新ZOIDS伝説ー獅子皇の章ー (ドラギオン)
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獅子皇

初めてのゾイド作品。
良ければ楽しんで頂けると幸いです。


----惑星zi

 

この惑星には、人類と動植物、そして金属生命体ゾイドが存在した。太古から数々の大異変を経験し、現在では、『神々の怒り』を最も近い記憶とし、数千年。300年前に今は亡きディガルド武国との戦争が起こった後、惑星ziの科学は大幅に進化した。その技術の中で最も進化したのが地底から発掘された奇跡のメタル、『セフィロンメタル』の発見である。セフィロンメタルは、ゾイドの遺伝子の一部でも存在すれば合成し、『クローンゾイド』を生み出す事が出来た。

 クローンゾイドは、純粋種と比べると6割といった強度であるが、大型ゾイドや絶滅種を低コストで量産できるので人類に欠かせないものとなった。惑星ziは、今や数多のゾイド達が多く闊歩する全盛期であった。

 

 

 

 

とある大陸の南部、広大な砂漠と広野が広がる土地。そこで、ある一人の少女と一匹の白き獅子型ゾイドが日光に晒されながらも移動していた。

 

ズゥゥウンズゥウン

四足歩行するゾイドが大地を踏む度に独特の足音が響く。

 

『グゥルル』

「うるさいなライガーゼロ、もうちょっとで村に着くんだから我慢してよ」

 

獅子型ゾイドの名をライガーゼロ。野生態ゾイドであり非常に珍しい個体である。そのライガーゼロが、煌々と日光に晒され歩かされることに抗議の声をあげると、ライガーゼロの頭部のコックピットのハッチを開きながら搭乗する少女、セオリがペシペシとライガーゼロのコックピットを叩き叱る。

 

『キューン』

「泣きそうな声だしてもダメ。私だってハッチが壊れてずっと暑いんだから」

シュンとライガーゼロが情けない声をあげれば、セオリがパタパタと手で扇ぎながらたしなめる。

 

それからも渋々歩を勧めるライガーゼロとライガーの愚痴に一々付き合いながら、目的地の村まで砂山一つを越える所まで辿り着く。

『グルル!』

「なにあれ、村の方からだ! 急いでライガー」

 

 だが、砂山の向こう側から、大量の黒煙が舞いあがっている光景が目に入る。その光景にセオリは、嫌な予感を感じ操縦桿を持つ手に力が入る。そして、ライガーゼロも不穏な空気を感じ、警戒態勢に入りながらブースターで加速しつつ砂山のてっぺんに登る。

「こ、これは」 

『グゥウウ』 

 

 セオリとライガーが見た光景は、元々ジェネレーターを中心に大きくは無いが栄え、砂漠の中でも緑豊かだった彼女の村。それが一面の火の海と破壊され尽くし機能の停止したジェネレーター。そして、逃げ惑う村人達。そして、それを追い掛け回す銀色の化石のような姿をしたバイオラプトルだった。

 

「いけライガー!」

 その光景を見たと同時に、セオリはライガーゼロを走らせた。背部のブースターによる加速とライガーの総力が合わさり、素早く村まで降りると、今まさに村人を襲わんとするラプトルに体当たりを仕掛ける。

 

猛突進を受けたバイオラプトルは、吹っ飛び建物に衝突する。それを見た彼女は、村人に大声で指示を出す。

「皆さん、ここは私とライガーで凌ぎます。だから、避難を」

「す、すまない」

「自警団の奴等が全員居なくなっちまったんだ。だから、他にも逃げ遅れた奴がいる」

「こいつら、シュセイン国の奴等だ」

 

などと彼女に出来うる限りの情報を伝え走って逃げていく。

それを見送りながら、彼女は考える。

(何で、金獅子の騎士団がこんなときに居ないの? おかしい)

 

普段から村を守る筈のゾイド乗り達が、一人もこの状況にもかかわらず音信不通なのだ。そちらの方が異常である。

 

『キャォウ!』

「きゃあ!」

 

油断していたセオリ。その隙をついて先程吹っ飛ばしたラプトルとは、別の個体がライガーにのし掛かる。それと同時に吹っ飛ばされた個体も起き上がりライガーに突撃してくる。

 

「離れろ!」『グォオオ!』セオリの声に反応するようにライガーが激しく体を動かし、ラプトル二機を引き離す。

「このー!」

怒りに燃える彼女は、倒れたラプトルの首根っこをライガーの顎で捕らえもう一体のラプトルを踏みつける。

 

「貴様たちの目的はなんだ!? なんの恨みがあって村をここまで追い込む!」

 

怒りに任せラプトル達に問い掛けるが、返答はない。

 

(こいつら、パイロットがいないか……これだからバイオゾイドは……)

もがくような抵抗を繰り返すラプトルだが、ライガーの拘束から逃れられない。

 

『!ギュオ』

「ぐ!」

すると、拘束することに専念していたライガーを背後から巨大な尻尾が襲い、ライガーの機体が大きく空に打ち上げられた。

 

そして、地面に墜落したライガーは、複数回打ち付けられ漸く止まった。

だが、衝撃も凄まじくハッチが壊れたコックピットに乗るセオリはダメージを受ける。ライガーゼロに至っては、既に活動限界まで寿命を減らしているボディに大打撃を受ける。年寄りの

ゾイドに対して優しくない一撃だった。

 

『グゥウウ』

「あれって、まさかバイオティラノ?」

 

ライガーゼロを襲った襲撃者を見ると、大型ゾイド並の体躯にバイオゾイド独特の化石のようなフォルム。そして、暴君トカゲを彷彿とさせる大きな顎から話に聞いたディガルド武国の最終兵器と被った。本来は、既に死んだゾイドだがラプトル達と同じく、近代にて確立されたゾイドクローン技術で蘇らせたのだろう。

 

「立てるライガー?」

『グォオオ! ギュォオ!』

 

セオリの声に応えるように、軋む老体に鞭を打ってライガーゼロが立ち上がり雄叫びをあげる。するとバイオティラノから人間の声がする。

 

「ほう、立ち上がるとは流石ライガーゼロと言った所か? クローンゾイドではない純種のゾイドは、根性があるな」

「あなた何者?」

「ほう、女がライガーを駆っているのか。私は、シュセイン帝国軍大尉アーバン=ミドルドだ」

 

バイオティラノのパイロットは、余裕を孕んだ明るめな声でこっちの問いにも答える。

「なぜ、私達の村を襲う?」

「ゾイドコアの入手のため、そして、この村のジェネレータの地下にあると言う遺跡が目的だ」

アーバン大尉とやらの説明を聞いて、セオリは驚愕と寒気を感じる。

「なぜ、古代遺跡を狙う」

「おっと、少し話しすぎたようだ。私は、口が軽いと上官に怒られたばかりだと言うのに」

「答えろ!」

「喚くな小娘。どうせ貴様も死ぬのだ、知ろうが知らぬまいが変わらん。それではさようならだ」

 

そうアーバン大尉が会話を終えると同時にバイオティラノの瞳が光り、セオリとライガー目掛けて走ってくる。巨体に似合わない速度で駆けるバイオティラノ。

 

「いくよ。ライガー!」『グォオオオオオ』

ライガーゼロも負けじと咆哮を上げ、前肢と後ろ足で大地を蹴りバイオティラノを迎え撃つ。

先に仕掛けたのは、バイオティラノで巨大な顎でライガーを噛み砕こうとする。

「く」

咄嗟にライガーの体を斜めに反らし、回避と同時にライガーの爪にエネルギーを流す。

「ストライク……レーザークロー!」

光り輝く爪は、獅子の咆哮と同時にバイオティラノの脇へと向かい降り下ろされる。

 

だが、しかし。

 

「ほう、小娘。予想外に腕に恵まれておる」

「バカな」

バイオティラノの側面を打ち砕く予定だったストライクレーザークロー。それは、なんとティラノに隠されていた隠し腕に前足ごと防がれる。

そして、前足を捕まれたライガーは、身動きがとれない。

 

「一瞬だがヒヤヒヤさせられたぞ。だが、これで終わりだ」

「うわぁ」

『グオオ!?』

 

隠し腕により、空に投げられたライガー。空中でバランスもとれず落下しているとき、バイオティラノが 口腔から凄まじいエネルギーのレーザーを発射した。

それは、真っ直ぐライガー目掛けて進む。

『ガォオオ』

「なんと」

バイオティラノのバイオ粒子砲が命中する寸前、セオリの操作でなくライガーが勝手にブースターを起動し、ライガーゼロ全てを飲み込むはずだった一撃。それをライガーゼロの胴体から下半身を犠牲にするだけの被害に押さえた。

バイオ粒子砲の威力でそのまま、ジェネレータに向かって吹っ飛ぶ最中、ライガーは、頭部に乗るセオリを守るためストライクレーザークローで壁や床をぶち破る。そのまま、らっかし続け、漸く広い空間にて落下を止める。

 

「ぐはっ」

 

衝撃からコックピットより投げ出されたセオリ。遺跡の床を這いつくばりながら、ライガーゼロの容態を見る。

 

「ライガー……ゼロ……」

 

そして、言葉を失った。ライガーゼロの前足より後ろが存在しなかったのだ。

いくら野生体ベースのゾイドとはいえ、これ程のダメージを負えば、死を免れない。

『グゥウ……ゴォウ』

 息も絶え絶えといった満身創痍なのがライガーの声から理解できる。セオリは、全身に激痛を感じながらも、ライガーゼロ、6年以上も一緒に過ごした相棒に手を伸ばす。

「ごめんね、ライガー」

 

 セオリの掌がライガーの鼻さきに触れる。既に石化を始めている。サラサラと砂に変わり続ける。

『グォオオ』

「え、ライガー!」

 

 ライガーが満身創痍のまま、セオリを軽く咥え、前足だけで地面を這うように進む。そして、少しだけ進んだ辺りに、ライガーゼロよりも巨大な獅子の石像があった。其の石像を見ただけで、セオリは生物の本能から恐怖を感じた。一切稼働していない化石である 

「これ、獅子型ゾイドの石造? こんな大きくて、恐ろしいライオンのゾイド、見た事ない。きゃあ」

 ライガーは、セオリの体を放り投げ、石造の頭部に着地させる。どうにか頭部に掴まることが出来たセオリがライガーの方向を見る。

 

「ライガーゼロ」

『グォオオオオオオオン!』

 

 まるで、ライガーゼロは、死の間際。セオリが掴まっている獅子の像に頭を垂れ、王に請願をするようだった。百獣の王が、頭を垂れてまで石像に何を求めたのかは、わからない。

 だが、セオリのライガーゼロは、最後に威勢の空間中に響くような咆哮をあげ、砂となった。

 セオリが、ライガーに手を伸ばそうとした時、彼女の足場になっていた石像が、金色に輝き全てを包みこんだ。その時、セオリの頭に石像の名が浮かび上がった。

 

「お、オウド」

ーーーーーーーーーーーー

 

 ゴォオオンと遺跡内で爆発が発生する。ライガーゼロを仕留めたと予想し、障害が無くなったのでご自慢のバイオティラノの火力で遺跡を焼き払いながら、最深部に進んでいたアーバン大尉。

 ようやく、最深部に辿り着くころには少し時間が過ぎていた。

「ラプトル、この空間を散会し捜索せよ。見つけるのだ帝王のゾイドを」

 

 バイオティラノの開けた空洞から、次々と計12機のバイオラプトルが侵入していく。そして、最後にアーバンも中に入る。中は、遺跡を破壊して回ったために煙で曇っていた。

「ほう、何千年前に築かれた遺跡にしては、綺麗な物だ。なにやら特別な技術でも使われているのだろうかな」

 誰も居ないにもかかわらず、一人干渉に浸っている時だ。

 

『ゥルラオオォルルルルルルルル!』

『ギュオォ』

 

 広々とした空間で全てを震わせるような咆哮、間違いなくライガータイプの咆哮である。その方向と同時にラプトルの悲鳴が聞こえ、レーダーに映る味方の認識コードが消滅する。

 

「あのダメージでまだライガーゼロが生きていたと言うのか!」

 だが、彼の言葉は、すぐに否定されることになる。バイオティラノが戦闘態勢を取ると同時に、足元に何かがつっかえている物体に目線を落す。

「これは、先程のライガーではないか、やはり死んでいるということか、ならさっきの声は」

 

 彼が、煙で視界が悪い中で、敵を捜索しているとバイオティラノのセンサー越しに、一筋の閃光が走った。『ギュォ』『グブゥ』『ギュォオオ!』と二機のラプトルの悲鳴、そして、一匹のラプトルがアーバンも目視した閃光目掛けて口から砲撃を始める。

 その攻撃は、閃光が動いたため空振りするが、砲撃が再び空間に大穴を開けたため風通りが良くなり、煙が晴れ視界が鮮明になって行く。

 

「な、なんだあれは!」

『ギュォオ』

 アーバンが視界に捉えたのは、ゴールドとコバルトブルーがメインカラーのライオン型ゾイド。非常にシンプルなフォルムで突起物が頭についている王冠にくらいで曲線状な形が主でボディの至るところに黒い窪みのようなラインが走る。どう見ても最大級のライガータイプであり、現存するどの種とも違う個体。

 それは、目にも止まらぬ速さで閃光となり、彼の視界にいるバイオラプトル達を爪や牙で引き裂いて行く。それを止めようとは思えなかった。

 本来のデスメタルよりは、クローンの劣化により防御力が低めとはいえ、通常の兵器では破壊が難しいのだ。それを目の前のライガータイプのゾイドは、最も有効な武器であるメタルzi無しで純粋な格闘能力で破壊したのだ。

 

「ラプトル部隊! 奴を囲め!」

 

 バイオティラノからの指示に残ったラプトル達が従い、正体不明のゾイドを取り囲む。そして、ライガーに向かって口を開き威嚇と同時に砲撃の用意をする。

(幾ら速かろうと、この包囲網からは、逃げられん)

 

 ラプトル達に一斉発射の指示を出そうとした時だ。

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 ライガーが鼓膜が破れるのではないかと言う咆哮を上げる。それだけで、ラプトル達が恐れをなしてズリズリと後退を始める。奴は何もしていない、ただの咆哮のみでバイオティラノの支配下にあるゾイドに恐怖を植え付けたのだ。

 

『グルルル』

 そして、なんと。アーバンの操縦するバイオゾイドの頂点に君臨するバイオティラノまでが正体不明のゾイドに一歩下ってしまった。

 

 そうなれば陣形など、何の意味もなさない。『グゥルォオ』と短く咆哮を上げるライガーが再び閃光となり目にも止まらぬ速さで動けないラプトル達を牙と爪の餌食にしていく。

「馬鹿な」

 そして、気が付いた時には、残ったのはバイオティラノ一機のみであった。ラプトルの性能は決して高くない。だが、あの数を10秒もかからず撃破されるのは、まずい。

『グルルル』

『グォル』

 謎のライガーが、一歩一歩バイオティラノに迫る。その様は、王者の風格にあふれており、恐怖とは別の畏れすら感じるほどだった。アーバンの目には、ライガーの爪や牙が直接自分の死に繋がるのだと生物的本能から感じる。そして、こちらを見るライガーの瞳が食物連鎖で自分より上位だと語っていた。

「来るな化け物!」

 

 バイオティラノは、口を大きく開き口腔にエネルギーを収束する。バイオティラノの最大兵器であるバイオ粒子砲を最大限にチャージし、それをライガー目掛けて発射した。

 発射されたバイオ粒子砲は、真っすぐに此方に歩み寄るライガーに見事に命中しその姿を呑み込む。

 

「どうだ」

 閃光に呑まれたライガーに安心したのも束の間、光線が中央から二つに分かれていく。

「シールドだと! だが、そんなものでこのバイオ粒子砲が防げる筈が……」

 

 ライガータイプのゾイドが四本の足で、しっかりと地面に踏ん張りながら周囲に白い障壁を発生させ、バイオ粒子砲を防いでいる。だが、Eシールド如きで凌げる攻撃ではないのだ。

 それをライガーは、完全に防ぎながらもこちらに向かって、進んでくる。その時、アーバンはライガーから発生しているシールドが唯のシールドでない事を目撃する。

(ビームが全てライガーのシールドの周りを巡り、回転し更に後からくる粒子砲を巻き込んでいる。これは、まさか粒子の回転運動を利用し、攻撃を受ければ受けるほど強化されるバリアか)

 そう、まさにその通りだった。ビームを受ければ受け続けるほどシールドのエネルギーが高まり、バイオ粒子砲を撃ち切ってしまったのにもかかわらず。バイオ粒子砲の膨大なエネルギーは、ライガーのシールドとなり嵐のように周囲に猛威をふるっている。 

 その姿は、バイオ粒子砲を掌握した怪物である。怪物は、バリアーを張ったままバイオティラノに駆け寄る。

「うぁあああ!」

 

 バイオティラノの尻尾でライガーを薙ぎ払おうとすると、ライガーは再び目に見えない機動でバイオティラノの尻尾の先をもぎ取って行く。

 アーバンが気が付いたときには、ティラノの尻尾は先が無くなっていた。そして、周囲を確認すると真後ろに居たライガーの口にティラノの尾が咥えられていた。

(今の一瞬で、バイオティラノの装甲ごとテイルを食い千切ったのか……これが、帝王のゾイド)

 アーバンは既に相手が、目的としていた帝王のゾイドであると確信していた。だが、バイオティラノを一方的に圧倒できる性能があるとは、考えていなかった。

 

『グォオオ』

 急にライガーが咆哮と共にこちらに向かって飛びかかって来る。それにアーバンは「しめた」と歓喜の声を上げ、バイオティラノの全スペックを持って飛びかかった。

 

「どれだけ速かろうと、捕まえてしまえばこちらの物だ!」

 飛びかかってきたライガーを両腕と隠し腕の計4本の腕で捕獲することに成功したアーバン。これこそが天が与えたチャンスとばかりに歓喜し、ティラノの腕力でライガーの両脚をガッチリと固定する。

 

「終わりだ!」

 そして、動けないライガーに零距離からバイオ粒子砲を発射しようと、口を大きく開いたその時だ。

『グォオン!』『ォォオ』

 ライガーが、後ろ足に力を込め、前に進もうとバイオティラノを押し始めたのだ。するとなんと言うことだろう、バイオティラノが徐々に押され始める。中型ゾイドですら簡単に握り潰す程の膂力を誇るバイオティラノが完全に力負けを始める。

 ライガーの体のラインに光が巡り始めると、先程よりパワーを増したライガーにティラノは完全に翻弄される。最終的には、4本の腕の拘束すらも解かれ首に噛みつかれたかと思えば、ライガーがティラノの身体を咥えたまま、天井目掛けてジャンプした。

 

「おおおおぉおおおおおお!」

 ジャンプと同時に、光に包まれたライガー。ティラノを持ったまま天井を突き破るも加速は止まらず、次々に遺跡の天井を突き破り、最終的に遺跡を飛び出し大空に跳び上がる。

 底そこで漸く解放されたティラノだが飛行機能の無いゾイドのため、落下するしか行動が出来ない。

「ははは、これは確かに帝国を脅かす存在だ。恐ろしいものだ、こんなものが後3機もあるのだからな……」

 落下しながら、アーバン大尉は、自身に向かって爪を振り下ろすライガーの姿を見てそう呟く。

 

「オウドライガー、ストライクレーザー! クローーー!!」『グォオオオオオ!』

 彼の耳には、先程ライガーゼロに乗っていた赤髪の少女の声が聞こえた。怒りを孕んだ声と共に彼女が呼んだオウドライガーが空中にて光り輝く前足を振り下ろした。

 

『ギォオオ』

 恐らく先程のシールドのエネルギーをそのまま爪に収束したであろう一撃。

 バイオティラノのダークネスヘルアーマー装甲すら簡単に、破壊しティラノの首と胴体を完全に切断した。胴体と首に分けられたバイオティラノは、断末魔を上げながら空中で爆散した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 背後での爆発の爆風で加速しながらも軽やかに地面に着地したオウドライガー。

「はぁ……はぁ……、やった。あいつを倒せた」

 オウドライガーの頭部のコックピットに搭乗し、操縦桿を握るセオリ。先程の戦闘での疲労からか汗が多く流れ息も少し荒くなっている。何より心拍数が上がって体温も上がっているのを感じていた。

 

「これが、オウドライガーの力……」

 操縦桿を見つめながら、セオリは、呟く。先程ライガーゼロの死と共に光り始めたオウドライガーが突如、頭部のコックピットを開き其処に無理矢理セオリを乗せた上で動きだしたのだ。

 それと同時に空間に穴が開き、バイオラプトルが侵入してきた所で彼女の記憶は、すぅーと闇に呑まれる如く一度飛んだ。

 

(目が覚めたら、相手の真後ろに居たんだもん……びっくりして飛びかかったら、捕まえられたし)

 意識が覚醒した時、オウドライガーがバイオティラノの尾を食い千切った所で、恐怖からライガーゼロの時と同じく飛び掛かるがガッチリ拘束されパニックになっていたがオウドライガーのパワーが規格外であったために、彼女のごり押しを実現し狭い場所からの脱出した。そして、大空に飛び出した段階で、相手が回避できない事を承知で、ゼロの得意技であるストライクレーザークローで止めを刺したのだ。

 

「でも、あいつを倒しても……村はもう」

 敵が居なくなったため、警戒する物がないので周囲の様子を見渡す。家々が炎に包まれ、一面の焼け野原となり、再興にはかなりの時間を有するだろう。

 

「とりあえず、皆の元に行かなくちゃ」

 逃げた筈の村人たちは、予め決められた避難場所にいるはずなので其処に向かう。ライガーを走らせながら、自警団が戦った痕跡も無い村を見て、焦りが生まれる。

 

(もしかたら避難所の自警団も居ないのかも知れない) 

「お願い急いでオウドライガー!」

 

 彼女は、正体不明のゾイド、オウドライガーを走らせ避難場所であるオアシスを目指す。

 

 

 今日、この日。これからの惑星ziを襲う混乱と時代のうねりの象徴、【帝王のゾイド】の最後の一機が目覚め、少女と共に世界を旅する。




オウドライガー
オーガノイドシステム+エヴォルドシステム搭載。

番号announce
所属トライデント
分類ライオン型
全長33.5m
全高14.56m0
重量110t
最高速度705km/h
乗員人数1名
武装
ストライクレーザークロー×4
爪にエネルギーを集束させ、強烈な一撃を見舞う。一撃で大破させる威力を誇る。
スーパーサウンドブラスター×1
自身の咆哮を数億倍に増幅して発生させた超音波を放出し、対象敵装甲に共振現象を起こさせて粉砕する超音波兵器。
タキオン粒子流動シールド発生機×4
4本の足の噴出孔からタキオン粒子の光速移動をともなったシールドを展開する。従来のシールドと攻撃を防ぐのでなく、粒子の動きによって弾き削る兵器であり接近戦用の武器にもなる。
ドレインファング×1
噛み付いたとき、相手のゾイドのエネルギーを吸収し、倍加させて放出することで内部から破壊する。
ショックカノン×3
小威力の超電磁砲を発射する胸に装着される。

姿
ゴールドとコバルトブルーがメインカラーのライオン型ゾイド。非常にシンプルなフォルムで突起物が頭についている王冠に見えるレーダーくらいで曲線状な形が主でボディの至るところに黒い窪みのようなラインが走る。最大級のライガータイプであり、最速のライガーでもある。

搭乗者 セオリ=アンデルセン
年齢 16
身長 156
体重 45
姿 オレンジ髪のポニーテール。赤い目と白い肌の女性。動きやすい民族衣装に身を包む。
性格 男勝りで行動力に溢れる。がさつだが優しい性格。


バイオラプター『クローン』

番号 BZ-006
分類 ラプトル型
全長 11.5m
全高 7.2m
重量 23.5t
最高速度 210km/h
武装 ライトヘルアーマー
ヘルファイアー
ヒートキラーバイト
ヒートハッキングクロー×2
ヒートスパイク×2
テイルカッター
レーダーウイング×2

機体解説
元ディガルド武国の量産型バイオゾイド。クローン のため、装甲やパワーなどが本来より弱体化した。



バイオティラノ『クローン』

番号 BZ-002
分類 ティラノサウルス型
全長 29.4m
全高 12.9m
重量 160t
最高速度 230km/h
武装 バイオゾイドコア
ダークネスヘルアーマー
ヘルファイアー
バイオ粒子砲
サンダーキラーバイト
テイルジャベリン
サンダーハッキングクロー×2
サンダースパイク×2
リブ・デスサイズ×2

機体解説
バイオゾイドの頂点に君臨するバイオゾイド最強ゾイド。
クローンで弱体化したが格闘戦においては絶大な戦闘能力を誇り、全身を覆うダークネスヘルアーマーは通常の兵器どころかリーオ兵器すら問題としない防御力も持ち、高速移動中のライガーゼロを容易く捉えるという驚異の瞬発力を持つ。両脇腹に隠された副腕のリブ・デスサイズは迂闊に接近した敵を捕獲し破壊する。さらに口内に装備されたバイオ粒子砲は対象を分子レベルまで分解する超兵器。







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獅子王の村

今回は戦闘シーンありません。ただ、村がどうなったのかという話です。



村での激しい戦闘を終え、新たなパートナーを得たセオリ。彼女がオウドライガーで村の避難所に辿り着いた時、彼女の見たのは、新たな惨劇だった。

 

4足で素早く大地を駆け、村から少し離れた場所にある緑と何より水が豊かなオアシス。それが今は、絶望の表情で立ち尽くす村人達の前で湖の水がほとんど無くなり、

 

「どうしてこんなことが、皆は無事なのかしら」

 

 ライガーで、村人たちが避難している借りの集落に歩み寄る。すると、集落から出てきた村人達が、それぞれ銃機を持ってこちらに向かって発砲してくる。

「え、ちょ、どうして」

 

 いきなりの攻撃に訳が分からなくなったセオリ。思わずライガーを一歩後退させる。

「おのれ! よくも村を!」

「この裏切り者どもが!」

「旦那を返してよ!」

 

 40人ほどの老若男女が、怒りと憎しみの表情でこちらに憎悪を向けられる。何故村人達に憎悪を向けられているのかわからないセオリは、オロオロとライガーのマイク越しに声を出す。

 

「わ、私は何もしてないよ!」

 彼の声を出すと、村人達が「セオリだ」「セオリの声だ」「あいつも裏切ったのか!」と彼女だと認識されても悪意は向けられっぱなしになる。

 今まで見た事も無い村人達の憎悪に泣きだしそうになっているセオリだが、セオリが謎のゾイドに乗っている事に気が付いた中で数人の村人達が他の村人を押さえる。

「おい、セオリは裏切ってなんか無いぞ」

「そうだ、さっきも俺達を逃がすために戦ってくれたんだ」 

「それに、襲撃の時セオリのライガーゼロは、いなかったよ」

 

 先程セオリが救出した男達が他の怒れる村人たちを説得する。すると、我を忘れていた村人達も「そうだよな」「それにセオリが虐殺なんか、できる度胸ないよな」「ごめんなさいセオリちゃん」と全員が武器を降ろしてくれたところで、セオリもようやく安心する。

 そして、オウドライガーを伏せる状態に固定しハッチを開けて、出ていく。すると先程庇ってくれた村人達に「さっきは助かった」などと礼を言われ、武器を向けた村人達は、常々に謝罪して行った。

 そこで、セオリは気になっていた事を村人達に聞いた。

 

「どうして村にシュセイン帝国が攻めて来たの? それに自警団『金獅子の騎士団』は、どうしたの?」

 彼女の質問に村人全員が暗い表情をする。そして、万を期して一人の村人が話した。

「帝国の奴ら、遺跡に眠る伝説のゾイドを寄越せとか言ってきた。それに従わなかったら急に攻撃を……」

 

それは、さっき戦闘で実感していた。帝国は、目的のためなら手段を選ばない。

「自警団は? ライガータイプが10機も居たんだよ? バイオティラノが強いと言っても、全機でかかれば倒せない相手じゃ」

 

 彼女の言葉に村人は、拳を握りしめる。そして、深呼吸で一息おいて話しだす。

「あいつらは、全員帝国側に寝返ったのさ」

「え?」

「奴らは、帝国軍が出向いてくると同時に、ライガーを駆って出ていった。ロンのシールドライガーだけが、村を護ろうとしてくれた」

「ロン……」

「だが、ゴウサのゼロファルコンが背後から、バスタークローでロンの乗るシールドライガーを破壊したんだ」

 

 村人の言葉に、セオリは言葉を失い口元を手で覆った。村に住んでから慕っていた自警団の皆。それぞれが強く、偉大なゾイド乗り達で彼女の憧れだった。

 そんなゾイド乗り達が村人を裏切って帝国に着くなんて、受け入れがたい事実だった。

「じゃ、ロンは! ロンは無事なのか」

 

 彼女は、幼馴染みの少年の身を案じた。すると集落から、手足に包帯を巻いた茶髪に黒眼の幼馴染みが出てくる。彼は、セオリの傍まで行くと少しふら付いたが彼女が支えた。

「お、わりぃ。シールドライガーは、機能停止したが俺は怪我だけで済んだ」

「よかった」

「あぁ、一番下っ端のくせにコイツこそが真の英雄だったよ」

「痛いって」

 村人の一人が彼の背中をバシバシと叩く。

 幼馴染みの無事と活躍を聞いて安心する。そして、裏切った自警団の事を考えるセオリ。

(あれだけ良い人達だったのに、どうして) 

 

「そういえば、セオリこのゾイドななんだ? それにライガーゼロはどうしたんだ?」

 幼馴染みの質問に、彼女も顔を顰める。

「ゼロは、バイオティラノとの戦闘で……この子は、ゼロが死の間際に目覚めさせてくれたゾイドなんだ」

「そうか、あいつ最後までお前を守って意思をコイツについでもらったんだな」

「うん、オウドライガーっていうんだ。とっても強い子だよ。この子がいなかったら私も死んでた」

 

 動かないで伏せているオウドライガーの顔を撫でながら、そう言うと。一番大きいテントから長老がお供二人を連れて出てくる。その様子が目を大きく開き慌ててセオリの方向に走って来る。

「こ、これは遺跡の最深部、獅子王の石像だったものか!」

「う、うん」

 凄い形相で、セオリに質問する村長。彼女は若干引きながらも肯定する。すると村長は険しい表情のままセオリに告げる。

 

「数千年前の大異変『神々の怒り』を知っておるな?」

「うん、歴史の教科書にも載ってた。昔は月が二つだったんだよね」

「このゾイドは、ある日宇宙から降ってきた月、その中から現れたと言うのが、獅子王を含む4体のゾイドだと言う。そして、復活した4機。月が落ちた事で大異変を起こしていた大地で4機は引かれるように争い、その神々とも言える戦闘の影響で惑星の文明は完全に滅んだのじゃ。」  

「その四体の一機がオウド? それが神々の怒りって言う意味?」

「そうじゃ。我らが村の先祖は、戦闘を終え機能を停止した獅子王を遺跡の最深部に封印したのじゃ」

「そういえば、一番奥にいた」

「獅子王を封印した遺跡の上にジェネレーターを築いた。ジェネレータの力で獅子王の存在を隠し封印するためにの。この村には、獅子王に引かれてかライガータイプのゾイドが集まるようになった。先祖たちは、ライガー達と絆を結びこの遺跡を護ることを決めた」

「金獅子の騎士団」

「そう。ライガーも自らの王の墓を守ることに協力的で村は、数百年前のバイオゾイド戦争の最中も安全に護られてきた。しかしじゃ、今こうして獅子王が目覚めていると言う事は、再び神々の怒りが起こるやもしれん」

「そんな……」

「だが、文献にはもう一つの可能性も示されている。獅子王を含む4機を帝王のゾイドと呼ぶ。帝王のゾイドは、世界に混乱と破壊が迫ると蘇り、惑星ziを救うともな」

 

 村長の話を聞いて、セオリは自分を救ってくれたライガーを撫でながら(お前は破壊の権化なんかじゃないよね)と願う。そして、村長のもう一つの可能性を聞き目が輝く。村長は(分かりやすい娘じゃ)と表情が和らぐ。

「恐らく、獅子王以外にも帝王は続々と蘇るじゃろう。セオリ、そなたは獅子王に選ばれた。帝王のゾイドは、主を一人しか認めん。故に獅子王の力は全てお主の物。ならばセオリよ、お主はその力で持って何をする?」

「……。私は、世界を知りたい」

「ほう、それは何故じゃ」

「ゼロが救ってくれた命と生き返らせたオウドには、意味があると思う。ゼロは、私とオウドに何かを託したの。それに古の歴史にあるライガー乗りは、偉大な所業を残してきた、オウドがライガーである事は運命だと思うから」

 

 真っすぐに村長を見返すセオリの澄んだ瞳に、村長は笑いだした。そして、両脇に居る側近も声を出さないが微笑んでセオリをみる。騎士団の裏切りと村が壊滅した状況でなお、希望を捨てぬ若者がいることが嬉しくてたまらなかったのだ。

 

「ならばセオリよ。そなたは村を出て世界を巡るがいい。世界の何処かに帝王のゾイドがいるのならきっと見つけられる筈じゃ、恐らく世界に迫る脅威とは、シュセイン帝国の事。ならば帝国を中心として繋がる筈じゃ。だが、他の帝王乗りがお主のように平和的とも限らん、争うことになるかもしれん、だがワシは、お主を信じておる」

「で、でも村がこんな状態じゃ」

 

 セオリも他の帝王のゾイドと会ってみたいと思った。だが、壊滅した村や村人を放って旅など出れない。

「お前はそんなこと気にするな。だいたい獅子の村の俺達がそんな柔なわけねぇだろ!」

そう告げると村長ではなく幼馴染みのロンが胸をドンっと叩きながらセオリに言った。

 

「でも、ゾイドだってカールグスタフ2機だけなんだよ?」

そう、実際に村に残されたゾイドは、輸送用のカールグスタフ2機のみ。戦力にすらならない。これでは、帝国軍所か野生のゾイドが出現するだけで大惨事になる。

 

「俺のシールドライガーは、今眠ってるだけだ。こいつは俺と一緒で一回死んだくらいじゃ、くたばらねぇよ」

 

「死んでる段階でくたばっとるがの」

ロンの天然発言に村長が、突っ込みを入れる。それに顔を真っ赤にしたロンと話を聞いて笑顔がこぼれる周囲。

 

まだ、涙を流し悲しみに暮れる者もいる。だが獅子王の村の一族は、滅びず誇りは不滅なのだ。

 

「わかった私、旅をする。そして、世界を知る」

「そうか、じゃが出発は明日にせい。準備をさせる」

「だ、大丈夫なの? 」

 

任せろと村長が言うが、旅の準備に回す食料などが避難場所にあるとは思えなかった。しかし、彼女の不安は直ぐに必要無くなった。

 

「大丈夫だよ。村長は趣味の家庭菜園と牧畜を地下で密かに営んでいてな。このオアシスの地下は、一種の食料庫だ」

「だから、安心せい。少なくとも一年は村人全員を賄える。その間に村も復興する」

「わかったよ村長」

 

 

 

 

 

そして、セオリは旅の準備を進めることにした。旅の装備をオウドライガーの首下に詰め込んでいく。

 

 ある程度荷造りが終わると村での残りの時間を過ごす間に、村の人達に挨拶を交わしていった。

 

 そして、避難場所の地下、ゾイドの整備用の空間に足を運ぶ。オウドライガーの隣、そこでロンが動かなくなった黒いシールドライガーを眺めていた。その表情は、悲しみと悔しさが滲み出ていた。

 すると、セオリがいる事に気が付いたロンがセオリに話しかけた。 

 

「お前明日早いんだろ? いいのかよ寝ないで」

「シールドライガー動くといいな」「無視かよ

、そうだな」

「治るの?」

彼女の質問に彼は暫く黙り込む。先程は、強がりからの言葉を発したがライガーに乗っていたロンだからこそ、いつも騎士団でゼロファルコンと闘っていたからこそ絶望的なのを知っていた。

 

「幸いコアは、死んでない。なぁライガーゼロを死なせた時、どう思った?」

「悔しかった。私の力が足りないからゼロを死なせてしまたって……」

「だよな……悔しいわ。涙が出るくらい悔しい」

 

拳を握り締めながら、ロンはセオリに心の内を話す。それは、同じく相棒を失ったセオリにしか共感できない。

 

「帝国と戦う事になれば、必ず騎士団とも戦う事になる。でも私は彼らを殺せないと思う、誰かを殺そうと考えると、けど絶対に負けない」

「あぁ、信じてるよ親友」

 

二人が其々のライガーを見上げながら、会話の終わりを迎えた。

 




惑星Ziの神々の怒りを独自解釈してしまいました。
次回は多分戦闘シーンも登場すると思うので、よろしくお願いします。何か出して欲しいゾイドがあれば、感想でお願いします。多少であればオリジナルでも可です。


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襲撃

今回は戦闘シーンがあります。というか戦闘シーン以外ほとんどありません。
ただ、本来主人公機であるゾイドが悪に墜ちておりますので、気分を害されるかもしれませんがご了承を。


セオリとロンが倉庫内で思い出話をしている時、それは来た。

 

------

避難場所から離れた場所、今は燃えるものがなくなり灰と炭だけになった獅子王の村。

嘗ての村の残骸を踏み潰しながら、4足歩行の

ゾイドが歩いていた。

 

『グルルル』「随分やられたもんだな。まぁ裏切っといて言うのも何だけどな」

と唸り声を上げながら歩みを進めるゾイド。全身を黒い装甲でカラーリング、背部に大型ゾイド用の二連装レーザーカノンを装備したライガーゼロ。ライガーゼロ・エンキとそのパイロット、クルーゼ・ハイツマンが居た。

 

「あのバイオティラノ乗りは、戦死したのか……兵士の鏡だね」

 

彼は、帝国に寝返った後、帝国軍に所属した。その後、村の破壊と遺跡の調査に向かった部隊が戻らないと聞き偵察に向かったのである。

「こりゃ蘇っちまってるな、楽しくなってきたわ」

『グルルル』

「お前もそう思うだろエンキ」

 

操縦捍を握りながら、ワクワクしていくクルーゼと同調するようにエンキも唸り声を上げる。

(だが、一体誰が帝王を目覚めさせたんだ? 俺ら騎士団は既に全員試した……他には、ロン坊くらいか)

「まぁいい。炙り出せば自然に出てくるわな!」

誰かを忘れている気がしたクルーゼだが、考えるより先に、村の避難場所を見つけ標準を合わせ、引き金を引く。

 

そして、仮集落のすぐ側で二つのエネルギー弾が爆発した。

すると先程まで寝静まった集落が、蜂の巣をつついたような騒ぎになり、警報がなる。

 

その警報は、もちろん格納庫のセオリ達にも届き、二人は迅速に動く。

「いくよオウドライガー」「いくぞシールドラ……そうだった」思わず乗り込んだロンだが、ライガーは動かず、バンっと計器を殴り、言い様のない思いにかられる。

 

「ロンは、みんなの避難を急いで」

『グォオオオン』

 

セオリがオウドライガーのコックピットに乗り込むとライガーが起動し、高らかに咆哮を上げながら素早い動作で駆けていく。その咆哮に驚いたロン、その時ロンの手元の計器が光を取り戻した。

 

「なんだこの光……」

 

ロンは、シールドライガーを包み込む光に同じく包み込まれた。

 

 

オウドライガーの咆哮と同時に、クルーゼの搭乗するライガーゼロ・エンキが避難場所への砲撃をやめる。

そして、最大限の威嚇と警戒を行いながら、格納庫から出てくる存在に備える。

 

「おぉ、出てきた出てきた。本当に動いてるわ」

クルーゼの愉しげな声が、スピーカーを通じてオウドライガーまで届く。

「その声とライガーゼロ・エンキ……クルーゼさん!」

 

声の主を解明したセオリが、怒気を孕んだ声で呼ぶ。それには、クルーゼも声から誰がオウドライガーに乗っているのか理解できた。

 

「そうか、セオリが帝王のゾイド乗りだったのか……なんで忘れてたんだろうな。お前もライガーゼロ乗りだってのに」

「そんな事はどうでもいい! 何で村を裏切った!」

「何でって、そりゃお前、帝国のほうが良い条件出してくれたからだろ」

「条件って……」

「そりゃ金やら権力だよ」

 

クルーゼの解答に耳を塞ぎたくなるセオリ。今日まで信じていた人が簡単に金で裏切ったと聞くのは心が痛んだ。

 

「そんなものの為に、皆を」

「まぁ、子供には、難しいわな。そうだセオリ。お前の事は嫌いじゃない、そのゾイドと一緒に帝国に行こうぜ、帝国のゾイドを献上したとすれば、金や名誉や女……お前の場合男も自由自在だぜ」

明るいクルーゼの何時もの調子で勧誘されたセオリ。そのクルーゼの態度は彼女の堪忍袋の緒を引き千切るのに十分だった。

 

「ふざけんな!」

『グオオオ!』

怒りに顔を歪めながら、セオリは突っ込んだ。オウドライガーは、4本の足で素早く駆け出し、ストライクレーザークローでエンキに飛び掛かる。

 

「おぉこわ。だが、当てられねぇんじゃ意味ねぇぞセオリィ!」

『グウウウ』

「ぐぅ」

真っ直ぐ飛び掛かってくるオウドライガーに、クルーゼは、エンキを後ろに跳ばせる事で回避、着地の瞬間を背部の二連装レーザーカノンを連射し決め技とばかりにライガーの頭部で頭突きを仕掛けた。

着地と同時に砲撃を受け、更に爆煙で視界が悪い中での頭突きを食らったオウドライガーは、体制を崩す。その衝撃がコックピットのセオリにも入る。

 

「獅子王も目覚めたばかりじゃこの程度か、敵じゃねぇな」

「くぅう、くそ!」

 

再び、オウドライガーがエンキに喰らい付こうと駆け出すが、エンキの素早い身のこなしからの前足での殴打が入り、よろけた隙に砲撃を受ける。

 

「さすがにデカイライガーだけあって、頑丈だな。だが、デカイだけで鈍い。オラオラ」

 

今度は、横から攻めようと走り出すオウドライガー。だが、その動きはクルーゼに見切られ激しい砲撃を全身に浴びる。

 

「くぁ、くぅうう、クルーゼ!」

「学習しねぇな」(だが、並みの頑丈さじゃねぇ。エンキの砲撃は超大型にも有効な装備だ。それを受け続けて破損すらねぇとは、性能を引き出される前に、格闘で倒す)

 

砲撃を受けながらエンキに向かって走るオウドライガーだが、今度は頭部をレーザーカノンで撃たれ、動きが止まった隙にエンキが目の前に現れる。

 

「な、目の前に」

「おら、お前の十八番だ。ストライクレーザークロー!」

 

『ガォオオ』

『グウウウ?』

「なんだ!」

 

突然、劣勢のオウドライガーと優勢だったエンキの間に割り込んだ闇夜で目立つオレンジの顔面と逆に闇に溶け込む闇色のボディ、鬣のラインはグレーの見覚えのあるカラーリングのゾイドがいた。そして、シールドライガーにはない両サイドにブレードが装備されていた。

 

ゾイドは、横からエンキを体当たりで突き飛ばした。突き飛ばされたエンキは、地面に這いつくばる。どうにか四肢に力を込めて立とうとするが中々起き上がれない。

「さっきのでバランサーをやられたか、立てエンキ」

 

クルーゼが起き上がれない間に、黒いライガーがオウドライガーにゼロと同じように頭を垂れた。そして、オウドライガーは、何も反応せずライガーを見据える。

すると黒いライガーから、通信が入る。そこに映ったのは、コックピットに乗るロンだった。

「大丈夫かセオリ?」

「え、え? 何で? ロンのライガーは、機能停止してたんじゃ」

 

本来無い救援に困惑しているセオリ。

「いや、俺もよく分かってないんだけど……」

 

本人ですら深くは理解していない様子で説明に困惑している。

すると、漸く立ち上がったエンキがオウドライガーともう一匹の黒いライガーを威嚇する。

 

「黒いシールドライガー、いやブレードライガーか。このカラーリングはロン坊、お前か」

「ブレードライガーって、カグラさんと同じゾイド、でもシールドライガーはどうしたの?」

 

