麦わら一味の日常 (HIRANOKORO)
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クルーはちゃんと仕事してた話

穏やかな午後
甲板に誰も居ないことを珍しく思った船長は、クルーを探しにサニー号の探検へと向かいます


 

 

「何書いてんだ?」

「航海日誌よ。本当はアンタが書くんだからね?!」

 

「何書いてんだ?」

「医療日誌だ。健康は日々の積み重ねだからナ!! 怪我も多いし、強くなるサポートにもなる!! だから、ちゃんと記録をつけるようにしたんだ!!」

 

「何書いてんだ?」

「備忘録、ですかね? いえ、ワタクシ歳も歳ですから、思いついた曲やその日の出来事なんかを書き留めてるんですよ。どんな小さな事でも、ラブーンへの土産話。忘れてしまってはもったいないでしょう?」

 

「何書いてんだ?」

「ああ? 在庫とか今日のメニューとかそんなんだ。つまみ食いしたらすぐわかるからな。ハラ減ったらちゃんと言えよ」

 

「何書いてんだ?」

「オウ! 整備記録だ!! この船をもっとスーパーにするためにも、日々のメンテナンスは欠かせねぇンだぜ!!」

 

「何書いてんだ?」

「クセでのう。ワシも船長だった。今は海流や波の様子なんかを記録しておる。他にも思いついたことなんかを、な。まあ、暇つぶしじゃな。ルフィ、お前さんも書いてみるかね?」

 

「何書いてんだ?」

「日記よ。歴史は毎日刻まれていくものなの。記録さえあれば、遥か未来に心さえ伝えられる。アナタも書いてみたら?」

 

「オマエも書いてんのか?」

「? ああ! アイデア帳だ。閃きは書き留めとかないと逃げちまうからな! 見ろよ!! コイツが完成したらスゲーことになるぜ!!」

 

「ゾロも何か書くのか?」

「何言ってんだ、テメェ?」

 

 

船長の思いつきにより、交換日誌開始

一人目

ロロノア・ゾロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにもなかった

 

 

 

一言欄

 

ナミ

 そうよね?! 寝てたものね!!

 

ジンベエ

 あの大嵐の中、なんで寝とれるんじゃ

 

サンジ

 体縛り付けとけ

 お前が跳ね回ったせいで部屋がぐちゃぐちゃだ

 後、そのペースで呑んで料理酒に手を出したら蹴り飛ばす

 

ウソップ

 一本ぐらい酢に変えとこうぜ

 起きるかもしれない

 

チョッパー

 死んだかと思った!! 死んだかと思ったゾ?!

 寝てた!!

 

ルフィ

 ダメだなー

 ちゃんと手伝わないとダメだぞ

 オレだって手伝った

 

ウソップ

 ↑お前は船長だろ

 

フランキー

 スーパーだぜ!!

 ボンク、改造しといたから寝心地を教えてくれ!!

 

ウソップ

 何か包まれてる

 

チョッパー

 安心するゾ

 

ルフィ

 あんま揺れねぇな

 

サンジ

 コレ意味あんのか?

 バカどもの寝相に振り回されなくなった

 

ゾロ

 お前らが書けって言ったンだろが

 

ロビン

 昨晩の海蛍はステキだったわね

 

ブルック

 おや、羨ましい

 次の当番ではリクエストをお待ちしておりますよ

 酒のお供にピッタリな曲を用意しておきます

 

 

 

「何か面倒だな」

「「「オマエがヤル!!って言ったンだろが?!!!!」」」

「だから、意味ねぇって」

「オレだけ損だな」

「フフフ、書きたいことがあったら書けばいいわ」

「自由な男じゃのぅ」

「ガキなんだよ、ガキ」

「ヨホホホ!! ヨホッ!! ヨホホホホホ!! ヨホ………!! !!     !!   」





ちなみにサンジだけは食卓のおしゃべりで充分だと思っているので、ちょっと不満顔


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サイズ差1:10

サニー号自慢のアクアリウム
その真の管理者が決まったようです


 

「意外だな。ジンベエってあんな顔するんだ」

「なんかカワイイわね」

「ええ、とても微笑ましいわ」

 食後の一時、珍しくバーに集まった一味は食欲以外の目的でアクアリウムを眺めていた。

「ちょっと、ペットとか飼ってみたくなるわね。ネコとか」

「オレは犬が好きだ。あと、虫」

「絶対許さない」

「チョッパーがいるだろ?」

「……さらっとペット枠に入れてやるな」

 無慈悲な船長に剣士が呆れる。

「一応、メインは生け簀なんだがな。こりゃ、改造してやった方がいいのか?」

「航海中に取れる魚は、回遊魚や深海魚。どちらも肉食だったり、戯れるには不向きかも知れませんねぇ」

「回遊魚なら上の方に留まるでしょう。問題は深海魚ね」

「ここまで生き残ってるなら大丈夫じゃない? ほら、サンゴとか海藻とかに隠れられるし」

「どうかしら?」

「実際は食われてるぜ。繁殖もしてるから目立たないがな」

「ジンベエがいるならあんまり、保存とか考えなくていいんじゃないか? 下手すりゃこの水槽に入らないぐらいデカいの獲ってくるし」

「ダメだ。オレはアイツを何時サンジが料理してくれるか楽しみにしながらここを眺めるのが好きなんだ」

「……どいつだよ」

 船長が指差しているのは、ジンベエの頭上を回るサバのような魚群だった。

「イワシ」

「イワシなのか?」

「デカ過ぎだろ」

「グランドラインだから、全部デッカイんだ」

「なんだその信頼感」

「ヨホホ。ルフィさんにとってはグランドラインもお腹を満たしてくれる恵みの海ですか」

「そういえば、なんだかんだ航海中に飢えることもなくなってきたわね」

「そういえばあの牛食いそこねたな」

「ネコはウマいのか?」

「話聞いてた?」

 アダルト組の笑い声と航海士の説教のなか、上からコックが降りて来る。

「お代わりはいるかい?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

「どういたしまして、ロビンちゃん♡ 甘さはどうだい?」

「ちょうどいいわ」

「チョコは苦手だったが、酒にも合うんだな」

「コーラにも合うぜ」

「ウマソウだな」

「そっちは苦いぞ。こっちの干しミカンのヤツにしろ」

「これ、皮まで食べられるのね」

「ナミさんのミカンは最高だからな♡ てか、チョッパーのヤツ、居ないと思ったらアクアリウムの中にいるのか」

 アクアリウムでは、熱帯魚に手ずからエサをやるジンベエと、その腕に抱えられた潜水服仕様のチョッパーが楽しげに戯れていた。

 能力者であるチョッパーは水の中では無力だが、この世で最も頼りになる漢が付き添っている。

 カラフルな魚達に群がれたり、突かれたりしながら二人で微笑みあっていた。

「少し寒くなってきたからな。チョッパーの分は温めてやろう」

「次は冬島かしら?」

「サンジさんは座っていて下さい。お代りついでにワタクシがやってきます」

 断ろうとした料理人を考古学者と航海士が引き止める。海賊王になる食欲を日夜相手にしている料理人は、恐らくこの世で最もヤリガイのある毎日を送っているのだろう。

 それを一切苦にしない男の大丈夫を、どれだけ頼りにしても信用はしないのが一味の共通認識だ。

 アクアリウムから上がってきた操舵士は、どこか嬉しそうに言った。

「ワシのことは気にせんでええ。これでも魚人。食った食われたは自然の摂理じゃと弁えとる」

 しかし、チラッと視線をズラした顔は憂い顔になった。

「ワシはいいんじゃが、随分喜んでおったでな」

 考古学者にタオルケットで包まれ、ホットミルクに口をつける未来の万能薬。狙撃手や船長や料理人に、全力で今の体験を報告している。

「漢なら越えなきゃならねぇ波もあらァな」

「アイツも立派なウチのクルーだ」

「まあ、大丈夫でしょう」

「気づかれるようなヘマはしないわ♡」

 舌を出した航海士に、その場の一味はかける言葉を見つけられなかった。




デカい親分丸くてカワイイ
ちっちゃいチョッパーモコモコカワイイ
カワイイ


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船長って?

死の外科医、常識がクライシス


 

「雑用だろ、どう見ても」

「ああ?」

 奇しくも同じ船に乗ることになった外科医は呟く。

 彼の目には、配下にしたはずの船員たちとロープを張り、狙撃手の指示であちこち走り回り、生えてきた腕と一緒にガム剥がしをする麦わらの姿が。

 時たま狙撃手や船員とイタズラしたり、事故を起こしたり、音楽に合わせて踊り狂うのは、まだ、別の船のことだと許容出来る。自分ところの船員と変わらないし。

 しかし、船員として見ればアレが船長とは信じられない。

 どちらかといえばボッチ気質の外科医が、今までこう、頑張って目指してきたというか、取り繕ってきたというか、背負い込んできたものが崩れていくのを感じる。

 かつてのような足元全てがなくなってしまう感覚とは違い、軽くなったような物足りないような頼りなさがあった。

「ロロノア屋も監視なら真面目にしろ」

「油断してるように見えるか?」

「ドヤ顔するなら筋トレ止めろ。気になるんだよ」

「暇なんだ」

「じゃあ、ちょっと離れろ!! そのデカいダンベル?! いや、バーベルなのか?! とにかく、そいつがオレの顔面をさっきからかすめてんだ!! つか、どうやってこの狭い部屋に入れたんだ、ソレ!!!!」

 自分の能力を使わないと無理そうな上、それを軽々と上下する様はなんとなく精神を削られる気がする。

「ウソップに頼んだら、こう……不思議扉だ」

「諦めんな!! もっと頑張れよ!!」

「おもしれーヤツだな。オマエ」

「バカは話が通じネェ!!!!」

 剣士大爆笑。外科医は絶望した。

「まあ、ウチの船長が役立たずなのは今更だ。オレらがいなきゃアイツは今頃生きてねぇのは間違いねぇ」

 似たようなもの同士な気がしたが、外科医は気を使った。

「二年前の戦争で大将に立ち塞がった海兵を覚えてるか?」

「新しい英雄か」

「アイツが海軍に入る前からの知り合いでな。あの時はオレらもアイツもまともに航海なんか出来なかった。今じゃ、あっちの方が腕はいいと思うぜ?」

「大佐クラスなら船を任せられることもある。よっぽど船長してるだろ」

「違いねえ」

 それで話が終わり、外科医は困惑した。

 なんか友達を自慢されただけで、疑問が何一つ解決されていない。皮肉のつもりが、どうも褒めたことになった感触がある。

 しかし、向こうがどこか満足げな雰囲気を醸すなかで、改めて蒸し返してよい話題なのか判断出来ない。

 年上か部下、話の通じない子供。そんなのばかりが外科医の人間関係である。一味の成り立ちとか、友人関係とか、ちょっと踏み込み先がわからない26歳。

 相変わらず、巻き込まれたら死にそうな筋トレの傍ら、酒瓶に口を付ける剣士は深く自分の考えに沈んでいるようだった。

「世界一の剣豪も、海賊王も、果てのねェ夢だ。命とか人生とか、そんなもん投げ捨てるような生き方で、海賊王に至っては他人を巻き込まずにはいられねェ。なのにオレたちは、海の渡り方も知らねえでそこを目指したんだ」

 自分語り。その、なんだ、困る。むず痒い。

「自分の力でそう成りたいとは思うけどよ。相応しい敵とか、行きたい場所とか、そういう、通過点みたいな、チャンスってヤツを与えて貰えんのは、有り難い話だとは思ってるんだ」

「自覚があるなら、航海術の一つも覚えりゃいいじゃねぇか」

 剣士は笑った。

「アレでも上達した方だ。この二年、海賊王の右腕と海賊女帝と海侠の3人がかりで仕込んだらしいからな」

 開いた口が塞がらない。ネームバリューもさることながら、その3人で歯が立たないとか逆にスゴい。むしろ、負けた気がする。気のせいだけど。

 しかし、確かに、船長の役割とは極論、進路を決断することだ。ふんぞり返っているだけで船を進ませるのはクルーの役割だ。

 今まで、手下どもを連れて行くという感覚だったが、実は連れて行って貰っていた、という視点は新鮮だ。

 そんなことを思う外科医は、真面目な男だった。その様子を肴に剣士は酒を呷った。

「とりあえず、筋トレか酒を止めろ。医者として気になる」

「なんか効果が薄まるんだっけか」

「知ってんなら、ヤメロ」

「ウチの船医がそんなことを言ってた」

「聞いてやれよォ!! 可哀想だろうが!!」

「飲みてぇ時に飲むんだ。誰かのために道は曲げねぇ」

「オマエのために決まってんだろが!! 医者ナメてんのか!!」

「病気になったこととかねぇし、怪我は自業自得だろ?」

「チクショウ!! コイツバカだった!!」

「オマエ、おもしれーな」

「嬉しくねぇよ!! 医者には従え!!」

「調子が狂ったらな」

「狂わせるかぁ!! 完璧に整えてやるわ!!」

「じゃあ、大丈夫じゃねぇか」

「こっちの調子が狂う!!」

 波、穏やかに、航海は順調である




麦わらという激流に角を削られていく死の外科医
こんな感じで仲良くなってく、剣士ペア
尊い


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漢の仕事

知られざる変態の生態


 漢の朝は午前9時から始まる。リーゼントの手入れはもちろん、身嗜みには手を抜かない。

 若さというのは、男も女もそれをおざなりにする。自分も親友も、師匠の元にいるときはそうだった。

 ヒゲは不精。髪型は雑。油汚れはそのまま。服も着たきり。

 若いヤツらが身の程を弁える必要はない。いくらでも無茶をすればいい。いくらでも手助けする。

 だが、夢を追うならいつか忍耐が必要な時があるかもしれない。解体屋という真逆の稼業に就きながら、造船の腕を磨き続けた漢は知っている。

 ただ駆け抜けるだけなら、いい。漢の背中を見る機会などないだろう。むしろ、その背中を支えるのが兄貴分だ。

 だが、立ち止まった時、人生の先を進むのはこの自分だ。みっともない背中を見せるわけにはいかない。前半分を失って、師匠の深い懐とデッカい腹は兄弟が継いだ。アイツも駆け抜ける漢だ。

 だから、唯一残った生身の背中で、漢であることを示してやらなければならない。例えそれが無意味であったとしても、万全に備えておく。それが師匠の教えだ。

 届かない背中、届かなかった背中。

 それがこの変態の人生の血肉である。

 夢が苦しみにしかならなかった時、思い出すのはいつも師匠の背中だったのだ。あの、カッコつけなくてもカッコいい大人になりたいものだが、今はまだ、カッコつけなければカッコいい自分にはなれない。

 今日もまつ毛の先までスーパーだ。鏡の前で、喜びのポーズ。

 一味はこの声で漢の目覚めを知る。

 身嗜みの後はコーヒータイムだ。若いヤツらに合わせた脂っこい食事ではないので、コーラはいらない。

 大好きだけど、コーラで流さないと量が食えなくなっているのは、多分サイボーグだから。

 エスプレッソと新聞、そして焼き立てのクロワッサンで作ったサンドイッチ。繊細に重ねられた生地の歯ごたえと香りが、シンプルな組み合わせを何倍にも高めてくれる。

 今日も料理人の仕事は完璧だ。

 そのまま昼までダイニングで過ごす。

 通りすがりのクルーが零す、ちょっとした不具合や不満、不便。全て仕事に生かすが、あくまで何気なく、いつの間にかでなければならない。そのための時間は惜しくない。

 巨体がソファを占領しているせいで、たまに膝に毛玉が乗って勉強してたり、航海士が愚痴をぶつけてきたり、料理人が相槌を求めたり、狙撃手が発明の相談に来たりする。

 後、船長がたまに腕ブランコとかをリクエストする。いい加減、剣士のウェイトは足すのが難しいので、素材を改める必要があるかもしれない。

 音楽家のピアノは一応、引き上げてある。だが、どう設置してやれば良いのか、まだアイデアが浮かばない。フロリアントライアングルは霧も船もその領域に留まり続けるような海域だったが、この船はグランドラインを行くのだ。

 繊細な楽器を壊さないように常設するのはなかなかにホネだ。

 船長の昼寝場所にならない工夫もいる。あの冷たい感触を気にいっているらしい。

 アレはアイツの宝だ。大事にしなければならないが、存分に使わせてもやりたい。悩みは尽きなかった。

 そうこうしているうちに、昼食の時間だ。航海士の予報を元に、午後の航海計画が言い渡される。

 それを基準に、クルーは午後の過ごし方を決める。昼寝したり、トレーニングしたり、釣りをしたり、嵐に備えたり。

 船長はどっか高いところにいる。

 逆に漢は船の底に潜る。仕事場で道具を掴み、今日の作業に入る。

 宝樹アダムは素晴らしい素材だ。あの英雄ガープの拳骨流星群すら耐えたという逸話もある。

 その特性は硬さではない。強靭な弾性だ。

 どんな衝撃も跳ね返す力は、船長でも気を抜けば殴った拳が痛む。

 だが、だからこそ、メンテナンスが欠かせない。

 弾力があるということは、僅かであっても歪むということだ。

 船という形を作るには、アダムを木材にしてそれらを組み上げて繋ぎ、接着する素材を挟まなければならない。

 衝撃を吸収すると、アダムは物凄い速さで撓み、元に戻るが、接着剤はそうではない。よって摩擦で急激に劣化してしまう。

 それを放置すると、船が一個の塊でなくなり、跳ね返した衝撃が集中して、アダム自体の弾性でへし折れてしまうのだ。

 また、万全の状態だと衝撃を受けた部分だけでなく、それを逃がした部分でも同じ現象が起こる。

 だから、毎日点検し、必要なら劣化した素材を充填しないと、木材だけ無事のまま、船がバラバラになってしまう。

 航海の途中で船の形を保てなくなるなど、欠陥品ですらある。

 並大抵の船大工では扱えないし、下手な海賊では持て余すだけ。

 実に贅沢な素材であり、腕の振るい甲斐があるというものだ。

 これを扱えるのは幸せ以外のなにものでもない。

 見た目に似合わず、繊細に、丁寧に、だが素早く仕事を進めていく。

 少人数であることを考慮して、サニー号は突破力と機動力に重点を置いた設計だ。

 直進性を優先しているので、船体を短くして小回りを確保している。

 代わりに復原性を犠牲にしているが、そこは船体中央にパドルを展開することで補う。

 よってアダムの強靭さは側面の防御力ではなく、船底の頑丈さを活かすように組んだ。

 狙撃手や航海士の腕を活かす意味でも、足を止めての海戦などナンセンスだ。出来るからやってしまうという、航海のムチャクチャさも、メリーを見た漢には一目瞭然だ。竜骨は勿論、梁も殻も特に下からの衝撃を逃がす構造にしてある。

 この芸術的な設計は、自分の仕事ながらホレボレすると同時に、これを組んだ大工たちの腕も思い出す。生きた木材を相手に、ただ設計通りでは思わぬ不具合を生む。

 板の切り方、柱の削り方から、全てが融合してこそ、アダムの弾性は無敵となる。しかも、完璧なだけではなく、遊びも必要だ。

 仕事には漢の哲学が宿る。その魂や面影に触れながら、船底を後にした。

 今日は穏やかな日よりなので、外板も点検する。ロープを使って船体に貼り付いての作業だ。

 たまにクルーが手伝ってくれるが、船長は飽きっぽいし、狙撃手は危なっかしい。剣士は思ったより軽いと抜かしてからは、起きて来なくなった。女連中には無理だし、他にも仕事はある。気持ちだけで充分。

 暑い日照りが生身の背中に突き刺さる。スーパーだ。

 久しぶりに風呂にでも入ろうか。

 半身が機械のため、漢は三日に一度ぐらいしか入らない。サニー号には濾過装置もあるが、ミカンの木や芝など植物も生えていて、何よりトンデモなく料理で使う。二日目のカレーを楽しむために、一日目は鍋一個分だけとか普通にする。しかも、ライス。節約しても皿洗いの量も毎日、毎食膨大だ。

 結果、男連中のものぐさが許される。

 剣士は毎日乾布摩擦をしているのでいいが、船長はたまに叩き込まないと着替えすらしない時がある。狙撃手は多少怠惰なだけで、音楽家にとっては単なる娯楽だろう。

 船医はブラッシングさえすれば問題ない。

 簡便な濾過装置で循環させた再利用水も考えたが、生活面におけるクルーへの信頼は皆無であるため、何とか飲用に耐える水準にしないと。

 水は怖い。簡単にクルーが全滅する。

 研究すべきことは尽きない。

「今日は風呂をいただくぜ」

「オレはまだいいや」

「じゃあ、背中流してやるゾ‼」

「じゃあ、オレサマがフワフワにしてやろう」

 夕食の席で言い出せば、船医がすぐさま乗ってきた。そろそろ、捕まりそうな雰囲気を感じ取ったのだろう。考古学者の視線が一瞬鋭くなるが、容易いもの。ドライヤーの出力なら、変態内蔵型が一番だ。女連中に構い倒されるよりも、船医はそっちを好む。

「なら、お先どうぞ。ちょっとやること溜まってて」

 男女どちらが先かを決めるのは難しい問題だ。しかし、この一味に限っては風呂大会でもなければ拘ることもない。

「測量室かい? 何か用意しようか?」

「アリガト♡ じゃあ、落ち着いたらでいいからミルクティーをお願い出来る? ワタシもそれまでには片付けとくから」

 料理人ウキウキである。それに便乗して船長がワガママを、剣士がイジワルを挟む。空気を読もうとした狙撃手には、料理人から押し付けた。

 スーパーだ。コーラがウマい。

 船医に背中を洗ってもらい、逆に船医も洗ってやる。狙撃手や女連中のように無駄にテクニカルでキレイになる洗い方は嫌いなようで、雑ではないが力強く擦ってやる。

 一緒に暮らしていた師匠の婆さんの躾か、水をそれほど苦にせず、大人しい。血流を回し、機械との融合で消耗した神経を解きほぐすために、ゆっくりと浸かる。

 それに付き合って文句も言わず、タオルでプカプカ浮いてみたり、膝に座ったり、よじ登って少し涼んだり。

 濾過装置があるとはいえ、燃料まで必要になる贅沢極まりない大浴場を作ったのは、クルーの要望もあるが何より自分のためだ。傷を治すのではなく、生き延びるために生身を置き換えた。

 今や改造の度合いは人間と呼ぶのに躊躇うほどだ。

 なんなら、もうロボットになり切ってしまった方が楽かもしれない。なんなら、その方が強い。

 しかし、この一味の仲間でいるなら、面倒臭く生きようと思った。障害でしかない欠陥を抱えて、最期まで生きてみようと。

 こうしてメンテナンスをしながら、手間でもなんでもないような顔をして、それを粋だと嘯きながら。

 そんな決意とも呼べないような想いを気づいているのかいないのか、背中に回ってグニグニ筋肉を揉み込んでいた船医が、飽きたように湯船に戻る。

 そのまま縁に蹄をかけて、入口を見ながらチャプチャプしている。

「そろそろ出るか?」

「ヨシ!! 出るゾ!!」

 やはり飽きていたらしい。

 ババっと拭いて脱衣所に出る。そこでじっくりドライヤーでフワフワにしていると、いつの間にかいた考古学者が軽くブラッシングをかけて拐かしていった。

 流石の変態もちょっと寂しい。

 新しいパンツを履いて、ポーズを決める。

「ん〜!! スーパーッ!!」

 湯船に浮いた毛を掬っておく。

 開発室に戻り、コーラを補充すると机に向かう。研究対象はヤルキマン・マングローブの樹液。

 あそこの気候でなければ安定性を失うが、だからこそニスや塗料に応用出来ないか。

 あの撥水性を船体が発揮出来れば、速度が劇的に上がる。

 また、濾過装置のフィルターにも使えるかもしれない。

 実をいえば、そうした発想は狙撃手の方が得手なのだが、それを導くためにも基礎研究は欠かせない。アレの問題解決能力は抜群で、ちょっと弟子にしようかな~なんて野望が顔を覗かせたりしないでもない。

 ミラーボールのチラつく照明の下で、ただ積み重ねていく地道な作業に没頭する。

 波を割いていくこの船が、さらなる性能を獲得するのだと思うと、ワクワクが止まらない。試薬の反応を待ちながら、新しい装置の設計、武器の組み立てといくつも作業を並行させて、漢の顔には笑みが浮かんでいた。

「お疲れ様。少し、休憩しない?」

 声の方に向けば、考古学者が酒を持ってきた。耳を澄ますと、上階では何やらワチャワチャと話し声がする。

 なるほど、結局夜空の下で二人っきりのデートとはならなかったか。さっと部屋の安全を確認して、瓶だけ受け取る。

「チョッパーは寝たのか」

「ええ、私のベッドで」

 抱き枕にするつもりだ。

「あんまり構い倒すと嫌われるぞ」

「あら? 男の扱いなら慣れたものよ?」

 むしろ、そういう雰囲気が薄れて心のままに甘やかしているようだから忠告したのだが、鉄壁の態度で打ち返された。

「まあ、そういうことにしといてやろう」

 考古学者は笑って製図台に腰掛ける。

「フフフ、本当はね、嫌われてもいいの。ずっと逃げてきたんだもの。たまには追いかけるのもいいわ」

「そりゃ楽しそうだが、ちょいと不憫だな」

「大丈夫よ。でも、そうね。気をつけるわ」

 厄介な女に目を付けられたもんだ。トナカイながら同情する。

 考古学者は製図に目をやり、それを撫でながら漢に質問した。それに答えてやりながら、二人で酒を進めていく。

 女にどれだけ関心があるか知らないが、漢も歓心を逃さぬ術なら知っている。

 先に空けたのは、ワイングラスを手にした女だった。

「コーラならあるが……」

「いいわ。それをちょうだい」

 言うなり、漢の手から瓶が奪われた。そして、それを口に、大きく呷る。口の端から溢れた酒が、その喉に伝った。

「オイ……」

「たまにはワイン以外もいいわね」

 トボケた顔をした女に、漢は微笑んだ。スッと手を伸ばし、溢れた酒を拭ってやる。

「甘えん坊め」

「あら? 嫌いになった?」

「口も減らねぇな」

 指で唇を塞いでやる。そのまま、そっと胸元まで撫でて、漢は手を離した。

「さあ、そろそろ寝る時間だぜ、お嬢さん。それともまだ付き合うかい?」

「そうね。上もお開きのようだし」

「シャワーを浴びてきな。いい夜のために」

「そうするわ」

 身を翻した女が、階段を登っていく。漢は机に向きなおり、ペンを持った。が、ふと気づいて顔を上げる。

 立ち止まった女が振り向いて流し目を寄越していた。

「おやすみ。ロビン」

「ええ、おやすみなさい。フランキー」

 まったく、スーパーだぜ。

 漢の一日はまだ終わらない。船底の灯りは、深夜まで灯っていた。




フランキーとサニー号への愛と妄想が溢れただけで、会話がメイン
大人ってステキですね


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料理系YouTuber サンジ

企画、撮影 航海士
協力 狙撃手
照明 変態
BGM 音楽家
ギャラリー (船長拘束中)


「さあ、今日も簡単な料理から行こう。簡単といってもナメるな? コイツを一品朝食に足すだけで栄養バランスも彩りも、これまでとちょっと違うモノになる。料理初心者はバカにしないで、ぜひ挑戦してくれ」

 材料、卵2個、バター大さじ1、牛乳大さじ1半、塩・胡椒少々。透明なボウルに手際よく卵が投入される。

「今日のはだいたい二人分だ。女の子一人なら卵を一個にして、牛乳だけ少し減らしてみよう。混ぜるときは箸か、フォークを使う。混ぜやすいようにボウルを傾けて、ほら、こんな感じだ」

 小気味よく卵液が出来ていく。

「牛乳や塩・胡椒は最初に入れてもいいし、あとから入れてもいい。大事なのは黄身と白身がよく混ざっていることだ。そのとき、こうやって縦に混ぜて空気を含ませると食感がよくなる。慣れてきたら試してみるといい。そうそう、少々とか適量がわからない娘は、味見をしてみるんだ。こうやって」

 卵液に小指を入れて舐める。

「そうすれば自分の好みに調整出来るようになる。何事も実践だ。やってみることが大事だ」

 画面が温めていたほんのり湯気の出るフライパンへ。

「ウチのは玄人用の鉄製だ。自分のウチではこうやって手をかざして温かいと感じるぐらいになったらってのを目安にするといい。そしたらバターを溶かす。焼いたり、煮るんじゃないぞ? 溶かすんだ」

 バターの沸騰する音。

「フライパンを傾けたり、木ベラを使ってバターを満遍なく馴染ませたら、卵を入れる。怖がらないで一気にやろう。流し込んだら、箸か、木ベラで混ぜる。フォークでもいい」

 フライパンの上で鮮やかな黄色に箸の軌跡が踊る。

「コイツのいいところは、見た目を気にしないでいいことだ。むしろ、グチャグチャならグチャグチャなだけいい。遠慮なんかいらないから、とにかく手を止めないこと。それがコツだ」

 画面にウィンク。

「表面に照りが出たら、それで火を止めていい。固めが好きなら、そのまま余熱を使って混ぜ続ける。さ、盛り付けだ」

 ベーコンとレタス、トマトが添えられたシンプルなプレートの上に、今作ったスクランブルエッグが乗せられる。半熟の透明感とプルプルな見た目が鮮やかで美しい。

「どうだい? これだけでちょっとオシャレになっただろ? コイツは何と組み合わせても大丈夫だ。味付けや焼き加減に失敗したら、卵を追加してやれば簡単にリカバリーも出来る。オススメだぜ」

 プレートを手にとったサンジが、画面に向かって腰を曲げる。

「さあ、今日のメニューのスクランブルエッグだ。どうぞ、召し上がれ」

 

 

撮影後

「笑うなっ!! クソマリモ!!」

「オマエ、海賊より向いてんじゃねぇか?」

「散歩の生配信で迷子になられるお方にはかないませんがねぇ。迎えに来たフランキーを称える変態コールでBANだからな!!」

「お? スーパーか?」

「ブルックんときも凄かったな!!」

「あんな怪奇現象、配信に乗せるもんじゃないぜ」

「視聴者の精神が削られていくのが面白かったわ」

「コエーこと言うなよ」

「あのときはタマスィーの状態でしたからね。筋肉のないワタクシが疲れて幽体離脱するほど壮絶に迷われるとは」

「この私が映像を見て座標を特定出来ないなんて……」

「不思議空間だな」

「あながち冗談じゃねえな」

「ついに次元でも切り裂いたか? アァ〜ん?」

「フフ、世界も滅ぼしそうね」

「迷子でか?」

「奇跡かよ」

「悪夢だろ」

「うるせぇよ」

 

 

東の海

「これ、オニギリにも合うかな?」

「そうね? 試してみれば?」

「ウン! そうする!!」

 

トットランド&ジェルマ

「「は? 上限5万ベリーってフザケてるの?」」

 

海上レストラン

「色男だ!! 色男がいるぞ!!」

「カッケー!! カッコ良すぎるぜ、副料理長!!」

「どうぞ、召し上がれ」

「「「ギャ〜ハッハッハ!!」」」

「あのボケナス。楽しそうで何よりじゃねぇか。サッサと仕事に戻れ、オタンコナスども!!」

「「「ギャーッ!!」」」




女性に人気
撮影者によって違う表情に夢女子大量


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断捨離大会 ファッション編

別編はない


 二年の歳月は一味を成長させた。強くなったとか逞しくなったとかはもちろん、身体的に。

「サニー号に置いておいた服って、もう着れないのよね」

「ああ、なんか育ってんな。オレサマがいくらスーパーでも、パンツのサイズまでは変わらなかったが」

「逆に何でよ?!」

「漢としてソコを改造するのは……」

「聞いてないわ!!」

「この二年でワタクシも衣装やらが増えましたし、ちょっと整理した方がヨロシイのかもしれませんね」

「なんかスッゲー舞台衣装とかあったもんな」

「ブルック!! それでライブしてくれよ!!」

「構いませんよ」

「あ・と・で!!」

「イタイイタイ。ゴムなのに」

「覇気か?」

「さっすぅがナミすぅあん♡」

「一緒にすんな!! バケモノども!!」

「オレもか?!」

「アンタ、アレに並ぶつもり?」

 三馬鹿を見る。

「そうだな。オレが間違ってた。オレはただのトナカイだ」

「ええ、一味の優秀な船医よ」

「コノヤロー♡」

「タヌッ」

「今はやめてやれ」

 剣士が口を塞ぐ。

「非常食だもんな?」

「違ァァァぁぁぁぁうぅゥ!!!!」

「グラップ!!」

「ホデュア――――――――――――っ」

「……」

「いや、アレは止められねェよ」

「そうだぜ。オマエのせいじゃない。むしろ、オレが悪かったんだ」

 船長のフォローを頑張る剣士を全力でフォローする一味の絆。

「とりあえず、収納を増やすなら生活空間を削ることになるぜ? その価値があるか?」

「実際、服で倉庫を圧迫するのもな。ウチは船長の食事だけですぐ、漂流の危機だからな」

「鍵付き冷蔵庫とオレがいればそんなことはさせない。とは、言い切れないのがな」

「グランドラインを航海してる自覚が足りねェんじゃねェか?」

「一味の危機の原因が船長の食い意地って」

「自分の船から略奪するのか、この船長」

「オレは……」

「ルフィのバカっ!! ヴワァぁん!!」

「ヨホホホホ!! いえ、失礼。ヨホホ!! ヨホホホホっ!!」

 船長がいじけたので、クルーは踏みつけにした。

「じゃあ、捨てましょう! 各自、荷物を整理すること!」

「え〜? コレ気に入ってんだよ」

「もう、前閉まんないじゃねェか。あちこち繕ってあるし」

「ハンコックがやってくれた」

「アタシもやってあげたわよね?」

「そうだな。あっちこっちボロボロだ」

「ヨシ、殺そう。この船長」

「落ち着け」

「そもそもそんな荷物もねェしな」

「それよ!! ちょっと聞いて?! ホント信じられないんだけど!! コイツら二人で海に出たのに、水ぐらいしか船に積んでなかったのよ?! せっかく盗みに入ったのに!! おかげで逃げそこねたじゃない!!」

「なんで一緒にウチの村に来たんだ?」

「なんでだっけ?」

「知らねぇよ……。ただ、そういえばあの頃は腹減っても、ワリとなんとかなってたな」

「そういや、腹減ってるのが普通だったな」

「常に漂流してたしな」

「自慢することじゃねェよ、オイ」

「真剣に生きてることが不思議なんだが」

「この骨身を差し置いてですか?!」

「所属する海賊間違ったかしら?」

「今更遅え。とにかく、荷物の整理だ」

「ウソップ!! 行こうぜ!! オレが選んでやるよ!!」

「バカ!! ヤメロ!! オマエが触るとメチャクチャになっちまう!!」

「サンジ!! 終わったらメシ!! な?!」

「任せとけ! ったく、どうしてこんな手のかかる船長に付いてきちまったんだか」

「アナタ……」

「オマエ……」

「ウソでしょう?」

「? なんだよ?」

 一同、オマエが結局一番甘やかしてんだろうが、という顔。

「さあ、サッサと動くぞ。オレはパンツとアロハだけだ。他の廃材なんかをまとめとくぜ」

「オレも捨てるもんなんてねェよ」

「ダメよ。色々買ってあげたでしょ?」

「アレ、捨てていいのか?」

「いいに決まってんじゃない。どうせ戦いでボロボロになるし、ワタシの楽しみも増えるもの♪」

「じゃあ、借金に数えるのはズルくねェか?」

「お金は払ってるんだし、自分で選べるの?」

「お? あのクソダセェシャツがまた見れるのか?」

「アレは師匠の餞別で……」

「どうせ何にも持たずに旅に出ようとして、せめて着換えだけでもって押し付けられたんでしょう?」

「ああ、腹巻きってそういう。ヨホホ」

「いい師匠じゃねぇか」

「図星か?」

「うるせぇな」

「じゃあ、こうしましょう。捨てるのに迷った服があったら、みんなの前で着てみるの。その気になれないモノは全部捨ててしまいましょう」

「げ?! ちょっと厳しいかも?」

「一番捨てられないのはアナタじゃない?」

「へっ。世話ねェな」

「臨時のファッションショーか。楽しみだな♡」

「スーパーだぜ!!」

「いつ終わりますかねぇ。ヨホホ」

「もー! コイツらがイジメる!!」

「ハイハイ、じゃあ行きましょうか?」

 

 

女部屋

「うー! どうしよ? もう着れないけど、ノジコと買った服なのよね」

「あら? 着てくれるの? なかなか可愛らしい服じゃない?」

 バギー編の服。

「無理!! はちきれるわ!! ワタシってこんな胸小さかったのね」

「ええ、とってもキレイになったわ」

「ロビンはソレ、全部捨てるの?」

「二年前のはね? 思い入れもないし、ちょっと趣味も変わったから」

「そうなんだ。確かに見た目も柔らかくなったわね」

「フフ、そうね。また買い物に行きましょう。アナタの服も選んであげるわ」

「ホント?! 楽しみ!! じゃあ、チャッチャッと捨てちゃわないとね!!」

「ええ、頑張って」

 

 

男部屋

「何でルフィとウソップはいねぇんだ?」

「まさか、その山になってるのがそうなんでしょうか?」

「そうだろうな。まあ、ほとんどがウソップのである理由は推して知るべしだが」

「助かる」

「まったく」

「と、言ってもワタクシ、一張羅のスーツだけなんですよね。舞台衣装は場所を取りますが、持ってきたのは数着のみですし」

「まあ、そのうち着飾らせられる」

「まあ、見た目も大事ですね。もはやホネだけですけど」

「関係ねェよ。舐められないためにはファッションも重要だ」

「そういうもんかねぇ。まあ、そういうのはわかるヤツに任せる」

「オレのコーディネートに文句は言わせねェ」

「言ったことねェだろ。しかし、どうしたモンかねぇ」

「迷ったら着ろ」

「そうすっか」

「え? ゾロさん? アナタ、二年前より確実に肉が増えてますよね? ワタクシそういうの敏感なんです。ホネだけに」

「ほっとけ。おもしれーから」

「ヨホホホ! アナタもワルですねェ」

「着ねぇぞ」

「じゃあ、捨てろよ」

「でもよ……」

「言い訳は見苦しいですよ?」

「どうすりゃいいんだ……」

 

 

アクアリウム

「結局、着替えるのはナミとゾロだけかぁ?」

「ほとんど捨てた」

「捨てられた。迷う暇もなかった」

「まあ、この先いくらでも買えるだろうしな」

「この帽子は買えないから、ずっと大事にするんだ!!」

「オレの麦わらもだ!!」

「オウ、そうしとけ。で、誰からだ?」

「オレだ」

 初期衣装。くいなとお揃いのシャツ。

「ピッチピチじゃねぇか」

「よく着れたな、オイ」

「だから、師匠の餞別なんだ。おんなじのばっかだが、勝手に捨てらんないだろう?」

「バカ義理固いな。バカだが」

「バカだな」

「バカですねぇ」

「ゾロ。力コブだ」

「は? こうか?」

 ビリッ、ッパン!!

