エルデの王は迷宮で夢を見るか? (一般通過あせんちゅ)
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褪せ人

勢いで書いた

当方、続きなど全く思いついておりませんのでご了承を


「うわっ!?」

 

 彼にとってその出会いは唐突なものだった。【ヘスティア・ファミリア】に所属する唯一の眷属であるベル・クラネルは、ダンジョンの曲がり角の先に突っ立っていた存在に腰を抜かして尻餅をついた。ぶつかる直前に踏みとどまっていたため、当該の人物との接触はなかったが、主神からも認められる善性を持つ彼はすぐに相手に謝った。

 

「ご、ごめんなさい!」

「……貴公、神の気配を感じるぞ」

 

 銅色の全身装備の中から聞こえてきたくぐもった声に、ベル・クラネルは困惑した。神の気配と言われても、彼にはなんの心当たりもなかったが、彼の背中に刻まれた恩恵は、目の前の人物に反応して僅かな熱を発していた。

 

「いや、貴公は神の祝福を受けているのか……ならばなにも言うまい。貴公にも祝福が見えているのだろう?」

「しゅ、祝福?」

「言葉にする必要はない。貴公は英雄となるべき存在である……私の様にはなるな」

 

 ベル・クラネルにとってその言葉は殆ど理解できるものではなかった。しかし、最後の言葉が悲しみから生み出されているものなのは理解できた。それは天性の優しさから来るものなのかはわからなかったが、横を通り過ぎる騎士をただ見送ることしかできなかったベル・クラネルは、英雄となるべき存在という言葉だけが心のうちに渦巻いていた。

 その後、唐突にして突拍子もない出会いを経て悩みながら迷宮を歩くベル・クラネルは、風を纏う金色の少女と出会い、運命が加速していく。

 

 


 

 

「……威厳のある王様ロールプレイやめようかな」

「辞めておけ。身の丈以上の役割など背負う意味もあるまい」

 

 決して治安がいいとは言い切れない街、オラリオの路地裏に佇む銅色の騎士然とした()は、ため息と共に弱音を吐いた。独り言として呟いた言葉に反応したのは、虚空から現れた雪の様な魔女であった。

 

「私の王よ。以前にも言ったはずだ……お前に王の真似事は無理だ」

「……」

「そう恨みがましい目を向けるな。楽観主義で刹那主義であるお前に、王など勤まらない」

 

 雪の魔女『ラニ』の言葉を受けて、騎士は明らかに落ち込んでいた。伴侶であるはずの魔女にすらロールプレイを否定された彼女は、強大な力を持つはずの坩堝の騎士の姿のままいじけたようにその場に座り込んだ。最初の王、ゴッドフレイに仕え、原初の黄金樹が持つ生命の坩堝の力を宿した強力な騎士が着込む鎧を身に着けながら、力ない人間のように路地裏に座り込む姿に、ラニは呆れたようなため息を吐いた。

 

 ラニの目の前に座り込む坩堝の騎士オルドビス(のコスプレをした変人)は、狭間の地を駆け抜けたエルデの王である。ルーンを求めて彷徨う怪物、黄金樹の化身とも言える精霊、生物の枠を超えた力を持つ竜、力を振りかざすデミゴッド、同朋であるはずの狂った褪せ人、その全てを例外なく屠ったエルデの王は、ただ人だった。狂人と呼ぶには理性があり、強者と呼ぶには余裕がなく、武人と呼ぶには卑劣であり、騎士と呼ぶには志がなく、悪逆と呼ぶには純真である。故に、彼女は王と呼ぶにはあまりにも器が足りなかった。しかし、彼女と戦ったエルデの王は言った。力こそ王の故、と。ならばこそ、彼女は器でなくともエルデの王であり、冷たき律の時代を導く、魔女の伴侶なのだ。

 

「宿は探しておけ私の王よ……伴侶とのひと時が外では風情もなかろう」

「……探しとく」

 

 世界を敵に回しても守り抜くと決めた伴侶の言葉に頷きながら、エルデの王は立ち上がった。坩堝の鎧がルーンとして分解されて彼女の身体の内へと溶け込んでいくのと同時に、顔を隠すように黒き刃のマントを羽織った。粒子として消え行くラニは、その装束に微妙な表情を残していたが、何も言うことなく虚空へと消えていった。

 

「腹は減らないなぁ……エルデンリングもないから導きもないし……どうしよっかなぁ……」

 

 王と呼ぶにはあまりにも俗的な言葉を吐きながらオラリオの裏路地を進む彼女は、力ない足取りのまま闇の中へと消えていった。

 

 


 

 

 彼女は褪せ人と呼ぶには余りにもただ人だった。何故ならば、そもそも彼女は正確には褪せ人ではないのだから。褪せ人とは本来、破砕戦争前に瞳が褪せたと言われて狭間の地から追放された者たちであり、彼女が狭間の地を駆け巡っていた時にいた褪せ人はその子孫たちが基本である。しかし、彼女は追放された本人でもなければ、子孫でもない。彼女は全く違う世界から連れてこられた平和を享受していた()である。何故、褪せ人でもない彼が導きによって狭間の地を訪れたのかは誰も知らない。

 

 結果的に彼は彼女になって褪せ人として修羅の世界に放り込まれても、その地に溢れていた者たちを屠り続けた。褪せ人を導く二本指、その上に存在するとされる大いなる意志の求めた最高の人材と言えるだろう。欠点を上げるとすれば、惚れた女の為に大いなる意志すらも裏切って黄金の律を消し去ったことだけである。

 

 狭間の地を駆け抜け、幾度も訪れた死によって薄れてしまった平和な世界に生きていた記憶を思い起こしながらも、彼女は伴侶であるラニがゆっくりと休める場所を探してオラリオを歩き続けるのであった。




平和な世界→狭間の地(何故かTS)→オラリオ(伴侶付き)のあせんちゅ(なお、既に平和な世界の記憶など殆ど消し飛んだ模様)

(転生タグってやっぱり、いりますかね?)


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眠れる王(私の王)

ラニ様を書きたかった


「あー……この廃教会とかいいんじゃないかな?」

 

 オラリオをぶらぶらと歩いていた褪せ人は、誰が見ても人は住んでなさそうな教会を発見していた。なにせ教会自体は崩れていないが、周囲の建物がボロボロに崩れているのだ。しかも周囲に人の気配すらもなく、草木が生い茂っている。完全に人が住んでいなさそうな割に、しっかりと雨風を凌げそうな場所を発見できたことに安堵の息を吐いた。

 

「狭間の地にある教会はどれも酷かったからなぁ」

 

 狭間の地に点在するマリカ教会や竜餐教会は、どれも天井が全く存在していなかった。壁も穴だらけでまともに教会としての形を保っていたのは美しく作られた彫像だけ。彼女の知っている教会は雨風凌ぐこともできず、たまに誰かが侵入してきて命を狙ってくる場所である。

 ようやく腰を落ち着ける場所へとやってきた彼女は、教会の端っこに座り込んだ。黄金樹のない世界では祝福など存在しないため、安全に座って休めるところなどないと思っていたが、そもそもオラリオは治安が悪いと言っても狭間の地程ではない。旅をしていた最中でも、不戦の誓いが存在した円卓以外ではまともに休むこともできなかった褪せ人は、人気のない廃教会で目を閉じた。大いなる意志の身勝手な理由で走らされ、他の褪せ人と違って不死であった彼女にとっては、随分と久しぶりの睡眠だった。

 

「たっだいまー……て、誰もいないんだけどね」

 

 褪せ人が目を閉じて意識を飛ばしてからしばらくした後、麗しい黒い髪を二つ伸ばした女が廃教会へとやってきた。手には謎の食物を手に、上機嫌な足取りのまま廃教会の奥の扉に手をかけたところで、端っこで眠っているその存在に気が付いた。

 

「……人?」

 

 真っ黒なフードに真っ黒なローブで眠っている存在に、女性と呼ぶには少し幼い女は近づいた。彼女の名はヘスティア。褪せ人が迷宮で出会った少年の主神であり、この廃教会を拠点にしている【ヘスティア・ファミリア】の主である。根っからの善神であるヘスティアは、もしかしたら怪我でもしているのではないかと思いながら眠っている褪せ人に近づいて、手を伸ばしたところで止まった。

 

「私の王に触れる気か?」

「っ!? い、いつの間にっ!?」

 

 触れる直前に聞こえてきた声に振り向いたヘスティアは、真っ白なローブに魔術師然とした大きな帽子を被っている存在に驚き声を上げたが、目の前の存在が人間ではなく人形であることに気が付いて目を見開いた。

 

「に、人形が動いて喋ってる?」

「……不躾な視線だな。神たるお前が何故、私の王に触れようとする」

「わ、私の王?」

 

 ヘスティアの頭は混乱で満ちていた。いつも通りバイトから帰ってきたら、住んでいる教会に知らない人が眠っていると思えば、心配して手を伸ばすと全身から静かな怒気を放つ薄水色の喋る人形が背後に立っていたのだ。

 

「まぁいい……どのみち神など碌な存在ではない。消しておくか」

「ちょ、ちょっと待ってーっ!? 確かに下界(した)に降りてきてる神はロクデナシばっかりだけど、ボクはそうでもないよ!?」

「知らん。神など全て同じだ」

 

 目の前にいる存在はどうやら神に対して途轍もない嫌悪感があるらしい。ヘスティアは今までの会話で大体を理解した。動いて喋る人形が生物なのかは理解できないが、目を見て話せば下界の人間たちが嘘をついているのかどうかを見分けることができる神の目に、目の前の存在は引っかかっていない。正確に言えば、神にも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ? ど、どういうことだい?」

 

 嘘を見分けられない相手ということは、同存在である神以外には存在しない。しかし、ヘスティアは神の世界でも人形の身体をした神など見たことがない。

 ラニは目の前の神が慌てている様子を冷たい目で見降ろしながら、四本ある腕の一本を動かして魔力を集中させていた。冷たい星と月の魔女たるラニの扱う魔法は、カーリア王家の魔術である。腕の上に浮かび上がる冷たい青色の刃を目にして、ヘスティアは悲鳴を上げていたが、その背後にいる褪せ人がゆっくりと起き上がってヘスティアの肩に手を置き、自分の方へと引き寄せた。

 

「…………なにをしているのか、聞いておこう。私の王よ」

「悪い神じゃなさそうだし、まだ何もしてない」

「違う。何故、私以外の女を腕に抱いているのか……その言い訳を聞こうと言っている」

「あー……」

「え? え? そういう関係?」

 

 ヘスティアを腕の中に抱き、外敵から守るようにしている褪せ人を見て、ラニは表情が消えて冷たい殺気を放っていた。ヘスティアはラニの言葉を聞いて、二人の顔を何回か往復してから顔を赤らめた後、褪せ人は一先ずヘスティアを放した。

 

「まさかこんなボロボロな教会に住んでいる人がいるとは思わなかった。謝らせてくれ」

「ボロ……確かに人が住んでいるとは思えない……」

 

 褪せ人はラニから露骨に目を逸らしながら、ヘスティアに対して謝っていた。ヘスティアとしては自分の愛する眷属と過ごしている愛の巣なのだが、外から見れば人が住んでいると思えない廃墟であるのは間違いない。

 

「すまない。私たちはもう行くよ」

「う、うん……君も気を付けて……って、流石にボクの心が痛むよ。好きなだけいてくれて……も?」

 

 ヘスティアは根っからの善神であり、住む場所がないという事情を聞いてそのまま追い出すような精神はしていない。故にヘスティアはラニのことを怪しみながらも滞在許可を出そうとして振り向いた瞬間、固まった。なにせ、さっきまでそこにいて会話していたはずの存在が二人とも消えていたのだ。まさか幽霊だったのではと思い始めたヘスティアは、顔を青くしながら地下室へと入っていった。