「オウドライガーの咆哮を聞いた途端に、こいつ動き出して、光に包まれたかと思えばブレードライガーに生まれ変わってたんだ」

ロンの説明は、信じられないことだが全て事実であった。

「クローンじゃなく純粋種のゾイドだったのか、帝王がいなければ最優先にするレアゾイドだ」

 

彼がそう言った時、ロンがクルーゼに向かってライガーを向ける。

 

「クルーゼの旦那、裏切ったあんたらを獅子王の村の男として許さねぇ」

 

黒いブレードライガーがエンキに対峙するように、前に出る。『ガウウウ』『グルルル』。エンキとブレードライガー。

 

「面白い、両方手にいれてやるよ! エンキ」

「いくぜ相棒!」

『グォオウ』

『ガォオオ』

エンキとブレードライガー、黒い剣獅子と黒い獅子獣が正面から激突した。人間の介入を受けず野生の血に従って、お互いの牙と爪で相手を殺そうと荒ぶる。互いに獣と獣が牙を向き、大地を転げ回り、エンキが一歩後ろに飛び、近距離で二連装レーザーカノンを連射した。

「おらどうした?」

「ブレードライガー!」

ロンは、シールドライガーの時の戦法と同じく鬣のシールドジェネレータからEシールドを発生させる。ビームカノンをシールドで弾きながら、両サイドにブレードを広げ、ブレードアタックを仕掛ける。

 

「うぉおお」

「ロン、逃げ!」

 

 ロンのブレードライガーの最速の一撃は、エンキの素早い身のこなしでブレードを回避すると、ストライクレーザークローでEシールドを切り裂き、ブレードライガーの顔の側面を削る。

 

「もうおせぇよ」

 渾身のカウンターを受けたブレードライガーが、体勢を崩した途端、首元に齧り付き前足でライガーのボディを拘束する。もがくブレードライガーだがガッチリと固定されて動けない。

 

「クルーゼ!」オウドライガーで救援に向かおうと地面を踏み込んだ時、クルーゼが笑い声を上げながら静止した。

「セオリ、大人しく帝王のゾイドから降りろ。さもなくばこのままロン坊を殺す」背部のレーザーカノンの銃口を向ける。それによりセオリは動けなくなってしまう。

 ギリギリと歯を噛み締めながら、怒りだけが募って行く。

 

「セオリ、大丈夫だ。コイツは今動けない」

「黙ってろっての、セオリ! 大人しく従えば全員助けてやるよ」

「騙されんな」

 

 ブレードライガーの頭部を何度も足で踏み付けながら、セオリに優しい言葉をかけるクルーゼ。もし、相手の隙を突けば、救出できる。こんな時、ライガーゼロならセオリの背中を押してもくれた。だが、まだ一度しか乗った事の無いオウドライガーでそんな事を出来る自信がないのだ。

 誰だって初めて乗るゾイドは、上手く動かせない。長い年月をかけてようやく自信と技術を付けるのだ。

(思い切って飛び出す? 無理だ……)

 悔しいが、『今のセオリ』には、救出など出来ないだろう。そして、セオリが先程から感じていた違和感が彼女の行動力を阻害する。

(オウドライガーがドンドン動かなくなって来てる)

 先程の戦闘から終始、オウドライガーのスペックが下がり続けているのだ。遺跡の中でバイオティラノを圧倒したパワーを発揮できないでいた。整備の問題なのか別の問題なのか不明だが、本来なら圧倒してもおかしくないスペックを持っている帝王のゾイド。

(攻撃しようとすると、嫌な記憶が……動けない)

 何故性能が下がっているかと言えば、セオリの闘争心の無さと迷いがシンクロしているオウドライガーにも影響しているのだ。

「ほら、はやくしねぇとロンが死ぬぞ。第一、お前は一回勢いを失うと自分じゃ相手を傷つけられない悪癖が治ってねぇんだろ。十秒時間をやる、時間が過ぎたらロン坊を殺す、そして、次は村人共だ」

 

 6年間も村で共に暮らしたクルーゼは、セオリの弱点を思い出したのだ。セオリの過去に深く絡みつく悪癖、【戦闘恐怖症】。誰かを傷つける事に拒否反応を起こし、ゾイドの操縦どころか刃物すら持てなくなる。

 怒りで身体が勝手に動いている間だけは、戦えても冷静になってしまうと戦闘不可能に追い込まれる心の病。これが、ライガーゼロに乗りながらも騎士団に入れなかった理由である。

「1,2,3,4,5,6,7,8,9」

「セオリ、お前ならできる」

「渡しちゃ駄目だ。オウドライガーを帝国なんかに……」

 ガチガチになり操縦桿すらまともに握れなくなるセオリ、それを感じ取ったクルーゼは、勝利を確信した。コックピットの中で涙が出そうになった時だ。

 動きたいのに心が邪魔するジレンマに目の前が真っ黒に染まった。

 

「10。残念見せしめに死ねロン坊」

 

 エンキのレーザーカノンにエネルギーが集中し、今まさにクルーゼが引き金を引こうとした時、真っ黒に染まった彼女の視覚が赤く染まる。

 

 カチン。……カチンカチン。

「どうなってやがる? な!」 

 クルーゼが何度も引き金を引く、しかしビームカノンは、発射されずロンも無傷のまま。こんな時に故障かとクルーゼが背部の武装を見た時、驚きの声を上げた。エンキのメイン火器であるニ連装の砲塔が消えていたのだ。

「俺の武器は何処行きやがった。それにセオリもいねぇ!」

「おい、クルーゼの旦那……あんた、セオリのもう一つの顔知らないだろ?」

「何言ってやがる!」

 

 ブレードライガーから、ロンの笑い声が聞こえ混乱がさらに深まる。するとエンキの正面にオウドタイガーがこちらを見下ろし佇んでいた。

「どっから湧いて出た!」

「ずっと前に居たわ。後、これは返してあげる」

 そこでようやく、オウドタイガーが咥えている物が、自分の装備だと気が付いた。

『グル、グゥ』

「何、引いてやがるエンキ!」 

 ガシャンと背部の武装を投げ捨てられ、エンキが初めて恐怖を感じ生存本能から後退を始める。エンキの前には、首を左右に振りまるで凝りを解すような動作をしているオウドライガー。だが、次の瞬間には、視界から消えていた。

「消えただと? ステルスでも使ってんのか!」

 ステルス機能があるのではと、レーダーを確認した時。クルーゼは恐ろしいものを見たレーダーの一面中に反応があるのだ。その数は1000を超える軍勢である。

 

『ゥウ』

「どんな手品使ってやがる。出てこい」

「此処にいますよ。クルーゼさん? ふふ」

 声のした方向を、エンキの頭部を動かし、確認するとオウドライガーが口を大きく開けエンキの首を齧ろうとしていた。

「ぬわぁ!」 

 さすがのクルーゼも想定外の危機に、エンキを後ろに下がらせた。

「どこに行くんです? 私と戦ってくれるのではないんですか?」 

「後ろだと!」

 

 間違いなく、エンキで距離を取ったはずなのに、背後には既にオウガライガーが佇んでいた。理解不能、まるで悪い夢でも見ている気分になる。

「何してるかわからねぇが、これでどうだ!」

『グゥルウル!』

 ライガーゼロ・エンキの各部位から、隠し銃口とミサイルポッドが飛び出し全てが一斉に発射される。ミサイルを全弾撃ちながら、肩や脇腹などから飛び出した銃口からレーザーを放つ。

 

 周囲全てを均一に攻撃するクルーゼは、爆煙の中で白銀に光る何かが高速で動きまわっている光景を目撃する。その光に向かってレーザーを撃ち続ける。

 だが、閃光は一発もレーザに当らず隙間を縫うように、一筋の流星となってエンキに衝突する。

「ぐわっ」

 射撃を全て回避され、考えられない速度で吹っ飛ばされたエンキは、砂山に叩き付けられる。

『グゥ』

「化け物か」

 

 すぐさま体勢を立て直すエンキ。受けたダメージが大きいため、動きが鈍い。だが、相手の消える謎を解明できたのは大きかった。

「まだまだ、遊んでくれますよねクルーゼさん。特別に教えてあげますけど、消えてるんじゃなくて目に見えない速度で動いてるだけですよ」

「どんな速度で動いてやがる……帝王のゾイド、舐めてかかってた」

『グォオオン!』 

『グゥウウ』 

 帝王のゾイドが帝王のゾイドである由縁を見せつけられ撤退し戦力を整えるべきだと長年の勘が告げる。

 

「うふふ、逃げないでくださいよ。私をもっと楽しませてください」

「けっ」

 クルーゼには、セオリが急に別人の如く豹変したことが不可解なのだ。いつもは、子供だが凛とした口調とガサツな性格などで子猫キャラである。しかし今は、艶っぽい熱を孕んだような声で色っぽい口調ではなす別人のような女だ。

「てめぇ何者だ、いつ何処でセオリと入れ替わりやがった」 

「ふふふ」

 彼の質問に、女は上品に笑うと、クルーゼに通信を繋いでくる。それに応じたクルーゼが見たのは、コックピット内で長いオレンジ髪を振り乱し、何故か衣装も其処かしこ肌蹴させた女が手を振っていた。

 目は、ギラギラと血走り唇がつり上がり歪な笑顔でこちら見る、艶めかしい大人の表情をした女、セオリが其処に居た。

 

「お前、誰だ」

「セオリ・アンデルセン……の姉。イオリ・アンデルセン」

「イオリ? 確か……」

「御託はもう、たくさんよ。殺しあいましょう? さもないと死ぬわよ」

 

 豹変したセオリ。イオリと名乗る彼女は、オウドライガーを駆り、こちらを警戒しているクルーゼに爪での攻撃をかける。

「この!」

「動きに慣れてきたんですわね? よかった、楽しめます」

『グォオオオ!』

『グゥウウ』

 一度、真っすぐ来たオウドライガーの攻撃を横に回避。今度は逆に、エンキの爪で攻撃を仕掛けるが、それはオウドライガーの体当たりで再び吹き飛ばされる。だが、クルーゼも歴戦の傭兵。やられるだけは終わらず、イオンブースターによる加速を経てオウドライガーに接近戦を繰り出す。

 

 砂漠を駆けながら高速で移動するエンキとボディから光を放ち閃光となって、激しいぶつかり合いを繰り広げる。 

 交差する時に火花を散らしながら、広々とした場所に出る。

「あはは、もう終わりなの?」

 

(こいつ、速いだけじゃねぇのか)

 

 速度、強度、俊敏性、膂力。全てがエンキを凌駕していた。それでもエンキで戦ってこれたのは、相手が止めを刺すつもりがないからだ。

 

「黙れ!」

「な」

 エンキの両肩の隠し銃で、オウドライガーの足元を掃射する。すると、大量の砂煙が上がりオウドライガーの視界は完全に遮られる。その隙を逃すまいとエンキを最大加速で走らせる。

 狙うは、全エネルギーを集中したストライクレーザークローでの頭部に一撃。煙の中で光り輝くオウドライガーは、自分の居場所を教えてしまっている。 

 

(勝った!)

 クルーゼが勝利を確信した時。「飽きました」とイオリが言葉を発した時、先程までで最も早い閃光がエンキを通過した。「うぉおお!」反応すら出来ない高速移動で、エンキは右前脚をオウドライガーに喰い千切られた。しかも、目にも止まらぬ速度での攻撃の余波で、エンキのボディーが遠くに吹っ飛び、砂山を越えた所で爆発する。

 

『グォオォオンガォオオオ』

 

 食い千切ったエンキの足を噛み砕いたオウドライガーが勝利の咆哮を上げる。イオリと名乗るセオリは、エンキを吹っ飛ばした位置で爆発を見つめる。「別にコアを破壊した訳じゃないのに、あの爆発……逃げられたのかしら、まぁいいわ」イオリは、目を細めながら呟き、コックピットの背凭れに身体を預けながら、目を瞑る。

「良い子ねオウドライガー。妹じゃまだ未熟だろうけど、どうか見放さないであげてね。セオリはやれば出来る良い子だから」

『クルル』

 首を振りながら静かに鳴くオウドライガーに、コックピットの計器を撫でながら、彼女は眠りにつく。

 

「セオリ~」

 そして、彼女が眠ったと同時に黒いブレードライガーに乗るロンが駆けつけてきた。

 

 





ブレードライガー(黒)
型式 RZ-028
所属 金獅子の騎士団
モチーフ ライオン型
スペック
全長 25.9m
全高 12.2m
全幅 不明
重量 124.0t
最高速度 320km/h
武装
レーザーサーベル×2
ストライククロー×4
レーザーブレード×2
パルスレーザーガン×2
AZ2連装ショックカノン
Eシールドジェネレーター
マルチブレードアンテナ×2
ロケットブースター
3Dデュアルセンサー
コンプリッションリフリジェレイター×4

 元々黒いシールドライガーであり、機能が停止していたがオウドライガーの咆哮で進化したゾイド。通常のシールドライガーより性能が向上している。オーガノイドとの融合無しでも、オーガノイドとの融合状態と大差ないスペックを引き出す事が可能。搭乗者のロンがブレードライガーの操縦に慣れていなかったため性能を引き出せなかった。



ライガーゼロ・エンキ

型式 RZ-0029
所属 金獅子の騎士団⇒シュテイン帝国軍
モチーフ ライオン型
スペック
全長 24.0 m
全高 8.3 m
重量 85.0 t
最高速度 321.0 km
武装
ストライクレーザークロー×4
レーザーファング
AZ208mm2連装ショックカノン
AZ108mmハイデンシティビームガン
ビームマシンガン×4
AZ80mmビームガン×4
収納式レーザーカノン×2
イオンターボブースター×2
ダウンフォーススタビライザー×2
 
 全身を黒くペイントされたライガーゼロ。タイプとしては、ノーマルに位置するが四肢の装甲に隠し武装を仕込み、背部に大型ゾイドも一撃で撃破する高火力のキャノンを装備し全体的な火力と防御力を向上している。更にブースターも改良されており、最高速度も上がるなどライガーゼロの上位個体として位置している。ちなみにエンキとは、閻鬼の意味である。



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帝王の性能

ちょっと遅くなりました。


 避難所の襲撃事件。セオリとオウドライガーの活躍で襲撃者クルーゼのライガーゼロ・エンキを撃破した。しかし結局のところ、エンキとクルーゼは、前足を破壊されたと同時に爆発を囮に逃げていた。

 気を失っていたセオリは、ロンの声で目覚めオウドライガーを操縦し避難場所に帰る。

 

 攻撃を受けた避難所だが、初めからクルーゼは、オウドライガーを炙り出す目的があったので直接は狙わず、あえて外していたために犠牲者は居なかった。

 だが、セオリとオウドライガーがいる限り、村への襲撃は無くならないと考えたセオリは、日の出と同時に出発することを決めた。

 

 いつでも、動けるようにオウドライガーの傍に寝袋で眠るセオリ。だが、眠気は一向に来なかった。気を失っていた時、セオリではない別のセオリがオウドライガーを動かしクルーゼを撃破した事実。

 全く記憶にない、だが彼女は昔からこういう症状があった。昔、ロンと喧嘩していた時、気が付けばロンが血塗れになるまで殴っていた事があった。だが、それ以降症状が出なかったので安心していたが、襲撃で彼女の中の何かが目覚めたと言える。

 

 悩みは一切解決しなかった。だが、そのうちに眠気がセオリに訪れ少しの間夢の国に旅立たせた。

 

――ー――ー――ー――ー――

翌朝、湖の水に朝日が反射し、キラキラと輝いていた。その光景を見据えながら、セオリはライガーに乗り込み出発する。

「改めてよろしくね。オウドライガー」

『ガァオ』

 

新たな相棒に挨拶しながら、格納庫から出る。すると目の前に黒いブレードライガー、ロン命名によりコクトーが待っていた。

コクトーがオウドライガーに並んで歩き出す。

「見送り?」

「おう、親友の旅立ちだからな。今までの旅行と違って長い旅になりそうだからな」

「コクトーは、乗りやすい?」

「あぁ、昨日クルーゼに負けたのは俺が未熟だったからだ。コクトーなら勝ててた」

「私だって……オウドライガーの性能を引き出してあげれれば、あんなにやられなかった」

「そうだな。でも、俺と一緒で長くゾイドと過ごせば強くなれる。セオリ、村は、任せろ。俺とコクトーで絶対守り抜く、だから古里の心配しないで全力で旅してこい、いつでも帰る所はここにある」

 

ロンが励ましの言葉を延べながら、胸を叩いていた。すると胸を叩いた時に何かを思い出したのかハッチを開けた。

 

「そういえばコレ。お前にわたさなきゃいけなかった」

そう言って、ロンは光る何かをセオリに投げた。慌ててハッチを開いた彼女が受け取ったものは、光る鉱石だった。

「コレなに?」

「地下遺跡をコクトーで調べに行ったら、ライガーゼロの石像から出てきた。恐らくゼロのメモリーの欠片だ」

 

そう説明された時、セオリはそれを胸に抱き締めた。ゼロの形見を渡してくれたことに彼女は、ロンに感謝し、村から少し離れた場所で彼と別れた。

「ありがとーロン。村長にも言っておいてくれよ」「無理すんなよ。じゃあな」

 

コクトーが、村に帰るために頭を翻した。それを見送りセオリとオウドライガーもとりあえず東に向かう。東には、大きな山岳地帯と町が多くあり情報収集しやすいのだ。一番近い町まで、直線で行けるが距離は、700㎞程離れていた。

オウドライガーを走らせながら、彼女はライガーの性能を試すことにした。

「最大加速やってみるよ」

『ガァオオオ』

セオリの言葉に応えるように、ライガーの足を動かす速度が速まり、グングン速度が上がっていく。

「これで250㎞、まだぜん全然踏み込んでないのに……」(昨日は、こんなに加速出来なかったけど……)

 既にライガーゼロの最高速度を越えており、慣れない速度に困る。だが、いける所までやろうと決めていた 。

そして、足元のペダルを最大に踏む。すると、オウドライガーの四肢から光の粒子が零れ出す。それにともないコックピットのセオリを過大な重圧が襲う速度に達する。

(500㎞……こんなに速いライガーなのか。でも、まだいける)

 

 彼女の自信に伴い、オウドライガーのゾイドコアが内部で活性化した。セオリはしらないが体内でゾイドコアが活性化したと同時に強大なエネルギー粒子が四肢から放出された。

 そして、700㎞を越えた段階でオウドライガーは、昨日と同じく光の粒子に包まれ閃光と化して地上を駆けていた。

 

「な、なんて、うわーー」

 まだまだ加速するオウドライガー。既に音速の壁を大地を駆けながら突破し凄まじい衝撃波と大地を蹴った事で出来たクレーターが大惨事の後として残る。

 

 そして、加速を止めないオウドライガーは、遂にセオリの想像を越えた。

 それは一瞬だった。特殊なフィールドがコックピット内に瞬時に展開されたと同時に、周囲の光景が一変した。

 

「あれ?」

 

 セオリが気が付いたときには、広大な砂漠ではなく激しい交差のある山岳地帯だった。しかも周囲は、何かの高温で溶けており、しかも全ての物がオウドライガーを中心に吹っ飛んでいた。更に至るところが高温を放ってマグマの中に要るようだった。

 恐る恐るオウドライガーで背後を見ると、広大な砂漠に灼熱で発火している一本の道が出来ていた。

「オウドライガー……どんな速度出したんだ?」

 帝王のゾイド、その恐ろしき性能の片鱗を見たのだ。もしオウドライガーの進行方向に町があれば、先程の光にも匹敵する速度で移動すれば全て吹っ飛び灰に変わるだろう。通り過ぎるだけで町、いや国すら地獄に変わる。

 そんな破格のゾイドが4機全力で争ったのだ。惑星が耐えられず、文明がリセットされるのも納得がいった。

 

「ライガー、さっきの速度使っちゃダメだ。できる限り……最高速度400㎞でいい」

『ガオ?』

 

 セオリの言葉に理解が追い付かないオウドライガー。だが、彼女の声で自動的にリミッターが設けられたのだ。

 彼女としては、移動だけで周囲を地獄にしたくない上に戦闘中も気を使わねばならないため必然であった。ちょっとアクセルを踏み込んだだけで、周囲を焦土へと変わるなど考えてとても戦えないのだ。

 

「もうちょっと加減が欲しいな。オウドライガー、次はもう少しゆっくりでお願い」

『ガォ……グルル』 

 

 不満げなオウドライガーの反応に、また難儀な性格のゾイドとパートナーになったと肩を竦めながら、大分距離を進む事が出来たので、ゆっくり歩む事にした。

 

ーーーーーー

「アンナ、なんか見た事の無いゾイドが、山岳地帯に入ったすよ」

 疲れたような男の声が、セオリ達からは到底見えない場所でする。

「どんなタイプだい? 恐竜型はやめときな、数日前にスラッガーの連中が帝国と一緒に全滅させられたらしいからね」

 男の通信に、偉そうな口調の女が答える。

「ライガーに見えるっすね」「方角的に獅子王の村からか、アインを呼びな。久々に大物だよ」

 女性の声に、気だるそうな男は、「へいへい」と答えた。

 



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ユース団

 山岳地帯の高低差に激しい岩山を進むセオリとオウドライガー。

 

 初めて訪れた山岳地帯を観光気分で見渡すセオリ。無言で歩み続けるオウドライガーも古に訪れた景色に似ているものを感じたのか、楽しげである。

 

「休憩は、いる?」唐突に彼女がライガーに質問する。いまいち言葉を理解できなかったのか首を傾げるライガー。

 

「ライガーゼロ……私の元相棒。お爺ちゃんでね、一回運動するとすぐにオーバーヒートしてたんだ。だから、オウドライガーはもっと年寄りだから、大丈夫かなってうわっ」

『ガォオオオ』

 

 セオリの年寄りという言葉を本能で察したライガー。急に速度をあげ岩山を四肢で蹴りながら、素早く進んでいく。

「ごめんごめん。動けるのはわかったから止めてくれー」

 

 急な登山やロッククライミングの動きにセオリが先に音を上げた。ゾイドながら、自由気ままに動き回ったオウドライガーは、若干スッキリしているようである。

 

「オウドライガー、お前。プライド高いんだな……」

ようやく通常のペースで歩き出し、4本の足でなるべく平坦な道を進む。

 

 彼女とオウドライガーは、気が付いていないが彼女らから数㎞離れた位置に3機のゾイドが待ち構えていた。

「アンナ、なんかパイロットの声拾ったら女の子ぽいんですけど」

「関係ないよ。女なら高く売れるじゃないか」

疲れた声の男と威圧的な女の声。

 

「違反。ゾイドは奪い、搭乗者には手を出さない。先日の約束を忘れたかアンナ」

「忘れてないよ。冗談じゃないかアイン」

 

 怒られ、少し機嫌が斜めな姉御と呼ばれ女性。黒髪に褐色肌の真っ赤な露出の多い服を着た20代の女性アンナ。そして、アンナを叱った忍者装束に身を包み、顔は顔布で覆っている10代半ばの少女アイン。

 

「御二人とも、いい加減にしないと逃げられますぜ」

疲れた声、ダボダボのシャツとヨレヨレのズボンの30代のボサボサヘアの男性ハットン。

 

 ハットンは、茶色いペイントのカノントータスBCに乗り、黒いディバイソンに乗るアンナと白いセイバータイガーに乗るアインの二人に声をかける。

 

ハットンは、カノントータスの尻尾を地面に突き刺し 、ソナーの機能で音を拾っていた。それにより正確な位置を割り出し、二機にデータを送る。

 

「後、20秒で女の子の乗ったライガーが砲撃ポイントに到達するぜ」

「何故。女の子を強調する?」

「んな、こと気にしてる場合かい。アイン、ハットン。一斉攻撃だよ」

 

 ハットンに食って掛かるアインをたしなめ、一斉射撃の合図を出す。目標ポイントは、3機のゾイドが佇む絶壁の真下で、下にいるセオリには、目視できない。

 

 比較的有利な状況から、カノントータスの荷電粒子キャノンと105mm17門突撃砲のホーミング一斉射撃『メガロマックス』が上空から、呑気に歩いているオウドライガーを襲った。

 

『ガォオオオ』

「え、なに? 襲撃!? きゃああ」

 

 狙い通りに放たれた砲撃は、ほぼ全ての弾丸がオウドライガーに命中し、周囲の岩山も削った。

 

「アイン、動けない所を仕留めな」

「承知」

 

 短い言葉で了承したアイン。山岳地帯を自由に動くため足元を改良されたセイバータイガー(アウトドア)が素早く岩山を蹴りながら、オウドライガーに突進する。

 

そして、爆煙の中に消る。

「やったかい?」

「どうなんですか? アインさん」

 

 数秒後、仕留められたのか確認する二人。だがその時「何故。なんだこいつは! くそ、この」とアインが手こずる声とセイバータイガーの苦し気な声が聞こえる。

 

「なんか不味いぽいんですけど……援護するんで行ってください」

「言われなくても!」

 

 アインを救出するために、ディバイソンで崖を駆け降り薄れていく土煙のなかで立っている影に突進を仕掛ける。

「これでどうっすか」

『モォオ』

 カノントータスの地面を撃った射撃で完全に煙が、晴れる。煙の中から、巨大なライガーがセイバータイガーの首を噛みながら、こっちを見ていた。

 

「喰らいな! ディバイスタンプ」

 猛突進するディバイソンの角は、リーオ製で並大抵の装甲では、防げない。

 そして、オウドライガーとディバイソンがぶつかり合った。

 

「誰だか知らないけど、怒ったからな!」

『ガォオオオ』

 ディバイソンの突進は、直撃の寸前にセイバータイガーを放り投げたオウドライガーの頭突きで完封された。

 もちろん威力を完全に殺すことはできなかったが、踏ん張りが聞いたのか3m程後ろに押されただけだった。しかも、動きを止められ徐々にディバイソンが押され始める。

 

「なんてパワーだい。アイン無事か?」

「不覚。助太刀する」

 

 投げられたセイバータイガーは、壁に激突するも復帰し、背部のビームガトリングをオウドライガー目掛けて連射する。

「くっ、三対一なんて卑怯だろうが!」

 

 ビームガトリングを側面に受けながら、ディバイソンとパワー勝負を繰り広げるには、無理がある。

「一旦引くよ」

『ガォオウ』

 

 ディバイソンとの力比べをやめ、ディバイソンの力を利用し横に反らす。すると力を入れすぎたディバイソンが前に飛び出しビームガトリングの餌食になる。

『モォ、モォオ』

「どこ見て撃ってるんだい!?」

「すまぬ。だが、距離は空いたディバイソンの領域だ」

『グオウ』

「んなことわかってるよ。オラオラ!」

 

 距離をとったオウドライガー。しかし、中距離では、ディバイソンの砲撃をモロに受けてしまう。当然、ディバイソンの火力を前面に押し出すアンナ。

17もの強力な砲撃の連射を受け、オウドライガーが激しく揺れコックピットのセオリを衝撃が襲う。

 

「オウドライガー、さっきのシールドもう一回やれ」

 歯を噛み締めながら砲撃に耐えるセオリがオウドライガーに命令し、操縦桿をフルスロットルまで動かす。

『グォオオン』

 オウドライガーが咆哮を上げると同時に、ゾイドコアが活性化、ライガーの四肢の噴出口から白銀のタキオン粒子を放出。その粒子が加速しながらライガーの周囲を回転し、一種の竜巻を作り出す。

 

 グングン加速し回転する粒子は、ディバイソンの放った105mm17門突撃砲の連射とビームガトリングの掃射すら巻き込み規模を増しながら、強化されていく。

 

「ディバイソンの主砲が効かない」

「不明。しかも、Eシールドでもない。未確認」

 

 驚きながらも攻撃の手を緩めないアインとアンナ。しかし二人が攻撃すれば攻撃するほど、オウドライガーを包むシールドが激しさと規模を増していく。

 

「行くよ。覚悟しな」

『ガォオオオ』

 セオリの意気込みと同時に、オウドライガーの猛回転するT(タキオン)シールドが回転をやめ拡散した。

 無数の砲撃を飲み込み、膨大なエネルギーの奔流となったTシールドが拡散すると同時に、エネルギーの嵐となったタキオン粒子がアンナとアインに向かう。

 

「な、うそ」「くっ」エネルギーの嵐は、地面にしがみ付こうとするセイバータイガーと重量級のディバイソンを空に押し上げ、岩山に叩きつけた。そのダメージから二機のコンバットシステムがフリーズした。

 

「もう一人いたな。いくぞオウドライガー」

 

 頭に血が登っているセオリは、ライガーを素早く走らせ崖を登っていく。傾斜が急な崖を平坦な道のように駆けるライガー。そして、崖を登りきり、頂上に向かって飛び上がった。

 

「飛んでから着地までは、無防備ですよね」

「待ち伏せか」

 

 山頂で、カノントータスは主砲をチャージし続けていた。エネルギーを溜め続け多大な熱と光を放っている主砲が空中で身動きの取れないオウドライガーに向かって発射される。

 

『ガァォオオ』

 だが、フルチャージされた緑の閃光は、再び展開されたTシールドの超回転に巻き込まれ、シールドの一部となる。

 

「近距離でも、カノントータスの火力じゃ突破できないか」

 

 既に砲撃後の放熱中であり、元々機動力に欠けるカノントータスでは、迫り来るオウドライガーを回避できない。

 

「なんだって」

 オウドライガーのTシールドに接触したカノントータスの砲塔が、ミンチのように削られ消滅する。

 そして、シールドの回転に巻き込まれたカノントータスは、先程の二機同様崖下へと落下し動きを止める。

 

『ガォオオオ、グォオオン』

 崖の頂上で、崖下のユース団を見下ろしながら、オウドライガーが空に勝利の雄叫びをあげる。

 

「か、勝った。Tシールドって凄い便利だね」

 

ク ルーぜの時と違い、自分の力で敵を退けた勝利の余韻を味わう。Eシールドとは違う攻防一体の兵器の威力を今日初めて知ったセオリだった。

 

「あいつら、どうしよう」

崖の下で延びている3機のゾイドと3名のパイロットの扱いに困った彼女だった。

 

 




以上です。

今回登場したキャラ3名のゾイド紹介。今度から登場からの紹介も載せようかな。


セイバータイガー(アウトドア)

番号 EZ-016
所属 ユース団
分類 タイガー型
全長 15.6m
全高 9.1m
全幅 5.7m
重量 78.0t
最高速度 240km/h
乗員人数 1名
主な搭乗者 アイン
武装
ビームガトリングガン
対ゾイド3連衝撃砲
AEZ20mmビームガン×2
複合センサーユニット
リーオサーベル×2
ストライククロー×4
赤外線レーザーサーチャー


 通常のセイバータイガーのカラーを白に、更に主武装にビームガトリングガンを採用したゾイド。前歯がリーオ製になっておりバイオゾイドとも接近戦で戦える。脚の部分が山岳地帯様に改良されており、通常のゾイドより山岳地帯での動きが軽快になった。更に、頭部の装甲が強化されており、搭乗者の安全性もアップされた要人用ゾイド。


ディバイソン
DIBISON

番号 RBOZ-006
所属 ユース団
分類 バッファロー型
重装型機械獣
全長 20.6m
全高 10.8m
全幅 7.5m
重量 250.0t
最高速度 120.0km/h
乗員人数 2名
武装
超硬角(リーオ)×2
17門突撃砲
後部機銃×2
パルスビーム砲

 全身が黒一色で、目の部分が真っ赤なディバイソン。装甲が通常より強化されており、頑強な作りとなっている。さらに射撃性能が大幅に強化され主砲の飛距離は従来の130%も上昇。精密射撃も可能で事前に送られた敵位置情報をコンソールで打ち込む事でメガロマックスという一斉掃射が可能。巨大な角は、バイオゾイドですらも一突きで沈黙させる。


カノントータス(サバイブ)

番号 RMZ-27
所属 ユース団
分類 カメ型
全長 9.9m
全高 5.8m
全幅 6.3m
重量 33.6t
最高速度 100km/h
乗員人数 1名
武装
荷電粒子突撃砲
連装対空砲×2
対空レーダー
対振レーダー
音響ソナー
対電レーダー
後部コンテナ

 茶色ペイントのカノントータス。主砲に巨大な荷電粒子突撃砲を装備しており、一撃で大型ゾイドも破壊が可能。更にレーダーやソナーが多く搭載されており、これ一機で前線基地並の情報収集能力がある。更に杭を地面に打ち込みそこで拾った音から敵の位置や足音で敵の正体を事前に察知可能で捜索範囲は大幅に拡大された。事前に敵を発見し相手から視認できない位置での攻撃や、味方との連携に欠かせない機能が多く搭載されている。



オウドライガー 
追記 Tシールド。
従来のシールドと違い、エネルギー兵器に位置する装置。タキオン粒子コンデンサーから莫大な量の粒子を放出し、それを粒子制御装置で強制加速させながら周囲を回転させる事でシールド状のある種の荷電粒子砲を精製する。敵の実弾、エネルギー兵器とわずに高速回転する粒子の波に呑み込まれシールドに吸収される。吸収されたエネルギーや実弾は、そのまま回転の中に残り続け、シールドを拡大していく。計算上では、無限に増幅するので、射撃でこのTシールドの突破は不可能である。
 更に、粒子の高速回転のエネルギーは、そのまま相手にぶつければ、粒子の加速で相手を削り原子レベルまで分解する。このため、格闘や実体剣のような武装も無力化できるとされる。





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旅のお供

今回は、戦闘シーンはありません。


「さてと、あんた達の処遇をどうしようかな」

 パンパンと両手を叩きながら、足元のグルグル巻きにされている3人組を見て呟く。

「この子、腕っ節俺より強いっす」

「不覚。……気を失っていなければ」

「この縄を早く解きな」

 

 常々に文句を述べるユース団三名。その背後でオウドライガーに踏みつけられ延びているゾイド三機。数十分前、セオリとライガーを襲い返り討ちにあった三人の内、気を失っている女性二人は、大人しく縛られた。しかし、ハットンだけが気を失った振りをしてコックピットを開けた瞬間、セオリに襲いかかった。

 ゾイドで勝てなくても、腕力でなら勝てると踏んだのだ。でも、セオリがカウンターに重いパンチを繰り出したため、あえなくノックアウト、気絶している間に縛られてしまったのだ。

 

 セオリは、縛り上げた三人に、何故狙ったのか問い詰める。初めは騒いでいた3人だが、オウドライガーが睨み付けると正直に話だした。

 

「あんたら、私とオウドが狙いって言うか取り合えず近くに居たカモを狩ろうとしたと?」

「そうだよ。なんか珍しいゾイドの上にライガータイプは、高く売れるのさ」

「金欠。我らは目的がある」

「まぁ、こんな時代っすからね。一攫千金の方法があれば群がるものっすよ」

 

 三人が、自白した内容によると大金が3人には、必要らしい。本来は、なんでも屋をやっているユース団だが、今だけは盗賊の真似事をしてでも金が欲しいらしい。ふざけた三人であるが、目は真剣であった。まるで何かを焦っていた。

 

「なんでお金がいるの?」

「そんなことアンタには関係ないだろうに!」

「黙秘」

「……実は、俺ら恩人がいて、恩人の病気を治すためには、めっちゃ高い薬草が必要なんっすよ」

「なんで喋ってるんだ!」

「反乱!」

 

 黙秘する二人を傍に、年長者であるハットンが素直に白状する。それに女性二名が怒るが縛られているため口を塞ぐ事も出来ない。

 

「あんた、俺らを捕まえてどうするつもりっすか?」

「正直に言うと、対処に困ってる。共和国の憲兵に渡そうにも……初犯で失敗してるしね」

「逃がしてほしいっす」

「……ぶっちゃけあんたらを運ぶのは無理があるから、解放しても良いけど」

「なにか条件が必要ですか? なら、俺らが街まで送り届けるっす」

 急に条件を提示してきたハットン。アンナとアインは、複雑そうな表情で話を聞いている。

 

「ここいらいったいは、ハンターの狩場っす。お嬢さんがこのまま闊歩すれば、街に着く前に5回はハンターに襲われます」

「実際にあたしらに狙われてるからね」

「危険。ハンターは、我らより凶悪で卑劣」

 

 ハットンに続いて二人も危険だと言う意見に、セオリも思案する。先程は、上手くユース団を退けたが、何度も襲われれば『戦闘恐怖症』が発症し、動けなくなることも考えねばならない。セオリが東の街に行ったことがなかったのは、治安が悪い山岳地帯があったからだ。

 もし昨日のように発症する事を考えると、手が自然に震える。

 その様子を見たユース団は、いくら強くても女の一人旅は、心細いのだろうと同情し、襲撃した自分達を恥じた。

 

「言いたいことは判るけど、お前達の縄を解いたりしたら又襲ってくる気だろ」

「くっ」「絶句」

 

「お金にこまってるとはいえ、犯罪に走りお嬢さんを傷付けた事は、水に流せと言わないっす」

「だったら、どうして」

「厚かましい様ですが、俺達を信じてほしいっす。裏切らないって約束するっす。もし、裏切ったら俺達を殺していいっす」

「何か他に目的があるの?」

 

 セオリが恐る恐る問いかけると、ハットンが真剣な表情で話した。

「俺達ユース団をお嬢さんと同行させてほしい。俺達がお嬢さんに望むのは、ライガーでの助力っす」

「助力?」

「恩師を救うのに必要な薬草が高級なのは、野生の大型ゾイドの巣にあるから、入手が困難なんです。俺達は、お嬢さんに力を借りれれば、自分達で取りに行ける。犯罪に手を汚さないですむし、お嬢さんは、道案内と俺達色々顔が聞くっす。だから、きっと役に立つっす」

 

真剣な彼の語りに耳を貸し、語りが終わるとアインとアンナが神妙な表情でセオリを見ていた。

 

「わかった。でも、裏切ったら酷いからな」

「はいっす、恩師に誓っても。でも、薬草採集の件はお願いします」

 

 次の瞬間、セオリが腰に挿していたダガーナイフでロープを切る。

 

「交渉成立っすね」

「やっと楽になった……縄の後残んなきゃ良いけど」

 

 解放され、体を解すハットンとアンナ。特にアンナは、何度も肌を擦りながらセオリを睨む。

セオリも睨み返すと、視線を逸らされた。

 

 もう一人、忍者装束のアインはと言うとセオリの前で膝をついていた。

「主様」

「え? どうしたんだ急に」

「忠誠。主様に受けた恩情、キチンと返す……お返しいたします」

「うわっ、可愛い」

 忍者装束で覆われた顔をさらけ出すアイン。アインの素顔を初めて見たセオリが思わず呟いた。お目目がクリクリで睫毛が長く、頬っぺたは赤みがかり、唇も綺麗な桃色で女性のセオリから見ても大変可愛らしい素顔だった。

「羞恥。恥ずかしゅうございます」

「あんま見ないであげな。アイン極度の恥ずかしがりやだから逃げちまうよ」

「あ、ごめん」

 

 ジロジロ嘗め回すように見ていたセオリに、アインが顔を真っ赤に染め視線を逸らした。

 なんやかんやで一時だけの旅の供を得たセオリとオウドライガーだった。

ーーーーーーーーー

 

 あれから直ぐに4人は、ゾイドに乗り込み街に向かって進んでいた。正直のところユース団を味方にしたのは正解だった。

 地理に明るい上に、ハットンは耳が良くソナー機能を最大限に活かせたのでハンター(盗賊)と鉢合わせる事もなかった。

 

「そう言えば、名前聞いてないんだけど」

「そうっすね。言ってないし聞いてない。俺はハットンっす」

「あたいは、アンナ」

「証明。アインであります」

 

 3人が次々に名乗っていくのでセオリも名乗ることにした。

「ハットンにアンナにアインか、私は獅子王の村出身のセオリ」

「よろしくっすセオリ嬢」

「感銘。良きお名前ですセオリ様」

「あたいは、セオリって呼ばせてもらうよ」

「うん。他の二人も敬称いらない」

 

 そうセオリが名前で呼ぶことを許可すると、ハットンは普通に呼んだが、アインは黙ってしまった。

 

「アインは、同年代の女友達いないから名前呼ぶのに照れてるのさ」

「羞恥。///////」

「私も女友達は居なかったな」

 

 それから、暇潰しにと雑談で時間を消費しながら進む一行。ふと、セオリがハットン達に訪ねた。

 

「そういえばさ、帝王のゾイドって聞いたことある?」

 

 彼女の問に3人とも言葉を失う。沈黙が続き気不味い雰囲気が続いたが、それを破ったのはハットンだった。

 

「知ってるっす。街で手配書が配られてたっす。帝国軍が追ってる犯罪者、死神の乗るゾイドが帝王だって聞いたっす」

「死神?」

「はい。死神は、恐竜型の帝王に乗り、至るところの村や街、あろうことか帝国軍の基地まで一人で壊滅させてるって話です」

「そんな危険なゾイド乗りが帝王のゾイドに……」

「どうかしたっすか?」「いいや、何でもない」

一瞬、オウドライガーも帝王のゾイドであると話そうか迷ったが、断念する。

「それで国際手配の死神が、一昨日。この山岳地帯で活動する大きいハンター組織と鉢合わせした帝国軍大隊を壊滅させたらしいっす。俺達もその後を見に行ったんですけど、地形が変わってゾイドの残骸すら残ってなかったっす」

「酷い」

「そうさね。やり過ぎって感じもする。きっと狂気にでも憑かれてるのさ死神シアンは」

 

 アンナの発言にセオリは、思わずライガーの足を止めてしまった。最後の名前に聞き覚えがあったのだ。

(シアン……まさか、ウルティガのシアンじゃないよな)

 

新たな悩みが出来たセオリだが、気のせいと決めつけ日が沈むまで移動し、ユース団と夜を明かした。

 

 

 



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帝国の襲来

朝になり、セオリが目を覚ますと。

「起きたかい……これでも飲みな」と寝起きでアンナより水を渡される。

「他の二人は?」欠伸をしながらテントにいないアインとハットンについて質問する。

「あいつらは、相棒の整備に行ってるさ」

 

整備と聞き、昨日オウドライガーで滅茶苦茶にしたこと思い出し項垂れる。

「ごめん。昨日やり過ぎた」

「いいさ、先にやったのはあたい達だしね」

 

そっか とセオリが納得し、朝食の干し肉を食べていると、アンナが話し掛けてきた。

「今日の夕方には、街に着くよ。そしたら風呂とかに入りたいね。街の名物は温泉だからね」

「ふーん。温泉か、情報集めが終わったら行くか」

「なら案内してやるよ。美肌や脂肪燃焼とか効能が色々あるよ」

温泉について話が弾んだが、出発の時間が来た。全員が準備をまとめ、ゾイドに乗りながら街に向かう。

初めは、順調だったがハットンが静止をかける。

「止まるっす。この音は……エレファンダーか、しかも3機」

「ハンターだね。全員なるべく音は出さないように、後伏せな」

「沈黙」

「了解……うわー、大型ゾイドがゾロゾロ」

 

 崖の上でやり過ごす事にした四人。セオリが崖の上から、下を覗き大型のゾイドが3機列を築いて歩いていた。象型ゾイドであるエレファンダーは、狭い谷底を問題なく進んでいく。

「あんなデカイ図体じゃ、ここで戦い難くない?」

「逆さ、デカイ図体で相手の逃げ道を無くしてパワーで押しつぶすのさ」

 

 セオリの疑問にアンナが応える。それにハットンが静かにと注意し、二人は黙る。そして、エレファンダーが通り過ぎた事をハットンが聞き取り、先に進む。

 それからは、5時間ほどゾイドで移動するが、盗賊に出くわす事も無く、ユース団の有能性が証明されていた。しかし、ハットンは何か違和感のようなものを感じていた。 

 

「なんか、あまりにも安全じゃないっすか?」

「安全でいいことじゃないか。変な奴だね」

「変態」

「あんたの耳が役に立ってるんだろ? ぶっちゃけ戦闘は避けたかったし」

 

 ハットンの言葉に全員が神妙な表情をする。「いえ、だから此処までハンターがいないのは、不自然っすよ。後、アインだけは悪口っす」とハットンが大きな声で怒った時、4人から数キロ離れた位置で、大爆発が起こった。

 

