ソード・アート・オンライン ~Resurrection Brave~ (紫蛇の抜け殻)
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第1話 これはゲームであって遊びではない

初めまして紫蛇の抜け殻(へびのぬけがら)と申します。
処女作となりますので暖かく目で見守ってくださると嬉しいです!

物語は茅場のデスゲーム宣言からですのでもし万が一、ソードアート・オンラインを知らない方が居ましたら原作アニメ視聴されていると色々理解しやすいかと思います!

それでは主人公のナツメくん!ご挨拶をどうぞ!

ナツメ「え、えぇと初めましてナツメです。これは俺が情けなくも第1層でくじけてしまうところから始まるから攻略組というより多分日常回が多くなると思うのでよろしくお願いします。」

全くもう!うちの子は固いなぁ!
それでは本編です!どうぞ!


『プレイヤー諸君の健闘を祈る。』

 

何を言っているのか。理解が追い付かないうちにチュートリアルが終わった。

ゲームが現実?HP全損による脳の破壊?とてもじゃないが信じられない。

 

気が付けば先ほどまでいた仲間は姿を消し、どこかへ行ってしまったみたいだ。

一人でいても仕方ないので俺は友達を探すことにする。

 

あたりは阿鼻叫喚やら怒号やらでうまく身動きが取れないが広場の西のはずれに見慣れた人物はいた。背中には身丈と変わらない両手剣を背負っている。

 

「お~っす千尋(ちひろ)~。ようやく見つけたよ。」

 

気さくに話しかけると相手も安心した表情で返事を返す。

 

「よぉ、翔命(かなめ)。ってオンラインなんだからプレイヤーネームで呼んでくれよ。」

 

しまった。先ほどのイベントに気を取られ忘れていたので改めて自己紹介をする。

 

「悪い悪い。俺はナツメ《Natsume》。初期武器は細剣(レイピア)を選んだよ。ここでもよろしくな。」

 

「しっかりしてくれよ?俺はダンケル《Dunkel》。ドイツ語で闇って意味らしいぜ?まぁ、略して『ダン』とでも呼んでくれ。」

 

「わかったよ、ダン。」

 

簡単な自己紹介を済ませ、俺たちはこれからのことを考える。先ほどの茅場という人物の発言を全部信じているわけではないが、ログアウトできないのもまた事実。まぁゲームをクリアするという意味では迷宮区にいるというフロアボスを100体倒さなければいけないということだ。

 

「まぁとりあえずレベル上げしつつ、次の街でも進もうぜ。いくら何でも俺たちのこの装備じゃ攻略もままならないだろうし。」

 

「ナツメの言う通りだな。ゲームなんだから楽しんでいこうぜ。」

 

軽口をたたきながら俺たちは次の街を目指し、進んでいった。

 

 

 

―――

 

 

 

目の前には狼型mob。

こちらの数は2人。

 

先に向こうが仕掛けてきたのでそれに合わせてレイピアを切り上げる。

 

「せぁっ。」

 

狼が体勢を崩す。

 

「ダン、チェンジ!」

 

掛け声とともに後ろから両手剣を光らせたダンが突っ込んでいく。

 

両手剣基本スキル《サージ》

 

「とりゃぁ!」

 

その剣先は狼を貫き、ポリゴンと化させる。

 

やっぱり昔からの付き合いということもあり、息ぴったりだぜ。

 

危なげもなく狩り終わるとファンファーレと共にウィンドウが現れる。

 

『Congratulation! Level up! Lv.1→Lv.2』

 

それを見た俺たちは笑顔でハイタッチを交わす。

 

「よっしゃ!」

「いえーい!」

 

画面の指示に従うとステータス振り分けが出てくる。

筋力値(ストレングス)敏捷値(アジリティ)の二択を選択しろというものだ。

 

俺はスピード優先だから筋力1の敏捷2を選択する。

ダンも自分の武器に合わせて筋力2の敏捷1を選んだようだ。

 

「ナツメはレイピアだし、スピードに全振りしなくてよかったのか?」

 

「それはダンもだろ?でも念のためってやつだよ。基本スピード寄りのバランス型で育てるかなぁ。」

 

「言えてる。後でステ振り直したいって後悔するかもしれないし、極端にするやつなんてあんま居ないんじゃないか?」

 

そんな軽口をたたきながらも次の街へと歩みを進めていった。

 

 

 

―――

 

 

 

それから俺たちは幾度となくモンスターとの戦闘を繰り返し、二人での戦闘スタイルを確立させていった。

スピードが速い俺がダンより先に攻撃を仕掛け、相手にスキをつくる。

そしてがら空きになったところをダンの両手剣でとどめを刺す。

昔からの親友とだけあって、そのスタイルはすぐに馴染んでいった。

 

レベルも10になったころに俺たちは《トールバーナ》という街にたどり着いた。

 

「すっげぇ…まるでヨーロッパに来たみたいだ…」

 

「だな。とはいえ腹も減ってきたし、まずは」

 

飯でも食いに行こうぜ。という俺のセリフは第三者によって遮られた。

 

「君たち。ちょっといいかな。」

 

声をかけてきたのは水色の髪をした騎士みたいなお兄さんだった。

 

「あ、はい。どうしました?」

 

「実はこの後広場で集会を開くんだけど、後で君たちも来てもらえるかな?この街まで来たってことは相当の実力者だろうしね。」

 

そういうとそのお兄さんは去っていった。

にしてもえらく真剣な顔立ちだったな。

 

「だってさ。ダン、どうする?」

 

「今まで他のプレイヤーと会ったことなかったし、集会ってのも気になるから飯食ったら行ってみようぜ?まずは飯だ飯!」

 

「わかったよ。遅れるのも悪いし、広場が見える飯屋でも探そう。」

 

 

 

―――

 

 

 

食後に俺たちは二人そろって広場に座っている。

先ほどのお兄さんはいろんな人に声をかけていたらしく、かなりの人数が集まっていた。

ざっと見た感じ3,40人はいるな。

 

固まって座っている人もいれば、後ろの方にローブを被った人や好青年と見える人もいる。

 

「なぁナツメ。俺たちは二人で頑張ってこれたけど後ろの人たちってまさか一人できたわけじゃないよな?」

 

「まぁネットゲームだし、ソロで進めたい人くらいいるだろうよ。俺だってダンが持ってないゲームはソロで進めてたし。」

 

「それもそうか、まぁ後で声でもかけてみるか。」

 

無駄口をたたいていると昼前に話しかけてきたお兄さんが中央に立つ。

 

「俺の名前はディアベル。職業は気持ち的にナイトやってます。」

 

その一言をきっかけに第一層攻略会議が幕を開けた。

 

 

―――

 

 

ディアベルが話した内容はこうだ。

・彼のパーティがボス部屋を見つけたこと。

・明日には挑戦したいこと。

・最大7人×7パーティの49人で挑めるということ。

 

途中関西弁のヤンキーみたいな人が割り込んできたが背の高い黒人に言い負かされていたようだ。

 

「じゃあひとまず簡単にでいいからパーティを組んでくれ。」

 

先ほどの説明に倣うなら7人組の班をつくれということか。

ダンと組むのは当然として、あとは先ほど後ろにいたソロの人たちか。

そこまで考えてダンを見ると同じ事を考えていたらしく、無言でうなずく。

 

仕方ない、こういう時は俺から動くか。などと思いつつ後ろの人物へ声をかけに行く。

 

「すみません。俺ら二人組で行動してて、良ければお二人とパーティを組ませてもらっても?」

 

「あ、あぁ。構わないさ。…いいよな?」

 

「…。」コクリ

 

よし、何とか最初の関門は乗り越えた。

すると、好青年の方から話が続いてきた。

 

「じゃあ一応名目上俺がリーダーになってるみたいだし、君たちに招待メッセ送るよ。俺の名前はキリトだ。よろしく頼む。」

 

「俺はナツメっていいます。そして隣のこいつがダンです。よろしくお願いします。キリトさん。」

 

「…私はアスナ。よろしく。」

 

なんかこの女の人不愛想だなぁ。ローブで顔も見せちゃくれないし。

 

「みんなよろしくな。それとナツメにダン。この世界じゃ敬語はよそう。年もそんなに離れてなさそうだし。」

 

「わかった。」

「おーけー。」

 

こうして第1層攻略臨時パーティが結成した。

 

 

そのあとは流れで4人で過ごすことになり、明日へ向けての作戦会議を行っていた。

 

「いいか、三人とも。明日の敵はフロアボスっていうこの層で1番強いモンスターだ。おそらく一筋縄ではいかないだろう。だから《スイッチ》という技術を使うんだ。前衛となるプレイヤーが相手の動きを制限して、二人目が後ろから飛び出し攻撃をあてる。パーティ戦での基本だな。」

 

キリトはSAOに詳しいらしく、すぐに主導権を握ってくれた。

 

「俺たちが適当にチェンジって言ってたやつ、アレ名前あったんだな。」

 

「そうか。君たち二人はもうパーティ戦は慣れているのか。じゃあナツメとダンで1ペア、アスナと俺で1ペアにしよう。俺たちF隊の役目はあくまでボスの取り巻き―ルインコボルド・センチネル―の足止めだからな。そこまで危険じゃないとはいえ、気は引き締めていこう。」

 

「「おう!」」

 

「…。」

 

 

 

―――

 

 

 

翌日。迷宮区最深部にて。

 

「聞いてくれ皆。俺から言うことはたった一つだ。勝とうぜ。」

 

ディアベルの一言をきっかけにみんな体に力が入る。

そして彼は大きな扉に手をかける。

 

「行くぞっ。」

 

空いた扉からは冷たい空気が流れだし、いかにもな雰囲気を漂わせる。

攻略組―キリトにそう呼ぶと教わった―が部屋の中央まで達したタイミングで明かりがともる。

一番奥を見ると赤い野獣が鎮座していた。

 

デカい。巨体なんてもんじゃない。人間の倍はあるぞっ!?

そんなことを考えているとボスが大きく跳躍して攻略組の前に立ちはだかった。

 

「ウォオオオオオ!!!」

 

大きな雄たけびに一瞬ビビりながらも名前を確認する。

 

『Illfang the Kobold Lord』(イルファング・ザ・コボルドロード)

 

それが奴の名前だった。

俺とは違い、怯みもしなかったディアベルが叫ぶ。

 

「攻撃、開始ぃぃいいい!」

 

第1層攻略戦はこうして幕を開けた。

 

 

 

―――

 

 

 

あれから10分を経過したもののいまだに終わりが見えてこない。

俺たちの役目はボスの取り巻き―センチネル―を本体へ近づかせないこと。

だが、取り巻きといえど今までのどのモンスターよりも一線を画している。

 

というのもセンチネルの武器と俺の武器の相性があまりにも悪い。

片やスピード重視のレイピア。片やパワー重視の棍棒。

 

いつものようにいかず、少しばかり遅れている。

 

くそっ!せめて俺とダンが逆なら。

 

そう思いダンと目配せすると見事に俺の合図を受け取ってくれたようだ。

本来攻撃するタイミングで相手の武器をうまく弾いてくれる。

 

「ナツメ!スイッチ!」

 

「さすがわかってんじゃん相棒!せぁ!」

 

目には目を。歯には歯を。重い武器には重い武器を。

見事作戦は成功し、センチネルを先ほどまでと比較にならない速さで撃破する。

 

「よし。次、来るぞ!」

 

 

 

―――

 

 

 

そこからさらに10分ほどが経過し、いよいよボスにも変化がみられる。

ボスのHPバーの最終段が25%を切り、赤く染まる。それと同時に斧と盾を投げ捨てる。

ガイドブックに書いてあったとおり、曲刀《タルワール》に持ち変える時か。

 

空気が変わることを悟ったのかディアベルが声を上げる。

 

「下がれ、俺が出る!」

 

キリトがそれを見て不思議そう―というより焦った顔―でディアベルを見つめる。

 

そしてキリトが焦っている理由に俺も遅れながら気づいた。

ボスが手にしているのは明らかに曲刀じゃない。まっすぐ伸びた刀のような武器だった。

直前まで腰に差していたせいかディアベルは気づいていない。

 

ディアベルが気合を入れるために叫ぶのと、キリトが焦って叫ぶ声はほぼ同時だった。

 

「はぁぁぁああああ!!!!!」

 

「ダメだ!全力で後ろに跳べっ!」

 

ボスは今までにない柱を使った跳躍をし、かつてない速度でディアベルを翻弄する。

 

カタナ二連撃スキル《梁塵》

 

ディアベルはなすすべもなく吹き飛ばされた。

 

俺はキリトと共にディアベルのもとへ駆け寄る。

 

ステータス的にキリトの方が早くたどり着き、ディアベルと会話してる。

が、俺は見てしまった。キリトの差し出すポーションをディアベルが拒んでいることを。

 

ようやくその場に追いついたと思った瞬間目の前でディアベルの体が飛散する。

 

「嘘…だろ…。」

 

俺もあまりのショックに俺は膝から崩れ落ちた。

なぜ、ディアベルはポーションを拒んだ?いや、そんなことはどうせもいい。人が、死んだ?ゲームの世界で?嘘だ。ありえない。

 

「ナツメ。君はまだ戦えるか。」

 

キリトからそう問われた。

だが俺は動けずにいる。人が死んだ?モンスターと同じように?

まだ気持ちの整理がつかずにいる。

黙り込んだのをNoととらえたのかキリトはアスナと共にボスへ向かっていく。

 

戦線は崩壊し、彼以外にも飛散していったプレイヤーはいる。

 

そんな中果敢に挑んでいくアスナとキリトを見てただ自分の無力さを知る。

凄いや。あんなボスの攻撃をよけたり弾いたり。俺とは才能が違う。もしかすると彼()βテスターってやつだったのかな。

 

しかし、そんな奇跡はいつまでも続かずに終わりを迎える。ボスのパワーを相殺しきれなかったキリトがこちらへ飛んできたのだ。

 

「くそっ…。ナツメ!ショックなのはわかるが今は時間が惜しい!少しでもいいから力を貸してくれ!」

 

肩をつかまれ正面から叫ばれる。

 

「む、無理だよ…。ディアベルですら殺されたんだよ…。」

 

「何も攻撃しろって言ってるわけじゃない!さっきまでと違って防げばそれでいい!頼む1分だけでいいから!」

 

震える足を無理やり立ち上がらせ、剣を抜く。

 

あぁ、俺もここで死ぬんだろうな。そんな絶望が不思議と恐怖を取り除いた。

 

「ぉぉぉおおおお!!!!」

 

キリトめがけて飛んできたカタナを弾く、弾く、弾く。

しかし、思考が止まっている今、それは長くも持たず俺も吹き飛ばされる。

 

「うぐっ。」

 

自分のHPが初めて赤に染まった時、死の恐怖を覚えた。

 

嫌だ。死にたくない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

そんなことを考えているとキリトとボスがひときわ大きく叫ぶ。

 

 

「うぉぉおおお!!!!」

「グルゥァアア!!!!」

 

片手直剣2連撃スキル《バーチカル・アーク》

カタナスキル《醒睡》

 

その一合が戦いの最後の合図だった。

 

ボス―イルファング・ザ・コボルドロード―の体は次第にポリゴンになり飛散していった。

 

そこからの記憶はあまり覚えていない。

 

 

 

―――

 

 

 

2022年12月5日正午

 

俺はダンと二人で始まりの街にいた。

昨日の戦いは何とか勝利したものの、辛勝と言わざるを得ないし、何より中学生の俺らの心を抉るには充分すぎた。

 

「…な、なぁナツメ。ゲーム開始の日、茅場が言ってたこと、覚えてるか?」

 

忘れようとしていた。あくまでSAOはゲームだと思っていた。

 

「…HPが0になれば脳を焼き殺されるってやつか。冗談だと思ってたさ。」

 

しかし、ディアベルは街のどこにもいなかった。始まりの街にも。トールバーナにも。もしかして先に第2層へ上がったのかと思い、主街区を見て回ったがついにディアベルの姿はどこにもなかった。

 

「あと99回もこれを繰り返せってのか?俺には、俺には無理だよナツメ。悪いが一人にしてくれ。俺はこの街にとどまる。」

 

「…あぁ。わかった。」

 

それだけ告げると俺は喫茶店を後にし、目的地もなく街を歩き続ける。

俺はもう疲れた。戦えない。家に帰りたい。など今となっては非現実的なことをずっと考えている。

 

ドン。

 

よほど周りが見えていなかったのか、人と肩をぶつけてしまった。

 

「あ、ご、ごめんなさ…」

 

すかさず謝罪しようとすると相手も謝罪してきた。

 

「いてて…。いやぁ申し訳ない。怪我無かった?ってどうしたの君!?すごい顔じゃないか。早くこっち来て。」

 

「え。あの…。」

 

「いいから。子供がそんな顔してたら誰だって心配するよ。さ、ついてきて。」

 

