ドラえもん のび太のバイオハザード ススキヶ原のオルフェンズ  (宇宙戦争)
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本作設定

◇登場人物 

 

野比 のび太 10歳(第一章)

 

本作の主人公。数々の大冒険を潜り抜けてきた少年。しかし、ひょんなことから日向穂島のバイオハザードに巻き込まれる。運動も勉強もダメだが、ここぞという時に機転がきく。性格は臆病だが、ここぞという時にはやる男。特技は射的と綾取りで、特に前者はプロの殺し屋と一対一でやり合っても勝つことが出来るレベル。

 

ドラえもん 

 

22世紀からやって来た猫型ロボット。のび太の唯一無二の親友。過去改変は本来違法である筈なのだが、何故かセワシによって送り込まれた。普段ならば、あらゆる秘密道具を使って問題を解決するのだが、本編開始時点では道具のほとんどを修理に出していた為にキャンプ用品や極一部の道具を除いた秘密道具が使用不可能になった。

 

剛田 武 11歳(第一章・外伝)

 

のび太のクラスメート。大冒険メンバーの一人。普段は他人に暴行を振るったり、目を付けた物を奪う(本人曰く、永遠に借りるだけ)乱暴者なガキ大将だが、恩義には報いるタイプの人間で、友達が危機に陥っているときは例え喧嘩して絶交同然な状態であっても助ける。戦闘能力は高く、特に近接戦闘能力では咲夜に次ぐ存在。またリーダーシップにも優れている。

 

骨川 スネオ 10歳(第一章・外伝)

 

のび太のクラスメート。大冒険メンバーの一人。骨川財閥の御曹司で本人もそのことと自分の容姿に(必要以上に)誇りを持っているナルシスト。お世辞が上手く普段は強がっているが、本当はメンバーの中では一番の臆病者(逆に言えば、一番の常識人)。戦闘能力はそれなりだが、ハッキング能力やメカ改造などの技術を有している。

 

源 しずか 11歳(第一章・外伝)

 

のび太のクラスメート。大冒険メンバーの一人。メンバーの中で一番心優しく、のび太と同様、その優しさが心を閉ざした人間の心を開かせるときがある。メンバーの中では一番戦闘能力が低いが、同時に一番頭の良いキャラクターだったりする。

 

出木杉 英才 11歳(第一章・外伝)

 

のび太のクラスメート。大冒険メンバーではないが、その(チートじみた)万能さゆえに能力的には大冒険メンバーにも引けを取らない。文武両道で特に頭の良さは優等生であり、大冒険メンバーの中で一番頭の良いしずかに勉強を教えられるほど。戦闘能力も(射撃以外では)のび太を上回るが、一方で大冒険を経験していないために戦闘経験が浅く、不測の事態に弱い。

 

田中 安雄 10歳(第一章・外伝)

 

のび太のクラスメート。大冒険メンバーではないが、彼らと良く絡むことが多い。グレネードランチャーを好んで使うため、グレネード安雄という異名も付けられている。

 

有宮 夏音 11歳(第一章)

 

本作オリジナルキャラであり、本作のヒロインの1人。銀髪に碧眼をした日本人とドイツ人のハーフ(同時に祖母がスウェーデン人な為にスウェーデン人のクォーターでもある)。のび太達とは同い年。母親が貴族ということもあってそれなりの情操教育を施されており、同年代ののび太達と比べて何処か上品な気品がある。優しい性格で戦闘能力はほぼ皆無だが、頭が良く、更にはアンブレラの研究員であった母親からの教育によって、ある程度の医療やハーブの調合などの知識も有している。ちなみに容姿はストライク・ザ・ブラッドの登場人物である叶瀬夏音を幼くした感じ。

 

島田 健太 31歳(第一章)

 

本作オリジナルキャラ。研究者であり、プラーガに興味を持ったことで研究に参加したが、教団に危険な臭いを感じ取って脱退した。のび太と出会った後は彼らのサポートへと回った。

 

桜井 咲夜 12歳(第一章・外伝)

 

のびハザオリジナルキャラであり、本作主人公の一人。武道家の娘であり、幼い頃はアメリカに住んでいた。のび太達よりも1つ年上でメンバーの中では一番近接戦闘能力が高い。

 

緑川 聖奈 11歳(第一章・外伝)

 

のびハザキャラの一人。のび太達が通う○X小学校の生徒会長であり、のび太達よりも1つ年上。咲夜とは親友で、友に助け合ってきた仲。戦闘能力は余り高いとは言えないが、応急処置技能やハーブの調合などの後方支援能力の面で優れている。

 

翁蛾 健治 享年12歳(第一章・外伝)

 

のびハザキャラの一人。のび太達よりも1つ年上で、咲夜達のクラスメート。不良っぽい見た目をしており、そのことから聖奈からはあまり良い印象を抱かれていなかったが、危機的状況下でも年下である太郎の面倒を見るなど、根は良い人間。裏山の旅館にて2体のフローズヴィニルトに上半身と下半身を引きちぎられて死亡した。

 

白峰 享年12歳(第一章・外伝)

 

のびハザキャラの一人。のび太達よりも1つ年上で、咲夜達のクラスメート。根は悪い人間では無いが、周りからの評価は余り高いとは言えず、そのことから優等生である聖奈に嫉妬の感情を向けていた。その後、聖奈との腹を割った会話によって和解しかけるが、直後に落盤によって落ちてきた岩盤から聖奈を庇って死亡した。

 

久下 真二郎 25歳(第一章・外伝)

 

のびハザキャラの一人。あまり優秀な人間とは言えないが、バイオハザードを生き残れるポテンシャルはある。警官になった理由は原作と同じく公務員という職が安定していたから。ススキヶ原でのバイオハザード後は太郎を引き取って戦線から離脱する。

 

前田 享年24歳(第一章・外伝)

 

のびハザキャラの一人で原作IDでは序盤に退場してしまった警官B。この世界では○X小学校迎撃戦時に死亡した。

 

山田 太郎 7歳(第一章・外伝)

 

のびハザキャラの一人。のび太達より4つ年下で、その幼さから戦闘に参加していない。健治に良くなついており、彼が亡くなったときには一時的に自暴自棄になるも、咲夜の言葉を受けて立ち直った。ススキヶ原でのバイオハザード後は久下に引き取られる。

 

◇本作年表

 

西暦1982年5月8日、島田健太誕生。

 

西暦1987年9月27日、久下真二郎誕生。

 

西暦1989年12月22日、前田誕生。

 

西暦2001年5月24日、白峰誕生。

 

同年6月23日、翁蛾健治誕生。

 

同年7月2日、桜井咲夜誕生。

 

同年12月4日、緑川聖奈誕生。

 

西暦2002年4月、出木杉英才誕生。

 

同年5月、源しずか誕生。

 

同年6月15日、剛田武誕生。

 

同年7月21日、有宮夏音誕生。

 

同年8月7日、野比のび太誕生。

 

同年10月8日、田中安雄誕生。

 

西暦2003年2月、骨川スネオ誕生。

 

西暦2006年6月20日、山田太郎誕生。

 

西暦2012年1月3日、ドラえもんがのび太の下へとやって来る。

 

西暦2012年4月~西暦2013年7月24日、ドラえもん劇場版(旧作とリメイクが被っているものはリメイク)

 

西暦2013年7月23日、バイオハザード0。

 

同年同月24日、バイオハザード1。

 

同年同月28日~29日(本編第一章)

 

◇登場用語

 

秘密道具

 

主にフルメタルによって作られた道具を指し、使用方法を間違えなければ様々な(理不尽な)事象を起こすことが出来る。小学生にすぎないのび太達が世界や宇宙規模の危機をなんとかすることが出来たのも、これが有ったお蔭。ただし、大冒険においては大抵の道具が何かしらの理由で役に立たなくなる。

 

洋館事件

 

主にバイオハザード1で語られる物語を表す。正史ではこの事件の生存者達によってアンブレラを始めとした数々のバイオテロ組織を壊滅させている。

 

タイムパトロール

 

未来の時間警察。主に過去を改変しようとする時間犯罪者を逮捕する役割を担っている。しかし、歴史が変わる事象であっても時間犯罪者が関わっていなければ傍観の姿勢を見せており、この方針のお蔭でのび太達は数々の危機を自力で乗り越える羽目になった。



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第一章 The Dawn
地獄の島


◇西暦2013年 7月28日 日本 東京 練馬区 ススキヶ原

 

 日本の東京練馬区──ススキヶ原。

 

 そこは数々の冒険を経験した小学5年生の4人の少年少女と1体の青い猫型ロボットが住んでいる町だ。

 

 そんな彼らは夏休み序盤の3日間、とある無人島でバカンスを過ごし、ススキヶ原の野比家に帰ってきていた。

 

 

「うわぁ~。すっげえ楽しかったぁ」

 

 

「あ~、やっとママに会える」

 

 

「いざ家族の顔を何日もみないとなると、恋しい思いをするものね」

 

 

 ジャイアン、スネオ、しずかは戻ってきて早々、思い思いの言葉を口にする。

 

 彼らもこの家に住むのび太やドラえもんに誘われて3日間のバカンスを楽しんだのだが、やはりどんなに楽しくとも、故郷を離れるというのは若干寂しい思いを感じてしまうのだ。

 

 

「でも、楽しかったよ。ありがとう、ドラえもん」

 

 

 のび太はドラえもんに礼を言う。

 

 今回、無人島でバカンスを楽しめたのは、ドラえもんがどこでもドアやキャンプ道具などを貸してくれたのが大きかったからだ。

 

 彼が居なければ、そもそも無人島に行けたかどうかも分からない。

 

 

「いやいや、お安いご用だよ」

 

 

 ドラえもんはそう言いながら謙遜するが、褒められるのは満更でもないようだった。

 

 しかし、そこでのび太はあることを思い出す。

 

 

「あっ、ドラえもん。悪いんだけど、ちょっと忘れ物しちゃったから。もう一回、どこでもドアを使って良いかな?」

 

 

「うん、構わないよ」

 

 

「まったく、のび太はおっちょこちょいだな」

 

 

 そう言ってスネオはのび太をからかう。

 

 のび太はうるさいなぁと言いながらも、ドアを潜って先程の島へと向かった。

 

 

「じゃあ、俺達は先に帰っているからな」

 

 

「うん、分かった。またね」

 

 

「ああ、またな」

 

 

「じゃあね」

 

 

「お邪魔しました」

 

 

 ジャイアン、スネオ、しずかの3人はそう言いながらのび太の部屋から立ち去っていった。

 

 

「さて、僕もママに報告してくるか」

 

 

 そして、それを見届けたドラえもんもこの家の住人であり、のび太の母親に帰ってきた事を告げるべく、下へと降りていく。

 

 ──だが、この時、彼は気づかなかった。

 

 最初に5人がドアを潜った直後、ドアの空間制御装置の部分が故障してしまったことを。

 

 そして、のび太が先程までバカンスを楽しんでいた島とは全く別の場所に飛ばされてしまったしまい、更にのび太が再び潜った直後、ドアの空間制御装置が完全に破壊されてしまい、どこでもドアは完全に壊れてしまったということも。

 

 ──それによってのび太が地獄の空間へと放り込まれたということを。

 

 ・・・もっとも、そういった現象が無かったにしても、のび太が地獄の空間の放り込まれる事実は変わらなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故なら、この街でも既にバイオハザード生物災害は起きていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇日本 日向穂島

 

 ここは日本の南東に浮かぶ日向穂島。

 

 小規模ながら集落があり、駐在所も存在している小さな島である。

 

 そんな島の南岸にのび太は居た。

 

 

「あれ?可笑しいな?」

 

 

 のび太は何か違和感を感じた。 

 

 帰る前に見た島とは違うようなそんな感じを。

 

 

「もしかして島を間違えたのかな?・・・ええ!?」

 

 

 のび太は島を間違えたのかと、どこでもドアのある筈の後ろを振り向くが、そこにどこでもドアは無かった。

 

 見えるのは周囲に飛び散る丸太や青い海だけだ。

 

 

「ど、どこでもドアが無い!も、もしかして、ドラえもん。間違ってしまっちゃったの!?」

 

 

 のび太は動揺しつつ、ドラえもんの(のび太もだが)おっちょこちょいな性格を思い出して、間違えてドアを閉まってしまったのではないかと疑った。

 

 

「それかドアが壊れたかのどっちかかな?どっちにしても状況が最悪なのは変わらないけど」

 

 

 のび太はそう呟きつつ、折角なのでこの島を探検してみようかとも思った。

 

 

「・・・折角だから、探検してみようかな?まあ、周囲を見た感じ、人が居るみたいだし、ドラえもんがなんとか見つけてくれるだろう」

 

 

 のび太はそう言いながら、かつて無人島で10年近くの年月を過ごしたことを思い出すが、今回は周囲の様子を見た感じでは有人島だ。

 

 なので、ドラえもんがなんとか見つけてくれるだろうし、見つからなくとも最悪、助けを呼べれば良いのだ。

 

 のび太はそう思い、この島の探検を行おうと島の奥へと入っていった。

 

 ・・・そこが地獄であることも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!家だ」

 

 

 最初の海岸から少し奥へと入った後、のび太は一件の家を発見した。

 

 のび太は鍵の掛かっていなかった家のドアのノブを握り、ドアを開けて中へと入る。

 

 すると、一人の男性らしき後ろ姿を発見した。

 

 

「すいません!ちょっとお聞きしたいことが」

 

 

 のび太はそう言ったが、男性の反応はない。

 

 

「? あの──」

 

 

 のび太は再度声を掛けようとした時、男は振り向いた。

 

 しかし──

 

 

「アアアァァ・・・」

 

 

 男はとても人間とは思えない呻き声を上げながらのび太を見ている。

 

 

「うっ。すいません。失礼しま──」

 

 

「アアアァァ!」

 

 

 のび太が何か薄気味悪いものを感じて、家の外に出ようとした瞬間、男は突如として襲い掛かってきた。

 

 

「わあっ!」

 

 

 のび太は悲鳴を上げながらも、慌ててそれを避ける。

 

 しかし、男は尚も襲い掛かってきた為、咄嗟に机の上にあったコンバットナイフを手に取った。

 

 

「く、来るな!」

 

 

 のび太はそう言いながら、コンバットナイフの矛先を男へと向ける。

 

 しかし、男の方はまるでそんなものが見えていないかのように再び襲い掛かって来る。

 

 

「アアアァァ・・・」

 

 

「うっ、うわああああ!!」

 

 

 のび太は悲鳴を上げながら、男の体に向かってコンバットナイフを突き刺した。

 

 が──

 

 

「アアアァァ・・・」

 

 

「わっと!」

 

 

 全く効いている気配がなく、むしろ、近づいてきた獲物に食い付いたかのように、口を開き、のび太を補食しようとする。

 

 のび太は間一髪のところでそれをかわすが、ナイフを刺してもなんの効果も無いことに動揺してしまう。

 

 

「ど、どうなってるんだ!ナイフを刺しても効果が無いなんて!」

 

 

 のび太は動揺しながらも、以前聞いたとある知識を思い出した。

 

 

(そ、そう言えば、人間は脳から体に命令を伝えて動いているって聞いたことがあったな)

 

 

 のび太は学校では劣等生とも言うべきレベルの不出来な生徒であったが、こういうときに限って何故か頭の回転が普通の人より断然早くなる。

 

 そうでなければ、秘密道具を使っているとはいえ、大冒険を潜り抜けられるわけもない。

 

 もっとも、のび太がもっと冷静な思考を取れているならば、戦わずに逃げることも選択肢に入れることが出来ただろうが、あいにくのび太はそこまで冷静になることが出来ず、目の前の敵を倒すことしか考えられなかったのである。

 

 そして、そんなのび太の思考が次の瞬間に考えたのは、あのナイフをどうやって引き抜くかだった。

 

 幸い、のび太は子供であり、そんな人間が刺したナイフはそれほど深く突き刺さっているわけではないので、抜くのは造作もないだろう。

 

 しかし、抜くためには当然のことながらあの男に近づかなければならない。

 

 これらの事を男が再びこちらに襲い掛かってくるまでの短い間で瞬時に考えると、のび太は逆に男に向かって駆け出し、ナイフを素早く抜き取る。

 

 そして、一旦、距離を取ると、とあることに気づく。

 

 

(しまった!僕の身長じゃ、あの頭まで届かない!!)

 

 

 のび太の身長は年相応であり、残念なことに男は小柄であるが大人であり、のび太よりも身長は高い。

 

 なので、これではコンバットナイフは男の頭まで届かないのだ。

 

 だが、その時、のび太の目に有るものが目に入る。

 

 

(あれなら・・・)

 

 

 のび太があることを思い付いたそのタイミングで、再び男は襲い掛かってきた。

 

 しかし、のび太はコンバットナイフを片手で持ちながら駆け出し、男の脇を通り過ぎる。

 

 そして、椅子に乗り、そこから更に机に乗ってそのままジャンプし、男の上の空間へと飛ぶ。

 

 一方、男はといえば、この動きに反応できなかった。

 

 何故なら、のび太の動きが早かったのに加えて、男の知能は低下していたのだから。

 

 

「おりゃああああ!!!」

 

 

 そして、右手に持ったのび太のコンバットナイフは重力の助けもあって、男の頭を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」

 

 

 戦闘後、のび太は大いに息を吐いていた。

 

 元から運動が苦手だったのに加えて、いきなり急激な動きをしたせいで、戦闘終了後にアドレナリンが切れて事でどっと疲れが押し寄せてきたからだ。

 

 

「な、なんだったんだ?今の?」

 

 

 突然、襲い掛かってきた男。

 

 とても人間とは思えない感じだったので、倒してしまったのだが、本当にその判断が正しかったのかどうか、のび太にも分からなかったのだ。

 

 

 

ヴヴヴゥゥウ

 

 

 

 ──しかし、残念ながらのび太にそんなことを考えている余裕はなさそうだった。

 

 

「気味が悪いな。急いで出ないと」

 

 

 のび太は男の頭に刺さっていたコンバットナイフを引き抜いて外へと繋がる扉を開けた。

 

 だが、そこには──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「アアアァァ・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──地獄が待っていた。



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銃の入手

◇西暦2013年 7月28日 昼 日向穂島

 

 

「はぁはぁ、どうにか逃げ切った」

 

 

 あれからのび太はゴンバットナイフを片手に、どうにかゾンビから逃れてゾンビの気配がないこの広場までやって来た。

 

 

「あそこにも死体が・・・ん?あれは」

 

 

 のび太は視線の先に死体が有った為、げんなりしそうになるが、何か光るものが気になってその傍まで歩いた。

 

 そして、その光る物を拾う。

 

 

「銃・・・か」

 

 

 それは一丁の自動拳銃──ベレッタM92──だった。

 

 日本の警察で採用されている銃であるが、日本の警察官が主に装備するのはM60ニューナンブなので、ベレッタを装備する警官というのは珍しい存在だ。

 

 だが、この倒れている死体の人物はその珍しい部類の警察官であったらしく、おそらく当人の物であろうベレッタを装備していた。

 

 しかも、使った形跡があり、本来なら15発装填できるこの銃の中には13発程の銃弾しかない。

 

 おそらく、相手に向けて撃ったが、結局、殺られてしまったというところだろう。

 

 

「無いよりはマシだよね?僕だって酷い目に遭っているわけだし。あっ、そうだ。ついでにマガジンが有ったら貰っておこう」

 

 

 のび太は半ば銃を持つことを自己暗示によって正当化しながら、警官の死体を漁る。

 

 すると、ベレッタのマガジンが3つと、先程のベレッタとは違う銃であるニューナンブM60拳銃とその弾丸が10発程出てきた。

 

 ニューナンブM60の方は前述したように、日本の普通の警官が装備している代物なので、ベレッタよりもこちらを装備している方が自然だ。

 

 もっとも、どうして二種類の拳銃を持っているのかは謎だったが。

 

 

「こんなものかな。・・・・・・ごめんなさい」

 

 

 のび太は一言そう謝ると、そこから立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、こんなに・・・」

 

 

 先程の警官が居た位置から、少し歩いたところに島の村であろう町並みが存在したが、そこに居たのはゾンビの大群だった。

 

 そして、ゾンビ達はのび太の存在を餌だと認知したのか、のび太の方へと向かって来る。

 

 

「く、来るなら来い!こっちには銃が有るんだ!全員やっつけでも生き延びてやる!!」

 

 

 のび太はそう言うと、ベレッタM92をゾンビの方に構える。

 

 まずやって来たのは8体のゾンビだったが、のび太はこれをそれぞれ眉間に弾丸を一発ずつ撃ち込むことであっさりと倒した。

 

 のび太は言わずと知れた射撃の天才であり、このくらいのことは造作もなかったのだ。

 

 次に少し開けた場所に移動し、そこにも6体のゾンビが居た。

 

 のび太はこれを倒そうとしたが、5体まで倒したところでベレッタからカチッカチッという音がなる。

 

 弾切れだ。

 

 

「しまった!?」

 

 

 のび太はそう言いながらも、素早くニューナンブM60を引き抜いてゾンビの眉間へと叩き込み、そのゾンビを倒す。

 