 その規模は、大きく数キロ離れた場所からでも、茸状の黒煙が立ち上る光景が見える。

 そして爆発の音と衝撃波が、4人のいる場所まで届き、ビリビリと機体が揺れる。

 

「多くのゾイドの悲鳴が聞こえるっす」

 ソナーに集中していたハットンが、断末魔を聞き、恐怖と怒りに顔を歪める。

「あれは……帝国のシンボル、帝国軍が攻めてきた。見せしめに盗賊ギルドを焼け野原にしてるよ」

 誰にも黙視できない距離を、ディバイソンに装着された望遠レンズで見たアンナ。彼女が警戒を込めた声で言うと、アインがセイバータイガーで颯爽と駆け出した。

 

「アインは、何処に?」

「街さ、街の軍隊に応援要請に向かったのさ。セオリ、悪いけど最優先の案件が出来たね」

「本当に申し訳ないっす。約束にはないですけど、力を貸して欲しいっす。街にいる多くの人々の糸命がかかってるっす」

 

 アンナとハットンのユース団が、恐らく進軍に対して最も近い位置にいる。彼女らは、軍隊が来るまで足止めをしなければ山岳地帯を抜けると平地のため、街が戦火に包まれてしまう。

 

「帝国……わかった。オウドライガー行くよ」

『ガォオオ』

 

「先制攻撃は、俺とアンナ。カノントータスとディバイソンの遠距離射撃で牽制、相手がこっちに気が付いたときに接近戦向けのオウドライガーで荒らし回って欲しいっす」

「敵は、小型のステルスバイパー50機に20機のアロザウラー、恐らく隊長機であるバーサーク・フューラーが一機と護衛のジェノザウラー10機だね。フューラーとジェノザウラー気を付けるんだね。あいつらの荷電粒子砲は、今のように大爆発を起こす威力さね」

 

遠方レンズで敵を黙視したアンナが、最も危険な位置に向かうセオリの身を案じる。

ハットンも、最も戦力になるセオリとオウドライガーを信用しているが、帝国軍はハンター達とは違う。「俺が常にソナーで敵の位置を送るっすから視界が悪くても大丈夫っす」

 

「了解。行くよ」

セオリが頷き、オウドライガーを走らせる。初めての共闘に不安を感じながらも、飛び出した。

飛び出したセオリの後ろ姿を見ながら、アンナとハットンも砲撃しやすい位置に立つ。

「ハットン、しくじるんじゃないよ!」

「わかってるっす。外したりしないっすよ」

 

街に向かって進軍してくる帝国軍。それに目掛けて砲撃を開始した。

 

 

 




次回が戦闘になりそうです。


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共闘。そして襲来

今回は戦闘パートです。ゾイドの小説の割に戦闘シーンが少ない作者の拙い戦闘描写をどうぞ。


ディバイソンとカノントータスの主砲から放たれたオレンジと緑の閃光が、大空高くまで上り奇襲に気が付いていない帝国軍ゾイド達に雨のように降り注いだ。

 

『キュイィイイ』

「奇襲か!」

「うわー」

「撃て撃て!」

「ハンターの生き残りか!」

「何処から来た!」

 

 突然の長距離射撃に戦隊を組んでいた帝国軍が大打撃を喰らう。分散する砲撃のせいでステルスバイパー15機とアロザウラー12機の損害が出た。うろたえる軍人たちだが、この隊の指揮官である軍服に身を纏ったジャックロード・クーガーは、冷静に砲撃ポイントを割り出し、全軍に指令を出した。

 

「全軍に次ぐ、二時の方角からの狙撃だ。固まらず散会しながら攻撃開始。愚かな盗賊風情を殲滅、その後に帝国に協力しない商業都市バースを侵略する、いけ!」

 

 指揮官の声を受け取った部隊が、命令通り散会し、砲撃ポイントに向かって一斉射撃を始める。アロザウラーのAZ105mm2連装ビーム砲とステルスバイパーの対空ミサイルなどが無数に打ち込まれる。

「くっ、思ったより対応が早いわね」 

「でも、引いちゃ駄目っす」

 

 崖の上からへの彼らに対する砲撃に、負けじと砲撃を続ける2人。だが、彼らの砲撃は、バラバラに分断された帝国軍に命中せず。逆にピンポイントで狙われる彼らが押されていた。

「もうセオリが辿り着いってるっすよ」

 

 ハットンが自信を持ってそう言った。カノントータスとディバイソンが当らない事前提で撒き続けた砲撃は、帝国軍に対してブラインドの役割をした。

 

「くらえー!」

『グォオオ』

「な、なんだ! うおぉお」

 

 一番先に敵を倒して、手柄を得ようとした一般。彼の乗るステルスバイパーが突如現れたセオリのオウドライガーの噛みつかれ、機能を停止する。

 異変に気が付いた兵たちだが、突如現れたオウドライガーのスピードに反応できず、次から次に牙と爪の餌食になる。

 

「ライガーだと」 

「陽動作戦だったか」

「撃て撃て! 怯むな!」

 

 ようやくニ機のバイパーを口と脚で抑えつけ、機能停止に追い込んだオウドライガーの姿が目視される。そして、集中砲火の対象になった。止まれば集中砲火の餌食になるので、絶えず走りながら、近くにいる帝国ゾイドをストライクレーザークローで殲滅していく。

 その勢いや、止まることなく進み、ステルスバイパーのミサイルやマシンガンを出来る限り回避しながら帝国軍の指揮官機に向かって猛威を振るう。

 

「お前達帝国軍は、許さない! 村を焼け野原にしたお前達は!」

『グォオン』

 セオリの怒りに呼応するように、ドンドン速度と出力を上げていくオウドライガーは、既に39機ほどのステルスバイパーを撃破していた。その姿、百獣の王に相応しい荒々しさと強さの体現であった。

 

「この!」

「うわっ」

「取り抑えろ! 見た事のないライガーだ。何か未知の兵器を持ってるかもしれん」

 

 高速で移動していたオウドライガーの側面から、一機のアロザウラー突進される。不意の一撃に倒れるオウドライガー。すぐに起き上ろうとしたがアロザウラー達に囲まれ4方から火炎放射を浴びる。

「あつい! 逃げるよライガー!」

「逃がさん」

「帝国軍を舐めるな」

 

 火炎放射を浴びせられ、熱とトラウマの一つである炎に包まれる事に耐えられないセオリ。悲鳴じみた声で逃げ出そうとするが、ステルスバイパー5機が炎から抜けだしたライガーの四肢に絡みつき締め上げる。

『グゥウウ、グゥウ』

 ギリギリと締めあげられ苦しむオウドライガー。セオリもどうにか動きたいが炎のせいで手が震えだす。それが更にパニックを呼び、混乱状態になってしまう。

 絶体絶命かと思われた時、深紅の猛虎がアロザウラー達に襲いかかった。

 

「ぐわっ」

「セイバータイガーだと! くそ」

 

 セイバータイガーの鋭い牙を首に受け、機能停止するアロザウラーごと火炎放射で焼き払おうとした2機のアロザウラーは、セイバータイガーのビームガトリングを受けて次々に倒れる。

 それに合わせてか、カノントータスとディバイソンの援護射撃が再開し、再び帝国軍に砲撃の雨が降り注ぐ。

「救出。すまない待たせた」

「うおぉ」

「ぐわ」

 

 その隙に乗じ、セイバータイガーが砲撃の隙間を縫ってオウドライガーに巻き付くステルスバイパーにガトリングを発射する。ガトリングの掃射に次から次に破壊されるバイパー。

 最後の一機がようやく機能停止した所で、オウドライガーが首を振りながら立ち上がる。

「アイン?」

「謝罪。正規軍に事情を説明するのに時間がかかった。とりあえず防衛体勢を整えると言ってた」

「いや、ありがとう。危なかった」 

「反撃。我ら二人で敵を殲滅する。残りは少ない、我らでも倒せる」

 

 アインの助力があり、後方射撃の援護が再開されたので再びオウドライガーで飛び出そうとした矢先。

「セオリ、アイン! 離れろ。とんでもないものが其処に居る」

「早く逃げな!」

 突如、通信が入ると後方支援組の焦った余裕の無い声が響く。

 

 セオリ達が倒そうとしていた帝国軍一団の後方で全てを呑み込む様な閃光が走った。 

「あ……」

「なにあれ」

 突如目の前を横切った光の壁に言葉を失うアインとセオリ。その光の壁は、地平線まで続いており、しばらくしてようやく収まる。

 

「何奴!」

「恐竜型のゾイド」

『ガゥウウ、ガァオオオ』

 セオリ達の視線の先には、両肩にフリーラウンドシールドと背部にバスタークローの改良型を装備した武骨なティラノサウルス型のゾイドが、足の裏のスラスターと背部の大型可変式スラスターで低空飛行していた。だが、そのゾイドから発せられる気配が通常のゾイドとは段違いだった。

 深紅の瞳に睨まれるだけで、魂を持って行かれそうな迫力があった。姿を目撃してオウドライガーが、初めて全力の警戒態勢を取っていた。隣のアインの乗るセイバータイガーも最大限の威嚇体制を取っていた。

 

『キュォオオ』

 こっちに気が付いた謎のゾイドが威嚇の咆哮を上げる。咆哮を上げただけなのにも関わらず、まるで撃たれたかのようなプレッシャーが襲いかかった。

 

「必勝。食らうがいい!」

「アイン!」

 

先に飛び出したセイバータイガーが、素早い動きで謎ゾイドの横に回りビームガトリングを連射した。

 




ステルスバイパー
型式 RMZ-025
所属 シュセイン帝国軍
モチーフ ヘビ型
スペック
全長 20.8 m
全高 3.0 m
全幅 4.2 m
重量 23.6 t
最高速度 180 km/h
武装
小口径対空レーザー機銃×2
地対空2連装ミサイル
2連装ロケットランチャー×2
40mmヘビーマシンガン×2
16mmバルカン砲

 帝国軍第七遠征部隊に数多く配備されているゾイド。地中を移動しながら敵に奇襲をかける戦法を得意とし、アロザウラーとの連携のため耐熱能力が大幅に強化されている。


アロザウラー
番号 RHI-8
所属 シュセイン帝国軍
分類 アロザウルス型
全長 13.7m
全高 10.8m
全幅 5.0m
重量 62.0t
最高速度 170.0km/h
乗員人数 1名
武装
エレクトロンバイトファング
エレクトロンクロー×2
火炎放射器×2
AZ105mm2連装ビーム砲×2

帝国軍第七遠征部隊に多く配備されているゾイド。火炎放射の威力を強化され、近距離ではステルスバイパーに動きを封じさせ、バイパーごと焼く戦法が得意。

ジェノザウラー
番号 EZ-026
所属 シュセイン帝国
分類 ティラノサウルス型
全長 23.0m
全高 11.7m
重量 112.8t
最高速度 260.0km/h
乗員人数 1名
武装
ハイパーキラーファング×1
ハイパーキラークロー×2
ハイパーストライククロー×2
レーザーガン×1
レーザーセンサー×1
集束荷電粒子砲×1
ロングレンジパルスレーザーライフル×2
アンカー×2

 帝国軍第七遠征部隊の幹部戦用ゾイド。クローンのため本来の性能には及ばないが頭数を増やす事で戦力の増加に貢献している。帝国軍でのゾイド乗りでは、2割が本機に搭乗している。口にある荷電粒子砲にて敵対勢力を焼き払っていく。


バーサークフューラー


番号 EZ-049
所属 シュセイン帝国
分類 ティラノサウルス型
全長 22.7m
全高 12.3m
重量 127.0t
最高速度 340.0km/h
乗員人数 1名
武装
荷電粒子砲×1
エレクトロンファング
ストライクレーザークロー×2(前脚)
ストライクレーザークロー×2(後脚)
アンカー×2(後脚)
ストライクスマッシュテイル×1
荷電粒子ジェネレーター×3(尾部)
イオンブースターパック(背部)
バスタークロー(マグネーザー/Eシールド/AZ185mmビームキャノン)×2(背部側面外側)
ハイマニューバスラスター×2(背部側面内側)
バーニアスラスター

 帝国軍第七遠征部隊の指揮官専用機。クローンによって性能は低下しているが、俄然スペックが高く反帝国軍や共和国に対して畏れられるほど。口の荷電粒子砲とバスタークローの3連砲撃は、前方にいる敵軍を一瞬にて焼き払う。


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第二の帝王・竜帝ジェノリセッター

遂に第二の帝王を登場させる事が出来ました。


 

 突然帝国軍との戦闘に割り込んだ、謎の恐竜型ゾイドに先制攻撃を仕掛けるアインとセイバータイガー。

 素早い動きで接近し、ビームガトリングの最も威力のでる距離を保ちながら銃を連射する。しかも、反撃を避けるため周囲を回りながら撃ち続ける。

 

「あの馬鹿!」

「アインの悪い癖っすね。恐らくアインが相手してるのは、手配書にあった奴っす」

「早く逃げろって伝えたいのに、電波障害……どうするハットン。このままじゃアインとセオリが」

「援護しかできないっす。ただ、大雑把でなく狙撃にてピンポイントで撃つっす。できうる限りアイン達に集中させないっす」

 

 遠方から、一部始終を見ている二人。それぞれに出来ることを考え、真剣に謎のゾイドを狙う。

ディバイソンとカノントータスから、放たれた主砲は、狙い通りアインの戦うゾイドに命中。

 

 だが、ビームガトリングの至近距離連射とディバイソンとカノントータスの主砲を受けてなお、恐竜型ゾイドはビクともしない。

 

 至近距離と遠距離の攻撃を同時に受けても、損傷すら見られない防御力。そして、上から全てを見下し一切動じない姿。

(なんだか、オウドライガーの石像との邂逅を思い出す)

 セオリは、目の前のゾイドが……

「てい、……おう」

 

 オウドライガーと同じく『神々の怒り』で世界を破壊した超獣であると認識した。

 ならば、今戦っているユース団が危険である。

 

「皆! こいつと戦っちゃ」

 セオリが皆に声をかけようと通信を入れると、電波障害で通信できない。

すると、攻撃を受けている恐竜型ゾイドから、スピーカーで声が発せられた。

 

『帝国軍じゃないみたいだが、死ねよ』

 他に何も付け加えられない純粋な殺意と殺害予告だった。

 

 男の声が終わると、恐竜型ゾイドの背部の折り畳まれていたバスタークローが稼働し、狙撃組に照準を合わせるとチャージなしで高出力レーザーを発射した。

 

「撃ってきたよ。ぬあっ」『モォオ?』

「狙撃っす。うわっ」 『トーン』

 

 発射されたレーザーは、大きく曲ながら誘導されるようにアンナとハットンの足場を貫き二人を襲った。

 咄嗟に二人が避けたことで直撃は避けたが、余波だけで二機は吹っ飛び機能停止に追いやられた。

「化物かい」

「アイン達が、危ないっす」

 

 

 遠距離射撃の一撃でアンナとハットンを沈黙させた恐竜型ゾイド。その目線は、遠くを見ていた。

 

「覚悟。よくも!」

 

 仲間をやられたことで、冷静さを失い飛び掛かったアイン。丁度背後をとる形になった。

 見えていない攻撃に気付ける訳がないと、セイバータイガーの牙で噛みつこうとするアイン。

 

「見てないんじゃなくて、見る必要がねぇんだよカス」

『キュイィイイン』

 

 全く背後すら見ずに、両肩に備え付けれたハサミと一体のシールドが射出され、飛び掛かるセイバータイガーの頭部に激突。

 いきなりの反撃に、吹っ飛んだセイバータイガー。追撃として、浮きながら空を飛ぶシールドが意思を持ったかのように空中のアインを襲う。

 何度もガンガンとなぶるように体当たりし、着地すらさせない。

 

『グゥオ』

「うわぁあああ」

 

 苦しむアインとセイバータイガーの声が聞こえ、ようやくセオリが動き出す。

「助けるよ!」

『ガォオオ』

 

 勢いよく大地を駆け出すオウドライガー。瞬時に飛び上がり、セイバータイガーを加えながら迫り来る盾を踏み台する。更にくわえたタイガーを遠くに投げた上で、ストライクレーザークローで接近戦を仕掛ける。

 

『キュィイ』

『ガィオオ』

 更に迫り来るもう一つの鋏盾を回避、突進に気付き、バスタークローが背後にいるオウドライガーに襲いかかるが、ストライクレーザークローとぶつかり、ライガーが空に飛び上がる。

「此処だ! 決めろオウドライガー」

 

 バスタークローでも仕留められなかったオウドライガーが上を取り、真上から落下しながら一撃必殺の爪を向ける。

 

『ほう、中々の運動性だな。だが、パイロットがゴミだな』

 恐竜型ゾイドから、発せられた声とともに恐竜型ゾイドが上に目掛けて口を向け、ストライクレーザークローの爪を避けながら前腕に噛み付く。

 

『ガォオオ』

 抵抗し、もう片方の爪で引っ掻こうとするが、恐竜型ゾイドが回転を始め、遠心力で身動きがとれない。

 グルグル回りながら、ハイパーキラーファングがオウドライガーの前足に食い込む。

 そして、最大限に回転が極まると口を離し、遠心力でオウドライガーを投げ飛ばす。

 

「きゃああ」

『グォオ』

 何度か地面にバウンドしながらも、器用にバランスをとって立ち上がる。しかし、全自動で動く鋏盾がオウドライガーを追跡し、鋏を開いて迫る。

 

「うわっ、え。うぐああ」

 素早い動きと反射神経で、二機の鋏盾を回避する。だが、目の前に現れた本体のテイルで顔面を殴打され地面に叩き落とされる。

 再び地面に激突したオウドライガー。

 

『グゥウ』悔しさを含む呻き声をあげながらも、どうにか立ち上がる。そして、敵である恐竜型ゾイドを睨み付け『ガォオオオオ! ガォオオ!』と咆哮を上げる。

『キュィイ! キュォイオ』

 それに争うように恐竜型ゾイドも咆哮を上げ、睨み合う。

『タフだな。普通のゾイドなら4回死んでるはずだが、益々クソパイロットに使われて可哀想だな』

「なんだとぉ」

 

 先に動いたのは、セオリだった。男の挑発に怒りを露にした彼女は、最大加速を掛け、走り出す。怒りに燃えるセオリに同調するように、オウドライガーのゾイドコアが活性化する。

 走り出したオウドライガーは、すぐに設定値の限界まで加速する。

 

『おらよ』

 恐竜型ゾイドの放った鋏盾が、変形し砲搭が露見し、小規模の荷電粒子砲を連射した。小規模とはいえ荷電粒子砲の連射を食らえば頑強なオウドライガーとはいえ危険である。

 

「オウドライガー! シールドオン」

『ガォオオ』

 セオリの声に反応し、コックピットのモニターに『Tsystem』と表示される。すると迫り来る荷電粒子弾から身を守るように、四肢からタキオン粒子が放出される。それが激しく回転し、荷電粒子弾を巻き込み、より強力なエネルギーの流れとなる。

 

 自立起動の鋏盾の攻撃は、全てを嵐のようなシールドに防がれ、恐竜型ゾイドのバスタークローから放たれる高出力レーザーすらシールドの威力を上げるだけだった。

 

『ガォオオ!』

「喰らえ! 必殺、ストライクオーバーアタック」

 

 今名付けられた大技。シールドで吸収したエネルギーをそのまま相手にぶつけ、粒子の回転とそれに乗せられたエネルギーで分子レベルまで研磨する技である。先日カノントータスの主砲を傷付けた時に考えたのである。

 

 撃てば撃つほど、巨大で強力なシールドは、恐竜型ゾイドの間近まで接近する。

『面白い技だな。誉めてやるよ』

「馬鹿な、シールドが」

 

 男の声と共に、恐竜型ゾイドの背部のバスタークローがEシールドを纏いながら回転し、オウドライガーのシールドを貫いた。

 完全に不意を突かれたオウドライガーは、シールドを纏い高速回転するバスタークローに腹部と右肩を貫かれ、3度目の地面への墜落を果たす。

 

『何かは知らないが、粒子加速を利用したシールドなのはわかったぜ。だが、Eシールドで粒子加速に巻き込まれないようにすれば、突破可能だ』

 

 男が勝利し、気分がいいのか若干滑舌になっていると、もう動かないと思っていたオウドライガーが足に力が入り難そうに立ち上がる。足は、ガクガクと何度も力が抜けるが、オウドライガーは地に伏せない。

 

「負けない……」

『グゥゥ』

 コックピットでも、多数のダメージを受けたセオリが、満身創痍で操縦桿を握る。

 オウドライガーもダメージが限界を越えるが、腹部を破壊され露出したゾイドコアからは、消えない活性化の光が漏れ出していた。

 

『こいつは、驚いた。徹底的に殺さなきゃ死なねぇか。やれジェノリセッター』

 

 男がゾイドに命令すると、ジェノリセッターと呼ばれたゾイドは、口を大きく開き、背部の荷電粒子コンバータに空気中の静電気を集め出す。

 先程、帝国軍を一撃で灰も残さず殺した光の壁……惑星ziでも類を見ないほどの強化荷電粒子砲を放つシークエンスに入った。

 徐々に口内部の砲搭にエネルギーがチャージされ、今発射されようとしたとき。

 

『キュィイ』

『ガォオオ』

 

 ジェノリセッターとオウドライガーのゾイドコアが、謎の共鳴現象をお越し、二機の間に強力な白と青のエネルギーフィールドを形成した。

 それは、瞬く間に拡散し、オウドライガーとジェノリセッターを吹き飛ばした。

 

『なんだと』

「くっ」

 吹き飛ばされたオウドライガーは、どうにか立ち上がるも、生存機能を残したまま機能停止に追い込まれた。

 

一方、空高くに打ち上げられたジェノリセッターは、パイロットの男が計器を見ると通常の10%以下にまで下がっていた。

『なんだ今の……ちっ正規軍か。引くぞ』

 

 もう一機の帝王ジェノリセッターに乗る男は、上空から援軍の姿を捉えるとどこかに消えた。最後にオウドライガーを睨みつけながら。

 

「うっ」

 オウドライガーに乗っていたセオリは、謎のフィールドの干渉と同時に意識を失っていた。




ジェノリセッター

【概要】
番号:不明
所属:なし
分類:ティラノサウルス型
全長:32.4m
全高:20.0m
重量:180.0t
最高速度:345km/h

【武装】
集束荷電粒子砲
レーザーチャージングブレード
NZR複合センサー
ハイパーキラーファング
エクスブレイカー×2
荷電粒子コンバーター
フリーラウンドシールド×2
ウィングスラスター×2
ウエポンバインダー
(AZ140mmショックガン/AZ80mmビームガン/マイクロポイズンミサイルポッド)×2
アンカー×2
ハイパーキラークロー×2(有線式)
ハイパーストライククロー×2
Eシールドジェネレータ

【オリジナル武装】
⚪︎全自動型凡庸武器ブレイカービット
両肩部分に装備された巨大なハサミ型の武器。射出されると全自動で対象を攻撃する。刃を折り畳むことで小型の荷電粒子砲が発射可能となる。

⚪︎ハイパークロー
バスタークローの改良版。従来のものと比べて若干の小型化に成功。背中部分に装備。
擬似荷電粒子砲が追加されブレイカービットと合体することで通常の荷電粒子砲一個分と同等の威力を誇る。


 オウドライガーに続く第二の帝王。全体的に砲撃に主軸を置いたゾイドであるため、その火力は数多のゾイドを凌駕する。全ての兵器がトップレベルの威力を誇っており、一撃一撃が敵対者の命運を分ける。それほどの火力を連発しても尽きる事の無いエネルギーと多種多様な攻撃方法が目立つ一機。最大火力で攻撃すれば大陸を全て溶断する事も可能。
 



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神秘

今回は二話連続投稿です。


ぼやける視界に、天井らしき壁と電灯が見える。

「あれ、死んだ?」

 

 目を開け、ボーとする脳がしばらく覚醒しない。寝惚けながら天井に手を伸ばす。

「起きたのかいセオリ。三日ぶりだね」

「よかったっす」

「感激。本当に心配したであります! 本当にセオリ様を失うかと~」

「此処は?」

「正規軍の基地っす。そしてここは医務室っす」

 

 目を覚ましたセオリの手を握る、泣きそうな顔のアインと脇のベンチに腰掛けるアンナとハットン。アインは、顔布を外し素顔を晒しているが、泣く事に集中して気が付いていない。

(相変わらず可愛いな、喋り方も変わってるし)

 

「そういえば、なんで寝てるんだ痛っ!」

「駄目。動かないでください!」

 

 起き上ろうとすると、体中に痛みが走り、慌ててベッドに抑えられる。良く見ると体中に包帯が巻いてあった。其処であのジェノリセッターとの戦いを思い出した。圧倒的な力に嬲られ、最終的に……。

「オウドは!? オウドライガーは!」

 

 再び痛みに顔を歪めるも、上半身を起こしユース団の3人に問いかけた。すると、ハットンが「落ち着いて下さい」と嗜める。

 

「オウドライガーは、損傷は大きいですけどコアは無事っす」

「あんたと一緒で眠ってるだけさ、直に稼働するだろうよ」

「安静。今は大人しく」

 

 再び三人がセオリをベッドに戻そうとするが、彼女が「大丈夫」といいゆっくりと起き上る。何故か、その後に手摺を掴みながら歩くセオリを止められなった。

 そして、彼女の姿がドアの向こう側に消えると、三人が慌てて追いかけた。追いかけた三人だが、必死に前に進むセオリを止めず、肩を貸す。

 

「大丈夫って、結構な打ち身とかあったんだよ!」

「それに何で歩けてるんですか? 脚の骨折れてたはずっすよ」

「驚愕。無理しないでください」

「問題ないよ。昔から痛みには、強いし身体も頑丈なんだ、オウドライガー何処にいるの?」

 

 ズンズン正規軍基地の通路を進むセオリだが、正直目的地が分からず、頭を抱えたユース団に案内される。案内されるまま、格納庫に向かうと、多数の最新機器が配備された軍の整備室が目に入る。格納庫内には、ゴジュラスなどの大型ゾイド

 

「へぇ、凄いね」

「あたい達も初めて入れてもらったけど、これには驚いたね」

「今回は、街の防衛に協力したってことで軍から報奨で、損傷個所を直してくれるそうっすよ」

 

 自分達の愛機もジェノリセッターとの戦闘で損傷を負ったため、渡りに船だったと言う。格納庫をアンナ達と歩いていると、整備中のレッドホーンの前でコンソールを弄っていた人物が走ってこちらに来た。

 

「おぉ、目を覚ましたのかい?」

「え?」

 

 突然、金髪の軍服を着た軍人に話しかけられ反応に困るセオリ。そんな彼女の心境を察してかアンナが説明混じりに答えた。

「この人は、ペンウッド・ミラルド曹長だよ。動けなくなってたあたい達を助けて此処まで運んでくれたのさ」

「どうも、初めまして」

「初めまして、セオリです」

 

 相手の差し出してきた握手に応える。握手し終えるとペンウッド軍曹が彼女に問いかけてきた。

「早速で悪いのだが、セオリ君。君の乗るゾイドについて聞いても良いだろうか?」

「オウドライガーについてですか?」 

「あぁ、私は長く軍人をやっているが、あんな特殊なゾイドを見た事がない」

「どう言うことですか?」

 

 セオリが質問すると、見てもらった方が早いとオウドライガーが整備されている倉庫に連れられる。

其処で見たのは……。

 

『ガォオオ。ガォオオオオ』

倉庫内で暴れるオウドライガーとそれを抑えようとするアイアンコング2機だった。

「何でこんな酷いことに」

「君のオウドライガーは、どうにも自我が強いらしく整備すらさせてもらえないんだ。だが、修理しなくては、あの傷で長く持たない」

そう聞くと、セオリが一目散にオウドライガーに駆け寄る。すると、セオリの姿を見たオウドライガーが暴れるのをやめる。

 

「お、急に大人しくなった」

「どうしたんだ?」

アイアンコングに乗っていた二人組が疑問の声を上げる。

「君達、ご苦労様。そいつのパイロットが目覚めたから休憩に入ってくれ」

「了解です軍曹」

下から、大声で指示するペンウッド軍曹。彼の姿を捉えた二人の兵士は敬礼しながら下がっていく。

 

だが、彼らを一切気に掛けずセオリがライガーを受け入れるように両手を広げる。オウドライガーもまるで暫く留守だった飼い主に合う猫のように、伏せながらセオリに鼻先を触れる。

「ごめんな。私が不甲斐ないばっかりに、こんな傷負わせちゃって……」

『グゥルル』

 

ライガーを撫でながら、謝るとライガーが首を降る。まるでお前のせいではないと言わんばかりに。

 

「私……強くなる。もう二度とオウドにこんな怪我させない」

『ガォオオオオ』

 

セオリの宣言に、喜ぶような咆哮を天に上げるオウドライガー。咆哮を上げたと同時に光に包まれる。

 

「離れたまえ」謎の発光現象にセオリが飲まれる前に、ペンウッド軍曹が彼女の腕を掴んで引き寄せる。

そして、光にオウドライガーが完全に包まれる。だが、それだけじゃなかった。

 

「セオリ!」「光ってるっす!」「神秘。摩訶不思議です。というか大丈夫ですかセオリ様!」

 

なんとセオリの身体もオウドライガーと同じように謎の光に包まれた。

「いったい何が起こっているのだ?」

 

さすがのペンウッド軍曹も未知の現象に為す術がなく、光が消えるのを待つしかない。

 

セオリとオウドライガーが、光に包まれ10分が経過した時、ようやく光が弱まる。すると、光の中からオウドライガーが現れる。その姿は、ジェノリセッターとの戦う前の万全の姿に戻っており、バスタークローで貫かれた胸部と右肩が修復されていた。

  

「セオリってアンタ何ともなかったのかい?」

 同じく光から出てきたセオリ。光の中にいたせいで視界がぼやけるようだ。

「光の中で何がったのかね?」

「な、なんともないよ。なんか急に暖かい光に包まれてボーっとしてた」

 

 目をパチパチしながら、自分に何が起こったのか理解してないセオリ。フラフラとおぼつかない足つきで歩く彼女をアンナが支える。

「すまないが、この指は何本に見える?」

「三本」

「そうか、他に変わった所はあるかい?」

 ペンウッド軍曹が、セオリの前で指を立て、それを彼女が答える。無事に数が数えられている事が確認でき、意識がハッキリ覚醒している事に安緒した。

 

「そういえば、さっきまで痛かった体中が痛くない」

「そんな馬鹿な事ありえないっすよ。セオリさん全治2週間っすよ」

「本当だってば、むしろ以前より体が軽い」

 

 怪我が完治した事を証明するため、ピョンピョン跳び羽ながら健康アピールするセオリ。それを見ていた軍曹が、深刻な表情でセオリに問い詰めるペンウッド軍曹。

 

「君のゾイド、オウドライガーは一体何だ?」

「軍曹さん、落ち着いて!」

「気になってるのは分かるけど、セオリが話せる状況じゃなきゃだめだよ」

 

 ゾイドの開発と研究する部署に、勤めていた事もあるインテリ軍人の性から、目の前の興味深い研究対象を見つけ興奮気味だったペンウッドは、咳払いし落ち着く。

 落ち着きを取り戻したペンウッドに、彼の執務室に案内されソファーに腰掛けながら、話を聞く一同。

 

「申し訳ない取り乱した。だが、オウドライガーについて修理する段階で調べさせて貰ったのだがね。オウドライガーの装甲や内部の素材が惑星ziに存在しない金属で構成されている」

 

 ペンウッド軍曹が、手の持つリモコンで執務室のモニターにオウドライガーのデータが投影される。その画面に全員が釘付けになっている。

「今わかっているだけでも、メタルziより強固な装甲で覆われている。他にも、オウドライガーに使われている技術は、未知または、我々の科学力では真似できない物ばかりだ。君は何処でこのようなゾイドを手に入れたんだい?」

 

 ペンウッドのしめした疑問に、アンナとハットンも同じく疑問に思っていたらしくセオリに期待を寄せた目を向ける。果たして、軍人のペンウッドの居る所で帝王のゾイドであると話して良いものか考える。

 

「未知のテクノロジーは、これまでに世界を救いもすれば、破壊もしてきた。貴方は恐らく前者であると信じていますが、今は帝国と共和国の戦争状態。もし、貴方のオウドライガーのような存在が悪用されたら、大勢の死者が出ます。話せるだけでいい、事情を説明してもらえないだろうか?」

 

 ペンウッドの真剣な瞳に、隠すのは適切でないと感じたセオリが静かに首を縦に振る。

 



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同調

次回の投稿は、明日か明後日になると思います。


執務室で、セオリは獅子王の村での出来事とオウドライガーの事を話した。話を脇に控え聞いていたアンナ、アイン、ハットンと正面の椅子に座るペンウッド軍曹。

 

(本当は、共和国でも軍人の人に話したくないんだけどな……戦争に利用されるのもオウドライガーを取られるのも御免) 

 

 正直に全貌を話しながらも、彼女の足はすぐに逃げ出せるように準備されていた。もし、目の前の軍曹が自分やオウドライガーを捕えるような素振りを見せれば、一発蹴りを入れた後に窓からでも逃げ出す積りだった。

 

「なるほど、帝王のゾイド……古より目覚めたゾイドか」

「ッ……」

 今すぐにでも逃げようかと、走る準備をしたセオリをペンウッドが止める。それも凄く和やかに。

「安心してくれたまえ、私は君とライガーを如何にかしようとは、考えていない。まぁ帝王のゾイドという存在は信じがたいが、先程の超回復……そして、搭乗者である君に起こった現象。それが、通常のゾイドと一線を置いた存在であると物語っている。そうだ、喋ったから喉が渇いただろう」

 

 そう言い終えると軍曹は、執務室のコーヒーメーカーで新たなコーヒーをセオリに淹れる。すっと差し出された。「どうも」

 

「君が真実を話してくれた礼に、私も情報を話そう。あ、情報漏洩とかは気にしないでいいよ。悪くて除隊になるだけだからね。元々は科学者なのに家が軍人の一家ってだけで……話が逸れたすまない」

「あ、うん」

(なんか、性格変わってないっすか?)

(あたいも思ってた。急にフレンドリーになった)

(変身。変わった人もいるものだ)

 

 急にキリッとした雰囲気から、へなっとした雰囲気に変わった軍曹。軽い口調で話し始める彼にユース団がコソコソと話す。最後のアインのセリフに((アンタだけは言わないであげて))と二人が同時に思った事は、アインは知らない。

 

「三日前、君達が戦った恐竜型ゾイド。ジェノリセッターは間違いなく帝王のゾイドというカテゴリーに位置している。そもそも、帝王のゾイドの代表が、シオンという青年の乗るジェノリセッターだからね」

「シオン……」

 軍曹の言葉で気になる単語を小さな声で、呟く。

 

「一年前に、突如現れたシオンとジェノリセッターが、当時最前線であったオルコス草原に現れ帝国軍と共和国軍の双方を壊滅させたのが始まりだ」

「双方を壊滅?」

「うん。しかも、一撃で何もかも焼き払ったらしい。その破壊力と戦闘力を望まない訳ないだろ? そこで帝国と共和国がジェノリセッターを求め争った。だが、シオンは誰にも属さず全てを薙ぎ払った。

 この段階でリスクが大きすぎると、別の帝王のゾイドを探したんだ。古代文明の遺産にジェノリセッターが『滅却せし竜皇』として残されていた。他にも3機のゾイドの情報が残っていたよ」

「村長も言ってた」

「かなり状態の良い遺跡だったんだね。というか『支配せし獣帝』のオウドライガー本体が眠る神殿だったね。この話だけでも帝王のゾイドは遺跡に眠っているっていう情報になるね」

「……一個あたいからも良いかい?」

 

 嬉しげに話す軍曹に、横からアンナが口を出す。どうぞっと軍曹が許可すると、アンナが真剣な表情で話す。

 

「4機のゾイドだけで世界を滅ぼす何て事が可能なのかい? こう言っちゃなんだけど、オウドライガーとジェノリセッターじゃ性能差が有りすぎる気がしたんだよ。ジェノリセッターが4機もいれば全世界との戦争もできそうだけど……所詮は兵器であって文明を滅ぼすなんてできそうにないよ」

「ほう。そう言えば一方的な戦闘になったと聞きましたね」

「確かにあたい達よりは、オウドライガーは強いけど、ジェノリセッターの性能はセオリが一番解ってるだろ?」

 

アンナがセオリに申し訳なさそうに確認する。セオリも、初めて戦った帝王の強さに恐怖を覚えた。自分ではどうやっても勝てる気がしない程に。

 

「うーん。実は遺跡の研究仲間が言っていたんですが、遺跡の文献に面白い事が書いてあったらしい」

「文献?」

「うん。野生型ベースのゾイド……今はクローンが多くて更に希少価値が上がった種類だけど、搭乗者の精神状態で機体の性能が左右される時があるらしいんだ」

「ライガーゼロは、確か野生型だったはず……確かに私の機嫌が悪いと動きが少し悪かった」

「成程。セオリ様、ライガーゼロにも乗っていたんでしたね」

 

 セオリが首飾りを握りながらライガーゼロを思い出していると、軍曹が手元のスイッチでモニターに古代遺跡の壁画が映し出される。

 

「この古代文字を解読するとね。

 

 汝、帝王の座に座りし者。汝の欲望、憎悪、正義、愛、ありとあらゆる魂の鼓動が玉座を統べる。強大な魂にこそ玉座は応え、森羅万象の力を与えるだろう。玉座に座りし者の意思一つで、世界は終焉と再生を繰り返す。前回は、終焉が始まった。

 

 って書かれてるらしい。かなり解読者の脚色が入ってるけどね」

 

「どういうことなんっすか?」

「あくまで僕の考えだけど、帝王のゾイドの性能は、ほぼ100%搭乗者の意思の力で決まっている。野生型以上に搭乗者とゾイドの共感性が高いんだ。物理現象すら超越し、ゾイドだけでなく搭乗者も回復させたりね。文献から予想するに、過去の帝王乗りは、全員が凶悪または強力な意思の持ち主で、帝王のゾイドの性能を無限に増幅させたんじゃないかな」

「性能が上がるっていたって限度があるんじゃないかい?」

 アンナの意見はもっともでセオリも、幾らなんでも言い過ぎではないかと思った。だが、軍曹はふふんと得意げにモニターを操作する。

 

「300年前、実際に操縦者の意思に従って進化するゾイドが、世界を救っているんだ。現在の反帝国国家ファミロンの象徴ムラサメライガーがいい例だ」

「エヴォルトするっていうライガー?」

「そう、詳しく研究された訳じゃないけどエヴォルトに似た装置、というよりエヴォルトよりも永続的に搭乗者の望んだ性能を引き出せるのがオウドライガーだと思うよ」

 

 軍曹の仮説の内容が凄まじく言葉を失う一同。

「まぁ、此処までは仮説。真実は研究しないと分からないが、正直帝王のゾイドを軍に渡してはいけない。戦争に帝王が使われれば、再び神々の怒りが起こり世界が滅亡する可能性がある」

「そんなバカな」

「いや、これはそういう兵器なんだ。だからこそ、戦争なんかに利用させちゃいけない。本来なら封印して置きたいんだけど、ジェノリセッターとオウドライガー、帝王のニ機が稼働しているのは、偶然じゃない。君の村長の予想通り、急に世界中に猛威を振るいだした帝国に何かあるんだと思うよ」

 

 軍曹はそう言いながら、モニターの電源を落としセオリに向き直る。

「恐らく残りの二機も機動しているか、近い内に機動するだろう」

「アンタの目的は何んだ?」

 

 通常軍人なら、力づくでも、それこそセオリを殺してでもオウドライガーを手に入れる。なのに目の前の男は、オウドライガーやセオリに危害を加えるつもりはないという。

「歴史の目撃者になること……かな」

「目撃者?」

「そうだよ、こうして帝王のゾイドの所有者であるセオリ君と出会った。その瞬間に私の使命はそれだと思ったんだ。変わった人間だと自覚しているが、人に合わせていたら自分を失う。だから私は人とは違う事をしたいのさ。オウドライガーは、整備不要だから君達の3機を修復したら、君達の自由にしていい」

「本当によかったんっすか?」

「かまわないよ。この基地にいる他の兵士も同類でね。正直辺境の地だから私みたいな異端分子を集めてるんだよ。だから、情報漏洩なんかないし、珍しいゾイド見てテンション上がってるくらいだな、そうだ困った事があればまた戻ってくるがいいさ、出来うる限り協力しよう」

 

 軍曹はそう言って執務室を後にした。残されたセオリとユース団3人もしばらく無言が続いたが、アインがセオリに「約束。例えオウドライガーが帝王であっても、セオリ様がセオリ様である限り……仲間」という一言で納得した。

 

「取り敢えず、あたい達のゾイドが修復しないと薬草取りにも行けないからね。時間を潰すなら街の観光でもするかい?」

「そうっすね。セオリ嬢もお疲れみたいなんで温泉でもどうっすか?」

「……そうだな。私も少し観光と情報収集したかったからそうするね」

 

年長者二人の気を利かせたお誘いにセオリも、少し考える時間が必要だと了承した。

 

「よっしゃわかったよ。最近美容にいい温泉が沸いたって聞いたから行きたかったんだよ」

「美肌。アンナは、エステマニア、終始美容の事しか考えてない」

「あんた達と違うんだよ。あたいは今から始めておかないと後で後悔したくないんだよ」

「降参。頭が割れる!」

「あはは……」

 

温泉が決定するとアンナが張り切り、アインがやれやれと言った態度をとると頭部にアイアンクローをかけていた。細腕のアンナからは想像もつかない握力に、アインがタップしセオリが苦笑いを浮かべる。

 

「なら、早めに行かないとっすね。宿が満杯になる前に行きましょう」

「でも、オウドライガーに乗れるのは、2人迄だよ。残りはどうすんの?」

 

既に出発モードだが、足となるゾイドがオウドライガー一機だと足りない。しかし、そんな疑問にハットンが答える。

「非武装のコマンドーウルフをペンウッド軍曹が貸してくれるって行ってたっす。アンナと俺はそっちに乗るっすよ」

「そういうことさね」

「相席。ご無礼お許しを」

「なんで、手をわきわきさせてる訳?」

 

ハットンの回答。アンナが腰に手を当てて、説明するとセオリの前で掌を怪しく動かすアインがいた。

「アインは、セクハラ好きだから相乗りしてる最中、襲われないようにね」

「げっ!?」

「貴様。先に言ってしまっては楽しめない!」

「アインだけ、走ってくる?」

 

冷たい目をしたセオリの提案に、アインは彼女の足にすがりながら首を横に振る。

 




しばらく戦闘シーンは無いかもしれない。


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休息

ゾイドすら出てこないw


カポーンと湯煙が立ち上る温泉のししおどしがなる。特に意味はないが雰囲気作りで置かれたそのししおどしをボーっとセオリが眺める。

湯船に浸かりながら、はぁっと息を吐く。

「アンナ達まだかな?」

 

その問いに答えるものはいない。街の温泉街にオウドライガーとコマンドウルフでたどり着いた4人。

だが、ユース団の三人は、少し用事があると言ったのでセオリだけが先に温泉に入ったのだ。

「ふぅ、遅くなって悪いね~。あぁ……いい湯dね~」

「遅刻。申し訳ない」

 

ガラリと露天温泉の入り口から、入ってきたアンナとアイン。当然両方全裸だが、アインの素顔以外の肌も見るのは初めてである。

 

「やっぱり二人とも美人だよな」

 

ボソッとセオリが二人を見ながら呟く。元々年上でお洒落な姉さん的なアンナ。地肌の色は濃いが素肌はきめ細かく手入れされており、髪も美しい。何より普段の格好からも分かるグラマラスなスタイルが彼女の美しさを天女のように見せていた。

 

「何いってんだい。セオリも悪くない処か美人じゃないかい」

「驚愕。セオリ様は、アイン側だと思ってたのに……これが胸囲の格差社会」

「きゃ! 揉むな!」

「敗北。奴等という持つものに無きものは蹂躙されるのか……」

 

一方、素顔が大変可愛らしいアインは、アンナと逆にお日様を浴びていないが故に美白でプリプリな赤ん坊のような柔肌。普段見せない髪は、黒のロングだった。スタイルは、豊満ではなく清楚な体付だった。可愛らしい顔と清楚なスタイルで妖精のようであった。

