまった。

誰とも会おうとしないステイシア様に毎日会おうと試みる者がいた。
それは旅の初めにステイシア様との旅に同行させて欲しいと願い、ステイシア様と共に人界にやって来た唯一のダークテリトリー出身の人間、ヴラッドだった・・・・


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#24 助言

「では、これより軍議を始める」

 

ファナティオさんとカーディナルさんが壇上に立ち、話し始める。

 

天幕にはベルクーリさんや整合騎士たち、補給部隊や治癒部隊、神聖術部隊の長が集まり、アリスに連れてこられた自分はアリスの一段後ろで話を聞いていた。

 

「この四ヶ月で多くの作戦をカーディナル殿と話してきましたが、現状の戦力で敵勢力を押し留めることは困難です」

 

それはこの場にいる整合騎士の数が物語っていた。戦力の要であるはずの整合騎士の数が十三人しかいないのだ。どうやら、チュデルギン『記憶に問題がある』と称し、整合騎士以前の記憶を取り戻しそうになった者、もしくは、整合騎士として不適合だった者に対し、再調整と称した精神魔法をかけたそうだ。つくづく彼奴らは余計なことしかしないと内心舌を打ちつつ、話を聞いていた。

 

「我が軍5千人に対し、敵は5万。このまま戦えば苦戦どころか帰ってこちらがやられてしまう」

 

「そこで我々はブレイド・ソド・ワラキアの残した本に則り、東の大門に続く渓谷に防衛戦を展開することにした。縦陣に槍や盾を持たせた部隊を配置。防錆線を敷きながら投石器を使って突撃してくる戦力を削っていく。これが基本じゃ。渓谷内にはいくつか罠も仕掛けており、敵の戦力を少しでも減らしていく」

 

「何か質問は?」

 

ファナティオにそう言われ、一番に手を挙げたのはエルドリエさんだった。

 

「迎撃に関してですが、敵軍には大弓を装備するオーガの軍が、そして、一層危険な暗黒術師団も存在します。それらの遠距離攻撃にはいかなる対応をするつもりですか?」

 

「これは危険な賭けですが・・・・峡谷の底は昼でも陽光が届かず、地面には草一本生えていない・・・・つまり空間神聖力が薄いのです。

そこで、開戦前に我らが根こそぎそれを消費してしまえば、敵軍は強力な術式を撃てなくなるでしょう。

もちろんそれは我が方も同じ道理です。しかし、こちらにはそもそも神聖術師は百名程しかおりません。術式の撃ち合いとなれば、神聖力の消費量は敵方の方が遥かに多い筈です」

 

「・・・・成程。副長殿の言は正しかろう。しかし、神聖力が枯渇してしまえば、傷付いた者の天命の回復すらできなくなるのではないか?」

 

「それはご尤も。しかし、そうでもしなければ敵が神聖術を使ってこちらの防衛戦に穴を開ける可能性がある。だからカセドラルの宝物庫から高級触媒と治療薬をかき集めて持ってきた。これで三日・・・・いや、五日はもつじゃろう」

 

そう言うと色々な人から幾つかの質問を受け、それに返答するカーディナルさんとファナティオさん。するとアリスが質問をした。

 

「カーディナル殿・・・・いかにソルスとテラリアの恵みが薄いと言っても、あの谷には長い年月の間に膨大な神聖力が蓄積されていると話だった筈です。それを一体どのようにして一気にかつ開戦前の短時間で根こそぎ使い尽くすというのですか?」

 

「・・・・それはできるのは唯一人・・・・お主じゃ、アリス」

 

「えっ・・・・!?」「!?」

 

自分も、アリスも驚いてしまった。その役はてっきりカーディナルさんがやると思っていたからだった。するとカーディナルさんは続けた。

 

「気付いておらぬじゃろうが、お主の力も整合騎士の範疇には収まらないものになっておる・・・・下手をすれば、わしと同格かそれ以上かもしれぬ。だからこそできる筈なのじゃ、神の如く天を割り、地を裂く強大な術を使うことがのう・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

軍議後、僕はアリスと一緒に歩いていた。それはカーディナルさんがアリスに術式を渡したこともあったが、その後に続けられた指令に若干の困惑をしていた。

 

『ユージオは全体の戦況を見て、敵の進軍に穴を開けて欲しい』

 

その為にアリスと共に空に上がって欲しい。と、そう言われ、僕は困惑しつつもそれを了解していた。現在、僕たちは防衛戦を行うという渓谷の陣地を見に訪れていた。

 

「・・・・ユージオ」

 

「っ!?どうしたの?」

 

アリスから話かけてきて少し自分はびっくりしてしまった。さっき怒っていた事についての話かと思っていたが、どうやら違うようだった。

 

「さっきの話。ユージオはどう思っているの?」

 

「さっきの話?」

 

そう、問いかけるとアリスはさっきカーディナルさんに割れていたことを呟いていた。

 

「『神の如く天を割り、地を裂く強大な術』、それを私に使えるのかなって言う・・・・」

 

「あ、あぁ・・・・」

 

なんだそう言う事か。と思ってしまった僕は内心ほっと思いながらアリスに向かって言った。

 

「出来るよ。アリスは・・・・」

 

「どうして?」

 

「アリスは昔から神聖術が上手だったから」

 

「・・・・」

 

それでも心配と言った表情を浮かべるアリスに僕は思った事をふと呟く。

 

「それに、『無理が通れば道理も引っ込む』って言うしね。僕とアリス、キリト達でカセドラルを登った事だって無茶の一つだ。それに・・・・最高司祭を倒した事だって無茶の一つさ。

だから、僕は思ったんだ。どんなに無謀なことでも、どんな無茶でも、誰かを想う気持ちがあればきっとそれは叶うって事にね」

 

「・・・・」

 

「だから僕はアリスが出来ると信じている」

 

「っ//それは・・・・」

 

いきなりの話にドギマギする自分にユージオは意を結したような表情で言った。

 

 

 

「・・・・アリスに何があっても、僕が守るよ」

 

 

 

ユージオの宣言に、私は小さく頷くとユージオに向かって言った。

 

「・・・・ええ、お願いね」

 

そう言い、ユージオと私は優しく微笑んだのだった。

 

「(これで、さっきのことはチャラにしようかな・・・・あ、でもやっぱりダメ。あの子の目はユージオを狙っていた目をしていたから・・・・)」

 

ユージオを見てアリスは内心そんな事を思っていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「(凄いな・・・・これ全部罠なんだ・・・・)」

 

ユージオは渓谷内に無数に置かれたものを見て思わず呟く。東の大門の前から格子状に組まれた拒馬という障害物や、狼穽という落とし穴まで作られていた。下手に歩くと罠に引っかかるからと、言われた場所から出てはいないが、おっかないと思っていた。視察を兼ねてカーディナルさんにお願いしていたが、かなり堅牢な作りになっているようだった。

視察を終え、そのまま自分用の天幕に歩き、中に入った。

 

「ふぅ・・・・」

 

この戦争は勝てるのだろうか。

 

ふとそんな疑問が浮かぶ。東の大門から侵攻して来るダークテリトリー軍を迎え撃つ。相手はこちらの十倍、単純に一人頭十人は倒さなければいけない。少しきついのでは無いかと思ってしまう。そんな事を考えているとチリンという音と共に天幕に誰かがやってきた。

 

『ユージオ先輩。今、いますか?』

 

「あ、ああ。入ってきて」

 

『失礼します・・・・」

 

そう言い、天幕に入ってきたのは昼間に出会ったティーゼだった。僕は咄嗟にティーゼに紅茶を淹れて渡す。カップを受け取ったティーゼは少し間を置くとユージオに聞いた。

 

「ユージオ先輩。その・・・・アリス様とはどのような関係で?」

 

「え?」

 

「あ、いえ・・・・アリス様を親しくされていたようなので。どのような御関係なのかと思いまして・・・・」

 

ティーゼの問いにユージオはどう返答したものか困ってしまった。

 

「(どうしよう・・・・)」

 

ユージオはさっきアリスと話した時に感じたものを思い返す。

 

「(きっとアレが()と言うものなんだろうか・・・・)」

 

ユージオはそう思ってしまい、ティーゼにどう答えようか困ってしまった。

 

「(こんな時、ブレイドがいたら・・・・)」

 

そう思ってしまった。普段から色々と相談事にのってくれて、信頼できる友人に今の悩み事を聞いて欲しかった。だけど・・・・

 

「(ブレイドだったら『自分で決めろ』って言うのかな・・・・)」

 

基本的に人の内面の事情には干渉しないブレイドだからそんなふうに答えられるのだろう。どんなふうに言われようと、答えは出さないといけない。

 

「(だけど、ティーゼを傷つける事になってしまう・・・・)」

 

そう思った時だった。

 

『(本心を言うんだ)』

 

何もないところから聞こえた気がした。その声は自分が最も必要とする親友の声な気がした。思わずハッとなってしまったが、僕はすぐに平常心を取り戻す。

 

「(本心を言う・・・・成程・・・・()()()()が教えてくれたのか・・・・)」

 

そんな親友の助言に感謝しつつ、緊張した顔付きでティーゼに言った。

 

「ティーゼ・・・・」

 

「はい・・・・」

 

「アリスとはね・・・・幼い頃一緒だったんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、そう。アリスと僕は幼い時に一緒でね。ある出来事がきっかけで別れてしまったんだ」

 

「・・・・」

 

僕の話をティーゼはしっかりと聞いてくれた。その目に心が痛みつつ、僕は話を続けた。

 

「でも、こうして再開できた。僕にはそれがとても嬉しかった・・・・本当にね・・・・」

 

「・・・・」

 

「だから、もう二度とあんな事を繰り返したくないと思ったんだ・・・・僕にとってアリスはね・・・・

 

 

 

 

 

 

ずっとそばに居て欲しい、居たいっと想う存在なんだ」

 

 

 

 

 

 

「っ・・・・!?」

 

僕の言った事に衝撃を受けた様子のティーゼ。行ってしまったと後悔する僕。するとティーゼは徐に立ち上がりながら言った。

 

「そう・・・・だったんですね・・・・」

 

するとティーゼは席を立って天幕を後にするように歩き出す。

 

「・・・・教えてくださって・・・・ありがとうございました・・・・失礼しました・・・・」

 

そう言い残すとティーゼは天幕を後にした。残った僕は名前を呟くことしかできなかった。

 

 

 

「ごめん・・・・ティーゼ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

天幕を出たティーゼは人の少ない場所で泣いていた。

 

「先輩・・・・先輩・・・・」

 

ユージオとアリスの関係を知り、自分は納得しつつも悲しかった。アリスがユージオに向けていた視線は自分と同じものだった。だから多分とは思っていたが、いざ言われると込み上げて来るものがあった。

人知れず泣いているとふと真横に誰かが座っている事に気がついた。するとその人は自分に向かって呟く。

 

『ユージオも君を嫌って言ったんじゃないさ。彼も彼なりに苦労をしていたのさ』

 

その声は少し曇っており、普通であれば怪しむはずだが、ティーゼは不思議とその優しい口調からか思わず答えてしまう。

 

「でも・・・・」

 

『ユージオは優しい子だ。それに・・・・片思いの恋というのもロマンチックでいいじゃないか』

 

「ロマンチック・・・・?」

 

聞きなれない言葉に疑問符を持つと横に居た人が答える。

 

『美しい恋を指すような言葉だ。今の君にはピッタリだと思う。本当に愛する人がいるなら、ずっとその人の事を想っていれば良い。例えそれが実らなくても、愛と言うのは消えないからな』

 

そう言うと横に座っていた人はたち上がりながら言った。

 

『じゃあ、私は行くよ・・・・ティーゼ。ユージオが好きなら、好きなままでいると言うのも一つの手だぞ」

 

「っ!?」

 

立ち去る寸前、私は鮮明に聞こえて来たその声の主を聞いて、ハッとした。

 

「じゃあな、マリー達によろしくと言ってくれ」

 

咄嗟にその方を見ると既にその姿は人の喧騒の中に消えてしまっていた。ティーゼはその声の主に驚きながらその者の名を呟いていた。

 

 

 

 

 

「ブレイド・・・・・先輩・・・・・??」

 

 

 

 

 




『創世日記』130ページより抜粋
ヴラッドは非常にステイシア様の事を気にかけていた。それもそうだろう。旅の初めにステイシア様に拾ってもらい、人界に唯一ついて来たダークテリトリー側の人間なのだから・・・・
ヴラッドは毎日のようにステイシア様の住む場所に赴き、様子を気にかけていた。その優しい心にステイシア様もご理解なさり、ヴラッドには他の職者よりも手厚い対応をなされた。だが、ダークテリトリー出身という事もあり、ヴラッドを嫌う者も少なからずいた。
そんな彼を守るためにステイシア様は彼を助ける手段をお与えになった。


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#25 開戦の火蓋

「それじゃ・・・・キリトのことを頼むね」

 

「「「はいっ!!」」」

 

僕はそう言い、ティーゼ達に挨拶に来ていた。昨晩、ティーゼに失恋をさせてしまった僕だったが、ティーゼはどこか吹っ切れた様子を浮かべながら僕を見ていた。横ではアリスが不思議そうな目をしながら僕とティーゼを見ていた。僕も今までの間に何かあったのかと思いつつも、僕は意識を東に向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主戦場となる渓谷。そこにはブレイドが残してくれた本のおかげで強力な防御陣地が完成していた。

 

東の大門の前には複数の部隊が立ち並び、第一陣中央をファナティオさんが、右翼はエルドリエさんが、左翼はデュバルソードさんがそれぞれ指揮官を勤めていた。

第二陣にはベルクーリさんや他の整合騎士がおり、その後ろには学生などの志願兵で構成された部隊が待ち構え、最も奥の場所に投石機の部隊がいた。そしてキリトはそこにいてティーゼ達が護衛をしていた。

そして自分はアリスの飛竜に乗って空から戦況を眺めていた。これから始まる戦いの為に・・・・

 

「ユージオ、大丈夫?」

 

「あ、あぁ。大丈夫……」

 

「・・・無理はしないでよ?」

 

「分かっているよ」

 

アリスと短い会話をし、僕は眼下に広がる景色を見ていた。

 

「(僕に出来るだろうか・・・)」

 

そんな若干の不安がユージオの脳裏を横切る。自分に課せられた任務は飛竜に乗って苦戦している場所に援護に向かう事。この為にアリスの飛竜から安全に降りられるように風素の練習を繰り返していた。そして与えられた任務から自分は恐らく休む暇すらないだろう。下手をすれば死んでしまうかもしれない。この戦いは一瞬の油断が生死を分ける。気を抜いてなぞ居られない。

 

「(キリト、ブレイド・・・)」

 

思わず心の中で僕は親友達の名前を呟いてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「始まるか・・・」

 

後方部隊のとある天幕の前で一人の赤いフードを被った男が東の大門を眺めながら呟く。彼は赤を基調とした軽装備と服で、体を覆う赤いマントが特徴的で、顔は暗くてよく見えなかった。

すると遠くで拡声魔法か何かを使い老練な男性らしき声がし、武装した兵士や前方に居る若い兵士達。その中にはさっきまで彼を守っていた少女達も居た。少女達が外に出たのを見た私は天幕の中に入り、その中にいた一人の黒髪の青年を見る。青年は虚な目で自分を見て、両手には二本の剣と一丁の銃を抱えていた。私はそのうちの一つを抜き取ろうと手を出す。すると青年が若干の抵抗を示した。ある意味で予想通りの反応に私は一息吐くと青年に向かって言った。

 

「ーーー彼が帰って来たら返すつもりだ。だから、一時的に私に貸してくれ・・・キリト君」

 

「・・・・・・」

 

目の前にいる青年。キリトは薄い反応を示すと剣に込めていた力をスッと抜いた。私はキリトから流星のサーベルを借りると腰に差し、彼の膝の上に一枚の紙切れを残して天幕を後にする。外では大門が紫色に光だし、『FINAL LOAD TEST』訳せば『最終負荷実験』と言う単語が浮かび上がって天命が急激に減っていた。それを見た私は一言呟く。

 

「やれやれ、比嘉君も酷い事をするもんだ。いや、この場合は叔父や爺さんが関わっているのかな?・・・兎も角、向こうで頑張れよ」

 

そう呟くと男は何処かに消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東の大門が崩壊し、向こうから砂塵・・・ダークテリトリーの部隊が攻め込んできた。

 

「第一陣、第一部隊。総員構え!修道士隊、治癒術式の詠唱を開始!」

 

ファナティオさんの指示の元、衛士達が槍や盾を片手に姿勢を取る。この数ヶ月で鍛え上げられた衛士達は突撃してくるダークテリトリー軍に息を呑んだ。ゴブリンの小刻みな足音、オーガの間のある大きな足音。大槌を叩きつけるようなジャイアントの進む音。

今にも逃げ出してしまいたいほどの緊張が場を駆け抜ける。しかし、彼らが逃げないのはその先に立つ三人の整合騎士がいたからだった。

 

右翼には《熾焔弓》デュソルバート・シンセシス・セブン。

中央には第一陣を指揮する《天穿剣》ファナティオ・シンセシス・ツー。

左翼には《雙翼刃》レンリ・シンセシス・トゥエニセブン。

 

三人の整合騎士は逃げも隠れもせず、只ひたすらにダークテリトリー軍を待ち構えていた。彼らに守りたいと思える者は居ない。それらは全て最高司祭によって黄金の剣に変えられてしまったからだ。記憶を返され、それぞれの大切な人の記憶が戻った彼らの拠り所は記憶を返される所以の二人の青年にあった。自身の記憶を呼び戻し、最後に夢を見せてくれた二人にあった。

そんな三人は前を進んでくるダークテリトリー軍を見ていた。

 

「(そろそろか・・・)」

 

ファナティオそう感じると、奥の方から悲鳴に近い声が聞こえて来た。

 

『ナンダッ!?』

『ウワァァァァアアッ!!』

『ワナダッ!』

 

何かが突き刺さる音や壊れる音、ダークテリトリー軍の悲鳴が聞こえて来て罠が上手くいったのだと理解した。そこでファナティオは指示を出す。

 

「投石開始!上から降ってくる石に気をつけろ!」

 

そう叫ぶと後方にいた投石部隊が一斉に投石を開始した。放たれた石が前方のダークテリトリー軍に落下し、接近してくるゴブリン達は降って来た石によってズタズタにされた。その様子を見てある者はその流れる血に嫌悪感を抱き、またある者は倒されていくゴブリン達を見て戦意が高揚していた。

 

現実世界でも中世は槍や剣よりも投石が最も強い戦法だったと言われている。拳ほどの大きさの石でも投げれば甲冑を潰すほどの威力があったと言われており、現代でもデモなどが起こった際に機動隊が最も警戒するのがコンクリートやレンガなどを投げられる事だと言う*1。投石は投石具などを使えば簡単な訓練をするだけで強力な武器となり、筋力もそれほど要らないことから後方から安全に攻撃できると言うメリットがあった*2。戦国時代に兵士が陣笠を頭に被っていたのも降ってくる石を見えなくする為だと言われている。それほどまでに簡単に殺傷できる武器の為、投石部隊は徴兵した中でも比較的高齢な者達で構成されていた。

投石部隊は若い者には負けんと言わんばかりに投石をし、前線に石を送り続けた。しかし、物量で押してくるダークテリトリー軍に徐々に押され始め、遂に第一陣の前まで辿り着こうとしていた。

 

デュバルソードは《熾焔弓》を構え、詠唱を唱える。ファナティオは《天穿剣》を片手で強く握り、両足を大きく開いて目標を捉えた。目標は突き進んでくるジャイアント族。あの投石にも耐えうるその巨体は血を流しながら前進していた。ジャイアント族は味方ですら内心見下すほど誇り高き種族。よってその長を倒せば動揺も大きくなるだろうと予測していた。

 

「エンハンス・アーマメント!貫けーーー光よ!」

 

その瞬間、空気を切り裂く音がし、ソルスの力を圧縮した眩い熱戦が戦場を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空で戦況を見ていた僕は背中に何か冷たいものが走った気がした。これは嫌な事が起こる前兆だと言うことだと理解し、アリスの飛竜から前線全体を見回す。するとファナティオさんの目の前にジャイアントが突撃して、今にも殺す勢いだった。

すぐさま僕は飛竜から飛び降りてジャイアントを殺す準備をした。しかし・・・

 

「(間に合わない・・・!!)」

 

そう思い、少し苦手だが神聖術を唱えようとした時、ファナティオさんの前に一人が飛び出した。それは僕がカセドラルで対峙した四旋剣の一人、ダギアさんだった。彼女はジャイアントの鎚の攻撃を真正面から受け、持っていた剣が壊れ、身体中に骨折と内出血を起こした。

 

「ダギアッ!!」

 

「ファナティオ様、今の内に・・・」

 

そう言うダギアにまた鎚が振られる。ダギアはもうダメかと思った。最後に憧れでもあり主君でもある副騎士団長を守れた事に誇りを持っている。と思っていた。その時、

 

「はああぁぁぁぁぁ!!」ザシュッ!!

 

空から青い服に身を纏った青年が飛び降りでジャイアントの真上から直剣を刺した。そのジャイアントは鎚を落として少し後ろに下がった。その間に僕は重傷のダギアさんを見た。

 

「(思っているより酷い怪我だ・・・)早くダギアさんを後ろに!治療を受けさせてください!」

 

咄嗟の判断で人を呼ぶ。その間ファナティオさんは重傷のダギアさんに声をかけていた。

 

「ダギア!」

 

「ファナティオ様・・・ご無事の、ようで・・・」

 

「喋るな!すぐに治療を受けるからな!」

 

息があるようで安心していると前方からまた声がして来た。

 

「・・・ロス、コロス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスーーーーー!!!」

 

呪詛のように同じ事を言うジャイアントに、僕は思わず後退りしてしまう。これ程の圧を感じたのは初めてだった。するとジャイアントは僕を気にも止めずファナティオさん目掛けて突撃する。

 

「お前の、相手は・・・僕だ・・・!!」

 

そう言うと青薔薇の剣を持って僕はジャイアントの背中に打撃を入れて注意を引こうとする。しかし相手の固い体に阻まれ、致命傷を与えられなかった。

 

「(どうする、どうすれば・・・)」

 

そう考える僕は息を呑んで足を踏み込んだ。

 

「(やって見るか・・・)」

 

ユージオはジャイアントの後ろから足元、体で言うところの腱を狙った。そこを切られれば歩くことができないと昔ブレイドから教わった事がある。それを見様見真似でやってみる事にした。

 

「うおぉぉぉぉぉおおお!!!」ザッザッ!!

 

足元の後ろから《ホリゾンタル》を使って両足の腱を切るとジャイアントは歩く速度が少し遅くなり顔をこちらに向けた。

 

「コノヤロウ、オレサマノジャマヲシヤガッテ・・・コロシテヤルゥ!!」

 

「やっとこっちを見たか、デカブツ・・・」

 

そう言うと僕は剣を片手にジャイアントの攻撃を退けた。

 

「(ファナティオさん、今の内にっ!!)」

 

ユージオはジャイアントの後ろにいるファナティオさんに意思を届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージオがジャイアントの攻撃を受け止めている。だが、体が動かなかった。いや、ダギアに大怪我を負わせてしまった事に罪を覚えてしまったのだろう。罪悪感からか、足が竦んでしまった。そんなダギアを救ったのは年端もいかぬ若者だ。情けないと思ってしまった。

しかし、なぜだろうか。ジャイアントの攻撃を防ぐユージオを見て奮い立つ自分もいた。

 

「(私は・・・部下を傷つけた・・・自分のせいだ・・・だからこそ・・・)」

 

どことなく心が洗われていく様な感覚になったファナティオは《天穿剣》を握って後ろを向くジャイアントに剣を振った。

 

「・・・地の底に帰れ」

 

そう言うと共にジャイアントの首元を斬った。首が宙に舞い、ジャイアント達の前に飛ぶ。首を刎ね飛ばされたジャイアントは血を流しながら倒れる。その光景に全員が静粛に包まれた。そんな中、ファナティオは光る剣を掲げながら叫んだ。

 

「第一中央部隊、前進しろ!!敵を押し戻せ!!」

*1
作者が機動隊員の人に聞いて知った。

*2
ヨボヨボ爺さんが投げても初速140km/hくらい出る




『創世日記』131ページより抜粋
ヴラッドはステイシア様からある少女を紹介された。少女はソルントゥムと言い、ステイシア様は周りからの当たりにも負けずに暮らしているヴラッドと共に暮らすよう提案なされた。
ヴラッドとソルントゥムは互いに意気投合し、人界のとある場所で暮らし始めた。ステイシア様もその様子をご覧になり、二人の生活を喜ばれていた。そして、二人はそのまま幸せに暮らすものかと思われていた。


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#26 二羽の神鳥

「・・・始まった・・・」

 

整合騎士レンリ・シンセシス・トゥエニセブンは何かが飛ぶ音や爆発音を聞きながらポツリと呟く。

彼は左翼を担ういわば主力の指揮官だった。しかし、彼が今いるのは本来いるはずの最前列ではなく、後方の天幕の中だった。

 

逃げ出したのだ。

 

少し前に開戦直後の喧騒の最中に走り去り、無人の天幕を見つけてそこに隠れていたのだ。彼がそんな暴挙に出てしまったのは理由があった。

 

 

 

失敗作

 

 

 

最高司祭アドミニストレーターにそう言われた彼はトラウマを持っていた。自分の多くの人の命を背負える程の気持ちが持てなかった。自分はディープフリーズ状態から復活し、貴重な戦力として指揮官をする事になったが、逃げ出してしまった。自分は天幕で蹲っていると少女達の声が聞こえてきた。

 

「ティーゼ、見つかった?」

 

「ううん・・・」

 

「どこに行ったのかな・・・」

 

そう言いながら天幕に入ってきたのは三人の少女だった。だが、レンリの視線はその中央の赤毛の少女が引いている椅子にあった。車輪がついた椅子には一人の黒髪の青年が虚な目で座っていた。その手に持っている剣と見た事ない形をした棒状の物だった。レンリはこっそり見ていたつもりだったが、ティーゼに見つかってしまった。ティーゼが剣の柄に手をかけようとした時、レンリは掠れた声で手を上げた。

 

「敵じゃないよ。驚かせるつもりはなかったんだ、済まない」

 

「き、騎士様・・・!?失礼致しました!」

 

「いや、驚かせてしまった僕の方が悪い・・・本当に済まなかった」

 

そう言い、謝罪の連続になりそうなところで、レンリが溢す。

 

「それに・・・僕はもう整合騎士じゃない。戦場から逃げてきたんだよ・・・今頃、僕が指揮する筈だった前線の部隊は大騒ぎだろう…死者だって出ている筈だ・・・なのに、ここから動けないでいる僕が騎士なんかであるもんか・・・」

 

そう溢すと赤毛の少女は名乗った。

 

「申し遅れました・・・私たちは補給部隊所属のマリー・クルディア初等錬士と、ティーゼ・シュトリーネン初等錬士・・・そして、こちらが・・・キリト上級修剣士殿です」

 

キリト

 

その名前は各所で有名だった。二人の仲間と共に最高司祭を討ち滅ぼした者の一人で、現在前線で戦っているユージオの友人だと言う。初めて見るその体は痩せこけ、本当にあの人を倒したのかと思いたくなってしまうほどだった。するとティーゼが自分にある願いをしてきた。

 

「騎士様、そうか私たちに力を貸してください。私達は三人でゴブリン一人を倒すのがやっとなのです。私達はキリト先輩をお守りする任務を与えられましたので」

 

そう言ったその時だった。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!!」

 

つんざく様な悲鳴が聞こえ、四人はそれぞれの反応を示した。

 

「嘘、もうこんな所まで・・・!!」

 

「煙が・・・中から変な人影が!!」

 

「ロニエ!ティーゼ!来るよ!剣を!!」

 

すると煙の向こうから一匹のゴブリン、それも自分たちより一回り大きい体を持ったゴブリンが出てきた。

 

「ほおぅ、イウムの娘が三人…俺の獲物だぁ・・・」

 

「「「・・・」」」

 

三人が息を呑む。醜い見た目のゴブリンに剣先が震えていた。それを見たゴブリンは余裕そうにティーゼ達を見て舌舐めをする。

 

「ぐへへへへ、どう殺してやろうか…」

 

「さ、下がりなさい!それ以上近づけば、斬ります!」

 

そんな光景を見て自分はどうしようもできなかった。やることは分かっているのに、体が動かない。その時だった。

 

 

 

突如、ゴブリンの胸元から剣が突き出した。

 

 

 

「なんだぁ、こりゃぁ」

 

そう言うとともにゴブリンは倒れた。倒れたゴブリンの向こうに現れたのは青い軽装備の服装に身を包んだ一人の青年だった。

 

「みんな、大丈夫?」

 

「ユージオ先輩!!」

 

青年はユージオだった。レンリは思わずユージオを見つめる。するとユージオは自分を見て問いかけるように聞いた。

 

「レンリさん・・・ですか?」

 

「・・・ああ」

 

そう言うとユージオはレンリに向かって言った。

 

「左翼部隊は防備を固めました。しばらくはこれで保つはずです。しかし、ゴブリンの小部隊がすり抜けてここまで来ています。迎撃の準備をお願いします」

 

そう言われ、ユージオは剣を構えた。そんなユージオにレンリは問いかける。

 

「君は・・・どうして平然と剣を持てるんだい?どうして君は安易にゴブリンの命を積み取れるんだい?相手にだって人生があるはずなのに・・・」

 

その問いかけにユージオは間を置いた後に答える。

 

「・・・守りたいからですよ」

 

「?」

 

「友人や先輩、後輩や大切な人がいるこの世界を。・・・僕はずっと守られて来た。色んな人に・・・だから僕は他人の命を奪おうだなんて思ったこともありませんでした。だけど・・・・大切な人たちを守るために時には相手の命を奪わなければいけない時もあるって知ったんです」

 

「・・・」

 

するとユージオは少し疲れた様子で答える。

 

「僕だってこんなこと本心では望んでいません。だけど、守りたいものがあるから僕は剣を取るんです。現実はいつだって残酷で、非情です。だけど、そんな世界で這いつくばってでも生きるからこそ、そこに価値があるんだと思います」

 

その言葉には『覚悟』があった。とてもズッシリと来た。誰かを思う感情がこれほどまで強いのかと思うとレンリは思わず後退りしてしまう。

 

「あなたが剣を持つ理由はなんですか?守りたいものがあるからでしょう」

 

そう言われ、自分の脳裏に声が聞こえた気がした。それはかつての親友の声だった気がする。

 

『お前には出来る』

 

そんな声が聞こえた気がした。するとユージオはそんなレンリの様子を見て接近してくるゴブリンに向かって走り出した。

 

「では、また・・・」

 

そう言うとユージオは消えてしまった。咄嗟に外に出るとそこにが多数のゴブリンがおり、ユージオの姿は見えなかった。しかし、さっき言われた言葉が脳裏で再生される。

 

『守りたいものがあるからでしょう』

 

「守りたいもの・・・」

 

そう思った時、ふと自分の手に力が入った気がした。

 

「(あぁ、そうか・・・僕は・・・)」

 

そう思った時、今までとは違い、簡単に剣が抜けた。《雙翼刃》の刃がゴブリンを切り刻む。一瞬でゴブリンが倒されたことで周囲にいたゴブリンがレンリに意識を向ける。レンリは何がしたいのか分かった気がした。だからこんなにも剣が抜けるのだと。だからこそ、自ら高らかに名乗りあげた。

 

「ーー僕は、レンリ。整合騎士、レンリ・トゥエニセブン!このクビが欲しければ命を投げ出す覚悟でかかってこい!!」

 

かつて交わした、親友との約束を守る為に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

レンリは斬っていた。数多のゴブリンを切っていると死体の間を一人の大柄なゴブリンが歩いてきた。見た目からして明らかに他のゴブリンよりも装飾が多い。体のサイズで首長を決めるジャイアントと違ってゴブリンの首長は体格だけでは決まらないが、首長のゴブリンはその威を示すために多くの装飾品を身に着けるそうだ。

 

「お前がゴブリンの長か」

 

「ああ、山ゴブリンの族長コソギだ」

 

そう言うとコソギは辺りを見回す。

 

「あーあー、ずいぶん派手にやってくれたな。こりゃ、お前さんの首を取らんと割に合わんな」

 

「貴様の戦争もここまでだ!!」

 

「はっ、お前さんのやれるのか?」

 

そう言われ、レンリはスッと目を閉じて意識を集中する。

 

「(やってやるさ・・・)フゥ・・・」

 

息を整えるとレンリは構える。雙翼刃の弱点を無くす方法、それは武装完全支配術だった。この雙翼刃は左右の翼を失った神鳥だったと言う。その二羽の鳥は互いに体を繋いだ事で今までないないほど高い場所まで飛んだと言う。それはまるで今のレンリの様であった。過去に競い合った親友は剣技大会まで上り詰めた。だがそこで片方の翼は折れてしまった。しかし、記憶と思い出が彼にとって飛躍する引き金となった。

目を開くと両手に持つ二本の刃は大きく光だし、二羽の鳥が混じり合うように交差した瞬間。

 

「リリース・・・リコレクション!!」

 

レンリは記憶解放術を使った。解放された刃は夜空の星のように青く煌めかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まると、そこに頭と胴の分かれたコソギが倒れていた。雙翼刃を仕舞うとレンリは遠くの煙幕の中、そこに倒れる無数のゴブリンの遺体を見た。

 

「・・・侵入して来た敵は?」

 

「全部片付けたです!」

 

そう言うのは片手に短剣を持った少女、フィゼル・シンセンス・トゥウェニエイトだった。彼女はレンリが騎士のような顔つきになった事に感心しながらわざとらしく敬礼をした。するとレンリが答える。

 

「じゃあ・・・僕は部隊に戻るから、君たちも・・・」

 

「はぁい」

 

そう言うとレンリは自分の受け持つ部隊と合流するために走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、渓谷内奥地のとある場所

そこでは鮮血が散っていた。

 

「ナンダアイツハ!!」

「ツ、ツヨスギル・・・」

 

ゴブリン達が見ているのは目の前にいる一人の男にあった。片手に血のついたサーベルを持ち、足元には多くの仲間の死体が転がっていた。この先にあるのは補給用の天幕と、治療所や砲撃陣地や司令所・・・・この戦いで重要な場所が集まっていた。そこに辿り着く道を塞ぐように赤いフードを被った男は着いた血を振り落としながら角度によって色の変わる刀身を見せつける。

 

「・・・お命、頂戴致す」

 

そう呟くと赤いフードを被った男はサーベルを振って残ったゴブリンの頭を弾いていた。数分後、そこに残ったのはゴブリン部隊の骸だけだった・・・




『創世日記』132ページより
ヴラッドとソルントゥムが共に暮らしていたある日、ソルントゥムはヴラッドの様子がおかしな事に気づいた。
どこか挙動不審で、目も焦点があっておらず、彼に何か起こった事だけは理解できた。
ソルントゥムはステイシア様のところに赴き、ヴラッドを見てほしいと懇願し、ステイシア様と共に家に行くと其処にヴラッドの姿はなかった。

ヴラッドが消えてから数日後、彼は見つかった。恐るべき怪物となって・・・


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#27 光の巫女

最近、『極東事変』と言う漫画にハマってる作者。
全然読んでいる人が居ないからここで布教させて貰います。本当に読んでて面白かった。
使っている武器とかもちゃんとしてたし、絵もちょっと好み。


渓谷の東側の最奥。そこに居るのは皇帝ベクタの乗る豪華な馬車だった。その中にいる皇帝ベクタは戦況を聞いていた。

 

「どうやら向こうは投石をしているらしいな」

 

「ケッ、見てるだけってのもつまらねぇな」

 

そう、愚痴をこぼしていると暗黒術師ギルド総長のディー・アイ・エルにベクタは指示を飛ばす。

 

「《ミニオン》を出せ。コマンドは《七百メル飛行》、《地上に降下》、《無制限殲滅》だ」

 

「はっ」

 

そう言い残すとディーは馬車から降りて、ミニオンを飛ばすための準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を眺める暗黒騎士団団長シャスター。彼は内心、愚かだと思っていた。ぬらりと光る皮膚に、異形の頭部。剣のように鋭い翼を持ち、ごつごつの盛り上がった無骨な筋肉を持つ怪物であるミニオン。シャスターや他の暗黒騎士もこの怪物を嫌っていた。

 

 

百害あって一利なし

 

 

この怪物にぴったりな言葉だ。醜い体に、吐いた毒は土を汚し、敵味方ともに殺戮をする。まさに汚い爆弾(ダーティー・ボム)だ。そして、シャスターは確信していた。ベルクーリがそんな怪物の対策をしていない筈がないと・・・・あの男は人界最強、自分よりも長い時を過ごして来たが故に経験も豊富。ぽっと出の怪物など一瞬で蹴散らされてしまうのは目に見えていた。だから自分は()()()部下達を前に出さなかった。

 

 

 

ディー・アイ・エルを殺せ

 

 

 

それが()との取引だった。戦時中のリピアの安全確保の代わりに彼はディー・アイ・エルの抹殺を依頼して来たのだ。

帝城で準備をしている間にいきなり現れ。目元が見えず、見たことない格好をし、いかにも怪しい格好をしていたが、武器を何も持っていなかった事から取り敢えず話だけを聞き、利害が一致したからその依頼を受けていた。すると彼は自らを『調停者』と名乗り、己の望みを話し出した。

 

彼の望みはこの戦争の早期終結。そして、人界との融和だそうだ。荒唐無稽の様に聞こえる話だが、そんなのを真面目に考えているからこそ自分に話しかけて来たという。もし、そんな事が有れば其れは其れで素晴らしいと考えたこともあった。試しにそのプランを聴いてみると意外にも実現ができそうな内容で、興味が湧いた。彼の依頼を密かに受けると彼は去り際にこう言い残した。

 

『彼女は危険人物だ。アンダーワールドの秩序を乱す者だ。では、よろしく頼みますよ』

 

そう言うとその男は消えてしまった。あれ以来彼の姿を見たことはないが、何処となく()()()()()様な感覚がしてならなかった。

 

「(さて・・・・どうしたものか・・・・)」

 

シャスターは依頼をどう来なそうか考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー来たか」

 

ベルクーリは近づいてくる気配を感じた。投石部隊や罠、各部隊の奮戦のお陰で攻撃第一派は持ち堪えられそうだ。おまけに敵の指揮官を何人か倒したと言う報告も上がっている。結果としては上々だと思っていた。そこでベルクーリは常に空からの攻撃を警戒し、ついに現れた。これは暗黒騎士の乗る飛龍ではなく、もっと禍々しいもの・・・すると視界の先に八百体の『ミニオン』が迫って来ていた。其れを確認したベルクーリは落ち着いた様子で剣を持って構える。

 

「ーーーー斬ッッ!!」

 

振り下ろせば、前方の上空に無数の白い光条が立体的な格子を描いて瞬いた。続いて奇怪な断末魔の悲鳴が大合唱のように響き渡り、ミニオンのどす黒い血の雨が敵第一陣へと降り注ぐ。彼らは突如降り注いだそれがミニオンの血であると理解した。ミニオンの血には弱い毒性が含まれており、病を呼ぶと言われている。だからこそ、戦いの最中にあって無防備にその血を受けた事で、混乱が生じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くるるる・・・』

 

「大丈夫よ、心配しないで」

 

アリスは自分の飛竜である雨縁に囁く。その手は若干震えていた。無理もない、自分の与えられた役割である術式に使用する神聖力は眼下で起こっている戦闘で転がる無数の魔物の死体も含まれているからだ。味方や敵、双方の命が失われていく。其処で自分は実感した。感じる神聖力は全て皆平等に温かいのだ。それぞれの温もりを持っており、どちらの軍の者なのか判別は不可能だった。

 

我々はなぜ戦っているのだろうか。

 

こんなにも同じ神聖力を持ち、ただ生まれて来た場所が山脈の中か外かの違いなだけなのに、なぜ戦うのか。

 

『戦いに正義は存在しない。あるのは生か死か、その二択しか存在しない』

 

ユージオがブレイドに教わった言葉だそうだ。話された時は分からなかったが、今ならその理由がよく分かる。この温かみは自分がルーリッド村に戻ったあの時と同じだ。セルカに泣かれながら抱きつかれ、ユージオと三人で食事をした時なんかはさっきのことの様に思い出せる。其れと同じ温かみを、自分は感じていた。

 

「(こんな時、キリト達なら・・・)」

 

そんな疑問を浮かべていると雨縁が嬉しそうに声を上げた。

 

『ぐるるる!』

 

「?」

 

なんだろうと思っていると雨縁に青い服に身を纏ったユージオが飛び乗って来たのだ。

 

「きゃっ!!」

 

「おっと、ごめん。驚いちゃったかな・・・」

 

「あ、当たり前よ!!」

 

少し叱り声で言うとユージオはショボンとしていた。あぁ、いつも通りだと思うと私はユージオに聞いた。

 

「其れで、何でここに?」

 

「あ。あぁ、押されていた戦線は元に戻ったし、またここに戻って戦況を見ておこうって思って・・・」

 

そう言うと少し照れくさそうに頭を掻いてユージオは私の後ろに乗っかる。そんな彼に仕方ないと思ってしまうも、私はユージオに言う。

 

「じゃあ、私の神聖術。間近で見てよね」

 

「うん・・・頑張ってね」

 

そう言われ、少し気持ちが上がってしまったが。平常心を取り戻すと息を整えて術式を唱える。神聖力は十分、あとは発動するだけだ。ユージオがいる事で緊張しつつも、落ち着いて神聖術を発動する。

 

「咲け、花たち!エンハンス・アーマメント!!」

 

金木犀の剣の武装完全支配術を発動し、刀身が無数の小球に変化する。山吹色の群れを操りながら、私はその一言を言い放つ。

 

「・・・バースト・エレメント・・・!」

 

その瞬間、銀球は無数の光素から光と熱を膨大に生み出し、渓谷内の視界を真白にする。その直後、夜空を赤く染める大きな爆炎が広がった。

 

この攻撃で、亜人部隊の九割、オーガの弩弓兵の七割、暗術部隊の三割が損耗する結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨縁の上で、私はユージオを見ると。ユージオは『格好良かった』と言い、自分を褒めてくれた。その事に嬉しく思いながら地上に戻ると、其処ではファナティオさんが僕たちを待ってくれていた。

 

「・・・見事な心意でした。アリス」

 

「…はい」

 

聞けば相手の攻撃部隊は撤退を開始、残った主戦力は暗黒騎士団と拳闘士団らしく、現在は治癒士が治療などで大忙しだと言う。

すると、ファナティオさんが僕を見ると真剣な眼差しで言った。

 

「其れで・・・お疲れのところ悪いけど、団長と最高司祭代理がユージオを呼んでいたわ。其れも早急にと」

 

「わ、分かりました!」

 

そう言い、行こうとした所で僕は軽くアリスに腕を掴まれた。

 

「・・・何処にいくの?」

 

「ちょっとベクルーリさんやカーディナルさんに呼ばれたから行ってくるだけだよ」

 

「ふーん?」

 

やや怪しげに言うアリスは掴んでいた手を離すと僕を見送った。残ったアリスはファナティオにこう言われる、

 

「・・・初々しくて良いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルクーリさんに呼ばれて司令所のある天幕に入ると其処では多くの指揮官を務めていた整合騎士達が集まっており、その中にはあのレンリも含まれていたが。全員が全員渋い顔をして机の上を見ていた。

 

「ユージオ剣士。只今参りました」

 

僕はこの戦いの前にもらった階級を言いながら天幕に入るとベルクーリさんが手招きをした。

 

「休憩もなしに済まない。幾分急用でな」

 

「いえ、僕は大丈夫です」

 

「まっ、無理すんなよ」

 

そう言うとベルクーリさんは机の上に置かれたある紙を見せながらことの事情を話し出した。

 

「先ほど、補給部隊からの連絡でキリト剣士の持っていたはずのサーベルが無くなった」

 

「えっ、其れって・・・」

 

大問題じゃないかと言おうとした所、ベルクーリさんが続けた。

 

「しかし、サーベルの代わりにキリト剣士の膝にこの紙が置かれていた。そしてここには『暗黒神現る』の文字が書かれていた」

 

そう言うと紙を返してベルクーリさんは僕に文字の書かれた紙を見せた。其処には確かにペンで書いた様子の文字が書かれており、その字体に僕は見覚えがあった。僕は思わずその字体を見て呟いてしまった。

 

「ブレイドのだ・・・」

 

そう言うとベルクーリさんはやはりと言った様子で紙を机の上に置いた。そして、推測を語り出した。

 

「あの赤の坊主と関わりの深かった青の坊主ですら、本人のものだと思った・・・と言うことはこれは本人が書いたと見てまず間違いないだろう・・・で推測出来る事が二つ。一つは赤の坊主が生きていて、何処かにいる事。二つ目は皇帝ベクタが現れた事だ」

 

ベクタと言う言葉に天幕に入る全員が騒めく。そう、あのベクタである。創世記などに出てくる悪の化身で、空想の生き物と思われている人だ。

大体の指揮官はベクタが現れたと言う事実に驚きと驚愕していたが、僕や一部の人は違った。

 

「何で、ブレイドの手紙が今更・・・」

 

「そう、問題は其処じゃ」

 

「カーディナルさん・・・」

 

ユージオの疑問にカーディナルが寄って来て同じ様に疑問を感じていた。

 

「わしも、権限を使って捜索をしたが、彼の痕跡は見当たらなかった。お主、あれを書いたのがブレイドだと思うか?」

 

「・・・はい、あの書き方はブレイドしか見たことないですから・・・」

 

「・・・はぁ、何処だ何をしているのかと思えば・・・とんでもないものを持って来よって・・・」

 

若干愚痴るように頭を抱えるカーディナルさん。其れは僕も思ったが、こう言う時は大体裏で何かしているので深く詮索しない方が良いのは過去の経験から知っていた。と言うか、其れの巻き添えを食らった事があるから身に染みて分かっていた。

そう思っていると不意に僕はベルクーリさんから甘酸っぱい匂いを感じた。

 

「(なんか甘酸っぱいな・・・)っ!もしかして・・・」

 

ユージオはその時ふとキリト達と遊びでやっていた事を思い出した。其れは自分たちがザッカリアに行く途中、焚き火を囲んでいた時の話だった。

 

『蜜柑汁を紙に塗って乾かした後に火で炙ると塗った部分に文字か浮かぶんだ。だから密書を送る時とかに使えるんだ』

 

実際やってもらって面白いと思っていた事だった。その時の記憶を思い出し、ユージオは紙を手に取ると聞いた。

 

「ベルクーリさん、この紙。借りて良いですか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

そう言われ、少し離れた所にあった蝋燭の火で紙を少し炙ると小さな文字が真っ白な裏面に浮かび上がった。

 

 

 

 

 

『アリスを守れ』

 

 

 

 

 

この一言だけが書かれてあった。




『創世日記』134ページより
ヴラッドは歪な怪物となっていた。森の中で胸元に陣の様なものが浮かび上がり、息も絶え絶えにぐったりした様子で、血だらけだった。その反対側にはヴラッドの返り血を浴びた様子のステイシア様が泣きながらヴラッドの胸元に純白の剣を刺そうとしていた。

『すまぬ、今はこれしか出来ぬ』
『・・・・』

そしてステイシア様は剣を思い切り刺した。胸元を貫かれ、血を流しすぎたヴラッドは最後にステイシア様を眺めると笑みを浮かべて死んで行った。
ここ数日、人界で起こっていた民の血が吸われる事件の発端はヴラッドだったのだ。彼は暗黒神ベクタの罠にハマり、呪われ、人ならざるものに造り替えられてしまったのだ。その事にステイシア様やソルントゥムは深い悲しみを負われてしまった。


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#28 部隊編成

「アリスを・・・守れ?」

 

手紙に書かれていた事に疑問に思いつつ、ユージオは天幕に戻るとそこでは騒ぎが起こっていた。

 

「何があったんですか?」

 

僕はその場にいた一人に話を聞くと、どうやら僕が去った後、アリスのことを『光の巫女』と言って一人のオーガが倒れたらしい。そこれオーガがベクタが相手の指揮官をしているとも・・・

 

「とても信じられません・・・敵の証言とはいえ、神が復活したなどと・・・」

 

「それは俺も同じ気持ちだ、ファナティオ・・・だが、嬢ちゃん。そのオーガが言ったことが真実・・・ダークテリトリーに暗黒神ベクタが降臨したとして、そいつが光の巫女を求めていたとして、その巫女が嬢ちゃんのことだと仮定してだ・・・問題は、それが今の戦況にどう影響するかだぜ?」

 

そう言われ、思わず黙ってしまうアリス。だけど僕は脳裏にある単語が浮かんでいた。

 

ワールド・エンド・オールター

 

其れはキリトが半年前に水晶板越しに誰かが言っていた言葉だ。

 

ーー東の大門から出てずっと南へ・・・

 

その言葉を思い出した。ブレイドがいない今、キリトのことを聞くには其処に行くのが最良かもしれない。そう思って僕が提案をしようとした瞬間、アリスが提案した。

 

「小父様、私が敵陣を破ってダークテリトリーの辺境へと向かいます。敵が《光の巫女》を欲するのなら、追ってくるはず。十分な距離をとった所で残る敵陣を逆撃、殲滅してください」

 

その提案にその場にいつ殆どの人間が驚きの表情をした。

 

「しかしそれでは・・・」

 

カーディナルが一瞬だけ渋い顔をする。するとベルクーリは一旦閉じた目を開くと言った。

 

「代理殿、これは良策と思われますが・・・」

 

「うーむ・・・」

 

暫し考えたのち、カーディナルは答える。

 

「・・・仕方あるまい。しかし、この策を実行するのなら変更を加えてくれ。最低でも三、四割の戦力を分ける」

 

「し、しかしそれでは!!」

 

「いや、代理殿の判断は正しい。まだ戦力は多く残っている。敵を分断させる以上なるべく大きく動き必要がある。それに・・・」

 

するとベルクーリさんは僕を見ながら言った。

 

「横の青の坊主が意地でもついて行くだろうしな」

 

「えっ?!」「っ!?///」

 

するとベルクーリさんはさぞ面白そうに顎に手を当てながら自分を見た。

 

「まぁ、嬢ちゃんと青の坊主の話は置いといて・・・」

 

「(ああ、おいとかれるのね。まぁ、そっちの方が良いか)」

 

なんて思いながらユージオはベルクーリの話しを聞き、思わず唖然としてしまった。

 

「嬢ちゃんの部隊に俺もついて行くぞ」

 

「「・・・・・・えっ!?」」

 

突然の話に僕たちは変な声が漏れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗黒術師ディー・アイ・エルは死を感じていた。自分の立てた策が失敗に終わり、尚且つ多くの兵力を失った。これで罰せられない理由があろうか。そう思っていた。シャスターは自分が殺すまでもなくディー・アイ・エルは死ぬと思っていた。しかし、皇帝ベクタはその術式に必要な暗黒力が血や天命で出来ると知るとディー・アイ・エルに聞いた。

 

「三千も使えば足りるか?」

 

「は・・・?」

 

「・・・(まさかっ!!)」

 

シャスターはベクタの見た方向に彼が何を考えているのか戦慄した。

 

「あそこに居るオークの予備兵力の内、三千も使えば足りるかと聞いている」

 

続いた言葉に、ディーですら愕然と両目を見開く。深甚なる恐怖。しかし、それはディーの頭に染み込むと甘美な陶酔へと変わった。

 

「・・・充分でございますわ」

 

ディーは無意識のうちに皇帝のブーツに額を押し当て、囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬車を降りたディーを見ながらシャスターは先ほどの応答を思い返していた。

 

「(やはり皇帝・・・いや、あの男は我々を人ととして見ておらぬか・・・もしくは、命を知らぬようだな・・・)」

 

シャスターはベクタの吸い取られそうな心意を思い出しながら考える。あの男がいる限りこの戦争は終わらない。唯ならぬ決意を内に秘めながらシャスターは腹心の部下であるリピアを呼んだ。

 

「閣下」

 

負担より心配そうな声色でシャスターに呼び出した要件を聞くとシャスターは言う。

 

「リピア、俺に何かあった場合、暗黒騎士団を率いて人界軍に逃げろ」

 

「っ!?なーーー」

 

『何を言うのですか!?』と驚愕の声を出しかけたところでシャスターに口を塞がれる。

 

「ーーー俺はさっき、皇帝の真意を見たようだ。彼は俺たちを虫と勘違いしているらしい」

 

「っ・・・!?」

 

「少なくとも、俺たちが全滅しても《光の巫女》さえ手に入れればいいと思っている」

 

「そんなっ!!」

 

驚愕するリピアにシャスターは言う。

 

「少なくとも、皇帝を討たなければこの戦争は終わらない。だから・・・・」

 

「閣下がそれをなさると?」

 

ならば自分も行くと言おうとした時、シャスターはリピアの肩をポンと叩いて彼女に言った。

 

「これから忙しくなる。そんな時に種族の隔たりなく愛せるお前のような存在は必要不可欠だ。だから、お前を連れて行く気はない」

 

そう言われ、リピアは若干の驚きの声を出した。騎士となってから、月々の給金の殆どを投じて、未だ人買いの横行するダークテリトリーの僻地より親に捨てられた幼子を集め、学校に入れるようになる歳になるまで養育する保育所・・・言うなれば孤児院のような施設を運営しているという事実を知っていたと言う事に。

 

「リピア、君を愛した俺からの願いと命令だ。『生きろ』、生きてこの世界の行く末を見るんだ」

 

そう言うとシャスターは歩き出した。リピアは心の中でこれが最後とならない事を願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人目のない場所に移動したシャスターは何もない空間で名前を言う。

 

「・・・そこにいるだろう?・・・調停者」

 

そう言うと少しの間ののち、()が現れた。

 

「何か御用で?暗黒将軍殿」

 

補給用の馬車の影から調停者が現れた。するとシャスターは早速要件を伝えた。

 

「・・・人界側のベルクーリに話がしたい。依頼しても良いか?」

 

そう言うと調停者はシャスターに聞く。

 

「ちなみに理由は?」

 

「このままでは戦争は終わらない。ならばせめて生き残る確率が高い方法に頼ろうと思っただけだ」

 

「なるほど・・・そう言う事でしたか」

 

そう言うと調停者は答える。

 

「良いでしょう。私の本領発揮と言う事で。ああ、そちらから何も出さなくて結構です。これも融和へと進む一歩ですので」

 

そう言い、去ろうとした所でシャスターは言う。

 

「・・・最後にお前の名を聞かせてくれ」

 

そう言うと調停者は一瞬足を止めるとこちらを見返した。隠れた帽子の目元から血のように赤い光が漏れた。調停者は俺を見ると真意を察したようで、去り際に言い残した。

 

 

 

「・・・ノスフェラトゥと言います。では、またいつか」

 

 

 

「っ!?」

 

そう言うと調停者・・・もとい月神ノスフェラトゥはまるで霧のように消えてしまった。皇帝ベクタが降臨したから他にも何か起こるのではと思っていたが・・・

 

予想外の相手にシャスターは驚愕を心に押し込みながら持ち場に戻って行った。




『創世記』第一章四節より抜粋
ヴラッドは銀の杭によって絶命した。その骸はステイシア様とソルントゥムの手によって綺麗にされ、静かに埋葬された。
ヴラッドを失い、ソルントゥムは外との関わりを断ち、人界の人知れない場所にて家を構えた。
それから六日後、ソルントゥムは家で寝ていると窓が開き、そこから一人の青年が顔を出した。
そこにいたのはヴラッドだった。ソルントゥムはヴラッドが起きた事に驚愕と喜びをあらわにした。ヴラッドはソルントゥムを見ると微笑みながらこう言った。

『ただいま』

そう言うとヴラッドはソルントゥムと再会を果たした。彼はソルントゥムと会う為に己の体を再生した。今まで吸って来た民の血を使い、彼は『吸血鬼』となって再び蘇ったのだ。その事にソルントゥムは喜びをあらわにし、二人はひっそりと再び共に暮らすようになった。
そして、いつしか二人は天に最も近い場所で暮らした事からソルントゥムは《太陽神ソルス》、ヴラッドは《月神ノスフェラトゥ》と呼ばれるようになった。


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#29 戦場の光

『戦力を分散させる』

 

ベルクーリから発せられた命令に守備軍は驚いた。てっきり防衛戦をずっと展開するものかと思われていたからだった。分隊に連れて行く編成はアリス、ユージオ、ベルクーリ、シェータ、レンリを筆頭に千人の衛士、二百人の修道士、五十人の補給隊となった。

物資の輸送には四頭立ての高速馬車が用意され、その中にキリトやティーゼ達の姿もあった。

アリスはレンリさんを見て少し心配げに見ていたが、僕が大丈夫たと言うと納得してくれた。

 

アリスの飛竜の後ろに座り、離陸するのを待っている間、僕はずっと気掛かりなことがあった。

 

「(エルドリエさん。どうしたんだろう・・・・・・)」

 

いつもは饒舌で、僕の事を敵視することが多いエルドリエさん。それが今はいつになく寡黙だったのだ。その事に若干の疑問を感じつつも、ベルクーリさんが声を掛けた。

 

「よし、渓谷を出ると同時に竜の熱線を浴びせる。向こうには遠距離攻撃手段はほとんどないはずだが、竜騎士には気をつけろよ」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

「よし・・・出発だ」

 

そう言うとベルクーリさんが手綱を引いて彼の飛竜、星咬を飛ばした。地上では補給部隊や衛士達が走り、南にあるワールド・エンド・オールターを目指し出した。

飛竜に乗る直前、ベルクーリさんがファナティオさんに何か言っていたようで、ファナティオさんは少し驚いた様子を見せていた。一体何を話したのだろうかと思いつつ、僕はアリスを見ていた。その時だった。

 

「っ!?何、これ・・・」

 

「これは・・・術式の多重詠唱!?なぜ、この辺りの神聖力は尽きたはずでは!?」

 

するとベルクーリさんが吐き捨てるように言った。その中には驚愕も含まれているようだった。

 

「っ!?奴等・・・なんて真似を!?」

 

何が起こっているのかと思っているとベルクーリさんが答えてくれた。

 

「奴ら・・・足りない神聖力を補う為に味方を犠牲にしやがった・・・!!」

 

その事に驚愕する自分達。そして、自分たちの置かれた状況を把握した。狭い谷の中、無数の呪詛系遠隔攻撃が来ると言うことは避けられないと言う事だ。そして敵の大規模魔法が放たれ、眼前に迫りつつあった。

 

「・・・反転!急上昇!!」

 

ベルクーリさんが指示を出し、飛竜は急旋回する。四匹の飛竜はその身を翻し、悍ましい虫も反転した。しかし、

 

「ーーーいかん!!」

 

反転した虫は半分ほどしか居なかった。残りは後ろを走る補給部隊などに向かっていた。

 

「アリス!」「ええっ!」

 

「お前ら!その剣では・・・!!」

 

考えるよりも体が動いていた。僕たちはあの虫をどうにかしなければならない。なので少しでも注意を引く為に虫に接近しようとした。しかし、

 

「(このままじゃ・・・間に合わない・・・!!)」

 

そう思った時だった。五匹目の飛竜が流星のような勢いで谷の奥から飛び出して来た。それに乗っている人を見て僕たちは驚いてしまった。

 

「あれは・・・」

 

「エルドリエ!!」

 

突進して来たのはエルドリエさんだった。エルドリエさんは勢いを殺さず、そのまま直進して来た。その真意を感じた僕は叫んでしまった。

 

「エルドリエさん!あなたの武器では!!」

 

そう叫ぶとアリスもエルドリエさんが何をしようとしているのかを理解してしまった。しかし、エルドリエさんは剣を抜き、高らかに掲げた。

 

「古の大蛇よ!お前も蛇の王ならば、あれら如きの長虫の群れなど喰らい尽くして見せろ!!」

 

その咆哮と共にエルドリエさんは飛竜共々空高く舞い上がる。そして、エルドリエさんは霜鱗鞭の真なる力を解き放った。

 

「ーーーリリース・リコレクション!!」

 

そう言うと剣が大蛇へと変わり、ベルクーリまでも追っていた蟲全てがエルドリエさんを追いかけた。

 