 

「危なかったな」

 

 

 のび太は深く息を吐きながらそう言って、周囲を警戒するが、見える範囲ではもうゾンビは居ない様子だった。

 

 それを確認すると、のび太はニューナンブM60を仕舞い、空になったベレッタのマガジンを捨てると、弾丸が満タンになっている3つのマガジンの内1つをベレッタへと押し込んだ。

 

 

「・・・しかし、ゾンビだらけだな。生きている人間は居ないのかな?」

 

 

 のび太はふとそう思った。

 

 先程から探索した感じではのび太の知る限り、生きている人間は居ない。

 

 だが、ゾンビの元が人間であろうことは容易に想像できるので、逆に言えば生きている人間も居るのではないかとのび太は思う。

 

 しかし、それらの人間に頼るなどという甘い考えは抱かない方が良い。

 

 こんなことになっている時点で、そういう人間達も苦しい状況にある可能性が高いのだから。

 

 

「取り敢えず、この辺を探索してみるか。何か使えるものが有るかもしれないし」

 

 

 のび太はそう言いながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生存者はなし。そして、見つかったのもベレッタとニューナンブの弾丸が幾つか。・・・あとはこれだけか」

 

 

 のび太はそう言いながら、見つかった大型の銃であるショットガン・ベネリM3を握り締める。

 

 あれからのび太は、この集落に残っていたゾンビを掃討し、改めて探索を行ったのだが、生存者は居らず、手に入ったのはこのベネリM3と銃の弾薬だけだった。

 

 ちなみにこのベネリM3は、日本の警察や自衛隊でも採用されているショットガンであるが、猟銃としては普及していない。

 

 なのに、何故このような民家に有るのか分からないが、それは気にしない方が良いだろう。

 

 それを言うなら、先程の警官が二種類の拳銃を持っていたのも不自然なのだから。

 

 そして、ベネリM3の装填弾数は全部で7発だが、先程一発使ったので、残りは6発だ。

 

 予備の弾薬はない。

 

 更にこの他にもベレッタのマガジンが2つと、ニューナンブの弾丸である38スペシャル弾が15発程が見つかっている。

 

 これだけあれば、それなりの数のゾンビ相手がでも大丈夫そうに見えるが──

 

 

「なんか嫌な予感がするんだよなぁ」

 

 

 のび太は冷や汗を流す。

 

 のび太の経験上、こういう命が懸かっているような時に限って、とんでもない化け物クラスの相手が出てきたりするのだ。

 

 そして、今度はドラえもんの秘密道具はなく、自力で何とかしなければならない。

 

 

「せめて、これでなんとかできる相手だったら良いんだけど・・・」

 

 

 のび太はベネリM3を見ながらそう思うが、それもまた期待できないなと思う。

 

 ショットガンは複数の弾丸を一度にばら蒔くことにより、広範囲の面を制圧する兵器であり、近距離では無類の強さを発揮するし、複数の敵を一度に相手できる。

 

 しかし、ばら蒔かれる銃弾である子弾の1つ1つの威力は拳銃と然程変わらない。

 

 それでも弾丸が一度に複数、相手に押し寄せるというのがショットガンの強みだが、人間なら兎も角、化け物では何処まで通用するか分からない。

 

 しかも、この銃はゾンビには殆ど効果がない。

 

 なにしろ、ゾンビは頭に銃弾を叩き込むことでしか効果が無いのだから。

 

 喰らわせれば転倒させるほどの効果を得られるとはいえ、頭にピンポイントに当てることが困難な以上、使える場所は物凄く制限されてしまうだろう。

 

 ましてや、弾丸があと6発しかない。

 

 

「・・・なんだか考えれば考える程、邪魔に思えてきたな、これ」

 

 

 のび太はそう思うが、現時点ではこれが一番威力の高い銃であることも確かなので、一応、持っていくことにした。

 

 

「あとは使えるものは無いかな?」

 

 

 のび太はそう思い探してみたが、結局、ハーブや救急スプレーくらいしか見つからず、それらを集落に有った登山用のバッグに詰め込んだ後、それを背負ってこの場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?何かここの棚だけ微妙に動いて・・・」

 

 

 あれからのび太はまたゾンビを相手にしたり、弾薬を拾ったりして島の奥へと進んでいたのだが、そこで一件の家へと辿り着き、そこに置かれてあった弾薬やハーブを拾っていたのだが、探索していた時、奇妙な違和感を感じて、そこを調べていた。

 

 しかし、のび太が詳しく調べようとしたその時──

 

 

「!?」

 

 

「わっ!」

 

 

 その奥から、一人の男が現れた。

 

 そして、その拍子にのび太は突き飛ばされる形で転ぶ。

 

 

「いたっ。なんだよ、もう・・・」

 

 

 そう言いながら、文句を言おうとするのび太だったが、その時、男はなにやら叫んだ。

 

 

「くそっ!ここも奴等に見つかっちまったか!来るなら来やがれっ!ぶっ飛ばしてやる!!」

 

 

 そう言ってのび太に銃を向ける男。

 

 のび太は慌てて釈明する。

 

 

「お、落ち着いて下さい!僕はあの変な人たちとは違います!!」

 

 

「う・・・ん?なんだ、子供じゃねえか」

 

 

 そう言われて、男はようやく気づく。

 

 

「え、ええ。それよりも、ここはどの辺なのかを教えて欲しいんですけど」

 

 

「はあ?何言ってんだ?ここは日本の南東に浮かぶ・・・!?」

 

 

 しかし、男は言い掛けたところであることに気づいた。

 

 

「お、お前!その顔は・・・」

 

 

 どうやら男にとってのび太の顔は見覚えがあるものだったらしく、のび太の顔をまじまじと見て、明らかに動揺している。

 

 だが、男の顔に全く見覚えがなく、男にまじまじと見られて困惑していた。

 

 しかし、その時──

 

 

「───」

 

 

「・・・?今の声はいったい・・・」

 

 

 のび太は突如として聞こえてきた声に、男に背中を向ける形で聞き耳を立てる。

 

 

「・・・」

 

 

 しかし、男はのび太を見て何かを思ったのか、のび太の首筋に向かって思いっきり手刀を喰らわせた。

 

 

「うっ・・・」

 

 

 ──そして、それに反応することができず、のび太はゆっくりと意識を落とす。

 

 

「・・・・・・すまんな、のび太。少しばかり眠っていて貰うぜ」

 

 

 男は倒れたのび太に対して、そのような呟きを残した。




本話終了時点でののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(12発)、ニューナンブM60(4発)、ゴンバットナイフ

弾薬・・・ベレッタM92のマガジン2つ(30発)、38スペシャル弾(25発)

補助装備・・・救急スプレー2個、調合されたハーブ1つ


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T-ウィルス

◇西暦2013年 7月28日 夕方 日向穂島

 

 

「ううっ・・・」

 

 

 数時間後、のび太は意識を取り戻し、辺りを見回してここが先程とは違う場所であることに気づく。

 

 

「・・・なんだここ?さっきとは違う場所だ。あれ?さっきの人は?」

 

 

 のび太はそう思って先程自分を気絶させた男の姿を探すが、男の気配は何処にもない。

 

 しかし、そこで傍に置かれてあった手紙を発見する。

 

 

「これは?」

 

 

 のび太はそう言って、手紙を手に取って読み上げだが、そこにはこう書かれてあった。

 

『のび太へ

 

急に殴ったりしてすまない。だが、追っ手から逃れるためにひとまず気絶させてここに運ばせてもらった。時間がないので、手短に話す。お前は命を狙われている。ロス・イルミナドス教団という言葉に気をつけろ。俺の名前は島田健太。ハンサムなプーってところだ。お互い生きていれば何処かで会うこともあるだろう』

 

 手紙にはそう書かれてあったが、それを見たのび太は驚いてしまう。

 

 

「僕が命を狙われているだって!?こっちはまだここが何処かも分かっていないのに」

 

 

 のび太は自分が命を狙われることに理不尽さを感じた。

 

 確かに先程、ゾンビを倒したりしていたが、普通の人間は誰も死んでいない。

 

 狙われる心当たりは全く無かったのだ。

 

 

「ろすいりゅにゃ・・・ロス・イルミナドスか。なんのことか分からないけど、気をつけないと。とにかく、早くここを出よう。島田さんに話を聞きたい」

 

 

 そう思うのび太であったが、その時、手紙の傍に2つの銃とマガジン、そして、手榴弾──M67破片手榴弾─が2個と閃光手榴弾──M84スタングレネード──が置かれてあるのに気づく。

 

 

「これは・・・島田さんが置いていったのかな?」

 

 

 のび太はそう思いながら、2つの銃を見る。

 

 1つはコルトガバメント。

 

 45ACP弾という45口径の弾丸を使用する大型自動拳銃だ。

 

 製造されてから既に100年が経つが、未だに名銃として親しまれている。

 

 自衛隊でも9ミリ拳銃が登場するまでは採用されていた拳銃でもあった。

 

 そして、そのマガジンが3つ。

 

 もう1つの銃は32発マガジンが装填されているH&K MP5・サブマシンガン。

 

 こちらもまた、H&K社が開発したサブマシンガンであり、傑作銃として知られている代物だ。

 

 サブマシンガンの為、拳銃クラスの弾しか応用できないが、ショットガンを除けば、こちらのトップクラスの火力であることは間違いない。

 

 もっとも、予備のマガジンはないため、いちいちこれに弾を込めなければならないが。

 

 

「・・・一旦、荷物を整理しよう」

 

 

 荷物が嵩張ってきた為、のび太は一旦荷物を整理することにした。

 

 まず拳銃だが、現在、のび太はベレッタM92、ニューナンブM60、コルトガバメントの三種類の銃を持っている。

 

 しかし、この中で一番使いづらいのは、やはりニューナンブM60だろう。

 

 なにしろ、最大5発しか装填できない上に、リボルバー式の為、再装填にはいちいち弾薬を直接込めなくてはならないのだから。

 

 これがマグナム銃とかであれば話は別だったが、残念ながらニューナンブM60は普通の拳銃だ。

 

 なので、のび太はニューナンブM60とその弾丸である38スペシャル弾を登山用リュックの中へと押し込み、代わりにコルトガバメントをニューナンブM60の在った位置に装備する。

 

 ベネリM3は元々、ショルダーが付けられていたので、先程までと同様に肩に掲げ、MP5もショルダーが着けられていた為に、同じように肩に掲げた。

 

 そして、手榴弾と閃光手榴弾もまたリュックの中に入れ、のび太は立ち上がる。

 

 

「さて、そろそろ行かないとね」

 

 

 のび太はそう言いながら、荷物を持って建物の外へと出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇日向穂島 アンブレラ研究所

 

 

「ここは、研究所?なんでこんなところに?」

 

 

 のび太はそう思いながら、ここしか行く道が無いために、中へと入っていく。

 

 しかし、中にも数体のゾンビが居た。

 

 

「ここにもゾンビが居るか・・・ん?なんだこれ」

 

 

 のび太は本棚に目につくような白いノートのようなものが挟まってあったので、それを取った。

 

 

「これは日記か?なになに」

 

 

 のび太はその日記を読む。

 

『牧田照棟の日記

 

くそっ、フィリアとかいう研究員が栄転でススキヶ原に渡りやがった。女の癖に生意気だ。だが、俺は知っている。奴が日本支部のお偉いさんに体を売ったことで今の地位を手に入れたこともな。そのお偉いさんとの間に出来た娘の存在の事も掴んでいる。これをネタに揺すって俺も地位を得よう』

 

 

「・・・なんだ?これ?関係ないか」

 

 

 のび太は日記をソッと本棚へと戻す。

 

 見る人が見れば、どういうことか察しはつくのだが、あいにくのび太はまだ小学生でそういうことに疎く、日記に書かれてあることの意味が全然分からなかった。

 

 そして、また暫く探索したところで、机の上に置かれていたとある書類を見つける。

 

 

「・・・ん?これは・・・」

 

 

 それはとあるウィルスに関する資料だった。

 

『アンブレラ極秘研究資料

 

・身体能力の変化 

 

腐敗により、俊敏性・思考力は低下しているものの、腕力、脚力は感染前に比べて上昇の傾向あり。また一部の歯が牙状に変異し、咀嚼力が大幅に上昇。

 

・捕食本能の活性化

 

感染者の膨大なエネルギー消費を補うためか、捕食本能が大幅に働き、種類を問わず、主に肉類を貪るように食らうようになる』

 

 

「これ、僕を襲った連中と全く同じじゃないか。ということはT─ウィルスが原因なのかな?まさか、僕も感染していたりして・・・」

 

 

 そこまで言ったところでのび太は冷や汗を流すが、今考えても仕方がないと、取り敢えずその資料を持って部屋を出た。

 

 そして、すぐそこにとあるロッカーが存在し、のび太はそこに寄ってロッカーを開けてみる。 

 

 すると──

 

 

「武器だ」

 

 

 そこには42発マガジンが装備されたショルダー着きのステアーAUG A1・アサルトライフルと30発箱型マガジンが2つ、更にMK─3手榴弾が3つ、更にM79グレネードランチャー(通常弾頭装填)とその弾薬が5発(通常2発と焼夷弾2発と硫酸弾が一発)ほど存在した。

 

 のび太は手榴弾と30発箱型マガジンとグレネードランチャーの弾薬をリュックに詰め込み、これまたショルダーの着いたステアーとグレネードランチャーをMP5やベネリM3のように肩に掲げる。

 

 少し荷物が嵩張るが、それは仕方がないとのび太は諦めることにして、のび太はそれらの装備を持って研究所の外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・誰の絵だろう?これ」

 

 

 のび太は研究所を出て少し歩いた先にあった家へと入った。

 

 そして、その部屋の中央に存在する紫のローブを羽織った絵を見ていたのだが、のび太にはそれが誰だか分からない。

 

 いや、仮にのび太でなくとも、それが誰かと聞かれれば、答えに窮する人間が多かっただろう。

 

 なにしろ、当人は紫のローブを深く羽織っており、顔が全く見えなかったのだから。

 

 

「・・・良い絵だろう?それ」

 

 

 そんなのび太に声を掛けてきた人物。

 

 生きている人間がこの家に居たという事実に驚いたのか、のび太は思わず後ろを振り向くが、そこに居た人物の顔に更に驚かされることになった。

 

 

「えっ?僕?」

 

 

「・・・」

 

 

 そう、そこに居たのは眼鏡こそ掛けていなかったが、のび太と全く同じ顔付きの少年だった。

 

 しかし、少年の方はそんなのび太の反応に構うことなく、のび太に対してこう宣言する。

 

 

「お前が知る必要はない。早速だが、お前には死んで貰う」

 

 

「えっ?」

 

 

 

ドン!

 

 

 

 少年はそう言って持っていたライフルの銃口をのび太の方に向けて発砲する。

 

 しかし、その弾丸は先程のび太が見ていた絵に着弾したが、その通り道に居る筈ののび太を貫くことはなかった。

 

 のび太が今までの大冒険の経験を生かした反射神経でどうにかかわしたからだ。

 

 

「ちっ。今ので死んでいれば良かったものを。余計な手間を増やすな」

 

 

「や、止めろ!」

 

 

 のび太は制止するようにそう言ったが、少年はそれを無視してのび太へと再び銃口を向ける。

 

 しかし──

 

 

 

ガチャン!ドン!ドン!ドン!

 

 

 

「うっ!」

 

 

 突如として二人の近くに有った窓が割れ、そこから銃弾が部屋の中へと飛び込む。

 

 しかし、その弾丸は全て出木杉を狙ったものだったらしく、少年に数発の弾丸が掠り、少年は呻き声を上げる。

 

 

「ちっ、邪魔が入ったか」

 

 

 少年は舌打ちすると、先程来た道を戻り、窓を割って強引にこの家から脱出した。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何が起こったの?」

 

 

 のび太は何が起こったのか分からず、一連の事象にただ呆然としていた。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(15発)、コルトガバメント(6発)、ニューナンブM60(4発)、M79グレネードランチャー(1発)、ステアーAUG A1(36発)、H&K MP5(28発)、コンバットナイフ M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード1個、MK─3手榴弾3個

予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン1つ(15発)、コルトガバメントのマガジン3つ(21発)、38スペシャル弾(25発)、グレネードランチャー5発(通常2発、焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)

補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ2つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料。


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闇の中の巨人

◇西暦2013年 7月28日 夕方 日向穂島

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」

 

 

 あの民家を出た直後に再び襲ってきた少年の狙撃から逃げ切ったのび太はとある小屋へと逃げ込んだが、かなり疲れきっていた。

 

 無理もないだろう。

 

 なにしろ、なんの前兆もなく、このような地獄に放り込まれた上に、自分は命を狙われていて、更に自分と全く同じ顔の人物に銃口を向けられている。

 

 大人でもあまりに理不尽だろうと感じるであろうこの状況に、小学生であるのび太が耐えきれるわけもなかったのだ。

 

 もっとも、彼には普通にはない経験があったお蔭でどうにかここまで生き残れたが、精神及び肉体面での疲れはどうにもならない。

 

 

「しかし、なんで僕の命を狙ってくるんだろう?」

 

 

 のび太はその点に首を傾げる。 

 

 自分にそれほどの価値があるとは思えなかったのだ。

 

 ──もっとも、のび太の大冒険による活躍は命を狙われても仕方がないと言えるほどのものなのだが、それをのび太は自覚していなかった。

 

 

「・・・でも、ちょっと疲れてきた。少し眠ろう」

 

 

 のび太はそう言って、小屋の床に横になり、1秒も経たないうちに、死んだようにぐっすりと眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 夜 某所

 

 

「サドラー様、それが例の子供ですか?」

 

 

「そうだ。これが我々の夜明けへの鍵となる」

 

 

 サドラーと呼ばれた男はそう言いながら口元を歪める。

 

 

「よく眠っていますね」

 

 

「今のうちに種を植え付けるのだ。せめて夢見のうちに終わらせよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

グワアアアアア!!!

 

 

 

バタッ

 

 

 

「ふぅ、やっと倒した」

 

 

 のび太は戦いによって発せられた汗を拭いながら、たった今自分が倒した存在を見る。

 

 

「しかし、なんなんだ。こいつ?明らかに普通のゾンビと違うぞ」

 

 

 先程まで眠っていたのび太は、外が真っ暗になっていることに気づき、慌てて行動して眠っていた小屋を出たのだが、その矢先にこの存在と出くわしてしまったのだ。

 

 遠目で見れば普通のゾンビにも見えなくはないが、普通のゾンビと違って走る上に肌も赤く変色しており、腕のツメもかなり長く、もはや人間の形を留めていない。

 

 

「ゾンビの変異体か何かかな?」

 

 

 のび太は何気なくそう呟いたが、この発言は的を射ていた。

 

 この化け物の正体の名はクリムゾンヘッド。

 

 T─ウィルスによって発生したゾンビの変異体の1つで、主に生命活動を何らかの外的要因で一度休止した感染者ゾンビが、V─ACTと言われる現象を起こし、体組織は再生・再構築され、体色も赤みを帯びた褐色に変化して移動速度が格段に向上した上に、ツメも鋭く延びるというとんでもない化け物なのだ。

 

 また、凶暴性もさらに増しており、自らの行動を妨げる生物に対しては、たとえ人間以外であっても攻撃する。

 

 

「・・・それにしても、いよいよヤバくなってきたかな」

 

 

 のび太は周囲を見渡しながらそう思った。

 

 既に辺りは真っ暗になっており、視界がかなり悪い。

 

 こんなただでさえ条件の悪い状況下で、このような化け物が新たに出現したとなれば、ヤバイと思うのも当然だろう。

 

 

「・・・いやいや、弱気になっちゃダメだ。必ず生きてドラえもんにまた会うんだから」

 

 

 のび太は改めて弱気になった心を締め直すが、やはり不安な気持ちは払拭されなかった。

 

 しかし、それでものび太は進んでいく。

 

 それしか生き延びる道は無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?」

 

 

 途中在った洞窟を抜けて、再び夕方に来た広場に戻ってきたのび太は、そこでとある死体を見つける。

 

 

「これは・・・あの時の犬じゃないか」

 

 

 それはのび太があの小屋で最初にゾンビと遭遇する前に、罠に掛かっていたところを助けた犬だった。

 

 

「酷いな・・・」

 

 

 何か大きな爪のようなものに切り裂かれたらしく、その死体から臓器がはみ出ている。

 

 その惨たらしい死体に、既に死体を見慣れてしまったのび太も眉をしかめた。

 

 

「いったい誰がこんなことを・・・」

 

 

 

ウウゥ

 

 

 

 のび太が何かを言い掛けた時、小さな呻き声のような声が聞こえた。

 

 そして、のび太はそちらを見た。

 

 

「・・・」

 

 

 その先はただの暗闇だった。

 

 しかし、何かが居る。

 

 のび太は直感的にそう感じた。

 

 そして、そんなのび太の直感を裏付けるかのように、“それ”は姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオオオオォオオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れたのは、人体模型のような様相をした3メートル級の巨人だった。

 

 

「ッ!?」

 

 

 のび太はそれを視認した途端、ステアーAUG A1の銃口をそちらに向けてフルオートで発砲する。

 

 殺到する5、56ミリNATO弾の嵐は、人間であれば穴だらけにされ、防弾チョッキを着ていたとしてもただでは済まない攻撃だ。

 

 しかし──

 

 

(効いていない!?)