 ここでヘスティアはあることに気が付いていなかった。ラニという理解不能な存在を前に困惑していた状況に、追加で殺気を向けられたから仕方のないことではあったのだが、彼女が『私の王』と呼んでいた人物もまた、嘘かどうか判断できない存在であったことに気付くことなく思考の隅に追いやったのだ。

 

 


 

 

「良かったのか? 善神だと言うのなら住まいを提供でもしてくれそうなものだが」

「遠慮しておくよ……ラニに嫉妬されると敵わないからね」

「……口を慎め」

「痛い」

 

 ラニは少しだけ頬を染めながら褪せ人の、自らの伴侶の腕を抓った。






(褪せ人に名前は)ないです

物語進めにくいからそのうち付けます


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コボルト

 今度こそ人のいない廃屋を見つけた褪せ人は、そこにおいてあった椅子にラニを座らせ、自分は床に座り込んでいた。

 

「ラニ、私の名前どうしよう」

「エルデの王では不便か?」

「自己紹介にはあんまり……使いにくくない? この地の人にはエルデがなにかわからないでしょ?」

 

 狭間の地では意思疎通が取れる相手が少数しかいなかったために、あまり問題にもならなかったが、人と接する機会が多くなるオラリオでは、名前があったほうが便利であるのは間違いない。

 

「ふむ……私が名前を決めてやろう」

「エルデの王だから、偽名はマリカとか……すいません、二度と言いません」

 

 月の王女ラニ、その本気の殺意が籠った視線を向けられたエルデの王はすぐに謝った。彼女にとって女王マリカの名は禁句に近いものである。くだらない冗談を言う伴侶に呆れたため息を吐きながら、ラニは少し考えるような仕草を見せた後、薄く笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「お前はこれからミストルテインと名乗ればいい」

「わ、わかりました」

 

 その名前に込められた意味をエルデの王は知らない。それでも、薄く笑みを浮かべているラニの表情は、なにか嫌らしいことを思いついた時と同じである。

 

「でも、ミストルテインだと長いよ」

「ではミスト、私はそろそろ眠るぞ」

「自然に略した……」

「私はお前のことを名前で呼ぶことは金輪際ないぞ。偽名を名乗るのは私以外にしておけ」

「それは別にいいけど」

 

 ミストルテインと名付けられたエルデの王は、ラニがゆっくりと自分の方に向かってくる姿を見ながら考え事をしていたが、いきなり腕の中に突撃してきたラニにそのまま押し潰された。

 

「ラニ?」

「……お前は私の下で寝ていろ」

 

 最後に言葉を残して反応しなくなったラニに苦笑しながら、ミストは抜け殻の様に力を無くしたラニの身体を抱きしめて目を閉じた。ラニの身体は人形であり、熱を持つことはない。しかし、ミストは新たに与えられた名前を心の内で言葉にするだけで、不思議と身体が温まっていた。心地の言い身体の熱を感じながら目を閉じたミストは、意識を夢に持っていかれる直前に、唇へ何かが触れた感覚を味わった。

 

 


 

 

 翌日、寝た場所の関係で身体の節々に痛みを感じながら起き上がったミストは、流石に眠る場所にはなにかを敷いておいた方がいいかと考えていた。身体の上で寝ていたはずのラニは既に姿を消している。いついなくなったのかは知らなくとも、ミストはラニが持つ律の力は身近に感じていた。

 

「今度こそダンジョン探索でもしてみるかな」

「行くのか?」

「いたの?」

「私は常にいる」

 

 ラニがいないと思い込んでいたミストは、唐突に聞こえてきたラニの声に少し驚きながらも、常に傍にいると言われて嬉しそうな表情を浮かべていた。ラニは咳ばらいを一つしてから、ミストの前に手をかざした。

 

「これって……」

「祝福、のようなものだ。お前は既に女王マリカの祝福も、黄金樹の導きも失っている……お前が両方とも消したのだから当たり前だがな」

 

 廃屋の真ん中に生まれた祝福は、ミストが褪せ人として狭間の地を走り回っていた時に何度も利用した祝福によく似ていた。黄金樹ではなく、月の女王ラニのもたらす祝福は冷たい水色をしていた。

 

「お前に死なれると困る。だからという訳ではないが……死んでも死なせん」

「ありがと」

 

 ミストは、狭間の地に幾人も存在した褪せ人の中でも異端中の異端である。なにせ彼女は不死を体現した存在なのだ。厳密にいえば、彼女の不死は死なないのではなく、死んでも元の形で蘇るのである。たとえ重力魔法によって押し潰されようが、ダンジョンの罠によって細切れにされようが、刃物で真っ二つにされようが、彼女は死んだ瞬間に最後に訪れた祝福から蘇る。

 

「私の孤独の道についてくると言ったのだ……途中で放り出す真似はさせんぞ、私の王よ」

「任せて」

 

 ラニとしてはあまり彼女をこうした律の力で縛り付けるようなことはしたくなかったが、伴侶を守る為ならば許容範囲内である。

 祝福によって憂いを無くしたミストは、意気揚々とダンジョンの攻略へと乗り出した。再び坩堝の騎士、オルドビスのコスプレを始めたエルデの王は、重厚な鎧の音を鳴らしながらダンジョンの上層を彷徨っていた。

 

「……チャリオットは走ってないのかな?」

 

 地下に向かって続いていくダンジョンに対してあまりいい思い出がないミストは、周辺をつぶさに観察してチャリオットの車輪が転がる用の通路がないことを確認していた。英雄墓で何度も引き潰された記憶を思い出しながら、ゆっくりとダンジョンを進むミストの前に、壁からコボルトが2匹湧き出した。壁から生まれたコボルトは、ミストを認識すると鋭い爪を光らせてミストへと襲い掛かった。

 大仰な鎧を着込んでいるとはいえ、無防備な姿のまま突っ立っているミストの命を刈り取ろうとしたコボルトは、己の横を通り過ぎて行った青い光へと目を向けた。己と共にダンジョンへと生まれ落ちたもう一体のコボルトが、身体を残して頭だけが消し飛んでいた。

 

「脆いなぁ……」

 

 襲い掛かろうとした相手の手には、いつの間にか青い光で作られた大きな弓があった。既に矢は構えられており、コボルトが咄嗟に逃走を始めた瞬間にコボルトの左半身を消し飛ばした。残った右半身だけで這うように逃げようとするコボルトを見て、ミストは首を傾げた。

 

「怪物なのに恐怖心があるのか?」

 

 彼女が放った『ローレッタの大弓』はラニが扱うカーリア王家の魔術であり、その名の通り王家親衛騎士であったローレッタが最も得意としていた魔術である。

 魔力の大弓による一射で完全に戦意を喪失させたコボルトを見て、ミストは興味なさげに左手の杖を掲げた。ラニの母親である満月の女王レナラの使っていた魔術王笏である『カーリアの王笏』から、青白い剣が一つ浮かび上がる。

 

「さようなら」

 

 王家の魔術騎士が扱う基本の魔術『魔術の輝剣』によって無慈悲に頭を撃ち抜かれたコボルトを横目に、ミストはため息を吐いた。




あせんちゅの名前は「ミストルテイン」にしておきました
基本はミストと呼称していきます
バルドルを殺したヤドリギです(神殺しの皮肉付き)



評価欄がいつの間にか赤色になっているのに気が付いて戦々恐々としていたのですが、橙色になって少し安心しました(小心)

それでも評価感想お待ちしております


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白兎

そろそろ連載に切り替えようか検討中です



「やッ!」

 

 ベル・クラネルは現在、ダンジョン2階層でナイフを振るっていた。相対するゴブリンの首を断ち切り、背後にいたもう1匹のゴブリンに刃を向ける。人間へと敵意を向けて迫るゴブリンを前にしても、ベル・クラネルは冷静な表情をしていた。

 

「相手の動きをしっかり見て……叩き切る!」

『ギュオッ!?』

 

 突き出された爪を左に避け、その勢いのまま脇腹にナイフを当てて滑らせる。鮮血を散らしながら、ゴブリンは痛みに怯む。その隙を狙って、狡猾な白兎は体重を乗せてゴブリンの首にナイフを突き刺した。神の恩恵を受けた人間は、その時点でゴブリンやコボルトを殺すには不足ない力を得ることになる。それでも、冒険者ベル・クラネルは自らの担当者であるエイナ・チュールの言いつけ通り、冒険しないことを心掛ける。

 

「ふぅ……」

 

 ゴブリン二体を危なげなく倒したベルは、ナイフを逆手に持って倒したゴブリンから魔石を抉りだした。手の平に乗る爪くらいの大きさしかない魔石だが、これを集めるだけでお金が手に入るのが冒険者という仕事である。命をかけているだけあり、働いて得られる金はそれなりに多い方だ。

 

「いい手際だった」

「あ、はい、どうも……え?」

「どうかしたか?」

 

 ダンジョン内でモンスター討伐の手際を、馬鹿にされずに褒められることがあるのかと思いながら振り向いたベルは、そこにいた坩堝の騎士に目を見開いた。彼が自らの憧憬「アイズ・ヴァレンシュタイン」に出会う少し前に、ダンジョンで出会った姿と全く同じである。あの時はかけられた言葉だけが頭の中に残っていたが、ベルは改めてその人物を頭のてっぺんから足のつま先まで観察して息を呑んだ。

 

「あ、あの……上級冒険者の方、ですか?」

「上級? 冒険者には階級があるのか?」

「そこからですか!?」

 

 ダンジョンに潜り、明らかに強そうな鎧を着込んでいるにもかかわらず、冒険者の仕組みすらも理解していない目の前の存在に、ベルは混乱していた。突然の出会いに困惑するベル・クラネルと、目を細めて未来の英雄を見つめるミストルテインを。ダンジョンは待ってはくれない。

 

「あ、モンスター!」

「……少年、君は何匹までいける?」

 

 一斉に壁から9匹生まれたゴブリンを見て、ベルは息を呑んだ。同時にかけられた声に対して、全部倒せると口にしようとしてから、口を閉じた。

 

「……5匹程度までなら」

「そうか。なら私が4匹受け持とう」

 

 彼我の戦力差を冷静に分析したベルは、6匹を相手にすればたちまち囲まれてしまうことを察していた。5匹程度までなら、初撃で一体を屠れば問題ない。ナイフを構えるベルを見て、薄く笑みを浮かべたミストは、ゴブリンが二人を捕捉したのを確認してから魔術を発動させた。

 

「行きます!」

「後ろ5体を任せる」

「はい!」

 

 目の前を駆け抜けていくベルを見ながら、ミストはカーリアの王笏を媒介に『ローレッタの絶技』を発動させる。親衛騎士ローレッタが最も得意とした魔術『ローレッタの大弓』を研鑽したものであるそれは、同時に4つの矢を放つことができる魔術である。

 一発でコボルトを消し飛ばす威力を見せた『ローレッタの大弓』の完全上位互換である魔術は、走るベル・クラネルの横を通り過ぎて、ベルへと襲い掛かろうとしていた4匹のゴブリンを同時に消し飛ばした。

 

「やぁッ!」

『ギュアッ!?』

 

 同朋を一瞬で4匹殺されたゴブリンが足並みを乱したところに、新米冒険者が襲い掛かる。不意打ちに1匹の喉を掻っ捌いたナイフを逆手に持ち、動揺しているもう1匹の目にナイフを突き刺す。

 

「急所をしっかり狙っているね。案外、戦い馴れている」

 

 動揺していたゴブリンたちも、突っ込んできた小柄の冒険者を見て一斉に襲い掛かったが、ベルは敏捷性に優れた冒険者であるため、ゴブリン程度の攻撃を避けることなど訳ないことである。片目を奪われたゴブリンの死角に入り込み、喉を切り裂いたベルは、残りの3匹を見つめながらゆっくりとナイフを構えた。銅色の鎧を着込んだ謎の冒険者は、最初の魔法の様な一撃以外に動くつもりはないらしく、既に杖を構えることもせずにベル・クラネルを観察していた。

 