「ヨシ、捨てろ」

「容赦ねぇな」

「次だ、次。こんなもんに時間かけてらんねぇよ」

「腹巻きもあるし、一枚だけ大事に仕舞っとけ」

「オウ……」

「じゃあ、次はワタシね! これ、掘り出し物なんだけど、着る機会もないし、迷ってるのよね」

「どこで買ったんだ?」

「幾らで買ったんだ?」

「ナミ、無駄遣いはダメだぞ。船長として言うけどな……」

「そういう一品物は、結局他に合わせたり出来なくてタンスの奥で腐るだけだぜ。思いきって捨てちまいな」

「カワイイわ」

「ちょっと奇抜なナミさんもステキだ♡」

「……もう、捨てる」

「アレ、布切れにして使えないかな?」

「切り刻むの?!」

「ありゃ吸水性の低い生地だからやめときな、チョッパー。オレサマのヤツを分けてやるから」

「そういや、オレも欲しい。吸水性とか気にしねぇ」

「わかったわよ!! 全部捨てる!!」

 大歓声。

「ヤレヤレ、やっと落ち着いたか」

「サンジー。メシー」

「待ってろ。すぐ作るから」

「面白かったナ!! パンってなったゾ! パンって」

「喜んで頂けるなら、ワタクシも挑戦してみましょうか。筋肉ないんデスケドー!!」

「アレ、なんかじいちゃん思い出してヤダ」

「はい、解散!! 解サーン!!」

「もう!! 覚えときなさいよ!!」

「恨まれる覚えはねェ」




続きもない


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新人研修

海賊歴十五年、初めてがいっぱい


 ダルダルの着物を着たルフィ。

「ギアサーード!!」

 プクゥ。

「ジンベエ」

「ダッハッハッハ!!」

「エエッエッエ!!」

 ロビン協力の髷と、なんか努力した髭。

「オレもオレも!! ランブル!! ガードポイント!!」

「アッヒャッヒャッ!!」

「ハッハッハ、なんとも贅沢な夕飯じゃな」

「やめろ!! バカ!!」

 ゴンゴンゴン。

「ダメよ、ジンベエ。アイツらにモノ貸しちゃ。全部壊しちゃうんだから」

「お、オウ」

 

 

「ルフィーぃ〜っ!! またゾロが無茶してる!!」

「無茶じゃねェよ」

「任せろ!! 行け!! ブルック!!」

「黄泉路への子守唄ァ!!」

「殺す気か」

 狙撃手、彼方からのツッコミ。超絶優しい音色。

「スカーァ」

「グカーァ」

「何でルフィまで寝とるんじゃ」

「ヨホホ! 任務完了」

「ジンベエ! 運ぶの手伝ってくれ!」

「お、オウ」

 

 

 波間流離う 寒空に

 鋼鉄の裸一貫 震わせて

 雄々しく立つ 龍の子であれ

 

「ナニをやっとるんじゃ、アレは」

「理解しようとしないことよ」

「最低っ!! ホント!! 最低っ!!」

「物干しから取ったパンツが凍ってたんだとよ」

「スゲー悲鳴だった。まるで鳥が首を締められたかのような」

「アレは見たくなかったです、ハイ」

「オーーイ!! フランキー!! アイロンかけといたぞ!!」

「オウ!! アリガトよ!!」

「振り向くんじゃないわぁーッ!!」

「アーッハッハッハ!!」

 

 

「くぉのクソネズミどもがァーッ!!」

 ドッカン! バラバラ!

「盗み食いはダメだって言ってんだろうが!!」

「銀蝿は海の風習でもあるが……」

「その常識は捨てなさい」

「この船では命取りになるわ」

「三日分の食糧がパァだ!! 海王類何匹分だ、ゴラァ!!」

「か、海王類?!」

「ジンベエ、アナタが捕まえるのよ」

「そうね。もう、エサのない釣り糸を垂らさなくてすむのね」

「お、オウ」

 

 

「舵取りは任せんしゃい」

「結構、変わるもんだな」

「こんなに揺れねぇとは」

「スゲーな。オレにも教えてくれよ!」

「構わんぞ。どれ、代わってみるか」

「やめろ!! ジンベエ!!」

「ソイツに舵を触らせるな!!」

「いや、しかし、船長じゃろ?」

「いいか? 本当にやむ得ない場合を除いて、コイツに進路を任せるな!!」

「漂流するぐらいならいい。コイツは喜々としてサイクロンに突っ込む男だ」

「その方がおもしれーじゃん」

「わかったか? ナミさんですら前兆しかわからない嵐に、好奇心で真っ直ぐ進むんだ」

「物事を荒だてる才能だけは世界レベルなんだ。疑うな!!」

「お、オウ」




ピッタリ


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危険な男

懸賞金はステータス


 新たな懸賞金が周知され、互いにマウントを取ったり、震え上がったり、ヤニ下がった後。

 結局、額は危険度であり強さの指標ではない、と言う話に。

「なるほど。ニカ。興味深いわ」

「まあ、曲がりなりにも船長だし危険ではあるわな」

「問題はオレたちにとっても、ということだな」

「オレは仲間を危険に晒したりしねェ」

「じゃあ、盗み食いやめろ」

「無茶な舵取りは命取りじゃ」

「マジで進路を勝手に変えないで」

「ルフィ、船長なのに……」

「あんなふうになっちゃダメよ? チョッパー」

「散々じゃねぇか」

「ヨホホホ!! 口笛下手ですねェ」

「かける言葉が見つからねェよォ!!」

 閑話休題。

「ま、実際、ウチにとっちゃ政府がどれだけ内情を把握してるかの目安にもならぁな」

「そうか。オヌシ、古代兵器の設計図を持っておったな」

「燃やしちまったがな」

「なるほど。上に報告してなかったらロビンと同じぐらいの金額になってた可能性もあるのか」

「そこはちゃんと仕事したみてェだな」

「じゃあ、もしかしたら政府が知らない情報があれば懸賞金が跳ね上がるの?」

「そういうことになる」

「五十年も前の話は、流石に反映されないでしょうね。それほど暴れた記憶もありませんし」

「いや、ソウルキングなだけで充分じゃねぇか?」

「幹部というだけでは四皇といえど、そう注目はされん。億を越えるならそれ相応の理由があるということじゃ。ワシは音楽はわからんが、なかなかのもんじゃよ」

「ヨホホ! ありがとうございます」

「こいつが革命ソングとか歌ったらヤバいことになりそうだよな」

「……あんまり把握出来てないんじゃないか?」

「そうね。中にスパイでもいない限り、限界はあるんじゃないかしら?」

「……なんだよ?」

「ハッ、マ〜リモ〜」

「剣士バカ」

「方向音痴」

「迷子」

「酒を控えろ!! バカ、マリモ!!」

「ヨシ、ケンカ売ってんだな?」

「「「ギャー!!」」」

「やんのか、コラ?」

「呆れたのう」

「フフ、いつものことよ」

「やめろ、メシが不味くなる」

「大変だ!! オマエラやめろ!! 船長命令だ!!」

「へいへい」

「マナーを叩き込んでやりてぇよ」

「ハイハイ、座って!」

「何気に戦闘BGMを奏でだした音楽家が改めてコエー」

「ヨホホ!」

「じゃあ、例えばサンジ君の実家の事情とかも考慮されてるの?」

「なるなど、過大評価か」

「いちいちうるせぇな、マリモ」

「ジェルマね。強国ではあるけど」

「あそこにはモルガンズもいた。ビッグ・マムの娘の婚約者だったのも含めて、全部台無しにしたのは漏れとるじゃろう」

「いえ、それ関係で上がったのは確かよ。今回のことでいえば、クイーンを撃破したことが考慮されてるハズよ」

「なるほど、CPがいたんだっけか?」

「情報を抜かれてるんじゃねェか? ウカツだな、クソコック」

「いや、オヌシも人のことは言えんぞ、ゾロ」

「あ?」

「役職のない戦闘員。船長の右腕と目されておるのはともかく、覇気の強さ、その手にある業物、鷹の目との交流、様々なことが考慮されての金額じゃ」

「個人の強さだけだと、国を滅ぼしたダグラス・バレットですらアナタと同額よ」

「まあ、流石のゾロも気まぐれに国を滅ぼしたりはしないもの」

「オレたち、結構国滅ぼしてなかったか?」

「そんなこと……」

「そうだったか?」

「ああいうの再興とか言うんじゃねぇか?」

「ムウ、まだワシが知らんこともあるか」

「これからよ」

「とにかく、倒した相手と同額でも上でもないってこた、別に判断基準があったんだろうな」

「バレバレじゃねぇか」

「ウカツだな、マリモ」

「マヌケ〜」

「ゾロ〜」

「ゾロで悪口なのヒドいな」

「大丈夫だ! オレが治してやるゾ!!」

「いや……」

「慕われてはおるようじゃの」

「ルフィには言わない辺り賢いな」

「死んでも治りませんからね。ええ」

「オレ、嫌われてんのか?」

「ルフィも好きだゾ」

「オレも好きだ。オモシロ変形トナカイ」

「ヤッパキライ!!」

「泣き虫は男が廃るぜ。気にすんなよ、な?」

「え? オレが悪いのか?」

「微妙なとこだ」

「ソレはソレとして、謝っときなさい」

 閑話休題

「船長には引き続き反省してもらうとして。まあ、大方妥当な金額ではあるが必要以上に知られているわけじゃなさそうだな」

「そうね。無駄かもしれないけど、気をつけるにこしたことはないわ」

「そう、無駄かもしれないけど」

「ああいう船長だ。気にしてもしかたねェ」

「そもそも、そんな賢くないですしねェ。政府の方々」

「というと?」

「懸賞金を使って誰かに狙わせるなら、そのように設定しないと。この一味を崩壊させるために、ルフィさんやゾロさんの相手をさせても無理ですよ」

「まあ、ソコラの賞金稼ぎには負けねェが」

「負けても次があります。ワタシが死なせませんし、それならチョッパーさんが治します。フランキーさんが船を万全にしていれば、ナミさんの航海術で逃げられますし、追手はジンベエさんが阻むでしょう」

「オウ」

「我々をまるごとどうにか出来る戦力がなければ、お二人の懸賞金なんていくら高くても無意味なんです」

「オレは?」

「アナタがいなくなったら、誰が船長のメシの支度をするんです? ワタシたちの誰でも無理ですよ」

「コイツが来る前はオマエらが用意してただろ?」

「アンタがやりなさい」

「忘れたのか? 音楽家を入れるって聞かねェルフィを曲げてまで探したコックだぞ? 命の危機だったんだ」

「何でルフィは曲がらないんだろうな? ゴムなのに。……ゴムじゃなかった!!」

 トナカイ驚愕。

「危険度は測れても、優先度まで踏み込めてないのね」

「まあ、事情があるんでしょうけどねェ〜。ワタシたちはそれを利用するだけです」

「エゲツないな」

「これも経験か」

「歳だけは無駄に重ねておりますから」

「ま、つまり懸賞金じゃ一味への貢献は測れないってことだ」

「へいへい。ま、守る相手が狙われないのは楽だな」

「この金額で関係ある? 不安だわ」

「オレも覇気を覚えた方がいいか?」

「どうだろうな……」

「向き不向きもあるしな」

「能力者への対策にはなるわね」

「どうじゃろうな? 気合で海が渡れるか? ロギアとは本来、そうしたものじゃ。そしてグラグラのようにそれ自体を吹き飛ばすような能力もある」

「ロジャーも白ひげも病気だった。覇気は万能じゃないゾ?!」

「そりゃ、説得力があるな」

「風邪ぐらいなら気合で治せそうだけどな」

「風邪は万病の元なんだゾ?! ちゃんと医者に診せろ!!」

「だからなったことねェって」

「と、いうよりお二人が一番、懸賞金に見合わない能力だと思いますけど」

「そうか。ナミさんは天候を操る」

「倒せるかはともかく、四皇だってビックリですよ」

「覇気ってのは消耗が激しい。常に纏うわけにもいかねェ」

「そこに狙撃か。厄介だな」

「オイオイ、敵に回したくねェな」

「ハハーん!! それほどでもあるぜ!!」

「でも、それを知られたら懸賞金が上がるんでしょ?」

「ウチの秘密兵器だな」

「マジで秘密にしてくれ!!」

「つーか、オマエはもっと知られたらマズいことがあるだろ?」

「あ、四皇幹部の息子」

「天竜人を尻に敷いてなかったか?」

「その、なんだ、アレ撃ち抜いたのオマエだよな?」

「先ほどはああ言いましたけど、実際に傷ついたクルーを担いで走り回ってるのはアナタですよね?」

「なんだかんだ決定的な仕事をしとるんじゃな?」

「実は船長の次に危険なんじゃない?」

「仕方ねェ。この一味の右腕は譲るしかないな、キャプテン・ウソップ」

「やめてくれ。オマエの右腕に装備された悪夢が蘇る」

「なー? もう終わったかー?」

「ルフィが飽きてきたぞ。お開きにしようか」

「じゃ、お風呂入ってくる」

「もうこんな時間か」

「寝るかー。おやすみー」

「おやすみなさい」

 

 

「いや、出してくれよ……」




一味を全部出そうとすると、真面目な話になって船長が黙る不具合


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ココロの地図

誰からも文句の出ない、いい女


 この航海で船長は海賊王になり、剣士は世界一の大剣豪になる。きっと万能薬にも、勇敢なる海の戦士にもなれて、オールブルーも見つかる。

 世界の果てで真実は知れて、約束も義理も果たされる。

 そうに違いない。

 だが、自分の夢だけは叶わない。

 海図というのは、とても地道な作業の上に成り立つものだ。詳細な測量がなければ書けない。

 サニー号はいい船だが、測量船ではない。

 一度の航海どころか、何日も何回も、同じ場所をグルグルしないといけない。魚人の協力があって、彼らが求めていても、あの村の周辺が精一杯だった。

 世界地図ともなれば、グランドラインだけを行っても仕方がない。故郷である東の海ですら、行ったことのない場所はいくらでもあった。

 この航海で世界地図など書けるはずもない。

 でも、構わない。自分はいい女だし、男の夢に付き合って、それを手助けする器量もある。世界を見る、そのついでに、その程度の夢など全部叶えてしまえばいいのだ。

 そうすれば、文句も言わないだろう。引きずり回してやる。世界中を旅するのだ。

 もちろん、この航海で何もしないわけではない。

 海流や風の記録。渦潮の発生場所。鳥たちの軌跡。

 海図を書くための材料はいくらでも集まる。

 何より、その島で作られた海図が手に入る。これが重要だ。

 どうして航海がこんなに難しいのか。

 磁石が役に立たない。

 天候が厳しい。

 海流が不規則。

 その通り。

 だが、海図はそうした困難を乗り越えるためのものなのだ。だから、海図がないことこそ、世界がこんなに分断されている理由である。

 助けを待つことすら出来ない、そんな世界の原因なのだ。

 それでも、世界政府が成り立つのは、加盟国の間であればそれなりに行き来が出来るからだ。

 行き来を支えているのは海軍である。

 母が海兵、まあ、父が駐在である彼女は知っている。海軍の地図だけが、全てマリージョアを基準に書いていることを。

 仕方がないのかもしれないが、それぞれの島の地図や海図というのは、その島を中心に、その島の基準で書かれている。ものスゴい簡単にいうと、北がみんな自分基準なのだ。

 だから、ある島の海図とある島の海図を繋げても、実際は全然違う場所を示していることになる。

 逆に基準点さえ揃えれば、その間が何もわからなくても繋がることが出来るのが地図だ。

 クルーに説明しても無駄なのでかなり勝手だが、少なくとも図書室が出来るぐらいには資料が揃った。

 後は自分の知識と腕で、それを海軍式に書き換えるだけだ。

 そして、その海図さえあれば、ログポースなどなくとも航海してみせる自信がある。

 だって、航海は方位磁石だけに頼るものじゃない。便利ではあるけど、方角を知る方法は一つじゃないし、自分の位置を知る術だって心得てる。

 ログポースだけに頼る航海がおかしいのだ。

 まあ、気がついてるクルーはいるかもしれないけど、世界を最も変革させるのは自分だと自負している。

 技術も真実も、強さや便利さも、人の意志や覚悟が、きっと世界を変えるんだろうけど。

 人の繋がりだけがこの世界を広げてくれる。

「ああ〜っ! 疲れたァ! ロビンー」

「お疲れ様。休憩にしましょうか」

 気づいているだろう一人が、読んでいた本から顔をあげる。その笑顔に嬉しくなる。

「今日はどうしよう? 甘いカフェオレ? それともミルクティー?」

「好きなのをどうぞ、お姫様。きっと、どれも美味しいわ」

「だから迷うのよね〜」

 姉のような、母のような、大切な親友と腕を組みながら部屋を出る。

 甘えさせてもらうわ。

 だってみんな、ワタシがいなきゃ目的地になんか着けないんだから。

 せいぜい機嫌をとって。

 助けてあげるから。




惚れる


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インタビューウィズストローハットファミリー

聞いてみた
新人研修の続き?


「ルフィー。索具の点検するぞ」

 

「ルフィ。部屋の掃除するから水汲んできてくれ」

 

「ルフィ!! 引っ張れ!! 風が変わった!!」

 

「これがオレの新必殺!! ローリング・サイバネティク・甲板磨き!!」

 

「フォアマスト取り込むぞ。ルフィは上を頼む」

 

「この程度ならオレが直してやるよ」

 

「狙うは作り置きの皿だ。ルフィ、囮作戦だ!!」

 

「トイレ掃除はオレがやるから、風呂掃除は二人でやれ」

 

「ワハッハッハ!! ハッ!! 遊んでる場合じゃねぇ!! ルフィ! チョッパー! 三人でさっさと終わらすぞ!!」

 

 

既にこの船は乗っ取られている、のかもしれませんね」

「この船はおおよそ、ウソップで回る」

「というか、船長が回る」

「ああ、ウン、覚えておこう」

 

 

「いやぁ、いつもスゲェ量だが、手伝ってくれて助かるよ。男連中にそういう気遣いみたいなのは期待出来ないからな。まあ、尤も、その美しい手を荒らす水仕事なんてさせないわけだが。そう、とりあえず干しておけばいい。拭いただけだと不衛生だ。本当は日光に当てるなりしたいんだが、コレ、チョッパー謹製の石けんで泡切れも消毒も完璧だ。おかげで仕事が楽になって助かるよ。そうだ。この後、少し空き時間があるんだ。ちょっとお茶しないかい? この前見つけた珍しい豆があるんだ」

 

 

「ロビンは聞いとるのかのう?」

「いや、コックの一人芝居だ」

「だって、アソコに生えてるの手だけだもんな」

「怖いです」

 

 

「オレの麦わら返せ!!」

「パスパス!!」

「ウソップゥ!!」

「怖っッ!! アッチだ!!」

「チクショウ!! 追いつけねェ!!」

「そりゃことごとく、フェイントに引っかかってたらな」

「ウワァ!! 足引っかけられた!!」

「フフフ!」

 

 

「なんかイタズラされたら、あそこではっちゃけてる女を疑え」

「他のヤツらのイタズラなら疑う余地もないしな」

「能力の相性が良すぎます。イタズラと」

「失せ物探しとかもしてくれるぞ。そっとな」

「ちなみにオヌシら。イタズラされとるぞ」

「オマエもだ。ジンベエ」

 各部から愉快に生える手。

 

 

「昼間は寝てばかりおるくせに、夜は寝ないんじゃのう」

「まあ……酒は夜の方がウマいからな」

「そういうことにしとこう。どれ、ワシも一献」

「好きにしろ。文句はねェよ」

「摘むか?」

「気が利くね」

 音楽家のヴァイオリンソナタ。

「深海ではイブの恩恵で日の光には与れたが、星空とは無縁じゃった」

「毎日見てるから有難みもねェが、なんか星座とか、色々あるらしい」

「昔の人間も、こうして空を見上げて物思いをしたのじゃろう」

「後ろ向きなことは嫌いだが、流れ星にはよく出会う」

「願でもかけてみたかね?」

「コイツで充分さ」

 和道一文字を握る。

「時たま、空一面に星が降る夜がある」

「楽しみじゃのう」

「いくらでも機会はあるさ」

 

 

「ジンベエって水を操れるのよね?」

「まあ、魚人だしのう」

「スゴい! じゃあ、ミカンの水やりとか任せていい?」

「やれんこともないが、ワシらは荒っぽいぞ?」

「ダイジョブ、ダイジョブ! ホラ! こっちはロビンの花壇! カワイイでしょ?」

「あまり馴染みはないが、おもしろい文化だとは思う」

「じゃ、人間を理解するのにもピッタリね!」

「そういうもんじゃろうか?」

「試しによ! なんでもやってみないと! じゃ、ヨロシクね?!」

「敵わんのぅ」




ナミだけは言われっぱなしという


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ゲッチュー

黒猫さん読んで思いついた



「アレ? 進路変わった?」

「ワタシにはわからないけど……」

 確かめるまでもなく、船長が窓から顔を出す。

「ナミ!! サルゲッチュだ!! とりあえず、避けた!! 面舵!!」

「おじいちゃんが捕まえにでも来たの?」

「サルガッサムかしら? 少し厄介ね」

「どれぐらいある?」

「島ぐらいあるぞ。進路をどうするか聞けって」

「んー?」

 船の通行を邪魔すると言われる浮き藻だが、外輪でもない限りそうでもない。

 ただ、グランドラインでその規模に出会うと、浮き藻を隠れ家にする小魚を狙う魚を狙う大型魚類を狙う海獣類を狙う海王類、という連鎖でヤバい。あと、臭い。

「あまり脅威には感じないわね」

 サニー号の性能は海王類からも逃げ切れるほどだし、下手すればそれを主食にし始めたクルーが乗っている。

「ンんー?」

 最も、海王類の場合は通りすがりの横波一発で船が横転することもある。避けるに越したことはない。

「オマエがそんなに悩むの珍しいな」

「ウン! ヨシ! 舵はウソップに替わって、ジンベエにこの周辺を調べてくるように言って? ワタシはゾロを起こしてくるから、アンタは展望で監視!!」

「なんだ? 戦闘か?」

「警戒しとくだけよ。手が空いてるヤツがいたらソイツも監視ね? さ、動く!!」

「ワタシはどうしたら?」

「この辺りの海域の資料ってある?」

「ええ、探しておくわ」

「お願い! じゃ、チョチョイとやっちゃいますか!」

 

「なんか騒がしいな」

「なんかナミに言われてこの辺りを調査することになった」

「何があるんだ?」

「浮き藻しか見えねェ」

「お仲間か?」

「斬るぞ?」

「まあ、何か考えがあるんだろ」

「ツマミくれよ」

「すぐに昼飯だ」

「暇なんだよ」

 

「オイ!! 引き揚げてきたぞ。こんなもんでいいか?」

「ねぇ、チョッパー。これがどれぐらい浮いてたかわかる?」

「うーん。とりあえず、調べてみる。もうちょっとサンプルがほしいかも」

「ミニメリー号じゃ限界があるぜ。シャーク号出すか?」

「あの中突っ込むのは?」

「あんまり、オススメしないな。それより、海流を調べた方が早い」

「そっちはジンベエがやってくれてる」

「じゃあ、それを待つんだな」

「これは参考ってことでいいか?」

「そうね、そうしてくれる?」

「なら、これだけでなんとかするよ」

 

「三日……見つかんなかったか」

「なんか探してたのか?」

「これだけ浮き藻があるなら、どこかに浅瀬があるはずなの」

「そりゃ道理だが、島でも見つけたかったのか?」

「いいえ。この辺りにないのはわかってる」

「? じゃあなんだ?」

「浅瀬に用でもあったのか?」

「ワタシにはないわよ。仕方がない。針路戻すわよ」

「なんだったんだ?」

「さぁな。逆に何で許可したんだ?」

「ナミがやりたいって言ったからだ」

「ありがたい船長だよ、オマエは」

「シッシッシ!」

 

「来たぞ? 何ぞ、用かの?」

「あ、ジンベエ。座って。一応、大雑把だけど海図が出来たの!」

「海図?」

「この前調べてもらった海流から、二、三候補を絞ったんだけど、やっぱり時間がなくて」

「候補?」

「ま、そういうのは魚人の方が得意よね! ハイ! あと、これまでの航海で似たようなことがあった場所の記録も渡しておくわ!」

「待て待て。話が見えん。どういうことじゃ?」

「え? 魚人島の人たちって、移住先を探してるんじゃないの?」

「そりゃ悲願ではあるが」

「あの海域に島や陸地の記録はない。ワタシの感覚でも、島のある気候じゃなかった。でも、海藻が育つ土壌はあるの」

「そうじゃの」

「太陽の下で暮らせるじゃない!!」

「?!」

「浅瀬だけなら人間との争いにならないし、グランドラインのど真ん中なら逆に安全でしょう? そういう、島のなり損ないみたいな土地なら、頑張ればログポースも使えるかもしれないし」

「そんなことが」

「人間の航海じゃわからないかもしれないけど、魚人ならきっと見つけられるし、そういう場所って一つじゃないと思うの!」

「そうじゃ、そうじゃの」

「もしかしたらダメかもしれないけど、でもダメでもともとでしょう? やらないよりはマシよ!」

「その通りじゃ」

「ね? 貸し一つよ!! 絶対、返してもらうから!!」

「これでも海侠と呼ばれとる。期待してくれてええよ」

「ヤッタ!! 絶対だからね?!」

 

 

「食事には遅れると言っておくわ」

「……頼む」

「一味に入ってよかったでしょう?」

「間違いないわい」




天使か
女神だった


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朝は好きなだけ寝よう会議

どう考えてもそうなる


「このままだとサンジが死ぬ」

 船医よりもたらされた衝撃の事実。

 疑うことを知らない一味は、その一言で神より驚いた。

「拘束!!」

「ラジャー」

「了解しました」

 尤も、それを解決するための会議であるはずだ。さっそく、縋りつきに向かおうとした船長が直ちに無力化され、猿ぐつわをはめられて転がされる。

「どういうことかしら? いえ、自明ではあるわね」

「アイツはそんなヤワじゃないぜ?」

「それほどなの?」

「……スーパーだぜ」

「みんな、ルフィのせいだと思ってるかもしれないけど、そうじゃないんだ。なんなら健康そのものだし、悪いところがあるわけじゃない」

「なら、何が問題なんだ」

「アイツ、バカなんだ」

 そっかー、という声なき声。

「この船は少人数で回してるから、みんなそれぞれ負担はあるし、オレは船医だけど、甲板員みたいな仕事をすることもある。別に、そのときは疲れたって思うけど、問題にならないようにみんなしてると思うんだ」

 まあ、当たり前の話である。

「でも、サンジは料理を作るのが何より好きだから、疲れたら料理するんだ。それで、オレたちが食べる姿を見て癒やされてる」

「趣味の範囲なのね」

「筋金入りだな」

「仕事の疲れを仕事で癒やすのか。職人の鑑と言いてぇが」

「そういう人はえてして、何の前触れもなくポックリ逝くわ」

「ヨホホ! 素晴らしい人生!! と言えなくもありませんね。一人の人生ならば」

「どこがよ!! そんなの幸せじゃないわ!!」

「ええ、そうでしょうね。そうでしょうとも」

「問題はサンジがそれを幸せだって感じてることなんだ」

「それの何が問題なんだ?」

「このままじゃ死ぬからって、取り上げるのか? サンジから」

 一味が顔を見合わせ、黙り込む。自然と視線は一つに集まった。剣士が、猿ぐつわを外す。

「オレはそんなことしねぇ」

「そんな?! ルフィ、わかってるの?」

「うるせぇ!!!! それがサンジの生き方だ!! オレはそれを曲げさせねぇ!!」

「でも!! それじゃ……」

「落ち着け。まだチョッパーの話は終わってねぇよ」

「何度も言うけど、今のところ身体に問題はない。逆に、問題がないことが怖いんだ。ルフィやゾロでさえ、疲れたらちょっとは表に出るのに!! それが幸せなだけで大丈夫だっていうなら、そんなの麻薬で無理矢理カラダを動かしてるのと同じだ」

「ヨホホ! 流石サンジさんですね~」

「ちょっと!! 何が可笑しいのよ?!」

「だって、あの海域でワタシが音楽に縋ったのと同じですもの。お嬢さん?」

「イジメてやるな」

「難しいわね。なら、その幸せという感覚が薄くなれば、一気に悪い方へ向かうのではなくて?」

「その可能性はある」

「そうなるでしょうね。保証します」

「何でそんな……」

「なんでとかそういうのはいい。サンジは助かるのか?」

「……休ませたり、仕事量を減らしたりってのは逆効果だと思う」

「もっとワタシたちで手伝えば」

「ありがたい話だが、なんにしても仕事が増えるだけだな。少なくとも、オレサマはそう考える」

「いいんだ。サンジは好きにしたら」

「それで死んでもいいなんて、アンタたちだけよ!!」

「落ち着けってば。死んでもいいなんて話はしてねぇよ、ナミ」

「でも!!」

「難しく考えることはありませんよ。サンジさんは人との付き合い方を知らないだけです。今は大好きな誰かの役に立つことに夢中ですが、そんなものワレワレで上書きしてやればいいんですよ」

「どういうことだ?」

「なにも? 手伝って差し上げたければ、手伝えばよろしい。頼りたければ、存分に頼ってあげればいい。遊びに誘い、おしゃべりして、音楽を聞き、この世に料理よりも、または同じくらい素晴らしいモノがあると知らせてあげればいいんです」

「……条件の上書き」

「犬なのか、あのクソコック」

「ヨホホ! 似たようなものでしょう! そりゃ、サンジさんは料理を作ってる時が一番幸せなんでしょうがね? ワレワレといて、そのままでいられるのか見ものでしょう? ワタシ、死者すら踊らせられるようになったんですよ」

「アイツが、アイツ自身を傷つけるなら、アイツからも守ってやるんだ」

「おや? 出来ますかね? 手強いですよ、ああいった方は」

「アイツを仲間にしたときから、そんなことわかりきってる!」

「いや、さっきエネルばりに驚いてたじゃない?」

「泣いて縋りに行こうとしてたな」

「どんな愁嘆場だよ」

「では、勝負ですね。頼られることが大好きなサンジさんが、その幸せを誰に分け与えるのか。ええ、ええ、楽しみですとも」

「もっと頼りになる女になればいいのね!」

「援護は任せろ」

「そこは前に出ろよ」

「それはそれとして、仕事量は減らしたいんだけど」

「今の話をしといてか?」

「致死量なんだ」

「仕事の話だよな?」

「趣味かもしれないんだ」

「どうしろってんだ」

「そうね。要はワタシたちと料理が直結しているから、そんなふうになるのよね?」

「まあ、趣味と仕事がピッタリ合致して、全力以上で働く感覚ってのはわからないでもねェ」

「それが毎日なのが問題なのよね?」

「サンジはいっつも、好きなモンをくれる」

「……よく考えりゃ異常だよな。別に嫌いなモンを出してほしいわけじゃないが、なんだかんだ全員の好みに合わせたメニューを毎日って」

「それ以上だ。ニクニク言ってるが、コイツは結構気分な部分も多い」

「食事は三食あるんですから、一つぐらいいいんじゃないですか?」

「航海の事情もあるが、朝食だけはバラバラになるよな?」

「もしかして、それぞれごとにメニューを変えて出してんのか? あのアホコック」

「じゃあ、みんなで一緒に起きる?」

「いや、それだと他と同じだ。もう、好きに寝起きすりゃいい」

「で、グルグルが合わせるんじゃなくて、オレらが合わせるのか」

「サンジ君の選んだメニュー固定。量も作り置き分だけでガマン!! ただし、何をどれだけ用意するかは、サンジ君が好きに裁量するのね」

「どういうことだ?」

「サンジの作るメシに文句があるか?」

「ない!! なんだ、やっぱ、サンジの好きにさせたらよかったんじゃないか」

「それはそうだけど……」

「まあ、ムカつくからつねっとこう」

「オマエら、オレが縛られてるからって」

「あら? 縛られてなくてもやったわ」

「じゃあ、仕方ねェな」

「仕方ないのか?」

「考えるな。感じるな。無視しろ」

「わかった!」

「教育的ね」

「ヨホホホ!」

「じゃあ、そういうことで!」

「誰がサンジに言うんだ?」

「一人しかいねぇだろ?」

「なんだ? どうした?」

「サンジ君に、みんな好きに寝起きするから、朝食は公平にって言える?」

「頑張る」

「オイ、アホコックの命に関わることだぞ」

「そうだな。ちゃんとやるよ」

「疑わしいな」

「そこはフォローしてやればいいだろ?」

「援護は任せろ」

「そこは前に出ろって。頼むから」

「ま、頼まれちゃ仕方ねェ。なんだかんだ一番頼りになるのは、このウソップさまだからな!!」

「オウ、気張れよ、勇敢なる海の戦士」




昔の社畜ってこう
もしくは推しのために破滅していくオタク
なんならヘルシングのローマ


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海軍side

不自由な自由人の日常


「ガープ中将っておかしくねぇか」

「今さら?」

「いや、そういうことじゃなくて」

 とりあえず、この会話で通じるレベルである。

「強さはおかしいよね」

「改めて考えるとな。というか、あの世代おかしいよな」

「今の三大将って全員ロギアの中でもスゴい能力の持ち主で、なんかすんなり納得がいくんだけどさ」

「なんだよ、ウォシュウォシュって。いや、まだ悪魔の実の能力者なだけいいよ。なんでウチの中将は拳骨なの?」

「あの世代の海賊って、能力者なだけじゃなくて、それこそ鷹の目みたいな武器の達人だもんね。素手とかスゴいよね」

 オマエもだろ、とは言わない。一応、六式覚えてるし。

「ロジャーとかレイリーとかギャバンとか。白ひげのところもそうだし、マムもそうだよな? タイマン最強のカイドウも棍棒持ってるし」

「シキを忘れちゃダメだよ。二刀流の剣士は多いけど、その筆頭だったんだから」

「なんで拳骨なの?」

 答えられるわけがない。

「覇気なの? 覇気が全てを解決するのか?」

「愛があればなんでも出来るって中将はいうね」

「愛でマグマがどうにかなるかよ」

「寒さは、なんとかなりそう?」

「なるわけねェだろ。冬島の支援が一番大変なんだぞ?」

「寒いところで問題が起こると、悲惨だよね」

「物資消費量のケタが違う」

「光は?」

「それこそ、どうすりゃいいんだよ。パシフィスタとか、アレ黄猿大将の能力だろ?」

「なんとかされたら、海軍勝てないよ」

「そうだろ? そうなんだよ。なんで拳骨なんだ?」

 答えなんかない。

「ちなみに何したの?」

「な、なんのことかな?」

「誤魔化さない方が傷は浅いと思うよ?」

「浅くて致命傷なんだよ!!」

「死んでないじゃん」

「オマエ、そういうトコあるよな」

「?」

「麦わらに似てる」

「そ、そうかな?」

「照れるな。褒めてねェよ」

「ボガードさんには報告したの?」

「中将に直接説明しろって」

「まあまあ、一緒に行ってあげるから、とにかく探そう。日が暮れちゃうよ」

「中将が常に行方不明なの、おかしいよな?」

「ガープさんを叱れるのって、元帥かおつるさんぐらいだよ」

「おかしいよな?! 大将は?!」

「往生際が悪いよ」

「ヤーダー! 死にたくない〜!」

「死なない、死なない」

 

 

「なんでオマエは常に普通にいるんだ?」

「常にはおらんじゃろ?」

「いないときは、勝手に出ていったときだろう?! ここは元帥室だぞ?!」

「金かけとるのう。ソファの座り心地が最高じゃ。最近、腰がな」

「ウソつけ。オマエ、若い頃も同じ言い訳で執務投げたよな?」

「最近歳かのう? 忘れた」

「都合のいいときだけ年寄りになるな!! ワタシと変わらんだろう?!」

「センパ〜イ」

「ムカつくぅ!!」

 中将大爆笑。

「頭の痛いことばかりだと言うに、キサマというやつは」

「ワシ、英雄。海軍の模範」

「オマエを模範なんかにされたらたまったモンじゃないわぁ!!」

「もっとみんな自由にやればええんじゃ」

「ダメなの!! 規律があるの!! 守らねばならんのだ!!」

「言い聞かせとるだけじゃろ? ホレ、煎餅食うか?」

「食う」

「あ~、お茶がウマい」

「なんだかんだ居座るな、コイツ」

「愚痴を聞いてやろうというんじゃ。超友達甲斐」

「そうかな~? そうなのかな~?」

「疑うな。ちゅうか、ホントにちょっと大丈夫か?」

「大丈夫じゃないかも」

「おつる呼ぶ?」

「アイツは知っとる」

 沈黙。

「そうか」

「ああ」

「そうか」

「そういうことだ」

 沈黙。

「血が流れんことが平和じゃ。ワシらは血を流すことを決めたんじゃ。海軍だろうと、海賊だろうとな。なら、それは、覚悟しとったわい」

「本当か?」

「無理じゃもん。ワシの血だ。あやつの血でもある。どうにも出来なんだ。なら、せめて強く、強くあればと。だが、強さだけで渡れる海じゃない。だから、それが、少なくとも、自分で選んだんであれば、もうそれは、ソイツの人生じゃ」

「囲えば利用される、か。だが、利用するぞ。向こうから飛び込んで来たんだ」

「構わん。出来ることはした。全員、飛びたった。逃げ切れなんだは、ソイツの力量じゃ」

「運命か」

「クソくらえじゃわい」

「辛いな」

「辛くはない。きっちり仕込んだ。悔いは残さん」

「だといいな」

「そうに決まっとる」

「ああ」

 せんべいをかじり、お茶を飲む。

「誰じゃ?」

「エースだ」

「戦争じゃな」

「頼むぞ?」

「任せい」

 ナバロ島の決闘、その前。

 

頂上決戦でのテレパシー

(任せろって言っただろう?!)

(二人は聞いとらんわ!!)

(覚悟しているとも言ったよなァ!!)

(じゃあ、アレが読めたのか?! 仏のセンゴク!!)

(読めるか!! バーカ!!)

(バカって言ったほうがバカなんじゃ、このバーカ!!)

