地球から来た男 (クニヲ)
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一期
プロローグ


 親が居たはずだった。目覚め、生まれ、祝福されて俺はこの世に誕生した筈だった。親の愛情を受けた筈だったのに、今やもう何も覚えていない。自らの名も、父母の名も、自分がどこに居た何者なのかも分からなかった。

 もう飯は7日は食べて無いようにも感じるし、もっと長いようにも短いようにも感じた。

 それは、ゴミ溜めで生きる子供。ストリートチルドレン。毎日が死と隣り合わせである地の底、地獄だ。

 

 だが、何故か生に固執し、何がなんでも生きなければならないと、感じてしまう。

 それは地の底を這いずり回り、なんとしてでも生き残れと言っているような感覚で、俺を突き動かしている。

 何かが前に立ち塞がる。それは黒い靴のスーツを着た男。しゃがみ込んで俺に声を掛けてくる。

 「少年、名はなんと?」

 何も覚えていなかった割に名は直ぐに出てくる。いや、名前なのかも定かでは無い、だがこの言葉だけは忘れられなかったのだ、ただ一言それを口にする。

 「...ア...アグニカ...」

 自分の名前では無いと分かっていた、この言葉に意味があるかも分からない、だが、それでも、この言葉しか出なかった。

 「何が欲しい?」

 そして、この言葉だけは忘れる事が出来なかった。たった一つの言葉。絶対に忘れられなかった、いくら他の事を忘れようと、この言葉は何故か残り続けていた。

 「...から...力が欲しい...」

 そうすると男は笑みを浮かべて俺を両手で持ち上げる。

 「あゝ、分かった。お前にしよう。」

 「汚いです、触らない方がいいかと。」

 後ろにいた黒服が俺を持ち上げた男に物申す。

 「汚い...どこに汚さがあるだろうか?綺麗な金髪に、緑色の目。そして何より、何としてでも生きて、力を手に入れようという意思がこの子には宿っている。この子には私の跡取りとなってもらう、そんな子供を汚いと言えようか?」

 「ですが、ストリートチルドレンです。」

 「別にいいさ何せ、強い渇望、強い身体を得るには地獄を見たものがいい、地の底から掬い上げられる者たちは強くそして努力家だ。だから試したい、私に貴様の可能性を見せろアグニカ。」

 持ち上げた男は彼を連れて車に乗り込み、車を出せと黒服に命令する。車の中で男は俺に話しかける。

 「自己紹介をしよう。私の名はモンターク。カルナ・モンターク、ベネリットグループの商品流通を行なっているモンターク商会の代表だ。だから、君の新しい名はアグニカ・モンタークになる訳だよろしく頼むよ。家に帰ったらまず風呂に食事をしないとな、君には期待しているよアグニカ。」




 ちなみにオリジナルキャラとして、カルナ・モンタークを採用しましたが、何故カルナという名前を採用したかと言うと、阿頼耶識システムとかを作らせる時、インドの英雄の名前だと基本的に命名が楽になるからです終わり。


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1話 出会い

話題の地球生まれ、名をアグニカ・モンターク。

 地球圏に於いて最も優れた商会企業の御曹司。そして文武両道、それだけでなく礼儀作法にも抜け目はない。尚且つその顔は超絶のイケメンときたものだ。故に、彼はアーシアンと差別する者はいなかった。

 (ほう、あいつがグエル・ジェターク。あの御三家の一つその御曹司というわけか。)

 彼は今モニターを眺めて笑みを浮かべる。そこには決闘の勝者として、グエルの顔が映り込む。アグニカにはそれは美しく見える、力でものを言わせて、相手に格の違いを見せつける。

 彼はそのモニターから目を離し、適当に歩き回りグエルを探し回る。そして、やっと見つけた彼にすれ違い様に肩をぶつける。だが無視をしてそのまま立ち去ろうとする。

 「おい貴様、肩をぶつけておいて謝罪もなしか?」

 俺は鼻で笑うと、グエルを見て言い返す。

 「おおっと、当たっていたか?何、関係なくなりふり喧嘩を売っているようなはしたない人には謝罪は不要かと思ってね。」

 グエルはアグニカを真っ直ぐと見て近づいていき、胸ぐらを掴む。

 「貴様、地球生まれのカスがベネリットグループの御三家の一人グエル・ジェタークに何の用だ?」

 「困ったら自分の家名を出すような人間には別に用など無い、私は君の横をすれ違っただけさ。」

 グエルはアグニカ押し返す。手は離れ、グエルは人差し指を向ける。

 「いい、決闘だ。俺が勝てばお前には謝ってもらう地べたに頭を擦り付けてな。逆に、お前も要求しろ。何を要求する?」

 アグニカは笑みを浮かべながら彼に指を刺し宣言する。高らかに、今まで誰も宣言などしなかった物を指差して要求する。

 「グエル・ジェターク、お前が欲しい。」

 その言葉を持って、決闘の火蓋は切られた。

 

 彼は自分専用のモビルスーツを見上げる。

 赤く染め上げられたその機体の名は、グリムゲルデ。専用でモンターク商会の技術を使って作られた試験用機の12機目。

 それに乗り込み彼は決戦をする会場まで向かい、そして決闘相手と向かい合う。

 「「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず操縦者の技のみで決まらずただ、結果のみが真実!!」」

 

 向かい合い先に動き出すのはディランザだ。彼の近接武装を軽やかな動きで交わし、相手の装甲部に蹴りを繰り出す。

 グリムゲルデは機体の構造上、とても軽いがバランスを取るのが難しく転びやすい。だがアグニカの操縦技術からその構造上の欠陥はもはや欠陥になり得ない。

 だからといってグエルは一歩も引かない。それこそディランザの武装は重装甲であり、近接攻撃を加えたところで致命傷にはなり得ない。

 この戦いにおいて、どちらが勝つかなど予想も付かず、どちらも攻防を繰り返している。だがグリムゲルデもディランザもどちらの攻撃も致命傷にはなり得ない。それはグリムゲルデに決着を着けるだけの武装が付いていないように見えるのだ、それだけでは無い、逆にディランザであれば致命傷になりうる攻撃を繰り出せたとしても、グリムゲルデの動きにはついていけない。いなしと無意味な攻撃、効果のある攻撃をいなし続けられる戦い。勝者はなくただ戦いは間延びする。

 我慢比べの様な戦いは白熱し、どちらが先に攻撃を成功させるか、どちらがいなし損ねるかの勝負。

 

 「避けてばかりか貴様ぁ!」

 我慢比べに先に負けたのはグエルだった。グエル突っ込んで直線的な動きを見せるが、それに対して真っ向から受けるアグニカでは無い。ディランザの膝、関節部が見えたその瞬間に彼は両手に付けられた盾の裏にある黄金の実体剣がそこに勢いよく飛んでいく。

 “バキンッ“

 ディランザの足は落とされ、勢いよく座り込む様に滑りながらグリムゲルデの前に来る。

 そこからは一方的だ。肩の装甲、腕の関節部、弄ぶ様にディランザの装甲を腕を切り離していく。

 モビルスーツの両手両足が無くなった時点で、ブレードアンテナを切り落とす。

 「俺の勝ちだ、グエル・ジェターク。さっさと降りてこい。」

 グエルは不機嫌そうに出てきて、彼に目を向ける。

 「あぁ、お前の勝ちだ。意地の悪い奴だぜ本当に。」

 だがアグニカは笑みを浮かべながらグエルに語りかける。

 「完璧に勝たねば意味がなかったからな。それに、もうこれでお前は俺のものだグエル。お前の夢を教えてくれ。」

 グエルは悔しそうに下を向いて拳を強く握りしめる。

 「あぁ...俺の完敗だ。俺の夢はエースパイロット、それだけだ。他に何かあるか?」

 「夢があるのかいいな。俺の夢は、世界を変える事だ。この世界は結局能力のあるものでは無く推薦と言っても自分の気に入った人間をこの学校に入れてしまう。それは、己の牙の使い方も知らぬ真に才能を持った者に不公平だ、そんな世界を変えるそれが私の夢さ。だからお前が欲しかった。自分の家名だけで無く、努力と力で事を成すお前が。」

 グエルはアグニカを見て息を漏らす。

 「あぁ...グエル、お前だけには教えてやる。俺の真名を俺の本当の名は、、、、、だ。」

 「あぁ...よろしくな。負けは認めてやる、だからといって俺は折れちゃいねぇ。本当、意地の悪い奴だ、なんせ、あれを仕組んで俺を仲間にするために芝居を打って出たんだろ?」

 「あぁ、バレていたか?その通りだ、案外いい性格だろう?よろしく頼むぞグエル。」

 彼らは握手を交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「俺の真名は”マクギリス“フェンリル御旗に名を連らせる男だ。」




 これはどちらも一年生の時の出会いであり、そして決闘。原作開始前になります。
 あとマッキーは自分の過去を成長していく中で思い出していますなのでアグニカって名乗っているものの、自分の本来の名はマクギリスだと理解しています。


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2話 婚約者

今回も原作開始前の話になります。


 「フハハハハ!」

 彼は対面に立った男を見て高らかに笑いあげる。

 「笑うんじゃねぇ、アグニカ!」

 笑われた男はそれに対して彼を見返して、彼を怒鳴りつける。

 「何、可笑しくってね。だってそうだろう?グエル、お前に婚約者が出来たんだから。これは笑わずにはいられない。それに今は部屋に二人だ、マクギリスと呼んでくれ。」

 はぁとため息をつきながら部屋にある椅子に座り。目を瞑って少し考える様に、それとも悩む様に彼は顔を上にあげる。

 「あぁ...そうだな、マクギリス。でも苦手だああいう女はな。だってそうだろう?なんていうか...俺の好みではないっていうかだな。それ以前になんで俺なんだ、普通お前だろマクギリス!」

 「ランキングの一位はお前だろ?俺は残念ながら二位の人間なのでな、その権利は譲ろう。それに俺もああいうのは好ましいタイプじゃない。」

 アグニカはキメ顔か?と聞きたくなる様な顔でグエルを見て、グエルもそれに対してやめてくれと言いたげな顔で見返す。グエルが学生証を見たかと思うと、彼はアグニカを見る。

