京極家を追われた者 (岩男 一前)
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プロローグ 裏四家

え~、作者が衝動的に書きたくなった小説です。

ISの方も終わっていないのに書き始める自分をお許しください。

正直なことを言わせてもらうと、SAOに行くまでのワンクッションの役目をさせるために、この小説を書きます。

どうぞ、ごゆるりと読んでください。


~3人称side~

 

平安時代、一世を風靡した藤原家。その中でも4つの家が同時に権力を争った時代があった。それは藤原四家。

 

その4つの家とは北家(藤原房前)、南家(武智麻呂)、式家(藤原宇合)、京家(藤原麻呂)

である。

 

藤原四家は最終的に天然痘の流行により没落…………したかのように思われた。

 

しかし、その子孫がどうにかその血筋を絶えさせまいと頑張った結果、藤原四家は密かにではあるが、現代にまで子孫を残すことが出来た。

 

そんな藤原四家にも転機が訪れた。それは魔法の出現。

 

1995年にそれまでは「超能力」と呼ばれていた先天的に備わる能力が、「魔法」という名前で体系化され、強力な魔法技能師は国の力と見なされるようになった。

 

そして藤原四家にもその能力が発見された。

 

しかし、その能力というのが四家で全然異なるものであった。それが原因で四家は分裂。四家の合意により、それぞれが藤原の姓を捨て、昔に四家に与えられていた北、南、式、京の4文字をそれぞれの苗字に入れることとした。

 

北の文字の北前(きたまえ)家

南の文字の南武(なんぶ)家

式の文字の式波(しきなみ)家

京の文字の京極(きょうごく)家

 

この四家は20年続いた第三次世界大戦でも大活躍した。

 

その活躍により、再びその名を轟かす……はずだった。

 

いつの時代でも力を持ちすぎた一家というのは疎まれるもの。それはこの四家とて例外ではなかった。四家に恐れを覚えた日本政府は、四家にそれぞれ特権を与えると同時に裏の世界へと身を引いてもらう提案をした。

 

勿論最初四家は皆反対した。しかし、歴史はそれを活用するためにある。かつて藤原四家が没落してから復興するまでに約1300年という莫大な年月がかかった。もしここで日本政府、及び十師族や数字付を相手にしたならば、没落する可能性もないとは言い切れない。そうなってしまうと、また復興するまでには莫大な時間を要することとなる。

 

そのことを考えると、ここで身を引いた方がいいのかもしれない。そんな考えが四家の間中に蔓延った。そして結局、四家はその要求を飲み、裏の支配者となった。

 

 

 

 

2079年8月27日 京極家

 

今日のこの日、京極家に新たな命が生まれた。名は零(れい)。

 

四家には伝統的な力を持つものが生まれる。だがそれは必ずではない。中には持たないものもいる。だからといって役立たずというわけではない。

 

伝統的な力を持った者はその分普通の魔法を扱いにくくなる。逆にその力を授からなかったものは、魔法師として最強の部類に入るほどの才能を授かることになる。どちらからともあぶれるものという者は今まで存在しない。例外もいない。

 

そして零は前者。彼はこの家の伝統的な力、『写輪眼』の力を持った。

 

彼は京極家の中でも特に強い力をもって生まれた。生まれた時にすでに写輪眼を開眼させており、家の中では『神童』として持て囃された。さらに武道においても超人的な能力を有し、特に剣術に関しては歴代の京極家、いや、藤原家の中でも最強と言われていた。そして10歳になるころにはもはや『最強』や『神童』では言い表せないほどの成長。そんな彼に一家が全員期待を寄せていた。

 

しかし、彼が10歳の時、彼の評価が一変した事件が起こる。それは『同族殺し事件』。

 

藤原四家では、ある一つの絶対的な掟があった。それは『同族殺し』に関してである。『一族の者が裏切りや殺人、その他の罪を犯さない限り、そのものを殺してはいけない。』という掟だ。これは子孫を残すことに必死だったころの名残である。

 

それを破ってしまった零は、有無を言わさず京極家から追放され、スラム街へと捨てられたのだった………。

 

 

 

 

 

 




プロローグなので短めです。


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第一話 幼き最強

ある程度のところまでは、さくさく進ませたいと思います。


~零side~

 

俺があいつを殺してから1年が経った。

 

俺はこの汚れた街、スラム街で生きてきた。別に大したことはしていない。なにせ雑魚ばかりだからな。

 

「にしても、今日は嫌な天気だな。」

 

朝からしとしと降る雨に不快感を覚えながらも、俺は今日も1日の食料を求めて街に出る。

 

「全く、くそったれた街だぜ。」

 

その日の食料を手に入れるには誰かから奪わなければならない。俺は確かにもともと好戦的な性格だった。そう、『だった』のだ。俺はあいつを殺して以来、あまり戦う気が起きなくなっていた。

 

まあそれもそうだろうな。なにせあいつが俺の一番のライバルであり、親友であり、そして何より良き理解者だったのだから。

 

あの日、俺はあいつを殺した。何かの間違いだったのだろう。そう思いたい。突然俺に刀を向けてきた。そして俺は自分の身を守るために刀を抜き、あいつを殺した。

 

「皮肉なもんだよな………」

 

俺はあいつを殺した。一番のライバルであるあいつを殺した。もうこれ以上力はいらない。そう思った途端に手に入れたのが『万華鏡写輪眼』だった。

 

結局残ったのは虚無感と、不要な力と、4本の刀。そして命。本来ならこの命は残らないはずだった。

 

京極家の、いや、藤原家の掟では同族殺しをしたものは殺される運命にある。だが俺はそうされなかった。いや、できなかった。なぜなら俺が強すぎたから。

 

「いつまで生きればいいんだろう………。」

 

母さんは最後の最後まで俺の味方をしてくれた。

 

俺が万華鏡写輪眼を開眼したと知ると、俺が殺したあいつの眼を俺に移植した。あいつもまた、万華鏡写輪眼の開眼者で、京極家の中でも実力者として名が通っていた。

 

その行動の意味が分からなかった俺は、母さんに聞いた。

 

「あなたの光をなくさないためよ。酷かもしれないけど、あなたには生きてほしい。京極家を追放されることになってしまったけど、それでも生きてほしい。」

 

結局これが母さんと交わした最後の言葉だ。俺は本当は死にたかった。でも母さんが『生きてくれ』と俺に言った。俺の味方をしてくれた。だから今生きている。

 

逆を言えばこれ以外に俺の生きる意味はない。

 

「さて、行きますかね。」

 

今日のこの日が俺の人生の第二の転機だった。

 

 

 

~???side~

 

「ここどこ?」

 

私は家族と一緒にお出かけをしていた……はずだった。

 

いつの間にか家族と離れて薄暗い道に来ている。

 

「お父さん、お母さん、どこ………」

 

私は不安でいっぱいになって、ついに涙が零れ始めてしまった。

 

「うぅっ……グスッ………ふぇ~~~、お父さん、お母さ~~ん!」

 

私は自分の泣き声のせいで、自分に近寄る数人の足音を聞きのがしていた。

 

 

 

~零side~

 

「今日の獲物は………」

 

今日の食い扶持を確保するために、この薄汚れた街をひたすら歩き続ける。その時だった。

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

幼い女の子の声が聞こえる。

 

「嫌っ!だ、誰か助けてええぇぇぇぇぇぇ!」

 

俺は声のする方へと走った。

 

女の子は案外近くにいたようで、20秒近く走ったところにいた。

 

そこには、大人3人が1人の少女を取り押さえようとしていた。

 

「お父さん!お母さああぁぁん!」

「このガキッ!うるせえぞ!」

「嫌っ!やめっ!んんんーーーーっ!!!」

 