これが俺の再起するための最初の出会いであった。

 

 

 

―――

 

 

 

「はい。どうぞ。」

 

青を基調としたお姉さんが紅茶を出してくれた。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

遠慮気味にその紅茶をいただく。

少しほっとしたのか、やがて冷静になってくる。

 

「改めて自己紹介するよ。僕はケイタ。」

 

ケイタさんがそういうと周りのメンバーらしき人たちも順番に名乗っていく。

 

ダッカーさんにササマルさん、テツオさんにサチさん。

 

「君はなんていうの?」

 

ケイタさんに催促されてしまったので素直に答える。

 

「ナツメといいます。」

 

「よろしくね。それで、あんな暗い顔をしていたのは何かあったのかな?」

 

この質問に鼓動が跳ね上がる。

 

「あったも何もこんなゲームに入れられちゃそれだけで怖いだろ。なぁテツオ?」

 

「僕らだってようやく気持ちが落ち着いてきたところだしね。怖くなるのはわかるよ。」

 

と、暗い雰囲気を察してかダッカーさんとテツオさんがフォローを入れてくれる。

 

「無理しない範囲でいいからゆっくり話してごらん?」

 

ケイタさんに言われるがまま今まであったことを話す。あの第一層迷宮区での凄惨すぎる激戦を。

 

 

 

―――

 

 

 

「そんなことが…。」

 

みんな一様にショックを受けた顔をしている。

特に、サチさんなんかは話を聞いていただけでも顔が青くなるほどには。

 

「だから、僕は攻略組を降りようとしていたんです。戦える人が戦えばそれでいいって。」

 

やっぱり、全部話すのはよくなかったかもな。

 

「空気を悪くしてしまってごめんなさい。紅茶おいしかったです。それじゃあ僕はこれで。」

 

そういって席を離れようとしたとき、呼び止められる。

 

「あぁ、待って待って。そんな辛い思いをしてきたとは知らなかった。申し訳ない。そして一つだけお願いがあるんだ。」

 

「…と、言いますと?」

 

「君より大人の僕らがこんなこと言うのは申し訳ないんだけど、序盤のコツ、もっと言えばソードスキルの使い方を教えてほしいんだ。」

 

なんだ。そんなことか。はじまりの街周辺なら死ぬこともないだろうし。まぁ大丈夫か。

 

「わかりました。でもあくまでスキルの使い方とそれを覚えるところまで、ですよ。僕はもう、冒険する気はないので。」

 

「うん。それだけでも充分だよ。それじゃ街の外へ出よっか。」

 

 

 

―――

 

 

 

正直俺は人にものを教えるのはうまい方ではないと思っている。

なので実戦で見せる形にして教えることにした。

「今、メニューから画像付きでソードスキルの予備動作《プレモーション》を見てもらったと思うんだけど後はこれを真似して各々武器に沿った構えを取るだけです。そうすれば勝手に武器の方から反応してくれて発動するので。」

 

そう説明しつつ俺は《リニアー》をフレンジーボアに放つ。

レベル差があるせいで一撃で倒すことができる。

 

「コツは決められたポーズで少し待つこと。それとレベルが1の皆さんは多分この猪相手には2,3撃必要だと思うので技が成功したからと言って決して油断しないでください。じゃあまずはケイタさんから。」

 

「わ、わかった。」

 

正直俺は細剣以外の武器は触ったことがないので、これ以上の口頭説明は無理だ。後はこの人たちの理解力に頼るしかない。

 

「すぅ、はぁ。よし、いくぞぉ。」

 

気合十分に棍棒を横に構えるケイタさん。

 

数瞬のうちに武器が光り始める。

うん、これは成功するな。俺は安堵していた。

 

「はぁ!」

 

両手棍基本スキル《アノード》

 

見事に目標に棍が打ちつけられる。

アノードは横向き薙ぎ払いのスキルのため猪は横に転がる。

しかし、今の攻撃で怒らせてしまい、ケイタに向かって突進を繰り出してくる。

 

「せぁっ」

 

両手棍基本スキル《カソード》

 

突進してくる猪の頭めがけて見事命中。

そして猪はポリゴンになって飛散する。

 

「おめでとうございます、ケイタさん。」

 

「ありがとう、ナツメ。説明わかりやすかったよ。」

 

まぁ画像付きの説明書があるからこそだとも思うので素直に喜びづらい。

 

「じゃあ次はダッカーさんですかね…。」

 

と一人一人ソードスキルを確認していった。

 

 

 

―――

 

 

 

気が付くとすっかり夕方になっていた。

メンバーのみんなも無事レベル2になっており、この分だと大丈夫そうだな、と考える。

 

「にしてもナツメは本当に強いね。」

 

帰り道―といってももう街中だが―を歩いているとケイタがそんなことを言いだす。

 

「別に、このくらい誰だってやってれば簡単にレベルは上がりますよ。こんな強さより、僕は一人でも立ち向かえる勇気の方が何倍も欲しかったです。」

 

「あ!じゃあさいいこと思いついちゃった!ナツメも俺らのパーティに入ればいいんだよ!これ名案じゃね?」

 

突拍子もないことをいきなり言い出すダッカーさんに各々意見をだす。

 

「それはいいな。たまにはダッカーいいこというじゃんかよ!」

 

と肯定的なササマルさん。

 

「そりゃ、確かに入ってくれれば助かるけど…。」

 

と困っているテツオさん。

 

「そうだよ。いきなりそんなこと言ったらナツメくんも困っちゃうでしょ。」

 

とこちらを心配してくれるサチさん。

 

今のところ二対二。ケイタさんは次のように答える。

 

「そりゃ僕としてもナツメが加わってくれるのは嬉しい。けどもともと約束はソードスキルを教えるまで、だったろ?ただでさえそれをレベルが上がるまで、に譲歩してくれたんだからあんまり皆無茶いうんじゃないよ。」

 

「ちぇー。ぶーぶー。」と残念がるダッカーさんとササマルさん。

 

「ということで、今日のところはありがとうナツメ。これからは俺ら五人で攻略組を目指してみるからさ。気にせずに今日は解散しよう。」

 

ケイタさんのセリフに思わず心臓が飛び上がる。

この人はなんて言った?攻略組?あんな危険な場所へ自分から進んで入るというのか?

 

「な、なんでっ、あっ、あんな危ない場所を目指そうと、思うんですか…?」

 

トラウマが蘇りかけ、声がうまく出ない。けれど言いたいことは言えた。

ケイタさんも少しだけ考えてから返事をする。

 

「う~ん。そうだね。確かに危険な場所かもしれない。というより確実に危険だろうね。でもここで止まってても何も変わらないからさ。だから何かを変えようとして前へ進むんだよ。」

 

その言葉に対し、何も言い返せなかった。

 

「そう、ですか…。では僕はこれで「待って!」」

 

サチさんに呼び止められる。

 

「ナツメくん。今日は本当にありがとう。せめて、フレンド登録だけでもしていかない?」

これまた思いもよらない提案だった。

とはいえ、嬉しかったのは事実なので断りはしなかった。

 

「では、僕は今日のところはこれで。また、どこかでお会いしましょう。」

 

そういって彼らと離れ、俺は安い宿屋に帰っていった。

 

 

 

―――

 

 

 

in宿屋の一室

 

8人になったフレンド欄を見ながら俺は今日のことを思い出していた。

 

今日は楽しかったな。まさかフレンド登録するとは思わなかったけど。みんな飲み込みも早かったし、多分大学生とかかなぁ。すごいなぁ俺の話を聞いてもまだ、攻略組を目指したいだなんて。俺はもう無理だ。今日は早く寝よう。

 




や~フレンド欄が8人ってことは
・ダン
・ケイタ
・ダッカー
・テツオ
・ササマル
・サチ

後まだ二人すでに交換した人がいるようですな~

ナツメ「あ、あの二人はチュートリアルより前に交換したし、また今後のお楽しみってことで。」

そういえばヒロインちゃんが出てきてないな~
早く出てきてもらわないとな~

ナツメ「それはあんたの腕次第だから頑張ってくれ作者」

ま、こんな感じでゆる~くやっていきます~

基本各話10,000字前後で書く予定なので投稿ペースゆっくり目ですがよろしくお願いします~


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第2話 再会と決意

いや~2話執筆中にコロナになりました紫蛇の抜け殻(へびのぬけがら)です~
あ、でも熱とか特にないのでちょっと重めの風邪くらいですかね~
皆さんも体調気を付けてくださいね~

さて、本題に入る前にいよいよ今日はヒロインちゃんの登場回ですね~
一体どんな娘なのかちょっとナツメくんから説明してもらっても~?

ナツメ「いや、あんたが作者なんだからあんたから説明しろよ...まぁ今回は前回の後書きで話してた残り二人のキャラクターの登場回になるのでもしよければ二人の名前だけでも覚えていってください。」


2022年12月24日18:30

 

あの出会いから約一か月が過ぎ、今日はクリスマス。街は煌びやかな装飾に塗れ、輝いている。心なしか外を出歩く人も多くいるように感じる。

 

ゲームの中だっていうのに、心なしか寒くなってきたな。

 

そう考えているといつものように(・・・・・・・)酒場の扉が開けられる。

 

「ナツメ、ただいま。」

 

「おかえりなさい、みなさん。」

 

声をかけられ入口の方を見るといつものようにケイタさんたちが帰ってきた。

 

「今日は一段と街がきれいだね。」

「なんてったってクリスマスだしな~。」

「なんだ?みんな浮かれてるのか?」

 

などと口々に話しながら俺の居たテーブルへと腰掛ける。

 

「今日の狩りはは順調でしたか?」と俺が尋ねると、

 

「あったぼーよー。今日で全員5レベルまで上がったんだからな!」

 

とダッカーさんが返事をする。

 

ここ最近の俺の日課は主に街をぶらつく一方だが、こうして彼らの帰りを待って夕食を共にすることにしている。まるで兄姉の部活帰りを待っているようで今となっては愛おしいやり取りだ。

 

みんなと雑談でもしながら豪華な食事を楽しむ中、ケイタさんが「あ、そういえば」と小耳にはさんだらしい話を振ってくる。

 

「帰り道に少し聞いたんだど、今日イベントmobが出るみたいなんだよね。と言っても推奨レベル8かららしいから俺たちは大人しくしとくつもりだけど。ナツメはレベル的に届いてるし、どうするんだい?」

 

イベントmob。世界各地の伝承や神話などをモチーフに作られる特殊なモンスター。今日で言えばおそらくクリスマスに絡めたモンスターであることは容易に想像できる。とは言え、そういうモンスターは別名《ネームドmob》と言い、推奨レベルより高いレベルに設定されていることが多い。今回で言えば必要レベルは10~13といったとこか。

 

「前も言いましたけど俺はもう冒険なんてしないですよ。イベントとかで浮ついた時が一番怖いんですから。」

 

およそ一か月が経った今でも、俺は第一層での出来事が忘れられずにいる。

 

「そ…っか。そうだよね。まぁ無理しない方がいいよ。あぁ、でももしついてきたくなったらいつでも言ってね?僕たちはナツメを受け入れる準備はもうできてるから。」

 

その一言で俺がどれだけ救われることか。

 

「ありがとう。ケイタさん。」

 

 

 

―――

 

 

 

19:45

 

無事みんなとの食事を終えた俺はいつもの激安宿屋へ向かう。

 

―っ!?

 

いきなり不穏な空気を感じた俺はとっさに一歩引きさがる。

すると目の前を一本のレイピアが通り過ぎる。

 

「誰だっ!?」

 

「ふふっ。もう私のこと忘れちゃった?」

 

そういいつつ、攻撃してきた犯人は顔を上げる。

ブロンドの髪に赤い縁のメガネ。俺とそう変わらない170cmくらいの身長。

 

―まるで覚えがない。

 

「す、すみません。人違いじゃないですか?」

 

「え~ショックだなぁ。君にレイピアを教えたのは私だっていうのにぃ。」

 

レイピアを教えた…?って、もしかして

 

「まさか師匠!?」

 

「そ、ロザ先生だよ~。久しぶりね、なっちゃん。いや、ナツメくん。」

 

そういいつつ名乗ったこの女性はロザーシュというレイピア使い。

俺に剣を、このゲームの基礎を教えてくれた人の一人だ。

 

この人との出会いはゲームログイン直後、あの茅場のデスゲーム宣言より前にさかのぼる。

 

 

 

―――

 

 

 

2022年11月6日13:30

 

リンクスタート。その一声と共にログインした俺はいきなり見知らぬ街に立たされ右も左もわからずにいた。しかし、ダンとあらかじめ現実世界で集合場所を決めていたため中央広場のベンチに腰掛け、ダンがログインするのを待つことにした。

 

―遅い。サービス開始の13:00にはログインしようと決めていたのにもう30分も経っているではないか。さすがに暇すぎる。

 

待ちゆく人を眺めていると不思議と目につく二人組がいた。

片方は騎士然とした背の高い男性。片方はいかにも少女といった感じの女の子。

少し気は引けるが耳を澄ますと―

 

「βの時にはなかった武器が色々あるな。これなんかも初めて見るんじゃないか?」

「え~でも私は細剣で慣れちゃったからな~それにテストの時と色々違うかもしれないし~…」

 

β?テスト?なんの話をしているんだ?

ただ一つわかるのは俺よりはこのゲームに詳しいということ。

当時アバターだった俺はその見た目を存分に活かし、二人についていくことにする。

 

「あ、あのぅ。わたし(・・・)、このゲーム初めてで良ければ基本とか教えてもらっても…。」

 

「おや、これは可愛いお嬢さん(・・・・)。僕らでよければ構わないよ。」

 

と背の高いお兄さんが。

 

お嬢さん(・・・・)…ねぇ…。ま、私も面白そうだし、いいよ~。お姉さんたちに何でも聞いてごらんなさい。」

 

訝しむようにこちらを見る少女。

 

「わ、わぁ!ありがとうございます!」

 

あっぶねぇ。ネカマしといてよかったぁ。これアバターじゃなかったら詰んでた。確実に。

そう、俺のアバターは実際の身長より約20cmも低い150cm程度の女の子(・・・)であった。

 

 

 

―――

 

 

 

「改めて、私はロザーシュ《Rosage》。よろしくね。それで君は何か気になる剣とかはある?」

 

「あ、ぼ…じゃなくてわたしはナツメといいます。剣はまだこれと言っては…」

 

「女の子に重い剣持たせるっていうのはあれだし、軽めのダガーとかはどうかな?あ、ちなみに私はウィオラ《Viola》だ。よろしく頼む。」

 

ロザーシュさんにウィオラさんか。よし、覚えたぞ。それにしてもちゃんと女の子として扱ってくれるんだなぁ。そこはネカマとはいえ、素直にありがたい。

 

「確かにいいですね。ちなみにお二人は何を使ってるんですか?」

 

参考にしようと思い、二人に問いかける。

ロザーシュさんはさっきの様子だとレイピアっぽいし、ウィオラさんは両手剣とかかな?

 

「私はレイピアよ。スピードが速いのが特徴で、手数で攻める剣ね。主に刺突技が多いけど、たまに斬撃技も使えるわ。」

 

予想通りだ。そしてウィオラさんは―

 

「私は騎士として盾持ち片手剣。と言いたいんだけどやっぱりあの頃が忘れられずに短剣にしようか迷ってるところ。」

 

へぇ意外だ。ロールプレイをしてるからてっきりナイトとして盾を持つものとばかり思っていた。

 

二人がSAO試験稼働経験者―いわゆるβテスター―だということはここに来るまでに教えてもらった。俺は当然参加していないためど素人だ。

確かに両手剣も攻撃力たかそうでかっこいいし、この曲刀っていうのも海賊っぽくていいなぁ。片手剣のベーシックさもまた魅力的だし…う~ん。

 

「あら?そんなに迷うの?なら、いいこと教えてあげる。なんと今ここで《細剣》を選べば、可愛い師匠と頼れる騎士くんが付いてきちゃいまぁす。」

 

迷う余地はもうなかった。NPCショップのウィンドウを手早く操作し、一番高いレイピアを購入。気が付けば背中ではなく腰からわずかな重さを感じるが、その重さが自分の判断で生まれたものだと気づくのに10秒はかかった。

 

「お、おいおい。詐欺まがいの文句で初心者に強制させるなよ。」

 

「いいのよ、買っちゃえばこっちのもんなんだから。それにしてもなっちゃん。いや(・・)、ナツメくん。君男の子でしょ?本能には逆らえないわねぇ。」

 

全身から汗が噴き出る。やってしまった。やった。やったわぁこれ。次の悲鳴は先ほどの質問に対する答えだと自白しているものだった。

 

「ちっくしょぉおおお!!!俺のバカぁぁあああ!!!」

 

 

 

―――

 

 

 

第一層フィールドにて

 

「ま、まぁナツメ。さっきのはうちの相方が悪かったって。代わりと言っては何だけどきちんとソードスキルとかあらかたは説明してあげるから。」

 

申し訳なさそうにフォローを入れてくれる。ウィオラさん。おぉ、優男だぁ。

それに引き換えこの女は。

 

「まぁまぁいいじゃないのなっちゃん。男の子は度胸と勢いが肝心よ?それにそこにいる騎士然としたウィオラちゃんだって似たようなもんなんだから。」

 

「ちょ、ロザ!?いくら何でもしゃべりすぎよっ!」

 

「え。」

 

思考が停止した。男が可愛い女の子にあこがれてネカマをやることはよくある。無論ネナべも話にはよく聞くが実際に交流したことはほとんどないので幻の存在なのかと思っていた。しかも?この嫉妬することすら忘れてしまいそうな顔よし、声よし、仕草よしの気が使える優男がネナべ?

