魔法少女リリカルなのはS.G. (月想)
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第一部『StarGazer』
第1話『覚醒の鼓動』


正直これがやりたかっただけ。
続くかは未定。
いつだって想定外など想定内ッ!!


“人の為に生きなさい。それがあなたの為になるんだから”

自分の記憶力のなさには自信があるけど、私がまだ赤ちゃん卒業し立ての頃に亡くなったおばあちゃんの、その言葉だけは、今でもちゃんと覚えてる。

お陰様で今や人助けは私の趣味なんじゃないかっていうくらいのものになっている。

迷子の親捜しとか、木に引っ掛かった風船とか。

若干後ろめたいのは、人助けと言っても別にその人が困ってるから助けないと!っていうわけじゃなくて

自分の目の前で悲しそうにされていると、堪らなく嫌な気持ちになって

その後の一日が台無しになるからって理由。

結局は自分の為だから、漫画の主人公みたいな自己犠牲の権化ではないんだよね。

ここ、わりと重要。

これから私に何かされる人たちは決して私を過大評価しないこと。

お腹が痛くなりますよ。私の。

...ああ、そろそろ気になりますよね。

このモノローグ何?シリアス?みたいな。

一言で言えば現実逃避です。

その現実が見たい?

仕方ないなー、皆さんにはこちらの映像を、

「聞いてますか星宮さんっ!!」

「ひゃいっ!?」

高校の教室というより、大学のそれに近い大教室に、女性教師の怒号とその対象である女生徒の返事(悲鳴)が響き渡る。

周りの生徒の様子は様々で、またか、と呆れる者。またか、と笑ってしまう者。そしてまたか、とおどおどする者である。

「貴女という人は何度目ですか!?通学時間20分の道で一体何がどうなって1週間連続で遅刻するんですかぁ!!」

「先生、1週間は2日休みがあるので5回です。」

「知ってます!ちゃんと数えてますぅ!」

「いやぁ、今日は財布を落としちゃったお婆さんがいて。」

「三日前も同じ理由でしたよね!?」

「三日前はお婆さんじゃなくておばさんです。」

「一緒です!!年齢の差なんて関係ありませんっ!!」

「自分に言い聞かせたい言葉ランキング一位ですか?」

「気にする年じゃないから!まだ婚期逃してませんからぁ!!」

これがこのクラスの日課である。ミッドチルダ魔法学院。

魔法都市ミッドチルダの中で最も大きい高等学校である。

この世界は一般的な魔法のない世界と同じ科目の他、魔法教育のカリキュラムが存在する。

特にこの学院は魔法教育が充実しており、優秀な魔導師を毎年輩出している。

ちなみにこちらは女学校の分校であり、その学院の生徒と言えばいかにもお嬢様なイメージで、教員もそのイメージに違わぬ清廉潔癖とした者ばかりである。はずなのだが。

「流石に毎日これはお腹が痛くなるなぁ...。」

机に突っ伏す私。それを隣にいる女生徒三人が見て、思わずと言ったように笑う。

「まこちーは持ってるよね、うんうん。もう先生すら面白く見えてくるもん。」

「人助けで遅刻は主人公にのみ許される特権...つまり真はこれからこの学院をハーレムに!?」

「しません。」

皆楽しそうだね。私は楽しくないけど。

「学校、辞めたくないなぁ。」

ただでさえ成績悪いし、魔法の才能もないし。何で受かったのか分からないよ、私自身。

「流石にまだ退学はないでしょ。まだ。」

「大事なとこを二回言ったよね。まだってことはwillだよね。」

「英語勉強したんだ?未来形修得おめおめ。」

「中学英語の範囲なんですが...!」

「星宮さん、頼まれていた雑誌をお持ち」

「ありがとう!大好き!」

「切り替えが早い。そこに痺れないし憧れない。」

ネットスラングを無視して、私は雑誌を受け取る。

「フェイトさんのインタビュー記事!持つべきものは本屋でバイトしてる友達だよぉ!」

「喜んで頂けて嬉しいですわ。」

「その執務官の人本当に好きだよね。そんなに有名だったっけ?」

「執務官志望なら誰でも知ってる超敏腕執務官だよ!小学生の頃からロストロギア関係の事件を何回も解決して、今も沢山の大事件を捜査してるらしいんだよね!おまけに超美人!」

「結局世の中顔なんだ...!」

「あら、板場さんは素敵な女性ですわよ。」

「貴女が女神か。私だ結婚してくれぇ!」

「はいはいコントしてないで。まこちーはそのフェイトさんを目指してるんだ?」

「まあ、今の成績じゃ執務官どころか管理局にも入れなさそうだけどね。あはは...。」

私の魔法適正はDランク。エリートの執務官に、この適正でなれた人はほとんどいないらしい。

でもまあ、ほとんどってことは可能性は0じゃないってことで。

日々頑張ることに変わりはないんだけどね。

 

「じゃあ、また明日!」

皆と別れて、私はバイト先のレストランに向かう。

ちなみに私、星宮真は一人暮らしである。

バイト代を稼がないことには、退学する前に餓死する可能性があるのだ。

幸いバイトに関しては今まで無遅刻無欠席、超優良バイト戦士として名を轟かせ、

 

「あ...。」 

 

フラグ達成乙というやつだろうか。

道端に綺麗な銀髪の、小学生くらいの小さい女の子が座っていた。

所謂途方座りである。これはまた、無視できないなぁ。

 

「...迷子になっちゃったのかな?それとも、どこか怪我しちゃった?」

 

目線を合わせて、なるべく優しい声で話しかける。

女の子は顔を上げ、こちらを見ると

 

「...」

 

何も言わず立ち上がった。

 

「怪我はないみたいだね。どうしてこんなところで座って」

「おまえ、しぬ覚悟はあるか。」

「へ...?」

 

子どもとは思えない冷たい目をして、私にそう問い掛けた。

 

「...見つけた。逃がすつもりはねぇ。

おまえに選択権なんてねぇが、仕方なく聞いてやる。くたばる覚悟はあるか。」

「ちょ、いきなりどうしたの?というか口悪っ!?」

「...今夜だ。」

 

銀髪の少女は振り返って、そのまま歩いていく。

 

「ま、待って!?本当に、どういう!君は...!?」

 

車が一台通りすぎると、少女はもういなくなっていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「バイト中もぼーっとしちゃった。... 夜、だよね。完全に、今夜。」

あの子が言ってた今夜。本当に何だったんだろう。

今流行りのアニメの真似とか?

あの子すごい美人さんだったし、それだけでなんか信憑性というか、ただのいたずらっぽさがないというか。

「...ばかが考えてもしょうがないか。お腹空いたしごはんごはん!」

空元気を出して、よく通っているカレー屋さんに向かう。きっと何もないって!

そう思ったその時だった。

今日はよくフラグを回収する日だ。私って呪われてるかも。

「...!」夕方の少女が走っていた。何かから逃げるように。

「っ!よく分からないけど、小学生の出歩いていい時間じゃないでしょーが!!」

幸い住んでいる場所から近く、道をよく知っている私は近道して、少女の逃げた方に向かう。

「こっち!」

「!?おまえ...!」少女の手を掴み、裏路地を通りひたすら遠くへ走る。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ、はぁ...。だいぶ走ったはずなんだけど。」周囲を見渡す。怪しい人はいないし、上手く撒けたんだと思う。

「大丈夫?怪我はない?」

「...自分から来るとはな。飛んで火に入る夏のばかってか?」

「今夏じゃないしお姉さんにばか呼ばわりはよくないと思う!

小学生がこんな時間に歩いてたらほっとけないでしょ?あなたのお母さん心配しちゃうよ。」

「...あたしに母親なんていねぇ。それに心配するなら自分の方を心配しろ。手遅れなんだからな。」

「え?」少女は空を見上げる。

瞬間、私は赤い光に包まれた。

 

「っ...今の...魔法...っ...?」

周りは瓦礫と煙に包まれていた。

直撃はしなかったからか、体に大きな傷はない。そうは言っても、あっちこっち擦りむいたりぶつけたりして

大事な女の子肌はボロボロになってしまっている。

「いっ...つぅ...!」何とか立ち上がり、あの銀髪の少女がいないことに気づく。

「まさか瓦礫にっ!?」慌てて周りの石に手を伸ばす。その時、

「瓦礫に潰させるようなへまはしないよ。これだけ苦労したからねぇ。壊れてもらっちゃ困る。」頭上から声が聞こえた。

赤い髪の女性、バリアジャケットを纏った魔導師がそこにいた。

あの銀髪の少女を乱雑に掴んでいる。

「その子のお母さん...じゃないですよね。誘拐は犯罪ですよっ!」

「法律が恐くてこんな仕事出来るわけないだろ?それに、これが本当に人間に見えるのかい?」

心底可笑しそうに魔導師は笑う。

「どっからどう見ても可愛い女の子です!管理局呼びますからね!」

携帯端末を取り出すが、電波を示すアンテナが見当たらない。

「無駄だよ。人払いに電波阻害もしてある。誰一人邪魔は出来ないのさ。」

そういえば、これだけ派手に町を壊しているのに

悲鳴も何も聞こえない。人払いなんて、そんな便利な魔法あったかな?

「それにしても妙だねぇ。人払いが効かないなんて。よっぽど魔法適正が高いエリートちゃんとか?そんなら、魔法で何とかしてみるかい?」

挑発の笑みを浮かべる魔導師。

「っ...!」小さい瓦礫を拾って投げる。

「おっと?...まさかあんた、簡単な魔法すら使えないのかい?話にならないねぇ。

久しぶりに魔法戦、てのを楽しめると思ったのに。」私は、魔法が使えない。まったく使えないわけじゃないけど、こんな戦闘で使えるようなのは一つもない。

「いたぶるのも趣味じゃないが、見逃すわけにもいかないねぇ。」魔導師は一瞬困り顔をして、

「楽に逝きな。」そのデバイスから銃弾を放った。

「がふっ...!?ぁ...」体が勝手に倒れた。腹から血が流れ出す。

見事に命中してしまったらしい。

「お仕事終了ってね。」視界に翻る魔導師のマントが映る。

痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、痛いっ!!

光が弾け、視界がぼやける。真の意識は残酷なほど速く、闇に溶けていく。

「ちっ...起きちまったか。」

意識を取り戻したらしい銀髪の少女がそのまま真の上に落下してくる。

「答えろっ...!!!」

少女の怒声に、真の意識がわずかに戻る。

そんな大きい声、出せるんだ。

答えろって、あれ?しぬ覚悟、だっけ。

覚悟も何も、もうしにそうだよ。

いった。痛い。すごく痛い。しぬのってホント痛い。

それなりに正しく生きてきたと思ってたのに。バチが当たった?迷子に声かけただけなんだけどなぁ...。

親孝行もまだなのに。フェイトさんのサイン、まだゲットしてないのに。

見たい映画の続編、確か来月公開だったなぁ。

あーあ、未練しかないよ。悔いしかないじゃん、私の人生。

寂しいなぁ。一人で逝くの。誰かと一緒ならいいってわけじゃないけど、でもやっぱり

『寂しい、です。』

...あれ?『おともだち、つくるの...にがて、です。』

『だいすきですっ!』『わたしも〇〇×だいすきだよ♪』

『ひとりにしないで...!』

『だいじょぶ!また、あえるよ!やくそくしよっ!』

やく、そく。約束。

した。確かに。覚えてる、約束。まだ、守ってない。

守らなきゃ。だって、泣いちゃう。きっと。あの子の、笑顔。キレイだった。とっても、とっても...!キレイだった、だからっ!!

「しね、るかああぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

『Engage Completed. ARMED.』

 

―――――――――――――――――――――――――――――

「そう。やっと、見つけたのね。」どこか知れない一室に、女性の嬉しげな声が響き渡った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「なん、だ...?」銀髪の少女が死にかけの少女に触れた途端、眩しい光が彼女たちを包んだ。

次の瞬間、光の中から現れたのは、

『...』紅と白の機械的なアーマーに包まれ、マフラーをたなびかせた

緑に輝く瞳を持った何かであった。

 

第一話 『覚醒の鼓動』

 




ここでSynchrogazerを流すわけですよ←


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第2話『稲妻を喰らい、雷を。』

戦闘シーン、難しいです...!


「生き、てる...?」

 

気づいたら立ち上がってた。

一体何が、というかお腹血だらけで...。

 

「あれ...?」

 

血が出てない。というか、痛くない。

というか!

 

「って、何これ!?」

 

見える範囲だけでも私の格好が制服じゃないのが分かった。

手にはグローブというか、ガントレット的な物が付いてるし、足も似たような感じ。

写真で見たフェイトさんのバリアジャケットより何かいかつい気がする。

それなのに胴体は何だか寒そうな、ピッチリした服?になっていた。

 

「恥ずかし!?何かのユニフォーム!?」

『ユニフォームじゃねぇ、アーマーだ。』

「大事なところにアーマーがないんですけど!?」

 

...ん?

「...今の声どこから?」

『あ?』

「私のお腹からーっ!?」

 

私のお腹からあの銀髪小学生の声がする!?

やだ、私ったらいつの間に...。

 

『んなわけあるかバカ。いいかよく聞け。お前は』

 

ー瞬間。

 

私の顔スレスレを弾丸が通り過ぎる。

 

「まさか適合者だったとはねぇ。面倒なことになったもんだよ。」

 

さっきの魔導師!やっぱり夢じゃない、確かに私はあの銃で撃たれて...。

 

「まあ、せっかく覚醒したんだ。不完全燃焼の分、楽しませてもらうよ!」

「!?」

 

魔導師が続け様に弾丸を放つ。

反応できるわけがない。私はその弾丸を全て受けて蜂の巣に

 

「避けれたぁ...!?」

 

ならなかった。まるで止まってるみたい、っていうと映画の見すぎだと思われるだろうけど。

本当にそんな感覚。生えてる草を歩いて避けるのと一緒って感じ。

 

『当たり前だ。お前の身体能力は人間の域を超えた。お前の纏っているあたしはそういうもんなんだよ。』

 

君を纏うって、どういう...?

 

『アイアンメイデン。仲良く化け物を楽しもうじゃねーか。マスター?♪』

「ちっ!」

 

やけにでもなったのか、魔導師が何度も射撃するがいずれもその深紅の外殻をかすることもできない。

 

「っ!」

 

この状況、全然まるまるまったく訳が分からないけれど、弾が当たらないなら死なずに済むかもしれない!

 

「今なら逃げっ...!」

 

思った瞬間。私の体は雲と雲の間、地上の敵が見えない程の高さまで飛び上がっていた。

 

「な、なななななっっ!?」

『バカ!何も考えずに飛び上がるヤツがいるか!』

そんなこと言われてもーーっっ!?

「しめた。素人で助かったよ...!」

 

魔導師が二丁の銃に魔力を充填しているのが分かる。

 

「あれ、収束魔法...!?」

「そんな体勢じゃ軌道修正もできやしないさ!くたばりなぁ!!」

 

閃光。先程の弾丸とは比較にもならない魔力の奔流が真に迫る。

 

「これ、やばい...死...!」

『拳を突き出せっ!!』

「拳って」

『いいからやれ!死にたくねぇ理由があるんだろーが!!』

「!」

 

ーーあの時の約束、まだ...!!ーーー

 

『解放全開だあぁッッ!!!』

 

稲妻が走り、雷が真の拳に宿る。

ロケット噴射のように腕部装甲から電気が走る。

 

「こんのおぉぉぉーーーーーッッッ!!!!!」

 

拳が光の奔流にぶつかる。

 

「なん、だと...。」

 

拮抗などしない。空から地上に落ちる稲光のように。

真っ直ぐに光を割って、少女の拳は敵を穿った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ハァ、ハァ...!!」

 

足元には意識を失った魔導師が。

 

「私、が...」

『そうだ。お前が倒した。』

 

あんなにすごい収束魔法だったのに、ただ殴っただけなのに...!

 

『剣も出せないとはな。素人も素人、ホットチョコより甘ぇチェリーちゃんってか?』

「言ってること、全然分からな、い...。」

 

私の意識はここでプッツリ切れてしまった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

と、そんな感じで。

以上が今日あったことの振り返りなのでしたー。

いやー、我ながら日頃の行いが悪かったのか神様と仏様に懺悔したいレベルで呪われてるんじゃないかっていうとんでもデイだったね。

まあ、とりあえず命の危機は脱したし、死んだけど生き返ったみたいだし。

これで温かいお布団と美味しいカレーが沢山食べられれば明日からは強く生きられる、ってそう自分を騙していたわけなんだけど。

 

「星宮真さん。貴女をこのまま帰すわけにはいきません。」

 

目の前の女性。金髪で赤目で、黒い制服がバチッと決まった私の憧れの人。

フェイト・T・ハラオウンさんは、凛々しい目で、私にそう言い放った。

 

「...なんでえぇぇぇぇーーーーっ!?!?!?」

 

第2話『稲妻を喰らい、雷を。』




めちゃくちゃ短いじゃあないですか...。
続き気になってくれる人がいたら幸いです!


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第3話『紅色と黄色』

見てくれてる人いるんだろうか...
緊張する、してしまう...


とあるファミリーレストラン。

 

所謂ファミレスというやつだが、基本的にいつも忙しい。

昼間は仕事の休憩に来るサラリーマン、夕方は学生の寄り道、夜は夕食を楽しみに来た家族連れ。

だが深夜だけは違う。

出歩く人がそもそも少なく、治安もそこまで悪くないこの都市では深夜のファミレスは何故開いているのか分からないレベルで閑散としている。

それ故深夜勤務という辛さはあったが、従業員から密かに人気のシフトとなっていた。

...この時までは。

 

がつがつ!がつがつ!

そんな擬音が聞こえて来そうな勢いで、様々な料理が運ばれては消えていく。

店員は思っていた。勘違いしていた。

 

「こんな夜中に女性二人とは珍しい。片方は学生さんみたいだが何かあったのだろうか。深夜のお悩み相談ガールズトーク的な。」

 

などと色めき立っていた自分を殴ってやりたい。

とんでもない勘違いだった。

怪物。

彼は初めてそれが実在したことを知り、戦慄した。

料理を運ぶ手が止まらない辺り彼も存外、プロである。

 

「ぷはぁー!おいしー!空腹は最高のスパイスって、けだし名言だよー!♪」

「あ、あはは...。」

 

カードは使えるよね、大丈夫だよね?

と乾いた笑いが出ている。

 

事件の話を聞くため、女学生が話しやすいであろうファミレスに連れて来たまでは良かった。

が、大人の余裕を出して

 

「好きなものを頼んでいいよ。」

 

などと言ったのがまずかった。

彼女の食いっぷりに圧倒される現状の完成である。

 

「しかも憧れの、あのフェイトさんとお話できるなんて!厄日が一転、逆転満塁ホームランってやつだね!やたーー!!」

「喜んで貰えるのは嬉しいんだけど...。」

 

少し困った顔で、彼女は真を宥めつつ話を続ける。

 

「そろそろ事件のお話、聞いてもいいかな?」

「ゴクン...あ、はい。そ、そうでした。」

 

フェイトの真剣な表情に、流石に背筋を正す真。

 

「何故貴女はあの場で倒れていたの?魔導師が倒れていた側に。」

「それはその。...よく覚えてなくて。」

「覚えてない?」

「は、はい。...アルバイトが終わった後に女の子が走っているのが見えて。」

 

真は今日あったことを説明する。

女の子を追っていた魔導師を見つけ、助けなきゃと思った。

何とか追いつくことはできたが魔導師の攻撃には対応できず、気絶。女の子が逃げるところはギリギリ見えた。

気づいた時には病院にいたと。

 

そう、嘘を吐いた。

 

「...なるほど。貴女は何も知らないんだね。」

 

嘘だと分かった。

自然に考えれば彼女が魔導師を撃退したようにしか見えない。

分かりやすいくらい真は嘘を吐くのが下手だった。

話す度に悪いことをしていると、躊躇うように言葉を紡いでいた。

いい子なんだな、とフェイトは感じた。

執務官である自分に嘘を吐くというのは良いことではない。

だがそれを分かった上で何かを隠している。

この素直で自分に憧れているという少女がそこまでして隠すことが、どうしても気になった。

 

「じゃあ、その女の子を助けて魔導師を倒したのは別の誰かなんだね。」

「そうですそうです。私なんて、フェイトさんに憧れるばっかりで才能もない、普通のなんの変哲もない女の子なんですから...。

ほら、デバイスだって学園から支給されてるやつしか持ってないんですから!」

 

言いつつ携帯型デバイスを見せる。

 

「...確かに。普通のデバイスだね。」

 

軽く確認し首肯する。

 

「その、すみません!せっかくフェイトさんが時間を作ってお話してくれたのに...。私、何の手がかりも渡せない...。」

 

フェイトは真を真っ直ぐ見つめ問う。

 

「...貴女は人を助けるのが好きなんだよね?女の子を助けたのが自分じゃなくて、悔しかったりはしない?」

「え?...そりゃあいつも、私にもフェイトさんみたいな力があったらって、ずっと夢見てたけど...あの子が助かって、私じゃなくても、力を正しく使ってくれる人が他にもいるなら、それはすごくいいことなんじゃないかって。そう、思います。」

 

そう言って遠慮がちに、しかし花のように笑う姿が。

お人好しで、誰よりも頼りになり、誰よりも心配な親友に似ていると、フェイトは思った。

 

「そっか。そうだね。私もそう思うよ。」

 

優しく微笑む憧れの姿に、真はつい見惚れてしまった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□真の家前◼️□

 

「それじゃあ、また何か思い出したらいつでも連絡してね?」

 

真を送迎した車から顔を出し、フェイトに告げる。

 

「フェイトさんの連絡先...!?い、いいんですか!?私ファンなのに!?一線越えなんてそんな罪を私は...!」

「あはは...。まあ、程々にね?」

 

あくまでも捜査の為の連絡先共有だが、彼女には刺激が強すぎたらしい。

 

「はい!あの、サインもありがとうございます!今日は本当に、ありがとうございましたっ!」

笑顔のまま頭をしっかり下げる。

 

改めていい子だなと思いつつ、手を振り応える。

走り去っていくフェイトの愛車を真はいつまでも見つめていた。

 

...が、手元のサインが視界に入った途端、すぐにだらしない顔になってしまう。

 

「ふふ、えへへ。フェイトさんのサイン...。」

『そんなもんが嬉しいのか?』

「嬉しいに決まってるよ!フェイトさんのサインだよ!?家宝だよ家宝!...ってわぁ!?」

 

驚いた真から光の玉のようなものがが現れ、人の形となる。

 

「いちいちうるせーんだよ。お前騒がしくないと死ぬ生き物か何かか?」

 

それは今日という日を決定付けた、銀髪の少女であった。

 

「何か出てきた!?いったいぜんたいどんな仕組み!?」

「だからうるせー。教えてやるからついてこい。」

 

そう言い、少女は歩き出す。

 

「へ?いや、流石に今日は眠いし明日も学校だし宿題やってないし夜更かしは女の子の敵で」

「い い か ら こ い 。」

「ひゃい...。」

 

小学生の圧じゃないよ...とぼやきつつ、真はしょぼしょぼとその少女についていくことにしたのだった。

 

第3話『紅色と黄色』




ファミレス描写長くない?←


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第4話『鉄の乙女』

思いつきを数字で語れるものかよ!
って気概で勢いで書いてます。
技法もへったくれもない駄文ずびまぜん...!


辿り着いた先は、廃墟だった。

 

「って怖い!?深夜に見ていいビジュアルじゃないよ!というかもしかして!君おばっ!?」

 

すぱん!(乾いた音)

 

「誰がオバケだ誰が。」

「いたい...。」

 

小学生なのになかなかどうして重い一撃...。

 

「さ、入るぞ。」

「あ、ちょ、ま、待ってよ...!」

 

こんな廃墟に取り残されたらたまったもんじゃない。私は引き返すこともできず、

銀髪小学生にただついていく。

 

暗い廃墟を黙々と進んでいく。

おかしいな?何で私こんなところに。

何でって、あの子に呼ばれたから。

...あの子って、誰?どこ?

段々、意識が...。

あれ...何だかすごく、眠い...急に、何だ...

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「人払いを無理矢理突き抜けたら負荷がかかるに決まっているでしょう?」

「お前が連れてこいって言ったんだ。やたらごねてきてめんどくさかったんだからな。」

「だから待ってなさいって言ったのに。」

「いいだろ別に。手間を省いてやったんだ。」

 

...何だろ。何だか、もめてる...?

 

「あら。目が覚めたみたいね。」

「...知らない天井だ。」

 

さっきまで廃墟にいたはずなのに。

私の目に映るのは綺麗な白い天井だった。

 

ムクリと体を起こしてみる。

辺りを見回してみると、沢山の書類と机、パソコン、モニターにホワイトボード、他にも何だかメカメカしい物が部屋一面に広がっている。

こういう部屋は確か...。

 

「研究、室?」

「ピンポーン。その通り。頭の方はすっかりお目覚めみたいね。」

 

そういって胸を張る(でかい!?)白衣を着た女の人が私に話しかける。

フェイトさんとはまた違った色。

無造作に見えて艶やかな長い髪をかきあげながら女性は続ける。

 

「歓迎するわ。クラレントのマスター、星宮真ちゃん♪」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ふぃー、落ち着くぅ~。温かいものどうも~...。」

 

頂いたマグカップで暖を取りながら段々意識がクリアになるのを感じる。

 

「ごめんなさいね、ここはあまり人に近づかれたくない秘密の場所なの。

苦労せず辿り着けるようにしたつもりだったのだけど、その子はせっかちさんなのよ。」

「...ふん。」

 

バツが悪そうに拗ねている少女。

 

「クラレントちゃん、だっけ。」

 

先ほど教えられた彼女の『名前』を反芻する。

 

「そう。この子はクラレント。人の姿をした、属にロストロギアと呼ばれる力を携えたデバイス。

逆剣クラレントよ。」

「げき、けん...。」

 

剣だなんて。私には可愛い女の子にしか見えないのに。

 

「信じられないのも無理はないわ。デバイスと言うにはあまりにも過剰な人間性。

研究者の私でも、人じゃない、なんて言い切るのは躊躇うもの。」

 

微笑みながら女性は続ける。

 

「自己紹介が遅れたわね。私はリーナ・バレンシュタイン。彼女たちアイアンメイデンの研究者。専攻は考古学だけど、他の分野も軽くかじって博士号は取っているわ。

つまり稀にみる天才ってわけ。よろしくね?♪」

 

ウィンクが様になる美人さんだ。

ほへー、私天才博士なんて初めて見た。

友達なら「アニメじゃない!?」って興奮しそう。

 

「あなたに来てもらったのはこの子のことと、今の真ちゃんの現状をすぐにでも知ってもらわないと困るからよ。」

「クラレントちゃんと、私。」

「そう。レンレンと真ちゃん。」

「だからその呼び方やめろ!バカみてーじゃねーか!」

 

そうかな?パンダみたいで可愛いのに。

 

「えー、パンダみたいで可愛いじゃない!」

「誰がパンダだっ!!」

 

やっぱりパンダは世界共通で可愛いんだなぁ。

 

「おい、そこのバカ。バカなこと考えてるのは分かってんだからなバカ。」

「バカバカ言い過ぎだよぉ!この数時間でレンちゃんは何回私をバカと蔑むの!?」

「うるせー!バカは逆立ちしたってバ...てめっ、何勝手にあだ名つけてやがる!?」

 

怒りながら心なしか頬っぺたが赤くなってる気がする。

なるほどね。はい、可愛い。

 

「ふふっ、仲良くなれたみたいで何より。説明を続けていいかしら?」

「はい、お願いします。」

「仲良くねぇ!!」

 

駄々っ子は軽くスルーしつつ

リーナさんは語り出す。

 

「私がクラレントに会ったのは一年程前。

遺跡の研究をしていた私は、休眠状態の彼女を見つけたの。」

 

モニターに遺跡と、綺麗な細工が施された傷ひとつない剣が映し出された。

 

「これがレンちゃん?」

「そうよ。私が触れた途端、剣は彼女の姿に変化したの。

話を聞く限りレンレンは何故休眠していたのかとか、その他の昔のことも覚えてないみたい。文献でわずかに確認できるのは、『聖遺物』と『鉄の乙女』という単語のみ。レンレンの起源を解き明かすことが、とりあえずの私の目標ってところね。」

「なるほど。」

 

すっごく噛み砕いて説明してくれてるな。

よく分かんないけど。

 

「このバカ何も分かってないぞ?」

「またバカって言った!?」

「ばーかばーか。」

 

子どもか!!

 

「子どもだ...悔しい...!!」  

「まあ、真ちゃんが理解しないといけないのはこの後の話だから。」

 

更にモニターが変化する。

 

「既に体験済みだと思うけど。クラレントは身につけた者の能力を次元が違うレベルで強化するわ。

真ちゃんは入学時の判定がDランクだったわよね?これは学生としてのランクで管理局基準で言えばG-ってとこかしら。

それがクラレントを身に纏うと...A+くらいにはなるわね。」

 

「A+!?というか私の成績を何で!?というかG-なんて聞いたことない低評価!?」

 

私からしたら雲の上の存在レベルになれるってこと!?

それ以上に個人情報駄々漏れなのが気になっちゃうけど!

 

「けっ、たかがその程度か。」

「その程度って、A+はすごく優秀な魔導師レベルなのに...」

「ロストロギアはそれほどの物なのよ。使うだけで戦況を引っくり返すバランスブレイカー。それに選ばれたのが真ちゃんなの。」

「選ばれた...レンちゃんに?」  

「...あたしを使えるヤツは限られる。条件があるんだ。お前みたいなのでも、レア中のレアなんだよ。」

 

レア。私なんかが... 。

 

「ふふっ、その条件もレンレンには詳しく分からないらしいんだけど。きっと真ちゃんの何かが、レンレンをキュンとさせたのね♪」

「誰がキュンだっ!!」

 

本日二回目の赤面である。可愛い。

 

「そんなわけで。それだけ強い力を持っているレンレンは、あらゆる勢力に狙われる危険があるの。

今日、あなたたちが襲われた魔導師もその手の輩に違いないわ。」

 

言われて、今日襲われた時のことを思い出す。

躊躇いなく私を撃ち抜いた女の人。

足が震える。確かに私は一度...。

 

「...現状、真ちゃんはレンレンと繋いだパスによって生きていると言ってもいい。

いずれは回復するでしょうけど、今レンレンを失えば助からないでしょうね。」

「!...。」

 

助かり切ってはいない。

その事実を受け入れるのに、時間は必要なかった。

 

「レンちゃんに力を借りて、レンちゃんを守るしか道はないんですね?」

「ええ、そうよ。その為にクラレントはあなたを見初めた。」

 

何となく分かってた。今日、というか昨日。私の日常は劇的に変わってしまった。

もう、平和でのんびりとした日常には戻れないかもしれない。

それだけの体験をしてしまった。

 

「覚悟を決めてもらうわ、星宮真さん。私と一緒に、クラレントを守って欲しい。」

 

さっきまでの雰囲気と違う。

酷く真剣な眼差しで私を見てる。

 

「本当はすごく怖いです。戦うってこと。傷つけられるのも、傷つけるのも嫌です。人と競うのも嫌で、みんなと仲良くしてたい。

だけど...。」

 

レンちゃんの手を握って走った。

あったかかった。デバイスなんて機械じゃない、繋いだあの手は温もりがある命だった。

 

魔導師から逃げている時のレンちゃん。

必死に走るその目は確かに怯えていた。

助けて、助けてって。そう言ってるように見えたんだ。

 

「泣いてる子がいるなら、助けなきゃ。痛くても、怖くても、弱くても。手を伸ばさなきゃいけないって私は知ってる。

だから私...戦いますっ!」

 

リーナさんは少し驚いたように見えたけど、すぐに微笑み

 

「合格よ。これからよろしくね、真ちゃん♪」

 

手を差し出した。

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

私はその手を握り返す。

 

「...ちっ。」

 

不機嫌そうなレンちゃんに振り返り私はずっと言いたかったことを話す。

 

「私のこと、助けてくれてありがとう!今こうやって嬉しい気持ちになれるの、レンちゃんのおかげだよ!だから、ありがとうね!」

「...ばか。んなこと面と向かって言うんじゃねーよ...。」

 

今日一真っ赤な気がする。えへへ、照れちゃってる。

 

「これは本当に一目惚れだったり?おぼこく見えて実は天然ジゴロとはやるわねぇ...。」

 

リーナさんが何やらこっちを見てるけど。なんだろ、何か間違えちゃったかな?

 

「さて。それじゃあ真ちゃんは今日は泊まっていきなさい。荷物はまた明日回収してあげるから。」

 

あー、もうこんな時間。

確かに泊めてもらわないとまともに眠れないかも。

...ん?

 

「荷物?」

「あなたはここに住むのよ。当然でしょう?」

 

...お部屋借りてるのに、お母さんとお父さんにはなんて説明しよう。

 

第4話『鉄の乙女』




シンフォギアライブ最高でしたね...。(唐突)


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閑話『星の思い出』

Q.本作の393枠はどこ?

Q.で、いつリーナさんはラスボスになるの?

A.俺に質問するな。(アクセル感)


「わぁー!おひめさまみたいー!」

「ひぅ...!」

 

怖がっているのか、ぬいぐるみを抱き締める少女は顔を隠す。

 

「おなまえは!?わたし、まこと!」

「ほ、ほっといてください...。」

「そのクマさん、かわいーね!」

「...ともだち、です...。」

「ともだち!わたしも、ともだちになりたい!」

「え...。」

「まこと!おなまえは?」

「...リーゼ、です...。」

 

ふわふわの洋服を着て、お姫さまみたいに可愛い子。

りーちゃんの第一印象。

私たちはこの時から友達になった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

それからはお互いの家に遊びに行ったり、公園で遊んだり。

すごく子どもではあったけど、私たちは親友だったと思う。

 

「みてみてりーちゃん!まどーし!」

 

幼い私が持った雑誌にはまだ子どもの頃のフェイトさんと、高町なのはさんの写真があって。

 

「おとーさんからきいたの!みんなをまもってるんだって!こどもなのに!」

「まもってる...まーちゃんみたい、です。」

 

りーちゃんは何の力もない私にそう言って。

 

「そうかなー...でも、かっこいいなぁ!わたしもまどーし、なりたいなぁ!」

 

フェイトさんたちに憧れたのは、この時からかもしれない。

 

「...まどうしになっても、わたしをまもってくれますか?」

「うん!まもるよ!りーちゃんはぜったいのぜったい!」

 

そんなある意味無責任な言葉に、りーちゃんは嬉しそうに言ったんだ。

 

「やくそく、です。」

「うん、やくそく!」

 

私が守れてない約束、1つ目。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ずっと一緒にいられると思ってたのに。

別れは突然に、ってやつだ。

お父さんの転勤で私は引っ越すことになった。

 

「そんな...ずっといっしょっていったのに...!」

「ごめんね...。」

 

話をした途端、りーちゃんは泣き崩れて。

 

「いやです...まーちゃん、ひとりにしないで...!」

「わたしも、はなれたくないよ...。

でも...だいじょぶ!また、あえるよ!やくそくしよっ!」

「やく、そく...。」

 

私はまた、守れてない約束を作ってしまった。

それ以来、私はりーちゃんに会えていない。

手紙を送っても返って来なくて。

りーちゃんも引っ越したって話を聞いたのは数年経った後だった。

子どもの時にはよくある話だし、1つの思い出と言えば大したことないんだと思う。

りーちゃんだって、引っ越しの話をしなかったのは私のことどうでもよくなったからだろうし。

そう思えば良かった。

 

だけど私は、心のどこかでまだ。

りーちゃんは私のこと忘れてない、忘れて欲しくないって思ってた。

だから一度死んだ時、りーちゃんのことを思い浮かべたんだと思う。

 

それくらい大事な子だったんだ。

 

昔住んでた家に近いこの学園なら、もしかしたらりーちゃんも。なんて思ったけど、

そう上手くはいかないよね。

 

...それでもやっぱり。

もう一度会いたいな。

 

閑話『星の思い出』




ひらがな多めは読むの大変ですね。
シンフォギアライブなんですけど、何で不死鳥のフランメなしだったんですかね?(厄介ヲタク)


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第5話『日常は潰えて。』

人気なくても自分の為に書き続けようと思ってます。
自己満にお付き合い頂ける方、本当にありがとうございます!


「寝ちゃった...。」

 

寝ちゃった。

朝だ。

 

「いいや、11時はほぼ昼だ。」

 

じゅういち...。

じゅ、

 

「遅刻宿題ちこくぅーーっ!?!?」

 

ブレザーとカバンをひっ掴みボサボサの髪もそのままに駆け出す。

 

「あ、ちょっ、おまえ!!」

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「遅刻!遅刻...!学校遅刻ぅ...!!」

「はぁ、はぁ...っ。ま、まて...待ってばか...。」

 

信号で仕方なく止まると、後ろをヨロヨロとよろけながら走る(速度的には歩き)レンちゃんが見えた。

 

「レンちゃん?レンちゃんも小学校?」

「だ、だれが小学、せい...。この、体力バカが...!」

 

確かに体育の授業は得意だけど。

 

「ほめてねぇ...!」

 

わお、通じあってる。相性ばっちりだね。

 

「こんのバカ...一人で出ていってどうする。危ないって話は昨日聞いたはずだろうが。」

「あ...。でも、学校休むわけにいかないし。子連れなんて先生に怒られるどころか心の底から心配されそうだし...。」

いっそ怒鳴って欲しい。ってなりそう。

 

「バカかお前。こうするんだよ。」

 

レンちゃんは私に触れて、光となって私の中に入ってしまった。

 

「!?...はえぇー、便利。」

『あたしはデバイスなんだ。これくらいできらぁ。』

 

忘れてた。昨日は新情報がてんこ盛り過ぎたし。一体化できるんだったね。

 

『これで問題ないだろ。さ、早く遅刻しに行けよ。』

「...!学校遅刻学校!?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「あら星宮さん。思っていたより早く来ましたね。」

教室に恐る恐る入って来た私への第一声は、いつもの怒声じゃなかった。

 

「...先生が怒ってない。ついに見捨てられたんだ、私。」

「何をボソボソ言っているんですか。お母様から事情は聞いています。大変でしたね、授業を続けるので、着席して下さい。」

「は、はい。大変、でした...?」

 

お母さん?何でお母さんが事情なんて。

 

『リーナが今朝連絡してたぞ。昨晩事件に巻き込まれて、事情聴取が長引いたって。』

 

...なるほどぉ。リーナさん、いい人だぁ...!

 

『まあ、当然のように身分は偽ってるけどな。』

事件の話とか色々追及されそうだけど、それも全部回避したってことだよね。

これがデキる女ってやつなのか!天才!リーナさんてんさい!!

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

そして昼休憩のチャイムが流れる。

 

「ちゃーんと連絡してもらっても、結局宿題はやってない。流石はまこちーって感じだよね。」

「ほんとほんと。というか事件ってなに!?巻き込まれたって、追われてる美少女を助けたとかしたの!?なーんて、アニメじゃないんだからね~!」

「あは。あはは...。まさかー。」

『何だコイツ。まさか見られたのか...?』

 

いや、違うと思う。

 

「ともかく、無事なご様子で良かったです。」

「宿題忘れてしっかり怒られたから、無事かどうかは審判に委ねないとねー...。」

 

怒られると逆に安心する気がする。病気かな?

 

「アニメと言えばさ。今日うちの制服着た子を見かけたんだけどさ。」

「そりゃ見かけるでしょ。」

「じゃなくて!なんだかすっごく浮世離れしてるって言うの?私のアニメセンサーにビビッ!とくるような雰囲気の子だったんだよ。

お主、只者ではないな?みたいな。」

 

只者ではない?

 

「...それって、何だかお嬢様みたいな感じとか?」

「ううん、逆。むしろアウトローな危険な魅力って感じだったね。」

 

じゃあ、違うか。

 

「なに真に受けてんのさ、まこちーは。いつものアニメの見過ぎだって。」

「人を厨二病扱いなんて酷いなぁ。まだその周期じゃないんだからね。」

「結局ご病気の時はあるのですね...。」

 

...はは、何だか日常って感じだな。

昨日は色々あって、普通なことが全部なくなってしまった気がしてたけど。

ちゃんとここにあるんだ、私の日常。

 

「さ、弓美の持病はほっといて。ごはん食べ行こ。またたくさん食べるんでしょ?まこちーは。」

「...うん。朝から何も食べてないから、もう腹ペコだよ♪」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️放課後◼️

 

あの、すみません。

トイレの時だけは見ないし聞かないしで、意識を向けないということで、何とかお願いできないでしょうか。厳しいでしょうか。

 

『...おう。悪い。』

 

素直に謝られてるのに、辛い。

もうお嫁に行けないよぉ...。

 

「今度こそカラオケよ!私のアニソン100連発を見せてあげるんだから!」

「100は多すぎでしょ。マイク握ったらしばらく離さないし、友達いなくなるよ?」

「私たちの絆はそんなものだったの...!?いいや、まだだ!まだ歌える、戦える...!!」

「今日は一段とお元気ですね。」

 

カラオケかぁ。そういえばしばらく行ってないかも。

 

「ごめんね、私今日もバイトで...」

「あ、そっか。こっちもごめん、アルバイト大変だよね。」

「ううん!実は家賃の方は何とかなりそうなんだ。これに懲りずまた誘って下さいな。」

 

気を遣ってくれる友達がいて、私は幸せだな。

ここに帰って来る為にも、ちゃんとレンちゃんを守らないと。

 

「誘う誘う!そしたら真にもアニソン150連続を...あれ?」

「どうしました?」

 

「あの子!さっき話したアニメセンサーで、アウトロー!」

 

弓美ちゃんが指差した先には私たちと同じ制服を着た女の子がいた。

 

セミロングの黒髪に、ポップなドクロの髪飾り、ちょっとつり上がった目は赤く輝いていて。

確かに他とは違う雰囲気の美人さんだった。

 

「...クラレントのマスターですね。」

『!?』

「な...!?」

 

美人さんはニヤリと笑って。

 

「死神タイムの始まりでーす...♪」

 

黒と緑の鎧を纏い、私に刃を振り抜いた。

 

第5話『日常は潰えて。』




自分では長いつもりでも実際はすごく短いという。
内容がないよう、ってか?(あやひー感)
弓美が本人だと...!?
弓美ちゃんだけスターシステムです。決して考えるのが面倒だったわけではありんせん。


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第6話『閃光』

戦闘シーンは相変わらず難しい。


『ぼさっとすんなっ!!』

 

咄嗟に横に跳んで避ける。

 

「いたた...。...何、あれ。物騒なんてもんじゃないド物騒引っ提げてる!?」

 

黒い少女の手で武器が唸る。

それは剣でも鎌でもなく、

属にチェーンソーと呼ばれるモノに酷似していた。

 

「今のを避けるとはなかなかのラッキーガールです。でも、次はないのです。さっさとぶちまけてもらうですよ!!」

 

そう言って少女は得物を再び振るう。

 

「ひぃっ!?」

 

避けるというより逃げるように、何とかその凶器が当たらないように必死で動き続ける。

 

「ちっ!しつこいです!」

 

痺れを切らしたのか、少女は真の動きに合わせて蹴りを喰らわせる。

 

「ごふっ...!?」

 

常人のそれとは違う、圧倒的威力。

真の足は地面を離れ、体ごと吹っ飛ばされてしまった。

 

「チェックメイトです。お待ちかねのぶちまけタイムですよ。」

 

チェーンソーを唸らせ真に迫る。

 

余裕の少女の頭に空き缶がぶつかった。

 

「ぁいたっ。?」

「ま、真に何すんのよあんた!!アニメじゃないんだから、暴力なんてダメなんだからね!」

「っ...弓美、ちゃん...?」

「逃げて星宮さん!私たちが引き付けておきますから!」

「私たちの友達に近づくな!相手なら私がしてやるよ!」

 

必死にそう吼える三人の足は、等しく恐怖に震えていた。

 

「みんな...震えて...っ」

「生まれたての小鹿がよく言うです。...そんなに死にたいのなら、先にお前たちからバラすですよ。」

「ひっ...!?」

「星宮さん逃げて!!」

「投げる前に通報した方が良かったかも...!」

 

カコン。

またしても空き缶が少女の頭に当たる。

 

「っ...私の頭は的当てゲームじゃないですよっ!」

 

振り返り様に放った魔力の弾丸が、真の頬を掠める。

しかし真は動じない。

立ち上がったまま、真っ直ぐ『敵』を見つめる。

 

「狙いは私なんでしょ!友達に手を出さないで!相手ならしてあげるから!」

「やる気になったですか。安い挑発、ノリのいい私が乗ってやるです!」

真が駆け出すと同時に少女も後を追う。

 

「あ、真どこ行くの!?」

「もう見えなくなって...」

「私たちを、逃がす為に...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

命懸けの鬼ごっこ再び。

真は周囲に漸く人がいなことを確認する。

 

「レンちゃん!どうすればいいの!?」

『気合いが入りゃ何でもいい!エンゲージだっ!』

「え、エンゲージ!えと...逆剣、クラレントーーっ!!」

 

真の体が光に包まれ、全身を装甲が覆う。

1秒とかからず変身は完了。

マフラーが棚引いた。

 

「アイアンメイデン。それが戦闘形態ですか。」

 

少女と真が対峙する。

 

「本物...胸糞悪いです。さっさとぶちまけさせるですよ...!」

 

チェーンソーを振り上げ突撃。

 

「!」

 

咄嗟に腕の装甲で受け止める。

 

ガギャギャ!ギギギン!

鉄同士がけたたましくぶつかり合う。

 

『バカ!どストレートに受けてどうする!腕がなくなるぞ!?』

「...!?」

 

急いで飛び退く。

ガントレットには痛々しい傷跡が残っていた。

 

『武器だ!剣を出せ!』

「剣?でもどうやって...」

 

「武器もまともに出せないお気楽者ですか!相手にならないです!」

 

武器もまともにない真に少女の容赦ない攻撃が続く。

 

『何やってんだマスター!武器がなきゃ戦いになんねーぞ!?』

「分かってる、けど...!」

 

銃も刃物も、当たったらもしかしたら...!

 

『殴っても蹴っても、相手を傷つけることに代わりはねぇ!何迷ってんだ!!』

 

だけど...!