(変わりゃしないよ、この男どもは)

 

 

「なんで海兵なのに陸に揚がっちゃうの? ヒナ憤慨!」

「ヤツラの船には人員を置いたし、連絡もしたろう?」

「そういうこと言ってるんじゃないの。加盟国なのよ? 海軍が勝手に警察活動していいと思ってるの? ヒナ憤慨!」

「海賊を捕まえるためだ」

「それが許されたら、主権とか威信とか、海軍が守るべきものを傷つけることになるのよ?! ヒナ憤慨!」

「もう憤慨しか言わねェじゃねェか」

「それだけ怒ってるのよ!! そんなに手柄が欲しかったワケ?!」

「そうじゃねェ。そうじゃねェが、麦わらのことだけじゃなかったんだ」

「クロコダイルの件ね。疑念があったのはそうだけど。だからって、バカ正直に突っ込む? ヒナ驚愕」

「だから連絡も入れたし、色々探りも入れた」

「甘いのよ。たしぎが泣いてるのは、弱いからじゃなくてアナタが頼りないからなんだからね! ヒナ指摘!!」

「どうすりゃよかったんだ?」

「だからダメなのよ。そういうの仕込んであげるから、たしぎちゃん寄越しなさい」

「……ダメだ」

「あ? 迷った? 迷ったぁ〜!」

「ウゼェな」

「言っとくけど、ガープさん以下だからね。そういう搦手の部分」

「ありゃボガードの手管だろ?」

「彼を育てたのがガープさんでしょう?」

「うーん」

「考えておきなさい。上に上がるつもりなら、必須の能力よ。少なくとも、それが得意な部下は持ちなさい。ヒナ忠告」

「希望は、出しとくよ」

「そうしなさい」




ヴェルゴ来襲


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恐るべきもの

ここはグランドライン


「なんだ?」

 夜、停泊するサニー号で一人酒瓶を傾けていた剣士が異常を感じた。別の場所で静かにヴァイオリンを弾いていた音楽家も、その手を止める。

 伴奏がなくなったことで、起きているクルーも気がついた。

「コイツぁ」

「実に神秘的ですね」

「チョイと潜ってみる。念のため起こしておいてくれ」

「はいよ」

 見渡す限りに輝く海面。僅かな風があるだけで、鏡面のように凪いでいた。

「キレイ!!」

「うひょー!! こりゃスゲェ」

「明るすぎて空が見えないわ」

「どうなってるんだ?! コレなんだ?!」

「オイ、進路は?」

「大丈夫。多分、ほとんど動いてない。停留したままだわ」

「今、ジンベエが潜ってる」

「錨は沈めてないのよね? 風は弱いけど、とりあえず帆を開いて」

「イヤな感じがする」

「ワタシもよ」

「オレもだ。とにかく、緊急に必要なものを点検してくる」

「歌が聞こえませんか?」

「歌?」

「ええ、微かですが」

「……ローレライ」

「伝説のですか?」

「わからないわ。とにかく、尋常な状況でないことは確かよ」

「怖い……」

「オレが着いてる。なにがあっても守るぜ」

「オレも頼む」

「オレも」

「オマエらは自力で頑張れ」

「冷たいぞ、スケコマシ!!」

「グルグル眉毛!!」

「マズいぞ」

 いつもは参加する騒ぎに、船長がいない。見れば海面を見つめながら身体を震わせていた。

 クルーの認識が一致する。

「オイ、ルフィ」

「不思議海域だ」

「「「「あ、ダメだ」」」」

「行ってきたぞ。ん? どうした?」

「冒険だ」

「なに?」

「冒険の匂いがする!!」

「ちょおーと待て、ルフィ! わかるよな? オレたち、とんでもないコトに巻き込まれてんだぞ?!」

「ああ! ワクワクする!!」

「オマエまで発光するな!!」

「ダメだわ。ああなったら止められない」

「海中はどうだったの?」

「眩しくてなにも見えんわい。光源もわからん。魚も海王類すら、なにもおらなんだ」

「なにも?」

「そう、なにも。明らかに異常じゃわい。海底にエビやヒトデすら見つからなんだ」

「海底は近いの?」

「比較的じゃがな。それでも二千メートルはあるわい」

「生き物がいない以外の異常はなかったのね?」

「そうじゃ」

「充分だろ? 早く離れようぜ」

「ダメだ!! 原因を見つけるんだ!!」

「オイオイ、そんなことしてなんの得がある?」

「そうだぜ。ここはクルーの安全を第一にするべきだ」

「海賊はロマンを追うんだ!!」

「オマエの理想はわかった。だが、現実はだな」

「なんだ? どうした?」

「コイツが原因を探すんだとよ」

「アテは?」

「ワタシの耳には歌が聞こえます。耳ないんですけどー」

「そんなやる気のないスカルジョーク初めて聞いた!」

「義務か」

「義務です」

「捨てちまえ、そんな義務」

「とにかく、この不可思議な現象の原因を突き止めるんだな?」

「そうだ!!」

「それは船長命令か?」

「ああ!」

「ヨシ!! わかった!! とりあえず、コーラは満タンだ。ブルックが先導しろ」

「よろしいので?」

「仕方ねェ。付き合うさ」

「ヨホホ! では、ワタシは船倉に。タャマスィーの状態なら、皆さんが前後不覚になってもフォロー出来ます」

「頼む」

「ワシは舵を取ろう。水先案内は任せた」

「任されます」

「あ~あ、結局こうなっちゃうのね」

「あら? 世界の謎に迫れるのよ? ステキじゃない?」

「どうせならお宝がいいわ」

「オレももっと安全な方がいい」

「なんならごっこでもいいんだぞ?」

「諦めろ、オマエら。さあ、動け」

「仕切るな、マリモ」

「じゃ、言われる前にやれよ」

「遊ぶな!! さっさとしろ」

「フランキー?」

「言う通りにするぞ」

「え、ええ」

「こりゃいよいよかな?」

「縁起でもねェ」

「オレは展望室に上がる。なにも見逃さないぜ」

「ナミも上がれ。ロビンはフォローしてやってくれ。オレらは近場を見るぞ」

「わかった!」

「上からってことはねェか?」

「そうだな。切り捨てるべきじゃないな」

「じゃあ、オレが展望室の屋根に登る。いざとなったら女性陣を守る」

「チョッパー、命綱を巻いとけ」

「わかった!」

「舵取り中はフォローが出来ん。油断するなよ」

「気にせず、神経を集中してろ」

「心得た」

「ああ! 楽しみだなぁ! なにが待ってるんだろうな?」

「なにかさ」

「それを見にいくんじゃろ?」

「そうだ!」

 

しばらくの航行

「アレ見て!」

「どれだ? まだ見えない、まだ。見えた!!」

「甲板でも確認。詳細を報告しろ!!」

「アレは、天使?」

「違う、羽根の生えた人魚?!」

「そんなのがいるのか?」

「ワシは聞いたことがない」

「おお、美しい。両腕の代わりに、光り輝く翼を持った人魚に見えます。でも、オカシイですね?」

「どこがじゃ?」

「お股がないんです」

「なにいってんだ? テメェ」

「いえ、本当に」

「魚人族の人魚は足がヒレになっておるんじゃ。確かに、それはおかしいの」

「完全に腰から下が尾ビレになってるのか」

「アレがこの光源なの?」

「いや、そうは見えない。というか、それなら姿を判別出来るはずがない」

「タイヨウを見てるのと同じだもんな」

「歌ってる……」

「ローレライの伝承、そのものね」

「オイ!! ルフィ! これ以上は近づかねぇぞ!!」

「それでいい! さぁ、なにが起こるんだ?」

「あのバケモノの監視はルフィに任せろ。オレたちは周辺を警戒するんだ!」

「見渡す限りはなにもない。ていうか、波一つ見えねぇぞ」

「海面が光って水中が見えねぇ」

「研ぎ澄ませ。気配を見逃すな」

「クー・ド・バーストの引き金に指はかけとる」

「この歌からはなにも感じませんね。キレイなだけです。魂がありません」

「なんらかの能力で操られる危険性はないか?」

「そんな気配はないですね」

「伝承だと、歌声は人々を呼び寄せるための呼び水よ。そして、姿を見たものを海の底に引きずり込むと言われているわ」

「空にも異常はない。今のところな」

「どこだ? どこから来る?」

「ねえ!! 海底は遠いってさっき言ったわよね?」

「言った!! 見えずとも海の流れでこの辺りは把握しておる!!」

「じゃあ、あの人魚はなにに座ってるの?」

「下だ!! 緊急脱出!!」

「クー・ド・バースト起動!!」

「そんな、もったいない!」

「言ってる場合か!! 来るぞ!!」

「光が消えた!!」

「人魚じゃねぇ!! アレは触手だ!!」

「さっさとなにかに掴まれ!!」

「発射ァ!!」

「ウワアァァァア!! 海面が迫って来てる?!」

「ここは、バケモノの口の中だぁ!!」

「三刀流!! 三百煩悩砲!!」

「スーパー!! 風来砲!!」

「ダメだ!! 海域全部呑み込まれる!!」

「キャァァァ!!」

「ナミさん?!」

「大丈夫だから、着地点を!!」

「助かる、ロビン!!」

「口が閉じるぞ!!」

「舵を頼む」

「受け取りました」

「フランキー!!」

「ドッキング!! ハイパーサウザンド・フランベエ!!」

「魚人柔術!! 上げ潮一本背負い!!」

「ギャァァァ!! 船ごと投げたぁ!!」

「ジンベエぇぇーッ!!」

「最高だ!! やりがった!!」

「抜けたぞ!!」

「ヨホホ!! 大・迫・力!!」

 

 

「見て。あそこだけ光ってる」

「とんでもない大きさだったな!!」

「巨人のおっさんたちが倒した島食いよりデカかったな!!」

「津波みたいに口がガバァッて!!」

 はしゃぐ夢追い人たち。グッタリする双翼。ため息をつく海侠。笑うホネ。寄り添う女たち。歩み寄る変態。

「スーパーだ。世界の果てを目指す冒険の旅。命をかけるのは当たり前。ロマンを求めるのも悪くねェ。それに付き合うと、そう決めたのはオレたちだ」

 楽しい時間は終わる。夢は醒める。大人が来る。

「それでも、船と交わした渡しの約束は、魚風情の腹の中じゃあねェだろう? 乗せたクルーの夢の先。海の底に道連れにするためじゃあねェだろうが」

 振り向けない3人のその背後に仁王立ち。兄貴のサングラスに指がかかる。

「船とクルーを預かって、波に乗り出したのがオマエだろう? なあ、言ってみろ。この船の船長は誰なんだ? ルフィ?」

「フラン、キー?」

「時間はたっぷりある。朝まで語ろうぜ? さあ、ルフィ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「座れ」

 




ドッキングしなきゃ仲間じゃないからね


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乙女事情

A secret makes a woman woman


「チョッパー印の化粧品、優秀すぎる〜!」

「そうね。もう市販品には戻れないわ」

「二年でなにが辛かったって、これがないことよね~!」

 ジンベエの加入と新しい濾過装置のおかげで開発された、海洋深層水をベースにした化粧水を叩き込む。二年前にはない。なんか浸透力が違うらしい。

「ナミは化粧がうまくなったわね」

「ウェザリアにはおばあちゃんもいたから。かなり念入りに」

「ケアは大事よ」

 手早くケアを終えて鏡の中で本を開いている親友に振り向く。

「ロビンも化粧だいぶ変わったよね?」

「あら? 興味ある?」

 研鑽は大事。

「そうね。チョッパーのおかげでファンデーションで誤魔化すことはなくなったわね」

「ちょっと日に焼けてたものね」

「アラバスタは確かに陽射しは強かったけど、まさか海に出て元の肌色に戻れるとは思ってなかったわ」

 嬉しそうである。

「そうね……。あの頃は目鼻立ちをもう少し強調してたと思うわ。なんというか、そういう役割だったし」

「ウンウン」

「鼻筋は、母譲りだから」

「そうなんだ! 高くて羨ましいのよね」

 自分の小鼻を潰す。

「とっても可愛らしくて好きよ、アナタのお鼻も」

「えへへ。アリガト!」

「代わりにちょっと目元周りの毛が薄くて。眉もキッチリ描かないといけなかったわね」

「ワタシはちょっと濃いかな。抜いたり剃ったりしないと毛虫みたい」

「整えるならその方がいいのよ。描くとなると大変だし、なかなか納得出来ないのよね」

「あー! 昔ノジコがやりすぎてブツクサ言ってた! ワタシも全部剃っちゃおうかと思ってだけど、止められたのよね!」

「元あるものを生かした方が、結局は楽ね」

「へー。うーん。へー」

 細眉への憧れが捨てきれないらしい。

「チョッパーに言われたの。流石は魔女の弟子ね」

「あ! そっかー。チョッパーの知識ってドクトリーヌが元なんだ。うーん、なるほど~。それは侮れないわね」

「ステキな人だったみたいね」

「なんかちょっと敵う気がしないわね。ある意味マムなんかより手強いわ」

「アレと並ぶのは相当ね」

「なんか別ベクトルで人を超えてるわね」

 若さの秘訣かい?

「聞いてないわ」

「どうしたの?」

「ううん。幻聴」

「そう」

「え? じゃあ、今は生えたの?」

「そう! まつ毛もね。母のようにはならなかったけど、おかげでアイラインを書くことはなくなったわね」

「ああ! それで前より。柔らかくなってるのね!」

「どうしても硬質な印象になりがちだから。前はそれでもよかったの。母は自然とそうだったから」

「ロビンってお母さん大好きよね?」

「あら? 人のこと言えるの?」

「化粧を真似したりしないもん! むしろ、ライバルだったんだから!!」

「ステキな関係ね。ワタシは、そうしたことも教われなかったから」

「あ、ごめんなさい」

「謝らないで? でも、そうね。自分の顔に面影を追ってたようなところがあって、それが化粧にも出てた気がするわ」

「スゴく凛々しいお母さんだったのね」

「ええ。カッコよかったの」

「いいなぁ。ウチのもカッコよかったけど、なんか、こう、荒々しかったし」

「とても勇敢だわ」

「他人のお母さんとか憧れちゃう」

「みんな他人が羨ましいものよ」

「濃〜い眉毛ならあげるわよ?」

「フフフ、もういらないわ」

「チェっ。揃っちゃったかー。でも、なんで?」

「まつ毛美容液を眉にも塗ってるの」

「え?! アレってそんな効果があるの?!」

「まったく同じではないけど、ブルックの毛生え薬が元よ」

「そうなんだ?! え?! じゃあ、扱いには注意しないと!!」

「フフフ、モジャモジャになっちゃうわね?」

「イヤーっ!! でも、アレのおかげでマスカラいらずなのよね」

「一番落ちやすくてカバーの難しい化粧だから、とっても助かるわね」

「水に弱いからすぐパンダになっちゃう」

「潮風に耐えられるようになるのはありがたいわ」

「潮風といえば!! ロビンも髪伸びたよね?」

「ブルックのおかげよね」

「たまのヘアケア楽しみなのよね。スゴい気持ちいいから」

「痛むことを考えると、ある程度の長さはほしいものね」

「でも、結局短くなっちゃうやつね」

「枝毛は、切るしかないから」

「ある程度伸びちゃえば頑張り次第だとは思うんだけど」

「面倒になって切っちゃうのよね」

「そうそう」

「ナミの髪質で広がらないのは、本当に貴重ね」

「たまに朝、爆発してるけど」

「遅くまで仕事をしてるからよ」

「ロビンのは大人しくて羨ましい」

「あまりボリュームのないのも難しいの」

「そっかー。でも、色んな髪型出来て楽しいよね?」

「ええ。アナタの髪をイジるのは楽しいわ」

「もう! ワタシじゃなくて!!」

「フランキーに改造してもらう?」

「自分で出来るようになります! イジワル!」

「まだまだ、教えることがありそうね?」

「まだまだ道半ばだわ」

「さ、そろそろ寝ましょ」

「ロビン、今日は一緒に寝よ?」

「甘えん坊ね」

「いいの! 遠慮なんてもったいない!」

「いらっしゃい」

「ワーイ!」

 

 

「ねぇ、ロビン? お母さんを目指すのはやめちゃったの?」

「元々、目指してはないのよ。ただ、受け継いだの」

「受け継いだ?」

「母を知っている人と出会ったの。その人に似ていると言われた。ワタシはちゃんと母を受け継いでいるのよ」

「ロビンはロビンよ」

「ええ、そう。そんなことに気がつくまで、こんなにかかっちゃった」

「ダメダメね」

「ええ、そう」

「まったく、みんなワタシがついてないとすぐ迷子になっちゃうんだから」

「そうね。その通りね」

「ちゃんと連れていってあげるからね」

「頼りにしてるわ、ナミ」




化粧のことなんかわかるわけないやん


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除け者

そんな、麦わら一味で


「つまり、地図って複雑なだけでただのグラフなの。だから、座標を求めるのに色々な関数が重要になるわけ」

「ああ、それでx軸とy軸が共有されてないと意味を持たないのか」

「それよ!」

 

 

「ウソップはスゲェ男だ」

「そうだな」

「あいつは昔からそうだった」

「知ってるよ」

「「本当にわかってるのか?」」

「あっちに混ざれないからって二人して俺に絡むな。ホラ、向こうでコレ食ってろ」

「ヤッタ! アリガト、サンジ!!」

「ワリィな」

「ありゃなんだ?」

「どっちのことじゃ?」

「常人には理解し難いでしょうね。文字通り、二つの意味で」

「ウソップは狙撃の精度を上げるために、ナミに測量を習ってるんだ」

「だいぶ、話が逸れているようだけれど」

「あの会話が漏れたら、それだけでバスターコールでも発令されそうですね」

「冗談でもやめろ」

「冗談だと思います?」

「わかった。聞かなかったことにする」

「あの二人は、寂しいのかしら?」

「バカなだけだぞ」

「話がわからないからどう自慢していいかわからないんでしょうね」

「なんなら、サンジ、オメェならわかるかと助けを求めてんだ」

「ヨホホ! 不器用ですね~」

「オレだって料理以外のことはわからねェよ」

「ま、気にすんな! オマエらは東の海からの古参組だ。オレらとはまた、別の括りなんだろう」

「オレはロビンちゃんとナミさん以外で扱いを変えたりはしてねぇ」

「そういうこっちゃないのさ」

「人との絆や関係というのは、一筋縄ではいかないものです」

「タイミングというものはあるわ」

「そういうもんかねェ」

「オレは医者としてはみんな平等に扱うけど、ルフィに医務室のものを触らせたり、ゾロに買い物を頼んだりしないぞ」

「チョッパーの方がわかっとるようじゃの」

「こりゃまいった。ほら、ホットケーキだ」

「ワーイ!」

「シロップがみんな違うのね」

「チョコの硬さがいい具合にアクセントだ」

「若いミカンの酸味が甘みをリフレッシュしてくれます」

「ソースなんてのは元をキチンとしてりゃアレンジは簡単だからな」

「まあ、確かにオマエさんにとっては手間でもなかろうな」

「ナミさ~ん。ちょっと休憩に甘いものはいかが?」

「あれはさり気ない、と言ってやればよいのか?」

「そうだな。そうしてやんな」

「若いっていいわね」

「みなさん、充分若いと思いますけどね〜」

「オメェが一番若えよ。ソウルキング」

「実際、骨密度はみんなと一緒だ!」

「おや、嬉しい」

「コレ、ワシ太らんか?」

「一緒にエクササイズしましょう」

「オレサマが指導してやるぜ、ボクササイズだ!」

「健全じゃのう」

「オレがいるんだから、当たり前だ!」

「そうじゃったそうじゃった」

 

 

「だからね。先駆雷撃で誘導しても、間になにかあれば近い方をどうしても経由しちゃうの」

「なるほど。つまり、ポジションは真正面でない方がいいのか。やっぱり、雷となると連携も難しいもんだな」

「ゼウスのおかげで色々と選択肢も増えたけど、威力も上がって。もうサンジくんでもノックアウトしちゃうかもね?」

「もう恋の雷に撃たれて一撃さ」

「わかった!! ほしの丸みを考えないといけないのか!!」

「あ、やっと気づいた? カンも知識もウソはつかないわ。それがズレてるってことは認識出来てない事象があるのよ」

「はー、そっかそっか。知らないで修整してたら狙いもズレてたな」

「知識は普遍的だけど、その時々に合うかはわからないわ。そこをどうにかするのが人間よ」

「オレは仕事に戻るぜ」

「ありがとう、サンジくん」

「すまねぇな、サンジ」

「すまねぇってなんだよ」

「糖分のおかげで解決出来た」

「へっ、まあいい。頑張れよ」

「変なの?」

「素直じゃないだけだ」

「……アンタたちっていっつもそう!! ワタシだけ除け者にして!!」

「そんなんじゃねェよ」

「ウソつき!!」

「いや、まあ、オレはウソつきだが。助けてくれよ?」

 

「スーパーだぜ! 頑張んな〜」

「ヨホホ!」

「ナミさんの誤解を解いとけ」

「男の甲斐性じゃ」

「シカバネは拾っとく!」

「医者?!」

「女の子を悲しませちゃダメよ?」

「ロビ〜ン?!」

 

 

「空はなんで青いんだろうな?」

「そりゃ、アレだろ? 海の青さが映ってんだよ」

「え? 逆じゃないのか?」

「夜になると空は真っ黒だが、海は暗いだけで青いだろ?」

「ゾロ! オマエ、頭いいな!」

「まぁな」




残当


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ウソリンガル

会話には翻訳が必要です


「クソマリモが先導しようとすんじゃねェよ、迷子になるだろ!!」

(見つかるまで探すのは確定してんだ。なんなら下調べも済んでるぞ)

「うるせぇよ、クソコック。テメェこそ料理人のクセに出しゃばるんじゃねェ!!」

(アレ、役職を盾にしてる時点で同格と認めてんだぜ。気にいらないのは、ゾロの役割をサンジが尊重しないのがデカいんだ)

「もう懸賞金でも下なんだ!! ゴチャゴチャ言ってねェで大人しく後ろ付いて来い!!」

(で、ゾロはゾロでサンジに役割を押し付ける)

「だからなんだよ? テメェこそ女のお守りでもしてろよ、ダーツナイト」

(な? で、サンジはバカにされてるってキレるわけだ)

「しれっと変身ヒーローっぽいあだ名着けんなよ、このドジっ子剣士!! 今、ここで決着つけてやろうか!!」

「上等だ、アホマユゲ!」

 

 

「んでも、まあ、じゃれ合いの範疇だよ。巻き込まれると命の危険はあるが」

「なんという難儀なヤツらじゃ」

「放っといて買い物行くわよ。上陸の機会をムダになんて出来ないんだから」

「アレもアイツらの意地を尊重しつつ、仕事のフォローをしてるだけだ」

「ヨホホホ!」

「ま、わからないことがあったら、オレに聞けよ!」

「ウソップはウソつかないけど、ウソばっかりだから信用したらダメだぞ」

「ヨ〜ッホホホ!! ヨホッ!! ヨホホホ!!」

「ツボに入っとるのう」

「ポックリ逝かないかしら? 心配だわ」

「ちゃんとオレが診てやるから安心しろ!」

「ヨホッ!!   あ、空から光が」

「医者ァーッ?! オレだぁーッ!!」

「ヨホホホホホホホホッ!!」

「このすべてに対応せねばならんのか。これが、四皇!!」

「アンタも変わんないから!! さっさと来て! 荷物持ちでしょっ!!」

 

 

「オマエさんが下船しねぇのは珍しいな」

「変わったらまた見にきたらいいさ。それよりフランキー!! 船長にナイショで新兵器開発とか許されないからな!! そういうのコッソリ、オレにだけ知らせとくもんだぞ!!」

「別にナイショにしてたわけでは。まあ、そうか。オマエはまだ改良されたオレサマの偉大な兵器を目にしてはいないのか」

「オレだけズリーぞ?!」

「よかろう。ならば、とくと見るがいい!! まずはブラキオタンクからだ!! 行くぞ!!」

「ソルジャードックシステムだ~!!」

「いや、動かさないから。船倉行くっつーの!」

「えええー?」

「合体だ! 乗れ!! ルフィ!!」

「ウッヒョー!! イケイケ!! フランキー!!」

「アォウ!! 発進!!」

 




はい、ピッタリ


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やりたい放題

寝てるから


「なにをしとるんじゃ?」

「採血」

「寝とるところに針を刺すのか……そして起きんのか」

「朝、言ったのに来ないんだ。コイツら戦闘になるとすぐに大怪我するから、血はストックしておかないと」

「まあ、血さえあれば助かる命もある」

「医者としては信じられないぐらい丈夫だから、簡単に死んだりはしないと思うけど、でも助けられないなんてイヤだからちゃんと準備するんだ」

「立派じゃの」

「ジンベエ、注射怖い?」

「好きではないな」

「オレ、魚人診るの初めてだからアレだけど、もう大丈夫だから、今度採血するぞ? ジンベエはルフィと一緒だから助かる」

「ほう? 船長と一緒とは光栄じゃな」

「針だけ我慢したら、しばらく寝てるだけだから嫌がらないでくれよ?」

「イヤがるのか?」

「ルフィはじっとしてられないからブルックかウソップに頼まないとだし、ゾロはコレだし、ウソップは言い訳するし、ナミはウソつくんだ。サンジは仕事を優先するし、フランキーは針が刺さらないし、ロビンは腕だけ生やすし、ホネはもう、どうしたら」

「大変じゃのう」

「医者は、医者は助かりたいと思うヤツしか治せないんだ。オレが万能薬になるには、コイツらに治してほしいって思われる医者にならないとダメなんだ」

「チョッパー」

「なんだ? ジンベエ?」

「オマエさんは立派な医者じゃな」

「ほ、褒めてもなにもでねぇぞ、コノヤロー! お茶飲むか?」

「貰おうかの」

「血を抜くから、水分や糖分なんかも補給出来るように用意してあるんだ! ゾロは寝てるから、ジンベエに分けてやるぞ!」

「こりゃ儲けたな。寝ておって勿体ない。せっかくの気遣いを」

「いいんだ!! オレが完璧にしたいだけで、コイツらの命だからな!! オレが腕を磨けば、コイツらは好きなこと出来るからな!!」

「心強い。頼んだぞ、チョッパー」

「任されたぞ!!」

 

 

「なにを、しとるんじゃ?」

「ロビンがゾロに落書きしてる」

「それを眺めてる」

「本人は?」

「さあ?」

「化粧か」

「び、美人だな。プクク」

「そうかぁ? なんかオカメみてぇ」

「なんか、チョッパーが新作出す度に、実験台にされるんだよ」

「オレもよくやられる」

「質は良くても、ちょっと扱いが難しいんだってよ」

「ナミがパッパグに売ったって言ってた」

「そんなことをしとったのか」

「ウチは貧乏でな」

「四皇ってなんだろな?」

「少なくとも、食費で悩むのは違う気がする」

「バギーとか、絶対借金してるぞ」

「まさか、そんな」

「まあ、ありそうな話じゃ」

「なってみると四皇ってそれほどじゃない?」

「そんなわけなかろう。が、本人にとってみればそうかもしれん」

「どうせ、他人の言うことだからな」

「たまにクールだよな、オマエ」

「そうかぁ?」

「言っとる間に完成したようじゃが」

「プーッ!! バケモンだー!!」

「バカ!! 起きちまうだろ?!」

「起きんのう」

「大物だよな、コイツ」

「この顔で?」

「ヤメロ! 見せんな!!」

「平和じゃのう」

 

 

「たまに釣りのエサにしてやろうかと」

「やめてやってくれ」

「魚も食わねぇよ。イヤ、スマン」

「構わんよ。確かに、そう好んでは食わんじゃろうな」

「ミカンの肥料にする?」

「根腐れするかも知れないわ」

「まさか、寝たまま一日が過ぎるとは思わなんだ」

「嵐も過ぎるぞ」

「目的地もね」

「目の前に敵がいても、そっちか!!って叫びつつ明後日の方向に突撃するからな」

「逆にルフィさんはなんで合流出来たんでしょう?」

「謎だな」

「まずは起きんことにはこの顔のままじゃぞ?」

「落ちにくいから数日は大丈夫よ」

「数日も寝たままなのか?」

「鏡を見ないだけよ。バカだから」

「コイツ、ヒゲ、あんまり伸びないんだよな」

「身嗜みは漢の基本だぜ?」

「今なら性別不明だし、構わねぇんじゃないか?」

「そうだな。放っておくか」

「気づくまで毎日、書き足しておきますね」

「また、一味に人とは呼べないメンバーが増えるのね?」

「ワシ、魚人のアイデンティティ守れるかのう?」

「油断しないことね」




起きないから


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同期の桜

平和


「お〜、見事だねぇ」

「なんならぁ」

「休みの日に友達の家に来ちゃぁいけないのか〜い?」

「待っちょれ」

「いいよぉ。自前のがあるから」

「ほぉか」

「ずいぶん、立派な幹だね〜」

「よう育った」

「切るとこあるのか〜い?」

「それを見ちょる」

「そうなのかぁい?」

 幹を撫でる。

「よう育った」

「枝を払っても、枯れないんだねぇ」

「松は、強い」

「真っ直ぐだね~」

「立ち上がりが、こうじゃった」

「珍しいのかぁい?」

「そうじゃの。滅多に見ん」

「お気に入りだね~」

「そうじゃの」

 鋏を置く。

「そうじゃ」

 酒を飲む。

「キミもやるかい」

「ワシはええ。昼間からは呑まん」

「厳しいねぇ〜」

「律せねばならん」

「昔は違ったのに〜」

「今は大将じゃ」

「わっしらも歳を取ったよねぇ」

「ワシはまだ衰えとらん」

「でも、月日は流れるのさぁ」

 はだけた着物を直す。

「この家、キレ〜イにしてるね~。ウチとは大違いだよ」

「たまにしか帰らん。汚れる暇もなかろうが」

「それでもさぁ。これも律した結果かい?」

「そうじゃ」

 盆栽に彩られ、日差しをふんだんに取り込もうとも、拭えぬ寒々しさがある。生活感のなさが。

「ど〜だい? 久しぶりにメシでも食べようよ〜」

「一人で食う」

「そんなこと言わずにさぁ~。サカズキ。たまの休みじゃな〜い?」

「ワシはええ」

「いいから、いいから。ど〜こにしよ〜ねぇ。楽〜しみだねぇ。そうだろぅ?」

「話を聞け」

「聞かな〜い」

「行かんゆうちょろうが」

「光の速度で運ばれたことはあるかい?」

「やめぇ」

「わっしからは逃げられないよぉ」

「行きゃええんじゃろが。わかったわい」

「酒も呑むんだよぉ?」

「わぁった、わぁった」

 連れ立ち歩く、大きな影二つ。

 

 

「どんだけ煎餅を持ち込むんだ、オマエ」

「あ? なんなら、定期的に補充するよう手配しとるぞ?」

「なんで元帥室の茶菓子に口を出しとるんだ、万年中将」

「最近、忙しくて来とらんかったからずいぶん溜まっとるのう」

「本当に自然と漁るな。オマエの部屋じゃないんだぞ?」

「ワシが居るところがワシの居場所じゃもん」

「どんな理屈だ」

「オマエも食え。ウマいぞ?」

「お~い、ワタシにも茶をくれ!!」

「元帥に茶を出さんとは。怠慢じゃないか?」

「客はキサマだろうが!! 二度と出さんぞ!!」

「勝手に入れるからいいわい」

「勝手をするなと言っとるんだ!!」

「止めてみぃ」

「ヨシ、そこに直れ」

「冗談じゃ、冗談。ホレ? 海苔煎餅じゃぞ?」

「机に置くな。袋ごと寄越せ」

「ホイ」

「ウマいな」

「じゃろ? それも食え」

「机に置いたやつじゃないか。オマエが食え」

「なんじゃ? ワシの煎餅が食えんのか?」

「酔っとるのか、キサマは。いらん」

「せっかく、ワシが譲ってやったのに。ホレ、これでどうじゃ?」

「足すな、バカモノ。いらんと言っとるんだ」

「欲張りじゃな。まだほしいのか」

「いらんっつっとろうが!! 重ねるな!!」

「これ、意外と難しい」

「アホか、オマエは」

「どうじゃ! この高さ!!」

「なんで自慢げなんだ? それ! 崩れてしまえ!」

「ヤメロ!! 新記録を目指すんじゃ!!」

「フーッ!! フーッ!!」

「そ~と、そ~と」

 

 

「邪魔は、しないどこうかね。混ざるのもイヤだし」

「すいません、中将」

「いいさ、息抜きも必要さね」




平和


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対人類最高兵器

いずれすべてを飲み込む


「オマエがミカンをくれるなんて珍しいな」

「ま、コタツじゃ仕方がないっしょ。ミカン以外を乗せるなんて許されないわ」

「変なプライドだな」

「オレは煎餅も好きだ」

「おしることかね。あとでサンジくんに頼もうかな?」

「流石は四皇だよな。空島以来じゃないか? ウチが儲かったの」

「そんなことないわよ?」

「でも、なんか、お礼とかで人から貰ったもんばっかじゃねぇか? 海賊だよな、オレら」

「ワタシの二つ名を忘れたの?」

「ああ、うん。そういや、身内からも財布スッてたわ」

「その割に、お宝が見当たらないんだよな。オレ、いつになったら宝払い出来るんだ?」

「そりゃ、ワタシの稼ぎだもん。アンタたちの取り分は一割よ」

「オレたち、仲間だよな?」

「そういう約束でしょ?」

「そういやそうだった」

「確信をもって言えるが、取り分とか絶対にそんなんじゃないはずだぞ」

「そりゃそうよ。決めてないもの」

「ルフィ、やっぱりサギだぞ?」

「まあ、約束だからなぁ。メシも食えるし」

「オマエの判断基準そこだけかよ! てか、一割でもコイツの食費を賄えてるって」

「ウフ♡」

「マムが追って来たのって、実はコイツのせいじゃないか?」

「破産ってじいちゃんより怖いらしい」

「英雄ガープよりか。そりゃ四皇も必死になるな」

「海賊王も逃げるぞ」

「そういえば、冥王も逃げ回ってたか。最強は借金取りか。こえーな」

「逆らっちゃダメよ?」

「どうすれば自由になれるんだろうな」

「海賊王でも無理なんだ。多分、人類には不可能だ」

「オレ、世間がこんなに厳しいなんて知らなかった」

「宝払いで好きなだけメシ食えたんだもんな」

「じいちゃんの修行って、このためだったのかな?」

「いや、それはねェ」

 

 

「コレ、ドラムにもあったらよかったのに」

「いや、なくてよかったんだ。チョッパー、コタツから出ろ」

「え? イヤだぞ?」

「いいから、やってみろ」

「……、出れない!!」

「な? コイツは魔性の機器なんだ」

「そんな?! ヘビーポイントでも無理だなんて?!」

「チョッパー、狭い」

「ごめん」

「ここで寝ちゃダメよ? 風邪引くから」

「病気にもなるのか?!」

「そこのバカ以外はね」

「見事に寝たな」

「よく耐えたほうよ」

「恐ろしいんだな、コタツって」

「まあ、そんなキッチリ潜ったまま言われてもな」

「半分、溶けてるじゃない」

「天国だ!」

「しょうがないのよ。コタツだから」

「もうちょっと大きければ、みんな入れるのにな」

「フランキー専用なのよね」

「ズルい!! ズルいぞ!! 断固、抗議する!!」

「アウ!! オマエらそろそろ帰れ! 燃料のムダだ!」

「あ、帰ってきた」

「フランキー? コレ、ダイニングにも置いてくれ」

「ダ〜メだ、ダメだ! オマエら入り浸るだけだろ?」

「いいじゃない、ケチ!!」

「そうだ、そうだ! 一味で共有しろ!!」

「そりゃ本来、オレサマの背中を温めるためのバックパックだ。そんなもんなくても快適に過ごせるようにはしてあるハズだぜ?」

「それとこれとは話が別なの!」

「横暴だ! 待遇の改善を要求する!」

「する!!」

「だから、燃料のムダだろ? そら、出た出た。コタツは一日、一時間!」

「ちぇっー」

「しょうがない。出ましょ。あ、ミカン食べといていいからね?」

「こんなにいらねぇから半分もってけ。真っ黄色になっちまうよ」

「よ~し、チョッパー。男部屋に置いとこう」

「ナミのミカン、好きだ!」

「オイ、雪が積もっとる!!」

「慌ててどうした、ジンベエ?」

「どっかの島の気候海域に入ったから、おかしくないわよ? 航行に影響が出るほど?」

「ゾロの居場所がわからん」

 ムンクの一味。

「一番のバカはアイツだわ!!」

「さっさと救助しないと洒落になんないぞ!!」

「雪かきだ!! スコップどこだ?!」

「お湯だ!! お湯沸かそう!! それから、えっと、とにかく掘り出すぞ!!」

「起きろ!! 船長!!」

「お? 朝か?」

「緊急事態だ」




今の若いコってコタツムリに知り合いをイナイイナイされた経験がないらしい


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アソート

千文字の制限が俺を苦しめる


「行け!! フランキーロボ!!」

「やっつけろ!! ジンベエ怪獣!!」

「ワハッハッハ、ガオー!!」

「アウ!! ガキンっ!! ガシャン!! ビビビビ!!」

「チョッパーさんならワタシのアバラに搭乗出来そうですけど?」

「止めろ」

 

 

「勝負にならないと思いますよ?」

「ちょいと手合わせするだけだ。怪我はさせねぇよ」

「手合わせにもならないかと」

「そんなこたぁねぇ、オメェは手強い剣士だ」

「眠り唄・フラン」

「ぐがー」

「いえ、音楽家です」

「エゲツねぇ」

「手段を選ばねぇ」

「負けるのイヤなんです」

 

 

「なんで挑んだんだ?」

「勝負になるわけ、なかったんだ」

「うわー、なんも出来ねぇや」

「コイツはかつて、カジノの共同経営者だった女!」

「嵌められた!! 全部、誘導されたんだ!!」

「オレもう、ダメだ、コレ」

「いや、たかが七並べで深刻な雰囲気を出すな」

「カジノじゃやらねぇよ、そのゲーム」

「お願い、ね? お願い、ロビン! ハートの8を出して!」

「どうしようかしら?」

「ナミはともかく、そっちの三人はただ並べてただけじゃねぇか」

「うるせー。外野がゴチャゴチャ言うな」

「だって、順番に並べるゲームだろ?」

「あ、終わった、パス」

「ルフィ〜っ?!」

「仇を取るぞ!! チョッパー!!」

「いや、無理だろ」

「はい、オシマイ」

「ヨシ、出た! 二位は貰いね!」

「ま、負けた〜?!」

「いや、まだだ! ナミを止めろ!!」

「無理だ!! ハートない!!」

「ふっふ〜ん。これで最後よ!!」

「あ~っ!!」

「やられた〜!!」

「あそこまで楽しめるなら逆に大したもんだよ。ツーペア」

「ワシもじゃ」

「あ、ストレートです」

「なにィ?! ゾロは?」

「……ブタだ」

「へっ、ざまねぇぜ」

「オマエも負けだろうが」

「そうです。勝ったのはワタシですから」

「「あ?」」

「コヤツ、実は一番楽しんどるな?」

「「「「「もう一回だ!!」」」」」

「エンドレスだから付き合っちゃいられねぇのよ」

「ワシも抜けよう」

「ヨ〜ホホホ、さあ、かかっていらっしゃい!!」

「じゃあ、任せたわ」

「え?」

「ロビン、お風呂行こ?」

「あら?」

「モテモテね? ブルック」

 

 

「なにしてんだ、テメェ」

「タピオカチャレンジ」

「それ、そういうのだったか?」

「だってゾロ、ナミより乳デカいじゃん」

「乳って言うな」

「フランキーにはドリンクホルダーがあったぞ」

「なんのためだよ」

「ジンベエは腹がデカかった」

「そりゃな」

「一番はブルックのアバラ」

「オレの負けでいい」

「そんなこというなぁ!!」

「キレんな。チョッパーの角で試してこい」

「お、それオモシロそう!!」

「なんなんだ、一体?」




タピオカに埋もれて


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大工の交流

ワノ国で


「へー。長い方が速度が出るのか」

「ああ、海列車がそうだな。だが、代わりに波に弱くなる」

「横波にな。むしろ、正面からの波には強くなるから、四つの海じゃ、そういうのの方が主流だな」

「風が読みやすいからな。グランドラインだと風と関係ない波に出会うこともある」

「なんなら、丸い円盤みたいな船なら沈まねぇんだがな」

「クッソ遅ぇ」

「追いつけねぇし、逃げられねぇし、海賊向きじゃないな」

 入国にかかる多大な労力のほとんどを受け止めた船は、修理しなければならない。天険のワノ国ではそもそも港以外に停泊出来るような岸も少なく、三つの海賊船が並んで大工たちが腕を奮っていた。