 

「お、おまっ、わざわざゲームの世界に入り込めるゲームでネナべしなくてもいいだろ!?」

 

「そ、そんなこと言ったらあんたこそなんでそんな恰好してるのよっ!?ゲームの中でモテたって意味ないんだからねっ!」

 

そんな二人のやり取りをよそにロザーシュさんは「あらあらぁ。」と傍観を決め込む。

 

「大体なぁ騎士ロールプレイ持ち込むなら盾でもかつぎゃいいだろっ!なんで地味な短剣なんて選んでるんだよっ!バーカバーカ!」

 

「あんたねぇ、あんたこそ男ならもっと堂々としなさいよっ!女の子演じて百合に混ざろうって魂胆が見え見えよ!エロ猿っ!あほの助っ!」

 

途中から小学生みたいなやり取りをする俺たちを見て通り過ぎる人々は笑っている。はじめはロザーシュも笑っていたが次第に俺たちのやり取りに飽きて来たのか半ば強引に話を進める。

 

「はいはい。あなたたちそれくらいにしときなさい。いい加減周りから白い目で見られるわよ。」

 

「その原因をつくったあんたが言うかよ…。もう敬語とかなしで話させてもらうからな。」

 

「もともと丁寧語なだけで全っ然敬語じゃないけどね!」

 

ったく。こちとらネカマで遊ぶっていうのに気分悪くなったぜ。性別はバラされるし、優男だと思ったやつは女だし…。

とは言え、色々教えてもらわないとわからないのも事実なのでここは素直に謝るか。

 

「ったく。悪かったよ。謝るからそのソードスキルってやつ教えてくれ。」

 

「私も少し言い過ぎたわ。一度冷静になりましょ。と言っても私は短剣だから主に教えるのはロザになりそうだけど。」

 

それもそうか、もともとはロザーシュの口車に乗ってしまったから俺もレイピアを装備しているわけだし。

 

「そういうわけなんでロザーシュ、じゃなくて師匠。色々教えてくれ!」

 

「素直でよろしいっ。じゃあまずはメニューウィンドウを開いてみて…」

 

そこから師匠によるSAOの基本講座を教えてもらった。

 

 

 

―――

 

 

 

17:00

 

「だぁ、はぁ、もう疲れた。動きたくねぇ。」

 

あれから言われるがまま色々試してみるもののソードスキルを使って倒したのはたった一匹だけであった。

 

「ここまで覚えてもらうまでえらい時間かかったわねぇ…。」

 

さすがに師匠の顔にも疲れが見えてくる。

というのも普通のネトゲとは違い全身を動かすSAOでは勝手が全然違いすぎるのだ。

頭では理解しても、もともと運動が苦手だった俺はなかなかそれを体で再現できずにいた。

それをつい先ほどようやく一匹倒しただけでこの疲労度だ。

 

「全く。情けないなぁナツメは。私なんてすぐに覚えたものだぞ。」

 

すっかり騎士モードに戻ったウィオラにそういわれる。

…こいつ、さては向こうで運動部だったな。

動ける人はいいですねぇなんて憎まれ口を考えてみると師匠から思いもよらぬ提案をされる。

 

「それじゃ最後に模擬戦をして終了としましょうか。暇だったろうし、ウィオラ、相手してあげなさい。」

 

「いいのか?さすがにさっきスキルを覚えた子と私とじゃ実力差なんて明白だぞ?」

 

「いいのよ。それに自分の持つ武器以外の動きも覚えないとこの先PKにあったとき大変よ?」

 

久々にSAO独自じゃない言葉を聞き安堵すると同時に疑問も浮かぶ。

 

「なんだ?このゲームPKなんてするやついるのか?」

 

「ごく一部なんだけどねぇ。でもゲームだし、強者を倒すことでストレス発散になる人もいるのよ。βテストの時もプレイヤーがたった千人とはいえ、それなりにいたわよ。」

 

それを聞いて納得する。いわば護身用に覚えておけということか。ウィオラの方を一瞬見る。相手の武器は短剣。どちらも速度重視な部分は変わらないがリーチがある分こちらが有利だろう。

 

「わかったぜ。ただこの、初撃決着モードっていうのでいいか?死んで街に戻るっていうのは気分がいいもんじゃないだろうし。」

 

「了解。さ、それじゃナツメ。剣を構えて。」

 

言われるがままにウィオラと向かい合い俺はレイピアを、相手はダガーを構える。

横からは師匠によるPvP戦でのアドバイスが飛んでくる。

 

「対人戦ではまず、相手の動きをよく観察すること。それから相手がどう動くのか予想を立てること。ウィオラの方が経験は踏んでるから、なっちゃんが勝つためには情報が肝心よ。あとソードスキルはここぞというときまで使わないこと。ソードスキルには事後硬直といってコンマ数秒の停止時間が存在するからね。」

 

アドバイスを軽く耳に入れつつも集中する。

相手はダガーを逆手に持ち体の前に構える。初撃はこちらが突っ込んでくることを予想してのカウンター狙いか?ならこちらはあえて一息待ってから出方をうかがった方がいいのか。あぁ、くそっ情報が少なすぎる。

 

考えている間にカウントは進む。

 

…3

 

…2

 

…1

 

…0

 

「「っ!」」

 

速いっ。予想は外れ、相手はいきなり懐へ入り込んできた。それをギリギリで躱しバックステップで距離を取る。しかし簡単に近づかれてしまいまたも被弾しそうになる。

 

やばいっこれっ反撃してるっ暇がないぞっ。

 

十回ほど似たようなやり取りを繰り返していると、俺は妙な感覚に襲われた。

 

 

な…んだこれっ…

 

 

時間が引き延ばされていくような感覚と共に、周囲のスピードが遅くなる。次第に視界から色が消えていき黒と緑の二色に周りが呑み込まれていく。

 

そんな意識の中はっきりと見た。いや、視えてしまった。

 

三連撃。左、右、左。そのあとに脚への斬り払いをはさみ転倒狙い。最後に首元にダガーをあてがい、笑みを浮かべるウィオラの姿が。

 

見えたのであればそれを対処するように体を動かすだけ。

 

「う、うぉぉらぁああ!!」

 

キキキンッ

 

超高速で剣戟が鳴り響く。相手も、いや俺自身も信じられない動きに相手は焦ったのか、慌てて飛び退く。

 

―ソードスキルはここぞというときまで使わないこと―

 

ここだ。一瞬の隙を見逃さなかった俺は師匠の先ほどの教え通りソードスキルを放つ。

《リニアー》が相手の肩に命中

 

 

-しなかった。

 

 

ウィオラはバク転の要領で俺のスキルをよけると笑みを浮かべてカウンターを発動させる。

 

短剣基本スキル《ベーシック・バイト》

 

それは見事に俺の腹部へ命中し、決闘の終了を告げるベルが鳴る。やはり、勝てなかった。

 

「はぁ、はぁ。バク転は、ずるいだろ。運動経験者は、これだから、ずるいぜ。」

 

精神的に疲れてしまったため大の字に寝転がりながら肩で息をする。

 

「ナツメこそ、さっきの反応速度は異常よ。本当にβ未経験なのか怪しいくらいだわ。」

 

ウィオラも疲れているのか口調が女の子に戻ってしまっている。

 

「師匠、どうだった?多少はマシになったんじゃね?」

 

「…。」

 

あれ?返事が返ってこない。

 

「師匠ー!どうだったかって聞いてるのー!」

 

「え?あぁ、うん、良かったんじゃ…ないかしら。初めての対人戦とはいえ、大きな経験よ。」

 

冷や汗?なんで一番動いてない師匠が?まぁいいやもう少しだけ寝転がっているか…

 

そんなやり取りの20分後にはデスゲームが開始された。

 

 

 

―――

 

 

 

2022年12月24日19:50

 

いけない。思い出さなくてもいい余計な事まで思い出してしまった。

ま、まぁ今のご時世ネカマがばれるなんていくらでもあるだろ。うん、話題に出さなきゃいいだけだな。

 

「改めてみると随分とかわいい顔してるのねぇ。アバターの時もだったけど。」

 

「あれは忘れてくれっ!!…で?今更何の用?」

 

「あらぁ、そんなに拗ねなくてもいいのにぃ。ふふ。」

 

この人の何考えてるかわからない感じは正直言って苦手だ。

 

「風の噂で聞いたんだけど、このゲームが怖くなって攻略組を辞めるそうじゃない。本当なの?」

 

随分耳が早いな。気にかけてくれてるってことなのか?

だが、素直に返事を返すのも癪だし、こちらも質問を返す。

 

「そういう割にはあんたもウィオラも第一層攻略にはいなかったじゃないか。」

 

「あの日はちょっと予定があったのよ。でも遅れた分は二層三層とこれから取り返していくつもりだわ。もちろんウィオラちゃんもね。」

 

「そういう割には今日は一緒に居ないんだな。」

 

「そんな毎日一緒に居るわけじゃないわよ。あくまでβ時代からの知り合いってだけだし、お互いパーティ組んでるわけじゃないものね。」

 

それは意外だった。レクチャーの時に二人でいたもんだからつい二人セットで考えてたな。

 

「それで、なっちゃんはなんで攻略組を辞めちゃうの。力だってあるのに。」

 

力…?俺が?力を持っているっていうのはキリトやアスナみたいに一人でも立ち向かう勇気を持ってるやつや、ケイタさんのように弱くても前へ歩こうと、次へ進もうとしていけるやつのことを言うんだろ?

 

「俺には、力なんてないよ。悪いけどもう俺は攻略組を降りたんだ。もし勧誘するつもりできたのならあきらめてくれ。」

 

そう言い返した途端に師匠から殺気が発せられる。あの戦いの時と変わらない緊張感が場を包む。

 

「ふざ…けないでよ。ふざけるんじゃないわよ!あれだけの技を披露した者がっ、自分から戦場を離れるって!?甘ったれるのもいい加減にしなさいよっ!レベルでもなくソードスキルでもない、あなたみたいな強さが欲しい人間は世の中にごまんといるのよっ!?それを、怖いからはい辞めますって、凡人をっ、馬鹿にしないでよねっ!?」

 

なぜ、この人はこんなにも怒ってるのか、俺には正直わからなかった。

ただそうまで言われて泣きだされると何故か、申し訳ない気持ちになった。

でも俺にはこの時の師匠の言葉はやはり、よくわからなかった。

 

「と、とにかく何を言われようと「ならっ!」え、あ、はい?」

 

「なら一週間後の31日、ウィオラともう一度対決しなさい。それになっちゃんが負けたら攻略組に参加してもらう。勝ったら何か一つ提案を飲んであげるわ。逃げるなんて許さないんだから。」

 

は?

 

「はぁぁあああ!!!??」

 

そんな提案に頭が追い付くはずもなく疑問ばかりが押し寄せる。

 

「んなこと言ったってあいつの本来の体格は?武器は?レベルは?対人経験値は?」

 

「あらぁ、やる気がなさそうな割にきっちり情報収集しててお偉いこと。そうねぇ…なっちゃんのアバター時と同等くらいの身長、相変わらずのダガー使い、年末までには13前後に届くんじゃないかしら、対人戦はなっちゃん以上私未満。これで満足?それじゃ、また一週間後にトールバーナでね。ばいばぁい。」

 

それだけ告げていくとどこかへ走り去ってしまった。

 

レベル13前後。俺の現在レベルは10。3レべも一週間で上げるとなると一層のモンスターでは間に合わない。というか寝てる暇あるのかこれ?あぁ考えても仕方ない。今からレベル上げだ。

 

「やってやろーじゃねぇかこんちくしょー!」

 

 

そこからはパワーレベリングの一週間であった。

 

ちなみにレベリングが忙しすぎてケイタさんたちのところへ顔を出せなくなったのは余談である。

 

 

 

―――

 

 

 

2022年12月31日15:00

 

時間ギリギリにトールバーナの広場に着くとどこか懐かしさを感じた。あれからもう、ひと月が経とうとしているのか。広場をふと見渡すとそこには先客が7人。

 

…もう一度確認する。7人。

 

「ちょ、ちょっと待てーい!師匠にウィオラが居ることはわかるがなんでケイタさんたちまでいるんだよっ!今回の件関係ないだろっ!?」

 

そう、なぜか観戦者が居るのだ。しかも、全員知り合いという。

その問いが来るのをまるで分り切っていたかのように師匠は答えを返す。

 

「ギャラリーがいた方が盛り上がるでしょ?とはいえ、全く知らない人がいても仕方ないからあなたに縁のありそうな人に適当に声をかけておいただけよ。何か悪い?」

 

「いやー、黙ってたのは悪かったって。でもでも、ナツメの本気の姿が見れるって聞いたらつい楽しみになっちゃってな。本当、ごめん。」

 

と聞いてもないのに謝ってくるダッカーさん。

 

「勝手にしてくれ。」

 

半分泣きそうになりながら言う。

 

「ちょっと、いつまでへこたれてるのよ。」

 

目の前の少女はそう言って俺に話しかける。あらかじめ聞いていた通り身長150cm前後に白い髪に赤い瞳。もしかしてアルビノってやつか?いや、聞くのは今じゃなくても別にいい。

 

「久しぶりだな、ウィオラ。意外とこじんまりしてて可愛かったんだな。」

 

茶化すように挨拶する。案の定琴線に触れたようだ。

 

「るっさいわね。あんたこそ可愛げなくなってるじゃないの。まぁ中身まであのまんまだったら性別疑うけどね。そんなことよりいいの?」

 

「何が?」

 

「お仲間さんたち。事情ちゃんとは聞いてないんじゃない?ただあなたの本気が見られるってところにつられてきたようにも見えるけど?」

 

うっそだろ。そんなはずは…ダッカーさん経由ならあり得るな。そしておそらくそうなるように仕組んだのは師匠だろう。誤解を解きに行くか。そう考えて彼らの方へ歩み寄る。

 

「あ、あの。みなさん。」

 

攻略組への加入がかかってるせいか、うまく言葉が出てこない。

 

それを察してくれたのはケイタさんだった。

 

「この試合、何かとても大事なものを賭けているんだろう?一週間近くご飯一緒に食べてないしね。前も言った通り、無理しない範囲で構わないし、話したくないなら今は話さなくてもいい。いつか聞かせてくれたらそれでいいよ。」

 

本当にこの人は。何をどう学んで来たらここまでの聖人になれるんだろう。

でもここで一つの決意(・・・・・)が固まった。

 

「わかりました。今は何も語りません。でも試合が終わったら大事な話があるのでいつもの時間にレストランで待っててください。」

 

「わかった。」

 

これで心置きなく戦える。

そう思い再び広場の中央へ戻り、ウィオラと相対する。

 

「随分と凛々しい顔になって戻ってきたけどお別れの挨拶は済んだかしら。なっちゃん?」

 

ウィオラも師匠と何か話していたようで先ほどとは目つきが違う。

 

「ロザの弟子だからと言って手を抜くつもりはないし、ロザが認めた人材だからこそあなたをこんな序盤で失いたくない。全力でぶつかるし、今度も私が勝つ。」

 

随分とまぁ気に入られたようで。だが、まぁ啖呵を切られたからには売り言葉に買い言葉でしょ。後ろのギャラリーに聞こえるように少し大声で言い返す。

 

「俺は攻略組に今すぐ戻るつもりもないし、いつまでもあんたの弟子で居続けるつもりもない!ここであんたの親友をぶちのめし、背中を預けられる仲間と共に歩んでいく(・・・・・・・・・・)だけだ!」

 

その発言に後ろから歓声があがる。思わず笑みがこぼれるが今は目の前の相手に集中しよう。

 

互いに剣を取る。

 

「ぶちのめす、なんて随分な事言ってくれるじゃない。今日も泣かせてあげるんだから。」

 

相手からウィンドウが飛んでくる。かの日と同じ《初撃決着モード》で。

それを受諾するとウィオラとの間にタイマーが現れる。

 

無言でにらみあう最中、俺はかつての日のアドバイスを思い出す。

 

