この素晴らしい理想の世界を掴み取るために (クロウド、)
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プロローグ

最初は和真をタイクーンにするつもりでした上景和さんがあまりにも魅力的だったので、まぁ彼にもライダーになってもらうつもりですが


「ようこそ死後の世界へ、櫻井景和さん」

 

 スーツ姿の青年、櫻井景和が目を覚ましたのは真っ黒な空間。しかし、暗いというわけではなくほのかに明るく感じる、そして、そんな異質な空間で目を引くのは彼の目の前に立つ一人の少女。

 汚れのない綺麗な銀髪と異様に整った顔立ちの修道服のような服を纏った少女目の前にいた。

 

「あの、死後の世界って……。」

「……誠にお伝えしづらいのですが、貴方は暴走したトラックから男の子を庇って亡くなられたのです」

 

 言い淀んだ少女の言葉に景和は自分の身に何があったのか思い出した。

 

「そっか、俺仕事に行く途中で……。」

 

 就職浪人だった景和は知り合いのうどん屋さんに弟子として拾ってもらいそこで働いていた。昨年結婚した姉に心配されながらも真面目に働いていた矢先に暴走したトラックから少年を庇って……。

 

「あの、俺が助けた男の子って……。」

「はい。貴方のお陰で傷ひとつありません」

「そっか……よかったぁ〜〜〜〜!!」

 

 心からの安堵の声を漏らしながらへたりこむ青年。そこには、自分の死への落胆でもトラックの運転手への恨みでもなくただ少年が無事であったことへの安心だけだった。

 その姿を銀髪の少女は真剣な眼差しを向ける。

 

(やはり、彼のような人間なら)

 

「それで、ここは……死後の世界って言ってたけど。じゃ、もしかして君は……天使?」

「当たらずとも遠からずといったところでしょうか。私の名はエリス、地球とは違う世界で女神と呼ばれている存在です」

「め、女神様……!?」

 

 天の使いかと思いきや、本物の神の存在に慌てて立ち上がりピンと背筋を伸ばす景和。

 

「私達は地球で亡くなった方の魂に新たな道を示すのが役目なのですが。今回は私の個人的な理由で貴方をここへお呼びしました」

「個人的な理由……?」

 

 女神が一般人である自分になんのようだろうと首を傾げるが、そんなことは無視してエリスは一つの箱を目の前に差し出す。

 それは黄色いビックリマークの描かれた箱で、エリスはその蓋をスライドして中身を見せる。

 

 ―――そこには中心に穴のあいたバックルのようなものと、そこにぴったりはまるような形状の緑色のパーツがあり、そこには狸のようなシンボルが刻まれていた。

 

「その理由は……この緑のIDコアに触れていただいたあとにお話させていただきます」

「なんですか、これ……?」

「これが何なのかも触れていただければ」

 

 景和はエリスに促され、IDコアと呼ばれるクリアグリーンのパーツに恐る恐る触れてみる。

 

「ッ!!!?」

 

 ―――瞬間、IDコアがスパークし櫻井景和の脳裏に失われていた記憶が蘇る。

 

『貴方達は何なんですか!?』

『おめでとうございます、厳正なる審査の結果貴方は選ばれました! 今日から貴方は仮面ライダーです!』

『息子を……助けたいんだ……!』

『気持ちだけでなんとかなるってホントに思ってるの?』

『賭けてみるか、僅かなチャンスに』

『お前らルーキーはまだわかってないんだよ。理想の世界を叶えられるのが一人だけっていうのがどういうことなのか』

『どんな手を使っても勝たなければ意味はない』

『世界は守る、理想の世界を叶えるついでにな』

『お前自身の心が奇跡を起こしたんだ』

『死を覚悟するな。必ず勝抜けると信じろ!』

『こんな俺でもやれることがあるって信じたいんだ!』

 

 指先から流れてきた激流のような記憶の波に景和は一歩反射的に一歩退く。

 

「思い出されましたか?」

「ッ……そうだった、俺。仮面ライダーだったんだ」

 

 この瞬間、櫻井景和は自分が仮面ライダータイクーンとして、デザイアグランプリに参加していたこと、浮世英寿、吾妻道長、鞍馬祢音らとともにデザイアグランプリの実態を暴き全てを終わらせたことを思い出した。