「……僕は英雄になるんだ。こんな所で苦戦していられない!」

 

 


 

 

「お疲れ、少年」

「あ、はい……ありがとうございました」

 

 ゴブリンを片付けた後も、ベルと共にダンジョンを巡ったミストは、目の前にいる少年には英雄としての素質があることを見抜いていた。自分の様な泥臭い卑怯者の勝利者とは違う、人々から存在を渇望される輝かしい英雄の子供を目にして、ミストは目を細めた。

 

「強いん、ですね」

「ん? それは場数の違いかな……少年、君はいつか私を凌駕していくさ」

「で、できるといいなと思います」

 

 お世辞無しでベル・クラネルのことを英雄だと見込んでいるミストとは裏腹に、ベルはミストの圧倒的なまでの力に感嘆していた。自分が許容できる以上の集団が現れた瞬間に、魔力で生み出された大弓を扱って敵を消し飛ばす姿は、ベル・クラネルが夢想する英雄の姿に他ならない。

 

「あ、名前を教えていただけませんか?」

「名前? あぁ……私はミストルテイン、ミストと呼んでくれ」

「ミストさん、ですね。僕はベル――ベル・クラネルです」

「ベル・クラネル、その名前を覚えておこう」

「ありがとうござい――ヒョェ!?」

 

 憧れるような目でミストを見つめていたベルは、相手をかっこいい鎧を着こなす英雄の様な男性だと思っていたが、兜を取って出てきたミストの素顔は紛れもない女性であった。お世辞無しに美人だと思う金髪の女性に対して、しどろもどろにになりながらミストにお礼を言ってから、ダンジョンの入り口を飛び出してギルドへと向かって走って行った。

 

「……急ぎの用事かな?」

「お前は本当に愚かだな」

 

 事情もわからずに首を傾げるミストに、背後に現れたラニが呆れたようなため息を吐いた。





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正体不明(アンノウン)

いつも誤字報告ありがとうございます
とても助かっています



「え?」

 

 ダンジョンで出会ったミストルテインという女性の情報を聞くために、ギルドへと訪れていたベル・クラネルは、向かいに座っているハーフエルフのギルド受付の言葉に上手く返事ができなかった。茶髪のハーフエルフであり、冒険者ベル・クラネルの担当者であるエイナ・チュールの言葉はベルには上手く理解できなかったのだ。

 

「……ベル君、その人とは本当にダンジョンで出会ったのね?」

「は、はい。間違いないですけど……どういうことですか?」

 

 険しい表情でベルの話を聞いていたエイナは、一度ため息を吐いてから資料を取り出した。そこには冒険者登録された人間の名前がつらつらと並べられている。名前の上に線が引かれている者は冒険者ではなくなった、あるいはその命を落としたかのどちらかである。

 

「ここには今、オラリオの冒険者ギルドに登録されている全ての冒険者の名前が記されているわ」

「名前、ですか」

「名前だけだから、所属ファミリアもレベルも性別すら載ってないわよ」

 

 見せられた資料は何枚も積み重なっていて、ベルが全ての名前に目を通すことはできなかった。しかし、エイナが何を言いたいのかだけはベルにも理解できていた。

 

「そのミストルテインという人は、少なくともギルドが認知している冒険者ではないの」

「で、でも……あの人はサポーターなんかじゃないですよ?」

「サポーター、ね……オラリオにいるサポーターの殆どがしっかり神の恩恵(ファルナ)を持っている冒険者登録された人間。つまり、サポーターもこの中には載っているの」

「じゃ、じゃああの人は……」

 

 ベルの震えたような声にゆっくりと頷いたエイナは、自身の予測を口にした。

 

「ベル君が出会った『ミストルテイン』という人物。ギルドに登録されていない神の恩恵を与えられた人間と考えるのが妥当よ」

 

 その言葉にベル・クラネルは息を吞んだ。オラリオの地下に存在するダンジョンに挑むために、必ずしも冒険者登録をする必要がある訳ではない。ただ、登録すればギルドの講習として知識を得られ、魔石を換金するにもギルドに出入りする必要がある以上、余計なトラブルを生まないために冒険者登録はほぼ必須となっている。

 

「ベル君の言っていることが本当なら、Lv.2に到達していてもおかしくない実力者。秘匿されているとなると、色々と問題だわ」

「……そうですよね」

 

 ベル・クラネル個人としては、ダンジョンで出会ったあの金髪の騎士が自分の存在を隠している冒険者にはとても思えなかった。ダンジョンを堂々と歩き、襲い掛かってくるモンスターを蹴散らす姿は、彼が憧憬を抱く少女と似たような姿であった。

 

「一応、容姿を細かく聞いてもいいかしら?」

「……はい」

「ふふ、安心してベル君。君を助けてくれた人を罰するとか、そういう訳じゃないんだから」

 

 実際、レベルアップした眷属を秘匿することはギルド的にはグレーゾーンだが、そもそも最初から冒険者登録されていない人間ならばレベルアップの報告をする必要もない。ルールの抜け道を使ったような術だが、全てのファミリアに対して中立であるギルドが明確な違反をしていない人間を罰することはできない。

 

「銅色って言えばいいんですかね……そんな色をした騎士みたいな鎧を全身に着ていて、兜を取ったら金髪に灰色の目をしてました」

「金髪に灰色の目、銅色の騎士風ね。それ以外は? 使っていた武器とか」

「武器……」

 

 エイナの言葉によってベルの頭に浮かんできたのは、銀色の細い杖と、ゴブリンやコボルトを一撃で消し飛ばした青い大弓の魔法であった。それをそのまま言葉にしたベルは、直後に固まったエイナの姿を見て自分がなにか変なことを言ってしまったのではと慌てていた。

 

「な、なんでもないよ、なんでも……そ、そうだ! ベル君はダンジョンから帰ってきたんだし、ステイタスを更新してもらうといいと思うよ」

「は、はい……え?」

「こっちはもう大丈夫だから。気を付けてね」

 

 急に態度が妖しくなったエイナに首を傾げながらも、ベルは言われた通りに【ヘスティア・ファミリア】のホームへと向かっていった。

 

「魔法も扱う非登録者、か。上に報告した方がいいかなぁ……」

 

 担当している冒険者であるベル・クラネルには罰することはないと言ってしまったが、その者がオラリオで活動する闇派閥(イヴィルス)の疑いが晴れない以上、エイナは完全にその人物を信用することはできない。しかし、ベル・クラネルの命を助けながら、彼の成長を全く邪魔しようとしなかったことからエイナ個人としては善性を信じたかった。

 

 


 

 

「……ギルドの換金って冒険者じゃないとできないのかな」

 

 ベル・クラネルと共にダンジョンを駆けていたミストは、少量の魔石を手にしながらギルドの前に立っていた。オルドビスのコスプレ装備を脱ぎ、黒き刃の装束を身にまとっているミストは、ギルドの受付と幾つか話しながら換金している冒険者たちを眺めていた。

 

「冒険者を統括しているのならば、できないのではないか?」

「やっぱりそうかな?」

「……この街の治安ならば幾らでも闇商人がいるだろう」

「あ、そっか」

 

 ラニの言葉に納得したミストは、資料を抱えたまま歩く茶髪のエルフとすれ違いながら裏路地へと入っていった。





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オラリオの路地裏

そろそろ本格的にプロット組んで、連載として書きたいと思います




 怪しげな黒いフードを被ったままオラリオの路地裏を歩くミストは、現在モンスターの核である魔石を買い取ってくれそうな商人を探していた。当然、探している相手は正規の商売人ではない。狭間の地で殺し合いや裏切合いをしてきたミストにとって、なにかしでかさなければ命を狙ってくることのない闇商人など、危険な相手ですらない。

 

「……そこのお方。魔石をこれ見よがしに手の中で転がしてどうしました?」

「買い取ってもらえないかと思ってね」

「隠さない人ですね」

 

 人気が一切なかった路地裏で、突然扉を開けて現れた人物に対して、ミストは動揺することなく魔石を見せた。ダンジョンの上層で相手したモンスターの魔石なため、大きさは小指ほどもないが、問題はそこではない。

 

「もっと大きな魔石ならギルドに隠れて買い取ってもいいんですけどねぇ……」

「大きな魔石か。それは深く潜ればいいのかな?」

「下に潜るほど、モンスターが強くなるかわりに魔石も大きくなる。知らないんですかい?」

「オラリオに来たばかりでね」

 

 ギルドに通さずに魔石を売りたいということは、指名手配されているか以前にオラリオを永久追放されたような人物であると、商人は考えた。当然、そんな相手と取引をすればデメリットは遥かに大きいが、もし目の前の怪しい人物が深層クラスの魔石を持ってこられると言うのならば、デメリットを補うことができるメリットとなる。

 

「……いいでしょう。最低でも35層以降の魔石を持ってきていただけると約束してくださるのなら、ギルド取引価格の6割程度で買い取りますよ」

「それでいいよ」

 

 ギルドを通せないが故に安めに買い叩こうと思って値段を提示したが、相手は交渉にも乗らずに即答で頷いた。それは相手がそれほど多くの金額を求めていないことの表れであり、ただ単に魔石を売りたいだけなのだと商人は無理矢理納得した。

 

「モンスターを倒すとドロップアイテムを低確率で落とす場合がありますが、そちらも売って頂いた時の市場価格6割で買い取りましょう」

「ドロップアイテム、そんなものも存在するのか。お願いするね」

 

 予想通り即答で頷いた相手に、商人は笑みを抑えきれなかった。モンスターのドロップアイテムにはかなりの金額で売れる稀なアイテムも多い。そんなものが市場価格の六割で手に入れば、差し引いた残りの4割は商人の懐に全て入ることになる。裏で闇派閥(イヴィルス)とも繋がっている商人は、短期間で大量のドロップアイテムを売って怪しまれたくなければ、闇派閥の連中に売り渡して儲けることもできる。

 

「今日のところはその小さな魔石を適正価格で買い取りましょう」

「ありがとうね。君はいつもここにいるのかい?」

「いえ……ですが、ここら辺には私が雇った者が何人かいますから、この裏路地に貴方がその恰好で入れば私のもとへと案内させますよ」

 

 闇派閥とも繋がっている商人は、居場所を特定されるわけにはいかないため、多くの仮拠点を街中に持っていた。ギルドが正確に把握している訳ではない地上の迷宮「ダイダロス通り」を中心として活動している闇商人だが、この日は闇派閥に属する冒険者と接触する為にギルドの近くまで来ていたのだ。そこにとんだ儲け話が転がり込んできたと、商人はほくそ笑んでいた。

 

「では、これから御贔屓にお願いしますね」

「親切にありがとうね」

 

 商人と別れて裏路地を再び歩き始めたミストは、背後に現れたラニへと視線を向けた。

 

「その金で何を買う気だ」

「柔らかそうな毛布と壊れにくそうな椅子」

「……そうか」

 

 武器収集家でもあるミストが、また新しい武器でも買うつもりなのかと思っていたラニは、予想とは違う物の名前を出されてほんの少し言い淀んだ。

 

「それなりに便利な家にしたら、本を買いたいな。この世界がどんな成り立ちでできているのかを知りたい」

「それがいいだろう。だが、確か35階層以降だけだったか?」

「ドロップアイテムとやらは上層のでも買ってくれるらしいよ」

「そう多くは落ちんだろう。だからこそ上層でも買い取ると言ったのだ」

 

 ラニとしても、ギルドを通してしっかりと適正価格で売るべきとは全く考えていない。それでも、35階層以降へと潜るにはそれなりに時間がかかることもラニは予想していた。必然的に廃屋でゆったりと過ごす時間が減ってしまうのが、ラニの不満点である。

 

「ラニが作ってくれる祝福に移動すれば問題ないんじゃない?」

「……そう上手くいくといいがな」

 

