負完全ウマ娘 (−4)
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第−1箱 人外がもたらす災害

球磨川くんがウマ娘にされると言う設定上、名前を変える必要がありました。僕の小さい脳で頑張って考えましたが、この小説を読むような物好きな方の中で「こっちの名前の方が良くね?」と思う人がいたら、提案してください。検討します。よろしくお願いします。


──ウマ娘。

 

それは異世界から優駿の魂を引き継いだ者たち。

 

形状はヒトに酷似しているが、一目で分かる大きな違いが幾つかある。

様々な音を拾うためのウマ耳、走行中バランスを取るためにも用いられる尻尾、そして並外れた身体能力。

 

近代オリンピック選手も驚いて腰を抜かすレベルの彼女たちであるが、競争本能を除けば極めて穏和な性格である。

ヒトの中にはそんな朗らかな彼女たちを見ることによって、心を癒すものもいる程だ。

 

あーあ、たまには僕もこんな殺風景で伽藍堂の教室じゃなく雄大で広大な野原を駆け回ったりしてみたいものだぜ。

 

 

──────────

 

 

『……そんで何さ、君は確かに上半身と下半身を輪ゴムでぶった斬られて死んだと思うんだけど?』

 

「まぁそう焦んなよ、球磨川くん。結論を急いで人を急かす男はモテないぜ?君の場合は改善した所でモテないだろうけど」

 

『何というか拍子抜けしたね。呆気なく退場しておきながら悪気もなく再入場されちゃ興醒めだ。』

 

「丸くなったねぇ、球磨川くん。昔の君なら今頃僕の顔面目掛けて螺子の2本や3本飛ばしてきてもおかしくなかったのに。先端が綺麗に丸まっちまった螺子なんて一体どこに需要があるんだい?そんな螺子はどこにも刺さらない」

 

『死人に口なしって言葉を知らないのかな?それに故人に口出しされる筋合いは無いね。いくら君が昔からの知り合いでも、これは僕自身が望んで選んだ変化なんだから。』

 

「…いやぁ、しばらく見ないうちに本当に丸くなったね…球磨川くん」

 

『別に。ほんのちょっとばかし絆されて、解されただけさ。変わり者だらけの生徒会と愉快な仲間たちにね。』

 

 

──────────

 

 

『それで、君は獅子目言彦に殺されたんだから蘇れないはずじゃ?』

 

「それがなんとできてしまったという訳さ。ほら、めだかちゃんがあの怪物をやっつけてくれただろう?『倒せない敵』である獅子目言彦が倒されたことによって『壊された物が治らない』って設定も無くなったんだ」

 

『それはまた随分とご都合主義だね。必死に頑張ってる週刊少年ジャンプのキャラクター達がバカみたいだ。』

 

「事実は小説よりも奇なりってよく言うだろう?それにアイツらは僕から見れば実際バカだ。何度だって言ってやるが漫画のキャラクターたちは友情・努力・勝利なんて謳っちゃいるけどその実才能が全てさ。アホらし。現実は何よりも必然の重なりなんだって声を大にして一曲歌でも歌ってやるさ」

 

『…君は未だ尖ってるね、安心院さん。』

 

「親しみを込めているようで何よりだぜ」

 

 

──────────

 

 

「ここまで長々と話してるから端的に要点だけまとめて伝えると、ウマ娘の世界に転生してもらう」

 

『なんで?』

 

「何でそうなるのかわかってないって顔だね。まあ理由は単純明快、最近流行ってるからさ。あんな可愛らしい見た目で案外スポ根物だから君のその腐ったドブをコンプラで煮込んだみたいな性格の矯正になるんじゃ無いかって思ってね。あ、そうそう。僕たちの世界(めだかボックス)が完結したのは2013年でウマ娘の世界は2017年だろとかそういうツッコミは無しだぜ。僕には説明できないからね」

 

『おいおいそれは流石に酷いよ。僕ほど澄んだ精神性の人間は地球上に1人もいないというのに。』

 

「確かにそうかもね。これ以上なく澄んではいるさ。むしろ突き抜けていると言ってもいい。漆黒、いや宵闇、いやいや深淵でさえ生ぬるいほどのマイナス方面に」

 

『心外だなぁ、僕はこれでも後輩にマックを奢ってやるようないい先輩なんだぜ?だから精神性を矯正する必要はないさ。というわけでさっさと帰らせてもらうぜ。今日は君が差し向けた例の5人にカーネルのフライドチキンを奢らなきゃいけないんだ。時間があったらまた腹いせに、まぁあえて詳細を語るとすれば手足を封印しにここに来てやるぜ。』

 

「手厳しいなぁ。まぁそういうことなら仕方ないか、帰れよ。いい先輩ごっこに夢中になっちまって、つまんねー男だぜ全く。あぁ、そうだ。一つ言い忘れてたことがあってね」

 

『まったく、しつこい女は今日日流行らないぜ?それとも本当は僕に留まって欲しいから健気にも慣れない事をしているのかな?』

 

「気色悪くて気味悪い妄想は置いておいて、だ。耳の穴かっぽじって一言一句たりとも聞き逃さないように覚悟を決めて腹を据えてよーく聞けよ?最近心変わりして甘っちょろくなった球磨川くん」

 

『僕のことをみくびってもらっちゃ困るなぁ。気色悪いとか気味悪いとかそんな言葉は揃いも揃って僕を彩る褒め言葉だ。どんな言葉だろうが僕は受け止めるさ。ここまで会話文だけで長々原稿用紙4枚分以上引っ張ったんだから僕の括弧を外すくらいの一言をくれないと、僕は何するか分からないぜ?普段怒らない奴ほど怒ると怖いって言うだろう?』

 

「さて、それでは驚天動地の残念なお知らせだ。僕がわざわざ招きたくもねー相手招いてご丁寧に1から9くらいまで話してやってんだ。僕は一度やると決めたら勢いでそのままやっちまう癖があってね。昔の君なら今の状況の異常さくらいには気づいただろうに。とどのつまり、僕の目的なんてとうに達成してるってわけさ。球磨川くん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とっくに手遅れだぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

球磨川が教室を出た先は──駅のホームだった。

 

 

──────────

 

 

『それで君に流されるままに電車に乗ったわけだけど、聞きたいことが幾つもあるから問い詰めさせてもらうぜ。1つ目、君も付いてくんの?』

 

「当然ついて行かせてもらう。こんなおもしれーもん見逃す方が愚かだぜ」

 

球磨川は電車の席に座りながら、安心院は球磨川の眼前で宙に浮かびながら話している。

こんな所を一般人に見られようものなら即座にSNSに晒し上げられ「怪奇!電車内で浮遊する美少女!」と一躍時の人に、動画サイトはコラージュ動画で多少賑わうだろう。

 

だがしかし車両内には初めて都会にきて高層建造物(実際はそこまで高いわけではない)に興奮を隠しきれず窓の外を見て騒いでいるお上りさんと、それを見て微笑ましい表情を浮かべている親子しかいない。

小声で話していれば角度的にも気づかれることはないだろう。

 

『まあ見せ物にされるのは別に慣れてるからいーや。2つ目、ここどこ?』

 

「んー、まぁ強いて言うならここは僕たちの世界じゃなくウマ娘の世界で、東京都内の某路線、ってとこかな」

 

球磨川にとって1つ目、2つ目の質問はさして重要では無い。最も重視しているのは3つ目の質問だ。

ではなぜ最も大事な質問を3つ目に持ってきたのか。

 

言ってしまえば大したことはない。3つ目の質問をしてしまうことにより、今現在自分が置かれている現実を真実にしたくない、といういかにも負け犬らしい思考回路によるものだ。

 

しかしご存知の通り球磨川禊は負け戦であれば百戦錬磨。

常人であれば踏み込むことを忌避する危機にも躊躇うことなく、いっそ嬉々として、プールにでも飛び込むようにその身を投げ出すことができる。

 

『3つ目。僕の体どうなってんのこれ?どうせ君のスキルだろ?さっさと吐けよ、今ここでもっぺん封印して僕好みの服装に着替えさせてから存在ごと消してやってもいいんだぜ。脅しだと思うなよ、僕はやると言ったら』

 

 

『やる男だ。』

 

 

『君は、よく知っているだろう?』

 

球磨川がそう言うと同時に、彼の両手には先の尖った巨大なマイナスネジが現れる。どんなに強靭で崇高な精神を持つ聖人君子だろうと一刺しされればたちまち最底辺で最低の人格(キャラクター)に成り下がるであろう、球磨川が持つ2つの過負荷(マイナス)の内の1つ、禁断(始まり)過負荷(マイナス)、『却本作り(ブックメーカー)』。

一度は人外たる安心院なじみを無力化し封印した最悪の天敵である過負荷(マイナス)である。

 

しかし、安心院なじみは表情筋を一瞬たりとも強張らせることなく、ただ宙を優雅に浮遊しながら、球磨川の渾身の殺意を受け流し、消し飛ばし、そしてこれ以上ないほどの笑顔で嘲笑った。

 

「その趣味の悪い螺子で僕を刺す分には結構。このまま戦うんじゃああまりにも僕に利がありすぎるしね。ま、封印された所で負けるつもりもねーが。まあ先に質問に答えるとしようか。あぁ、そうだよ。君の身体は隅から隅まで僕好みに染めさせてもらったぜ。それこそ、炭で塗りつぶすみてーにさ。まぁやったことと言えば体の性別を女に変えてヒトの耳を無くしてウマ耳を生やして尻尾も生やして別世界に飛ばして戸籍も弄って名前も勝手に変えたくらいかな? 1京2858兆0519億6763万3865個あるスキルの中からたったの7つしか使ってねーんだぜ?まあ面白いもん見せてくれたら元の世界に戻して身体も戻してやるからさ。そこは安心してくれよ(安心院さんだけに)」

 

安心院なじみは球磨川を追い詰めるかのように、インターネット上の掲示板での口論で相手を打ち負かすかのように、一息で捲し立てるように喋り切った。

まるで反論なんてさせてやんねーぞと言わんばかりの喋りっぷりである。

それに、と安心院は続ける。

 

「それにしても君の渾身の戯言(ジョーク)には痺れたぜ。腹が捩れて捩じ切れるかと思ったよ。えぇと、なんだっけ、どうでもいいから忘れちまったが……あぁそうそう、『やると言ったらやる男だ』だっけ?いやぁ本当に面白かったさ!案外人を笑わせる才能があるのかもしれないぜ?だってさ、球磨川くん……」

 

 

「君は今、女の子じゃないか」

 

 

「寝言は眠ってから言えよ、球磨川くん。起きてるなら現実を見た方がいいぜ?今君は人間の男じゃなくて可愛らしいウマ娘だし『球磨川禊』なんていかにも男性って感じの名前じゃなくてスクリプトロンガー(却本家)っていう名前さ。忘れずに覚えとけよ?」

 

『僕の相棒を消しておいて随分高圧的な物言いだね。まぁ後々戻してくれるならいいさ。』

 

スクリプト(球磨川)は両手に持っていたマイナスネジを消し、再び席についた。どんな不幸が降り掛かろうが、それはそれとして一旦置いておいて楽しめるだけ楽しむのがスクリプト(球磨川)スタイルである。

 

『僕は悪食なもんでね、当然TSなんて性癖は標準装備さ。ん?そういうことなら需要と供給が僕1人で完結してるなあ。今度から後輩たちには自家発電先輩と呼ばせようか。』

 

「……その発言は流石の僕でも引くぜ?めだかちゃん対全校生徒綱引きの結果よりもドン引きだ」

 

『ようやくそのスカした表情を崩せたみたいで何よりだよ。』

 

ありとあらゆる女子を愛する(自称)(マイナス)の中の(マイナス)であるスクリプト(球磨川)にかかれば美少女と対面しながら下ネタをぶっ放すことくらい容易いことだ。

なぜなら彼に『恥』なんて概念は存在しない。

 

 

──────────

 

 

「おっと、次は東府中駅だね。さて球磨川くん、ここから東京競馬…レース場に向かうからとっとと電車を降りる準備をしてもらおうか」

 

『おいおい安心院さん、僕はそれなりに地理にも詳しいから言わせてもらうけど、東京競馬場に行くなら府中競馬正門前駅が最寄りなのは誰だって知ってることだろう?』

 

「それが、知らない娘がいるみたいなんだよねぇ。だから球磨川くんには柄にもなく人助けをしてもらうぜ。つまり東府中駅から東京レース場までその子を連れて行ってやって欲しいってわけさ。ちなみに断ったら体一生そのままな」

 

『女の子が困っているならこの僕が助けに行かないわけには行かないね。それでその子は今どこにいるんだい?一刻も早く駆けつけてあげなきゃね。』

 

スクリプト(球磨川)は鼻歌混じりのスキップでもしそうな気持ちで電車から降りた。当然頭の中は女の子と親しい仲になることで一杯だ。

あの安心院なじみが()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに。

 

「いやぁそういえばどこにいるか言ってなかったね。僕としたことが迂闊だったぜ。少ししたら向こうから声をかけてくるだろうからそこは心配しなくていいさ。じゃ、僕はスキルで隠れさせてもらうぜ。暫しお別れさ、またね、球磨川くん」

 

『ばいびー。』

 

互いに手を軽く振り、安心院がすぅっと姿を消した所でスクリプト(球磨川)が右を向いた瞬間、スクリプト(球磨川)は安心院の言葉の意味、そして意図を瞬時に理解した。

 

『……ほんっと、いい性格してるぜ、安心院さん……』

 

スクリプト(球磨川)の視線の先に佇んでいたのは、先程まで初めての都会に興奮し、周りの視線も気に留めずに微笑ましい光景を作り出していた1人の少女。

誰が見ても彼女からは明朗快活な印象を受けるであろう、

スクリプトロンガー(球磨川禊)が喉から手が出るほど欲し、腹の底から反吐が出るほど忌み嫌う『主人公という地位』に収まるために、この世に産まれ落ちたかのようにすら思える、

そのウマ娘の名は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ…!私、私以外のウマ娘に会ったのって初めてです…!」

 

 

 

──日本総大将となり得る者──

スペシャルウィーク

 

 

 

 

 

 

 

98年世代、通称『黄金世代』の一角。

史実では日本ダービーを制し、更にはジャパンカップでも世界の強豪を退け日本の国土を防衛したとされることから、付けられた異名は『日本総大将』。

 

もっとも、現在球磨川くんの視界に映る彼女は『日本総大将』たる覇気を纏っているとは言い難い。極めて平凡な、何処にでもいる夢見がちな女の子に見えるだろう。

 

ほら、上の紹介(大文字)いかにも平凡って感じ(デフォルトのフォント)だったろう?

あれはそう言う演出さ。平凡に見えるようにあえてちょっとダサくしてみたってわけさ。幾ら『主人公』とはいえ、世界から見ればまだモブでしか無いからね。

 

それはさておき、球磨川くんの目は箱庭学園・前生徒会長黒神めだかのそばに居続けたことによって鍛えられている。

彼(今は彼女ではあるが)にかかれば、スペシャルウィークが『世界に愛された主人公』であることは即座に看破できる。

 

さて、ここで重要なのは元の世界(めだかボックス)今の世界(ウマ娘プリティーダービー)の明確な違いについてだ。

 

元の世界(めだかボックス)において、明確に『主人公』とされた人物は黒神めだかその人ただ1人だった。人吉善吉はあくまで『主人公不在の場合のスペア的存在』であり、真の主人公ではない。

ここから分かることは、元の世界(めだかボックス)は、あくまで

『黒神めだかの叙事詩的物語』であると言うことだ。

 

対して今の世界(ウマ娘プリティーダービー)には『主人公格』が複数人存在する。詳細な紹介は登場した時にするとして、だ。つまりは今の世界(ウマ娘プリティーダービー)は所謂『大勢の登場人物による群像劇的物語』であると言えるだろう。

 

これは僕の持論ではあるが、1つの世界が受け止められる『主人公』のサイズには限度がある。元の世界(めだかボックス)にはこれ以上ないってくらいの『主人公』がいた。人類全てを愛し、どんな事件にも首を突っ込んで解決し、一度は敵対した相手でも簡単に味方につけ、それでいて凛としている。

「最も『主人公』らしい『主人公』といえば?」を決める大会があったら黒神めだかがぶっち切りで優勝するだろう。

 

ただ、彼女は余りにも有り余るほどの『主人公(プラス)』だった。それこそ、世界が受け止めきれないくらいに。

だから黒神めだかに対するカウンターとして、絶対値だけは同じだけど、数直線上で見れば正反対の『悪役(マイナス)』たる球磨川くんは彼女と敵対した。物語の特性上敵対せざるを得なかった。

最終的には2人は和解し、同じ組織に属したことでプラスマイナス0となったってわけだ。

 

ここまで語れば分かるだろうが、球磨川くんは余りにも『主人公』である人物に敵対する性質がある。その性質は相手が強ければ強いほど発動しやすくなる。

そのことを踏まえて、球磨川くんの目の前にいる女の子を見てみるがいい。

 

 

()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

この問いの答えも、当然分かるだろう。

分からない奴にはヒントを出してやる。

98年世代組は、通称でなんと呼ばれていた?

 

 

 

そう、『()()()()』。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

つまり、()()1()()()()()()()()()()()()

 

 

 

まぁ、これが普通(ノーマル)なんだけどね。

めだかちゃんが異常(アブノーマル)すぎただけさ。

 

さて、長々と話し込んでしまったが、つまり黒神めだかの足元にも及ばないくらいの、一見凡人に見える『主人公』の女の子をわざわざ今の球磨川くんが捩じ伏せるか?と聞かれたら───。

 

 

 

『……僕も僕以外のウマ娘に会ったのは初めてだぜ。』

 

 

 

まぁ、答えは否さ。

むしろ、後輩に接するみたいに甘くなると思うぜ。

多分そのうち馬鹿でかいクレープでも奢り始めるさ。

 

以上、安心院さんの丁寧な補足説明だ。

ご清聴感謝するぜ。

 

 

──────────

 

 

「あのっ、あなたはトレセン学園のウマ娘さんですか!?」

 

『まぁそうなるのかなぁ。ほら、僕今日から編入だからさ。そう言う君は、一体どうしてこんな所に?』

 

スペシャルウィークが興奮した様子で話しかけ、スクリプト(球磨川)は先程電車の中で詰め込まれた設定を思い出しながら飄々と話す。

ミーハーなスクリプト(球磨川)は一時期TRPGに手を出していたこともあり、割と楽しみながらロールプレイをするだろう。

 

「私は東京レース場で待ち合わせしてるんです。あの〜…名前、聞いてもいいですか?」

 

『あぁ、まだ名乗って無かったね。僕の名前はスクリプトロンガー。名前だけでも覚えて帰ってね。』

 

「私、スペシャルウィークっていいます!これからよろしくお願いしますね、スクリプトさん!」

 

『よろしくね、スペちゃん。それと、良いニュースと悪いニュースがある。』

 

「はい、何でしょう?」

 

スクリプト(球磨川)はここぞとばかりに格好つける。

実際は安心院なじみの入れ知恵、文字通り脳内に無理やり入れられた知恵を基に喋っているだけだが、その姿は純粋なスペシャルウィークには頼りに見えるだろう。

 

『良いニュースは僕が東京レース場まで連れて行ってあげるって事。』

 

「良いんですか!?ありがとうございます!」

 

『悪いニュースは君は降りる駅を間違えてるってことだ。』

 

「えぇっ!?確かに府中駅って聞いたのに…!」

 

『ここは東府中駅だぜ。まったく、ドジだなぁスペちゃんは。』

 

「でも、スクリプトさんもここで降りてるのは一体…?」

 

『……さ、行こうか。早くしないとレースが始まっちまうぜ?』

 

まさか『知り合いの人外に言われてね。』なんて言えるはずもない。曖昧にして誤魔化す事しかできなかったスクリプト(球磨川)は、内心『また勝てなかった。』とでも思っている事だろう。まだまだ見栄を張りたいお年頃である。

 

スタスタと歩調を早め、交通系電子マネーをかざして改札を出て行ったスクリプト(球磨川)をスペシャルウィークは「口調・振る舞いに対して可愛らしい人」という認識で固めてしまった。これからはスクリプト(球磨川)が何かするたびに微笑ましい表情を向けてくる事だろう。余裕のある女性ぶりたいお年頃である。

 

『……スペちゃん。切符はタッチじゃ使えねえぜ。』

 

「えっ、あっ!?間違えましたぁ…!」

 

……実際、どっちもどっちである事は、言わずとも分かるだろう。スクリプト(球磨川)不完全(マイナス)なので周りからは抜けているように見えるし、スペシャルウィークはわりとドジなので不幸に見える。周りの人は2人のことを微笑ましく見ていた、ということに2人が気づく事は未来永劫ないだろう。

 

不安しか残らないが、将来『日本総大将』と呼ばれるウマ娘、スペシャルウィークと、『却本家』と呼ばれるウマ娘、スクリプトロンガー(球磨川禊)の道はここが始まりであった。




口調の再現ができていないような気がします。
この小説を最後まだ読んだような物好きな方の中に「もっとこうした方が…」と思う有識者の方がいましたら提案してください。検討します。よろしくお願いします。

感想・評価よろしくね。


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第−2箱 青春マンガは夢物語

西尾先生原作の漫画に「真蟲犇」とかいう訳の分からない苗字が出て来ましたが、これを見た瞬間にふと思いつきました。
「蝸牛が3匹いるみたいでかわいいな」って。
そう思いません?


東府中駅から東京レース場まで走ったスクリプト(球磨川)とスペシャルウィーク。人間の頃であれば走って5分かかる程度の距離ではあるが、スクリプト(球磨川)はウマ娘である。1分も走れば東京レース場までたどり着くだろう。

 

『安心院さんから聞いてはいたが、まさか自分が車より速くなっているとはね。今ならめだかちゃんともそこそこやり合えそうだぜ。』

 

「地元のお友達ですか?」

 

『まあ友達っつーか腐れ縁っつーか、切っても切れないくらいの関係かな。』

 

本当は黒神めだかのことは妹くらいには想っているが、そこを言ってしまうと追求されて面倒くさいことになるだろう。失言の撤回も慣れたものである。

 

『さっ、さっさと中に入って暇つぶしがてらレースを見に行こうぜ。どうせ待ち合わせまでは時間が空くだろう?』

 

「そうですね!私、友達とレース一緒に見るの初めてです!」

 

『おっと、いつの間にか友達になってたかぁ。まぁ仲良くやろうか、もしかしたらいつか、同じレースで走るのかもしれないぜ。』

 

「わぁっ、楽しみです!恥ずかしながら友達と一緒に走ったこともない…というか、友達ができたことがなかったので…すいません、そんなの普通じゃないですよね…」

 

ちょうど2人はスタンドにたどり着く。

スペシャルウィークは1人で東京に上京した不安、早速知り合いができた安堵などから、他人に話さなくても良いことまで話してしまう。

が、相手は光をも飲み込むスクリプト(球磨川)

この程度の悩みならいとも容易く受け止めてしまう。

曲がりなりにも、元箱庭学園生徒会副会長としての最低限の誇りは持っている。

これもまた、黒神めだかと長く関わった影響、もとい弊害である。

 

『別に、普通(ノーマル)である必要なんてないさ。負完全(マイナス)である僕が断言しよう。自慢じゃねーが、僕は今までの人生で一度だって勝ったことがない不幸な奴なんだぜ。じゃんけんでもしてみるかい?』

 

「一回も…ですか?」

 

『うん。一回も。じゃあいくぜ、じゃんけんぽん。』

 

スクリプト(球磨川)はスペシャルウィークがパーを咄嗟に出してしまう、と考えてのチョキを出した。

スペシャルウィークはじゃんけんといえば最初はグーなのでグーを出した。

 

『……な?また勝てなかった。』

 

「本当に勝ったことないんですね…ふふっ…」

 

『これは僕の持論なんだけどね、女の子ってのは笑ってる時が1番だと思うんだ。だからほら、僕もずっとヘラヘラ笑ってるだろう?笑顔は自分を強く見せるんだ。だから、ほら。笑えよ、主人公(スペシャルウィーク)。』

 

「…はいっ!」

 

スペシャルウィークを笑顔にする事はできたが、

当然真っ赤な嘘である。

ただ、昔のように弱った心に付け入って、自分と同じ立場に引き摺り下ろそうとしないあたり…絶対値は小さくなっていると言えるだろう。

腐り切った性根が改善されているのであれば(球磨川)もまた、『主人公』となり得るのかもしれない。

 

 

──────────

 

 

場所は移り変わり、ここはパドック。

出走前のウマ娘の調子をここで見ることができる。

まぁレース前の調子とレース中の調子はまるで別物になったりするのであまり信憑性はないが。ファンとして五輪よろしく声援を送ることができる場所くらいに考えた方がいいだろう。

ちなみに、この世界にも五輪は存在するらしい。

 

『ふーん、あの娘の足いいね。』

 

「ひと目見て分かるんですね、すごいです!」

 

『うん、ほら見てよあの足!すごい太くない?何食ったらああいう仕上がりになんのかなあ。』

 

「確かに…私やスクリプトさんと比べても太い…ような気がしますね」

 

『でしょ?まぁでも、魅力的なのは足だけじゃないと思うけどね。』

 

「あぁ、こう言う時は尻尾とか耳とかにも注目しろーって言いますもんね」

 

スクリプト(球磨川)は決して競馬の知識があるわけではない。

別に、我が物顔で知ったかぶっているわけでもない。

じゃあ、なぜこんなに自信満々に語るのか?

 

スクリプト(球磨川)は調子を見るために足を見ているのではなく、これ以上ないくらい、シンプルに女性に対してセクハラしているだけである!!

 

負完全(マイナス)たる彼は元の世界(めだかボックス)では高校を卒業までしているのにまだ行き遅れのメルヘン童貞だったので、自らの欲求を満たすためだけに真剣にパドックを見ているだけにすぎなかった。

 

 

──────────

 

 

『つまんねーなぁ、どいつもこいつも揃いも揃って平凡(ノーマル)だ。1人くらい異常(アブノーマル)な奴がいてもいいってのにさ。』

 

「ちょっと、スクリプトさん!?ダメですよ他の人にそんなこと言っちゃ!」

 

『えー、だってほんとうにみんな同じに見えるし…。』

 

スクリプト(球磨川)ははっきり言って飽きていた。

彼の目に映るウマ娘たちは正直言って弱い……わけではない。というか、スクリプト(球磨川)を基準としなくても、彼女らはあまりに強い『競争欲』を持っている。真剣に競技に取り組んでいる以上、たとえ途中で心が折れてしまったとしても、彼女らは『強い』と言えるだろう。

 

だが、スクリプト(球磨川)の目は黒神めだかを始めとする超人達によって灼かれてしまっている。さながら、少年漫画の『主人公』に憧れる純粋な少年のように。

自然と異常(アブノーマル)な存在を求めてしまうのは、仕方ない、のかもしれない。

 

 

「そんなに見たいなら、見せてやるぜ。」

 

「えっ?スクリプトさん何か言いました?」

 

『…いいや?僕は何も言ってないさ。』

 

「次は、このウマ娘!8枠12番……」

 

 

その次の瞬間、パドックに姿を表したのは。

スクリプト(球磨川)の目に映ったのは。

緑色の耳当てをつけた、『最速』を体現したかのような、そのウマ娘の名は──。

 

 

 

 

 

──異次元の逃亡者──

サイレンススズカ

 

 

 

 

 

さっと身を翻し、舞台裏に隠れてしまったが、その姿はスクリプト(球磨川)の心を揺さぶるのに十分だった。

 

『──なんだ、ちゃんといるじゃん。異常(アブノーマル)がよ。』

 

「あのー、アブノーマルって…?」

 

『ああいや、要するに“特別”って言いたいのさ。スペちゃん、このレース、今の娘が勝つぜ。』

 

「おぉ!一目見ただけでそこまで分かるなんて……っ!?」

 

『あれ、どうしたんだいスペちゃん。急に固まっちゃって…ん?』

 

スペシャルウィークが見ている方向を見るとそこには。

なんかぶつぶつ言いながらウマ娘の脚を触る…まあ有体に言えば、変態がいた。

 

さて、ここでひとつ、

『安心院さんのこれで安心!ウマ娘を学ぼう!』

のコーナーだ。

そもそも『ウマ娘』ってのは現実世界でいうところの『馬』と同義ってのはどんな愚か者でも分かることだとは思うが…馬の後ろに立って、いきなり脚を触るなんてしたら、だ。どうなるかは、まあ分かるよな。

 

「なっなな、何するんですかぁ!!」

 

「へぶっ!!」

 

そりゃあ蹴られるよな、ってわけだ。

この件から学ぶべき事は1つ。

『ウマ娘には後ろから近づかないこと』だ。

以上、『安心院さんのこれで安心!ウマ娘を学ぼう!』

のコーナーでした。じゃあまたね。

 

『おー、この白昼の下堂々と痴漢行為に及ぶとは中々カモが座ってるね。そんなん風に後先考えないと満員電車とかで良い肝にされるぜ?』

 

「スクリプトさん、逆です、逆…それより、この状況でギャグですか!?私いきなり痴漢されたんですよ!?」

 

スクリプト(球磨川)からすれば痴漢なんて緊急事態でもなんでもない。むしろ普段は痴漢する側なので蹴り飛ばされた男に親近感すら感じている。『こいつには負完全(マイナス)となる素質がある』とも思っている。

 

『さて、痴漢。ウマ娘に顔面を蹴られるなんて不幸だね。時速70キロメートルで走行可能なウマ娘の足で蹴られちまえばただじゃあ済まないだろうし、ここはひとつ、この僕が治して差し上げようじゃあないか。僕の過負荷(マイナス)である、『大嘘憑き(オールフィクション)』で!』

 

「ふぅー…いやぁ引き締まっていて良い脚だったぜ!それで、よければ君の脚も触って良いか!?」

 

実際男は、殆ど無傷な上、厚かましくもというか何というか、スペシャルウィークの渾身の蹴りにより頭を打って混乱でもしているのかもしれないが…わざわざ本人に痴漢の許可を取るという行為に出た。誰が見ても、彼は致命的に間違えていた。

 

『…あったまおかしいんじゃねーの、お前…。』

 

 

──────────

 

 

スクリプト(球磨川)は現在、沖野と名乗った男に足を触らせている。

触られているのではなく、触らせている。

スクリプト(球磨川)はなぜこんなとち狂った行動に出てしまったのか。もともととち狂ってはいるが。

 

理由としては単純明快、スクリプト(球磨川)負け組(マイナス)なのでなんとかして他人を支配してみたいという欲求を常に持ち合わせている。あとはまあ、恐らく不完全(マイナス)的側面を持ち合わせているであろう沖野をみすみす犯罪者にしてしまうのは勿体無いので、『こちらから触らせているだけ』という大義名分を与えることによって塀の向こうに行ってしまうのを引き留めて恩を売った…とかそんなところだろう。

なお、触らせ始めてから既に10分経過している。

 

「うーん、なんだこの足…?」

 

『散々人の足を触っておきながら酷い感想だね。僕としては10分以上足を触られるとは思っていなかった訳だけど、長々触ったんだからアドバイスの1つや2つくれても良いとは思わないかい?』

 

「当然触らせてもらった以上僭越ながらアドバイスはさせてもらうが…はっきり言って“異常”だ。本来ウマ娘が保有するべき筋肉量に達していない。こんな足で君は全力で走れるのか?」

 

『僕は生まれつき体が弱いんだ。生まれてこの方真面目に運動に取り組んだ事なんてねえし、本気も出した事がない。出したら大怪我しちゃうからね。ウマ娘という生物の中でも最底辺に位置する最底辺(マイナス)が僕なのさ。』

 

「それは…本当なのか?」

 

「えっでもさっき私と同じくらいのスピードで走ってませんでしたっけ、スクリプトさん?」

 

『走ったね。急がねえとレース開始に間に合わねーかもなって思って、ちょちょっと車を追い越すくらいのスピードで。つーわけでさっきのは嘘だぜ、沖野ちゃん。』

 

「なぜそんな意味の無い嘘を吐いた!?」

 

スクリプト(球磨川)は大嘘吐きなので意味もなく嘘を吐く時があると2人が知るのは、しばらく経ってからである。

 

「実際どうやって走ってんだ?」

 

『さあ?自分の体のことなんて気にしたことないね。真実はWebで、ってやつさ。』

 

「それを言うなら続きだろ…うーん、どうしようか、こっちも…

 

側から見れば1人でぶつぶつ言う沖野は狂っていた。

実際は酔狂と言った方が正しいのだろうが。

 

 

──────────

 

 

『それで沖野ちゃん。もうレース直前な訳だけど、イチオシの娘は誰だい?僕個人としてはあのスズカちゃんとか言うのが良いと思うんだけど。』

 

「あぁ、そうだな。お前の見立て通りだ。俺もサイレンススズカがずば抜けて仕上がっているように感じるな。体重管理も完璧に見える…さすがチームリギル…ウマ娘の管理に関して言えば今現在最強なのはあそこだろう」

 

『やっぱりね、そんな事だろうと思ったんだ。僕みたいなレース初心者でも一目見れば…というか人目を見れば分かるぜ。そもそも注目度が段違いだ。暫く見なかったから僕の目も霞んでるかと思っていたけど、やっぱり異常(アブノーマル)は、なんと言うか一目瞭然だ。案外僕も捨てたもんじゃねーぜ。』

 

「そういえばスクリプト。さっきからちょくちょく会話の中に入り込むアブノーマルとかマイナスってのは…お前なりの評価形式か?俺たち風に言えばAとかSみたいな感じの」

 

『そうさ、御名答。まあ沖野ちゃんみてーな…普通の人間が普通(ノーマル)。あそこにいるスズカちゃんとか…さっきから人混みに混乱してフリーズしてるスペちゃんとかは異常(アブノーマル)だ。』

 

「スペシャルウィークがアブノーマル…悪い意味でないとすれば、お前の観察眼は大したもんだぜ、スクリプト。というか、今のスペシャルウィークの素質に気付けてるってだけで驚嘆に値するけどな」

 

『どちらかと言えば賞賛して欲しかったなあ。まだまだ褒められたい年齢なもんでね。それで、過負荷(マイナス)ってのは』

 

『僕みたいな奴のことさ。』

 

スクリプトロンガー(却本家)。何を思ってこんな名前を付けたのか知らねえが、Script writer(脚本家)からwrite(執筆)を抜き出し、それを同音異義語のright(正解)と捉えてから反転させてwrong(誤り)、そこにer(する者)をくっつけたらScript wronger(誤った脚本)とは…随分名付け親は僕のことを嫌いらしい。…とまぁ、こう言った具合に、僕の人格は捻じ(螺子)曲がっているからね。簡単にまとめれば、こういう卑屈でなんの才能もない奴が過負荷(マイナス)ってわけさ。さ、レースが始まってるぜ。僕なんかのことより目の前の異常(アブノーマル)を見た方がよっぽど学ぶ事は多い。スズカちゃんの走りを見ようじゃないの。』

 

スクリプト(球磨川)は沖野が呆気に取られている隙に、一息で言い切った。どうせ暫くしたら別れる赤の他人にこれ以上細かく説明する必要もないと言う考えの元の行動である。

だが、沖野がこんなネガティブな思考を持つ者の前で大人しくそうなんだと引き下がるはずもない。

 

「それは違うんじゃねえのか。確かにお前の全身の仕上がりは今は他のウマ娘より劣っているかもしれない。今目の前で走っている現役のウマ娘に比べれば確かに…wrong(間違い)というのもあながち間違いではないのかもしれねえ。だけどな、少なくとも…俺はそうは思わなかった。というか、そうは思えねえ。お前にははっきりとした()がある。」

 

『僕に芯だって?ないない、それこそありえないぜ!沖野ちゃん。僕はいつだって甘々の抜け抜けのなあなあでやって来たんだ。多少は幼馴染に改心させられたが、努力は無駄だと未だに思っているような人間だぜ?そんな僕のどこに芯が…』

 

「まだ話は終わってねえぞ、スクリプトロンガー」

 

沖野は先ほどまでの少し抜けている表情を一変させ、スクリプト(球磨川)を見つめている。スクリプトも心なしか、背筋が伸びている…ように見える。なんだかんだ、怒らなそうな奴が怒っているように見えると緊張するものだ。

ちなみにスペシャルウィークはそんな2人を固唾を飲み干す勢いで見つめている。

 

「お前はさっき同音異義語のright(正解)がどうこうとか言ってたが、その理論が成立するならwrong(間違い)についても同じことが言えるだろうが!誰がwrong(間違い)だなんて決めた!?お前がいうwrong(間違い)long(末永く)だと仮定してみろ、お前にはScript longer(末永く続く脚本)という素晴らしい名前があるじゃあないか!俺みたいな奴からすれば、お前だって十分アブノーマル側の仲間みてえに見えるぜ!」

 

『暑苦しいね、沖野ちゃん。まるで一昔前の少年ジャンプの熱血青春スポーツマンガみてえで驚いたぜ。だが誰が何を言おうが、僕は僕だ。それにlong(末永く)なんて僕には似合わない。体力も根気も芯もねーからさ、それに信念もない。短期決戦の方が好きなんだよね。おっ、すげえなスズカちゃん…。独走じゃん。

 

沖野渾身の激励も、スクリプト(球磨川)には届かない。

沖野の激励はあくまで沖野の感想でしかなかった。

他人の感想なんて、過負荷(マイナス)たるスクリプト(球磨川)には届かない。

あくまで外面の話でしかないからだ。

 

 

では、内面の話であれば?

 

 

「お前が相当捻くれてるってのは分かったし、それを治す気がねえってのもよく分かった。確かにお前の言う通りだよ、スクリプト。俺が語ったことはあくまで俺自身の一願望に過ぎない。そんなに悲観的になるなと言いたかったところだが、悲観的である事もお前の一部であると、他でもないお前自身が言うならば否定もしない。というか、その点お前は正直なんだろうな」

 

『まだ僕のことについて喋る気かい?君も物好きだね、いい加減僕としては目の前のレースについて解説して欲しいんだけどなー。()()()()()()()。』

 

「なんでお前が俺がトレーナーって事を知ってるのかなんて質問はしねえぞ。俺がトレーナーだって事は見る奴が見れば分かる…というかトレーナー以外にウマ娘の触診が務まるかよって話ではあるが。ともかくだ、スクリプト。お前が正直に物事を伝えて案外隠し事はしないタチだってのは今までのお前の態度で分かった…遠回しに話す癖はあるみたいだけどな。」

 

沖野は腐っても、というか未だ腐ってなどいない日本有数のトレーナーだ。ウマ娘の性質くらいは一目見て看破するだろう。その程度なら朝飯前だ。

スクリプト(球磨川)は内心驚きはしたが、あくまで表面を読み取っているだけだと考えていた。

はっきり言えば、沖野をナメていた。

 

「中央のトレーナーを舐めるなよ、スクリプト。お前が自分を取り繕って偽って、あたかも勝利を諦めてるみたいにクールぶって格好つけているなんて事は分かりきっているんだぜ。というか、スペシャルウィークにだってそんな事は分かるだろうな。だろ?スペ」

 

「えっ!?まあ、スクリプトさんがカッコつけてるっていうのは…分かります。言い回しは回りくどい事もあります。今まで一度だって勝ったことが無いって言って私を励ましてくれたのだって、何か打算があったとしても私にとってはすごく嬉しいことでした。だから、そうやって自分と他人の間にプラスとかマイナスとかで壁を作られると悲しいです!スクリプトさんはあんなに良い人なのに!」

 

『まさか、真逆さ。まあ良い人に見えるように努力はしてるぜ?だってその方が味方は増やしやすい、依存させやすい。敵が多いか味方が多いかで言えば敵が多いのが過負荷(マイナス)なんだ。だから僕たちはお前らみたいなプラスが大嫌いで憎んでも憎み足りないくらいに憎悪している。それに、僕は勝負なんてどうでもいいと本気で思ってるんだぜ。これ以上他人の領域に抜け抜けと入り込んで来るようだったらお前らの顔面まとめて引っ剥がしてやっても良かったんだけど、的外れだったからやめておいてあげる。良かったね、スペちゃん、沖野ちゃん。命拾いしたぜ?』

 

スクリプト(球磨川)は威嚇の意味を込めて殺気を滲ませる。

だが、箱庭学園で磨かれて多少丸くなったスクリプト(球磨川)の殺気程度では──スペシャルウィークはともかく──沖野は動じない。怖気付かない、恐れない。

 

「いいや、的外れどころか的中してるさ。ドンピシャでど真ん中、ダーツならブルってとこだろうよ。100歩どころか10000歩くらい譲ったとして、まあお前の言う通り勝負はどうでもいいと、本当に考えてたとしよう。納得は出来ないが理解なら出来る。ただ、それでもしかしお前は自分に嘘をついている。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……どうしてそう思うんだい?僕の覚えてる限りで、僕が勝ったことなんて一度もねえな。適当言うのも大概に…』

 

 

 

 

「なら、こっちを見て話せよ。」

 

「どうしてレース開始から一度もこっちを見ない?」

 

「どうしてそんなにレースに釘付けなんだ?」

 

 

 

 

『それは…誰だってそうだろう?自分の目の前で美少女達が汗水垂らして一心不乱に脇目も降らず勝ちに行くって言うのは僕からして見れば実際涎物だからね。教えてやるよ、沖野ちゃん。僕を構成している物質は95gの真摯さと…』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、スクリプト。本当はとっくに気付いてるんだ。俺も、スペシャルウィークも…お前も。劣等感ってのは裏返せばその実憧れと何ら変わりない。自分の内面をよく見てみろよ。心の声を聴いてみろよ。過去を見返してみろよ」

 

 

「お前はいつだって『勝ちたい』と願っていた筈だ。」

 

 

「違うか?スクリプトロンガー」

 

沖野は語る。それは人生の先輩として、後輩にアドバイスをくれてやるかのように。それは青春スポーツ漫画で、ライバルに発破をかけるように。それは落ち込んでいる弟子を励ます恩師のように。それは。それは。それは…。それを言い表す言葉は無数にあるだろう。だが、敢えて最も正しく言い表すとすればそれは…。

 

それは、スクリプト(球磨川)にとって、最も暴かれたくない虚構(真実)であり、同時に、いつか誰かに暴いてもらいたいと思っていた真実(虚構)でもあった。

 

こんな捻くれた自分の内面を見透かすことが出来るのは箱庭学園前生徒会長くらいのものだと思っていたため、スクリプト(球磨川)はやはり自分の認識の甘さを認め、また、負けを認める他無くなった訳であった。

 

『ちくしょう、全くもってその通りだ。まさか口喧嘩ですらいい年した見知らぬおっさんにも勝てねえとは流石の僕でも落ち込んじまうぜ。あぁ、ちくしょう、また勝てなかった。』

 

「大人舐めんな。それと、必要以上に自分を下げるのはやめた方がいい。まぁお前がレースに出る気があるっていう体で話を進めるとすれば、そういうのって案外走りに影響するもんだぜ。あとは…そうだ、毛並みとかな。毛並みがボサボサになるのは嫌だろう?」

 

『ただでさえ長い髪ってのは手入れが難しいってのにもっと難易度が上がるのは勘弁願いたいね。』

 

そこまで語った所で、スクリプト(球磨川)は目を細め、自分自身を嘲笑うかのように口角を上げた。

 

『それと、確かに君のいう通りさ、沖野ちゃん。僕はいつだって勝利に憧れて、憧れ続けて…最後の最後に、たった一度だけ勝ったことがある。人生で一番勝ちたい相手に、一番勝ちたいタイミングでやっと勝てた。()()()()()()()。正直あの勝利のインパクトがデカすぎて忘れてたんだけど、そう言えば僕はたった一度だけの勝利で人生の勝者になったつもりにはなれないような強欲な奴だったんだ、実際のところね。全く、これじゃあめだかちゃんが激昂して乱神モードで僕を殴り殺しに、嬲り殺しに来ても不思議じゃあない。文句も言えねえよ。と、いう訳でだ!僕は暫く、元の僕らしく振る舞う事にするよ。どうせトレセン学園ってのはたった今、何の描写も無しに、危なげすら無く1着でゴールしちまったスズカちゃんみてえな異常(アブノーマル)がいっぱいいる箱庭学園みたいな所なんだろうさ。だろ?沖野ちゃん。』

 

「おう、保証してやる。なんだったら補助もしてやる。いいじゃねえか、どん底から這い上がって下剋上。流石に今のサイレンススズカ程、とまでは言えないが……我らがトレセン学園に通うウマ娘は全員が全員玉石金剛の光る原石とかいう狂った鉱脈だ。何てったって、どいつもこいつも揃いも揃って気迫に満ち溢れていて切磋琢磨しあっている。日本国内にこれほど『青春』って単語が似合う場所はねえよ」

 

『それを聞いて安心したよ。こう見えても僕は少年ジャンプの愛読者でね、こういう熱い展開は嫌いじゃないぜ。』

 

沖野は口に咥えていたキャンディを噛み砕いてニヤリと笑い、スクリプト(球磨川)もそれを見ていつものヘラヘラとした笑みを浮かべた。そしてその流れでスペシャルウィークに顔をぐいっと近づけて話しかける。

 

『と、いう訳でだ、スペちゃん!僕はめでたくこの初対面は痴漢にしか見えなかった怪しいトレーナーの下に行く訳だが…君はどうするんだい?もし心細いのなら僕と一緒に沖野ちゃんの傘下に』

 

「流石に初対面の人に遠慮なく身体接触を伴う超高圧コミュニケーションをする人に教えを乞うのはちょっと…それに、私スズカさんと同じチームに入るって今さっき決めたので!」

 

『じゃあ僕もそうしよっと。悪いね沖野ちゃん。』

 

「えっ、さっきまでの流れはどうした!?どう考えても俺がお前をトレーニングする感じに話が進んでただろうが!?」

 

『いやだって、僕だって転校したての学校で1人でやっていける自信ないし。』

 

「…まぁそういう事なら…仕方ないか……。チャンスだったのに…。

 

この過負荷(マイナス)は沖野が思うより自由奔放だった。

 

「ってそうだ!私、トレセンの人と待ち合わせしてて…!どうしよう、大遅刻だぁ!」

 

「あぁ、それ俺。何でも有望株2人と東京レース場で落ち合うっておハナさんが言ってたから仕事ぶん取って俺がここに来たって訳だ。最近仕事しすぎだしな。だからまあ落ち着け。門限までには寮に送ってやるし…それに、レースはまだ終わってねえぞ?」

 

『いやいや、待ちなよ沖野ちゃん。どう見てもレースは終わっているだろう?まるで二回戦があるみてえな言い方は紛らわしいからやめてほしいなあ。』

 

「ところがどっこい、人によっては後の方がメインってやつもいるんだぜ。まぁ騙されたと思って騙されてみろよ。特にスクリプトはああいうの好きだと思うぞ?」

 

沖野は2本目のキャンディを口に咥えながらそう言った。

スペシャルウィークはこんな変態がトレセン側から正式な使者として送られて来たことが信じられないようで、口をあんぐりと開けていた。

 

 

──────────

 

 

『これは…何?』

 

「何ってウイニングライブだよ。レースが終わったら特設ステージの上で歌って踊るんだ。まあファンサービスだよ」

 

「うわぁ…!すごく綺麗…!」

 

『まあ僕もその点に関しては概ね同意だ。さっきまで着ていた体操服から感じられる少女達の快活さとは一変してステージ用の衣装を見に纏った彼女達からはどことなく大人の魅力が感じられるので僕としては興奮しているさ。まるで袋とじを開けているときみてえな何とも形容し難いワクワク感すら感じているとも。』

 

「おぉっ、貴女、解っていますねえ!いやーやはりウマ娘ちゃんたちとはこうあるべきです!!普段のほんわかした少女らしい一面、レース中に見せる猛獣のような獰猛な一面、そしてウイニングライブで見せる可憐な一面ッ!!ああそう言えば沖野さんが言っていましたが噂の『有望株』さん達も一目見てみたい!一体どんな可憐な御姿をされているのか……!想像だけでご飯いけます!…じゅるり

 

突然現れた、早口でウマ娘について語るウマ娘に当の『有望株』は呆気に取られていた。多少身に恐怖を覚えるくらいに。

 

『…で、沖野ちゃん。この娘もどうやら異常(アブノーマル)のように見えるんだけど…彼女は一体何なのかな?』

 

「ああ…こいつはアグネスデジタル。ウマ娘オタクのウマ娘で…芝とダートどっちもいけるオールラウンダーの変態。どこから聞いたのか知らねえが、俺が『有望株』に会いに行くと聞いて勝手について来た。まあ気にすんな、慣れる。そのうちな」

 

『そっか。』

 

こんな奴前にしてスクリプト(球磨川)が悪戯しないわけない。

いつものように思い切り顔を近づけて話し始めた。

 

『それで、君はその『有望株』を前にして一体何を思う…』

 

「そりゃあ決まっているでしょう!私のこの秘蔵のウマ娘ちゃんデータベースハンディタイプ完全版(初回限定版)に身長体重その他全てのデータ、ってまさか貴女は『有望株』のうちの1人スクリプトロンガーさんではありませんか!?ああぁ、気づかないうちに推しに気軽に話しかけてさらには触れてしまうなんてなんたる失態…!申し訳ありませんスクリプトさん!!今すぐ舌を噛んで自害を…!」

 

「ええっ、ダメですよ自害なんて!?そんなこと簡単に言っちゃダメです!」

 

「うっひょ〜!?『有望株』のスペシャルウィークさんん!?まさかお二人にこんな至近距離で出会えるなんてっアッコレムリタエラレナイ…

 

そういうと顔を真っ赤にしたアグネスデジタルは倒れてしまった。

結構な勢いで頭も強打している。

 

『えっこれ大丈夫?いざとなったら僕が治すけど…。』

 

「大丈夫だ。そいつウマ娘のこと好きすぎて興奮するとすぐぶっ倒れるから…」

 

「それは、大丈夫じゃないと思います…」

 

ウイニングライブのことなんてすっかり頭の中から吹き飛んでしまい、3人はアグネスデジタルを車に放り込んでトレセン学園の寮へと向かったのであった。




合計20,000文字弱も書いておきながらアニメ1話Aパート分しか終わっていないウマ娘小説が読めるのはここだけ!
相変わらず口調の再現に自信はありませんので「こうしてみたら?」があれば遠慮なく言ってみてください。検討します。よろしくお願いします。

感想・評価よろしくね。


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第−3箱 編入、邂逅。

こんな短期間で仕上げる必要無かったなと思いながら書いてました。
こっからキャラがどんどん増えるので僕の技量次第ではどうにもならないかもしれません。
もしそうなったらあとは頼みます。


『いやーまさか1人部屋とは、中々気が利いてるね。』

 

「えっ?私は2人部屋みたいですよ?」

 

『僕初日からハブられてるの?流石に凹むけど…。』

 

「いやあ、別にハブったわけじゃあないさ。元々は転入生が1人来るって聞いていたから既に1人部屋の娘の所に入れればいいと思っていたんだけどね、そしたらついさっき「もう1人転入生が来る」ってたづなさん…理事長秘書が言うものだからね。大変心苦しいのだけど暫くは1人部屋さ、ポニーちゃん」

 

「『ポニーちゃん?』」

 

スクリプト(球磨川)たちは現在寮にいる。

2人を送り届けてくれた沖野はというと

「有望株がまたリギルに…」と言いながら去っていった。

そして気絶していたアグネスデジタルはというと、今目の前にいる寮長のウマ娘であるフジキセキによって乱雑にソファに置かれていた。

 

「えっと、デジタルさんは…」

 

「あぁ、()()?まあ気にしないでいいよ。

──慣れたんだ。慣れたらダメなはずなんだけどね…」

 

「スクリプトさん!この人怒ってますぅ!」

 

『しょうがない、原因は僕にもあるし庇ってやるとするか。悪い子じゃ無さそうだし。』

 

──────────

 

『ってことがあってね。どうせ君は見ていたんだろうが一応報告さ。()()()()()()()()()()()()()()1()()()()だし、さっさと姿を見せたらどうだい?』

 

「不思議なこともあるもんだねえ、何の冗談か分からねえが偶然にも運良く寮の部屋は1人部屋で広々していてそれでいて美少女もついてくるとは!ケダモノの球磨川くんなんかと2人で同じ部屋にいるなんて命知らずもいいとこだぜ。襲われても文句は…あっそうか、今はスクリプト(球磨川)ちゃんか。じゃあ平気か、いやあ、失敬。それにしてもほんと、僕以外の女の子には優しいみたいで何よりだ。ちょっと妬いちまうぜ?」

 

『それはどうも。僕は女の子は喜ばせてあげたい派でね。というわけでこの理論に則ると僕自身も今は女の子なわけだし僕の努力に対するご褒美として、安心院さんちょっと体張って裸エプロンで夕食作って欲しいなあ!』

 

「気持ち悪。お前それスペちゃんに言えるわけ?人選んで話すなよ。それともそんなに僕が甲斐甲斐しく君のお世話をするところが見たいの…やべっ誰か来る」

 

『…安心院さんでも言い訳ってするんだ。裸エプロンが見れなかったのは残念だが良いことが知れたぜ。』

 

誰が聞いても言い訳にしか聞こえない理由で武装した安心院なじみは以前見た時より幾分焦った様子ですうっと透明になり消えていった。

球磨川としてはワンチャン裸エプロンの安心院さんが見れたというのに、部屋に近づいて来た誰かのせいで文字通り肩透かしをくらったので多少、いや非常に残念がっていた。

文字の上では淡々と話しているように見えるだろうが、その実ものすごく落ち込んでいたのでベッドの上で体育座りになって蹲ってしまった。

 

次の瞬間、コンコンっと小気味よく部屋のドアがノックされた。いくらスクリプト(球磨川)といえど居留守を決め込んだりはしない。スクリプト(球磨川)は声を出して在室を表した。

 

『は──』

 

「『は』は『はいっていいよ』のは!!!つーわけでおはこんハロチャオ!!あなたの目玉を濫獲或いは密猟!ドアを蹴破ってゴルシちゃんダイナミックエントリー!!!」

 

『この場合はどっちかっつーと『はーい、今開けますね。』の『は』だし、僕はあまりにも突然の襲撃とも呼ぶべき暴挙に内心困惑しているので『は?』が最適解だね。定期テストなら50点って所だぜ。』

 

「だあーっ畜生!!この『立てば金船座れば軍艦走る姿はゴルシちゃん』と呼ばれてトレセン学園で慕われているゴルシちゃん渾身の解答が50点だと!?まだまだ修行が足りねえ!!気づかせてくれてありがとよ、スクリプト!」

 

この奇行種ウマ娘は当然のようにスクリプト(球磨川)の名前を把握していた。自らをゴルシちゃんと名乗る彼女の名前は

ゴールドシップ。トレセン学園随一のハジケリスト、もとい癖ウマ娘である。

 

『こちらこそ、話し相手がいなくて退屈してたんだ。わざわざ僕なんかのことを気に掛けて挨拶しに来てくれてありがとよ。』

 

「んあ、挨拶?いやいや、暗殺…ひいては監察?」

 

『殺された上に僕の部屋はガサ入れされるのかい!?この僕をツッコミ側に持っていくとは中々やるね、マイフレンド。』

 

「マイフレンドなんてもんじゃねえ、ベストフレンドだぜアタシとお前は!!あっそうだ今度の日曜予定空いてたら水星行かねえ?GUND技術盗みに行こうぜ」

 

『おっいいね。僕もちょうど同じこと考えててさ、あの技術ってお金になるだろうから盗めれば一生遊んで暮らせると思うんだよね。』

 

互いに思考回路・発言が支離滅裂で滅茶苦茶なせいで変な所で意気投合。スクリプト(球磨川)もやろうと思えば友達の1人や2人くらい作れるのだ。

 

『冗談は神棚にでもさて置いておいて、とりあえず入りなよ。生憎というか偶然にも僕は1人部屋でね。ゴルシちゃんみたいな賑やかな娘がお話ししに来てくれるんならこれ以上の喜びはねえな。』

 

「物凄く罰当たりなことをしてる奴の発言とは到底思えねえけどそりゃどうも。いやあこの身に宿る欲望を抑えきれず、ついついドアをヤクザキックで蹴破っちまったけど、明日までには直しとくから安心しとけ!こう見えてゴルシちゃんは重機の運転も……」

 

『ああ、これは今僕が直すからいいよ。…はい直った。』

 

「えっ何どうやってやったの怖ぁ…」

 

スクリプト(球磨川)過負荷(マイナス)なので人目なんて気にしない。

それに、このゴルシちゃんとかいうウマ娘は一見軽薄そうに見えて、実際人の秘密を言いふらしたりしないタイプだろうと踏んだからだ。スクリプト(球磨川)の特技は人の値踏みをする事とカラオケの延長料金の踏み倒しである。

後者は犯罪なので過負荷(マイナス)以外はやらないように。

 

 

──────────

 

 

「そんで、お前はその過負荷(マイナス)?とかいう能力を持っていて、私には異常(アブノーマル)とかいう能力の素質がある、と…そう言いたいわけか。話を聞くだけだと異常(アブノーマル)だの過負荷(マイナス)だのっていうのは私たちが言うところの領域(ゾーン)或いは固有スキルみたいなもんだと思うんだよな」

 

領域(ゾーン)?』

 

「発現する条件はよく分かんねえんだけどよ、一説によると一時代を築く力のあるウマ娘が持っていることが多いらしい。あと、これは自慢だがゴルシちゃんも持ってるぜ。ほいっと」

 

『そこは嘘でも自慢じゃないって言うべきだと思うなあ。』

 

ゴルシがそう言って腕に軽く力を込めると、何もなかった場所に突然船の錨が現れた。顕になった。金色に輝くその錨からはある種の神聖さを感じるし、まるで多くの人間からの信仰心を集めた物の塊であるかのような威厳も備わっている。

 

スクリプト(球磨川)が燦々と煌めく錨に目を奪われているのを見てゴルシはふすんと満足げに鼻を鳴らす。

ドアを蹴破っても驚く素振りもなかった奴に一杯食わせることができたため、自尊心も保たれた事であろう。

 

「まあレース以外で使うことはそうそう無えよ。この世界は別にバトル漫画って訳でもないしな」

 

『そうだね。そういえばゴルシちゃんの錨を見てて思い出したんだけど、僕の知り合いに──』

 

次の瞬間、部屋の空気は親友同士のじゃれあいのような空気から一変する。スクリプト(球磨川)この世界のタブーに触れる(ガイドラインに違反)するような行為に及ぼうとした。

 

ああ何、別にアダルトって訳じゃない。

目の前にいるあまりにも眩しいまるで()()()みたいな女の子の顔面に螺子を突き刺して善も悪もというか前も後も台無しにしようとしただけさ。

 

まあ相手は()()ゴールドシップ。

不意なんて突けるはずも無い。

空気を読む事に関しては長けている。

何故って、だってほら、彼女は船乗りだぜ?

風すら読めない船乗りがいるかよ。

 

 

「後ろ手の螺子を仕舞えよスクリプト。」

 

「お前が親友だからって容赦はしねえぞ。」

 

 

『……バレた?』

 

「そりゃああんな不気味な殺気をぶつけられちゃあ誰だって気づくってもんよ!まあPacific Ocean(太平洋)のように寛大な心を持つこのゴルシ様は気にしてもいないし気に留めてもないけどな!螺子って何だ食えんのかそれ!?!?」

 

『喰らわせることはできるかもね。昔の僕なら今頃ゴルシちゃんの顔に穴開けようとしてたんだろうなあ。というか今してた訳だけど。』

 

「おうやれるもんならやってみやがれ。…つっても、アタシ達ウマ娘な訳だし、次から勝負するならレースでだな!てことで、帰るわ。楽しかったぜ…あっこれ連絡先な、そんじゃまたな!」

 

そう言うとゴルシは折角スクリプト(球磨川)が直したドアをわざわざ錨で破壊してからにこっと笑って帰っていった。

ゴールドシップ(黄金の船)と言う名前なのにまるで嵐そのもののようなウマ娘だったなあなんて考えながら、スクリプト(球磨川)は再びドアの修復を行うのだった。

 

 

──────────

 

 

『ってことが昨日あってさあ。ほんと都会って怖いよね、だって初対面だぜ?僕みたいなコミュ障にはトレセンは厳しいかもなあ。』

 

「それはコミュニケーション云々というより防犯面の教訓になりそうな話ですね…扉は鉄製にした方がいい、みたいな感じの…それより怪我とかはないですか?スクリプトさん。ほら、ドアの破片とか刺さっちゃったりとかは?」

 

『それがね、なんとスペちゃん。あのゴルシちゃんとかいう娘は破片を出さずにドアを真っ二つに割っちまったのさ。観音開きのドアみてえに。しかも2回とも寸分違わず同じ形で。』

 

「すごーく無駄な技術を極めてるんですね…そのゴルシさんって人…そうそう聞いてくださいよ、私の同室が何とサイレンススズカさんだったんです!」

 

『何だそれなんつー偶然だよ。これも君が持つ主人公補正のおかげかもね。』

 

「いやー主人公だなんてそんなぁ…えへへ」

 

スクリプト(球磨川)とスペシャルウィークは側から見ると何だかお似合いに見える。寮の部屋も違うのにわざわざ2人で登校しているのを見て、つい先ほど復活したアグネスデジタルは再び眠りについた。フジキセキは死んだ目をしながら脈を確認している。どうやら脈は正常だったらしく、アグネスデジタルを米俵のように担いでさっさと登校していった。

 

『それで、何で憧れ且つ同室のスズカちゃんと登校しないんだい?いやまあ、スペちゃんを起こしたのは僕だったし、肝心のスズカちゃんは影も形もなかった訳だけどさ。』

 

「なんか…朝練してるらしいですよ。さっきフジキセキさんに聞いたらなんとスズカさん昨日は門限を破って夜練していたからとっ捕まえに行ったらしいです。それで「まだ走り足りない」って言うから今日の朝4時から外出の許可を出してるらしくて…「最近寝不足だけど放っておくわけにもいかない」らしいです、フジキセキさん曰く。2人ともストイックですよね!尊敬しちゃいます!」

 

『…そうだね。今度頑張り屋の寮長さんを労わるためにお腹に優しいものでも買ってってあげようか。きっと喜ぶぜ…。』

 

スクリプト(球磨川)といえど、流石に同情した。

フジキセキがあまりに不憫だったからだ。

ここに来て、スクリプト(球磨川)の性質がいい方向に働いた。

自分より可哀想な奴を見かけるとつい甘やかしたくなってしまう癖が出たのだ。これで案外面倒見のいい先輩気質なところがあるので、七草粥やらうどんやら食べやすいものを差し入れる事だろう。

 

 

──────────

 

 

「私、トレセン学園の理事長秘書をしております、

駿川たづなと申します。教室まで案内しますね?」

 

「よろしくお願いします!スペシャルウィークです!」

 

『よろしく、僕は球…スクリプトロンガー。名前だけでも覚えて帰ってね。』

 

「それ決め台詞なんですか?」

 

『そうさ、格好いいだろう?』

 

「スクリプトさん…ふふっ、そうですね!」

 

スペシャルウィークが満面の笑み…というより慈母の微笑と形容するのが正しいであろう表情で笑った。それを見たたづなもクスリと笑っている。

今まで散々嘲笑はされてきたスクリプト(球磨川)であったが、慈しみの心を向けられる事など無かったので、何となくむず痒い気分になった。

 

『…さあ、行こうぜスペちゃん。僕らが編入する教室にさ。』

 

「そうですね、挨拶も考えてきたし準備万端です!」

 

「では行きましょう。私が先行するので着いてきてくださいね」

 

2人はたづなの後ろをついて行く。そこそこ廊下も長く、中々暇な時間である。こういう暇な時間は潰すに限る。

スペシャルウィークは日本一のウマ娘を目指すものにふさわしい挨拶の仕方を頭の中で反芻していた。

一方スクリプト(球磨川)はどんな女の子達が居るのか想像して期待を膨らませていた。だからモテねーんだよ。

 

「さあ、ここがお2人の教室です。それでは私はここで。頑張ってくださいね!」

 

「案内ありがとうございました!」

 

『ありがとね、たづなさん。』

 

教室の前に着くと、たづなは元の仕事に戻っていった。

教室の前に残された2人は、ドアをガラリと開けて、同時に教室内に乗り込んでいく。瞬間、教室内にいた十数人の視線を集める。

スペシャルウィークはすぅっと息を吸い込むと、意を決したかのような表情で完璧な自己紹介を始めた。

 

 

「アッアノッワタシキョウカラコノクラスニハイルスペシャルウィークッテイイマっひゃっグアァァッ…」

 

 

盛大にコケた。

それはもう盛大にコケた。

物理的にもコケたし、精神的にもコケたし、何というか、場の空気もコケた。先ほどまで騒がしかった教室の姿はそこにはもう無い。あるのは静寂に包まれた妙な空気感の立方体の空間である。あまりにも無音すぎるのでもはや部屋であるかどうかすら怪しい。

 

あんなに練習したのにどうしてこんな失敗を、と思っているだろうがこういうのは最初が肝心。後悔してももう遅いし後の祭り。とどのつまり過去形でしかない。

 

初手から大失敗をかましたスペシャルウィークは、いっそこのまま苔生した岩になって一生を終えたいとすら思っていた。あまりに哀れ、ウマ娘であった彼女は既に過去形、自己紹介でコケて苔まみれになったコケ娘である。

 

二本の足で走るという競技の特性上、()()()なんて縁起が悪いにも程がある。なんて不運なのだろう。この哀れな生物は私たちが護らねばなるまい。教室にいたウマ娘たちはそう思った。

 

 

『スペちゃん落ち込む事ないぜ!友達を作るにあたって最も重要なファクターとなる編入初日の挨拶を盛大にミスったからって君の魅力がなくなる訳じゃないさ!だからもっと自分に自信を持って前を向いて生きていこう!』

 

「うぅうぅっぅっっうぐぅぅっぅう!?!?!?」

 

 

教室にいたウマ娘たちはもうどうしようもできなかった。

どう聞いても煽っているようにしか聞こえないこのセリフは、発言した張本人の顔色や心音を聞く限り、善意が殆どを占めていた。つまりは本気でそう思っているという事なので手のつけようがない。スクリプト(球磨川)は教室入室から10秒も経たぬうちに教室の温度を氷点下まで引き下げた。こいつは過負荷(マイナス)の名に恥じないウマ娘である。

 

 

──しかし、当然究極のマイナスが居るのであれば、究極のプラスも居るということに他ならないわけで。

スペシャルウィークにとってもスクリプト(球磨川)にとっても幸運な事に、このクラスには正しく()()()()使()と呼ぶに相応しいウマ娘がいた。

コケてしまったスペシャルウィークに手を差し伸べた、

そのウマ娘の名前は──。

 

 

「私ハルウララっていうんだ!よろしくね!」

 

──高知のアイドルホース──

ハルウララ

 

 

瞬間、教室の空気は冷え切った氷河期のような空気から一転、凍りきった氷河を溶かし、体の芯からぽかぽかと暖まるような、そんな春の日差しのような空気感へと変化した。

皆「よくやった!」と言わんばかりの表情を浮かべ、ガッツポーズをしている。

教室左奥にいる、一見高慢ちきに見えるお嬢様風のウマ娘は「流石はウララさんね!」と言い出さんばかりの自慢げな表情を浮かべ、腕を組んでうんうんと頷いていた。

 

一方、編入生組はというと、スペシャルウィークは余りの優しさ、暖かさに感激して目をうるうると潤わせている。唇も震え、まるで雪山から辛うじて救助された遭難者のようにすら見える。実際生きた心地はしなかっただろう。

 

スクリプト(球磨川)はもう、なんか大泣きしていた。いくら春になって雪溶けしたとはいえ溶けすぎだ。おもろ。ここまで純粋なプラスなんて見たことがなかった…というかこの世界で最大最強のプラスであるハルウララに引っ張られて、マイナスであるスクリプト(球磨川)は浄化されかかっていた。

アグネスデジタルと同じシステムである。

 

「えぇっ、どうして泣いてるの、大丈夫?どこか痛いの?だったらはい!これあげる!飴玉!私がこの前転んじゃってすっごく痛くて泣きそうになっちゃった時ね、キングちゃんが飴玉くれたの!あっ、あと絆創膏も!」

 

「ちょっと、ウララさん!?それは言わない約束…!」

 

「いやー、学園中みんな知ってるんじゃないかなー?キングが実は物凄い世話焼きのお母さんみたいなウマ娘だってことなんてー」

 

「そういえばこの前ウララさんがお話ししていましたね〜。『キングちゃんはすっごく優しくてすっごく可愛い』って。うふふ…よかったですね〜?人気者ですよ?」

 

ohh()…」

「キングが白目剥いて一昔前の少女漫画みたいな作画になってマース!今のうちにスナップショットを1枚…!」

 

「あのっ、収拾つかなくないですかこの状況!?スクリプトさん、なんとか纏めてくださいよぉ!」

 

『こんなに…優しくされたのはっ、初めて…!』

 

「よしよし、辛いことがあったんだね…。商店街のみんながね、『そういう時は思いっきり泣いていいんだよ』って言ってたんだ。だから、いっぱい泣いても、いいよ?」

 

『もうこの世に…悔いは…無い……ウララちゃんは…お母さん………。

 

「滅茶苦茶なこと言ってないで戻って来てください!私1人残して逝かないでくださいぃ!誰か助けてぇぇ!お母ちゃぁん都会の学校怖いよぉ!」

 

 

春の空気とかとっくに通り越して地獄みたいな空気である。収拾もつかないし特に何か発展するわけでも無い。

だが、こういう何の生産性もない時間を含めて初めて、青春とは成立するものであろう。勉学や運動だけでは青春は到底成立しない。

 

──だからと言って、騒いで良いわけではない。

当然、今の時間の他のクラスは授業中だ。

『仲がいいこと』は他人に迷惑をかけることの免罪符にはなり得ない。

 

直後に教室に戻って来たたづなにより、3ーCクラスメイトは全員説教を受けるハメになった。残念でもないし当然である。反省しろ。

 

スクリプト(球磨川)を慰めていただけのハルウララ、『キングヘイローがみんなに好かれている』という話をしていただけのグラスワンダー、そもそも最初の一言以降机に伏して眠っていたフリをしていたセイウンスカイ、その他大勢はお咎めなし。

一方、なんか大泣きしているスクリプト(球磨川)

『東京怖い』と喚き続けるスペシャルウィーク、

『違うの、違うのよ!』と令嬢としての箔が剥がれぬよう大声で弁明し続けるキングヘイロー、

『キングが甘々なことなんて誰でも知ってマース!』と

これまた大声で囃し立てていたエルコンドルパサー。

この4人は主犯格と見做され、反省文を書いて1週間以内にたづなに提出する義務が課された。

 

スクリプト(球磨川)とスペシャルウィークは

『編入初日から大騒ぎして反省文を書いたヤバい奴ら』

として暫くの間不良のレッテルを貼られる羽目になった。

何度でも言うが、残念でもないし当然である。

反省しろ。




こんなに長くするつもりはないんですよ。
本当ならジャンプの新連載宜しく1・2話だけ長くして「大増量何文字!」とかやりたいんですけど、気づいたらいつの間にか予定にないデジたんとゴルシが出て来ててですね。合計5000文字弱、時間にして2時間とちょっと持ってかれてて。
プロットとか書き溜めがいかに重要か実感しました。
面倒臭いので作らないんですけどね。
つらつら書き連ねて、出来上がったら投稿する形式にします。
よろしくお願いします。
例によって例の如く、「このキャラの口調全然違う!」とかあったらご意見ください。検討します。よろしくお願いします。

感想・評価よろしくね。


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第−4箱 正直者が夢を見る世界

タイトルホルダーが頑張っているところを見れたので今年はもう満足しました。イクノイックスおめでとうございます。
それはそれとして今回は6000字の予定が過去最長です。
半分眠りながら書いたので「いやここ日本語おかしくね?」みたいなところは報告してください。意図せず書いたところであれば修正します。よろしくお願いします。


『畜生ッこんな!こんな事が許されて良いはずがないッ!!』

 

転校初日の初授業終了後。

スクリプト(球磨川)は泣いていた。

ハルウララが実は別のクラスだったからだ。

あまりにも悲しんでいるので若干名のクラスメイトが

(もしかして慰めた方が良いのかな…?)

と思い始めていた。ウマ娘は基本的に善性で世話焼きたがりなのですぐに他人を甘やかしたくなってしまうらしい。

 

さて、このトレセン学園で一番やってはいけないこととは一体何だ?答えは「レースで手を抜く事」である。

当たり前だが、スポーツ推薦で入学しているようなものなので走りにおいて手を抜く事など許されない。即刻退学措置が取られるであろう。

 

では、二番目にしてはいけない事は?

それは、特に校則等で禁止されている訳ではないが、元の自分に戻れなくなる危険性すら孕む行為。

 

つまりは──母性を(くすぐ)る行為である。

今現在スクリプト(球磨川)がしているのはそういう行為である。

これが他のトレセンであればウマ娘は『あの娘を慰めたい』程度の感想を抱くだけで済むだろう。

 

ただ、この学園には感想どころか文字通り赤子を抱きにくる生粋の母、生まれつきお母さんである事が決められている概念的な母がいる。だからトレセン学園の敷地、もしくは彼女の耳に入る範囲でぐずるようなことをすれば──。

 

 

「誰かが私を呼んでいますっ!!」

 

 

彼女が、スーパークリークが扉を勢いよく開いて乱入してくるのは目に見える事であろう。

あまりに予想通りすぎてセイウンスカイは机に突っ伏して必死に笑いを堪えていた。

 

 

──────────

 

 

『まさかあそこまで甘やかされるとはね。少しテンション上がってふざけてただけなのに、とんでもない怪物を呼んじまったぜ。』

 

「まさか常におしゃぶりを持っているなんて思いませんでした…」

 

「でもほら!そのお陰でこんな面白い写真が撮れました!転校初日から面白い奴デース!」

 

『一体いつの間に撮ったのかなぁ?あの時心を無にしてたから気づかなかったよ。』

 

「ウマスタに投稿…っと。うわっ通知すごっ」

 

『……僕の輝かしい学園生活が…。』

 

昼休みの時間にスペシャルウィーク、スクリプト(球磨川)、グラスワンダー、エルコンドルパサー、セイウンスカイの5人は食堂で同じ机を囲んで話していた。

エルコンドルパサーはスクリプト(球磨川)がスーパークリークにあやされ、おしゃぶりをしゃぶらされている写真を見せると、スクリプト(球磨川)は苦々しい表情を見せた。さらにその写真をセイウンスカイがウマスタに投稿。

 

これから後輩ができた時、どれだけ格好つけようともスクリプト(球磨川)『白昼堂々赤ちゃんプレイを衆人環視の下行うスクリプト先輩』と呼ばれる事が確定した瞬間でもあった。

 

スクリプト(球磨川)の目から見ても世代最強クラスである彼女らが編入生である自分たちに積極的に絡みにくることは分かりきっていた。本当に強い奴は他人すらも気にかける者である。しかし、まさか編入初日から痴態を写真に取られ、あまつさえインターネットの広大な海に晒されるとは思っていなかった。陽キャ(プラス)ってこんなもんだったっけ。とスクリプト(球磨川)は困惑していた。

 

だから、そう。スクリプト(球磨川)からしても、強者たる3人からしても、触れたくない話題というものは存在するわけで。

例を挙げるとするならばスクリプト(球磨川)の隣に座っているスペシャルウィークの…ご飯の量とか。

全員が全員中々踏み出せずにいた。

『いくら何でも食べ過ぎではないか?』と聞き出せずにいた。北海道の人は皆こうなのか、とさえ思い始めていた。

 

で、あるならばここは当然恥を知らぬスクリプト(球磨川)の出番であろう。話を長引かせるのも酷なので、さっさと本題に入ってさっさと別の話題に切り替えることにした。

昔のスクリプト(球磨川)では考えられない優しさである。

 

『…時にスペちゃん。いつもそれくらい食べているのかい?僕は心配だぜ、君の…体重のことが。』

 

(よしっ、よく行った、よくぞ言ったスクリプト!)

 

(ああも簡単に繊細な話題を振るとは…中々やりますね)

 

(見た目の割に格好つけたがりデスね…でもナイス!)

 

3人はそれぞれ別々の感想を抱いたが共通しているのは感謝の念。心臓が強い奴がいて助かったという思いだった。遠回しに聞くよりも直接聞いた方が茶化して誤魔化しやすい。成程策士である。

 

「いえいつもはもっと…ほら、上京したてでちょっと気分が舞い上がっちゃって!だから、体重の心配は大丈夫です!」

 

『そうかい、それなら良かった。まさかいつもこんなに食べているのかと』

「ただ、この量だと午後が心配ですね…」

 

瞬間、空間が凍りつく。

てっきり上京で舞い上がって食べすぎているのかと思ったら、まさか、真逆であったとは。

スクリプト(球磨川)は当然助けを求める。

 

『……グラスちゃん。』

 

「…これも、彼女らしさということで」

 

『セイちゃん。』

 

「うーん、セイちゃんは黙秘権を行使するよ」

 

『エルちゃん…。』

 

「この調子で食べ続けてたらすぐに太」

 

「エルっそれは言っては…!」

 

女子にとっての禁句を口走りそうになったエルコンドルパサーをグラスワンダーが諫める、というか抑える。主に口を。ウマ娘が咄嗟にそんな行動に出れば当然息が詰まる。

 

「ムグゥッウゥウウゥッ!!!プハーッ!ウマ娘が本気で口を塞ぐとか、殺す気デスか!?」

 

「ごめんなさい、そういうつもりでは…」

 

「えーっと…、仲がいいんですね?」

 

『おいおいマジかよ…。君にはこれがそういう風に見えるのかい?』

 

「はい」

 

『そっか…。』

 

4人の中で、『スペシャルウィークは基本ど天然である』という認識が固まった瞬間であった。

以降この認識が改められる事は無かった。

 

 

──────────

 

 

「……それで気づいたらお母さんが願書だしてくれてて」

 

「いいお母様ですね〜」

 

スペシャルウィークは自らがなぜこの時期に編入してきたのかを話した。幼い頃からレースが好きだった彼女のために、母親が願書を提出してくれたという。

そんな母をグラスワンダーに褒められ、スペシャルウィークは嬉しそうにはにかんだ。

本来ならここでこの話は打ち切りになる筈だが、生憎この場にはもう1人編入生がいる。であれば、当然スクリプト(球磨川)にも話を振ってくることは予測できる。

 

「ちなみにスクリプトさんはどうしてこの時期に編入を?」

 

『運命かな。文字通りに。』

 

「文字通りって…えっ『命』を『運』ばれて来たって事ですか!?無理矢理編入させられた風に聞こえますよ!?」

 

「なんでそんな一瞬でスクリプトの言う事理解してるんデスか…」

 

「さっきまで天然ちゃんだったのにね〜」

 

スペシャルウィークからしてみればパーフェクトコミュニケーションなど容易いものだ。もっとも、意識して行なっている訳ではなく主人公補正によるものだが。

スクリプト(球磨川)からすれば、自分が投げたボールが完璧な形で帰ってくるので実際スペシャルウィークのことは気に入っている事だろう。

 

負完全(マイナス)はすぐ惚れる。

つまり人懐っこい。覚えておいて損はねえぜ。

 

「ところでチームはどこにするつもり?」

 

「私はサイレンススズカさんと同じところにします!!」

 

『僕も僕も。1人じゃ心細いからね。』

 

「あー……成程。それは、厳しいかもね〜…」

 

セイウンスカイは2人の希望を聞いて苦笑した。

2人からすれば理由がよくわからない。

グラスワンダーが薄く微笑んでいる理由も。

エルコンドルパサーが闘志を燃やしている理由も。

 

「えーっと、それはどういう?」

 

「行けば分かるよ。放課後に連れて行ってあげる」

 

『親切にどうも。今度マックでも奢らせてよ。』

 

「……言質取ったからね」

 

数日後、スクリプト(球磨川)はウマ娘に食事を奢るとはどう言う事なのか、思い知ることになる。肝も懐も冷えることだろう。

 

──────────

 

時は移って放課後。

場所はトレセン学園グラウンド。

サイレンススズカも所属している学園最強のチームリギルの選抜レースが行われる場所である。

その最強のチームに入るために集まったウマ娘総勢40名弱。

全員その目に闘志を宿し、他者を威嚇している。

 

だから、普遍的(ノーマル)なのだ。

 

『みんな余裕ないね。それだけ必死ってことかな?負ける時は負けるってのに気負いすぎだぜ。』

 

「でも気持ちは分かります。私だって、出来ることならリギルに入りたいですもん。気負うのも当然ですよ」

 

「そう言う割にはスペちゃん落ち着いてます!随分自信があるんデスね?」

 

『そういう君こそ随分自信があるみたいだね。羨ましいぜほんとに。実力に裏付けられた自信ってのはよ。ていうかウララちゃんもテスト受けるのかい?』

 

「うん、何だか今日は受かりそうな気がするんだ!よーし、みんな!がんばろーね!ウララも負けないよー!えい、えい!」

 

「「「おー!」」」 『おー。』

 

スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、ハルウララ、スクリプト(球磨川)はお互いに気合を入れる。気合十分の4人が受付に名前を書きに行くと、そこにはグラスワンダーが佇んでいた。

 

「こちらにお名前を記入して下さいね」

 

「グラスはもうチームリギルの一員なのデース!びっくりしました?」

 

『そりゃあもうぶったまげたぜ。まさか学園最強に名を連ねている奴がクラスメイトだなんて、鼻が高い…が、同時にこの学校のレベルの高さも思い知ったかな。』

 

「あの……隣で見ている人たちって……まさか…?」

 

「そうですよ〜。リギルの先輩方ですね〜」

 

『はっは。──世界ってのはとことん理不尽だぜ。』

 

スペシャルウィークもスクリプト(球磨川)も引き攣った笑いを浮かべるしか無かった。何故ならその場にいたのは全員が全員各時代の主人公クラスのウマ娘。

折角だし左から順に紹介しよう。

 

 

「今年は面白いポニーちゃんが多いね」

 

──幻の三冠馬──

フジキセキ

 

 

「誰が合格するのか…楽しみね」

 

──スーパーカー──

マルゼンスキー

 

 

「皆気合が入ってて良いデスね!」

 

──世界のマイル王──

タイキシャトル

 

 

「フフッ…今宵輝く原石は…誰かな?」

 

──世紀末覇王──

テイエムオペラオー

 

 

「これも後進育成の一環、か…」

 

──女帝──

エアグルーヴ

 

 

「……甘いな、未だ」

 

──シャドーロールの怪物──

ナリタブライアン

 

 

「タイマンできそうな奴は…っと」

 

──女傑──

ヒシアマゾン

 

 

「さて、見定めようか」

 

──皇帝──

シンボリルドルフ

 

 

 

……こんな面子が揃っていれば誰だって呆ける。

なんてったってそれぞれが主人公。時代を築いたトップオブトップの中でも一際名高い怪物たちである。

それが8人集まっているとなれば、ウマ娘からしてみれば今自分がいる所が夢か現実かなんて判断できないだろう。

 

ただし、それは()()()()()()()()()()()

スクリプト(球磨川)に関しては目を奪われた。目を疑ったのだ。

理由としては至極簡単、何故ここに黒神めだかのような超人然とした生物がいるのだろうか、という疑問が何よりも先に浮かんだからだ。

スクリプト(球磨川)の生涯のライバル兼妹分によく似ているウマ娘が存在する、と言う事実はスクリプト(球磨川)の精神を揺さぶり、感情を引き出すには十分すぎた。

 

『……どうやら、話を聞かなきゃいけねぇみたいだ。』

 

「あっ、ほんとですね。皆整列してますし」

 

『あー、まぁ…そっちもそうだね。今はレースに集中しようか、スペちゃん。』

 

「はいっ!…スズカさん、いないのかなぁ?」

 

話は噛み合わずに流れてしまった…いや、むしろこれ以上ないくらいに噛み合ってはいた。意図したものとは別だが会話は成立していた。スクリプト(球磨川)は何だか調子が下がった……ような気がした。

 

 

──────────

 

 

「次!」

 

「まずはオープン戦で勝ちたいです!」

 

「…次」

 

「リギルメンバーとして活躍したいです!」

 

リギルの選抜レースを受けに来たウマ娘達はチームリギルのトレーナーである東条ハナの前に整列していた。

現在は各ウマ娘に1人ずつ目標を聞く時間である。

堅実にステップアップしていく事を目標とする者、漠然と理想の自分を語る者。様々なウマ娘がいるが、大半は普遍的(ノーマル)な目標を掲げるだけで、トップクラスのものから見ればひどくつまらない時間である。

そして、スペシャルウィークの順番が回って来た。

 

「次」

 

「………」

 

「次!!」

 

「………………」

 

なんとこのウマ娘、言うに事欠いて、というか言葉欠いて学園最強チームのトレーナーに堂々シカトをかました。仕方がないので東条ハナは敢えて大きな声で名前を呼び、集中しきれずそわそわしている上京者の田舎娘の意識を向けさせることにした。

 

「次!!スペシャルウィーク!!」

 

「うわっ、あっ!はいっ!!」

 

「何か目標はあるか?」

 

「えっ、えっと……あっ!私、日本一のウマ娘になりたいです!私、お母ちゃんから日本一のウマ娘を目指しなさいって言われて、この学校に通うことを決めたんです!」

 

スペシャルウィークがそう語った途端、周りのウマ娘はクスクスと笑い始めた。今までウマ娘の友達が1人もいなかった、日本一がどれほどの価値なのかもはっきりとわからない純粋無垢な田舎者を嘲笑い始めた。笑っていないのはハルウララ、エルコンドルパサー、実は参加していたキングヘイロー、そしてスペシャルウィークのすぐ後ろに並んでいた黒髪黒目の童顔ウマ娘、スクリプトロンガー(球磨川禊)くらいのものだった。

 

さて、僕たちの物語(めだかボックス)を読んでいた奴なら分かると思うが、球磨川禊は友達にはとことん甘い。なんだかんだで彼は彼なりに友達を大事にしているらしい。と、いうことはだ。これから何を仕出かすかくらい、わざわざ説明せずとも分かるだろう。

 

『おハナさん、そろそろ僕の目標を言っても構わないかな?』

 

「そうだな。次、スクリプトロンガー。何か目標は?」

 

『皐月賞、東京優駿、宝塚記念、菊花賞、ジャパンカップ、有馬記念、大阪杯、天皇賞(春)、宝塚記念、天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念を制しての十三冠ウマ娘。』

 

スクリプト(球磨川)の夢物語を聞いた瞬間、周りのウマ娘達は世間知らずが過ぎる編入生をバカにし始めた。やれ本気でそんなこと言っているのなら頭を診てもらったほうがいいだの、やれお前のような気が触れた奴はリギルには相応しくないだの。まあ内容の方はどうだって良い。

 

肝心なのは「夢をバカにした」という事実だけだ。

スクリプト(球磨川)がこの世で嫌いなものは大凡6つ。

1つはこの世の全てを知った気になって絶望している奴。

1つは全ての人間が元々は善人だと本気で信じている奴。

1つは凡人(ノーマル)のくせに必死に超人(アブノーマル)に追いつこうとする奴。

1つは自分が犠牲になれば全員救われると考えている奴。

1つは自分が人間の最低の最底辺だと信じ切っている奴。

 

 

1つは、人の夢を聞いて笑う奴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人の夢を笑うな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうスクリプト(球磨川)が呟くと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()巨大な螺子で顔を貫かれ、絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大嘘憑き(オールフィクション)。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

「「「………えっ?」」」

 

『どうしたんだい皆して呆けちゃって。今は所信表明中だろう?ダメじゃないか、ぼーっとしちゃ。』

 

「……スクリプトロンガー、貴様……!」

 

『おっと、そりゃそうだよな。レース開始前から()()を使って精神を磨耗させるなんて、到底スポーツマンシップに則ってるとは言えない行為をしちまったからには、この選抜レースは辞退させてもらうぜ。あーあ、折角同じ年に走るライバル達の心を折って負担を少なくしようとしたのに失敗しちまったぜ。』

 

『また勝てなかった。』

 

『じゃあ、僕は帰ることにするよ。ついでに学園も辞めちまうか。どうやらここには他人の夢に勝手に値をつける鑑定人気取りの平凡(ノーマル)しかいないらしい。精々頑張りなよ。その調子ならきっと……そうだな、8月くらいには一勝できるんじゃない?僕のことは忘れて内輪でワイワイ楽しく走ってればいいさ。じゃあな、二度と会わないであろう背景(モブ共)。あーあ、日本最高峰っつったって所詮この程度か。残念だぜ全く。』

 

そう言うと、スクリプト(球磨川)は東条ハナに背を向け、去って行ってしまった。顔を貫かれたウマ娘の中には恐怖のあまり泣き出してしまう者や倒れてしまう者が出た為、選抜レースは2時間ほど遅らせて開催される旨が通達された。チームリギルは予定もパンパンに詰まっていて後にずらすことが難しい為、理事長秘書監視のもとであれば、と言う条件付きでレースの開催が許されたのだった。

 

(スクリプトさん…私の為に…)

 

スペシャルウィークはスクリプト(球磨川)に恐怖も感じていたが、それ以上に感謝の念が僅かに強かった。何故ならどう考えても怒っていたのは彼女を笑った者にではなく、自分を笑っていた者に対してだったからだ。

そして、感謝の気持ちを抱く一方、自分のせいでスクリプト(球磨川)は退学になるだろうと考え、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

(スクリプト…中々やり手デスね…)

 

エルコンドルパサーは先程スクリプト(球磨川)が見せた『領域』のような何かを見て慄いた。35人の顔の中心に寸分違わず螺子を突き刺すその技量と、螺子を刺すまでのモーションの速さは、明らかに自分の動きを上回っていた。あのままレースが始まっていたら、自分が負けていたかもしれない、そう考え始めていた。

 

(スクリプトちゃん…大丈夫かな?)