1人の大人によって口を塞がれ、少女は暴れることしか出来ない。

 

しかしここはスラム街。生き残っている大人というのはホームレスのおっちゃんかここ(スラム街)を荒らして食い扶持を稼いでるような屈強な男たち。

 

今少女をとらえようとしている3人は屈強とまでは行かないまでも、それなりに荒らして稼いでいるみたいだ。

 

そんな男たちに少女の力で敵うはずもなく、されるがままになっていた。

 

「人情も忘れちまった哀れな奴らか………。」

 

かくいう俺も人情に溢れているわけではないが、なくしているわけでもない。

 

「しかたない。めんどくさいけどあの女の子が可哀想だからやるか………。」

 

俺は4本の刀の中から、1本だけを抜き、ゆっくりと大人たちに近づく。

 

「あんたら、それぐらいにしとけよ」

 

すると、3人の大人が一斉に俺の方を向く。

 

「あぁん?なんだこのガキ?」

「弱そうなガキだなぁ?王子様気取りかぁ?」

「一丁前に刀なんて持ちやがって。しかも4本も持ってるぜ?こりゃあいいカモじゃねえか!」

 

少女を抑えてた男が手を離す。少女は地面にペタンと尻餅をついた。だが、どうやら腰が抜けてしまったようで立ち上がれていない。

 

「へへへっ、痛い目見てもらうぜ?」

「まったく、黙って見てればよかったものを」

「さ~て、お仕置きの時間ですよ~」

 

3人が手をポキポキ鳴らし、ニヤニヤしながら近づいてくる。

 

俺はわざと無言で答えずにただただ相手をじっと見つめる。

 

「おい、無視してんじゃねえぞガキ!」

「ぶっ殺されてぇのか!」

 

俺の態度が気に食わなかったのか、3人とも怒り出して、俺の方に突進してきた。

 

「………遅い」

 

こんな奴らに写輪眼なんぞを使ってやる必要はない。

 

3人が俺につかみかかろうとした瞬間に横を通り抜け、全員の背中を峰打ちする。

 

ドサッ

 

3人が声もなく倒れる。俺は少女の方へと近づいた。少女に右手を差し出し、そのまま引っ張り上げる。

 

「大丈夫か?」

「あ、ありがとう。君、強いんだね?」

「………まあな。それよりどうしてこんなところにいる?捨てられたのか?」

「ち、違うよ!迷子になっちゃただけ!」

「そうか。」

 

その時、遠くから大きい呼び声が聞こえた。

 

「七夏~、七夏~!」

「どこにいるんだ~!」

 

大人の男性と女性の声だ。

 

「あ、お父さんとお母さんの声だ!お父さん、お母さん、私はここだよ~!!」

 

その声を聞きつけたのか、息を切らしながら先ほどの声の持ち主と思われる2人が来た。

 

「「七夏!」」

「お父さん、お母さん!」

 

どうやら少女の名前は七夏というらしい。少女が両親に抱き着いた。安心からか、涙を流していた。

 

俺はその光景を見て刀を鞘に収めた。

 

「もう何してたのよ!こんなところに来ちゃって!心配したんだからね!?」

「ごめんなさい………。迷子になっちゃった………。」

 

この温もりはもう俺には無いもの。このままここに居続けるのは精神的にキツい。俺は確かに戦闘能力は高いがそれでもまだ11歳だ。誰かに甘えたくなる時もある。

 

このままここにいると、今の俺を保てなくなってしまいそうだ。

 

俺はそのまま踵を返し、自分の住処へと帰ろうとした。

 

「ケガはなかったかい、七夏?」

「うん!あの男の子が悪いおじさんたちから守ってくれたの!」

「なに!?」

 

………この流れは非常にまずい。

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

………やっぱりこうなったか………。

 

「この子を助けてくれて本当にありがとう。何かお礼をさせてくれないか?」

「いえ、たまたま通りかかっただけです。ですからお礼はいりません。」

「せめて、せめて食事だけでも一緒に食べないか?」

 

ピクッ

 

食事だと?今日の飯の心配がなくなる?

 

「………分かりました。ご一緒させていただきます。」

「そうかそうか。それじゃあ私についてきてくれ。あ、自己紹介がまだだったな。私は八代 要(やつしろ かなめ)だ。要さんとでも呼んでくれ。」

 

『八代』か…………。この人、十師族だな。

 

十師族には俺の苗字を名乗るわけには行かない。名乗った瞬間にどうなることか分かったものじゃない。

 

「……零です。よろしくお願いします、要さん。」

「よし、それじゃあ行くとするか!おーい、麻美、七夏~!これから零君と一緒にご飯を食べることになったぞ~………」

 

要さんは奥さんと娘さんのところにすぐさま走って行った。

 

 

「家族………か………」

 

母さん、元気かな?元気だといいな。

 

 

 

俺はほんのわずかな時間だけ、自分の母に思いを馳せた後、要さんの後を追った。




京極家はとてつもなく大きいです。

強いて言うなら京極家の中で10以上の家族がいます。という設定です。


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第二話 姉

~零side~

 

「「「ごちそうさま(でした!)」」」

 

「………ごちそうさまでした」

 

俺は今八代家に招待されて、ご飯をご馳走になったところだ。

 

手作りの飯なんて1年ぶりだ。それに他の人と一緒に食べるのも。

 

「どうだった、零君?口にあったかしら?」

 

要さんの奥さんの麻美(あさみ)さんが微笑みかけてくる。

 

「ええ。とても美味しかったです。ご馳走様でした。」

「そう?それは良かったわ。」

 

『フフ』と笑いながら食器を片付ける。

 

懐かしいな、この温かみ。俺が失ったもの。もう二度と手に入らないもの。

 

「零君、この後少し話があるんだが、構わないかな?」

「ええ。この後することもありませんし。」

「そうか。それなら後で私の部屋に来てくれ。…麻美~!後で私の部屋に零君を案内してくれないか~?」

「は~い。わかりました~。」

 

要さんが台所で洗い物をしている麻美さんに聞こえるように大声で言うと、麻美さんも要さんに聞こえるように大きい声で返事をする。

 

「じゃあ麻美が洗い物を終えたら一緒に来てくれ。」

「分かりました。後でお伺いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「零君を連れてきました。」

「入ってくれ。」

 

やはり数字付(ナンバーズ)だけあって、良い家に住んでいる。

 

扉を開けると、そこには要さんが座っていた。

 

麻美さんは用事を終えて帰ろうとしていた。

 

「あ、麻美もいてくれ。」

「分かりました。」

 

俺と麻美さんは部屋の中へと入り、俺が要さんの前に、麻美さんが要さんの横に座った。

 

「それで、話というのはなんでしょうか?」

「まず、今日は七夏を助けてくれてありがとう。あそこはスラム街の中でも特に治安の悪いところでな。あのままだと、冗談抜きで七夏の命はなくなっていたかもしれない。本当にありがとう。」

 

要さんが頭を下げる。それに合わせて麻美さんも頭を下げてくる。

 

「いえ、偶々あの場に出くわしただけですのでそこまで畏まらないでください。こんな小僧に頭をさげることなんてありませんよ。」

「そのことなんだが………零君、君はなんであんなところにいたんだ?」

 

要さんが険しい顔になる。

 

「さっき『小僧』と言ったが君は何歳なんだ?」

「………11歳です。」

「11歳の君が、なんであんな治安の悪いところに?それに、君の腰にささっているその4本の刀は何だ?」

「………」

「そして最後に、君の苗字は何だ?」

 

ばれている。この人を舐めていた。流石数字付(ナンバーズ)、人一倍鋭い。

 