 「すまん、ラウダから連絡が来た、いかなきゃならん。」

 「そうか、ならグエル一緒に行こうじゃないか?俺は今暇を持て余してるからな。」

 彼らは呼ばれた場所に行く。

 「兄さん急いで!ってアグニカ先輩お疲れ様です。」

 「あぁお疲れラウダ君。」

 「何かあったのかラウダ?急な用事の様だが。」

 そうするとラウダは話題のお嬢様に目を向けて声をかける。

 「すみませんミリオネさん呼びました。ミオリネさんが、用事があるらしくて。」

 「遅い、何してんのよ。呼ばれたからには走って来なさいよ。」

 彼女は学生証の端末を操作しながらグエルに対して文句を言う。そしてアグニカに目を向ける。

 「てかアンタ誰?私が読んだのあいつだけなんだけど。」

 グエルは機嫌を悪くしたのか眉間に皺を寄せる。

 「すまんアグニカ、自分の婚約者が出過ぎた事を言った勘弁してほしい。」

 彼はアグニカに頭を下げて謝罪する。

 「別にいいさグエル頭を上げてくれ。ミリオネ嬢、こういう事は言いたくないのだが、私は一応グエル・ジェタークを所有している人間だ。君の発言は婚約者であるグエルの身も危険に晒すやめた方がいいとだけ言っておこう。」

 ミリオネはアグニカを睨む。

 「アンタ何様のつもり?それに、婚約者だなんて私は認めてない。気色悪いからやめて欲しいんだけど。」

 アグニカはグエルを見て立ち去ろうと指示を出す。

 「構ってられんな、行こうグエル。」

 「ま、言いたい事はそれだけ。アンタ達二人とも可哀想ね、親の言いなりだなんて。アンタももういいわ帰って。」

 ラウダにグエルそれとアグニカに対してそういうと彼女はどっか行けと言わんばかりに手をひらひらと動かす。

 グエルはアグニカにまたも謝る。

 「すまん、本当にすまん。」

 「少しばかし困ったお嬢様だなアレは。私としてはもうちょっと発現には気をつけた方がいいとしか言えんぞ。」

 

 あの日から数日が経ち、最近はやけに忙しくなってきた。理由は多くあるが、その一つというかその原因になっているのがミオリネ・レンブランである。グエルがホルダーになってからというものいつものように決闘を挑まれているわけである。

 「どうしたアグニカ、お前が決闘に参加したいだなんて。」

 「そうだな10対1は流石にキツイだろう?それに私も久しぶりにこいつを動かしたい。」

 そう言ってアグニカはグリムゲルデに目を向ける。

 「圧倒的な戦いをしようじゃないかグエル。」

 「あぁそうだな。」

 決闘は正に蹂躙。それ以外の言葉はない、わずか5分で決着は付きそこには赤いモビルスーツが2機だけ残っていた。



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3話 ガンダムフレーム

 「久しぶりだなアグニカ。」

 目の前には男が立っている。その男は自分を拾い上げた男カルナ・モンタークその人だ。

 「久しぶりです父上。」

 アグニカが一礼をするとカルナは彼に語りかける。

 「硬いなアグニカ。父さんと呼んで欲しいんだ私は。それにもうすぐ当主の座も降りようと思っている、だから敬語を使うなアグニカ。」

 「分かりました父さん。それで、あれの開発はどうなっていますか?」

 カルナはニヤリと笑う。そして背中を見せて付いてこいというかのように進んでいってしまう。そして進み大きな扉が見える、この先はドッグだ。

 「できたぞ。1号機、お前の知識から製造した新しいガンダムの形ガンダムフレームだ。何という名を付ける?」

 そして扉が開く。そこには白と青色、アイカラーにはピンクのような、それでいて赤いような機体があった、そしてその特徴的な羽と腰に刺した2本の剣、アグニカはその機体を知っていた。

 「バエル。」

 そう一言だけ答えると、カルナは笑った。

 「さぁ、革命したまえよアグニカ。これはそれをするために作ったのだろう?だがなぜ悪魔の名を?」

 「今のガンダムが、義手や義足を作る技術から派生されて作られたのならば、そんな天使、いや神にも等しいものを殺すものとしては、悪魔の名が相応しい。」

 「それもそうか、阿頼耶識の調子はどうだ?」

 「依然変わりなく良好です。」

 カルナはまたもやニヤリと笑う。

 「お前にはそんなもの不要だと思うがな。正直に言ってあのヴァルキリアフレームを乗りこなせているのだそれが必要とは思わん。私は去るぞ今日をもってアグニカ・モンターク、お前を我が家系の当主のとする。世界を変えてしまえアグニカ、お前ならばできる。」

 そう言ってカルナは開いたままの扉から出て行く、そしてその背中を見届けて数分後に彼も後を追うようにドッグから出て行く。

 用事も終わった。地球にいる理由は無い、アスティカシアに戻る。そうして彼は手配した船に乗り学校に戻った。

 そこで耳にした話でアグニカは大きな笑い声をあげる。

 「グエルが負けただと?誰にだ?どう言うことだペトラ。」

 「それが水星から来た女に...」

 アグニカは笑ったものの、驚きを隠せずにいた。

 「グエルが負けるか...話はどうなっているんだ?。」

 フェルシーが口を開く。

 「それが、その女ガンダムを使ったらしくて今取り締まり中っす。」

 アグニカは顎に手を当て、ペトラとフェルシーに感謝を述べる。

 「グエルに会いに行ってくる、二人は?」

 「私たちは良いっす。」

 分かったとアグニカは頷きグエルのところに向かう。

 「ようグエル話は聞いたぞ。」

 「...マクギリスか、幻滅したか俺に?」

 「別に、するわけないだろう、相手は不正機体を使ったんだ、その時点で相手の反則負けだ。」

 グエルは悔しそうな顔をして、下を向く。

 「そう言うことが言って欲しいんじゃない。俺は、俺は違うんだ...俺は手も足も出なかった。もっと強くあるべきなのに。」

 「お前は十分強いさグエル、それでも初見殺しに勝てと言えるほど私も強くはないからなそんな気に病むな。そうか...だがそう簡単な話ではない多分だが、そのガンダムの嫌疑をかけられてるものともう一度戦う事になるだろうな、これは私の推測だが。まぁ、そうなれば次勝てば良いだけだ。それに次負けたとしても、面白い方向に事は動かせる、ミオリネ・レンブラン相手に気を使わなくて良くなるわけだ。」

 「マクギリス手回しとかは一切しないでくれ、次は俺の力だけであいつを仕留める。」

 マクギリスはニヤリと笑う。

 「俺はやはり、お前のその真っ直ぐさが好きだよ。すまん用事が出来た、積もる話はまた今度だ。」

 そう言ってマクギリスは端末を見て何処かへ立ち去ろうとする。

 「最近は忙しそうだなマクギリス、まぁ頑張れよ。俺も次は絶対負けない。」

 「あぁ、期待している、お前は強い。」



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4話 交渉

 扉が開く。その大きくそして入ってきたもののプレッシャーかその場は凍りつく。

 「どうも皆さま、当主交代のご報告、そして今回の裁判に関して交渉したく参りました。」

 「久しいなアグニカ。どうした、カルナを見ないと思えばそう言うことか?で交渉とはなんだ。」

 「はい、昨日をもって。私は当主として任命されました。そして今回の交渉それは、魔女に対してお話ししたくまいりました。」

 デリングは少し目を瞑り、目を開ける。

 「話してみせろアグニカ何か意味があるのだろう?」

 「えぇ、それでは。それでは最初に魔女について。今回の勝負の結果は聞いています。ですが、それがガンダムであったためになかった事としてカウントしたいそうですね?だけれどガンダムだと言い切れる証拠がないのも事実...そして最もに魔女には後遺症は一切ない。これでは流石に可哀想だ、だからこそチャンスを与えるのはどうでしょうか?」

 デリングは首を傾げ、それでいながら何故だと言う顔でアグニカを見つめる。そして数秒後に口を開いた。

 「何故だ?それに、それでは私には何の利益にもなり得ない。交渉にすらならない。わかっているかアグニカ。」

 アグニカはニヤリと笑い、それだけが交渉なわけがないと言うような顔をする。

 「あぁ、その通りです。なので、これを提示したい。」

 彼はこれまでの決闘の経歴、もう一つはグエルの決闘の経歴その二つを提示する。

 「これを目にしていただきたい。この様に戦績に置いて私は2位の成績を貫いてはいます。ですが見ていただいて分かるように、私とグエル・ジェタークは同率の1位なわけです。」

 「何が言いたい?自分が戦うとでも言うつもりか?」

 「ですからそれでは交渉にならない。最後に見ていただきたいのはこれです。この戦績を収めている機体の改良型を設計図、データ、機体本体を全て無料でお渡しします。モンタークではやはり生産性が低いですから。」

 デリングは顔を顰める。

 「この場はプレゼンの場ではない。」

 「知っています。ただ言いたいのは。これを別にベネリット以外に流しても良いと言う事です。嫌でしょう?全て無料で差し出すと言ってるんです、私は交渉に来た、分かりますね?それこそ、出資を求めている訳でもなく、だからと言って売ると言う訳でもない、モンタークが一から作ったこれだけの実績を残した機体を無料で差し出すと言っています。そう言う事です。」

 「わかった、良いだろう。今回はモンタークに免じてやる。次はないぞ現当主アグニカ。」

 「ありがとうございます。それでは。」

 アグニカはそのままその場の全員に背を向いけて立ち去る。

 情報操作も相手に対しての交渉も全てやった。ここからはどうやるかだ。グエルが負ける様に仕向け、そこから動かしていかなければ意味はない。だからこそ次の戦いのために動いて行く。難しいかと聞かれれば難しいかもしれないが、正直私にとってはそこまで難しくはない。ここからの人の動かし方はおおよそ頭に入れている。十分な交渉も終わった、後はグエルが負けて、自らが盤面を動かしていけば良いだけだ。



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5話 孤児と孤児

 エラン4号編は特にマッキーの動くとこ思いつかなかったんで飛ばしました。


 「呼び出しとは恐れ入ったシャディク。私に何か用かね?」

 一人の長髪で、それでいて蜂蜜色の髪と褐色の肌を持った男と他に色々な特徴を持った女子生徒達がいる部屋にアグニカは呼ばれた。

 「なに、難しい話じゃない。色々と質問をしようと思ってね。...なぜあそこまでの物を提示してまで今回動いたんだアグニカ。あれではモンタークにとって何も良い事は無い。それどころかホルダーを失い、それだけでなく最高の実力者を寮から追い出す形にまで至った、これはグエルが勝手にした事だが。なぜ君はあそこで取引をした?」