まずは情報収集…背は以前より低い。ならばより懐へはいられやすくなった。だがその分リーチが短くなっている。とは言え、あの時とはレベルも装備も違う。ならおそらく速度が段違いになってくるだろう。またラッシュに持ち込んでくるか。くそっ相変わらず対人戦の経験が少ないとこれだから…

 

…30

 

一旦落ち着こうと思い相手の顔を見る。笑った?笑うだけの余裕があるというのか?まだ俺に教えていないことでもあるのか?考えろ、考えろ。

 

…20

 

そういえば今日は逆手じゃない。なにか理由があるのか?それに初手でソードスキルを使うって可能性もありなのか?だとすれば…ええとダッカーさんに教える予定だったスキルは確か…

 

…10

 

…ベーシックバイトだ!突進系だから逆手じゃ発動できない。ならそれに合わせてリニアーを発動させればリーチ差で勝てる。

 

…3

 

…2

 

…1

 

…0

 

短剣基本スキル《ベーシックバイト》

細剣基本スキル《リニアー》

 

ゴウッ。

 

いきなりのソードスキルのぶつかり合いに会場がどよめく。

また、ぶつかっている俺たち自身も驚いている。

 

剣先が全くぶれずにぶつかり二人とも固まってしまったからだ。

硬直から解放されるや否や両者走り出す。

 

ウィオラは間合いを詰めたいらしいがそんなことをしたら蜂の巣だ。何とか今の間合いを維持しないと。

高速な剣戟を交わしては離れ、交わしては、離れ。

 

来る。あの時に視た。不思議な光景が。

 

再び世界は緑と黒に塗りつぶされ、時が永遠にも続くかのように遅くなる。

 

次の剣戟を交わした後、相も変わらず俺は振り返り走り出す。しびれを切らしたかのようにウィオラは開幕と同じスキルでがら空きの背中に突っ込んでくる。

 

ここまで視えて現実へ戻ってくる。

 

短い剣戟を交え視えたとおりに振り向く。後ろからスキルの起動音が聞こえたのを確認してもう一度振り向く。

 

相手の手の位置、角度をよく見てこちらもスキルをお返しする。

 

「せぇぁあああ!!!!」

「決まれぇぇえええ!!!!」

 




ロザーシュ「はぁ~い。と、いうことで今回はロザ先生との再会編でしたぁ。いかがだったかなぁ?」

ウィオラ「ロザとの、じゃなくて『私たち』との、ね」

ロザーシュ「まぁまぁいいじゃないの細かいことは。」

ウィオラ「一応これでもメインヒロインなんだけど私!」

ロザーシュ「あらあら。若いっていいわねぇ。さて、後書きでは大体、今日みたいなキャラクターたちのちょっとしたやり取りを載せていくんだけど重要な伏線の場合は後書きにも本編が続くかも...だって。」

ウィオラ「それはもう後書きとは言わないんじゃないかしら。まぁここまで読んでくれたみんなありがとう!今後ともナツメの活躍をぜひとも応援してね!それじゃあまた第3話で。バイバイ。」

作者の出番はぁ!?


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第3話 決意と前進

いや~すっかりコロナも収まりました紫蛇の抜け殻(へびのぬけがら)です~

さてさて、今日は賭け決闘の結果とこれまた意外な出会いを書いてみました~

もしかしたら設定集とかと違うよ~とかあるかもしれませんがあくまで準拠しているのはアニメ目線のみなのでごゆるりとお楽しみください~

いよいよ今回か、次回あたりからオリジナルががっつり展開されていくので作者にもまだ先が読めていません~精一杯考えて書きます~


ナツメ「と、いうわけでここからは作者の妄想もとい、俺目線の物語が展開されていくので原作キャラは一部を除き絡みが薄くなっていくのでその点ご了承ください。それでは本編です。」


2022年12月31日23:55 第一層森林フィールドにて

 

あの決闘の後、またいつものようにケイタさんたちと夕食を囲み、時を過ごした。いつもと違う点と言えば今日はゲストが二人(・・・・・・)もいたというところだろう。その後俺が何をしていたのかというと―

 

「そろそろ目標地点よ。ウィオラはともかくなっちゃん、準備はいいわね?」

 

と今回の同行者(・・・)が聞いてくる。

 

「当たり前だ。何のためにここまで来てるんだか。」

 

そう、俺は日中に行われた決闘の対価をまさに今行使しているところだ。

 

 

 

―――

 

 

 

15:00 第一層トールバーナにて

 

「せぇぁあああ!!!!」

「決まれぇぇえええ!!!!」

 

相手のソードスキルの立ち上げを見てからその軌道を把握し、正確に空いているスペースへお返しをする。想像することは難くないが、それをなぜ俺が実践できたのかは俺自身全く分かっていない。

 

しかし、思考が追い付いたところで結果は明白であった。俺のレイピアは相手の左肩に命中し、赤いエフェクトを映し出していた。

 

「やったぁぁあああ!」

「ナツメの勝ちだぁ!」

 

と口々に喜ぶケイタさんたち。戦っていた当の本人たちや、ロザは理解が追い付かないでいた。

 

「勝った…のか…」

 

そうつぶやきつつ俺は後ろへ倒れる。勝った。勝ったんだ。あのウィオラ相手に。嬉しくないはずがない。

 

「俺、勝ったぁぁあああ!!」

 

そう寝ながら叫んでいると近づいてくる足音が二つ。

 

「はぁ~あ。今回はしてやられたわ。まさかカウンターされるなんて。」

 

と先ほどの戦いを反省しているウィオラと、

 

「…おめでとう。勝手にしてもいいけど少しくらいは攻略に顔見せに来なさいよね。」

 

とどこか悲しそうに微笑むロザーシュ。それに対し、俺は起き上がってからこの前の返事を返す。

 

「まぁ、その、誘ってくれたのは嬉しかったよ。二人とも。でも俺はやっぱり今の自分に攻略組を続けていくだけの力があるとは思えない。」

 

そういうと二人の顔は暗くなる。

 

「だから、ケイタさんたちと一緒に強くなる。それこそ二人みたいにβ経験者は一人もいないし、人数増える分全員分のレベリングとか色々大変だろうけど、みんなで二人に追いつくよ。これじゃ、ダメか?」

 

するとウィオラは笑顔になり

 

「大賛成。六人も攻略組が増えるなら多少遅くなっても嬉しいよ。それにライバルがまた攻略組を目指してくれるなんてさ。あ、でも今度は負けないからね?今一勝一敗なんだから。次は私が勝つ。」

 

「ありがとな。…ロザは?」

 

「あらぁ?いつの間に師匠を名前呼びするようになったのかしら?どうせ呼んでくれるならロザ先生の方が嬉しいかなぁ~。」

 

こいつ…。

 

「茶化してねぇで、どうなんだよ。」

 

「相変わらずシャイねぇ、もぅ。わかったわよ。でもその代わり一つ約束しなさい。必ず6人そろった状態で攻略組に参戦すること。一人でも欠けてたら許さないんだから。」

 

「まかせろっ!」

 

俺はロザに対し笑顔で返事をする。そしてそこまで話し終えたところで話題は賭けの対象に移ってくる。

 

「そういえばこれってナツメが勝った場合ってなんでも一ついうことを聞くことになってたよね?何にするの?」

 

「そうだな…。何か有益な情報かアイテムか…。」

 

「じゃあこうしましょう。私が《鼠》ちゃんから聞いた面白いクエストがあるからその提供でどう?」

 

クエスト情報か…。クリスマスの時もイベントmobが出たってケイタさん言ってたし、今回は日付的に新年がらみのイベントか…。めんどくさそうだ、よし。

 

「じゃあ俺からの要求はそのクエストを手伝ってもらうってことにしよう。」

 

その一言を機にまた三人は夜中に集まることが決まった。

 

 

 

―――

 

 

 

23:58 第一層森林フィールドにて

 

あと二分、そろそろだな。しっかし、見渡す限り人いないし、湖しかないし、本当に出てくんのか?もしかして違う湖だったりするんじゃないだろうな?

 

「なぁロザ。本当にこの湖であってるのか?それにしちゃ人が居なさすぎると思うんだけど…。」

 

「ここは、はじまりの街から一番遠い出現ポイントだからね。第一層決められた合計40個の湖や池に出現するそうよ。そして狩った数が多いパーティほどいい報酬がもらえるみたい。」

 

「ということはどんなに強力な相手でも最大7人パーティかぁ。私とロザとナツメの3人で大丈夫なの?それ。」

 

40個もある湖か池を回っていくのか。疲れそうだな。でも仕方がない。みんなへのお土産はこのクエスト報酬がいいって決めたんだから。

 

わずかに空気が震えだし、湖面に水色の兎が現れる。

 

《Waterabbit》

 

「ウィオラ!先制頼む!後に俺が続く!」

 

と勝手に指示を飛ばすと意外と素直に聞いてくれるらしく

 

「了解!」

 

と返事が返ってきてそのままウィオラはソードスキルで突っ込む。見事ボスの腹部に直撃し、ボスもウィオラも硬直したのを確認すると俺も続いて突っ込む。俺のスキルがシステムに認識されてレイピアが光りだした瞬間に気づく。

 

―なぜウィオラは飛び退かないっ!?スイッチなら普通横か後ろに下がるだろう?

 

「せぇああ!」

 

ステップで加速した瞬間に兎がポリゴン状になって飛散(・・・・・・・・・・・)した。

 

「はぁっ!?」

 

俺は敵の居なくなった湖に向かって正面からダイブした。

 

「冷たっ!寒むっ!冬の水はシャレにならんっ!」

 

慌てて陸へ上がる。すると盛大に笑ったであろう二人が出迎える。

 

「はぁ、はぁ、ナツメどこまで飛んでいくのよ。」

 

「なっちゃんあなた、ちゃんと敵のHPゲージ見てた?ウィオラの攻撃で全部持っていかれてたじゃないのよ。ふふっ。」

 

「い、いいんだよ。弱かった分にはっ!とりあえず次行くぞ次!」

 

俺は恥ずかしさをごまかすのに精いっぱいだった。

 

 

 

―――

 

 

 

「キェエエエ!!」

 

そう叫び声を上げながら13匹目が割れていった。

 

「な~あ~。これじゃシャレにならないレベルで弱すぎるって…。まだ全部で40匹行かないのか?」

 

「そうねぇ。あ、今ので39匹目らしいから最後の1匹はどこかのパーティに譲りましょ。」

 

「賛成~さすがに走り疲れたわね。」

 

結局1匹1匹がものすごい弱いこともありむしろ敵が出現した湖を特定する方が難易度が高かった。三人とも適当に岩に腰掛けていると目の前にウィンドウが突如現れる。

 

『おめでとうございます。最も討伐数が多かったのは当パーティです。つきましては最初に水兎を倒した湖までお戻りくださいませ。』

 

まだ終わってないってことか。

 

「むしろここからが本番って感じ?俺も斬り足りなかったしちょうどいいか。」

 

「なっちゃんねぇ。だいたいこういうときは次はボスが現れるものよ。先ほどとは違うから決して油断しないこと。」

 

「はいは~い。んじゃ早速戻りますか。」

 

 

 

―――

 

 

 

最初の湖にて。

 

デカい。なんてもんじゃない。

 

「軽く俺らの身長こしてるんですけど!」

 

戻ってみるとおよそ全長4mもある巨大な青い兎が鎮座していた。

 

『Mizunotoh the water Rabbit』(ミズノトウ・ザ・ウォーター・ラビット)

 

「ミズノトー・ザ・ウォーター・ラビット?どういう意味だこれ?兎って水の中に住む種類もいるんか?」

 

「ロザ先生の授業の時間ね。正しくは癸卯(みずのとう)。十二支と十干がモチーフになってるのね。簡単に言っちゃうと水タイプの兎さんってこと。」

 

「あら、ロザ結構詳しいのね。私は十二支くらいしかわからなかったわ。」

 

水タイプねぇ…。そういう敵って大体口から水を…。ってまさに後ろ脚で立って構えてるじゃねぇか!!

 

「前方ブレス!左右によけろ!」

 

そういいつつ三人とも慌てて飛び退く。

 

「今度は俺から仕掛ける!ウィオラ、ロザ、サポート頼む!」

 

「「了解!」」

 

まずはがら空きの後ろからスキルを3発。―があまり手ごたえがない。攻撃が来たので仕方なく飛び退きつつ敵のHPバーを確認すると数ドットしか削れていない。一体なんで。

 

「なっちゃん!ダメージが入りにくい敵には弱点か条件(・・・・・)どちらかが隠されているはず!それを探すのよ!」

 

なるほどな。じゃあ焦るよりかは防御に徹しつつ探るか。

 

「じゃあ俺がある程度ヘイトを稼ぐから二人で探してくれ!」

 

そういいつつ今度は正面に回りモンスターの特徴ともいえる前歯に一発おみまいしてやる。

もちろん俺も反撃を食らうがレベル的にある程度は無視していいダメージだ。

 

そこからはこいつの弱点が見つかるか俺が先に値を上げるかの我慢比べだ。

 

相手は高い跳躍力を存分に活かし俺に素早く突っ込んでくる。それを左右によけ、体に一撃入れたら逃げずにその場にとどまりまた正面に構える。

 

先に根を上げたのは兎でも俺でもなかった。

 

「だめ!この兎、耳も脚もどこにも弱点がない!」

 

「んなわけないだろウィオラ!ロザの方は何かないか!?」

 

「ん~…。こっちもとくにはねぇ。後は確かめてないと言ったら四足歩行だし、お腹とか?」

 

他の部分が全部違うならそれしかねぇ。が、どうやってこの兎を立たせる。

 

「だがどうやって立たせるよ。四足歩行の動物が立つなんて話、めったにしか起きねぇよ。」

 

「でもこの子最初立ってなかったっけ?ほら…ブレスの時。」

 

「それだウィオラ!よし、じゃあ一度距離を取ってもし腹が見えたら俺が突っ込む。いいな?」

 

「「了解」」

 

こうして即席攻略手順が完成した。

 

まずは5mほど距離を取って全員構える。さっきブレスを打った時もこのくらいの距離だった気がする。前足をよく見ろ…。あれが持ち上がったら突っ込む。あれが持ち上がったら突っ込む。

 

ウィオラの予想通り前足が持ち上がった。すると腹のあたりは体毛が少し薄いように感じる点がある。あそこだ。

 

「せぇぇえい!」

 

「キィェェエ!」

 

明確な手ごたえ!そして悲鳴も発したってことは弱点に違いない!次はお二人さん頼むぜ。

 

「「「スイッチ!」」」

 

俺がバックステップで飛び退くと左右からレイピアとダガーを携え二人が突っ込んでいく。よし、全員クリティカルで入った。これで決まっただろ。

 

敵のHPバーはみるみる減っていき、黄色、赤、そして…あと数ドットで止まった。瀕死状態のため今までにもないモーションを繰り出してくるようになる。その場で勢いよく回転し、二人とも吹き飛ばされる。

 

「きゃあ」

「くっ」

 

「だ、大丈夫か!二人とも!?」

 

慌てて駆けつけるも、二人とも落ち着いた様子。

 

「あぁ、動きは派手だったけどほら。HPバーはグリーンのままだしね。」

 

「そうよ?なっちゃん。私たちあなたと同じくらいなんだからなめてもらっちゃ困るわ?」

 

「よかった。とは言え次の一撃で終わりそうだし、ラストは約束通り俺がいただくからな。二人はそこでゆっくりしてて。」

 

そういって兎に俺だけ向かっていく。

 

「さぁ来いよ、兎野郎。てめぇの弱点はもうわかってんだ!」

 

 

 

―――

 

 

 

2023年1月1日9:30 第一層はじまりの街

 

あれから無事ボスを倒し終えた俺たちは街へ戻り、解散した。ロザとウィオラに関しては攻略組を本気で目指すみたいで最後まで俺への勧誘を辞めなかった。二人と別れた後は何となくすることもなかったのでレベリングでもしながら夜を明かした。これからケイタさんたちと約束した時間が来るので約束の場所へ向かっていたのだが。

 

「ほほウ。君があのナッちゃんカ。噂より元気そうな顔してるじゃないカ。」

 

「ど、どちら様でしょうか?」

 

なんだこのちんまいのは。ウィオラですら小さいがここまで小さいのはさすがに子供以外見たことないぞ?

