怖いウマ娘じゃないよ……多分 (但野ミラクル)
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転生したら怯えられている件

 気づいたら転生していた。最初は驚いたものだ。何せ目が覚めたら子供になっていたのだから。

 目線は低いし、声はやけに高いなくらいに考えて鏡を見て子供になったのだと認識した。まあ、最初は混乱して頬をつねったり辺りを見渡したりしたが徐々に落ち着いた。

 しかし、問題が三つ程あった。一つ目は自分がいるところが孤児院であること、二つ目は転生したのが人間ではないこと、最後に何故か人を威圧してしまうことである。

 転生したと気づいたのは私が転生して五才になったときだったのだが、どうやらその間に捨てられたらしい。

 ……まさか転生したと思ったら捨てられるとはね。いや、精神年齢は高いのでそこまでショックではないけど、聞いたときまじかとは思った。まあしょうがない話ではある。どこにでもそういう話はあるのだ。見えないだけで。

 二つ目の人間ではないというのはそのままのことを言っている。馬と人間の特徴が合わさったような生物に転生してしまったようだ。その生物の名前はウマ娘。馬の耳、しっぽ以外は人と同じという不思議生物である。燃費は人より悪いが人の何倍も力があるようだ。私以外にもかなりの数いる種族らしい。生命って不思議だなぁ……。ウマ娘には耳やしっぽ以外にもレースや走ることが好きという特徴があるらしい。しかもそのウマ娘のレースはこの世界においてトップクラスで人気のスポーツみたいだ。改めて不思議な世界である。ちなみに名前は親がつけるのではなく本人がある程度知識を得てきたら勝手に降りてくるらしい。私もある日突然、自分の名前がデゼスプワールというものだと認識した。……ウマ娘の存在ファンタジー過ぎませんか?

 最後の威圧してしまうことだが、これが一番の問題だ。何故か人を威圧してしまうのだ。それも無意識に。最初から周りの孤児の子に避けられているな、とは思っていたが……孤児院の院長から私が皆を威圧していると聞いたときに始めて意識した。意識すればある程度抑えることはできるようで、院長からもましになったとは言われた。それでも他の子からは避けられているみたいだけど……それは仕方ない。一応話しかけてくれる子は何人かいるから寂しくはない。誰だって威圧している子に近づきたくはない。一応威圧しないように色々努力はした。表情が柔らかくなるようにしたり威圧してしまう理由を考えて対策を取ったり本当に色々。でもましにはできても、ゼロにはできなかった。もう最近は若干抑えることを諦めている。

 まあそんなこんなで色々問題があったのだが、十二までは比較的平穏な日常を送れていた。大きく変化したのは十四歳になってからだ。

「トレセン学園に入学……ですか?」

「ええ、試験だけでも受けてみないかしら」

 ある日院長からトレセン学園への入学を薦められた。

 トレセン学園とはウマ娘が行うレースのために作られた学園のことでこの学園に入るだけでも難関といわれる場所である。入れればそれだけでも就職に有利になるとまで言われている。……何でそんなところに私を薦めるんです?

「デゼスちゃん、野良レースでも成績よかったでしょう? それがお偉いさんの目に止まってスカウトされたのよ。奨学金の制度も整っているらしいからどうかなって」

「ええ? いやでもそもそも合格できるかどうかすら分からないんですよ?」

「大丈夫よ、デゼスちゃんは頭もいいし、レースのタイムもいい。受かると思うわ」

 確かに近くの図書館とかで勉強していたからこの世界での常識も知っているし前世がある身からしたらある程度はできる。レースもできはする。でもそれだけだ。

「いやでも」

「受験費用も大丈夫よ。デゼスちゃんが私たちの手伝いしてくれていたからちょっと余裕もあるの」

「え」

 いやそこは忘れてましたけど、受験費用のことも既に解決させているということは私を本気でトレセン学園に通わせるつもりか。

「……どうしてそこまで」

「デゼスちゃんには苦労ばかりかけていたでしょう? 料理、洗濯、掃除、買い物、避けられながらも小さい子たちの面倒を見たり、会計の手伝い、DIY、その他諸々。正直この子ここじゃなければいい学校にも通えたし、大企業にも入れると思ったことが何回もあったわ」

 いやなんか避けられるから色々やっていただけなのですが。

「苦労とは思ったことないですよ。やりたかったからやっただけで」

「そう言う気はしていたわ、でもあなたはトレセン学園でも活躍できると思う。できなくても入学したというだけでも話題にはなるから募金するときの文句としてかなり有効なのよ。どちらにしても問題ないわ。あなたにしても入学できたというだけでプラスになると思うの」