 別に難しい事ではない。必要だったからやっただけ、エアリアルと言う機体を壊し潰し殺す事での力の証明。それでありながら、現行のガンダム以上の能力をガンダムフレームが持っていると言う宣伝。そしてその力を世界にばら撒くと言う世界規模の恐怖、そして野心を持った牙の使い方のわからぬ獣達の開放。それを踏まえての取引、そしてそれだけではない邪魔になったミオリネ・レンブランの介入を防ぐと同時にホルダーであった筈のグエルの没落からまたもや這い上がる者の姿はそれこそ象徴となり、英雄を作り上げる。そのための取引だった。ペイル社との決闘は考えていなかったが、逆を言えば良い働きをしたとも言える。

 「単純に私はグエルならば勝てると思い任せただけさ、結果的に負けたとしても、別にあの程度は痛くないと言う話さ。もともとあれは売りつける予定だった物を無料にしただけにすぎん。私が今回介入した理由は、それだけ、グエルを試したかったと言う話だ。」

 シャディクは笑みを見せるが、その目は一切笑ってはいない。疑いをかける目だ。

 「じゃあ、グエルには失望したわけだね?あそこまでのお膳立てを無に帰したわけだが、君はどう思ってる?」

 アグニカは高笑いをあげるいつものフハハハと言う笑い声が響く。

 「あの程度で失望はしないさ。予想外だったわけでもない運任せだった部分も無い訳じゃない。私はそう言う人間さ、成功しそうだと思った方に賭けた今回はダメだったそれだけだ。ただ、グエルの勝手な決闘、そして敗北。それだけでなく寮長の交代等は本当に予想していなかった。それは事実さ。すまんそろそろ時間だ、帰らせてもらう。」

 彼は帰る支度をし始め、それに対してシャディクは笑みを見せて語りかける。

 「また来いよアグニカ。お前の事は気に入ってる、相談が有れば乗るぞ?」

 「それはありがたいな。だが遠慮させてもらう話してる時間も勿体無いんだ、寮長というのは案外疲れるし大変な物なんだな。」

 後ろ姿だけを見せて彼は部屋を出て行く、その背中をシャディクは睨みつけながら。

 「顔はいいし、能力も高い、それだけじゃなくて品格もある。仲間にしたいね、シャディク。」

 「だが、アグニカは味方にはならないさ。敵にもならないがな、強い男だよ全く、何も読めない。なるんならああ言うのになりたいよ全く。」

 シャディクは目を瞑りため息をしてから彼女らをまとめて、違う話を始める。

 「帰って来たぞラウダ、グエルはどうだった?」

 「いえ、特に問題はありませんでした。こっちこそ、仕事を全て任せてしまってすみません、ジェターク寮は俺が持たなきゃいけないのに。」

 「良いさ別に。仕事よりも家族を優先するのは当たり前だ、それこそラウダ、しっかり見てやってくれあいつは少し無鉄砲になってるしな。」

 ラウダとの話を終えて自室に戻り椅子に座りアグニカは顎に手を当てる。あの話以外にも色々考えなくてはならない事が増えた。その一番の存在は株式会社ガンダムだ、彼らを潰すか、それとも彼らに何かあった時の手助けをするか、どっちに転がろうと良い事はない。だが、考えた中で一番良いのは無干渉だ、同時に動きが読めなくなるのも無干渉である。どちらも難しい話という訳だ。

 「今回は保留だな、動きがあってから次に移れば良いそれだけだ。」

 そう独り言を口にして彼は自室にて眠りについた。



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6話 悪魔との契約

 結果的にグラスレーが地球寮相手に売った喧嘩は地球寮、要するに株式会社ガンダムが勝ちを奪い取った。結果的に不干渉が最適解だった訳だ。

 動きも理解している、グエルの所在も現在知っているのは俺だけか...英雄を作り、シャディク・ゼネリの計画を潰しギャラルホルンの笛を鳴らす。基本的な動きも情報も全て掴んでいる訳だ。これ以上の状況は作れないならばあとはグエルに覚悟を決めてもらう他ないだろう。

 「すみません艦長、このマーク知ってますか?」

 「ん、あぁこのコンテナか、なんも分からん事が解ってる荷物ってとこだな、気になったのかボブ?」

 それは何かががラッパを吹いているマーク、グエルはこのマークに見覚えが少しあったが覚えていない、このマークをどこで見たのかも。

 「まぁ運べば良いって事だボブ、休憩するぞ。」

 「はい!分かりました。」

 そう言って先に帰る艦長にはついていかず全員分の弁当を持ってから定位置に戻る。

 だが通信機に何かの連絡が入る。

 “コンテナの暗証番号は、ギャラルホルンの笛が鳴るだ”

 そう言った連絡が入る。何かは分からないだが、あのコンテナの暗証番号がいきなり自分に届いた、そして、弁当を配り終わった頃それは唐突に起こった。ブザーが艦内に響き渡る。

 「航行監視システムにオブジェクト!パーメット識別コード確認、モビルスーツです。」

 「プラントクエタからか?」

 「相互通信チャンネルに応答なし。本船に接近してきます。」

 艦長は渋い顔をする。

 「警告を発進しろ。」

 二つのモビルスーツが船を囲む、そしてその特徴的な顔にグエルは見覚えがあった。

 「あれは...」

 緑色のモビルスーツはこちらに持っている武器の銃口を向けてくる。

 場面は変わり、蜂蜜色の髪をした男が、紫色の髪をした女に話かけられている。

 「そろそろ彼らが接触する時間だ。」

 「そうだな。」

 「反応薄、いいのぉこんなタイミングで波風起こして?」

 「もともと我々は決闘ゲームに重きを置いていない。」

 「シャディクはずっと前からやるつもりだったそうでしょ?」

 男は瞑っていた目を開ける。

 「あぁ、ベネリットグループを解体する。俺はもう躊躇わない。」

 またもや場面は移り変わる。

 グエルは走ってあのコンテナに向かう。

 「どこ行くんだボブ!」

 「封鎖しといてください船に穴開けるんで。艦長達は俺が守ります。」

 「何言ってんだ!」

 グエルの目には覚悟があった。

 「あんな意味深な連絡を送ってくるやつは他にいない。本当に全部お前の掌の上なのかマクギリス!」

 そう言ってコンテナに暗証番号はを入れるとその中に入っていた機体が目に入る。青と紫鮮やかな色の機体がその中には入っていた。

 「コイツどこ製だ?」

 グエルはその機体のコックピットを開け乗り込む。そしてそのモニターには何かの魔法陣のような紋章が浮かび上がる。それが消えた時それは映った。

 「グエル、これを観ているという事は、乗り込んだのだろうキマリスに。端的に現状を教えよう、シャディクが今回のテロの首謀者であり、ベネリットの解体を目論んでいる。そして、あの場にはスレッタ・マーキュリーの他、君の父親、ヴィム・ジェタークもいる...助けたいのならばそれに乗り戦え、戦わなければ、助けれる者も救えずに見殺しにするだけだ。私もこの機体の起動が確認できた時点でそっちに向かう。英雄になれグエル。」

 モニターがブラックアウトして、また新しい画面が出てくる。

 “ハンドルを掴めば起動します”

 その画面に指示されたままに動く。

 「悪魔にでも魂は売ってやる!救えるものがあるのなら。だから俺に力を貸せ、“グエル・ジェターク”ガンダムキマリス行くぞ!」

 そのまま船体に穴を開け、開けた穴から一番近くにいた機体に持っている槍を差し込む。

 「みんなは、俺が助ける!」

 「ラウダ、出る。君の兄は覚悟を決めたようだ。」

 「分かりました。兄さんを、父さんを連れて帰って来てください、アグニカさん。」

 アグニカはラウダに向かいこう言った。

 「もうアグニカと呼ばないでくれ。これからはマクギリスと呼んでほしい。」

 ラウダは驚き、そしてマクギリスはバエルを見上げる。

 「この機体に乗って世界を変える。俺に必要なのは伝説の名前じゃない、卑しく傲慢な孤児の名前だそうだろう、バエル。」

 そう言ってマクギリスもバエルに乗り込む。

 「マクギリス・ファリド、ガンダムバエル...出る。」

 そう言ってカタパルトから発進する。そのスピードは圧倒的で、現行機体に追いつけるものはないだろう。そして悪魔の名を冠しながらも白く光る翼は天使を彷彿とさせた。

 「頼みます、マクギリスさん。」

 場面は切り替わる。

 「なんだ?」

 焦った声から聞こえたのは信じられぬ言葉だった。

 「機体が、機体が次々に破壊、大破させれています。」

 「どういう事だ?」

 シャディクの声には怒りがこもっている。

 「それが、所属も正体も不明の機体が、一機だけなのに...船に乗り込めません。次は、なんだよぉ!やめろ、悪魔だ!悪魔が現れたんだ、止められないウワァガッg...」

 通信が切れる。たった一機そんなものに抑えられる様には出来ていない。

 「違う機体に通信を取る。」

 そういうと違う相手に命令を出す。

 「あぁ、今すぐ作戦を実行してくれ、あぁルブリス・ウルとソーンだけはそこから外して動かせ、どんな奴だ相手は。」

 次々に機体を破壊していくそれは、圧倒的操縦技術で大型の槍で全てを引き潰す。その重装甲でありながら高い機動性に技量がなければ動かす事すらままならぬ機体の名をキマリス。その機体に次々とやられていく。

 ある者はコックピットを槍で貫かれ、ある者は機体の四肢をもがれ、一切とらえらるぬその動きについていけぬテロリストどもは次々に引き潰される。

 「ソフィ、レノア、お前らは他の事をしろ。もう命令が出ている、コイツは俺たちで出来るだけ止める。」

 「分かった。いくよソフィ。」

 「なんなのアイツ。訳わかんない。」

 撤退していく機体を放置して、残った機体を全て破壊して時点で船に連絡を入れる。

 「艦長、迷惑をかけました。あの機体を止めてきます。」

 「待て、ボブ。お前はうちの船員だ、船員は俺が守らなきゃならねぇ、だから帰ってきてくれボブ。」

 艦長は苦い顔をしてグエルに命令を出す。その顔は、子を思う親の様な顔だ。

 「いえ、すみません。それは出来ません、俺は、俺はあの機体を止めて、みんなを救います。だから艦長は、艦長は俺の...俺の...俺が帰ってこれる場所を守っていてください。」