 

ハルウララは自己肯定感が異様に低いスクリプト(球磨川)の事を心配していた。ハルウララは呑気ではあるがバカではない。故にスクリプト(球磨川)の精神性なんて既に看破している。本当は強く勝ちたいと願っている。しかし友人をバカにされて黙っているわけにもいかない。そうして実力行使に出た不器用な友人の事を、心配していたというわけだ。

 

(本当に…惜しい。夢を笑いさえしなければ…)

 

東条ハナはこの時期から『領域』をコントロールできるウマ娘をみすみす逃してしまった事を悔いていた。個人で出走するレースはともかく、団体戦形式のルールにおいてスクリプト(球磨川)の『領域』は切り札となり得ると考えたからだ。それ程の人材を逃した挙句、トレセン学園という組織に対しての信用も無くさせてしまった。自らがトレーナーとして未だ未熟であると再確認した瞬間であった。

 

──その後、2時間遅れで始まったレースは概ね元通りの展開で進み、エルコンドルパサーがチームリギルに所属する運びとなり、スペシャルウィークはサイレンススズカと同じチームに入る、と言う夢を諦めるに至った。

スクリプトが散々お膳立てしてくれたというのに、日本一に至るための一歩を、踏み外してしまったと思い、意気消沈するのだった。

 

 

──────────

 

 

登校の時とは打って変わってスペシャルウィークは1人で寂しくトボトボ歩いて下校しようとしていた。そして、ただでさえ遅かった動きが完全に止まる。理由としては、ウマ娘がダートに頭から埋まっている写真に目を引かれたから、ではない。目の前に、先ほどの混乱を引き起こした張本人のスクリプト(球磨川)が現れたからだ。

 

『やぁ、スペちゃん。その様子だと…ダメだったようだね。エルちゃんは強かったかい?』

 

「スクリプトさん…はい、強かったです、とても。キングさんを頑張って追い抜いて、私が1着だと思ったら…私よりよっぽど先にゴールしてたんです、エルさんが。とても……強かった。到底追いつけなんてしなかった。エルさんだってスクリプトさんのあの能力を目の当たりにして動揺していたはずなのに、それでも届かなかったんです。ものすごく悔しいですよ、今でも」

 

『そうだろうね。彼女はとても強いみたいだし。それに…恐らく本気なんて出してない。出すまでもない。レース本番まで手札は伏せたままで来るだろうね。』

 

「…スクリプトさん。本当に学園…辞めちゃうんですか。他の人を傷つけるような事をしたから…私が…私のせいで、その決断をさせてしまったからですか?」

 

『そんなことはないさ。他のウマ娘を攻撃したのは自分の意思だし、それに幻滅したからね、実際。もっと自由で真剣に学べるのかと思っていたら内実はその辺の女子校と大差なかったってオチさ。だから結局自分自身の意思で他人の心を折っただけだよ。スペちゃんが気に負うことは何もないさ。』

 

「でもっ!私が、日本一のウマ娘になるなんて言い出さなければ…!『スペちゃん。』っ…はい、なんですか、スクリプトさん…」

 

『夢を諦める理由に他人を使うな。』

 

『今言ったのはとある漫画からの流用だが…僕が思うに夢っていうのは、自分で見るから夢なんだ。他人が望んだ夢なんて所詮他人の夢でしかなくて自分の夢にはなり得ない。お母さんに言われて日本一目指してるとは言っていたけれど、実際どうなんだい、君の心は。』

 

「それは……」

 

『自分自身の事を何も分かってねえ内に、自分の可能性に見切りつけて限界決めてんじゃねえよ。もう分かっているんだろう?本当の、自分のための夢が。自分の心を嘘で固めるなよ。正直に、正喰に言ってごらん?本当の君は…。』

 

『もっと、貪欲だろ。』

 

スクリプト(球磨川)の辛辣な言葉はスペシャルウィークの本心を引き出す。スペシャルウィークの気持ちなんて気にせず、自分勝手に外面を引っ剥がす。

 

 

だから、スペシャルウィークはもう自分の気持ちを抑えることなんて、出来なかった。

 

 

 

 

「私は…私は…!ずっと昔から、子供の頃から、『日本一のウマ娘』になりたかった!走るのが大好きで、気づけば北海道の広大な草原で動物達と走っていて!それが楽しくて楽しくて、『あぁ、自分は走る為に生まれてきたんだ』ってずっと思っていた!!一人もウマ娘の友達なんていなくて、ずっと一人ぼっちで走っていただけだったけれど!『日本一のウマ娘』なんて遥か彼方の空の上に浮かんでいる数多の星の中でも一際輝きの強い物で、掴むことなんて到底出来ない物だって解ってはいるけれど!!それでも目指さずにはいられない!!私にはそこしか目指せない!!目指したくない!!私はそれだけを思って今まで生きてきたのに、それを笑われて、バカにされて、悔しくてたまらない!!だけど笑われっぱなしじゃ終われない!終わらない!そんなつもりは毛頭ない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、私は!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらに勝ちたい!!!」

 

「愚か者でも!」

「世間知らずでも!!」

「走り方なんて学んだことがなくても!!!」

 

 

 

「主役を張れるって証明したい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……言えたじゃねえか。自分自身でその気持ちに蓋をしちゃあ、真の実力なんて出せやしない。この日を境に君は生まれ変わるぜ。』

 

「はぁっ、はあっ…生まれ、変わるって…何だか……はぁっ、嘘、くさいですよ……」

 

『いいや、普段僕は大嘘吐きだが、これだけは保証しよう。昔生徒会の副会長をやっていた時、後輩の庶務の奴が『自分の気持ちが分かんねえ』って言ってずっとウジウジ悩んでたんだ。で、そいつが蓋をしてた気持ちが恋心だったってわかった瞬間、人が変わったように強くなってね。あれはマジに驚いたぜ。』

 

「ふふっ……私は、そんなに強くないですけど…それでも、変われると思いますか?」

 

『あぁ。僕がついてる。僕だけじゃない。グラスちゃんがついてる。エルちゃんがついてる。キングちゃんがついてる。ウララちゃんがついてる。デジタルちゃんがついてる。フジキセキちゃんがついてる。たづなさんがついてる。沖野ちゃんがついてる。今名前を挙げただけでも9人。君の夢を笑わずに応援してくれる人はこの学園にそれだけいる。そして学園の外に目を向ければ、君のお母さんがついてる。だからさ、自分のために、自分の夢のために、自分の夢を応援してくれる人のために、頑張ってみようぜ。君が頑張るなら、僕も頑張るからさ。』

 

「そんなこと言われたら……頑張るしかないじゃないですかぁ…」

 

スクリプト(球磨川)は膝に手をつき、息を整えているスペシャルウィークの手を取り、そう言った。

スペシャルウィークは本当の自分をぶちまけた恥ずかしさと、自分を励ましてくれたスクリプト(球磨川)に対する得体の知れない感情のせいで、涙が溢れた。

 

『さ、それじゃあ寮に帰ろうか。チーム探しはまた明日から始めれば良いさ。』

 

「そうですね…急いては事を仕損じる、とも言いますし!」

 

今日1日で絆をさらに深めたスクリプト(球磨川)とスペシャルウィークは2人で談笑しながら、帰路に

「つかせる訳ねーだろボケ!!青春感満載で締めようったってそうはいかねえ!!スカーレット!ウオッカ!やっておしまい!!」

 

2人の目の前に突然3人組の怪しいウマ娘が現れる。しかも麻袋を持っていて、サングラスにマスクで顔を覆っている。誰がどの角度からどう見ても犯罪者集団だ。

 

「あの…名前言ったら変装の意味ない……うぐっ…」

 

『えっ学園内で拉致は流石に……むぐぅ…」

 

「行くぞ!えっほ!えっほ!」

 

「「えっほ!えっほ!」」

 

2人はまるで神輿にでも担がれている、というか神輿そのものになった気分を味わっていた。案外痛いということを学べただろう。

 

「スクリプトさん!気持ちじゃどうにもならないですぅ!」

 

『諦めよっか。』

 

「投げやりにならないでくださあぁぁーーぃ……

 

 

──────────

 

 

「そんで?言い訳があるなら聞くぜ。マイベストフレンド。とりあえず、まぁ…カツ丼でも食って、落ち着けや」

 

『この場合言い訳を聞くのって僕じゃないかな。加害者と被害者を逆転させる能力でも持ってるのかい?』

 

「うん」

 

『持ってるなら仕方ないなあ!』

 

察しているだろうが目の前にいるハジケリストはゴールドシップである。場所はチームスピカの部室。

そこにはゴルシの他にも2人のウマ娘と1人の痴漢がいた。

 

「それで、痴漢の人はどうして私たちをここに?」

 

「「「痴漢の人ォ!?」」」

 

「いやいや、違う違う違う!勘違い!トレーナーって言ってくれよ…」

 

「……トレーナー、さん…。えっほんとなんですか?嘘とかじゃなくて?」

 

「昨日寮まで送っただろうが」

 

「あっ…そういえばそうでしたね」

 

「とりあえず、挨拶しろー」

 

「「「ようこそー、チームスピカへ!」」」

 

「よろしく…お願いします…?」

 

スペシャルウィークは例の看板を見ていないので特に不審がることはなかった。代わりにスクリプト(球磨川)はあのやばい看板のところか、と既に勘づいていた。無駄に勘だけは良いなこいつ。虫みてえ。

 

「今日からお前らはこのチームのメンバーだ」

 

「勝手に決めないでくれません?」

 

「勝手に決めるしお前は俺が隅から隅まで磨く!」

 

『沖野ちゃん、紛らわしいぜ言い方。あの動画SNSにあげても良いの?』

 

「あの動画って…えっお前触診の動画撮ってたのかよ!?やめてくれ頼む後生だ!」

 

5人は沖野のことを冷ややかな目で見ながら話を続ける。

 

「なあなあトレーナー。でもこの人たちって2着と競争除外だろ?何で今更…」

 

「スペシャルウィークは上がり3ハロン33.8。走った後の息の入りも早い。十分通用する。それにスクリプトロンガーは既に『領域』の発現を確認できた。それも広範囲で精密性が高く、完全にコントロール下に置いている。走りが見れなかったのは痛いが……まあ先行投資だよ」

 

『そりゃどうも。高く買ってくれてるみてえで何よりだぜ。』

 

「お前昨日私が『突撃!隣が晩御飯』した時は螺子2本しか出せないって言ってなかったか?」

 

『あまりにゴルシちゃんが不審者ムーブすぎたから伏せておこうと思ってね。』

 

「そりゃ完全にゴルシちゃんが悪いな……ぐぅ」

 

『ぐぅの音が出る余地はあるんだ。中々しぶといね。』

 

「ねぇウオッカ。なんかあの2人仲良くない?」

 

「ああ、とても昨日出会ったとは思えねー…」

 

お互いに打てば響くので打ちたい放題である。

ゴルシとしては久々に新しい同種を見つけて大変嬉しいだろう。とても良い笑顔である。

 

「そういえば、スペ。お前はサイレンススズカと一緒のチームがいいんだよな?」

 

「えぇ、まぁ…はい。憧れの人なので…。」

 

「左側見てみ。窓の近く」

 

沖野が指し示した窓の近く。

西陽がさすその場所にいたのは、スペシャルウィークの憧れであるサイレンススズカその人であった。

 

「えっ…?あっぇ、スズカさん?うぁぇっ!?どっどどどどどうしてここに!?」

 

「スズカは今日付で、リギルからウチに移籍したんだよな!」

 

「えぇ…まぁ…」

 

「うえぇぇぇ!?どうしてですか!?」

 

「あのチームはスズカさんの走りが分かってないのよ」

 

スペシャルウィークから湧き出た当然の疑問に回答したのはスズカ本人ではなくゴルシとダイワスカーレットだった。2人とも、スズカに関してはそれなりの知識を有しているように見受けられる。

 

「お前、日本一のウマ娘になるのが目標だと言っていたな」

 

「はい。言いました。決めました。将来の目標も、私の夢も…そこに至るための覚悟も」

 

『ひゅー、言うねえ。』

 

「言わせたのはスクリプトさんでしょう?何を今更〜」

 

「なあスカーレット、あの2人距離近くねえ?」

 

「そう?ウマ娘同士ならあんなもんじゃない?」

 

「それもそうか」

 

沖野は多少面食らった。

ついさっきまでのスペシャルウィークと今相対しているスペシャルウィークでは秘めている想いが違った。明らかに先ほどより毛艶がいい。光沢さえある。これは調子が絶好調の時の証である。

 

「一応聞くが…日本一のウマ娘ってなんだ?」

 

「見ている人に夢を与えられる、そんなウマ娘です」

 

「……パーフェクトだ。さっきまでとは違って芯ができたな。スペ」

 

「まぁ…半分はスクリプトさんのおかげですけど」

 

「それでも良い。人間でもウマ娘でも、1人で生きていけないことは変わらない。お前が本音をぶつけられる友人を編入早々に見つけられたことはこの上ない幸運だ。スペシャルウィーク。それとスクリプト。お前も、自分のことを信頼してくれる奴を大切にしろよ。お前はお前でスペに助けられてるはずだからな」

 

『そりゃあ勿論。僕は一回内側に入れた物は手放さない主義でね。断捨離ができねえのさ。』

 

「はっは!見てれば分かるさ!お前が強欲なことくらい!」

 

沖野は以前会った時のダメな大人振りは一切出さず、頼れる大人の風格を醸し出していた。本当に同じ人間か怪しいなこいつ。3人くらいいるんじゃねーの?

 

「……本当に、笑わないんですね。『日本一のウマ娘』…」

 

「おう、誰が笑うかよ。他人の夢を笑うような奴の夢なんて一生叶わないからな。それに、俺好きなんだよ。それは叶えられないだろっていうとんでもなくでかい夢を叶えちまうような、そんなご都合主義満載の物語がさ」

 

「…なら、決めました!私!ここで目指すことにします!!『日本一のウマ娘』!」

 

「「「「おおっ!!」」」」

 

「スペがスピカに入部したってことは…自動的に!?」

 

『当然、僕も入らせてもらう。約束しちまったしな。スペちゃんと一緒に頑張るってよ。』

 

「よっしゃあ!スズカに加えて『有望株』を2人ともゲットしちまうなんて!こりゃあスピカの時代が来るぞ…!」

 

『だけど、良いのかい?僕は『領域』を用いた暴行事件を起こしていて、理事長秘書さんから退学届を貰ったんだけど?』

 

「ああ、それなら心配ご無用。()()()()()()()()()()()()()()。たづなさんが俺に伝えに来たよ」

 

「というかアタシ達みんなスクリプトさんのこと怖がってなんかいませんよ!」

 

「そうそう、だって白昼堂々赤ちゃんプレイを衆人環視の下行うスクリプト先輩ですもん!そんな怖い人じゃねーって俺も知ってます!」

 

『あれどこまで広がってんの?』

 

「ウマッター見せてやるよ。このインフルエンサーゴルシちゃんの手にかかれば世界トレンド1位なんてお茶の子さいさい、ヘソで茶沸かすより簡単だぜ。やっぱ朝飯前はお茶を飲むに限る…ほい。アホみたいにバズってるぜ」

 

『……マジかぁ…。』

 

ゴルシが見せたスマホには

『世界のトレンド1位:スクリプトロンガー』の文字があった。トップに表示された動画は32万いいね。国内外問わず閲覧されているらしく、スクロールすればコラージュ動画の数々が。

これで第−1箱の伏線を回収したことになる。ただし、実際動画にされたのは悪平等(ノットイコール)ではなく過負荷(マイナス)だったが。

 

『はぁ…しょうがない、これも運命だと思って大人しく運ばれるとするさ。あーあ、しょうがない!僕も日本一を目指すとしよう。そして、日本最強を決める舞台で、僕と一緒に踊ろうぜ。スペシャルウィーク。』

 

「スクリプトさん…二言は無しですよ?」

 

『僕は嘘は吐くが二言は吐かない。だって、ほら。言葉に込めた意思が儚く散ってしまうからね。そっちこそ、また泣きついてこないように気をつけなよ?』

 

「ちょっと!恥ずかしいんだから思い出させないでください!」

 

「なあ、スカーレット…スクリプトさんの口調…カッコよくねえか!?俺も真似しようかな…」

 

「えっウオッカあんた正気?スキットルに麦茶と間違えてウィスキー入れて来てないわよね?」

 

「まず買えねえし酔ってもいねえよ」

 

スクリプト(球磨川)とスペシャルウィークが無自覚にいちゃついている間に、いつの間にかスクリプト(球磨川)ファン1号が生まれそうになっていたことはスカーレットしか知らない。

 

「よし!じゃあスペシャルウィーク。登録しておくから来週は頑張れ」

 

「えっ?来週何かあるんですか?」

 

「えっと…トレーナーさん…もしかして……」

 

「スズカ!しーっ!それは来週になってからのお楽しみだからな。楽しみにしとけよ?」

 

「スクリプトさん、サプライズですって!何だろう、新入生歓迎会かなぁ?それとも新入生歓迎会かなぁ!?それとも新入生歓迎会かなぁ!?」

 

『落ち着こうスペちゃん。頑張って3択に絞ったみてえだが全部同じ選択肢はクイズとして成立してねえぜ。…まぁ、ある意味歓迎会ではあるかもね…。』

 

「やったーーーーっ!!!いっぱい食べます!!」

 

「親友、お前……」

 

『こんな喜んでる女の子に……僕は真実を伝えられない。笑えよ、ちっぽけなこの僕の弱さを…。』

 

「あー、スペ?」

 

「はいなんですか!?」

 

流石にイタズラがすぎると考えたのか沖野も本当のことを言うことを決めたらしい。いつになく真剣な顔をしている。これから生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。そりゃあ真剣にもなる。

 

「新入生歓迎会ではしゃいでるところ悪いんだが……来週はお前のデビュー戦だ」

 

「えっ?」

 

 

──────────

 

 

「えっ?」

 

時は進んで1週間後。

新入生歓迎会ではないと聞いて茫然自失の状態に陥ったスペシャルウィークが目を覚ました時にはそこは……。

 

「ぶっ潰す!!」

 

「えっ!?」

 

阪神レース場の芝を踏んでいるのだった。

 

「ファイトー!お前ならやれるぞー!スペー!」

 

「スピカ魂見せてこーい!」

 

「集中ですよー!」

 

「かっこいいとこ見せてくださーい!」

 

「あー、その…頑張ってー…」

 

『流石に可哀想じゃない?日本一を目指すとはいえ…。』

 

「スクリプトさん…私もそう思います…」

 

『スズカちゃん…寮長さんから話を聞く限りではヤバい奴なのに、案外普通の感性持ち合わせてるんだね。』

 

「走りになるとどうしても抑えられなくって…時間も忘れて走っちゃって…」

 

スクリプト(球磨川)は気づいた。気づいてしまった。

 

──チームスピカにはヤバい奴しかいないということに。




ようやくアニメ1話終わりました。
ここまで書くのに60時間くらい使ってます。
やっぱ小説書いてる人たちってやばいと再認識しました。
例に漏れず「話し方こっちの方が良くね?」などあれば提案してください。検討します。よろしくお願いします。

感想・評価よろしくね。


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第−5箱 皇帝と愚人のダンス

どうやらランキングに入っていたらしいです。恐れ多い…。
できればクオリティは維持したいですね、倒れない程度に。
それと今回人によってはアンチ・ヘイトやガールズラブのように感じる部分がありますがそのような意図はないし、今後もそんな展開にはしません。あしからず。
もし表現について何か思うところがあれば提案してください。検討します。よろしくお願いします。



阪神レース場の芝の上で、スペシャルウィークは困惑していた。未だレース経験ゼロどころか、他のウマ娘とまともに競い合ったこともない。思い返せば1週間前。あの時トレーナーの提案を飲まなければよかった、と思ったがもう遅い。怪我でもしないと出走を取り止めることはできない。ああ、どうしてこんなことに……。

 

ってわけでここからは回想シーンだ。

一々メタフィクション的な言い回しになって申し訳ねえが、生憎僕はこういう言い回ししかできないもんでね。いっそのこと第四の壁でも飛び越えてそっちに会いに行くことが出来れば話のくくりとしてはノンフィクションになるんだろうが…まあいいさ。それに、『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』は球磨川くんの物だしね。横取りするわけには行かねえからさ。

 

 

──────────

 

 

「1週間みっちりトレーニングすれば、デビュー戦くらい何とかなるだろ…っぐぁっ!?」

 

デビュー戦1週間前の事。

驚愕しているスペシャルウィークに向けて、沖野はとんでもなくアスリートを舐めているようにしか聞こえない発言をした。当然、そんな無茶苦茶なことを実行しようとすればストップが入る。実際、他のウマ娘達の蹴りがもろに入ったのは鮮明に脳裏に浮かぶことだろう。

 

「何とかなるって適当すぎんだろ!」

 

「ちょっとは真面目にやんなさいよ!」

 

ウオッカとスカーレットは流石に怒って沖野を足蹴にし始めた。ウマ娘の脚力はバカにならないというのに、当の沖野は何だか嬉しそうである。見上げた耐久力である。まあ、実際、スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)は沖野を見下ろしているわけだが。

 

『沖野ちゃん。可愛い女の子に足蹴にされて嬉しいってのは十分わかるんだけどさ、ほら、僕も足蹴にはされてみたいし。ただ…一応ここにいるのは君以外は花の女学生なわけだし、自分の趣味をひけらかすのはやめた方がいいんじゃない?区分としては沖野ちゃんはこの学園の教員扱いだろう?』

 

「ああいや、蹴られて嬉しいんじゃなくてな、こう、年齢とか気にせずに蹴ってもらえる所まで心を開いてくれたのが嬉しくてな。なんていうかな、あんまり見上げたもんではない…いやまあ俺は今お前らを見上げてはいるわけだが…こういう場において立場が対等じゃないと、こういう付き合い方ってできないだろ?だから、俺が喜んでいるのはウオッカとスカーレットが『こいつは足蹴にしても問題ない』って所まで心を開いてくれたのが嬉しいだけであって決して蹴られたこと自体に喜んでいるわけではねえからな!!!!」

 

沖野、今日イチの大声である。

余談、というか豆知識だが、質問した時に極端に声が大きいやつと極端に声が小さいやつは大抵図星を突かれてるぜ。まあ頭の片隅にでも入れておいてくれよ。

 

「ていうかスクリプト。お前も足蹴にされたいって言っちゃってんじゃん。そういう趣味ならアタシが足蹴にしてやろうか?」

 

『うーん、ゴルシちゃんに足蹴にされるってのは物凄く魅力的な提案ではあるんだけどね。君絶対『足蹴』と『葦毛』で同音異義語だからって理由で僕を葦毛にすると思うんだよね。どう?当たってるんじゃないかい?』

 

「クソッ、流石私の親友だぜ…。そこまで読まれているとはな!だが私は諦めねーぞ!『葦毛総大将』の異名を持つゴルシ様は全ウマ娘を葦毛にするまで不滅だぁ!」

 

「ゴルシ先輩そんな異名持ってないでしょ!そんなことよりこのバカ蹴るの手伝ってください!」

 

「おう!まずは手始めに膵臓から行くぞ。スクリプト、修復は任せた」

 

『任されたよ。どこからでもやっちゃって。』

 

「俺の体をどうするつもりだ!?」

 

 

──────────

 

 

「あのー、スズカさんはデビュー戦緊張しましたか?」

 

「いえ、私は別に…」

 

「そっ、そうなんですねー!」

 

スピカメンバーとの顔合わせを終えたスペシャルウィークはサイレンススズカとスクリプト(球磨川)と共に下校していた。

質問に対するスズカの答えを聞いて、『やはりスズカさんは次元が違う!』と思っていた。実際のスズカは『走り始めると周りが見えなくなるだけ』であることにスペシャルウィークは気づかない。憧れは光のようなものだ。強ければ強いほどその目を焼いてしまう。

 

だから、相手に対して憧れなんて抱いてもいない奴は、相手の心にずけずけと土足で踏み入ることができる。

 

『でもさー、スズカちゃんって走ったら周りが見えなくなるって寮長さんが言ってたぜ?緊張しなかったって、自分がレースに出てることも忘れてただけじゃねーの?』

 

「ちょっスクリプトさん失礼ですよぉ!?何いきなりそんな強気な語調で話してるんですか!?」

 

「…お恥ずかしながら……」

 

「えっほんとに忘れてただけなんですか!?」

 

「そうよ…いえ、そうです…」

 

相手が相手なら侮辱と取られない事もないスクリプト(球磨川)の発言だったが、珍しく的中したため何とか会話のとっかかりとなることが出来た。ついでに窮屈そうな口調を止めさせる事が目的でもあったのだが、どうやらそちらはうまく行かなかったらしい。スズカの口調はすぐに元の敬語に戻ってしまった。

 

だがしかし、過負荷(マイナス)が一度の失敗程度で退くわけが無い。退くわけにはいかない。

 

『スズカちゃん、ちょっと重要なお願いがあるんだが…。』

 

「えっと…何ですか?」

 

『僕と友達になって下さい!』

 

スクリプト(球磨川)がとった行動は単純明快。

頭を下げて手を前に突き出し、友達になって欲しいと伝える事だった。あまりに突飛だが、その真剣さにスペシャルウィークは『あれ?告白?』とも思った。しかしスクリプト(球磨川)にそんな勇気がないことは今日1日で分かりきっているのですぐに平静を装う事ができた。

 

「えっ…いい、ですよ…?」

 

『えっマジ?やったー!僕これで友達3人目だぜ!嬉しいなぁ!』

 

「3人目って、スクリプトさん…あなた…」

 

『あとついでに頼みたいことあるんだけど僕とスペちゃんには敬語使うの止めてほしいなあ。スズカちゃん先輩だし。』

 

「えっまあそういうことなら…?正直窮屈だったし…スクリプトさん…スクリプトとスペシャルウィークさんがそれでいいなら…」

 

「はいっ!はいっ!大・歓・迎ですっ!ぜひお好きなように呼んでください!」

 

「じゃあ…スペちゃんって呼ばせてもらうわね。スクリプトもそう呼んでいるし」

 

負完全(マイナス)特有の急すぎる距離感の詰め方が功を奏したようで、無理矢理スズカの敬語を外させる事ができた。スペシャルウィークとしても憧れの先輩があだ名で呼んでくれるなんて願ったり叶ったりである。

 

「スクリプトさん、今度マック奢りますね」

 

『おお、君も中々解ってるね。』

 

ひそひそと小さな声で内緒話をする2人を見て、スズカは(折角友達になったのにもう仲間外れ…?)と思っていた。クールそうな見た目に反して、彼女は意外と寂しがり屋であった。

 

──────────

 

 

「うへへ…スズカさん…うへへ」

 

(えっ隣の奴なんかぶつぶつ言ってる…怖…)

 

隣で何かを思い返してぶつぶつと独り言を言い続けるスペシャルウィークを見て、銀髪眼帯のウマ娘、クイーンベレーは恐怖した。

一方、心ここに在らずのスペシャルウィークは気づかない。周りのウマ娘から(何だこいつ…)という顔で見られていることに。

 

 

──────────

 

 

「──スペちゃん、スペちゃん起きて。…どうしよう、このままじゃ遅刻しちゃう…」

 

「うーん…むにゃ…」

 

スズカ、スペシャルウィーク、スクリプト(球磨川)が友達になった翌日の朝。昨夜散々話し込んだスズカとスペシャルウィークは遅刻の危機を迎えていた。理由はスペシャルウィークがどれだけ起こしても起きないからである。

マイペースで自由奔放なランニングマシーン娘のスズカとはいえ、ここで友達を起こさず置いて行くのは心苦しい。気分よく走ることはできないだろう。

 

と、ここでスズカ、天啓を得る。

私よりスペちゃんとの付き合いが長いスクリプト(球磨川)に頼めば起こしてくれるのでは?と。

そうと決まれば善は急げである。

 

「ということでスペちゃんを起こして欲しいの」

 

『寝起きドッキリを僕に頼むとは、中々君も鬼畜だね。』

 

「私も見ていたの、スクリプトの『領域』。あれを使ってくれればいくらスペちゃんでも起きるんじゃないかしら」

 

『まあいいさ、構わないよ。何てったって友達の頼みだからね。少々手荒にはなるが…この場合は何をしても起きないスペちゃんが悪い。』

 

『僕は悪くない。』

 

『と、いうことでやって来ましたスペちゃんとスズカちゃんの部屋。とはいってもここまですやすや寝ている女の子に螺子を捩じ込むのはいくら僕とはいえ心が痛むなあ。』

 

「きっと大丈夫よ。一思いにやってあげて」

 

『……ちなみにどれだけの間起こそうとしてたんだい?』

 

「1時間よ。呼びかけても揺さぶっても引っ叩いても幸せそうな顔をしてぐっすりのまま」

 

『それは怒ってもしょうがないなあ!』

 

誰が見てもスズカは多少怒っていた。

なんてったって耳も絞っている。何となく毛艶も悪い。あまりに起きないせいで調子まで落としてしまったようだ。

 

『じゃあこの眠り姫を叩き起こすとしよう。ちょっとショッキングかもしれないけど大丈夫かい、スズカちゃん?』

 

「ええ、大丈夫。そこまで深く突き刺すわけではないんでしょう?その螺子は」

 

『まあ結構痛いだろうし、そこまでやるつもりはねえさ。じゃあ行くよー。3。2。1。それっ。』

 

「いったああぁぁい!?!?」

 

『あっやべ、深めにいっちゃった。』

 

「大丈夫よ、きっと許してくれるわ」

 

『相当頭に来てたんだね。今その表情するかなあ?』

 

スペシャルウィークのお腹に捩じ込まれた螺子はどう見ても貫通してベッドにその体を縫い付けている。

普通に考えて痛いで済むダメージではない。が、そこは流石の『大嘘憑き(オールフィクション)』、お腹の表面以外の痛みを()()()()()()()()()。スズカもようやく登校できるという気持ちで表情が緩んでいる。

 

『やあ、寝坊助のお姫様。目覚めの気分はどうだい?』

 

「最悪ですよ!何ですかこれどうなってるんですか!痛いのに痛くなくてすごい気持ち悪いです!」

 

「おはようスペちゃん。元気そうで何よりだわ」

 

「おはようございます、スズカさん…あの、どうして止めてくれなかったんでしょう…?」

 

「何でって…スクリプトに頼んだのは私だもの」

 

「へー…スズカさん計画犯スクリプトさん実行犯なんですねぇ…えっスクリプトさんスズカさんに付き合わされた側なんですか!?」

 

『その通り。だが元はと言えばスペちゃんが何度起こそうとしても起きねえのが悪い。僕は悪くない。スズカちゃんも悪くない。ほら起きろって。このままじゃ3人揃って遅刻だぜ。『大嘘憑き(オールフィクション)』っと。もう痛くないだろ?』

 

「なんかすごく不思議な気分…その上不気味で不可解です」

 

『『理解不能』が僕の存在意義(アイデンティティ)だからね。何しろ僕は負完全(マイナス)なんだ、不明瞭でなければ意味がない。意義がない。』

 

「押し問答はいいから早く行きましょう…2人とも。本気で走らなきゃ遅刻しちゃうわ」

 

その後、スズカ、スペシャルウィーク、スクリプト(球磨川)の3人はギリギリで何とか遅刻せずに済んだ。本当にギリギリだったのだが、校門にたどり着くまで全員本気で走ったので意図せずレースのような状況になり、走り終えた後は3人とも笑顔だった。まさしく青春、奇しくもスクリプト(球磨川)が追い求めたものがそこには確かにあったのだ。

 

なお、その様を見たアグネスデジタルがその余りの尊さに昇天。その際吐き出した血を用いて、この3名の頭文字を取って『SSS』と命名した。

当然、当の本人達は知る由もない。

今後そう呼ばれることもない。

 

 

──────────

 

 

「なるほど、『日本一のウマ娘』を目指すのであれば三冠路線はマスト…そういうことですよね、スクリプトさん?」

 

『話を聞く限りでは概ねその通りのような気がするね。当然他の有力なウマ娘だって三冠を取りに来るだろうし、無謀な夢と笑われたのも無理がない気がするが…当然、スペちゃんは諦めるつもりなんて微塵もねえんだろ?』

 

「当たり前です。私、この世界の主役になるって決めたので!」

 

『……へぇ、そりゃあいいね。今から君と鎬を削るのが楽しみだぜ。』

 

「…決めました!今日の晩ご飯はお鍋にします!」

 

『漢字が似てるってボケは文章じゃないと伝わりづらいから止めてほしいなあ。』

 

レースについての授業を受け終わったスクリプト(球磨川)とスペシャルウィークは駄弁りながら教室を後にする。

すると、そこには先日のチームリギル選抜レースの場にもいた、『女帝』ことエアグルーヴがいた。

ちなみにトレセン学園生徒会の副会長である。

 

「スペシャルウィーク。それと…スクリプトロンガー」

 

「はい…?」

 

『何か用かな?昨日の件についてとか。』

 

「例の件については不問だ。それと私用があるのではなく生徒会長がお呼びだ」

 

『しょうがないなあ。僕も聞きたいことがあったしね。行こうぜスペちゃん。』

 

「そうですね。レースについても聞いてみたいし!」

 

 

──────────

 

 

「生徒会長のシンボリルドルフだ。よろしく頼む。スペシャルウィークと…スクリプトロンガー。歓迎するよ」

 

「よろしくお願いします!」

 

『よろしくね。所でルドルフちゃん。愛している人とかはいるのかな?』

 

「ちょっと、スクリプトさん!いきなり不躾な…!失礼ですよ!?」

 

「いや、いいんだ。君は中々面白いな?スクリプトロンガー。敢えて答えるならば私が愛しているのは…全ウマ娘かな。少々陳腐かもしれないが…これで勘弁してほしい」

 

『いや、こちらこそすまないね。組織の長の人となりがわからなきゃあ身の振り方も分からないからさ、申し訳ないね。でもまあ、これで何となく分かったよ。トレセン学園の空気感が。良い学校だぜまったく。』

 

「気に入ってくれたようで何よりだよ。私としても鼻が高い」

 

生徒会室でスペシャルウィークとシンボリルドルフ、そしてスクリプト(球磨川)は和気藹々と…スペシャルウィークだけは堅気だったが、とにかくお互いに初手は好感触。スクリプト(球磨川)からしてみても、目の前にいる三冠ウマ娘は箱庭学園前生徒会長ほどの化け物ではない事が分かり一安心である。同時に、落胆もしていたが。

 

「では改めて本校の説明に入ろうか。本校は全国のウマ娘トレーニング施設の中でも、最大規模十全十美のカリキュラムで、優美高妙なウマ娘と切磋琢磨し、己の研鑽に粉骨砕身の努力で品行方正かつ絢爛華麗に、そして……」

 

(どうしよう…言ってることが半分くらいしか分かんない…)

 

『ルドルフちゃん。多分スペちゃん言ってること半分くらい分かってないぜ。もっと噛み砕いて教えてあげてほしいなあ。』

 

「ちょっと心読んだ挙句に堂々とバラさないでくださいよ!辱めを受けさせないでください!」

 

「トレセン学園は日本の中にあるウマ娘のトレーニング施設の中でも最も規模が大きく、少しの欠点も無い教育計画を組んでおり、品があり美しいウマ娘と共に己を高め競い合い、自らのできる限りの努力を尽くして礼儀正しく、そして華麗に、煌びやかに己を磨くことで、自らの夢を勝ち取る。そんな学園だ。……どうだろう、出来るだけ噛み砕いてみたが…分かっただろうか?」

 

ルドルフは小首を傾げながら聞いた。

ここまでしてもらってまさか『分からない』なんて言える訳もなく、大して分からないままスペシャルウィークは話を進めてしまうのだった。

 

「そっそれはもう!骨身に染み渡りました…!」

 

『スペちゃんスペちゃん。その感想は冬におでんを食べた時にしか許されないぜ。』

 

「ちょっと黙っててもらっていいですか!?」

 

どうやら生徒会の雰囲気を思い出し、らしくもなく感傷に浸っているらしいスクリプト(球磨川)はつい昔の癖でスペシャルウィークに茶々を入れまくっていた。スペシャルウィークの顔はもう真っ赤である。しかしこんなに嫌がってはいるが、どこか楽しそうな雰囲気も醸し出していた。

 

「所で君たち。出身はどこだ?」

 

「北海道です」

 

『熊本県かな。』

 

スクリプト(球磨川)、堂々の大嘘である。

 

「そうか。…ん?スペシャルウィーク、君、お母さんが…」

 

「…はい。私、『日本一のウマ娘』になるって、今のお母ちゃんと約束したんです。一回は諦めそうになった…まあ昨日の話なんですけど…スクリプトさんとも一生懸命お話しして、それでやっぱり私は『日本一のウマ娘』になりたいんだ!って…お恥ずかしながら思ったんです」

 

「うん、良い夢だ。…来週早くもデビュー戦だそうだな。お母さんに良い報告ができるよう、頑張れ。賛辞の言葉としては少々安っぽいかもしれないが…応援しているよ」

 

ルドルフはスペシャルウィークに微笑みかけ、賛辞の言葉を送る。スペシャルウィークからしてみれば三冠ウマ娘からの期待が肩にのしかかった気がしたが、これくらい背負えずに『日本一のウマ娘』になれるものかと思い、再び気合が入ったように感じていた。

 

「はい、頑張ります。ちなみに会長のデビュー戦は…」

 

「そんなもの鎧袖一触…まあ簡単に言えば楽勝だったということだ。まだ先は長い。学園内の施設も一通り見ておいた方がいいだろう。テイオー、そんなところに隠れていないで、出てこい」

 

「はーい!」

 

「うわっ!?」

 

ルドルフが名前を呼んだ途端、ソファに身を隠していた独特な声の少女…トウカイテイオーが姿を現した。スクリプト(球磨川)は『何となくルドルフちゃんと前髪が似ているなあ。』と思っていた。

 

「スペシャルウィーク、スクリプトロンガー。こちらはトウカイテイオーだ。テイオー、彼女達に学園の案内を頼む」

 

「よーし、会長の頼まれごとなら!転入生、行くよ!」

 

「あっはい!」

 

『……。』

 

「待て、スペシャルウィーク」

 

「ん?何でしょう?」

 

テイオーについて行こうと席を立った途端、再びルドルフがスペシャルウィークを呼び止める。その視線はスペシャルウィークから見て右手側の壁にかけてある額縁に向いていた。

 

「君はこの意味がわかるか?」

 

「えっ、えっと…エクリ…プ?」

 

「本校が掲げるスクールモットーだ」

 

「校訓…ってことですか。意味は…すいません、よく分からないです…」

 

「そうか、まあいい。それじゃあ行って…」

 

 

『唯一抜きん出て並ぶ者なし、だろ?』

 

 

「…驚いたな、スクリプト。やけに静かだと思ったが、意味を思い出していたのかな?」

 

「スクリプトさん、意味分かるんですね…あの、どうして…そんなに怖い顔を…?」

 

『おいおい、これで平静を保てって方が酷だぜ、スペちゃん。僕は初めに言っただろう?『組織の長の人となりが分からなければ身の振り方も分からない』って。僕はルドルフちゃんがどういう奴なのか今までの会話でよーく解ったぜ。だから…。』

 

 

『君を始末させてもらう。』

 

 

そういうと同時にスクリプト(球磨川)は両手で螺子を投げる。算段としては不意打ちで投げた螺子で『大嘘憑き(オールフィクション)』を発動させ、ルドルフをこの世から無かったことにする、というものだったが…相手はあのシンボリルドルフ。『皇帝』の名は決して伊達ではない。ルドルフはその両の腕に雷を纏い、スクリプト(球磨川)が放った螺子を受け止めた。

 

「昨日もこの目で見たがこれは一体どういうつもり…いや、どういう『領域』なのかな?非常に興味深い」

 

『この状況でもレースに関係する話題が優先とは、やはり僕の見立ては間違っていなかったようだ。』

 

「と、いうと?」

 

『君は今も昔も他のウマ娘の幸せなんざ信じちゃいない。全てのウマ娘を愛していると謳っちゃあいたが、その実どれ程のウマ娘の心を折ってきたことか。それに加えあくまでスクールモットーは『唯一抜きん出て並ぶものなし』ってそれどんなギャグだよ。矛盾もここまで来ると笑えてくるぜ。長々話したがつまり何が言いたいかっていうと、君は聖人君子(黒神めだか)じゃあないってことさ。所詮自分のための幸福を追い求める独裁者でしかない。』

 

「私は君が思うような、思い浮かべているような立派な人間ではないさ。いくら『皇帝』などという物騒な異名で呼ばれていようが私とて一人間。この両の手で掬うには少々規模が大きすぎる夢ではあると自分でも認識しているよ。だからできる限りのことをやるんだ。1人では成し遂げられないだろう、だからこそ1人ではなく、皆がそれぞれにできる限りのことをする。私の場合はそれが生徒会長となり学園に通うウマ娘達を纏めることだったというだけさ」

 

『あくまで他力本願、反吐が出るぜ。夢というのは自分で見て自分が叶えるものだろう?』

 

「私はそうは思わないな。One for all All for one(1人はみんなの為に、みんなは1人の為に)と言うだろう?」

 

スクリプト(球磨川)は両手に螺子を持ち突撃、ルドルフは雷を両手に纏って迎撃している。当然、突然始まった戦闘にテイオーとスペシャルウィークは唖然としていた。当たり前である。

 

『キリがない、埒が開かない。君と僕は分かり合えねえな。』

 

「私はお前とも分かり合えると思うぞ?思想は違えど目指す所は同じだろう?私はウマ娘という種全体が努力した結果の幸福。お前はウマ娘全員が堕落した結果訪れるある種毒のような幸福。過程は違えど目指すところが同じならば分かり合えるというのが私の持論だが…お前はそれを望んではいないだろうな」

 

『僕が君の本質を一目で見抜いたように、君もまた僕の本質を一目で見抜いたということかい。まるで深淵だぜ。』

 

「お前の方がよっぽど深淵らしい…。とはいえ私の心の内を一目で見抜いたのはお前が初めてだよ、スクリプト。きっと昔のお前は優れた観察眼を有し、その眼を用いて弱きを助け強きを挫く、そんなウマ娘だったのだろう…そうに決まっている!」

 

『…ん?えっと、ルドルフちゃん?』

 

「そうだ!だから私は悲しい!元々善良で心優しきウマ娘であった()()がそこまで捻くれてしまったことが…!」

 

『ちょっと!?その呼び方やめてくれないかなあ!?』

 

「だから私が生徒会長としての権限を使って貴様を矯正してやる、強制してやる。全力で行くぞ、感謝するが良い!!」

 

 

「『汝、皇帝の神威を見よ』!!!」

 

 

瞬間、シンボリルドルフの全身から放たれた極大の雷霆がスクリプト(球磨川)の全身を刺し穿ち──。

 

『ちくしょう、また、勝てなかった……。』

 

全身が焼けこげたスクリプト(球磨川)は、地に伏すのだった。

 

「あのー、何を見せられてたんでしょう…?」

 

「あんなにはっちゃけたカイチョー初めて見たなあ」

 

2人は終始置いてきぼりだった。

 

 

──────────

 

 

「その、申し訳ない…私に臆さず意見してくれたのが嬉しくてついはしゃいでしまったんだ…」

 

『気にしてないさ。負けた奴がとやかく言う資格はないし…実を言うと八つ当たりだったんだよね。地元の幼馴染が君みたいに甘々の思想を持っててさ、その子でもないのに何言ってんだって思って。何言ってんだは僕の方だよな。ルドルフちゃんと幼馴染の区別もできないなんて、とんだ笑い話だぜ。』

 

大嘘憑き(オールフィクション)』を使って全身の傷とボロボロになった生徒会室を修復したスクリプト(球磨川)はルドルフと話し合っていた。

因みにスペシャルウィークとトウカイテイオーも一応いるが、2人は2人で話しているため関与はしてこなかった。

 

「とにかく、迷惑をかけたな。これから先何か困ったことがあれば私に話してくれ。その時は力を貸そう。それで手を打つというわけには行かないだろうか?」

 

『まあ本当は別に何か強要しに来たわけじゃあねえんだが…貰えるものは貰っとく主義なんでね。』

 

「そうか…ありがとう。所でこれは生徒会長としてではなく私個人としての質問なんだが…そんなに君の幼馴染と私は似ていたのだろうか?答えたくなければ答えなくても良いが…」

 

『一見似ていたけれど実際全然似ていない。似通っているところなんて自信に溢れているところと役職が生徒会長だってことくらいさ。ルドルフちゃんでは到底ああはなれない。』

 

「成程…それならいいんだ。私としてもキャラ被りは避けたいと思っていたしな。それとスクリプトロンガー。君はその幼馴染のことを余程大切に思っているらしい。先ほどより幾分か表情が柔らかくなったな」

 

『……そりゃそうさ。僕が人生で唯一死んでも勝ちたいと思った相手で、僕の初恋の人なんだから。』

 

「…おやおや、私に似ていると言うからてっきり女性かと思っていたが男性だったとは。すると私は男性に似ていると言うことに…」

 

『えっ?いや女の子だけど。』

 

「「ぶふぅっ!?」」

 

「…そうか、すまない…いや、寧ろありがとう。私の狭い視野が広がったよ。君には教わってばかりだな…」

 

『何かを教えたつもりはねえが…さっき受け取るものは受け取るって言ったしその感謝も受け取っておくぜ。』

 

スクリプト(球磨川)は気づかない。今自分の体は女性のものなので、普段の感じで発言していると要らぬ誤解を招くということに。実際招いた。スペシャルウィークとトウカイテイオーは飲んでいたお茶を吐き出し、顔を真っ赤にして震えている。

 

「きっきき聞きましたかテイオーさん!?スクリプトさん女の子が好きって…!」

 

「スペちゃん気をつけてね…!仲良しだからって信用しすぎるのはダメだよ…!」

 

スクリプト(球磨川)とルドルフが仲良く殺し合っている時からずっと2人で話していたので、知らぬ間にあだ名で呼ぶほど仲良くなっていた。スクリプト(球磨川)からすれば何でそんなに驚かれなきゃいけねえのか分からないって感じだろう。

 

『待たせたねスペちゃんとテイオーちゃん。ルドルフちゃんとは話し終わったし、学校の案内してもらえるかい?』

 

「あっそっそうだね!よ、よーし!それじゃあ行くぞー!着いてきなさい転入生達!」

 

「そっそうですね行きましょうか!楽しみだなぁあはは…」

 

 

──────────

 

 

『…安心院さん。ルドルフちゃんになにか…』

 

「さて何のことやら?身に覚えがねえなあ」

 

『嘘吐くの下手すぎない?まあいいさ、()()()()()()()()()()みたいだしね。』

 

「ちょっとースクリプト?置いてっちゃうぞ?」

 

「そうですよ、これ以上は待てませんよ?」

 

『おっとすまない。今行くぜ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──まさかスキルを無理やり解ける奴がこの世界にいるとはこの僕の目を待ってしても気づかなかったなあ。

シンボリルドルフ…名前だけでも覚えておいてやるぜ。




言葉で遊ぶのって疲れますね。今もウマ娘コラボエナドリを飲んでいます。またもや半分眠りながら書いたので誤字等あれば報告してください。意図しないものであれば修正します。よろしくお願いします。

感想・評価よろしくね。


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第−6箱 トレセン探索

明けましておめでとうございます。
はっきり言って今回の話は特に進展は無いです。
文章もなんだか拙い気がします。
それに一万字を割っています。
でも頑張りました。
感想等あればどしどしご応募ください。
気づいたら返します。


「ここは図書室だよ!」

 

「わあ〜っ!すごい本の量…!」

 

『流石は日本一のトレセン学園、蔵書数も半端じゃねえな。ところでテイオーちゃん。一つ質問があるんだが…。』

 

「んー?何だねスクリプトくん?」

 

『一人称が『ぅ私』の図書委員とかっている?』

 

「いるわけないじゃんそんな一人称の人…」

 

スクリプト(球磨川)たちは現在トウカイテイオーの案内で図書室にやってきていた。膨大な数の蔵書が醸し出す古本特有の匂いが彼女らの鼻を擽る。

そこは正に本好きにとっての楽園であった。

 

「トレセン学園は文武両道なんだ!賢さのトレーニングとかはここから本を借りてやるんだよ!2人とも分かった?」

 

「はい!ところで栄養学の本ってどの辺りですか?お腹すいちゃって…」

 

「料理の写真で空腹を誤魔化そうとするくらいなら早く食堂行ったほうがいいと思うなあ」

 

『スペちゃんこの本見てよ。ほら、これ美味しそうじゃない?』

 

「うわあ…!特大にんじんハンバーグ野菜マシニンジンアブラカラメ…!?ちょっと私食べに」

 

「ちょっ、ちょっと!そこのあなた達!静かにしてください!」

 

「「はあい…」」

 

『………。』

 

図書室ではお静かに。

そんな事は小学校で散々習う事である。当然騒いでいればお叱りを受けるだろう。実際はそこまでうるさかった訳ではないが、図書委員のゼンノロブロイが真顔で腰を上げかけていたので近くにいたメジロマックイーンが急いで3人を諌めることによりひとまず図書室に平和が訪れた。

 

スクリプト(球磨川)が黙っている理由は二つ。

一つは『異常(アブノーマル)』が2人、それも1人は『主人公』級であったから。もう一つはゼンノロブロイが右手に神々しい剣を握っているのが見えたからである。これ以上騒ごうものなら真っ二つに切り裂かれそうな気がしたからだ。

 

大嘘憑き(オールフィクション)』で復活する事はできても、痛いものは痛いのだ。スクリプト(球磨川)といえどわざわざ斬られる趣味はない。

 

 

──────────

 

 

「こちらはプールでございま〜す!」

 

「わあ〜!プールって初めて見ました!」

 

『おいおい、大嘘吐くのは僕の特権だぜスペちゃん。それにそんな嘘ついたところで一笑いも取れやしないさ。』

 

「いえいえ、北海道ってプール全然ないんですよ。寒いからかは分かりませんけど」

 

「スクリプト〜?これは謝んないといけないんじゃないの〜?」

 

『大嘘吐き呼ばわりしてすいませんでした…。』

 

「そこまでガチトーンで謝らなくても」

 

場所は移り、ここはトレセン学園のプールである。

プールトレーニングや遊泳の為に使用することができる。

飛び込み台もあるにはあるが、使用の際は責任者の付き添いが必要となる。万が一にも怪我をするような事態があってはならないからだ。

 

「ところでお魚は泳いで」

 

「ないよ!どんだけお腹空いてんのさー!?」

 

「But!!私は魚とswimmingしても短距離なら負けません!」

 

突然大声で話しかけてきたウマ娘の名はタイキシャトル

短距離・マイル路線を突っ走る活発ネイティヴ娘である。

余談だが、ネイティヴダンサーとは一切関係ない。

 

3人が呆気に取られていると、タイキシャトルはプールに飛び込む姿勢をとった。スクリプト(球磨川)はこれから起こる事態を察して既に『大嘘憑き(オールフィクション)』を発動する準備をしていた。

 

「うっひょー!超気持ちいいデース!」

 

スクリプト(球磨川)の大凡の予想通り、タイキシャトルは大きな水飛沫を上げながら、水面に飛び込んだ。

当然、タイキシャトルが上げた水飛沫…所ではない量の水は3人の全身を余すところなく濡らしてしまった。

 

「「………」」

 

『やっぱりね。こんな事だろうと準備しておいて良かったぜ。『大嘘憑き(オールフィクション)』…ん?2人とも、どうしたんだい?そんな目で僕を見つめないでくれよ、惚れちまうぜ?』

 

「あのー、私たちも濡れたんですけど…」

 

『うん。濡れてんね。』

 

「スクリプト、ボク達もその『領域』でどうにかしてくれないかなーって」

 

『よく考えてみなよ、スペちゃん、テイオーちゃん。自分の目の前に美少女が2人いる。その2人は水浸しになっていて、髪の毛や尻尾の毛からしとしとと水滴が滴っている。水も滴るなんとやら、だ。こんな役得な状況誰が改善しようとするって言うんだい?僕なら間違いなくしないね。』

 

「テイオーさん、やっぱりスクリプトさんって…」

 

「うん、間違いなくそっちだろうね…」

 

『また内緒話かい?もっと隠したほうがいいと思うけどなあ。』

 

スクリプト(球磨川)は2人の会話にまたもや首を傾げるだけだった。太古の昔に流行った『鈍感系』である。

そんなんだからモテねえんだよ。

 

 

──────────

 

 

「次は外を…ってスクリプトどこ?」

 

「スクリプトさんならあそこです。切り株のところ」

 

「クソーッ!また負けたーっ!なんでだよチクショーッ!」

 

『何度やっても勝てないんだね。仕方ない、そういう相手もいるさ。ヒシアマちゃんの場合はそれがブライアンちゃんだったってだけさ。どうだろう、いっそのことここは一思いに諦めてさ、ヒシアマちゃんは自分なりの道を探すって言うのもありなんじゃないかなと僕は思うけどなあ。』

 

「そうかな…」

 

『そうだよ。』

 

「そうかも…」

 

テイオーが視線を動かすと、そこには『女傑』とすら呼ばれるヒシアマゾンを『負完全(マイナス)』方面に引き摺り込もうとするスクリプト(球磨川)がいた。

 

「えっ何やってんの!?ダメダメ、いきなり他人をマイナス方面に引き摺り込むとか何考えてんの!?」

 

『えーっ、だって久々に同士になってくれそうな人がいたんだぜ?そりゃあ同じ所まで落ちてきて貰いたくなるでしょ。』

 

「今まで1人で寂しかったからってそれは…!」

 

「テイオーさん。こうなった時のスクリプトさんはまともに相手したら疲れちゃいますよ?頑固なんだから説得とか無駄ですって」

 

「でも、それじゃあ…!」

 

「だから実力行使に出ます」

 

「…え?スペちゃん今なんて?」

 

「え?いや、だから…」

 

「実力行使に、出ます。」

 

「こうなったらスクリプトさんって面倒くさいんですよ。テイオーさんもさっき見たと思うんですけどたまーに持論で理論武装して滅茶苦茶なことをやるんですよね。だから殴ってでも止めます。今日の朝お腹を刺された恨みも込めて」

 

スペシャルウィーク、まさかの暴力での解決に打って出た。彼女の言う通りスクリプト(球磨川)はかなり面倒臭い癖ウマ娘である。一発殴らなければ止まる事はないだろう。

 

「いや、スペちゃん。パンチなんてしたらスクリプトが怪我するんじゃないかな…?」

 

「『領域』があるので大丈夫です。それにスクリプトさんなら一発くらい許してくれますよ。ということで」

 

『えっいや、スペちゃん。朝螺子をお腹に捩じ込んだのは僕は悪くないって言っただろう?それにそもそもはさっさと起きない君がぁっ!?』

 

マジで殴ったぜこいつ。

どうしてこんな面白え奴ばっか集まるかな。

 

「ふう。じゃあテイオーさん!案内の続きお願いします!」

 

「それはまあ、いいんだけどさ…えっスクリプト大丈夫?死んでないよね?」

 

「大丈夫ですって。私も朝一回死にかけたのでこれくらいなら治せますよ。多分」

 

「…じゃあ、いっか…」

 

その後校内の様々な場所で、気絶したスクリプト(球磨川)を引き摺るスペシャルウィークが目撃された。相当螺子を刺されたのが気に食わなかったのだろう。

それはそれとして、スクリプト(球磨川)を引き摺るスペシャルウィークを見たスズカは震え上がった。

 

 

──────────

 

 

またまた場所は移り今度はグラウンド。

スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)、転入後初のトレーニングである。スペシャルウィークは当然のこと、復活したスクリプト(球磨川)も珍しく気合いが入っている。

いくら負け犬であるとはいえ、勝つための努力はなんだかんだ怠らない。こういうところが『負完全(マイナス)』であると断定できない理由でもある。

 

『…で、沖野ちゃん。ぶっ殺されてえのかな。今すぐにでも物言わぬ骸に変えてやってもいいんだぜ。』

 

「おいおい待てよいきなり物騒だなスクリプト。よく見ろよ、ちゃんとしたトレーニングだろ?」

 

『僕の知り得る限りツイスターゲームはトレーニングとは呼べねえな。分かってんのかよ沖野ちゃん、スペちゃんのレースは1週間後なんだぜ?遊んでいる時間なんて1秒たりとも残ってなんかいないのに。』

 

「スクリプト、お前スペのことが心配なだけだろ。いやー分かりやすいなお前…目は口ほどに物を言うってよく言うがお前の場合はもっとよく分かるぜ。やっぱり俺のトレーニングメニューは間違っていなかった。スペシャルウィークは不足している体幹を鍛えることができる。そしてそれを見せることによって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お前の弱点は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』だ。改善していくぞ」

 

『…最初からそれ言ってくれない?赤っ恥かいちまったぜ。もうとっくに慣れてるからいいけどよ。』

 

「言ったろ?『中央のトレーナーを舐めんな』ってな」

 

沖野はそういうとニヤリと笑った。

してやったりと言う顔である。

それを見たスクリプト(球磨川)もにへらと笑った。

負完全(マイナス)』特有のヘラヘラした顔である。

 

「体幹鍛えるトレーニングってそれもっと早く言って欲しかったんですけど!?」

 

「そうだよ!なんで貴重な時間削ってツイスターゲームやってんのかと思ったらそういうことかよ!知ってたらオレだってもっと本気で…!」

 

「甘い、甘いぞウオッカ!ウィスキーくらい甘い!」

 

「ウィスキーは元々糖分少なめの酒だろうが!」

 

「こんななりでも俺は一応中央のトレーナーだ。一見意味不明に見えるトレーニングでもしっかり考えればそこに意味はある。つまり、自分の頭で考えてどこをどうトレーニングしているのか考える必要がある。これはレース中も同じことが言える。俺はお前らを強くしてやる事はできても、レース中横からアドバイスしてやれる訳じゃあねえ。もしレース中困ったことがあったら俺に聞くのか?()()()()()()()()。結局レースってのは個人競技。そこに他人の思いが乗っかった所で最後に信じるべきは自分の心だ。だから、レース中は自分で作戦を組み替えて臨機応変に動く必要がある。その為の賢さも鍛えるトレーニングって訳だ。分かったか?」

 

「あーもう分かったよ!何なんだよこんな妙なトレーニングやらせるくせにすっげえまともなことばっか言いやがって!こうなったらオレだって本気でやってやる!」

 

「わっ私も!出来るだけ自分の頭で考えてみます!それとスクリプトさん脇腹つつくのやめてもらっていいですか!?」

 

『ごめんごめん。プルプル震えてるからつっついたら崩れ落ちるかなって。』

 

沖野が折角良いことを言っていたのにスクリプト(球磨川)の茶々のせいで空気感は台無しだった。便乗したゴルシもスペシャルウィークの耳に息を吹きかけているし、スカーレットはウオッカの脇をくすぐっている。

チームスピカのメンバーでまともなトレーニングをしているのはスズカだけだった。

スズカはさめざめと泣いた。

 

 

──────────

 

 

翌日、スペシャルウィークのデビュー戦の概要が決まった。阪神レース場右回り芝1,600m、枠番は8枠14番となった。

『日本一のウマ娘』になると決意した以上、デビュー戦は勝利で飾りたい。その一心でスペシャルウィークはトレーニングに励んだ。

 

しかし、体力もないのに急にトレーニングの強度を上げればそれは疲れる。当然疲れる。

スペシャルウィークは寮に着く頃にはヘトヘトだった。

フラフラで部屋に入っていくのを見届けて、スクリプト(球磨川)も自分の部屋に入る。

 

「それにしても酷いねえ、球磨川くん。君は反則じみた『大嘘憑き(オールフィクション)』で疲労を無かったことにしているというのに、君のことを気にかけてくれたスペちゃんの疲労はほったらかしなんて。女の子に優しいとか、全くどの口が言ってるんだか」

 

『生憎敵に塩を贈ってやるほど僕は甘くない。勝負事に関しては僕は辛く当たるぜ。僕は苦しみたくねえってのもあるし、スペちゃんには辛酸を舐めさせてやりたいからね。』

 

「今頃彼女は疲れて眠っているだろうね。あーあ、可哀想。あんなに信頼しているスクリプトロンガーちゃんが実は裏ではスペちゃんを罠に嵌めようとしてるなんて!友達辞めちゃうんじゃねーかなあ」

 

『君は勝ち負けに興味が無いからそんなことが言えるのさ。勝ちたいから他人を貶めて陥れるなんて昔からみんなやってきたことだろう?今までの人外生で一体何をみて生きてきたんだか。人間ってのはどいつもこいつも救いようもねえバカばっかりなんだから、この程度誰でもやってる事さ。』

 

栗東寮の一室。スクリプト(球磨川)の部屋は壁が軋むほどの悪意で満ちていた。一方は必死にもがく虫を観察するかのような視線を向ける『悪平等(ノットイコール)』、もう一方は観察者の首を捻じ切らんとする『負完全(マイナス)』である。

この日栗東寮のウマ娘たちは原因不明の悪寒に苛まれたという。これが『トレセン学園裏七不思議』の噂が広まるきっかけでもあった。

 

「ああ言えばこう言う。結局根っこのところは変わってないね、いやーよかった!僕は君が別人になっちまったと思って不安だったんだぜ、球磨川くん。だがまあ、いいだろう。今回の口論は僕の負けさ。その調子で衰えないよう鍛えておいてくれよ?僕も見てるだけじゃあ退屈だしね。それじゃ、君の友達も来るみたいだし消えるとするぜ。じゃあね、球磨川くん」

 

『…相変わらず勝手だなあ。螺子をぶん投げないよう自分を制御するので精一杯だぜ。』

 

「まあまあ、そうカッカなさんなって。カルシウム足りてねえんじゃねえのか?ほれ、チャーハン食えよ」

 

『…せめて何か一つのテーマに沿って文章を出力してほしいなあ、ゴルシちゃん。そもそもそのほかほかチャーハンはどこから取り出した訳?てか今どっから来たの?』

 

「どこってそりゃ…ゴルシワープを利用して亜空間経由。炒飯は作ったのを持ってきたんだよ」

 

『何個スキルを持てば気が済むんだよ。』

 

安心院なじみが去った瞬間にゴルシワープによってゴルシがスクリプト(球磨川)の部屋に飛んで来た。まさに間一髪である。

 

「所でスクリプトギター弾けるか?ギター買ったんだよBTR見た影響で。弾けたら教えて欲しいんだけど」

 

『ギターくらい朝飯前さ。ほら、僕って色んなことに手出すからさ。ギターも当然弾けるって訳。』

 

「それはミーハーっつうんだよ」

 

スクリプト(球磨川)はこんなふうにすましてはいるが、実際内心は狂喜乱舞の様相だった。奇行が目立つとはいえ相手は美少女。そんな女の子から頼み事をされるなんて『負完全(マイナス)』冥利に尽きる。手取り足取りギターレッスンをしてあげる事を決意したようだった。

 

「それでこれ見てくれよ。ギター買ったは良いものの弦の本数がなんか違う気がするんだよな」

 

『おいおい影響受けすぎだぜ。どうせ4本の弦で『実はベースだった』とか言うつもりなんだろ?残念ながら僕はベースだって弾けるんだぜ。』

 

「流石にそこまで露骨に影響は受けねえよ。ほら見て、なんか多くねえか?」

 

『いや弦の数47本ってこれハープじゃん。どういうボケだよ。ていうかさ、僕をツッコミ側に調教してゴルシちゃんが楽しようとすんの止めてくんねえかな。』

 

「…バレた?」

 

『バレバレだぜ。火を見るよりも明らか。』

 

「脊髄反射でツッコミができる体にしてやるからな」

 

『おお怖い怖い、やれるもんならやってみるがいいさ。僕がツッコミ側に回るなんてあり得ない。その希望ごと飲み込んで台無しにしてやるぜ。』

 

「えへへ」

 

『訳わかんない所で照れるの止めてくれない?』

 

スクリプト(球磨川)は気づかない。

既にツッコミ側に片足突っ込んでいるということに。

このトレセン学園でボケをやるには社会倫理等が抜け落ちていなければならない。変に一般常識を持ち合わせているスクリプト(球磨川)ではボケに回れないということを、ゴルシは既に理解していたのだった。

 

こうして今日も、何事もなく夜が更けて行く。

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室。

下校時間を過ぎているというのに、シンボリルドルフはそこに1人佇んでいた。そして、突然口を開き、ぽつりぽつりと言葉をこぼし始める。

 

「…スクリプトロンガーと対峙している時、妙な感覚があった。まるで自分が自分でなくなっていくかのような…そんな感覚。あれもスクリプトが見せた『領域』の効果かと思っていたが…どうやらそうではないらしい」

 

「…流石、『皇帝』の異名は伊達じゃないね。いやあ、僕としても驚いたぜ。まさか僕のスキルを自力で突破する奴がこの世界にいるなんてさ。正直舐めてたよ。今だって僕が姿を現わす前から気づいてたみたいだしね」

 

「なに、簡単なことさ。私の『領域』は神威を雷として具現化させることが出来る。つまり神威を自在に操ることが出来る。だから生徒会室に満遍なく神威を張り巡らせれば、誰かが侵入してきたことも容易に把握できる」

 

「僕のスキルを解除したのも脳に直接神威を流し込んで相殺したってことかよ。失敗したら君の人格が消し飛ぶかもしれねえってのに、よくやるぜ全く。それはそうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんだ?話してみるといい。私はどんな悩みでも受け入れやめろ。私はシンボリルドルフだ。それ以外の何者でもない」

 

ルドルフは頭の中にある自分以外の人間の記憶を振り払う。トレセン学園以外の学校の生徒会長などやった事はない。つまりまた目の前の女に何かされた、と判断した。

 

「成程。スクリプトを送り込んだのもお前だな?」

 

「ご名答。そこまで多くのヒントを与えたつもりじゃねえが…皇帝様は頭脳も明晰らしい」

 

「当然だ。そうでなくてはトレセン学園の生徒会長など務まらん。そんなことより、だ。何が目的でここに来た。暗躍するのならば最後まで隠れていればいいものを」

 

「まあ正直な話が直談判さ。君にお願い事をしに来た。別にこの学園のウマ娘を傷つけるとかそういう意図は無いから安心してくれよ(安心院さんだけに)」

 

「実害は出ていないから一応聞いてやろう。話してみろ」

 

 

「僕はスクリプトを 秘匿情報 

 

 

「…なるほど、つまり……君は寂しいのか」

 

「いやどこをどう取ったらそうなるんだよ。全然そんな話してなくないかい?」

 

「いいや、していたさ。確かに、置いていかれるというのは寂しいことだ。自分は足踏みしているのに、相手は勝手に──」

 

「もういいよ…うーん、見当違いだったなあ。てっきり君は聖人君子(黒神めだか)みたいなやつかと思ってたんだが…やはり僕には人の心は些か難しすぎる。はあ…しょうがねえ、時間かけて地道にやるしかないか」

 

「ふふっ…スクリプトと同じ事を私に求めるのだな。何度も言うが私は聖人君子などではない。精々無敗の三冠を取っただけの一ウマ娘さ。それ以上でも、それ以下でもない」

 

「全然謙遜に聞こえねえぜそれ。案外嫌な性格してるねえ、シンボリルドルフ」

 

「お前のような奴相手に謙遜してもしょうがなかろう。少々自慢に付き合ってもらっただけさ。そもそもお前は不法侵入しているのだからこれくらい我慢するがいい」

 

 

その日、生徒会室から話し声は絶えなかった。

そうして24時を回った頃、ぱったりと話し声は絶えた。

他の誰も知らない、2人だけの密会だった。

 

 

──尚、忘れ物を取りに来た1人の生徒が生徒会室から薄く聞こえる笑い声に慄き、翌日から『生徒会室には嗤う幽霊がいる』と滅法噂になった。

またもや『トレセン学園裏七不思議』の一つとして数えられることになったという。

シンボリルドルフは自らの不注意のせいで生徒たちを不必要に怖がらせた事をひどく悔いたという。

ただ、一部の生徒からは『自信ありげな姿だけでなく物憂げな姿も最高に尊いでしゅっ!』と好評だったらしい。

名は伏す。意味は無いだろうが。




誰か文才を分けてくれ。
ほんの少しでいいから。

感想・評価よろしくね。


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第−7箱 スペシャルウィーク

第−1箱から第−6箱の名前を変えます。許して。
レース書くの初めてなんで下手なのは見逃してください。それと今回球磨川くん全然出てきません。正直済まんかった。
今回からタグを増やしました。ご都合主義です。めだかボックスに倣って少しだけ展開を優しくしたり厳しくしたりします。
ルビは振りっぱなしで行きます。ご容赦を。


(デビュー戦は芝1,600m右回り、作戦は『無し』、"ここだ"と思った所で先頭を抜かす…。うん、ばっちり覚えてる)

 

阪神レース場の芝の上、ゲートの中でスペシャルウィークは腹を据えた。1週間という短い準備期間ではあったがチームメンバーとの併走、追い越しの練習、レースにおけるルールの把握など…基本的なことは頭と身体に詰め込んだ。

 

パドックでは事前にスズカから教わった通りの立ち振る舞いをした為、赤っ恥はかかずに済んだ。観客達は『これが本当に1週間前からのトレーニングの成果か?』と驚きを隠せていなかった。どこから見ても調子は最高潮だった為だ。

 

地下バ道ではスクリプト(球磨川)とスズカの見送りも受けた。体操服に『14』のゼッケンをつけてもらう為だ。

スズカからは「楽しく走らなきゃ」という心構えを。

スクリプト(球磨川)からは『日本一になるんだろ?』と発破を。

チームメンバーからは「勝ってこい」と激励を受けた。

背中を押されたスペシャルウィークは今、絶好調だ。

 

されど今から始まるレースはどう足掻いても()()()

誰から応援されようと結局は一人の闘い。

助言が本当に助けてくれるとは限らない。

 

だから。

だから受け継ぐ。

助言はあくまで他人事の他人言。

背負って自らの重りにするより、継承して共有する方が肩の荷は軽くなるだろう。頭の片隅に置いておく位が程よい位置付けだ。

 

「…やる事はやった。考えも纏まった。覚悟も決めた」

 

 

 

 

「後は、勝つだけだ。」

 

 

 

 

スペシャルウィークの視界が絞られる。

ゲートが開いた瞬間飛び出せるように。

万が一にも出遅れることのないように。

『日本一』を目指す者として、無様な真似は出来ない。

『2人』の母親と約束した『自分』の夢を叶えるための旅路の第一歩が、今静寂を切り裂いた。

 

 

──────────

 

 

《さあ、一斉にスタート…おっと14番良いスタートを切った!14番スペシャルウィーク、一度ハナを取りましたがするりと落ち着いて下がっていきました》

 

《彼女、ゲートが開く直前から動き始めていましたね。勘が鋭いのか、それとも偶然か…いずれにせよ、『逃げ』の娘たちは掛からないよう気を強く持たねばなりませんね》

 

スペシャルウィークが実況解説をも唸らせるロケットスタートを決め、会場は一瞬にして沸き上がった。

後少しでも動き出すのが早ければ、前に出るのが速ければゲートに激突してレースどころではなくなっていたが、そんなことが気にならないほどの完璧なスタートだった。

 

「よっし!いいスタートするじゃねえかスペ!」

 

『当然だぜ。ね、スズカちゃん。』

 

「ええ。毎朝スクリプトに叩き起こしてもらった甲斐があったわ」

 

「おお、俺の方でもスタートの練習はさせたがお前達もなんかやってやったのか。どんなことしたんだ?」

 

『毎朝スペちゃんが寝坊するからさ、朝起きる時間に起きてなかったら僕の『過負荷(マイナス)』使ってこう…』

 

「グサッとやるんです。3日目くらいから気配を感じ取ってギリギリで避けるようになって…だから毎朝刺してたのが効いたんだと思います」

 

「お前らレース終わったら謝っとけよ………」

 

スペシャルウィークのロケットスタートが毎朝の血みどろモーニングコールの成果だという事実は、この3人以外に広まる事は無かったという。

 

 

──────────

 

 

(よしっ、良いスタート…!失敗したら後ろから差そうと思ってたけど、この位置なら先行…。ですよね、トレーナーさん!)

 

スペシャルウィークは極めて冷静にレースを進める。

しかし、他のウマ娘からしてみればたまったものではない。トレーニング開始から1週間の相手に負けるわけには行かない。私たちの方がずっと強いんだ。

 

その思考が、毒となる。

 

(おいおい、14番にあてられて掛かってるやつが想定より多いな…。見た感じ9番、4番、2番はあのまま突っ走って最終直線前で垂れる…無視するか)

 

13番、クイーンベレーはやや後方から全体を観察する。

彼女は自信家だ。自信家であるが故に、油断はすれど掛かって暴走する事はそうそう無い。

 

(トレーニングは1週間前からって話だが…14番はあんま舐めねえ方がいいな。ペース配分もしっかりしてる…1,600にペースもクソも無え気はするが…脚も残してるな。これは今から前に出とかねえと間に合わねえか)

 

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

クイーンベレーは14番(スペシャルウィーク)を明確に格上と定めた。

 

 

──────────

 

 

《前の娘たちは掛かっているように見えます!このままでは保たないかもしれません!…おっと、ここで13番クイーンベレー、冷静に上がって14番スペシャルウィークの後ろに付けた!》

 

《そのまま前に出ましたね。彼女は強靭なパワーが持ち味ですし、その爆発力にも期待が持てますね》

 

《アームレスリングでは負け無しだそうです》

 

《力の入れ方が上手いのかもしれませんね》

 

『沖野ちゃん。あの展開はどうなんだい?』

 

()()()()。どうやらあのクイーンベレーとかいうのはスペを敵と定めたようだが…スペはそれでどうこうできるような奴じゃねえ」

 

沖野とチームメンバーの目に迷いや惑いは無い。

スクリプト(球磨川)もスペシャルウィークの勝利を疑っていない。

もっとも、スクリプト(球磨川)の場合はちょっとやそっとの努力で『普通(ノーマル)』ができる事は少ないと言う事を知っているからではあるが。

 

『やっぱりね。このレースでたった1人の『異常(アブノーマル)』が簡単に負けるわけがない。それにクイーンベレーちゃんはどうやら()()()()()()()()()。その時点で勝敗は決まったみたいなものだしね。』

 

「言葉はキツイが…概ねその通りだ。スクリプトもこのレースから学ぶ事は多々ある。良い面も、悪い面もな。しっかり見とけよ?」

 

『当然!いくら僕が『負完全(マイナス)』だとはいえ、勝ちたいとは思ってるからね。精々足掻く為の準備くらいはさせてもらう。』

 

「そこは勝つ準備をしようぜ…」

 

勝つ準備をする『負完全(マイナス)』など『負完全(マイナス)』ではない。

当然沖野も分かっているのだが、やはりトレーナーの性なのか担当を勝たせる事で頭が一杯のようだ。

別に間違ったことではない。というかトレーナーなら当たり前のことである。

 

 

──────────

 

 

(第3コーナー!トレーナーさんから教わった通りなら残り600m…だけど13番さんのブロックが上手くて前に出られない…!やっぱりスタートが上手く決まったからってレース全部が上手く行くわけじゃない…!)

 

スペシャルウィークは少々焦っていた。

それもそのはずである。いくらスタートが上手く決まったとはいえトレーニング期間は1週間。他のレース技術なんてあったもんじゃない。このままでは13番(クイーンベレー)の思うツボである。

 

(14番…読み通り1週間程度のトレーニングではブロックの対策はできていない。『逃げ』の奴らはスタミナ切れで下がって来たし、上手いこと誘導できれば()()()()()()()1()4()()()()()()()()。よし、あとは良いタイミングで思い切り地面を蹴れば勝ちは決まったも同然だ)

 

クイーンベレーは冷静に、冷酷に作戦を形成した。

非道に思えるかもしれないが()()()()()()()()()()()()

むしろ、中央のレースに出るのであれば『非情さ』というのは少なからず持っていなければいけない。

 

スポーツの世界なんて所詮こんな物だ。

仲間と切磋琢磨?

ライバルとの大勝負?

負けた後はノーサイドゲーム?

否、断じて否である。それらは殆どまやかしだ。

足を引っ張り合い、相手を潰す気でラフプレーを行い、勝敗が決まれば互いに恨み怨み妬みあう。

 

上に挙げたのは極端な例ではあるが、禍根の残らない勝負などあり得ない。だからどうせ恨まれるのであれば一思いに。ルールの中でできる事は全てやる。それがクイーンベレーの魂胆だ。

 

なぜなら彼女もまた、夢を追う身だからだ。

 

(悪いが私の為に沈んでくれ(死んでくれ)、14番。)

 

そして、レースが大きく動く。

 

 

──────────

 

 

「…なんかしやがったな、スペ先輩の前にいる奴」

 

「卑怯な事するわね!!恥を知りなさいよ!!」

 

クイーンベレーが後ろに向けて土を蹴り上げた事をチームスピカの面々は即座に理解した。ウオッカは顔を顰めて嫌悪感を露わにし、スカーレットは先輩の事を思いやって怒りの感情を隠すこともしなかった。

 

彼女らは未だそこまで他人の悪意に触れていない。

だからちょっとした事でも過敏に反応してしまう。

 

「ウオッカ、スカーレット。あれも作戦の一つだと私は思うぜ」

 

「でも!ルールで明確に決まってないからってあんなの…!」

 

「スカーレット。ゴルシの言う通りだ。クイーンベレーだって人生どころか命賭けてまで走ってるんだ。必死になって何が悪い?」

 

「…でもあんなのはカッコよくねえよ」

 

「ウオッカ、お前はお前なりの流儀で走れば良いんだ。他人に強要する物ではねえ。カッコよくない走りだってあるさ。泥臭くて青臭い走りとかな」

 

沖野は2人を諭す。大人として、トレーナーとして。

同時に、2人の問題点も改善点も見抜いていた。

 

スカーレットは感情が先行しやすい。挑発などに乗ってしまえば立て直す事は難しくなるだろう。しかしそれは裏返せば、制御さえしてしまえば感情の爆発を末脚として発揮できる事を意味する。

 

ウオッカは自分の流儀を優先するあまり、戦略の幅が縮まってしまうだろう。ただし、自分の流儀があるということは自分の将来を早めに見据え、そこに向かって日々邁進することができるという事になる。

 

今はまだ、2人に伝えるには早すぎる。

だから、沖野は胸の内にしまっておく事にした。

いつか、大きな挫折を味わった時にそれとなくヒントを出し、自分から気づくように仕向ける。

『自分で問題点に気づく』ことが最も学びになるからだ。

ウマ娘自身に気づきを与える事において、沖野は、有体に言ってしまえば天才であった。

 

「…分かったわよ、黙って見てれば良いんでしょ」

 

「ああそうだ、観察しろ。このレースはお前たちにとっても糧になる。ウオッカも、分かったな?」

 

「分かった分かった。他人にケチつけるのなんて1番カッコ悪いもんな」

 

《第4コーナーを回って残り400m!おっと14番スペシャルウィーク前が壁だ!13番クイーンベレーがここで仕掛ける!一気に突き放す!》

《どうやら狙ってこの状況を作ったようです。パワーだけでなく頭もよく回っていますね》

 

観客があげる声が一際大きくなる。最終直線にウマ娘たちが突っ込んできたからだ。レースは最終局面を迎える。

 

泣いても笑っても、ここで勝負は決まる。

 

 

『行けよ、スペシャルウィーク。』

 

 

──────────

 

 

(嘘っ、壁になってて前に進めない!13番さんはあんなに前にいるのに、あと400mしかないのに!『日本一』になるって決めたのに!!)

 

(悪いな、壁が形成された時点で勝負は決まってた。後は思い切り突き放すだけだ!)

 

スペシャルウィークはそれはもう焦った。

前は3人の『逃げ』ウマ娘で形成された壁、今は後ろには誰もいないがこのままだと押し戻されてバ郡に呑まれ、本格的に身動きが取れなくなる。

クイーンベレーは己の勝利を疑わない。

それもそうだ。普通に考えればセーフティリードを保っている。なれば、後は話題作りのために後続を思い切り突き放すだけだ。

 

いかにも『普通(ノーマル)』の考えだ。

異常(アブノーマル)』がどれだけ『異常(アブノーマル)』なのかを理解していない。仕方のない事ではあるかもしれないけれど。

 

スペシャルウィークとて理解していた。

後ろからは誰も来ない。

前からは壁が迫る。

追うべき背中は遥か前方。

 

しかし、どうしても決め手の一歩が踏み出せない。

大外に回るとして、その時に足をもつれさせて転んだら?

気づいていないだけで後ろからスパートをかけていた娘が突っ込んできていて、壁を避けた瞬間接触したら?

 

それこそ大怪我では済まない。

中央所属のウマ娘達ならば皆はじめに学び、当然のようにやってのけるレース技術。その技術の圧倒的な欠如。それがスペシャルウィークの心に牙を剥いた。

 

行かなければいけない。

でも、転んだら?

行かなければいけない。

でもでも、ぶつかったら?

行かなければいけない。

でもでもでも、斜行判定になったら?