「エルドリエ!!エルドリエ!!」

 

アリスはそう叫ぶも、蟲は徐々にエルドリエに近づき、そして蟲が彼の体を蝕んだ。エルドリエさんは地上に被害が出ない高さまで上がったのち、力尽きたように落下し、そして・・・

 

 

 

蟲共々爆発に巻き込まれてしまった。

 

 

 

「エルドリエェェェェェ!!」

 

アリスがそう叫び、落ちてくるエルドリエさんの腕を一緒に掴む。そして地上に降りた。

 

「エルドリエ!?目を・・・目を開けなさい!?許しません・・・勝手なことをして・・・こんな形で私を置いていくなど・・・!!」

 

「・・・師、よ・・・ご無事で・・・」

 

「ええ・・・ええ!無事でしたとも・・・!そなたのお陰で・・・私も皆も・・・私は言った筈です!私にはそなたが必要なのだと・・・!」

 

「エルドリエさん!今、治療しますから!!」

 

「もう・・・遅い・・・ダメなのはもう・・・分かっている」

 

確かにその通りだ。だが、それでも何かやらなくてはと考えを巡らせていた。しかし、何もできないとうう事実に僕は歯を食いしばってしまった。涙が溢れてしまった。

 

「アリス様・・・貴女は・・・もっと多くの人に必要とされて、おられます・・・私は、それを・・・独り占めしたく・・・だから」

 

「あなたが求めるものはすべてあげます!!だから、だから戻って来てください!!」

 

「もう、充分あなたにいただきました・・・ユージオ・・・」

 

「はい・・・」

 

僕はエルドリエさんに言われ、エルドリエさんの顔を見る。エルドリエさんは僕を見ると優しそうに微笑みながら言った。

 

 

 

「ユージオ・・・アリス様と・・・幸せに・・・良い、未来を・・・」

 

 

「エルドリエ・・・エルドリエ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「嫌・・・嫌ぁぁぁぁぁ!!」

 

木霊する声に応えるものは誰もいなかった。エルドリエさんの体は光の粒子となり、砕けて空に舞い上がった。

 

 

 

ーーー戦場にまた、一つの光が空に舞い上がった。

 

 

 

僕はそれを見て、戦争というものを改めて実感した。どんな攻撃を受けても、それを憎しみで返すのは間違いだ。出なければ数十分前にアリスの出したあの魔法はどうなるのか。

 

「(だからこそ・・・)」

 

僕は青薔薇の剣に手を当てる。そして視線は谷の奥を見た。すると後ろで『グルル』と飛龍の鳴き声が聞こえ、振り向くとそこにはエルドリエさんの飛竜だった《滝刳》が僕をじっと見つめていた。

 

「・・・乗れと?」

 

『グルル』

 

「・・・ありがとう」

 

そう言うと僕は滝刳に跨った。アリスは一瞬驚くもその理由を瞬時に察し、お互いに顔を見合わせた。

 

「・・・行こう」

 

「ええ」

 

お互いに頷くと二匹の飛龍は全速で谷を駆ける。

 

「(キリト、ブレイド・・・これで会っているんだろう?)」

 

ユージオはそう問いながらも谷を飛ぶ。やがて敵陣が見え、左側に暗黒騎士団を、右に拳闘士団、後方に予備兵力と思われるオークやゴブリン達を確認する。

 

「・・・見つけた!」

 

そして僕は暗黒騎士と拳闘士の間に挟まれた暗黒術師達を見た。さっき蟲を放った者達だ。容赦はしない。

 

「て、敵襲だ!!」「逃げろ!退避!退避!」

 

「ハァァァァァァアア!!」

 

敵陣の真ん中に飛び降り、剣を振る。混乱する場に僕達は容赦なく剣を振った。

 

「後方を狙え!今だ、撃て!」

 

アリスの指示の元、二匹の飛龍は奴らの退路をたった。

 

「ユージオ!」

「うん!」

 

互いに目を合わせ、僕は一瞬だけ降りて来た飛竜に飛び乗る。するとアリスが術式を唱えた。

 

 

「ーーーエンハンス・アーマメント!!」

 

 

 

そう言うと共に剣は幾つもの花となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディーは混乱と信じられないと言った表情だった。死詛蟲術は無駄に一人の命を奪っただけで終わり、さらに自分の部隊を二人が急襲してきたのだ。

 

「クソッ、こんな所で死んでたまるものか!世界の王ともなるべきこの私が!!」

 

そう思うとディーは馬車から飛び降り、近くにいた術師の背中に爪を刺す。

 

「ディー様、何を・・・ぎゃあっ!」

 

「お、おやめくださ。ガァっ!」

 

「知るか!自分の命が大事だ!未来の王を守れ!!」

 

暗黒術師は禍々しい笑みを浮かべ、術を唱える。

 

物質形状変化

 

二人の命を引き換えに肉体を変化させる呪われた術だ。血肉を撒きながらその体は変化し、不定形の形となって溶ける。その体は弾力ある物と化し、その直後。山吹色の爆発が覆い尽くした。

天命が減る事も気にせず、アリスは記憶解放術を使う。鋭利な花弁が暗黒術師達を貫く。

生き残った百人ほどの術師は仲間の骸に目もくれずに逃げ出し、ユージオが追いかけようとした時。

 

「お前達!!」

 

後方からベルクーリさん達の飛龍が慌てて追いかけて、到着した。

 

「お前達!無理すんな!」

 

そう声をかけるベルクーリさん達にアリスが答える。

 

「ええ・・・大丈夫です。小父様、地上部隊の護衛の方。お願いします。私たちは囮の役割を果たします」

 

「お、おう・・・だが、無理はすんなよ」

 

そう言い、僕達は頷くと飛竜を飛ばす。僕たちは巨大な気配を感じながらその方へと向かう。そしてアリスが叫んだ。

心意によって増幅されたその声はありありと全てに聞こえた。

 

「我が名はアリス!整合騎士アリス・シンセシス・サーティ!!人界を守護する三神の代行者《光の巫女》なり!!』

 

そんなハッタリにも等しい声に反応するのかと内心思いながら僕は気配のする方を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリス・・・アリシア・・・」

 

誰もいない馬車の中でベクタ・・・いや、ガブリエル・ミラーは先ほど飛竜に乗っていた金色の鎧を着た少女を思い出す。脳裏に幼き日に自身の手で殺害した少女、アリシアが美しく成長した姿に完全に重なった。幼き日に捕獲できなかった彼女の魂がアンダーワールドで生まれ変わったのだと、ガブリエルには確信できた。

 

今度こそ――・・・今度こそ、この手で捕らえねば。

 

あの娘のフラクトライトが入ったライトキューブを手に入れる。そして、そこにある魂を心ゆくまで味わい尽さねば。

ガブリエルはそう感じると部下に指示を飛ばした。必ずあの魂をこの手で感じる為に・・・

 

「全軍、移動準備。拳闘士団を先頭に、暗黒騎士団、亜人隊、補給隊の順に隊列を組み、南へ向かえ。あの騎士を・・・神の巫女を無傷で捕らえるのだ。捕らえた部隊の指揮官には、人界全土の支配権を与える」

 

彼の目にはアリスの姿以外何も見えなかった。

 




軽く計算したら五〇話くらいまで行くっていうね……
えっぐ……


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#30 創世神

「こりゃぁ、何と・・・暗黒神ベクタとやらはお嬢ちゃんにご執心の様だな。まさか全軍で追っかけてくるとは・・・・・・」

 

「無視されるよりはマシです」

 

そう言い、アリスは後ろに立つ砂埃を見ていた。エルドリエの死についてははベルクーリさん達は僕が滝刳に乗っていた事から何となく察したと言う。アリスはどこか上の空と言った様子でエルドリエさんの死を受け入れられていなかった。

一方でエルドリエの死は衛士達に多大なる士気の高揚を産んだ。身を挺して敵の攻撃を守った整合騎士に報いるのだと……

 

「それで、今後の方針だが・・・基本的には囮部隊の整合騎士全員が倒れるまでひたすら敵を引っ張り、戦力を削いでいく。それで良いな?」

 

そう言うとアリスは頷き掛けた。

 

「はい、戦力を削ぎつつ、最終的に暗黒神ベクタを撃破すれば。相手も休戦交渉をして来るでしょう」

 

そんな予測を立てているとアリス達は身を隠せそうな灌木地帯を見つけ、そこに一旦飛竜を下ろしていた。

 

「よし、偵察ご苦労!部隊にその地点へ移動する準備をさせてくれ。それと、お前さんの飛竜もそろそろ疲れている筈だ・・・たっぷり餌と水をやっておけよ?」

 

「はっ!」

 

そう言うとレンリさんは敬礼をして去って行った。それを見たベルクーリさんはふと思った事を口にした。

 

「小父様?」

 

「いやぁ・・・記憶を奪い、天命の自然減少を停止させることで整合騎士を作る・・・シンセサイズの秘儀なんてものはとても許されるものじゃないが、しかし・・・もうああゆう若者が騎士団に入ってこないのは残念というか、惜しいことだなと思ってな」

 

「それは違います。たとえ、シンセサイズの秘儀なんて施さなくても、人界を守ると言う考え方だけ受け継げばいいと思いますよ。整合騎士になりたいと言う人は大勢いますから・・・」

 

「・・・そうかい」

 

少し嬉しそうにベルクーリさんは言うと僕はふとある気配に気づいた。それはベルクーリさん達も気づいたようだった。

よってくる砂塵をじっと見つめてベルクーリさんが言った。

 

「ありゃ、拳闘士だな・・・」

 

「拳闘士?」

 

「ああ、裸の拳での攻撃なら傷を受ける癖に、剣で斬られることは拒否しやがるんだ」

 

「拒否する・・・?」

 

それはつまり、剣の攻撃が効かないと言うこのなのだろう。だから僕が青薔薇の剣を使おうかと進言しようとした時、

 

「・・・私が行きましょう」

 

「「っ!?」」「ひっ!?」

 

僕たち三人が思わずギョッとし、後ろを振り向くと其処には長身痩躯で濃い灰色の髪と、同じ色の鎧に身を包んだ女性騎士が立っていた。無表情で立つ、彼女はシェータ・シンセシス・トゥエルブ。囮部隊に加わった最後の整合騎士だった。

 

少なくとも僕は初めて聞くシェータさんの声にびっくりしているとアリスですらギョッとしていた。あの顔は多分ほんとに初めて彼女の声を聞いたんじゃないのだろうか。すると彼女は串のように細い剣である《黒百合の剣》を持つとそのままばを後にして拳闘士の方に向かって行った。

それまでの動きに僕たちは何も言い出せず、ベルクーリさんだけが彼女を見て『まぁ、あいつなら何とかなるだろ』と言い残して移動する準備を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

少しして、シェータさんと拳闘士の一人が対峙し、シェータさんは剣を持って技を使い、拳をぶつけてきた一人の拳闘士の腕を縦半分に切っていた。

 

「あれは・・・」

 

「彼女の技だ。そして黒百合の剣はその技を最大限高める為の最高の剣だ」

 

「すごい・・・あんなに殺意を殺して敵と対峙している・・・」

 

「俺もあいつのことは何十年と見続けてきたが、あの娘の考えていることの全部を知ることはできなかった・・・」

 

聞けばあの黒百合の剣はかつてダークテリトリーで起きた内乱で生き残った唯一の生命、一輪の黒百合が元になっていると言う。内乱で発生した神聖力を根こそぎ吸い取り、優先度が最も高い神器らしい。

 

「さぁ、シェータが拳闘士を抑えている間に俺たちは本隊の迎撃準備に行くぞ」

 

「「はいっ!」」

 

そう言うと僕たちは待ち伏せの為に遊撃部隊が向かったであろう南の灌木地帯へと向かった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

キンッキンッ!カァンッ!

 

同時刻、灌木地帯では感高い音が響く。その元では暗殺者が複数首から血を流して倒れていた。

 

「チッ、せっかくのお楽しみを邪魔しやがって・・・」

 

そう愚痴るのはヴァサゴ・カルザスだった。彼は死詛蟲が失敗したのを見て、ガブリエル・ミラーに提案し、補給部隊を急襲する為にこの場所に来ていた。何人かの衛士を殺した後、補給部隊にいた少女をどう殺そうかと思った時。連れて来た暗殺者がいきなり首から血を出して死んだ。その首元にはトマホークが刺さっており、一瞬視界がそっちに行った時に上からサーベルを持った赤いフードを被った何者かが己の首を狙おうと直進していた。咄嗟に剣で受け止めるも強い衝撃が走った。

 

「ヴォーパル・ストライク・・・テメェ、何者だぁ?」

 

それはよく見た技で、ヴァサゴは襲って来た赤フードに問いかける。その姿はSAOで憎たらしい程よく見た相手によく似ていた。すると赤フードは何も言わず、サーベルを持って刺突して来た。

 

「返事は無しかよ・・・良いゼェ、まずはお前からだ」

 

そう言い、狂気の笑みを浮かべるとヴァサゴは曲刀ソードスキル〈スカーレット・ファウンテン〉を受け止める。

 

ジジッ

 

技を受け止めるとヴァサゴは赤フードの影で隠された中に見えた赤い瞳をみた。ヴァサゴはそれを見て一瞬だけ固まった。その時、

 

「ゴハァッ!」

 

接近し、剣を抑えられた直後に体術〈朔既〉を入れられ、ヴァサゴは足を取られながら後ろの木に激突する。

ドンッ!と音を立ててヴァサゴは叫ぶように言う。

 

「いってぇ・・・SAOじゃ感じなかったこの痛み・・・良いゼェ良いゼェ。最高だなこの世界!!」

 

「・・・・・・」

 

赤フードはそんなヴァサゴを見ていると灌木に声が聞こえる。

 

「そこのあなた!!何をしているんですか!?」

 

「!?」

 

一瞬だけ声のした方に赤フードが顔を向ける。視線の先にいたのは黒髪と赤髪の少女達であり。その瞬間、ヴァサゴは赤フードの顔向けて剣を入れようとした・・・・その時だった。

 

「っ!?空がーーー」

 

明るい

 

乳白色の光の粒子。其れが雪のように舞い降りる。ヴァサゴは奇妙な戦慄を感じながら顔を持ち上げる。

 

その光の中に人の形をした何かがいた。光に包まれて、その容貌は見えないが、光を纏うその姿は・・・

 

「ステイシア・・・様・・・?」

 

黒髪の少女がそう言い、降りてきた少女に畏怖すら感じた。そんな少女は右手を前に伸ばす。すると信じられない事が起こった。

 

「じ、地面が・・・!!」

 

ガタガタと地震の様に大地が揺れ、生き残っていた仲間が突如出来た谷の中に真っ逆さまに落ちた。仲間が死に、残ったヴァサゴに少女は再び右手を出す。ここぞと言わんばかりに赤フードがサーベルを持ってイルミナント・エタニティを繰り出す。マトモに八連撃を喰らい、暗黒騎士は足元に開いた谷底に落っこちた。

 

「マジかよ・・・おい、マジかよ・・・アイツは・・・

 

 

 

 

 

《KoB》の閃光じゃねぇか」

 

そう言い残しながらヴァサゴは落下して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まり、現れた少女に目を見開いて驚くロニエとティーゼ。現れた少女にティーゼが問いかける。

 

「あなたは・・・神様ですか・・・?」

 

その問いに少女は少し間を置くと答えた。

 

「・・・いえ、私は神様じゃないわ。私はただ・・・キリトという人を探している為にこの器を借りただけの人よ・・・」

 

「「っ!!??」」

 

いきなりキリトの名前が出てきた事にロニエ達は驚きを隠せなかった。

 

「あの・・・あなたのお名前は・・・」

 

 

 

「私はアスナ。あなた達同じ人間。キリト君と同じ世界から来た人間よ」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「こちらです」

 

ロニエはそう言い、アスナをキリトのいる馬車に案内した。アスナは馬車の幌を両手で開けるとアスナはその馬車の奥で車椅子に座る一人の青年を見つけた。

 

「・・・・・・キリト君」

 

痛々しいほどに痩せ細った体の両手には一本の黒い剣と一丁の銃があり、キリトはアスナの声を聞くと反応を示した。

 

「ぁ・・・・」

 

掠れた声が溢れる。

 

カタカタと椅子が揺れ、体全体に力が強張る。顔に二筋の涙が流れた。

 

「キリト君・・・いいよ、もういいよ!!」

 

自分の愛する人を優しく、強く抱きしめる。自分も彼と同じようの目頭が熱くなる。

心に開いた深い自責の思いは自分のセルフ・イメージおも破壊されてしまった。

 

アスナは其処で改めて自分の中に満ちるのを意識する。

 

 

この世界を守る。キリト君達が愛したこの世界を・・・

 

 

最後にもう一度キリトに抱きつくとアスナは立ち上がる。

 

「ありがとう。あなた達が、キリト君を守ってくれたのね」

 

そういうとアスナはロニエ達を見て感謝の意を示した。



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#31 これからの方針

「・・・私はアスナ。創世神ステイシアの体を借りてこの世界に来た者です」

 

「「「「「・・・・・・・・」」」」」

 

天幕でアスナが自己紹介をする。天幕にはユージオを筆頭に、多数の整合騎士が集まり、アスナを見て驚愕の色を浮かべていた。

アスナは自分やキリト達はリアルワールドという世界の住人だと言った。前にカーディナルが言っていた《外の世界》と呼ばれる所だ。

アスナがこの世界に来たのはそのリアルワールドの一部の場所でこの世界。アンダーワールドの支配権をめぐった争いが起こっていると言う。

彼女と相対する敵の目的はアンダーワールドにいるある二人の人間を回収し、然る後に世界全てを破壊することらしい。

その事に衛士長達がざわつくもベルクーリが其れを制する。

 

「まぁ、外の世界の状況というのはどうでもいいな・・・俺たちだって、この間まで人界の外にあるダークテリトリーが、何万もの大軍勢が侵攻の時を手ぐすね引いて待っていた、なんて事実を真剣に考えてきた者なんかほとんどいなかったくらいだ。重要なのは・・・アスナさん、この世界を破壊しようとしているその敵対勢力が欲しがっている人間というのは誰のことなんだ?」

 

そう問うとアスナはアリスとユージオを見つめた。その意味を理解し、アリス達は思わず自分の顔に指を差した。

 

「ぼ、僕・・・?」「わ、私・・・?」

 

これには天幕にいた全員が驚愕をしていた。ベルクーリだけが得心した様に呟く。

 

「なるほど・・・しかし、嬢ちゃんだけじゃなくユージオまでもが・・・」

 

ベルクーリは驚いた様子を浮かべているとアスナは言う。

 

「もうあまり時間は残っていません・・・アンダーワールドの消滅を防ぐにはこれしかないんです」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!?私に・・・この戦場から逃げ出せと言うのですか!?」

 

「そうです・・・私たちと共にリアルワールドへと来てほしいんです」

 

「・・・冗談じゃない」

 

話を聞いたアリスが激昂しながら叫ぶ様に言う。

 

「逃げる!?この私が!?この世界とそこに暮らす人々、守備軍の仲間を見捨てて、リアルワールドとやらに逃げろと!?私は人界を守護する整合騎士の一人!人界を守るのが最大にして唯一の使命です!!」

 

「なおのことだわ。もし敵が・・・暗黒界ではなく、リアルワールドから来る強奪者たちだとすれば、この世界に住む人々も、大地も、空も・・・何もかもが消滅させられてしまうのよ!」

 

「おっと、その点に関しては情報が古いな。アスナさん」

 

ベルクーリさんが声をはさんだ。

 

「どうやら、もう来てるぜ。おまえさんの敵とやらは」

 

「えっ・・・」

 

「これで合点がいったってもんだ・・・光の巫女・・・そして、それを求める暗黒神ベクタの再臨・・・お前さんらが言うことが事実なら、ダークテリトリーを指揮している総大将ベクタ神は・・・間違いなくお前さんらと同じ、リアルワールドから来た人間なんだろうな」

 

アスナはそこでダークテリトリー側のアカウントのロックを忘れていた事を知った。すると静粛を縫うようにレンリが聞いた。

 

「あの、光の巫女って具体的には何なんですか?その、リアルワールドの強奪者たちは、一体どおしてアリス殿達を欲しがっているんです?」

 

その問いに答えたのは先ほど拳闘士と戦い、撤収してきたシェータだった。

 

「右目の封印を破ったから」

 

「シェータ殿、知っていたのですか!?」

 

「時折・・・あることを考えると、右目が痛くなる世界で一番固い物・・・破壊不能なセントラル・カセドラルを・・・・・・丸ごと斬り倒したら、楽しいだろうな・・・って」

 

「「「「・・・・・・」」」」」

 

とんでもない暴露に全員が何も言えなくなってしまった。

 

「あー、まぁ。この場にいる者の中には、他にも覚えがある者もいるんじゃねえか?例えば、禁忌目録を破ろうとしたり、理から外れたことをしようとした場合、赤き光と共に右目に痛みが走ったことがな・・・そのまま不敬な思考を続ければ、痛みはますます激しくなり、遂には思考を放棄せざるを得なくなっちまう・・・それでも、思考を保ち続けた場合・・・」

 

「右目の赤き光が視界一杯にまで広がり、右目そのもの跡形もなく吹き飛ばす」

 

アリスがありありとその時のことを思い出す。其れはユージオにとっても同じことだった。

 

「私は、最高司祭アドミニストレータへと剣を向けました。その時、一時的に右目を失っていました」

 

「僕も、ティーゼたちを助けるために禁忌目録を破る必要があって、その時に右目が吹き飛びました」

 

そう言うと全員に沈黙が走った。するとユージオが思い出す様に言った。

 

「こーどはちなないち・・・」

 

「え?」

 

「そうだ!こーどはちなないち!カセドラルの頂上でアドミニストレータと戦っていた時、ブレイドが聞いてたやつ!」

 

「!!そういえばブレイドが其れを聞いて、アドミニストレータは笑っていたわ・・・」

 

「と言うことは・・・まさか・・・っ!!」

 

ラースの中に敵がいるのか?と顔が青ざめてしまった。すると、天幕の入り口の方から声がした。

 

「ーーその心配はない」

 

「「「「「「っ!」」」」」」

 

全員が天幕入り口に立つ一人の赤いフードを被った男を見た。アスナも同じようにその男を見ると男は言う。

 

「このアンダーワールドのフラクトライト全員にコード871を仕込んだ犯人は今頃お縄になっているだろう」

 

そう言うとアスナは男をじっと見つめるとはぁ、と息を吐いた。

 

「・・・そんなに詳しいと言うことは・・・()()でいいのね?」

 

「そこは君の判断に任せる」

 

「その言い方は間違いないわね・・・

 

 

 

 

 

 

ブレイド」

 

 

 

 

 

 

そう言うと赤フードの男は被っていたフードをとると顔を見せた。顔を見たユージオ、アリスは目を大きく見開いて驚愕していた。

 

「どうして此処に・・・!?」

 

「そんな・・・まさか・・・」

 

「何だ、そんな幽霊を見るような目をして・・・」

 

フードをとったブレイドはやや不満げにユージオ達を見ていた。そんな中、ブレイドはユージオ達やアスナに向かって言った。

 

「まぁ、色々と聞きたい事があるかもしれないが。其れは後だ。我々に必要なのは迅速な行動。敵がベクタを使っているのなら、できるだけ早く移動した方が良い。だが・・・」

 

そう言うとブレイドは持っていた紙を指す。

 

「此処と此処、それからこの場所に敵が配置されている。そして、ワールド・エンド・オールターの場所は此処だ・・・」

 

「遠いわね・・・」

 

「そう、此処からワールド・エンド・オールターまでおよそ一〇〇キロ。此処から連れて行くにも時間ががかる上に、敵がスーパーアカウントを使って襲撃してくる可能性もある」

 

「・・・」

 

ブレイドの予想にどうしたものかと考える。するとブレイドが口を開いた。

 

「それに・・・ダークテリトリーの一部の兵士が戦線離脱を図ろうとしているしな」

 

「「「「え?」」」」

 

ブレイドの言葉にユージオ達は驚く。するとベルクーリがブレイドを見ながら言った。

 

「なるほど・・・シャスターの話を持って来たのもお前さんと言うことか」

 

「・・・えぇ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。それって・・・」

 

アリスがそう言い、ベルクーリを見ると彼はその事情を話した。

 

「あぁ、俺たちが出る前に手紙が届いたんだ。『暗黒騎士団が逃げたら保護してくれ』ってな」

 

「なっ・・・!!」

 

「そんな事が・・・」

 

ユージオとアリスはそう言い、驚くと思わずブレイドを見た。するとブレイドは言い訳のようにも聞こえるがこれまでしていた事を話し出した。

 

「この半年、自分はダークテリトリーの()()()に接触され、色々とダークテリトリーに関する情報を集めて来た。敵も一枚岩じゃない。その上、戦争をしたくないと言うものも中に入ることがわかった。それで、和平の準備を進めようとした所で・・・」

 

「ベクタが現れたと・・・」

 

「そうだ、あの男がいる限り()()()()()()()は終わらない。だから、和平をするにはベクタを真っ先に倒す必要がある。敵の中で最も脅威なのが奴だ。その為には・・・」

 

そう言うとブレイドはアスナを見た。

 

「アスナ君。君の力が必要になる」

 

そう言われ、アスナは少し間を置くと答える。

 

「・・・分かった。私も戦うわ」

 

「よろしく頼むよ」

 

そう言い、アスナが戦いに加わることに驚きと喜びの声が混ざり合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天幕を出たアスナとブレイドはそれぞれ事情を聞き合っていた。

 

「・・・なるほど、オーシャン・タートルは襲撃を受けたのか・・・」

 

事情を知り、深刻そうな表情を浮かべるブレイドにアスナは聞いた。

 

「ねぇ・・・ブレイドは知っていたの?こんな事になるなんて・・・」

 

「・・・いや、自分もキリト君から言われるまで知らなかった・・・帰ったらあのエセ官僚の眼鏡を叩き割りたい気分だ」

 

それだけでブレイドは表には出さないが随分と怒気を持っているのがわかる。それだけでアスナにとっては十分だった。

 

「しかし、セルフ・イメージの欠損か・・・」

 

深刻だなと言い、ブレイドはキリトの乗る馬車を見る。STLを作ったと言う事もあり、ブレイドはキリトの今の状況を詳しく理解した様だった。だからこそアスナはブレイドに縋る気持ちで聞いた。

 

「ブレイド・・・キリト君は・・・治るの・・・?」

 

そう問いかけるとブレイドは答える。

 

「キリト君に深く関わっている人物の記憶が必要だ。記憶のデータを使えば、彼の精神的覚醒が出来るかもしれないな・・・」

 

「っ!じゃあ!!」

 

「・・・それも大勢のな。最低でも四、五人は必要だろう・・・下手をすれば十人以上いるかもしれない」

 

「・・・」

 

ブレイドの予想にアスナは黙り込んでしまう。キリトと深く関わっている人なんて此処では数が少ない。現実世界に行けば何とかなるかも知れないが、現状では無理だった。

そう思っているとブレイドはある話題を切り出した。

 

「しかし・・・向こうさんもユージオ達を狙っているとは・・・全く・・・」

 

そうブツブツと言うブレイドはアスナに話し始める。

 

「アスナ君・・・君はユージオ達が敵の手に渡った場合の事を考えた事はあるか?」

 

「え・・・?」

 

不意に問われ、答えが詰まってしまうアスナ。考えた事もなかった。今まで色々と忙しくて、そんな余裕すらなかったからだ。アスナは予想を考えているとブレイドが答えた。

 

「もし、ユージオ達が敵の手に渡った場合・・・おそらく世界大戦が起こる」

 

「え?」

 

「考えても見ろ。この世界では人であるユージオ達は向こうの世界ではただのデータ上の存在でしかない。そこに人権なんてあったもんじゃない。おそらくはデータが複製され、戦闘機や戦車のコンピュータにダウンロードされるだろうな」

 

「そんな・・・」

 

「人間なんてそんなものだ。自分たちの作ったものだから使う権利は自分たちにある。言ってしまえばアメリカの奴隷と同じ考え方さ。全く、歴史は繰り返すと言った所かな……」

 

そう言うとブレイドはアスナを見ながら言う。

 

「もし戦争が起これば自分の身を守ることだけで一杯になる。そうなればキリト君を助ける云々以前の問題となってしまうだろう。だからユージオ達をログアウトさせる事はキリト君を守る事。引いては戦争勃発を防ぐ事にもなるんだ」

 

そう言うブレイドの目はいつに無く鋭利なものだった。



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#32 動く状況

ブレイドとアスナは情報交換を終えるとブレイドはアスナを見ながら言った。

 

「じゃあ、自分はこれで失礼するよ」

 

「・・・え?」

 

いきなりの事に驚くとブレイドは言った。

 

「これから行く場所に先回りして安全の確認をして来る」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

アスナが驚きの声をを出すも、ブレイドは野営地を駆け出した。

 

「じゃあ、後は頼んだぞ」

 

そう言うとともにブレイドは野営地を飛び出してしまった。残ったアスナは呆然としているとユージオがアスナに近づいて来た。

 

「ブレイド、アスナさん。食事を・・・ってあれ?」

 

「ユ、ユージオ君・・・実は・・・」

 

アスナはユージオにブレイドが先に行ってしまった事を伝えるとユージオも思わず口を開けて呆然としてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野営地を出たブレイドはフゥと一息吐く。

 

「危なかったな・・・」

 

そう言うとブレイドは天幕にいたベルクーリを思い出していた。彼はブレイドを見て少し自分を怪しげに見ていたのを思い出していた。ブレイドは野営地を出るとそのまま南側にある小さめの丘を目指していた。

 

「さて、敵もどう出てくるか・・・」

 

片手に望遠鏡を持ちながらブレイドは乾いた大地を走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処はオーシャン・タートルのサブコン。そこに来客・・・と言うのが正しいのだろうか。通信用画面から声がした。

 

『・・・わかりました。以後、アンダーワールドの監視は私が担当いたします』

 

「ああ、頼んだぞ」

 

画面越しに藤吉がそう言うと後ろで菊岡や比嘉が藤吉を見て言った。

 

「宜しいのですか。閣下?」

 

「どうもこうも襲撃された時点でアンダーワールドの秘匿は瓦解しておる。だったら相手が何かしでかさんか常時監視させなければならん。マキナ、何らかの数値に変化があれば報告を」

 

『畏まりました。・・・現在の所、アンダーワールドのFLA倍率の低下を確認しました』

 

「何だとっ!?」

 

「ほれ見ろ。何かしでかすと言っただろう」

 

真之はそう言い、マキナの報告を聞いていた。二人は衛星電話を使い、まず修也のマンションに電話を入れた。そこでマキナを呼び出し、修也や詩乃に次いで権限を有する藤吉がアンダーワールドの監視を依頼。ザ・シードを伝ってオーシャン・タートルに辿り着いていた。どれだけ天才でも人間には限界がある。そこで藤吉達はアンダーワールドの秘匿を諦め、常にすべてのことを監視できるマキナを呼び、相手の思考を探る事にしたのだった。

 

「奴さん・・・まさかプレイヤーを入れる気か・・・?」

 

「まさか・・・」

 

「いや、可能性としてはある。相手の狙いはアリス。それ以外はどうなったって良いから破茶滅茶にする気だろう。此処の空間に倫理コードなんて存在しない。大方『倫理コードのない本格的殺戮ゲーム』と称してネットに公開するだろうな。FLAが等倍になれば容量的にアミュスフィアでもコンバート、若しくはダウンロードも出来るしな」

 

一瞬でそんな事を予測する藤吉に菊岡達は舌を巻いていると真之が圧突拍子もない提案をした。

 

「そっちがその気ならこっちも情報戦と行こうじゃないか。コッチには優秀なの子がおるしな」

 

そう言うと真之はマキナを見るとマイクに手を当てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイドが野営地を飛び出して一夜明けた頃。朝食を貰っていたアスナは突然なった笛の音に驚いた。前日の夜にいわゆる女子会の様なものですっかり気の緩んでいた自分は少し慌てながらも野営地北側に向かった。

 

「なるほど、敵のリアルワード人は相当なもんだな」

 

そこには敵軍がアスナの作った底無しの谷を端と端を繋いで作った荒縄の上を綱渡りさせている光景だった。もちろん命綱などなく、落ちればそこには死が待っていた。

此処で攻撃をするのか、否か。アリスの迷いをベルクーリが断ち切った。

 

「異界人のアスナたちはともかく・・・これは戦争だ。このままダークテリトリー軍に情を懸けて、黙って見ていているわけにはいかん・・・この機を狙わないわけにはいかない・・・ユージオも分かっているな?」

 

「はい・・・」

 

「よし、ならば俺たちも動くぞ。・・・レンリ」

 

「はいっ!」

 

「お前の剣で片っ端から縄を切れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは地獄だった。いくら皇帝の命令とはいえこれは残酷すぎる。危険な綱渡りをさせられ、部下が幾人か谷に落ちて行く。

 

ーーこれでは犬死ではないか。

 

たかが光の巫女一人に皇帝は部下をただの駒としか見ていないようだ。これでは死んで行った者の家族にどう説明すれば良いのだ。迂回を提案したが、皇帝は全く聞き入れず、谷を進む事を命令する。

 

「(やるなら今しかないか・・・?)」

 

シャスターは痛む右目を耐えながら皇帝ベクタを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やはり上手く使えぬか・・・)」

 

AIの知能は人界の方が高い様だ。自軍のユニットは七割が壊滅。だが、ベクタは()()()を待っていた。

 

「(上手くやれよ・・・クリッター)」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「Shit!」

 

オーシャン・タートルのメインコンでクリッターは台を叩いた。ガブリエルの作戦でアメリカのVRサイトに暗黒騎士のアバターごとこの世界の情報をリークした。初めは懐疑的な意見がありつつも近年の規制が強いアメリカに鬱憤を持っていたユーザーの多くはそのデータをダウンロードした。

何万人ものユーザーをログインさせ、向こうで混乱を生じさせている間にアリスを奪取する博打にも近い作戦だったがクリッターはどんどん増えて行くダウンロード数にニヤニヤしていた。しかし、三万人近く行った所で突如としてダウンロード数が減り始めたのだ。

データも削除され、新しく出そうとした所でその直後に一瞬で削除される。ラースの人員が動いているとしか考えられなかった。どんなに逃げても必ず削除され、イタチごっこの様だった。

 

『敵の反撃が強すぎる・・・それに・・・』

 

クリッターはそう呟くと掲示板に載っているあるデータを見ていた。

 

 

 

『ペイン・アブソーバーによる人体への影響に関する論文』

 

 

 

その題材で書かれた論文は現在ネット中をざわつかせ始めようとしていた。発表はかの世界的医療メーカー『アスクレー』。医療機器の最先端を走るこのメーカーがつい先程ネット上にアップした論文だった。測ったとしか思えないタイミングに、クリッターは相手にアスクレーの関係者がいたのかと苦い表情をするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・現在、米国内にて確認できるダウンロード数は三万二千三名です。アンダーワールドへの不正アクセス件数は急速に増加中。ダウンロード数も同じようにまだ増えています』

 

「思いの外ダウンロード数が多いな・・・」

 

「こちらも対抗策を打たねばな・・・」

 

サブコンではマキナの出した数に渋い表情を浮かべるその後ろでは菊岡や比嘉、神代までもがマキナのスペックに畏怖を抱いた。

 

「これが・・・先輩の作った最高傑作っすか・・・」

 

「処理速度が桁違いだ。余りにも早すぎる・・・」

 

「・・・」

 

三人はそう呟き、目の前にいるおそらく世界最強であろう感情を持ったAIを見ていた。マキナは修也の書いて置いてあった論文を見てすぐさまザスマンに連絡。了解を得たのちにアスクレー研究所の名前でホームページに『拡散希望』と書いて瞬時に十二カ国の言語に翻訳して公開。ダウンロードさせない方針を展開した。

 

『御父様、アクセス件数の増加に伴い、此方も公開するのはどうでしょうか?』

 

「しかし・・・論文が急速に広まっている今。人は集まるのか?」

 

『此方の時刻は午前四時四十分。現在ネットを見ている人には論文に気づかない可能性もあります』

 

「・・・どれくらい時間がかかる?」

 

『・・・義妹とであれば三分十三秒で可能です』

 

「よし、すぐに始めてくれ」

 

「ちょっ・・・」

 

比嘉が『そんなの無理だ』と言おうとした瞬間、藤吉に睨まれ押し黙る。元傭兵に殺気を向けられては一般人の比嘉は何もいえなかった。そしてマキナは別途行動をしていたストレアの力を借り、人では追いつかないほどの速度でアンダーワールドの情報をネット上に公開した。

 

「これで、やる事は終わったか・・・」

 

その時だった。内線電話が鳴り響き、菊岡がそれに出ると暫しの応答の後、変な声を出していた。

 

「それで・・・やって来たこの名前は?」

 

『やって来た子は《リーファ》って言ってました』

 

そう言うと共に菊岡はガクッと肩を落としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ったくよ・・・あんの馬鹿共。またとんでもないことに二人して巻き込まれやがって・・・自衛隊が作った仮想世界とそこに生まれたマジモンの人工知能アリスだぁ・・・?そんなもん、ゲームの領域を超えまくってるだろうが・・・」

 

そこはALOの新生アインクラッド22層にあるキリト達のログハウス。そこにはクライン、リズベット、シリカ、エギルがユイの話を聞いていた。アスナの携帯からことの全てを話したユイはアンダーワールドの全貌を説明し終えると頭を抱えていた。

 

「それって・・・その人工知能は私たちと変わらないって事?」

 

「その通りです。人の魂を解析して造られた、本物の魂。ラース内部では《人工フラクトライト》と呼ばれています」

 

「ラースとしては、その技術を当面国内外向けのデモンストレーションとして用いる意図のつもりですが・・・現在オーシャン・タートルを占拠している襲撃者たちは・・・もっと具体的な用途を想定しています」

 

「一体何者なんだよ、その襲撃者って奴は・・・?」

 

「・・・高い確率で、米軍か米諜報機関が関与しています・・・」

 

「べ、米軍って・・・アメリカ軍ってこと・・・!?」

 

「はい・・・もしアリスが米軍の手に落ちることがあれば、遠くない未来に無人機搭載用AIとして、実戦配備されるでしょう」

 

「・・・それで、キリト君達が今そこにいるってこと?」

 

「そうです。現在、ストレアやマキナが対応をしています。それにママとシノンさんはアンダーワールドにダイブしていて、パパやブレイドさんを守るために戦っています」

 

「そんな・・・!!」

 

シリカが驚きの声を出すとクラインがある提案をした。

 

「・・・俺たちもいけるのか?アイツらを助けに・・・」

 

その問いにユイは確認をした後、答える。

 

「・・・行けます。ママ達のいる場所は《ザ・シード》を元にしていますから。それにマキナがネット上にアンダーワールドに行けるデータをアバターと一緒に公開しています!!」

 

「よし、ならばやる事は一つ。おれはSAO時代の仲間達全員に連絡を取る!」

 

「なら私はそれ以外の人を集めるわ」

 

「わ、私はその公開されたデータの話を!」

 

「俺はリズベットの手伝いだな」

 

そう言うと四人はそれぞれ当たり前と言わんばかりに席を立つ。

 

「あ、ユナに最初に連絡して。『来たら生歌を一曲』ってね」

 

「おー、そりゃあ釣れそうだ」

 

どこか楽しそうにする四人にユイは目を白黒させていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

此処はGGOの首都グロッケンの広場。そこではストレアが壇上に立っていた。義姉の命令で自分は()()()を使ってアンダーワールドにダイブして良い人を募れと言った。そこで自分は義姉の言う通りに公開掲示板で募った。

 

「本当にめちゃ来た・・・義姉さんすげぇ・・・」

 

視線の先には多くのプレイヤーが銃片手に広場に集まっていた。そんな中、自分を見つけて他一人のプレイヤーが反応した。

 

「ストレア様だ!」

 

そう言うと他のプレイヤー達が一斉に自分を見ると広場が一斉にざわつく。それを見て驚きと呆れが混ざるストレア。

 

「(あんなので釣れるなんて・・・マスター、死なないと良いけど・・・)」

 

そう言い、ストレアは掲示板に書いた二つの内容を思い出していた。

 

 

「(『来た人には自分と義姉のツーショット写真をあげる』って言うのと、『フリューゲルを倒すチャンス!!』って書くだけでこんなに集まるなんて・・・)」

 

 

男はチョロいと言った義姉は恐ろしいと思いながら新たに一つ学んだのだった。



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#33 混戦の混乱

「渋いな・・・」

 

エギルはそう呟く。今、自分たちはいるのは首都アルンの大広場。そこでリズベットは大勢の人にアンダーワールドの話。そこに一緒に出向いて欲しいと話した。

ただ、複数のプレイヤーがある論文を見て懐疑的な目を向けていた。

 

「まさかあんな論文がこんなに早く広まっていたなんて・・・」

 

それはあのアスクレーの出したペインアブソーバーに関する論文だった。そこに書かれていた内容に広間に集まったプレイヤー達はそこは本当に安全なのかと心配の声を上げていたのだ。いくらアバターがあるとはいえ現実と同じ痛みを感じるのであれば嫌がるのは当然と言った所だろう。

 

「やっぱり駄目なのかなぁ・・・」

 

「仕方ないか・・・」

 

「すぐに飲み込める訳でもねぇだろうしな」

 

そう言い、三人は渋い顔を浮かべていると広場に集まった一人のプレイヤーが悲鳴を上げる様に叫んだ。

 

「ヤ、ヤベェッ!!」

 

「「「「「?」」」」」

 

全員がそのプレイヤーに目を向けるとネットの画面を見せながら叫んだ。

 

「じっ、GGOの奴らが先に『出兵』言って先に行きやがったぞ!!」

 

「「「「「「何ぃっ!!」」」」」

 

「嘘じゃないだろうな??」

 

「だったらこれ見ろよ!!」

 

そう言って見せたのは大量の兵士が銃を掲げ、『不正アクセスを許すな!!日本の意地を見せつけろ!!』のスローガンを掲げた写真だった。それを見たプレイヤーの多くはゲーマー特有の対抗心に火がついた。

 

「ぬぉぉぉおお!!エセ兵士に遅れをとるなぁ!!」

「俺たちも行くぞぉぉぉおお!!」

「向かった先はファンタジーの世界なんだったか?」

「何っ!?ファンタジー世界に銃を入れるな!!ファンタジーを守るんだ!!」

「何処だぁ、俺たちぁ何処に行けばいい!?」

 

興奮するプレイヤー達。それを見たリズベット達は一瞬呆然とするも、我に帰ると元気よく叫んだ。

 

「皆んなでファンタジーを守るわよ!!」

 

 

 

『『『『うおぉぉぉぉぉぉおおおおお!!』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは何だ。

 

拳闘士団長イスカーンは呆気にとられた表情で東を見ていた。現れたのは深紅の雨。その先には暗赤色の鎧に身を固め、長剣や戦斧、長槍で武装した兵士たちだった。

初めはベクタが増援を送ったのかと思った。しかし、それは違う様だった。

 

彼らは命令もなしに徐に武器を構え、此方によって来る。その時、イスカーンはベクタに憤りを覚えた。

 

ーーあんなに増援が来るならもっと早く欲しかった。

ーーもっと早ければ仲間がむざむざ死ぬ様な事はなかった。

 

それじゃあまるで自分達が囮の様じゃ・・・

 

その時、イスカーンは思った。皇帝は自らの軍団に倒させるために自分達にあんな無茶な命令をしたのかと。

 

だったら、今までの行動が辻褄に合う。皇帝はジャイアントやゴブリンが死んでも眉一つ変えなかった。

 

つまり、皇帝ベクタにとって自分たちは最初から捨石だったのか。イスカーンはそこで矛盾を見た。皇帝ベクタは絶対的な強者。だから従わなければならない。しかし、

 

しかしーーー

 

そう思った時、右眼にかつてないほど強い痛みが走る。思わず手のひらで右目を覆うと深紅の軍勢にシャスターが叫んだ。

 

「剣を抜け!向かってくる暗黒騎士を迎え撃て!!あれは仲間じゃない!!」

 

「っ!?」

 

シャスターの指示に動揺した彼の部下達だったが、彼らはシャスターのいつに無く焦った様子にただ事じゃないと確信し、武器を持った。そして、接近してくる暗黒騎士は同じ見た目をした暗黒騎士目掛けて武器を振るった。

 

「何っ!?」

 

仲間じゃないのか!!イスカーンは驚愕した。同じ騎士のはずなのに、殺し合っている。その事にイスカーンは動揺していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Charge ahead‼︎」

「Give’n hell‼︎」

 

「(英語!?)」

 

アスナは暗黒騎士から聞こえる言葉を聞き、驚愕する。彼らは英語を喋り、無作為に武器を振る。困惑する整合騎士達。そんな中、アスナは持っていたレイピアを持って唱える。

 

「システム・コール!クリエイト・フィールド・オブジェクト!」

 

アスナがそう唱えるとレイピアが七色に光る。昨日の様に谷を作るわけにはいかない。だったら・・・

 

アスナは槍の様に鋭い岩をイメージする。エフェクトサウンドが聞こえるとアメリカ人と暗黒騎士の間の地面が動き、アメリカ人が吹き飛ばされる。大量の血肉を撒き散らし、アメリカ人は消える。

しかすアスナはそんなことを気にしていられなかった。ゴリゴリとフラクトライトが削れる生々しい感覚。

 

だが、倒れるわけにはいかない。

 

そう思い、術を続けようとした時。

 

「無茶しないで」

 

ユージオが自分の右手を押さえた。

 

「そうよ、あとは私たちに任せて」

 

アリスもそう言い、アスナを見た。

 

「でも・・・あの赤い兵士たちは・・・きっとリアルワールドの・・・私の世界からやってきた敵・・・話が通じるかどうか」

 

「・・・だとして闇雲に血を求め、剣を振るやつなんか・・・」

「何万人いようと我達の敵じゃない」

 

そう言うとベルクーリさんが言った。

 

「ああ、そうだ。少しは俺たちにも出番をくれよ」

 

「皆さん・・・ありがとう」

 

そう言うとベルクーリは指示を飛ばす。

 

「よーし・・・全軍、密集陣形を取れ!一点突破するぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「Damn‼︎」

 

アスナは斬っていた。ログインして来た無数の命を無作為に殺すための化け物を《バーサクヒーラー》の名を遺憾なく発揮していた。今までに十人は殺しただろう。だが、

 

「(数が多すぎる・・・)」

 

相手の物量に押しつぶされそうだった。剣で切られると痛みを感じ、思わず倒れてしまった。

 

「っ・・・あ・・・ッ!!」

 

思わず剣を落としてしまい、その周りをアメリカ人が囲んだ。

 

その時、突然アメリカ人の頭が吹き飛び、体も粉々に砕ける。

 

「へっ・・・柔な連中だ」

 

そう言い、アスナの前に立ったのはあさ黒い肌を持つ逞しい青年だった。

それはさっきまで剣を交えていた拳闘士だった。するとその拳闘士はアスナを見ると言った。

 

「・・・取引だ」

 

「・・・取引?」

 

「そうだ、あの岩山や谷を作ったのはお前だろ?あの地割れに橋をかけろ。そしたら反対の四千人の仲間が駆けつける。この赤い鎧の軍団を潰すまで共闘すんだよ」

 

そんなことが出来るのかと思ったが、アスナは彼の右目が閉じている事に気づき、それが証拠だと確信した。だからこそ、

 

「分かりました。橋をかけます」

 

そう言い、谷の上を地形操作で真ん中に頑丈な橋をかけた。すると橋の奥から大きな音と共に拳闘士が作りかけの橋を渡って飛んできていた。

 

「お前ら!変なこと言ってる騎士だけを倒せ!いいな!!」

 

そう言うと拳闘士は得意の拳でアメリカ人を倒して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻、アリスはかつてないほど敵を斬っていた。ならず者の集まりの彼らは本当にリアルワールドの人間なら。

 

向こうの神の国ではないのだろう。

 

もうこんなのは戦争ではない。

 

「どけぇぇぇぇ!!」

 

そう言い。剣を振り、神聖術を放つ。その時だった。

 

「危ない!!」

 

ユージオの叫びと共に一匹の黒い飛龍がアリスを足で掴み、持ち上げた。咄嗟にアリスは武装完全支配術を使おうとしたが、視界が真っ暗になり、アリスの意識を奪った。

 

「アリス!アリスーーー!!」

 

ユージオはその時、かつて連れ去られてしまった時のことを思い出してしまった。そのせいで連れていかれるアリスを見てユージオは感情的になり、視界が狭まった。ユージオは飛竜に乗り込むとアリスを追いかけた。

 

「ユージオ!?無謀だ!!」

 

「あぁ、クソッ!」

 

ベルクーリの静止も聞かずにユージオは行手を阻む騎士を切り倒す。ベルクーリも追いかけたいが前の騎士が邪魔だと思った時。

 

「リリース・リコレクション!」

 

記憶開放術により翼を得た双刃がプレイヤーたちを容易く斬り裂き騎士の足元を切り裂いた。

 

「行って下さい、団長!」

 

「すまん、レンリ」

 

そう言い、ベルクーリは掛け出す。それを見たシャスターはリピアを見る。

 

「リピア、仲間を引き連れて南に行け」

 

「はっ!閣下は?」

 

「俺は光の巫女を追う」

 

そう言うとシャスターは己の飛竜に乗ると飛び立っていった。指揮を任されたリピアは残っている暗黒騎士全員に指示を出し、後退を命令した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ダークテリトリー軍と共闘中のアスナは無数の騎士を制しているイスカーンに聞かれた。

 

「・・・このまま南に抜けたとして、その後はどうするんだ?あんだけの数、いくら俺たちでも殲滅は難しいぜ」

 

「・・・・・・敵陣を南に抜け、そのまま一気前進。敵から距離を取ってください。私がもう一度渓谷を作って隔離します」

 

そう言い、移動しようとした時だった。怪我をした衛士が報告をした。

 

「整合騎士レンリ様よりであります!アリス様が敵総大将に連れ去られ、南に逃げたと!!」

 

「な・・・・・・」

 

アスナは絶句した恐れていた事態が起ころうとしていたからだ。不意にブレイドの話した言葉が脳裏に浮かぶ。

 

「現在、整合騎士団長閣下とユージオ、暗黒将軍が追いかけているとのことであります」

 

「暗黒将軍・・・!?」

 

イスカーンが若干の驚きの後、納得した様子を浮かべた。そして気になることがあり、アスナに聞いた。

 

「おい!光の巫女っていうのは、その連れ去られた騎士アリスのことなのか!?皇帝はどうしてそこまで・・・俺たち暗黒族を犠牲にしてまで、その光の巫女とやらに執着するんだ!?巫女が皇帝の手に落ちたら、一体何が起こんだよ!?」

 

「・・・もしそうなったら・・・この世界が滅びます」

 

「っ!?」

 

「暗黒神ベクタが光の巫女アリスを手に入れて、果ての祭壇に到った時、この世界は人界、ダークテリトリー関係なく、無に還るんです」

 

衝撃的な話にイスカーンは今までに亡くなった仲間を思い出していた。ベクタが自分たちを駒のように見ていたのも自分たちは消えることを知ったからだ。

だからこそ、彼は理解できたそして思った。自分たちがすべきことは何なのかを・・・

 

「飛竜も永遠には飛べない・・・連続飛行は、半日が限界・・・」

 

シェータはそう言うとイスカーンと拳を合わせる。

 

「なら、あんたが気合で追っかけるしかねぇな」

 

「追っかけるって・・・貴方はダークテリトリー側の人でしょ?どうして、そこまでこっちのことを・・・」

 

「もう皇帝には義理はねぇし、あっちが俺たち見限ったっていうのなら、こっちだって奴を見限るだけの話さ。皇帝ベクタは、俺たち暗黒十侯の前で確かに言ったんだ。自分の望みは、光の巫女だけだってな・・・巫女を搔っ攫った時点で皇帝の目的は達せられたってことだろう?つまり、後は俺たちが何をしようが、どうしようと・・・例え、巫女を取り戻そうとしている人界軍に加勢しようが、こっちの自由・・・そうだろうが!」

 

「っ!?」

 

そう告げたイスカーンの雰囲気に怒気が混じり始めた。その悔しさを込めるかの如く、彼は拳を力強く握った。

 

「俺は・・・俺たちは、皇帝に直接逆らえねぇ。どんなにクソッたれな命令をされても、それに従うことしかできねぇ・・・あんたらと再び闘えと言われたら、闘うしかなくなる・・・だから、俺たち拳闘士部隊は、ここであの赤鎧どもの侵攻を防ぐ!あんたらと人界軍は皇帝を追っかけてくれ・・・そんで、皇帝を・・・あのくそったれ野郎を・・・・・・野郎に教えてやってくれ!

 

 

 

俺たちは・・・てめぇの人形じゃねぇてな!!」

 

 

 

そう言うとイスカーン達拳闘士は拳を合わせて構え、指示を出した。

 

「よぉーし、お前らぁ!!その突破口をなんともしても保持しろぉぉ!・・・ふぅ・・・あんたたちは、あの隙間から脱出しろ。流石の俺たちでも、そう長くは持たねぇ」

 

「・・・ありがとう」

 

「私も、ここに残る・・・」

 

「分かりました・・・・・・殿をお願いします」

 

そう言うとアスナは馬の手綱を握り走らせた。



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#34 太陽神と地母神

なんかびっくりするぐらい登録者が増えていて嬉しい反面驚き反面です。
あと、UAが四万超えました!読んでくださってありがとうございます!


「・・・本当に残って良かったのかよ、女」

 

「名前、さっきも言った・・・三度目」

 

人界軍が去り、残された拳闘士部隊・・・アメリカ人たちが包囲する中、部隊の戦闘に立つイスカーンとシェータがそんな会話を交わしていた。

 

何度も名前を呼ばないイスカーンに、無表情のまま注意するシェータ・・・その反応にやれやれといった様子で、イスカーンは言い直した。

 

「あぁ・・・・・・いいのか、シェータ?生きて戻れるかどうかなんて分かんねぇぞ?」

 

「貴方を斬るのは私・・・あんな奴等にはあげない」

 

「へっ、言ってろ」

 

運命とは奇妙なものだ。本来的であるはずの整合騎士と赤の軍隊相手に戦うのだから。だが、そこに不満はなかった。

 

ーーこんな死に方も良いな。

 

そう思うとイスカーンは叫んだ。

 

「よーし!てめぇら、気合入れろ!!円陣を組め!全周囲を防御!寄ってくるアホどもを、片っ端からぶちのめしてやれぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

馬を借りたアスナは窪地を走る。回している時間も惜しく、アスナは手綱を操り馬を窪地に飛び込ませる。それに続き、人界軍も従軍し、先を急ごうとした時・・・

 

「っ!?前方から敵!!増援が・・・!!」

 

空から降り注いだ赤い雨は再び鎧を形成し、周りを完全に囲まれてしまった。このままでは一網打尽にされてしまうと思った時。上空を飛んでいたレンリが敵陣に向かって突っ込んでいた。

 

「行けない!レンリ様は捨て身の攻撃を!!」

 

行けない。それはダメ!!そう思った時だった。まるで宇宙まで届く蒼穹の如く、彼方から白く輝く星が降った。

 

「あれは・・・」

 

降りてくる人物は身の丈ほどある大きな弓を持ち、右手を握ると煌めく矢を出した。

 

誰もが足を止め、空を見た。そして空に浮かぶ人は弓を弾き、矢を放つ。光矢は空中で消えたかと思うと次の瞬間、弧を描いて着弾する。

 

「連射できない!?・・・上等よ、その方がしっくりくるわ」

 

そう言いながらその少女は群青色のブーツで地面に降り立つ。

 

「お待たせ、アスナ」

 

そう言うとアスナはシノンに抱きついた。

 

「ーーーーシノノン!!」

 

そう言ってアスナは抱きつくとアスナの背中を摩った。

 

「ごめんなさい。遅れたみたいで・・・」

 

「ううん・・・むしろ丁度良かった・・・」

 

そう言うと詩乃はアスナに聞いた。

 

「アスナ、ブレイドはどこにいるか分かる?」

 

「あっ・・・ごめんシノノン。居たことは居たんだけど・・・」

 

そう言うとアスナはブレイドは先に偵察をすると言っていなくなってしまった事を伝えるとシノンは半ば呆れたようにため息を吐いた。

 

「はぁ・・・何してんのよ、ブレイドは・・・」

 

「ご、ごめんシノノン」

 

「別に、アスナのせいじゃないわ。私を置いてどっかに行ったブレイドが悪いんだから・・・見つけた時はたっぷり叱ってやるんだから・・・」

 

「アハハ・・・」

 

そう言い、少し場が和やかになるとシノンが言った。

 

「あ、そうだ。キリトは・・・どうだった?」

 

「・・・こっちに来て」

 

そう言うとアスナはシノンを案内した。今のキリトがどうなっているのか直接見たいと言うのと、何となくキリトに合うべきだと直感が語っていた。そして荷馬車に向かうとその中の一つにキリトは座っていた。シノンはその痛々しい見た目に心を痛めつつも、持っている武器を見て少し驚いた様子を見せた。

 

「これは・・・小銃・・・!?」

 

「うん・・・ブレイドが作ったって言ってたよ」

 

そう言われ、シノンは徐にキリトの持っていた銃を触る。そして、キリトを顔を見て話しかけた。

 

「キリト・・・必ず…必ずブレイドに私渡しに行くから・・・少しの間、借りさせて」

 

そう言うとキリトは今まで手放さなかった銃にこめていた力を抜く。そしてシノンは銃を受け取ると。

 

「・・・ありがとう」

 

そう言い、シノンは横にあった箱に乱雑に入っていた空薬莢を手に取ると一発ずつ弾倉に装填した。そんな中、シノンはブレイドの作った小銃を見ると思った。

 

「(Gew98を作るなんて、いかにもブレイドらしいわね・・・)」

 

どんな世界に行っても物を作る気持ちは変わらないのかと思いながらシノンは五発の薬莢を入れ、最後に六発目の薬莢を抑え、ボルトを押し込んで無理矢理薬室に入れた。

 

 

 

 

 

馬車を後にしたシノンは小銃を担いでアスナに提案をした。

 

「ここから南の方向に遺跡っぽい所があったわ。まずはそこまで移動しましょう」

 

「うん、そうだね」

 

「じゃあ、先に遺跡まで飛んで地形を確認してくるわ。だから・・・」

 

そう言おうとした時、アスナがシノンの肩を掴んで聞き返した。

 

「ちょっと待って、シノン・・・今、飛ぶって言った!?」

 

「えっ・・・うん、そう言ったけど・・・」

 

困惑しつつもシノンはそう答えるとアスナはシノンにあるお願いをした。

 

「それって・・・空を自由自在に飛べるってことなの・・・?」

 

「・・・うん。ソルスアカウントの固有アカウント能力らしいわ。聞いた話だと、制限時間とかもないって・・・」

 

そう言うとアスナは言った。

 

「シノン、お願い!ベルクーリさんを助けて!!」

 

そう言うとアスナは詳しい話をし、シノンにアリス追跡を依頼したのだった。

 

「ーー分かったわ。それまで頑張って。アスナ」

 

「うん、シノノンも気を付けて」

 

そう言うと太陽神ソルスの能力『無制限飛行』を発動させたシノンは、すぐさまアリス救出へと飛び立った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

ほぼ同じ頃、生々しく激戦の跡が残る東の大門跡。そこでは一人の亜人がたたずみ、懸命に土を掘っていた。

 

彼はオークの族長リルピリンである。

 

彼は必死に土を掘るとついに目的のものであった銀入りの指輪を見つけた。それは皇帝ベクタの命令で死詛蟲の生贄となった姫騎士レンジュの遺品であった。しかし、それ以外は全てあの忌々しい死詛蟲によって全て神聖力に変えられてしまった。

なぜオーク三千人は生贄となったのか。その理由はただ一つ。

 

人族より醜かったからだ。

 

ただそれだけの理由で仲間達は生贄となってしまった。その事実に嗚咽が漏れそうになった。

 

その時、後ろでズドンと大きな音を立てて何かが落ちて来た。

 

「痛ぁ・・・」

 

そう言いながら少女は後頭部を摩りながら辺りを見た。そしてそこでリルピリンを見た。

 

「えっと・・・・・・あなたは・・・」

 

「っ・・・!?見るなぁ!おでを・・・おでを見るなぁ!?」

 

「えっ・・・」

 

慌てて顔を隠したリルピリンに少女はキョトンとした表情を見せた。しかし彼女はリルピリンを見て話しかけた。

 

「あの・・・こんにちは?それともおはよう、かな?」

 

そう話しかける少女にリルピリンは疑問を口にする。

 

「・・・なぜだ・・・なぜおでを見て逃げない・・・?なぜ悲鳴を上げない・・・?お前は人族なんだろう!人族のくせに・・・なんで・・・!」

 

「なぜって・・・だって、あなた人間でしょ?」

 

「なぁ・・・!お、おでが…人間だと・・・!何を馬鹿なことを言っているんだ!この顔を見れば、分かるだろうがぁ!?おではオークだ!お前らイウムが人豚だと罵るオークだ!?」

 

「・・・でも、人間だよね?だって、こうして私たち、話ができてるじゃない・・・それ以外に何が必要なの?」

 

「何って・・・・・」

 

そこでリルピリンは思う。人とは何だ。言葉ならゴブリンや、ジャイアント、オーガだって操る。しかしそれらは生まれた時から亜人として人と区別されてきたのだ。息が荒くなりつつ、立ち尽くすリルピリンに少女は再び辺りを見回すと聞いた。

 

「・・・ここはどこ?と言うか、貴方の名前は?」

 

「お・・・おではリルピリン」

 

「リルピリン、素敵な名前ね。あ、私はリーファよろしく」

 

そう言うとリーファはリルピリンに手を出す。その事にリルピリンは何度目かの驚愕をする。何かの罠なのかと思ってしまうほどに。

 

「お前・・・人界軍の騎士だな?なら、お前を捕虜にする!皇帝のところに連れて行く!」

 

「・・・皇帝って言うのは、暗黒神ベクタのことよね?」

 

「・・・そ、そうだ」

 

そこでリーファは一考する。このままいけば皇帝ベクタに会えるかもしれない。だったら下手なことはしない方がいいだろう。

 

「・・・分かった。なら、捕虜としてでいいから、私を連れて行って」

 

この女は何を考えているのだろうか。そう思いつつ自分は少女に縄を巻こうとした。その時だった。真っ暗な霧の中から一本の腕がリーファの髪を無造作に掴んでいた。

 

「匂う・・・匂うわ!・・・なんて甘い、天命の香り!!」

 

ディー・アイ・エルはアリスの攻撃で瀕死だった状態の時、運良くリーファを見つけたのだった。

 

「素晴らしい獲物を捕まえたわね!良い働きよ、豚。ご褒美として、あんたに楽しいものを見せてあげるわ!!」

 

そう言うとディーはリーファを釣り上げるとその装備を剥ぎ取る。下着までも取られ、眩しいほどに白い肌が見える。

 

「どう、女の体を見るのは初めてでしょう?豚には目に毒かしらね?でも、面白いのはこれからよ!!」

 

そう言うとディーは指を動かすとまるで骨を失ったかのようにうねうねと動き、リーファの体に巻き付く。

 

「ぐっ、ああぁぁあぁぁあぁぁ!!」

 

血を流し、もがくリーファ。それを見てディーは心底愉快そうに呪文を唱える。

 

「システム・コール!トランスファ・ヒューマンユニット・デュアリビティ・ライト・トゥ・セルフ!!」

 

「ああっ!?ぐぅぅぅ・・・ああああああぁぁ!?」

 

「かはぁ!?凄いわ・・・凄いわァァ!?なんて、濃くて甘い味なのかしら!!」

 

「な、何をしている?!その娘はおでの捕虜だ!おでが皇帝の元へと連れて行く!」

 

「黙れっ!豚めがっ!」

 

リルピリンの抗議にディーは答える。

 

「忘れたかっ!私の意思は皇帝の意思!私の命令は皇帝の命令なのよ!!」

 

「っ!!」

 

皇帝。忌々しい単語が頭に響く。そんな中、ディーはリーファから天命を吸い取り続け、徐々に白い髪を取り戻し始める。そしてここでリーファの能力が発動してしまった。

 

「これは・・・なんという僥倖!湧いてきた・・・また新たな天命が更に溢れてきたぁ!!」

 

そう、彼女はログインした地神テラリアは無限天命回復能力を持っており、ここでその能力が発動してしまった。

 

「もっと!もっとよ!もっと私によこしなさい!!」

 

「うっ、うわぁぁぁぁあぁああ!!」

 

リーファはまだこの世界を知らないが故に誰が敵で誰が味方なのかわからない。だから、この場を耐え凌ごうとしていた。

 

「・・・やめろ・・・・・・!」

 

「・・・っ!?やめろぉぉぉ!!」

 

「うん・・・?」

 

リーファがずっと苦しみ続ける姿を、眼前で見せつけられ・・・反論できずにいたリルピリンが、遂に限界を超え、叫んだ・・・彼がいきなり叫んだことで、愉快な気持ちになっていたディーは、ようやく我に返った。

 

「・・・今の言葉は何?この私に命令してるの?・・・豚であるお前如きがぁ!?」

 

「っ!?」

 

「言った筈よ、豚ぁ!この捕虜はもう私のよ!どれだけ天命を吸おうと、この場で縊り殺そうと、お前は関係ないでしょう?フッフッフッフッ・・・う~ん、でも、そうね・・・見つけたのはお前なんだし、少しくらいは譲歩すべきかしらね・・・・・・なら、今すぐそこで裸になってみせなさい!」

 

「・・・!・・・何を、言っている・・・?」

 

一瞬苛立ちを見せつつ、何かを思い付いたディーは歪な笑みを浮かべ、とんでもない命令をリルピリンへとしてきた。意味や意図が分からないのが半分、言っていることが正気かと疑う半分・・・リルピリンは驚くことしかできなかった。

 

「私ね・・・始めて見た時から、お前がその大仰な鎧とマントを着ていると吐き気がするのよねぇ・・・豚のくせに!まるで人みたいじゃない・・・そこで素っ裸になって、そこで四つん這いになってフガフガ鳴いてみせたら、この娘を返してあげるかもよ?」

 

そこで自分が右の視界が不意に赤く染まる。そこから針を刺すような痛みが頭をつらぬく。

 

ーー豚のくせに

ーー人みたいに

 

そこでちリーファをディーの声が合わさる。

 

ーー人間でしょ?