 意識していないのにグエルの目からは涙が出る。

 「わかった...行っでごい、馬鹿野郎...ここにいつでも...いつでも戻ってこいよボブ...あんがとな。」

 艦長も涙を流してグエルを送る。

 「行ってきますだから、みんなは逃げて、生きて生き続けてください!」

 キマリスはルブリス2機を追う。その姿を見た船員は達はこう言った、天使が現れて救ってくれたと。




あと2話くらいで一期の話を終わらせる予定です。頑張って書きます。


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7話 悪魔と悪魔

 最高速で迫り来る光の翼は、テロリストたちを切り刻む。関節のみを狙ったその刃にテロリスト達は自らの最後を見る、目を奪うような金色は煌めきながら容赦無く敵を殺す。その美しい白色と大きな翼に金色の二本の剣を持つ姿は熾天使に見えるが紅い瞳に敵を殺すその姿はやはり悪魔だ。

 「遅すぎる。この程度でテロリストか...謀反を起こすのであれば、このレベルでは話にならん。」

 そう言って彼はエイハブリアクターの信号を追いグエルに近づいて行くと、途中で一機の機体と目があった。相当離れているもののそれにからは気づき最高速でグネグネとした軌道を描き近づいていく。

 「...ガンダムか、いいぞ俺たちの力を世に知らしめるそのための材料は貴様だ!」

 ▼

 全てを引き潰すスピードと大槍に、その機体はテロリスト達に悪魔を思い描く。

 助けてくれ!うああぁ!やめr...と言った断末魔がそこかしろから聞こえても何事も無いかのように引き潰すやそれは何事もない事であると言い聞かせて進み続ける。

 「そうだ、俺はもう後戻り出来ないんだ、コイツは悪魔なんだろう、マクギリス。」

 そう言ってひき潰していると、一機のディランザソルがこちらに向かって攻撃を行う。

 「違う、俺は敵じゃない。」

 テロリストではないその期待を引き潰せずにジリ貧になり、逃げを繰り返し続けている。

 「クソッなんで俺を執拗に追いかけてくるんだ。こうなったら...出来ない、あれは敵じゃない。」

 覚悟を決めなきゃ、やられるのはこっちだ。契約したんだろ、決めたんだろ力がなくちゃ守れないって、守りたいものがあるから悪魔に魂を売ったんだろ。このままじゃ、逃げるんじゃなくて進まなきゃいけないんだろ、敵対してるのならば倒すしか無い、殺す事は無い戦えないようにするんだろ、じゃなきゃ、あのガンダムは止められないんだ。

 「ここで、決める!」

 体を反転させ一気に近づいてく。槍で片腕を吹き飛ばし、足、腕共に落として武装をも奪い反撃出来ないようにする。

 だがやられているだけでは無いディランザソルはそれに対して残った片足で反撃に出る。

 それに対してグエルは押さえつけ通信を取る。

 「俺は、グエル・ジェターク、ジェターク社の御曹司グエル・ジェタークだ。」

 「グエル、なのか?心配したんだぞなんでそんなモビルスーツに...早くこっちに来るんだ、本当に心配したんだぞグエル!」

 その声はとても震えていて弱々しく安心しきったような自らの父親の声だった。

 「父さん!父さんなのか、なんでモビルスーツなんかに...ここの中域から早く逃げるんだ!俺は助けなきゃならない奴がいる、だから父さん先に行っててくれ、すぐに追いつくから。」

 だがグエルの乗る機体の後ろから光がチラついた。

 「グエル!危ない!」

 そう言ってディランザソルは片腕でキマリスを押す。

 「危ないなんだよ父さん!?」

 次の瞬間、ディランザソルがビームで貫かれる。

 「グエル...ラウダは頼んだぞ、最後におまえに会って。話せて良かった。」

 そう言って爆発する。

 「父さん!父さん...嘘だ、そんな有り得ない、俺が気を抜いたせいで。」

 気を抜いて良いはずがなかったんだ。ここは戦場のど真ん中、気を抜いて良いはずがないパイロットとして当たり前なのに、俺はそれをやっちまった、何してんだ俺は...俺のせいか、俺が弱いから。マクギリスは言ってた筈だ、弱いものは何も出来ない、弱いものは奪われるだけだ、力が無ければいけないんだ、俺は、俺は強くなきゃいけないんだ!守るものを守れるように。もう失わない為に。

 「魂だって売ってやる!力をよこせこのポンコツが!悪魔なんだろ!復讐させろ!あいつを殺す為に...あいつら全員ぶっ殺すために!返事しやがれ、キマリス!!」

 コックピットを叩きつける。

 「もっと力がいるんだ!」

 そう言うと背中にあったコネクタのような物が動き突き刺さる。

 <阿頼耶識システムを使用しますか?>

 「それで力が手に入るなら俺に寄越せ!」

 背中に激痛が走る。目に映像がそのまま送り込まれる。機体が捕らえる映像が脳内にそのまま流れる、だが不快感はありはしない、そこには高揚感とそして確かに自分が強くなったようにビジョンが送り込まれたそれは今までとは全く違う物凄い反応速度を見せる。

 この間にも飛んできたビームを最小の動きで避ける。

 「おまえらテロリストには恐怖を与えてやる俺たち悪魔の本気でな!」

 そう言ってビームの飛んできた方向にいた機体を最高速のまま貫き殺す。邪魔だと言わんばかりのスピードを出して他の機体を吹き飛ばす。

 そうして進んでいれば、御目当てのガンダムが目に入る。

 「殺してやるよ、おまえら全員生きて返さない、これは絶対だ。」



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一章最終回 一時の閉幕

 ソフィはいきなりの衝撃に目を回す。

 その大槍を持った機体は一方的なまでに早く、鋭い。そのまま相手を押し潰すように。

 「またコイツかガンダムモドキ。顔だけちょっと似せました感出しやがって。」

 だが胴の細さに似合わずその攻撃はとてつもなく重い。そして何より、この攻撃は殺気を持って確実に殺しに来ていた。

 「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!」

 冷静さが無いようなその言葉が自らの機体の通信に割り込んで聴こえるが機体の動きは冷静かつ隙はなく一方的に追い詰められる。

 そして左腕の関節を槍で飛ばされる。距離を取らねば殺されるのはこっちだと理解しているが、距離を取ろうにも取ることが出来ない。

 「パーメットスコア4!」

 「意味ねぇぞそんなの!力をよこせキマリス!」

 そう言ってスコアを上げて抵抗しようにもそのガンダムモドキは引き離せない。それだけじゃなく相手も自分に合わせスピードも上がっている。

 「なんなのコイツ!?でもコイツGUNDを使ってもいないのにこんなのおかしいでしょ。」

 だが観察していて分かった事がある、にコイツは動きが速くなる時片目が赤く発光するのだ、だがわかったからなんだと言える。実際この機体にルブリス・ウルは追いつけていないどころか負けている。

 

 グエルの視界が揺れる。顔に手を当てると鼻血を出してる事に気づく。

 「なんで...?」

 動きが止まったキマリス相手にソフィは何もすることなく撤退する。

 「動きが、止まった。逃げなきゃ、速く逃げなきゃ。」

 そう言ってただただソフィ味方信号を出して撤退する。

 「待て、殺してやるんだ、俺は、おまえ...を...」

 次の瞬間キマリスは停止する。

 ▼

 「コイツ強い。」

 剣を2本持っただけの機体にルブリス・ソーンは押されていた。ただ単に自分なんかより相手の方が、力が有るからに他ならない。

 「こんなのばかりだからアーシアンと馬鹿にされるのか...だがプラントクエタは破壊された。この戦い、こちらの負けと言っても過言では無いな。」

 レノアの機体に通信が入る。その通信内容は撤退だ。プラントクエタは攻撃できたが、デリングの暗殺は出来てない。だが話によればソフィはもう撤退してる様だ、被害を最小限に撤退が一番だろう。

 「了解。」

 そう一言だけ返しはするものの相手の隙を作ろうにも作れない。それこそ白色の機体は止まらない、早い動きでこちらの弱点をしつこく狙い破壊して、完封すると言った様な戦い方だ。

 「邪魔!」

 パーメットスコアを上げて反撃に出ても見切られ終わる。だが相手は一切の隙を見せない。それこそこの相手は初見でこの機体の弱点を解っているかのような攻撃方法のみを取ってくる。武装が実体剣しかない相手に対して手こずりすぎだ。

 いきなり事は起こる。ルブリス・ソーンの足が吹き飛んだのだ。何も分からないだけでない相手はノーモーションだったのにだ。

 「なんで?」

 それも足が破壊されたのにも関わらず機体は大きく振動し機体全体が動かない。

 「そこだ!」

 それを見誤るマクギリスではない。一気に手足を全て切り離し、コックピットを無理やり剣でこじ開ける

 そして彼女を引きずり出すと拳銃を奪い手足を結んで自らのコックピットへ連れて行く。

 「こんなお嬢さんが乗っていたとは驚きだ。」

 そう言って優しい目で見てくる男に蔑視に眼差しをレノアに向ける。

 「あなた何者?」

 「ただのアーシアンさ、地球生まれの孤児だよ。君を生捕りにしたのは意味がある。これから君には色々と協力してもらうよ。」

 「何も話さないよ。」

 「だろうね。だがどうでも良いよ、見た限り君は優秀だ。だから生捕りにした、それだけさ。暴れないでくれよ、馬鹿な友人が無理をしすぎたから拾いに行かなくちゃならない。」