 ……私の性格を見越して外堀を埋めてきた。私が通っても問題なくむしろ利点しかないと。

「本当にいいんですか?」

「行ってほしいと思ってるわ」

 真剣な院長の顔を見て私も真面目な顔を作る。

「分かりました。受験します」

 

 

 

 

 トレセン学園。そこはエリート中のエリートしか入ることができない場所である。

「ふぅー」

 その学園の教室で私は他の受験生の子と一緒に今テストに回答を記入していた。

 うーむ。結構解けるな、これ。流石に転生前の知識と今世での努力を合わせたらいけるようだ。後はレースと面接だな。頑張ろう。

 

 

 

 そう思い望んだレースと面接だったのだが、レースは何故か私以外の子が終盤バテて一気に抜き去ってゴールできたし、面接ではウマ娘の方に一瞬睨まれてしまったがそれだけだった。……なんかおかしい気がする

が……。まあ、後は結果を待つだけだし、気にしないでいいか。

 

 

 それから数ヶ月後

「……! 受かった。受かりましたよ。院長!」

「デゼスちゃん、やったわね。おめでとう」

 トレセン学園から合格通知が来た。

 よかったー。ぶっちゃけレースで他の子に勝てるか分からないけど入れるなら入った方がいいからね。トレセン学園以上に奨学金制度とかが整っているところこの世界ではほぼないからね。一安心である。

 

 ……それまではよかった。その後もレースには勝てたし、勉強も問題はなかった。なかったんだけど、それ以外、例えば人間関係とかは問題しかなかった。

「……」

「……」

「……」

「……」

 ……めちゃくちゃ避けられてる。目も合わされない。確かに威圧してしまうのは申し訳ないとは思う。でも今はある程度制御できるし威圧感もそんな出てないはずだからここまで避けられることはないと思うのだけどなあ。いや心当たりはあるよ?菊花賞とかのゴタゴタとかね。でもそこまで避けなくてもいいと思うんですが!?

 ……まあ、誰一人友達がいないわけではないからいいけどさ。例えば――

「あっ、デゼスさーん。お昼一緒に食べない?」

 噂をすれば影を差すとはよく言ったものだ。ちょうど今思い浮かべた人物が私の方へと、とことこと歩いてきた。

「ライスさん。ええ、是非」

 私はライスシャワーに返事をすると鞄から弁当を出す。

「……デゼスさん。足の調子はどう?」

「悪くはないと思います。完治したらトレーナーと復帰レースを決めることになるでしょう」

「そっか、いつかはまた走りたいね」

「……ええ、是非」

 私はライスシャワーの言葉に頷く。菊花賞を勝利したウマ娘ライスシャワーの言葉に。

 

 

 

 

 

 

 

ライスシャワー視点

 その人を最初は怖いと思った。目付きが悪くこちらを威圧するから怖いとしか思えなかった。その印象が大きく変わるきっかけは二回あった。一回目は私が流行りのスイーツ店に行く途中で道に迷ったときだ。

 私はその日普段行かない場所に行ったせいか迷ってしまった。ウマホも運悪く充電が切れてしまい周りをあたふたと見回すことしかできずにいた。

「……あの、大丈夫ですか?」

「え? あっ、デ、デデデデデゼスプワールさん!?」

「ええ、デゼスプワールです。名前覚えてくれていたんですね。ライスシャワーさん」

 覚えているに決まっていた。忘れられるはずがない。何せ顔が怖く、何か怖いオーラを撒き散らしているのだから。一度名前を聞いたら忘れられない。しかも名前が名前だ。名前まで怖そうだ。しかも同級生なのだから覚えないわけがない。

「あの、もしかして何か困ってますか? キョロキョロとしてらしたのでどうしたのかと思いまして」

「ええっと、その最近流行りのスイーツの店に行こうと思ってたんだけど迷っちゃって」

「もしかしてこの店ですか?」

 デゼスプワールは自分のウマホを見せて来た。そのウマホに表示されていた店は確かに探していた店の名前だった。

「そう! この店!」

「……私もこの店を探していたのでよければ一緒に行きませんか?」

「えっ、いいの?」

「ええ、構いません」

 そうして案内してもらったのが仲良くなるきっかけだった。怖い印象はなくなり、優しい人なのだと思った。

 ちなみにデゼスさんが甘いものはそこまで好きではないと知ったのは大分後になってからだった。

 二回目は私が菊花賞で勝ってしまった(・・・・・・・)ときのことだ。デゼスさんはそのとき怪我をしていたから菊花賞には出られなかった。デゼスさんには、あなたと菊花賞で一緒に走りたかったと言われたけど私も同じ気持ちだ。セントライト記念や京都新聞杯で私を負かし制覇したデゼスさんとは走りたかった。とても強い走りをしたデゼスさんに勝ちたかった。