 

 

 その巨人──タイラント──には効いている様子がなかった。

 

 やがて装填された28発の弾丸は撃ち尽くされ、ステアーの弾倉は空となる。

 

 そして、タイラントはのび太の方に近寄ってくると、その大きな爪でのび太を切り裂こうとした。

 

 慌てて回避しようとするのび太だったが、それが間に合わないと判断すると、弾倉が空になったステアーを盾にする。

 

 ステアーはへし折られるが、そこで攻撃の勢いは切れて、のび太に届くことはなかった。

 

 この時、のび太にとって幸いだったのが、このタイラントが出来損ないであったという点だ。

 

 そうでなければ、のび太の体は銃ごと切り裂かれていただろう。

 

 そんな幸運もあり、タイラントはのび太に対して隙を作ってしまった。

 

 そして、その隙を突く形で、のび太は一旦距離をとる。

 

 

(あれは拳銃なんかじゃダメだ。やっぱり、これを使うしかない!)

 

 

 アサルトライフルが通用しなかった以上、それより威力が劣るサブマシンガンや拳銃など、まず通用しないだろう。

 

 となると、残るはショットガンかグレネードランチャーしかないわけだが、残念ながらショットガンの弾丸は先程全て使いきってしまっている。

 

 となると、やはりグレネードしかない。

 

 のび太はそう思い、M79グレネードランチャーの砲口をタイラントへと向けた。

 

 

「喰らえ!」

 

 

 のび太はそう言いながら、M79グレネードランチャーの引き金を引く。

 

 そして、発射された40×46ミリグレネード弾はこれは偶然ではあったものの、タイラントの心臓たる左胸へと向かっていき、そこで爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

ウウウウウウゥウウ

 

 

 

 

 

 

 

 そして、タイラントは倒れて動かなくなった。

 

 

「・・・とんでもない化け物だな」

 

 

 弾が無くなったM79グレネードランチャーに弾薬(通常)を再装填しつつ、のび太はへし折られたステアーAUG A1を見ながらそう呟く。

 

 結果的にこちらの強力な武器の1つであるアサルトライフルを失ってしまう結果となったが、その程度で済んで良かったとのび太は心底思う。

 

 

「とにかく、一刻も早くここから離れないといけないな。でも、何処へ行こうか」

 

 

 のび太は使い物にならなくなったステアーAUG A1をショルダーごとその辺に放り捨てながら、これからの行動を少しだけ考える。

 

 今の状況は最悪だ。

 

 島は何処もかしこも化け物だらけ、武器は消耗している上に、先程、有力な武器の1つであるアサルトライフルすら失った。

 

 しかも、今の時間帯は視界の効きづらい夜ときている。

 

 はっきり言って、これ以上の最悪はないと言えるほど、最悪な条件が揃いまくっていた。

 

 

「取り敢えず、適当な建物を見つけて・・・ん?」

 

 

 のび太はそこで壁に張られてあった貼り紙を見つけた。

 

 

「あれ?さっきはこんなの有ったっけ?」

 

 

 のび太はその貼り紙を見るが、まだ紙自体はまだ新しく、おそらく貼られてそう時間は経っていない様子だった。

 

 そして、のび太はその張り紙の内容が気になって読んでみる。

 

 そこにはこう書かれてあった。

 

『~適合者の捕獲完了~

 

島に暮らしていたところを誘拐したフィリア・フォン・アーネルベールの娘、有宮夏音を捕獲。現在、教会へ搬送中。New Typeの適合者がこうも早く見つかるとは。あの方もお喜びになるだろう。

 

島田健太については依然捜索中。奴は教団を脱走する際、寄生体に関する資料とNew Typeのサンプルを一緒に持ち出している。何としても捕らえ、資料とサンプルを回収するのだ』

 

 

「寄生体?島田健太っていうのは、おそらく島田さんのことだろうけど・・・」

 

 

 それを一通り見たのび太は首を傾げながらそう言うが、誘拐という物騒な言葉が使われていることもあって、文章の内容が物凄く気になった。

 

 しかも、教会ということは当然宗教関係者が使う施設なので、島田が言っていたロス・イルミナドス教団と関係があるのかもしれない。

 

 のび太はそう考える。

 

 

「教会・・・そう言えば、さっきも在ったな。あそこか」

 

 

 のび太はその内容を確かめる意味でも、夕方に確認した教会に向かうことに決めた。

 

 どのみち他に行く当ても無いし、夜に闇雲に動き回るのは危険だ。

 

 それに外れていたとしても、教会なら当座の休む場所くらいにはなるだろう。

 

 そう考え、のび太はその場を立ち去っていったのだが、彼は気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン、ドクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程、倒れたタイラントの心臓が復活しつつあることを。




武器・・・ベレッタM92(6発)、コルトガバメント(4発)、ニューナンブM60(4発)、ショットガン・ベネリM3(0発)、M79グレネードランチャー(1発。通常弾)、H&K MP5(14発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード1個、MK─3手榴弾1個

予備弾薬・・・コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、38スペシャル弾(25発)、グレネードランチャー4発(通常1発、焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)

補助装備・・・ミックスハーブ3つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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孤独な少女

◇西暦2013年 8月28日 夜 日向穂島 教会 とある部屋

 

 怖い。

 

 真っ暗闇の空間の中、閉じ込められた銀髪の髪をした少女はそう思いながら、膝を抱えた状態で俯いていた。

 

 少女は日本人とドイツ人のハーフであり、とある理由からこの島で暮らしていたのだが、数日前から母親と連絡が取れなくなってしまい、更にそれに追い討ちをかけるかのようにローブを羽織った妙な宗教団体らしき集団に捕まり、つい先程は怪しげな注射を打たれてしまったのだ。

 

 母親から愛情たっぷりに育てられたまだ小学生の年齢の少女にとってこの状況は絶望するには十分だった。

 

 

「助けて、お母さん・・・」

 

 

 恐怖のあまり、この場に居ない家族に助けを求める少女。

 

 だが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──大丈夫?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女に、1つの救いの手が差し伸べられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会の2階で閉じ込められた女の子──有宮夏音の部屋を発見したのび太は、すぐに彼女を保護しようとした。

 

 事情はよく分からないが、誘拐されたことを示す書類やこうして閉じ込められている光景を見せられては放ってはおけないと考えたからだ。

 

 しかし──

 

 

「だ、誰ですか!?」

 

 

 閉じ込められていた少女は突然現れた同年代の少年に対して酷く怯えていた。

 

 当然だろう。

 

 ここ数日、変な集団に追い掛けられた挙げ句に捕まり、怪しげな注射を打たれるという体験までしてしまったのだから。

 

 だが、そんな彼女に対して、のび太は優しくこう声を掛ける。

 

 

「落ち着いて。僕はあの人達とは違うよ。それと、一応聞くけど、君の名前は有宮夏音ちゃん?」

 

 

 

「そ、そうです。でも、どうしてその事を?」

 

 

 夏音は驚いた様子でのび太を見るが、一方ののび太は彼女の首筋に目を向ける。

 

 

(これは・・・注射痕?あの貼り紙の通り、ここから寄生体っていうのを投与されたのかな?だとしたら、ここに居るのは危険だ)

 

 

「僕の名前は野比のび太。助けに来たよ。早くこの教会から出よう」

 

 

「えっ?あの・・・」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「い、いえ。なんでもありません。あっ、でも、あなたは私と同じくらいの年齢の人ですよね?なんで、こんなところに?まさか、あなたも誘拐されたのですか?」

 

 

 夏音は自分と同じか、下手をすれば年下であろう人物がこのような場所に来たことをとても驚いていた。

 

 まあ、もっと冷静な状態だったならば銃を持っていることの異常性にも気づけただろうが、あいにく夏音はそこまで気が回っていなかったのだ。

 

 

「ちょっと違うよ。ただ迷い込んだだけ。さあ、人が来るかもしれないから早く」

 

 

「う、うん。ごめんなさい」

 

 

 そう謝りながら、夏音は差し伸べられたのび太の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──待て」

 

 

 夏音を伴い、教会を出ようとしたのび太達の前に、一人の紫のローブを羽織った男が声を掛けた。

 

 男の存在を認識したのび太は夏音を後ろに庇うように前へと出るが、男はそれに構わず言葉を続ける。

 

 

「その娘は置いていけ」

 

 

「だ、誰だ!お前は!?」

 

 

「私はオズムンド・サドラー。ロス・イルミナドス教団のカリスマ。その娘は我が教団にとって必要な存在だ。今すぐ置いていって貰おうか」

 

 

 ローブを羽織った男はそう言うが、のび太も『はい、そうですか』と承諾するわけもない。

 

 

「断る!女の子を監禁するような連中に夏音ちゃんを渡すわけにはいかない!!」

 

 

「・・・威勢は良いようだが、得策とは言えないな。この島は全て私の支配下にある。それに──」

 

 

 男はその時、口を歪めながら言葉を繋ぐ。

 

 

「その娘には種を植え付けてある。いずれ私の意のままとなるだろう」

 

 

「えっ、な、なんのことですか?」

 

 

 男の言っていることが分からず、夏音はのび太の後ろで震えながら言葉を発した。

 

 

「お前にはとある寄生体を投与してある。それがお前の体の中で蠢いていて、時間が経てばお前は自分の意思を失って私の人形となる。・・・意味が分かるかな?」

 

 

 

「い、いや・・・」

 

 

 夏音はその意味を正確には理解できなかったが、自分の体に何かを埋め込まれたことは理解できた為、その事実を否定したくて、震えながら手を胸の前で交差させ、掠れた声で拒絶の反応を示す。

 

 それを見た男は更に歪んだ笑みをするが、のび太はそんな夏音の様子を見かねたのか、のび太は彼女に声を掛ける。

 

 

「夏音ちゃん、今すぐここを出よう!逃げるんだ!!」

 

 

「・・・構わんよ。逃げたければ、逃げれば良い。だが、覚えておくが良い。お前たちは私の鳥籠の中で踊る道下に過ぎないということをな」

 

 

「ッ!?」

 

 

 男の言葉を無視し、のび太は夏音の手を取って、半ば無理矢理教会から連れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうしようか」

 

 

 のび太はそう呟く。

 

 あの場はヤバいと判断して、教会を出たのび太だったが、別段行く当てが有るわけでもなかったのだ。

 

 まあ、当たり前だろう。

 

 行く当てが無かったからこそ、あの教会に行ったとも言えるのだから。

 

 

「わ、私。これからどうすれば・・・」

 

 

 夏音は不安に陥るが、のび太は先程彼女を落ち着かせた時と同じく優しげな声でこう言った。

 

 

「取り敢えず、誰か頼りになりそうな人を探そう。そうだ!島田さんだ!!」

 

 

「島田さんとは?」

 

 

「君の体の状態について詳しく知っていそうな人だよ」

 

 

「ほ、本当に?」

 

 

「うん」

 

 

 のび太は夏音の問いにそう答えた。

 

 確かにこの状況で島田に頼るのは最善とも言える手だ。

 

 なにしろ、のび太は彼女の体についてなにも知らないし、そもそも医学的な知識もないのだから。

 

 しかし──

 

 

(何処に居るんだ?島田さん)

 

 

 彼女には不安を与えることも避ける意味もあって敢えて言わなかったが、そもそものび太は彼の居場所を知らなかったので、一から探す必要があった。

 

 加えて、幾つかの不安要素もある。

 

 前述したように、のび太の持っている銃はほとんど弾薬が尽きているか、尽きかけている最中だ。

 

 MP5の残弾は12発しかないし、ショットガンに至っては1発も残っていない。

 

 もっとも、MP5は9×19ミリパラベラム弾が使用弾薬なので、同様の弾を使っているベレッタM92の弾丸でも代用できるのだが、そちらもショットガンと同じく残弾がもう無いのだ。

 

 コルトガバメントやニューナンブM60については比較的弾薬を残していたが、これらも何時尽きるか分からないし、前者は今装填しているものを除けば、残るマガジンはあと2つ、後者は前述したようにリボルバー式のため、装填に手間が掛かる。

 

 もっとも、背に腹は変えられないので、一応、現在装備してはいるのだが。

 

 グレネードランチャーについてはあのタイラント戦から使っていないので、比較的余裕があるのだが、それでも慢心して良いほど、弾薬を持っているわけでもない。

 

 手榴弾もまた同じだ。

 

 破片手榴弾の方はほとんど使っていないのでまだ残っているが、爆発手榴弾はあと1個しかないし、破片手榴弾は被害範囲が大きすぎて使いどころを選ぶ。

 

 加えて、今は夜な上に護衛対象もたった今できた。

 

 のび太は先程よりも厳しい条件の戦いを強いられることとなるだろう。

 

 

(でも、やるしかないよね)

 

 

 そう言いながら、のび太は夏音の顔を見る。

 

 顔立ちが整っているというのもそうだが、外国人の血が混じっていることもあって彼女はこの年齢にしてかなりの美少女であり、このまま大人になればとんでもない美女となるのは間違いない。

 

 だが、そんな彼女とてまだ自分と同じくらいの年齢のか弱い女の子であり、しかも恐怖に震えていることから察するに、自分のように大冒険を経験して非日常に耐性が有るわけでもないのだろう。

 

 そんななんの罪もない少女が汚い大人に利用されようとしている。

 

 それは大冒険を生き延びてきたのび太からすれば、到底看過できることではなかった。

 

 

「? どうしたのですか?」

 

 

「いや、なんでもない。じゃあ、行こうか」

 

 

 そう言って、のび太は夏音を伴って島田を探しに歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇教会

 

 

「──サドラー様、本当に宜しかったのですか?」

 

 

「構わん。事が済むまでは奴に面倒を見て貰うとしよう」

 

 

「しかし、島は既に亡者の巣窟。あちらの方が安全だと何故言い切れるのです?」

 

 

「決まっている。奴がまだ人間で、我々がそうじゃないからだ」

 

 

「・・・」

 

 

「心配せずとも奴は守るさ。例え、化け物に変異しようとしている上に、すがり付くしか出来ない少女だったとしても、な。・・・それよりも奴等を迎えるにはこの教会では狭すぎるな」

 

 

「移動なさいますか?既に準備は完了していますが」

 

 

「そうだな。奴等を迎えるにはもっと広く、圧倒的な舞台が必要だ」

 

 

 男──サドラーはそう言いながら、何かを考えていた。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(0発)、コルトガバメント(6発)、ニューナンブM60(5発)、ショットガン・ベネリM3(0発)、M79グレネードランチャー(1発。通常弾)、H&K MP5(12発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード1個、MK─3手榴弾1個

予備弾薬・・・コルトガバメントのマガジン1つ(7発)、38スペシャル弾(24発)、グレネードランチャー4発(通常1発、焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)

補助装備・・・ミックスハーブ3つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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プラーガ

◇西暦2013年 7月28日 夜 日向穂島 

 

 

「ふぅ、やっと休めそうな家があったな」

 

 

 のび太はそう思いながら、目の前の民家を見る。

 

 あれから更に弾薬を消費して、いよいよヤバいという状態となったのび太達だったが、そうなる前に一休みできそうな建物が見つかったことで、取り敢えずはなんとかなりそうだと安心した。

 

 しかし、それはまだ早かったということを、この直後に思い知ることとなる。

 

 

「の、のび太さん!後ろ!!」

 

 

「? どうした・・・の」

 

 

 夏音の言葉を聞いて、後ろを振り向いたのび太は大きく目を見開いた。

 

 先程、自分達が渡ってきた橋から、多数のゾンビがこちらに向かってくるのが見えたからだ。

 

 

「夏音ちゃん、建物のなかに入るんだ!急いで!!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 二人は慌てて建物の中へと駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、無事だったか」

 

 

 のび太と夏音は中に入ると、中に居た男が出迎えるようにそう声を掛けてきた。

 

 

「島田さん!」

 

 

「この人が島田さんですか?」

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

 そんな問答をしている二人を見ていた島田は少女の顔を見て、あることに気づいた。

 

 

「ん?そっちの女はもしかして有宮夏音か?」

 

 

「はい、そうです」

 

 

「へぇ、思ったより可愛いな」

 

 

「なっ!」

 

 

 それを聞いた夏音は顔を赤くする。

 

 小学生とは言え、夏音も女。

 

 可愛いと言われるのは悪い気はしなかったのだ。

 

 

「それで、夏音が居るってことは、お前、教会に行ったのか?」

 

 

「ごめん、島田さん!説明したいのは山々なんだけど、今それどころじゃ」

 

 

「ん?」

 

 

 のび太の慌てた様子に、島田は首を傾げる。

 

 が──

 

 

 

 

 

 

 

ヴオオオォォオオ

 

 

 

 

 

 

 

 その呻き声が聞こえてきた時、それは焦りに変わった。

 

 

「おい・・・まさか」

 

 

「ええ、外にいっぱい!」

 

 

「ちっ、お前らは上に隠れてろ。ここは俺がなんとかする」

 

 

 島田は迎撃に出るために外へと出ようとするが、そこでのび太が待ったを掛ける。

 

 

「いや、僕も戦います。あれは僕が引き連れてきたんですから」

 

 

「・・・そうか、分かった。だが、死ぬなよ。それと机の上の奴はお前が自由に使え」

 

 

「はい、夏音は上に隠れていて」

 

 

「・・・分かりました。気を付けてください」

 

 

「うん」

 

 

「それじゃ、行動開始だ」

 

 

 その響の言葉と共に、3人は一斉に動きだし、のび太は先程島田が言っていた机の上の付近へ、残る二人は迎撃と避難のために2階へと駆け上がる。

 

 

「これか」

 

 

 のび太は机の上に在った武器と弾薬をとる。

 

 ちなみに、机の上に置いてあったのは、武器がRDI ストライカー12・ショットガン。

 

 そして、その弾薬である12ゲージ弾とコルトガバメントのマガジンが1つ、更にベレッタの15発マガジンが2つ、更に閃光手榴弾が2つ程あった。

 

 

「これだけ在れば・・・」

 

 

 なんとかなる。

 

 のび太がそう思っていた時、銃声が建物の上から鳴り響いた。

 

 

「始まったか。急がないと」

 

 

 のび太は急いで弾薬を装填しようとしたが、ベレッタは既に鞄の中に仕舞い込んでしまった為、一旦これを出して、代わりに再びニューナンブM60をバッグへと入れる。

 

 更に空になっていたベレッタのマガジンを満タンの物に代え、机の上に在ったストライカー12・ショットガンを今までと同じようにショルダーで肩に掛けながら、残る12ゲージ弾の内8発をベネリM3へと押し込んだ。

 

 そして、一通りの準備が完了した後、それはやって来た。

 

 

「おい!のび太、取り逃がした奴がそっちに行った!対処してくれ!!」

 

 

 響がそう声を掛けた直後、6体のゾンビが複数の窓を破って、一斉にやって来た。

 

 

「ふっ!」

 

 

 のび太は焦らず、右手に持ったベレッタM92から6発の9×19ミリパラベラム弾を発射する。

 

 そして、発射された6発の弾丸は6体のゾンビの全ての眉間に叩き込まれ、6体のゾンビはあっという間に倒された。

 

 次にまた5体のゾンビがやって来るが、これも同じように対処する。

 

 しかし──

 

 

「ゾンビ犬!?」

 

 

 今度入ってきたのは、2体のゾンビ犬だった。

 

 2匹のゾンビ犬は一斉にのび太に向けて飛び掛かってきたが、のび太はどうにかそれをかわし、そのうちの一匹の頭にベレッタの弾丸を叩き込んでこれを倒す。

 

 残った一匹も、のび太に再度飛び掛かってきたところを、真正面から銃弾を撃ち、撃破する。

 

 そして、次に4体のゾンビが入ってくる。

 

 しかも、その内の1体はクリムゾンヘッドだった。

 

 

「くっ!」

 

 

 のび太は先に脅威度の高いクリムゾンヘッドに狙いをつけ、発砲する。

 

 放たれた銃弾はクリムゾンヘッドの眉間を撃ち抜いてこれを撃破するが、それともう1体のゾンビを倒したところでベレッタの弾丸が切れた為、左手でコルトガバメントを引き抜いて2発の銃弾を発砲し、残る2体も倒した。

 

 

「さて、次は──」

 

 

 

グワアアア

 

 

 

 のび太が何かを言い掛けた時、今度は緑色の爬虫類を思わせる怪物が1体、中へと入ってきた。

 

 それは後にBOWの代表的存在の1つとなる生物兵器──ハンターの初期型であるハンターαだ。

 

 ・・・しかし、ハンターαにとって不幸だった点が1つあった。

 

 それはのび太がハンターαに対して、攻撃するために使用した銃は9×19ミリパラベラム弾を使用するベレッタM92ではなく、45ACP弾を使用するコルトガバメントであった点だ。

 

 コルトガバメントは大型自動拳銃と言われるだけあって、大口径の銃弾を使っている。

 