 

『負けたらお前は死ぬ!お前の友達だってどうなるか分からないんだぞ!いいのかそれでっ!』

「くっ...そぉぉぁーーっ!!!」

 

拳に雷が宿る。

真はそれをただ乱暴に振り抜いた。

 

「ぐぅっ!?」

 

予想外の反撃に反応しきれず、少女の腹に拳が叩き込まれる。

先ほどのお返しとばかりに、少女の体は宙を舞い木を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。

 

「あっ...!」

『よし!』

 

砂埃の中で少女がゆっくり身を起こす。

 

「っ...とんだばか力です...拳ひとつで、ここまで...。」

 

少女の口に血が滲む。

 

「っ...。」

 

真の手が震える。

 

『お前、まだ...!』

 

少女が叫ぶ。

「調子に乗るな本物っ!!負けてたまるもんかです...!アイアンメイデンなんて。だったら私たちは、何で...!!」

 

『何だこの、変な感じ...。』

「レンちゃん...?」

「見せてやるのです...!私たちは、失敗作なんかじゃないっ!!」

 

突如として少女の身が魔力の奔流に包まれる。

魔力の塊となった少女は、真を目掛け突進する。

 

しかし。

 

それは1つのデバイスと、巻き起こる雷に阻まれた。

 

「な、何なのですか...!」

 

少女が見上げた先にいたのは

 

「剣です。」

 

執務官、フェイト・T・ハラオウン。

管理局最強の魔導師であった。

 

第6話『閃光』




いっつも翼さんネタしたいだけでフェイト出してない?って思ったでしょう。
正解です。


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第7話『正義を信じて。』

なのはキャラはオリキャラと違って解釈違いが恐いですね。これが二次創作ってやつか...。


「剣です。」

 

フェイトは地上に降り立ち、自らのデバイスを回収する。

 

「フェイト、さん...。」

「...。」

 

フェイトは真を一瞥し、黒い少女に向き直る。

 

「現行犯です。通報もされています。おとなしく投降して下さい。」

 

一切の感情を挟まず少女に告げる。

 

「っ...管理局の、閃光...!」

 

少女の表情に緊張が走る。

真はいい。力を解放しさえすればあんな素人には負けない自信が彼女にはあった。

しかし目の前の管理局員は違う。

その実力は噂で聞いているし、今の虚仮威しの雷でさえあの魔力量。

単独で相手取るには荷が重過ぎる。

 

「くそっ...!」

少女が逃走を選ぶ。

 

しかし

 

「逃がしません。」

 

フェイトは瞬時に少女の後ろに回り込む。

このスピードこそ、彼女が『閃光』と呼ばれる由縁である。

スタンモードで起動したバルディッシュを躊躇いなく振り抜く。

 

「あっ...!?」

 

少女が認識した時にはもう、攻撃は終わっていた。

少女の体は力を失い、地面に崩れた。

 

「すご、い...。」

 

真はただ呆然とその光景を眺めていた。

 

「...星宮真さん。貴女は嘘を吐いていましたね。」

「!...それは...。」

 

フェイトは一瞬、悲しそうな顔をした後。

再び感情を出さずに言葉を紡いだ。

 

「貴女を連行します。いいですね?」

「っ...はい...。」

 

次の瞬間、周囲を極光が包んだ。

 

「!?」

 

フェイトは咄嗟に真の近くに移動し、障壁を展開した。

 

「何て威力...!」

 

昔受けた親友の砲撃を思い出す。

それに匹敵する威力だ。

 

何とか障壁で防ぎきるも、周囲はほぼ焼け野原となってしまっていた。

 

「あの子は...?」

「フェイトさん、あそこ!」

 

上空に浮かぶ一人の少女。

長い銀髪をツインテールにした可愛らしさとは裏腹に、少女の表情は人形のように固まっている。体には先ほどの少女によく似た黒と桃色の鎧を纏っていた。

目を引くのはその得物。

巨大な砲門を持つバズーカを二丁、肩に背負っている。

先ほどの砲撃は彼女が原因で間違いないだろう。

 

「...硬い。」

「ミラ...!ごめんなさいです...!下手打っちまったですよ...。」

 

先ほどの少女は意識を取り戻し、ミラと呼ばれた少女の近くに控えていた。

 

「ん。イズナは無理しすぎ。今日は帰ろう。」

「はい...仕方ないですね。」

 

「逃がすわけには!」

即時に反応するフェイト。

 

「イズナ。」

「はいですよ!」

 

今度は砲撃じゃない。

辺り一帯を包む閃光。

目眩ましだ。

 

光が消えた後には、もうすでにミラとイズナは姿が見えなくなっていた。

 

「...イズナちゃんと、ミラちゃん...。」

 

真は現れた敵の名前を反芻して、ただ項垂ることしかできなかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️取調室◼️

 

「貴女が何かを隠していることは、昨日話しを聞いた時に気づいていたの。だから近くに控えて、監視していた。」

「監視、ですか...。」

 

戦いの後、車で任意同行を求められた真は従い、フェイトから取調を受けていた。

憧れの人に信用されていなかったこと、憧れの人を騙してしまったこと。

喪失感と罪悪感が交じり合って、真の感情はぐちゃぐちゃになってしまっていた。

 

「昨日からお家に帰ってないよね?あの廃墟で何をしていたの?」

「それは...その...。」

『ちっ。見られてたのか。お人好しに見えてなかなか抜け目がないな。』

 

私が嘘吐くの、下手だったから..。

 

「...言えないんだね。それは知られては困るから?私に知られたら、貴女の守りたいものが危険な目に遭うと思っているからかな?」

 

う、バレバレだ...。

 

レンちゃん、ってやっぱり特別だと思うし。

もしレンちゃんのことがバレちゃったら、管理局の人が調べるって名目でレンちゃんの嫌がることをたくさんするかもしれない。

 

私は管理局に入りたくて憧れているけれど、『管理局』って組織が単純な正義の味方じゃないのも分かってる。

フェイトさんも管理局の人なんだ。

信じたい、けど。

 

「私は、信用できない?」

「!そんなこと、ないです!信じたい...けど...」

 

万が一があれば

危険な目に遭うのはレンちゃんとリーナさんなんだ。

リーナさんが研究所を秘密にしてるのには理由がある。

それを私が捕まったせいで無駄にするなんてできないよ...。

 

『...傷つける覚悟もないくせに。一丁前に守る気だけはありやがる。』

「...真ちゃん。もし貴女が悪いことをして、それを隠しているのだとしたら。

私は真相を知らなくちゃいけないし、然るべき対処をしないといけない。それが執務官だから。」

 

分かってる。それがフェイトさんのお仕事だから。

 

「...でも、貴女とは昨日初めて会ったばかりだけど。真ちゃんが良い子だって私は思ってる。きっと貴女は誰かの為に戦える人。貴女のお友達から聞いたの。自分が狙われていると分かっていて、三人を守る為に離れて行ったって。」

 

そっか。弓美ちゃんたちがフェイトさんを呼んでくれたんだ...。

 

「だからこれは、執務官としてではなく。フェイトとして聞きたいの。何か、困っていることがあるんじゃないかな?

聞かせて欲しいんだ。優しい子が困っているなら、私は助けたい。」

「フェイト、さん...!私...。」

 

ああこれが、私がずっと憧れていたヒーローなんだ。

 

『...はぁ。どうせ捕まってる時点で話さなくても追われる身なんだ。信じた方が得かもしんねーぞ。』

 

レンちゃん、私のことを思って...?

 

『ばーか。信じようが信じまいが関係ねーんだ。勝手にしろバカマスター。』

 

...ありがとう、レンちゃん。

 

「フェイトさん。私、フェイトさんのこと、信じます。」

「ありがとう。私も、真ちゃんを信じるね。」

 

私は今日まであったことを、全部フェイトさんに説明した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「なるほど。ロストロギアを狙っての襲撃。さっきの二人もクラレントちゃんが狙いだったってことだね。」

 

フェイトさんは冷静に話を聞いてくれた。

途中からレンちゃんも外に出て、質問に答えてくれている。

 

「事情は分かったよ。難しいけど、特殊な出自の知り合いは多いから。きっと警護対象にしつつ、不要な究明を避けるようにできると思う。」

「本当ですか!?」

「うん。だから博士も含めて、私たちがすぐに守れるような場所に移動して欲しい。一度博士に話をしてみてくれるかな?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️窓口近く◼️

 

一度窓口近くに出て電話をかける。

リーナさん、分かってくれるかな?

難しそうだけど、精一杯気持ちを伝えて、聞いてもらえるように頑張らなきゃ。

 

レンちゃんはニュースを流してるモニターをじっと見てる。

端から見ると社会情勢に関心がある小学生といった感じだ。可愛い。

 

『自動車生産工場にて火災が発生しており、一連の工場襲撃事件と関連があるか』

 

ニュースが途切れ途切れ聞こえてくる。

...リーナさん出ないな?

 

『只今新しい情報がございました。監視カメラ映像より容疑者が判明したとのこと。

容疑者は』

 

「...おい。マスター。あれ確か...。」

 

ダメだ、繋がらない。寝てるのかな?

 

「おいバカ!あれ!!」

「何レンちゃん。公共の場でバカバカ言うなんて育ちが悪いとか陰口をぐちぐち」

 

『繰り返します。容疑者はリーゼ・グレーデン一等空士。』

 

端末が手から滑り落ちる。

『はいはーい。ごめんね、ちょっと手が離せなかったの。何かあったの?位置情報が縁起悪そうな所になってるけど。...あら?真ちゃん?』

 

モニターに映される、監視カメラから見たその顔は。

私のよく知る親友の面影があって。

 

「りー、ちゃん...?」

 

私の知らない、冷たい目をしていた。

 

第7話『正義を信じて。』




流れ変わったな。(確信)

リーゼの階級高過ぎ問題を修正しました。←


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第8話『流れ星墜ちて。』

毎日投稿気味だったのが更新しなくなってエタったと思った?残念仕事が忙しいだけです。(辛い)
必ず最低毎週は更新しますとも。


居ても立ってもいられなかった。

フェイトさんが待ってることも、落とした端末から聞こえるリーナさんの声も。

何もかも意識から離れてしまった。

 

りーちゃん。

リーゼ。

 

私の親友。

もう会えないって思ってたのに。

会いたい。会わなきゃ。

何で指名手配されてるのかとか、一等空士ってなにとか。

聞かなきゃ、全部。一秒でも早く。会わなくちゃいけない。

 

気づいた時には駆け出してた。

急がなきゃ。早く行かないとまた...。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァ...ハァ...!」

 

近い位置ではあったけど、本当なら電車で向かう距離だ。

体中が疲れてるのを感じる。

息も、苦しい。

でも着いた。りーちゃんはどこに...

 

『お前...テレビのあれは監視映像だぞ。何時間も前の映像だ。もういるわけねーだろ。』

 

レンちゃん?いつの間に...。

 

『お前の思考も読めてきたからな。走る前に一体化した。端末も拾ってやったんだから、感謝しろよ?』

 

事故(事件?)現場を見回す。

黄色の立ち入り禁止テープ。野次馬の人たちと、止める管理局の人たち。

遠くに見える工場からは煙がまだ見えた。

 

「りーちゃん...。」

『諦めろ。近くにいるわけねーんだ。早く戻ってあの執務官に謝らないとお前』

 

端末を取り出してリーナさんに電話する。

 

『はいはーい。どうしたの真ちゃん。急に電話切っちゃったり、電話してきちゃったり。』

 

「リーナさん!リーナさんは天才なんですよね!?りーちゃんの居場所、分かりませんか!?」

『そうよ、天才だけど。りーちゃんって誰かしら?』

「リーゼ!リーゼ・グレーデンです!」

『リーゼ...。』

 

端末を操作する音が聞こえる。

 

『ああ、最近話題の工場襲撃犯ね。この子がどうしたの?』

「幼なじみなんです!ずっと会えなくて...でもテレビで見て、会えると思って来たんです、けど...。」

 

会えるわけ、ないか。

思考が急速に冷えていくのを感じる。

何をやっているのか。何も言わずフェイトさんから離れ、リーナさんに無理を言って。

おかしいよ、私。

 

『...ふーん。ちょっと待っててね。』

 

電話が切れてしまう。

急にわけわかんないこと言って、嫌われたかもしれない。

 

呆然と現場を見つめる。

 

『...おい。』

 

何であのりーちゃんがこんなこと...。

 

『おいってば。』

「...何、レンちゃん。」

『あいつはお前に待ってろって言ったんだぞ?』

「へ?」

 

端末が鳴動する。

 

『お待たせ真ちゃん♪襲われた工場を分析して、次に狙われる場所を特定していたの。自動車工場は表向き。本当は武器生産工場だったみたいね。それを順番に潰して回っている。次に襲われる可能性がある工場は、そこからかなり近い位置にあるわ。まあ、あくまでも分析からの予想の話だけど。』

 

...て、天才だ...。

すごい、もう位置情報送ってくれてる。

 

『管理局にハッキングしてちゃちゃっとね。後は真ちゃん次第よ。』

「は、はい!ありがとうございます!」

 

...ハッキング?

 

『ふふっ、無茶しないように頑張りなさいな。』

 

通話が切れる。

 

...これで、会えるんだ。

 

「りーちゃん!」

 

私はまた、駆け出す。

約束を果たすんだ。また会えるって!

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

□◼️街外れの工場◼️□

 

黒衣に身を包んだ少女が目標を見据える。

感情はいらない。

ただ目的の為、スコープを覗く。

破壊する。一発で撃ち抜く。

魔力を弾丸に変え、工場に隠れた獲物を狙う。

貫くのだ。己の正義を押し通す。

その為にも止まるわけにはいかない。

引き金が引かれる。

細く、それでいて輝く一撃。

真っ直ぐに放れたその光は工場に届く前に

一振りの剣に阻まれた。

 

「!...。」

「お前を逮捕する。...リーゼ。」

 

血のように赤い髪に鋭い目つき、何よりも彼女の外見に不釣り合いな程大きく、武骨な対艦刀が目を引く。

女性は地上から、空中に佇む黒衣の少女、リーゼを睨み付ける。

 

「クレア先輩...。」

「もう先輩ではない。敵だ。」

 

クレアから放たれるプレッシャー。

それは彼女が本気であり、容赦などしないことをリーゼに伝えていた。

 

「立ち塞がるのならば。誰であろうと倒します。」

 

リーゼも顔を隠していたフードを外し、クレアを見据える。

即座に狙撃モードのデバイスを構え、砲撃を行う。狙い澄ました一撃ではないが、代わりに出力と範囲は広がっている。

飛べないクレアには避けることすら難しい。

 

「!」

 

クレアは対艦刀を振り抜き、乱暴に砲撃を切り潰した。

避ける必要はないと言いたいらしい。

 

放たれる砲撃、振り払う刀。

埒が明かない。

幾度か同じやり取りをした後、先に動いたのはリーゼだった。

砲撃を行いつつ、片手を空ける。

クレアが刀を振り、砲撃を払った瞬間。

刀を持つ腕が空間に固定される。

手首には魔力の鎖が絡み付いている。

 

「バインド...!」

 

リーゼの最も得意な戦法。

相手の動きを止め、確実に高威力砲撃を命中させる。

シンプルだが強力な技術。憧れに教えられた技だ。

 

「ディバイン...。」

 

魔法陣が展開され、魔力が解き放たれる。

 

「バスター!」

 

気合いと共に放れたそれは、無防備なクレアに直撃。爆発を起こす。

 

「よし...。」

 

直撃したのだ。無傷ではすまない。

そう思った矢先

 

「甘い...!」

 

煙からクレアが飛び出し、空中のリーゼに接近。そのまま対艦刀を叩きつける。

 

「あぐっ...!?」

 

野球のボールのように、リーゼは工場の壁を突き抜けていく。

 

空中と地上。明らかなアドバンテージがありながら、クレアの強さは圧倒的だった。

着地したクレアは、ゆっくりとリーゼに近づく。

 

「投降しろ。お前では私に勝てない。」

「まだ、です...。私は...負けるわけには...!」

 

逃亡生活で体も限界に近い。

今のリーゼにはクレアの一撃を受けてなお、立ち上がる力はなかった。

 

「投降しないのならば、始末するだけだ。」

 

対艦刀を振りかぶる。

 

何故こんなことになったのだろうか。

目の前の女性は優しい先輩だった。

自身が管理局に入隊した時は、母親はとても喜んでくれた。

憧れの人に直接教えを受け強くなれた。

私は変わった。

それなのに。

何で私は勝てないのか。守りたいものも守れず、地べたに這いつくばっているのか。

強くなったのにどうして。

辛くて泣きそうな時。自分が酷く情けなく思うそんな時。

いつも思い出してしまう。

あの笑顔と温かい手を。

 

「たす、けて...。」

 

瞬間。リーゼの目の前に、流れ星が閃いた。

不意を付かれたクレアは防ぐこともできず、吹き飛ばされてしまう。

 

煙が晴れた先にリーゼが見たのは、紅と白の鎧を纏った少女だった。

少女はリーゼに近づき、嬉しそうに。だけど少し怯えるように語りかけた。

 

「いた...やっと会えた。私だよ、りーちゃん。覚えてるかな...?」

 

瞬きもせず、その少女をみつめる。

忘れるものか。

その可愛らしいのに、どこか凛々しい顔を。

忘れるものか。

いつも差し出してくれた、温かなその手を。

私の心で、いつまでも輝いていたお星さま。

 

「まー、ちゃん...?」

 

かくして、流星を待つ少女の願いは叶えられた。

少女が願いを捨てた、その直後に。

 

第8話『流れ星墜ちて。』




やっと再会です。
イチャイチャするのはもう少し先ですが←


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第9話『逆鱗』

さかさうろこに触れたのだ...。


「まー、ちゃん...?」

「そうだよ、真だよっ!覚えててくれたんだね、りーちゃん!」

 

聞きたいことはきっと、お互いたくさんある。

だけど良かった。りーちゃんとまた会えた。約束、守れたんだ。

話を聞くためにも、一旦場所を...

 

「今さら...何をしに来たんですか...。」

 

え...?

 

「今さら来て何をしようと言うのですか!助けて欲しかった時に、あなたはいなかったのに!!」

 

りーちゃんは泣きそうな顔で、私にそう言い放った。

 

「いな、かった...。」

「何で今なんですか...!引き返せないのに、私はこんな...!」

「ま、待ってりーちゃん...!話を...!」

『マスター!』

 

意識外から振るわれた刀を無理矢理防ぐ。

 

「うぐっ...!」

「なかなかの馬鹿力だ。」

 

さっきの、赤い人...!

 

「何でりーちゃんを...!」

「何故だと?そいつが犯罪者だからだ。」

「犯罪者って...だったら捕まえるんじゃないんですか!?あなたさっき、りーちゃんを切ろうと...!」

「会話するつもりは、ない!」

 

がら空きの胴体に蹴りを放つ。

避けられず命中するが、後ろに下がるだけで地から足は離れない。

 

後ろにはりーちゃんがいるんだ!離されたら今度こそりーちゃんを守れない...!

 

『相手が剣で来てんだ。こっちも剣で相手するぞ。いい加減、覚悟決めやがれ!』

「剣...」

 

武器。人を傷つける為のモノ。

使わなきゃ、りーちゃんが...。

 

「隙だらけだ!」

 

すかさずクレアが真に肉薄する。

容赦はない、邪魔すると言うならば貴様も...!

 

「...させない。」

 

クレアを目掛け魔力砲が突き抜けてくる。

先ほどのリーゼのとは違う、暴力的なまでの魔力量。

避けきれず障壁を張るが、結局押し飛ばされてしまう。

 

「あ、あの子たちは...!」

 

工場の穴が空いた天井から、二人の少女が見える。

 

「...そいつは」

「私たちの獲物でーす♪」

 

「イズナちゃんと、ミラちゃん...!?」

 

真を襲撃した謎の魔導師、イズナとミラであった。

 

「ミラ!」

「らじゃー。」

 

ミラがクレアに魔力砲を連射する。

先ほどと違い、所謂ガトリングのような弾丸だ。

 

「ちっ...邪魔が入り過ぎだ!」

 

回避しつつ、工場の外へ移動する。

ミラはそのままクレアに射撃を続ける。

 

「これで邪魔は入らないのです。」

 

イズナが真の近くに降り立つ。

 

「あ、ありがとう。助かっ」

「!」

 

イズナの回し蹴りが真に命中する。

 

「助けたわけないですよ。お前は私たちが狩るのです。さっきは邪魔されましたが、あの閃光は今いない。仕事はその日に終わらせる。私はできる女です♪」

 

そう告げてチェーンソーを構える。

 

「っ...何でこんなに。」

 

当たり前のように人を傷つけるのだろう。

おかしい、おかしいよ。

その力は誰かを守る為の...。

 

『マスター。お前の幼なじみ、いなくなってるぞ?』

「!?」

 

りーちゃん!?あんなケガしてたのに、一人で逃げられるわけが!

 

「無視するなぁ!」

 

イズナが真に迫り、片手でチェーンソーを振り回す。

 

「っ!」

 

ガントレットで何とか捌くが、高速回転する刃に真の装甲が削れていく。

 

「それだけじゃないですよ!!」

 

空いた片手からゼロ距離で真の腹に魔力弾を喰らわせる。

 

「がふっ...!?」

 

強い衝撃と共に、再び壁面に叩きつけられる真。

追い討ちとばかりに、頭上から魔力の雨が降り注ぐ。

 

「うわあぁぁっっ!?」

 

直撃。

真は壁ごと、工場外に投げ出されてしまった。

 

「...決まった。」

「ナイスですよ、ミラ!」

 

クレアは退却したのか、ミラが合流する。

2対1。

たった1の差だが、絶望的な戦力差だ。

 

「う、ぁ...っ」

 

何とか立ち上がろとする真だが、ダメージに足の力が入らない。

 

「さあ、今度こそぶちまけタイムですよ。」

 

イズナが構え、駆け出す。

 

「何、で...」

『マスター武器だ!このままじゃお前...!』

 

私は、りーちゃんに会いたくて、話をしたかっただけなのに。

今の私なら守れるって、そう思ったのに。

何で信じてくれないの、何で頼ってくれないの。

何でみんな、ワタシ、私の大切ナモのを傷つけるの?

傷ツケテ、じゃまシテ...

 

ナにヲ、わラッテイル...!!

 

グジュジュッ!!

 

「っ、お前何を...!」

 

迫るチェーンソーを、真は掌で受け止めた。

肉が裂け、血が飛び散る。

加害者であるイズナですら困惑する残酷。

異変はすぐに起こった。

真を黒い影のような魔力が包み込む。

まるでコーティングするかのように魔力が満ちる。

そして、最後に真の瞳が真っ赤に爛々と輝く。

その瞬間

 

「あaaァaAaaぁaaァaアーーーッッ!!!」

 

真だったモノが咆哮する。

チェーンソーを乱暴に掴み、イズナの腹に膝蹴りを叩き込む。

 

メキッ!

 

「かはっ...!」

 

何かが折れた音と共にイズナが吹っ飛ぶ。

それを追うように黒い影は高速で移動し、驚くべきことに腕を巨大な剣に変化させる。

 

「!させない...!」

 

影が何をしようとしたのか察したミラは、阻止しようと魔力砲撃を行う。

 

「ガaaァaaぁaッッ!!!」

 

咆哮と共に腕だった剣で魔力砲を切断。

ミラを目標に定め突撃する。

 

「はや、い...!?」

 

あまりのスピードに反応できず、ミラは影に殴り飛ばされ、地面に落下する。

バリアジャケットがあってもなお、凄まじい痛みがミラを襲う。

 

「ぅぐっ...ハァ...ハァ...」

 

影はミラを掴み上げ、剣と化した腕を構える。

「イズ、ナ...ごめ」

 

少女の体に刃が突き立てられる瞬間

 

『いい加減にしろバカ!!』

 

真の体からクラレントが分離し、エンゲージが解除される。

 

「!...っ」

 

糸の切れた人形のように、真が倒れる。

チェーンソーによる傷は綺麗に治っていて、腕は剣から元の普通の腕に戻っていた。

 

「み、ミラ...!」

 

腹部を抑えながら、イズナがミラに駆け寄る。

 

「イズナ...」

「喋っちゃダメですよ!くそっ...何なんですかこのデタラメは!」

 

ミラを抱え上げて飛行し、その場を離れる。

二人が離れていくのも気にせず、クラレントは倒れた真を見ていた。

 

「黒いの、似合わねぇんだよ...!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ぐっ...ハァ...ハァ...」

 

足を引き摺りながら、リーゼは歩く。

 

「捕まる、わけには...私は、まだ...!」

 

頭に先ほどの真の表情が思い浮かぶ。

 

「っ...!」

 

傷つけてしまった。

情けない。あんな顔をさせたのは、私の弱さだ!

 

「守るん、です...わた、し...が...。」

 

ついに力尽きてしまう。意識が遠くなっていく中、リーゼが最後に見たのは。

 

「あら。真ちゃんの落とし物、みーけっ。」

 

車から出てくる、白衣を着た一人の女性だった。

 

第9話『逆鱗』




こんな稚拙な文章なのに、読んでくれている人がいてくれて本当に感謝してます!
期待を裏切らないように頑張ります!
このキャラの活躍が見たいとかあれば、感想頂けると嬉しいです(^o^)


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閑話『星見の姫』

ついにあの人の登場です!(回想)
解釈違いコワイ、コワイ...


閑話『星見の姫』

 

私には二人のヒーローがいる。

 

一人目は、弱くて泣き虫な私を照らし出してくれた、大切なお星さま。

 

その子は教室の隅で縮こまっている私に、手を伸ばして友達になりたいと、そう言ってくれた。

 

あの頃は本当に幸せだった。

お星さま、まーちゃんは私を色々なところに連れ出してくれた。

ちょっとした森や川、駄菓子屋に公園、冒険してゲームセンターとか。

体力も度胸もない私は、いつも追いかけるのに苦労していたけれど。

楽しそうに笑うまーちゃんを見ているだけで私も楽しくて仕方なかった。

 

悲しいこともあった。

私は端的に言えば、いじめられっ子だった。

今思えば浮いた服装をしていたし、家が裕福なこともあって何か気に入らなかったのかもしれない。

仲間外れにされたり、お気に入りのぬいぐるみを取られたり。

その度にまーちゃんは私を庇って、助けてくれた。

まーちゃんはいじめられっ子に何をされても、手を出したりしなかった。

 

「かえしてあげて。」

「そんなことしちゃダメだよ。」

 

自分がどれだけ傷つけられても、最後まで反撃しようとしなかった。

傷だらけになって、いじめっ子が諦めるほど頑固に譲らず。

 

最後に私を見て笑い、こういうのだ。

 

「だいじょうぶだよ、りーちゃん!」

 

星のように輝く笑顔。

私はそれに甘えていた。

まーちゃんがいれば大丈夫だと思っていた。

私の為に傷つくのが堪らなく嫌だったのに。

 

私はどうしようもなく、弱かった。

 

そして、まーちゃんは私の前からいなくなった。

ご両親の都合で引っ越すことになったらしい。

私は子どもながらに世界から見捨てられた気分になった。

行かないで欲しい、一緒にいると約束したのに。

そう泣き喚いた。

でもまーちゃんは行ってしまった。

また会えると約束して。

 

私は悲しくて、辛くて。自分の殻に閉じ籠ってしまった。

そんな私を見かねた両親が、私を連れ旅行に出掛けることにした。

 

それが、私とまーちゃんの繋がりを完全に断つことになると知らずに。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

轟音が鳴り響く。

かつて華美な意匠で人々の心を高揚させたその船内は、最早見る影もなく

瓦礫と海水で埋め尽くされている。

 

豪華客船の旅は1つの巨大な氷塊により崩壊寸前だ。

凄惨な事故だった。ぶつかった部分から浸水が始まり、一瞬にして地獄が広がった。

既に犠牲となった乗客も多い。

ただひとつ、不幸中の幸いだったのは

管理局の中でも特に秀でた魔導師が偶々同乗していたことだろうか。

彼女たちの活躍により、被害が最小限に抑えられる。

しかし、それでも全てを救うことはできない。

失ったものは戻らないのだ。

 

「パパ!パパはどこですか!?」

「リーゼ...!パパは...今は早く逃げないと...!お願い、言うことを聞いて!!」

 

父親を呼び泣き叫ぶ幼い少女と、気丈に娘を救わんとする母親。

 

無情にもその親子に、崩壊した瓦礫の雨が降り注ぐ。

その瞬間。

 

「レイジングハート!」

『了解です、マスター。』

 

親子の頭上を魔法が包んだ。

瓦礫を物ともせず、障壁は親子を守りきる。

 

「大丈夫ですか!?ケガはありませんか!?」

 

降り立った少女は天使のような白いバリアジャケットを着ており、魔導師の証である杖を携えていた。容姿には未だ幼さを残すものの、その瞳には強い意志が宿っていた。

 

「ありがとうございます...大丈夫、です...」

 

母親の足から力が抜ける。

 

「ママ!?」

 

少女が駆け寄る。

 

「大丈夫、少し気が抜けてしまって...」

 

魔導師の少女は少し安心した様子で話を続ける。

 

「早くここから脱出しないと。掴まってください。」

 

親子に手を差し伸べる。

 

「パパ!パパがいないんです、たすけてっ!」

 

リーゼの言葉に、少女は表情を固くする。

 

「...お父さん、は?」

 

分かっていても聞かずにはいられない。

母親は辛さを押し隠して答える。

 

「私たちを、守って...」

「っ!...」

 

少女は拳を固く握る。

 

また、助けられなかったんだ。

 

悔しさを噛み殺し、少女は母親に告げる。

 

「お母さんは、その子を絶対に離さないでください!」

「...はい...!」

 

母親が娘を抱きしめる。

 

「ママ!パパが...!!」

「っ...安全な場所まで、一直線だから!」

 

この二人は必ず守る。生きて帰す。

少女の瞳に決意が漲る。

海水が雪崩れ込み、親子も少女も流されてしまいそうなその刹那。

 

「ディバイン、バスターーーっ!!」

 

桜色の暖かな光が、瓦礫も海水も、迫る脅威を全て貫いた。

 

少女は親子を抱き、一直線に飛び上がる。

 

リーゼは忘れない。

自らを救った星の光を。

決して忘れない。

自らを救った少女の

悔しさに満ちたあの顔を。

 

高町なのは。

リーゼにとっての、二人目のヒーロー。

それがリーゼとなのはの出会いであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□管理局のとある一室◼️□

 

『下手人をみすみす逃すとは、笑止千万!』

「申し訳、ございません。」

 

クレアは跪いて詫びを口にする。

モニター越ですら、放たれる威圧感。

暗い室内に緊張が走る。

 

『分かっているはずだ。貴様は失敗なぞできぬ立場だと。貴様の願いなど儂からすれば取るに足らない道楽に過ぎぬ。意味は分かるな?』

 

「は、はい...!どうかお許しください!もう一度、私にチャンスをお与えください...」

 

クレアの顔は憔悴し切っている。

それほどまでに会話相手に見捨てられるのが問題なのだろうか。

 

『ふん。貴様を使ってやっているのも道楽だと言うのに。次は必ず賊を始末しろ。さもなければ、あの娘は助からぬ。貴様の命もだ。』

 

「っ...はっ!」

 

再度頭を下げる。

モニター通信は切れてしまったようだ。

 

「っ...」

私は。

私はどうしたらいいんだ。

どうすれば...

 

「エレナっ...。」

 

クレアは吐くように声を漏らす。

涙が滲む。

大切なモノを犠牲にして、大切なモノを守る。

どこまでも残酷な選択に、クレアは押し潰されそうになっていた。

 




星と星。いつも輝く星を見上げていたお姫様は、何になりたいと思ったのでしょうね。


(決まったぁ!)ドヤァ

っていうか最後の誰なんですかね?何かさきもってそう←


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第10話『繋ぐ手、握る拳』

このぐらいの文字数で書いていきたい(願望)


夢を見ていた気がする。

 

夢というより、記憶を辿るような。

 

意識が戻る。

私はどうなったのか。気絶してしまったところまでは覚えている。誰かに捕まった?

...確かめなくては。

 

「っ...?」

 

知らない天井...。

というか、知っている天井の下で眠れたのはどれくらい前だろうか。

 

体を起こす。毛布がかけられている。

私はソファーに寝かされていたらしい。

部屋を見渡すと乱雑に積み重なった資料と、パソコンとモニター。何かしらの研究所だろうか?

 

「...モルモットにでもされるのでしょうか。」

「あら、物騒なことを考えるのね。」

「!」

 

デバイスを手に飛び退く。

白衣を着た女性。見覚えがある。

彼女が私をここに連れてきたのか。

 

「そんなに警戒しないで。せっかく助けてあげたんだから、怪我が治るまで大人しくしてなさい。」

「...」

 

確かに、体が少し楽だ。

傷が少し癒えている。

彼女がやったのだろうか?

 

「大体悪いことをするつもりなら、デバイスなんて取り上げておくに決まってるでしょ?」

「それは...」

 

デバイスを確認する。

...大丈夫、問題なく起動できる。

 

「貴女は...何者ですか。」

「私?私は...天才科学者兼、天才考古学者で、真ちゃんとレンレンの保護者よ♪」

「まこと...つまり、真に頼まれて私を助けたと?」

「いいえ?頼まれてないけど。でも助けた方がいいかなって思っただけよ?」

「...。はぁ。」

 

リーゼはデバイスを下ろし、ため息を吐く。

 

「助けてくれたことには感謝します。ですが、これ以上の干渉は不要です。」

 

そう言うと、部屋の扉に向け歩き出す。

 

「まだ出ちゃダメよ。真ちゃんが起きてないんだし。」

「真は関係ありません。失礼します。」

「せっかちな女はモテないわよ?」

「結構です。」

「そんなにカリカリしてるとすぐに老け」

「知りません。」

 

取り付く島もない。

リーナは少し声音を変えて話し出す。

 

「はぁ。...あなたの経歴は調べたわ。優秀な空戦魔導師さんが急に犯罪者になるなんて、おかしな話よね。」

「...必要なら、珍しい話でもないでしょう。」

「そうかしら?あなたが破壊した工場全てに、取り扱い商品の生産数の大幅な減少と、商品には必要のないはずのパーツを大量に仕入れていることが確認できる。まるで何か...作ってるみたいだと思わない?♪」

「...どこまで知っているのですか。」

「何にも知らないわ。ただデータは嘘を吐かないってだけ。あなたと違ってね。」

 

この人は人を苛つかせるのが好きなのだろうか。

 

「...失礼します。」

 

再度扉に向かって歩き出す。すると。

 

「リーナさん!りーちゃんがいるってほんっ...と...?」

 

扉を勢いよく開き、制服姿の女子が飛び込んでくる。

まーちゃん...。

リーゼは心の中で真を呼ぶ。

しかし自らの願いを振り払うように、真から目を離し外へ向かって歩き始めた。

 

「ま、待ってりーちゃん!ケガしてたんだよ!?休んでなきゃダメだよ!」

「...」

 

真を無視し、リーゼは扉から出ていく。

真は急いで引き留めようとするが

 

「真ちゃん、大丈夫よ。」

「リーナさん...?」

 

リーナは得意そうに胸を張る。

 

「きっと出られないから。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

□◼️1時間後◼️□

 

何故だ。

さっきから同じ道をぐるぐる回っているような?

そこで違う道を進んでみるが、結局同じ道を歩いている。ような気がする。

頭に霞がかかるようだ。

立ち止まるとその感覚もなくなるが。

 

「あの博士の仕業ですか...」

 

自分も魔導師としてはそこそこ優秀なはず。

こういった魔法による認識阻害にもある程度対応できるはずだ。

体が弱っているから?

...いや、あの博士の術式が厄介なのか。

あの余裕な表情。

腹立たしくなるが、天才というのもただの自称ではないということだろう。

 

「面倒な人に捕まりましたね...」

 

...少し方法を考えよう。

リーゼはその場に座り込んだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

そんなリーゼの姿を研究所内の監視カメラが捉えていた。

 

「ね?♪」

「はぇー...すごい。」

 

どういう理屈なのか真にはまったく分からないが、リーゼに何かしら起こっているのは分かった。

同じ道を行ったり来たり。

最初は戻ろうか迷っているのかと思ったが何度も何度も繰り返している姿にどんどん不安感が強くなっていった。

リーナからネタばらしをされて、素直に感心してしまう。

 

「防衛の為っていうなら、普通『来る』方だけ対応しときゃいいと思うけどな。

ま、あたしのことを秘密にする為にも『出ていく』方の対策も万全ってわけだ。」

 

クラレントが事情を説明する。

 

「なるほど...あれ?私は普通に学校に行けたけど?」

 

自分も出られなくなるのでは?と真が疑問を口にする。

 

「真ちゃんは私がOKしてるから大丈夫なの。」

「なるほど。...なるほど?」

「はぁ...秘密だから教えられないってさ。」

「なるほどー。」

 

やっぱりよく分からないが、とりあえずリーナさん次第らしい。

 

「私、りーちゃんを迎えに行ってきます!」

 

真が駆け出す。

しかし、その道をクラレントが遮った。

 

「待てよ。行ってどうするつもりだ?」

「どうするって...話をして戻ってもら」

「お前の話なんてアイツは聞かない。」

 

真の目を見て、真っ直ぐに言い放つ。

 

「聞かないって...」

「お前、一体いつまで戦うのを躊躇うつもりだ?」

「躊躇ってなんか!」

「敵を殴った時も、武器を出そうとした時も。嫌だと思ったろ。あたしにバレないと思ったのか。」

「っ...」

 

真の沈黙を解答とする必要もない。

傷つける度に生じる手の震え。

一体化しているクラレントに伝わらないはずはなかった。

 

「お前は守るって言ったよな?あたしも、リーナも。何かを守る為には何かを捨てるしかない。当たり前だろうが。世界はな、あたしたちに優しく接してくれたりはしない。どこまでも残酷なんだぞ...!」

 

クラレントが耐えるように拳を握る。

 

「レンちゃん...。」

「少なくとも、アイツはそれが分かってる。アイツが、お前の言うように良いヤツだって言うのなら、アイツは何かを守る為に自分を犠牲にしてる。そんなアイツに、半端なお前が何を言う。何ができる。何が響くって言うんだ!」

「私、は...。」

 

私には、何の覚悟もない...?

違う、守るって決めたはずだ。

でも、守る為に傷つけるのは、正しいの?

分からない...誰も傷つけたくない。

誰とでも仲良くしたい。

言葉が交わせるのに、戦うしかないなんて嫌だ。

でも、誰かを傷つけないと、誰も守れない。

あの日。レンちゃんと初めて会った日。

私はあの魔導師さんを倒した。

戦う力がなければ、私は死んでいた。

私とレンちゃんを守ったのは、紛れもなく人を傷つけられる力。

力を持つのはいけないこと?

さっきもそうだ。イズナちゃんとミラちゃんに負けそうになった時、怒りとか憎しみとか、そんな気持ちが急に強くなって...

気づいたら二人を傷つけていた。躊躇いなく拳を振り抜いた。

その感覚は、この手にまだ残ってる。

この怖い力は、正しく使えるものなの?

分からない...分から、ないよ...。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「あらら。体育座りの人が増えちゃった。レンレンが厳しく言うから。」

「うるせぇ。あたしは本当のことを言っただけだ。」

 

「...」

 

分からない。何のために振るえば、力は正しく使えるの?

 

「あら?真ちゃん、あなたの端末向けに何件か着信が来てるみたいよ。ここのシステムで、繋がらないようにはしてるけど。」

「え...?誰から...。」

「アドレス登録は...フェイトってあの執務官の?まさかあなたたち捕まってたんじゃ...!」

「フェイトさん...。」

 

フェイトさんなら、知ってるのかな?

 

「リーナさん。着信、出てもいいですか?」

「え!?でも通話しちゃうとここの場所とかバレちゃうかもだし、相手が執務官とかかなりヤバイというか」

「お願いします。」

 

頭を下げる。聞かなきゃ、私には他に方法がない...

 

「...はぁ。仕方ないわね。ちゃんとお話するのよ?」

「あ、ありがとうございます!」

「子どもに甘くなっちゃうのは仕方のないことね、女ですもの♪」

 

電波阻害が解かれたようで、すぐに端末が鳴動する。

受話するとモニターが出力される。

 

『真ちゃん!?...すごく心配したんだよ?何で何も言わずに出ていってしまったの?執務官の取り調べ中に脱走なんて、逮捕されてもおかしくないのに...』

「ごめんなさい...私...どうしても行かなくちゃいけなくて...」

 

フェイトさんは怒っていたけど、怒りより私のことを心配してくれていたことが強く伝わってきた。

 

『今どこにいるの?危険なんだからすぐに迎えに』

「フェイトさん私、やらないといけないことがあって...」

『やらないといけないこと?』

「はい。だから、フェイトさんに聞きたいことがあって。」

 

フェイトさんは何かを言おうとして、その後少し考えてから、ただ頷いた。

 

「フェイトさんはその、怖いと思ったことはないんですか?自分の力で、誰かを傷つけてしまうことを。」

『...真ちゃんは怖いの?』

「怖いです...何かを守る為に何かを傷つけるのは、仕方のないことなんでしょうか?」

『そうだね...。

私は魔導師だから、どうしても戦わないといけない時がある。

犯罪者の逮捕の為には仕方のないこと。

それが真ちゃんのなりたいって言っていた、執務官の仕事だよ。』

「そう、ですよね...。本当は分かってるんです。話もできない、本当に悪い人が世の中にはいるって。

だけど、誰かとぶつかる度に...目の前の敵が、実は仕方なく、というか...やりたくないことを、大切なものを守る為にしてるのかもしれない。そう思ってしまうんです。

だったら、目の前の人は敵じゃない。

私と同じ、ただ何かを守りたいだけじゃないですか。

そう思ったら私、拳が震えて...」

 

その人を傷つけて、願いを砕いて。

そして誰かの笑顔を奪う。

それでも私の拳は、正義を握れるのだろうか。

 

『...昔ね、私も真ちゃんみたいに優しい子を傷つけてしまったことがあったの。』

「え?フェイトさんが?」

 

優しいフェイトさんがそんなことするのだろうか?

 

『うん。私も大切なものを守りたかった。だからその子を傷つけなくちゃいけなかった。だから私はその子と戦ったの。結果は私の負けだったけどね。』

 

恥ずかしそうにフェイトさんは笑う。

フェイトさんが負けるって、どれだけすごい人なんだろう?

 

『その子はね、私を傷つけたくて戦ったわけじゃない。ただ私と話をしたかったって。そう言ったの。私と友達になりたい。そう言ってくれた。』

「はは...すごい人ですね、その人。」

『うん、私もそう思う。

その子はいつだって自分より他人を優先して、無理をする子なんだけど。最後まで絶対に諦めないの。たとえ傷つけ、傷つけられても。最後には分かり合えることを諦めない。そうやってみんなを守ってるの。』

「諦めずに、守る...」

『真ちゃんはそれが間違ってると思うかな?』

「...思わない、です。」

 

フェイトさんは嬉しそうに頷いて笑う。

 

『真ちゃんはね、少しその子に似てるんだ。だからきっと、真ちゃんにもできるよ。』

「私そんなに強く、なれないですよ...」

『強い弱いじゃない。大切なのは、守る為に何かを傷つけてしまっても、辛さから目を背けないこと。

そして、諦めずに手を伸ばし続けることだと思うな。』

 

辛さを受け止めて、それでも手を伸ばし続ける。

 

「傷つける為じゃない。守る為の、分かり合う為の力。それが私の」

『そう。それが星宮真の、握り締める力。信じる正義だよ。』

 

握り締める、正義...。

 

「ありがとうございます、フェイトさん。私、やってみます。」

『どういたしまして。だけどくれぐれも危険な行動は控えること。危ない時は連絡しないとダメだよ?』

「はい、頑張ります!」

『頑張らなくていいから、ちゃんと連絡すること。』

「はい!」

 

最後にクスリと笑って、フェイトさんは通信を切った。

よし。

やることは決まった。

 

「レンちゃん!」

「...おう。」

 

レンちゃんを真っ直ぐ見つめる。

 

「もう見失わない。拳を握る理由も、振り抜く覚悟も。その先の、手を繋げる未来を諦めたりしない。だから私に力を貸して!」

「...甘ちゃんなのは何も変わってねぇが、覚悟があるだけマシか。仕方ねぇ。相乗りしてやるよ、お前の甘ったれた理想に。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何をしに来たのですか。」

 

座り込むリーゼの元に真は辿り着く。

 

「りーちゃんと話をしに来たよ。」

「話すことなどないと言いました...。貴女に、何ができると言うのですか!」

 

瞬時に真が紅と白の鎧を身に纏う。

 

「分かってる。だから来たんだ。私はりーちゃんとお話したい。何があったのか、何をしたいのか聞きたい。だから。」

 

真が拳を握り、構える。

 

「だから私たち、戦おう。この拳は、握った正義はりーちゃんを守れる。

諦めないって、そう誓ったんだから!」

 

第10話『繋ぐ手、握る拳』




話し合い=殴り合い がなのはですよね!←
vivistの続編見たいの自分だけですか?


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第11話『with you』

今回の話は完全に「Future Strike」を聴きながら書きました。寒く感じたらすみません...。


「私と、戦う...?」

「そうだよ。私と戦って。」

 

りーちゃんは驚いたように少し目を開いた後

 

「...くだらない。時間の無駄です。」

 

あっさり断ってしまった。

...あれ?

 

「うえぇ!?ちょ、ちょっと待って!普通相手してくれる流れじゃなかった!?」

「知りません。私は急ぎますので。」

 

完全に計算外だ。

漫画とかだとこう「面白い。いいだろう!」的な!

 

『はぁ...』

 

そんな残念なものを見るような目で見ないでレンちゃん!

見えてないけど!

 

『しょうがない子ねぇ。』

 

この声はリーナさん?

 

『テステス。こほん。真ちゃんに勝ったら、ここから出してあげる。それなら文句ないでしょう?』

 

な、なるほど。流石リーナさん、よっ!天才!

 

『おめでたいばか。』

 

またばかって言った...