 ダンジョンそのものは、ラニとしても非常に興味深い存在ではあるのだが、自らの伴侶であるミストルテインと比べればたいしたものではない。自らをいい様に使おうとした大いなる意志も、大いなる意志の傀儡である二本指も存在しないオラリオで、人の届かない月と夜の律を持つラニにとって最も大切な存在である己の伴侶が無事なのであれば、それ以外がどうなろうが関係ない。

 

「ベル・クラネル君も気になるし、やっぱりしばらくダンジョン探索がメインかな」

「好きにすればいい。もうお前を縛る黄金律は存在しない」

 

 言いたいことだけ言ったラニは、その姿を光として空間に消えていった。伴侶の不器用ながら優しさを感じさせる言葉に、ミストは笑みを浮かべたまま路地裏から廃屋へと向かって歩いて行った。

 





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お誘い

 闇商人との取引を始めて数日後、ギルドの裏路地から闇商人の手引きでダイダロス通りまで歩いてきたミストは、先日相対した格好のまま再び商人と対面していた。

 

「……これは?」

「潜ってきた」

 

 机の上に乱雑に置かれた魔石とドロップアイテムを見て、商人は自分の背中を汗が流れていくのを感じていた。闇派閥(イヴィルス)からの情報で、数多くのドロップアイテムや深層に湧き出るモンスターの魔石を知っている商人は、目の前に乱雑に置かれているガラクタの如き山が、深層域のものであると理解できてしまっていた。

 

(初めて出会ったのは2、3日前だぞ。ということは、目の前のこいつはたった3日程度で深層まで行って、この数のモンスターを蹂躙して無傷で帰ってきたってか? そんなこと……猛者(おうじゃ)でも)

 

 オラリオに来たばかりと言っていた人物が持ってきたとは思えないアイテム群を前に固まっていた商人は、なんとか作り笑いを浮かべて目の前の人物を見つめた。

 

「……確かに契約内容通りのものです。魔石は適正価格の6割ほどで買い取らせていただき、ドロップアイテムは実際に私が売った時についた売値の6割でよろしいですね?」

「それでいいよ」

 

 これほどのアイテムを手に入れながらダンジョンに対して全くの無知識。つまり、相手はダンジョンで襲い来る理不尽の全てを事前知識無しで全て粉砕したのだ。幾らか金蔓にしてから、必要なくなった後に始末しておこうと考えていた商人だが、彼は目の前の相手を闇派閥や都市最強の二大ファミリアよりも恐ろしい者であると認識して、有用であると取り入ろうと考えを切り替えた。

 

「これほど多くの魔石を、いきなり納品してくださるのならば、次回からは適正価格の8割程度で買い取りましょうか?」

「いいのか? 君の取り分が少なくなってしまうよ?」

 

 当然、ミストは商人が裏取引にしても魔石の価格をかなり少なめに見積もっていることぐらい気が付いている。商人も、気付かれていることを知りながら、未だに気が付いていない猿芝居を続けているのだ。ただ、商人はミストを恐れ、ミストは何に対しても恐れを持っていない、という単純な話である。

 

「私は商人ですから。貴方様の実力を考えて未来への投資とするのですよ」

「へぇ……別にいいけど。邪魔したら消すだけだから」

 

 ミストは、この時初めて商人に対して戦士としての側面を見せた。武器も構えず、身体を動かしている訳ではないが、さっきまでと違い今は襲い掛かられる前にカーリアの魔術を放つことができる。明確に殺気と言えるほどの意識は向けていないが、商人にはミストの言葉が嘘には聞こえなかった。

 

(とんでもない化け物に話しかけちまったらしいな……だが、庇護下に入れるのならば怪物の方が好都合だ)

 

 闇派閥とも通じることで近年、急速に商売規模を広げている自分のことが、ギルドやオラリオの治安維持をしている【ガネーシャ・ファミリア】に知られてしまうかもしれない未来が存在する。そうなった時に、目の前の人物は秩序よりも利害を取る。商人は確信していた。

 

「これからも御贔屓に、と言いました。貴方様の邪魔はいたしませんよ」

「そう」

 

 会話しながら用意していた魔石の六割分の代金を手渡した商人に対して、ミストは興味なさ気にその場を離れた。

 

「金がいっぱいだね。いっそのこともうちょっと稼いで、家買った方が良かったかも?」

「人気のない廃屋の方が私は好みだがな」

「じゃあ今のままでいいか」

 

 元々、人の寄りつけないカーリア王家の館を盾に、自らの魔術師塔から出てくることのなかったラニにとって、人が多いオラリオの住宅街に住むくらいならば周囲が廃墟の廃屋に静かに佇んでいる方が性に合っている。

 

「内装は相談しながらね」

「本だけで充分だ」

 

 


 

 

「ん? ラニ、もうすぐお祭りがあるらしいよ」

 

 まとまった金を手に入れたことで廃屋の壊れていた壁と屋根を修理したミストは、端っこに置いてある椅子に座りながら紙を見ていた。オラリオの歴史やダンジョン、冒険者などの知識を得るために本を読んでいたラニは、伴侶の声を聞いて目線を上げた。

 

怪物祭(モンスターフィリア)だって……なにをするのかな?」

「【ガネーシャ・ファミリア】とやらがダンジョンのモンスターを捕獲、オラリオ内にある闘技場でモンスターを調教(テイム)する様子を娯楽として見せる、と書かれていた」

「おー……」

 

 まだ本を買ってそれほど時間が経っていないにもかかわらず、しっかりと知識として吸収しているさまを見て、ミストは感心していた。狭間の地で幾多のデミゴッドを打ち砕いてきたエルデの王だが、彼女の基本的な戦略は死なないことを利用した、勝てるまで繰り返すゴリ押しである。ミストの知能が低い訳ではないが、カーリア王家のデミゴッドとして生まれ、黄金律に選ばれた神人たるラニとは比べるべくもない。

 

「それで、その祭りがどうかしたのか」

「楽しそうだから、ラニも一緒に見て回らない?」

「…………まぁ、いいだろう」

 

 ミストの言葉を聞き、頭の中では断る言い訳が瞬時に複数浮かび上がってきたラニは、それらを全て思考の彼方へと投げ捨て、己の伴侶たるミストとのデートを選択した。そんな一瞬の逡巡など気付きもしなかったミストは、てっきり断られると思っていたデートの誘いに、ラニがしっかりと乗ってくれたことに嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 





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怪物祭(モンスターフィリア)

いつも誤字報告ありがとうございます

どれだけ頑張っても誤字がなくならないのは、地味に落ち込みますけど……



「……不思議な魅力だ」

「お前は相変わらずだな」

 

 怪物祭(モンスターフィリア)が行われようとしている中、人波から外れた露店で謎の食べ物を食べているミストは、シンプルで変な工夫などなにもされていないはずだが、病みつきになりそうな味に感心していた。横でラニが溜息を吐きながら、視線はミストが持っている食べ物から露店に掲げられている看板の文字へと移った。

 

「ジャガ丸くん? 何故食べ物にくんを付ける」

「意味はわからないけど、この小豆クリーム味……なんとなくいける味だ」

 

 人類の進化を見たと言わんばかりにジャガ丸くんを食すミストに呆れているラニは、周囲から向けられる視線など気にせずにミストの手にあるジャガ丸くんを手に取って食べた。

 

「…………ラニって何か食べられたんだ」

「ふ……食べられないと言った覚えはない」

 

 神秘の力で作られたラニの人形としての身体で、食事が行えるなどとは全く考えていなかったミストは、ラニが自分と食事してくれる喜びに震えていた。

 

「もっと一緒になにか食べよう!」

「いらん。そもそも消化機能はついていない」

「えー……」

「私はお前が食べている姿を見るだけで充分だ」

 

 ラニの言葉に一応の納得を見せたミストは、手に残っていた小豆クリーム味のジャガ丸くんを口の中に放り込んでから、暗月の指輪が嵌まっているラニの手を取った。

 

「まだ祭りは始まってないんだから、もう少し見て行こう」

「仕方がないな……私の王は。伴侶の我儘を聞いてやるのも、私の務めだろう」

 

 伴侶に手を引かれるラニの顔には、呆れたような声とは正反対である、楽しそうな小さな笑みが浮かんでいた。

 

 


 

 

「ふーん……ベル君はそんな冒険者と出会っていたんだね」

「そうなんですよ。すごく強かったです」

 

 怪物祭の為に闘技場へと向かって歩いていく民衆から少し離れた場所で、クレープを食べていたベル・クラネルとその主神ヘスティアは、ダンジョンであった話をしていた。ベルがアイズ・ヴァレンシュタイン以外にもダンジョンで誰かに助けられたこと、そしてその人物がベルには想像できない強さであったこと。しかし、ヘスティアにとって重要なことはそんな目をキラキラさせているベルの憧憬ではない。

 

「そのヒューマン、女性だったんだろう?」

「な、なんでわかるんですか!?」

「あー! やっぱりね! ベル君はいつもそうだもん!」

 

 クレープを食べながら他愛ない会話している冒険者と主神に、周囲からは生温かい視線が向けられていたが、二人が気にしている様子はない。ワイワイ騒ぎながらクレープを食べ終わったベルとヘスティアは、途中で出会ったエイナ・チュールとの会話を打ち切り、シル・フローヴァを探している最中、モンスターに襲われることになる。

 

 


 

 

 突如として姿を現したモンスター、シルバーバックによって逃走劇を始めたベル・クラネルとヘスティアとは別に、怪物祭を仕切っていた【ガネーシャ・ファミリア】からの協力要請を受け、脱走したモンスター9匹を追っていた冒険者の中には【ロキ・ファミリア】の『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインも含まれていた。

 

「ん。次」

「おー流石やな、アイズたん」

「後、何匹?」

「2匹や」

 

 風を纏ってソードスタッグを一撃で粉砕したアイズは、傍にやってきた自らの主神であるロキに脱走したモンスターの残数を聞いた。ギルドの職員から事前に何匹かを聞いていたロキの言葉に頷いたアイズは、すぐに建物の上に登って、再びモンスターを探そうとしていたが、モンスターの咆哮を近い位置で聞いてすぐにそちらに向かって走り出した。

 

「ちょ、アイズたん待ってーな!」

 

 ロキを無視するように街を疾走するアイズは、街中で誰かを探すように走り回るトロールを発見して、レイピアを構えた。そのまま自身の風を纏って突撃しようとした寸前に、トロールの近くに人影が二つあることに気が付いてトロールの前に降り立った。

 

「大丈夫、ですか?」

「ん? なにこのモンスター」

「お前がジャガ丸くんとやらに再び夢中になっている間に出てきたモンスターだ」

 

 アイズは、私服姿の女性が手に持っている小豆クリーム味のジャガ丸くんへと一瞬視線を奪われたが、すぐに咆哮を上げるトロールへと切り替えた。

 

「一般人か? アイズたんがすぐに片付けるからじっとしてたら――」

「――いや、必要ない」

 

 アイズに追い付いてきたロキが、ジャガ丸くんを食べている女性とそれに付き添う形で立っている魔術師然とした女性に安心させるような声をかけた。しかし、ジャガ丸くんを一口で食べきった金髪の女の右手には、既に銀色の錫杖が握られていた。

 

「失せろ」

 

 アイズの横を通り過ぎて杖を振るったミストに、トロールが反応しようとした瞬間、周囲の気温が一気に下がると同時に、彼女の右手に魔力の大剣が現出する。

 

「なんやっ!?」

「魔法?」

 

 半透明で全体から冷気を放つ大剣を片手で持つミストは、既に戦意を失っているトロールを容易く真っ二つにした。勢いのまま石畳に切り傷を付けた魔力の大剣は、触れた部分から周囲を凍結させていた。

 

「……自分、何者や?」

 

 トロールは20階層以降で見られる中層のモンスターである。現在Lv.5たるアイズにとっては造作もない相手だが、Lv.1の相手ではまず勝てないような敵であるトロールを、見たこともない魔法で真っ二つにする私服姿の女。ロキの記憶には全くない相手であった。

 