 だからせめて私が勝つ姿をデゼスさんに見せたかった。私の走りを見せたかった。だから全力で走った。

 そして私は勝った。勝ってしまった(・・・・・・・)

「あーあ、俺はミホノブルボンが勝つところを見たかったのに」「ふざけんな」「邪魔するなよな」

 ……私と同じく菊花賞を走っていたミホノブルボンさんはとても期待されていた。とても栄誉な無敗のクラシック三冠を成し遂げるのではないかと期待されていた。そして私はそのブルボンさんに勝ってしまった。本来与えられる称賛はなく、罵声しか浴びせられない。何故私は責められているのだろうか?勝ったのに何故落胆されているのだろうか?私は――

「「「「「「「「「「「」」」」」」」」」」」

 あれ?突然静かになった。

 先程まで自分に罵声を浴びせていた観客は一様に黙ってしまった。まるで何かに怯えているように。恐れているように。

 観客は何故か固まっていた。表情を暗く、いや顔が蒼白になっている。視線の先には――目付きが悪いウマ娘がいた。

「ライスさんー! おめでとう!」

 そのウマ娘が叫ぶ。会場が静かになっていたとはいえライスにしっかりと声が届くほどの声量で。

「デゼスさん……っ」

 気づけば私の目からは涙がこぼれ落ちていた。でもこれは悲しみのものではなかった。そう、決して悲しみのものではなかった。

 

 

 その後ウィンニングライブで私を無視するような扱いを受けそうになったが、そこでも一人とても私を全力で祝ってくれる人がいたから私は逃げずにいられた。もし彼女がいなければ、私はどうなっていたのだろうか。レースから去っていただろうか。絶望していただろうか。今となっては分からない。

 

 

 

 今となっては怖いと思っていたことがとても申し訳ないと思う。こんなに優しい人なのに避けてしまっていた。

 まだこの人の優しさを知らない子はいっぱいいる。すぐには無理かもしれないが、いつか分かってもらえる日が来ると思う。だってこの人は太陽のように温かく優しい人だから。

 

 




本編で書かれない設定
・威圧感
相手を威圧する能力。転生時に特典として無理やり与えられた(本人知らぬ内に)
能力としては純粋に威圧することに尽きる。意識していないと勝手に周りを威圧してしまう。意識すると制御できるが、感情が高ぶると制御しにくくなる。主人公が捨てられたのもこの特典のせい。特典とは一体……。
意識すれば比較的自由に使えるので自分が威圧していると自覚できればそこまで日常には支障をもたらさない。(威圧がゼロになるわけではない)威圧は主人公の中心を威圧し続けるタイプだが主人公が認識し威圧しようとすれば好きな相手を威圧できる。一点に威圧することも可能でその場合周囲にばらまく場合よりもめちゃくちゃ強く威圧できる。主人公が本気で威圧すれば生物のほとんどは気絶させられる(ばらまくタイプで)。悪用しようと思えばレースだろうと犯罪だろうとなんでにも使える。というよりほぼそれしか使えない。呪いに近い能力。世界を混沌に陥れることも可能な能力。幸か不幸か主人公はこの能力を多様しないため秩序は保たれたままである。



デゼスプワールの意味 フランス語で絶望の意


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就活は大変

「……どうしよう」

「デゼスさんどうしたの? そんなに浮かない顔して」

 トレセン学園の中庭で私が空を仰いでいるとライスさんが話しかけて来た。

「……就職が」

「え?」

「就職できてないんです、どこも一次選考で落ちてしまって」

「え?」

 私の言葉にライスさんは首を傾げ、頭を軽くかいた。

「……一次で?」

「……はい」

「え? デゼスさん面接練習もしっかりとしてたし、志望動機から長所短所まですらすら言えたよね?」

「……はい、もうどうしたらいいのか」

「もう2月だよ!? え? 本当にどうするの?」

「……どうしよう!? 実家なんかないし頼れるところがないです」

 本当にどうしよう?とりあえずバイトとかで時間を稼ぐしかないか?