 

「おイ。何か失礼な事考えてないカ、少年。場合によっちゃ一万コル請求するゾ?」

 

「めめめ、滅相もないですよっ!?というかその前にあなたは誰なんですか!?」

 

「あ、そういうことカ。俺っちってば挨拶もまだだったカ。情報を売り買いして生計を立てている情報屋《鼠》のアルゴだ。よろしくナ、レイピア使いのナッちゃん。」

 

あぁ、こいつが今日のイベクエを教えてくれたっていう。

 

「これはどうもご親切に。ってなんで俺の名前知ってるんですか?」

 

「あ、俺っちにも敬語なしで構わないヨ。プレイヤーの情報も商売に使わせてもらってるもんでナ。」

 

うわぁぁああ…。趣味悪…。なるべく関わらないでいよ…。

 

「とか考えているんだろうがところがどっこイ。イベントクエストを最後まで進めたのってなっちゃんたちのパーティだけって話でサ。ボスの情報話してくれたら有益な情報安くしとくヨ?」

 

「それ本当だろうな…?まぁいいさ、大した情報じゃないし。ボスは『ミズノトウ・ザ・ウォーター・ラビット』って名前で…」

 

はじめは俺が情報を売る(?)番らしくアルゴも黙って話を聞いていた。

まぁ結構細かく語ったからいい情報もらえるといいけど。

 

「十二支と十干、つまり還暦の考え方ってことカ。ということは来年は甲の辰。木製の竜でも飛び出してくるんじゃなかろうナ。助かる助かル。」

 

そういいつつ、アルゴは手を出してくる。

 

「なにこの手?」

 

「今度は俺っちの番だろ?この情報量だと100コル差っ引いて400コルくれたら情報やるよ。」

 

「おいおいおい!たった100コルかよ!いや、情報の相場っていうのがいくらかは知らないけどさすがに安すぎはしないかっ!?」

 

なんだこいつ。情報屋っていうよりかは詐欺師じゃねぇか!本当にロザとかこいつのこと頼りにしてるのかっ!?

 

「あぁ、そういうことカ。それなら100コルで間違いないゾ。なんせ先にローちゃんとウィオりんに確認は取ってて裏付けが欲しかっただけだからナ。」

 

「なら先にそう言っとけ!大体その元値400コルの情報っていうのは何なんだよ。せめてさわりだけでも聞かせてくれ。」

 

「さわりっていうのは本来“話の要点”の部分だからナッちゃんみたいな使い方は違うんだけどナ。まぁいいカ。ナッちゃん固定メンバーで行動をする予定らしいが、そこは間違ってないカ?」

 

まじか、さわりって最初の部分のことじゃないんだ…。というか本当に情報屋っていうのは何でもかんでも知ってやがるな。

 

「まぁまさにこの後から俺もパーティに入れさせてもらうようお願いするところだけど。それがどうかしたのか?」

 

笑顔と右手を使い、無言で催促される。俺は短く「ちっ」と舌打ちを打ちながらも400コルを仕方なしに払う。

 

「毎度あリ。実は三層の主街区はβと変わってなけりゃズムフトという街のはずダ。その街には4人以上のパーティで受けられる『ギルド結成クエスト』というものがあル。ギルドはパーティと違い一時的なものではなく…ってオンゲーやってるならここら辺は大丈夫そうだナ。」

 

なるほどな。確かに400コル払うメリットはあるか。情報屋の名前も伊達ではないな。

 

「ってあんたもβ経験者かい。どれだけ俺の周りには多いんだよ…。」

 

「なっちゃんは第一層攻略に参加していたのに《ビーター》とは言わないんだナ?」

 

「ビーター?何それ?俺あそこでの戦いショックで後半よく覚えてないんだよ。」

 

キリトに言われるがままボスの攻撃を弾いて死にそうになって。キリト、か。そういえば元気にしてるのかな。あいつ。

 

「それは悪かったナ。知らないなら知らないでいいんダ。あんまり由来もいい言葉じゃないらしいしナ。」

 

ふーん。まぁこういうのは深追いしちゃダメなやつだな。しっかし、情報屋ねぇ。今後とも利用させてもらうかもしれないし、フレンド登録でもしてもらうか。

 

「なぁアルゴ。情報屋として動くには情報源が多い方がいい。そうだろ?」

 

「素直に言ったらどうなんダ?フレンド登録だロ?お姉さんは何でもお見通しなんだからナ。ニャハハ。」

 

「ちっ。せいぜい珍しい情報でも仕入れて高く売り込んでやる!」

 

「よシ。無事フレンド登録も済んだからお姉さんはここら辺でお暇するヨ。また何かいい情報あったらいつでもメッセ飛ばしてくれよナ!」

 

そういうと足早に駆け出して行ってしまった。さすがは情報屋。一分一秒も惜しいといったところか。さて、少し話し込んじゃったし俺の方は、と時計を見ると9:58になったところだ。

 

「やばい自分で人呼んでおいて遅刻するっ!!!」

 

全速力でいつもの酒場を目指した。

 

 

 

―――

 

 

 

10:03第一層はじまりの街 とある酒場にて

 

「ごめんなさいみなさんっ!遅くなりましたっ!」

 

勢いよく店の扉を開け、いつもの席へ駆け込む。そこにはあらかじめ呼んでおいたケイタさんたちがすでに腰かけていた。

 

「おはよう、ナツメ。そんなに待ってないし、大丈夫だよ。」

「はい、ナツメくんお水。一旦落ち着いてからでもいいよ。」

 

ケイタさんとサチさんからそう言われ、俺も席についてのどを潤す。

 

「それでそれで?お兄さんたちをこんなに早くに集めておいて大事な話たぁ、どういうことかなぁ、ナツメくん?」

 

わざとらしく茶化してくるダッカーさん。だいたい、決闘の時見ていたなら話すことも予想づくだろうに。とはいえ、ダッカーさんの言葉を聞いて改めてみんなの注目が俺に集まる。

 

一か月とはいえ、色んなことがあった。ボスに挑み、初めて死を実感した恐怖。それに飲み込まれそうになっていたところ奇跡的に出会ったケイタさんたち。そこから武器のレクチャーをしたり、夕食だけ一緒に交じって話したり。そんな非現実的でありながらもありふれた日々を思い出し、俺は口を開く。

 

「僕、いや俺は正直このゲームを一人で攻略できる力を持ってないし、何よりまた誰かが死ぬ場面に直面するのが怖い。けど、仲間がいればどんな困難でも乗り切れる、と思ってます。はい。何より、みんなと話せる時間が一番楽しかった。」

 

そこまで言いかけると途端にみんなの顔が明るくなるのを感じる。それを見て少し気恥ずかしくなったのを悟ったのかどうか、ケイタさんから声をかけてくれた。

 

「俺たちだってまだまだ弱いよ。レベルだけ見ればナツメの半分にもなってない。でも、もしナツメが入りたいっていうならこちらは全力で歓迎するよ。むしろ、入ってくれないかな。」

 

その一言で笑顔になるダッカーさん、ササマルさん、テツオさん、そしてサチさん。

 

「は、はいっ!こちらこそよろしくお願いします!」

 

こうして俺はたった今、ケイタさんたちのパーティに入れてもらうことにした。

 

 

「あ、あとこれ今日の新年イベントのクエスト報酬なんだけれど良ければ手土産にどうかな?って思って。」

 

そういいつつ深夜にドロップした青い石のネックレスを実体化させる。

 

「ネックレスの装飾品なんだけどLUC(幸運値)を+10もしてくれるっていう優れものなんですけど。」

 

「…LUCってこのゲームあるのかよ。ってかどこで使うんだよっ!」

 

そりゃごもっともだ。ダッカーさん。俺だってこのアイテムの存在で初めて知ったパラメータなんだから。

 

「まぁ僕らじゃ宝の持ち腐れになりそうだし、獲得したナツメ自身が装備してみたら?」

 

「とはいってもなんか女の子っぽいですし…。サチさんとかどうですか?決してマイナスにはならないとは思うんですけど。」

 

「私、青好きだし、せっかくならもらっておこうかな。ありがとう。」

 

無事手土産の送り先が見つかってよかった。

 

 

 

―――

 

 

 

2023年1月7日18:30

 

その日の狩りが終わり、いつもの酒場で食事をとっているとダッカーさんからとあることを聞かれた。

 

「そういえばナツメって俺らの武器全部教えてくれてるけど、基本武器スキルってどれだけとってるの?」

 

「ええーっと、メインは《細剣》で一応みんなに教えるようにみんなのスキルは一通り網羅してるよ?まぁその内抜かされるだろうけど。」

 

パーティに入れてもらって以来すっかりなじんだ俺はいつの間にか敬語も外して話せるようになった。

 

「うへぇ、それだけ覚えるって大変じゃないか?まぁ俺らは助かってるからいいんだけど。」

 

と、ササマルさんも少し引いたような表情を見せる。

 

「まぁあくまでスキルの発動方法を知るってくらいしか勉強してないし、いざ実践ってなると多分それぞれ皆には負けると思うけどなぁ。SAOはレベル以外にもスキルのつなげ方や読み合い、後隙の減らし方とか。上げたらきりがないほど詰める部分はたくさん出てくるわけだし。」

 

「でも、最近のナツメくんってどことなく本調子じゃなさそうというか、動きが少しおかしい(?)よね?」

 

ぎくっ。サチ意外と鋭いなぁ。

 

「そうなのか?僕やケイタに教えてくれるときはそんな感じしないんだけどなぁ。」

「そうだねぇ。実際そうなのかい?ナツメ。」

 

と何も気づいた様子のないテツオとケイタ。

 

「いや、みんなに教える武器の時は何も問題ないんだよ。スキルを見せるだけだからね。ただ自分のレイピアをもって戦う時だけ本調子じゃないというか。うまく動けないというか。」

 

まぁ年末のウィオラとの戦闘が目に焼き付いてるというか、どうも頭から離れないんだよなぁ。

 

「それって年末の時ゾーン(・・・)に入ってたからじゃね?その動きを真似しようとして余計な力が入ってるとか?」

 

「ゾーンって何なんだ?ダッカー。」

 

「スポーツじゃ結構メジャーなワードだぜ、ケイタ。一時的に集中力が高まって本来の実力以上の力が出せる。けどその感覚が微妙に残っててそれを真似しようとして体が焦ってる。みたいな感じのやつ?向こうにいたころにはバスケ漫画とかでよく流行ってたしな。」

 

「へぇ、じゃあそれを意識せず自然体に動けるようになるのを待つって感じかな。あんまり焦っちゃだめだよナツメ。確かに一番の戦力ではあるけど俺らも仲間なんだから少しくらいは頼ってもらわないとね。」

 

「ぜ、善処するよ。」

 

このようにたわいもない話をしつつ夕食を楽しんだ。

 

 

 

―――

 

 

 

1月15日9:35

 

昨晩いよいよ第二層ボス攻略が終わったとのニュースが手に入り、俺は『鼠』の情報をもとに皆にギルドの話をしに行こうとしていた…のだが、街中で一風変わった少女を見かけた。

 

♪~♪~♪♪~

 

よく見ると小さめのギター?ウクレレ?をを奏でつつ歌っている。よく都会であったストリートライブってやつなのかな。先客もちらほらいるみたいだし、みんなへの土産話として少し聞いていくか。

 

皆には「少し遅れる。」とだけメッセージを送っておいて不思議と聴き入ってしまった。

 

 

 

―――

 

 

 

10:00

 

「ありがとうございました~また聞きに来てください!」

 

深々と頭を下げて女の子は挨拶をしていた。一番近くにいた男性は…パーティメンバーなのかな。それとも純粋なファンだろうか?まぁ、パフォーマンスが終わったなら仕方ない。俺もみんなのところへ戻るか。そこまで考えた時、後ろから声をかけられる。

 

「あ、あの途中から聞いてた方ですよね。最後まで聞いてくれてありがとう。」

 

「あぁいえ、あまりにも歌がうまかったのでつい。」

 

歌がうまかったのは事実だ。向こうでは歌手でも目指していたのだろうか。なんて野暮なことを考えていると連れの男性の方にも声をかけられる。

 

「ユナの魅力がわかるなんて、君とはいい友達になれそうだ。どうだい?フレンド登録でも。」

 

「まぁこれも何かの縁だと思うし、いいですよ。えっと俺はナツメって言います。普段はソロじゃなくて6人組で動いてます。」

 

「私はユナ《Yuna》。向こうではアイドル志望なんだ~。よく街中で歌ってるからまた今度見かけたらよろしくね!」

 

「僕はノーチラス《Nautilus》。ぜひまた聞きに来てくれると嬉しい。」

 

そんな軽い挨拶を交わしてから俺は二人を後にする。にしてもSAOって歌によるバフスキルなんてあるのか?魔法っぽいから存在しないと思うんだけどあれは趣味ってことなのかな。まぁみんなへのいい土産話になるだろ。さて、遅刻した分急がなきゃ。

 

 




ウィオラ「っというわけでナツメに負けちゃったのく~や~し~い~...」

ロザーシュ「本っ当にあれだけの才能持っておきながら...まぁゆっくり彼らと上がってくるのを待ちましょう?」

ウィオラ「次は負けないからねナツメ!また街であったらレベル差関係なく決闘申し込むんだから!」

ナツメ「しばらく前線上がらないから手加減してくれよな...それにそういうことは作者に言ってくれ。」

ウィオラ「ちょっと作者!さっさとナツメを前線にあげなさいよね!」

が、がんばりまぅす。。。


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第4話 月夜の黒猫団

フードを被った男「Hey you.いい目をしてやがる。この場で殺されるかついてくるか選べ。」

少年「な、なんだよあんた。」

フード「もしついてくるなら面白いものを見せてやる。」

少年「まぁ、死にたくはないし。見るだけなら。」

フード「Good choice.利口なガキは嫌いじゃねぇ。来な。」


2023年1月15日10:15

 

まさかこの世界でストリートライブを見れるなんてなぁ。また機会があったら今度はみんなを読んでみようか。そんなことを考えつついつもの酒場の扉を開ける。

 

「みんな、おはよう。遅れてごめん。」

 

「メッセ来てたから大丈夫だよ。ストリートパフォーマーがいたんだって?」

 

と以外にも興味を示してくれたケイタ。何となく大人しいイメージがあったから意外であった。

 

「ユナさんって人でウクレレ?ギター?みたいのを弾きながら歌ってたよ。結構実力もあったし、今度見かけたらメッセで呼んでみるよ。」

 

「あ、俺も前に見たことあるかも。女の子で白っぽい装備の子だよな?転移門前で弾き語りしてるのたまに見かけるぜ?」

 

相変わらずこのパーティの中ではダッカーは耳が早いな。もしかして情報屋の方が向いてるんじゃなかろうか。

 

「ま、まぁそんなことより。今日は情報屋からもらった貴重な情報があってみんなに朝から集まってもらった。」

 

「貴重な情報って?」と、いち早く気にかけてくれるケイタ。

 

その言葉に自信ありげにこたえを返す。

 

「パーティじゃなくてそろそろギルドをつくらないか?」

 

その一言に皆が盛り上がる。

 

「ギルドってことはもっと人とか増えてくのかな?」

「金とか貯金して家とか買ったり?」

「ギルド名とかどうするよ?」

 

各々口々に盛り上がる。まさかここまで喜んでもらえるとは正直思ってもみなかった。とは言え、ひとまずはケイタの言葉を待つことにする。

 

「はいはい。皆落ち着いて。ナツメは例外だけど僕らは基本向こうでの集まりだし、急な拡大は関係性にも影響出るだろ?そうなればおのずと命の危険につながるかもしれない。特にSAOじゃ本当の関係性なんて口だけじゃわからないんだから。」

 

その言葉に皆のテンションが目に見えて下がるのが分かる。ケイタも色々と考えてはくれてるけどさすがにギルドの話は急すぎたか。

 

みんなが黙り込む中珍しくも声を上げたのはサチだった。

 

「私もあんまりたくさんの人は増やしたくはないかな。でもここにいる皆との絆の証明としては、作ってもいいんじゃないかな。」

 

すかさず俺もフォローに入る。

 

「そうだよ。別に拡大するかどうかっていうのは抜きにして、俺らの居場所をつくりたかっただけなんだ。せっかくケイタが誘ってくれたんだし、ただのパーティにしておくのはもったいなくないかな。」

 

そこまで言うとケイタも納得したような顔を見せる。

 

「そうだね。人数が多くないといけないってわけでもないだろうし、この6人でつくろうか。その代わり、勝手な勧誘はしないこと。仲間にするならきちんと背中を預けられる人がいいからね。」

 

「了解しました!隊長!」

「わかったであります!」

「もちろん、仲良くやっていきたいからね。」

 

他の三人も納得したようだ。約2名調子に乗っているとも言いそうだが。

ともあれ全員の了承が取れたところで肝心のクエストの話に入る。

 

「俺が(アルゴ)に聞いた情報だとクエスト受付が第三層の主街区だということと、主にマップを歩き回るクエストらしい。そしてボスを倒して最後に剣士の碑の前で結成の宣言をする。ちょっと移動が面倒かもだけどこんな感じだね。」

 

「剣士の碑かぁ、確か最初の広場のあたりだっけ?」

「あの宮殿みたいなやつだろ?最初に蘇生ポイントがあったっていう。」

 

俺自身は確認したことはないがどうやらみんなは知っている様子だったので一安心。

 