「トロールをワンパン言うならLv.3は間違いなくあるやろ。けど、アンタみたいなやつの顔は見たことあらへん」

「私はただの一般人だよ。冒険者登録はしていないからね」

「はぁ?」

 

 冷気を纏った魔力の大剣『アデューラの月の剣』を消したミストは、ロキの目を見つめて薄く笑っていた。同時に、ロキはかつてヘスティアがそうしたように、目の前の人物が嘘を吐いているのかどうか理解できないということに目を見開いた。

 

「……神の力(アルカナム)は使える訳あらへん。嘘が見抜けんのに神でもない……ホンマに何者やねん」

「お前達、神などが知る必要はない」

「あん?」

 

 笑っているミストを遮るように前に出たラニは、既に魔術を起動していた。唐突に視界を奪うほどの濃霧が発生すると、二人の存在が目の前から消えたのを感じ取って、ロキは舌打ちした。地面に転がっている綺麗に両断された魔石と、凍ったままの地面だけが先ほどまでの出来事が白昼夢などではないことをロキに知らしめていた。





アデューラの月の剣は、左手持ちの威力がナーフされてからあまり使わなくなった印象あります
ナーフ後でも充分使える威力はしているんですけどね


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冒険者ミストルテイン

評価者が50人を超えて、評価バーが右端まで行きました
評価していただきありがとうございます
お気に入りも1000人を超えましたし、正直圧倒されていますが、これからもご期待に沿えるような小説を書いていけるように努力してまいります



「別に逃げる必要はなかったんじゃない?」

「神と会話を重ねるなど不快だ」

 

 濃霧で姿を消したラニとミストは、建物の上からアイズ・ヴァレンシュタインと狡知の神ロキを見下ろしていた。過去の出来事によって極端な神嫌いとなっているラニの言葉に苦笑いを浮かべながら、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインを見つめていた。

 

「……強いね」

「私の王ほどではない」

 

 冒険者としての実力を冷静に判断するミストの言葉に対して、即答するラニに困ったような表情を浮かべた。エルデの王として狭間の地を平定した彼女の実力は確かに突出しているが、目の前の冒険者アイズの実力がミストを相手に手も足も出ない程とは考えられない。

 

「なんでラニが私の腕を誇ってるのかわからないけど……私も無傷じゃすまないかもよ?」

「それはないな」

「なんで?」

 

 ラニの余りにも身内贔屓な評価に、ミストは依然として困った表情のままだったが、伴侶としてはそれほど誇ってもらえるのは少し嬉しかった。それでも、戦士としてのミストはラニの評価基準を知らなければ納得できない。

 

「腐敗の女神、星砕きの将軍、冒涜の君主、暗黒の落とし子、狭間の竜王、血の君主、火の巨人、忌み王、満月の女王、黒き剣、最初の王。なにより、黄金律そのものを打ち砕いたお前が、あんな小娘に負けるものか」

「そっか……なんか嬉しい」

 

 普段からあまり心の内を言葉にすることのないラニから向けられた、信頼という名の愛を聞いて、ミストは笑みを浮かべた。一方、伴侶が小娘と比べられること自体が不快であったラニは、勢いに任せて自分の王をべた褒めしていることに気が付き、咳払いを一つしてから光の粒子となって消えた。

 

「照れなくていいのに」

 

 照れ隠しに姿を消したラニに微笑みながら、彼女の言葉によって思い出されたのは狭間の地で戦ったかつての強敵たちの姿である。腐敗に侵され、星に砕かれ、雷に身を裂かれ、火に身を焼かれ、死そのものに貫かれ、忌み呪いに蝕まれ、黄金律の圧倒的な光に消し飛ばされた。幾度となく訪れた死は、未だに褪せ人の中に記憶として刻み込まれている。

 

「死に物狂いで戦え、若き冒険者たち……『死』を超えた先にしか、答えはないぞ」

 

 幾多もの死を超えた先に答えを見つけた先達は、眼下で走る冒険者たちを見て目を細めた。既に彼女の冒険は終わっているが、だからこそオラリオの地で未知へと立ち向かう冒険者が少し羨ましく思えてしまった。

 

 


 

 

 ミストにとっての秩序とは、黄金律が消え去った今となってはラニの考える夜の律である。彼女とてオラリオを動かしているのが生を尊び、死を忌み呪う黄金の律でも、ラニの求める星と月、冷たい夜の律でもないことは知っている。神が下界に降り立ち人と生を共にする世界が、果たして正しいのかどうかは、律の破壊者でしかない褪せ人にはわからない。故に、ミストにとってオラリオはラニが否定していないというだけである。

 ミストはオラリオがどうなろうが知ったことではない。だからこそ怪しさしかない商人に対して平然と魔石を渡し、ドロップアイテムも安い値段で買い取らせる。そこにラニが介在することがないからである。

 

「私の王、そろそろ私は一時の間眠る。この世界ではなにがあるかわからんからな」

「そっか……寂しくなるなぁ」

「ふ……眠っていようともお前の傍にいるさ」

 

 街中での戦闘が収まっていない中、それを無視して廃屋へと戻ってきたミストはラニの言葉に寂しさを感じていた。人形に無理矢理自らの魂を入れているからなのか、ラニは力を制限されているうえに、こうして一定期間眠っていなければ満足に動くこともままならない。エルデンリングを消し、律の力を手に入れた今でもオラリオでは上手く動けなさそうにしていたのは、ミストも気が付いていた。

 

「急ぐ旅でもない……このオラリオでゆっくりとしているといい」

「そうだなぁ……じゃあちょっと冒険者の真似事やってみようかな」

「好きにしろ。私の王は、戦っている姿こそ相応しい」

 

 珍しく楽しそうな笑みを浮かべたまま目を閉じたラニへ、ミストは微笑んだ。狭間の地で冒険を終えたミストにとって、このオラリオへとやってきたのはラニの旅に付き合っていたからに過ぎない。しかし、その旅も少しの休憩期間に入った。

 

「ラニには気付かれてたのかな、やっぱり」

 

 伴侶たるラニと共に月へと向かう無限の様な旅路は、決して退屈などではない。しかし、ミストにとっては戦いこそが生きることなのだ。エルデの王とは強さ故である。

 神話の怪物共と真正面から戦うことができるミストと、まともに打ち合える冒険者はオラリオには多くいないだろう。だが、オラリオに立つ冒険者は、その程度で折れるほど弱くもない。たった数日間しか過ごしていない都市ではあるが、ミストは確信していた。

 

「私はまだまだ満足できそうだ。いっそ私が育てるのもありか?」

 

 魔術の師たる女性を思い出して笑みを浮かべたミストは、私服からオルドビスの鎧へと着替えて立ち上がった。目指す場所は迷宮都市オラリオの中心地であるダンジョン。神の伴侶たる王としての役目を一時置いたミストは、ただ人として未知への探求を求めダンジョンへと向かって歩きだした。

 





冒険者として活動します(正規とは言っていない)

因みに、ラニ様はすぐに起こす予定です
だってラニ様書きたいから


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迷宮(ダンジョン)探索

前時代のエルデの王は竜王プラキドサクス
黄金律最初のエルデの王は蛮地の王ホーラ・ルー
あせんちゅはデミゴッドも古竜も関係なく皆殺し

つまりエルデの王は蛮族
            Q.E.D



「……カエル?」

 

 暇ができたことでダンジョンに潜っていたミストは、6階層でフロッグ・シューターと相対していた。単眼のカエルを見て首を傾げたミストは、突然長い舌を打ち出してきたカエルに驚いていたが、特に脅威になることもなかった。なにせ、フロッグ・シューターの舌は坩堝の騎士が纏う鎧に当たったところでなんの衝撃も彼女に与えることがなかったからである。

 

「うーん……魔石だけ貰っておこう」

 

 もはや相手する必要性すらも感じない程度のモンスターだが、絡まれればどんな存在だろうが叩き潰すのが狭間の地をかけた彼女の信条である。再び打ち出されたフロッグ・シューターの舌を最初から避けもせずに鎧で受け、そのまま近づいて取り出した右手の大剣で以って叩き潰す。一撃でダンジョンを陥没させるほどの重さを見せた大剣は、ミストが着込んでいる鎧と同じ銅色をしていた。

 

「あ、魔石砕いちゃった……売れないんだよね、砕くと」

 

 ミストは『オルドビスの大剣』を肩に乗せ、大袈裟な溜息を吐いた。一振りで叩き潰されたフロッグ・シューターが灰になるのを確認してから、後ろを振り向いてオルドビスの大剣を構えた。

 

「これ、なんだろう?」

 

 ダンジョンの壁から数匹のウォーシャドウが姿を現し、目の前にいるミストを敵として認識していた。全身真っ黒の人型をしているモンスターは「新米殺し」の異名を持つ危険なモンスターである。上層の前半で出会うモンスターとしては非常に危険な存在であり、鋭いナイフのような指による攻撃を真正面から受ければ、冒険者の命を容易く奪うことは間違いない。

 

「……数多いなぁ」

 

 六体程度のウォーシャドウならば、盾でも構えながらオルドビスの大剣を振るっていればすぐに全滅させることができると考えていたミストだったが、ウォーシャドウの背後の壁が再びひび割れ、追加でウォーシャドウとフロッグ・シューターを生み出していた。

 

『…………?』

 

 前にいたウォーシャドウがミストへと接近して鋭利な爪を振るったが、やはり坩堝の鎧には傷一つない。攻撃しているのに全く効いている感触がないことに疑問を持ったウォーシャドウが、少し距離を取って複数のフロッグ・シューターと共にミストを見た時、既に()()は現れていた。

 

「えい」

 

 周囲に他の冒険者がいないことを確認したミストは、可愛い掛け声と共に身体から半透明の首を生み出した。それは冒険者でなくとも、神やあらゆる亜人(デミヒューマン)も、誰もが知っている。古来、数多くの伝説や物語に登場する生物であり、迷宮の奥深くまで潜る冒険者ならば似たような姿のモンスターを見ることもあるかもしれない。角を持ち身体は鱗に覆われ空を飛ぶために発達した大きな翼を持つ生物『竜』である。

 

「これで終わり」

 

 祈祷『プラキドサクスの滅び』により顕現した、時の狭間に永遠に座していた竜王プラキドサクスの首。かつて黄金律の時代が到来する前に世界を治めていた狭間の地の王。永遠なる時間を持ちながら黄金律に敗れたその竜王は、後に新たなエルデの王となる一人の褪せ人に滅ぼされた。『プラキドサクスの滅び』は、その滅ぶ際の断末魔を再現する祈祷である。

 ダンジョンに響き渡った永遠なる竜王の断末魔は、黄金色の炎をまき散らす。突然ダンジョンに現れた竜王という絶対的な上位存在を前に動くことができなかったウォーシャドウとフロッグ・シューターの群れは、竜王の断末魔に巻き込まれてその身体を焼き尽くされた。冒険者の扱う魔法などとは比べ物にならない威力の炎を放ったミストは、特に気にする様子もなく、残されたドロップアイテムと魔石だけ回収してそのままダンジョンを歩き出した。

 

 この日以降、ダンジョン6階層には誰も見たことがないドラゴン型のモンスターが出現することがあるという噂がオラリオに流れることになるが、ミストがその原因に気が付くことはなかった。

 

 


 

 

「うーん……潜っても強さが変わっているのかよくわからない」

 

 ダンジョン18階層である迷宮の楽園(アンダー・リゾート)へとやってきたミストは、安全階層(セーフティポイント)を素通りしてダンジョンの19階層へと赴こうとしていた。以前にも35階層よりも下の迷宮まで潜ったことのあるミストだが、その時は道中の敵を全て適当な魔術であしらっていたため記憶になかった。今回は前回とは違いゆっくりと相手を観察しながら降りてきているので幾つかのモンスターの特徴を覚えていた。

 

「蟻、ゴリラ、牛頭、火を吐く犬、兎、虎、かな? 兎の角が手に入ったのは良かったかな」

 