 

「博士を捕らえ脅迫すればいいだけです。」

『あら、できるかしら?流石にそれはあなたのお師匠様に見せられない姿なんじゃないの?』

「っ...面倒な...」

 

りーちゃんは少し悲しそうな顔をして。

 

「...マッチポンプのようで気に入りませんが。仕方ありませんね。」

 

戦いを受けてくれた。

 

「やた!ありがとう、りーちゃん!」

 

私は笑顔でお礼を言うけど、りーちゃんは俯いたまま、笑顔なんて見せてくれなかった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「ってそうか。外に出られないからこのまま廊下でやるしか...」

 

建物ぐちゃぐちゃになっちゃうよ。

やっぱりりーちゃんを説得して、外で戦った方が。

 

『あら、大丈夫よ。こういう時の為に、防御設備はしっかり準備してるんだから♪』

 

周囲を魔力の壁?のようなものが包む。

 

『廊下とはいえ広さはそこそこ。だが左右は壁で逃げるのも難しい。

殴るしかないあたしらには得な戦場かもな。』

 

確かに。近づけさえすれば、戦いにはなるかも。

 

「...考えていることは分かります。工場での動きから、貴女の戦闘スタイルは武器を持たない徒手空拳。近づきやすいこの狭さは有利だと、そう考えたのでしょう。ですが...」

 

りーちゃんが紫色のバリアジャケットを身に纏う。

その両手には二丁の拳銃握られていた。

 

「貴女は私に勝てません。管理局の魔導師を、嘗めないで下さい。」

 

冷たい目と、潰されそうなプレッシャー。

本当に、これがあのりーちゃんなのか。

...だけど。

 

「負けない。この想いを伝えるためにも。」

 

精一杯のファイティングポーズ。

中身もない、形だけだけど。

信じて握りしめるんだ。

 

「いくよ!!」

「来なさい...!」

 

真が一直線に駆け出す。

それをリーゼは冷静に射撃する。

 

撃たれるのも構わず真は突撃。

搦め手など不要、そもそも出来ない。

下手な策を労したところで、プロには通用しない。

ならば、自分の頑丈さに物を言わせて突っ込むしかない。

真の策と言えない策は正解だった。

魔力弾に大した威力はなく、耐えられないことはない。

 

相手がリーゼでなければ。

 

「っ!?」

 

真の足が止まり、躓いたように倒れる。

 

「いっ...な!?」

 

足には魔力で出来た枷が嵌められていた。

先程の射撃はあくまでも牽制。

紛れ込ませたバインドが本命だ。

 

リーゼは真を侮ってなどいなかった。

ただ確実に、最短で倒す。

たとえ大切な存在でも、目的の為ならば排除する。

その覚悟がリーゼにはあった。

 

「アクセルシューター。」

先程より強力な弾丸を複数展開し、放つ。

アクセルの名にふさわしい速度で弾丸が真に殺到する。

 

『やばい...!?』

 

爆発。

爆風は全て魔力の網に絡み取られる。

そうでなければ建物ごと吹っ飛びそうな程の火力だった。

 

「...」

 

煙が晴れる。

直撃。普通なら立っていられないはずだ。

...普通なら。

 

「セット。」

 

再度シューターを展開し。

 

「ファイア!」

 

煙の先に放つ。

まだだ。きっと彼女なら立ち上がる。

 

「まだだぁ!」

 

真が飛び出す。装甲に傷はあるが、まだ動ける。戦える。

真はシューターを無理矢理殴り飛ばしながら前へ進む。

 

「っ!」

 

やはり。立ち上がってきた。

知っていた。

リーゼは見てきたから。

真が何度も立ち上がり、諦めなかったことを。

弾丸では威力不足だ。

即座に拳銃を合体させ、ライフル形態にする。

 

「バスター!」

 

チャージは短いが、強力な砲撃を放つ。

 

「レンちゃんッ!」

『あいよっ!』

 

真は雷を拳に宿し、砲撃に対し真正面に突き出す。

魔力の波を突き破り、真は突き進む。

 

「なんて無茶苦茶な...!?」

 

出鱈目過ぎる。そう思った時にはもう、すぐ側に拳が迫っていた。

 

「りーちゃん...!!」

 

振り抜かれた拳はリーゼの腹を捉え

後方へ派手に吹っ飛ばす。

 

真の拳に震えはない。

本当は嫌だ、痛くて堪らない。

何故大切なものを傷つけなくてはいけないのか。

しかし、これは真が決めたことだ。

言葉だけでも、力だけでも、出来ないことがある。

これはそれを貫き通す為の、覚悟を示す戦いなのだから。

 

「っ...ぐ...」

 

リーゼが立ち上がる。

ただの一発だと言うのに、何てダメージなのか。

 

「負け、ません...!!」

 

リーゼは歯を食い縛り、ふらつく足で駆け出す。

今度はリーゼの突撃。

ライフルから魔力弾を射出しながら真と距離を詰めていく。

 

「今度はこっちに!?」

『怯むな迎え撃て!』

 

魔力弾を防ぎながら構えようとする真だったが、リーゼは勢いを止めず至近距離まで近づいていく。

 

「ゼロ距離...!ディバイン」

 

真と重なる瞬間、リーゼが飛び上がる。

完全に失念していた。

狭かろうと、リーゼは空戦魔導師である。

天井があれば飛ぶ利点はないと、その虚を突いた。

真の後ろに回り込み、充填した魔力を炸裂させる。

 

「バスターー!!」

 

魔力の網が弾け飛ぶ。

リーゼの切り札が無防備な真に直撃する。

防壁を打ち砕きながら、真の体が跳ね飛ぶ。

 

「っ...ハァ、ハァ...」

 

魔力を短時間で使い過ぎた。

元々疲れていた体に鞭を打ったのだ、消耗は激しい。

だが、今のは痛烈な一撃だった。

まともに喰らって気絶しない方がおかしい。

 

「え...?」

 

だがリーゼの目に映ったのは、倒れ伏すはずの真が、再び立ち上がろうとする姿だった。

 

何故。

 

「何で、貴女はいつも...そうやって...」

 

立ち上がろうとするのですか。

 

不屈の心。

尊敬する憧れの持つデバイスの名がそうだったが。

なぜ屈しないのか。

私のヒーローたちはいつも、諦めない。

自分ならきっとすぐ音を上げてしまう。

そんな状況でも、彼女たちは必ず立ち上がる。

私もそうなりたかった。

誰かの為に立ち上がる。そういう人になりたかった。

なのに。

私は何で、何より大切なものを傷つけているのだろう。

こんなことを。

 

「こんなことをしたくて、私は...!」

 

手が震える。

迷いなんてなかった。そのはずだった。

だけど貴女と再会できた時。

何もかも投げ出して、貴女と一緒にいたいと思ってしまった。

私は弱いままだ。

だから、強くあろうと貴女を遠ざけた。

なのに。

 

「何で、放っておいてくれないのですか...!!」

 

真はふらつきながら立ち上がる。

装甲は割れ、頭からは流血が見られる。

 

「あはは...強くなったなぁ、りーちゃん。」

 

笑顔。あの日見た笑顔のまま、真は笑う。

 

「ディバインバスターなんて、高町なのはさんの技だよね。りーちゃんはすごいや、私なんてフェイトさんの技、一つも使えないのに。

いっぱい、頑張ったんだね。」

 

やめて。そんなに優しく笑わないで。声をかけないで。

あの日の絆が今もあると、私に教えようとしないで。

 

「放っておくなんてできないよ。

私は...ずっと会いたかったんだよ。りーちゃんが一人ぼっちにならないように...ううん、寂しいのはきっと私か...。

私を、一人ぼっちにしないでよ。

私はここにいるよ。りーちゃんと、いつだって一緒にいたい。」

 

私はもう、昔みたいに笑えない。貴女と語った未来はもう。

 

「大丈夫。私がりーちゃんを守るよ。心から笑えるように、私が側にいるから。」

 

止まっていた時間を溶かすように、真は笑いかける。

 

「私は...!貫かなくてはならないのです...!貴女を、まーちゃんを巻き込みたくない...!」

 

涙がこぼれ、ライフルに今までにない程魔力が注ぎ込まれる。

 

「まーちゃん...!退いてください!私は、私は大切なものを守らないと!その為に強さを、手に入れたんです...!!」

 

「どかないよ。」

 

魔力砲が放たれる。ガス欠も何もない、自棄っぱちの一撃。

凄まじい威力が真に迫る。

 

どかない。逃げない。もう、りーちゃんと離れたりしない。

守りたい。私には今、力がある。レンちゃんがいる。

フェイトさんが教えてくれた強さがある。

 

今度こそ誓う。

 

私は、側にいるんだ。絶対に、離れてなんかやらない!

 

全て込め、撃ち抜く。その胸に、この想いを届かせる為に。

あの日の思い出を、絆を信じて。

 

『ぶちかませ!バカマスターー!!!』

 

「私は...!絆で!!ぶん守るんだあぁぁぁーーーーッッッ!!!!!」

 

全身が紅く発光し、雷が巻き起こる。

雷光一閃。

紅い稲妻と化した真は魔力砲を貫き、そして。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あーあ。室内で派手にやっちゃって。まったくやんちゃなんだから。」

 

危うく廃墟だわ、なんて思いつつぼこぼこの壁を見てため息を吐く。

戦闘自体は短時間なのに何て被害なのだろう。

 

まだまだ改良が必要だろうか、とリーナは頭を抱える。

 

「でもまあ...」

床に寝ている二人を見て呟く。

 

「いい顔してるから、許しちゃう♪」

 

抱き合うように倒れ込んだ二人。

 

その顔はまるで子どものように無邪気で、親が巣に帰った時の雛鳥のような、安心と幸せに満ちた寝顔だった。

 

流れ星は堕ちず、ただ帰るべき場所へ。

宙がある限り、星は星と輝き合う。

 

第11話『with you』

 




二人の関係性はなのはフェイトより、フーカリンネに近いと思ってます。
意識して作ったというより、幼なじみと言うところで勝手に似てしまいました。
それ故にOPが合うんですよねぇ(自己満)
レンちゃんどうしたの?
寝てます、疲れたみたいです←


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第12話『不屈の魂はその胸に。』

外伝は回想で本編主人公が出ると熱い。
古事記にもそう書いてある。


「ばーん!」

 

パシャッ!

 

「わっ、わっ!やめ、レンちゃんやめて~!」

 

「...」

 

何故こんなことに。

何故目の前の幼なじみはチビっ子に水鉄砲をかけられているのだろう。

...というか、このチビっ子は誰なのだろうか。

というか、何故私たちは一緒にお風呂に入っているのだろうか。

 

二人仲良く気絶した後。

ボロボロの姿をお互いに見て、思わず笑ってしまい。

博士に話をする前に、まずはお風呂に入って来いと言われた。

 

...それだけである。

回想が短すぎる。

考察の余地が欲しい。

何故一緒に入ることになるのか。

別々ではダメなのか。

さっきまで喧嘩どころか下手すれば殺し合いのレベルな戦闘をした仲である。

緩急が余りにも付きすぎている。

 

別に幼い頃に一緒にお風呂くらい入ったことはある。

水鉄砲とか、アヒルとか、色々なおもちゃで遊んだと思う。

あの頃のまーちゃんも可愛かった。

...こほん。

だが今は違う。全然違う。

具体的には幼なじみの体格とか。

話をした感じや、今まさにチビっ子に遊ばれているところを見るに

中身はさほど変わっていない。

きっと人懐っこく、みんなに笑顔を振り撒いているのだろう。罪な子。

問題は体つきだ。

何が、とは言わないが私もそこそこあるとは思っている。

少なくとも先輩よりは。

だが幼なじみのそれは私より大きく見える。

何だろう、性格とかその辺のギャップで見た目より存在感がすごい。

気になる。

もうちょっと隠して欲しい。

先程までの彼女は髪を結ってポニーにしていたが、今はお風呂なので髪は下ろしている。

大人っぽい気がする。やっぱりギャップがすごい。

気になる。すごく気になる。

もう少しじっとしていて欲しい。

 

「りーちゃん?どうしたの?」

 

「何でも、ありません...」

 

ぶくぶく...。

キョトンとしおってからに。

私だけなのか、こんなに気にしているのは。

何で自然に接してくるのか。

少しくらい恥じらって欲しい。

恥ずかしがっているまーちゃんはすごく珍しいので、是非見たい。

...ダメだ、思考までおかしくなり始めている。

無だ、無にならないと。

少しでも温まって、風呂上がりの顔が赤くても言い訳できるようにしないと。

シリアスで可愛いリーゼに戻れなくなってしまう。

...あ、ゆれてる。

 

――――――――――――――――――――――――

「あら、レンレンったら。口に牛乳付いてるわよ~?」

「やめろー」

 

口を拭かれてるレンちゃん、完全に年相応の子どもだなぁ。親子みたい。

さっきも水鉄砲楽しそうだったし、背伸びしてるようで感性はまだ子どもだったりするのかな?

 

「...真、彼女たちのことを話してもらえませんか?」

「りーちゃん、呼び捨てなんて珍しいね。」

「め、珍しいも何も会ったのは久しぶりでしょう。まーちゃん呼びは人前では卒業です。」

 

えー、あだ名呼びなんて普通なのに。

変なりーちゃん。

 

「こほん。話を、して下さい。あの意地の悪い博士と、少女の話です。」

「あ、うん。じゃあ順番に説明するね。...と言っても、会ったのは2、3日前なんだけどね。」

 

――――――――――――――――――――――――

 

「...なるほど。新たなロストロギア、ですか。」

 

一通り説明し終えたが、りーちゃんは納得してくれたようだ。

コーヒーを一口飲み、話出す。

 

「管理局員としては、博士もクラレントも最優先で確保しなければいけないレベルの危険人物ですね。」

「あら、お尋ね者はあなたの方じゃない♪」

「っ...事情があるのです。趣味でやっている貴女と一緒にしないで下さい。」

 

...何かリーナさんにめちゃくちゃ噛みつくな。喧嘩でもしたのかな?

「まあ、今局員として、などと話せる立場でないのは理解しています。」

「やっぱり、事情があるんだよね。話してくれる?」

「...ええ。話します。勝負に負けたのですから。」

 

勝った、というにはギリギリだった気がするが。

どうやら倒れるのがわずかに遅かったらしい。

判定はリーナさんなので実の所はよく分からない。

 

「りーちゃん、管理局の魔導師さんなんだよね?ちっちゃい時はなりたいなんて言ってなかったのに。」

「...ええ。ちょうど貴女と別れてからの話をしましょうか。私の身に起こった全てを。」

 

そうして、りーちゃんは語り出す。

高町なのはさんとの出会いを。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

父を事故で失い、私と母は住んでいた家を売り払い、転居することになった。

まーちゃんの手紙を待つ間すらなかった。

通信が出来れば良かったが、幼い私たちには専用端末もなく、親同士が交流していたわけではない為、連絡先も聞けていないことに後から気付いた。

事故の時、私は自然にまーちゃんに助けを求めてしまっていた。

助けに来られるわけがないのに、縋ってしまっていた。

まーちゃんとはもう会えない。

ヒーローはもういない。

絶望した。殻に閉じ籠る日々。

しかし母は働きながら、私を必死に育ててくれた。

そんな姿にふと思った。

母のヒーロー、父はもういない。

ならば、私が守らなくては。

私がヒーローにならなくては。

なのはさんのように、誰かを守れるヒーローに。

 

私の日常は変わった。

悲しんでいる暇などない。

魔法の勉強をした。運動をし、体力を付けた。

私には魔法適性があった。

しかもなのはさんと同じ飛行適性も。

嬉しかった。私はなのはさんみたいになれる。そう思った。

その日から更に努力を続け、10年近く経った。

私は中学を卒業してすぐに管理局に入局した。

1ヶ月基本的な訓練を受けた後、担当教官から私に特別な話があった。

 

『特別教導訓練』

 

優秀な次世代の魔導師を少数集め、1年間集中的に訓練し、組織としての力を底上げしようということらしい。

かつての特務六課で経験を積んだ当時の新人たちも、今では各部署でまさにエースとして活躍している。

それを先例としての立案である。

担当教官は、高町なのは一等空尉。

私は目を見張った。

なのはさんに教えてもらえる。

これ以上幸せなことなどないと思った。

私はすぐに志願した。

 

入隊テストは厳しいものだった。

新人の私が受かる確率はかなり低いと見られていたが、私には10年の努力と、両親から得た才能がある。なのはさんにもらった勇気も。

結果は合格。

そして、私は憧れに再会したのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァ...ハァ...」

 

なかなか無茶をしたが、やり遂げた。

ターゲットは全て射抜いた。

やれることはやった。きっと上手くいくはずだ。

 

「全ターゲット撃破おめでとう。全て撃破したのはリーゼが初めてだよ。だけど、魔力の出力を上げ過ぎてるし、早くクリアしようと焦って、スピードも無駄に出してる。極めつけは最後の無茶。最悪、相討ちになるところだった。ここはかなり減点になるかな。」

 

優しい声音が届くと同時に、私の前に白いバリアジャケットを着た女性が降り立つ。

その姿は大人の女性となっていたが

私が間違えるはずもない。

 

「なのは、さん...?」

「うん。すごく昔の話なのに、覚えていてくれたんだね。嬉しいな。...久しぶり。大きくなったね、リーゼ。」

 

その言葉に思わず涙が零れる。

覚えていてくれた。

泣かないと決めていたのに。私はまだまだ弱い。

 

「あ、あれ?いきなり色々言い過ぎちゃったかな?ごめんね、泣かないで?」

「違うんです...なのはさんに会えて、嬉しくて...っ」

 

感極まって泣いてしまう。

 

「...強くなったね、リーゼ。魔導師になるなんて、少し驚いたけど。」

「私、なのはさんみたいに...強くなりたくて...なのに、泣いちゃって...弱虫のままです...」

 

なのはさんは少し笑って、私の頭に手を置いた。

 

「じゃあ、これから一緒に強くならないとね。」

「は、はい...っ」

 

こうして私は特別訓練に合格した。

かなりおまけ合格だったらしいが。

危なっかしいから面倒を見ないと、となのはさんは言っていたらしい(ヴィータさん談)

 

それからの日々は地獄であり天国だった。

基本的には地味目な訓練が多いのだが、的確に限界の上の量を突いてくるし、なのはさんとの戦技教導はとてもスパルタだった。

なのはさんはいつもにこやかだったが、ニコニコしながらバインドをかけるのは止めて欲しい。ちょっと怖いと思った。

でも、その訓練は確かに私を強くした。

なのはさんに直接教わることができるなんて、幸せで幸せで仕方なかった。

憧れのディバインバスターまで教えてもらえた。

過去には教わる前から使っていた教え子もいたらしい。

すごい、是非会ってみたい。

 

友人もできた。

友人というより先輩だが。

クレア・スカーレット3等陸尉。

階級は上だが、先輩は気さくに私に接してくれた。

クレア先輩も話すのは得意ではないらしいのだが、苦手なことこそ率先してやるのが先輩だと言っていた。

幼なじみの受け売りらしい。

先輩はすごい。飛行できないとは言えその分身体能力やその強化に秀でていて、単独で(制限付きとはいえ)ヴィータ教官と渡り合っていた。

そんな先輩の目標は、執務官。

昔聞いた憧れと重なる夢に、少し胸が痛んだ。

そうして辛く、それでいて幸せな1年は過ぎていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一年後、予定通り特別教導訓練は終了。

私は希望通り救助隊配属。

クレア先輩は陸の警備部隊に再配属となった。

なのはさんともう少し一緒にいたかったけど、私は掴んだ強さで必ずみんなを助けてみせる。

そうできる場所に行きたいと思った。

...それに少しだけ、人を助ける仕事をしていれば、いつかまーちゃんとまた会えるのではと。

あのお節介な幼なじみと道が重なるのではないかと思ってしまっていた。

 

教導最後の日。なのはさんは私を呼び出して、話をしてくれた。

 

「リーゼ、今までよく頑張ったね。偉いよ。」

 

なのはさんは微笑み、私に語りかける。

 

「でも忘れないで。1人で大丈夫なんて思っちゃダメ。リーゼはがんばり屋さんなのが長所で、短所だから。」

「分かっています。無理は禁物、ですよね?」

 

なのはさんは頷く。

 

「そのリーゼが育てた強さは、1人でいる為の強さじゃない。誰かと一緒にいる為の強さなんだよ。零さない為の、零れない為の強さ。」

 

最後になのはさんは私の手を取り。

 

「また泣いちゃったその時は。きっと助けに行くから。ね?」

 

その笑顔は星のように、キラキラと輝いて見えた。

 

 

 

そして。

 

辛かった離別を乗り越え、前向きに生きようと考えていたその矢先。

私は知ってしまったのだ。

この、私のヒーローが所属し、憧れた組織が。

黒く汚い本性を隠していたことに。

 

第12話『不屈の心はその胸に。』




まーちゃんポニテだったの?(驚愕)
実はクラレント以外、容姿はモデル以外のモデルが存在します。真も例外ではありません。
いつか要望があればその辺も話したいです!


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第13話『希望の光』

場面転換とか表現難しいですね。技術なし丸分かりですな...。


「ハァ...ハァ...」

 

まだ日が昇りきっていない早朝。

真は学園のジャージを着て、街中を走っていた。

 

『ねむ...』

 

クラレントは一体化しているが、まだ眠い様子。

 

『レンちゃんも走らなきゃダメなのに。』

『...Zz』

『...聞いてないし。』

 

小学生なんだから元気に走らないと。などと思いつつ、真は自分が走っている理由を反芻する。

 

強くならないといけない。じゃなきゃ何も守れない。

真がまず思い立ったのが体力作りである。

唯一運動神経には自信がある真だが、所詮は学生レベル。

プロの訓練を受けたわけではない。

地道な体力と筋力トレーニングは、多少効果があるだろうと思った。

...本番が二週間後でなければ。

決行は二週間後。

昨日リーゼから聞いた真相。

一緒にいる為には、パワーアップが必要だ。

超短期間で強くなる必要がある。

ただランニングするだけでは、少し健康になるだけかも。

決め手にかける。何か、きつくても現状を変えられるだけの何かが欲しい。

そう考えながら他に方法もなく、結局ランニングをしているわけだが。

 

「?」

 

真が走るその後ろから、一人の少女が同じく走ってくる。

勿論追っ手というわけではない。

同じくランニング中といった感じだ。

少女は真より幼く(丁度13、14歳くらいだろうか)長い茶色の髪をポニーテールにまとめ、活発そうな翡翠色の目をしている。

服装はジャージ姿で、どこかで見たようなロゴが入っている。

少女はスピードを上げると、真に少し会釈をし、追い越していってしまった。

 

『あ、すごい。部活とかやってる子なのかな?』

 

なかなかのスピードだが、少女は息を切らした様子もない。

年長者の意地ではないが、何とか付いて行ってみよう。

今はとにかく、限界に挑んで地力を上げなくては。

真もスピードを上げる。

少女は真が付いてきていることに気付いたのか、少し振り返った後、挑戦的な目をして

更にスピードを上げた。

真も必死に食らいつく。

そうしていつの間にか、暗かった街も陽射しを浴び、目を覚まし出す。

時間を意識する間もなく、二人はランニングという名の意地の張り合いを続けた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ、はぁっ...」

 

道端にある自動販売機の辺りで真がへたり込む。

流石に飛ばし過ぎた。朝のジョギングと言えば無理をしないのが鉄則だが

限界を意識した結果息が出来ないレベルで疲れてしまった。

 

「いい根性でした。」

 

少女が真にペットボトルを差し出す。

 

「あ、ありがとう...」

「後ろからくっつかれとるんわ不快かもしれんと思って、追い越したんですが...逆に失礼だったなら謝ります。」

 

少女は独特な言葉遣いで真に謝罪する。

息がまったく乱れていない辺り凄まじい練度のようだ。

真は何とか息を整え誤解を解く。

 

「ううん、違うんだ。無理をしてでもすぐに体力付けないといけなくて...こっちこそごめんね。君がすごく速いから、付いて行けたら成長するかもって思ったの。」

「そうですか。何かスポーツでもしとるんですか?」

「スポーツはしてないけど、ちょっとね。君は何かやってるの?すごい体力だし、趣味で走ってるだけじゃないよね?」

「あ、はい。ワシは...」

 

少女は真から体をずらし、空間に向かって右拳を打ち放つ。

 

「!」

 

風が唸る。

少女が軽く腕を振るっただけで、凄まじい衝撃を感じた。

 

「格闘技をやっとります。」

「格、闘技...」

「押忍。先輩方にはまだ及ばん、若輩者ですが。」

 

少女は遠慮がちに笑い、真に頭を下げる。

 

「それでは、ワシはこれで。お姉さんも目標があるようですが、お互い頑張りましょう。」

 

そう言って少女はまた走り出そうとする。

 

「ま、待って...!」

「?」

 

これだ、と思った。

真は少女を呼び止め、頭を下げる。

 

「私にそれ、教えてくださいっ!」

「え...?」

 

真は再び思い出す。昨日語られた真相を。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「そっかぁ。りーちゃんには魔導師の才能があって、しかもあのエースオブエースの弟子なんだ。羨ましー!!」

「...まあ、今はお尋ね者ですが。真もハラオウン執務官とお知り合いになっていたとは。」

「私も重要参考人扱いだけどね、一応。」

 

「「あはは...」」

 

渇いた笑いが重なる。

憧れの人と知り合いになっているのを素直に喜べない現状が辛い。

 

「...こほん。今まではただの昔話。ここからが本題になります。」

 

リーゼが話題を切り換える。

 

「救助隊に配属されて、一月程は平和な日々が続きました。しかしある日。局内の廊下でフラつくクレア先輩を見かけたんです。」

 

――――――――――――――――――――――――

 

「クレア先輩...?」

 

虚ろな目をして、少しよろけながら歩いている。いつもと様子が明らかに違う。

 

「クレア先輩!大丈夫ですか!?」

 

私はすぐに声をかける。しかしクレア先輩は気付いていないのか、そのまま女子トイレへと入っていく。

 

私はすぐに女子トイレに向かう。

そこには膝から崩れ落ちたクレア先輩の姿があった。

 

「先輩!?先輩、大丈夫ですか!?」

「...り、リーゼか...」

 

意識はある。酷く憔悴しているようだが、医務室に連れていかなくては。

 

「どこか体調が悪いのですか?すぐに医務室へ...」

 

クレア先輩は私を引き留める。

 

「待って、くれ...違うんだ...。リーゼ。」

 

先輩は逡巡した後、意を決したように私を見て言う。

 

「話を、聞いてもらえないだろうか...。」

 

――――――――――――――――――――――――

◼️□カフェ◼️□

 

「...それで、話というのは?」

「...ああ。」

 

少し楽になったのか、幾分か瞳に光が戻っている。

 

「私が警備隊に配属されているのは知っているな?特別教導訓練の後昇進の辞令があり、私も一部隊を指揮する身となった。」

 

二等陸尉ともなると、あのヴィータ教官と同じくらいの階級だろうか。

元からクレア先輩はエリートコースだったから、それは納得の人事だが。

 

「一週間程前だ。私の部隊は新兵器の移送警護を担当することになった。ただし兵器の詳細は不明。それ以外に変わったこともなく、移送は無事に終了するはずだった。」

「はずだった?」

 

先輩は眉根を寄せて、吐き出すように続けた。

 

「全滅した。私以外、全員な...。」

「は...?」

「謎の兵器群に襲撃を受けた。見たことのないタイプだった。魔法を無力化するフィールドがあるのか、砲撃は全て効かなかった。部下がやられていくのを、見ているしかなかった。自分の身を守るのが精一杯だった...。」

 

そんな...。魔法を無効化?確かにある程度の対策フィールドは作れるとは聞いたが、完全無効化などあり得るのか。

そんなものがあるなら、現在の魔法技術での発展自体、全て否定されてしまう。

 

「敵は、その新兵器を狙って...?」

「違う。」

 

先輩は笑う。自分自身が間抜けで仕方ないとばかりに。

 

「警護していた新兵器が、それだ。」

「な...!?」

 

何故管理局の兵器が管理局の部隊を襲うのか。それではまるで、先輩の部隊を実験台にしようとしたようにしか...。

 

「実験台、だったのだろうな。機能テストのようなものだ。仮想敵は魔導師。私の部隊はちょうどいい...。」

「先、輩...。」

「...仲間を全て失い、最早魔法なしで私は兵器を斬り殴った。自分も助からない、そう思った時。奴は私の目の前に現れた。」

 

――――――――――――――――――――――――

 

「っ...。ぁぐ...。」

 

腕から力が抜け武器は落ち、立ってもいられなくなる。

足元には何とか砕いた兵器の残骸が何体か。そして大切な仲間たちの...。

 

「まもれ、なかった...。」

優秀な部下たちだった。同期だった。みんな夢があって、家族がいた。

 

「ぅ、ぐっ...。く、そ...。」

 

私ももうダメだ。敵は依然として多勢。魔法も通用しない。

おかしいと思うべきだった。

何の説明もなく移送任務などと。

捨て石だ。こんなことがあるか。人の命を命と思わない外道が、この組織にはいたのか。

私は一体、今まで何の正義を信じていたんだ...。

 

「エレ、ナ...。」

 

私が死んだら、誰がお前を...。

 

『――。』

 

兵器の動きが止まる。

何だ...?電源が切れたように動きが止まった?

 

「魔法なしにここまで戦うか。見上げた修羅である。気に入ったぞ。」

「!?」

 

一人の老人...というにはあまりに偉丈夫過ぎる、軍服を着た白髪の男が立っている。

 

「使い潰しのモルモットのつもりだったが、意外な拾い物をした。」

「!?き、さま。貴様が...!!」

 

剣を手に男に突撃する。体力など関係ない、怒りと憎しみが私を突き動かす。

しかし。

 

『―。』

「かはっ...!?」

 

兵器が突如動き出し、男を守るように私を蹴り飛ばした。

 

「まだ動くか。躾は必要だが、やはりここで潰すには惜しい。」

「なに、を...!」

 

私を見下しながら、兵器に包囲させる。

完全にあの男の指揮下にあるようだ。

 

「貴様も実験動物を飼っているようだな。」

「っ!?」

「血清を用立てるのは容易くない。相当苦心しているようだな。」

 

なぜエレナのことを...!

 

「取り消せ...!あいつは、エレナは実験動物などではない...!」

「些末なことよ。貴様が知らなくてはいけないのは唯一つ。血清の入手ルートなど赤子の手をひねるより容易いということのみよ。」

 

なん、だと...

 

「エレナを、人質にするつもりか...!!」

「違うな。貴様だけ生かしてやるのだ。慈悲と言う以外にこれを何とするか。」

「き、さまぁ...!!」

 

男は私に告げる。

 

「これよりお前は儂の道具となる。崇高な計画に携わることに喜び、感謝するがいい。クレア・スカーレット。」

 

――――――――――――――――――――――

 

「酷い...そんなのあんまりだよ...!」

「...石動刃凱中将。J.S.事件以降、陸のトップと言える程の権力者です。」

 

リーナがすぐに端末を操作し、データを出す。

 

「ふーん。歳のわりには元気なお爺ちゃんね。」

「ええ...。優秀な指揮官であり、尚且つ出世への野心も強い。凄まじい御仁ですよ。」

 

リーゼは心底嫌そうな顔をして説明を続ける。

 

「彼の目的は自動機動外殻...人の形をしたアーマー兵器ですね。それを次元世界に配備し、平和を実現すること。魔法が効かない力をばら蒔くことで、魔法という技術を衰退させるのが目的です。」

「魔法を、無くす...?」

「確か優秀な魔導師は皆『海』に所属してて、『陸』とのパワーバランスが酷いことになっているんだったかしら?」

 

リーゼは頷く。

 

「はい。加えてあのJ.S.事件により陸への世論からの信頼は失墜。管理局の負の面を背負うような形になっていますから、局内でも肩身が狭い思いをしているのでしょうね。」

「そんな...だからってそんな酷いことしていいわけ...!」

 

そんな理由で武器を作って、それで仲間を傷つけるなんて...。

真には理解出来なかった。

そういう権力だとか、暗い話がどうしてもあるのは分かっていた。

だがこれは酷過ぎる。

命を何だと思っているのか。

 

「そうです。許すわけにはいきません。私はあの男を止めなくてはいけない。」

 

リーゼの手に力が入る。

 

「なるほどな。それでお前は工場を襲ってたわけか。」

 

ずっと聞いているだけだったクラレントが納得したように口を出す。

 

「ええ。機動外殻の工場を潰していけば、いずれ石動中将本人が尻尾を出す。実動はクレア先輩に任せているようですが、私が先日潰した工場で生産ライン自体はほとんど止められたはず。あちらも迂闊に兵器を使うことはできない。上手く利用出来ました。

後は本丸を叩けば、きっと...」

「りーちゃん、やっぱりすごいや。本当に強くなったんだね...。」

「真...?」

 

真はリーゼの手を取り、握る。

 

「一人で大切な先輩と、世界を守ろうとしたんだよね...。きっとすごく怖くて、不安だったよね。」

「...魔法は、私を救ってくれました。管理局は私に強さと、大切な仲間をくれました。だから、許せなかったんです。それを全て壊す、その野望が。」

 

リーゼは照れくさそうに目を反らす。

 

「後は...真の夢見る管理局が、それにふさわしい物であって欲しいと、思って...」

「りーちゃん。」

 

握る力が強くなる。

 

「ありがとう。だから私も、一緒に戦う。」

「真、それは...。」

「分かってる。全部終わった後に犯罪者になっちゃうかもしれない。執務官にも、なれないかも。...だけど、りーちゃんがやってること、私は正しいと思う。私はりーちゃんと一緒にいる。これからも一緒にいる為に、私がりーちゃんを守るよ。」

「まーちゃん...。」

 

「そういうのは、家でやれ...。」

「あら、家でやるとそれはそれで危険な匂いがしちゃうけど♪」

 

二人に生暖かく見られていることに気づいたリーゼは咳払いをし、話をまとめる。

 

「と、とにかく。次は直接本局近くの倉庫を襲撃します。決行は...二週間後。」

「二週間?随分悠長なのね。」

「準備と休息が必要です。それに、真。」

「私?」

 

リーゼがため息を吐く。

 

「強くなって下さい。正直、今のままでは力が強いだけの獣と一緒です。」

「け、けものって...。」

「ぷっ。イノシシばか。」

 

クラレントが吹き出す。

 

「あー!笑った!バカにした!相棒なのにー!?」

「うるせー。お前が下手くそなのは事実だ。」

 

実感している故に言い返せない真。

 

「二週間で最低限の技術を身に付けて下さい。兵器は勿論、クレア先輩の強さは貴女も見たはず。」

「あ...うん。」

 

あの人はやりきれない感情を持ったままなのに、あんなに強いのか。

 

「分かった。ちょっと考えてみる。」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「お願いします、教えてください!」

 

そんなわけで、真には今何より『師匠』が必要であった。

フェイトたちには頼れない。

あの人たちは説明すれば助けてくれるかもしれない。

だからこそ、巻き込めない。

これからも世界に必要な人なのだから。

 

「...そう簡単に教えて分かるものでもないじゃろうし、何よりワシは若輩者です。人に教えるなんてできません。」

 

少女は申し訳なさそうに告げる。

 

「...無理を言ってしまってごめんなさい。でも、私には急いで強くならなきゃいけない理由があるんです。強くならないと、何も守れないから...。」

 

強くなりたい、守れないという言葉に少女が反応する。

 

「...強くなりたいと言いますが。その強いというんは、何ですか。誰にも負けない、誰にも傷つけられないことですか。」

 

少女の目が鋭くなる。

真も少女の真剣さに応え、考えながら言葉を紡ぐ。

 

「...私が欲しい強さは、みんなを守れるっていうこと。困っている人がいるなら最短で、最速で、真っ直ぐに、一直線に駆けつけたい。何も零さない強さが欲しい。私が弱いせいで大切なモノを失うのは、嫌なんだ...。」

「!...。」

 

少女はその言葉にハッとし、表情を柔らかくする。

 

「リンネより、むしろワシか...。ハルさんに拾ってもらった、そのお返しかもしれんな...。」

「りんね?」

「いや、何でもないです。」

 

真の顔を真っ直ぐ見つめる。

 

「さっきも言うた通り、ワシは若輩者で弟子を取るなんて立場じゃありません。」

「そう、ですよね...。」

「ですが、基礎を教えるくらいなら、コーチや先輩たちも許してくれるでしょう。」

「ほ、本当ですか!?」

 

真の表情がパッと明るくなる。

 

「ただし、やるからには厳しくいきます。覚悟は出来てますか?」

「は、はい!師匠!」

「ししょっ...」

 

少女の頬が少し赤くなる。

 

「師匠ではないですし、年上なんですからそんなに畏まらんでいいです。」

「分かりました!師匠!私、星宮真です!」

「分かっとらんしまた師匠...。」

 

ため息を吐き、改めて少女は名乗りをあげる。

 

「ナカジマジム所属。覇王流、フーカ・レヴェントンです。」

 

第13話『希望の光』




「フーカ師匠!」「フーカ師匠~」「フーカ師匠♪」
「うわぁ!?皆さんやめてください!恥ずかしい~!」
「ではここでフーちゃん師匠の1話冒頭大立ち回りをプレイバック♪」
「やめろぉリンネ!?」

「来週もまた見てくださいね。」「にゃあ♪」


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第14話『鮮烈な一撃』

当初の予定よりがっつりvivid要素が絡んじゃいました。
真の戦闘スタイル的にどうしても避けられなくて...。
でもすみません、vivid好きなんです、私。←


◼️□放課後◼️□

 

『学校が終わったらここに訪ねてきてください。みんなでお待ちしとります。』

 

...みんな?

とか何とか不思議に思いつつ、着いてしまった。

ナカジマジム。

 

はて?どこかで聞いたことがあるような?

立派な建物ですな。

師匠もプロって言ってたし、かなりちゃんとしたジムなのだろう。

...会費とか大丈夫だろうか?

 

しかし弓美ちゃんたちには心配かけちゃったな。

あの後連絡するのも忘れてて、登校した瞬間泣きながら怒りながらの質問責めだった。

フェイトさんに助けて貰えたから大丈夫、とは伝えて、一応納得したみたいだったけど。

友達を巻き込んじゃうなら、学校に通えるかすら危ういな...。

まあ、今日のところはイズナちゃんたちは襲って来ないみたいだし。

今はりーちゃんとのことに集中しないと。

三日前はテストの心配ばかりしていたのに。

今や心配なのは自分と友達の命なんて、急転直下なんてもんじゃないよ。

 

「はぁ...。切り換えなきゃ。今は強くならなきゃ何にもならないんだし。」

 

ジムの門(自動扉)をくぐる。

やっぱりなかなかの広さだと見渡すと、受付に今朝会ったばかりの師匠がいるのが見えた。

 

「押忍。いらっしゃい、真さん。」

「お、押忍!お邪魔します、師匠!」

「その師匠呼びはやめて欲しい...。ハルさんに何言われるか分からんし...。」

 

師匠は恥ずかしいような、気まずいような顔になってしまう。

年上の弟子ってやっぱり変かな?

 

「とにかく。みんな待っとります。運動着はありますか?」

「は、はい。学校のジャージが。...それで、みんなというのは?」

 

フーカ師匠は少し笑って。

 

「小さくて大きい、尊敬する先輩方です。」

 

誇らしげにそう答えた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ヴィヴィオ、今日は誰のお家だっけ?」

「今日からミウラさんのお家!たくさんお料理作って待っててくれてるんだって!」

「いいな~。私もお泊まりしたーい!」

「えへへ、リオさんならいつでも歓迎ですよ。」

「ではお腹を空かせる為にも、しっかり練習しなければなりませんね。」

「はい!フーカさんのお知り合いもいらっしゃいますし、張り切ってがんばっちゃいます!」

 

...何だかすごく元気な声が聞こえる。

 

「みなさん、お連れしました。」

「お、来たな。」

 

赤髪の唯一大人の女性が歩み出る。

 

「ナカジマジム代表で、こいつらのコーチをしてる。ノーヴェ・ナカジマだ。よろしくな。」

 

気さくに挨拶してくれたノーヴェさんが、このジムで一番偉い人でフーカ師匠のコーチらしい。

 

「は、初めまして!星宮真ですっ!歳は16で好きなものはごはんで苦手なものは勉強、趣味は映画鑑賞ですっ!」

「お、おう。...話はフーカから一応聞いてるよ。」

 

言いながら、ノーヴェさんが私を観察するようにじっと見つめる。

 

「...うん。悪い奴じゃなさそうだ。安心したよ、フーカが人を連れてくるなんて初めてだからさ。ちょっと警戒してた。」

「急に押し掛けてすみません...。」

 

やっぱり会ったその日に弟子入りなんて怪しいよね。

迷惑だったかな。

 

「いや、いいよ。あいつが連れてきたってことは、何か事情があるんだろうし。フーカが面倒見るって決めたんなら、何も問題ないさ。」

「ありがとうございます、会長。」

 

師匠が頭を下げる。

...よくは知らないけど、フーカ師匠もノーヴェさんも、すごく信頼し合ってるのが分かる。

 

「とりあえずはジムに入るというより、フーカの客人扱いだ。指導は基本フーカに任せるとして」

「ノーヴェ話長ーい!そういうのは、ちゃんとみんな挨拶してからでいいでしょ?」

 

金髪の女の子がノーヴェさんの話を遮る。

あ、瞳がきれい。オッドアイって言うんだよね。

...ん?この子なんだか、見覚えがあるような?

 

「はぁ。そういうところは子どものまんまだよな、お前たち。」

「そうだよ♪だって」

「「「子どもだもーん!」」」

「はぁ。はいはい。じゃあさっさと済ませろ。」

 

さっきの金髪の子が前に出る。

 

「サンクト・ヒルデ魔法学院中等科1年、高町ヴィヴィオです!よろしくお願いします!」

 

元気な挨拶の後、ペコリと頭を下げる。可愛い。

 

「これはご丁寧にどうもどうも...って、高町?」

 

高町ヴィヴィオ。...あれ。

 

「高町なのはさんの...!?」

「え?ママとお知り合いなんですか?」

 

雑誌で見たことある!なのはさんの娘さんだ確か!

仲良く手を繋いでる写真が昔載ってた気がする!

 

「え、えと...知り合いじゃなくて、雑誌で見ただけというか...。」

「ああ、昔そんな広報誌も確か出てたな。」

「なのはさんも大概有名人だよねー。」

「えへへ。自慢の母です!」

 

世界は狭いというか。

ここ最近有名人にばかり会うなぁ。

...というか、完全にやってしまった。

ヴィヴィオちゃんに知られてしまった以上、なのはさんからフェイトさんに私がここに通っていることがバレてしまうかも。

まずい。フェイトさんに問い詰められたら全部話さなきゃいけなくなるし、そしたらフェイトさんを巻き込んじゃうし。

ど、どうしよう...。

 

「その自慢のママに会えなくて寂しくなってきたんじゃないか?」

「全然平気だよ!なのはママの方こそ、私と会いたくて泣いちゃってるかも...。」

「え、会えない...?」

 

ヴィヴィオちゃんが私に振り返って説明してくれる。

 

「なのはママ、今お仕事でずっとお泊まりなんです。最近また忙しくなったみたいで。

こういうことはかなり珍しいんですけど...。でもせっかくですから、私はジムのみんなのお家を順番にお泊まりしてる最中なんです!」

「な、なるほど。」

 

エース・オブ・エースだし、やっぱり忙しいんだろうな。

ヴィヴィオちゃんには悪いけど、二週間バレない可能性もありそう。

ちょっと安心した。

 

「ヴィヴィオも有名人なんですよ!」

「U15のランカーですもん!」

「ランカー...?」

「簡単に言えば、登録選手の中でもかなり強いってことだな。」

 

はえー。こんな可愛いのに?

 

「ま、ヴィヴィオたちの実力は後で見せるとして。」

「同じく中等科1年、リオ・ウェズリーです!」

「同じく、コロナ・ティミルです。」

 

先ほどヴィヴィオちゃんと息の合ったやり取りをしていた二人だ。

リオちゃんは活発そうな瞳と八重歯が、コロナちゃんはふんわりとした雰囲気と利発そうな瞳が印象的だ。可愛い。

 

続いて後ろに控えていた、桃色髪の少しボーイッシュな女の子が。

 

「ミウラ・リナルディです!この中では一応最年長になりますね。」

 

元気なようで丁寧な物腰だ。

私よりしっかりしてそう。後可愛い。

 

「そしてこちらが。」

 

フーカ師匠が最後の一人を指す。

ヴィヴィオちゃんと同じオッドアイ。

碧銀の髪がきれいで、何だか浮き世離れした雰囲気。

一歩前に出て、軽く会釈をしてくれる。

 

「サンクト・ヒルデ魔法学院中等科3年。覇王流、アインハルト・ストラトスです。よろしくお願いします。一応フーカの師匠、ということになりますね。」

「フーカ師匠の師匠!?」

「フーカ師匠?」

「あぁ!?違っ、ハルさん違うんです!ワシは別に!」

 

フーカ師匠が慌てふためいてる。

アインハルトさんはそんな師匠を見てクスッと笑った後、悪戯っぽい顔をした。

 

「そうですか。私の知らない所で、フーカは勝手に弟子を取っていたのですね。」

「ち、違うんです!弟子にした覚えはないというかワシに師匠なんて早いし不釣り合いと言いますか!」

「...ふふっ。冗談です。フーカは強くなりました。弟子を取るのに私の許可は必要ありませんよ。」

「ハルさん...ありがとうござ、って!だから弟子ではないと言うとるではないですか!?」

 

こちらもこちらで仲良し師弟な模様。

クールな感じかと思ったけど、意外と気さくな感じなんだな、アインハルトさん。

 

「よし。これで全員自己紹介は済んだな。」

 

ノーヴェさんは手をパンと叩くと、フーカ師匠に目を見遣る。

 

「あ...こほん。...真さん。今朝ワシに言っとった覚悟に、嘘はないですね?」

「は、はい。よろしくお願いします!」

 

気持ちを込めて頭を下げる。

フーカ師匠は頷き、ヴィヴィオちゃんたちに話を振る。

 

「これから真さんの覚悟が本物か、試させてもらいます。コロさんにリオさん、後はヴィヴィさん。お願いしてもよろしいですか?」

 

仲良し三人組は顔を見合せ、タイミングを合わせて頷く。

 

「「「押忍!フーカ師匠!」」」

「先輩方まで...や、やめてくれんじゃろうか...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

『騒がしいと思って起きてみりゃあ、こりゃ一体どういう状況だ。』

 

あ、レンちゃんが起きた。

どういう状況かと言うと。

今私はリングの上。

目の前にはコロナちゃんがファイティングポーズをとって、軽くシャドーでアップをしている最中だ。

私も腰に痛みを軽減するデバイス?みたいなのを付けて向かい合っている。

つまり、端から見ると完全に試合な状況となっている。

...まあ、試合なんですけどね!