「じゃあ、とりあえず第三層へ向かいますか。」

 

「「おう!」」

「「「うん!」」」

 

そうして俺たちは第三層主街区『ズムフト』を目指すことにした。

 

 

 

―――

 

 

11:00第三層主街区ズムフト

 

ここが最前線の街、ズムフトか。森林エリアというか木がすごいな。

と、そこまで考えたところで誰か(・・)からの視線を感じる。とっさに振り向くものの結局それが何だかはわからずじまいだった。

 

「ナツメくんどうしたの?」とサチが聞いてきた。

 

「いや、誰かに見られたような…。まぁ気のせいだったかも。」

 

「最前線だし、どんな人が居るか気にしてる人も多いかもね。」

 

ケイタの言葉に納得がいったわけでもないが、気にしても仕方ないので例のNPCを目指し俺たちは歩いて行った。

 

 

 

―――

 

 

 

しばらく街を散策するとそれらしきアイコン―頭上の?マーク―が付いた人物が目に入り、ケイタが声をかける。

 

「すみません、ここでギルドをつくれるって聞いたんですけど。」

 

基本的にNPCへの声がけはシステムメニューのログからでも可能だが相手が人の姿を模しているため、話しかけることで会話も成立する。

 

「おや、お前さんたちもギルドをつくりたいのか、だったらあんたたちに所縁のある場所を三か所めぐってからこの場所を訪れるといい。その絆の力をゴーレムに示せたら黒鉄宮へ向かうといい。そこで全員が意思を示したら晴れて結成よ。あぁ、それとギルド名は黒鉄宮の前で宣言するんだよ。」

 

そこまで説明が終わるとNPCの?マークが消え、ケイタがクエストを受注したことを意味する。

 

「所縁のある場所、かぁ。誰か心当たりある?」

「いつもの酒場と、ナツメと出会った通り道だろ?あと一か所はさすがに…。」

 

俺はふと今までのことを思い出し、一つだけ提案をしてみる。このパーティと俺とで所縁があると言えば間違いなくあの街だろう。

 

「多分トールバーナでの広場かも。あそこでのケイタとのやり取りが俺がこのパーティへ入りたいと決心した場所だから。」

 

「なるほどね。じゃあゆっくり回ってから指定されたポイントへ行こうか。」

 

 

 

―――

 

 

 

14:00第二層草原エリア

 

俺たちは三つのポイントを回るたびに思い出話をしていたせいかだいぶここまでの到着が遅くなってしまった。まぁ、途中でランチを挟んだせいもあるが。

 

「しっかし改めて考えると二層のモンスターなんて俺たちで倒せるのか?レベルとか大丈夫だよな?」

 

ダッカーの質問はごもっともである。しかしそれに関してはケイタが答えてくた。

 

「クエスト情報によるとそのパーティのレベルに合わせたモンスターが出るらしい。ナツメのステータスが高いこともあるけど僕らもレベル平均が高くなった証拠じゃないかな。」

 

なるほど、パーティに合わせたレベルが出るなら確かに俺が平均レベルを引き上げている可能性は充分あり得る。強敵とならなければいいが。

 

「いたぞ!あれじゃないか!?」

 

テツオがそう叫ぶと視線の先にはザ・ゴーレムですと言わんばかりの石の人形が立っていた。カーソルはペールピンク。なんだ思ったより雑魚じゃないか。

 

「ちょうど真っ赤だね。黒くなってはないから僕らでも勝てるって思っていいかな。」

 

「俺から見るとペールピンクだから一人でも狩れるけど…。一人でやっちゃおうか?」

 

その方が効率は間違いなくいいだろう。だが以外にもそれに反対する声が出てきた。

 

「ちっちっちっ。なめてもらっちゃ困るよナツメくん。ここはお兄さんたちのコンビネーションを見せつけてあげようじゃないか。」

 

「じゃあ俺は横で見学させてもらおうかな、ダッカー。」

 

その返事を聞いて手の平を返す発言者。

 

「い、いやぁ万が一ってこともあるし、前衛で攻撃を弾くくらいはしてもらいたいなー、なんて。」

 

そのやり取りを見てみんなが笑いだす。

 

「わかったよ、弾くだけ参加するから隙を見ての攻撃は頼むよ。テツオは俺と一緒に前衛してもらうけどね。」

 

「了解。じゃあほら、皆配置について。」

 

テツオの声をもとにいつものフォーメーションを組む。

 

レベルが高い俺と盾持ちのテツオが前衛に。リーチの長い槍を持つササマルとサチ、そして両手棍のケイタは後衛に。短剣使いのダッカーは柔軟に動けるように遊撃手として。

 

「じゃあなるべくパーティの動きを確認したいから指示はケイタよろしくね。テツオはやばそうだったらいつでも言ってね。」

 

後ろを振り向かずにそう伝える。

 

「わかった。初撃はテツオが切り込んでナツメがブロック。相手の防御力、攻撃力を見たい。隙がうまれるようだったらダッカーが攻撃して。二巡目からは僕、サチ、ササマルも攻撃に加われるように準備を。」

 

「「「「「了解っ!」」」」」

 

 

近づいてきた俺たちをようやく敵と認識したのかゴーレムが片手を振り上げる。想像よりモーションが早いな。

 

「悪いテツオ。先にブロックはいる。」

 

返事を待たずに俺が先行し振り下ろされる拳めがけてソードスキルを発動する。

上手く弾けたおかげでダッカーが攻撃する余裕も作れそうだ。

 

「テツオ、スイッチ!」

「おうっ!」

 

テツオは正面から、ダッカーは背後からソードスキルで挟み込む。

 

片手棍基本スキル《グリーフ》

短剣基本スキル《エレメンタリー・エッジ》

 

攻撃のタイミングがごくわずかにずれてくれたおかげでダメージ量の違いが分かる。まぁゴーレムっていうくらいだから体が石でできてるのは当然か。とりあえずこのことを報告しないと。

 

「耐性としては斬るよりも叩く方が効率がいい!アタッカーは多分テツオとケイタがメインだ!」

 

そう叫びつつ次々来る攻撃をひたすらよけるか弾くかする。

 

「わかったナツメ。そしてらナツメは引き続きヘイトを稼いでスイッチは僕とテツオが同時に出る!ササマルたちは動きをよく見て隙を攻撃!ダメージを稼ぐことより、攻撃をもらわないことの方が大事なのを忘れないようにね!」

 

「「「了解!」」」

 

俺から情報をもらってから指示を出すまでが早い。流石みんなの頼れるリーダーだ。さて、俺の仕事はあくまでヘイトを稼いでこいつの注意をほかのメンバーに移さないこと。

 

今度はゴーレムが両手を振り上げたためその腕めがけて上方向にスキルを放つ。が、さすがに振り下ろされる腕に対し、レイピアでは勢いが足らなかった。吹き飛ばされながらも急を要するためみんなに指示を飛ばす。

 

「みんなジャンプ!」

 

俺のその掛け声に反応できたのは全員ではなかった。反応できたであろうダッカーとケイタは大丈夫だが、ササマル、テツオ、サチは片膝をついて動けずにいる。パーティリストを確認するとスタンのデバフが付いている。

 

まずいっ、俺は吹き飛ばされた勢いをバク中の要領でいなし、ボスを反対側へ向かせようとする。

 

「スタンが解けたらまずは下がってポーション使って!体制立て直すまでケイタとダッカーは三人の援護をお願い!」

 

まさかこんな序盤のモンスターでスタン攻撃を使ってくる奴がいたとは。完全に油断した。しかし、意識を完全に俺に向けさせれば怖いことはない。

 

そこまで考えたところでボスの顔―のように見える場所―に苔に覆われた丸石が埋め込まれていることに気づく。次の攻撃をよけたら小突いてみるか。

 

再度振り下ろされる片腕を外側によけゴーレムめがけてスキルを発動する。

 

細剣基本スキル《ストリーク》

 

剣先は見事に丸石にヒットし、敵がスタンする。

 

これが弱点を突いた時のボーナスか。そう考えつつみんなの方を確認すると全員回復しきってるようだった。

 

「ゴーレムの頭に苔で判りづらいけど丸石がある!そこがスタン条件らしいから次からローテーションに入れる!両腕を振り上げた時はスタン攻撃だから離れるかジャンプで回避してほしい!」

 

「「「了解!」」」

 

そこからはまた先ほどの編成に戻り始めた。前衛は俺一人、スイッチ先の控えとしてすぐ後ろにテツオとケイタ。隙を見て遊撃するダッカー、ササマル、サチ。

 

いつもに比べて変則的だがやることは変わらない。

 

片腕を振り上げた時は振り下ろしに合わせて俺がスキルで対応。空いたところを正面は控えの二人が、それ以外の方向から他の三人が。

 

両腕を振り上げた時はタイミングを見て近いメンバーはジャンプで対応、遠いメンバーは後ろへ下がることでスタンを回避。

 

隙を見つけ次第俺が丸石へ突進技を放つ。その時はかなりの時間相手が無防備になるので俺以外が切りかかる。

基本的に攻撃に手を出していないとはいえ、順調といえるペースでゴーレムのHPを削っていった。

 

パーティで勝っている以上別にLAは気にしてはいなかったのだが意外にもとどめを刺したのはサチであった。

 

「わっわっ、た、倒しちゃった。」と静かに喜ぶサチ。

 

「おめでとう、サチ。何かいいものでも手に入った?」

 

「うん、これ。」そう言って報酬ストレージを見せてくれる。

 

ギルド命名チケット。なるほど、クエストに関係あるものだったか。これはケイタに渡した方がいいかな。と提案しようとしたところ…

 

「へぇ、じゃあギルドの名前を決めるのはサチかぁ。」とあっさり納得してしまうケイタ。

 

「え?いいの?これ大事なものでしょ?」

 

それはそうだ。と心の中で勝手ながら賛同してしまう。俺なんかは何かの名前を決めるのに最低1時間はかけるほどだしなぁ。まぁこのアカウント名だけは例外だけど。

 

「じゃあほか誰か名前決めたいメンバーはいる?僕としてはドロップした人が決めてくれた方が助かるけど。」

 

「はいはーい。んじゃあかっこいいし、悪魔の要素とか入れない?」と意気揚々に語るダッカー。

 

いや、悪魔て…さすがに中二病じゃないんだから。

 

「やぁだよ。中学生じゃないんだからもっとかわいいのがいい。黒鉄宮に着くまでに私が決めるもんっ。」

 

それを聞いて本気で悔しがるダッカー。あれは俺でも擁護できない。俺自身向こうでは中学生なので若干へこみはしたが。

 

「さ、じゃあサチが考えるのも必要だからゆっくり黒鉄宮まで向かおうか。」

 

ケイタのその一言を機に俺たちはいつもより遅いペースで帰ることにした。

 

 

 

―――

 

 

 

15:00第一層はじまりの街 黒鉄宮

 

ここに来るまでが本当に長かった。いつもより遅いペースなのはサチの考える時間のため全然納得したのだがここにきてもなおダッカーはというと…

 

「…でソロモン72柱っていうのがあるわけ。さらにそこから細かく分けると…」

 

ずっとこの調子である。適当に相槌をうって返してはいるもののおそらくダッカーは気づいてないだろう。

 

「よし、ついたね。ここが黒鉄宮。別名『剣士の碑』。全プレイヤーの一覧と、ゲームオーバーした人は、ね。」

 

ケイタが口ごもったので実際に近づいて見てみる。そこには英語での名前がAから順番に記載されており。中には名前の上から白線が引かれている人もいた。

 

ゲームオーバーした人。この世界において何かしらの理由によりHPを全損させた人。

つまり死んだということだろう。いくつか知らない名前に線が引かれているが幸いにも俺とダンの名前には線がなかった。

 

結局何も言わずにはじまりの街を出てきちゃったな。また一層で見かけることがあれば声をかけてみよう。

 

「それで?サチはそろそろギルド名決まった?」と命名券を手にできなかったダッカーが尋ねる。

 

「うん。でもみんなの宣言の後に発表させてもらうね。」サチも何かを覚悟した、それでも優しい顔で微笑んだ。

 

「じゃあさっさと宣言しようぜ。まずは俺から時計回りでいいだろ?」

 

ダッカーはよほどギルド名が気になるのか早急に事を進めようとする。

 

「俺はこのギルドを全プレイヤーに轟かせる最強のギルドになりたい!」とダッカーが。

 

「だったら俺は最強の槍使いを目指して!」とササマルが。

 

「僕は唯一の盾持ちだからね。皆を守れるプレイヤーになりたいかな。」とテツオが。

 

「私はいつまでもみんなと仲良く暮らせるそんな幸せなギルドにしたい。」とサチが。

 

「そうだな。じゃあ僕はみんなが安全に過ごせるよう、秩序のあるギルドにしたいかな。」とケイタが。

 

「さ、ナツメくんは?どんなギルドにしたい?」とサチが聞いてくる。

 

もう答えはわかりきっている。強さも欲しいし、仲の良さも欲しいし、なんだってほしい。ここにいる皆となら、きっとどんな困難だって乗り越えられる。

 

「お、俺はこのギルドを最強で、仲の良くて、道を踏み外さず、とにかくすごいギルドにしたい!」

 

その言葉にみんな温かい笑みを返してくれる。

 

「それで、サチ。僕らはなんて名乗ればいいのかな?」ケイタが最後に尋ねる。

 

一呼吸だけおいてからゆっくりとサチは口を開く。

 

「私たちは『月夜の黒猫団』。とっても幸せなギルドだよ。」

そうして俺たち6人は無事にギルド『月夜の黒猫団』を結成した。

 

 

 

―――

 

 

 

第三層主街区ズムフト

 

ギルド結成後は夜に決起会を開くことになり、夕方の間は自由にしていていいらしい。と言ってもすることもないので先ほど視線を感じた第三層まで戻ってきた。

 

確かにレベルだけを見れば俺は攻略組にギリギリとは言え入れるレベルだろう。(突発的にロザが試験と称しデュエルを申し込んでくるためである。)しかし、黒猫団のみんなと過ごすことがほとんどの俺を視線を感じるほど注目してみる人物などいるのだろうか。

 

などと街を観察するもそれらしい視線は完全に消え去っている。時間を空けすぎたか。そこまで考えていたところを声をかけられる。

 

「おぉい、そこの兄ちゃん。」

 

見たこともない野武士面の人物に声をかけられる。

 

「俺クラインっていうんだけど、お前さんそのアイコンギルドを結成したプレイヤーだろ?ちょいと作り方ってか教えてくれねぇかな。」

 

「あ、あぁ別に構わないですよ。と言ってもボス戦くじで二層を引かないとあまり役には立てないですけど。」

 

「まっじかよ!俺らも二層だったんだよな。カーソルが真っ赤だったからちょうどしっぽ巻いて逃げてきちまってよぉ。あ、あと敬語は別に要らねぇよ?なんせこんなでもゲームだしな。」

 

「あぁ、じゃあ遠慮なく。二層ってことは俺らと同じゴーレムのはずだ。だから…」

 

初めて話した人なのに不思議と話しやすいというかとても気さくな人だと感じた。そこから俺はボスの情報を話し終わり、単なる雑談へと移っていった。

 

「そのレベルってことはよぉ、フロアボスとかも参加したことあるのか?実は俺のダチもソロで参加してるはずなんだが最近あいつ連絡もよこさねぇしよぉ。」

 

第一層ボスにソロで参加したのはキリトとアスナだけだ。まぁアスナは見るからに知り合い居なさそうだったし、あり得るとしたらキリトか。

 

「もしかしてそれってキリトのことか?あいつはすごい奴だったよ。戦線崩壊しかけてる中たった二人でボスに突っ走っていくなんて。」

 

「おぉ!キリトの野郎知ってるのか!?どうだ?あいつはその後元気にやれてるか?」

 

「俺が第一層攻略後に攻略組を離れちゃったから何とも。でも間違いなくキリトは最強だった。今でも前線で頑張ってるんじゃないかな。」

 

そう、俺とキリトは別にフレンドコードを交換したわけでもない。だから一層後の彼のことは正直わからずじまいだ。

 

「そうか。まぁでも俺のフレンド欄には残ってるから生きてるってことは確かだ。俺たちっつうか俺もあいつを目指して頑張ってんだぜ?その内お前さんとこのギルドを抜かすかもしれねぇな。」

 

む。黒猫団を引き合いに出されちゃ俺とて黙ってはいない。

 

「別に俺のことをどう言おうが勝手だが、黒猫団を見くびるなよ?新しくできるクラインのギルドなんかとっくに突き放してやるっての。」

 

「なにおう?ガキンチョ。」

「やんのか?おっさん。」

 

くそっこいつマジで言ってやがるな。いい歳しやがって。それなら白黒つけてやろう。

 

「だったら黒猫団最強の俺が相手してやるよ。勝ったら言うこと一回聞けよな?」

 