 互いに競い合うというか、鎬を削るというか、なんなら額を突き合わせるようにした結果、住民の協力もあって一週間と経たずに目処が見えている。

 もっとも、ノリで生きてる海賊。アダムのおかげで将軍の修理までたった二人にも関わらず最速で終わらせた麦わらの一味。

 船長直々の指揮でも追いつけぬ早業にぐぬぬしつつ、なんだかんだと手伝いを受け入れて、楽しそうに技術談義に花を咲かす。

「船が揺れるのは浮いてるからだ」

「そうそう、沈んじまえば波なんて関係ないんだ」

「それ、船か?」

「ま、ウチみたいな潜水艦にしても海面と無縁なわけじゃないがよ」

「波を乗り越えようとするより、被っちまった方が被害が少ないこともあるのさ」

「だから、本来はもっと深く作りたいんだがな」

「深く?」

「浮いてるもんだから、高さで表さねぇんだよ」

 腕は良いのに素人、なんていう大工にしてみたら獲物かと思うような人材までいて、盛り上がらないハズもない。船大工同士が散らす火花で物理的にベポが燃えた。

「帆は高い方がいい。風を受ければ速くなんだからよぅ」

「船体は深い方がいい。荷も積めるし、波にも強い」

「だが、グランドラインってヤツはそんな常識を覆す」

「エネルギーは質量だ。風を受けて膨らんだ帆が船体を動かすのは、そんだけ重みがかかってんだ」

「つ~と、重みが勝って重心がマストの方に移っちまう」

「浮いてるってこた、重みも相殺されてんだからよぅ」

「そんなんで横波にあったら、すぐにひっくり返る。だから、浅く、高く作ってとにかく浮いてりゃいいってのがグランドラインの船なのさ」

「それでどうにかなるわけでもねェがな」

「他に方法もないんだよな」

「基本的に浮くのは簡単なんだ、簡単」

「そうとも。船は浮くように作ってんじゃなくて、浮くもんで作ってんだ」

「てか、鉄だって船の形にすりゃ浮くんだよ」

「船大工の腕ってのは、実は上手く沈めることなのさ」

「へー」

 外科医の一味、鼻高々である。

「まあ、それで言ったら海列車の右に出るものはねェがな」

「あれはもう、船大工のオレからしても不思議列車だ」

「あの線路、多分、張力で繋いでんだと思うんだが」

「どういう工夫をしたら、それで成り立つんだ?」

「島と島をどうやって繋ぐか、ってのを日夜考えるのが船大工ってもんだがよ」

「本当に繋げちまうのは素人の発想なんだよな」

「それを実現しちまうんだからなぁ」

 フランキー、鼻高々を越えてリーゼントがカブトムシ。ワンピースと同等の存在に。キラーたち、海賊の憧れとなる。

「まあ、アレも海賊船には向かねぇ技術だから、オレらも腕の振るい甲斐は残ってるがな」

「アレが普及しちまったら、オマンマの食いあげかぁ?」

「速力もなんもかも勝負にならねぇからな」

「風も波も関係なく越えて行くってのがカッコいいよな」

「流石に荷量では負けねぇ、と言いたいが」

「それも機関次第だわな?」

「なら、船にも応用出来るだろ? 負けねぇさ」

 自嘲の笑みが止む。

「まあ、そうだな」

「死ぬまで勉強だ」

「海賊のやることじゃねぇな」

「それが上を目指すってことだろうよ」

 なんでか撫でられるウソップ。ふんぞり返るフランキー。

 和気あいあいと修理は進む。

 

 

「馴れ合いやがって」

「気に入らないなら行って来るが?」

「いい、ほっとけ」

「アレ? 今日のお頭優しい?」

「キラーさんも明るくなったし、路線変える?」

「踊るか?」

「祭りか?」

「やめろ、バカ。そんなんじゃねぇ」

「え? あのロボと記念撮影したらダメっすか?」

「テメェら……! だが、それもいいか。麦わらのヤツらなら断んねぇだろ」

「マジか! 頼んでくる!!」

「ちょっ、オイ!! キラー?!」

「抜けがけはダメですよ!!」

「オレも!!」

「オレも!!」

 義手で頭を抱えるキッド。

「どうしたんだ、カシラ? オマエらしくもねぇ」

「なぁ、麦わらに勝てるか?」

「本当にどうしたよ? 負けるつもりなんてねぇだろ?」

「そうさ。誰が相手だろうと負けねぇ。赤髪やカイドウと同じだ。例え、万が一、あるかないかの仮定として、もし一回は引くことがあったとしても、何度だって再起してやる」

「ああ、だからオレたちは強い」

「ヤツらは甘い一味だ。ウチが負けるなんざ、ありえない。だが、その万が一があるなら、あの二人だ」

「あの船大工とヒョロっこい兄ちゃんが?」

「逃げ隠れのウマい狙撃手だと? そんなもんが甘さを捨てて殺しに回ったらどうなる? あんなもんを盾に、クルーを狙われたら? あの船だってそうだ。まるで遊覧船か、よくて客船だがよ、武装はホンモノだ。あのロボも」

「海賊が出会うなら、本来は海だ」

「あっちには海侠がいる。それも厄介だが、あのパシフィスタと同じレーザー撃つんだぞ、ヤロウ。そんなもんと海戦なんかしたらどうなる?」

「確かに、負けるかもな」

「麦わらも海賊狩りも、ジェルマも、オレやオマエらが負けるとは思わねぇ。叩き潰してやるさ。だが、あの二人はヤベぇ」

「なるほどな。情報か」

「いくらなんでも、そう容易くアレコレ漏らすとは思わねぇが、なにもしないよりマシだ」

「ウチのもバカだしな」

「言うな、悲しくなる」

 仮面をキラキラさせながら走ってくるキラー。

「キッド!! あのジェネラルに乗せてくれるってよ!! オマエも来いよ!!」

 崩れ落ちる最悪。

「もっとバカだった」

「いや、違う。そんだけ余裕があるんだ。ナメられてんだ」

「カシラ。現実は受け入れねぇと」

「こんな現実があってたまるか!! 逆だろ、普通?!」

「カイドウに挑むような一味に普通って言われてもよ?」

「キラーさん、超嬉しそう」

「そうだけど?! そうだけど!!」

「カシラ!! あの船、見学して来ていいッスか!? 宝樹アダムの船なんて、今後いつ見れるか!!」

「好きにしゃがれ!! クソッタレめ!!」

「ワーイ!」

「ヤッター!」

「早く来いよ、キッド!! スゲェぞ!!」

「泣くぞ、テメェ?!」

 

 

「哀れだな」

「自分のこと? キャプテン」




曇らせ


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忘れてた設備

こんな短編でも伏線が機能した
ことにした


「アンタたちだけズルいのよ」

「だからって入り浸るなよ」

「言わんこっちゃない」

「それはそれって言ったでしょ! いいじゃない! 別に!」

「なんなら女部屋にもつけてやろうか?」

「いらない。ダサいし」

「このアマ」

「実際、暖房は別だ。こりゃ家具を減らす工夫だからよぅ」

「そうなのか?」

「雑魚部屋にゃ余計なもんを置かないに越したことはねぇ。壊すし、邪魔だし、なんなら喧嘩で武器にもなる」

「雑魚だって」

「しまいにゃ追い出すぞ」

「いいわよ? そのミカンの代金払えるならね」

「食っちまったあとに言うのは反則じゃねぇか?」

「アンタ、海賊の自覚ある?」

「ナミの勝ちだな」

「いい加減、学習すりゃいいのに」

「引けないのよね。不器用だから」

「賢く生きれりゃ剣豪なんざ目指さねぇよ」

「ウン。だから、一生アタシのために働くのよ?」

「漢の生き様だな」

「尊敬するぜ」

「テメエら」

「ま、実際、このミカンの出処はフランキーだがな」

「オウ、オレサマに譲られたもんを分けただけだ」

「だとよ?」

「フランキーとウソップだから譲ったの。アンタにあげた覚えはないわ」

「ああ言えばこう言いやがる」

「やめろ。どうせ勝てねぇんだ」

「そうそう。この船の最高権力者様だぜ」

「オレは一応、コイツに着いて来たんだ」

 大口開けて寝ている船長。

「オレもだ」

「アタシもよ?」

「みんなそうだが?」

「ちくしょう。しまらねぇ」

「ちょっと口閉じてみよっか?」

「まあ、うるせぇし」

「口も伸びるのか」

「全然ダメじゃない」

「縛っとく?」

「流石に怒らねぇか?」

「メシが食えなくなるからな」

「これでいいだろ?」

 顎を撃ち抜く。

「なんだよ?」

「オメェの扱いが一番雑だよ」

「アタシでもそこまでしないわよ?」

「いや、それはウソだ」

「ボッコボコにしてんだろが」

「アレはちゃんと理由があるでしょ?」

「まあ、そうだな」

「あんまり説教とかしたくねぇんだよな。年寄りみたいで」

「まあ、なにしたってコイツが学習することはないだろ」

「アンタといっしょね」

「あ?」

「なるほど。家具は危険だな」

「海賊ってのは荒くれどもの集まりだからな」

「女にゃ手を出さねぇよ」

「似たもの同士よね、アンタたち」

「そうかもな」

「まさか、クソコックのことじゃねぇだろな」

「同じ海賊団なんだから別にいいだろ?」

「ホント、海賊の自覚がないわね」

「もはやこの会話自体がそうだけどな」

「まあ、ローのとことかキッドんとこで交わされることはないだろうな」

「そういえば同盟って解消なの?」

「一回ダチ認定されて逃げられるワケねぇよ」

「そうよね?」

「向こうがどういうつもりか知らねぇがな」

「どうにもならねぇよ」

「かわいそう」

「その船長の一味なんだが」

「ねー? だからコタツでもないとやってらんないわ」

「ダメだっつってんだろ」

「ケチー」

「オイ、流石に寝るな」

「なんかあったら起こして」

「男部屋だっての」

「諦めろ」

「ミカン食うか?」

「自分で剥く」

「チョッパーを使えば、ロビンも来るだろ」

「放っとけ、放っとけ」

「しまらねぇな」

「そんなもんさ」




あるのよ、コタツ


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笑顔のとき

苦しいとき


 遺跡がなければ考古学が成り立たないわけではない。

 ある出来事と、ある出来事。

 場所と場所だけでなく、それらを時間軸で繋げて読み解くのが考古学だ。机上の二次元、フィールドワークの三次元に、こうした四次元の視点を加えるため、知識の反芻と整理は欠かせない作業である。

 特にこの船が目指すのは、歴史の向こう側にある謎の島、ラフテル。どこにどんなヒントが隠されているかわからない。

 まるごと百年という月日を空白にしても、時間の連続性は途絶えない。前後だけではない。なにも関連がないと見落とされたなにかが、必ず語りかけてくる。

 それを信じて、今日も彼女は本を開く。芝生の甲板に、デッキチェアとパラソルを広げて。

 服はビキニとパレオ。チョッパーのおかげで、日焼けもそれほど怖くはない。

 下心満載なくせに、紳士で丁寧な料理人。意外にも慣れた気遣いを見せる、優しさに溢れた狙撃手。ニコニコと嬉しそうに手を貸してくれる船医。たまにしか承諾してくれないが、不器用な剣士。下手くそだけど、一生懸命な船長。

 彼らにサンオイルを塗らせ、今日も優雅に人が紡いだ糸を解す。

 年長組は巧み過ぎて腹が立つし、遠慮がなくてつまらない。ただ、新しく入った親分は面白そうだ。機会があれば試すとしよう。サングラスの奥で目を細めながら、彼女は考える。

 本を手繰る手は止めずに。

 こんなあからさまなまでに優雅に過ごすのも、理由がある。可愛くて頼りがいのあるクルーの誰かが、叱ってくれないかと密かに楽しみにしているのだ。

 母に飢えた子供時代を過ごした彼女だが、あの島の考古学者たちは彼女を甘やかすだけで、父性を与えてはくれなかった。

 船長の父親と知己になって、なんとなく生まれた憧れだ。船大工にも音楽家にもバレて、剣士も皮肉すら言わなくなった。

 残るは船長か狙撃手か。彼女は狙撃手に熱い視線を送る。甲板を走り回る彼は、一味で一番の努力家だ。勇敢なる海の戦士として恥じない立ち回りをしながら、狙撃手としての仕事もする臆病で勇気ある男。

 叱られたらどうしようか。剣士相手には露骨に感情を表にしてしまったものだから、悟られてしまった。

 あまり怒ったり不満を言ったりしないので、想像だけが膨らんでいく。

 もっとも、嫌われるのもイヤなので、能力でついつい手を貸してしまうことも多い。だからなのかちっとも叱られない。なんとなく寂しく思いながら、能力で咲かせた手に向かって礼を言うクルーたちを盗み見る。

 本体ではなく咲いた手の方に笑顔を向けるクルーたちの横顔が、あまりに無防備で可愛くて、目的も忘れて手伝ってしまう。

 手伝うことがないと、イタズラに手を染める。船長は麦わらを奪っても気にしなくなってしまったが、猫を誘うようにするとすぐに乗ってくる。

 狙撃手はプンスカしながら飛んできてくれるし、料理人は一瞬裏切られたような顔をするのがクセになる。

 船医も同じだが、船長と同じくムキになってくれるので面白い。

 年長組は本当に甲斐がない。

 剣士は隙があり過ぎてむしろつまらない。

 やめないが。

 本当に新人の親分が楽しみな逸材である。

 遊んでいるようで、事実、遊んでいるのだが、彼女の研究は確実に進んでいる。もういくつかピースが揃えば、確信に至れる。

 一つの航海が終わろうとしているのを感じる。

 寂しさが広がるが、何事にも終わりはある。それに船長は死期を悟ったロジャーではない。無茶はしていても、まだ若いし、彼女も若い。少なくとも、ホネが本当にホネになるまでは、ずっとこのままでいられるだろう。

「ロビ〜ン。疲れた~。マッサージお願い」

 なにより彼女がいる。海で隔てられた世界を地図で繋ごうとする、本物の天才が。

「ええ、いらっしゃい」

 この甘えん坊は、勝ち気で、ワガママで、世話焼きで、姉であろうと背伸びをするくせに、すぐにカワイイ妹のようになってしまう。それに甘えてみたり、困らせてみたり、怒らせてみたり、そして存分に甘やかす。

 なんて幸せだろうか。笑みが自然と溢れるのは。

 母も故郷も失ったが、居場所はここにある。

 いつか、あの優しい巨人に報告したい。

 ワタシ、一人ぼっちじゃないわ。




楽しいとき


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船長の拘り

声優、映画ネタ


「ルフィさんってお歌、お上手ですよね?」

「そうかぁ?」

「本人が首を傾げてるぞ?」

「作詞作曲はヒドイものだと思います」

「そうかなぁ?」

「ばっさりだな」

「オイ、船長が涙目になってるぞ」

「ワタシ、ウソつけないんで」

「キリッとするところじゃない」

「人の心を忘れたのかしら?」

「ルフィさん主役で演奏会でもしますか?」

「お、いいな! やろう!」

「却下だ」

「おちおち昼寝も出来ねえ」

「あまり、寝てばかりもどうかと思うわ」

「遠回しにオレを経由するのやめろ」

「慎みよ」

「ハハハ、そっかぁ」

「と、まあ、こんな感じだが?」

 褒められて嬉しかっただけに、落ち込みもヒドい船長。

「ワタシ、これでも五十年、外の世界から隔離されてたんですよ」

「サラッというな、コイツ」

「だからワタシが演奏する曲って基本、皆さんご存知でないんですよね」

「まあ、そういやそうか」

「興味深いわ」

「でも、ルフィさんは一生懸命合わせてくれますから、どうしても下手に聞こえると思うんです」

「言われてみれば」

「納得出来るような気もするな」

「センスがねぇっていわないか?」

「才能とは別よ」

「そこです。ルフィさんは、練習した曲ならちゃんと歌えるんです!」

「なんか重大なことみたいだが」

「当たり前っちゃ当たり前じゃないか?」

「そうね。音痴ではないというだけじゃないかしら?」

「では、誰が練習させたんでしょう?」

「どういう意味だ?」

 すでにちょっとついていけない船長に、四人の視線。

「コイツに、か」

「酒場で歌うのに混ざってたかもしれないけど」

「酔っぱらいどもの歌なんざ、調子外れもいいとこだぜ?」

「ええ、音程やリズムなんかを、正確に伝えた人がいるハズなんです」

「というと、赤髪の音楽家か」

「シャンクスの?」

「ビンクスの酒を教えてくれた人よ」

「ああ、そうだな!! シャンクスのとこの音楽家だ!」

「どんな方でした?」

「どんなって……いいヤツだったよ。懐かしいな」

 違和感を覚える四人。

「まあ、いいじゃねぇか。昔のことだ」

 逃げ出すように、お茶会を終わらせるルフィ。両翼は何かを察して黙り込むが、残りは違う。

「あれは、女の子ね」

「オイオイ、ロビンちゃん」

「複雑な事情があると見ました。いやぁ、ルフィさんも隅に置けませんね」

「やめとけ。好奇心で踏み込むもんじゃねぇよ」

「踏み込むつもりはありません。遠くから野次馬するつもりなんです」

「ええ、そうよ」

「もっと悪いわ!!」

 鼻息の荒い美女と死体。

「オレはあんまり好かねぇな」

「趣味が悪いのは認めるわ」

「ここだけの話です。でもね、幸せだった日々のことを思うのは、人様の話でも素敵なものですよ」

 言いたいことはあったが、相手がよりにもよってこの二人である。

「まあ、加減を間違えなきゃいい」

「弁えております」

「オレは仕事に戻るよ」

「ごめんなさいね? 不愉快にさせたかしら」

「いや? 恋バナに花を咲かせる乙女は美しいよ。相手がホネでなければだけど」

「ありがとう」

 二人して席を立ち、なんとなく連れ立って歩く。

「まさか、あんな地雷があるとはな」

「知らなきゃ踏まねぇさ。あの二人も、余計なことは言わないだろ」

「だな」

 芝の甲板で狙撃手や船医と遊ぶ姿は、いつもの脳天気なままだ。

「謎な男だねぇ」

「誰にだって抱えるもんぐらいあるさ。むしろ、わかりやすいヤロウだろうよ」

「それもその通りだ」

 なんとなく、人生の深みを実感した。




上手いよね、田中さん


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掃除

日常といえばこれなのに、今まで何を


 麦わらの一味の洗濯は完全に男女で分かれている。恥じらいや嫌悪とは無縁の、合理的理由によってそのように決められた。

 女物の方が値段が高くて扱いが難しいからである。

 下着一つとっても、連中のバカ力で洗われては一発でオシャカになるのは目に見えている。知り合う女性がことごとく立派だから忘れがちだが、それなりのサイズの上等な下着というのは貴重なものなのだ。

 単純に大きいというだけで、使う布や施される刺繍や加工の手間も増える。そこに性能まで乗せてしまえば当然だろう。

 とてもではないが任せようと思えない。

 また、量の問題もある。女性はタオルにすら拘るが、男どもは支障がなければ雑巾手前のボロ布でも平気で使う。

 使い捨てよりよいにしろ、どれだけ気軽に使っても、チョッパー謹製のよい香りがする柔軟剤を使ったタオルとでは、体積が違い過ぎて洗濯かごの容量に明確な差が出来てしまうのだ。

 なんだかんだ一緒の食卓を囲む関係で、臭いをそのままにしておけないきれい好きの支配する船。料理人に蹴り出され、航海士には見下され、年少組+ホネには囃し立てられ、船大工と学者が顔をしかめる。

 肩身の狭いことこの上ない。

 海賊船とはなにかを問い直したいほどである。

 よって人数差の関係でも、風呂の頻度の割に、実は男物の方が量が多いのが実情だ。

 数は少ないのに嵩張って場所を取るため、見た目はそうとわからないが、風呂をサボっている自覚もあって気がつかない船長と姑。

 そこを利用して得した気分になっている航海士を、微笑ましく見守る考古学者と料理人。

 専業主夫はかえって楽だと冷徹に計算し、パンツとアロハが普通の変態に興味はなく、骨格標本にとって服など人間であるためのアクセサリー。真面目な船医は疑わない。

 かくして船のルールは定められたわけだが、この少数一味にとって洗濯日和というのは貴重なものである。

 晴れているからと油断ならないのが、グランドライン。実は嵐を避けるために進路を変えて迂回していることもあるわけで、そうなると舵や帆の操作に忙殺されてしまう。

 そうして落ち着いて、労をねぎらい、風呂で汗を流すと、必然、さあ洗濯だとなるわけだ。

 分担はあれど、皆で甲板に揃ってタライを広げる。

 女性は二人並んで姦しく、その横でプロの顔をした狙撃手が洗濯板を構える。

 離れた場所では音楽家が掻き鳴らすバイオリンとともに、足揉みをする船長と船医。

 女性陣より軽いかも知れないこの3人は、まさにうってつけの人材である。

 盛大に水しぶきが舞うため、再び着替えることになるのは明白だが、楽しそうなので好きにさせる。

 ただし、距離は置いて。

 レストランや道場で修行した二人も、洗濯は慣れたものではあるのだが、器用で凝り性な狙撃手には敵わない。なんならウソップファクトリーは、ランドリーでもあるぐらい。

 なにげにキチンとしているのがフランキーだが、自分のブーメランを手揉みするのに忙しそうというか、哀愁が漂う。

 変態が普通のことをしたらいけないのだ。

 女房かという勢いで剣士の汗染みを始末するウソップ。濯ぎまで終えた洗濯物を、干すまでもないと固く絞る旦那。

 布が痛むため、頭をはたいてやめさせ、張り出したロープにかけていくサンジ。

 オシャレな一味を象徴するように、万国旗を張り巡らしたようなカラフルな甲板が出来上がる。

 そうなると、足揉みの終わった船長のワクワクが止まらない。

 ゴムの機動力を活かして、洗濯物をぶら下げたロープを高いマストや船首のたてがみに引っ掛けて、さらに船は賑やかになった。

 鷹揚な連中は笑っているが、航海士だけは大事な服が飛んで行かないかと気を揉んでいるようだ。アチラコチラの炎や修羅場をくぐり抜けた経験から、特に丈夫で見栄えのよい下着の大切さを身に染みているからである。

 切実ではあるのだろうが、船長にタンコブが増えただけだ。

 水滴を孕んで日差しを跳ね返す洗濯物を、同じぐらい晴々しく眺める狙撃手。

 こんなに輝く彼を知るのは、一味だけである。

 芝生の甲板は後片付けの労を少なくする。あとは天気任せと、それぞれに仕事へ戻っていく。

 一味総出の洗濯であるため、とめていた船を動かすべく、帆が広げられた。

 船長の機動力はここでも活かされ、あっという間に膨らんで船は走り始めた。

 実はこのセイルの少なさというのは重要で、帆が大きければ大きいほど、その船には力持ちで身軽な船員が揃っていることになる。一味の数が少ないこともあるが、傍から見るとこの帆のおかげで、麦わらの一味はものスゴい実力があるように見えた。

 間違ってはいないが間違っているのは、航行中の船を見ればわかる。

 船長が遊び倒す横で航海士と狙撃手が真剣に進路について話し合い、音楽家が煽り立てる後ろでは、夕食の下拵えが冗談のような量と速さで進められる。

 仲良くデッキチェアで寛ぐ医者と学者の向こうで、剣士はさっそく夢の中。船大工は船底に潜って職人仕事である。

 とんでもないスキルを持った一味であることは確かだが、船にとって一番メインである甲板員がいない。

 いないのである。

 なんならもっとも数が多くていいはずの人材なのだが。

 もちろん、能力者の乗る船であるから、一般的な海賊船と違っても当然ではある。

 見た目一番屈強な船大工が機関の面倒を見なければならないとしても、船医含めて一人で一つの帆を振り回せなくもない力の持ち主が揃っている。

 力は足りなくても、人手という意味でハナハナに勝る能力はないだろう。

 だが、仕方がないのだ。航海術も持たずに海に出る二人が結成した一味だから。

 当たり前に素人集団である。

 よそから見れば剣士が副船長のようだが、海賊団という船を基礎とした集団で考えると、長鼻の方が相応しいような気がしないでもない。

 なにせ、狙撃手として風を読み、航海士の指示を操船に反映しているのは彼なのだ。

 器用な手先を活かして、船大工の代わりに索具の管理をしたり、裁縫の腕を使って帆の修繕をしたり、よく気がつくので甲板に限らず率先して掃除をしたり。

 実質、一味の掌帆長は彼である。

 なんならルフィは麦わらの一味の司令官とか提督に押し上げて、サニー号の船長はウソップでいいんじゃないかと、みんな一度は考えた。

 ただ、この二人。今の関係がものすごく満足そうだし、幸せそうだしで、なんか大人の組織みたいな枠組みにはめ込むのが悪いような気もするのだ。

 だから、誰もなにも言わずに、眩しいぐらいの親友っぷりを愛でている。

 それでもたまに、両翼はウソップと膝を突き合わせて、この頼りがいのある弟分の価値とやらをわからせてやりたい衝動に駆られていた。

 望むのであれば自分が下についてもよいと言えるほどの男と認めているのだ。喧嘩の強さみたいな下らない理由で、風下にいるのが我慢ならなくなる。

 それを本職兄貴と、人生経験だけは豊富なはっちゃけコンビが牽制する。

 立場なんてものを自覚するのは、後でいいのだ。この船は夢を追う船である。それにその方が尊い。

 邪なだけの圧なら無視出来ても、流石にフランキーまでとなると行動に移せない。

 変態だし、変人だし、なんなら人間でもないかも知れないが、アレがダメだと言うことは本当にダメなことなのだ。

 別に話し合うわけでもないが、それが一味の共通認識だった。

 洗濯物を海賊旗よりも目立たせた船は、内情からして海賊らしくない。

 取り込むときにまた一悶着あるだろうが、それまではこの万国旗が麦わらの一味の象徴である。

 ブラジャーがデカい。 




キャプテン・ウソップはいつまでウソでいられるか


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洗濯

タイトルに意味はあんまりない


「思ったんだがよ」

 トイレ掃除中の船長が、真剣な表情で語りかける。デッキブラシで風呂を磨くウソッチョが、何事かと耳を傾けた。

「もしかして、これって最強武器じゃね?」

 ラバーカップ、正式名称をプランジャーという例のカッポン。

 高性能最新式である我が船の水洗では活躍の機会こそまだないが、水回りのトラブル、特にトイレは致命的であるため、片隅に常備されている、ソレ。

 遥か未来の宇宙戦争では、トイレが壊れても戦い続けたことが武勲となるほどの修羅場である。

 宝払いといいつつ、マキノの酒場の手伝いなんかをしていた船長。皿洗いに比べれば掃除は比較的達者な方だった。

 そんな、子供の頃に誰もが抱き、分別がついた今となっては封印していた一つの仮説。

 それを言い出した船長にクルーの二人は戦慄を抱いた。

「ルフィ、それは」

「ダメだ、ルフィ!! そんなこと考えちゃダメだ!!」

「そうだ。最悪、世界が滅ぶぞ」

 かも知れない。

「でもよー。コレ、ブルックに持たせたら、鷹の目も逃げるんじゃないか?」

「オマエ、なんてことを……!!」

「ゾロの夢をなんだと思ってんだ?」

 ちょっと狙撃手が正気に戻ったが、それはそうだろう。そんなものを装備したホネに襲われたら、普通は逃げる。しかも突き主体。バカなようで頭の回る船長である。

「悪魔か、オマエ」

「ボンナバンが違う意味に聞こえそうだ」

 なにがボンなバンするんでしょうね。

「少なくとも、コイツをカイドウが持ってたら、オレは挑まなかった」

 これが四皇のセリフ。想像の翼が広がっていく。

「イヤだ!! オレは見たくねぇ!! そんなものを口に咥えるゾロを!!」

 悲痛な医者の叫び。もう一人、医者がいる。

「飛ぶ斬撃を見たことあるか?」

 唐突なモノマネ。3人はノックダウン。やめなさい、そこ掃除中の風呂場ですよ。

 だが、ツッコミをする航海士はそこにいない。測量室で海図を書いてる。大人たちもまさか掃除中にそんな野望を抱き始めるとか、思いもしない。

 笑い声が聞こえないでもないが、多少のおふざけはしても仕事はちゃんとするだろうという、最低限の信頼はある。そこに船長と船医が交じってて、狙撃手がストッパーなのは断じて愛嬌である。

 なにせ、その環境を守りたい勢が闇に潜ったら最強かも知れない、壁を無効化するホネと人体構造を熟知した美女だ。

 殺されないかもだけど、夜な夜な寝ている最中に耳元で洗脳に励みそうな怖さがある。

 真面目な海賊はつまり悪党なので、一味の中心メンバーがこうなのは、世界平和に貢献している。文句など言ってはいけない。

 しかし、クルーとしてはそうもいかない。チャンバラを始めて床で滑ったり、逃げ回ったり、追いかけ回したり。

 ノリにノッた三人は、ついに掃除を放り出して甲板に出た。

 ターゲットは一人。協力者も捕まえた。

「流石のワタシでも身の危険を感じますが、これも船長の命令! 謹んで拝命しましょう!!」

 騎士の鑑、カッポンを掲げる。

 アホ極まりないが、三人にしてみれば最強武器を構える超カッコいいおじいちゃんである。

 なんなら伝説の英雄が蘇ったようなテンションだ。

 運の悪いことに、その日は甲板に誰もいなかった。正確には寝ていたが、ターゲットな上に役に立たないので割愛する。

 普段、甲板で働いている二人がアレなのはそうなのだが、だからこそずっと一緒にいるとなにかのきっかけで暴走するのは一味も知っている。

 よって音楽家と考古学者が甲板で演奏したり、バカンスしてたりするのだ。

 非常に甘やかす二人なので不安だが、考古学者の方は能力を使ったイタズラなどで牽制してくれたり、割りと役に立つ。

 問題はこのホネだ。

 絶妙に腹が立つだけで被害のない範囲を見極め、それはもう厄介な仕出かしを一緒になって楽しむのである。

 分別のあるバカというのは本当にダメだ。変態の皮を脱いだ兄貴にお出まし願っても、このホネは一枚上を行く。

 高い忠誠心で矢面に立ちつつ、肝心なところでは手のひらを返して反省を促し、ダメージは軽減して教育効果を押し上げやがるのだ。

 あげく、一緒に罰まで受けて、水夫の心得をさり気なく伝えたりしている。

 頭の先から尻尾まで、コイツにとって得しかない。

 イラつきはするけど、一味全体ではものスゴい貢献もしているので、余計イラつく。

 年の功とは恐ろしい。

 そりゃ、狙撃手の力量も上がろうというものだ。

 言ってもわからない船長にしたところで、実際にやらせてみれば熟せるようにだってなる。

 海賊初心者には太刀打ち出来ない立ち回りである。

 感心してもいられないのは、見てもわかる通り。

 まず持っているのが、プランジャー。

 水が滴っているのは、三人がびしょ濡れ泡だらけな姿から察せられはする。

 ついでに掃除サボってるのも明白。

 一味ならコイツの出番がなかったことは知っているが、この三人である。好奇心から用もなく、ガッポンガッポンしてないとも限らない。

 最強武器である。

 そして風貌は言わずと知れたホネである上、それなりの修羅場を潜ってきた経験からハッタリも効く。

 有り体にいって、迫力抜群。

 イタズラなのか本気なのか、内心を覗いても判断出来ないだろう。

 なにせ、船長の命令を遂行中でもある。

 極めてバカなくせに、油断も出来ないし、信頼もさせないドキドキハラハラ感を演出するこの駆け引きのウマさが、音楽家の持ち味だ。

 それを向けられる剣士を慮ると居た堪れない。つまり、被害は寝ている一人に限定されるわけで、なんなら暫定副船長っぽい立場なだけに庇いにくい。

 いつの間にか、三人が振り回して船を走り回るよりもずっと被害は少なく、剣士に対しては主体を奪って罪を被り、結果的にサボり以外を責められない状況が出来た。

 権謀術数に数えてよいものかわからないが、極めて厄介である。三人には理解出来ないのに、他には察せられる塩梅も含めて。

 知らないうちに誘導されないかと恐ろしくもある。だが、明確な対象外にこの三人がいるので、ちゃんと尊重してるとたまにやられたと気付けたりして、本当に暗躍が上手い。

 逆にいえば、本気なら気付けないのだろうとも思えるし、やっていることが自分が疎まれても他を立てることばかりだから敵わない。

 そんな音楽家がワンチャン死ぬかもと思いながら正面に立ったのだ。流石のゾロも目を覚ます。

「なにを、やってんだ? テメェら」

 理解出来ないだろう。しなくていい。だが、そうもいかない事情が音楽家の右手に。

「流石のゾロもビビッてるな」

「仕方がないんだ。あんなのが相手じゃ」

「ゾ〜ロ〜。勝負しようぜ?」

 トイレ用の掃除道具でか。喉まででかかった言葉は失われた。一味のため、船長のためとなれば、四皇にすら挑む音楽家が構えていたからだ。

「冗談だよな?」

「冗談ではありません。尋常に勝負!」

 背中の傷を恥じている場合ではない。おそらく逃げ出してもいい場面だ。だが、勝負と言われた。獲物の良し悪しなどいいわけにならない。だとするならば、アレもありだ。

 そう思わされてしまった。

「まあ、待て。落ち着け。まず、なにがどうしてそうなった?」

「問答無用!!」

「黙ってろ、テメェ!!」

 偉そうに手を焼くなどとアドバイスした過去が蘇る。手を焼かされているのは自分である。

「オレたち、コイツが最強の武器だって思うんだ」

「それを証明しようと思ってな」

「まさか逃げないよな?」

「ゾロはそんなことしないよな?」

 そう言われても、すでに腰が引けていた。よく見れば濡れている。四皇二人の合せ技すら受け止めた男が、あの飛沫は死ぬ気で避けようと決意した。

 このままでは、掠っただけで尊厳をまるごと傷つけられてしまう勝負に駆り出されてしまう。しかも勝ってもなんの意味もない。

 思わず空を見上げた。口には出さなかったが、助けてほしかった。

「コォラァーーっ!! 掃除放り出してどこに行きゃがった!」

「ヤベっ」

「アラ?」

 助けがきたようだ。その声を聞くと、蜘蛛の子を散らすように三人は走り出した。

 残された二人は、呆けたようにそれを見送る。

「どうしましょう?」

 手の中のプランジャーを持て余す。

「しまっとけ」

「血振り」

「うおッ!! 危ね!!」

「ヨホホホ!」

 とりあえず、平穏は保たれた。




イケメン揃いの銀英伝
高度な柔軟性の人がヤンより色男だって知ってるの何人いるんだろう?
そんなノリで二話書いた


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バーベキュー

リクエスト


 グランドラインには数多の島がある。基本的にはログポースで繋がっているが、そうでない島も多い。

 船長が舵を握らない限り、麦わらの一味と言えど目に見える脅威は避ける。よって、嵐や渦潮のために指針を外れると、ときたま誰も知らない無人島を見つけることがある。

 見つけてしまえば、立ち寄らないなどありえない。ヘラクレスがワンピースと等価値の船長が呟く「お宝はあるかなぁ?」に共感するのはウソッチョ。

 今日はまだ病気も出ていない。

 上陸出来そうな場所を見つけて近づけば、早速、巨大な猛獣に襲われた。が、朝飯前である。

 本当に朝飯前だったので、とりあえずサンジが弁当を包んだ。

「昼はどうするよ?」

「オレぁナミさんたちの護衛だからな」

 仕留めた猛獣はなんか食えそうでもったいない。しかし、危険だと入口で主張する島なので、一番に縋られた料理人が船を降りる。

 考古学者は人の痕跡がないか見てみたいようだ。それに身軽な音楽家が付き合う。

 船長は好きにするだろうが、なんだかんだ見るだけで測量できちゃう航海士や、薬草を探したい医者と、実は戦力がDIYである狙撃手には目的がある。

 剣士が散歩とか言い出すと厄介なので、強制的に船番にすると、相方は船大工になった。

「まぁ、軽めになんかするよ」

「いや、たまにはオレサマに任せな」

 変態が光る。歯は白いが、不安だ。鉄串が両手にいっぱい握られていた。

「どっから出した?」

「こんなこともあろうかと、バーベキュー機能を搭載している」

 無駄に高性能だ。あと、こんなこともあろうかとが、生活に密着し過ぎている。バーベキューが生活の一部かは知らない。

 しかし、一味は大歓迎だ。バーベキューが嫌いな海賊はいない。

「厨房のもんは、遠慮なく使ってくれ。荒らされなきゃなんとでもなるからな」

「オウ! とりあえず、塩だな!」

 一味は冒険に出掛けた。フランキーは猛獣の解体から始める。

 この辺は慣れたものだ。サンジが熟成させた肉もウマいが、新鮮な肉もそれはそれで味わいである。

「島か?」

「オウ、他のヤツらは上陸したぜ!」

「手伝うか?」

「イヤ? 寝てても構わねぇぜ」

「なら、釣りでもしてるよ」

 フランキー謹製のバーベキューセットは、船のどこにしまってあったんだというぐらい豪華だ。調理台にコンロはもちろん、焼いたものを並べたり食べたりするための机やチェアなど、キャンプ場のよう。実はその場でチョチョイと作っただけだが。

 足りないのは炭ぐらい。薪には不足のなさそうな島なので問題はないだろう。必要なら作る漢だ。

 ときたま聞き慣れた悲鳴が木霊したりもするが、顔が職人になったフランキーは気にしない。

 肉のブロックを切り分け、串に差し、塩を振る。野菜も、シーフードも、それぞれ用意した。

 忘れてはならないのは米だが、これはサンジがキチンと炊いている。あまりに消費量が多いので、用意が間に合わず朝がパンになるぐらいだ。

 しかし、昼には間に合うようにしてあった。

 少し考えたフランキーは、それをお櫃一つ分だけよそい、おにぎりにし始めた。そのごっつい手でどうやってるんだと言いたくなるが、ちゃんと女性にも配慮した小さめサイズなのが心憎い。