 

「でも、なんでこれが……。もうデザグラは起きないはずじゃ」

「えぇ、貴方方の活躍のお陰でデザイアグランプリが開催されることはもうないでしょう。それは、我々がデザイアグランプリの情報を元に作ったほぼオリジナルと変わらないレプリカです」

 

 再び触れることはないと思っていたデザイアドライバーがやけに手に馴染む。レプリカと言っても本物とは変わらないというのは本当なのだりう。

 

「神様ってすごいですね、デザグラのことも知ってるなんて……。」

「いえ、私達天界の住民は死者の魂を導くことはできても正しい人々の行いを手助けすることはできない。ただ見ていることしかだけの存在ですので

 さて、そろそろ本題に入りましょう。どうぞおかけください」

 

 エリスはいつの間にか後ろに現れていた机と椅子を示して、座るように促した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「おっ、俺をエリス様の使徒に!?」

「はい。お願いできないできないでしょうか?」

 

 景和がエリスから聞いた話を要約するとこうだった。

 

 なんでもエリスが信仰されている世界では魔王という存在が人々を苦しめているらしい。

 その対策として天界では地球で若くして死んだものの魂に特典という力を与えて転生させ、魔王軍に対抗していたがその彼らも次々と破れさり新たな対抗手段を探していた。

 

 そんな中、エリスが目をつけたのが景和がいた世界で行われていたデザイアグランプリ。参加者の殆どが一般人であるにも関わらず己の願いのために戦い、その実力はエリスの管理する世界ですら生きていけると思わせた。

 そして、偶然……いや、もはや運命と言っていいタイミングで事故死した男が、デザイアグランプリで数々の激闘を繰り広げた四人のライダーの一人だというのだからエリスとしては何が何でも彼に転生の道を選んでもらいたい。そのために用意されたのが彼女の使徒という立場だ。

 なによりエリスにはもう一つ彼に転生を選んでもらいたい理由があった。それは景和の人柄だ。

 

「貴方は自分の願いを叶えるための戦いにおいて、最も他人のために力を尽くしたライダーでもあったからです」

「そんな大層なものじゃなかった気がするけど……。」

「いいえ、そんなことはありません。実際、貴方はどのゲームでも誰よりも先に一般人を守っていました」

「それは、俺にはそれしかできなかったからってだけで……。」

 

 エリスの言う通りタイクーンとして戦っていた景和は他のライダー達がスコアのためにジャマトを倒す中、一般人の救出を優先していた。

 だが、自分にあまり自信のない景和はエリスの称賛を苦笑いで返すことしかできない。

 

「自分を卑下しないでください。私は貴方は十分称賛される価値のある人物だと思っています」

「………………。」

「もしここに浮世英寿さんや吾妻道長さん、鞍馬祢音さんがいたとしても、私は貴方にこの使命を託したいのです」

 

 エリスは再びデザイアドライバーとタイクーンのIDコアの入ったボックスを差し出す。

 

「この世界の平和のためにもう一度戦っていただけませんか?」

「………………。」

 

 差し出されたボックスを景和は手に取る。

 

「俺、仲間に人がいいのだけが取り柄だって言われたことがあるんです」

 

 デザイアグランプリではその損な性格のせいで騙されたり、戦いの運命を決めるレイズバックルを奪われるなど散々な目にもあった。

 勿論、そのことについて仲間(本人達がそう思っていたかは定かではない)にも散々言われた。

 だが、その性格のお陰で戦い抜くことができたことを今の景和はしっている。

 

「ただ、その時の彼等の顔が馬鹿にしてるっていうよりも……なんていうかこう、自分でもよくわからないんですけど認めてくれてる感じがしたんですよね……。」

 

 景和の脳裏にデザイアグランプリでともに戦い、時に競い合った仲間の姿が浮かぶ。

 

 ―――時に自分を騙し、デザイアグランプリと現実の厳しさを教え、それでも諦めないことが重要なのだと伝えてくれた浮世英寿。

 

 ―――ぶっきらぼうでありながら、なんだかんだで自分のことを見ていてくれた吾妻道長。

 