「どういうことです?」

「………この子がもしかしたら他の数字付(ナンバーズ)かもしれないということだ。」

「!!」

 

麻美さんの顔が驚愕の表情へと変わる。

 

「分かりました。すべてお話します。」

「……そうか。だが安心してくれ。君の正体が分かったところで私たちは何も手を出さないし口外もしない。何せ君は七夏の命を救ってくれた恩人だからな。」

 

そして俺はすべてを打ち明けた。

 

 

 

 

 

「………そうか、君は京極家の………。」

「ええ。それも1番の友を殺して追放になった者です。」

「だがそれは君も追い込まれていたのだろう?それならば仕方ないとまでは言えないが、ごく普通の選択肢だとは思うぞ?」

 

俺はこの言葉に驚くばかりだった。11歳の小僧が『人を殺したことがある』などと言えば、普通は誰でも驚くものだ。しかし要さんは違った。こんな俺のことをしっかりと見つめてくれている。

 

「それで、君はこれからどうするんだ?」

「どうするも何も、またあのスラム街で今まで通り暮らしていくだけですよ。」

「そ、そんなの良くないわ!」

「俺もそう思う。………どうだ、零君。この家の養子にならないか?」

 

俺が………この家の子供に?二度と手に入らないと思っていた家族がもう一度手に入る?でも、もし俺がこの家に力を貸したと思われたら………。ああ、この家が数字付(ナンバーズ)じゃなかったら………。

 

「僕にとってとても良い話なのですが………お断りさせていただきます。」

「な、なんで!?」

「落ち着きなさい、麻美。それで、わけを教えてくれるか?」

「はい。僕がこの家の養子になったら、この家に迷惑をかけてしまいます。特に、もし僕が存在が京極家に伝わって、この家に力を貸しているとでも勘違いされたらどうなるか………。数字付(ナンバーズ)、それも十師族の八代家ならお分かりですよね?」

「ああ。だが私はこんな子供を放っておくことは出来ないのでな。京極家への言い訳は私が考える。だから俺の、いや俺たちの子供にならないか?」

 

なんで、なんでこの人はこんなに俺のことを………?

 

ここまで言われたのは人生で2回目だ。京極家では『兵器』として大事に扱われていたこの力。今は1人の子供として扱ってくれている。

 

単純な『言葉』かもしれない。それでも要さんがかけてくれた『言葉』は、母さんが最後の別れの時にかけてくれた言葉と同じくらい心に響くものだった。

 

「正直に言ってくれ。またあのスラム街に戻りたいのか?俺は七夏を助けてくれた君を救いたい。そして七夏と姉弟になってほしい。そうでなくても、仲良くなってほしい。そのための1番の手段がこれだ。君はどう思っているんだ?聞かせてくれないか?」

「俺は………俺は………。」

 

この日、涙を流しながら言った言葉は

 

 

『八代 零になりたいです………。』

 

 

 

 

 

2095年 2月

 

「行ってきます。」

「「行ってらっしゃい!頑張るのよ!!(頑張ってね!!)」」

 

母さんと姉さんに見送られながら、国立魔法大学付属第一高等学校の入試に向けて家を出る。

 

俺がこの家の養子になってから約5年程。この八代家の人は皆優しい。

 

父さん、母さん、姉さんは勿論、使用人の人等々、この家に関わる人全てが人間味に溢れる人ばかりだ。

 

これも父さんの人柄の良さが関係しているのだろう。

 

 

 

 

 

俺と姉さん、つまり七夏姉さんはというと、俺が養子になりたての頃は、人殺しの過去を負い目に感じていた俺が姉さんを避けていたため、あまり仲が良くなかった。というより、姉さんは一生懸命俺に近づこうとしていてくれたが、俺がなるべく姉さんに会わないようにしていたため、2人の距離が近づくことはなかった。

 

 

だが俺が13歳つまり中学1年生のとき、その関係が一変した。

 

 

 

俺は小学生のころはあまり明るくなく、姉さんは『みんなの前でも暗かったから、てっきり元から暗いせいで私ともあまり話さないのかな~』と考えていたらしい。『それでも、やっぱり話してもらえなかったのは悲しかったけどね』とジト目で睨まれたのも今となってはいい思い出だ。

 

そんな俺も中学生になり、やっと『普通の』学校生活に慣れ、友達と普通の中学生らしくバカらしいことをたくさんやっていた。それでもやはり姉さんには負い目からあまり仲良くできなかった。

 

 

 

 

あれはある日の夕方だった。家に帰ると姉さんが玄関で俺を待ち伏せしていた。そして俺が帰るやいなや、俺の手を掴み姉さんの部屋へと連行された。

 

「ねえ、零君。なんで零君は私のこと避けるのかな?」

「え、いや、そんなつもりは………。」

「避けてるよっ!!!」

 

珍しく姉さんが叫ぶ。目には涙が浮かんでいた。

 

「私、弟が出来てうれしかった。それも私を助けてくれた優しい男の子が弟になる………その話を聞いたとき、私はすごく嬉しかった。」

 

姉さんが俺の肩を掴む。

 

「でも、零君は私の前で明るくしてくれない!ねえなんで!?私のことが嫌いなの!?どんくさい姉なんて嫌なの!?ねえ、なんで!?理由を教えてよ………。」

 

確かに、俺がここの養子になったころは姉さんどんくさかった。でも中学生になるころには姉としての自覚からか、頼りになる姉になっていたのだ。そんな良い姉さんを、俺は………。

 

(俺、最低だ………こんないい人を泣かせるなんて………)

 

「ち、違うんだ、姉さん。俺、俺………」

 

本当のことを話して安心させてあげたい。でも話して怖がられたくない。

 

どうしようか迷っていた時、姉さんが俺を諭すように声をかけてくれた。

 

「お願いだから話して?怒ったりしないから………。」

「でも、話したらきっと怖がられる………。」

「怖がったりしない!私ね、零君の優しいところいっぱい知ってるよ?だから絶対怖がったりしない。ね?話して?」

「………姉さん、僕はね………人を殺したことがあるんだ。」

 

 

そこから俺は、まるですべてを白状する容疑者のように話した。話している最中、全く姉さんの顔を見ることが出来なかった。話し終わってからも、拒絶されるのが怖くて顔を上げられなかった。その時だった。

 

俺の頭をふわりと柔らかいものが包む。そして頭に何か温かいものが落ちてくる。

 

「ごめんね、零君。話すの、辛かったよね?ごめんね、私が問い詰めたばっかりに………。本当にごめんね………。」

 

姉さんが泣いていた。そしてあろうことか俺に謝っている。

 

「なんで………なんで姉さんが謝るの?悪いのは俺なのに………。」

「零君は悪くないよ………。そんなに自分を責めないで………。」

 

この日、俺は本当に姉さんの『弟』になった。

 

 

 

 

 

姉さんが俺を救ってくれた。いや、俺の心を救ってくれた。

 

だから俺は姉さんのために尽くす。俺の命も、この力もすべては姉さんのために。

 

 

 

本当は高校なんてどこでもよかった。でも俺のすべてを姉さんのために使うには一高に行くのが最善の選択だった。だから俺は今一高の入試へと向かっている。

 

「姉さんの顔に泥を塗らないためにも一科生(ブルーム)になりたいな~。」

 

姉さんは『一高に入ってくれるなら私はどっちでもいいよ』と言ってくれたが、やはり姉に身を捧げようと言うからにはやはり一科生になった方がいいに決まってる。

 

「まあ普通にやれば大丈夫かな~。」

 

少し面倒に思いながらも、俺は試験会場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1か月後、『一科生』と書かれた合格通知が家に届いた。