ーーそれ以外に何が必要なの?

 

この娘をディーに殺させはしない。だからこそ、自分はマントの留め金をつかんだ。そしてマントを外すと次に鎧に手をかける。その時、リーファが叫んだ。

 

「駄目!」

 

「っ・・・!?」

 

「私は・・・大丈夫だから・・・!そんなことは・・・止めて・・・!」

 

「ほ~ら!どうしたのよ、豚ぁ!手が止まってるわよ!さっさと脱ぎなさいよ!!それとも、人族の裸に興奮しちゃったのかしらぁ!?」

 

「おでは・・・おでは・・・!?』

 

今の状態にあっても自分のことを心配してくれる彼女と、更ならる侮辱の言葉を飛ばす悪魔・・・・・・どちらのために動くべきか、それが最後の引き金となった。ズボンへと掛けていた手は、抵抗することなく納めていた剣を握っていた。

 

「おでは・・・人間だぁぁ!!」

 

右目の封印・・・コード871で右目が吹き飛びながら、リルピリンは心のままに叫び、剣を抜いた!自分の命令に背く訳がないと高を括っていたディーは不意を突かれ、回避が遅れる・・・リルピリンの剣がディーの左足を掠め切った。

 

「ぐぅぅ・・・!」

 

「・・・はぁ・・・?・・・・・・このぉ・・・臭い豚がぁァァァァァァァ!?」

 

右目が爆ぜたこともあり、斬った反動で地面に倒れ込んでしまったリルピリン・・・対し、見下していたリルピリンに傷を負わされたことで、一瞬呆けていたディーは、その怒りを一気に爆発させた。

 

拘束していたリーファを後方へと放り捨て、倒れているリルピリンへと襲い掛かる!

 

「よくもぉ・・・この私に傷をぉぉ!?この下等生物がぁぁ!ふん!ふぅん!!」

 

「がぁ・・・ぐぅぅ?!」

 

何度も何度もリルピリンの頭をかかとで蹴り潰し、怒りを込めるかのようにその頭へと足をねじ込ませる。

 

「私の命令に従っていれば、いい思いができたものぉぉ!!」

 

術師としての冷静さなど全く見受けられず、ただ怒り任せにリルピリンへと暴行を加えるディー・・・その怒りに応えるかのように、右腕は長き暗黒爪に、失われていた左腕は負の心意により、肥大した細胞の塊のような巨腕へと変貌を遂げた。

 

「切り刻んで!?粉々にして!?藁と混ぜて!?猪の餌に・・・え?」

 

その瞬間、自分の腕が何者かに捕まれ、全く動けなくなった。

 

「何だこれは!!」

 

そう思った瞬間、リーファが動いた。瞬時に片手剣『ヴァーデゥラス・アニマ』を抜いてその両腕を切り落とす。

 

「人族が・・・豚を助けて・・・人を斬る?」

 

すると不意に()()()()声がした。

 

「『違う(よ)。人を助けるために、悪を切るの』」

 

そう聞こえた瞬間、ディーは体と両足を赤黒い触手のような何かにガッチリ掴まれる。そして今まで吸収した天命がいきなりゴッソリを持っていかれた。

 

「なっ・・・」

 

ディーは何も答えられずにリーファの斬撃で跡形もなく消滅した。



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#35 反逆

「まさかお前さんと共闘なんてな」

 

「俺もこんな事になるとは思わんかったさ」

 

そう言い、ベルクーリとシャスターはそれぞれの飛竜に乗りながら前を飛ぶ青年を見た。

 

「やれるのか?シャスター」

 

そう問うベルクーリはシャスターに聞く。これから相対するのは皇帝ベクタ。つまり、シャスターにとっては上司に反逆するようなものだ。右目の痛みに耐えられるのかと言う意味があった。

 

「問題ないさ。勝手だが、望みは託した。悔いは残していない」

 

「それなら結構だ」

 

そう言うとベルクーリはシャスターの覚悟を見ると時穿剣を鞘から抜き放つ。

 

飛竜で追いつけないのなら、飛べないようにすればいい。幸いにもこの時穿剣はそれをするにぴったりだ。

スゥと息を吸うとベルクーリはベクタの乗る飛竜を注視する。

武装完全支配術は天命を使用するが故に注意しなければならない。おまけに時穿剣は先の東の大門の戦いの影響で天命を消耗していた。

この技は精密さを必要としているので前を飛ぶユージオの飛竜に危険が及ぶ可能性があった。すると自信の飛竜である星咬が鳴くと、ユージオの飛竜が横にそれた。さすがだと思いつつ、ベルクーリは精神をこれでもかと集中する。

ベルクーリは身体の右側に時穿剣を立てて構え、そして、式句も無く解放術を発動させ、その刀身が微かな光を帯びた。

 

「時穿剣・・・裏斬!!」

 

ズゥンと重々しい音が響き、凄まじい速度で剣が降り遅された。青い残像が斬撃の軌道に乗って無数に輝くとそのまま消えた。

その瞬間、彼方の空で黒い飛竜の羽の根元が斬れ、飛竜は悲鳴を上げて落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片翼が斬り裂かれた飛竜が最期の力を振り絞って軟着陸したのは、円柱形の奇岩が乱立する地帯だった。場所としてはこの地帯の中央の、高さ約九十メートル。直径約二十七メートルほどある岩の頂上だった。

自分を献身的に運んできた飛竜の事を記憶と思考から削除したガブリエル・ミラーは、足元に横たわっているアリスの事を気にしながら、岩山を下るかどうかを思考する。この世界にハーネスなんて便利なものもない上にこの世界の魔法なんて点で知らないのでここから飛び降りるのも得策じゃない。

クリッターの策もうまく行っているだろうと予測しつつ、ガブリエルは接近してくる影を見た。丁度いい、あの飛竜を奪うのだ。それに乗って果ての祭壇に行けばいい。そしたらこのアリスを心行くまで堪能するのだ。

鎧のベルト一つ外すのも、優美に、厳粛に、象徴的に。

 

「・・・もう暫く、そのまま眠っているといい。アリス・・・アリシア」

 

そう呟くとガブリエルは敵を迎え撃つべく、岩山の中央に歩いて行った。

 

 

 

 

 

「アリス・・・!!」

 

ユージオは飛竜を飛ばす。すると後ろから怒鳴り声が聞こえた。

 

「ユージオッ!!」

 

「っ!?」

 

「この馬鹿野郎が!いきなり飛び出しやがって!!」

 

「す、すみません。体が先に動いてしまって・・・」

 

ユージオがベルクーリに謝罪をするとシャスターが言った。

 

「何、若い証拠だ。いずれ学べば良い」

 

「あ、貴方は?」

 

「暗黒騎士団団長のシャスターだ。これから君と行動を共にする者だ」

 

「!!」

 

「まぁ、そう言うことだ。こいつは敵じゃねぇ」

 

ベルクーリはそう言うとベクタを捉えた。

 

「全員行くぞ」

 

「分かりました」「了解だ」

 

そう言うと三人は二〇〇メルはある高さから飛び降りたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベクタは降りてきたフラクトライトを見て、疑問に思った。

 

「・・・なぜ、暗黒将軍がそっちにいる?」

 

そう問いかけるとシャスターは答える。

 

「より良き未来のために」

 

「未来?おかしなことを言う奴だ」

 

ベクタはそう言うと降りてきたシャスターとユージオを見ると、剣を抜いた。同じようにユージオ達も剣を抜き、構える。臨戦大勢の二人を見て、ベクタは背後の空を見た。

 

目に入ったのは、眼前に迫った致死の流星。四つのスーパーアカウントの中で最大の天命を持つ《暗黒神ベクタ》の天命を全て削りきるほどの一撃。

ユージオとシャスターが敢えてガブリエルの視界に入り、その意識を少しでも引き付け、その視界の外より降下してきたベルクーリが必殺の一撃を見舞う。そのような計画を立てて彼らは行動していた。

その一撃には、ベルクーリの必殺の心意も込められている。カセドラルでユージオと戦った時すら、本気と全力を出し切っても漲らせる事の無かった殺気を込めている。

理由は怒りだった。ベルクーリ・シンセシス・ワンと言う男は、その長い生涯において初めて、愛剣に真なる怒りを込めるほどに激怒していた。アリスが攫われた事のみだけでなく、目の前の存在が現実世界と言う別の世界からやって来たよそ者であり、そいつが暗黒界人たちを戦場に駆り立て、本来無用だった筈の血を無理やり流させた。

 

『和平の準備を進めていた所に、ベクタが現れて全てが無に帰った』

 

半年間、どこに行っていたかと思えば戦争をしないために尽力し、無用な血を流させないための努力を一瞬で無駄にさせ、幾万もの命を貪った。ただ言えるのは一つ。

 

「(てめぇと言う人間の本性が、どうしようもなく悪だと言う事だ)」

 

だからこそ、散って行った命の重さを、此処で思い知れ。

 

「ぜぁぁぁぁああ!!」

 

高度十メルの地点で最後の一歩を踏み切る。あらんかぎりを込めた気合いと共に、皇帝の脳天へと斬撃を振り下ろす。その威力は大気すら灼き、アンダーワールドで発生した全ての剣技を超えるほどの威力。神といえども、一瞬で天命値を削り取ってしまう一撃を。

 

しかし刹那の瞬間、皇帝の身体が淀みない動きで、すぅと横に滑った。唯一退避できる空間へと、回避に必要なギリギリの距離を。究極の一撃が断ち切ったのは、宙にたなびいたマントだけで、直後に雷鳴じみた轟音と共に岩山の頂上に深い傷跡をつけ、巨大な岩山自体をも大きく震わせた。

 

「あれを躱すか・・・!?」

 

驚愕するシャスターとユージオを見る事なく、ベルクーリは皇帝の側面に回り込みながら着地、即座に横薙ぎの一撃。全身全霊の大技を空振りしつつも、次の攻撃に半秒とかからなかった。しかし、その追い打ちすらベクタは避けた。

 

だがそれで、ベルクーリは勝利を確信する。

 

放った一撃は躱されたが、それは未だ残っている。時穿剣の支配術《空斬》により、未来へと斬撃を残していたのだ。皇帝が回避のために動いたのはその斬撃が残っている方向であり、そこに背中から吸い込まれていく。

最初に豪奢な白金色の髪が広がり、額に嵌まる宝冠が微かな金属音と共に砕け散り、皇帝の両腕が高く高く掲げられた。ベルクーリの目には、黒を纏う長身の皇帝が縦に裂ける様が視えていた。

 

 

ただ、その光景は乾いた破裂音と共に砕かれた。

 

 

蜃気楼のように揺らめいていた不可視の斬撃が、皇帝の両手に吸い込まれるようにして消えた。それと同時に、皇帝の青い双眸がどす黒い闇色に染まり始め――その奥底に、ちかちかと瞬く無数の星のようなきらめきが見えた。

 

「・・・貴様は、人の心意を喰うのか!?」」

 

其れは星ではなく、今までこの男が吸い取ってきた、人々の魂が囚われている。そう確信したベルクーリの呟きは目の前の皇帝に、そして二人にも届いた。

 

「何だと!?」

 

「そんな・・・!?」

 

「シンイ・・・?・・・なるほど(マインド)意思(ウィル)か」

 

寒々しい、生きた人間の気配が完全に抜け落ちた声を響かせる。その声にシャスターやユージオの剣を握る力が強くなる。すると彼はその唇を薄い笑みのように見える形へと歪めた。

 

「お前の心は、オールドヴィンテージのワインの様だ。とろりと濃密で、どっしり重く・・・長く残る後味。私の趣味ではないが・・・しかし、となればあの二人の味はどういうものかも含め、メインの露払いに味わうのも良かろう」

 

皇帝が腰に佩いた長剣を抜き放つ。現れた細身の刀身は青紫色の燐光に包まれ、皇帝が纏う不吉な雰囲気を一際強調していた。

 

「さぁ、もっと飲ませてくれ」

 

そう言い、気負いなく剣をぶら下げながら微笑む皇帝に、ベルクーリは意を決して駆け出す。シャスターもユージオも、それに倣うように駆けだした。

全てのものを凍らせるが如く、ユージオは青薔薇の剣を持って、ベクタに接近する。

 

「まだ若く、新鮮で熟成を始めたばかりだが、後味に印象を残す。・・・悪くない」

 

ベクタが氷を吸い取り、欠片が残らず吸い込まれていく。直後に、背後から、ありったけの心意を詰めた一本の太刀がベクタの首を狙う。

 

「こっちは喉を灼くように熱く、濃密だ」

 

青紫色の燐光を纏った剣がそれを容易く受け止める。しかし、シャスターはそんなことに驚く間も無く、ある現象に巻き込まれた。

剣の燐光がシャスターに生き物のようにまとわりつき、赤い燐光が萎びるように消えていく。

 

「(これは・・・其れに俺は一体・・・)」

 

誰なのかと思った時、ベルクーリの声が轟く。

 

「何している!シャスター!!」

 

その瞬間、反射的に後ろに飛び、距離をとる。止まっていた数秒で、自分の右腕の先が切り落とされる。追撃をしようと試みるベルクーリにシャスターが忠告を入れる。

 

「気をつけろ・・・ヤツは剣越しに心意を喰らう・・・」

 

「何っ!?」

 

その時、技を出したユージオが止まってしまった。目の光が消え、その瞬間。皇帝が剣を持ち上げた。

その瞬間に、ベルクーリはユージオを掻っ攫うように飛び、斬撃を避ける。ユージオを突き飛ばすように逃したベルクーリはユージオの頬を軽く叩きながら聞いた。

 

「おい!ユージオ!」

 

「は・・・い・・・」

 

目に光が戻り、意識が回復したユージオを見てベルクーリはベクタの危険度を一段階あげた。

 

「剣すら寄せ付けんか・・・こりゃ厄介だ」

 

純粋な剣の戦いではベルクーリはベクタに勝っていると感じた。しかし、心意での技を封じられており、ベルクーリはどうしたものかと思うとユージオが意見を述べた。

 

「ベルクーリさん・・・僕にある提案が・・・」

 

「・・・何だ?」

 

ベルクーリはそう聞くと彼はある提案を持ちかけた。




作者からのお願い。
今、作者が過去の回を読んで誤字を直しております。
が、絶対見逃していると思いますので、もし発見された場合は誤字報告欄でご報告をお願いします。


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#36 漢の覚悟

「ーーーーというのはどうですか?」

 

「ふむ・・・」

 

ユージオの提案にベルクーリはしばし考えた。これなら行けるかもしれないと。

その間に、ベルクーリは腕の先を切られたシャスターに近づき、二本指を使い、腕を止血する。その瞬間、ベルクーリはシャスターを見た。彼はベルクーリを見た。彼の目には覚悟が浮かび上がり、ベルクーリにも同じものが浮かんでいた。

 

「(ヤツはこの世界に害をもたらす存在)」

 

「(生かしておけばそれだけで世界の脅威だ)」

 

たとえ共倒れでもこいつを倒さねば意味はない。

 

二人はそう再確認した。こいつが居る限り、自分を愛した者たちに平和は訪れない。男としての本能が働いた。

 

「(あとはユージオと嬢ちゃんをどう逃すか・・・)」

 

しかし、ベルクーリは此処で考えるのをやめた。

 

「こんな時だ・・・やるしかねえだろ」

 

武像完全支配術は使えない。体術も自殺と変わらない。此処に居る三人で、奴を倒す方法は一つだけだ。其れはユージオが提案したものだった。

 

『さっき、飛竜を堕とした技を使うんです。僕が注意を引いている間に・・・』

 

ベルクーリですら舌を巻いた。考えてはいたが、まさか年はも行かない小童が思いつくとは思わなかった。時穿剣の記憶解放術《裏斬》ならば、通用する可能性は高い。しかし、そこまで行くには多くの困難が待ち受けている。しかし・・・

 

「シャスター」

 

「何だ」

 

「俺に命を預けるか?」

 

その問いに自分はすぐに答える。

 

「・・・ああ、賭けてやるよ!俺の命をな!!」

 

賭けるは己の命、見返りは世界の安泰。シャスターは剣を向けた。その様子を見たベクタはシャスターを見ながら言う。

 

「ならばこうしよう・・・・『暗黒将軍、皇帝に危害を与える行為を一切禁じる』」

 

「ぐっ・・・」

 

体が固まってしまった。ベクタはビクスル・ウル・シャスターの上位者。これは天地がひっくり返っても変わらない事実。

 

しかし、皇帝の命令を全て承諾できるかは別の話だ。

 

シャスターの右眼が赤く輝き、頭蓋の中に無数の針が刺し込まれたかのような鋭い痛みが襲い掛かる。右目が燃えているのかと錯覚するほどの熱さを感じた。思わず蹲りそうになるが、そこでユージオが叫んだ。

 

「シャスターさん!大事な人を思い浮かべてください!貴方が命に変えても守りたと思う人を!!」

 

ユージオはかつての自分のように、シャスターに向かって言った。ビクスル・ウル・シャスターが真に皇帝へと刃を向けるには、必ず《右目の封印》の壁を乗り越えなければならないから。

 

「俺の・・・大切な・・・人・・・」

 

シャスターは言われた通りのことを自問自答する。世界の平和?皇帝の討伐?自分が求めているのは・・・

 

「リ・・・ピア・・・」

 

自分がかつて仕事を忘れてしまうほどに一目惚れし、帰った暁には共に暮らすと誓った愛おしき人だった。

 

「なるほど・・・俺の大切なものは・・・」

 

其れと同時に足に力が入り、剣を握った。体が動き、赤色の視界はついに銀色へと染まり、右目は激しく血を出しながら弾け飛んだ。

 

「っ!?」

 

その様子にベクタは驚愕の表情を浮かべ、ベルクーリはホッとした表情を浮かべた。右目を失ったシャスターはベクタに向けて剣を持った。

 

()()()()()()・・・平和な未来を・・・俺の愛した者を守るために此処で貴様を討つ!!」

 

剣を掲げ、そう叫ぶとベルクーリはシャスターを一瞥し、二人の男達は互いに剣を取っていた。

 

「(餓鬼に情けねえ物は見せたくねぇな・・・)」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

プレイヤーを突破し、アスナ達人界軍は七、八メートルほどの参道に陣を構えた。すると後ろから雄叫びに近い声が聞こえてきた。

 

「来たっ!!」

 

アスナ達は雄叫びが聞こえたのを確認すると人界軍は槍を持って前に構える。今や十八番戦術である密集陣形は接近してくるプレイヤー達の足を遅くさせていた。

 

「これが最後の戦いよ。キリト君のこと、お願いね」

 

「はい!お任せください、アスナ様!」

 

「必ずお守り致します!」

 

「どうかお気をつけて・・・!」

 

「命に代えても・・・」

 

アスナはそういい、ロニエ達と合わせ、頷く。その心内、アスナは疑問を感じていた。

 

「(可笑しいな・・・ブレイドは此処にいると思っていたけど・・・)」

 

そう、此処の遺跡にブレイドは見当たらなかった。先回りして監視をしていると言っていたからてっきり此処で見張っているのかと思っていた。しかし、彼はここには居なかった。その事にマリーも少し落胆していた。

 

「(後でしののんに言いつけてお仕置きしないとこれはダメね・・・)」

 

アスナはそう思っていながらふとブレイドの服装を思い出していた。そしてそこである違和感を感じた。

 

「(あれ?そう言えばブレイドの格好・・・あれって確か・・・)」

 

そう思った時、レンリが叫び、敵が来たことを知らせた。その事にアスナは意識を前に向け、ラディアント・ライトを抜いた。

激突する人界軍とプレイヤー達、それぞれに命が散っていく中。アスナは剣を振る。鬼のような覇気を纏い、思わず怯んでしまうプレイヤー達に慈悲など与えず、瞬時に切り裂く。

リアルな血、悲鳴を求めてやって来た愚か者はこの世界を本気で守り通すと誓った者達の心意の前にはあまりにも無力であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなアスナを見下ろす一つの影があった。

 

「くくっ、相変わらずキレると容赦ないな」

 

彼はヴァサゴ・カルザス。一度やられた彼はSAOのアカウントをコンバートさせ、再びこの世界にやってきた。ログイン直後のシノンの攻撃を避け、残った人に紛れて囮部隊を追った。そしてこの神殿の壁をよじ登り、特等席からの見物を決め込んでいた。

 

「さて・・・()()()は何処だ・・・」

 

何処か狂気的な笑みを浮かべながら彼は必ず居るはずの誰かを探していた。

 

 

 

 

下では肉厚の剣がアスナの右腕を掠める。現実と同じように痛みが走り、一瞬だけ表情が歪む。

 

ーーこれっぽっち、痛くもない

 

キリト達が受けて来た痛みに比べれば・・・

 

それに、後方から投石器がやってくれば状況は一変する。ブレイドが設計したという大きな投石器は現在、東の大門を出て、こちらに向かっていると言う。それまでの辛抱だ。それまで、私たちは剣を振り続ける。

 

「はぁぁぁぁああ!!」

 

敵の重装兵の鎧を破り、敵を斬る。無作為に命を奪おうとする誰かしらぬ人を、逃げようとするプレイヤーを後ろから刺し、体を真っ二つにしてポリゴンへと変化させる。

死力を尽くす事数時間、アスナの体は至る所に傷をつくり、足元には大量の血が流れていた。剣を地面に突き刺し、其れを支えにアスナは立つ。

 

ーーこの身体が倒れるのは、心が折れた時だけ。二人が守ったこの世界を壊させはしない。

 

そう思い、アスナは剣を持つ。其れと同時に、第二陣のコンバートプレイヤーが突撃を開始した。その時だった・・・

 

「っ・・・あれは・・・あの光は・・・また敵の、援軍・・・・・・!?」

 

アスナは上空から降りてくる青い光に絶望を抱いた。そこには諦めもあった。アスナはただ結果だけを待っていた。

青い光は空中で分散し、人の姿へと変わる。その瞬間、竜巻が起こり、足元で歩みを止めていたプレイヤーを切り刻むように吹き飛ばす。

竜巻の中から現れたのは和風の鎧に刀を持った細身の男だった。

 

「おう、待たせたな。アスナ」

 

「な、んで・・・」

 

「何でって、同郷の嘉じゃないの」

 

「リズッ!」

 

赤髪に似合わないバンダナを巻いた男と、ピンクの髪に盾とメイスを携えた少女が話しかける。その間も、次々と青い光は形造り、アバターとなっていった。するとアスナに、薄紫色の髪に両手にMG42を持った少女が話しかけてきた。

 

「やれやれ、マスターの癖が染っているよ。アスナさん」

 

「ストレアちゃん!!」

 

そう言うとストレアの後ろに同じく、銃を持ったプレイヤーが多く現れた。その様子をみたリズベットがアスナを見て笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

「みんなで助けに来たよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこでは世にも珍しい歴史に残る戦いが起こっていた。二人の団長は剣を振り、傷を受ける。

 

ー斬りかかり

 

ー意識が薄れ

 

ー痛みで覚醒する

 

そんな繰り返しを続けていた。その様子に、ユージオは二人から『手出し無用』の意思を受け取って、剣を鞘にしまいつつも、柄を握りながら戦局を見ていた。

 

『子供は親より早く死んではいけない』

『親は必ず先に逝ってしまうもの』

 

そう思う彼らはただ無心にベクタ相手に剣を振り続けていた。

 

「(まだか!?)」

 

「(あと二〇秒だ!!)」

 

二人は今までの経験から無言の会話をする。ベクタはただただ殺すことだけを考えて突撃してくる二人に呆れ始めていた。

 

「・・・つまらん」

 

二人が作った血溜まりを踏み、一歩前に出る。

 

「お前達の魂は重く、濃すぎる。そして私を殺す事しか考えていない」

 

平板な声で皇帝はさらに近づく。

 

「もう消えろ」

 

そう言い、剣を振ろうとした時。ユージオが走った。その事にベルクーリ達は驚愕する。彼は青薔薇の剣を持ってアインクラッド流ヴォーパル・ストライクを繰り出す。高速の剣技は皇帝まであと数ミリと逝ったところで受け止められる。

その瞬間、またあの感覚に飲まれる。意識を問答無用で闇へと突き落とすような皇帝の心意は、騎士長や暗黒将軍ですら抗えない。圧倒的な強さに、ユージオは現実を見せつけられる。

 

「・・・さない」

 

「?」

 

一瞬の呟きにベクタは疑問を浮かべる。意識がないと思っていた《人工フラクトライト》が何か喋ったのだ。

 

「・・・渡さない」

 

「何・・・?」

 

朧気な瞳をしつつも話した事に疑問に思っていると次の言葉で全てが吹き飛ぶ。

 

「お前なんかに!アリスは渡さない!!」

 

「っ!?」

 

その瞬間、太陽のように眩い光が放たれ、ベクタは目の前のフラクトライトを瞬時に殺そうとした。その時だった。

 

「・・・危ねぇことしやがって・・・小童が……だが・・・ありがとよ」

 

ベルクーリが駆け出す。彼の持つ時穿剣の刃には、記憶開放術の発動を意味するシステムコマンドが浮かび上がっていた。

 

「これで終わりだ・・・」

 

「やらせはせん・・・!!」

 

ベクタは咄嗟にユージオを放り出して駆け出す。その瞬間、ユージオが唱える。

 

「エンハンス・・・アーマメントォッ!」

 

転瞬、ベクタを覆うように永久凍土の氷が襲いかかる。それを逃さずシャスターが飛ぶ。

 

「はぁぁぁあああ!!」

 

そしてシャスターはベクタの背中に剣を切り付け、動きを止めた。そして・・・

 

「時穿剣・・・・・裏斬りぃぃィィィィィィィィィィィィィ!!!!」

 

何もない空間を斬ったベルクーリ。何をしたのかを思ったその瞬間。体に変化があった。

 

「こ、れは・・・」

 

ひび割れる体にベルクーリは言う。

 

「へっ・・・斬ってやったのさ・・・お前の過去をな・・・」

 

時穿剣の《裏斬》は十分前の過去を斬る技。ユージオが提案したのはこの技ならばさしものベクタも所詮は人間、対応できまいと踏んだのだった。

 

「ぬううぅぅうう・・・…うぉおおおおああぁぁあああぁぁぁあああ!!!!」

 

全身がひび割れし、ベクタは今までにないほどの絶叫をあげな上げながらアバターは消滅した。

 

「これが俺たちの力ってもんだ・・・」

 

ベルクーリは最後にそう言い残すと時穿剣を地面に落とした。

 

「ベルクーリさん!!」

 

倒れたベルクーリにユージオが駆け寄る。するとベルクーリはある方を指差しながらユージオに言った。

 

「少し疲れただけだ・・・それよりユージオ・・・早く嬢ちゃんの元に行って来い」

 

「はっ・・・ハイっ!!」

 

そう言うとユージオはアリスの元に向かって走って行った。ベルクーリの横で同じようにシャスターも倒れていた。

 

「ハハハ・・・俺も疲れたな・・・」

 

スゥ、と大きく息を吸うとシャスターは呟く。

 

「まさか、生き残るとはな・・・」

 

「ああ、全くだ。青の坊主には驚かされてばかりだ・・・」

 

「老兵は去るのみか……」

 

そう言うと二人はアリスに駆け寄る金髪の青年を見ると頼もしさを感じていた。

 

兎も角、巨悪が去った事に二人は確かな勝利を確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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#37 旅立ち

微睡みから浮き上がりつつあるアリスが最初に感じたのは、人の温かさだった。これは知っているものだった。

 

ふと瞼を開けるとそこに映ったのは少し傷の増えた様子の青い剣を持った金髪の青年だった。

 

「・・・ゆーじお?」

 

すると急速に朧気な輪郭は像を結び、はっきりと周りの光景を映し出す。自分はユージオに膝枕されており、そこで今までのことを鮮明に思い出した。皇帝ベクタの駆る飛竜に攫われ、意識を失ってしまった。何と迂闊だったことか。

 

「アリス・・・!?」

 

「ユージオ・・・!!」

 

意識が回復した自分はユージオに抱きついた。

 

「うおっ!」

 

「ユージオ・・・ごめんなさい・・・」

 

啜り泣きながらアリスはユージオに抱きついていた。

 

「イテテテテ、アリス・・・い、痛いです・・・」

 

「あ・・・ご、ごめん・・・…」

 

そう言うとアリスは横になって倒れているベルクーリを見てアリスは思わず近づく。

 

「小父様!!」

 

そう言うとベルクーリはアリスの方に目を合わせるとアリスに向かって言った。

 

「おお、起きたか嬢ちゃん・・・・」

 

そう言うとベルクーリは自然回復した分の天命を確認するとアリスが神聖術を唱えた。

 

「システム・コール。トランスファー・ヒューマンユニット・デュラビリティ・・・」

 

アリスが天命値移動をしようとした所でベルクーリが彼女の腕を掴んだ。

 

「おいおい、天命値移動するまでじゃねぇよ」

 

「し、しかし・・・」

 

「ユージオを見ろ。普通に回復術を使っているぞ」

 

そう言い、指差した先にはユージオが光素を使い、シャスターを治療していた。その事にアリスは自分の気が動転していたことに気がついた。それを見たベルクーリが面白げにアリスに言った。

 

「慌てんな、まだ俺は死ぬ状態まで天命は減っていない。だから落ち着け」

 

「は、はい・・・」

 

そういい一息付いて息を整えるとアリスは慎重に光素を唱えてベルクーリの回復をしていた。そして回復を終えるとユージオが提案した。

 

「ベルクーリさん、僕はこれから本体の援護に向かおうと思います」

 

そう言うとベルクーリはユージオとアリスを見ながら言った。

 

「・・・取り敢えずユージオは嬢ちゃんと休憩していろ」

 

「ですがっ・・・」

 

ベルクーリに一言言おうとしたその時、ユージオは眩暈がするほどの倦怠感に襲われ、倒れかけてしまった。それを咄嗟にアリスが支えた。

 

「ユージオ!」

 

「それ見たことか」

 

「無理をするな。若者」

 

そう言うシャスターにアリスは疑問に思いつつも、ベルクーリが違和感がないように話していたので、自分の気絶している間に何かあったのかと思ってい、喉元まで出かけた所を引っ込めた。聞けばこの三人が暗黒神を倒したそうだ。それを聞いて驚愕していた。

 

「さて、取り敢えず小休止を取ったらこのままアスナのいる本隊に・・・」

 

その時、ベルクーリとシャスターはある気配を北側から感じていた。その方を向くとそこには一つの小さな影が徐々にこちらに近づきつつあった。

 

「なんだ、あれは・・・」

 

「敵・・・?」

 

そう思うとその影は徐々に姿を現した。左肩に特徴的な形をした武器らしきものを装備し、アスナとよく似た装飾の装備を纏った人は、上空で制止したかと思えば、ゆっくりと降りてきた。

 

「・・・あなたがユージオとアリス。それと、ベルクーリでいいのかしら?」

 

「は、はい・・・」

 

「あなたは・・・」

 

「私はシノン。太陽神ソルスの器を借りていると言えばわかるかしら?」

 

「おいおい、創世神に暗黒神に太陽神かよ。こりゃ地母神や月神が出てもおかしくねぇな」

 

まだ、ブレイドが月神のアカウントを使っていることを知らないベルクーリは少しげんなりした様子で肩を若干落とし、シャスターはそんなに神が現れていたのかと言う事実に驚愕した表情を浮かべていた。

その雰囲気から敵ではないと感じた僕はシノンさんに聞いた。

 

「あの・・・シノンさん。今の戦況は・・・?」

 

「アスナ達が赤い鎧の軍勢を抑えているわ。まぁ、敵の数が多すぎて楽観視はできないけど・・・」

 

「そうですか・・・では、休憩が終わり次第北に「ダメよ」っ!?なぜですっ!?」

 

シノンの遮った言葉に思わず声を失った。

 

「あなた達にはこのまま南にある果ての祭壇に行ってもらうわ。そこでコンソロールを触ってリアルワールドに通信をすれば・・・」

 

「それで逃げろと言うんですか?もう皇帝ベクタは死んだのですよ!それならば、後は赤鎧たちを倒し、ダークテリトリーを抑えるだけでしょう・・・!?」

 

「そうでもないのよ」

 

そう言うとシノンさんは決心したように口を開いた。

 

「リアルワールド人は・・・アンダーワールドで死んでも、本当の命を失うわけじゃないわ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「皇帝ベクタに宿っていた敵が、新たな姿に宿って・・・この世界にまたやってくるかもしれないのよ・・・」

 

あくまでも倒したのはベクタの体。命まで断ち切ったわけではない。その事実にアリスは憤りを覚え、噴火した火山の如く言葉を連ねた。

 

「では・・・ユージオかボロボロになって、小父様や暗黒将軍が死にかけ、小父様が決死の一撃で葬った敵が・・・死んでいないと。ただ一時姿を消して、何事もなかったかのように蘇ると・・・・・・命を賭した闘いが全て無駄だったと、貴女はそう言うのですか!?」」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ユージオ達が満身創痍だというのにだというのに・・・それなのに・・・ユージオたちは何のために、その命を懸けたと言うのですか!?こんな・・・・・・こんな一方の命しか懸かっていない立ち合いなど・・・まるで・・・

 

 

 

 

 

 

 

まるで、ただの茶番ではありませんか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリスの悲痛な叫びが響き渡る。自分は反論する権利はなかった。今までやってきたゲームで何回死んだことか。ベルクーリさんやシャスターさん達が何も言えない中、シノンさんはアリスの相貌を見つけながら言う。

 

「じゃあ、ブレイドやキリトの痛みは偽物なの?」

 

「・・・・・・え?」

 

「あの二人もリアルワールド人。この世界で命を落としても、本物の命は失われない。でも、彼らが受けた傷は本物。傷ついた魂は本物なのよ?」

 

「っ・・・」

 

「キリト達はあんな風にになるまで頑張った。ユージオも貴方を守るために剣を振った。だからこそ、貴女はユージオと一緒に行かなければならないの・・・敵が再びやってくる前に、今の僅かな時間を使って。貴女たちは向こう側に行かなければならないの」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

そこに嘘はなかった。キリトやブレイドは文字通り死力を尽くして戦った。ブレイドは戦争が始まる直前まで和平の道を必死に探していた。それはこの世界に住まう人の為を想ってのことだった。

それはアスナや、シノンも同じことなのだろう。

 

「・・・まぁ、来ちまった訳だな。この時間が」

 

「小父様・・・」「ベルクーリさん・・・」

 

ふと呟いたベルクーリにアリス達の視線が向く。横にいたシャスターも会話の雰囲気から何をしていたのか予測ができた。

 

「・・・このまま何事もなければと思っていたんだがな・・・・・・お前達はそのまま果ての祭壇に行け」

 

「小父様!?」「ベルクーリさん!?」

 

そう言うとベルクーリさんは僕たちを見つめながら言いつけるように話した。

 

「いいか、よく聞け。今ここで戦い続ければ。それこそ共倒れするまで奴らの蹂躙は収まらない。お前達なら分かるだろう?さぁ、このままリアルワールドに向かうんだ」

 

「ですが・・・それではまるで私たちが除け者の様ではありませんか!!」

 

()()()、俺はお前達を除け者にしたい訳じゃない。

()()()()()()()()、俺は果ての祭壇に行くべきだと言ったんだ」

 

「「?」」

 

ベルクーリさんの話に僕たちは首を傾げる。

 

「俺はな、お前達を何よりも大事にしたいからそう言ったんだ。

何のためにエルドリエは死んだ。

何のためにアスナや囮部隊が命を賭けた。

キリトやブレイドが世界を敵に回してまで最高司祭と戦ったのはなぜだ?」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「これ以上犠牲を増やしたくない。これまでの犠牲を犠牲と思いたくないのなら行け。ベクタが戻ってくるまでに。……さあ、行くんだ」

 

「小父様・・・」「ベルクーリさん・・・」

 

するとアリスはベルクーリさんの胸に飛び込むと嗚咽を鳴らしていた。

 

「おいおい、いつもの真面目はどこに行ったんだ」

 

「無理です・・・小父様には今まで剣を、術を、私に教えてくださいました・・・まだその御恩すら返しきれていないと言うのに・・・」

 

「御恩か・・・俺は返してもらった気がするがな」

 

そう言うとベルクーリさんはユージオを見た。そのことにシャスターとシノンだけがその理由を理解できた。

 

「これからは一人じゃねぇんだ。お前にも大切な人がいるんだ・・・何、これで一生の別れじゃねぇんだ。向こうの騒ぎが落ち着けば、また戻ってこればいい。そうだろう?シノンの嬢さん?」

 

「・・・このアンダーワールドが無事ならば。必ず帰って来れるわ」

 

ウチには天才がいるから。と言いかけたところでシノンは言うのを止めた。どこにいるかも知らない、こっちの気も知らない大馬鹿野郎はどうしたのだろうかと思いつつ、シノンは目の前の光景を眺めていた。

 

「そう言うことだ。これで最後って訳じゃねぇんだ。分かったら行くんだ」

 

そう言うとベルクーリはユージオを見るとユージオの肩を掴んだ。

 

「ユージオ、さよならとは言わん。だが、向こうで嬢ちゃんを泣かすようなことはすんな?それは男の恥だと思え」

 

「はい・・・分かっているつもりです」

 

そう言うとベルクーリは二人を南に振り向かせると背中を軽く押して、言った。

 

「・・・行ってこい」

 

「「・・・はいっ!!」」

 

そう言うとユージオ達は飛竜を呼び、それぞれ乗り込むとシノンが言う。

 

「果ての祭壇のついたら、向こうで既に準備は整っているから。その人に指示に従って」

 

「分かりました」

 

「行こう、アリス」

 

「ええ・・・行ってきます。小父様」

 

最後の挨拶を交わすとアリス達は手綱を握り、飛竜が空に上がる。その様子を見続け、影が米粒程になったところでベルクーリが話しだす。

 

「・・・弟子の旅立ちか」

 

「これはこれで美しいものだ・・・そうだろう?」

 

「へっ、それは違いねぇ」

 

実にイケオジな発言をする二人は次にシノンを見た。その目は戦いをする戦士の眼差しだった。

 

「さて、これからどうするか・・・」

 

「ベクタの本体が来ると言うことはまたここから現れる可能性が高いか・・・」

 

しばしの思考の後、シノンが口を開いた。

 

「・・・その役目、私にお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「・・・シノンの嬢ちゃん」

 

「先ほどの戦いでお二人は疲労をしていると思われます。ちょうど、ここに来る前、東の大門から移動中の投石器部隊に敵が迫っていると聞きました。出来ればそちらの対処をお願いしたいと思っています」

 

「疲労と言いながら老骨に鞭打ちと来たか・・・」

 

少しだけ愉快そうに話すベルクーリにシャスターが話しかける。

 

「何、所詮は雑兵。俺たちの剣の天命すら削まい」

 

「はははっ!そいつぁ違ぇねぇ」

 

そう言うとベルクーリはシノンを見ながら飛竜を呼んだ。シノンの目に浮かぶ熱意に、ここは任せても良さそうな気がしたのだ。

 

「嬢ちゃんがそう言うなら、俺たちはそっちに向かう。後を頼んだぜ」

 

「はい、分かりました」

 

そう言うと二人は飛竜に跨り、飛んでいった。荒原に一人残ったシノンはいつ来るやも知れぬ敵を待ち構え、思わず手に愛し人の作った小銃を握っていた。

 

 

 

 

「お願い、力を貸して・・・」

 

 

 

 

その呟きに、小銃があわく光ったことに気づく事はなかった・・・



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#38 暗黒の記憶

ユージオ達が果ての祭壇に向けて飛び立った頃。北の遺跡では大規模な戦闘が行われていた。

 

「目標、前方の敵部隊。距離およそ一〇〇。撃てぇ!!」

 

『『『『『ヒャッハー汚物は消毒だー!!』』』』』

 

ダダダダダダッ!!

 

ストレア率いるGGO義勇軍は最前列を綺麗な隊列を組んで各々自分の愛する武器を用いて弾丸を放っていた。

 

「クソッ、銃を使う卑怯者に遅れをとるなぁ!!」

 

「魔法部隊、焼き払え!!」

 

「全軍、切り裂け!」

 

その横で負けじとALOコンバート組もバカのように突っ込んでくるアメリカ人プレイヤーを迎撃する。その後ろでアスナ達は治療を受けていた。

 

「もう・・・こんなにボロボロになっちゃって・・・」

 

「後は任せてください。みんな、来てくれましたから」

 

リズベットと、シリカに抱き抱えられた状態でアスナは全身の痛みが解けていくのを感じた。

 

「ありがとう・・・ありがとう・・・」

 

溢れる涙の向こうで、空から再び、赤い線が流れ込んだ。

 

「敵が来るぞ!迎え撃て!」

 

「おっしゃまかせろ!!」

 

「俺たちも負けるな!ログイン直後に吹っ飛ばしてやれ!!」

 

そう意気込む日本人プレイヤー達。その姿を見てアスナは思わず問いかける。

 

「ねぇ、リズ。みんなをここに連れてきてくれたのは・・・誰なの?」

 

「そんなの・・・決まっているじゃない」

 

「ユイちゃんと牧奈ちゃん達ですよ。みんながこのアンダーワールドの事を一生懸命説明してくれたんです!」

 

そう言われ、納得が言った。ユイとストレアは旧SAOで生まれたトップダウン型AIであり、自分達の子。自分の知らない所で襲撃者達の計画を阻止するべく動いていたのだ。

 

「・・・・ありがとう。ユイちゃん」

 

ありったけの気持ちを込めてアスナは言葉を紡ぐ。すっかり傷は癒え、心身ともに盤石となっていた。

 

「それに、牧奈ちゃんが頑張ってコンバート後のデーターのサルベージの準備も整えてくれたのよ。やっぱ天才の子は天才ねぇ〜」

 

「牧奈ちゃん・・・」

 

そう呟くとアスナは再び、現実で頑張っているマキナに感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここにいるストレア以外は未だ知らない事実だが、マキナはある天才科学者が開発したジェネシスシステム(作成)である。その情熱はSAO(出題)につながり、、フラクトライト(解き方)となってA.L.I.C.E.(答え)へと繋がっていた。

 

全てはまるで答えのある数式のようだった。A.L.I.C.E.は本当の意味で人と同じ存在となった。自ら意思を持って行動し、誰にも縛られず自由な思考を持ち、それに従い行動する。その人物はこれを見て何を思うのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーところで菊岡。少し君に聞きたいことがある」

 

「はっ!何でございましょうか?」

 

真之が菊岡に問いかける。それを見て菊岡は萎縮しながら真之を見た。

 

「なんで、近代兵器に乗せる予定なのにこの世界はファンタジーなんだね?」

 

「それは・・・計画している時に修也くんが提案したからであります」

 

「ほぅ?」

 

真之が興味深そうに菊岡を見た。すると菊岡は経緯を話した。

 

「修也くんが計画の話をした時に、試験運用するならばという事で持って来た案をほぼ全て採用しています。元々の完成度が高かったですので・・・」

 

そう言うと真之はどこか愉快そうな目を浮かべながら言った。

 

「なるほど・・・君も上手く載せられたと言う事か・・・」

 

「は・・・?」

 

真之の呟きに菊岡が疑問に思う。すると彼は菊岡に説明をし出した。

 

「なぁに、君達は()()()()()にまんまと嵌った訳だ」

 

「「っ!?」」

 

真之の話に菊岡や比嘉が戦慄する。彼がまた何かをしたのかと思っていると真之はどこか懐かしむように話す。

 

「なに、修也は晶彦の実弟で、()()()()()だ。修也は晶彦を最も尊敬をしていた。そして、晶彦の思想を最も理解した一人だ」

 

「「・・・」」

 

「最も、凡人には到底理解出来ないがね・・・」

 

そう言うと真之はかつて、二人が過ごした日々を思い出しながら呟く。

 

「『異世界を作る』と言う彼の夢はついに世紀の事件を残すきっかけと成った。事件の最後。晶彦は死に、その意思は潰えたと思っていた・・・」

 

「っ!まさか・・・!!」

 

菊岡は信じられないと言った様子で思わず()のいる方を見てしまった。すると真之は正解と言わんばかりに話す。

 

「まぁ、そう言うことだ。晶彦の意思を、修也は継ぎ。この計画を利用した・・・

 

 

 

 

 

 

 

『真の異世界』を作るためにな」

 

 

 

 

 

 

真之の推測に菊岡達はサーッと血の気が引いた。修也は計画の比較的初期からいたメンバー。菊岡が勧誘し、彼は参加した。その時から、この計画は始まっていたのだろう。決して自分達に真意を悟らせず、自分を誘導して尊敬する人(茅場晶彦)の夢を代行する為に・・・

 

「全く、恐ろしい孫よ・・・まぁ、菊岡の事を簡単に誘導できると思っていたのかも知れんがな」

 

「・・・」

 

菊岡はもう言葉が出なかった。全く気づかなかったのだ。自分が無意識に誘導されていたと言う事に。確かにやや放任なところはあったかも知れないが、完全にやられたとしか思えなかった。その事に悔しさが生まれていると真之は懐にしまっていた一枚のA4紙を取り出した。

 

「見てみろ、読んでいるとなかなか面白い物だ」

 

「・・・拝見します」

 

そう言い、菊岡は渡された紙を見た。それはある計画書の様だった。それを読んだ菊岡は顔をまた青白くさせ、思わず真之と紙に視線を行き来した。

 

「教官・・・これは・・・」

 

「去年まで、修也が進めていた計画だ・・・修也にとって、そんな計画よりも兄の意思を優先していた様だがな」

 

「・・・」

 

菊岡は読んでいた紙をさらにじっくりと詳しく読む。

 

『計画名:最後の審判』

 

そう書かれた計画書は本当に悪魔のような計画だった。要約するとそれは()()()()()だった。今までに開発した義手や、マキナの機体を元に殺戮機械を製作し、人類がいた痕跡を抹消するものだった。大言壮語の様に聞こえるが、相手はロボット工学の天才であり、()()茅場の実弟。可能なのではと思ってしまった。すると真之は計画書を仕舞いながら話し続けた。

 

「だが、この計画は()()()()()()()()()()()()()。何故だと思う?」

 

「それは・・・」

 

「死銃事件、ひいてはSAO事件だ」

 

「?」

 

「あの事件に巻き込まれた修也に残った唯一のストッパーは晶彦だった。しかし、修也はSAO事件で兄を大勢の人を救うために殺す選択をした。そこで吹っ切れたんだろうな。修也はこの計画を急速に進めた」

 

「だ、だったら・・・」

 

この計画は今も進んでいるんじゃないか。そう言おうとした時、

 

「だが、そんな修也の暴走を止めた事件が起こった」

 

「・・・死銃事件」

 

去年の十二月に起こった自分が修也達に依頼した仕事だ。そのことを思い出すと真之は言う。

 

「そうだ。死銃事件の後、修也は詩乃くんと再会した。そこで、また修也は狂気に浸かる一歩までの段階で立ち止まった」

 

「まさか、詩乃くんと同居させた理由は・・・」

 

「そう言うことだ。いやぁ、愛はすべてに打ち克つと言うがその通りだと思ったな」

 

そう言う真之は画面を見ながら最後にこう呟いた。

 

 

 

「詩乃くんには色々な意味で感謝しかないさ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら大勢は決した見てぇだな」

 

「クラインさん・・・」

 

コンバートして来た軍勢は量に勝るアメリカ人に対し、質において圧倒的に戦局を優位にしていた。

 

「何とお礼を言ったらいいか・・・」

 

「おいおい、水臭ぇよ。おまえさんやキリト達にはこんくらいじゃ返しきれねぇほど借りがあるからな」

 

「ええ、戦闘が終わったらクラインガいつものくだらないギャグをかませばキリトも目覚めるんじゃない?」

 

「あーあ、ひでぇな」

 

そう陽気な声が聞こえ、アスナは気持ちが楽になっていた。ここを乗り越えればあとは掃討戦になるだろうと思っていた。希望が生まれた。

 

ーーこのままいけば勝てる。

 

そう思い、剣を持って前線を張ろうと思った時。ふと視界にある人物が目に入った。

 

「ねぇ、クラインさん・・・あの人・・・あの黒いポンチョを着て、柱に寄り添い立ってる人、なんだか見覚えがある気がしない・・・?」

 

「うん・・・?黒いポンチョ・・・あいつか。けど、見覚えつったて・・・あんなカッパみたいなポンチョを着てたら、顔なんて・・・・・・」

 

突如、クラインから声が消えた。

 

「ちょっと、どうしたのよ。思い出したの?誰だっけ、あの人?」

 

「そんなこと・・・ありえねぇよ・・・そんな・・・!?俺は・・・亡霊を見ているのか・・・?」

 

「ぼ、亡霊・・・・・・?」

 

「だ、だってよう・・・あの黒いカッパ、いや革ポンチョは・・・・・・ラフコフの・・・」

 

ラフコフ

それはかつてSAOを恐怖のどん底に陥れた最強の暗殺者ギルド。すると革ポンチョの男はやっとかと言った様子で『友切包丁』を肩に担いだ。

 

「久しぶりだな・・・閃光・・・」

 

「あいつは・・・PoH・・・!!」

 

「そんな・・・!!」

 

しかし、悪夢は始まったばかりであった。次に見えたのは赤く染まった空であった。

 

次々と現れるプレイヤー達にアスナはもう数えるのをやめた。それを見たPoHは現れたアバターに()()()で叫んだ。

 

「同志達よ!呼びかけに応えてくれて感謝する!残念ながら、この場所で先にダイブしていたアメリカの有志達は日本人に駆逐されてしまった!のみならず、ここから移動し破壊の限りを尽くそうとしているのだ!サーバーをハックした日本人は強力な装備をいくらでも作り出せるが、管理者権限を奪われた我々は同志達にそんなデフォルト装備しか与えることはできない!だが、君達の正義と団結心が、必ずや卑怯者の日本人を撃退してくれると信じている!」

 

『『『『『『『オオオオオオオオぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!』』』』』』』

 

「さぁ、これからが本当のショー・タイムだ!!」」

 

そう叫ぶとコンバートした総勢一万のコンバートプレイヤーは人界軍に襲いかかった。



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#39 再ログイン

赤鎧を貫いた右拳からバキバキと骨の折れる音がする。手からは血が流れ、イスカーンはその拳を眺める。

今の彼は身体中の肉が張り裂け、血を流し、立っていられるのが不思議なくらいだった。

 

「・・・見事な戦いぶりでしたよ。チャンピオン」

 

その横で副官が話しかける。二万ほどいた赤い鎧は三千ほどまで減った。しかし、こちらも残ったのは三百人ほどで、あとは押しつぶされる未来しか見えなかった。

しかし、相手が円陣を組めなかったのは一重に一人の整合騎士の活躍があったからだった。

 

 

 

 

 

「は・・・ああぁぁあああ!!」

 

整合騎士シェータは鉛のように重い体を動かし、黒百合の剣を振りかぶる。鈍い風切り音と共に赤い鎧を砕く。直後、手首から膝にかけて張り裂けるような痛みが走る。

《無音》と言う二つ名に全く似つかわしくないひび割れた声が喉から溢れる。罵声と共に倒れる敵兵から刀身を引き抜き、息を荒くつく。心意が通りにくいのだ。まるで影と戦っているかのように、本当はこの場にいないもの達をどこか遠くから写した影絵の軍隊。

自分がこれほどまで切る事に嫌悪感を抱いたのは初めてだ。自分はただ斬る事しか知らないはずの人形なのに・・・

 

『斬って斬って斬り続けなさい。その血塗られた道の果てに貴方の呪いを解く鍵があるかも知れないわ』

 

最高司祭に言われた事が、私には分からなかった。しかし、その命に従い今まで幾多もの時を掛けて多くの人を、多くのものを斬り続けてきた。そしてそこで見つけたのだ。そんな人、物よりも固い一人の拳闘士に。

また戦ってみたい。だけど、何だろうかこの胸の痛みは・・・

 

ーーキシッ

 

不意に右手から微かな音が聞こえた。シェータはそこで持っていた黒百合の剣を見ると、その漆黒の刀身の中方からひび割れていたのだ。

 

「(あぁ、そうか・・・)」

 

そこであらゆる疑問が解消した。最高司祭の言った呪いとは何だったのか、理解した。シェータは滑らかに赤鎧の攻撃を回避すると右手の剣を鎧の中央に差し込んだ。しなやかに敵の命を奪った黒百合の剣は無数の黒い花弁が落ちるように砕け、ポリゴンへと変わっていった。

 

「ーー長い間、ありがとう」

 

砕けた黒百合の剣を見届けると彼女は拳闘士の居る小さな丘へと自分の飛竜と共に向かった。

 

「すまねえ・・・大事な剣、折らしちまったな」

 

「いいの。私がなぜ・・・あらゆるものを斬り続けてきたのか、やっと分かったから・・・」

 

地面に膝をつくと彼女は若い拳闘士の指十本を掴んだ。

 

「それは・・・斬りたくないものを見つけるために、守りたいものを見つけるために、私は闘い続けた。そして、それは・・・貴方。だからもう、剣は必要ない」

 

一瞬、大きく見開かれた拳闘士の左眼に涙が浮き上がったのをシェータは少し驚きながら見つめた。若者は歯を食い縛り、喉を鳴らしながら囁いた。

 

「ちくしょう・・・あんたみたいな女と所帯を持ちたかったな・・・そうすりゃ、俺とあんたに似た強いガキが生まれただろうにな・・・先代より、俺より・・・ずっと強い・・・拳闘士の子がよぉ・・・」

 

「それは駄目よ・・・その子は強いんだから、私以上の騎士にしないとね・・・」

 

二人は見つめ合い、同時に微笑む。優しい巨漢に見守られながら二人は抱き合い、並んで座った。

残った拳闘士と、一人の整合騎士。一頭の飛竜は赤い歩兵がジリジリと近づいて来るのを無言で待っていた。

 

イスカーンは霞む右目で赤い兵士を見る。これで最期なのだと思い、シェータの右手を強く掴む。すると同じように握り返され、心地の良い痛みが広がる。そしてそっと目を閉じようとしたその瞬間。

 

「・・・あれは」

 

視界の先に接近してくる部隊を見た。それを見たイスカーンは驚愕した。

 

「オーク・・・!?何でこんなところに!?」

 

東の大門で待機していたはずのオークの部隊がこちらに接近してきていたのだ。そしてその先頭を走る人物を見て二度目の驚愕をする。

 

「あれは・・・地母神・・・?」

 

先頭を走っていたのは黄色い髪をたなびかせ、若草色の装束から伸びる手足は眩しいほどに美しい。間違いなく人族、人界の若い女だった。それにあれは、オーク族の指揮をとっているようでもあった。普段から自分たちに憎悪を持っているはずのオークが人族を守っていた事にイスカーンは驚きを隠せなかった。

するとオークの戦闘を走る若い女が長刀を抜くと高々と振りかぶる。赤い兵士達までの距離は二百メル以上ある。

 

ーーしかし

 

女の刀と両腕が霞んだ。イスカーンですらその斬撃は視認できなかった。その直後、自分たちの周りにいた赤い兵士達は胴を真っ二つに斬られ、一瞬で消滅した。

 

「・・・・・・すごい」

 

シェータが声にならない声で囁いていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

リーファは目の前にいる三千人の赤い兵士達が行く手を阻んでいた。しかもよく見れば仲間と思わしき人がその中で倒れてしまっていた。

聞くと彼らは拳闘士という人たちだと言う。仲間だと言うのなら助けるまで。

 

「敵陣には私が斬り込むから。リルピリン達は拳闘士と合流して、そっちに行く敵だけを倒して」

 

「お、おで達も一緒に戦う!」

 

「ダメよ、あなたたちにこれ以上の犠牲は出したくない。私なら大丈夫。あんな敵、何万人いたって負けないわ!」

 

そう言うとリーファは単身刀を持って赤い兵士たちの中に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

同じ頃、シノンは飛び立ったユージオ達を見送り、ベクタが最後に倒された岩山近くで()を待っていた。

 

「ーーー来た」

 

シノンは空からこちらに降ってきた黒い線を見た。目的は時間稼ぎ、なので即死させては意味が無い。そこで自分は空中にホバリングしたまま敵の実体化まで待っていた。黒い線は岩山の山頂に降り立つと粘土質の水溜りを作る。普通ではないログインに一層緊張感が高まる。

そして、漆黒の沼から姿を現したアバターを見てシノンは体温が急速に下がった感覚を覚えた。

 

知っている。自分はこの男を知っている。

 

現れたのは全てを吸い込むような、一切の感情を持たない瞳に上下が揃った濃い灰色の服の上に革のベストを装着し、足許は編み上げたブーツ。それは現実世界の兵士が使うような戦闘服だ。武器は左腰の長剣と、右腰のクロスボウ。

その男を見たシノンはその者の名を呟く。

 

「・・・・・・サトライザー・・・・・・」

 

間違いなかった。見間違えるはずがなかった。ほんの二週間前に行われた第四回BoB、第一回BoBにおいて日本人プレイヤーを蹴散らしたアメリカ人プレイヤーだ。

シノンは弓を構えるのを忘れて、愕然と両目を見開く。激戦の戦闘痕が残る岩山の山頂に現れたサトライザーは南に視線を向けると無機質な口調で呟いた。

 

「・・・・・・アリスは逃げたか。まあいい、すぐに追いつく・・・・・・」

 

そう言い、シノンを見て薄く笑う。

 

「・・・君とは確か、ガンゲイル・オンラインの大会で戦ったね。名前は・・・・・・《シノン》だったかな?まさか、こんな所で会えるとは」

 

その声を聞き、シノンは思わず弓を落としそうになる。すると有翼状の謎の生物に乗った彼は温度のない笑みを浮かべたまま、流暢な日本語で続けた。

 

「君はラースの人間なのかい?こんな場所に来てまで傭兵をやっているのかい?」

 

シノンは震える体を押さえつけ、掠れ声で問いただす。

 

「お前こそ・・・なぜここに・・・!?」

 

「必然だからに決まっているじゃないか・・・?」

 

嬉しくてたまらないと言うように、両腕を横に広げたサトライザーは言った。

 

「これは運命さ。私と君を引き付け合う魂の力だ。そう・・・私は君を欲した。だから、こうして巡り会った。これで色々なことが分かるだろうこれで色々なことが分かるだろう・・・STLを介せば、生身の人間からでも、魂を吸い取れるのかどうかを・・・そして・・・

 

 

 

BoBでは味わえなかった、君の魂がどれほど甘いのかも」

 

 

 

異様なその台詞にシノンは第四回BoBの終盤がフラッシュバックした。

 

Your soul will be so sweet.(君の魂は、きっと甘いだろう)

 

「!!!???」

 

途端に息が荒くなる。

 

「さあ、こっちに来たまえ。シノン。私に全てを委ねるのだ」

 

サトライザーの体から黒い心意が溢れ、シノンの周囲を取り巻く。

 

「(ダメよ、抵抗しないと。戦わないと)」

 

意識はするも体が動かず、黒い心意は自分をサトライザーの元に引き寄せた。そしてサトライザーはシノンの右手を掴むと頬に手を掛け、話しかけた。

 

「シノン、君は《サトライザー》という名前の意味を考えてくれたことはあるかな?」

 

「・・・・・・?」

 

「意味は・・・研ぐ物、薄くする物、選ぶ者・・・そして、盗む者・・・・・・私は君を盗む、君の魂を盗む」

 

抵抗しないと行けないのに。シノンは目の前にある二つの青い瞳の中で、漆黒の渦がブラックホールのように回転するのをぼんやりと眺めた。

目から光が消え、意識がどんどん薄くなっていく。

 

ーーいけない。

 

これはもう現実世界で起こっている事件だ。仮想世界の話では収まらない。意識が薄れ、サトライザーの唇がシノンと交わろうとした時。

 

ーーザシュッ!