 

 

 

「…お母ちゃんに、なんて言えば……」

 

 

 

そうしてふと、チームメイトの方を見た。

大口を叩いておいてこんな無様なレースをする私を見て、どんな顔をしてるのかな、と思ったからだ。

 

心配そうにこちらを見るスズカ。

手を合わせて必死にお祈りするウオッカとスカーレット。

期待の目を向けるトレーナー。

険しい目つきをしているゴルシ。

 

そして、怒りの形相を浮かべるスクリプト(球磨川)

 

(…スクリプトさん?なんで、怒って…)

 

スペシャルウィークにはスクリプト(球磨川)が怒っている理由は分からない。付き合いが未だ浅い彼女には解らない。

けれど、何だか前に行かなければならない気がして。

諦めている場合では無い気がして。

 

スペシャルウィークの耳は未だ轟々とした歓声で埋もれている。大勢の人間が騒いでいて、何を言っているのかなんてはっきり分からないその轟音の中で、たった一言だけがやけに響いて聞こえて。

 

 

『行けよ、スペシャルウィーク。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうか、行かないと。」

 

 

 

 

「こんな最初の最初で、諦めてたまるか。」

 

 

 

 

「行かないと、行かないと!」

 

 

 

 

「『日本一』なんて、死んでも成れない!!」

 

 

 

 

「今!!行かなきゃ!!!」

 

 

瞬間、スペシャルウィークは思い切り壁を避け、大外に回る。体を低くし、空気抵抗の少ない形をとる。

正真正銘、フォームがスパートの形となった。

 

さて、現在スペシャルウィークは全体で言えば前の方に付けているわけだ。横には壁となっていた3人の『逃げ』ウマ娘たち。スタミナは切れ、じりじりと後ろに下がっていく。当然「むぅ〜りぃ〜!」という捨て台詞も忘れずに。

 

それはそうと、だ。

 

 

スペシャルウィークが。

 

レース後半に。

 

他のウマ娘を抜かした。

 

 

何が起きるかは、言わずとも分かるだろう。

スペシャルウィークの周辺は夜空が広がる野原へと置き換わった。本来無数の星が降っているはずの空には、たった一筋の微小な流れ星しか無かったけれど。

けれど、それでも今のスペシャルウィークには十分だった。母と約束した『2人の夢』ではなく、『本当の自分の夢』を思い出すのには。

 

『日本一のウマ娘になって、天国のお母ちゃんとお母ちゃんを笑顔にする』という夢を思い出すのには、十分すぎた。

 

 

「私が、勝つんだ!!!」

 

 

スペシャルウィークの速度が上がる。

デビュー戦とは思えないスピードで加速していく。

クイーンベレーとの差が徐々にどころでは無い早さで縮んでいく。当然場内はその末脚に沸き上がる。

 

「私がっ、勝ああぁぁぁぁつ!!!!」

 

「なっ!?チッ…なんつう末脚だよ…!?」

 

気づけば、2人は並んでいた。

あれほどあったセーフティリードも今となっては少しも残っていない。で、あればここからは根性の勝負。

気力が保った方が勝つ。

スポーツの泥臭い部分である。

 

「うおおおおぉぉぉぉ…!!!」

 

「ここまで来てっ負けて、られるかよ!!」

 

まさしくデッドヒート(死闘)、泥試合。

走っている当人達からすれば、時間が何倍にも引き延ばされたように感じていたことだろう。

しかしそれでも、決着というものは残酷なほど、呆気なくやってくる。

 

「っ…クッソォ!!」

 

先にスパートをかけていたクイーンベレーの体力が底をつき、後から爆発的な末脚で攻めたスペシャルウィークがそれを差し切った。

正直沖野はギリギリの戦いだったのでヒヤヒヤしていた。

 

が、本当の勝因は違う。

クイーンベレーが最後の最後でスペシャルウィークを見てしまったのに対し、スペシャルウィークは最後の最後で()()()()()を見たからだ。

これ以上シンプルな勝因はないだろう。

 

直後、スタンドからスペシャルウィークを祝福する声が響いた。一瞬呆気に取られるスペシャルウィークであったが、すぐさま満面の笑みを浮かべ観客へお辞儀を返した。

 

2着との差、半バ身。

スペシャルウィークはデビュー戦を無事勝利で飾ったのだった。

そして、スペシャルウィークは走ってスクリプト(球磨川)の元にやってくる。

 

『やっぱりね。スペちゃんならやってくれると思ったぜ。』

 

「はい……危うく約束破っちゃう所でした。『日本一』になるって約束。でも…思い出しました。本当の私の『夢』。ぼんやりとした形じゃなくって、鮮明な輪郭まで」

 

『そいつはよかった。もうお節介は必要ねえかなあ。あーあ、せっかく僕にずぶずぶに依存させて2人で堕ちるところまで堕ちるチャンスだったってのに、チャンスをみすみす逃しちまったぜ。』

 

「そんな恐ろしいこと考えてたんですね…。でも…ふふっ、それってつまり、()()()()()()()()()()?」

 

『…ああ、そうさ。僕は今回も読みを外したってことになる。つまり…。』

 

 

「『また勝てなかった。』」

 

 

「ですよね?」

 

『全くもってその通りだぜ。』

 

2人の間は何だか良いムードになっていた。

それこそ、長年付き合ってきた親友かのような距離感だった。その時、スズカが爆弾を投下する。

 

「スペちゃん、ウイニングライブも頑張ってね」

 

「あっやべっ」

 

「ウイニング、ライブ…あ"っ忘れてたぁ!?」

 

『沖野ちゃん…『中央のトレーナーを…』なんだっけ?』

 

「すまん、忘れてた…」

 

「そんなっ、振り付け一つもわかんないですよ!?スクリプトさん助けて!」

 

『諦めよっか。骨は拾ってあげるよ。』

 

「そんなあ!!」

 

「今更不安になってきたわ…このチーム大丈夫かしら…」

 

その後のウイニングライブでスペシャルウィークが恥を晒したこともあり、なんとも締まらないチームスピカの面々であった。

ちなみに沖野はおわびの焼肉を奢らされた。

ドンマイ。




シングレの小内トレーナーが貝木にしか見えない呪いにかかりました。
助けてくれ。

感想・評価よろしくね。


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第−8箱 デジャヴ

共通テストに誤字があったっていうニュース見ました?
めだかボックス読んでた人ならみんな脳裏に浮かんだと思うんですよ、このセリフ。

?「『拳』ゆう漢字と『挙』ゆう漢字はよう似てはりますわあ。」

今更ですが、うちの球磨川くんは本編終了後の球磨川くんなので『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』を持っています。
しかし、『大嘘憑き(オールフィクション)』の方が語感がいいので本小説ではこちらで通します。よろしくお願いします。


スペシャルウィークのデビュー戦から1週間経った。

編入後僅か1週間で出走したレースの後半の爆発的な末脚やウイニングライブの大失態、先日のレースで危なげなく勝利したサイレンススズカの移籍などもありチーム《スピカ》は学園内外問わず注目を集めていた。

そして今日、さらに注目を集めることになる。

 

「よーし、スクリプト。パドックで変な事するなよ?するにしても決めポーズくらいにしておけ」

 

『あのさあ、沖野ちゃん。スペちゃんが1週間の短期トレーニングで勝利できたからって僕ができるとは限らないと思うんだけど。』

 

「お前なら何とかなるだろうし、何とかするだろ?」

 

『調子狂うなあ。それに今日は曲がりなりにも《スピカ》のメンバーである僕を見ようと大勢集まってるらしいし、緊張しすぎて欠伸が出ちまうぜ。』

 

「自然体もいいところじゃねえか…」

 

と、先程まで沖野とスクリプト(球磨川)は話していた。

現在スクリプト(球磨川)はパドックの裏で待機している。

そう、まさかまさかのデビュー戦だ。

舞台は阪神レース場2,000メートル右回り。天候は晴れ、バ場状態は良好である。

パドックはチーム《スピカ》のメンバーであるスクリプト(球磨川)を一目見て、今後活躍した時に「デビュー戦を見た」と古参ぶりたい奴らでごった返していた。

 

《さて、続いて7枠12番……》

 

『おっと、今の娘の次が僕か。どうやら僕のことを見にきてる奴らが大勢いるらしいし、ファンサービスの一つでもしてやろうかな。』

 

先に言っておくがスクリプト(球磨川)に悪意はない。

ちょっと心変わりして甘くなったスクリプト(球磨川)は、『これも今のうちしか楽しめないし』という考えでちょっとちやほやされたかっただけだ。

だから決して悪意はない。決して。

 

『…さて、行こうか。』

 

スクリプト(球磨川)は、パドックの上へと歩を進めた。

 

 

──────────

 

 

《続いて8枠13番、スクリプトロンガー!チーム《スピカ》が送り出す期待の新人2人目です!奇しくも先日デビューしたスペシャルウィークと同じレース場、同じ枠!》

 

スクリプト(球磨川)が舞台に姿を現し、ジャージを放り投げた瞬間、わあっ、と歓声が上がる。原因は様々だが、やはり最も大きかったものはスクリプト(球磨川)のルックスだろう。

 

艶々とした黒鹿毛、中性的な見た目、平均身長よりやや低めの身長、そして小動物的な印象を与える表情。

 

今まであまり明言されているのは見た事がない…というと失礼な気もするが、球磨川ははっきり言って見た目がとても良い。それがウマ娘になったのだから、当然さらに美人になる。どちらかというと可愛らしい美人って奴だ。

 

だから応援に来たチーム《スピカ》の面子以外はスクリプト(球磨川)の姿に呆気に取られていたわけだが…その次の瞬間スクリプト(球磨川)が大きく息を吸い込み、そして叫んだ。

 

 

『モブキャラのみなさん』

『こんにちはーーー!!!』

 

 

それを聞いたとある男は魂胆を見抜かれていた恥ずかしさで撃沈した。それを聞いたとある女は可愛らしい見た目から想像できない暴言のギャップで脳をやられた。

 

以前よりも大分優しくなった口撃であるとはいえ大小様々な人間には耐え難い。人々が心に何らかの影響を受け倒れ行くその光景は正しく世紀末、或いは世界の終焉(アポカリプス)。チーム《スピカ》が更なる注目を受ける事が確定した瞬間だった。

 

「あの野郎…何もすんなって言ったのに…」

 

「でもスクリプトさんらしいですね!」

 

「スクリプト…大丈夫かしら…」

 

「ちょっとスクリプト先輩!手加減しなさいよ!」

 

「言葉だけで薙ぎ倒すとか…カッケェ…!」

 

「私も今度やってみっか」

 

当然の権利のようにチームメンバーは無事だった。

 

 

──────────

 

 

地下バ道で沖野の説教を受けたスクリプト(球磨川)はそのままの勢いで返しウマで全力疾走をかましてスタンドを盛り上げていた。競バ有識者の方々はそれを見て「目立ちたいだけの娘か」と既に見切りをつけていた。普通のウマ娘なら返しウマで全力疾走なんてしないからだ。

 

しかしスクリプト(球磨川)は『負完全(マイナス)』の中の『負完全(マイナス)』、

普通(ノーマル)』だなんて勘違いも甚しい。

 

何てったって彼…彼女の『過負荷(マイナス)』は『大嘘憑き(オールフィクション)』、疲れなんて残らない。スクリプト(球磨川)が残すのは禍根だけである。

 

『さて、走法はどうしようか。スズカちゃんみたいな大逃げ、スペちゃんみたいな先行策、ゴルシちゃんに吹き込まれた追い込みも良いかもなあ。』

 

「…ちょっと、そこのアンタ」

 

『ん?どうしたんだい、そんなに怒っちゃってさ。ほら、笑顔でいないと幸せが逃げちまうぜ?』

 

レース直前に作戦を決めるなどという舐めた真似をしていれば当然怒る娘も出てくる。周りを見てみれば、話しかけてきたのが1人であるだけで全員が敵意を露わにしていた。

 

「さっきのパドックの時もふざけるし…今だって無駄に集中力を削ぐような真似ばっかりして…邪魔しにきたんだったらさっさと帰ってよ」

 

『おいおい、僕は至って真面目だぜ?これでもさ。折角これから()()()()()()()()()()()()()()()が見てるんだし、ちょっとファンサービスするくらい許してくれよ。』

 

「…決めた。お前はぶっ潰す」

 

『そうかい。ま、精々気が済むまですり潰しておくれ。』

 

今度は明確な悪意を持って言葉を吐いた。

自分に対して甘い奴にはとことん甘くなってしまうスクリプト(球磨川)ではあるが、悪意に対しては人一倍敏感だ。当然悪意には悪意で返す。

 

「スクリプトロンガーさん、準備お願いしまーす」

 

『はーい、今行くよ。』

 

スクリプト(球磨川)はレース場職員の言葉に軽く答え、ゲートの中にすんなりと収まっていった。

 

 

──────────

 

 

「そういえばトレーナーさん。さっきスクリプトさんと何か話し込んでましたけど何話してたんですか?」

 

「ああ、いや何、作戦のこと…まああれを作戦って言って良いものか分からねえが…とにかくレース展開についてだな。『微妙な勝ち方をしろ』ってな」

 

沖野とスペシャルウィークはスタンドで話していた。

スペシャルウィークはさっきまでゴルシ焼きそばを食べていて2人の話を聞いていなかったし、このタイミングで聞いてしまおうと思い立ったわけだ。

 

「へえ、私には『作戦ナシ!』とか言ったのにスクリプトさんには作戦伝えたんですね」

 

「お前ならレース展開に関しては心配することはなかったからな。ただ、スクリプトは…()()()()()()()()でな」

 

「やりすぎそう?でもスクリプトさんは常日頃から『自分はマイナスだからどうやっても勝てない』とは言いますけど…だからってそんな滅茶苦茶しますかね?」

 

「違う、違うぜスペ。()()()()()。確かに俺に対しても『マイナスは勝てない』と言ってはいたが…『負ける』とも『勝たない』とも言ってはいない。そもそも『領域』だって効果はよく分からないし…だから一応釘を刺しておいたってわけだ」

 

沖野は語った。未だ未知数な部分が多いスクリプト(球磨川)の手の内を必要以上に明かすのはデメリットでしかない。ならば出来るだけ手の内は見せるな。

それを聞いてスペシャルウィークはどうしても言わずにはいられなかった。

 

「そこは釘じゃなくて螺子にしません?」

 

「そこに何のこだわりが?」

 

 

──────────

 

 

『へえ、ゲートって狭くてイラつくって聞くけど…案外大したこと無えな。これならここでキャンプとか出来るかもなあ。』

 

(((13番うるさ……)))

 

流石はスクリプト(球磨川)、空気の読めなさと精神の図太さ、嫌がらせに関しては世界最高水準である。

ちなみに今はゲートの中である。案外集中を乱す戦略として機能してしまっているから余計にタチが悪い。

 

『お先。』

 

「「「あっ!?」」」

 

《さあスタートし……おっと13番スクリプトロンガー良いスタート…というより他の娘たちが大幅に出遅れた形になるか。ともかくこれは幸運なことですね…おっとこれは…『大逃げ』か?》

《既に13番は後続に6バ身ほどの差を付けていますね、これは彼女自身のスタートの上手さもあるかもしれません。スイスイと進んでいきます》

 

「クソッ…やられた…!」

 

ゲート内というのは非常に狭いためウマ娘にとってはストレス環境でしか無い。そんな所で延々と聞きたくも無い独り言を聞かされていれば当然集中力は削られる。スクリプト(球磨川)は他人の精神を削ることのプロフェッショナルだ。この程度、序の口でしかない。

 

(いや…落ち着け…ここで『掛かり』でもしたらきっと13番の思うツボ…幸い距離は2,000m、あと1,800m程度ある。今は落ち着いて奴を観察する…!)

 

現在3番手の3枠3番の娘は『掛かる』直前で文字通り踏み留まる。

この娘は実力の低さを賢さで補おうと猛勉強した過去がある。持ち前の頭脳を用いて13番(スクリプトロンガー)を打ち倒す事にしたようだ。

 

(ハナを進んではいるけど、あんな啖呵切ってた割にはそこまで速くない…?成程、最高速度はそこまで速くないからこその精神的な揺さぶり、出遅れを誘発させてハナを取る。恐らくこれは『大逃げ』に見せかけているだけ、段々と速度を落として最終直線で再びスパートする…であれば本当は『逃げ』ではなく『先行』策なはずスタミナに自信があるからこその視覚的な幻惑話ぶりから自信があるのは確実それか余程のバカでないと返しウマで全力疾走なんて…)

 

『3番ちゃんいいのかな?このまま放っておいても。』

 

「なっ!?」

 

スクリプト(球磨川)がそんな単純な策を立てるわけがない。

一度揺さぶって駄目なら二度。

二度揺さぶって駄目なら三度。

今までだってそうやって全てを混ぜこぜにして生きてきたのだ。例え甘くなっても敵を甘くは見ない。

 

(私の考えが読まれている…のは想定内だ。揺さぶりをかけてくるってことはそこそこ頭だって回るはず…って事までは考えていたけど!()()1()3()()()()()()()()()()()!?)

 

3枠3番の娘は頭を高速で回す。13番(スクリプトロンガー)が何を考えているのか、今後どのような動きを見せるのか、本当に注視すべきは13番(スクリプトロンガー)だけなのか。

 

(本当はあいつだけずっと見ているわけにはいかないけれど…だからと言って目を離すのはまずい気がする…。残り1,200m、どちらにせよそろそろ前に出ないと私の勝ち目は薄くなる…あいつの声の事は後回しだ!)

 

 

──────────

 

 

《13番スクリプトロンガー少し下がってきたか?そして3番少しずつ上がってきた!2番手の8番も同時に出てきた!残り800mで先頭に2バ身差まで詰め寄った!》

 

《13番は苦しそうに見えますね、やはり返しウマでの全力疾走とここまでのハイペースが響いた形になったのでしょうか、しかしいい笑顔ですね》

 

「トレーナーさんどうしましょう!?このままじゃスクリプトさん差し切られちゃいますよ!」

 

「どうするったって…レースが始まっちまった時点で俺たちに出来る事は祈ることと応援、そして走ってる奴を信じて待つことだけだ。今からどうこう出来るもんでもねえ」

 

「そうよスペちゃん。いくらスクリプトが心配でも、信じて待っているのが友達ってものでしょう?」

 

「スズカさん…そのー…」

 

「何かしら?」

 

「そんなにそわそわしながら言われても説得力がないです…」

 

「…そうね」

 

段々と追い詰められているスクリプト(球磨川)をみてスペシャルウィークは悲鳴を上げたくなった。沖野は大人なので割り切れてはいるが、それでもしかし勝って欲しいという思いは変わらない。スズカに至ってはどう見ても落ち着けていない。体を前に乗り出して両手を合わせてお祈りしている奴は落ち着いているとは言い難いだろう。

 

「というかスクリプトさんなら『領域』使えば簡単に勝てるんじゃないですか?」

 

「いや、出来る限り『領域』は使うなと言っておいた。映像に残されて研究されるのが1番困るからな」

 

「でもトレーナーさん。スクリプトさんって『使わないで』って言って使わないような性格じゃないと思いますよ?」

 

「それは大丈夫だ。『もし使うならバレないように』って言ったからな」

 

「あー…それは他の人が可哀想ですね…」

 

「ん?そこまで派手なことは出来ないだろうと思ってたが…というかスペ、スクリプトの『領域』がどういう効果なのか知ってるのか?」

 

「今までの付き合いからの推測ですけどね」

 

スペシャルウィークとて何も考えず日々過ごしているわけではない。ウマ娘としてスクリプトの『過負荷(マイナス)』を毎朝食らい続けていれば嫌でも想像なんてつくだろう。

 

「多分スクリプトさんの『領域』って思ってるより単純なものだと思うんです。これは毎朝刺されてる私と計画犯のスズカさんと…あと多分ゴルシさんも知ってることだとは思うんですけど…少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです」

 

「と、いうと?」

 

「きっとスクリプトさんの『領域』は…」

 

 

「何かを無かった事にする能力。」

 

 

「…多分ですけどね?」

 

「流石にそんな滅茶苦茶じゃあない…よな?でも、仮にそうだとすれば…」

 

「それこそ、『異常(アブノーマル)』じゃねえか」

 

 

──────────

 

 

《3番、13番を追い抜いてハナに立った!8番は現在3番手、直線で一気に差し切ろうという構えでしょうか

 

《13番は未だ笑顔を浮かべていますね、これはもう一つ驚かせてくれるかもしれません》

 

(残り500m、阪神の直線は356.5mだからここからスパートをかければ私が勝つ、とはいえ13番がそれで終わるはずがない!今だって余裕が残ってそうな表情、まだ何かやってくるはず!)

 

「油断は、しない…!」

 

普通であれば『逃げ』のウマ娘を一度捉えてしまえばそこから再び差されるなど考えないだろう。しかし3枠3番の娘は客観視はすれど楽観視などしない。

その油断が命取り、寝首を掻かれる要因となるからだ。

 

(後ろの奴らは無理して上がろうとペースを崩したせいで末脚は残ってないはず…であれば13番に何もさせなければ私の勝ちだ!)

 

(何でか知らないけど3番は13番にお熱で私を全然見てない…?ならチャンスかも…!)

 

『ぐっ…いやあ怖い怖い。大分睨みを利かせてるなあ…。』

 

「そのまま引っ込んでろッ!!」

 

睨みを利かせて目論見通り13番(スクリプトロンガー)のスタミナを削る事に成功した3枠3番の娘はその勢いのまま最終直線へと突っ込んだ。

現在先頭は3枠3番、2番手が8枠13番、3番手に5枠8番の娘といった展開となっている。

3枠3番の娘はこの時点で自分の勝利を疑わなかった。

自らの才能を賢さで補ったこのレースはまさしく彼女の自信となるだろう。

 

「よしっ!これで私の勝ちは決まっ…ッ!?」

 

だから、敢えて失敗を上げるとするならば。

彼女は自分が相手をしている奴がどんな奴か()()()()()()()()()()

 

彼女の右側後方からとても『悪意』という言葉では済まされないような感情が噴出する。言うなれば殺意。それも、比喩表現ではなく心の底から恐怖が湧き上がってくるかのような正真正銘の『殺す』という気概。普通の女学生が生きているうちに感じることは無いような悪感情。

 

一体背後はどうなっているのだろう。見ている場合では無いが、所謂怖いもの見たさという奴だろうか。とにかく、彼女は後方を確認した。

 

そこにいたのは、先程までの疲れが嘘のように、変わらず笑顔を浮かべている13番(スクリプトロンガー)がいた。

 

 

『じゃ、頑張って逃げなよ。』

 

 

「ここだあぁぁぁあ!!!」

 

 

「───ひ」

 

 

どれだけ頭が良かろうが。

どれだけ体を鍛えようが。

どれだけ精神が強かろうが。

 

負完全(マイナス)』の前でそんな物は意味がない。

 

 

「うああぁぁぁぁあっっ!!」

 

『おいおい、そんなに怖がらなくても良いだろう?』

 

「1着は私が頂くぞぉお!!」

 

3枠3番の娘は必死に、勝つ為にではなく、死なない為に逃げる。このまま右側を走行していたら13番(スクリプトロンガー)に殺されてしまう。

 

で、あれば。

無意識といえど左側に向かってしまうのは生物としては当然のことだろう。右側に飢えた肉食獣がいるというのにそちらへ向かう草食獣など居はしない。

ともかく彼女(3枠3番の娘)は左側へヨレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それをレースでは『斜行』という。

 

 

 

 

「──ッ!?邪魔ッ!!」

 

「───え?」

 

 

気づいた時には、彼女は8番の進路を妨害していた。

 

 

大嘘憑き(オールフィクション)。』

 

 

そして、()()()()()()()()()3人はゴール板を駆け抜けた。当然、掲示板には審議ランプが光る。本来1着であるはずの3枠3番の娘が項垂れ、負けたはずの8枠13番が出走前と変わらず笑顔を浮かべている。5枠8番の娘は煮え切らない表情だ。

 

《先頭集団がゴール!!しかしこれは審議になるでしょうか?》

 

《3枠3番の娘が最終直線で斜行してしまったように見えますね。スクリプトロンガーの威圧が上手く決まりすぎてしまった形でしょうか》

 

そうして暫く時間が経ち、審議の結果が出る。

1着、8枠13番スクリプトロンガー。

2着、5枠8番の娘。

3着に3枠3番の娘が降着判定となった。

 

この順位付けとなった理由は様々あるが、主な物を上げるとすれば3枠3番の娘が斜行する前の、5枠8番の娘のスパートの速度が直後再加速したスクリプト(球磨川)の速度を下回っていた為に1着・2着間で順位の変動は無いだろうと判断されたから、そして4着以下の娘たちは大きく離されていたからであった。

 

 

──────────

 

 

チーム《スピカ》は現在良くも悪くも注目されている。

スペシャルウィークの棒立ちライブとかスズカの移籍とかのせいだ。だからデビュー戦にしては珍しく、スクリプト(球磨川)を取材しようとそこそこのマスコミが集まっていた。

マスコミと言っても雑誌記者とか競バ新聞の記者とか、そういう奴らだ。

現在スクリプト(球磨川)は沖野と並んで取材を受けている。

 

「まずはレースお疲れ様でした、スクリプトロンガーさん」

 

『うん、お疲れ。いやー、初めてのレースにしては中々いい走りだと思うんだけどどう?沖野ちゃん。』

 

「ああ、概ね良かったんじゃねえかとは思うな」

 

「スクリプトロンガーさんが再加速した途端3番…テイクスミスさんがヨレたように見えましたが…」

 

『ああ、あれね。なんか知らないけど僕ってスパートする時威圧感振り撒いちゃうみたいでさあ。それが効きすぎちゃったんだろうね。とにかく、悪気は無えよ。』

 

『僕は悪くない。』

 

よくもまあ流れるように嘘を吐けたものである、この『負完全(マイナス)』。あのレース展開は当然(勝手に考えた)作戦だ。

 

「沖野トレーナーは先程のレース展開について何かコメントはありますか?」

 

「そうですね、スクリプトは序盤からかなりレースメイク出来ていたとは思いますが…テイクスミスも頭を使ったレース運びだった。斜行さえなければどうなっていたか分からなかったので正直ヒヤヒヤしていました」

 

『沖野ちゃん敬語とか使えんだ。似合わねー。』

 

「大人なんだからTPOくらい弁えるに決まってんだろ」

 

((なんか距離感近いな…))

 

「あー、まあ何が言いたいかっていうと…スクリプトはあんな展開になったのは意図的では無いですし…胸張って『勝った』とは言えませんし、満足はしてないと思いますね」

 

「ほう、と、いうと…?」

 

『ここは僕から話させてもらおうか。僕としてはさっきのレース、自分自身の力だけで勝ってこのインタビューに臨みたかったわけだ。だけどあのままいけばどちらが勝つかなんて一目瞭然だっただろう?つまり』

 

『また勝てなかった。』

 

『まあそういうわけで、次は誰にも偶然だなんて言わせないレースにしたいかな。』

 

「成程、そういう事でしたか…それではありがとうございました。今日はよく休んでくださいね」

 

『うん、そうさせてもらうぜ。じゃあねー。』

 

「そんじゃ、あざっしたー」

 

特に変な事をするでもなく、滞り無くインタビューは進み、平穏に終わりを迎えた。スクリプト(球磨川)は記者に手を振りながら去り、沖野は最後の最後で自分を抑えることが出来ず砕けた感じになってしまった。

 

 

──────────

 

 

「ちなみにお前レース中何したんだ?」

 

『何って…僕の『過負荷(マイナス)』を使って5枠8番の子の気配と足音と疲れを消して左側から突っ込むように誘導して3枠3番のテイクスミスちゃんが僕を追い抜いた瞬間に僕の疲れも消して威圧して斜行させて降着させただけだけど。』

 

「滅茶苦茶使いまくってんじゃねえか…」

 

『そりゃどうも。』

 

こんなことバレたらレース永久追放である。

沖野は寿命が縮んだ。




レース展開に関してツッコミは無しで頼む。
こちとら初心者や。

感想・評価よろしくね。


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掲示板回 −7&−8+α

いつの間にか20,000UA超えてました。
ありがとうございます。凄いのか凄くないのかよく分からない数字ですね。
それはそうと掲示板なぞ今まで書いたことがないので不安です。


【新人】メイクデビュー応援スレpart240【歓迎】

 

 

240:名無しのウマ娘ファン

うおおおお!!!!コーヒーパルフェちゃん1着!!おめでとおおおお!!!!

 

244:名無しのウマ娘ファン

はい

 

248:名無しのウマ娘ファン

うわあ!急に落ち着くな!

 

251:名無しのウマ娘ファン

はいじゃないが?

 

255:名無しのウマ娘ファン

やっぱデビュー戦っていいわ。みんなガチガチに緊張してるしまだ目に光があってキラキラしてる

 

256:名無しのウマ娘ファン

未勝利戦になるとキラキラがギラギラになっちまってほんとに潰し合いだからなあ…

 

258:名無しのウマ娘ファン

次のレースの詳細マダー?

 

262:名無しのウマ娘ファン

>>258 少しくらい我慢できんのかボケが

阪神レース場1,600m右回りじゃアホ

 

265:名無しのウマ娘ファン

>>262 お前が良い奴なのは分かったが現代で関西弁ツンデレキャラは流行らんぞ

 

266:名無しのウマ娘ファン

じゃあやめよ

 

270:名無しのウマ娘ファン

もっと自分に芯を持てよ

秒で折れんな

 

273:名無しのウマ娘ファン

やだめんどい

んなことよりレース見てたい!

次のレースだけは何があっても見るって決めてんだ俺

 

276:名無しのウマ娘ファン

サイレンススズカが移籍したとこから1人出るんだっけ

どの娘?

てかリギル蹴るってすげーなスズカ…

 

279:名無しのウマ娘ファン

>>276 8枠14番スペシャルウィーク

チームは〈スピカ〉って所、トレーナーは沖野

この娘なんと北海道から上京してきて1週間らしい

 

281:名無しのウマ娘ファン

ファッ!?

 

285:名無しのウマ娘ファン

1週間!?どこソースよそれ

 

289:名無しのウマ娘ファン

トレセン学園公式ホームページの編入生紹介ページ。

同じ日に熊本からスクリプトロンガーって娘も編入してきてるらしい。しかもそっちもチーム〈スピカ〉だってさ

 

292:名無しのウマ娘ファン

スペシャルウィークちゃん可愛らしいやんけ!

親元離れて寮生活…心細いやろなあ

 

293:名無しのウマ娘ファン

いかにも「元気ッ!」って感じの娘だなぁ

 

297:名無しのウマ娘ファン

スクリプトロンガーって『脚本家』って意味だっけ?

 

301:名無しのウマ娘ファン

そりゃスクリプトライターだ情弱

 

302:名無しのウマ娘ファン

そこまで言わなくても(´;ω;`)

 

303:名無しのウマ娘ファン

実際どういう意味なん?

 

304:名無しのウマ娘ファン

『間違った脚本』とか?

てか名前の事はスレチだろ

レース見ようぜレース!

 

306:名無しのウマ娘ファン

それもそうだな

俺は今回のレーススペシャルウィークを推すぜ!

お前らはどうするよ?

 

307:名無しのウマ娘ファン

クイーンベレー一択。

前情報だとパワータイプらしいし、デビュー戦なら力押しで行けるはず

 

309:名無しのウマ娘ファン

競バにわかがまたなんか言ってら。

パワーだけで勝てるなら苦労なんかせんわ。

どうせ見た目が眼帯で銀髪だからだろ?

 

311:名無しのウマ娘ファン

好きな見た目の娘応援して何が悪いの?

 

315:名無しのウマ娘ファン

…それもそうやな、強く出てごめんやで

さっきのレースで推しの子が負けてちょっとイラついてた

 

317:名無しのウマ娘ファン

分かればええんやで

 

319:名無しのウマ娘ファン

なんでかウマ娘板ってやさしい世界になりがちだよなあ

 

322:名無しのウマ娘ファン

不思議だねえ

 

──────────

 

397:名無しのウマ娘ファン

さて、出走か

 

399:名無しのウマ娘ファン

今回のレースでは…ゲート難の娘はいなそうやね

 

401:名無しのウマ娘ファン

ゲート前でヤダヤダってしてる娘可愛いよね

好きすぎてゲート難ウマ娘写真集毎回買ってるわ

 

404:名無しのウマ娘ファン

えっ何それは………

 

405:名無しのウマ娘ファン

世界は広いなあ

 

408:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんオロオロで芝

 

410:名無しのウマ娘ファン

【悲報】現地勢ワイ将、隣の団体が「スペには作戦なしと伝えた」という旨の発言をしていた事を確認

 

413:名無しのウマ娘ファン

何やってんだ沖野ォ!!

 

415:名無しのウマ娘ファン

ホンマに何しとんねん!!

上京娘が可哀想やろが!!

 

416:名無しのウマ娘ファン

まあかわいそうなのはかわいいって言うし?

その点で言えば沖野は女の子の魅力を引き出しているとも言えるな!

 

417:名無しのウマ娘ファン

言えるかなあ?

 

418:名無しのウマ娘ファン

ん?スペちゃん空気変わった?

おい現地勢、詳細求

 

422:名無しのウマ娘ファン

確かになんかキリッとしたか?

カメラ越しだから分からんが…

 

424:名無しのウマ娘ファン

俺現地勢だが多少どころかかなり変わった。

今カメラがスペちゃん写してるが、なんつーか腹括ったみたいな感じに見えなくもないような気がする

 

428:名無しのウマ娘ファン

クイーンベレーもそれに合わせてバチバチ敵意向けてんねえ!気ぃ強そうだしなあ

 

429:名無しのウマ娘ファン

そろそろスタートか

 

432:名無しのウマ娘ファン

さあ行けー!

 

435:名無しのウマ娘ファン

頑張れー!

 

438:名無しのウマ娘ファン

ファッ!?

 

441:名無しのウマ娘ファン

うわ危な

 

445:名無しのウマ娘ファン

は?

 

447:名無しのウマ娘ファン

何や今のスタート!?

 

448:名無しのウマ娘ファン

1週間であのスタートってとんでもない逸材なのでは?

 

450:名無しのウマ娘ファン

いやそうだとしたら天才っつーか怖えよ!

 

453:名無しのウマ娘ファン

ちょうどスズカも〈スピカ〉に移籍したらしいしそこで教えてもらったのでは?

 

454:名無しのウマ娘ファン

なるほど…っつーかそうじゃなかったら何だって話だけど

沖野が物凄いスタートだけ練習させた可能性もある

 

455:名無しのウマ娘ファン

腕だけは確かな沖野がそんなやけっぱちな事するかなあ

 

457:名無しのウマ娘ファン

そもそもスペシャルウィークの才能の線もある

 

460:名無しのウマ娘ファン

すまん、話ぶった斬って悪いがさっき話した隣の団体…っつーかスズカとスクリプトらしきウマ娘と沖野がはちゃめちゃに物騒な話してるんだが

 

464:名無しのウマ娘ファン

kwsk

 

468:名無しのウマ娘ファン

なになにおせーて!

 

472:名無しのウマ娘ファン

はよ

 

476:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんのあのロケットスタート、毎朝寝坊するスペちゃんに同室のスズカと友達のスクリプトが襲いかかった結果らしい

 

480:名無しのウマ娘ファン

どこが物騒な話なん?

ただ仲睦まじいだけ…はっ!?

『襲う』って…そういう意味?

 

484:名無しのウマ娘ファン

ちげーよバカ!!

文字通り襲いかかってるらしい

話聞く限りだとデカいマイナスネジで刺そうとしてる

 

488:名無しのウマ娘ファン

犯罪やんけ〜〜〜!!

 

491:名無しのウマ娘ファン

えっそれって大丈夫なん?

 

492:名無しのウマ娘ファン

ヒント:目の前のレース

 

493:名無しのウマ娘ファン

大丈夫そうやね

ならよかった

 

497:名無しのウマ娘ファン

てか掛かってる娘多ない?

スペちゃんのロケットスタートの影響っぽいな

 

498:名無しのウマ娘ファン

今知り合いの有識者と見とるが逃げウマ娘たちがこぞって掛かっちゃってるらしい

 

501:名無しのウマ娘ファン

となるとスペちゃん独壇場?

 

505:名無しのウマ娘ファン

いや、クイーンベレーもかなり冷静。

一見激情家っぽいけどかなり頭も切れるみたい。

 

507:名無しのウマ娘ファン

今一瞬スペシャルウィークを風避けにしてたね

このまま最終直線で一気に引き離す作戦じゃね?今回のレースは短いし

 

510:名無しのウマ娘ファン

展開予想に自信ニキオッスオッス

 

513:名無しのウマ娘ファン

隣の沖野によると「ちょっとの末脚じゃあスペはどうこうできねえ(意訳)」らしい

これは見ものかもしれんぞ

 

515:名無しのウマ娘ファン

アームレスリングで負けなしって…

 

517:名無しのウマ娘ファン

この情報いる?

 

520:名無しのウマ娘ファン

絶対にいる(鋼の意志)

 

521:名無しのウマ娘ファン

>>513 それマジ?前にいるから逃げウマ娘かと思ってたけどもしやスペちゃんの本質って先行・差しの可能性ある?

 

525:名無しのウマ娘ファン

全然あるでこれ。

腕だけは確かな沖野がそこまで言うならもしかすると怪物2世と張り合えるかもしれん

 

528:名無しのウマ娘ファン

【朗報】スペちゃんアブノーマル

今隣でスクリプトちゃんが言ってたから間違いない

 

532:名無しのウマ娘ファン

あの朗らかさでアブノーマル…だと…!?

 

534:名無しのウマ娘ファン

えぇ…見損ないました。

マルゼンスキーのファン辞めます。

 

538:名無しのウマ娘ファン

なんでスクリプトちゃんはそんな事知ってんですかねえ

 

539:名無しのウマ娘ファン

それは…つまりそういうことだろ

 

541:名無しのウマ娘ファン

えっ出会って1週間でキマシ?

 

544:名無しのウマ娘ファン

んなわけあるか

アタシトレセン学園生でスクリプトともよく話すがあれってアイツなりの評価基準らしいぞ

あいつの事だから他にもマイナスとか言ってただろ?

 

548:名無しのウマ娘ファン

あー確かに言ってたわ

「僕はマイナスだから」って

 

549:名無しのウマ娘ファン

えっ僕っ娘なん???

 

553:名無しのウマ娘ファン

黒髪黒目で見た目が中性的で可愛らしい笑顔で身長が低くてそれでいて僕っ娘?三女神はこいつに何物あげれば気が済むんだよ、タマモクロスでもそんなにキャラ多くねえよ

 

556:名無しのウマ娘ファン

\あ"ぁ"ん"!?ウ"チ"が"な"ん"や"!?/

 

558:名無しのウマ娘ファン

話戻すがクイーンベレーブロック上手いなあ

やっぱパワーだけじゃなくて賢さも大分重要になるんやね

 

560:名無しのウマ娘ファン

クイーンベレーは確かに上手いんだが…それと比べられる練習1週間って本格的にヤバいやつでは

 

564:名無しのウマ娘ファン

相当詰め込んだか吸収が早いかのどっちかだな

努力の天才か天性の天才か

 

565:名無しのウマ娘ファン

まああれは天性の物だろうな

凡人が1週間努力したってああはならんやろ

 

566:名無しのウマ娘ファン

あっ…

 

569:名無しのウマ娘ファン

これ妨害か?

 

571:名無しのウマ娘ファン

土蹴り上げたくらいじゃあ妨害にはならん

脚に力入れすぎただけかもしれんしな…えってかクイーンベレー足太くね?

 

572:名無しのウマ娘ファン

言うな言うな!意識しちゃうだろうが!

 

575:名無しのウマ娘ファン

お前女子と目合わせて話せないタイプだな?

 

577:名無しのウマ娘ファン

お隣でウオッカちゃんとスカーレットちゃんが義憤にかられてるんだが

仲間思いのいい娘たちやでほんま

 

580:名無しのウマ娘ファン

おいおいおいちょっと待てや

初見の名前いきなり出すな

 

584:名無しのウマ娘ファン

知らんのかお前?

中等部一年の有望株TOP2(個人差アリ)の2人だよ

 

586:名無しのウマ娘ファン

中等部一年…?

"アレ"が…?

 

590:名無しのウマ娘ファン

1年前までアレがランドセルを背負っていたという事実

 

591:名無しのウマ娘ファン

はいスレチ

 

594:名無しのウマ娘ファン

うわースペちゃんの前が壁だあ

 

597:名無しのウマ娘ファン

クイーンベレー上手いなあ

序盤はともかく中盤は掌の上って感じ

 

598:名無しのウマ娘ファン

外出りゃあいいのに

このままだと直線でスパート出来ないやん

 

601:名無しのウマ娘ファン

顔見た感じ焦ってるっぽいしそこまで頭が回んないんじゃね?1週間じゃあできることも限られるやろ

 

602:名無しのウマ娘ファン

お隣のウマ娘ちゃんたちと一緒にお祈りしとるわ

ウオッカちゃんとスカーレットちゃん一生懸命応援しててかわいい

 

606:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん目に光が無くなってるよお

チームメンバーの方見てる?

 

610:名無しのウマ娘ファン

見てんねえ

 

613:名無しのウマ娘ファン

なんかまた空気変わった?

てかスペちゃんなんか言ってんな

口動いてるし

 

614:名無しのウマ娘ファン

うおおスペちゃんここで動くか!

行けー!差しちまえ!

 

616:名無しのウマ娘ファン

前の壁抜いた瞬間凄い加速するやん!

末脚モンスターすぎるだろ

 

617:名無しのウマ娘ファン

おい俺以外の現地勢

今の何だ説明しろ

 

618:名無しのウマ娘ファン

何だ今の

有識者解説頼んだ

 

620:名無しのウマ娘ファン

現地でなんかあったんか?

画面だと何が起きてるかいまいち分からん

 

621:名無しのウマ娘ファン

物凄く簡潔に纏めちまえば多分スペシャルウィークの『領域』だと思う

 

624:名無しのウマ娘ファン

マ!?ってことはこの世代既に『領域』持ちが3人…?

これはクラシック楽しみすぎるな

 

627:名無しのウマ娘ファン

他2人は一体誰?

 

630:名無しのウマ娘ファン

チーム〈リギル〉のグラスワンダーとエルコンドルパサーが『領域』持ちっぽい

2人のレース動画見てみ

『領域』に入った瞬間に周りの空間がひび割れたみたいに歪んでるから分かるはず

 

634:名無しのウマ娘ファン

でもスペちゃんの周りは歪んでなくない?

 

638:名無しのウマ娘ファン

多分まだ完全な『領域』ではないんだと思う

てかトレーニング1週間で『領域』出す事実の方がおかしいだろ

 

639:名無しのウマ娘ファン

イメージはどんなんだった?

 

640:名無しのウマ娘ファン

夜の平原っぽい所で流れ星が1つ流れてた

その直後スペちゃんが加速したからやっぱスペちゃんの『領域』で確定かな

 

643:名無しのウマ娘ファン

うおおおおおすげえデッドヒート!!

 

646:名無しのウマ娘ファン

クイーンベレーもすげえなこれ

『領域』持ちに食い下がるとかどんだけ鍛えてんだ

 

649:名無しのウマ娘ファン

行けー!スペシャルウィーク差せー!

 

652:名無しのウマ娘ファン

クイーンベレー!クイーンベレー!

 

653:名無しのウマ娘ファン

うっわこんな熱いデビュー戦久々やんなあ!

 

657:名無しのウマ娘ファン

うおおお差した!!

 

661:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん一着!!スペちゃん一着!!

 

664:名無しのウマ娘ファン

あークイーンベレー惜しかったなあ…

 

665:名無しのウマ娘ファン

うわあ凄い歓声

 

669:名無しのウマ娘ファン

こんなもん見せられたらファンになるしかねえよなあ!

 

673:名無しのウマ娘ファン

あらいい笑顔

お辞儀かわいいな

 

675:名無しのウマ娘ファン

一目散にチームメンバーの所に走ってくあたり仲いいんだなあ

 

679:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんとなんか話してる?

おい隣の奴、大丈夫そうならここに載せてくれ

 

681:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんイメージより小さく見えるな…

この見た目で僕っ娘かあ

 

682:名無しのウマ娘ファン

スクリプトロンガーいいなあ

いつデビューするんだろ

 

685:名無しのウマ娘ファン

まだ情報は出てないから気長に寝て待て

 

688:名無しのウマ娘ファン

ワイお隣現地勢、話を聞く限りどうやらスペちゃんは『自分の目指すべき場所がはっきり分かった。それとスクリプトさんとの約束を破らず済んでよかった(意訳)』的な事を言ってた

 

691:名無しのウマ娘ファン

>>688 補足

どうやらスクリプトちゃんはスペちゃんの事を彼女か何かにしようと目論んでいたらしい

 

693:名無しのウマ娘ファン

うひゃあ!

 

697:名無しのウマ娘ファン

彼女か何かって…つまりそういうことよな

 

700:名無しのウマ娘ファン

キマシです。

 

703:名無しのウマ娘ファン

あとなんか2人で「また勝てなかった」とか言ってニコニコしてる

ちょっとこれは分からんかった

 

705:名無しのウマ娘ファン

ではトレセンで2人とも面識があるアタシが説明してやろう

『また勝てなかった』ってのはスクリプトの口癖。

なんとスクリプトは生まれてこのかた一回しか勝ったことがないらしい。この前じゃんけん先に50回勝った方が勝ちゲームしたらアタシがストレートで勝った

 

708:名無しのウマ娘ファン

えぇ…

 

709:名無しのウマ娘ファン

>>705 んで続きな

スペは見た目は元気って感じだけど意外と繊細なところがあんだよ。東京に1人でやってきた不安感とかを和らげてくれたのが、偶然同じ日に編入してきたスクリプトだったってわけだ。だからかは分からんが2人はすげえ仲がいい。毎朝一緒に登校してる

 

711:名無しのウマ娘ファン

それはもう親友やんけ

 

713:名無しのウマ娘ファン

いいなあ、青春ってかんじで

俺もそんな学生生活を送りたかった…

 

716:名無しのウマ娘ファン

【悲報】スペシャルウィーク、レーストレーニング全振りしたせいでライブ踊れない

 

718:名無しのウマ娘ファン

芝ァ!!

 

722:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんは不憫かわいいキャラか?

 

726:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんもこれには苦笑い

 

729:名無しのウマ娘ファン

とにかくスペシャルウィーク一着おめでとう!!

 

731:名無しのウマ娘ファン

うおおおおおおおお!!!!スペちゃん好きだあああああ!!!!!

 

734:名無しのウマ娘ファン

はい

 

738:名無しのウマ娘ファン

うわあ!急に落ち着くな!

 

741:名無しのウマ娘ファン

はいじゃないが?

 

745:名無しのウマ娘ファン

えっこれってノルマなん?

 

748:名無しのウマ娘ファン

せやで

 

 

──────────

 

 

【新人】メイクデビュー応援スレpart245【不足】

 

128:名無しのウマ娘ファン

うおおおおお!!!!ケチャップステップちゃん一着おめでとおおおおおうおおおうおおお!!!!!!!!ウオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!

 

131:名無しのウマ娘ファン

うるせえ!!

 

133:名無しのウマ娘ファン

はい

 

134:名無しのウマ娘ファン

はいじゃないが

 

137:名無しのウマ娘ファン

手慣れてきたねえ

 

139:名無しのウマ娘ファン

はい次ィ!!今日のメインレースだ!

 

141:名無しのウマ娘ファン

メインではねーよハゲ

 

142:名無しのウマ娘ファン

>>141 >>141 >>141 お前

 

145:名無しのウマ娘ファン

ごめんて

 

146:名無しのウマ娘ファン

髪はどうでもいいからレースの話しようぜ

俺はもう驚きすぎて意識が飛びそうだ

 

149:名無しのウマ娘ファン

いやーまさか…ねえ?

 

152:名無しのウマ娘ファン

今度はスクリプトちゃんが1週間で出てくるとは

何で2週間あったはずなのにわざわざ1週間のトレーニングなんだ沖野ォ!!

 

154:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんウマッターで嘆いてたね

『沖野ちゃんは確かに狂人だが、狂気もここまで来ると酔狂と呼ぶべきかもしれないね。』って

 

157:名無しのウマ娘ファン

あの『』は何なん?

 

160:名無しのウマ娘ファン

DM凸ったら『格好いいだろう?なにせ、僕はカッコ付けだからね。』って返ってきたわ

 

163:名無しのウマ娘ファン

あーなるほど、"括弧"付けってことか

 

164:名無しのウマ娘ファン

それといい"狂"重ねといい言葉遊びが好きなんかな

クロスワードとか得意そう(小並感)

 

166:名無しのウマ娘ファン

さて今日のレースだが

 

169:名無しのウマ娘ファン

阪神レース場芝右回り2,000m、天候は快晴、バ場状態は極めて良好とのこと

スクリプトロンガーは8枠13番、そしてチーム〈スピカ〉…1週間前に見た気がするなあ

 

170:名無しのウマ娘ファン

パドック次スクリプトちゃんやぞ

 

173:名無しのウマ娘ファン

多分勝つだろうし古参ぶっとこ

 

174:名無しのウマ娘ファン

あらかわいい

画面越しで見るより生の方が可愛らしいな

 

177:名無しのウマ娘ファン

あーこれスクリプトちゃん見にきてんのか

道理で人多いわけだわ

 

179:名無しのウマ娘ファン

やっぱ華奢だなあ

ていうか走るための筋肉足りてなくない?

 

182:名無しのウマ娘ファン

ウマ娘の体をヒトと同じ物差しで測るなよ

彼女ら本気出せば70km/hで走れるんだからな

 

185:名無しのウマ娘ファン

 

188:名無しのウマ娘ファン

はぅ

 

191:名無しのウマ娘ファン

 

194:名無しのウマ娘ファン

何何何!?

みんなして倒れてるやんけ事案!?

 

196:名無しのウマ娘ファン

現地勢!応答しろ、現地勢!現地勢!

──現地勢ーーーーッッッ!!!

 

199:名無しのウマ娘ファン

いや生きとるわ

あんな、チクチク言葉吐かれてみんなダメージ食らって倒れたんよ

 

201:名無しのウマ娘ファン

モブキャラって言われた(´;ω;`)

 

204:名無しのウマ娘ファン

おもろすぎだろこの娘…

 

207:名無しのウマ娘ファン

ファンサが過激すぎるわこのおバカ!!

 

210:名無しのウマ娘ファン

──我々の業界では、ご褒美です──

 

213:名無しのウマ娘ファン

こんな掲示板で悟り開くな

 

214:名無しのウマ娘ファン

なんでスピカの面々は無事なのん?

 

215:名無しのウマ娘ファン

そりゃあスピカだからよ

 

216:名無しのウマ娘ファン

そっか…

 

 

──────────

 

 

313:名無しのウマ娘ファン

返しウマあんなに爆走して大丈夫かスクリプトちゃん

 

315:名無しのウマ娘ファン

適性が長距離なんじゃね?

わざと本気で走って体騙す的な

 

318:名無しのウマ娘ファン

えーでもあの体で長距離行けるとは思えないんだけどなあ

掛かっちゃってる説は?

 

319:名無しのウマ娘ファン

掛かってるんだとしたら逆に冷静すぎるかな

もしそうなら鼻息とか「ふんすっ」てなるもん

スクリプトちゃんは『ふう。』って感じに見える

 

322:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんの台詞に『』つける風潮いいな

絶対流行る

 

324:名無しのウマ娘ファン

ん、なんか険悪じゃね?

 

327:名無しのウマ娘ファン

どこがだ滅茶苦茶和やかだろこの板

 

329:名無しのウマ娘ファン

いや掲示板じゃなくてスクリプトちゃんの方な

なんかテイクスミスちゃんと言い合ってないか?

 

330:名無しのウマ娘ファン

あー、多分テミスちゃんは真剣にレースだけに取り組まないやつが嫌いなんだろうなあ

中央は割とそういう子多いよ。ストイックさがダンチだから

 

333:名無しのウマ娘ファン

おっ?地方sageか?

 

335:名無しのウマ娘ファン

優劣も甲乙もつけるつもりはねーよ

中央はウマ娘の母数が多すぎて地方とは比較ができないって事

 

338:名無しのウマ娘ファン

おー、スクリプトちゃん見事に注目されてんねえ

 

339:名無しのウマ娘ファン

そら〈スピカ〉ってのもあるし、何よりウマッターでケンカ売ってたしなあ

 

342:名無しのウマ娘ファン

なんて?

 

343:名無しのウマ娘ファン

『僕の夢を笑ってくれた奴に朗報だ。なんと君たちよりも一足先に僕が勝利をいただくらしい。精々足掻いてくれ。』

『それでも勝てないようなら僕が勝ち方を手取り足取り教えてやるぜ。それと、僕のご機嫌を取るなら今の内にしておいた方がいいかもね。』

だってさ

 

345:名無しのウマ娘ファン

滅茶苦茶ブチギレてるやんけ〜〜〜!!!

 

347:名無しのウマ娘ファン

てことはあの中にスクリプトちゃんの夢を笑った奴が何人かいるのかな

 

348:名無しのウマ娘ファン

いてもおかしくないんじゃね?

そうでもなければあんなに敵意が1人に集中することもないでしょ

 

351:名無しのウマ娘ファン

隣にいる沖野が言うにはスクリプトちゃんに伝えた作戦は「やりすぎるな」らしい。もしや相当強いのでは?

 

352:名無しのウマ娘ファン

はえー作戦って大逃げ・逃げ・先行・差し・追込・ナシの6つかと思ってたわ

まさかやりすぎるななんてのがあるとは、沖野トレーナーは博識だなあ

 

355:名無しのウマ娘ファン

つまり本気で走ったら大差勝ちしちまうって解釈でおk?

 

357:名無しのウマ娘ファン

大差は無いんじゃないかな

クラシックまで本当の実力を隠しておきたいとか?

 

358:名無しのウマ娘ファン

今考えてもしゃあないわ

 

360:名無しのウマ娘ファン

【悲報】スクリプト、『領域』持ち確定

ソースは隣の沖野トレーナー

 

363:名無しのウマ娘ファン

えっ4人目……?

同世代に4人は流石に多すぎんか?

 

365:名無しのウマ娘ファン

でも今回は『領域』使わないんじゃない?

実力隠したいっぽいし

 

368:名無しのウマ娘ファン

おっ始まるぞお

 

370:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんずっと話してて芝

アレも作戦なんか?

 

371:名無しのウマ娘ファン

どうだろ、独り言っぽくも見える

 

374:名無しのウマ娘ファン

あっ

 

376:名無しのウマ娘ファン

おいおい!

 

377:名無しのウマ娘ファン

めっちゃいいスタート…というより他が出遅れた?

 

379:名無しのウマ娘ファン

1人以外全員出遅れるって何だそら

どんだけストレス溜まる話してたんだよ

 

380:名無しのウマ娘ファン

すげえ笑顔だし作戦っぽいなあ

スペちゃんと違って頭でレースするタイプか?

 

381:名無しのウマ娘ファン

あのー大逃げはやり過ぎの範囲に含まれますか?

 

383:名無しのウマ娘ファン

うーん、アウト

 

385:名無しのウマ娘ファン

作戦ガン無視で芝

隣で沖野がぼやいててさらに芝

その横でスペちゃんが喜んで応援しててさらに芝

 

388:名無しのウマ娘ファン

うーん、ハナに立ったはいいけどそこまで速くなくない?

抑えてんのかな?

 

390:名無しのウマ娘ファン

いやあ、表情的には抑えてなくないか?

結構食いしばる感じで進んでるし…これテンション上がって暴走した説ワンチャンある?

 

392:名無しのウマ娘ファン

あー速度落として来たなあ

ここで敢えて速度落として逃げ・先行の娘たちにチャンスだと思わせて意図的に掛からせる作戦か?

 

395:名無しのウマ娘ファン

それ1週間のトレーニングでやってるとしたらとんでもない傑物なんですけど

 

396:名無しのウマ娘ファン

なんか喋りかけてるけど周りに誰も居らんくね?

 

399:名無しのウマ娘ファン

いや、表情見る限り4バ身後ろのテミスちゃんに話しかけてるっぽい

テミスちゃんあからさまに驚いてるし

 

401:名無しのウマ娘ファン

話しかけるってどうやって?

 

404:名無しのウマ娘ファン

>>401 外に出なすぎて話し方も忘れたんか?

 

407:名無しのウマ娘ファン

>>404 違くてさ、4バ身後ろの奴に走ってる最中の囁きが聞こえるわけなくね?聞こえてたとしてそれどういう技術よ?

 

409:名無しのウマ娘ファン

あー確かに…えっ怖ぁ、どういう理屈?

 

412:名無しのウマ娘ファン

もしかして既に『領域』入ってる?

 

414:名無しのウマ娘ファン

いやでもだったらスクリプトちゃんの周りが罅割れてないのはどう説明する

 

415:名無しのウマ娘ファン

そりゃあ…分からん

そもそも『領域』の理屈が分からないから論理的な説明とかできねえわ

 

416:名無しのウマ娘ファン

おいおい、反則だろそれ…

 

419:名無しのウマ娘ファン

お前沖野隣勢か

なんか言ってた?

 

422:名無しのウマ娘ファン

沖野じゃなくスペちゃんが言ってたんだがな

本当なら相当やばい領域だぜこれ

 

423:名無しのウマ娘ファン

もったいぶんな早く教えてくださいませ

 

426:名無しのウマ娘ファン

わたくしにも教えて下さいますわよね?

 

427:名無しのウマ娘ファン

お嬢様板に帰れ

 

429:名無しのウマ娘ファン

なんかな、スクリプトちゃんの『領域』、どうやら「『領域』内に存在するもの何かひとつを無かったことにする能力」らしい

 

432:名無しのウマ娘ファン

一瞬それの何がヤバいんだよって思ったけど確かにヤバいわ

つまり今スクリプトとテミスの間にある「距離を消した」から囁き声が聞こえて動揺したってことか…チートかな??

 

433:名無しのウマ娘ファン

うっわこれまた頭使いそうな物を…

スペちゃんの自己加速領域とは正反対やんな

 

434:名無しのウマ娘ファン

あくまでスペちゃんの憶測らしいから鵜呑みにするのは避けてくれな

 

435:名無しのウマ娘ファン

あー!スクリプトちゃん沈んだか!?

 

437:名無しのウマ娘ファン

いやまだ笑ってる。なんかあるぞこっから!

 

438:名無しのウマ娘ファン

うわあすっごい睨み…電撃みたいなん見えたわ

 

439:名無しのウマ娘ファン

ああいうレース技術って使った奴のイメージが強ければ強いほど効果が強くなるらしいし、電撃のイメージを不特定多数に見せるほど睨みが得意って事だろうなあ

 

442:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃん苦しそうやなあ

それもそうか、息入れようとした所であんな強烈な睨み食らえば呼吸止まって苦しくなるよなあ

 

443:名無しのウマ娘ファン

テミスちゃんもスクリプトちゃんも頑張れー!!

 

446:名無しのウマ娘ファン

これテミスちゃんで決まりか?

 

449:名無しのウマ娘ファン

いやでもスクリプトちゃん笑って

…笑うってか嗤うって感じか?

 

451:名無しのウマ娘ファン

何あのオーラみたいなの

 

452:名無しのウマ娘ファン

『領域』のイメージか?

それにしてはどろりとしすぎてる気がする

 

455:名無しのウマ娘ファン

うわなんか怖いな

怖可愛い

 

457:名無しのウマ娘ファン

現地勢だがヤバい。

スクリプトちゃんの威圧の余波がこっちまで来てる

これテミスちゃん相当キツいんじゃ?

 

460:名無しのウマ娘ファン

俺も現地勢。

なんていうか肌を刺す…肌を刺されてる感覚。

見た感じテミスちゃんはモロくらっててヤバい。

悲鳴っぽい絶叫上げてるし…

 

462:名無しのウマ娘ファン

てかスクリプトちゃんさっきまで汗滅茶苦茶かいてたよな?

汗どこ行った?てか全然疲れてなさそうに見えるんだけど

 

463:名無しのウマ娘ファン

…もしかして『領域』で「自分の疲れを無かったことにした」?

 

464:名無しのウマ娘ファン

うわやば

鳥肌立ったわ

 

466:名無しのウマ娘ファン

あっテミスちゃんよれたね

 

467:名無しのウマ娘ファン

はあ!?

 

468:名無しのウマ娘ファン

えっどっから来た!?

 

470:名無しのウマ娘ファン

プラマイドライバーちゃん!?

 

471:名無しのウマ娘ファン

てかこれ斜行判定よなあ

 

474:名無しのウマ娘ファン

うーん威圧が刺さりすぎただけだし危険行為って訳でもないか

 

477:名無しのウマ娘ファン

しかもラストスパートすごいスピードだったし3人以外は全然後ろだったからこりゃテミスちゃん降着で三着か?

 

480:名無しのウマ娘ファン

そうだろうな

多分一着スクリプトロンガー、二着プラマイドライバー、三着テイクスミスってとこだろ

 

482:名無しのウマ娘ファン

うわスクリプトちゃんえぐいな…

これ世代最強候補だろ

 

485:名無しのウマ娘ファン

既に世代最強候補が4人もいるんですがそれは

 

487:名無しのウマ娘ファン

四天王的なあれでしょ

 

489:名無しのウマ娘ファン

結果出た!

 

492:名無しのウマ娘ファン

あー予想通りか

 

494:名無しのウマ娘ファン

いやでも凄かった!

みんなナイスファイト!

 

495:名無しのウマ娘ファン

おっスクリプトちゃんインタビュー?

デビュー戦で?

 

497:名無しのウマ娘ファン

まあ今チーム〈スピカ〉は注目されてるしなあ

 

500:名無しのウマ娘ファン

『沖野ちゃん』だって

 

502:名無しのウマ娘ファン

いいなあ、俺も距離感近い女子にちゃん付けで呼ばれてドギマギしたい

 

505:名無しのウマ娘ファン

へえ、あのオーラ勝手に出ちゃうんだ

 

508:名無しのウマ娘ファン

オーラ勝手に出るって何やねん

 

511:名無しのウマ娘ファン

『僕は悪くない。』だって!

うわー身振りといい厨二心擽るなあ!

 

512:名無しのウマ娘ファン

いいなこれ、流行りそう

 

514:名無しのウマ娘ファン

やっぱ沖野もヒヤヒヤしてたんか

 

516:名無しのウマ娘ファン

そりゃするだろ、どう見てもスクリプト息切れてたし

 

517:名無しのウマ娘ファン

てか『領域』って発動は基本一回だよな?

てことは「声と耳の距離を無かったことにした」あとの息切れは演技じゃね?

 

518:名無しのウマ娘ファン

確かに…そう考えるとマジで逸材じゃんスクリプトちゃん…

 

521:名無しのウマ娘ファン

やっぱ負けるかもって思ってたんだ、そりゃそうだよな

逃げてたのに差されたら普通なら諦めるわ

 

522:名無しのウマ娘ファン

おっと本日の『また勝てなかった。』だああ!!!

 

523:名無しのウマ娘ファン

何個流行りそうなこと言ったら気が済むんだお前ェ!!

 

524:名無しのウマ娘ファン

スクリプト節が冴え渡ってんねえ

 

525:名無しのウマ娘ファン

うわあ笑顔でカメラに手振ってる!!

どんだけファンサすれば気が済むんだお前ェ!!

 

526:名無しのウマ娘ファン

沖野は最後まで我慢しろよ…最後の最後で素が出ちまってんじゃねえか

 

529:名無しのウマ娘ファン

とにかくスクリプトちゃんおめでとう!!

 

530:名無しのウマ娘ファン

いぇーい。

 

533:名無しのウマ娘ファン

いぇーいじゃないが?

 

 

──────────

 

 

「スクリプト、デビュー戦お疲れ様でした」

「いやー所でさーこのニュース見て欲しいんだけどー」

『お疲れー。いやー自分の力で勝てなかったのは心残りだが、それでもいい勉強になったぜ。それで、どのニュースかな?』

 

スクリプト(球磨川)はスペシャルウィーク、グラスワンダー、セイウンスカイと共に放課後の教室で駄弁っていた。

エルは今ここにはいない。何やら食べたいものがあったらしく、1人でさっさと店に向かってしまった。

 

ちなみに今日は全員トレーニング休みの日だ。

毎日毎日トレーニングしていたら体がぶっ壊れてしまう。

なので、1週間に一度か二度休むことにより体の調子を保つことが重要なのだ。

 

「これですよスクリプトさん!」

『どれどれ、チーム〈スピカ〉の期待の新星No.2 スクリプトロンガー、デビュー戦から完璧な作戦勝ち。…なるほどね。』

「おやあ?褒められてると言うのにあんまり嬉しそうじゃないですなあ?」

『生憎、この程度の賛辞で喜べるほど子供でもないつもりだぜ。』

「へぇ…それはそれは…」

 

(((耳も尻尾も暴れてるのに…)))

 

もはや誰が見ても分かるほどにスクリプト(球磨川)は喜んでいた。表情はいつも通りの澄まし顔を取り繕ってはいるが、残念ながらウマ娘にはウマ耳と尻尾という器官が存在するのだ。

昂った感情を隠し通す術は基本的に存在しない。

そして、スクリプト(球磨川)はそのことに気づかない。

 

『まあでも、貰えるものは貰っとくぜ。賞賛とか憧れとか、そう言う不定形のものも等しく掻っ攫っていってやるさ。』

 

(褒められ慣れてないスクリプトさん…かわいらしいです!)

(見た目相応に可愛らしいところもあるんですね〜)

(ちょろすぎるでしょスクリプト…)

 

同級生からまるで愛玩動物のように見られていることをスクリプト(球磨川)が知る術はない。そんなことに気づけるならば『負完全(マイナス)』なんてやっていないだろう。

 

3人に微笑ましい目で見られていることに、スクリプト(球磨川)はついぞ気づくことは無かった。




書き方これで合ってるんでしょうか。
さっぱりわかりません。
手探り探り状態です。

感想・評価よろしくね。


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第−9箱 Do you know?

やあ、安心感さん改めガイドラ院さんだぜ。
アンケートに関してだが、流石に裸エプロンは無しだ。
何てったって、小説が消されちまうからね。


「お前ら…なかなかやるな!」

 

「「「「おおーっ!!」」」」

 

スペシャルウィーク、ウオッカ、スカーレット、ゴルシは喜ぶ。何と4人とも立て続けにレースで勝利したのだ。あまりに圧倒的だった為、描写すらされていないが勝ったものは勝ったのだ。

 

であれば喜ぶのも当然だ。彼女らは学生生活真っ最中、いくら褒めようが褒めたりない。

褒めれば褒めるほど伸びる年頃である。

 

ちなみにスズカは喜んではいない。

彼女にとって今や勝利は当然である。

 

なぜなら、先頭だから。

 

だが喜ぶにはまだ早い。

沖野は喜ぶ4人に向け冷や水をぶっかけるが如く、冷酷…と言うほどではないがそこそこ残酷な言葉を口にする。

 

「だが、注目されているのはレース結果だけじゃない」

 

「私たちが可愛いってこと?」

 

「いやまあ、そういう意味でも注目はされてるが…今はそのことじゃない。これを見ろ」

 

そう言って沖野が取り出したのは、チーム〈スピカ〉の活躍…いや醜態を一面に掲載した新聞紙だった。見出しには「チーム〈スピカ〉、レースに勝っても…この有り様」の文字がこれでもかと強調されていた。

サイレンススズカとスクリプト(球磨川)以外はウイニングライブでとんでもない失態を晒していた。

いやまあ、ゴルシは華麗なブレイクダンスで会場を沸かせていたとは思うのだけれど、それでもまともな振り付けでは無かった。

 

「スズカとスクリプト以外4人、ライブもしっかりしろ!ウイニングライブもこなしてこそ、勝利が完璧なものになるんだ」

 

「トレーナーがレースの練習ばっかさせっからだろうが!」

 

「あんたが何とかしなさいよ、トレーナーでしょ!」

 

「まあ確かにレースに集中しすぎた俺の責任でもある。と、いう訳で…」

 

沖野としても多少の負い目はあった訳だ。

懐から取り出したのは、カラオケの料金40%OFF券。

5人からすれば意味が分からない。何故今カラオケに?

 

「カラオケでライブの練習だ。やはり厳しいレッスンでヘトヘトになるより、友達同士で楽しく歌って踊った方が頭には入りやすい。まあ人それぞれだとは思うが」

 

「あっそういえばスクリプトさんは何でここにいないんですか?」

 

スペシャルウィークは当然の疑問を口にする。

一応弁解させていただくが、別にサボっている訳ではない。あれで意外と律儀な奴なので、来ていないという事はつまり。

 

「まさか…誘ってないんですか!?!?」

 

「トレーナーさん…流石にそれは…」

 

「んな訳あるか先にカラオケ行って貰ってるだけだっつうの!スズカもスペに乗っかってんじゃねえよ!」

 

既にスペシャルウィークとスズカはなかよしだった。

悪ノリこそが青春の本質である。

 

 

──────────

 

 

カラオケに向かった一同を待ち受けていたのは、スクリプト(球磨川)ともう1人。予想だにしない人物だった。

 

「「「テイオー!?」」」

 

「スクリプトさんが呼んだんですか?」

 

『いいや僕じゃねえ。その辺のことはテイオーちゃんから直接お話があるぜ。ま、今は歌ってる途中だし少し待っててくれ。』

 

そしてテイオーは何事もなく一曲歌い切る。

踊っていたにも関わらず、その点数は98.874点。

普通に歌っていたとしても難しいであろう高得点を、何でもないように叩き出してのけた。

 

「遅いよみんな!2時間くらいスクリプトと一緒に待ってたんだけど!」

 

『おや、僕じゃあ不満だったかな?それもそうか、自分より下手な奴といても面白くないよね。分かる分かる。』

 

「いやそうじゃなくて!集合時間から2時間遅れるってありえないでしょ!マイペースすぎだよ!」

 

「いやすまん、たづなさんに怒られててな。『これ以上ふざけたライブをさせるなら打ち首にするぞ』って」

 

「クビの方がマシなことってあるんだ」

 

まあ流石に意訳ではある訳だが、要するに上からのお叱りだ。エンターテイメント性も重要ではあるが、ウマ娘は決してタレントという訳ではない。トレセン学園の生徒たるもの高潔であれという事だ。

 

「ってか、なんでテイオーがいるんだよ?」

 

「俺が呼んで」

 

『僕が連れてきた。』

 

「まあつまり、テイオーが歌とダンスの先生だ。見ただろ今の」

 

「それで、スクリプトは見本ってワケ!」

 

「テイオーが先生なのはまあ分かるけど、スクリプト先輩が見本?」

 

「いえーい!」

 

『いえーい。ピースピース。』

 

一同の頭に浮かぶのは疑問符。

テイオーがダンスが上手いのは分かったが、スクリプトが見本とは。自らを『負完全(マイナス)』と称している割に、なかなか多才ではないか。それとも晒し者という意味だろうか?

だとすると前回のウイニングライブがまともであった事に説明がつかないし…。

 

うーんうーんと唸っている皆を見てスクリプト(球磨川)は内心複雑だった。『勝負に勝てない』と皆には言っただけで『何も出来ない』と言った覚えは無かったのだが。

なんだか落ち込んできた。

 

「こいつの走りに惚れてスカウトしたんだけど…ってスクリプトどうした?なんかどんよりしてるぞ」

 

『いや、でしゃばって目立つ様な真似しなきゃよかったかなって思って。』

 

「そっ、そんな事ないですよ?私スクリプトさんのダンス見たいなぁあはは…」

 

「てかスクリプト、上手いんだからそんな卑下しなくてもいいと思うけどなー」

 

『そうかい、よーっしじゃあここはひとつ!僕が一肌脱いでダンスの見本を見せてやるぜ。』

 

「お前立ち直り早いな…」

 

先ほどのどんよりしたオーラは一瞬にして霧散、そこにいたのはいつも通りのニヤケ面を浮かべたスクリプト(球磨川)だった。

 

 

──────────

 

 

『ワイクルー。』

 

『フラ。』

 

『コサック。』

 

『ベリーダンス。』

 

『K-POP。』

 

『サンバ。』

 

『京劇。』

 

『カポエイラ。』

 

『パラパラ。』

 

『マンボ。』

 

『バレエ。』

 

『能。』

 

 

Do you know "Naatu"?("ナートゥ"をご存じか?)

 

 

「「おおー!!」」

 

「スクリプトさん凄いです!あんなにいろんな種類のダンスを…!」

 

「お前それでマイナス名乗るのは無理があんじゃね?」

 

13種類のダンスを踊り切り、凄い凄いと持て囃されるスクリプト(球磨川)であるが、その表情は平時と何ら変わらない。いつも褒められれば嬉しくなり、耳やら尻尾やらが少なからず暴れるのだが、()()()()()()()()()

 

「まあ上手いんだけどねー…さて、ここでクーイズ!スクリプトのダンス、何がダメだったでしょうか!」

 

「ええっ!?ダメな所があったんですか!?」

 

「あったよー、それもとびっきりダメなとこ!どーこだ?10…9…8…」

 

「えっえぇー!?」

 

どうやら何か致命的にダメな所があるらしい、が…スズカ以外のチーム〈スピカ〉は気付かない。実を言うとゴルシは道化を演じているだけなのだが。

 

「はいダメー!時間切れー!正解言っちゃっていい?」

 

『どうぞ、テイオー先生。好き勝手言ってくれ。』

 

「それじゃ遠慮なく。簡単に言っちゃうとね…」

 

「心が込もってない。」

 

「心が…ですか?でも上手に見えたんですけど…」

 

「うん、スクリプトのダンスは下手じゃないどころか上手いよ。でも、()()()()()()

 

『そういうこと。いくら『負完全(マイナス)』とはいえ、動きを真似するくらいならちょっと時間をかければ出来るようになる。文化祭とかでやれば盛り上がるんだろうね。』

 

要するに、スクリプト(球磨川)のダンスは見よう見まねの所謂猿真似でしかない。凡人でも3日あれば一曲分の振り付けなんて覚えられるだろう。だが、そこに心は果たして込められているのだろうか。

 

「だからね、ライブっていうのは応援してくれた人たちに、感謝の気持ちを伝えるためにある…と言っても過言ではないんじゃないかな。中央のトレセンにいる娘はきっとそう思ってるはずだよ。多かれ少なかれ」

 

自信満々に語ると言うことは、つまりそれは共通認識である。チーム〈スピカ〉は何かと自己完結させてしまう傾向にあるので、このように外部からテコ入れを行う必要があったという訳だ。

テイオーを呼んだのにはそういった意味もある。

 

「なるほど…確かにレースに勝ったからって…」

 

「気が抜けてたかも…」

 

「テイオーさん、スクリプトさん…ありがとうございます!これでまた一つ日本一に近づきました!」

 

上から順にウオッカ、スカーレット、スペシャルウィークの発言だ。テイオーとスクリプト(球磨川)は鼻高々である。ダメ出しされた奴が鼻高々というのもおかしな話ではあるのだけれど。

 

「そういえば何でテイオーさん来てくれたんですか?」

 

「カイチョー命令でね、『ウイニングライブを疎かにする者は学園の恥』だからライブ教えてあげてって!」

 

「うえぇ…」

 

当然、本当にここまで強い言葉を使ったわけではない。

のだが。「会長命令」という言葉の強さに気圧されてスペシャルウィークは萎縮した。こうなると本気で練習に取り組むしかなくなるだろう。

 

テイオーとスクリプト(球磨川)の作戦通りであった。

 

 

──────────

 

 

「テイオー、〈スピカ〉に入らねえか?ウチ来たら可愛がってやるぞ?」

 

「うーん…ちょっとゴルシに可愛がられるのは怖いからいいかな」

 

「やっべえ大失敗じゃん…やっぱ拉致か?」

 

「まあまあ、テイオーにも考えがあるさ。ウチのチームは放任主義だからテイオーにはあってるとは思うが…そう強制するもんでもない」

 

『僕とスペちゃんもいるし、これ以上高望みはできねえって顔だね。』

 

「お前こういう時だけ鋭くなるよな」

 

一同が帰路に着く頃には太陽は天辺から既に西に傾き、空はオレンジ色で影は薄紫に見える時間帯…即ち、夕方である。沖野としては是非ともテイオーが欲しい所ではあるのだが、人生万事塞翁がウマ。

良いことづくめとは行かないのが人生であると割り切っていた。大人になるというのは、人生のあらゆる事に見切りをつけて妥協する事である。高望みはしない。

 

「さーて、勝つ準備もできた事だし。スペシャルウィーク、スクリプトロンガー!三冠ウマ娘、取りに行くぞ!」

 

「ええーっ!?」

 

この男、毎度の事ながら唐突すぎる。体が大人のそれなだけで、大人ではないかもしれない。この場合、『日本一』を目指しているというのに、自分の路線も定めていないスペシャルウィークにも問題があるようにも思えるが。

 

とにかく、こんな帰りがけに突然口にするほど、三冠ウマ娘は軽いものではない。ウマ娘に限らず、この国にする人間はそのことを知っているだろう。

それはスクリプト(球磨川)も例外ではない。

 

『沖野ちゃん、盛り上がってる所悪いんだけどさ。本気で僕が三冠取れると思ってそれ言ってるのかい?だとしたら節穴だぜ、その目。』

 

だから反発するのも致し方ない。

この前は偶然『勝ち』の方から来ただけであって、自分の力では勝っていない。こいつは本当にそう思っていた。

 

「本気だ。そもそもお前は現時点で他の奴より優れ…いや、お前風に言うのであれば()()()()()()()()()()()()()()

 

『ふーん、言ってみなよ。それがどんな所だろうが僕が三冠を狙える理由にはならねえと思うけど。』

 

()()だよ。お前が抱くその劣等感は、言い換えちまえば憧れだ。前にも言ったと思うけどな。それに、知ってるかスクリプト?短所と長所ってのは表裏一体なんだぜ」

 

スクリプト(球磨川)とてそんな事は分かりきっていた。だが、分かっているのと、分かっている事を伝えられるのでは話が違ってくる。要するに、沖野は先ほどの問答はスクリプト(球磨川)が戯れているだけだという事を看破していた。

 

『あーあバレてたか。でも沖野ちゃん、確かに内心を見透かす事は得意なようだが、そんなんだといつかきっとバカを見るぜ?』

 

「バカで結構。バカやるのも好きだし、バカを見てる方が人生楽しいだろう?」

 

『そこまで言うならしょうがない。バカを見るのが好きな沖野ちゃんのために、最低最悪の愚か者(マイナス)の生き様を見せてあげようか。』

 

だからここまでは既定路線。

沖野もスクリプト(球磨川)も悪ふざけに興じただけであった。

周りから見れば、一瞬ものすごい険悪なムードだったので、止めようか迷う程度には分かりづらいものであったが。

 

「さて、話の続きだ。スペ、スクリプト、お前らは今年三冠ウマ娘に挑戦できるんだから当然してもらう」

 

「確かに…そのくらいの気概じゃないと『日本一』になれませんもんね」

 

「そうだ。皐月賞、日本ダービー、菊花賞。この三冠制覇は『日本一のウマ娘』への最短ルートだ。当然、厳しい戦いにはなるが…やるだろ?」

 

「はい!自分の夢のためにも、お母ちゃん達のためにも!」

 

スペシャルウィークは既に固まっている。体が、ではなく決意が。なので、躊躇なんてしない。目標ははっきりと定まっているからだ。

 

「というわけで、スペシャルウィークは弥生賞。スクリプトロンガーはスプリングステークスに出走してもらう。どちらもG2、三着以上で皐月賞の優先出走権が得られる。まずはそこから、勝ちに行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

『はーい。』

 

スペシャルウィークは気合十分とばかりに威勢のいい返事をする。気合を入れるのには少々早すぎるが…それでもやる気があるのはいい事だ。

一方スクリプト(球磨川)はといえばいつものようにやる気があるのか無いのか分からない返事だ。しかし、これでやる事はやるのだからよく分からない。

 

スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)は応援を受けて、ますますやる気になった。応援もそれを受けて張り切るのも、何度も言うように早すぎるのだが。

 

 

──────────

 

 

「スペちゃん、何だか調子が良さそうですね〜?」

 

「はい!何だか最近寝つきが良くて!」

 

「それは良いですね〜、健康にもお肌にも良さそうで」

 

教室内で言葉を交わすグラスとスペシャルウィーク。

レースで緊張して眠れないなどということも無く、どうやら快眠できているようだ。とても良い、非常に良い。

この快眠が同室のスズカと、お節介焼きのスクリプト(球磨川)によるマネジメントが原因である事には、今のところ気づいていないようである。

照れ隠しが下手なのだ、2人とも。

 

「ここまで2連勝…その調子でできていればきっと問題ないですね。緊張せずに、リラックスして勝負に臨めば良いと思いますよ?」

 

「うん、そうしてみる!…っと、所でその足、もしかして…」

 

「え?ああ、ちょっと怪我をしてしまって〜。怪我さえしていなければ、弥生賞で皆と戦ったんでしょうけどね〜」

 

「そうなんだ…早く良くなってね!」

 

「はい♪」

 

スペシャルウィーク(主人公)といえど、気付かない。

スペシャルウィーク(主人公)だから、気付けない。

一体、目の前にいる大和撫子然としたその少女が、どれだけの苦しみを心に抱き、それをひた隠しているか。

『憧憬』というより、『羨望』と呼ぶのが正しいであろうその感情は、今尚グラスワンダーの身体の内を駆け回っている。その感情が解放された時、どうなってしまうのか。

今は誰にも分からない。本人でさえも。

 

「スペちゃんは調子良さそうだね〜」

 

「あっ、セイウンスカイさん!起きてたんですね…」

 

「うーん、さっき起きたばっかだよ〜?何だかここ最近、調子が悪くってね〜。次も何とかなると良いけどなあ」

 

(ブラフ)である。

彼女が得意とする戦法の一つに、盤外戦術というものがある。この場合は、敢えて調子が悪そうに見せる事で、本番で油断を誘うと言う作戦だ。

この狡賢さは、勝負事において非常に重要である。

 

だが、戦績は嘘を吐くことができない。

 

「またまた〜、セイウンスカイさん2連勝中ですよね?きっと気づいてないだけですっごく調子はいいと思いますよ?ほらー、元気が空回り?みたいな感じで!」

 

「なるほどねえ、その考え方いいかもな〜」

 

セイウンスカイは取り繕う。

考える事こそが彼女の武器だからだ。

彼女は自分の脳内でスペシャルウィークに対する評価を改めた。危険度4から危険度5に引き上げるくらいの感覚で。

 

(前と考え方が違う…入れ知恵された、と言うより中身が丸ごと入れ替わった感じに近いか…スクリプトの影響っぽいな、成程中々厄介…)

 

「それにキングヘイローさんも3連勝中だし…油断なんて出来ないけれど、平常心でいられるようには心がけたいです!」

 

「いい所信表明だね〜」

 

(ちゃんと相手の戦績まで調べ上げてる、意外とデータも重視するタイプか…それにしても、私1人に注目してくれたら足の動かし方とかでやりようはいくらでもあったけど…こうなると揺さぶりも効果薄そうだなあ)

 

この瞬間、セイウンスカイは最重要の標的をキングヘイローではなく、スペシャルウィークに定めた。ここでもやはり、スペシャルウィークに知る由は無いのだけれど。

 

 

──────────

 

 

「さて、おさらいといこう。スペが出走する弥生賞は3月8日に中山レース場で行われる芝2,000m右回り、G2のレースだ」

 

「はい、それで、皐月賞と条件は全く同じ…ですよね?」

 

「そうだ。ちゃんと覚えているようで何より」

 

チーム〈スピカ〉の部室で、沖野とスペシャルウィークはミーティングを行なっていた。三冠への足掛かりとなるレースで作戦をミスって計画が御破算など笑い話にもならない。だから、こうして何度もおさらいをするのだ。

 

「じゃあ問題だ。このレース、最も重要で、最も危険な場所はどこだ?」

 

「ラスト200mの…えっと、妖刀心渡(こころわたり)の坂です!」

 

「違う違う心臓破りの坂だっつーの!『心』しか合ってねえしそんなカッコいい名前でもねえよ!」

 

スペシャルウィークからしても何でそんなカッコいい名前がいきなり出てきたのか分からない。なんとなく響きが似ている言葉を脳内で手繰り寄せたら刀になってしまっただけなのだ。

 

「とにかく!ここまで快調に飛ばしても坂で失速するヤツは多い。体力勝負になるだろうし、そもそも今までで最長の2,000mだ。こう言うと何だが…結局は根性勝負になるだろうな」

 

「根性ならありますよ!毎朝螺子で刺されても最近は声ひとつ上げなくなりました!隣の部屋に迷惑なので!」

 

「そんなもんに慣れんな!スクリプトも『領域』無駄遣いするんじゃねえ!」

 

『起きないスペちゃんが悪いんだよ。僕は悪くない。』

 

実は初めから部室にいたのだ。

ちなみに、ゴルシからもらったルービックキューブで遊んでいた。なぜか9色だったが。

 

「じゃあそれはもういいとして…スペ。今回警戒すべきが誰なのか…分かってるな?」

 

「はい。多分…セイウンスカイさん…だと思います」

 

「今度は正解だ。中々やるぜ、あいつは。きっと今も俺たちを出し抜く策を考えて実践し続けている。欺く事にかけては一級品だ」

 

「分かりました…要警戒ですね!」

 

覚悟を決めたスペシャルウィークに、抜かりはない。

戦績を調べたのも誰を警戒すべきか考えたのも彼女自身だ。沖野としてはもう少し教え子の手助けをしたかったのだが…そこは放任主義、やりたいようにやらせたようであった。

 

「はい次!スクリプト!」

 

『はいはい。やればいいんでしょ?もう、沖野ちゃんったら心配性だねえ。もうこれでミーティング何回目?』

 

「ミーティングってのはやればやる程強度が上がるんだよ」

 

『あれっ今って刀の話してる?』

 

していない。

 

「スクリプトが出走するスプリングステークスは3月22日に中山レース場で行われる芝1,800m右回り、こちらもG2のレースだ」

 

『まあ僕は既に阪神の2,000mを走り切っているし、それなら殆ど同じ条件のスプリングステークスを走った方がいいって判断だよね。』

 

「そうだ。とはいえ前述の心臓破りの坂からのスタートになるからかなりパワーが必要になる」

 

『第1コーナーまでの距離は200mと短い。どうしたって内枠が有利気味になる…があまりハイペースな『逃げ』をする娘はいない…で合ってるかな?』

 

「その通り。前半はペースが上がりづらい代わりに後半はハイペース気味になる…しかし大半の娘は1回目の坂で体力がかなり削られる。そこで…」

 

『僕の『過負荷(マイナス)』の出番ってわけだ。幸い、周りにバレないようにスタミナを回復することができるし、スタート直後が坂になっている分僕は有利にレースに臨むことが出来る。』

 

「そういうことだ。要するに()()()()()()()()()()()()()()()()()。お前は勝ちとか負けとか考えず、回復したい時に『領域』を使って、最終直線で本気で走ればいい。お前1人の力で勝つ訳ではなくても、()()()()()()。これなら納得できるだろう?」

 

『ああ、そうだね。なにせ僕は勝敗を意識すると、体がガチガチに固まっちまって全然動けなくなっちまうからね。胸を張って『勝った』とは口が裂けても言えねえが…少なくとも『負けではない』のなら、やはりこの案が1番いいかもね。』

 

「──よし!ミーティング終わり!」

 

「えぇっ!?」

 

阿吽の呼吸で()()()()をさっさと終わらせてしまった2人にスペシャルウィークは驚愕する。

いやだって、私の時はあんなに丁寧に時間をかけていたというのに。まるで流れ作業みたいではないか。

 

『スペちゃんどうしたんだい?そんなに驚いちゃって。』

 

「あんなに高速で終わるミーティングは果たしてミーティングと呼べるんですか!?」

 

「まあ…お互い分かりきっててやってるしな。スクリプトは一回話したこと忘れないし、そこは個人に合わせたやり方が1番いい。スペも嫌だろ?10分間で全部詰め込んでそれを何回も何回も暗唱するの」

 

「…それは…確かに嫌ですね」

 

『あくまで僕は僕、スペちゃんはスペちゃんだ。だから走り方もミーティングの仕方も人それぞれさ。』

 

「なるほど…確かにそうですね」

 

スペシャルウィークは納得した。

何だか最近納得尽くめのような気がする。

それだけ学んでいることも多いということだろうか、と思いつつ、スクリプト(球磨川)と共にトレーニングへと向かった。

 

 

──────────

 

 

そして来たる3月8日。

弥生賞が、始まる。




物語シリーズが続くと聞いてワクワクしながら描きました。テンションがおかしい状態で書いたので文章もおかしいかもしれません。
誤字脱字に気づいたら是非教えていただけると幸いです。泣きはしませんが喜びます。

感想・評価よろしくね。


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第−10箱 狩人たるもの

総お気に入り数が743を超えました。
ありがとうございます。
次は24014を目指してみましょうか。
なんて。それこそ──戯言だけどね。


さて。

ここで一つ、謝らなければならない事がある。

 

弥生賞当日まで、スペシャルウィークは様々なトレーニングを積んだ。チームメイトに教えを乞い、トレーナーと意見の擦り合わせをし、自分なりに最善だと思うトレーニングメニューに励んだ。

 

そこまでならいい。寧ろとてもいい。自分なりに考えて動く事は練習効率の上昇にも繋がることだ。

 

よくなかった事は、教えを乞うた中にスクリプト(球磨川)もいた事、そして僕もその光景を面白がって、特にそれを制止しなかった事だろうか。

 

結果、スペシャルウィークが新しく武器を手にしてしまった。

 

ここは敢えて、球磨川くんの作法に則り、謝罪紛いのことをさせてもらおうかと思う。

 

何が言いてえかっつーと、つまり。

 

 

僕は悪くない。

 

 

──────────

 

 

《さあ、デビュー三連勝は伊達じゃない!1番人気のキングヘイローがゲートに入ります!》

 

「キングに相応しい走りを見せて差し上げましょう」

 

観客たちが、大きな声援を上げる。

それもそのはず、今回のレース、弥生賞はグレードがG2、それもクラシック三冠への足掛かり、もとい足切りとなるレースである。

応援に自然と力が入るのも当然だろう。

 

当然、気合が入るのはウマ娘側も同じことである。

キングヘイローは歓声を一身に浴び、気合を入れ直した。

全ては、自らの誇りを知らしめるため。

 

《そして3番人気、セイウンスカイがゲートへ!》

 

「う〜ん、どうしよっかな〜…」

 

いつもは飄々としていて内面が掴みづらいセイウンスカイが迷いを表に出している。彼女にしては本当に珍しい、感情コントロールのミスであろう。これならばあの策士を出し抜けるかもしれない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

この程度で策士を出し抜けると思うなかれ。

猫も杓子も、策士に嵌められている事には気づかない。

絶対に気づかせてなどやらない。

全ては、皆をあっと驚かせるため。

 

《そして大外13番、2番人気のスペシャルウィークが最後にゲートイン!》

 

「よし。今日も、勝ちに行く」

 

スペシャルウィークは今日も突っ走る。

自分を東京に送り出してくれた母のため。

自分に合った練習をさせてくれた沖野のため。

レース前夜に応援してくれたスズカのため。

激励してくれたウオッカとスカーレットのため。

ダンスレッスンをしてくれたテイオーのため。

慰めてくれたスクリプト(球磨川)のため。

 

それら全てを肩に乗せて勝ちに行く。

全ては、自分の夢のため。

 

スペシャルウィークは自分に向けられた歓声すらも自分の力に変えてゆく。それをみすみす見逃すセイウンスカイではない。

すぐさま茶々を入れた。

 

「いや〜スペちゃんモテモテだねぇ」

 

「かっ、揶揄わないでくださいよー…」

 

「2番人気なんて、セイちゃん嫉妬しちゃうな〜。いやでもやっぱり注目されるのは窮屈そうだなぁ」

 

「そうですね…私もまだ注目されるのには慣れないです…時々田舎が恋しくなったり」

 

「分かる〜。私ものんびり釣りとかしたくなるんだよね〜。というわけであんまり急ぐのは性に合わないし…自分なりのペースでゆるりと行か」

 

セイウンスカイの言葉は『ガコンッ』という無機質な音によって遮られる。言うまでもなく、ゲートが開いた音である。セイウンスカイはまず、会話し続ける事による出遅れを狙ったわけだ。

 

それは他のウマ娘にも充分効果があったようで、多くのウマ娘は集中を削がれ出遅れたようであった。

 

《スタートしました、G2弥生賞…おっと大勢出遅れたか!?》

 

「よしっ、決まった…」

 

セイウンスカイはほくそ笑む。

まさかここまで上手く決まるとは。スペシャルウィーク以外にもキングヘイローを含む『その他大勢』が巻き込まれたようだ。

 

おかげで皐月賞では警戒されるだろうが…それはそれで幾らでもやりようはある。あとはとにかく、先頭をキープしてレースメイクするだけ。

 

ああ、これから先こんなにも上手くいくレースがあるだろうか?今だってほら、私の耳には11人分のもがくような足音と、『してやられた!』という風な息遣いが聞こえてきている。だから他人を策に嵌めるのはやめられない…。

 

 

──1()1()()()

いやだって、それはおかしいだろう。

今回の弥生賞は13人立てのレースではないか。

まさか出走直後に転んで競走中止?