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第三話 高校入学

~零side~

 

「零~、そろそろ学校行こ~!入学式遅刻しちゃうよ~?」

 

階段の下から俺の部屋へと姉さんが大声で呼びかけてくる。

 

「分かった~。今降りるから待ってて~!」

 

俺はコンタクトを入れ、制服に着替えて階段を降りる。

 

玄関に行くと、靴を履いた姉さんが立った状態で俺のことを待っていた。

 

「零遅い!早くしないと遅刻しちゃうよ!?入学式早々遅刻なんて、お姉さんは感心しないな~。」

「ごめんごめん。でもまだそんなに遅くないでしょ?」

「ふふっ、そうね。でもそろそろ出ないとギリギリになっちゃうよ?」

「そうだね、姉さん。それじゃあそろそろ行こうか?」

 

靴を履き、つま先をトントンと打ち付ける。

 

「「行ってきます!」」

「はい、行ってらっしゃい。」

 

母さんに見送られながら一高の入学式へと向かった。

 

 

 

 

 

「一高に入れてよかったね!」

 

姉さんがウキウキしながら言ってくる。

 

「姉さんと同じ一科生になれてよかったよ。弟が不出来じゃ姉さんの顔に泥を塗っちゃうからね。」

 

そう、姉さんは一科生だ。それも上位10名に食い込むことが出来るほどの能力を持っている。

 

俺はというと、『写輪眼』という能力を持ってしまったが、どうにか普通魔法もある程度は練習し、それなりに使えるようになっていた。それでも、入試の結果を見ると、一科生100名の内の半分くらいだ。

 

「私のことなんて気にしなくていいのに…。零は零のやりたいことをやればいいんだよ?」

「うん。分かった。俺のやりたいようにするよ。それより姉さん、このカラコン変じゃない?」

 

そう言って俺は緑色のカラコンを指さす。この緑色のおかげで、俺が写輪眼を発動したとしても眼の色が赤くなることはなく、黒色になる。

 

これは父さんが『俺の正体がほかの十師族にバレなように』と特別に作ってくれたものだ。この時代、魔法による目の治療によりコンタクトレンズは特別なものになってしまたというのにも関わらず、父さんはわざわざ用意してくれた。

 

他にも俺のためにいろいろと動いてくれた。俺が京極家に見つかった時の言い訳やらその他戸籍の変更やらetc………。

 

まあ言い訳と言っても『俺は記憶喪失になって何も覚えていない』という単純なものなのだが。

 

「うん、大丈夫だよ。むしろそっちの方が本来の色の時よりも格好良く見えるね!」

 

サムズアップしながら答えてくれる。

 

「姉さんの太鼓判なら大丈夫だね。」

「そ、そんな、私の意見だけで判断されても………。」

 

もじもじとしながら視線をそらす。ああ、今日も姉さんは可愛いな………。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、姉さんの可愛さにうっとりとしている内に一高についた。

 

「1年生と2、3年生は別々だからここまでだね。それじゃあまた放課後一緒に帰ろ!」

「うん。じゃあまた放課後に。」

「クラスのみんなと仲良くするんだよ?」

「もちろん!」

 

姉さんに手を振りながら講堂へと入った。

 

 

 

 

 

「………やっぱりこうなってるのか。」

 

講堂に入ると、そこには差別の塊が存在していた。事前に姉さんから話は聞いていたが、ここまで酷いとなると流石に胸糞悪いものだ。前半分の席には一科生、後ろ半分の席には二科生

 

「全く、たった3つの項目、それも魔法にしか当てはまらないものが優れていただけで一体どれだけ選ばれた人間なんだろうな。」

 

おそらく二科生にもできるやつはいるだろう。もっと戦える奴らがいるだろう。というより、この一科生の中の何人がまともに戦えるだろうか?

 

花冠(ブルーム)ねぇ………。そんなちっぽけなプライドなんて散ってしまえばいいのに………。」

 

花冠(ブルーム)雑草(ウィード)なんてものに興味はない。意味があるのは強いか弱いか。誰かを護れるか護れないかだ。自己満足の力なんぞに意味はない。自己満足の力はいずれ己の人生を狂わす………そうかつての俺みたいにな。

 

「おっと、そろそろ時間がヤバいな。」

 

時計を見るともう式まで10分しかなかったため、俺は急いで開いている席を探した。もうほとんどの生徒が座っている状況でわざわざ前半分の席に座るなどという目立ったことはしたくなかったため、後ろ半分の開いている席を探した。別に二科生と一緒に座ったっていいだろう?

 

するとそこには偶然1つだけ席が空いていた。

 

その空いている席に歩み寄り、その席の隣に座っている男子生徒に問いかけた。

 

「ここ、空いてますか?」

「ええ、どうぞ。」

「それでは失礼。」

 

俺はその男子生徒の方を見る。チラッと見ただけだったが、俺は思わず息をのんでしまった。

 

(………こいつ、出来る。)

 

写輪眼で見通さなくても分かる。こいつは結構な場数を踏んでいる。

 

(………雑草(ウィード)の中の逸材…か………)

 

俺は写輪眼を発動させて見る。

 

(こ、これは!?………こいつは面白い。)

 

こいつのことは覚えておこう。いずれは俺ともある程度は張り合えるくらいにはなるだろう。

 

そんなことを考えていると、不意に声をかけられる。

 

「大丈夫か?」

 

声をかけてきたのは俺が観察していた男子生徒だった。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。ボーっとしていてすまない。俺は八代 零、よろしくな。『零』って呼んでくれ。」

「俺は司波 達也だ。こちらこそよろしく。俺も『達也』で構わない。」

 

達也と握手を交わす。すると、達也の横に座っていた赤髪の女生徒と、さらにその向こう側にいる今時珍しい眼鏡をかけた女性がこちらを見てくる。

 

「あれ?達也君、新入り?」

「え、でも、その方は一科生ですよね……?」

「おっと、そちらは達也の知り合いかな?俺は八代 零。一科生なんてのは肩書に過ぎないから気にせず仲良くしてもらえればありがたいんだが。」

 

そう言って2人に手を差し出す。2人は驚いた顔をしている。まあそれもそうか。基本今の時点ではほとんどの一科生は調子こいてるような奴らばかりだろうからな。

 

「へぇ~珍しい人もいるんだね。仲良くなれそうだわ。私は千葉 エリカ、『エリカ』って呼んで。」

「わ、私は柴田 美月です。や、八代さん、よろしくお願いします!」

「俺のことは『零』って呼んでくれ。姉が2年生にいるから、一応区別してくれ。」

「「分かったわ(分かりました)」」

 

エリカと美月と握手を交わす。

 

「3人とも、そろそろ式が始まるぞ。」

 

『それでは、これより国立魔法大学付属第一高校入学式を執り行います。』

 

(あれ、そういえば『千葉』って、あの『千葉家』の者か………?)