 

フーカ師匠から告げられた条件。

1つ目。三人と連続で対戦。

2つ目。一人につき3ラウンド。

3つ目。私はダウンしてもいいが、何があっても三人と戦い切ること。

そして4つ目。連戦の中で必ず1発、攻撃を当てること。

 

この条件をクリアしなければ教えられない。そう言われた。

年下の女の子と殴り合いなんて、正直気が引けるけど。

強くなる為に、ここで不合格になんてなれない。

三人には悪いけど、本気でやるよ!

 

『随分妙な状況だな。ま、ガキの相手なんかさっさと終わらせ』

 

カーン!

 

「え...。」

 

ゴングが鳴ると同時にコロナちゃんの姿が消え、体から力が抜け倒れる。

遅れてくる、顎辺りの鋭い痛み。

 

「っ...。」

 

何とか体を起こす。

一体何

 

ガスッ!

 

「!?」

 

また衝撃。

今度はちゃんと見えた。

コロナちゃんのパンチが私の顔面を直撃していた。

 

『な!?何なんだこのガキ!?』

 

再度体が倒れ込む。

これ、まずい。もしかしてこの子たち...!

 

「真さん。先に言っておきますけど。私たちは、強いですよ。」

「...!」

 

この迫力。りーちゃんとか、イズナちゃんとか、実戦を経験してる人にも劣らない...!

強い!油断なんてしたら一瞬で...!

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ま、こんなもんだろうな。」

「...。」

 

ノーヴェとフーカは冷静に真の実力を見定める。

コロナには手も足も出なかった。

一方的に打撃を入れられ、立ち上がるのがやっと。

攻撃など一度もする余裕がなく、そのまま3ラウンドが終了。

続け様にリオとのスパーリングが開始。

当然疲労とダメージがある中で、流れが変わることもなく。

 

「せいっ!」

「ぐぅっ!?」

 

リオの掌底が真の腹を撃ち抜く。

リング際まで真は吹っ飛び。

そして3ラウンド目終了のゴングが鳴る。

 

「ここまでやられっぱなしか。まあ、素人じゃ仕方ないな。」

「はい。こうなるんは予測済です。」

 

休む間もなく、立ち上がろうとする真に最後の刺客が迫る。

 

「押忍。真さん、よろしくお願いします。」

 

口調こそ礼儀正しいものの、その瞳には挑戦的な意志が炎のように灯る。

 

カーン!

 

ラウンド開始の合図。

リオ、コロナと違いヴィヴィオは静観。

もう後のない真は自棄糞気味に拳を繰り出す。

 

「かはっ...!」

 

上がった悲鳴は真のもの。

真の乱雑な拳より先に、ヴィヴィオの速く的確な拳が顔面を穿つ。

 

『神眼のカウンターヒッター』

 

高町ヴィヴィオの代名詞である。

この一発入れなければいけないというルールにおいて、ともすればアインハルト以上の難易度を誇るのがヴィヴィオであった。

真がいくら拳を放とうと、素人の拳では神眼を持つヴィヴィオを捉えることはできない。

真が拳を振り上げれば、それより速くヴィヴィオの拳が真に届き、脳を揺らす。

何度も何度もそれを繰り返す。

ラウンド1が終わり、ラウンド2も同じことが続く。

 

「これは...。」

 

あまりに一方的。ミウラが思わず声を漏らす。

 

「真さん...。」

「ヴィヴィオに当てるなんて...。」

 

対戦した二人ですら、真のことを心配していた。それくらい無理難題だと思えた。

誰もが真の勝利を諦めたその時。

 

カウンターを食らいながら、真が一歩踏み込んだ。

 

「...!」

 

カーン!

 

ゴングの音が響く。

ラウンド2、終了。

一瞬のことであったが、ヴィヴィオは勿論他の面々も真の変化に気づいていた。

 

「今のは...。」

 

ノーヴェが呟く。

 

「はい、確かに見えました。真さんの戦い方が。」

 

アインハルトが少し微笑む。

 

そして、最終ラウンドのゴングが鳴る。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

『ダメージ軽減、本当に効いてるんだろうな!?ボロボロだぞ、お前...!』

 

頭にレンちゃんの声が響く。

痛みだけはダイレクトに感じるせいで、何だか感覚がなくなってきた。

最終ラウンド。最後のチャンスなのに、意識を残すのがやっと。

上手く当てようとか、どうやって避けるとか。何にも考えられない。

強いなぁ、ヴィヴィオちゃん。

的確に痛いところを突いてくる。

攻撃しても、避けられて当てられる。

さっきからその繰り返しだ。

どうしたら、どうしたらいいんだ。

分からない。痛い。すごく、痛いよ。

 

でも、諦められない。諦めたくない。

強くならなきゃもっと痛くなる。

何も守れなかったら、心はもっと痛くなる。

師匠は何と言っていた。

覚悟はあるか。そう言っていた。

ならば見せなきゃいけない。私の覚悟が、どんなものでも砕けないことを。

ぶん守る覚悟が、拳にあるんだ。

だから...!

 

「今じゃ!進めっ!!」

「!?」

 

ヴィヴィオの拳がクリーンヒットする。

倒れるはずだった。

しかし真は拳を受けたまま前に踏み込む。

予想外の動きに一瞬ヴィヴィオの動きが淀む。

 

「あぁぁっ!!!」

 

真の我武者羅な一撃がヴィヴィオに迫る。

思わず防御体勢を取るが、防御の上から殴られロープ際まで、今度はヴィヴィオが吹っ飛んでしまう。

 

カーン!

 

最終ラウンド終了の合図。

一瞬の出来事に一同が唖然としている中、ヴィヴィオが呟く。

 

「カウンターを強引に耐えて、ガードの上からの重い一撃。この感じ、まるで...。」

「はい。リンネと同じタイプです。」

 

フーカがヴィヴィオの言葉に続ける。

 

「根性があるお人だとは思っとりましたが、想像以上です。」

「...なるほどね。お前が気に入るわけだ。」

 

この場にいる全員が、真のポテンシャルに驚きを隠せない。

これはまた期待の新人が来た。

アインハルトですら拳を握り、胸が躍るのを隠せていない。

 

「真さんは合格じゃ。その覚悟が嘘じゃないってこと、確かに見せてもらいました。」

「...。リンネ、ってだれ...?」

 

ドサッ。

 

真は倒れ込んでしまう。

素人にはこれが限界である。

とりあえず安心したのか、真は気絶した。

強さを得る取っ掛かりのつもりが、どうやら彼女にもある種の才能があることが分かってしまった。

まあ、ナカジマジム一同の期待など、真には一切届いていないようだが。

期せずして格闘家の道が拓けてしまった真。

彼女がどの道に進むのかは、また別のお話である。

これは『鮮烈な日常』ではなく、『想いを伝える』物語なのだから。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ!?娘さん!?何でそう迂闊なのですか!?」

 

愛しの幼なじみからの定時連絡だろう。

...何やらトラブルなようだが。

 

「はぁ。とにかく、バレないように誤魔化してください。...無理なのは承知です。頑張ってください。...はい。では待っていますので。」

 

リーゼが通話を切る。

 

「何かトラブルかしら?♪」

「...何でもありません。それより、どうなのですか。」

「どうって?」

「出来るのですか?出来ないのですか?」

「ああ...。」

 

リーナは勿体ぶってから、髪を撫で。

得意気に答えた。

 

「勿論出来るわ。天才だもの...♪」

「なら、進めてください。あのアーマーは必ずこの手で...この世から消し去ります。」

 

第14話『鮮烈な一撃』




「「「私たち中学生でーす!」」」
「制服だとおチビさんたちが大きく見えますね。」
「そうですね。フーカの分も用意しておきました。」
「いつの間に...。ワシはそういうヒラヒラしたのは...。」
「大丈夫!フーちゃんならきっと似合うよ!」
「何でお前が着とるんじゃ!」
「果たしてリンネさんの出番はあるのか!」
「来週もリリカルマジカル、頑張ります。...出番、ありますよね?」


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第15話『繋ぎ紡ぐ思い出』

第1期はラストスパートです!
知らんのか?第2期までの構想は既に出来ているのだ(どうでもいい)


そこからの日々はあっという間だった。

試験の後、目覚めた私にヴィヴィオちゃんが興奮した様子で

 

「スゴい一撃でした!まるでリンネさんみたいですね!」

 

と言ってくれたがよく覚えていない。

というかリンネってどなた?となった。

まあこの後会うことになったのだけど。

 

とりあえず試験は合格、私はフーカ師匠の弟子(仮)となった。

ナカジマジムには体験入会扱いで、基本的にはフーカ師匠が指導をしてくれるとのこと。

仮なのはフーカ師匠が恥ずかしくて嫌だとまだ譲らないから。

基本的に学校と週3日アルバイトがあるので丸一日とはいかないが、早朝のランニングと基本型の稽古は毎日。

アルバイトがない日はジムに通って、先輩方に混じってトレーニング。

私だけいつも死にかけてるけど。

子どもに体力負けする大人の気分だよ。

ちなみに毎回授業中に寝てしまった結果、先生がやつれた。ストレスだそうだ。

大変だなぁ。

たった二週間とはいえ、濃密な時間だったと思う。

ちなみに、指導してもらう中で歳上だということを気にして欲しくないと、フーカ師匠には敬語をやめてもらった。

結果的に仲良くなれたんだけど、代わりに指導の時の怒声が任侠映画みたいになった。恐かった。

毎日毎日、体力の限界を超え続ける。

誰かと競うのはあんまり好きじゃないけど、自分が成長していく感覚は素直に気持ち良くて好きになれた。

 

修行開始から一週間経ったくらいに、フーカ師匠の提案で先輩方の練習試合を見学することになった。

対戦カードは師匠の師匠ことアインハルトさん対噂の人リンネ・ベルリネッタちゃん。

なんとアインハルトさんはU15元チャンピオン(現在は卒業してU19に)で

リンネちゃんは現U15チャンピオンらしいのだ。

チャンピオン同士の練習試合なんて滅多に見られないということで、私も含め全員が興奮していた。

フーカ師匠曰く

 

「戦闘スタイルはリンネ。流派はハルさんから盗め。それが一番真に合っとる。」

 

とのこと。

緊張して見学するが、何が何だか分からないくらいのハイレベル試合で見ているのがやっとだった。

うーん。リンネちゃんはパワーも持久力もすごくて、殴られても止まらない、防がれても確実にダメージを通す強さがある?のかな。

作戦を考えてないんじゃなくて、強みを押し付けるのがいいって分かってる感じ。

アインハルトさんの方は...。

難しい。

パワーも持久力もある。技術もある。頭もいい。パーフェクト過ぎてわけが分からない。

断空?の動きというか、型とか構えとか、見た目から真似しようと思った。

それぐらいしか出来そうにない。

結果としては引き分け。

どちらも全力で倒しに行ったというより動きを見せるのに注力してくれたらしい。

どこら辺に手加減があったのだろうか。これが分からない。

師匠たち曰くリンネちゃんと私の適性は似ているとのこと。

いや、どこら辺が?

私あんなに可愛くないし、ふわふわしてないし、お淑やかでお嬢様じゃないよ?

そう言ったらフーカ師匠に爆笑された。

リンネちゃんもそんな師匠にムッとしていたが、最終的には一緒に笑ってしまっていた。

可愛かった。

とりあえずファンになったのでサインをもらった。

 

「フーちゃんとヴィヴィオさんは、私に勝ったことがあるんですよ?」

 

そう笑顔で話してくれた。

本当だった。

後で去年のウィンターカップを見せてもらったのだが、激熱でしたね、あれは。

ヴィヴィオちゃんにサインをもらった。照れていてとても可愛いかった。

 

そんな修行漬けの毎日だったが、日常な部分も話題に事欠かなかった。

まず、りーちゃんが研究所に滞在することになった。無闇に移動できない以上、この研究所が潜伏にちょうどいいとのこと。

幼なじみの発想が知らない内にどんどん犯罪者寄りになっていく...。

何やらリーナさんと話し合いをしていたが。

仲良くなったのならばよし。

リーナさんと言えば、天才のリーナさんにも弱点があることが分かった。

とにかく家事が出来ない。

掃除と料理が壊滅的。洗濯は機械だから大丈夫何だとか。

基本的には買ってきたご飯を食べていたらしい。

身綺麗にしてるから、てっきり整理整頓もできる女子力高めの天才だとばかり思っていたが、よく考えたら始めから書類は散らかっていたと思う。

欠点があると分かって、親近感が湧いた。

ちなみに、レンちゃんは食べ方が汚ない。

よく食べカスが口に付いてるのをリーナさんに拭いてもらっている。

小学生というより、むしろ赤ちゃんみたいだった。言ってみたら叩かれたけど。

 

そんなわけで家事は専ら私が...と思いきやここで活躍したのはりーちゃんだった。

掃除洗濯もそつなくこなし、何より料理がとても上手だった。

和食洋食何でもござれ。デザートまで作れる。

生活する上でどうしてもやる必要があったと言っていたが、必要以上の高水準に達してると思う。

お嫁に欲しい!とみんなから絶賛され、謙遜しながら真っ赤になるりーちゃんは可愛かった。

こうやって会えなかった時間を埋めるように、これからも一緒にいたいなって思う。

 

そう言えば

イズナちゃんとミラちゃんに関しては、あれ以来一度も会っていない。

諦めてくれたのだろうか?

酷いケガをさせてしまったのでは、と心配になったが

呆れ混じりに

 

「逃げる時ピンピンしてたぞ。」

 

とレンちゃんに教えてもらえた。

たぶん元気なんだろう。

 

フェイトさんからの連絡は週1回ペースで来る。

どうやらかなり重い仕事を担当しているらしく、私の見張り(警護)も出来ないほど暇がないようだ。

申し訳なさそうに話すフェイトさんに色々話したくなったが、グッと我慢した。

襲撃もないし、私もリーナさんもレンちゃんも元気。心配しなくて大丈夫と伝えた。

 

「何かあったらすぐに連絡してね。」

 

決まって最後に言ってくれるその言葉に、胸が少し痛くなった。

ごめんなさい、フェイトさん。

 

二週間はすぐに過ぎ去っていき、ついにその前日を迎えることとなった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

リングに二人の少女が向かい合っている。

 

一人は涼しい顔で隙なく構え、白と黒を基調とした衣装を着た少女。

もう片方は同じ構えを取り、肩で息をしている紅白の鎧...というには薄手の衣装を着た少女だ。

 

師弟は向かい合い、何度か攻防を交わす。

優勢なのはロングポニーの少女、フーカだ。

弟子の拳を防ぎ、躱す。

そして自分の一撃を確実に当てていく。

しかし、弟子の方。真もその一撃に耐え、拳を繰り出し続ける。

我武者羅ではあるが、その動きには確かな技術が宿っていた。

二人の攻防に、観覧していた先輩たちも息を呑んでしまう。

 

「ししょぉぁーーっ!!!」

「来い、真...!」

 

ラウンドなしの殴り合いは、実に一時間以上も続いたのだった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「ま、まいりましたぁ~...。」

 

真がジムの横にゴロンと寝転がる。

 

「ナイスファイトだ、二人とも。」

 

すかさずノーヴェが二人に水とタオルを手渡す。

 

「ありがとうございます、会長。」

 

あれ程打ち合ったにも関わらず、フーカにはまだ余裕があるようだ。

その表情には疲れの色が見えない。

 

「やっぱり師匠にはかなわないなぁー...。」

「当たり前じゃ。そう簡単に超えられるわけにはいかんからな。」

 

ですよねー、と肩を落とす真。

 

「...まあ、最後の一撃は悪くなかった。二週間前のド素人とは大違いじゃ。」

「ししょー!!」

「やめろ抱きつくな!暑苦しいじゃろうが!!」

 

そんな師弟のやり取りにナカジマジム一同も自然と笑顔になってしまう。

 

「フーカさん、もう立派な覇王流の師匠って感じですねー♪」

「はい。本当に強くなりました...♪」

 

すっかり師匠が板に付いたフーカに、その師匠と先輩が嬉しそうに呟き。

 

「真さんのあの動き。二週間でここまで仕上げるなんて、ボクも熱くなってきちゃいますね!」

「やる気ですね、ミウラさん!私もテンション上がって来ちゃった!」

「練習、また楽しくなっちゃいますね♪」

 

真の急成長に負けていられないと、他の三人はトレーニングを開始する。

 

「...やっぱり新人は、いつもいい風を吹かせてくれるよな。」

 

そんな教え子たちの姿に、つい幸せを感じてしまうコーチがいた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「話って何ですか?師匠。」

 

練習後。真はフーカに呼び出されていた。

 

「明日は、何かあるんか。」

「え...あ、いや。ちょっと家族絡みで、用事が...。」

 

フーカは真の目を見て、更に質問を続ける。

 

「お前が何かを隠しとるんは、何となく分かる。」

「!...。」

「だが敢えて聞くことはせん。お前はワシに守る力が欲しいと言った。その覚悟も通した。だから、ワシはお前を信じる。」

「師匠...。」

 

アインハルトもヴィヴィオも、『何か』を抱えているのをフーカは感じ取っていた。

しかし、二人はフーカにその何かについて語ることはない。

それは信頼がないからではない。

話す必要がないからだ。

もう終わった話、話しても無駄に心配をさせるだけだと分かっているから、話さない。

それは気遣いでもあり、彼女たちなりのけじめでもあった。

フーカは『日常』を取り戻す為にアインハルトたちを頼った。

しかしきっと、アインハルトたちは『何か』を乗り越え、今の『日常』を得たのではないか。

少し不思議な先輩たちに、フーカはそんなことを思っていた。

この真は自分と同じ『日常』を取り戻す為に自分を頼ったとフーカは考えていたが、何となくアインハルトたちと同じものも感じる。

乗り越えなければならない『何か』があって。

その先に待っていて欲しい『日常』があるのでは。

だから『日常』であるナカジマジムを巻き込みたくない。

だから話さない。

この弟子は不器用だが、優しい奴だ。

このたった二週間。

それでもフーカには、真のそんな心が分かるような気がした。

 

「まあ、なんじゃ。...ちゃんと帰って来い。」

「...押忍!」

 

師弟は拳を軽くぶつけ合う。

そんな不器用なやり取りを、師匠と先輩に覗かれていることにも気づかずに。

 

――――――――――――――――――――――――

◼️□バレンシュタイン研究所◼️□

 

いよいよ、明日だ。

いつも通りお風呂に入り、いつも通りご飯を食べる。

そして、いつもと違う作戦会議。

目的はひとつ。石動刃凱中将の確保。

大元を捕まえて、罪を暴く。

そうすればきっとりーちゃんの無罪が証明され、私も犯罪者にならずに日常に戻れるはずだ。

気合いを入れたら、眠れなくなった。

 

リビングに出てみると、私と同じで眠れなかったのか、既に先客がいた。

 

「まーちゃん...。」

 

りーちゃんはソファーに座り、デバイスの画像フォルダを見ているようだった。

 

「眠れないの?」

「ええ。早く寝なければいけないのですが...。」

 

私は隣に座る。

 

「何か緊張するよね。がんばるぞ!って気持ちと、大丈夫かなって気持ちで舞い上がっちゃって。」

「...ええ。」

 

りーちゃんは手元のカップに目を移す。

ホットミルクだろうか。

安眠効果ありそう。

 

「写真?私も見ていい?」

「...はい。どうぞ。」

 

おばさん(りーちゃんのお母さん)とりーちゃんの写真。

これは中学校の入学式かな。

ふふっ、恥ずかしがってるりーちゃんと笑顔のおばさんの姿がほっこりする。

 

「おばさん、やっぱりキレイだね。」

「職場ではまだモテるとは聞きましたが。」

「すっごいね、美魔女ってやつだ。」

「直接言われたらちょっと傷つきそうですが...。」

 

次は、なのはさんとの写真だ。

今度はすごく嬉しそうな笑顔で写ってる。

 

「なのはさんとツーショットなんて、りーちゃん雑誌の中の人みたいだね!」

「相変わらずなのはさんにはインタビューの話は来るみたいですからね。本当にあの人の教え子になれるなんて、思ってもいませんでした。」

 

特別な教導隊?の試験後の写真らしい。

写真を見て、自然と笑顔になるりーちゃん。見ている私も嬉しくなる。

 

「次は...。」

 

りーちゃんと先輩。クレア・スカーレットさんの写真。

二人ともボロボロだけど、いい笑顔で写っている。

 

「最終試験の後の写真ですね。なのはさんが容赦なくて...。二人共ボロボロになりながら、何とか合格を勝ち取ったんです。」

 

そういうりーちゃんの顔は笑っていたけど。少し悲しそうな、辛さを堪えているようにも見えた。

 

「...幸せ、だったんだね。」

「っ...。はい...。」

 

りーちゃんは私がいなくても、ちゃんと幸せを掴んでいたんだ。

それなのに。

 

「取り戻すよ。絶対。」

「まーちゃん...?」

 

りーちゃんに向き合って。気持ちを込めて伝える。

 

「おばさんのところに帰れるようにする。なのはさんにまた教えてもらえるように一緒に謝る。先輩と仲直りできるように、ちゃんと話せるようにする。」

 

私が守って、支えるんだ。

 

「私がりーちゃんの幸せ、取り戻すから。これは絶対の絶対だよ。」

 

りーちゃんは目を見開いて、目を潤ませた後。涙を堪えて、そして笑った。

 

「私の幸せは私が取り戻します。だから、もし危なくなったら。その時は必ず、助けて下さいね...♪」

「...うん!約束だよ!」

 

決意の夜は過ぎ行く。

次はこんな写真を撮ろう、こんな場所に行こう。

そんな当たり前の日常を語らう。

また明日もこうして、何でもない話が出来ると信じて。

 

――――――――――――――――――――――――

□◼️とある病院□◼️

 

「あら。今日は遅かったのね、クレア。」

 

ある病室に管理局の制服を着たクレアが入る。

 

「こう見えて私は忙しいんだ。昇進したからな。」

 

椅子に腰掛け、見舞い相手を見遣る。

綺麗な薄青色の髪に真っ白な肌。金色に輝く瞳。

とても病人とは思えない美しい姿だ。

 

「そう見たいね。何だかやつれてるみたいだし。」

「そう、だろうか...?」

 

病人みたいなのはむしろ自分か。などと自嘲気味に笑ってしまう。

 

「...。ねぇ、クレア。何か隠してない?」

「隠しているさ。何でもかんでも教えるわけないだろう。一日のトイレの回数とか、報告すると思うか?」

「ちょっと。女の子がそういう冗談言わないの。」

 

ため息を吐き、真剣な表情でクレアを見つめる。

 

「...私の体の為に何かしてるなら、やめて。私なんかの為にクレアが」

「なんかじゃない!お前は私の大切な友達だろう...!」

「っ...!」

 

思わず声を荒らげる。

 

「すまない...。心配など不要だ。お前は私が守る。...エレナ。そう約束しただろう...。」

「クレア..。ごめん、なさい...。」

 

お互いを慰めるように抱き締め合う。

この地獄から抜け出すにはどうすれば。

考えることすら出来ず、夜は更けていく。

 

決戦の朝は、今。

 

第15話『繋ぎ紡ぐ思い出』

 




「回、想...?」
「リンネがまたドブみたいな目に!?」
「回想で出れるだけ幸せですよ...。」←ずっと受付にいた
「あはは...。ユミナさんまで目から光が...。」
「「にゃあ!にゃあ!」」
「ティオにウーラまで!?もう収拾がつかん!」
「じ、次回も!」
「「にゃあ!にゃ、にゃあ!」」ビッ!
「リリカルマジカル、頑張ります。だそうです。」
「全、然分からん...。」


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第16話『対峙』

文章表現が稚拙なのでジャンプアニメの引き延ばしみたいに脳内補完お願いします。←


「いってらっしゃ~い♪」

「いってきます!」

 

2週間も経てば最早日常な朝のやり取り。

しかし真からすれば決死の覚悟を込めた挨拶だった。

 

「へいへい。」

 

気だるげにクラレントも手を振る。

素直にいってきますを言うのが恥ずかしいのだろうと真は思う。

 

「しっかりね。」

「...ええ。無駄にはしません。」

 

真剣な面持ちでリーゼも頷く。

出発の時は来た。

必ずここに戻ってくる。

決意を握り締め、真たちは研究所を後にする。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

□◼️管理局地上本部付近□◼️

 

「ついに来ちゃったね...。」

「ええ...。」

 

そびえ立つ地上本部が見える程度の位置で、目標の場所を再度確認する。

近すぎるとその時点で捕まりそうだし。

ちなみにここまでは電車移動だった。

社会科見学に行く学生か!と頭の中でツッコミを入れてしまった。

ちなみにりーちゃんは変装でサングラスに帽子だった為、なんかものすごく怪しかった。

ヒヤヒヤした。持ち前のお嬢様オーラで有名人感を出してもらって何とかなったけど。

 

そんなことより、作戦のおさらいである。

目標は石動中将の捕縛...なんだけど。

証拠になる物があればそれでいいらしい。

計画書とか、コントローラーとか。

石動中将本人と会わないとどのみち証拠も見つからないだろうけど。

でも偉い人なので、部屋の位置とかは

りーちゃんが把握しているみたい。

問題はどうその部屋に突入するかだけど。

作戦は簡単。

私が倉庫で暴れる。→その間にりーちゃんが突入する。以上。

...作戦?

 

「人手不足なのですから、仕方ないでしょう。」

「あ、うん...。」

「ここは陸の本拠地。言ってしまえばエース級の魔導師はほとんどいません。なので、まーちゃんでも逃げるだけなら問題ありません。」

「ほとんどって...。」

「ランスター執務官とか、いないことを祈って下さい。」

 

うへぇ...。いたら困るなんてもんじゃないよ。サインは欲しいけど。

 

「上手く撒いて、合流して下さい。通信は出来ますね?」

『そんくらいわけねぇ。』

 

わっ!ちゃんと外にも聞こえてる?

その状態でも喋れるんだ...。

 

「...腹話術みたいですね。」

「確かに...。」

 

お腹から声聞こえるし。

 

「...こほん。ではまーちゃん。また後で会いましょう。」

「...うん。また後で。」

 

握手し、離す。

りーちゃんがデバイスを取り出す。

その時。

 

「待ちなさい。」

 

雷が迸る。振り返ると、そこにはバリアジャケットに身を包んだフェイトさんがいた。

 

「フェイトさん...!?」

「真。それにリーゼ、だよね。」

「...お久しぶりです、ハラオウン執務官。」

 

フェイトさんは私たちを交互に見て、意を決したように話始める。

 

「何をする気なの。リーゼ、貴女は手配されている。見逃すわけにはいきません。」

「ま、待ってフェイトさん...!りーちゃんは!」

「真...いえ、星宮真さん。手配犯と行動を共にするということは、貴女も同様に犯罪者となること。分かっていますか?」

「それは...分かって、ます...。けど!」

「ヴィヴィオから聞いたの。」

「!?」

 

ヴィヴィオちゃん...?

 

「貴女は知らなかったようだけど。あの子はなのはの娘であり、私の娘でもある。...ナカジマジムに貴女が通っていた話は聞いていた。勿論ヴィヴィオは、新しい友達が増えたことを報告してくれただけ。」

 

フェイトさんの娘!?

あれ?そんな情報...あったっけ?

 

「真、知らなかったのですか...?」

「う、うん...。」

 

りーちゃんは少し呆れたようにため息を吐く。

 

「ヴィヴィオから昨日、貴女が深刻な様子でフーカと話していたと聞いた。だから何かあると思ったの。リーゼと幼なじみだったことも調べて分かった。」

「流石ですね...。」

 

やっぱり、迂闊だった。

なのはさんの娘だと分かった時点で逃げ出すべきだった。

 

「止まって、リーゼ。貴女のしていることの意味も、私たちには分かっている。後は私たちが正しいやり方でやる。これ以上犠牲になる必要はないの。」

「っ...。貴女方には隠せませんか。しかし、止まるわけにはいきません。正攻法では手遅れになる。それに海から陸に捜査などすれば、角が立つどころではありません。」

 

フェイトさんたちに動いてもらうのは、フェイトさんたちにとってリスクがあり過ぎる。

この人たちがいなくなったら管理局の力も正義も、失くなってしまうだろう。

だから私たちでやらなくちゃいけない。

りーちゃんから聞かされた話だ。

 

「...なのはさんは軟禁されているのでしょう?」

「え!?」

「私と親しい中で、最も強い。それに自分を犠牲にしても人を助けるお人好しでもある。いつ犯罪者の教え子の幇助に出るか分かりませんから。」

 

仕事が忙しくて会えないってそういう...。

 

「...そうだよ。なのははずっと局内に軟禁、大好きな娘と会うこともできず、それでもずっとリーゼを心配している。これ以上なのはを悲しませないで。」

 

フェイトさんは武器を構え、私たちに突き付ける。

私の憧れ、私の夢。

それが今障害となって立ち塞がっている。

戦いたくない、勝てるわけがない。

それでも。

だとしても。

 

「今日で終わりです。私たちが終わらせて、全てを取り返します。その為なら。」

「フェイトさんとだって、私たちは戦える...!」

『さっさと始めるぞマスター!』

 

拳を握り締め、気合いを入れて叫ぶ。

 

「武装ッ!」

「セットアップ。スターティアーズ!」

 

 

刹那にして、私もりーちゃんも戦闘装束を身に纏う。

たったの二週間。しかもその力を試す相手がフェイトさんだなんて。

でも、負けるわけにはいかない。

私たちで全部終わらせるんだ!

 

「っ...。確保します。」

 

フェイトさんの表情が険しくなる。

 

「いくよ!」

 

勢いよく飛び出そうとした瞬間。

 

ドォンッ!!

 

魔力砲がフェイトさん目掛けて炸裂した。

 

「な、なな...!?」

 

何事!?今度は誰!?

 

「貴女たちは...!」

 

フェイトさんは障壁で防いで無事みたいだ。

...というか、この状況。何だか見覚えがあるんだけど。

 

「ここで会ったが百年目!管理局の閃光もまとめて、ぶちまけタイムですよ!」

「...やっと出番。」

 

あの緑とピンク!イズナちゃんとミラちゃん!?

 

「何でここに!?」

「お気楽な化け物です。私たちの狙いはクラレント。諦めたつもりはないのです。」

「ずっと、見張ってた。」

 

嘘!?諦めたと思ってたのに...。

 

「例の真を狙う魔導師ですか。面倒なタイミングで出てきたものです。」

「獲物が1、ムカつく奴が1、どうでもいいのが1。」

「...まとめて、やる。」

 

ミラちゃんが無差別に魔力砲を撃ち放つ。

私たちは飛び退いて回避。

フェイトさんとりーちゃんが空のミラちゃんに接近していく。

 

「手っ取り早く頂くですよ!」

 

チェーンソーを吹かせながらイズナちゃんが私の前に飛び降りてくる。

立ち合うのはこれで3回目。

 

「イズナちゃん。何でこんなことするの。何でレンちゃんを狙うの。前に言ってた、失敗作って何なの?」

「気安く呼ぶな化け物!お前に教えてやる筋合いはないのです!」

 

チェーンソーを轟かせながら突っ込んで来る。

前まではどうすればいいのか分からなかった。だけど今は。

 

「...。」

 

左手を伸ばし、右腕は曲げ拳を軽く握る。

この構えを取ると不思議と落ち着いてくる。

冷静に相手を見る。

衝動に任せた突進。

...大丈夫、見えた。

 

「くたばれー!!」

「せいッ!」

 

身を翻し突進を躱す。その勢いのまま右足で背中を蹴り飛ばした。

 

「なっ!?」

 

イズナちゃんは勢いのまま吹っ飛び、地面を磨り減らす。

 

「ぐっ...!お前ぇ...!」

 

イズナちゃんを見据え、構え直す。

 

「私が勝ったら、お話聞かせてくれる?」

 

躊躇いはいらない。殴った先に、未来はあるはずだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「めんどくさい...。」

 

魔力砲を放ち牽制するが、二人の空戦魔導師は華麗に回避を続ける。

ミラの戦闘方法は基本的に、イズナが前衛に出ることを前提としている。

コンビで動いてこその大火力。

単独で機動力のある相手を担当するのは不得手なのだ。

 

作戦としては、イズナが速攻でターゲットを確保し撤退するはずだった。

しかし遠目から見る限り、イズナはあの化け物に追い詰められているようだ。

暴走さえしなければ雑魚だと侮っていた。

やはり『本物』、ということだろうか。

表情は変わらないが、内心苦い思いをミラは抱いていた。

『力』を解放すべきか、撤退するべきか。

考えていたミラの視界に奇妙な物が映る。

 

「ロボット?」

 

複数の人型ロボットのような物がこちらに飛行してくる。

 

「まさかあれは...!」

「例の新型ドローン...!」

 

空戦魔導師二人はどうやら知っている物らしい。

管理局付近での戦闘だ、管理局のドローンなのだろう。

 

「邪魔。」

 

ドローンに向けて魔力砲を放つ。

並みの機械ではこれで跡形もなくなるはずだ。

並みの機械ならば。

 

『ー。』

 

ドローンたちに傷は付かなかった。

着弾する直前に魔力が霧散したのだ。

 

「AMF...!」

 

フェイトがバルディッシュをザンバーモードに切り替え、そのまま斬りかかる。

 

『ー。』

 

ドローンは金属のその腕で刃を受け止めてしまう。

 

「!?」

 

咄嗟に蹴り飛ばし、フェイトは距離を取る。

 

「AMFでも、魔力で強化した斬撃は無効化出来ないはず...!スカリエッティの物より強化されているの!?」

 

ドローンは散開し、真とイズナにも迫る。

 

「何ですかこのヘンテコは!?」

「これがりーちゃんが言ってた...!」

 

イズナがチェーンソーを躊躇いなく叩き付ける。

金属を削る音が辺りに響く。

 

「無駄にガッチガチです...!」

「この...!」

 

真が右拳を叩き付け、ドローンは派手に吹っ飛ぶ。

 

「大丈夫!?イズナちゃん!」

「敵の心配なんてお前バカですか!?」

『こいつとは気が合いそうだな。バカかお前。』

 

戦況を冷静に観察していたリーゼが真に念話を行う。

 

『真。この混乱に乗じてハラオウン執務官と魔導師にドローンを押し付けます。合図をしたら走って下さい。』

『え!?でもフェイトさんたちが...。』

『大丈夫です。ハラオウン執務官であればこの数は対処できるはず。このままでは突入すらできません。』

『...分かった。』

 

リーゼが魔法陣を展開し、拳銃を構える。

 

「スタンショット!」

 

放つと同時に凄まじい閃光が辺りを包む。

 

「!?」

 

フェイトとイズナ、ミラは思わず目を庇ってしまう。

その隙に真は駆け出し、リーゼの元に飛び上がる。

 

「りーちゃん!」

「真!」

 

飛行するリーゼの手を掴み戦域から離脱。

そのまま管理局本部に向かっていく。

 

「真、リーゼ...!」

「ごめんなさい...。」

 

引き留めるフェイトを残し、真とリーゼは目的地へと向かうのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

◼️□管理局本部◼️□

 

「おかしい。このタイミングでドローンを使って来たのも、こちらに警備がないのも。まるで誘い込まれているような...。」

「誘われてる?」

 

確かに、ドローンが出てきたのは私たちに気づいていたからだよね?

なら管理局に近づけば近づく程、敵の攻撃は激しくなりそうなのに。

何だか静かなような...。

人はいる。だけどいつも通りな感じだ。

警戒もされていないし、このまま部屋まで行けるのかな?

 

「真。そう簡単にはいかないようです。」

「え?」

 

振り返るとそこには、身の丈程にも大きな刀を担いだクレアさんの姿があった。

 

「リーゼ。中将がお前をお待ちだ。」

「待っているですって...?」

「お前を自らの手で始末したいそうだ。」

 

クレアさんが冷たく言い放つ。

 

「...貴女は露払いということですか、先輩。」

「中将と立ち合う以上、お前は助からない。私と戦う以上、そいつも助からない。終わりだ。」

 

りーちゃんを庇うように私は前に出る。

 

「終わらせません。りーちゃんも、あなたも。」

「真!貴女一人では先輩には...!」

「大丈夫。」

 

いつも見たいに手を握って、微笑みかける。

 

「りーちゃんの分まで想いを伝えてみせる。だから、ここは私に任せて。

大丈夫!必ず追い付くから。

ちょーっと待っててね!」

「真...。」

 

りーちゃんから手を離し、クレアさんに向き直る。

 

「っ...。必ず、来て下さい。待ってますから!」

 

りーちゃんが飛び立つ。

背中がどんどん小さくなる。

大丈夫、私もりーちゃんも負けない。絶対に負けられないんだ。

 

「工場で一度会ったな。お前はリーゼの何だ。」

「友達です。何より大切な、親友です。」

「...そうか。」

 

クレアさんは少し目を閉じ、やがて頷いて鋭くこちらを睨んだ。

 

「それはとても残念だ。」

 

一瞬にしてクレアさんが私の目の前に接近する。

速すぎる!あんなに重そうなのに...!

刀を横凪ぎに振り抜く。

私は何とか反応し飛び退くが、再度近づかれ何度も必殺の一撃が迫ってきた。

 

「身のこなしはなかなか!だが...!」

 

気づけば壁際に追い詰められていた。

大上段からの一振りが私に迫る。

 

ガギンッ!!

 

「何だと...!?」

 

金属と魔力がぶつかり合う、激しくけたたましい音が響く。

長大な対艦刀を、私は左腕のガントレットで受け止めていた。

回避はあまり得意じゃない。ヴィヴィオちゃんみたいに相手の動きを見切る目も、頭もないし。フーカ師匠とアインハルトさんみたいな技巧もない。

私にあるのは丈夫な体と、根性。

 

そして。

 

「覇王!断ッ空ッ拳ッ!!!」

「がはっ...!?」

 

全霊の一撃がクレアさんを穿つ。

足の踏ん張りを拳に伝え、文字通り空を断つ一撃と化す。

二週間で叩き込まれたのは、基本の型と、タフネスを活かした戦い方。

教えられた技はこの覇王の拳のみ。

耐えて断空拳を決める。

それだけを真っ直ぐに。勝つまでやるんだ。

そうですよね、師匠!

 

「っ...。油断したのか、私が...。」

 

気を抜かず、立ち上がろうとするクレアさんに向き直り、覇王流の構えを取る。

 

「ナカジマジム所属(仮)!覇王流、星宮真!あなたをぶん殴ってでも、あなたを助けますッ!!」

 

第16話『対峙』




「決まった!覇王断空拳!」
「まあまあじゃな。」
「ええ、及第点ですね。」
「私が受けたフーちゃんの断空拳は、すごくよかったと思うよ。」
「何か、言い方が変態みたいじゃ...。」
「えぇ!?」ガーン
「次回もリリカルマジカル、頑張ります!なのはママ、大丈夫かなぁ... ?」


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第17話『不屈の魂はこの胸に!』

何か長くない?←


◼️□管理局・執務室◼️□

 

豪奢な飾りの付いた扉に手を掛ける。

部屋の外からも分かるプレッシャー。

この先に彼がいる。

リーゼは緊張を振り切り、開く。

 

「来たか、賊。」

「石動、刃凱...!」

 

デバイスを構え銃口を石動に向ける。

 

「儂を殺すか。」

「投降しなさい!貴方の行いは許される物ではありません!」

 

銃にもまったく動じず、石動は笑みさえ浮かべて言葉を返す。

 

「許しなど必要ない。儂こそが管理局の正義。貴様こそその正義を阻む悪ではないか。」

「正義?クレア先輩を脅し、仲間を殺して。やっていることはスカリエッティの発明の再利用でしょう。それのどこに正義があるのですか!」

「犠牲なくして勝利なし。あれもそこそこに役に立った。前のJS事件もまた、必要な犠牲だ。管理局という組織が如何に魔法に頼りきりとなっているか。それを証明し、AMFという置き土産まで残した。実に僥倖。」

 

リーゼは拳を強く握り締める。

許せない。

あの事件はなのはさんたちが必死になって解決したものだ。

悲しい犠牲もあった。

それを運が良かったと宣うのか、こいつは。

 

「そんなに陸が海に劣っているのが嫌なのですか!そんなに権力が欲しいのですか、貴方は!」

「陸が海に劣る?それは軍事力か?社会信用か?違うな。『魔法』ではないのか?」

 

石動は立ち上がり、銃口を向けられながらもリーゼに近づく。

 

「貴様の陸が海に劣っているという認識。それは管理世界においての共通認識だ。優秀な魔導師は海に引き抜かれ、陸には残らない。世論には陸が必要ないと考える馬鹿者共もいるそうだ。だが問題はそこではない。

事は管理局『だけ』の問題ではない。リーゼ・グレーデン。貴様は生まれつき才能を持った魔導師だったな。ならば気づかないだろう。お前が『持っている』せいで、『持たざる』者が生まれてしまうことを。」

 

リーゼの脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。

 

「今や魔法を頼りに文明は栄え、魔法こそが日常と化している。しかし、人類はどうだ。未だ魔法を使える者、使えない者が同じだけ生まれ出ている。貴様が恵まれているのではない、貴様が『普通』とみなされる世界なのだ。ならば魔法を使えない者はどうなる?『普通ではない』劣ると判断された者たちはどう生きる?魔法を使える者が支えるか?それでは愛玩動物と何が違う。魔法を使えない者に人権はないと、そう宣うつもりか?」

「っ...!拡大解釈です!魔法の優劣なんて」

 

雪崩れ込むように言葉が続く。

 

「優れていて良かったと思っただろう。魔力資質も、空戦適性も。『あって良かった。』と感じたはずだ。」

「!」

 

魔法を使えない人がいるのは知っている。まーちゃんもほとんど使えない。

私に才能があると知って嬉しかった。

管理局の試験には当然合格した。

だけど落ちた人は確かにいた。

特別教導も、並みの才能の人はそもそもチャンスすら与えられない。

管理局だけじゃない。

魔法の才能があれば学校も仕事も優遇される。

 

「理解したようだな。誰だろうと使える機械とは違う。魔法は生まれの才能、先天的優位だ。そんなものに頼る世界が正しいと思うか。儂は思わぬ。優秀な魔導師に頼る平和、確かに救える命はある。しかし取り零す命の方が多い。そして同じだけ危険も増え続ける。魔法を利用した犯罪など腐る程あるだろう。魔法を使えぬ者は容赦なく蹂躙される。それが貴様ら小娘の語る正義だ。」

「違う!だって。なのはさんは私を...。」

 

私は救われた。でもパパは?

もしあの場にもっと多くの人手があれば?