二人のレベルの高さに落ち込んでいるセオリ。しかし、アンナ達から見たセオリも、似たようなものだった。

 

「あんたみたいにバランスがいい奴の方が羨ましいね」

 

 セオリは、目元くっきりで、睫毛も長く、唇も桃色で、しかも美肌。顔のバランスがこれ以上ない程整っている美人が何を言っているのかと呆れるアンナ。その横にいたアインは、いつの間にかセオリの背後で掌から零れ落ちそうな胸を鷲掴みにし涙を流していた。

 元々活発な性格のセオリは、運動量も多く普段の服装からもスリムなアスリート体型だと知っていたアインとアンナ。しかし、スリムな体型に見せるため巻かれていたサラシの中の兵器に気が付いておらず、アインは裏切られた気分なのだ。

 

(セオリやっぱりデカイわね。あたいレベルか)

(聞いておりませぬよセオリ様~。あなたはステータス側でないのですね……)

「な、なんだよ」

「いや、いいスタイルしてるなと」

「詐欺。セオリ様は、私を欺き精神的ショックを与えて来ました」

「えー……」

 

その後、温泉に浸かりながらガヤガヤワイワイ騒ぐ3人のお嬢さんを端に男湯で一人温泉を満喫しながら酒を飲み満悦なハットンがいた。

 

(隣煩いっすね~。他人のふり他人のふり)

 

 おちょこで酒を飲みながら隣の3人とは無関係を貫き通した。

 

ーーーーーーーーーーーーー

「ふぅ、さっぱりした」

「良い湯だったねぇ」

「快適。温泉後のミルクは格別」

 

 セオリとアインとアンナは、温泉を堪能した後、売店で売っていたミルクを飲んでいた。全員長湯だったので頭から湯気が少し上がっている。

「もう宿は取ってるから、寝るまで少し時間があるよ」

「そうか、まだ日が暮れたばかりだしね。ここらへんでジェノリセッターについて情報を集めるよ」

 

 セオリがそう言った瞬間にアンナの表情が曇る。

「あんな化け物の情報手に入れてどうするのさ?」

「もう一度会いに行く。私の旅の目的は、世界中で起こってる混乱の元を叩く事なんだ。だから、帝国と共和国が挙って争う帝王のゾイド争奪戦。私はこれを止めたいと持ってる」

「質問。帝王のゾイド……すごく強いです。もし、残りの3機が全て戦争に使われたらどうするつもりですか?」

 

 アインの質問は、セオリが行っている旅の目的、その可能性の一つを示していた。そう、仮に全員が反戦争を訴える適合者たちなら戦争を終わらせる事も可能かもしれない。だが、逆にシオンのように破壊行為に全てを捧げる適合者もいる。つい先日、その驚異的な性能の前に、成す術がなかったセオリ達。

 もしも、交渉すら出来なかったらどうするつもりなのだろう。

「……最悪の場合、私がオウドライガー一機で3機を破壊する事になる。帝王のゾイド4機が争うと惑星ziは、再び大異変を起こす可能性があるから、一機だけでも破壊する」

「あれだけ酷くやられたのに、そのやる気は何なんだろうね」

 

 アンナが腕を組みながら、折れない意思を持ったセオリに苦言する。セオリは、何処か清々しい表情で言った。

「次は負けない。オウドライガーのせいじゃなくて私のせいで負けた。なら、今以上にオウドライガーの実力を引き出してあげるよう努力する。

二度とオウドライガーの足を引っ張りたくない」

 

 それは、決意であり、彼女の贖罪だった。力不足故に相棒を傷付けた。それは繰り返してはいけないのだ。

 

「何はともあれ、多分外でハットンが待ち草臥れてるだろうし行くよ」

「了解。確かに長い時間が経ってる」

「本当だ」

 

 三人は、急いで服を着替えてハットンと合流。その後、酒場に情報収集と夕食に向かった。

 

 



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酒場

温泉街から少し離れた裏路地。裏路地を少し進むと見えてくる100人程座れそうな大型の酒場『牙獣の恵み』では、大勢の柄の悪い男達と女達が犇めいていた。ギルドの集会場のような役割と居酒屋を合わせた施設である。

 

「うむ、良い酒じゃないか」

「本当っすね。マスター、おかわりくださいっす」

「要求。我も酒を飲んでみたい」

「未成年だから駄目だぞ。それよりこれ食べていいよ」

 カウンター席に着きながら、ハットンとアンナが蒸留酒に満足している。その横でミルクを前に置かれたアインが恨めしそうな表情をしていた。それをタンの煮込みを頬張っているセオリが嗜める。

 セオリが勧めたタンの煮込みを食べたアインは、感激しながらガツガツと残りのタンも食べていく。舌にあったのか皿にあった煮込みが無くなると追加注文していた。

 

そして、アイン達より早くセオリは情報収集を開始した。集める情報は、帝国の意向と帝王のゾイドである。まず、隣で飲んでいるおじさんに声をかける。

「あのさ、オジサン帝国の動きとか帝王のゾイドとかについて何か知ってない?」

「なんだお嬢ちゃん。帝国なんてあっちこっちで悪さしてるさ、ついこの間だってこの街に攻めてきてたらしいしな。……ん? 帝王のゾイドって事は、お嬢ちゃん賞金稼ぎかなんかか?」

「いや、違うよ」

「あんなおっかないゾイドと関わらない方が懸命だ。パイロットのシオンって男も頭がイカれてる。半年前にオジサンの知り合いもハントに行ったが死にかけて帰ってきたよ」

 

お酒で饒舌になったオジサンは、ペラペラと話してくれ、セオリも其をメモしていた。

「シオンは、目につく街や国に手当たり次第攻撃してる。あいつを手配してるのは帝国だけじゃないさ。一人で戦争してる気分なのかね~、殊更に悪いこと……一人で戦争出来る力を持ってるから始末が悪い。お嬢ちゃんもシオンみたいな奴に興味持つ年頃だろうけど、やめときな」

 

グビグビとグラスに注がれた酒を飲み話をやめるオジサン。セオリは、話の合間に入る彼女に対する注意と警告からオジサンはいい人だなと思い、追加のウィスキーを注文した。

 

「これ奢るね」

「おっとすまねぇな。俺もこんな酒場でべっぴんなお嬢さんと酒飲めて感激だよ」

 

 上機嫌に笑うオジサンに「ありがとう」と告げ他の席にいる客にも声をかけた。それ以降だが、目ぼしい情報はなく、オジサンの話と似たり寄ったりで変化が少なかった。

 この街に届いている情報は、これが限界かと諦め席に帰ろうとする。

 するとガチャーンと机や椅子が倒れ、皿が割れる音がする。

 

「畜生。何をする筋肉ダルマ!」

「大人しく従わねぇからだろうが、女だから下手に出てりゃよ」

 

 セオリから机二つを跨いだところで、アインが彼女の二倍はある巨漢と睨みあっていた。アインの周りには、倒れた机と割れた皿などがあった。

 大男に突っかかるアインだが、男が腕を振るい彼女の頬を打った。小柄のアインが床に倒れる。

 

「つっ」

「ふん、俺様に逆らうからだ」

 

 地面に散らばった破片で手を怪我したらしいアインを男が見下ろす。肝心のハットンのアンナは、久々の酒で完全に泥酔しており、役に立たない。右腕から血を流すアインを男があろうことか踏みつけようとした時、セオリが動いた。

 

「なんだその反抗的な目はぐぶっ」

「大丈夫かアイン。すぐに手当てしないと」

 

 セオリは、完全に意識をアインに向けている男の背後から、全体重を乗せた渾身のストレートを御見舞した。顔面にクリーンヒットした大男は、大きくのけ反りながら隣の席の料理に顔面から突っ込む。そんな男を無視してアインに駆け寄り背中のバックから包帯を出すセオリ。

 

「ぐっう……てめぇ」

 勢いよく机に突っ込んだ男は、顔や服を料理や酒で汚し憤怒の表情でズンズンとセオリに向かってくる。

 アインの手に包帯を巻き付け、一安心したセオリは立ち上がり男に正面から向かい合う。男は、右頬が腫れ上がり、服も料理と酒でベタベタだった。

「何だよオッサン。ん? さっきまでのダサイ格好より随分と見れるようになったな」

「このアマ!」

 

 挑発的な笑みと言葉を向けたセオリに男が丸太のような腕を振り上げ、拳を振り下ろす。本来であればセオリのような少女では大怪我をする一撃を、彼女は正面から受け止めた。

「なっ」

「オッサン、力自慢みたいだけど。こんなバカ力、女に振るったら死ぬだろうが!」

「うぐぉお、くぅう」

 

 なんと、大男の巨大な拳を、すらりと細い方腕で受け止めたセオリ。渾身の一撃を受け止められ、うろたえる男にセオリが怒りの声を上げ腕を捻る。ギリギリと細身の少女に腕をひねられている大男の姿は、先程までガヤガヤと騒がしかった酒場の空気を凍らせた。

 大男も腕に精一杯の力を込めるが、セオリの腕力がそれを優に上回り男の身体を地面にひれ伏せさせる。既に男の腕は限界まで捻られていた。

 

「は、はなせ」

「ふん」

 

 セオリは、男の腕を離す。男は自分の腕を押さえながら、セオリを睨みつける。その視線を凍るような冷たい目で見降ろすセオリ。

 

「お前、此処いらじゃ見ない顔だな……表のライガーはお前のか?」

「そうだったどうだっていうんだよ」

 

 腕を押さえながら、男が立ちあがり得意気に言った。

「後一時間後に開かれるゾイドコロシアムに参加して俺と戦え」

「ゾイドコロシアム? 違法賭博のあれ? でも、私が参加するメリットないだろ?」

「さっきからお前、帝王のゾイドと帝国について聞いて回ってただろ? 俺様は、そこいらの奴より情報を握ってるぞ」

 

 男がそう挑戦的な笑みを向けてくる。確かに此処での情報は出尽くし、他に望みも無い。其処で突如提案された情報収集のチャンス。だが、何故そのような事を男が提案するのかわからない。それに、男が情報を持っている確証がない。

「なんでコロシアムへの参加を求めるんだ?」

「俺様に恥をかかせたお前を、叩きのめす為だ。俺が勝ったら土下座して謝罪して貰おうか、仮にお前が勝てたら、情報をやろう」

 

 セオリは、とりあえず情報の信頼性があるか酒場の店主に問いかける。

「ねぇ、あいつの情報って価値があると思う?」 

 突然問いかけられた店主は、セオリと男を目で行ったり来たりした後、一息ついて答えた。

「ダーザは、この街のコロシアムチャンピオンだ。裏稼業の中でも顔が広いし、信頼性はあると思う。だが、止めておきなさいお譲さんダーザと戦って無事なゾイド乗りは」

「おっと、バーテン其処までにしろよ。で、勝負に乗るか? 後、乗らないって言うんなら……」

 

 何かを企みを孕んだ目で、セオリを見るダーザ。

「いいよ。やってやる! 一時間後に何処に行けばいい」

「お譲ちゃん!」

「お前は黙ってろ! 此処から北に2キロの所に、巨大な山がある。其処の入口で俺様の名前を出せば地下闘獣場に入れる。遅れるんじゃねぇぞ」

 

 勝負の約束が纏まった所で急に上機嫌になったダーザが「ガハハ」と笑いながら酒場の外に出た。堕座が去った後も、店はしばらくシンっとしていたが次第に騒がしさを取り戻していった。

 

「御免。我のせいで……セオリ様があんなのと闘うことに」

 シュンっと凹みながら、セオリに頭を下げるアイン。

「いいよ、アインが謝ることない」

「危険。もし負けたらセオリ様が」

 

 問題ないと言うセオリにアインが言い募る。だが、セオリは笑顔で「あんな奴に、負けるようじゃ旅は続けられない。今回は私を信じて欲しい」と良いカウンター席に着いた。

 そして、じっとお客さんの相手をしているバーテン見つめ、目線に気が付いた彼が「なんでしょうか?」とセオリに問うた。

 

「バーテンさん。ぶっちゃけコロシアムのルールって何なのかな?」

 その一言に、バーテン、アイン、周囲の席に座っていた客達がずっこけた。

「お譲ちゃん! ルールも知らないのに挑戦を受けたのかい!」

「無謀。無謀で無茶で阿呆であります! 私の信頼を返してほしいです!」とバーテンと顔布を外し、天使のような素顔でアインが言い放った。

 てへっと頭を掻きながら、申し訳なさそうに正座するセオリ。正直ダーザに足して頭に血が上っていたので、冷静な判断が出来なかったのだ。

「全く君は……」

 

 その後、呆れながらもコロシアムル-ルの『火器武装の禁止』と『相手を死亡させてはいけない』の二つを聞いた。だが、元来火器とは無縁のオウドライガーと引き金が引けないセオリである。コロシアムのルールはむしろ彼女にいい意味で作用したと言える。

(アイツはムカつく。この怒りがあれば戦える)

 

 拳を握り、ダーザに対する明確な怒りの確認と決意を胸に、残り時間を待ちに待っていると泥酔から戻ったアンナとハットンの役立たずな保護者ペアに、説教されたセオリである。

 

(納得いかない。凄く納得いかない)

 

 



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勝負

今回はゾイド出せたw


何故か泥酔二人組に勝手な行動を取ったと説教され、ブーたれているセオリとユース団は、バーテンさんに聞いたコロシアムの入口に辿りついていた。

 かなり入り組んだ山道の奥に大きなゲートがあり、検問所のような場所でダーザの名を使うと何ごとも無く通して貰えた。

控え室などはなく、倉庫にゾイドを停止させ、其処で整備されていた 。時間が来れば倉庫直結でコロシアムに入場するのだ。

 

 コマンドウルフは、比較的数が多く珍しくないが、オウドライガーは世界に一機のみ。コロシアムの職員や観客も始めてみるゾイドに注目していた。そして、現コロシアムチャンピオン、ダーザと戦うのが少女なのだ。注目度は通常の二倍以上だった。

 

 

「凄い視線感じる……」

「本当だね。あんたとアインが喧嘩吹っ掛けられたダーザって奴は裏じゃ有名人だったからね。でもいいのかい? 裏とは言え結構大きな賭博だ、オウドライガーの事が世界に広まるのが早くなるよ」

 

アンナの意見に「やばっそうかも」と迂闊な判断をした一時間前の自分を悔やんだ。だが、後悔先に立たず。

「コロシアムでは、火器が禁止の分、ゾイドの格闘性能に依存するっす。セオリ嬢のオウドライガーなら有利に戦えるっすけど、相手のダーザが何に乗ってるかが問題っす」

「あれ、知らないのハットンとアンナは?」

 

裏業界に詳しく、知識も多いと言っていた二人がダーザのゾイドを知らないとは思っていなかった。

「あたい達も半年ぶりのコロシアムだからね。前チャンピオンとは、面識あるけど新顔のダーザは初めて見たさ」

「正直、前チャンピオンがダーザって男に負けるような器じゃないと思うんですけど……世の中分かんないっすね」

 

二人がうーんと唸りながら、考えているとセオリの袖をアインが引っ張った。

 

「何アイン?」「祈願。セオリ様の祝勝を祈っております」

 

と激励され照れ臭くなったセオリは、頬を赤く染め照れながら「うん」と胸を張って応える。

 

「後、セオリでいいから。様はいらない」「無理。しかしですね、セオリ様が我々を許してくれた恩があって……恩人を呼び捨てになど……ゴニョゴニョ」

「別に恩人じゃないもん。様とか嬢とか付けられると畏まっちゃって嫌なんだよ」

 

むくれながら、訴えるセオリ。それに対してアンナは、「そうさ。いい加減止めてあげな」と援護射撃を入れる。

「わかったっす。……セオリさん」

「妥協。では、セオリちゃんと呼ぶであります」

 

そうして話が纏まった時、会場の従業員が声をかけてきた。

 

「あなたのゾイドの機種名とあなたの名前、そして、火器の有無を書いてくれ」

 

従業員と言うよりチンピラと言った風貌の男だが、きちんと仕事をこなすのか手に持った板に張り付いた用紙の説明を始める。

 

「えーと、オウドライガーとセオリ……っと。火器はありません」

 

言われるままに書き終えて、従業員を見ると「まだ16才か……運が無い。そうだ、この了承書に署名をお願いしますよ。ゾイドの破損、搭乗者の怪我で会場に一切責任を求めないって部分だ。これが終わったあのリフトで会場だ」

 

言われるがまま、セオリがサインすると「goodlack」と従業員が親指をたてて、去っていった。

 

「行ってくる」「行っておいで」「負けちゃダメっすよ」「応援。一生懸命応援いたしますよセオリちゃん」

 

ユース団の見送りを後にオウドライガーのコックピットに乗り込むセオリ。コックピット内の計器を撫でながら「頑張るよオウドライガー!」と気合いを入れる。

 

『ガォオオオオン』とオウドライガーも雄叫びをあげ準備は万端。ズシンズシンと足音を鳴らしながらリフトに乗る。

 

するとリフトは、超重量のオウドライガーを苦にもせず動きだし明るいコロシアムの中心に運び出した。

 

「広いし、明るい。これで地下なの?」

『ガォン?』

 

セオリとオウドライガーが立っている場所は、半径100m程の空間でスポットライトが眩しいほど輝き外よりも明るかったのだ。

更に観客席も大勢の裕福そうな人達から、貧しい階級の人間まで有象無象に居た。

 

「あの何処かにユース団も居るんだよね」

『グルル』

 

周囲を見渡しアイン達を探すセオリを端に、オウドライガーが目の前のゲートからコロシアムに入ってきた敵に威嚇をする。

ズンズンとコロシアムに侵入してきたのは、オレンジカラーの アイアンコングであった。

 

「絶対アイアンコング乗りだと思った……でも、普通のアイアンコングより装甲が多いし両腕の武器……」

 

オウドライガーの前で停止したアイアンコングは、ボディの至る箇所にアーマーを装備し防御力をあげ、両腕に巨大な武装を装着していた。すると、両機が並んで直ぐにアナウンスが入る。

『会場にお集まりの皆様 。今夜は記念すべき決闘をご覧に入れましょう。方や現在40戦無敗の王者、ダーザ・コムイと恐るべき破壊者アイアンキ~~~ングゥ! そして、この無敗の王者に挑むのは、コロシアム初参戦の戦乙女……セオリと未知の実力と驚異の力を兼ね備えたオウゥ~~ドォラ~イグゥア! 両者王の名を冠するゾイド同士、熱い王座争奪戦を期待してるぜ』とアナウンスが途切れる。

すると。

 

「逃げずに来たようだな.待ってたぜ」

「そう。こないほうが良かったかな」

アイアンコングから、不愉快な男……ダーザの声がする。声は弾んでおり期限は良さそうでもある。

 

「……恥欠かされっぱなしじゃ終われねぇんだよ」

「私も、アインを傷付けたお前は許さない! 此処でもう一度叩きのめしてアインに謝らせる」

「言ってろ」

 

試合が始まる前に繰り広げられる舌戦。これだけでも観客は大盛り上がりだった。怒りのボルテージを上げる二人が何れ程激しい闘いを繰り広げるのか興奮が止まらないのだ。

 

すると両者の前に、両腕にフラッグを括り着けたアロザウラーが現れ、フラッグを前につき出す。

 

「両者準備はいいか?」

アロザウラーのパイロットが試合前の確認をとると、二人が通信で「うん(おう)」と頷き、「lady fight!」とフラッグが挙げられ、ゴングがなる。

 

「うぉおおおお!! いくぞアイアンキング」

『ブォオ』

 

ダーザの雄叫びと共に、アイアンコングの格闘専用機がドラミングをしながら、オウドライガーに向かって進む。

 

「おらぁ!」

 

アイアンコングにあるまじき速度でオウドライガーの前に移動するダーザ。アイアンキングが右腕を大きく振い、剛腕がオウドライガーの顔面に向かう。

 

「当たるか!」『ガウン』

 

初撃を見切っていたセオリが、オウドライガーに後ろに向かってステップを踏ませ、空振り体制を崩したアイアンキングに体当たりを仕掛ける。

「うぉお」

 

チャレンジャーの活躍に会場が「ワー」と沸く。

 

「くらえ!」

『ガォオ』

体勢が崩れた状況で横から、重量級のゾイドの体当たりを喰らい、倒れる。倒れたアイアンキングに飛び掛かるセオリ。

 

「ふざけんな」

「うわぁ」

 

飛び掛かったオウドライガーに、アイアンキングのカウンターの裏拳がヒットする。腕に備え付けられた巨大なトンファーのような武器が、オウドライガーの顎にクリーンヒット。

 

『グゥル』

空中で反撃を食らったライガーは、勢いで吹っ飛ばされ地面を転がりながらも、どうにか体制を立て直した。

四肢で確りと立ち、目の前でこちらの様子を窺うアイアンキングを睨む。

 

「中々いい反応だ。それに動きも速い……だが、所詮その程度だ! いくぞアイアンキング」『ヴォオオン』

 

激しいドラミングの後に、両腕のトンファーのような武器から巨大な杭が現れる。

すると、会場の観客が盛り上がり、アナウンスが入る。

『もう出てきたぞ、アイアンキングのパイルバンカー! だが、レディ相手に些か大人気ないんじゃないのかキング?』

 

そのアナウンスに観客席のアンナ達は、其々文句を飛ばしていた。

 

「武器は禁止じゃないのかい!?」

「火器じゃないグレーゾーンっすね……」

「疑問。でも、オウドライガーのストライクレーザークローも使ってよい筈では? それなら互角」

 

アインの指摘にアンナが首を横に降って否定する。

「リーチの差が有りすぎる。それにオウドライガーは、高速戦闘用ゾイドだけど、このコロシアムじゃあまり速度は出せない」

 

アンナの指摘の通り、ジリジリと距離を詰めたオウドライガーが自慢の爪で飛び掛かる。しかし待っていたとばかりにアッパーで繰り出されたパイルバンカーが、オウドライガーの顎にヒットする。

『グゥウ』

「うぁあああ」

 

 杭が顎に当った瞬間にパイルバンカー内で超電磁石が、レールガンの要領でメタルZIの鉄芯を高速で発射し凄まじい衝撃をコックピットのセオリにまで伝える。パイルバンカーの一撃を受けたオウドライガーの上半身は大きく空を仰いでしまう。

 

「もう一丁!」

「きゃああ」

 

 無防備になった腹部にもう片方のパイルバンカーが決まり、再び凄まじい衝撃がオウドライガーのボディをふっ飛ばし、コロシアムの壁に叩きつける。

 

『グゥウ』

「いてて、あんな武器ありなのか……」

 

 コックピットでシートベルトを装着していたおかげで大怪我は無いが、全身打ち身といった症状である。いたる所から痛みが走るが、今は敵に集中せねばならずオウドライガーを立ち上がらせる。

 

「おいおい、バイオトリケラの装甲ですら一撃で砕ける攻撃を二回も受けて、破損すら無いだと? どんな装甲してやがる。まぁそれだけ頑丈なら、手加減いらねぇよな」

 

 アイアンキングが、壁際に居るオウドライガーに急接近し、右腕のパイルバンカーを振るう。

「くっ」

「もう一丁あるぞ!」

 

 最初の一撃は、姿勢を低くする事で回避したが、もう一本の腕で頭部を掴まれ鬣部分にバンカーを喰らう。しかし、ガッチリと頭部を掴まれているためパイルバンカーの衝撃を殺せず、モロに喰らってしまいセオリにもダメージが入る。

 

「くっ離せ!」

「逃がさねぇよ。お前にひねられた腕がまだ痛むからな!」

 

 ガッチリと巨大な腕でオウドライガーの首をホールドしたダーザ。上手く身動きの取れないオウドライガーにもう片方の腕のパイルバンカーを連射してくる。

 ガンガンガンと何度もリーオ製のバンカーを腹部に受けるオウドライガー。衝撃が絶えずセオリを襲うが、オウドライガーと共に根性で耐える。会場は、ほとんどダーザのパターンに入った試合に盛り上がりも落ち着いてきた。

 これから始まるのは、アイアンキングによる解体ショーである。

 

『グゥルル』

「本当に頑丈にできてんなおい。一体何発ぶちこめばぶっ壊れるんだろうな」

 

 オウドライガーの装甲がパイルバンカーに耐えているとはいえ、いずれ限界は来る。ダーザもオウドライガーとセオリのタフさに驚きの感情を持ちながらも、勝利を確信しパイルバンカーを打ち続ける。

 

「セオリさん……大丈夫なんっすか?さっきから全然動けていないっす。それにセオリさんの声も聞こえないっす」

「あたいに聞かれても分かんないよ。あの娘を信じるしかできない」

 

 観客席で目を覆いたくなる試合に、ハットンとアンナがうろたえる。しかし、隣に座るアインだけがじっとオウドライガーとアイアンキングの戦いを見届けていた。

 

「勝利。あの状況でも、オウドライガーの『気』は、死んでない。セオリちゃんも負けるつもりはない」とアインな断言した。

 その時だ。一方的に攻撃されていたオウドライガーに動きがあったのは。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 オウドライガーのコックピットで、目を瞑りペンウッド軍曹の言っていた仮説を思い出していた。

 

ーーーーーーーー帝王のゾイドの性能は、ほぼ100%搭乗者の意思の力で決まっている。

 

(なら、私が心を強く持てば……オウドライガーは負けない!)

「行くよ。オウドライガー! 帝王の力を私に見せてくれ!」

 

 セオリの決意と共にオウドライガーのゾイドコアが内部で活性化する。外からは分からないが、コア内部の温度が上がり続け、回転数も倍々的に増加していく。呼応するかのように彼女の胸元にあるライガーゼロの形見が光り輝く。

 溢れんばかりのエネルギーがオウドライガーの全身を巡り、一気に稼働させた。

 

『ガォオオオ! グォオオ!』

「な、うお! ぐは」

『ブォオン』

 

 先程まで、力付くで押さえつけ、痛め付けていたオウドライガーが息を吹き返し、アイアンキングの腕に噛みつき振り回す。自信と同じようなサイズのアイアンキングを顎の力だけでブンブンと振り回しながら何度も地面に叩き付ける。

 

「はぁあああ!」

 

 セオリの掛け声と操縦桿捌きによって、アイアンキングの持つ右腕が千切れ、本体が壁まで投げ飛ばされる。腕が千切れたアイアンキングは、しばらく動けず中のダーザも衝撃で頭部を強打していた。

 

「此処からが本番だ」

『ガォオオ』

 

 咥えていたアイアンキングの右腕を傍に捨て、壁際でどうにか起き上ったアイアンキングと向かい合う。アイアンキングのダメージは見たとおり大きく、本来であれば試合は終了している。

 だが、ダーザが降参を言い渡さない限り、試合は終わらない。それに会場のテンションが大盛り上がりになり、コロシアムも静止を掛けない。

 

「俺様が、俺様が負けるわけねぇだろ!!」  

 

 ダーザの意地と怒りによって突き動かされるアイアンキング。狙うわ最大パワーでのパイルバンカー。

「こっちも行くよ!」

 

 対するオウドライガーも、爪に全てのエネルギーを集中し必殺の一撃に賭ける。

 

活性化したコアから、溢れ出る莫大なエネルギーがレーザクローに収束する。すると、オウドライガーの爪が眩いほど輝き、その熱量は周囲の水分を徐々に蒸発させていく。

シューシューと周囲から煙が上がり、オウドライガーの足下の地面は溶け始めていた。

それほどまでに力を高めた爪で相手を打倒すべくライガーは、走り出した。

 

「うぉお」

「はぁあああ」

 

四肢で大地を駆ける獅子王と迎え撃つアイアンキング。セオリとダーザの戦いの決着は一瞬だった。

 

「あんだとぉお」

 

駆け出したオウドライガーの速度は、先程までと違い音速を越え目視不可の領域に辿り着いた。

アイアンキングが左腕のパイルバンカーを振り上げた時、オウドライガーは既にアイアンキングを通過していた。

通り過ぎる前に、前足のストライクレーザークローでアイアンキングの胴体を砕き溶断して。

 

『ガォオオオオン。ガォオオオオン!』

 

ドサリと胴体から下を失ったアイアンキングが倒れ機能を停止する。そして、勝利したオウドライガーは、コロシアムの閉鎖的な空間中に勝利の雄叫びをあげた。

 

その戦いの結末に周囲の観客達も最大級の盛り上がりを見せ拍手が起こった。

さらにアナウンスが流れる。

『勝者 オウドライガーとセオリ。新チャンピオンの誕生です。コロシアム初の女性チャンピオンだ!』等と話を盛り上げ、オウドライガーがコロシアムから格納庫に向かうまで拍手は続いた。

 

格納庫にいくと、ユース団の皆が待っていて、オウドライガーから降りたセオリを激励した。

 

「頑張ったっす」「勝者。必ずやセオリちゃんなら勝てると思ってましたよ~」「これでダーザって糞野郎も少しは懲りた……訳でもないみたいだね」

 

アンナの視線の先には、半壊したアイアンキングから降りるなりズンズンと周囲の人を押し退けながら迫るダーザだった。

顔には、青筋が浮き出ており憎悪と憤怒の表情を露にしていた。

 

「そうだ。さっさと情報を渡せよ元チャンピオン」

当初の目的を思いだし、ダーザを馬鹿にした言い方をするセオリ。だが、ダーザの返答は予想の斜め上だった。

 

「お前のせいで俺のゾイドは滅茶苦茶だ。責任とって俺にそのゾイドを渡せ!」

「は! ゾイドが破壊されても文句を言わないのがルールだろうに、何をいってんだいあんた」

 

意味不明の理論を持ち出すダーザにアンナが突っ込みをいれる。

 

「本来なら負ける筈がないんだ。オウドライガーの性能が高すぎただけだ……俺様より強いゾイドなんて反則だ。だから罰としてこいつはもらう!」

「馬鹿なんすかね」

 

ハットンが溜め息をつくとダーザが、大きな声で捲し立てる。

 

「だから!! 俺様にこのゾイドを渡せば解決するっていってんだ!!! そんなこともわかんねぇのか? 手加減してやった礼と恥をかかせた謝礼金として献上しろ!」

 

口から唾を飛ばし、支離滅裂なことを続けるダーザ。周囲の目が冷たくなると反比例してダーザの体温は上がっていく。

 

「俺様が負けるなんて許されねぇ。そんなのこの世界の損失にも等しい……グダグダ言ってないで寄越せ!」

 

ばっと手をセオリに向けて差し出し要求するダーザ。セオリは無言で睨み付けると又おかしな方向に話が進む。

「渡さねぇつもりかあぁン!? ……そうだ、ならお前を俺の女にしてやるよ。見た目は悪くねぇし娼婦として使ってやる。そしたらオウドライガー何て必要なくなるんだ、娼婦として俺様に使われる幸福で一杯だろ? だからオウドライガーとお前の両方を貰ってやるよ」

 

何故か自信満々に良い放ち、周囲が凍っていることも気にせず「ガハハハ」と笑い始めるダーザ。

 

(ぶっ飛ばす)

拳を握りしめ、再びダーザの顔面を手加減抜きで殴ろうとしたセオリ。

だがしかし、セオリの鉄拳はダーザに命中しなかった。

 

「gwぶ……ごは」

 

セオリの拳より先に、凄まじい蹴りがダーザの鳩尾に入り彼は体をくの字に曲げながら撃沈する。

想定外の蹴りの出所を見たセオリは驚いた。

 

「又あったねお嬢ちゃん。さっきのは良いファイトだったよ。オジサンもびっくりしたよ」

「……あぁ、酒場にいたオジサン!」

 

そう、なんとダーザを撃沈させたのは、数時間前に酒場でセオリが情報を聞き出したオジサンだった。酔っぱらっていない為か、オジサンと言うよりナイスミドルな雰囲気を醸し出していた。

 

「何でここに?」

「いや~、半年ばかり仕事で街を離れてたら、ダーザ何て男が秩序を乱してるって聞いて酒場で情報収集してたらセオリちゃんと会って、そのセオリちゃんがダーザを倒してくれるとは思わなかった。参ったねこりゃ」

 

顔を手のひらで覆い、笑い出すオジサン。すると、足下でダーザが呻いたのでオジサンが蹴りを入れ黙らせる。

 

「お、ユース団の連中じゃねぇか久しぶり」と今度は気さくにユース団に話しかける。

(知り合い?)

セオリの問いの答えは直ぐに出た。

 

「お久しぶりっすバーナーさん」

「本当に変わってない奴だねあんたは……」

「説明。セオリちゃん、このバーナー殿はコロシアムの元々チャンピオンであります」

 

其々がオジサン=バーナーに挨拶をし、バーナーも「おう、相変わらずお前は尻に引かれてるみたいだな。アンナは、良い女に磨きが掛かったな。アインは、友達が出来たみたいで良かったな」と其々に返し、アインの頭を撫でていた。

 

「えぇえええええええええええ」

 

漸く元々チャンピオンという説明が脳に入ったセオリが、驚きの声をあげた。ダーザは、未だにダウン中である

 




次回は、キャラ紹介を合わせた二話投稿になる予定です。


アイアンキング
型式 EPZ-002
所属
モチーフ ゴリラ型
スペック
全長 11.5 m
全高 13.7 m
全幅 15.1 m
重量 200.0 t
最高速度 140.0 km/h
武装
アイアンハンマーナックル×2
リーオ製大型パイルバンカー×2
複合センサーユニット

 現コロシアムチャンピョン、ダーザの愛機。オレンジ色で装甲が追加され、両腕に大型ゾイドですら一撃で粉砕するパイルバンカーが装着されている。本来は、火器も装備した重装甲機体だが、コロシアム使用で格闘能力のみにされている。闘争本能を強化され、接近戦ではゴジュラスすら圧倒する。両腕のパイルバンカーに使われたリーオは、ディガルド武国との戦争の際に使用されなかったパーツを併用。 
 コロシアムでは、無類の強さを見せていた。



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キャラ紹介

今回は、キャラ紹介です。



 

セオリ=アンデルセン

年齢 16

身長 156

体重 49

姿 オレンジ髪のポニーテール。赤い目と白い肌の女性。動きやすい民族衣装に身を包む。

性格 男勝りで行動力に溢れる。がさつだが優しい性格。

搭乗機 ライガーゼロ(オールド)→オウドライガー 

 

略歴

 獅子王の村で荷物運びをしながら暮らしていた少女。村に攻め入ったシュセイン帝国軍との戦いでライガーゼロを失い、世界に4機しかない帝王のゾイド、オウドライガーの搭乗者となる。争いを村に持ち込まないために村を飛び出し、残りの帝王を見極め帝王を求める争いを終結させようとしている。

 戦闘恐怖症を患っており、頭に血が上っていないと引き金が引けず身動きが取れない決定的な弱点がある。

 

追記 

 トラウマに陥ると、急に別人のようになる事がある。

 

 

【ユース団三名】

アイン(本名不明)

年齢 16

身長 145

体重 42

姿 黒のロングヘアで瞳の色は青。肌の色は白すぎる程で素顔は同姓ですら惚れる程。常に特殊な素材の忍者装束で全身を覆っている。

性格 本来は、天然気味のお譲様だが顔布を使っている間は、攻撃的になる。

搭乗機 セイバータイガー 

略歴 

 フリーで何でも屋を営むユース団のリーダー。本来は正規の仕事しか取らないが、恩師の危機に裏稼業に手を染めようとした所、セオリとオウドライガーに返り討ちにあう。その後、セオリの優しさに救われ、同年代な事もあり友達になった。

 何か別の素顔がある模様。

 

追記

 肌でゾイドの感情や搭乗者の意思を感じ取ることが可能。だが、痛みや悪感情まで感じてしまうために特殊な布で肌と外界を遮断している。 

 

 

アンナ(本名不明)

年齢 20

身長 170

体重 52

姿 アインと同じロングの黒髪と褐色肌のグラマーな女性。真っ赤な露出の多い服を好んで着る。

性格 強気な姐御肌の女性。アインの母親的役割でユース団の中で一番勘が鋭い。

搭乗機 ディバイソン

略歴

 上記アインとほとんど同じ。セオリの性格は甘いと思いつつも、彼女の良い所や心の強さに一目置いている。アインの面倒だけでなく、セオリの事も目を離せないでいる。ひそかにハットンの事を好いている。

追記

 今は無し。

 

ハットン

年齢 30

身長 180

体重 67

姿 金髪のボサボサヘアで青い目と白い肌の男性。体系は細マッチョタイプ。いつもヨレヨレのだらしない服を着ている。ただ、着飾れば王子様然とした姿に化ける。

性格 基本気だるい怠惰なタイプ。だが、やる時はやるタイプ。 キレると最も怖い人物。

搭乗機 カノントータス 

略歴

 上記二名と同じ。セオリの強さと優しさを見込んで協力を要請した。無類の酒好きだが酒に強くは無い。また一人増えた女性メンバーのせいで肩身が狭い思いをしている。

追記

 現在は無し。

 




以上です。一定タイミングで情報を更新していこうと思います。


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地獄竜

その後、バーナーの招待でコロシアム内の食堂に入ったセオリ達。

 

「まさか……オジサンが、ダーザの前のチャンピオンとは思わなかった」

「人は見掛けに寄らないだろ」

 

椅子に腰掛けながら、酒を注文するバーナーとハットンとアンナ。空かさずアインとセオリが、酒の注文を取り消した。

 

「何でキャンセルするんだい」「お前ら酔うとポンコツになるだろ!」

「言い返せないっす」

 

と完封され怒りながらも納得せざるを得なかったのだ。そして、バーナーに向き合いながら話を始める。ちなみにダーザは、医務室に運ばれていた。

 

「あんたダーザに負けたって事なのかい?」

「いいや、だから半年ばかり仕事で此処を離れてたら、いつの間にか蚤が涌いてた」

「当然。バーナーがあれに負ける筈がない」

 

元々知り合いだったユース団とバーナーの会話に混ざれないセオリは手元のドリンクをストローで飲んでいた。

 

「おっと、新チャンピオンが置き去りにされてたな。改めて自己紹介しよう。バーナー・フィンだ。年は見た通りオッチャンだよ……ユース団とは、2年位の付き合いかな」

 

「あたい達がこの街に来たときから世話になってるのさ。こいつ腕っぷしもゾイドも両方強いから頼りになるんだよ」

 

アンナが誉めると照れているのか頭の後ろを掻きながら、バーナーは笑う。

それからバーナーとユース団の出会いと付き合いを聞かされたセオリは、壮絶な出会いだったんだなと呆れた。

「まぁ紹介はこれくらいにして本題に入るか」

すると、バーナーが真面目な話を始める。

「セオリちゃんが、ダーザの野郎に求める情報だが、アイツは錯乱してる。おかげで会話すらまま成らないだろうな」

「だよな……結局ふりだしか」

 

 頭を抱え落ち込むセオリにバーナーが提案する。

「だから、代わりと言っちゃなんだが俺が酒場で、教えてあげた以上の情報をやるよ」

「どうして、急に?」

「コロシアムに蔓延る虫を叩きのめしてくれたからな。それで情報なんだが、街から東に50キロ程行った所に海がある。港町もあって現在そこに停泊してる海賊、カッシュルール海賊団のヤハ・カッシュ=ルールって男が数十日前に正体不明のゾイドをサルベージしたらしい」

「正体不明?」

「あぁ、お譲ちゃんのオウドライガーと同じで珍しく、常軌を起した強さらしい。裏業界の噂だが、帝国の植民地にされてた島を解放するために、デススティンガー3機を瞬殺したらしい」

「デススティンガーって帝国の主力ゾイド? 化け物だね」

「だから、ヤハの乗るゾイドこそが帝王のゾイドじゃないかって噂がある。」

「それ本当?」

「あくまで噂だが、火の無い所に煙は立たない。アンナ達の目的、ゾイドの巣も進行方向にある。一見の価値はあると思うぞ」

 

 バーナーが肉料理を食べながら、情報を話してくれる。その内容が非常に興味深く聞き入っていた。海賊団船長のヤハ、この男に会えば帝王について何かがわかるかもしれない。その期待に希望を見出すと同時に海賊という裏稼業の人間が帝王を使っていることに危機感を感じた。

 だが、ユース団との約束には、人の命がかかわっているので急を要する。セオリは、ヤハを探すことに決め、先にユース団の恩人に必要な薬草を取りに行くことにした。

 

「よし、決めた! 海賊団を探すために海に行く。でもその前にアイン達の用事を済ませる」

 

 元気よく宣誓したセオリ、「急にどうしたんだいこの子は?」と訝しげな目で見るアンナ。だが、自分達の協力を最優先してくれる彼女の決断に感謝もしていた。

 

「決断は早いに越した事は無いな。そういえばアイン達のディバイソンとかは、どうしたんだ? あのコマンドウルフは軍のだろ? 最初コロシアムの奴らに狙われてたぞ」

「まじっすか?」

「そういえば、軍のゾイドで違法賭博の会場に行ったらだめだったね。迂闊だったよ」

 

 今さら指摘されて、顔色が悪くなるハットンとアンナ。となりでウンウンとアインが首を縦に振っているが忍者装束から僅かに見える肌に冷や汗が浮かんでいた。

 恐らくアインも気がついていなかったんだなと、ジト目で見るセオリ。

 その後、ユース団3名のゾイドは、先日の戦闘で破損し現在修復中だと説明した。

 

「凄いなお前ら、帝国軍に4機で挑んで、しかもシオンと戦っても死ななかったのか!? となると、オウドライガーが第4の帝王じゃないかって今日出来た噂は、真実かもな」

「っ」

「もう、そんな噂が?」

「早いね……」

「伝達。そんなすぐに帝王と判明するのだろうか?」

「何お前ら、その反応。……まさか、まじ?」

 

 4人の話を聞き笑いながら今日の戦闘で出来た噂を話したバーナー。だが、4人の反応があまりにも、おかしく、地雷を踏んだことを悟る。すると、彼は周囲でこっちを見ているキナ臭い連中から隠れるように4人に言伝した。

 

「気をつけろ、俺らの話を聞いてる奴がいる。早い所、軍曹とやらの所に戻れ、ハンターの狙いはセオリちゃんのオウドライガーになりそうだ」

 小さい声で4人に警戒を促し、誘導するバーナー。セオリ達もすぐに頷き、ゾイド保管庫に向かいオウドライガーとコマンドウルフに乗り込む。

 

「注意。セオリちゃん、周囲の人間から悪意を感じまする。バーナーさんの言葉に従って正解であります」

「みたいだな、早く行こう。飛ばすけど着いて来てよ後ろの二人」

「はいっす」

「わかったよ。ほら、早く行きな」

『ガォオオ』

『ガウウ』

 顔布を外したアインの進言の通り、周囲でオウドライガーを見ている者の目が欲に塗れていた。すぐに、軍基地に帰るとコマンドウルフに乗る二名に通信を入れる。後ろの二人も周囲の視線を感じ、先に飛び出したオウドライガーを追いかける。

 

「やっぱり10機以上のゾイドがこっちを追い掛けて来てるな」

「そのようっすね。こっちが高速戦闘用ゾイドだって知っててか、相手も高速戦闘用みたいっす」

「でも、これがあたい達の最高速度だよ!? これ以上どう飛ばすのさ」

「否定。山道しかも森で最高速度が出せるわけがない。相手が山道の効率的な走り方をしってるだけであります!」

 

 山道を駆け下りながら、速度を上げていくオウドライガーとコマンドウルフ。オウドライガーとコマンドウルフのレーダーにずっと多くの影が映り続けていた。その影は段々とオウドライガーとコマンドウルフに迫り囲うように旋回していく。

 

「囲まれるな……どうする? 迎撃に出てみるか?」

「馬鹿言うんじゃないよ。数で負けてる上に、あたい達に有利な作戦もないんだ」

「質問。オウドライガーとセオリちゃんなら勝てるでありますよ!」

「それこそ、相手はオウドライガーの性能を知ってる。あたい達の時のように行かないってことさ! 初見殺しは相手に見られるだけで封じられるのさ」

「お、オウドライガーならどんな敵だって……」

「ゾイドは、ただの兵器じゃない。生き物なのさ、さっきの激戦の後ですぐに戦闘なんてしたら壊れるかもしれないよ?」

 