 いい漢の仕事は繊細でなければならない。

 半分には味噌を。半分は醤油ダレを。ハケを使って丁寧に塗っていく。

 ところ狭しと並んだ食材は圧巻だ。

 思ったより早く済んでしまった。まだ昼には早く、冒険を満喫している一味が帰ってくるまではもう少しかかるだろう。

 悲鳴がさっきより遠い。

 ゾロは釣り糸を垂れながら寝ているのか起きているのかわからない。ならば、バーベキューの真髄を極めてやろうと、再びナイフを握った。

 定番なのは様々な肉巻きレシピだろう。タマネギやアスパラなどの野菜やチーズ。牛や豚を合わせてみたり、ハンバーグなども全部肉で巻く。

 船長は喜ぶだろうし、一品ぐらい作ってみてもよいが、一味には甘いものやフルーツを好むメンバーも多い。

 果物を焼くのかと思われるかも知れないが、これがなかなか侮れないウマさなのだ。

 そもそも甘みは焼くことで強まるし、独特の香りも引き立つ。なんなら皮まで食べられるようになってお得だし、ヘルシーだ。

 シナモンやバターなどを用意して、まずは焼きリンゴ。

 芯をくり抜き、そこに調味料を詰めて、焦げないように包んで火の中に入れてしまう。

 バナナは皮ごとそのままで。それぞれの好みで香辛料を選べばいい。ほっくりと粘りの増した果肉の甘みと香りで、口の中が熱々になる。

 パイナップルも忘れてはいけない。肉との相性も抜群だし、酸味が和らいでまろやかになる。繊維質の果肉がさっくりして、皮ごと焼くとジューシーだ。

 変わり種ではオレンジ。甘さが苦手な人間でも、苦味や酸味を楽しめる。はちみつなんかで甘みを足してもいい。

「へぇ? そんなのも焼くのか」

「釣れたか?」

「いいタイが釣れた」

 岩場が多く、水深も深いらしい。なかなかのサイズが、ピチピチとはねていた。

 ゾロはフランキーの隣に並ぶと、ドンとタイを置く。

「借りるぞ?」

「オウ!」

 柄でタイの頭を叩くと、あれだけはねていたカラダが大人しくなった。両方のエラにさっとナイフを入れる。

「手慣れてんな」

「これぐらいはな」

 酒と釣りが好きなゾロは、こうして自分で捌くこともある。用意されていたバケツで、血抜きを始めた。

「水変えとけよ。そりゃ消火用だ」

「はいよ」

 安全策も万全だ。

 タイのエラが白くなり、とりあえず氷で身を締める。血を洗ったバケツの水を捨て、新しく張っておく。

「握り飯もあるのか!」

「ちょいと摘むかい?」

 嬉しそうだ。ゾロは焼かずに、そのまま口に入れた。生味噌の塩味と香りが一気に口の中を支配する。

「酒が飲みてぇ」

 フランキーは笑って酒瓶を置いてやった。手酌でくつろぎ始める。

「あんまり、水が豊富ではない島のようね」

「ただいま帰りました」

 純粋な調査組が戻ってくる。空振りで残念そうなロビン。飄々と音楽家。

「オッホー!! これは見事ですねぇ。心が踊ります!」

 食卓といってよいのか。船の前に出現したキャンプ施設全般か。

 とにかく、出かける前とは全然違う景色に、ブルックは喜んだ。

「そうだろう! アイツらも腹を空かせる頃だ。焼き始めちまいな」

「そうしようかしら」

 焼きおにぎりを真剣に炙っている剣士を横目に、考古学者も賛成する。

「お任せ下さい。料理は出来ませんが、焼き加減には拘りがあるんですよ」

 強火で一気に焼いてしまうのが一番だと思われがちな肉だが、実は時間をかけてじっくり焼いた方がウマいのだ。

 特に大きめの塊肉などはそうだ。ステーキも焼き色をつけたら一度休ませるなどすると、一ランク上の美味しさを味わえる。

 ブルックはコンロの一つに陣取ると、火加減を調整し、串を並べていく。

 遠火で油を落とした肉は、塩の旨味だけで何本でもかぶりつきたい代物に変わる。

 ロビンは片隅で水を入れたポットを火にかけた。あっという間に湯が沸き、それでコーヒーを入れ始める。

 時間のかかる工程に入ったブルックはもちろん、一味を待つ間の一息にピッタリだ。

「あなたもいる?」

 片手に焼きおにぎり。片手に酒のゾロが両手を見比べる。慌ててそれを腹にしまうと、しかつめらしく言った。

「貰う」

 三人の笑い声があがる。ゾロは知らん顔。

 悲鳴が近づいている。




これ以上は冗長かな
宴っぽいのは本編で見れるし


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那由多の彼方でも起こりえない奇跡

メリクリ


「さ、サンジ」

「オウ、おはよう、チョッパー。どうした? ベーコンか目玉焼きでも足してほしいのか?」

「ルフィじゃあるまいし」

「てか、どうした? 顔色悪くないか?」

「ルフィに熱がある」

「……待て待て、チョッパー」

「え? どういうこと? え?」

「冗談だろ?」

「冗談じゃない」

「オイ、ウソだろ?」

「ナミっ!! 止まれッ!! 未知の感染症かも知れねぇ。ルフィは隔離だ」

「だって!! そんな、ルフィが?!」

「今、フランキーとブルックで医務室に運んでもらってる。男部屋もとりあえず、入らないでくれ。サンジにはお湯をわけてもらいたいんだ」

「大丈夫だよな?! ただの風邪だよな?!」

「わかんねえ」

「チョッパー、アンタ医者でしょう?! なんでわかんないのよ?!」

「医者だって検査しなきゃわかんないんだ!! だから、毎日診てるんだ!! それでも防げないのが病気なんだ!!」

「やめろ、ナミ。落ち着け! 確かにびっくりだが、ただ熱が出ただけだ、そうだろ?」

「そうだ」

「だって、だってルフィだよ?」

「大丈夫だから、座ってろ、ホラ」

「お湯だな? すぐにもってくよ。他にほしいもんは?」

「消化のいいものを。なんにしろ、栄養がなくちゃ治らないからな」

「すぐに用意する」

「チョッパー……」

「安心しろ、オレはこの船の船医だ」

「な、任せとけって、ルフィがどうにかなるわけねぇよ。そうだろ、サンジ」

「当たり前だ。オレたちの船長だぞ?」

「ウソップ、サンジくん」

「ココアでも入れよう。なに、湯を沸かすついでだ」

「行ってくる」

「頼んだぞ! チョッパー!」

 

 

「いやー、見たかったですねー。取り乱すナミさん」

「可愛かったでしょうね」

「ウルサイ」

「そりゃもう、最高だ!! いつも勝ち気なナミさんが、涙目になって見上げて来るんだもんよ」

「忘れて」

「いや、もうあんまり強く握るもんだからアザになっちまったぜ!  見ろよ、コレ!!」

「ま、漢の勲章よ!」

「ええ、羨ましいわ」

「ダマレ」

「たまにロビンが怖いんだ」

「ほぼ、ロビンさんが慰めてたのに」

「まあ、ことがことじゃなければオロしてたけどな?」

「なんでそんな扱い?!」

「ウッルサーイ!! なによ!! 心配したらいけないワケ?! 前代未聞の事態なんだから、ちょっと取り乱すぐらいしょうがないでしょ!!」

「そうじゃの。全員、人のことを言えるモンでもなかったの」

 目をそらす一味。

「味付け間違えるとか、サンジさんにあるまじき失敗でしたね」

「マジモンの亡霊になってウロウロ、オタオタ徘徊してたヤツに言われてもな」

「ウソップとフランキーはチョッパーの邪魔にされてたわね」

「テメェだって腰抜かしてたろうが」

「いや、まあ、実際、どうしていいんだかよー。まさかこんなことになるなんて」

「ただの風邪じゃぞ。オマエらの狼狽えぶりに驚いたわい」

「わかってないわ、ジンベエ」

「アイツに勝てるウイルスだぞ?」

「世界が滅んでもおかしくねぇよ」

「ありえるわ」

「そんな心配しとらんかったじゃろうが」

「まあ、カラダだけは丈夫なヤツだからな」

「殺しても死にませんし。いや、ホント。ワタシ死んでるんですけど?」

「立場ねぇな」

「まったくです」

「まあ、ええわい。後で看病にでも行ってやろう」

「一人ずつだぞ? 押しかけんなよな」

「じゃあ、順番を決めるぞ!! どうやる?」

「おもしろそうね?」

「ワシは最後でええよ」

「よっしゃ、じゃあくじ引きだな」

「待ちなさい、ウソップ! アンタの作ったくじなんて信用出来ないわ!!」

「いや、流石のオレもこんなんでイカサマはしねぇよ」

「いいから、やるぞ! 何番でも変わんねぇよ」

「それもそうね」

 

 

「気合が足んねぇんだよ」

「わりぃ」

「なにが風邪だよ。ふざけてんのか?」

「ふざけてはいたかもなぁ?」

「ところで、どうなんだ? 風邪ってヤツは?」

「辛い」

「オマエでもか」

「なんか海ん中いるみたいに力入んねぇし、あっちこっち痛えし、カラダの芯から寒いのに熱があるとか」

「寒いのか?」

「すっげー寒い。なんか、じいちゃんに置いてかれたことを思い出す」

「毛布でももってくるか?」

「いや、側にいてくれよ」

「そうか」

「あと、ノドとかイガイガする。アラバスタで乾いたときみたいなのに、なに飲んでもよくならねぇんだ」

「なんかイヤだな、それ」

「イヤだ」

「なあ、それって伝染るんだろ?」

「らしいな」

「どうやるんだ?」

「わかんね」

「ちょっとなってみたいんだよな」

「やめといた方がいいぞ?」

「そうだぞ。医者の前でバカなこと言うな」

「いたのか、チョッパー」

「ずっといた! つーか、オマエを入れたのオレだし!」

「そうだったな」

「風邪引くぐらいなら、メシ抜きにされる方がマシだぞ?」

「そこまでか。ヤッパ、いっぺんなっとくべきじゃないか?」

「やめろ!! ルフィが熱出しただけで大混乱なんだぞ?! 一味が崩壊する!!」

「大げさだな。たかかが風邪じゃねぇか」

「死ぬような怪我してくるヤツが病気までナメるなよ!! 絶対に許さないからな!!」

「でも、風邪ってヤツは医者でも防げないんだろ?」

「まあ、チョッパーがいればすぐ治るよな?」

「期待してるぜ?」

「嬉しくねぇよ!! 万能薬はオマエらの便利アイテムじゃないんだぞ?!」

「そうなのか?」

「冒険には必須だろ?」

「まるでもうあるみたいに言うな! まだ違う!」

「まあ、すぐだろ?」

「誤差だ、誤差」

「医者を困らすな!!」

 拳骨二つ。

「一応、病人だぞ、オレ」

「ノックぐらいしろよ」

「したわ!!」

 追加。

「ナァ〜ミィ〜っ!!」

「ハイハイ、バカ相手によく頑張ったわね」

「ゾロが風邪引きたいって」

「バカじゃないの?」

「いや、まあ、そうバッサリ言われると」

「やめとけよ、ゾロ」

 航海士、悪巧みを思いつく。

「そういえば、キスすると伝染るらしいわよ、風邪」

「キス?」

「魚か?」

「ううん、こういうの」

 チョッパーの額にキス。

「くすぐったいぞ」

「ゴメン、ゴメン。これを唇どうしでやるのよ」

「コイツと?」

「ゾロと?」

「そう」

 見つめ合う二人。

「あ、ワタシたちお邪魔よね? 部屋出てるわ!!」

「あ、オイ!!」

「えー? ゾロと~?」

 「 みんな〜、ゾロとルフィがキスするって〜!! 」

「あの女ぁ!!」

「自業自得だと思うぞ」

「オマエのそれはもはやワザとなのか? 隠れてねぇし、覗いててもやらねぇよ」

「ま、ゾロならいいぞ?」

「この船長は、まったく」

「ウワァァァ! ルフィが受け入れたぁっ!!」

 「       なぁにぃぃぃッ!!」

 ドドドド。

「大騒ぎじゃねぇか」

「子供の頃はみんなにやってたしな! なんか、ヤソップとかよくリクエストされた」

「やめろ、なんか、もう、色々やめろ」

「風邪になりたいって言ってたじゃねぇか」

「反対してただろ? なんで追い詰めるんだ」

「オマエが言い出したことじゃねぇか?」

「ドキドキ、ワクワク」

「そこも隠れる気がないなら、せめて口を挟むな」

「不潔だわ」

「表情が裏切ってますよ、ロビンさん」

「そのけがねぇとは思ってたが、そうだったのか」

「やめろ、フランキー」

「お粥作ったけど、オマエがフーフーするか?」

「ヨシ、わかった。命がいらねぇんだな」

「安心しろ!! 応援するからな!! あ、ウソップ工場は二人の部屋にするか?」

「隣は鉄板張りだから声は漏れねぇぞ?!」

「やらねぇよ!! そこに直れ!!」

「ギャー!! ゾロが怒ったぁ!!」

 ドドドド。

「ホントバカよねぇ」

「いらんと思うが、止めてくる」

「お願いね。ジンベエ」

「みんないなくなっちまったなー」

「なに? アタシだけじゃ不満?」

「いや? 残ってくれてよかった」

「アンタが風邪とはね」

「オレもびっくりだ」

「お粥食べる?」

「あんま食べたくない」

「食べないと治んないわよ、ほら、口開けて」

「あー」

「おいしい?」

「ウメェ」

「後でミカンあげるわ。風邪にいいのよ」

「辛いけど、ちょっと得したなー」

「もうゴメンよ。ちゃんとチョッパーの言うこと聞きなさい」

「そうする」

「ホラ」

「あー」




筆が乗るぅ


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外食の悩み

いや本当に助かる


 バーベキューは食事を楽しむものではない。それも含めた空間と時間を楽しむバカンスだ。

 食べたいと思っても必ず焼くという工程を挟むため、その過程を楽しめなければ面倒なだけだ。

 そのせいで、バーベキューには大きな悩みがある。量が足りるのか、余るのかだ。

 ノッてしまえばいつもよりたくさん食べられるし、ゆったりおしゃべりを楽しんでいると余ってしまう。

 気合を入れて用意はしてみたが、今回は少し余ってしまったようだ。

 肉好きのルフィがいて何故と思うかも知れないが、自分一人なら生肉をそのまま食べるぐらい、彼は食に関心がない。

 食べたいものを自分で用意するバーベキュー形式だと、いつもの積極性が鳴りを潜めてしまっていた。

 もちろん、アレ食べたい、コレ食べたいとは言っていたが、それに付き合うウソップにも限界はある。もう食えねぇとなってゆっくりし始めると、ルフィもワガママは言わない。代わりにブルックが大回転だったが、彼のやり方では一串焼くのに二~三十分かかる。どうしても消費量は少なくなった。

「すまねぇな。余らせちまった」

「こんなもん、串に刺しただけだ。どうとでもなるよ。気にすんな」

 想定外のことには対処しなくてはならない。

 出来るだけ早めに消費しなくてはいけない食材が出たことは間違いなく痛手だが、食べてしまえばいいならそれだけのこと。

 釣り上げたタイを刺し身にしたはいいが、ごっそり奪われて、残ったアラ汁と海鮮焼きでチビチビやってるアレが辛気臭いせいで、余ったのが肉や野菜だけではないのが悩ましいだけだ。

 単にメニューをどうするかだけなのでどうでもいいっちゃいいのだが、なんか気にいらないのである。

 確かに、釣り好きとしては獲物を余すことなく味わいたかったかも知れないけれども。実際、かわいそうだったけども。珍しくショボーンとしている剣士を笑ってはいたけれども。

「ご飯はあるのよね?」

「握り飯はハケたが、白米の方は残ってるよ」

「なんか作るのか?」

「ええ、久しぶりに」

 考古学者が腕まくりをした。

 剣士が抱え込む海鮮を取り上げ、キョトンとする彼にニッコリ笑顔を送る。さまよう右手も顧みず、揃った食材を小さく切る。

 浅い鉄鍋にニンニク、オリーブオイルとそれらを入れて焼色を着けたら、一度上げてしまう。

 炊き上げた米は水分が多いので、煮詰める手間を省くためにそのままの鉄鍋で飛ばしてしまう。

 そこに再び具材を入れて、エビなんかを殻ごと突っ込む。

「パエリアか」

「そう、得意なの」

 漁師めしであり家庭料理でもあるパエリアは、実を言ってコレといった作り方がない。

 ないというより、どうやってもいいようなごった煮炊き込みご飯がパエリアだ。

 水を入れて味を整え、出汁が出るのを待つ。匂いと音に釣られて、ロビンの周りには人が集まっていた。例外は、まだシェラスコしている音楽家。

「豪快だな」

「こんなものよ」

「へー、なんか面白いわね」

 蓋をしないとか蓋をするとか、あーだこーだと拘りも深い伝統料理だが、だからこそ、その人やその時々で顔色が変わる。

 本を読みながら出来る煮込みなんかをすることが多いロビンだが、この料理が好きだった。

「うまほー」

 船長の関心も引けたようだ。すでにスプーンを持って臨戦態勢である。結局、あればあるだけ食えるのだ。

 ジリジリとスープがなくなり、香ばしいお焦げの香りが広がる。鉄鍋を火から下ろして、ロビンは呼びかけた。

「さあ、お皿を出して」

 一番に突き出した船長には、多めによそってやる。さっきまでお腹を抑えて満足げにしていた他のメンバーも、楽しそうに嬉しそうに皿を抱えていく。

「ん」

「ハイハイ」

 剣士も同じだ。表情は仏頂だが、座った場所はさっきまでの片隅ではない。

「オレにもわけてくれるか? ロビンちゃん」

「一流料理人に出すのは恥ずかしいわ」

「イジワルを言わないでくれ」

 口説いてくるコックをあしらいながら、鉄鍋にちょろっと骸骨分を残しておく。音楽家の方も、自分の焼き上げた串をクルーに配って回っていた。

「ロビンは食わねぇのか?」

「ワタシはいいわ」

「もったぃねぇ。コレ、すんげぇウマいのに」

 作った本人である。だが、その言葉に嘘はない。

「オレのをちょっとわけてやるよ!」

 医者が目を剥いている。大丈夫。熱はない。

「いいの?」

「みんなで食ったほうがウマいからな!」

 それが全てだろう。スプーンに山盛りいっぱいが、ロビンの皿に盛り付けられる。

「オレのもわけようか?」

 優しい医者に便乗して、次々と声がかかる。我関せずと、かき込んでいる変態とホネには見習ってほしい。剣士ですら手を止めて考えている。

「ええ、胸がいっぱいだわ」

 楽しいバーベキューは、こうしてお開きとなった。




次行こ


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海賊王の恋

オリキャラ注意
くっ殺


「仲間になれぇェっ!!」

「イヤだと言ってるだろう!!」

 

 グランドライン前半の小さな島。東の海から意気揚々と乗り込んだロジャー海賊団は、気候以外に歯応えのない航海に退屈していた。

 無法者であっても仁義を尊ぶ気風が故に、景気は悪いのにどこへ寄ってもトラブルばかり。

 仲間が増えるわけでもなく、東の海から追ってくる妙な海軍将校を呼び寄せるだけである。

 もっとも、本部将校である彼を基準にしてしまえば、グランドラインといえども前半では荷が重い。彼と切磋琢磨したロジャー海賊団がデビューしたばかりの新人に混ざっても、大人と子供の喧嘩にしかならなかった。

 だが、ある島の港で船長が見つけた一人の女戦士。

 荒くれ集う酒場の看板娘を庇って、ついにはたった一人で船一つ沈めてしまった。

 相手は面妖な悪魔の実の能力者だったというのに。

 その腕前にひとめぼれした船長が、彼女を勧誘した。

 髭面の陽気なバカにしか見えない相手にも丁寧に辞退を申し出た彼女だが、船長は納得しない。

 いい加減付き合ってられぬと逃げ出した彼女を追って、ログポースも無視して訪れた無人島。

 流石に一人ヨットと海賊船では分が悪いと見たか、上陸して迎え撃つ女戦士。

 そして始まる尋常な決闘。

 それを囲むロジャー海賊団のクルーたちは、剣戟の音を肴に酒瓶を開けた。

「強えぇな」

「船長と撃ち合ってどれだけだ?」

「一時間になる」

 女の身で足りない膂力を、巧みな剣さばきが補う。反らし、空かし、自らの船長に切り傷を刻んでいくその様は、酒を呷る手も止まるほど見事だ。

 しかし、彼らの船長への信頼は揺るがない。あれほど楽しげに笑みを浮かべて戦うのだから、確かに強いのだろう。自分であったらどうだと、自信を持てる者も少ない。

 それでも船長が負けるはずもない。それを信じない者が船に乗ることはないのだ。

 何故なら負けとは全てを失うことだから。

 戦いに身を置いて誰かに従うなら、それは命を預けるに足る相手でなくてはならない。

 彼らの船長にはその器がある。誰も疑ってはいなかった。

「そろそろだな」

「ああ、疲れが見える」

 そもそも、船長には女戦士を殺す理由がない。気に入ったから勧誘したのだ。この決闘もそれを受け入れさせるためのもの。

 最初から殺し合いではないのだから、心配する理由すらなかった。

 二人の勝負がつく。

 鋭い横薙ぎを囮に、一撃にかけた大上段を撃ち込んだ女戦士の太刀筋を、紙一重に躱して突き刺さる船長の拳。

 剣を握ったその重みが、息のあがった女戦士の呼吸を止める。

 崩れ落ちた女戦士は意地を見せて「殺せ」と呟いたが、返答代わりの笑みを睨みながら気を失った。

「スゲェ根性だぜ」

「オマエじゃ敵いそうにないな」

「女ってだけで勝てる気がしねぇ」

「情けないヤツだな」

 笑い声とともに、気の早い歓迎の宴が準備される。

 薪を集めて組み、キャンプファイヤーが灯され、料理が並び、酒が振る舞われる。

 女戦士は丁重に手当てされ、船長を差し置いてお誕生日席に安置された。剣も、鎧も、奪わなかった。

「オウ! 起きたか!!」

「なんの騒ぎだ?」

「歓迎の宴だ!! 今日からウチのクルーだからな!!」

 気のいいヤツらなのは見てわかった。強引でデリカシーの欠片もないが、敬意は払っていた。

 迷わないではない。だが、彼女は決めていた。

「そうか。死体は好きに使え」

 止める暇もなかった。彼女は自らの首を斬った。血が吹き出し、ロジャーでさえ驚愕に目を剥いた。

 数人がかりで止血した。ロジャーと撃ち合った剣の切れ味などナマクラと同じだ。船医の腕もよかった。

 それでも彼女が命を取りとめたのは奇跡でしかなかった。

 あんなに明るい一味が火が消えたように静かになった。そもそもロジャーが笑わない。

 なにもない無人島に、女が起きるまで、何日も停泊した。

「起きたか?」

「……何故生かした?」

「こっちが聞きてぇ。何故死ぬ?」

 女は大きなため息をついた。なにも分からぬバカに向けて、心底呆れた態度だった。相棒どころか、ときたまクルーにさえバカにされるロジャーでも、傷つかずにはいられない。

「女として生まれ、男にも、社会にも、常識にすら囚われずに生きたいと海に出た。それが出来ないのならば死ぬだけだ」

「そんなに仲間になるのがイヤか?」

「自由とはそういうことだろう? 仲間など持てば、生き方を曲げねばならん」

「そんなことはねぇよ。オレは自由だ」

 女は鼻で笑い、辺りを見回す。手の届かない場所に、果物とナイフが見えた。

「流石に渡さねぇよ」

「構わん。もはや終わった人生だ。最悪、舌でも噛む」

「とんでもない意地っ張りだ。わかった、オレの負けだよ。傷が治ったら好きに行きな」

「負けを認めるなら首を差し出せ。決闘の結果だ。文句は言わさん」

「イヤ、言うだろ。なんでだよ」

「なんの覚悟もなく勝負を挑んだのか? 人の生き方を賭けて置いて、キサマは命も賭けないつもりか?」

「そりゃ、よ」

「ワタシはそれを賭けた。負けたというならそれはオマエのものだ。施しなどいらん。ワタシは自分に始末をつける。勝ったというなら、キサマの命を貰う。文句は言わさん」

 女の目を見て、ロジャーはなにも言えなかった。理屈はどうあれ、それは確かに覚悟を持った人間の目だったから。

「ワタシをダルマにし、舌を抜いて奴隷紋でも刻むというならそれでもいいだろう。ワタシの意地だ。ワタシが果たす。だが、オマエの意地はどこだ? 女一人のために、船長の立場も命も捨てられるか?」

「いや……」

「意地も張れぬ根性で、よく海になど出たものだ。それだけでも、キサマの下につくことなどありえない。陸の上で震えていろ」

 海には理解出来ないことなどいくらでもあると思った。それを楽しみにしてきた。人の覚悟をどう折ればいいのか。

 そんなことで悩むとは思いもしなかった。

「オレは、どうすればよかった?」

「キサマ、童貞か? 女の口説き方を女に聞くな」

 情けない男を見下ろして、その女傑はバカにした。そして、ふらりと倒れ込む。

「オ、オイ!!」

「歯に毒を仕込んである。女というのは、厄介でな」

「医者か? 医者を呼んでくる!!」

「無駄だとわかるだろう。死なせてくれ」

「そんなこと言うなよ!! オレが悪かった!! 軽率だった!!」

「それに振り回されるのがイヤで海に出たのさ」

「オイ、なんだ、それ?! 分からねぇよ、オレには!!」

「男には、わからん、さ」

「目を開けろ!! オレの首を取るんじゃねぇのか?!」

「……大事に取っとけ。船長、だろう?」

「そんなつもりじゃ……!! 違うんだ、バカヤロー!!」

 女はもう、返事をしなかった。だが、うっすらとロジャーを見返した。あんなに美しく覚悟を示した瞳が、虚ろなガラス玉に変わる。

 それでもロジャーは呼びかけ続けた。

 諦めて、黙り込んでも、抱きしめた女の身体を離せなかった。

 やがて日が落ちて、部屋が冷え込むと、固くなった女をベッドに戻し、目を塞いでやった。

「よう、童貞」

「やめろ。今は言い返せねぇ」

「イイ女だったな」

「ああ、とびっきりだ」

「どうする?」

「海に流してやろう。陸なんぞに埋めたら、殴られそうだ」

「そうだな。そうしよう」

 船は、島を離れた。

 

 

 あれから幾年月が流れたのか。様々な冒険と戦いを経て、ロジャーはこの海域に帰ってきた。

 漠然とした世界をひっくり返すという夢ではなく、明確な目標と、死期というタイムリミットを携えて。

 あの島に寄るつもりはない。あそこには誰も眠ってはいない。

未だに女の口説き方一つ満足でない男は、手向けに自分の好きな酒を選んだ。

「この歳になっても、オマエの言うことはわからねぇよ」

 誰よりも自由に生きたつもりだ。それでも、それは自由ではないと旅立った女。

 ロジャーにはなにもわからない。わからないまま、年月だけが過ぎた。

「船長どうしたんだ? なんかいつもの調子じゃねぇな?」

「風邪か? クロッカスさん呼ぶか?」

 拾った子供らが、彼の感傷を吹き飛ばす。

「ワハハハ!! そんなんじゃねぇよ」

「フラレた女を思い出してんのさ」

「テメェ、レイリー!! ガキにバラすんじゃねぇ!!」

「その一言が余計だったな」

 立ち去る相棒の代わりに、キッラキラしたマセガキ二人に掴まった。

「船長をフる女がいるのか?!」

「ハデに知りてぇ!! どんな上物だよ?!」

「このヤロー、母親の乳すら知らねぇクセに」

 ロジャーの歯ぎしりを聞いて、レイリーが高笑いする。

 これはロジャーの恥だ。ガキに教えるつもりはない。クルーにも口止めしなければならない。ギャーギャー喚いて縋り付く二人を引きずって、ロジャーは船の中へと戻っていく。

 甲板の手摺りでは、安いラム酒が不満げに日差しを跳ね返した。

 どこの誰かもわからない。ただ確かに海賊王に爪痕を残した、そんな女の話。




二次創作ですが、本編とはなんの関わりもありません


「いや、脱退も自由だが?」
「へぁッ?!」
文通
「で、オレが生まれたってわけ」


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紅茶王子

アッサムとは似ても似つかん


 船で使う食器は丈夫でなくてはならない。なんなら木でよい。

 しかし、食に携わるなら拘りたいものである。バラティエで培ったノウハウと努力で、それなりに気に入った皿を並べているサンジだが、本当のお気に入りは棚の奥に厳重に梱包してある。 

 航海士に一味の財産と認められたそれを磨くために、今日は取り出した。

「見事なティーポットですね」

「だろう? 蚤の市でたまたま見つけた掘り出し物だ。十倍出したって本来、買えない代物さ」

 注ぎ口と取っ手に彩金が施され、胴の部分には彫金が嵌め込まれていた。波を越えていく船を象ったそれは、航海の無事を祈るものである。

 紅茶用の背の高いもので、セットで似たティーカップがついていた。買った当時は金属部分が曇りついて汚らしい印象だったが、こうして手入れをした後は高級感のある色合いの割に、ポップで親しみ安い佇まいがある。

 アンティークなのか、少し使い込まれた雰囲気もあって、しまっておくのはもったいないようにも思える。

 それらの手入れをしている横で、一応気を使っているのか触れないようにしつつ、でもかぶりつきで見つめるブルック。

 角度を様々変えるので、ぴょこぴょこ、フラフラ。しまいにはサンジの手の中にあるカップまで至近距離で眺めるに至って諦めた。

「使ってみるか?」

「いいんですか?!」

 白々しい。だが、喜んでいるのでいいだろう。天にも昇る気持ちを表現するのに成仏しかかるのはアレだが。

「しかし、カップは四つしかないのですね」

「別に取り上げやしねぇから、何度かにわけて全員に振る舞ってやりゃいいよ」

「いえ、ルフィさんにこのカップはまだ早いでしょう」

 ちょっと驚いてブルックを見上げる。

「人生とは道程。相応しい道具、似合う服、み〜んな違うものですよ」

 なるほど、わからん。だが、なにかあるのだろう。どうせ答えないのだから、やることだけやればいい。

「まあ、ティータイムの用意は任せな。オマエは客の招待と、茶葉だな」

「実はワタシも私物として、一缶ありますが。古くてちょっとどうしよっかな〜ってもの、あります?」

「ああ、基本、ウチではあんまり消費しないからな。茶として出すのはどうかってヤツもある」

「あ、そういうのってどうしてるんです?」

「デザートやなんかの香り付けとか、手入れにも使うな」

「へー、そんな使い方があるんですねぇ」

「オマエはどう使うんだよ」

「えー、ネタバレですかー?」

「めんどくさいな、このジジイ」

「ヨホホホ」

「笑ってないで、そら。用意しといてやるから」

「お願いしますね〜」

 ホネはふわふわと身軽に、ダイニングを出ていった。

 たまにちゃんと生きてんのかなという動きをするのは、わざとなのか天然なのか。

「しかし、ティータイムか。腕がなるな」

 料理人はさっそく、準備に取りかかった。

 

 

 カップの数に合わせて客を招待するといっても、同じ船内の共有ダイニングを使うのだ。

 しかもサンジが腕を奮って、本格的なティータイムを演出してくれるとなれば、間違いなく美味しいものも食べられる。

 もはや、ちょっとしたパーティーのようになっていた。カウンターとソファにわかれて、一味が座る。

「ズルいぞ。オレもティータイムしたい」

「ええ、ワタシもそっちがいいわ」

 ソファ側で文句を垂れるのは船長と考古学者。それに便乗する愉快犯たち。珍しくゾロまでいたが、酒を呑んでいた。

「アナタ方、あんまり紅茶好きではないでしょう?」

「苦いからな」

「コーヒー党なの」

「ミルクティーは美味しいけど」

「なんか、かたっ苦しい感じがしてよー」

「ま、そんなもんでしょう」

 カウンターにはナミ、サンジ、ジンベエと、今回は厨房の中にブルックがいた。

「ワシがこっちでよいのか?」

「布教ですよ、布教。少しでもお仲間を増やそうと」

 ほうじ茶を好むジンベエは、茶には親しみがあるだろう。

「気分で飲むけど、こんな本格的なのは初めてね!」

「手は抜いてないが、こういうもんは気分で変わるもんだ」

 少し高揚した気分のままに、笑顔を見せる二人。後ろの方でブーブー言っているが、ティースタンドやケーキスタンドはテーブルの方に広げられていて、なんならその手にはすでにサンドイッチがある。

「ご面倒でしょうが、ちょっとお付き合い下さい」

 そう言って出したのはオーソドックスなゴールデンルールに基づいた紅茶。いつもとは違うカップやポットで入れて気分を変えても、味そのものに大きな違いはない。

「美味しいけど」

 しかし、ちょっと気取ったホネはいつもの姿勢のよい姿で語り出す。

「実は紅茶ってお茶の中でも一番不味いんです」

「いきなりなに言ってやがる」

「そりゃそうでしょう。茶葉の甘みやなんかも全部なくなって、若々しい香りも吹き飛んだ完全発酵。苦味しかありません」

 どことなく高級店のギャルソンのような振る舞いから、三人の前に並べられたジャムやミルク。

「だからこそ、自由です。自分好みを探究するのに、これほど向いた茶葉もありません。ゴールデンルールが大事にされるのは、ベースが均一な方がよろしいから」

 さあ、やってみろとばかりに広げられた様々なフーレバー。なにか特別なおもてなしを受けるつもりでいたのに、苦笑いが溢れる。それを楽しんでいる年寄りには、なおさら。

「なるほどのぅ。格式高いと思っておったは勘違いか」

「あ、ジンベエさんには別にお試し頂きたいものが」

「ほう?」

「でも、確かに。全部、サンジくん任せにしてたかも」

「気分なんかに合わせて、自分でやるってのも楽しみ方なのか。こりゃ盲点だったな」

「カップなんかも、そうやって楽しむのね」

「色々揃えたくなるハズだぜ」

「ヨホホ、さあ、そちらの皆さんも。とっても甘いものを食べた後なら、紅茶の苦味もちょうどよい口直しに感じるはずです」

 飛ぶようにカウンターから飛び出したブルックは、ソファの面々にも紅茶を入れてやる。

「飲みながらじゃなくて、食べてから飲むのか?」

「それもいいですね」

「自分なりのカスタムっていいよな」

「ナイショでいくつか持っておくとカッコいいですよ」

「砂糖とミルクだけじゃないんだ」

「チョッパーさんの好きなシロップも、たっぷり入れちゃいましょうねぇ」

「粋な飲みもんだな」

「奥が深いんです。たまにはよいでしょう?」

「コーラと合わせてみよう」

「ヨホホ! 合う茶葉だってあるかもしれません」

「負けないわ」

「ええ、ずっと争い続けましょう」

「酒にもいいな」

「アナタの場合は紅茶の方がフレーバーですねぇ」

 楽しそうに一味の中を泳ぐと、ブルックはカウンターに戻ってきた。

「そりゃ古い茶葉か?」

「別になんでもいいんですがね」

「いや、参考になるよ」

「ヨホホ! 歳は重ねておくものです」

 空鍋にそのまま茶葉を入れ、強火で炙る。煙が出るほどになったが、火を弱めるだけでそのまま炒り続ける。

 ダイニングに香ばしい香りが広がった。

「いい匂い」

「紅茶のほうじ茶か!」

「こんなのもよろしいでしょう?」

 先ほどの紅茶と違って、さっと入れたお茶をジンベエのカップに注ぐ。

「ワシはこっちの方が好みじゃな。ちょいと気分を変えて飲むにはちょうどええわい」

「日々の潤いは、ささやかな違いから生まれるものです」

「ハハハ、無精ではおれんな」

「スゲェな、ブルック! オレにも飲ませてくれよ」

「ええ、すぐにお入れしましょう」

 もはや、最初にわけたのも無意味になるぐらい、みんなテーブルでワチャワチャしている。

 そんな様子を眺めながら、ブルックは自分のために入れた紅茶を傾けた。




おじいちゃん好き


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有料サービス

いかがわしい


 グランドラインにも渡り鳥はいる。彼らは人間が海の上で右往左往しているのを横目に、空を自由に、正確に飛んでいる。

 様々な季節が入り乱れるグランドラインでは、そんな渡り鳥に出会う機会も多い。

 頭上遥か高くを横切ったり、

「鴨か」

「デカいな」

 船の甲板に仕留められて、横たわっていたり。

「なんでやっちゃったの? あんな高くを飛んでただけなのに」

「船を狙ってクソしやがった」

「よくやった」

「グッジョブだ」

「え? その剣で糞も斬ったの?」

「一ミリも触れちゃいねぇよ」

 台無しである。クルーの実力が上がったのはよいが、襲われている自覚を得る前に対処がされて、いきなりなんか攻撃が飛び出してびっくりする。

 下手な砲撃よりも凄いのだ。

 安全になったのかも知れないが、心臓に悪い。そんなイタズラみたいなので仕留められてしまうのも、ちょっと気の毒な気もする。

 でもよく考えると、二年前もそうだったような。かわいそうに感じるのも、余裕が出来たからかも知れない。この鴨らしきものだって、人間を一のみに出来そうな大きさだ。

 危険に対する感覚が鈍くなっているのかも。複雑だ。

「しかし、鴨か。季節柄と言っていいのか、脂が乗って美味そうだ」

「蕎麦がいいな。蕎麦作ってくれよ」

「いいぜ。ワノ国でいい蕎麦粉が手に入ったんだ」

「そういや、ゾロは食ったっけか? サンジの蕎麦はめっちゃくちゃウマいぞ!」

「へー、そりゃ楽しみだ」

「島ごとで出汁や味の文化ってのは違うもんだな。ワノ国風な料理にしてみるか」

「いいねぇ。あそこのメシは酒に合うヤツが多かった」

「オレ、アレ食いてぇ、アレ!」

 どれだ。たまに発生する一味全員の心の声が一致する瞬間が訪れた。大概、船長の発言や行動に起因する。

「ナミのミカンのヤツ!」

「ああ! アレもいいな!」

「確かに、鴨を食うならそれもいいな!」

「お金払えるの?」

 一気にお通夜になる一同。四皇一味である。

「足りねぇか?」

「そうねぇ」

 そうか。この船長、財布まで握られてんのか。わかっていたことだけど、なんか噛みしめるものがある男たち。というか、全員そうなので、船長ぐらいはと夢を見ていた。そんなわけないのに。お小遣い制の海賊船とか、友達に言えないよ。

 別れた同盟相手がちょっと羨ましくなる時間。

「いいわ。アンタたちは?」

「オレは、いい」

「オレも」

 テンションが目に見えてを下がっていた。もう、ごちそうを食べる気分ではない。

「増えてもそんな手間でもないし、アレにツケとくわよ?」

「いや、本人言葉にならないぐらい驚いてるぞ」

「船長のオゴリってそういう意味だったか?」

 具体的な金額はわからないが、確実に船長のダメージになっている。上陸したら全部遊ぶ金になる船長としては、今から楽しみが減ってしまうのは悲しいだろう。というか、マジで幾らなんだ。彼らの中では、もう尻の毛まで抜かれるのは決まりきっていた。

「もう! 美女の手料理よ? 這いつくばって現金を差し出す場面でしょう?!」

「誰がそんなことするか!!」

「実質、船長から絞りとるだけじゃねぇか」

「オレはコイツの下拵えだ」

「あ、逃げるな、クソコック!!」

「やめてやれ。そして、オレも逃げたい」

「もういいわ! 知らない!!」

「オウ、頼んだぞ、ナミ!!」

「尊敬するぜ、ルフィ」

 特大のタメ息をついて航海士は去っていった。なんか知らんけど船長への忠誠心が上がった。

 

 

「サンジくん。厨房貸して」

「お? 来たか。肉の方は用意してあるぜ。ブロックでよかったんだよな?」

「ありがとう、サンジくん」

「お安い御用さ。オレはもうコンロは使わないし、オーブンもすぐに空く。蕎麦打ちしてるから、なんかあったら言ってくれ」

 奇跡のような時間管理で動き回る料理人に混じって、ナミは厨房に立った。目の前に鴨肉の塊。タメ息が出た。

「幾らって言ってやればよかったんじゃないか?」

「イヤよ。気軽に頼まれても面倒だもの」

「ま、船長には通じなかったが」

「厄介だわ」

 この船の経理を掌る二人である。この航海士が船のため、クルーの楽しみのために骨を折っているのは知っている。がめついように見えるのは、単純に男どもが金に頓着しないからだ。

 船を一隻運用するのだから、金がかかるのは当然だ。規模が大きくなれば海軍のように気軽に身動きすら取れなくなる。海賊が非道をするのも、理由がないわけではない。

 それでこの航海士がワルモノ扱いになるのは違う気がしたが、本人が好んでそう振る舞う以上、口は出さない。

 それに気がつくのも甲斐性だろう。女の苦労を、男はいつも理解しない。人に教えてもらうものでもないのだろう。

 採ってきたミカンの皮をピーラーで剥く。白い部分は残し、そちらは丁寧に手で処理する。皮ごと薄く切ったものとそれらを分けて、残りは絞っておく。

 空いたオーブンで皮を乾かす間に、鴨をスライスする。

 鴨は脂を引かず、皮から焼いていく。焼色を着けたら出てきた脂をかけてアロゼしていく。この一手間がウマさの秘訣だ。ただの焼き肉では引き出せない肉の旨味が出る。

 ミカンの皮とオーブンの中身を入れ替えて、本格的にソース作りだ。

 二度ほど煮こぼしてアクを取った皮をシロップ煮にする。

 それとは別にカラメルを作り、ワインビネガーを加えて強火で酸味を飛ばす。

「サンジくん、借りるわよ」

「ハイよ」

 味を整えたら、フォンドボーを加える。昔は、缶のコイツが高かった。手に力が入る。

 香り付にミカンの皮を少しと果汁もぶち込み、煮詰めていく。

「リキュールもあるぜ?」

「ありがと」

 適当に入れる。代用品で誤魔化そうとしてた。侮れない充実具合である。なんなら自作してそうだ。梅酒とか絶対そう。

 バターでとろみとコクを出し、味見。

「うん。美味すぎ!!」

「そいつはよかった」

 仕上げにちょっとリキュールを足して、キレを出す。

 鴨肉は取り出して余熱で休める。後は夕食の時間を待つだけだ。

「ほう? オマエさんが厨房に立っとるのか?」

「有料よ?」

「ワハハ! その価値もあろう! そのうち頼もうか。迷惑でなければじゃが」

「別に迷惑じゃないわよ」

「なるほど、素直じゃないのう」

「なによ、ソレ?」

「気にするな。お、今日は蕎麦か! ウマそうだ!」

「席についてくれ。直前で茹でるからよ」

「たまらんのう。最高の一味じゃ」

「だろう?」

 

 

「ウホー! ひっさしぶりだな! これ好きなんだ!」

「アンタ肉ならなんでもいいでしょ?」

「そんなことねぇ!! やっぱ、サンジとかオマエの作った料理がいい!!」

「ま、ありがたいね」

「だからって、そんなに頻繁には作らないからね?」

「またでいいさ。何度でも機会はある」

「何度もはイヤって言ってるの!!」

「ケチだなー。別にいいじゃねぇか」

「だったら稼ぐことね」

「ルフィ、オレが今度フィシュ&チップス作ってやるよ」

「お? アレも好きだ!!」

「なら、オレが釣り上げてやるよ」

「いいな! 釣りたての魚をフライにしてくのも」

「携帯用のコンロと鍋だな? 出しておいてやるよ」

「流石フランキー。もうあるのか」

「アウ!! ナメんじゃぬぇぞ!! こんなこともあろうかとは、船大工の基本さ!!」

「だから、なんでキャンプ用品に偏るんだ」

「冒険だからさ」

「ヒュー、ヒュー。フランキーの兄貴!!」

「スーパーだ!!」

 

 

「野暮なことを言ったかな?」

「そうでもないでしょう」

「ええ、楽しそうよ」

「オレにはまだわからねぇな」

「ワタシにもまだまだ難しいですよ」

「ブルックもか?」

「ええ、そうです。素晴らしいですね、人間というのは」

「頼むから人間でいてくれよ?」

「おや? そうでした! お恥ずかしい!」

「ワシも腕を奮ってみるかな?」

「あら? 楽しみね」




さよならクリスマス


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ハデな道行き!!