「え? でもデゼスさん、レースの賞金あるよね。まだ余裕あるんじゃ」

「……」

「え? もしかして使いきった?」

「いえ、そこまでではないのですが、世話になった孤児院にほとんど送ってしまってます」

「デゼスさんらしいね、でもどうするの? お金あまりないんだよね?」

「……はい、それでもしばらくは一人暮らしはできる位は残していますが」

「うーん、トレセン学園を卒業したらしばらく私の家に来る?」

「……本当に困ったらそうさせてもらいます。流石に最初から人に頼るのはちょっと抵抗が大きすぎます」

 ライスさんは、そう?と首を傾げていたが人に甘えるのは基本的に避けたい。

「んー、それならとりあえず誰かに相談してみれば? ゼデスさんを怖がらない人に、就職しなくてもお金を稼げる方法を」

「……そんなのありますかね」

 

 

 

「あるよ」

「本当ですか!? タキオンさん」

 トレセン学園にあるアグネスタキオン専用の研究室であっさりと答えたタキオンさんに私は問うた。

「まあ、簡単な話さ。君も強いウマ娘だったのだからファンはそこそこいる。ならそのファンからお金を取ればいい」

「それはファンクラブとかそういうことですか?」

「それもありだが、そうじゃない。動画投稿だ」

「動画投稿……」

 自信満々に答えたタキオンさんに私は疑問を投げ掛ける。

「それはかなり無謀では? 私は動画編集技術も面白い構成を考える技術もありませんよ?」

「うん、それは大丈夫だ。私の知り合いにそういう(・・・・)ことが得意な子がいる」

 

 

 

 

 

 

「という訳で頼めないかな、デジタル君」

「ヒョエエエエ!? タ、タキオンさん!? デゼスプワールさんを連れて来たんですか?」

「うん。君なら彼女を怖がらないと思って」

「そりゃあ、デゼスプワールさんを怖がるなんてことは全然ないですよ。めちゃくちゃ優しい人だと見てればすぐ分かりますし、でも私が会うなんて恐れ多いですよ」

「どっちだい」

「ええっと、アグネスデジタルさん、なんかすいません」

「うっひゃあ、顔が、顔がよすぎる……」

 私が顔を近づけるとアグネスデジタルさんは倒れた。

「……えっとどうすれば」

「とりあえずしばらくベッドで寝かせてあげようか」

 

 

 

「という訳でウマチューブの動画作る手伝いを頼みたいんだ」

「……話はわかりましたけど私ではあまり役に立たないと思いますよ?」

「いやいやデジタル君の発想や技術は大変役に立つものだよ、それに他に宛があまりない。シャカール君はやってくれそうにはないし」

「いやでも他に方法はないんですか、フリーランスとかお金があるなら投資も可能だと思いますよ? そもそもデゼスプワールさんは動画投稿をする気はあるんですか?」

 アグネスデジタルさんの言葉に対し私は首をひねる。

「……動画投稿にこだわるつもりはないですが、死にたくはないのでやれることはやりたいと思ってます」

「……なるほど、わかりました。そういうことなら私も全力で協力させていただきます!」

 デジタルさんは私の目をまっすぐ見て言った。

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、視聴者の皆さん、デゼスプワールです。どうぞよろしくお願いします」

 デジタルさんのつてで何とか撮影メンバー、スタッフが集まり、動画撮影は行われていた。基本はゲーム実況を行い、サブチャンネルでたまに別ジャンルを行ってマンネリ化を防ぐという形で投稿していくことになった。

 最初は撮影スタッフの人たちに怯えられていたが、なんだかんだあって慣れられたみたいで今では割りと気さくに接してきてくれるようになった。嬉しい。

 

 

 

 

アグネスタキオン視点

 

 

そのウマ娘を知ったのはいつだっただろうか。確か風の知らせで聞いたのだと思う。

「誰彼構わず威圧するウマ娘か」

 噂というものは大抵どこかで歪む。例えば顔が怖いからそれを見た人が威圧されていると感じても威圧的だという噂は立つ。本人がそんな気がなかったとしても周りは威圧的だと思ってしまう。だからその話をあまり信じていなかった。

「まさか、本当とはね」

 別に怖いとは思わないが、威圧されているとは感じる。いやはや大分奇妙な感覚だ。彼女を見ていると動き辛い。しかも本人は意識して起こしているようには思えない。何せ、私は彼女の死角から観察しているのだから。どこにいるか分からない相手を威圧なんてできない。つまりこの威圧は本人の意識に関係せぬところで働いていることになる。