 

「っ!?」「!!!」

 

サトライザーの腹部を、シノンの背中から赤黒い袖を通した腕が貫いていた。その衝撃でシノンを囲んでいた黒い心意は消え去り、咄嗟にソルスの飛行能力でシノンは距離をとった。

 

「これは・・・」

 

自分の陰から飛び出た腕を見たシノンは咄嗟に自分の後ろに居る気配を見た。するとそこには背中から大きな翼を羽ばたかせてホバリングし、赤黒い軍服に身を包んだ一人の青年が立っていた。青年を見たシノンは目を大きく見開き、目からは涙が溢れていた。すると青年はシノンを見て言った。

 

「済まなかった、シノン・・・・・・それと・・・・・・それを届けてくれて、ありがとう・・・・・・」

 

そう言うと青年はシノンが担いでいた小銃を見ながら言った。青年を見たシノンは涙をこぼしながら青年に抱きついた。

 

 

 

「ーーーーブレイド!!」

 

 

 

そう言い、シノンは自分の愛した人に抱きついていた。ブレイドはそんなシノンを見て頭を優しく撫でながら優しく微笑みながら言った。

 

 

 

「今まで色々と迷惑をかけたな・・・・・・」

 

 

 



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#40 死の乱戦

「死守して!!アンダーワールドの人だけは・・・!!何としても・・・!!」

 

アスナはそう言い、アスナは地形操作を行うも。一時凌ぎに過ぎず、数万のプレイヤーは人界軍を押し込んでいた。

 

「う、うわぁぁぁああ!!」「た、助けてくれ!!」

 

一人、また一人と日本人プレイヤーがやられて行く。アスナ達も必死にレイピアを振るも、二カ国からやってきた大群は各々怒りを持ちながら襲い掛かってきた。

もはや交戦と呼べるものはなく、一方的な殺戮だった。二千人が組んだ陣形は瞬く間に侵食され、薄くなって行く。

アスナはこの時、思ってしまった。

 

ーー誰か、助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望的な戦況の中で、比較的健闘を続けている部隊の一つが、ALOにおいてシルフ領の領主を務める女性プレイヤー、サクヤ率いる緑の剣士隊だった。重装プレイヤーの突進攻撃の対策に練り上げた戦法がここで生きていたのだ。混戦の中でも、軽装の剣士達が目まぐるしく動きながら互いにカバーすることで、敵に目標を定めさせず、倒されるのをどうにか防いでいた。

 

「ーーーよし、我々が突破口を作るぞ!竜胆隊、鈴蘭隊、戦線を右に押し上げろ!」

 

右翼方面で戦闘中のサラマンダー部隊と合流できれば、突進攻撃で戦線に穴を開けることができるかもしれない。そう考えての行動だった。

 

「行くぞ!《シンクロ・ソードスキル》用意!!カウント、5、4、3・・・」

 

その時、持ち場の左側で悲痛な叫び声が聞こえた。

 

「ーーみんな、諦めないで。少しでも時間を稼いで!!」

 

サクヤその指示を飛ばし、攻撃を仕掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急激に減少する日本人プレイヤーのうちの一人。《スリーピング・ナイツ》の三代目リーダー、シウネーは状況を把握していた。父が韓国人の彼女はログインしてきた人の話している内容を部分的に理解していた。この中で韓国語を話せるのは自分だけ。

 

ーーぶつからなきゃ伝わらない。

 

かつての団長の言葉を思い出しながらシウネーは大声で指示を出す。

 

「みんな、お願い!一回だけでいいから、ブレイクポイントを作って!!」

 

「・・・分かった!テッチ、タルケン、ノリ!シンクロソードスキルで大技をぶちかますぞ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

「カウント!・・・2、1・・・・・・」

 

完璧に合わさった高威力の単発攻撃は大地を揺るがすほどの大爆発を起こし、周囲を一掃した。怯んだところをシウネーはリーダー格らしき韓国人に近づき、振り下ろされた長剣を左手で抑える。

 

「聞いて!貴方達は騙されています!このサーバーは日本企業の物であるし、私たちは正規の接続者です!」

 

「嘘をつくな!?見たぞお前たちはさっき、俺たちと同じ色の鎧を着ていたプレイヤーたちを皆殺しにしていただろう!!」

 

「あれはあなたたちと同じように、偽の情報でダイブしたアメリカ人プレイヤーたちです!日本企業の妨害をさせられているのは、あなたたちなのよ!?もう一度よく考えて・・・!その怒りは、憎しみは・・・本当にあなたたちのものなのか・・・あの男の言葉に扇動されたものでないと本当に言えるの!?」

 

一瞬の静粛が周囲を包む。シウネーに気圧され、辺りが黙り込む。しばしの間の後シウネーが話しかけた韓国人が聞き返した。

 

「その話は、本当なのか?」

 

「・・・ええ」

 

「・・・俺の名はムーンフェイズ。そっちは?」

 

「私は・・・シウネーと言います」

 

「そうか・・・シウネーさん。俺も、この話は妙だと思っていたんだ」

 

ムーンフェイズと名乗った男はそう言い、周囲の動揺を生んだ。同時に周囲の韓国人プレイヤーから怒りの声が上がる。しかしムーンフェイズは剣を振り、当たりを黙らせると一歩前に出た。

 

「シウネーさん。あんたの話を証明する手段はあるか?」

 

「っ・・・・・・・・・・!!」

 

このアンダーワールドは政府の支援を受けたVR世界であると言うこと、どう証明すればいいかと思った時。

 

「ーーーだったらなんでサーバーを落とさない?」

 

横に現れた女性プレイヤーに視線が行った。彼女は片手にMG42を持っていた。シウネーは見たことあるプレイヤーに名前をつぶやいた。

 

「ストレアさん・・・」

 

シウネーはそう言い、ストレアは一旦シウネーを見るとすた度ムーンフェイズに視線を戻し、話しかけた。

 

「さっきの男がここの世界が不正アクセスされたと言ったんなら。究極を言えばサーバーを落として通信を切ればいい。なのに何でそれをしないのか・・・よく考えて頂戴」

 

ストレアの話にムーンフェイズは「確かに・・・」と呟く。サーバーを落とせば不正アクセスも収まる。しかし何故それをしないのか。データの保存はバックアップをとってあるはずだから復帰すればいい。流暢な韓国語でそう言われ、納得し始めている周囲の韓国人達。しかし、後ろでポンチョを着た男が近づいてきた。

 

「おい、何日本人と話しているんだ?」

 

そう言うとヴァサゴはムーンフェイズに包丁のような投擲武器を投げ、彼を背中から刺していた。そして、彼らを扇動するPoHは叫ぶ。

 

「裏切り者はこの戦場にはいらない!お前たち!汚い日本人に騙されるなよ?ここが日本のサーバーで、お前たちが正規の接続者だって言うのなら、なんでお前らだけがそんな高級装備だけを持っているんだ?チートで好き勝手に作り出したに決まってるぜ!」

 

「そ、そうだ!そうに決まっている!!」「俺たちを騙そうとしていたんだな!!」

 

そんな怒りの声を上げる中、一部の韓国人達は思考を巡らしていた。

 

「でも、確かに変だよな?」「ああ、確かに不正アクセスを受けているなら通信を切って仕舞えばいいもんな・・・」

 

困惑する韓国人達にPoHは畳み掛ける。

 

「貴様らは日本人の嘘に屈すると言うのか?あぁ?このサーバーにバックハップはねぇんだ。だからサーバーを下手に落とせねぇんだよ」

 

そう言うと韓国人達は納得の表情を浮かべ、怒りの色をあらわにした。それを見たストレアは残弾少ないMG42を持った。

 

「チッ、撤退だ!シウネー!」

 

「は、はい!!」

 

そう言うとストレアは引き金を引き、接近してきた韓国人をミンチにすると逃げ出した。十人ほどが毎分1200発の弾丸をもろに受け取り、悶え苦しみながらポリゴンへと成っていた。

 

 

ーーーそして、虐殺が再開してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やめて・・・」

 

狂気に駆られたコンバートプレイヤーたちは、次々とコンバート軍とアンダーワールド人を無差別に殺していく。

 

「・・・やめ、て・・・!」

 

なんとかアンダーワールド人を守ろうと奮起するコンバート軍を嘲笑うかのように斬り刻み、もう動かなくなった体にまで執拗に攻撃を加え続ける。

 

「・・・もう・・・やめて・・・」

 

絶望と哀しみで心が折れてしまい、アスナは掠れた声で言う。そして赤鎧が殺意に満ちた罵り声と共にアスナに剣を振ろうとした時。

 

「ストォォォップ!!」

 

黒ポンチョの声が通り、一斉に攻撃がやむ。黒ポンチョは周りに次々に話を伝達していくとアスナの近くにいた赤鎧にも届き、アスナの髪を引っ張った。どうやら生き残った日本人プレイヤーを一箇所に集めるようだ。

そして、一箇所に集められた場所は地獄絵図だった。皆武器を破壊、もしくは奪われ、装備もボロボロで、至る所に傷が出来上がっていた。GGO義勇軍は弾丸を使い切り、全滅させられてしまったようで、ストレアの姿もなかった。

アスナは一通り回し、全員の顔を覚えようとした。そしてそこでボロボロになったリズを抱えた。

 

「あたし・・・あたしが・・・みんなを・・・」

 

「違う・・・違うよ・・・・・・リズ・・・!!」

 

アスナは涙まじりの声で小さく叫んだ。啜り泣く声が聞こえ、その方を向くとシリカが横になり、エギルは地面に倒れたまま動かなかった。その体には多くの槍や剣が刺さっており、見ているだけで痛々しかった。その近くにはトレードマークのバンダナを傷口に当て、肩から右腕を無くしたクラインが倒れていた。すると赤鎧が道を開け、黒ポンチョが姿を現した。すると男は明日奈達に向けて話した。

 

「武器を捨てて投降しろ。そうすれば、お前らも、後ろの連中も殺しはしない」

 

「ふざけるな!?この期に及んで、我らが命を惜しむとでも・・・!」

 

「駄目ぇ!その人の言うことを聞いて!?」

 

「っ・・・何を言うておる、アスナ?!あやつの言うことなど・・・信じられるわけがないだろう!?」

 

「お願い!?それでも、今は従うしか・・・貴女たちの命をこれ以上失わせたくないの・・・!お願い・・・・・・生きて・・・屈辱を味わおうとも、生き延びて下さい・・・それが・・・それが私たちの・・・たった一つの・・・」

 

アスナの悲痛な懇願に、ソルティーナ達も剣を落とした。それを見て、韓国人達は勝利にわき、声を上げる。そんな中、黒ポンチョはアスナに近づき顔を見せた。

 

「よう・・・久しぶりだな、閃光」

 

「・・・・・・本当に貴方だったのね・・・・・・PoH」

 

「おっと・・・懐かしい名を言ってくれるな。覚えてくれてて嬉しいぜ」

 

そう言い、姿を現したヴァサゴを見て、アスナは睨み、ヴァサゴに聞いた。

 

「・・・これは・・・復讐のつもりなの!?ラフィン・コフィンを壊滅させた、私たち攻略組への・・・!」

 

「フッ・・・フフフフフッ、フハハハハハハハハハッ!!・・・・・・バッッカァじゃねーの!?」

 

「っ!?」

 

いきなり笑ったヴァサゴにアスナ達はギョッとした。するとヴァサゴは自信満々に言った。

 

「優等生面の閃光様に教えてやるよ!ラフィン・コフィンの隠れアジトを、てめぇら攻略組様に密告したのは・・・・・・この俺様なんだぜ?」

 

「なっ・・・!?」

 

驚愕するアスナやSAO生還者達。なぜそんな事をしたのかと聞く。するとヴァサゴは言った。

 

「・・・決まってるだろう?俺はな・・・お前ら、攻略組とかいう自分たちが正しい事をしていると思い込んでる連中を、人殺しにしてやりたかったんだよ。お偉い勇者面して、最前線でふんぞり返っている攻略組様たちをよぉ!!」

 

「それが・・・・・・狙いだったの・・・!!私たちや・・・キリト君にPK行為を背負わせるために・・・あんなことを・・・!?」

 

「イエース、と言いたいが。実際はそうじゃねぇ。俺の標的は昔から一人だけだ」

 

そう口にした途端、ヴァサゴは怒りの声をあげながら叫んだ。

 

「あいつさ!いっつもいっつもブラッキーとお前の横に居た赤い雷鳴さ!!いっつもいっつも俺の計画の邪魔をしやがって!!黒の剣士を追い詰めよう!!俺は怒ってんだよ・・・!!あの生意気なクソガキにな!!俺の楽しみを全部潰してきたあのクソガキをな!!」

 

「ブレイドさんを・・・!!」

 

「ああ、そうさ。俺は赤ずきんと同程度に赤い雷鳴を恨んでんだ。隠れアジトの時もあいつが全員殺しちまった。ありゃぁ過去に殺しをした顔だった。それが余計に腹立つんだよ。『汚れ仕事は自分に』って気分でよぉ!!黒の剣士の後ろに隠れやがって!!」

 

地団駄を踏んで怒るヴァサゴにアスナ達は怒る。あの討伐以降、ブレイドが攻略組に復帰するまでどのくらい思い悩んでいたのかと言う事を。できるだけ被害を減らすために努力を惜しまなかった事を。それらを知っているからこそ、アスナ達は怒っていた。

 

「貴方・・・そのことでどれだけブレイドさんが悩んだと思っているのよ・・・・!!」

 

「ほぅ?そりゃあいい事を聞いたぜ。スカってするもんだ」

 

そう言うとヴァサゴは馬車を見ながら叫んだ。

 

「だからよぅ、ここにあのクソガキを呼ぶんだよ。どうせいるんだろう?黒の剣士が?」

 

「っ・・・・・・」

 

お見通しと言わんばかりにヴァサゴは馬車の一つを見ていた。



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#41 説教

時は少し戻り、場所は南方の山岳地帯に移る。そこではシノンがブレイドに担いでいた小銃を渡していた。

 

「これ、ブレイドのものでしょう?」

 

「ああ、感謝する。何せ、今まで丸腰だったからな」

 

そう言い、小銃を受け取ったブレイドはシノンを見た。

 

「シノン、行けるか?」

 

「ええ、勿論」

 

そう言うとシノンは両手に《アニヒレート・レイ》を握る。

 

「(できるかしら・・・)」

 

前にブレイドやキリトが教えてくれた。仮想世界はもう一つの現実、だからイマジナリーが起こってもおかしくはないと。

 

ブレイドがそばにずっと居た。

 

それだけでシノンは安心できた。『大切な思い出』を守る為に、二度とブレイドを危険な目に遭わせない為に。

そんなシノンの心意に応えるように《アニヒレート・レイ》は青く光り、形を変えた。

 

弓の色が黒へと変わり。鋼鉄の銃身、マズル、グリップ、ストックといった順番に姿を現し、最後の巨大なスコープが現れる。シノンの手に弓はなかった。現れたのはシノンが慣れ親しんだ銃。今まで共に歩んできた相棒だった。

 

「お前は、神でも、悪魔でもないわ!ただの・・・人間よ」

 

もう、恐れることはない。自分の後ろには常に彼がいる。こんな男よりもずっと頼もしい、強い男が。

それを見たブレイドはシノンを見据えると声をかけた。

 

「そうだ・・・思いっきり暴れてこい。シノン」

 

「言われなくても、勿論よ」

 

その瞬間、後顧の憂いがなくなったシノンはその引き金を引いた。シノンの動きに合わせるようにブレイドも小銃を持って接近した。初弾はサトライザーが手で抑え、効果はなかった。しかし、

 

ドォン!

 

シノンの影から小銃を持ったブレイドの二発目がサトライザーの右脚を貫通した。それを見てニヤリと笑うシノン。サトライザーは少し驚きの表情を出すも、負の心意を応用して回復する。

 

閃光と轟音、凄まじい反動がシノンを襲う。一発一発を慎重に狙い、引き金を引く。サトライザーはその様子を見ると持っていたクロスボウを持った。

シノンとブレイドは目を合わせ、確認を取った。

 

「(敵が銃を出す。注意しろ)」

 

「(了解、気を付けるわ)」

 

もはや会話をしなくても何を思っているのか分かる。だからこそ、私は出てくるであろう武器を注視した。

サトライザーはさっきのシノンを真似るようにクロスボウを負の心意で変化させる。クロスボウの形が変わり、現れたのはシノンと同じ50口径を使用する対物ライフル、バレットXM500だった。

 

「・・・上等じゃない」

「やってやろうじゃないか・・・」

 

そう呟き、三人はこの世界では貴重な銃撃戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二対一の戦いのはずだが、戦局は拮抗していた。三丁の銃が互いに弾丸を擦りながら軌道を大きく変えて飛んでいく。

三次元の戦闘は初めてで、制御をなんとかこなしながら銃撃を行う。

 

勝負は先に反動を抑え、相手より一瞬でも早く引き金を引けば勝ちだ。

 

そう感じた二人は互いに頷き、挟み込むように有働を開始する。しかし、サトライザーもわかっており、回り込ませないように移動していた。

 

激しい撃ち合いの中、ブレイドとシノンはレバーを引いてコッキングし、引き金を引いた。そしてサトライザーはシノンに銃口を向けた。

 

「(うまく避けてくれ・・・!!)」

 

そう願いつつ、ブレイドはコッキングをした。そして放たれた弾丸はシノンの左肩のアーマーを撃ち抜いた。

避けれたことにホッとしたブレイドはそこで大きな誤りに気がついた。

 

「っ!しまった!その銃は・・・」

 

その瞬間だった。サトライザーはコッキングを必要としないセミオートの引き金を引いた。

 

 

 

ーー直後、シノンの片足が吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

シノンは片足が吹き飛んだ痛みよりも、まともに飛べなくなる事を危惧した。現在の状態では錐揉み回転となってしまっているからだ。

 

「くっ・・・」

 

シノンは歯噛みをしながらひたすら真っ直ぐ後退した。可能な限り、距離をとりつつ、サトライザーを照準し、三発目、四発目を放つ。相手も同じように同じ回数を発砲する。

相手は訓練を積んだ兵士。さすがのシノンもこれには苦戦せざるを得ない。後方からのブレイドの援護射撃ですら、サトライザーは弾丸を掴んで受け止めていた。

 

「(自分の残弾は四発・・・へカートも残弾三発・・・相手は六発・・・)」

 

ブレイドはおまけにセミオートな事にどうしようかと考えながら、血を流すシノンに動揺していた。その間にも五発目、六発目と弾丸が発射され、弾丸はそれそれか擦れ、あらぬ方向に飛んでいく。

 

「シノンッ!残弾を確認・・・ーーー」

 

「しろ!」と、ブレイドがそう叫ぶぼうとしたが、砲声で掻き消されてしまった。咄嗟に、シノンに近づこうとしたが、七発目の弾丸が発射されてしまった。そしてボルトを引いたシノンは引き金を引いた。

 

ーーカチンッ

 

「っ!しまった・・・・・・!!」

 

その瞬間、サトライザーの冷たい視線がシノンを見た。構えられた銃が火を吹く。

直後に残った右足が吹き飛び、徐々に体が落下し始めた。

サトライザーが最後の一撃を与えるべく右眼をスコープに当てた。

 

「(ーーーごめんね、アスナ。ごめんね、ユイちゃん。ごめん)…ブレイド」

 

「さようならだ・・・・・・シノン」

 

この言葉と共に引き金が引かれた。赤い螺旋を宙に引き、回転する銅製の弾丸がシノンの胸に・・・

 

ギィン!!

 

「・・・・・・何?」「・・・・・・え?」

 

目の前を赤い影が立っていた。赤い人影は持っていた小銃を縦に振って弾丸を防いでくれた。呆然となった一瞬の隙に彼は叫ぶように言った。

 

「シノンッ!」

 

咄嗟にブレイドが小銃を私に投げてきた。私はそれを受け取るとブレイドが背中に回り込んで落下していく私の体を支えた。

 

「・・・・・・ヤツの頭だ。体は()()支えてやる。だから・・・撃て」

 

そう言い、ブレイドは左腕をお腹の部分に、右腕で小銃を持った。そうだ、自分には支えてくれる人がいるんだ。あんな空っぽな奴には負けないんだ。

私はブレイドが渡した小銃を二人で握る。サトライザーはブレイド用に残していた弾丸を使い、落下していく二人に照準を合わせる。

 

「(そうよ…今はブレイドが居るんだ・・・だから・・・)」

 

シノン達は落下していく状態を利用してサイト越しにサトライザーを捕らえた。直後に、小銃ひ光が集まる。周りの神聖力がブレイドの小銃に集まり、暖かな光を生み出していた。明らかな違和感にサトライザーも危機を覚え、引き金に指をかけた。

 

「・・・いっ、けえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

その瞬間、本来は《アニヒレート・レイ》の能力であるはずの神聖力の吸収が起こった。放たれたライフル弾は虹色の光を放つ。しかしサトライザーは体を動かし避けた・・・・・・が、弾丸は持っていた銃の機関部に接触。直後に爆炎と爆風が起こり、サトライザーを飲み込んだ。

 

爆風の影響でシノン達は思い切り地面に叩きつけられる。ブレイドがその衝撃で呻き声が出そうになったが、これを抑えるとサトライザーの安否を確認する。空中に蟠る黒煙が晴れ、現れたのは・・・・・・

 

空中に浮かぶサトライザーの姿だった。

 

しかし無傷ではなかった。右腕は完全に吹き飛び、顔も右半分が焼け爛れていた。

 

初めてその顔に殺意が浮かんでいた。その様子に地面に落ちた二人は銃を構える。

 

「・・・来いよ」「何度だって、相手をしてあげるわ・・・!」

 

二人はサトライザーを見ると突如奴はくるりと方向を変え、南に飛んで行った。

 

 

 

 

 

その直後、限界を迎えたシノンは持っていた小銃を握っていた力を緩めた。ブレイドはそんなシノンの体を優しく地面に置くとシノンが話しかけた。

 

「・・・嘘つき」

 

そう言うとブレイドはしばしの沈黙の後、手を後頭部に当てながら答える。

 

「今回ばかりは言い返せないな・・・」

 

「まぁ・・・後で色々と聞かせてもらうから。()()()()の話も含めて」

 

「・・・やれやれ、説教は勘弁だよ」

 

そう言うとブレイドの顔を見ながらシノンは言った。

 

「・・・あの二人は大丈夫かしら?」

 

「予定通りなら、もう果ての祭壇に着く頃だろう・・・」

 

「そう・・・」

 

そこでシノンはふぅ、と大きく息を吐くとブレイドに言った。

 

「じゃあ、先に向こうで待っているから・・・」

 

「ああ、必ず帰る」

 

「今度は嘘じゃない?」

 

「ああ、この命に誓ってな」

 

そう言うとシノンはそのままそっと目を閉じた。その後、アバターが消え、ログアウトを確認するとブレイドは残された小銃を持った。

さっき光に包まれた影響か、小銃はまた()()していた。形が変わり、半自動小銃となったそれを肩に担ぐとブレイドは北の大地を見た。

 

 

「ヴァサゴ・・・貴様には死より重い刑を課してやる・・・じっくり待っておけ」

 

 

その直後に辺りに赤黒い心意が彼の周囲を取り巻くと、ブレイドは非常に甲高い音と共に北の方角へと飛び立った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ガァ・・・!!」

 

体に突き刺さる刃を抜き捨てる余裕すら、リーファにはなかった。全身の痛みが解け合い、剥き出しになった神経を刺激されているかのようだった。いくつかの傷は致命傷とも言える傷だった。一本は心臓を貫いていた。

 

「う・・・おおぉぉぁぁああ!」

 

大量の鮮血と共に気合を迸らせ、何度目かもわからないソード・スキルを発動させる。

そして敵兵が一瞬で細切れとなり、その後の硬直時間を狙って数人の敵が殺到した。攻撃の大半は避けたものの、ハルバードが背中に突き刺さった。

 

「ぜやあああ!!」

 

衝撃で倒れそうになるも横薙ぎで三人を倒す。リーファは地面に落ちた左腕を拾い上げ、傷口に押し当てながら強く右足を踏み込んだ。緑の閃光と共に地面に草木が生え、消えていく。天命が回復し、傷は消え、腕も修復されていた。

もはやこの状態では無限回復能力も神の恩寵では無かった。これは呪いだ。どれほど傷つき、激痛を味わおうとも、倒れることすら許されない。想像を絶する責め苦であった。

リーファを支えているのは一つの信念だけだった。

 

ーーお兄ちゃんなら。

 

どんな敵でも絶対斬り倒す。たかが三千人、一人で切り伏せてやる。だって自分は・・・お兄ちゃんの・・・《黒の剣士》キリトの・・・

 

「ーーーー妹なんだからぁぁぁぁあああ!!」

 

左手につがえられた長刀の切り先が真紅の輝きを迸らせる。重い金属音と共に戦場を真っ直ぐ一〇〇メートル貫く。円状に敵兵が体を捻じ曲げられ、飛散する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

酷く息を吐き、鮮血を出す。口元を拭い、ふらりと立ち上がったところを、敵の槍が右目から後頭部を貫く。しかしリーファは倒れなかった。よろめきながらも左手で柄を握り一気に引き抜く。

 

「う・・・おおぉぉぉおお!!」

 

叫びながら足を踏み込み。天命を回復させ、左手を前に伸ばす。接近してくる集団に向けて、長刀を振りかぶる。

 

「いえ・・・あああああ!!」

 

一閃

 

鮮血を吹き上げ集団が斬られる。しかし、敵はまだ残っていた。

 

「ま・・・だまだぁ・・・!!」

 

そう言い、二激目を放とうとした時。目の前を赤黒い、透明な何がか集団を襲い込んだ。赤黒い何かが晴れるとそこに集団はなく、代わりに一人の男が立っていた。

 

「あなたは・・・」

 

立っていた男を見たリーファは急激な疲れと共にガクリと膝を地面に下ろし、仰向けに倒れるとその男を見た。

 

「ブレイド・・・」

 

「・・・・・・頑張ってくれたな・・・リーファ」

 

そこでリーファは現れたブレイドに気になっていた事を聞いた。

 

「・・・・・・ここに送ったの。貴方の仕業?」

 

「・・・さぁな?」

 

「・・・・・・わざとらし」

 

やや不満げにブレイドを見るとブレイドはリーファに話しかけた。

 

「君のおかげで色々と助かった・・・ありがとう・・・」

 

「別に、アンタの為じゃないわよ?」

 

「ああ、分かっている・・・」

 

その目を見たリーファはブレイドに話しかける。

 

「・・・今度新品の竹刀奢って。貴方、お金持ちだからそれでこの件はチャラよ」

 

「それは良いが・・・程々にしてくれ」

 

そう言うとブレイドはリーファの肩に手を当てた。彼の右手が淡く光るとリーファに溜まっていた天命値が急速に減り始める。そこに痛みは無かった。最後にリーファはブレイドに話しかける。

 

「・・・帰ったらみんなで説教だってさ」

 

「・・・それは勘弁してくれ・・・」

 

「無理だと思うよ?」

 

「……はぁ」

 

彼は深いため息を吐くとリーファの天命値がゼロになり、ログアウトが始まった。

 

「(・・・あたし・・・・・・頑張ったよね・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・)」

 

そう思いながらリーファはそっと目を閉じるとアバターが消滅し、最後にブレイドに見送られた。



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#42 阿鼻地獄

「イット・ショーウ・ターイム!!」

 

中国人・韓国人プレイヤーに囲まれたアスナ達はニタニタと笑うヴァサゴと、乱暴に押される車椅子を見るしかできなかった。それだけはやめてほしいと懇願するも、ヴァサゴは上体を覗き込んだ。

 

「・・・・・・・ンン?何じゃこりゃあ?おい、ブラッキー、起きろよ。聞こえてんのか?黒の剣士サマよ」

 

かつての二つ名で呼ばれるもキリトは反応しなかった。その様子を、アスナのそばに突き飛ばされたロニエが目を真っ赤にして小声で言った。

 

「キリト先輩・・・戦いの間、何度も、何度も立ちあがろうとして・・・そのうち力尽きたみたいに静かになって・・・でも涙が・・・涙だけが、いつまでも・・・」

 

「ロニエさん・・・」

 

そんなロニエにティーゼとマリーが近づいて慰め、アスナはキリトを見た。ヴァサゴは一切反応しないキリトに苛立ち始めていた。そんなヴァサ後にアスナは鋭い言葉を投げる。

 

「分かったでしょ!彼は戦って、戦って、傷ついてしまったの。だからもう構わないで!!キリト君を、そっとしておいて!!」

 

そんな投げかけに、ヴァサゴが気にするはずもなく・・・

 

「おいおいおい、嘘だろ!縞らねぇぜ。こんなんじゃよ!おい、起きろって!グッド・モー・・・ニン!!」

 

そう言い、ヴァサゴは乱暴にキリトの座っていた車椅子を蹴り壊す。

 

「なんだよ・・・マジでぶっ壊れちまってるのか?あの勇者様が、只の木偶かよ・・・ふざけんなよぉ、黒の剣士!?お前の横にあのガキがいたと思ったのによぉ・・・ガッカリさせんじゃねぇ!!」

 

そう言い、ヴァサゴがキリトに友切包丁を当てた時だった。

 

ーーーータタタタタタタタタッ!

 

赤鎧の軍勢の中から、一人の男が飛び出し、ヴァサゴの首を狙った。一瞬の事にプレイヤー達も反応できず、その男はヴァサゴが手放したキリトを受け止める。飛び退いたヴァサゴは武器を前に突き出しながら苛立って聞く。

 

「何だよ、テメェは・・・」

 

青年は抱えたキリトを優しく地面に下ろすと顔を上げた。その顔を見たクラインが驚いた声を上げた。

 

「ノーチラス・・・!!」

 

「すみません。遅れてしまいました」

 

そう言い、ノーチラスはキリトを見ると即座にソードスキルを発動し、ヴァサゴ剣撃を与える。しかし、ヴァサゴは愛武器に黒い心意を纏わせるとノーチラスの持っていた剣に強く当てた。

 

「雑魚が・・・引っ込んでな!!」

 

そう言い、剣を押し込むとノーチラスは落ち倒されてしまった。その様子を見て、扇動の心意を放とうとした瞬間。空から一本の白い光が降り立ち、ヴァサゴの前、ノーチラスの横に立った。その女性を見たアスナが歓喜に沸いた声を上げた。

 

「ユナさん!!」

 

「ごめん、ALOのデータをコンバートさせるのに時間がかかっちゃった」

 

「ユナ・・・どうしてここに・・・!」

 

少し驚きの声が入った様子でノーチラスはユナを見ていた。すると彼女はノーチラスを見ながら当たり前と言った様子で話しかけた。

 

「そんなの・・・決まっているでしょ?()()()()()()()()()()よ。」

 

そう言うとノーチラスは納得した様子を浮かべ、剣を握った。

 

「っ・・・そうか・・・そうだよな・・・」

 

「私だけ置いてきぼりにしないでよね」

 

そう言うと赤い軍勢に困惑と驚愕の色が浮かんでいた。

 

『嘘だろ……!?』

 

「おい、あれって本物…?」

 

「間違いないぞ・・・あの人はユナだ!!」

 

様々な声が徐々に大きくなっていく中、参戦したノーチラス達はヴァサゴを見た。

 

「・・・さぁ、行こう。ノーチラス」

 

「・・・ああ」

 

そして、ユナは大きく息を吸い込み・・・歌った。

美しい歌声はエイジの周りを明るくし、SAOから得意だった《吟唱》を使い、ノーチラスに幾つものバフをかけた。

 

「っ・・・!!」

 

「(何だこいつ!さっきよりも早いぞ・・・!!)」

 

その早い剣撃に流石にヴァサゴも防御に徹せざるをえず、ジリジリとキリトから距離を離された。

 

「ちっ・・・テメェ・・・」

 

その件の動きはバフで強化されているとはいえ、ヴァサゴは見切れるものだった。足を狙われるもジャンプして避け、その隙に上から魔剣を入れるも防がれ、その隙にソードスキルを叩き込まれる。

 

「(あいつが歌い出してからやつの動きが早くなった・・・?)」

 

ヴァサゴは現れたユナという女性プレイヤーを一瞬だけ見るも、ノーチラスが腹を狙い、ゴォンと言う重い金属音と共に防いだ。その様子を見てノーチラスは・・・

 

「(行ける、もっと早くだ・・・)」

 

ーーユナを守ったあの人の剣はもっと早かった。もっと強かった。

ーー今度は自分が守る。

 

そこにあった確かな愛は温かい心意となり、周囲の興奮を鎮静化させていた。

 

「この歌は・・・間違いない!ユナだ!!」

 

「じゃあ、ここは本当に・・・」

 

徐々に沈静化するこの状況にヴァサゴは毒を吐く。

 

「(チッ、余計な真似を・・・!!)」

 

「余所見ですか?」ズォン!!

 

「っ!?」

 

重いソードスキルが地面を抉る。その瞬間、ヴァサゴは距離をとるとノーチラスに叫んだ。

 

「お前は・・・何者だ・・・?!」

 

「僕は・・・僕は・・・」

 

あの時は言えなかった。

弱かった。

小さかった。

誰からも見てもらえなかった。

だから言えなかった。

 

だけど今なら胸を張って言える。自分は何者なのかを・・・

 

「血盟騎士団の・・・」

 

その時、彼の衣装に大きな変化があった。その事にアスナやクライン達は二度目の驚愕をした。

 

 

「ノーチラスだぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

己を鼓舞し、その心意が彼の身に纏う姿を変えた。その姿はかつて鋼鉄の城、アインクラッドにて自分が所属していたグループの装束だった。

 

「あれは・・・」「KoBの・・・」

 

純白の衣装に、赤い剣を模った血盟騎士団の団員服と、団員用の剣を持ったノーチラスはヴァサゴに斬りかかる。

 

「知らねぇな・・・テメェみてえな奴なんざ・・・」

 

ヴァサゴは魔剣を振るも素早く返され、足を蹴られてしまった。宙に浮いたヴァサ後は体勢を建て直し、上から直角に剣を落とすが防がれ、ノーチラスは素早く後ろに飛んだ。

一旦間合いをとったノーチラスか過去を思い返すと、口にする。

 

「確かに、あの頃の僕は、何もできない弱虫だった・・・安全なところで見ていることしかできない、只の臆病者だった。でも・・・!!」

 

直後に、剣が赤くなり、ヴァサゴに急接近する。その剣に、思わずヴァサ後は左に飛び避けるが、ポンチョの一部が切れた。剣を避けられたノーチラスはヴァサゴを見ると再び剣を握る。

 

「お前みたいに・・・アインクラッドで仲間やプレイヤーを殺しまくったお前なんかには・・・絶対に負けない!!」

 

「ぬおっ!?」

 

上から来た強い一発に、ヴァサゴは危機を覚えた。咄嗟に横に振るも、頭を下げて避けるとノーチラスはそのまま剣を地面に突き刺し、ヴァサゴを一本背負いして投げ飛ばす。宙に浮き、体勢が整っていない所をノーチラスは剣を抜いて接近する。

 

「(来るか?だったら・・・)」

 

上に飛んだヴァサゴは近づいてくるノーチラスに一回戦すると魔剣を向ける。

 

「「・・・・・・!!ううおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」

 

互いにソードスキルを繰り出し、剣を交える。

 

「(もらったぁ・・・!!)」

 

ノーチラスは視界にヴァサゴを捉えると剣を振った。

 

そして剣が交え、金属音と共に互いにすれ違った。

 

 

 

 

一瞬の間の後、勝敗は決した。ヴァサゴは頬を切られ、ノーチラスの片腕が切られてしまったのだ。

 

「ッ・・・!!」

 

その後、もう片方の腕を切られたノーチラスはヴァサゴによって投げ飛ばされた。

 

「ノーチラス・・・!!」

 

飛ばされたノーチラスに駆け寄るクライン。それを見たヴァサゴは剣を肩に担ぐと言った。

 

「そろそろ消えな・・・」

 

誰もが絶望に満ちた顔をした時、ノーチラスは叫んだ。

 

「ぬわぁぁぁああ!!」

 

そして、ノーチラスは残った力を使い、ヴァサゴの首元に噛みついた。首元を噛みちぎられたヴァサゴは剣を振った。

 

「がぁ!!・・・うるせぇんだよぉぉ!?」

 

「がぁっ!」

 

するとヴァサゴはノーチラスを睨みつけながら魔剣を向けた。

 

「いいぜぇ、だったらここで切り刻んでやる・・・泣き喚けよぉ・・・・・・っ!!」

 

「エー君!!」

 

咄嗟にユナが走って近づいた時。ノーチラスは口角を上げた。

 

「・・・来た」

 

「はぁ?・・・っ!!」

 

ヴァサゴが疑問に思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)!!」

 

 

 

 

 

 

 

どこからともなく、その声が響いた途端。空が明るく灯り、そこから炎を纏った数メートルはあろうかと言う隕石が厚い雲を突き破り、大勢降ってきた。降ってきた隕石は赤鎧のコンバート軍に襲い掛かり、熱と衝撃波をもたらした。

 

「う、うわぁぁぁあああああああああぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁ!!!!」

「あぁ、熱い!熱い!熱ぁああぁぁあぁああぁぁ!!」

「誰か!誰かぁ!!」

「ごほっ、ごほっ。痛ぇ、痛ぇよぉ・・・・」

 

隕石群は赤い軍勢を燃やす。様々な場所から悲鳴や怒号が上がるも、アスナ達人界軍の周りには一切落ちて来ていなかった。

熱波が、彼らの喉元を焼くかのように熱くなり、目の前の至る所にクレーターと炎が燃え上がり、多数の赤い兵士が炎を体に纏わせて『熱い熱い』と阿鼻叫喚していた。一瞬で目の前が地獄と化し、声が出せないでいるとアスナ達の周囲で彼らを抑えていた赤い兵士が切れると音と共に悲鳴をあげた。

 

「ガァッ!」

「ぬおあぁあぁ!!」

「あぁぁあああ!!目が!目がぁああ!!」

 

首や足にナイフやトマホークが、両目にピックが刺さり血を流しながら赤い兵士が倒れる。一瞬で周りにいたヴァサゴ以外の赤い兵士は全て倒され、武器を落とした。そしてアスナ達の目の前に一人の男が片手にサーベルを持ってヴァサゴの前に立った。彼を見たノーチラスが一言言った。

 

「・・・随分派手な登場ですね。貴方らしくない」

 

すると青年がこちらを振り向きながら答える。

 

「・・・何、ちょっとしたデモンストレーションさ。私の真心籠ったプレゼントが受け取られているかのね・・・」

 

そう答える青年は赤を基調とした軽装備で、頭には赤色のフードをかぶっていた。それを見たヴァサゴは驚愕をしたのち、狂気的な笑みを浮かべ、アスナ達は涙をこぼした。

 

「・・・・・・やっと来やがったか・・・」

 

「遅い、遅いよ・・・」

 

するとアスナとヴァサゴが不思議と声が被った。

 

「ブレイドさん・・・」「赤い雷鳴・・・」

 

するとブレイドはフードを取るとアスナ達を見て、力強く話しかけた。

 

 

「・・・・・・遅くなってすまないな・・・」

 

 

絶望的な戦場に、一筋の光線が差し込んだ。



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#43 合流

現れたブレイドは腰にサーベルを添え、赤を基調とした軽装備を身に纏い、姿はALOの姿をそのまま映した様だった。

 

「ブレイドさん・・・」

 

アスナがそう呼びかけるとブレイドはアスナを見ながら言う。

 

「待っていなさい。少しの間、お相手をしなければならない相手がいるのでな」

 

そう言うとブレイドはキリトの右腕を首に回し、それを支えにして体を持ち上げる。ついでに夜空の剣も持つとロニエ達に剣と共に彼の体を託した。

 

「キリトくんを宜しく頼むよ」

 

「は、はいっ!」

 

「先輩っ!」

 

「・・・すまない、詳しい話は後にして欲しい。今は、目の前の敵に集中したい」

 

「は・・・はい!」

 

そう言うとブレイドはヴァサゴを見る。ヴァサゴはブレイドを見ると怒りや憎悪を向けていた。

 

「おめぇがぁ!このクソ野郎ガァ!!いつも俺様の邪魔しやがってぇ!!」

 

激昂するヴァサゴにブレイドはサーベルを抜くとヴァサゴに突き出した。

 

「・・・借り物の体だが暫し相手をさせてもらおうか・・・マイナーな悪魔?」

 

「チッ!正義のヒーロー気取ってんじゃねぇよ!!」

 

直後にヴァサゴが最初からソードスキルを発動する。ブレイドはヴァサゴの技を軽くあしらうとヴァサゴを蹴りで突き飛ばした。ヴァサゴを突き飛ばしたブレイドは先ほどの言葉を思い出していた。

 

「正義のヒーローか・・・本当にそう言えるのだろうかね・・・」

 

「ぜりゃあぁぁぁあ!!」

 

ゴォン!!カァン!!

 

ヴァサゴが怒気を交えて放つ一発一発をブレイドは簡単にあしらう。地面に刺さり、一瞬止まった瞬間。

 

「ふんっ!」ゴキッ!

 

「グハァッ!!」

 

ブレイドから突き出された手がヴァサゴの左肩を脱臼させる。後ろに倒れたところをブレイドのサーベルが胸元を狙った。咄嗟に転がり、距離を取るとヴァサゴは脱臼した肩を元に戻し、乾いた笑い声を上げる。

 

「フッ・・・フハハハハ!!痛ぇじゃねえか・・・つまらねぇ。お前はいつも全て見通す様な目をしやがってよぉ。気色悪りぃんだよ」

 

「・・・」

 

その時だった。わずかにブレイドが怒気を込めてソードスキル〈スター・Q・プロミネンス〉を繰り出した。ヴァサゴはそれに僅かな勝機を見た。

 

「ブレイドさん!!」

 

相手の策に乗るなと言う意味を込めて叫ぶと、ブレイドはヴァサゴと一旦距離を取ると構えた。

 

「問題ない・・・」

 

そう言い、ブレイドはサーベルを持つとヴァサゴに話しかける。

 

「・・・貴様の事はよく調べたさ」

 

「あぁ?」

 

「プレイヤー名がPoHなんてものを使っている時点でまともじゃないと思っていたがね・・・」

 

「へっ、それがどうしたんだよ」

 

そう言うとブレイドは哀れんだ目で話しかける。

 

「・・・『寂しい人生を送ってきたんだな』と思ったまでだ」

 

「っ!!テメェ・・・!!」

 

ヴァサゴは何かがブチギレて憤慨した様子で友切包丁を持って突進する。

 

ゴィィン!!「おっと・・・これは不味かったかな?」

 

「この・・・青二才がァァァァァァアア!!」

 

ヴァサゴは魔剣を振るい、その顔に殺意を宿らせていた。今までで一番憤慨した様子のヴァサゴにアスナ達は驚愕していた。あの言葉にどんな意味が込められていたのかはわからないが、ヴァサゴを憤慨させる何かがあったのだろうと思っていた。

すると、そこでクラインがある違和感を感じた。

 

「・・・?おい、可笑しくねぇか?」

 

「「「「?」」」」

 

クラインの呟きにアスナ達は耳を傾ける。するとクラインは残った腕を赤い兵士達に向けながら呟く。

 

 

 

「何であいつらログアウトしねぇんだ?」

 

 

 

そう言われ、思わず赤鎧を見る。すると赤鎧のアバターを持つ人たちが呻き声や泣き声を出し続けて倒れたままだった。一部の人間、さっきの隕石の攻撃で生き残った一部の人間などは立ったまま混乱していただけだった。

普通ならこれほどの攻撃を喰らった場合はログアウトする筈なのに・・・

 

ーー何かやったのか?

 

そう思いながらアスナ達はブレイドを見た。こう言う変な事をする時は大体ブレイドが何かやった時だと言うのを彼らは今までの経験から思っていた。するとブレイドは怒り狂ったヴァサゴを蹴り飛ばすとこちらに飛んできた。

 

「・・・何をやったの?」

 

その問いかけにブレイドは答える。

 

「なに、ダークテリトリー側のプレイヤーのログアウト条件を弄っただけさ」

 

「どう言うふうに弄ったんだよ」

 

クラインがそう言うとブレイドは少し面白そうにしながら答える。

 

「ダークテリトリー側の今日の0時からログインしたアカウントは体力が()()()()()()になるまで体力消滅によるログアウトを出来なくしたのさ」

 

そう言うとアスナ達は動揺の色を見せた。

 

「そんなっ・・・!!」

 

「おいおいおい・・・マジかよ・・・!!」

 

するとアスナがハッとした様子で溢した。

 

「まさか!・・・さっきまで居なかったのって・・・」

 

アスナの溢した言葉にブレイドは答えた。

 

「あぁ、ログインしてきたアメリカ人、中韓プレイヤー全員にそれを適用させるためさ。・・・面白い考えだと思わないかね?」

 

その後の微かな笑い声が狂気的にしか思えない。そこで、アスナ達は全員が同じ事を思った。

 

 

 

こいつ『悪魔』だ・・・

 

 

 

そんな事を思っているとは思っていないのだろうか、ブレイドはヴァサゴの剣技を受け流すとヴァサゴが剣を再び交ぜ合わせながら言う。

 

「ほらどうした!?かかって来いよ!さっき見てぇによ!」

 

魔剣がブレイドをサーベルごと押す中、ブレイドはヴァサゴの目を見ながら言う。

 

「生憎と自分は待ち人が居るんでな。ま、要するに私は時間稼ぎ要員といったところだ・・・」

 

「はぁ?」

 

するとブレイドはヴァサゴに諭すように言う。

 

「まぁ、貴方が幾ら生い立ちから日本人を憎んでいるとはいえ、日本人を殺させるのはお門違いという物だ。憎むだけなら勝手に憎んでいればいい。そこに害は存在しないのだから。だがね・・・」

 

するとブレイドはヴァサゴの剣を押し返し始めるとそのまま突き飛ばしながら言った。

 

 

 

 

 

「私は、()()作ってくれた世界を滅茶苦茶にされるのはごめん被る・・・ただそれだけだ」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・えっ?」

 

ブレイドがそう言ったその時だった。戦場にオレンジ色の光りと爆発音が包んだ。

 

「「「うわぁぁぁあああ!!」」」

 

爆発に巻き込まれ、赤い兵士が吹っ飛ぶ。軽く十メートルは越えただろうか。吹っ飛んだ兵士は地面にグシャリという嫌な音と蛙を潰したような声をあげて地面に叩きつけられる。本来ならここで体力消費でログアウトする筈だが、さっきの改竄のせいでログアウトされず、ただただ痛みだけが残ると言う地獄を作っていた。

 

「予定通りだ」

 

するとブレイドはニヤリと笑うと、後ろに飛んでヴァサゴとさらに距離を取る。いきなりの爆発にさらに混乱を極める中韓プレイヤー達。すると戦場の北側から急接近してくるナニカを見た。すると戦場の上空に新たな赤い光を見た。現れたのは飛竜に乗った赤い兵士だった。その数は二十人ほど。

 

「っ!危ない!!」

 

そんなアスナの叫び声に反応するかのように接近してくる影は片手に持っていた細長い何かを持つと直後に光球を放つ。

 

ドンドンドンッ!

 

三発の光球が飛竜に乗った赤鎧達にそれぞれ当たると直後に七色の爆発が起こり、飛竜に乗っていた赤鎧達が吹き飛んで落下していく。

 

『散会しろ!!飛ばされるぞ!!』

 

そう指示をするも、その影はさらに速度を上げて接近してくる。その影から見えた血のような赤い目に飛竜に乗っていた一人が恐怖で叫ぶ。

 

『あっ、ああぁあああーーー!!!』

 

接近する直前、目の前のプレイヤーは持っていた小銃を大きく横に振りかぶり、付けていた銃剣によって飛竜に乗った中韓プレイヤーを頭から横一線に吹っ飛ばされた。流石にこれはダメージが一瞬で百万を超え、ログアウト判定となり、飛竜が堕とされた。

 

『こ、このっ!!』

 

懸命に武器を振るも、相手の持つ銃によって撃ち抜かれ、爆発する。その爆発に巻き込まれる形で二人ほど一緒に燃える。

 

『追え!追え!』

 

残った三人はその赤い影を追って上昇する。しかし・・・

 

『と、止まらない!!』

『あいつ、何処まで登る気だ!?』

 

延々と上昇し続ける赤い影は飛竜を引き離すとはるか上空まで登り詰める。そして高度はついに一万を超えたあたりまで上がった。

息をするだけで肺が凍りそうになるほどの気温の中、その影は小銃を構えると拡声魔法で地上に呼びかける。

 

「この言葉の意味のわかる者は、衝撃に備えろ」

 

そう言うと影は小銃を構えると唱える。

 

「我に求めよ。

さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん。

汝、黒鉄の杖をもて彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと。

されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ。

恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ。

子に接吻せよ。

恐らくは彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん。

その怒りは速やかに燃ゆベければ。

全て彼により頼む者は幸いなり・・・」

 

唱え終えると小銃全体に虹色の光が浮かび上がり、銃口からは光と魔法陣が溢れていた。

 

「神を軽蔑する愚者共よ!!その神罰を受けがいい・・・!!」

 

それと同時に引き金が引かれる。放たれた弾丸は赤い魔法陣を介して巨大な真っ赤に染まる砲弾と化し、虹色の光を放ちながら地上に降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

阿鼻叫喚

まさに目の前で起こっていることを指すのだろう。上空から降り注いだ数多の光に中韓プレイヤー達は絶望と恐怖の声で埋まり、一部はさっきの隕石攻撃のダメージを相まってほぼ一瞬で消滅したが、生き残った者は地獄の痛みを味わっていた。体の一部を灼かれ、腹に光線が貫通しようともそれに耐えるしかない。回復術なんて知らない為、ただただ地面に血を流し続けていた。今まで散々やられていたとはいえ、目の前の状況には同情せざるを得ない部分も出て来ていた。

 

すると爆炎の中から一人の人物が降りてくる。その者は第二次大戦下のドイツ人将校の様な服装を見に纏い、背中から蝙蝠の翼のようなものを生やして、地面に降り立つとこちらに歩いて来た。

 

その人物の顔を見てアスナ達は困惑する。

 

「えっ・・・!?」

 

「ブ、ブレイド!?」

 

「先輩が・・・二人・・・!?」

 

そこにいたのはブレイドだった。

全く同じ顔、同じ背格好の二人が顔をお互いに向き合って相対する。すると軽装備の、軍服を着ていない方のブレイドが下げていた流星のサーベルを軍服を着ている方のブレイドに渡した。

 

「役目は果たしたぞ」

 

そう言い、サーベルを受け取りながら軍服を着たブレイドが言う。

 

「・・・ありがとう」

 

そう言うと軽装備のブレイドの方がスーッと空間に文字通り溶けていく。その時、一瞬だけアスナは今までブレイドとして接していた人の()()()姿()を見た。

 

「団・・・長・・・?」

 

一瞬だけ写った白衣に身を纏った人は軍服を着た()()()ブレイドの肩を軽く叩くとそのまま風に乗って消えていった。

残ったブレイドはアスナ達を見るとサーベルを腰に下げてから右手を出しながら唱えた。

 

「システム・コール。トランスファー・ヒューマンユニット・デュラビティ、ライト・トゥ・フレット」

 

それと同時に負傷していた全員が一斉に全回復され、傷が癒える。クラインの切れた腕も服ごと綺麗に元通りとなり、全員が回復していた。

 

「ブレイド・・・お前・・・」

 

クラインが思わず聞きそうになるが。ブレイドが制止した。

 

「クライン、詳しくはまた今度話す。それよりも今は・・・」

 

そう言うとブレイドはキリトに近づくと片手にピンポン球程の大きさの赤色の光球を取り出すとキリトの額に当てた。

 

「頼む・・・これで起きてくれよ・・・」

 

そう言うとブレイドはキリトの額に光球を押し込んだ。スゥッと光球が溶けるように入っていくとブレイドはキリトを再びロニエ達に預けると中韓プレイヤー達に拡声魔法を通して叫んだ。

 

 

「ーーーよく聞け!この世界に不正アクセスする犯罪者共!!」

 

 





補足:ブレイド登場シーン時には脳内に『Young Girl's War』を流してください。


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#44 化けの皮

 

 

『よく聞け!!不正アクセスする犯罪者共!!』

 

 

よく響いたその声は中韓プレイヤー達を動揺させるのには十分だった。普通であれば自分たちを侮辱するとも取れる表現で憤慨する事の方が多いが、あれだけ自信満々に言われ、尚且つこの世界はテストプレイだと言うのに自発的にログアウトできないと言うヤバすぎる欠陥や、燃えた痛みがリアルその物だったりとテストプレイと言うには雑すぎると色々と憶測が飛んでいた。そして何より、さっきからダメージを受けているのにログアウト出来ず、阿鼻叫喚の絵図に中韓プレイヤー達は恐怖し、自分たちが間違いだったのではないかと思い始めていた。

すると若い青年と思わしき声は中韓プレイヤー達を更に地獄に叩き落とす発言をした。

 

『貴様らは罪人!よってここに軍事裁判を開廷する!』

 

その発言に中韓プレイヤー達はどよめいた。しかし、そんな声も気にせずに青年は叫ぶ。

 

『被告!中国人プレイヤー!

被告!韓国人プレイヤー!

 

罪状は大量虐殺!よって判決は・・・・

 

 

 

死刑!』

 

 

 

 

英語で叫んだその言葉にプレイヤー達は驚愕する。

 

『死刑!』

 

その時空からサイレンのような音が聞こえた。まさに悪魔のサイレンだった。

 

ウォォォォオオォォオオーーーン!!

 

「「「ーーーーっ!!」」」

 

空から飛来してきたのは爆撃機だった。爆撃機は急降下しながら腹に抱えた黒光りする爆弾を見せつけた。

 

『死刑だぁ!!』

 

直後に爆撃機から爆弾が落とされ、中韓プレイヤー達に降り注ぐ。

 

「「「っ!!!!!」」」

 

逃げようとするプレイヤーもいたが、千キロの爆弾の前にそんな物は無意味だった。

上空から現れたのはJu87と言う急降下爆撃機だった。この爆撃機には『ジェリコのラッパ』と呼ばれるサイレンが取り付けられており、この音が第二次世界大戦序盤の連合軍の恐怖心を煽っていた。そしてその心意効果はこの場で遺憾無く発揮されていた。爆撃機の数だけ爆炎が上がり、再び中韓プレイヤーは混乱を起こす。蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う中、中韓プレイヤー達に更なる絶望が迫る。

 

「う、うわあぁああぁぁあぁぁぁぁあ!!」

 

一人が悲鳴をあげる。その視線の先には土煙をあげて接近してくる多くの影を見た。そこから響く音はどこか猛獣の唸り声にも聞こえた。

 

『さぁ、獣達よ!