地味だけど!!


「ハデに行くぞーッ!!」

「どうしてもここを通るのかい?!」

「オウ!! 海王類の巣に足を踏み入れたくなきゃな!!」

「どっちにしろ自殺行為なんだね?!」

「そうとも言う!! なあに! 流れに逆らわなきゃハデに落ちてくだけだ!!」

「レッドラインの山をかい?!」

「……アレ? ハデに死んだかな?」

「考えてなかったんですかい?!」

「入ったことあるんでしょう?!」

「ガキだったからハデに気絶してたかも?」

「覚えてないんですか?!」

「じゃあ、どうすんだい?! 出口は安全なんだろうね?!」

「し、知らねぇ」

「こんの考えなしがぁ!!」

「うわぁーー!!」

「死ねぅーー!!」

 

 

「アイツは相変わらず喧しいな。ラブーン、匿っとくれ」

「ブオーン」

「しばらく大人しくな」

 

 

「アンタ、キャプテン・ジョンに拘ってるけど、なんか因縁でもあんのかい?」

「いや? まあ、見習いの頃に何度か出くわしたが、別に恨みもねぇし」

「伝説と出くわして無事とは流石バギー船長」

「よせやい。あんなのは単なるじゃれ合いだよ。盛大にハデだったが」

「実際に知ってる人間のお宝を狙ってるのかい? よくそれで因縁がないなんて言えるねぇ?」

「ハデになんもねぇよ。ただな」

「ただ?」

「見習いしてるときに出会った海賊でハデに豪勢だった」

「は?」

「オレぁ、結構な大海賊でも遠目に見たことはあるがよぅ! みんなハデに貧乏なんだ!!」

「なに言ってんだい?」

「どこもかしこも、オレみたいなガキ乗せてよぅ! 食わすのがやっとでどこもハデにカツカツよ!!」

「そんなバカな」

「海軍にずぅっと追われ続けて、まともに人の住む島なんかに寄れねぇしよう。追ってくる海兵もハデにトンデモねェ!!」

「そんなにかい?」

「まるで海兵全員でピストル撃ってるみたいに、ハデにバカスカ大砲が飛んで来るんだ」

「昔の海軍は強かったんだねぇ」

「今も今でやべぇがな。だからハデに目立ちたくないのさ」

「へー、アンタも考えてんだね」

「流石です、船長!」

「名声より実!! クールだぜ!!」

「やめろよ、ハデに照れる」

「で、手がかりはあんのかい?」

「それを探してんだろ?」

「このバカ」

 

 

頂上決戦後

「いいか? 言うこと聞きゃ逃してやる。だが、逆らえばハデな花火に変えてやるぜ?」

「わかった!! 今や飛ぶ鳥を落とす勢いの道化のバギーに逆らったりはしねぇよ!!」

「なら行け。忘れんなよ?」

「ありがとうごぜぇます!! 必ずや、へい!!」

「船長〜。そんなチンピラで遊んでないで、冥王を探しましょうよ。ここにいるんでしょう?」

「ハデにバカやろう!! 今、そんなことしたら、ハデに注目されんだろが!!」

「手遅れだと思うけどねぇ」

「だいたい、あの人はガキの頃に世話になった恩人だが、ハデに苦手なんだ」

「え? なんでですか?」

「オレぁあの人に弱みを握られてんのよ。出来りゃ会いたくない」

「そうなんですか?」

「かの冥王が弱みを盾にしないとならないなんて」

「スゲェよ、バギー船長!」

「大方、ガキの頃の恥ずかしい思い出でもあるんだろ?」

「バカ!! そんなワケねェだろ?! ハデに濡れ衣!!」

「そうっすよね!!」

「流石、バギー船長!!」

「あれでなんでバレないかねぇ?」

「さあ、出航だ!! 新世界へハデに乗り出すぜ!!」

 

 

「行っちゃったようね」

「変わっていないようだな」

「最近、ずっと居座ってるわね? 実は会いたかった?」

「まさか! 外をフラフラするより、逃げやすいからな」

「ホント?」

「まあ、ワタシになど会いに来んよ、アイツは」

「そうかしら?」

「そういうヤツさ」

「ゴメンくだせぇ」

「おや? 珍しい」

「たまには来るのよ。でも、アナタ、ボロボロね。店を汚さないでよ?」

「いや、すぐに帰る。こいつを預かって来たんだ」

「なぁに?」

「道化のバギーからだ。レイさんと名乗る男が来たら、コイツで酒を奢ってくれと」

「へぇ、バギーから」

「確かに渡したからな! 命が惜しけりゃ、ネコババなんて考えるなよ?!」

「ハイハイ、確かに」

「なんとまあ」

「彼が、なんだって?」

「ハハハ、子供というのは成長するらしい」

「飲む?」

「頂こう。キミも付き合いたまえ」

「ハイハイ」




多分、やらねぇ
で、あとからグチグチ言われそう


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新聞

それぞれの見方


「アンタたちさ、ウチのクルーの記事で儲けてるんだから、取材料とかないの?」

「クー」

「写真だっていつの間にか撮ってるし、こちとら四皇よ? わかる?」

「なんだかんだ、オマエがケンカ売る相手もとんでもねェな」

「ケンカなんか売ってないわよ。キチンとした報酬を請求してるの!」

「んなもん、そもそもまともな取材だって来たことねェだろ」

「まともに取材したら記事も売れると思わない?」

「クー」

「考えといてね」

「いつもすまねぇな。ホレ、雑魚だがやるよ」

 

 

「まだ読んどるか?」

「オウ! もうちょっとだ」

「なんぞ、動きはあるか?」

「いーや、あれこれ憶測ばっかだな」

「そうか、もどかしいな」

「だが、いつものウソや捏造は見当たらねぇ。本当に動きがないんだろうよ」

「そうなのか?」

「モルガンズってのは事件を作るからな」

「あのよく見ると大事件でもなんでもない煽り記事か」

「それはそれでキナくせぇな」

「なるほど。気をつけんとな」

「ヨシ!! 次はロビンに渡してやってくれ!」

「すまんな。やっとこう」

 

 

「これ、どういう意味だ?」

「そうね。この二つの島は海列車で繋がってるから、商売のやり方を変えるのね」

「なんでだ?」

「船で運ぶより便利になったのに、それまでと同じだと儲けが変わらないでしょう?」

「そうか! 安全だし早いもんな!」

「ええ、そうね。だから、違う約束を交わして貿易するの」

「へー、海列車ってこういうのも変えるんだ」

「そうね。世界を変えているわ」

「スゲェな! もっと教えてくれ!」

「かまわないわ」

 

 

「W7の新しい秘書の名前? サンジさんご存知です?」

「知らねぇよ。なんで聞いたんだ?」

「だって、女の子のことですし」

「覚えはねぇな。そんな記事あったか?」

「あのおっさん忙しそうだったしな。二年前じゃねぇか?」

「ああ、それではご存知ないのも」

「そっか、そりゃそうだな」

「やめろ。思い出させるな」

「でも、二年前って新しいか?」

「どうなんでしょう? そんな入れ代わりもないでしょうし」

「不思議だな〜」

「とりあえず、そいつがわからなきゃクロスワードは失敗だな」

「残念です」

「今日はダメだったかー」

「明日もありますよ」

 

 

「古新聞あるか?」

「そこにまとめてあるぜ」

「ちょっと貰ってく」

「オウ! なにに使うんだ?」

「コイツは油がよく取れるんだ」

「オメェ、剣が傷つくぞ?」

「覇気で覆うと拭き取りが楽なんだと。ワノ国で聞いたんだ」

「そんな裏ワザが?! なら、好きに持ってきな」

「それに、柄も湿気るんでな。コイツを巻いとかないと」

「なるほど。オレは刀鍛冶じゃねぇが、稽古用に打ってみようか?」

「ありがてぇが、普段からコイツらを振っときたい」

「なら、その辺の整備も任せな。たまにゃキチンと見てやるよ」

「助かる」




※ネタバレ
ジンベエの笑顔が最高


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ニコポ親分

衝動


「器用なもんじゃの?」

「取り柄だからな。コイツがオレの戦力さ」

「コイツがこんなに小さくまとまるのか?」

「弾数が命だからな。携帯性は突き詰めてるぜ」

「ほう、ほう。スゴいもんじゃな。コレは?」

「ポップグリーンの種だ。用途ごとに分けてある」

「こんな種類を使いわけるのか?! 一つ触ってみても?」

「いいぜ! 衝撃を与えなきゃ大丈夫だ」

「コイツが瞬時に育つのか」

「ああ、栄養満点だ。生じゃ無理だが、食ったら一粒で腹いっぱいだぜ? オレもそれで太っちまった」

「ワハハ、なら試すのはやめとこう!」

「ルフィにはナイショだぞ? 狙われちまう」

「ソイツはいかんな。約束しよう」

「頼んだぜ。しかし、こんなんに興味があったか?」

「仲間のことを知りたいと思うのは自然じゃろ? 命を預けるんじゃからな」

「オレが出来るのは掩護だけだ。むしろ、預かってもらう立場かもな」

「そんなことありゃせん。海賊の抗争じゃ射手は重要な役割じゃよ」

「そ、そうかな?」

「大砲もピストルも防げはするがの。足はとまる。ならば、ワシら前衛を前線に届けるのは、オマエさんの仕事じゃ」

「まあ、露払いなら任せな!!」

「それよ。オマエさんなら、もっと強い弾なり、それこそ爆弾でも上手く扱えると思うんじゃが?」

「確かにそうだけどよ。オレは別に人殺しになりたいわけじゃねぇ。勇敢なる海の戦士になりたいんだ。海賊の戦いなら、結局、船長同士が決着をつければ終わりだろ?」

「そうじゃな」

「なら、オレはそれをサポートするんだ。横槍を入れられないように、ルフィたちが気兼ねなく戦えるように」

「なるほどのう」

 ニッコリ。

「ワシもウソップが後ろにおれば安心じゃな」

「!!」

 

 

「おはよう」

「おはよう、ジンベエ」

「毎度感心だのう。今日も読書か」

「あら? イヤミ?」

「まさか! 知り合いにも研究者がおる。どれだけサボっておるように見えても、オマエさんら学者の仕事をバカにしたりはせんよ」

「フフフ、こんな格好でも?」

「フラフラ森を徘徊するアヤツに比べたら、随分マトモに見える。ありゃ子供には見せられん」

「ちょっと興味があるわね。あまり、他の学者を知らないから」

「友人はもちろん、王宮にも何人かおったからな。こうして話しかけられるだけで誇ってよいと思うぞ?」

「そんなに?」

「なんじゃろうな? 人生の全てをそれだけに費やしておるというか。他の全てを投げうっとるというか」

「羨ましいわね」

「やめてくれ。そんな仲間は見とうない」

「フフフ、気をつけるわ」

「しかし、暑くないか?」

「大丈夫よ。パラソルもあるし」

「ワシは魚人だからな。ワシの側は涼しいぞ?」

「お邪魔じゃないかしら?」

「波も天気も穏やかじゃ。ワシはカラダが大きいからな。そのパラソルよりもよっぽど日影になる」

「代わりに、話し相手になればいいのね?」

「おお! 助かる! 忙しいよりいいんじゃろうが、退屈でな」

「ワタシでよければ。じゃあ、移動するわ」

「よいよい。面倒じゃ。ワシが抱えて行こう」

「え? ジンベエ?」

 デッキチェアごと抱えられるロビン。

 ニッコリ。

「どうじゃ? ワシは力持ちじゃろう?」

「!! え、ええ」

 

 

「ジンベエの笑顔に射止められた」

「急にどうした、ウソップ? そんな虚無顔で」

「ときめいてしまったんだ。あんなおっさんに」

「ええ、アレはヤバいわ」

「で、オマエはどっから生えた?」

「ちょうど、聞き耳立ててたの」

「また揃ってわけのわからんこと言い出しやがって」

「ま、ジンベエはいい男だからな! オレもアイツの笑顔は好きだ!!」

「まあ、それはわからんでもないが、わからん」

「いずれオマエもわかるさ」

「ええ、アレには逆らえないわ」

「なんなんだ、一体」

「ジンベエって安心するよな! カラダがデッカいからかな?」

「コワモテには違いないのに、雰囲気から優しいのよ」

「親分の頼りがいがヤベぇ」

「ま、心当たりはあるが」

「なに?」

「吐け。オレが新しい扉を開く前に」

「なんだ? なんか理由があんのか?」

「詰め寄んな。コエーよ」

「教えて」

「この気持ちの正体を知らなきゃマトモに向きあえねぇよ!」

「ケチケチすんなよ」

「くだらねぇ。自分で考えるんだな」

「そんな」

「助けてくれよー! 頼むって!」

「なーなー、気になる」

「知りたきゃテメェで確かめてこい」

「話を聞いてた?」

「それが出来たら苦労はねぇって」

「だからどういうことなんだよ?」

「テメェらがどんな態度だろうとジンベエは気にしねぇよ。だったら、ジンベエと向き合って、テメェで整理をつけるしかねぇだろうが」

「わかった!! 行ってくる!!」

「なんか危ない気もするが、正論だな」

「ルフィを止めた方がいい気はするけど、その通りね」

「じゃあ、さっさと行ってこい」

「そうしようかしら?」

「まあ、助かったよ。砕けたら破片は拾ってくれ!」

「まったく、面倒くせぇな」




父親不在


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グランドラインでありがちなこと

ツイッターから


「そういえば、みんな揃ったらやりたいことがあったんだ!!」

「また、唐突になんか言い出したぞ?」

「油断するな? 知らないうちに死地にいたなんてシャレにならねぇ」

「ルフィ、あんまり思いつきで行動したらダメだぞ? 相談に乗るから」

「また、みんなで楽器演奏してよ!」

「あったな、昔」

「イヤな予感」

「呼び出そうぜ!! ウツボブラザーズ!!」

「やっぱりかぁ!!」

「!! ?!   ?  ?!」

「いきなり殴るのはちょっと」

「つい、衝動的に」

「まあ、いいブレーキになっただろ」

「完全に周りの話を聞いてなかったからな」

「へぇ、楽しそうですね」

「ワシに出来るかの?」

「なんで殴った?」

「気分よ。あと、どうせ食べるつもりでしょ?」

「気分なら仕方ねぇな。あと、食べねぇ。飼う」

「なお悪いわぁ!!」

 ゴカァン!!

「どこでだよ」

「どんなもんなんじゃ?」

「虹だ」

「剛毅じゃの」

「ヨホホ! 虹を飼うというのは夢がありますね」

「じゃ、アンタら世話してね?」

「ルフィさん考え直しましょう」

「ひとりじめしてはイカンぞ?」

「ちなみに、楽器は倉庫にキチンと保管してあるぜ?」

「余計なこと言うな!!」

 

 

「晴れてるのに雨?」

「周辺にも雲一つ見えんのう」

「不思議ね」

「狐の嫁入りか。こんな海のど真ん中で?」

「それ、場所の問題なの?」

「オイ、ちょっと暗くなってきてないか?」

「相変わらず雲は見えんぞ?」

「お~い、右舷方向!! 青白い光が見える!!」

「もう真っ暗じゃぞ?」

「確かに、あっちだけ明るい」

「どうする? 近づくか?」

「一応、言っておくけど、危険よ?」

「ん? なんか言ったか?」

 キラキラ。

「なるほど、疑いようもないようじゃ」

「頼むわ、ジンベエ。風は問題ないハズだから」

「心得た」

 

 

「ていうか、ホントに嫁入りなのね」

「なんか陰気だなー」

「失礼なヤツだな」

「ありゃ泳いでんのか? 浮いてんのか?」

「どうやら、尻尾を浮き輪代わりにしているようですよ」

「海キツネか? なんか服着てるぞ?」

「ワノ国風だな」

「ま、化かされてんだろうが、害はないみたいだな」

「そのようですね」

「じゃ、食うか!!」

「尻尾はマフラーにしよう」

「毛皮のコートもいいわね」

「狐はしっかり臭いを処理して煮込みにする。香辛料の使い方がカギだ」

「やめんかぁ!!」

「なんでだよ?」

「他所の結婚式を妨害するなんて悪趣味でしょ?」

「? ソレ、オレたちが言うのか?」

「こんなときだけマトモなこと言うな!!」

「その節はご迷惑を」

「ホントだぜ」

「テメェには言ってねぇよ、三流剣士」

「ハイ!! やめ!! やめ!! 進路戻すわよ!!」

「えー? アレ食いてぇ」

「やめとけ。あんまウマくねぇぞ」

「そっか。ならいいや」

「ヨホホ! ここで会ったのもなにかの縁。なにかお祝いの曲を」

「ありゃ? なんか陽気になった?」

「見ろ。辺りが明るくなり始めたぞ」

「ハイハイ! さっさと帆を張る!! 遅れを取り戻すわよ」

「楽しそうだなぁ!! 結婚式!!」

「いつか、参加出来るといいわね?」

「まったなー!! キツネ!!」




パクった


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家族side

渋にありそ


「おはよう!! 朝ごはん出来てるわ! 顔洗ってきて?」

「オウ」

 

 

「ハイ、これお弁当、と行ってらっしゃいのキス! 今日も頑張ってきてね?」

「オウ」

 

 

「おかえり!! お風呂沸いてるわ! それともご飯にする?」

「メシ」

 

 

 水軍の外套を預かりながら、

「ね? ワタシ、妻として役に立ててる?」

 特大の大きなタメ息。

「まったく、この女は何度言ってもわかりゃしねぇ」

「ご、ゴメンなさい」

「ま、ガキでも仕込めばイヤでも思い知るだろ」

「え? え? えぇ? えーッ!!」

「さっさとメシにするぞ!!」

「は、ハイ♡」

 

 

「どう? これ似合う?」

「ちょっと大胆すぎるんじゃないか?」

「じゃあ、これは?」

「ちょっと派手すぎないか?」

「もう!! お父さんってば、文句ばっかり!!」

「し、しかし、ワタシにはこういうのはちょっと」

「これから何度も来るんだよ?! ちゃんと慣れて!!」

「ん、そ、そうか、何度でもか! うん、頑張るぞ!」

「ヤッター! 荷物持ち確保ー!!」

「任してくれ!! それならお母さんで慣れてる!!」

「……」

「え? どうした? 頬を膨らませて」

「知らない!!」

 

 

「ああ、それじゃダメじゃ。女の子の気持ちをわかってやらんと!」

「もう、昔とちっとも変わってないじゃない!」

「あの、政務がありますので戻っていただけませんか?」

「もうちょっと! もうちょっとだけじゃ!」

「ヴィオラ様に至っては王宮でもご覧になれるでしょう?」

「ああ?! ほら、アイスでも買ってあげなさいよ!!」

「もう、アンタら一緒に暮らせよ」

 

 

ずっと昔

「なにがあったんだ、カイドウさん? アンタが幹部を集めるなんて珍しいな」

「なんだったら戦争だって一人で終わらしちまうもんな」

「で、なんだい? 教えておくれよ」

「ヤマトが」

「お嬢さんが?」

「洗濯物でもイヤがられました?」

「自分はおでんだと言い始めた」

「は?」

「はぁ?」

「ハァァァ?!」

「待て待て、ちょっと待て。え? この前始末した、アレでしょ? 侍の」

「どうしたらいいんだ? 死にてぇ」

「どうせ死ねねぇから、放っとくとして、え? どうすんの?」

「いや、まずは事態を把握しよう。おでんになりたいんですかい? それとも侍?」

「いや、もう、自分はおでんなんだと。なりたいどころか、なったつもりでいるのか、それさえもわからねぇ」

「おでんという人物そのものになったと?」

「男じゃないか」

「そうです。女のお嬢さんはおでんにはなれません」

「なんか、男なんだって」

「は?」

「はぁ?」

「ハァァァ?」

「だから、女じゃなくて男でおでんで侍なんだってよ!!」

「意味がわからねぇ」

「オレだってわかんねぇよぅ」

「マジもんに落ち込んでやがる」

「もしかして、酒飲んでねぇぞ、この人?!」

「ウッソだぁ」

「酒の匂いがしねぇ」

「世界の終わりかよ」

「とりあえず、そういうワケで」

「どういうワケだよ」

「理解を諦めたぞ」

「理解出来るわけねェだろうが」

「ハイ、おっしゃる通りで」

「オレは、あの、なんだ。息子を再教育する」

「あ、そこは理解があるんだ」

「一応、オレの息子だ。理解しねぇでもいいし、否定しても構わねぇが、尊重してやってくれ」

「あー、うんうん、ハイハイ」

「よくわからないけど、わかりました」

「どうすっかなー。ホント、どうすっかなー?」

「とんでもねぇ呪いを残して逝きやがった」

「つまり、どういうことだ?」

「わからん」




検索出来ないけど


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図書館に入らない本

男たちが買う


「見ろよ!! スゲーだろ?」

「う、美しい!」

「この曲線と丸み! 機能性も備えた自然界の奇跡だぜ!!」

「ゾロに見せてやろう!」

「サンジも!!」

「バッカやめろ!! オレが買った本だぞ!!」

「見して!! 見して!!」

「ハー……グランドラインにはこんなヤツらがいるのかー」

「デケェし、カッコいい! 一度見てみたいな!」

「捕まえて、飼いたいよなー」

「標本にしてぇ」

 

 

「オレは決して誤解しない。そして見ない」

「言っとくけど、それ図書室に入れたらシバキ倒すからね?」

「ああ、図鑑ですか」

「フランキーもか?」

「一応、気を使っちゃくれるが、アイツのメカってみんな動物モチーフだからな」

「一度、舞台衣装の素案を持ってこられたんですが。蛾の怪獣の中心にワタシが小さくいる感じで」

「どんだけデカいんだよ」

「ヤルキマングローブの幹ぐらいです」

「それは……むしろ、演者が見えんじゃろ」

「なにか複雑な機構でワタシに合わせて羽が動くようでして」

「なんかいるのだけはわかるのか」

「まあ、どうせ大きな会場ですと後ろの方は見えないので」

「逆に目立つのか。よく考えられとるの」

「なんでも褒められるジンベエが羨ましいわ」

「魚人街はもともと、孤児の寄り集まりじゃったからな。こう見えて子供の扱いは得意なんじゃ」

「あんな感じで読み聞かせでもしてたか?」

 フランキーの両腿からルフィとウソップ。胡座にチョッパーが座り、みんなでページに手を出している。

「よう頼まれたわい」

「なにげに子供扱い?」

「船長もやっとったでな。どいつも悪ガキに過ぎんよ」

「白ひげ傘下が長いんだったか?」

「ふーん」

「だからこそ、手を離すべきではなかった。後悔しとるよ」

「オイ、ナミさんが許すって言ったんだ。引きずるなよ」

「家族なんじゃ。ワシの弟分じゃった。誰に許されようとも、それがアイツの人生であろうと、な」

「大変ね」

「オマエさんがたも、きっとそう思われとるよ。ワシが保証する」

「ハッ!! ウチはありえねぇさ」

「ま、元気でやってるでしょうけど、そんなタマかしら?」

「心配もしていようが、誇っておるよ」

「そ、そう?」

「どうせ、笑い話さ」

「ヨホホ! 麗しいお話ですねぇ」

「ちょっと無神経じゃったか?」

「いいえ、とても心温まるお話ですよ、ホラ、アレ」

「サンジ!! 見ろよ!! ムカデの交尾だってよ!!」

「ダァー!! 見せに来るな!! やめろ!!」

「ルフィ!! やめてヤレ!! メシが不味くなっちまう!」

「そっかー。ナミは?」

「こっち向けんな!!」

「海賊のクルーってそういうもんですから」

「違いない」




ネタ、リクエスト募集中


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食糧班

買い物をする
マジでそれだけ


「こいつは新鮮だ。オススメはあるかい?」

「ああ、オタクら他所から来た人かい? ウチは旬なんて、港ごとに違うからね。どこで穫れたかで見るんだよ。といっても、わからないか。なんでも聞いとくれ」

「そうだな、特産ってのはあるかい?」

「いい質問だ。なんたって一度は口にして欲しいのは、コイツ! オイセエビだ! 鬼ヶ島の近海でしか穫れなくてね。さっそく揚がった第一号だよ!」

「へー、ロブスターに似てるな」

「甘みと身の歯ごたえが全然違うよ! あっちは淡白だから色んな味付けで楽しめるが、コイツはむしろ素材そのまんまを楽しむもんさ! 刺身がオススメだが、この頭を豪快に味噌汁にしても最高だよ?」

「いいね。一箱まるごと貰おう」

「毎度!!」

「コイツは?」

「まだ買ってくれるのかい? いや、ありがたいけどね」

「まだ、畜産の方は品薄だろう? ウチには自慢の冷蔵庫があるんでね」

「ああ、そうだね。こっちは船さえ出しゃ、売り物はごまんと獲れるからね。ああ、ソイツはモドリガツオだよ」

「マッシブだな」

「近海で生まれて外海に出たコイツは、この時期、滝を昇って帰って来るのさ! それでモドリガツオ。珍しく、旬のある魚だね」

「あの滝を? スゲぇな」

「お侍さまでも、海では仕留められないって噂さ。コイツは漁師が一本釣りするのさ」

「どう料理する?」

「見てわかるようにとにかく泳ぐのが得意の魚でね。今すぐなら刺し身もいいが、足が早いんだ。生姜なんかで臭みを消したり、たたきにするのが一番だね。酒に漬けたり揚げたりもいいよ」

「コイツも貰おう。それから干物なんかも見繕ってくれるか?」

「オマケしとくよ!! ヤツらから隠しといたいい貝柱があるんだ!! いつかこんな日のお祝いにしようってね!!」

「オイ、そんなに持てねぇぞ?」

 米俵を担いだゾロ。

「オレも持つ。問題はねぇ」

「いや、酒も買う約束だろ?」

「兄ちゃん。船は常影かい? なんなら配達しようか?」

「いいのか?」

「そりゃこんだけ買ってくれたらね。勢いでみんなたんと水揚げしてるが、まだまだこんな高級品を買えるわけじゃない」

「そんなもんか?」

「昔はちょっとした贅沢品ぐらいのもんだったが、さんざん痛めつけられたからね。食ったら精がつき過ぎて腹を下しそうだよ」

「ま、ありがてぇ。ウチはとにかく量がいる」

「味も保障付きさ。これで漁師に金が回りゃ、街にも、人にも流れていく。そんで豊かになるのさ。おでんさまの教えだよ」

「九里の大名だったろ?」

「だからなんでぇ? 商売人が儲けをくれるお人を知らないとでも?」

「そうか。スゲェ剣士だとは聞いてたが」

「大名でお侍だ。ただ強いだけのヤツに従うんなら、オレらはカイドウの手下になったさ」

「頼もしいのか、前途多難なのか」

「モモの助さまかい? なぁに、前よかよくなる。それで充分さ。アイツらの元でも二十年生きた」

「頼もしいね」

「ヘヘ、これ以上は鼻血も出ねぇよ。だが、そこの通りを行った酒屋には、こんな時期でも品に不足はないよ」

「ありがてぇ。寄ってみるよ」

「あんまり買い過ぎるなよ。またチョッパーにどやされる」

「わかってるよ」

「じゃあな。旅の人たち。無事を祈っておくよ」

「アンタも達者でな」

「腕が鳴るぜ。ありがとよ」




続くかも


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脇道、寄り道、道草ばかり

おめでとうございます
楽しそうな三人で


「着いてきてよかったのか? あっちで本とか色々見たいんじゃないか?」

「いいんだ。この国の薬草とか医療書とか分けてもらったから、オレがしたい買い物はないんだ」

「ならいいがよ。オレだってコレといって目的もねぇし」

「ワタシもないんですよね。三味線も面白い楽器ですけど」

「オマエが弾くと完全に怪談になるな」

「ですよね〜。それはそれで楽しいでしょうが」

「やめてくれ! 一人でトイレに行けなくなる!」

「着いて行きましょうか?」

「本末転倒じゃねぇか」

「たまに夜中にブルックと会うとビックリするんだ」

「ワザとだぞ、絶対」

「そんな! ワタシそんなことしませんよ! この目を見て下さい!」

「ないだろ」

「ハイ、虚ろです」

「ブルックはおじいちゃんだから夜中に徘徊したらダメだぞ?」

「あ、そういう心配でした?」

「トイレが近いとかは、薬でなんとかなるからな」

「今のところは大丈夫そうです」

「ま、医者にその手のイタズラしてもな」

「そんなことないからやめろよ?」

「ああ! 迷ってしまいます」

「やめたれ。アレだな。コイツにはなんか音楽以外の暇潰しが必要だな」

「なにげにイタズラするんだよな、ブルック」

「チョッパーさんとウソップさんはとても反応がいいので」

「オレら限定かよ」

「なにごとにも動じない男になるぞ!」

「いやいや、つまらないのでやめましょう?」

「どんな理由だよ」

「いつかブルックを驚かすような怪物にだってなる!」

「別に怪物にならなくてもいいだろ」

「嬉しいような、悲しいような。自然と怪物の方にカテゴライズされました、ワタシ?」

「鏡見ろ!」

「怖くて見れないんですよね」

「自分じゃねぇか!」

「ウソップ、もしかして遊ばれてるぞ?」

「疲れんだよな」

「肩でもお揉みしますか?」

「オマエのせいだよ!」

「ツッコんじゃダメだ、ウソップ!」

「クソ! 手のひらで転がされてる!」

「ヨホホ! 人聞きの悪い」

「いいから、行くぞ! なんか掘り出し物でもありゃいいが」

「独自文化の国だからな。きっと珍しい物があるぞ!」

「あ、アレほしいです」

「お、さっそくか?」

「なんだありゃ?」

 チンドン屋がビラをバラマキながら通りを練り歩く。

「オマエ、アレを船ん中でやるのか?」

「ダメですかね?」

「ルフィは好きそうだ」

「かもしれねぇが、あんなんならもっと大道芸みたいなヤツあるだろ?」

「どんなだ?」

「ほら、一人でギター弾いてシンバル鳴らして、ハーモニカまで吹くみたいな」

「へー、見てみたいな!」

「楽しそうですね」

「なんなら作ってやるよ! とにかく、今は買い物だ」

「待って! ウソップ!」

「チン、チン、ドンドン。タンタカタン。ふむふむ。このリズムですか。おや、いけない。置いていかれます」




買い物がテーマで買い物しない


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闇との関わり

ま、あるでしょ


「とりあえず、ギバーソンの倉庫か、ルフェルド財閥の出先を探すわよ」

「金を預けておるのか」

「ちょっとだけどね」

「ロビンも連れていくのか?」

「ビビんないの! 今さらだし、この国でまだウチを襲う気概があるならもう関係ないわ」

「ビビっとるつもりはなかったが、言われてみると臆病か」

「護衛も兼ねてるんだから堂々としてて」

「むしろ、周辺の警戒はワタシに任せて」

「適材適所じゃな。心得た。実に頼もしい仲間たちじゃ」

「こんなか弱い女の子に頼らないでしっかりしてよね?!」

「う、うむ。善処しよう」

「フフフ、頑張るわ」

「しかし、手数料も高いじゃろう?」

「ま、確かに手持ちで充分だと思うけど、なるべく節約したいの」

「ということはそれ以上の儲けがあるのか?」

「ウチにはチョッパーもフランキーも、なんならウソップもいるから。ロビンも情報とか売れると思うし」

「そうね。政治とかは面倒だけど、商売に関わることなら」

「そもそも強国じゃ。今の時代、どこもこの国の武器をほしがるじゃろうて」

「物騒よね」

「ゆうて、それを助長しとった二大勢力が勢いを減じたからな」

「やっぱり、壊滅はしないか」

「カイドウはわからんが、ビッグ・マムには子供たちがおる。そう簡単ではなかろう」

「でも、白ひげのところは小さくなったんでしょ?」

「それはそうじゃが、あれは仇討ちで負けたのが大きいからの」

「もしかして、狙われちゃうかも?」

「来るかしら? あんなよ?」

「ホーミーズを寝返らせただけはあるな」

「説得力があるわね」

「やめてよ! ワタシはただの航海士なんだから!」

「急に説得力がなくなったのう」

「白々しいわ」

「う、でも、今回もあんまり役に立った気がしないのよね」

「謙遜もたいがいにしとくんじゃな」

「海賊王のクルーだからってなんでもは出来ないわ」

「そうじゃ。ロジャーの船にもバギーが乗っておったぐらいじゃからな」

「あ、急に気楽になった」

「見習いと一緒にするのはどうかと思うけど」

「まあ、なんというか。海賊団としてはむしろ、ウチよりも普通じゃろう」

「子供を乗せるのが?」

「孤児を引き取るのは、どこの海賊団でも同じね」

「あ、そっか。ロビンみたいな子供がいっぱいいるのね」

「他人事だのう」

「ワタシは契約だもん」

「しっかりしとるの。ま、悪ガキの憧れではあるからな」

「そこはわかんないわね」

「被害は派手じゃが、結局のところ海軍に守られたような場所を襲うバカな海賊は少ない」

「四皇もナワバリのアガリが収益のほとんどよ」

「義賊みたいなものかしら? ジンベエのところはわかるけど」

「最悪の世代といわれるのも理由があるということじゃ」

「筆頭じゃない?!」

「大変ね? 航海士さん」

「ご苦労さまじゃな」

「他人事?!」

「ホレ、頼りにしとるぞ? 役に立たんなどとは言わせんからな?」

「ゴメンって!」




金のなる木がいっぱいいる一味


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ウソップファクトリー

無双回


「なに作ってんだ? ウソップ」

「おっと! 蒸気は吸うなよ、ルフィ」

「毒ガスか!? そんなのに手を出したのか!?」

「ちげぇよ。たまにとんでもなく信用がないよな、仲間に対して」

「ルフィは自分が冒険を我慢出来ないから、みんなそうだって思いこんでるぞ」

「そうだったのか。うん、まあ、いいか」

「で、なに作ってんだ?」

「ナイショだよな? ウソップ」

「オウ! 楽しみにしてろ! ちょっとワノ国で色々インスピレーションを得てな」

「なんだ? またすげー武器か?」

「武器ではねぇな。ま、東の海のヤツらには懐かしいんじゃないか?」

「懐かしい?」

「まあ、待ってろ。しばらくは退屈しないぜ?」

 

 

「これ、ワタシたちもやるの?」

「メンコにベーゴマね。東の海でもやるの?」

「オレの子供の頃はそうだった。負けなしだぜ!」

「確か三人ぐらいじゃねぇのか?」

「そんなわけねぇだろ? アイツらはオレの手下だっただけだ」

「えい!! 全然、ひっくり返んないわよ」

「か弱いナミさんもカワイイ」

「なんか憎ったらしいヤツの顔でも思い浮かべりゃいい」

「おりゃあッ!!」

「ナミ、スゴいぞ!! 全部ひっくり返った!!」

「誰だ?」

「誰を思い浮かべたんだ?」

「心当たりがありそうじゃの」

「ウソップ、コレどう巻くんだっけ?」

「なんだ、ルフィ? やったことないのか?」

「毎回、サボかエースが巻いてくれた」

「さもありなんだな」

「甘やかし過ぎじゃねぇか? あの兄貴ども」

「でも、結構難しいぞ?」

「結び目をもうちょい近くにもう一つ作りな。それでひっかけるとやりやすいぜ」

「こうかしら?」

「器用だな」

「フランキーも知ってんのか?」

「ちょっとコマの形は違うがな。コイツは理に適ってるぜ」

「ゾロは?」

「オレぁ、あんま興味なかったな。まあ、負けたことはねぇが」

「ウソつけ。こりゃ年季がいるぜ」

「ただの遊びでしょ?」

「だから奥が深いのさ」

「ワシも知らんな。だが、面白そうじゃ。要は相撲じゃろう?」

「ブルックは……」

「ヨホ?」

「どうしたらそうなるんだ」

「オマエはなにを回す気だ」

「なにか束縛されて、ドキドキします」

「するな! ああ、もう貸せ。絡まってんじゃねぇか」

「かたじけないですねぇ」

「よっしゃ!! まずなにから行く?!」

「このメンコのイラスト、ウソップが描いたの?」

「半分ぐらいはな」

「オレも描いた!!」

「オレも!!」

「ウソップのは売れそうな出来だ」

「コイツは、なんか精神が削られていく気がする」

「それは怪獣ドロンゴだ」

「なんで溶けてるの?」

「拷問かしら?」

「威嚇というより、苦しみのたうっとるようじゃ」

「勝つとこれが手に入ってしまうのか」

「呪いじゃねぇか」

「狙いを外せばそうなるかもな」

「ある意味、ルフィが最強だな」

「さて、オレから行くぞ!! ゴムゴムのぉ!!」

 両翼によるインターセプト。

「普通にやれ!!」

「メンコが粉々になんだろうが!!」

「はい。すぴません」

「ベーゴマの前でよかった」

「アイツ自身が床に飛び込んできそうだ」

 

 

「あ、チクショウ。ひっくり返んねぇか」

「力任せに叩きつければいいってもんでもねぇよ」

「やっぱり、こういうのはウソップが強いな」

「意外なのはナミじゃな」

「ああ、初回に全部ひっくり返されたあげく、戦利品である自作のメンコをゴミ扱いされて真っ白な船長を生みだすぐらいだからな」

「容赦ないのう」

「あっちの医者とホネと謎めいた美女の組は平和だな」

「字面がホラーだがな」

「確かに」

「メンコはもういいだろ? 我らが剣士殿の実力をそろそろ見ようぜ」

「うるせぇな。ブランクだよ、ブランク」

「その減らず口がいつまで続くか見ものだぜ。さぁ、行け!! ウソップ!!」

「やられてわかるが、意外と腹立つな」

「いいじゃねぇか。頼りにされてよ」

「なんか弱い者イジメみたいでな」

「あ? 上等じゃねぇか!」

「こりゃ観戦してた方が面白そうだな」

「ワシは挑んでこよう。体験してみたい」

「ククク、フッフッフ、アーハッハッハ!!」

「どうした、フランキー?」

「ついに脳がショートしたか?」

「スーパーだぜ! こんなこともあろうかと開発した、我が自作のベーゴマの威力!! 試すときがきたようだな!」

「そ、そいつは?!」

「わかるのか、ウソップ?」

「オレのファクトリーでは扱えない鉄で作ったベーゴマだと?!」

「卑怯とは言うまいな? これが大人の力だ!!」

「オノレ!! それでもオレは負けない!! 勝負だ!!」

「そりゃ!! ヨシ、上手く乗った!!」

「やっぱ、口だけじゃねぇか」

「お、ワシのコマが!」

「最初はフランキー対ジンベエか」

「フハハ、我が力の前に平伏す、ナニぃ?!」

「そりゃ鉛の方が重ぇもん」

「しまった?! そんなことが?!」

「なんか知らんが勝ったわい」

「お、接戦だな、意外と」

「鉛じゃ地味だからな。鉄だと火花が散ったりするんだよ」

「じゃあ、次はフランキーのでやってみるか」

「ま、順当にウソップの勝利だな」

「オレが、負けた」

「落ち込んでねぇで次だ、次。今度はオレもやるぞ!!」

「全部まとめて吹き飛ばしてやるぜ!!」

「次は負けねぇ」




凧揚げとかもするのかね?