 女性陣が通信で言い争いをしながらも、全力で走っている中、一人コマンドウルフに備え付けた集音マイクの音を聞き取っているハットンがいた。

 女性陣が揉める中、必死に一つの音を拾っていた。それは、レーダーに突如現れた巨大な影である。その影も敵であるかをゾイドの足音と泣き声を聞きほくそ笑む。

 

「3人とも、応援が来てくれた見たいっすよ。それも最大級の」

「「「?」」」

 

 得意気に話すハットンに全員が首を傾げると、背後の方角から凄まじい咆哮が響き、大地が揺れる。思わずオウドライガーとコマンドウルフが足を止めてしまう。

 

 ドドドと地響きが起こり、後ろを振り向いた4人の前の森が大きな火柱を上げた。木々に遮られ詳しくは見えないが巨大な火柱と共に3機のヘルキャットが空を舞う。

「ぐわああ!」

「うぉおお」

「た、たすけてー」

 

 宙に打ち上げられた3機は重力に従い急降下する。すると、再び咆哮と共に32本の赤い電光が空中のヘルキャット達を襲い跡形も無く消しさる。さらに空に発射された電光は、意思を持ったかのように地上に降り注ぐ。

 

『グゥウウ』

「オウドライガー? やばい、Tシールド全開!」

 

 大地に雷光が降り注ぐと同時に、凄まじい振動と熱そして衝撃波が迫る。危機を察したオウドライガーとセオリが四肢の噴出口から放出する粒子の回転で物理からエネルギー兵器まで全てを呑み込むシールドを発生させ、コマンドウルフを守る。

 シールドを張った事で、膨大なエネルギーがセオリ達を傷つける事は無いが、数十秒後にシールドを解除した時、セオリは絶句した。

 

「な、なにこれ」

 先程まで周囲に生い茂っていた森が灰になり、焦土と化してた。地面はマグマのように熱を発し、地獄のような有様となっていた。そして、先程の攻撃の発生源に目を向けると……山のような大型ゾイド。巨大な体躯で地面に両足を降ろし、そびえ立つ深紅のギガノトサウルス型ゾイドが其処に居た。

 

「ゴジュラス?」

 セオリはそのゾイドを見た事が無かった。唯一偶然に見たゴジュラスというゾイドに似て居たためにそう呟く。すると、通信相手であるハットンが首を振る。

「あれは、ゴジュラスの進化機体、ゴジュラスギガ。この大陸で5本の指に入るクラスのゾイドで、通称、原初の地獄インフェルノギガっす」

 

 ハットンの説明を聞きながらも、セオリはインフェルノギガから視線を外せないでいた。シューシューと熱で周囲が焼かれ、ギガ自身のボディも熱で融解している。真っ赤に輝くボディの正体は、膨大な熱量による発光現象であった。

 本来ゾイドなら、オーバーロードし爆発してもおかしくない状態でありつつも、インフェルノギガはセオリ達に向かって歩み寄って来る。

 

 ズシンズシンと山のようなボディが動くたび、足元がジュージュー音を立てる。良く見れば、ギガの足元には、溶けて動かなくなったゾイドの残骸が残っていた。

 

『ガゥウウウウ!』

 

 今までにない程、オウドライガーが警戒し身構える。ギガから来るプレッシャーはジェノリセッターにも負けず劣らない。どうにか隙をついて一撃を決める手段をセオリが考え、操縦桿に力がこもる。

 

「無事。セオリちゃん、戦っちゃ駄目であります。インフェルノギガに乗っているのはバーナさんであります」

「バーナーは、インフェルノギガでコロシアムのチャンピオンだったんすよ。もう安心っす」

 

 二人の説明に、固まっているセオリとオウドライガーを端に、近くまで来たギガの頭部のハッチが開き、バーナーが手を振って来る。

 

「おまえらー、追っては適当に片付けた。しばらくは、コロシアム周辺に来ない方が良い、ちょっとばかしお別れになるから挨拶に来たぜ、頑張れよ」

 

 バーナーはそう言って、唖然とする4人に笑いかけながら、インフェルノギガでコロシアムの方角に帰って行った。インフェルノギガの歩んだ道に地獄を残しながら。

 

「は、派手な見送りだな」

 

 額に汗を掻きながら、離れていくインフェルノギガの後ろ姿を見たセオリだった。

 

 

 




インフェルノギガ(ゴジュラスギガ改)
基本情報
型式 RZ-064
所属 コロシアム
モチーフ ギガノトサウルス型
スペック(格闘モード)
全長 305.5 m
全高 170.0 m
全幅 不明
重量 3600.0 t
最高速度 80.0 km/h
スペック(追撃モード)
最高速度 120.0 km/h
武装
ギガクラッシャーファング
ハイパープレスマニピュレーター×2
ロケットブースター加速式クラッシャーテイル
32門ゾイド核砲
ハイパーEシールドジェネレーター
クラッシャーテイル用脚部補助アンカー×2
テイルスタビライザー

 略歴
 通常のゴジュラスギガより一回り大きい改造型ゾイド。本来一機につき一つのゾイドコアを計33個内蔵し巨大化したモンスターマシン。全てのコアが爆発的な出力を記録しており、内部から熱融解現象が発生し稼働している限り高熱を発する。本来であれば溶けて消えてしまうようなエネルギーだが、大量のゾイドの自己再生能力が融解と並行しているため稼働し続けている。ゴジュラスギガの命を捨てて発射する32門ゾイド核砲もゾイドコア一つに付き一門を担当し、威力が大幅に上昇した上で連射が可能となった。
 その一撃や全てを灰や塵に変え、地形そのものを地獄と変える。唯一の欠点は、コックピットが高温で長時間乗ると脱水症状を引き起こす点。



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ゾイドの森

 コロシアム参戦から3日後、どうにかハンター達に襲われずに修理と出発を済ませた4人。現在は、大陸の極東に位置する港町に向かいながら、薬草の収集ポイントに向かう。

 

「なぁ、その大型ゾイドの巣ってどんなゾイドが徘徊してるんだ?」

「基本的に、恐竜型ゾイドが多いね。クローン技術が確立されたせいで、ゾイドが増えちまって扱いにくかった気性の荒い奴が繁殖しちまったんだろうね」

「そうなのか、とりあえず野生のゾイドとは戦ったことあるけど、動きが素早いから注意だな」

「了解。なるべく戦闘は避ける」

 

 先頭をオウドライガー、右後ろにセイバータイガー、左後方にディバイソン。背後にいるのはカノントータスである。キチンとフォーメーションを組みながら、山岳地帯を抜けた先にある草原を進んでいた。地平線の先には、広大な森が広がっており、其処こそが目的地である。

 

 道中もハンターや帝国に襲われる事も無く順調であったが、これから彼女達は、ゾイドの巣窟に自ら赴かねばならない。

 

「全員油断するんじゃないよ! 特にセオリ」

「わかってるよ」

「作戦。アンナとセオリで敵を引き付けつつ、ハットンが援護。我が陽動の隙に薬草を採取してくる」

「作戦の確認が終わった所で、注意してほしいっす。もうテリトリーに入ってる、いつ襲ってきてもおかしくないっす」

 

 ハットンの勧告と同時に、周囲の森の気配が変わる。何かがセオリ達を見つめるような視線を感じ、彼女らの乗るゾイド達も自然に身構える。

 周囲を見渡しながら、警戒して進む一行。警戒をしながら地図を頼りに進んでいると、森の影からレブラプター4機とイグアン3機が現れる。

 

「出たな、けど大型じゃない」

「こいつらが騒ぎ出すと、大型のゾイドがウジャウジャよってくるんっす。早めに撃破するっす」

 

 まず先制攻撃とばかりに、レブラプターが鎌状のブレードを展開し突進してくる。その狙いは、オウドライガーであり、瞬時に距離を詰める。

 

『ガォオオ!』

 負けじとオウドライガーも爪にエネルギーを集中して、飛び掛かる。オウドライガーのカウンターに二機のレブラプターの二機が上半身を破壊され、沈黙する。すぐさま、残りの二機にも飛び掛かるが、左右に逃げるラプター。しかも、逃げる途中にオウドライガーの背後にいるセイバータイガーとディバイソンに迫る。

 

「行ったぞ!」 

「承知。任された!」

「あいよ!」

 

 迫りくるレブラプターに、セイバータイガーは巨大な前歯で首元に齧り付く。ブンブンと小型のラプターを振り回し、放り投げた。対するディバイソンは、巨大な前足の一撃を繰り出そうとしたラプターを自慢の主砲で撃ち抜いた。

 空中でバラバラになったレブラプターを見ていたイグアン二機が、右腕の小口径レーザー機銃と左腕の4連装インパクトガンをセオリ達に向かって乱射する。

 

「やめるっす!」

 

 攻撃を受け爆発が起こるもハットンのカノントータスが主砲で撃ち抜く。大型ゾイドであっても撃破できる弾を受けたイグアンは爆散する。

 

「もう、あたい達の戦闘で他のもくるよ! アイン、急ぎな。」

 

 アンナの指示に従い、セイバータイガーが走り出し奥に進む。すると横から大型ゾイドのデッドボーダーが3機現れた。

目の前を通過したアインのセイバータイガーを狙い背部の二問重力砲で狙う。セイバータイガーでは、重力砲を受ければ有無を言わさず破壊される。当然コックピットの中のアインは死ぬ。

「こっちを見な!」

 

アインを狙う3機に、ディバイソンの17問突撃砲が命中し爆発する。アイアンコングですら破壊する砲撃にデッドボーダー達もダメージを受け怒りの矛先を、ディバイソンに向ける。

 

「撃たせないっす!」

 

 追撃とばかりに、カノントータスの主砲がデッドボーダー達の頭部を狙う。頭部にダメージと目暗ましを喰らった3機は目標を見失う。その隙を付いて、オウドライガーが自慢の速度で迫る。

 

「ストライクレーザー……クロー!」

『ガォオオオ』

 

 走行中に前足に集中したエネルギーが、デッドボーダーに振り下ろされる。現状のどのゾイドよりも強力なストライクレーザークローは、自信より大きいデッドボーダーの頭部を破壊。さらに着地同時に、飛びあがり隣にいたもう一機のデッドボーダーの右足を破壊する。

 

『キュロオオ』

 

 2機の仲間が倒れた事で、最後の一機が重力砲をオウドライガーに発射する。

「避けれる」

『ガオ』

 

 ニ発の弾丸の間を縫うように、オウドライガーが回避する。回避しながら迫りくるオウドライガーを捕まえようとして、両腕を振り上げた時、背後からディバイソンが巨大な角で体当たりを仕掛ける。

 

「まだだよ!」

『モォオオ』

 

左足に体当たりを受け、足元のディバイソンを両腕で掴もうとした時、至近距離で17問突撃砲を発射される。至近距離での射撃でデッドボーダーの右半身が吹っ飛ばされ撃沈する。

 

「一先ずこれで大丈夫か?」

「いいや、まだまだいるっす! 陽動は成功してるみたいっすけど注意っす」

「面倒だね。ちっ来たよ!」

 

 セオリの質問と同意に、火薬の匂いに釣られたのかゴルドス3機とデッドボーダー2機が新たに現れる。その全てが野生化し凶暴になったタイプである。ゴルドス達がレールガンとビーム砲を連射し始め、デッドボーダー達とセオリ達の攻撃を始めた。どうやらセオリ達は、デッドボーダーとゴルドスの巣を荒らしてしまったらしい。ゴルドスの威嚇射撃でデッドボーダーも凶暴化する。

 

「セオリさん! アイツらが暴れる前にお願いしますっす!」

「行くよオウドライガー!」

「アンナは、メガロマックスで全体攻撃を、足音からして小型も何体か近くに居ますっす」

 

ハットンが瞬時にソナーで探知したゾイドの位置情報をアンナに送る。それを見たアンナが器用な手の動きでディバイソンのコンソールを操作し、狙いを定める。

 ディバイソンが地面に力を入れ踏ん張りながら、砲塔を上へと向ける。そしてエネルギーを集中し発射しそうになるが、途中でアンナの手が止る。

 

「ハットン、セオリまでロックオンさせるんじゃないよ」

「そうは言っても、オウドライガーが速すぎて、判別できなんっすよ」

「まぁいいさ。それよりアインの方も探っておいておくれ。いくよ……メガロマックス!」

 

 アンナが引き金を引くと同時に、ディバイソンの17問突撃砲からオレンジの球体が飛び出し、それが空中分離し、地上に雨のように降り注いだ。

 

オウドライガーの動きに翻弄されていた大型ゾイド達は、奇襲紛いの砲撃を喰らう。

 

だが、威力は一撃で仕留められるほどではなく、奇襲をかけようとしていた小型ゾイド以外は戦闘可能だった。

 

「火力が足りないかい……セオリ! 今の内に仕留めな」

「あいよ」

『ガォオー』

 

ディバイソンの攻撃でガタガタになった敵戦力に、ストライクレーザークローを常時使用しているオウドライガーが襲い掛かる。

ディバイソンの一撃に耐えられても、大型ゾイドですら一撃で粉砕するオウドライガーのパワーには、デッドボーダーとゴルドスも敵わない。

 

ユース団が、セオリを頼ったのはこのフォーメーションに必要不可欠な戦闘力を持っていたからだ 。以前までは、セイバータイガーがオウドライガーのポジションであったが、格闘能力が高くなく、破壊力に難があった。だが、オウドライガーという味方を手に入れたことで ユース団の戦力はゾイドの巣でも戦えるレベルにまで上昇した。

 

「ん? セオリさん! アインがピンチっす、サポートを」 

「方角は?」

「北東っす」

 

 ハットンにアインの位置を聞いたセオリがいち早く、混戦から飛び出す。アンナの砲撃と他のゾイドが暴れたおかげで、森に道が出来ており、そこをオウドライガーの速度で進む。

 ぐんぐん加速するライガーから見たら、森の木々が逆に動いてるように見えた。

 

(どこだ、アインのセイバータイガーは……居た!)

 

 オウドライガーで駆けながら、飛び出してきた大型ゾイドにストライクレーザークローを御見舞しながら進む。すると、湖のような場所が見える。そこでセイバータイガーが2機の黒いゴジュラスに掴まっていた。

 

「アイン!」

「味方。セオリちゃん、薬草は取ったがこいつ達が……うわ」

 

 セイバータイガーを尻尾で打ち払ったゴジュラス。その一撃でセイバータイガーの右前脚が破損し、上手く起き上る事が出来ないでいた。

 

「格闘戦に強いゴジュラスか……」

『ガォオーガオォォオ』

「恐れるなってことだよな……」

 

カッと目を開いたセオリ。オウドライガーの操縦桿をフルスロットルに入れる。

 

するとオウドライガーが、ゼロか一気にトップスピードに加速しゴジュラス二機の間を通過する。

『ガァアアーー』

 

オウドライガーの動きに着いてこれなかった二機は、其々片腕をセオリに破壊され、激昂。怒りのままに尻尾を振るう。

長い二本の尾がオウドライガーに迫るが、冷静に片方を口で受けとめ、もう片方を前足で地面に押さえ付けることで無力化する。

尻尾を押さえられたことで、巨大な顎での攻撃に出るゴジュラスだが、背後からビームガトリングガンの掃射を受ける。

 

「援護。こっちにも敵はいる」

「ナイスアシスト」

 

再びオウドライガーの操縦桿をフルスロットルに入れたセオリ。彼女の操縦通りオウドライガーは、規格外のパワーで尻尾を噛んでいるゴジュラスを顎だけで振り回し、湖に放り投げた。

まさか、投げられると思っていなかったゴジュラスは、抵抗も出来ずに湖に沈んでいく。それを見たもう一機のゴジュラスが腹部の機銃でオウドライガーを狙うが、ストライクレーザークローを繰り出したオウドライガーの方が早く、地面に沈む。

 

「大体こんな感じか……アンナ達も長くは持たない。早くこんな森抜けちゃおうぜ」

「了解。もう大型ゾイドとの戦闘は勘弁」

 

先頭を行くオウドライガーに、どうにかセイバータイガーもついていく。その後、アンナやハットンとも合流し、ゾイドの森を抜けたのだった。

大型ゾイドの巣を抜けるのも一苦労だが、上手い具合にセオリとユース団が噛み合ったため、上々と言った結果だった。

 

 





デッド・ボーダー

番号 DPZ-09
所属 野生
分類 タルボサウルス型
全長 19.6m
全高 12.8m
全幅 7.5m
重量 92t
最高速度 140km/h
乗員人数 1名
武装
重力砲(G-カノン)×2
火炎放射器
150mmカノン砲×2
二連ビーム砲
高圧希硝酸噴出口
レーザー砲×2
ミサイルポッド
ニードルガン×4
レーダーシールド
フェルチューブ

 ゾイドの森に生息する野生ゾイド。過去に行われたセフィロンメタルの実験にて残骸から蘇った。ディオハリコンの性質もセフィロンメタルが代用になり、クローンゾイドの中では抜群の性能を誇る。ただし、気性が荒く研究所が破棄された後も繁殖を続けており、侵入者を死に至らしめている。

ゴジュラス
番号
RZ-001
所属 野生
分類 恐竜型
全長 26.0m
全高 21.0m
全幅 11.1m
重量 230.0t
最高速度 75km/h
乗員人数 1名
武装
ハイパーバイトファング
クラッシャークロー×2
70mm2連装ヘビ-マシンガン×2
パノーバー20mm地対空ビーム砲×2
マクサー30mm多用途マシンガン×2
TAZ20mmリニアレーザーガン
ARZ20mmビームガン
AMD2連装ビーム砲

 デッドボーダーと同じく、セフィロンメタルのクローン実験にて現代に蘇ったゾイド。気性が荒いため、テリトリーに入った物に容赦ない。


イグアン
番号 EMZ-22
所属 野生
分類 イグアノドン型
全長 10.4m
全高 8.2m
全幅 3.5m
重量 23.6t
最高速度 200km/h
乗員人数 1名
武装(新)
4連装インパクトガン(左手)
クラッシャーバイス(右手)
小口径対空レーザー機銃×2
小口径荷電粒子ビーム砲×2
2連装対ゾイドレーザー機銃
フレキシブルスラスターバインダー

 上記に等しくセフィロンメタルのクローン実験により生み出され後に野生化したゾイド。何故かレドラプターと集団で襲ってくる。

レブラプター
番号 EZ-027
所属 野生
分類 ベロキラプトル型
全長 11.4m
全高 7.56m
重量 23.5t
最高速度 210km/h
乗員人数 1名
武装 キラーファング
ハイパークロー×2(前脚)
ストライクハーケンクロー×2(後脚)
カウンターサイズ×2
イオンチャージャー

 上に等しい。イグアンが銃撃で隙をついた所に襲ってくる。






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孤児院

どうにかゾイドの森を抜け出したセオリ達。後半では、ウジャウジャと沸いてくる野生のゾイドに対処できず撤退あるのみだった。森を抜け暫く進み漸く落ち着けるポイントでキャンプしていた。

 

「すごい大変だった……」

「本当にね。最後は死ぬかと思ったよ……さすが第二級危険地帯だね」

「生きてることが不思議っす。セオリさんには、感謝で一杯っすよ」

「感謝。セオリちゃんありがとうでございまする。このフレアナ草があれば、司祭様の病気も治りまする」

 

全員がくてーっと力なく腰掛け、収穫の確認と苦労を分かち合っていた。ギュッと薬草の入った瓶を抱きしめながらアインがセオリに頭を下げる。

 

「その薬草が必要な人の居る場所は、何処なんだ?」

「此処から一日もしたら付く場所っす。今日はもう寝て、明日向かうっす」

「特にセオリとアンナは、前線で頑張ったんだししっかり寝なよ。あたいとハットンで見張りをするからおやすみ」

 

 年長組の二人に諭され、2人はキャンプの中に入り寝袋に身を収め眠りにつく。二人とも前線で大型ゾイドと格闘戦を繰り広げていたために緊張感から、疲労が多く溜まっており何言か話しているうちに眠りの世界に入った。

 

 二人が眠ったのをアンナが確認し、焚火の前で寝ずの番をしているハットンの横に座る。

「二人は寝てるっすか?」

「ちゃんと寝てたよ……。今日は死ぬかと思ったけど、どうにか薬草を持ってこれたね」

「それで漸く、アーノン司祭に恩返しが出来るっすね」

「本当にね。……お嬢様と国を抜けて、5年。その間あの人にはお世話になったからね」

「薬さえあれば、すぐに治る病気っすからね。でも、アーノン司祭が完治したらどうするっすか?」

 

 焚火を眺めながら会話する二人。ハットンの質問にアンナは、しばらく考えた。彼らユース団は、本来は各地を旅しながら仕事をこなすギルド所属の人間だ。訳あって追われる身の彼らは、たまたま知り合ったアーノン司祭に助けられ、其処で新たな名前と立場を手に入れた。

 追ってから逃れるために、各地を放浪しながら生計を立てていた彼らだが、恩人である司祭が病気にかかったと聞き治療法を探っていたのが半年前。ようやく治療法が判明したが、彼等には手も足も出ないほど高価な薬草でしか治療で居ないと知り盗賊稼業に手を出そうとまでしたのだ。

 だが、たまたま最初の得物として狙ったセオリに完敗。彼女の優しさに甘える形で力を貸して貰う事で薬草を採取したのだ。

 

 この薬草を司祭に届けると彼らの次の目的が無くなってしまうのだ。

「それは、お譲様……アインに任せるさ。あたい達は、奥様にあの子を任せられたんだ。あの子が選んだ道について行くのがあたい達の使命さ」

「帝王のゾイドを中心に世界が回るって大佐が言ってたっすけど。僕ら、お譲様がセオリさんと出会ったこと自体が運命なのかもしれないっすね」 

「そうだとしたら、恐らくあたい達もセオリについて行くんだろうね。あの子は、友達を欲してたからセオリとは離れたがらない。まぁセオリもセオリで一人っきりでは放っておけないからね」

「結構気に入ってるんっすね。良い子だと思いますけど、純粋すぎる彼女が戦乱の世の中で生きていけるのか、些か疑問ではあるっす」

「そこは、周りが支えてやらないとね。あたいも眠いから寝るよ、4時間交代でよろしく」

 

 欠伸をしながら、アンナが自分の寝袋を丸めて枕にし、眠る。それを見ていたハットンは、疲れた表情をしながら呟いた。

 

「この5年で一番、強くなったのはアンナっすね」

 

 これから起こるであろう苦労と危機を予想して、頭を掻きながら疲れた表情で笑った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 次の日、天気は生憎ながら雲であったがユース団とセオリは、時間どおり出発していた。4機のゾイドが草源を走ること3時間。進んでいる方角に小さな街が見える。コロシアムのあった街よりは、俄然小さいが、レンガ造りの家が多く地中海付近の国のようであった。

 周囲も麦畑で囲われ、街の真ん中を大きな川が横断していた。恐らくこの川を進めば海岸線の街に辿り着くのだろうとセオリは考える。

 

「ここだよな?」

「正解。この商業都市セルティソンだ。我々は、至急薬草を神父に届けに行くが、セオリちゃんはどうする?」

「うーん、着いて行こうかな。それからだね、情報収集とついでに観光もする」

「なら、ぼさっとしてないで着いて来な」

 

 立ち止まる二機をほって先に進んだディバイソンとカノントータスがオウドライガーとセイバータイガーを急かす。アンナに急かされ慌てて走り出した二機。

 

 街の入り口付近まで到着すると、検問所があった。人や車が通れるサイズとゾイド用の大きな検問所である。先頭を行く年長者のハットンが、後ろの三人を静止してゾイドから降りる。

 そして、検問所の役員に歩み寄りながら何やら手続きをしている。

 

「検問通れるかな? オウドライガーは登録とかまだしてないから……」

「問題ないと思うよ。あたい達のゾイドだって登録はしてない。だいたい登録してるゾイドなんて役人か軍人のゾイドさ」

「無事。ハットンが帰ってきた。では、行くとしよう。セオリ、ゾイド用の大通りしか歩いてはいけないぞ」 

「子供じゃないからわかってます」

 

 ハットンがゾイドに乗り込んだのを見計らい、街の大通りをゾイドで進む。キチンと交通整理がされており、対抗からモルガやグスタフなどの小型ゾイド達が通過する。だが、衝突などなくスムーズに流れた。

 さらに、道の両脇にはたくさんの店が立ち並び、先程すれ違ったゾイドで大量に仕入れられている商品もあった。セオリはこう言った良い意味での活気のある町は初めてなので、目を輝かせていた。

 

(しらいない物いっぱいだ)

 

「商業都市って、いろんなものがあるね」

「興味惹かれるのは分かるけど、観光は後回しだって言っただろう。此処で止まってると後ろがつっかえるから急ぎな」

 

 つい商店に目を奪われ、足を止めてしまったオウドライガーとセオリ。後ろに並んでいたアンナが、ディバイソンの角でゴンゴンと突きながら注意する。言われている事は分かるが、興味深い物が多い中で少しも見て回れない事に不満気だった。

 ただ、病人が最優先だとセオリもすぐに移動を開始した。

 

 数分間進んでいると、先頭を行くハットンが止り、全員がストップする。セオリ達の横に見える大きな教会こそが、彼らの恩人の居る場所なのであろう。

「着いたっすよ。ゾイドは、其処の広場で待たせて欲しいっす」

 

 ハットンに連れられて、教会の後ろにある広場で、オウドライガーから降りるセオリ。すると、背後から「わー」と小さな子供の群れが集まってきた。

 

「ゾイドだ!」

「おっきいね」

「お姉ちゃんゾイド乗りなの?」

「このゾイドカッコイイ」

 

 子供たちが群がると、セオリを取り囲み、大人しくしているオウドライガーにぺたぺたと触りだした。恐怖感をあまり感じていないのか、問答無用で触りまくる子供達にオウドライガーが立ちあがろうとした。

 

「オウドライガー! ストップ! 暴れたら怒るからな!」

『ガゥ』

 ギリギリ静止が間に合い、ライガーが大人しくしてくれた。正直、こんな状況でオウドライガーが動いたら怪我人や死者が出る。それだけは防がねばと、必死だった。

 

「お姉ちゃんの言う事聞くんだね」 

「芸できる?」

「あ、えっと、その」

「全員セオリさんを困らせないっす。それとゾイドは危ないから、勝手に触っちゃ駄目っすよ」

 

 ただし、セオリ自身も10人を超える子供に詰め寄られあたふたしていた。すると、隣でゾイドから降りたハットンが子供達に注意を促す。

 

「あ、ハットンさんだ」

「帰ってきてたの!」

「皆返事は無いんっすか?」

「「はーい」」

 

 彼がそう言うと全員がハットンの言う事を聞いて、セオリから離れる。だが、子供達は目新しいセオリとオウドライガーの方をキラキラとした目で見続ける。

 

「ほらほら、あんた達、あたい達は用事があるから広場で遊んでな」

「質問。アーノン司祭は、どうだ?」

 

 アインの質問に明るかった子供達の表情が曇る。それは、言葉がなくてもよくないと伝えている。子供達の中で一番年長者らしい男の子が答えた。

 

「司祭様は、今月に入ってからベッドから出ていません。お医者様が言うには、このまま治療が出来なければ……」

 

 彼の現実味を帯びた言葉に、子供達はさらに暗い表情になる。

「わかったよ。あんた医者を呼んで来てくれるかい? 後薬剤師も」

「う、うん」

「他の子達は、お外で遊んでるっす。用事が終わったら遊んであげるっすよ」

 

 ハットンが優しく声をかけると、他の子供達も徐々に広場に向かい始めた。

「じゃ、行くっすよ」

「そうだね。アイン、顔布外してな。セオリは、初対面だから少し後ろにいな」

「了解。セオリちゃん、視差はいい人でありまするから緊張しないでいいでありますよ」 

「緊張してないよ」

 

 ハットンを先頭に教会に入って行く4人。教会に入ると初めに礼拝堂が見える。其処を右に曲がり進むと孤児院の入口に辿り着く。そこから階段を上がり、最上階の部屋の扉を開くと大きなベッドがあった。

 その部屋に居たのは、2人のシスターとベッドで力無く横たわっている高齢の男性だった。

 

「まぁ、ハットンさん達、帰って来ていたのですね」

「司祭様、ハットンさん達が帰ってきましたよ」

 

 シスター二人が、入ってきたユース団を見て声をあげる。そして、司祭と呼ばれた男に声をかけた。横たわっている男性は少しだけ目を開け、ユース団の事を見つめる。

「おかえり……。全員元気そうでなによりです……」

「アンタは元気が無さそうで、心配だね」

 

 優しい言葉に対して、アンナがいつもの口の悪い言葉で返す。それには、ハットンもアンナの肩を叩きながら嗜める。

 

「アンナさん、司祭様の体は以前よりも症状が悪化しています。あまり御身体に障るような事は」

「いいのだソフィー。むしろ、身体の事で気を使われる方が、私は悲しいよ。……所で、そちらのお譲さんは何方かな?」

 

司祭と呼ばれた男性は、ユース団と共に部屋に入ってきたセオリに問いかけた。それに対してハットン達が説明しようとすると、セオリが前に出て頭を下げた。

 

「初めまして。わたくしつい先日より、アインさん達と行動を共にさせていただいているセオリ・アンデルセンと申します。この度は、先に訪ねる旨を報告せず、直接訪ねてしまった事を申し訳ありません」

 

 となんとも畏まった挨拶を交わす。その様子にユース団の三人は眼を大きくした。彼らの知るセオリは、ガサツな男っぽい口調である。でも、今のセオリのあいさつとお辞儀や仕草は、両家の出を思わせるほど洗練されていた。

 

「これはこれは、ご丁寧にどうも。お前達、このお嬢さんを何処から誘拐したんだ?」

「いやいやいや、誘拐なんて滅相も無いっすよ」

「そもそも、こんなキャラじゃないよ! アンタどうしたんだい! 頭でも打ったのか?」 

 

 ジト目で睨まれた二人が大慌てで、弁解を始めセオリの肩を揺する。グラグラと揺すられたセオリが少しムスッとしながら言い返す。

「目上の人間には、礼儀正しくしろって教えられてきたんだよ! しつれいな!」

「えー」

「目上って、あんたあたい達には敬語なんか使った事ないよ」

 

 ハットンが呆れ、アンナが文句を言う。だが、セオリは、2人の耳に口を近づけ囁く。

「自分襲ってきた盗賊に、敬語付ける訳ないだろ。あの人に悪事がばれたくなかったら、私について言及しない方がいいって」

 

 その言葉に、2人は納得した。セオリとの出会いを正直に話せば、彼は悲しむだろうと。被害者側のセオリが自分達の意を汲んでくれているのだから、話を合わせようと考えた。

 

「説明。司祭様、私達オムニ草を取りに行こうとしてたのであります」

「まぁ、オムニ草を取りにって、お医者様達が言ってたゾイドの巣に行ったというのアイン!?」

 

 アインが、横たわる司祭の手を取りそう言うと隣に立っていたシスターが、悲鳴じみた声を上げる。彼女達も司祭の病気、プロタノン発熱病の治療法は聞いていた。

 

 ゾイドの巣と呼ばれる野生の大型ゾイドの密集区。軍隊が出向いたとしても被害が大き過ぎるために、近寄れない第一級危険地帯。だが、其処にしか生えていない希少な植物ゆえに、値段は豪邸が立つほど高価だと言う。

 それを取りに行ったというのだから、彼女達の驚きは計り知れない。

 

「平気。大丈夫であります、セオリちゃんが手を貸してくれたのであります」

「何が大丈夫ですか! 危ない真似に関係の無いセオリ様まで巻き込んだのですか」

「……。それは」

 

 シスターの叱責にアインが言葉を失う。やはり、どれだけ追い詰められていても人様に手伝わせる事ではないと分かっているが故に反論できない。

 すると、シスターたち近づきセオリが援護した。

 

「いえ、巻き込まれたのではなく私も偶然、目的地に向かう途中でしたし、彼らに協力して貰っていたのは私です」

「協力ですか?」

「えぇ、私は女の一人旅をしていたので、彼らとの同行をお願いしたんです」

「まぁ、一人旅を……、それは大変ですわね」

「ですから、お世話になったのはむしろ私の方で、その礼にと協力させていただいたんです」

 

 ペラペラと嘘を交えた真実を話していくセオリ。次第にシスター二人も彼女の話に納得の色を示していく。

 

(セオリさん、結構頭良いんっすね)

(予想外だったけど、これはいいね。まぁもう少し頭の緩い娘かとはあたいも思ってたよ)

 

 こそこそと後ろで話すハットンとアンナに、セオリは「バラしてやろうか」と思案していた。

「と言う訳です」

「まぁまぁ」

「そんな事があったのですか」

 

 セオリが説明を終えると、二人は納得していたが唯一人司祭だけが顔を曇らせていた。すると、言い訳が思いつかなかったアインが、ビンに詰めた薬草を手渡す。

 それを受け取った司祭がアインを見つめる。

 

「これは?」

「治療。オムニ草であります。私達、取ってこれたのであります」

「え、取ってこれたのですか?」

「あそこは、軍隊ですらあきらめていた場所なのに?」

「説明。セオリさんは、とても凄いゾイド乗りなのです。だから、怪我もしてないのですよ。お説教は後で聞きますから、どうか先に御身体を」

 

 アインが司祭に詰め寄りながら、説得する。だが、優しげな司祭の顔は、厳格な表情にかわっていた。

「アイン、ごめんよ」

 

 そう言うと彼は、アインの頬を軽く叩いた。乾いた音が部屋に響き、頬を押さえるアインが不思議そうな目で彼を見る。 

 

「叩いてすまないねアイン。だけどね、私の身体を気遣ってくれた君達の優しさは嬉しいよ。でも、君達を危険な目に合わせてまで、私は生きようと思わないよ」

「そ、そんな言い方ないんじゃないかい! あたい達がどんな気持ちで」

「わかっている。だが、私のような老いぼれの命に、君達やセオリさんを危険に晒していはずがないのだよ……ごほごほ」

「司祭様!」

「大変、お医者様を!」

 

 アインを庇うアンナにも、司祭は厳し言葉を残す。すると、彼は急に咳込み口から吐血した。それを見た御世話係のシスター二人が慌てて彼をベッドに寝かせ医者を呼びに行こうとする。

 

「医者なら俺が呼んでくるっす。さっき、孤児院の子に医者を呼んでくるようにっておいたのですぐに、ア、アイン!」

ドアを開け、すぐに走り出そうとしていたハットン。彼を突如、全速力で走りだしたアインがつき飛ばし、階段を駆け下りながら何処かに消える。初めは彼女が呼びに行くのかと思った一同だが、窓から見える広場でセイバータイガーが起き上り何処かに走って行くのが見える。

 

「アイン、何処にいくんっすか!」

「ハットン、アインの事は後でいい。先に医者呼んで来な! 薬の元はあるんだ、飲ませりゃ治る!」

 

 アインの行方を気にしていたハットンを、アンナが叱責。すぐに医者を呼びに行かせた。

 

「なら、私とオウドライガーでアインを連れ戻してくる」

「……アンタが一番早いか、アインは南西の方角の湖に向かってる筈だよ。あの子は昔から拗ねると其処に行くんだ。司祭が落ち着いたらあたいも行くから、頼んだよ。って、何処から行くんだい!?」

 

アンナからアインの向かった場所を聞いたセオリは、三階建ての窓から飛び下りた。それには、アンナも声を出して驚き窓から下を覗く。すると、セオリはピンピンしており広場まで走って行った。

 

「呆れた」

 

 アンナは、走って行くセオリの背中を見ながらそう呟いた。

 

 



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見えざる刺客

今回は二話同時投稿です。




 孤児院から、逃げるように飛び出したアイン。彼女は現在、セイバータイガーに乗りながら街から離れた位置にある湖を目指していた。自分の感情に整理がつかず、つい飛びだしてしまったアイン。

 

(薬は、置いて来たから大丈夫のはずです)

 

 セイバータイガーでほぼ最高速度を出しながら、アインは先ほどの事を思いかえしていた。

 彼女も、危険な事をした自覚があった。しかし、それは恩人である司祭のためであり、自分の周りの人間が死ぬと言うのに大人しくなどしていられなかった。

 礼を言われるとは思っていなかったが、叩かれるとは思いもしなかった。そんな感情が渦巻き、アインを走らせていた。

 

「……。やっぱり納得いかないで、おっと!」

『グゥルウ』

 

 考え込んでいたアインは、セイバータイガーが湖に突入する直前で停止する事に成功した。後少し気がつくのが遅ければ、セイバータイガーは湖に沈んでいたかもしれない。

 

「到着。考え込んでいる間に着いたでありますか」

 セイバータイガーを伏せの状態で待機させ、アインは湖に降り立つ。微かに吹く風が、湖の冷気を纏い爽やかな風を肌に感じさせた。彼女にとってここはお気に入りの場所なのだ。

 気持ちが安らぐ場所につき、彼女の表情も少しだけ明るくなる。

 

(どうしようかわからないであります)

 

 パチャパチャと、足袋を脱いで湖の水に足を浸す。少し水の冷たさを味わったら湖の縁に腰掛けて、再び先程の行いを後悔し始める。

 

「……。もう、薬草を飲んだでありましょうか? せめて、お医者様が来てから出ていくべきだたであります……」

 

 最悪のタイミングで飛び出し、司祭の安否がわからぬ事で不安になる。だが、なんと言って戻ればいいのか分からず、再び頭を抱える。

 

『グル』

「何故。セイバータイガー、お前も私が悪いと思うでありますか?」

 

 落ち込んでいると、隣で伏せていたセイバータイガーが静かに鳴いた。そして、顔だけを持ち上げアインを見つめる。表情は無いが、何処か彼女を嗜めるような雰囲気を感じた。

 

「……。うー、わかったであります。またアインが迎えに来る前に帰るであります」

『グァウ』

 

 大人しく頭部のハッチをセイバータイガーが開いた。すぐにでも乗れと言う意思表示なのだろうか。ガクリと肩を落とすアインが、セイバータイガーに乗り込もうとした時、彼女の背筋に悪感が走る。

 

(なんでありますか? この邪悪な気は)

 

 慌ててセイバータイガーに乗り込み、周囲を見渡す。だが、彼女の視界には何も映らない。しかし、アインはすぐ傍に邪悪な気配を現在進行形で感じており、レーダーを確認する。

 

「何奴。誰でありますか! いるのは分かっているでありますよ。」

 

 コックピットのマイクを使い、気配の正体に警告をかける。既に背部のビームガトリングを発射できるように引き金に手を当てる。

 しばらくの静粛の後、アインの言った通り誰も居ない筈の森から声が帰って来る。

 

「まさか、僕の隠密行動が見破れるなんて思ってませんでしたよ」

「……。光学迷彩でありますね」

 

 若い男の声だった。男の声と共に透明だったゾイドが姿を表す。光学迷彩を解除した事で、ライガータイプの高速戦闘用ゾイド、セオリの元相棒の強化型ライガーゼロイクスが現れる。黒と青のボディー、背部には強力な電撃兵器を装備したユニゾン機を除けば、ラガーゼロの最強機体である。

 

「何故バレタのかは、置いておき僕は敵ではないので、銃を向けるのはやめていただけませんか?」

 

 姿を現わすと同時に通信で、男の姿が映る。男は、黒い髪に黒い目、服装は黒一色のブレザーのようなものを着ており、アイン達と年はそう変わらないように見えた。彼は、優しげに微笑んでいる。しかし、アインは騙されなかった。

 

「戯言。あなたは私に殺意も悪意も持っている。もし、威嚇を止めろと言うなら其方こそ、主砲を向けるなであります」

「バレましたか。正直、目撃者は全員始末して置きたいんですよ」

 

 相変わらず優しい声と笑みを向けてくる男。だが、彼の乗るイクスは、何時でも飛び出せる戦闘態勢を取っている。それに対してセイバータイガーも臨戦態勢に入る。

 

「大変失礼ですが、死んでもらえないでしょうか。もちろん、痛みを感じないようにはしますので」

「っつ! きゃ」

 

 彼が言い終わるより早くにイクスが、背部の電磁剣スタンブレードから放たれる電撃砲

エレクトロンドライバーがセイバータイガーを襲う。本来、命中すればアインも即死する一撃必殺の攻撃、アインはイクスから感じ取った気配によって事前に回避していた。

 だが、余波だけでセイバータイガーが空中に手体勢を崩す。

 

「おや、回避されるとは予想外です」

「迎撃。先に撃ったのはそちらであります!」

 

 アインもすかさず、ビームガトリングの引き金を引く。激しく回転しながらビームガトリングがイクスを目掛けて飛ぶ。

 

「おっと」

「畜生。だが、私には何処にいるかがわかるであります」

 

 ビームガトリングの掃射を回避したイクス。回避と同時に駆けだし、光学迷彩によって姿を消す。攻撃を素早い動きで回避され、再び迷彩で隠れられたアイン。だが、彼女には気配によって相手の位置が分かるという明確な確信があった。

 

 音も無く姿も見えないイクスの気配を頼りに、ガトリングの銃芯を向けて発射する。完全に息を殺し、斜め横に隠れていたイクスにガトリングガ命中する。

 

 

「な、本当に僕の位置を!」

「愚者。私に対して隠れても無駄であります」

 

バババとビームガトリングがライガーゼロイクスの頭部や前足に命中する。着弾した部分で小規模な爆発が起こりイクスにダメージを与えていく。

少しづつだが、ダメージが蓄積していく中、ライガーゼロイクスのスタンブレードが横に開く。

 

「見つかるなら仕方ない。性能で圧倒させて頂きましょう。行きますよマモン」

『グォオ』

 

『ギュア』

「ぐわあああああ」

 

男がライガーゼロイクスでビーガトリングを無視しながら突撃する。素早い動きで瞬時に距離を積めたマモンによってセイバータイガーが湖に吹き飛ばされる。スタブレードには莫大な電力が背部のコンデンサーより供給され、必殺の攻撃力を得た一撃は、セイバータイガーの内部回路と搭乗席のアインを襲う。

電撃で神経回路を狂わされたセイバータイガーは、動くことができず電撃によりアインも深刻なダメージを負う。

 

「ふむ、白兵戦は苦手なんですが、白兵戦にしか相手を痛ぶる楽しみは味わえませんね」

「貴様。きゃあ」

 

機能が停止しているセイバータイガーの頭部を、マモンが前足でガシガシと何度も強打する。男は画面越しに微笑みながら、残酷にも無抵抗のアインとセイバータイガーをなぶる。

 

「うーん、気分が良いですね。でも、僕の仕事の時間も迫っていることですし……このまま電撃で中の貴女を焼き殺しましょうかね」

「……。くっ」

 

電撃によるダメージと殴打によるダメージから、アインの体力も限界だった。どうにか意識を保ち男を睨み付けるが、それでは男の加逆心を擽るだけだった。

 

「お嬢さん。もう少し貴女と戯れていたかったが……残念です。では、最後に貴女と言う女性を完成させてあげましょうBGMは、断末魔で」

 

ニッコリと微笑みながら、マモンのスタンブレードに電流を流し、それをアインの居る頭部のコックピットに向ける。

 

(駄目であります……)

 

目を瞑り、もう駄目だと諦めた。短い人生であり、やりたいことも沢山あった。まず最優先は、飛び出してきたことを司祭に謝り和解したかった。

走馬灯のように、後悔が浮かび涙が溢れる。

 

「いいですね。その涙は大変美しい。僕は貴女の悲鳴と涙を生涯忘れないでしょう。さようなら」

 

マモンがスタンブレードを勢いよく突き刺そうとした瞬間。

 

「私の友達に何してやがる!?」

『ガォオオオ』

 

耳を刺すような咆哮と聞き覚えのある怒鳴り声が、セイバータイガーに止めを指す寸前のマモンに激突する。

 

「うぉおああ」

『グォオ』

 

(セオリちゃんにオウドライガー……)

 

猛スピードで体当たりを仕掛けたのは、オウドライガーであった。自身より大型な上に高速でのタックルをまともに受けたマモンの機体は、宙を舞ながら地面に落下する。

どうにか受け身をとったようで、すぐに立ち上がるがダメージが大きかったのは一目瞭然だった。

 