 

 

 

 

 

 

式は面倒なものだった。途中で『生徒会長が美人だな~』とか、『でも姉さんには負けるな~』とかどうでもいいこと(姉さんの美貌はどうでもよくないが)を考えながら過ごしていた。

 

『続いて新入生答辞 新入生総代、司波 深雪』

 

(ん?司波?もしかして………)

 

 

 

 

 

 

 

式が終わり、それぞれの生徒が自由に行動し始めた。

 

「司波君、これからホームルーム覗いていかない?」

「悪い、妹と待ち合わせているんだ。」

「妹?」

「あの、妹ってもしかして新入生総代の『司波 深雪』さんですか?」

「ああ。」

 

(ん?ってことは双子………)

 

「妹?ってことは双子?」

 

エリカも俺と同じ疑問を抱いていたようだ。

 

「その質問はよくされるんだが、双子じゃない。俺が4月生まれで、妹が3月生まれだ。でもよく気付いたな。顔も似てないし、名前ぐらいしか共通点はないと思うが?」

「い、いえ、雰囲気というか、おふたりのオーラは凛とした面差しがよく似ています。」

 

美月のこの言葉についつい驚きの表情を浮かべてしまう。………だがそれは俺だけではなかった。達也も目を見開き、驚きの表情を浮かべていた。

 

(やはりこの眼鏡はそういうことだったのか………)

 

『霊子放射光過敏症』は未だに残っている一種の特殊な眼の症状(?)のようなものである。

 

「オーラの表情が見えるなんて、本当に眼が良いんだね?」

 

達也の意地悪で皮肉を含んだ言葉に美月の表情が曇る。

 

「っ!?」

 

達也の表情が真剣なものになっていく。

 

(ああ、こりゃなにか訳ありだな………。全く、こんなシリアスな雰囲気は面倒くさいっつーの。よし、エアブレイク行っちゃう?)

 

このシリアスな空気を壊そうとした瞬間、遠くから声がかかる。

 

「お兄様!」

 

先ほどまで一科生の束と思われる人の群れが出来ていたところから、絶世の美女が駆け足で近寄ってくる。と言っても、姉さんの方が絶対美人で可愛いけどな!?

 

そして、達也の傍で足を止めた。

 

「お兄様!お待たせ致しました!」

「早かったね、深雪?…ん?」

 

達也が深雪さんの向こう側に上級生と思われる女性と男性を1人ずつ見つけ、顔を歪める。

 

女性の方が前を歩き、男性の方が後ろを護衛するように歩くところを見ると、どうやらこの女性はとてもお偉い方で、男性の方はその側近の位置にいるということが窺える。

 

「こんにちは。また会いましたね?」

 

一般的に見たら(俺から見れば姉さんの方が……以下略)美人の部類に入るだろう女性が達也に対して話しかける。

 

(どうしてこうも周りには美人しかいないんだろうな?)

 

達也は、軽く一礼する。

 

「ところでお兄様、早速デートですか?」

 

ああ、とてつもなく面倒くさいカオスの予感………。

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、何もなかった。あの後上級生の方々は生徒会メンバー、それも生徒会長と副会長ということが分かった。

 

まあどちらも弱そうだからどうでもいいけど。

 

それで、生徒会の方々は司波兄妹に声をかけて帰る………と思われたのだが、あろうことか俺にまで声をかけた。

 

(まあ確かに姉さんのことがあるから俺に目をつけるのも不思議ではないんだが………なんだかなぁ………。)

 

姉さんは2年生の中条先輩という方と一緒に2年生の生徒会メンバーらしい。

 

結局会長と副会長はそのまま(副会長の方は達也を睨んでいたが)帰って行った。

 

 

さて、どうやって断ろう?

 

 

 

 

 

 

 

「「ただいま~」」

 

あの後、姉さんと合流して一緒に下校した。

 

「あ、そうだ。姉さん、後で相談があるんだけど?」

「あれ、珍しいね?零が相談してくるだなんて。食事の後でいいかな?」

「うん。どこに行けばいい?」

「じゃあ私の部屋でいいよね?」

「分かった。じゃあ俺父さんに呼ばれてるから行くね?」

 

俺は姉さんと別れて、父さんの所へと向かった。

 

「零です。ただいま学校より戻りました。」

「入りなさい。」

「失礼します。」

 

部屋に入ると、父さんがどっしりと待ち構えていた。

 

「お帰り、零。」

「ただいま、父さん。」

 

これが我が家のルールだ。普段は、『家主』としての威厳を保つために厳格な父でいる。そして俺も秩序を乱さないために畏まった態度を取らなければならない。

 

だが父さんの部屋と食卓では違う。そこでは『父』と『息子』として砕けた態度で接するという決まりがある。そして食卓では楽しく食事ができるように、また食卓で一番偉いのはその日の食事という場を作ってくれた母(たまに姉さん)であるという考えのもとで父さんは『威厳のある父』ではなくなる。

 

「今日零をここに呼んだのは他でもない、今後のお前の携帯用武器についてだ。」

 

そう、俺の4本の刀は全部長刀で、学校に携帯するのはあまりにも長すぎて、物騒だということで全部父さんに管理されている状況だ。事情がある場合や緊急事態には使用許可が下りるが、基本的には

 

「一応専用の拳銃型CADはあるんだけど………?」

 

そう、刀の代わりということで一応CADを渡されてはいる。だが正直言って戦いにくい。元々の俺のスタイルは近接~中距離タイプで、距離を取られたら一気に近づいて再び接近戦へと持っていくタイプだ。

 

あくまで魔法はサポートでしか使わない。そのため今は事が起こった時は総合格闘技、つまり超接近戦でどうにか済ますつもりだ。

 

「しかしそれでは戦いにくいだろう………ということで、俺と麻美から入学祝だ。」

 

そう言って父さんが細長い木箱を2つ取り出してくる。

 

開けてみるとそこには2本の小太刀が入っていた。

 

「白虎と黒龍だ。長さはそこまでないが、それでも今よりかは戦闘がしやすくなるだろうと思ってな。」

 

2本の小太刀を手に持つ。刀身の色が黒と白で、手にすごく馴染む。

 

「ありがとう、父さん。大事に使わせてもらうよ。」

「その刃はよっぽどのことがない限り零れないとは思うが……。」

「うん。それでも一応魔法は使っておくよ。」

「それなら安心だな。」

 

父さんが『ハハハ』と豪快に笑う。

 

「それじゃあ父さん、そろそろ部屋に戻るよ。今日はありがとう。最高のお祝いだよ。」

「母さんにもお礼は言えよ?『黒龍』のデザインは俺だが『白虎』のデザインは麻美だからな?」

「うん。分かった。じゃあまた夕食で。」

「ああ。高校生、楽しめよ?」

 

父さんの部屋を出る。

 

 

 

改めて2本の刀を鞘から出して眺める。

 

(綺麗な刀だ。……父さん、母さん、俺はこの刀に誓うよ。この身になにが起ころうとも絶対に姉さんだけは護る。…いや、この家族だけは絶対に護り抜く。)

 

小太刀を鞘に収め、自分の部屋へと戻った。

 

 

 




零の4本の長刀についての説明

ストーリーの中で説明できそうにないので後書きにて説明させていただきます。

・鬼斬刀(おにきりのかたな)

京極家に代々受け継がれていた刀。かつて鬼を斬る時に活躍したことからこの名前が付いた。しかしその刀身が130cmと長すぎて零以外に扱えるものがいなかったため、零が貰い受けた。

・子護刀(しごのかたな)

これも京極家に代々受け継がれていた刀。もともとは『死後刀』と呼ばれ、『死後の魂を斬る』といった伝統的風習を目的として作られた刀。零の母親がこの刀を使って生まれたばかりの零を襲おうとした熊を一刀両断したことから『子護刀』と名が変わった。そのため母親が所持していたのだが、零が家を追放されるときに持たせた。刀身は90cmと4本の中では一番短いが、一応長刀の部類に入る。

・蒼氷(そうひ)

刀身が蒼く、その名の通り切った者を『骨の髄から凍らせる』という能力を持つ。(ただし零が魔力を刀に込めた時のみ。)この刀は特殊な刀で、折れたり刃こぼれすることがない。刀身は100cm。

・緋炎(ひえん)

刀身が緋く、その名の通り切った者を『骨の髄まで焼き尽くす』という能力を持つ。(これも蒼氷同様で、零が魔力を込めた時のみ。)また、折れたり刃こぼれすることもない。刀身は100cm