 流石にデザートイーグルなどのマグナム銃と比べると見劣りはするが、それでも通常の拳銃の中ではトップクラスの威力であり、そんなコルトガバメントから発射されたACP弾は、のび太の射撃の腕によって正確にハンターの頭部へと命中し、その大口径銃弾の威力によって容易くハンターαの命を刈り取った。

 

 かくして、ハンターαは遭遇早々、のび太によって呆気なく撃破されたのである。

 

 

「ふぅ、見える範囲の奴は全て片付いたぞ。おい、無事か!のび太!!」

 

 

 ハンターαを撃破した直後、既に外の敵をやっつけ終わった島田が2階から降りてきた。

 

 

「大丈夫です」

 

 

「そうか。じゃあ、早速だが、例のことを説明したい。なにぶん、こんな時勢だ。早く状況を知った方が良いだろう」

 

 

「そうですね。あっ、でも、夏音は・・・」

 

 

「あいつも知った方が良いだろう。知らないうちに不安から自殺でもされたら困るからな」

 

 

 のび太は夏音に知らせることに若干躊躇するが、島田は知らせた方が良いと主張する。

 

 まあ、確かに自分の中に何が起きているかどうか分からないなど不安でしかないし、それで錯乱などされるよりは知らせた方がまだリスクは少ない。

 

 その為、のび太は渋々ではあったが、島田の意見に納得し、夏音を呼ぶために2階へと上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太が夏音を伴って2階から下り、3人が勢揃いしたところで、早速、島田が事情を説明するために口火を切った。

 

 

「さて、何処から話したものかな」

 

 

「まず、夏音の状況について説明して欲しいな」

 

 

 のび太はまず夏音の状況を説明することを求めた。

 

 他にも色々と聞きたいことはあったが、夏音の体の事が最優先事項だとのび太も思ったからだ。

 

 

「ああ、それは構わないが・・・そうだな、のび太は寄生虫って知っているか?」

 

 

「? よく分からないけど、ぎょう虫検査ってしたことあるよ」

 

 

「まあ、簡単に言えば、生物の体の中に入って、その生物が食べたものを食して生きている虫のことだな。それで最近、人間の精神に干渉できる寄生虫が見つかったんだよ。それを教団は寄生体、またの名をプラーガと呼んでいる」

 

 

 島田はそれを淡々と説明したが、当の夏音はどういうことなのか、その話でなんとなく察してしまい、体を震わせる。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 そして、それに気づいたのび太は、落ち着かせるように少しばかり彼女を抱き締める。

 

 男女問わず、人肌の温かさは不思議な効果があるのか、夏音は震えていた体を徐々に静まらせることに成功した。

 

 もっとも、それを見せつけられた島田としては両者がいちゃついているようにも見えるため、かなり気まずそうであったが。

 

 

「続けて良いか?」

 

 

「ええ、それでその寄生体が夏音の中に?」

 

 

「まあ、な。俺も寄生体を入れられたことが有るから夏音の気持ちは分かるよ。もっとも、俺の場合は専用の機械で除去したがな」

 

 

「! 機械で除去できるんですか!?」

 

 

「ああ、それと除去とは行かなくとも、進行を遅らせる薬もある。まあ、今はどっちも教団の手の内だがな」

 

 

 島田はそう説明するが、そこまで聞いた時、のび太は違和感を持った。

 

 

「あの・・・1つ聞いて良いですか?」

 

 

「なんだ?」

 

 

「何故、そこまで教団の内情に詳しいんですか?」

 

 

「・・・俺もつい最近までは教団の一員でプラーガの研究をしていたからだよ」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太はそれを聞いて、なんとも言えない表情になった。

 

 

「昔の話さ。今は違う。それに俺が元々、このプラーガの研究をすることになったのも、奴等の研究に興味を持ったからだ。だが、段々と教団の狂気性が分かってきて、俺は抜けることにしたんだ」

 

 

「じゃあ、あの化け物も・・・」

 

 

 のび太は一連の話を聞いてそう思ったが、意外なことに島田はこれを否定した。

 

 

「いや、それは違う。あれはおそらく教団とは無関係だ」

 

 

「えっ?」

 

 

「プラーガは人間の精神を支配する代物だが、その影響でゾンビになるようなことはない。それは俺が保証する」

 

 

「じゃあ、何が・・・あっ、そう言えば、途中通った研究所でそれらしき資料を発見しましたね」

 

 

「本当か?」

 

 

「ええ、確か・・・T─ウィルスとか」

 

 

 のび太は夕方に手に入れたアンブレラの資料を思い出しながらそう言うが、島田はなおも首を傾げている。

 

 

「T─ウィルス。・・・聞いたことがないな。教団の新兵器か?いや、しかし・・・」

 

 

「あの!」

 

 

 島田がT─ウィルスについて考えていた時、今まで話に参加しなかった夏音が話に参加する。

 

 

「あの・・・何故、私が誘拐されて、その寄生体というのを投与されたんでしょうか?」

 

 

 夏音はずっと気になっていた疑問を尋ねた。

 

 確かに自分は外国人のハーフという普通の日本人とは少々違うところもあるが、それでもそのような特別な代物を投与される根拠としては薄いと思ったからだ。

 

 だが、島田はそんな彼女の問いに対して、罰が悪そうにこう答える。

 

 

「それは検査でお前が偶然プラーガ寄生体の適合者であることが判明して、教団がお前を重要視したからだよ。どうやって検査したのかは知らんがな」

 

 

「そうですか・・・」

 

 

「まあ、そういうわけだ。質問が以上なら、俺は失礼するぞ。夏音が寄生体に侵されている以上、機械は無理でも、薬は早く取ってこなきゃならんからな」

 

 

 そう言って島田はこの民家から去ろうとするが、それをのび太が呼び止める。

 

 

「待ってください。それでは僕が命を狙われる理由が分かりません。どうして教団は僕の事を?」

 

 

「・・・それについてはさっぱり分からん。見つけたら殺せとまで言われているのに、理由はさっぱり教えてくれなかったからな」

 

 

「・・・そうですか」

 

 

「力になれなくてすまんな」

 

 

 そう言い残し、島田は今度こそ民家から出ていった。

 

 

「僕は・・・なんで」

 

 

 それを見送った後、のび太はボソリとそう呟いた。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(0発)、コルトガバメント(3発)、ニューナンブM60(5発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)M79グレネードランチャー(1発。通常弾)、H&K MP5(12発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード3個、MK─3手榴弾1個

予備弾薬・・・ベレッタのマガジン1つ(15発)、コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、12ゲージ弾(12発)、38スペシャル弾(24発)、グレネードランチャー4発(通常1発、焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)

補助装備・・・ミックスハーブ2つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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スーパータイラント

◇西暦2013年 7月28日 夜 日向穂島 

 

 

「ふぅ、大体こんなものかな」

 

 

 あれから少しして民家を出て移動していたのび太達だったが、途中で多数のゾンビの呻き声らしきものが聞こえたので、夏音を近くにあった人間一人丸ごと入る箱の中に入れさせ、自らは進路上に存在するであろうゾンビの掃討を行うために先へと進んだ。

 

 案の定、ゾンビが多数居り、のび太はそれらを掃討し、途中でチェーンソーを持った男が二人に苦戦しながらも、途中拾ったマグナム銃──コルトパイソンが有ったお蔭でどうにか危機を逃れることに成功した。

 

 

「しかし、また弾の危機が迫ってきたな」

 

 

 しかし、のび太の武器には再び弾切れの危機が迫っていた。

 

 ある程度はあの民家で補充したものの、やはりそれだけでは足りなかったのだ。

 

 特にベレッタは1マガジン分しか残弾が無かった為、温存せざるを得なかったし、その代わりとして使ったニューナンブM60は装填が非常にやりづらかった。

 

 まあ、それでも何とかするところは、流石のび太と言うところであろうが。

 

 

「まあ、良いや。取り敢えず、夏音を連れてこよう」

 

 

 そして、のび太は再び夏音を連れてきて、この道を通ることを考えていたのだが、何か得たいの知れない違和感を感じていた。

 

 

「・・・なんだろう?どんどん特定の場所に誘い込まれているような・・・」

 

 

 のび太はそう感じていた。

 

 確かに通れる道がかなり限られているという現在の状況は、そう思えても仕方がない。

 

 しかし、それ以外に道が無いこともまた確かだった。

 

 

「いや、ここまで来たんだ。行くしかない」

 

 

 のび太は改めてそう思い直し、夏音を連れてくるために元来た道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・夏音、少しここで待っていてくれる?」

 

 

 のび太はそう呟いた。

 

 あれからのび太達は一件の小屋の前に辿り着いたのだが、のび太の勘はこう言っている。

 

 これはヤバイ、と。

 

 その為にも、非戦闘員である夏音にはここに残っていて欲しかった。

 

 

「わ、分かりました。気を付けてください」

 

 

「うん」

 

 

 夏音の言葉にのび太は頷くと、建物の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・何もないな」

 

 

 のび太は少し小屋を探索してみたが、何もないことに気づく。

 

 

(杞憂だったのかな?)

 

 

 のび太はそう思った。

 

 てっきり、何かここで強力な敵と戦うかと思ったのだが、何も無かったことに内心では安堵している。

 

 まあ、好き好んで強い奴と命懸けで戦いたくはないのだから当たり前だが。

 

 

「さて、戻るか」

 

 

 のび太はそう呟く。

 

 しかし、その時──

 

 

 

ガタガタ

 

 

 

「ん?」

 

 

 何か小屋の上から物音がした。

 

 のび太はそれに気づいて上を見る。

 

 そして──

 

 

 

ガタガタ

 

 

 

ドッガアアアアン

 

 

 

 天井から1体の巨人が現れた。

 

 

「なっ!こいつは!!」

 

 

 のび太は驚いた。

 

 なにしろ、その相手は数時間前に戦ったタイラントだったのだから。

 

 ちなみに、のび太は知らないことだが、この個体は数時間前に戦ったタイラントがスーパータイラント化したものだった。

 

 

 

ドン!ドン!

 

 

 

「のび太さん!そちらに何か行きました!!大丈夫ですか!!」

 

 

 外に居る夏音は屋根から侵入するスーパータイラントの姿を見たのか、心配してドアを叩いてくる。

 

 

「うん、大丈夫。ちょっと待っててね」

 

 

 夏音にのび太はそう答えるが、スーパータイラントの方はのび太を視認すると、のび太の方に向かって走ってきた。

 

 

「ッ!!」

 

 

 のび太はM79グレネードランチャーを構えると、そこから弾丸を発射する。

 

 数時間前と同じように、発射された40×46ミリグレネードはスーパータイラントへと着弾して、爆発した。

 

 しかし──

 

 

 

ウオオオオオ

 

 

 

 スーパータイラントは仰け反って苦しそうに呻き声を挙げたが、致命傷には至っていない。

 

 

「!? グレネードランチャーでも効果がないのか」

 

 

 のび太は少し驚いたが、それはタイラントの様相が違うことに気づいた時から、なんとなく予想していたことだった為、然程驚かずに再装填を行おうとした。

 

 だが、スーパータイラントはのび太のよりも早く態勢を建て直すと、再びのび太の方に向かってきた。

 

 

「不味い!」

 

 

 のび太はグレネードランチャーの再装填は間に合わないと判断し、M79グレネードランチャーを捨てて回避行動に移る。

 

 そのお蔭もあって、どうにか回避には成功するが、投げ捨てたM79グレネードランチャーはスーパータイラントに踏み潰されてしまう。

 

 

「!? こうなったら!」

 

 

 

 のび太はグレネードランチャーの弾丸である弾丸(通常)をスーパータイラントの足元に転がして、それをコルトガバメントを引き抜いて撃った

 

 すると、その弾丸は爆発を起こし、スーパータイラントの足下を殺傷する。

 

 

 

ウオオオオオオ

 

 

 

 スーパータイラントはそれによって転倒し、それを確認したのび太はコルトガバメントを仕舞って、マグナム銃であるコルトパイソンを構えた。

 

 コルトパイソンの装填弾数は最大で6発だが、先程のチェーンソー男に対応するために2発使ったので、残りは4発。

 

 更に予備弾薬は無いので、コルトパイソンの弾は今装填されているこの4発しかない。

 

 

(落ち着け。4発で仕留めるためには・・・)

 

 

 のび太は気持ちを落ち着かせると、タイラントの前に回り込んでコルトパイソンから2発の銃弾を発射させる。

 

 コルトパイソンはマグナム銃なだけあって、普通の拳銃よりも反動が強いが、のび太はどうにかそれを受け流しながら正確な射撃を行い、2発の357マグナム弾はスーパータイラントの頭部へと命中し、スーパータイラントは悲鳴すら上げることが許されず、今度こそ絶命した。

 

 

「ふぅ、手強かったなぁ」

 

 

 のび太はそう思いながら、このような場所には長く居たくないと、コルトパイソンを仕舞いながら小屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何かありましたか?」

 

 

 小屋から出てきたのび太を見た夏音が恐る恐ると言わんばかりに尋ねる。

 

 まあ、彼女からしてみれば、大きな銃声や爆発音がどう考えてものび太が入った小屋の中としか思えない場所から響いてきたのだから、心配するのも当然と言えば当然だった。

 

 だが、それに対して、のび太はこう答える。

 

 

「いや、なんでもないよ。ちょっと大きなゴキブリが出ちゃってね」

 

 

「そ、そうだったのですか」

 

 

 夏音は少々引き気味な様子でそう言った。

 

 のび太の言葉は明らかに嘘であったが、今はそれを突っ込んではいけないと思ったからだ。

 

 

「うん、じゃあ、行こうか」

 

 

 こうして、のび太はスーパータイラントを撃破し、先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇城

 

 

 

「うわぁ。大きなお城ですね」

 

 

 夏音はその光景を見て素直に感心していた。

 

 なにしろ、目の前に存在する城は彼女が幼少期にヨーロッパで見たような洋風の立派な城であったからだ。

 

 

「・・・」

 

 

 だが、のび太はそれをじっと見て観察している。

 

 

(なんか、可笑しいな)

 

 

 こんな田舎とも言える島に堂々と立っている巨大な城。

 

 これだけでも相当不自然であるが、のび太はこの城が綺麗であるという事実そのものに大きな違和感を持った。

 

 なんせ、島はゾンビや化け物があちこちに存在する地獄だ。

 

 そんな中で、綺麗な場所が存在するというのは、それだけで違和感がある。

 

 ましてや、こんな巨大な城ならば。

 

 

「ここに入るのですか?」

 

 

「それは・・・」

 

 

 のび太は若干言葉を詰まらせる。

 

 こんな怪しさ満点の城に入っていくなど、自爆するような行為に思えてならなかったのだ。

 

 もしかしたら、例のロス・イルミナドス教団の本拠地かもしれないし、そうでなくとも大量のゾンビが城内に蔓延っている、などという可能性もある。

 

 しかし──

 

 

「・・・うん、そうだよ」

 

 

 のび太は結局、ここに入ることに決めた。

 

 元々、この島は既に化け物だらけとなっている。

 

 その中には通常の人間ゾンビだけでなく、ゾンビ犬──ケルベロスやゾンビカラス──クロウ等の動物型のゾンビも居るのだ。

 

 そんなゾンビが蔓延る外、しかも夜に土地勘もない武器も尽きかけている者達が生きていられるだろうか?

 

 答えは当然NOだ。

 

 それならば、まだ敵の本拠地だとしても、城の中に入る方がリスクが少ないだろう。

 

 隠れるものが一杯あるだろうし、建物そのものが人工物なので、動物型ゾンビが居る可能性も少ない。

 

 ・・・敵の居る場所の方がリスクが少ないというのは、あまりにも過酷すぎる現実であったが、これが現在ののび太達の状況だったのだ。

 

 

(もう戻ることも別の場所に進むことも出来ない。だったら、教団の本拠地だったとしてもやるしかない)

 

 

 のび太は改めてそう決意して、不安を押し殺しながら、夏音の手を引く形で城の中へと入っていった。





本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(15発)、コルトガバメント(1発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(2発)、ショットガン・ベネリM3(6発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)、H&K MP5(9発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード3個、MK─3手榴弾1個

予備弾薬・・・コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、12ゲージ弾(12発)、38スペシャル弾(15発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)

補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ2つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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約束

◇西暦2013年 7月28日 夜 日向穂島 城内

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・あっちこっち敵だらけで、流石に疲れた」

 

 

 のび太はここに来てかなりの疲れを見せ始めていた。

 

 城内に入った二人を出迎えたのは、おそらく教団関係者であろう武装兵──ガナードの集団であり、のび太はそれと応戦することになったのだが、相手がゾンビと違い、既にプラーガによって怪物化しているとはいえ、生きた人間となると若干射撃に躊躇したのだ。

 

 もっとも、結局は夏音を守るためにやむをえず相手を殺してここまで進んだのだが、人を殺したことに対する手応えはのび太の精神を徐々に蝕んで来ていた。

 

 加えて、持っている武器も尽き始めているということや、相手が殺す気で掛かっているという現実、更に自分以外に戦える仲間も居ないという現状には、流石ののび太も堪らず、つい弱音を溢してしまったのだ。

 

 そして、その言葉は彼に護られている立場の夏音には深く突き刺さる。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

「えっ?・・・あっ」

 

 

 夏音にそう言われて、のび太はようやく先程の愚痴が失言であったことに気づいた。

 

 なにしろ、自分達が狙われるのは夏音にも原因があると、島田に先程言われたばかりだったのだ。

 

 おまけに戦闘に直接参加しているわけではないので、自分の存在はのび太が狙われる原因を増やしている上に、足手まといになっていると思っても不思議ではなかった。

 

 

「私のせいで、のび太さんを危険な目に遭わせちゃって・・・本当にごめんなさい」

 

 

 夏音は泣きそうになりながら、そう言葉を溢した。

 

 しかし──

 

 

「・・・いや、違うよ」

 

 

 のび太はそれを否定する。

 

 

「確かに最初は僕だって、一人でさっさと脱出すれば良いとは思っていたさ」

 

 

 そう、それがのび太の当初の目的。

 

 のび太はこの島を脱出することを最優先に考えていて、生き残っている島の住民を助けることなど、全く考えていなかったのだ。

 

 まあ、そもそものび太がここに来たのは偶然だったし、そこでバイオハザードが起きていたのも偶然が重なったからに過ぎない。

 

 なので、のび太の考えは当たり前と言えば当たり前の事だったのだが、それが変わったのは夏音と実際に会った時だった。

 

 

「でも、夏音のことを聞いて危険に晒されているなんて知っちゃったら、見捨てるなんて出来ないよ」

 

 

 今ののび太は1人で脱出することよりも夏音を助けることを迷わず選ぶ。

 

 彼女を助けようと思い至った経緯としては、自分と同じく巻き込まれた側の人間であるという共感や同情という感情も少なからずあったが、なにより恐怖に震えている女の子を見捨てるという事がのび太には出来なかったからだ。

 

 何故なら、のび太は臆病ではあったが、今までの大冒険でそうだったように、心に確かな芯の持った人間であったのだから。

 

 いや、むしろ、この場に居たのがのび太、あるいはドラえもん以外であったならば、彼女のことを拒絶して何処かで彼女を護ることを諦めていたかもしれない。

 

 のび太の友人は誰も彼も心に確かな芯を持った人物ではあったが、のび太ほど強い心は持っていなかったのだから。

 

 

「のび太君・・・」

 

 

 夏音は思わず驚いた顔をした。

 

 まさか、この期に及んでそのような言葉を掛けてくれるとは思わなかったからだ。

 

 心なしか、夏音の頬は若干赤くなる。

 

 しかし、のび太はそれに気づかず、更に言葉を紡いだ。

 

 

「絶対に生きてここを出よう!プラーガとかいうのを取り除いて、僕と君と島田さんの3人で必ず脱出するんだ!!」

 

 

「・・・ええ、そうですね!約束ですよ、のび太さん!!」

 

 

 のび太の宣言に、夏音は笑顔でそう答える。

 

 その晴れやかな笑顔に、見ていたのび太は思わず顔を赤らめてしまい、それを誤魔化すかのようにのび太はポケットからあるものを取り出す。

 

 

「あっ。そ、そうだ!これを持っててて。御守りとして丁度良いから」

 

 

「これは押花・・・ですか?」

 

 

 夏音が受け取った物。

 

 それは雪の花の紋章の押花のバッチ。

 

 かつてのび太がコーヤコーヤという惑星で1人の少女から送られた物だ。

 

 あのコーヤコーヤでの大冒険以来、のび太は御守りとしてこれを常に持ち歩いていたのだが、他人に渡したことは1度としてなかった。

 

 だが、今回、照れ隠しか、それとも1人で護りきれるかという不安からかは分からないが、のび太はそれを御守りとして彼女へと渡したのだ。

 

 

「それは少し前にある女の子から贈られたものなんだ」

 

 

「そんな大切なもの、本当に貰って良いんですか?」

 

 

「うん。その花と同じものはあと三つあるし、それに・・・それを貰った時にした約束、もう果たせなくなっちゃったからね」

 

 