「アイン、大丈夫か? 全く勝手に抜け出して、後でアンナからお説教覚悟しろよ」

「何故。どうして此処がわかったでありますか?」

「アンナに聞いたんだよ。それにしても派手にやられたな。此処からは、私が戦うから回復したら逃げろ」

 

セオリが通信でアインの無事を確認すると、すぐさま此方を睨み付けているマモンと向き合う。

グルルと威嚇しながら、様子をうかがうマモンと佇みながらマモンを見下ろすオウドライガーが互いに殺気を放っていた。

 

「感謝。ありがとうでございまする。正直死んでいたかもしれないであります。あのゾイドとパイロットは……」

 

アインがセオリに相手の情報を伝えるより早く、セオリが答えた。

 

「あれは、金獅子の騎士団のメンバーが一人、ハサン・リンドウと相棒のライガーゼロイクス・マモンだ」

「質問。知り合いでありますか?」

 

急に相手の素性をすらすらと語り出したセオリにアインが疑問を投げ掛ける。

 

「あの人は、私の村を裏切り帝国に寝返った奴らの一人だ。正直、加虐趣味がある人だから、アインが無事でよかった。……久しぶりと言ったところでしょうか、ハサンさん」

 

アインに説明と同時に、マモンのパイロットに通信をかけたセオリ。マモンのパイロットはすぐに通信を受理し姿を見せた。

 

「おやおや、セオリさんではありませんか。つい先日、クルーゼと一悶着あったと聞きましたが……それが原因の帝王のゾイドですか。一応確認ですが、我々が裏切った事と目的はご存知ですよね? 大人しく僕に着いて来ませんか?」

「寝言は寝て言え!」

「そうですかそうですか」

 

 画面越しに再開を喜ぶようなハサン。逆に画面越しから相手を睨みつけるセオリ。

笑顔なハサンの目は殺気立っており、オウドライガーとマモンがジリジリと対角線上にクルクルと回り始める。

お互いの隙を窺いながら、ハサンはスタンブレードに電力を供給し、セオリはストライクレーザークローにエネルギーを凝縮する。互いに狙うは一撃必殺。

 

(マモンが姿を現していて良かった。光学迷彩で隠れられたら一方的になぶられるだけだ)

 

セオリは、一瞬たりともマモンを見失わぬように目を凝らす。アインが解除させた光学迷彩を使われるより先に、倒したいセオリの操縦桿を握る手に力が籠る。

 

「いい殺気を出すようになりましたねセオリ。正直、クルーゼが帝王とはいえ、村で一番か弱いゾイド乗りである貴女に負けたと聞いたときは驚きましたよ。

でも、結構様になっていると思います。だからこそ、帝王のゾイドを奪うために、貴女を焼き殺さなければならないのは……残念です」

「っ!?(馬鹿な目を離してないのに、消えられた。何処だ)」

 

画面越しに聞こえるハサンの言葉を無視して凝視していたセオリ。しかし、気が付けばマモンの姿が消えており、オウドライガーも驚きからか周囲を慌ただしく見渡す。

 

「人間やゾイドの呼吸の中にある隙を見つける。それだけで君は僕を見失い、命を落とす」

 

周囲を警戒し、姿勢を低く構えたオウドライガー。だが、突然の見えない一撃が頭部を切り裂く。

 

『ガォオオオ!?』

「うわあああああ!」

 

高圧電流を纏った攻撃が、オウドライガーの右頬から鬣までを通過する。幸いリーオですら破壊が難しい未知の素材で出来ているオウドライガーを破壊はできなかったようだ。だが、電撃は中の回路とパイロットのセオリにダメージを与えた。

 

『ガォオルル』

「おっと、反撃してきますか。隠れろマモン」

『グォオアア』

「畜生!」

 

電撃を受けたオウドライガーだが、気合いで踏ん張りつつ攻撃と同時に光学迷彩を解除したマモンをストライクレーザークローで迎撃する。

マモンの頭部を狙ったカウンターだが、咄嗟の後ろに飛ぶ行動で避けられた。鬣を少し掠める程度のダメージしか受けない事に安心したハサンが再び姿を消す。

 

「オウドライガー、まだ耐えられるな」

『ガァオガァア』

 

セオリの確認に答えるように咆哮をあげるオウドライガー。戦闘続行が可能であるが、姿形、音や気配すら消す暗殺戦法にセオリは再び構えるしかない。

 

「今度は脇がお留守ですよ」

「きゃああああああ!」

 

再び警戒するオウドライガーを嘲笑うかのように、がら空きの横腹にスタンブレードを押し付けたハサン。再び強い電流がセオリとオウドライガーを襲う。

 

今度は反撃されまいと一瞬で距離を取りながら、こちらの隙を窺うハサン。冷静でいて冷酷な暗殺タイプのゾイド乗りである彼を相手する技量はセオリにはまだない。

 

「止まってたら、やられるばかりだ」

 

セオリは、受け身な姿勢をやめてオウドライガーで湖の周りを駆け出す。瞬時に加速を始めたオウドライガーは、時速400キロに到達していた。止まることなく見えない相手から距離を取り始める。

 

コックピットで背後を確認し、四肢で地面を捕まえながらドリフトで180度回転する。

これだけ距離をとれば、相手は少なからず前方にいることになる。方向がわかれば、攻撃の際に一瞬だけ姿を表す隙を突いて仕留める算段を立てた。

 

だが、いつまでたってもハサンは仕掛けてこない。なにも起きず右側の森を風が抜け、左側の湖の水面を揺らす静寂が訪れる。まるで戦闘など無かったかのように。

 

「回避。セオリちゃん湖から離れるであります!」

 

突然、アインから怒鳴り声にも似た通信が入る。それを見て、気を取られた瞬間、オウドライガーのすぐ側の湖の水面が爆発した。

バンバンと3回に渡る小規模の爆発で、湖の水が大きく空を舞いザーと雨のようにオウドライガーのボディに降り注ぐ。

 

「この爆発は……しまっ」

湖での爆発に、何処を狙っているのかと思い視線を元に戻す。すると遠方でマモンが、尻尾を地面に下ろしアース代わりにしながら、スタンブレードを背部に戻しコンデンサーから大量の電気をチャージしていた。それは最大規模のエレクトロンドライバーが発射寸前で構えられていた。その横では、アインのセイバータイガーも未だに動けないでいた。むしろ、セイバータイガーを盾にするかのような立ち位置で銃身をセオリに向ける。

 

「僕は、他の騎士や君達と違って暗殺者です。相手の挙げ足を取り、相手を殺す。さようならセオリ」

「セオリちゃーん!!」

 

無慈悲にも、ハサンが引き金を引いた。アインは口癖すら忘れ悲鳴じみた声でセオリを呼ぶ。

 

(絡め取られた……)

 

湖を恐らく胸部の三連式キャノンで撃ったのは、故意だ。外れたと見せかけセオリの一瞬の油断を生むために。真の狙いは、巻き上がった湖の水が雨のようにオウドライガーに降り注ぐこのタイミングである。

悪魔で電撃兵器であるエレクトロンドライバーは、電気の性質そのままであり、水を流れるのである。

 

(この辺り一面に降り注ぐ雨を回避できない。それはつまりエレクトロンドライバーを回避できない)

 

電撃を通す水の弾幕を張られた今。発射された電撃は確実にオウドライガーに命中する。点ではなく面での攻撃に瞬時に切り替えられたことでセオリには回避のチャンスが失われた。

最大限まで蓄電されたエレクトロンドライバーは、瞬時にオウドライガーを襲うだろう。オウドライガーの回路が耐えられたとしても、コックピットのセオリにはとても耐えきれる電力ではない。ハサンの言う通り、焼け死んでしまう。

極め付けは、セイバータイガーを盾にしたことだ。ハサンは、未知のゾイドであるオウドライガーが銃器を持っている可能性も考慮した上で、そのような行動に出たのだ。

全てハサンという暗殺者の手の上だった。

 

 

『ガォオオオ』

 

諦めかけたセオリ。彼女を奮い立たせるようにオウドライガーが鳴く。それは電撃の到達する直前だった。

 

オウドライガーの声に反応し、彼女の胸に下げられている形見のネックレスが光る。

 

(そうだ、負けないって……もう負けないって決めたんだ!)

「はぁああああ!?」

 

セオリの奮い立った闘志に共鳴し、更に光を増すネックレス。そして、彼女の心とシンクロしているオウドライガーのゾイドコアが活性化する。

活性化したゾイドコアから、大量のタキオン粒子が放出され、四肢の噴出口から吹き出す。それが一瞬で高速回転しながらオウドライガーを守るTシールドを発動した。

 

Tシールドは、その特性の持つ台風のような回転で機体にかかった水分すら巻き込みながら勢力を増す。

その直後に迫ってきた最大威力のエレクトロンドライバー、その膨大な電力すら吸収してしまったシールドは、巨大な竜巻そのものへと姿を変えた。

 

「なんだ……マモンの最大火力が封じられた。馬鹿な」

「流石。セオリちゃんは、やっぱり強いであります」

 

必殺の一撃を防がれたハサンが初めて、戦き慌て出す。その様子を見ていたアインが友の勇姿を目に焼き付けていた。

 

「ハサンさん……さっきは完全にしてやられた。あんたはやっぱり強い。私の憧れたゾイド乗りの一人だよ。でも、私は貴方達を許さない……これからも幾度と戦うことになるだろう。それでも、負けない……今度は私の番だ」

 

ズンズンと巨大なエネルギーの竜巻としてオウドライガーが迫る。流石にこの状態のオウドライガーを相手にできないと第六感で悟ったハサンは、エレクトロンドライバーの銃身を足元のセイバータイガーに向ける。

 

「うーん、この戦法はあまり好きじゃないんですが……人質をとらせていただきます。動かずにその訳の解らない兵器を停止してください」

「無視。私に構うことないであります! きゃあああ」

 

ハサンが人質を取ると、オウドライガーが歩みを止める。アインが構うなと言ったとき、ハサンは迷わず引き金を引いた。威力は今までで一番低い牽制用だったため、アインにダメージを与えるだけだった。

だが、人質を自分は殺すことを意図和ないと証明するだけで、相手の思考は一気に狭くなる。更に付け加えるなら、死に関わる決断にトラウマのあるセオリなら更に効果的だ。

 

「おや、震えているんですか? 覚悟を決めてもトラウマからは逃げられないようですね」

 

(助けなきゃ助けなきゃ……何でこんな時に、手が体が動かない)

 

意思とは無関係に言うことを聞かぬ身体。セオリの心奥深くに刻まれた傷が姿を表す。

操縦桿を握る手が自然と離れ、両腕を組み、自分を抱く。それと同時にTシールドも解除される。

 

「変わらぬセオリさんで良かったです。優しいのは貴女の美点です。貴女の優しさで、こちらのお嬢さんは楽に死ねるのですから」

 

逆転の切り札で、勝利を確信したハサン。迷うこと無しでエレクトロンドライバーの発射準備に掛かる。

目の前のモニターには、自分を抱いてから動かなくなったセオリとダメージが抜けきっていないアイン。周囲にも気配はなく勝利は揺るがなとほくそ笑む。

 

この時彼は、オウドライガーの中で起こった変化に気が付かなかった。彼女の中で、何かが再び目覚めたのだ。

 

 

(頼む、動いてくれ。動いてくれ私の体!)

{なら、私がやってあげるわ。お姉ちゃんがセオリの事を守ってあげる……アイツを殺してあげるわよ惨く悲惨な方法で}

(何この声……頭の中で)

{私よ。イオリお姉ちゃんを忘れたのかしら?}

(嘘だ、だってだってお姉ちゃんは……)

{黙ってみてなさい。ゾイドはこうやって乗りこなすの}

 

途端にセオリの意識が体から離れ、まるで映画を見ているかのような感覚になる。

 

「うふふふ、相変わらず窮屈な服の着方ね」

 

勝手に動いている自分は、後ろで結んだ髪をほどく。更に胸に巻き付けたサラシを服に手を突っ込むことで外し、解放されたかのようにほくそ笑む。

 

「見てなさい」

 

そう通信中のハサンに聞こえない声を出す。それと同時にペダルを踏み込み、操縦桿を前に押し出す。

 

セオリの魂から、イオリと名乗る魂へと入れ替わった結果。オウドライガーのゾイドコアに掛けられていた封印が解かれ、今まで以上に活性化し始める。

活性化したゾイドコアから盛れ出るタキオン粒子が、オウドライガーのボディに刻まれたラインを通り、白く発光する。光輝く刺青のようなそれは、徐々に輝きを増しながら全体を包み込む。そして、イオリとオウドライガーが一歩踏み出すと世界が一変した。

 

「な、え」

『gyleee』

 

一歩、たったの一歩踏み出すだけ。それだけでオウドライガーは、マモンの正面に佇み前肢のストライクレーザークローで敵の顎を粉砕した。認識すら遅れる速度での一撃に悶絶するマモン。

ハサンは、何が起こったのか理解できず動けない。

 

「うふふふ、良い声で泣いてくれるのね。後、普段クールな貴方の間抜け面も悪くないわ」

 

画面越しにハサンを嘲笑う、今まで見たことのない仕草のセオリ。今のセオリから感じる気配は、別人だった。

 

「追撃。セオリちゃん、私も手伝うであります」

『グルルル』

 

マモンがオウドライガーを恐れ、引き下がる時を見計らいセイバータイガーが起き上がる。

先程、セオリを脅す目的で電撃を浴びせたことが、機能停止していたセイバータイガーを復帰させる結果に至った。復活したセイバータイガーは、ビームガトリングを容赦なく破損した頭部に連謝する。

 

『ギャォオオ』

 

破損箇所に攻撃を受けては、ライガーゼロイクス・マモンでもたまったものじゃない。ハサンのモニターに損傷データーが蓄積されていく。

 

「必殺。今でありますセオリちゃん……セオリちゃん大丈夫でありますか? 返事をしてくださいであります」

(アインが呼んでる……応えなくちゃ)

「もう、終わりなのね……。……あ、ごめん。了解止めを刺すよ」

 

急に意識が戻ったセオリ。一瞬、自分の肌けた胸元などを見て「なんだこの格好、髪型も変だし!」と自分の装いが変化しており驚くが戦闘に向き合う。

アインは、一瞬だけオウドライガーから感じた気配と傷付いたマモンを見て舌舐めずりしていたセオリの様子に畏れと危機感を覚える。だが、呼び掛けに応じた時は、違和感はなくなっており気のせいかと納得した。

 

「そのままでお願い。ストライクレーザークロー!」

 

オウドライガーを駆け出させ、飛び上がると同時に必殺の一撃を振るうセオリ。アインがビームガトリングで押さえている隙を突いた連携である。

 

「僕としたことが……ふざけるな」

 

自身の危機に、混乱から戻ったハサンがエレクトロンドライバーでアイン牽制。アインは回避行動をとるが、そのせいでビームガトリングの照準が外れる。それを見計らいオウドライガーのストライクレーザークローを横に転がることで回避した。空かさず光学迷彩で姿を完全に消す。

 

「また消えた。アイン気を付けろ」

「感知。後ろであります!」

 

アインの指示にからだが自然と動き、横にステップを踏むと、オウドライガーのいた場所にスタンブレードを両脇に展開したマモンが現れる。

 

「どうやって僕の場所を察知してるんだ」

 

オウドライガーの反撃より先に姿を消すハサン。だが、アインがいる限り居場所を察知されるために、迂闊に近寄れない。

 

(アインは、光学迷彩を見破れるのか? 私も少しでも見えれば、どうにか)

(私じゃいくら感じ取れても勝てない。けど、口で伝えていては、セオリちゃんの反応速度でも間に合わない……せめて、セオリちゃんにも居場所が目で伝われば)

 

アインとセオリは同じような考えに浸っていた。だが、先に思い付いたのは、アインだった。

 

「作成。セオリちゃん、私を信じて構えるであります」

「お、おう」

 

確認と共に、セイバータイガーは、ビームガトリングを全て湖に発射した。激しい爆発と共にオウドライガーとセイバータイガーのいる周辺を広範囲で濡らしていく。それでも、ビームガトリングを止めず雨を降らせるアイン。

 

「馬鹿な。こんな水浸しじゃ電撃をモロに」

 

これでは、ハサンの有利な状況だと怒るセオリを視線だけで制す。意味ありげな目で見られ、言葉を失いながらストライクレーザークローに再びエネルギーを込めて構える。

 

「必勝。大丈夫であります。あいつは今電撃を使いたくても使えないであります」

 

アインには、確証があった。先程セオリを追い詰めた水浸し感電作戦、水牢電鎖網と言える、あれを何故もっと早くに使わなかったかが疑問だった。湖が真横にある地形で、常に有利で居られる筈なのに、オウドライガーが距離を取って初めて使用した。そして、ほんの20秒前は、オウドライガーが謎の速度で移動した事で痛手を負った。なら、再び水牢電鎖網で速度すらも無視した攻撃を仕掛ければ良いのに、使用しない。

 

これは、二つの理由からだ。ひとつは、水浸しになれば自滅する可能性だ。もし、自身の周囲を水浸しで電撃を使えば、マモンすらもダメージを負うのだろう。

 

そして、もう一つは。

「感知。セオリちゃん、横であります」

「見えた!」

『ガォオオオ!!』

 

シャワーのように降り注ぐ雨。それが光学迷彩の迷彩を歪ませ、姿を歪にだが目視出来るようにしていた。二つ目はステルス性の損失。

 

姿を目視したセオリが、もう加速でストライクレーザークローを繰り出した。

『ガュウ』「ぐわああああ」

 

不意を突いての一撃に、反応が遅れたハサン。破壊力の籠った一振りは、マモンの背部にあるコンデンサーを破壊した。

これにより、マモンの性能は大幅に削減される。

 

「今日は引きますか」

「ま、まて。ぐぅ」

 

破損が大きいマモンでは、先頭続行は不可能だと悟り、鬣から黒い煙幕を張りながら逃走した。後を追おうとしたセオリだが、此処に来て電撃のダメージが響きだす。そして、煙幕が晴れた時には、ハサンは消えていた 。

 

「無理。もう私も感知出来ない距離に逃げたであります」

「深追いは危険か……ふぅ。とりあえず、帰るぞアイン」

「承知。わかったであります。コッテリ絞られに帰るでありますよ」

 

戦闘状態から解放され、シートに延びる二人。彼女達は、痛む体に鞭を打ちながら協会へと帰った。

 

 

----------

オウドライガーとセイバータイガーに酷くやられたマモンとハサンは、森を光学迷彩で駆けながら考えていた。

 

(帝王のゾイド、恐るべき性能ですね。それにあのアインと呼ばれていた少女も何か特別な力をもってたみたいですし。でも、一番不思議なのが豹変したセオリ、クルーゼはイオリに負けたと言っていた……あれがイオリなのか。イオリの名を聞いた団長の様子も可笑しくなったようですし、イオリについて調べますか)

 

彼の中で豹変したセオリの顔が忘れられないでいた。大胆不敵にこちらを見下し、苦痛に歪む声を優しい目で見つめるイオリ。ハサンには、自分に通ずる何かをイオリに見出だしたのだ。

 





ライガーゼロイクス
番号 EZ-054
所属 金獅子の騎士団
分類 ライオン型
全長 24m
全高 9.8m
重量 115t
最高速度 315km/h
乗員人数 1名
武装
エレクトロンドライバー×2
ドラムコンデンサー
スタンブレード×2
対物ブレードセンサー×4
エレクトロンドライバー放熱フィン×4
アースユニット
スタスティックジェネレーター×2
カッターフェアリング×2
光学迷彩

 セオリの居た村で自警団を務めていたハサンの相棒。主に光学迷彩を用いた暗殺じみた戦闘を得意とし、相手を翻弄しつつ一方的に敵機を破壊する。しかし、直接戦闘も得意で、大型ゾイド相手にも一切引く事の無い。相手の装甲を無視して電撃で内部を破壊する。ハサンの特技である相手の意識の隙間を突く戦法にて、直視されながらも瞬時に姿を消し見失わせる事が可能。


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海賊のヤハ

ついに第三の帝王の適合者との遭遇。


ユース団との行動を共にすることにしたセオリ。ユース団が再び道案内をしてくれた。

 

彼らは、海岸線の街によく足を運んでいたので、安全な道を知っており、何事もなく辿り着いた。

 

水平線が見えるほど広々とした海。海から吹く風が潮気を帯びて、独特の香りとして流れる。

雲一つない空をカモメ達が飛び、お日様の光がセオリの肌をチリチリと焼いていく。

 

「おぉ~これが海」

 

オウドライガーのコックピットから、海を一望しているセオリ。目はキラキラと輝いており、初めて見た海に感動すらしていた。

四人は、先に宿を取るとゾイドを整備を兼ねた倉庫に預けて街に出た。

 

「青い! そして広い!」

「はしゃぎ過ぎっすよ。ちょっと声を下げて」

「恥ずかしいったらないよ。皆見てるじゃないか」

 

ゾイドを降りて、改めて海を眺めたセオリが、人目も憚らず大声で叫ぶ。

 はしゃぐセオリは、街を行き来する人々の目線が集中する。傍にいる年長者二人は恥ずかしがっていた。

 

「だって、だってさ。海って今までお姉ちゃんに聞いてて、憧れてたんだ」

「質問。お姉ちゃんでありますか?」

 

ふと出てしまった言葉に突っ込まれ、セオリは言葉を失う。アインはただ純粋に聞いただけだが、セオリにとっては思い出したくない事柄だった。

 

「……」

「答えたくない事を聞くんじゃないよアイン」

「訂正。言わなくてもいいであります。だから、悲しそうな顔しないで欲しいでありますよ……」

 

一変して暗い表情になったセオリを見て、アンナがアインを止める。切なそうな表情のセオリに、慌てて前言撤回するアイン。だが、セオリは首を降りながら答えた。

 

「いいよ。隠すことでもないしね……」

 

そう言って、本来の目的である帝王の乗り手である海賊団船長ヤハの目撃されると言うカジノに向かいながらセオリは話した。

 

 

---------------___-_-_---------__-------_---_-_-=--__---

 

3歳くらいが私の思い出せる最初の記憶。

私には、両親が居なかった。唯一いたのがお姉ちゃん……名前をイオリという。

 

お姉ちゃんの姿は、今の私と瓜二つと言っていい程似ている。違うのは髪型と服装くらいで、もし並べば双子疑われただろう。

 

私が物心着いた時、お姉ちゃんの背中をずっと追っていた気がする。彼女が少しでも離れれば心細くなり、泣きながら彼女の裾を掴んでは、困らせていた。

あの頃は、お姉ちゃんを本当の母親だと思い、お母さんではないと教えられて大泣きしたっけ……。

まぁ私が3才と言えば、姉さんは13歳くらいだから、当然と言えば当然。

本当の母や父はいないのかと聞けば、戦争で死に、姉が赤ん坊の私を連れて逃げたのだと言われた。

当時、10歳の姉が赤ん坊を連れ、一人で育てる苦労を思えば頭が上がらない。

 

お姉ちゃんは、喋り方がお上品で女性らしい言葉使いをしていた。けれど、酔っぱらったり、気が抜けたりすると一人称が「俺」になり乱暴な言葉使いになった。お姉ちゃんの過去を知るオジサンに聞いたら、私を育てる上で淑女として育てたかったそうだ。

だから、ガサツで乱暴な言葉使いを自分で治して、私に言葉を教えていたらしい。ただ、私は彼女の素の話し方を覚えてしまったので無駄な労力だった。

 

彼女は、何かあれば私の側に居てくれた。私が怖い夢を見れば、わざわざ起きて頭を撫でながら「怖いものからは、私が守ってあげる」と微笑み眠るまで宥めてくれた。

 

そのイオリ姉さんだが、彼女はライガーゼロに乗るフリーのゾイド乗りだった。私の相棒だったゼロは、元々姉さんの相棒だ。

姉さんは、類い希なる強さを持っていると、当時のギルドの面々が口を揃えて言っていた。

 

ギルドで野生のゾイドや盗賊の討伐などを生業とし、ライガーゼロで全てを蹴散らしていた。子供の頃の私にもライガーゼロに乗せてくれて、アクロバットな動きで遊んでくれた。

私が赤ん坊の時は、紐で私を胸に括り付けながら、仕事もしていたらしい。突然泣き出す私にアタフタしながら仕事をする姉さんは有名だったそうだ。

本当に申し訳ない。

 

優しくて、美人で、強い。私の憧れで、今も追いかけている背中は間違いなく姉なのだ。

 

姉は、留守番をする事が出来るようになった私に、仕事先での土産話をしてくれた。それは、空に浮かぶ街や、海が一面に広がる国など様々だった。彼女の冒険談と共に語られる見ず知らずの景色に強い憧れを抱いたことは今でも忘れない。

 

ただ一度、好奇心に負けた私は、姉の留守中に冒険を求めて勝手に出掛けたのだ。

スカイボードに乗りながら、勝手な行動に出た私は、運悪く野生のゾイドのテリトリーに入ってしまった。当時6歳であった私は危機感が欠如していた。

 

案の定、レドラプターの群れに追われ泣き喚きながら逃げた。でも、逃げ切れるわけもなく追い詰められた。絶体絶命かと思った時、突然現れたライガーゼロと複数のゾイドが助けてくれた。

その時のゼロは、恐ろしさすら感じる程暴れ、敵を蹂躙していた。

 

レブラプターを撃破すると、ゾイドからギルドのメンバーとイオリ姉さんが出てきた。仕事の帰りに、私が勝手に森へ向かったと聞いた姉が瞬時に追って来たらしい。

 

「お、おねえちゃーーーー!! こわかった~~~!」

 

恐怖が消えず、泣きじゃくりながら姉に泣き付こうと走る私。

だが、彼女にすがる直前、パンという音と共に私の体は大きく後ろに倒れた。

 

ジュクジュクと頬と口の中が痛み恐る恐る姉を見上げる。

 

「ひっ」

 

姉は、今まで見たことのない冷たい目と激情を示した表情で倒れた私の襟を掴み上げ、もう一度私の頬を殴った。

手加減はされたのだろうが、姉に初めて殴られた私は痛みから涙は出るが声がでない。

 

「勝手に外に出て……こんなところに一人で。お前は死にたいのか馬鹿‼ 俺がどんな気持ちで此処まで来たか……」

 

ギリギリ歯を噛み締めながら、姉は私に怒鳴りながら涙を流した。そして、震える私を抱き締めながら「良かった。良かった」と声を出して泣き出した。

初めて姉の本気の怒りと泣き顔を見て、私も感情に身を任せてわんわんと泣いていた。

姉妹二人で力尽きるまで泣き続けた私達は、一緒に来ていたギルドメンバーに見守られていたらしい。

 

彼女は、本当に私にとっての母であり父だった。姉は、イオリ姉さんは、私にとって最も大切な人だった。

 

----------_-_-_--_---_?=--_--___

 

「良いお姉さんじゃないか」

「同意。本当であります。セオリちゃんと同じ信念が強く優しい人でありますよ」

「でも、過去形が多いってことはもしかして……」

 

姉の話を終えユース団がそれぞれ感想を述べる。だが、セオリの話し方に疑問を持ったハットンが申し訳なさそうに聞く。それにセオリは頷いて答えた。

 

「お姉ちゃんは、6年前に発掘都市イブシロンで突然地中から現れたゾイドに殺された」

「イブシロン……あの一夜にして滅んだと言われる場所っすね。セオリさんは、其処の生き残りなんすね」

「そう、あれは忘れない。一機の黒いゾイドが全てを焼き払った……お姉ちゃんもそれに巻き込まれた。目の前で死んだお姉ちゃんを見た後は覚えてない……気がつけば獅子皇の村に辿り着いてた」

 

 

思い出話が暗い結末で幕を閉じると全員がセオリを見ながら黙る。

 

「まぁ私のお姉ちゃんは、そんな感じだな。雰囲気悪くしてごめんな」

「失敬。こちらこそ、そんなことを聞いてしまってすまないであります」

 

かなりの長めの話を終え、カジノに辿り着いた一向。店の外観は、分かりやすい程デカデカとマーメオルカジノと看板を掲げ、中から騒がしい音が聞こえていた。

 

「なんかこの前みたいに絡まれなきゃ良いな」

「今回はあたい達も飲酒しないから大丈夫さ」

「え?」

 

前回、泥酔して全く役に立たなかった年長組。さすがに負い目を感じているのかそう言いきった。だが、カジノに入るとすぐ側にバーが構えておりそこに並ぶ酒に目が釘付けだった。

 

「うわー、もう決意揺らいでそう」

「同意。あの二人は禁酒なんて出来ないであります」

「バ、馬鹿言うんじゃないよ! 誘惑になんて負けるわけがないさ」

「あれ、アンナの好きな銘柄じゃないっすか? 港町だけあって品揃えが良いっすね」

 

 自分の欲望に忠実なハットンと彼に吊られそうになるアンナ。

 二人を置いてセオリとアインが奥に進んでいく。目的の人探しより先に、大勢の客が集まり騒いでいる場所に興味が湧き好奇心で行動していた。

 

(カジノって初めて来たけど、ワクワクするのはなんでだろう) 

(金儲けの予感。私の金運センサーが反応を示しているであります)

 

 実はこの日、後に伝説となろうギャンブルキング二名が初めてカジノに足を運んだ日だった。そんな後にキングと呼ばれる二名は人だかりの出来たルーレット代に注目する。

 厳つい漁師風の男から、セレブリティなドレスを身に纏ったマダム、果ては杖をついた老人まで様々な人がいた。その中央に褐色肌の青髪で眼帯を付けた背の高い男がいた。

 

 軟派そうだが、見目はかなりいい方で両腕に可憐な女性を抱きながら賭け事に勤しんでいた。彼の前にはたくさんのチップが山積みになっている。

 

「ハハハ、今日の俺はついてる。おら、お前らも早く勝負するか決めろって」

 

 男は常勝に気を良くしたのか、華やかな女性の手からウィスキーを飲ませてもらい他の対戦者達を煽る。他の対戦者達は悔しそうに顔を歪めている。やがて、一人の男が意地になって全てのチップを賭け始め、周囲がさらに盛り上がる。

 

「娯楽。凄く興味あるであります。ん? セオリちゃんどうしたでありますか?」

 

 アインが目をキラキラさせながら勝負を見守っていると、セオリが沢井の中心である男を見て固まっている事に気がつく。

 セオリは、高らかに笑う男を見た時、何故か頭に謎のイメージが浮かび上がっていた。それと同時に彼女の服の中でライガーゼロの結晶も輝いていた。それと同時に男も眼帯を押さえていた。

 

(なんだこれ、これはオウドライガー?)

 

 セオリは、突然知らない空間に立っており、周囲は海と砂地の海岸。そこはセオリにとって記憶にない場所であり、周囲を見渡すと彼女の前にオウドライガーと思わしきゾイドが海に向かい佇んでいた。

 だが、彼女の知るオウドラガーとは雰囲気が違っていた。まるで殺意と悪意が漏れ出すような全力でその場から逃げだしたくなるような感覚が彼女襲う。

 

(ち、違う? なんだこれ!?)

 

 オウドライガーの背後を見ると、辺り一面が火の海になっており、数百から数千を超えるゾイドの無残な残骸があった。炎の中には、人の焼死体らしきものが目に入った。それは眼を背けたくなるような光景でオウドライガーと思える機体を睨みつける。

 

(まさかオウドライガーがやったっていうのか?)

『グォオオオオオオオオオン』

 

 すると、オウドライガーが今まで聞いた事の無いような咆哮を天に目掛けてあげる。その王者の声は海と大地と空を大きく振わせた。その後、グルルと威嚇しながら戦闘態勢を取る。

 

(海から何か来た!?) 

 

 咆哮の後に、海から8本の長い触手が飛びだし目にも止まらぬ速さでオウドライガーに襲いかかる。オウドライガーはそれを見切りながら閃光となって回避する。触手の動きも常軌を異した速度でオウドライガーを追いかけるため一振りで砂場の地形が変化する。それが高速で動きまわるオウドライガーを追い続けるため、地獄のような光景だった。

 網の目を潜り抜けるように卓越した技術で回避しながら、何度もストライクレーザクローで触手にカウンターを決めるオウドライガー。

 そして、一本の触手をオウドライガーが牙でホールドすると、素早く海中にいるソレを釣り上げた。

 

(でかい。それに何だこの威圧感)

 

 海から強制的に引き上げられた触手の正体。それは触手を合わせれば全長100Mはありそうなゾイドだった。

 

何故か黒いシルエットしか見えず、細かい造形は解らないがエイのような姿をし2つの青い瞳だけが見える。

そのゾイドから全身に刺さるようなプレッシャーを感じていた。

 

只でさえ状況が理解できていないのに、謎のゾイドのハッチが開き、それに合わせてオウドライガーのハッチが開いた。

 

謎のゾイドからは、カジノで見た眼帯の男と何処か似た褐色肌で赤い髪をした野性味溢れる男性。オウドライガーからは、長い白髪、赤い目のセオリと同い年くらいの女性。女性に表情はなく目は絶対零度の冷たさを秘めていた。

 

両者の服装は、今の時代よりも進んだ文明人のような服でそれぞれが紋章を飾っていた。

 

「がははは、遂に此処まで来たのか……星崩しの女王」

「……殲王、あなたとソレを滅する」

「本当に人形のようだなお主。何故、この戦乱の世で聖女とまで呼ばれた貴様が200もの国を皆殺しにするに至ったかな」

「……人は必要ない」

「お主のせいで惑星ziの人口は8割も減っておる。お主ともう片方が争う日が来れば、正真正銘の絶滅じゃな」

 

豪快に笑いながらも、一切の隙を見せない男性。向かい合いながら一切の感情を表さない女性。

 

(誰なんだ? それに会話の内容が凄すぎて……)

 

「……御託はいい。どうせ皆私が殺す」

「がははは、良い。人類存亡を賭け、精々競うとしようか繁栄か絶滅かをな」

 

二人がゾイドに乗り込むと同時に、ジェノリセッターとオウドライガーとの間に起こった力場が二機に発生した。

 

全く動かずに周囲の地形を衝撃波で変えていく二機。そこでセオリの謎の体験が終了した。

 

「意識。大丈夫でありますか!?」

「え、あ、うん。あれ私どうしてた?」

 

体を揺すられて漸く意識が戻ったセオリ。動機が激しく呼吸が荒い。今起こったことを思い返してみるが、説明が付かない。アインが心配して背中を擦る。

 

「ありがとう。もう大丈夫……なんだよあんた」

 

呼吸も整ったため、アインに礼を良い前を向くと眼帯の男がルーレット台から立ち上がり、セオリのを見下ろしていた。

 

「おぉ、気が強そうな所も好印象だ。お前、俺の子供を産んでくれないか?」

「あえ? あ……は?」

 

急にセオリの手を取り、求婚じみた言葉を発する男。いまいち状況を理解できていないセオリが呆けていると横からアインが男に拳を突き出す。

 

「滅殺。止めを刺してやるです。セオリちゃんに手を出そうなど許さん」

「ちょ、危ない」

 

間一髪で鳩尾への拳を避けた眼帯の男。しかし、怒りのボルテージが上がったアインが格闘家も真っ青の連続攻撃を仕掛ける。

 

男もギリギリで見切りながら、交わす。カジノの客達は急に始まった乱闘紛いの騒ぎに注目していた。

 

唯一騒いでいないのは、チップ全てを失い沈み混んでいる男だけだ。セオリがチラッと眼帯の男の居た席を見れば大量のチップが追加されていた。

 

「お、よく見ればお前も可憐だな。よし、お前も俺の子供を産んでくれないうお!?」

「畜生。外したであります」

 

攻撃を避けながら、アインの顔を見て求婚しようとすると今までにない速度で股間目掛けて蹴りが出る。生命の危機を感じたのか全力で避けた男。両者が肩で息をしながら向かい合う。

 

「それは反則だぜ」

「相違。ナンパ野郎に人権と生存権はないであります」

 

何故か目の前の相手を滅さずに居られないアインが再び攻撃に出る前にセオリにホールドされる。

 

「アイン、さすがに暴れ過ぎ」

 

セオリがアインを止めるも、時既に遅し。店の奥から黒服の連中をつれた支配人が現れる。

 

「ヤハ様、そしてお客様。他のお客様方のご迷惑になりますのでお引き取りください」

 

と勧告されたためにセオリ達はカジノを追い出された。それに巻き込まれ眼帯の男も追い出されていた。

。だが、セオリとアインは、支配人が呼んだ男の名前を聞いて驚いていた。

 

(ヤハって言ってたよな? こいつが帝王の乗り手)

(同意。たぶんコイツでありますよ。根っからの悪人の気配であります……こいつが帝王の乗り手だと考えると)

 

二人は、ジト目で隣の男を見る。例によって年長組とははぐれているため、トラブルメイカーペアが引き当てた奇跡である。

目の前の男は、ポリポリと顎を指で掻きながらセオリを見る。その視線に気がついたアインがセオリの前に出て睨み返す。

 

「何故か敵認定されてることは置いておいて……お前がオウドライガー乗りのセオリって奴だな?」

「なんで私のことを」

「お前達が俺を知っているのと同じだ。情報なんてもの直ぐに広まるんだ。お前が俺を探していることも知ってたから、待ってたんだよ」

「何故?」

「単純に興味があったのと……俺の帝王とお前の帝王、どちらが上か試したくてな」

「そうかよ。私も同じ気持ちだ。あんたを突き出せば旅の費用も稼げるんじゃないのか?」

 

ヤハが挑発気味に笑いかける。明らかな挑発にムカついたセオリが前に出る。

 

相手を見上げながら、セオリも相手を煽る。二人の間で火花が散り始める。元々の性格からなのか、帝王のゾイド乗りに通ずる特殊な敵対意識なのかは定かではない。

 

「じゃ、決闘でもするか? お前もやる気みたいだし。そうだな、日が暮れてから船着き場から大きく離れた灯台で決闘でどうだ」

「いいぜ。指定した場所からして、お前の帝王水棲型みたいだな」

「まぁ驚かしてやるよ」

 

 睨みあいから逸早く抜けたヤハ。彼の指定した決闘にセオリが乗る。彼はセオリの了承を確認するとニヤリと笑いながら帰ると言って去って行く。少し背が遠くなった所でヤハは振り返り、セオリを揺さぶる一言を残していく。

 

「そうだ、つい三日前だけど。俺はシオンとジェノリセッターを倒した。だから俺は、あいつより強いぞ」

「なっ」

 

 衝撃の発言にセオリとアインが勢いよく振り向いた時には、ヤハの姿は完全に消えていた。物凄く後味の悪い捨てゼリフを残された二人はしばらく固まっていた。

 




次回、第三の帝王との戦い。


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海皇

いよいよ、獅子皇と海皇の決戦が始まる。


 

 ヤハとの決闘の時間。それまでの時間をセオリとアインは、以前戦闘し惨敗を起したジェノリセッターを思い出していた。もしかしたらハッタリかもしれないが、あの絶対的な強者をヤハが上回る実力者だった場合、勝ち目は極めて薄い。

 

 だが、ヤハに対する作戦も海に入らないように戦う意外に思いつかないまま、灯台にたどり着いた。幸いヤハはまだ来ておらず、周囲に人の気配も無い。

 

オウドライガーからギリギリ見える位置で、ユース団も戦闘準備を整え見護っている。正直相手の誘いに、しかも海賊の誘いに乗る事自体危険である。

 

 もう太陽も傾き、後少しで沈みこもうとした時、突然それは起こった。

「セオリさん、来るっす!」

 

 水中の僅かな音に、ハットンが気付き叫ぶ。だが、その声がセオリに届いたのと同時に海から8本のアームが飛び出しオウドライガーに迫る。その速度も反応出来るものでは無くオウドライガーの四肢に巻き付き、抵抗すら緩さぬまま水中に引きずり込んだ。

 

「セオリ! ハットン、どの位置に撃てばいい?」

「遠方射撃なんて選ぶんじゃなったっす。どんどんオウドライガーが海中に連れて行かれてる。僕らの火器じゃ海中に攻撃できないっすよ」

「沈黙。私の共感覚では、オウドライガーの闘志を感じるであります。まだ大丈夫」

 

 突然オウドライガーを連れ去られ手も足も出ないユース団。だが、アインは忍者装束を可能な限り脱ぎ、コックピットのハッチを開け空気に肌をさらす。すると彼女の肌にオウドライガーを通して通じるセオリの感情が伝わる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 一方水中では、謎のアームによって身動きの取れないオウドライガーがもがいていた。だが、アームの正体すら目視できぬ内に海底に叩き付けられた。

 

「うわっ」

『グルル』

 

 幸い海底に叩き付ける攻撃は威力が薄く、オウドライガーにダメージは無かった。そして、海底で起き上った時、正面に見た事のないゾイドがいた。

 

「あれが、もう一機の帝王」

『グルウルル』

 

 オウドライガーの正面に巨大なエイのようなゾイドが居た。カジノで見たビジョンと同じシルエットであり、今回はその姿がハッキリ見えた。ワインレッドを基調にし、全体的に刺々しい装甲のゾイド。その青い瞳はビジョンと同じくこちらを睨みつけているようだった。

 そのプレッシャーは、ジェノリセッターにも劣らず、存在するだけで迂闊に身動きが取れない。

 

「よ、いきなり奇襲し掛けて悪かったな。だけどよ海賊の俺が正攻法な訳ないよな」

「だと思ってたよ。それがアンタの帝王か」

「あぁ、最強のゾイド。ジェノリセッターの次にオウドライガーを打倒すれば、俺は実質世界最強になる」

「あなたの帝王で望む物は何?」

「……全部だ。欲しいものは全部根こそぎ手に入れる」

「なら、私はその帝王を破壊する。欲望や争いに帝王は利用させない! オウドライガー!」

「は、俺の欲望は無限大だ。お前には止められないぜ、クイン!」

 

『ガォオオ』

『キューン』

 水中にて、会話を終えた二人が相棒の名を呼び操縦桿を構える。水中にて搭乗者の声に反応した二機が、声上げる。そのせいで周囲の水が震え、周囲の魚全てが逃げ出す。

 先に飛び出したのは、オウドライガーだった。いつもの定石どおりに、相手に跳びかかり優位に立とうとしたのだが、いつもより動きが鈍く相手に回避される。

 

「な、動きが」

「此処は水中だぞ。水圧で水没しないだけ感謝するんだな」

 

 逆に水中戦用のクインと呼ばれた赤いエイは、素早い動きで水圧を気にせず移動し遠くから射撃を仕掛けてくる。頭部の隠し砲塔から放たれる、弾丸がオウドライガーに命中すると、着弾地点から泡が発生する。

 それと同時にコックピット内のコンソールにアラートが表示される。

「こ、これは、溶解弾?」

「へぇ知ってたのか。今はあまり見ない兵器だがよ、どんな頑強なゾイドでも気化溶解物質を打ち込めば倒せる。こいつは、水中でも問題なく使える兵器でね」

 

 ヤハの説明により、攻撃を受け続けるのはオウドライガーを持ってしても危険と感じるセオリ。すぐにその場から移動しようとするが、水圧で身動きが制限される。

 

「卑怯な戦法で悪いがな。相手も未知数なんだ、手段は選べねぇのよ。女の子だから特別に降参したらやめてやるよ」

 

 そう言いながら、気化溶解弾を打ち続けるヤハ。殆ど全ての弾丸が命中し、オウドライガーのボディ表面が気体に変わり泡を発生させる。

 

「ふざけるな! T-シールド」

『ガォオオ』

 

 セオリの怒りと同調したオウドライガーが、粒子噴出口を開く。だが、そこから水が浸水し、粒子が放出できない上に更に動きを鈍くするライガー。

 

「しまった」

(もしかしてTシールドを使うつもりだったのか? やっぱ海で戦って正解だな)

「水中で地上と同じ戦闘が出来る筈ないだろ。まだ降参しないか?」

「く」

 

徐々に距離を積めながら、執拗に気化溶解弾を撃つクイン。その攻撃によりオウドライガーの装甲が危険なレベルまで破壊される。

 

(このままじゃ不味い……他に何か武器は?)