鬼斬刀と子護刀が、蒼氷と緋炎が対をなしています。

白虎と黒龍に関しては、『とてつもなく硬い』というぐらいの認識で構いません。


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第四話 騒動

~零side~

 

「それで、相談ってなにかな?」

 

今俺は姉さんの部屋にいる。そして姉さんに相談に乗ってもらっている。相談というのは生徒会についてだ。

 

「生徒会のことなんだけど………。」

「生徒会!?零も入ってくれるの!?」

 

姉さんが目を輝かせて俺に聞いてくる。

 

「い、いや、俺はただ会長に声をかけられただけなんだけど………。」

「それってもう誘われたも同然じゃない!ねぇ、入るの?ねぇ、入ってくれるの!?」

 

嬉しそうな姉さんの顔が目と鼻の先にまで迫る。

 

「ね、姉さんには悪いけど正直なところ入りたくないんだけど………。」

 

姉さんの顔が一瞬で凍り付く。

 

「………零、それはどういうこと?」

 

俺の肩をがっちりと掴む。そしてギリギリと握ってくる。

 

「い、痛い痛い痛い!姉さん、指!指食い込んでる!」

「ねえ、零?何で生徒会に入らないのかな?まさかめんどくさいとか言わないよね?」

 

はい、まさにその通りです。だけどここでそれを白状すると俺の明日はなくなってしまう可能性が………。

 

「い、いやそれは………。」

「ま、まさか私と同じ空間で過ごすのが嫌なの!?零にも姉離れの時期が来ちゃったの!?」

 

姉さんがあたふたする。『ど、どうしよう!?』といいながらしばらくあたふたをつづけた後、ピタッと止まった。勿論、その間俺はどうにか姉さんに話しかけようとしたが、あまりの慌てっぷりに俺の言葉は聞こえていないようだった。

 

「ね、姉さん?」

「………ふぇ~~、嫌だよ~~~零に嫌われたくないよ~~!」

「え、ええ!?」

 

姉さんがいきなり泣き始めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ姉さん!誰も姉さんが嫌とか言ってないじゃん!むしろ大好きだよ!」

 

俺の言葉を聞くと、まだ少しだけ『ヒック』という声が聞こえるが、泣くのを止めた。

 

「………本当?」

「うん、本当に本当。俺は姉さんが大好きだから。」

「……あははっ、ありがとう」

 

姉さんが目にたまった涙をぬぐいながら微笑んで言う。

 

(うっ!こ、この笑顔は………反則級に可愛い!!!)

 

心の中で俺が悶えていると、姉の笑みが急に恐怖を含んだものとなる。

 

「それで、なんで零は生徒会に入らないのかな?」

「え、えっと、それは………。」

 

 

――――――俺は姉さんだけを護りたいんだ――――――

 

 

 

~翌日~

 

今日もいつも通り姉さんと一緒に登校し、校門のところで別れた。その後、教室につくとそこはカオスだった。

 

なぜかというと、1-Aの生徒(大部分が男子)がとある1つの席の周りに群がっているからだ。

 

俺はそれを無視し、自分の席に座る。

 

「授業か………鬱だ。」

 

高校生としてありきたりかつ超不真面目な発言をした後、机に突っ伏した。

 

え?なぜ突っ伏すのかって?そんなの決まってるじゃないか。寝るためだよ。………だが俺の思い通りには事は進まなかった。

 

教室内のカオスと俺の席は離れていたため、悪影響を受けることはないだろうと思って突っ伏していたのだが、なぜか徐々にその喧騒が俺に近づいてくる。

 

何だろうと思って顔を上げてみると、その中心には昨日見た女性が凛とした佇まいで立っていた。

 

「………えっと………」

 

寸前まで眠ろうとしていたため、意識が少しぼやけていて名前を思い出せない。

 

「司波深雪です。昨日、お兄様と一緒にいらっしゃいましたよね?」

「あ、ああ、達也の妹か。八代 零だ。零って呼んでくれ。」

 

お互いに握手を交わす。

 

そんな時、この友好的な雰囲気を大馬鹿野郎がぶち壊した。

 

「司波さん、終わったかな?じゃあ次は僕たちの相談に乗ってくれないか?さっきからずっと待ってたんだ。」

 

俺と司波さんが握手している手を引き離すかのように森崎が間に入ってくる。

 

「え、あ、あの………。」

 

司波さんが急な出来事に戸惑う。

 

「あっちで僕たちの相談に乗ってよ。」

「ま、まだお話が………。」

「そんなの後でいいじゃない。私たちの方が先だったんだしさ。」

 

司波さんの意志に反して、クラスメイトたちは司波さんを連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

~昼~

 

「先ほどはすみませんでした。私から話しかけたというのに………」

 

昼、俺は司波さんと一緒に食堂へと向かっている。え?姉さんはどうしたのかって?姉さんは生徒会役員だから生徒会室で食べるんだとよ。俺も一緒に食べないかって誘われはしたが、生徒会役員と一緒に飯なんか食べてたらいつ生徒会へと引きずり込まれるか分かったもんじゃない。だから断った。

 

ということで、俺は達也たちと一緒に食べたかったという理由もあり、司波さんと一緒に行動している。

 

「いやいや、あれは司波さんが悪いんじゃないよ。司波さんの自由を奪ったあの馬鹿どもが悪い。」

「まぁ、随分と口の悪いこと。皆様に言ってしまおうかしら?」

 

手を口元にもっていってクスクスと笑う司波さん。

 

「それは勘弁!…これはここだけの話な?」

 

そんな彼女に俺は右手の人差し指を口に立てて、声のトーンを落としてつぶやく。

 

「分かっていますとも。ですが、その代わり………。」

 

司波さんが手を降ろし、急に真剣な面持ちになる。

 

「な、なんだ?急に改まって」

「………私のことは深雪とお呼びください。」

「は?」

 

斜め上を行く言葉に思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「零さんは兄と面識があるのですよね?」

「あ、ああ。」

「それなら、兄と私とを区別するためにも下の名前で呼んでいただきたいのですが………ダメでしょうか?」

 

身長の差から、上目づかいで俺を見てくる。………はぁ、俺ってこういうのに弱いんだよな。

 

「ああ、分かったよ。これからは『深雪さん』と呼ばせてもらうよ。」

「ふふっ、ありがとうございます。零さんって意外に女性に弱いんですね?」

 

………見抜かれた。俺ってそんなに分かりやすいか?

 

「勘弁してくれ」

 

両手をあげて『降参』のポーズをとる。司波………おっと、深雪さんって結構お茶目なんだな。今日1番の発見。

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂についた。この高校の食堂はとても綺麗だ。というよりオシャレだ。

 

おそらく1世紀ほど前の社会人が見たら『これが高校生の学食かよ』と思うほどだろう。といっても1世紀前のことなど知るはずもないのだが。

 

俺と深雪さんがそれぞれの昼食を受け取り、達也たちを探す。すると、なぜかあっという間に達也だけ(・・・・)を真っ先に見つけ、その周りにエリカたちが座っているのを見つけた。

 

(ん?そう言えば昨日深雪さんってエリカたちに対して…………あれ、もしかして深雪さんってブラコン?)

 

少し親近感を覚えながら深雪さんについていく。達也たちが座っている席にたどり着くと、そこには昨日会った美月とエリカ以外にもうひとり男子が座っていた。

 

「お兄様!」

「深雪。」

「ご一緒してもよろしいでしょうか?