 キラーアント、シルバーバック、ミノタウロス、ヘルハウンド、アルミラージ、ライガーファングのことである。しかし、ミストにとってみればどれも大差ないので特徴が記憶にあるだけで、強さを感じた訳ではない。

 

「あった。前に来たときに置いた祝福」

 

 以前ダンジョンを潜った時にラニが設置した祝福を発見したミストは、消耗など精神力(FP)だけですんでいたが、一度祝福で休んでいくことに決めて、19階層への階段へと向けていた足を祝福へと向けた。ラニの律を示すかのように青白く光る祝福の傍に座ったミストは、自らの安全を確保した独特な感覚を黙って味わっていた。





ダンジョンでプラキドサクスの滅びをぶっ放すのは間違っている(確信)



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追記

10話も投稿したんで連載に変えました
完結の予定までまだプロットは練れていないのですが、お付き合いいただけると嬉しいです


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闘技場(コロシアム)

 白濁色の壁が聳え立つダンジョンで、武器を持つ骨とエルデの王は相対していた。死霊魔術によって動かされる骨を見慣れているミストは、特になにかを思うことなくオルドビスの大剣を振るう。骨の武器を持ってミストと相対するモンスター、スパルトイはその武器で大剣を防いだ。

 

「少しマシになってきたな……やっとまともに戦えそうだ」

 

 喜色満面の笑みを浮かべているミストに対し、オルドビスの大剣を武器で受けたスパルトイは恐怖に支配されていた。無造作に振るわれたオルドビスの大剣を受け止めたスパルトイが持つ骨の剣は、既に半ばから叩き折られている。つまり、もう一度その大剣を振るわれればスパルトイには生き残る術が存在しない。

 

「そらッ!」

『──ッ!?』

 

 苦し紛れに盾を構えたスパルトイは、その骨の盾もろとも両断された。灰となって消えていくスパルトイを尻目に、ミストは背後から近寄ってきていたリザードマン・エリートの攻撃を大盾で受けた。

 

『ゲギャァッ!?』

「遅い」

 

 攻撃を容易く弾かれたリザードマン・エリートにできた思考の空白時間に、ミストはオルドビスの大剣を突き出した。空白と言っても、1秒にも満たないほんの少しの動揺にしか過ぎない。だが、狭間の地で最強を証明したエルデの王にとっては、あまりにも大きすぎる隙だった。喉を貫かれて絶命したリザードマン・エリートを捨て、ミストは新たな獲物を求めて周囲に目を向けた。

 

「…………まだまだいけそうだなッ!」

 

 ここは死線と呼ばれる深層の序盤、37階層白宮殿(ホワイトパレス)である。

 

 


 

 

「なんか癖なんだよなぁ……治らないし」

 

 リザードマン・エリートとスパルトイの死体が山のように積み重なっている場所で、ミストは『城館のタワーシールド』を地面に置いた。彼女にとって37階層は死線(デッドライン)足りえなかったのだ。

 

「昔の影響かなぁ……記憶なんて殆どないんだけど」

 

 ミストは狭間の地に導かれる前、記憶も掠れてしまってよく思い出せない昔のことを考えていた。と言うのも、彼女はエルデの王としての闘争本能が高まってくると、口調が荒々しく男のようなものに変わっていく。それは狭間の地に訪れる前まで男であったことが影響しているのか、ミスト本人にもわからない。

 

「まぁいいか。悪いことばかりじゃないし」

 

 死んだ記憶もないのに前世と呼ぶのも不思議な話だが、その前世では彼女は男であった。その記憶の弊害で闘争本能が高まると本性が飛び出してくるのとは別に、一つだけ彼女の得になっていることがあった。それは、同性であるはずのラニへの感情である。

 

「……まぁ、女で生まれてきてもラニには惚れてたと思うけど。それでも、違和感なくラニの伴侶を受け入れられたのは唯一の長所だよねー……っと」

 

 ダンジョン内で独り言を呟いていたミストは、新たに生まれようとしているモンスターの音を聞き、城館のタワーシールドを拾った。

 

「確かこの先に、無限に戦える場所があるらしいね。面白そうだ」

 

 ダンジョンの壁から生まれたスカル・シープは、ミストを認識した瞬間に世界が二つに割れた。オルドビスの大剣によってスカル・シープを両断したミストは、リザードマン・エリートとスパルトイの魔石を回収しながら、無限に戦える場所『闘技場(コロシアム)』へ歩を進めた。

 

 


 

 

 闘技場(コロシアム)は間隔なく一定数のモンスターが常に湧き続ける空間である。第一級冒険者でも決して足を踏み入れないと言われる場所であるが、ミストにとってはどうでもいい話であった。彼女にとってみれば、わざわざ獲物を探して歩く必要のない場所程度の認識である。

 

「……本当に沢山いるな」

 

 冒険者が足を踏み入れるまでモンスター同士で戦い続けていると言われる闘技場に、一人の冒険者がやってきた。その存在にいち早く気が付いたスパルトイは、リザードマン・エリートに向けていた剣をすぐにミストへと向けて走り出した。

 

「この数はオルドビスの大剣じゃきついかな?」

『ギィギャ!』

 

 スパルトイの剣を盾で受けたミストは、無造作にオルドビスの大剣を振るってその背骨を両断した。波状攻撃のようにスパルトイの後ろからやってきたリザードマン・エリートは、続くタワーシールドのシールドバッシュを受けて仰け反った所を大剣で叩き潰される。

 

「先制攻撃で楽しんでみるか」

 

 城館のタワーシールドとオルドビスの大剣を手から消したミストは、左手に竜餐の印を持つ。竜餐の祈祷を強化するその聖印によって放たれるものは、文字通り竜の心臓を食らって手に入れた絶大な力である。本能的に放たれる祈祷を脅威と感じたモンスターたちは一斉にミストに襲い掛かろうとして、空中で腐り果てた。

 

「腐り果てろモンスター」

 

 放たれた祈祷は『エグズキスの腐敗』である。朱き腐敗に侵されながらも、竜餐への憎悪を忘れなかった腐りゆくエグズキスの力を振るうミストは、モンスターよりもモンスターらしいと言える。

 朱き腐敗に侵されたモンスターたちはミストに近づく前に腐り果てて倒れていく。スカル・シープは身体を支え切れずに地に伏せ、リザードマン・エリートは鱗を溶かしながら倒れ伏し、ルー・ガルーはミストから逃げようと背を向けたまま動かなくなり、スパルトイは骨を腐らせて粉と消え、オブシディアン・ソルジャーは黒曜石の輝きを失わせる。

 

「まるでケイリッドのような地獄絵図だな」

 

 かつて朱き腐敗の女神によって腐らされた土地を思い出しながら、ミストは皮肉気に笑った。殺される度に数を合わせるように生み出されるモンスターたちは、しばらくその場にとどまり続けた朱き腐敗によって生み出された瞬間に腐り果てた。

 

「…………魔石回収するの面倒だな」

 

 猛毒を持つペルーダが生み出された瞬間に、毒以上の腐敗によって死んでいく様を見ながら、ミストは溜息を吐いた。

 




腐敗は延々とナーフされているイメージ


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小さな違和感

「……あんまり良くないわね」

「はぁー疲れた。どうしたのヘファイストス」

 

 店の中で【ヘファイストス・ファミリア】の主神である鍛冶の神ヘファイストスが書類を見て、眉間に皺をよせていた。そこに現れたのは、自らの眷属が持つナイフをオーダーメイドしてもらった代わりに、ヘファイストスの店で働かせられている神ヘスティアだった。休憩時間に友人であるヘファイストスの執務室までやってきたヘスティアは、ヘファイストスの難しそうな顔に首を傾げた。

 

「あんたには関係……いや、あるわね。ちょっと見てもらっていいかしら?」

「え? ボクに見せてもいいのかい?」

「問題ないわ。別に機密でもなんでもないもの」

 

 ヘファイストスの許可を貰って紙を見せてもらったヘスティアは、そこに書かれている数字と文字の羅列をゆっくりと読み解いていた。ヘスティアが持つ紙には、ここ数日間に市場に流れたモンスターのドロップアイテム名と、市場に流れている数と市場価格が並べられていた。

 

「これ、価格が()()()()()()()()()?」

「そうよ。異常なほどにね」

 

 額としてはほんの少しの下がり方でしかないが、鍛冶系ファミリアの最大手として常に市場を見てきたヘファイストスの目に留まった違和感。ヘスティアはヘファイストスに言われなければ気が付かなかったが、よく見れば上層から下層までのドロップアイテムが普段より多く市場に流れているのだ。

 

「これがボクになんの関係があるんだい?」

「これが続くようなら、あんたの子が持ってくるような上層のドロップアイテムが安く買い叩かれるようになるのよ」

「そ、それは困るな」

 

【ヘスティア・ファミリア】の財政を支えているのは、たった一人の眷属ベル・クラネルである。そんな彼が持ってきたドロップアイテムが二束三文になっては、将来的な財政に影響する可能性は充分にある。

 

「けど、なんでこんな風になったりするんだい? ボクは下界に来たのがそれほど前じゃないから詳しくないけど……冒険者がドロップアイテムを持って帰ってくるのは普通だろう?」

「上層、中層ぐらいまでならね。けど、下層以降はそもそも潜れる冒険者が少なくなってくるし、深層のドロップアイテムは、ものによっては常に品切れなんてことも普通にあり得るわ」

 

 ヘファイストスが一番問題視していたのは、この市場の混乱とも言えない小さな歪みが、いつか大きなうねりに変わってオラリオを飲み込む。そんな気がして仕方がないのだ。

 

「気を付けなさい。あんたの子も……少なくとも、とんでもない頻度で深層まで潜ってモンスターを狩り続けている奴が今、オラリオにはいるわ」

「……わかった。ベル君には伝えておくよ」

「そうしておいて……ところで、今その眷属はなにしてるのよ」

「ベル君かい? ベル君はいつも通り、ダンジョンさ」

 

 


 

 

「っ!」

 

 ダンジョン7階層で、ベル・クラネルは【神の(ヘスティア)ナイフ】を片手に疾走していた。ダンジョンの7階層と言えば、ウォーシャドウに並び『新米殺し』と名高いキラーアントが闊歩している階層である。しかし、ベル・クラネルはそんなキラーアントを一蹴。硬い外殻を持つはずのキラーアントの首を切断したベルは、一つ息を吐いてから魔石を回収し始めた。

 

「やっぱり神様に感謝しなくちゃなぁ……このナイフ」

「いいナイフだね。中々の業物だ」

「うぇひぃ!? み、みみみミストさん!?」

 

 キラーアントの魔石を回収したベルが、うっとりとした表情でナイフを見つめていると、横から音もなく坩堝の騎士が姿を現した。突然現れた知り合いの姿に動揺していたベルは、息を整えてからゆっくりとミストを見上げた。

 

「だ、ダンジョンに来ていたんですね」

「ん? さては私が冒険者登録していないことを知ったかい?」

「そ、そんなこと……ナイデスヨ?」

「嘘が下手だねベル・クラネル君」

 

 一瞬で嘘だと見抜かれたことに落ち込みながら、ベルは覚悟を決めてミストへと視線を向けた。

 

「なんで、冒険者登録をしていないんですか?」

 

 余計なことを言わずに直球で言い辛いことへ突っ込んできたベルに、ミストは兜の中で笑みを浮かべていた。闇派閥(イヴィルス)の存在などまだ知らないベルからすれば、冒険者登録をせずにただ潜っている人程度の認識であるが、一定以上の知識がある人間ならば即座に武器を向けてもおかしくない。

 

「簡単な話、私はファルナとやらを持っていないからさ」

神の恩恵(ファルナ)を!? ど、どうやってダンジョンに潜ってるんですか!?」

「戦闘経験なら豊富だ」

 

 ミストは終始、嘘は言っていない。恩恵を持っていないのも本当であり、戦闘経験が豊富なことも間違いではない。人を疑うことが苦手なベルは、そこでミストへ疑問をぶつけるのを諦めた。