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船長の仕事

あるの?


 ルフィの仕事は帆の操作。ゴムの機動力と射程を活かして、素早く折り畳んだり、広げたり。

 風との戦いではとても便利な能力だ。遊蛇海流ほどではなくとも、一体どこから来たんだという海流や波と戦う操舵も、推進力なくしては空回り。危険度に合わせてナミが指揮し、ウソップが監視と補助をする。その間を飛び回るのはルフィが一番だ。

 常に順風満帆とはいかない航海。実は忙しい船長である。

 もちろん、ときたま航海士なんかは自問自答するし、船長の働きを褒める狙撃手を見て首を傾げることもある。

 それは船長の仕事なのか、と。

 まあ、海賊なんて素人の集まりである。これがウチのスタイルと納得はしている。実際、こんな少人数なのがそもそも非常識なのだ。そして、船長は非常識の塊である。

 突っ込むのも疲れる。

「ルフィ、ちょっと変な海流に捕まったから、今日は夜通し航海よ」

「ん、わかった」

 もっとも、こうした報告はまずキチンと船長に行く。指示はするが、それは船長をたてた上でだ。

「サンジ〜! 弁当〜!!」

「なんでだよ?!」

「不思議海流に乗ったから、今日は徹夜だ!」

「それを先に言え。わかった。問題なく用意しとくよ」

「えーと、今日の当番は?」

 言いながら伸びる手を撃墜する。

「盗み食いはダメだって言ってんだろ。当直前にも腹ごしらえが出来るようにしとくから、さっさと知らせてこい」

「わかった」

 単なる伝令かも知れない。ちなみに、サンジはちょっとだけくれた。

「ウメェ」

 

 

「ヤード新しいから気をつけてくれ。なんか違和感があればすぐに言えよ」

「わかった」

「で、よ。オマエかジンベエがいれば洗濯が楽になるかもしれねぇ機構を思いついたんだが、乗るか?」

「いいぞ。なんかいるか?」

「今のところはなんとかなりそうだ。ダメそうならまた相談する」

「わかった」

 ゾロを除いた全てのクルーに伝達を終え、甲板に戻る。ゾロはどうせ起きないし、起きればすぐに察するし、暇があればトレーニングをする。

 ゾロは怪我の具合によって、トレーニングが制限されることがある。オーバーワークすれば、船医が船長に泣きつく。

 要請を受けた船長の命令で、たいがいブルックかナミが寝かしつける。ある意味でもっとも船長権限が輝くときかも知れない。

 一緒に眠らされなければ、ルフィはチョッパーの診察からベッドに寝かせるまでを黙って見ている。クルーはそれを邪魔しないし、今回のようなときにゾロが除外されていてもなにも言わない。

「いって来たぞ。それから、フランキーがなんか開発したいって」

「お金になるんでしょうね?」

「知らねぇけど、洗濯が楽になるってよ」

「ふーん。許可は出したんでしょ?」

「オウ。好きにしろって」

「なんならウソップも巻き込みなさい。必要なものは用意するから」

「いいのか?」

「あんたが船長でしょ?」

「ありがとな! ナミ」

 盛大にタメ息をつく航海士の内面はわからないでもない。

 

 

 夜になるまで時間がある。帆はフォアとメインのスルを畳んで、縦帆だけで航行中。サニー号の主要推進力であるため、むしろもっとも操作性の高いこの帆は、クルーの誰でも一人で動かせる。

 スループの定石ならフォアと船首を繋ぐこのジブが後ろにあることで、スパンカーのようにも使えるし、ミゼンとしても使える。少人数で運営する麦わらの一味のためにあるような工夫だ。

 おかげで順番の早いものから仮眠に入る余裕もある。だから、船内は少し静かだった。

「寝てなくていいのか?」

「あんま眠くねぇ」

「そんなこと言って居眠りすんなよ?」

「大丈夫だ」

 人数分の弁当に具材を詰め込むサンジを眺めながら、ルフィは珍しく大人しくしていた。

 目の前に食べ物があってもヨダレを垂らさないのは、飢えてないから。どこかと戦闘しているならともかく、日常でそんなことをこの料理人が許すハズもない。

 それでも、日々戦いだが。

 ただ、冒険と同じぐらい楽しみにする弁当を前に、ルフィがワクワクを表に出さないのは、他に興味があるからだろう。

 誰かにメシを用意するサンジがご機嫌なのも、鼻歌交じりなのも珍しくはないが、船長には奇異に映ったらしい。

「なんか最近、機嫌いいな?」

「オレか?」

「よくわかんねぇけど、嬉しそうだ」

「んー、まあ、わかっちまうか。まあな」

「いいことでもあったのか?」

「別に確信があるわけじゃねぇよ」

「でも、嬉しいんだろう?」

 本当に自信はないのだろう。ちょっとだけ迷い、それでも耐えきれないようにニカッと笑った。

「クソジジイの言ってたことが、最近、実感出来たんだ。オールブルーは可能性だ。夢じゃないってな!」

「へー! なにを見つけたんだ?」

「別に見つけたわけじゃねぇ。まだ、可能性だしな。でもよ、荒唐無稽な夢物語なんかじゃないぜ? このグランドラインならあり得るのさ!」

「教えてくれよ! どういうことだ?」

「ワノ国ってのは一応は一つの島だろ?」

「うんうん」

「だが、レッドラインみてぇに、場所によって季節が違っただろ?」

「そうだった!」

「魚には旬がある! ウソップが好きだろ?」

「オウ! 秋のサンマ!!」

「ワノ国なら一年中食えるんだよ!! これだけでもスゲェ!!」

「スゲェ!! 食べ放題だ!!」

「もちろん、それだけじゃダメだ。ワノ国の特産品は穫れても、全ての海の魚は獲れない」

「うーん、そうだな?」

「でも、そんな島がいくつも集まる海域があったら?」

「おお?」

「きっとある。あるぞ! オールブルーはあるんだ!!」

「はー、それで喜んでたのか?」

「確信はないって言ってんだろ? でもよ、多分、オレと同じなにかを、ジジイも感じたんだ」

「あのおっさん、ワノ国まで来たのか?」

「そりゃわからねぇ。もしかしたら、他にもそんな島があったのかも知れねぇし」

「じゃあ、他にもきっとあるな」

「だろ?」

「サンジはオールブルーを見つけたらどうすんだ?」

「さあな? レストランでも建てるか? 客なんか来そうもねぇが」

「オレは行くぞ?」

「じゃあ、まずはオマエにゴチソウしてやるよ」

「マジか?!」

「約束だ。四つの海をまるごと食わせてやる」

「スゲェ!! スゲェぞ、サンジ!!」

「きっとオマエでも食いきれねぇぞ?」

「そんなわけあるか! オレは海賊王になる男だ!!」

「食い気でなるんじゃねぇよ、そんなもん!!」

「じゃあ、勝負だな?」

「オマエの胃袋と? 急に負け戦な気がしてきた」

「そんなことねぇ!! サンジは絶対に腹いっぱい食わせてくれる!!」

「勝つ気があんのかよ?」

「オレは負けねぇ」

「そうかよ」

「約束だぞ、サンジ?」

「ああ、オールブルーを見つけたらな」

「早く見つけろよ」

「調子に乗るなよ? このウスラトンカチが」




あるといいね


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男子事情

リクエスト?
公式三つ目の棚


 夜のくじ当番がたまたま、女性二人になった。一応は待機ということで、男部屋に集まった野郎ども。

 女っ気なく、この聖域に全員が揃うのは珍しい。そして何故か誰も寝ていなかった。

「流石にフランキーとジンベエが並ぶとデカいな」

「なにげにブルックも長いからな」

「そうだな。高いとか細いじゃなく、長いだよな」

「どういう意味でしょう?」

 本人たちもわからない。ただ満足である。

「誰も寝ねぇのか? チョッパーは大丈夫か?」

「昼間寝たから大丈夫だ」

 壁に背中を預けたゾロの膝の上で、なにやら医学書を見ながら答える。

 どことなく、居心地の悪い空気があった。暇つぶしにゲームをしようと言い出すわけでもなく、話題がポツリポツリと消えていく。部屋の角に、サンジがいたからだ。

「グフフ、ワノ国の美女ってのは色っぽいな〜」

「邪な雰囲気じゃ」

「ブルックはいいのか?」

「ええ、今は生の気分です」

「生ってなんだ?」

「遠慮しろよ」

「今頃、お二人は仲睦まじくカラダを寄せあっているんでしょうか?」

「それは生なのか?」

「斬るぞ?」

「ナミとロビンは仲いいからな~」

 船長に視線が集まり、ホネがちょっと浄化された。

「男が集まっても猥談って雰囲気じゃねぇな」

「エロガッパは一人で十分だ」

「サンジ、それおもしれーのか?」

「あ? まずは見てみろ」

「なんなら、見慣れてんだよな」

「バカだな、ウソップ。なんの遠慮もなく眺められる女体と、我らがご神体たるナミさん、ロビンちゃんを一緒にすんじゃねぇ」

 部屋の隅に三人で固まる。女性陣にはナイショで、公然たる料理人のロッカー。その新たなコレクションが、クルーに披露された。

「ジンベエ、禁欲はあんまり体に良くないからオレに言えよ。医務室使っていいからな」

「そうなのか? ワシはこの歳じゃし、あんまり苦労はないんじゃが」

「歳ったって、まだまだだろう」

「そうですよ。むしろ、男盛りでは?」

「うむ、どう声をかけたもんかの?」

 励ますように、煽るように白い歯を煌めかせるサイボーグと、キリッとした表情を作る骨格標本。どちらもそうしたことには無縁なようで、そうでもないというか。

「戯言だ。気にすんな」

「むしろ、テメェはどう処理してんだ? 筋トレのやり過ぎで勃たねぇか?」

「元気いっぱいだよ。言わせんな」

「ヨホ! 羨ましいですね~」

「オマエは、いや、いい」

 文字通り、第二の人生を歩む音楽家が楽しそうならそれでいい。剣の勝負とは違って、踏み込んでも勝てない。

「俺やアホコックはアレだ。心配なのはアイツらだ」

 明らかに妖しい雰囲気を垂れ流している料理人に比べれば、無関心な背中。片一方はそれなりにはしゃいではいるが、隣と比べればあまりに健全。

 不思議である。どうにも納得がいかない。

「どっちも異常はないぞ?」

「じゃあ、なんなんだ?」

「さぁ? オレは季節で発情するから人間の感覚はわかんないし」

「まあ、そういうのが薄いヤツもいる。アイスバーグも若い頃からそうだった」

「へぇ? モテそうなのにな、あのおっさん」

「兄弟分が色男だと、苦労する。おかげで色々経験は積めたがな」

「わかる。ワシもそうじゃ」

「へぇ~、ジンベエこそモテそうだがな」

「おや? 良いのか?」

「取られた」

 部屋の隅では女性のあられもない姿を題材に、なにやらウケまくっている二人。

「なんなんだ? アイツらは」

「気にすんな。興味がねぇのさ。それより、ジンベエだ」

「といってもな。ソイツはさっさと身を固めよったし」

「ああ、アイツか」

「ワシはなんならアーロンよりも怖がられておったしの。それより子供の世話が好きじゃ」

「オマエはどうなんだ?」

「どうなんだって言われてもよ。ジジイにレディへの扱いを叩き込まれる前は、アホだったし。それからも、まあ、長続きするような付き合いはなかったな」

「思ったより不器用ですね」

「自覚はある」

「で、ゾロは?」

「あ? オレ? 来る者は拒まねぇよ」

「ウソつけ」

「バカらしくなってきやがる」

「ま、ものの分別がついとるだけじゃろう。むしろ、好ましいと思うぞ」

「ヨホホ! 色男ですねぇ」

「オレは、ミンク族にドキドキした!!」

「アイツらより、よっぽど大人じゃねぇか?」

「レディの扱い方ならきっちり教えこんでやる」

「駆け引きもな!」

「贅沢ですね~」

「ま、まだそんなんじゃねぇけど、家族が出来たらいいなぁ」

「そうだな。出来るといいな」

「応援してやるよ」

「ウン!!」

 ほっこりしたところで、部屋の隅から二人がバタバタと立ち上がった。

「ゾロ! 立って、立って!! ホラ、早く!!」

「なんだよ?」

「フランキーも! こっちに並んでくれ!」

「あぁ? なにをしようってんだ?」

「いいから!! ジンベエはこっち! チョッパーは、ゾロの肩に乗れ!!」

「え? なんだ?」

「ブルックは、どうする?」

「一緒に並べちゃえ!!」

 なんだかよくわからないが整列させられ、なんならポーズを取らされ、服まではだけさせられれば、手にした雑誌を再現したいのだとわかる。

 だが、この面子である。なにが楽しいのかわからず、戸惑いながら指示に従った。

「こんな感じでムキッとしてくれ!」

 どう見てもムチッとしているが、なんとなく筋肉を盛り上げる。すると二人は床にうずくまり、彼らを見上げて言った。

「雄っぱい」

 おそらく、迫力だけなら世界トップレベルのグラビアだろう。

 年長組の顔に影が。両翼のコメカミに血管が浮かぶ。

「アンタらなにしてんの?」

 そのタイミングで交代の時間がやってきた。いつか体験したロギアよりも冷えきった視線が注がれる。

 その足元では笑い転げるバカコンビといかがわしい本。彼らは息も絶え絶えに、伝えた。

「雄っぱい」

 ロビンが口元を抑えて走り去る。ナミは言葉もなく、ただその光景を眺めた。

「貧相なカラダですいません」

「そういう問題じゃねぇ」




よろしいか?


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失くした夢

人知れず夢を捨てた


「なあ、ウソップ。夢ってヤツは遠いな」

「唐突だがわかる。そしてやめておけ。流石に止めるからな」

 サンジの視線の先には、船尾から湯気を吐き出す丸い構造物がある。あの中は今、ピンク色の極楽。

 ナミとロビンが入浴中だった。

「なぁ、ウソップ。オレはもう少しで、あそこに届くハズだったんだぜ?」

「させねぇよ。どうした、オマエ」

「スケスケもギロギロも、オレが手に入れたかった」

「やべぇな。コイツ、下手したら黒ひげみたいになんじゃねぇか?」

「だが、一度は手に入れたんだ。科学の名を持った悪魔を」

「おそばマスクは魔がさしたと言っていいと思う」

 遠い目の先には、ソウルキングと閻魔王が壮絶な戦いをしていて、ジンベエが海水をぶっかけている。

 見た目だけなら大スペクタクルだ。医者も走るし、大工も素早く点検を始めた。

 もしかしたら、今日、仲間が一人旅立つかも知れない。

「確か、戻って来れるの一度だけだよな?」

「あそこが天国だろ?」

「無敵じゃねぇか」

「そう、オレは無敵になれた」

「コイツも斬った方がいいか?」

「これでも正気なんだよ」

 渋々、刀を納めたゾロが歩き去っていく。

「オレは、夢を叶えるために船に乗ったのに!」

「泣くな」

「サンジの夢ってオールブルーじゃなかったのか?」

「今はややこしいから向こう行ってろ」

 不満そうに観戦していた船長も立ち去る。

「怖かった! 人の心を失くすのが!! オレは、どんなバケモノになっても、人の道を外れた外道にだけはなりたくない!!」

「なんだったら、あのスーツ再現してやろうか?」

「マッドはやめろ。誰も幸福にしねぇよ」

 納得したように、フランキーも消えていった。

「だが、同時に思い出した。あの日の誓いを」

「いつのことじゃ?」

「あ、いつでも海に叩き込めるようにしててくれ」

 ジンベエが腕を組んで、後方待機する。

「なにかの力を借りるんじゃない」

「去勢するか?」

「もう少し経過を待とう」

 チョッパーは準備を始めた。

「夢は自力で叶えるものなんだ!!」

「ええ、サンジさん!! ともに力を併せましょう!!」

「コヤツ、いつの間に復活を?!」

「バカ、ジンベエ!! ちゃんと拘束しておかないと!!」

「仲間じゃぞ?!」

「関係ねぇ!!」

「鎮静剤が刺さらねぇぞ?!」

「ムダにパワーアップしやがって!!」

「もはや、誰もオレたちを止められない!!」

「やめろォ!! また鼻血で死にかけるだけだ!!」

「そんなことなどとうに承知!! ロマンを追いかけるのに生命の計算をするバカがどこにいます?!」

「紛れもないバカじゃ!!」

「必殺!! 捕獲星!!」

 航海に反乱はつきもの。

 男たちの夢は、今日も無惨に破り捨てられていく。

 

 

「アレ、放っといていいのか?」

「いい鍛錬じゃねぇか?」

「ゾロ、風呂入らねぇ?」

「オマエ、悪いヤツだな?」

 踏みにじられている。




戦いは虚しい


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忍もぢずり

修行回


「ワノ国の衣装って、外じゃ使えないわね」

「そんなこともないと思うけど……」

「ちょっと歩き方に工夫がいるのよね。あんまり動きやすくはないわ」

「淑やかでステキだ」

「胸も抑えなきゃだから苦しいし」

「止めよう。いつものナミさんがステキだ」

「でも、染も布もよいものよ?」

「ウソップに仕立て直してもらおうかしら? まあ、ワノ国の品なら高く売れるかもね」

「着るのも脱ぐのも楽でいいんだがな」

「アンタじゃないんだから、ワタシは剥かれて喜んだりしないの!」

「オレだって喜んではいねぇよ」

「どうだか?」

「襟を立てねぇと粋にはならねぇぞ」

「面倒くせぇな」

「その点、法被は派手で面倒がないぜ?! 袂が広いんでオレの体型にも合うしな」

「ハチマキにしろ、結構似合うわね」

「オウ! ちょいと気に入ってる!」

「ジンベエもそうだけど、カラダがおっきい方が似合うのかしら?」

「そんなことはないと思うが、男はともかく、女物は普段着るにも気合がいるとは思うた」

「そうなのよ! ちょっと着慣れてないと難しいかも」

「普段と違う所作がいるのは間違いないわね」

「ヤマトみたいな袴ならどうだ?」

「あれも走ったりするのに邪魔そう」

「ま、オレは好きに着るぜ」

「オマエじゃなくて、二人の着物姿が見たいぜ」

「さっきは止めようとか言ってなかったか?」

「細かいこと気にすんな」

「で、よ。アレ、どうする?」

「どうするったって飽きるのを待つだけだろ?」

「あんな着せかえで満足してくれるなら平和でいいわ」

「なるほど、オメーらは忍者ってもんを理解してないんだな」

「は?」

 

 

「必殺!! 煙星!!」

「ドロンでゴザル!! ドロンでゴザル!!」

 いつもの隠れてないチョッパー。

「バカ! 消えてねぇじゃねぇか」

「難しいぞ?! ルフィなら出来るか?」

「ヨシ!! ウソップ頼むぞ?」

「必殺!! 煙星!!」

「ドロン!!」

「消えた!!」

「どこだ?!」

「後ろだぁー!!」

「ギャー!!」

「アッハッハ!! ヨシ!! 蝋燭立てたぞ!!」

「ブルック、やれ!!」

「技名言わないと気合い入らないんですけど、ハイ」

 絶妙な手加減のもと、鍔鳴りとともに火の消えた蝋燭が落ちる。

「白装束以外も着てみましたけど、なんか物騒じゃないです?」

「気にすんな。もとからだ」

「すげー人斬りっぽいぞ!!」

「用心棒のブーさん!!」

「ブーさん!!」

「あんまり強そうじゃありませんねー」

「いや、似合ってるよ。あと、オマエはビジュアルだけで十分こえー」

「一番亡霊っぽかったよな?」

「オレはブルックをホコリに思うぞ?」

「光栄ですけど、なんか違う気がします」

「そうだな。オレたちは忍者としちゃあまだまだだ」

「修行か?」

「修行するのか?」

「あ、コレ、ヤバい空気です」

 

 

「ねぇ? チョッパーの姿が見えないんだけど」

「ん」

 糸玉を持ったウソップと、その糸の遥か先を指差すルフィ。

「凧で飛ばした」

「見えないじゃない!!」

「空島に届くかな?」

「はよ助けろ!!」

 その後、泣き喚くチョッパーが救出される。

 

 

「なにやってんだ、テメェら?」

「修行」

「やめろ、水がもったいねぇ」

 真っ裸でシャワーの滝行をする三人。

「ダメだ。オレたち忍者になるんだ」

「トイレでうんこさせねぇぞ」

「なんでだ?」

「水がなくなっちまうからだよ!!」

 サニー号における三度目の禁止通達。

 

 

 操舵中のジンベエの背中に、いくつかの手裏剣が当たる。

「刃物?」

「大丈夫か?! ジンベエ!!」

「ワリぃ!! ルフィがまとめて変な投げ方しやがってよ!」

「背中か? 刺さってないか? ちゃんと診してくれ!!」

「ふむ、大丈夫じゃよ。しかし、投擲術か」

「やっぱ、忍者ならコイツだよな!!」

「シュバババってするんだ!!」

「ホントにワリぃ。次は気をつけるよ」

「なるほど。なら、後でワシが撃水のコツを教えてやろう」

「ホントか?!」

「あの手のひらでババンってやるヤツか?!」

「すげー!! ホンモノの水遁だぜ!!」

「その前にそこに座りなさい」

「ん? なんだ?」

「奥義か? 秘密の奥義をくれるのか?」

「アレ? なんか笑顔がこえーぞ?」

「ホレ、なにをしておる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                正座じゃ」

 

 

 

 

                     




忍者禁止


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犬も食わない

男と女
兄貴分と弟分
ライバル関係
わかり合えないこともある


 ルフィは自分で本は買わないが、図鑑を眺めたり、誰かと一緒に新聞や小説を読んだりもする。

 専門書を読むフランキーの後ろでわかったような顔をするのは得意だし、ブルックとクロスワードを解いた気になるのも楽しんでいる。

 最近はジンベエとロビンの読み聞かせがお気に入りというお子様ぶりである。

 ちなみに、子供に本を読ませる理由の第一位は寝かしつけだったりする。

 いつもは発明家のウソップや、医者のチョッパーが選ぶせいで、ヒーロー物のようなSF寄りの小説を眺めていることが多い。

 しかし、それに感化された三人が変な騒動を起こすことも多かった。なんならフランキーやブルックが悪ノリして協力するし、敵役と認定されたゾロやサンジがマジになって相手をするからだ。

 防げないとわかっていても、人情だろう。平和なファンタジーや女の子向けの物語なんかも、図書室のラインナップに増えてきて、ロビンが嬉しそうである。

 そんな地道な布教のおかげか、今日のウソップファクトリー支部で広げられたのは魔法少女物。

 読んでるときは真剣で大人しいのに、と内心で零しながらミカンの世話をしていると、ルフィと目があった。

「なによ?」

 冷や汗を出しながら、なにかに気がついたかのような顔をするルフィ。そんな目で見られる覚えのないナミは、とりあえず聞いてみた。

「いや、なんでも」

 しかし、返ってきたのは珍しく歯切れの悪い返事。不思議には思ったが、視線も外れたので作業に戻る。

 ウソップもチョッパーも集中している。なのに、ルフィのチラチラが止まらない。

 うっとうしいが、長く生活を共にした仲間である。聞いても無駄だと、考えてみた。

 読んでいるのは昔、自分も見た定番もの。幼い少女が喋れる魔法の杖を相棒に、正体を隠して様々なトラブルを解決していく。主に変身魔法なので、戦ったりはあまりしない。その変身シーンに挿絵がついていて、子供心に興奮した覚えがある。

 懐かしさがこみ上げるが、ちょっと待ってほしい。

 あのなにか重大な秘密でも見つけた顔で、こっちを見てくるバカはなにを考えた。

 ピンっときたナミは、ルフィに歩み寄った。怒られる雰囲気を察したバカは早速、言い訳をする。

「オ、オレはなにも知らねぇ!!」

「ああ、やっぱりそうなのね?」

「ち、違う!! 誰にも言わねぇ!! ナミが魔法少女だなんて!!」

「え?! ナミってそうなのか?」

「だって、魔法の杖持ってる」

「オレ製だがな」

「ええッ?! ウソップって精霊だったのか?!」

「しゃべるし」

「ゼウスな」

「ホントだ?! じゃあ、ナミは変身すんのか?」

「魔法の呪文で?」

「キラッとしてピカッとしてポーズするぞ」

「あれをナミがやんのか?」

 三人の視線が腕を組んだナミに集まって爆発する。三人は床を転げ回って大笑いした。そして、当然のように頼む。

「やって見せて?」

「出来るかぁ!!」

 拳が唸る。

「だいたい、なによ!! バカにして!! カワイイじゃない?!」

「どこがだよ?! こんなナヨナヨして、あっちこっちに星を飛ばすとか、不自然だろ?!」

「そういうもんなの!! アンタたちが好きなヒーローとなにが違うのよ?!」

「バカやろう!! 一緒にすんな!! あれはちゃんとそういう理屈があってだな」

「魔法だって同じじゃない?!」

「魔法なんかこの世にねぇよ!!」

「オマエが言うな!! なんなのよ、あの能力?!」

「自由なオレだ!!」

「意味わからんわ!!」

 ヒートアップする航海士と船長を、狙撃手と船医は黙って見物した。

 

 

 

「オイ、酒くれ」

「食事の時間まで待てないのか? ってかなんだ、それ?」

「そこで取り憑かれた」

 何故かルフィを背負って現れた剣士に、料理人は抵抗を諦めた。

「カウンターに座ってろ。ちょいと摘めるもんぐらい出してやる」

「サンジー、サンジー」

「ああ?」

「チェスマリーモ」

「ブフぅ!!」

「汚ぇな、テメェ!!」

「さ、流石にスマン。だが、似合ってるぞ?」

「また、ボールでも被りたいのか?」

「よお、ルフィ。ゾロがアフロにしたいってよ?」

「ホントか?!」

「しねぇよ!! テメェ、面倒なことすんな」

「おーおー、酒をタカリに来たロクデナシが偉そうな口を」

「あ? 言われた通り出しゃいいだろが。立派なお題目はウソかよ?」

「毒もカミソリも出してやっただろうが!!」

「ああ、旨かった」

「旨かったじゃねぇよ!! なんで食ってんだ?! そこはオレに詫びを入れるトコだろうが?!」

「オレはオマエに頭を下げねぇ」

「なんだ、その拘りは?! オマエには食への感謝が足りねぇ」

「まずは酒を出せ。話はそれからだ」

「酒を出して下さいだろ? 瓢六玉」

「言われたことも出来ないのか? 三流コック」

「上等だぁ!! 今日こそマナーを叩き込んでやるぜ!!」

「表に出ろ、コラァ!!」

 カウンターに座るルフィの前にはちゃんと二人分のツマミがあるが、酒はない。

「元気だなー、アイツら」

「また、ケンカか。お? コイツ食っていいか?」

「ゾロのだぞ?」

「じゃ、やめとこう」

 ルフィですら手を出さないそれを、後でごちそうさました。

 

 

 

「オレは変身トナカイだ」

「ん? まあ、そう、だな?」

「変身するとルフィは喜ぶし、強くなれる」

「確かにあの怪物姿はカッコいいし、強えぇよ」

「なんでサンジは変身してくれないんだろう?」

「そうきたかぁ」

「オレだってわかってるよ。色々、事情とかあるし、サンジの決断だ。尊重したいって思う」

「そうだな」

「でも、なんにも話してくれない」

「そうだなぁ」

「ちょっとショックだったんだ。ブルックはわかってたみたいだけど、ホントに居なくなるつもりだったなんて」

「あー、なんて言ったらいいか」

「そうよ!! アイツら勝手が過ぎると思わない?! なんでもこっちが察してやらないといけないの?!」

「うぉぉ! 突然、入ってくるな!! 今、オレは手一杯なんだ!!」

「はぁ? アタシの話は聞けないってワケ?」

「そうは言ってねぇよ。ただ、順番にだな」

「ゾロはドンと構えろとか放っておけとか言うけど、オレだって力になりたいんだ」

「普通に続けるな! 待て、ちょっと待てよ」

「アイツら、なんなの? ただでさえバカなのに、理解を押し付けられてもわかんないんだけど?」

「ウソップ、オレ、どうしたらいいかな?」

「それをオレに言うな!! いったん、落ち着こう、な?」

「アンタら、男どもは結託してなんかわかった雰囲気出すでしょ!!」

「だって、あの二人に頼むって言われるの、いつもウソップだし」

「いやいやいや、そんなことないから」

「オレもナミもそうだけど、ウソップだって援護の側だろ? オレも頼りにされたい」

「そうよ。むしろ、か弱い乙女なんだから頼らせなさいよ!! こう、アンタたちが察してアタシを甘やかすのよ!!」

「無茶を言い始めたぞ?!」

「なにが無茶よ?! ちょっと、一声かけるだけのなにがそんな難しいの?! 不安にさせて、不満にさせて、それで背中向けたら終わりなの?! 勝手もいい加減にして!!」

「ロビンも頼られて羨ましいぞ?! 頑張ってるのに、オマエらみんな医者の言うこと聞かないし!!」

「悪かった!! 悪かったから!! いや、なんでオレが謝ってんだ? とにかく、落ち着けって!!」

 わーわーしている甲板の影に、その二人はいた。

「言われてんぞ?」

「黙れ。オレは忘れてねぇぞ。スリラーバークの一件を」

「ん? なんだコレ?」

「メモ用紙?」

『ただちに出てこい。バカども』

「さ、仕込みしなきゃな」

「トレーニングの時間だ」

「頼んだぞ。ウソップ」

「そういうのは、オマエの役目だ」

 

 

 

「最近、ちょっと甘やかし過ぎじゃねぇか?」

「あら、そう? この船は自由な気風でしょう?」

「別に厳しくしろとかじゃねぇんだ。ただ、同盟とか色々あったろ?」

「必要な助言はしたと思うわ。アナタこそ、なんにも言わないのはズルいんじゃない?」

「オレが出るまでもねぇだろ。ジンベエも加入したし、不足があったって話じゃねぇんだ」

「じゃあ、甘いのはアナタね」

「オレサマが? 締めるトコは締めてるぜ?」

「そうね。ドレスローザでは、結局、アナタだけで工場をどうにかしたものね」

「そりゃオメー、ドフラミンゴをブッ飛ばしちまったら関係ねぇだろうが」

「でも、そういう約束だったでしょう? それに海軍もいた」

「あの大将なら手を出して、ムチャクチャになった国を、さらに悪くするようなことはねぇだろ」

「あら? 包囲されてたことはなかったことに? それに船大工さんは情報通ね。新しい大将の人柄を知ってるなんて」

「人を見る目があるからな」

「フフフ、やっぱりズルい」

「ズルくはねぇよ」

「いいえ、ズルいわ」

「とにかくよー、もうちょいアイツらに知恵をつけてやれんだろ?」

「ほーら、甘い」

「そうじゃねぇって、誤魔化すな」

 ロビンの膝の上で、フランキーが苦言を零す。

「仲がよいのぉ」

「皆さん若いですねぇ」

 ジンベエとブルックはそれを肴にお茶を飲んだ。




もっとくだらないとは思う


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鬼の居ぬ間に

起きるまで一週間


「しまったな。あと先考えず、潰しちまった」

「オレが持ってきた資料と、アイツから聞いた話から推測しよう」

「面倒だ。だが、ヒントがないわけじゃない」

「鬼ヶ島かこの城に少しでも残ってないかな? 欠片でもいいんだ」

「探させましょう」

「要は中毒だ。パンクハザードのガキどもよりは楽だろ」

「えびす町のみんなをあの時みたいに切り刻むのか? 出来るならいいけど、この国の病巣はそれだけじゃないみたいだ」

「工場の廃液か。そっちも深刻だな」

「ウチのクルーも患者だ」

「なんでこの短い期間に」

「しかも自覚がないんだ」

「バカってスゴいんだな」

「鈍いのか無事なのか、診断が大変だ」

「まあ、仕方ねぇ。言っても無駄なのは理解した」

「トラ男は船長なのに、話をちゃんと聞いてエラいな!」

「比較対象がアレじゃあ、喜べねぇよ」

「なんでだ?」

「オマエ、ウチ来る?」

「トラ男こそ仲間になってくれたら嬉しい!!」

「アイツらの制御役は割に合わねぇよ」

「バカは治らないけど、ダメなら治せる気がするんだ。だから、きっと大丈夫だ」

「きっとの意味がわからないし、仲間になる気もねぇ。とにかく、探すぞ。鎖国してるなら、国内で自給出来なきゃな」

「量も、数も、期間も重要だ」

「しかし、ある意味、悪魔の実の効力を無効化するのか」

「不可能じゃないハズだ。オレのランブルボールはそこに働きかける。なら、逆も出来る」

「不可逆かも知れねぇ」

「それでも症状は抑えられる。どんな悪魔の実も、なにかを変化させることが基本的な効能なんだ。促進出来たんだから、抑制も可能だ」

「なるほどな。それはそうかも知れねぇ」

「なんにしろ、科学で生み出されたんだ。どんな形であれ、解決方法は見つかるハズだ。ウチの船長は、神だってブッ飛ばしたんだ。オレは悪魔ぐらい制御出来ねぇと」

「船長はともかく、オマエはいい医者だな」

「トラ男も、外傷の処置はスゴい勉強になったぞ。ルフィの胸の傷も、二年前じゃ手が出せなかったかも」

「まあ、これでも外科医だ」

「ウチのクルーは病気とは無縁だから、やっぱりトラ男の方がいいのかな?」

「馴れ合うな。この島を出たら敵に戻る。オマエがちゃんと医者をしろ」

「無理だぞ? 敵になったぐらいで、ルフィから逃げるのは」

「なんなんだ、オマエの船長は」

「世界で一番自由なヤツ?」

「ワガママっつうんだ」

「でも、たいがい、船長ってそんなもんだろ? マムもカイドウもそうだし」

「オレは違う」

「え?」

「心底、不思議そうにこっちを見んな!」

「キッドと合わせて、似た者同士だぞ?」

「一緒にするな!!」

「え?」

「だから、その顔やめろ」

「なあなあ、ここで別れるならペン交換しないか? それ、ベポか?」

「ダメだ」

「じゃあ、ウソップに見せてくれよ。多分、作ってくれるから」

「なんなんだ、オマエの一味」

「自慢の仲間だぞ!!」

 万能の男が困惑する万能さ。

 

 

 この国にはちょうどもう一人、名高い医者がいる。

「慢性疾患の治療かよい」

「一応、経験はあるだろうと思ってな」

「人がいいな。この国にゃ縁はあっても、義理はないだろうによい」

「でも、出来ることならしたいんだ」

 そう言って見上げるトナカイを抱き上げ、肩車するマルコ。あまりに自然なお父さんムーブに、ローがびっくりした。チョッパーは、違和感すらもてない。

「治療法も大事だが、まずは治療院なり療養所なり、腰を据えて患者の面倒を見れる施設が必要だよい。長期治療なら、医者が生活を管理しねぇと」

「そうか! みんな言うこと聞かないもんな!」

「逃げ出す患者を閉じ込めるんだな?」

「物騒だな。苦労してんのはわかったが、そういうことじゃねぇよい」

 心当たりがあるのか、楽しそうに笑う。

「長い治療ってのは、その間きっちり面倒を見てやらないといけねぇ。そのための体制は、費用から研究まで全部纏めちまうのがいい。オマエらもナワバリを持つようになるとわかるよい」

「なるほど。どうせオレたちはこの国を出る」

「薬だけ用意してもダメなんだ」

 ちょっと落ち込んだ様子を見せる若い二人。こんなもの躓きでもなんでもないのに。

「その辺は新しい将軍に任せるとして。どんな症状なんだ?」

「心配してた重金属中毒は少なかったんだ」

「この国の鉱山は質がいい。余計なもんは混じってねぇし、なにより技術が高い」

「問題はスマイルだ」

「ああ、ひでぇもんだ」

「人造である以上、なんとか出来ると思うんだ」

「トニー屋も薬である程度、手を加えてる」

「急ぎ過ぎだよい。まず、病変はどこなんだ?」

 不意を打たれたような二人。人造とは言っても悪魔の実。症状をただ現象として扱っていたことに気づく。または、原因物資から逆算しようとしていた。

「スマイルは体の一部を動物に変えるだけで、オレらみたいに好きに変身出来るわけじゃない。悪魔の実が起こす現象ってのはロギアに限らず、ある種の流動性があるんだよい。それが不完全なせいで固定化されてるなら、感情表現の固定化も似たメカニズムかもな」

 診察によってデータを集め、そこから仮説を立て、検査によって確定する。内科診療の基礎だ。マルコは現場主義の職人型だが、この二人は研究者タイプかも知れない。

 どちらがどうということもないが、そもそも内科は経験がものを言う。今回は時間がない焦りから、得意に流れたのだと思う。

「なんらかの麻痺と考えるには、たるみや不自然さもない。感情そのものは変わりなく存在する。だが、感情とは関わりなく、常に笑顔。カナヅチみたいに筋弛緩を伴う特殊な条件反射とも違う。単純な自律神経の失調ではないよな?」