いやいや、それならアナウンスが入っている頃だろう。

ならば、何故…と思い立った所で、セイウンスカイの思考は遮られる。足音や息遣いではなく、明確な声によって。

 

 

「行かせませんよ?」

 

 

「…生憎、競走相手は募集してないんだけどね〜」

 

「まあそう言わずに」

 

セイウンスカイは動揺をひた隠す。

大丈夫だ、ここまでは想定していた。

いや、嘘だ。()()()()()()()()()

 

レース中にも関わらず、スペシャルウィークは体の力を抜いていたし、話す余裕まであるし、なにより息が荒くなく未だ平常の呼吸だ。無茶をして付いてきたわけではない。

 

つまり、スペシャルウィークはさながら昼休みに友人と会話を楽しむかのように、平常心でレースに臨んでいたのだ。

 

 

──────────

 

 

「よし、まずは第一段階突破だ」

 

『へえ、第一段階ね。一とか二とか三とか、そうやって数字で表す量で済めばいいけど。』

 

「極論、一体セイウンスカイがどこまで考えてやっているのかなんて、セイウンスカイ本人にしか分からない。空は気紛れだ、晴れてると思ってたら豪雨に降られるなんてザラだからな」

 

『そのくせ掴みどころがある訳でもない。いやあ中々どうして厄介じゃないか。策を弄して浪費して、その癖出すのは有効打。一つ一つが無駄打ちじゃねえってのは充分脅威だぜ。』

 

沖野とスクリプト(球磨川)は分析を進める。

当然といえば当然だ。このまま予定通りに進めば皐月賞ではセイウンスカイとどうしてもぶち当たる。

まるでキングヘイローはお呼びでは無いかのような考えだが、そう言う意図がある訳ではない。

セイウンスカイ以外に意識を向ける余裕が無いだけだ。

 

「スペには『とにかくセイウンスカイの好きにさせるな』とは言ったが…あそこまで上手いことやるとはな…スクリプトが教えたのか?」

 

『いいや、僕が教えたのは軽い威圧の仕方だけだぜ。それ以外のことを教えちまうと本格的に勝ちの目が無くなっちまうからさ。』

 

「そりゃあそうか…と、なると()()は独自に編み出した…いや、あれもしかして偶然か?」

 

『まあ多少は狙ってやってるとは思うけど。でも結構パニクってるとも思うなあ。』

 

「ああ…ゲートが開く音がしたから反射で飛び出したらスタートが上手くいって…それでセイウンスカイの隣につけちゃったし、ついノリで話しかけたのか」

 

パニクっているとはいえ、普通ならレース中に話しかけたりはしないのだが、そこは『異常(アブノーマル)』なので『普通(ノーマル)』を説くのはお門違いだろう。

 

先ほどの言葉は訂正しよう。

スペシャルウィークはパニクってつい走り出してしまっただけで、平常心からは程遠かった。会話を楽しむとか、もってのほかであった。

 

 

──────────

 

 

《セイウンスカイ、ぐんぐんと進む!現在2番手のスペシャルウィークとは3馬身ほどの差ができているぞ!》

 

《セイウンスカイとしては少々苦しい展開でしょうね。このリードをキープできるといいのですが》

 

(随分と簡単に言ってくれるじゃん…!)

 

実況解説の言う通り、現在の状況はセイウンスカイにとって喜ばしいものではない。無論、このまま行けば勝ち目は着々と減っていくだろう。

 

だからここで仕掛ける。

罠に掛けて、スペシャルウィークを釣り上げる。

 

セイウンスカイは後ろから追走してくるキングヘイローの方をちらりと一瞥し、わざと薄ら笑いを浮かべてみせた。2番手のスペシャルウィークからすればたまったものではない。前のセイウンスカイを最大限邪魔しながら、後ろからやってくるキングヘイローにも気を配らねばならなくなった。

 

キングヘイローとしても、あんな挑発するような笑みを向けられては、応えないわけには行かない。王が挑戦を受けない筈がない。

 

(スカイさん…いいでしょう、受けて立つわ!)

 

後ろから一気にキングが上がってくる。つける場所はスペシャルウィークのすぐ後ろ。前からはセイウンスカイの威圧が飛んでくる。スペシャルウィークは威圧によって板挟みされる結果となった。

 

こうして再び、盤上はセイウンスカイによって、たったの一手で最悪の形に整えられた。とことんまでスペシャルウィークのスタミナを削る布陣である。

 

《おっとこれは、スペシャルウィーク苦しそうだ!前からも後ろからもマークを受けている!》

 

《なんとか脱出したいですね。非常に不利な状況に陥りました》

 

敵の敵は味方。

この時、セイウンスカイとキングヘイローは互いにスペシャルウィークを排除しようと動いていた。そうしてそのままレースは進む。その間スペシャルウィークは不気味なほどに、何もアクションを起こさなかった。

 

再びレースが大きく動いたのは、やはり第四コーナー付近だった。初めに動いたのは、意外な事にキングヘイローだった。息が切れてきたスペシャルウィークに見切りをつけ、標的をセイウンスカイへと定めたのだ。

スペシャルウィークを追い越し、スパートをかけてセイウンスカイを追い詰める。この時、スペシャルウィークの顔は確認しなかった。

 

次に動いたのはセイウンスカイだった。

直線で後ろからキングヘイローが突っ込んでくる事は初めから分かっていた。だから()()()()()()()()()()()()()()()()。直線で使う脚を残すために。

もちろん罠だとバレないように、敢えて腕の振りを大きく見せて、躍動感を演出していた。周りから見た時と比べ、その実速度はかなり遅いものだった。

 

キングヘイローも、セイウンスカイも、どちらかが一着でどちらかが二着だと確信していた。確信してはいたのだけれど、確認はしなかったのだ。だから、このレース唯一の失敗はここであった。

 

まあ、過ぎたことに今更『ああすれば良かった』とか『ああしておけば』とか言ったとしても、所詮はたらればでしかないわけだけれど。

 

さて、ここで大きく話は変わるのだが。

『死亡確認』というものは、医療現場において確実に行わなければならない。仮にこれを怠って、生きているのに『死んだ』と判定を下したとしよう。実は生きていたその死体が、目覚めた時には炎の中だなんて、到底笑い話にすらできたものではない。

 

つまりこの場合、キングヘイローもセイウンスカイも、スペシャルウィークは『死んだ』と考え、その存在を認識の外へと置いたのだ。生物というのは意識の外からの衝撃にはとことん弱い。だから、ここまでの話を短くまとめるとするならば。

 

 

2人とも、スペシャルウィークを舐めていた。

 

 

敗因があるとすれば、やはりただそれだけ。

たった1行で表せるその心理がいけなかった。

 

ここで、漸くスペシャルウィークが動き出す。

第四コーナーも終わりに近づき、そろそろ直線だといった所で、スペシャルウィークは荒げたフリをした息を潜めた。キングもセイウンスカイも『マズい!』と思っただろうがもう遅い。

失敗を取り返すには些か遅すぎた。

 

 

そして、狩人が如き威圧が放たれた。

 

 

──────────

 

 

「うっ!?何よこの圧迫感!?」

 

「スペ先輩の威圧かこれ!?」

 

「スクリプトお前何教えたんだ今すぐ吐けぇ!!」

 

『前の人を威圧する方法教えてって言われたからさ。走ってる奴らのことを『螺子で叩き起こしてきた時の僕』だと考えてみてよっていったら、うん。この通りさ。』

 

「なんてことしてくれてんだお前ェ!!」

 

いくら温厚なスペシャルウィークといえど、流石に毎朝螺子で刺されれば恨みくらい湧く。このとんでもない威圧はある意味スクリプト(球磨川)とスズカの毎朝の特訓の賜物だった。

 

それはそれとして、スズカはこれからスペシャルウィークを起こす時は優しくすると決めた。

 

会場を見ると、特に騒ぎにはなっていなかった。それでも何人かは狼狽えていたが。

つまり、スペシャルウィークと普段から関わっているからこそ、スペシャルウィークに注視していたからこそ分かる変化だったということだ。

 

「てゆーかさ、スクリプト先輩」

 

『何かな?ウオッカちゃん。』

 

「これってスカイ先輩とキング先輩に向けられてる威圧なんですよね?」

 

『まあ状況的にそうだろうね。それがどうかしたのかい?』

 

「いや、別にオレたちに向いてる訳じゃない威圧でこれって、じゃあ直接威圧されてるあの2人は一体どんな感じなんだろうって思って」

 

『ああ、それなら簡単なことさ。』

 

 

『きっと今頃、後悔してるだろうね。』

 

 

──────────

 

 

(間違えた掛け違えた読み違えた!!こんな威圧っ、練習を盗み見た時もしてなかったのに!!)

 

(この程度でっ…諦めるわけには行かないのに…!脚が残ってない…威圧だけで削られたっていうの!?)

 

セイウンスカイもキングヘイローも逃げるように逃げる。

最終直線でこの狩人の相手をしたせいで自滅とか、そんなの認められない。

 

認められないから、また間違える。

少なくとも今、背後から放たれる威圧を無視さえできれば、まだスペシャルウィークを抑えることはできただろう。今差すのではなく、残り50mでスペシャルウィークをほんの少し差せば、十分逆転は狙えただろう。仮定を語っても、既にどうしようもない所まで足を進めてしまった訳だが。

 

キングヘイローの背後から聞こえたのは爆発音。

いや、厳密には爆発音ではない。スペシャルウィークがスパートを開始した音だ。その音はセイウンスカイの耳にも届いた。

 

(来たっ、スパート…!坂の前でスパートをかけてくれたのならまだやりようはある…!)

 

セイウンスカイは敢えて歩幅を乱して坂を登る。坂に刻まれた足跡で距離感を乱し、呼吸を乱し、歩調を乱し、スタミナを浪費させスパートの速度を落とす作戦()()()()()()()

 

次の瞬間セイウンスカイの耳に聞こえた音は、別にスペシャルウィークが坂で苦しみ喘ぐ声とか、必死でスパートをかける時の雄叫びとか、思い切り芝を踏み込む足音とか、そういうものではなかった。

 

音が、()()()()()()()()のだ。

まるで、卵の殻にヒビが入るかのような、ピシリという音が。確かに聞こえた気がした。

 

そして、後悔した。

時が止まったかのように錯覚した。

自分が前を向いているのか後ろを向いているのか。それすら不明瞭だったが、幸いな事に、不幸な事に自分を追いかけてくる強烈な存在感がそこにある。ならば逃げなければ。逃げ切らねばなるまい、息が切れようとも。

 

セイウンスカイは全力で逃げるため、今一度肺に酸素を取り入れる。その時、脚は止まらなかった。

止まったのはきっと、息の根だ。

 

 

「どいて…!」

 

 

さっきまでキングヘイローの少し前くらいにいただろとかそういうのは今は関係ない。単にセイウンスカイが考えるより早く隣に並んできただけ。セイウンスカイからしてみれば瞬間移動でもしたかのように見えただろうが。

 

それもそのはず。いくら策士といえど、『領域』なんて考慮して策は練れない。だって彼女はまだ、『領域』の存在なんて知らないのだから。スペシャルウィークが『レース終盤に前の方で相手を抜くと勢いに乗って速度が上がりさらに加速力がちょっと上がる』なんて分かる筈もない。

 

それに加えてスペシャルウィークが放つ威圧がある。

常日頃飄々としている彼女のことだから、徐々に近づいてくるならまだ受け流すことも出来ただろう。

生憎現実はそうは行かない。どれだけ飄々とした態度であろうとも、気づいたら隣に飢えた羆がいたとか、到底生きた心地はしないだろう。

 

要するに、セイウンスカイはスタミナも気勢もすっかり削がれてしまったのだ。

 

削がれて、刈られて、狩られた。

 

『策士策に溺れる』というより、『ミイラ取りがミイラになる』と言った方が正しかった。

スタミナを削ってやるつもりが、削られたのは自分自身だったなんて、冗談じゃない。お笑い種と言うまでもない。精々苦笑いがいい所だろう。

 

(…はっ!?こんなこと考えてる場合じゃない…!)

 

スペシャルウィークが自分の隣にいる事に気がついてから、一拍遅れてセイウンスカイもスパートをかける、が。十全な末脚相手に、付け焼き刃でどうこうできる筈もなく。

気づいた時にはスペシャルウィークは自分よりも2バ身ほど前にいたし、気づいた時にはゴール板を踏んでいた。

 

言葉通りの茫然自失。

自分がどの辺りを走っていたのかも分からず、悪戯にラスト200メートルを無駄にしてしまった。

 

一着、スペシャルウィーク。2番手とは2バ身の差をつけての()()だった。

 

──────────

 

レースを終えたセイウンスカイは、皐月賞に向けてスペシャルウィークを観察しようとしたところで思い至る。今尚膝に手をついているかの猛獣は、息も絶え絶えで、到底余裕があるようには見受けられないではないか。と、そこでセイウンスカイは気づいたのだった。

 

策に嵌められたのは、自分のほうであったと。

 

(今になって考えれば、出走直後だけ私に…『逃げ』のウマ娘にくっついて焦らせるのもセオリー通り。その後に敢えて抑えて、なおかつ適度に私に存在を意識させて集中力を削ぐのもセオリー通り。差したと思って油断した所で差し返して気勢を削ぐのもセオリー通り…威圧でスタミナがギリギリなのを隠すのもある意味セオリー通り…)

 

スペシャルウィークの走りは場面ごとにみれば、なんてこと無い平凡な走り。平凡でなかった、()()でなかった所をあげるとするならば…。

 

「スパートの時…あのヒビ割れの音か…」

 

あれだけがどうにも分からない。セイウンスカイの理解の外にある。が、しかし。一度してやられたものを、対策しないなんてことはありえない。

 

考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考える。そうやってたっぷり熟考して、罠に掛け、策に嵌め、最後には釣り上げる。釣りというのは、相手が大物であればあるほど燃えるものだ。

 

「スペシャルウィーク…次は私が勝つよ」

 

気合は十分。

この場にいるウマ娘の中で、最も早く皐月賞へと心を切り替えたのはセイウンスカイだった。

 

 

──────────

 

 

『お疲れ、スペちゃん。いやあ良かったぜ!威圧も上手く決まったようだしね。さすがだぜ、『狩人』さん。』

 

「本当に良かったわよ。こっちまでピリピリしちゃったもの」

 

「スクリプトさん、スズカさん、ありがとうございます!で、えーっと、その…『狩人』って何ですか…?」

 

スペシャルウィークはやはり一目散にスクリプト(球磨川)とスズカの下へやってくる。褒めてくれたのは素直に嬉しいのだが…聞き慣れない呼び方でスクリプト(球磨川)に呼ばれ、困惑していた。

 

『おや、実況を聞いてなかったのかい?それはそれでいいと思うぜ、よっぽどレースに集中してたって事だろうし。じゃあスズカちゃん、任せたよ。』

 

「えぇ…私?まあいいわ…スペちゃんの威圧、やけに上手く決まったでしょう?」

 

「はい!なんだかいつもより効き目が強かったような気がします!」

 

「コーナーの方の威圧じゃなくて、スパートの時の威圧が強過ぎて、観客席まで届いてたのよ」

 

「……はい?」

 

スペシャルウィークからすればまるで意味が分からない。

確かに威圧を教わったのでやってはみたものの、その威圧が観客席まで届く?ちょっと理解が追いつかない。

 

「それでね、実況解説も、観客もみんな盛り上がっちゃって…それで徐々に他のウマ娘を追い詰めるその姿はまるで『狩人』だって…ウマッターとかちょっとした騒ぎになってるのよ…はい、これ」

 

スズカが見せてきたウマッターには「中山の『狩人』スペシャルウィーク」の文字があった。それも大量に。レースが終わった直後の書き込み数とはどうしても思えなかった。

 

「あのー、これ…どうにかなりませんかね…」

 

「どうにもならないわ…私も『先頭狂』とか『先頭民族』とか呼ばれているもの」

 

『僕も『脚本家』とか『風』とか呼ばれてたなあ。そこまでの器では無いんだけどね。』

 

「ということで、スペちゃん。諦めましょう?」

 

「はい……」

 

これも強いウマ娘の宿命である。レースで勝ち続ければいずれこうなる、というのは分かってはいたが…まさかまさか、『狩人』なんて物騒な異名がつくとは予想できなかった。

 

ちなみにスクリプト(球磨川)は『風』なんて呼ばれ方はしていない。中身の伴わない虚言である。

 

つけられたくもない二つ名をつけられたスペシャルウィークは、半ばやけくそ気味にウイニングライブで歌って踊り、ストレスを発散したのだった。

ちなみに、棒立ちはせずに済んだ。




あいも変わらずレース描写が下手です。
レースだけ僕の代わりに誰か書いて欲しいくらいです。
上手い人が書けば、きっとこの作品も進化すると思うんですよね。
なんて。それこそ──傑作だぜ。

感想・評価よろしくね。


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第−11箱 衝撃は二度刺す

UA30,000超えました。ありがとうございます。
って事でスクリプトロンガーを描いてみようかと思いましたが、化け物が出来上がってしまったので諦めました。絵心さえあれば…。
物好きな人がいれば描いてみてください。
僕が喜びます。


『さてさて。スプリングステークス当日になったわけだけど、何か僕に言っておくことはあるかい?』

 

「手の内を明かし切るな。それだけだ」

 

『そうかい、じゃ、行ってくるぜ。』

 

スペシャルウィークが弥生賞で勝利を飾ってから今日まで、色々あった。テイオーがいきなりチーム〈スピカ〉に加入したり……いや、大きな動きはそれだけだった。

とにかく、スクリプト(球磨川)にしては珍しく堅実にトレーニングを積んで来た。本当に珍しいことに。

 

彼女(或いは彼)としても何か思う所があったのだろうか、と邪推しそうになるけれど、決して深い理由はない。

あるのは浅ましい欲望だけである。

 

『そうそう、言い忘れていたことがあったんだけど。』

 

「なんだ?今のうちに言っておけよ」

 

『打ち上げは焼肉がいいなあ。』

 

「……そういうのは勝ってから言え」

 

 

──────────

 

 

端折って話を進めるとしよう。

あの後スクリプト(球磨川)は、パドックの上から下に向かって

『あれ?知らねえ奴らばっかり応援に来てるなあ。』

と、()()心を折った。

スクリプト(球磨川)がファンの顔など、覚える筈もなかった。

 

次に地下バ道で、スペシャルウィークとスズカから激励を受けた。もっとも、その内容は激励というより、脅しに近いものだったが。

さしものスクリプト(球磨川)も、「やり過ぎたら焼肉ナシ」と言われれば、渋々とはいえど従わざるを得なかった。

 

そして返しウマ。

今回は全力疾走はせず、控えめなランニング程度に留めた。控えめとはいってもその速度はヒトの全力疾走と大差なかったが。

 

ふう。

回想、終わり。

では続きをどうぞ。

 

 

──────────

 

 

『今回は15人立のレースで僕は8枠15番となったのでこれ見よがしに他のウマ娘の調子をジロジロと見ているわけだが…うーん、大したことねえな。これなら自力で勝てるかも。』

 

ゲートに入る前から他のウマ娘の敵意を一身に集めるこのウマ娘こそ、『負完全(マイナス)』の中の『負完全(マイナス)』と呼ぶに相応しいスクリプトロンガー(球磨川禊)である。

今日も今日とて、他人のヘイトを集めることにご執心であった。

 

『さすがはG2、この程度の挑発に乗る奴もいねえか。散々喋りまくって集中を乱そうとも思ったけど、この調子じゃあ盤外戦術は使えそうにないなあ。いやあお手上げだぜ全く。』

 

そう言って両手を上に挙げながらヘラヘラと笑っているスクリプト(球磨川)の態度は、他の娘からすればさぞ腹が立つものだっただろう。事実、耳を絞っている娘も数人いた。

 

ここで当然疑問が生じるだろう。

なぜ他の娘たちはスクリプト(球磨川)をスルーし続けているのか。し続けられるのか。

 

答えは単純に、人伝でスクリプト(球磨川)の戦術を聞いたからだ。

スクリプト(球磨川)が何をしても相手にするな。しようものなら勝ち負け関係なく、全てが台無しになって終わるから。

 

たった一度、デビュー戦で色々やらかしただけで、かなりの危険人物としてマークされてしまった。

まあ、それはレースの中の話だけで、学校生活では良好な友人関係に恵まれているし、明確に避けられるとか、イジメられるとかそういうのは無かったようだけれど。

 

『それじゃあ、番外戦術と行こう。もっとも、これはロケットスタートを決めない事には始まらないわけだが…ま、気楽に行こう。』

 

もう周りの空気は極寒だ。

射殺さんばかりの視線がスクリプト(球磨川)に集中していたがそんな物はどこ吹く風、見当違いの方向に流されてしまった。

 

伊達に『風』とは呼ばれていない。

『風』とは呼ばれていないけれど。

 

戯言だ。

なんちゃって。

 

 

──────────

 

 

所変わって、ゲートの中である。

やはり他のウマ娘は多少そわそわしていて落ち着いていなかったけれど、スクリプト(球磨川)だけは違う。

持ち前の呑気さが十分発揮され、ポケットに手を突っ込みながら口笛なんて吹いていた。

 

勿論他のウマ娘からすればたまった物ではない。

やはりスクリプト(球磨川)が邪魔だ。いっそレースからいなくなってしまえばいいのに、とさえ思われている。

 

徐々に集中力は削がれている、が…G2に出走するウマ娘の集中はこの程度で途切れるほどやわでもない。

そろそろ発走だ。大外の邪魔者は徹底的に無視する。

 

ここで、()()()()()()()()()()()()()のが良くなかったのかもしれない。完全に意識から消し去れとか、どだい無理な話ではあるだろうけど。

 

そんな考えも、ゲートが開く無機質な音によって中断される。スクリプト(球磨川)はロケットスタートを決めるとか言っていたし、絶対にハナは取らせないと、全員が最高のスタートを決めた。綺麗な横一線のスタートであった。

 

()()()()()()()1()4()()()()()()()()

 

飛び出した14人の目に飛び込んできたのは、係員が旗を振る姿。即ち『カンパイ』。レースはやり直しである。

 

一体なぜ?と14人全員が考える。

200m程度しか走っていなかったので、振り返れば原因はすぐにはっきり分かった。

 

8枠15番、スクリプトロンガー(球磨川禊)が、開かなかったゲートに激突し、顔を抑えて蹲っていたからだった。

 

 

──────────

 

 

「スクリプト…俺は本当は、お前に走って欲しくない」

 

『まったく、心配し過ぎだぜ。ちょーっと鼻をぶつけたくらいで大袈裟だって。』

 

すぐに走ってきた沖野とスクリプト(球磨川)は話す。

当然、トレーナーとしては頭を強打した奴を走らせるなんてしたくない。なんとしても、スクリプト(球磨川)には出走を取りやめて欲しいのだが…。

 

『僕は意識消失もしていなければ立ちくらみを起こすでもないし、受け答えが遅いとか記憶が飛んでいるとかもないんだぜ?脳震盪の心配をしているならそれこそご無用。勝てるかどうかの心配をして欲しいくらいだぜ。』

 

と言われてしまった。

確かにバイタルチェックでは受け答えもはっきりしていたし、スキップも普通にできていたし、自分の名前も住んでいる寮の名前もチームメンバーも覚えていたし、対戦相手が何人で今日が何日かまで分かっていた。

 

つまりは…異常無しである。

少なくとも、表向きは。

 

「……分かった。ただし、異常を感じたら止まれ。止まらなかったら焼肉は無しだ」

 

『うへえ、それは困るな。分かった分かった。もしなんかあったらすぐに止まるからさ。だからみんなには心配するなって伝えておくれ。』

 

「そのつもりだ。…無事に帰ってこいよ。それだけ守ってくれればいい」

 

『了解。』

 

沖野という優秀なトレーナーでも見抜くことは出来なかった。スクリプト(球磨川)が実は脳震盪を起こしていて、普段であれば使えていた『大嘘憑き(オールフィクション)』をいつも通り精密には使えていなかったことを。

大嘘憑き(オールフィクション)』は意識が朦朧としている時や、気絶している時にはまともに使えないのだ。

 

つまり今のスクリプト(球磨川)は、脳震盪の影響を体から無かった事にしているだけで、脳そのものは未だ朦朧としていた。

 

ここまで、なんと作戦通りだった。

 

 

──────────

 

 

再びゲートである。が、しかし。

先ほどまでの悪意はすっかり鳴りを潜めていた。

当たり前である。怪我人相手に高圧的に出られるやつなんてなかなかいない。

スクリプト(球磨川)に向けられている視線は、どちらかと言うと気遣わしげな視線だった。

 

『あー、ごめんごめん。お待たせ。いやーすまないね。僕のせいというか、ゲートのせいでやり直しになっちまって。僕は悪くない。悪くはない、が…謝罪させてもらう。』

 

なんだ、作戦とか絡まなければ普通にいい娘ではないか。

みんなそう思っていたが、それはそれとして今はレースに集中だ。怪我人が相手でも、躊躇も手加減もしない。

 

当然、先ほどの発言も罠なのだが。

 

今の発言で他の娘の心には『罪悪感』が植え付けられた。こんないい娘に悪意を向けていたのかという『罪悪感』が。それらは心を内側から蝕んでいく物だ。

即効性は無く、遅効性ではあるけれど。

 

そうこうしているうちに、再びゲートが開いた。

今度は15人分、正常に。

開いた、筈なのだが…。

 

またしてもスクリプト(球磨川)の姿が見当たらない。一体どこに行ったのだろう、と考える暇もなかった。

 

『じゃ、精々逃げ惑っておくれ。』

 

姿は見えないのに、後ろから止めどなく噴出する悪意の圧迫を受けて14人は、またしても同じことを考えた。

やっぱり出走停止になればよかったのに、と。

 

そうして、14人は「惑う」とまでは行かなくとも「逃げる」。とりあえず、この悪意から1,800m逃げ切れば勝ちなのだ。いやまあ、200m余計に走っているから本当は2,000mなのだけど。

 

スタートしてすぐの第1コーナーを回る。

スクリプト(球磨川)は動かない。

第2コーナーを回る。

スクリプト(球磨川)はまだ動かない。

バックストレッチに入った所で、スクリプト(球磨川)が前進を開始した頃には、すでに半分近くがバテていた。

 

それもそのはず。

ただでさえ苦手なゲートを2回。

そもそもスタート地点が心臓破りの坂なので坂が2回。

そして後ろからは耐え難い威圧が常に飛んでくる。

スタミナに自信があるウマ娘以外に耐えろと言う方が酷だろう。それでも、食らいつく奴は食らいついてくるのだが。

 

じわじわと前進を開始したスクリプト(球磨川)に対する、罪悪感を抱いている奴から沈んでいく。スクリプト(球磨川)に気を割き過ぎて、ペース配分を間違えてしまうからだ。タチが悪いし、姑息な策ではあるが、それでも策として通用してしまっている以上、文句は言いづらい。

 

第3コーナーに到達した頃には、すでにスクリプト(球磨川)は4番手だった。そして第3コーナーに侵入した瞬間、威圧は弱まった。

 

前3人のうち2人は、「ようやくバテたか」と思って気を抜いてしまった。こんなに急に威圧が解けるなんて普通ならありえないし、いつもなら警戒を解きもしないのだが、何せ相手は頭を打った怪我人だ。まさか再び威圧なんて来ないだろう。できっこないだろう。

 

残念。かの『負完全(マイナス)』には、出来てしまうのだった。

 

ぞわり、と。

肌を害虫が這い回るような感覚がした頃には。

もう遅かった。致命的に。

 

それは威圧とは呼べない代物だった。

だからといって、悪意とか、害意とか、殺意とか、そう言う言葉で言い表せる物でもなかった。

 

表すのならやはり、『負完全(マイナス)』。

 

それしか無かったと思う。

 

気づいた頃には第4コーナーに侵入していたし。

 

気づいた頃には生きるために必死だったし。

 

気づいた頃にはスクリプト(球磨川)は2番手だったし。

 

気づいた頃には第4コーナーも終わりが近かったし。

 

気づいた頃には1番手に迫っていたし。

 

だからという訳でも誰かが悪い訳でも無いが。

 

気づいた頃には。

 

手遅れだったのだ。

 

 

──────────

 

 

沖野はずっと、言葉では言い表せない感覚を感じていた。

今日に限って中央のG2でカンパイが起こるなんて、運が悪いの一言じゃ済まされないし、そのあたりにスクリプト(球磨川)が『負完全(マイナス)』である理由があるのか、と考えていた時のことだった。

 

第4コーナーも終わりに近づき、大凡残りが350mか、といった所で事件は起きた。

事件というより、事故と言った方が正しいかもしれない。

 

スクリプト(球磨川)の前を走っていた娘がガタンと一瞬体勢を崩し、すわ骨折かと考え、いつでも治療に向かう心構えを即座に出来た沖野はやはり、優秀なトレーナーと言わざるを得ないだろう。

 

注意を向ける相手を間違えていたが。

 

(即座に体勢を立て直した辺り、骨折ではなく落鉄の影響っぽいな…何にせよ、怪我人がこれ以上増えなかったことは良いこと…だ……!?)

 

確かに、怪我人は増えなかった。

怪我をしたのはスクリプト(球磨川)だけだった。

 

 

「スクリプト止まれぇぇッ!!!」

 

 

喉が裂けようが関係ないとばかりに叫ぶ。

周りのチームメンバーは沖野が怒鳴る所を初めて見たし、ビクッと肩を振るわせ、そうして時間にして1秒後、ようやく気付いたのだった。

 

スクリプト(球磨川)の頭に落鉄した蹄鉄がぶち当たり、大量出血していた事に。

 

チームメンバーが気付いてからさらに0.5秒後、スタンドから悲鳴が上がる。スクリプト(球磨川)が芝に向かって倒れ込み始めたからだ。どうやら意識を失ったらしい。

 

まあこの場ですっ転んで呆気なく死んじまったとしても暫くすれば生き返る訳だが、そんな事チーム〈スピカ〉の面々が知っているはずもなく。

沖野が自分を責め始めたあたりで。

 

スクリプト(球磨川)は、見ている方が気持ち悪くなるくらいの超前傾姿勢でスパートを開始したのだった。

その顔に薄ら笑いを浮かべながら。

 

ただ、その顔面どころか、体操服まで真っ赤な血に染め上げられてはいたけれど。それでも確かに笑っていた。

 

 

──────────

 

 

スクリプト(球磨川)は、当然前は見えていなかったが、この際関係ない。

どうせ『負完全(マイナス)』のオーラに耐えきれずに、勝手に他の奴が避けていくのだから。だから前に向かって、突っ込んでいくだけだ。それこそ、死ぬ気で。

 

辛うじて心臓破りの坂にいるのは分かったが、どこがゴールなのかがいまいち分からない。だから全力で走っているが、もう400mくらい走っているのではないか、と朦朧とする意識の中考えていた。

 

大嘘憑き(オールフィクション)』を使う余裕なんて無かった。

それでも、ここで走るのをやめて、『主人公(スペシャルウィーク)』との約束を守れないのは、何だか違う、とも考えていた。

 

そうやって走って。

平衡感覚なんてないから坂が終わったかも分からず。

耳鳴りがするから歓声も聞こえず。

血塗れだから前も見えず。

何もかもが不明瞭。

 

()()()()()()()

 

負完全(マイナス)』にとって、この程度は逆境足り得ない。

僕を諦めさせたければ、あの善人(黒神めだか)を連れてこい。

 

そうして、ゴール板を50m程過ぎた所で、スクリプト(球磨川)の体は何かに強く抱き止められたのだった。

 

『…おや、もうゴールしたのかな。生憎耳も聞こえないし目も見えないもんで、それにここは…どこだったかな。確か後輩5人組にフライドチキンを奢る予定だったと思うんだけど…あれ、どういった経緯で僕はここにいるんだっけ。確か…そうそう、思い出した。そういえば後輩5人組にフライドチキンを奢る予定だった、所でなんで芝の匂いがするんだろうね。とにかく約束は守れたみたいで良かったけど、誰とした約束だったんだっけ?覚えてる?覚えてないなら別にいいんだけど。もしかしたら話してるのかもしれないけど生憎耳が聞こえないからなあ。生憎耳が聞こえないし、そもそも君誰だっけ?見えないからわからないんだけど誰だったっけ、誰だろう。さっきまで走ってたのか、だったら受け止めてくれてありがとう。受け止めてくれたんだよね?今どこにいるんだっけ。芝の上か。それにしても頭が痛いなあ。どうなってるか教えてくれない?そういえばよく耳が聞こえないんだった。足も疲れてるしさっきまで走ってたのかな。だとしたら受け止めてくれてありがとう。僕のことを嫌がりもせずに受け止めてくれる奴なんて2人くらいしかいないし、状況的に考えるとこんなに強く抱きしめてくれるのはめだかちゃんかなあ。安心院さんはあんまり力強く抱きしめてくれるタイプではないし…それで、ええと、何してたんだっけ。さっきから前が見えないんだよな、何でだろうね。あれ、さっきまでめだかちゃんと殴り合ってたんだっけ。それなら僕が一方的にボコボコにされてるのも納得がいくってもんだ。ところでここがどこだか分かるかい?もし知っていたら教えてくれると嬉しいんだけど。知らなければいいよ、そんなに大した問題じゃないし。うーん、耳が聞こえないと不便だなあ。『負完全(マイナス)』を名乗ってはいたけど、まともに動けて耳も聞こえて目も見えるって相当幸せだったみたいだね、ここでもまた賢くなっちまったぜ。で、何で頭が痛いんだっけ。』

 

「スクリプト、もう喋んな。つっても聞こえてないのか…ほら一回頭冷やすぞ、ゴルシちゃんからのありがたい氷嚢の贈呈だ」

 

「ゴルシさん…スクリプトさんは…」

 

「大丈夫だ、適切な処置さえすればすぐ良くなる…だろ?トレーナー」

 

「ああ…念のため入院する事にはなるだろうが…大丈夫だ」

 

スクリプト(球磨川)からすれば、今自分を囲んでいるであろう奴らが誰なのかとか、何をされているのかとか全く分からなかったが、悪い方向には進まなそうだと判断し、すっと意識を手放した。

 

 

──────────

 

 

『──知らない天井だ、とでも言ってみようか。』

 

スクリプト(球磨川)が目を覚ました頃には、そこは病院だった。

先に言っておくと、脳に損傷が残ったりはしていない。

なのでスクリプト(球磨川)はすっかり元通りである。

 

『はてさて、こういう時はベッドの横に看病疲れで眠ってしまった献身的な美少女がいる、というのがお約束だが…。うん、まあ…看病は大人の仕事だよな。』

 

横にいたのは、予想に反して沖野だった。

 

 

──────────

 

 

暫くして目覚めた沖野は、すぐさまスクリプト(球磨川)に「本当にすまなかった」と謝罪をしてきたが、スクリプト(球磨川)からすれば謝ることはあっても謝られる筋合いはないので、本当に珍しいことに『君は悪くない。』と言って自分の非を認めたのだった。

 

『それで、今日は一体何月何日かな?』

 

「3月29日だ。ちょうど1週間ぴったり意識を失ってたってことになる」

 

『あれ、脳震盪ってそんなに長引くもんだっけ?普通は数時間、長くても1日くらいだった気がするけど。』

 

スクリプト(球磨川)は当然疑問を口にする。

開かないゲートに激突して脳震盪を起こすのも作戦通りだし、前の娘の蹄鉄にぶち当たって脳震盪を起こすのも作戦通りなのだが…当たりどころが悪かったのだろうか。

 

「ああ、当たりどころに関しては寧ろ最高、と言っちゃあ変だが…奇跡的だった。お前、最悪の場合は今頃植物状態だぜ」

 

『ええ…確かにあんなスピードで蹄鉄にぶち当たったのは痛かったけどさ、そこまでの事かい?』

 

「お前…2回脳震盪起こしただろ」

 

やっべえ、バレてやんの。

 

「最初は俺だってただの脳震盪かと思ってたさ。1回目、ゲートの時はお前の言った通り異常はなかったからな。けど2回目の脳震盪の時、意識を失ったからなんか変だと思って病院で精密検査受けさせたら…」

 

『受けさせたら?ただの脳震盪じゃ無かったっていうのかな?』

 

「SIS…セカンドインパクト症候群だと診断されてな。致死率30〜50%の相当危険な症状だと診断されて…それはもう大騒ぎだったぜ。ゴルシとスズカ以外焦りまくって大泣きして…大変だった」

 

『…えっと、ごめん。』

 

「謝るなら俺じゃなくてみんなに謝ってやってくれ。さっきメールで呼んだから、アイツら全員ぶっ飛んでくるぞ」

 

 

「スクリプトさん起きたって本当ですか!?」

 

 

「そら来たぜ」

 

『やあ、スペちゃん。』

 

「っ…!スクリプトさん、本当に…心配したんですよ!」

 

その後はもう滅茶苦茶だった。

スペシャルウィークは大泣きしながら抱きついてくるし、スズカは目に涙を浮かべながらホッとした表情を浮かべていたし、テイオーは大泣きしながら抱きついてくるし、スカーレットは大泣きしながら抱きついてくるし、ウオッカは大泣きしながら抱きついてくるし、ゴルシは珍しくまつ毛が湿っていた。

 

『ゴルシちゃん、きっと僕を止めてくれたのは君だろう?ありがとう。素直に感謝するぜ。』

 

「おう、アタシとお前は親友だからな。いつでも助けてやる」

 

『そうかい。それじゃあこの娘たち引き剥がして欲しいんだけど。』

 

「諦めろ」

 

取り付く島など無かった。

 

『そういえば、スプリングステークスってどうなったのかな。あんなに散々な目にあって4着とかだったら流石に泣くぜ?』

 

「ああ、1着だったよ。ただ、その後すぐに血塗れでぶっ倒れそうになってたし、勝者の姿には見えないほどボロボロだったぜ」

 

『なるほど、つまり僕はまた不様な姿を晒したってわけか。そんな姿を晒しておいちゃあ、やはり胸を張って勝ったとは言えないなあ。』

 

「確かにアタシには勝者の姿には見えなかったな。つまり」

 

 

『『また勝てなかった。』』

 

 

『おっできた。話し方これで合ってる?』

 

『大正解。本当君は何でもできるんだね、羨ましいぜ。』

 

話し終わる頃には、スクリプト(球磨川)の病衣は涙とか鼻水とかでぐしょぐしょだった。しかし『これも罪を洗い流すための禊か。』と考え、皆が帰った後もそのまま過ごすのだった。




脳震盪を起こしたらその日の運動は控えましょう。
マジで洒落にならないので。

感想・評価よろしくね。



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掲示板回 −10&−11+α

+αは勝負服について。


【皐月】重賞観戦スレpart316【目前】

 

246:名無しのウマ娘ファン

さあさあゲートインや!!

 

247:名無しのウマ娘ファン

キングがんばえー

 

248:名無しのウマ娘ファン

もっと腹から声出せや!!!

 

250:名無しのウマ娘ファン

キング愛してるぞおおお!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

253:名無しのウマ娘ファン

やればできんじゃねえか

 

255:名無しのウマ娘ファン

拙者、おなごが髪の毛ファサってする仕草すこすこ侍に候

 

257:名無しのウマ娘ファン

勝手にすこってろ

 

258:名無しのウマ娘ファン

おっと…?

 

261:名無しのウマ娘ファン

ウンス今日は迷ってる?

 

264:名無しのウマ娘ファン

これはワンチャンあるで!!やったれスペシャルウィーク!!

 

265:名無しのウマ娘ファン

はあーー???勝つのは我らの王ことキングヘイローやが?

 

266:名無しのウマ娘ファン

でたわね王国民!生憎だが、勝つのは奇術師セイウンスカイだぜ

 

268:名無しのウマ娘ファン

どうせ迷ってるのも含め策なんだろうなあ

 

270:名無しのウマ娘ファン

ウンスはそういう事するおじさん「ウンスはそういう事する」

 

271:名無しのウマ娘ファン

なんかスペちゃん今日はカッコいいな

 

272:名無しのウマ娘ファン

分かるわ。普段より目がキリッとしてる

 

275:名無しのウマ娘ファン

かわいくてかっこいいとか…スピカはそういう奴しか入れないんかな

 

278:名無しのウマ娘ファン

???『やあ。呼ばれて飛び出て即参上。僕を呼んだかい?』

 

280:名無しのウマ娘ファン

お前は別枠だろ

 

283:名無しのウマ娘ファン

『』がなければオペラオーに見えないこともない

 

286:名無しのウマ娘ファン

白昼堂々赤ちゃんプレイを衆人環視の下行うスクリプト先輩!?白昼堂々赤ちゃんプレイを衆人環視の下行うスクリプト先輩じゃないか!!

 

288:名無しのウマ娘ファン

なーんかセイちゃんがスペちゃんに仕掛けてますねえ…

 

291:名無しのウマ娘ファン

話しかけるのってありなん?

 

292:名無しのウマ娘ファン

ありやで。

聞く方が悪い。

 

293:名無しのウマ娘ファン

いつまで話しとんねん!

 

296:名無しのウマ娘ファン

うーわこれ絶対喋ってる途中で飛び出すって…

 

298:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん話聞くなー!

 

301:名無しのウマ娘ファン

キング苛ついとる…てかスペちゃん以外苛ついとるな

 

302:名無しのウマ娘ファン

スタート!!

 

304:名無しのウマ娘ファン

頑張れ!

 

306:名無しのウマ娘ファン

うわ出遅れえぐ

 

307:名無しのウマ娘ファン

やっぱこうなるよなあ

 

308:名無しのウマ娘ファン

セイちゃんニコニコで芝

 

310:名無しのウマ娘ファン

いや待て

 

313:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん出遅れてない!?!?!?

 

314:名無しのウマ娘ファン

うおおすげええ!

 

315:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんなんか話しかけてる!

 

316:名無しのウマ娘ファン

意趣返しとはやりおる

 

317:名無しのウマ娘ファン

解読班!なんて言ってた!?(他力本願)

 

320:名無しのウマ娘ファン

ス「行かせませんよ」

セ「生憎、競争相手は募集してない」

ス「まあそう言わずに」

と言ったと思われ

 

322:名無しのウマ娘ファン

うわあ気づいてて話乗ってたんか

かっこよ

 

323:名無しのウマ娘ファン

なーんか話し方スクリプトっぽくないか?

 

326:名無しのウマ娘ファン

大方あの脚本家が『こう言ってやれ。』って入れ知恵したとかでしょ

 

328:名無しのウマ娘ファン

デビュー戦しか出てないのに二つ名あるってのも凄いな

 

329:名無しのウマ娘ファン

セイちゃん冷や汗かいとんなあ

 

331:名無しのウマ娘ファン

なんか隣でスクリプトと沖野が詩的な掛け合いしてんだけど

 

333:名無しのウマ娘ファン

はよ書き込め

 

336:名無しのウマ娘ファン

はよ

 

337:名無しのウマ娘ファン

>>331はよ

 

340:名無しのウマ娘ファン

沖「油断大敵、空ってのは気まぐれ。晴れてると思ったら豪雨に降られるなんてザラ」

ス『雲みたいに掴みどころもないときた。出す策全てが有効打ってのはたまったもんじゃねえな。』

 

341:名無しのウマ娘ファン

チームメイトのレース中に詩読むな

 

344:名無しのウマ娘ファン

キングちゃん何だかんだ落ち着いてきたか?

 

345:名無しのウマ娘ファン

いや最初から焦ったフリしてたっぽくね

 

348:名無しのウマ娘ファン

確かに息整ってるな

 

349:名無しのウマ娘ファン

ちょっとずつ差開いてきたか

 

352:名無しのウマ娘ファン

言うて逃げでこの差ってあってないようなもんじゃ?

 

355:名無しのウマ娘ファン

キープしてくれ頼むー!!

 

358:名無しのウマ娘ファン

お?

 

361:名無しのウマ娘ファン

後ろ見てる?

 

362:名無しのウマ娘ファン

ウンス後ろ見たね

 

365:名無しのウマ娘ファン

笑っとるわ

 

367:名無しのウマ娘ファン

うわこれ最悪だうーわ!!

 

368:名無しのウマ娘ファン

キングちゃんの方見てる?

 

370:名無しのウマ娘ファン

あっこれ挑発かあ!!

最悪やんけ!

 

373:名無しのウマ娘ファン

あースペちゃん挟んで潰すのかうわー

 

375:名無しのウマ娘ファン

ホットサンドの話してる?

 

376:名無しのウマ娘ファン

してない

 

378:名無しのウマ娘ファン

あー前からの蓋と後ろからの圧でスタミナ削ってペース崩すのか

 

381:名無しのウマ娘ファン

圧力鍋の話してる??

 

383:名無しのウマ娘ファン

してない

 

385:名無しのウマ娘ファン

>>375>>381なんやねんお前腹ペコかよ

 

388:名無しのウマ娘ファン

うわたったの一手でここまで整うか

 

391:名無しのウマ娘ファン

相当考えて走っとんなこれ

 

392:名無しのウマ娘ファン

うわあスペちゃん苦しそう

 

395:名無しのウマ娘ファン

相当走り辛いだろこれ

 

396:名無しのウマ娘ファン

そら思い切り走れないように整えられてるし

 

399:名無しのウマ娘ファン

これは皐月楽しみやな

 

402:名無しのウマ娘ファン

何でウンスが勝つって決め付けとんねんこっから後ろにいる全員が流れ星になって突撃してくるかもしれんやろ

 

404:名無しのウマ娘ファン

なんやそれ芝

 

407:名無しのウマ娘ファン

それはウマ娘ではない(無言の腹パン)

 

 

──────────

 

 

431:名無しのウマ娘ファン

そろそろ直線だ

やっぱ早いな2,000mだと

 

434:名無しのウマ娘ファン

おっと

 

437:名無しのウマ娘ファン

ここでキング動くか!

 

439:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんの顔見えんなあ

 

440:名無しのウマ娘ファン

相当苦しいんか?

距離長かったとか?

 

443:名無しのウマ娘ファン

キングのマークが上手いんだと思うけどなあ

 

444:名無しのウマ娘ファン

キングちゃん笑顔が映えるなあ

 

446:名無しのウマ娘ファン

ウマ娘ちゃん大概そうでしょ

 

448:名無しのウマ娘ファン

分かるわ。俺もウマ娘ちゃんの笑顔好きすぎてウマ娘笑顔写真集買ったもん

 

449:名無しのウマ娘ファン

まあ需要はありそう

 

452:名無しのウマ娘ファン

ここでウンス伸びる!?

まさかここまで計算尽くかよ!?

 

453:名無しのウマ娘ファン

そうですよ

スカイさんは逃げるだけの子では無いので

 

456:名無しのウマ娘ファン

>>453お前はウンスのなんなん?

 

457:名無しのウマ娘ファン

一緒に走る仲ですね〜

 

459:名無しのウマ娘ファン

不肖、わたくしレス番号456番は、尊いウマ娘ちゃん様に暴言を吐いてしまった事を、ここに謝罪いたします。誠に申し訳ありませんでした。

 

462:名無しのウマ娘ファン

えーっと…こういう場合って、どうすれば良いのでしょうか…?介錯をお付けするのでしたっけ…?

 

464:名無しのウマ娘ファン

これはネタなんで気にしないで大丈夫ですよ

 

465:名無しのウマ娘ファン

こわいこわい!

 

468:名無しのウマ娘ファン

それなら良かったです…

 

469:名無しのウマ娘ファン

ん?

 

470:名無しのウマ娘ファン

あれ

 

471:名無しのウマ娘ファン

あれ、スペちゃん息が

 

474:名無しのウマ娘ファン

…うーわ

 

475:名無しのウマ娘ファン

えなにこれ

 

478:名無しのウマ娘ファン

これまさかスペちゃんの威圧か!?

 

480:名無しのウマ娘ファン

ワイ現地民、漏らしそう

 

481:名無しのウマ娘ファン

迷惑かけないように漏らせよー

 

482:名無しのウマ娘ファン

てかさ、絶対あいつのせいだよな

 

483:名無しのウマ娘ファン

いったい何リプトが入れ知恵したんだ…?

 

484:名無しのウマ娘ファン

皆目見当もつかんなあ

 

487:名無しのウマ娘ファン

うわ何今の音、爆発?

 

490:名無しのウマ娘ファン

ああこれな。

これウマ娘ちゃんの本気のスパートの音。

 

493:名無しのウマ娘ファン

だとしたらスペちゃん脚力イカれてない?

 

495:名無しのウマ娘ファン

ウンスもキングも汗ダラダラやん

心なしか血色悪くなった?

 

497:名無しのウマ娘ファン

そら離れてる俺らがこんなに縮み上がってるんだから相当だろ

 

498:名無しのウマ娘ファン

えスピードやば

 

499:名無しのウマ娘ファン

キングーー!!粘ってくれーー!!!

 

501:名無しのウマ娘ファン

うわあーー!!頑張れ頑張れ頑張れ!!

 

502:名無しのウマ娘ファン

いやこれ大逆転あるか!?

 

503:名無しのウマ娘ファン

あーキング差されたちくしょう!

 

506:名無しのウマ娘ファン

えスペちゃん2段ロケット!?

 

508:名無しのウマ娘ファン

坂で更に加速とか覚悟決まりすぎやろ

 

510:名無しのウマ娘ファン

おいおいおいマジかよまだG2だぞ

 

511:名無しのウマ娘ファン

まだG2ってなんやねん

 

513:名無しのウマ娘ファン

競バに詳しい奴なら今の分かったろ

スペシャルウィークの加速の原理

 

515:名無しのウマ娘ファン

分かった。

今年はクラシック荒れるぞ…。

 

518:名無しのウマ娘ファン

いつのまにかウンスに並んどる…!!

 

519:名無しのウマ娘ファン

ウンスも顔引き攣っとるが、スペちゃんも瞳孔ガン開きやんけ…

 

520:名無しのウマ娘ファン

ほんとに流れ星になって突っ込む奴があるか

 

522:名無しのウマ娘ファン

うわ末脚えげつなっ!

 

525:名無しのウマ娘ファン

うおおこれはもろたで!!

 

526:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん一着だマジか一着かよマジか!!

 

527:名無しのウマ娘ファン

ウンス二着のキング三着…惜しかったが、借りは皐月賞で返したれーー!!

 

528:名無しのウマ娘ファン

うわスペちゃん息大丈夫か…?

 

531:名無しのウマ娘ファン

そら相当無理して走ってたんだろうなあ

 

532:名無しのウマ娘ファン

なんかウンスも瞳孔開いてね?

 

534:名無しのウマ娘ファン

ウマ娘って興奮状態になると瞳孔開くらしい

前読んだ論文に書いてあった

 

535:名無しのウマ娘ファン

いや実況…中山の狩人って…ええやんけ

 

536:名無しのウマ娘ファン

確かにあの威圧と追い込み方は狩人っつっても差し支えなかったな

 

538:名無しのウマ娘ファン

ええやん狩人!ストイックな感じも出るし!

 

541:名無しのウマ娘ファン

うわウマッターえぐ

みんな狩人狩人って言っとるわ

 

543:名無しのウマ娘ファン

語感いいしなあ

 

545:名無しのウマ娘ファン

何はともあれ、スペシャルウィーク一着おめでとう!!

 

547:名無しのウマ娘ファン

スピカは次誰走るんだっけ

 

550:名無しのウマ娘ファン

???『誰だろうね?』

 

551:名無しのウマ娘ファン

脚本家にはぜひ勝って皐月賞でスペちゃんとバチバチにやり合って欲しい。あと勝負服見せて欲しい

 

554:名無しのウマ娘ファン

お前勝負服が本音やろ

 

555:名無しのウマ娘ファン

バレバレで芝

 

557:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんの勝負服も気になるが、スクリプトの勝負服が気になって仕方ないわ

 

559:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん最強!スペちゃん最強!

 

 

──────────

 

 

【脚本】重賞観戦スレpart318【疾走】

 

124:名無しのウマ娘ファン

今日は流石に返し控えめか

 

126:名無しのウマ娘ファン

スタート地点が坂とかいうクソコ

 

128:名無しのウマ娘ファン

しかも内枠先行ガン有利レースやぞ

 

131:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃん外枠やんけ〜!!

 

134:名無しのウマ娘ファン

何とも運の悪い…

 

137:名無しのウマ娘ファン

きっと勝ってくれるはず…!

 

139:名無しのウマ娘ファン

おまいらスクリプト好きすぎか?

 

141:名無しのウマ娘ファン

だってあんなん皆好きになる要素しかないだろ

 

143:名無しのウマ娘ファン

斜に構えて『勝ちには興味ないね。』みたいな顔してるのにレースになると必死になるところが最高

 

146:名無しのウマ娘ファン

はよグッズ出せ!!

こちとら毎日ゲーセン通っとるんやぞ!!

 

148:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃん今日の暴言も良かった…

 

149:名無しのウマ娘ファン

ドM量産機

 

152:名無しのウマ娘ファン

ひみつ道具みてえな異名つけんな

 

154:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんもレース前お話文化圏の娘か…

 

155:名無しのウマ娘ファン

ほんとだ、また独り言言ってる…

 

156:名無しのウマ娘ファン

ここで勝てば奇術師vs脚本家の策略バトルが見られるってマジ?

 

159:名無しのウマ娘ファン

うわそれ見てえ

ぜひとも勝ってくれ!

 

160:名無しのウマ娘ファン

いやでもあんま聞いてなさそう?

 

163:名無しのウマ娘ファン

聞いてないっつーか効いてないね

 

165:名無しのウマ娘ファン

耳は絞ってるから聞いてはいるんだろうな

 

167:名無しのウマ娘ファン

解読班、やれ(他力本願)

 

168:名無しのウマ娘ファン

ちょい待ってな

 

169:名無しのウマ娘ファン

でたわね有能読唇ニキ

 

171:名無しのウマ娘ファン

ス『大したことないし、これなら勝てるかもなあ。』

他「………」

ス『流石にG2でこの程度の挑発は効かないかあ。』

 

173:名無しのウマ娘ファン

そらそうよな

 

174:名無しのウマ娘ファン

デビューであんな勝ち方したんだからそりゃあ警戒される

 

177:名無しのウマ娘ファン

うわあ目線怖いて

 

179:名無しのウマ娘ファン

まーたスクリプトvsその他全員の構図かよ

 

181:名無しのウマ娘ファン

きっとこのヘイト向けも策なんやろうなあ

 

184:名無しのウマ娘ファン

末恐ろしい娘やでほんま

 

186:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんゲート入りめちゃ早いよな

スッと入ってってる

 

188:名無しのウマ娘ファン

ウマッターで言ってたで。『ゲートでキャンプできるぜ。』って

 

191:名無しのウマ娘ファン

お前ほんとにウマ娘か?(当然の疑問)

 

194:名無しのウマ娘ファン

ゲート難はよく見かけるがゲート好ってなに??

 

197:名無しのウマ娘ファン

ゲート好ウマ娘写真集は無いの?

 

199:名無しのウマ娘ファン

見たことない

 

201:名無しのウマ娘ファン

>>199お前が言うなら無いんだろうな

 

204:名無しのウマ娘ファン

スクリプト口笛吹いてんじゃねえ!!

 

207:名無しのウマ娘ファン

うわタチ悪いな…最高の策だ

 

208:名無しのウマ娘ファン

さあそろそろスタートや!

 

210:名無しのウマ娘ファン

いけーっスクリプト!!オラッ『領域』見せろッ!!

 

212:名無しのウマ娘ファン

マイナスオーラ見せたれ!!

 

214:名無しのウマ娘ファン

うわっみんなスタート上手っ!!

 

215:名無しのウマ娘ファン

散々スクリプトが煽ったから当然やな

 

216:名無しのウマ娘ファン

えっスクリプトどこ?

 

217:名無しのウマ娘ファン

ほんまや

気配消すの上手すぎん?

 

218:名無しのウマ娘ファン

おっと!?

 

219:名無しのウマ娘ファン

カンパイ!?中央のG2で!?

 

220:名無しのウマ娘ファン

珍しいこともあるなあ

 

221:名無しのウマ娘ファン

うーわ…これは…

 

223:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃん大丈夫かこれ?

走れる?

 

225:名無しのウマ娘ファン

頭強打してぶっ倒れたんか…絶対痛いだろうし脳揺れたやろ…

 

226:名無しのウマ娘ファン

おっとすぐに立った?これは?

 

227:名無しのウマ娘ファン

沖野と要相談だろうなあ

 

 

──────────

 

 

252:名無しのウマ娘ファン

おっ話終わったか

 

254:名無しのウマ娘ファン

走るんか!?

 

257:名無しのウマ娘ファン

走るなら気張りやスクリプト!

 

260:名無しのウマ娘ファン

根性あるなあ

 

261:名無しのウマ娘ファン

しっかり歩けてるしスキップも問題なさそうだったしマジで平気なのか…

 

262:名無しのウマ娘ファン

逆境跳ね返してこそ勝利にも味が出るってもんだろ

頑張れスクリプト!

 

264:名無しのウマ娘ファン

みんな心配そうに見てて芝

 

267:名無しのウマ娘ファン

さっきまでと真逆の空気感になってて芝

 

270:名無しのウマ娘ファン

何だかんだで皆いい子やなあ

ほっこりするわ

 

271:名無しのウマ娘ファン

でもスクリプトちゃんが稼いだヘイトは無駄になったな

 

273:名無しのウマ娘ファン

いや逆にこれスクリプトにとって好都合じゃね?

みんな多少なりともスクリプトに遠慮は無意識でもしちゃうだろうし

 

275:名無しのウマ娘ファン

そう考えるとここまで含めスクリプトの策だったり?

 

278:名無しのウマ娘ファン

なわけ

 

281:名無しのウマ娘ファン

さあ再発送!!

 

283:名無しのウマ娘ファン

送んな

 

284:名無しのウマ娘ファン

再発走やろが

 

286:名無しのウマ娘ファン

スタート上手っ!

 

289:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃん今回は追い込み?

 

290:名無しのウマ娘ファン

脚質先行・追い込みは訳わからん

 

292:名無しのウマ娘ファン

うわ早速出たマイナスオーラ!

 

295:名無しのウマ娘ファン

相変わらず威圧上手いなあ

 

297:名無しのウマ娘ファン

現地勢ー、この前のスペちゃんと比較してどんな感じ?

 

298:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんのは心臓がキュッとなる感じ

スクリプトのは全身に怖気が走る感じかな

 

300:名無しのウマ娘ファン

なるほどねー、元は同じでも質は違うと

 

303:名無しのウマ娘ファン

うわ皆めちゃくちゃバテてね?

 

304:名無しのウマ娘ファン

そらそうやろ

ただでさえ苦手なゲート2回やぞ

 

306:名無しのウマ娘ファン

それに加えスタートが坂だから坂も2回

後ろからは怖気が走るほどの威圧

地獄かな?

 

307:名無しのウマ娘ファン

いやーこれは走ってる子大変だろうねー…

 

308:名無しのウマ娘ファン

いやでもスクリプト動かんな…

 

309:名無しのウマ娘ファン

どうせこれも策だぞ

 

312:名無しのウマ娘ファン

いつ来るのか分からないっていう心理的不安か

 

315:名無しのウマ娘ファン

頭打ったのにようここまで好き勝手動けるな

 

318:名無しのウマ娘ファン

あー段々皆沈んできたな

 

319:名無しのウマ娘ファン

マイル・中距離路線の娘はキツイやろなあ

 

321:名無しのウマ娘ファン

スクリプトを気にしてないと何するか分からんくせに気にしたら気にしたでスタミナ削られるのか…

 

324:名無しのウマ娘ファン

なんだこいつ(至極当然の疑問)

 

327:名無しのウマ娘ファン

どんどん前行くねえ!

 

328:名無しのウマ娘ファン

これ前の娘からしたらどんな感覚なんやろか

 

330:名無しのウマ娘ファン

テイクスミスちゃん曰く追い抜かれた瞬間は闇に呑まれる感覚らしいね。その後一瞬だけど、何もかもがどうでも良くなるらしい。

 

331:名無しのウマ娘ファン

どれが『領域』の効果なのか分からなくなってきたな…

 

334:名無しのウマ娘ファン

案外全部かもしれないぜ

 

335:名無しのウマ娘ファン

おっとオーラ切れた?

 

337:名無しのウマ娘ファン

スタミナ切れたか?

 

338:名無しのウマ娘ファン

いやこれ違う!

これ罠だ!

 

340:名無しのウマ娘ファン

うわ

 

342:名無しのウマ娘ファン

えぇ…

 

345:名無しのウマ娘ファン

まさかさっきまでの威圧って全力じゃなかったとか…無いっすよね?

 

346:名無しのウマ娘ファン

見た感じさっきまでのは本気じゃないように見えるんすけど

 

348:名無しのウマ娘ファン

前の娘たちも油断してたなあれ…

 

349:名無しのウマ娘ファン

あーあ沈んでいく…

 

351:名無しのウマ娘ファン

そろそろ直線ってとこでこの削りはヤバいわ

 

352:名無しのウマ娘ファン

ハナの娘も汗ダラダラやしどんだけキツいんだこれ

 

355:名無しのウマ娘ファン

いやー、予想もつかないかなー…

 

358:名無しのウマ娘ファン

うわビックリした

 

359:名無しのウマ娘ファン

何が

 

360:名無しのウマ娘ファン

隣で沖野が叫んで

 

362:名無しのウマ娘ファン

おいおいこれヤバいって

 

363:名無しのウマ娘ファン

うわやばいこれ

 

366:名無しのウマ娘ファン

いきなり何!?

 

367:名無しのウマ娘ファン

スクリプト止まれ!!

 

369:名無しのウマ娘ファン

このままじゃ死ぬぞ!!

 

371:名無しのウマ娘ファン

落鉄か!?

 

372:名無しのウマ娘ファン

倒れる!!

 

374:名無しのウマ娘ファン

スクリプト!!

 

375:名無しのウマ娘ファン

もう走らなくていいって!

 

377:名無しのウマ娘ファン

こんな前傾してたらマジでヤバいって!

 

379:名無しのウマ娘ファン

まだ走る!?

 

381:名無しのウマ娘ファン

威圧やばい

 

382:名無しのウマ娘ファン

まだ本気じゃなかったん!?

 

383:名無しのウマ娘ファン

うわ血塗れ…

 

384:名無しのウマ娘ファン

前見えてないだろこれ

 

385:名無しのウマ娘ファン

この状況でも笑うとかよっぽど大物だぞ

 

388:名無しのウマ娘ファン

ゴールしたぞ止まれ!

 

389:名無しのウマ娘ファン

どこ走ってるか分かってないんじゃ?

 

390:名無しのウマ娘ファン

えっゴルシいつの間に?

 

393:名無しのウマ娘ファン

いや今はそれどうでもいいわ

ゴルシいなかったらスクリプト死んでたやろ

 

394:名無しのウマ娘ファン

あーやっぱ相当無理して走ってたな…もう自分で立ててないぞ

 

397:名無しのウマ娘ファン

なんか話してる?

 

399:名無しのウマ娘ファン

いや、混乱して戯言言ってるだけっぽい

 

400:名無しのウマ娘ファン

てかこんな短時間で2回も頭打ったらやばくね

セカンドインパクトだろ

 

402:名無しのウマ娘ファン

いやでも頭打って自失するの一回だけじゃ?

 

405:名無しのウマ娘ファン

ゲートの時は『領域』で誤魔化してたとかあるだろ

 

406:名無しのウマ娘ファン

あー確かに…何かを治すとかだったら脳震盪も治してたかもしれないのか

 

409:名無しのウマ娘ファン

仮にSISだとしたらガチでヤバいだろ

あれ致死率50%やぞ

 

412:名無しのウマ娘ファン

それはもうスクリプトちゃんの回復力に頼るしかない

 

415:名無しのウマ娘ファン

マジで無事でいてくれ

 

418:名無しのウマ娘ファン

救急車来たか

 

420:名無しのウマ娘ファン

いやほんと無事であってくれ…

 

423:名無しのウマ娘ファン

一着だから優先出走権は得た訳だが…

 

425:名無しのウマ娘ファン

まあ厳しいだろうな…

 

426:名無しのウマ娘ファン

しょうがないよ

今回誰も悪くないもん

 

429:名無しのウマ娘ファン

スライドバックちゃんはあんま気負わないで欲しい…つっても無理があるだろうけど…

 

431:名無しのウマ娘ファン

気を取り直していこう

俺たちにできることはスピカに見舞いの品送るくらいしかない

 

432:名無しのウマ娘ファン

食べ物いっぱい送ったるから元気になってくれ

 

434:名無しのウマ娘ファン

よし、ワイは経口補水液とにんじんジュース滝のように送ったるわ

 

436:名無しのウマ娘ファン

踏ん張れ、スクリプト

皐月賞で待ってるから

 

 

──────────

 

 

『いやあ、皆には心配してもらって悪いけど、2週間ちょっとで完治しちゃった。』

 

スクリプト(球磨川)は送られてきたにんじんジュースを飲みながらそう言った。尻尾が暴れているので、心配された事もファンから見舞いの品が送られてきた事も、スカしている割には満更でもない様子だった。

 

「まさか精密検査でも何の問題も出ず、それどころか傷の一つも残らないとは…これじゃあ皐月賞に出るなって言えねえじゃねえか」

『おいおい沖野ちゃん、僕を舐めてもらっちゃあ困るぜ?それに前いた所なら、このくらいの怪我は日常茶飯事だったし。』

 

沖野は頭を抱えた。

 

「はあ…いや、まあいい。本当に皐月賞に出るんだな?精神鑑定もしたとはいえ、フラッシュバックとか心配なんだが」

『ああ、それなら気にしないでいいよ。フラッシュバックは起きなかった。』

「…と、いうと?」

『さっきスライドバックちゃんに会ってきてさ、そこで仲直りして、ついでにこの前の状況再現して併走してもらって、全然平気だったからさ。』

「お前仲直りが早えな」

 

それどころか、怪我をさせたお詫びとしてお出かけの約束まで取り付けている有様であった。

 

『どうやら自分が許せねえみたいだったからさ、僕としては女の子には笑っていてほしいし、それならお出かけに付き合ってもらうって事で手を打ったってわけ。』

「まあお前がそれでいいならいいさ。あれは、そうだな。お前風に言うなら『誰も悪くない』からな」

 

スクリプト(球磨川)もそうだが、沖野も大概お人好しだった。

 

『で、今日は何で僕を呼び出したんだい?正直見当もつかねえんだが。』

「いやなに、例のブツが届いたからな。一応袖を通してもらおうかと」

『ああ…僕の勝負服か。完全に忘れてたぜ。』

「じゃあそこの箱に入ってるから着替えてくれ。俺は外で待ってるから、終わったら呼んでくれよ」

『はーい。』

 

そして沖野が出て行った後、スクリプト(球磨川)は段ボール箱を慎重に開けた。そこに入っていたのは、スクリプト(球磨川)にとって最も馴染み深い()()だった。

 

『…うん。やっぱり僕の戦装束はこれじゃあないと。』

 

そしてスクリプト(球磨川)は今着ている制服を脱ぎ、慣れた手つきでその制服に袖を通す。もしこの空間に他に人がいれば、その光景はさぞ異質に映っただろう。

もっとも、この場にいるのは1人の『負完全(マイナス)』と1人の人外だけだったが。

 

『さて、沖野ちゃんを呼んで度肝を抜かせてもらうかな。沖野ちゃーん、着替え終わったぜー!』

「おっ早えな。それじゃ失礼して…うん、似合ってるな」

『えっそれだけ?もっとこう、「うっ美しすぎる!俺も『負完全(マイナス)』にしてくれ!」って頼むとこじゃない?』

「いやお前は美しい系じゃなくて可愛い系として人気だし、正直脳内で学ランを着てるところを想像するのが容易だったから」

『うーん…。もうちょっと驚いて欲しかったなあ。』

 

ちなみに、スクリプト(球磨川)が着ている勝負服…学ランは、前の物と大差ない。違いと言えば、今の体は女性のものなので、それに合わせて多少ボディラインが分かるようになっている程度であろうか。つまり、今の姿は球磨川禊をそのまま女性にした姿と考えて貰えばいいだろう。

少しだけ袖がスクリプト(球磨川)の腕より長くなっているのは、スクリプト(球磨川)が『一回やってみたかったんだよね。』とお茶目心を出した結果である。萌え袖と言うほどではなく、手元が見えない程度の長さではあるが。

 

『うん。これなら僕らしい走りができそうだ。』

「そいつは何より。スペにも手加減はするな…って、お前は手加減するとかそういうタマじゃないな」

『沖野ちゃんも罪な男だね、同じチームから2人も出走させるなんて。』

「何とでも言え。だってそっちの方が夢があっていいだろ?」

『違いないね。』

 

スピカの部室に2人の笑い声が響く。

結局のところ男とは皆、夢見人であるという事だった。




勝負服はウマ娘の体に合わせやや細めになるだろうという事で、細めの学ランになりました。当然基本は球磨川くんの学ランですが。
アンケートにご協力いただき、ありがとうございました。

感想・評価よろしくね。


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第−12箱 藪蛇

今回は趣味全開のオリジナル回です。
アニメ要素はほとんどありません。
ご了承ください。


「さあ明日はついに皐月賞だ!」

 

「はい!」

 

沖野は勝負服をスペシャルウィークに渡しながら語る。G1レースは最高峰のレースなので、勝負服を着なければならないのだ、と。走りやすい体操服ではなく。

 

どう考えても体操服の方が走りやすいと僕は考える…愚考するわけだが、まあウマ娘なんて不思議生物、何があってもおかしくねーよな。

 

「ところで、何でスクリプトさんは既に皐月賞に出走できるほど回復してるんですか??」

 

『おいおい、酷いぜスペちゃん。君は僕と戦ってみたくないのかい?』

 

「いや、そういう訳じゃなくて…あんな大怪我したのに出走して大丈夫なんですか、という意味です」

 

『それについては心配するだけ無駄ってもん…いや、ありがたいんだけどさ。沖野ちゃんと話し合った結果だからね。大丈夫大丈夫。』

 

スクリプト(球磨川)といえど、流石にトレーナーに許可も取らずに出走なんてしない。というかできない。沖野はスクリプトに目を光らせているからだ。迂闊な行動を取ろうものなら即お縄、そのまま沖野と理事長秘書による3時間お説教コースである。

 

「ならいいんですけど…それと、ついでにもう一つ質問していいですか?」

 

『一つと言わず二つ三つしてくれてもいいんだぜ。』

 

「なんで既に勝負服を着てるんですか…?」

 

『……あれっ、いつから着てたっけ?』

 

「登校の時からですよね?スズカさん」

 

「ええ、だいぶイメージ変わるのねと思っていたわ」

 

『あれ…おかしいな…確かに制服着たと思ったのに…。』

 

先に弁解させてもらうが、別に僕が悪さした訳じゃないぜ。スクリプト(球磨川)くん…スクリプト(球磨川)ちゃん?あーめんどくせえ。既存キャラのTSってこれが面倒だよな。

それはともかく、これはスクリプト(球磨川)が球磨川くんだった頃の感覚で動いてるからこうなっただけだ。

 

いい兆候だぜまったく。

 

 

──────────

 

 

『さーって、今日は皐月賞前日だけどトレーニングが無いから暇だなー。誰かお話しする相手いないかなあ。』

 

親友(スクリプト)よお、だったらスペとスズカについて行けばよかったじゃねーか」

 

通算何度目かのミーティングも終わり、スクリプト(球磨川)は1人で今日の予定を組んでいた。ちなみにミーティングが終了してから1時間もの間考え続けていたが、勝負服から着替えようという発想には至らなかったようである。

 

『うーん、ちょっと今のスペちゃんについて行くと台無しにしちゃいそうで…というか親友(ゴルシちゃん)。今どっから来たんだい?』

 

「四次元」

 

『ゆくゆくは?』

 

「八次元くらいには行けるようになりてえなあ」

 

『まあ頑張ってよ。応援だけはしておいてやるからさ。』

 

「お前の応援があれば1バ(りき)だな!ありがとよ!」

 

『どういたしまして。』

 

本日も2人は絶好調だ。とはいえ当然、側から見たらただのヤバい奴らなので好き好んで近づく奴はいない。

 

『ところで、そんな所でコソコソしてどうしたんだい、デジタルちゃん?』

 

「うひぃっ!?」

 

「おー…よく気づいたなお前…」

 

『視線には敏感なもんでね。僕を尾けたいなら目で見ちゃいけないよ。』

 

先程の話は『普通(ノーマル)』の奴らの話だ。

異常(アブノーマル)』はむしろ近づいてくるだろう。

要するに、スタンド使いみたいなものだ。『異常(アブノーマル)』同士はお互いに惹かれ合う。

 

「すっすすっすっいませんっっ!!!あっいやっここには誰もいませんっ!!いませんからお話の続きをどうぞっ!!」

 

『…そうそう、話は変わるんだけどさ。最近スペちゃんが素っ気なくて…怪我の件で怒ってるのかなあ。』

 

「あっ無視してくれた…しゅきぃ…」

 

「お、おう…まあ怒ってるんじゃねえか…?酷い怪我だったし…」

 

『ん?どうしたんだい、いきなり歯切れが悪くなったね。』

 

「いや、実は…」

 

と言うと、ゴルシはデジタルに見えないように手話で話し始めた。表情から見るに、デジタルには言えない話らしい。

 

〈何を隠そうこのゴルシ、デジタルが苦手…いや、嫌いって訳じゃねえ。むしろ好ましいとは思ってるんだが〉

 

《ほう。それにしても、ゴルシちゃんが苦手と言うなんて、昔に何かあったのかな?》

 

〈何かあったって訳でもないんだが…そう、何かあった訳じゃないのに、アタシの情報を持ってたんだよ。しかも、事細かにノートに保存されててな〉

 

《成程、あれね…えーっと、何だっけ…そうそう、》『秘蔵のウマ娘ちゃんデータベースハンディタイプ完全版(初回限定版)だったかな。身長体重その他全てのデータが保存されてるとかいう…合ってるかな?』

 

「あっはいっ、仰る通りでしゅ…です」

 

デジタルは未だ茂みの中に隠れているが、それでも元気に返事を返してきた。ゴルシは「返事するくらいなら茂みから出て来ればいいのに」と思っているが、相手はあの名高きアグネスデジタル(変態)である。常識は通じない。

 

『ちなみに僕は甘い物大好きだから是非書いておいておくれ。』

 

「なるほど、甘い物…はちみーとかですか?」

 

『はちみー?いや、知らねえなあ。』

 

「えぇっ!?はちみーをご存知無いのですか!?甘い物好きなのにそんなの勿体無いでしゅ…ですよ!!」

 

「わお、ようやく姿を見せたな」

 

『そんなに?でもどこで売ってるか知らないんだよね。』

 

デジタルはついうっかり大声を上げながら飛び出してしまった。まあ先ほどまで普通に話していたし、ようやくというより今更と言った方が正しい気もするが…。

とにかく姿を見せてしまった以上、やる事はやらねば、と使命感を燃やしたようだった。

 

「僭越ながらわたくしアグネスデジタルがはちみーのお店に案内させていただきましゅ…ます!!」

 

『楽しみだなあ。どんなんなんだろ。』

 

「アタシも久々に飲むかあ!」

 

遠巻きに見ている限りでは、3人はまるで今からお酒を飲みに居酒屋にでも行くかのように見えた。

 

 

──────────

 

 

「スクリプトさん…気に入っていただけたでしょうか!?」

 

『うん、注文形式が家系ラーメンに酷似している事以外は概ね気に入ったかな。』

 

「素っ気なく振る舞おうとしても無駄だぞー。一口飲んだ瞬間尻尾すごいことになってたからな」

 

「是非写真に撮らせていただきたいくらい聳え立ってましたからねえ…」

 

『…そんなに?』

 

「それはもう」

 

敢えて言わせてもらうならば、飲んだ瞬間は電撃が走ったかのように天に向かって聳え立ち、飲んでいる間は、はちみー店の店員が思わず笑顔になってしまうくらいには尻尾が暴れ狂っていた。店員はやりがいを感じていた。

 

『まあこれは毎日飲みたいくらいには気に入ったぜ。僕ならカロリー気にしなくてもいいから飲みたい時に飲みたい分だけ飲むとするかな。』

 

「えーっと、カロリーを気にしなくていい、と言うと…?」

 

『ああ、デジタルちゃんになら言ってもいいかな…ゴルシちゃん、どう思う?』

 

「まあデジタルは口硬いからな、平気だろ」

 

寧ろトレセン学園で随一の口の硬さを持つのがデジタルだ。ついうっかりで秘密を漏らすことは万が一にもあり得ないだろう。

 

『まずデジタルちゃんは『領域』って知ってるかな?』

 

「あっはい、自分も持ってるので」

 

『そうなんだ…それなら話は早い。僕はどうやら『領域』が特殊らしくてね。ちょっとやそっとのカロリーなら無かったことにできる。』

 

「成程…正直なところ、レース以外で『領域』を使えるなんて信じがたいでしゅ…ですが…。ああ、ウマ娘ちゃんを信じきれない自分が憎いぃいぃ〜…」

 

信じられないならば実践してみよう、という事でスクリプト(球磨川)は手近な物を一つ消して見せることにした。

 

『信じられないならここは一つ、たった今飲み切ったはちみーのゴミを消して見せようか。いくぜ、『大嘘憑き(オールフィクション)』っと。』

 

「ふぉおっ!?ほっ本当に消えた!?一体どこに!?」

 

『無かったことになったからね。僕自身にもどこに行ったのかは分からないなあ、というのが僕の『過負荷(マイナス)』…ああいや、『領域』さ。名前だけでも覚えて帰ってね。』

 