 レノアはここは従っておこうと彼に邪魔などは一切せずにじっとしていた。そうして少し離れた所にあった紫色の機体に通信を取る。

 「グエル、無茶をしすぎだ。さっさと起きろ。」

 「マクギリスなのか?俺は...あの機体は、何処に!」

 「落ち着くんだ。もう撤退してるだろうな、俺たちの船に戻るぞグエル。」

 「船っておまえ、どう言う事だ!」

 「そのままの意味さ、俺たちの拠点であり、そして、世界に変革の嵐をもたらす船だ。」

 そう言ってその船に入り込むとメカニックたちが出てきて出迎える。

 「この娘は私が運ぶ。グエル異常はないか?」

 グエルは手足を動かして異常がないか確認をする、一切の異常はない。

 「ああ、異常はないかなら良い、阿頼耶識を初めてそれもあんな使い方をしたんだ当然だ鼻血くらいは出るだろう。気おつけろよグエル下手をすれば手足が動かなくなっていたんだ、次からは気おつけろ。」

 そしてマクギリスはレノアを個室に入れて鍵を閉める。

 「お頭、あの女はなんです?」

 ちょび髭の胡散臭いおっさんがマクギリスに質問する。

 「ん、あぁ捕虜だ見ていてくれよトド拳銃を渡しておくし、彼女は手足を縛っていてまともに動けん、やってくれるなトド。」

 「任せてくだせぇ!お頭は何処へ?」

 「あぁ、御曹司と話をつけてくる。」

 「待たせたなグエル背中は確認したか?」

 「なんだこれはマクギリス。まぁこれくらいどおでもいいが。」

 「それは阿頼耶識だ、おまえとキマリスを精神接続している。だが、別にそれを使わずとも操縦はできる、本気を出す時だけ使えよ、それはおまえが思っている以上に危険なものだ。」

 そう言ってこれまでの話をまとめてグエルは頷きマクギリスは手を差し出す。それをグエルは強く握る。

 「お前は今日からグエル・ジェタークじゃなくなった。モンターク紹介が新しく推薦するアスティカシアの学生“ガエリオ・ボードウィン”良い名前か?」

 「あぁ...いい名前だよ。あいつらには必ず復讐する。それだけじゃない、力を持つものが上に立つ世界を認める訳じゃないが、マクギリスお前に賛同してやる。俺は俺の道を切り拓く、何せ俺もお前が求める力を持つ存在だ、俺のルールは俺が敷くいいなマクギリス。」

 「いいとも、それでこそ俺の求める世界だ。やるぞグエル、いいやガエリオ、俺たちは共に駆け上がらなくてはならない。」

 グエルの顔は鉄仮面で覆われていた、そして、それと同時にマクギリスも冷徹な顔を見せている。そうだ、世界を変えるのだからそれくらいなくてはならない。此処からは裏の仕事は終わりと行こう。だが慎重に、前回の失敗はもうしない。そう、これは俺が変えるための世界なのだから。

 



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二章
1話 新しき男


 ちなみにグエルは仮面についたボイスチェンジャーでガエリオの声になってますよろしく


 「今日からこの学校で学ぶ事になったガエリオ・ボードウィンだ。よろしくお願いする。」

 そう言って彼は頭を下げる。そうすると、一人の男子が手を挙げる。

 「なんで仮面してるんですか?」

 「あぁ、事故で顔を怪我してしまって...とても人に見せられる顔をしてない、故に仮面で顔を隠している。すまないなこれでは怖いかもしれないが許して欲しいし仲良くしてもらいたいとも思っている。」

 自己紹介に授業も終わり彼はある寮の前で止まる。

 「ガエリオ、どうした?」

 「アグニカさん、どうも。」

 そう言って頭を下げるとアグニカは不適な笑みを浮かべて立っている。

 「ジェターク寮に何か様でもあるのか?」

 ガエリオは俯き何も答えない。きっと思い残す事が多いのだそんなもの俺でも分かる。

 「お前もここで過ごせたらいいんだが...」

 「アーシアンじゃ無理でしょう?私は貴方のお陰でここに来てるに過ぎないそれを忘れずにここで生活しなきゃなりません...」

 掠れるような小さな声で振り絞るように言葉を発した。

 「...ラウダに、ラウダだけには...伝えてもいいか?」

 アグニカは少し考えるような顔をして、目が合うと口を開く。

 「駄目...だな。こっちにも計画がある。そして計画を潰す時は心躍るものだそうだろうガエリオ。その時全てをひっくり返せばいいそれだけの辛抱さ。」

 「分かった。私は地球寮に向かうとします。お時間をとってしまいすみませんアグニカさん。」

 頭を下げて歩き去る。

 アグニカはため息を付く。お前を隣に置ければどれほど楽だろうかとそう心の中で唱え、彼の後ろ姿を見送る。

 「頑張ってくれよ、グエル。お前には期待してる。」

 そう小声で唱え彼は寮の中に入りある一人の男子生徒と会う。

 「ラウダ、すまないな。」

 「アグニカさんのせいじゃ無いでしょう?ただ、少し一人にしてください。父も兄もいなくなって参ってるんです。来てくれたのにすみませんアグニカさん。」

 「分かった、また来るよラウダ。本当に、すまない。」

 そう言ってアグニカは笑みを浮かべて立ち去る。

 必要なものは揃った、英雄の誕生も近い、俺とグエルその二人の存在は世界を変えれるほどの大きさになった。一人は全てを失いアーシアンまで堕ちそれでも諦めぬ姿勢を見せた御曹司、なんなら父の死を乗り越えて、弟の為に残った家族の為に本気で駆け上がろうとしている。私も孤児のアーシアン、その二人が牙を研ぎ澄まし戦えと言うのだ焚きつけられるものは多すぎるとまで言っていい。

 あの女も逃してやった。船を一台やってまでやる事では無いかもしれないが、テロリストそれも、ガンダムを殺すのだ一機では足りない。俺とグエル二人で一機づつ潰し殺す。情などない、やれる事は多いそれにあんなのを捕虜にしていても使い捨ての命じゃ意味が無いのだ。

 「やれる事をやれ、私は期待もしていない。さらばだレノア君は好きにしたまえ、出来ることなど無いだろうが。」

 そう言って一つ小さな船をやって逃してやった。やる事は一つだろう、俺がやる事はもう無い、ただ、今は優雅に時を待つのみだ。




 ・ガンダムスレイプニル(ガンダムキマリス)
 グエル、もといガエリオの乗る機体とても大きい機体であり、今までのキマリスとは違い2周り程大きくなっている。鉄血本編のガエリオと同じ様に青色や紫色を基本にしている。
 武装は長めのランスメイスにビームライフル。背中には羽のような機構の盾が付いているが機体が大きすぎまた接触するため使用難度はとても高い。


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2話 どんな人間にも敵はいない

 少し前の話だ、これはアスティカシア戻る前、少し立ち寄った地球のモンターク商会が支援している地域での出来事。

 「グエルにいちゃんこれ教えて!」

 「グエルにいちゃんは俺と遊んでるの!」

 そこに笑顔のマクギリスが歩みよる。

 「グエルの取り合いをするもんじゃないぞ。それと、すまんが俺もグエルと話があるんだ少し貸してはもらえないだろうか?」

 しゃがみ込んで幼子達に目線を合わせて喋るその姿はとても優しく、幼児達もそれを了承する。

 「アグニカのにいちゃんも今度遊んでくれる?」

 「いいとも、また今度だがな。」

 「やったー!」

 そう言って子供達はそこから走り去る。

 「どうだグエル?」

 「いい場所だ、皆しっかりと読み書きに簡単な計算まで出来る、まるでここに来るまでに見てきた地球とは大違いだ。ここはまるで楽園だな...」

 少し顔を下に向けて苦虫を噛み潰したような顔をする。子供達と遊んでいる時の優しい顔では無くなっていた。

 「お前は、俺の考えをどう思う?」

 「どの人間にも、平等にチャンスがある世界、努力、才能次第でいくらでも上に行ける世界か...魅力的だ、だけど戦争に汚染、地球と宇宙とでの差別、そして今なお続くテロに紛争。このままじゃ夢物語だ。」

 「ああ、その通りだ。だからこそこの世界の法律を壊す。腐った今の在り方を壊さなければならない。けど、あの子に言われたんだ、もう、間違わないでと、もう犠牲を強いるような在り方はやめてと、もう幸せになっても良いんだよと、そう言われている気がして俺は、そんなことが出来るだろうかとまだ座り、狭い世界から出れていない。あの子しか知らぬ俺だからかもしれんが。すまないグエル、話が逸れてしまった。」

 グエルは地面に座り込むとマクギリスの手を引いて座らせる。

 「マクギリス、座ってれば良いじゃ無いか、考えて考えて、そして答えが見つかった時俺とお前で立ち上がって、変える為に頑張れば良いんだ。それに、俺もここに来る前まで憎しみで前が見えなくなってた。けどここで、アイツらに会って変わった。憎しみは折れない為に必要かもしれない。だけど憎しみだけで戦って憎しみだけで作った平和は、また大きな憎しみを産む。それを連鎖させない為に俺たちは戦わなくちゃいけないだろ?」

 「俺たちは、ズレているな...」

 「俺たちには敵なんかいない。死んで良いやつなんか、殺されて良いやつなんかいないんだ。死んだやつにだって家族があった、死んだやつにだって守るべき幸せがあった筈だ。そうだろうマクギリス。」

 そうして話しているとパタパタという足音がこちらに近づいてきて足音が無くなったと思った次の瞬間マクギリスは後ろからのあるものに飛びつかれる。

 「アルミリアかい、どうしたんだい?いきなり抱きついてきて?」

 「なんで伝えてくれなかったの...」

 マクギリスは困った顔をしてグエルに目を合わせるがグエルは何も答えずそっぽを向くきっと笑いをこれえているのだろうムカつく奴だ。だがそれでいて本当の友とも言える男だ。

 「怒らないでくれアルミリア、色々と大変だったんだ。」

 「嘘つき、あの子達から聞きました、今度遊ぶそうですね!私には何にも連絡すら寄越さないのに!」

 ぷんぷんと頬を膨らませて怒る姿は幼いながらにマクギリスにダメージを与える。それに対して何が失敗だったのかと頭を抱える。

 「すまないアルミリア、最近忙しかったんだ。そう怒らないでくれかわいいレディーの顔が台無しだ。今度帰ってきた時は二人だけの時間を作ると約束するから許してはくれないだろうか。」