「大脳基底核を調べるべきだな」

「笑いの発作だと側坐核だ。あそこが興奮状態だとそうなるって論文で見た」

「なんなら外科的に解決可能かもしれねぇ」

「だから、急ぐなよい」

 ちょっとしたヒントから即座に仮説を組み立てていく二人に、笑いながら冷水を浴びせる。

「治療ってのは技術だ。オマエらだけが出来ても、オマエらしか救えない。そして、この国の人間を助けたいのは、オマエらよりもこの国の人間だろうよい」

 不満そうな顔を見せるが、マルコは気にしない。

「ゆっくりやるしかないんだよい。オレら医者にとっちゃ、毒も薬も同じなんだ。一つずつ確かめて、そうやって積み重ねないとクイーンみたくなっちまう。どうだ? 安易にバラまいたウィルスと薬。どっちもヤバいだろう?」

「それは」

「だが、オレの能力なら時間を短縮出来る」

「じゃあ、助けてやんな。あんまり欲張るなって言ってるだけだ」

「そうだな。ちゃんと臨床もしないとな」

「ワリぃな不死鳥屋。少し、焦ってた」

「取り戻してやるのは、健康とか以前の生活だ。治療ってのはそのための方法でなきゃいけねぇ。年寄りの説教じみた話が役に立ったってんなら、嬉しいよい」

「とんでもねぇ。流石の見識だ」

「マルコはスゴいな!! これだけでだいぶ進むぞ?!」

 どっちも育ちがいいなとは口にしなかった。チョッパーを手渡しすると、受け取った後に疑問を覚えていて笑った。

 あれこれ議論しながら去っていく新時代を見送る。

 ついに、自分の手では果たされないものを思いながら。




締めが気に入らないので加筆修正


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麦わら一味の日常

それじゃ


 

 

 いつもの習慣通りにサンジが目覚めた。パジャマ代わりのダルダルTシャツに手を突っ込んでボリボリしつつ、あくびをする。

 半開きのままの目を部屋へ向け、なにをどうやったらそうなるのかという寝相の船長と狙撃手の姿を確認すると、意味が分からなすぎて目が覚めるような気がする。

 ボンクから抜け出し、洗濯はしたが仕舞ってはいない服に鼻を近づけた。適当過ぎて、それがルフィのなのかウソップのなのかは謎である。しかし、ゾロのでなければ気にしない。

 多分、これがオレのだと目星をつけて着替え、手にしたパジャマと共に洗面台へ。

 顔を洗い、ヒゲを整え、歯を磨き終えると、後ろにブルックが立っている。

「おはよう」

「おはようございます」

 まだシャキッとしないあいさつに、いつもの声で返事がある。マジで生命活動そのものが不思議なので、ちゃんと寝ているのかどうなのか。骸骨の顔色がわからないので、声まで普通だと睡眠の残滓が見えない。

 余計なことは言わず、場所を譲れば、いつものドレススーツを整えはじめた。

「先、行くぞ」

「ハイ、お待ち下さい」

 キッチンに入れば、流石にスイッチも入る。夜のうちから寝かせたパン種と生地を出し、米を研ぐ。

 その間に現れた音楽家が、静かにヴァイオリンを奏でる。なんとなく、パンの味が良くなるからだ。

 研いだ米には水を吸わせ、生地を捏ねる。ヴァイオリンのリズムと溶けあわせながら、慣れた手つきでアクロバティックなことをするのは、二人きりなのがもったいないようでもある。

 再び丸めた生地をいくつかにわけて、サウナぐらいに温めたオーブンにぶち込み二次発酵させる。沸いた湯で紅茶を入れて、演奏中のブルックの前に。自分はデッキでタバコの火をつける。朝の爽やかな空気に、紫煙が溶けていった。

「ロビンちゃんのために、サイフォンでも頼むかな」

「どうでしょう? ドリップの方が美味しいのでしょう?」

 傍らに立った音楽家は、仕草だけなら貴族のようでもある。油断すると下品なことをしてぶち壊すが。

「やり方とか好みだが、図書室に設置してあげたら喜ぶかも」

「問題は火種でしょうか? 水は上階から取れますし」

「難しいかな?」

「言ってみるだけならタダですよ」

 朝の時間の静けさを知るのは、二人だけだ。誰かが目を覚ますだけで、船は賑やかになる。寂しいような、暖かいような貴重な時間は、タバコの灰が落ちきれば終わる。

「では」

 音楽家がヴァイオリンを肩に乗せると、料理人も仕事に戻った。優しいメロディに、作業の音がリズムで加わる。

 そんな聴き応えのある音楽で、考古学者が目を覚ます。隣の幸せそうな寝顔をしばらく眺めて、静かに、だがテキパキと準備をする。

 最低限のケアと髪をまとめて部屋を出ると、音楽家と笑顔のあいさつを交わして食堂に入った。

「サンジ、おはよう」

「おはよう、ロビンちゃん。今日はコーヒーだけかい?」

「ええ、いつものように」

 紅茶を淹れたときとは比べものにならないぐらい恭しく、丁寧にドリップする。その大げさなアピールをコロコロ笑いながら、待つ。大仰に見えようが雑に見えようが、腕は変わらないのだ。

 それが女に対して誠実なようで不誠実なのは気づいているのか、いないのか。とても楽しい時間だ。

「さあ、どうぞ」

「いただくわ」

 基本、ブラックで飲むロビンのカップにスプーンが付いているのは、そこに一欠の黒砂糖を乗せてあるから。朝を食べずに過ごす彼女の習慣と、健康を気にする船医と料理人が見つけた小さな妥協点。

 その日はそのまま口に入れた。甘過ぎないが、一気に口の中が活性化して、確かにスッキリと目が覚めた気になる。それをコーヒーの苦味で抑えて、サンジの作業を見守る。

 レタスの玉をバリッと割る音、水を切る音、包丁の音、なにかをかき混ぜる音。外から聞こえるメロディラインを伴奏に、パーカッションが主役の空間は、静かではないが落ち着きがある。

 ロビンはゆったりとくつろぎながら、それを独り占め出来る時間を楽しんだ。

 船尾方面は優雅だが、そろそろ船首側が騒がしくなる。船医が起き出して、寝ているヤツらが大人しいうちに診察をしているのを、剣士がからかったり、逆らったり、適当に返事して怒らせるからだ。

 その上では、やはり目を覚ました航海士が、髪にブラシをしながら悪態をついている。

 部屋を出たゾロは芝生の上で体を解す。

「おはよ、ゾロ」

「おあよう」

 背伸びしたままの中途半端な返事を早足でやり過ごし、展望室へ身軽に登る。

 今日は時間通りにニュースクーがいた。来ない日も遅れる日もあるが、マケてもらえたことはない。所詮、鳥。彼女の美貌は通じない。代金を渡してとりあえず、ざっと見る。世界は物騒だ。

 朝の観測結果と予報を記録し、ログポースを確認してマストを降りて行く。なんとなく喧騒の中へ戻っていくような感覚がして、男部屋からルフィが飛び出してきた。

「待て待て待て待て!! そりゃオレのだ!!」

 後ろから転げて出たウソップの言う通り、ポケットを増設した専用のオーバオールをルフィが着ている。いつもはまとめているモジャモジャがそのままなぐらい慌てていた。

 経緯はわからないが、仲のいいことだ。どいつもこいつも似たようなシャツを着回しているので、頭の色とかで見分けている。

 仲良すぎて気持ち悪いとか、怪しいとか失礼なことを考えているが、シリーズものをまとめて買い与えたのはナミだ。そして、それに素直に従う男たち。不本意だろう。

「おはよう」

 あいさつとともに食堂へ入ると、思い思いの返事が返ってくる。ウソップに連続チョップを叩き込まれている船長は、返事の前に飲み込んでほしい。汚い。

 バケットに積んである数種類のパンやサンドイッチ。茹でたり、焼いたりした卵。サラダにウィンナーにベーコン。牛乳からフレッシュジュースまで。

 どこかの高級ホテルと見紛うが、海賊船の朝食である。しかも、ほとんど残らないことを考えると、ため息が出る。

 机に新聞を置いて、適当にとりわける。いくつもある目玉焼きだけは、好みのものを慎重に選び出した。男たちは細かいくせに、気遣いがないのでそれだけで多様な目玉焼きに気づいていないか、気にしていない疑惑がある。

 文句を言ったら「変わらねぇじゃねぇか」だそうで、殴っておいた。変わるから好みである。

「それとって」

「コイツか? ほらよ」

 一人、偉そうに机で食べる剣士からオレンジソースを受け取る。本来はドレッシングだろうが、好みなのだ。心の広い自分は、デリカシーのない言動でも許してあげるが、この件に関して嘲笑ったことは許してないので一応、睨みつける。剣士も覚えているのか、視線をそらした。握った弱みは機能している。

「どうだった?」

「いい天気よ。風だけはわかんない。今日は忙しいわよ」

 狙撃手の疑問に答えると、早速、段取りを話しはじめた。フォアをルフィとウソップ。メインをゾロとサンジとチョッパー。ナミは屋上デッキか展望室で指示。ブルックはクルー間の伝達を音楽などでサポートする。ロビンは操舵側でフォロー。

 当然、かけ声もあげるが、右舷のメロディが続く限り引っ張るとか、そうした、どれぐらいどうするのかがわかりやすい。

 普通の海賊船なら太鼓や笛を使うが、麦わらの一味ではヴァイオリンなのだ。なんだか力も湧くし、楽しい。それだけに海の生物が寄って来たりもして、腹まで膨れる。いいことずくめだ。

「それでいいか、ルフィ?」

「いいぞ」

「昼飯は弁当か?」

「多分だけど、途中でメインの横帆は畳むことになると思うわ。ウソップが風を読んで、推進力を確保して。フォアでの調整はワタシが指示する」

「じゃあ、そのときはそれで」

「オレサマに任せな。どんな風も捉えてみせるぜ」

「なら、オレは手早く食えるものを用意する」

「頼んだぞ、サンジ」

「寝るなよ、ゾロ」

「起きてるよ」

 今、まさに寝ていたようだ。

 やがて、フランキーの「スゥ~パー!!」のかけ声と、ザブンとジンベエが水浴びに出かけた音がする。わかりやすい。

「アウ!! オマエらおはよう!!」

「おはようさん」

 二人が揃うと、流石に迫力がある。だが、部屋が狭いとは感じない。フランキーが新聞を手に取り、コーヒーを注ぐ。目は新聞に向けたまま、器用に取り分けてソファに座った。皿を電伝虫台に置くと、バサッと新聞を広げる。サラダは電伝虫のエサになった。

「毎回、目移りするのう」

「なんか好みがあれば遠慮なく言えよ。その方が助かる」

 一般的にはそうなのだが、本当にそうだろうか。もっとも、何度もフライパンを振ることになる目玉焼きなんかは、完全にサンジの楽しみである。均一でなく、色々なやり方で焼いても誰かの好みだし、外れていたからと食べないわけでもないのだ。飽きが来なくていい。

 逆に言えば、サンジが飽きるぐらい焼く。

「これがウマいぞ!!」

「オレはこいつが好みだ!!」

「こっち!! これが健康にイイ!!」

 迷う隙を見せたジンベエに群がり、あれやこれやとオススメする。皿は山盛り。ジンベエはニコニコとそれに手を付けた。なぜか横から船長も手を出しているが、気にしない。一応、ナミとウソップで叩いておいた。

「さぁ、帆を張るわよ!!」

「オー!!」

 号令一下、仕事が始まる。

「面白いのう」

「あれで覇王色だぜ?」

「男なら尻に敷かれるものさ」

 ロビンが微笑んだ。

 

 

 

 

 

「ヨシ!! 変な風は抜けた!!」

「抜けたー!!」

 船長が両手を挙げて倒れ込む。予報通り、忙しい航海だった。クルーはヘトヘトだ。

 追い風を捕まえたと思えば、なぜか横波が襲ってきて、慌てて舵を切るから、帆もそれに合わせなければいけない。

 そんなことを繰り返すのがグランドラインの航海である。舵を間違えれば波に飲まれるし、推進力を失えば越えられない。

 強固な連携と信頼がなければ成り立たないからこそ、海賊船の絆は深く、仁義は重い。陸にいると忘れてしまったり、数が揃って戦闘員が多くなると薄れてしまう。

 ジンベエでさえ、波と海流を目を皿のようにして読んでいた疲れから座り込んでいる。ベテランにも緊張と集中が求められる。海と風に翻弄されてしまえば、命はないのだから。

 振り返れば、他所ならちょっと慣れた年頃のクルーたちが、危機を乗り越えた達成感に笑みを浮かべている。

 序列を語るつもりはないが、あれがこの一味の中心メンバーであり、この海を越えて来た猛者たちだ。どんなとんでもない敵や、事件を乗り越えることよりも誇らしい。

 魚人だからこそわかる。世界を隔てているのはレッドラインではなく、この海なのだと。

 だからこそ、魚人は深海に隠れ住んだ。

 同じようにヘタり込む考古学者の肩を叩き、芝生の甲板に降りる。まったく、嬉しくて仕方がない。

「ようやった!! 難所を越えたのう!!」

「ジンベエも流石だぜ!! かなりスムーズに行けたんじゃないか?!」

「操舵手ってスゴいんだな?! あんまり危なくなかったぞ?! 危なかったけど!!」

「ニシシ、まあ、当然だなぁ」

「コイツ、確かにジンベエだけはなんか能力採用っぽいけど、そりゃオマエの手柄じゃねぇぞ?!」

「オレたち、オモシロ採用だもんな?!」

「違ぇよ!! ジンベエには戦争のときに助けてもらったんだ。オマエらが知らないこと、いっぱい知ってんだ、オレは」

「バカ言うな!! 肩並べて戦ったんだから、知らねぇことなんかあるか?!」

「ジンベエはいいヤツだぞ?! ちゃんと知ってる!!」

「じゃあ、勝負すっか?!」

「望むところだぁ!!」

「負けねぇぞ?!」

「ワッハッハ!!」

 この気軽さがたまらない。なんでもないように、楽しそうに死線を越えていく。冒険とはこのようなものかと、この歳になって初めて知った。

 背後にユラリと影が二つ。

「慕われてるわね」

「うらめしい、違った。羨ましい」

 怖い。

「ハイハイ!! 油断しないの?!」

 疲れも見せず、航海士が手を叩く。無神経なブーイングに拳で反撃して、空を指す。

「風はいいけど、今度は天気が怪しいわ!! 午後からも、気合い入れなさい?! じゃないと夜寝れないわよ!!」

 美容のため、猫の額のようなグランドラインの安定海域に停泊しようとする航海士が無茶を言う。だいたい、それがどこにあるのかという話だが、カンで行ける。

 そのせいか、この船はとんでもなく船足が早い。逆なような気もするが、そうとしか考えられない。運さえよければおかしくない範囲だが、実際に体験すると常識が崩壊する。

 それに応える才能もクルーも常識外れだ。間違いなく、世界一の船に乗っている確信がある。

「あんまり、頼られなくて寂しいんですよねー」

「老いたのでなければ、働けばええ。役に立てることなどいくらでもある」

「元気ですね~」

 その辺りを共感出来るのは、この音楽家だけだろう。経験のなさが、逆に偉業を意識させない。

 若さは意味も知らずに走り抜ければよい。それを支えるのがこの身の使命。気負いがあるかないかだけで、似たような匂いを感じた。酒でも飲めばわかるだろう。クイッと仕草をすると、骸骨が綻んだ。

「ヨホホ、いいですねー」

「付き合うわ」

 なら、なんとしても今日は停泊しなければ。気合を入れ直していると、声がかかった。

「舵に違和感はあるか?」

「ふむ。気づかなんだ」

 船底にこもっていた船大工が顔を出す。あれだけ海を理解する航海士よりも、この変態の方が知っているというのが皮肉な話だ。こんな航海に耐える船を造っただけはある。

「遠慮すんなよ。要望は出来るだけ叶える。オマエ専用でもいいんだ」

「そうなのか?」

「少数精鋭だ。換えが利かなくて当然。なら、存分に腕を振るえ。オレサマはそうしてる」

 もはや、生き様以前の問題で惜しみない技術の化身となった漢が、その白い歯を煌めかせた。

「そうじゃのう。まず、なにが出来る?」

「いいねぇ。ちょいと腰をすえるか。待ってろ」

「なら、アナタも今晩どう?」

「スーパーだ!! なら、そうしよう」

 親指を立て、ワチャワチャしている船長に体を向ける。

「船は問題ないぜ。水漏れも損傷もなしだ」

「ホイよ。ウソップは?」

「ロープもヤードも大丈夫だ。風が安定するなら、ヤードは少し、締めてもいいな」

「じゃ、あとでやろう。とりあえず、腹ごしらえだ」

「時間ないわよ。もう、左舷から積乱雲が伸びて来てる」

「えー?! オレ、腹減ったぞ」

「天気に言え」

「そうだ!! ゾロ、アレやろう、空割るヤツ」

「あ? オマエ、斬っちまうぞ?」

「大丈夫だ。斬られねぇよ」

 ゆらりと戦意を漲らせる。漏れ出る覇王色。チョッパーとブルックが悲鳴をあげ、ウソップがキレる。

「そんなもん、船の上でやんな!!」

「だってよー」

「だってじゃねぇよ!! ゾロも乗んな!!」

「船長命令だ」

「言い訳すんな!! さっきから探してんの酒だろ?! こっち見ろ!!」

 都合が悪いのか、逃げていく。

「とりあえず、頼んでおくから、今は進路だけ修整して」

「ジンベエ、ワリぃけど操舵に戻ってくれ。オレたちも作業に戻る」

「心得た」

「水分は大丈夫か? 水筒は空じゃないか?」

「酒入れてくれ」

「ホントにオマエは!! オマエは!!」

 一周してきたゾロがチョッパーに水筒を差し出す。ウソップがビシバシしているが、気にした素振りはない。

「チョッパー、補充はワタシ行ってくるから、帆は全開にして。それから、順番に休憩しましょ」

「ホラ、酒はそれからだ!」

「よーし!! あとちょっとだ!! 気合入れろ!!」

「オウ!!」

 ゾロだけ鼻息が荒い。一瞬、キョトンとした一味だが、全員ニカッと笑って作業に戻っていった。

「まだ忙しいのかい?」

 ナミが食堂に入ると常に忙しいヤツから心配の言葉を頂いた。

「これから天候が荒れそう。出来るだけ回避するけど、休憩は順番にしてくわ。レインコート準備するから、男部屋入るわよ」

「一杯だけジュースでも飲んで行きな」

「ありがとう。あ、コレの補充もお願い」

 冷蔵庫から数種類のピッチャーを出し、オレンジジュースも氷入りで出す。

 あれこれ指示して乾いたノドに染みる。だが、オレンジ自体の刺激で少し咳込んだ。

「ノド飴だ。オヤツにもどうぞ」

「気がきくわね」

「光栄です、マドモアゼル」

 笑みを交わして、食堂を出る。水筒を投げ渡し、男部屋へ。

 入ると目につく、乱雑とした服の固まりと、雑誌。さっきのやり取りが一瞬でマイナスへ振り切れる。

「えーと、あ、ジンベエはいいのか」

 人数分抱え、二階へ。自分の分を羽織り、ロビンのを持って船首へ登る。

「はい、ロビン」

「ありがとう」

「どう? ジンベエ、変な流れはある?」

「大丈夫じゃ。さっきに比べれば波も素直になってきとる」

「助かるわ。面倒なのよね」

「あの雲を避ければよいか?」

「多分、あれは前線の雲ね。気温と気圧からみて、あれはこれから北に向かって伸びていくわ。風と波が東に変わるから注意して。それまでは全力で進路に進むわ」

「にわかには信じれんが、信じよう」

「ナメないで? 海上なら魚人より航海士よ」

「わかっとるよ。むしろ、楽しみになってきたところじゃ」

 なんのことかと思ったが、ロビンもジンベエもコロコロ笑っている。大したことでもないかと、レインコートを抱え直す。

「じゃ、これ配ってくる」

「ええ、いってらっしゃい」

 さり気なく、張り付いた髪を整えられた。走り出してマストを見上げると、ヤードの調整をしているヤツらに声をかける。

 固くすると遊びはなくなるが、風をロスなく受けて早くなるのだ。

「置いとくから、着なさいよー!!」

「わかったー!!」

「ナミ、ありがとう!!」

「置いといてくれ!!」

 下では、ブルックとゾロでシートを張っている。帆の向きや張り具合を調整するロープだ。ゾロが引っ張り、ブルックが調整して縛る。さり気ないが、手早い。

「ハイ、着なさい」

「すいません。もらいます」

「面倒だ」

「つべこべ言うな!!」

 濡れないことより、体温維持のためである。体がかじかめば、事故も起きる。体力も消耗するし、いいことはない。事前に着ておけるのは、むしろ贅沢だ。

 なんでもなくそよいだ風に、航海士が振り向く。

「あちゃー、やっぱ逃げきれないか」

 ブルックとゾロが顔を見合わせ、そこに航海士が宣言する。

「ま、なるようになるわ!!」

 剣士はしかめっ面で、音楽家は笑っていた。

「そんな気合入れて言うことかよ」

「頼りにしてますよ」

「うん!!」

 戦いはこれからだ。

 

 

夜・大人

 

 

「ツマミはこれでいいか?」

「十分じゃ」

「じゃ、オレはあっち行くぜ」

「ありがとう」

 慰労というのかなんなのか、年上だけで飲むことになった。当然、船長が混ざりたがるが、ノリと勢いで断ってみた。いじけて対抗するかのように、年下組も飲むらしい。

 雨に濡れたのでお風呂大会をして、夕飯も一緒にとって、その場でもそれなりに騒いだ後である。船長の寂しがりは筋金入りだ。

 体格と操舵手がいる関係で、船首甲板に集まり、車座に座る。

 フランキーのおかげかロビンの気遣いか、クッションや椅子もあってなかなか、居心地のよい空間だ。

 視線がジンベエに集まる。

「え? ワシ?」

「他に誰がいるんだ」

「新人なんじゃが」

「だからだろ」

 言いつつ乾杯前にコーラを呷るフランキー。

「まぁよい。待たせたこと、まことあいすまなんだ。海侠のジンベエ、改めて麦わらの一味に加入する!!」

 今さらではあるが、やんややんやと囃し立てたり拍手したりしながら、盃を交わす。意味があるようでない、ちょっとした儀式だ。

「古巣は無事と聞きましたが」

「心配には及ばん。元から奴隷の隠れ蓑。簡単にどうにかなるヤツらではないわい」

「で、自己紹介とかすんのか?」

「面白そうね」

「誰からします?」

「新人からだろ?」

「いじめっ子じゃろ、オマエら」

「否定はしねぇ」

「大変なんですよ、ホントに」

「あら? 他人事?」

「そうでしょう?!」

「まぁまぁ。元七武海、タイヨウの海賊団二代目船長。今は麦わらの一味の操舵手じゃ」

「七武海ってスゴいですね~」

「今や価値はない」

「そう言うな。フィッシャー・タイガーを継いだ男だろ?」

「犯罪者と呼ばれようと偉人に変わりないわ」

「ワシにとっては兄貴分よ。大層な肩書きなんぞ偽りじゃ」

 思うところがあるのか、みなしんみりした。

「オレはフランキー。元、トムズ・ワーカーズ所属。オーロ・ジャクソン号を造船したトムさんの弟子だ。W7でフランキー一家を纏めてた」

 ちょっとジンベエが悪い顔をする。

「劣らぬ肩書きじゃの」

「そうか?」

「師弟で世界を一周する船を造るとか、夢がありますよね」

「一番の抹殺対象ね」

「人のこといえんのか?」

 肩を竦めるしかない。視線を集めたついでに、胸に手を当てる。

「ワタシは考古学者、ニコ・ロビン。オハラの生き残りで、元バロックワークス副社長よ」

「そのバロックワークスというのが?」

「ええ、七武海クロコダイルが設立した秘密結社」

「そして、オハラか。歴史の重みはわかるつもりじゃ」

「魚人も無関係ではないわ」

「一応、この船の目的でもあるんですよね?」

「どうなんじゃろう?」

「たまたま、そうなだけみたいね。ルフィにとっては」

「笑い話なんだろ? ぴったりじゃねぇか」

「楽しみよ」

 それがなんなのか。互いに思いを馳せる。

「オチとしてはお恥ずかしい限りですが、元ルンバー海賊団船長代理、ソウルキング、鼻唄のブルックと申します」

「どっかの国の護衛隊長だったんだろ?」

「まだ秘密がありそうよね」

「ありませんよ!! 肩書きだって代理なんですから!!」

「壊滅した海賊団じゃったか。しかし、時代で言えばロジャーより前じゃろう?」

「世代じゃなくて、ね」

「巨人にも現役いるか? 存在が奇跡っつーか、悪魔の実っつーか」

「手配書を見た?」

「ありゃチラシだぜ」

「ワシは知らなんだが、スゴいことなんじゃろうな」

「生きてると色んなことがあるんです」

「ありすぎじゃ」

 一笑いが起きて、酒が進む。

「みんな組織を率いた経験があるのか」

「チンピラの世話してただけだぜ」

「この前、記事になってたわよ。下請けというより、立派な仲介業者になってるみたいだけど」

 新聞はフランキーも読んでいる。知らないはずがない。実際、目をそらしている。

「どうやら自慢の部下たちなようで」

「早速ね」

「おや? ヨホホ!」

「まあ、今は気楽な船大工だ!! 上の苦労なんざ知らねぇな!!」

「ワシもじゃ。今思うと、性に合わんことをやっとったもんじゃ」

「音楽だけしてればいいんですからね!! いやぁ、楽ですね~」

「ウソつきばっかり」

 若いヤツらのサポートをしてやりたい大人たちである。なんなら、戦後も見据えて余力を残しておきたい。

 直近では軍勢を押しとどめ、幹部や巨人を仕留めた彼らだが、一番に余裕があったのはブルックで、襲撃の段取りでもっとも活躍したのは、控えめに笑う放任主義かつ、裏工作の達人。諜報をさせたらちょっと冷や汗が出るレベルで、いつの間にかポーネグリフまで手に入れていた。

 しかも、名指しで救援要請。情けないとは思うが、自分たちとて、好きこのんで手をあげるわけでもなし。むしろ、そこをフォローしてやることこそ、使命というか役目というか。

 隣で鼻をほじっているホネはまだ、年寄りの鷹揚さと流すことも出来るが、その笑みが優越感を表しているように見えた。

 なにがどうとは言わないが、負けた気がする。

 実際はそうした反応をこそ楽しんでいるのだが、二人とも実は気が短い。ちょっと、ピキッときた。

 だからといって意地もある。声を荒げることはせず、臨時で同盟を組んだ。

「と、得意分野を伸ばせばよいんじゃ。ホレ、舵のことを聞いておったろう?」

「そうだ!! 反応やなんかはギア比で変えられっからな!! 話を聞かせてくれ!!」

「と、言ってものう。航海士の指示で角度を決めるもんじゃし」

「今は簡単に失速しねぇようにしてるが」

「なるほど。意図的に起こせると言うなら、面白い挙動が出来そうじゃの」

「やっぱり、オマエならそう言ってくれると思ったぜ!!」

 盛り上がる二つの巨体に、ホネが震え上がる。

「アワワ、ワタシやウソップさんが代わりに入ることだってあるのに」

「ウソップなら大丈夫よ」

 それが信頼なのかスパルタなのか、サラッと名前を外されたブルックにはわからない。

「ドリフトターンじゃ!! 海軍の度肝を抜いてやるわい!!」

「フゥ~!! アダムの強度なら問題ないぜ!! やってやんな!!」

「なんかとんでもない変態機動ですよ?!」

「今でも空を飛ぶでしょう?」

「その上って必要です?!」

「酔ってしまった方がいいみたい」

 一瞬、死んだように呆けたブルックは、ヴァイオリンを手に取った。

「踊りましょう?」

「伴奏はいいけど、リードしてね?」

「お任せ下さい」

 怒鳴りあいに近い白熱した議論をしていた巨漢たちが、それに気づいて振り返る。

 星空の下、痩身長駆の音楽家と、黒髪の考古学者がヒラリ、ヒラリとステップを踏む。

「こりゃいい」

 酒の肴が出来たと、見物に回る。

 まだまだ、夜は長い。

 

 

夜・若者

 

 

 後部デッキは狭いが、ランタンの灯りもあってなかなか雰囲気がいい。食堂や寝室よりも近くにいれて、ちょうどよい距離も保てる塩梅だ。

 たまに夜釣りをするクルーがいたり、ゾロが夜更かししていたりする。一応、座布団は用意してあるが、ツマミもドリンクも床に広げてあった。ナミだけはクッションを自前で抱いている。

 最初の仕事は、ぶーたれる船長を宥めることだ。

「みんな一緒でいいじゃねぇかよー」

「いつも一緒じゃなくてもいいでしょ。歳の近い同士で話したいこともあるかも知れないし」

「歳なんか気にしねぇ!!」

「アンタが気にしなくても、気にするの!! あんまり、そういうこと言っちゃダメよ?」

「なんでだ?」

「なんでって」

「ルフィ、オマエ、じいちゃんに年寄り!! って言ったらどうなる?」

「殴られる」

「アイツらは殴らねぇだろうが、怒ったり傷つくかも知れねぇ」

「ワタシが殴る」

「ルフィはデリカシーがないな」

「そのセリフ、オマエもだぞ?」

 驚愕して言葉もない船医。船長と一緒にされるのが、とんでもないショックらしい。

「なんだ、まだやってたのか」

「頑固なのよ、コイツ」

「オマエだって宴のときは、真っ先に食い物へ突撃してくじゃねぇか。どうしてもってんなら、後で合流すりゃいい」

「それもそうか」

「で、足りないものはないか?」

「いいから座れよ」

「仕事は終わりだ! 終わり!!」

 ゾロとウソップに引っ張られて、サンジが腰を下ろす。ジョッキを無理矢理持たされ、ドリンクが注がれた。

「なにに乾杯する?」

「適当でいいだろ」

「ちょっとは待てないの?」

「よ~し! それじゃ、オレサマが一味を代表し、これまでの戦いと航海の無事を祈って」

「カンパ〜イ!!」

 ガコンと樽が打ち鳴らされる。慌てて参加したウソップが、ズッコケて笑われた。

「ついに四皇だぜ」

「長かったな」

「そんなワケないでしょ」

 真面目にワンピースを狙う海賊は、どこも二十年ぐらい雌伏しているし、ロジャーは二周した。麦わらの一味に至っては二年である。

「駆け抜けたが正解だろ」

「順調っていや順調なのか?」

「自覚はないな」

「強くはなれてる」

 ゾロの言葉にそりゃそうだろうな、とは思う。

「オレはもっと、人のいない島を冒険するって思ってた」

 ルフィの言うこともわかる。目指すのは未開の地なのに、色々な人里を巡って旅をしている。

「世界の中心はマリージョアよ」

「そうか。そっから離れないとダメなのか」

「ってことは、これからか?」

「そういや、ドラムより手前はそれこそ未開だったな」

「海賊王の船員が灯台守を出来るぐらいだもんな」

「あそこに海軍がいないってのが、無茶を物語ってるよな」

「話だけは聞いてるけど、信じらんねぇ。レッドラインを駆け上がる運河だろ?」

 ルフィでさえ遠い目をした。チョッパーが震えあがる。

「オマエも見ただろ? アイランドクジラ」

「あれが出口を塞いでてよ」

「なぜかルフィが大砲を」

「意味がわからないぞ?」

 誰もわからない。当人さえ、わかっててやっていない。

「メリーが壊れていったのもあそこからだよな」

「オイ」

 ゾロが止めるのを、さらに手をあげて止める。

「未練がないとは言わないが、忘れらんねぇ。ルフィがメリーのメインマストをラブーンに突き刺したことを」

「そうだったか?」

「自分の船の?!」

「まあ、昔のことだ!!」

 笑って誤魔化す船長に、あのときもうちょっとウソップの味方をしてやればよかったかなぁとか思うクルーたち。

 狙撃手なのに、ずっとそうした無茶を修理してきたのだ。

「まぁ、実際、昔の話だ」

 どれだけ愛着があって、大事にしていても、グランドラインを航海するような船ではなかった。遅いか早いかの違いだと言うなら、造船の島まで運んでくれたことが奇跡だ。それも迎えに来てまで。

「でも、それ。ブルックは知ってるのか?」

 特大の地雷である。

「か、かすり傷だし」

 レッドラインを砕こうと出来た新しい傷を抉ったとも言う。流石のラブーンも悲鳴をあげてキレた。

「捕鯨から守ったし」

 メリー号の大砲すら柳に風の巨大生物である。手持ちバズーカがどこまで有効か。だから体内で暴れようとしていたのだし、脱出のためなら一味もそうしたハズだ。

 どちらも止めたのは灯台守である。

「友達になったし」

 一方的に喧嘩を売って、一方的に打ち切ったとも言う。なんなら、手も足も出なかったのを、うまく丸めこんだとも言えるかも知れない。

「縁ってのは、どう結ばれるかわからねぇ。聞かれりゃ答えるが、いちいち気にしてたら前には進めねぇぞ」

「因縁があるのは、ブルックだけじゃないからな」

 両翼がキリッとした顔で言い含めるが、航海士が耳打ちする。

「騙されちゃダメよ? アイツら揃って考えなしなんだから」

「少なくともメインマストを根元から折る必要はねぇ」

「謝れ、ルフィ」

「そうだ、オマエが悪い」

 裏切りは海賊の性。もっともではあるので、反省してほしい。

 微妙な空気になったので飲み直す。

「ワタシも思ったより、メイン戦力なんだけど?」

「ウソップのせいだな」

「間違いない」

「待て!! オレだって想定外だ!!」

 船長の能力以外に対抗策が見い出せなかった、かつての強敵。なんなら、四皇の一角だったビッグ・マムと似たようなことが出来る航海士というのは、確かになんらかの想定外である。

「まず、フランキーが再現出来てないからな」

「あの不思議杖」

「本当に魔法の杖だ!」

 ウソップに尊敬の眼差しを注ぐ。

「確かに、ワタシの才能は恐ろしいわ。でも、ちゃんと守ってよね」

「それはすまねぇ」

「でも、そのゼウスってヤツ、ナミが誑かしたんだろ?」

「人聞きの悪い」

「四皇の手下だろ? だいたい、逃げりゃいいじゃねぇか」

「そうだ。最近、自分から首突っ込んでないか?」

「だって、子供を見捨てられないじゃない」

「見捨てろとは言ってねぇ。逃げろって言ってんだ」

 不満そうに口を尖らす。

「ワタシもわかってるのよ。結局、海軍に任せたりで、ずっとそばにいるのはワタシじゃないわ。でも、放っとけないの」

「誰かに頼って、それじゃダメなのか?」

 命をかけて頼りきった男の言葉だ。説得力が違う。

「難しく考える必要はねぇさ。出来ることをした。そういうことだろう、ナミさん?」

「そうだぞ。出来ねぇことまで責任を負う必要はねぇ」

 涙と鼻水垂らしながら、パチンコで最強の海賊団から味方を守りきる男の言葉だ。説得力がない。

「うん。ちゃんと考える」

 再び、飲み直しだ。

「なんか、辛気臭ぇぞ?」

「楽しい話題にしよう」

「明日の晩ごはん」

「そりゃオマエだけだ」

「そうだな。気を使ってもらってるのはわかるが、思ったより負担はないんだぜ?」

 サンジが溢すが、返ってきたのは不審の目。

「オメーの言うことは信用ならねぇ」

「一度やらかしてるからな」

「オイオイ、それとは別だろ?」

「また似たようなことをしたら、仕事を取り上げるか?」

 ゾロが嬉しそうだが、チョッパーは真剣だ。

「それ、オレたちに命の危険があるからな」

「ほとんど、ルフィのせいだけど」

「あんなひもじい思いをしたのは久しぶりだったなー」

「それだよ。サニー号になって、キッチンが大幅アップデートしたからな。特大のオーブンもある。手の抜き方だって心得てるさ」

「確かに、逼迫することは減ったよな」

「手抜きとは思えないよなー」

「それを感じさせないのも腕の見せどころさ」

「結局、アンタの盗み食いが悪いんじゃないの?」

「知らねぇ」

 こういうときだけ、潔さがない。バレバレなだけに、とっても見苦しい。あと、口笛が下手。

「ゾロの酒もだぞ。ウチは水の心配はいらないが、だからって無限に積めるワケじゃねぇんだ」

「そうだぞ。控えろ?」

「考えとくよ」

 絶対、控えないつもりなのはわかった。

「聞いたんだけどよ。他の船じゃ酒を自作すんだってよ」

「そりゃ、食い物が悪くなるからだ。腐らせるよりマシだからってんで、ほとんどパンだよ」

「不味いらしいぞ?」

「今度行方をくらましたら、ソイツ食わすか」

「いいわね。一人で突っ込んで迷子になるのが減るかも」

「迷子じゃねぇよ」

 突っ込まないのは慈悲である。

「まぁ、オレがいる限り、食い物を無駄にするのは許さん」

「ねぇ? アンタたちがチョッパーの言うことちゃんと聞いたら解決しない?」

「よく言った、ナミ!!」

 チョッパーが立ち上がる。

「怪我も治すし、病気も防ぐ!! サポートはいくらだってするぞ?! だから、ちゃんと言うこと聞けよ!!」

「かわいそう」

「卑怯な」

「どこがよ?」

 なにげに共通の弱点が女子供な一味である。その弱みが牙をむいた。

「でも、ケガは食ったら治るしなー」

「酒で一発だ」

「一週間も寝込んでたろ?」

「第一声が肉と酒よ?」

「心配はしてねぇけどよー。もうちょい、クルーを思いやれ」

「わがままコンビ」

「ダメコンビ」

「やーい、言われてやんの」

 それぞれのほっぺが好き勝手されるが、流石に享受する。

 航海にかまけ、仕事と夢に向かって走り続ける彼らだが、こうして集まれば話題は尽きない。

 それこそ、夢の話。仕事の話。互いの愚痴。ちょっとした悩み。航海の終わりと、その先の人生まで。

 胸の内も腹の中もさらけ出せる、そんな仲間たち。

 次第に笑い声が大きくなり、芸も飛び出す頃に、音楽が聞こえた。楽しげに跳ねるリズムとメロディ。

 それに誘われて芝生の甲板に出ると、年上組が踊っていた。

 ヴァイオリンを演奏しながら、ロビンとクルクル回るブルック。

 なぜか手を取りあって、コミカルにステップを踏む、フランキーとジンベエ。

 ルフィは顔を輝かせ、ガシっとゾロとウソップの肩を掴んだ。

「ちょっと待て!!」

「行く!! 行くから!!」

「踊ろうぜぃ!!」

 恭しく腰を曲げたサンジは無視され、チョッパーとナミが手を繋いで階段を降りる。めげずにハリケーンが追いかけた。

 立場も歳も種族すら違うそれぞれを、縁と音楽が繋ぐ。いつもはケンカばかりの両翼が、肩を組んで足を振り上げ、フランキーを真似てルフィとジンベエがツイストを踊る。

 ナミとウソップは向き合ってちょっとレベルの違うダンスを披露し、誰かが歌い、それに応え、夜が更けていく。

「たまには夜更かしもいいわね?」

「明日起きられるかなぁ?」

 ブルックがギターに持ち替え、さらに狂乱は続く。チョッパーが鼻に割り箸を刺し、ロビンも体を揺らす。

「た~のしんでるかい?! Baby!!」

 雄叫びが上がる。

 麦わら一味の日常が、幕を閉じる。




またね


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