 

「魔法では全てを救えぬ。救うどころか新たな悲劇を、差別を生み出す。魔法は便利な道具程度でいい。守護の力、破壊の力として使えばいずれ身を滅ぼす。だからこそ、儂の『ガーディアン』が必要なのだ。

人ではない命令で動く鉄人。魔法を否定し、誰もが扱える力。儂には見える。真の守護者となるアーマーたちの姿が!」

 

まるで演説だ。

これが石動刃凱という男か。

だが、屈するわけにはいかない。

 

「ならば正当な方法で訴えるべきです!こんな手を使って、誰が納得できると言うのですか!」

「小娘が。正当な手段ならとっくに試した。許さなかったのは貴様が言う海の連中だ。正義の味方だと?笑わせるな。奴らこそ今の地位が脅かされるのを嫌い、保身に走ったのだ。」

「そんな、こと...!」

 

あり得なくは、ない。

寛容な海といえど、私の知っているなのはさんたちは一派に過ぎない。

実際は陸と大差ない腐敗がある可能性は捨てきれない。

 

「今の管理局に正義はない。儂がこの手で世界を守護する。永劫の時を経ても、儂という正義が守護し続ける。この間違った世界を救ってやると言っておるのだ。」

 

間違っている。そんなこと出来るわけがない。

だがこの老人から感じる威圧感と覚悟。

本気で言っている。

彼は本当に守護者となるつもりだ。

 

「認められません!貴方が正義であるものか...!」

「最早餓鬼の駄々よ。元より理解は不要。貴様は試し撃ちの的だ。」

 

瞬間。

執務室の窓から弾丸が炸裂する。

石動には当たらず、窓や備品を破壊しながらリーゼに殺到する。

咄嗟に障壁を張るリーゼだが、弾は尽きることなく放たれ続ける。

 

「くっ...!」

 

障壁を張りながら移動、窓の外へ飛び出すとそこには。

 

10mを超える巨大な機動兵器がリーゼを見下ろし待ち受けていたのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□管理局中庭◼️□

 

『無茶が過ぎるぞバカ!魔力を集中させなきゃ腕が飛んでたぞ!』

「ごめん!じゃあここからもそれでお願い!」

 

左腕にはまだ攻撃された衝撃が残ってる。

無理を通すしかない。

真にとってクレアは格上だ。

修行の時もそうだった。

スパーの相手はいつも格上だった。

格上相手には余裕とか、落ち着いてとか、そんなこと言う暇などない。

常に全力、常に限界。

無理を通さなきゃ格上に勝つことなんて夢のまた夢。

 

「...格闘タイプか。昔ならば立ち合いを楽しめたかもしれないが。」

 

クレアは立ち上がり、魔法陣を展開する。

 

「残念だ。蹂躙させてもらう。」

 

魔力の雨が真に殺到する。

遠距離から魔力弾の連打が放たれる。

近距離を得意とするのは真もクレアも同じだが、真と違いクレアには遠距離で戦う術がある。

真っ向から撃ち合う必要はなかった。

 

「!」

 

だが相手がその手に出るのも真は想定済だった。

故に考えた。

遠距離でも近距離と同じように戦えるようにすればいい。

砲撃は蹴撃、弾は打撃と思え。

魔力を拳、腕、足に集中させ魔力の塊を殴り蹴り、弾く。

弾は確かに高速だが、近距離で放たれるフーカたちの拳の方が速い。

今の自分には見える。見切れるはずだ。

自分を鼓舞し、真はクレアの攻撃を捌いていく。

 

「...なるほどな。素人ではないか。」

 

クレアは再度魔法陣を展開。

そのまま真に向かって駆け出す。

すると、クレアの影が3つに増えそのまま3人に分身した。

 

「ぶ、分身!?」

『惑わされんな!どうせ実体はねぇ!』

 

3人となったクレアが同時に刀を振り下ろす。

真ん中を本物と考え、防御を行うが。

 

「あぐっ!?」

 

左右の攻撃が同時に真の左腕と右足を直撃した。

 

『実体...!?嘘だろ!?』

 

そのまま真に本物のクレアの斬り上げが迫る。

 

「っ!?」

 

ガードするが勢いは止められず、先程とは逆に真は吹っ飛ばされてしまう。

 

「私の『これ』は特別だ。幻だとでも思ったか?」

 

まったく同じ動作で刀を肩に担ぎ直す。

 

『立てマスター!次が来るぞ!』

「っ...。分かってる...。」

 

本物の直撃は避けたがダメージはある。

切断されたわけではないが、腕と足には痛みが走る。

やはり格上。一瞬でも気を抜けばこうだ。

 

「行くぞ。」

 

再度クレアたちは接近。

先程と同じく同時に斬撃を放つ。

 

「ぐぅっ!」

 

それを真はなす術なく喰らう。

喰らったように見えた。

今度は膝を付かず拳に力を込める。

 

『確かに痛い。だけど耐えられない程じゃない。軽いんだ、本物より威力がない!』

 

戦い方は変えない、耐えて一撃叩き込むだけ。

 

「断空拳ッ!」

 

焼き直すようにクレアが吹っ飛ぶ。

全身に痛み。

グッと堪えて、構える。

 

『大丈夫、確実に当てていけば勝てる。』

 

しかしクレアは立ち上がる。分身も未だ健在だ。

 

「なかなか無茶をする。確かに分身の攻撃は私より軽い。だが。」

「...!」

 

真の腕と足から力が抜け、倒れてしまう。

 

『何だ!?』

「人体はそこまで丈夫ではない。的確に攻めれば脳の命令など関係なく崩れ落ちる。心が強くても、限界はあるということだ。」

 

読んでいた。

真が耐えることも、分身の仕組みを理解することも。

だからこそ分身に体を攻撃させ、ダメージを蓄積させた。

たった二撃でも急所を付けば崩せる。

クレアは幼少期よりそう訓練されてきたのだった。

 

「終わりだ。星宮真。」

 

容赦なく分身が迫り、真を斬り蹴り上げる。

 

「あぁっ!?」

 

空中に飛び上がったクレアが魔力を込めた刃を両腕で振り抜く。

 

「墜星斬。」

 

刃は真を切り裂き、地面に叩き付ける。

動かなくなった真を見下ろし、クレアは血を払うように刀を振る。

 

「...悪役がお似合いか。憧れたのが、間違いだったかな。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

□◼️管理局近郊□◼️

 

「ミラ!」

「イズナ。大丈夫?」

 

ドローン、石動に『ガーディアン』と呼称されていたそれが襲撃してきたのが30分程前。

魔法が効かないそれにミラもイズナも苦戦したが

フェイトが魔力を大量に込めた武器で全て切り伏せてしまった。

その姿に彼女もまた化け物だと二人は戦慄していたのだが。

 

「ハァ...ハァ...。」

 

フェイトは肩で息をしている。

流石に無理をしたらしい。

先程までの余裕はなくなっている。

 

「やるなら今がチャンス。」

「はいです。元よりこのままのんびりしてたら捕まる身。ヤられる前にヤるですよ!」

 

疲労したフェイトにイズナが接近。

チェーンソーを振り下ろす。

 

「...!」

 

咄嗟に回避するフェイトだが、すかさずミラが魔力の散弾を放ち確実にフェイトに直撃させていく。

 

「うぐっ...。!」

 

負けじとフェイトも雷の矢を精製し高速でミラに射出。

同時にイズナに接近しバルディッシュに魔力を込めた上で叩き付ける。

 

「はやっ...!」

「危っ!?」

 

二人を相手にし疲労しながらも、フェイトの力は健在。

一度距離を取り、彼女との戦力差を今一度理解した二人は頷き合う。

切り札を切る時が来た。

 

「いくですよ、ミラ。」

「ん。やるよ、イズナ。」

 

手を繋ぎ、二人は叫ぶ。

 

「「ミストルティン!モード、リリース!」」

 

二人を黒い魔力の奔流が包み込む。

凄まじい魔力量。

それが晴れた先には通常と違い

青黒く、赤黒く、そして鋭い鎧に身を包んだイズナとミラの姿があった。

 

「ミストルティン?この魔力量、まさか...!」

 

ロストロギア!

まさか彼女たちも真と同じロストロギアをその身に宿しているのだろうか。

フェイトがそう考えた時にはもう、目の前にチェーンソーが振り下ろされていた。

 

「あぁっ...!?」

 

鮮血。

避けきれず刃がフェイトの腕を裂く。

苦しむ間もなく、凄まじい魔力量の砲撃が降り注ぐ。

障壁を展開するが、今度は防ぎ切れず直撃を受けてしまう。

 

「オチロ...!!」

 

ミラの砲撃に合わせ、イズナも魔力砲を放つ。

二色の魔力砲はフェイトを呑み込み、彼女はそのまま墜落してしまった。

 

「ヤッ、タ。」

 

禍々しいオーラを纏いながら、ミラが勝利を確信する。

二人は寄り添い、自らの力に再び枷をかけようとするが。

 

『真・ソニックモード。』

 

無機質なデバイスの音声が流れた瞬間、周囲に稲妻が迸る。

墜ちた方角から黒い影が迫り来る。

 

「シブトイ...!」

「バケモノ、デス!」

 

愚痴る二人には明らかな疲労の色が見える。

 

『真とは違う?尋常じゃない魔力の量。あのパワーとスピード。反動があるのか。じゃあ、長引けば危ないのはむしろ...。』

 

この二人の事情は分からない。

何故犯罪を犯すのか。何故真を狙うのか。

しかしこの子たちはまだ子どもだ。

子どもで、お互いを思い遣っていることだけは分かる。

ならば。

 

「助けなきゃ。話を聞いて、止めさせないと...!」

 

今も昔も変わらない。

敵を打ち倒すのではなく、命を救い分かり合う為に戦う。

 

「そうだよね、なのは...!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

□◼️管理局中庭□◼️

 

痛い。

血が出てるし、体が動かない。

負ける。

このままじゃ負けだ。

起きなきゃ。

まだ何にも話聞けてない。

何故自分は生きている。

その気になればさっきの一撃で私を殺せたはずだ。

優しい人なんだ。

こんな状況でも、あくまで管理局員として拘束までに抑えておきたいんだろう。

伝えなきゃ、りーちゃんの気持ち。

こんなとこで倒れてられない。

りーちゃんが待ってる。

クレアさんと、私を。

 

「っ...。ぐっ...!」

「!...何故、動く。」

 

動かない腕も足も。地面に押し付けるように立ち上がる。

激痛。

ふらついて立つのがやっと。

 

「レン、ちゃんッ...!」

『しょうがねぇマスターだな...!』

 

魔力を無理矢理流し、腕と足を制御する。

ずっと痛い。すごく痛い。

だけど、動く。

 

「まだ、負けてないから...ッ!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□管理局・上空◼️□

 

『逃げても無駄だ。エルダー・ガーディアンは並みの空戦魔導師を凌駕する速度だ。』

 

巨大起動兵器、エルダー・ガーディアンはリーゼを追跡。

多彩な銃火器を用いてリーゼの退路を絶っていく。

 

「くっ...!何も考えずにばら蒔いて...!」

 

下は管理局と普通の街だ。

こんな巨大な兵器を使うなんて。

とにかく誘導しなければと飛行するリーゼだったが、余りにも苛烈な銃撃に晒されついに被弾してしまう。

 

「しまっ...!?」

 

すかさず銃撃が重なる。

直撃し、墜落。

幸い工場地帯に落下したようで人はいなかったが、高高度から落下した衝撃は殺しきれずリーゼの体にダメージを与える。

 

「っ...!このまま、では...!」

 

博士からもらった秘策を使う余裕もなく終わってしまう。

 

『ー。』

 

エルダー・ガーディアンは着陸し、動けないリーゼに銃口を突き付ける。

 

「まず、い...!」

 

この期に及んで体が震えている。

やはり私は弱いままだ。

覚悟を決めたのではないのか。

泣きそうになる。

怖くて堪らない。

 

ならここで諦めるのか。

 

ここで諦めたら、失った物は何も帰られない。

取り返すんだ、私の宝物。

大切な物を全部。そう約束したではないか。

耐えられるかは分からない。

だけどやるしかない。

目一杯の障壁で防ぎきって、このデカブツを壊す。

あのジジイも捕まえる。

正義なんて知ったことか。

私は私の守りたい物を守る。

その為の力だ。

その為に学んだ知恵と勇気と力。

そして。

 

「諦めない、心...!!」

 

弾ける魔力の光。

それはリーゼが放った物でも、ガーディアンが放った物でもない。

ガーディアンの上空から降り注いだその桜色の光は、星のように煌めき。

AMFを物ともせず、ガーディアンに損傷を与えた。

 

リーゼは見上げる。

空に輝く白い星を。

忘れるはずがない。

かつて自分を救った光景。

今も昔も、貴女はそうやって救ってくれた。

 

『また泣いちゃったその時は。』

 

頭に浮かぶ最後の思い出。

今と同じ笑顔で、約束してくれましたよね。

 

「助けに来たよ、リーゼ。」

 

風は空に。星は天に。

輝く光はこの腕に。

 

第17話『不屈の魂はこの胸に!』

 




「なのはママとフェイトママ揃い踏みだね!」
「まだ会えてはいないんだけど...。」
「細かいことは気にしないの!二人とも頑張ってね!」
「うん、全力全開で頑張るね。」
「それも悪くないけど、ほら。何か忘れてなーい?」
「え?...さ、流石にもう卒業」
「はいじゃあママたち二人でせーの!」
「「り、リリカル、マジカル...がんばりまーす...。 」」
「声がちいさーい!」
「「が、がんばりまーすっ!」」


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第18話『Starry Wish』

こんなん管理局めちゃくちゃやんけ!どうすんだこれ←


「助けに来たよ、リーゼ。」

「なのは、さん...。」

 

白き星が降り立つ。

リーゼを庇うようにエルダー・ガーディアンに立ち塞がる。

 

「何故来てしまったのですか...!犯罪者を助けたりしたら、なのはさんの立場が!」

「リーゼ。」

 

動揺するリーゼに優しく語りかける。

 

「犯罪者じゃない、私の大切な教え子だよ。約束したよね、助けに行くって。私は立場が欲しくて魔法を手にしたんじゃない。困っている誰かに手を伸ばす為、その為の力。

...リーゼはすぐ一人で無理しちゃうから。帰ったら、ちょっときつめのお説教だからね。」

 

軽くウィンクしてみせるなのは。

危機的状況だと言うのに、その余裕はくぐってきた修羅場の数故か。

それとも不屈の魂をその身に宿している故か。

 

『高町一等空尉。管理局の規定に則り待機を命じたはず。教え子可愛さに賊と成り果てたか。』

 

ガーディアンより石動の音声が流れる。

 

「賊はあなたの方です、石動中将。

友達が無茶を通して私をここに行かせてくれた。後輩が証拠を集め、あなたの所業を突き止めた。あなたの負けです、投降して下さい。」

『笑止千万。狸娘の浅知恵など恐るるに足らず。貴様諸とも賊を始末し、エースの反乱として公表。打倒したガーディアンの性能は世界に認められ、儂の計画は遂行される。すべて予定通りよ。』

 

返答を予想していたのか、なのはは淀みなく杖を構え宣言する。

 

「このドローンを破壊して、リーゼを守って、あなたを拘束する。それで全て終わりにします。行くよ、レイジングハート。」

『了解しました、マスター。』

 

エルダー・ガーディアンが標的をなのはに定め、実弾兵器の弾丸を炸裂させる。

対してなのはは障壁を展開。

 

『マスター、魔力阻害を検知。出力が通常の70%となっています。』

「っ...。武器にも応用してるんだ。」

 

背後のリーゼをチラリと見てなのはは上空に飛ぶ。

弾丸も彼女を追い、射線上からリーゼが離れる。

障壁の展開を止め、空中軌道による回避に移る。

まるで鳥のように軽快な動きにガーディアンは翻弄されているようだ。

しかし避けてばかりでは状況は変わらない。回避の合間に拘束しようとバインドを放つも、触れた途端魔力が霧散してしまう。

速度重視の魔力弾も牽制にすらならない。

 

「ダメ。拘束も出来ない。高出力の魔力を浴びせ続けるしかないみたい。」

『先程の一撃も軽微な損傷を与えるのみでした。』

 

なのはの額に冷や汗が浮かぶ。

想像以上の魔法対策。

前のガジェット・ドローンより遥かに厄介だ。

空中軌道を続けながら思考を張り巡らす。

その最中。

エルダー・ガーディアンの弾倉が放たれることなく爆発した。

 

「効いた...!」

「リーゼ?」

 

リーゼのデバイスより放たれた2つの弾丸。

それはAMFを『打ち消す』ように機体を貫いていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□前日・バレンシュタイン研究所◼️□

 

「完成出来たのはそれだけ。二週間で新しく発明したんだから、数に関しては大目に見てね。」

 

財布サイズのカートリッジケースが手渡される。

 

「使えるのですか?」

「たぶんね。実験も出来てないから保証はしな...でもそうね。この天才の天才的理論で作ったんだもの。きっと効き目バッチリよ!」

 

どこからその自信が出てくるのだろうか。

呆れつつケースの中身を確認する。

見た目は通常のカートリッジシステムの物だ。

問題はその中身。

 

「アンチAMF...。」

 

魔力阻害領域。それを『中和』し『無効化』する為の弾丸。

本当に作ってしまうとは。

これが常態化したら石動の野望など水泡に帰す。

凄まじい発明なのだが。

 

「設計図は私の頭の中にだけ。戦争の道具にされても困るもの。」

「...助かります。」

 

これが新しい火種になっても困る。

その点この変わった博士は信用できる。

少なくとも管理局に靡くタイプではない。

 

「A.AMF...Aが重なってていまいちなネーミングだわ。そうね...ボイド。VAMF弾ってところかしら。」

「VAMF...。」

「ヴィクトリーのV!なんちゃって♪」

「はぁ...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「認めざるを得ませんね、あの天才。」

 

弾丸は後9つ。

弾倉を破壊すれば誘爆によるダメージを狙えると思ったが、致命傷には成り得ない。

問題は2つ。

AMFがなくともガーディアンの装甲は強固だ。

生半可な火力では破壊できない。

そしてもうひとつ。

VAMF弾を放ち中和させた後、同じ位置に攻撃を命中させなければいけない。常人であれば使いこなすことすら難しい。

狙撃は得意だ。しかしリーゼでは火力が足りない。

誰もが認める火力と、正確な射撃を兼ね備える人間をリーゼは『二人』しか知らない。

リーゼは幸運だった。

 

「なのはさん!」

「シュート!」

 

リーゼがVAMFを放つと同時に、まったく同じ箇所にアクセルシューターを炸裂させる。

飛び散る装甲。

初めて『ダメージ』が与えられた瞬間である。

エース・オブ・エース。

高町なのはがここにはいる。

 

『AMFを貫通しただと!?』

 

ここにきて初めての動揺。

AMFの無効化をそう簡単に成し遂げるなど、石動に予想出来るはずもなかった。

 

「合わせてリーゼ!」

「はい!」

 

師弟二人は空中機動を行い攻撃を避けつつ、息の合った動きでガーディアンを翻弄する。

 

「そこ!」

 

リーゼは流れるようにガーディアンの四肢にVAMF弾を撃ち放つ。

それを分かっていたかのようになのははバインドを発動。

今度こそガーディアンの動きを完全に止める。

ダメ押しにVAMF弾を二発胸に撃ち込み、すかさずデバイスをライフルモードに。

なのはとリーゼは魔法陣を展開。

全身の魔力をデバイスに集中させていく。

 

「全力、全開!」

「ディバイーン!」

「「バスターーーッ!!!」」

 

桜と紫の極光がエルダー・ガーディアンを撃ち抜く。

師弟の放った砲撃は偽りの守護者を貫き地へと堕とす。

全霊の光が辺りを眩しく照らし出した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□管理局付近◼️□

 

真・ソニックフォーム。

極限までスピードを強化し、防御を投げ捨てた諸刃の剣。

攻撃を喰らえば負ける。

その緊張感の中で、人外の力を持つ二人を相手取りながらもフェイトは圧倒していた。

砲撃と斬撃のコンビネーションを掻い潜り、必殺の瞬間を待つ。

 

「ミラ...!」

「ラジャー...!」

 

痺れを切らした二人が魔力を更に解放。

どす黒いオーラが更に濃くなっていく。

 

「ケシトバス...!!」

 

巨大な魔法陣が二人を中心に展開。

ミラから大量の魔力が放出され、イズナに流込んでいく。

 

「まずい!あんなのをここで撃ったら...!」

 

市街地はそう遠くない。

避けたら間違いなく、防いでも余波だけで甚大な被害が出る。

 

「グ、ァ...!!」

 

膨大な魔力量にイズナが苦しみ出す。

 

「っ...。そうまでして何故貴女たちは...!ブレイカーで迎撃、対象を鎮圧する!」

『了解』

 

バルディッシュが大剣モードに変化。

周囲に四散した魔力がフェイトの元に集まっていく。

一手ミスすれば大惨事。

しかしこれくらいの困難、フェイトは何度も乗り越えてきた。

ぶつかり合っても、どんな危機的状況であっても諦めず戦い抜いてきた。

そうして得た絆がフェイトにはある。

今度も同じ。

彼女たちを知る為にも、この程度で終わるわけにはいかない。

 

「マスト、ダーーイッ!!!」

 

どす黒い死の鎌がフェイトに放たれる。

 

「プラズマザンバー!ブレイカーーーッ!!!」

 

合わせるように雷の刃が放たれ、激しく魔力がぶつかり合う。

互いを打ち消し合いながら混ざり合う光。

しかし次第に黒は黄色に塗り潰され始め、やがて死の鎌は霧散する。

 

「私たちは、失敗作...。」

 

迫り来る雷に絶望するイズナ。

しかしブレイカーは二人を直撃することなく空へと駆け上がって行った。

 

「え...?」

 

呆気に取られるイズナだったが

気づけば姿はいつものBJ姿に戻り、体から力が抜ける。

 

「イズナ...!」

 

同じく元の姿に戻ったミラがイズナを抱き止める。

すかさずフェイトが接近、二人をまとめてバインドで拘束する。

 

「っ!?」

「動かないで。彼女も貴女も、もう限界のはず。命を奪ったりしない。だからもう諦めて。」

 

苦虫を噛み潰したような表情でミラはフェイトを睨むが、すぐにミラも気絶してしまう。

慌てて二人をキャッチするフェイト。

こうして見れば年相応の少女なのだが、と彼女は思う。

 

「早く真たちを追い掛けないと...っ。」

 

少しふらつきながら飛行する。

少なくない疲労がフェイトを襲う。

 

「行かなきゃ...。なのはの守りたいもの、私が守るんだ...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

今でも思い出せる。

あの部屋、あの明かり。

あの声と、あの言葉。

 

私はとある殺し屋の家に生まれた。

代々殺しを生業としている家。

幼少の頃からひたすら人を壊す技を叩き込まれた。

その中でも剣術は一番得意な技だった。

武器が目立つので暗殺には向かないと、親は大して興味がなさそうに言っていたような気がする。

 

10歳の頃、私はすでに何度も人を殺めていた。

仕事はたくさんあった。所謂悪人が標的の仕事は多かったが、勿論それだけじゃなかった。

何も感じない。すでに人間の思考など私にはなかった。

私は、化け物だった。

 

そんな時、ある仕事が舞い込んできた。

そう珍しくない、役人の暗殺依頼だった。

簡単と踏んだ両親は私にこの依頼を担当させ、私は当然のように依頼を完了させた。

何てことない、屑の始末だ。

刃を拭い、現場から離れようとする。

しかしそこで私はふと、役人の部屋に隠し扉があることに気づいた。

普段なら無視をする、するべき扉だったが

何故かその時だけ、異様にその部屋が気になった。

扉を乱暴に破壊し、地下に続く階段を降りる。

調度いい、財産目当ての犯行と思わせられるなどと考えていた。

階段が終わり、また扉が見える。

扉を開くと、ランタンの薄明かりと質素な最低限の家具だけの部屋。

そして。

 

「だれ?」

 

鈴のように響く声。

薄青色の髪、白い肌。

儚い、というのはこういうことか。と子どもながらに思った。

愛玩用か、もしくは何かの実験動物か。

可哀想とか、そういう感情は湧かなかった。

ただ彼女の方は違ったらしい。

私に近づき、ジロジロと観察してくる。

 

「私と同じくらいの年の子、初めて見た。お名前は?私はエレナよ。」

「...。」

 

会話せずエレナと言うその少女を見る。

始末するべきか。

姿を見られてしまった。

刀を握る手に力が入る。

そんな私に気づかず、彼女は話続ける。

 

「もしかして助けに来てくれたの?あのオヤジ、最低なんだから。もしそうなら何かお礼をしなくちゃね。」

 

彼女はタオルを持って来ると、私の顔を拭き始めた。

 

「あんな奴の血なんて付いてたら、せっかくのキレイな顔が台無し。...うん、これでよし。」

 

彼女は私に微笑む。

腕を上げ、彼女に向けて刃を構える。

彼女は驚きも怖がりもせず、ただ微笑んだまま呟く。

 

「私を殺すのね?...じゃあ、あなたが私を覚えていてくれる?」

 

手から刀が滑り落ちる。

何故かは分からない、ただ殺したくないと初めて思った。

 

「...クレア。」

 

彼女は、エレナは初めて驚いたような顔をして。

私の血だらけの手を握り、再び私に微笑んだ。

 

「クレア。...そう、クレアね。助けてくれて、ありがとう。クレア。」

 

それが私たちの初めての記憶。

化け物を人間にしてくれた、彼女との出会いだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□管理局中庭◼️□

 

「まだ、負けてないから...ッ!」

 

なるほど。人並外れた根性とタフネスがこいつにはある。

だがそれだけだ。

最早立つだけでやっと。

 

「ならば、認めさせるだけだ。」

 

敗北を確定している。

気持ちで勝てる程戦いとは優しくない。

 

分身を伴い今度こそ真に止めを刺すべく、クレアは接近する。

先程と同じ光景。

防ごうが喰らおうがどちらも同じ。

必勝を確信し、クレアたちは刀を振るう。

しかし。

 

「何...!?」

 

三人のクレアは皆一様に驚愕の表情を浮かべる。

ほぼ同時にカウンターが炸裂した。

凄まじい速さに正確さ。

急所を撃ち抜かれ、分身二体が霧散する。

 

『アクセルスマッシュ』

 

高町ヴィヴィオのフィニッシュブローであり、広い視野と分析力があって初めて可能となるカウンターヒット。

本来素人に毛が生えた程度の真に扱える技ではない。

しかし、スパーの中で何度もこの技を喰らっていたことが功を奏した。

極限状態の中で真の体が本能的に、勝手にこの技を再現した。

当の本人も何が起こったのか分かっていない様子。

 

『しゃんとしろぉ!』

 

クラレントの言葉に意識が戻る。

咄嗟にガードするクレアに更なる追撃が炸裂する。

 

「っ!」

 

断空拳程の威力は出ないが、それでも重い拳の連打がクレアに殺到する。

必死の拳にクレアも防戦一方となるが、わざと後ろに飛ばされることにより距離を取ることに成功する。

 

「まだここまでの力を...!」

「ハァ...ハァ...!」

 

息も絶え絶えの中、真は言葉を紡ぐ。

 

「りーちゃんから、聞きました...。幼なじみさんを、人質に取られてるんですよね。」

「!...それが何だ。」

 

真は構えを解いてクレアと向き合う。

 

「私とりーちゃんが助けます。だから、もうそんなに辛そうに戦わないでください。」

「辛そう、だと...?」

「クレアさんの攻撃。何度も私を倒せたのに、私はまだ立っている。確かに根性には自信があるけど、あなたから感じる力はこんなもんじゃないんです。無意識に力が出せてない。本当はこんな戦い、嫌なんじゃないですか...?」

 

真の言葉にクレア自身が驚かされる。

それ程までに甘くなっていたとは。

嫌なのは当たり前だ。

あんな外道の駒として利用され、大切な後輩を傷つける戦いだ。

だからと言って、彼女たちに任せるなど論外だ。

エレナの命が掛かっているのだから。

 

「...嫌だからどうなる。そんな簡単に放棄できるなら、私はここに立ってはいない。お前たちが助けるだと?私より弱いお前たちに何が救えると言うんだ!」

 

クレアは柄で真を殴り飛ばす。

無防備な真はそのまま喰らい、地面に這いつくばる。

 

「っ...!確かに、弱い、です。だけど...私たちは諦め、ません...!」

「貴様っ...!」

 

倒れる真に追い打つように蹴りを喰らわせる。

ボールのように跳ね飛ぶ真。

しかし、再び彼女は立ち上がる。

 

「何なんだお前は...。何故まだ立ち上がる。諦めないだと?私だって、諦めたくなかった。だが部下は無惨に殺され、私は奴に敗北した。どうしようもなかった。私は奴より弱かった。お前などに分かるものか!お前のような夢見がちな子どもに分かるものか...!現実は夢じゃない。望んだ通りになんてならない!」

 

刀を乱雑に振り下ろす。

今度は直撃せず、真は受け止めきる。

 

「現実が辛いの、私だって知ってます...。夢が叶わないことも、大切なものを助けられないことも。どうしようもないことがいっぱいですよね。りーちゃんに聞きました。クレアさん、執務官になりたいんですよね?実は、私もなんです。」

 

ボロボロの顔で微笑む。

 

「何を言って...!」

「クレアさんはこんなに強くて、立派な管理局員です。きっと執務官になれると思います。幼なじみさんの病気は、治るなんて簡単に言えないけど...。だけどこれが終わったら、きっと笑顔で会いに行けると思います。」

「黙れ...!」

 

無理矢理押し斬ろうとするクレアを弾き、再度真は距離を取る。

 

「りーちゃんとはついこないだ再会したばっかりで。最初はちょっと喧嘩しちゃって。だけど今は、また会えて本当に嬉しいんです。私もクレアさんも大切な幼なじみがいて...。私たち、似た者同士ですね...♪」

「笑うな...!私たちは敵同士だぞ!」

 

その微笑みはどこかあの時のエレナと重なる気がして、クレアの神経を否応なしに逆撫でする。

 

「りーちゃんと昔別れて、辛かったけど。諦めなかったから、また会えた。無くしたものは戻らないし、辛い思い出もなくなってくれない。だけどそれでも、未来はあるし、夢は叶うかもしれない。クレアさんには力も、大切な守りたいものもある。クレアさんの望み通り、私とりーちゃんを倒した先に、幸せな未来はありますか?」

「未来...だと...?」

 

刀を握る手に力が籠る。

 

「未来など見えるものか!お前たちは石動には勝てない!私も不要になれば消され、エレナを守るものはいなくなる!あいつは...あいつはいつ死ぬか分からない...輸血があろうとなかろうと、いつ明日を失うか分からないんだ...!エレナは私の全てだ!あいつが私を人間にしてくれた!だから!エレナを守る為なら私の未来などどうでもいい...!!」

 

感情を爆発させ、クレアが叫ぶ。

涙さえ浮かべながら魔力が対艦刀に集まっていく。

 

『ブレイカーか...!マスター!』

 

真もまた、右拳に魔力を集中させる。

稲妻が迸り、紅い魔力に包まれていく。

 

「どうでもよくなんかない!りーちゃんの未来にも、そのエレナさんの未来にもっ!クレアさんはいるんだッ!勝手に諦めるな!私たちを信じてください!クレアさんを越えて!あのお爺さんを越えて!私たちがブン守りますッ!だから!絶対に諦めさせてなるものかぁッッ!!!」

 

「砕け散れぇーーッ!!!」

「我流!雷潰拳ーーーッッ!!!!」

 

放たれる破壊の一撃。

紅の稲妻と化した真が、真正面からぶつかる。

迷いなき拳に振り抜く重さなどなく。

拳に宿した決意が、ただ光の波を潰し砕いていく。

光から飛び出た真の姿にクレアは未来を見る。

もし私にも未来があるのなら。

またエレナと笑い合えるのだろうか。

 

幸せだな、と感じる。

そんな未来が来るのであれば。

 

「信じてみるのも、悪くない...。」

 

クレアは倒れ意識を失う。

心なしか、幾分安らかな寝顔になっているように見える。

そんなクレアの顔を見つめた後、真は歩み出す。

 

「クレアさんの願い、きっと叶えますから...!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□管理局付近・工事地帯◼️□

 

「やった...?」

 

息を整えつつ、動かなくなったエルダー・ガーディアンを観察する。

完全に機能は停止したはずだ。

胸には大穴が空いている。

 

「何とかなったみたいだね。リーゼ、ケガはない?」

「はい...。私は大丈夫です。」

 

改めてなのはを見る。

何を話したらいいか分からない。

やはり謝罪からだろうか、それとも感謝か。

どちらも必要だと決め口を開いたその瞬間。

リーゼたちの頭上に巨大な影が映った。

 

『終わりだと?馬鹿を言うな。』

 

エルダー・ガーディアンと同じ大きさ、しかし決定的に違うのはコックピットの存在。

石動本人が乗り込んでいるようだ。

武装もそれに合わせ、剣のようなものを背負っている。

 

「もう一体...!?」

『同じと思うてくれるなよ。これは儂が自ら使う為専用に作製したプライム・ガーディアンだ。』

 

リーゼはVAMF弾の残弾を確認する。

少ないがもう一体くらいどうにかなりそうだ。

 

「専用だろうと関係ありません!AMFに頼った装備では私たちには勝てない!」

『ならば、試してみるか?』

 

プライム・ガーディアンがミサイルを乱射する。

先程と同じく空中機動で回避するなのはとリーゼ。

 

「リーゼ!長引かせるとまずい。ブレイカーで一気に決めるよ!」

「了解!道は私が作ります!」

 

リーゼが囮となりガーディアンを釘付けにし、その間になのはが周囲の魔法を集めていく。

 

『小癪な!』

「それが狙いです!」

 

VAMF弾を放ち、ブレイカーの通り道を作ることに成功する。

 

「離れて!」

「!」

 

なのはの頭上に莫大な魔力の塊が出現する。

あらゆる敵を砕いてきた、高町なのはの最大、最強の切り札。

集いし星の輝きが今、撃ち放たれる。

 

「スターライト...!!」

 

はずだった。

 

『申し訳、ありません。マス...』

「え?」

 

なのはのBJが霧散し、制服姿に戻ってしまう。

 

「なのはさん!?」

 

落下するなのはをリーゼがキャッチし着地するが、途端にリーゼもBJから元の服装に戻ってしまう。

 

「な!?」

「レイジングハート!?私の声、聞こえないの!?」

 

必死に呼び掛けるがレイジングハートは光を失ったまま何も応えない。

スターティアーズも同様だ。

 

『疑問に思わなかったか?あれほど高性能なガーディアンを、どうやって意のままに動かしているのか。』

 

勝ち誇った音声が響く。

 

『ロストロギア。ヤントラサルヴァスパ。能力は機械の掌握、制御だ。』

「ロスト、ロギア...!?」

「掌握と制御...まさか...!」

 

魔法と言えど、その仕組みは『システム』として機械化されている。

その最たるところがデバイスである。

 

「デバイスを制御して、使えなくしたの...!?」

『貴様らの魔法など、所詮作り物。技術として昇華された以上、このヤントラサルヴァスパには決して逆らえぬ!』

 

ガーディアンが刀を抜き放ち、無防備なリーゼに振り抜く。

 

「リーゼ...!きゃあっ...!?」

 

辛うじて発動させた障壁でリーゼを守るなのはだったが、AMFに加え生身ではとても耐え切れず

吹っ飛ばされ瓦礫に激突してしまう。

 

「なのはさんっ!?」

 

なのははぐったりとして動かなくなる。

今の一撃で気絶してしまったようだ。

最強の魔導師とは言え、生身ではどうしようもない。

一人残されたリーゼは考える。

なのはさんを助けないと。

ガーディアンからどう逃げる。

飛行なしでは無理だ。

ならばガーディアンを倒す。

魔法なしでどうやって。

真やフェイトを待つか。

数秒後には自分は殺されている。

待っている余裕などない。

 

ダメだ。

私は助からない。

 

リーゼは理解した。

もう自分は死ぬ。

助かる方法はない。

だが、なのはは違う。

あの人を守ることは『できる』。

リーゼには一つ手段があった。

 

「っ!」

 

リーゼは指先に魔力を込め、VAMF弾を弾き飛ばし、ガーディアンに命中させる。

当然無茶な魔力の使い方に指先が割れ血が飛び散るが構っている余裕はない。

 

『何をするつもりだ...!』

 

目一杯走り、少しでもガーディアンをなのはから遠ざける。

 

お母さん。

ごめんなさい。

一人にして、ごめんなさい。

今まで育ててくれたこと、あの日泣きたい気持ちを抑えて私を守ってくれたこと。

本当にありがとうございました。

 

クレア先輩。

私に最初に声をかけてくれたのは貴女でした。生意気な私に優しくアドバイスや、励ましをくれて。

もっとプライベートで遊んだり、仕事の愚痴を聞いたりしたかった。

また笑えるようになった貴女に会いたかった。

 

なのはさん。

こんな私を大切な教え子と言ってくれてありがとう。

私を救ってくれてありがとう。

貴女に言われていたやってはいけない無茶を、今からやります。

だから、ごめんなさい。

貴女の心に影を落としてしまうかもしれない。だけど、貴女を失うくらいなら私はやります。

ずっと、みんなの希望でいて下さい。

 

まーちゃん。

また会えて嬉しかった。

本当は一緒にいられてすごく幸せで。

私の為に戦ってくれたことが、とてもとても嬉しくて。

思い出を取り戻すって言葉が泣いちゃうくらい嬉しかった。

明日は遊園地、明後日は動物園。週末は映画を観に行こって。

たくさんの約束をありがとう。

生きたかった。まーちゃんとずっと一緒に。

まーちゃんも、同じだったら嬉しいな。

ごめんね。

約束、守れないよ。

 

「大好き、まーちゃん。さよなら。」

 

リーゼの体から魔力の光が迸る。

何の工夫もない、体内の魔力を爆発させる自爆攻撃。

極光がリーゼを、プライム・ガーディアンを包んでいく。

爆風が辺りを凪払っていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

やっとの思いで辿り着く。

飛べるってやっぱりズルいや。

こんなに遠くに簡単に来ちゃうんだから。

機械の残骸みたいなのと、瓦礫と砂の山。

たぶんここで間違いないとレンちゃんが言ってた。

足を引き摺りながら歩く。

足元に見覚えのある人が倒れていた。

 

「高町、なのはさん?」

 

ケガをしているが息はしている。

気絶しているようだ。

やっぱりここで間違いない。

 

「捜さないと。」

 

周囲を見回す。

すると、上空から巨大なロボットが降り立つ。

 

「な!?でかっ!?」

 

驚く間もなく。

ロボットは無造作に『何か』を投げ捨てる。

 

『小娘が。無駄な悪足掻きをしおって。』

 

その『何か』を見つめる。

動かない『何か』を見て、呼吸が止まる。

あの髪色。あの服装。あの身長。

知らない。

私の知ってる彼女は、動かないわけないもん。

 

何で、あんなにボロボロで。

 

死んだみたいに動かないんだろう。

 

「りーちゃん?」

 

第18話『Starry Wish』

 




君のことを守りたい。
願いは無情に打ち砕かれて。
悲しみの慟哭がただ、響き渡るだけ。
血に染まる拳に未来はなく。
誓った星は、流れ落ちて。
夢と希望は叶うことなく潰えていく。

ーーだとしても。
私たちは、諦めない。
次回。魔法少女リリカルなのは外伝。Lost Word。
第19話『流れ星、墜ちて燃えて尽きて、そしてーー』


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第19話『流れ星、墜ちて燃えて尽きて、そして――』

年内に1部完結させたいマン。


「りーちゃん?」

 

――違う。

りーちゃんなわけがない。

あんな、ボロボロなわけない。

 

――間違えるはずがない。

あの髪、あの姿。

私が間違えるはずがない。

 

――違うよね?

気のせいだ。

きっと、違う人。

捜せばりーちゃんはいる。

きっと生きてる。

 

――りーちゃんだ。

なのはさんも倒れてた。

ここにりーちゃんがいなきゃおかしい。

...いるじゃないか、目の前に。

 

「ち、違う...ちがうちがう...。」

 

よろよろとした足取りで真がリーゼ『だったもの』に近づく。

そんなはずない、死んだりなんかしない。

何かの間違いだ。

そうであってくれ。

真の激情がクラレントにも流れ込んでくる。

真はそのまま、震える手でリーゼに触れる。

 

冷たい。

昨日まであった温もりは既になく。

美しかった肌は傷つき。

目から光が消え失せていた。

 

『...リーゼだ。』

「...」

 

クラレントが呟く。

真は崩れ落ち、ただリーゼだったものを見つめる。

『貴女を、まーちゃんを巻き込みたくない...!』

 

『私の幸せは私が取り戻します。だから、もし危なくなったら。その時は必ず、助けて下さいね...♪』

 

『...まどうしになっても、わたしをまもってくれますか?』

 

『いやです...まーちゃん、ひとりにしないで...!』

 

真の脳裏に響く思い出。

その声は確かに『これ』から、彼女から聞こえていたはずなのに。

 

守れなかった。

 

「ぁ...う...ああぁぁぁぁぁっ...!!!!!」

 

理解した途端。涙が溢れ、止めようのない慟哭が響き渡る。

 

「守る、って...!やく、そく...!私、が...っ!」

 

止まらない後悔と悲しみ。

そして。

 

『小娘が。スカーレットはしくじったか。使えん女だ、賊と同じく儂自ら始末してやろう。』

 

石動の言葉が真の耳に届く。

 

身体中に漲る『怒り』。

 

こいつだったか。

そういえばそうだ。

リーゼを放り投げたのもこのデカブツだった。

そうか。

こいつがリーゼを殺したのか。

何故殺したのか。

邪魔だったからか。

なるほど。

そんな簡単に人を、リーゼを殺せるのか。こいつは。

まあ、理由なんてどうでもいいが。

憎い。

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。

リーゼが死んだ。

なのに何故笑っている。

何がおかしい。

何故こいつは今も生きているのだろうか。

何故生きていられるのだろうか。

イキルヒツヨウ、ナイノニ。

殺してやる。

潰す。壊す。ぐちゃぐちゃにして殺す。

死にたくなるくらい惨めに殺してやる。

あの時とは違う。

私は私自身の意思で。

この衝動に飲まれてでも、こいつを。

 

「コロシテヤル...ッ!!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

□フェイトside□

 

真とクラレントの探知は可能だった。

事情を聞いた時に、クラレントの魔力反応を追えるように登録しておいた。

そのおかげでそう時間をかけずに、現場に追いつくことができた。

しかし間に合ったと思った瞬間、自分の考えが甘かったことに気づく。

ここは工事現場のはずだが、建築途中の建物は最早瓦礫の山と化し、先程私が破壊したドローンと似たような機械の残骸が散らばっている。

そして巨大なドローンが空を飛び、実弾兵器を飛び散らせている。

明らかに戦場だ。

ただ、ドローンが戦っている相手が何なのかが分からない。

何か黒い、影の塊のような。

強い魔力を感じる。

その黒い影はまるで獣のように四つん這いで戦場を駆け、弾丸の雨を避ける。

そのままドローンに飛びつき、乱暴にその腕を叩きつける。

金属がひしゃげる音に、肉が潰れるような嫌な音が重なる。

自らの体が傷つくのも構わず、影は何度も何度も拳をドローンに叩きつける。

 

「酷い...。」

 

影の凄惨な戦い様に目を背けたくなる。

堪らず少し目を逸らすと、そこには見知った親友が体を横たえているのが見えた。

 

「なのは!?」

「フェイト、ちゃん...。」

 

慌てて駆け寄る。

...うん、怪我はしてるけど重傷じゃない。

親友の無事に安心する私。

でもなのはは酷く憔悴した顔だ。

 

「リーゼ...リーゼが...。私、守れなかったの...!」

「!?」

 

なのはが示す方向には、既に事切れたリーゼの姿が。

...私があの時止められていれば。

胸の中が後悔で一杯になる。

この感覚は初めてじゃない。

だけど、一生慣れる気がしない。

また失ってしまった。

力があっても、私は全てを救えない。

...憧れと言ってくれたあの子と、なのはの大切も守れない。

 

「ごめん、なさい...。」

 

辛い気持ちを抑え、状況を確認する。

なのはとリーゼは確認出来た。

真はどこだ。

彼女の反応を追ったのだから、当然ここにいるはずだ。

 

『反応はここで間違いありません。平常時の何倍にも魔力が膨れ上がっています。』

 

バルディッシュが教えてくれる。

やはり。

あの影は、真なのか。

 

「...止めなくちゃ。」

 

ロストロギアの暴走。

ジュエルシードやナハトヴァールに感じたものを、あの影からも感じる。

きっと真の激情に反応してクラレントが暴走しているんだ。

止めなければならない。

恐らく相手は石動中将。

彼は彼で、捕らえなければいけないのは確かだ。

元々の所業に加え、リーゼを殺害した。

裁きは与えられるべきだ。

しかし、真にやらせるわけにはいかない。

真に、人を殺させるわけにはいかない。

石動は法が裁く。

私は執務官だ。

真が憧れる執務官として、彼女の夢を汚さない為にも。

あんな戦い、させちゃいけないんだ。

 

「待って、フェイトちゃん...。」

 

立ち上がる私をなのはが引き止める。

なのはもまた、悲しみを堪えて今すべきことを考えているようだった。

 

「あのドローン...ガーディアンにはAMFが搭載されてる。けど、問題はそれじゃない。石動中将は私的にロストロギアを所持していたの。その効果は、機械の操作制御。デバイスすら制御、使用不能にする魔導師殺し...。」

「!魔導師、殺し...?」

 

なのはが胸元のレイジングハートを見せる。

反応がなく、輝きを失っているように見える。

 

「私もリーゼも、レイジングハートたちを止められたの...。今フェイトちゃんがあそこに飛び込めば、バルディッシュを止められた上に真ちゃんと石動中将の攻撃を無防備で受けることになるかもしれない。」

「っ...。でもこのままにしておくわけには!」

 

無駄死にになる可能性がある。

それが分かっているならば行かない方がいいのは分かる。

だけどこのままにはしておけない。

大体、機械の機能停止が可能なら何故。

 

『何故だ!何故止まらぬ!貴様ぁ!獣無勢が!』

「あaaァaAaaぁaaァaアーーーッッ!!!」

 

変わらず真はガーディアンを攻撃、翻弄し続けている。

 

「石動中将のロストロギア。あれはたぶん、『理解できる』機械しか制御出来ないんじゃないかな?魔導師デバイスの仕組みなら、中将なら理解していてもおかしくない。

ただ、フェイトちゃんが言ってたでしょ?

真ちゃんはロストロギアを所持してるって。」

「そうか...。ロストロギアは『失われた技術』を指す言葉。失われた技術を理解するなんて、普通の人間に出来るわけがない。」

 

真は石動中将に対抗できる。

良い情報に聞こえるが、それは真が『人』として戦っていた場合の話だ。

今の『獣』と化した真では石動を殺してしまう可能性が高い。

...やはり、自分が行くしかない。

真を気絶させた上で一度退避し、ロストロギアへの対策を練る。

それを狙うしかない。

危険だが、それしか方法はない。

覚悟を決め顔を上げたその時。

目の前に車が迫っていた。

 

「へ!?」

 

なのはを抱き抱え飛び上がる。

危なかった。

一瞬遅れれば轢かれていたところだった。

...何故こんな場所に一般車両が?

不思議に思う間もなく、車は蛇行して派手に回転したのち瓦礫に激突。

漸く停止した。

 

「運転手さん、大丈夫かな...?」

 

なのはの心配を余所に車の中から人が出てくる。

白衣の女性だ。

ふらふらしているが、大丈夫だろうか。

女性は辺りを見回した後こちらに気づいた様だ。

 

「げっ!管理局の最凶コンビじゃない。終わった後の逃げ方も考えとかないとまずいかもしれないわね...。」

 

何やら、警戒されているようだ。

...じゃなくて。

 

「こ、ここは危険です!一般の方は早く避難を!」

「一般の人?私が?...ふふん。教えてあげましょう。私こそ、天才の中の天才。天才を越えた超天才!リーナ・バレンシュタイン博士とは私のことよ!」

「バレンシュタイン、博士...。」

 

確かあの研究所の?

博士が何で現場に...。

博士は名乗りを上げ満足したのか、車のトランクから何やら取り出している。

 

「お、重っ...!レディの腰に、これは...!」

 

あれは...大きめのキャリーバッグ?

重そうに引き摺りながらこちらに近づいてくる。

 

「何をしているんですか!?早く逃げて下さい!」

「そうはいかない、でしょ!リーゼ、ちゃん。このまま、じゃ!死んだ、ままだし!重っ...。」

「死んだままって...。」

「何をするつもりなんですか...?」

 

まるで『生き返らせる』ことが出来るみたいな言い方...。

 

「本当は取っておきたいとっておき、なんだけどね。真ちゃんが可哀想だし、レンレンも元気無くしちゃうだろうし。それに。」

 

リーゼの元に博士が辿り着く。

重そうなキャリーバッグを開き、中身を取り出した。

 

「この子の作ったプリン、絶品なんだもの。あれを食べられないのは、著しい損害だと思わない?♪」

 

白銀に輝く、美しい弓。

博士の取り出したそれは何かを感じ取るように光を放つ。

 

「絶弓、フェイルノート。何者をも捉え射抜く、絶対必中の弓。選ばれるかは貴女次第よ、リーゼちゃん。」

 

弓は光を放ちながら驚くべきことに、その姿を変化させていく。

 

「え...?」

「うそ...。」

 

そうして弓は『少女』の姿となってしまった。

ピンクブロンドの髪に、気の強そうな瞳。

見た目の年齢的にはヴィヴィオたちより年上くらいだろうか。

私もなのはも弓がそのまま人になる光景は初めてで、驚きを隠せていない。

少女は周囲を見回し真とガーディアンの戦闘を少し長く眺めた後、リーゼを見下ろして呟いた。

 

「理解したわ。貴女が、私のマスターね。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

□真side□

 

暗い。

どこまでも黒く、暗い空間をひたすら落ちていく。

私はりーちゃんを失った悲しみと自分への怒り、そして石動中将への憎しみに飲み込まれた。

現実の私がどうなっているかは分からない。

ただ衝動のままに暴れてるのかな。

 

人を傷つけるのは嫌いだ。

嫌いのはずだった。

だけど私は、りーちゃんを殺したあいつを殺したいと思った。

やっぱり私はヒーローじゃない。

結局自分勝手なだけだ。

子どもの時、りーちゃんをいじめる子がいた。口で言っても止めてくれなくて。

私は押されたり、叩かれたり。

本当はやり返したいと思ってた。

何で酷いことするんだろう。

酷いことするなら、酷いことされてもしょうがないんじゃないかって。

でも何故かやり返さなかった。

...思い出した。

私じゃなくて、りーちゃんだ。

りーちゃんは優しくて、私が傷つくのを嫌がってくれて。

本当はみんなと仲良くしたいって、そう言ってた。

やり返したりしたら、自分のせいでみんながケガしたって、そう思わせちゃう。

だからやらなかった。

そうやって歯止めをかけてくれたりーちゃんは、もういない。

 

私が守れなかったから。

 

昨日約束したばかりだよ?