 

 身動きがとれず、ガードすらできない状況下にて、セオリはオウドライガーの武装を探す。何か少しでも有効な手段はないかとコンソールを操作する。

 すると、一つだけ可能性を見出だした。

 

「オウドライガー、スーパーサラウンドブラスター発射だ」

 

 セオリが引き金を引き、オウドライガーがクイン目掛けて口を大きく開く。その様子にヤハも(何かするつもりか?)と勘繰る。しかし、何が起こるか分からず迂闊に動けない。

 

『ガォオオ-------!!!!!!!!!!!!!!!!!』

「ぬわった」

『キョーン』

 口を大きく開けたオウドライガーの口内に存在する巨大なスピーカーから、通常の何万倍にも増幅された咆哮が発せられた。咆哮と同時に海底に踏ん張っていたオウドライガーのボディも20M程反動で後退する。

 もはやその規模は、振動ではなく衝撃波として水中に伝わる。発せられた咆哮は、真っ直ぐに進み振動の壁としてクインの撃つ気化溶解弾を破壊しながら、クインに命中する。エイ型のため、的が大きくもろに喰らっていた。

 

 その威力は凄まじく、クインのボディを吹き飛ばし、海底の岩山に激突させた。コントロールを失ったクインは、抵抗できずに山に衝突しダメージを受ける。その余波は、周囲の海全てを揺らし、その海域にいる生き物の殆どを気絶させた。

 

「す、すごい。でも」

『ガォオ』

「そうだよね、相手も帝王だ。あれくらいやらないと」

 

 思いもよらない必殺技を手に入れ、恐怖感に呑み込まれそうになったセオリをオウドライガーが一喝する。今の兵器は、水中以外で使えば相手を確実に殺してしまう。しかし、そんな兵器あっても帝王のゾイドを倒せるかはわからなのだ。   

 今は恐怖に呑まれている場合ではない。むしろ、今使っておいて正解だったのだ。

 

「動かない? 死んだってことないよね?」

 

 水中で動きにくいながらも、身動きしないクインとヤハを心配し近づく。ギシギシとボディが水圧で圧迫される中、どうにか移動したオウドライガー。セオリ達の前には、岩山に激突し、海面の砂煙で姿が視認しにくい。

 

「おい、ヤハ。私の勝ちだ。なんだ」 

『グゥ』

 

 念のため、通信で相手に連絡を取るが返答がない。もしかすると、殺したのではないかと危惧した時、砂埃の煙幕から、オウドライガーの首目掛けて巨大なハサミが飛び出す。

 

 砂煙から飛び出したそれを見切っていたセオリ。だが、例に習い、動けず首を巨大なハサミに捕獲される。ギリギリとハサミで首を締めあげられ、苦しむオウドライガー。 

 すると、此処でヤハから通信がある。

 

「あぶねー。クインの持ち味が無類の防御力じゃなけりゃ死んでたなアレ。まぁ首締めあげてれば音波攻撃も出来ないだろうな」

 彼がそう言うと、砂煙が海流の流れで晴れ、驚くべきものがセオリの目に入る。

 

「な、か、蟹!?」

 

 そう、セオリが見た物はエイ型のゾイド絵ではなく、ボディはワインレッドで共通だが、どう見ても蟹の形をしたゾイドだった。急にゾイドが変わったりするのだろうか? 確かに装甲を変更したり、エヴォルトで全く違った性能を発揮するゾイドは存在する。だが、別物になるゾイドなど存在しない。

 

「驚いてるところ悪いが、今度はこっちの番だ」

『キューン』

「きゃ」

『グォオオ』

 

 巨大なハサミでオウドライガーを捕獲したクインは、その腕を動かしライガーを海底に叩きつける。そのパワーも一級品で大型のオウドライガーを片腕で何度も叩きつける。先程の気化溶解弾の後での激しい衝撃で、オウドライガーの至る所に亀裂が発生する。コンソールでは、既に警報が発生しセオリ自身も不味いと悟り始める。

(さっきまで、エイ型で今は蟹、何なんだこのゾイド)

 

 

「降参してくれないと、死んじまうぜ?」

「くっ誰が」

 

 中々我慢強いセオリに業を煮やしたヤハ。叩きつけるだけでなく、もう片方のハサミで殴打を始める。だが、それを待っていたとばかりにセオリがオウドライガーの操縦桿を押し出す。

 

「なんだと」

「はぁ!」

 

 首を掴んでいたハサミを逆にオウドライガーの牙で捉え、殴打しようと振り上げたハサミを尻尾で捕獲。まさかの逆ホールドに焦るヤハを尻目に、必殺のストライクレーザークローを水中内で使用したセオリ。爪が超高温になったせいで爆発のような水蒸気が発生するが、クインとホールドする事で吹き飛ばされず、その一撃をクインの胴体に振るう。

 

「それは不味いなクイ~ン」

『キューン』

 

 目前にストライクレーザークローが迫ると危機を察知したのかヤハが手元のコンソールを操作した。 すると、クインの胴体部分が分岐、細長いアームとなり攻撃を直前で回避した。

 更にオウドライガーに捕まっていたハサミも変形し、最初にオウドライガーを引き摺り込んだアームになる。

 

 突然理解不能な動きをするクインにセオリの思考が停止。その隙をついてなのか4本の長いアームが連結し、一本の尻尾となりオウドライガーの身体に巻き付く。

 

 完全に捕まえられ、長い尻尾でギリギリ締め上げられる。そして、唯一動く頭部の前には、大きく口を開けた蛇型ゾイドの頭部があった。

(へ、蛇!? もう訳がわからない)

「さすがに混乱してきた頃だろうな。このまま潰しちまえば俺の勝ちかな」

「ふざけんな‼」

『ガォオオガォオオ』

 

 挑発するヤハにキレたセオリ。勢いよくオウドライガーの操縦桿をフルスロットルに入れる。其に伴いオウドライガーがクインとパワー対決を始める。

 

「パワー負けした」

「うがぁ!!」

「ぶちギレてやがる」

 

 ギシギシと締め上げるクインに、拘束を力ずくで解いたオウドライガー。闘争本能を高めるセオリの心に同調したオウドライガーのパワーは凄まじく。

 先程までパワーで負けていたクインを圧倒し、その蛇型の頭部に噛みつき、顎の力で押し潰す。

 

「これ以上やるなら、コックピットを破壊する」

「まじか、それは困る。けど、俺はソコに乗ってないんだな」

 

 大抵のゾイドが頭部に搭乗するのに対し、ヤハは頭部に搭乗していないと言う。なら何処に? とセオリが余所見した瞬間、蛇型クインのボディから黒い墨が放出される。

 

 それに触れた瞬間、オウドライガーのボディが気化し始め、気化溶解弾と同じ成分だと判断したセオリが慌てて逃げる。

 

 後ろに跳ぶことで気化溶解墨から逃れたセオリ。彼女に対しヤハが通信で言い放った。

 

「仕方ないから見せてやるよ。コイツが俺の相棒、海皇スキュラクイーンだ」

『キューーン!』

 

 気化溶解墨の煙幕から飛び出した100mは在ろうかと言う8本のアーム。それらがビジョンで見たような激しい動きで煙を薙ぎ払い姿を表す。

 

「今度はイカ?」

「タコだ。見たことねぇのかよ」

 

 ヤハの操る帝王、その正体はタコ型ゾイドだった。ワインレッドは共通だが、巨大な頭部に青い瞳、全身の至るところに小規模のブレードや火器、規格外なほど長く間接の多い8本のアーム。これが海賊団船長の機体だった。

 

「言っておくが、この姿はお前を殺しちまうかもしれないぜ」

「私もオウドライガーも負けない! またぶっ倒すから喋ってないで掛かってこい」

 

 遠回しに降参を勧めるヤハだったが、強気なセオリに溜め息を吐いてから、目が据わる。

 彼の眼帯の中から光が漏れ出すと同時に、スキュラクイーンのアームが動いた。

 

「きゃああああ」

『ガゴ』

 

 水中とは、思えない速さで繰り出されたアーム。それは、セオリの目でどうにか捉える事が出来る速度で鞭のように撓りながらオウドライガーを打ち据えた。

 水中を揺さぶるような衝撃が発生する打撃を受けたオウドライガーが吹っ飛ぶ。何度も海底に衝突を繰り返し、水中を砂で覆う。漸く止まった頃には、巻き上がった砂で視界がゼロだった。

 

「悪いが、圧倒するぜ」

「うわっ」

 

 砂の煙幕を再び8本アームの高速稼働により薙ぎ払うクイン。視界が一瞬でクリーンになる。だが、そこでクインを捉えても遅かった。

 再び振るわれたアームがオウドライガーに強烈なダメージを与える。しかも、今回は吹っ飛ばさずに器用に脚を利用して何度も連続で殴っていく。

 

 その一撃の重さは、ゴジュラスギガのテイル攻撃の30倍にも匹敵する。それが8本で執拗にオウドライガーを襲う。既にボロボロだったオウドライガーにその攻撃は耐えられず、一撃ごとに亀裂が入り、装甲が剥がれる。

 

(駄目だ。強すぎる……このままじゃオウドライガーが)

『グゥ』

(せめて……水中でも地上みたいに動けたら……)

 

 もう駄目だとセオリが諦めかけた時、オウドライガーのコアが不思議な輝きを発する。セオリの胸元にある、ゼロの形見も同時に輝きセオリを包み込んでいく。

 

----------------

(ここは? さっきの変な映像?)

 

 急に世界が暗転。気がつけばセオリはカジノで見た帝王同士の戦いの場面に立っていた。丁度途切れた部分からの再開で、二機のコアによる波動が全てを吹き飛ばした所だ。

 

 やはりエイ型のスキュラクイーンが、ヤハと同じくオウドライガーをアームで捕獲して海中に引きずり込む。

 

(やっぱりこの戦法、これじゃオウドライガーが負ける)

 

 現に今も敗北寸前のセオリは、謎の映像内のオウドライガーも負けてしまうと予期した。

だが、星屑しの女王と呼ばれた人物は、焦りもしていなかった。目は凍ったままで、表情も変わらない。

 

「海で戦うことは、想定範囲。オウドライガー……」

 

 心の籠らない声でオウドライガーを呼ぶと、オウドライガーが突然水色に発光。海中を全てを照らすような光を放つ。

 

「な、なんじゃ?」

 

 その光を警戒し、スキュラクイーンを本来のタコの姿に戻したヤハではない男。8本のアームを素早く鞭のように振るい攻撃した。

 

(馬鹿な‼)

「なんと?」

 

 青く輝くオウドライガーは、水中最強とも言える攻撃を回避したのだ。

 

(オウドライガーの姿が……)

 

 光が収まると、中から……。

「これが……オウドライガーの真価 です」

 

----------------------

 再び景色が暗転、セオリはスキュラクイーンの連打を受けている現実に帰ってきた。

 

(今の光景、もしかして……いや、そうだ)

セオリの操縦桿を握る手に力が籠る。それは、オウドライガーにも通じ瞳に光が戻る。

 

「早く認めな、お前の敗けだ」

「オウドライガー!! エヴォルト!!」

 

 ヤハの声を遮って、セオリが大声で叫ぶ。セオリの頭には、イメージがあった。それは、奇跡のような偶然で垣間見た相棒のもう一つの姿。

 

 セオリの声に応えるように、オウドライガーの全身が青く輝く。それは、先程の光景と差異はなく、ビジョンによって見た可能性の具現。

 

 縦横無尽に振るわれたクインのアーム。止めの一撃であるそれだが、青く輝いたオウドライガーが命中する直前に消える。

 

「消えた?」

『キューン』

的が無くなった一撃は、空振りに終わる。相手が消えたことで周囲を見渡そうとしたその時。

 

 ガァンという衝撃と共に、クインの胴体が大きく後ろに飛ばされる。寸是でアームを海底に突き刺すことで、その場に止まったヤハ。状況が飲み込めないまま、衝撃の発生源に目を向け、目を大きく開く。

「進化したのか、クインみたいに擬態ではなく」

 

 ヤハの前には、アクアブルーとイエローが基調で、鬣が小さく四肢に鰭のような突起物が生え、爪の形状が鋭利になったライガー型ゾイドが彼を睨んでいた。先程までの損壊部分も綺麗になり

 オウドライガーとは、かなり違った造形で別のゾイドにすら見えた。

 

「どれほどの性能か、見極めさせてもらうぜクイン!」 

『キューン!』

 

 突然変貌したオウドライガーにクインは、今まで以上に素早く8本の伸縮自在のアームを振るう。全方向からランダムに振るわれる乱舞は、通常のゾイドでは回避不可能。

 だが、オウドライガーに攻撃は命中せず、いつの間にか距離を取られていた。さらに執拗にアームを伸ばすがまるで泡を掴もうとしているかのように、空ぶる。

 

 アームが届かない位置まで後退したセオリ。彼女は進化したオウドライガーを見る。

「これが、オウドライガーの新たな力」

「何なんだそれはよ」

 

 アームを折りたたんで、エイの形に変形したクインが猛スピードで向かってくる。その変形場面を見て漸くセオリも理解した。ヤハのゾイドは、通常のゾイドと違い、色々な形態に形を変えるのだ。エヴォルトでも換装でもなく、ユニゾンですらない新たな機能だ。

 

 しなやかで関節の多いタコ型ゾイドだからこそ可能な擬態機能なのだ。もう突進しながら気化融解弾を頭部の砲塔から発射するクイン。

 それに対して、オウドライガーは口を大きく開く。

 

「またそれか! クイン」

 再び音波での攻撃をすると考えたヤハ。彼は、クインの形態を蟹型に変え、防御体形を取る。巨大なハサミをクロスして衝撃に備える。

 だが、音波での攻撃は来ず、オウドライガーの口からは、白い光線が発射された。それを見てヤハは、コックピットの中でほくそ笑む。

 

(クインの防御力は、何者ですらも突破できない。さらにクラブ形態なら防御力は更に向上、ビームなんかじゃ……え)

 

 クインのハサミに命中したレーザー。本来ならレーザー兵器は熱で相手を焼き尽くす兵器である。それが海で発射され、あろうことか海水が蒸発しないだろうか? ヤハの勘は正しく、命中した個所がパキパキと凍り始める。最初に発射した気化溶解弾も白い光線が凍りだしたために、その場で凍り付き固まる。レーザーが命中したクインのボディが急速に凍って行く。

 

「な、冷凍兵器だ? やば」

 

 気がつけば、40m程ある巨大なクインの半分が凍った。こうなれば身動きもとり難く、巨大な氷塊と

なっていく。さすがに危機を感じたのかヤハが全力で氷を割ろうとする。だが、氷の密度も厚く周囲の海水も凍ってしまうため、上手くいかない。

 

 

「水中でも地上と変わらない水圧や抵抗を無視するボディ。水中戦用の数多くの兵器、そして相手を完全に無力化する冷凍兵器。これがオウドライガー・ミラージュムーン」

「ミラージュムーンだ?」

「エヴォルトしたオウドライガーは、月の映った水面を揺らすことなき、静寂を齎す」

 

 エヴォルトするゾイドは有名である。世界中で確認されたエヴォルト対応機は、指の数にも満たない。だが、どれも時代を変革する程強大な力を持っていた。300年前、世界を救った英雄の愛機もその機能を持っていた。

 

「エヴォルトを帝王が持っているとか、反則だろ」

「擬態能力のある帝王も相当だと思うけど?」

 

 ほぼ全身を凍らされ、身動きが一切取れなくなったクイン。クラブ形態以外で戦えば、これ程酷い状態に陥らなかったなと後悔するヤハ。そこでようやくビーム照射を止めたセオリ。

 

「どうする?」

「いやー、正直一本取られたな。クインの性能を過信し過ぎていた……。本来なら負けてるくらい、無様な有様だな」

「なら」

「だから、手加減はやめた、お前は闘うに値するぜ。クイン、お前も遊びは終わりだ」

 

 ヤハの雰囲気が豹変する。しかも、凍り付けにされていたクインが、強引に氷を割ながらオウドライガーに向かってアームを伸ばす。  

 

「っ? しつこいな!」

「海賊はそんなもんだ。海で戦う事において、海賊は負けられないんだよ! ついでに言うとしつこさならお前の方が上だ」

 

 再びタコ形態のまま、アームでオウドライガーを捕えようとする。水中戦可能となったオウドライガーで海中を地面を駆けるように進むセオリ。目前に迫る攻撃を、ビジョンで見たオウドライガーのように回避しつつ距離を詰める。 

 

 海底の土を踏まずに、足の先から特殊な力場で水を蹴りながら縦横無尽に移動する。既にオウドライガーに水の中でのデメリットが存在しない。

 

「海の中でその速度は、反則じゃないか」

 

 瞬きした頃には、目前で水掻きが増えた爪で頭部を狙ってきた。正面からしか来ないセオリの動きを読んでいたヤハは、クインのアームでそれを防ぐ。

 地上で発動するストライクレーザークローと違い、青白く輝くクローは、防御した部分を瞬間冷凍し衝撃にて砕いた。ビームだけでなく、格闘攻撃にも絶対零度の効果を付属したセオリは水中では部類の強さを誇る。

 

「これでどうだ?」

「それは、卑怯だろ!」

 

 追撃を仕掛けるオウドライガーに対して、ヤハの取った策は一つ。最も効果的に防御と攻撃を両立するため、気化溶解成分の墨を全身の噴出口から放出した。そのせいで周囲一帯が墨だらけで、セオリもすぐに後ろに距離を取った。

 

「ちょっと、なんで砕いたボディが再生してるんだよ」 

 

 ほんの寸前で破壊したアームが、信じられないスピードで再生する。オウドライガーも再生能力は備わっているが、一瞬で生え換わる様子は常軌を異している。

 

「クインの持ち味は、防御力と再生能力なんだよ。ジェノリセッターが火力、オウドライガーが速度みたいにな。もう一機の帝王は何が特徴なんだろうな?」

「知るか!」

 

 墨の防御から、一方的にアームでの攻撃を仕掛けるヤハ。接近されない限り、オウドライガーには冷凍光線しか遠距離兵器は無い。なら、100m程も射程距離のある格闘戦が可能なスキュラクイーンに死角はない。

 一方的に攻め続けるヤハは、冷凍光線の発射すら許さない。回避する事で精一杯のオウドライガーは、攻めあぐねる。

 

(これじゃ、攻撃に打って出れない……どうにか、クインを海の外に追い出す戦法を考えないと、あれをもう一度)

(墨の残量も余裕が無くなってきたな、何か一撃技を……あれをやるか) 

 

 二名の思考が同じ結論に出たのは同時だった。先に動いたのはクインだった。脚での攻撃を放棄し、ボディーを動かしながら頭下でアームの付け根の部分をセオリに向ける。そこから、巨大な砲塔が姿を現す。

 それは、スキュラクイーンの最終兵器の一つ、凝縮荷電粒子砲であった。クインの頭部にあるゾイドコアが精製する濃密度荷電粒子を砲塔にチャージしそれを放った。

 

 8本のアーム全てがレールガンの砲身となり、発射された荷電粒子砲を更に加速させながら、オウドライガーに撃ったヤハ。海中でも威力が減少する事なく放たれた一撃は、オウドライガーを呑み込んだ。

 

「あ、やばい! やりすぎた」

 

 セオリを殺すつもりがなかったヤハ。だが、相手がしぶとく倒れない様子に、ヤハの方が先に限界が来たのだ。その弾みで、オーバーキルの大技を撃ってしまった事を後悔した。

 仮にも女性に対して、殺傷兵器を向けそれを撃ってしまった事がショックだった。

 

「やべぇ、おーい、生きてるか?」

 

 思わず通信でセオリに呼び掛ける。本来、生きている筈がないと頭で理解しながらも声をかけずにいられなかった。これでセオリが死ねば、勝負には勝っても、ヤハは大敗を起したのである。

 

(くそ)

 

 もう駄目だと頭を伏せたヤハ。前髪を掻きながら顔を歪める。

 

「貰った‼」

「え?」

 

 顔を伏せた瞬間にクインの体が謎の海流に飲み込まれる。完全に油断していたヤハは状況が理解できない。その間もクインは、グルグルと流される。

 

 少しして意識が覚醒したヤハは、海流の中心で佇むオウドライガー・ミラージュムーンを発見する。クインが飲み込まれている海流は、オウドライガーが発生させているのだ。

 

(この姿なら使えると思ってた)

 

 濃縮荷電粒子砲が発射されるより前に、水中にてTシールドを起動したセオリ。予想通り水中で粒子の放出と操作が可能なため、オウドライガーを中心に竜巻が発生した。

 周囲の水を飲み込み、ヤハの撃った一撃と拮抗した結果、濃縮荷電粒子砲を少しずつ吸収し無効かしたのだ。

 

 その勢いは、荷電粒子砲が止んだ後も止まらず威力を増し、最終的にはクインのボディが飲み込まれた。

 

「いくぞ!!」

『ガォオオ』

 

クインを飲み込んだまま、オウドライガーが海底から水面目掛けて飛び上がる。竜巻の中心が動けば竜巻も水面に飛び上がるのは必然。

 

「ぬわああああああ、くそおう」

『キューンキューン』

 

 文字通りオウドライガーに絡め取られたクインは、そのボディをホームグラウンドである水中から空に打ち上げられる。

 

「喰らえ‼ ブレイクメーサークロー」

 

 空中で身動きが取れていないヤハ。それを目掛けて、オウドライガーが新技ブレイクメーサークローをお見舞いした。

 

 命中した頭部は、地上でも凍りつき、クローの衝撃で砕け散った。幸いコックピットを外し表面のみの破壊で終わった。

 必殺の一撃を受けたクインは、吹っ飛び海岸に墜落した。それを追うようにオウドライガーもかいがんに着地する。

 

 再びヤハが動き出す事も覚悟して、すぐさまクインの上に圧し掛かり、頭部に爪を構える。セオリもこれ以上の戦闘は限界で、もし抵抗されたらな一撃でクインのゾイドコアを破壊する算段だった。

 

「俺の敗けだわ」

「はぁ、はぁ、つかれたー~~」

『ガゥガゥ』

 

 今宵の帝王同士の争い、勝者はセオリとオウドライガーだった。性能や技術以前にセオリの負けない心に勝てないと踏んだヤハの敗北宣言だった。

 コックピットの中で眠るように気を失ったセオリ。戦闘による疲労がピークに達し、勝利した事で緊張の糸が切れたのだ。コックピットですやすや寝むる主にオウドライガーは困惑の声を上げる。

 

 





オウドライガー・ミラージュムーン
番号announce
所属トライデント
分類ライオン型
全長34.5m
全高15.56m0
重量90t
最高速度705km/h
乗員人数1名
武装
ブレイクメーサークロー×4
アブソリュートゼロ×1
タキオン粒子流動シールド発生機(水中専用)×4
ドレインファング×1
ショックカノン×3

姿
アクアブルーとイエローが基調で、鬣が小さく四肢に鰭のような突起物が生え、爪の形状が鋭利になったライガー型ゾイド。水中の中を地上と同じように移動する事が出来るエヴォルトした姿。足の裏から特殊なフィールドを発生させ疑似的な足場を水中で形成しそれを踏む事で移動する。水中における水圧と抵抗は、ほぼ0になるボディを持ち、相手を瞬時に氷結させる兵器を用いる。搭乗するセオリは、水の流れが読めるようになる。


スキュラクイーン
番号announce
所属 海賊団
分類 ミミックオクトパス型
全長120.5m
全高40.56m0
重量620t
最高速度300km/h
乗員人数1名
武装
ビームマシンガン×2頭部
デストロイアーム×8 8本の脚で、脚を用いた打撃は、リーオ製の装甲すら破壊する威力を誇り自由自在に動かせる。
気化溶解酵素製造機 触れた物質を酸素に変換する特殊酵素を生産する。
気化溶解弾発射砲×10 気化溶解酵素を仕込んだ弾丸を発射る。
気化溶解酵素噴射口×1 弾丸ではなく墨のように噴射する範囲攻撃。
濃密度荷電粒子 デストロイアームを砲塔に発射される荷電粒子砲。発射される粒子をデストロイアームに備わるレールガン機能で加速する兵器。
レーザーブレード(デストロイアームや頭部の突起部分)
T-シールド発生装置 オウドライガーと同じ。
トランスモード変換機構

姿
 全身ワインレッドに、巨大な頭部、青い瞳、全身の至るところに小規模のブレードや火器、規格外なほど長く間接の多い8本のアームが特徴のゾイド。他の帝王二機に比べ巨大でパワーに優れている。ボディのいたる個所に隠し兵器を備えている。特徴的なのが8本のアームでのリーチの長い格闘能力、相手の装甲を無効化する気化溶解兵器、あらゆる攻撃に耐える防御力、目にも止まらぬ速度で損傷を回復する生命力などがある。高水準で製造されている本機の最大の特徴は、長いアームを用いた擬態機能である。タコ型ゾイドである本機だが、他にも蟹やエイ、海蛇など他にも無数のバリエーションの変形が残されている。変形する事により状況に応じた戦闘や相手の撹乱など非常に強力。




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死神VSイオリ

ーーーーー私は……耐えられなかった。

 

(何に?)

 

-----人の業、それが導く結果に。

 

(何故?)

 

-------人を愛していた。けれど今は憎しみしかない。

 

(何があったの?)

 

--------憎い、にくい……憎い憎い憎い憎い憎い!憎い!憎い!死を死を死を死を死を!人類全てに死を!絶滅を!

 

(なな、あ、にくい? 何故? 殺したい、許せない。嫌だ。やめて)

 

---------お前も憎め、怨め、そして知れ。私の宿願を果たせ。

 

(うそ、やだ。……いや、殺さなきゃ、人類を全て……誰か助け)

 

「私の妹に、余計な手出しはしないでほしいわ。去るが良い、この子はアナタとは違う」

 

--------邪魔をするな。だから憎い憎い憎い。

 

(だ、誰?)

「誰でもない。これは夢よ、目覚めたら忘れなさい。こいつは私が押さえるから」

 

-------やめろ、やめ………

 

ーーーーーーー

 

「へにょ?」 

 

 急に眩しい光を浴びて、間抜けな声を上げながら起き上ったセオリ。何故か全身汗だくで息も荒い事に気が付く。

 

「っつ!」

 

ズキンズキンと頭が痛み、先程まで見ていた夢の内容が思い出せない。何か重要な夢だった気もするが、記憶にない。

 

「また、ベッドか」

 

ふと、自分の周りに気を向ければ、フカフカのベッドの上にいた。今いる場所は、扉ひとつと窓が二つの一室だった。自分の恰好は、いつもの民族衣装だった。

 

「これって宿? そういえば、帝王のゾイドと戦って……ギリギリ勝利してから気を失ってたのか」

 

 どうにか海面を抜けだし、止めを刺したあたりで意識が飛んだ事を思い出したセオリ。怪我は一切なく、以前シアンに負けたような体中の痛みは無い。あるのは、胸の奥で酷く気分が悪い何かが渦巻く感覚。何かが自分を飲み込んでいくような異和感だったが、徐々に薄れていく。

 

「アイン達は、外にいるのかな?」

 

 ベッドの傍にある靴を履いて、ドアの取っ手に手を掛けるとドアの向こう側から人の気配がする。そして、コンコンとノックしガチャリとドアノブが下るので手を放す。

 

「お譲さま、御目覚めのお時間ですy……ちがう、違う。セオリ! 起きてるか、おわ」

「アンナ、おはよう? 今何時?」

 

 ドアを開けて入ってきたのは、お盆に飲み物と大量のサンドイッチを乗せ、バランス良く片手で持っているアンナが入ってきた。入る途中までは、何故か優しげで上品な声色だったが直ぐにだみ声に戻る。起き上っている彼女に驚き、後ろによろけるが御盆だけは地面に並行していた。

 彼女の質問を聞きいれたアンナが、胸元から懐中時計を取り出し時刻を告げる。

 

「今は午前9時40分だよ。今回は短いとはいえ、半日以上眠りこんでたんだよ。これは、あんたとあたいの飯さ」

「あ、うん。ありがとう、座らないの?」

「……なんか給仕なんて久々だから、調子狂うね」 

 

 開いた手で、セオリを机の方へ誘導し座らせるとテーブルの上に御盆を乗せる。先にセオリが座ると、しばらく控えて立っていたアンナも座る。どうやら昔の仕事の影響が響いているらしい。ガサツな姐御肌のアンナが給仕している姿を想像できないセオリ。

 彼女の思考を読めたアンナが、じろりと睨む。

 

「今、似合わないとか思ったね?」

「え、いや、うん。……ごめん」

「いいさ、あたいも思ってた。そうだ、あんたが倒した海賊だけど夜が明けたら姿を消してたよ。なんか言伝頼まれた。アインとハットンは……少し用事だよ。海賊の船長が、また帝国に動きがあると情報を貰ってね。あんたが目覚めるまで自警団と掛け合って警備中さ」

「また帝国が攻めてくるの?」

 

 セオリの問に少しだけ考えたアンナ。言うべきか言わざるべきかと悩んだが隠す必要はないと感じ、正直に話した。

 

「ヤハは、ガスカ海中心に反帝国主義を掲げる反乱軍のメンバーらしいのさ。共和国とも違う第三勢力で、あの男はオウドライガー、つまり帝王の所持者を調べてたんだとさ」

「え? でもアイツ、そんなこと一回も」

「理由は違えど、帝王の所持者であるアイツも邪悪な人間が帝王に乗るのは危険だから、アンタと同じく破壊しようとしてたらしい。

 まぁ、アンタが悪人じゃない事は知ってたらしい。ただ、試してみて合格だったと言っていたさ」

 

 腕を組みながら指先でポンポンと腕を叩く。時々セオリから目線を外し、天井を見ながらヤハとの際を思い出すアンナ。

 

「逆に、シアンとの接触は最低だったらしいね。丸一日掛けて、周囲の海域を火の海にしながら戦ったらと言ってたよ。闘い続けて海底に引きずり込んで如何にかジェノリセッターを破壊したが、その時の戦闘でスキュラクィーンも傷付いてこの港で整備してたらしい」

「だから、此処に居たのか」

「此処からは、船長さんの言葉さ  死神は手応えがなくて生きてる可能性が高い、もしもう一度俺が戦えば確実に殺す。アイツは、危険思考を持った典型的な破壊者だ。恐らく俺に復讐を誓っているだろうが、万が一お前が狙われた場合は、逃げろ。 だそうさ」

「そうか……。あれ?」

「話が逸れたね。帝国軍は、セオリ、あんたを指名手配したらしい。正確にはオウドライガーを鹵獲する動きがある、だから一番危ないのはこの街なのさ」

 

 彼女がハッキリ言ったために、セオリも考え込む。以前のコロシアムでの一見以来、オウドライガーは有名になりつつある。もうじき、セオリが騒ぎを探らずとも、騒ぎの方から彼女の元に集まって来るのだ。

 

「帝国は、私を狙っているか……オウドライガーと旅に出たときから覚悟してたよ」

「どうするんだい?」

「とりあえず此処を出よう。でも、逃げるんじゃない、迎え撃つ準備をする」

「ただの戦闘じゃない。戦争になるよ?」

 

アンナの問いは、核心を着いていた。セオリが帝国と戦えば、それは戦争と他ならない。

 

「私の目的は、戦争じゃない。でも、帝国がオウドライガーを悪用する気なら、許さない。帝王のゾイドには、二度と神々の怒りを起こさせない」

「ふっ、そうかい。ついでにあたい達三人は、帝国に追われようが着いて行くから安心しな」

「そう言って貰えると嬉しいな」

 

モグモグとサンドイッチを食べながら、二人の会話は終わった。食後のコーヒーを飲みながら二人は次の目的地を考えていた。出来れば共和国の目が届いている場所が望ましい。だが、共和国は共和国でセオリを抱き込もうとするだろう。

 だから、共和国と帝国の境界線や中立国を中心に回ることにした。

 

「地図を見る限りじゃ、旅の目的地は……英傑国家ミロード公国だね」

 

ガチャンとアンナが手に持っていたカップを落す。中身は空だったがカップは床に墜ちて割れる。

「どうかしたの?」

「いや、でもミロードはやめて置いた方がいいよ。あの国は、頭の可笑しい奴がいっぱいさ」

 

 妙にミロード公国を非難するアンナを不思議に思うも、嫌がっている場所に連れていく訳にもいかず再び地図を確認する。陸で行けばミロードだが、海路を使えば選択地はいくつもあった。

 

「他に行くとしても、海路だと逆に逃げ場が無くなるんだよ。ヤハみたいに海賊を生業にしてるなら海でも逃げられるけど……」

「素人に海は危険だろうね。ちょっと考えなきゃならない」

 

 2人して溜息を吐いて、窓から海を眺める。海で襲われれば、エヴォルトしたオウドライガー以外は、戦闘不可能。セオリのみでも戦闘可能だが、船が沈められたら負けである。エヴォルトを行った後に訪れた疲労感は、エヴォルトでの長期戦闘が難しい事をものがたってる。

 

「あの船長捕まえておくべきだったね。海を渡る護衛させればよかったよ」

「いや、私あの男は苦手だからヤだよ。アインも相性悪そうだし」

 

 そんな時だった。窓から覗く景色が一変したのは。

 窓の外に一筋の閃光が通り抜け、光の筋を追うように火柱が上がり、景色一面が炎に包まれた。

 

「なんだよ?」

「荷電粒子砲? 帝国軍か?」

 

 アンナとセオリは、窓から体を乗り出して外の様子を確認する。だが、遠くが燃えているために様子が見えない。だが、海岸が燃えているだけで、街に被害は及んでいない。

 街では、警報が鳴り人々が慌てて荷物をまとめて避難を始めている。窓の下で、非難する人々が大勢列になって進んでいく。

 

「御客さん! 今外で死神が暴れてるらしいんだ! すぐに避難しておくれ」

 

 部屋のドアを慌てて開けたポッチャリ体系の宿主が避難を勧める。2人は死神の名前に驚き、あの時争いを思い出す。完敗と言うには、酷く無残な負け様だった。

 ヤハの忠告通り、死神シアンとジェノリセッターは、訪れた。しかも、周囲を焼き払った事からも以前にも増して凶暴性が増加したと考えられる。

 ヤハに復讐を誓い、訪れたはいいが、ヤハは既に街に居ない。そうなれば、怒りに呑まれている死神は、街の人間を皆殺しにするかもしれない。

 

「今死神は?」

「自警団と、御客さんの仲間が食い止めてくれてるらしいけど……、ってそんな事より避難してください!」

 

 宿主に詳しい情報を聞き、2人は我先に走り出した。押しのけられた宿主がクルクル回っているが2人は構わず階段を下りていく。

 

「こら! 階段を使いな!」

「遅いんだよ!」

 

 一段一段降りるのが耐えられないセオリは、螺旋階段の中心から飛び降りた。行儀の悪さに怒鳴るが、今はそれどころでないとアンナも手摺を滑る。一階に辿り着き、ドアから飛び出した二人はゾイド保管庫に入り、それぞれの愛機に乗り込む。

 

「とりあえず乗り込んだけど、アンタはどうする気だい?」

「アイン達を助けて、死神を倒す」

「馬鹿おっしゃい! コテンパンにやられたあんたが勝てる訳ないだろうに」

「同じ轍は二度と踏まない! 行くよオウドライガー!」 

『ガォオオ』

「待ちな。たっく、あたい達も行くよディバイソン」

『モォオオ』

 

 先に飛び出したオウドライガーと後を追うディバイソン。先行したオウドライガーの方が圧倒的に速く、ディバイソンでは追いつけないが必死に追いかける。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 火の絨毯のような爆撃の中心。燃え盛る爆炎の中で一体の帝王が吠えていた。その咆哮や、威厳を誇り何人たりとも逆らえない声。

 

「あの海賊は何処だ? あの野郎は何処だって聞いてんだ!」

『キュイィイイン』

 

 次々に襲いかかる砲撃を両サイドの盾から発生したシールドで防ぎながら、龍帝が口内の荷電粒子砲で砲撃の元を一掃した。怒りに任せ発射された荷電粒子砲の威力は通常よりも高く、警備を務めていたモルガ部隊を消し飛ばした。

 

 だが、海岸を警備する自警団の戦力は思いのほか多く、地上のモルガ部隊、空中のシンカー部隊が計12名存在しており、数の暴力にて死神の侵攻を食い止めてた。

 地上のモルガ部隊の半数が壊滅。爆発する機体から逃げ出す自警団と彼らの間を縫って砲撃を続ける地

上部隊。さらに上空から爆弾を投下して翻弄するシンカー。

 

 その中に白いビームガトリングを連射するセイバータイガーと主砲で攻撃する茶色いカノントータスが居た。ジェノリセッターの荷電粒子砲の着弾点から少し離れた個所で攻撃を続けていた。

 彼らに自警団から通信が入る。

 

「あんたら、無事か?」

「はいっす。でも、そろそろヤバいっす」

「あぁ、死傷者は少ない。だが、一撃で何十と倒され、こちらの攻撃が無力なのは消耗戦になる」

「気合。なんとか、街の人が逃げる時間だけでも稼がないとならない」 

 

 自警団の言葉にハットンが答え、忍び装束に全身を包んだアインが喝を入れる。幸いモルガのほとんどは、隊長機の指示を聞くオートなので自警団の被害は機体のみ。予想以上にシンカーでの空中爆撃が有効で善戦を続けている。

 

 ジェノリセッターのコックピットで死神シアンは、苛立っていた。

 

「アイツはまだ出てこないか……ゴミ共もウゼェ。先に掃除してやる」

『キィインキュイイイン』

 

死神の男は、操縦桿のスイッチをカチカチと操作し、モニターにロックオンカーソルが大量に出る。

それら全てが、空中で旋回するシンカーと砲撃している地上のゾイドをロックする。

 

「ハーミットデストロイヤ」

 

死神が引き金を引くと同時。背部のブースターから小型の反射板が射出され、意思を持ったかのようにジェノリセッターの周囲を囲む。

其に目掛けて荷電粒子砲が発射され、反射板に命中することで屈折。

 

360度全方向、全標的に荷電粒子砲が照射された。

 

「なんだと」

「うわーー」

 

空中で戦うシンカー部隊は、一瞬で全機が落とされ多くのパイロットが脱出する。地上のゾイド達に襲い掛かった荷電粒子砲は、モルガ達を次々蒸発させ、アイン達にも迫った。

 

(まずい、逃げられない)

(不覚‼)

 

不意をついた攻撃で回避行動が間に合わなかった二人。

 

「はぁあああ!」

 

荷電粒子砲が直撃する寸前、二機の前に突如走ってきたオウドライガーが立ち塞がる。前に飛び出した時には、Tシールドが起動されており、ジェノリセッターの広範囲指定攻撃を全て回転する粒子が呑み込んだ。

 

「セオリさん! 目覚めてたんっすか」

「あぁ。ついさっき起きて、駆け付けたんだ。……まさか、アイツが来てるとは思ってなかった」

「歓喜。よかったであります!」

「喜んでないで逃げるんだよ!」

「あ、アンナ」

「だから、とっとと逃げる準備をしな! 死んじまうよ」

 

 セオリが目覚めた事に喜ぶ二人。だが、オウドライガーの背後で死神は殺意を向けていた。

「あのライガー、温泉街の時に居た……生意気な女の乗ってる」

(完全に破壊したと思ったが……ピンピンしてやがる。あのゾイドからは、海賊野郎のゾイドと似た気配を感じるんだが……あれも帝王なのか)

 

「試してみるか、期待は薄いがな」

 ロックオンカーソルをオウドライガーに集中し、主砲の引き金を引いた。口内から、ジェノリセッターの内部で圧縮された荷電粒子砲が照射される。

 一瞬でユース団とセオリを光が呑み込み、一瞬で爆炎が上がる。だが、目の前が光に呑み込まれる直前、呆然とする面々の中でセオリのみが、舌舐めずりした。特に意識せず、それどころか意識が薄れていくような感覚の中で操縦桿を前に突き出していた。

 

 

「ふん、杞憂だったのか。見た限り海賊野郎は居ねぇか……だが、海に出れば追いつける筈」

 一撃でセオリ達を撃破したと思い、海路に逃げたであろうヤハを追う算段を立てる死神シアン。

『ガォオオ!』 

「あ?」

 

 海を渡ろうとスラスターの出力を変更した途端。爆発の中から、猛スピードでオウドライガーがストライクレーザークローを交え飛び掛かる。

 正面からでも、警戒していない攻撃は避けられずジェノリセッターの首元の装甲が大きく破損する。迷う事の無い喉元への一撃にジェノリセッターの上体が大きく仰け反る。攻撃をまともに受けた部分は、内部の機械と回路から火花が噴き出してた。

 

「荷電粒子砲が発射不可能だと?」

『ガガ、kィイガガ』

 

 喉を抉られ、声が出にくいジェノリセッターが仰け反った上体を戻しつつ、シアンが瞬時に損害を確認する。

 

その間にもオウドライガーの第二撃が襲い掛かった。ストライクレーザークローを決めて着地すると瞬時にジェノリセッターの尻尾に噛み付いた。

噛み付いたまま、体を横に回転。尻尾を巻き込んでの回転でジェノリセッターを地面に叩き付ける戦法を取った。

だが、ジェノリセッターは、背部のバスタークローを地面に突き刺し受け身を取る。その不安定な体勢で両サイドのハサミをオウドライガーに突き出した。

 

『グウウアァアウ』

 

突き出された二本のハサミ、それを片方は前足もう片方は牙で受け止めたオウドライガー。その瞬時の判断や技術は、死神を驚愕させた。追撃にと地面に突き刺していたバスタークローを頭部に向けると、空いた方のストライクレーザークローで付け根のアームを破壊された。

 

宙を舞い、地面にバスタークローの片方が落ちる前にもう一方のバスタークローからレーザーが発射される。至近距離で発砲されたレーザーは、オウドライガーの頭部にヒットする。たまらずオウドライガーが大きく後ろに跳んだ。

命中した頬箇所が焦げており、オウドライガーに確かなダメージを与えたことが垣間見れる。

 

「覚悟は出来てるんだろうな」

距離を取ったことで余裕の出来た死神が憎悪をオウドライガーに向ける。

「ふふふ、何の覚悟かしらね」

 

するとオウドライガー中から、女の笑い声が聞こえ死神の神経を逆撫でする。

 

「てめぇ」

「死神だか何だか知らないけど、性能に頼って甘ったれてる奴に私は倒せないわ。坊や」

 

コックピット内で豹変したセオリが、挑発と共にオウドライガーを走らせる。数歩走らせ、すぐにジャンプさせる。

突撃を予期した死神は、操縦桿を引きスラスター逆噴射で後ろに移動する。

着地地点にいるジェノリセッターが消え、空中で無防備なオウドライガー目掛け、死神が両サイドの鋏盾に備わった小型荷電粒子砲とバスタークローのレーザーを同時発射した。

 

 空中では幾ら速くても回避不可能。それを過去の戦闘から学習している死神が見逃すはずはない。洗練された射撃センスから繰り出された魔弾。

 

「基本は弁えてるのね。でも、教科書通りじゃ駄目よ」

『ガォオオ! グウゥウ、ガアアア』

「避けやがった」

『ガガ、キィイン』

 

 空中で回避不可能な攻撃、それをセオリは、オウドライガーの四肢にある粒子噴出口から粒子を噴出し、空中にて直角に飛んだのである。右前脚と後脚からの噴射で曲がり、左足で地面を蹴りながら、再び右サイドから激しい粒子の放出で回転と加速を伴った爪がジェノリセッターの右鋏盾に激突する。

 回転の伴った全力の一撃は、ジェノリセッターを吹き飛ばすに十分だった。

「覚悟はいいかしら坊や?」

「貴様!」

 

 勢いよく吹っ飛んだジェノリセッターの右鋏盾は醜く歪んでおり、使用不可能になってた。現在武器を3つも破壊されたジェノリセッターの脅威は半減している。セオリは、ニヤリと笑いながら操縦桿を巧みに操作した。

 

 地面を蹴りながらも、粒子噴射で予測不可能な軌道で縦横無尽に動き回るオウドライガーを捕える事は、死神やジェノリセッターにも出来ないでいた。

「ぐぉおおお」

『キィイイ』

 

 まさに、ラッシュだった。超高速な上、変則的な攻撃でジェノリセッターをストライクレーザークローで攻め続けるセオリ。以前、死神シアンがアインとセイバータイガーにやったように、一度も地面に着地させにまま何度も殴打していく。ジェノリセッターの装甲も頑丈だが、ストライクレーザクローで何十回も攻撃されれば、徐々に内部から破損していく。