 「本当?」

 まだ怒っているようだが、その言葉が聞けて満足したのか彼女はもともとの柔らかい顔つきからもっと柔らかな顔つきに変わる。

 「本当だともアルミリア。私の一番はいつも君だとも。」

 そう言ってアルミリアはマクギリスの膝に座ってグエルの顔を見る。

 「夫が迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いしますグエルさん。」

 そう言って彼女は挨拶を済ませるとマクギリスの膝から立ち上がって去ってしまう。

 「あの子がお前の、許嫁か...まぁアスティカシアじゃ彼女も出来ないわけだ。」

 「馬鹿にしているなら怒るぞグエル。」

 「悪かったよマクギリス、だが、お前はああいった明るくて、感情豊かで少しいじっぱりな子が好きなんだな。」

 「あの子は初めて会った時からそうだったここにこの閉じられた楽園を作る時だって絶望の中であの子は変わらずああだった。守る物ができたからこそもう手は汚せない、殺さずに、奪わずに世界を変えて見せたい、その為の一つの条件として一度俺たちの武力で証明しなければならない...こんなの間違っているとわかってる筈なのだがな...」

 グエルはにっこりと笑い彼に顔を向けると立ち上がりそのままマクギリスの手を引いて立ち上がらせる。

 「じゃあ、もう考えるのは終わりだな...もうやる事は決まってる。一緒にやろうマクギリス。俺たちは変わった、そして変えなきゃいけないんだ。争いも差別もない出来るだけの平等の世界に作り変えるんだ。」




 アルミリアちゃんはまるで鉄血のアルミリアちゃんの生写しで性格も声もまるで全てが同じです。この子に貧困地域で出会った事で、力こそが正義だったマクギリスが力で守るべき者を守りたい、力の無い人たちを守りたいと思えるようになり。権利を持った人間だけが良い思いができる世界は間違っていると思い直した原因になりました。


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3話 差別

 「どうしたんだいマーキュリーさん。」

 「ガエリオさん、少し悩み事があって...」

 最近パイロット科に編入し地球寮に入寮した彼はスレッタの良い相談役になっていた、優しい口調に仮面で顔を隠されていても分かる穏やかそうな雰囲気にスレッタはとても嬉しくそして安心して相談していた。

 「それは...まぁ、お父さんが怪我してしまったらしいし、それに株式会社も運営してるんだ色々大変なんだろう。だからそう気にしないであげた方が良いよ、君は花婿さんなんだろう?見守って時には支えてあげる事が正しいと思うよ。」

 ガエリオはそう言って手を振って部屋に戻る。

 服を脱ぐと傷だらけの肌が露出する。アーシアン差別の賜物であるその体の傷跡はここの学生に刻まれたものだ、そこから見える本質は多くある。

 「安心して仮面を取れるのはここだけだな...ランブルリングが、開戦の狼煙な訳だなマクギリス。」

 重要になるのはまだ先のイベントであるランブルリング。そこで俺はアグニカの推薦でジェターク寮からの出場をする事になっている。きっとラウダにも織り込み済みだろう。

 コンコンと扉を叩く音が響く。仮面を被り直して外へ出ればそこには赤髪の女性が立つ。

 「また相談かな、マーキュリーさん。今度はどうしたんだい?」

 「その...貴方にしか相談出来なくて、だからその...この、この部屋で一緒に話してもいいですか?」

 その顔は後ろめたさのあるような顔で、今にも壊れてしまうのではないかと思ってしまうような顔だった。

 「乗るよ、相談。」

 そう言って彼女を部屋に入れて彼はベッドに座り、またスレッタにはさっきまで座っていた椅子を譲る。

 「私、その人を。殺しちゃったんです...プラントクエタで、でもミオリネさんを救うためにはそれしか無くって、お母さんも間違ってないって。でもミオリネさんは違うって言ってて何が正しいのかわかんなくって、それでガエリオさんはその事をどう思うのか、相談したくって。」

 「言える事は、そうだな...どんな状況であったとしても殺した事は罪だと俺は思うよ。そしてそれを正しいと言った君のお母さんも、言いにくいけれど間違ってる。なんで俺がパイロット科に入ってるかわかるかい?」

 悲しそうな顔で俯いた後、彼女は泣きそうな目でガエリオを見つめる。

 「分かり、ません。間違ってる事もまだ分かりません。ガエリオさんは違うってってなんで言い切れるんですか?」

 「俺がパイロット科にいる理由は、弱い人たちを助けたい人たちを助けるためにパイロット科にいる。それに、君が殺したその人にだってキミと同じように母親がいて、君のお母さんのように子供がいたかもしれない。その人には人生と、そして可能性が先にあった。君はそれを己の正義で殺した、殺してしまった。正義はその人一人一人が持つものだ。だからこそ、いくら正しいと正当化しようとも殺しは俺は、正義でも正しさでも無いと思う。だからこそミオリネさんは君のその価値観に戸惑いを持ってるんじゃ無いのかな。」

 スレッタの頬に雫が滴る。

 「なんで、私、涙なんて。」

 そっと彼女の体を抱きしめてその赤色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。

 「自分はそうと思っていなくても。きっと心は限界だったんだ、苦しかったんだろうマーキュリーさん。だからこそ泣いていい、人には時間がある過ちを正す時間も自分の心を作る時間も。」



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4話 ランブルリング

 「この人本当にジェターク寮で出場させるんですか?ラウダ先輩にアグニカ先輩。」

 ラウダの顔には今まであったような曇りは無く、明るさが少し戻っていた。そしてアグニカも少し笑顔で佇んでいる。

 「すみません地球寮の自分なんかが...」

 「実際ガエリオはモンタークの子会社の推薦だ出来れば私と同じ場所に立ってもらいたい。それに、彼の機体の装甲や技術はジェタークの技術が取り入れられているし。なんなら、ラウダも了承している。」

 「そんな謙遜しないでくださいガエリオさん。僕なんかよりあなたの方がジェターク寮の人間として出場するのが相応しいですから。」

 その会話にペトラは少し違和感を覚えながらも、そのガエリオと言う最近編入してきた男子に向ける目はどこか今この学校にはいないあの人を思わせる。

 「じゃあもうすぐ始まるので準備をしてください。すまないペトラ先に出って貰えるかい。こっちも話をしなきゃならない。」

 ペトラが出ていくとラウダは微笑みガエリオの手を握る。そうするとガエリオもその仮面を取り外し見覚えのある顔が出てくる。

 「お帰りなさい兄さん!」

 「あぁ、俺の居場所を守ってくれてありがとう、ラウダ。マクギリスも話を通してくれて助かったよ。」

 「別に何かをやったわけじゃ無い。準備を始める、納得してくれてありがとうラウダ、ここからはグエルと私で、切り開く。」

 「お願いしますアグニカさんに兄さんも。」

 そうして彼らはパイロットスーツに着替えると、機体に乗り込み準備を始める。地球寮の人間が何故?と思うジェターク寮生は多くいたがアグニカとラウダの推薦という事もあってか特に邪険にされる事もなかった。

 この機体も色々と面白く作られている、あの機体にも遅れを取ることなぞ一切無いように思える程に。

 「おい、マクギリス。」

 「なんだガエリオ、緊張でもしてるのか?」

 「いや、違う。こいつはこの機体達はパーメットを使っては居ないんだよな?」

 「あぁ一切パーメットを使っていない機体だコイツらはそれがどうかしたか?」

 技術革新もいいとこだ。これほどの性能を持つ機体がパーメットすら使って無いとは、それだけで面白いし、それに今のこいつはジェタークを背負ってる。大きすぎる機体ではあるが操作性も全く持って悪く無い。面白い話だ。

 「時間だ、いくぞグエル。」

 「その名前で呼ばれるのは久しぶりだなマクギリス。」

 「その名前で呼ぶお前がいなかったから。俺もその名で呼ばれるのは久々だよグエル。この試合が、始まりの合図だ。」

 

 ランブルリングの説明が行われるもう試合が始まるのだ。双璧のように立つ白いモビルスーツと青紫のモビルスーツは何かわからぬ悍ましさがある。そしてその機体の入ったコンテナは発進する。そのコンテナが開く時それこそが開戦の証である。

 速攻で動き出すバエルに対して、大きなスカートを開き、フォバーするスレイプニルは全体を静観する。

 「30秒で雑魚は片付ける。上から見えた敵を報告してくれ。」

 事実バエルはスレイプニルの示した位置に颯爽と向かい開始15秒ほどで5機の機体を沈める。

 「なんだあのモビルスーツ!?」

 「アグニカだ!くっそなんだよあの動き気持ち悪りぃ。」

 そうしていると、会場に大きな爆発音が響く。

 「出てきたぞグエル、あいつらを止めるぞ。」

 重い機体を全速力で動かして、向かうは緑色の機体。その機体にランスメイスを叩き込むが避けられる。

 「機体がデカすぎるしなんならそれじゃあ遅すぎるよ!」

 その言葉を最後にソフィは機体に銃を向ける。

 「あぁ、遅いだろうな...だがこいつは裏を持っている。行くぞ、キマリスジェタークフレームタイプ。」

 そう言葉にして一つのスイッチを押すと装甲が剥がれて散らばる。その装甲はソフィの目を塞ぎ弾丸はあらぬ方向にズレる。

 着地した場所には大きな砂埃が立ち上り、それだけでなく美しい赤色の今までのものとは思えぬ程の細い機体が会場の皆の目に映る。

 「なんだよこれ?色々起こりすぎてて訳わかんネェ。」

 「あれ、ガエリオさんが乗るって言ってた機体だよね...なんで肩に獅子のマークが。」

 その機体は今までの動きとは全く違うとてつもない速さで動き、緑のガンダムに距離を詰める。

 「ソフィ、ガンボルヴァを!」

 「分かってるってノレア!」

 そう言ってパーメットをスコアを上げると他のガンダムに似たモビルスーツを操作し始める。

 「ほう、人形遊びか、悪く無いがこんなものが俺とグエルの敵になるとでも思っているのか?」

 バエルは何事も無いかのようにガンボルヴァを破壊していく、何機操っているのかは分からないが、放置していたもう一機の機体が会場に被害を広げている。

 「なんとかしないとな...あの機体、そういうことか。逃げればよかっただろうに何故お前はそこに戻った地球の魔女の一方。まぁ、予想通りに動くじゃないかノレア。」

 グエルはスピードを生かし、ガンボルヴァの破壊をしながらもソフィを止めるべく動き続ける。事実その速度の一方的なまでの速さは、ルブリスウルを追い込むのに十分すぎる。

 「邪魔だなこの人形は...どうした?この程度か地球の魔女の片割れ。だがこのままじゃ押し切れないな、阿頼耶識システムを使うマクギリス。ラストスパートだ。」

 次の瞬間ソフィの機体の腕は吹き飛ぶ。

 「もしかしてアンタあの時の、悪魔...」

 「そうだ、悪魔だよ片割れ。そしてこの闘いは俺とマクギリスを英雄へと昇華させる闘いだ。」

 その次の瞬間またもや腕と両方の足がもがれる。圧倒的なまでのその力は、ある意味パーメットに似ているが違う、それこそ悟りを開いたかのような感覚意識で動かす機体を持って。