 そう、かつてこれを貰った時、少女はのび太に『これからも私達の事を守ってください』と言い、それに対してのび太は『勿論だよ。出来る限りの事をする』と答えた。

 

 だが、あの次元の扉が消え去ってしまった今、その約束はもう2度と果たせなくなってしまったのだ。

 

 もしかしたら、それ以来、のび太が少女から貰った雪の花のバッチを持ち歩いていたのは、それを誰か相応しい人に渡すためだったのかもしれない。

 

 のび太は今更ながらそう思った。

 

 

「のび太さん・・・」

 

 

 その何処か遠い目をしたその表情と女の子から貰ったものという言葉に、夏音は胸にチクリとした痛みを覚えたが、やがてあることを決意するとのび太に対してこう言った。

 

 

「やはり、受け取れません。これはお返しします」

 

 

「・・・そっか。それなら仕方な「ただし──」ん?」

 

 

「ただし、約束してください。絶対に自分の命を私のために粗末にしないと。必ず、この島から生きて帰ると誓ってください」

 

 

 その強い決意を秘めた彼女の目差しにのび太は驚かされたが、やがて『ふぅ』と息を吐くと、何処か憑き物が取れた顔でこう言った。

 

 

「ありがとう。それならこの雪の花のバッチに誓うよ絶対に生き残るってね」

 

 

「はい!」

 

 

 再び満面の笑顔を浮かべた彼女からのび太は雪の花のバッチを返して貰うと、それをポケットには入れず、かつてコーヤコーヤでスーパーマンをやって来た時と同様に左胸へと着けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、二人は2つの約束を交わすが、それとは裏腹に、夏音は1つの決意を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何かあったら私がのび太さんを守ろう。・・・例え、私の命に換えても)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは先程まで心が絶望に支配されていたか弱き少女の確かな意思だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「島田さん!」

 

 

 のび太達は城内で彼の姿を見つけて、駆け寄った。

 

 しかし、当の島田の方は彼らの姿を目にして、大きく目を見開く。

 

 当然だろう。 

 

 まさかこのようなところに居るとは思わなかったのだから。

 

 

「なっ!お前ら、なんでこんなところに!?ここは教団のアジトだぞ!!」

 

 

「それが、もうここしか入れる場所がなくて」

 

 

「・・・そうか。なんてこった」

 

 

 それを聞いた島田は顔を手で覆った。

 

 おそらく彼らがこの城に入ったのも偶然ではないだろう。

 

 どうやら、教団は何がなんでも二人をどうにかしたいらしい。

 

 

「それより、薬は?」

 

 

「・・・ああ、ちゃんと有るよ」

 

 

 そう言って島田は懐から薬を取り出して夏音へと渡す。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 夏音はお礼を言いながら、薬を受け取り、中身を飲み始める。

 

 中身は苦かったが、体の中に入った異物をなんとか出来るのは現在、この薬しかないので、夏音は我慢して飲み続けた。

 

 それを見ながら、のび太は島田に尋ねる。

 

 

「それで、機械は何処に在るの?この薬って、進行を遅らせるだけだから根本的な解決にはならないんだよね?」

 

 

 その通りだった。

 

 島田が手渡したのは、あくまでプラーガの進行を遅らせる薬でしかなく、根本的に危険を取り除くにはやはり機械を使うしかない。

 

 のび太は島田の説明でそれを分かっていたからこそ、肝心の機械の在処を掴んだかもしれない島田に尋ねているのだ。

 

 

「それは今、探している。どうやら俺が知っている場所とは違う場所に移されたみたいでな。ここからは今まで通り、二手に別れよう。お前が派手に暴れて、その間に俺が機械を確保する」

 

 

「少し気にかかるところはありますけど・・・まあ、分かりました。でも、そっちが機械を探すなら、夏音も一緒に・・・」

 

 

「いや、夏音はお前と一緒に居た方が良い」

 

 

「えっ?」

 

 

 のび太は島田の言葉に首を傾げた。

 

 どう考えても、夏音を島田が連れたまま機械を見つけてそのまま治療した方が手っ取り早い。

 

 それに子供の自分より、大人の島田と一緒に居た方が良いし、その方が安全だとのび太は思う。

 

 ましてや、自分は命を狙われている。

 

 夏音は自分が原因みたいなことを言っていたが、どうやら自分にも彼女とは別に狙われる理由があるのだ。

 

 だったら、せめて夏音だけでも連れていってもらった方が良いとのび太は考えたのだが、島田の意見は違うようだった。

 

 

「夏音は教団からしてみれば重要性が高い人間だ。そんなところで、お前と夏音が一緒に居ないことがわかれば、教団は俺に疑惑の目を向けて陽動が成り立たなくなる。それに──」

 

 

 そこで言葉を切ると、既に薬を飲み終えた夏音に残りの言葉を告げる。

 

 

「よう、嬢ちゃん。俺とのび太、着いていくならどっちが良い?」

 

 

「えっ?」

 

 

 突然の質問に、夏音はキョトンとするが、その意味を理解すると迷わずのび太の方に身を寄せる。

 

 

「──だそうだ。意外にモテるじゃねえか」

 

 

「・・・分かりました。夏音は絶対に僕が守ります」

 

 

「俺もこうなった以上、死んでもお前らに機械の場所を探って教えてやるさ。それと、あっちに教団の武器庫がある。武器がもう無いなら、武器の補充をしていった方が良い。じゃあな」

 

 

 そう言って島田は立ち去ろうとしたが、その前に夏音が声を掛ける。

 

 

「あの島田さん!どうしてそこまで・・・」

 

 

 夏音は島田にそう問い掛ける。

 

 彼女からすれば、数時間前まで面識の無かった筈の自分にどうしてそこまでしてくれるのか分からなかったからだ。

 

 

「そうだな・・・一言で言うなら、良心の呵責、かな」

 

 

 そう言い残し、島田は今度こそ立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、こりゃ凄い」

 

 

 島田が立ち去った後、島田が言っていた武器庫に着いたのび太は、その量の豊富さに驚かされた。

 

 まず、武器はアーウェン37・グレネードランチャー、デザートイーグル(44マグナムバージョン)・マグナム、レミントンM870・ショットガンなどがあった。

 

 他にもその3つの武器の弾薬や、ベレッタM92の15発マガジンが5つ、コルトガバメントの7発マガジンが2つ、閃光手榴弾が3つ、M67破片手榴弾が2つ、MK─3攻撃手榴弾が1つ、357マグナムが3つ、MP5の32発マガジンが2つ、更に38スペシャル弾が10発ほど在る。

 

 正直、弾薬不足に悩まされていたのび太にとってはこれらの存在はかなり有り難かった。

 

 しかし、同時に思う。

 

 

(なんで、これらの武器をさっきの教団の人間は使ってこなかったんだ?)

 

 

 今まで交戦してきた教団が使ってきたのは、盾やナイフ、剣、ボウガンなどといった銃が存在する前から使われた代物ばかり。

 

 これだけの武器があるならば、銃火器を使ってきても可笑しくはないのに、わざわざそんな古い武器を使う理由が分からなかった。

 

 

「・・・まあ、良いか」

 

 

 のび太はそう呟く。

 

 これだけの武器が手に入った以上、わざわざそんなことを気にする必要はないし、向こうがそういった物を拘って使っているならば、それはチャンスでもあるのだ。

 

 のび太はそう思うことにした。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(15発)、コルトガバメント(4発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(5発)、デザートイーグル・44マグナム(8発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(5発)、H&K MP5(9発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾4個、M84スタングレネード5個、MK─3攻撃手榴弾2個

予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン5つ(75発)、コルトガバメントのマガジン3つ(21発)、44マグナムマガジン4つ(32発)、12ゲージ弾(20発)、38スペシャル弾(19発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、37×110ミリグレネード弾(通常3発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)

補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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島田千尋

◇西暦2013年 7月28日 夜 日向穂島 島田城 城内

 

 

「ほう、まだ無事だったのかい?」

 

 

 城内に入ってきたのび太と夏音に嘲笑混じりの声でそう話しかけてきたのは、一人の初老の女性だった。

 

 傍らには執事らしき男性が居る。

 

 

「? なんですか?あなたは?」

 

 

「そうだね。ここの城の持ち主、と言ったところだろうかね?」

 

 

「!? じゃあ、あんたも教団の」

 

 

「そう。私は忠実なサドラー様の僕、島田千尋」

 

 

 そう言う千尋の顔には狂気とも言うべき笑みが浮かんでいる。

 

 どうやら僕と言う辺り、相当サドラーに心酔しているらしい。

 

 

「正直、あの不出来な甥もそうだけど、サラザール様の邪魔をする奴は私にとっては屑以下の存在でしかないんだけどね。サドラー様が計画のために必要だっていうから生かしておいてやっているんだ。感謝して欲しいよ、まったく」

 

 

 千尋はそう言いながら、憎々しげにのび太と夏音を見る。

 

 そのあまりの鋭い憎悪のこもった視線に、夏音は体が震え上がってしまうが、そんな夏音とは対称的に、のび太は千尋の身勝手な主張に怒っていた。

 

 それもその筈。

 

 そもそも夏音がここに居るのも、ロス・イルミナドス教団が浚ってきたからなのだ。

 

 それを棚にあげて“生かしてやっている”などと言うのは、あまりにも傲慢きわまりなさ過ぎる。

 

 加えて、千尋がするような眼光も、大冒険においてその手のことには慣れているのび太にとってはなんてことはない。

 

 ・・・もっとも、流石にここまで宗教に浸る狂信者を相手にするのは初めてだったが、それでも夏音よりは耐性がある。

 

 故に、のび太は千尋に反論の言葉を返した。

 

 

「なにが感謝してやって欲しいだ!お前達が誘拐してきたんじゃないか!!」

 

 

「・・・ほう、威勢が良いね。だけど、あんたは用済みだ。もう死んでも結構だよ」

 

 

「なに!?」

 

 

 千尋は冷たくそう言い言うと、のび太の反応に返すことなく、執事を伴ってその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!しくじった!!」

 

 

 のび太は焦っていた。

 

 先程の逆T字路の道で、のび太とみほの二人は床下に仕掛けられたトラップによって分断されてしまったのだ。

 

 そして、この状況は考えうる限りで最悪のもの。

 

 なにしろ、分断されたということは、向こうはすぐにでも夏音を確保する準備に掛かっている可能性が高いのだから。

 

 そして、もう1つ、のび太は気づいていなかったが、今の分断された状態ならば、教団は夏音の存在に配慮することなく、のび太を始末できるのだ。

 

 実際、ガナードはおろか、何処から入手したのかノビスタドールやハンターなどのBOWまで使ってのび太を全力で殺しに掛かってきている。

 

 今のところは全て返り討ちに出来ているが、もし教団がタイラントのような大型のBOWを投入してきた場合はのび太といえども流石に危ない。

 

 そんな自身の危険な状態にも気づかないまま、ある部屋へと辿り着いたその時──

 

 

「お前は!」

 

 

「おや、またあったねぇ」

 

 

 そこには千尋が居た。

 

 先程と同じように、高台でのび太を嘲笑うように見下ろしている。

 

 

「有宮夏音はどうしたんだい?」

 

 

 千尋は挑発ぎみにそう言ったが、元々二人は千尋の手によって分断されているので、本来ならこの問いは愚問に等しい。

 

 しかし、それでも敢えてそう言うのは彼女にとっては忌々しい存在であるのび太を嘲笑うチャンスでもあるからだ。

 

 そして、のび太は勿論、彼女の言葉に反発する。

 

 

「うるさい!夏音はあんたらの手なんかには渡さない!!」

 

 

「ふん!サドラー様に逆らうものは子供でも容赦しないよ!地獄を見せてあげる」

 

 

「偉そうに!そっちだって、寄生虫に頼っているだけじゃないか!!」

 

 

「私をガナードのような輩と一緒にされて貰っては困るね。あの男たちは奴隷に過ぎない。私が操っている」

 

 

「どっちにしろ、お前みたいな奴は絶対に許さないぞ!!」

 

 

「減らず口を」

 

 

 千尋はそう言うと、いつのまにか周囲に居たガナードを呼び寄せる。

 

 

「奴を始末しろ」

 

 

 そう言った後、千尋は立ち去り、後にはのび太に襲い掛かるガナードの集団が残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外か」

 

 

 千尋に焚き付けられたガナードを全て処理した後、のび太が先へと進んである扉を開けると、そこは城の外の廊下の空間へと繋がっていた。

 

 その空間はかなり広く、これだけでもこの城全体がどれ程広いのか伺える。

 

 しかし、のび太にその光景を感動している時間などない。

 

 今こうしている間も、夏音の命は危険に晒されているのだから。

 

 

(幸い、あいつの感じからするに、まだ夏音は奴等の手に捕まっていない。ということは、先に合流してしまえば)

 

 

 のび太は千尋の言動から、まだ夏音が教団に捕らえられていないことを察していた。

 

 もし夏音が捕らえられているのだとしたら、これ見よがしに見せびらかす可能性が高いからだ。

 

 のび太は10年と少しという短い人生しか生きていないが、千尋のようなタイプとは少なからず会ったことがあるので、そのくらいは分かる。

 

 

「急がないと・・・!?」

 

 

 のび太はそう言って急いで探そうとして曲がり角を曲がったが、その先に存在する影に驚き、慌てて身を隠す。

 

 

「ふむ、思ったより広いな」

 

 

 しかし、相手側の人物はのび太に気づいた様子はなく、淡々と一人言を呟いている。

 

 

「しかし、野比のび太は確かにこの城に入った。ならば、この近くに居るはずだ」

 

 

 その人物はそう言うと、先へと進んでいき、のび太の近くから去っていく。

 

 それを確認したのび太は、見つからなかったことに安堵の息を漏らした。

 

 

「ふぅ、危なかったな。しかし、あの僕にそっくりな奴もこの城に居たなんて」

 

 

 のび太は自分のそっくりさんのことに関して、ほとんど完全に忘れていた。

 

 何故なら、あの夕方の狙撃以来全くと言っても良いほど襲ってこなかったし、ゾンビやガナード、更にはタイラントやら、ハンターやらと次々と化け物に襲われたり、夏音を守ることに集中していた為、そんなことを考えている余裕が無かったからだ。

 

 

(これは厄介なことになったな。さて、どうしようか)

 

 

 のび太は考える。

 

 あの自分のそっくりさんが教団とどういう関係かは分からないが、どちらにしてものび太を殺そうとする人間であることに変わりはない。

 

 となると、出木杉も場合によっては相手にすることを考えなくてはいけないのだが、正直、今は時間が惜しいので、なるべく戦闘を避ける方針をのび太は考えるのだが、この城の全貌を知らない以上、有効な考えなど浮かぶわけもなく、のび太はすぐに考えることを止めた。

 

 

「・・・こうなれば、当たって砕けろだ。こっちが先に夏音と合流してしまえばどうということはない」

 

 

 のび太は半ば自棄になりながら先へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! のび太さん!!」

 

 

「夏音!」

 

 

 この城の中庭を抜けた先の部屋で、のび太は夏音と再会を果たした。

 

 どうやらのび太の予想通り、捕まってはいなかったらしい。

 

 

「良かった。無事だったんだね」

 

 

「ええ、助けてくれた人が居たから」

 

 

「助けてくれた人?島田さん?なんで一緒に居ないの?」

 

 

 のび太は島田が居ないことに首を傾げるが、夏音の方はと言えば、なにやら言いづらそうにしていた。

 

 

「その・・・違うの」

 

 

「? 違うって、なにが?」

 

 

「助けてくれた人は島田さんじゃないの」

 

 

「えっ!」

 

 

 のび太はその情報に目を見開いた。

 

 それはそうだろう。

 

 今までこの島で会った人間の中で、力を貸してくれたのは島田くらいのものであり、ましてや、ここは敵地のど真ん中。

 

 プラーガによって精神を蝕まれたガナードが大勢居るなかで、そのような人間が居るとは思わなかったのだ。

 

 しかし、のび太はその時、この島で初めて自分のそっくりさんと遭遇した時の事を思い出した。

 

 

(そう言えば、あの時も助けてくれた人が居たっけ?)

 

 

 のび太はあの時助けてくれた人物と同じかもしれないと思い、夏音にその人物の行方を尋ねた。

 

 

「それで、それはどんな人?」

 

 

「それは・・・ごめんなさい。暗くて顔はよく覚えて無かったんです」

 

 

 夏音は申し訳なさそうに言う。

 

 

「そっか」

 

 

 その言葉に、のび太は少々がっかりしてしまう。

 

 現状で確認できている限り、のび太の味方は夏音と島田しか居ない上に、夏音は非戦闘員で、頼りになるかどうかと聞かれたら否と答えるしかない。

 

 なので、島田の他に頼れる味方が居れば、のび太の負担も軽減することが出来たかもしれないのだ。

 

 連戦によって疲れが見え始めていたのび太ががっかりするのも、ある意味では当然と言えた。

 

 

「あっ。でも、島田さんだけじゃないことは確かです」

 

 

「分かった。じゃあ、脱出手段を探しつつ、その人も探してみるよ」

 

 

 のび太はそう答える。

 

 まあ、なんにせよ、夏音の言っていることが本当ならば、島田以外にも自分達の味方が居るということだ。

 

 今はその事実だけでのび太は満足することにし、夏音と共に先の道へと進み出した。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(9発)、コルトガバメント(1発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(4発)、デザートイーグル・44マグナム(4発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(5発)、H&K MP5(9発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾4個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン3つ(45発)、コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、44マグナムマガジン三つ(24発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、37×110ミリグレネード弾(通常1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)

補助装備・・・救急スプレー2つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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のび太のクローン

◇西暦2013年 7月28日 夜 日向穂島 島田城 

 

 

「ん?ここはまた武器庫か?」

 

 

 のび太は進んだ先の部屋でまたもや武器庫らしい部屋を見つけた。

 

 

「これは・・・ロケットランチャー?」

 

 

 のび太はそこに在った1つの武器を手に取る。

 

 それはのび太の言う通り、ロケットランチャー──RPG7だった。

 

 ソ連時代に開発された傑作兵器であり、開発からもう半世紀以上経過していたが、現在でも紛争地帯などで愛用されている武器だ。

 

 火力は使用する弾頭にもよるものの、それが最新のダンデム弾頭ならば、陸上自衛隊で採用されているパンツァーファウスト3(RAM)に勝るとも劣らない威力の代物でもある。

 

 それが1つ、この部屋に立て掛けてあった。

 

 他にもベレッタのマガジンや手榴弾などがあったが、武器はこのRPG─7しかない。

 

 

「大きいな」

 

 

 のび太は若干眉をしかめる。

 

 RPG─7はロケットランチャーだけあってかなり大きい。

 

 それでも一応、のび太のような子供でも撃てなくはないが、それは撃つときの話であり、持っていく分にはかなり大変な代物である。

 

 ましてや、他にも大量の武器を抱えている状態とあっては。

 

 

「まあ、しょうがない。持っていこう」

 

 

 それでものび太は持っていくことに決めた。

 

 このRPG─7がのび太が現在保有している武器の中でも一番火力が高いものだったからだ

 

 こうして、のび太は強力な武器を手に入れ、先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・来たか」

 

 

 先へ進んだ場所に存在する室内に水の通った大きな部屋。

 

 そこに居たのは件ののび太のそっくりさんだった。

 

 

「・・・お前の方から来てくれるとはな。今度こそお前を殺す」

 

 

 散々に命を狙ってきたこともあって警戒するのび太に対して、のび太のそっくりさんもまた不敵な笑みを溢しながら最大限の敵意を向けている。

 

 

「・・・」

 

 

 そして、それを見たのび太は悟ってしまう。

 

 この自分のそっくりさんとの直接対決は免れない、と。

 

 のび太は内心でため息を溢しながら、夏音の方に向かってこう言った。

 

 

「・・・夏音、ここを離れていてくれ」

 

 

「のび太さん?」

 

 

 夏音はのび太の言葉に首を傾げる。

 

 今ののび太はこれまで夏音が見たどの時よりも覇気が込もっていて、異様な雰囲気を発していたからだ。

 

 しかし、夏音のその疑問に答える余裕もないため、のび太は少し威圧感を込めて更に言葉を重ねる。

 

 

「お願いだ、早く」

 

 

「・・・わ、分かりました」

 

 

 夏音はのび太の気迫に負けたのか、素直にのび太の言葉を聞き入れて下がっていく。

 

 そして、それを見届けると、のび太は改めて自身のそっくりさんに向き直る。

 

 

「・・・ねぇ、今更だけど君は何者なんだ?どうしてそこまで僕を殺したがるんだ?」

 

 

 のび太は夕方に初めて彼と遭遇してからずっと思っていた疑問を自身のそっくりさんに尋ねる。

 

 

「・・・良いだろう。冥土の土産に教えてやる」

 

 

 のび太のそっくりさんはそう言って、説明を始める。

 

 

「お前は平行世界という言葉を知っているかい?」

 

 

「平行世界?あのもしもボックスで行ける奴?」

 

 

 のび太は前にドラえもんに聞いた話や自分が体験した話を思い出す。

 

 平行世界、またの名をパラレルワールド。

 