大袈裟なリアクションに見えるかもしれないが、これはデジタルの平常運行である。いや、平常では無いかもしれない。デジタルがウマ娘を相手にして、今まで意識を保っていることが異常である。

今だって鼻息を荒くしながら、スクリプト(球磨川)の情報について加筆し続けている。ゴルシはその必死さに少しの恐怖を覚えた。彼女は所謂ファッション狂人だった。

 

「というか、そこまで来るともう『領域』っていうか『異能』って感じでは無いかと思う訳です」

 

『まあ確かに、僕はこの『領域』を普段は『過負荷(マイナス)』と呼び、自分の中で明確に分けている訳だが…それを言ったらゴルシちゃんの『領域』だって『異能』だぜ。』

 

「ああ。ゴルシ様だってこんなこと出来るからな」

 

そう言うとゴルシは手に黄金の錨を現した。

それと同時にスクリプト(球磨川)も何処からともなく螺子を取り出したため、デジタルは驚愕した。

 

「てゆーかよ、デジタル。お前も『領域』使えるんだったら、こうゆうこと出来んじゃねーの?」

 

「ひえぇ…コツとかありましゅか…?」

 

「コツかあ…『領域』の景色をイメージして、その中から取り出したい物を選んで取り出すって感じ。アタシの場合はこの錨だな」

 

『僕の場合は螺子ってわけだ。』

 

「なら、あたしなら写真…ウマ娘ちゃん達を収めたカードを取り出せるのでしょうか…」

 

『デジタルちゃんなんだかカードとか武器にして戦いそうな顔だよな(笑)』

 

「どうした急に」

 

『言わなきゃいけない気がしてね。』

 

 

──────────

 

 

「あっできました!あたしにも出来ましたよ!」

 

時間にして15分後。デジタルはどうやら『領域』をモノにしたらしい…15分でモノにしていいのか、という疑問は残るが。

 

しかし、気にするべきはそんな所では無い。本当に注目するべきなのは、デジタルが手に持っているカードの絵柄である。

 

「おお、これはゴルシちゃんのカードだな…おい、ちょっと待て、こりゃあ()()()()()()()()()()()…?」

 

「へ?どこの世界線、というと…?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って話だよ。アタシはまだ勝負服なんて着てねえぞ」

 

「えっ?あっ、そういえば…あれぇ…?」

 

3人で揃って首を傾げる。一体どういう理屈なのかと、思考の渦に飲まれそうになった所でスクリプト(球磨川)が口を開いた。

 

『デジタルちゃん、ちょっと僕のカードも出してもらっていいかい?』

 

「えっはい!勿論でしゅ…です!えーっと…これですかね…?」

 

『これは…なるほどね。』

 

そう言ってデジタルが取り出したのは、周囲を巨大な螺子に囲まれ、両手にネジを持ちながらほくそ笑む、勝負服を身に纏ったスクリプト(球磨川)のカードだった。

 

「なんか分かったのか?アタシにも教えてくれよお」

 

「あたしにも教えていただきたいです!なにとぞ〜!」

 

『デジタルちゃん、妄想を形にするのは好きかな?』

 

「え"っ…まぁはいえぇと人並みには好きかもしれないですねあはは!」

 

「あー…成程な、アタシにも流石に分かったぜ」

 

『つまり、このカードは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ゴルシちゃんがこう走ってたらかっこいいとか、僕はこういうイメージだなとか、そういう脳内の妄想をカードにして取り出すスキルって訳だ。』

 

「オ"ア"ァ"ーーッ!!死ねる!!恥ずかしくて死ねる!恥ずか死ぬぅ!!」

 

つまり、使ってしまったが最後、頭の中身がダダ漏れになるスキルという事だ。正直、漫画や小説を書く以外に使い道はないだろう。

 

このままでは。

 

「あ?おいおいデジタルぅ、カード光ってんぞ?どういう機能だそれ」

 

「えっ、あぁっ!?スクリプトさんのカードが消えていく!?そんなぁお部屋に飾ろうと思ってたのにぃ!!」

 

『デジタルちゃん、そんなことよりカードの粒子が君の身体に吸収されていることに言及するべきだと思うなあ。』

 

「あぇ…あっ本当ですねぇ…まあ多分大丈夫だと思いますよ、元はあたしの体から出たものですし…まあ何とかなるでしょ。』

 

「どうしたよデジタル、いきなりスクリプトの真似なんかして」

 

『スクリプトさんの真似?いやいや、特段真似しようとしてる訳では無いんですけど、あら不思議。お口が勝手にといいますか、何もかもがどうでもいいといいますか。そういう感じなんですよね。』

 

どうやらデジタルはカードを吸収して『負完全(マイナス)』もどきになってしまったようだった。お察しの通り、理由は『領域』を無闇に使用してしまったことである。

 

「おいスクリプト。お前の『領域』…もとい『過負荷(マイナス)』でどうにかしろ」

 

『はいはい、まったく手のかかる子だぜ。』

 

「あ痛ぁぁーーッ!!」

 

『これで元通りっと。さて、デジタルちゃん。酷なことを言うが、君は『領域』をスキルとして使うのはダメだ。』

 

いたた…はい…いやー恐ろしいですねぇ…自分が自分で無くなるのは…カードは観賞用に留めましゅ…」

 

その後は3人で「第一回ウマ娘ちゃん最高の瞬間決定会議(主催:アグネスデジタル)」を行い、普通に解散したので負傷者が出るとか死人が出るとかは無かった。

バトル漫画じゃあるまいし、そんなポンポンと怪我人が出てたまるかよって話ではあるが。

 

ちなみに、スクリプト(球磨川)はなぜか勝負服を脱がないまま行動していたため、この後すぐにデジタルが意識を失い介護をするハメになったというのは言うまでもないことだろう。

その顔は満ち足りた表情をしていたという。

 

 

──────────

 

 

「アタシはこれからデジタル拉致って地球の悲鳴止めてくるけどスクリプトはどうするよ?」

 

『ああ、僕はちょっとやりたい事を思いついたからここでお別れかな。』

 

「おっ、なになに〜何だか楽しそうじゃねえか!ちなみに何すんだ?『玉手箱』でも返しに行くのかよ?」

 

『いや、ちょっと藪を突いて蛇を出そうかなって。』

 

「……成程な。スクリプトお前、それでいいんだな?皐月賞、勝てなくなるぞ」

 

『生憎、弱ってる奴に勝った所で、堂々と『勝った』なんて言えるほど僕の面の皮は厚くねえのさ。』

 

「そうか…けど、やるからには勝つつもりで行けよ。アタシはスペより、お前を応援してるんだからな」

 

『そりゃあ有難い。なら一層、期待に応えねえわけには行かねえな。じゃ、また明日。』

 

「おう。また明日な」

 

 

──────────

 

 

そして迎えた皐月賞当日。クラシック三冠のうちの一つ、競争人生中でたったの一度のみ出走が許される大一番。最も早い(速い)ウマ娘が勝つとも言われるこのレースは最もウマ娘たちの憧れが詰まったレースの一つでもある。

 

そんな憧れの地にて、勝負服に身を包んだスペシャルウィーク(主人公)とスクリプトロンガ(悪役)ーは対峙していた。パドックの裏にはピリついた空気が漂っている。

 

「スクリプトさん…入学当初は思いもしませんでした。私があんなに大勢の人の前で、多くの注目を浴びて、あなたと走ることができるなんて」

 

『僕もそうさ。正直な所、G1という最高峰の舞台で戦えるなんざ、思ってもいなかったぜ。まして、きみと本気で戦えるとは。』

 

「そうですね、本気…そう、本気です。思えばスクリプトさんと本気で併走した事なんてありませんでしたよね。私は今日、本気で走ります。だからスクリプトさんも、本気で来てください」

 

『当然。前までの僕なら勝負を捨てて、場を引っ掻き回すことだけ考えてたんだろうが…生憎、今日の僕はやる気だぜ。僕に君の泣き面を見せてくれ。』

 

2人の周りにはさらに近づき難い空気が漂っていた。様子はさながら暴風雨、この爆弾低気圧に近づこうものなら、たちまち吹き飛ばされてしまうだろう。

 

しかし今日のこの場所には、そこらの低気圧なんて及びもつかない高気圧が存在した。その青空は、するりと、極めて自然に2人の会話に割り込んだ。

 

「いや〜2人ともお熱いですなあ。こんなに眼中に無いと、セイちゃん泣きたくなっちゃうな〜しくしく。なんて」

 

『やあセイちゃん。それにしても勝負服可愛らしいじゃないか。イメージに合っててすごく似合ってると思うぜ。』

 

「どうも〜。G1といえど、やっぱり合わない事はしたくないからねえ。今日もゆるりと、流されるままに走らせてもらいますよ」

 

「スカイさん…今日も、私が勝ちますから」

 

「おっ言うねえ。こちらこそ、今度は負けないよ〜?足下には気をつけてね、さもないと寝首を掻かれちゃうよ〜?」

 

さて。ここまでで3人の最有力候補を紹介したわけだが、当然最有力はもう1人いる。3人がバチバチに牽制し合っているすぐ側で、息を潜めるようにして立っているキングヘイローその人である。

 

いつもであれば、もう少し騒がしく同期と牽制し合っているはずなのだが、どうにも今日は大人しく精神を整えている。流石のキングといえど、G1という大舞台で緊張しているのだろうか。それにしては、やけに闘志がみなぎっているように見えるが。

 

で、あるならば、セイウンスカイが仕掛けるのも当然と言えるだろう。今までだってそうやって、解して崩して散り散りにしてきたのだ。それが、セイウンスカイだから。

 

「おっ、キング今日は静かだねえ。流石のキングといえど一生に一度の舞台は緊張するのかな?そんなに気張らなくていいって〜、気楽に行こう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──今日は、やけに喋るのね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、この場は支配された。

スペシャルウィークが放つ狩人の如き威圧でも、スクリプトロンガー(球磨川禊)の悍ましい『負完全(マイナス)』のオーラでも、セイウンスカイの飄々とした"意識のずらし"でもなく、キングヘイローが放った一言で。

大声を出した訳でもない。小さな声だった。

威圧をけしかけた訳でもない。意識は凪いでいた。

 

 

ただ、王が王たる所以を示しただけだった。

 

 

「……スクリプト…また何かやったでしょ…恨むよ」

 

「本当に、あのキングさん…なんですか…?」

 

『いやぁ…藪を突いたら、ただの蛇じゃ無くて王者(大蛇)が出てきちまった…笑い話じゃねえぜマジで。』

 

そうして、その場にいた全員が悟ったのだった。

 

このままでは、勝てないと。




次回はようやく皐月賞。

感想・評価よろしくね。


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第−13箱 最終回直前

今回は難産でした。
それとUA 40,000ありがとうございます。
キリがいいので50,000目指して頑張ります。


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最終回とは、突然訪れるものだ。

 

 

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〈続いて4枠7番、スクリプトロンガー!ここまで不運に襲われましたが、無事出走するようです!〉

 

〈学ラン風の勝負服ですね。彼女の印象には何故かマッチしています、似合っていますね〉

 

スクリプト(球磨川)がジャージを投げ捨て、勝負服姿をお披露目すると、一際大きな歓声が上がった。ウマ娘となって耳が良くなったスクリプト(球磨川)は、その歓声の中に「いつものやってくれー!」という声があったことも当然聞き逃さなかったようだ。

 

『えー、マジ?わざわざ倒れたいとか、物好きな奴らもいたもんだぜ。しょうがないなあ。えー。』

 

『モブキャラのみなさーん!』

 

『こんにちはーっ!!』

 

そして、予想通りに複数の人間が倒れるのだった。

しかし、なんだか以前より倒れる人数が減っている気がするなあと思い、スクリプト(球磨川)は首を傾げながらパドックの舞台から降りた。

 

 

──────────

 

 

「いやスクリプトさん、絶対私の方が歓声大きかったですって」

 

『いやいやスペちゃん、絶対僕の方が歓声大きかったって。』

 

「お二人さんさあ、セイちゃんのことも忘れないでほしいな〜」

 

パドックの裏での緊張は一体どこへやら。

地下バ道で和気藹々と話すのは、スペシャルウィーク、スクリプトロンガー(球磨川禊)、セイウンスカイの3人である。

 

少し離れた所でチラチラと3人を見ているのは先ほど王の威圧を振り撒いたキングヘイローその人であった。

 

「所でキングはいつまでその威圧続けるわけ?」

 

『そうそう。僕が唆したとはいえ、そんなんじゃレース前に疲れちまうぜ。』

 

「えっ嘘っ私は威圧なんてしてないわよ!」

 

「無意識でそれなんですか…?」

 

どうやら威圧するつもりではなく、本人にも何が何だか分かっていない様子だった。一見した限りではその態度は普段通りに見える。

 

「そもそもさっきだって、私は普通に喋っただけなのに何故か皆化け物を見るみたいな目で見てきて…あなた達、何よその顔は」

 

「いや〜そりゃあ、ねえ?」

 

『うん。威圧を振り撒いちゃあいるが、いつものキングちゃんと変わりねえなと思って。』

 

「当たり前でしょう!?ていうかそれよりスクリプトさん!私、あなたが思ってるより気が強いのよ!精々覚悟しておきなさい!」

 

キングはその存在感からは想像もつかないほどの三下ムーブをかまし、「おーっほっほっほ!!」と高笑いをしながら去って行った。

 

「いやマジでスクリプト何したわけ…?」

 

『親と揉めてるみたいだったからさ、『親とか負けとか才能とか存在意義とか気にして走るくらいなら家帰れば?』って言ったらああなっちゃった。』

 

「何してくれてるんですか…」

 

結局のところ、他人の家庭問題に口を出したスクリプト(球磨川)が悪かった。

 

 

──────────

 

 

返しウマも終わり、皐月賞も発走直前という所まで来た。

普通ならレース前ギリギリにわざわざ敵に話しかけに行く奴はいない。まあスクリプト(球磨川)は『負完全(マイナス)』なので気さくに話しかけに行くわけだが。

 

『さて、昨日あれだけ君に喧嘩を売っておいてなんだが、今の君に勝てるビジョンが浮かばねえんだよな。逆立ちしても勝てる気がしない。という事で、作戦教えて?』

 

「あなた…おバカなのかしら…?他の娘ならともかく、あなたとスカイさんには教える筈ないでしょう?」

 

恐らくバカ正直に相手の作戦を聞きに行く奴はスクリプト(球磨川)が初めてだろう。今後現れることもないだろうが。というか現れられても困るというのが本音だ。

 

『ちなみに僕は逃げで行くから、精々頑張って追い抜いて行ってくれ。前で待ってるぜ。』

 

そういうとスクリプト(球磨川)はゲートの中に入って行ってしまった。言いたいことだけ言って、勝手にいなくなる。迷惑な奴である。

 

「もう、なんなのよ…」

 

こう言って多少むくれているキングだったが、周りから見れば常に威圧を振り撒き続けるキングの方がよっぽど「なんなのよ」だった。

 

 

──────────

 

 

〈G1、皐月賞。三冠の第一関門をクリアするのは一体どのウマ娘か!〉

 

実況の声が響く。それに合わせて観客も声援を上げる。会場の空気は徐々に熱を帯び、今この瞬間、熱により膨れ上がった空気は爆発寸前の様相だった。

 

一転して、ゲートの中はいっそ不気味と形容した方がいいほどの形容し難い圧迫感で満ち満ちていた。原因は4人のウマ娘である。

 

〈狩人〉、スペシャルウィーク。

 

〈奇術師〉、セイウンスカイ。

 

〈偉大なる血族〉、キングヘイロー。

 

〈脚本家〉、スクリプトロンガー(球磨川禊)

 

それぞれがそれぞれの勝機を見出すため、互いに牽制しあった結果、『普通(ノーマル)』や『特別(スペシャル)』には到底耐えられないであろう圧迫感を生み出す事となった。

 

もう大体予想はついているだろうから、先に言ってしまおうか。長ったらしく話したくは無いんでね。

 

先ほど話した4人が上位の一着から四着を独占する。

 

一体どういう順でゴール板を踏むのか、飲み物でも飲みながら予想してくれ。飲み物が無ければ固唾でもいいぜ。

 

さて、出しゃばるのはやめて、語り手に戻ろうか。

 

4人とも策を練っていると先ほどにも言った通り、4人はそれぞれ全く毛色の違う策を採用した。

 

スペシャルウィークは弥生賞での反省を活かし、前と同じく後ろ側から威圧を掛ける事、以前よりも少し早めからスパートをかける事、心臓破りの坂を登る時に無茶な走りをしない事を主軸としたようだ。

 

大外からのスタートとなる為、やはり多少の不利は生じるだろうが、それらの困難を跳ね除けてこその『日本一』である。今日までの自分のトレーニングを信じ、ゴール目掛けて全速力で駆け抜ける心意気だ。

 

セイウンスカイは今日までのスペシャルウィーク、キング、スクリプト(球磨川)の走る時の癖を観察し、徹底的に頭に叩き込んで来た。が、それらの情報はあまり役に立ちそうにない。しかしそれは相手の情報に限る。

 

今回の皐月賞では、仮柵が内側に動いたため、バ場の荒れが無いグリーンベルトが発生している。気付いている奴が他にいないと考えるのは些か楽観的すぎるが…それでも、セイウンスカイにとって有利な条件であることには変わりなかった。

 

出来ることがあるなら、何だってやる。

彼女は勝つために、人事を尽くして天命を待つのだ。

 

キングヘイローは自然体だ。いつも通りに走るつもりでいる。いつも通りでないところがあるとするならば、それは当然、あり得ないほどに研ぎ澄まされた『王の威圧』だろう。やるからには、当然勝つ。勝ちに行く。

 

才能が無いと言われようが、距離が不安だと言われようが、華がないと言われようが、親の七光りだと言われようが、勝てる筈がないと言われようが、実力不足だと言われようが、見苦しいと言われようが、何と言われようが。

 

もう、そんな雑音は、キングヘイローには届かない。

下を向くのはもう飽きた。

目指すのは頂だけである。

 

スクリプト(球磨川)は、いつも通りだった。

特に語ることも無いほどに、それはもう静かだった。

変わったことも特に無い。スクリプト(球磨川)が変わった様子は、それこそトレセン学園生徒会会長ですら発見できないだろう。実際、スクリプト(球磨川)には何の変化もない。微塵もない。

 

そう、本当に変わっていないのだ、昔から。

自分は変わりたくない、変わるつもりもない。

けれどどうしようか?このままでは勝てない。

 

ならば、自分以外の全てを変えてしまえ。

 

スクリプト(球磨川)の顔には、口の端が三日月のように吊り上がった笑顔が浮かんでいた。この場合は浮かんだというより、引っ付いたといった方が正しいのかもしれなかったが、どちらにせよこのレースの結果には関係のないことだった。

 

そう、何もかもが関係ないのだ。

結末はとうに決まっていた。

今までのツケが今になって回ってきただけだ。

 

悪いのは寄りかかる相手を間違えた彼女だ。

 

僕も、彼女も悪くない。

 

そして今、時間にして約2分の、短すぎる一世一代の大舞台の幕が開いた。

 

〈スタートしました!飛び出したのはセイウンスカイと…スクリプトロンガー!まずは〈奇術師〉と〈脚本家〉がレースを引っ張る展開か!〉

 

〈前回とは打って変わって逃げを選択したようです。何をするか分からないのがスクリプトロンガーの魅力ですね〉

 

いつも通り少しだけ飛び出したセイウンスカイのすぐ後ろにスクリプト(球磨川)が付ける形でレースは始まった。後方ではキングヘイローとスペシャルウィークが互いに牽制し合う形である。

 

中団に付けている娘たちは、前からの『ずらし』と『負完全(マイナス)』のオーラ、後ろからの『王威』と〈狩人〉の威圧により、スタミナや精神を大きく削られながら走る羽目になった。

 

距離にして大凡200mで、今年の皐月賞は実質4人立てのレースに成り下がった。

 

「そういえばさ〜スクリプト。スピカ勢はどうやら『領域』とかいうのを持ってるそうじゃない。どういうものなのか教えてくれたら嬉しいな〜」

 

『そのうち分かるからそれまで待っておきなよ。釣り人なんだし、待つのは得意だろう?』

 

大勢の心を打ち砕いておきながら、当の本人たちは呑気なものだった。

 

 

──────────

 

 

「ひえーえげつないことするなあ」

 

「ゴルシだったら()()、突破できる?」

 

テイオーは尋ねる。

正直言って雨でずぶ濡れの洋芝でも走った方がマシな空間は、テイオーからしてみればたまったものではない。

ならば、隣にいる破天荒なパワー系ウマ娘ならばどうなのか、という好奇心ゆえの質問だ。

 

その質問に対し、ゴルシは何でもないかのようにあっさりと答えた。

 

「余裕だろ」

 

「えぇ〜ホントに〜って…ホントっぽい顔してる…」

 

テイオーが言う『ホントっぽい顔』というのはよく分からないが…とにかく、ゴルシは嘘をついているようにも誤魔化しているように見えなかった。

 

「そもそも大体よー、どれだけ広く見積もったとして、あの威圧空間は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだろ?」

 

「えっ?あぁ、確かに…4人の間にいる娘に比べて追い込みの娘たちは楽そう…かも?」

 

「正解。ゴルゴルポイントの贈呈だ。まあ総合的な実力であの4人に劣ってるから追い抜けはしない。けどアタシならいける」

 

繰り返しになるが、嘘や誤魔化しでこんなことを言っているわけではない。あくまで事実の一つとして、淡々と述べているだけだ。

 

「折角今回の皐月賞ではグリーンベルトができてんだからよー、そこ走って体力温存して、最後に最後方からぶち抜いて終わりだろ。アタシが出てたらそうやって勝つぜ…ま、それはスクリプトがいない場合の話だけどな」

 

「えっ?何回も質問して悪いんだけど、何でそこでスクリプトが出てくるのかボクには分かんないんだけど、どういうこと?」

 

「何でって…あー、スクリプトの『領域』まだ見てないんだっけテイオーは。ほら、ゲートの下、目ぇ凝らしまくって見てみ」

 

言われた通りにテイオーは目を凝らす。しかし、そこには何もないように見える…が、ゴルシが言うには何かがあるらしい。

 

「何もなくない?」

 

「螺子があるだろ」

 

「えっあれっ?言われるまで無かったのに…いや、()()()()()()()()()?」

 

「そういうこった。はぁ…滅茶苦茶するなあいつ…アタシじゃねーと気づかねえぞこんなの…」

 

「もしかして…ボクたち、気付いてないうちにスクリプトになんかされたの!?」

 

「そうみてーだな。だってあいつ、レースが開始するまでに全員に螺子刺してたから」

 

「全員って…もしかして、観客…全員?」

 

「大正解だテイオー、大ゴルゴルポイントを贈呈だ」

 

どうやら、スクリプト(球磨川)は観客含め全員のバ場に関する興味を消し去ったようだった。テイオーは口を大きく開け、驚きを隠せていなかった。

 

「ていうかなんでスクリプトはそんなことしたの?見た感じ変わったところは他には無さそうだけど」

 

「もっと芝をよーく見ろテイオー。明らかに変だろ?」

 

「変って、()()()()()()()()()()()…あっ!」

 

「そういう事だよ。スクリプト、あいつ…」

 

 

「バ場の荒れを無かったことにしやがった。」

 

 

「反則じゃん…」

 

それでも観客で気づいているのがテイオーとゴルシだけである以上、競争が中止になることは万が一、億が一にも無かったのだった。

 

 

──────────

 

 

『いやあ、快適快適。何てったってセイちゃんの後ろに付けて、最終直線で千切ればいいだけだしね。邪魔してくる後続も今のところいないし、これは僕がG1取るのも夢じゃねえかもな。』

 

(いつまで喋るつもりだ…?そろそろ1,200m、こんなに喋ってたらバテるはずなのに…そもそもグリーンベルトの外を走ってるくせに、息が乱れなさすぎだし…『領域』の効果かな?)

 

相変わらず、レースはセイウンスカイとスクリプト(球磨川)が引っ張る形だ。変わった事といえば、スペシャルウィークとキングが徐々に位置を上げてきたことくらいだろうか。

 

2人に追い抜かれた娘は、揃いも揃って5着を狙っていた。日本ダービーの優先出走権の為である。もっと簡単に言ってしまえば、要するに皐月賞は捨てた。

 

一度でも勝負を捨てた奴は舞台に登る資格など無いというのに、その事に気づかずに、呆れるほど簡単に、この一世一代の大舞台から身を投げ、飛び降りたのだった。

 

そんなの『負完全(マイナス)』ですら無い。

 

そうやって皆が諦め、気づいた頃には(始めからこの展開になる事は分かりきっていたが)4人だけの勝負になっていた。

 

〈ここでスクリプトロンガーの3バ身後ろにスペシャルウィークとキングヘイロー!1番から4番人気が勢揃いだ!〉

 

〈まさしく猛追と言った感じですね。それに脚もまだ残っているように見えます〉

 

〈ここまでレースを引っ張って来たセイウンスカイとスクリプトロンガーには苦しい展開だ!さあ直線が近いぞ!〉

 

(ここだ!ここから攻めないと、間に合わなくなる!)

 

「はああぁぁぁッッッ!!」

 

スペシャルウィークは第4コーナー入口で動き始めた。スクリプト(球磨川)との差は3バ身程、スクリプト(球磨川)の末脚のことを考えると、この辺りから動き始めるのが妥当と言えるだろう。

 

(スペちゃんがここで動く!?そんな筈はない!ここからスパートをかけたってゴール前で垂れる程度の体力しかない筈…ッ!?)

 

セイウンスカイはようやく異変に気付く。1,600m近く走っておいて、今の今までこれに気づかなかったのは、異常と言っても何ら問題は無いだろう。

 

(グリーンベルトがない…いや、全部がグリーンベルトなんだ!何でこんな事に気づかなかった…てかこんなのあり得ない!!明らかに普通じゃないし、レース前まではちゃんとグリーンベルトがあったのに、となると…)

 

「スクリプト…まさかレース開始と同時に『領域』を使うなんて…マジで性格悪いね…」

 

『性根が捻じ曲がってんのさ。『負完全(マイナス)』だからね。』

 

今からゴールまで、万全の状態のキングとスペシャルウィークとスクリプト(球磨川)を相手にできるだろうか。ここまで先頭で引っ張って来た足で?()()()だ。誰よりセイウンスカイが、それを分かっていた。

 

ここで、セイウンスカイの勝ち目は消えたのだった。

 

〈セイウンスカイここまでか!後ろの3人が代わりに上がってくるぞ!〉

 

そこで、卵の殻が割れるような音が響いた。

 

そして、スペシャルウィークは己の勝利を確信し──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…あれ?私の流れ星は?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──4人全員が、闇に包まれた。

 

 

──────────

 

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、プライドが高い。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、気が強い。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、近寄り難い。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、孤高である。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、孤独である。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、羨望の目を向けられる。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、憎悪の目を向けられる。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、親の言う事は絶対だ。

 

けれど、逆らった。

 

憧れであり、そしてどうしようもなく鬱陶しい母親に。

 

何故か?

 

そんなこと、とうに分かり切っていることだ。

 

色眼鏡をかけているから、分からない。

 

曇った眼で見るから、分からない。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に?

 

違う。

 

けれど?

 

それも違う。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

だからどうした。

 

親の言うことなんてどうでもいい。

 

世間の声なんて必要ない。

 

適正距離なんて知ったことか。

 

お嬢様としてのプライドも邪魔なだけだ。

 

確かに、キングヘイローはお嬢様である。

 

それ以前に。

 

 

 

キングヘイローはウマ娘なのよ。

 

 

 

好きに走って何が悪いの?

 

 

──────────

 

 

──これは、勝てない。

 

セイウンスカイとスクリプト(球磨川)は瞬時に悟った。

 

「悪いわね、3人とも」

 

「『ッ!?』」

 

ここは最終直線の直前で、どう見てもスパートの姿勢なのに、どうやらキングは話しかける余裕まであるようだ。

 

「王様らしく余裕を持って。お嬢様らしく優雅に。昨日までそんな事ばかり考えていたわ。そんなの、私に出来るはずが無いのにね。私に出来るのは精々足掻く事だけ。だから、キングのプライド(Pride of KING)は捨ててみたの」

 

だけど、とキングは続けて話す。

まだ汗は掻いていない。

 

「だけどいきなり全てを捨て去るというのは難しいわね…恐らく今後、私は暫くこの『領域』を使えなくなるでしょうね。まだそこまでの器でないというだけで、いつかは使いこなせるようになってみせるけれど…とにかく、今日のところは私の勝ちよ。3人は王の戴冠式を存分に楽しんで行ってちょうだいね」

 

キングは茶目っ気たっぷりにそう言った。

優しげに微笑んで。

ご丁寧にウィンクまでして。

 

成程、今後この走りができるとも限らないのであれば仕方ない。今日のところはひとまず、王様に一つ目の冠を譲ってしまおう。

 

「『そうは行くかよ…ッ!!』」

 

否、諦めるはずが無い。勝ちを譲るなどあり得ない。

異常(アブノーマル)』と『負完全(マイナス)』がこの程度で諦めるはずが無い。

 

セイウンスカイは止まりかけた足を死ぬ気で回す。回す。回し続ける。今までレースを引っ張って来たのがなんだ。

()()()()。勝つ為だったら何でもする。天に委ねるなどバカバカしい。彼女が天なのだ。己のことは己で決める。

 

スクリプト(球磨川)は死ぬ気で走る。元より勝ち目など薄いのだ。それが更に薄くなったから何だというのか。状況は変わっていない。いや、寧ろ好転しているまである。

要するに、キングヘイローを抜き去ってしまえば勝ちなのだ。こんなに単純なことをするだけで勝てる。簡単かどうかはさて置き。

 

結論、誰が諦めるか。

 

それが2人の答えだった。

 

それは当然、王も予想していた通りのようで。

 

「へぇ…まあ、そう言うと思っていたわ。じゃあ、精々一緒に足掻きましょう。これでも私、結構ギリギリなのよ」

 

『どの口が言ってんだか…!』

 

「本当にね…!」

 

走る。

 

ただ走る。

 

ただ、好きなように走る。

 

ああ、なんて楽しいのだろう!

 

一生この瞬間が続けばいいのに!

 

確かにその場にいる者はそう思っていた。

 

 

ただし、好きなように走れる者に限る。

 

 

「待って…!置いて行かないで…!」

 

「スクリプトさん…!」

 

 

 

この期に及んでレース中に誰かに頼っているような奴が、勝てる筈が無かった。

 

〈大接戦を制したのはキングヘイロー!!!皐月の冠を勝ち取り、王たる所以をここに示しました!!!〉

 

一着、キングヘイロー。

二着、セイウンスカイ。

三着、スクリプトロンガー(球磨川禊)

 

最後の最後でセイウンスカイが根性で差し切り二着。

スクリプト(球磨川)はゴール直後悔しそうな顔をしていたが、直後にいつもの澄まし顔に戻っていた。

 

「あの、スクリプトさん…」

 

『おや、主人公は遅れてやってくると言うが、どうやら本当らしい。所でスペちゃん、前回といい今回といい、威圧をやってたみたいだね。僕の真似事は楽しかったかい?』

 

言葉の刃がスペシャルウィークに突き刺さる。

 

『ああ、そういえば。僕ってスペちゃんに勝ったんだよね!やったー!いやー、『悪役(マイナス)』の僕が『主人公(スペシャルウィーク)』に勝っちゃったし、どうやらこの世界の最終回は近いらしい。』

 

 

涙でにじんだ視界では、ライブ中に誰が前にいたかなんて分からなかった。

 

 

──────────

 

 

レース後、スペシャルウィークは寮の部屋には戻らずに、夜の河川敷に座り込んでいた。

 

「情けない…お母ちゃんになんて言えば…」

 

今までが順調だった分、一度負けると反動も大きい。

スペシャルウィークはすっかり自信を失ったようだ。

 

スクリプト(球磨川)に酷いことを言われはしたが…いかんせん事実であった為に反論する訳にもいかず、困り果てていたのだった。

 

と、そこへ1人のウマ娘がやって来た。近づいてくるのが足音で分かる。それが誰であるかも。

 

スペシャルウィークはゆっくりと振り向いた。

そこにいたのはスクリプト(球磨川)だった。

 

『やあ、スペちゃん。探したんだぜ?』

 

「スクリプトさん…ごめんなさい!」

 

『えっいきなり?』

 

「私、確かにスクリプトさんの真似をしていました!あの威圧も、レース中敢えて話しかけに行くのも…あんなの、私の走りじゃなかった!だから私の心を折るために、わざと厳しい言葉を吐いたんですよね」

 

『…どうだろうね?』

 

「少しくらい素直になりましょうよ…少なくとも。私にはそうとしか思えませんでした」

 

概ね正解であった。

中々的を射ている。

 

『その調子だと、既に立ち直っているのかな?』

 

「正直…はいとは言えません。今だって落ち込みっぱなしです。でも、ここで諦めるより、進んだ方が後悔しないはず、とも思っています」

 

『成程、つまり自分は『敗者(マイナス)』であるのに日本ダービーに進んで良いものかと、そう言うわけか。』

 

「はい…何だか恥を晒すみたいで…」

 

『やっぱり君は『勝者(プラス)』側の人間だぜ、スペちゃん。』

 

「えっ?いやでも、四着ですよ?勝ったなんてとても…」

 

『日本ダービーに出られるのは18人だけで、その内の1人に選ばれた。何を恥ずかしがることがあるんだい?僕なら出られるだけで狂喜乱舞だぜ。』

 

「でも…それじゃ『日本一』には」

 

『成れないね。今の君じゃ到底『日本一』なんて成れたもんじゃない。もし『負け』がどういうことなのか分かってればここまでするつもりじゃなかったんだが…これで僕はいろんな奴に嫌われるだろうね。』

 

そういうと、スクリプト(球磨川)は螺子を取り出した。

しかし、いつもの螺子とは形状が違う。

 

 

却本作り(ブックメーカー)。』

 

 

スクリプト(球磨川)が取り出した螺子は、マイナス螺子だった。

当然、今までの螺子とは気配が違う。

スペシャルウィークは体を縮こまらせ、耳を絞り、怯えている様子だった。

 

「ス、スクリプトさん…それ…刺さないですよね?また、そうやって脅してるだけですよね!?」

 

『いいや、脅しでも何でもないさ。大丈夫。『敗者(マイナス)』の気分を味わうだけだからさ。それに、未だに『勝者(プラス)』の気分でいる君が悪いんだぜ。』

 

『僕は悪くない。』

 

そして、スペシャルウィークの身体にマイナス螺子が捩じ込まれた。同時に、髪の毛から色素が失われて行き、目から光が消え、精神が『負完全(マイナス)』へと成り下がり、引き摺り込まれて行き──。

 

 

『…なんか、どうでも良くなっちゃいました。』

 

 

スペシャルウィークは、文字通りの『敗者(マイナス)』となった。

 

 

──────────

 

 

「さて、どこまで予定通りなのかな」

 

「どこまでって、そりゃあ全部に決まってるだろ?ここまで事がうまく進むと、ついつい調子に乗りたくなってくるぜ。わっはっは」

 

「趣味の悪いことを…事前に君から聞かされていなければ、私は今頃スクリプトを神威で焼いていただろうな」

 

「そりゃそうさ!誰だって怒るぜあんなことされたら。っていうか、僕としては毎朝螺子で刺されても反撃すらしないスペちゃんの方に驚きを禁じ得ないぜ」

 

「彼女は朗らかな性格…朗らかで済ませていいものか、とは思うが…とにかく温厚だからな。少し話しただけだが、ひしひしと伝わって来たよ」

 

「少し話しただけで他人の内面がわかるくらいには目が肥えてるんだから、()()がスペちゃんにとっていかに有益か、分かってるんだろ?シンボリルドルフ」

 

「ああ、正直なところ、半信半疑だったが…その通りだよ安心院なじみ。確かにスペシャルウィークには経験が足りていない。藁にすら縋れない、絶望の経験が。一度どん底まで叩き落とされて、そこから這い上がって来なければ『日本一』になど到底成れないぞ」

 

「君も中々厳しいことを言うじゃあないか、生徒会長」

 

「当然だ。もっとも、これは期待の裏返しでもあるわけだが。彼女ならば必ず、『日本一』に成れると私は信じているのでね」

 

「君を差し置いてかい?」

 

「それは保障しかねるかな」

 

「ははっ、君も中々我が強いねえ」

 

「〈皇帝〉だからな」

 

生徒会室での密談はここで終わった。

安心院なじみがスキルを使って姿を消したからだ。

 

その思惑は、依然彼女の胸の中にある。

彼女の目論見を、スクリプト(球磨川)は未だ知らない。




今までの話全部編集したらここすきがズレて大変なことになってしまいました。ここすきしてくれた人、申し訳ない。

感想・評価よろしくね。


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第−14箱 表裏一体

僕もランキング1桁台、一度は行ってみたいものです。
ほどほどに頑張ります。


さて、スクリプト(球磨川)の活躍により、見事にスペシャルウィークは『負完全(マイナス)』へと成り下がりましたとさ。

めでたしめでたし。

 

負完全ウマ娘 -完-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な訳あるかアホ。スクリプトさんよー、スペに勝ったのが嬉しくてたまらねえのは重々承知してるんだがな、勝ち逃げはダメだろうよ」

 

『えーっ、別にいいだろう?僕の人生において記念すべき2回目の勝利だぜ?ちょーっと羽目外してスペちゃんを『負完全()』と完全に同じにしちまうくらい許しておくれよ。ゴルシちゃんは太平洋よりも心が広いんだろう?』

 

なんというか、いちいち人の揚げ足を取るのが上手いやつだった。それでいて、取られた足は下に下ろせないのだからタチが悪い。

 

が、やはりそこはゴールドシップ。

元より地に足などついていないので問題は全く無かった。

寧ろ取った足の力が強すぎて、スクリプト(球磨川)が宙に浮かんでいるくらいである。

 

こちらも元より宙ぶらりんだったが。

 

「お前さー…流石にありゃあ無えわ。見たかよクラスメイト達の顔をよ。『純粋無垢な天真爛漫黒髪娘が夏休み明けに金髪ヘソ出し舌ピギャルになってた』みたいな表情だったぞ」

 

『おいおい、そんな高尚な物と一緒にしないでくれよ。僕のはもっと低俗で醜悪で下劣だぜ。敢えて例えるなら《数多のスキルで蹂躙劇、ただし仲間になったら3巻で退場》みたいな。そういう呆気ないものさ。』

 

一応僕も聞いてんだから、僕のことを貶すのはやめて欲しいもんだぜ。それにあの時は珍しく死ぬ気で時間を稼いだんだからよ。寧ろ感謝して欲しいくらいだ、全く困っちゃうな。

 

「とにかくだな、最低でも釣り人と王と鳥と武士には説明しとけって。いらん誤解を招いてスピカが潰れんのがいっちゃん困んだよ。って言っておけば動いてくれるか?これでもまだ足りないようなら次は手が出るぞ」

 

『おお、怖い怖い。で、断った場合僕はどうなっちまうのかな?』

 

「まず耳が6つに増える」

 

『説明してくるよ。』

 

正直なところ耳が6つに増えたらどうなるのかとか、そもそもどうやって増やすのかとか、そういう好奇心はあったようだが…『まず』という前置きから分かる通り続きがあるようなので、流石のスクリプト(球磨川)といえど折れざるを得なかった。

 

「あっそうだ、トレぴから伝言。『スペの為にありがとう』だとよ」

 

『どいつもこいつもお見通しってわけだ。あーあお手上げだぜ全く。』

 

中央トップクラスのトレーナーにその場しのぎの嘘も誤魔化しも通用しているはずもなく、目論見をあっさり暴かれたスクリプト(球磨川)は、やはりヘラヘラとした笑みを浮かべながらその場を去って行った。

 

 

──────────

 

 

『──と言うわけなんだ。ね、スペちゃん?』

 

『はい!スクリプトさんが言うには私は『負けを知らなすぎる』らしいので、一旦『最底辺(マイナス)』の『負完全(マイナス)』まで堕ちてみる事になりました!』

 

「話し方がスクリプトと同じになってる…なんていうか、不気味デース!」

 

「いや、えー…?っスゥーー…いや、えぇ…?うん…?」

 

「えっと…どういうことかしら?混乱してるのは私だけじゃあ無いわよね?」

 

「安心して下さい…私もです…ちょっと理解が追いつかないですね…」

 

意外にも、最も飲み込みが早かったのはエルであった。

器量が大きいというよりは、もっと単純に考えることを放棄しただけなのかもしれないが。

 

ちなみに現在スクリプト(球磨川)一行は食堂にいる。

スペシャルウィークの白くなった髪は注目を集めたが…すぐ近くでオグリキャップとタマモクロスが白米をかき込んでいた為、すぐに注目はそちらに移ってしまったようだ。

 

『要するに、だ。このじゃじゃウマ娘は相対的に見れば『勝ち』もいいところだってのに、自分は『負けた』からダービーに出る資格はないって言っててね。『負け組(多くのウマ娘)』にとってそれは…』

 

「最大級の侮蔑でしかない…つまりは愚弄であると、そういう事ですか?」

 

『正解だぜグラスちゃん。どの口で『負け』とか言ってんだ、一変『負け組(マイナス)』の気持ちを味わってみてからそういうことは言えよ、という事で…こうなった。』

 

「うーん、まあ…理屈としては…分からなくもない…いや、分からない…」

 

「っていうかスクリプトさんっ!」

 

キングは、何だか前にも聞いたことがある出だしで叫んだ。当然、『王威』は出ていない。食堂であんなもん出されても困るのだが。

 

「そもそもそれはどうやったのよ?あなたの『領域』って何かを消す効果なんじゃ無かったの?」

 

『そいつは至極当然の疑問だね、キングちゃん。そうだな、何から答えるとするか…。』

 

そう言ったスクリプト(球磨川)は視線を宙に移し、そして暫く考えた後に、到底信じられない言葉を口走った。

 

 

『僕には『過負荷(マイナス)』、つまりは『()()()2()()()()って言ったら信じるかい?』

 

 

場が静まり返った。

 

1秒。

 

2秒。

 

そして、3秒たっぷり使った後に、大声が響いたのだ。

 

「「「えぇーっ!?!?『領域』が2」」」

 

「あ"ーっ何か昼飯食うたら走りとうなってきたわ!!ひっさしぶりに思いっきり誰かとレースでもしたい気分やなあ"!!オグリもそう思うやろ!?」

 

「ああそうだな!!私もちょうどそう思い始めていたところだ!!えーっと、ところでタマ!!君もレースをしたいということだが、ここは一つ、私とレースしないか!?」

 

「おっノリも都合もええなあ!!オグリとレースすんのはあの『有馬記念』ぶりかぁ!!いやあこいつは楽しみやわぁ!!どれ、ここは先輩であるウチが格の違い見せたるわ

 

「ああ!!楽しみだ!!では今からコースに行こう!!ああ、そうだ!!タマ!!君の言ったこと一つだけ訂正させてもらう!!見せつけるのは私だ

 

 

瞬間、食堂は上も下も右も左も分からなくなるくらいにしっちゃかめっちゃかの大騒ぎとなった。

 

なんてったってあの〈葦毛の怪物〉と〈白い稲妻〉のドリームマッチをその目で見られるチャンスが舞い込んで来たのだ。ウマ娘なら誰だって騒ぎたくもなる。

 

『知らぬ人なぞ知らぬ』とまで評されるこの2人のウマ娘が、何故こうも目立つ真似をしたのか?

理由はもう分かっているだろう。

 

スクリプト(球磨川)の安易な発言を、学園内に広めさせない為だ。

学園内に情報が回れば、当然今後のスクリプト(球磨川)の競争人生は苦しいものとなるだろう。それを危惧した2人が気を利かせ、食堂にいる者の意識をスクリプト(球磨川)から逸らしてあげたというわけだ。

 

まあ当初の予定では『併走』という設定にするはずだったが、タマモクロスが芸人魂を発揮、『どうせやるならレースにしたろ』とアドリブをぶちかまし、それにオグリキャップが一も二もなく乗っかった結果、両者ともガチになってしまったのだが。

 

ともかく。

これが何を意味するかというと。

お礼にご飯でも奢らなければいけないということで。

 

『…財布の中身、残るかな。残ればいいな。』

 

つまりは、破産だった。

 

 

──────────

 

 

スクリプト(球磨川)一行以外の娘はオグリキャップとタマモクロスに追従して行ってしまったので、今現在、食堂には閑古鳥が鳴いていた。

 

『で、そうそう。僕には『領域』が2つあんのな。』

 

「1つでもヤバいのにそんなのが2つ…?いやはや、世界ってのはとことん不条理ですなあ…」

 

セイウンスカイの嘆きはもっともだ。

並大抵の、つまりは『普通(ノーマル)』のウマ娘であれば、この時点で心が折れるだろう。あっさりと、当然のように告げられるあまりの理不尽に、涙を流すかもしれない。

 

そうはならないから、『異常(アブノーマル)』なのだけれど。

そうはいかないから、『異常(アブノーマル)』なのだけれど。

 

「…まっ、私には元々策をこねくり回すくらいしか能が無いわけだし、やる事は変わんないけどね〜。わーお、セイちゃんってば健気〜」

 

『うーん、やっぱりこの程度じゃあ折れてはくれないか。ままならないね、人生って奴は。』

 

「誰が折れてやるもんか。それに私は釣り人だからね、大物の方が寧ろ燃えるって感じかな〜?」

 

『そうかい。それじゃあその両手に構えた釣り竿からへし折らせてもらおうかな。』

 

「生憎、折れた時に備えてスペアの竿を用意するのが釣り人なんだよね〜」

 

ああ言えばこう言う。

こう言えばそう言う。

 

「そういえば、1つ目の『領域』が『何かを消す効果』だったとして、じゃあ2つ目は一体どんな『領域』なの?って話をしてたんデスよね?実際どういう物なんデスか?」

 

『どういえば良いんだろうね、この場合は。えーっと、つまり…『みんな『負完全()』と完全に同じになる効果』って認識で合ってるぜ。』

 

「随分と開けっぴろげデスね…」

 

『開き直ってんのさ。』

 

要するに、隠してもいずれバレるんだからさっさと言ってしまおう、ということだった。見下げた根性である。

 

「えっと、スペちゃんがそうなった原因は、スペちゃんの胸にこれ見よがしに刺さっているマイナス螺子…で合っていますか?」

 

『はいっ!皐月賞の後、スクリプトさんがこう…ブスッと!』

 

「ブスッと…?」

 

『ああいや…グサっと、だったかな?いやいや、サクっと…これじゃあお菓子ですね。パキッと…いやでも、心は別に折れてないし…。』

 

「とにかく、皐月賞の後にスクリプトに螺子を刺されて、それから何か、髪の色と精神性以外に異常は無いんですね?」

 

『特には無いですね。ちょーっと何もかもがどうでも良くなって、目に映る物全てが羨ましくて劣等感が増したくらいです。』

 

「随分大事な気もしますが…まあでも、私もスペちゃんの発言には少し…いや結構…相当…かなり…本気でカチンと来ましたし…良薬は口に苦し、とも言いますし、これを機に反省して下さいね?」

 

『うん…私、酷い勘違いをしてたみたい。『自分の夢』さえあれば勝てる、なんて酷い思い違い。『自分の夢』なんて、ここにいる誰もが持っている物なのに。』

 

スペシャルウィークも皐月賞から今日この時まで、何も考えなかったわけでは無い。寧ろ、1人でいる時間のほとんどを考え事に費やしていた。これも『負完全(マイナス)』になった弊害、もとい恩恵である。

 

「それで?スペシャルウィークさんは、これからどうするつもりで、どうなるつもりなのかしら?」

 

『日本ダービー1週間前まで、このまま過ごすつもりです。普段の自分がいかに恵まれていたのかをしっかり噛み締めて、本気で勝ちに行く。それが今まで私を助けてくれた人への、最低限のお返しだと思うから。』

 

「そう、それならいいのよ。このキングのライバルが腑抜けたままだったら、張り合いがないもの。お互い頑張りましょうね」

 

『はいっ!あ、そうそう、一つだけ言っておきたいことがあってですね…ああ、キングさんだけではなくて、他のみんなにも言っておきたいことなんですけど…』

 

と、丁寧に前置きした上で…どうしても一波乱起こさないと気が済まないのかもしれないが…普段の彼女であれば絶対に言わない言葉を口走った。

 

『日本ダービーで私が勝ったら、皆さん体操服はブルマにして下さいね♪』

 

「「「『………。』」」」

 

「スペちゃん…私も、ですか…?」

 

『えっ?はい。』

 

「……」

 

スクリプト(球磨川)を構成する個性の内、よりにもよって最も露見してはいけないものが出てきてしまった。こういう運の悪さも、彼女が『負完全(マイナス)』たる所以だろうか。

 

ていうか、花も恥じらう乙女達が揃いも揃って固まっちまってんじゃねえか。あーあ、どうすんだよこれ。

 

 

──────────

 

 

空を鳥の大群が滑空する時間帯──即ち夕方である。

チーム〈スピカ〉の面々は、ランニングコースの途中にある公園で休息を取っていた。

 

沖野は何だか機嫌が良いらしく「よーっし、たい焼き奢ってやるよ」と、普段の彼からは想像できない太っ腹さを見せつけた。たい焼き如きで何言ってんだって話ではあるが。

 

「で?スクリプト先輩は何でそんなにたい焼き食うのが下手なんだ?」

 

「なんかブチブチ音が鳴ってるし…たい焼きから出る音じゃないわよ!?」

 

『いやー、癖なんだよね。手を汚すのが。』

 

「ワケ分かんないよ…?」

 

あまりにもあんまりなたい焼きの食べ方は、あまりウケは良くなかったようだ。当たり前である。ちなみに具はつぶあんのようだ。

 

『ゴルシさん何味ですか?』

 

「からし」

 

『私はわさびです!気が合いますね!』

 

「本当にスクリプトみてえな滅茶苦茶具合だなオイ!」

 

スペシャルウィークとゴルシは…批判等々一切諸々を恐れずにはっきり言ってしまえば、イカれていた。

 

「ていうかスペちゃん、本当に髪真っ白じゃん!監督トレーナー監修スクリプトのイメチェンとはいえ激しすぎない?」

 

「もはやイメチェンっつーか…」

 

「キャラチェンって感じよね…」

 

スペシャルウィークはスペシャルウィークにあらず。

そう言っても差し支えがない程度には、別人のオーラを纏っていた。

 

『皐月賞でみっともなく負けたので心機一転!堕ちたら後は這い上がるのみなので粉骨砕身!もう一度基本に立ち帰り、追いかける立場として頑張ります!』

 

「やあやあスクリプトさんやい、お前の説明ではマイナス螺子刺した相手はお前と同じになんだよな?」

 

『そうだね。つまり、今の僕はそこそこの上昇志向を持っているということに他ならない。新しい場所に来たから心機一転、勝てる保証もないから粉骨砕身、そもそも追いかけられるのは趣味じゃねえから追いかける立場。後はほどほどに頑張ろう。こんな感じ。』

 

「随分とニュアンスがズレちまってるような気がするが…まあ宇宙から見ればそんなズレ、微々々々たるもんか」

 

『物事を俯瞰する位置が高すぎだぜ。君は神にでもなるつもりかい?』

 

「ああ、成れるなら成りたいと思ってるぜ。逃げを司る神『バク神』と対を成す存在、追込を司る神『ゴル神』にな」

 

『夢が大きくて良いね。大きすぎる夢は不可能なものにしか見えねえが、君ならあるいは、と思ってしまうのは何故だろう。』

 

「あ?夢だぁ?夢なんてものは何処にもねえよ。此処には無いし彼処にも無い。過去にも無ければ未来にだってありはしない。アタシは現実の話をしてるんだぜ、スクリプト。そんなこと言ったらお前の夢だってデカすぎて現実味が無えってもんだろうがよい」

 

『おや、君に僕の夢を話した覚えはこれっぽっちの一欠片もありはしねえんだが…まあいいさ、ついでにここで正解発表でもするかい?』

 

「いや、別にいい。その反応をするって事は当たってそうだしな。pIgcんj(Bjd#acegytjん_p&mt(まったく…難儀な性格してるよな…お前はよ)

 

『おーい、スマホのキーボードが1つずれてるぜ。』

 

ゴルシは「_Igeiz#(おっと失礼)」と言い、からしたい焼きをむしゃりむしゃりと頬張り始めた。『アウトロー』という言葉は彼女のためにあるのだろう。少なくとも、スクリプト(球磨川)はそう思った。

 

 

──────────

 

 

「…うん、見た目、脚の方は問題ねえな。スペの身体能力がスクリプトと同じになってるってのもまあ分かった。仕上がり方が同じだからな」

 

『ん?問題ない?おいおい、沖野ちゃんともあろう者が、そんな単純なこと間違えちゃあダメだろう?()()()()()()()()()()()()()。』

 

「いいや、問題ない」と沖野は言い、スクリプト(球磨川)の脚を触り始めた。当然、少しでも変なことをしようものならゴルシ、ウオッカ、スカーレット、テイオー、スズカによって蹴り上げられるという脅し…もとい、約束のもとで。

 

「やっぱりな。お前、そこそこ走れるようになってるぞ」

 

『僕は『負完全(マイナス)』なんだぜ?怪我をしようが怪我をさせようが嫌われようが好かれようが、そこから何も学びはしないこの僕が成長だなんて笑わせてくれるじゃあないか。寧ろ劣化中の落下中。右肩下がりですら無く、それこそ断崖絶壁って奴だぜ。』

 

「俺は何もお前が成長したなんて一言も言ってねえよ」

 

『え…ひど…。』

 

「お前いちいちめんどくせえな!!」

 

沖野が堪らず大声で吼えたタイミングで、スペシャルウィークが『私から説明しても良いですか?』助け舟を出した。

 

ちなみにゴルシはからしたい焼きをテイオーの口に突っ込んでいたため、助け舟は出さなかった。

 

「ああ、今スペはマイナス…いや、『負完全(マイナス)』なんだったか。じゃあ頼む。お前から言った方が説得力あるだろ」

 

『では、スクリプトさん。説明しますね?そもそもスクリプトさんって日を追うごとに劣化していく消耗品じゃないですか。』

 

スクリプト(球磨川)は何も言わない。

図星だった。

 

『でもその劣化を日々誤魔化して生きているわけです。自分は『負完全(マイナス)』だから負けるのが当然、勝てないのは必然、勝てたのは偶然。あくまでこれは自然の摂理で、脚本家が飽くまで続く地獄のようで天国のような牢獄。だったら、依然勝てなくてもしょうがないよね、なんて悪魔の囁きに身を任せて。』

 

スクリプト(球磨川)は何も言わない。

図星だった。

 

『でもね、スクリプトさん。それはあなたの本質ではないんです。昔どうだったかは知りませんが、少なくとも、今、この瞬間は。私はあなたと同じだから分かるんです。あなたが見ている世界が。あなたが自分をどう見ているか。あなたは自分を大切にしている。いいや、大切になんてしていないさ。あなたは仲間を大切にしている。いいや、仲間なんて鬱陶しくて堪らないね。あなたはこの残酷だけれど美しい世界を愛している。いいや、いつかぶっ壊してやりたいくらいだぜ。そう見ている。そう見えている。そうとしか見えない。なんて醜く美しい自己矛盾、二律背反、ダブルスタンダード。』

 

スクリプト(球磨川)は何も言わない。

図星だった。

 

『私は、スクリプトさんが羨ましくて堪らない。』

 

スクリプト(球磨川)は何も言わない。

何を言っているのか分からなかった。

 

『あなたは短所が多いです。誰の目から見ても。でもそれって片方だけしか見てませんよね。誰も月の裏側を地上から肉眼で確認できないのと同じですよ。コインでも、カードでも、人格でも、名前でも、精神でも、この世に存在するものには全て表と裏があるんです。所謂表裏一体。それは短所も同じなんです。』

 

スクリプト(球磨川)は何も言わない。

何を言いたいのか分かってしまった。

 

『つまり、片方が短ければ片方が長い。片方に存在しないのであれば、それは裏側に全てがあることを意味します。数直線で例えれば、あなたは全てがマイナスです。文句の付けようが無いくらいに。普通に考えればマイナスっていうのは悪いことのように思えます。だけど、全然そんな事はないんですよ。この場合は、スクリプトさんは『負完全(マイナス)』であっても、完全な悪というわけではないですよね。ていうか、そもそも考えてみて下さいよ。『負完全(マイナス)』で何が悪い。』

 

スクリプト(球磨川)は何も言わない。

何も言い返せなかった。

 

『考え方、言い方の問題なんです。確かに、スクリプトさんの余りにも余りある『負完全(マイナス)』さっていうのは、それこそ数直線上では左に出るものはいないんですよ。そう。あなたの前を歩く人は星の数ほどいても、あなたより後ろにいる人間なんていないんです。つまりこれはどういうことかっていうと、不正上等、不意打ちし放題。それって立派な武器じゃないですか。』

 

スクリプト(球磨川)は何も言わない。

何も。

 

『何が言いたいかっていうと、スクリプトさんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。劣化したからこそ、優化したんです。劣り続けることが優れ続けることへと繋がった。あなたは『負完全(マイナス)』だ。でも『負完全(マイナス)』でしかないんです。善も悪も前も後も右も左も今も昔も天も地も体も心も正も負も案も策も何もかも遍く総てを飲み込んで呑み込む混沌を混沌する混沌より混沌らしき混沌から這い出る混沌。人聞きは悪いかもしれないけれど、()()()()()()()()()()()()。競争なんだから、他人の足引っ張ってなんぼです。混沌に引き摺り込んでやればいい。』

 

スクリプト(球磨川)は。

また。

 

『結局は、スクリプトさんの脚は劣っているけど優れているし、優れていても劣っているんですよ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、スクリプトさんは自分の劣悪加減に自信を持って、それで気ままに振る舞って、好きなように騙くらかしたり嘘ついたりやりたいことをやって、それで相手に『卑怯だ』って言われたら言い返してやればいいんです。『騙された君が悪いんだぜ。』そして、』

 

 

『僕は悪くない、って。』

 

 

スクリプト(球磨川)は。

 

『主人公』に。

 

 

『また、勝てなかった。』

 

 

──────────

 

 

『……完敗だ、スペちゃん。ここまで完膚なきまでにやられたのはいくら僕といえど、片手で数えられる程度でしかない。ああ…でも、そうか。思えば僕は、ここ1番って所で毎回ボロボロになっていたな。』

 

思い返されるのは、箱庭学園での日々。

 

『でも、スペちゃんに言わせれば、僕は常に負け続けて勝ち続けていたということになるのか。確かに、最終的には毎回どうにかなっていた気もするし。』

 

そして視線をスペシャルウィークに合わせ、少しだけ迷い…スペシャルウィークの体に突き刺さっているマイナス螺子を消した。

 

「…いいんですか?私、正直まだ皐月賞は『負けた』と思ってますよ?」

 

『ああ、構わねえよ。僕と同じとこまで堕ちて、それでいて尚且つ他者に対する優しさを失わないってんなら…その優しさは君の本質ってわけだ。人間、追い詰められると本性が出るって言うだろう?』

 

『それだけのことさ。』と言い、スクリプト(球磨川)は再びたい焼きを食べ始めた。スペシャルウィークから見たスクリプト(球磨川)は、少しだけ憑き物が落ちたように見えた。

 

「なあスペちゃんよお、『負完全(マイナス)』ってどんな気分だったワケ?」

 

「あっ抜け駆けは無しだよゴルシ!ボクだって聞きたいことあるんだから!あの長い話はどこからスペちゃんでどこからマイナスだったのとかさ!」

 

「スペちゃん…大丈夫だった?ごめんなさい、私…何もしてあげられなくて…」

 

「あっスズカさん、全然大丈夫ですよ!元はと言えば自惚れてた私が悪いワケですし!」

 

「今度何かあったら、どんなことでも力になるわ。必ず私に相談してちょうだいね」

 

「はいっ!」

 

やはり『主人公(スペシャルウィーク)』に『負完全(マイナス)』は似合わない。

スクリプト(球磨川)はそう再認識し、つぶあんのたい焼きをむしゃりむしゃりと貪ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー、それにしても。

 

 

 

『主人公』…。

 

 

 

スペシャルウィークねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余計なことしやがって。




皐月賞の掲示板は菊花賞まで終わったら書きます。

感想・評価よろしくね。


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第−15箱 修行/苦行

シービー!ターボ!トプロ!キタサト!新シナリオ!カツラギ!ジャンポケ!ネオユニ!ミラクル!タップダンスシチー!うおおおおおおお!!!!!

それはそうと、今回5時間で書いた僕を褒めてください。
完全に趣味回ですが。


 

さてさて、何はともあれ、スペシャルウィークは『最底辺(マイナス)』の『負完全(マイナス)』から完全に回復した。

喜ばしいことに。

恨めしいことに。

 

僕としては、スペシャルウィークは一生『負完全(マイナス)』のままで良かったんだが。 

 

予定より早く『負完全(マイナス)』から復活したはいいものの、『負完全(マイナス)』になった事による遅れは、他の『異常(アブノーマル)』を相手にするには些か痛手すぎる。

 

「と、言う事でスペ。これからダービーまで、遅れを取り戻して取り返す為、死にに行くぞ」

 

「死…死にに…ですか?言い間違いとかでは…」

 

「ない。断じてない。今からお前が見るのは未来でも現実でも、希望でも絶望でも無い。賽の河原だ」

 

「スっスクリプトさん!」

 

『僕もそこまで付き添うんだから、互いに互いを気にしている場合じゃねえと思うぜ。そもそも僕って『虚弱(マイナス)』なんだし。』

 

「スズカさん!!」

 

「私は今回地獄を見せる側だし…手助けは出来ないわ。足を引っ張って邪魔する事はあるかもしれないけれど」

 

確かに日本ダービーは生半可な気持ちで掴める栄光では無い。そもそも十全であっても届かない頂だというのに。

 

悲鳴を上げて、悲痛を感じ、悲惨を目の当たりにし、悲報が舞い込み、悲業に灼かれ、悲録に記され、悲亡に伏され、悲衛に飲まれ、悲球に倒れ、悲終で幕を閉じる。

 

選ばれた18人の内1人だけがこの悲劇を回避し、喜劇を演じる事が出来るのだ。そこまでの道程は、荊棘で舗装されているが。

 

()()()()()()()

 

「しょうがないですね…スクリプトさん!」

 

『何かな、スペちゃん?』

 

「一緒に、死にましょう」

 

『そいつは魅力的な提案だぜ。』

 

もう『主人公(スペシャルウィーク)』が、怖気付く道理など無かった。

 

 

──────────

 

 

「一緒に死ぬとは言ったけどにんじんを諦めなきゃいけないなんて死んだ方が100倍マシです!!!」

 

前言撤回だ。

道理は確かに無かったが、理由だけなら全然あったらしい。それがにんじんだったとは思いもしなかったし、まさか文字通りに決死の覚悟を決めているとは。

 

「スペ先輩…そんなににんじんが好きだなんて…」

 

『スカーレットちゃん、めんどくせえから説得しておいてくれない?ほら、ツッコミが僕しかいないのってかなり問題だと思うんだよね。』

 

「えーっと、つまり…スペ先輩!勝負事っていうのはハングリー精神が大事なの!腹が減っては戦はできぬとも言うけれど…別に戦をするわけでは無いし、程よく空腹であるというのは大事な事なのよ!」

 

成程、なんだか妙に説得力がありそうで無い話だった。

ただ、人を騙すのには多少怪しいくらいが丁度いい。

 

「くっ…うぅぅ……!!」

 

『そこだ!やれ、スペちゃん!その我慢の先には『日本一』が待ってるぜ!』

 

 

─5分後─

 

 

「…お母ちゃんの…にんじん…」

 

「見事に真っ白ね…燃え尽きて灰みたい」

 

『……?これは……。』

 

スペシャルウィークは、五分もかけてようやくにんじんの封印に成功したのだった。この調子だと、きっとダービーが終わったら爆食いする事だろう。

 

勝手に食って勝手に後悔してくれ。

 

 

──────────

 

 

「えーっと、ウオッカさんは何故竹刀を…?」

 

「古き良き…いやまあ最近悪しき文化と呼ばれてはいるけど…典型的な体育教師のイメージです。つまりは、鬼!」

 

「鬼」

 

「先輩方!俺、心を鬼にします!2,400mを完全に自分のペースで走れるようになるまで、地獄の筋トレ、行くぞーっ!!」

 

そう言うや否や、ウオッカは竹刀をスペシャルウィークとスクリプト(球磨川)目掛けて振り下ろした。竹刀の先端がヒュッと音を立て、そして…。

 

スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)の頬に一筋の線が現れた。色は赤、線の部分は熱を持ち、ピリっと痛みを感じる。数秒の後、たらりと赤い液体が流れ出た。

 

「えっええっえっえぇえぇぇ!?!?!?」

 

『これは…あの娘に似てるな、誰だっけ…そうそう、贄波ちゃんだ。思い出した。』

 

「どっどういう理屈ですか!?賽の河原を見るって比喩表現じゃ無いんですか!?」

 

「理屈も何も、俺たちはウマ娘なんすよ?本気で竹刀を振るえばつむじ風くらい起こせますって」

 

ウオッカ曰く、そういう事らしい。

 

ちなみに念のため記しておくが、実際の剣道の試合でつむじ風を起こして、相手に怪我させたら反則一回だから、これから剣道始める奴は注意しておくといいぜ。

 

「さて、死にたくなければ死ぬ気で死力を尽くしてください!!まずはこのBPM150のメトロノームに合わせて腹筋300回!!」

 

『はいはい質問。一回遅れるごとにどうなっていくのかな?』

 

「BPMを1減らして最初からカウントし直しですね。BPMが100を切ったら斬ります」

 

『袈裟で?』

 

「一文字です」

 

鬼は鬼でも剣鬼の発想だった。

 

「じゃあ始めますよ!3…2…」

 

「まっ待って…!」

 

「待たない!1…始めっ!!」

 

 

─2分後─

 

 

「はっ…!はぁっ…!」

 

『……………………。』

 

何も知らない人が見れば、今の2人は紛う事なき死体だった。事情を知っていても「あれ?もしかして2人とも死んだ?」くらいには見えたが。

 

既に一度死んだようなものだが、死んだだけでは物足りない。鬼は人の心が無いから鬼なのだ。

 

「じゃあ1分休憩して、BPM150で背筋300回っすね」

 

「えっ1分?」

 

鬼というより悪魔なのかもしれない。

 

 

─3分後─

 

 

「        」

 

『いやーあって良かった『大嘘憑き(オールフィクション)』。感じる苦痛をなかったことにしちまえば楽勝だぜこんなん。』

 

「次使ったら斬りますよ」

 

『短冊?』

 

(こま)でも微塵でも、お嫌いな方で」

 

悪魔というより主婦なのかもしれない。

 

時代遅れの体育教師のロールプレイが中々上手いではないか。そんなもの上手くなったところで人生で得する事は無いのだけれど。

 

「じゃあ1分休憩して、BPM150で腕立て300回っすね」

 

やはり悪魔だった。

 

『ちなみに沖野ちゃんはこれについてなんか言ってた?』

 

「どうせスクリプトが治療するからやるだけやっちまえって言ってましたね」

 

『沖野ちゃん本気で消してやろうかな。』

 

沖野も悪魔だった。

 

 

─3分後─

 

 

「」

 

『』

 

ここまで来ると2人とも虫の息…虫の方が元気かもしれないという有様だった。それでもノーミスでやり切っているのはやはり『異常(アブノーマル)』と『負完全(マイナス)』であると言った所か。

 

「じゃあラスト、BPM300でモモ上げ600回です」

 

もはや筋トレの体は成されず、つまり何が言いたいかというと、これは拷問といって差し支えなかった。

 

鬼でも悪魔でもなく処刑人だったようだ。

モモ上げを終えた後にウオッカが「これ毎日やりますからね」と言い放ち、スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)はみっともなく泣いた。

 

 

──────────

 

 

「えーっと…大丈夫?」

 

「『ダメかも…。』」

 

「ま、まあ、ボクのは厳しいわけじゃなくて楽しむタイプのトレーニングだから…安心して?だから2人とも『あわよくば気絶させて逃げよう』みたいな顔はやめて欲しいなって思ったり」

 

トレーニングしてもらっている分際で何を考えているのか。それに、その気になればテイオーが〈帝王〉になるという事を忘れてはいけない。

どうやら2人は忘れているようだったが。

 

「って事で!ボクはダンスを教えてあげるね!まずはボクと同じポーズしてみて」

 

「こっ、こう?」

 

『痛たた…このポーズ腹筋と背筋に負荷がかかるからキッツイなあ。』

 

見よう見まねでテイオーの真似をしたはいいものの、地獄の筋トレをしたばかりの2人には厳しいものだった。実際、だいぶ楽な部類なのだが。

 

「何これ…2人とも体はブレブレで話にならないのに、軸だけはしっかり通っててそれでいて固まってる…どゆこと?」

 

『信念が固まったからじゃない?』

 

「…あぁ、芯ができたって事ですか」

 

「ふーん、すごいつまんない事言うね」

 

『……。』

 

流石のスクリプト(球磨川)とはいえ、美少女に真正面から隠しもせずに暴言を吐かれれば傷つく。今までなんだかんだどうにかなっていただけで、基本的にメンタルも弱いのだ。なぜなら『負完全(マイナス)』だから。

 

その後、紆余曲折あってダンスの練習に入り、時々筋肉痛で動きが鈍る以外はほとんど完璧だった。テイオー曰く「教え甲斐がなくてつまんないよー!」だそうだ。

 

すまねえな、うちの『負完全(マイナス)』が。

 

 

──────────

 

 

「スペー、もう目隠し取っていいぞー」

 

「えっと…あれ?飛び込み台から飛び込むって、確かゴルシさんそう言ってましたよね?」

 

「一回『負完全(マイナス)』になってんだから度胸は付いてんだろ。ちなみにここはスピカの部室な」

 

『それは分かるんだけどさ、この文章は一体何なのかな?正直言って、嫌な予感しかしねえが。』

 

2人の目の前にあったのは、文章付きの2枚の紙だった。

 

「北海道生まれの、素直で明るい頑張り屋。生後すぐに実母を亡くし、その親友である人間の女性の元に預けられた。『日本一のウマ娘になる』は2人の母に誓った約束。憧れたりくじけたりを繰り返しながら、持ち前のガッツで夢に向かってひた走る…私のことですよね?」

 

「御名答!ちなみにアタシが書いたやつな、それ。大事に取っとけよ?」

 

『「熊本から来た、捻くれ者のウマ娘。本人曰く『負完全(マイナス)』らしい。地元の友達を時々気にかけている。『僕は悪くない。』『また勝てなかった。』が口癖で、事あるごとにそう言っている。正気も狂気も不必要、彼女にあるのは混沌のみ。」これは僕のことだね。』

 

「正解。ていうか、その説明文でお前以外を思い浮かべる奴はそもそもいねえだろ」

 

中々コンパクトに纏まった文章だった。

今この時に至るまでの境遇や、際立った特徴が端的に説明されている。が、一体これが何だというのか。

 

「それで、これをどうすればいいんでしょう?食べろとか言いませんよね?」

 

「流石のアタシでも言わねえよ!ヤギじゃあるまいし。いやな、トレーナーから言われたんだけどよー、アタシってスピカで1番頭いいじゃん?」

 

『そんな自信満々で言うことでもねえと思うが、確かにそうだね。』

 

「でさ、お前ら2人の賢さトレーニングを一任されたのよ。そんで、ゴルシちゃん面白そーな事を考えついちゃったってわけな。『リポグラムで自己紹介させたらおもろくね?』って」

 

「リポグラム…って何ですか?ミリグラム的な…」

 

「いやいや違う違う、リポグラムってのは所謂一種の言葉遊びよ。使える文字を制限して、その中で文章を作るっていう遊び」

 

例えば「オッス、オラ、ゴールドシップだぞ!」という文章があったとする。

これを"お"の横列、つまりは

『お・こ・そ・と・の・ほ・も・よ・ろ・を』

を制限して書き直す。すると

「やあ、あたしは金でできた船っていう名前なんだ」

になる。これがリポグラムだ。

 

『…まさか、この文章をリポグラムしろと?』

 

「そゆこと。飲み込みが早い奴は好きだぜ、スクリプト。リポグラムで1人につき5通りの文章を作ってもらうっていう賢さトレーニングだ。頭使うだけだし、ウオッカの筋トレより楽だろ?」

 

「5種類ってことは…」

 

「"あ"の横列制限、"い"の横列制限、"う"の横列制限、"え"の横列制限、"お"の横列制限の5種類作ってもらうってこと。ただし"ん"だけはいつでも利用可能。わお、ゴルシちゃんてば、超優しいな!」

 

鬼よりも鬼らしかったし、悪魔よりも悪魔らしかった。

終わる頃には2人揃って文字が嫌いになることだろう。

だがそんなこと、あの〈不沈艦〉には関係なかった。

 

「うーん、この感じだと…スクリプトはもう行けそうだな。じゃ、スクリプト。最初は"あ"の横列制限」

 

『都道府県コード43(フォーティースリー)より()る、捻くれ者の駿メ(駿馬)娘。本人の(こと)によると、『人類史におけるフロップ』。地元の友を時々気にしている。『僕の罪と到底思えず。』『いつもの如く勝利、手の内に無えよ。』と、口癖をしょっちゅう言っている。正気も狂気も不必要、スクリプトの持ち物混沌のみ。』

 

「次、"い"の横列制限」

 

『熊本が故郷(ふるさと)の、心が腐ったウマ娘。奴は己をこう語る、『世の欠陥』と。故郷(ふるさと)の友を間々(まま)想ってる。『僕は悪くねえ。』『また勝てなかった。』がマウスの癖で、それらをよく(こう)から発する。真面(まとも)もその裏も無用、かの娘が欲すは混沌だけ。』

 

「調子いいじゃねえか。じゃ次、"う"の横列制限」

 

『肥後の辺りから来た、心が捻れた()女子(おなご)。彼女は述べた。『出来損ない』だと。地元の友達を気にかけがち。『私は(よこしま)じゃない。』『また負けた。』がお気に入りの言葉で、言わねば生きていられない。真面(まとも)(たが)えた気もいらない。彼女に、ただ混沌のみを捧げよ。』

 

「これは簡単だったか。はい次、"え"の横列制限」

 

『熊本から来た、気質が曲がったウマ耳の女の子。本人曰く『負完全(マイナス)』らしい。地元の友達のことを思い出しがち。『僕は悪くない。』『また勝利を逃した。』がよく使う科白(かはく)だから、隙あらば口にする。正気も狂気も不必要、彼女にあるのは混沌ただ一つ。』

 

「これも簡単だな。ラスト、"お"の横列制限」

 

『カルデラ(ひし)めく県からやって来た、性格が捻くれたウマ娘。奴が言うには『負完全(マイナス)』らしい。産まれた地にいる同胞(はらから)たちが心配みたい。『君が悪い。』『また勝てなかった。』が口癖で、やたら言いたがる。正しい気?狂った気?要らないね。アナーキーだけくれればいい。』

 

「はい合格!これをパパッと言えるのはもはや気持ち悪いぞお前」

 

『流石に疲れたぜ。パズルみたいで中々頭がほぐれるから楽しかったけどね。』

 

箱庭学園を舐めてもらっちゃあ困る。

あそこに通ってればこれくらいはすぐ出来るようになる。

ただし、黒神めだかが関わらない時の人吉善吉は除く。

 

とにかく、スクリプト(球磨川)の番が終わったということは、即ちスペシャルウィークの番になるということを意味しているので。

 

「じゃ次。スペの番だぞ」

 

「ちょっと待ってください!まだ紙に書けてません!」

 

流石に『主人公』といえど、この文字地獄に即座に適応は出来なかったようだ。というか寧ろ、された所で反応に困るのだが。

 

 

─30分後─

 

 

「やっと出来ましたぁ!!」

 

「おっ出来たか!じゃあ"あ"の横列制限からな」

 

「都道府県コード1に生を受けし、温厚ポジティブ努力娘。生後すぐに実母と死別し、その親友の人間の女性に育成を受ける。『日本一の駿メ(駿馬)娘の称号を手に入れる』と、実母と義母に宣誓済み。憧憬(どうけい)消魂(しょうこん)をリピートしつつも、天性の根性で夢に向けて力走する」

 

「次、"い"の横列制限」

 

「最も北方の都道府県生まれの、素直で朗らかな頑張る者。産まれてすぐ本当の母が亡くなったが、そのベストフレンドの女の元へ預けられた。『国家のコード+(プラス)8(アハト)1(ワン)でトップのウマ娘の名を取る』はダブルの母へ向けた約束。憧れや挫折を何度も反復するが、生まれ持ったガッツで夢へと向かってただ駆ける」

 

「よく出来たなこれ…次"う"の横列制限」

 

「蝦夷にてボーン、飾り気無いし呑気な頑張り屋。生後矢庭(やにわ)に母が逝去、親しい友の人間の女性の元に(まか)された。『日本一の()女子(おなご)に相成らん』は母たちに宛てた誓い。憧れたりへこたれたりしながら、持ち前の気勢で望み目指していざ走らん」

 

「やるなあ!次、"え"の横列制限」

 

「北海道出身、素直だし明るい頑張り屋。降誕(こうたん)後間もなく実母を亡くしたが、親友のヒトの婦人がその身を預かった。『日本一のウマ耳の女の子になる』は2人の母に誓った約束。心酔したり参ったりを反復しながら、元来(がんらい)持つガッツにより望みに向かいひた走る」

 

「これは簡単だな。ラスト、"お"の横列制限」

 

「唯一『(みち)』が付く地に生まれた、飾り気が無くて快活な頑張り屋。生まれてすぐに母が亡くなったが、親友であるウマではない婦人に預けられた。『ジャパンで一番有名なウマ娘になる』は2人いる母に向けた誓い。心酔や挫折が着いてくる人生だが、生来(たずさ)えていたバイタリティで夢に向かってひた走る」

 

「はい合格!30分でここまで出来るとは…ってオイ、スペ?どした?」

 

「限界…」

 

「…アタシってば、やりすぎた?」

 

『そうみたいだね。』

 

普段あまり頭を使う方では無いためか、ゴルシの賢さトレーニングが終わると同時にスペシャルウィークは倒れ込んでしまった。普通の人間がやれば5時間程度かかる事を30分で終わらせたのだから、それも当然だろう。

 

流石に何の前準備も無しにリポグラムはいくらなんでも可哀想すぎた。こんなの狂人のやる事だからね。

 

 

──────────

 

 

「──はうっ!?今私は一体何してた!?知らない景色!いったい現在地はワッツプレイス!?」

 

『スペちゃん、もう"お"の横列制限は終わってるから普通に話していいぜ。』

 

「あっそうなんですね…よかった…」

 

一体どれだけ苦痛を感じながらやっていたのか。

まさか魘されるほどとは、ゴルシでも容易に想像は出来なかっただろう。

 

『そうそう、ゴルシちゃんがお詫びって言ってにんじん三本置いてったからこれで糖分…。』

 

「えっ?なんれふか(何ですか)?」

 

『いや、何でもない。そのまま食べ続けてくれ。』

 

スクリプト(球磨川)ですら見抜けない速さとは恐れ入った。つまりはスペシャルウィークは過去最速で動いたということに他ならない。

 

『本当はこの後スズカちゃんとの並走が控えてたんだが…流石にその調子だと危ないね。中止だってスズカちゃんには伝えておくぜ。』

 

「すいません…」

 

『いいって。詰め込みすぎると逆効果だからさ。』

 

スクリプト(球磨川)はへらりと笑い、保健室から出て行ってしまった。つまりひとりぼっちという事なので、スペシャルウィークは途端に手持ち無沙汰なヒマ娘になってしまった。

 

スポーツにおいてやりすぎは逆に毒となる事が多い。

ウマ娘の場合は特に。『ガラスの脚』とさえ評されるほど繊細なウマ娘の脚には、ヒトとは違って過負荷を掛けることはあまり推奨されていないのだ。

 

とりあえず今日の予定が無くなってしまったスペシャルウィークは自室に戻り、ウマ娘に関する本を読みまくり動画を見まくることにした。後日話していたが、中々に有意義な時間だったそうだ。




マジで地獄を見ました。
もう二度とやりたくないです。

感想・評価よろしくね。


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第−16箱 戦闘回/先頭戒

ターボ星5にしてやった。
後悔はしていない。
生まれ変わったらターボになりたいな。

あとUA 50,000ありがとうございます。
ここまで続けられたのもひとえに皆様と、素晴らしい原作と、西尾先生のおかげです。本当にありがとうございます。

ちなみに趣味回です。


今日も今日とてウオッカによる地獄(筋トレ)を終えたスペシャルウィークとスクリプト(球磨川)は、他のチームメンバーに少し遅れて部室に入った。

 

するとそこには、『祝!模擬レース決定!スペシャルウィーク&スクリプトロンガーvsタイキシャトル(短距離最強ウマ娘)』の文字が、ホワイトボードに大きく書かれていた。

 

『沖野ちゃん、まさかとは思うが…()()タイキシャトルじゃあないだろうね?』

 

「ところがどっこい、()()タイキシャトルだ。ていうかお前分かってて聞いてんだろ」

 

最近のスクリプト(球磨川)のブームは敢えて愚か者の振りをすることらしい。いや、これが振りかどうかは分からないのだが。

 

「どうしていきなり…?」

 

「そりゃあお前ら2人の成長のためさ。あいつは短距離でお前らは中距離という違いはあるが…それでも学ぶことは多い。だから一回明確な格上相手と走ってみろ」

 

確か去年のG1は2勝…はいっ!肩を借りるつもりで頑張ります!」

 

「借りるのは胸でしょ、スペ先輩?」

 

「それじゃあおんぶに抱っこっすよ…」

 

正しい日本語を正しく使いこなすというのは、中々難しいものだ。だからまあ、今の間違いはギリギリ許容範囲と言ったところか。何となく意味も通じるし。

 

『スズカちゃん、何か言いたいことでも?何か言いてえなら早めに言っておかないと後悔するぜ。』

 

「ええ、そうね。それじゃあ遠慮なく言わせてもらうけれど絶対にタイキより私の方が速いわ

 

『…ああ、成程。まだスズカちゃんとは一回も並走してねえのに、他の娘と模擬レースされるのが気に食わないのか。』

 

普段の態度からはクール系にしか見えないスズカだが、案外寂しがりやだったりするのだ。もっとも、無意識ではあるのだが。

 

「まあこのレースは2人にとっては厳しいものだ。恐らくは勝てないだろうな」

 

『え?おいおいおいおい沖野ちゃん、まさか、この期に及んで僕の性格を理解していないっていうのかい?どんな時でも負けに負けて負け続けた負け犬のこの『負完全(マイナス)』が、『負けそうだ』って理由で諦めるとでも?』

 

「そうですよトレーナーさん!模擬レースとはいえ、格上とはいえ、私たちはそんな事で諦めたりしません!今回も当然、勝ち気に勝つ気で行きますよ!私の夢は『日本一』なんですから、こんなところでくよくよしていられません!」

 

「…そうだな。確かに最初から負けること考えるなんて〈スピカ〉らしく無えか!」

 

やはりスクリプト(球磨川)による『負完全(マイナス)』流精神矯正法は、スペシャルウィークに良い結果だけをもたらした様だ。

 

まったく、本当に運のいい奴だぜ。

 

「2人ともよく言った!よーっし、じゃあこのゴルシ様が良い子の2人にプレゼントを差し上げよう!」

 

「プレゼント…ですか?いきなり?」

 

『えっなになに、また変なことしてんの?』

 

「おう!この前リポグラムやったじゃん。あれを今度はこの人を殴り倒せそうなほど分厚い小説、『悲鳴──」

 

次の瞬間、ゴルシの肩がスペシャルウィークによって押さえつけられた。文字通りに瞬きの間に動いたのだ。

 

スペシャルウィークとゴルシの間には、3人のウマ娘がいたというのに。

 

『──ゴルシさん。』

 

「すみませんでしたぁっ!!」

 

「うわあ、ゴルシって土下座上手いんだね」

 

「テイオー、やめてやれ…」

 

『……これは、やっちまったかなぁ…。』

 

「スペちゃん…髪の色が…?」

 

難易度激高トラウマ文字遊びを2度も3度もやらされそうになれば、いくら温厚なスペシャルウィークとはいえ、抵抗の一つや二つくらいする。

 

もっともこの場合問題なのは、スペシャルウィークが抵抗した事などでは無かったのだが。

 

 

──────────

 

 

翌日。

特に雨が降ったりするなどのハプニングもなく、天気は快晴。つまりは、絶好のレース日和だった。

 

現在スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)はトレセン学園有するウッドチップコースでウォーミングアップをしていた。その表情にもまた、曇った様子は見受けられない。

 

「うわー…私、ウッドチップって初めてかもです」

 

『生憎なことに僕も初体験だ。芝やダートとはまた違った感覚だし、これもまた一興ってやつかな。何やら興行じみたことにもなっているし。』

 

スペシャルウィークは、スクリプト(球磨川)がちょいちょいと指差した方へ振り向いた。

 

するとそこには目測数百人の客がいた…しかも、大半がウマ娘だという有様だった。ゴルシは何故か焼きそばを売っている始末だった。

 

テイオー、スカーレット、ウオッカの3名から激励を送られ、スズカからは信頼の眼差しを向けられ、スペシャルウィークは上機嫌になった。

 

「こんなに沢山の人が注目してくれるなんて…なおさら、やる気が出てきました!ですよね!スクリプトさん!」

 

オグリちゃん…あんだけ食っててよく太んねえな…ん?ああ、うん。そだね。』

 

この『負完全(マイナス)』、こともあろうに生返事で済ませやがった。仮にも相手は『主人公』だってのによ。

 

そして、スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)はレースの相手に視線を向ける。その目に映るは〈短距離最強〉タイキシャトル。人情溢れるBBQマシーンである。

 

普通(ノーマル)』からすれば一応格上…いや、『異常(アブノーマル)』からしても雲の上の存在なのだが、それらは『負完全(マイナス)』にはなんら関係ない。

 

だからスクリプト(球磨川)がいきなり話しかけに行っても特に不自然なことも不審なこともないだろう。

 

『やあタイキちゃん。この前はありがとね。今日は容赦のないレースを期待するぜ。』

 

「オゥ!真心(手心)加えようかと思ってマシタが…逆に亡霊(無礼)というモノでしタか!それじゃあ遠慮なく、さながらピストルのように突っ走りマース!」

 

「スクリプトさん、タイキシャトルさんと知り合いだったんですか?」

 

『うん。この前BBQを一緒にしてね。それからたまにメッセージ送り合う仲。』

 

「ほんと交友関係がやたら広いですね…」

 

言われてみれば確かにそうだ。

特に書き記してはいないが、実は今までに出会ったウマ娘全員と連絡先を交換している。気分はさながらハーレムといったところか。

 

デジタルに言わせれば『百合ハーレム』だろうか。

どちらにせよ、碌でも無いものである事に変わりはない。

 

「よう、お二人さん。昨日はよく眠れたか?」

 

「あっトレーナーさん!はい、ぐっすり眠れました!」

 

『僕も普通に眠ったなあ。眠気を無かったことにしたから今はもうすっかり元気だぜ。』

 

「そいつは重畳。今回の模擬レースは短距離だからな、盗めるものは盗めるうちに盗め。絶対に糧になる」

 

「はいっ!」

 

『沖野ちゃんさあ、異性の頭撫でるとか、今のご時世だとその手の団体が黙ってねえぜ?マジ気をつけなよ。あいつらしつこいんだから。』

 

負完全(マイナス)』とはいえかなり際どい発言だった。

SNSでこんな事言ってみろ、即座に袋叩きだ。

 

「スペシャルウィーク!スクリプトロンガー!そろそろ時間だ」

 

首元から「スタート」と書かれた紙を下げたエアグルーヴが言う。本人は至って真面目なのに、なんだかふざけているみたいでシュールだった。

 

ちなみに「ゴール」はヒシアマゾン。自分から志願したらしい。理由はスクリプト(球磨川)を近くで観察するためらしい。

 

『よっし、じゃあ精々足掻こうか。』

 

「そうですね!頑張りましょう!」

 

そして3人がスタート地点に立った。模擬レースとはいえ、その緊張感は本番と一切変わりはないように見えた。

 

「それではこれから、スペシャルウィーク対スクリプトロンガー対タイキシャトルの模擬レースを始める!」

 

エアグルーヴは比較的大きな声でそう宣言し、続く「用意!」の声に合わせフラッグを頭上に掲げた。

 

意識が縛られる。

視界が狭まる。

誰よりも速い自分を想像する。

誰よりも強い自分を創造する。

 

(私は、弱い)

 

だから、相手を糧にする。

参考にするのではなく、その血肉を喰らう。

猿真似のためではなく、己が魂に刻み込むために。

 

もう、自身も自信も失わない。

向かうべき場所はすでに見えた。

目指すべき場所は磁針が指し示した。

 

ならば後は、持ち前のガッツでひた走るだけだ。

 

「始めッ!」

 

エアグルーヴがフラッグを振り下ろすと同時に、3人が揃って飛び出した。先頭は当然タイキシャトルである。

 

スペシャルウィークはその後ろにピッタリと付けて空気抵抗を減らす。スクリプトはスペシャルウィークの後ろに付けた。要するに無難な形に固まった。

 

(やっぱり速い!けど、思ってたよりは速くない…?成程、これが『負完全(マイナス)』になった弊害!)