 「お前の負けだ。偽りのガンダム。」

 残ったガンボルヴァを全て処理しながらノレアを追う。

 「君では私には勝てないよ。」

 そう言って彼は壁に追い詰めた機体のメインカメラを潰す。それだけでなく片腕を関節から切り外し、バエルソードを腰のマウントに差し直すとその片手で機体を掴んで投げ飛ばす。そのまま背中を切り崩し、機体が身動きを取れないように片手両足を切り落とす。

 「俺の勝ちだ。」

 会場には被害が残る、死者だって出た。だが、それを最小に抑えたのは白いモビルスーツと赤いモビルスーツ片方は角笛のエンブレムもう片方はかの御三家のエンブレムである獅子のエンブレム。双璧のように立つそれから全体放送が流れる。

 モニターに映るのは仮面を被った男の姿。だが唐突にその仮面は外される。そこに映る顔は皆が見知った、皆が憧れたかの男の顔。

 「嘘だ...ガエリオさんがそんな訳無いですよ。こんなの見間違いだって、絶対そうですあの優しいガエリオさんがあり得ません。」

 「ここに、ガエリオ・ボードウィンが仮面を外し、グエル・ジェタークとアグニカ・モンタークが終止符を打った。これより調査が入るだろうが安心してほしい。」

 そう宣言すると共に、他の生徒達は安堵し、他の生徒達はどうしようと青い顔で周りを見る。

 そうしていると、一つの機体がキマリスジェタークフレームモデルの近くに落ちてくる。そのモビルスーツのコックピットが開くと、一人の女性が顔を出す。

 「嘘...ですよねグエルさん。ガエリオさんをどこに隠したんですか!答えてください!」

 その言葉に無慈悲にもグエルはコックピットから顔を出す。

 「ガエリオ・ボードウィンなんて人間は元からいない。お前が見ていたその人間は俺だ。グエル・ジェタークが多くを知るための隠れ蓑でしかなかった存在に何をお前は焦っている?スレッタ・マーキュリー。」

 絶望したような顔を残した彼女は涙を流しながらも続ける。

 「嘘です...そんなの嘘です。私に優しくしてくれて、私にいろいろな事を教えてくれたガエリオさんはあなたなんかじゃぁ...ありません!」

 ガエリオは顔を渋く歪ませて心なき言葉を淡々と述べ続ける。

 「ならガエリオという男は今ここで死んだ。残ったのはこの抜け殻の仮面だけだ。それだけならば俺の目の前から立ち去れスレッタ・マーキュリーお前には興味すらない。」

 そこに残るのは涙を流し続ける女性と、このテロ行為に終止符を打った男の姿だった。



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5話 THE WINNER

 一人の女性が一人の男の胸ぐらを掴み壁に押し付ける。

 「あんな趣味の悪い真似をさせたのはアンタなのアグニカ!」

 冷静な男はただ一言女性に対して言葉を発した。

 「それだったらどうするんだお姫様。」

 「私はあなたを許さない。」

 「それだけを言うために君はここに来た訳では無いのだろう?」

 渋い顔をしながらも彼女は淡々と言葉を続ける。

 「要件はそれだけじゃ無い、グエルを貸してほしい。」

 「君の花婿を傷つけた本人をか?」

 「そうね、でもあれはアンタがやらせたことでしょ!それと今回のグエルの話は関係ない。」

 男は彼女の手を引き剥がすと目を合わせて、数秒の沈黙の後口を開く。

 「関係はあるさ、君が目を背けているだけでな。少しは成長したようだから行ってあげよう。無理だ、君の言いたいことはわかっている。グエルに君の花婿を負かして欲しいのだろう?だがそれは嫌だと言っておこう。」

 「何で?」

 睨む女はただただ一言を述べその他を口にはしない。

 「私と彼に良いことがないからだ。メリットとデメリットを考えれば当然のことだ、それに...私はあのガンダムというのが嫌いでね。関わりたく無いのだよ。」

 そして次の言葉は何だと言わんばかりの彼女が口を開かないのを良いことに彼は背を向け立ち去る。

 「待って、私はベネリットグループの総裁になる、そこからモンタークに対して援助をするわ。」

 立ち止まった男は背を向けてまま言葉を述べる。

 「それで?それは条件にはならない確定していないものに私は興味がないのだよ。」

 2分以上の沈黙が走るその空間、だがその沈黙を壊したのは沈黙を作った男だった。

 「私の、良いやこの口調はやめよう。俺の条件を呑めるのであれば、グエルを、キマリスを君の駒として使用させよう。」

 「条件は何?」

 「ベネリットの建て替えだ、ベネリットの総資産の50%を私に贈与してくれたまえ。これは、君が総裁選で勝ち残り総裁になった時に守ってくれれば十分だ。」

 「本気で言ってるの、その条件が呑めるって...本気で言ってるの。」

 「今の君には力がない...私からすれば確定しない賭けをさせられているようなものだ、これぐらいが妥当だと思うがね。守りたいのだろう?だが力を持っていないのは君の罪だよミオリネ、それを呑むと一言言えば力を貸してやる。」

 またもや沈黙が走る、そして沈黙が続くと知ると男は歩みを進めた。

 「この話は無かっ「呑む、その契約呑むわよ!こっちも約束を守るから!だからそっちも約束を守って!」...了解した、この話は成立だ。」

 彼はその言葉を述べた後、部屋へとそのまま立ち去った。

 一人の男を部屋へ呼び込む。

 「何だマクギリス。」

 男はそういうと椅子に座りこっちを見る。

 「単純に良い話が降りてきた...グエルお前はスレッタ・マーキュリーに勝てるか?」

 グエルは何事もなかったかのように言葉を述べる。

 「あぁ、勝てるだろうな今の俺なら。」

 「であれば、ミオリネを花嫁を取り返せ。これは、ミオリネ本人の依頼だ、スレッタ・マーキュリーを花婿から引きずり下ろせとそうただ一言な。」

 「それをして何になる?」

 「ギャラルホルンを作る足掛かりとなる。そして、スレッタ・マーキュリーを救うことができる。」

 グエルはマクギリスの話を聞いて考え込む。考えて何になるかなんて自分でも分かっていない癖に考えて結論をやっと出す。

 「これ以上はやりたくなかった...だが、やらなきゃいけない事なんだろマクギリス。」

 「わがままを言ってるほど俺たちには時間がないんだやってくれるか?」

 「やろう、ミオリネのとこまで行ってくるじゃあなマクギリス。」

 数日の時が経ち試合の形式も決まり、ミオリネの誕生日になる。ここから先は決闘遊びではない、戦いだ、そう理解して、そう感じとって今出来る事を見据えて、本気で勝利と目の前にあるゴールまで全速で走らなければならない。

 「双方魂の代償をリーブラに、決闘者はスレッタ・マーキュリーにグエル・ジェターク。場所は戦術試験区域3番。」

 この状況を見る一人の女性はグエルを煽るべく声を上げる。

 「先輩、退学してなかったんですね。このままだと負け犬記録更新しちゃいますけど良いんですか?」

 「ジェタークのエンブレムは獅子だ、犬じゃなくて獅子にしてくれ。」

 「スレッタ・マーキュリーあなたは決闘に何をかけますか?」

 少し考えて言葉を探し発する。

 「グエルさんじゃなくて、ガエリオさんとして最後に一回話させてください。」

 「何が言いたい?」

 「最後に一度だけあの人に感謝を言いたいから...です。」

 「グエル・ジェターク、あなたは決闘にに何を掛けますか?」

 「俺が勝ったらエアリアルをもらい受ける、それで良いか。」

 スレッタは焦った顔をして、グエルに目を向ける。

 「待ってください『構わないわそれで良いでしょ。』」

 ミオリネはスレッタの言葉を遮る。

 場面はエレベーターに映り会話するはミオリネとグエルだ。

 「ごめんね、アンタ本心じゃあの子のことまだ好きなんでしょ?」

 「分かってるかやっぱり。嘘は下手くそだな俺は...だがそんな事を言ってられないのさ恋なんてものに俺の目指すものは壊させない。そんな事より、本当なのかあいつの母親の話。」

 「本当よ、あの子は少し歪んでる。でもアンタの仮面があの子を少しずつ変えたのも知ってる。だから、その男に私は頼みたかった。」

 「後、いきなりですまないが、ハサミとバリカンを貸してくれ、男前にしようと思ってな。」

 グエルは刈った髪を触りながら目を瞑り、集中する、今は寮の奴らは関係ない。落ちた名声を取り戻し、今までの自分を突き放す。ただただあるようにあり、自分が自分であると新しい自分がブレないようにとキマリスのコックピット前まで差し迫る。

 目の前に映るは美しい金髪と翠目を持った男だった。

 「どうしたマクギリス?」

 「男前になったな、俺にいたもう一人の親友とやはりお前は似ているよ心機一転か。...勝てよグエル。」

 「勝つさマクギリス、行ってくる。」

 キマリスの乗り込み、体にケーブルを繋げて阿頼耶識を起動する。

 最高のパフォーマンスと、最高の速度と強度でただただ全てを打ち破るように、自らを描け。

 「ガンダムキマリスダリルバルデ出る。」

 msコンテナが進むその方向を感じて、そして敏感に外を肌から感じて読み取って見る。今の俺はそれが簡単に出来るように。

 「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず。」

 「操縦者の技のみで決まらず。」

 「「ただ結果だけが真実!」」

 出てきた赤き機体をマクギリスは良く知っていた。背中から伸びる二つの盾と、腰にマウントした刀状の近接武器、そして片手に持つ槍は小型ではあるが同じく槍だ、足の形状は全く違うがそれはグエル様に調整され使いやすくされている。