「やってやろうじゃねぇか。大人を馬鹿にしてっと痛い目見ること思い知らせてやる。」

 

しばらくクラインとにらみ合った俺は少し距離を取ると決闘を申し込む。よく耳をすませばクラインの連れと思えるプレイヤーからも声が聞こえる。

 

「まぁたうちのリーダーが勝手になんか始めてるよ。」

「リーダーもあの子もなかなかガキだねぇ。」

「まぁ、普段こき使われてるし、たまにはクラインの泣き顔でも拝むとするか。」

「いいぞー少年!うちのリーダーぶっ飛ばしちまえっ!」

 

おいおい。なんで俺が応援されてるんだよ。

 

「な、なぁクライン。あんたあいつらとギルドつくる予定なんだよな。いいのか?あれ。」

 

「へっ、言わせとけ。男の友情はあんなもんで切れるほど安かねぇんだよ。」

 

そういって余裕そうな笑みを見せる。大人になるとそういうもんなのか。なんかいいな。そういうの。

 

やがてカウントダウンが終わる。

 

「っ!」

「うおらっ!」

 

細剣基本スキル《リニアー》

曲刀基本スキル《リーバー》

 

初撃をぶつけ合った後、そのままクラインはスキルを使わず特攻を仕掛けてくる。しかし、ステータスの差か、実践経験値の差か、いとも簡単にそれを弾いていく。

 

「どうした。大人ってのはこんなもんかよっ!」

 

隙を見て少し強めのスキルをお返しする。

 

細剣二連撃スキル《レムニスケート》

 

ここで予想外にもクラインは曲刀を両手で持ち、正確にいなしてくる。ちっ、レベルのわりに案外動きがいいじゃないか。

 

「へっお前さんこそ前線レベルってのはこんなもんかよっ!」

 

そういいつつ斜めに切りかかってきたのでバックステップで距離を取る。じゃあいい加減全力で答えてやらねば。

 

「これを避けられるかなっ!」とリニアーで全力で突っ込んでいく。

 

狙い目は胸ではなく右肩。スキルが立ち上がるのを確認したところで第三者が現れる。

 

「ナツメくん何やってるの?」

 

「サチっ!?ちょっといま決闘中だから終わってからにしてくれ!」

 

そこでクラインに変化が起こる。気迫が先ほどまでと違う。

一切無駄のない動きで俺のスキルを避けた後におっさんは口を開いた。

 

「なぁ、ナツメ。あの子はお前さんのギルドの仲間か?」

 

「あ、あぁ。うちの紅一点だが…っ!」

 

言葉を言い切るよりも速い。一体どこにそんな力が。つばぜり合いになりながらも俺は疑問を返す。

 

「な、なんだよクライン。急に本気を出すなんて。」

 

クラインはなぜか泣きながら言葉を返してくる。

 

「俺ぁさっきまでお前さんのことをいいダチになれるって思ってたよ。けどなぁ!あんな可愛いことつるんでるお前さんを許すことはできねぇんだよこんちくしょー!」

 

嫉妬じゃねぇか!?やばい、ステータスの差があるにもかかわらず俺の方が押し切られる。俺は弾かれるのを利用し盛大にバックジャンプをするもそれが間違いだった。

 

「許さねぇぞナツメぇ!」

 

嘘、だろ。そう思ったころにはすでにスキルを発動させたクラインが眼前に迫っていた。

 

曲刀基本スキル《サーブ》

 

こうして野武士面のクラインとの初めての出会いは敗北という形で幕を閉じた。

 

 

 

―――

 

 

 

18:00第一層いつもの酒場にて

 

「と、いうわけでこちらがギルド『風林火山』のクラインとそのメンバーだ。」

 

「よろしくな。『月夜の黒猫団』のみなさん。」

 

あの後決闘に敗れた俺はクラインの命令により夕食を一緒に囲むことになった。

 

「ナツメとレベル差もあるだろうに勝っちまうなんて。やるじゃんクラインとやら。」

「おう、お前さんダッカーでいいんだっけか。なんせ勝利を収めたのは俺様の愛の力だよ。」

 

クラインの持ち前の明るさか打ち解けるのもほんの一瞬だったな。しかし、俺が負けた理由はあまり語ってもらいたくないものである。

 

「ごめんね、ナツメくん。まさか賭けをしていた決闘だなんて。」

申し訳なさそうにサチが謝ってくる。

 

「いや、俺もあのクラインの変化のしように驚いただけだよ。次は油断もしないし、絶対に負けないさ。」

 

「うん。はじめは少し怖い人なのかなとも思ったけど優しい人で良かったね。」

 

「おぉい。ナツメにそこのお嬢さん。お前らもこっち来て飲もうぜぇ。」

とクラインが呼びかけてくる。

 

「さ、昨日の敵はなんとやら。ナツメくんもみんなに混ざりに行こっ。」

 

「仕方ない、かぁ。ってクライン俺は未成年だから飲めねぇぞ!」

 

そういいつつ二つのギルドによる決起会は盛大に盛り上がった。

 

 

 

―――

 

 

 

「それじゃ僕たちは基本第一層を拠点として活動してるから、何かあったらまたお願いします、クラインさん。」

 

「おう!俺たちは上がれるようになったら上の層を拠点にしてるからフィールドで会うことがあったらよろしくな。ケイタ。」

 

「お世話になりました。」

「あんがとさん。」

「よろしくなぁ黒猫団。」

 

風林火山のみんなは口々にお礼を言いながら酒場を後にしていく。クラインが出る寸前に俺を呼んでくるので俺もついてきた。

 

「どうしたんだよクライン。忘れ物か?」

 

「いんやそういうわけじゃないんだが。俺ははじめお前さんを見た時キリトに似たものを感じたのさ。一人で背負い込むっつうか周りを頼るのが苦手そうな感じをな。いくらお前さんのレベルが一番高いとはいえ、困ったときはきちんと大人を頼るんだぞ。俺たちでもいいし、黒猫団のメンバーでもいいし。ただそんだけだ。」

 

こんな世界でもみんな俺を守ろうと子供として扱ってくれるんだな。

 

「ありがとな、クライン。おかげで今日は楽しかった。」

 

「んじゃそんだけだ。あ、それとさっきのサチちゃんだっけか。唾つけとくなら今のうちだぜ?」

 

「んなっ。バーカそういんじゃねぇから!さっさと帰れおっさん!」

 

そのやり取りに風林火山のみんなは笑いながら帰っていった。

 




少年「嘘、だろ。」

フード「嘘じゃねぇさぁ。But,俺はあいつとは違う。俺がお前を必要としてやる。」

少年「でも、おいてかれた俺なんて...。」

フード「Don't worry.お前は強い。あいつは必要としないが俺が必要とする。」

少年「わかった。それで俺は何をすればいい。」

フード「Wow,いい目だ。それじゃついてこい。」



俺の知らないとこで二人目の少年の話が今動き出そうとしていた。


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第5話 白髪の少女《Violet Road》

いや~、あけましておめでとうございます~
年末年始はどうも忙しくなってしまい投稿遅れて申し訳ない~

まぁまぁその分今までとは違う一筆になったのでよければ見てってくださいな~

ウィオラ「節目の話は主に私目線になるからいつもとは主観が違うことに気を付けてね。」

ナツメ「あの~主人公の俺の出番は。。。?」

ウィオラ「ちゃんと出てくるから安心しなさいっ。そういうことで本編どうぞ!」


「一目見た時から好きでした!結婚してください!」

 

はぁ。これでいったい何度目だろうか。いつも通り決まり文句で返事をする。

 

「ごめんなさい。今は誰とも付き合う気はないの。」

 

悔しそうに走り去っていくプレイヤー。残念だけど今は誰とも付き合っている余裕はないの。この浮遊城アインクラッドを抜け出すまでは。

 

そんなことを考えつつ私は主街区まで帰っていくのだった。

 

 

 

―――

 

 

 

第三層主街区ズムフト

 

「ウィオラ~。聞いたわよ?また告白されたんだって?」

 

「ええ。お相手には申し訳ないけど今は誰とも付き合う気はないからね。」

 

「別にいいじゃない。ゲームの中なんだしさ。」

 

そんなことを話しつつ私は相方のロザとランチを共にしている。

 

「そういうロザだって何人もひどい振り方してるって聞いたよ?」

 

「えぇ~そんなにひどくないと思うんだけどなぁ。デュエルであたしに勝ったらねって言ってるだけでぇ。」

 

私たちは攻略組として最前線で戦っているから、ロザの条件がどれだけ厳しいかがわかる。特にデュエル専門で名が通ってるロザのことだ。容赦はしないつもりなのだろう。

 

「そういえばどう?あれからなっちゃんに会いに行った?」

 

「ううん。行ってない。昨年末のデュエルが悔しかったからまた腕を磨いてこんどこそ勝利して見せる。」

 

ナツメ。初めでこそ初心者だと思っていたけどその実力は充分に攻略組を名乗れるくらいのはずだ。チュートリアル前の戦闘でもそうだし、トールバーナでの戦いの時も何とも言えない不思議な感覚が忘れられない。

 

「それに…私の見た目に何も言わなかったしなぁ。」とポツリとこぼす。

 

私は先天性色素欠乏症―いわゆるアルビノ―を患っている。髪も白いし、眼も若干だが赤い。初めて会う男性の人はその色が綺麗だとか見た目に惚れたとかで好意を寄せてくるも、あの少年からはそういったものがなかった。

 

「ウィオラ何か言ったかしら?」ロザが尋ねてくる。

 

「ううん。何でもない。さ、そろそろ食事も食べ終わるし、迷宮区でももぐろっ!」

 

「あら、いいわね。今日はどっちが多く狩れるかしら。」

 

そういって私たちは迷宮区へと足を運んで行った。

 

 

 

―――

 

 

第三層迷宮区

 

「ふっ、せいっ!ロザ、スイッチ!」

 

トレントの枝をかちあげ、ロザと交代する。

 

「はぁっ!」

 

ロザのレイピアが敵を貫通し、トレントは結晶となってはじけていった。

 

「お疲れ、ロザ。」

 

「ウィオラこそ。」

 

軽くハイタッチを交わし、休憩ポイントへと腰を掛ける。

 

「そういえばはじめのころ彼にレイピアを教えたのはロザだったわね。どうなの、その後の彼は?」

 

「あぁ。なっちゃんの話ね。正直引きこもりなんじゃないかって思うくらい最初は最悪だったわよ。でもあなたとの最初の戦いからセンスはあると感じたわよ。あれは間違いなく後半化けるわね。」

 

センス、ねぇ。ナツメには隠してるけど私だって最初こそうまかったわけじゃない。偶然当たったβテストの一か月があったからこそ必死に練習できただけだ。

 

「それにしても今日はやたらとなっちゃんの話が出てくるわねぇ。なぁに?惚れちゃった?」

 

「そういうんじゃないのよ。早く前線に上がってきて今度こそ勝ちたいだけよ。やられっぱなしは悔しいからね。」

 

「だったら今日は早めに切り上げて勝負しに行ってみたら?どことなく集中できてないのもそのせいだろうしねぇ。」

 

さすがにロザの目はごまかせない、か。激しく戦闘しながらもこちらの動きをよく把握してくれてる。

 

「じゃあお言葉に甘えて一層まで降りようかしら。終わったらまた連絡入れるからよろしくね。」

 

「は~い。デュエルの結果はちゃんとあとで教えてねぇ。」

 

 

 

―――

 

 

 

第一層主街区はじまりの街

 

「そういうわけだからデュエルしましょう。ナツメ。」

 

転移したら目的の人物がすぐ目に入ったため理由も説明せずに話を持ち掛ける。件の少年はというと…

 

「なんであんたら二人組はいっつも勝手なタイミングでやってくるんだっ!事前に連絡とかしといてくれよメッセとかで!」

 

「あら?何か予定とかあったの?あ、ギルドアイコンついてる。ケイタさんたちのとこね。」

 

「話を聞け!まぁ別に今日はギルド休みで予定がないからいいけど。」

 

「ならトールバーナへ向かいましょうか。」

 

 

 

―――

 

 

 

第一層トールバーナ

 

互いに距離を置き、剣を構える。

 

初めて戦った時といい、年末といい彼には不思議な点が多い。今日こそはその力を打ち破って勝利して見せる。って…

 

「なんであんたレイピアじゃないのよ。ふざけてるの?」

 

そう。彼が構えていたのはレイピアではなくダガーである。

 

「いやぁ、黒猫団にダッカーっているんだけどちょっと動きとか真似してみたくて。ダメか?」

 

ダガーといえば私の専門だ。同じ武器で負けるわけにはいかない。

 

「別にいいけどあんまり馬鹿にしてると痛い目見るわよ。」

 

「んじゃOKってことで。」

 

私の前にウィンドウが現れる。初撃決着ルールなのを確認し、了承する。

 

カウントダウンがやがて終わる。

 

…0。

 

「「っ!」」

 

この前よりも早い!けどステータス差なら私が勝っているはずなのにどうしてっ!?

つばぜり合いに持ち込むよりも早く相手の方から離れる。

 

初撃では面を食らってしまったが次は私から仕掛ける。突進技では事後硬直が激しいためスキルなしで距離を詰める。

 

ステータスに身を任せて剣を振るうだけでもじわじわと相手のHPを削ることに成功する。

 

「なによ。やっぱりレイピアじゃないと勝てませんとか?」

 

私の挑発に耳を貸したのか、相手が嫌そうな顔をする。

 

「専売特許で負けて後で文句言うなよ!」

 

相手がお得意のバックステップで距離を置こうとするが私のステータスがそれを許さない。うまく懐に入り込めたのでここぞとばかりに三連撃スキルを発動する。

 

二撃ほど防がれたが最後の一撃は頬を掠めた。

 

「ちっ…これだから本職はっ。」

 

焦った表情で相手がスキルを発動するも私はそれをいとも簡単に弾いていく。

 

やっぱり勘違いだったのかな。初めの勝負もこの前もただの気まぐれ。私の気のせいだった。

次の一合で決める。そう考え、またも連撃スキルを発動するところだった。

 

彼の目から殺気とは違う、迫力を感じた。

 

「っ!」

 

自分が気づくよりも早く、私はスキルを中断し全力で距離を取る。

数瞬前まで自分がいたであろう所を彼がスキルを空振りしていた。

 

もし、あのまま突っ込んでいたらどうなっていた?私の専門の武器と言えど彼に敗れていたかもしれない。そう考えると少しばかりぞっとする。

 

しかし、私とて攻略組だ。彼の隙を見逃すはずもなく突進スキルで突っ込んでいく。

意外にも勝利はあっけなく訪れた。

 

「最後…あなた何をしたの。」たまらず聞いてしまう。

 

「何をしたって…う~ん…いつも通り集中しただけなんだけどなぁ。ってか結果はウィオラの勝ちじゃないか。あークソっ。」

 

私は彼の言葉を素直に飲みこめずにいた。確かに決闘に勝ったのは私のはずだ。なのになぜか勝負には負けた気がしてならなかった。

 

 

 

―――

 

 

 

第一層はじまりの街

 

「今度はきちんとレイピアで戦いなさいよね?それとレベリングも怠らないできちんと前線レベルを維持すること。ギルドに所属してるとは言え、あなたは一人でも強いんだから。」

 

「…俺は別に強くなんてないよ。本当に強いのはケイタやキリト、それにロザにウィオラたちのことだよ。」

 

攻略組の三人は当然として自身のギルドリーダー?変わったラインナップね。

 

「ケイタさんってそんなに強いの?」

 

「あぁいや、彼はレベルで言うと俺より低いけどなんて言うかこう…心が強いよ。信念っていえばいいかな。そりゃ決闘すれば俺が勝つだろうけどそうじゃない強さがある。」

 

そういって少し恥ずかしそうに彼は笑った。

 

「ナツメにもいい出会いがあったようね。早く前線に連れてきなさいよ?そうすれば皆で戦えるんだから。」

 

「わかってるって。いつか前線に追いつけるようにレベリングもしてるんだから。そのうち6人で攻略組として参戦するから待ってろよ。それじゃここらへんで。またな、ウィオラ。」

 

「それじゃ、お疲れさま。また何かあったら連絡するから。」

 

そういって彼は自身の宿へと帰っていった。

 

まだ夕方…か。一度前線に上がってレベリングしてから私も宿屋に帰ろうかしら。

 

そんなことを考えつつ三層へと足を向けた。

 

 

 

―――

 

 

 

21:00 第三層主街区前

 

はぁ~。思ったより励みすぎちゃったかしら。おかげでレベルは上がったけれどあたりはもうすっかり真っ暗だわ。さっさと宿に帰って休むとしましょう。

 

そんなことを考えつつ主街区の入り口まで付くと不意に声をかけられた。

 

「おい、今ひとりか?」

 