 例えば、科学の代わりに魔法が発達した世界や、お金の概念や価値観が違う世界などの、この世界とは物理的な構造そのものは同じでありながらも別の世界のこと。

 

 もしもボックスという秘密道具はそういった世界へ行ける代物だ。

 

 のび太はそれを使って、魔法の世界へ行き、魔界星まで乗り込んで、悪魔や大魔王デマオンを相手にして倒した事もある。

 

 

「そうだ。そして、俺の名はセワシ。はこの世界から来た人間ではない。別の世界から来たお前のクローンなんだよ」

 

 

「く、クローン!?」

 

 

 のび太はその単語に驚いた。

 

 クローン。

 

 その言葉はのび太も聞いたことはあるが、要するに特定の人物のDNAを使ってその特定の人物と全く同じ血が流れるそっくりな人間を造ることだ。

 

 もっとも、見た目が同じであっても性格などの精神面は環境に左右されるために全く同じにはならないのだが。

 

 

「そうだ。俺はお前のクローンだ。そして、常にオリジナルであるお前と比較されて生きてきた。・・・まあ、それは別の世界のお前の話だから、お前とは関係ないと言えば関係ないんだがな?」

 

 

「? それなら、なんで僕の命を狙うんだ?」

 

 

「その理由なら2つある。まず1つ目の理由だが、この世界には俺と同じように別世界から現れた存在があと2つ居る。一人はお前も知っているドラえもん、もう1つは俺のオリジナルだ」

 

 

「・・・」

 

 

「そして、ドラえもんが名乗っているオズムンド・サドラーという名だが、これは偽名だし、ロス・イルミナドス教団という名の宗教集団も同じだ。まあ、同様の人名と名前はこの世界に居るから、万が一の場合はその集団に罪を擦り付けようと思ったんだろうな」

 

 

「・・・それで?」

 

 

 のび太は強張った顔をしながらも話の続きを促す。

 

 

「連中はこの世界を征服することを狙っている。そして、この世界のお前は数々の大冒険を潜り抜けているという情報も既にそいつらは知っている。だから、何かされる前に始末してしまおうという魂胆なのさ」

 

 

 そう、それがロス・イルミナドス教団がのび太を殺害しようとしている根本的な理由だった。

 

 この世界に侵攻してきたドラえもんは世界征服を計画していて、のび太の事をこの世界の征服の為の最大の障害だと考えているらしく、このセワシと名乗る自身のそっくりさんに自分の殺害を命じていたのだ。

 

 しかし、それでも疑問は残る。

 

 何故、のび太なのか、だ。

 

 

「なんで僕なの?それだったら、ドラえもんの方がよっぽど脅威じゃないか」

 

 

 のび太は思わずそんな問いをしてしまう。

 

 自分は小学生の中ですら、かなり貧弱な存在。

 

 そんな自分より、秘密道具を保有しているドラえもんの方がよっぽど彼らの脅威になる。

 

 そう考えるのび太であったが、セワシは鼻で笑う。

 

 

「ふん、それは本気で言っているのか?」

 

 

「なに?」

 

 

「ドラえもんが誰の子孫から送り込まれている存在なのか。これを考えれば、お前にもその意味は分かるだろ?」

 

 

「!?」

 

 

 のび太は目を見開く。

 

 確かにその通りだ。

 

 ドラえもんはのび太を含む大冒険を経験してきた5人の中でも秘密道具を保有するだけあって非常に脅威ではあるが、所詮は今から約100年後の22世紀の存在であり、過去を変えてしまえばなんの障害にもならない。

 

 もっと直接的に言うならば、ドラえもんを送り込んだセワシの子孫であるのび太を始末してしまえば、ドラえもんの存在は自然と消えてしまうのだ。

 

 加えて、平行世界からの干渉なので、タイムパトロールも出てこれないという寸法である。

 

 まあ、タイムパトロールが大冒険で役に立った事など、全体を通してみればほとんど無いのであるが。

 

 

「加えて、奴は大冒険で何時も土壇場を乗りきってしまうお前の特性を非常に危険に思っている。まあ、命を狙われるのも当然だな」

 

 

 セワシは皮肉げにそう言うが、実際にその通りだった。

 

 確かに秘密道具はドラえもんが保有しているものであり、使うのもドラえもんが一番多いが、その秘密道具を使ってここぞという土壇場を生き残るアイデアを出すのは、ほとんどのび太と言っても良い。

 

 なるほど、その平行世界のドラえもんが脅威に思うのも当然と言えば当然だろう。

 

 

「・・・そして、もう1つの理由だが、これは俺のアイデンティティに関わることでな。単純にお前を殺さねぇと自分がこの世界で生きている意味が分からなくなりそうな気がするんだ。だから、てめえを殺して俺が野比のび太の立場になり変わる。それがお前を殺す俺個人の理由だ」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・さて、長話もそろそろ終わりだ。死ぬ覚悟は出来たか?」

 

 

 セワシは話は終わったとばかりに、再びのび太を殺そうと銃のホルスターに手を掛け、それを見たのび太も同じような動作をしながら、こう宣言する。

 

 

「君の言っていることはあまり理解できない。でも、僕はこんなところで死ぬわけにはいかない!返り討ちにしてやる!!」

 

 

 正直言って、のび太はセワシの言ったことが半分も理解できない。

 

 だが、彼の殺意が本物だということは分かった。

 

 しかし、夏音を助けて脱出するという目的を達するためにも自分はここで死ぬわけにはいかない。

 

 それ故に、のび太は戦う覚悟を決め、ホルスターに入っている銃に手を掛けた。

 

 そして、それに対してセワシは対する不敵な笑みを浮かべながらホルスターから銃を引き抜いてのび太に銃口を向ける。

 

 ──二人の戦う準備は整った。

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 二人は無言で睨み合う。

 

 お互い相手が強者であることを認めているからだ。

 

 しかし、強者同士の睨み合いも、ずっと続くわけでもない。

 

 むしろ、二人が睨み合ったのは、僅か数秒に過ぎなかった。

 

 

「勝負だ、野比のび太!」

 

 

「勝負だ、セワシ!」

 

 

 二人は互いの目に闘志を携える。

 

 

 正にそれはライバル同士の決闘のようなものであった。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「絶対にお前を倒す!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──二人はそう宣言し、一方は銃の引き金を引き、もう一方は銃を引き抜いた。





本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(14発)、コルトガバメント(7発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(4発)、デザートイーグル・44マグナム(4発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、ショットガン・RDI ストライカー12(12発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(5発)、H&K MP5(9発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン4つ(60発)、コルトガバメントのマガジン3つ(21発)、44マグナムマガジン三つ(24発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、37×110ミリグレネード弾(通常1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)

補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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対決 オリジナルVSクローン

◇西暦2013年 7月28日 夜 日向穂島 島田城 城内

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

ドドド!ドドド!ドドド!

 

 

 

 島田城の城内にて、二人の少年──野比のび太とセワシは激戦を繰り広げていた。

 

 互いの持つ武器はのび太がベレッタM92、セワシがストック付きのH&K VP70だ。

 

 両者の戦いは火力的にはセワシが圧倒的に有利だった。

 

 H&K VP70はマガジンに装填できる弾数がベレッタM92の15発より3発多い18発という他、ストックを着ければ三点バースト射撃すら可能な銃であり、セワシの持っているVP70にもそのストックが付けられている。

 

 もっとも、VP70には色々と欠点があるが、逆に言えばその欠点が表に出ないような状態ならばその利点をそのまま相手に叩きつけられるのだ。

 

 そして、幾らのび太が早撃ちが得意と言っても、機械的な性能差は埋められない。

 

 よって、のび太が1発撃つ間にセワシは3発撃ってくる事が出来る。

 

 だが──

 

 

 

ドン!

 

 

 

「うっ!」

 

 

 セワシは右肩に走った激痛に、思わず声を出してしまう。

 

 それだけの火力の優位をもってしても、セワシはのび太に対して優位に立つことが出来ずにいた。

 

 その理由は幾つかある。

 

 まず最初にVP70は三点バーストにすると、前述したように瞬間火力は3倍となるが、その分、弾薬の消費ペースも早いため、弾切れや装填回数が必然的に多くなる。

 

 本来なら、そのようなモードを止めて単発に切り換えるべきなのだが、それは不可能だった。

 

 何故なら、単純に二人の実力が違っていたのだから。

 

 セワシはのび太のクローンで、しかも英才教育を受けているだけあってのび太と負けず劣らずの射撃技術を持っており、更には格闘戦はのび太を圧倒するほどであるためにそこら中の軍人程度なら瞬く間に瞬殺してしまう程の実力を持っている。

 

 しかも、現在は支配種プラーガすら体内に宿され、身体能力が劇的に向上しており、正直言って今の彼は特殊部隊の隊員ですら瞬殺してしまうかもしれない。

 

 しかし、残念ながらのび太は“普通の人間”にカテゴライズされない。

 

 あの大冒険を潜り抜けた経験や元から持っている射撃の才能。

 

 後者については前述したようにセワシも元からそこそこ出来るし、訓練も行って腕を上げているのだが、残念ながらその程度では天才の次元にあり、大冒険を潜り抜けて腕を上げ、更にこれまでの戦闘の過程で人に撃つことに躊躇がなくなっているのび太には通用しない。

 

 もっと言えば、“格”が違うのだ。

 

 更に身体能力の差で圧倒しようにも、のび太はまるでセワシの行動を先読みしているかのような行動を取り、セワシの攻撃を回避し、逆に反撃を喰らわせている。

 

 ・・・このような行動が出来ること自体、のび太もかなり化け物染みているのだが、そこは双方とも戦闘に集中しているせいか、お互いに気づいていないし、気にしていない。

 

 そして、そのような不利な条件が揃ってもセワシが途中までどうにか拮抗出来ていたのは、三点バーストによる瞬間火力によるものが大きい。

 

 セワシもそれを理解していた為に三点バーストを止めることが出来なかったのだ。

 

 しかし、それですらも時間が経つ毎にのび太も慣れてきたのか、現在ではのび太の方が戦闘に優位に立つようになっており、セワシは戦闘が進むごとにどんどん不利になっていた。

 

 

 

ドン!ドン!

 

 

 

「がっ!」

 

 

 またのび太のベレッタから9×19ミリパラベラム弾が発射され、セワシの左脇腹と左足に銃弾を喰らった。

 

 これでセワシの体に3発が着弾したことになるが、それに対してのび太は先程左頬を少し掠めた1発しかダメージらしいダメージは負っていない。

 

 強いていうならば、連戦による体力的な疲弊はあったが、戦闘によるダメージによる疲弊と単に体力的な疲れによる疲弊では、どちらが苦痛かは言うまでもないだろう。

 

 更に左足に弾丸を喰らったことで、セワシは機動力が急激に落ちた。

 

 そこにのび太からの連続射撃の嵐がセワシを襲う。

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

 ベレッタから3発の弾丸が発射される。

 

 その内、1発はセワシの頭部に向かって進んでいき、セワシはどうにかそれを回避したものの、残り2発は左腿と右胸に命中。

 

 その猛射を浴びたセワシは今度こそ地に伏した。

 

 

「うぐっ!」

 

 

 床に叩き付けられたセワシは苦悶の声を上げた。

 

 更に急所に当たったらしく、セワシの体からはドバドバと血が流れ続けている。

 

 このまま何も治療をしなければ、助からないのは明白だった。

 

 ましてや、戦闘をするなどもっての他だろう。

 

 しかし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれを・・・使おう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──セワシは自身の体内に存在するある切り札を使うこととした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ん?なんだ?)

 

 

 のび太の目の前で、セワシは持っていたVP70を突如として投げ捨て、そのセワシの不可解な行動にのび太は怪訝な表情をする。

 

 戦闘は終始、のび太の優勢だった。

 

 だが、自身のクローンとは違うとはいえ、いや、だからこそ、殺すことには流石に少し躊躇いがあり、のび太はセワシに対して、降伏勧告を行おうかと考える。

 

 逆に言えば、それをのび太が考えられる程、のび太にとってこの戦闘は余裕が有ったのだ。

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 

 ──しかし、たった今、目の前で起きているセワシの異変に、のび太はその考えを放棄せざるを得なかった。

 

 変貌したセワシの左手は大きな剣のようになり、とても人間の体とは言えないような状態になっている。

 

 どう見ても、のび太が今まで会ってきた化け物たちと同種になっているのは明らかだった。

 

 

「セワシ・・・どうしてそこまで」

 

 

「ふん!愚問だな。これもお前に勝って俺のアイデンティティを示すためさ!」

 

 

 セワシは狂気を孕んだ赤い目でそう言った。

 

 そう、セワシはプラーガによる絶大な力をその手に入れ、のび太に勝つことを第一優先に生きてきたのだ。

 

 だからこそ、その力を手に入れるために生け簀かない平行世界のドラえもんに近づいたのだとも言える。

 

 

「・・・そうか。そこまで堕ちたか、セワシ」

 

 

 のび太は失望したような目線で呟く。

 

 今は敵対して殺意まで向けられているが、のび太は大冒険の時のようにセワシとは何時か分かり合えると思っていたのだ。

 

 しかし、このような姿になってしまうと、もはやそんな感情は抱けず、のび太の心の中に在るのは失望と怒りだけだった。

 

 

「さあ、行くぞ!のび太!今度こそ、決着を着けてやる!!」

 

 

 セワシがそう宣言し、二人が交戦状態に入ったことで、戦いの第二ラウンドは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(面倒だな)

 

 

 のび太はそう思いながら、セワシの攻撃をかわし続けていたが、セワシがプラーガの力を解放した結果、戦況は完全に逆転してしまっていた。

 

 セワシの剣のような攻撃に対して、のび太はかわし続けるしか手がなかったし、のび太の方は先程、ベレッタの9×19ミリ弾を更に2発とガバメントの45ACP弾を3発、セワシに向けて発射したが、それら全てが素早く膨張して展開された翼のような盾になった左腕に防がれてしまっている。

 

 そこでのび太はコルトパイソンを引き抜いてこれを発砲したものの、これも効果は無し。

 

 更にデザートイーグル(44マグナム)やショットガン、果てはグレネードランチャーまで撃ち込んで試してみたが、結果は上に同じだった。

 

 加えて、向こうの攻撃を一度でも直撃で喰らえば、一撃で致命傷を負うのは間違いない。

 

 それは先程、あの左腕の剣によって真っ二つにされたRDI ストライカー12の末路を見れば明らかだろう。

 

 状況は完全にのび太の不利だった。

 

 

(こうなったら、あれを使おうかな?)

 

 

 のび太は一瞬だけRPG─7に目を移す。

 

 このRPG─7に装填されているロケット弾は榴弾。

 

 戦車などの装甲目標を相手にするには心もとないが、非装甲目標に関しては絶大な効果を発揮する弾丸だ。

 

 本来なら、人を相手にするには一番適していると言える弾頭なのだが、残念ながらこの時ばかりは戦車などを相手にするための成形炸薬弾HEAT弾が欲しいところだった。

 

 何故なら、相手はグレネードランチャーの直撃にすら耐える正真正銘の化け物だったのだから。

 

 

(・・・いや、止めておこう)

 

 

 のび太はRPG─7を使うことを止めることにした。

 

 理由としては、これ1発しか弾丸が無いからだ。

 

 その為、のび太はなんとかセワシの弱点を探そうと、セワシの攻撃を回避しながら観察を続けたが、一方のセワシはと言えば、自らの攻撃が当たらないこの状態にかなり苛立っていた。

 

 

(くそっ!なんで当たらない!?)

 

 

 セワシは剣のようになった左腕でのび太に向かって突きや凪ぎ払いのような攻撃を行っていたが、それら全てがのび太によってかわされた結果、なんの効果も挙げていない。

 

 しかし、これだけを見るならば、のび太の反撃は先程から効いておらず、セワシの攻撃をかわしてはいるが、防ぐ手段が無い以上、セワシが未だ圧倒的に有利に見える。

 

 だが、セワシには焦りがあった。

 

 そもそもセワシはプラーガの力を解放することでここまでの力を得たのだが、その代償として段々と自分の自我が無くなっていっているような感覚を得ていたのだ。

 

 つまり、このまま戦闘を続ければ、自我が無くなってしまい、セワシの敗けは決定される。

 

 だからこそ、短期決戦で行きたかったのだが、先程から攻撃は全く当たらない。

 

 

(化け物か!こいつは!!)

 

 

 ただの人間よりも圧倒的な力を有している自分。

 

 その力は一人で完全武装をした軍の特殊部隊の1個小隊は蹴散らせる程になっている筈だ。

 

 にも関わらず、のび太はそんな自分を難なくあしらっている。

 

 ここに至って、セワシはこの世界ののび太がとんでもない化け物じみた存在であると改めて認識せざるを得なかった。

 

 その恐怖とも取れる感情も合わさって、戦闘が経過するごとに、セワシの焦りはどんどんと募っていく。

 

 そして、その思考は動きにも同調されており、のび太はそれによってセワシの弱点を見つけ出した。

 

 

(! ここだ!!)

 

 

 のび太は残ったコルトパイソンの357マグナム弾2発を発砲した。

 

 狙ったのは足。

 

 のび太はセワシの全体を改めて観察した結果、脚の部分はあの翼で覆われていない事が分かり、もしかしたら脚には効くのではないかと一縷の望みをかけて攻撃を行ったのだ。

 

 そして、その目論みは見事に的中し、セワシは態勢を崩してしまう。

 

 

(しまった!?)

 

 

 セワシはそう思ったが、同時にそれが命取りとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喰らえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 態勢を崩したセワシに、のび太は右手にベレッタ、左手にガバメントを持ち、ベレッタのマガジン内に残された3発の9×19ミリパラベラム弾とガバメントのマガジン内に残された4発の45ACP弾。

 

 合わせて7発の弾丸をセワシへと叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──2人の決着が着いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!ここまでやってもダメなのかよ」

 

 

 セワシは自嘲したようにそう言った。

 

 

「どんどん体が乗っ取られているような感覚がする。これが力に呑まれた者の末路か」

 

 

「セワシ・・・」

 

 

 この戦いの勝者であるのび太は、そんなセワシに哀れみの視線を向ける。

 

 そして、今更ながらどうにか救えないかと思考を回すが、その機先を制するようにセワシがこう言った。

 

 

「無駄だ。プラーガに一度でも完全な侵食を許した者は決して治らない。まあ、神経を引っこ抜けば出来なくもないが、そこまでして普通の人間に戻るなんて真っ平ごめんだな」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は無言を以て答える。

 

 のび太も分かっているのだ。

 

 セワシはもう助からないということが。

 

 しかし、そんな状況ですら諦めるという事をしないのがのび太という男であったが、今回は流石ののび太もどうにもならない。

 

 それをのび太は自覚すると、その顔を哀しげに歪めてしまう。

 

 

「・・・そんな顔をするな。お前は有宮夏音を守ることだけを考えれば良い。あとプラーガの除去装置を探すこともね。それと──」

 

 

 セワシは右手でホルスターに入っていたH&K VP70を取り出すと、のび太に向かって放り投げる。

 

 

「餞別だ。持っていけ」

 

 

 そう言うと、セワシは左手の刃を自分の首へと当てる。

 

 

「セワシ、待て!」

 

 

 のび太は制止の声を上げて慌てて止めようとするが、最期とばかりにセワシが見せた穏やかな顔にその動きを止めてしまう。

 

 

「・・・・・・じゃあな、この世界の野比のび太。お前との戦い、楽しかったぜ」

 

 

 それが最期の言葉だった。

 

 セワシがそう言った直後、彼は自らの左腕の剣で自分の首を切り落とし、その首と胴体を離して死んだ。

 

 辺りに鮮血が飛び散り、周囲一帯を真っ赤に染めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを見届けたのび太は、無言でセワシが最期の選別として渡したVP70を拾い、その場から去っていった。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(0発)、コルトガバメント(0発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(0発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(7発)、H&K VP70(9発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(4発)、H&K MP5(9発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン4つ(60発)、コルトガバメントのマガジン3つ(21発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、44マグナムマガジン2つ(16発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、37×110ミリグレネード弾1発(通常1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)

補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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狂人との会話

◇西暦2013年 7月28日 深夜 某所 とある島

 

 

「──セワシが敗れたようです」

 

 

「うむ、既に知っている。まったく、使えん男だったな」

 

 

 暗がりの島で、側近の言葉にサドラーはそう呟く。

 

 そこにはセワシを労るような言葉や感情は一切無い。

 

 

「この世界の野比のび太が異常すぎる、というのも有りますがね」

 

 

「ああ。この世界の野比のび太とセワシの存在はコインの表と裏のように対極的だ。それであるがゆえに相容れない。そして、私は裏に賭けたが、どうやら期待外れだったようだ。やはりクローンは所詮オリジナルには勝てないということか」

 

 

「どういたします?」

 

 

「島田千尋に相手をさせてやれ。例のものを渡してな。ちなみに有宮夏音は確保したのだろうな?」

 

 

「はい、二人が交戦している間に。島田健太の方はまだですが、既に捕捉しており、確保も時間の問題です」

 

 

「よし。では、確保次第、有宮夏音と共にこちらの島に移送しろ」

 

 

「承知しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇少し前 日向穂島 島田城 城内

 

 

「夏音!もう出てきて良いよ!!」

 

 

 セワシとの激闘を終えた後、のび太は夏音が隠れているであろう周辺に向かって声を掛けた。

 

 しかし、返事はない。

 

 

「夏音?」

 

 

 のび太は夏音からの返事がないことを怪訝に思うが、次の瞬間にはある想像をしてしまい、顔を青ざめた。

 

 

(もしかして・・・拐われた?)