 ―――同じルーキーという立場からか、お互いをフォローしたことが少なくない鞍馬祢音。

 

 三人共、レアアイテムである【ブーストバックル】を戸惑いなく譲ったり、ジャマトに対して自ら囮を買って出る景和に対して『お人好しも程々にしておけよ』という顔をしていたことは結構ある、だが、その表情に一度とて侮蔑の色があったことはなかった。

 

「自惚れかもしれないけど、彼等が認めてくれた俺を貶すようなことをしたくないんです。

 だから……。」

 

 ―――ボックスから取り出したデザイアドライバーを腰に装着し、カチリとドライバーの中心へタイクーンのIDコアを嵌め込む。

 

【Entry!】

 

「俺、もう一度やってみます仮面ライダー。世界の平和ってやつのために」




景和君がお姉さんのことを言わないのは結婚したという設定にしたので一人ではないということにしました。


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原作キャラ変身 ギーツ編

とりあえず概ねの構成はこんな感じですかね


『聞こえているかな、佐藤和真君?』

「誰だ、アンタ? なんで俺の名前を」

 

 いつの間にか変形して近づいてきていたスパイダーフォンから聞こえてきた、変声器かなにかで手を加えられた声に訝しみながらカズマは応答する。

 

『ゲームマスター、といえばわかるかな?』

「ッ!? 景和さんのクライアントってことか?」

 

 いつか景和が言っていた、魔王軍への対策として自分を転生させた存在。本人の希望でその正体は景和の口からは語られることはなかったが、アクアは自分の同僚の誰かと予想していたが景和とデザイアグランプリに興味を示していた神は一人や二人ではないので絞り込むことはできないと聞かされていた。

 

「で、そのアンタが俺に一体なんのようだ。悪いがこっちは……!」

『私なら、君に仮面ライダーの力を与えることができる』

「ッ!?」

 

 ゲームマスターの発言にカズマとその近くで話を聞いていたアクア達は目を見開く。

 

『条件を飲めば、君に仮面ライダーになるための権利、エントリー権を与えよう』

「何だッ!? 俺に支払えるものなら何でも払う!」

『では、君がこの世界に持ち込んだ特典に値するもの、それが条件だ』

「ならっ! 私が天界に帰れば解決じゃない! カズマも新しい力が手に入ってお互いウィン・ウィンってやつ!」

『残念ながら、それはできない』

「あんでよぉ!」

 

 アクアがゲームマスターの条件に意気揚々と答えるがそれは一瞬のもとに否定された。

 

『君は彼に対し、特典と言えるほどの利益をもたらしていない為に不許可だ』

「あんですって、アンタ、何者よ!? あたしが天界に帰ったら承知しないわよ!?」

『―――これ以上くだらない話をするならば、この提案はここまでだ』

「ダクネス、そいつを黙らせろ!」

「承知した!」

「むっ、むぐぐぐ!!」

 

 カズマの一声でダクネスはスパイダーフォンに罵声を浴びせるをアクアを引っ剥がし、その口を無理やり塞ぐ。それを見届けるとカズマは再びスパイダーフォンに向き直る。

 

「なら、何を支払えばいい!?」

『―――君がこの世界に来てから手に入れたスキル、魔法、そして、経験値の全てなら許可を出そう』

「「「なぁっ!!?」」」

『無論、仮面ライダーになれば職業は仮面ライダーに固定されて二度とそのスキルや魔法も習得できなくなる』

 

 ゲームマスターの口から出た代償にカズマのパーティメンバーは驚愕の声を上げる。

 

「なっ、何を言っているんですか!? 冒険者にとって培ってきた経験値とスキルや魔法は命の次に大事なものです! それを全て支払えと言うのですか!?」

「その通りだ、いくら仮面ライダーの力のためとはいえ、それはあまりに暴利がすぎる! それに、カズマは【冒険者】だ。ただでさえ得られる経験値が少ない中、必死に集めた経験値なんだぞ、それを……!」

「そうよ! ヒキニートのカズマさんなりに頑張った証なんだから、もうちょっとサービスしてくれても……。」

「お前らは黙ってろ!!!」

「「「っ!!!?」」」

 