「実に面白い」

 私はデゼスプワールを見て口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

「あのアグネスタキオンさん? 私に何の用事でしょうか?」

「いや、実はお願いしたいことがあってねえ」

 私はデゼスプワールが中庭で暇そうにしていたところへと声をかけていた。

「私にですか?」

「そう、実は足の負荷とホルモンの関係を調査していてね、協力してほしいんだ」

「なるほど、私でよければ協力させていただきます」

 彼女はコクリと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、ちょっとお人好しが過ぎないかねえ」

「くぅくぅ」

 私の目の前には疲れからか眠ってしまったデゼスプワール君がいた。

「いくら何でも、ここまで協力的だと私でも心配になってくるものだねぇ」

 彼女は私が薬を飲んで欲しいといえば飲むし、体液のサンプルが欲しいといえばすぐに採取させてくれる。なんでこの子はこんなに怖がられているのか不思議でしかない。

「……この子、色々苦労しそうだねえ」

 私は寝ているデゼスプワール君を見てそう言うしかなかった。

 

 

 

 

 

 ……心配していたことは現実となった。なんとデゼス君が就職できずに困っていた。レースで勝って得た賞金は大半を孤児院に送ってしまったらしい。……もうその孤児院で雇ってもらったら?と言いたくなったが、彼女は嫌がりそうだし、本当にどうしようもなくなったらその時助言することにしよう。

 



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ウマチューバーデゼスプワール

長らくお待たせしました。いや本当にすいません。


「ということで今回はマリアカートをやっていきたいと思います」

 私は今私の部屋でマリアカートというゲームをしていた。マリアカートは名の通りカーレースをするゲームである。元々はマリアシスターズというゲームが元でありその派生であり、マリアシスターズのキャラクターでアイテムを使ったりしてレースで一位を目指すことを目的としたものだ。……前世でもこんな名前のゲームがあったことを考えると、あのゲームを作った人がこの世界では何らかの影響で製作者がマリアというキャラクターでゲームを作ろうと思ったのだろう。まあ前世ではやったことなかったから憶測なのだが。

 このゲームは認知度、ゲーム人口ともに高いゲームでゲーム実況にはもってこいのためこのゲームで実況を行うことにした。やっぱりビッグタイトルは強い。まあ、その分他の人もやっているから視聴者の奪い合いみたいになってしまう一面もあるから、一概にどれがいいともいえないのだが。

 まあ、それはともかくこのマリアカートをプレイしているのだが――

「え、デゼスプワールさん。なんでこんなに壁にぶつかるんですか?」

「……なんででしょう?」

 スタッフの人とレースをしていたのだが、十戦中全敗した。ハンデとかは負ってもらっているのにそれですら負ける。何故かコーナーですごく壁にぶつかる。

「まあ、練習したら何とかなりますよ、多分」

「……頑張ります」

 その日私は30戦レースを行った。 

 全敗した。

 

 

 

 

「うぐぐぐ」

「悔しがりすぎだよ? デゼスさん」

「でもライスさん、全敗ですよ? 全敗。いくらなんでも弱すぎじゃないですか。私」

「いや、最初は皆そうだよ、デゼスさんも少しずつ強くなれるよ」

「ライスさん……。ありがとうございます。私頑張ってみます」

「……でも弱いデゼスさんも見ていて安心するけどね」

「……どうしてです?」

「だって、デゼスさん完璧にすぎるところがあるからちょっと苦手なことがあるってわかったらちょっと親近感が湧いてくるというか、私と同じところがあるんだなあって実感できるの」

「……私はそんなに強い訳ではないですよ」

「知ってるよ」

 ライスさんは私を見て静かに笑った。

「だって、それも見てきたもん。でもそれはそれとしてもっと見たいな。だってデゼスさんは隠しちゃうから、弱味とか無茶を」

「……う」

「もっと頼ってよ、ライスはもらってばかりだよ? 少しは返させてよ」

「え? いやいやもう十分もらっていますよ? むしろ返すのは私のほうじゃないですか?」

「……そういうところだよ」

 ライスさんはため息を吐いた。

 

 

スタッフ視点

 

「なんでデゼスさんはこんなに弱いのでしょうか?」

「さあ? なんでだろうね、レースとかで判断能力は培われているだろうから本当に不思議なんだよね」

 編集の作業をする部屋でアグネスタキオンさんと私は話をしていた。本来ならエリート中のエリートであるアグネスタキオンさんと話す機会などないはずなのだが最近色々あって会話するようになっていた。……デゼスプワールさんやアグネスデジタルさんと話していた時点で今更感はあるが。