 

 

 それは十分考えられる可能性だった。

 

 なにしろ、あの時、のび太はセワシと激闘を繰り広げており、のび太は夏音を巻き込まないためにあの場から追い払った為、夏音は結果的に一人となってしまっていたからだ。

 

 しかも、あれだけの戦いだったので、仮に夏音が悲鳴を上げてのび太に助けを求めていたとしても、のび太は気づかなかっただろう。 

 

 加えて、夏音はのび太と違って、戦闘能力が皆無な上に武器の1つすら持っていない普通の女の子。

 

 相手からしてみれば、拐うことなど造作もないのは間違いない。

 

 

(迂闊だった。やっぱり、離れるべきじゃなかったか?いや・・・)

 

 

 のび太は夏音を離すべきではなかったかと一瞬思ったが、それは違うと思い直す。

 

 どのみちセワシとの決闘は避けては通れなかったし、あの場に待機させていれば戦闘によって流れ弾が飛んできて夏音が死傷しかねなかった。

 

 それを考えれば、あの時、夏音を離した決断は間違いではなかった筈だ。

 

 しかし、今の現状を前にすると、やはりあの時、どうにか逃げる方法を考えるべきではなかったか?

 

 そういう考えも、のび太の頭の中に存在した。

 

 

(どっちにしろ、今はそんなことを考えている余裕はない。早く夏音を探さないと!!)

 

 

 もし拐われたのだとしたら、プラーガ寄生体の事もある以上、早く教団から夏音を奪還しなくてはならない。

 

 のび太はそう思い、夏音の捜索のために一歩を踏み出す。

 

 しかし、その時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キシャアアアア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──天井から化け物の声が聞こえた。

 

 

「!?」

 

 

 のび太はその声に反応し、右腰のホルスターに仕舞われているベレッタを引き抜こうとするが、弾切れであることに気づき、素早くそれを止め、先程出木杉から貰った弾が装填されているであろうH&K VP70を改めて取り出す。

 

 しかし、その間に件の化け物──キメラは攻撃を仕掛けてきた。

 

 

「あっ!」

 

 

 慌てて回避し、どうにかダメージから逃れたのび太であったが、その際に持っていたVP70を取り落としてしまう。

 

 

「しまった!?」

 

 

 のび太はそう叫び、慌ててそれを拾おうとするが、そこにもう1体のキメラが現れ、そのVP70をその鋭い爪で突いてバラバラにした。

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

 のび太は一瞬、何が起きているのか分からなかった。

 

 しかし、徐々にその状況を理解し始めると、怒りと憎悪の感情を2体のキメラに抱く。

 

 

「お前ら・・・よくもやったな!!」

 

 

 のび太は怒りの声をキメラに向かって叫ぶ。

 

 あの銃はセワシが死に際に自分に託してくれた云わば形見なのだ。

 

 それを託されてすぐ、それも化け物ごときに壊された。

 

 それはのび太からしてみれば、ガンマンとしてのプライドを大きく傷つける行為であり、のび太はセワシにすら向けてなかった本気の殺意をキメラに向ける。

 

 

「生きて帰れると思うな!!」

 

 

 のび太はそう叫び、デザートイーグルを引き抜いてキメラに向かって発砲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数十分後

 

 

「無様だねぇ、健太」

 

 

 千尋は椅子に縛られている状態の島田に向かって嘲笑うようにそう言った。

 

 ちなみに、その島田はどうやら捕まる際にかなり教団の団員に痛め付けられたのか、あちこちアザだらけであり、左腕からは血を流している。

 

 しかし、それでも島田は気丈に千尋を見返し、逆に挑発するようにこう言った。

 

 

「へっ。そっちこそ、良いかっこしているじゃねえか。そんな趣味の悪い花に覆われ、ガッ!」

 

 

 その言葉の途中で、触手のようなものが島田の腹を貫く。

 

 

「お黙り!!サドラー様が授けてくださったこの姿を貶すとは何事だい!!」

 

 

「ぐっ。うぅ・・・は、は。何が、サドラー様・・・だよ。あんな・・・気味の悪い、くそ教祖、があぁ!!!」

 

 

 痛みにもめげず、途切れ途切れになりながらも更なるサドラーへの罵到を繰り返す島田に対して、千尋は島田の腹を貫いた触手を掻き回すように動かす。

 

 当然、腹を掻き回されるという事をされた島田はその激痛によって悲鳴を上げている。

 

 そんな島田の様子を、千尋は怒りと愉悦で歪んだ顔で楽しんでいた。

 

 

「・・・おっと。そう言えば、生かして連れてこいと言われていたんだったね。残念ながらここまでか。おい、この坊やを連れていけ!!」

 

 

「はっ」

 

 

 千尋は触手を引き抜きながら、島田の傍らに控えていた教団の男にそう命じ、男もまたそれに応える形で島田を連れていった。

 

 それを見送りながら、千尋は忌々しげにこう呟く。

 

 

「まったく、サドラー様の思想も理解できないとは。救えないね。まあ、所詮は本家の糞どもの一員だし、こんなもんか」

 

 

 元々、島田千尋はとある名門の分家の有力者だったのだが、とある理由から本家の人間達によってこのような離れ小島の城主の立場へと追いやられたという経緯があり、自分に対してそのような仕打ちをした本家の人間たちを恨んでいた。

 

 もっとも、そのような対応になったのは彼女の日頃からの傲慢な態度も関係していたし、離れ小島とはいえ城主になれたのはある意味本家の温情と言えなくも無かったのだが、彼女はそんなことを自覚していない。

 

 その後、どうにか権力を戻すことを試みたのだが、万が一にも彼女に仕返しをされないように本家の当主が色々と手を回していた事と前述したような日頃からの傲慢な態度によって本家の人間のみならず他の分家からも反感を買っていたことで味方をする者は殆ど居らず、島田家内での彼女の居場所は無いも同然になっていたのだ。

 

 そんなときに近づいてきたのがサドラー(別世界のドラえもん)だった。

 

 彼女はその後、色々あって彼の思想に感銘を受け、そのうちに彼を崇拝するようになり、忠誠を誓うことに決めたのだ。

 

 しかし、彼の計画は本家筋の甥である島田と、たった一人の小学5年生の少年によって破綻しようとしている。

 

 これは千尋にとっては信じがたいことであり、同時に許せないことでもあった。

 

 

「こうなったら、ここであの小僧を仕留める!サドラー様には絶対に近づけさせない!!」

 

 

 千尋は決意を新たにする。

 

 そして、彼女の前に野比のび太が現れたのは、その僅か数分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ・・・」

 

 

 のび太は扉を開けた先の部屋の光景に絶句した。

 

 

「よく来たね」

 

 

 千尋はやって来たのび太にそう声を掛けるが、当ののび太はその時は何も言葉を返すことが出来なかった。

 

 なにしろ、入った部屋の奥には、花の壁のような物が存在するのだが、その中央には千尋の首が在るのだ。

 

 そのホラーのような現状に、のび太は思わず身がすくんでしまう。

 

 

「これはいったい・・・」

 

 

「ああ、これかい?サドラー様が授けてくださったのだ。どうだ?凄いだろう?」

 

 

「・・・・・・なんで、そこまでしてサドラーに?」

 

 

 その恍惚とした表情を浮かべてそう言う千尋に、のび太は哀れみを通り越して呆れた視線、否、狂人を見る視線を向けながらそう尋ねる。

 

 そもそものび太にはそこまでしてサドラーに尽くす理由が全く分からない。

 

 確かにセワシからオズムンド・サドラーの正体は平行世界のドラえもんだと聞いているが、のび太からすれば『だからなんだ?』という話であり、仮にもしそのオズムンド・サドラーがドラえもんと全く同じ容姿で来ても、それがドラえもん本人を操っている状態でもない限り躊躇なく撃てる自信がある。

 

 つまり、のび太はこの世界のドラえもんと平行世界のドラえもんを『体だけ同じの全くの別人』と見なしており、それ故にのび太はあの教会で出会った冷たげな男に千尋が心酔する理由が全くもって理解できなかったのだ。

 

 

「うん?そんなものは愚問だろう?かの御方はこの世界を救ってくださる御方なのだからな」

 

 

「そんな筈はない!!だいたい、こんなことをしている時点で、世界を救えるわけがない!!」

 

 

 のび太はそう叫ぶ。

 

 今までのび太がこの島を見てきたなかで、教団はプラーガを使っての島民の洗脳と怪物化、更には夏音というなんの関係もない小学生の少女を誘拐して連れてきた挙げ句に、プラーガを体内に植え付け、実験台にするといった非道な事をやらかしている。

 

 ちなみにこれはのび太が知っている事だけに限定してのものであり、実際はもっと非道を行っている可能性が高い。

 

 しかも、それだけにあきたらず、サドラーはプラーガを使ってこの世界を征服して自分のものにしようなどと考えているのだ。

 

 とてもではないが、そこに救いがあるなどとはのび太には到底思えない。

 

 しかし、のび太は1つ、根本的な事を理解していなかった。

 

 “狂人”という存在は、そんなことを気にするような人種ではないことを。

 

 

「ふん、分かっていないね。サドラー様がプラーガを世界中にばら蒔けば、世界中の人間がサドラー様によって幸せになり、争い事も無くなる。そうは思わないかい?」

 

 

 千尋はうっとりとした顔でそう言うが、のび太はその発言と千尋の空気に恐怖を感じた。

 

 確かに世界中の人間が洗脳されて一人の意のままに動かせれば、争いはなくなるだろう。

 

 だが、それは所詮、一人の独裁に過ぎず、たった一人の手によって世界中の人間の生死や生き方が左右されてしまうことになるし、人生の権利を非道なことをしている人間の手に与えるというのは、まともな頭をしていれば決してしないことだ。

 

 

(正気じゃない!)

 

 

 のび太はその瞬間、これが“狂人”という存在であるという事を心の底から刻み付けられた。

 

 そして、これ以上話しても不毛だということも。

 

 

「・・・・・・夏音は何処だ?」

 

 

「おや、いきなり話を変えたねぇ?」

 

 

「いいから答えろ!!何処だ!!」

 

 

 のび太は苛立ちを込めて叫ぶ。

 

 元々、プラーガを植え付けられているということもあって夏音には時間がない。

 

 確かに今は薬でプラーガの進行を遅らせているが、それはあくまで送らせているだけであって、プラーガそのものが体内に在り、時間が経てば意識が乗っ取られてしまうという危うい現状であることには変わり無いのだから。

 

 しかも、そんな貴重な時間をわざわざ割いて千尋の話を聞いたのに、それが全くの無駄になってしまったことで、のび太はかなり苛立っていたのだ。

 

 

「ふん!あの小娘なら、この島には居ないよ。既に別の島に移送されてる。・・・ああ、そう言えば島田もさっきその島に送ったっけねぇ」

 

 

「島田さんも?」

 

 

「ああ。だが、再会することはないよ。何故なら、お前はここで死ぬんだからね!!」

 

 

 そう言うと、千尋の周囲に触手のようなものが展開された。





本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(9発)、コルトガバメント(1発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(0発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(3発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(5発)、H&K MP5(9発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン2つ(30発)、コルトガバメントのマガジン2つ(14発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、デザートイーグルの44マグナムマガジン2つ(16発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)

補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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約束を果たすために

◇西暦2013年 7月28日 深夜 日向穂島 島田城 城内

 

 

「何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だああぁぁぁぁああ!!!」

 

 

 千尋は目の前の現状に対し、自身の思考のキャパシティをオーバーしてしまったのか、現実を認められなくなっていた。

 

 のび太との戦闘が始まった当初はまだ良かったのだ。

 

 千尋本体へと行われたのび太の銃撃は周囲に覆われた花弁?によって防ぐことができたし、のび太の方は千尋の触手の攻撃によって逃げ回るしか術が無かった。

 

 しかし、戦闘開始から1分後、のび太は攻撃の対象を千尋本体から壁の穴から除く巨大な眼へと切り換えると、戦況は一気に変わっていく。

 

 正にそれこそが千尋の弱点だったからだ。

 

 そして、眼に攻撃を受けた千尋は文字通り眼に直接銃弾を当てられたような衝撃を受け、苦悶の声を上げるようになった。

 

 それを皮切りに、のび太は次々と復活する眼に銃弾を浴びせていく。

 

 しかも、途中からはデザートイーグルの44マグナム弾やアーウェン37・グレネードランチャーの37×110ミリグレネード弾を叩き込み始めた為、彼女の苦痛はより増加していった。

 

 

(このままじゃ負ける!)

 

 

 そうは思ったが、彼女は何も出来ない。

 

 元々、彼女の変貌した姿では体を自ら動かすことは出来ないのだ。

 

 よって、彼女の取りうる選択肢は、自らの攻撃の手段である触手の直接攻撃やそれを使っての落石攻撃などによってのび太にダメージを与える他なく、その攻撃が当たらない限りは一方的に撃たれるしかない。

 

 

(・・・なんでだ!!どうしてガキなんかにここまでされるんだ!!)

 

 

 自らの攻撃は全く当たらず、対して向こうの攻撃は的確に当たり、こちらにダメージを与え続けている。

 

 このままでは自分が殺られるのも時間の問題だろう。

 

 しかも、小学生相手に。

 

 そんな屈辱的な現状が認められなかった事で、千尋の思考は恐怖と怒りでごちゃごちゃになっていた。

 

 そして、それに同調する形で攻撃は滅茶苦茶になり、のび太はそれをかわし続けた結果、千尋に大きな隙が生まれる。

 

 

(! 今だ!!)

 

 

 のび太はそのタイミングで先程、再装填を終えたデザートイーグルの44マグナム弾を千尋の顔面に叩き込む。

 

 ──そして、その銃撃を受けた千尋の意識は、2度と回復することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。ちょっとてこずったけど、どうにか倒したな」

 

 

 のび太は44マグナム弾を受けて頭が弾け飛んだ千尋の姿を見ながらそう呟く。

 

 こちらの被害は、強いて言うならば少々の掠り傷と5発のアーウェン37・グレネードランチャーの弾丸を全て使いきってしまったことくらいだ。

 

 正に完勝と言っても過言ではない。

 

 

「・・・そう言えば、二人は別の島に運ばれたとか言っていたな」

 

 

 のび太は先程の千尋の言葉を思い出す。

 

 

(別の島に行くには海を渡らないと行けないから、もしかしたら船かヘリが有るのかも)

 

 

 のび太はそう考えるが、1つだけ問題がある。

 

 それはのび太は船には乗ったことはあるものの、操縦したことはないし、ヘリに至っては乗ったことすら無い事だ。

 

 故に、それらが有ったところで動かす術が無い以上、どうにもならない。

 

 

(・・・でも、このまま手をこまねいていてもどうしようもない。取り敢えず探してみよう)

 

 

 のび太はそう思い、部屋から出ていこうとしたが、その前にとある男から声を掛けられた。

 

 

「待て!」

 

 

「!?」

 

 

 のび太はその声に反応し、咄嗟にベレッタをそちらの方に向け、自らも顔を向ける。

 

 すると、そこには島田千尋の執事らしき初老の男が立っていた。

 

 

「私の名前は井手上透。野比のび太、今は引くが、俺はお前を絶対許さない。よく覚えておけ!」

 

 

 男──井手上透はそう宣言するが、それ以上のび太に対して何かを言うことも行動することもなく、部屋からスッと姿を消していった。

 

 のび太は奇襲の可能性もあると、警戒を行いながらしばらく銃を構えたままにしていたが、やがてゆっくりと銃口を下へと向け、ベレッタをホルスターへと戻す。

 

 

「・・・何だったんだ?いったい」

 

 

 のび太は透と名乗った男の不可解な行動の意味が分からなかったが、取り敢えず今は危険は去ったと見て、今度こそ部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──しかし、のび太は知らない。

 

 

 

 後にこの男が、とんでもない災いをのび太にもたらすということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──のび太君!」

 

 

「!? ドラえもん!!」

 

 

 あれから少しした所に船着き場があった為、のび太はそこに向かったのだが、そこに居たのは青い色をした丸っこい形をした存在──ドラえもんだった。

 

 時間にして半日振り、しかし、体感時間では何日も会っていないような気がした為、のび太はその青い姿を目にすると同時に涙を溢す。

 

 

「良かった。無事だったんだね!!」

 

 

「どうしてここに?いや、そんなことよりも、なんで早く来てくれなかったの!?こっちは大変だったんだよ!!」

 

 

 のび太は思わずドラえもんに対して、そう叫んでしまう。

 

 なにしろ、手違いでこの島に入ってしまったとはいえ、ドラえもんならば容易に調べてここまで来ることが出来た筈なのだ。

 

 もっとも、以前、無人島で10年近くも発見できなかったことがあったので、一概には言えないが、この島はあの時のような名前も分からない無人島ではなく、キチンとした名前がある有人島だし、忘れ物を取りに行ってなかなか帰ってこない状況ならば、何かしらのトラブルが有ったのは分かる筈なので、もっと早く秘密道具でもなんでも使って迎えに来て欲しかったというのがのび太の本心だった。

 

 まあ、あんな地獄の空間に長く居たい訳がないので、のび太の言ったことは至極尤も話だと言える。

 

 

「・・・」

 

 

 しかし、それに対してドラえもんは少々複雑そうな顔をした。

 

 のび太はそのドラえもんの表情を不審に思い、更に問い詰めようとした時、聞き覚えのある声がのび太の耳に入る。

 

 

「よう、お前も無事だったか」

 

 

「島田さん!?」

 

 

 そこに居たのは、教団に連れ去られた筈の島田。

 

 左腕は包帯によって吊るされており、腹にはでかい包帯が何重にも渡って巻かれていて、とても無事とは言えない状態であったが、それでもどうにか生きていることにのび太は喜んでいた。

 

 なんせ、この地獄のような環境の島では生きているだけでも儲けものであったのだから。

 

 

「連れ去られたと聞きましたけど・・・」

 

 

「ああ、そこの青だぬ、じゃなかった。青い奴に助けられたんだ。だが、みほは当の昔に、こことは別の島に搬送されちまったらしい」

 

 

 青狸と言い掛けたところでドラえもんの目がギラリと光った為、島田は慌てて言い直す。

 

 

「・・・そうですか」

 

 

 しかし、そんな島田を気にすることなく、のび太は残念そうに呟いた。

 

 もし夏音が島田と同じタイミングで搬送されたのならば、ドラえもんが同時に助けてくれた可能性もあったからだ。

 

 もっとも、夏音が拐われたのは元はと言えば自分の失態なので、ドラえもんを責める気はないが。

 

 そこでドラえもんが会話に戻ってくる。

 

 

「兎に角、今はここを離れよう。あっちに船が用意してあるから、そこでお互いの状況を話そう?」

 

 

「・・・うん、分かった」

 

 

 のび太は半ば疲れた様子でそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇海上 船内

 

 

「そんなことが・・・」

 

 

 のび太はドラえもんから知らされる情報に絶句していた。

 

 自分が日向穂島を探索していたのとほぼ同時期に、のび太の故郷である東京練馬区ススキヶ原がバイオハザードによって壊滅し、ドラえもん達が生き残ることに奔走したこと。

 

 そして、その過程で何人か仲間が死んだことなどだ。

 

 中でものび太の両親が既に死亡していることとクラスメートのはる夫がバイオゲラスというカメレオンのような怪物にやられて死んだという情報はのび太少なからぬショックを与えたが、意外な事にそれはのび太が意気消沈するほどのものではなかった。

 

 と言うのも、のび太はついさっきまでバイオハザードを経験していたせいで疲れて思考能力が若干だが低下しており、いきなり自分の知らない間に両親が死んで故郷が壊滅したなどと聞かされても、あまり実感が沸かなかったのだ。

 

 

「待って。ドラえもんの道具はどうなったの?それを使えば良かったんじゃ・・・いや、それ以前にタイムマシンを使ってバイオハザードを未然に防げば──」

 

 

「ごめん、のび太君。道具のほとんどは修理中で、残っているのは空気砲やお医者さんカバンに予備のスペアポケット、あとはキャンプ道具とか兎に角時間に干渉できそうな物は1つもないんだ。その後は逃げるのに必死で脱出した後に街へ戻ろうにも、その頃には警察や自衛隊がススキヶ原を封鎖していたから・・・」

 

 

「・・・そっか。それなら仕方ないか」

 

 

 その話を聞いたのび太は少々ガッカリしながらも、これが現実だと受け入れた。

 

 そもそも過去を改編し、起きたことを無かったことにするというのは大冒険で何度か使ってきた手であり、それをドラえもんが思い付かないわけがないのだ。

 

 それが出来ていない時点で、出来ない理由があると考えるべきだったとのび太は己を恥じた。

 