「深雪ここあいてるよ。」

「ありがとう、エリカ」

 

エリカが少し横にずれてスペースを作る。エリカって活発なんだけどこういうところは気が利くんだよな。

 

「達也。」

「零か。ちょうどよかった。レオ、こっちが俺の妹の深雪で、そっちが昨日知り合った零だ。」

 

どうやらこの新入り(?)はレオというらしい。

 

「はじめまして。八代 零だ。零と呼んでくれ。」

「俺は西條 レオンハルトだ。レオって呼んでくれ。」

「はじめまして。司波「司波さん」……?」

 

またもや空気を読まずに深雪さんの自己紹介をぶった切った馬鹿野郎が出現。しかもさっきと同じ声ときた。

 

「もっと広いところに行こうよ。」

「邪魔しちゃ悪いよ。」

 

そこには先ほどと同じ集団が立っていた。しかも先頭の男はさっき見たやつと同じだった。

 

深雪さんは少し戸惑いながらも、

 

「いえ、私はこちらで………」

 

彼らのお誘いを断る意思を表した。

 

すると、1番前にいた男が意表を突かれたかのように『へっ?』と声をあげた。

 

彼は達也たちを見回した後、呆れたように言った。

 

「司波さん、ウィードと相席なんてやめるべきだ。」

「はぁ?」

 

その言葉にエリカが『何言ってんのあんた?』みたいな表情でその男をにらみつける。

 

すると今度はその少し後ろにいた男が前に歩み寄りながら言う。

 

「一科と二科のけじめはつけた方が良い。………一応ここに一科生がいるみたいだけど、それでも僕たちと一緒に食べた方が司波さんのためだ。」

「なんだと?」

 

今度はレオが『上等だ。喧嘩なら買ってやる』と言わんばかりに席を立ち上がる。

 

「あ、あの………。」

 

一触即発の雰囲気に深雪さんがオロオロし始める。その時、ガタッという音が鳴った。

 

達也が立ち上がった時の椅子の音だった。

 

「深雪、俺はもう食べ終わったから先に行くよ。」

 

達也はそう言ってその場を去って行った。

 

「ちょ、ちょっと達也君!」

 

達也の行動に全員が呆気にとられていたため、エリカの叫びがその場に響いた。

 

「お兄様………。」

 

深雪さんの寂しそうな呟きは俺の耳へとしっかりと届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 

下校時間になり、待ち合わせをして姉さんと一緒に帰っている。

 

「姉さん、この学校の一科生ってみんなあんなに選民思想の強いやつらなの?」

「どうしたの急に?なにかあった?」

「それがさあ、今日の昼こんなことがあってさ………。」

 

俺は昼食の時のことを話した。

 

「それは酷い話ね。やっぱり1年生は特に強くなっちゃうのね………。」

「ん?てことは2年生になったら酷くなくなるの?」

「まあなくなるとまでは言えないけど、1年生の時に比べたらやっぱり少なくはなるわね。」

「へぇ~そうなんだ。まあどうでもいいけど。」

 

『どうでもよくないでしょ!』と姉さんに突っ込まれながらも、笑いながら校門へと向かって歩く。姉さんとこうして話す時間は本当に至福のひと時だ。

『いつまでもこれが続けばいいなぁ~』とか幸せボケな考えをしながら歩いていると、校門の方から何か言い争いのような声が聞こえてくる。

 

 

「いい加減にしてください!なんでそこまでしつこく深雪さんに付き纏うんですか!?」

 

 

この声は………美月か?

 

 

声のする方に目を向けると、そこにはこれまた昼と同じような光景になっていた。

 

「ねえ零、あの集団はあなたの知り合い?」

 

どうやら俺の表情がいつもの無関心を貫く時のものとは違っていたみたいで、姉さんにばれたようだ。

 

「みたいだね。クズの一科生集団と、優しい二科生の親友たちの争いみたいだ。」

「そう。なら助けてあげないとね?」

「うん。ありがとう、姉さん。」

「でも『クズ』って言う発言はいただけないよ?」

「ご、ごめんなさい。」

 

俺は謝りながら姉さんと一緒にその言い争っているところへと足を進めた。

 

 

 

~第三者side~

 

「僕たちは司波さんに相談したいことがあるんだ!」

「そうよ!少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

一科生の集団が二科生の集団に詰める。

 

「お兄様………。」

 

深雪が達也に『どうしましょう?』と困った顔を向ける。

 

「謝ったりするなよ、深雪」

「はい、ですが………。」

 

今度は心配そうな顔をエリカたちに向ける。

 

「とにかく、深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです!何の権利があって2人の仲を引き裂こうって言うんですか!?」

 

美月がとても真面目な顔で一科生に対抗する。しかし、ただ1人その美月の発言を聞いて間違った方向に考えが飛躍している者がいた。

 

「い、嫌だわ美月ったら!いったい何を、何を勘違いしているの!?」

 

そう、深雪だった。

 

「深雪、なぜお前が焦る?」

 

達也の一言により深雪は一応もとの方向へと戻ってはきたが、それでも動揺を隠せずにいる。

 

「へっ!?あ、焦ってなどおりませんよ?」

「そしてなぜ疑問形?」

 

そんな兄妹漫才を傍目に、一科生と二科生の口論は続く。

 

「これは1-Aの問題だ!ウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

一科生の先頭に立つ森崎駿が怒鳴るように言い捨てる。その言葉にエリカとレオがムッとする。

 

「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが今の時点で一体どれだけ優れているというんですか!」

「………まずいな。」

 

達也がぼそりと呟く。

森崎は美月の言葉にイラついた表情を見せたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「どれだけ優れているか、知りたいか?」

「はっ、おもしれぇ、是非とも教えてもらおうじゃねえか。」

 

売り言葉に買い言葉。レオが森崎に食って掛かる。

 

「良いだろう。だったら教えてやる!」

 

森崎が指をほぐすように動かすと、周りの一科生が全員身を引く。

 

「これが………才能の差だ!」

 

森崎が腰から拳銃型CADを抜いた。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

それと同時に、魔法も発動させずにレオが突っ込む。森崎が引き金を引く。

 

「お兄様!」

 

レオの危険な行動に美月が驚き、達也はすぐさま行動に移した。

 

右手を上げ、魔法を発動させようとした。その時だった。

 

エリカが一瞬で間合いを詰め、警棒のような形状をした棒で森崎のCADを叩き上げた。

 

「くっ!」

 

森崎は一瞬の出来事に反応できず、二科生ごときにやられたせいで悔しさを顔に浮かべていた。

 

「この間合いなら体動かした方が速いのよね」

「くっ!」

「それは同感だが、今お前俺の手ごとぶっ叩くつもりだったろ?」

「あら~そんなことしないわよ」

 

レオの言葉に、エリカが『おほほほ』とわざとらしく誤魔化すように言う。

 

「誤魔化すんじゃねえ!」

 

エリカとレオが夫婦漫才(?)をしていると、一科生の内の1人が魔法を発動させる。

 

「ウィードのクセに!身の程を知れ!」

 

魔法を発動させようとしたとき、あのエアクラッシャーがやってきた。

 

 

~零side~

 

「はい、どーん」

 

少し経緯を観察するためにわざとここまで出なかったが、流石にここまでの行動となると見逃せないな。

 

俺は魔法を発動させようとしていた男子の背中を思いっ切り蹴とばした。

 

「痛ぇ!なにすんだてめぇ!」

「お、お前、八代じゃないか!なんでブルームのお前がウィードの肩を持つようなことしてるんだよ!」

 

たしか、こいつは森崎だったっけ?まあそんなのはどうでもいいが、こいつらの選民思想にはほとほと呆れるぜ。

 

「それはお前らがあほなことをしていたからだ。」

「なんだと!?」

「お前らは一科生ごときで選ばれた人間気取りか?一科生も二科生も関係ない。入ってからいかに鍛錬を積むかで3年後の魔法師としての実力が実際に現れるようになるんだ。」

 

俺がそう言うと森崎は理解してくれたのか、俯いて二科生たちの方を向く。

 

だが、俺の言葉を理解しなかった俺に蹴られた一科生の馬鹿野郎が怒りに任せて魔法を発動した。

 

「ふざけんな!俺は一科生なんだ!優等生と言って何が悪い!そこのあんたも一科生ならなんか言えよ!」

 

そのバカ野郎の一声に反応し、数人の生徒が一斉に姉さんへと魔法を発動しようと手を向けた。

 

こいつら、姉さんに手を上げようとするなんて何してやがんだ?