 

つまり、一度『負完全(マイナス)』へと堕ちたスペシャルウィークは、『負完全(マイナス)』の自分を基準にして他人を測ったわけだ。そのせいでタイキシャトルを必要以上に高く定義した。

 

もっともこれは、自信を失ったわけでも自身を見失ったわけでもない。それどころか、格上相手であれば、寧ろ有利に働きかける。

 

(どちらにせよ、私は私の走りをする!そしてこのレースを糧にして這い上がるんだ!)

 

ポジティブになることはあってもネガティブになることはない。つまりは思い切りが出て、普段以上の走りをする可能性すらあり得る。

 

つまりスペシャルウィークは『負完全(マイナス)』に堕ちたくせに、『負完全(マイナス)』のいいところだけ持って帰ってきたのだ。

 

(この距離でタイキシャトルさんについていけば、スリップストリームで多少の楽ができる!それに、空気の壁は少しのズレで再び襲いかかるから…)

 

「スクリプトさん、辛いんじゃないですか?」

 

『…驚いたぜ。ここまでっ、計算済みかい?』

 

「考えるっ、時間はあったので!」

 

もうスクリプト(球磨川)にもたれかかるのはやめたらしい。

決別の意味も込めて、ここでスクリプト(球磨川)を叩きのめそうという魂胆だ。なかなか彼女もやるらしい。

 

そして、ここからは上り坂に差し掛かる。

 

少し補足説明をさせてもらうが、先の皐月賞でスペシャルウィークが負けた理由は、別に『領域』の不発ではない。キングヘイローの威圧によって動揺したからでもない。

 

では、何が原因か?

 

答えはこの()()()だ。スペシャルウィークは平地、上り坂、下り坂の全てで同じ走りをしていた。足を大きく使う『ストライド走法』だ。平地では確かにスピードは出るが、上り坂は登りづらい事この上無い。

 

だからもう一つの走法、足を細かく回す『ピッチ走法』を使う必要がある。いや、必ずしも必要というわけではないが…こちらの方が圧倒的に上りやすく、またスピードも落ちづらい。

 

つまり何が言いてえかっつーと、今でもスペシャルウィークがストライドで走っていたなら勝ち目は無かったんだが…どうやら例のウオッカの筋トレが功を奏したらしく、素晴らしいピッチ走法を見せていた。

 

それはスクリプト(球磨川)も同じ事である。

元々はかなり大きめのストライドだったが、坂に入った途端に細かいピッチに走りが変わった。

 

要するに変わり身、つまりは『手のひら孵し(ハンドレットガントレット)』が早い。

どうだろう、中々上手いことが言えたと思うんだが。

 

以上、安心院さんの補足説明兼駄洒落コーナーでした。

 

(少しでも離れれば空気の壁が私にも襲いかかる…今ここで、離されるわけにはいかない!)

 

スペシャルウィークは必死に追い縋る。

相手が短距離のプロフェッショナルであることを加味すれば、それはまさしく『異常(アブノーマル)』なことだった。

 

半分過ぎたあたりで、スペシャルウィークが前進を開始する。短距離走なので、十分にスパート圏内だ。得意の末脚でタイキシャトルを追い詰め、並びかけ、追い抜く──。

 

 

「そうはいきません!」

 

 

事をあのタイキシャトルが許すはずもなく、再びスペシャルウィークが少しだけ離された。しかし今のスペシャルウィークがその程度で諦めるはずもなく、再び前に出る。タイキシャトルが阻止する。前に出る、阻止する、前に出る、阻止する、前に出る、阻止する…。

 

タイキシャトル有利に見えるが、その有利は薄氷の上に成り立っている。一つのミスで逆転されかねない。

 

しかし、そこで失敗しないのがタイキシャトルだ。勝負勘は冴え渡りまくっている。結局最後まで、スペシャルウィークがタイキシャトルの前に出ることは無かった。

 

が、横には並んだ。

 

「おいおい、エアグルーヴ…今の、どっちが先着だ?」

 

「いや…どちらも同時だ。正確に機械で測定できない以上…『同着』だろうな」

 

瞬間、スタンドからわあっと歓声が上がる。まさか、まさかまさか、あのタイキシャトルにクラシックの娘があそこまで競り合うとは誰も予想していなかった。しかも『惜敗』ではなく『同着』と来た。そこに夢を見るのは、間違ってはいないだろう。

 

少なくとも、本人たち以外は。

 

スペシャルウィークは絶対に負けていた。側から見たらわからないが、やはり自分の強みはいとも容易く封じられてしまったからだ。試合には引き分けた。勝負にも引き分けた。ただ、格の違いを見せつけられたのだ。

 

「…次は、負けないっ!」

 

それでも、学ぶことはあった。後ろから迫る相手の潰し方や、後ろに張り付く相手のいなし方、ストライドとピッチの入れ替え方。たとえ負けたとはいえ、一矢報いて微量の血肉を喰らったのだ。この経験はスペシャルウィークの中で生きる。

 

来たる日本ダービーに向け、スペシャルウィークはより一層覚悟を決めたのだった。

 

 

『…ここまでフォーカスされないのは流石に僕といえど心が痛いなあ。そう言えば僕って、負けてばっかの人生なんだった。まさか注目も勝ち取れないとはね。』

 

言っておくが、別に絶望的に遅かったとか、そういうわけではない。『同着』のインパクトが大き過ぎたせいで、半バ身が大きく見えるだけだった。

 

ちなみに、レース後スズカが慰めてくれたらしい。

 

 

──────────

 

 

『いやあ、それにしてもエルちゃんまでダービーに来るとはね。ま、想像はできてたけどさ。』

 

「これでダービーには6強と呼ばれるうちの5人が出走することになるわね」

 

「私、スカイさん、キングちゃん、エルちゃん、スクリプトさんの5人…ですね」

 

エルコンドルパサーはなんとNHKマイルC後のインタビューで日本ダービー出走を宣言。当然、優勝候補筆頭に躍り出た。

 

ちなみに今は早朝5時。授業が休みなので、朝からトレーニングと相成った。トレーニングメンバーはスズカ、スペシャルウィーク、スクリプト(球磨川)の3人だ。

 

春とは言え、朝は肌寒い。少しだけ身震いしながら、3人はひとまずウォーミングアップを始めた。

 

たっぷり30分使ってアップを終え、スズカの元へ集合する。今日のトレーニングはスズカ主催だからだ。

 

「それじゃあ…まずは、私とのトレーニングを今まで禁止していた理由から話すわね」

 

と言い、スズカは話し始めた。

どうやら禁止していたのには何か事情があるらしかった。

 

「すっごく簡単に言うと…スクリプトはともかく、スペちゃんの心が折れちゃうと思ったからなの」

 

「私の…心が、ですか?」

 

「ええ。だから、好きなものを封印して、つらい筋トレをして、ダンスの練習もしっかりこなして、自分を正しく再認識して、格上の娘と走って…それで心が折れなかったら大丈夫って判断して、並走していいってトレーナーさんに言われてたの」

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!ツッコミどころが多いですって!まず一つ目に、ゴルシさんのトレーニングって『自分を正しく再認識する』が目的だったんですか!?」

 

「ええ、そうよ。だってゴルシは私の時、そう言ってたもの。『リポグラムの過程で嫌でも紹介文を何回も何回も見る事になるから、より自分に詳しくなるだろ?』って」

 

どうやらスズカもリポグラム経験済みらしかった。

苦々しい顔をしているので分かる。

 

「じゃあ二つ目…これはスクリプトさんに向けての質問なんですけど、何でトレーニング初日にスズカさんと並走しようとしてたんですか?話を聞く限り、禁止されてて出来なかったみたいなんですけど」

 

『ああ、あれ?そんなの簡単さ。勘違いしてた。』

 

斜に構えて『いいって、休んでなよ。』みたいなこと言っておきながら、勘違いをかまして一人で恥をかいていたというわけだ。これが『負完全(マイナス)』である。

 

「じゃあ話を続けるわね。私のトレーニングの内容は、本当に私と並走するだけよ。私が先頭に立って走るから、一度でも追い越すか、日付が変わったら終了。6時から始めたとして、10分で終われば6時10分。二度寝ができる時間ね」

 

「本当に並走だけでこの時間に集合したんですか?ちょっと早すぎるような…」

 

「これでも最大限遅くしたつもりよ。ああ、そうそう。ダービー前特別トレーニング初日に、『地獄を見せる』って言ったけど、あれは嘘よ」

 

「ですよね?なんていうか、スズカさんが地獄を見せるのはあんまり想像できな」

 

「多分終わる頃には、もう目も開けたくないくらい疲れているはずだから、地獄なんて見れないわ」

 

『…と、いうと?』

 

「まあ、走れば分かるはずよ。それじゃあ5分後に始めましょう」

 

そう言うとスズカは、再び入念なストレッチを始めた。

 

「スクリプトさん、もしかして、この時間に集められた理由って…そういうことじゃないですよね?」

 

『いやあ、そういうことだと思うぜ。多分、普通にやったら今日中に終わるか怪しかったんでしょ。』

 

スペシャルウィークは震え上がった。もうそこまで寒くはない時間帯だというのに、その顔は蒼白だった。

ちなみにスクリプト(球磨川)も。

 

そして5分経ち、いよいよ並走が始まる。始まってしまう。ここまで来て、ようやく2人は思い出したのだ。

 

サイレンススズカは、門限すら守らず走り続ける怪物である、ということを。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

「『はい…。』」

 

こうなればもうヤケクソだ。

やるだけやってやると、意志を固めたらしい。

一瞬にして真剣な目つきへと変化した。

 

「よーい、スタート」

 

賽は投げられた。

 

 

──────────

 

 

「おかしいっ!おかしいですっ!何であんなに疲れないんですか!?もう3時間走ってますよ!?スクリプトさん『大嘘憑き(オールフィクション)』スズカさんに使ってないですよね!?」

 

『いやいやいやいや使ってないって!マジで!あの娘自前で回復してるだけなんだって!チクショウ速くてスタミナあるとかどんな人外だよ、安心院さんでももう少しやりようはあるぜ!?』

 

「そんなに叫ぶと疲れちゃうわよ…?」

 

「何でこっちを心配する余裕まであるんですか!?最高速度が私たちの末脚より速くてスタミナが私たちよりあって頭が私たちより回る相手にどうやって勝てっていうんですかぁ!!」

 

『いやほんと…『大嘘憑き(オールフィクション)』無しであれはヤバいって。『異常(アブノーマル)』所の騒ぎじゃねえぜまったく。』

 

 

──────────

 

 

「今…何時間走ってますか…?もう12時間くらい走ってませんか…?」

 

『いや、6時間っぽいね。太陽が真上にあるから今は12時かな。『大嘘憑き(オールフィクション)』が無かったらとっくに2人とも死んでるぜ…。』

 

「スズカさん…そろそろその異常なスタミナについて説明してくれませんか…?」

 

「そうね…それじゃあ種明かししようかしら。これは私の『領域』の効果ね。『先頭の景色は譲らない』っていう私の心を表した『領域』。レース以外のところでわざと『領域』を使うと効果が変わるのは有名な話だけれど…私の場合もそう。すごく使い所が限られているけどね」

 

どうやらレース以外で意図的に『領域』を使用すると効果が変わるらしい。それは逆もまた然りで、例えばゴルシであれば、レース中に本当に錨を出すことはできない。あれはあくまでイメージ映像だ。

 

「私の場合、レース中の『領域』は『レース後半に差を付けて先頭にいるとさらなる脚を使って、速度を上げる』効果」

 

そこで一度、スズカは息を入れた。今まで一度も入れていなかったが、ここに来てようやく隙らしい隙を見せた。これはチャンスだと思ったのも束の間、次の発言で希望は砕かれた。

 

「けれど、レース以外で使った場合、全く別の効果になるわ。ちなみに今使っているのはそっちの方ね」

 

 

「私の『領域』は『先頭に存在し続ける領域』よ」

 

 

「そういう事だから…頑張って?」

 

スズカは微笑しながらそう言った。

確かに目を覆いたくなるほど、残酷な現実だった。

 

 

──────────

 

 

日は落ち、鳥は巣に帰り、周囲の家から良い香りがし始める時間帯…つまりは夜になっても並走は終わっていなかった。

 

『………。』

 

『スペちゃんさ、もしかして『負完全(マイナス)』になる癖ついてない?』

 

『ついてますよ。』

 

要するに、黒神めだかで言うところの廃神モードのようなものだろうか。今なったところであまり意味はない気がするが。

 

『いやなんか、苦痛を誤魔化そうとしたらこうなりました。程よく無駄な力も抜けて、これがなかなか良い感じなんですよね。』

 

『ああ、そういえばめだかちゃんも『手加減のモード』って言ってたなあ。懐かしい事思い出しちまった。』

 

『お母ちゃん…お母ちゃんのにんじん食べたあい…スクリプトさん、スズカさんにあのマイナス螺子刺しちゃいましょうよー。多分それで終わりますよ?』

 

『あんまり使いたくねえんだよな、あれ。使いすぎるとつまんねえ駄作になっちまうし。』

 

『ふーん、そういうものなんですね。』

 

『そういうものさ。』

 

 

──────────

 

 

そして並走…というより、一方的な蹂躙は終わり。

 

「『お疲れ様です……。』」

 

「私と並走して最後まで着いてくるなんて…こんな事初めて…!ダービーが終わったらまた一緒に走りましょうね!」

 

「『はい…。』」

 

根性は確かについただろうし、スクリプト(球磨川)が即座に治療できる以上、確かに悪いトレーニングでは無かったと思う。

 

ただ、それに伴う肉体的苦痛と精神的苦痛が大きすぎた。

真のランニングジャンキー以外には到底お勧めできない。

 

スクリプト(球磨川)は度重なる『過負荷(マイナス)』の使用で疲労困憊していたし、スペシャルウィークはシンプルにご飯を食べていないので憔悴していた。だから、再びスズカと並走の約束をしてしまったことに、2人とも気づいていなかった。

 

スズカは感無量だった。

今まで自分について来れる人など1人もいなかったのに、編入してきた2人の後輩は、なんと2人とも自分と共に並走してくれる心優しい後輩だったからだ。

 

自分は仲間と共に気持ちよく走れる。

スペちゃんたちはトレーニングになる。

なんて素晴らしい循環!

そうだ、月一で並走をお願いしてみようかしら。

スクリプトたちならきっと了承してくれるはず。

 

 

(ああ、これが私の…私たちの景色…!)

 

 

どうやら18時間ぶっ通しで走ったせいで、テンションがおかしくなっているようだった。頭の中は次のレースと並走の事…つまりは走る事で埋め尽くされていた。

そんなんだから『先頭狂』などと呼ばれるのだ。

 

ちなみに、スクリプト(球磨川)とスペシャルウィークは寮の玄関前で気絶した。スズカが沖野とフジキセキに本気で怒られたのは言うまでもない事だろう。




バイアリータークさん好きです。
感想・評価よろしくね。


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第−17箱 『領域』と『過負荷』

あいも変わらず趣味回です。
そろそろダービーに入れるはずなので頑張ります。

突貫工事なので誤字多いかもしれません。
見つけたら報告お願いします。


「エルコンドルパサーさん、今の調子はいかがですか?」

 

「もちろん快調デース!だって私、ターフを舞う〈怪鳥〉って呼ばれてますから!」

 

勝負服を身に纏ったエルが茶目っ気たっぷりに冗談(キディング)を口にすると、会見の会場は記者達の笑い声で満たされた。場の空気は暖まり、もはや居心地の良ささえ感じる。

 

既にNHKマイルカップを勝ち前途洋々、気分は高揚。向かうところ敵なしのエルは、それでも油断していなかった。

 

「ダービーを走るにあたって、誰をライバル視していますか?」

 

記者からの質問は中々のキラーパスだったが、この手の質問にどう答えるかは、既に心の中で決めていた。いつも通り不敵な笑みで、余裕たっぷりに──。

 

「スペシャルウィーク」

 

というわけにもいかず、敵意全開野心剥き出しの宣戦布告をした。それもそのはず、近頃のスペシャルウィークは何だか様子が違う。

 

皐月賞までの鬼気迫る迫力が無いのだ。相手が普通のウマ娘だったなら、エルとて「諦めたのかな?」と思っていただろう。しかし相手はスペシャルウィーク。

 

側から見ている限り、今のスペシャルウィークには油断も隙もない…いや、()()()()。以前とは違って、今まで常に集中して行っていたトレーニングの合間合間に、気を抜く場面が確かに出来ていた。

 

()()()()()()()()()()

 

編入してからはや数ヶ月、スペシャルウィークには『ウマ娘の基礎』が備わり始めていた。それはスペシャルウィークの戦法が、今までの『天性の身体能力による力押し』だけでは無くなったということを意味する。

 

ここに来て、スズカがチーム〈リギル〉を離れた皺寄せが来た。常に背中を見せ続ける先立がいれば、ウマ娘はそれをどうしても追い越したくなるものだ。

 

その結果、スペシャルウィークの競争本能は、生まれて初めて昂っている。今までは『本能』の走りと『理性』の走りがレースによってはっきりと分かれていた。しかしスクリプト(球磨川)とスズカのおかげで、あるいはそのせいで、スペシャルウィークは『完成(ジエンド)』に限りなく近づいた。

 

だから。

 

「油断は、しません」

 

会場の温度が底冷えしたように感じられた。

文字通りに、氷点下まで。

 

 

──────────

 

 

「セイウンスカイさん、今の心境を一言!」

 

「皐月賞負けたのに3番人気とは、セイちゃん期待されるのには慣れてないんだけどなあ。じゃあ、勝ったらびっくり?それならあっと驚かせて見せますとも〜」

 

セイウンスカイはいつも通り、ふわふわとした語調で掴みどころがない。一体次は何を仕掛けてくるのだろうか。記者に限らず、皆が気になっているところだろう。

 

「ちなみに今回は、どういった作戦で…」

 

「全員惑わしてやる」

 

またやってしまった、と記者達は思った。

普段冷静で、戦意を表に出すことの少ないセイウンスカイですらこうなるのだから、ウマ娘にとって、それほどまでに日本ダービーというのは大きいものなのだ。

 

「おっと、こりゃ失礼。セイちゃんってばうっかり」

 

「「はは…」」

 

記者達は苦笑いするしかなかった。

正直、自業自得だが。

 

 

──────────

 

 

「……あー、スペシャルウィークさん…?その、髪色はどうしたのでしょう…?」

 

『ああ、これは…癖です。緊張しちゃうと思ったので、『負完全(マイナス)』のモードで今日は来ました。』

 

「癖…なるほど…」

 

果たしてなるほどで済ましていい問題なのだろうか?とその場にいる全員が思ったが、無理に聞き出しても碌なことにならない予感がしたので、記者達は詮索をやめた。

 

懸命な判断である。

 

「スペシャルウィークさん、今度のダービーはズバリ勝てそうですか?」

 

『あー、正直怪しいですかね…キングさんやスカイさん、それにエルちゃんまでいるとなると…勝てないかもって思います。』

 

瞬間、報道陣からざわめきが上がった。

それもそのはず、今の今まで負けん気全開ポジティブ娘としてやってきたのに、負ける気全開ネガティブ娘に早替わりしていたからだ。目の前のこいつは一体誰なんだ?と錯覚してしまうほどに。

 

『でも、気づいたんですよ。気付かされたんです、私。誰が強いとか、誰が弱いとか、そういうのって関係ないんですよね。大事なのは自分の気持ちだって分かったんです。』

 

「と、いうと…?」

 

「勝つのは私です」

 

髪の毛から白みが抜け、普段通りのスペシャルウィークが会見に現れた。やはりこちらの方が全体的に安定感があるように見えた。

 

えっボケろ?っあ、えっと、そういうことで私からはこれで以上です…」

 

目の前で髪の色が元に戻り、記者達は一瞬呆気に取られたが…まあウマ娘だし『領域』とかの効果でそういうこともあるか、と思って深くは考えなかった。それよりも、スペシャルウィークの口から飛び出した発言をメモに取る事に精を出していた。

 

「ちょっとゴルシさん、ボケろって…できるわけないじゃないですか!」

 

「ちぇっ。スクリプトならやってくれるのにな〜」

 

奴はいつも通りに平常運転だった。

今日も海は大荒れのようだった。いつも通りに。

 

 

──────────

 

 

「キングヘイローさん、今の心境は?」

 

「そうね、世論では距離不安だとか実力不足だとか言われているけれど…それでも敢えて私は言わせてもらうわ。()()()()()()()。皐月賞で一度壁を越えたのだから、二回目だって越えられるはずでしょう?」

 

あまりにも威風堂々としている。さすがは(キング)である。

その気高さは、到底クラシックの娘のものとは思えない。

 

「キングヘイローさん、今回はどういった作戦で行くのでしょうか?」

 

「そうね、私は気高き(キング)ではあるのだけれど、やはり2,400を優雅に走り切るのは無理があるわね。だから、みっともなくても泥臭くてもいいから勝ちに行くわ」

 

キングはそこまでいうと一度佇まいを正してから息を吸い、高貴さを滲ませながら宣誓した。

 

「勝者はこのキングよ」

 

その身から溢れるオーラは、まさに(キング)と呼ぶに相応しいもので、狭い会見場が王宮であるかのように感じられた。

 

「依然変わりなく、ね。キングに刮目なさい」

 

ウィンクのファンサービスをする余裕まで見せつけたキングは、やはり「オーッホッホッホ!」という小物臭い高笑いを発しながら、この場を去って行った。

 

 

──────────

 

 

「……えーっと、スクリプトロンガーさん、大丈夫ですか…?」

 

『んん、あー、だいじょぶ。昨日眠れなくてさ。眠気は無いんだけど、体は眠りたいみたいだね。それもこれも僕は悪くないが。』

 

両目の下にくっきりとした隈を携えたスクリプト(球磨川)は、インタビューだというのに髪はノーセット目はボヤボヤ勝負服はゆるゆるという、何ともだらしない印象を与える見た目をしていた。

 

「寝不足というと、やはり…緊張で?」

 

『そうそう、すっごい緊張して眠れなくって、しょうがないから沖野ちゃんのとこに行ったんだよな。それでなんだかんだで一緒に眠って、沖野ちゃんの匂いを嗅いだら妙に目が冴えて眠れなく』

 

「とんでもない嘘つくな!!お前は俺を社会的に抹殺したいのかよ!?」

 

たまらず叫んだのは沖野だった。

そりゃそうだろう。やっている事が完全に名誉毀損だ。こんな事鵜呑みにされて週刊誌にでもすっぱ抜かれようものなら、沖野の人生はたちまちお釈迦である。

 

「あ、あはは…えっとそれで、スクリプトさん。意気込みの方をお願いします」

 

『そうだね。それじゃあ物申させてもらうとしよう。スペちゃん、エルちゃん、セイちゃん、キングちゃん。君たちは僕より早いし僕より強いし僕より運がいい。だけど生憎、逆境に立つのには慣れすぎるほどに慣れすぎているからね。この程度どうって事はない。だからつまり、いつも通りってことさ。』

 

そう言うとスクリプト(球磨川)は、いつも通りに口の端を吊り上げて笑い、何の感慨も無さそうに、何の興味もなさそうに言った。

 

『全員纏めて台無しにしてやるぜ。』

 

負完全(マイナス)』のオーラを振り撒きながら、全力の5割程度の威圧をしたスクリプト(球磨川)は、やはりヘラヘラとした笑みを顔に浮かべ、ご機嫌そうに会場から去っていった。

 

会場の空気は冷えるところまで冷え切り、この会見は最早会見の体を成さず、そこにあるのは人がぎゅうぎゅうに詰まっただけの密室だった。

 

 

──────────

 

 

日本ダービーが迫ったとある日、チーム〈スピカ〉一行は神社前にある階段でダッシュ練習を行っていた。おおよその狙いとしては体を前に押し進めることと、疲れた時に自分に負けずに足を回すことの2つを重視している。

 

まあ今回の狙いはピッチ走法習得なのだが。

 

「─で、スペとスクリプト以外は脱落か」

 

はぁ…はぁ…なんでっ、あんなに走れるわけ…?」

 

はぁ…そりゃあ…はぁ…スズカ先輩との…はぁ…ちょっと…ヤバい…

 

「おうおう落ち着いてから喋れよ後輩共。そんな状態で話しててもずっと苦しいままだっつーの。アタシみたいに2、3回深呼吸してから話しやがれェェェェェェッッッ!!」

 

はぁ…ゴルシも、大概だと、ボクは思うけどな…あれ、何でいきなり怒ってんの…?こわ…」

 

神社へ続く参道はまさに死屍累々の様相を呈し、沖野がトレーナーバッジを付けていなければ通報されてもおかしくない光景が広がっていた。

 

段々と息も整い始め、みんながさて次に来るスクリプト(球磨川)の走りでも見るか、と集まり始めた瞬間──。

 

『揃いも揃って僕の見学かい?』

 

と後ろから声がした。

 

「うっうわあっああぁぁぁ!?!?ちょっとスクリプト!?本気でビックリしたよ!!」

 

「スクリプトお前、足音消してるのは構わねえんだがよ、記録が40秒切れてないからやり直しな」

 

『こりゃあ手厳しいね。だが心配ご無用。何てったって、僕とスペちゃんは地獄から這い上がってここまで来ているんだから。』

 

スクリプト(球磨川)の言う通り、実際今のトレーニングよりスズカとの併走の方がよっぽど辛かった。前に見える(プラス)見えない(マイナス)は全く別物だと自分で言ったが、心境としてはそれに近いものがあった。

 

と、スクリプト(球磨川)が登頂してから数十秒後、黒い影とでも形容すべきスピードでスペシャルウィークが突っ込んできた。

 

「トレーナーさん、タイムどうですか?」

 

「39.8。文句なしだ、スペ。スズカとの併走のお陰か、息の入りも早くなったな」

 

「あっあはは…そうかもしれないですね」

 

スペシャルウィーク、ここに来て驚異の40秒切りである。ダービーの最終直線が坂であるということを踏まえても、不安要素はほとんど無くなったと言っていいだろう。

 

『すげえなスペちゃん。やっぱスズカちゃんとの併走は効果抜群みたいだね。ところでどうだい、この後僕はスズカちゃんと併走しに行くが…。』

 

「じゃあ私も行きます!今回こそはきっと、スズカさんから先頭を取って見せますよ!」

 

『中々言うじゃないか。言っておくけど、僕だって手加減なんかしないぜ。上ばっか見てると足元を掬われる。覚えとけよ、僕から君に贈る貴重な塩だからね。』

 

塩を贈っているにしては、随分と親切な対応だった。これも、昔のスクリプト(球磨川)であれば到底あり得ないことだったのだろう。

 

「あいつら、元気だな…」

 

男沖野、そろそろ老いを実感し始める歳であった。

 

 

──────────

 

 

「セイウンスカイは柄にもなく必死に全身全霊で努力を重ね、キングヘイローはプライドを捨てて泥臭く泥に塗れながら努力を重ね、エルコンドルパサーは今の自分に満足せずストイックに努力を重ね、スペシャルウィークは今まで教わったことを貪欲に貪り糧にして更に努力を重ねている。さて、スクリプトロンガー。君は一体、どうやってこの大合戦を生き延びる?」

 

『わざわざ僕の部屋に待ち構えて開口一番でそれかい?君も中々暇なんだね…どうやって生き延びるも何も、そもそも僕は死んだって死に切らないんだから周りの策を台無しにして自分勝手に走るだけさ。で、君は暇なのかな?』

 

「いいや、暇などではないさ。君に会いたいから無理矢理時間を作ってここに来たんだ」

 

『捉えようによっては僕が大炎上するなあ。』

 

スクリプト(球磨川)がスズカとの併走を終えて部屋に帰ってくるとそこには、何故かトレセン学園生徒会会長こと、シンボリルドルフが鎮座していた。

 

ちなみに、今日もスズカから先頭は奪えなかった。

 

「ああそうだ。流石の君相手でも、急に押しかけるのはまずいかなと思ってね。私イチオシのリンゴを持ってきた。傷まないうちに食べてくれ」

 

『見た感じ…10個くらいかい?僕1人でこんなにリンゴ食べれないと思うけどな。』

 

「ああいや、そのリンゴは2()()()()仲良く分けてくれ」

 

『……もしかして、またうちの子が迷惑かけたのかな。』

 

「捉えようによってはそうとも言えるかもしれんな」

 

なんてこった、とスクリプト(球磨川)は珍しく頭を抱えた。

いやーすまねえな。だって暇だったんだし、ちょっとちょっかいかけに行くくらいは許しておくれ。

 

うん、やっぱり球磨川くんは厄介ごとの渦中にいる姿が一番似合う。

 

「安心院なじみ、どうせバレているのだし、姿を見せてはどうだ?3人で話し合おうではないか」

 

「うん、君相手に隠し事する方が面倒だし、安心院さんも久々に他人の前で姿を露わにしてみようか」

 

『安心院さん、まさかとは思うが…スペちゃん達にも姿を見せてないだろうね?返答次第でこっちは君を消さなくちゃあならない。』

 

「おおっと久々に物騒だね。それでこそ球磨…スクリプト(球磨川)ちゃんだ。それに大丈夫さ、僕は生徒会長以外に姿を晒してもいなければ、誰かに存在を気取られるようなこともない。だから君が思ってるように『君が勝った時僕のおかげだと思われる』なんて事は京が一にもあり得ねえから是非安心してくれて構わないぜ(安心院さんだけに)」

 

「ほう、スクリプト…君は中々ナイーヴなのだな。今の君が周りからどう思われているかくらい、とっくに分かっているだろうに」

 

『いやまあ、否定はしないさ。弱いからこそ『負完全(マイナス)』な訳だしね。それより僕が心配してるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだけだよ。どうやらそんなことはしないらしいけれど。』

 

「流石にそれはクソゲーすぎるからね。僕が出張るとパワーバランスが崩壊してインフレが止めどなく進んじまうから、今回ばかりは傍観者で居続けよう」

 

「ちなみにこれは興味から来た質問なのだが…私と安心院なじみが走った場合、どちらが勝つのかな?」

 

『「100%安心院さんが勝つね。」』

 

「──成程、成程、成程…100%、か…それは()()という意味合いで相違ないかな?」

 

『まあ概ねその通りだね。勝ちウマ(プラス)だろうが負け犬(マイナス)だろうがあくまで平等にすり潰す『悪平等(ノットイコール)』。それが安心院さんだからね。めだかちゃん級でもない限り勝てやしない。』

 

「確かに君が()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()僕が絶対に勝つだろうね」

 

「ふふっ…まだ誰にも話したことのない()()()を何故知っている…と聞いては野暮だろうな。まったく、君の底知れなさはまるで深淵を覗いている時に感じる感覚のようだな」

 

「えっと確か一つ目は…『レース終盤に3回追い抜くと最終直線で速度がすごく上がる』んだっけ?僕の記憶力じゃあこの世に蔓延る全ての生命体を個別認識するくらいしか出来ないから、後は君の口から説明してくれよ」

 

「了解した。一つ目の『領域』は『レース終盤に3回追い抜くと最終直線で速度がすごく上がる』、そして『体に神威を纏って身体能力を強化する』という効果だ。二つ目の『領域』は『レース終盤に先団で詰め寄られると最終コーナー以降に闘志を燃やして速度を上げ続ける』、そして『どこでも走れるようになる』。どんな悪路でも、壁でも天井でも水の上でも。こちらは私が追い詰められた時に使用する『領域』だ。自慢ではないが、私はそうそう追い詰められないからあまり使う機会は無いがな」

 

『それだけでも十分イかれた性能だと思うんだが…天下の皇帝様的には、やっぱり三つ目は語りたくないのかな?すごい渋い顔をしているけれど。』

 

「ああ。これは私にとっても切り札だし、というかそもそもあまり使いたいものでもないからな。心を強く保たねば、きっと私はこの『領域』に甘えて皇帝とは名ばかりの愚人に成り果てるだろうからな」

 

『参考程度に聞かせてもらうんだが、僕の『過負荷(マイナス)』とどちらが上なのかな?比べるべくもないとは思うんだが。』

 

「私の『領域』の方が上だ。というより、この『領域』より上が存在しないと思っている。だって、私の三つ目の『領域』の効果は『"絶対"の力でレース序盤から終盤にかけて速度が上がり続け、持久力が回復し続ける』…つまりは、勝つ。()()()()()()()()()()()()()()()()。レース以外で使えば、トランプでも花札でも囲碁でも五目並べでもチェスでもマンカラでもドミノでも麻雀でもルドーでも将棋でもオセロでもジャンケンでもボウリングでもスキーでもスケートでも野球でもサッカーでもバドミントンでもクリケットでも卓球でもテニスでもバスケでもバレーでもラグビーでもハンドボールでもゴルフでもビリヤードでもダーツでもラクロスでもドッジボールでもカーリングでもホッケーでもクレー射撃でも剣道でも弓道でもテコンドーでも柔道でも薙刀でも空手でもボクシングでも水泳でもフェンシングでもサーフィンでもウエイトリフティングでもエアロビクスでもダンスバトルでもカヌーでもカバディでもボブスレーでもリュージュでも体操でも縄跳びでもトランポリンでもピアノのコンクールでもスポーツクライミングでも雪合戦でも口論でもクイズ大会でも綱引きでも料理大会でも写真コンテストでも釣り大会でも美術鑑賞会でも漫画賞でも数学オリンピックでもインターネットゲームでもライブのチケットの抽選でも何でもかんでも私が勝つ。ちなみに普段使いはとてもいいぞ。使っているだけで疲れが徐々に取れて頭も冴えてくる」

 

『なんだそれ…ちょっとくらいその才能を僕に分けてくれてもいいのになあ。とことんこの世ってのは理不尽だぜ。』

 

「ありがとう会長さん。さて、スクリプト(球磨川)ちゃん。ここまで長々と後付け設定の説明みたいな事をして来たのには、当然意味がある。シンボリルドルフがここにいるのにも当然理由がある。さて、何でしょう?」

 

『そんなのは一つしかない。わざわざ僕のために会長殿が時間をとって『領域』を教えてくれるってことだろう?じゃなきゃあこんなにベラベラと『領域』について話したりしないさ。』

 

「正解だ。今後君の同期達は次々と『領域』に目覚めるだろう。()()()()()()()()()()()()()に、この私が直々に『領域』の何たるかを叩き込んでやる。覚悟しろ。多分分かりやすすぎて引くぞ」

 

『えっそんなに?なんか嫌なんだけど…っていうかさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

「私レベルになれば見ただけで『領域』が分かる。しかし君のは分からなかった。理解が及ばなかった。ならば『領域』ではない他の何かであるのだろう。君が言うにはマイナス…いや、『過負荷(マイナス)』だったか。それは君の身体の潜在能力ではなく、君の心の特殊能力なのだろうな」

 

『皇帝サマは目まで肥えてると来た。あーあー、アホらし。これじゃあ意地張って隠そうとしてた僕がまるで道化だぜ。』

 

「正直なところ、ダービーまでに君に『領域』を叩き込めるかは分からない。どうしても最後は君自身の問題だからな。それでもいいだろうか?」

 

『いや、最後に一つだけ聞かせてほしい。どうして君は、僕にこんなに肩入れしてくれるのかな?確かに自分1人では厳しいってのは分かってたし、ありがたい話ではあるんだが…僕ってば、君に迷惑しかかけていないと思うんだけど。』

 

「……君は、もしや。初対面の時に私が言ったあの言葉の意味を、理解していなかったと?そういうことか?」

 

『初対面の時…ああ、『これから先困った時は呼んでくれ』だっけ。言葉の通り受け取ったけど、それが何か問題なのかな。』

 

スクリプト(球磨川)ちゃん。どう考えてもあれは『友達になろう』って意味だと思うぜ。人付き合いが下手な僕でもそれくらいは分かるのに、まさか君は言葉を額面通り受け取って、深く考えなかったと?だから友達が出来ねえんだよ、『負完全(マイナス)』。それに、ルドルフちゃんは一度だって『一度だけ力を貸す』だなんて言ってないぜ」

 

「その通りだ。君は聡明なようだったし、通じると思っていたが…残念だ。まさか私1人で友達が出来たと勘違いして喜んでいるだけだったとは…悲しみを抑えきれないよ」

 

『そのわざとらしい泣き真似をやめてくれ…ハンカチで目尻を拭いちゃあいるが、布が乾いたままだから悲しんでないのはバレバレだぜ。泣き落とししようったってそうはいかないさ。』

 

「ふふっ、通じるとも思っていないさ。そもそも、私が戯言めいた冗談みたいなことを言ったせいで通じていなかったのだし、責任は私にもあるからな。それでは今一度、聞かせてもらおう。生徒会長としての私ではなく、一個人としての、ただのウマ娘のシンボリルドルフと、友達になってはくれないだろうか?」

 

『当然、大歓迎さ。むしろこちらからお願いしたいくらいだったぜ。やはり持つのは権力を有した友人に限るね。これから頼りたい時は無闇矢鱈に頼りに行くから、覚悟しておいてほしい。』

 

「では友達になったことだし、遠慮は必要ないな」

 

『おいおいおいいくら何でも変わり身が激しすぎるぜそりゃあないだろう!?まさか君たち結託して僕を騙したって言うのかい!?』

 

「概ねその通り。発案は僕だ。君は『友達』とか『仲間』とかそういう言葉に弱いからね、きっと乗ってくれると思っていたよ。さて、ここからは安心院さんとルドルフさんによる地獄phase2だ。しっかりついてきてくれよ?でないと、うっかりぶっ殺しちまうかもしれねーからさ♡」

 

「すまない、スクリプト…だが、効果は保証しよう。これが終わった時、君はきっと今までよりも勝利に貪欲になっているはずだ」

 

『ちくしょう、また勝てなかった…。』

 

おっと、安心院さんってば今の今まで話に夢中になってナレーションを忘れていた。まあいいか。会話文だけで大体伝わるだろう。

 

 

伝わるだろ?

 

 

──────────

 

 

『ふう…酷い目に遭った。』

 

僕とルドルフによる地獄phase2を終えたスクリプト(球磨川)はやはり眠ることができず、『大嘘憑き(オールフィクション)』で眠気を誤魔化して登校していた。

 

「スクリプトさん…何だか日に日に隈が酷くなってるような…大丈夫ですか?」

 

「スクリプト、眠れない時はホットミルクを飲むといいらしいわよ。今度作ってあげましょうか?」

 

『ああいや、自業自得だから別に構わないさ。いやあそれより、こうして3人で登校しているだけで何だか感動してきたよ。友人って本来こうあるべきだよね。』

 

あまりに疲れたせいで何でもない日常に感動するようになっている。そうなるにはまだ若すぎるのだが、あまりの疲れに精神が老いているのかもしれない。

 

「スズカさん…なんかスクリプトさんが捻くれた思想を持った中学生みたいなこと言ってます…」

 

「みたいじゃなくて、スクリプトは捻くれた思想を持った中学生じゃない。スペちゃんが言ってることは何も間違ってないわよ」

 

友人2人もだんだんとスクリプト(球磨川)に対して遠慮が無くなってきていた。良いことなのか悪いことなのかいまいち分からないが、本人が気にしていないのでどうでも良いことなのだろう。

 

『そういえば僕って中等部3年なのか。すっかり忘れてたぜ。』

 

「スクリプトさん、あの…ほんとに一回休んだ方が…」

 

「もしかして、私との併走のせいかしら…」

 

スクリプト(球磨川)があまりにもあんまりなせいで、スペシャルウィークは本気で心配し始めるし、スズカは本気で落ち込み始めた。まだまだ夏が始まってすらいないと言うのに辺りの雰囲気はどんよりとし始め、空気感はさながら夏休み後半の肝試しのようだった。

 

最終的に学校に着く頃にはひと段落ついていたので良かった。あのまま登校しようものなら沖野が理事長秘書に呼び出しを食らうところだったからだ。

 

後日スペシャルウィークとスズカから『眠れない時にどうぞ』という付箋を添えてミルクやハチミツ、そして茶葉とポットが贈られてきたという。スクリプト(球磨川)は友人達の優しい心に触れて涙を流した。




勝手に三つ目の『領域』とか生やして大丈夫か?って思ったけどやりたかったのでやります(天衣無縫)

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第−18箱 解放≠解法



スクリプトロンガーの秘密①
実は、奢り癖があるのでいつも金欠。




『さて、マックイーンちゃん。そろそろ折れてくれねえと折らないといけないからさ、早く決めておくれ。』

 

「スクリプトさんあなた…頭の中に法律という概念が存在しないのですか?これは十分に脅迫の条件を満たしていると思いますわよ!」

 

授業間の休み時間に、スクリプト(球磨川)メジロマックイーンの勧誘に来ていた。何故沖野はこいつを勧誘係にしてしまったのだろう。

 

『残念だったねマックイーンちゃん。僕はどこを折るかなんて言ってないから白寄りの白だ。白黒付けようってんなら乗ってやってもいいぜ。オセロとか好き?』

 

「見た目から腹の底まで真っ黒の暗闇なくせして、そんな戯言をよくもまあ抜け抜けと…ちょっと待ってください、そのオセロ板は一体どこにしまっていたんですの!?」

 

『なあに、『過負荷(マイナス)』の応用さ。』

 

「どうしましょう、全く意味が分かりませんわ…」

 

生まれてこの方勝ちウマ(プラス)であったマックイーンに負け犬(マイナス)の言動など到底分かるまい。スクリプト(球磨川)からすれば、ここまで面白い奴を揶揄わないわけにはいかなかった。

 

『一応言っておくとさ、僕だって心苦しいんだぜ?君とテイオーちゃんがライバル関係にあるってことは知ってるからさ。』

 

「それを知っていて何故わたくしをスピカに勧誘しているのですか?明確に理由を説明して頂けませんと、わたくしテコでも動きませんわよ」

 

『へえ、そりゃあいい!ちょうど実験したかったんだ。テコでも動かないって言う奴は、一体何をどこまでやれば動くのかっていう実験をね。まずは手始めに…そうだな、君の祖父母あたりから攻め崩そうか。』

 

「お婆さまが負けるなどあり得ません。もっと他のやり方を用意するべきですわね」

 

『スピカではトレーナーのお金で甘味食べたい放題。』

 

「入部届はどちらに?」

 

『冷静にバカデカい声出すのやめてくんない?』

 

あまりにも不自然な音量で声が響いたせいか、教室内の視線は全て2人に集中していた。

 

こちらを向いていないのは日直をサボろうとして壁向きに縫い付けられているスカーレットと、日直業務を全て押し付けられたウオッカだけである。

 

「と、いうのは冗談…いえ、冗談(キディング)ですわ。流石にスイーツ如きで人生を左右させるわけにはいきません」

 

『良かった。こんな適当な謳い文句や誘い文句で釣れるようだったら、僕はきっと君をなかったことにしていたと思う。いやあ本当によかったぜ。』

 

「あなたが言うとお洒落な事でも洒落にはならなそうですわね…」

 

『まさか今のは『事』と『(こと)』を掛けてるのかい?だとしたら才能ないけど。』

 

「違います!ただの偶然ですわ!ふざけてないで勧誘に来た本当の理由を仰ってください!」

 

珍しくツッコんで欲しい所にツッコミを入れてくれる娘だったからか、調子に乗りすぎてしまったか。人の心に土足で入り込むスクリプト(球磨川)からすれば、こんなのはまだ序の口もいいところなのだが。

 

『失敬失敬。いやまあ、誰かを敬った事なんて一度たりともありはしないが。それじゃあ話そうかな。君を勧誘しにきた本当の理由を。』

 

「言うなら早くしてください。この後もトレーニングが控えていますの。はい、どうぞ。あっそうそう、せっかくなのでリポグラムをしましょう。"あ"と"う"の横列以外禁止で」

 

『変わった奴だから。『つまらなくは無くなる』がまた頭から(くだ)ったからかな。…誰からリポグラムの事を聞いたんだい?まあ予想は容易に付けられるけれど、二が一間違ってちゃあいけないからね。』

 

「変わった奴ってあなた…いえ、それは今どうでもいいですわね。お察しの通り、内通者はゴールドシップさんですわ。『スクリプトはこれが大好きだからやらせてみ!』とだけ言って颯爽と去っていきましたけれど」

 

『よし、じゃあ僕はこれで。今からゴルシちゃんとガチでやり合ってくるから、もしスピカに入るつもりになったら部室に来ておくれ。僕たちチーム〈スピカ〉は、24時間365日、いつでもきみを受け入れるぜ、マックイーンちゃん。』

 

スクリプト(球磨川)はキメ顔でそう言った。

 

「いや、入りませんからね?」

 

『もうちょっと考えてくれてもいいと思うなあ。』

 

現実は思ったよりも非情であった。

 

 

──────────

 

 

その日の夜。

神社の階段を使ったトレーニングを終えたスピカ一行は、やはりいつも通りにヘトヘトにバテていた。

 

当然いつも通りに、スズカとスペシャルウィークとスクリプト(球磨川)は良い汗をかいている。他の面子はちょっとヤバい汗のように見えた。

 

3人は階段の淵に腰をかけ、窓から漏れる光が照らす夜空を見ながら話していた。

 

「──ダービーは9着だったわ。上手く限界を引き出せなくて…」

 

『へぇ、意外と言えば意外だね。』

 

「確かに、今のスズカさんからは想像できませんね…」

 

スズカが己の経験や失敗談を話し、それを聞いたスクリプト(球磨川)とスペシャルウィークは、驚きの感情を隠すことはしなかった。というより、出来なかった。

 

それもそのはず、デビュー後からシニア期前半にかけて、スズカは戦績が全く振るわなかったと言うのだから。

 

やはりスズカのようなウマ娘には、徹底した管理主義であるリギルは向いていなかったという事だろう。それでも重賞で1着を取れるのだから大したものだ。

 

流石は東条ハナである、と言ったところか。

それとも流石はスズカである、と言ってみようか。

まあ極論どちらも正解なのだが。

 

「限界ってどうしたら越えられるんでしょうか?『負完全(マイナス)』方面には突破出来ましたけど、あれだってスクリプトさんの手助けがあったからですし…」

 

「そうね…ゴールに大好きなニンジンを置いておいたら?」

 

「ちょっとスズカさん、真面目に考えてください…」

 

『スズカちゃんも中々言うようになったじゃあないか。最初はそっけなかったヒロインを攻略した時のような達成感があるね。』

 

「あら、それじゃあ私はスクリプトと付き合うの?きっと毎日大変で楽しくなるわね」

 

「ちょっとスズカさん!?スクリプトさんにそういうこと言うと本気にしちゃうんですって!」

 

『いくら僕が『負完全(マイナス)』とはいえ、友達の言ってることが分からないほど愚かでもないさ。そこは安心してくれて良いぜ。』

 

出会った時はぎこちなかった3人も、今ではすっかりちょっとした冗談を言いあえる仲になっていた。

 

「……『日本一のウマ娘』。お母ちゃんと約束した私の夢、ダービーで叶えて、きっと現実にして見せます」

 

「私も、スピカにいることで叶えたい夢ができたわ」

 

どうやら後輩たちに感化され、スズカも自らの未来を考え、そして目指すべき場所を見つけたらしい。スズカはどこか遠くを見ながら、自分の夢を語った。

 

「この先のローテーションは宝塚記念、毎日王冠、秋の天皇賞、ジャパンカップ。その後は…」

 

そこでスズカは言葉を溜め、ほんの少しだけ息を吸い込んだ。そして口を再び開き──。

 

「まだ内緒♪」

 

「『ええーっ!?』」

 

出したのは、茶目っ気だけだった。

昔のスズカであれば、これも考えられないことだっただろう。今ではすっかり学生らしさを手に入れていた。

 

「ずるいですスズカさん!教えてくださいよぉ!」

 

『まったくその通りだ!引き伸ばしが許されるのは昭和の少年漫画だけだっていうのに!』

 

「ふふっ…ダービーに勝ったら教えてあげるわ」

 

「つまり、私たちのどちらかだけが…」

 

『スズカちゃんの進路を聞ける、と…。』

 

基本的に似ているところはあまりないスクリプト(球磨川)とスペシャルウィークではあるが…この時ばかりは、全く同じ事を考えていた。

 

 

面白い。

 

 

「聞きましたかスクリプトさん?」

 

『勿論さ。悪いねスペちゃん。ダービーは僕が勝つから、君はスズカちゃんの進路を聞けないってことになる。』

 

「私だって、先に謝っておきます。スズカさんの進路を聞いて、夢も叶えなきゃいけない…というより、叶えるので!」

 

普段の2人はあまり闘志を散らすタイプではないが…スズカの進路という、何だか変な所で変なスイッチが入ってしまったようだ。

 

古典的な表現をするのであれば、2人の間には火花が散っていた。スクリプト(球磨川)が見上げ、スペシャルウィークが見下ろす形である。

 

お互いに言葉の応酬を至近距離で続ける2人を見て、スズカは『2人がとっても仲良しで私も嬉しいわ』などという少しズレた感想を抱いていた。

 

やはり『異常(アブノーマル)』はどうなろうとも『異常(アブノーマル)』だった。

 

 

──────────

 

 

翌日の夕方、西日で照らされた神社の参道に、マックイーンとテイオー、そしてスクリプト(球磨川)は3人で立ち尽くしていた。

 

「テイオー、スクリプトさん…トレーナーさんは?あなた方の顔を立ててあげたのに」

 

『テイオーちゃん、もしや沖野ちゃんってばまたやらかそうとしてる?』

 

「んー、十中八九そうだと思うよ。マックイーンはこんなのだけど一応メジロ家の大事なご令嬢だし、何かあったらお願い!」

 

「ちょっとテイオー、こんなのって何ですの!?撤回を要求し…ひゃっ!?」

 

突然マックイーンが上擦った悲鳴をあげた。

わざわざ理由は言わなくても良いだろうが、念のために説明しておくと、沖野がマックイーンの足を撫で回していたからである。

 

即座にテイオーとスクリプト(球磨川)が動き出す。

 

「流石はメジロ家の令嬢、均整の取れた神々しい…ぐぁっ!?いってて…っておいなんだこれ!?腕が動かねえぞ!?」

 

『沖野ちゃんの腕の神経を()()()()()()()()()。これで文字通り、君の食指が動くこともない。』

 

「トレーナーさあ、いい加減その癖直したほうがいいって。大人としてとか男としてとかじゃあ無くって、普通に人としてまずいと思うよ?」

 

「なっ何するんですの!?変態!暴漢!痴漢!」

 

腕の神経が無くなった沖野が抵抗できるはずもなく、顔面にモロに蹴りを喰らっていた。もしやこれを一つの芸として生きていくつもりなのだろうか。もしそうなのだとすれば絶対にやめた方がいい。

 

『さて、マックイーンちゃん。昨日の今日で悪いんだが、スピカに入るつもりは…。』

 

「あるわけないでしょう!?誰が自分の足を勝手に触る男の下で学びを得たいと思うんですか!?」

 

「えーっと、それは…」

 

『僕とかスペちゃんとかかな。スペちゃんに至っては本当に無許可で、しかもレース場のど真ん中でやられてるからね。やっぱりあの子も『異常(アブノーマル)』ってことか。』

 

「スペシャルウィークさんは無許可…ってことは、まさかスクリプトさんあなた…!!」

 

「いや違うから落ち着いてマックイーン!違うってスクリプトは痴女でも何でもない普通の厨二病な女の子だから!!」

 

また余計な間違った噂が広まる所だった。

本人としてはそれもまた一興と言った感じなのだろうが、周りからすれば危なっかしくてたまったものではない。

 

と、そんなふうに女3人姦しく話していたところに、もう1人の女がやって来た。これでは2人ずつに分かれて(言い争う)ことになってしまう。当然文字の上だけなので、激しく口論なんてしたりはしないのだが。

 

「2人とも、でかした!」

 

「声でっか」

 

『未だかつてない鼻息の荒さだね。そんなに嬉しいのかい?』

 

「そりゃあ勿論!なんてったってあのメジロマックイーンなんだぜ!?さあさ、早速ここにサインを…」

 

「見学してからです!まだ入るなんて一言も言っていませんわよ!」

 

スクリプト(球磨川)もテイオーも、マックイーンが段々と絆され始めている事に気づいていた。感覚からして、入部まではあと二押しと言ったところだろうか。

 

しかしここで押しに出たのは、2人よりゴールドシップの方が早かった。

 

「でっでも、私は、お前と走りたくて……うっ、うっううぅ〜〜…」

 

「ちょっ!?ちょっと、泣かなくてもいいじゃありませんか!っ別に、入らないと言っているわけではないんですから!」

 

『うーん、これが本当の泣き落としかあ。』

 

「マックイーンって案外単純なんだね…」

 

先ほどまで二押しほどと言っていたが、ゴルシがあまりに破天荒すぎたせいか一発で落ちてしまった。この場合、マックイーンがちょろいと言うべきか、それともゴルシが策士だったと言うべきなのか。

 

きっと、どちらも正解なのだろう。

 

 

──────────

 

 

そして、来たる6月7日。

ウマ娘の祭典、日本ダービー当日である。

 

世代最有力候補が5人出走する今年のダービーは、例年に無いほどの盛り上がりを見せていた。観客の数およそ17万人。対して出走する人数は18人。

 

17万人全員が、ターフを駆ける18人に夢を重ね、夢見心地で夢を見る。少女たちの背に預けられた大きな夢は、しかしそれでも彼女らにとって重荷ではない。特に、5番人気までの娘にとっては。

 

1番人気 1枠1番

〈怪鳥〉エルコンドルパサー。

 

2番人気 1枠2番

〈王者〉キングヘイロー。

 

3番人気 6枠12番

〈奇術師〉セイウンスカイ。

 

4番人気 3枠5番

〈狩人〉スペシャルウィーク。

 

5番人気 5枠10番

〈却本家〉スクリプトロンガー(球磨川禊)

 

1着予想投票の大半を、彼女ら5人…通称〈黄金世代〉が独占していた。全員が全員平常心。体重に過不足はなく、その自信に揺らぎはない。

 

レースというのは予想ができないものだ。1番人気が期待通りに圧勝する時もあれば、18番人気がドラマチックな下剋上を起こす時だってある。みんな分かりきっていることだ。

 

しかし。それでもしかし。

今日に限って言えば、1番人気から5番人気が勝つだろうと、誰もが信じて疑っていない。その絶対的な勝ちを疑っているのは6番人気から18番人気の娘と、その関係者だけである。

 

負けてなんかやらない。お前らに目にもの見せてやる。

そう思いながら心を燃やしている。煮え滾るその激情を抑え込んでいる。全てはこの日本ダービーで勝つために。

 

やはりウマ娘というのは、逆境で強くなるものだ。追い込まれれば追い込まれるほどパフォーマンスが良くなる。凡才(ノーマル)にとって、実践に勝る経験はない。実戦の中で、彼女らは成長を見せるのだ。

 

 

悲しい事に、それは天才(アブノーマル)にも言える事なのだが。

 

 

積んできた経験は同じ量かもしれない。

学んできた知識は勝っているかもしれない。

 

しかし、元が違う。

というよりそもそも、彼女らは()()()()()()()()()()()

凡才(ノーマル)天才(アブノーマル)に勝つためには、それこそ文字通りに血反吐を吐くようなトレーニングを続け、文字通りに体が壊れるほどの勉強をしなければならない。

 

だから、やはり。

多くの人が分かりきっていた事だとは思うが、今日の日本ダービーは、掲示板を〈黄金世代〉が独占する。これは変えようのない、残酷な現実だ。

 

レースは平等だ。

しかし、公平ではない。

 

 

──────────

 

 

「スペちゃん、スクリプト。心の準備はできた?」

 

「バッチリです。緊張はしていますけど…体は絶好調です!」

 

『僕も概ね好調さ。柄にもなく鼻歌でも歌いたい気分だぜ。』

 

スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)が地下バ道に向かうと、そこには見送りに来たチーム〈スピカ〉の面々がいた。

 

「それならよかったわ。楽しく走れるのが1番だもの。だから2人とも、精一杯楽しんできてね」

 

「はいっ!」 『そうするよ。』

 

「そうだ、スペ先輩とスクリプト先輩これどうぞ」

 

そう言うとウオッカは四葉のクローバーを挟んだ栞を2枚取り出し、スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)に向かって放り投げた。

 

「これ、四葉のクローバー?」

 

「はい!みんなで探したんですよ!」

 

「ダービーは幸運なウマ娘が勝つんですよね?」

 

「中々見つからなくって結局…」

 

「マックイーンが見つけたんだよな」

 

『へえ、マックイーンちゃんが。あんなにスピカは嫌だって言ってたのに、もしかして君ってばツンデレ枠?スカーレットちゃんとキャラ被ってるぜ。』

 

「思わず目に止まっただけです!それに、努力は報われるべきだと思ったので…」

 

「とにかく、これで運も2人の味方ね」

 

どうやら気づかないうちに、2人のために験担ぎをしてくれていたらしい。スペシャルウィークは心強さと頼もしさ、そして感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。この案には必ず報いねばなるまい。

 

しかしスクリプト(球磨川)は対照的に、心苦しそうな顔をしてから話し始めた。

 

『あー、みんな。申し訳ないんだが、僕はこういうのはいいかな。』

 

「「「なっ!?」」」

 

当然、皆驚愕した。特にウオッカとスカーレット、そしてマックイーンは。

 

「スクリプト、理由を聞いてもいいかしら?」

 

『いや、本当に申し訳ないとは思ってるんだぜ。友達や後輩が力を合わせて見つけてきてくれたものを返すっていうのはさ。だけどそれでも、僕は物に頼るわけにはいかない。』

 

そして、少しだけ言うかどうか迷って…スクリプト(球磨川)は本音を晒す事にした。

 

 

「僕は、僕のままで勝ちたいんだ」

 

「誰かの力や、物に頼るんじゃなくて」

 

「自分だけの力で勝ちたい」

 

「誰にも文句を言わせない勝ち方がしたい」

 

「その時僕は初めて胸を張って言えると思うんだ」

 

 

「『やっと勝てた』って。」

 

 

『……だから、これはスズカちゃんが預かっておいてくれ。勘違いしないで欲しいんだが、レースでは持たないってだけで学校とかでは常日頃持ち歩くからさ。』

 

「そう。そういうことなら…私が預かっておくわ。それにしても…ビックリしたわ。まさかあんなに真っ直ぐ物事が言えるだなんて」

 

「いやほんとビビりましたよ…まさかスクリプト先輩が『不気味じゃない』って事が一番不気味に感じるとは」

 

『たまには本音も言わないとね。幼馴染と可愛い後輩たちが僕に教えてくれたことの一つさ。』

 

一通り話し終わると、スペシャルウィークがスクリプト(球磨川)に向かって手を差し伸べていた。

 

「さ、行きましょうスクリプトさん!今度こそ、全力を見せますからね!今日は私が背中を見せる番です!」

 

『……ああ、そうだね。僕だって、目にもの見せてやるぜ。だからちゃんと着いてきなよ?初めて会った時みたいにさ。』

 

スクリプト(球磨川)はスペシャルウィークの手を取り、本バ場へと向かっていった。

 

輝かしい大舞台まで、あと十数分。

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、一体こんなところで何をしているのだろう。

同期のみんなは東京優駿という一世一代の大舞台で、今から鎬を削ろうとしているのに、1人きりでテレビと向かい合っている。

 

画面の向こうには芝の上で観客に向かって笑いかける同期達がいて、こんな暗い部屋で私はそれを見ている。これを滑稽と言わずして何と言おうか。自嘲の笑みが止まらない。というより止められない。頭で考えている通りに体が動いてくれない。

 

思い通りに動かないのは足だけで十分だというのに。

 

いけない、心が弱くなっている。なまじG1で勝ててしまったせいか、走れないということが苦痛でしかない。きっとこれはウマ娘の本能とかではなく、私自身の性質だ。走りたい。皆と一緒に、思う存分本気を出して走りたい。

 

ああ、喉が渇く。ここ最近は以前に増して水分補給が増えた気がする。大した運動もしていないというのに、喉が渇いて腹が減るこの体が憎らしい。憎たらしい。原因は分からない。いや分かってはいる。きっと渇いているのは心の方だ。早く走りたい。速く走りたい。

 

テレビにはエルが写り、観客の大歓声が若干の音割れを伴って私の耳に到達する。耳触りがいい。この歓声を一身に浴びる事ができるなら、きっと私は何だってできるだろう。文字通り、何でも。悪魔にでも天使にでも怪物にでも何にでもなれるだろう。文字通り何にでも。

 

うるさい。うるさい。うるさい。

歓声が耳障りだ。

 

無性に腹が立つ。私が走れないのに楽しそうに走る友人に、ではない。楽しそうに走っている友人たちを見て「私だったらこう走る」と頭の中で机上の空論を繰り広げる己に腹が立つ。否、机上ですらない。これは空論というより寧ろ空想だ。

 

おや、ついに腕まで動かせなくなったか?テレビの音量は下がるどころか上がっている。ふふ、これはいい。臨場感溢れる音声を響き渡らせるテレビは、さながら貸し切り状態のシアターだ。

 

惜しむらくは、ここが私1人だけが取り残された世界だという事だろうか。もし怪我をしていなかったら。あの時無理をしなければ。たらればの話をするのはこれが生まれて初めてかもしれない。だからなんだという話ではあるのだけれど。

 

スペちゃん、どうやら吹っ切れたみたい。きっと今の彼女なら、間違いなく上位に入り込むだろう。きっと最後はエルとの競り合いだ。動けない分勉強だけはしたから、見れば大体の展開は分かる。

 

唯一分からないことがあるとすれば、やはりスクリプトか。いつ見ても、どこで見ても分からない。理解不能だ。どう見ても本気で走れる体ではない。それこそ昔の私のように、脚を怪我して長期休養に入るハメになる。

 

ああいや、確か彼女の『領域』は『何か一つをなかったことにする』という効果だったのだっけ。掲示板で心優しい方々が教えてくれた。スペちゃんはシンプルな自己加速型だと言っていたな。

 

それにしても、『領域』を有しているウマ娘が6人いる世代とは…世間で言われている通り、〈黄金世代〉と言って差し支えないかもしれない。そこに私が含まれていないのは、いくら割り切ろうとしても割り切れることではないけれど。

 

悔しい。不甲斐ない。こんな無様を晒して、どの面下げて彼女たちと話す?たかだか一回G1を勝っただけで、対等だと思い込んで、それでまた気を使わせて一人反省会を開くのか。

 

浅ましい。

 

結局どれほど自分を責めようと、どれほど他人を羨もうと、私は私でしかないということか。そうだとすれば、これまでの思考は全て戯言か?いいや、全てが事実である以上、私にとって実感が籠った言葉である以上、やはりそれは戯言とは言い難い。

 

──うん、何を言ってもしょうがない。過去を悔やんで怪我の治癒が早くなるわけでもないのだから。後ろを振り返るのではなく、前を向いて進め。そこに道がないように見えても、一見して暗闇のようであっても、そこにはきっと道がある。未知故に不可視なだけだ。

 

 

恐れるな。

 

怖気付くな。

 

人事を尽くせ。

 

暗闇に身を投じろ。

 

全てを呑み込む混沌であれ。

 

道を開拓(ひら)くのは、いつだって愚か者だ。

 

〈愚者〉だなんて、私にピッタリじゃないか。

 

 

そこまで頭の中で考えて、再びテレビの画面に体を寄せた。今の私にできることは、色々なレースを見て知識を蓄えることだけだから。

 

待っていて、皆。いつかきっと追いついてみせるから。

 

追いついたらその時には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の背中を見せてあげるから。

 




次回はダービー。
ようやくここまできた感がありますね。
それとUA60,000ありがとうございます。まだまだ頑張ります。
あと文字数が200,000文字を超えました。まさかこんなに書けるとは。

感想・評価よろしくね。


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第−19箱 故に『負完全』

最近文章の書き方が分からなくなってきたので、良いなと思った文章にはお手数ですが「ここすき」をお願いします!!(ダイマ)



日本ダービーは『最も運の良いウマ娘が勝つ』。

そう言われ始めた原因は、圧倒的に外枠が不利になるコースだからだ。それに加えて、実際に外枠発走で勝ったウマ娘がいない。

 

つまり何が言いたいかと言えば、6枠12番の私と5枠10番のスクリプトは他の3人に比べて不利である、と言うことだ。更に追い討ちを掛けるように、皐月賞ウマ娘のキングと5戦5勝のエルが1枠を引いた。

 

はっきり言って状況は最悪。スクリプトは何をしでかすか分からないし、キングには『王威』がある。エルは5人の中で自力が1番高いし、スペちゃんはもはや別人。私だって完璧に調整してきたけれど、やはり皆も調整は完璧だ。毛艶で分かる。

 

正直なことを言ってしまうと、グラスを含めた〈黄金世代〉で自力が最も低いのは間違いなく私だ。そうで無かったとしても、私はそう思っている。きっと私はスクリプトにさえ劣るだろう。

 

私にあそこまでの『現実を受け入れる才能』はない。

 

きっと今日、私は勝てない。

体では分かっている。

頭でも分かっている。

 

──だけど、心は納得していない。

 

多分、走る理由なんてそれだけでいいんだ。

待ってなよみんな。今日の私は一味違う。

だって珍しく体が火照ってるんだ。いつもなら着くはずのない火が着いている。心が燃えている。

 

心臓はドクンドクンと音を立てていて五月蝿いし、こうして立っているだけでも気が触れそうだ。

 

緊張のせいか喉だって乾いてきたし、体が何かを求めて勝手に震える。足が疼いてくすぐったい。まるで自分の体を制御できていない証だ。

 

感情は際限なく昂り、普段ならば嫌悪感すら感じるゲートが小憎たらしくて、それでもどこか愛らしい。自分が自分でないようだ。というより、既に自分ではない。

 

トレーニングばかりしていたせいで、感情のコントロールの仕方を忘れてしまった。いつもなら周りを観察して策を考えていただろうに、今はそれすらできていない。

 

頭が痛い。胸が痛い。目が痛い。耳が痛い。足が痛い。心が痛い。出来る事なら今すぐにでも帰って寝ていたい。

 

それでも、ここに居たいと願う自分がいる。

 

 

「つまり、ベストコンディションだ。」

 

 

セイウンスカイにはゴールしか見えていなかった。

 

 

──────────

 

 

きっと、皐月賞のようにはいかない。

やはりここまでやって来てもなお、世間の声の方が正しいと言う他ないだろう。私にとって2,400mは()()()()

 

運良く内枠を取れたとはいえ、得意な作戦が『差し』である以上あまり有利に働くとは思えない。スタートを上手く決めてしまえば後ろからの圧に晒され続ける事になるし、スタートをわざと遅らせるなんてそもそも論外。最後まで追いつけずに掲示板外に沈むのがオチ。

 

もともとスカイさんのように策を練るタイプでもなければ、エルさんのように自力で相手を捻り潰すタイプでもない。スクリプトさんのように他人の弱さを知り尽くしているわけでもないし、スペシャルウィークさんのように様々な技術を吸収出来るわけでもない。

 

正直な話、この東京優駿の舞台でグラスさんを含めた〈黄金世代〉の中で、実力を最も発揮できないのは私。きっと今日の私はスクリプトさんにさえ劣る。

 

私にあそこまでの『場所を選ばない才能』はない。

 

きっと今日、私は勝てない。

この体が「走れない」と告げる。

この心が「不可能だ」と告げる。

 

──だけど、この誇り(Pride)が諦めなど認めない。

 

多分、走る理由なんてそれだけでいい。

もしかしたら追い抜けないかもしれない。

もしかしたら追い抜かされるかもしれない。

だけどこの体は火照っている。いつも通りに私の誇りが体を燃やす。心を奮わせる。

 

全身が緊張で強張る。いつもなら保てているはずの余裕の表情が保てない。きっと走り始めれば無様を晒すハメになる。

 

暴れ出したくなるほど体が熱いけれど、しかしそれでも頭だけは冷め切って冴えている。自分が自分でないかのように錯覚してしまう。

 

自尊心はすっかり消え去り、代わりに勝負欲が今の私を形作っている。いつもならば煩わしく感じるゲートでさえ、今の私にはただの鉄塊にしか感じられない。明らかにおかしい。錯覚ではなく、今の私はいつもの私ではない。

 

心が私を責め立てる。きっとお前は親の顔に泥を塗る。自らも泥に塗れ、王としての権威は失墜するだろう。なんと愚かなのだろう。世界中の歴史を紐解いても、きっとお前が最も愚かな王なのだろう、と。

 

耳を塞ぎたかった。目を塞ぎたかった。過去ばかり見て、後悔して、楽をしたかった。しかしそれでも、どうしても走りたかったのだ。やらずに後悔するより、やって後悔した方がよっぽどマシだから。だから心の言う通りに走るのだ。

 

だが(キング)は、自らの心にさえ(いな)と告げた。

 

 

「今日という日を後悔したくないもの。」

 

 

キングヘイローにはゴールしか見えていなかった。

 

 

──────────

 

 

芝の上に立ってなお、私の心に巣食う不安感は消えなかった。マスクも被っているというのに、誰よりも厳しいトレーニングをしてきたという自信もあるのに、今この瞬間に私が、このエルコンドルパサーこそが()()()()()()()()()()()()()()()

 

きっと私が一番早い(速い)。きっと私が一番運がいい。

けれど、やはりそれでも()()()()()()()()()()。一番人気の私は、ヘイトを向けるにはちょうど良すぎる的だろう。万が一にも無いとは思うが、他のみんなが結束したら私に勝ち目はない。

 

私はセイちゃんのように色々と考えるタイプじゃないし、キングのように絶対に曲がらない"我"があるわけでもない。スクリプトのように常に平静でいられるわけでもないし、スペちゃんのような凄まじい速度の成長を出来るわけでもない。

 

多分だけど、グラスを含めた〈黄金世代〉の中で、最も揺さぶられやすいのは私。他の子ならともかく、5人にとっては私を揺さぶるなど容易いことだろう。こと精神勝負において、私はスクリプトにも劣る。

 

私にあそこまでの『腹の中を隠し通す才能』はない。

 

だけど今日、私は負けない。

準備は万端。

体調も完璧。

 

──そして今日、きっと私は最幸(最高)だ。

 

多分、走る理由なんてそれだけでいい。

今日はなんだか気分が乗ったから。

今日はなんだか調子が良かったから。

いつも通りに私の体は火照っている。本能が走れと叫ぶ。理性が走れと囁く。

 

知らず知らずのうちに口角が上がる。期待が抑えきれない。きっと今日のレースは最高すぎるほどに最高で、尚且つ一筋縄ではいかないという確信がある。

 

今すぐにでも走り出してしまいたいほどに頭も心も煮え滾り、心臓の鼓動が大きくなる。有体に言えば、今の私は掛かっている。まるで冷静ではない。

 

でも大丈夫だ。きっと私は大丈夫。走れるのであれば、それがどこであれ私が勝つ。いつも敵だと思っていたゲートは、今日に限ってなんだか包容力があるように…いや、やはりこれは拘束具だ。できる事ならこれに入りたくはない、邪魔だ。

 

しかしここまで来ても、私の根元にある弱気な心は消えてくれない。心も体も走れと叫ぶ一方で、私自身は未だに不安感に苛まれていた。4人以外に負ける事はないにせよ、その4人こそに大敗を喫したら一体私はどうやって明日から生きていこう。しかし同時にこうも思う。今を楽しみたい、とも思う。

 

白状しよう。今日は逆境の日だと思っている。今まで戦って来た相手は…言葉は悪いが格下だった。それが今日はどうだろう。同格が4人もいるではないか。きっと今日のレースは私にとっては些か厳しいものとなるだろう。だけど諦められない。諦めてなんかやらない。

 

きっとこの先に『世界最強』は待っているから。

 

 

「私は、『世界最強(ヒーロー)』になりたいんだ。」

 

 

エルコンドルパサーにはゴールしか見えていなかった。

 

 

──────────

 

 

緊張はしているけれど、さして取り立てるほどに緊張していると言うわけでもなく。簡潔にまとめるなら、きっと私は平常心だった。少しの緊張と少しの慎重と多くの平常。いつもの私なら臆病風に吹かれていたと思うけれど、今日の私は凪いでいた。桶屋さん、ごめんなさい。

 

だけど今日この場に、油断できるような相手はいない。否、()()()()()()()()()。いつだってどこでだって全身全霊。それが私、スペシャルウィークなのだと、ここ最近ようやく気がついた。スクリプトさんに言わせれば『遅すぎる』らしいけれど。

 

私はスカイさんほど頭は良くないし、エルちゃんほど気は強くない。キングさんほど誇り高くもないし、スクリプトさんほど達観しているわけでもない。

 

たぶんグラスちゃんを含めた〈黄金世代〉の中で、1番人々の目に残る特徴が薄いのが私。要するに、多少影が薄い。人の目に留まる事において、私はスクリプトさんにさえ劣る。

 

私にあそこまでの『人の目を引く才能』はない。

 

きっと今日、私は勝つ。

理由なんてない。

理屈も理論も理想もない。

 

──それでも、私が勝つと確信している。

 

多分、走る理由なんてそれだけでいい。

負けることなんて考えなくていい。

勝つことすらも考えなくていい。

自分の夢を目指せ。足を止めてもいい。けれど最後には必ず夢を掴め。夢を踏み越えて、そして夢すら過去にしろ。

 

頭は冴える。心は燃える。体は温まる。寒いわけでもないのに鳥肌が立って全身がぶるりと震えた。成程、これが武者震い。さして面白いことでもないというのに、何故だか今の私には酷く可笑しく思えた。

 

みんな、みんなみんなみんな。私より格上だ。人気が自分より低くても、油断していいことの理由にはならない。みんなは私を追いかけるかもしれないけれど、私はみんなを追いかける。そんないたちごっこをしよう。先に追いかけるのを止めた方の負けだ。

 

スクリプトさんに教えられてゲートとは友達になったけれど、それでもやはりどこか憂鬱だ。こんなにも早く走りたいのに、それを止める友達を果たして友達と呼んでもいいのだろうか?ふとそんな考えが脳裏をよぎった。

 

そろそろ人生一度きりの大舞台である日本ダービーが始まるというのに、私は菊花賞の事を考えていた。多分スカイさんの独壇場になるだろうな、と。別に諦めているわけでもなければ斜に構えているわけでもない。なんだか不意にそう思っただけだ。

 

さて、そろそろスタートする頃合いだろう。最後に一つ、自分に言い聞かせておくとしようか。大きな事を成す前には、大仰な事をしておかないと釣り合いが取れない。さあさあご来場の皆皆様、これよりご覧頂くは私スペシャルウィークにとって、一世一代の大舞台。きっと忘れられないレースになる事間違いなし。……よし、やるぞ。私らしく走ってやる。

 

誰にでもできることなんてつまんない。

 

 

「私は、私にしかできないことをやろう。」

 

 

スペシャルウィークにはゴールしか見えていなかった。

 

 

──────────

 

 

まったく、揃いも揃って意気込みすぎるほどに意気込んじまってさ。ちょっとは僕のことも考えて欲しいもんだぜ。これじゃあ僕が考えなしの才能なしの能なしじゃあないか。自分で言ってて悲しくなってくるぜ。

 

僕に君たちほどの才能なんて一つもありはしない。まして、君たちが僕に劣っているところなど一つたりともありはしない。強いて言うなら、僕は君たちよりも『負完全さ』という点で優れている。要するに、『完全さ』が欠けている。故に『負完全(マイナス)』なのだけれど。

 

きっと君たちのことだから、それぞれがそれぞれの走る理由を見つけちまったんだろう。だからこそ、僕は敢えて言わせてもらう。

 

くっだらねえ。何それガキの戯言かよ。

 

ってね。そもそもの話だが、人間が何かをする事に理由なんて必要じゃねえんだぜ。そもそも大体が『何となく』で生きてんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だからこうも言わせてもらおうか。と言っても、これは他人の受け売りだけどさ。横流ししてるわけだから、受け売りというより、寧ろこれは転売になるのかな。

 

──走る理由がない。だから走る。

 

走る理由なんて案外こんなもんさ。

そこに理論だの理屈だの心だの体だの、そんな現実的で幻想的で概念的で抽象的な漠然としたものは必要ない。()()()()()()()()()()

 

いやそれにしても、ゲートって落ち着くな。この狭さ、この肌寒さ、この無機質さ。まるで鏡写しの僕を見ている感覚に近い。『負完全(マイナス)』と『負完全(マイナス)』が()()()()()()()強大な何かになったかのような感覚を得られる。まあどうでもいい事だし、強大な何かとか曖昧すぎて吐き気がするが。

 

さて、長々と考え込むのは性に合わねえし、ここら辺で一度締めくくるとしよう。僕といえばあのセリフだし、ここは一つファンサービスついでに一言言わせてもらおうか。

 

今日君たちが負けたとしても、それは君たちの責任だぜ。

 

 

『僕は悪くない。』

 

 

スクリプトロンガー(球磨川禊)にはゴールしか見えていなかった。

 

 

──────────

 

 

「ねえねえトレーナー。トレーナーはさ、誰が勝つと思う〜?ボクはね、スペちゃんが勝つと思うんだけどな〜」

 

「そりゃあ…そうであって欲しいとは思うぜ。ただ、今回はヤベエぞ。今の条件で〈黄金世代〉の面子を相手にして、それでもダービーを勝てる奴は…それこそシンボリルドルフくらいだろうな」

 

沖野は顔を顰めた。それもそのはず、出走者のうち4人が既に『領域』を有しているこのレースは、誰が勝つかなど到底予想できたものではなかった。もっとも、テイオーからすれば質問と回答がずれていたので顰めっ面だったが。

 

「スペちゃん…スクリプト…楽しめるといいけど…」

 

「おーうスズカさんよお、先輩だってんなら心配より先に信頼してやるべきだろうよ。少なくとも朕はそう思うぜ」

 

「ゴールドシップさん、あなたちょっと一人称が尊大すぎると思うのですけれど…」

 

『別にアタシがどんな一人称使おうと勝手だろ?』

 

「うわあっ!?急にスクリプトさんの真似なんかしないでください心臓に悪すぎますわ!!」

 

「なんでマックイーンってあんなにスクリプト先輩苦手なんだろうな〜」

 

「アタシはあの人を得意な人なんていないと思うけれど」

 

「それもそうか」

 

多少漂い始めていたシリアスな空気は、無事チーム〈スピカ〉によって中和された。真剣にやっても長続きしないという事なので、沖野はトレーニング内容の変更をこの時決めたという。流石は中央屈指のトレーナーだ。

 

「で?実際みんなは誰が勝つと思ってんの?」

 

「「「「「「スペシャルウィーク」」」」」」

 

「だよねー…」

 

何というか、スクリプト(球磨川)の立つ瀬が無かった。

可哀想に。

 

 

──────────

 

 

準備は整い、ファンファーレが鳴り響く。

観客はそれを静聴した後、押さえ込んだ熱気を再び爆発させた。ここまでの熱気は近年稀に見るものだった。

 

18名の優駿が、その身を進めてゲートへと入っていく。無事ゲートインしただけでもその都度観客は興奮していた。

 

誰一人として話さない。誰一人として気を抜かない。日本ダービーは()()()()()()()()()()()()。だからここで動くとするならば、やはりあの2人しかいなかった。皆それを警戒していた。だからきっと大丈夫…のはずだった。

 

偶然、その声が重ならなければ。

 

「『はあ、帰りた〜い…セイちゃん(スクリプト)、一緒に帰る?』」

 

瞬間、あまりに突飛な出来事に、あまりに日常的すぎる会話に多くのウマ娘が気を取られた。この場合の『多く』というのはG()1()()()()()という意味である。

 

その数、1人。

 

《日本ダービー、今スタートしましたっ!さあ誰が先頭に躍り出るのか!?》

 

残り16人。

 

横一線の綺麗なスタートとなったが、徐々に前に出てセイウンスカイがハナを取る。キングヘイローが直前で作戦を変更し先行策へ。つける位置はセイウンスカイの後ろ。『王威』で牽制。スペシャルウィークは前目に着けて自分らしく走る。脚を溜めて直線に備える。エルコンドルパサーはその後ろに不気味に控えている。恐らくスペシャルウィークが進出を開始した後に動くつもりだろう。

 

要するに、それぞれが自分のレースをしていた。

自分の勝ちパターンへと持って行こうとしていた。

スクリプト(球磨川)の後ろがどうだったかは分からないが、少なくとも前にいる娘は今この瞬間。確かに全員が自分の中で最も良いと考える走りをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『領域』の条件は満たされた。

 

 

そして、スクリプト(球磨川)が嗤い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが『負完全(マイナス)』に飲み込まれた。

 

 

残り4人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

「──なっ!?これはまさか…『領域』!?まだ序盤も序盤でしょう!?」

 

キングヘイローが喚く。無理もないことだろう。なぜなら其処は完全なる暗闇というわけでは無かったからだ。

 

微かに、本当に微かではあるが、視線の先には一筋の…いや、一粒の光があった。ならばそこを目指すのが道理だろう。(キング)は困惑からの復活も早かった。

 

(この手の『領域』はまず間違い無くスクリプトさんのもの…だとすれば、今までのあれは本当に『領域』では無かったということ…?)