 

「つまらないわね」

「殺す殺す! いつまでやられてやがる‼」

 

休む暇なく続く猛攻。時々聞こえてくる女の笑い声が死神の導火線に火を着けた。死神の怒りをジェノリセッターのゾイドコアが受け取り、活性化が始まる。

ジェノリセッターの目が光輝くとオウドライガーは、尻尾による一撃を受けていた。

 

「? ふふ、ついに本気になったのね坊や」

 

尻尾による一撃を受けつつも、体勢を立て直して着地したオウドライガー。上にいるジェノリセッターを見上げるとジェノリセッターもオウドライガーを見下ろしていた。

 

「この子の動きが見えるようになったのかしらね」

再び飛び上がり、謎めいた軌道で攻撃するセオリ。だが、ジェノリセッターは、高速移動するオウドライガーの前足を見事に前腕でキャッチし、スラスターで加速したまま、落下する。

 

「……なるほど」

 

このままでは、凄まじい勢いで地面に叩き付けられるオウドライガー。だが、コックピット内の豹変したセオリは、余裕の顔だった。

 

「オートパイロットにしたのね」

「ぐああ」

 

オウドライガーが地面に激突するコンマ1秒。それを狙い粒子の最大噴射で回転。巴投げのように逆にジェノリセッターを上から叩き付けた。

『ガグ、キィイキィイン』

 

自身の速度も利用された一撃にジェノリセッターもダメージを負ってしまう。

それでも帝王であるジェノリセッターは、倒れない。残った方のバスタークローを杖にし起き上がり、前腕の小型キャノンと背部のミサイルを全てオウドライガー目掛けて解放した。更に残った鋏盾を射出し、自動操作で向かわせる。

 

「もう、タキオン粒子の内蔵量が少ないわね。セオリと違って私じゃ精製は出来ないのね……避けれるかしら?」

『ガォオオ』

 

虫の息と思えない猛反撃。コンソールに写ったデータを見る限りオウドライガーのエネルギーが落ち始めていた。

故にTシールドを展開できず、避ける事になった。セオリ?の問にオウドライガーが「愚問だ」と言わんばかりに返事し駆け出した。

攻撃の雨を掻い潜り、ジェノリセッターへの雪辱を果たすべく前へ。

 

ーーーーーーーーーーーー

一方のユース団はと言えば、機体にダメージが残り動くことが叶わず帝王同士の戦いを見るしかなかった。

彼らの目には、ジェノリセッターを翻弄し、攻撃を掻い潜るべく地面を走り回るオウドライガーが映っていた。

 

「セオリさん、急に強くなったっすね」

「なんか、話し方も変わって……あれは本当にセオリなのかい?」

「疑問。この前、ステルスゾイドに襲われた際も性格が変わって相手を圧倒してたであります。其にいつもは、オウドライガーから感じるのは、勇気や暖かみなのに……今は、殺意と暴虐、そして深い愛を感じるであります」

 

三人は、豹変したセオリに困惑していた。自分達だけでない、セオリも何か訳有りであると考えていた。恐らく、今のセオリは、訳有りなのだろう。

 

「あのシアンとジェノリセッターを相手に常に優位ってどれだけ強いんっすかね」

「元々、素質は高いと思ってたさ。ただ、経験や訓練不足で無駄が多い所が有る。でも今は洗練されてる」

 

ユース団は、一生に一度見れるかわからないレベルの戦いに感動すら覚えていた。

敵の砲撃の中を針に糸を通す如く潜り抜ける様は、芸術にも見える。

 

すると、突然セオリからアインに通信が入る。

「何故。せ、セオリちゃんでありますか?」

 

アインがセオリに質問をすると、セオリは攻撃を避けながら答えた。

「違うわ。貴方は妹のお友達だって思ったから連絡しておこうかなって」

 

画面の向こうにいるセオリは、希にアインを見ながら戦闘を続けている。

「質問。今妹と言ったでありますね? もしかして」

「そうよ。私は、イオリ。いつも妹(セオリ)が御世話になってるわ。訳は説明できないけど、この死神は、私が退けるから安心してね。そうだ、妹に私が表に出たこと言っちゃダメよ? 今私を意識すると不味いのよ」

「……。確かにややこしそうであります」

「だから、お願いね。一つだけ教えてあげる……私は絶対にセオリの味方よ」

 

画面越しにセオリ、いやイオリは微笑み掛けながら通信を切った。それと同時にギリギリまでジェノリセッターとの距離を詰めたオウドライガーが飛び掛かる。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「てめぇ、勝ったつもりだろうが、あめぇよ」

「まぁ!」

 

飛び掛かるオウドライガーに対して、死神は機体制御をジェノリセッターに授与。ジェノリセッターのOSがオウドライガーの速度や動きに反応し対処、逆にシアンが火器全てを制御し操る戦法で対処したがオウドライガーの猛攻は止められなかった。

だが、止められなかったにではなく、止めなかったのだ。

 

オウドライガーが飛び出すのを見計らい、シアンはジェノリセッターの破壊された荷電粒子砲の引き金を引く。壊れていた筈の兵器は動かない。

 

しかし、それは通常のゾイドにのみ言えることで帝王は省かれるのだ。

喉元の損傷が瞬時に再生し、ジェノリセッターの荷電粒子砲が発射された。

 

「こ、こいつ!」

「予想外だったわ。帝王は謎が多いのね……妹、セオリよりアナタずっと強いわ。でも、坊y、シアン君、私は負けないわ、妹のために」

 

至近距離の最大火力荷電粒子砲を正面から受けたオウドライガー。イオリは、飛び出す前にTシールドをいつものように上にではなく進行方向に回転させた。

其は即ち膨大な粒子竜巻のドリル。その中心でオウドライガーもストライクレーザークローを使用しながら回転し、突撃する。

高速回転する粒子シールドとその中央で超高速回転する必殺技。それは、ジェノリセッターの荷電粒子砲を削りながら、真っ直ぐにジェノリセッターに迫る。

黄金に輝く竜巻は、見事に ジェノリセッターの胸部捉えボディを削り上昇していく。

 

『キィインクィイイン』

『ガォオオオオオオオ』

「ばかな、また俺が」

その威力や凄まじくジェノリセッターの装甲や武装を一瞬のうちに粉々にして行き、素体のみが残っていた。

それでも上昇をやめないオウドライガー。激しく回転しながら咆哮をあげる 。

 

「強いだけじゃ、勝てない事もあるのよ。憎しみだけじゃ、誰も救われないのよ」

「うわ、く」

 

オウドライガーの渾身の一撃『キングストライク』を受け、ジェノリセッターのコックピットのコンソールが爆発した。

オウドライガーのタキオン粒子も尽き、威力が無くなって落下するも機能停止したジェノリセッターだけは、遥か彼方に飛ばされた。

 

『ガォオオオオオオオ。ガォオオオオオオオ』

「この技を思い付いてなかったら死んでたわね。お手柄よセオリ」

 

ドーンと高高度から墜落風に着地したオウドライガーは、屈辱を晴らし天高く咆哮をあげる。コックピット内でだらりと力が抜けイオリ。

彼女の視線の先には、メモが張り付けていた。そこにオウドライガーの必殺技と記され、先程のキングストライクやシールドアタックなどが記されていた。

セオリがオウドライガーの力を引き出すべく編み出した必殺技。イオリは、それを実践し勝利を掴んだのだ。

まだ技術で劣るセオリの案を、技術で勝るイオリが使用することで実験したのだ。

 

「もう、限界ね………ん? また気が付いたら景色が、シアンは?」

 

眠そうなイオリが目を閉じ、再び開けたときには、元のセオリに戻っていた。状況が理解できず困惑する彼女だが、何故かジェノリセッターとシアンを退けたのは、自分だと自覚があった。

 

無意識だったが、手や足が勝手に動いている感覚があり、疲労感を感じていた。

 

「何なんだよ……私の体が私のじゃないみたいだ。ん……そうだ、アイン達は?」

 

勝手に動いていたであろう自身に恐怖から震えが来る。だが、それ以上にユース団の安否が気になりオウドライガーを走らせる。

走り出して直ぐに、地面に倒れている3機を見つける。

 

「みんな、大丈夫か?」

スピーカーで呼び掛けると三機のハッチが開き無事な姿が見える。

 

「報告。全員無事でありますよ~。セオリちゃんこそ」

「怪我はしてない」

 

セオリもハッチを開け、3人に手を振る。

その後ハットンは、使用可能なゾイドの再起動に勤めアインがオウドライガーに同乗し、戦闘後の生存者を探した。

アンナはと言うと、唯一問題なく稼働したディバイソンで街の様子と応援を要請に向かった。

 

「感知。そのモルガのコックピットに人が居るです」

 

後部座席に座るアインが、忍者装束を脱いで肌で気配を察知する。言い方は悪いが死人や残骸は、全て感知できず息のある人や動いているゾイドコアの発する微かな電磁波を受信している。故に生存者探しには最適なのである。

 

素早いオウドライガーと感知能力があるアインで、次から次に生存者を見つけていく。

アンナが呼んできた応援の協力もあり、多くの人間が救出された。

 

「これが死神を倒したゾイド、凄いな」

 

軽傷の自警団員の一人がオウドライガーを見上げて、感慨深そうに感想をのべる。後に他の自警団員や街の人々が、「街を救ってくれて有難う」「お嬢さんに助けられたよ」「旦那を救ってくれてありがとうございます」などセオリやユース団は、感謝され気恥ずかしい目に遭っていた。

 

なんと、今回の戦闘で死者は、居なかったのだ。重傷者や意識不明の人間は多いが、死神が手加減したのとモルガの頑強さ、オートパイロットの機体が多かった事から、帝王を相手にしたにしては、無傷と言っても良いレベルだった。

 

その後、街を出るまでの間、セオリ達は英雄だと祭り上げられていた。

ーーーーーーー

 

場所は一変して、シュセイン帝国帝都。巨大な作戦本部のような場所にて、大きなモニターに3つの映像が映っていた。

 

一つは、全てを焼き払うジェノリセッター。もう一つは海の支配者スキュラクイーン。最後の一つは、ジェノリセッターを倒しているオウドライガーが写し出されていた。その横にセオリの盗撮写真が映っていた。

 

「えー、帝国軍上層部の皆様。今日お集まり頂いたのは、新たに現れた帝王のゾイドについてです」

 

司会者らしき初老の男性が頭を下げ話始める。彼の周囲には顔は見えないが大勢の人間が映像を見る。

 

「予てより予見されていた第四の帝オウドライガーが復活し、此にて帝王は全てを蘇りました。

最初の帝ジェノリセッターが目覚め、我が軍に壊滅をもたらして以来、帝王について研究してきた。そこで判った帝王のこの世に存在し得ないテクノロジーを求め捜索してきました」

 

男が話続けると、議会の壇上にいる男から声が掛かる。

「前置きは良い、用件のみを話せ」

「こ、これは殿下失礼しました。おほん、オウドライガーなる帝王の所持者は、女であり未熟であると報告があり、早急に写真の女を取り込むかオウドライガーを奪取することに着手するべきです」

「なにゆえ?」

「帝王の所持者が成長すれば、それだけで驚異となります。まだ目覚めて間もない帝王と未熟な所持者のオウドライガーならば、楽に手に入れられるかと。ですのでジェノリセッターとスキュラクイーンに向けた盧確部隊も召集すべきです」

 

男の発言にざわざわと議会がざわめく。帝王が欲しい帝国にとって、オウドライガーは最優先にすべき捕獲対象なのだ。しかも、所有者は無所属で介護もないため共和国や反帝国国家に取り込まれては不味い。

 

「わかった。至急指令を出そう。獅子皇捕獲作戦を承認する」

「有りがたき幸せです」

 

殿下と呼ばれた赤髪で強面の男性は再び席に座り、指で台座を叩きながら、隣にいる同じく赤髪の優しげな青年に声をかけた。

 

「今宵の作戦、お前の出番が来るかもしれんぞ。覚悟しておけクロード」

「……」

 

男が声をかけるも、男より若い青年は画面を見たまま反応しない。

 

「聞いているのか! クロード・シン・シュセイン! 帝国一族として自覚を持たんか‼」

「……可憐だ」

 

青年は隣で怒鳴る男の言葉が耳に入らず、画面に写るセオリを見て呆ける。

 

「この馬鹿者をなぜ父上は、皇子などに認めたのか……」

 

男は顔を押さえながら、溜め息を吐いた。それと同じタイミングで3の男女がセオリの写真を見てそれぞれ別の行動をとっていた。

 

 

「やはり、お前が敵に躍り出るか…」

 

 赤髪に金と銀の瞳を持つ、金獅子の騎士団の団服を着た青年は、無表情で写真を眺め、すぐに部屋の外へと歩き出す。

 

「ほほほ、まさかこのような場でお前を見つけるとはの。これも宿命じゃの」

 

 

 もう一人は、白髪に曲がった腰の白衣を着た老人だった。彼はセオリの写真を見て長年探して居た物を見つけた喜びにほくそ笑む。

 

 最後の一名は、先の二名と違っていた。オレンジの腰まで伸びる長髪と顔の上部を覆う鉄の仮面から覗く朱眼がセオリの写真を怨みの籠った目で睨み、グシャグシャと写真を潰すと脚で踏みにじった。

 

「うふふ、私の前に現れたのが運の尽きね……セオリ」

 

  

 そこで議会は終わりを迎えた。

 



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英雄のゾイド

「まさか、こんなことになるとは」

 

 地下の空洞を利用した牢屋。そこの鉄格子を握りしめながら、セオリが呟いた。

 

「どうしよう……」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 海辺の町の復興作業が始まり、その間にセオリ達は旅立つ事にした。

 目的地だが、アンナが避けたがっているミロードは候補から外し、ミロードを迂回して別の中立地帯に向かう事を決定した。

 

「……」

「……」

「……」

「偉く静かじゃないか? どうしたって言うんだよ」

 

 現在、セオリ達一行は、ミロードを離れるため険しい渓谷を歩んでいた。隊列を組んで戦闘にオウドライガー、後方にセイバタイガー、ディバイソン、カノントータスの順で移動していた。

 いつも煩いユース団三名が、不気味な程静かなのでセオリが気にかける。

「そ、そんなことないっすよ」

「あ、あぁ。それにいつもあたいは静かじゃないか」

 

 自分達も変だと思ったのか、大人組が慌てて話し始める。だが、アインの様子が急変した。

 

「駄目。アイツが来た。アイツが来たであります!」

 

 急に目に見えて震えだし、悲鳴を上げながら両腕を自らで抱き、シートの上で丸まる。現実から目を逸らすように塞ぎこむ。

 

「アイン! 気をしっかり持つっす!」

「この反応、アイツが近くに居るのかい?」

「アイン、アイン! どうしたんだ? 何が来るんだ?」

 

「ああ。いや、もうあそこはイヤー!」

 

 大人二人は、アインの様子に周囲を見渡し警戒する。だが、突然アインが悲鳴を上げ、セイバータイガーを走らせる。前方に居るオウドライガーを押し退けて駆けだすアイン。セオリはアインの豹変に呆然と立ち尽くす。

 駆けだしたセイバータイガーだが、少し進むと停止し、渓谷の上を見上げて後退りする。

 

「なんだあれ」

 

 セオリもアインの視線の先に目をやる。丁度太陽と重なり、目を細めると影だけが見えた。

 

 影は、鬣を持った四足歩行の大型ゾイド。背中に装備された煌めく巨大な太刀が光を反射して渓谷を掛け降りてきた。

 

(ライガー?)

 

 傾斜の激しい坂道を全速力で駆け降りたゾイド。その姿は、正にライガータイプだった。青と白の配色で背中に背負った大太刀が目立った。

 

「セオリ! 退きな‼」

「何で此処に」

 

 オウドライガーを睨むライガーに呆然としていたセオリの背後から、ディバイソンとカノントータスが飛び出した。二人には珍しく殺気が籠っており、カノントータスとディバイソンで砲撃を始めた。

 

 二機の砲撃に謎のライガーは、素早く回避した。渓谷の壁を走り跳ねながら距離を積める。まず最初に主砲を向けたカノントータスに対して、背中の大太刀の峰を向けた。 主砲を下から払い除けるように動かされた其は、ハットンの乗るカノントータスをひっくり返した。

 

「うわっ」

「よくも!」

『モォオオ』

 

 倒されたハットンの側で、蹄で地面を引っ掻きながらディバイソンが突進を始めた。

 

「……ハヤテライガー」

 

 謎のライガーに乗る男がコックピットの中で呟く。少年の声に反応して、コックピット内のモニターに印された古代文字が変異。其に伴い謎のライガーのボディを炎が包み込む。

 

 猛突進するディバイソンの角が炎に包まれたゾイドを突き刺す前にゾイドがオウドライガー並の早さで動いた。

 

「ちっ、はや」

 

 炎に包まれたゾイドは、素早い動きで攻撃を交わし、アンナの反応を越えた速度で両前足に装着された小太刀でディバイソンの足を切断した。

 

 ディバイソンが倒れた時、炎が高速移動に伴った風圧で消える。中からは、先程と違う赤いライガーが現れた。

 

「これって……エヴォルト?」

『ガォオオオオ!』

 

 セオリの戸惑いを端に、オウドライガーが目の前のライガーを威嚇する。だが、目の前のライガーは此方を気にはするも身動きのとれないセイバータイガーに向かって高速移動を始める。

 駆け出した途端、一気に400キロ近くまで加速した赤いライガー。

 

「拒絶。来るなであります!」

 

 セイバータイガーに乗るアインがビームガトリングを迫り来るライガーに向けて撃つ。 だが、怯えながら撃った攻撃は素早い動きで回避され壁を蹴り加速したライガーの前足にある小太刀にて一瞬でビームガトリングを切り落とされる。

 

 武器を失ったセイバータイガーは、逃走をしようと駆け出すが赤いライガーが前に回り込み小太刀を振るう。

 

「やめろ」

 

 素早い動きをするライガーの小太刀は、セイバータイガーに当たらず、漸く思考が戻ったセオリの刈るオウドライガーの爪に阻まれる。

 

 ギリギリと押さえ付けられた前足を動かそうとするライガー。しかし、体格もパワーもオウドライガーが上で身動きが取れない。

 

「アインは、私が守る。其によくも二人を」

 

「ムゲンライガー!」

 

 セオリの声を聞いたライガーのパイロット。彼は暗いコックピット内で再び名を呼んだ。

 すると今度は、赤いライガーが白銀の光に包まれる。眩しさからセオリとアインが目を閉じた瞬間。光の中から二本の大太刀が振るわれた。

 

「いった」

「うわぁああああ」

『ギャン』

『グォオオ』

 片方の大太刀は、峰打ちでセイバータイガーの頭部を殴打。もう一本の大太刀は、鋭い一閃をオウドライガーの右肩に振るった。

 

 セイバータイガーは、渓谷の壁まで吹っ飛び、オウドライガーの装甲は切り裂かれ右前足のメカが剥き出しになる。

 

「オウドライガーが、なんて切れ味なんだ」

『ガゥウウ』

「これが噂の帝王なのか、今のでも浅いか」

『ガォ』

 

 一撃を貰ったオウドライガーと白銀の二刀流ライガーは、互いに威嚇しながら距離をとる。

 ジリジリと距離を積めるセオリだが、白銀のライガーが二本の大太刀を自由自在に振るいながら隙を見せない。

 

(隙が見えない……其にエヴォルトするゾイドでライガーって言えば)

 

 セオリの脳裏に一つの答えが浮かぶ。だが、何故襲われているのか理解できず結論に至らない。

 

「でも、アインが怖がってる……とりあえず退ける」

『グァアオオ!』

 

 操縦桿をフルスロットルに入れ、オウドライガーを走らせる。馬鹿正直に突っ込んだため二本の大太刀がタイミングを合わせて振るわれた。

しかし、反撃を想定し直前でジャンプしたオウドライガーは、壁を蹴って方向転換した。

 

「速いな。だけどムゲンライガーの敵じゃない」

 瞬時にオウドライガーの動きに反応した青年。彼は上からのストライクレーザークローを切り返した大太刀一本で受け止め、もう片方でオウドライガーの足首を狙った。

 

「こん畜生!」

 

 オウドライガーの足首を狙った斬撃。それを空中で胴体を横に捻ることで回避したオウドライガー。セオリの気合に機体が答えた結果の回避だった。

 攻撃を外した白銀のライガーは、地面を足の裏にあるパイルバンカーで叩き反動で素早く後ろに跳んだ。

 

「ふぅ、どうにか戦えそうだ。伝説のゾイド……ムラサメライガーともね」

 

 セオリは確信していた。目の前にいる強敵こそ、獅子皇の村に存在しなかった伝説のライガーであると。其は、300年前に世界を支配しようと企んだディガルド武国との戦いで勝利を勝ち取った英雄ルージ・ファミロンの相棒、ムラサメライガーであると。

 

 当時や現代ですら解明出来ていないエヴォルトを搭載した不死身のゾイド。大太刀にて数多のゾイドを切り裂き、世界を救った偉大な機体である。其が何故に自分達を襲うのか解らないが、倒すしか道はなさそうである。

 

『グゥウウ』

後ろに跳びながら、ムラサメライガーのエヴォルト形態ムゲンライガーの胸部にある三連重力砲が発射される。

 

セオリも予想していた攻撃のため、体を伏せることで回避し、ムゲンライガーに向かって走る。

 

「ムゲンライガーでは、遅く。ハヤテライガーでは力不足だな」

 

 ムゲンライガーのコックピット内。その中にいる童顔で優しげな顔をした少年は、操縦桿を構えたまま考え行動した。

「行くぞ、ブシンライガー!」

 

 青年の声と意思に反応したコンソール内の古代文字が再び変異。ムゲンライガーは、虹色の光に包まれる。

 

 既に飛び出していたオウドライガーは、虹色の光に突っ込むようにストライクレーザークローを振るう。

 だが、ほんの一瞬の出来事で恐ろしいことが起こった。

 

「え」

 

 全速力の突撃。それを更に上回る速度で動いた七色の光と前足と後足の小太刀、背中に背負った大太刀3本の7本の刃があった。

 セオリすら反応できない別次元の動きに、オウドライガーのボディは至る箇所が斬られ、その場に横たわるように倒れ込んだ。

 

「かは」

 

急なカウンターで頭を打ったセオリは、薄れていく景色の中で七色に輝くライガーを見た。

 

「みんな、こっちに来てください。ちょっと予想外のものが見つかりました」

 

 七色のライガーに乗る青年は、通信で仲間を呼んだ。目の前で倒れたオウドライガーを見下ろし、その後にセイバータイガーを見て微笑んでいた。

 

「何年ぶりかな、姉上。ずっと探していたんだ」

 

 その声を聞きセオリの意識はブラックアウトした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんでベッドの上なんだ? 最近多い気がする……」

 

 目が覚め、身体を起こすと今までに無い程の綺麗な部屋だった。ベッドもフカフカで寝心地は最高である。もう一度寝ようかと思案するが、頭に巻かれた包帯が全て思い出す切っ掛けとなった。

 

「何故かムラサメライガーに襲われて、負けて……」 

 

 手も足も出ない事にショックを受けていると、ドアが開きメイド服を纏った女性が優雅に入ってきた。部屋に入るなり、頭を下げて言った。

 

「御目覚めですね。王子がお待ちですので、此方に」とドアの方向に誘導されるがままに歩かされる。

 

 廊下を歩いて、大きな扉を開けて入る。そこは大きなテーブルと煌びやかなステンドグラスやシャンデリアが広がる空間だった。

 そのテーブルの先に、赤茶色の髪をしたセオリから見て年下くらいの少年がいた。

 

「ご、ごめんなさい! 俺、つい君も妹を誘拐した奴の仲間かと思って……怪我は大丈夫?」

 

 少年は、セオリの頭を見ながら申し訳なさそうに言った。どんな奴かと思い警戒していた所に謝罪から入った少年。セオリは思考が再び吹っ飛んだ。

 

「姉上の友達を攻撃させた上に怪我させるなんて……早とちりしてすいませんでした!」

 

 テーブルに頭をつけて謝り続ける少年。その姿を見てセオリがクスリと笑った。

 だが、彼の言っていることが理解できない。不思議に思い首を傾げると彼も気が付いたように説明してくれた。

 

「あぁ、セオリさんだよね。俺は、ミロード公国第一王子、エージ・ファミロン。君の前でアインと名乗っていた姉上アインスフィア・ファミロンの弟なんだ」

「は?」

 

 一呼吸で話した彼の言葉は聞こえたが理解が追い付かない。

 

「王子?」

「うん」

「アインが妹?」

「そう、アインスフィアは、この国の第一王姫になる。まぁ、説明はするから食事をどうぞ」

 

 召し上がれと椅子に座らされたセオリの前には豪華な食事が並ぶ。お腹が空いていたセオリは食べようか迷うが、「安心してどうぞ」とアインの兄が勧めたため食す。

 

 前菜から頗る美味しく、テンションが上がり続けナイフとフォークの速度がどんどん上がっていく。

 

(何これ旨いんだけど。どんな高級食材?)

 

「気に入ってくれたんだ。説明はするから食べながら聞いてくれ。妹は体調が悪いから今は外してる。本来は妹を交えて話したかったんだけど、仕方ない」

「?」

「何処から話そうかな……。6年前、僕らの母が亡くなった年に姉上は、突然この王宮から姿を消したんだ。姉上付きのメイドが誘拐したのだとすぐにわかったよ。 

 でも、姉上の捜索は、進まなかった。計画された誘拐で逃げる速度が異様にスムーズで多くの手引きした奴等がいた。ソイツ等のせいで姉上は6年前から昨日まで行方知れずだった。

 でも、帝国軍と戦うオウドライガーと一緒に行動する集団の中で姉上と思わしき人物がいると聞いて、海辺の街の後にミロード付近を通ると思って網を張ってたんだ 」

「オウドライガーは、そんなに有名なの?」

「あぁ、大陸中に広まってるよ。獅子皇オウドライガーは、目新しいゴシップだから広まるのも早いよ」

(なんか、いい奴ぽい。けれど、アインの取り乱し方は、異常だった……このミロードに何かあるのか?)

 

 丁寧に説明しながら自身も食事をするエージ。微笑みながら話す彼が裏では別人の可能性も考慮した。アインが誘拐されたのなら、何故今までアインはミロードに戻らなかったのだろう。

 自由に旅をしていたアインからは、誘拐されたような素振りは感じなかった。

 

「そう言えば、アイン誘拐の犯人はどうしたの?」

「あぁ、メイドは捕らえたよ。君と行動していたディバイソンのパイロットだね」

 

 やはりかと、セオリは立ち上がりエージの顔を見た。以前からアンナには、今も側に控えるメイドのような仕草が見られた。あの違和感は、アンナの過去に繋がっていたのだ。

「アンナがアインを誘拐?」

「そう、あの女は母の指名で姉上の専属だったけど 、母が死ぬなり裏切ったんだ」

「そんな訳ない。だって、アインはアンナのことを」

「可哀想にね。姉上はメイドに洗脳されてるんだ。だから、帰りたくても逃げられなかった」

 

 目の前で食事を続けるエージ。彼の話を聞いてセオリは怖くなった。彼女の見ていたアンナとアインは、誘拐犯と被害者等ではない。アインはアンナを信頼し、アインは時に母のような情を彼女に向けていた。そんな二人が偽りなら、セオリは人を信じられない。

 

「アンナは、誘拐なんてする人間じゃない。其はハットンだって知って」

「あぁ、親衛隊隊長ハットン・ド・ザルツさんは、姉上誘拐の重要参考人だけど俺が余所見をした隙に逃げてた。彼はアンナ・ヘルシングと共謀した可能性があるから捕まえたかったんだけど」

「親衛隊隊長? 重要参考人?」

 

 次々に語られるユース団の過去。アインが姫でアンナがメイド、ハットンは親衛隊隊長。想像をもしていない肩書きに唖然とする。

 

「アンナは?」

「地下牢に入ってもらっている。本来は即死刑になるところだけど、姉上が泣きながら止めてくるから……今は拘留だけ」

「アインに合わせて貰えるの?」

 

 セオリが立ったまま、エージを見下ろす。彼は特に気にした様子もなく首を横に振る。

 

「今は会わせられない。さて、セオリさんに聞いておきたい事があるんだ」

「な、なに」

急に態度が変わった彼にセオリが距離をとる。距離をとると言っても少し下がるだけだが。

 

「あなたとオウドライガーの力をミロード、敷いては世界のために使いませんか?」

「はぁ?」

「この国は、300年前に世界を救った俺の先祖が、周りの人間に持ち上げられて作られた国。

御神体のムラサメライガーを祀り崇めてきたんだ。そして、今のご時世第二のディガルド武国といえるシュセイン帝国が悪政を敷き、我がミロードは本懐を果たすべく立ち上がったんだ」

「本懐?」

「英雄の子孫である僕らが、再び帝国を打ち倒し、世界を救う。ミロード公国は、新たな伝説を築こうとしている。俺は一族でご先祖様以来初めてムラサメライガーに選ばれたから、いつも帝国と戦ってる。

そして、この戦争の重要点である古代兵器帝王と呼ばれたゾイド達の一機であるオウドライガーを戦力に加えたいんだ。

 英雄の子孫の俺とムラサメライガー、そして、帝王オウドライガーと君が居れば帝国なんか相手じゃない、他の全ての国々の戦争だって蹴散らして世界中に再び英雄が誕生したことを知らしめ、二度と自分勝手な国を出さないようにする」

 

 セオリは、寒気を感じた。彼の言うことは、正しくも聞こえる。だが、なにか気持ち悪いのだ。生理的に嫌悪感を感じる正論。そんな気がした。

 

「戦争に利用するってこと?」

「平和のため、敷いては全ての国々の人に理解させるためだよ」

「それって独裁になるんじゃないのか」

「……今現在世界には、帝国と言う悪がいる。それを倒した正義こそが秩序になるんだ。他の国々も感謝し、ミロード公国の傘下に入るだろう。そして、皆を導き正せば平和は遠くない」

「もし、逆らったりお前の理想に共感できない奴がいたら? 私みたいに」

 

 セオリが疑問と挑発を混ぜて言うと彼はクツクツと笑い、セオリを優しい目で見てこう言った。

 

「手荒な事は嫌なんだ。本来オウドライガーだけでもいいんだが、ムラサメライガーと同じく君だけしか乗れないゾイドなんだね。

 姉上の友達だし、君の考えが変わって手を貸してくれるなら言って欲しい。今は俺の理想を理解できてないだけなんだよ、時間はあるからもう一度考えてみて欲しい。

一つ結論を言うね。帝王を他国や帝国に渡すつもりはない、全てミロード公国の所有物とし平和の礎として使わせて貰う」

「お前、英雄の子孫って肩書きに、人生観も人格も歪められてるだけじゃないか! アインがお前を怖がる理由やアンナが言っていたことがわかったよ」

「へぇ」

「お前だけじゃない、この国の人間は過去の栄光と指名に酔ってる……そして、強迫観念に苛まれてる。

 この国に協力はできない。帝王は戦争に使わせる訳には行かない、仮に戦争に参加しても其は守るためだけだ」

 

 セオリがエージ、強いて言えばミロード公国を拒絶すると彼は手を叩きドアの外に控えていた兵士を呼ぶ。

 

「しばらく牢に」

「畏まりました」

「は、放せ」

 

大柄の兵士に羽交い締めにされたセオリが抵抗するが、頭が傷み力が入らない。

 

「そうだ、もう一つ教えておくね。オウドライガーの過去をミロード公国は知っている。あれは、数千年前に世界を滅ぼそうとしたゾイドだ」

「何だって?」

「隣の海にある海底神殿の文献に残ってたのさ。星崩し女王と呼ばれたオウドライガーの所有者が神々の怒りを引き起こした。そして、暴走するオウドライガーに致命傷を与え、最後は獅子皇の神殿に封印したのが、星崩しの女王の弟とムラサメライガーなのさ。だから、オウドライガーじゃムラサメライガーに勝つことはできない。無駄な抵抗をするならムラサメライガーが再びオウドライガーを封印する」

「やってみろ! 私は二度とお前なんかに負けない!」 

 

 その言葉を残し、エージの呼んだ兵士に連行される。連行されるがまま、地下牢に入れられる。ガシャンと金属製の鉄格子を閉められ、牢に閉じ込められる。

 牢屋の中は、広めだが石畳みの上でひんやりとしており木製の簡易ベッドの上に薄い毛布がかけられ、灯りは蝋燭と天窓から入る光のみだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーそして、現在に至るのだった。

 

「うーん、此処を脱出してもオウドライガーに乗り込めるかな?」

 

 牢屋でポツンと立つセオリの問いに応える者はいなかった。……事も無かった。

 

「無理だね。仮に牢を抜けられてもオウドライガーは、ミロード城の保管庫に厳重に保管されてるよ」

「うきゃ!」

 

 誰も居ないと思っていた牢屋で、別の声が聞こえ悲鳴を上げる。右側から声がして、そちらを向くと蝋燭の僅かな光だがアンナらしき女性が居た。

 

「け、怪我してるのか? あいつら、抵抗できない女に」

 

隣の檻で手足に枷をつけられ、頬から血を流しているアンナ。傷は深くないが殴られたのだろう唇が切れている。

 

「アインを、お嬢様を苦そうとしたんだけど捕まってね……あたい達の事、聞いたんだろ?」

 

「うん」

「王子の言ったら事は本当さ。あたいがお嬢様を誘拐し外の世界に連れ出した」

「何で、そんなことに?」

 

セオリの問にアンナは、苦笑する。だが、彼女の口から答える気はなさそうだった。

 

「説明。私が答えるであります」

「ア、アイン」

「成功。上手い具合に抜けだしたであります」

「お、アイン譲様、言ってはいけんません。セオリに、この国の事情に巻き込んでは……」

「いや、もう手遅れだし」

 

 突然、地下牢の扉を開けて入って来たのは、忍者装束を脱ぎドレスを纏ったアインだった。いつもと違い表情に影があり、目元は赤く腫れている。

 

「ですが、セオリはまだ王子に協力的なフリをすれば助かるんです」

「拒否。駄目であります! 兄上や重鎮たちは、セオリちゃんを利用する事しか考えていない……。セオリちゃんには全て知る権利があるであります」

「ですが」

「アンナを勘違いさせたまま、誤解を解かないなんて嫌です。それに弱気なアンナなんて……嫌です」

「……話を聞くにしても、先に脱出しないといけない」

 

セオリが両手で檻をガシャガシャと揺らす。それを見たアインは、裾から鍵を取り出す。

 

「内緒。セオリちゃんを説得する名目で、警備室からくすねたであります。それに今脱出してもどうにもならない」

「私達の相棒が捕まったままだもんな。保管庫って厳重なの?」

「肯定。並大抵の攻撃では無傷であります。好機を待つことをお勧めするであります」

「好機って……」

「信頼。私達には、ハットンが居るであります。彼は逃げたのではないです、必ず戻って来てくれます。ハットンが来るまでの辛抱でありますよ」

 

ニッコリとセオリを励ましながら、アインは話始めた。このミロード公国で起こっていること、これから起こるであろう未来の話を。

 



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英雄の闇

6年前ーーーーー

 

 大昔にディガルド武国の暴君ジーンを妥当したとしてアインの先祖ルージ・ファミロンが英雄となった。彼の仲間達と敵であったもの達ですら手を組み平和と自由を求め戦った。

 

 先祖は、戦いが終わると現ミロード公国の象徴である壊れたジェネレイターにミロードの守り神であるムラサメライガーを封印した。

 

 そこで、全てが終る筈だった。だがしかし、先祖や仲間達の冒険や功績を称え、募ってくる人々が大勢ミロード村に集まった。

 彼らは先祖達を英雄と崇め、世界に広めていった。信者達の数が増え続けたところで、ミロードは一つの国と同等の力を得た。

 国とは人であり、人が集まれば国ができるのだ。信者達は、英雄となった先祖を初代の王に担ぎ上げ 、正式なミロード公国としてミロード村を生まれ変わらせた。

 

 ミロード公国の誕生理念は、ディガルドのジーンのような政治や侵略を許さない平和を求めるものだった。当初は、ミロード公国が存在するだけで牽制になり、抑止力となっていた。

 

 初代の王は、正直国王の地位は望んでいなかった。ただ、自分達を信頼し期待を向けられる事を拒めなかった。それでも戦争を生き抜き、世界の本質を理解していた王の統治は上手く行き、ミロード公国は大きな国になった。

 

 だが、二代目ミロード王に代が変わってから、ミロード公国は激変した。王達は、産まれたときから周囲に先祖の英雄談を聞き育っていった。

 大きな期待と新たな英雄の誕生だと周囲は、持ち上げるが、国民はルージ・ファミロンのような英雄を望んだのだ。

 過去の華々しい伝説を愛し継承した国民は、ミロード王とは英雄であると決めつけたのだ。此処から国は歪んでいく。

 全ての王は、国民の願いの象徴でしかなかった。英雄の子は英雄でなければならぬ、その固定観念が王達を押し潰す期待となった。

 特に戦争もない治世で、英雄に成ろうとすれば戦争に介入するしかない。平和を謡う国家が積極的に戦争に赴き、敵を討ち取った。

 

 そのテロまがいの活躍をミロードの国民性は、自分達に聞えの良いように改変した 。そこで、加速していった英雄像の継承こそ悪政と言えた。此れによりミロード公国周辺諸国から謙遜される事となる。

 唯一の救いは、ミロード公国の守護神となったムラサメライガーを誰も動かせなかったことだ。

 

 もし、ムラサメライガーが歴代王達に応えていれば、その力とムラサメライガーを操る者こそが正義という馬鹿げた価値観が暴走し新たなディガルドとなっていたことだろう。

 

 そんな敬意のある国。その悪しき風習を受け継いできたミロード公国に好機が訪れた。

 

 シュセイン帝国がディガルド武国のような大侵攻を始めたのだ。此れに対抗する共和国もあったが、周辺諸国の頼ったのはミロード公国だ。平和を乱すシュセイン帝国は、まさに英雄の一族が戦うべき敵。

 

 周辺諸国から謙遜され、自分達の信仰を受け入れられなかった長き期間の鬱憤が爆発し、ミロード公国は瞬く間に権威を取り戻した。シュセイン帝国と戦うのは使命を負った自分達であり、他の反帝国国家はミロード公国に支援と忠誠を誓えば勝利を導くと公布した。

 

 更に悪いことに、現王子で先祖の生まれ変わりと言われるエージ・ファミロンがムラサメライガーに選ばれたのだ。

 其はもうお祭り騒ぎで、戦争を行う前から勝利宣言をしていた。

 

 だが、ムラサメライガーこそ最強だと考える国家の前に、英雄の象徴すら凌駕しかねないゾイドが居る事実が判明した。

 シュセイン帝国の基地を一撃で葬った帝王のゾイドである。その存在が明るみに出て8年。世界は帝王のゾイドを求め、探し回った。ミロード公国も幾つか遺跡を見つけ、ムラサメライガーこそが帝王を封じる存在だと知り、図々しく他国家に広めた。

 

 だが、帝王を手に入れムラサメライガーと組ませれば、天下無敵と考えた議会は、帝王の捜索も続けた。

 

 其処で利用されたのが……現国王と第二妃の娘であるアインスフィア・ファミロンであった。身体の弱い母から産まれたアインは、幼少から肌で気配を感じとる事に優れていた。

 ゾイドの敵意や悪意、人の考えから痛み。有りとあらゆる信号を肌で感じる王女は、古代遺跡を探す事にも特化していた。特殊な気配漂う遺跡を見つけ、良ければ帝王すら探し当てる事の出来る彼女を利用しない手はない。

 

 物心つく前から、軍事利用されたアインの共感覚は、確実に彼女の心を蝕んだ。激痛やゾイドの破損すら感知してしまう幼子は、日に日に弱っていった。

 

 彼女の母が、泣きながら娘を助けて欲しいと周囲に言うが、国民の指示は得られなかった。中には、特殊な能力のあるアインこそが真の英雄では? と男の英雄を求め、英雄は一人でいい市民から恨まれることもあった。

 

 そんな中、アインの実母が病気と心労から亡くなった。味方の居なくなったアイン当時10才、彼女を救ったのはハットンとアンナだった。

 

 当時アイアンロックの小さな集落で唯一の生き残りであるアンナ。アインの実母は、アンナの命の恩人であり、全てだった。実母の遺言「娘を助けて」を聞いた彼女は、実母が死去した当日にアインを誘拐した。

暗殺術や隠密の技術を持つアンナは、軽く警備を抜けて王宮の外に出て、愛機のディバイソンで逃げた。

 其処で王族親衛隊隊長のハットン・ド・ザルツに見つかり 、交戦するがアンナの意思と慕っていた第二妃の遺言、そして彼女の忘れ形見であるアインの衰弱を見て、彼はミロード公国を一緒に裏切った。

 

 王国軍のエースと専属侍女の裏切りによる誘拐。国中が騒いだが、アンナ達は、逃げ延びた。別の国で身分を偽り名を変えながら、アインを守り育てた。

 

 逃げる先で、孤児院の司祭の世話になり、彼に実の祖父のような愛情を与えられ、心が回復するアイン。

 彼に電磁波を遮断する衣服を与えられたアインは、ストレスが減少 。更にアンナの変装術を学んだ事から、顔布をつけると性格が変化、ハットンにゾイドの操縦を教わり成長したのだ。

アンナ達は、フリーのゾイド乗りを営みながら、王女を支えた。

そこからは、セオリと出会うまで仕事をしながら過ごしていた。追手に怯えながらも。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「以上。これが全てであります」

 

実は、アインの昔話は、四日間に渡って語られた。毎日面会として一時間ずつしか会えない故に、時間がかかったのだ。だが、時間稼ぎは十分に出来た。アインの話を聞かないときは、必死にエージを打倒する策を考えていた。

 

「この国、何処かおかしいと思ったけど、理由がハッキリしたね……それにアンナは悪人なんかじゃない。部外者の私だから言える、私もアンナと同じことをする」

「セオリ、あんた」

 

 残るは、ハットンが好機とやらを導いてくれるのを待つだけだった。実質、セオリの隣で鎖に繋がれているアンナは、体力の限界が近い。

 すると、檻に何やら地響きのような振動が伝わり水差しの水が揺れる。

 

「いいタイミングだね。セオリ、檻から逃げな」

 

 調度夜になり、脱走にもってこいの時間帯。何やら外で、聞き覚えないゾイドの雄叫びと爆音が聞こえる。

 

 急いで逃げようと、アインが鍵を牢に差し込み、セオリの檻を開けた。漸く檻から解放されたセオリが身体を伸ばす。

 

「さて、とりあえずオウドライガーを回収しなきゃ」

「何故! なぜアンナの牢だけ開かないでありますか‼」

「あたいの事は、放っておいて逃げなさい。直に衛兵が来る。捕まる前に逃げ、え?」

 

 牢で縛られたまま、アンナは二人に逃げろといった。自分の牢の鍵は、特別製で近衛隊長以外鍵を持っていないことを知っていたのだ。

 

 もう諦め自分の未来よりも、セオリとアインが無事に逃げることを選び覚悟を決めていた。

 だが、突然セオリの起こした行動に呆気にとられる。

 

「うぬ」

 

 セオリは、その細い両腕で鉄格子を掴むと、力任せに鉄格子を曲げだした。全身に力を入れながらギギギと鉄格子を粘土のように曲げ終えたセオリが中に入ってくる。

 

「なんだい、その馬鹿力」

「生まれつき怪力なんだよね実は。自分をおいて逃げろとか、格好つけてんじゃない。えいや!」

 

セオリがアンナに歩みより、彼女の手枷と足枷を握力で無理やり抉じ開け、縄をほどいた。

拘束から解放されたアンナが茫然とするが、セオリが彼女の手を持って立たせる。

 

「いくよ。私一人じゃアインは、守れない。アンナが守ってあげなよ」

 

 そう言って先に地下牢を飛び出したセオリ。階段の上で「ぐえ」という蛙が潰れたような声が聞こえた。

「脱出。逃げるでありますよ……この国と決別するために」

「……仕方ないね」

 

ドレスを翻し、颯爽とセオリを追いかけたアインをアンナも追っていく。

 

 



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