いかにも不審者の格好をした男が声をかけてくる。まだ街には入っていないため刺激を与えないように抜刀しつつ返事をする。

 

「ええ、そうだけど何か用かしら。」

 

男が指先で合図をする。その瞬間私の首にナイフが突き刺さる。一瞬思考が追い付かなかったもののβの経験を活かし解を導き出す。

 

「投剣スキルね。なにがっ…」

 

声がうまく発せなくなる。まずい、麻痺毒ね。なすすべなく私は倒れこむ。

 

「先日僕が告白したにも関わらず随分な振り方をしてくれたじゃないか。何がそんなに不満だったのかな。」

 

ここがゲームの世界だからか私の見た目はむしろ高評価らしく、数を数えていたらキリがない。申し訳ないけれど相手の顔を見てもいつ告白してきたのか思い出すこともできなかった。

 

「だ…だからって復讐…?それに…お仲間さんまで揃えて…。」

 

基本的にソロで行動する私は危険予知のため《索敵》スキルを所持している。その恩恵もあり、男の他に隠れているプレイヤー二名を探し当てている。

 

「よっぽど目がいいみたいじゃありませんか。まぁ今となっては身動きも取れないので関係ないことですが。これから圏外村まで来てもらいますよ。ほらっお前たちさっさと運ばないか。」

 

「「へいっ。ボス。」」

 

結局男の人っていうのはいつもこうなのね。この後自分がどうなるか予想づいた私は吐き気を催しつつ大柄な男に担がれる。

 

「それじゃ、大人しくしといてくれよ嬢ちゃん。と言っても、身動き一つできないだろうからな。ガハハッ。」

 

麻痺なんてなければ簡単に切り伏せることもできるだろうに。そんなことを考えながら私はなすすべもなく近くの圏外村まで運ばれていった。

 

 

 

―――

 

 

 

「もうそろそろ麻痺が切れる。縄を使って両手を後ろに結んでおけ。ぼさっとしてないでさっさとしろ。」

 

男の手下に両腕を固定される。万が一麻痺が解けたとしてもこれでは武器を振るえない。

すると男は何を考えたのかフードをとり、顔を見せてくる。いかにも下品そうな顔だ。

 

「僕が付き合ってほしいと言ったらあろうことかデュエルで叩きのめしてくるとは。場所も主街区だったし、僕は大恥をかかされたじゃないか。」

 

ロザに言われていつか実践したことがあったけな。どうやらそれが反感を買ってしまったらしい。

 

「おかげで仲間からは笑い者にされるわ、主街区をうろつけば女に負けたなんだと。面目が丸つぶれだよ。どう責任を取ってくれるんだい。ええ?」

 

つまりこれは逆恨み。私が強くもないのにでしゃばりすぎたせい。ああ。きっとロザなら言い返せる言葉を持ってるんだろうな。

 

「だんまりか。多少は反抗してくれた方が僕としても興奮するんだけどなぁ。仕方ない、君の手を使って倫理コードを解除してお楽しみとするか。縄は一時的にほどくが下手なそぶりは見せない方がいいぞ。」

 

そういって彼の手が私の右腕に触れる。直接腕を触られて思い出す。あの気持ちの悪いトラウマを。麻痺も解けたせいか本能的に体が彼の手を拒む。

 

「嫌っ!やめてっ!」

 

「図に乗ってるんじゃないぞ君みたいなガキが!これから大人の怖さってもんをその体に覚えさせてやるよっ!」

 

気持ち悪い。気色悪い。吐きそう。怖い。助けて。お願い。

 

頭の中で喚き散らすも口がうまく動かない。発せられたのはたった一度の小さな一言だった。

 

「…助けて、誰かぁ。」

 

宛先のない言葉を口からこぼすも意味をなさない。これから男にされることを考えるだけで全身に悪寒が走る。

 

「こんな主街区を離れた町に誰も来やしねぇよぉっ!万が一誰かいたとしてソロの小娘なんざ助けるわけがねぇだろおっ!」

 

あぁ。結局現実でもゲームでもそうなのだ。人と違うというだけで差別される。同性からは悪意を、異性からは好意を。そしてその単純な好意の先に待っていることを私は知っている。すべてを諦め男の歩む末を予想し、すべてを受け入れる。

 

「なんだ急に。いきなり反抗してくると思いけりゃ随分と大人しくなったじゃねぇか。そんじゃ、始めちゃいますか。」

 

男の補助によって倫理コードを解除される。鎧を外され、布切れ一枚にされる。その時だった。四人目の声が聞こえたのは。

 

「随分と面白そうな事してんじゃねぇかよ。おっさん。」

 

「あぁ?んだてめぇ。ガキはすっこんでろ。お前らっそいつをつまみ出せっ!」

 

男が合図を出すも手下の姿は見当たらない。どこへ行ったのだろうか。

 

「あぁ、あいつらおっさんの仲間だったのか。いきなり切りかかってきたもんだから瀕死にしたらしっぽ巻いて逃げてったぜ?」

 

「な…なんだとぉ…!そ、そうだ少年。お前も一発どうだっ!?な?見たとこ学生だろうしエロいこと興味ある年頃だろ?」

 

「そうだな。」そう言って少年が近づいてきて誰か判明する。

 

「ウィオラ、一度だけ聞く。これは合意か?」そう少年は問う。

 

声が出ない私は首を横に振ることで否定する。

 

「そっか。じゃあ少し待ってくれ。」

そういって彼は私と男の間に立ち、背を向けてくる。

 

「悪いがこいつは俺の知り合いだ。今後こいつに関わらないと約束するなら見逃すが、そうじゃないなら切り伏せる。」

 

「がっ、ガキがっ…!大体俺を切ったらお前は犯罪者扱いだっ!俺に手を出せるわけっ…!」

 

そこまで言いかけて男と私は気づいた。彼のカーソルがすでにオレンジ色をしていることに。

 

「すでに俺はオレンジだ。おっさん一人斬ることくらい、痛くも痒くもないぞ。」

 

「く、くっそがぁぁぁぁああああ!!!!」

 

叫びつつ男が少年に迫るも少年は背中に背負った槍を素早く構え、攻撃をいなしていく。

 

「大体っ、そいつがっ、俺をさらし者にするからいけないんだっ!」

 

「子ども相手に逆恨みか。救いようのないな。」

 

そういって少年は男の体力を削っていく。

 

「これ以上はもうよせ、おっさん。あんたも死にたくはないだろ。」

 

その言葉を最後に男は膝をつく。

 

「ウィオラ、ちょっとこいつ一層の軍まで届けてくるよ。少しだけ待ってて。」

そういって少年は優しく微笑む。

 

「しょ、証人もいるだろうし、私もいくわ。」

声を絞り出し、何とか伝える。

 

「そうか。じゃあお願い。一緒に行こう。」

 

 

 

―――

 

 

 

第一層はじまりの街

 

「っだー!つっかれたぁ!まさか街に入る前にクエスト受けなきゃならんとかだるすぎでしょ!」とナツメが叫ぶ。

 

「それに軍の連中ときたら夜だからって対応遅すぎだし!監獄エリア管理してるんならそこらへん24時間体制にしてもらいたいよなぁ。」

 

「おーい。ウィオラ?大丈夫か?」

 

そういいつつ彼が私の目の前に手をかざすと一気に血の気が引くのを感じたため、一瞬にして距離を取る。

 

「あっ…。いや…。ごめんなさい。」

 

「いや、俺こそ悪かった。ちょっと今のは距離が近かったな。うん。」

 

彼は悪くないというのに謝ってくる。しかし先ほどの光景が脳に焼き付いている今彼も信用ならない。

 

「まぁまぁそんなに緊張するなって。顔強張ってるぞ?ロザでも呼ぶか?」

 

「いや、いい。それより今から時間ある?どこか喫茶店へ寄りたい。」

 

「まぁまだ23時だし、別にいいよ。テキトーにそことか入るか。」

 

見せの扉をくぐり一つのテーブルへ対となって腰掛ける。

 

「とりあえず、コーヒー二つ。あ、ウィオラコーヒー大丈夫か?」

 

「えぇ。以上で。」

 

「かしこまりました。」

 

注文を済ませるとウェイターを模したNPCはカウンターへと下がっていく。

 

「早速だけど悪い。よくあるのか?今日みたいなこと。」

 

「ううん。初めて。それと助けに来てくれてありがとう。」

 

「いや間に合ったようでよかったよ。ったく、ソロの時は気をつけとけよ。」

 

「…うん。」

 

お互い黙り込む。今、ナツメは何を考えているだろうか。黙っていても仕方ないので今度は私から話しかける。

 

「そういえば助けに来てくれた時ナツメはオレンジだったよね。まさか、あんたも…。」

 

「いやいやいや!違うから!俺が誰かを襲う度胸持ってると思うかっ!?」

 

顔を赤らめて慌てている。じゃあ一体なぜ。

 

「あの男の取り巻き?みたいなやつに絡まれて先にダメージ与えたらあんなことになったんだよ。カルマ回復クエストは知らなかったからウィオラが居て助かったぜ。」

 

なるほど。そういうことね。

 

「じゃあどうして私の場所が分かったのよ。まさか、フレンドリストから追って来たんじゃないでしょうね?」

 

「疑いたい気持ちはわかるがマジで違うって。レベリングにちょっと遠出したら騒がしかったから寄っただけだよ。まさか知り合いが襲われてるなんて思いもしなかったけど。っていゆーかフレンドリストって場所もわかるんだ。」

 

そんな初歩的な機能も知らないとは。この分じゃ彼は本当に白ね。

 

「ちょっと聞いてくれる?ロザも知らない。向こうでの私の話。」

 

「お、おう。気が済むまで話せよ。あ、無理には話すなよ?」

 

「ありがとう。あれは私がまだ中学生のころなんだけどね…」

 

 

 

―――

 

 

 

私は母子家庭だった。理由は私も母もアルビノで実の父は私がうまれるよりも早く他界してしまっていた。特別父が居ないことを不幸に思ったこともなかった。母と二人、決して裕福とは言えないけど幸せな日々を過ごしていた。

 

ある日、母は会社で知り合ったという男性と付き合っていることを私に告白し、再婚も真剣に考えているとのことで、私もそれを応援していた。

 

「初めまして。お母さんと仲良くさせてもらっている月見と申します。よろしくね菫ちゃん。」

 

初対面の印象は誠実そう。よく気配りもできるし、体調を崩しやすい母の面倒や、年端もいかない私の勉強まで見てくれる。まるで絵に描いたように良き父であった。

 

「今日から僕も一緒に住むことになるけどよろしくね。」

 

しばらくして月日は経ち、二人で部屋が余るくらいのアパートも、月見さんが同棲することになり、父を知らなかった私にとっては家族三人順風満帆な日々を送った。

 

やがて一年ほど経ったころ私も受験生となり、これから勉強に本腰を入れねば。自習も一通り終わり、夕食に向けてダイニングへ向かうと母が倒れていた。

 

慌てて救急車を呼び、待合室に待っている間月見さんへ連絡をした。早めに仕事を切り上げてこちらに向かうそうで、家族思いの人だと改めて実感した。

 

「しばらく彼女さんは入院することになるでしょう。とは言え、一週間ほど休めば大丈夫ですよ。大きい病気というわけでもないですし。」

 

「そうですか先生。ありがとうございます。それじゃ私たちはこれで。さ、帰ろうか菫。」

 

その日から母は一週間ほど入院することとなり、しばらくの間二人で生活することとなった。

 

事件が起きたのは突然のことだった。

 

あらかじめ月見さんから飲み会で遅くなると連絡を受けていた私は作り置きできる簡単な夕食をテーブルにおいてレンジで温めてから食べるようにメモを残し、お風呂を浴びて寝るためにベットへと転がった。

 

やがて睡魔が襲ってきたころに玄関が雑に開かれ叫び声が聞こえてくる。

 

「おーい!菫ぇ!父さんが帰ったぞぉ!」

 

私はすでに眠くその旨もメモに添えていることだし、眠りに就こうとした。

すると突如私の部屋の扉が開かれ明かりがつく。

 

「父さんがぁ。帰ったっつってんだろすみれぇ。」

 

「お、おかえりなさい。月見さん。」

 

眠い体を無理やり起こし、返事をする。お酒を飲むと性格変わるのか。

 

そんなことを考えつつ急につけられた明かりに思わず目を細め、月見さんへと顔を向ける。

 

「ふふふ~ん。こうやってみると母さんより、菫かわいい顔してんじゃん。」

 

いつもとは違う口調で月見さんは話しかけてくる。

 

「母さんを見た時もそうだがぁ、お前たち親子は本当にきれいな髪に、綺麗な顔してるよなぁ。やっぱり嫁や子供は美人じゃないと自慢なんざできないよなぁ。」

 

「そ、そうかな。お互いに愛してれば、そんなことない気がするけど。」

 

なんか嫌だ。この感じ。距離が近くなる月見さんに体が強張り、うまくしゃべれなくなる。

 

「しかもまぁだ中学生だろ?JCだよ生JCぃ!!あいつが入院してるんだ。ちょうど明日から週末なわけだし、その間、いい子の菫ちゃんが相手してくれるよな?」

 

そこから母が帰ってくるまでの間は私の人生において最も思い出したくもない悲惨な数日間だった。

 

 

 

―――

 

 

 

「そのあとは退院した母が警察に届け出てくれて、その男はやむなく逮捕。私は母と二人で遠くの街まで引っ越したわ。」

 

「嘘…だろ。」

 

「本当よ。これが私がSAOに来る数年前の話。そこから無事に高校まで進学したけど寄ってきた男は全員見た目しか気にしてなかったわ。本当に男って単純よね。」

 

「な、ならなおさら俺と一緒に居ない方がいいだろ。ロザを呼ぶ「待って!」」

 

ここまで話して一つ思い出した。目の前にいる彼は私の見た目に関して社交辞令しか述べずに追及することやべた褒めすることはなかった。それが気になった。

 

「なんでナツメは何も言わなかったの。それが聞きたい。」

 

「そりゃ、まずは色は髪と目の色彩については設定から変更可能だから。」

 

「でも、それを変えているプレイヤーはごく少ない。攻略組もほとんどが茶髪や黒髪よ。」

 

「あとは、見た目に特徴がある人ってのは良くも悪くも仲間外れにされるからかな。いじることの方が失礼だろ。」

 

少し曖昧な表現ね。深堀りしてみるかしら。

 

「もう少し詳しく聞かせてちょうだい。」

 

「例えばクラスでイケメンと普通の顔とブサイクがいたとする。ブサイクは派手な奴らにいじめられる対象になりやすいし、イケメンは神格化されて逆に距離を置かれる。一番友達ができやすいのは普通の顔のやつだと思うぜ。あくまで俺の経験と主観だが。」

 

「そう、ありがとう。私からは以上だわ。さ、帰りましょう。」

 

彼は初めから見た目など気にしていなかったということか。私にとってはそれが救いであった。

 

「あぁ待て待て。ロザを呼ぶからもう少し待ってろ。」

 

 

そのあとはロザが迎えに来て二手に分かれお互いに帰っていった。

 

 

 

―――

 

 

 

「え~…。今回はウィオラの勝ちなのぉ?ちょっとつまんなぁい。」

 

「あはは、それはナツメがダガーで挑んできたせいよ。彼ったらギルドメンバー全員分のメインスキルを習得してるみたい。」

 

「はぁ!?何よそれっ!私の教えたレイピアが気に入らないとでもいうのっ!?これから決闘しに行ってくるわっ!」

 

思わず駆け出しそうになるロザを引っ張って抑止する。

 

「こらこらっ。何時だと思ってるの。送ってくれてありがとう。」

 

「大丈夫?軽くなっちゃんから話は聞いたけど怖かったらいつでも言ってねぇ?お泊りでも何でもするから。」

 

「うん。もう大丈夫。いつ襲われてもいいようにもっと研鑽しておくわね。それじゃ。」

 

「必ず何かあったら私を頼るのよぉ?少なくともウィオラやなっちゃんよりは年上なんだからね。」

 

そういってロザは帰路へと向かう。遅い時間にも関わらす来てくれてありがたかった。

 

今日はナツメに助けられちゃったな。決闘は私が勝っているとはいえ何か彼が困ることがあったらお礼に助けてあげよう。

 

一つだけ決心をし、私は眠りについた。

 




ナツメ「改めて読むと相当な外道だな。ウィオラの父親。」

ウィオラ「といっても本当のお父さんじゃないけどね。」

ナツメ「だとしてもなぁ。おい、作者ちょっとやりすぎだ。表出ろ。」

えっ!?あの、ナツメくん。。。ちょっと痛い腕引っ張らないでぇっ!助けてウィオラちゃ~ん!

ウィオラ「まぁ自業自得だし頑張ってね~。次回からはまたナツメ視点に戻るので皆さん今後とも応援、よろしくお願いします。」


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