 

そんな事を考えながら走るが…やはり、何かがおかしい。いくら2,400mが適正外であるとはいえ、()()()()()()()()()()()

 

理屈で説明できないという事は、即ち『領域』によるものであるという事だ。つまり、この異様すぎる程に異様な倦怠感はスクリプト(球磨川)の『領域』の効果で間違いない。

 

ちなみにここまでで、体感1,200mほど走っている。いくら何でも『領域』の持続が長すぎやしないだろうか。明らかに常軌を逸している。

 

そこまで考えた所で、次の疑問が浮かんできた。それは『一体他のみんなはどこに行ったのか?』である。

 

 

残り3人。

 

 

その時、ふと隣に誰かの気配を感じた。恐る恐るそちらを向くと、そこには知らないウマ娘がいた。見た目はいかにもゆるい感じで頭には菊の髪飾りが付いていて、それでいて、一目で限界だと分かるほどに疲弊していた。

 

というか、セイウンスカイだった。

 

「スカイさん!?どうしてあなたがここに…それに、いくら何でも疲れすぎじゃないの!?」

 

「……卑怯だ卑怯だよ何だあれ対応できるわけないだろ持ってる奴勝ちとかふざけるなよ……!!」

 

セイウンスカイは泣いていた。まだレースは第3コーナーに入った辺りだと言うのに、既に負けを認めて泣いていた。キングヘイローは当然混乱した。

 

「えっと…他のみんなは何処かしら?」

 

「他のみんな、他のみんな…あの3人ならとっくに前に行ったよ。もう追いつけないくらい前に」

 

「この『領域』の効果は?」

 

「聞いたって無駄だと思うけれど…多分これは、自分らしく走ることが原因だよ。自分らしく走るとスタミナを削られて、だからといって自分らしさを捨てたら勝てなくなる…だからスタミナの浪費を覚悟で走るしかない」

 

大凡ではあるが、セイウンスカイの見解は当たっている。スクリプト(球磨川)の『領域』は他者を封殺する。文字通り、他人を封じ込めて個性を殺す。

 

しかし、それでもなお、キングヘイローは自分らしさを捨てない。捨てたらまた、前の自分に戻ってしまうから。口だけは達者だった、高慢ちきなだけの前の自分に。

 

だから(キング)は膝をつかない。顔を下げない。自分を曲げない。彼女にできる事はただ自分を信じて進むだけだから。キングヘイローは皐月賞の時のように『領域』を発動した。彼女の身から『王威』が噴出する。

 

「それじゃあスカイさん、私は行こうと思うのだけど…あなたは行かないのかしら?」

 

「あー…ちょっと今の私はスタミナ切れのヘロヘロセイちゃんだから…私の意思はキングに託そうかな」

 

「託す?意思を?バカ言わないでちょうだい。それはあなたが背負うべきものでしょう。勝手に私に押し付けて1人で楽になろうとしないで」

 

そう言うと、キングヘイローはあっさりとセイウンスカイの前から姿を消し、前にいる3人を追いかけて行った。

 

 

「どうしてみんな、そんなに強いんだよ……」

 

 

今日のセイウンスカイは、いつもより少し小さく見えた。

 

 

──────────

 

 

『あれっ、キングちゃん?てっきりセイちゃんが来るものかと思っていたんだが。』

 

「生憎ね。このキングが脇目も振らずに一直線であなたの所までやって来てあげたのよ。感謝なさい」

 

どうにか誇り(Pride)で取り繕ってはいたが、それでも見る奴が見ればあっさり見抜かれるほどに綻んでいた。要するに、見栄を張っているのがバレバレだった。

 

『さて、そろそろ勝負も大詰め、見えてないだろうから教えてやるけど今僕たちは第4コーナーにいる。ここいらでひとつ、僕の『領域』のネタバラシでもしようか。大体分かってると』

 

「いつまでも喋ってないでさっさと教えてくださいスクリプト!!私達3人とっくに限界なんデスから!!」

 

「………」

 

「スペシャルウィークさんっ、やけに静かじゃない!限界が近いのかしら!!」

 

流石は『異常(アブノーマル)』と言ったところか。どれだけ今が異常であっても貫き通せるほど我が強い。もはや説明してやる義理も道理も無いのだが、どうしても自分の『領域』をひけらかして心を折ってやりたいのか、スクリプト(球磨川)は説明を再開した。

 

『もう大体分かってるとは思うんだけどさ。僕の『領域』の効果は結構単純なんだぜ。そうだなぁ、言うなれば…。』

 

 

『自分らしさをなかったことにする能力。』

 

 

『発動条件は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()』さ。いかにも『負完全(マイナス)』って感じの、他人の足を引っ張ることしか考えてない『領域』で笑っちまうぜ。』

 

『自分らしく走ろうとしている間はスタミナが削られ続け、勝つ事を諦めるまでこの『過負荷(マイナス)』…ああいや、『領域』は続く。動き始めたら止まらない、要するに欠陥品さ。僕の『領域』にはブレーキがない。』

 

『僕では制御不能。故に『負完全(マイナス)』なんだけどね。』

 

それを聞いてなお、キングヘイローは下を見なかった。前だけ見ていた。最終直線までよくぞ踏ん張った。歯を食いしばって食い下がった。

 

しかしそれでも、彼女には長すぎた。

 

「まだッ…!こんな所で終われない…!」

 

『最後まで諦めないあたり、流石と言わざるを得ないよ。だけどキングちゃん。本当によく第4コーナーまで保ったもんだ。だけど君はここまでだ。』

 

その言葉を最後に、キングヘイローは引き離された。

 

 

残り2人。

 

 

『ふう。圧迫感もなくなって走りやすくなったぜ。っと、エルちゃん。僕は知ってるぜ?君は最終直線まで余力を残しておかなきゃ『領域』を使えないって事を。』

 

「そんなに私を研究したなんて…照れちゃいますッ、ねっ!!」

 

そう言うと同時にエルコンドルパサーが進出を開始する。きっとこれは、限界なんてとうに超えている走りだ。『領域』なんて関係なく、気持ちの力だけで『領域』を凌駕している。が、しかし。それも長く保つとは言えない。

 

だってエルコンドルパサーは息も絶え絶えだし変な汗だってかいている。どこを見たって満身創痍。一歩間違えば大怪我間違いなしの大博打。打って出た結果、スペシャルウィークの前に出ることに成功した。

 

が、しかし。これもやはり()()()()()()()

 

〈狩人〉は〈怪鳥〉が動くのを待っていたのだから。

 

エルコンドルパサーはスクリプト(球磨川)の対応に精一杯になりすぎたせいで、スペシャルウィークの威圧の事を完全に忘れていた。

 

「ぅぐっ…」

 

見ている方が心配になるくらいに顔を青くしたエルコンドルパサーは、少しだけ泡を吹きながら後退した。

 

残り1人。

 

しかし、やはり今日もスクリプト(球磨川)は勝てなさそうだった。それはなぜか?そりゃあ、ここから向こうが切ってくるカードなんて一つしかないだろうよ。

 

 

『領域』の条件は満たされた。

 

 

そして、スペシャルウィークが笑い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇は、星に照らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スクリプトさん。私の星の輝きがあなたの混沌を上回った以上、今回は私の勝ちですよね。それで、いいですよね?私は、『日本一のウマ娘』になれるんですよね?」

 

『うん。君が日本一だよ。はぁ、まあこうなるってのは分かってた事なんだけどさ。それでもなまじゴールが見えてただけに、やはり悔しい気持ちというのは際限なく湧いてくる。ここから切れるカードが非人道的手段しか無い以上、やっぱり僕はまだまだ実力も経験も運も不足しているらしい。』

 

『また勝てなかった。』

 

「それでも、初めて会ったときに比べて大分丸くなりましたね。きっと昔のスクリプトさんなら『過負荷(マイナス)』でも『領域』でもなんでも使って勝ちに来ていたんでしょうけれど」

 

『僕だってプライドの一つや二つあるさ。今回は気分が乗らないからやってないだけで、次回以降は全身釘刺しにしてやるぜ。』

 

 

──────────

 

 

こうして、日本ダービーは決着を迎えた。

1着、スペシャルウィーク。

2着、スクリプトロンガー(球磨川禊)。1バ身差。

3着、エルコンドルパサー。3バ身差。

4着、キングヘイロー。3と2分の1バ身差。

5着、セイウンスカイ。ハナ差。

 

大方の予想通り、〈黄金世代〉のメンバーが掲示板を独占する結果となった。これはこれで前評判通りすぎてつまらない、という言葉もちらほら散見されたようだが、しかしそれでも、今年のダービーは近年稀に見る大盛況だった。

 

スペシャルウィークは泣いて喜び、スクリプト(球磨川)は珍しくそれを純粋に祝福した。キングヘイローは自らを再び鍛える事を心に決め、エルコンドルパサーは悔し涙をのみ、必ずリベンジする事を誓った。セイウンスカイは……。

 

そう、セイウンスカイだ。

彼女は第3コーナー入口時点で既にスタミナが切れ、後ろへと下がっていったはずなのだが、最終的に4着のキングヘイローにハナ差まで迫っている。これは明らかにおかしい。

 

違和感でしかなく、また違和感しか感じないはずなのだが…ダービー直後で浮き足立っていたせいか、その異変に気付いたものは誰1人としていなかった。

 

気付いていれば、菊花賞の勝者はスクリプト(球磨川)だったかもしれなかったというのに、気付かないうちにそのチャンスを逃してしまっていた。

 

故に『負完全(マイナス)』なのだろう。

いかにも球磨川くんらしいことだ。

 

ちなみに余談なのだが。

チーム〈スピカ〉の打ち上げは、それはもうひどいものだったという。スペシャルウィークはずっと笑顔で泣いていたし、スズカはそれを見て泣いていた。ウオッカとスカーレットもそれを見て泣いていたし、ゴルシもテイオーもマックイーンも沖野でさえも泣いていた。

 

涙を全く流さなかったスクリプト(球磨川)はあまりの疎外感に、勝手に抜け出して帰ってきたらしい。ついでに後日、スピカは全員スペシャルウィークを応援していた事を知って泣いていた。

 

泣けてよかったじゃないか。




変な演出を考えついたせいで書くのにめちゃくちゃ時間がかかってしまいました。マジ大変でした。

ちなみに最初の5人のセリフには元ネタがあります。分かったらニヤけてください。

感想・評価よろしくね。


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第−20箱 『甘えよ。』

ちょっとだけ真面目なお話を。
この春に晴れて大学生になったのですが、思ったより忙しいので更新がこの先遅くなると思います。暇ができたら書き進めるので気長にお待ちください。



日本ダービーの後日談……というよりは宝塚記念の後日談と言った方がいいだろうか。何があったかはわざわざ説明せずとも分かるだろうが、サイレンススズカが圧勝して幕を閉じた。

 

今まで散々圧勝してきたかのように思えたが、実は今回が初のG1勝利であった。当然、スピカはお祭りムードである。なにせダービーウマ娘とグランプリウマ娘を同年に輩出したからだ。これは紛れもない快挙である。

 

それから。

マックイーンが正式にスピカに入部する運びとなった。送り迎えはもちろん麻袋で行われた。計画犯ゴルシ、実行犯ゴルシの拉致計画は、思いの外難航したようなのだが……まあそれは別の話。

 

じゃれあうマックイーンとゴルシを見たスペシャルウィークは「2人はウマが合うんですね!」とか言っていたが、彼女の目は節穴なのだろうか。でなければ洞穴だろう。

 

それから。

合宿で海に行って、BBQをしようとしたらスクリプト(球磨川)が肉以外全てをなかったことにしたりした。本人曰く『にんじんが食べたいなら焼きにんじん屋にでも行けばいいんだ、肉を食え肉を。』だそうだ。

 

スペシャルウィークとマックイーンが激怒し、スクリプト(球磨川)は海に沈められた。ああ、比喩表現じゃあないぜ。読んで字の如く、海の藻屑と化した。3分後にはケロッとしてたけどね。

 

それはともかくとして、夏合宿で1番イかれていたのは間違いなく沖野だろう。海でツイスターゲームはまだ分かる。普段より不安定な足場は、いつもなら使わない筋肉も鍛えてくれるだろう。

 

しかし海でペーパーテストをするのはもうよく分からない。学園から持ってきた備品の机が潮風でダメになるだろうし、そもそもそんなものは学園でやればいいというのに。テイオーは「全然海関係ないじゃん!!」と吠えていた。下手したらスピカで1番まともなのは彼女なのかもしれねえな。

 

それから、ではなくこれから。

トレセン学園ではウマ娘ファン待望の一大イベント、ファン大感謝祭が幕を開けようとしていた!!

 

以上、安心院さんのあらすじのコーナーでした。

チャンネルはそのままで頼むぜ。

 

 

──────────

 

 

ファン大感謝祭当日。

トレセン学園は熱気に包まれ、いつも以上に活気で満ち溢れていた。生徒だけでなく、近隣住民やファンの皆様も浮き足立っているように見える。大分騒がしいが、お祭りであるならば騒がねばなるまい。

 

「今日はみんなで楽しみましょうね!」

 

「ええ、そうね。ちなみにスペちゃんは何を食べる予定なの?」

 

「焼きにんじんと焼きバナナと焼きリンゴと焼きナスと焼き鳥と焼きマシュマロと焼きとうもろこしと焼きそばと焼き芋と焼き蛤と焼き肉と焼き魚と焼きうどんと焼きおにぎりと焼き餅と焼き栗と焼きビーフンと焼き餃子と焼き飯とたこ焼きとお好み焼きともんじゃ焼きと串焼きとイカ焼きと鯛焼きです」

 

『それはまた胸焼けしそうだね。いいこと教えてあげようかスペちゃん、そういうのってやけ食いっていうんだぜ。』

 

「あっあと焼売ですね」

 

「スペちゃん、無理して『焼』が付く食べ物を挙げなくてもいいのよ?」

 

スズカとスクリプト(球磨川)としては当然冗談だと思っていたのだが、スペシャルウィークがこてりと可愛らしく首を傾げたのを見て、全てを察して追及をやめた。

 

こいつはマジだ。

 

『……ところでさ、スペちゃん。僕とスズカちゃん以外はどっか行っちまったわけだが、どうする?』

 

「えっあっ!?今日はみんなで楽しむって言ったのに!?」

 

『テイオーちゃんはルドルフちゃんの所へ、ウオッカちゃんとスカーレットちゃんはどちらが多くの店を回るか競走へ、ゴルシちゃんとマックイーンちゃんは焼きそば売りに行ったぜ。』

 

「もう、みんな自由なんだから……じゃあ私たちは3人で楽しみましょうか」

 

「しょうがないですね……よしっ、こうなったら誰よりもお祭りを楽しみます!!」

 

良い意味でも悪い意味でも、チーム〈スピカ〉の連中は自由奔放だった。奔放というか、奔走というか。それとも傍若無人だろうか。

 

 

──────────

 

 

「よーし皆!アタシに着いてきな!」

 

そう言って子供たちを引き連れて走るのはヒシアマ姐さんことヒシアマゾンと、「ちびっこ探検隊」という看板を掲げたナリタブライアン……こいつは、ナリタブライアンなのか?いやまあ、どう見てもナリタブライアンか。

 

「随分楽しそうだな。最初はあんなに嫌がってたのに」

 

「んなっ…そっ、そういうお前こそ楽しそうじゃないか…」

 

ヒシアマゾンは照れで頬を赤く染めながら答えた。もっとも、「照れ」というよりは「気恥ずかしい」といった感じに見えたが。ともかく、2人は子供を引き連れて走っていたのだが、そこに不純物が1人紛れ込んできた。

 

『やあヒシアマちゃん!強気な顔も弱りきった顔も素敵だったが、今こうして恥ずかしがっている君も可愛いぜ!交際を前提に結婚しない?』

 

「げえっスクリプト!?やめろまたアタシをそっち側に引き込むつもりだろう!?ブライアンもなんか言ってやんな!!」

 

「アマさんは料理もできるし掃除もできるしそして何より気遣いもできるからな。良妻賢母というやつだろうか」

 

「ブライアン!?」

 

『あっ乗ってくるんだ。いやー意外だったぜ。まさかお付き合いの許可が出るとは思ってなかったし、泣きっ面に蜂だね。』

 

「いやそれを言うなら棚から牡丹餅だし、泣きっ面に蜂はアタシの方だ!!」

 

「アマさん、ちびっこ探検隊のメンバーが怖がっているからあまり大きな声は……」

 

「ブライアンが原因なのにそれを言うのかい……?」

 

『子供たちが不安そうだし僕はこれで。スペちゃんたちと焼きそば食べなきゃいけないからさ。』

 

「尚更どうしてここにいる!?さっさとスズカのとこに戻りな!!」

 

『はーい。』

 

当然ではあるのだが、スクリプト(球磨川)は思いの外嫌われた……というか苦手に思われているようである。『負完全(マイナス)』に引き込んでくるやつ相手に苦手意識を持つのもまあ妥当なことだろう。

 

 

──────────

 

 

所変わってここはリギルの執事喫茶。

エアグルーヴ、オペラオー、フジキセキ、そしてシンボリルドルフが執事服をその身に纏い、老若男女を……いや、主に女性を魅了していた。

 

「……それで、スペシャルウィークが食欲を抑えきれずに暴走したから、スクリプトは暇つぶしでここに来た……そして偶然ここにいたテイオーが悪戯心を発揮して、スクリプトも執事服を纏っている、と……そういうわけだな」

 

『極めて端的に説明してくれてどうもありがとう。それより、どう?鏡を見てねえからいまいちどうなってるか分からねえんだが…似合ってるかな?』

 

「君のサービスを所望するファンも多いのだから似合っていないはずが無いだろう。うん、勝負服が学ランだからなのかもしれないが、違和感が無さすぎて違和感を感じるな。完璧な着こなしだ」

 

『……そう手放しで褒められると、僕と言えど反応に困るな。ルドルフちゃんのことだから適当言ってる訳でもないだろうし。』

 

「適当な感想を述べているつもりだよ」

 

『はいはい、状況に適しているって意味での『適当』だろう?さて、それじゃあ僕はモブキャラ共にご奉仕させて頂くとしよう。』

 

スクリプト(球磨川)は意地の悪い笑みを顔に浮かべ、完璧に喫茶の業務をこなしていった。こいつはもう殆どリギルみたいなものなのではないだろうか。

 

ルドルフは想像の5倍は働くスクリプト(球磨川)を見て「しょうがない奴だ」とでも言いたげに微笑んでいた。

 

 

──────────

 

 

更に場を移して、占い屋。

マチカネフクキタルメイショウドトウが営むこの店には、重苦しい空気が漂っていた。

 

「すっすすっすっ水晶がっあぁぁ割れちゃいましたぁぁっぁああぁ!?!?!?」

 

「そんな…!救いは、救いは無いのですか〜!?」

 

「ありませんッッッ!!!!」

 

『あのさ、いくら僕が『負完全(マイナス)』だからって、そんな自信満々に救いが無いとか言われると傷つくんだけど。まあ傷なんて1秒あれば無かったことにできるけどさ。』

 

そう、スクリプト(球磨川)を占った瞬間、水晶玉が弾け飛んだのだ。崩れたとか壊れたとかではなく、弾け飛んだ。もはや手榴弾の領域に突入する威力で弾け飛んだ。幸いにも怪我人はいなかったが『大嘘憑き(オールフィクション)』が無ければ普通に全員大怪我だっただろう。

 

『なんか無いの?ほら、ラッキーアイテムとかラッキーカラーとか。』

 

「ラッキーアイテムはお古の着物…ラッキーカラーは白と赤ですね」

 

「救いはあるんですね〜」

 

『えっマジ?ちょうど持ってんだけど。まさか安心院さん…。』

 

「そんなピンポイントでラッキーアイテム持ってる人なんて初めて見ましたよ!?早速着替えましょう!

 

『えっ今ここで?』

 

「ここで着替えないと救われないかも…」

 

そんな期間限定の救済があってたまるか。スクリプト(球磨川)は渋々だが制服を脱ぎ、着物に着替えようとしたところで気づく。

 

『成程ね、僕一人じゃ着物着れないから手伝ってくれようとしてたのか。いやー失敬。他人の厚意に気づかないからいつまでも『負完全(マイナス)』なんだよな。』

 

「まあまあお気になさらず!私とあなたの仲ですから!」

 

「そうですよ、遠慮なさらずに〜」

 

『今日初対面だけど…。』

 

なんというか、フクキタルもドトウも愉快なウマ娘だった。スクリプト(球磨川)はついでに2人の連絡先まで交換してから店を出た。と、そこでとあることに気づいた。

 

『僕ってば知らず知らずのうちに単独行動してんじゃん。まいっか、どうせスペちゃんはスズカちゃんとべったりでデートでもしてるんだろ。さすがに邪魔する気にはならないかなあ。』

 

一見人間的に成長しているように見えるかもしれないが、普通に言っていることが無粋なので成長したとは言い難かった。

 

『ん、ドーナッツ大食い選手権?あーこのままだとタマちゃん負けるなあ。どうせオグリちゃんはドーナッツ食べたいだけだろうし…うん、別にいいよね。『大嘘憑き(オールフィクション)』っと。これでタマちゃんはまだ戦える。いやー良いことしたなあー。』

 

ほら、こういう所だ。

 

 

──────────

 

 

「えっと、スクリプトさん…その着物は一体何なんでしょう?」

 

『ああこれ?なんか僕のラッキーアイテムらしいから着てるんだよね。フクキタルちゃんの占いは割と当たるらしいし、素直に言うこと聞いておこうかなって。』

 

「似合ってるわよ、スクリプト。それが勝負服でも良いくらいに」

 

『え、嫌だけど。』

 

「嫌なんデスね…」

 

日が傾き、そろそろ祭りも終いになる時間帯である。

スクリプト(球磨川)とスペシャルウィーク、スズカ、エルは一つの机を囲んで甘味に舌鼓を打っていた。スペシャルウィークだけは超特大フルーツパフェを食し、それ以外は小さめのケーキを頬張っていた。

 

「それにしても、グラスちゃんってば一体どこにいるんでしょう?色々見て回ったけれど、すれ違うどころか姿すら見えませんでしたし…」

 

『エルちゃんはなんか知らない?もし知ってる事があるんなら言いたく無いことでも是非言ってくれ。』

 

「残念ながら知りまセーン…『トレーナーさんには連絡しているので大丈夫』って書き置きだけは残してましたが…それでも心配デス…」

 

あれで意外と祭り好きの気があるグラスが感謝祭を休むなど、知り合いからすれば信じられない事だった。分かることといえば、相当の理由で休んでいるのだろうという事だけだ。

 

「怪我が悪化したとかじゃ無ければ良いんですが…」

 

『うーん、それは無いんじゃないかな。あの子は怪我が悪化したなら『悪化したからまだ皆とは走れない』ってはっきり言うと思うぜ。』

 

「私もそう思うわ。具体的な原因は分からないけれど」

 

「グラスと一緒に回りたかったのに何の説明も無しにワタシだけ置いて行くなんて……グラスは薄情者デス!今度目の前で抹茶飲んでやります!」

 

「中々地味な嫌がらせを…」

 

『じゃあ僕は派手に嫌がらせしようかな。』

 

「絶対ダメデース!!!」

 

とエルが叫んだタイミングで、スクリプト(球磨川)の携帯が振動した。これはメッセージが送られてきた時の動きである。

 

スクリプト(球磨川)は『ちょっと失礼。』と言ってから携帯を見る。通知は一件。相手はグラスワンダー。メッセージは「今日の夜、会って話せますか?」というものだった。

 

周りを見る限り、メッセージはスクリプト(球磨川)にしか届いていないようだ。3人に気取られないようにしながら、スクリプト(球磨川)は素早く返信する。

 

 

『もしかして告白でもするつもりかい?』

 

「ある意味そうかもしれません」

 

 

スクリプト(球磨川)は驚きの余り飛び跳ねた。

いくら何でも驚きすぎと言わざるを得なかった。

 

 

──────────

 

 

ここは砂浜。トレセン学園から少し離れたところにあるこの穴場に、2人のウマ娘がいた。1人はスクリプト(球磨川)。1人はグラスワンダーだ。九歩の間合で相対している。

 

「ええと…その着物は一体?」

 

『ああこれね。今日のラッキーアイテムだったから着たまま来ちゃった。』

 

「なるほど…ああそうだ、まずはご足労いただきありがとうございます、スクリプト。それと、無理を言って来てもらってごめんなさい」

 

『いやいや、感謝はすれど謝ることなんて一つも無えんだぜ、グラスちゃん。さて、ぐだぐだと話を引き延ばすのもなんだし、とっとと本題に入ろうか。()()()()()()()()()()()()()?』

 

「そこまでお見通しとは……いや、もしかしてかなり分かりやすかったのでしょうか…?」

 

『ここ最近君が思い悩んでたのは知っていたし、まあ少し考えれば分かることだよね。その悩みがどれほど重いのかまでは分からないけれど。』

 

そこまで説明すると、グラスは恥ずかしそうに口を一文字に結び、耳をぺたりと下ろしてしまった。暗闇で分かりづらいが、その頬は赤く染まっているように見える。

 

「んんっ!とにかく、私はあなたに教えを乞いたいんです。そう、本題はそれです。『領域』の本質が一体どういったものなのか、私に教えてくれませんか?」

 

グラスが上半身を90度倒す。スクリプト(球磨川)は特に呆気に取られるでも無く、即座に話し始めた。

 

『ああ、なんだ。そんなこと?それだったらお安い御用だぜ。困った事があったら人に聞くのは良い手段だと思うよ。』

 

「本当ですか!ありがとうございます!正直、承諾してもらえるだなんて思ってもいませんでした!それでは早速『領域』を──」

 

そう言ってグラスはスクリプト(球磨川)に向かって歩き出し、即座に後悔することとなる。

 

 

『ごめん、気が変わった。』

 

 

ザクっという音と共に、自分の足に螺子が刺さって動かせなくなったからだ。

 

「──え?」

 

『いやあまさかグラスちゃん、僕がわざわざ他人に塩を贈るとでも?愉快すぎて涙が出てくるぜマジで。今まで僕の何を見て来たのかな。』

 

脳が段々と状況を理解する。理解するにつれ、感覚が明瞭になる。明らかになっていく。明らかになってしまった。次の瞬間、グラスは声なき悲鳴を上げた。

 

「─────ッッッ!!」

 

『もしかして僕が応援の言葉でもかけに来たと思った?慰めの言葉でもかけに来たと思った?それとも発破をかけるとでも思ってたのかな?だとしたら相当おめでたいよ。だって僕がかけに来たのは()()()()だ。』

 

「なっ…なんでっこんなことを…!」

 

()()()?なんでってそりゃあ…君が甘えたからだろ?少しくらい考えようぜ。ああいや、考えた上でその結論だっていうんなら否定はしないさ。その時はグラスちゃんがその程度だったってことで終わらせるから。この話も、今の関係も。』

 

そう言われてグラスは痛みで鈍る頭をフル回転させ、自分の何がダメだったのかを考えた。しかし、一向にそれらしい答えは出てこない。

 

『それにしてもまさか。グラスちゃんがそんな甘い考えで動くとはね。しょうもねえ。大方怪我して走れなくなった自分が情けなくて、走れなくなっていく自分が怖くて、走れている僕らが羨ましいんだろ。ふざけるなよ。『天才(プラス)』が他人を物差しにするな。

 

スクリプト(球磨川)の表情は、珍しく怒りの表情だった。有無を言わせぬ迫力にグラスは縮み上がる。しかしスクリプト(球磨川)はすぐに元の表情に戻り、飄々と話し始めた。

 

『知ってるんだぜ。ここ最近君が寝不足になってまで何かやってるってことくらい。君の性格ならビデオ研究でもしていたのかな?そんなことしてたって一文一銭の得にもなりやしないっていうのに。』

 

「そんな、ことは…!」

 

『あるんだよ。見るだけなんて生きていれば誰でもできる。聞くのだって誰でもできる。今の君は誰にでもできることしかやってねえんだよ。アイデンティティなんてない。存在意義なんてない。『異常(アブノーマル)』な部分が削がれて削ぎ落とされて、『普通(ノーマル)』どころか『負完全(マイナス)』にまで落ちて来そうな気配がするぜ。』

 

スクリプト(球磨川)は口撃を緩めない。反論なんてさせない。だって悪いのはグラスの方だ。スクリプト(球磨川)は悪くない。

 

『それに君はまだ()()()()()()()()()()()。いっそ死んだ方がマシだと思える状況まで落ちていない。まあそれはエルちゃんもなんだが……やる事をやり切ってないのに他人に頼るのは…『負完全(マイナス)』というより、バカのやることだぜ。』

 

「だったらどうすれば良かったんですか!?ジュニアチャンピオンになったっきり、皆と並んで走ることも競うことも争うことも出来なかったんですよ!!怪我で足踏みをしている間に他のみんなはどんどん成長していって私だけが仲間はずれみたいになって!!それでも置いていかれないようにデータ収集して倒れそうになる程筋トレだってして、寝る時間だってかなり削られたけれど、それでもめげずに頑張って!!それで一体どうすれば…」

 

『いやだから知らねえって。そこを自分で考えろって僕は言ってんだぜ。心が弱ってるからって『負完全(マイナス)』の前で弱音を吐くなよ。それとも君も『負完全(マイナス)』にされてえのかな?ましてやそれが許されるとでも?』

 

 

『甘えよ。』

 

 

再びグラスは黙り込む。あまりにも話が通じない、価値観が違いすぎるためだ。グラスとしては行き詰まった時に他人の力を借りるのは当然のことなのだが、かの『負完全(マイナス)』からすればそれは()()でしかなく、また甘え以外の何者でもない。

 

少しだけ頭の作りが違う。少しだけ心構えが違う。たったそれだけのことで、ここまで真逆の意見になってしまう。何を隠そうこの2人、最高に最悪な相性なのだ。壊滅的に歯車が噛み合わない。そもそも歯車の回転の向きが真逆なのだ。つまり、そりが合わない。

 

「でも、これ以上どうしろって……」

 

『そこがダメならグラスちゃんは一生そのままさ。君はもっと苦しまないとスペちゃんには勝てねえぜ。じゃ、そろそろ眠いし僕は帰るよ。足は元に戻しとくから帰りたいと思った時に帰ればいい。それじゃまた今度ね。』

 

そう言うとスクリプト(球磨川)はそそくさと帰ってしまい、砂浜には座り込んだままのグラスワンダーがたった1人で残された。どこからどう見ても意気消沈しており、復活するのにはまだしばらく時間がかかりそうだった。

 

 

──────────

 

 

「……君は本当に損な役回りが好きだな。もしかしたら友人を1人失うかもしれないんだぞ?」

 

遠くから隠れて監視していたルドルフがスクリプト(球磨川)に話しかけた。スクリプト(球磨川)が砂浜に向かって行くものだから、心配になって後をつけて来たらしい。

 

『その時はその時さ。それに、嫌われるのには慣れてる。憎まれるのも疎まれるのも僕にとっちゃあ親愛なる隣人くらいには身近なもんなんだぜ。』

 

「私から言わせて貰えば、君はもっと自己評価を高くした方がいい。謙遜が美徳だと考えているのならそれは間違いだ。行きすぎた謙遜は皮肉や嫌味、ひいては侮りだと捉えられるぞ」

 

『別にそういうんじゃないさ。それに、本当のことを言って何が悪い?正論が時に暴言足り得ることは知識の片隅に入っているが、正直そんなこと気にしながら話したこともないしね。あとは、そうだな…。』

 

「どうせ君のことだ、グラスワンダーが極限まで突き詰めていないのが気に入らないんだろう?それに会話の節々に少しヒントを加えたり…なんだかんだ口では言いつつも、中々君は友達思いだからな、君の意図にグラスワンダーが気づいてくれればいいのだが」

 

『気づいてもらわなきゃ困るんだよね。『異常(アブノーマル)』なんだから圧倒的に『異常』じゃなきゃあいけない。絶好調の奴らを引き摺り落とすのが楽しいんだから。』

 

「だから敵に塩を贈っていると…そういうことだな。それにしては些か甘すぎるように見えるが?」

 

『僕は友達には甘いのさ。それこそ角砂糖とかより全然甘い。…さて、わざわざ嫌われ役を買って出たんだ。これで『何も分からなかった』とか『何も変わらなかった』とか抜かしたら今度こそ存在をなかったことにしてやるぜ、グラスちゃん。』

 

「そうならないことを願っているよ。まあもしそんなことをしようとしたら私が生徒会長権限で君を拘束するのだけれど」

 

『やれるもんならやってみなよ。』

 

2人の物騒な会話は、寮に着くまで一度たりとも途切れることは無かった。やはりどこか似ているところがあるからだろうか。

 

 

──────────

 

 

「私に足りないもの…」

 

「私がまだやっていないこと…」

 

「私が避けて来たもの…」

 

「スクリプトさん、きっとこれは、あなたなりのアドバイスなのでしょうね」

 

「ならば…私は私にできることをしましょう」

 

「いつかあなたと走る日まで、文字通りに、死ぬ気で」

 

 

今、ここに火種が生まれた。荒れ狂う彼女の心の火は、この瞬間に初めて隠しきれなくなったのだった。

 

 

 

──来たる年末、不死鳥が舞う。

 

 




色々書きたいことがありすぎて散らかりっぱなしです。

感想・評価よろしくね。


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第−21箱 『未知の領域』


ウマ娘新アニメ、最高でしたね。
4話と言わずに12話フルでやって欲しい……




大感謝祭が終わった数日後、チーム〈スピカ〉一行は毎日王冠の観戦に来ていた。

 

スピカからはスズカが、リギルからはグラスとエルがそれぞれ出走する今年の毎日王冠は、G2のレースであるとは思えないほどに観客の熱気で満ち満ちていた。

 

そしてその熱気の中、正座して座り込んでいるウマ娘と、それに向かって呆れた表情で説教をするウマ娘が──というか、スクリプト(球磨川)とスペシャルウィークがいた。

 

「で、スクリプトさん。どうしてわざわざグラスちゃんに喧嘩を売ったんですか?

 

『いやいやちょっと待っておくれよスペちゃん!あれには山よりも……』

 

「いいえ、高くはないし深くもありません。『グラスちゃんのために』とか『僕のために』とか、そういう言い訳はいらないので喧嘩を売った本当の訳を教えてください」

 

『だってそっちの方が面白いじゃん。』

 

「なんでスクリプトさんはいっつも後先考えずにその場のノリで動いちゃうんですか!?見てくださいよあのグラスちゃんの顔!なんか、その……ほら、何かをして来た目をしてるじゃないですか!」

 

スペシャルウィークが指差した方向には、ゲート前で何かを睨みつけるような表情をしたグラスがいた。あまりの剣幕に、他のウマ娘たちは若干距離を置いているように見えた。

 

『おやおや、ちょっと言葉で(なじ)って力で嬲っただけなのに、一丁前に覚悟でも決めちまったのかな。』

 

「その反応って事は『過負荷(マイナス)』使ったんですか!?流石にグラスちゃんの心折ってたりはしてないですよね!?」

 

『折りはしていないけれど砕きはしたよ。そこから打ち直せるかは……まあ本人の気質とか性格とか、結局はグラスちゃん自身の問題だぜ。』

 

『心を折る』も『心を砕く』のもさしてニュアンスは変わらないのだが、スクリプト(球磨川)としては明確な違いを持って、またその違いを分かりやすく示したつもりになっているようだった。当然スペシャルウィークには通じない。

 

「それって結局心を折ったのと大差無いのでは?」

 

『いや?スペちゃんにやったのと同じかそれ以下の事しかやってないよ。』

 

「じゃあ折ってるじゃないですかぁ!!」

 

スペシャルウィークの渾身の叫びは響き渡る事はなく、目の前にいるスクリプト(球磨川)の『大嘘憑き(オールフィクション)』によってなかったことにされた為、誰の耳にも届く事は無かった。

 

そんなしょうもない気遣いをする前に、スクリプト(球磨川)はもっと人の気持ちについて勉強した方がいいと思う。

 

と、そこで先ほどまでゲートを睨みつけていたグラスが、突然スクリプト(球磨川)たちのいる方を向き、その顔に笑みを浮かべた。

 

『……おや、グラスちゃんがこっち見てるぜ。手でも振ってみる?』

 

「うーん……やめておきます。今日の私たちはスズカさんの応援ですし、それに()()()()()()()()()()()()()()()ですから」

 

『言えてるね、グラスちゃんはどうやら僕にご執心らしい。なんだろ、恋でもしてるとか?いやーモテモテで困っちまうぜ。』

 

「絶対モテてるとかじゃないと思います……」

 

グラスの笑みは愛しい人に向けるもののそれではなく、どちらかといえば『獲物を見つけた狩人の笑み』という表現の方が、よっぽど正しく感じられた。

 

『さて、じゃあ見させてもらおうか。このレースでスズカちゃんに負ける君は、今日何を学ぶのかをね。』

 

スクリプト(球磨川)は『スズカが勝つ』と断言した。それは全員にとって共通の認識であり、スズカが負けることなど万が一にもあり得ないと考えていた。

 

そしてそれは、グラスワンダーにとっても同じ事だった。

 

 

──────────

 

 

ファンファーレが鳴り響き、各ウマ娘がゲートに入っていく。本来であればグラスやエルにも注がれるであろう敵意の視線は、しかし今日に限ってスズカ一人に向けられていた。

 

(誰もアタシとグラスには注目してませんね……舐められてるみたいな気分になるけど、これはこれで好都合デス!)

 

「今日は、今日こそは勝ちマース!」

 

エルはダービーでの失態を思い出し、再び気合を入れる。今度こそ、自らが最強であることを証明するために。しかし、エルには一つだけ気掛かりなことがあった。

 

(グラス……いつもだったらもっとメラメラ燃えてる感覚がするのに、今日はやけに落ち着いて……いや、凪いでマスね……)

 

チームメイトでもありルームメイトでもありライバルでもあるグラスが、やけに消沈している、もとい平静であることだ。

 

普段から大和撫子然としているグラスであるが、レースを前にして昂らないことは今まで一度だってなかったというのに、一体どうしたのだろう。

 

(10ヶ月ぶりのレースで緊張している……ってわけでも無さそうデスね。まあこれ以上グラスのことを考えてもしょうがないデスし、今は目の前のレースに集中!)

 

ライバルと言っても所詮は他人。他人のことに思考を割くよりも、自分のレース展開を考えた方が有益だと考え、ゲートが開くのを集中して待つことにした。

 

そうして数秒。鉄の扉が無機質な音を立てて開き、エルは一目散に飛び出した。誰が見ても完璧なスタートだった。

 

 

エルコンドルパサーは誰にも見られていなかったが。

 

 

出走ウマ娘を含む全ての人の視線は、完璧なスタートを決めたエルよりも3バ身は前にいる『異次元の逃亡者(サイレンススズカ)』へと注がれていた。

 

「なっ……んでそんな前にいるんデスか!?」

 

「……」

 

エルはスズカの意識を逸らすためにも話しかけてみるが、すでに『自分だけの景色』に入りかかっているスズカに、エルの声は届かない。

 

(まだバックストレッチの入り口終わりなのに3〜4バ身……このままだと誰もスズカ先輩に追いつけずに終わる……だったら!)

 

「ここから前に出る……!」

 

エルコンドルパサーは狂気の1,400mロングスパートに打って出る。スズカの『領域』は先頭でなければ発動しない以上、早めにハナを取らなければ手がつけられなくなるからだ。

 

後方に睨みを効かせ、足音を敢えて大きくし、ここから先しばらくの妨害を許さない構えを取った。他の出走ウマ娘は多少怯み、エルと一定の距離をキープすることにしたようだ。

 

(よし!これで形としては一対一……徐々にペースを上げていけば勝機はある!この直線で少しずつ近づいてコーナー前で仕掛けれ……ば?)

 

ここでエルは気づく。先ほどから徐々に速度を上げているにも関わらず、スズカとの距離が一切縮んでいないことに。つまり、スズカも徐々に速度を上げているということに。

 

(んなっ……正気デスか!?そんなペースで逃げたら最終直線で絶対バテて垂れちゃいマスよ!?もしそうなればアタシがわざわざ無理して前に出た意味が無くなる……!)

 

エルの内心や観客のどよめきの声など全く意に介さず、スズカは逃げる。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて、逃げ切ろうともまだ逃げる。そうしてエルと4バ身の差をキープしたまま第3コーナーへと到達した。さらに、速度は一切下げないまま突っ込んでいく。

 

(もう滅茶苦茶デス!!なんなんデスかあのコーナリング!?左回りが得意なのは知っていたけれど、一歩間違えば柵と激突する距離デスよ!?)

 

スズカは観客が悲鳴を上げてしまうほどの至近距離でコーナリングを行った。その綺麗な顔と柵の間には、目測10cmほどの隙間しか存在しておらず、少しでも体がブレれば大怪我では済まないことは容易に想像できた。

 

しかしスズカは、心配がいっそバカバカしくなるような笑顔をその顔に浮かべており、本人はあくまで走ることを純粋に楽しんでいるようだった。

 

こうなってしまえば、後はスズカの一人舞台だ。最終直線まで先頭をキープされてしまえば『領域』が発動し、万が一にもエルの勝ちは有り得ない。

 

(あんなにインを突かれたらコーナーで仕掛けるのは不可能……結局最終直線で、絶好調のスズカ先輩を差し切らなきゃいけない……勝ち目はかなり薄いけれど、それでも!!)

 

「諦めて、たまるかぁッ!!」

 

10,000回やっても有り得ないというなら、10,001回やればいい。その一回こそが勝ちを運んでくるものだということを、エルは知りすぎるほどに知っている。

 

(まだ余力はある、それなら勝てる!!スペちゃん、スクリプト、見ていてくださいッ!!)

 

「これがアタシの生き様デスッ!!」

 

そしてエルの体から闘気が噴出し、『領域』は発動した。

 

 

──────────

 

 

『僕が思うにさ、エルちゃんって結構策士だと思うんだよね。』

 

「どうしたんですかいきなり?」

 

スクリプト(球磨川)はコーナーに突入したばかりのエルを見てそう呟いた。スペシャルウィークからすれば、突然すぎて意味が分からない。

 

『いやさ、スタート直後にスズカちゃんが自分より前にいるのを見て、すぐに自分の作戦を軌道修正、早めに詰め寄って前に出ることを選んだじゃん。』

 

「まあ見た限りではそうでしたね。直後に後ろから詰め寄られないように威圧もしてましたし、即座にスズカさんと一対一に持っていきましたし……対応は早かったと思います」

 

『そして今だってスズカちゃんのイかれたコーナリングを見てこのままじゃ勝てないと考え、再び意識を切り替えて作戦を組み直した。考える早さも覚悟を決める肝の強さも持ち合わせてる。そしてそれを実行に移せる身体能力も。』

 

「こうして色々考えると、エルさんって私たちの中でも際立って強いですね……。それこそなんで勝てたのか分からないくらい」

 

『いいや、分かり切ったことさ。それこそ、誰にでも簡単に分かる弱点が一つあるからね。僕たちはそこを突いただけに過ぎない。』

 

スペシャルウィークの言葉に、スクリプト(球磨川)は即座にそう答えた。言い方から察するに、少し考えれば誰にでも分かることらしい。

 

「そこを突いたって……私はそんな事した自覚ありませんよ?」

 

『いいや、突いていたさ。ほら、エルちゃんが前に出た瞬間にスペちゃんは威圧をぶつけただろう?あの時だよ。』

 

「ああ……あの時はなんか刺さりそうだったので……って、まさかあのタイミングが弱点って事ですか!?私、全然気づきませんでしたよ!?」

 

『正解ではないけどかなり近いね。スペちゃんの言う通り、エルちゃんの弱点には普通じゃ気付けない。』

 

そこまで言うとスクリプト(球磨川)は一度息を吸い込みわざと溜めを作ってから、仰々しく、物々しく、エルの弱点を言いふらした。

 

『エルちゃんの弱点は『勝つ』と意識した瞬間さ。』

 

『つまり今だ。』

 

スクリプト(球磨川)は薄ら笑いを顔に貼り付けながら、エルの後ろを指差した。

 

そこには。

そこにいたのは。

 

「グラスちゃん……?」

 

ゾッとするほど美しい(恐ろしい)笑顔のグラスワンダーだった。

それを見たスクリプト(球磨川)は──。

 

 

最高(最低)だぜ、グラスちゃん。』

 

 

口角を三日月のように吊り上げて嗤った。

 

 

──────────

 

 

「────あ?」

 

違和感。

今自分が向いているのはどっち?

そもそもどこに向かっている?

 

「この瞬間を待っていました」

 

違和感。

後ろにいるのは一体誰?

そもそも、いつから後ろにいた?

 

「エルはここが弱いんですから気をつけないと」

 

違和感。

どうしてそんなに親しげに話せる?

どうしてそんなに殺気を向ける?

 

「それじゃあ、お休みなさい」

 

  感。

この感覚は何?この焦りは何?この怯えは何?何もかもが分からない。不明。不能。不安。不穏。不快。不可解。不明瞭。不可思議。不知案内。不得要領。

 

しかし既存の言葉では説明できない。理解できない。どんな形であっても、自分の後ろで殺気を研ぎ澄ませる何者かに関わりたくなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そして薙刀が振り下ろされ、エルの頸が斬り飛ばされる光景をエル自身が幻視した辺りで、ようやく後ろにいたのがグラスワンダーその人であったと理解した。

 

それと同時に、今のグラスを表現する言葉が一つだけ、たった一つだけある事を思い出した。

 

「グラス……『過負荷(マイナス)』に、堕ちましたね……!」

 

「堕ちてはいませんよ。少し取り入れただけです」

 

(ふる)い不死鳥は死に、新たな不死鳥が産声を上げた。

(プラス)(マイナス)を併せ持ったグラスは、そのままの勢いでエルを追い越し、およそ10ヶ月ぶりに『領域』を発動し、自らの速度を底上げする。

 

最終直線に入り、スズカもまた『領域』を発動。グラスの『領域』は呆気なく押し返される。一度押し返されたことにより(マイナス)の部分は諦めたが、しかし(プラス)の、つまり元来のグラスは諦めなかった。

 

「一つでダメならッ……()()使()()()()!!」

 

この土壇場で、グラスは10ヶ月間燃やし続けた心の炎を解き放ち、新たな『領域』を創り出した。すると左手に杖のようなものが現れ、その杖の先端から光が溢れ出した。溢れ出した緑色の光によって持久力が回復し、そのまま一つ目の『領域』の出力を強めていく。

 

グラスの速度はぐんぐんと上がり、今までのグラスのトップスピードはとうに超えている。しかし、それでもスズカとの距離はほとんど縮まない。

 

「これでも……まだ遠い……!」

 

完全に自分の『領域』を使いこなしているスズカと、10ヶ月のブランクがあるグラスでは、やはり天と地ほどの差があった。スズカと戦うためにはここがスタートラインであり、ここまでやってもスタートラインに立っただけだった。

 

睨みを効かせようが『過負荷(マイナス)』の悪意をぶつけようが、『自分だけの景色』を見ているスズカには全く届かない。『領域』の壁が一切の妨害を無効化していた。

 

もうグラスワンダーに打つ手は無い。

一つ目の『領域』ではスズカの速度に追いつくので精一杯。二つ目の『領域』は一つ目の『領域』の補助に使っているのでどうにもならない。(プラス)の技術も(マイナス)の暴虐もスズカにとってはそよ風のようなものだ。

 

ならばどうする?ここからスズカに勝つために、グラスに何ができる?ゴールまでは後200mほどしか無い。考えて考えて考えに考え抜いて……グラスはスクリプト(球磨川)に言われたことを思い出した。

 

(私は、やる事をやり切っていない……死ぬほど苦しんでいない……スクリプトはあの夜、私にそう言っていましたね)

 

脳裏に浮かぶのは、自身を散々否定され、自信を打ち砕かれたあの夜。憔悴しきった精神に追い打ちをかけるかのように『まだ足りない。』と言われたあの夜。そして──。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()と、そう言った。

 

(まだ、という事は()()()()()()()と、つまりはそういう事……今のスペちゃんは控えめに言っても世代最強なのに、それにすら私は勝てると、スクリプトはそうも言っていた)

 

恐らくこれはヒントだ。スクリプト(球磨川)から自分に向けてのアドバイスだと、グラスはそう受け取った。と、そこで思い至った。ダービーの時のスペシャルウィークの『領域』のことを。

 

負完全(マイナス)』であるスクリプト(球磨川)の『領域』さえ跳ね除けたスペシャルウィークの『領域』は、テレビ越しだったとはいえ、今までのものとは違ったように見えた。そこまで考えて目の前を見る。スズカは相変わらず気持ちよさそうに風を切って走っていた。

 

(私が必死に走っているのに、こうも余裕綽々でいられると、なんだか無性に腹が立ちますね──()()()()?)

 

そしてグラスは、とある事に気づいた。

トレセン学園に入学してから、自分以外の誰かに猛烈な怒りをぶつけた経験がない事に。

 

その瞬間に今までの疑問が一気に氷解、というより砕け散って消滅した。

 

(成程、成程成程成程、私は今まで、無意識に他人に遠慮していたのか!!スクリプトがあんな事をしたのは私が遠慮なく怒りをぶつけるちょうどいい的になるため……!いっつも分かりにく過ぎるんですよあなたは!!)

 

グラスは、なんだか久しぶりに他人に向けて怒りを覚えた気がした。しかし今はレース中だ。レースに集中しなくては……と思ったところで、ふと思いついた。

 

(この怒り……()()()()()()()()()()()()()()?)

 

例えばそう、『領域』とか。

 

(……やるだけ、やってみますか)

 

グラスは渾身の怒りを込めて前進し始めた。

 

 

一歩。

 

まだ足りない。

 

二歩。

 

まだ足りない。

 

三歩。

 

四歩五歩六歩七歩八歩九歩十歩十一十二十三十四十五十六十七十八十九二十二十一二十二二十三二十四二十五歩。

 

よし、これなら届く。

 

 

グラスは射程範囲にスズカを捉え、自分の怒りを解放した。そこでようやく、スズカが後ろのグラスに振り向いて見せた、その表情は。

 

 

まるで「いつでもどうぞ」と言わんばかりの

心底楽しそうな笑顔だった。

 

 

そして。

 

『未知の領域』が開闢され──

 

 

るより先に、サイレンススズカがゴール板を踏んだ。

大歓声が響き渡り、グラスは己が負けた事を実感する。しかしその表情は悔しがるでもなく落ち込むでもなく、獰猛な笑みに彩られていた。

 

「届かなかった……けど、答えは掴みました……!」

 

1着、サイレンススズカ。

2着、グラスワンダー。

 

その差は半バ身差。のちに『伝説のG2』と呼ばれる激戦は、こうして幕を閉じた。

 

 

 

一人のウマ娘の心に影を落として。

 

 

 

エルコンドルパサー、6着。

彼女はいつまでも、掲示板を見つめて呆然としていた。

 

 

──────────

 

 

レース終わりの地下バ道で、グラスはスクリプト(球磨川)と相対していた。わざわざスピカの包囲から抜け出して慰めに来てくれた……訳もなく。

 

スクリプト(球磨川)が投げてきた二本の螺子を、グラスは手にした薙刀で斬り落とした。ゴトリと重々しい音を立て、螺子はグラスの足元に転がった。

 

『……どうやら完全に吹っ切れたらしい。けれど、君がやってる事は僕に喧嘩を売ってるって事になるんだぜ。『異常(アブノーマル)』が『過負荷(マイナス)』の真似事をするなんてさ。』

 

『本気の『負完全()』を相手取る覚悟はあるのかな。』

 

スクリプト(球磨川)は敢えて螺子を持たず、それでも威圧だけはしながら、真正面からグラスに問いかける。しかしグラスは怯む事なくスクリプト(球磨川)に近づいていき、そして素早く押し倒した。

 

『ちょっとちょっとグラスちゃん!?いくら何でもそれは大胆過ぎるんじゃあ無いかい!?』

 

「いいえ、いいえ。私があなたに抱く想いはこんなものでは到底足りません。本当なら今すぐにでも走りで雌雄を決したいくらいなんですよ?」

 

『ああ……そっちね。』

 

グラスワンダーの長い髪に遮られてスクリプト(球磨川)の表情は窺えなかったが、少し落ち込んだ顔をしているであろう事は容易に想像できた。

 

「それに、覚悟はとうに決めました。あの日あの夜、あなたに私という存在を一度壊された日から。毎日毎日スクリプトのことばかり考えてしまうんです。寝ても覚めても、それこそ四六時中」

 

『へぇ、そこまで僕のことを考えてくれるとは光栄だね。しかしグラスちゃん、それは僕の問いに対する答えだとすれば50点だぜ。』

 

「であれば、残りの50点は今から貰います。さっき私は四六時中あなたのことを考えていると言いましたよね。それで思いついたんです……まあ思い出したのはついさっきなのですけれど」

 

グラスは相変わらず、恐ろしいほど綺麗な笑顔を浮かべてスクリプト(球磨川)に顔を近づけている。逃げ出そうにも逃げ出せないほどに力を込められているせいで、スクリプト(球磨川)は身じろぎくらいしかできなかった。

 

「スクリプトさん、あなた……トレセン学園に入学してから、本気で悔しがったこと……ありますか?」

 

『はぁ、いやまあ、そりゃあ無いだろうけど。』

 

「そうでしょう。皐月賞でキングちゃんに大敗を喫した時も、ダービーでスペちゃんに突き放された時も、あなたは悔しがる振りはすれど、本気で悔しがっている節が全く無かった。あなたにボロボロにされて失意のどん底にいた私は、それに気づいた時、こう思ったんです」

 

グラスの腕に、更に力が込められる。体温が上がったのか頬は赤くなってきたし、掛かっているのを抑えきれていないのか先ほどよりも顔の距離が近くなっていた。

 

「スクリプト。私は、あなたが本気で悔しがっている顔が見たい。あなたが振りではなく本気で怒っている顔が見たい。私を一度壊したあなたを、同じように壊してしまいたい。誰も見たことが無いあなたの表情を引き出したい。そのためにはどうすればいいか?そうだ、こうしてみよう」

 

グラスの瞳孔が絞られ、プレッシャーが一段と増し、空間が軋む。その重さは、スクリプト(球磨川)の全力の威圧にも引けを取らなかった。それからグラスは、まるでスクリプト(球磨川)のように、一層笑みを深めた。

 

そしてグラスワンダーは、決定的な一言を口にした。

 

「いつも『勝てなかった。』と口にしている貴女のやり方で私が勝てば、きっと貴女は本気で悔しがるでしょう?」

 

『OK、もう一回ぶっ壊してやるから今のうちにチームメンバーにお別れの挨拶をしておいた方がいいぜ。』

 

地下バ道には二人の笑い声が響き、二人の威圧のぶつかり合いで空気が揺れた。並大抵のウマ娘であれば、ここに近づくだけで気分が悪くなったり失神したりするだろう。

 

並大抵のウマ娘でなければ問題ないということだが。

 

「えっと、スクリプトと……グラス?あの、こういうところで、そういうことは……」

 

そこに来たのは、ウイニングライブの準備に向かうスズカだった。突然声をかけられた事により、二人は驚きながら急いで立ち上がった。

 

「えっあっ違いますっ!!いやあの、スズカ先輩信じてください私とスクリプトはそういう仲ではなくって」

 

『そうだぜスズカちゃんまずは落ち着いて聞いて欲しい今僕とグラスちゃんは有馬記念で一緒に走ってそこで雌雄を決しようという話をしていただけでやましい事はフクキタルちゃんに誓って一切していない!』

 

「二人して必死に弁明されると逆に怪しく見えるし、どうしてそこでフクキタルが出てくるのかも分からないけれど……まあ、二人とも、ほどほどにね」

 

そう言うとスズカは小走りで去って行ってしまった。残されたのはスクリプト(球磨川)とグラス、そして妙な気まずさだけであった。あとは、妙な寂寥感だろうか。

 

「絶対、誤解解けてないですよね……すいません……」

 

『グラスちゃん、今度からはああいうことはちゃんと周りに人いない時にしてね。』

 

「いやもう二度としませんからね!?」

 

先程まで一触即発といった空気感だったというのに、終わってしまえばそこにいたのは、友人同士なだけの、普通の二人の学生だった。

 

どちらともなく笑い出し、再び地下バ道に二人の笑い声が響く。今度の笑い声はプレッシャーも恐怖も感じさせないような、明朗で快活な、二人の仲の良さが伝わる笑い声だった。






そろそろ学校が忙しくなるので、マジで次から更新は遅くなります。今年中には終わらせるので気長に待っててね。

感想・評価よろしくね。


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第−22箱 水平線の終着点



RTTTの熱に浮かされ書いたので、勢いだけで書いてる場所がいくつかあります。ぜひ笑ってやってください。




 

 

暖かい。

 

菊花賞当日、京都レース場は秋らしからぬ気候だった。大凡の気温は21℃、天気は先ほどまで曇っていたが、運の良いことに突然雲が散り、晴れ間が広がっていた。

 

暖かい日差しが全てを等しく照らし、少しだけ残った大きめの雲は夏を想起させる。木枯らしが吹いて枯葉が舞うことはなく、心地よい涼風が吹き、やや青々とした芝が風に揺られている。つまりは、絶好のレース日和。

 

いっそ昼寝でもしたくなるような、そんな一日。

 

 

──────────

 

 

「それにしても、まさかみんな応援に来れないなんて……今まで来てくれていた分、ちょっと寂しいですね」

 

『しょうがないさ。競馬……じゃない、レースは年末の方に多いし、沖野ちゃんもスズカちゃんも忙しいだろうからね。』

 

スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)はパドックでそんな会話をしていた。もっとも、二人とも応援が無いだけで調子が変わるほど柔でも無いのだが。

 

「そういえば今日は晴れてよかったですね!レース場に入る前まではどんより曇ってたのに、入った瞬間晴れるなんて、何か運命的なものを感じます!」

 

『運命、運命ねぇ……。やっぱ僕たちの日頃の行いが良いからだと思うんだけれど、キングちゃんはそこの所どう思う?』

 

「そうねぇ……」

 

「うっひゃあ!?」

 

突如自分の後ろから現れたキングに驚いたスペシャルウィークは、それこそ聞いた方が驚くであろう声量で叫んだ。その声に驚いたウマ娘全員の耳と尻尾が一斉にピンと張っていたため、この場面は動画に残して拡散され、ややバズることになる。

 

「ちょっと何よ!人の声にそんなに驚いて!」

 

「いやっだって、キングちゃんってもっと存在感強くなかったですか?今はほとんど感じなかったから……」

 

「ああ、それは……ほら、ここ最近の私って事あるごとに王威……つまり『領域』を使ってたじゃない?だから使ってない時は存在感が薄いのかしらね。まあいまいちよく分かっていないのだけれど」

 

「ええ……それって不便じゃないんですか?」

 

「特に。だってスペシャルウィークさんだけよ?私に気づかない時があるの。最近存在感が強い、というよりキャラが濃い人とよく関わっていたみたいだし、感覚が少しおかしくなっちゃってるのかもしれないわね」

 

言われてみれば確かにそうかも、とスペシャルウィークは地下バ道を歩きながら思った。スピカの面々に加え、エルやグラス、果てにはスクリプト(球磨川)とかいう厄ネタと常日頃関わっているのだ。

 

「スクリプトさん、責任とってくださいね」

 

『いや僕だけのせいじゃないから。僕は悪くない。』

 

 

「じゃあ私のせいかもね〜」

 

 

セイウンスカイはそう言って突然現れ、話に割り込んできた。どこからともなく、突然現れたのだ。三角形の形で会話していた()()()()()()

 

あまりにも現実離れしたその光景による困惑からいち早く復活したのは、やはりスクリプト(球磨川)だった。

 

『……やあ、セイちゃん。最近見なかったけど、元気だったかい?』

 

「元気だよ。調子だって最高。今日の私は一味どころか三から四味は違う」

 

『君が自信満々にそんな言葉を口にするとはね。だけどセイちゃん、僕の前ではともかく、この二人の前ではそんな事は言わない方が良かった。』

 

 

『滾っちまうからね。』

 

 

スクリプト(球磨川)がそう言うと、高圧的なオーラと高貴なオーラが噴出した。スペシャルウィークもキングヘイローも普段は朗らかだが、こと勝負事となれば、挑発は真正面から捻り潰したくなるタチだからである。

 

そこにさらに『負完全(マイナス)』特有の纏わりつくようなオーラが加わり、セイウンスカイは三つの威圧の増幅点で、その全てを一身に集めることになった。二秒でもその場にいれば、たちまち精神が削られていくことだろう。

 

 

「それで?」

 

 

しかし飄々としているセイウンスカイは、特にそれらを気に止めることなく、ついでに欠伸や伸びをしたりしていたので、誰の目から見てもセイウンスカイが怖気付いていないことは明白だった。

 

(いやいやそれはおかしいでしょう?驕るつもりは無いけれど、私の威圧はさらりと受け流せるほど軽いものじゃない……それに加えてスペシャルウィークさんの体が震えるほどの威圧と、スクリプトさんの『負完全(マイナス)』のオーラもあるのに……これが演技じゃ無いとすれば、私の勝ち目はかなり薄い……けどまあ、精一杯やりましょう)

 

(ふーん、セイちゃんってば健気にも効いてないフリなんてしちゃって、本当可愛い子だぜ。ここまでしなければならない程の策があるってんなら、それにわざと乗ってやるのも吝かではねえが……正直見当も付かないし、僕は僕でやりたいようにやろーっと。)

 

(スカイさん、ダービーの時とはまるで違う……前より力がこもってないように見えるのに、それでも底が知れない……きっと夏から今まで、私達以上に追い込んで追い込み切ってきたんだ。元から油断なんてするつもりはなかったけれど、そもそもここまで仕上げてくるのが想定外……どうやらスカイさんの事を下に見てしまっていたみたい……反省して対策しなきゃ)

 

(って思ってるんだろうなぁ)

 

「結局根性なのよね……」

 

『いいや、才能だよ。結局のところね。』

 

「いえ、結局心の持ちようだと思いますけど」

 

「いやいや、結局は努力だよ〜」

 

四人は笑みを貼り付け、心理的なアドバンテージを得る為に余裕であることを装った。実際には、誰一人として、余裕のかけらの一つも有してはいなかったのだが。それからしばらくして、四人は示し合わせたように真剣な表情になり、そして地下バ道からターフの上へと向かっていった。

 

『一応言っとくけど、今日の僕は本気だぜ。元箱庭学園生徒会副会長として、一つくらい冠を取っとかないと後輩に示しがつかないからね。』

 

「ええ、勿論。当然私も本気で行くわ。元々できることが多いわけでも無いし、だったらできることだけ精一杯やって見せる」

 

「当然、私もです。ダービーウマ娘として、無様な走りはしません。どんな策でも正々堂々、真正面から飲み込んでみせます」

 

「んー……そういうの思いつかないな。でも、勝つよ。今日は私が勝って、それでみんなの泣き顔でも拝ませてもらうことにする」

 

四人はそれぞれ、菊の冠に向けた意気込みを口にして、薄暗い地下バ道から光の当たるターフへと足を進めていった。

 

 

──────────

 

 

声、声、声。

テレビの画面越しからでも分かるほどに、京都レース場は過去最高クラスの盛り上がりを見せていた。『黄金世代』()()のうち、四人が揃い踏みである今回の菊花賞はやはり人々にとっても、またウマ娘にとっても一大イベントだった。

 

「さて、マックちゃん。今アタシらはトレセン学園内の食堂にある巨大モニターでスクリプトとスペのゆう志を見届けているわけだが」

 

「ゴールドシップさん、それは分かっているのですが……なぜ『勇姿』の勇が平仮名なんでしょうか?」

 

「ほら、最近『女優』とか『サラリーマン』とか、そういうの厳しいだろ?ゴルシちゃんはその辺も気にしてるってわけよ」

 

「あなた漢字間違えてません?『雄志』は心持ちの話であって、見届けるのは『勇姿』ですわよ」

 

「やっべ普通に間違えた……おふざけや戯れ事じゃなく普通に間違えたわ」

 

「頭良いんだか悪いんだかいまいち分かりませんわ……」

 

大仰な動作で分かりやすく落ち込んでいることを表現しているゴルシを奇異の目で見る者はそこにはいなく、寧ろ黄色い声が飛んでいた。マックイーンは正直さっさとこんな異様な空気はお終いにして欲しかった。

 

「それより、ゴールドシップさん。どうしてわざわざ食堂に集まったんです?お二方の応援ならスピカの部室でも事足りると思うのですが……」

 

「んー?いやそりゃあ、大勢で応援した方が楽しいからだろうが。それにこれだけ人がいればスピカに勧誘し放題だしな!」

 

マックイーンの質問に、ゴルシは()()()()()()()()()()()()()。つまり、普段とは様子が違う。何かがおかしい。そして、マックイーンはそこに気づかないほど愚かなウマ娘ではない。

 

「……本当の目的は何なのですか」

 

「あちゃー……やっぱマックちゃんにはバレるか。一応今の演技でスクリプト以外は騙せるんだけどなぁ……」

 

「あなたが私を揶揄わない時は何か隠している時、そして揶揄う時も何か隠している時ですから……まあカマをかけただけですわよ」

 

つまりゴルシは墓穴を掘った。いずれ自ら掘り返す穴ではあったが。観念というより感心しながら、ゴルシはマックイーンの耳元で小声で話し始めた。周りには決して聞こえないような声量で。

 

「さっきスペからメッセージ来ててよ、『さっきまで曇ってたんですけど晴れて良かったです!晴れ舞台です!』って言ってんだ」

 

「曇っていた……?もう、ゴールドシップさん、また私を揶揄っているのでしょう?だって京都はあんなにいい天気──」

 

 

「違う。目を覚ませ。天気は曇りだ」

 

 

「──あら?急に曇りましたわね……いや、わたくしには何故か晴れているように見えていたというだけで、本当はずっと曇っていた、ということですか?」

 

「そういう事よ。そしてなぜか、アタシを除いた誰一人として、この異常事態に気付いていない。明らかに曇ってるのに実況と解説は『これ以上ない心地よい天気』なんて言ってたからよ、ついにアタシはおかしくなっちまったのかと思った」

 

珍しくしおらしい様子のゴールドシップに、マックイーンはそこそこ驚いた。自分を強く見せる癖のあるこの娘が、まさか自分に向けて弱い部分を曝け出してくるとは微塵も想像していなかったからだ。

 

「絶対に違うと分かった上で言わせてもらいますけれど……心が晴れたとか、そういう言葉遊びなのでは?」

 

「いや、その可能性はない。念のためスクリプトにも『そっちの天気曇ってる?』ってメッセージ送ったんだけどよ、『いいや、晴れてるぜ。夏みたいな雲だってあるし秋とは思えないほど良い気候だ。』って返ってきた」

 

「なるほど、レース前にわざわざ意味のない悪戯を二人で示し合わせてやっている、という風には考え難いですし……つまり、京都レース場で何か、それこそ集団幻覚のような異常事態が発生していると、あなたはそう考えているのですか?」

 

「ああ。ただなマックちゃん、アタシが危惧してるのは京都レース場のことだけじゃあねえんだよ」

 

いつになく真剣なゴルシの声色に、マックイーンの背筋も自然と伸びる。今回の一件は、決しておふざけでも戯言でも無いのだと、そう理解し始めたからだ。なんだかんだ言ってもこの二人の相性はいい。

 

「さっき言ったよな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って。それは()()()()()()()?」

 

「何処までって、それは……レース場と、精々がトレセン学園内くらいではないのですか?仮に出走者の中の誰かの『領域』だったとして、そこまで広範囲に効果があるとは思えないのですけれど……」

 

「アタシもそう思ったさ。それにしてもヤバいが、だったらこの『領域』は何処まで効果を及ぼしてるのかって思った。だから、アタシはワープまで使って、それこそ日本中を駆けずり回ってきた。北は北海道、南は沖縄まで。レースに関するテレビだけではなく、リアルタイムの天気予報とかもきっちり調べてきた」

 

マックイーンは正直、ゴルシの言っていることが信じられなかった。今回の一件は、あのゴールドシップが、普段飄々としていて掴みどころのないゴールドシップが、そこまでするほどの事態である事を信じたくなかったのだ。

 

しかしゴルシはやや顔を青くし、調査の結果を口にした。

 

「──異常は、無かった」

 

「はい?」

 

「だから、異常は無かったんだよ。何も無かった」

 

「ええと、それなら良かったのでは…………ちょっと待ってください、ゴールドシップさん、まさか、『異常が無い』というのは……!」

 

 

「何を見ても、京都は晴れてたんだ」

 

 

マックイーンは絶句した。何か口に出そうとして、しかし二の句を継げなかった。ゴルシが「何を見ても」と言ったということは、文字通りに打てるだけの手は打ったということになる。

 

「アタシだって信じたくねえ。だってそうだろ?何処へ行っても何を見ても、京都が曇っているのを認識しているのはアタシだけだ。今だってそうだ、この食堂にいる奴ら、ここにいないけど部屋や部室でレースを見ている奴ら、果ては……シンボリルドルフまでもが、『京都はいい天気だ』と認識してる」

 

ゴルシは矢継ぎ早に話す。自分一人だけの秘密をさっさと誰かに共有して、肩の荷を少しでも軽くするために。

 

「なあ、マックイーン。アタシは怖いんだ。アタシ一人だけ幻覚を見てるとかだったらさ、それならそれでいいかって思えるんだよ。だけど、()()()()()()。スペもスクリプトも、それどころか日本全域を巻き込むレベルの異常現象なんて、それはもう『領域』なんかじゃあない。もっとヤバい、未だ知られていない他の何かだ」

 

「ゴールドシップさん……」

 

「これは何なんだ?誰がやった?どういう効果なんだ?一体いつから?おかしいのはアタシか?世界の方か?それともどっちもか?あんなの何処でも見たことがない。どの世界線でも見たことがない。だけどスクリプトがやってるわけじゃない。これは何なんだよ、何なんだよ、何なんだ?なあマックイーン、助けてくれ。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マックイーンは、まるで何も知らない子供のように恐怖に震えるゴルシの体を抱きしめた。一体何が起きているのかとか、何をそんなに怖がる事があるのかとか、そういう疑問の一切合切をひとまず置いておいて、怯える目の前の娘を安心させてあげなければ、と思ったからだ。

 

「……マックイーン……」

 

「……とりあえず、落ち着きましたか?知らない事は知ってしまえば怖くなんてありません。菊花賞が終わった後、お得意のワープで京都に飛んで、その後聞き込みでもすればよろしいではありませんか。そうすれば『未知』は『既知』へと変わります。ゴールドシップさん、あなたは幸運ですわよ。今日だけでとっても賢くなれるのですもの」

 

「ありがとう……おじいちゃん……」

 

「そこはせめておばあちゃんにしてくださいませ!!あとあなた実は結構余裕あるでしょう!!」

 

「バレた?」

 

このあとゴルシは、いつもの流れ通りにダイヤモンド並みの強度を誇る目を潰されることとなった。完全に自業自得である。

 

 

──────────

 

 

──違和感。

スクリプト(球磨川)は発送直前のゲートの中で、言いようのない違和感に苛まれていた。違和感の発信源は、()()()()()()()()()()()()

 

芝の様子がおかしい。空の様子がおかしい。空気の様子がおかしい。皆の様子がおかしくないことがおかしい。おかしいと感じていることがおかしい。自然なのに不自然なのがおかしい。何かがおかしい。とにかくおかしい。

 

考えても考えても、全てがおかしいことの理由が『領域』以外に見つからなかった。しかし走り始めてもいないのに『領域』を使う理由が分からない。そしてその中で、セイウンスカイだけが一切の違和感を発していないことに違和感を覚えた。

 

だから、話しかけてみることにした。

 

『セイちゃん、一つ質問があるんだが、何かした?』

 

うん、色々とねいや?別に何もしてないけど」

 

『そっか、それなら別にいいんだけどさ。ほら、いきなり天気が晴れるのってやっぱり『領域』以外に説明のしようがないし、もしかしたら君の仕業かなーって。』

 

やっぱ鋭いねぇ、大正解あはは〜そんなわけないじゃーん。セイちゃんは今日も平常運転ですよっと」

 

(うーん、僕の見立てが当たるとはね。確実にセイちゃんは何か隠している。いっそのこと『大嘘憑き(オールフィクション)』で全部なかったことにするのも視野に入れるべきかな。物語的にはつまらなくなるだろうけど。)

 

スクリプト(球磨川)はそこまで考えて、一旦レースに集中することに決めた。意識を素早く切り替え、ゲートが開くのを待つ。セイウンスカイがハナを取りに来ることを予想し、それよりも先にハナを取る。今日の作戦は『逃げ』に決めた。今決めた。

 

そして、無機質な音を立ててゲートが開く、と同時に()()が勢いよく飛び出し、好スタートを決めた。そして、それはスクリプト(球磨川)の計画、スペシャルウィークの計画、キングの計画が破綻したことを意味する。

 

 

「じゃあ私は後ろからのんびり行くね〜」

 

 

セイウンスカイが最後方に付けたからだ。

 

「なっ……スカイさんが……『追い込み』!?」

 

「待ちなさいよあなた追い込みなんてできるの!?」

 

『おいおいセイちゃん、奇を衒った事したって勝てるとは限らねえぜ?』

 

「奇策だって自覚はあるけどさ、それにしたって、そんなに私ばっか見てて良いのかな〜?前見なよ前」

 

三人は言われた通りにセイウンスカイを見ることをひとまずやめ、誰もいないはずの前方に目を向けた。するとそこには、セイウンスカイを含めた四人以外の出走者全員がいた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 

スペシャルウィークとキングは瞬時に察した。()()()()()()()()()()()使()()()()()。効果について詳しい事は何も分からないが、少なくとも自分の走りを強化するタイプではない事は確かだった。

 

一方スクリプト(球磨川)はといえば。

 

天才(プラス)が『負完全(マイナス)』の真似事するなって言ってなかったっけ?言ったよね、何回言ったら分かんのかなマジで。』

 

((嫌な上司みたいな詰め方してる……!))

 

(嫌な上司みたいな詰め方してくるじゃん……)

 

嫌な上司の詰め方でセイウンスカイに詰め寄っていた。ついでとばかりに『負完全(マイナス)』特有の不気味さも醸し出してはいたが、ここ最近はみんな慣れ始めてしまったため、あまり効果があるようには見えなかった。

 

『はぁ……お節介かもしれねえけどさ、一応これでも僕は、らしくもなく君のためを思って言ってるんだぜ。君は自分らしく走ってると思ってるのかもしれねえが、()()は僕に影響を受けて真似してるだけの猿真似だ。そんな『過負荷(マイナス)』は君には必要……』

 

「いやいや、ちょっと待ちなってスクリプト。そもそも間違えてるよ。私はプラスかマイナスかで言えば、間違いなくマイナス側でしょ。自分に出来ないことをやってる奴がいたら嫉妬するし、レースで負ければみっともなく憤怒したりする。何でもかんでも欲しがる強欲な奴だし、だけど本気で何かに取り組む事は出来ない怠惰な奴。だから私にはマイナスが……」

 

『いやそもそも『過負荷(マイナス)』じゃなくて『マイナス』な時点で違うんだって。っていうかさ、君が言ってる事は大半の生命体に当てはまるから。占いと同じ手口だぜそれ。』

 

「えっ、あっうん……いやでも」

 

『そもそも『過負荷(マイナス)』っていうのは生まれつき劣等感を抱えてる奴らのことだから。ダービーまで絶好調だった君が言っても説得力無いって。』

 

「えっと、あの……スクリプトさん……」

 

「その辺でやめてあげたらどうかしら……」

 

『断る。僕はこう見えても案外お節介焼きなところがあるからね、思い上がった、いや、遜ったバカを存分に叩かせてもらう。分かるかい、セイちゃん、君は出過ぎた釘だ。叩かれないなんて甘い考えは捨てろ、引っこ抜いて全身を露わにして、恥ずかしい辱めを受けさせてやる。ほら、恥ずかしがれよ。』

 

「キングさん、私たちは前行きましょうか……」

 

「そうね……あの二人はともかく、私たちは『追い込み』なんて出来ないもの」

 

 

──────────

 

 

スクリプト(球磨川)はレース中にも関わらず、矢継ぎ早に話し続ける。セイウンスカイがああ言えば、スクリプト(球磨川)がこう言う。キングとスペシャルウィークが不憫に思って途中で止めに入っても、その勢いは止まるところを知らなかった。

 

『さて、セイちゃん。ここまで言ってもまだその『過負荷(マイナス)』もどきを使い続けて走っている奴ら全員を危険に晒し、あまつさえ『過負荷(マイナス)』を自称するなら、正真正銘の『負完全(マイナス)』としては、次は実力行使も辞さない構えだけど。』

 

「いやもうほんと、私が間違ってました……」

 

2,000mに渡ってスクリプト(球磨川)はセイウンスカイに『過負荷(マイナス)』の何たるかを叩き込み、そろそろレースも終盤というところでセイウンスカイはようやくレースに集中できる環境に復帰した。

 

『つまるところ、君のその『過負荷(マイナス)』もどきは()()()()()()()。そこまで鍛えられてるんだからさ、最後の最後で楽な方に逃げるのやめようぜ。年中楽ばっかしてる僕が言うなって話だけど。』

 

「うん……ま、そうだね。そこまで言われると何だかズルしてる気分になるし、折角の大舞台なんだ。最後くらいは実力勝負してみるのもまた一興かな〜」

 

セイウンスカイはそう言うと、体からふっと力を抜き、その場から消え去った。

 

『……まさか、ここまでとはね……もしかしたらマジで『過負荷(マイナス)』だったのかもな……。』

 

スクリプト(球磨川)()()()()()()()()()そう口にした。

 

 

──────────

 

 

「まさか、まさかまさかまさか、スカイさんの『領域』の効果って……!!」

 

「してやられた……ッ!!レースが始まる前から、いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「大正解。私の『過負荷(マイナス)』もどきの効果は『あり得ない可能性を現実にしているように見せる』。だから曇ってるはずの空は晴れてたし、『逃げ』てるはずの私が『追い込み』の作戦を取ってるように見えたってこと〜」

 

一瞬にしてハナに現れたセイウンスカイは、既に競り合いを開始していたキングとスペシャルウィークに向けて、さらりとネタバラシをした。

 

「スクリプトさんはっ、まだ後ろに!?」

 

「うん、最後方も最後方。だけど今過去に類を見ないくらいの猛追してきてるし、追い抜くついでにみんなの疲労をなかったことにしてるっぽいから……」

 

「じゃあ、スクリプトさんの『領域』がもうすぐ来るってことね……上等じゃない……!キングの生き様見せてやるわ……!!」

 

残り800m。

 

セイウンスカイはここまで温存してきたスタミナを使い、徐々に速度を上げていく。それにスペシャルウィークとキングも付いていき、今の内にスクリプト(球磨川)との距離を取ることを選んだ。

 

「ふぅっ……やっぱズルした方がっ、楽だったなぁ……!」

 

「はっ、はぁっ、まだ、まだ足りない……!」

 

「大丈夫大丈夫、行ける、行けるわ……」

 

残り700m。

 

後方から不気味な気配を感じる。三人は掛からない程度に速度を上げていき、今のうちに少しでもスクリプト(球磨川)と距離を開けておこうともがく。それでも、少しずつ、しかし着実にスクリプト(球磨川)の『領域』との距離は近づいていく。

 

(くっそ、このままじゃ勝てない……!普通に走ってれば勝てたかもしれないのに、土壇場で『過負荷(マイナス)』もどきに頼ったせいで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……『あり得ない可能性を現実にする』せいか……!)

 

(まだ、まだ走れるでしょう私!!スクリプトさんの『領域』に呑まれた時点で私のレースが終わるなら、ゴールまで『領域』に追いつかれなければいいだけの話……だけど、今の私にそんなことが……いや、やるのよ!下を向くな!前だけ見て、泥臭く突っ走ることだけ考えなさい!!)

 

(ぐっ……勝つ、勝つ!!『勝った時のことを考えろ』なんて考えるな!!ただ我武者羅に、一生懸命に、狂ったみたいに前に出ろ!!『負完全(マイナス)』を打ち倒すことは出来ない、なら相手はスクリプトさんじゃない!!勝つのは、自分に対してだ!!外じゃなくて内を見ろ!!少し景色が暗くなるくらい、なんてことないはず!!)

 

残り600m。

来る。

 

 

 

 

 

やあ、遊びに来たぜ。

 

 

「何だ、()いねスクリプト!もっと後ろにいて欲しかったな!できればレース終わるまで!」

 

『まだ話す余裕があるって事は、本格的に『過負荷(マイナス)』もどきを使うのはやめたらしいね。あーあ、騙されてやんの。あれ使ってれば勝ててたと思うなー。』

 

「それもお得意の大嘘でしょ、まったくもー、スクリプトってもしや性格滅茶苦茶悪いッ……だろ!」

 

『逆にいつから性格いいと思ってたのか甚だ疑問だね。『負完全(マイナス)』を自称する奴の性格がいいとでも思ったかい?』

 

「確かに……言えてるね!!」

 

(何で話す余裕があるのかしら……!私なんて前向いて走るだけで精一杯なのに……!)

 

『おや、キングちゃん、辛いなら諦めてもいいんだぜ?皐月賞ウマ娘の君を責める奴なんていないさ。』

 

「っ……諦め……ても……っいいえ!!誰が諦めるもんですか!!あまりキングを舐めないで!!」

 

『そうかい。じゃ、その選択を後悔しながら負けてくれ。僕は悪くない。悪いのは君だ。』

 

 

『僕は悪くない。』

 

『君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い  

 君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い。』

 

『君が悪くて』

『いい気味だ。』

 

 

それは悪感情。それは呪詛。それは『負完全(マイナス)』。

その全てをまともに浴びながらも、気高き王は前だけを見据え続ける。勝ちの目など一つもない。仮にスクリプト(球磨川)の『領域』を跳ね返したとして、待っているのはほぼ万全のセイウンスカイと『領域』を持つスペシャルウィーク。

 

 

「そんなの諦める理由にならないのよッ!!」

 

「私の名前はキングヘイロー!!」

 

「誰よりも強い勝者ッ!!」

 

「その未来は輝かしく!!」

 

「王の名を負うウマ娘!!」

 

「それが私!!キングヘイローなのよ!!」

 

 

キングヘイローはなりふり構わずに、纏まり切っていない『領域』を無理矢理発動させ、世界に罅を入れる。

 

『流石キングちゃん。そうでなくっちゃあ、僕としても折り甲斐がない。どうか君はそのままでいてくれ。折れた時が楽しみだ。』

 

「黙りなさい。王の御前よ!!」

 

残り500m。

 

やはりここで動いたのは、『世代の大将』と名高いスペシャルウィークだった。

 

『私のこともッ、忘れないで下さいよ!!』

 

『まさかここで()()を使ってくるとはね。てっきり忘れたもんだと思ってたが、覚えてたんだ。』

 

スペシャルウィークは『負完全(マイナス)』に成り下がり、スクリプト(球磨川)と相似な存在になることによって『領域』による負荷を無効化した。しかし、それでは絶対に、何があっても勝つ事は出来ない。

 

『だから、スカイさんを捉えます、捕らえます!!今から、100mでッ!!追いつく!!追い抜く!!置いて行ってやる!!』

 

「ッ……どこに、そんな脚を……!」

 

『教えませんッ!!考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えに考え抜いてから聞いてくださいッ!!』

 

 

『その間に置いて行きますから。』

 

 

スペシャルウィークがそう言うと同時に反転した『領域』が発動する。地上の全てが空へと吸い込まれて行き、『領域』の世界は草の一つさえも生えていない死の大地と化す。プレッシャーは更に増し、唯一『領域』の発動が出来ていないセイウンスカイは、まともに走れるわけが無かった。

 

呑まれ、罅割れ、化ける。

 

そして、負ける。

 

 

 

 

 

 

 

また、負けるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなのいやだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。

 

 

 

それだけは、絶対に、いやだ。

 

 

 

今まで間違え続けてきた。今まで怠け続けてきた。今まで他人を羨んでいた。今まで自分を貫き通して来なかった。今まで負けてきた。

 

 

きっと今までなら諦めていた。

 

 

だけど、もう諦めない。

 

 

だから、負けない。

 

 

 

 

「勝つのは私だぁぁッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

セイウンスカイから、『過負荷(マイナス)』とは別の、もっと別の何かが溢れ出す。その瞬間、空も、陸も、人も、『異常(アブノーマル)』も、『負完全(マイナス)』も、その全ては等しく、母なる海へと還る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを呑み込む闇は、さざなみに飲まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「……ここは、スクリプトさんとは別の『領域』……」

 

「なるほど、スカイさん、あなた……この土壇場で、自分の『領域』を見つけ出したのね」

 

そこは穏やかな海の上。少し大きい筏の上に四人は立っていた。そして、そこにいる全員が何となく、セイウンスカイの勝ちを確信していた。

 

「……それにしても、まさか皐月賞での意趣返しをされるとは思ってもいなかったわ。あの時は王宮で、ダービーは闇と星の降る野原。そして今日は海の上……どうやら一つとして同じ『領域』は存在しないようね」

 

「意趣返しのつもりは無かったんだけど……まあでも、結果的にそうなっちゃった。これでおあいこって事で、許して欲しいなって思ったり」

 

「許すも何も、別に気にしてませんよ!ですよね、キングさん、スクリプトさん!」

 

スペシャルウィークの言葉に、セイウンスカイは首を傾げる。それに対してキングとスクリプト(球磨川)は当然と言ったふうに頷き、そして一斉にセイウンスカイに獰猛な視線を向けた。

 

 

「まだ諦めてなんていませんから」

 

 

「知ってる」とセイウンスカイは返した。

 

レースは終盤。

しかし、勝負はまだ終わっていない。

 

 

ここからは、『領域』の勝負ではない。

 

 

 

 

 

 

 

『勝ちたい』と強く願ったものが勝つ。

 

 

 

セイウンスカイが逃げる。それをスペシャルウィークとキングヘイローが猛追する。差して、差されて、時折順位が入れ替わる。スクリプト(球磨川)が威圧に緩急をつけて緊張と緩和によりリズムを乱し、セイウンスカイが『領域』の効果で後続を躊躇わせる。スペシャルウィークはそれらを一身に受けつつも我を貫き、キングヘイローは宣言通り王道を突っ走る。

 

しかしそれでも、ここまで約3000m走ってきた適正外の脚に、ゴール前の坂は少々無理があったようだ。

 

「くっ……まだっ、こんなところで……後少し……!」

 

キングヘイローが最初に落ち、スペシャルウィークがそのタイミングで再び『領域』を発動、セイウンスカイに詰め寄る。

 

坂を登りながらもスペシャルウィークは少しずつセイウンスカイとの距離を縮め、その差は既にクビ差程だった。半バ身差でスクリプト(球磨川)、根性だけで走っているキングはそこから三分の四バ身ほど後ろに付けている。

 

落ちたとはいえ十分チャンスはある。結局の所、菊花賞は初めから終わりまで四人で潰し合うレースだった。

 

「うああああぁぁぁっっっ!!!」

 

「はああああぁぁぁっっっ!!!」

 

セイウンスカイとスペシャルウィークの叫び声が響く。力の限りを尽くして前へ前へと進み、なりふり構わず、一心不乱に突き進む。そうやって思い切り走って走って、走り切った先で。

 

 

先にゴール板を踏んだのは、セイウンスカイだった。

 

 

残り、0m。

 

菊花賞、決着。

 

 

──────────

 

 

「はぁっ、はぁっ……勝った……?」

 

 

セイウンスカイは膝に手をつき、掲示板を見上げる。

そこには「確定」の文字と、一着が二枠四番である……つまりセイウンスカイであることを証明する表示があった。

 

 

「勝った……」

 

 

息を整えてからスタンドの方に目を向ければ、先ほどまで全く気づいていなかったが、自分に向けて大勢が歓声を向けている事が分かった。それを見て、聞いて、段々と実感が湧いて来た。目尻が潤む。

 

 

「勝った……!!」

 

「勝った!!私がっ、勝った!!」

 

 

そこからは、もう歯止めが効かなかった。今まで負け続けていて、ここ半年間はいいところも見せられなくて、しかしそれでも最後の冠だけは被ることができたという安堵や安心、興奮や歓喜などがない混ぜになり、セイウンスカイは再び人前で涙を流した。

 

(……きっと、次こそは!あなたたちに勝ってみせるわ!)