 まさしくその上半身は、キマリスヴィダールににすぎていたのだ。

 高速でエアリアルに近づくその赤色の閃光は、相手を捉え、即座に向かい進み続ける。

 なんなら、途中にある障害物は豆腐の様に切断され砕かれ、近づいていく。

 だがそれもここまでという様なビットによるオールレンジ攻撃が降り注いだが、一切の被弾を許さない。

 「それが俺に当たると思ってるのか?」

 腰にマウントした刀を手に取りで彼はビットを一撃で一機破壊する。

 「お前が強くなったとしても、俺だって強くなり成長してるまだまだいくぞスレッタ・マーキュリー。」

 スレッタは焦っていた、破壊される筈がないと思っていたいたものを破壊されたのだそれは焦る、だが考えていても仕方がないことはグエルの動きが物語っている。

 「ごめんねエアリアル。みんなを戻さなきゃ。」

 だがそんな暇は与えないという様にどんどんとキマリスは加速し続ける。土を蹴り、障害物を蹴り、最小のブーストで最速の動きを目指す様に、彼は次々と容赦なくビットを破壊する。

 本来の手足を動かしているのかと勘違いするほどの動きはスレッタを着実に追い詰める。

 追い込まれたスレッタはついにパーメットのスコアを上げる。

 「約束したんです、ミオリネさんの誕生日必ず勝つって。」

 「オーバーライドか...俺の勝ちだな。」

 戦局は変わらない、未だに有利なのはグエルのままだ、だが機動力が上がったのか少しずつ拮抗していく。

 いつしかそれは逆転するかの様な試合になる。そうかと皆が思った、いつも通り彼女が勝つのだと、スレッタ・マーキュリーが勝利を収めるのだと皆が勘違いした...

 一瞬、瞬きするほどの一瞬、最高のスピードで彼はブレードアンテナを切り裂いた。

 手を抜いていたのだ、本気などこの一瞬しか出してないのだ。そう、阿頼耶識を使いこなす今の彼なら、このスピードをこの試合を、最大限まで盛り上げるなど造作もなかったのだから。

 ツーと鼻血が垂れる。

 男はうすら笑みをあげて、そしてコックピットから顔を出す。

 「俺の勝ちだスレッタ。」

 



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6話 いつだって人は死ぬ

 その船は地球へ向かう、ガンダムを乗せて。

 地球での会談のために彼らは、向かうのだ。

 「なんでアンタまで...」

 「私がいなければ交渉はきっと詰むぞ。」

 その小言に彼は反応しながらも後ろにも目を配る。

 (プロスペラまで付いてくるか...嫌な状況だな。だが、ここまで計画も進んできたもうすぐ完了するこの計画、イレギュラーの対応はしっかりするとしても少し気を張りすぎているな私は。)

 「勝って兜の緒を締めよか...その通りだな。」

 「何を独り言なんて言ってるんだアグニカ。それにお前は最近気を張りすぎだ疲れてるんじゃないか?少し休んでおけ。」

 彼はグエルへと目を向けると、そのまま目を逸らし口を開く。

 「それは無理だなグエルこの会談が終わるまでは休めん、困ったお嬢様もいるんだわかっているだろう。」

 ミオリネはそれに対してイラっと来たのか拳をアグニカに振り上げる。がそれは彼に片手で押さえられそのままあっちへ行ってろと言わんばかりに突き放される。

 「そういうところだミオリネ、君は君が思っているほど幼いよ。もうすぐ地球へ着く準備しておくぞ。」

 

 「グエル・ジェターク私は貴方を絶対に許さない。」

 その憎悪の声は彼らには届かない。

 

 軌道エレベーターまでつくとそこからは車両移動だ、その間もアグニカはずっと寝てない、目の下も少しずつだが目立つ様になってきている。

 「なんでウチのモビルスーツが護衛してるのよ!」

 はぁ...とアグニカはため息を吐くとミオリネの顔を見て心底残念な顔をする。

 「君は何だ?アーシアンなのか?違うだろう。君は今現在、最もここでヘイトを集めている会社のお姫様なんだ、これぐらいしなくちゃならないのは当然なんだよ。それにね、君は少し勘違いしている様だから言ってあげよう、この地球においてというよりもこの会談において君は邪魔者なんだよ必要性のない存在なんだ。だから発言は抑えてくれ、君がいると本当に疲れる。」

 ここまでに来るまでの疲労と彼女に対して思っている感情を真正面に出しながら彼は少し目を瞑る。

 疲れているのだ単純に、彼女との契約により計画が早まったのはいいが、同時に彼女の我儘は聞くに耐えない、それこそ自分はこう言った女性が好ましくない、アルミリアの様であれば少しは譲歩しただろうがそれに関しても彼女は基本的に嫌っている、だからこそ計画や作戦を立てるだけでここまでの疲労が溜まっている。

 車が走ること数十分目的地に着く。もうすぐ交渉、会談が始まるのだ。

 車の外からも大きな怒号が響き渡る、そうするとアグニカと、グエルは車から出て歩いて会場に向かい始める。

 「ミオリネ君はこの車両の中で待機していてくれ。」

 「何でよ!私も行くわ!」

 「邪魔なんだよ!君は必要ないんだ、トロフィーらしく実績だけ集めていろ君は、やることは私たちがやるだから大人しくいう事を聞いていてくれ。」

 アグニカは少し声を荒げるとミオリネは黙り込む。

 そしてアグニカが民衆に手を振ると彼らの怒号は一気に収まる。そしてアグニカも手を民衆へ向けて振る。

 「モンターク様だ、さすが!」

 「アーシアンの権力者の一人としてこの話を聞きに来たんだ流石だ。」

 「これなら俺たちも安心できる。本当に良かった。」

 「あっちはジェターク社の新CEOだ。スペーシアンの中でも彼は違うって聞いたことがあるぞ。」

 「モンターク様だけではなくスペーシアンの親アーシアンの権力者の方まで、このデモに意味はあったな。」

 そう歓声が上がり始める怒号はいつの間にか収まっていた、そしてミオリネは本当に自分が邪魔者だったと理解する。

 

 そうして会談は始まった。

 「今回ここにきた理由は一つです。このデモをやめてもらいたい。」

 「アグニカ!いくらなんでもあちらの話を聞かずにそれは...」

 アーシアンの代表はグエルに向けて掌を向ける。

 「グエル・ジェターク殿少し良いですかな。アグニカ殿、続けてください。」

 「安心しろグエル今からする話が彼らが最も聞きたい話だ。このデモ、犠牲者無しでの鎮圧により、ミオリネ・レンブランを代表にしようという動きは少し増すはずです。そこで私とミオリネとの契約が出てきます。ベネリットの資本の半分を貰うというもの、私はこの資本から地球圏を防衛を、また地球圏に先進教育機関を作ろうと思っています、組織名を「ギャラルホルン」とし、出自や思想の関係ない、実力の高さのみを基準とした社会を地球全土に築きます。」

 その言葉を待っていたという様な顔をして目を輝かせる。感極まってか涙を流すものさえいる。

 「やっと笛が鳴るのですか...」

 「あぁ鳴るだろう、現体制は壊れなんならベネリットすら潰そうと考えている。今回の件、直々にあなた方から対処をよろしくお願い出来ないだろうか?」

 その時扉が大きく開かれた、そこに立つは白髪の女性。そうミオリネだ、その場の皆が何故ここにと言わんばかりの状況に困惑して思考が止まったその瞬間、銃声が鳴り響いた。この場にいる人間ではない、外から彼女を狙って撃たれた球はある男によって防がれる。

 「へ...」

 「はぁ、はぁ、はぁ...大丈夫か、ミオリネ...」

 「今すぐこの場を覆え、外敵だ!それこそアグニカ殿に敵意を持っている存在の犯行だ!」

 「俺の私兵も使わせる、確実に民間人に影響が出ない様にするんだ!武力行使は望まれていない。」

 なんでだ?なぜ?なんでここでイレギュラーが起きた?...コイツか、この女がなんでここに来た、訳がわからない、俺が来た時点で民間人は落ち着いていた筈だ、来る理由がない、こんなクソみたいな会談の失敗があるものか絶対にありえない。

 「なんでここにいる。」

 絞った様な声だった、俯いた顔でこちらを睨みつける金髪の男に恐怖する。

 「待て...マクギリス。」

 そこでマクギリスは一旦落ち着き頭が冷える。

 「やめろ今は喋るな。」

 「いや....喋らせて、貰う。弾は...俺の片方の肺に入ってる、今から...治療したところで...遅いのは俺がよくわかってるんだ...だから...一つ言わせてくれ、俺を...置いて...逃...げろ。はぁ...ぁあ、やったのはプロスペラの私兵だろう、今から...街で...大規模な戦闘が...起こる...筈だあぁ...今すぐ行け...ミオリネを責めないでやってくれ、これは俺のミスだ。

 「私達は状況の説明をする、グエル・ジェターク殿についても今から最善を尽くす、今はただこの場から立ち去ってくださいアグニカ殿。」

 こんな結果を受け止めるのか、いやわかっている、グエルは死ぬだろう、あの位置に弾が入った確実に死ぬ、こんな結果で...クソが!今はただこの女の手を引いていくことが賢明だ。

 「やるしかないんだな...今すぐ車を出せ!」

 車に乗り込みドアを閉める。

 「グエル・ジェターク様は?」

 「死んだ。おそらく、プロスペラの私兵だろう今回の会談を壊す気でいたんだあの魔女は。」

 「ここからは戦争だ暴動、デモは鎮圧した、会談は結果的に失敗に終わったが目標の一つは完了した。...ミオリネいつまで放心状態でいるつもりだ?グエルは君が殺したんだ、そんなんじゃあいつも浮かばれない、まぁ、君の幼稚な私情のせいでほぼ無駄死にだからこそ浮かばれる浮かばれないなぞ関係ないがね。」

 犠牲の重さを感じながら彼らは急ぎ宇宙へ向かった。

 



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