危なくなったら助けてね。

こんなに単純な約束なのに、私は守れなかった。

勘違いしてた。

いくらフーカ師匠に鍛えてもらっても。クレアさんに勝っても。

私が強くなったわけじゃない。

みんなレンちゃんのおかげだ。

レンちゃんがすごいんだ。

もしここに来たのが私じゃなくて、もっと優秀な人だったら?

レンちゃんと契約したのがフェイトさんたちみたいな良い人で、優秀な魔導師だったら?

 

私がでしゃばった。

私なんかじゃなければ良かった。

レンちゃんを助けたのも。

りーちゃんの幼なじみになったのも。

私じゃなければ。

守れたはずだ。

 

全部私のせい。

 

「そうやって、いつまでも自分を責めて落ち込んで。そんで消えていくつもりか?」

 

声が響く。

私以外の声。

...レンちゃんか。

暗い世界にポツンと一人だったのが、目の前にレンちゃんが増えて二人になった。

 

「お前じゃなきゃ良かったって。本当にそう思ってんのか?」

 

思ってるよ。

私じゃなきゃそもそも殺されずにレンちゃんを助けられたし。

りーちゃんを失うこともなかった。

 

「それは違うぞ。お前みたいなバカは他にいない。」

 

何それ。

ここまで貶すために来たの?

いつもならいいけど、今はやめてよ。

冗談言う気分じゃないの、分かるでしょ?

 

「違う。ちげーよ。あたしが言いたいのは...。お前じゃなきゃ、ここまで来れなかっただろって言ってんだ。」

 

私じゃなくても、私より優秀な人はたくさん...。

 

「違う!お前じゃなきゃダメだったんだよ...!」

 

ダメ?

 

「見ず知らずのガキ助ける為に逃げて、殺されて。魔導師に狙われるようになってもバカみたいにひたすらあたしやリーナの心配ばっかり。お前みたいなお人好しがたくさんいるわけねーだろ。だからバカだって言うんだ。それが何の得になる?何で人助けなんてする?」

 

それは...。だって。

目の前で困ってたら、助けないとスッキリしないし。私が辛くなるから仕方なく。

 

「バカ。それがお人好しだって言うんだよ。普通の人間は自分が一番大事だ。自分が助かる為ならガキだろうが犠牲にする。それが人間だ。だけどお前は違う。他人も自分も、一番大事なんだ。だから選べなくて、結局自分を犠牲にする。そんなお前だから、フェイトもフーカも。ジムの連中も力貸してくれたんだ。お前じゃなきゃ、ここまで来れないんだよ。」

 

私じゃなきゃ、ダメだった... ?

 

「そうだ。...あたしは他の奴らと違う。あたしとエンゲージ出来る奴はそういない。...そういないというか、お前が初めてだった...。」

 

初めて?

だってエンゲージした時もっと出力が!とか言ってたのに。

 

「そりゃおめぇ...リーナが、そう言ってたから...。」

 

照れてる?

 

「うるせぇ!...恥ずかしついでに言っとくぞ。...魔導師から逃げてたあの夜。あん時、本当はすごく怖かった。捕まったら何されるか分からねーし、リーナのとこにも帰れなくなるし...。だから必死に逃げてて、そしたらお前が手を引いて、一緒に逃げてくれたから。」

 

レンちゃん...。

 

「安心、したんだ。あたしは、マスターがお前で良かったと思ってる。だから...助けてくれて、ありがとよ。」

 

照れながら笑うレンちゃん。

そんな風に笑うんだね。

何かすごく、驚いちゃった。

怖がってたのは知ってたけど。

 

「なっ!?や、やっぱり今の無しだ!あたしは怖がってねぇ!」

 

あはは...。

お礼を言いたいのは、私の方なのにね。

先にお礼言われちゃったな。

 

「あたしと一緒だ。リーゼの奴も、お前に助けてもらえたのが嬉しかったんだ。他の誰でもない、お前だから嬉しかったんだ。お前はあいつの思いを無視して、あいつの信じたお前まで殺しちまうつもりなのか?」

 

りーちゃんの信じた、私...。

 

「死んじまったら、あいつとの思い出まで全部なくなっちまうのか?違うだろ!リーゼは死んだって、絶対にお前を信じてる!リーナもフーカもフェイトも!あたしも!お前を信じてんだ!だからこんな暗いとこに沈んでねぇで、さっさと自分が何を握り締めてんのか思い出せバカマスターーッ!!」

 

私が握り締めるもの。

...そっか。そう、だった。

黒い世界に光が差し、鮮やかに色づいていく。

そこには私とレンちゃんだけじゃない。

リーナさんにフーカ師匠。ジムの皆にフェイトさん。弓美ちゃんたちに、お父さんとお母さん。

そして。

 

「まーちゃん!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

黒い影が霧散する。

視界が拓ける。

目の前には、記憶にあるより損傷したガーディアン。

そして許せない仇、石動刃凱。

拳を握り締める。

 

「みんな、ずっと一緒にいてくれたんだ。...今もきっと、私のこと信じてくれてる。...バカだな、私。大切なものならまだ残ってる。やらなきゃいけないことがあるんだ。りーちゃんの分まで、私がやるんだ。だからまだ頑張れる。戦える...!」

 

もう忘れない、私が信じて握るもの。

それは。

 

『何だ貴様は!?...何故、止まらぬ!何故倒れぬッ!貴様の身に纏うそれは何だ!何なのだッ!!』

 

「紡ぎ合う絆がくれたッ!私のッ!魔法だあぁぁぁッッ!!!」

 

流れ星、墜ちて燃えて尽きて、そして――。

 

星は再び舞い上がり、輝き照らす。

自らが照らす宙が、決して墜ちないと知ったが故に。

 

第19話『流れ星、墜ちて燃えて尽きて、そして――』

 




立ち上がる星と、甦る翼。
2つの希望は輝きを増し。
閉ざされた修羅の心でさえ、照らすことを諦めない。
行っておいで、リーゼ。
信じてるよ、真。

次回。魔法少女リリカルなのは外伝、Lostword。
第1部最終回『Synchrogazer』



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第20話『Synchrogazer』

これにて第1部完です。
伏線は撒き散らしましたが回収するかは未定です←


「紡ぎ合う絆がくれたッ!私のッ!魔法だあぁぁぁッッ!!!」

「真!?」

 

真を覆っていた影が消えてる?

...大丈夫だ。あそこにいるのは私が知ってる真で間違いない。

正気に戻ったんだ。

良かった...。

 

「待って。さっきまでの戦いの傷が癒えてなかったら...!」

「!」

 

まずい、自分の体のダメージも省みずに戦ってたんだ!

相当消耗しているはず!?

 

「せいっ!」

 

真がガーディアンの脚に拳を叩き込む。

関節を狙った一撃に思わずよろけてしまい、頭部が真に近づく。

すかさず飛び蹴りを繰り出し、隙だらけの頭部を蹴り抜く。

巨体故に吹き飛びはしないが、耐えきれず後ろへ倒れてしまう。

 

「あ、あれ...?」

「元気そう...?」

 

私達の心配に反して真は消耗した様子はなく、あの巨体を誇るガーディアンを体一つで薙ぎ倒した。

 

「暴走は驚異的な治癒能力まで与える。自らの体を造り変え、また戻すことだって出来るんだもの。暴走する前のケガさえ治っているはずよ。」

 

博士の説明に少し寒気がする。

やはり、ロストロギア。

悪用されていなくて本当に良かったと思う。

 

「尤も、痛感も当然戻るんだけどね♪」

「いった!?固い痛い固い!?」

『喚くなバカ。魔力で最大限防御してやってる。痛いだけだ。我慢しろ。』

「痛みも何とかしてよ!?素手で車壊しちゃう師匠たちと違って私か弱い乙女だよ!?」

 

すごく痛がってる...。

その隙にガーディアンがその体を起き上がらせてしまう。

 

『魔法だと...?ふざけるな!このガーディアンは魔法を否定する!魔導師などでは決して超えられない儂の力なのだッ!』

 

ガーディアンは飛べない真に向かって実弾のマシンガンにミサイルを乱射。

その流れ弾はこちらにまで飛んでくる。

 

「捕まって下さい!」

「きゃっ!?」

 

博士の腕を掴み飛び上がる。

両手それぞれになのはと博士を抱き抱える形で回避する。

 

「うっ...これ結構酔う...。」

「が、我慢して下さいね!?」

 

流れ弾の発する煙と爆発で真の様子が見えない。無事だろうか。

さらに上空に移動し、煙を越えて上から見下ろす形になる。

 

「見つけた!」

 

真だ。変わらず火器を発射し続けるガーディアンに対して逃げの一手となっている。

やはり飛行なしでは厳しいのか。

 

『止まるな走れ!』

「わわ分かってるよぉ!!」

 

なのはたちを避難させて、すぐに援護に行かないと。

そう思った矢先。

 

『...そうだ!おいバカ!お前にピッタリの戦法考えた。』

「へ?」

『何も考えんな!魔力全開!そのまま地面をぶん殴れッ!』

「お、押忍ッ!?」

 

逃げるのを止めた真が反転。

ガーディアンに向き直る。

 

「いけない!そのままじゃ直撃...!」

「言ってること全然分かりませーーんッ!!!」

 

地面に強烈な一撃。

岩壁と砂が舞い上がり、ミサイルや銃弾を防いでいく。

真にしか出来ない無茶苦茶だ。

 

「防御の為に、こんな無茶苦茶を...。」

「それだけじゃないよ。」

 

なのはが心なしか楽しそうに呟く。

 

『小癪な小娘が!』

 

舞い散る砂煙で下は上からでも何も見えない状態だ。

石動も真を見失っている様子。

あれだけの巨体、人間もさぞ小さく見えていることだろう。

捜すのには苦労するはずだ。

そこへ。

 

「覇王!断ッ空ッ拳ッ!!」

 

煙から飛び出した真の拳がガーディアンを確かに捉える。

凄まじい衝撃音が響く。

またしてもあの巨体を倒してしまった。

 

「いいね、あの子。ちょっと面白いかも。」

「なのは...。」

 

教官魂に火が点いたみたいだけど、下の被害が尋常じゃないよ?

 

『あり得ん...。たかが小娘に、儂のガーディアンが。あり得んだろうがッ!』

 

ガーディアンが片腕を変形させ、巨大な砲身のようなものが作成それる。

まさかあれは...!

 

『消え失せろ!忌々しい魔法でな!』

 

凄まじい出力の『魔力』砲が放たれる。

失念していた。

魔法を否定するからと言って、相手が魔法を使わない保証はない...!

 

「!?」

 

急かつ圧倒的出力の砲撃、真は反応出来ずそのまま飲み込まれるものと思われた。

しかし、魔力砲は真に当たる前に見えない『何か』にぶつかり、押し負けた。

反されるように、そのままガーディアンの腕を粉砕する。

 

『何だと!?AMFは確かに起動していたはず!何故直撃を受けた...!?』

「当然です。真の拳と同じく、私の矢は所謂魔法ではありませんから。」

 

私たちとは逆方向から人影が近づいていく。

煙が晴れ、その姿が露になる。

白銀の鎧。BJにも似たそれと、特徴的な楽器のような弓。一度失った光は再び瞳に宿り、強い意志を漲らせている。

 

「間に合ったんだ...!」

『おいおい、マジか...。』

「私のお手柄よ!この天才を讃えなさいな!」

 

「りー、ちゃん..?」

「はい。お待たせしました、まーちゃん。」

 

白銀を身に纏うのは、石動に立ち向かい戦死したはずのリーゼだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️リーゼside◼️

 

暗い。

深い闇に、どこまでも意識が堕ちていく。

私は死んだ。

もう体は動かない。

天国や地獄があると思っていたが

ロマンがないことに、やはり人間には二度目の生などないらしい。

 

全力は尽くした。

後悔はたくさんあるが。

ああするしかなかった。

こうなると、あの後どうなったかだけが気になる。

石動は止められたのだろうか。

なのはさんやフェイトさんが逃げ延び、あのロストロギア『ヤントラ・サルヴァスパ』を攻略する秘策を練るか。

あるいは...真だ。

クラレントは同じロストロギア。

制御出来ない可能性はある。

制御出来ないのであれば、VAMFと合わせて撃破は可能だろう。

...そういえば、VAMFなしで真は量産型のガーディアンを殴り飛ばしていた気がする。

大概無茶苦茶な幼なじみだ。

やっぱりまーちゃんはすごい。

 

まーちゃん。

やはり泣いてしまっているだろうか。

あの子は優しい。

私を助けられなくて、約束を守れなくて。

自分を責めてしまうかもしれない。

まーちゃんが私の最後の希望なのに。

 

幽霊にでもなれれば、伝えることが出来るのだろうか。

幽霊。

あの世がなければ流石に存在しないか。

便利なのだろうな。

きっとお母さんにも、先輩にも、なのはさんにも。

最後の言葉を伝えられたのに。

こんなことなら遺言でも遺しておくべきだった。

明日はまーちゃんとデート出来るかも。

そう思ってしまった。

流石に楽観的過ぎた。

まったく、誰かさんのお気楽が移ってしまったかもしれない。

何とかなるって、思ってしまったから。

 

『なら、何とかしてあげましょうか?』

 

声が響く。

私の声じゃない、聞き覚えのない声だ。

暗い世界にもう一人、住人が増える。

ピンクブロンドの中学生くらいの少女。

気の強そうな瞳に、特徴的な髪型をしている。猫耳?

 

「私と契約すれば、貴女を現実に引き戻すことが出来る。但し、相応しくなければ。その時は容赦なく契約を破棄するわ。」

 

見た目通りの堂々とした宣言。

誰なんでしょうこの子。

というか、現実に引き戻す?

まさか生き返れるとでも言うのだろうか。

 

「そうよ。貴女を生き返らせてあげる。その前に一つ聞かせて。貴女は死んでもなお、まだ戦おうとしている。なぜ?」

 

戦う意味?

 

「ええ。敵がまだ生きているから?怒りに身を任せ、復讐がしたいの?」

 

違う。違います。

確かに石動は止めなければならない。

ただそれは、大切な人たちの明日を守る為。

私の憧れるヒーローのように、誰かを助けられる自分でありたいから。

私の戦いは、守る為戦いです。

 

「守る為の戦い。...綺麗事ね。争いに正義など存在しない。」

 

私を真っ直ぐ睨み付ける。

...知っている。自分がいつも正しいなどあり得ない。

傷つければいずれも『悪』。

それは理解しています。

しかし、時に悪を貫いてでも成さねばならないことがあります。

たとえ犯罪者と罵られ、大切な人に追われる身となっても。

私には。

 

「独善を、悪を貫く覚悟があります。」

「悪を貫く覚悟...。」

 

少女は少し驚いたように目を開いた後、少し口元を緩ませ私へ手を伸ばした。

 

「見せてもらうわよマスター。悪を貫く覚悟とやらを。戦場で冴える、抜き身の貴女を!」

 

その手を掴む。

途端に私の体は舞い上がり、世界が色を取り戻していく。

 

「叫びなさい。私の名は――!」

「エンゲージ!絶弓、フェイルノートッ!」

 

フェイルノートが私の体に溶け込み、光を放つ鎧となる。

気づけば私は、墜とされたはずのあの空へ。

再び舞い上がっていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「援護が間に合って良かった。あの出力は並みの」

「りーちゃん...!」

「きゃ!?」

 

思わず飛びついて、抱き締めてしまう。

我慢なんて出来ない。

だって、また会えるなんて。

 

「あったかい...。ちゃんと、生きてるっ...!」

「ちょ、ちょっと!恥ずかしい、です...!?」

 

涙が止まらない。

生きてる。

りーちゃんが、生きてる。

こんなに嬉しいことが他にあるものか。

取り零したはずだった。

失くしたはずのものが、今目の前にある。

何度も抱き締め、顔を見て。

幻想でも夢でもないことを確かめる。

 

「私、約束、守れなくて...っ。悲しくて、辛くて、悔しくて...!だからっ...!」

「まー、ちゃん...。」

 

りーちゃんも優しく私を抱き締めてくれる。

ちゃんとある。

伝わる温かさが。

私のお星さまがまだ輝いていることを教えてくれる。

 

「ごめんなさい...。でも、帰って来ましたよ。」

「うん...うんっ...!」

 

涙でボヤけた視界に笑顔が映る。

その笑顔は子どもの時の、あの楽しかった頃と同じで。

 

「おかえりっ...。りーちゃん♪」

「ただいまです、まーちゃん...♪」

 

あの頃みたいに、何でもない挨拶をした。

 

『馬鹿な...確かに貴様は、息の根が止まっていたはず...!』

 

ガーディアンが再び立ち上がる。

すっかり意識が外れていたが、まだ私達の戦いは終わっていなかった。

 

「甦ったのです。私自身の手で、全てを終わらせる為に!」

 

冷静に見てみると、りーちゃんはいつものBJとは違う銀色の鎧みたいな服?を着ていた。

この感じ、どこかで見たような...。

 

『なっ!?何だこの感じ!あたしと同じ奴がリーゼの中にいやがる!?』

「え!?」

 

同じ奴って何!?そっくりさん!?

 

『私以外のアイアンメイデン。こんなところに生きているとはね。』

 

りーちゃんのお腹から声が!?

い、いつの間に...!

私何にも聞いてないよ!?親友なのに!?

 

「はぁ。何馬鹿なことを想像しているんですか。私も契約したんです。このフェイルノートと。」

 

ふ、ふでいるのーと?

 

『リーナの奴、あたしにも黙って隠し持ってやがったな...!』

「どういう事情かは分かりませんが、とにかく博士のおかげで助かりました。」

 

な、何だかよく分からないけどリーナさんが何かしたらしい。

流石天才だぁ。後で肩揉んであげよう。

 

『ふざけるな...それもまた、魔法だとでも言いたいのか...!貴様ら魔導師はッ!』

 

石動中将が吼える。

すごい気迫...。

ガーディアン自体は片腕を失って、満身創痍に見えるのに。

未だあの人から感じる圧力が衰えていない。

 

「何で、そうまでして...。」

 

私の呟きに気づいたりーちゃんが、私には教えていなかったと頷いた。

 

「...彼には理由があるのです。魔導師を、魔法を憎む理由が。」

「魔法を、憎む?」

 

憎む理由って...。

魔法は便利で素敵なものなのに、憎むことなんてないと思うけど。

 

「中将には奥様がいました。名を石動緋鞠。『エース』と呼ばれた、優秀な魔導師でした。」

「奥さんが魔導師...。いましたって...?」

「ええ。30年前に亡くなっています。不慮の事故でした。」

『不慮の、事故だと...!?』

 

りーちゃんの言葉に、中将が語気を荒げて反論する。

 

『事故などではない!緋鞠は、あいつは殺されたのだ!』

「!...殺された...?」

「いいえ、事故です。事故ですが...。」

 

りーちゃんは悔しそうにというか、恥じるようにというか。

言葉をわずかに引っ掛けながら、何とか話を続けようとする。

 

「局内の事故だったと聞いています。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□30年前・管理局研究棟◼️□

 

見渡す限りの火と瓦礫。

きっかけは新型デバイスのテストだった。

何でもない実験のはずだったが、制御装置が暴走。建物内を魔力が駆け巡り、破壊の限りを尽くした。

勿論局員には魔導師がいる。

彼らは非常事態に対処し、人々を避難させることに尽力した。しかし、優秀な魔導師はそのほとんどが今で言う所の『海』の業務に当たっており、現場に居合わせた魔導師の質は良いとは言えなかった。

エースと呼ばれる、彼女を除いて。

 

「緋鞠!一人じゃ無理だ。いくらお前でも全員は助けられない!」

 

男が叫ぶ。

魔法が使えないただの人間である彼には、炎の中にいるだけで限界が近づく。

 

「先に行って!私はまだやれるから!」

 

凛とした声が響く。

男とは違い、彼女はバリアジャケットと呼ばれる防御装束を身に纏う魔導師だ。

炎の中でも平然と息をしている。

男はその彼女の姿に頼もしさを感じながら、同時に愛する者を庇えぬ自分への怒りに拳を固くする。

 

「いつ建物が壊れるか分からない!何かの拍子に動力に引火する可能性もある!お前が強いのは良く分かってる!だけど今は俺の言うことを聞けよ!俺の妻だろうがっ!」

 

酸素がなくなる中、お構い無しに男は叫ぶ。

他の奴はどうでもいい、早く逃げようと。

 

「...そうよ。あなたの妻。だから、信じてくれるでしょ?」

 

彼女は叫ぶ男とは打って変わって、穏やかな表情で告げる。

 

「ああ、信じてるよ...。だけどダメだ。他の奴らは皆逃げた。お前と同じ魔法使いも、全員だ!エースだからって何故お前だけ残らなくちゃいけない!魔法を使えたってお前は人間だ。不死身じゃないんだぞ!?」

 

男は必死に彼女を引き止める。

行かせてはならない。彼の本能がそう言っていた。

 

「エースだからじゃないよ。」

 

そんな男に彼女は微笑む。

 

「私の魔法は誰かを助けられる。守れるし、救える奇跡だって。そう褒めてくれたのは刃だったでしょう?」

 

男は魔法が使えない。

いくら体を鍛え上げ、技を磨いたとしても。

当たり前のように行使できる『奇跡』には敵わない。

だからこそ、彼には彼女が輝いて見えた。

優れた魔導師としての力を有しながら、常に誰かを思い行動する彼女が太陽のように眩しくて。

いつの間にか自らの正義より大切な存在となっていた。

 

「戻ってくれ緋鞠...。人助けなんてしなくていい、ただ俺の側で...!」

 

笑っていて欲しい。

言い掛けたその時。

二人の間に瓦礫が落下。

男では決して緋鞠の側に行けなくなってしまう。

 

「緋鞠っ!?」

 

瓦礫を退かそうとするが、その熱と重さに動かすことすら儘ならない。

 

「逃げて、刃。任せて!いつも言ってるでしょ?」

 

声だけが彼の元に届く。

それが彼が聞いた、彼女の最期の言葉。

 

「へいき、へっちゃら!」

 

顔は見えないはずなのに。

彼女のいつも通りの笑顔が、最後も同じように輝いていたと彼には分かった。

彼。石動刃凱の胸には、今も彼女の声と笑顔が焼き付いて離れないのだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「彼女は他の局員が我が身恋しさに逃げ出す中、最期まで人命救助を続けました。文字通り一人になっても。最終的に動力爆発が起こり、彼女『だけ』が巻き込まれました。」

「っ...。」

 

自分を犠牲にして、みんなを守ったんだ...。

 

「管理局は彼女を英雄、真のエースと呼び讃えましたが、石動は違いました。」

「...魔法が、緋鞠さんを特別にして。魔法が原因で事故が起きて。魔導師が、緋鞠さんを見捨てた...。」

 

だから、魔法を憎んで。無くしたいって。

 

「絶対的な少数による守護。それはその少数が犠牲になるのと引き換えの平和です。彼の考えは、私からしても100%間違っているとは言い切れないものです...。」

 

なのはさんに救われたりーちゃんだから、そう思うんだ。

もしりーちゃんが助けられた事故で、なのはさんの身に何かがあったら。

もしなのはさん以外にも、人を救える力を持つものがたくさんいたら。

 

石動さんの理想は、否定し切れない。

だけど!

 

「やり方が間違ってるよ!大切なものを失くす痛みが分かるのなら!何でクレアさんやりーちゃんから奪ったんですか...!そんなの、緋鞠さんが喜ぶわけ...!」

『黙れぇッ!!貴様らにあいつの何が分かる!?魔法など、魔法使いなど!跡形もなく消え去れぇいッ!!!』

 

石動さんの叫びに呼応するように、

ガーディアンに周囲の瓦礫、残骸が集まっていく。

只でさえ巨大な体躯が、更に巨大に肥大化していく。

 

「これは...!?」

「ロストロギアの暴走...!?」

 

ロストロギア!?

あのロボット、ロストロギアなの!?

 

「まーちゃん!」

「っ!」

 

巻き込まれていく地面に立っていられない。

飛行するりーちゃんの手を握り、地面から離れる。

地面をも飲み込み、ガーディアンは巨大な山と化す。

 

「こんなの、どうすれば...!?」

 

一度高台に着地し、弱点がないか探す。

...いや、探しようがなくない!?

立ち尽くす私とりーちゃんの近くに、フェイトさんたちが降りてくる。

 

「ふーむ。ロストロギアの暴走なんて興味深いことこの上ないけど。仕方ないわね、この天才が一肌も二肌も脱いじゃうわよ~♪」

 

何やら端末を操作するリーナさん。

30秒程で立体映像が映し出される。

 

「いくらでかくても、その核は変わらず人間サイズのまま。つまり、中将本人さえロストロギアごと取り除けば。」

「アイスが溶けるように巨人は消え去る...。」

「その通り!デザートが食べたくなる例えね、好きよそれ♪」

 

な、なるほど。

中将の位置は巨人の大体胸の真ん中辺り。

あそこを貫けばいいのか。

 

「でも、どうやって?」

「砲撃魔法はガーディアンのAMFに阻まれるし、またデバイスを制御されれば私達が耐えきれない。...切り札は、一つだけ。」

 

なのはさんが私を真っ直ぐ見つめる。

 

「...へ?」

 

私!?

 

「私達の魔法は届かないかもしれない。だけど、今のリーゼと真なら通用するはず。」

「私の攻撃では石動を倒すことしか出来ない。でも、まーちゃんなら。武器を持たないまーちゃんだからこそ、あの人をあそこから救い出せるはずです。」

 

動揺する私に、フェイトさんとりーちゃんがそれぞれ言葉を掛ける。

 

「でも、私なんか...。空も飛べないし、頭も悪いし...。」

「真。」

 

フェイトさんが私の肩に手を掛ける。

 

「手を伸ばすのを諦めない。まだ、忘れてないよね?」

「!...押忍ッ!」

 

フェイトさんに教えてもらった私の正義。

一度だって忘れるものか。

やるしかない。

今、やるしかないんだ...!

 

「私達で道を切り開く。真はここでその瞬間を待って。」

「お、押忍!」

 

真を庇うように、なのはとフェイトが前に出る。

 

「こうやって並んで戦うの、久しぶりだよね。」

「...うん。だけど、大丈夫。なのはと一緒なら、絶対に負けない。」

「私もフェイトちゃんと一緒なら、何度だって立ち上がれる。そうだよね、レイジングハート!」

『その通りです、マスター。』

 

折れたはずの翼は再び空に羽ばたく。

 

風は空に。星は天に。

輝く光はこの腕に。

不屈の魂はこの胸に。

 

「レイジングハート!セーット!アーーップ!」

 

白く輝くバリアジャケットに身を包み、高町なのはは再び戦場に降り立つ。

白と黒。

管理局最強の魔導師コンビが肩を並べ、魔法を否定する巨人に立ち向かう。

巨人は二人を脅威と判断したのか、未だ健在であった実弾兵器を発射する。

二人は重ね合うように障壁を張り、最後の希望の盾となる。

 

「真、信じてるよ!」

「行っておいで、リーゼ!」

 

「「はいッ!」」

 

リーゼは飛び立つと同時に『不可視』の矢を撃ち放つ。

放たれたことにも気づかず、巨人の体から砂や瓦礫が千切れ飛ぶ。

攻撃ではない。リーゼの役目は、あくまでも陽動である。

リーゼはただ惹き付けることに注力し、巨人に矢を放ち続ける。

苛立ったように巨人はリーゼに向けて実弾兵器は勿論、魔力砲まで発射する。

あれだけ嫌っていた魔法を躊躇いなく使う。既に石動の意識はないに等しいのではないかとリーゼは考えたが、すぐ近くに迫る攻撃へと意識を集中する。

 

「彼のことは真に任せた。私は私の仕事をするのみです!」

 

空中軌道により回避しつつ、弓に魔力を溜める。

 

「フェイルノート!」

『いつでもいいわよ!』

 

反転し、狙うは両腕。

 

「インビジブル・バスター。」

 

見えない、しかし確かに空間を切り裂き音色を響かせる二撃。

矢とも弾丸ともつかないそれは、巨人の腕を文字通り粉砕する。

 

「今です!」

 

なのはとフェイトが魔法陣を展開。

大量の魔力の弾丸、雷の矢が周囲に生み出される。

チャンスは一度。

ならば出し惜しみは不要。二人の魔力が限界まで注ぎ込まれる。

 

「なのは!」

「フェイトちゃん!」

「二人の全力全開!」

「中距離殲滅コンビネーション!」

「ブラスト・カラミティ!」

「「ファイアーーーッ!!!」」

 

雷光と星光。

二つの光が混ざり合い、巨人に炸裂する。

AMFがあるにも関わらず、その光は巨人の装甲を削り、剥がす。

全ての攻撃が終わり、二人の魔力すら底を突いたその時。

表れる巨人の核。

ロストロギアに飲み込まれた石動の姿がそこにあった。

 

「真!」

「真ちゃん!」

「まーちゃん!」

『貫けぇぇぇーーーッッ!!!!!』

三人の声に答えるように、唸りをあげる右拳。

ガントレットはロケット噴射のように魔力を爆発させ、勢いのまま真は飛び立つ。

最短で、最速で、真っ直ぐに。一直線に。

稲妻と化した真が石動に向け突撃する。

 

「儂を殺すか...。いいだろう、所詮お前たちの魔法など、何も守れん。何も救えん...。」

「違うッ!殺したりしない!私のこの手はッ!!」

 

真の拳はロストロギア、ヤントラサルヴァスパを貫き、そのまま巨人を殴り抜ける。

着地した真の腕には、息をしたままの石動の姿が。

 

「私の魔法は、手を繋ぐ為の奇跡なんだからっ...!」

 

薄れ行く意識の中で、そう言ってみせた真にあの日の彼女が重なる。

 

守り救う為の奇跡。

死んでもなお、俺を救おうと言うのか。

 

「緋、鞠...。」

 

巨人は老人の妄執と共に消え果てる。

射し込むのは太陽の光と、魔法という名の奇跡の光。

その光は断罪の光ではなく。

命を暖かく包み込むように、ただ優しく鮮やかに輝いていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□二日後◼️□

 

端末を叩く音だけが響く。

執務官に割り当てられる仕事部屋。

その一室でフェイトは今回の事件に関する報告書を作成していた。

あれからまだ二日経たないというのに、既に仕事に戻っている彼女のバイタリティーは恐るべきものだ。

と、他の同僚は思っている。

彼女の場合くぐってきた修羅場の数が違うわけだが。

何かを思い出したかのように端末操作を止め、通信モニターを展開する。

どうやら誰かと約束をしていたらしい。

 

『お疲れ様です、フェイトさん。』

「お疲れ様、ティアナ。ごめんね、少し遅れちゃった。」

 

通信相手はフェイトと同じ執務官であり、かつては六課で共に戦ったティアナ・ランスターだ。

今回の事件でも、ティアナは執務官として大いに活躍していた。

石動の罪状の裏取りや、ガーディアン製造工場の証拠など。

凶悪事件担当の彼女の知識と腕がなければ、解決出来なかったはずだ。

 

「改めてありがとう。ティアナがいなかったらどうなっていたか...。」

『そんなことないですよ!結局現場には急行出来ませんでしたし...。』

「それはあの二人の護送を引き受けてくれたからでしょ?おかげで私はなのはたちの所に迎えたわけだし。」

『まあ、状況的に私よりフェイトさんが向かった方が効率的でしたからね。...あの二人、イズナとミラは何か話しましたか?』

「ううん。今のところは黙秘を貫いてる。」

 

フェイトに捕縛された後、イズナとミラはティアナに引き渡され護送された。

今はフェイトの手で取り調べを続けているが、以前真を襲った魔導師と同じく黙秘を貫いている状態だ。

 

「あの時の彼女たちの力は異常だった。真を襲った理由以外にも、聞き出さないといけないんだけど...。」

『そう、ですか。...そういえば、なのはさんはヴィヴィオに会えたんですか?あの仲良し親子のことだし、会えない分爆発しちゃったんじゃないかと。』

 

暗くなったフェイトの表情に気づいたのか、ティアナは明るい話題へと話を変える。

 

「ああ、うん。爆発してたよ。ヴィヴィオも強がってたけど、やっぱり寂しかったみたい。泣いてるなのはなんて久しぶりに見た。」

 

でもこの前、映画を観て泣いてたような。

確か、犬が出てくるやつだったか。

久しぶりじゃなかったかも、とフェイトは思う。

 

『ふふっ、なのはさんもすっかりお母さんですよね。もう6年も経つのに、相変わらず新鮮ですよ。』

「ティアナは特にスパルタだったもんね。」

『あ、あはは...。』

 

『あれ』は傍目から見ても怖かった気がする。

 

「私も早く帰りたいけど、今は一刻も早く事件をまとめて、リーゼたちの無実を証明しないと。はやてにも無理させちゃったし。」

『無理だなんて思ってないと思いますよ、あの人は。』

「そうだろうけど、だから心配なの。」

『それは、そうですね。』

 

またしても海側のはやてが、陸の不正を暴いた形になった。

自業自得とも言えるが、石動の言っていた陸と海の格差。更に溝が深まるのは確かだ。

 

『執務官としての在り方が問われる時代になりますね。』

「そうだね。何を正義として、何を悪とするのか。」

 

難しい話だ。正しいことと間違っていることは表裏一体。

どちらかに平等に決めるのは難しい。

 

『難しいからこそ、私達は一緒にいるんですよ。』

「時には引っ張って、時には引き止めて。そうやって一緒に歩いていく為の手だからね。」

 

受け売りだけどね、と付け加える。

 

『はい!リーゼと、未来の後輩はどうしてるんですか?』

「後輩はまだ気が早いと思うけど...。元気だよ...♪」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

あれから1ヶ月が過ぎた。

私は今も研究所でリーナさんとレンちゃん、それにりーちゃんとフェイちゃん。

総勢6人のちょっとした大家族で暮らしてる。

りーちゃんは今回の一件で手配されてしまっていたけど、フェイトさんたちのおかげで事件に誤解があり、石動さんのクーデターを未然に防ごうとした『ヒーロー』として改めて報道することになった。

もちろん今回の事件を知っている全員が、ただ犯罪者として石動さんを告発することに喜びはしなかった。

けど、目的の為に局員を犠牲にした事実は変わらない。だから裁きは必要になる。

納得するしかなかった。

大切なのは私たちが忘れないことだって、フェイトさんが言ってたっけ。

私は忘れない。

あの人だって、大切なものがあって、それをただ守りたかっただけなんだってこと。

...ちょっとシリアスになっちゃったけど、そのおかげでりーちゃんとクレアさんは無罪放免。二週間程で普通の生活に戻れた。

クレアさんと言えば、幼なじみのエレナさん。

なんと、聖王教会の偉くてそれはもうすごい人が治療を担当してくれることになったらしい!

りーちゃんが教えてくれたけど、話を聞いたクレアさんが号泣していたらしい。

クールな人だと思っていたので、とっても意外である。

何やら八神はやてさんの伝手らしい。

ちなみになのはさんからはサインをもらい損ねた。

今度もらって来て!とりーちゃんに頼もうとしたが、管理局はしばらくお休みにするとのこと。やはりほとぼりが冷めるまでは静かにしていたいらしい。残念。

 

ちゃんと今回のことで大変な心配をかけたので、おばさん(りーちゃんのお母さん)には会いに行った。

相変わらず綺麗だったけど、りーちゃんの無事が分かってずっと泣いてたなぁ。

ちなみに連れて行ったフェイちゃんを見て「いつの間に!?大き過ぎないかしら!?」と私みたいな勘違いをしていた。

流石に娘には見えないと思う。

結構大人っぽいし。

レンちゃんが頑張って話掛けようとしていたが、そもそもレンちゃんが照れ屋さんなのでなかなか距離が縮まっていない印象。

アドバイスしたら、顔を真っ赤にして怒られ罵倒された。相変わらずの酷い扱いである。

 

そうそう、レンちゃんと言えば今回の事件がナカジマジムのみんなにバレてしまった。

何やらヴィヴィオちゃんがなのはママに会えた嬉しさのあまり口を滑らせてしまったらしい。

元からみんなほぼなのはさんたちの関係者らしく、恐がれるかと思いきや普通に受け入れていた。

 

やっぱりな。

だと思いました。

ですよねー。

 

だそうです。

フーカ師匠が一番驚いてたかも。

そんなわけで、レンちゃんをみんなに紹介したのだ。

年頃的にはヴィヴィオちゃんたちより幼く見えるからか、ものすごく可愛がられていた(怖い意味じゃないぞ)。

恥ずかしがっているのか怒っているのか分からないレンちゃんが可愛かったので、写真を撮ってリーナさんに送っておいた。

飛び蹴りを食らった。痛かった。

正式にナカジマジムに通うことになったのはいいものの、レンちゃんがいないとダメな私が大会に出れるかは微妙。

でもいいんだ、守る為に強くなれる場所が出来たから。

運動は体にいいからね!

 

気になってる人もいるだろうから教えておくと、イズナちゃんとミラちゃん。

脱獄したらしい。まさかのプリズンブレイクである。

最も正確には取り調べ中の独房から逃げちゃったみたいだけど。

フェイトさんが離れてる隙に、大分強引な逃げ方をしたとのこと。

またレンちゃんを狙いに来るのかな。

その時は、今度こそお話を聞かせて欲しいと思う。

ちなみにフェイトさんが言っていた、私達の避難のお話。

研究所のセキュリティとりーちゃんが側にいるということで、とりあえず保留となった。下手に移動するより目立たなくていいそうだ。

すっかりここでの生活にも慣れてきたので、素直に嬉しかった。広いし。

 

そんなわけで。

それなりの平穏がまた訪れていた。

日常がなくなってしまった、よよよ。とか言ってた頃が最早懐かしい。

ん?長々と喋ってるけどどうしたのか?

誰に向かって言ってるのかって?

そりゃ決まってるでしょ。

 

「聞いてますか星宮さんっ!!」

「ひゃいっ!?」

 

現実逃避です。

 

「貴女という人は!毎日毎日!今度は何ですか!?おばあさんですか!?おじいさんですか!?猫!犬!うさぎ!」

「狸です。」

「珍しいっ!?」

 

また遅刻してしまった。

車に轢かれそうになった狸を助けたのだが、その狸にお弁当を盗まれてしまい、ちょっとしたお伽噺みたいな展開を味わってしまった。

こうしている間にも先生の怒声は響き続けている。

 

「何ていうか。安心するよねぇ。」

「はい、日常という感じですね。」

「相変わらずアニメ見たいな生活してるわねぇ、真のやつ。」

 

何故かほっこりしている三人組。

お説教されてる私に平和を感じないで欲しい。そろそろ終わる頃かな?

 

「先生、この子の見張りは今日から私がしますので。」

 

...ん?何やら聞き覚えのある声が。

 

「あ、すっかり忘れてしまいました。すみませんね。貴女、星宮さんとお知り合いだったんですか?」

「ええ、幼なじみですので。」

 

な、ななな...!?

 

「何でりーちゃんがここにっ!?」

「皆さん、紹介します。本日からこのクラスに転校してきた、リーゼ・グレーデンさんです。」

「リーゼです。よろしくお願いしますね。」

 

当たり前のように自己紹介を済ますりーちゃん。

 

「あー!?テレビで見た人!アニメみたいな展開じゃん!?」

 

クラスがざわついている。

ほとぼり冷めてないみたいなんだけど?

困惑する私にりーちゃんが耳打ちする。

 

「貴女を護衛する為です。それに、私も真と一緒に学校行きたかったですし。」

「だからってそんな簡単に...。」

「権力とはそういうものです。聖王教会系の学校でしたから、潜り込むのは簡単でした。」

「悪者みたいなこと言ってる...。ちょっとくらい教えてくれても。」

 

りーちゃんは悪戯っぽく笑う。

 

「びっくりさせたかったのです。これからよろしくお願いしますね、真♪」

 

してやったりと言うような彼女の笑顔を見て、再会したあの日と、彼女を一度失ったあの瞬間を思い出す。

もう二度と失いたくない。

レンちゃんを狙う人がいる。

これからどんな危険が待ち受けているかも分からない。

だけど、この笑顔だけは守り通す。

 

「うん。よろしくね、りーちゃん♪」

 

私達の日常は、始まったばかりだ。

 

「お説教もまだ始まったばかりですよ、星宮さん?」

「最後くらいキレイにまとめさせてぇ!?」

 

第20話『Synchrogazer』




「何とか終わりまで来たね!」
「続きがあると聞きましたが?今までは少し長めのプロローグです。」
「長すぎない!?綺麗にまとまってたしこれで終わりでも」
「ダメです。次回は簡単なアンソロジーなオムニバスで行きます。」
「尺稼ぎだ!?」
「私達の戦いはこれからです!」
「それ本当に続くんだよね!?」
※続きます。

ここまで見て頂いた方、本当にありがとうございます。
少しでも真たちが好きになってもらえたら幸いです。
第二期作成予定ですので、もしご興味があればこれからも宜しくお願い致します!
設定まとめとか需要があれば書きますね()


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閑話小話
閑話『Little Tales』


明けましておめでとうございます!
今年も宜しくお願い致します(ペコリ)
今年は大体週刊連載を目指します!
今回はちょっとした小話を集めてみました。


◼️□『あたしの帰る場所』□◼️

 

 

「レンちゃんってさ、リーナさんのこと好きだよね。」

「はぁ!?」

 

顔が真っ赤になる。勿論怒りからだ、恥ずかしいからじゃない。

 

「だってリーナさんの言うこと聞くし、あの時もリーナさんのとこに帰れて良かったって。」

「だからって好きってことになるか!別に好きじゃねー!」

 

こいつはやっぱりバカだ。

まったく、誰があんな変人好きなもんか。

 

「でもリーナさん、レンちゃんとお話してる時とか、笑顔がちょっと違うんだよ?何だか優しいっていうか。お母さんみたい。」

「っ...。あいつは、お母さんなんかじゃ...。」

 

私に、母親なんていない。

いないんだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「あのバカが変なこと言うから、飯の味分からなくなったじゃねーか。」

 

手持ち無沙汰にリビングに向かう。

 

「大体急に何の話なんだよ。何でそうこっぱずかしい話ばっかり...。」

「恥ずかしい?」

「うわ!?」

 

...忘れてた。留守番はあたしだけじゃなかった。

うちの新入り、フェイルノート。

リビングのソファーに座って、何やら読書している。

 

「何が恥ずかしいの?」

「何でもない!関係ないだろ!」

 

興味を無くしたように本へと目を落とすフェイルノート。

 

「...。」

 

向かい側のソファーの対角線に座る。

こいつのことはよく分からない。

同じアイアンメイデンってことしか知らない。

いっつもムスッとした顔をして、笑ってるところを見たこともない。

 

「...何読んでんだよ。」

「この世界の辞書よ。私たちの時代とは違う言葉がたくさんある。学んでおかなければ困るでしょう。」

「...あっそ。真面目なんだな。」

「あなたは真面目じゃないの?」

「この世界のことなんかどうでもいい。」

「そう。その割には楽しんでいるみたいね。」

「は?」

 

楽しんでる?あたしが?

 

「星宮真とリーナ・バレンシュタイン。あの二人といる時は、あなたはいつも笑っている。」

「んな!?わ、笑ってない!」

「笑っているわ。口では憎まれ口を言っていても、気づけば少し笑っている。あの二人のことが好きなのね。」

「ふ、ふざけんなっ!お前まで変なこと言いやがって...!」

 

よく喋ると思ったらこれかよ。

部屋に戻ろう。

みんなしてあたしをからかって楽しんでんだ。

 

「良いことだと思うわ。あなたが大切に思ってるあの二人は、あなたのことを愛している。お互いを思い合える人がいて、帰る場所があるのは素敵なことよ。」

「愛って...!」

 

またこっぱずかしいことを。

あたしは別に帰る場所なんて!

 

「...羨ましいわ。あなたはここで生きていける。」

「な...。何、言ってんだよ...。」

 

急にそんな、悲しそうな顔すんなよ...。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「何だってんだ...。」

 

部屋に帰ったあたしはベッドに座る。

今日は変な日だ。

みんなしてあたしの感情を逆撫でしやがる。

愛してるだと?