 めぐみん、ダクネス、アクアという順にゲームマスターに抗議の言葉を投げかけるが、それは代償を迫られた本人であるカズマが黙らせる。

 

「―――わかった、持ってけよ。俺のスキルも魔法も経験値も、全部」

「ちょっと、カズマ!」

『本当に、いいんだな……?』

「ああ、どうせ最弱職の【冒険者】がコツコツためたポイントで手に入れたなけなしのスキルやら魔法だ。教えてくれた皆には申し訳ないけど、それで景和さんの力になれるなら安いもんだ」

 

 ゲームマスターからの最後の忠告にカズマは一切の戸惑いも躊躇もなく、言い放った。

 そして、今もベルディアと一人で戦う景和を、タイクーンを見つめると覚悟のこもった声音で「それに」とつけ答えてゲームマスターに答える。

 

「俺にもできることがあるって言ってくれたあの人を見捨てるようなことをしたら、もっと大事なもんを無くしちまう気がするんだよ……!」

「カズマ……わかりました、そこまでの覚悟があるなら私はもう何も言いません」

「……私もこれ以上言えることはなさそうだな」

『―――いいだろう、君がこの世界に来た地点に君のドライバーと変身するためのバックルを移送する』

「どうせならここに転送しなさいよ!」

「うっせぇぞ、アクア! わかった、今から向かう!」

 

 和真はゲームマスターの指示に文句を垂れるアクアをガチギレ気味で怒鳴りつけて黙らせると、ダクネスの方を向く。

 

「わかってる、今彼と共に戦えるのは盾役だとしても私しかいないということだろう?」

「……頼めるか?」

「任せろ。寧ろあのデュラハンの猛攻を受けられるなんて……くぅぅぅ……望むところだ!」

 

 仲間に時間稼ぎをしろというのはダクネスの防御力を知っていても辛い、だが、それを察したダクネスは和真が負い目を感じないようにいつもの姿勢を貫いてくれた。

 

「……まさか、お前のその性格に感謝する日が来るとはな。

 ―――すぐに戻る……!」

 

 和真は門の方向に身を翻して街の中に走っていく。

 街中はギルドの警報によって住民達は避難したようで、人っ子一人いない。

 

「ハァッ……ハァッ……! あ、あった!」

 

 しばらく街の中を全力疾走した末に道のど真ん中に二つのボックスがポツンと落ちていた。

 一つはビックリマークのついた中身の決まっている黄色い【ビックリミッションボックス】、もう一つはハテナマークのついた中身が開けるまでわからない桃色の【ハテナミッションボックス】。

 

 まずはビックリミッションボックスを拾い上げると、スライド式の蓋を投げ捨てる程勢いよく開くと、中には当然のようにデザイアドライバーと白いクリアパーツに赤い狐が描かれたIDコアが収納されていた。

 

「狐……これって景和さんが話してたギーツってライダーのIDコアなのか?」

 

 息を切らしながら、IDコアに触れる。

 

 ―――瞬間、和真の脳裏に覚えのない記憶が流れ込んでくる。

 

『面白そうだから、化けて出てきてやったぜ』

『こんな世界は忘れるに限る』

『さぁ、ここからがハイライトだ』

『盛大に打ち上げた!』

『この言葉を君は信じるか?』

 

 流れ込んできたのは本来の【仮面ライダーギーツ】の、浮世英寿の記憶。この間まで、覚悟も何も持たなかったただの小僧でしかなかった自分にはあまりにも縁がないほど鮮烈な記憶。

 

「ッ……! なるほどな、元々の持ち主以外が触れるとこうなるのかよ!