 

「私は丁度、オラリオに戻るところでね。ベル・クラネル君はどうする?」

「べ、ベルでいいですよ。僕はまだもう少し潜っていきます」

「そうか。君の武運を祈るよ」

 

 軽く手を振って6階層へと続く階段に向かって歩きだしたミストは、緩む頬を抑えきれなかった。

 

(成長している。私が初めて会った時とは既に別人のような強さを手に入れていた……あれはナイフに任せた技量ではない。やはり本物だったか……ベル・クラネル)

 

 ミストは初めてベル・クラネルに会った時から、内側で渦巻いている()()()の強さに気が付いていた。かつて膨大なルーンを力に変えてエルデの王となった自分と同じように、その内側のルーンはどんどんと強くなっている。このオラリオの中で誰よりも冒険者としての素質があるものだと考えていたミストは、想像以上の速度で強くなるベル・クラネルに笑みを抑えきれない。

 

「いつか潰すことになるか、それとも良き隣人のままでいられるか。ラニ、次第かな」

 





どうなるかはラニ様の決定次第です


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取引

「これはまた……素晴らしい量ですね」

闘技場(コロシアム)と呼ばれていた場所に少し引きこもってね」

「闘技場……37階層にあると言われているあれ、ですか?」

「そう」

 

 ダンジョンの37階層から下はれっきとした深層域である。限られた冒険者しか足を踏み入れることができず、第一級冒険者であろうとも少しの油断で命を刈り取られる本物の地獄。限られたファミリアにしか情報が公開されていないため、その様子を知る者は自らの足で歩いたものだけである。37階層ぐらいまでなら、一般人にも情報が噂として出回っていないこともないが、ミストが持ってきたアイテムを渡されている商人も初めて見るようなものが存在する。

 

闇派閥(イヴィルス)でもこんな深層域まで行ける人はいませんよ」

「そうなんだ」

 

 闇派閥がそもそもなにか知らないミストは適当に話を流しながら、深層のモンスターから手に入れた魔石を机に並べていた。商人の部下と思われる人間たちが慌ただしそうにドロップアイテムの鑑定と払う(ヴァリス)を計算している中、商人は顎に手を当てて唸っていた。

 

「……貴方様は都市を混乱に陥れようとする闇の連中、闇派閥についてどう思いますか?」

()()()()()()

「そうですか」

 

 ギルドに所属している冒険者でなくとも、都市を混乱に陥れようとするものの存在を聞けば誰もが顔を顰めてしまうだろう。しかし、深層域まで単独で潜り、無傷のまま帰ってきているミストは大して興味もない。彼女にとって秩序とはラニそのものであり、彼女にとっての敵はラニを害そうとする者とラニの理想を阻むものである。

 

「私、実は闇派閥と密かに繋がっていましてね。最近は連中に勧誘されているのですよ。これ程の魔石とドロップアイテムを持っている商人ならば、私たちと共に歩もうと」

「ほぉ……あまり良さげな話ではなさそうだね」

「おっしゃる通りです」

 

 一見すると単純に闇派閥の仲間となり共に都市へ混乱を招こうと勧誘しているようだが、実のところ商人は脅迫されているのだ。

 

「受け入れなければ、恐らく他の闇派閥と繋がっているファミリアの冒険者から、なにかと理由を付けられて潰されるか、都市の治安を維持している【ガネーシャ・ファミリア】に密告されて終わりでしょう」

「それは困るね。つまり、私に君も守って欲しい、と?」

「お話が早くて助かります」

 

 商人は運命の岐路に立たされている。闇派閥についてそのまま数多のファミリアに潰されるか、闇派閥との手を切って狙われ続けるか。一度でも儲けの為に闇派閥と手を組んだ者の末路として相応しい破滅への岐路であるが、そこに突然もう一つの道が現れた。

 

「闇派閥は派手に過ぎます。いずれファミリア連合に滅ぼされることになるでしょう……ですから、私は貴方様を使って中立の立場を貫きたい」

「混沌側から金を貰い、秩序側から安全を買う……なるほど、素晴らしい商人だね」

「お褒めの言葉として受け取っておきます」

 

 どちらからも甘い蜜を啜ることしか考えていない商人の言葉に、ミストはわかりやすくていいと頷いた。当然、そんなことをすれば商人はどちらからも目を付けられて簡単に押し潰されるのだが、そこで出てくるのがミストというイレギュラーである。深層域に単独で潜りながら無傷で帰ってくる力。オラリオの秩序に全く興味を示さない姿勢。商人の事情に深く突っ込んでこない性質。商人にとってミストは運命の相手と言っても過言ではないだろう。

 

「私としては、別にオラリオがどうなろうがどうでもいいから……ただ魔石とドロップアイテムを買い取ってくれればいいよ」

「勿論です」

「じゃあ上層から下層の魔石も買い取って」

「…………まぁ、いいでしょう」

 

 下層はともかく、上層と中層の魔石など買い取ったところで商人としてはあまり旨味がない話だが、ミストを利用して安全を確保するためには必要な経費であると割り切り、商人は深層の魔石同様に8割程度の値段で買い取ることとなった。

 

 


 

 

「んー……おばちゃん、小豆クリーム味3つ」

「はいよ」

 

 商人に魔石とドロップアイテムを買い取ってもらったミストは、その金を持ってジャガ丸くんの出店に足を向けていた。怪物祭(モンスターフィリア)以降、ジャガ丸くんの味を気に入ったミストは、定期的にジャガ丸くんを食べていた。

 

「小豆クリーム味1つ」

「はいよ」

 

 一人で満足気にジャガ丸くんの小豆クリーム味を食べていたミストは、ベンチの横に自分と同じ小豆クリーム味のジャガ丸くんを持った人が座ったのを見て視線を向けた。

 

「ん? 君は……」

「フィリア祭の時の?」

 

 横に座っていたのは、ミストが持つ金髪よりも更に輝いて見える金髪を持つ少女、アイズ・ヴァレンシュタインだった。ミストは美しい少女だなと思いつつも、アイズの腰に備え付けられている業物に目が吸われていた。

 

「……これ?」

「あぁ……いい剣だ。よく鍛えられているし、鍛冶師の魂が籠められている」

 

 ミストは自らの持っている武器を鍛えた円卓の鍛冶屋ヒューグや、共にラニに仕えた仲間である鍛冶師イジーを思い出して柔らかな笑みを浮かべた。アイズは、ミストの柔らかな笑みを見て少し驚いたような表情を見せた。アイズが知っているミストなど、私服姿で巨大な魔力の大剣を振るう姿だけだったからである。

 

「……貴方は、何者、なんですか?」

「それは秘密だ。女は秘密の数だけ美しくなる、らしいぞ?」

 

 旅巫女のローブを揺らしながら、ミストはアイズから離れていった。自らの主神であるロキが気にしていた存在ながら、同じジャガ丸くんを愛する同士なのだと認識したアイズは、名前を聞きそびれたことを思い出しながらジャガ丸くんに齧りついた。

 




あせんちゅは今のところ闇派閥でもオラリオ派でもありません
敢えて言うなら第三勢力です


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霊馬

「ダンジョンは楽しいな……幾ら敵を蹂躙しても無限に湧き出てくる」

 

 正面から突進してくるサイを叩き潰したミストは、背後から近寄ってきていた別のサイを無造作になぎ倒す。オルドビスの大剣にへばりついた血を眺めながら、正面の壁から湧き出てくるモンスターへと意識を向けるミストは、そのモンスターの名前を知らない。ブラックライノスと呼ばれる二足歩行型のサイは、ダンジョンの51階層に出現するモンスターである。

 怪物の宴(モンスターパーティー)として生まれ、先頭にいたブラックライノスがミストを轢き潰そうと迫ったが『アデューラの月の剣』で無慈悲に両断される。敵の強さを認識したブラックライノスは、ミストを取り囲むように移動して、一斉に襲い掛かった。

 

「多対一……」

 

 周囲から近寄ってくるブラックライノスを前に、ミストはゆっくりと杖をダンジョンの地面に突き刺した。瞬間、ミストを中心として氷の嵐が周囲に吹き荒れる。ミストを殺そうと近寄っていたブラックライノスたちはその嵐によって身体がゆっくりと凍り付いていく。火の巨人と戦い続けたザミェルの騎士たちが得意とした『ザミェルの氷嵐』は、51階層という深層域のモンスターの命すらも容易く奪っていく。

 

「……終わりか?」

 

 ミストは『アデューラの月の剣』を手に、凍り付いたブラックライノスたちを両断する。かろうじて生き残っていたブラックライノスも、すぐにその命を散らすことになる。エルデの王に、慈悲の心など存在しないのだ。

 

 


 

 

「角、か……」

 

 51階層でブラックライノスの死体を前に座り込んでいるミストは、ドロップアイテムであるブラックライノスの角を片手に唸っていた。角をそのまま武器にするには少し短いことに落胆しながら、金になるのならばなんでもいいと思い、全てをルーンとして自らの内へとしまい込む。あらゆる物体をルーンとして自らの内へとしまい込む力は、ルーンを力として自らの器を強化する褪せ人ならではの収納方法である。

 

「……ん?」

 

 ブラックライノスの魔石と角を回収し終わったミストの視界には、狭い通路を進行する芋虫の姿があった。ミストを発見すると一直線に向かってきた芋虫を見て、ミストは生理的な嫌悪感を抱きながら竜餐の印を右手に持つ。

 放たれる竜の力は全てを凍結させる氷の霧。『ボレアリスの霧』は巨人たちの山嶺で竜として生きていた凍てつく霧、ボレアリスの力を振るう祈祷である。氷の霧は触れたものの体温を奪っていき、瞬く間にミストへと近寄ってきていた芋虫の全てを醜い氷像へと変えた。身体の芯まで凍結させる霧を受けて動けるモンスターは存在しない。

 

「戻るか」

 

 気持ち悪い芋虫を見たせいか、やる気が起きなくなったミストは反転して50階層へ上がる為の階段に向かって歩きだした。道中で現れるブラックライノスやデフォルメス・スパイダーをオルドビスの大剣で叩き潰したミストは、欠伸をしながら50階層へと戻ってきた。

 

「んーと……」

 

 ダンジョンの50階層ともなると広大過ぎて、ミストとしても目的がどこにあるのか全く見当がついていなかった。深層域にある安全階層(セーフティポイント)である50階層では、モンスターも現れないためミストはただ歩くことしかできない。

 しばらく51階層への階段付近で周囲を見ていたミストは、諦めたように溜息を一つ吐いてから、自らの指につけられている指輪を使って笛を吹いた。決して大きくないはずの音だが、不思議とどこまでも響くような音を鳴らした瞬間に、ミストの背後から馬がゆっくりと歩いてくる。

 

「久しぶりだね、トレント」

 

 角の生えた馬であるトレントは、褪せ人を認識するとゆっくりと近寄ってきて鼻を擦りつけた。狭間の地で自らの足として活躍してくれたトレントに、ミストは嬉しそうに首を撫でてやった。

 

「相変わらずちょっとせっかちな性格は変わらないね」

 

 首を撫でられたことに嬉しそうな態度を見せるが、自分が呼ばれる理由は長距離を移動する為であると認識しているトレントは、すぐにミストに対し背中に乗れと言わんばかりに身体を揺らした。苦笑しながら、ミストは言われた通りにトレントの背中に騎乗する。乗り慣れた感覚を味わっていたミストは、いつも通り手綱を握ってトレントを進ませる。

 トレントによって格段に移動速度が速くなったミストは、しばらく50階層を進んでいるとお目当てのものを発見する。

 

「祝福発見……ありがとうねトレント」

 

 トレントから降りたミストはゆっくりと祝福に近寄り、霊馬としてラニの様に姿を消していくトレントに礼を言った。気にするなと言わんばかりに鼻を鳴らしたトレントに微笑んだミストは、祝福に触れた。