蹂躙せよ!殲滅せよ!

目の前の敵を撃ち滅ぼすのだ!!』

 

青年の声と共に現れた物に中韓プレイヤー達は思わず足を止めてしまった。。

 

「ティ・・・・ティ・・・・」

「ティーガーⅠ戦車だ・・・・!!」

「おい!キングティーガーまで居るぞ・・・・!!」

 

それはかつて連合軍を恐怖のどん底に陥れたドイツ軍の戦車達だった。すると他の戦車を見てプレイヤー達は再び悲鳴をあげる。

 

「パンター戦車までいるぞ!!それに・・・・ヤークトティーガー、ヤークトパンターまで・・・・!!」

 

「こ、こっちはエレファント重駆逐戦車だ!!」

 

目の前に現れたのは全て獣の名前を冠する戦車ばかりだった。戦車を目の前に中韓プレイヤー達は絶望から武器を落とし、戦車とは反対方向に走り出す。

 

「に、逃げろ!!」

 

「どこに逃げるんだよ?!」

 

「俺たちじゃあ。戦車相手に勝てっこねぇ!!」

 

そんな叫び声は接近してくる戦車の砲声によってかき消される。

 

「「「ぎゃぁぁああ!!」」」

 

砲撃で吹き飛ばされ、中には逃げ遅れて戦車に踏み潰されて、嫌な音と共に死んでいくプレイヤー達。そこに慈悲は無かった。目の前で起こる地獄絵図にアスナ達は静観するしかできなかった。するとクラインがキューポラから顔を覗かせたプレイヤーに気づいた。

 

「おい、ありゃあストレアちゃんじゃねえか?」

 

そう言うとブレイドは答えた。

 

「ああ、あの戦車とスツゥーカはコンバートしたGGOプレイヤー達が動かしている」

 

「いつの間に・・・・?」

 

そんなアスナの問いかけにブレイドは何処か愉快そうに答えた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

遡る事数十分前・・・・

混戦となった戦場で、ストレア達GGO義勇軍は負傷しつつも北側に撤退をしていた。身体中を傷だらけになったストレアはそこでたまたま着陸していたブレイドを見つけた。

 

「マスター!!」

 

「ストレア、その傷は・・・・」

 

「はい、実は・・・・」

 

そうして事情を知ったブレイドは自身の天命値を確認した上で生き残った義勇軍に問いかけた。

 

「失った仲間の復讐をしたいか?」

 

その問いに義勇軍たちは答える。

 

「「ストレアを傷つけた輩を許さない!!」」

 

その返にブレイドは自身の使うスーパーアカウントの能力を最大限使った。現れたのは多数のドイツ戦車と急降下爆撃機Ju87だった。

 

「復讐するのなら此れに乗れ」

 

そう言うと義勇軍は兵器に乗り込む者と、戸惑う者に分かれていたが。そこでストレアが一喝する。

 

「チンタラしているやつは置いて行きなさい」

 

その一言に全員が動いた。元よりここにいるのは殆どがストレアについて来た者。ストレアの後を追いかけるガチ勢なのだ。そんなストレアが前線に行くと言うのだがら答えは簡単だった。

 

「行くぞ!クソッタレの韓国人を吹っ飛ばしてやれ!!」

「嘘つきの中国人を地獄に叩き込んでやれ!!」

 

戦車や航空機に乗り込んだ義勇軍達は今まで溜まっていたものを吹き飛ばすように叫ぶ。

 

 

 

「「日本人の底力(大和魂)を思い知れ!!」」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「前方に敵はまだいるぞ!撃て!!」

「クソッタレの韓国人め!これでもくらぇぇぇ!!」

「装填まだか?!」

「装填完了!!」

「発射!!」

 

戦車の車内では怒号が飛び交っていた。元より、ここにいるのはミリタリー好きが多い。だから戦車の扱い方も知っている者がかなり多かったのだ。砲弾を装填し、引き金を弾く。似たような光景は空でも起こっていた。

 

「G型の37ミリ砲を喰らいやがれ!!」

「吹っ飛べ!!」

 

上空を飛ぶストゥーカはG型。この機体は両翼に37ミリ砲を搭載するイロモノ爆撃機であった。この37ミリ砲は装甲車を破壊する威力があり、生身の人間相手にはオーバーキルのような気もしていた。しかし、そんなことも気にせずに放たれた砲弾は中韓プレイヤー達を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

おっと皆さんドン引きのご様子で。

事情を全て話した後、ブレイドは最後にこう言った。

 

「奴らが入って来たのなら出口を閉じて仕舞えば良い。二度と入ってこれないようにするにはその方法もあるんだぞ?」

 

そんな発想をできる時点で悪魔だと思った。そして、アスナ達はあることを学んだ。

 

「「「(絶対にブレイドを怒らせたらダメだ・・・)」」」

 

少なくともご愁傷様としか言えない状況の中、ブレイドは歩き始める。

 

「さて、プレイヤー達の事はストレア達に任せるとして・・・」

 

ブレイドの歩いて行った方向をアスナ達は見ると警戒の色を示した。

 

「やってくれたなぁ・・・赤い雷鳴・・・!!」

 

そこには憤慨し、顔が真っ赤っかのヴァサゴがいた。ヴァサゴは鬼のような形相でブレイドを睨みつける。

 

「貴様は許さん。死罪より重い苦痛を与えてやる」

 

「っ!!舐めるなぁ!!クソガキィィィィ!!」

 

ヴァサゴは友切包丁を持ってブレイドに接近する。

 

「俺相手には偽モンで十分だったってか?!ふざけんじゃねぇ!!」

 

「ふざけているのはお前の方だ、ヴァサゴ・カルザス。日本人を恨んでいるなら勝手に恨んでろ。だがな、人の命はそんな軽い物じゃない。・・・貴様は人を殺しすぎたんだよ。もう後戻りできないくらいにな・・・」

 

そう言うとブレイドは小銃を地面に置くとサーベルを右手で持って構える。

 

「小便は済ませたか?

神様へお祈りは?

部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」

 

「・・・へっ!」

 

一瞬の静粛が戦場を覆う。そして二人は互いに接近し、剣を交える。

 

「はぁぁぁぁあああ!!」「うらぁぁぁぁああああ!!」

 

燃え盛る戦場の中、二人は重々しい金属音を発しながら互いに死闘を繰り広げる。

ブレイドはここでヴァサゴを()()()に、ヴァサゴはブレイドを()()()に剣を振った。サーベルと肉切包丁がぶつかり合い、火花を散らす。一旦距離を取り、ブレイドが飛んで上からサーベルを振る。ヴァサゴはニィと笑うとお互いに剣を交える。

 

ザシュッ!

 

互いに交差し、ヴァサゴはブレイドの右腕を切り落とした。ヴァサゴは勝ちを確信し、アスナ達が叫んだ。

 

「「ブレイド(さん)!!」」

 

しかし、当の本人は余裕そうに斬られた腕を持った。その違和感にヴァサゴは怪訝な表情を見せる。

 

「・・・これしきで勝ったと思っているのか?」

 

「!?」

 

その直後、斬られた体と右腕の両方から黒い枝のようなものが出て来ると斬られた腕と繋がり、何事も無かったかのように元通りになった。ペインアブソーバーが無いはずなのに、その痛みすら感じさせないその様子にアスナ達は絶句した。するとブレイドは軽く右腕を動かしながら話す。

 

「何を驚いている?今の私は不死者(ノスフェラトゥ)なのだぞ?これくらい擦り傷にもならない」

 

するとブレイドは笑いながらヴァサゴに話しかける。

 

「さぁ、かかって来い殺人鬼(PoH)!・・・化物はここだ。お前が斬りたくて仕方ないブレイドはここに居るぞ!」

 

どことなくMっけのある様子で話し、胸に手を当てるブレイドにヴァサゴは真顔から狂気的な笑みを浮かべた。

 

「クッ・・・クハハハハ!!そんなに斬られてぇならお望み通り斬り刻んでやるよ!!」

 

そう言うとヴァサゴは友切包丁を手に取り、ブレイドの腕を目掛けて斬る。しかし、確実に切り落した筈の腕はブレイドの定位置に残ったままだった。

 

「何っ!?」

 

その事実に驚愕した一瞬。ブレイドの横蹴りがヴァサゴの右側頭部を直撃する。

 

「ゴハァッ!!」

 

凄まじい蹴りを間一髪で衝撃を最低限まで抑えたヴァサゴは頭から血を流しながら横に吹っ飛んだ。土煙を上げ、転がり終えて立ち上がるとブレイドはそんなヴァサゴを見てつまらなさそうな表情を浮かべる。

 

「何だ?その程度か?そんなカスみたいな攻撃で私を倒せると思ったのか?」

 

「っーーー!!くそがぁぁぁぁあああ!!」

 

ヴァサゴは友切包丁を縦に横に振る。しかし、斬られてはいる。斬れている筈なのに手応えを感じないブレイドにヴァサゴは何かあるのだと理解した。

 

「てめぇ・・・何仕込んでやがるんだ・・・」

 

その問いかけにブレイドは非常に邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

「ーーー命を吸ったのさ」

 

 

 




注意:作者は書いている途中にどっちが悪役なのかわからなくなりました。


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#45 目覚め

 

 

「命を吸ったのさ」

 

 

 

その返答にブレイドはさらに続きを話す。

 

「このアカウント。《月神ノスフェラトゥ》の能力は《天命操作》。自身の持つ天命を他人に分け与えたり、天命の変換が出来る能力だ」

 

すると徐にブレイドは流星のサーベルを抜いて刀身をこちらに見せつける。

 

「そしてこの能力は様々な事に転用できる。それこそ()()()使()()()()()()()()()()()もな」

 

「っ!!それじゃあ・・・今までのは・・・」

 

若干震えながら話すアスナにブレイドは答える。

 

「ああ、全部天命を使って痛覚を相殺していた」

 

そう話すブレイドにアスナ達は驚愕していたが、ここでクラインがふと思ったことを口にする。

 

「で、でもよぉ・・・それじゃあいずれHPが底をついちまうじゃねぇか」

 

するとブレイドは流星のサーベルを見せながらこう言う。

 

「確かに()()()()()そうなのだろう。だが・・・」

 

そう言うとブレイドはサーベルを再び構えながらヴァサゴと対峙する。

 

「このサーベルの能力を持ってすれば。その問題も解決される。

この流星のサーベルは天命のほぼ無い宇宙より飛来した隕石から出来た神器故に()()()()()()()()()()()()()()()()それには天命も含まれているのさ」

 

するとブレイドはサーベルを下におろすとヴァサゴめがけて言い放つ。

 

「さぁ来い!お前の敵は此処だ!さぁ!早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)!」

 

何処か焦っているようにも思えるが。ブレイドの挑発にヴァサゴは乗っかった。重い一発がブレイドのサーベルに打ち込まれる。戦況は完全に拮抗していた。アスナ達はその戦闘に加わることが出来なかった。それほどまでに二人の戦いは熾烈を極めていた。そんな中、ブレイドは内心焦っていた。

 

「(まだか・・・まだ、なのか・・・!!)」

 

その視線の先には地べたで横たわるキリトの姿があった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・・・・」

 

キリトは夢と言うにはあまりにもリアルなものを見ていた。此処はSAO時代、ブレイドが住んでいた二十二層のコテージだった。その寝室で寝ている親友の姿があった。

 

「ブレイド・・・・・・」

 

ブレイドはベットで寝ていたが、居間のテーブルのランタンがついたまま放置されていたその上には何枚もの紙が置かれていた。その紙を不意に悪いと思いつつも覗き込んだ。書いてあるのはレポートのようだった。

 

『攻略組プレイヤーに関する情報』

 

そう書かれた用紙には実に色々な事が書かれていた。攻略組の戦闘スタイルや、使っている武器。弱点など書いてあることは多岐に渡った。これほどの情報を集めていた事にブレイドらしさを感じているとあるレポートに自分のことが綴られていた。

 

『◯月◯日

キリト襲撃のために雇われたプレイヤーの情報から、相手はPoHと名乗るプレイヤーと推測』

『◇月◇◇日

PoHは非常にキリトに対し執着心を持っている模様。当分の間は危険と判断し、キリトと共に行動する』

 

レポートに書かれていた内容に驚いていると突如持っていたレポートが消え、視界が変わる。

 

 

 

 

 

『ブレイド!』

『キリト・・・悪い、後を・・・頼むぞ・・・』

 

其処にはアバターが消滅していくブレイドの姿があった。思わず走り出しそうになってしまうが。足を鎖のような物で繋がれ、動けなかった。それは、今でも時々トラウマとなって出て来てしまう記憶だった。

そしてその後に、半透明のブレイドが俺と一緒に剣を持ってヒースクリフを倒すと、また景色が変わった。

 

 

 

 

 

 

『この世に完璧なものは存在しないよ兄さん。たとえそれがVRの世界であっても』

『そうだな・・・』

 

透明な床、目の前には崩壊していくアインクラッドがあった。視線の先には赤い軽装備の修也と、白衣を着た茅場が立っていた。

 

『お前が日本に戻ってきた時は驚いた・・・もう帰って来ないと思っていた』

『・・・ま、爺さんから帰ってきて欲しいって前々から言われてたんだよ』

『成程・・・孫バカとはあの人の事を指すのだろうな』

『ハハッ、それは違いないね』

 

そんな他愛もない兄弟の会話を、俺は後ろから見ていた。何を見させられているのかと思った。すると茅場が視線を右側に向ける。其処には水晶板の上で座っている俺とアスナが居た。すると二人は俺たちの方へと歩いていき、俺に話しかけていた。

 

『キリト君、最後に聞いて欲しいことがある』

『・・・何だ?』

『彼のことだ・・・もし彼が現実世界に帰還していたら・・・あの子を見ていてくれ』

『何故だ?』

『こんな私を現実世界で慕っていた子だ・・・現実世界で何があるか分からない。だから見守って欲しい』

 

 

 

『見守って欲しい』

 

 

 

やけにこの言葉が耳に残る中。視界がまた大きく変わった。

 

 

 

 

 

『僕より高位のIDだと!?ふざけるな!!』

『ふざけているのはお前の方だ。須郷伸之』

 

次に見たのは旧ALOで須郷にやられていた時にブレイドに助けられた時の光景だった。ヒースクリフと似て違う甲冑に身を包んだブレイドが剣を持って須郷と対峙した時の光景だった。

 

『キリト、お返ししてやれ』

『良いのか?』

『面白いものを見れただけで十分だ』

 

そう言われ、剣を持って須郷を切り倒した俺はアスナの体を支えていた。そんな様子を見ていたブレイドはすっと影のように消えていた。その後、ブレイドは茅場と楽しげに話し、茅場から世界の種子を受け取っていた。

 

 

 

 

 

次に見たのは今ブレイドが住んでいるマンションだった。そこでパソコンと睨めっこしている修也の姿があった。詩乃の姿が見えないことから恐らく旧ALOの事件から死銃事件までのどこかの日なのだろう。部屋の隅では牧奈が椅子に座って目を閉じており、カタカタとキーボードを叩く音だけが部屋に響いていた。その画面に映る虚な目は何処かあの茅場に通ずるものがあった。キリトはパソコンの画面を見るとそこには『Plan Last Judgement』と書かれた画面が写っていた。流暢な英語で書かれたその計画書を眺めキリトは冷や汗を掻いた。

 

「人類の抹殺・・・!!」

 

まさに悪魔の計画とも言えるその計画書にキリトはさっきの言葉の意味を理解した。

 

「(茅場は・・・こうなる事を知っていて・・・俺にあの言葉を・・・・・・)」

 

すると牧奈がパチッと目を覚ますと修也に報告していた。

 

『マスター。右前腕部に不具合を確認しました』

『・・・分かった。自己修復は・・・』

『不可能と判断しました』

 

牧奈がそう言うと修也は工具箱を取り出し、中から始めてみるような工具を取り出した。そして、牧奈の腕に工具を当てると皮膚のカバーが取れ、中から機械仕掛けの骨格が姿を現した。

 

「っ!?」

 

衝撃的な光景を見たキリトはその中身をよく見てしまっていると牧奈が修也に話しかける。

 

『ーーーマスター・・・』

『なんだ?』

『まだ、続けるんですか?あの計画を・・・』

『・・・・・・』

 

そんな牧奈の問いかけを無視しながら修也はパーツの交換をする。そんな中、牧奈は修也に懸命に話しかける。

 

『これは間違っていると判断します・・・確かに、マスターは今まで色々あったと思われます。妬みや嫉妬からマスターが殺されかけたこともあります・・・だからと言ってこの世界からそう言った感情を無くすために人が居た痕跡を全て消すと言うのは間違っていると判断します』

 

そんな牧奈の話に修也は答える。

 

『・・・・・・まだ、何も始まっていないんだ・・・憶測を言うんじゃない』

『・・・ですが、マスターが()()()()()()人を憎んでいるのは確かです』

『・・・』

 

その問いに修也は答えなかった。修也はどんなことをしたのかは分からない。だけど、人をこんなふうに思ってしまうくらいに人の汚い部分を見すぎてしまったのだろう。でなければあんな虚な目をする筈がないからだ。

 

だが、そんな修也でも自分は頼りしている。常に自分を陰から支えてくれる()のような風格があったからだ。すると後ろから声がした。自分と同じ声が・・・

 

『また、ブレイドに助けて貰うつもりか?』

 

振り向くと、そこには目元が影で覆われた自分がいた。着ていたのはSAOでもお馴染みの衣装だった。すると自分は語りかける。

 

『今までだってそうだった。困った時に、ブレイドに全てのことを丸投げして自分は何も考えなかった。自分はブレイドに何をした?』

 

「それは・・・」

 

その問いかけにキリトは反論できなかった。すると目の前にいたキリトは捲し立てるように言った。

 

『いつもそうだった。窮地に陥ってもブレイドがなんとかしてくれる。自分は楽をしていたんだ。自分では何も出来ないからな』

 

自分の鑑写しが放った言葉は的を得ていた。だからだろうか、不意に自分は膝を地面につける。その無力さを感じて・・・・

 

ーーああ、そうか・・・自分は・・・甘えていたのか・・・

 

ブレイドという人に・・・いや、ブレイドの持つその優しさに・・・・・・

自分が甘えすぎたから・・・あんな事を真面目に考えてしまったのか・・・・・・

 

「俺が彼の心を壊してしまったのか・・・」

 

だったらいっその事・・・・・・

 

そう思って自分の手を大きく振りかぶった時。俺の手首を小さく華奢な手が掴んだ。

 

「だめですよ。早まった行動は・・・・・・」

 

聞き覚えのあるその声に、キリトは驚く。するとその声の主はキリトの腕をそっと下ろすとキリトの眼前に姿を現した。

 

「牧奈ちゃん・・・・・・」

 

目の前に現れたのは修也が妹と言っていた。機械の腕を持っていた少女、牧奈だった。すると牧奈は言う。

 

「うーん・・・細かく言うと君の思っているマキナとは違うんですけどね」

 

「・・・・・・?」

 

すると目の前にいる牧奈は話し始める。

 

「私は()()()()()()()()に自分の心の中に作り出した()()()()()()()()()()・・・まぁ、分かりやすく言うと幻影だね」

 

「っ・・・・・・!!」

 

目の前にいる少女の答えに驚きキリト。そんなキリトに牧奈は話す。

 

「私は現実世界にいるマキナとは全く違った生まれ方をした、ある意味()()()()()()と言えば良いわね・・・まぁ、そんな話は今はどうでもよくて・・・」

 

すると牧奈はキリトと面と向かうとキリトの目を見ながら話し出す。

 

「ねぇ、キリト君。()()()()()修也に甘えていると感じているの?」

 

「・・・・・・」

 

そう言われてしまい、ダンマリしてしまうと牧奈は呆れたようにため息をつくと言った。

 

「はぁ・・・キリト君。この際、私からはっきり言うけどね・・・・・・

アンタは人の気持ちを理解できてなさるぎるんだよ!!

 

「っ!?」

 

いきなりの大声に驚いていると牧奈は説教するようにキリトに指を指す。

 

「全部自分で背負おうとすんな!!

修也に甘えていると思うな!!

人の恋心ぐらい理解しろ!!このドアホがぁ!!

そもそもねぇ、修也がここまでアンタを大事にしているのはなぁ・・・!

 

 

 

 

 

赤羽修也の念願だったからだよ!!」

 

 

 

 

 

「!?!?!?」

 

少女から語られる暴露に再び驚愕する自分。牧奈はそんな自分を見ながら捲し立てる。

 

()()茅場晶彦ですら解決できなかった問題・・・

 

 

 

それは、『同い年の子と楽しくゲームをする事』

 

 

 

こればかりはどうしようもならなかった・・・当たり前こそ修也にとっては最大の幸せだった・・・それこそ、今までの素晴らしい業績を投げ打ってでも望むほどにはね・・・」

 

「・・・・・・」

 

恐らく、修也のことを最も詳しく知っているであろう裏の人格とも言えるべき存在から語られる事実(過去)、それはあまりにも非凡な話だった。

自分が中学生している時に彼は大学に入学していたのだ。普通じゃあ考えられない話だった。学校に通う傍ら世界的企業で新技術を作る日々。俺たちの知らないところでそんなことをしているなんで思っていなかった。そんな過去の中には巧妙な手口で修也を懐柔しようとする汚い奴らもいた。

 

「ーーーとにかく、こんな人生を送って来たんだからあんな事考えるのは当たり前なの。

・・・それにね、修也はあの世界(アインクラッド)で大きな出会いをした・・・・・・君のことさ」

 

「俺が・・・?」

 

その疑問に少女は頷く。

 

「そう、君は修也にとって初めて同い年で同じ立場で話す事の出来た友人・・・いや、相棒なのかな?・・・確かに大学生の時も修也を気にかけてくれる人はいた。だけど、『同じ立場に立って自由に話す事のできる人』ってのは今まで出来なかったんだ」

 

すると少女はため息混じりにキリトに話す。

 

「まぁそんな訳で、茅場が君に贈った『修也を見守って欲しい』ってのは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()見守ってほしい』って言う意味があんだよ」

 

そのくらい良く考えろと愚痴る少女に、俺は思わず呟いてしまう。

 

「だけど俺は・・・」

 

「”だけど”じゃないの。修也にとって貴方はかけがえの無い。変えようのない相棒なの。人生にとってのね・・・」

 

そう言うと少女は自分の後ろの方を指さしながら言う。

 

「分かったなら行くよ。待っている人がいるから」

 

いつの間にか足元の鎖は消えていた。俺は立ち上がると少女に腕を引っ張られる。その先に光る一筋の光の先に一人の青年が待っていた。

 

「ユージオ!!」

 

「キリト、遅いじゃないか」

 

いつも通り陽気に話しかけるユージオに思わずキリトは聞いてしまう。

 

「・・・ユージオ・・・・・・」

 

「?どうしたんだい?」

 

「俺・・・このままでいいのかな・・・?」

 

そう問うとユージオは答える。

 

「・・・・・・いいんじゃない?ブレイドが言っていたじゃないか『無理が通れば道理も引っ込む』ってさ。僕をあそこから連れ出してくれたのもキリト達だ。僕も、二人に追いつきたいから頑張った。カセドラルを登ってアリスに出会えた。最高司祭を倒した。それにブレイドや、他のみんなが外で戦っている。だから・・・・・・

 

 

 

立って、キリト・・・僕の親友…

 

 

 

 

 

・・・僕の英雄」

 

 

 

 

 

それと同時に、俺はユージオに手を引っ張られ、同時に背中からも体をぐいっと押された。

 

「行ってらっしゃい・・・・・・《黒の剣士》」

 

「・・・・・・ああ、行ってくるよ」

 

最後に少女はニコリと笑うと二人を見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぁぁぁあああ!!」

 

「うらぁぁぁ嗚呼あ!!」

 

ブレイドは徐々に疲れの色が見え始めていた。いくらスーパーアカウントとは言え《天命操作》はじわりじわりとフラクトライトに負担をかけていたのだ。思わずサーベルを落としそうになってしまうが、両手でそれを抑える。

 

「どうしたぁ?!それで終わりかぁ?!」

 

ヴァサゴはどこか余裕そうに友切包丁を手に持って叫ぶ。対峙するブレイドは鼻から血を流し、それを拭っていた。

 

「まださ・・・・・・」

 

「へっ・・・・・・終わりにしてやるよ・・・」

 

そう言うとヴァサゴは急接近する。普通であれば受け流す筈が今までの疲労から対応が遅れてしまった。

 

「っ!!」

 

「死ねぇぇぇえええ!!」

 

そしてヴァサゴがブレイドに大きく振りかぶった時・・・

 

「これは・・・」「なぁっ・・・!?」

 

自分を囲うように金色のシールドが放たれ、ヴァサゴの剣を防いでいた。そのことに驚愕する二人。すると金色のシールドはヴァサゴを跳ね飛ばした。その事に驚愕するも、ブレイドは一瞬で口角を上げ、言い放った。

 

「・・・・・・随分遅いじゃないか・・・」

 

「悪いな・・・迷惑をかけて・・・」

 

「フッ・・・このくらい慣れっこさ・・・」

 

そう言うとカツカツと地面を踏む音が聞こえ、その姿を見た者は全員が涙していた。

 

「ーーっ・・・キリト・・・君・・・・・・!!」

 

そう言うと黒服の剣士はアスナに振り向くと言った。

 

 

 

「ただいま・・・アスナ」

 

 

 

「おかえり・・・キリト君」

 

 



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#46 次の段階

「ブレイド・・・これ、お前のだろうに・・・」

 

「あぁ・・・すまない・・・」

 

そう言い、キリトは地面に転がっていた小銃を拾うとブレイドに手渡した。それを受け取るとブレイドはキリトを見ながら言った。

 

「・・・夢は覚めたか?」

 

「あぁ、バッチリとな」

 

そう言うと呪詛のような声が聞こえた。

 

「またか・・・また・・・テメェが・・・邪魔しやがって・・・」

 

そこにはヴァサゴがいた。体から滲み出るドス黒い心意に二人は警戒をした。

 

「ふざけんなぁぁぁぁああああ!!!」

 

「「っ!?」」

 

「赤い雷鳴・・・俺の楽しみを・・・あの鋼鉄の城のショーの続きを台無しにしやがって!!ふざけんじゃねぇぇぇぇえええ!!!」

 

怒鳴るヴァサゴにキリトは剣を抜こうとしたところでブレイドが手を押さえた。

 

「ブレイド・・・?!」

 

「奴の相手はまかせろ」

 

「だが・・・」

 

「行きなさい。今はユージオ達の援護が最優先だ」

 

ブレイドのちょっとした圧にキリトは頷く。

 

「・・・分かった・・・ブレイドも気をつけろよ・・・」

 

「何、ケリをつけるだけだ」

 

そう言うとブレイドはアスナを見た。

 

「アスナ・・・キリトと一緒に行ってユージオ達の援護に回ってくれ。STLを介してのログインは果ての祭壇に行かないとログアウト出来ないからな」

 

「わ、分かった・・・ブレイドも気をつけて」

 

「あぁ・・・」

 

そう言い、キリト達は飛んで行く。それをヴァサゴが逃すはずがなかった。

 

「おい・・・どこに行こうってんだぁ?逃げんじゃねぇよ!」

 

「フンッ!」

 

カァンッ!

 

ブレイドのサーベルと肉切包丁が音を立てて擦れる。

 

「お前の相手はこっちだ・・・」

 

「ちっ、邪魔すんじゃねぇ!!ガキィ!!」

 

そう言い、鍔迫り合いを押し返すとブレイドとヴァサゴは距離を取る。鬱陶しそうに睨むヴァサゴにブレイドは余裕そうに嗤う。

 

「・・・何だぁ?その目は?」

 

そう問いかけるヴァサゴにブレイドは自分の天命値を確認する。そして再びヴァサゴを見た。

 

「お前を殺す為に・・・こちらも()()()()()()としよう」

 

「はぁっ?」

 

するとブレイドは右手の人差し指と中指を合わせ、胸の前で十字架のサインを出した。現時点で心配事の無くなったブレイドは躊躇なくこの技を使う事ができる。

 

「ーー《零号術式》発動」

 

一言唱えた直後、ブレイドの周りから赤黒い心意が解き放たれる。赤黒い心意はブレイドの身体を包み込む。目の前で起こっている出来事にクライン達は冷や汗を掻いてしまった。すると赤黒い心意が晴れるとそこからブレイドが出てきた。現れたブレイドは目の部分が赤く染まり、頭上には天使の輪のような白い光が現れる。その目はどことなくベクタにも似ているような気がした。すると彼はヴァサゴを見ると右手にサーベルを、左手に自動小銃を持ってヴァサゴと対峙し、ヴァサゴを見ていた。

 

「さぁ・・・殺し合いを始めようか・・・殺人鬼」

 

そう言い、ブレイドはサーベルを縦に、小銃を横にし、擬似的な十字架を作る。唯ならぬ雰囲気にヴァサゴは冷や汗を流しつつも笑った。

 

「へっ・・・へははははははは・・・・・・!!」

 

その直後に肉切包丁を持ってヴァサゴはブレイドの喉元目掛けて走る。友切包丁はブレイドの喉を確実に切り落とそうとしたが、ブレイドの持つ小銃に脳天をぶち抜かれそうになる。

 

ーーードォォン!!

 

放たれた小銃の弾丸をヴァサゴは頬を斬りつつも避ける。逸れた弾丸はそのまま背後の岩山に着弾し、砲弾の如き爆炎と衝撃波を生み、一撃で山を粉砕していた。

 

「っーーーー!!」

 

普通ではあり得ない威力に何かあると踏んだヴァサゴはブレイドを見る。するとブレイドは小銃の照準をこちらに合わせながら言った。

 

「どうした?この程度の事で驚くとは貴様らしく無いぞ?・・・さぁ、来い!貴様には死刑より重い罪を与えてやる!!」

 

「っーーー!!ぜらぁぁぁあああ!!」

 

ヴァサゴが再び技を繰り出した時、ブレイドに取り憑いていた赤黒い真意がヴァサゴの腹部を貫通した。

 

「何っ!?」

 

その瞬間、ヴァサゴの脳内に怨嗟の声が響き渡る。

 

『殺してやる・・殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる・・・!!』

『彼奴のせいだ!彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ・・・!!』

『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・!!』

 

永遠と続く怨嗟にヴァサゴは頭痛が激しくなり、思わず手で押さえてしまう。

 

「ぐっ・・・ぐぁぁぁぁああああ!!」

 

思わず膝を突きそうになってしまうとそこにブレイドが立った。腹に刺さった赤黒い心意を抜くとヴァサゴはブレイドを睨みつけた。

 

「貴様・・・何を見せた・・・?!」

 

「お前の罪の数だ。今までにここで死んだプレイヤー達の()()の一部を見せただけさ」

 

そう言うとブレイドの周りの心意・・・《怨恨の心意》はヴァサゴのフラクトライトをすり潰す勢いで襲いかかった。さっきの攻撃で危険を判断したヴァサゴはそんな心意の攻撃を避ける。するとブレイドは流星のサーベルを掲げながら言う。

 

「心意は避けたか・・・だが、これは避けられるかな?ーーエンハンス・アーマメント」

 

その直後、またもや今度は小さめだが隕石が炎を纏って降って来る。落着する隕石群を避けながらヴァサゴはブレイドに肉切包丁を当てようとする。しかし、怨恨の心意やこの隕石の影響で近づくことすら叶わない。やがて攻撃が止んだ時、ヴァサゴはブレイドの方に足を踏み込んだ。しかし、その瞬間ーー

 

ザシュッ!

 

腹から血濡れて光る金属が貫いた。

 

「ーーーは?」

 

ふと振り向くとそこには戦斧をヴァサゴに突き刺す赤鎧のプレイヤーの姿があった。プレイヤーの周りにはブレイドと同じ色の心意が渦巻き、怨声を呟く。

 

「お前のせいで・・・お前が扇動したから・・・俺たちはこうなったんだ・・・死ねよ・・・苦しめよ・・・!!」

 

その叫びが聞こえたのだろう。逃げ回っていたプレイヤー達は一斉にヴァサゴを見ると徐に地面に落ちていた武器を手に持つ。そして同じように怨声を連ねる。

 

「そうだ・・・彼奴だ」

「元はと言えば彼奴が言ったから・・・」

「あの男が叫んだから・・・」

「彼奴のせいだ・・・」

「そうだ、彼奴が悪いんだ」

「俺たちの悪魔め・・・」

 

そして武器を持ったプレイヤー達はジリジリとボロボロの体でヴァサゴに剣を向ける。そして最後の力を使ってヴァサゴに叫びながら走り出す。

 

「「「死ねぇぇぇええええ!!」」」

 

仲間だった筈のプレイヤーから武器を向けられたことに咄嗟にヴァサゴは叫ぶ。

 

「よく聞け!お前らがやられているのはこの男の・・・「この、大嘘つきが!二度と喋るな!」っ?!」

 

扇動の心意を発動しようとした所で一人のプレイヤーに遮られる。するとそのプレイヤーは叫んだ。

 

「この状況で、何人が苦しんだ?!戦車で吹き飛ばされ、戦車に踏み潰され、爆撃機で飛ばされ、掃射で身体中を撃たれ・・・多くの仲間が泣きながら死んでいった。『痛い。助けてくれ』と言いながら・・・今まで多くの・・・多くの友人がそんな声を上げて苦しんでいった・・・全部・・・全部お前が仕込んだ事なんだろう・・・そこの青年の言っている事が嘘だったとしても、この痛みの原因を作ったのはどう足掻いてもお前なんだよ・・・」

 

「っ!?」

 

「それなのにお前は泣いてない、痛みを感じていない・・・俺たちはそれが許せねぇんだよ・・・だから・・・だからぁ!!」

 

するとそのプレイヤーは雄叫びを上げながら突撃する。それに呼応する様に他のプレイヤー達も武器を持って突撃し出した。

 

「「「「「うわああぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁあ!!!」」」」」

 

大勢のプレイヤーが武器を手に走り出す。ヴァサゴはそのプレイヤー達の対処に専念せざるを得なかった。するとブレイドが拡声魔法を通じて戦場に呼びかける。

 

『生き残ったプレイヤー達に次ぐ。ーーー今この場所に、この惨状の原因を作った男が居るぞ。この惨状を高みの見物をして自分は苦しみから逃げた愚者がな』

 

その声と共にブレイドは手に信号拳銃を作ると引き金を引いて信号弾を撃って戦車の攻撃を辞めさせる。攻撃が止んだことにホッとするプレイヤー達は次に憎悪と怨恨に支配され、落ちていた武器を片手にヴァサゴへと近づく。生き残ったプレイヤー達、数千人は一斉にヴァサゴ目掛けて武器を振った。そこに強い憎悪を乗せて。

 

「お前のせいで・・・俺の恋人が・・・泣き叫んだんだ!!」

「苦しめよ!逃げんじゃねぇぇぇ!!」

「死ね!死ね!死ねぇぇぇえ!!」

 

怒りに任せて振られる武器は滅茶苦茶で統率なんて無かったから、ヴァサゴはヒラリと避けるが・・・

 

ザクッ!「ゴフッ!」

 

避け斬れなかった直剣がヴァサゴの背中を斬りつける。単独でこの数の相手は出来ない。このままではジリ貧である。打開策としてはおそらくこの現象の源であるブレイドを叩く事。自分の欲望の為に、この状況を打開する為にヴァサゴはソードスキルを繰り出してブレイドに一直線に向かう。

 

「うらぁぁぁぁぁああああ!!」

 

血が流れ、プレイヤーが悲鳴を上げながら倒れ、アバターが消滅する。続々と襲いかかる中韓プレイヤー達を斬りつけ、前進する。目指すは視線の先にいる赤い悪魔に向けて・・・

するとブレイドはプレイヤーを斬りつけるヴァサゴを見ると再び拡声魔法を使った。

 

『見ろ、あのプレイヤーを。自ら苦痛から逃れる為に他人を犠牲にしている。そんな奴を許せると思うか?』

 

そう言うとプレイヤー達はさらに憎悪を含ませてヴァサゴを見る。なぜ今まであんな奴に乗せられていたのか。その愚かしさを反省しながら死んでいった仲間達のために武器を持ってヴァサゴの行手を阻みながらヴァサゴを斬りつける。ヴァサゴもこんな相手に遅れをとるわけではないが数が多い。時々死角から斬られ、痛みを感じる。しかし、ヴァサゴは止まらない。

 

ブレイドを斬り裂く。

 

それが今のヴァサゴの唯一の望みであった。奴が泣き叫ぶのを聞けばあとはどうなってもよかった。どれだけ身体を斬られようと、蹴られようと、ブレイドを捕まえればそれだけで十分だった。

 

「邪魔だぁ!雑魚がぁあ!!ゔぉらぁぁぁぁああああ!!!」

 

目の前に迫るプレイヤーをヴァサゴは斬り続けていた。その様子を見ながらブレイドは高みの見物をする。

 

「どうだ?今までの仲間から襲われ、形勢が逆転した気分は・・・?」

 

眼下ではヴァサゴが友切包丁をソードスキルと共に振っていた。そしてブレイドはそれはそれは愉快そうにヴァサゴを見る。

 

 

「せいぜい足掻け・・・処刑はまだ始まっていないのだからな・・・」

 

 



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#47 流罪

 

「ぐっ・・・がぁぁぁああああ!!」

 

ヴァサゴは孤軍奮闘でプレイヤーを倒していた。ブレイドの怨恨の心意により、ヴァサゴにプレイヤー達の攻撃が殺到する。それを躱しつつ、ヴァサゴはブレイドに近づく。徐々に距離を詰め、ヴァサゴは広範囲技でプレイヤー達を一掃する。プレイヤー側もヴァサゴの技を受けてログアウトしていく姿を見て『自分もあの技を受ければログアウト出来る』と思い、果敢に望みながら突貫していく。

 

「うぁぁぁああああ!!」

 

そして、肉切包丁を振り続ける事数十分。ヴァサゴはついにプレイヤー達の輪を突破した。

身体中を斬られ、背中には槍や剣が突き刺さり、血をボトボト流しながら血で濡れた髪が顔に掛かり、さながら亡霊のようだった。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・赤い・・・雷鳴ぃぃぃぃいい!!」

 

そう叫ぶヴァサゴにブレイドは武器を持つ。

 

「予想以上のしぶとさだ・・・そこは称賛に値するな・・・」

 

聞こえているかは分からないが・・・

そう思いながらブレイドは小銃の引き金を引いた。

 

ーードォォン!!

 

ヴァサゴはそれを避けることはなかった。左腕が吹き飛ぶ。

 

ドォォン!!ドサッ!

 

ここで右脚を飛ばされ、ヴァサゴは地面に倒れる。そんなヴァサゴにブレイドは歩む。

 

「なんとも無様な姿だな。PoH・・・」

 

「赤い・・・雷鳴ぃぃぃぃいい!!」

 

ヴァサゴは呪詛のように叫ぶと最後に握っていた友切包丁を持ってブレイドの脚を斬る。しかし、一瞬で回復して元通りになる。そしてブレイドはヴァサゴの友切包丁を踏んづける。

 

「こんな物要らないだろう?」

 

そう言うとブレイドは友切包丁を強く踏む。

 

ーーミシッ!

 

そんな音と共に友切包丁にヒビが入る。そしてさらに圧をかけるとヒビは大きくなって行き、そして・・・

 

ーーミシッ!ーーピキッ!ーーパリィンッ!

 

ガラスの割れるような音と共に友切包丁は砕け散る。それを見たヴァサゴは絶望した表情を浮かべる。だが、内心では笑っていた。

 

 

 

このまま死んでまた戻って来る。

 

 

 

普通のやり方で勝てないならゲームの世界だからできる再ログインをすればいいと考えていた。正直、襲って来たプレイヤー達は友切包丁の耐久値を減らす為の生贄にすぎないと、ヴァサゴはブレイドの策をそう予想していた。ヴァサゴは再ログインした時にまた武器のデータを復活させればいいと考えていた。

内心では、疲労が溜まっているであろうブレイドをどう倒そうか考えていた。するとブレイドは破壊したヴァサゴの武器が消えるのを確認するとヴァサゴの背中にサーベルを突き刺し、ヴァサゴの顔を見た。

 

 

笑顔だった。

 

 

これまでに無いほどブレイドは口角が上がっていた。その猟奇的な目にヴァサゴはある光景がフラッシュバックした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

あれは仕事の関係でアメリカに戻っていた時のこと。小遣い稼ぎ程度に何処かの家の子供を誘拐しようと考えていた。

その時の仕事仲間と共にヴァサゴは適当な子供のいる家で、尚且つ誘拐しやすい場所を探していた。その時、ちょうど日本人の子供で、家にはシッターしかいないと言う場所を見つけたのだ。

 

日本人で尚且つ誘拐しやすい家と来てやらない訳がなかった。

金を得たらどう殺そうか、ヴァサゴは考えながらその家に向かった。

仕事仲間が弾代をケチったため、拳銃一丁だったが子供と老人相手ならそれで十分だと思っていた。吹雪く中、その家を見つけて扉の前に立った。

そして家のドアを蹴破り、中に入るとシッターと思わしき初老の女を容赦なく撃ち殺す。その場に子供はいなかったが、家にいるのは確認済み。だから家の中を探し始めた。二階を探していると一階から仲間の悲鳴と乱射する銃声が聞こえ、一階に降りると仲間が震えた声で話しかけていた。

 

『ば・・・化け物が・・・!!』

 

その床には空薬莢と空っぽの拳銃、斬られたように割れた弾丸が転がり、その餓鬼は片手に薪割り用の斧を持っていた。

 

『た・・・助けて・・・』

 

そう言った時だった。持ち上げられた斧は容赦なく仲間の脳天に振り下ろされた。

 

『うごっ・・・!!』

 

メシメシッ!っと骨が砕ける音と仲間の最後の声と共に仲間は頭から血を流して目を見開いたまま死んだ。

 

そこに躊躇はなかった。

 

一切なかった。

 

目の前にいるのは十ほどの歳の子供だったはず。なのに、仲間がこうも簡単にやられるとは思わなかった。

 

 

 

逃げろ

 

 

 

本能がそう呼びかけた。目の前にいるのは普通の子供じゃ無いと、無垢で純粋な殺人鬼だと・・・

すると仲間を撲殺した餓鬼はこちらを振り向く。

 

 

 

笑っていた。

 

 

 

子供の笑顔だ。単純で無垢で無知な子供のする笑顔だった。

 

だが、ヴァサゴにはそれが猟奇的にしか見えなかった。身長は170ほどと予想よりも大きく、誘拐なんてもってのほか。すると目の前の餓鬼は自分を見るとまるでおもちゃを見たかのような目をし、仲間の頭から斧を抜いた。

 

ブチブチッ!

 

嫌な音と共に抜かれた斧は血に濡れ、床に刺さる。

 

「う、うわぁぁぁあああ!!」

 

俺はそこで逃げ出した。幸い指紋も残していない。髪の毛もマスクを被っていたから残っていない。

証拠は残していない。だからとにかく早く逃げたかった。あの化け物から。子供の皮を被った殺人者から・・・

蹴破ったドアから飛び出し、雪の中を走り抜ける。

 

追って来ていないか。

 

逃げ切れたのか。

 

そんな感情で頭は埋め尽くされていた。追いかけて来ていないとわかっても息は荒かった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

そして、今目の前にその時の笑みと同じ顔がこちらを覗いていた。息が思わず荒くなる。すると目の前の青年はヴァサゴを見て囁く。

 

「ーーーお前は処刑が終わったと思っているのかい?」

 

「ーーーは?」

 

するとブレイドはヴァサゴに突き刺したサーベルを見ながら言う。

 

「私がここから貴様を逃すと思うのかね?」

 

「っーーー!!」

 

するとブレイドは心底良い笑みを浮かべると唱えた。

 

「ーーーリリース・リコレクション」

 

うっすらと灯った淡い光がヴァサゴの身体を包み込むとヴァサゴは驚愕した。

 

「っ!!テメェ!!」

 

体が徐々に灰色のゴツゴツとした岩となっていき、思わずブレイドを見る。するとブレイドはいつもの表情を浮かべるとヴァサゴに言った。

 

「ーーこの流星のサーベルは遥か彼方から何万光年と言う時間をかけてアンダーワールドに落着した隕石から作られている。リソースに乏しい宇宙空間である生き残る為に自らを変化させ、ある物全てを吸収するようになった・・・」

 

「何を言って・・・」

 

そう呟くとブレイドはヴァサゴを見て再び呟く。

 

「まぁ、要するに貴様に与えられる判決は()()と言うことだ。場所は今まで人類が体感したことのない場所だがな・・・」

 

するとブレイドは最後にヴァサゴに向かって言った。

 

 

「永遠の夢を見ると良い・・・果てしない、誰もいない、何もない宇宙空間で・・・一人で永遠と放浪するんだな」

 

 

そう言うと全てを見通すような目でヴァサゴを見た。そこでヴァサゴは全てを察知し、大きく目を見開いて最後に叫んだ。

 

「赤い・・・雷鳴ぃぃぃーー・・・・・・!!」

 

最後にブレイドの足を掴もうとしたヴァサゴは腕をの出した時に全身が灰色になり、声が消え、完全に固まってしまった。そんなヴァサゴを見てブレイドは振り向きざまに言う。

 

「いつか・・・お前を囲う石を壊してくれる者が現れる事を祈るよ・・・」

 

そう言うとブレイドは自身に掛けていた覚醒魔法を解く。零号術式は天命を大幅に消費する代わりに反応速度を大幅に増やすとこの出来る能力だ。

 

ついでに言うとブレイドは流星のサーベルの能力である全てのものを吸収する能力を使って最高司祭アドミニストレーターの持つ物質変換能力をノスフェラトゥに取り込んでいた。ノスフェラトゥが元々持つ天命操作能力とこの能力を組み合わせるとどんな物も天命さえあれば呼び出すことができるのだ。そこでブレイドはログインして来たアメリカ人プレイヤーや中韓プレイヤー達の天命を回収して戦車や爆撃機を作り出していた。

 

流星のサーベルは斬った相手の天命のおよそ六割を自分の体に回収することができる。単純計算で一人頭六十万、それに×人数分となればそう言った細かいパーツの多い戦車達を作るのには十分だった。

ログアウト条件を変更したのもどちらかと言うとこっちでの意味合いが強かったりする。

 

 

 

 

 

そして、ほぼ二年越しの因縁が終わったことを実感しているとブレイドにマリーが近づいた。

 

「先輩!!」

 

「マリーか・・・心配かけたな・・・」

 

「良かったです・・・無事で・・・本当に・・・」

 

思わず泣きつかれているとブレイドはその後ろから走って来たロニエ達を見た。

 

「君たちも、よく頑張った・・・キリトを守ってくれてありがとう・・・」

 

そう言うと両手で二人の頭をぽんぼんと優しく撫でると二人はやや辿々しく返事をする。その様子に若干笑いが込み上げて来そうになるとブレイドは胸元で泣いているマリーの肩を持った。するとマリーは若干涙がみながら言う。

 

「ーー行ってしまわれるのですか?」

 

「ーーあぁ、この世界を守る為にな・・・」

 

「そうですか・・・」

 

やや残念そうにするマリーに自分は持っていた小銃をマリーに渡す。

 

「これは・・・」

 

「私から贈れる最後の餞別だ・・・使い方はこうだ・・・一度しか言わないからよく覚えておけ」

 

そう言い、簡単に照準と撃ち方、装填方法を教えるとブレイドはマリーに小銃・・・神器《始まりの銃》を渡した。そして、小銃を渡すと自分はマリーの背中に腕を回し、言い残す。

 

「賢く、良い女性になりなさい。……おそらくこれから時代が変わる。その大波に飲まれないように賢く生きなさい」

 

「はい……」

 

そう言うとブレイドはロニエ達を見ながら言う。

 

「ロニエ、ティーゼ。ユージオの事は任せろ」

 

「「は、はいっ!」」

 

そう言い、ブレイドはロニエ達と別れると今度はクライン達の方に向かった。

 

「帰ったら色々聞きたいことがあるから」

 

「はぁ、了解……」

 

初っ端にリズベットからそう言われてしまった。まぁ、そう言われるだろうとは思っていた。だからもう諦めの声で返事をすると突如耳元に知らない声が聞こえた。

 

『赤羽君・・・赤羽修也君?聞こえている?』

 

「はい、赤羽です。・・・貴方は?」

 

『私は、神代凛子よ』

 

「(神代・・・この人が・・・)」

 

名前を聞き、少し納得の表情を浮かべると神代さんは事情を説明する。

 

『時間がないからよく聞いて。オーシャン・タートルを襲撃した部隊がFLTを最大まで加速したの。だから・・・』

 

「・・・事情は把握しました。キリト達に報告はしましたか?」

 

『き、菊岡さんがやってくれているはずよ』

 

「了解しました。こっちも直ぐに果ての祭壇に向かいます」

 

『・・・宜しく頼むわ』

 

向こうで驚愕するような声がしつつも通信が切れ、クライン達が怪訝な目で見たので事情を話した。

 

「みんなよく聞いてくれ。今直ぐにこの世界からログアウトしなければ()()。だから早くログアウトしてくれ」

 

ブレイドの唯ならぬ雰囲気に全員が頷くと一斉にログアウトが開始された。それを見た自分は方角を南側に向くと近くでじっと見ているマリー達に忠告した。

 

「ーー気をつけなさい。近くにいると吹き飛ばされるぞ」

 

そう言うと足元から甲高い音がし出し、一気に上昇して飛んで行った。その後には一筋の赤い線が残り、さながら赤色の彗星であった。



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#48 本当の…

時は少し遡り、ブレイドがヴァサゴと対峙した頃まで戻る。

現実世界の修也の使用しているSTLの制御室。そこに一つの影があった。その影は片手に工具箱を持っていると取り付けられたデバイスを固定しているネジを簡単に外し、繋がれたコードを切っていく。

その影は肩に2の数字の入った機械だった。そのロボットはまるで人のようにデバイスとコードを切り、ものの数十秒でデバイスを切り離した。その機械の中でその人は思う。

 

「(分かれば単純な理由だったが・・・比嘉君は気づいたのだろうか・・・)」

 

そんなことを考えながら最後に切ったコードを再び繋ぎ合わせるとそのロボットはどこかに消えてしまった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

同時刻、比嘉の目はある変化を見逃さなかった。

 

「・・・えっ?!」

 

その変化に思わず変な声が漏れてしまう。ついさっきキリトのフラクトライトを活性化に挑戦したばかりだと言うのに・・・比嘉のパソコン画面に映るその数値に驚きを隠さなかった。

 

「40%・・・63%・・・89%・・・凄い、どんどん上がっていく・・・」

 

伸びていくその数値に比嘉は驚きを隠さなかった。そして最終的にその数値は100%で停滞した。

 

「何が・・・起こったんだ・・・?」

 

比嘉はパソコン画面に映る修也のフラクトライト活性化率を見ながらそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

気づいた時、自分は真っ白な世界にいた。先程まで最高司祭と文字通り死闘を繰り広げていたと言うのに・・・

ここはどこなのだろうと思っていると不意に声をかけられた。

 

「修也・・・」

 

「兄さん・・・」

 

そこには久々に出会った兄がいた。そして兄の背後にはガラクタの山がいくつも積み上がっていた。それを見た自分は今どこにいるのかを理解した。そして誰がここに連れて来たのかと言うのも・・・

 

「成程・・・トラッシュボックス(ゴミ箱)から侵入ですか・・・」

 

「侵入か・・・あながち間違いではないな・・・」

 

そう言うと茅場は修也を見てまず最初に修也の頭を軽く叩いた。

 

「痛」

 

「はぁ・・・修也。理由はわかっているな・・・?」

 

「えぇ・・・軽率な行動だったと思っていますよ」

 

そう言うと茅場は『ならよし』と言った様子で修也に話しかける。

 

「STLのデバイスの件はこれで良いとして・・・修也、あれはどう言った意図で作ったんだ?」

 

「あれは・・・」

 

返答に少し困っていると茅場はそんな修也を見て理解し、一言つぶやいた。

 

「・・・ありがとう」

 

そう言われただけで修也にとっては一番だった。そして、修也はそこで茅場に色々と聞いていた。

 

「・・・いつから居たの?」

 

「少し前からだな・・・STLの四台目ができた辺りだ・・・」

 

そう答えると修也は茅場に聞いた。

 

「じゃあ、記憶ロックが解けたりスーパーアカウントを適用したのは・・・」

 

「・・・・・・ああ、お前のバックドアを使わせて貰った」

 

「成程・・・」

 

話を聞いて理解した修也はそこで茅場にある提案を持ちかける。それは人界とダークテリトリーの融和という物だった。

 

「なかなか面白い話を持って来たな・・・」

 

「でも、そこがリアルさがあるという物でしょ・・・それに、折角の異世界を戦争で破壊されるのは嫌だしね・・・」

 

「それはそうだな・・・」

 

修也の意見に茅場は頷くと二人はその場に座り込んで話をし出していた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「今思えばこの時の計画は全部おじゃんになったな・・・」

 

空を飛行し、果ての祭壇を目指すブレイドはそう呟く。

 

まず初めにオーシャンタートルが襲撃されたところまで聞いていた。だが、まさかダークテリトリー側のアカウントを使うとは思わなかった。お陰で暗黒騎士を説得しようと奔走していたのがおじゃん。被害を減らす方向にシフト変更せざるを得なかった。その間に兄にはSAOのアカウントを使ってもらい、人界側で情報収集をお願いして貰っていた。途中、アスナにあったことを伝えられ、ついでにアリス達も見たと言う。そして、キリトの現状も・・・

 

 

 

次に計画が狂ったのはアリスが自分がA.L.I.C.Eだと敵に公言してしまったことだろう。ここで兄はほぼ必然的にアリスを守らなければ行けなくなった。オーシャン・タートルでの襲撃を聞くに、相手はおそらくユージオのことを知らないと確信。だが、二人の関係性を見てからどちらか単独と言うのも無理。情報収集からこのまま果ての祭壇に行くのであればそのまま行かせれば良いと考えていた。

 

 

 

しかし、そこであのコンバートプレイヤーが現れた。自分の能力とサーベルがあればなんとかなるとも考えていたが、数が多すぎて計画変更。そこで遺跡で兄と合流して相談し、そこでふとある提案が浮かんだ。

 

『入り口が閉じないなら出口を閉めればいい』

 

その発想に兄は笑ってしまっていたが。そのまま一旦果ての祭壇に行き、コンソロールからバックドアを通じてダークテリトリー側のログアウト条件の体力を大幅に増量。とりあえずコンソロールの0を押しまくったのだけは覚えていた。それが適応されるまでの短い時間で自分たちは移動しなければならなかった。そこで兄がサーベルを渡そうとしたが、コンソロールを触っている時にシノンやリーファがログインしているのを確認。自分の使っていたあの銃の武器IDを表示させて移動しているのを確認し、それがシノンが持っていったからだと推測して丸腰で行かせる訳には行かないと言って兄の提案を断った後、再び自分たちは別れた。

 

 

 

この時、自分の目的はキリトの治療だった。必要なものは彼に近しい者の記憶のコピー。各地を兄と協力して飛び回り、アスナ・リーファ・シノン・そして自分の記憶のコピーをかき集めて実体化した物を合流した際にキリトに預けた。

 

そして、シノンから小銃を返してもらい。ユージオ達の移動速度を考えてサトライザーの足止めできたと考え、もっと増援が必要と思わしき遺跡まで一気に飛び、そこで兄と再度合流。因縁の相手であるヴァサゴを倒し、後輩達と最後の別れをして現在に至る。

 

 

 

 

 

熱素で熱して膨張した空気を圧縮して後方に風素を用いて勢いよく噴射する。現代のジェットエンジンにも似た方式で飛ぶブレイドの速度はマッハを超えていた。途中でソニックブームが起こった辺り恐ろしい空気圧がかかる筈だが。そこは風素で体をコーティングし、弾丸の形を模しながら飛んでいた。

 

キィィィィィイイイイ!!