「単純にゲームに慣れていないのかもねえ」

「……慣れてないですか?」

「ああ、デゼス君は孤児院出身らしくてね。……ああ、本人も隠していないから聞いても大丈夫さ。本人からも許可はもらっている。それに別に言いふらさないだろう?」

「それはそうですけど……」

 それでも個人の過去というのは容易に踏み込んでいいものではないから抵抗はある。

「まあ、そこまで困窮していた孤児院ではないみたいだけどゲームは置いてなかったらしい。だからゲームを触るのにはちょっと不慣れみたいだ」

「だからですか」

「みたいだね。その代わりゲームの操作に関係ないゲームなら強いよ」

「……どんなゲームですか?」

「色々さ、H&B、ポーカー、将棋どれも強かった、私は何回も負けた」

「え」

 私は呆然とアグネスタキオンさんを見る。アグネスタキオンさんとはその手のゲームを暇潰しにしたことはあったがめちゃくちゃその手のゲームが強かったはずだ。少なくとも私は全敗した。

「いやあ、自信はあったんだがねえ。かなりぼこぼこにされてしまったよ。悔しくて悔しくて鍛え直したぐらいね」

「ええ……」

「今度皆でポーカーでもしてみようか。罰ゲームとかの要素を入れたら動画になると思うよ」

「なるほど、皆さんに提案はしてみてもいいかもしれませんね」

「……ちなみにだが私も参加していいかい」

「え? ……いやむしろこちらからお願いしたいくらいですけど、いいんですか?」

「ふふ、リターンマッチもできるしデゼス君の手伝いが両方できるからね。効率的だろう?」

 アグネスタキオンさんは口元を手で隠しながら笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 ここまで差が出るものなのか。私はそう思った。

 スタッフ二人と特別出演のアグネスタキオンさん、デゼスプワールさんの四人でポーカーをしてみた結果、アグネスタキオンさんとデゼスプワールさんが全体の9割のチップ(もちろんおもちゃだ)を所有することとなった。……いやここまで露骨に差が出るものなのか。完全に二人の対決になってしまっている。

 アグネスタキオンさんもデゼスさんもめちゃくちゃ本気だ。アグネスタキオンさんは口元は緩んでいるけど目は全く笑ってないし、デゼスさんは無表情でアグネスタキオンさんを見ているし非常に怖い。

 特にデゼスさんの触れ幅は大きすぎる。得意なものと苦手なものの差がとんでもない。

「フルハウス」

「フォーカード」

「……負けか」

「タキオンさんの相手は怖すぎますよ、どんな手が来るか予想できませんから」

「……君がそれを言うかい?」

 どっちもどっちである、とは言えないが、私たちスタッフでは力不足である。ある意味役不足ともいえるが。

 どちらも強すぎる。アグネスタキオンさんがロイヤルストレートフラッシュを出したときなんて目を疑った。まさか生きているうちに目の前でそんな手を見ることになるとは思わなかった。嘘でしょと言いそうになった。

 

 

 

 

 なおその後めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしたタキオンさんとこれは無理とでも言わんばかりにデゼスさんか笑っているところが撮れた。こんなのファン垂涎の動画である。許可をもらえたら今回の動画のサムネイルにしようと思う。

 

 

 

 ……余談だが、H&Bをスタッフやタキオンさんたちとした場合一番強いのはデジタルさんだった。何でも相手の顔を見ればなんとなく選んだ数字が分かるらしい。流石にタキオンさん、デゼスさんでも一発で当てられては対処のしようがなかったようである。それでも二人とも1H2Bまでは一発でもいけることがある辺り本当に敵わないが。……ここのメンバー、超人、いや超ウマ娘が多くないだろうか?

 




作品コソコソ噂話
自分で名前付けたのに登場人物の名前を素で間違える作者がいるらしい。
……皆は覚えやすい名前を登場人物に付けようね。冗談抜きで苦労するから。

あとデジタルは何故か書いていく内にこんな超ウマ娘になってしまった。なんでだろうなあ?