 50階層に置いてある祝福は、黄金律ではなくラニが作り出した祝福であるため、淡い青色の光を周囲にまき散らしながら褪せ人を癒す。そして、ミストは先程のトレントと同じように祝福を使ってその身体を粒子として消していく。しばらくすると、その場には淡く輝く祝福だけが残っていた。




ドラゴンブレス系の祈祷が、話の展開で使いやすすぎる……やはりドラゴンは偉大


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リヴィラの街

 祝福を使用して50階層から18階層まで移動したミストは、平穏そのものだと思い込んでいた安全階層(セーフティポイント)が炎上しているのを見て唖然としていた。ダンジョンの知識が豊富にあると言える訳ではないが、安全階層にモンスターが現れないことは、ダンジョンに潜る者の常識として知っていた。安全階層にモンスターが現れるという異常事態(イレギュラー)に対して、ミストは街のある方向から聞こえてくる冒険者たちの怒号を聞き取って指笛を鳴らした。

 

「頼むトレント」

 

 再び呼び出したトレントに跨ってすぐに手綱を引いたミストは、安全階層に起こった異常事態の解決のために駆けだした訳ではない。彼女の頭にあるのは異常事態が何故起きたのかを知りたいという知的好奇心だけであり、その在り方は彼女の伴侶が最も嫌う超越存在(デウスデア)のそれとなにも変わらない。

 

 火の手が上がっている安全階層の街、リヴィラを見てミストは目を細めた。黄緑色の気色悪い花の様なモンスターと戦っている多くの冒険者たちの中に、幾人かの実力者を見つめていた。ミストの視線の先にいるのは【ロキ・ファミリア】の冒険者であるフィン・ディムナ、リヴェリア・リヨス・アールヴ、ティオナ・ヒリュテ、ティオネ・ヒリュテ。ミストの目についた冒険者はそれほど数は多くないが、どれも相応の実力を身に着けている。

 今のうちに手を出してしまおうかとも考えたミストだが、自分の持つ魔石とドロップアイテムを換金してくれる商人に迷惑がかかると思って動きを止めた。互いを利用し合うと話し合ったばかりなのに迷惑をかけるのは面倒だと考え、いっそ冒険者側として参加しようと思い至った。

 

 手綱を思いきり引っ張り方向を転換したミストは、トレントを走らせる。長い傾斜を降りてリヴィラの街へと向かうミストは道中の食人花を避けながら広場の中心へと降り立つ。突然現れた存在に周囲の冒険者が一斉に武器を構えてミストへと突きつけたが、そんなことにお構いなく食人花は動き続けていた。

 

「くッ!? ボールス! 指揮は任せるよ!」

 

 ミストに意識を持っていかれた一瞬のうちに、数多くの冒険者を吹き飛ばされたことで前線が崩れかける。慌てたフィンがリヴィラの街のトップであるボールスに指揮を任せて女体型のモンスターへと向かって走り出した。

 

「……手伝ってやろうと思ったのに、武器を構えられるとはな」

「てめえが何者かは知らねえが、今は緊急事態なんだよ! 誰も知らねえ鎧姿がダンジョン内なのに馬に乗って現れたら武器ぐらい向けるだろうが」

「トレントはその程度では怯えないが、いいか」

 

 周囲の冒険者数名に武器を突き付けられている状況の中でも、ミストは冷静な声色のままトレントから降りた。もういいのかと言わんばかりに鼻を鳴らしたトレントの首を撫でたミストは、どこからともなく大剣を取り出した。大剣とは言うが、その見た目は明らかに建物の一部分でできている鈍器にしか見えない。

 

「そら、そこをどけ」

「あぁ!?」

「死んでも知らんぞ」

 

 警告を一度だけ挟んだミストは『遺跡の大剣』を頭上に掲げた。遺跡の破片で出来ている大剣は、ミストの意志に応えるように紫色のオーラと雷を纏い始める。その様子を見て周囲の冒険者は、それが高位の魔剣だと勘違いして射線上から逃げるように移動する。

 

「なにをする気だ!?」

「そこで見ていろ」

 

 背後から聞こえてきたリヴェリアの声に適当に返しながら、ミストは遺跡の大剣を振り下ろした。戦技『崩壊波』は、遺跡の大剣に刻み込まれた崩落の力を開放する技である。振り下ろされた遺跡の大剣から放たれる崩壊波は直線上にあった建物を破壊しながら女体型へと迫り、下半身を作っている食人花の多数を切断した。魔力すらも感じさせずに発生した大規模攻撃を受けた女体型は、下半身の右側に大きな傷を受けてバランスを崩す。

 

「……一撃だけで充分だろう。後はなんとかしろ」

「ま、待ちやがれ!」

 

 ボールスの言葉を完全に無視したミストは、待機させていたトレントに素早く騎乗するとそのままリヴィラの出口へと向かって走り出した。レフィーヤとリヴェリアも追いかけようとする構えを見せたが、下半身に大傷を受けてのたうち回る女体型を優先させた。

 

 都市二大派閥のうち片方の力をそれとなく確認したミストは、全速力でトレントを走らせながらその姿を思い出していた。団長であるフィンを中心に良くまとまっている集団ではあったが、ミストは脅威と思えるほどの力を感じ取れなかった。それは決して【ロキ・ファミリア】の冒険者たちが弱いという訳ではなく、かつて狭間の地で相対したデミゴッドたちと比べれば緊張感が薄れてしまうというだけの話である。

 

「増援か?」

 

 リヴィラの街から離れて上層を目指すミストは、トレントに乗ったまま駆けている道中で赤髪の女が、アイズ・ヴァレンシュタインと戦っている姿を見かけた。馬に乗っていることに訝し気な表情を浮かべながらも、自らの敵であると判断した女が馬上のミストへと飛びかかるが、反射的に振るわれた遺跡の大剣によって軽々しく吹き飛んでいった。突然襲われることには慣れているミストは、絡まれたことに面倒を感じていたが、売られた喧嘩は全て買って叩き潰すのがミストの流儀である。

 

「くッ……なんだ今の力は」

「そうそうに終わらせて帰らせてもらうぞ。換金も一瞬じゃないんだ」

 

 赤髪の女の前にはエルデの王(絶望)が立っていた。




レヴィスちゃん……人 間 性 を 捧 げ よ

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怪しい冒険者

 リヴィラの街で女体型と冒険者たちとの戦いが起きている中、赤髪の調教師(テイマー)エルデの王(絶望)と相対していた。

 

「がっ!?」

 

 女はLv.5であるアイズ・ヴァレンシュタインを圧倒できる力を持っているにもかかわらず、ミストを相手に何度も地面を転がっていた。明らかにLv.5の冒険者よりも格上の力を持つ鎧の戦士に、アイズも赤髪の女も驚愕に目を見開いていた。

 振るわれる長剣は容易く見切られタワーシールドによって防がれ、カウンターで振るわれる遺跡の大剣を避けて距離を取ると、容赦なく『崩壊波』が飛んでくる。ダンジョンの地面を抉るような威力の衝撃波を何度も放っているが、ミストの動きに変化は訪れない。

 

「ちぃッ!?」

「遅い」

「ぐっ……クソ!」

 

 明らかに人類が持って振るえるような重量ではない武器を、軽々しく片手で振るう化け物を前に、赤髪の女は撤退の選択肢を思い浮かべていた。アイズ・ヴァレンシュタインとの戦いは問題なく進んでいたが、突然現れた謎の冒険者は本気を出している様子がないまま自分を軽く凌駕しているという事実に加え、既に目的であった緑の宝玉の回収は失敗しているのだ。いくら『アリア』を目前にしたからと言って、これ以上目の前の騎士と戦いを続ければ気まぐれで命を刈り取られかねない。確実な生存のために撤退を選択した赤髪の女は、次の瞬間に全身で悪寒を感じ取った。

 

「今、気持ちを退かせたな」

「な、にっ!?」

「興ざめだな。肝心なところで臆するとは……失せろ」

 

 先程まででもついていくのがやっとだった赤髪の女は、本気で殺気を放ったミストに対して一瞬臆した。それを感じ取ったミストは失望の表情を浮かべながら、さっきまでの剣戟よりも数段早いスピードで踏み込み、長剣ごと右腕を切断した。飛んでいく右腕に信じられないものを見るような視線を向けた女は、反射的に左腕を振るったが無情にも盾に阻まれる。

 

「恐怖に呑まれた敵を斬ることほど楽しくないこともない。しかし、売られた喧嘩は倍返しにするのが私の流儀なんだ。ここで死ね」

「ッ!?」

 

 無慈悲で無感動な死の宣告を受けて、女は宙を舞って地面に落ちた自らの右腕をミストに向かって投げつけた。当然のように投げつけられた腕を切断したミストは、相手が目くらましをして逃げようとしていることを察していたため、進行方向へと向かって『崩壊波』を放つ。周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら飛んでくる崩壊波を背中で受けた女は、その勢いのまま崖下の湖まで落ちていった。

 

「……やったんですか?」

「いや……逃げられたな。崩壊波を上手く使ったようだ」

 

 ダンジョンのモンスターであろうとも、殺せば相手の持つルーンをその身に吸収することができるミストは、赤髪の女が未だに生きていることを確信していた。崩壊波の衝撃によって巻き上げられた瓦礫を盾にして直撃を避け、その勢いのまま湖の中へと逃げ込んだのだろうと推測したミストは、遺跡の大剣をルーンとして消し、アイズと向き合った。

 

「ありがとう、ございます……あの、貴方は?」

「ん? あぁ……兜のせいでわからないか」

「あ、ジャガ丸くんの……」

「またあったな、アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

 兜を取って素顔を見せたミストに、アイズはジャガ丸くんの小豆クリーム味を食べていた人であることを思い出し、自分の名前を知っていることに首を傾げた。

 

「『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインと言えば、このオラリオで最強とまで呼ばれている女冒険者だそうじゃないか。色々な所で名前を聞けたよ」

「そう、ですか……貴女は?」

「三度目だし、名乗っておこうかな。私はミストルテイン……ただの冒険者ミストだ」

 

 自分と同じような金髪金眼を持つミストルテインに対して、アイズは勝手に親近感を覚えていた。同時に、自分を圧倒していた赤髪の女をあしらうように戦っていた女性冒険者である彼女に強さの秘密を聞きたい、という欲望が生まれていた。

 

「あの──」

「失礼。君はさっきの冒険者、でいいんだよね?」

「ん?」

 

 アイズなにかを口にしようとした瞬間に、横から槍を持った小人(パルゥム)が現れた。【ロキ・ファミリア】団長であるフィン・ディムナは、にこやかな表情を浮かべながらも目が笑っていなかった。舌戦は苦手なんだがと頭の中で愚痴を吐きながら、フィンの質問にミストは首肯した。

 

「君の力は少ししか見ていないけど、明らかに第一級冒険者と同等以上のものだった……でも、僕は君の顔にも名前にも覚えがない」

「当然だな。私はオラリオにきて……数日だ」

「……そうか。わかったよ」

 

 オラリオにやって来て数日で、ダンジョン18階層であるリヴィラへとやってくることが既におかしいのだが、フィンはこれ以上追及したところで答えが返ってこないだろうことを予測していた。直球で聞ければ早いのだが、少し離れた場所で聞いていたアイズとの会話から、なにかを隠していることを理解してフィンはわざと聞かなかった。

 

「申し訳ないが先を急いでいる。話ならまた今度にしてくれると助かる」

「……わかったよ。なら君のファミリアを聞いておきたい。それなら連絡も取りやすいだろう?」

 

 フィンの言葉を聞いて、ミストは露骨に失策だったことを嘆くような表情を浮かべた。それは彼女が()()()()()()()()()()()()()ことを決定づける証拠となった。フィンの変わらない笑みを見て、ミストは自分が彼によって意図的にはめられたことを理解して肩を竦めた。




蛮族に心理戦は不可能です(知力99)

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