 

間高いジェットを纏うブレイドは視線の先でブレイドはドス黒い心意を見た。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

時は戻り、ブレイドとヴァサゴの決闘が終わりを迎えた頃・・・・

 

南でユージオ達は果ての祭壇を見た。空中に浮かぶ小島がそうだろう。どう言う原理かはわからないが、少なくとも目的地には到着しそうだった。

 

 

 

そして背後から迫る気配も感じた。

 

 

 

「・・・ユージオ」

 

「うん・・・」

 

互いに顔を見合うと頷く。ここで無理に戦うよりは地面に降りて二人で戦おうと。

二人はそのまま地上に降りると今まで乗っていた飛竜から降り、アリスは雨縁。ユージオは滝刳にそれぞれ言った。

 

「ここまででいいわ雨縁。これから最後の命令を伝える」

 

「このまま滝刳は西の竜の巣に向かって・・・」

 

「そこで雨縁は旦那さんを。滝刳はお嫁さんを見つけていっぱい子供を作りなさい。強い子に育てなさい。いつかまた騎士をその背に乗せる日が来た時、私にしてくれたように沢山空を飛べるように。強い子どもたちを」

 

『グルルル・・・』

 

「とても短い間だったけど・・・僕をここまで信頼してくれて。ありがとう・・・」

 

そう言い、ユージオは滝刳の頬に頭を当てて感謝の意を示す。エルドリエの飛竜だった滝刳。しかし、主人を失った後。命令を受けていたかのように、ユージオを背中に乗せて今まで戦ってきた。二日間だけだったが確実にユージオの飛竜として戦ってくれた相棒だった。

ずっとこのままにしておくことも出来ず、アリスが強く命じる。

 

「・・・さあ、行って!」

 

『『・・・グルルル!!』』

 

二匹の飛竜は接近してくる敵を一瞥するとその方に向かって飛んでいった。

 

「まさか・・・!!」

 

「っ!!駄目!二人とも!!」

 

そう言い、二人が動く前に二匹の飛竜は飛んでいってしまった。風圧に耐えるだけで精一杯で、動けず。飛び立った飛竜達は接近してくる皇帝ベクタに似た気配に向けて熱線を放った。有翼の怪物に乗った敵はその熱線を避けようともせず、受け止める。

指から放たれる黒い渦が二本の熱線を吸収するとお返しと言わんばかりにそこから黒い稲妻を飛ばし、二匹の兄妹飛龍を貫く。

 

主人の元には行かせまいとそこから動こうとしない飛竜達にアリスが叫ぶ。

 

「雨縁ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!」「滝刳!もういい!いいから離れて!!」

 

そう懇願するも、敵はお構いなしに飛竜を光素に変換し始める。見ていてこちらが痛くなってくるその現状にユージオはそこで気を取り戻し、アリスの腕を引っ張って果ての祭壇まで神聖術で飛ぼうとする。

そして、敵が闇のベールに包まれた時。

 

星が降った。

 

赤い空から、二つの煌めく光が恐ろしい速度で落下してくる。

 

一つはこっちに、もう一つは空中でとまる。

 

包まれていた光が解け、現れたのは人影だった。

 

少し長めの黒髪に、同じ漆黒のコートが風に翻る。背中には一本の長剣を差し込み、両腕を前で組み、迫り来る闇色の轟雷を平然と見つめている。

バチバチと稲妻が剣士を打つ。しかし、見えない障壁で雷は散っていった。

 

アリス達は息を止め、目を目一杯開いた。

 

「ねぇ、ユージオ・・・私、夢を見ているの・・・?」

 

「僕も・・・そう思った・・・だけどこれは・・・・・・」

 

帰って来たんだ。ユージオはそう実感した。溢れる涙を拭いながらユージオは空に浮かぶ影を見る。かつて同じ飯を食べ、剣を教わった友人を見ながらアリスと共に言う。

 

「「おかえり(なさい)・・・キリト」」

 

「あぁ・・・只今。ユージオ、アリス」

 

半年間の眠りから覚めた剣士はそう二人に恥ずかしげに笑みを浮かべた。



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#49 堕天使

「・・・只今。ユージオ、アリス」

 

半年間の眠りから覚めた剣士はそう二人に恥ずかしげに笑みを浮かべ、次にボロボロの飛竜を見た。キリトは左手を突き出すと二匹の飛竜を二重の虹のシャボン玉のような膜が包む。虹色の球はゆっくりと二人の手の中に舞い降り、そこで不思議な現象を見た。

 

『きゅるっ』

 

「あま、より・・・?」

 

「滝刳・・・?」

 

そこには大きな二つの卵となった二匹の飛竜だった。すると卵はさらに小さくなっていき、手のひらほどの大きさまで縮んでいた。

 

「二匹の治療は間に合わないから。こうさせて貰った」

 

そう言うキリトに少し驚くユージオ。神聖術にこんなものがあったのかと思いつつ、二人はキリトに感謝をした。

 

「「ありがとう・・・キリト」」

 

「こっちこそ、色々と心配かけたな・・・二人とも」

 

「本当・・・ブレイドも無事だったし・・・よかった・・・・・・」

 

ユージオがあっていた時のブレイドは実は偽物だと言うことをまだ知らないユージオ達に対し若干苦笑してしまうも、キリトはアリス達の追跡者と向き合う。心意同士の撃ち合いが起き、固唾を飲んで見守ると不意に声をかけられる。

 

「・・・大丈夫ですよ。アリスさん、ユージオさん」

 

「「アスナ(さん)!!」」

 

そこに現れたアスナに驚きと喜びが混ざる。

 

「さ、早くいきましょ。もうすぐブレイドさんもくると思うから・・・」

 

「え?ブレイドに会ったの?!」

 

「うん・・・遺跡でね・・・」

 

いまだに混乱している自分がいるが今は関係なかった。目下最優先でしなければならない事としては・・・

 

「あの浮島まで行くわよ。あの上にあるんでしょ?」

 

「た、多分ね・・・」

 

「でもどうやって・・・」

 

「そこは任せて」

 

そう言うとアスナは自分の使うアカウントの能力で地面を盛り上がらせて階段を作る。

 

「くぅ・・・!!」

 

「アスナッ!」

 

「だ、大丈夫だから・・・それよりも早くきましょ。祭壇が閉じるまであと八分くらいしかないから・・・」

 

そう言い、アスナは二人を率いで階段を登り始める。その時、ユージオが叫ぶ。

 

「キリト!これ、使って!」

 

そう言い、ユージオは持っていた青薔薇の剣をキリトに向けて投げる。ユージオは最高司祭との戦いで最後にブレイドがキリトに剣を二本持たせていたのを思い出したのだった。剣を受け取ったキリトはユージオを見ると共に受け取った剣を背中に差し込む。その様子を見届けてユージオは再び階段を登った。

 

「(キリト、ブレイド。僕は聞きたいこと、言いたいことが一杯あるんだ。だから勝って、必ず勝って、僕たちの前に戻って来て)」

 

ユージオは北の空を見ながらそう思っていた。

 

 

 

 

 

「(アスナ達は行ったか・・・)」

 

キリトは階段を登っていく三人を見届けると目の前の敵を捕捉する。この数分後に行われる時間加速は五万倍。単純計算で二百年近い年月をここで過ごすことになる。いくら肉体が無事でもフラクトライトが焼き切れてしまうだろう。

キリトは敵を見てある程度覚悟をした。相手からは何も感じないのだ。虚無だった。虚空を見ているようだった。

 

そして、命の危機を感じた。自分にも敵にも・・・

 

少しの間ののち、キリトは口を開く。

 

「・・・お前は何者だ?」

 

答えはすぐだった。滑らかで金属的な声が返ってきた。

 

「求め、盗み、奪う者だ」

 

直後、男の全身を取り巻く青黒いオーラが勢いを増す。背後から吹く美風を感じる。空気が重い・・・いや、世界を構成する情報が闇に吸い込まれているのだ。

 

「何を求めるんだ」

 

「魂を」

 

問答を交わし、キリトは徐々に虚無感に襲われつつあった。

不意に男の口元が歪んだ。

 

「お前こそ何者だ?なぜそこにいる?いかなる権利があって、私の前に立つのだ?」

 

俺が・・・何者か?

 

勇者?ーーー否

英雄?ーーー否

黒の剣士?ーーー否

二刀流?ーーー否

 

自分が何者なのか。どれも他人が言い始めた者だ。自分から名乗ったものでは無い。意識が薄れ始めた頃。誰かが言った。

そこで俺はいつの間にか俯いてた顔を持ち上げると呼ばれたままに叫んだ。

 

「俺は・・・キリト。剣士キリトだ」

 

パチリと言うスパーク音と共にキリトを侵食する触手が弾ける。それと同時にキリトは剣を抜く。その様子を見た敵は驚いた様子を見せた。

 

「・・・お前の名は」

 

そう問いかけると敵はわずかに考え、名乗った。

 

「ガブリエル。私の名はガブリエル・ミラー」

 

それが本名だと直感的に判断する。その時、敵の右腕が欠損しているのを見た。今までの攻撃で削られているのだと感じていると不定形の腕はズルズルと伸び左腰の剣を握る。

抜かれた剣は虚無な闇が刀身の不気味なものだった。俺はマントをALOの翅のように変化させると夜空の剣と青薔薇の剣を持った。

 

「ーー行くぜ。ガブリエル」

 

名を叫び、キリトは二本の剣を強く握り上空に飛ぶ。

 

「ジェネレート・オール・エレメント!!」

 

十本の指に光が灯る。それと同時に急降下し、全てを同時に発射する。

 

「ディスチャージ!!」

 

幾つもの色彩が空を走る。

術式を追いかけるように左右の剣を振りかぶる。

ガブリエルは一切回避せず、徐に両手を広げる。青い闇に光が突き刺さる。しかし、粘土室の闇は光を喰らい、キリトが胴を真っ二つに切ると直後に肌に冷気を感じ、危険を感じた。

咄嗟に離れて振り向くとそこには何事もなかったかのように立つガブリエルの姿があった。

 

「なっ・・・!!」

 

直後にキリトから呻き声が上がる。虚無の刃がキリトの右肩を抉り、そこから鮮血が飛び散ったのだ。その様子を見てガブリエルは大したことないと感じ、階段を登るアリス達を見た。

 

「(コンソールまであと五分と言ったところか・・・まぁ、言い)君に三分、時間をやろう。せいぜい楽しませてくれよ」

 

ガブリエルはそう言い、キリトを見た。

 

「ーー随分と気前のいい事で・・・」

 

右肩を神聖術で治しながらキリトは呟く。アリス達が果ての祭壇に着くまでおよそ五分。そこからコンソールを動かす時間も加味すると六分くらいだろうか。それまで時間稼ぎをしなければならない。

 

 

こんな時、ブレイドだったらどんな策を練るだろうか・・・

 

 

あの悪魔的発想を思いつき躊躇なく実行できる。ある意味で指揮官とかに向いている相棒だったら・・・

全属性の攻撃を無効化できる敵にどう立ち向かうか・・・おそらく敵の腕を撃ち抜いたのはシノンの銃撃だろう。だが、そんな離れ技が出来るのはシノンとブレイドくらいだろうか・・・。だったら銃撃以外でやつを倒す手段を考えなければならない。

 

「いいだろう、楽しませてやるよ」

 

左右の剣を構えながらキリトは口角を少し上げていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

あの自信はどこから生まれてくるのか。絶望を味合わせた筈なのに、自信ありげに向かってくる。心が折れていないのだ。それはベクタを倒し、今階段を登るあの少年と同じ風格を持っていた。

サトライザーとしてログインした時にシノンと共に行動していたあの赤い少年とはまた違うナニカがあった。

ガブリエルは三分でも時間が余るかと思いつつ足元の有翼生物に剣を刺す。流入するデータを背中に移動させ、あの少年と同じように背中から翼を生やす。

 

「・・・一つ盗んだぞ」

 

ガブリエルは虚無の刃を少年に向けながら囁いた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

次の攻撃で飛行生物を倒そうと思ったが先手を打たれて判断力が一瞬だけ低下した。その瞬間、ガブリエルが剣の間合いに滑り込み、恐ろしい速度で突き技を繰り出す。とてもじゃ無いがこれは素人では無かった。クロスさせた剣で掬い上げるように技を受け流す。異様な音と共に闇の剣が鼻先で停止する。まるで虚無を切っているようだった。何も感じないのだ。

だが、それだけ負担が大きいと言うこと。ガブリエルの強引に斬ろうとする力を右に受け流しながらハイキックを喰らわす。

オレンジ色になった爪先が尖った顎を捉える。闇が飛び散り、ガブリエルは上半身を反らせる。

 

「どうだ?!」

 

相手が特殊部隊というのなら格闘技も学んでいる筈。だが、少しくらいはダメージがあるだろうと踏んで結果を見る。

 

「なるほどな。しかし残念ながら、それはテレビ向けの演技だ。本物のマーシャル・アーツというのは」

 

ビュンッ!!

 

直後にガブリエルの左腕がキリトの右腕に大蛇のように巻きつき、締め上げられる。

 

「グァッ!」

 

「ーーーこういうものだ」

 

そして猛烈なラッシュが襲いかかる。多数の剣が体を突き刺す。思わず呻き声を出し、全力でバックダッシュしながら剣を落とさないように必死で握る。離れると今度ガブリエルは漆黒の稲妻を放つ。さっきは全力だったが今は半分しかリソースを回せない。それは自然と防御を薄くすることとなり、稲妻は盾に直撃。数本は盾を貫いて体を貫通する。

 

「ハハハハ、ハハハハハハ・・・」

 

もはや笑い声ですら無い。ガブリエルの目元は動かず、目には餓えだけが灯っていた。するとガブリエルは腕を交差させ、力を貯めるような仕草をした。

 

「ーーーハッ!」

 

闇色のオーラが強烈な気合と共にガブリエルを変化させる。

新たな黒翼が一対。新たに生え、更にもう一対生え、六枚の翼が生まれる。頭上に漆黒のリングが生まれ、衣装が形を失い、闇色の薄布に変わる。両目も人のそれでは無かった。

 

まさしく堕天使。

 

人を超えたセルフイメージを持つ存在。恐怖、絶望を体現した禍々しい見た目は返って神々しくも見えそうだった。アリス達が果ての祭壇に着くまであと二、三分。こんな相手に勝つ方法はあるのだろうかと思い始めていた。



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#50 星に願いを

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

階段を登る三人は半分ほどまで辿り着いていた。すると直後にユージオが新たに気配を感じた。

 

「ーーー誰か来る!!」

 

「「えっ?!」」

 

すると北側からジェット機のような音と共に近づいてくる赤い光を見た。

 

「あれは・・・」

 

その赤い影は速度を殺して、キリトの真後ろを通ると僕達の前に立った。目の前に立つ青年、ブレイドは言った。

 

「手を出せ」

 

「え?あ、うん・・・」

 

再会の返事すらせず、ブレイドは僕たちの手を取る。するとアスナを置き去りにする勢いで今までにない程早い速度で地面から足が離れる。

 

「え?あ、ちょ・・・!!」

 

されるがままに飛び、ブレイドの背中からは蝙蝠のような羽が生え、バタバタと羽ばたくとユージオ達は落とされないようにブレイドの腕をこれでもかと強く握っていた。その時、キリトと戦っていた敵がブレイドに気付きキリトを無視して接近しようとしたが、キリトに行手を阻まれていた。

 

「チッ、気づいたか・・・ユージオ、アリス。このまま果ての祭壇に行って君達を外に出す」

 

「ブレイドは?どうするの?」

 

「キリト達を待つ!だが最優先は君達だ」

 

階段を何段も飛ばしながら飛んでいった。

 

「(なんとか持ち堪えてくれ・・・キリト)」

 

そう願いながらブレイドは階段を飛び上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと言う全能感か。なんと言う力か。心意と言うものは何でもできる。それこそ神にすらなれる素晴らしいものだった。だからこそ、今この力を試したい。目の前にいる小僧を切り刻み、その魂を堪能する。この力を活かすチャンスが目の前にあったのだ。

 

 

 

 

目の前の、もはや人ではない何かへと変貌した敵を、俺は見た。人から神へと変わったのだろう、もう彼に叶う力があるのだろうか。

その異様な雰囲気にキリトは覚悟を決めた。

 

このアンダーワールドはあの茅場明彦が望み、創ろうとしていた理想郷。真の異世界。外の世界で衰弱することもなく、永遠と現実世界から逃れて、人生を終わらせる事ができる。そこにとどまり続ける事ができればいっその事・・・

 

そう思ってしまうと不意に少女の声がする。

 

『ーーだからってそこで諦めると?』

 

現れたのは牧奈だった。その時、自分の背中に新たに一本剣が添えられていることに気づいた。それはブレイドが使っていた流星のサーベルだった。すると空に一本の流れ星が流れる。

 

『君は心を理解できないと思っているのなら。それは大間違いだよ。本当に心を理解できない人ってのは他人がどうなろうと平気で無関心な顔をすることが出来る人を指すんだよ』

 

すると再び別の声がする。それは今階段を登るユージオの声だった。

 

『でも、君は違うでしょ?人が痛むと心が痛む。君のしようとしている事で悲しむ人がいるのを知っている』

 

『相変わらず君は優しすぎるんだよ。全部背負い込もうとする悪い癖が出来ている。ブレイドの悪い所を真似ちゃダメだよ・・・』

 

『君が離れたくないと思っているのはそれは自分のためじゃない。それは、ここで生きている人たちを見て来たから。別れるのが寂しい、悲しいと感じるからだよ』

 

二人にそう言われ、キリトは思わずこの世界で会って来た人たちの顔を思い出す。

 

『でもあの男は違う』

 

『そう、あの男こそ心を知らない。理解できない。だから求める。奪おうとする。壊そうとする。それはつまり・・・』

 

『『恐れているから』』

 

二人の声がそこで合わさった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ようやく恐怖したか。

 

ガブリエルは目の前の少年を見てそう感じる。彼にとって唯一感情を共感できるのが死にゆく者の絶望と恐怖だった。幼き頃、自宅の裏の庭でアリシア・クリンガーマンを殺したあの日から、ガブリエルは魂の煌めきを求めて多くの人を手にかけてきた。しかし、それで満たされることはなかった。アリシアの額から抜けたしたあの光を見ることは無かった。その代わり、恐怖を味わってその渇きを癒してきた。

 

あれほど自信に満ちた少年の絶望の味はどんなふうだろうか。それが楽しみで仕方がなかった。左手を持ち上げ、小さな黒球をいくつも出現させ、南風のように唸らせる。指を振り、極細のレーザーが少年のあちこちに刺さる。

そしてガブリエルが虚無の剣を刺し、少年の上半身。重要な部位である心臓を掴んで引きちぎる。それと同時、少年は地面に落下し始める。そんな少年にガブリエルは囁く。

 

「お前の感情、記憶、その心と魂・・・その全てを喰らってやるぞ」

 

ガブリエルは林檎を齧るように千切った心臓に歯を立てる。

 

ザリッ

 

その後感じたのは少年ではない誰かの血だった。

 

「そんな・・・ところに、心も、記憶もあるのか。体なんか・・・ただの器だ。そうだ、思い出は・・・いつもここにある・・・!!」

 

「っ!!」

 

逃がさない。

キリトは一瞬の隙をついて両手の剣を左右に広げ、鮮血を流しながら叫ぶ。

 

「ーーーリリース・リコレクション!!」

 

純白と漆黒が同時に炸裂した。

幾多もの蔓がガブリエルを包み込み、そこから逃れることはできなかった。そして、まっすぐ掲げられた夜空の剣からは・・・

 

強大な闇色の柱が天へと起立した。

 

轟音と共に伸び上がる漆黒の光は遥か上まで昇り、四方八方へと広がる。

 

それは虚無な闇ではなく、滑らかな質感とわずかな温度を持つ・・・

 

 

 

無限の夜空だった・・・・・・

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「これが・・・人の持つ『意志の力』と言うべきか・・・・・・」

 

「・・・・・・(お願いだ、キリト・・・)」

 

「(これはキリトの・・・剣の力なの・・・?)」

 

「キリト君・・・・・・」

 

階段を登るブレイド達はふと呟く。果ての祭壇まで後少しと言うところでその光景に思わず歩みを止めてしまいそうになる。その視線の先、夜空の剣を掲げるキリトを見てブレイドは思わざるを得なかった。

 

「なんと美しい光景だ・・・・・・」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

その光景はアンダーワールドの各地から見えた。そして、その先にいるであろう少年を知るものは思い思いに自分の願い、気持ち改めて示す。その想いは星々の輝きとなり、夜空を彩る星となる。やがて想いや願いは一つの光となり、一本の剣に乗せられる。

 

『ーーーーーーっ!!』

 

ガブリエルは虚空を切り、絡まっていた蔓を解くとそこでようやく空が変わっていることに気がついた。

 

 

 

 

夜空の剣の記憶を開放した時。キリトは脳内にユージオの言葉が響いていた。

 

『なんか暖かい黒だな・・・そうだ、名前は夜空の剣にしよう。多分、キリト達もいいって言ってくれるだろうし・・・』

 

剣から迸る夜空は無数に流れる星達によってさらに輝く。夜空の剣の力は広範な空間からのリソース吸収。しかし、これはただのリソースじゃない。人の思いが詰まった、祈りの、願いの、希望の力の詰まった光なのだ。

 

そして、流星のサーベルとも似た力を持つ。まるで異母兄弟のような剣であった。

 

生まれは全く違うが、能力は似ている。すると背中の流星のサーベルは先まで使っていたプレイヤー達の天命の余剰分を夜空の剣に流し込む。虹色の刀身がさらに強まり、光が埋め尽くす。

 

「お・・・おおおおお!!!」

 

キリトは二本の剣を持って大きく広げ、叫んだ。

 

『クァw瀬drftgyフジコーーー!!』

 

もはや完全に人から逸脱したガブリエルはそんなキリトの剣を見て謎の咆哮をする。右手を握るとそこに闇の触手のようなものがキリトに多数接近する。

 

「・・・おぉ!!」

 

その攻撃を光の壁で霧散させ、コートの裾いっぱいに翼を広げ、ガブリエルに急速に飛ぶ。

 

「う・・・おぉぉぉおお!!」

 

使うのは二刀流、連続十六回攻撃《スターバースト・ストリーム》。

星の光で満ちた剣が軌跡を描いて打ち出される。同時にガブリエルの三対六枚の翼が真っ向から襲いかかる、

 

「うぉぉおおおお!!!」

 

『ーーーーーーーっ!!』

 

咆哮しながら二人は正面から激突する。どこまでも剣を加速させ、二刀を振るう。

ガブリエルも絶叫しながら刃を撃ち返す。

 

十撃。

十一撃。

 

激突し放たれるエネルギーが飽和し、稲妻となって轟く。

 

十二撃。

十三撃。

 

胸中にはもう恐怖は存在しなかった。怒りも、憎しみも、殺意もない。純粋な祈りの力だけが今の自分を動かしていた。

 

ーーこの世界の

 

十四撃。

 

ーー人々の輝きを

 

十五撃。

 

ーー受け取れ!!ガブリエル!!

 

最後の十六連撃目はワンテンポ遅れる上段斬りだった。

その隙をガブリエルは逃さなかった。

 

「(っ!しまった・・・!)」

 

腕を切られるを感じた。敵から伸びる黒翼がキリトの左腕にあたろうとした時。

 

ーーキィンッ!

 

そこに甲高い音が響く。その先には中に浮き、ガブリエルの斬撃を抑える一本のサーベルがあった。それはブレイドの使うサーベルだった。するとサーベルから幻影が現れる。それは今まで自分を励ましてくれた。ブレイドの幻影、もう一人のブレイド。牧奈だった。華奢な腕に似つかない力で彼女は斬撃を抑え込むとこちらを振り向いた。

 

『さぁ、今のうちに!キリト君!!』

 

「ーーありがとう・・・牧奈ちゃん・・・・・・うぉぉぉおおおーーーーーー!!」

 

異母兄弟とも呼べる剣が互いに支えたってできたこの攻撃。その一発にキリトは剣を握りしめる。十七撃目となった幻の攻撃はさらに眩い輝きを見せる。夜空の剣と、青薔薇の剣を満たす星の全てが虹の波動となってガブリエルの胸に流れ込む。

 

「クハハハハハハハ!!無駄なことを!一滴残さず飲み干し、喰らい尽くしてやろう!!」

 

「できるものか!人の心の力をただ恐れ、怯えているだけのお前に!!」

 

「ならばこの場で見せてやろう!ハハハハハ!!ヒィハハハハハハーーーーーーー!!」

 

剣に込められた心意を堕天使は飲み込もうとする。だが、次第に笑い声はうめき声と変わっていった。

 

「ハハハハハハハハハ!!・・・・・・グ、グオォぉおおぉォおお!!!」

 

悲鳴を上げる堕天使は体から虹の光を見せ、何かが割れる音と共に光は徐々に姿を表していく。

 

「嗚呼あぁぁぁぁぁぁあああぁぁああーーーー!!」

 

その無機質な声はただの高周波でしかなくなり・・・・・・

 

 

 

 

 

恐ろしい規模の光と共に爆発し、螺旋を描いて天まで駆け上った。

 

 

 

 

 



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#51 二〇〇年

「ククク・・・・・・フハハハ!!」

 

ガブリエルは嗤い声しながら跳ね起きる。目に入ったのは灰色の幾つも並んだ金属パネルの壁面だった。日本語の注意書きのステッカーが配線やダクトに何枚の貼られている。

自身の笑いの余波を抑えながらガブリエルは瞬きする。呼吸を落ち着かせるとあらためて左右を見回す。間違いなくオーシャンタートルのSTLだった。どうやら自動的にログアウトしてしまったらしい。

 

なんと言う興醒めか・・・

 

あのまま巨大な光を飲み干せれば、ついでに少年の心も喰らえたと言うのに・・・

 

「(今再ダイブすれば間に合うか・・・?)」

 

顔を顰めつつ振り向いたガブリエルが見たのは・・・

 

 

STLのシートに横たわり、目を閉じる長身の白人男性だった。

 

「(・・・誰だ?)」

 

こんな奴が自分の体にいただろうか。いや、これは・・・

 

 

 

自分の顔だ。ガブリエル・ミラーの顔だ。今作戦で指揮をとっていた自分だ。

だったら・・・だったら今それを見下ろしている自分は誰なんだ?眺めているとそこでぼんやりと透き通る朧な光の塊を見た。

 

ーー何だ?

ーー何が起きている!?

 

その時背後で声がする。

 

「・・・ようやくこっちに来てくれたのね、ゲイブ」

 

振り向くと、そこには幼い幼女が立っていた。深く俯くその少女は顔が見えないが、ガブリエルには見覚えがあった。

 

「・・・アリシア」

 

思わず顔を綻ばせながらその幼女の名前を呼ぶ。

 

「なんだ、そんな所にいたのか。アリー」

 

その幼女はガブリエルが魂の探究のために人生で初めて手にかけた幼馴染の少女。あの時のことはよく覚えている。あの時、魂を捉えられなかったことは長年の痛恨事だった。ガブリエルは自分の置かれている奇妙な状態も忘れ、右手を伸ばす。

その時、アリシアの左手がガブリエルの手をキツく握る。

 

氷のように冷たかった。冷気が鋭い皮膚を突き刺す。反射的に振り解こうとするも、その力はとても強く。微動だにしなかった。

 

「・・・冷たいよ。手を離してくれ。アリー」

 

呟くと金髪が左右に揺り動かされる。

 

「だめよ、ゲイブ。これからはずっと一緒なんだから。さぁ、行きましょう』

 

「行くって・・・どこにだい?だめだよ、私にはまだやるべきことがあるんだ」

 

そう答えながら渾身の力で右手を引っ張り出す。しかし、動かない。それどころか徐々に下に落ちていく。

 

「離して。離すんだ、アリシア」

 

少し厳しい声でそういうと、伏せていた顔が上がり、こちらを見る。その時、鳥肌が立ち、全身の毛がゾッとする。

何だこれは。息が荒くなる。この感情は何なのだ?!

 

「あ・・・あ、あ、あ・・・」

 

無意識のうちにガブリエルは首を左右に揺らす。

 

「離せ!やめろ!離せ!」

 

咄嗟にアリシアを突き飛ばそうと伸ばした手ですら掴まれ、指が肌に食い込む。その様子を見てアリシアは邪悪に笑う。

 

『それが恐怖よ、ゲイブ。あなたの知りたがっていた、()()()()()よ。どう、素敵でしょ?』

 

恐怖

 

それは今まで探究のために殺してきた多くの人たちが、今のような歳に浮かべていた表情の源。しかし、初めて味わうその感覚はとてつもなく不快だった。早く終わらせたい。こんなの知りたくない。しかし・・・

 

『だめよ、ゲイブ。これからずっと続くの。あなたは永遠に、恐怖だけを感じ続けるの』

 

ズルズルと地面に空いた沼のような禍々しい物に沈んでいくガブリエル。

 

「あ・・・や、やめろ。は、離せ!」

 

半ば呆然と口走るが沈降は止まらない。それどころか沼から大量の手がガブリエルの足に絡みつき、沈む速度は上がっていく。

 

「やめろ・・・やめろやめろやめろやめろぉぉぉおお!!」

 

絶叫するガブリエル。すると目の前にまたもう一人、少女が現れる。その少女は黒い長髪に、白いワンピース着て、頭には大きな鍔の帽子を被り、足元には革靴を履いていた。突然現れた少女にガブリエルはその少女に既視感を覚えるが、碌な確認も取らずに藁に縋る思いで呼びかける。

 

「おい!そこの!た、助けれくれ!」

 

すると少女がこちらに振り向く。その目は血のように赤く、ゾッとする印象を持ち合わせていた。すると少女は沈んでいくガブリエルを見るとこう言い放った。

 

「貴方・・・私を天使か何かとお思いで?」

 

すると少女は三日月型の口を作るとガブリエルを見ながら言った。

 

「貴方はここで死ぬ運命なの。私はそれを見届けるだけの存在」

 

「そんなっ・・・」

 

「すべては貴方のせい。運命の道から堕ちたものはその代償を払わないといけない」

 

そう言うとすでに胸の部分まで使ったガブリエルを見て少女は言う。

 

()()()と違って貴方は本来守るべきものを貴方は殺した。殺したが故に貴方は神に背いた。それは許されざる重大な罪。貴方は自分で自分の首を絞めたのよ?それをお分かりで?」

 

そう言うと少女は消えゆく間際に言い残す。その目は酷く空虚なもので人とは思えない者だった。

 

「じゃあ・・・サヨウナラ」

 

そう言うと少女は消え、絶叫と共にガブリエルは多くの亡者達に掴まれながら底なしの、永遠の沼へと引き摺り込まれていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

その時、キリトは目を覚ました。

 

「っ!ここは・・・」

 

目の前に広がるは蒼、美しい晴天が顔を覗かせていた。かつて血の色をしていたダークテリトリーの空はどこまでも広がっていた。どんな理由があろうと、その透明感のある蒼穹は泣きたくなるほど美しかった。瞼を閉じ、長く息を吐き、そっと体の向きを変える。

次に目に映ったのは崩壊していく白亜の階段だった。翼を軽く羽ばたかせ、階段を追いかけてゆっくりと降下する。目指すのは空に浮かぶ小さな島。

円形の島には色とりどりの花が咲き誇り、その中央に白い石畳に神殿めいた建物が繋がっていた。

そして、徐に建物を見るとその中は無人だった。

 

「・・・よかった。間に合ったんだな」

 

ポツリと呟く。

最後の永遠にも思えた死闘の最後。感覚的にログアウトをしたのを感じたキリトは思わず笑みが溢れる。

 

「これから大変だろうが・・・頑張れよ・・・・・・・・・・二人とも」

 

おそらく、これからしばらくアリスとユージオは大勢の人と戦っていかなければならないだろう。だけど、彼らならやり遂げるに違いない。なぜなら・・・

 

「ブレイド、アスナ・・・後のことは頼んだぞ・・・」

 

とても心強い味方がいるのだから・・・

そう思うと思わず腰に差していた流星のサーベルを触る。思えばガブリエルにトドメを刺せたのもこれのおかげだ。

つくづくブレイドには助けられてばかりだと感じてしまう。だけど、それでいいような気がする。ブレイドにはブレイドなりの考え方があるのだろうから・・・

そう思うと大きく息を吸い込み、吐く。

 

「二百年。そうか・・・二百年か・・・」

 

菊岡の言っていた限界加速フェーズ。そこから俺たちが救い出されるまで最低でも二百年ほど。それまで自分は孤独でいなければならない。その事実を再認識した時、体がガックリと倒れる。

 

「ごめん・・・アスナ・・・ごめん・・・リーファ・・・ごめん・・・みんな・・・」

 

二百年と言う途方もない時間を一人で過ごすことにおそらく自分は耐えられないだろう。今まで流すまいと思っていた涙がついに堪えきれずに溢れる。

 

「ーーーーーっ!」

 

嗚咽声が響く中、不意に足音がその中にまざる。

 

「・・・キリト君」

 

「っ!?」

 

幻聴が聞こえたと思った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

果ての祭壇に到着した四人は神殿まで走った。

 

「そこに立て!ユージオ達!」

 

そう叫び、神殿のコンソロールを触りだすブレイド。ユージオとアリスは言われた通りに神殿の少し高い祭壇の場所に立つとアスナが話しかける。

 

「ブレイド。大丈夫?」

 

「問題ない。二十秒で終わらせる」

 

そう言うとブレイドは赤黒い心意を五本指の手の形に変え、コンソロールを目にも止まらぬ速さで打ち始める。普通の手のように動くその様子にアスナ達は驚くも時間がないので聞くことはなかった。するとブレイドが押した外部呼び出しに凛子が反応する。

 

「神代さん。聞こえますか?」

 

ジジッ『・・・聞こえているわ!赤羽君』

 

「今、二人を送り出します。サブコンであっていますか?」

 

『ええ、お願い』

 

そう言うとブレイドはコンソロールを触り、ライトキューブの排出作業が開始された。アバターが消滅する二人を見届けると凛子が通信を入れた。

 

『・・・確認したわ。ライトキューブはこっちに届いたから。あなた達も早く!時間はあと三分しかないわ!!』

 

「ええ、分かっています・・・アスナ。祭壇の上に・・・立ってくれ」

 

その時、ブレイドは残る覚悟だった。二百年孤独なんて絶対にフラクトライトが焼き切れてしまう。今ここでキリトを失うのは辛い。彼はすでにログアウトを諦めている。だったら、誰かが残るべきた。そうなれば自分が残ると決めていた。だが・・・

 

「(すまない・・・詩乃・・・)」

 

揺らぐ決意にコンソロールを触る手が止まる。すると不意に自分は首を掴まれ、投げ飛ばされる。

 

「ぬおっ!?」

 

ブレイドは投げ飛ばした本人に驚愕する。

 

「アスナ・・・何故・・・?!」

 

するとアスナはブレイドを見ながら答える。

 

「ごめんなさい・・・私・・・キリト君のいない世界は寂しいの・・・だから・・・」

 

するとアスナは開いていたログアウトボタンを押す。

 

「っ!!アスナ!」

 

咄嗟に体勢を立てなおそうにも、アスナの強い願望の眼差しに一瞬だけ動きが止まってしまう。

 

「ずっとキリト君のそばにいる。そう決めたから・・・」

 

そう言うと、祭壇に障壁が生まれ、ブレイドのログアウトが開始される。ブレイドは最後にアスナの願いを聞いた。

 

「現実世界で、ユージオ君やアリスさんを守れるのはブレイドさんしか思いかばないし、二人を支えて欲しいの。この世界を現実世界の人にも知ってもらうために・・・フラクトライトが軍事利用されないためにも・・・・だからお願い」

 

「・・・」

 

「それから、みんなに言ってくれる?ごめんねって、ありがとう・・・さようなら、って・・・・・・」

 

アスナの最後の願いを聞いたブレイドは帽子を深く被ると一言、

 

「・・・・・・分った」

 

とだけ言い残し、消えていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「アスナ・・・なんでここに・・・?」

 

「キリト君のことだから残ると思っていたんだ。君は相変わらず一人の時じゃ泣き虫なんだね」

 

そう言うアスナの表情は微笑んでいた。両手を後ろに回し、少し首を傾げたアスナがいた。

何と言えばいいのだろう。だけど、嬉しかった。だからずっとアスナの懐かしいしばみ色の瞳を見続ける。

そばを優しい風が吹き、蝶が舞い、青い空に消える。

それを見送ると、アスナがそっと右手を差し出す。俺も同じように手を伸ばし、アスナの手をしっかりと握る。立ち上がり、アスナが胸に頭を載せると囁くように言う。

 

「・・・向こうに帰ったら。みんなに怒られちゃうね」

 

「大丈夫さ。その時は俺も一緒に怒られるよ。・・・最も、ブレイドに怒られるのは怖いけど」

 

「それはそうだね。でも、みんなのことを忘れなければ許してくれるよ」

 

「そうだな・・・」

 

そう言うと二人は石畳を歩く。小島の端に到達すると深い青に染まる空が広がる。

アスナが俺を見て尋ねる。

 

「ね、私たちはこの世界でどのくらい過ごすの?」

 

「最短でも二百年って言ってたかな・・・もしかしたらそれ以上かも・・・」

 

「たとえ千年でも長くないよ。君と一緒なら。・・・・・・さ、行こ、キリト君」

 

「・・・・・・ああ。行こう、アスナ。するべきことはたくさんある。この世界はまだ生まれたばかりだからな」

 

そして、俺たちは手を取り合い、翼を広げる。

飛び立つ直前、アスナが言う。

 

「まずはブレイドさんの残していった飛行機と戦車の片付けからかな・・・」

 

「・・・あの野郎・・・俺に面倒ごと押し付けやがって…・・・」

 

「まぁまぁ、今までうちらが迷惑をかけていたから。ここは甘んじようよ」

 

「まぁ、それもそうか・・・・・・」

 

自分で納得をしたキリトは改めてアスナの手をとり、無限の蒼穹に一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

これからの世界を変えていく為に……

 

 

 

 

 



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#52 暴露話

今年最後の投稿です。みなさん良いお年を!!


「・・・そうか」

 

神代博士の報告を聞いた真之達はしばしの沈黙ののち、答える。

 

「・・・菊岡、事は急を要す。俺の援護をしろ」

 

「はっ!」

 

今ここにいるのは菊岡、真之、比嘉の三人だった。三人は耐圧隔壁を開いて囮とし、点検パネルを開いてSTLのシャットダウンを画策していた。

敵がサブコンに突入し、アリス達の再奪取をしようとした時は待ち構えている藤吉とその護衛が迎え撃つ算段だ。

何年も前に退役したとは思えない強靭で柔軟な体をくねらせる中、真之は呟く。引退した自衛官が武器を取るのはどうなのかとも思うが、そこは緊急時ということでいくらでも揉み消しが可能だ。

 

「全く・・・修也のフラクトライトが突然活性化して・・・一体何が起こっているんだ・・・」

 

だが、その内心。真之は思い当たる節があった。

 

「(来ているんだろう・・・晶彦・・・)」

 

そう思いながら真之はハッチを開いていた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

目が覚めた時、自分はSTLで横になっていた。頭を被るシールドが外れ、体を起き上がらせる。腕には点滴を打たれ、関節がパキパキと音を鳴らし、確実に凝っていると確信する。

 

「・・・こりゃ、この後が辛いな・・・」

 

現実世界でおよそ四日。向こうでは十八年か……そこらの時間を過ごした自分の体は疲労が溜まっているように思えた。その時、ふとある気配を感じ、その方角を見た。

 

「・・・兄さん?」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

『長い間、一人にさせて済まなかった。凛子くん』

 

「晶彦さん・・・なの?」

 

思わず方言が飛び出し、視線の先に映るロボットに声をかける。そこにいたのはかつて自分を愛し、SAOを作り上げた天才。茅場晶彦だった。

いつの間にか消えていたロボットの試作機だったが、いつの間にか戻ってきており、こうして会話ができていた。

 

『凛子君、私は君に出会えて幸せだった・・・君達だけが、私を現実世界に繋ぎ続けてくれた。願わくば・・・これから先も、君達に繋いでほしい・・・私の夢を・・・今はまだ隔てられている二つの世界を・・・』

 

そう言うとニエモン、もとい茅場晶彦は藤吉を見ながら言う。

 

『叔父さん・・・修也を・・・私の弟を、これからも宜しく頼みます』

 

「ふんっ、お前に言われんでも分かっとるわ」

 

そう言い残す藤吉はどこか寂しそうにも聞こえた。すると茅場はニエモンを動かすと爆弾の取り付けられた原子炉まで向かって行った。周りの護衛達は困惑の様子を浮かべていたが、この部屋にいる藤吉と凛子だけがここに彼がいる理由を察していた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

その後、原子炉に仕掛けられた爆弾を兄が取り外しに行った。

一時は敵の攻撃で行動不能になるも凛子さんの激で再起動し、最終的に起爆装置を取り外す事に成功した。その後、オーシャン・タートルは平常を取り戻し、襲撃部隊も何やら騒ぎながら撤退して行ったらしい。

その間に行われたシャットアウトは無事に完了したが、内部の時間はおそよ二百年経ったと言う。その為、二台のSTLから出てきた二人はまだ目を醒さない。あの時、自分が残っていたらと考えるとアスナには感謝しかない。

そして、兄さんだが・・・あの後、ニエモンの機体ごとどこかに消えてしまったそうだ。まぁ、あの人の事だからどこかでしぶとく生きている筈だ。そう思いつつ、自分はやって来た安岐さんと他数名の人に支えられて地に足をつけた。そのとき安岐さんに『詩乃さん。だいぶご立腹だったわよ?』と言われ、思わず溜息を吐いてしまった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

それから数日は大忙しだったと言えよう。まず爺さんにぶっ叩かれた。こっちは病み上がりだったのに……

 

『女を泣かせる恥をしよって!!』

 

そう言われて殴られた後に説教を喰らった。まぁ、考えなしに付けたあのデバイスを知って相当カンカンだったようで二時間程正座で説教を喰らった。その後父さんからも殴られ、説教され、徹底的な監視をされることが確定になった。詩乃からはもう、泣きつかれてしまって困惑してしまった。

 

フラクトライトが不活性だったのは『それを観測する機械をあのデバイスを取り付ける関係で切断したから』と言うと比嘉さんや菊岡さんがポカンとした状態となった後に、グッタリと項垂れていた。予想外の理由におそらく職人魂的なものを粉砕された様子で、暫くは放心状態だった。

そしてその後すぐにオーシャン・タートルからヘリに乗って本土に強制送還、暫くは実家で過ごす羽目になった。

その際に直葉達にメールを送った。ありのままの事実を伝え、キリト達が目覚めるか分からないとも・・・

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

そして自分は実家とラースの六本木支部を行き来する生活をしていた。もちろん家から支部まで監視を兼ねた送迎付きで。

 

 

 

 

 

その日。ラースで仕事をしている中、目覚めない二人を思いつつ自分はある人と同じ机に座っていた。

 

「初めまして・・・と言うべきでしょうか・・・神代凛子さん」

 

「そうね・・・顔を直接合わせるのはこれが最初ですものね・・・」

 

目の前に座っている青年を見て凛子は感じた。

 

「(本当に兄弟なのね・・・)」

 

凛子の脳裏にはかつての恋人の顔が思い浮かぶ。目の前にいる青年はその顔よりももう少し健康的で肉もついていたが、面影があった。つい大学生時代の雰囲気を持ち込みそうになってしまうが、それを抑えると修也が話し出した。

 

「なるほど・・・兄が凛子さんを好きになったのも分かる気がしますよ・・・」

 

すると修也は晶彦と昔遊んでいた時に名前だけはよく聞いていたと言う。修也の口から暴露される茅場の話に思わず凛子は口元が緩んでしまう。自分も知らなかった茅場の昔話(惚気話)に・・・

 

「・・・まぁ、兄はそれだけ幸せだったんだろうと思っていますよ。凛子さんの話になると嬉しそうにしていましたから・・・」

 

「そう・・・」

 

修也が話し終えると凛子はその後、修也の知りたがっていた大学生の時の茅場の話をした。互いに話をしていると時計を見た修也がコーヒーの入った紙コップ片手に席を立つ。

 

「すみません。今日の分を進めなくてないけないので・・・ここで失礼します。・・・色々と話を出来てよかったです」

 

「ええ、私も。わざわざ時間をとってくれてありがとう・・・」

 

そう言うと修也はラースの食堂を後にした。彼には彼にしか出来ない仕事があるからだ。修也を見届けると後ろに座っていた比嘉が話しかける。

 

「いやぁ、本当に茅場先輩そっくりっすね」

 

「そうね・・・」

 

凛子は食堂を出て行く修也を再び見ていた。

 

 

 

 

 

食堂を後にした修也はラースの一室で待っている人を見た。

 

「今日もすまないな・・・」

 

「良いわよ。このくらい」

 

手に風呂敷を持つ詩乃はやや溜息を吐きながら今更と言った様子で修也に風呂敷を渡す。ここ二週間は忙しくて家に戻っていないのだ。その着替えを詩乃に持って来てもらっていた。もちろん学校にも行っておらず、里子から怒りのメールが飛んできている。

着替えを受け取ると詩乃が聞いて来た。

 

「それで・・・どのくらい出来たの?」

 

「そうだな・・・大体八割といった所だな。明後日には完成するんじゃないか?」

 

「そうなんだ」

 

そう言い、詩乃は視線の先にある物を見る。それは、()()の体となる生活する上で非常に重要なパーツであり、この計画の鍵ともなる物だった。詩乃は簡単に話を聞き終えるとラースを後にして行く。

 

「じゃあ、頑張ってね」

 

「ああ。詩乃もな」

 

そう言うと詩乃はラースを後にする。見送った修也は風呂敷片手に腕を目一杯伸ばす。

 

「さて・・・最後の総仕上げと行きますか・・・」

 

そう言い、修也はラースの一室で作り出したパーツの接合と試運転を行った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

修也がラースで仕事をしている中、政財界やニュースは恐ろしい過重労働を強いられていた。何せ現職の国務大臣が私用の出先とはいえ襲撃を受け、尚且つそこで負傷したのだ。暗殺騒ぎにならないはずがなかった。おまけに相手は元傭兵でボスニアなどで日本人ながら活躍した政治家だ。

根も葉もない噂がネット上を走り回り、その一説に『傭兵時代にアメリカの秘密作戦に加わっていてその情報が漏れないようにアメリカが消しに掛かった』なんて言うぶっ飛んだ話まで上がるくらいだった。おかげで藤吉には多くの記者が突撃して、家の周りに駆け込んでいると言う話があり、家に帰らなくてよかったと思っていた。

 

それに、自衛隊上層部が十人単位で体調不良などを理由に退()()した。それに一部の与党政治家もスキャンダルが流れ、政治は混乱を極めていた。特に説明をかねた国会では取っ組み合いまで発展すると言う大騒動となっていた。

週刊誌も政治スキャンダルと現職国務大臣の暗殺未遂、さらにはトドメのラースの一件で大惨事になっていた。週刊誌の部署では何人か病院に搬送されたと言う話も上がっている。

 

そしてアメリカでは襲撃部隊がアメリカ政府の公営PMCの会社に所属する者だった事など。傭兵として名を馳せた藤吉とのコネクションのある政治家や軍人を通じて国際的に大バッシングを受けていた。何せ、傭兵なのに勲章を貰ったような人だ。アメリカはそれはもうメチャクチャに叩かれていた。

 

そして、不正アクセスをしたアメリカ、中国、韓国のプレイヤー達がログアウトした後病院に駆け込んだと言う。

 

『戦車で吹っ飛ばされた』

『銃弾で体を撃たれた』

『剣で斬られたところが痛い』

 

そう言って駆け込んだ患者達を見た医師達は揃ってこう答えたと言う。

 

『そんなの自己責任だ!!帰れ!!』

 

そう言って看護師達によって病院をつまみ出したと言う。この時、アスクレーの論文は周知の事実となっており怪しいサーバーには入らないと言うのが常識となりつつあった。人間誰しも痛いのはゴメンなのである。それを知ったプレイヤー達は肩をガックリと落としながら帰って行ったとも言われており、中にはアミュスフィアを見るだけで嘔吐してしまうと言う症状まで出てしまっていると言うが、後悔はしていなかった。

 

「ネットの情報を正しく判断できない奴にゲームをやる資格は無い」

 

そのスタンスで貫く事を決めた修也は本土に送還されたあと。暫しの検査を受け、翌日には家で軟禁された。

だけど、仕事はしないといけないと言う事で六本木のラース支部まで送迎付きで許可をもらって仕事をしていた。アスナ達から託された『フラクトライトを守る』仕事をこなす為に最後の仕上げをしていた。

 

 

 

 

 

そして七月も終わりかけの二五日の深夜、それは完成した。



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#53 初めまして

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


二〇二六年七月二六日 午前七時

 

六本木のラース研究所で比嘉と凛子が調整をしていた。

 

「凄いっす。これはもう芸術品の部類っすよ」

 

比嘉がそう言いながら後ろで爆睡する青年を見る。その青年はくっきりと隈が出来上がり、死んだ様に眠っていた。それだけで相当疲労が溜まっているのがよくわかる。

流石に生命に危険を感じて強引にソファーに押し込み。最後の調整はこっちでしていたが、その中身はとても精巧に作られており、文字通り()()()だった。

国の事業ということでもあり、生産性度外視で作れる為。彼の持つ技術の全てがそこには刻まれていた。とてもじゃ無いがこれを常人が理解することはまずできないだろう。何せ……

 

「ひぃぃぃ!!頭がイカれそうっす!なんっすかこのマニュアルの量は…!!」

 

あの比嘉くんでさえこの状態だ。余程の一品だと言えよう。()()を作った青年は本当にあの人の兄弟なんだと感じる。

そして渡された辞書見たいな量のマニュアル通りに二人がかりで調整すること数時間…

 

 

 

 

 

「んあ……」

 

後ろでアイマスクをしながら爆睡していた修也が目を覚ました。何日も徹夜して出来上がっていたご立派な隈はすっかり消え、元気そうな顔色をしていた。あぁ、若いってすごい羨ましい…何日徹夜しても数時間寝るだけでこうなるのだから……

 

「あ、おはよう御座います。如何ですか…神代博士?」

 

起きて早々にこれである。もう既にだいぶ毒されている気が……

なんて事を思いつつ、私は返事をする。

 

「ええ、終わったわ」

 

「そうですか……じゃあ、すぐに始められますか?」

 

「え?でも起きたばかりじゃ……」

 

「大丈夫ですよ。それに、()()()早く起きたいでしょうし……」

 

そう言い、修也は視線を右の方に向ける。そこには二つの立方体の二つのキューブがあり、それを見た凛子は納得した表情を浮かべた。私はそのキューブを取ると機械の定位置に嵌め込んだ。吸い込まれるようにキューブが機械に収納されて蓋がされ跡形もなく綺麗に消えると修也が呟く。

 

「さぁ、おはよう二人とも…」

 

すると真っ白だった機械に色が付き始め、閉じていた目が開く。パチパチと目を瞬くと二人はキョロキョロと辺りを見回すと修也が再び声をかけた。

 

「久しぶりだな…ユージオ、アリス」

 

すると呼ばれた二人は驚いた様子で修也を見ると名前を呼んだ。

 

「「ブレイド!?」」

 

咄嗟に飛びかかろうとしたが、修也が右手を出して静止させる。

 

「おっと、飛び掛かるなよ。押し潰されるからな」

 

「あ、ご、ごめん…」

 

そう言い、二人を静止させると修也は二人の体を見て小さく頷く。その目は満足そうだった。

 

「よし、足も問題ないな……」

 

「そう見たいね」

 

するとユージオが凛子を見てブレイドに聞いた。

 

「ブレイド、この人は?」

 

「ああ、紹介するよ。この人は神代凛子博士。私より偉い人だ」

 

「偉いねぇ……まぁ、でもよろしく。アリスさん、ユージオさん」

 

そう言い、挨拶をすると二人もやや慌てた様子で答える。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 

そう言い、軽い挨拶を終えると自分は歩き出す。

 

「じゃあ、二人とも。外に出てみようか……」

 

「分かった」「了解しました」

 

そう言うと二人は慣れた歩き方で研究室を出る。それを見た凛子は二人を見ながら思わず考えて事をしてしまっていた。

 

「(本当に人なのね……)」

 

そこで凛子は修也から聞いた彼らに対する価値観というものを思い出していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『自分を含めたSAO帰還者は、あのインターネット世界で過ごした過去からNPCにも()()宿()()()()()と言う考え方の人が多いです。

だから、自分はあのアンダーワールドを設計した時にここは異世界なんだ…と感じましたね。

そしてそこに生きる者は己の意思で考えて動き、生活を営む……言ってしまえば異世界人なのですよ』

 

なぜ?と問うと彼はコーヒーカップを一口飲んだ後にこう答えた。

 

『あくまで自分の概念ですが……人が人たらしめるのは。

 

 

 

自分で考えて動く()()()()を持っている者の事を指すと思っています。

 

 

 

自分があの世界に行った時。自分は彼らを人と認識していました。

 

其処にはかけがえのない、変えようの無い命が存在しているのだと…』

 

 

 

その言葉の重みについ自分も引き込まれそうになってしまった。彼はアンダーワールドを一つのあたらしい世界として認識し、もし出来るのであれば彼らに()()()()()()()を与えるべきだと言った。確かに言われてみればそうなのかもしれない。しかし、それま難しい現実とも言えた。すると彼はその考えを見透かしたように言った。

 

『ガリレオの地動説の様に、硬直した固定概念ほど恐ろしい物はありませんよ……

ま、いつの時代も先進的すぎる思想や技術は社会から叩かれ、異常者だと吐き捨てて押し潰して来ましたから……

それもある意味、今まで歩んできた人の歴史でもあると言いますか……』

 

すると彼遠くを見つめる目で言った。

 

『いずれは機械で出来た人も社会に溶け込み、人もAIを一人の()として認める時代が来るでしょうね……』

 

その呟きはまるで未来を見たような目をしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ユージオ達を連れてラースの食堂に来た四人は席に座ると修也はそこである人物の来訪を受けた。

 

「おはよう、修也くん」

 

「……今何時だと思っているんです?」

 

そう言うと時刻が午後二時を示した携帯を見せながら言う。少なくともここに来た理由は察せるが、胃痛がしてくるものだ。

 

「菊岡さん……」

 

一応、最低限の敬意を示しながら言う。やれやれ、誰のおかげで首が繋がっているのやら…

 

「祖父さんに守られてよくそんな簡単に顔を出せますね」

 

「あぁ、うん…そうだね……」

 

苦笑しながらそう答える菊岡に自分はため息をする。あの事件後、菊岡は凛子さんを代表にして逃げるつもりだったらしいが、父さんと爺さんに捕まり、菊岡誠三郎と名前を変えてラースの代表(お飾り)に任命された(させられた)。命を取らない代わりに一生そこで働く事が確定の…事実上の飼い殺しである。

 

何でも爺さん曰く『危機管理がもっとあればとても優秀な奴』と言う事らしく、殺すくらいならこっちで面倒を見ると言う事らしい。ちなみに比嘉さんは常に和人達の様子を見ている関係でここには居なかった。

菊岡は苦笑しつつもユージオ達を見るとそのまま食堂を後にする。

 

「じゃあ、僕はここら辺で失礼するよ。修也くん」

 

そう言い消え去った菊岡を見てユージオとアリスがそれぞれ聞いてきた。

 

「シューヤって?」「あの人は誰?」

 

その質問に自分はとても端的に答える。

 

「修也は私の名前。あの人は自惚れ屋のクソ眼鏡さ」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ユージオ達と記者会見の日程調整をした後、自分は凛子さんに言われた。

 

『修也くんは会見中は後ろで二人を見ていて』

 

そう言われ、ほぼ必然的に自分は後方で待機する事になった。少々不満足だったが。自分がまだ18になったばかりで、尚且つ父親が現在注目の的である。そんな時に自分が公の場に出たらまともな会見ができなくなってしまう可能性があるからだと言う。

分かってはいるがやるせない気持ちだ。

 

『現実世界で、ユージオ君やアリスさんを守れるのはブレイドさんしか思いかばないし、二人を支えて欲しいの』

 

今でも頭に残る明日奈……いや、和人や他のSAO帰還者達の願いを果たす為に。自分は幾らでも身を粉にできるというのに……その出鼻を挫かれたような気分だった。

 

「仕方ない…ユージオ達を後ろから支えますか……」

 

修也は軟禁から解放されたその足で幾つかの封筒を持ってラースの入る六本木の高層ビルを後にした。



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#54 お帰り

星暦二〇二六年 八月一日 午後二時

六本木ヒルズ

 

そこで自分はテントの中でパソコン画面で二人の状態を確認しながら記者会見をリアルタイムで見る。今頃ダイシーカフェでは詩乃や他のみんなもテレビに齧り付いている頃だろう。

 

『初めましてリアル・ワールドの皆さん。私の名前はアリス・ツーベルク・サーティーです』

『初めまして。僕の名前はユージオ・ツーベルクです』

 

物怖じを一切せず、自己紹介をした事に驚愕をする記者達。二人の苗字は二人の希望に沿っての物だった。ユージオは自分の家ではなくアリスの家名であるツーベルクが良いと言い、アリスはユージオと同じにしたいが、騎士としての誇りを捨てたくないと言う事で末尾に騎士の証を付けた。

元々病院着を着ていた二人は着替える際に『キリトやブレイドが身につける服がいい』と言う事で手っ取り早く手に入るSAO帰還者学校の制服を着ていた。

事前の打ち合わせをみっちりやったお陰だろうか。しっかりとした物言いにとりあえずホッとしながら紅茶を口にする。

ユージオ達の機体を作ってからもやる事は多岐に渡った。コンバートしたプレイヤー達のデータのサルベージにアンダーワールドの情報公開の為の準備や、交流会の設定。体を作った張本人である自分も彼らについていく事がほぼ確定しているので暫くは学校にすらまともに通えないだろう。

 

「はぁ…迷惑をかけるな…」

 

幸いにも今回の騒動で迷惑料として国から結構な額の大金が入ったから今度何かしら奢ろうかと思っていると記者がとんでもない質問を飛ばした。

 

ーー頭蓋を開いて電光脳を見せろ

 

設計した自分から言わせれば『んなこと出来るか!!』と言いたいが、それをさも当たり前のように言う記者も大抵だと思ってしまった。大体、情報漏洩防止のためにテルミット積んでるから無理なんよ……

 

なんて事を考えているとユージオ達は涼しい表情で答えた。

 

『ええ、構いません…』

『しかし、その前に貴方自身もロボットだということを証明してくれませんか?』

 

うわぁ、息ぴったり。ありゃ結構イラついているな……

強烈な皮肉返しに思わず記者も思わず驚愕した様子を見せ、ポカンとしつつ、不満げな表情を隠しもせずに座る。あーあー、日本の悪いところで出るよ……

さすがゴシップの検索ランキング世界一位なだけあるわ。嫌なところを突くもんだ…。

そんな風に感じつつ、次の質問に移る。さっきの質問を皮切りにまたもや大胆な質問が飛んできた。

 

ーー高度なAIは我々の失業率を高めるのでは?

 

これを聞き、自分としては『何を馬鹿な事を……』とぼやきたくなる。そもそもAIを作ったのは自分たちが楽するためだろうに……なのに何で今更そんなこと言うんだ?と突っ込みたいが……そもそもゴシップばかり追いかける日本の記者が嫌いな自分は興味すら示したくないので何も言うまい。

この記者に対しては凛子さんがすかさず答えた。『彼らは自分達と同じ赤ん坊の状態から産まれ、自分の意思で動く。人と変わらない生き方をする彼等に労働を強制するわけには行かない』と……

 

『それはつまり……AIに人権を認めるべき。と言うことですか?』

『一朝一夕で出る結論では無いと申し上げます』

 

この返答に記者達は一斉に吾先に質問攻めをする。はぁ…あそこにいるユージオ達もため息ついているよ。絶対……

 

『彼らは、あまりにも我々と存在が違いすぎます!体温の無い体を持つ()()を、どうすれば同じ人類と認められるんですか!?』

 

一人の記者が叫んだこの一言……この会見で最も聞きたかったであろうその一言にユージオ達が反応を示した。

 

『あなた方リアルワールド人が、僕たちの創造者である事は。受け入れています。生み出したことにも感謝しています…』

『しかし、皆さんは考えたことありませんか?

ーーーもしこのリアルワールドもまた創られた世界だったとしたら。その外側に更なる創造者が存在したら?

ある日、あなた方の前にその創造者が現れ、隷属せよと命じたら。あなた方はどうしますか?

地に手をつき、忠誠を誓い、慈悲を請いますか?』

 

二人の言及に記者達は黙り込む。叫んだ記者の目を離さずじっと見つめるその圧に会場が静まり帰る。

 

『……私達は既に、多くのリアルワールド人と接してきました。

見知らぬ世界で二人きりの私たちを支え、励まし、元気付けれくれました』

『僕たちは彼らが好きです。……僕らはあなた方に差し出す右手は持っています。しかし、地につく膝と、平伏する額は持っていない。なぜなら……

 

 

 

『『僕(私)は人間だからです』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「(これで、フラクトライトを卑下する輩の排除はできたかな?)後は……」

 

ユージオ達の話を聞き、攻撃的な質問から活発的な質問に変わった事を確認し、時計と睨めっこしていた。

この会見でアメリカも無理に共同開発という名の技術強奪が出来なくなった。あの襲撃事件以降、理由は定かでは無いが(大体父さんのせい)アメリカ国内がゴタ付いている。日米安保に亀裂が入るような事はあってはならないと奔走する両国。

世界の主役を中国に奪われたく無い米国と、米国と安保関係で国を守って欲しい日本とで上手く調整するだろうと予想しながら画面越しに二人を見る。

画面上では好意的な質問に気分もよくなっている様子の二人がいた。それを見た修也は呟きながら席を立つ。

 

「あとは王手に手を掛けるとしましょうかね……」

 

そう言い、席を立った時だった。

 

ブーッ!ブーッ!