 上等だよ、やってやろうじゃねぇか!」

 

 だが、それでも景和という憧れを見つけ彼のように変わると誓った今、逆にそれは彼の覚悟を後押しするものとなった。

 カズマは素早く、IDコアをデザイアドライバー中央のソケット、【パーフェクトコアー】にセットするとボックスから取り出したドライバーを腰にあて、ベルトとして装着する。

 続いて、もう一つのハテナミッションボックスを手に取る。中には変身に必要な、レイズバックルが入っているはずだ。

 

(確か、いいバックルが手に入るかは運次第って景和さんが言ってたな。)

 

「いいバックルよ、来いっ!」と願いながらボックスの蓋をスライドする。

 しかし、和真の願いとは裏腹にそこにあったのは水色の蛇口のひねりのような形状をした小さなバックルだった。

 そのバックルはギーツの記憶の中で吾妻道長にハズレと評されるバックルである【ウォーターレイズバックル】だった。

 

「ウォーターバックルか……。マグナムあたりがよかったが、しょうがねぇか……!」

 

『どんなときでも自分の力を信じ、諦めない人にしか、運命は微笑んではくれないんだ』

 

「そうですよね、景和さん……!」

 

 どう見てもハズレのバックルに落胆の様子のカズマだったが、悲観する彼の脳裏にいつか景和が自分に言ってくれた言葉を思い返す。

 ウォーターバックルを強く握りしめて、急いでタイクーンが戦っている街の外へと戻ろうとしたとき、意外な存在が彼の前に立ち塞がった。

 カズマの行く道を遮るように現れたのはオレンジ色の熊のような動物をモチーフにした大きな頭の仮面ライダー、【仮面ライダーパンクジャック】。

 

「なっ、パンクジャックだと……!? 晴屋ウィン、なわけないよな。誰だ、お前?」

 

 自分や景和の他にドライバーを持っている謎の仮面ライダーに反射的にさっき手に入れたバックルを構え警戒の姿勢を取るカズマだったが、その仮面ライダーは腰のホルダーから赤いハンドルのようなレイズバックルを取り外し、カズマに差し出した。

 それは【ブーストレイズバックル】。同時に使っているバックルや、身体能力を強化する謂わばワイルドカードのような存在。戦いにおいて切り札になりうる力があるバックルだった。

 

「…………。」

「まさか……くれるのか?」

 

 まさかと思ったカズマの質問にパンクジャックはコクコクと小刻みに首を縦に振り肯定を示す。

 

「助かる……!」

 

 パンクジャックからバックルを受け取ると、その脇をすり抜けて再びベルディアと戦っているタイクーンの元へと走り出していった。

 彼の正体は気になったが、今は一刻の猶予もない。敵でないことさえ分かればそれだけでいい。

 

「―――全く、一人三役も楽じゃないね。いや、パンクジャックも合わせたら四役か」

 

 カズマの姿が見えなくなるのを確認してから、言葉を放った仮面ライダーパンクジャックは腰のドライバーを外し、変身を解除する。

 

「アタシが行ってもいいけど、相手は魔王軍の幹部だし……変身解除されたら折角のお芝居がパーになっちゃうからなぁ〜。」

 

 そこにいたのは銀髪の少女。盗賊職らしい軽装の彼女は、覚悟を決めた一人の少年が走り去っていったほうを細めた瞳で見つめる。

 

「頑張りなよ、カズマくん。アタシから教わった盗賊スキルを捨ててまでその道を選んだんだから。アタシの分のバックルは餞別だよ」

 

 パンクジャックからブーストバックルを託されたカズマは走りながら、己の今までを振り返っていた。

 

(俺は弱い……!)

 

 ―――アクアのような絶対的な回復の力も。

 ―――めぐみんのような強力な一撃も。

 ―――ダクネスの絶対的な防御力もありはしない。

 

 そんなことはとっくにわかってた。開き直って情けなさを誤魔化していた。

 どうせ変わることなんてできやしないって、逃げ続けていた情けない自分から目をそらして続けていた。

 そんなカズマに希望をくれた、目標をくれた。自分と同じ凡人でありながら、世界を救うまで変わってみせたあの人が「君にもできることがある」と言ってくれた。

 誰が見ても情けない死に様を、彼は決して笑わなかった。

 

(だから、俺もあの人のようになりたいって思えた……!)

 

 世界を救うなんてだいそれたことができるなんて思ってはいない。それでも……。

 

(俺は、俺が信じたあの人の言葉の正しさを証明する……! 俺にもできると信じぬいてみせる!)




景和さん、カズマの死んだ理由についてアクアがネタにしたらブチギレるのおもうんすよ。


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