 

俺は一瞬で1人の男子生徒の距離を詰め、その首を左手一本で掴むとそのまま持ち上げる。男子生徒は宙ぶらりんになり、手を外そうと両手で俺の左手首を掴む。だがその程度でほどけるはずがなく、苦しそうに足をばたつかせる。

 

「てめぇ、なに姉さんに魔法を向けてくれてやがる?自衛以外での魔法の使用は禁止って知らないのか?それとも死にたいのか?俺はお前のことを何とも思っていない。お情けがかけられると思ったら大間違いだ。」

 

「う、うううう。た、助けて…………」

 

首を掴まれた男性の様子を見て、魔法を発動しようとしていた男子生徒たちが全員恐怖から魔法をキャンセルしてしまった。

 

「『助けて』だぁ?そこは謝罪するのが筋ってもんじゃないのか?」

「ご、ごめんなさい………お、お願いですから、手を………手を放してください。」

「零、やめて。私はそんなことを望んでいないわ。」

 

姉さんから声をかけられたため、すぐさま手を放す。『ドサッ』と音を立てて尻餅をつく。

 

「ごめんなさい、姉さん。」

 

俺が姉さんの方を向き、一科生の奴らに背を向けると、先ほど魔法をキャンセルした男子生徒たちがチャンスとばかりにもう一度魔法を発動しようとした。

 

「危ない!」

 

そう言って一科生のある女生徒が魔法を発動する。茶髪で二つ括りにしている女の子だった。

 

 

その時、急に全員の魔法が別の魔法で弾かれた。

 

男子生徒たちは全員そのまま倒れ、女生徒は別の女生徒に受け止められた。その時『ほのか!』と言われていたので、あの茶髪の女の子の名は『ほのか』というのだろう。

 

「誰だ?」

 

俺が疑問に思ってあたりを見回していると、姉さんが答えてくれる。

 

「あの人たちよ。」

 

そう言って姉さんが指さした方向を見ると、そこには昨日見た生徒会長と、別の先輩が立っていた。

 

「やめなさい。」

 

昨日とは違った厳しい声色だった。

 

「自衛目的以外での魔法による対人攻撃は犯罪行為です!そこの君も、暴力行為は許されたことではありません!」

「風紀委員長の渡辺 摩利だ!事情を聴きます。ついてきなさい!」

 

なんと風紀委員長まで出てきやがった。

 

 

ああ、まためんどくさいことになっちまった………。



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第五話 風紀委員

〜零視点〜

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました。」

 

3年生2人の前に達也が歩み出る。

 

「悪ふざけ?」

「はい。森崎一門の〈クイック・ドロウ〉は有名ですから、後学のために見せてもらうだけのつもりだったのですが、あまりにも真に迫っていたもので、つい手が出てしまいました。」

 

森崎に驚きの表情が浮かぶ。無理もない、名乗ってもいないのに自分の魔法だけで苗字を言い当てられたのだ。

 

「では、そこの女子生徒が攻撃性の魔法を発動しようとしていたのはどうしてだ?」

 

先ほど『ほのか』と呼ばれていた女子生徒が風紀委員長に睨まれ、体を縮こまらせる。

 

すると達也は風紀委員長に怯むことなく、少し微笑みを浮かべた。

 

「あれはただの閃光魔法です。威力もかなり抑えられていました。」

 

……やはり達也は他のやつとは一味違う。いや、一味どころではないな、実力が段違いだ。まさかあの一瞬で起動式を読み取れる奴が俺以外にもいたなんてな。

 

「ほう、どうやら君は展開された起動式を読み取れるらしいな。」

 

風紀委員長の言葉に、深雪さんが一瞬反応した。……なにかマズいことでもあるのか?

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です。」

「嘘なら早めに正直になった方が身のためだぞ?」

 

どうやら風紀委員長は信じていないらしい。……仕方がない、助け舟を出すか。

 

姉さんの方をチラッと見ると、頷いてくれた。さすが、俺をよく理解してくれてる。

 

俺は達也の方に歩み寄りながら口を開いた。

 

「あ〜渡辺委員長?達也の言うことは本当ですよ?」

「何?お前も起動式を読み取れるというのか?」

「ええ、まあ一応。それにそこの女の子は俺たちを止めようとして魔法を発動しようとしたんですよ?攻撃性の魔法だったら火に油を注ぐことになるじゃないですか。」

「……そうか。」

 

渡辺先輩はそういうと、いつでも魔法が発動できるようにと先程からずっと上げていた右手を下ろした。もちろん、発動しかけでとどめていた魔法もキャンセルしてだ。

 

「お分かりいただけたようで何よりです。」

「ふん、どうやら君たちは誤魔化すのが得意なようだな。」

 

…あれ、なんか誤解されてる……。今度は達也が渡辺先輩に切り出した。

 

「誤魔化すなんてとんでもない。自分はただの二科生です。」

 

そう言って達也は右手で自分の制服の左肩の部分を指差し、そこに花の紋様がないことをアピールした。

 

 

俺たちと渡辺先輩たちの間に緊張が走る。しかしそれも少しの間だけだった。深雪さんが靴のヒールをコツコツと鳴らしながら俺たちの間に駆け寄って来たのだ。

 

「ちょっとした行き違いだったんです。本当に、申し訳ございません。」

 

深雪さんが頭を下げると、渡辺先輩は少したじろいでいた。1年生の方も、何も悪くない新入生総代に頭を下げさせてしまったことへの罪悪感から、バツの悪そうな顔をしていた。

 

「もういいじゃない、摩利。達也君、零君、本当にただの見学だったのよね?」

 

七草先輩が俺たちと渡辺先輩の間に割り込み、俺と達也に向かってウィンクをしてくる。

 

そのまま七草先輩は俺たちの後ろにいる1年生(+姉さん)の方に向かって話しかけ始めた。

 

「生徒同士で教えあうことが禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には事細かな制限があります。魔法の発動を伴う実習活動は控えた方がよろしいでしょう。」

 

先ほどまでのピリピリした雰囲気は一転し、今では今回のことは不問になるような空気になり始めている。

 

だがここで気が緩むのを良しとしなかったのか、渡辺先輩が咳払いを1つして話し始めた。

 

「会長がこう仰せられているので、今回の件は不問とします。以後は気を付けるように。」

 

結局不問にはなったが、その渡辺先輩の真剣な面持ちから、俺以外の生徒は全員先輩方2人に向かってお辞儀をする。勿論姉さんも頭を下げていたが、俺は下げる気がなかった。

 

(なぜ姉さんが頭を下げなければいけない。納得がいかん。)

 

俺は頭を下げる代わりに苛立ちを全面的に表に出していた。

 

「そこの君ももう暴力行為に及ぶことのないように。」

「了解で~す。」

「零、ちゃんと反省しなさい。」

「…はい、姉さん。」

 

姉さんに言われたら何も言い返せねえよ…。

 

 

 

 

 

 



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