家族だとでも言いたいのか。

あたしに家族なんて...。

 

「...。」

 

ふとベッドに寝かしているぬいぐるみに視線がいく。

手を伸ばし、抱き締める。

 

「ふわふわだ...。」

 

これはあたしが覚醒して間もない頃に、リーナがプレゼントしてくれたものだ。

何でもない、くまのぬいぐるみ。

何でもないはずなのに。

 

「あったかい...。」

 

胸のとこがポカポカする。

これを渡された時のことは覚えている。

リーナが少しでも私を笑顔にしようとして、不安そうな顔しながら渡して来たんだ。

可愛いのは、嫌いじゃない。

だから、小さく言ったんだ。

 

「ありがとう...。」

 

そしたらあいつ、すっごい笑顔で喜んでた。

...分かってる。大切にしてくれてること。

私を人として扱ってくれてる。

私は幸せなのかもしれない。

幸せになれるのかもしれない。

だけど。

 

「あたしの、帰る場所...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「はい!レンちゃんにプレゼント!」

「え?」

 

それなりに大きいラッピングされた箱。

帰って来たと思ったら、いきなり渡された。

 

「今日はレンちゃんがリーナさんと暮らすようになってから、ちょうど一年目なんでしょ?だから、誕生日プレゼント!」

 

...もう、そんなに経ったんだな。

 

「今りーちゃんがケーキ焼いてるんだって!リーナさんはまた別に買い物に行ったみたい。」

「そう、か。...開けていいのか?」

「うん!」

 

包みを破り中身を見る。

中には白い猫のぬいぐるみが。

 

「レンちゃん、くまのぬいぐるみ喜んでくれたってリーナさんに教えてもらったんだ。だから、この子も可愛いし、プレゼントにピッタリかなって。」

「...。」

 

そっか。リーナも覚えてたんだ。

ぬいぐるみを見つめ、抱き締める。

...やっぱり、あったかい。

 

「その。...ありがとう...♪」

 

今度は少し、柔らかく、ハッキリと言えた気がする。

今はどうしたらいいか分からない。

でもいつか、答えが出るその時までは。

 

ここがあたしの帰る場所みたいだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□『深愛』◼️□

 

 

「本当にすまなかった。」

「いいんです、先輩は悪くないですから。」

 

そう言って私が殺そうとした後輩は、私を許した。

 

「悪くないなど...。」

「もうその話はなしです。それより、紹介してくれるのではないのですか?」

「...分かった。借りは必ず返す。」

 

強引な後輩だ。

苦笑いしつつ、病室の扉を開く。

 

「あら、来たのね。」

 

今日はリーゼとエレナを会わせると約束した日だ。

 

「リーゼ、こちらがエレナ。エレナ、リーゼだ。」

「紹介下手くそですか...。」

「む?」

 

ため息を吐くリーゼ。

何か問題があっただろうか。

 

「後輩のリーゼ・グレーデンと申します。先輩からお話は聞いていました。...ここまで綺麗な方とは思っていませんでしたが。」

「ふふっ、クレアの後輩にしては口が上手いのね。幼なじみのエレナよ。よろしくね。」

 

互いに握手を交わす二人。

 

「お前たち、私を何だと思って...。」

「口下手な先輩。」

「口下手な幼なじみ。」

「枕詞をいきなり合わせるな。」

 

まったく。

端的に紹介しただけでこの扱いか。

 

「気が合うようで何よりだ。私は飲み物でも買ってこよう。」

 

口下手とは何だ。

確かに言葉は足りなかったと思うが、私だって色々と勉強しているのに。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「拗ねちゃったみたいね。」

「ええ、先輩はあれで意外と繊細ですから。」

 

...さて、と。

クレアがいなくなって、上手く二人きりになれた。

私は立ち上がりクレアの後輩ちゃんに近づく。

 

「どうしました?」

「聞いておかないとってずっと思ってたの。」

 

そのまま壁に追い詰めるように近づく。

 

「な、なんですか?」

「...。」

 

ドンッ!

 

見事に壁ドンを決める。

初体験だ。

 

「あなた、クレアのこと好き?」

「へ?...好きですけど、後輩として。」

 

後輩として。

 

「そう。じゃあ大丈夫ってことでいいのね?」

「大、丈夫...?」

 

後輩ちゃんの目を真っ直ぐ見て言葉を続ける。

 

「クレアは私のクレアなの。」

「あなたの、クレア...?」

「そう。だから、リーゼちゃんが友達なのか。それとも敵なのか。ハッキリさせたいでしょ?」

 

クレアが私以外を見るようになったら困るもの。

クレアは私の大切な幼なじみ。

それだけじゃないけど。

 

「あぁー...。そういう...。」

 

後輩ちゃんは冷や汗を流しつつ、納得したような声を漏らした。

 

「安心してください。私の本命は別にいますので。」

「...そう。なら良かった。あなたとはいいお友達になれそうね♪」

 

手を離し、ベッドまで戻る。

戻ると同時に病室の扉が開く。

 

「買って来たぞ。...そんなところに座って何をしているんだ?リーゼ。」

「い、いえ...。何でも、ありません。」

「?そうか。」

 

クレアは後輩ちゃんにジュースを手渡し、私にいつものスポーツドリンクを渡してくれる。

 

「ほら、お前の好きなやつだ。」

「ええ。ありがとう、クレア...♪」

 

そう、私も大好きよ。

 

 

 

実は同化していたフェイは、後にこう感想を残している。

「かなり恐怖を感じた。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□『比翼の鳥』◼️□

 

 

「イズナ、ごはんの支度出来たよ。」

「ありがとですよミラ。何を作ったんですか?」

 

ミラと呼ばれた少女がVサインを以て答える。

 

「298円。」

「ごちそうですでーす!」

 

廃墟と化した郊外のボロ家。

そこが彼女たちの家だった。隠れ家と言った方が適切だろうか。

 

彼女たちは少し前に脱獄したばかりだ。

管理局でも選りすぐりの、優秀な執務官と相対したのが運の尽きだった。

気づけば豚箱行きである。

ただ天は彼女たちを見捨ててはいなかった。

執務官は常に張り付いているわけではない。

チャンスがあった。

幸い彼女たちは少々『特殊』であり、デバイスを取り上げられることはない。

厄介な執務官が離れている間に力を解放し、まんまと逃げ果せたというわけだ。

 

「んー!ミラが作ったカップ麺は格別です!」

「ん。愛情が、隠し味。」

 

298円のカップ麺を幸せそうに食べているのには理由がある。

端的な話、お金がない。

彼女たちは今まで魔獣狩り等で生計を立ててきたが、現金は持ち歩く派だったのだ。

捕まり、そして脱獄したことで今までの報酬がパアである。

今は何とか隠れ家の隠し金で生活出来ているが、長くは続かないだろう。

 

「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした。」

 

二人はカップ麺を食べ終わると、幸せな表情から一変。ため息を吐く。

 

「...ごめんなさいミラ。私のせいです。いい仕事だと思ったのです。」

「...ううん。イズナは悪くない。」

 

ミラがイズナに寄り掛かる。

それをイズナが肩に手を回して横向きに抱き締める。

 

「私たちの全力も、あの管理局には効きませんでした。」

「上には上がいる。」

「捨て身の全力ですよ?それをあんなに簡単に...。」

 

ミラが震える手を握る。

 

「...一人で失敗作でも、二人なら本物。イズナが言ったんだよ?」

「ミラ...。」

 

本当に微かに微笑むミラ。

 

「イズナと一緒なら、何も怖くないよ?」

「...私が、ミラを守ります。絶対の、絶対です。」

 

より強く抱き締める。

お互いにお互いの存在が世界であり、全てを賭けてでも守りたい命。

 

「だから最後まで。一緒にいてくださいね。」

「...ん。」

 

お互いしか頼れない儚き少女たち。

二人が流れ星に願いを捧げるのは、もう少し先の話になる。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

□◼️『愛おしい日々は永遠に』◼️□

 

 

「真ちゃん!オーダーお願い!」

「はい只今ー!」

 

昼間のランチタイム。

今時珍しいチェーンではない、個人経営のファミリーレストラン。

『SONG』という名のその店は、隠れた名店としてここ一帯の仕事人間、学生に有名である。

全然隠れていないのはともかく、今日もそのそこまで大きくない店は大盛況。

注文を聞いては料理を運び、料理を運んではまた注文を聞く。

誰かが退店すれば誰かが入店する。

ランチタイムは3時間のはずが、永遠のようにも感じる。

驚くべきことに店員はシェフを入れて4人しかおらず、一人はアルバイトの学生である。

にも関わらず、店の回転はなかなかのもの。

少数精鋭とはこのことだと言わんばかりに回っている。

 

「お待たせ致しました!鯖の味噌煮定食に、チーズハンバーグ定食です。ごゆっくりどうぞ!」

 

昔ながらのファミリーレストランのはずが、和洋中何でも御座れのチェーン店顔負けの品揃え。

料理を担当しているのは筋骨隆々のドラゴンのような髪型の男性と、落ち着いていて、大人な雰囲気を醸し出す黒髪の女性。

ホールスタッフは少し軟派な印象のある髪を薄く染めた男性と、先程触れたアルバイトの少女である。

絶妙に噛み合ったコンビネーションで注文を捌いていく4人。

 

「...見事だ。」

「確かにすごいけど。...さっきから手が止まってるよクロノ。早く食べないとお店に悪いだろう。」

「おっと、悪い。相変わらず真面目だな、ユーノ。」

「君が大分砕けただけじゃないか?」

 

ちょっとした有名人じゃ済まないかなりの重役の二人なのだが、店の賑わいに上手く隠れられているようで、周りを気にせずお互いに名前を呼び遇っている。

 

「...美味い。最近食べた中じゃ一番だ。」

「それ、奥さんに聞かれたらまずいんじゃないかな?」

 

ハンバーグの味に舌鼓を打っているクロノを嗜めるユーノ。

 

「こういうところの料理と、家の料理は別だろ。ま、独り身には分からないか。」

「うるさいなぁ...。」

 

また始まったとユーノは思う。

 

「で、なのははどうなんだ?」

「元気そうだよ。長めの休暇を取って、ヴィヴィオと過ごしてるって。」

「じゃなくて。」

 

クロノが不満そうに告げる。

 

「いつになったら付き合うんだ。」

「だからボクたちはそんなんじゃないって!」

 

何回言わせれば気が済むのだろうか。

会うたびに聞いてきて、まるで親戚の叔父さんである。

 

「またまた。遠慮してるだけだろ?」

「だから違うって。ボクたちは家族みたいなもので、この距離感がちょうどいいんだ。そういうのは、ないよ。」

「ふーん。」

 

つまらなさそうに返事をする。

これは1ミリも信じてないな?

 

「ヴィヴィオだってお前に懐いてるだろ?なのははいつまで経っても無茶ばかりするし。誰かが側で支えてやるべきじゃないのか?」

「それは...。支えるよ、ボクやフェイトが。友達だからね。」

「はぁ...。」

 

そういうことじゃないと言わんばかりにため息を吐くクロノ。

 

「はいはい、そうですか。」

「そうだよ。そっちこそ、フェイトにそういう話はないの?」

「あるわけないだろ?フェイトだぞ?...そりゃモテるらしいが、あいつにその気がまったくないんだ。

あいつもお前と一緒、恋や愛じゃなくて家族と友達がいればそれで満足なんだ。」

「そっか。」

 

ヴィヴィオにエリオ、キャロ。既に三人も子どもがいるのだ、家族や友達が他の人間より遥かに貴重で大切な彼女には、今でも十分過ぎる程に幸せなのだろう。

 

「...なんか、すっかり大人になっちゃったね、ボクら。」

「...まあな。随分遠くまで来たもんだ。」

 

昨日のように思い出せる。

助けを求めるボクに、手を差し伸べてくれた少女。

大人の女性となった今も、きっと誰かの為に走っていくのだろう。

 

「アースラに母さんたちといた頃が恋しいよ。今じゃ書類仕事に部下のやんちゃの後始末ばかりだ。」

「はは。はやてがまた無茶したって聞いたよ。」

「まあ、仕方ないことだ。あいつらの無茶はいつだって、正しいことをしたいって気持ちを通した結果だからな。」

 

ため息を吐きつつ、どこか嬉しそうな顔をしている。

よく知ってる、いつものクロノの顔だ。

 

「...変わってないね、ボクら。」

「...ああ。変わらないよ、オレたちは。」

 

今も昔も、子どもから大人になったとしても。

輝く光はまだ、それぞれの腕と胸にある。

 

「失礼します。デザートの特製プリンとコーヒーになります。」

 

少ししんみりしたボクたちのテーブルにデザートが運ばれてくる。

 

「あれ?頼んでないのですが?」

 

不思議に思うボクたちに、少女がはにかみながら答える。

 

「店長からサービスです。いつもお疲れ様です!だそうです。」

 

顔を見合せるボクとクロノ。

 

「それと...サイン、いいですか?!」

 

モジモジした様子で、少女はサイン色紙を取り出した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

□◼️『Little Wish』□◼️

 

 

海鳴市。地球と言われる世界は、今日も穏やかな日常が流れている。

 

その海鳴市の小さなカフェ、そこに5人の美女が集まっていた。

本人たちは普通にしているつもりだが、かなり近寄りがたい雰囲気が出ている。

カフェのマスターは子どもの頃から彼女たちを知っている為、成長したなぁ、としか思っていないのだが。

 

「しかしすずかちゃんもアリサちゃんも久しぶりやな~。」

 

茶髪をセミロングくらいに伸ばした女性、八神はやてが話を切り出す。

 

「本当に久しぶり~。はやてちゃん、その髪型とっても似合ってる。」

「ほんまに?!おおきにな、すずかちゃん。」

 

紫髪の女性は月村すずか。はやてにとっては一番最初の友達である。

 

「相変わらず仲良しよね、はやてとすずかは。」

「私とアリサちゃんも仲良しだもんね?」

「はいはい、仲良し仲良し。」

「久しぶりなのにアリサちゃんが冷たいよ~...。」

 

濃いめの金髪のキリッとした女性、アリサ・バニングスが、可愛いらしい髪飾りで髪型をサイドテールにした女性、高町なのはを軽くあしらう。

 

「ふふっ、みんな元気そうで良かった。」

 

最後に金髪に赤い目が美しい女性、フェイト・T・ハラオウンが全員の様子を眺めて笑う。

 

この5人はもう10年以上の付き合いとなる。

今は住む世界が(物理的に)違う為、気軽に集まることが出来なくなっているのだが

なのはたちがまた、大変な事件に巻き込まれたのをきっかけに休暇を利用して集まろうという話になったのだ。

 

「元気?心配したのはこっちよ。ね、すずか。」

「うん。通信の時のなのはちゃん、すごく元気なかったし。」

「酷い時はヴィヴィオ、ヴィヴィオ~って泣いてたもんね。」

「わ、わ!?その話はやめて~!」

 

フェイトやはやてという局員と、その知り合いとの通信を禁止され、軟禁されていたなのは。

しかし、通信禁止は地球の友人までは想定していなかったらしく、すずかとアリサが彼女の精神的支えとなっていたのだった。

 

「でもほんまに良かったなぁ。二人がおらんかったら、なのはちゃんも耐え切れんかったかもやし。」

「それは、そうだね。」

「改めてありがとう、すずかちゃん。アリサちゃん。」

 

三人のストレートな感謝にアリサの頬が染まる。

 

「べ、別にいいわよ。お礼なんか。元気なら、それで...。」

「ふふっ、どういたしましてだって♪」

「通訳しないでよ!?」

 

大人になっても、照れ屋な所は変わらないらしい。

幼なじみの相変わらずな様子に、全員が安心したような、嬉しい気持ちになる。

 

「それで?もう一安心なんでしょ?」

「まあね。後処理は大体終わって、後は時間が来るのを待つ感じかな。」

「うん。こっちも何とか、片付きそうや。クロノくんにはしこたま怒られてしもうたけどな。」

「すっかり仕事人間よね、みんな。」

 

当たり前のように雑談に仕事の話が入る辺り、すっかり社会人となってしまったようだとアリサは思う。

 

「こっちは良くない。全然良くないよ。ヴィヴィオったら久しぶりに会えたのに、次の日一緒に寝ようとしたら『もう中学生だから、ママと一緒に寝るのは卒業!』って言い出して...反抗期に突入しちゃったみたいなのです...。」

「それ、反抗期なわけ?」

「あはは、すっかり親バカママだね~。」

 

今度は娘の話。

ちなみに彼女たちは一人として結婚はしていない。

年齢は25。まだいける、まだ舞える。

まだ気にする時ではない。

 

「で、誰か浮いた話はないわけ?」

「「「「...。」」」」

 

流石切り込み隊長アリサ。

デリケートな話題をストレートにぶつけていく。

 

「わ、私はないかな。はやてちゃんは?」

「私!?あ、あはは。なまじ立場があるからか、ガード固いって思われとるんかな?そういう話はないんよ。フェイトちゃんは?」

「私!?...は、はやてと一緒かな。それに、あんまり興味ないし。」

 

普通に流す者、仕事を理由にする者、興味がないとそもそもその気がないだけですとアピールする者。

それぞれのやり方で話題に対して何とか逃走を計る。

そうなると、自然に視線は最後の一人に集中する。

 

「へ?」

 

高町なのは。今や一児の母だが、結婚はしていないしそういう関係の人間もいたことはないと、幼なじみ兼親友たちは認識している。

 

「ユーノとはどうなったの?」

「へ!?ユーノくん!?」

 

アリサがなのはに詰め寄る。

ちなみに、言い出しっぺのアリサはこの話題に参加しているようで

実は自らの近況は聞かれないという裏技染みた手法を使っている。

常に聞き手となることで自分は質問されない状況を作る。

まさに、攻撃は最大の防御である。

 

「ユーノくんは友達だし、そういうのじゃ...。」

「「「「はぁ。」」」」

「何で全員でその反応!?」

 

安心と呆れのため息である。

アイスティーに手を伸ばし一口飲む。

頭を冷やしたようで、なのははあくまでも冷静に語る。

 

「ユーノくんは友達で、家族みたいなものだから。今更そういうのは、ちょっと違うかなって。このくらいの距離感がちょうどいいなとは...。」

「恋も鮮度が命か。」

「それはちょっとおじさんくさくないかな?はやてちゃん。」

「おじ!?や、やっぱり小さい頃からみんなのおかんやったし、感性が歳を越えてしもうて...!」

「あーはやて落ち着いて!大丈夫、まだ若くて綺麗だと思うよ!?」

「ま、まだ...!?」

 

華やかな女子会が一転。

アラサー突入女子会へと変貌してしまった。

フォローしておくが、普段はこんな話はしない。

気の許せる人間が集まった、その反動である。

何故か流れ弾が当たったはやてと自らの頭を冷やそうとアイスティーをがぶ飲みするなのは。

その二人を落ち着かせるのに30分はかかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「私が悪かったわ。この話は止めましょう。」

「「「「うん...。」」」」

 

悲しい事件だった。

この話題はしばらく封印しなければ。

もっとも、すずかだけは後でアリサを問い詰めようと考えていたわけだが。

 

「...でもやっぱり、三人が魔法使いで、今は別の世界に住んでるなんて。不思議だよね~。」

「そうよね。もう10年以上経つのに、未だにおかしいと思うわ。」

 

世界的に見ても稀有な人生を歩む三人の幼なじみを見て、所謂『普通』のすずかとアリサは呟く。

 

「私から見ると、魔法のないこの世界の方が新鮮なんだけどね。」

 

唯一魔法の世界で生まれたフェイトが答える。

 

「最初はユーノくんがなのはちゃんと会ったのが始まりやったっけ?」

「うん。ジュエルシードを集める為に無理してたユーノくんを、私が拾ったのが最初だね。」

 

なのはは回想する。始まりのあの日。

今でも思い出せる。

初めて魔法を知り、使い、戦ったあの日のことを。

 

「拾った...拾ったのよね、確かに。」

 

アリサちゃんがぷぷっと笑いを吹き出す。

 

「フェレットだったから、拾ったで合ってるよ。」

 

答えるすずかちゃんも口元を抑えて笑っている。

 

「あ、あはは...。ユーノくんが普通の男の子だったのは驚いたけど。そこからフェイトちゃんに会って、友達になって。」

 

最初は助けてもらったと思ったら、攻撃されて。

その後何度もぶつかって。

結局フェイトちゃんは大切なものを失ってしまったけど、それでも私と友達になってくれた。

 

「...なのはがいてくれたから、私はみんなと出会えた。だから、今もこうやって笑ってられる。」

「そんな。私こそフェイトちゃんがいたから、色んな人たちと出会って、仲良くなれたんだよ?」

 

初めて名前を呼び合ったあの時。

今もこうして続く縁になると、未来を想像出来ていただろうか。

 

「それを言うなら私もや。二人が助けてくれんかったら、家族みんな、私もここにはおらんよ。」

 

はやてちゃんが微笑む。

闇の書事件。

はやてちゃんを救おうとする4人の守護騎士との激突。

暴走するプログラムをみんなで止めて。

その先に待ってた、悲しいお別れがあって。

 

「あの事件があって、管理局に所属しようって思ったんだ。だから、スバルたちと会えたのははやてちゃんのおかげだよね。」

「色んなことが繋がって、今の私たちになってるんだね。」

「ほんまにな。人生、何があるか分からんもんや。」

 

今まで色んなことがあった。

悲しいことも、嬉しいことも。

これからもそんな日々が、きっと続いていく。

 

「私たちのことも忘れないでよね?」

「忘れないよ。私の大切な、最初のお友達だもん。」

「なのはちゃん...。」

 

忘れない。

救えなかった人。

別れた人。

たとえ簡単に会えない人がいても。

絶対に忘れない。

一つの別れと、一つの出会いが。

今の私を作っているから。

別れた人たちがもし、私たちを見ていて、何か伝えられるとしたら。

いつだって、胸を張ってこう言えるように、今日を生きていこう。

 

「私は笑顔でいます、元気です!」




現れる二振りの聖剣。
再び引き裂かれる日常。
訪れる敗北。
明かされる真実は、破滅への残響となり。
無垢な命は絶望に絡み捕られて、何も出来ないまま...。

次回、魔法少女リリカルなのはS.G.
第二部『Antiphona』
始まります。


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登場人物プロフィール集

脳内イメージ補完用。※2023/1/9 一部キャライラスト追加


【名前】:星宮真

【年齢】:16

【血液型】:O型

【誕生日】:12/14

【星座】:いて座

【好きなもの】:カレーライス、映画、可愛いもの

【嫌いなもの】:虫(足が多いの)

【趣味】:人助け、映画鑑賞、トレーニング

【髪色】:明るい茶髪

【髪型】:短めのポニーテール

【胸の大きさ】:普通よりやや大きめ

【見た目モデル】:恋姫夢想の馬超

【内面モデル】:シンフォギアの立花響

 

 

【挿絵表示】

 

 

完全にビッキーを意識したキャラですね。

見た目モデルは完全に趣味です。

フェイトに憧れる設定はシンフォギア一期のオマージュとして取り入れましたが

魔法が雷だったり、かなりハマった設定だと自画自賛してます。

なのはの世界は拳だろうと剣だろうと関係なく、話すためにはまず倒す必要があります。

そんな中で真が武器を持たないのは、もし手を伸ばせる瞬間があるなら一瞬でも早く手を繋ぎたい、そんな我が儘の表れなんです。

フーカへの弟子入りは思い付きで、原案にはありませんでした。

ちなみに声優診断をした所悠木碧さんになりました(ガチ)

 

【名前】:リーゼ・グレーデン

【年齢】:16

【血液型】:A型

【誕生日】:9/13

【星座】:乙女座

【好きなもの】:クレープ、お寿司、くま

【嫌いなもの】:人混み、幽霊

【趣味】:料理、読書

【髪色】:薄紫

【髪型】:ウェーブの付いたミディアムヘア

【胸の大きさ】:普通くらい

【見た目モデル】:ゼロの使い魔のアンリエッタ

【内面モデル】:特になし(色々と混じってます)

 

 

【挿絵表示】

 

 

未来さんモチーフじゃないんかい!(戒め)

元はと言えば友人が発案したキャラでして、連載に辺り変えた方がいいか確認したところ、そのまま使ってよしと許可頂いた為続投したヒロインでした。

もっとも設定とか見た目のモデルなど、かなり魔改造してます。

未来さん要素はまあ、紫とか。愛が重いとか...。

割りとなのはさんの弟子を意識して考えました。

ティアナと戦闘スタイルが軽く被っているのが気になりますが、二人の共演もいつか見せたいところですね。

 

【名前】:リーナ・バレンシュタイン

【年齢】:27

【血液型】:B型

【誕生日】:10/11

【星座】:天秤座

【好きなもの】:遺跡、機械全般、甘いもの全般、可愛いもの全般

【嫌いなもの】:管理局、虫、トマト

【趣味】:研究、レンレンを可愛いがること

【髪色】:薄い金髪

【髪型】:ロングヘア

【胸の大きさ】:かなり大きい

【見た目モデル】:ドルウェブのヴィーナ

【内面モデル】:シンフォギアの櫻井了子

 

 

【挿絵表示】

 

 

ラスボスですか?さあ、どうでしょうね←

シリアスブレイカーとしての役割が非常に強い印象。何でもありのドラえもん。

彼女の掘り下げは二部にて行う予定です。

 

 

【名前】:イズナ(名字不明)

【年齢】:16(たぶん)

【血液型】:AB型

【誕生日】:6/21(ミラと決めた)

【星座】:双子座(上に同じ)

【好きなもの】:ミラ、ミラが作った料理、可愛い服

【嫌いなもの】:男、管理局、ミラが嫌いなもの

【趣味】:ミラと一緒にいること、コスプレ

【髪色】:黒

【髪型】:ショートボブ

【胸の大きさ】:普通よりやや大きめ

【見た目モデル】:アカメが斬る!のアカメ

【内面モデル】:シンフォギアの暁切歌

 

 

【挿絵表示】

 

 

切ちゃんの口調が強すぎて差別化が難しい()

チェンソーウーマンになるしかねぇ←

きりしらと同じく味方になるのか?

二部での活躍に期待してください。

 

【名前】:ミラ(名字不明)

【年齢】:16(イズナと一緒)

【血液型】:B型

【誕生日】:6/21(イズナと一緒)

【星座】:双子座(上に同じ)

【好きなもの】:イズナ、イズナが作った料理、オムライス、うさぎ

【嫌いなもの】:男、管理局、イズナが嫌いなもの

【趣味】:イズナと一緒にいること、昼寝、動物鑑賞

【髪色】:真っ白

【髪型】:長めのツインテール

【胸の大きさ】:すごく大きい

【見た目モデル】:アズールレーンのラフィー

【内面モデル】:シンフォギアの月読調

 

 

【挿絵表示】

 

 

巨乳かよ...(憤慨)

トランジスタグラマーです。

実は癒し枠。

昼寝姿はそれはもう小動物みたいで可愛いとか。

 

【名前】:クレア・スカーレット

【年齢】:19

【血液型】:O型

【誕生日】:8/15

【星座】:獅子座

【好きなもの】:ハンバーグ、肉じゃが、刃物

【嫌いなもの】:父親、母親、ロボット

【趣味】:筋トレ、ランニング

【髪色】:赤

【髪型】:伸ばしっぱなしのロング

【胸の大きさ】:普通より小さい

【見た目モデル】:だから僕は、Hができない。のリサラ

【内面モデル】:特になし(色々混じってます)

 

 

【名前】:エレナ(名字?じゃあスカーレットで。)

【年齢】:20

【血液型】:A型

【誕生日】:10/31

【星座】:蠍座

【好きなもの】:クレア、桜の花

【嫌いなもの】:男、病院、権力者、クレアを奪いそうな人

【趣味】:外の景色を眺めること、テレビドラマ、クレアと過ごすこと

【髪色】:薄い水色

【髪型】:セミロング

【胸の大きさ】:普通より大きい

【見た目モデル】:とらドラ!の川島亜美

【内面モデル】:特になし(色々混じってます)

 

ガチ百合枠。

ちょっとヤンデレ入ってます。

この二人の設定も伏線だらけですが、回収するかは未定です。

 

【名前】:クラレント

【年齢】:知るか

【血液型】:だから知らない

【誕生日】:ねーよ

【星座】:ねーって言ってんだろ

【好きなもの】:肉、チョコ、可愛いもの

【嫌いなもの】:ピーマン、にんじん

【趣味】:んなもんあるか

【髪色】:銀髪

【髪型】:二つ結び

【胸の大きさ】:子どもなのでまだないです

【見た目モデル】:シンフォギアの雪音クリス

【内面モデル】:クリスちゃん

 

【名前】:フェイルノート

【年齢】:計算したいの?

【血液型】:不明よ

【誕生日】:ないわ

【星座】:ないわ

【好きなもの】:プリン

【嫌いなもの】:トマト

【趣味】:読書

【髪色】:ピンクブロンド

【髪型】:猫耳みたいなあれ

【胸の大きさ】:まだ中学生くらいなのにそこそこ...

【見た目モデル】:シンフォギアのマリア・カデンツァヴナ・イヴ

【内面モデル】:マリアさん

 

はい、小さいクリスちゃんとマリアさんです。

二人共何か重要なことを隠しているようですが...。

配役はひびクリがすごく好きなのと、マリアさんは最推しだからです。

身内人事です。過酷な過去を持つ二人ですが、こちらの世界でももしかしたら...。

 

 




※順次追加予定です!


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第二部『Antiphona』
第21話『二振りの聖剣』


第二部、始まります。
次回投稿は14日予定です。たぶん。


世界が砕けていく。

街は崩れ、人は息絶える。

炎に包まれ、何もかもが消え去る。

少女は独り。

災禍を振り撒きながら、世界を憎む。

 

愛していた。

『愛されていると思っていた。』

 

大切に思っていた。

『私は道具だった。』

 

一緒にいたかった。

『私が殺した。』

 

「パパ...ママ...。」

 

私は許さない。

人間を、世界を。

全て、消し去ってやる。

 

「滅びろ...。何も、かも...!」

 

この日、世界は滅びた。

少女の怒りは世界を飲み込み。

自らの身すら焼き尽くす。

この炎は永遠に燃え続けるだろう。

たとえ一時の眠りに落ちたとしても。

それでも、消えることを許されない。

 

少女の身体は、鉄で出来ていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「おはようございます、真。」

「おはよう!りーちゃん。」

 

いつも通りの朝が来た。

りーちゃんに挨拶して、私の席に座る。

向かい側の席には小さい同居人で、私達のパートナーな二人が既に座っている。

 

「レンちゃんもフェイちゃんもおはよう!」

「おはよう。」

「...ん。」

 

ふむ。フェイちゃんはまだ表情が固い。

レンちゃんはまだ眠いみたいだ。

 

「ふわぁ~...。おはよう、みんな...。」

 

眠そうに誕生日席に座るリーナさん。

 

「博士、また夜更かしですか?美容の敵だとか何とか言っていたではありませんか。」

「ちょーっと気になることがあってね...。んー、いい香り♪」

 

いつものリーナさんとりーちゃんのやり取り。お説教ばかりだけど、何だかんだ上手くやれてるみたいだ。

 

「それじゃあ、みんな揃ったし。」

「ええ。手を合わせて。」

「「「「「いただきます!」」」」」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

あの事件、通称『ガーディアン事件』から二ヶ月が過ぎた。

季節は夏に差し掛かり、学校の制服も夏服になってたりする。

 

「今日もあっついね~...。」

「ええ。7月とは言え、都心はやはり熱が籠りますから。」

 

すっかり一緒の登校が日常になっていた。

二ヶ月前はこんな風になるなんて思ってなかった。

 

『あー、ついていくのかったるい。何であたしまで暑いんだ?』

『マスターの体感はそのままフィードバックされる。鎧化している時とは違うわ。』

 

勿論、レンちゃんとフェイちゃんも一緒だ。

この一体化便利なんだけど、端から見ると腹話術かつ独り言みたいになるから、ちょっと恥ずかしいんだよね。

もう慣れてきたけど。

 

「今日も練習には行くのですか?」

「ううん、今日はアルバイトの方。師匠には朝にちょっと見てもらえたよ。」

 

あれ以来、私は早起きが習慣になっちゃって毎朝師匠と一緒にランニングをするようになっていた。

ついでに型を見てもらったり、放課後予定がなければジムに顔を出したりとすっかり馴染んでしまっている。

部活みたいで楽しいし、強くなれるのはありがたい。

二ヶ月の間、平和な時間が流れてる。

誰も襲っては来ないけど、いつ何が起こるか分からない。

レンちゃんを、りーちゃんを守らないと。

今や新しい私の『家族』だ。

この幸せは手放すわけにはいかない。

 

「あ!まこちー!レテっちー!」

「この妙なあだ名は...。」

 

振り返るといつもの三人がこちらに向かって来ている。

朝に会うのは珍しい。

 

「おはようみんな!」

「おはよう真。」

「おはようまこちー!」

「おはようございます、星宮さん。グレーデンさんも。」

「ええ、おはようございます。」

 

最早日常の象徴とも言える三人だ。

りーちゃんのこともすぐに受け入れて声をかけてくれたし。

 

「相変わらずお嬢様感あるよねー、リーゼってば。真と一緒に登校する前に『タイが曲がっていてよ...。』とかやってたりしない!?」

「しませんけど?」

「だよねー。」

 

りーちゃんもすっかり馴染んでる。

途中からなのに成績優秀だし、音楽まで出来ちゃうし。

他のクラスメイトとも上手くやれてる。

昔の印象とは180°違う。

ああ、私の後ろに隠れてモジモジしていたあの頃が懐かしい。

 

「ねぇねぇ、今日は二人共空いてる?カラオケどうかな?」

「ごめんね、またバイトなんだ。でも、りーちゃんは空いてるんじゃないかな?」

「え、ええ。私は大丈夫ですけど...。」

「まこちーはやっぱり忙しいか。残念だけど、今回は4人かな。」

「星宮さん、またお誘いしますね。」

「うん、ありがとう。本当にごめんね?」

「いいわよ、気にしないで!」

 

すっかり私の方が付き合い悪くなっちゃったな。

でも仕方ない。頑張らないとだし。

 

何でもない話をしながら、学校に向かう私達。

この時は思いもしなかった。

そんな普通の時間が、またもや遠くなるなんて。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

「ハァ...!ハァ...!」

 

平和な筈の路地裏を、少女が全速力で駆けていく。

その表情は必死そのもの。

少女は追われていた。

元々彼女は管理局からすればお尋ね者である。

だが、追っ手は管理局ではない。

 

「なん、で...!」

 

何故こんなことに。

やはりあの仕事を受けたのは失敗だった。

ロストロギアの奪取。

依頼主は不明。

普通に考えれば危険な仕事だったが、彼女たちには慣れっこだった。

安全な依頼など彼女たちには下りてこない。

命懸けの仕事は基本。

だからこそ、彼女たちに需要はあった。

彼女たちの『力』は埒外。

並みの魔導師や魔獣では歯が立たない。

死神だとか、悪魔だとか、裏の世界ではそこそこ有名になっていた。

ロストロギアの奪取などお手の物。

ただよくある仕事の、ちょっと金払いのいい仕事だと思っていた。

 

結果は失敗。

対象は並みの魔導師ではなく化け物。

おまけに管理局最強の魔導師の邪魔まで入った。

何とか抜け出したはいいものの、資産を多く失った。

それでも、何とか立て直そうと考えていた。

 

それなのに。

 

「く、そっ...!」

 

依頼主は失敗を許さなかった。

二日前、隠れ家を襲撃された。

敵は二人。

通常の状態では対抗できず、あまり使いたくない切り札まで使用した。

しかし、敵は強かった。

こちらの消耗を突かれた上に分断され、最愛の片割れと離されてしまった。

 

「ミラ...!」

 

どうか、どうか無事であって欲しい。

あれからもうかなりの時間が経過している。

彼女は必死に逃げ都市近郊まで辿り着いていたが、片割れはそもそも逃げられているかすら分からない。

もう、会えないかもしれない。

言い知れない喪失感と悔しさ、追っ手への憎しみが、もう限界が近い彼女の体を動かしていた。

 

「ミラ...ミラ...っ!」

 

守ると約束したのに。

誰か。誰でもいい。私じゃなくても、管理局だって構わない。

だからどうか。

 

「誰かミラを...助けて...!」

 

自分の身を厭わず、ただ親友の無事を祈る少女の頭上に、ヒラリと焔が揺らめいた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「しかし今更ですけど、夕方なのに結構お客さん来ますよねこの店。」

「ああ、まあ。うちはファミレス名乗ってるだけあって手広くやってるからね。」

「今の時間だと注文もコーヒーとか、デザートが多いでしょ?ちゃんとファミレスしてるのよ、意外と。」

「なるほど。」

 

アルバイトの隙間時間。

珍しくお客さんもいないので、従業員さんの藤尭さん、友里さんとちょっとした雑談をしている。

ここ、私のアルバイト先であるファミリーレストラン『SONG』。

ファミレスなのにチェーン店でなかったり、今時結構珍しいお店だ。

店の大きさはそこそこだけど、店長の腕が良くてお昼時はものすごく繁盛する。

私も最初はお客さんとしてこの店を訪れた。

和洋中デザートまで何でも美味しい。

店長さんは一体どんな修行をしたんだろうか。

 

「真くん、今日はまかないどうする?食べていくかい?」

「あ、ごめんなさい店長。今日は夜ごはん作ってくれる日で。」

「二ヶ月前は毎回食べて行ってたのにな。本当に彼氏じゃないんだよね?その年で同棲なんて...。」

「はいはい、親じゃないんだから干渉しないの。幼なじみの子とルームシェアだって言ってたじゃない。」

 

雇ってもらってまだ三ヶ月だけど、お三方とも私をすごく心配してくれてる。

アルバイトは私だけで、藤尭さんも友里さんもちゃんとした従業員さんだ。

店長さんが私を気に入ったらしく、好意で雇ってもらった。

 

「ま、家に飯があるのは幸せなことだ。独り身じゃいつだって自分で全部やらなきゃならんしな。」

「そろそろ誰かしら身を固めてもおかしくない時期だと思うんだけどなー。友里さんは?」

「普通女性に振る?デリカシーがない人には教えない。」

「ご、ごめん...。」

「あはは。」

 

みんなすぐ結婚出来そうなのに、意外とその手の話はないらしい。

 

「何か困ったことがあれば言ってくれ。子どもの為に動くのが、大人の責任ってやつだからな。」

「はい、ありがとうございます店長。」

 

本当に私は、色々な人に助けてもらって生きてるんだな。

店長の優しい言葉に感謝しつつ、幸せを噛み締める。

アルバイトの時間は穏やかに過ぎていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

「レテっちばいばーい。」

「また明日ね~。」

「ごきげんよう。」

「はい、また明日です。」

 

友人と別れ、帰路に着く。

思いの外遅い時間になってしまった。

博士はどうせ研究浸りで、まーちゃんはアルバイトだから特に問題はないが。

 

『カラオケ。空オーケストラの略。様々な楽曲が記録されており、自由に歌唱が可能。採点機能も付属。』

「気になりますか?」

『...別に。この時代の歌なんて一つも知らないもの。』

「...じゃあ、フェイの時代の歌はどんなものがあったのですか?」

『さあ。どうだったかしら。...覚えているのは、子守唄程度ね。』

「子守唄...。」

 

遥か昔から存在するアイアンメイデン。

ふと思う時がある。

この子たちは本当に。

 

「ねぇ、フェイ。貴女は...」

『マスター!』

 

カツン、カツン。

 

暗がりから誰かが近づいてくる。

何か、とてつもなく嫌な感じがする。

 

「あら、偶然。まさかこんなところで見つけるなんて。」

 

街灯がその誰かを照らす。

長い金髪を二つ結びにした長身の女性。

紫色の鎧に、右手には黒い剣。

左手には『何か』を引き摺っている。

 

「っ...。」

 

人だ。

しかも確かあれは脱獄した魔導師の片方。

白い髪、ミラという名前だったか。

かなり傷ついている。

意識はないようだが。

 

「その子を傷つけたのは貴女ですか。」

「そうよ?仕事を任せたのに失敗したから。情報の漏れは未然に防がないといけないもの。」

 

仕事。

まーちゃんを狙っていた大元か?

 

「生きているのですか。」

「今は生きてるけど、用事が済んだら始末するわ。」

「管理局、ではないですね。」

「管理局って、人殺しするのかしら?公的機関がそんなんじゃ安心して眠れないわね~。」

 

悪びれもしない態度が鼻に付く。

 

「それよりあなたよ。あなたというより、中にいる『あなた』。まさか今日見つかるなんて。」

「!?」

 

フェイのことを知っている...!

そこまで情報として持っているとは。

それにこのBJとも騎士甲冑とも取れる衣装。

間違いない。

 

『マスター。アイアンメイデンよ...!』

「幻刃、アロンダイト。渡してもらうわよ、そのフェイルノート...♪」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「お疲れ様でした!」

 

SONGを出て、急いで研究所に帰る。

 

「最後ちょっと混んで遅くなっちゃった!ごはん遅くなってごめんね、レンちゃん。」

『ん。まあ別に退屈なだけだ。』

 

とか言いつつ、料理を運ぶ度に美味そうとか、いいな、とか小声で言っていたのを思い出す。

今度親戚の子ってことで、連れて行ってあげよう。

 

「早く帰らないとごはん冷めちゃうよ。暑いけど走っちゃお。」

 

空腹を抑えつつ、帰り道を駆け足で進む。

寄り道なんてしない、一直線に帰宅だ。

新婚の時はそりゃもうあらゆる誘惑を断ち切ってお母さんの所に帰ってたってお父さんが...。

 

『マスター!』

「はい!?...急に大声出してどうしたのレンちゃん。」

『ヤバい感じがする。どっかで何か始まってるぞ。』

「何かって...!?」

 

途端に爆発音が響く。

公園の方だ。あそこら辺に爆発しそうな建物なんてあっただろうか。

 

「...レンちゃん。」

『行くんだろ?後でリーゼに怒られても知らねーからな。』

 

流石、よく分かってる。

 

「誰か襲われてるかもしれない。なら、助けないと!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「かはっ...!?」

 

自らの得物であるチェーンソーすら保持できず、跳ね飛ばされる。

BJを維持する魔力も失われ、ただ地面に転がる。

 

「...これで、おしまいです。」

 

黄色く輝く鎧。イズナを追い詰めたのは、まだ幼さを残す少女だった。

青い髪に強張った表情。

右手には豪奢な飾り付けの剣を手にしている。

その剣は、イズナの血で赤く染まっていた。

 

「っ...ミラ...。」

 

こんな状況になっても、イズナが思い出すのはミラ唯一人だ。

この子どもが私の追っ手ということは、あの金髪はミラを追ったのか。

あちらの方がタチが悪そうだったなと思い出す。

ただ、生きていて欲しい。

それすら最早、高望みなんだろう。

 

「最後は一緒に...。」

 

最後も一緒に、いたかったな。

ロクな人生じゃなかった。

唯一の幸せは、ミラと出会えたことだけ。

薄暗い研究室の中で、輝いて見えたのは彼女だけだ。

少女が剣を振りかぶるのが見える。

 

「助け、て...。」

 

誰か。

頼れる誰かなんていない。

だけど、ここで終わるなんて嫌だ。

ミラを助けに行くんだ。

きっと生きてる。

ミラも、私が生きてるって信じてる。

誰でもいい。

お願いだから。

 

「誰か、助けて...っ。」

 

ガギンッ!