 

持っていた電話が鳴る。相手は比嘉さんからだった。内容を見た自分はそのままテントを飛び出た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーでは、AIが人類を滅亡させる事はないと言い切れるのですか?」

 

「たった一つの場合を除けば、あり得ません。その可能性があるのは我々の方から彼らを絶滅させようとした時です」

 

「しかし、過去の小説や映画などでは……」

 

質疑が続く中、会見上に入ってきた白衣姿の青年に記者達がギョッとした目をする。するとその青年はユージオ達の後ろを通り、凛子に耳打ちをする。すると凛子は少し驚いた様子を浮かべつつも、即座に視線を記者に戻した。

 

「……申し訳ありません。急用の為、アリスとユージオはここで離席させて頂きます」

 

そう言うと修也は二人に視線を合わせながら言う。要件はわかっているようで困惑の様子もなかった。

 

「二人とも、こっちだ」

 

「分かった」「わかりました」

 

そう言い、二人を退席させる中。一人の記者が聞いた。

 

「あ、あの……貴方は……!」

 

チッ、五月蝿いマスコミが……

内心そう思いつつ、静かな怒りを乗せてやや強引に答える。

 

「すみません。こちらも急いでいるので……」

 

「あ、ちょっと…」

 

有無を言わさず二人を建物に入れると走り出す。

 

 

 

 

 

会場を飛び出し、ラース六本木分室に飛び込んだ。

 

「比嘉さん!!」

 

「来たっすか!」

 

そう答える比嘉に合わせるように菊岡が現状を伝える。

 

「今、二人のフラクトライトが活性化した。STLを切ったところだよ」

 

「そうですか……」

 

飛び込み、真っ直ぐキリト達の元に向かったユージオ達を他所に、修也も早歩きでキリトの元に向かう。

部屋の自動扉が開き、中に入るとそこでは二人があるカップルの帰還に心底胸を撫で下ろしている光景があった。

 

「………………」

 

思わず息が止まってしまった。

 

ーー奇跡だ

 

もはや奇跡としか言えない。

神が『生きよ』と述べたのだろうか。

そんな光景が広がっていた。すると彼はこちらに気づき、変わらない。本当に二百年と言う年月を生きたのかと言うほど軽い声で話しかける。

 

「やぁ、久しぶりだな……ブレイド…」

 

その声を聞き、思わず涙が溢れそうになる。しかし、それを押さえ付けながら白衣のポケットに手を突っ込んで平然とした表情を浮かべながらゆっくりと近づく。

 

「やれやれ…このお騒がせ野郎目が……」

 

いつも通りの声。変わらない姿。しかし、その目は確かに長い時を過ごしたことが窺える。

するとユージオが今まで溜めていたものを吐き出すように呟く。

 

「本当……もう目覚めないかと思って心配したよ……」

 

「俺はよく寝ているのは知っているだろう?」

 

「だとしても長すぎるよ……キリト…」

 

「良かった……本当に無事で……キリト…」

 

嗚咽声を漏らすアリス達に自分は声をかける。

 

「お帰り、キリト」

 

「ただいま……みんな…」

 

そう言うと間をおかずにキリトはユージオ達を見てある事を言った。

 

「…アリス、ユージオ。セルカはディープフリーズ…天命を凍結させることで、君たちがアンダーワールドに帰ってくるのを待ち続ける道を選んだ」

 

「「……!?」」

 

「セントラル・カセドラルの80階…あの丘の上で、今も眠りに着いている。ベルクーリたちからの伝言も預かっている……君たちがいつか戻ってくると信じて待っているよ」

 

そう言うと泣き崩れるアリスを支えるように彼女と同じように泣くユージオ達を見て、キリトは次に比嘉を見て頼み事をする。

 

「さて、比嘉さん…… 限界加速フェーズが始まってからの200年分の記憶をデリートしてくれ…俺達の役目はもう終わった」

 

その言葉に思わずある感情が弾けた。これは……

 

 

 

 

 

畏怖…なのか……?

 

 

 

 

 



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#55 共犯

キリト達が意識を取り戻して数日後。

都内の病院

 

「ねぇ、ちょっと多いんじゃ無いの?」

 

「問題ないだろう。部屋には大食いがいるし、冷蔵庫もあるから保存ができる」

 

そこでは修也と詩乃がフルーツのが言った籠を持って病院を歩いていた。

少し多いのでは無いかと言う詩乃に対して修也は安直な予想を立てていると『桐ヶ谷和人』と書かれた部屋の扉をノックした。

 

『どうぞ』

 

聞き覚えのある声を聞き、扉を開けるとそこにはベットで横になっている和人と明日奈がいた。和人は修也達の見舞いに驚きつつも嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「元気そうで何より」

 

リハビリを受けてげっそりとした様子から健康的な肌色になったキリトを見ながら籠をテーブルに置くと明日奈が驚いた様子を見せていた。

 

「これ、食べ切れるかな?」

 

「多かったら切って食べてくれれいれば良い。冷蔵庫にでも入れておけば……」

 

「あ、ごめん…冷蔵庫。さっき菊岡さんの差し入れでいっぱいで……」

 

「彼奴…よりにもよって発酵食品を買ってきやがったよ…」

 

「……ちょっとすまんが意味がわからん」

 

「大丈夫。それは俺たちもだから……」

 

何でそうなる?と言うチョイスをした飼い殺し元官僚の顔を思い浮かべながらため息を吐くと修也は詩乃達を見て言った。

 

「詩乃、腐らないうちに食べてしまおう」

 

「そうね…じゃあちょっとナイフとかを……」

 

「あ、私も付いて行くよ」

 

そう言い病室を出て行った二人を見送り、病室に修也と和人だけが残ると和人が口を開いた。

 

「明々後日には退院だってさ」

 

「そうか。それは良い事だ」

 

そう言うと暫しの魔の後、修也が口を開いた。

 

「……和人」

 

「何だ?」

 

「菊岡さんが来たと言う事は……現在のアンダーワールドの状態も知っているな?」

 

「ああ…知っている」

 

直球な修也の話に思わず目が細まってしまう和人。事情を知っているからこそ二人の顔は険しくなる。

 

「菊岡さんはAIに人権を与える風潮を作ることを目標にしているそうだな」

 

「あぁ……現状、それが最善の策なんだろうな……残り少ない期間でアンダーワールドを守るためには……」

 

そう言うと二人は思わず外に映るビル群を見つめる。

ゲームの世界では英雄と呼ばれる彼らも、現実世界では唯の一個人にすぎない。

どれだけアンダーワールドの保全を求めても、それを決めるのは大衆である。一個人の決定で物事の判断を決めることができるのは真の独裁者だけだろう。

悲しいがそれが現実だ。ーーー二人が守りたいと願うあの世界もひとつの判断で簡単に消されてしまう。何もできない歯痒さを覚えながら修也は呟く。

 

「今…父さん達は政争で忙しくてアンダーワールドに手を出せないでいる。

現状、動けるのは祖父さんと菊岡さん辺りが限界だ……

しかし、あの二人の会見で世界中に大きなインパクトは与えられた……政府としてもあの技術を手放すのは惜しいと考えているらしいぞ?」

 

「お前がそう言うなら事実なんだろうな……やれやれ、これだから政治家にはなりたく無いね」

 

そう言いため息を吐く和人に修也も疲れた表情を浮かべる。

 

「あれ以降、ユージオ達について行って見ているが疲れるよ…本当……」

 

哀愁を垂れ流しながらそう言う修也に和人は気苦労が絶えないな。

と思っていると修也は俺に聞いて来た。

 

「……なぁ、和人。どう思った?」

 

「どう……って?」

 

「アンダーワールドに初めて来た時。どう思った?率直に言ってくれ」

 

そう言われ、俺は思い返す。ユージオと初めて出会ったあの場所で感じた事をふと呟く。

 

「すごく……現実とそっくりだった。初めは異世界に居るんじゃないかって、ちょっと思うくらいには……」

 

そう言うと修也も納得して頷いた。

 

「そうだよな……正直、私もゾッとしたね。二つの意味で……」

 

「二つ……?」

 

すると修也はその疑問に答えてくれた。

 

「そう、あの世界を見た時に。自分の脳裏に『水槽の脳』がよぎった」

 

「水槽の脳……?」

 

「ああ、哲学の一種で、デカルトのグローバル懐疑論の現代版であると言われている仮説だ。『自分や君が体験しているこの世界は、実は水槽に浮かんだ脳が見ている夢なのではないか』という物だ」

 

「は、はぁ……」

 

いまいち理解が追いつかず、微妙な返事をしてしまうと修也は分かりやすく言ってくれた。

 

「まぁ、分かりやすく言うと……『この世界は誰かの妄想でできた世界なんじゃないか』と言う事だ」

 

「!!」

 

その時、ふとアドミニストレータやアリスの言っていた言葉が蘇る。ユージオ達の会見は録画されたものを明日奈から見させてもらった。その時の一言をふと思い出す。

 

『もしこのリアルワールドもまた創られた世界だったとしたら。その外側に更なる創造者が存在したら?

ある日、あなた方の前にその創造者が現れ、隷属せよと命じたら。あなた方はどうしますか?』

 

その言葉を思い浮かべる。もしかしたら本当に有るのかもしれない。自分達が知らないだけで、この世界は誰かが作った妄想の世界なのかも知れない……と。

思わずゾッとするような想像をしてしまっていると修也の持っていた携帯に連絡が来た。

 

「……誰からだ?」

 

そう思い、携帯を取り出した修也は少し会話をすると神妙な顔つきで和人に言った。

 

「……悪い、呼び出しを受けた」

 

「ラースのか?」

 

「ああ、詩乃達に伝えといてくれないか?」

 

「ああ、お前も頑張れよ」

 

激励の言葉を投げると修也はそのまま病室を後にする。その目はどこか鋭い目をしていた。

 

 

 

 

 

その数分後、明日奈達が戻ってきて修也の事を伝えると詩乃さんがカンカンになっていた……頑張れよ、修也。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……」

 

病院を先に後にした修也は一人、小道を歩いていた。周りに監視の目がない事を確かめつつ、一人で歩いているとやがてあるアパートに辿り着く。

 

「ここだな……」

 

そう言い、修也は再度周りに誰もいないのを確認すると部屋の扉をノックする。

 

「比嘉さん。手伝いに来ましたよ」

 

そう言うとアパートの扉が開き、中から少々汗臭い比嘉さんが顔を出した。

 

「どうぞ、修也くん」

 

そう言い、修也を招き入れると修也はアパートの部屋に入る。中は機械やコンピュータで埋まり、放熱で少し蒸し暑い。電気は付いておらず、カーテンも閉じており、暗かった。部屋には多くの機械が散らばり、歩くのも少し危なかった。

部屋に入ると自分は比嘉さんに聞いた。

 

「…守備はどうですか?」

 

「何とか……」

 

そう言い、懐から取り出したUSBを持つと比嘉さんが聞いた。

 

「本当に……やるんっすか?」

 

その問いに自分は比嘉さんを見ながら言う。

 

「もし、反対するなら今ここでそのチップを壊せば良いはず。それに、そもそも自分の提案に乗らなければ良い事……だけど危険を冒してまでそのデータを持ってきたと言う事は……

 

 

 

比嘉さんもある程度望んでいるのでは?」

 

 

 

父に似て、人を押さえつけるような目をした修也に比嘉は息を飲んでしまうとラースから持ち出したUSBをゴテゴテ機械の中に差し込む。キーボードを触るかどうかの直前で思わず指が止まってしまう。そっと修也の顔を見ると。彼は機械弄りの好きな青年では無く。兄と同じく一人の()()()研究者として、欲望に掻き立てられている目をしていた。

 

今の彼は、彼の兄と同じ目をしていた……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

事の始まりはキリトの記憶データをデリートしている時だった。

作業中に少しだけ自分の中にある事が浮かんだが、どうしようか悩みながら二人の記憶データを処理していた。すると……

 

「比嘉さん……」

 

キリト達が目覚めてラース内で職員達が乱舞する中、修也が比嘉に話しかけていた。

 

「どうしたっすか?修也くん」

 

修也の方を見ながら比嘉が答えると修也は小さく千切られた紙をスッと出すとそのままその場を去っていた。その紙を読んだとき、思わず息が止まったのを覚えている。終業後、自分は思わず修也を人のいない場所に呼んでいた。

 

「修也くん……これはどう言う事っすか?」

 

そう言い、千切られた紙を見せる。そこには『キリトの記憶データが欲しい』と書かれていた。追求すると修也はアッサリと自分の本心を比嘉に伝えた。

 

「自分の思っている事ですよ……別に比嘉さんが協力しなくても良いです。ほんの出来心みたいなものですから……でも、見てみたいと思いませんか?

 

 

 

人類史上、最も長く生きた人の記憶を……」

 

 

 

その目は自分の目で見て何があったのかを見てみたいと言う一研究者として強い欲望と意志があった。たとえ失敗しても良いような目を……。

そう、まさに彼の兄と同じ目をしていた。

 

「……………」

 

思わずダンマリしてしまう比嘉に修也は言う。

 

「……自分はこれで失礼します。気が変わったら今の事は忘れていてください」

 

そう言い残すと修也はその場を去って行った。一人残った自分は唖然としていた。

修也の話に興味を持っている自分もいたが、それを否定する自分もいた。

パンドラの箱を見ているような感覚だった。だが、とても気になった。今までにないほど悩んだ挙句自分はラースから多くの目を掻い潜ってある一人のデータを持ち出した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーーキリトの分しか持ち出せませんでしたか……」

 

「菊さんや他の目もあったっすからね…一人が限界だったすよ」

 

USBを差し込み、キーボードを叩く寸前で二人はそう話していた。元々修也は父親の目もあって恐ろしいくらいの監視をされていたのでそもそも変な動きすらできなかった。

 

そして、Enterキーを押そうとした時。改めて比嘉が聞いた。

 

「本当に……やるんっすね?」

 

フラクトライトは自らが複製品であるとわかると自ずと自壊してしまう。それは菊岡や比嘉、ラース職員全員でやっても同じ事だった。

そこには修也を含まれている。だからおそらく、このキリトのコピーも同じような事になるのは推測できる。だが……『もしかしたら』があるかもしれない……

修也は画面をじっと見ながら頷いた。

 

「はい…‥お願いします」

 

「………」

 

そして比嘉はキーを押し込む。電算機にデータが入り、複製が行われ、人工フラクトライトに記憶のデータが写される。二〇〇年分の……到底人類が辿りつかないほどの時間の記憶が……

 

 

 

 

 

画面にフラクトライトの活性化すると映像が流れ、聞き慣れた声がした……

 

『ーーーそこにいるのは比嘉さんとブレイドか?』

 

「……あぁ」「そ、そうっす……」

 

思わずブアッと汗が滲み出る。何と言う重圧だろうか。目の前にいるだけで冷や汗が出てしまう…。

するとキリトはやや呆れつつも納得が行った声色で言う。

 

『俺を消さなかったんだな……いや、正確には……

 

 

 

『コピーした』と言うべきか……』

 

 

 

「「!?」」

 

自らをコピーした存在だと認識した……

これで自壊するのも時間の問題だ…思わず画面端の時刻を確認してしまう。すると比嘉が画面に向かって話し出す。

 

「消せる……消せる訳ないっすよ!!……君は!二〇〇年と言う時間を耐え抜いた初のフラクトライトだ!!いや、人類史上最も長く生きた人間になってしまったんだ!!……消去できる訳ない…そうだろ!

 

 

キリト君!!」

 

 

時間にして十秒、まだ自壊は起こっていない。

 

『……こう言う事もあるかと…予想はしていた……おそらくブレイドが提案したんじゃないのか?』

 

まさかそこまで読まれていたとは思わず、驚愕をしてしまう。するとキリトは自分達に聞いた。

 

『ブレイド、比嘉さん……コピーしたのは俺だけか?』

 

「あぁ……記憶消去の処理中にデータを複製するのは一人が限界だった……」

 

『そうか……』

 

するとキリトは非常に落ち着いた様子で語る。

 

『王妃と…アスナと話した事がある。仮にこのような状況に至ったらどうするかと…』

 

目の前にいる親友……いや、友人と呼べるかも分からない別の人物は次にこう話す。

 

『アスナはこう言った……

 

『もし複製されたのが自分だけなら、即座に消去してもらう。

二人とも複製されたなら、残された時間をリアルワールドとアンダーワールドの融和の為に使いましょう』

 

……とね』

 

そこで比嘉が質問を投げかけた。

 

「なら、君だけだった場合は……」

 

『その時はアンダーワールドの為に()()。何故なら……俺はあの世界の守護者なのだから……』

 

「「!!」」

 

キリトの発言にもう何度目か分からない驚愕をする。するとキリトは自分の推察を話す。

 

『アンダーワールドは現在、非常に不安定な環境下に存在する。そうだろう?』

 

「ああ……」

 

『あの世界は。リアルワールドにあって悲しい程に無力だ…エネルギー、ハードウェア、メンテナンス……そしてネットワーク……

あらゆる機能を現実世界の者に依存せざるを得ない……しかし、それでは到底の安全は保証されない』

 

「だが、それはもうどうしようもない事だ」

 

「そうっすよ。アンダーワールドの実態…ライトキューブクラスターはオーシャン・タートルから動かせないっす。そして、あの船は今は国の管理下にあって。政府の決定では明日にも主電源が落とされ、クラスターが丸ごと初期化してしまう可能性もある。それに……」

 

『原子炉の核燃料は後どのくらい持つ?』

 

突然の質問に比嘉は瞬きをする。

 

「え、えっと……「あれは原潜用の加圧水型だから…あと四、五年程だ」…そうっす」

 

キリトの問いに修也が答えた。

 

『ならば、その間は燃料を補給する必要がない。つまり、外部からの干渉を防げさえすればアンダーワールドは存続できる。そう言う事だな?』

 

「しかし…、オーシャン・タートルには武装の類は一切存在しないっすよ!?」

 

『俺は、()()と言った』

 

それはとても端的に答えられた。到底、一般的な日本人からは出ないような言葉だ。

 

「戦う…?けど、今は衛星回線も遮断され。オーシャン・タートルには通信すらできないし……」

 

『回線はある。ある筈だ…』

 

「ど、どこに…?!」

 

思わず画面に前のめりになってしまった比嘉に、思わぬ答えを言う。

 

『ヒースクリフ………いや、茅場晶彦。あの男の力が必要だ。ブレイド……

 

 

 

協力してもらえるな?』

 

 

 

その答えに比嘉は驚愕する。

 

「か、茅場先輩…!?」

 

思わず修也の顔を見ると、修也は目を閉じたまま画面を見ていた。何も言わないと言うことは肯定している証だ。

 

「生きて…いるのか……?」

 

比嘉は信じられない感情だった。その中で、自分達は思わぬパンドラの箱を開けてしまったのではないかと思っていた。

 

 

 

かつての仇敵同士の茅場晶彦のコピーと、キリトのコピー。

 

 

 

この二つが合わさった時、何が起きるのだろうか。

 

知りたい、その先に起こる事を見てみたい。

 

研究者としての心が動く。もう時間も忘れてしまった。思わず放心してしまう比嘉は修也の返答を待っていた。もう後戻りは出来ないんだ。

 

 

 

すると修也は口を開いた。

 

「……条件次第だ」

 

そして修也はキリトに問う。

 

「キリト……

 

 

 

お前は現実世界の人間を殺し回るのか?

 

現実世界の人々を虐殺し、殲滅する気なのか?

 

関係の無い、お前の両親や見知らぬ人を巻き込む気か?

 

 

 

返答次第では、私は君に協力はできない」

 

 

 

全身の気力を振り絞って出されたその問いかけにキリトは永遠とも思える間を置いた後、口を開いた。



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#56 新時代

「二人がいなくなった……!?」

 

八月一七日

和人が退院した翌日にその報を受けた。部屋でゆっくりと詩乃とGGOでもやろうかと話していた時にこれである。凛子さんと電話を切り、即座に二人の捜索のためにコンピューターで位置情報を割り出そうとした時……

 

「ん?何だ、和人から?はい、もしも……はぁっ!?」

 

電話に出た途端、和人が話し、それに驚愕する修也。その様子を詩乃は見ていると電話を切り、修也は詩乃を見る。

 

「何処に行くの?」

 

「和人の家だ。ユージオ達がそこにいるらしい」

 

「え?何で和人の家に?」

 

「とりあえず直接行って確かめてくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

「ああ、行ってくる」

 

そう言うと修也は鍵を持ってマンションの部屋を後にする。その様子を見ながら詩乃は前から忙しい様子の修也の為に台所に立つ。

ラースのあの会見で修也がテレビに映ったのはダイシー・カフェに来ていたみんなが見ていた。その時の反応といえば……

 

『あの野郎、またなんかしてたな?』

『また何か隠し事ですか?』

『今度、ここで色々と白状させる必要がありそうね……』

 

こんな感じだ。少なくとも色々と聞かされるだろうなぁ、と思っていた。一部ネットでは親のコネで仕事をしているとか言っているらしいが、それは全員が否定していた。

 

『彼奴は色々とぶっ飛んでいるからコネなんかで収まらない』

 

だそうだ。何と言う言い方だと思いたいけど、マキナやあの二人の体を作った技術は間違いなく世界最高の技術者だろう。

誰にも真似できない、誰にも邪魔できない、修也だけが持つ技術。改めて天才と言うのは恐ろしいと思ってしまう。だけど、それを支える事もまた必要。精神面でも肉体面でも……

生物というのは一人では生きていけない。必ず誰かの支えが必要だ。私は今まで修也が何を必要としているのか分からなかった。だけど、今なら修也に必要なものが何なのか分かる。

 

修也は一見大人びているけど、実際はまだまだ子供なんだと思う。寂しがり屋な幼い子供。お兄ちゃん子な子供なんだ。

修也が家に帰った日、その日はずっと私と修也は同じ時間を過ごした。そしてベットでも修也の真横で寝ていた。修也がぐっすりと寝ていた時、修也が呟いた寝言を今でも思い出す。

 

『兄さん……』

 

社会的に見れば大虐殺をした悪魔の科学者でも、修也にとっては数少ない血の繋がった家族。大切にしたかった人なんだと思う。

 

大勢を救うために尊敬する兄を殺す決断をしたのは社会的に見れば英雄だが、修也や家族からするととても悲しいものだったに違いない。悩みに悩んだ挙句の結論だったのだろう。その事を知った明日奈ですらその苦しみから涙をこぼしてしまっていたのだ。彼がどんな気持ちで、どんな覚悟で兄と対面したのだろう。

 

一八年の過酷な短い生涯で、彼は何を思ったのだろうか。少なくとも人嫌いにならないのが不思議だ。人の醜い部分や恐怖体験をしたら普通は心が壊れてしまうものだが……修也には心の自己防衛機能が備わっているのかも知れない。

 

まぁ、要するに修也の心は飢えているのだ。親としての職責を果たせなかった義両親やお祖父さんはその事を今でも後悔しているらしけど、修也はそんな事を思っていない。血も繋がっていないのに育ててくれた事にも感謝をしていた。それを教えた時三人が嬉しそうに泣いていたのを今でもよく覚えている。

 

「さて、いつぐらいに帰ってくるかな……」

 

時計を見ながら私は修也が帰ってくるであろう時間を予想しつつ、料理を作り始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

詩乃が家で包丁を握る間、和人の家では修也が仁王立ちで帰還者学校の制服を着たユージオとアリスを正座させていた。

何でも和人も凛子さんの連絡を受けた直後にラースから二つのダンボールが届き、中から出てきたのは何とびっくりユージオとアリスだった。ラースから飛び出し、和人の家に来たのは自分のしていることに不安を感じたからだそうだ。

 

「よぉし、二人には色々と言いたい事があるが…まぁ、それをすると夜になるから手短にしよう」

 

「「はい……」」

 

マンションから車で飛び出し、桐ヶ谷家の前で急停車させると家に突撃して二人の安否を確認した。そしてその後に説教を始めた。

 

「まず初めにいきなり居なくなるな。二人がいなくなると心配する人がいる事を忘れるな」

 

「「はい」」

 

「二人の行動がセルカやアンダーワールドの人々を守る為になっているのか心配?自分達が何をしたいの分からなくなった?」

 

「「……」」コクッ

 

ざっくりとした要約に二人は苦笑しつつも頷くと修也はため息を吐きながら言う。

 

「馬鹿言え、こっちだって時には迷う事もある」

 

「「え?」」

 

驚く二人に和人も頷きながら話した。

 

「そうさ、俺たちだって別に無闇矢鱈に突っ張っているわけじゃない」

 

「そう、自分達は二人が思っているほど図太い神経は持っていない。ただ、一度信じたものを信じ抜き、その先に見えるものを思うまで。

今、この瞬間も世界は変わろうとしている。一個人が集まり、大衆となり、時代を作ってきた。歴史と言うのは今ここにいる自分達でしか作れない。

そこでやる事はあの世界を守るために戦った戦士達の思いが報われる様に努力するしかないと言う事だ」

 

「「……」」

 

修也の率直な意見を聞き、二人は何処かホッとした様子を見せ、二人に言う。

 

「ありがとう……二人とも」

 

「色々と我儘を言ってしまって……」

 

そう言うと修也はやれやれと言った様子で和人を見ながら言う。

 

「なに、振り回させるのはコイツで慣れている」

 

「コイツって言うなよ……」

 

そう言い、場が少し和むと修也が呟く。

 

「まぁ、ここ最近ずっと忙しかっただろう……そろそろ休みでも与えたほうが精神的にも良いだろう」

 

「お、じゃあ凛子さんに連絡入れとくか」

 

「和人、二人をここに預けても良いか?二人用の高速充電器を持ってくる」

 

「おう、部屋は余ってるから良いぞ」

 

着々と迅速に進む予定に二人はポカンとしていると修也と和人はそれぞれやるべき事をやっていた。これが長年付き合った関係なのかを思うとまさに阿吽の呼吸だった。

 

「さ、外泊許可はとったぞ」

 

「じゃあ、ここら辺で帰るとしよう」

 

「おう、いきなり呼んですまんかった」

 

「いや、大丈夫だ。二人の安全が確認されたからな」

 

そう言い、玄関で修也を見送ると三人は今日だけ桐ヶ谷家で一泊する事になった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日の晩。家でマキナ達の新しい機体を製作していると詩乃が声をかける。

 

「修也、誰かからメール来てるよ」

 

「ああ、ありがとう……こんな時間に誰だ……?」

 

そう呟きながらメールを見る差出人がなく、代わりに数字の羅列だけが記されていた。

 

「これは……IPアドレスか…?一体何の……」

 

その直後、和人から携帯が鳴る。直ぐに出ると和人の声が聞こえた。

 

『修也!聞いてくれ!!』

 

そう言い慌てた様子の和人を一旦電話越しで落ち着かせると和人はことの状況を話した。

 

「ーーー差出人不明のメールに添付されたアドレスでアンダーワールドに行けると?」

 

『ああ、そうだ。だから手伝ってくれ!』

 

「了解、直ぐに出る。ラースの前で集合でいいな?」

 

そう言い、電話を切るとパジャマ姿の詩乃の頭を軽く撫でる。

 

「……夜道には気をつけて」

 

「ああ」

 

そう言い、マンションを出る。車に乗り込むとそのまま走らせてラースのある六本木に向かう。ゲームをしていたマキナとも合流し、六本木に着くと夜勤だった凛子さんと合流し、直ぐにログインできる準備をしていた。みんなこのアドレスが誰が送ったのか分かっていた。だから誰も疑わずに黙々と作業をする。そして準備が終わった頃に和人達も到着した。

 

「「「修也(ブレイド)!!」」」

 

「よう、ちょうどいいタイミングだ」

 

そう言うとユイがアドレスを辿れなかった事に残念がり、それを一人が慰めていた。しかし、時間が惜しい事もあって自分も含めた四人は直ぐにログイン準備をする。

 

『何かあっても直ぐに助けに行きますからね!!』

 

「ああ、その時は頼むよ」

 

ユイにそう言いSTLに入ると和人が呟く。

 

「200年か……アドミニストレータが支配していた300年は大きな変化はなかったけど……」

 

「気を引き締めておけ。産業革命からこんな機械を作ったのも200年くらいだからな」

 

「うわっ、それめちゃくちゃ変わってる可能性もあるって事か」

 

そう言い、改めて気を引き締める一人と修也。

 

「………」

 

「ユージオ」

 

緊張しているユージオにアリスが声をかける。

 

「っ!?アリス……」

 

「向こうに行ったら……」

 

「そうだね、最初にセルカを目覚めさせに行こう」

 

そう意気込み、大きく息を吐いたユージオとアリス。

 

「それじゃ…行くわよ」

 

「「「「はい!」」」」

 

そう言うと機械が動き出す。

 

懐かしいあの異世界に舞い戻る。

 

 

 

 

 

次に見えたのは闇だった。しかし、所々に光る物があり、そこが宇宙だと理解した。

 

「う、うわぁぁああ!!」

 

「ここは……」

 

「これは……!!」

 

「な、何!?」

 

ダイブしたキリト、ブレイド、アリス、ユージオの順番に悲鳴が上がる。無理もない、元々大地に降り立つと思っていたからまさか宇宙に放り出されるとは思っていなかったのだ。するとアリスが何かに気づいた様子を浮かべ、指を指す。

 

「みんな…あれ……!!」

 

その方を見るとキリト達は驚愕する。星かと思っていた光は灯りだった。街の明かりだ。地球によく似た丸い物体にそれが星なのだと理解するとユージオ達は涙が溢れた。

 

「帰って来た……帰って来たんだ……」

 

涙ぐみながら裾で拭うユージオに、アリスも同じだった。故郷に帰って来れたのだと……

 

「「ただいま……」」

 

二人がそう呟き、感動的シーンだと思ったその瞬間。

 

「あれは……」

 

視線の端に円形の赤い光が見える……爆炎だ。

 

「……行くぞ。援護頼む」

 

「了解」

 

即座に戦闘モードに入り、キリトとブレイドは駆け出した。ユージオ達も同じ様に駆け出し、戦闘の真っ只中に突っ込んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その時、宇宙を三つの金属の機体が飛ぶ、それはまるで現実世界での戦闘機の様だった。嘗て、アンダーワールドを統一し、民を導いた『星王』が()()()ノスフェラトゥの力を借りて作ったと言う『機竜』と呼ばれる物だった。

そしてその機竜に襲い掛かろうとする触手を持つ黒い禍々しい生物…アビッサル・ホラーと呼ばれる怪物がそこにはいた。無数の攻撃弾を避けるも、被弾してしまい煙が上がってしまう。

 

「くっ…!!二人とも。無事?!」

 

『こっちは大丈夫…だけどスティカは!?』

 

赤い機竜に乗るスティカ・シュトリーネンに、黄色い機体に乗り込むマリーン・クルディアが通信機越しで問いかける。二人の間で緑色の機竜に乗るローランネイ・アラベルは既に怪我を負っていた。前の二人は怪我を負っており、満身創痍とも言うべきだ。

 

『……大丈夫、私は無事。でも……この子は、もう飛べない』

 

「機外に脱出して!機士服の噴射器だけで何とかカルディアまで……」

 

『いやよ!この子を捨ててなんかいけない!!』

 

「そう……よね。ごめん……ふぅ…私が囮になるから二人はカルディアまで……!」

 

『マリーン!一緒に帰るって言ったでしょ!約束したじゃない!』

 

殿をしようとするとマリーンに二人がそう言う。するとマリーンは大きく息を吸うと操縦桿を握る。

 

「そうね……みんなで最後まで戦おう。……私たちのとっておきを見せつけてやるんだから……!!」

 

シュトリーネン家、アラベル家、クルディア家に代々伝わる技で怪物を相手にすると意気込む三人。そして、それらをまとめて葬ろうと怪物が吼える。せめて一矢報いてやようとした瞬間……

 

 

 

 

怪物に幾つもの隕石が落着した。衝撃波が起こり、悍ましい悲鳴をあげてアビッサル・ホラーが攻撃を中断する。

 

「「「!?!?!?」」」

 

全員が驚愕する中、マリーンドルフが宇宙空間に浮かぶ赤い影を見た。

 

「……進路啓発。行け!」

 

「「「了解」」」

 

そしてその後ろから三つの影が飛び出す。宇宙怪獣も咄嗟のことに対応出来ず、反応が遅れる。

 

「リリース・リコレクション!!」

 

青い剣を持つ青年がそう唱えると伸びていた触手が一斉に凍りつく。

そして黒い剣を持った黒髪の青年が同じ物を唱え、黒く伸びた剣がアビッサル・ホラーを切り刻む。

 

「あれは……《記憶解放術》……?」

 

「そんな……あれは最上位機士にしか使えないはず……」

 

その次の瞬間、ローランネイが叫ぶ。

 

「まだよ!!本体がまだ残ってる!!」

 

すると黄金色の心意が辺りを照らす。

 

「時代が変わると、相手も変わる物ですね……リリース・リコレクション…屠りなさい、花たち!!」

 

その直後、青いドレスに金色の鎧を纏った一人の少女が持っていた剣を掲げ、振り下ろす。その後、宇宙に花が咲き、爆発する。宇宙怪獣の断片を一個たりとも逃すまいと蒸発させる。その光景に呆然とすると三人はその姿を見て思わずす呟く。

 

「ねぇ、あの服を着た人って………統一神様によく似ていない?」

 

「それにあの騎士だって…アリス様やユージオ様によく似て……」

 

「あの人も、星王様によく似ている……それに…」

 

見覚えのある、既視感のある四人に自分達のご先祖の話と合わせる。赤黒い軍服に身を纏った青年に三人が集まり、勝利に沸いていた。そして彼らは三機の機影に気付き手を振った。

 

「「「…‥お帰りなさい」」」

 

不意にそんな言葉が溢れた。

 

 

 

人界暦582年

その時、星王や戦争を終わらせた英雄達がアンダーワールドに帰還した。




えー、これにてWoU編も終わりです。ここまでご愛読してくださって感謝しかありません。
この後、暫く本編は進みませんが、また短編集の様なものを書いていこうと思っています。
しかし、ほぼ確実にネタ切れで半年以上更新できなくなると思います。なので、これをネタに書いて欲しいなどの要望等がありましたらコメント欄にお願いします。

いずれはユナイタル・リング編も書こうと思っています。
早く本編進まないかなぁ……次回がとても楽しみです!

あ、来週から0時に流します。ストックがなくなったら不定期になります。


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短編集Ⅱ
間話#8 親バカ


西暦二〇二六年 八月二〇日 昼

都内 ダイシー・カフェ

 

その日、ダイシー・カフェには幾人かの人物達が集まっていた。和人や明日奈、里子や珪子、直葉などののいつものメンバーや、エギルや遼太郎。鋭二や悠那、更にはユージオ達までもが集まっていた。

 

その視線の先では修也、和人、鋭二が椅子に座る三つの人形とコードを繋げていた。かれこれ一時間は修也達の持参した自慢のノートパソコンと睨めっこしていた。

 

「だぁぁ、まずい!灼けちまう!」

「このコードを繋げ。外のバンと繋がる」

「修也さん。こっちのデータ移行がもう直ぐ終わります」

「よし、後は勝手にやってくれる。今は和人のバックアップだ」

 

阿鼻叫喚と言うべき光景を横目にカウンターでは里子が椅子に座り、恐ろしい量の電力を食っているだろう三つの人形を見ながら呟く。

 

「まさか修也がこんな物をねぇ……」

 

見た目は完全に人の見た目をしている……しかし中身は最新技術の塊。普通なら自分達のような一般人にはお目にかかることはない様な逸品だ。修也の招待にウキウキで飛んで来たが……

 

「何言ってんのか全然分かりませんでしたね」

「大学生の鋭二さんでですら限界だったしね」

「むしろすんなりと理解してる和人が可笑しいのよ」

「でも、こんな凄い物を近くで見せて貰えるなんて……修也さんは器が大きいですね」

「あら、修也は前からこんな感じよ?」

 

カウンターで女子達がそう話していた。ここ最近、みんなでダイシー・カフェに集まる事が多かった。理由としては夏休みだから全員が家にいる事が多いからと言うのと、集合場所にしやすかったと言うのがあった。ゲームでもいいじゃないかと言うかもしれないが、やっているゲームもバラバラで予定が合わせづらいのだ。だったらいっその事現実世界で集まった方が良いと言う事だった。

ユージオ達に関してはカフェの席で現実世界の料理に夢中になって食べていた。

こっちに来てからと言うもの、食べ物に目が無い二人は経費で落ちるからととことん食べたい物を食べていた。

 

 

 

 

 

儲けを考えなくていい国営企業でやりたい放題にやった結果、なんと食べ物を食べてエネルギーを作れる器官を搭載してしまったと言う。それなんてオーバーテクノロジー……

少なくとも説明を聞いた和人が『意⭐︎味⭐︎不⭐︎明』となった代物とだけ言っておこう。

 

三人は各々自慢のパソコンを持って来て、それらが悲鳴を上げながら処理を終えたようで、三人が大きくため息を吐いて机に突っ伏していた。

 

「「「はぁ〜終わった〜……」」」

「「「お疲れ(様)!」」」

 

そう言い、倒れた三人の元にそれぞれの恋人達が飲み物を差し入れる。それを受け取ると、和人が最初に口を開いた。

 

「いやはや、俺のパソコンが壊れかけたぞ……あれ結構高いのによ…」

「いやぁ、まさかここまでとは……」

「だが、後は起動すれば良い」

 

そう言うと修也は目の前に並ぶ三人の少女達を見ると満足げな表情を浮かべた。

 

「(やれやれ……全部吐き出されたからか、随分と気が楽だな……)」

 

そう思いながら修也は何日か前の出来事を思い出していた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日前

新生アインクラッド第二二層 キリトのログハウス

 

そこでは何人もの人が集まっていた。メンバーはキリト、アスナ、リズベット、シリカ、リーファ、ノーチラス、ユナ、クライン、シノンだった。

 

「ーーー成程…」

 

シノンとアスナから聞いた話を聞き、クラインがそう答える。他の面々は驚愕や納得の色を見せていた。

現実世界で何徹もして爆睡中のブレイド。彼の全てを知った彼らは同情し、心を痛めていた。

 

「その……何と言うか……」

「大変だったんですね……ブレイドさんは……」

 

リズベットとシリカが言いづらそうにしているとキリトが言う。

 

「正直、俺も初めは信じられなかった。………普通思わないだろ。血の繋がった兄が、あんな事件を引き起こすだなんて……」

「「「「「……………」」」」」

 

ここにいる全員が同じだった。リーファからしてみれば、あり得ないがキリトが大事件を引き起こした黒幕になると言う事だ。おまけに、その事件に自分も巻き込まれてしまった……

それでいて心を平常に保てただけでも凄いと思う。それなのに……

 

 

 

大勢を助ける為に実の兄に手を掛けた。

 

 

 

キリトが最終戦での話を全くしないのがクラインは理解できた。ここにいる面々で75層での戦いを見ていたのはキリトを除くと自分とアスナのみ。あの現場で、ブレイドが泣いているのを見ていた彼はその理由が嫌でも理解できた。

 

「辛い事を……させちまったんだな……」

 

クラインはポツリと呟いた。あの戦いを見ていたからこそ、アスナもその意味が十分に理解できてしまった。

 

 

 

ノーチラスやユナはユナの実父である重村教授と関係があった人物との関係に驚愕せざるを得なかった。

 

「まさか……茅場晶彦と修也さんが兄弟だったなんて……」

「私も……知らなかったです……」

 

直前にALOで特別ライブを終えた後だと言うのに、完全にその熱も冷め切ってしまっていた。彼らにとってブレイドは命の恩人であり、親しい友人。現実世界でもよく会っている人物だ。その人と、自分たちをあの世界に閉じ込めた人物との関係に息が止まってしまった。

 

 

 

全員が暗い雰囲気になってしまい、しばらく呆然としてしまっているとリズベットが口を開いた。

 

「でも納得が行った。何でブレイドが私たちと深く関わろうとしなかったのか……

 

多分…申し訳なかったんだろうね……実の兄がこんな事件を引き起こして…それなのにあの世界で生き残ってしまった事に……」

「そうかもな…恐らく彼奴がGGOメインでゲームをしているのも……」

 

キリトが反応するとリズベットは答える。

 

「きっと……自分の立つ瀬が……ここには無いと思っていたんだろうね……だから滅多にここには来ない……」

「辛く無い……訳ないよね……」

 

リーファの呟きに全員が思ってしまう。シノンはそこで口にする。

 

「ブレイドは茅場晶彦と差し違える事で贖罪をしようとした……だけど実際は生き残ってしまった……」

 

その時の気持ちは形容し難い物だっただろう。恐ろしい絶望と虚無で廃人となっていてもおかしく無かったのに……

それでもブレイドは生きる事を決めた。次の死に場所を探す亡霊の様に……

 

 

 

全員が暗い雰囲気になった所で、リズベットが口を開いた。

 

「ーーいやぁ、まさか彼奴が大学を卒業していただなんて思わなかった」

 

重く暗い雰囲気を紛らわす為に話し出した内容に他の面々も同じ様に口にした。

 

「そ、そうですね。……やっぱりブレイドさんは天才だったんですね」

「ふんっ、やっと化けの皮が剥がれてスッキリしたってもんよ」

「そ、そうですね」

 

話題変えて話している中、キリトはそっと目を閉じてあの時の事を思い返していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

シノンから事の全部を聞かされ、全員がどんな反応をするかと思っていたが……変わらなく接してくれて心底ホッとした。寧ろ、

 

『あんたが社会人なことにビックリだわ』

 

と言われてしまい、マキナがAIである事にも驚かれた。その後の和人の追求にも驚かざるを得なかったが……

 

 

 

そんな訳で和人の要求とマキナの機体の新調とタイミングが被ったから。前に使っていたマキナのあの身体をキリトのユイちゃんのために設定し直して中古という形だが、和人に譲る事にした。その時、和人が『良いのか?!』と言っていたが、問題ないと答えると和人も納得してくれた様子だった。

 

「……さて、三人を起こすとしよう」

 

予算の関係上、ユージオ達よりもパーツをオミットしているが、食べる動作が出来ないだけで、後は変わらないと言ってもいいだろう。修也は脊椎部分にある指紋認証式のボタンをタップし、スリープ状態の三機の電源をつける。するとパチッと瞼が空き、三人が顔を上げる。

 

「パパーッ!」

 

起動するや否や三人の中で最も小さいユイが和人に飛びかかる。胸に飛び込むユイを和人は両手で迎えるが……

 

「ゴホッ!」

 

百キロ近くもある金属の体は和人の体にダメージを与えた。衝撃を受け、後ろに倒れてしまった和人を見て全員が笑ってしまった。

 

「ユイちゃん!?」「か、和人くん!?」

 

その様子を眺め、場が和んでいると修也の元に二人の少女が歩み寄る。

 

「マスター」

「……動作に問題は無さそうだな」

「ええ、快適ですよ」

「流石はマスターですね」

 

そこには背が大きくなって高校生くらいの見た目となったマキナと新規で設計したストレアがいた。最新型のバッテリーを搭載し、充電無しでも一ヶ月は持つ優れものだ。試験的に燃料電池搭載型も設計したが、見積もり時点で予算オーバーになるのでまたいつかという事になり、旧来のバッテリー型で我慢していた。因みに体はネット環境下での姿を完全に模しているので、ストレアの大きな胸部装甲に遼太郎が凝視をし、取り敢えずそれに気づいた里子が頭を引っ叩いていた。

 

「自分も新しい身体をもらいましたが、良いですね……」

 

体の節々を動かしながらストレアが呟く。ゲームの世界でも、現実世界でも同じ動きができるこの体にストレアは驚きの声を出した。

人体の体を徹底的に解析し、人と同じ形の筋肉や骨を模した構造を持ち、擬似神経結晶とMeacシステムを使って思いのままに動かせる物を作っていた。

何日も徹夜して、アスクレーやラースからも部品を取り寄せて作ったそれに、今までの疲れも霧散するくらい今は気分が良かった。ユージオ達の世話をほっぽり出してしまったが……凛子さんには感謝しかない。新しい身体に慣れるのに時間が掛かるかもしれないが、それまでは積極的に動かしてもらおう。

するとマキナが嬉しそうに身体を自在に動かしながら小さく言う。

 

「念願が叶って良かったです」

 

その呟きは二年前、ALO事件の際にアスナの写真を見たマキナが呟いた一言だったのを思い出す。確かにあの時からマキナの要望に答える形で身体を作った。この前の事件でマキナは存分に働いてくれたと父から聞いている。

この身体を作る為に振り込まれた金のほとんどを使ってしまったが、いずれはこれを作る技術も追いついてくるのだろうかと考えながら盛り上がっている和人達を眺めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ユイタンクと違い、完全な人型のユイに大興奮の明日奈と和人。するとそこに水を指す様な形で珪子が聞く。

 

「これ……どの位お金が掛かったんですか?」

 

そう問うと和人は自信満々に答える。

 

「予算が足りなかったからな。修也にローンを組んで貰ったんだ。()()()で」

「「「「五百回!?」」」」

 

消費者金融も真っ青になりそうなくらいの回数に驚愕する里子達。すると和人は詳しく話し出す。

 

「まとめて払える金額じゃないからな。何回かに分けて払うことにしたんだ。払える時にまとめて払う事もできるし、問題ないさ」

 

そう言い、和人は良い買い物をした人の顔をすると周りの人達はドン引きしていた。

 

「「(うわぁ、親バカって怖い……)」」

 

ユイを見ながらそう感じる里子達であった。




早くユナイタルリング編を書きたいけど、展開が読めないから投稿しずらいなぁ……


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間話#9 最難関ミッションⅠ

夜の星明かりがよく目立つ砂漠地帯の一角。そこでは砲声が轟き、所々砂柱が立っていた。

 

 

そんな砂丘の裾野の一角。そこでは複数人のプレイヤーが隠れていた。

 

「くっそぉ…あのマッドめ……後で文句言ってやる……!!」

 

そんな中、男の娘の格好をしたキリトがそうぼやく。するとその横で動きやすい青を基調としたコンバットスーツを着たユージオが答える。

 

「それ、ブレ……フリューゲルに言っても意味あるかなぁ……」

「何も言わないよりはマシだろ」

 

そう言いながら二人は先ほどから止まらない砲撃に四苦八苦しながら隠れていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

マキナ、ストレア、ユイの人形を作った翌日

GGO 四号大陸横断高速線

 

そこでは一台の装輪戦車が疾走していた。その上では何人かがタンクデサントをして風を感じていた。

 

「ヒャッホー!」

「ひええぇぇぇえ!!」

「おー、落ちるぅぅう!!」

 

時速100キロで障害物ありきの高速を左右に避けながら走り、砲塔に乗っていたキリトとユージオが悲鳴を上げ、リーファは嬉しそうな声を上げていた。デサントをしている物は他にもおり、そこにはノーチラスやユナの姿まであった。

 

「すごい飛ばしますね」

 

ノーチラスがそう言うと運転席にいるフリューゲルが答える。

 

「ああ、何で今回は人数が多い上に最難関ミッションだ。色々と忙しいぞ」

 

そう言いながらフリューゲルは豹丸を飛ばしていた。この豹丸も、前回から色々と拡張工事を受けた様で、前面の至る所に鉄板が追加されて貼り付けられていた。

 

 

 

 

 

今回、フリューゲル達が集まったのは数時間前まで遡る。夏休みも終わりかけと言うことで、最後に全員で集まろうかとアスナが提案した時に、ユナが言ったのだ。

 

「私達、この前ライブでGGOに行けなかったので、みんなで一緒に行きたいです」

 

と言うことになり、ALOでステータス上げをしていたユージオ達も新しい場所に行ってみたいと言うことで自然と全員が集まることになった。その過程でクラインやエギルも参加する事になり。

キリト、アスナ、フリューゲル、シノン、リズベット、シリカ、リーファ、クライン、エギル、ノーチラス、ユナ、ユージオ、アリス、マキナ、ストレアと言う総勢一四人の大御所となってGGOにコンバートして遊びに来ていた。全員が豹丸に乗り込むと何人かがこうして戦車の上にしがみつく形となっていた。中も結構窮屈で、普段は閉じているはずの扉も全部開けて走行していた。

しかし、こんな大人数ならとフリューゲルは今までやりたがっていたゲーム内最難関ミッションをここでやる事にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーーで、俺たちはどこに行くんだ?」

「このまま南の砂漠地帯に向かう。ミッションはそこで始まるからな」

 

まぁ、詳しくは話さないでおこう……絶対嫌がるから……

そう思いつつ、フリューゲルは高速を降りた。そして高速を降りると一旦停車して、全員が車から降りる。鮨詰め状態だった為に全員が各々背を伸ばしたりしていた。

 

「全員、武器は持ったか?」

 

フリューゲルがそう聞くと全員が各々剣や銃火器を持って頷く。

GGOだからと銃を手に持つノーチラスやユナにエギルとクライン。

分からないからと剣を持つユージオとアリス。

前回から引き続いて散弾銃を持つリズベットと、戦車についている重機関銃を持つシリカ。

そしていつも通り光剣を持つキリトとアスナ。

そしてバルカ小隊の四人も銃火器を持つ。

 

確認を取ったフリューゲルはPKPを持ちながら皆に向かって言う。

 

「今から行うミッションはGGOでも最難関と言われている、いまだに攻略者がいないミッションだ。恐ろしく厳しい戦いになるかもしれないが……

 

まぁ、気楽にやっていこう。失敗しても何も言われないしな」

「「「「………」」」」

 

フリューゲルがそう言うと、ゲーマーとしての何かが目覚めてやる気に満ちるキリト達。この誰もクリアできないミッションを攻略してみたいと言う願望が生まれていた。それを見てフリューゲルは少しニヤリとした。計画通り…!

 

「……よし、すぐに出る。行くぞ」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

そう言うとキリト達はゲーム内最難関ミッションに挑み始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

少しして、エリアに入ったのだろう。黒塗りされていたミッションタグが晴れて文字が浮かび上がる。

 

「ミッション名……『列車強盗』……?」

「なんだ、この名前?」

 

キリトが呟き、クラインが答えると運転席のフリューゲルが車を停車させる。

 

「うおっと」

「ど、どうしたの?」

 

いきなり止まったことに驚いているとフリューゲルが指を指す。全員がその方を見るとそこには砂漠地帯の中に一本だけ敷かれた線路があった。線路は永遠と続き、地の果てまで続いていた。

 

「もうすぐ見えるはずだ……」

「?」

 

全員が疑問に思うとふと遠くから音が響いてくる。列車の音だ。タタンタタンと車輪と線路の音を立てて向こう側から線路の上を走る細長い影が見えて来た。

 

「あれは……」

 

その影がクッキリと見えた時、エギルが思わず冷や汗をかく。

 

「おいおい……まじかよ…!!」

 

見えて来たのは砂漠迷彩が施され、傾斜のついた装甲が張られ、機関銃座取り付けられ、砲塔のついた大きな車両もあった。それはまさに………

 

 

 

「装甲列車……」

 

 

 

そこには十七両の装甲列車が中央に機関車を挟んだ状態で線路上を高速で走っていた。

100キロは出ているだろう速度を見ていると、その装甲列車に襲いかかる大勢のプレイヤーがいた。結構大きめで、二、三十人はいるだろうか。

 

「よく見ておけ。次のアイツの相手はウチらだからな」

 

そう言われ、全員が思わずジッと襲撃するプレイヤー達を見る。

 

『突撃ぃぃいい!!』

 

司令官と思しき人の合図に合わせ、プレイヤーが走る。直後、列車から機関銃の攻撃が飛び、プレイヤーがやられていく。そして列車から砲撃も飛び、プレイヤーが吹っ飛ばされる。

砲声や銃声が飛び交い、さっきまで大勢いたプレイヤー達は一斉に消えてしまった。そして列車は何事もなかったかの様に走り出した。

 

「「「「…………」」」」

 

全員が絶句する中、キリトが叫ぶ。

 

「あ、あんなのやれるかぁ……!!」

 

するとユージオとアリスが聞いて来た。

 

「あれ……何?え?すごい強いね……」

「あれは……鉄の竜か何かですか?」

 

まぁ、今の砲撃を見て絶句するのも無理はない。何せ相手は装甲列車だ。並大抵の事じゃびくともしないだろう。だが、撃破できればその分の報酬も多い。だからこそ、その為に豹丸に追加防弾板を取り付けた訳だが……

 

「なに、豹丸にはミサイルポッドも重機関銃もある。前進する分には問題なかろう」

「「「「それ以前に敵が異常だわ(よ)!!」」」」

 

そこで総ツッコミを受けてしまうとシノンが横から話し出す。

 

「まぁ、無茶なのは分かるけどこれもユージオやアリスの為だったりするのよ?」

「「「「え?」」」」

 

思わずキリト達とユージオ達が反応するとマキナが答える。

 

「ええ、もしここでこの最難関ミッションをクリアすれば確実にネットに上がります。

その時にアリスさんやユージオさんが『一般の人たちと一緒にゲームをした』と言う記録を残せて、『より近い立場で接する機会があるぞ』と世間に訴えることができる。と言うわけです」

 

マキナの話に思わずフリューゲルを見る一行。そこまで考えていたのかと思っていると肯定の意を示す様にため息を吐く。

 

「まぁ…そんな所だ。大衆を味方につければ民主主義を唱える国ならば、国民の意見を聞かざるを得ない。

 

ならば、大衆を味方につけるにはどうするべきか。それは身近な存在として関わる機会が多ければ良いと言う事。

そこでインターネットの利点を活かす。

不特定多数の目に留まり、尚且つ普段からゲームをしている面々とやっていたと分かれば自然と関わりたいと思う人が増える。そうして心を掴めば国の方針に反対するものが増える。そう言う事だ」

 

長々と話したが、理解できた面々は改めて修也の脳の回転率に舌を巻いていた。そこまで考えていたのかと…

 

「そう言うわけだから、このミッションはできればクリアできた方が良い。そうは思わんか?」

 

そう言うと全員が頷いていた。ユージオ達の為ならと全員が頷き、フリューゲルの作戦を聞いた。



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間話#10 最難関ミッションⅡ

先ほどの襲撃から数時間が経った。ここの砂漠地帯のフィールドボスでもある『装甲列車ジークフリート』は真っ暗な平原を駆け抜ける。線路上を走るその姿はまさに鉄の竜だった。

 

 

 


 

 

 

線路上を走る怪物は砂漠の中の一本の線路を疾走していると突如線路から爆発し、先頭車が爆発に巻き込まれる。

列車が急停車し、機関銃や砲塔が動く。そして砂漠の中を動く影を見つけ、砲撃が飛ぶ。

激しい砂埃が立ち、視界が埋め尽くされる。

すると次の瞬間、土煙の中から銃弾が飛ぶ。

銃弾は列車の機関車の機関部を直撃、火を上げる。

その直後に煙の中から一両の車両が飛び出す。

 

ドォォン!!

 

放たれた105mm対戦車榴弾が最後尾の砲塔付きの列車に砲撃をする。機関銃の攻撃も追加装甲に阻まれ、戦車は手前の岩でバウンドすると最後方の空っぽの無蓋貨車の上にピタリと収まる。

 

「「「うらぁぁあああ!!」」」

 

そして戦車からキリトやアスナが飛び出し、列車に乗り込む。そしてキリト達と同じ様に列車に飛び乗ったフリューゲルが叫ぶ。

 

「急げ!!列車が出るまで時間がないぞ!!」

「「「「了解!!」」」」

 

そう言うとフリューゲル達は全員が列車に乗り込む。豹丸にはマキナとフリューゲルが残り、飛び乗った無蓋貨車に豹丸を括り付ける。

 

「ここからは接近戦だ!忘れるな!!目的は装甲列車全ての車両の制圧だ!」

 

直後にガコンッと言う音と共に慣性が働く。列車が動き出した合図だ。鎖でバッチリと繋いだ豹丸はびくともせず、ギリギリで列車に乗り込むことに成功していた。

 

 

 


 

 

 

フリューゲルが立てた作戦はこうだ。

 

①線路に設置した地雷で先頭車を吹っ飛ばし列車を止める。

②列車を止めた所でシノンの射撃で機関車を壊し、修復が終わって走り出すまでに豹丸が最後尾の砲塔を吹き飛ばして無蓋貨車に乗り込む。。

③キリト達を車内に乗せて中で接近戦をする。

④全ての貨車を制圧してミッションクリア。

 

大まかな作戦がこれである。なかなか博打な部分もあったが上手くいった。今頃キリト達が貨車で光剣や実体剣で敵を倒しているだろう。MG42を持ったストレアも居るから制圧射撃も問題ないだろう。そう思い、フリューゲル達は豹丸に鍵をかけると最前線に飛んでいった。

 

 

 

 

 

PKPを持って前線に向かうとそこでは激しい接近戦が繰り広げられていた。

 

「うおっ!あぶねぇっ!!」

「無理に突っ込むな!蜂の巣になるぞ!!」

 

そう言い、銃を持ったNPCが車内に突撃したキリト達を迎え撃っていた。現在、制圧した車両は三両。事前の地雷や豹丸を停めた無蓋貨車を引いても残り十一両残っている。中間の機関車までは後四両。とりあえずそこまで行けばあとは何とかなる。そこまで行ければの話だが……

 

「くっそぉ……狭くて近づけねぇ……!!」

 

ここは車内、それも軍用列車ということもあって動きがとても制限される。その癖相手は短機関銃や自動小銃で武装した装甲兵もいる。

 

「流石は最難関。相手も無駄に強いですか……」

「手榴弾!投げるわよ!」

「みんな伏せろ!!」

 

するとリズベットが手榴弾のピンを抜いて投げ込んだ。その直後にカンカンッ!と言う音と共に爆発音が炸裂する。相手が怯んだ瞬間を見逃すウチらではない。

即座に狭い車内を蛇の様に動き、突撃する。

 

「重装甲がナンボのもんじゃあ!!」

「うらぁぁああ!!」

 

光剣を持って突撃するキリトを筆頭にアスナやユージオ、アリスが突っ込み、それに続く形で他の者も突撃する。もはや乱闘だ。銃も使えないくらいの距離まで接近して喉元をキリト達が剣で突き刺す。車内の扉はシノンの銃撃で吹き飛ばし、ソフトスキン相手にはストレアやノーチラスなどの銃を持った面々が撃つ。

 

「うわぁ……すごい銃撃……」

「流石ですね……」

 

続々と攻略されていく車両を見ながらノーチラスとユナがそう呟く。その横でフリューゲルが呟く。

 

「まだまだ、中央の機関車まで辿り着いていない……始まってから四〇分。まだ半分も終わっていないと言うことは時間がかかるぞ……これ……」

 

 

 


 

 

 

そして八両目の制圧が終わった。やはり、ミッションの半分まで進んだと言う事でここで中ボスらしき敵と戦った。

 

「フルアーマーのミニガン持ちだなんて……聞いてねぇよ……」

 

肩で息をしながら片手に光剣を持ったキリトが言う。同じ様に他に面々もグッタリとした様子で八両目の天井のポッカリと開いた穴だらけの客車に座る。

 

と言うのもキリトの言う通り、ここに繋がれた客車に超重装甲の歩兵が片手にミニガンを持って此方を粉微塵にしようとして来たのだ。

毎分何千発もの弾丸の雨を降らせる狂気の武器に全員が一旦撤退を余儀なくされる所まで持っていったのだ。ストレアの起点で制圧した装甲車両の戦車砲を使って砲撃をしなければやられていただろう。

 

「いやぁ、怖かった怖かった……本当にね……」

 

どこか哀愁漂う雰囲気を漏らすユージオにアリスが駆け寄る。

 

「流石にあの攻撃は驚きました。まさかあの大砲で吹き飛ばすとは……」

 

そう言いながら客車の屋根を吹き飛ばした装甲列車の戦車砲を見る。さっきの砲撃で壊れてしまったそれは目の当たりにすると少しばかりの恐怖が生まれたが、動かないと分かると自然と怖く無くなった。一旦休憩をしているとそこでクラインがフリューゲルに聞く。

 

「なぁ、この先は何があんだ?」

「この先は機関車だ。ここでようやく半分だ」

「げっ!ここでまだ半分なのかよ……」

 

そう呟き、キリトが思わず時間を見る。現在午後八時、このミッションを開始してからおよそ一時間が経っていた。

ここでようやく半分である。単純計算で残り半分を攻略するのに一時間。宇宙戦艦の装甲板を使用した盾を持ってマキナが突撃して前線を張っていたが、疲労は溜まっていた。

 

「さ、行くぞ。グズグズしても時間が過ぎるだけだ」

 

そう言い、フリューゲルは機関車に繋がる扉を開ける。走行中の風が吹き、連結部分の柵が見える。走行中と言うこともあり、連結部の下にある線路が恐ろしい速度で過ぎていた。

 

「……」

 

フリューゲルが最初に機関車の柵に飛び、安全を確認する。するとそこで安全域を示す表情が現れ、此処が安地であることを示していた。

 

「安地狭すぎだろ!!」

 

続いて来たキリトがそう叫ぶ。確かに狭い。それに走行中と言うこともあって怖い。目の前をトンネルで突っ走った時なんか恐ろしい。

フリューゲルを先頭に進み、通路を周って次の車両に移動しようとした時……

 

キキーーッ!!

 

と言う甲高い音と共に曲がりカーブで列車が急停車する。カーブの外側にいたフリューゲル達はそのまま慣性の法則で外の砂漠に投げ出される。

 

「ワブッ!!」

「ごはぁ!!」

 

全員が投げ出され、砂漠に飛ばされる。いきなりの事に全員が困惑しているとフリューゲルが叫ぶ。

 

「っ!!みんな逃げろ!!砲撃が来るぞ!!」

 

そう叫び、キリト達は旋回する装甲列車の砲塔を見る。戦車を流用した120mmの砲口がこちらを向き、咄嗟に全員が散った。その距離およそ二〇メートル。砲撃ができる距離だった。

 

ーードドドドドドドォォォォンンンン!!!