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ifルート もし能力を使わざるを得なくなったら

唐突にこの話を思い付いたので勢いで書きました。若干きつい描写もあるかもしれないのでご注意下さい。


 そこには屍があった。

 絶望があった。

 全戦全勝。それは栄光だった、他のウマ娘を蹂躙し、壊した事に目を瞑れば。

 悪意はなかった。善意があった。それが悲劇だった。

 

 

「院長の調子はどう? ……手術は成功したのは知っているけど、やっぱり心配でね。……そう良かった。お金が間に合って安心したよ。……戻ってこい?無理だってば。私は罪を犯しすぎた。……別に規則違反はなかっただろって? ……なくてもやったことはやったことだ。……分かったよ。本当に困ったら頼らせてもらうよ」

 ピーという音とともにウマートフォンの画面に通信終了の文字が表示された。デゼスプワールははぁ、と息を吐く。

「デゼスさん、今いい?」

「……ライスさん。何かご用ですか? ……私の恨みつらみなら個室で聞きますが」

 タイミングを見計らっていたのか、デゼスプワールが電話を切った直後にライスシャワーがデゼスプワールに話しかけていた。

「……そんな話じゃないよ。ある意味そうだけどね。もっと私はあなたと走っていたかったよ、デゼスさん」

「……でも私はたくさんの夢を奪ってしまいました。走る資格は……」

「デゼスさんは何も悪いことしてないよ! ただ本気で走っただけ! それは一緒に走った私が一番知っているよ! 全力を尽くすことが悪なら、勝つことだって悪になるでしょ!? そんなこと絶対ないんだから! ……だからデゼスさんも悪くないと私は思うよ」

「ライスさん……。その言葉はありがたくいただきます。……でももう走れないんです。私は少し行き急ぎ過ぎました。トレーナーからはたくさんのレースに出るよりデカイレースで稼いだ方がいいと言われなるべく足を消費しないようにしていました。でも勝つために本気を出しすぎて、私の足も故障してしまいました」

「……そうなんだ」

「ええ、他の人には秘密でお願いします。あ、一応言っておきますがトレーナーは責めないであげて下さいね。あの人は噂で言われているほど守銭奴でもないので。お金があればあるほどいいというのが持論なのは事実らしいですが、無意味にウマ娘を使い潰そうとはしないですし、勝たせるために全力を尽くしてくれる人ですから」

「……本当にあの人は噂で損してるよね。否定くらいしたらいいのに」

「……ええ、本当に」

 デゼスはフフッと笑った。

「ライスさん、これを」

「……これは電話番号?」

「ええ、ライスさんを含め一桁の人しか知らない番号です。使う機会はないかもしれませんけどもしよければ」

「……ありがとう」

「それでは」

 そう言ってデゼスプワールはライスシャワーへと背を向けて歩きだした。

 

 

 デゼスプワールと走ったウマ娘はレースをやめてしまう。そんな噂があった。大抵の噂はデマである。もしくはねじまがって話が伝わる。しかし、この噂は事実であった。

 悪いことはしていない。ただ、全力で走っただけだ。能力を抑えずに走る、ただそれだけが悪夢を作り出した。

 デゼスプワールは普段、本来の威圧とは程遠い威圧に調整して過ごしている。それは威圧によって周りのウマ娘が萎縮し、強いストレスを感じるからである。

 だが調整した威圧感ですら学園のウマ娘たちには多少ストレスを感じていた。

 ならば、威圧を抑えなければ?答えは簡単だ。ウマ娘は強いストレスにより無理なペースで足を潰し垂れてしまう。

 そして、レースの中で強い負荷をかけすぎて足が故障する、しなくても強い威圧感によって心が折れレースをやめてしまうウマ娘が続出した。そして、この噂が生まれた。

 

 

「さて、どうしようか」

 デゼスプワールはゆっくりと空を眺めた。

 デゼスプワールがどのような道を歩むのか。それは神のみぞ知る。



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クリスマス料理企画

お久しぶりです。
クリスマスも近くなってきましたのでクリスマス料理のお話を投稿します。


「こんにちは、視聴者の皆さん。デゼスプワールです! 今回はクリスマスにちなんだ料理を作っていきたいと思います。助っ人として今回は特別ゲストのクッキングヘイローさんをお呼びいたしました」

「おーほっほっほ、そう私がクッキングヘイローよ! ってなに言わせるのよ!」

「という訳で改めましてキングヘイローさんがデゼスプワールのサブチャンネルに来てくださいました!」

「ふふーん、あなたたちには私たちが料理を作るところを見る権利をあげるわ!」 

 今回タキオンさんが無理かもしれないがとお誘いしたところキングヘイローさんがむしろ乗り気で来てくれたので、今回はキングヘイローさんが助っ人で来てくれることとなった。……ぶっちゃけ断られることを想定していたのでOKをもらったときは驚いた。