 

四着に沈んだキングヘイローではあったが、彼女がこの程度で心折れるはずもなく、むしろ再び奮起した彼女の魂は、しばらくの間鎮まる事はなさそうだった。

 

(……今回はダメだったけれど、だったら、次こそ勝ってやる!本当の意味で『日本一のウマ娘』になるために!)

 

二着のスペシャルウィークも同様に奮起し、次セイウンスカイと走る時には絶対に負けないことを自分に誓った。

 

そして、三着だったスクリプト(球磨川)はというと。

 

 

 

何も感じていなかった。

 

 

──────────

 

 

その夜、スクリプト(球磨川)の寮の部屋ではスクリプト(球磨川)ともう一人、得体の知れない美少女……というか僕が話していた。

 

「さて、()()()()()。今日君はセイウンスカイちゃんに『領域』と『過負荷(マイナス)』ごと飲み込まれてしまったわけだが、何か感じたかい?」

 

『いいや?特に何も。だってさ、考えてもみなよ。僕はいつも通り、絶対に勝てない相手に負けただけで、これって自然の摂理だよね。つまり僕は悪くない。』

 

「そうだね、君は悪くない。で、これからはどうするのかな。またチーム〈スピカ〉で少しずつ少しずつ甘くなっていくのかい?」

 

『まっさかー。僕は『負完全(マイナス)』なんだぜ?むしろ僕の側にみんな染まってほしいとすら思ってるけど。それに僕は、甘やかすよりよりは苦々しい体験をさせるほうが好きなんだ。』

 

「そうかい、そうかい。そいつはいいね、最低で最高、いかにも君らしい。それじゃ、今日のところはこの辺で。本当はもう少し話しておきたいところなんだが、まあ君も疲れてるだろうし、気配りができる僕はこの辺で退場するよ」

 

『そう。それじゃおやすみ。そういうことを言う時点で気配りはできて……来るのは焦らす癖に帰るのは一瞬なの、本当によく分かんないな。』

 

スクリプト(球磨川)は呑気にもそんなことを口にして、明日の朝何を食べるかについて考えていた。

 

 

 

安心院なじみの目的地も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐々に以前の自分に戻っていることも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そろそろだ。

楽しみで仕方がねえぜ。

 

 

 

 

 






最近の生きる楽しみはRTTTとシングレとギャルウィークです。生活がウマ娘に侵食され尽くしています。助けてください。

感想・評価よろしくね。


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掲示板回 −13&−19+α


おまけ回のネタ募集中なので、何か案があれば僕のTwitterに送っておいてください。お願いします。

http://twitter.com/minus__4


 

【4月は】皐月賞応援スレ【卯月】

 

36:名無しのウマ娘ファン

さて

 

37:名無しのウマ娘ファン

さてじゃないが

 

38:名無しのウマ娘ファン

また倒れてる人がいるんですけど……

 

40:名無しのウマ娘ファン

あれはそういうもんや

天災にでも遭ったと思って諦めろ

 

41:名無しのウマ娘ファン

てかそれよりさあ、なんだあの勝負服

 

43:名無しのウマ娘ファン

大きめの学ラン風の勝負服……今まで可愛い系推しだったけどああいうのもいいなって思いました(小並感)

 

45:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃん、全国10万人の勘違い男が競馬場にて君を待つからな。覚悟しとけよ

 

46:名無しのウマ娘ファン

実際ここにいる奴らでスクリプトちゃん嫌いなやつおるんか?

 

47:名無しのウマ娘ファン

いや流石にいるだろ

あの手は人選ぶ

 

49:名無しのウマ娘ファン

ワイは好きやで

 

50:名無しのウマ娘ファン

ワイも好きやぞ

 

51:名無しのウマ娘ファン

俺はそこまで好きじゃないけどさ、あの怪我しておいて出てくるのは素直に賞賛だよ。すげえ頑張ったんだなって思う

 

52:名無しのウマ娘ファン

あんまり人倒れなくて首傾げてたの可愛い……いや可愛くはねえな、よくよく考えたら声で人が気絶するって何???怖すぎる

 

53:名無しのウマ娘ファン

怖いのがいいんだろ

お化け屋敷的な

 

55:名無しのウマ娘ファン

なんかジメジメしてそう

 

57:名無しのウマ娘ファン

しっとりスクリプト……うーん、水も滴るいい女

 

58:名無しのウマ娘ファン

そういえばキングちゃんもなんか、こう……なんか……凄かったよな

 

60:名無しのウマ娘ファン

>>58 語彙力拾ってこい

 

62:名無しのウマ娘ファン

>>60 元より持ち合わせておらぬ

 

64:名無しのウマ娘ファン

ただのバカやんけ〜!

 

65:名無しのウマ娘ファン

ひどすぎ

 

66:名無しのウマ娘ファン

キングちゃんは確かに何というか……「スゴ味」があったな。覚悟が決まったかんじ

 

67:名無しのウマ娘ファン

すごあじ……

 

68:名無しのウマ娘ファン

実際俺はパドックにいた時に王宮を幻視したし、多分『領域』目覚めとるぞあれ

 

70:名無しのウマ娘ファン

マ???

 

71:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん、スクリプトちゃん、グラスちゃん、エルちゃん、キングちゃんが『領域』持ちってマジ???今年多すぎない???

 

72:名無しのウマ娘ファン

流石〈黄金世代〉やな

 

74:名無しのウマ娘ファン

あーそんなん言われてるな

実際今年は群雄割拠すぎる……女の子やけど

 

76:名無しのウマ娘ファン

おっとスクリプトがここでキングに接触!

読唇ニキおる?頼んだ

 

78:名無しのウマ娘ファン

丸投げすぎる

 

79:名無しのウマ娘ファン

少しは努力せいや

 

81:読唇ニキ

ス『昨日めちゃ煽ったけど勝てる気しないや。だから作戦教えて?』

キ「あなたおバカ?他の子ならともかくあなたとスカイさんには教えないわよ」

 

82:名無しのウマ娘ファン

ス『今のままじゃ勝てなそうだから作戦教えてくれない?』

キ「おバカ!あなたとスカイさんに教えるわけないでしょう!?」

 

84:名無しのウマ娘ファン

えっ読唇ニキ二人いんの??

 

86:名無しのウマ娘ファン

微妙に文体違うのおもろいな

 

87:名無しのウマ娘ファン

頑張って覚えた

マジ大変だった

 

88:名無しのウマ娘ファン

頑張ってどうにかなるもんなんだ

 

90:名無しのウマ娘ファン

てかキングヘイロー『領域』維持してね?

 

91:名無しのウマ娘ファン

ほんとだなんかみんな怯えてるわ

 

92:名無しのウマ娘ファン

その「みんな」に〈黄金世代〉の面子は含まれますか……?

 

94:名無しのウマ娘ファン

うーん含まれないですね

 

95:名無しのウマ娘ファン

ほんまなんやねんこいつら

なんで平然と話しかけに行けるんだよ

 

96:名無しのウマ娘ファン

おーっとここでスクリプト逃げを宣言……お前逃げもできるのか……

 

97:名無しのウマ娘ファン

多才だねぇ

 

98:名無しのウマ娘ファン

キングちゃんなんかむくれてない?

 

99:名無しのウマ娘ファン

ほっぺもちもちしてそう

 

101:名無しのウマ娘ファン

もちもちキングは絶対に流行らせろ

 

 

──────────

 

 

116:名無しのウマ娘ファン

さーて死人が出そうなくらいの威圧が発生してるわけだが

 

118:名無しのウマ娘ファン

もう少し手加減とか……できませんか?

 

120:名無しのウマ娘ファン

ヒント:目の前の光景

 

121:名無しのウマ娘ファン

できなそうですね

 

123:名無しのウマ娘ファン

ウンスは周りを見渡して、スペちゃんは目を瞑って瞑想、キングはただ前を見据え、スクリプトはいつも通りに薄ら笑いを浮かべるだけ……個性出てるなあ

 

124:名無しのウマ娘ファン

キングちゃん漲りすぎて周辺が歪んでるんですけど

 

125:名無しのウマ娘ファン

王威でしょ

 

127:名無しのウマ娘ファン

神威的なあれか

 

128:名無しのウマ娘ファン

さあそろそろか?

 

130:名無しのウマ娘ファン

悔いを残さないようにな

 

132:名無しのウマ娘ファン

心臓バクバクだ……見てるだけでぶっ倒れそう

 

134:名無しのウマ娘ファン

頑張れスペ!!

 

136:名無しのウマ娘ファン

スタート!!!

 

137:名無しのウマ娘ファン

まあ最初はこうなるわな

 

139:名無しのウマ娘ファン

『逃げ』の二人がレースがハナを取り合う感じね

そんで後方にはスペちゃんとキング……地獄?

 

141:名無しのウマ娘ファン

あの

 

143:名無しのウマ娘ファン

これは……ひどいね

 

145:名無しのウマ娘ファン

前からはマイナスオーラと歩調や呼吸の乱し、後ろからの王威と狩人の威圧……うーん、死

 

146:名無しのウマ娘ファン

>>145 お前が死んでどうする

 

148:名無しのウマ娘ファン

またなんか話してるよ……

 

149:名無しのウマ娘ファン

レース前ならともかくレース中に話すな

 

150:名無しのウマ娘ファン

読唇ニキ、出番だ

 

152:読唇ニキ

セ「そういえば『領域』なんてのがあるらしいじゃん。教えてくれない?」

却『そのうち分かるから待ってて。釣り人なんだから待てるでしょ?』

 

154:名無しのウマ娘ファン

なるほど『釣り人』……そういうのもあるのか

 

155:名無しのウマ娘ファン

俺氏、ゴルシのとんでもない発言をキャッチ

 

156:名無しのウマ娘ファン

>>155 詳しく

 

157:名無しのウマ娘ファン

テイオーが「あの空間突破できる?」って聞いたら「余裕だろ」って当然のように言いやがった

 

159:名無しのウマ娘ファン

して、その方法は?

言ってなかったら直接聞いてきて

 

160:名無しのウマ娘ファン

>>159 言ってなかったとして行くわけねーだろ

このレース、どうやら『追込』もしくは『大逃げ』有利らしい

 

162:名無しのウマ娘ファン

あーなるほど、威圧を受ける空間が『逃げ』から『差し』の間だけなのか

 

164:名無しのウマ娘ファン

当然のように「行ける」って断言するゴルシカッコよすぎ

 

166:名無しのウマ娘ファン

流石はスピカの破天荒枠やな

 

167:名無しのウマ娘ファン

全員破天荒だろうが

 

168:名無しのウマ娘ファン

そうだけどさ……

 

169:名無しのウマ娘ファン

>>160 で、他にはなんか言ってた?

 

171:名無しのウマ娘ファン

いや、言ってたけど聞き取れなかった

俺は自分が恥ずかしい

読唇身につけてくる

 

173:名無しのウマ娘ファン

いや別にそこまでしなくても……

 

174:名無しのウマ娘ファン

ストイックやなぁ

 

176:名無しのウマ娘ファン

今ゴルシのことは置いておいてレース見ろ

なんかおかしくね?

 

177:名無しのウマ娘ファン

どこがおかしいんだ?

 

178:名無しのウマ娘ファン

こんなにバ場状態良かったか?

 

179:名無しのウマ娘ファン

別に変なところ無くない?

気にしすぎなだけだと思うけど

 

181:名無しのウマ娘ファン

うーん……まあそれもそうか

 

183:名無しのウマ娘ファン

てかそんなことよりスクリプトよスクリプト

いつまで話すんこいつ

 

185:名無しのウマ娘ファン

セイちゃんガチ目に困惑してて芝

 

187:名無しのウマ娘ファン

もう1,200m先団で走ってんのにお話ししてくるやついたら誰だって困惑するわ

 

189:名無しのウマ娘ファン

おっとここで〈黄金世代〉が一塊に……

上位4人は決まったかもね

 

190:名無しのウマ娘ファン

まだ決めつけるには早えよ

最後まで諦めるな

 

192:名無しのウマ娘ファン

……ああ、成程。

 

194:名無しのウマ娘ファン

>>192 何があった?気づいたことあったら書いてくれると嬉しい

 

196:名無しのウマ娘ファン

おっとスペちゃんここで動く!?

 

197:名無しのウマ娘ファン

どこにそんな体力残してた?

 

199:名無しのウマ娘ファン

ウンスはなんか気づいたっぽい?

そんでスクリプトは一層笑み深めてるから……

 

200:名無しのウマ娘ファン

誰の仕業やろなあ(すっとぼけ)

 

202:名無しのウマ娘ファン

>>194 では遠慮なく。

みなさん、今回のレースはグリーンベルトが発生してたってこと……覚えてますか?

 

204:名無しのウマ娘ファン

あっ……

 

205:名無しのウマ娘ファン

グリーンベルトっつうと、あれか。柵ずらした時に出来る走りやすいところ

 

207:名無しのウマ娘ファン

いやでも、グリーンベルトなんて無くない?

 

209:名無しのウマ娘ファン

あっ……スゥー……これはぁ……

 

210:名無しのウマ娘ファン

踏まれて倒れているはずの芝が再び立っているように見えるのは……見間違えっすかね?

 

211:名無しのウマ娘ファン

あースクリプト……うわあ成程これは……ウンスの策がぶっ壊れる音が鮮明に聞こえますわ

 

213:名無しのウマ娘ファン

うーわまじかこいつ!?『領域』でバ場の荒れを無かったことにしやがったのか!!

 

214:名無しのウマ娘ファン

そんな……こんなの私のデータには……!カタカタ

 

215:名無しのウマ娘ファン

データキャラって100%それ言うよな

 

217:名無しのウマ娘ファン

ウンスも実際そんな顔やしなぁ

 

218:名無しのウマ娘ファン

てかそれが本当だったらウンスの勝ち目消えたな

 

220:名無しのウマ娘ファン

まだ消えとらんわボケが

そうやって諦めたやつからダメになってくんやで

 

221:名無しのウマ娘ファン

応援しろ応援応援!!

 

222:名無しのウマ娘ファン

うおスペシャルウィーク脚やばっ!!

 

224:名無しのウマ娘ファン

行け追い抜け領域使え!!

 

226:名無しのウマ娘ファン

粘れ粘れウンス!!

 

228:名無しのウマ娘ファン

うわ追い抜かれ

 

230:名無しのウマ娘ファン

いや

 

231:名無しのウマ娘ファン

えーっと、えっと、マジ?

 

232:名無しのウマ娘ファン

キング、お前……!

 

233:名無しのウマ娘ファン

うわあマジかここで『領域』かキングマジかあんたマジかよ!?

 

235:名無しのウマ娘ファン

ここで覚醒は激アツやん

 

236:名無しのウマ娘ファン

現地民詳細頼む!

 

238:名無しのウマ娘ファン

今それどころじゃねえ!!

 

240:名無しのウマ娘ファン

加速半端ねえな……

 

241:名無しのウマ娘ファン

うわこれ『絶望』やろ

 

242:名無しのウマ娘ファン

それで中距離比較的苦手って……あんたでそれなら他はどうなるんだよ

 

243:名無しのウマ娘ファン

ここまで来てウィンク!?!?!?

 

244:名無しのウマ娘ファン

いやいくらなんでも余裕すぎんか?

 

245:名無しのウマ娘ファン

あーこれあれか

不完全な『領域』なのか

 

247:名無しのウマ娘ファン

なんそれ?

 

248:名無しのウマ娘ファン

たまにあんだよ

芝の質と自分の脚質が偶然噛み合ったからなんか出たとか、滅茶苦茶に滅茶苦茶なトレーニングの末に魂を燃やしてようやっと一度だけ出るとか

 

250:名無しのウマ娘ファン

えっつまりこれって結構やばい?

 

251:名無しのウマ娘ファン

いや、これは多分スクリプトの『領域』と噛み合ったのが原因。本当ならあそこまで脚は残せなかったんだけど、バ場全部がグリーンベルトになったからスタミナも気力も残りまくりだったんだわ。

 

252:名無しのウマ娘ファン

あーなるほど……比較的短距離向けだったから疲労が減る今の状況は渡りに船なのか

 

254:名無しのウマ娘ファン

そゆこと

 

255:名無しのウマ娘ファン

これはキツイやろ流石に

 

257:名無しのウマ娘ファン

が、しかしウンスもスクリプトも諦めない……!

 

259:名無しのウマ娘ファン

がんばれスクリプト不死鳥の如く蘇ったお前なら行ける!!

 

260:名無しのウマ娘ファン

ウンスここで上がってくるかぁ!!根性見せろーっ!!

 

262:名無しのウマ娘ファン

逆にスペちゃん大丈夫か?焦ってるように見えるが……

 

264:名無しのウマ娘ファン

ワイこと現地民が説明する

スペちゃんの『領域』はキングの『領域』に飲み込まれて不発、結果スペちゃんはここから切れる札が身体能力任せのヤケクソスパートしかない……けど、ちょっと遅かったな

 

266:名無しのウマ娘ファン

……これはキツイものがあるな

 

268:名無しのウマ娘ファン

うおおおキング一着!!キング一着!!

 

270:名無しのウマ娘ファン

やったーーーー!!!!!

 

271:名無しのウマ娘ファン

あーウンス惜しかったあ……けど次こそ頑張れ!!

いやまあ十分すぎるほどに頑張ってるんだろうけど

 

272:名無しのウマ娘ファン

スクリプト……あんま悔しくなさそう?

 

274:名無しのウマ娘ファン

前々から『重賞勝てれば僕にとっては上々かな。』って言ってたし、G1に出走してそこで三着を取れたのが嬉しいんじゃね?

 

276:読唇ニキ

……今スクリプトがスペちゃんに言ったこと、聞きたい?

あんま気分のいいものではなかったけれど

 

278:名無しのウマ娘ファン

えー……ギスってる感じ?

 

279:名無しのウマ娘ファン

いやでもスクリプトがわざわざそんなことするか?

今だって毎朝スペちゃんと登校してることSNSで自慢するような子だぞ?

 

281:名無しのウマ娘ファン

読唇ニキの独断でいいんだけどさ、非難してる感じだった?それとも発破かけてる感じ?

 

282:読唇ニキ

どちらかといえば、発破かな

 

283:名無しのウマ娘ファン

じゃあ頼む

 

285:名無しのウマ娘ファン

>>282 よろ

 

287:読唇ニキ

スペ「あの……スクリプトさん……」

スク『おや、主人公ってほんとに遅れてくるんだね。ところで、いつまで僕の真似事に興じるつもりだい?ああそういえば、僕ってば君に勝ったんだよな。悪役の僕が主人公の君に勝ったってことは、どうやら最終回が近いらしい。』

 

288:名無しのウマ娘ファン

うーん言い回しが回りくどい……ってかスクリプト不器用すぎやろ

 

290:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんの心を折りかねないだろこれ……

 

291:名無しのウマ娘ファン

あーあ泣いちゃった……

 

292:名無しのウマ娘ファン

いや待て、スクリプトもなんか慌ててないか?

 

294:名無しのウマ娘ファン

ほんとや、耳も尻尾も落ち着いてない……ってかそもそも表情が『やっべやりすぎた』だし手もあたふたしてるし……悪役やるなら最後までやりきれよww

 

295:名無しのウマ娘ファン

まあスクリプトなら上手くやるでしょ……最悪の場合ゴルシが何でもかんでもどうにかしてくれる

 

296:名無しのウマ娘ファン

心の傷もどうにかなんの?

 

298:名無しのウマ娘ファン

まあ〈黄金世代〉と『黄金船』だからどうにかなるでしょ

 

299:名無しのウマ娘ファン

そうか……そうか?

いやまあ、そうか……

 

300:名無しのウマ娘ファン

きっと大丈夫。

スペちゃんなら強くなって帰ってくるよ。

 

 

──────────

 

 

【6月は】日本ダービー応援スレ【水無月】

 

 

30:名無しのウマ娘ファン

さて

 

31:名無しのウマ娘ファン

さてじゃないが

 

33:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん立ち直れたようで何より

 

34:名無しのウマ娘ファン

いやスクリプトのSNSの件に触れろよ

 

36:名無しのウマ娘ファン

あああれ……漂白スペちゃんね

かわいいよね

 

37:名無しのウマ娘ファン

髪色じゃなくて胸に刺さってるバカデカマイナスネジの話をしてるんですけど?

 

38:シルバーティーガー

あれについては個人的にも親交の深いアタシが説明してやろう。あれはスクリプトの『領域』の応用で出したマイナス螺子……効果は『負完全』と、つまりはスクリプトと完全に同じになるっていうもんよ。

 

39:名無しのウマ娘ファン

でたわね。

 

40:名無しのウマ娘ファン

やたら学内の事情に詳しいシルバーティーガーさんじゃあないっすかあ!!

 

42:名無しのウマ娘ファン

あの螺子って刺さって痛かったりしないの?

 

43:シルバーティーガー

痛くは無い、が……問題なのは肉体より精神のほうなんだよ。スクリプトってだいぶ捻くれてるから、刺されたやつまで捻くれちまうんだよな。結果として、負完全スペシャルウィークが完成しちまった。

 

44:名無しのウマ娘ファン

うわあ……

 

45:名無しのウマ娘ファン

スクリプトちゃんって確か走れてることが奇跡なんだっけ?

 

47:シルバーティーガー

そうそう。全身の筋肉が付きにくい体質らしくてな、どんだけ食ってもどんだけ鍛えても今の筋肉量が限界。だから技術でどうにかこうにかやりくりしてる。

 

48:名無しのウマ娘ファン

つまりスペちゃんもそこまで筋肉量が落ちたってこと?それはやりすぎなんじゃあねえの?

 

49:シルバーティーガー

それはアタシも言ったんだけどよ、どうやらマジで筋肉がなくなってるってわけじゃあ無いらしい。要するに『スクリプトと同じくらいになるまで脳が勝手にセーブしてる』って状況らしいんだよな。だから怪我はしないし、むしろ無駄な力が抜けてトレーニングにちょうどいいとか。

 

51:名無しのウマ娘ファン

なるほど……そういうことなら俺みたいな部外者があれこれ言うことでもなかったわ、すいません

 

53:シルバーティーガー

いいってことよ

誤解を招く事したスクリプトが悪いから。

 

55:名無しのウマ娘ファン

さあ本バ場入場やが……

 

57:名無しのウマ娘ファン

声でっか!!!!!!!!!

 

59:名無しのウマ娘ファン

うわ熱気やば……倒れるやつ出るだろこれ……

 

60:名無しのウマ娘ファン

いやそれにしても、みんな堂々としてんなあ。やっぱダービー出てくる子は現時点では一段違うね。

 

62:名無しのウマ娘ファン

流しウマは……流石に普通にやるか

 

63:名無しのウマ娘ファン

懐かしいなスクリプトの爆走流しウマ

 

64:名無しのウマ娘ファン

今日はスクリプト名物のファン殺しも無かったし、今もなんかいつもより力抜けてる?

 

66:名無しのウマ娘ファン

てかおいスクリプト仕上がってんじゃねえか

 

68:シルバーティーガー

いやそりゃああんなトレーニングしたら誰だって仕上がるって

 

69:名無しのウマ娘ファン

なにそれ気になる

 

71:シルバーティーガー

生憎企業秘密なんで諦めてくれ

言えることといえばスズカと併走くらいのもんよ

 

73:名無しのウマ娘ファン

ああスクリプトがSNSにあげてたな

 

74:名無しのウマ娘ファン

18時間併走したんだっけ?

 

76:名無しのウマ娘ファン

なにそれ笑えんわ死ぬで

 

78:名無しのウマ娘ファン

スクリプトの『領域』無かったらスペちゃん共々死んでたらしいし……

 

79:名無しのウマ娘ファン

サイレンススズカが暴走族すぎる

 

81:名無しのウマ娘ファン

災恋好鈴華……?

 

82:名無しのウマ娘ファン

当て字が無理矢理すぎる

 

83:名無しのウマ娘ファン

てかみんな漲って……漲りすぎじゃ?

 

85:名無しのウマ娘ファン

闘志が漲りすぎです!(警告)

 

86:名無しのウマ娘ファン

闘志が抑えきれない……!!

 

87:名無しのウマ娘ファン

ウンスがあそこまで張り切ってるのを表に出すの珍しいな

 

89:名無しのウマ娘ファン

キング……貫禄たっぷりでカッコ良すぎる

 

90:名無しのウマ娘ファン

おっと黄金世代の面子は独り言でも言ってんのか?

なんか口動いてた気がするけど

 

92:名無しのウマ娘ファン

読唇ニキ〜

 

93:名無しのウマ娘ファン

出番よ〜

 

94:名無しのウマ娘ファン

お願いしまーっす!

 

95:読唇ニキ

多分だけどこれで合ってるはず

セ「つまり、ベストコンディションだ」

キ「今日という日を後悔したくないもの」

エ「私は、ヒーローになりたいんだ」

ス「私は、私にしかできないことをやろう」

却『僕は悪くない。』

 

96:名無しのウマ娘ファン

うーん、やっぱ性格出るなぁ

 

97:名無しのウマ娘ファン

エルちゃん珍しく表情固い?

 

99:名無しのウマ娘ファン

そらダービーやからな

緊張くらいするやろ

 

101:名無しのウマ娘ファン

スクリプト節が今日も光るな

 

102:名無しのウマ娘ファン

光るどころか闇なんだけど

 

104:名無しのウマ娘ファン

闇スクリプト……病みスクリプト?

 

106:名無しのウマ娘ファン

うーわこの世に存在する全生命の中で最も病まなそう

 

107:名無しのウマ娘ファン

無敵の人感あるよな

 

108:名無しのウマ娘ファン

てか絶好調の子多すぎんか?

例年にないだろこんなに調子よさそうなの

 

109:名無しのウマ娘ファン

互いが互いを意識し合った結果やろなぁ

 

111:名無しのウマ娘ファン

ここにジュニアチャンピオンがいないことが悔やまれる……

 

113:名無しのウマ娘ファン

ちょくちょくみんなで写真撮ってるもんな

いつか黄金世代揃い踏みでガチレースしてほしい

 

114:名無しのウマ娘ファン

グラスちゃんも悔しいやろなぁ……

 

115:名無しのウマ娘ファン

そういえば毎回毎回スピカの近くに陣取ってるニキ今日はいないの?

 

116:ス近ニキ

おるで

 

117:名無しのウマ娘ファン

変なコテハン付けんな

 

118:名無しのウマ娘ファン

酢昆布ニキは今日はどの辺にいんの?

 

119:ス近ニキ

当然スピカの隣だが?

 

120:名無しのウマ娘ファン

怖すぎ何やねんお前

 

122:名無しのウマ娘ファン

前世で何したらそうなるんだよ

最悪の場合命の危機もあり得るだろ

 

123:名無しのウマ娘ファン

スピカのことを手のつけられない猛獣か何かと勘違いしてない?

 

125:ス近ニキ

あと一応言っておくと、スピカメンバーは全員スペシャルウィークが勝つと踏んでるらしい。スクリプトが勝つとは微塵も考えてないっぽい。

 

126:名無しのウマ娘ファン

可哀想に……

 

128:名無しのウマ娘ファン

えーでもそんなに断言できるほど自力に差なんてあるか?

 

129:名無しのウマ娘ファン

いや、ない(反語)

 

131:名無しのウマ娘ファン

なんなら黄金世代は横一線なんだよなあ

 

133:名無しのウマ娘ファン

マジでこんなに拮抗してるの珍しいと思う

今までも中々見たことないくらい

 

135:名無しのウマ娘ファン

さあゲートイン……

 

136:名無しのウマ娘ファン

心臓止まりそう

 

137:名無しのウマ娘ファン

実際止まってる

 

139:名無しのウマ娘ファン

>>137 病院坂行け

 

140:名無しのウマ娘ファン

病院坂?

 

142:名無しのウマ娘ファン

間違えた病院や

 

143:名無しのウマ娘ファン

さて、レース前お話文化圏のお二人は……

 

145:名無しのウマ娘ファン

そりゃあまあ、当然動くよな

 

147:名無しのウマ娘ファン

今のは読唇無くてもいけるわ

「『早く帰りたい……。』」てきなあれやろ?

 

149:読唇ニキ

いぐざくとりー

 

150:名無しのウマ娘ファン

アホっぽいな……

 

152:名無しのウマ娘ファン

いやでもほとんど釣れてない!

 

154:名無しのウマ娘ファン

対策もされてるだろうし、そもそもこんなとこで悠長に話聞くやつはいねえよ

 

155:名無しのウマ娘ファン

さあそろそろ

 

157:名無しのウマ娘ファン

スタート!!

 

158:名無しのウマ娘ファン

うおっ横一線……一人少し出遅れただけか

 

159:名無しのウマ娘ファン

ハナはウンス……ま、予想通りだわな

 

161:名無しのウマ娘ファン

キングは差しじゃなくて先行にしたのか

どっちにしろ頑張ってほしい

 

163:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんはいつもより少し前だけど、結構走りやすそう?

 

164:名無しのウマ娘ファン

エルが控えてるし、こっからどう動くかにもよると思うけど

 

165:名無しのウマ娘ファン

みんな「いけるっ!」って感じの表情?

 

166:名無しのウマ娘ファン

大体が絶好調って感じに見えるわ

 

167:名無しのウマ娘ファン

うわスクリプトちゃん顔怖ッ!

 

169:名無しのウマ娘ファン

おいヒビ入ってんぞ!?

 

170:名無しのウマ娘ファン

いや待てよおかしいだろ

 

171:名無しのウマ娘ファン

>>170 何が?

 

173:名無しのウマ娘ファン

いやさ、スクリプトの『領域』って今までヒビ入ってなかったよな?

 

175:名無しのウマ娘ファン

あーそういえばそうだな

 

176:名無しのウマ娘ファン

『領域』使うにしては早すぎん?

 

178:名無しのウマ娘ファン

うわなんかみんなすげえバテ方してるけど大丈夫かこれ?

 

179:名無しのウマ娘ファン

あーこれスクリプトの『領域』の効果でスタミナを無かったことにしてる?

 

180:名無しのウマ娘ファン

いやでも広範囲に効果ありすぎじゃない?

 

182:名無しのウマ娘ファン

>>180 『領域』が進化したとかあるやろ

 

184:名無しのウマ娘ファン

なるほどね

 

185:名無しのウマ娘ファン

現地民、なんか分かることあったら教えてくれね?

 

186:ス近ニキ

まてなみてなちならかきこめない

 

188:名無しのウマ娘ファン

>>186 なんて?

 

189:名無しのウマ娘ファン

まともに書き込めない事だけは分かるけどさ

 

190:読唇ニキ

「まえがみえないからかきこめない」じゃねこれ

 

191:名無しのウマ娘ファン

>>190 天才か?

 

192:名無しのウマ娘ファン

お前もう読心ニキに改名しろ

 

193:名無しのウマ娘ファン

うわセイちゃんキツそう……

 

195:名無しのウマ娘ファン

それ以外も大概きつそうな顔してるけどな

 

196:名無しのウマ娘ファン

平気そうなのはエルとキングとスペちゃんくらいか?

 

197:名無しのウマ娘ファン

いやでもキングとエルも結構ヤバそうだぞ

 

198:名無しのウマ娘ファン

てか前が見えないってどういうこと?マジだとしたら危なすぎんか

 

199:名無しのウマ娘ファン

いやみんな走れてるところを見るに完全に見えないってわけじゃないんだろ

少し視野が狭くなってるように感じてストレスでスタミナ浪費してるとか?

 

200:名無しのウマ娘ファン

あーありえるなスクリプトっぽい……

 

201:名無しのウマ娘ファン

どこにいてもタチ悪い……

 

203:名無しのウマ娘ファン

それよりさ、いくらなんでも『領域』の持続長すぎない?クソ技すぎるだろ

 

204:名無しのウマ娘ファン

キングちゃんも困惑しとるわ

 

206:名無しのウマ娘ファン

誰でもするわこんなん

 

208:名無しのウマ娘ファン

あーウンス垂れるかぁ

 

210:名無しのウマ娘ファン

ウンスはゲート苦手やし視野狭まったらそら調子崩すわな

 

211:名無しのウマ娘ファン

うわセイちゃん泣いとる……見た事ねえくらい感情むき出しだ

 

212:名無しのウマ娘ファン

そら感情むき出しにもなるわ

一生に一度のダービーで初見のクソ技で潰されてんだからな

 

214:名無しのウマ娘ファン

「卑怯だろ」的なこと言ってるっぽいね

 

215:名無しのウマ娘ファン

おっとここで『領域』の効果聞くか

 

217:名無しのウマ娘ファン

セイちゃんはもう目星ついてんのかな?

 

218:名無しのウマ娘ファン

見た感じついてるっぽい

 

220:読唇ニキ

スクリプトの『領域』は『自分らしく走ること』が発動条件らしい

つまりは調子がいい子の調子を落とすってことかな

 

222:名無しのウマ娘ファン

うーわさっすが負完全……

 

223:名無しのウマ娘ファン

足引っ張るねぇ……

 

225:名無しのウマ娘ファン

てかおいそれが本当ならやべえぞ

今日のレースはみんながみんな絶好調じゃん

 

227:読唇ニキ

回避する方法は一つだけで、『自分の走りを捨てること』……簡単に言うと勝つのを諦めれば『領域』からは抜け出せるらしい

ただし、それやると負けるけど

 

228:名無しのウマ娘ファン

思ってた数段やべえのが出てきたな……

 

229:名無しのウマ娘ファン

あれ?スクリプトの『領域』はレース中に何か一つ無かったことにするってやつじゃなかったん?

 

230:名無しのウマ娘ファン

二つ目の『領域』なんだろ

 

232:名無しのウマ娘ファン

おいおいマジかよ

 

233:名無しのウマ娘ファン

うわキングの覇気すっご……

 

235:名無しのウマ娘ファン

バトル漫画みてえになってんじゃん

 

236:名無しのウマ娘ファン

あーウンスとの距離が広がっていく……

 

237:名無しのウマ娘ファン

これ見た感じ、セイちゃんはもう諦めちゃったのかな

 

239:名無しのウマ娘ファン

悔しそうだけどちょっぴりホッとした顔してるし……多分、心が折れちゃったんじゃ……

 

241:名無しのウマ娘ファン

まだ諦めるには早えぞ!

 

242:名無しのウマ娘ファン

あーこれは四人で大決戦っぽいな

 

243:名無しのウマ娘ファン

キング追いついた!!

 

245:名無しのウマ娘ファン

うっわあエルやべえなこれ

気合いと根性だけで走ってない?

 

247:名無しのウマ娘ファン

いやよく見ろ

後ろ気にしながらもちょくちょくスクリプトに目が向いてる

多分威圧飛ばして『領域』の破壊試みてるぞ

 

249:名無しのウマ娘ファン

が、しかし、一つ目の『領域』で威圧を無効化され続けていると……

 

250:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんはどしたん?

 

251:名無しのウマ娘ファン

いや、何もしとらんな

 

253:名無しのウマ娘ファン

これどっちだ?

余裕がねえのか、逆に余裕なのか

仮に余裕だとして理由は分からんけど

 

255:名無しのウマ娘ファン

あっ!あれだろあれ、白スペちゃんは脳が勝手に力を最低限までセーブできるんだろ?だからスタミナの消費を最低限まで抑えてるんじゃ?

 

256:名無しのウマ娘ファン

>>255 そ れ だ

 

258:名無しのウマ娘ファン

と、なると……これスクリプトの勝ち目薄いんじゃ?

 

259:名無しのウマ娘ファン

いやまだ分からん

こっからスクリプトが第三の『領域』に目覚める可能性もある

 

260:名無しのウマ娘ファン

第三の『領域』はもう皇帝様レベルなんよ

 

262:名無しのウマ娘ファン

いやでも自力は十分互角だと思うけどなあ

 

264:読唇ニキ

今スクリプトが話してたんだが、『領域』の発動条件は『レースに出走する人数のうち半分以上が絶好調であること』らしい

 

266:名無しのウマ娘ファン

うわ運ゲー……

 

268:名無しのウマ娘ファン

いやこれ、一つ目の『領域』と併用したらやべえぞ

一つ目で相手の疲労をわざと消して、そっから二つ目で相手を潰すとかできる

 

269:名無しのウマ娘ファン

調整下手な格ゲーじゃねえんだから……

 

270:名無しのウマ娘ファン

あっとキング流石にここまでか……

 

271:名無しのウマ娘ファン

いやここまで不利な状況でよく頑張ったよマジで

 

272:名無しのウマ娘ファン

あー次はエルちゃん狙われてんな……たしかエルちゃんの『領域』は最終直線で余力が残ってなきゃ使えないんだっけ?

 

273:名無しのウマ娘ファン

>>272 それで合ってる

つまりスクリプトとの相性は最悪

 

274:名無しのウマ娘ファン

余力が残るわけねえもんな……忘れがちだけど『領域』に加えてマイナスオーラでの威圧もあるわけだからな

 

275:名無しのウマ娘ファン

なんだこいつ(至極当然の疑問)

 

277:名無しのウマ娘ファン

どの口でマイナスとか抜かしてんだ

 

278:名無しのウマ娘ファン

おーエル来た上がって来たぁっ!!

 

280:名無しのウマ娘ファン

いっけそのままぶっ差せ!!

 

281:名無しのウマ娘ファン

あっ!

 

283:名無しのウマ娘ファン

あ忘れてた!!

 

284:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんここで動くかあ……ってか、多分これ狙ってたな?

 

286:名無しのウマ娘ファン

うわあスクリプトみてえな笑顔

 

288:名無しのウマ娘ファン

すっかり染まってんなあ

 

290:名無しのウマ娘ファン

エルちゃん泡吹いてる?流石にやべえんじゃ

 

292:名無しのウマ娘ファン

いやでもまだ闘志は滾ってるぞ

まだワンチャンある

 

293:名無しのウマ娘ファン

でもさ、スペちゃんが最終直線で追い抜いたってことは……

 

295:名無しのウマ娘ファン

あー『領域』が

 

297:名無しのウマ娘ファン

は?

 

298:名無しのウマ娘ファン

は?

 

300:名無しのウマ娘ファン

えやば

 

302:名無しのウマ娘ファン

おい『領域』こんなんだったか!?

 

304:名無しのウマ娘ファン

流星群!?

 

305:名無しのウマ娘ファン

これが本当の『領域』なのか……

 

306:名無しのウマ娘ファン

一瞬でスクリプトの『領域』飲み込みやがった……

 

308:名無しのウマ娘ファン

あのマイナスを完全に封じるとか……それこそ『主人公』じゃねえかよ

 

309:名無しのウマ娘ファン

ごめん

マジごめん

今日からスペちゃん推すわ

 

311:名無しのウマ娘ファン

カッコ良すぎるからしょうがないよ

 

313:名無しのウマ娘ファン

いやマジ

泣くて

 

314:名無しのウマ娘ファン

スピカの面子は揃いも揃って泣くだろうな

 

315:名無しのウマ娘ファン

スペちゃん一着ゥゥゥ!!

 

316:名無しのウマ娘ファン

夢叶ったな……

おじさん嬉しいよ……

 

318:ス近ニキ

お兄さんも嬉しい

 

319:読唇ニキ

お姉さんも嬉しい

 

320:名無しのウマ娘ファン

>>319 読唇ネキに改名しろや

 

322:名無しのウマ娘ファン

笑わせんな

今笑いすぎて泣いてんだから

 

323:名無しのウマ娘ファン

それはおかしくて泣いてるんじゃあ無いさ。

嬉しいから泣いているんだよ。

 

324:名無しのウマ娘ファン

──これが……"嬉しい"?

 

325:名無しのウマ娘ファン

>>324 初めて感情を知ったアンドロイドやん

 

326:名無しのウマ娘ファン

いやそりゃあ泣くよなスペちゃん……

 

328:名無しのウマ娘ファン

スクリプトも晴れ晴れしてるな……完全に上回られたから逆にさっぱりしたのか

 

329:名無しのウマ娘ファン

いいなあそういうの

青春って感じだ

 

330:名無しのウマ娘ファン

キングも汗ダラダラだけども微笑み浮かべて拍手してる……絵になるなあ

 

331:名無しのウマ娘ファン

キングヘイローが気高すぎる

 

333:名無しのウマ娘ファン

この見たものの心を一瞬で掴むウマ娘はキングヘイローといい、誇り高き王です

その脚はバチクソ速く、我らが霊長類の誇りであるパタスモンキーをも凌駕します

 

334:名無しのウマ娘ファン

>>333 あのパタスモンキーをも!?!?

 

335:名無しのウマ娘ファン

エルちゃん大丈夫か?

今まで見たことないレベルで疲労してて心配だぜ

 

337:名無しのウマ娘ファン

初めて連対外したからなぁ

精神的なダメージはかなりデカいだろ

 

339:名無しのウマ娘ファン

時代を創るウマ娘ってのは一回どん底に落ちるもんだ

挫折も貴重な経験だぜ

 

341:名無しのウマ娘ファン

>>339 それで折れてちゃあ元も子もないけどな

 

342:名無しのウマ娘ファン

あれ、セイちゃんどこ行った?

五着っぽいけど姿が見当たらんが

 

343:名無しのウマ娘ファン

バ道に真っ先に行ったんじゃ?

見た感じ他人を称賛できる精神状態でも無かろうよ

 

345:名無しのウマ娘ファン

あそこまで仕上げて来たのに負けたからなあ……あの入れ込み具合から分かる通り、ここ最近はSNSの更新もしないくらいガチってたみたいだし

 

346:名無しのウマ娘ファン

セイちゃんとエルちゃんはこっからぜひ這い上がって来てほしい。これからが楽しみだよ

 

 

──────────

 

 

「──ふぅ」

 

いやはや、スクリプトの『過負荷(マイナス)』のことを気取られないためとはいえ、端末を三つ使っての情報操作は中々に骨が折れるな……。

 

「いやーありがとね。僕ってばこういう情報操作は苦手でさー、ちょっとやりすぎちゃってみんながみんな僕のイエスマンになっちまうんだよな」

 

「安心院なじみ貴様……分かっているなら対策でもしたらどうだ」

 

「えー、何で僕が下々の奴らに合わせなきゃいけねーんだよ。向こうが僕に合わせろって話だぜまったく」

 

「貴様のレベルに合わせられる奴がこの世に何人いると思っている……」

 

「零」

 

……頭痛がする。何なんだこいつは、協調性というものが一切ないのか?

 

「ないけど?」

 

「……目眩がするんだが、もう帰って寝てもいいか?」

 

「えー駄目だよ。最近球磨……スクリプト(球磨川)ちゃんがつれなくてね。暇だから話し相手くらいしてくれてもいいだろう?」

 

「はぁ……まあいいさ。私とて話したいことはある。それこそ──スクリプトの『領域』の話をな」

 

「うーん、やっぱ君ってばとんでもなく真面目だよな。そういうんじゃなくシンプルに雑談に興じるつもりだったんだが……ま、いいさ。何てったって──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負完全(スクリプト)の『領域』は未完成だからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




掲示板の書き方完全に忘れました。助けてください。
それとほんと申し訳ないんですけど、次回も掲示板になると思います。ご了承ください。

感想・評価よろしくね。


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掲示板回 −21&−22+α


僕のタニノギムレットはナカヤマフェスタだったらしいです。あとジャンポケはバンブーメモリーでした。
普通に嬉しい。



【不死鳥】重賞観戦スレpart392【復活】

 

39:名無しのウマ娘ファン

はい

 

40:名無しのウマ娘ファン

はいじゃないが

 

42:名無しのウマ娘ファン

いやほんとにそれどころじゃねえよ

 

45:名無しのウマ娘ファン

何だあれ?ついこの前まで大和撫子然としてた子がとんでもない覇気を纏ってるように見えるんですが……

 

48:名無しのウマ娘ファン

ああ、あれ?グラスワンダーっていうんだ

ジュニア級チャンピオンなんだぜ

 

51:名無しのウマ娘ファン

>>48 んなこと誰でも知ってんねん

ああなった理由が知りたい

 

52:名無しのウマ娘ファン

知るかんなもん

 

54:名無しのウマ娘ファン

ところでスズカは今日もいつも通り?

 

55:名無しのウマ娘ファン

いつも通りに前しか見てないし緊張してる素ぶりもないよ

 

58:名無しのウマ娘ファン

スズカの何が強いん?

絶対にスズカより前に行けないってだけじゃん

 

59:名無しのウマ娘ファン

>>58 これ以上ないってくらいの答えが出てんじゃねえか

 

61:名無しのウマ娘ファン

あの……エルについては……

 

63:名無しのウマ娘ファン

他二人のインパクトが強すぎてなぁ、いやまあ、強いには強いんだが……スズカには勝てんだろ

 

66:名無しのウマ娘ファン

どっちの「勝てんだろ」?

 

67:名無しのウマ娘ファン

勝てねえだろ

 

69:名無しのウマ娘ファン

厳しい戦いだろうけどさ、応援しようぜ応援

正直おれはジャイアントキリングを楽しみにしてる

 

72:名無しのウマ娘ファン

最初から諦めて走る子なんていないからね、こちらも思う存分応援しよう

 

74:名無しのウマ娘ファン

ん?

 

75:名無しのウマ娘ファン

あれ、誰か見つけた?

 

77:名無しのウマ娘ファン

グラスちゃん可愛いけど怖いよ〜

 

80:名無しのウマ娘ファン

誰見てんだこれ

 

82:名無しのウマ娘ファン

スチカいないの?

 

84:ス近ニキ

>>82 おるで

 

87:名無しのウマ娘ファン

やっぱおったなお前

 

89:名無しのウマ娘ファン

グラスワンダーが何見てるか分かる?

 

91:ス近ニキ

あーあれね

スクリプト

 

92:名無しのウマ娘ファン

スクリプトまたなんかやったな???

 

93:名無しのウマ娘ファン

悪い方向への信頼が厚いなあ

 

95:名無しのウマ娘ファン

いや何があったん?

あそこまで人が変わること中々ないだろ

 

97:名無しのウマ娘ファン

喧嘩した?

いや、喧嘩にしてはお互いニコニコなんだよな

 

99:名無しのウマ娘ファン

これをニコニコと表現して良いものだろうか

 

101:名無しのウマ娘ファン

バチバチとか、そっちの類だろ

 

102:名無しのウマ娘ファン

あーカメラもスクリプトとスペちゃん映してる……おっレース場デートか?

 

104:名無しのウマ娘ファン

何で他のスピカメンバーから少し離れたとこに居るんだよ

 

106:名無しのウマ娘ファン

>>102 お前あの絵面のどこ見てデートとか抜かした?

どう見てもお説教やんけ

 

107:名無しのウマ娘ファン

ワロタ

 

108:名無しのウマ娘ファン

もしかしてスチカは今日はスペスクの近くにいるわけ?

 

111:ス近ニキ

>>108 エサクタ

 

114:名無しのウマ娘ファン

普通に正解って言えや厨二

 

116:ス近ニキ

大二だが?

 

117:名無しのウマ娘ファン

大工?(爾)

 

119:名無しのウマ娘ファン

>>117 そりゃ「なんじ」だおバカ

 

122:名無しのウマ娘ファン

おバカ!(例のキングの画像)

 

125:名無しのウマ娘ファン

『愚かだねぇ。』(例のスクリプトの画像)

 

128:名無しのウマ娘ファン

ゴルシチャンネルの謎企画「罵倒選手権」やめろ

あんなんスクリプト一強や

 

129:名無しのウマ娘ファン

お前らそういうのはゴルシの個別スレでやれ

レース見ろレース

 

131:名無しのウマ娘ファン

ホンマや知らんうちにみんなゲート入っとるやないか

 

133:名無しのウマ娘ファン

いやしかし今更ながらだが、今日ってほんとにG2か?毎日王冠がG1になったとかでは無く?

 

135:名無しのウマ娘ファン

見た限りG2のままだな

 

137:名無しのウマ娘ファン

メンツがメンツだからなあ、G1ウマ娘三人いるし

 

139:ス近ニキ

それにしたって今日ヤバいだろ……熱気やばいぞ今日

 

142:名無しのウマ娘ファン

そろそろスタートか?

 

144:名無しのウマ娘ファン

時間的にはもうすぐ

 

145:名無しのウマ娘ファン

さあスタート!

 

148:名無しのウマ娘ファン

うーわスズカはっや!

 

151:名無しのウマ娘ファン

何だ今のスタート(至極当然の疑問)

 

154:名無しのウマ娘ファン

何って……ゲートが開いた瞬間にスタートしただけなのだけれど……

 

155:名無しのウマ娘ファン

開いた瞬間(一切の誇張抜き)

 

158:名無しのウマ娘ファン

やっぱこの子ウマ娘ではない何かだろ……

 

160:名無しのウマ娘ファン

おーおーエルもだいぶ強気に前出てきたな

 

161:名無しのウマ娘ファン

対照的にグラスワンダーは落ち着いた……っつーかなんだ?感覚としては気勢が削がれた?

 

163:名無しのウマ娘ファン

元々今日は調整に使う予定だったとか?

いやでもそれだと、ゲート前で昂ってたことを説明できないし……

 

164:名無しのウマ娘ファン

スズカのロケットスタートを見て諦めた説……あるのでは?

 

166:名無しのウマ娘ファン

いやグラスちゃんがんなことするか?10ヶ月ぶりのレースだからって勝てなそうですかへえそうですかで終わる子じゃないだろ

 

169:名無しのウマ娘ファン

うーん……でも前例がいますよねえ?

 

172:名無しのウマ娘ファン

勝てなそうになったらすぐ諦めるウマ娘ぇ?そんなもんいるわけ……はっ、スクリプト!?!?!?

 

173:名無しのウマ娘ファン

>>172 そ れ だ

 

174:名無しのウマ娘ファン

>>172 見 つ か っ た

 

176:名無しのウマ娘ファン

人が逃げ回ってそうなナレーションやなあ

 

178:名無しのウマ娘ファン

えースペちゃんに続いてグラスちゃんまで?ちょーっとスクリプトくぅん、体育館裏……行こっかぁ……

 

181:名無しのウマ娘ファン

スクリプト『くん』な辺りやっぱ奴って夢男女生成機だよな

 

182:名無しのウマ娘ファン

ガチ恋勢多いみたいだしな

ファンレターの中に螺子刺さった生爪とか入ってたらしい

 

183:名無しのウマ娘ファン

文面だけで痛えんだけど

 

185:名無しのウマ娘ファン

はーいスクリプトの話題はここでおしまい

 

こっからレースの話題な

 

186:名無しのウマ娘ファン

何本かの糸を用いて布にするのってマジ半端ねえよな

 

189:名無しのウマ娘ファン

それはlaceだろうが

 

192:名無しのウマ娘ファン

あー旋盤ね

あれで螺子切った物体大好きなんだよな

 

193:名無しのウマ娘ファン

そりゃlatheだボケ

 

195:名無しのウマ娘ファン

スズカ楽しそうに走るなぁ

 

196:名無しのウマ娘ファン

そいつはrace……ボケてねえじゃん

ボケろやボケが

 

198:名無しのウマ娘ファン

ボケボケ言い過ぎだろ

長恨歌琵琶行和解か?

 

201:名無しのウマ娘ファン

>>198 そのネタを拾える奴がいると思ってんのか?

 

203:名無しのウマ娘ファン

>>201 いや?俺も「ぼけぼけ」って検索してそっから適当に貼っ付けただけだが?

 

206:名無しのウマ娘ファン

レースの!!話を!!しろや!!

 

209:名無しのウマ娘ファン

ちょーっとエルちゃんそりゃ悪手だろ

 

212:名無しのウマ娘ファン

蟻んコ?

 

214:名無しのウマ娘ファン

>>212 惜しい、蟻んコじゃなくてエルコン

 

217:名無しのウマ娘ファン

>>214 大しておもんないで

 

220:名無しのウマ娘ファン

ひどい

 

222:名無しのウマ娘ファン

1,400mからスパートかけて上手くいった前例ってある?

 

224:名無しのウマ娘ファン

スクリプトが『領域』使ってスズカ相手に5,000mのスパートかけたらしいから(それが嘘でないのであれば)少なくともスクリプトとスズカが前例

 

225:名無しのウマ娘ファン

スクリプト結局スズカ抜かせて無いやんけ

 

227:名無しのウマ娘ファン

5,000m……?

 

229:名無しのウマ娘ファン

お前らもうステイヤーズステークス完全制覇狙えよ

 

232:名無しのウマ娘ファン

レース!!!!!見よ!!!!!

 

235:名無しのウマ娘ファン

>>232 お前絶対学級委員長だったろ

 

236:名無しのウマ娘ファン

えっ何でわかった?

 

239:名無しのウマ娘ファン

やっぱりな

クソ真面目だもん

 

242:名無しのウマ娘ファン

褒められてんのか貶されてんのか分かんねえんだけど

 

245:名無しのウマ娘ファン

褒めてんだわこれでも一応

 

247:名無しのウマ娘ファン

あー……スズカも速度上げてるからエルが無理して前行った意味が無くなってんなあ

 

250:名無しのウマ娘ファン

こうなるんだったら終盤あたりまで先行くらいの位置付けで脚溜めて最終直線でぶっぱした方がお得だったな

 

252:名無しのウマ娘ファン

いやでも言うてそれって結果論やし……

 

253:名無しのウマ娘ファン

あーでも対応早えぞ

今少し抑えたな

 

254:名無しのウマ娘ファン

SNSだと大概アホの子みたいな扱い受けてるけど別にそんなことねえんだよな

 

255:名無しのウマ娘ファン

むしろレース勘に関してはずば抜けてるまであるんだよなあ

 

257:名無しのウマ娘ファン

そらそうや「世界最強」を大真面目に夢として据えられるくらいには強いんやぞ

 

260:名無しのウマ娘ファン

うわスズカキモッ!!

 

261:名無しのウマ娘ファン

>>260 二度と口開くな

 

262:名無しのウマ娘ファン

いや違う違うそういうことじゃ無くてさ、今のコーナリングはヤバすぎるだろ

それで大して考えずにレスしちゃった

不快にさせたらマジすまん

 

263:名無しのウマ娘ファン

ええんやで

 

266:名無しのウマ娘ファン

あのー……スズカのコーナリングがスクリプトに関係してるとかは……

 

267:名無しのウマ娘ファン

なさそうですね

 

268:名無しのウマ娘ファン

前々から割とあんなんだろ

いやまあ、笑顔は置いておくとして

 

270:名無しのウマ娘ファン

みんな笑顔が怖えんだよ!!

 

273:名無しのウマ娘ファン

うーん、一体いつから黄金世代とスズカの笑顔が怖くなったんだろうなあ(すっとぼけ)

 

275:名無しのウマ娘ファン

多分黄金世代でスクリプトの影響受けてないのキングちゃんだけだよな……

 

276:名無しのウマ娘ファン

王道が邪道と交わるわけないからね

 

277:名無しのウマ娘ファン

エルもあんまり受けてなくない?

 

280:名無しのウマ娘ファン

いやでも「ワタシは悪くありまセーン!!」って言ってたよ

 

281:名無しのウマ娘ファン

これまた微妙なラインを……

 

284:名無しのウマ娘ファン

おっとエルコンここで吠えた!

 

285:名無しのウマ娘ファン

「負けてたまるか」だって

 

287:名無しのウマ娘ファン

よっしゃ行けエル!!

 

290:名無しのウマ娘ファン

罅入った!!

 

292:名無しのウマ娘ファン

ひっさしぶりに『領域』見れるか!?

 

295:名無しのウマ娘ファン

ぶっ差せ!!

 

298:ス近ニキ

おいスクリプトがすげえ事言ってたぞ

 

301:名無しのウマ娘ファン

>>298 今忙しいから短めに頼む

 

304:名無しのウマ娘ファン

>>298 頼んだ

 

305:ス近ニキ

じゃあ短めに。エルちゃんは強者故に油断しがち……つまり今が弱点

現に、すぐ後ろまでグラスちゃんが来ていることに気づいていない

 

306:名無しのウマ娘ファン

マジやん

いつからいた?

 

309:名無しのウマ娘ファン

マジで分からん

 

311:名無しのウマ娘ファン

おいそれよりアレは何だよ

 

313:名無しのウマ娘ファン

まーたスクリプトが何かしたのか……

 

314:名無しのウマ娘ファン

『おいおい、何でもかんでも僕のせいにされるなんて、心外だなあ。ま、あながち間違いでもないから、芯を外しているとは言えねえが。』

 

316:名無しのウマ娘ファン

うわ言いそう……言ってたな

 

319:名無しのウマ娘ファン

記憶を捏造するな

 

321:名無しのウマ娘ファン

うーわエルの『領域』呑まれた……ってことは……どういう事?

 

323:名無しのウマ娘ファン

>>321 諦めんな

 

324:名無しのウマ娘ファン

あれやろ、グラスちゃんの威圧(領域?)で一気に持久力全部削られたとか

それなら『領域』は維持できないだろ

 

326:名無しのウマ娘ファン

今日は読唇ネキいねえの?

 

328:名無しのウマ娘ファン

おーい

 

330:名無しのウマ娘ファン

いなそうだな

 

333:名無しのウマ娘ファン

今グラスちゃんとエルちゃんがなんて言ってたか分かる人いない?

 

334:名無しのウマ娘ファン

多分「グラス、マイナスに堕ちましたね……!」

「いえ、少し取り入れただけですよ」的な感じだと思う

 

336:名無しのウマ娘ファン

うわすごい加速!

 

337:名無しのウマ娘ファン

罅のスピードヤバすぎだろ!?

 

340:名無しのウマ娘ファン

あーもう『領域』使いこなしてんなこれ

 

341:名無しのウマ娘ファン

だけどスズカももう『領域』入ってるな

 

344:名無しのウマ娘ファン

あーこうなったらもうダメだ

誰も勝てねえよ

 

345:ス近ニキ

おいマジかよ!?

 

347:名無しのウマ娘ファン

>>347 どした?

 

349:名無しのウマ娘ファン

また何かスクリプトが言ったんか?

 

350:ス近ニキ

いや違うんだよグラスが言ったんだ今確かに「二つ目」って!

 

353:名無しのウマ娘ファン

はぁ!?

 

356:名無しのウマ娘ファン

おいまだクラシックだろ!?

 

358:名無しのウマ娘ファン

罅どころか景色が崩れ始めてる!?

 

360:名無しのウマ娘ファン

何これ初めて見たんだけど!?

 

363:名無しのウマ娘ファン

杖……?

 

366:名無しのウマ娘ファン

うわ神々しい

 

368:名無しのウマ娘ファン

てかどんどん景色割れてってね?

 

370:読唇ネキ

ふふ……久々に見られるぞ……『向こう側』が!!

誰かが到達するとは思っていたが、まさか君が最初に辿り着くとは!!

 

371:名無しのウマ娘ファン

あっ読唇ネキやんけ

 

373:名無しのウマ娘ファン

>>370 訳知り?

なんか知ってるなら教えてくれ

 

375:読唇ネキ

見ていればじきに分かる!!

待ち侘びていたんだこの瞬間を!!

この興奮は抑え込まねばならない!!

 

378:名無しのウマ娘ファン

>>375 抑え込むの?

 

380:名無しのウマ娘ファン

溜め込むと碌なことにならんで

 

383:名無しのウマ娘ファン

景色が割れる度グラスも加速してるけど……これでもまだ届かないスズカってなんなん?

 

385:名無しのウマ娘ファン

……グラスちゃん、なんかハッとしてる?

 

386:名無しのウマ娘ファン

ほんまや

 

388:名無しのウマ娘ファン

なんか気づいたか?

もしや打開策?

 

390:名無しのウマ娘ファン

んなっ!?

 

393:名無しのウマ娘ファン

怒ってる……?

あのグラスちゃんが!?

 

396:読唇ネキ

成程……アレはこのためか、スクリプト!!

やってくれたな、よくもやってくれたな、よくぞ、よくぞやってくれた!!

 

397:名無しのウマ娘ファン

あらスクリプトの知り合いでしたか……

 

400:名無しのウマ娘ファン

いつになくテンション高えな

 

403:名無しのウマ娘ファン

もしや読唇ネキってウマ娘だったり?

 

404:NOT EQUAL

落ち着けよ、君らしくもない。

 

404:繧キ繝ウ繝懊Μ繝ォ繝峨Ν繝

……すまない、冷静では無かった。

常に沈着冷静でなければならないというのに……

 

404:NOT EQUAL

まあいいさ、君も最近デスクワークばかりでストレスが溜まってるんだろ?ウチのスクリプト貸してあげるから、気が済むまで発散しなよ。

あいつ少なくとも18時間は走れるからさ。

 

404:繧キ繝ウ繝懊Μ繝ォ繝峨Ν繝

すまない、恩に着る……ところで、なぜ先程からレス番号が動いていない?これも安心院さんの「スキル」か?それとも『過負荷』の方か?

 

404:NOT EQUAL

レス番が404の時に内緒話ができるスキル「検索欠果」の応用さ。ちなみに読み方は「ノットファウンド」だぜ。

 

404:繧キ繝ウ繝懊Μ繝ォ繝峨Ν繝

……つくづく思うが、やはり君は、どうしようもなく人外なのだな。

 

404:NOT EQUAL

何を今更。

 

415:名無しのウマ娘ファン

うおおやべえこれワンチャンあるぞ!!

 

418:名無しのウマ娘ファン

行け行け行けグラス前出ろ!!!!

 

420:名無しのウマ娘ファン

景色が……塗り替えられる……!

 

422:名無しのウマ娘ファン

スズカここで挑発ゥ!?

 

423:名無しのウマ娘ファン

──美しい……。

 

425:名無しのウマ娘ファン

見返り美人図

 

426:名無しのウマ娘ファン

おい嘘だろ

 

428:名無しのウマ娘ファン

罅の範囲桁違いすぎるだろ!?

 

429:ス近ニキ

……まさか、三つ目の『領域』……?

 

432:名無しのウマ娘ファン

やべ

涙出てきたわ

 

433:名無しのウマ娘ファン

俺たちってもしかして今、伝説に立ち会ってる?

 

435:名無しのウマ娘ファン

誰でも感動するわこんなん

 

438:名無しのウマ娘ファン

スズカここに来て一番の笑顔だったなぁ

 

440:名無しのウマ娘ファン

ああ……やっぱ、強えな、スズカ。

 

442:名無しのウマ娘ファン

ここまでやって尚届かないか……

 

443:名無しのウマ娘ファン

大真面目な質問なんだけどさ、今のスズカとやり合って勝てるやつ、いんの?

 

446:名無しのウマ娘ファン

少なくとも今はいないだろ……それこそ皇帝くらいしか

 

447:名無しのウマ娘ファン

皇帝が比較対象に上がる時点でなあ

 

448:名無しのウマ娘ファン

皇帝も三つ目持ってる説とかあったけどあれって結局のところ与太話なんか?

 

449:名無しのウマ娘ファン

真偽不明らしい

 

451:名無しのウマ娘ファン

うーん……グラスちゃんはこのレースで何か掴んだだろうが……

 

452:名無しのウマ娘ファン

エルちゃん……

 

455:読唇ネキ

苦境が続いているが、ここが踏ん張りどころだ。

気張れよ、エルコンドルパサー。

 

458:名無しのウマ娘ファン

……なあ、読唇ネキってもしかして……

 

459:名無しのウマ娘ファン

>>458 空気読め

恐らくお忍びだ

 

461:名無しのウマ娘ファン

だよねー……

 

 

 

──────────

 

 

【そろそろ】菊花賞応援スレ【師走】

 

 

28:名無しのウマ娘ファン

はい

 

30:名無しのウマ娘ファン

はいじゃないが

 

32:名無しのウマ娘ファン

いやー晴れて良かったね

 

35:名無しのウマ娘ファン

さっきまでめちゃ曇ってたのにいきなり晴れたからな

セイちゃんも「お昼寝日和だね〜」って呟いてた

 

36:名無しのウマ娘ファン

寝るなーーーっっっ!!!走れーーーっっっ!!!

 

39:名無しのウマ娘ファン

それは命がかかってる時のテンションだろ

 

42:名無しのウマ娘ファン

今日だってウマ娘の命運がかかってるだろうが

 

44:名無しのウマ娘ファン

その日、運命に出会うってか?

上手いこと言ってんじゃねえぶちのめすぞ

 

47:名無しのウマ娘ファン

情緒イカれてんのか

 

48:シルバーティーガー

なあおい、ほんとに晴れてるか?

 

51:名無しのウマ娘ファン

あら、久々やないのシルティはん

 

52:名無しのウマ娘ファン

はんなりするなら最後までやりきれや

 

54:名無しのウマ娘ファン

>>48 どこをどう見たって晴れていると思うのだけれど

 

57:名無しのウマ娘ファン

同上

 

60:名無しのウマ娘ファン

同上

 

61:シルバーティーガー

……そっか、うん、それならいいんだ

ごめん、アタシ疲れてるみてえだわ。普通に体調悪いし今日はめちゃ眠ることにするよ

 

64:名無しのウマ娘ファン

あれま

 

67:名無しのウマ娘ファン

お大事に……デビュー楽しみにしとるで

 

69:シルバーティーガー

あっごめん、言い忘れてたけど実はとっくの昔にデビューしてんだわ

ついでにシルバーティーガーも偽名な

 

71:名無しのウマ娘ファン

えぇ……(今更)

 

74:名無しのウマ娘ファン

今明かされる衝撃の事実(みなさんご存知)

 

76:名無しのウマ娘ファン

多分ここにいるやつ全員にバレてるぞ

 

78:シルバーティーガー

やっぱ話し方くらいは変えておくべきだったかー

じゃアタシは寝るから

ノンレム睡眠とレム睡眠の狭間でサーフィンしてくるわ

 

81:名無しのウマ娘ファン

普通に「泡沫の波に揺られてくる」って言えや

 

84:名無しのウマ娘ファン

>>81 なんでそんな詩的なんだ

 

86:名無しのウマ娘ファン

「ひと時の安らぎに嘶きを封ずる」とかでもええで

 

88:シルバーティーガー

熱湯サーフィンしてくる

 

90:名無しのウマ娘ファン

>>88 おいバカやめろ

せめてネットにしとけって

 

92:名無しのウマ娘ファン

そういやアレ見た?

スペちゃんの声でみんなピーンって尻尾伸ばすやつ

 

93:名無しのウマ娘ファン

あーあれね、現地で見たけど超可愛かった

 

95:名無しのウマ娘ファン

可愛いなんてもんじゃねえぞ

俺の隣にいた推定143cmくらいのウマ娘ちゃんはぶっ倒れて魂飛んでたからな

 

97:名無しのウマ娘ファン

間違いなくアイツやんけ

 

99:名無しのウマ娘ファン

>>95 私服はどんな感じだった?

 

102:名無しのウマ娘ファン

全身黒っぽかったな

 

105:名無しのウマ娘ファン

じゃあ誰なんだよそいつ

髪の色は?

 

107:名無しのウマ娘ファン

ピンクっぽいな

 

110:名無しのウマ娘ファン

リボンつけてる?

 

112:名無しのウマ娘ファン

すげえでかいのがついてる

 

115:名無しのウマ娘ファン

間違いなくアイツやんけ

 

116:名無しのウマ娘ファン

いやでも、そうだとしたらスクリプトとスペちゃんは絶対気づくだろ

倒れる時に奇声とかあげてた?

 

119:名無しのウマ娘ファン

あげてたなあ

 

121:名無しのウマ娘ファン

どんなん?

 

123:名無しのウマ娘ファン

「ひょえ〜〜〜〜〜!!!!!!!」みたいな

 

126:名無しのウマ娘ファン

間違いなくアイツやんけ

 

127:名無しのウマ娘ファン

筆頭オタク……レース本番までには起きろよ……

 

128:名無しのウマ娘ファン

そんでさ、この魂ってどうすりゃあいい?

【画像】

 

129:名無しのウマ娘ファン

それって掴めんの!?!?

 

 

 

──────────

 

 

150:名無しのウマ娘ファン

なんか……かっけえな

 

151:名無しのウマ娘ファン

そらそうやろ

みんな3,000m走り切るために死ぬ気で努力してる

 

154:名無しのウマ娘ファン

一皮剥けたっつう感じか

 

155:名無しのウマ娘ファン

それよりさ、一つ質問いいか?

 

156:名無しのウマ娘ファン

構わんけども

 

159:名無しのウマ娘ファン

スクリプトがさっきから気に食わねえって顔してんだよ

いっつも薄ら笑いを浮かべてるあのスクリプトが顔を顰めるって、何があったらそうなるんだ?

 

160:名無しのウマ娘ファン

>>159 どっちかっつうと「腑に落ちない」って感じじゃね?

 

161:名無しのウマ娘ファン

そりゃスクリプトだって一人のウマ娘なんだから不安になることくらいあるだろ

 

163:名無しのウマ娘ファン

そういや忘れてたけどまだ中3なんだよなスクリプト……

 

164:名無しのウマ娘ファン

#中3の仕上がりじゃないぞスクリプト

 

165:名無しのウマ娘ファン

#おへそを見せろスクリプト

 

166:名無しのウマ娘ファン

>>165 通報した

 

169:名無しのウマ娘ファン

ウンスの方ちょくちょく見てるな

 

170:名無しのウマ娘ファン

ってことはスカイちゃんに何か原因がある?

いやまあスクリプトが何を不思議に思ってるのか分からんけども

 

173:名無しのウマ娘ファン

……あのさ、スクリプトに関わった黄金世代って、全員『領域』発現させてるよな?もしかして、そういうことなんじゃねえの……?

 

175:名無しのウマ娘ファン

いや、スクリプトが関わってたらあんなに怪訝な顔しないだろ

むしろ逆なんじゃね

 

178:名無しのウマ娘ファン

あー、なるほどね

自分が関わってないとこで『領域』手に入れてきたから不審に思ってるとか?

 

181:名無しのウマ娘ファン

私は違うと思うけどな

『領域』かと思ったら別物だったとか、そういうことなんじゃない

 

183:名無しのウマ娘ファン

あー話しかけてんな

 

185:名無しのウマ娘ファン

もう読唇ネキここには来ないらしいからな、頑張って解読するしかない

 

186:名無しのウマ娘ファン

却『セイちゃん、なんかした?』

セ「いや?別に何も」

 

187:名無しのウマ娘ファン

ん?今口の動き方そんなんだったか?

 

189:名無しのウマ娘ファン

うん

 

192:名無しのウマ娘ファン

うーん……なんか引っかかるんだけどな

 

194:名無しのウマ娘ファン

さあそろそろスタート

 

195:名無しのウマ娘ファン

クラシックもこれで見納めだからな

目ぇかっ開いて網膜に焼き付けろよ

 

196:名無しのウマ娘ファン

最も強いウマ娘が勝つ……クラシック頂上決戦だ

 

199:名無しのウマ娘ファン

さあスター

 

202:名無しのウマ娘ファン

はあ!?!?

 

203:名無しのウマ娘ファン

え?

 

205:名無しのウマ娘ファン

えなにしてん!?

 

208:名無しのウマ娘ファン

おいおいここに来て作戦変更!?

 

211:名無しのウマ娘ファン

うわマジか今までのレース全部ブラフかよ!!

 

212:名無しのウマ娘ファン

セイウンスカイ追い込みできんの!?

 

215:名無しのウマ娘ファン

ほら前3人呆気に取られてるよ

 

218:名無しのウマ娘ファン

え?

 

221:名無しのウマ娘ファン

映像乱れた?

 

222:名無しのウマ娘ファン

いや違うな

 

225:名無しのウマ娘ファン

えなに起きてんの?

 

226:名無しのウマ娘ファン

いつの間に黄金世代の3人は最後方になったんだよ

 

228:名無しのウマ娘ファン

全員一斉にウンスの方見たってことは……

 

229:名無しのウマ娘ファン

これ全部、ウンスの仕業ってことっすか?

 

231:名無しのウマ娘ファン

うーわスクリプトキレてる……

 

232:名無しのウマ娘ファン

空間歪んでんじゃねえか

どんな威圧だよそれ

 

235:名無しのウマ娘ファン

で、なんでその威圧は3人に効いてねえんだよ

 

237:名無しのウマ娘ファン

慣れたんじゃ?

 

240:名無しのウマ娘ファン

慣れるもんなのか……

 

243:名無しのウマ娘ファン

うわめっちゃ話すじゃん二人とも

息続く?

 

245:名無しのウマ娘ファン

続いてるねぇ

 

248:名無しのウマ娘ファン

無理だこれ

解読とかできねえよ

 

251:名無しのウマ娘ファン

お互い早口で話してるからな、こんなん素人の俺らじゃあ無理だ

 

253:名無しのウマ娘ファン

えっいや、めっちゃ話すじゃん

 

254:名無しのウマ娘ファン

キングとスペちゃんも困惑しとる

 

255:名無しのウマ娘ファン

なんならウンスも困惑してるんやが

 

258:名無しのウマ娘ファン

えまだ話す?

 

259:名無しのウマ娘ファン

過去一喋ってんだけど

 

260:名無しのウマ娘ファン

あっスクリプトの言ってること一つだけ分かったわ

『マイナスがうんたらかんたら』って言ってる

 

263:名無しのウマ娘ファン

本当やんマイナス連呼しとる

 

264:名無しのウマ娘ファン

ってことは『領域』とはまた違うんか

 

265:名無しのウマ娘ファン

えー……でも雰囲気はスクリプトに近いし、マイナスとかいうやつだと思うんだけどなー

 

268:名無しのウマ娘ファン

何かキングとスペちゃんも話しながらどんどん前行ってる……

 

270:名無しのウマ娘ファン

おい誰だ最も強いウマ娘が勝つって言ったやつ

あちこちでお話ししてるだけの井戸端会議じゃねーか

てかなんであのスピードで前に進みながら笑顔でお話できるんだ

 

273:名無しのウマ娘ファン

さすが皐月賞ウマ娘とダービーウマ娘やな

 

 

 

──────────

 

 

308:名無しのウマ娘ファン

やっっっと話し終わった?

 

311:名無しのウマ娘ファン

あの……2,000mくらい話続けてたんですけど……

 

314:名無しのウマ娘ファン

アホすぎる

 

316:名無しのウマ娘ファン

こんなレース見たことねえよ

 

317:名無しのウマ娘ファン

セイちゃん顔真っ赤でかわゆ

 

320:名無しのウマ娘ファン

あでも力抜けてるな

レース中とはいえ、お話でリラックスできたみたいでよかった

 

322:名無しのウマ娘ファン

>>320 ?????

 

325:名無しのウマ娘ファン

レース中にお話でリラックスとかいう戯言めいたパワーワード

 

327:名無しのウマ娘ファン

 

329:名無しのウマ娘ファン

はあ?

 

331:名無しのウマ娘ファン

何回驚くことになるんだろう

 

334:名無しのウマ娘ファン

なんでハナにいんだよウンス

 

335:名無しのウマ娘ファン

てか何

 

336:名無しのウマ娘ファン

いきなり曇ってんだけど!?

 

338:名無しのウマ娘ファン

あーこれか、スクリプトが気にしてたの……

 

339:名無しのウマ娘ファン

実況バグってて芝

「もう何が何だか分かりません!」じゃねーんだわ

 

340:名無しのウマ娘ファン

実際分からんし……

 

343:名無しのウマ娘ファン

うわスクリプトの『領域』も来た!

 

346:名無しのウマ娘ファン

どんどん後ろの子たち呑まれてんだけど

 

347:名無しのウマ娘ファン

前は前でやべえな……何であと800mでそこまで必死に?

 

348:名無しのウマ娘ファン

後ろから呑まれればワンチャン即負け確定のマイナスが来てるからな

そりゃ今のうちに引き離しておきたいだろ

 

350:名無しのウマ娘ファン

なるほどね、ありがと

 

352:名無しのウマ娘ファン

うわやば追いつかれる

 

353:名無しのウマ娘ファン

おい早すぎだろたかだか300mで何人抜いて来た!?

 

356:名無しのウマ娘ファン

14人抜き……お前どこがマイナスなんだよ

 

357:名無しのウマ娘ファン

うわ最悪や呑まれた

 

360:名無しのウマ娘ファン

あやべ

 

362:名無しのウマ娘ファン

キング!?

 

364:名無しのウマ娘ファン

うわあそこから持ち直すか……

 

366:名無しのウマ娘ファン

一瞬諦めてた?

 

367:名無しのウマ娘ファン

けどすぐに復帰したな

精神強すぎる

 

368:名無しのウマ娘ファン

『君が悪くて』『いい気味だ。』

天才かよ

 

369:名無しのウマ娘ファン

が、しかし……キングヘイロー、折れない……ッ!!

 

371:名無しのウマ娘ファン

かっけえな、眩しいわ

 

372:名無しのウマ娘ファン

罅入った!来るぞ!

 

373:名無しのウマ娘ファン

来た!来た!キングが来た!

 

375:名無しのウマ娘ファン

一々言うことかっけえな

 

377:名無しのウマ娘ファン

え、スペちゃん白くなっとる!?

 

379:名無しのウマ娘ファン

これあれか、『負完全』と完全に同じになるとかいうあれか!

 

382:名無しのウマ娘ファン

なるほど、スクリプトと完全に同じになるから『領域』のデバフが効かなくなるのか!!

 

384:名無しのウマ娘ファン

本人には『領域』の負荷は掛からねえのを使ったのか

意外と頭いいな

 

385:名無しのウマ娘ファン

ここで罅!?!?

 

386:名無しのウマ娘ファン

おいまだ誰も抜かしてないだろ!!

 

388:名無しのウマ娘ファン

いや、違う

いつもの『領域』じゃねえぞ

 

389:名無しのウマ娘ファン

何だこれ

何なんだよこれ

 

392:名無しのウマ娘ファン

荒野?

 

394:名無しのウマ娘ファン

全部、空に吸い込まれてる……

 

395:名無しのウマ娘ファン

足元ガタガタになってるから無駄なスタミナを使わされる……ウンスにとっては地獄みてえな環境だな

 

398:名無しのウマ娘ファン

白スペちゃんの削りとキングの王威、そんでスクリプトのマイナス……誰が走れんだこんな所で

 

400:名無しのウマ娘ファン

ウンス、踏ん張れ!!

 

401:名無しのウマ娘ファン

やばいあと少しなんだよ頼むマジで頑張ってくれ

 

403:名無しのウマ娘ファン

……セイちゃん、何か変わったか?

 

406:名無しのウマ娘ファン

マジ?ここで?ここに来てあるのか!?『領域』!!

 

409:名無しのウマ娘ファン

限界超えろ!!!!

 

410:名無しのウマ娘ファン

来た!!罅入った!!来るぞ『領域』、来やがるぞ『領域』が!!

 

412:名無しのウマ娘ファン

罅だけじゃねえ、景色も割れてる!!

 

414:名無しのウマ娘ファン

海……釣り好きなセイちゃんっぽいね

 

415:名無しのウマ娘ファン

やべえ

推しの努力が報われて泣きそう

 

418:名無しのウマ娘ファン

>>415 まだ涙はとっておけ

それに、俺の推しはこんなことじゃあ諦めねえよ

 

420:名無しのウマ娘ファン

>>418 かっけえなお前

 

422:名無しのウマ娘ファン

おいおい、四人全員の罅繋がってんだけど

 

425:名無しのウマ娘ファン

うわなんだこれ

 

426:名無しのウマ娘ファン

『領域』の相殺だよ

『領域』同士がぶつかり合った時、同じ強さならこうやって相殺して、その後全員の『領域』が消える

 

429:名無しのウマ娘ファン

つまり、こっからは自力の勝負……

 

430:名無しのウマ娘ファン

分かんねえ!まだ分かんねえぞ!

 

432:名無しのウマ娘ファン

行けキング!適正の壁ぶっ壊してくれ!!

 

435:名無しのウマ娘ファン

スペちゃんまた『領域』!?

別の『領域』は出せるのか!!

 

436:名無しのウマ娘ファン

負けるなスペシャルウィーク!!!

 

439:名無しのウマ娘ファン

逃げ切れ、セイウンスカイ!!

 

440:名無しのウマ娘ファン

ゴールした!!

どっち先だ!?

 

442:名無しのウマ娘ファン

……やべ、涙止まらん

 

445:名無しのウマ娘ファン

ウンス一着やったーーーー!!!!!!

 

447:名無しのウマ娘ファン

やったセイちゃんの勝ちだあああああああ!!!!

 

448:名無しのウマ娘ファン

綺麗に3人で分け合ったなあ

 

450:名無しのウマ娘ファン

あー実感湧いてきてセイちゃん泣いとるわ

 

451:名無しのウマ娘ファン

いつもの飄々としてるセイちゃんもいいけど、感情抑えきれないセイちゃんも最高

 

453:名無しのウマ娘ファン

それにしても、これで黄金世代でG1取ってないのはスクリプトだけになったわけだが……

 

454:名無しのウマ娘ファン

なんか気づいたらG1奪ってそうで嫌だ

 

456:名無しのウマ娘ファン

スクリプトも是非G1目指して頑張ってほしい

 

459:名無しのウマ娘ファン

何はともあれ、ウンスが報われてよかったよマジ

 

462:名無しのウマ娘ファン

今年は最高だった……

 

463:名無しのウマ娘ファン

まだ終わってねえぞ

現役最強と名高い奴らが天皇賞(秋)で俺たちを待ってる

 

464:名無しのウマ娘ファン

初めて生でレース見に行くわ

目の前でスズカ見るの楽しみ

 

 

 

──────────

 

 

『へえ。物好きなやつもいたもんだね。』

 

「ああ、私もつくづくそう思うよ。君は日頃からファンを煽るようなことばかりするが……それでもしかし、君のその仄暗い生き様は、多くの人々を魅了している」

 

ルドルフはスクリプト(球磨川)をわざわざグラウンドまで呼び出し、菊花賞までの掲示板を見せてそう言った。

 

『ところで、ルドルフちゃん。このためだけに僕を呼んだのだとしたら、ジャージに着替えた意味が無いと思うんだけど──。』

 

スクリプト(球磨川)がそう言った次の瞬間、スクリプト(球磨川)はいつぞやのように、芝の上に押し倒された。

 

『うーん、デジャヴを感じる構図だが……あの時とはまるでプレッシャーが違えな。並のウマ娘なら君のそのプレッシャーだけで心が折れてしまうと思うんだけど。』

 

「お前だからやっているんだ、スクリプト。あんなものを見せられて、皇帝たる私が黙っていられるとでも?さあ、さあ、さあ、走ろう、共に走ろう、スクリプト。いつまででも走り続けられる()()にしかこんなことは頼めないのだ」

 

『……そういうことなら、まあ仕方ないね。しょうがない、可愛い友達の頼みだ!君が飽きるまで、夜が明けるまででも付き合ってやるさ。思い切りその鬱憤をぶつけてこいよ、ルドルフちゃん。その鬱憤をなかったことにしてやるぜ。』

 

〈皇帝〉シンボリルドルフとはいえ、一人のウマ娘。昂ったレース欲を鎮めるには、心ゆくまで、地の果てまで駆けて行くしか無いのだ。

 

「恩に着る……では、スクリプト。行くぞ」

 

『はいはい。全く、皇帝様は人使いが荒いなあ。』

 

故に、〈皇帝〉なのだが。





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