 

四両八門の斉射が砂漠を吹き飛ばす。ついでに機関銃の銃撃も始まり、装甲列車が攻撃を仕掛けてきた。

咄嗟に全員が丘陵の裾野に隠れ、砲撃をやり過ごす。立ち上がる土煙が頭上に降りかかり、全員が砂まみれになる。

 

「ゴホッゴホッ!……おい!

 

列車が急停止したぞ!!

 

それで俺たちが吹っ飛ばされたぞ!!

 

そんでもって列車からの砲撃が飛んできたぞ!!

 

 

 

取れ高飛ばし過ぎじゃない……??」

 

キリトのツッコミに全員が苦笑いするしかない。それほどまでに今までの出来事はぶっ飛んでいたからだ。普通思わないだろう。列車が急停車して自分たちを砂漠に吹っ飛ばすとは……

止まない砲撃の中、フリューゲルは顎に手を当てて考える。

 

「……一旦豹丸を取りに行こう…まずはそれからだ」

「誰が行くの?」

 

リズベットの問いにフリューゲルは即座に答える。

 

「私とマキナで行く。あとはここで耐えるか、可能なら列車に近づいてくれ。列車もここに敵がいると分かれば動かないはずだ……」

「オッケー、じゃあ列車に近づくのは……キリト。お願い」

「ぶえぇぇええ!!うっそぉぉおお!!」

 

リズベットのいきなりの指名に驚愕するキリト。そしてキリトが思わず恐る恐る砂丘から少し顔を覗かせると……

 

ダダダダダダダダダッ!

 

「ぬぉわぁあ!!」

 

頭上を弾丸か掠めていた。即座に滑り落ち、戻ってきたキリトは開口一番

 

「あんなのにどうやって近づくんだよ!!」

 

と叫んでいた。そんな叫びにフリューゲルがキリトにあるものを投げる。

 

「これを使え」

 

そう言い、投げたのは発煙弾だった。BoBでも使ったその武器にキリトは使い方を模索する。

 

「それで視界を切れば簡単に行けるだろ。じゃあ、こっちは行ってくる」

「あ、ちょっと!!」

 

そう言い、アスナのかけ声も虚しく二人は砂丘の中に消えていった。残されたメンバーは呆然とするも、シノンが声を上げる。

 

「……仕方ないわね…」

 

半ば諦めた様子を浮かべながらシノンはへカートを持って構えると指示を飛ばした。

 

「キリト、二時方向に発煙弾を投げて」

「りょ、了解」

 

そう言い、キリトが投げると発煙弾が作動し、一面を煙幕で包み込む。

 

「援護するから。その間にみんな前進!!」

「え、でも……」

「早く!!」

 

シノンの叫びにキリトは敬礼もどきをしてしまった。

 

「りょ、了解っす!!」

 

するとストレアがマーチングファイアをしながら裾野から飛び出した。

 

「yapaaaaaaaaaa!!」

 

ストレアの声に合わせて一斉に全員が丘陵から飛び出す。ストレアの後をキリト、アスナ、ユージオ、アリスが走り、その後ろを銃を持った面々が追従する。

 

「「「「「わあぁあぁああぁぁぁああ!!」」」」」

 

半分ヤケクソで走る中、空中で爆発が起こる。

 

「え!?何!?」

「シノンさんの援護です!投げた手榴弾に弾を当てているんです!!」

 

その爆発に驚愕するリズベットにストレアが指摘をする。それを聞き、『流石っすシノンさん!!』と言いながら最前線で銃弾を切るキリトとアスナ。

そして二人の真似をしているうちにいつの間にか弾丸切りを取得しているユージオとアリス。爆炎の中を突撃するその姿はなかなかに映えていた。そして全員が突っ走り、列車の下にスライディングをする。流石にここは大砲も機銃も仰角が足りず、ある種の安全地帯となっていた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…んで?この後どうするよ。シノン」

 

肩で息をしながらそう聞くクラインにシノンは上を見ながら少し考えたのちにこう提案する。

 

 

 

「……このまま登れるかしら?」

 

 

 



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間話#11 最難関ミッションⅢ

まさかここまで続くとは思わなんだ。


「……このまま登れるかしら?」

 

シノンの呟きに全員が驚愕する。何を言っているんだこの人はと。

するとシノンは至って真面目に自分の案を語る。

 

「ほら、クライミングの容量でさ……こう…何と言うか……」

「「「「「「……………」」」」」」

 

思わず全員が上を眺める。車体の側面から出ている防楯や銃身。砲身を見ていると行けなくもなさそう……?な気がした。

 

「……行くしかないか…」

 

少なくとも多数の機関銃に砲を向けられては列車に乗り込む方法はそれしかない。キリト達は機関銃の斜角に入らないように銃身に足をかけて登る。同じ様に他の者達もキリトを見て、完全に登ると次々と移動を始める。

シリカは巨漢のエギルに肩車されて簡単に列車の屋根に登っていた。

 

「「「はぁぁぁあああ〜〜〜」」」

 

全員が屋根に登り、ホッとしているとシノンが後ろを見ながらふと呟く。

 

「……そろそろ来てもいいと思うのだけれど…」

 

豹丸を取りに行ったフリューゲル達はどうしているのだろうかと思っているとシノン達にメッセージが届く。

 

「……先に客車の制圧を頼むだぁ?」

「行きましょう、どうせ何かやっているんだろうし……」

 

腹黒い事に関してはここの界隈では有名なフリューゲル。きっと何か仕掛けをしているんだろうとリズベットが言うと全員が納得し、武器を持って機関車前の客車を見る。

 

「……行けるか?」

 

そう呟くとキリトは持っていた光剣を屋根に突き刺す。

 

「キリト…何をやって……」

「いや、ここから直接降りられるかと思ったが……正解らしいな」

 

キリトの意思に気づき、ユージオもまた屋根に光剣を突き刺す。

 

「キリト、手伝うよ」

「ありがとう、ユージオ」

 

そう言い、キリトとユージオは息ぴったりで円を描く。そして二人が半円を描き、屋根に丸い穴ができると金属板が落っこち、その瞬間に中に一斉にキリト達は突っ込んでいった。

 

 

 


 

 

 

現実世界に来てからと言うもの、色々と新しい技術に触れてきたユージオ達は毎日が忙しかった。

自動車を鉄馬車と呼んだり、航空機を鉄竜なんて呼んでいたり、ビル群を見てセントラルカセドラルが一杯……なんて言っていたのでちょっと面白かった。だが、現実世界で彼等が神聖語と言っていた英語を二人はよく覚えている。まるで水を吸い続ける砂の様に……。

二人に英語を教えている身だが、二人はそこら辺の人よりも物覚えが良いかもしれない。いずれは帰還者学校に入学させて交流を深めるのも良いかもしれないと思いつつ、フリューゲルは停車中の豹丸の鎖を解く。

 

「マスター!出しますよ!!」

「了解」

 

けたたましいエンジン音と共に豹丸が貨車から滑り落ちる様に動き出す。それに飛び乗る様にフリューゲルは豹丸の砲塔上部に乗り込む。

 

「マキナ、キリト達の援護だ!」

「わかっています!!」

 

そう言い、豹丸が走り出し。フリューゲルは砲塔後部の重機関銃座に入り込む。すると列車の中央部の機関車から汽笛が鳴る。それを聞いた二人はやや顔が険しくなる。

 

「列車が動きます…!」

「並走しろ!」

「はいっ!」

 

指示を飛ばし、キリト達のいる十一号車に移動を始める。ゆっくりと動き出した列車は次第に速度を60キロまで上げた。その横を豹丸が砂丘に乗り上げながら並走する。機関銃の攻撃が飛んで来るが、中にキリト達がいる影響か、さっきよりも弾幕は薄かった。

 

 

 

宇宙戦艦の装甲板で覆われた防楯や増加装甲は高い防御性能を豹丸に与えていた。しかし数が足りなく、まだ車体は丸太をくくりつけたままだが、フリューゲルの算段ではこの装甲列車を倒せば車体を覆える分の装甲が手に入ると考えていた。

 

「主砲!三時方向!対戦車榴弾!撃て!」

 

ドォォン!!

 

砲塔が回り、装甲車両を砲撃する。至近距離の榴弾の攻撃で貨車の側面に大穴が開く。煙が上がる中、車両の中からキリト達の怒声が無線機越しに聞こえた。

 

『ーーーこのドアホがぁああ!!巻き込んだらどうすんだ!!』

『ちょっと!こっちまで巻き込まないでよ!!危なかったじゃない!!』

 

その声を聞き、フリューゲルは涼しげな顔で言う。

 

「その様子なら問題ないな」

『『何処がだ(よ)!!』』

「それよりも……()()の排除が優先だ。頼む」

 

そう言い、視線の先にある物を見た。それを穴から見たキリトが思わず呟いてしまう。

 

「げっ、ミサイル……!」

 

そこには多連装のミサイル発射筒があった。それを確認したフリューゲルが無線機越しに言う。

 

『アレの排除を頼む。出なければこっちからの援護も出来ない』

 

実際、ミサイルの攻撃を避けながらフリューゲルが言う。余裕そうにも聞こえるが、重機関銃で迎撃をしているあたりギリギリなのがうかがえる。

目の前で吹き飛んで生きた心地がしなかったが、105mm砲の援護は非常にありがたいキリト達は要請に応える。

 

「了解。ミサイルはこっちでなんとかする。それまで何とか耐えてくれ」

『頼むぞ』

 

常に無線はオープンなので二人の会話は全員に聞こえていた。キリトは通信を終えるとシノンが手を上げた。

 

「ミサイルは私がやる。だから他のみんなは前に行って」

「ああ、任せる。シノン」

「あ、じゃあ私はシノンさんの援護をします!」

「僕も、付いて行きます」

 

シノンの護衛としてユナとノーチラスが名乗り出る。残りのメンバーは残りの車両を制圧する為に前進する事となった。キリト達例外を除き、ここにいるメンバーは殆どが銃を持っている。

リズベットが散弾銃を。シリカ、ユナが短機関銃。クライン、ノーチラスが自動小銃。エギル、ストレアは汎用機関銃を。それぞれ持っていた。

それぞれ性格が出ていると思いながらキリト達は車内を走り出す。ミサイル発射筒攻略と、車両制圧の二チームに分かれたキリト達は行動を開始する。

 

 

 


 

 

 

現在十二両目を攻略中のキリト達はもはや定番の砲塔付きの装甲車両に乗り込み、制圧をする。機関車の前半分とは違い、後ろ半分は敵が強化され、ある程度の装甲を持った敵が短機関銃や自動小銃片手に車内で派手に銃撃を行う。相手に装甲があると言うこともあり、シリカやリズベットの手榴弾もあまり効果が出ない。なので狭い環境を生かしてキリト達が接近戦を仕掛けて一人ずつ制圧をしていた。

 

「全く、こんな時に神聖術が使えれば……」

 

ふとアリスが口にした言葉に思わず賛同してしまう。魔法という概念が存在しないこの世界。相手を倒すための遠距離攻撃が狙撃銃しかないため、非常に不便だ。アリスが放ったあの神聖術が使えれば一撃なのに……あ、でもアレだと自分たちも巻き込まれるか……

キリトはそんな風に考えながらまた一人、飛び出してきた装甲兵を切り裂く。段々と制圧にも慣れてきて手際が良くなってきた一行。因みに回復も入れているので恐ろしい出費が出ているだろう。と思いつつ、キリトはこのミッションの目的を思い出す。

 

『一緒にゲームをした記録を残し、交流を深める』

 

相変わらず策士だと舌を巻きながらフリューゲルの顔を思い浮かべる。能ある鷹は爪を隠すを体現した様な彼は、菊岡以上にアンダーワールドの事で考えているんだ。と思ってしまう。現実世界でユージオやアリスを守る為に奔走していたのは凛子さんから聞いた。自分が作った世界だからと言うのもあるかもしれないが、実際はおそらく……

 

 

 

 

 

そう考えたところでユージオが声をかけてきた。

 

「大丈夫かい?キリト?」

「ん?あ、あぁ…大丈夫」

「何か考えた様な顔をしてたけど……」

「ん?ああ、気にすんな。こっちの話だから」

 

そう言い、表情を柔らかくしながらそう応える。少なくともこの世界に来て日も浅いユージオ達には話しても分からない事だ。それを察したアスナも同じ様に話題を変える為に目の前の事に集中させる。

 

「さ、行こう。そろそろシノノン達が来るはずだから……」

 

そう言った瞬間。列車に振動が走る。

 

「うおっ!?」

「きゃっ!!」

 

突然の揺れに思わず手すりにしがみつくキリト達。何があったのか何となく予想しているとシノンの公開通信の声が聞こえた。

 

『ーーーフリューゲル、ミサイル発射筒を制圧したわ』

『こっちでも確認した……キリト。今何処だ?』

「今は十三両目に入る扉の前だ!」

 

そう叫ぶとフリューゲルからまた通信が入る。

 

『一旦引け、目の前を吹き飛ばす』

「はいよ……みんな下がれ!」

 

そう言い、キリト達車両制圧組は下がると豹丸からの砲撃が飛び、さっきと同じ様に車両の壁に大穴が空き、強い風が吹き込む。

キリト達が煤だらけになりつつも、吹き飛ばされた穴から一斉に突撃した。

 

 

 

 

 

少し時間が戻り、キリト達と別れ、ミサイル発射筒制圧を目的のシノン達は並走する豹丸を攻撃する根源を見つめる。

 

「あれね……」

 

何両も先にあるミサイルサイロを見つけたシノンは制圧した車両のキューポラから顔を覗かせてへカートを構える。ミサイルが飛んでいくのを目の当たりにし、車両の強い向かい風を感じているユナとノーチラスは同じ様に車両の砲塔のキューポラから顔を覗かせて遠くにあるミサイルサイロの蓋を見る。

 

「凄いな……皆んな」

「そうだね…」

 

ここに居るメンバーで二人だけが大学生だ。帰還者学校で同じ学年にはならず、ノーチラスはユナの実父の重村教授のいる大学に進学していた。

なのでゲームや時々現実世界です関わりのない二人はキリト達の連携に舌を巻いていた。

 

「やっぱりフリューゲルがいると変わるのかな?」

「どうだろう?これは皆んなの力だと思う気がするけどね」

 

そんな会話をしながら二人は狙撃をするシノンを手に汗を握りながら見ていた。

 

 

 

 

 

シノンはミサイルサイロをスコープ越しに見ていた。距離は約100メートル。絶対外さない距離だ。しかし、ミサイルサイロを早急に制圧する必要があり、できれは一発で一網打尽にしたいシノンは息を整える。

 

「ふぅーー………」

 

狙うはミサイルが発射された瞬間、そこに12.7mm弾を貫通させる。蓋が開いているから発射されるのも時間の問題。並走する豹丸も徐々にではあるがダメージが蓄積されている。急がなければならない。

しかし、焦る必要なない。狙撃手は常に落ち着く事が重要だからだ。

そして……

 

「(……来た)」

 

煙が上がり、炎を灯しながらミサイル発射筒から小型ミサイルが飛び出す。弾頭部が見えた瞬間。

 

ーーードォォン!!

 

へカートの引き金が弾かれ、発射された弾丸がミサイルを貫通。中の火薬に引火して誘爆。周りにも延焼し、サイロごと吹き飛ばされる。衝撃波と熱線が当たり、嫌な暖かさが顔面に伝わる。その光景を目の当たりにし、シノンは通信機に手を当てて並走する戦車に乗り込んでいる恋人を見ながら話す。

 

「フリューゲル、発射筒を制圧したわ」

 

返って来たのはいつも通り淡々とした声だった。



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間話#12 最難関ミッションⅣ

「ーーそろそろか」

 

装甲列車を見ながらフリューゲルが呟く。かれこれ三時間は経過している最難関ミッション攻略戦。十七両あるうちの既に十五両が制圧された。列車の側面には幾つもの大穴が開き、火花が散っていた。

 

「守備はどうだ?」

『こっちは良好。シノンの方は?』

『問題ないわ』

 

現在三つのチームの分かれて攻略をしている我々。一つは列車内を攻略するキリト達αチーム、屋根伝に砲塔の直接撃破を狙うシノン達βチーム。列車に並走してキリト達の支援をする自分達cチームに分かれていた。

キリト達の上を走るシノン達を見ているとキリトから通信が入る。

 

『フリューゲル!敵が多い。十六両目の真ん中を撃ってくれ!』

「了解した」

 

豹丸の中に入り込み、照準を合わせたフリューゲルは引き金を引く。真横で排俠する音が響き、空薬莢が砲塔内に転がる。

普段は消耗品扱いの空薬莢だが、砲弾ともなると弾薬ショップに行けばリローディングができる様に設定されていた。おかげで空薬莢もアイテムとなってフリューゲルのストレージに溜まっていた。

 

榴弾の爆発で吹き飛んだ装甲面を凝視しつつ、キリト達が生き残ったNPCを倒しているのを確認する。

 

「もういいだろう……」

 

現在使用した砲弾は六発。まだまだ残弾はあるが無駄撃ちはしたくなかった。それに、残す車両も後一両。フリューゲルはマキナに指示を出す。

 

「飛び移る。列車に近寄ってくれ」

「はいはい、了解でーす」

 

そう言うとマキナは丁寧に列車に明けた大穴に近づく。速度を同じにし、飛び移りやすくするとスタントマンの様にフリューゲルは列車に乗り込んだ。

 

「よう、スタントマン見たいだったぞ」

「そりゃどうも……あと一両か……」

「ああ、やっとこさここまで来たぞ」

 

そう言い、フリューゲルとキリトは最後尾の車両に繋がる扉を見る。最後と聞き、全員が息を呑んだ。ここまで来るのにかなりの出費をした。ここで勝たなければ今までの苦労が水の泡と化す。負けられない理由があった。豹丸が離れたのを確認するとフリューゲルは上にいるシノンを見て言った。

 

「チームを二つに分ける。ストレア、クライン、シリカは上に上がってシノンと一緒に動け」

「「「了解(です)」」」

 

そう言うと三人は屋根に上がる。風が吹き、体勢が崩れそうになるが、無理やり整える。

 

「シノン、上から援護を頼む」

「了解、援護すれば良い?」

「ああ、それでいい」

 

確認をとり、準備が完了する。

 

「よし、初めに吹き飛ばす。離れてろ」

 

そう言い、フリューゲルは片手にアンツィオ20mm対物ライフルを出す。2メートル以上あるデカさの銃に驚くユージオとアリス。そしてその大きさに改めてドン引きするキリト。

 

「うわぁ……やっぱでけぇ……」

「これがゲームならではのロマンでもあるさ」

 

そう言い、フリューゲルがボルトを引いて薬室に20mm弾を装填する。

 

「……行くぞ」

「「「「「……」」」」」コクッ

 

ーーカチンッ…ドゴォォオン!!

 

引き金を引いた直後。凄まじい反動が伝わる。零距離射撃で放たれた20mm対物ライフルは扉を粉砕し、その奥にいた雑兵諸共吹き飛ばす。その瞬間にキリト達が我先に突撃する。

フリューゲルも負けじと懐に常に携帯しているヒートホークを取り出す。

巡洋艦の装甲であればバターの様に切れるヒートホークを持って車両内を前進する。

 

ダダダダダダダダダッ!

 

中にいた装甲兵の銃撃も訓練で最近できる様になった弾丸斬りをしながら前進する。その上ではシノン達が走り、先に車両上部を制圧。そこから入り込んで後方に回り込んでいた。

 

「このまま突っ込め!!」

 

前後を挟まれ、戦力が半減した所を畳み掛ける。一人、また一人と撃破していく。

さっきまで十人ほどいた敵も遂に……

 

「おらぁぁぁあああ!!」

「はぁぁあぁああ!!」

 

キリトとユージオが互いに剣を持って前に突き出し、最後の敵の腹を貫く。敵がポリゴンと化し、消滅する。

敵が居なくなった車両の中で全員がグッタリと床に座り込んだ。

 

「「「「「おわったぁぁ〜〜……」」」」」

 

グッタリと倒れ、一息吐く流石は攻略者の居ない最難関ミッション。ここまで来るのに二時間以上かかっていた。

だが、これでミッションも終了になるはずだ。全ての車両を制圧したから………

 

 

 

その時、フリューゲルは引っ掛かりを覚えた。確かに全車両制圧をした。しかし、本当にそうなのか?

 

 

 

 

 

そう考えた時だった。突如、列車の速度が上がり出し、キリト達は車両の後ろに転がってしまう。

 

「うわっ!?」

「なんだ!?」

 

驚愕していると外にいるマキナから通信が入った。

 

『マスター!列車の速度が上がっています!』

「ああ、やっぱりかクソッタレ!」

「ど、どう言う事だ!?」

 

フリューゲルの発言の疑問に思うリズベット。するとフリューゲルはこう答えた。

 

「ミッション完了は『全車両の制圧』。つまり、制圧は終わってないって事だ」

「ど、どう言うことよ!!」

 

リズベットが訳がわからないと言う表情を浮かべるとキリトが呟く。

 

「まさか……機関車か?」

「!?」

 

キリトの呟きに全員がハッとなる。あそこは安地だったからそのまま通過してきた。だから中の制圧はしていなかった。

 

「なんと言う失態だ……」

「フリューゲル!」

「ああ、行くぞ!」

 

フリューゲルとキリトは目線を合わせて走り出そうとするとそこにアリスとユージオが名乗り上げた。 

 

「わ、私もいきます!」

「僕も行くよ」

 

そう言うわけで四人は元来た道を戻り、機関車まで走り出した。その後ろをよろめきながらも他のみんなも追いかける。

走っている途中、マキナから再び通信が入る。

 

『マスター。このままだとあと五分で列車がカーブを曲がりきれずに脱線します!』

「そうか…」

 

右上にタイマーが現れ、制限時間が設けられる。それまでに機関車の速度を落とさなければ漏れなく全員ここで死んでしまう。ここまで来てミッション失敗なんで惜しすぎる。何としても機関車に辿り着かなければ……!!

すると目の前に残敵が現れ、銃の引き金を引いた。全員が避ける中、自分はPKPを持ってそのまま真っ直ぐ突撃する。

 

「邪魔だぁぁあああ!!」

 

ダダダダダダダダダッ!

 

汎用機関銃が火を吹き、生き残っていた残敵を掃討する。そしてそのまま体を押し除け、列車から突き落とす。

 

「う、うわぁぁあああぁあ!!」

 

悲鳴を上げて突き落とされたNPCを見て思わず顔を顰めるユージオ達。先の戦争でモンスターを狩ってきた二人にしてみれば人を殺し事にやはりまだ抵抗があるのだろう。価値観の差を感じつつも、ミッション達成の為に体術で襲ってきた相手を蹴り落とす。

そして猛速球で走り、揺れる列車を火花の散る通路を駆け抜け、機関車部分にたどり着く。片手に拳銃を持ち、真っ先にフリューゲルが扉を開けて中に入る。幸い中は無人の用で、目一杯前に倒されたマスコンがあるだけだった。

 

「揺れるぞ。何かに掴まれ!」

 

そう叫び、フリューゲルはマスコンを思い切り手前に引く。金属の擦れる音と火花が車輪から散り、列車全体が大きく揺れる。

 

「ふんぬぅぅぅううう!!」

「ぬおぉぉおお!!」

 

キリトやユージオがやや汚い声をあげて堪えながら列車が止まるのを祈る。時間はギリギリ、このまま盛大に脱線して砂漠にほっぽり出されるかギリギリ生き残るか。あとは運任せである。

激しく揺れ、軋む列車。元々豹丸の砲撃で穴だらけの前方車両。この勢いなら車両が破壊されてもおかしくないのだが、持ち前の重装甲がそれを防いでいた。

 

「ひぇぇええ……こええぇぇええ」

「これ、壊れない?大丈夫?」

「わからん」

「分かんないって……」

 

機関車にいる四人が心配になりながら列車が止まるまで気を緩めない。徐々に下がっていく速度計を見ながらフリューゲルは冷や汗をかく。

 

50キロ……40キロ……30キロ……20……10……5……

 

 

……0

 

 

 

揺れが収まり、速度計が0を示す。キリトが最初に徐に握っていた手すりから手を放す。するとフリューゲルやキリト達の目の前に半透明の画面が現れる。

 

 

 

 

 

『ミッションクリア!!』

 

 

 

 

 

端的に書かれたその文字が現れたあと、恐ろしい量の経験値とアイテムがポップする。中身がどうであれ、取り敢えず全員が肩を組んで喜びをあらわにした。

 

「「「やったー!!」」」

 

キリト達が肩を組んで喜び、フリューゲルもホッとした様子で機関車の椅子に座り込んだ。

 

「終わったか……」

 

そう言い、ホッとしながら機関車を降りるとそこではすでにアスナやシノン達が外で待っていた。

 

「やりましたね!!」

「おう、無事だったみたいだな」

「あたぼうよ」

 

そう言い、全員で喜びを露わにし、そこでノーチラスがリザルトを見ながら呟く。

 

「しかし、すごいですね。こんなに経験値が……」

「アイテムもすごいよ」

 

そう言い、ややはしゃいでいる様子の皆を見ているとシノンが声を掛ける。

 

「危なかったわね……」

「ああ…だが、ミッションは達成した。あとは……」

 

フリューゲルはコンソロールを動かすと写真撮影のボタンを押した。

 

「みんな、記念に写真を撮ってもいいか?

あと、知り合いに記事を作ってもらうからこの写真を使ってもいいか?」

「「「「「いいよ〜」」」」」

 

全員の許可はもらった。後は写真をいい角度で撮る為に良い場所を……

 

 

 

 

「撮りますね〜」

「「「「「いえ〜い!」」」」」

 

十四人全員が撃破された装甲列車の前で、豹丸と共に写真を撮る。七人ずつの二つのスコードロンで構成されているフリューゲル達はマキナの設置したカメラに向かってピースをする。その表情はとても満足げで、スッキリとしていた。

 

「3…2…1…」

 

 

パシャッ!

 

 

 

十四人全員が笑顔でシャッターが切られ、データはマキナの手によってそれぞれの携帯に送られる。ここにいるシノンと自分以外は全員が顔はそのままに近いので、少々写真をボカしてアルゴに送るつもりである。既に記事は書き終えているはずなので後は明日のMトゥデを確認するだけだ。

後やることとすれば……

 

「どうすっべ?この大量のアイテム」

「どうするって言ってもなぁ……」

 

そう、大量にポップされたアイテムの整理だ。十四人という大人数だと言うには恐ろしい量のアイテムがドロップされた。初めての攻略ということもあってボーナスが加算されていた。

 

「うわぁ……エッグいなぁ……」

「どうせウチら長く遊ばないから全部フリューゲルに渡せば良いんじゃない?」

「お、それ良いな」

「……良いのか?」

 

思わずフリューゲルが聞くとキリト達は当たり前と言った様子でアイテムを渡してくる。でも確かにキリト達がGGOで遊ぶ期間はALOに比べれば恐ろしく少ない。だったらGGOメインで遊んでおる人に渡すのがアイテムも有効活用できるだろうという考えなのかと思いながら、四人に渡されていくアイテムを眺めていた。そしてその内の一つ、『装甲列車の装甲板』というものを押して、オブジェクト化する。

 

「お、おぉ……」

 

現れた黒塗りの長方形の板を見て、思わず息を呑む。装甲列車の装甲板はゲーム内最強の硬さを誇る『宇宙戦艦の装甲板』に匹敵する硬さを誇ると言われているものだ。徐にオブジェクト化した装甲板をそのまま豹丸の車体に取り付ける。追加装甲だが、装甲板は後一枚ある。それは反対側につけるとして、なんとなくⅣ号戦車のH型見たくなった豹丸を見てリズベットが思わず呟く。

 

「うわぁ…なんかゴテゴテしてるわね」

 

今回のミッションの為にミサイルポッドも取り付けており、武装装甲共にマシマシである。それも原型がなんなのか分からなくなるくらいには……

写真を撮り。これで解散となる筈だが、装甲を取り付けるのを相談しているといつの間にかそれで盛り上がっていた。

 

「……さて、そろそろ帰るか」

「お?もうそんな時間か?」

 

キリトがそう言い、時間を見ると午後十一時。そろそろ解散の時間だった。

 

「今日はありがとう。こっちの用事にわざわざ来てくれて」

「良いってもんよ、楽しかったしな」

「そうそう」

「また、何かあったら呼んでくださいね」

 

そう言い、装甲をつけてさらに改造を施された豹丸をに乗り込みながらクライン達が言う。確かに、今日は楽しかった。

帰りもミッションクリアをした話や、ユージオ達の最近の話などで盛り上がりながら帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

後日、ユージオ達がGGO最難関ミッションをクリアしたニュースはネットで大きな話題を呼ぶのだった。




疲れたのとネタ切れで投稿頻度が激落ちします。


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間話#13 夏の約束

夏休みも終わりの頃

中央自動車道

 

夏の残暑が未だに残る八月下旬。高速道路を一台の車が疾走していた。

 

「まったく、ここ時期でも暑いな……」

 

車の中でそう語るのは赤羽修也であった。春先に学校に内緒で車の免許をとり、ついでに車も中古で前々から欲しい物を買っていた。車種はボルボ・PV544、旧車だが修也が前から欲しいと思っている物であった。

学校の校則では自動車免許を取ると大目玉を食らう。何でバイクはOKなのか、これが不思議だ……。

 

「まあまあ、これから行く場所は涼しいんでしょ?」

 

助手席で答えるのは修也の彼女である朝田詩乃であった。

 

 

 

二人は前々から約束していた富士山の麓のキャンプ場に気分転換と遊びに来ていた。今回は二人だけでの外出であり、マキナとストレアの姿は無かった。まぁ、居ないと言っても二人の機体を持って来ていないだけでいつでも車の端末や修也のAR端末には入って来れるので横にいる様な感覚ではある。

 

「まったく、ここ最近は暑すぎてかなわんな」

「そうね、特に最近は色々と忙しかったでしょう?」

 

修也は特にユージオとアリスを作った張本人である。彼らを入れる器を造った責任者として修也は二人の参加するパーティに後方担当として付いて行く事もあった。ただ、日本では学生の身分というラースでも特殊な立場であるが故に学業の方を優先すべきであると代表のあのイケすかない官僚が判断したので数えるほどしかそう言った仕事をしていなかった。

 

「忙しいか……そうだな。確かに、この夏休みは色々と忙しかったな……」

 

思い出すのはラース……主にアンダーワールドでの出来事だ。その後、修也の生活は大きく変わった。

彼の開発した技術は新たな命を生み出し、世界が注目している。彼の血縁に一万人をネットの檻に取り込んだ悪魔の科学者がいようと、それはあくまでも社会的な意見に過ぎない。ただ赤羽修也という人物が生み出した技術でしかないのだ。

 

「疲れた?」

「そうだな。このキャンプで精一杯息抜きをしたい所だ」

 

和人が言うにはSAOで初めて会った頃よりも健康的で機械的ではなくなったと言う一人の青年はほんの少し口角が上がるとハンドルを回して高速を降りて下道に入った。

 

 

 

 

 

高速を降りて数十分後、富士がよく見えるキャンプ場に到着した二人はそこで車を降りた。

 

「到着したか……」

「うわぁ……」

 

車の後ろに二人分のキャンプ用具一式を積み込んでおり、その分の食材は寄り道した道の駅で購入していた。そして到着した矢先、その絶景に驚く。

 

「富士山がよく見えるわね」

「そうだな……」

 

視線の先に映る絶景。世界百名山にも選ばれる日本の象徴とも言える富士山、その堂々たる威容が眼前に広がっていた。

 

「絶景だ……」

「本当ね……」

 

運が良いことに今日のキャンプ客は疎で良い景色が拝めた。

 

「さ、準備をしよう」

 

景色に見惚れていてはあっという間に夜になる。今日な夏休みも終盤に近いど平日。だからあまり人が居なかったのかも知れない。

 

「手伝ってくれ」

「うん」

 

取り出した組み立てテントを修也と詩乃は共に建て始める。骨組みに布を通し、修也の慣れた手つきであっという間にテントは完成した。

 

「よし、テントはこれで完成だな」

「後は焚き火?」

「そうだな……」

 

しかし焚き火をするのも面倒だと思っているとそんな修也の考えを見透かして詩乃が釘を刺すように言う。

 

「せっかくキャンプに来たのなら焚き火で料理した方が良いんじゃない?」

「……そうか」

 

修也は詩乃にはとことん甘いのは和人達の知るところではある。そしてその事も詩乃は知っているからこそ焚き火を所望したのだ。

 

「準備しよう。そこら辺の松ぼっくりと薪を探そう。あと枝とかを……」

「わかった」

 

そうして二人は森の中を散策し、地面に落ちている枝やキャンプ場にあった薪を少々貰って来た。

 

「よし、これくらいで良いだろう」

 

石で焚き火を組み、そこに新聞紙と吸って火のついたマッチを放り込むと焚き火に火がついた。

薪に残った水分の弾ける音がしばし聞こえ、火の勢いは強くなっていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「いいなぁ…キャンプかぁ……」

 

ここはALO内のキリトの家。そこでアスナがふと呟く。今日ここにブレイドとシノンは居らず、二人は夏休み最後にキャンプ場に旅行に行っていた。

 

「良いだろう。こっちもキャンプしてるようなもんだし」

「富士山でって言う意味よ。やっぱり本物には敵わないから」

「……」

 

キリトはそこで黙り込んでしまう。元々聞いていた話ではあったが、アスナはどうしても二人でキャンプに行く事に羨ましく思っているようだ。

 

「ねえキリトくん。今からキャンプ行くのとかってどう?」

「えぇ……」

「えぇって何よ」

「いやぁ、俺そこまで料理とか出来無いし……」

 

するとアスナは画面を動かしてキリトに見せる。

 

「最近はグランピングって言う元々いろんな設備が整ったキャンプもあるんだって。これなら行けそうじゃ無い?」

「それってキャンプなのか?」

 

もはやホテルレベルに豪華な写真を見せられ、キャンプなのかと首を傾げるキリトであるがアスナは乗り気な様子でキリトに聞く。

 

「まだ学校が始まるまで時間があるし予約も空いていそうだよ」

「待て待て待て!本当に行くのか?!」

 

キリトはノリノリのアスナに驚いているようで、少したじろいていた。しかし、アスナはそんな彼に問いかけるように聞く。

 

「何その反応?行きたく無いの?」

「い、いやぁ…俺はキャンプとかそんなに得意じゃ無いし…と言うかそもそもあんまり料理できないし……」

 

キリトの料理レベルは最低限に物であり、かろうじて一人暮らしができるだろうレベルのものだ。まぁ、これはあまり家から出たく無いキリトなりの言い訳なのだが……。

 

「大丈夫大丈夫。料理は私が全部やっておくから」

「でもなぁ…色々準備とか必要だろ?それに時間もあるかどうか……」

「キリトくんってこのあと特に予定ないって聞いているけど?」

「……」

 

キリトは内心妹の顔が思い浮かんだ。家族の中でも教えたのはあの人だけだろう断言できる。

 

「あっ!これとか美味しそう!ねえ見て」

「ん?」

 

そう言って見せてきたのは詩乃のメッセージ画面であった。そこに添付された写真を見てアスナが言う。

 

「こう言うの作ってみようかな……」

 

写真にはチーズや野菜を盛り込んだグラタンの写真が映され、楽しげな様子が映されていた。

 

「いいなあ〜」

 

その写真を見ながらアスナは少し羨ましそうにしていた。

 

「ブレイドってよくよく考えると何でもできる最強の人じゃない?」

「うーん、確かしそうだな……」

 

ブレイドはゲームでも現実でも色々とこなせる人間だ。ゲームでは偵察から戦闘、護衛もできる。背中には大剣抱えてたと言うのに良くやっていたな。

だが、よく考えるとそれ以前は山刀と片手斧を持って走っていた。

本来、ブレイドと言うプレイヤーの得意分野は斥候と偵察だろう。だからアルゴの用心棒として仕事をしていたのだろう。

 

「よし、決めた!」

「何を?」

 

キリトは首を傾げるとアスナは言う。

 

「後で迎えに行くから。一緒にキャンプ場に行こう!」

「え、えぇぇえっ!?」

 

キリトは驚愕しながらログアウトして行くアスナを見届けて行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……あっ」

「どうした?」

 

自分達で焚いた焚き火を前に詩乃が携帯の画面を見てふと声を漏らした。

 

「これ、あの二人もキャンプ行くってさ」

「キャンプ……今から?」

「グランピングの方だってさ」

「あぁ、それなら簡単だな」

 

椅子の上で座りながら修也と詩乃は携帯の画面を眺める。ほとんど人のいないキャンプ場で二人は焚き火の奥に映る富士山を見ながら先ほど作った野菜を入れたグラタンとアヒージョを食べていた。

 

「こう言うゆったりとした時間もやっぱり良いな」

「気分転換になりそう?」

「ああ、十分にな」

 

このキャンプの後、いくつか寄り道をしながら名古屋を通って帰ってくる予定だ。旅程五日の予定で山梨を寄ってそのまま東京に帰る予定だ。

 

「良い景色だ……」

 

遠くに映る月光に照らされた富士山を見ながらふと修也は呟く。その横で詩乃も同じようにコップに先程淹れた日本茶を飲みながら考える。

この一ヶ月はとにかく忙しかった。元々埋め合わせとして予定していたこのキャンプ旅行は予定通りに行えた事だけでも良しとするべきだろう。

 

あのアンダーワールドでの事件以降、修也も詩乃も色々と離れることができなかった。家に一人でいる事が多く、マキナやストレアがいるとは言え寂しいことに変わりなくちょくちょくALOに行く事もあった。

当時、和人や明日奈が目覚めるか分からないと言うことで修也もその責任を負うと言うことで二人につきっきりでラースから出てくる事もなかった。

この一ヶ月はまともに休んでいなかったからこそ、しっかりと休息をとって欲しいものだ。

 

「そうね、とても静かだわ」

 

そう答えると二人の間を柔らかな風が吹いていった。

 

 

 

 

 

その後、焚き火も消し、テントの中に寝袋に入った二人は天井から薄ぼんやりと灯るライトを眺めながらなれない寝袋に入っていた。

 

「……ねえ」

 

そんな中、詩乃は横にいるはずの修也に問いかける。

 

「修也ってこの後どうするの?」

「この後?」

 

聞き返す修也に詩乃はさらに続ける。

 

「修也は大学に行くの?」

「あぁ、そう言う事か……」

 

修也は今年で高三だ。大学受験のことも考えなければならないのだが……彼の場合、すでにアメリカにおいて大学は卒業している上に就職まで済ませている。正直言って日本の大学を出なくても食っていける生活を送っているため、今後の進路が気になるところだ。

 

「修也ってすでにアメリカで大学に出ているし、それに就職もしているから。だから日本の大学に行くのかなって……」

 

詩乃の問いかけに修也は納得した上で少し考える。

 

「そうだな……とりあえず進路はこのままかもな」

「大学には行かない感じ?」

「そうだな……また本社から呼び出しをされるかも分からないしな」

 

そう言い、彼は上を見ながら答える。すでに大学を卒業し、自分の作った特許のおかげで一生遊べるほどの財産を有している彼にとって日本の大学に行くことにはっきり言って意味はない。だから高校を卒業しても引き続きアスクレーの社員として働くのだろう。

 

「それってアメリカに帰っちゃうってこと?」

「直接会って話さなければならないこと以外でアメリカに行くことはないな。自分の故郷はあくまでも日本だから」

 

詩乃の問いにそう答え、その答えに詩乃は少しホッとしながらも嬉しく思っていた。

 

 

 

 

 



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間話#14 誕生日騒動

時系列的にはマザーズ・ロザリオ編の直後くらいです。


四月十二日

 

新学期を迎え、桜も葉桜に変わった頃。キリト達のペントハウスではとある会議が緊急で開かれていた。

 

「全員集まったな?」

 

両肘を立てて寄りかって(ゲンドウポーズ)両手を口元に持ってくるポーズをしたキリトが確認をとる。

部屋にはブレイドを除くいつものメンバーが集まっており、アスナがキリトの少し後ろで立っていた。

キリトは真剣な眼差しのまま口を開いた。

 

「では…ボス討伐会議を始める」

 

すると、そこで一瞬間が開いた後にアスナが言う。

 

「キリトくん、ボス討伐会議じゃないよ」

「…そ、そうだな……」

 

やや苦笑いしながらキリトはアスナを見ると、クラインが軽く咳き込んで場を整えた。

 

「ゲフンっ!」

 

そしてキリトは仕切り直すと、少し楽な姿勢になって卓上に浮かぶデータを見た。

 

「では、ブレイドの誕生日パーティー会議を始める」

 

そう言うと、アスナが画面を操作して卓上に幾つかの画面を映し出す。

 

「パーティーの準備期間は今日から三日間。えー、四日後の誕生日までに間に合うよう迅速かつ組織的行動を持って全力を上げろと本妻が…」

 

その瞬間、一気に視線がキリトに集まった。キリトはしまったと思い、一瞬だけシノンを見た後に言い直した。

 

「…彼女が指示してきた」

 

言い直し、キリトは次にこの会議に集まった面々に聞く。

 

「では報告を」

「はい」

 

まず初めにリズベットが手をあげる。

 

「会場となるダイシー・カフェの予約と飾り付けの準備は予定通り進んでいるわ」

「会場の飾り付けに必要な道具も予定通り届いています」

 

シリカが答えると、次々とキリトに報告が上がる。

 

「次、怪我人の報告」

「…ん?怪我人?」

 

クラインが思わず首を傾げると、真面目にリーファが報告を入れる。

 

「先日、飾り付け準備の為に店を訪れた一名が店先で転倒。軽傷を負いました」

「それ昨日の俺じゃん」

 

クラインは真面目に行なっている会議の内容を聞いて思い当たる節しか無かった。

 

「はい」

 

するとユナが手をあげる。

 

「サプライズで行なっているパーティーですが、情報管理に不安が残っています」

「……何?情報管理は誰が行なっているんだ?!」

 

キリトが聞くと、マキナが答えた。

 

「情報管理をしているのは私です。ただ、パーティーの予約情報が一瞬だけブレイドに見られた可能性があります」

「それは不味いかも知れないな……」

 

キリトはブレイドの勘の良さを知っているが故に少し不安を覚えた。

 

「マキナはもし聞かれた際は上手くはぐらかしてくれ。それから、予約情報などのデータは印刷した上で削除」

「わかりました」

 

マキナと確認を取ると、アスナが話しかけた。

 

「キリトくん。時間はあんまりないよ」

「あ、そうだな……」

 

画面の端に映る時間を見てキリトは時間を最大限有効活用しなければと考えた。

 

「では、会議を終わる。諸君、本日より一同。全力をあげボス討伐に……」

「ボス討伐ちゃう」

 

クラインがツッコミをかけると、キリトは改めて言い直す。

 

「…本日より、全力をあげてサプライズパーティー任務を遂行してください」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

事の発端は前日、詩乃が自室でオンライン会議を行なっていた修也にいつも通り紅茶を出しに行った時のことだった。

 

『そう言えば、シューヤってそろそろ誕生日だよな?』

「え?あぁ、もうそんな時期か……」

 

画面の奥でザスマンが聞き、修也は対して気にした様子もなく答える。するとザスマンは呆れた様子で修也に言う。

 

『あのなぁ…お前くらいの時期は歳が分からなくなるのは理解できるが、誕生日くらい覚えとけよ』

「面倒くさい、数え年で良いだろう。その方がわかりやすい」

『はぁ……』

 

ザスマンはいつもの如く誕生日を忘れている修也にため息が大きく漏れていた。

すると、修也はザスマンに聞いていた。

 

「えっと、誕生日はいつだったか」

『お前の誕生日は四月十五日だろう?ほら、今年欲しいもんはなんだ?』

「んじゃ、適当に見繕ってくれ。あっ、何時ぞやみたいに女子物送ったらDDos攻撃するからな」

『わかってるって。……それで痛い目見たし』

 

ザスマンは前にやらかしたしくじりを思い返しながら答えると、修也は短く返答して会議を再開していた。

 

「(修也の誕生日って……三日後じゃん!!)」

 

会話を全て聞いていた詩乃はカレンダーを見て驚いてしまった。今まで修也の誕生日は聞いて居なかったが、予想外の時期に詩乃は反射的に和人に連絡を取っていた。

 

「……あっ、もしもし和人?」

『ん?どうした、珍しいな』

 

和人は普段は修也からの電話ばかりだったために珍しい相手からだと思っていると、詩乃は和人に聞いた。

 

「あの……緊急なんだけど。修也の誕生日って知ってた?」

『え?あぁ……そう言えば今まで聞いた事なかったな』

 

和人も知らない様子で、詩乃はある意味で終夜らしいと思っていると和人に言う。

 

「そうなんだ……ちょっと今からALOの貴方の家に行って良い?」

『え?あ、うん。分かった』

「後ついでに明日奈も呼んで来れる?」

『了解』

 

そして詩乃は電話を切った。

 

 

 

 

 

五分後、キリトのペントハウスを訪れたシノンはそこでキリトやアスナに先ほど聞いた一件を話した。

 

「え…ええ?!ブレイドの誕生日って四日後なの?!」

 

話を聞いた二人は驚いた声を上げる。

 

「ええ、さっき聞いたんだけど。修也の誕生日って十五日なんだって」

「十五日……」

 

キリトはカレンダーを見て日にちを確認するとシノンがキリトに聞いた。

 

「彼の誕生日をどうせなら祝おうと思っているんだけど……」

 

そんなシノンの提案にアスナがすぐに頷く。

 

「そうね、みんなで祝いたい所ね」

「でも間に合うのか?」

「プレゼント程度なら間に合いそうじゃない?」

 

三人は三日後と言う短い期間で誕生日会をするのは難しいかと考えていたが、シノンが少し考えた後で二人に言う。

 

「でもブレイドってまともに誕生日祝ってもらった事あるのかな?」

「「……」」

 

そこで三人は黙り込んでしまう。少なくとも普段の生活を見ていてまともに誕生日を祝ってもらったのか不明な所だ。

 

なにせ、幼い頃はアメリカに住んでいて親とまともに過ごした事がなく。日本に居ても両親は有名人。特に父親は与党でも生粋の異端児として有名人であり、何かと話題に絶えない人物だ。

母親は元モデルだが、今はその伝手を生かしてファッション会社を経営しており忙しい日々を送っていた。

とてもじゃないが、キリト達のイメージするような祝われ方をして居たかと聞かれると疑問が残る所だった。

 

「……やっぱパーティを開こう」

「うん、そうだね」

 

あまりにも悲惨な状況を想像してしまい、キリト達は絶対に彼の為に誕生日パーティーを開こうと考えた。

 

「会場は……」

「ダイシーカフェでいいだろう。融通が効く」

「とりあえずみんな呼んで作戦会議と行こう」

 

そう言い、キリト達は翌日に全員をALOに招集していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

会議が終わり、全員がブレイドの誕生日の準備のためにログアウトしていた。こう言う時、楽に集まれるからVRも悪くない。

 

「それで、ブレイドの方は?」

「私から時間を空けるように言っておいた」

 

誕生日当日は水曜日、学校帰りに本人をダイシーカフェに連れ込む準備は完璧だった。

 

「よし、ならばあとは滞りなく準備を進めるだけだな」

 

よくよく考えれば知り合ってから一度もブレイドの誕生日を祝って居なかった事に盲点だった事と、申し訳なさが浮かびながらキリト達は準備を進めていた。

 

「みんなが来れたのが何よりも救いね」

「ああ、たまたま空いて居たのがよかった所だな」

「去年も結局忙しくて有耶無耶になっちゃった部分もあるしね」

「帰還者学校に入学して色々と忙しかったからな」

 

まぁ主にALO事件が原因だったのだが……少なくとも去年のこの時期はまともに祝うことすらままならなかった。

 

「でも誕生日くらい言ってくれればいいのにね」

「ゲームでも誕生日を設定して居ないもんな」

「まぁ、本人が覚えて居なかったからあれだけどね……」

 

シノンも半分呆れながら言う。年齢を忘れるのは多々あるが、まさか誕生日を忘れるとは……。

 

「とにかく、準備は思って居た以上に順調に進んでいる。あとはブレイドが無事に会場に来ることを祈るだけだな」

「そこまで心配すること?」

「まぁ、ブレイドは忙しい人だからね」

 

どこか含みのある言い方でアスナは言うと、キリトやシノンはやや首を傾げていた。

三月のユウキの一件でアスナはブレイドがアメリカの大手医療器具メーカー、アスクレー社の関係者である事を知っている。ただ彼から他言無用であると言われている為、アスナはキリトにもその事を伝えて居なかった。

 

「さてと、私これからブレイドにいいプレゼント探してこよっと。シノンも来る?」

「え?えっと……」

 

一瞬シノンはアスナについて行こうとも思ったが、そこですかさずマキナとストレアが言った。

 

「マスターの監視はこちらで行なっておきます」

「何か不測の事態が起きても、お任せください」

 

自信満々に二人は答えると、アスナはをそれを見て少し微笑んでシノンに改めて聞いた。

 

「それじゃ、一緒に来る?」

「……ええ、お願いしても良い?」

「もちろん!」

 

アスナはそう答えると、合流場所を決めて二人はそれぞれログアウトしていった。

そして部屋に一人残ったキリトは四日後に誕生日を迎えるブレイドに、学校で呟いていた言葉に納得をしていた。

 

「なるほど、だからあいつもう少しで仮免が取れるって言って居たのか……」

 

 

 

 

 




序盤の会議シーンはある映画をモデルにさせていただきました。


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間話#15 誕生日騒動Ⅱ

三日後の修也の誕生日を祝うために集まった和人達はその短い準備期間を無駄なく活用していた。

(おそらく)まともに誕生日を祝われた事がない修也の為に全員がやる気に満ちていた。

まぁ、どちらかと言うと普段無表情の修也をあっとさせたいと言うのが根底にあったりするが……

 

「準備の方は?」

「おう、ばっちりよ」

 

エギルの店で和人は聞くと、彼は陽気に答える。

すでに予約は入れており、こんな短期間で貸切予約をさせてくれた事には感謝しかなかった。

 

「あの修也の誕生日なんだ。盛大に祝ってやらないとな!」

 

彼はそう答えると、予定を確認しに来た和人は少しホッとした表情を浮かべる。

 

「助かったよ。おかげで修也も寂しい誕生日を迎えなくてすみそうだ」

「ははっ、本人が聞いたら『そっくりそのまま返す』って言われそうだな」

 

エギルはそう言い、吹いていたグラスを片付けていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じ頃、学校帰りに明日奈と合流した詩乃は都内のデパートに訪れていた。

 

「どんな物を渡すのが良いのかしら?」

「うーん、修也さんなら基本的に何でも喜んでくれそうだけど……」

「でも、女子物を渡すとDDoS攻撃するとか言ってたけど……」

「なにそれ?」

 

DDoS攻撃を知らない二人は修也の話の意味がよく分かって居なかったが、多分恐ろしい攻撃なのだろうと予測して居た。

 

「修也が好きな物と言えば……」

 

そこで詩乃は修也が好きな単語を並べていく。

 

「パソコン、ガ○ダム、ゲッ○ーロボ、鉄○28号、ア○ム、コン○イ司令官……」

「『ほわああああっ!?』じゃないんだからさ……」

「よくよく考えるとロボットが好きなのかな?」

 

特に好きなのはガン○ムだろう。だってGGOでも赤いザ○使っているし……部屋にはプラモデルも置いているくらいだし。

自分はそう言う趣味は持って居ないので、あまり興味はないのだが。そう言う点ではちゃんと男の子なんだと改めて認識していた。

 

「そう言えば前に言ってたっけ?一番好きなのは『08小隊』って……」

「ふーん、あのアニメか……」

 

明日奈は昔、サブスクで見たアニメを思い出す。確かにあれは面白いかもしれない。少なくともリアルな戦闘描写に混ざった一時の青春表現がなんとも面白さを引き出している。

 

「確かに、面白いかも」

「明日奈もそこまで言うんだ」

「私はそこまで詳しくないから、あんまり強くは言えないんだけどね」

 

明日奈は少し苦笑しながら答えつつ、デパートの紳士服の店を回っていた。

 

「正直言って修也って元々が滅多に外に出ない人間だったからさ、外行きの服もほぼなかったのよね……」

「あのお母さんがいたのに?」

 

明日奈は元モデルの修也の母を思い返しながら聞くと、詩乃もやや首を傾げたように頷く。

 

「うーん、何でもあんまり修也にそう言うセンスを教える前にもう引き篭もりだったらしいからさ」

「和人くんより悲惨だね……」

 

明日奈はやや引き攣りながら答えると詩乃は店頭に並ぶシャツやネクタイなどを見ていた。

 

「うーん、正直こっちよりもパソコンのパーツとかの方が喜ぶのかな?」

 

詩乃は悩んでいると、横で明日奈はきっぱりと断言する。

 

「いや、それは違うと思うよ?」

「え?」

「だってさ、そう言うパソコンのパーツを買ってあげても。すでに修也さんの部屋にはそう言うのが山積みでしょ?」

「まぁ、そうね」

 

詩乃は修也の自室に山積みのパーツを思い出す。

 

「だったら普通に服とかを買ってあげた方が修也さんもありがたいと思うんだよね」

「……」

 

明日奈のごもっともな意見を聞き、詩乃は改めて紳士服を選ぶ。大事な人の誕生日だ、念入りに選ぶとしよう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、修也は一人。マンションの部屋に残って作業を行なっていた。

作業台の上では機械仕掛けの腕と手があり、人間工学を意識したような構造をとっていた。

 

「……」

 

外のカバーをネジで止め。その傍ではマキナが修也の腕部制作の手伝いを行っていた。

今彼が作っているのは今度彼のバイト先であるラースに納入する予定の人型ロボット……どっちかと言うとアンドロイドのような気もする機械の腕を作っていた。

あんな金額を提示されては修也の背に腹は変えられないと言うことで、ある約束を前提に修也はラースに協力していた。ただし、これら機械の技術の根幹となるMeacシステムは非搭載であった。あの胡散臭い官僚に手を貸すのは業腹ではある。

と言うよりあの人はMeacシステムに興味なさそうだったしな。

 

「なぁ、マキナ」

「はい」

 

マキナは修也の補助を完璧に行いながら修也が誕生日について聞かれた時にうまくはぐらかすように詩乃や和人から厳命されていた。だから修也の補助は半分監視も兼ねて居たのだ。

 

「そこのドライバーを取ってくれ」

「はい」

「あとついでにキッチンからお茶を」

「畏まりました」

 

メイドのように彼女は部屋を出ていく。

メイド服みたいなのは流石に着ないが、それでもやっている事が完全にメイドのそれの彼女は修也の要望に応えるようにキッチンに移動する。

見た目が十歳くらいの少女であるが故にキッチンの上の方までは届かない。

元の体重が重いせいでジャンプをしたら部品の破損の危険性や、何より床が抜け落ちる可能性があると言う事で厳禁だった。

ALOやGGOでアバターで軽快に動いている故についこの機械の体でも同じような動きをしたくなってしまう。

 

「(もうすぐで新しい体が届くんでしたね)」

 

そろそろこの機体のバッテリーも劣化が始まっており、頻繁に充電しなければならない。

新しい機体はすでに発注済みであり、あと数ヶ月もすれば届くそうだ。新たな機体の設計図はすでに読んでいるが、待ち遠しいものがある。

 

「(これが俗に言う欲と言うものですか……)」

 

修也が閉じ込められて居た二年間の間で実に人の事をよく学んだ彼女は、人が根底に抱える感情を自分が持っている事に喜びを覚えていた。

 

「お待ちです」

 

コーン茶を淹れたコップを持って行って修也の横に置く。

劣化や有り合わせの既存部品で作った影響で稼働する腕の中からわずかにモーター音の聞こえる。

 

「……もうすぐで新品が届く。それまでの辛抱だ」

「いえいえ、マスターが最初に作ったアンドロイドです。これからも大切にしていきますよ」

「……そうか」

 

マキナはすでに旧式化している自分の体を見ながら応えると、修也もどこか懐かしい表情を浮かべたまま作業台の上にある機械の腕を触る。

すると、マキナはそんな彼に半分忠告するように聞く。

 

「でも良かったのですか?あの胡散臭い官僚の手伝いをして」

「いいんだ。少なくともアメリカの時のような実験はしないと直接交渉したし、サインも貰っている。それに……」

 

作業をしながら修也は言う。その目はどこか自分に期待しているようだった。

 

「何かあればマキナが教えてくれるだろう?」

「……」

 

修也の問いかけにマキナは少し口角が上がる。

 

「……ええ、おまかせを。

 

 

 

 

私の創造主(マイマスター)

 

マキナはそう応えると、ふと思い出したように修也が聞いた。

 

「ところで何だが……この前ダイシー・カフェに予約入れてたみたいだけど、どうしたんだ?」

「(?!)」

 

そこでマキナは戦慄をし、慌てて言い訳を考え始めるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日後。

 

「おーい、修也!」

「ん?」

 

学校の帰りに修也は和人や明日奈に声をかけられる。

 

「一緒に帰らない?」

「ああ、良いぞ」

 

今の修也の住むマンションはちょうど学校帰りの途中にあり、アクセスもしやすかった。

 

「それじゃ、行きますか」

「ええ、そうね」

「?」

 

和人と明日奈はそこで修也を一瞥した瞬間。

 

「っ?!』

 

突如顔を隠すように修也は頭の上から麻袋を数せられ、視界が真っ暗になってしまった。

 

「わっ?!」

「「「「そーれっ!!」」」」

「何をするっ!!この野郎!!」

 

麻袋を被せた里香や珪子も加わって修也は一気に担ぎ出され、そのまま遼太郎の車に押し込まれるとそのまま誘拐のように学校を去って行った。

 

 

 

そして修也は頭に麻袋を被らされたまま後ろ手に縛られて車を下ろされる。

やっているのがテロ組織とかのやり方で苦笑してしまうと、店の鈴の音を聞いてここがダイシー・カフェであると察する。すると被らされていた麻袋が外され、一瞬視界が真っ白になる。そして視界が戻ると……

 

「「「「誕生日おめでとう!!」」」」

 

クラッカーの音が鳴り、修也に紙テープが降り注ぐ。

店を貸し切っての誕生日パーティーに修也は困惑していると、後ろで和人が言う。

 

「お前が誕生日ってのを聞いたから」

「サプライズってことで」

「まともに祝われた事なさそ……ぐほっ?!」

 

とりあえず余計な口を聞く遼太郎の腹に一発拳をくらわせたあと。修也は改めて会場を見ると、そこには多くの料理やケーキが置かれていた。

 

「……なるほど」

「マスター、誕生日。おめでとうございます」

 

傍で牧奈が姿を現して祝いの言葉を言うと、次から次へとプレゼントが手渡されていく。

 

「誕生日か……」

 

修也はそこで誕生日パーティーに景色を見ながら少し嬉しく感じた。

今まで近い年の子に祝ってもらう事がほぼなかったが故にこの新しい感覚に少し嬉しく思った。

 

「はーい!と言うことで今から修也の誕生日パーティーを開きまーす!」

「ほら、主役はこれ被って」

 

そう言われ、明日奈達から帽子や『今日の主役』と書かれた襷やらを被せられ、終いにはおもしろ眼鏡までつけされられた状態で壇上に立つ。

 

「それじゃあ改めて!」

 

里香は修也の横で音頭を取る。

 

「「「「「「修也、誕生日おめでとう!!」」」」」」」

 

そう言い、盛大な誕生日パーティーが開始した。

 

 

 

 

 

誕生日パーティーが行われ、修也やパーティーに集まった面々は思い思いの時間を過ごす。

 

「よっ、今日の主役さんよ」

 

カウンターに座り、修也はエギルに話しかけられる。

 

「どうだ?今日のパーティーは?」

「ああ、こんな盛大にやってくれるのはありがたい事だ」

 

そう言い、エギルはプライベートルームの方を見た。

 

「なぁに、修也の親父さんには色々と稼がせて貰っている身だ。これくらいサービスの部類だよ」

「ははは……」

 

多分、秘密の会議(裏取引)で散々使っているんだろうと予測ができてしまった。

赤坂の料亭でやるよりはイメージしずらいかもしれないが、まさかここでしているとは……。

 

「まっ、今日は目一杯楽しんでくれよ。まだまだパーティーは始まったばかりだからな」



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