 ノリが思ったよりよいキングヘイローさんを紹介し終わったので、私は早速料理の準備へと移る。

「さて今回はクリスマスということでローストチキンとミネストローネを作っていきます」

「あら、美味しそうね」

「はい、クリスマスですので。まずローストチキンから作っていきます、まずですね材料が鶏もも肉2本と塩少々黒こしょう少々、しょうゆ大さじ1杯、オリーブオイル大さじ1杯、にんにく小さじ1杯、 はちみつ大さじ1杯を用意します」

「ふむふむ、それで?」

「次に鶏肉は骨にそって切り込みを入れ、皮目にフォークで数カ所穴をあけて、塩、黒こしょうをまぶしてすり込んで保存用密閉袋にしょうゆ大さじ1杯、オリーブオイル大さじ1杯、にんにく小さじ1杯、 はちみつ大さじ1杯の調味料を入れてもみ込み、冷蔵庫で一晩ほど漬け込みます」

「ふむふ……え? 一晩?」

「はい、一晩漬け込んだものがこちらとなります」

「テンポいいわね!?」

「そりゃあ、キングヘイローさんをお待たせする訳にはいきませんから」

「私以外でも一晩はきついわよ!?」

 本当にノリがよろしいキングヘイローさんがいてよかった。私だけだと動画の雰囲気が暗くなりがちなので本当に救世主である。

「そしてオーブンシートを敷いた天板に皮目を上にして並べ、200℃に予熱したオーブンで30分ほど焼いたら出来上がりです」

「あら、以外と簡単にできるのね、って料理してなくないかしら!?」

「はい、料理をするのはこれからです」

「……よかった、これで料理しなかったらなんで呼ばれたかわからなくなるところだったわ」

「……ツッコミ役ですかねえ」

「……え?」

「さぁて、次はミネストローネです」

「ちょっとデゼスさん? 目を見て話しなさい」

「……えーではキングヘイローさんお出番です」

「はあ、まあいいわ。それで材料は何かしら?」

「はい、ウインナー4本じゃがいも(中)2個、人参1/2本、玉ねぎ中1/2個、にんにく1かけ、オリーブオイル大さじ1水400cc、コンソメキューブ2個、砂糖大さじ1、ブラックペッパー適量ローリエの葉1枚、トマト水煮缶1缶となっております」

「それでどうやって作るのかしら」

「はいまずですね野菜をだいたい1cm角に切りそろえソーセージは5mm程の輪切りにします。野菜は私がやりますので、キングヘイローさんにはソーセージをお願いいたします」

「分かったわ」

 そう言うとキングヘイローさんは手慣れた手つきでソーセージを切り始めた。

 私も集中して野菜を切り揃えていく。

「ふむ、手際いいわね」

「はい、まあ自炊はしてますから」

「ああ、デゼスさんはたしか一人暮らしだったわね」

 一人暮らしとかその前にそもそも私は孤児院にいたので料理はせざるを得なかったのだがまあこれは言わなくてもよいだろう。

「そうですね、なので慣れてます。それでは次にオリーブオイルを鍋に入れにんにくを炒め切った具材を炒め中火で10分程煮てトマト缶を入れて沸騰させ弱火で20分程煮ます」

「よしやるわよ」

 気合い入れているキングヘイローさんには悪いがここら辺は多分面白いところだけ切り取られると思うなあ。

 まあ、そんなことを言わなくてもいいから言わないけどね。

 

 そんな訳でできた料理はおいしくキングヘイローさんといただきましたまる。

 

 

キングヘイロー視点

 

 今回、デゼスさんとの企画に二つ返事で応じたのは憧れがあったからだった。

 デゼスさんとは話したことはないけど学園内で見たりレースで見たことはあった。彼女は孤高の存在であり、何者も寄せ付けないオーラがあった。そして何よりあの体と心の強さに惹かれたのだ。

 クラシックではミホノブルボンさんと怪我で一着を取れずに終わったものの三つの重賞に勝ち、天皇賞春での激走、あの力強い走り、そしてメジロパーマーさんに急かされ、メジロマックイーンさんとライスシャワーさんに追い付かれそうになっても最後まで諦めることなく一着を目指したあの姿に心を震わせたものだ。……ライスシャワーさんとの同着でのしかもレコードでの決着なのは流石に驚いたけどね。

 そんなデゼスプワールさんとの企画なんてとても楽しみだったし実際楽しかったわ。

 またお呼ばれしたいわね。彼女がメインチャンネルでしているゲームとかはあまり得意ではないけど……まあ、それはそのときね。

 

 

 

 

 

 



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