 

瞳に浮かぶ一筋の涙。

それを願いと受け取り、流れ落ちる星が一つ。

 

「大丈夫。私が助けるよ。」

「おま、え...!?」

 

間一髪、現れたのは武装した真だった。

剣をガントレットで受け止め、回し蹴りを叩き込む。

ガードされたが、引き離すことはできた。

 

「...ラン、あれ。」

『ああ。当たりだ。』

 

少女は驚きもせずに、剣を構え直す。

 

『...おい、まずいぞマスター。』

「まずいって、何が...?」

 

クラレントが何かを感じ取り、自らのマスターに危険を知らせる。

 

『この妙な感じ。あれ、アイアンメイデンだ。』

「なっ!?」

 

剣が焔を纏い、少女を囲うように燃え広がる。

 

「照剣、ガラディーン。クラレントのマスターを発見。捕縛します。」

 

 

 

斯くして火蓋は切って落とされた。

日常は再び遠ざかり。

戦いの日々が舞い戻る。

少女たちの本当の戦いが、今始まる。

 

第21話『二振りの聖剣』

 




突如現れた二振りのアイアンメイデン。
かつて敵だった少女を守る為、私たちは立ち向かう。
ぶつかり合う拳と剣。
戦う理由も分からないまま、少女たちの戦いは続く。

次回。魔法少女リリカルなのはS.G.。
第22話『銀のヤドリギ』


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第22話『銀のヤドリギ』

ギリギリセーフ()


必ず完結させます。信じて。←


「照剣、ガラディーン。クラレントのマスターを発見。捕縛します。」

『来るぞ!』

 

ガラディーンと名乗った少女が一閃。

遠距離から長大化した炎の剣を振るう。

とっさに真は、イズナを抱き上げ飛び退く。

初撃は回避したものの、追撃とばかりに今度は切り下ろしが迫る。

 

「やばっ!?」

 

イズナを抱き締め身を転がすことで何とか回避に成功する。

 

「は、離せっ...!」

「ちょっ!大人しくしててよ!?」

「隙だらけ、です。」

 

かつての敵が自分を助けに来たという事実。理解出来ない状況を飲み込めないイズナが足を引っ張り、ギリギリの回避が続く。

 

「しょうがない、か...!ごめんね、イズナちゃん!」

「は?」

 

何を思ったか、真はイズナを文字通り離れた場所へ放り投げる。

予想外の行動に反応出来ず、イズナは見事に宙を舞った。

 

「諦めた...?」

「とんでもですかぁ!?」

「覇王流!旋衝波ッ!」

 

真が拳を振り抜くと、まるで小さな嵐のように魔力の風が撃ち出された。

風は真っ直ぐイズナの元に向かい、地面に落ちる直前にクッションとなった。

 

『上手くいったな。』

「うん!私本番には強いタイプだから!」

「投げるなら先に言うですよ!!」

 

無事(?)イズナを戦闘から遠ざけることに成功した真。

仕切り直しとばかりに覇王流の構えを取る。

 

『見ろよあれ。クラレントなのに剣じゃなくて拳だってよ。面白いな、あいつ!』

「ラン...今はふざけてる場合じゃないよ。」

 

少女は自らの中にいるガラディーンと会話しているようだ。

よく見知った光景に、改めて違和感と驚きを感じる真。

 

「何でイズナちゃんを襲うの!?」

「...教える必要はありません。」

「何でレンちゃんのこと知ってるの!?」

「話す必要はありません。」

「けち!」

「けちじゃ、ないです...!」

『あはは!悪口に耐性無さすぎだろお前!』

「ら、ランうるさい...!」

 

茶化すように笑うランと呼ばれたアイアンメイデン。

誤魔化すように少女は真に接近。

剣を振り上げ切り裂こうとするが。

 

「...!」

「あぐっ!?」

 

真のカウンターが左頬にヒット。

そのまま拳の連打からの、左足蹴りが少女に容赦なく突き刺さる。

 

事件が終わってからも鍛練を続けていた真。

その力は以前より洗練され、一部先輩たちの技を再現するまでになっていた。

カウンターはヴィヴィオから、決めのキックはミウラから学んだものだ。

奇しくも師匠であるフーカと同じく、真はナカジマジムの仲間たち全員の薫陶を得ていたのであった。

 

『おいおい。大丈夫か?見事にフルコンボじゃないか。』

「っ...お日さまが出ていれば...。」

 

少女は悔しげに立ち上がる。

ガラディーンの方は相変わらず余裕そうである。

 

『なあ、もうそろそろ帰らないか?今の時間じゃ効率悪いしさ。』

「ダメだよ、まだ始末も出来てないのに...。」

『大丈夫だって。クラレントをここで見つけるのは想定外だし、本気になりゃ後でまとめて片付けられるだろ。』

「でも...。」

『無理すんな。あたしらはまだ日が浅いんだ。焦って無駄にケガすることもない。そうだろ?』

「...分かった。ランが、そう言うなら。」

 

少女は踵を返し、イズナと真を交互に見遣る。

 

「次は、必ず...。」

「待って!まだ話が...!」

 

捨て台詞を残し、少女はそのまま飛行。

真たちを置いて逃げ去ってしまった。

 

「行っちゃった...。」

『歯応えのないヤツだったな。』

「まだ本気じゃなかったみたいだけど...。」

「おま、え!」

 

ガラディーンの少女について考える真に足を引き摺りながらイズナが近づく。

 

「私はいいから、ミラを!ミラ...ミラ、を...。」

「イズナちゃん!?」

 

糸が切れたように倒れるイズナ。

真が抱き止めるが、その体は傷だらけで一刻を争う状態だと一目で分かった。

 

「病院...!病院行かなきゃっ!?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「喰らいなさいっ!」

 

不可視の矢を放つリーゼ。

突然現れたアロンダイトと名乗る女性。

引き摺られていた少女は犯罪者だが、私的に死刑になどさせるわけにはいかない。

そう思い女性から殺気を感じた瞬間、フェイルノートを纏い矢を放っていた。

しかし。

 

「うふふ。」

「なっ!?」

 

女性はまるで見えているかのように、不可視であるはずの矢を剣で切り落とした。

 

「このっ!」

「あらあら。」

 

間髪入れず矢を連続で放つが、いずれも容易く切り落とされてしまった。

 

「フェイルノート。見えない矢が必ず相手を射抜くことから『絶弓』なんて呼ばれていたみたいだけど、案外大したことないのね。」

「何故矢の位置が...!」

 

女性は得意気にその豊かな胸を揺らす。

 

「知りたい?知りたいでしょうねぇ。でも教えないわ!」

「っ...!」

『きゃはは!すごく悔しがってるよママ!』

「ええ、私はすごく楽しいわアートちゃん。」

 

幼い少女の笑い声が響く。

リーゼは苛つく心を抑え、なぜ矢の位置を把握出来るのか考える。

 

『マスター、音よ。』

「音...?」

 

フェイルノートが冷静に推測を述べる。

 

『矢が空を裂く音。それを頼りに矢の位置を判断している可能性があるわ。』

「そんな...達人か何かですか、あの人。」

『あれ、バレちゃったみたいだよママ?』

「そうみたいねアートちゃん。最低限知恵は回るらしいわ。だけど、それだけじゃないのよ?」

 

楽しげに女性が囁くと、手に持つ剣が『変化』していき槍の形状となった。

 

「形状変化!?」

「そーれ!」

 

女性は槍を投擲、とっさに障壁を展開し防御するリーゼ。

 

「ぐっ...!?」

『っ!?マスター...!』

「ばーん...♪」

 

槍が変化し、巨大な爆弾となって炸裂した。

防ぎ切れず派手に吹っ飛んでしまう。

 

「あらあら。つまらないわ。」

『よわーい。つまんないね、ママ。』

「そうよねアートちゃん。期待外れもいいところ。」

 

再びその手に剣を精製し、ゆったりと近づいていく。

リーゼを見下ろし、刃を突きつける。

 

「くっ...!」

「じゃあ、さようなら。か弱いマスターさん。」

『あ、ママ?』

 

振り下ろす瞬間、女性の背後から巨大な魔力砲が撃ち放たれた。 瞬時に障壁が展開され虚しくも直撃はしなかったが。

 

「あら、ありがとうアートちゃん。」

『どういたしまして!じゃあ、後でお菓子食べてもいい?』

「困らせないでアートちゃん。こんな時間にお菓子なんて食べたら...虫歯になっちゃうかもしれないじゃない!」

「ハァ...ハァ...!」

 

アロンダイトの障壁によって防がれてしまった砲撃は、気絶していたはずのミラが放ったものだった。

魔力を使い果たしたようで、バリアジャケットの維持すら出来なくなっている。

 

「鼬の最後っ屁。まあ、無駄だったみたいだけど?」

「無駄では、ありません。」

「あら?」

 

ミラの最後の一撃は防がれたが無駄ではなかった。

女性の手足にはリーゼが放ったバインドが嵌まっていたのだ。

 

『分かっていたところで、防ぎきれなければ意味はない!』

「ディバインバスター!!」

「!」

紫色の極光が女性を包む。

ゼロ距離砲撃。

確かに手応えはあった。

 

「...?」

『いない...?』

 

光が収まると、女性の姿が完全に消えてしまっていた。

流石に跡形も残らないわけがない。

逃げられたことをリーゼは悟った。

 

『退いてくれたのならマシよ。かなり危なかったわ。』

「そう、ですね...。」

 

あと一歩で負けていた事実に歯噛みするリーゼ。

新しい戦いの始まりを感じつつ、再び気絶したミラに気付く。

 

『どうするの?』

「どうするって...。放っておくわけにはいかないでしょう。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□研究所◼️□

 

「それで、二人共無事に悪い子を回収して、わざわざこの研究所に連れて来たと。」

「ごめんなさいっ!」

 

戦闘を終えて帰宅した真とリーゼ。

お腹を空かせて待っていたリーナ博士が始めに見たのは、彼女たちが抱えるぼろぼろになった女子二人だった。

 

「仕方ないでしょう。病院に連れて行けば管理局に連行されます。話も聞けずに連れて行かれては困りますから。」

「いやりーちゃんも一応管理局じゃん。」

「今はお休み中ですので。真も、分かっていてここに連れて来たのでしょう?」

「あ、あはは。...まあね。」

 

眠る二人を横目で見る。

こうしてみれば、やはり自分たちと変わらない普通の女の子だと真は思う。

 

「二人揃って偶然他のアイアンメイデンに出会うなんて。あの子たち、あなたたちを頼って逃げてきたのかしら?」

「目標を擦り付けようとしたのではありませんか?彼女たちはフェイとレンも狙っているようですし。」

「り、りーちゃん...。」

 

ガラディーンとアロンダイト。

二振りの聖剣が現れ、クラレントとフェイルノートを狙っている。

 

「興味深いわね。新しいアイアンメイデンなんて、調べてみたいわ。」

「はぁ。緊張感なんてお構い無しかよ。どうでもいいけど治るのか?アイツら。」

「そこは任せなさい。医療魔法もちょちょいのちょい。だって私は天才だもの!」

「はいはい。」

 

自信満々のリーナ博士に応えるように、黒髪の少女、イズナが目を覚ます。

 

「っ...。ここは...。」

「目が覚めたんだね!良かった...。」

「!?ば、化け物っ!?」

 

周りを窺う前に視界に飛び込んで来た真に驚いたようで、イズナは咄嗟に距離を取る。

 

「ば、化け物って...。あはは。私、星宮真。あなたはイズナちゃん、だよね?」

「気安く呼ぶな、です!」

 

敵意を露にするイズナ。

 

「何ですかその態度は。真がいなければ貴女は死んでいたんですよ!」

「ま、まあまあ。落ち着いてよりーちゃん。」

「っ...?ミラ!?ミラ...!」

 

すぐ隣に眠るミラを視界に納めた途端、取り乱してしまう。

 

「寝ているだけです。彼女は私が保護しました。」

「良かった...。ミラ...本当に無事でっ...。」

 

嬉しそうに涙を流すイズナに、感謝を述べないことに文句を言おうとしたリーゼも押し黙ってしまう。

 

「...私たちはイズナちゃんたちと戦うつもりはない。戦うつもりなら、治したりしないでしょ?だから大丈夫。お話を聞かせて欲しいだけなんだ。」

「...。」

 

真たちに害する気持ちがないのが分かったのか、敵意が少し薄らぐ。

 

「...貴女たちにクラレントを奪うよう依頼したのは先程の彼女たち。失敗した貴女たちを今度は彼女たちが始末しようとした。ここまでは合っていますか?」

「...。」

 

無言でリーゼの問いに頷く。

そこにリーナが思い出したように口を挟む。

 

「さっき検査して分かったんだけど。あなたたち二人、もしかしてアイアンメイデンだったりする?」

「は?」

「へ?」

 

リーナの突拍子もない質問に真もリーゼも間の抜けた声を上げる。

 

「レンレンもフェイちゃんも何か感じなかった?同じアイアンメイデンに会った時の違和感、みたいな?」

「...ああ、最初にこいつに襲われた時感じた違和感。フェイとガラディーンに会った時と似たような感覚だった。」

「にしては変だわ。デバイス本体が変化して戦うなんて。」

 

思い思いの推察に苛立ったように、イズナが口を開く。

 

「私たちはアイアンメイデンじゃないです。...私たちは、『失敗作』なんですから。」

「失敗作...?」

「...ミストルティン。それが私とミラの体に埋め込まれた『呪い』の名です...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

私は孤児だった。

本当の歳も、名前も分からない。

気付いた時には独りで、大人に捕まって、売りに出された。

私と同じくらいの子どもが沢山集められていて、研究所みたいな場所に買われたらしい。

 

私たちは実験台だった。

聖遺物、俗にロストロギアと言われるモノを生体に融合させ、兵器として利用しようという話だったらしい。

何故わざわざそんなことをするのかも教えられなかったが、どうせ優秀な魔導師を凌駕する私兵が欲しかったとかそんなところだろう。

毎日一人一人、連れて行かれてはいなくなっていった。

私たちは何となく理解していった。

次は私が死ぬ番だろうか、君が死ぬ番だろうか。

考えることはそれだけ。

辛くて怖くて、震えが止まらなかった。

でもその中で、一人だけ恐怖を浮かべずにただじっとしている女の子がいた。

真っ白な長い髪の、キレイな女の子。

いつも眠そうで、食事の時だけ本当にわずかに、嬉しそうにする子だった。

だから私は聞いたんだ。

 

「こわく、ないの...?」

 

すると女の子は話かけられたのが自分だと思わなかったのか、少しキョロキョロした後不思議そうに答えた。

 

「こわいの?」

「こわいよ...しんじゃうんだよ、わたしたち。」

 

そう返すと、女の子は少し考えた後。

 

「でも、きのうのごはん。すこしおいしかったから。」

「え...?」

「きょうのごはんも、おいしいかも。」

 

わずかに微笑んで、答えてくれた。

 

ミラはあの地獄の中で、希望を持っていた。

ご飯が昨日より少しおいしいかもしれないとか、そんな小さな希望だったけど。

私に、生まれて初めての希望を見せてくれたんだ。

 

ついに私たちの番が来た。

昨日のご飯は今までで一番おいしかったねと笑い合った。

 

だけど、私たちは生き残った。

ここにきて聖遺物を分けて一体化させる方針に変更したらしかった。

 

聖遺物ミストルティン。

伝承によればそれは武器ではあったが、剣かはたまた弓か。

どちらか定かではないという代物で、その不確定さを概念として持つが故に、それぞれの形に落とし込めたらしい。

 

仲が良いと見なされた私たちが実験台になり、まんまと適合してしまった。

私が剣のミストルティンを。

ミラが弓のミストルティンを受け入れた。

 

ただ問題があった。

そもそも人体に聖遺物を融合させるなど、無理があったのだ。

馬鹿みたいな話です。

聞いただけでも、そりゃ無理でしょ?って思うですよ。

力を使えば使う程、私とミラは命を削る。

研究者たちは私たちを指してこう罵倒した。

 

「失敗だ。」

「失敗作め。」

 

私たちは力を解放し、研究所を破壊して逃げた。

それ以降は知っての通り。

生きるために力を使って、ミラと二人で生き抜いてきた。

話せないこともやった。

私たちは、悪い子だ。

でも、後悔なんてしない。

贅沢なんていらない。

いい人間じゃなくたっていい。

ただ一つ。

 

私たちは一緒に、おいしいご飯を食べていたいだけなんだから。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□深夜・リビング◼️□

 

「まーちゃん、まだ起きていたんですね。」

「あ。...うん。りーちゃんも?」

「ええ。」

 

何の気なしに隣に座る。

月明かりだけが差し込んで、落ち着く気がする。

 

「何だか、前もこんなことあったよね。」

「そうでしたね。今回はアルバムを見ていたわけではありませんが。」

 

二ヶ月前の事件を思い出す。

あの夜の後、私は確かに一度大切なモノを失った。

色んな奇跡が重なって、取り戻すことができた。

 

「りーちゃんは、今日イズナちゃんの話を聞いてどう思った?」

「...ああ言った話は珍しくありません。局員として、力不足を悔いています。」

「...私ね、イズナちゃんと最初からああやって話したいと思ってたんだ。友達を傷つけようとしたことは許せないって思ってたけど。」

「...まーちゃん。彼女たちは犯罪者です。守ったところで裁かれねばなりません。」

「分かってる。だけどさ。」

 

戦っている時も、襲われてボロボロになっている時も。

いつもミラちゃんのこと心配してたな、そういえば。

 

「一緒にいたいだけなんだよ。私とりーちゃんと同じ。犯罪者かもしれない、敵かもしれない。でも、一緒なんだ。」

「まーちゃん...。」

「私守るよ。イズナちゃんも、ミラちゃんも。私が手を伸ばしたの、間違いじゃなかったから。」

 

りーちゃんはため息を吐きつつ、それとは逆に優しい笑顔を浮かべて答えてくれた。

 

「仕方ありませんね。...一緒に守りましょう、みんなを。」

「うん!」

 

月明かりの中、再び誓い合う。

今度こそ取り零さない。

 

私たちが、ぶん守るんだ。

 

第22話『銀のヤドリギ』

 




新たな戦いの始まり。
守る拳は振り抜かれる。
しかし彼女は忘れていた。

その力は決して砕けぬモノではないことを。

次回、魔法少女リリカルなのはS.G.
第23話『弱き者』


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第23話『弱き者』

いやぁ、お待たせ致しました。
エタったと思った?残念、サボり気味なだけです←
仕事が忙しいのです。
今年中に二部完結出来るといいなぁ。


どこかの一室。

まるで城の内装のような、豪奢な飾り付けの部屋で、それとは不釣り合いなシンプルな洋服の少女が椅子にポツンと座っている。

 

「カイリ、出来たぞ。」

 

器用に足で扉を開き、燃えるような赤色の髪の少女が入って来る。

手には出来立ての料理を持っている。

 

「今日はオムライス?」

「ああ、卵が安かったんだ。」

 

黄色い玉子に赤いケチャップが映えるシンプルなオムライスに、彩り豊かなサラダ。

豪奢な部屋にはやや不釣り合いだが、カイリは彼女が作る料理が好きだった。

 

「いつもありがとう、ラン。」

「いいって。あたしが好きでやってんだからさ。」

 

お盆ごと自分とカイリの前に配膳し、再度扉から出ていく。

カイリは料理に手を出すことなく、『家族』が揃うのを待っている。

そうしていると、今度は勢いよく扉が開く。

 

「ママ、ごはんごはん!」

「危ないから走っちゃダメよアートちゃん。ご飯は逃げないのよ。」

 

ゴシックロリータ風の服を着た金髪の少女、かなり幼いその子どもを嗜めつつ、同じく金髪のスタイル抜群の女性が入室してくる。

 

「お疲れさまです、桜花さん。」

「お疲れさまカイリちゃん。今日はオムライスなのね。家庭的で素敵!」

 

カイリと向き合う位置に座り、はしゃぐアートを抱き上げ隣に座らせる。

 

「ママ、わたしのまだ...?」

「安心してアートちゃん。もうすぐランちゃんが運んで来てくれるわ。」

 

タイミングよくランが二人分の食事を運んで来る。

 

「お待たせしましたお客様。なんつって。」

「あら、ありがとう可愛いシェフさん。」

「オムライスー!やさい、いらない!」

「好き嫌いはダメよアートちゃん。おっきくなれないわよ!」

 

いつも通りのやり取りに心が温かくなる。

幸せだ、とカイリは感じていた。

仮初めでも、これが今の自分の家族なのだ。

 

「それじゃあ、みんなで手を合わせて。」

「「「「いただきまーす!」」」」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「そう、カイリちゃんたちも目標に会っていたのね。」

「はい。それに、始末も付けられませんでした。」

 

食事を終え、情報交換を行うマスターの二人。

ランは食器の片付け、アートはうたた寝をしてしまっていた。

 

「それは私も同じよ。もしご機嫌斜めだったら、その時は一緒に怒られましょ?」

「はい...。」

 

落ち込むカイリを優しく励ます桜花。

 

「それに作戦も考えてあるの。」

「作戦?」

「ええ。あの子たちの素性、簡単に分かっちゃったから。」

 

眠るアートを抱き抱え、桜花は薄く笑う。

 

「今度はちゃんと、挨拶しないとね。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「...おいしそう。」

「ご、ご馳走です...。」

 

朝目覚めると同じように治療を終え、意識を取り戻したミラと再会した。

お互いもう会えないのを覚悟していたから、また会えた喜びで涙が止まらなかった。

そこにあの、リーゼとかいう管理局が来て。

 

「朝ごはん、貴女たちの分もありますので。」

 

恥ずかしいことに、ミラと一緒にかなり大きな空腹音を響かせてしまった。

仕方なく。勿体ないので仕方なくリビングに向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「あ、おはよう!イズナちゃん、ミラちゃん。...?どうしたの?」

 

ホカホカの白いご飯に、いい匂いと湯気が立ち昇る味噌汁。

綺麗な黄色に輝く玉子焼きに、色彩を豊かにする緑のほうれん草のおひたし。

そして真ん中でてらてらと美味しそうな油を纏っている焼き鮭。

見事な。

本当に見事な朝食がそこにはあった。

 

「わ、罠です。こんなのあり得ないです!騙されちゃダメですよミラ!」

「で、でも。しゃけ。しゃけが私を呼んでるから...。」

「何を言っているんですか貴女たちは。いいんですよ?いらないのなら真が食べます。」

「「いただきます!」」

 

急いで手近な席に座る。

悔しい。でも抗えない。

美味しいごはんはプライドにも勝るのです。

 

「りーちゃんのごはん本当においしいんだよ?きっと二人も気に入るよ!」

「...。」

「ふ、ふん!仕方なくいただいてやるです!別にお前たちと仲良しになるつもりはないですよ!」

「いらないのなら」

「いりますっ!」

 

ぐっ。助けられた上に施しまで。完全に上下関係を築かれてしまったのです。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「もぐもぐ!」

「おいしい...おいしい...。」

「あはは、本当にお腹空いてたんだね。」

 

美味しそうに食べる二人を見てりーちゃんも満更でもなさそうだ。

今なら切り出しても大丈夫かな。

 

「あのね、イズナちゃん、ミラちゃん。」

「むぐ...気安く呼ぶな、です。」

「これからのことなんだけど。」

「スルーするなですよ!」

「二人のこと、私たちに守らせてくれないかな?」

「守る...?」

 

私の言葉に二人の箸が止まる。

 

「うん。解決するまで、ここにいていいから。今の状態で二人を外に出すの、危険で心配だからさ。」

「心配...私たちは敵ですよ?」

 

敵。確かに出会いは敵だった。

だけど、今の私は二人の境遇も、大事なものも知っている。

もうただただ敵だと考えることは出来ない。

 

「依頼を出してたあの子たちから追われてるなら、今更レンちゃんを連れ去っても何の得もないでしょ?二人には私たちと争う理由がなくて、私たちは争う気なんてない。仲間じゃないかもしれないけど、私たちは敵ではないんじゃないかな?」

「っ...。それは...。」

 

言い淀むイズナちゃん。

じっと黙っていたミラちゃんが私を真っ直ぐに見て、重い口を開く。

 

「...それで。それで一体あなたに何の得があるの。」

「得...どうなんだろ。私はただ、二人を見捨てたらごはんがおいしくなくなるなって。」

「...?」

「だからさ。ごはんって、みんなで食べるからおいしいし、何か悲しいことがあったらあんまりおいしく感じなかったりするでしょ?今二人を見捨てると、気持ちよくごはんを食べられなくなっちゃう。だから、私は私の為に二人を守りたいんだ。」

「...それもまた、偽善。」

「偽善でいいよ。私は私の為に、私がしたいことをする。欲張りのままじゃなきゃ、全部掬い上げるなんて出来ないんだから。」

「...。」

 

ミラちゃんは手元のごはんを見て、次にイズナちゃんの顔を見る。

 

「...あなた、思ったより悪い人。」

「えぇ...。」

「でも、その方が信用出来そう。」

 

少し口元を弛めてミラちゃんが笑ったように見えた。

 

「...ミラが許すなら、仕方ありません。」

「じゃあ!」

「仕方なく、お世話になってやるですよ!」

「嫌なら食べなくて」

「「お世話になります!ありがとうございます!」」

 

何とか第一段階、突破できたみたい。

 

「青春ねぇ~。」

「この鮭骨多いぞ...。」

「おかわりを頂けないかしら。」

 

 

思い思いの感想を呟く家族たち。

レンちゃんとフェイちゃんに至っては最早こちらを見てすらいない。

...あれ?緊張してたの私だけ?

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「気が抜けとるぞ!」

「かはっ!?」

 

一瞬の隙を突かれ、真の腹に鋭い一撃が突き刺さる。

 

「そこまで!」

「ま、参りました...。」

 

ナカジマ会長の終了の掛け声が響く。

いつも通りの師弟スパーリング。

しかしどこか様子がおかしいことを師匠であるフーカは感じていた。

 

「スパー中に考え事か?」

「すみません...。」

 

項垂れる真に手を差し伸べ立ち上がらせる。

この感じは2ヶ月前と同じだと、フーカは思う。

この急に押し掛けてきた年上の弟子は、下手すれば死ぬような事件を乗り越え、帰って来てから事情を説明してきた。

なかなか信じられない話だったが、レンを見せられたり、妙に納得した様子のヴィヴィさんたちの様子に自分の知識が狭いだけかと無理矢理納得させたのを覚えている。

それから2ヶ月。

すっかりジムの仲間として受け入れられた真の姿に安心していたわけだが。

 

「何か、またあるんか?」

「え...それは...その。」

 

はっきりしない様子の真に思わずため息を吐いてしまう。

恐らくまた巻き込まないようにとか、そんなことを考えているのだろう。

 

「お疲れさま、フーちゃん、真さん。」

「おう。」

「ありがとうございます...。」

 

そこにリンネがタオルと水を持って来てくれた。

リンネはたまにこうやってジムに練習に来る。

戦闘スタイルが似ていることと、ワシの弟子であるからか、リンネはよく真のことを気にしてくれている。

 

「とりあえず一回休憩しようよ。真さんも整理したいだろうし。」

「...そうじゃな。」

 

リンネも真の様子がおかしいことに気づいているみたいだ。

リングを出て、端の方に座り込む。

 

「レンちゃん、お家ではどんなことしてるの?」

「レンちゃんは甘党?辛党?」

「レンさんは格闘技にご興味は?」

「お前らうるせー!」

 

向こうでレンが質問攻めにあっているのが見える。

今ではすっかりマスコット扱いだ。

ヴィヴィさんたちも中学生だし、妹が出来たみたいで嬉しいのだろう。

意識を真に戻し、水を一口飲んで改めて話をしていく。

 

「何かあったんじゃろ?」

「はい...。」

「それはワシに言えんことか?」

「...はい。」

「巻き込まない為か。」

「はい...。」

 

予想通りの返答だ。

無理に聞き出すのは違う。

しかし、仲間として心配なのは心配だ。

 

「前に言ったことは覚えとるか?」

「ちゃんと覚えてます。」

「そうか...。なら、同じじゃ。ヤバい時は頼れ。ワシより弱いうちは、ちゃんと守ってやる。」

「師匠...。」

 

師匠として掛けられるのはこのくらいの言葉だけだ。

今度は気づいたら終わっていた、では済まないような。

そんな胸騒ぎを感じた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

学校の後、友達と別れいち早く研究所に帰って来た私に着信があった。

 

「クレア先輩?」

『久しぶりだな。定時連絡というか、エレナのことで少し、な。』

「エレナさんですか。」

 

実はエレナさんとはよく連絡を取り合っている。

最初こそ謎に威嚇されてしまったが、今では外の話や恋愛の話なんかで盛り上がれる仲となっている。

そういえば、ついこの間話した時はいつもより上機嫌だった気がする。

 

『少しずつエレナの体調が良くなっていてな。もしかしたら外出も出来るかもしれない。』

「まあ!それは良かったです。」

『その時は一緒に付き合ってくれるとありがたい。』

 

二人きりをお邪魔するとまた威嚇されそうな気がするが。

 

「やはり聖王教会は優秀ですね。」

『ああ。まさかこんなに早く快方に向かえるとはな。もっと早く頼れればと思ってしまうよ。』

「八神二佐には感謝してもし切れませんね。」

『ああ...。リーゼは、まだ管理局には復帰しないんだな。』

「ええ、まあ。...今は真たちの側にいたいので。」

 

今まさに危惧していたことが起こっている。

尚更戻る暇はない。

 

『...何かあったか?』

「え?」

『顔に出ているぞ。お前はすぐ抱え込む。私の言えた義理ではないが、頼るべき時は周りに頼るのが正しいと思うぞ?』

「...はい。必要があれば、そうします。」

 

私の返答に先輩は若干不満そうに続ける。

 

『お前と星宮には借りがある。命に代えても、この恩は必ず返す所存だ。』

「ありがとうございます、先輩。だけど、命は大切にしましょう。」

『...そうだな。お互いに、な。』

「...はい。」

 

二度と落とすわけにはいかない。

悲しませる人が私にはいるのだから。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「何だよ急にしんみりしやがって。似合わねーぞ。」

「だってまた師匠に気を遣わせちゃったし...。」

 

珍しく並んで歩くレンちゃんと話ながら帰路に付く。

私だって色々考えることがある。

 

「強くならないと。りーちゃんも危なかったって言ってたし、昨日のあの子。まだ本気じゃなかったんだろうし。」

「でも昨日は撃退しただろ。」

「それは、あっちが退いてくれたからでは...。」

 

不安は強くなる一方だ。

守りたいものがまた増えた。

それなのに、私は相変わらず半人前のままだ。

やりたいことに実力が追い付かない。

焦ってしまう。その焦りが成長を妨げる。

 

「お前なぁ。いいか?似合わないことを...。」

『みーつけた。』

「レンちゃん!!」

 

視界が光で埋め尽くされる。

響く爆音。

視界も音もなくなりながら、何とかレンちゃんを抱き寄せ体で守る。

 

30秒、1分。

時間の間隔も分からず、僅かに意識を失う。

気づいた時にはレンちゃんとエンゲージして、装甲を纏っていた。

 

「っ...!」

『お前...腕が!』

 

右腕が動かない。

鋭い痛みが走る。

レンちゃんを庇った時に肩をやってしまったらしい。

 

「一体、何が...。」

 

周りを見ると綺麗に舗装されていた道がぐちゃぐちゃになっているのが分かる。

停めてあった車はスクラップ同然、木も倒れている。

何かが爆発したのだ。

ふらつく視界に、黄色の鎧が映る。

 

『ガラディーン...!』

「お日さまなしですが、今日で終わりにします。」

 

襲撃。

昨日の今日でもう居場所がバレた。

動かない左腕を無視して、何とか構えを取る。

 

『まずい...このケガであれとタイマンなんて!』

「それだけじゃないのよね。」

 

ガラディーンの隣に紫の鎧を着た女性が現れる。

手には歪な形をした弓が握られている。

さっきの爆発はあれか。

 

「初めまして、星宮真ちゃん。アロンダイト、お見知り置きを。」

「アロン、ダイト...!」

 

二人掛かりで潰しに来たということか。

アロンダイトと名乗る女性は弓を構えると容赦なく私に向かって矢を放つ。

痛みに耐えながら体を動かし初撃を回避する。

 

「そこ!」

「ぐあぁっ...!? 」

 

よろめいた隙を突かれガラディーンの横凪が左腕に命中する。

あまりの痛みに意識が飛びかける。

体ごと吹っ飛ばされ、立ち上がることさえ出来ない。

 

『きゃはは!ボールみたい!』

「そうねアートちゃん。呆気なく試合終了かしら。」

 

私目掛け矢が放たれる。

避けることも出来ず、矢は腕、足に的確に突き刺さる。

 

「が、ぅぁ...っ。」

 

力が抜け、血が流れ出る。

最早痛みすら感じなくなっていく。

これは...あの夜と同じ。

 

「だ、め...わた、し...まもら、なきゃっ...。」

 

嫌だ。

死ぬわけにはいかない。

私が、守らないといけないのに。

こんなにあっさり。やられるわけには。

 

「守る?無理よ、あなたには。」

 

弓が剣に変化し、女性が私を見下ろす。

 

「だってあなた。こんなに弱いじゃない。」

 

女性はそう呟いて、その刃を振り下ろす。

そこで私の意識は途絶えた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

桜花が剣を振り抜く直前。

彼女と真との間に割って入る影があった。

真を守るように、風の魔力を纏い、両腕で刃を受け止めている。

 

「何!?」

「やあぁッ!」

 

動揺する桜花の横から更にもう一つ影が接近、拳を振り抜く。

身を翻し、何とか回避する桜花。

爆発で火が付いたのか、倒れていた木が一気に燃え上がり、二つの影の正体が露になる。

緑のリボンに長いポニーテール。

特徴的な白と黒のバリアジャケット。

もう一方は、美しい銀髪に白を基調とした格闘用ドレス。

フーカ・レヴェントンにリンネ・ベルリネッタ。

真の師匠、その二人であった。

 

「フーちゃん!早く病院に連れて行かないと!」

「...。」

 

ボロボロになった弟子の姿を片目で捉え、フーカは拳を強く、強く握り締める。

 

許さん。

 

元気だった真の姿が頭に浮かぶ。

弱いくせに、いつも周りばかり気にして。

こんなになるまで、一人で戦って。

そんな、馬鹿で優しい奴を。コイツらは。

 

「お前ら...!ワシの弟子に何してくれとるんじゃあぁッッ!!!」

 

第23話『弱き者』

 

 

 

 




「ついに出番です!」
「ワシらの見せ場これで最後かもしれんぞ。」
「そんな!?まだ私二言しか喋ってないのに!」
「台詞があるだけマシじゃろ。他の皆さんなんて誰が誰だかも...。」
「こうなったら私たちであの二人倒してお話自体を終わりに!」
「あの、少しは私の心配をですね...。聞いてます?」

「次回!魔法少女リリカルなのはS.G.」
「第24話。闘いと戦い。」
「リリカルマジカル頑張ろうねフーちゃん!」
「押忍!」


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第24話『守ること、守られること』

隔週投稿が当たり前になってきましたね。
のんびりやろうと思ってます。
どんだけ遅くなっても完結させます。それだけは絶対です。


「お前ら...!ワシの弟子に何してくれとるんじゃあぁッッ!!!」

「...あら、随分可愛いお師匠様ね。」

 

倒れる真を庇うように立ち塞がるフーカ。

フーカの怒声に怖気ず、桜花が余裕そうに微笑む。

 

「フーちゃん!今は真さんを早く病院にっ...!」

「分かっとる!じゃが素直に行かせてくれるとは思わん!アイツらをぶっ飛ばしてからじゃっ...!」

 

止めるリンネも構わず、ボクシングに近い構えを取り駆け足で桜花に肉薄するフーカ。

そのまま素早いストレートを繰り出すが、剣の刃部分で受け止められてしまう。

 

「ッ!」

「邪魔をするなら」

「燃やすだけ...!」

 

その隙を突き、背後からカイリが炎を放つ。

 

「燃えるのはお前じゃ!」

 

大胆にもアロンダイトを踏みつけ足場とし、背後に大きく宙返りして炎を回避する。

 

「しまっ!?」

「あらあら!?」

 

アロンダイトが反射的に障壁を展開し防ぐが、意図せず仲間を攻撃してしまったカイリは動揺し隙を晒す。

その隙を逃すフーカではなかった。

宙返りで近づいたカイリを目標に捉え、振り返りの回転まで込めて放つ、必殺の一撃。

 

「覇王ッ!断空拳ッッ!!!」

「かはっ...!?」

 

真とは違う、身体中の力全てが乗った必殺の拳。

『神撃』の域に踏み込んだフーカだからこそできる、鎧すら貫通する鮮烈な一撃がカイリの体を容赦なく撃ち抜いた。

真のお返しとばかりに弾みながらカイリの体が吹き飛ぶ。

 

「カイリちゃん!」

「行かせないっ!」

 

カイリの救出に向かおうとする桜花だが、せこに今度はリンネが立ち塞がる。

 

「可愛いおべべで何を!」

「やあぁっ!」

 

アロンダイトを双剣へと変化させリンネに斬りかかるが、その素早い剣撃を冷静に拳で打ち払っていくリンネ。

 

「拳のくせに何て硬さ...!」

「拳だけじゃ、ありません!」

 

剣を大きく弾き上げ、がら空きとなった腹目掛けて魔法陣が展開される。

 

『ママっ!?』

「シュート...!!」

 

赤い魔力の塊が撃ち放たれ、桜花を飲み込む。

虚を突いた一撃に対応しきれず、桜花もまた吹き飛ばされてしまった。

 

「魔法戦も出来ないと、あの人たちには勝てませんから。」

「流石、U15チャンピオンは言うことが違うのう。」

「フーちゃん、少しは頭冷えた?」

「ワシが冷静じゃないみたいに言うな。必要だからぶん殴っただけじゃ。」

「昔から喧嘩っ早いんだもん。」

「なめたヤツが多いだけじゃ。仕方なく、仕方なくやっとるんじゃ。」

 

軽口を言い合う幼なじみ二人。

すっかり仲良しのフーカとリンネにも、かつて色々あったことは知る人ぞ知るお話である。

 

「さ、今のうちに真を連れてさっさと...。」

「フーちゃん!」

「っ!?」

 

フーカの頬を矢が僅かにかする。

放たれた位置を辿ると、先ほどの砲撃を忘れたかのように平然と立ち上がっている桜花の姿があった。

 

「あら、もう勝ったつもり?」

「...まだ、やれます。」

 

反対側でもカイリが立ち上がり、再び剣を構えている。

 

「ちっ...タフなヤツらじゃ。」

「ふーちゃん、これ...。」

 

リンネが簡単な魔力弾を作り出し、少し先の道へ放つ。

弾丸はある程度進んだかと思えば、『何か』にぶつかったように弾けて潰えてしまった。

 

「捕まったか...。」

「ピンポーン。アナタたちが邪魔しに来たタイミングで、周辺にバリアと人払いを張らせてもらったわ。」

「これで、私たちを倒さない限りあなたたちは逃げられない。」

「人払い...助けは期待出来ないってことだね。」

「構わん。さっさとぶっ飛ばすだけじゃ。」

 

再び構え直すフーカとリンネだったが、先ほどとは違う桜花とカイリの様子に自然と冷や汗が流れる。

 

「ふふっ、アナタたちならちょっとは本気になっても良さそうね?」

『やるの!?じゃあ、バラバラにしてもいい!?』

「ええアートちゃん。微塵切りでバラバラにしちゃうわ。」

「お日さまはないけど、いけるよねラン。」

『あいよマスター。ま、精々街を消し炭にしないようにな?』

 

それぞれの剣が輝き、独特の形をした魔法陣が足元に展開される。

 

「アロンダイト」

「ガラディーン」

 

本能的にこのままではまずいと悟ったのか、フーカとリンネが同時に駆け出した瞬間。

 

バリンッ!!

 

展開されていたバリアを突き抜け、『炎に包まれた矢』が桜花たち目掛け降り注いだ。

 

「何っ!?」

「桜花さん...!」

 

展開した魔法陣を放棄し、急ぎ障壁を構え直撃を防ぐ。

凄まじい衝撃に思わず目を庇うフーカたち。

 

「カイリちゃん、大丈夫...?」

「は、はい...。っ...!」

 

腕を抑えるカイリ。威力を殺しきれず、ダメージを負ってしまったらしい。

 

「人払いをしたはずなのに、一体誰が...。」

「残念だったな。厳密に言えばあたしらは人間じゃねぇ。」

 

割れたバリアの残骸を砕き払い、二つの影が歩み寄って来る。

片方はカイリよりも小さい見た目に反し、自信満々な表情でハンマーを担いだ帽子が特徴的な少女。

もう一人は対照的に長身で、ポニーテールの凛々しい顔をした女性だった。手には弓のようなデバイスを持っている。

 

「管理局だ。投降しないのであれば、今度は威嚇では済まない。」

「っ...。どこが威嚇よ...!」

 

管理局を名乗る女性は暗に本気ではないと示しつつ、桜花たちに降伏するよう呼び掛ける。

珍しく余裕な態度を崩し苦虫を噛み潰したように表情を歪める桜花。

カイリを見つめ、一つため息を吐く。

 

「引きましょう、この増援は想定外だわ。」

『ええー!バラバラは!?』

「バラバラはまた今度。今はカイリちゃんの治療が優先よ。」

『ぶー...。』

 

懐から水晶のような物を取り出す。

 

「あ?何するつもり...」

「逃げるに決まってるで、しょっ!」

 

水晶を勢いよく地面に投げつけ砕く。途端に眩い閃光が溢れ、全員の視界を奪う。

光が消えた時には、既に下手人二人の姿はなくなってしまっていた。

 

「あー!逃げやがった!」

「目眩まし...だけではないな。転移魔法が本命といったところか。」

「くそ!単純な手に引っ掛かっちまった!」

「落ち着けヴィータ。今は星宮真の保護が先決だ。」

 

戦闘態勢を解き、フーカたちに近づく二人。

 

「あの...あなた方は?」

「へー。噂は聞いてたが、なかなかガッツありそうじゃねぇか。」

「レヴェントンに、ベルリネッタだな。いつもミウラが世話になっている。」

「ミウさん...?」

 

何故そこでジムの先輩の名が出てくるのか。

怪訝そうな顔のフーカに気付いたのか、二人はそれぞれ名乗り始める。

 

「名乗りが遅れた。私の名はシグナム。」

「あたしはヴィータだ。」

「我が主の命により、彼女を守るために参上した。話を聞かせてもらいたい。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

『だってアナタ、こんなに弱いじゃない。』

「ッ...!?」

 

頭に響いた声に驚いたように体が飛び起きる。

息が乱れ、心臓が激しく脈打つ。

目蓋に張り付いた炎を消し去るように顔を袖で拭うと、最初に視界に映ったのは見知った幼なじみの顔だった。

 

「まーちゃん...!良かった...ちゃんと起きてくれましたね...。」

 

泣き出しそうに歪む幼なじみの表情に、自分に起こったことが凄まじい速度で脳みそから呼び起こされる。

 

「っ...。私、負けたんだ...。」

 

負けた。完膚なきまでに叩きのめされた。

抵抗すら出来なかった。

どうやらここは病院らしい。

私も病衣姿になっているし。

レンちゃんは私の中で眠っているみたいだ。

きっと私が死なないようにフォローしてくれたんだろう。

...運良く生き残ったらしいが、あれは死んだも同然だ。

情けない。

守るとは何だったのか。

りーちゃんを、レンちゃんを。イズナちゃんもミラちゃんも守ってみせると息巻いていたのがバカみたいだ。

 

「私は、弱い...。」

「まーちゃん?」

「ああ、弱いな。」

 

声のした方を見ると、病室の隅からこれまた見知った顔が二つ近づいてきた。

 

「師匠、リンネちゃん...。」

「意識が戻って良かった。酷いケガだったんですよ?」

「...お二人が私を?」

「ああ。とは言えワシらも助けられたが。」

「...結局、巻き込んじゃいましたね。」

 

巻き込みたくないなんて言って、結局助けられてしまった。

私は弱い。

守りたい人たちを危険に晒して、あまつさえ助けられてしまうなんて。

 

「なんじゃその目は。一度負けたくらいで、もう諦めるんか。」

「フーちゃん...そんな言い方は...。」

「弱いに決まっとるじゃろ。だから強くなろうと努力しとるんじゃろうが。繋いだ命があるなら、最後まで諦めるな。」

「っ...師匠...。」

 

師匠はそれだけ言うと病室を出ていってしまう。

 

「フーちゃん!...安静にしてて下さいね?」

 

リンネちゃんも師匠を追って病室を後にした。

りーちゃんと二人きりになる。

 

「私が浅はかでした。一人にするべきではなかったのに...。」

「りーちゃんは悪くないよ。私が、バカだったんだ...。」

 

悲しそうなりーちゃんの手を握り、少しでも元気になって欲しくて笑ってみる。

得意なはずの笑顔なのに、今は何だか下手くそな表情になってしまう。

 

「私が、守るって。守るって約束したのに。死んだら、何も守れないのに...!」

 

悔しい。

強くなったつもりだった。

今の私なら出来ると。昔の私とは違う、強さを手にいれて、憧れのようにみんなを守れると、そう思っていたのに。

勘違いだった。

運がいいだけだったのだ。

私は弱い。

今の私じゃ、何も守れない。

 

コンコン。

 

『失礼しますー。入ってもええかな?』

「は、はい。どうぞ。」

 

ノックされたドアから何となく安心するような声が聞こえる。

りーちゃんが促すと、ドアが開かれて声の主の姿が露になる。

 

「おお、目覚めてたんやね。リーゼもお見舞いお疲れ様や。」

「八神二佐!?」

「八神って...。」

 

入って来た茶髪のお姉さんには見覚えがある。

 

「はじめまして。八神はやてですー。フェイトちゃんから話は聞いとるよ。リーゼは久しぶりやね。」

「お久しぶりです...。」

 

八神はやてさん。

フェイトさんやなのはさんと同い年で、雑誌の取材はお二人より多い。

かの有名な機動六課の司令にして、小柄な体格に似合わないすごいお偉い人だと把握している。

 

「今ちょっとお話ええかな?」

「話...?」

「うん。二人の事情と、これからの話や。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

話を漸くすると。

はやてさんは前々からロストロギアを保持している私たちをどう保護するか考えていたらしく。

平和ならそれはそれでいいかと考えていた最中、クレアさんからりーちゃんの様子がおかしいと小耳に挟み、一度くらい話しておこうとシグナムさんたちを迎えに行かせたらしい。

そしたらちょうど私が襲われている場面に出くわし、流れで救出までしてくれたとのことだった。

 

「ケガも大丈夫そうやね。うちのシャマルの腕はピカイチやから、安心してええよ?」

「は、はい。ありがとう、ございます...。」

 

私の表情を窺いながらはやてさんは話を続ける。

 

「単刀直入に言うよ。二人を私たちに保護させて欲しい。今回の件でこのままじゃ命が危ないのは分かったはず。真ちゃんとリーゼは管理局が守るよ。」

「保護...。」

 

今までのような生活は出来なくなるかもしれないけど、フェイトさんたちが私たちを守ってくれる。

きっと私が戦うより、みんな安全だろう。

でもイズナちゃんたちはどうだろうか。

仮にも管理局から逃げている脱獄囚だ、見つかればただでは済まないのではないか?

 

「...逃走していた二人が心配なんやね。お咎めなしとはいかんけど、命を狙われているなら同じように保護するよ。管理局というより、私たちのやり方でな。」

「流石八神二佐。そこまでお見通しでしたか...。」

 

イズナちゃんたちも助けてくれるんだ。

そっか。

なら安心だ。

リーナさんは怒るかもしれないけど、その方がいいに決まってる。

心配してくれて、命も助けてくれて。

受け入れない理由がない。

 

「納得してくれるな?」

 

なのに、どうして。

 

「嫌です。」

「まーちゃん...?」

「嫌...?」

 

こんなに嫌って思うんだろう。

やっぱり私はバカだ。

あれだけボロボロに負けて、助けられなければ死んでいたのに。

 

守られるだけなんて嫌だ。

約束を破るなんて嫌だ。

諦めるなんて、嫌だ。

 

私は弱い。でも、だから強くなれる。

師匠は諦めるなと言った。

私の心は、まだ負けを認めてない。

ここで諦めたら、今度こそ本当に何も守れなくなる。

 

「今度は、負けません...。」

「...。」

「助けてくれてありがとうございます。でも、守られるだけなんて。そんなの、私は嫌です。イズナちゃんとミラちゃんと約束しました。私たちが守るって。リーナさんと約束しました。レンちゃんを守るって。りーちゃんに誓いました、二度と失わないって。だから、諦められません。これは、私の戦いです。」

 

我が儘なのは分かってる。

だけど、私が強くならなきゃいけない。

強くなって、私がみんなを守るんだ。

 

「私の戦い、か。」

「...私からも、お願いします。私たちにもう一度だけ、チャンスを下さい。」

 

りーちゃんも同じ気持ちなんだ。

二人一緒なら、今度こそ。

 

「...ダメや。」

「っ...。」

「今のままじゃ、危なっかしくてなぁ。もうちょい強うなってくれんと。」

「それって...。」

「我が儘を通すにはどうしても実力が必要や。その実力に届く根性があるか、試させてもらうよ。」

 

不敵に笑うはやてさんの様子に顔を見合せる私たち。

 

「ピッタリな人材がうちには豊富なんよ。さあ、入って入って。」

 

はやてさんが軽快に手を叩くと、私もりーちゃんも見知った人が入ってきた。

 

「久しぶりだねリーゼ。それに、真ちゃん。」

 

キレイなサイドテールに優しげな表情。

以前の事件でも、私たちを助けてくれた管理局のエース・オブ・エース。

高町なのはさんが、そこにいた。

 

第24話『守ること、守られること』




「私たちの出番、終了?」
「たぶんな。十分目立った方じゃろ。」
「前回カッコよく登場したと思ったら一発いれて終了だったよ!?もっと喋りたい出番が欲しい!」
「一期より台詞増えたじゃろ。」
「一期は台詞ないよ!?フーちゃんだって、なのはさんたちに師匠枠取られちゃうかもなのに!」
「そしたらいよいよリンネの出番なくなるな」
「私チャンピオンなのに!」
「次回魔法少女リリカルなのはS.G. 第25話 強き者」
「次回もリリカルマジカル頑張らせてくださいっ!」


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