 

「それで残った道具を使って君を探してこうして迎えに来たんだよ」

 

 

「そうだったんだ・・・」

 

 

「それでね。ジャイアン達はアンブレラを倒しに行こうって言っているんだ」

 

 

「ええっ!?」

 

 

 そのドラえもんの言葉に、のび太は流石に驚いた。

 

 まさか脱出したばかりのこの段階で、早くもそのような話になっているとは思わなかったからだ。

 

 しかし、理解はできた。

 

 おそらく、故郷や両親が亡くなってしまったという事実による怒りと大冒険での成功がそのような決断をさせたのだろう。

 

 なにしろ、のび太もまた先程までは同じような目に遭っていたのだ。

 

 おまけにジャイアン達の場合、それが故郷というだけあって、日向穂島では所詮余所者に過ぎなかったのび太よりアンブレラに対する憎しみが大きい事も簡単に想像できた。

 

 

「もちろん、このまま政府に保護を求めるということも出来ないわけではないと思うけど・・・君はどうする?」

 

 

「行くよ」

 

 

 のび太は即答する。

 

 ドラえもんの言っていることが全て事実ならば、のび太もまたアンブレラを許せない。

 

 そもそも教団との戦いで半ば忘れていたが、先程まで居た日向穂島もまたアンブレラの手によって汚染されていて、島の住民は全滅している。

 

 この上に故郷がアンブレラの手によって全滅したとなると、のび太のアンブレラへの怒りは教団に対するものと同程度だ。

 

 

「でも──」

 

 

 しかし、その前にのび太にはやるべきことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『絶対に生きてここを出よう!プラーガとかいうのを取り除いて、僕と君と島田さんの3人で必ず脱出するんだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・ええ、そうですね!約束ですよ、のび太さん!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはあの古城で交わした夏音との約束。

 

 あの約束は夏音がこの場に居ない以上、果たされいないと言えたし、平行世界からやって来たという教団との決着もある。

 

 それらの清算をまずのび太は優先して行わなくてはならない。  

 

 

「──ドラえもん、頼みがあるんだ」

 

 

 そして、のび太は巻き込む形で申し訳ないと思いつつも、ドラえもんにある頼みを口にした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──一人の少女との約束を果たすために。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(6発)、コルトガバメント(2発)、ニューナンブM60(5発)、コルトパイソン(0発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(7発)、ショットガン・ベネリM3(6発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、アーウェン37・グレネードランチャー(0発)、H&K MP5(9発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン1つ(15発)、コルトガバメントのマガジン1つ(7発)、12ゲージ弾(18発)、38スペシャル弾(19発)、デザートイーグルの44マグナムマガジンが1つ(8発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン2つ(64発)

補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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上陸

◇西暦2013年 7月29日 未明 アンブレラ研究島

 

 

「野比のび太とこの世界のドラえもん様がこの島へと上陸したようです」

 

 

「そうか。遂に恐れていたことが起きてしまったか」

 

 

「一応、迎撃の指示は出しましたが・・・」

 

 

「その程度でやられてくれるなら我々とて苦労はしない。こうなると、我々も全力をもって相手をせねばならぬだろうな」

 

 

「では?」

 

 

「武装教団員達を根こそぎ集めて迎撃しろ。それとこの島に存在する化け者共もだ。我々の総力を以て奴等を迎え撃つのだ!!」

 

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い武器が手に入ったな」

 

 

 のび太は上陸した島の武器庫にてH&K G36・アサルトライフル、FN Five-seveNとそのマガジンや手榴弾、閃光手榴弾、更には何故かのび太の身体のサイズに合う戦闘スーツ──バイオアーマーが存在した。

 

 更にG36のマガジンは30発箱型マガジンの為、現在はもう喪失してしまったステアーAUG A1を見つけたのと同時に手に入れた2つの30発箱型マガジンが使える。

 

 

「さっきは危なかったからね。持っているに越したことはない」

 

 

 のび太はこの島に上陸した直後のことを思いだし、思わず冷や汗を流してしまう。

 

 この島にはのび太とドラえもんで上陸し、島田は負傷していることも考慮して船に残す形で置いてきた。

 

 そして、ドラえもんとのび太も二手に別れてこの島を捜索していたのだが、のび太は初っぱなにM134ミニガンを構えた大男に出くわしてしまったのだ。

 

 M134ミニガンは7、62×51ミリNATO弾を毎分3000発(毎秒50発)発射することが出来る。

 

 当然、そんなものが人間の体に直撃すれば防弾チョッキを着ていようがいまいが、蜂の巣となり、挽き肉へと変わってしまう。

 

 その為、のび太は必死に射線外へと逃れたのだ。

 

 幸い、このM134ミニガンは人が持つサイズでは使える弾数にも限りがあったので、10秒程撃った辺りですぐに弾切れが起きた。

 

 加えて、日向穂島と違って障害物が多かった為、M67破片手榴弾を使うことができ、のび太はそれを使ってその大男のガナードを倒したのだ。

 

 しかし、その後も銃火器やナイフ、手榴弾や電気の剣などを使った現代的な装備をしたガナードが大挙して押し寄せて来て、これもどうにか倒したものの、のび太はこの島に居る敵は日向穂島で相手した者達とは根本的にレベルが違うということを認識せざるを得なかった。

 

 更に武装教団員達との戦いで弾丸もかなり消費してしまった為、のび太は何か強力な武器が欲しいと思ってここに入ったのだが、その判断は正解だったと言える。

 

 

「さて、問題は夏音がこの島の何処に居るかなんだよな。・・・ん?」

 

 

 のび太はみほに繋がる手懸かりはないかと辺りを見渡し、1つのパソコンを発見した。

 

 そして、それを覗き込んでみると、そこには幾つかの映像が映し出されている。

 

 

「これは監視カメラか?これで何か分かるかも・・・」

 

 

 そう思うと、のび太はパソコンのモニターを覗き込む。

 

 すると──

 

 

「! 夏音!?」

 

 

 とあるカメラに夏音は映っていた。

 

 どうやら牢屋のような場所に閉じ込められているらしい。

 

 

「ここはエリア5?確かここはエリア1だったから、少し遠いけど行けない距離じゃないか・・・」

 

 

 のび太はそう言うと、部屋で手に入れた武器を持ちながらエリア5へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太がエリア5へと向かっていた頃、別行動を取っていたドラえもんもまた空気砲で武装教団員達を倒しながら夏音とプラーガ除去装置を探していた。

 

 

「・・・それにしても、数が多いなぁ」

 

 

 ドラえもんは武装教団員達の数を見ながらそう思う。

 

 別にそれ事態は何てことはない。

 

 ドラえもんは曲がりなりにも今から100年後の技術の結晶であり、並の銃火器では傷つけることさえ出来ないのだから。

 

 まあ、ロケットランチャーでも持ってこられれば話は別だが、逆に言えばそれでも持ってこない限り、ドラえもんにとって教団の銃火器は脅威にならないのだ。

 

 しかし、そんなドラえもんでさえこの武装教団員の数には辟易していた。

 

 まあ、サドラーがのび太とドラえもんを迎撃するために全戦力を傾けていたのだから、ある意味当然とも言えたのだが、そんなことをドラえもんが知るよしもない。

 

 

「ん?あれは・・・」

 

 

 ドラえもんは武装教団員に続いてやって来るBOW達を見た。

 

 そこには緑色をしたハンターαや黒いハンター──シャドウハンターの姿もある。

 

 

「・・・これは少しばかり厄介そうだね」

 

 

 ドラえもんは冷や汗を流しながらそれらの迎撃を行うために空気砲を再び構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇エリア2

 

 

「しかし、ここは何の島なんだ?」

 

 

 武装教団員達を倒して進みながら、のび太は疑問に思う。

 

 教団が待ち構えている島なので、ただの島ではないことは予測していた。

 

 しかし、それにしては妙だ。

 

 通り道のあちこちに明らかにのび太と教団員との戦闘によってではない銃撃戦の跡が残っていたし、よく分からない研究所や研究資料やらがあちこちに散らばっている。

 

 

「そもそも島田さんもこの島のことを全く知らないって言ってたし・・・」

 

 

 ここが教団の研究施設でない可能性は高い。

 

 それなら教団の元研究者である島田が知らないはずがないからだ。

 

 勿論、秘密裏に運営されていた可能性もあるが、のび太は何か違う気がした。

 

 

「まあ、今は良いや。それより、ここはエリア2で、あっちがエリア3か。段々と近づいていってるな」

 

 

 のび太は案内板を見ながらそう思い、そちらに向かって歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇エリア4 

 

 

「これは・・・」

 

 

 エリア4に侵入したのび太は、とある研究室に入ったが、そこにある光景には今までのことを加味しても絶句せざるを得なかった。

 

 何故なら、そこには幾つかのベッドとそこに寝かされた人達が居たが、その人間達は全員、腹を内側から破られたような状態となっているからだ。

 

 当然、生死など言うまでもない。

 

 

「何があったんだ?それによく見ると、寝かされているのは女性ばかりだし。こんな小さい子まで」

 

 

 のび太は横に西住メグミというタグの付けられたそのベッドに寝かされている小さな女の子の近くに寄って冥福を祈ると、念のためと思い、他の遺体も調べることにした。

 

 すると、その女の子のベッドのとなりに西住さほというタグが付けられたベッドに寝かされている20代くらいの女性の遺体を発見する。

 

 おそらく、先程見た西住めぐみの母親か何かだろう。

 

 

「・・・」

 

 

 

 のび太は無言でその母親にも先程のめぐみと同じように冥福を祈ると、足早にその研究室から出ていこうとするが、その直前に見覚えのある銀髪の髪をした女性の遺体を発見して一旦その足を止めた。

 

 

(フィリア・フォン・アーネルベール、か)

 

 

 

 その名前に、のび太は見覚えがあった。

 

 確かアンブレラの研究員の女性であった筈だ。

 

 そして、夏音の母親の女性でもあるのだが、どうやら先程の西住という名字の母娘同様に何かの実験台となって死亡してしまったらしい。

 

 

(参ったな。夏音になんて言えば・・・)

 

 

 アンブレラの研究員であり、非人道的な研究に携わった可能性のある人物でもあるが、拐われる前の夏音の話を聞くに、夏音にとっては良き母親であったことは確かだ。

 

 それ故に、彼女を救出した後、この事をなんと言えば良いのかのび太には分からなかった。

 

 

(いや、そんなことを考えても仕方ないか。取り敢えず、今は夏音奪還を優先しなきゃ)

 

 

 そう考え、半ば『来なければ良かった』という思いを抱きながら部屋を出たのび太であったが、その直後に何かしらの気配を感じて、足を止めた。

 

 

「・・・」

 

 

 のび太はじっと黙ったまま、周囲を見渡すが、何も居ない。

 

 しかし、何かが居ることはなんとなく感じ取れるので、今度は耳に神経を集中させた。

 

 すると──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒッヒッヒェッヒェッ・・・ヒッヒッヒェッヒェッ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──不気味な音が聞こえてきた。

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は無言のまま、ソッとデザートイーグルを引き抜く。

 

 そのあまりの不気味さに若干の恐怖を抱いたのか、その顔には冷や汗があちこちに流れている。

 

 威力が高い代わりに反動が大きいデザートイーグルを引き抜いたのも、そんな恐怖の対象を一撃で仕留めたいという心理が働いたからだ。

 

 

「・・・何処だ?」

 

 

 まだ気配はある。

 

 だが、姿は見えない。

 

 その矛盾にのび太が首を傾げたその時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴゥゥ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い目をした灰色の化け物──リヘナラドールがのび太の側面から襲い掛かってきた。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(6発)、コルトガバメント(2発)、ニューナンブM60(5発)、FN Five-seveN(20発)、コルトパイソン(0発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(3発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(12発)、アーウェン37・グレネードランチャー(0発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾5個、M84スタングレネード7個、MK─3手榴弾3個

予備弾薬・・・ベレッタM92のマガジン1つ(15発)、コルトガバメントのマガジン1つ(7発)、FN Five-seveNの20発標準マガジンが3つ(60発)、12ゲージ弾(16発)、38スペシャル弾(19発)、デザートイーグルの44マグナムマガジンが1つ(8発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉4つ(120発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)

装備防具・・・バイオアーマー

補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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あと少し

◇西暦2013年 7月29日 未明 エリア5

 

 エリア5の牢屋。

 

 そこには有宮夏音が閉じ込められており、そこに居る夏音は日向穂島に居た時のように俯いていたが、あの時とはそのような体勢を取っている理由が違った。

 

 

(私は・・・本当に役立たずです)

 

 

 夏音は内心で自嘲していた。

 

 散々同い年か、年下に思える少年に守って貰ったというのに、あっさりと化け物に拐われてしまったのだ。

 

 もっとも、あれはのび太の判断ミスでもあったのだが、それを責める資格は誰にもないだろう。

 

 何故なら、のび太はのび太なりに、あの場を切り抜ける判断をしただけなのだから。

 

 しかし、だからこそ少女は自分を責めていた。

 

 彼女はのび太のことを自分の命さえ賭けて守ろうと誓っていたが、その誓いを行ってから今までそれが果たされることは一切なかったのだ。

 

 まあ、そもそも夏音はのび太と違い、戦闘経験も相手を殺傷する覚悟も武器もそれを扱う技能も何も持っていない。

 

 要は自分の命を賭けられる程の覚悟はあっても、相手を傷つける度胸はなかったのだ。

 

 もっとも、それは本来ならのび太も同じだった筈なのだが、彼の場合、大冒険やその他の戦闘という経験を経たことがそれをクリアさせていた。

 

 しかし、夏音にはそんなものはない。

 

 つまり、はっきり言って彼女が戦場で出来ることなど何も無いのだ。

 

 それでも命を捨てる覚悟は本物なのだから、そういう意味ではその度胸は大したものではあるが、逆に言えばそれだけだった。

 

 いや、仮に夏音が戦闘技能を持っていたとしても、それはのび太の邪魔にしかならなかっただろう。

 

 何故なら、のび太の戦闘技能はそれが戦場に居る味方が自分一人、あるいは自分に息を合わせられる人間であった時に一番発揮されるものなのだから。

 

 とどのつまり、夏音はこの舞台で見せたように“主人公に守られるお姫様”という立場であるのが、本来、その舞台で一番苦労を強いられるはずの主人公のび太にとっても、一番都合が良い状況だったのだ。

 

 もっとも、夏音はそんなことを知るよしもない。

 

 何故なら、それは夏音どころか、のび太や敵であるサドラーですら気づいていない事実であったのだから。

 

 まあ、仮にそれに気づいたところで、夏音がその事実に納得するかどうかは別問題だろう。

 

 彼女自身は自覚していなかったが、夏音が一番嫌なことは、自分のために他人が傷つくことなのだから。

 

 

「・・・のび太さん」

 

 

 そんな状況で思うのは、自分を守ってくれた一人の少年の安否。

 

 彼が助けに来るとは思っていない。

 

 何故なら、この場所はあの島から海を隔てた位置にあるし、あの少年が海を越える移動手段を持っているとも思えなかったからだ。

 

 なので、あの約束が果たされることはないだろう。

 

 夏音はそれを覚悟していたが、やはりのび太は無事で居て欲しいというのが、紛れもない彼女の本心だ。 

 

 元々、彼とは何の関係もなかったのだから。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 夏音はここには居ないのび太に向けて謝罪の言葉を口にする。

 

 そして、願う。

 

 無事でいますように、と。

 

 ・・・しかし、彼女は無意識下でこう思っていた。

 

 助けて、と。

 

 だが、それを口に出すことはない。

 

 それは許されないことであると夏音の感情が否定していたからだ。

 

 だが──

 

 

 

ドン!

 

 

 

 そんな夏音の想いを一方では裏切り、もう一方では叶えるかのように、一発の銃声が彼女の牢屋と少し離れた位置で響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、厄介な敵だったな、こいつ」

 

 

 のび太はそう思いながら、持っていたデザートイーグルを元のホルスターの位置に戻す。

 

 あれからリヘナラドールを(アーウェン37・グレネードランチャーを破壊されるというハプニングは有ったものの)どうにか退け、のび太はエリア5までやって来たのだが、その先に居たのはたった今交戦した鎧のようなハンター──モビルハンターだった。

 

 正面からの攻撃はデザートイーグルすら通用しなかったが、攻撃を回避した時、背中の部分は通常のハンターαの色合いをしていることに気づき、そこは普通のハンターと変わらないのかもしれないとのび太は推測し、デザートイーグルの44マグナム弾をそこに向けて発射し、見事に撃破したのだ。

 

 しかし、正面からの攻撃がマグナムをも通さないというのは、非常に厄介であるのは確かだった。

 

 何故なら、このような狭い場所では横に回避して、攻撃をやり過ごすということは難しいからだ。

 

 おまけに障害物も少ないので、破片手榴弾も使いづらい。

 

 

「にしても、よくこんなのを用意できたな」

 

 

 のび太は倒れて動かなくなったモビルハンターを見ながらそう思う。

 

 皮膚を強化するのではなく、文字通り金属のような物で強化された生物兵器。

 

 日向穂島で戦ったスーパータイラントもそうだったが、装甲化された生物兵器など、どうやって造ったのか皆目検討もつかない。

 

 のび太は別に化学の専門家という訳でもなかったが、それが異常であるということはなんとなく分かった。

 

 

「・・・まあいいや、取り敢えず対処法が分かっただけでもよしとしよう。それより、エリア5はここだな。ということはあと少しだ」

 

 

 のび太はそう呟きながら、先へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! 夏音!!」

 

 

 モビルハンターと交戦した場所から少し歩き、のび太は遂に夏音を発見することが出来た。

 

 

「のび太さん!?」

 

 

 だが、当の夏音は困惑していた。

 

 まさか本当に来てくれるとは思わなかったからだ。

 

 しかし、そんな夏音に構わず、のび太は彼女が閉じ込められた牢屋に駆け寄り、扉を開けることを試みる。

 

 

「これはカードキー式か?夏音、ここの鍵を知らない?」

 

 

 のび太はここの鍵の場所を夏音に尋ねる。

 

 もっとも、夏音がそんなことを知っている可能性が低いのは、のび太も重々承知の上だ。

 

 しかし、それでもダメ元で聞いてみた。

 

 

「えっ?ごめんなさい、流石にそこまでは・・・」

 

 

 しかし、案の定、夏音は鍵の位置を知らなかった。

 

 まあ、当然だろう。

 

 閉じ込めている人間から見える位置に鍵を置いておくなど、よほどの間抜けがすることなのだから。

 

 

「いや、ダメ元で聞いただけだから良いんだ。分かった、すぐに探してくるからここで待っていて」

 

 

「へっ?あ、あの・・・のび太さん?」

 

 

 夏音は状況についていけず、困惑していた。

 

 しかし、そんな夏音に対して、のび太は優しくこう言う。

 

 

「大丈夫、心配しないで。もう少しだから」

 

 

「う、うん」

 

 

 その優しい声に、夏音はつい頷いてしまう。

 

 そして、のび太は懐から弾が満タンに装填されたニューナンブM60を取り出して夏音に渡す。

 

 

「一応、持っておいて。護身用くらいにはなるだろうから」

 

 

「えっ、でも・・・」

 

 

 渡された拳銃を見た夏音は困ったように目を泳がせる。

 

 まあ、彼女は拳銃を持ったことも、ましてや扱ったことも無いのだから当たり前の反応だが、あいにくのび太は当たり前のように扱っていたので、その点には気づくことが出来なかった。

 

 

「大丈夫だよ。僕はまだ武器があるから。じゃあ、そういうことで」

 

 

 そう言って、のび太は一旦そこを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!あと少しなのに!!」

 

 

 のび太は悪態をつく。

 

 ようやくカードキーを見つけたのび太であったが、そこから夏音のところに戻ろうとした先に居たのは、教団の武装教団員達だった。

 

 おまけにハンターαより凶悪なハンターβまで居る。

 

 本来ならやり過ごしたい相手ではあったが、今回はそうもいかない理由があった。

 

 

(ここにこいつらが居るということは、夏音が別の場所に連れ出されようとしている可能性が高い。なら、急がないと)

 

 

 そう、この道に武装教団員が居るということは、彼らは夏音を再度連れ出すための足止めとして配備されている可能性が高い。

 

 ならば、早く夏音のところに駆け付けなければならない。

 

 

(仕方がない。あの灰色の奴で弾を使いすぎたから温存したかったけど、あれを使うしかない!)

 

 

 のび太はここに来てリヘナラドール戦で消耗した為、温存していたG36を投入することに決めた。

 

 そして、のび太はG36の銃口をそちらに向け、発砲し出すと、拳銃では撃破が難しかった敵も5、56×45ミリNATO弾の前には流石に堪えたのか、あっという間に掃討されていく。

 

 一方、それは敵からしてみれば悪夢でしかない。

 

 何故なら、彼らはのび太が拳銃でこちらを相手にしていた時ですら、のび太に対して傷をつけることすら出来ていなかったのだから。

 

 のび太は自分が苦戦していたと思っているが、実は苦戦していたのは彼らの方だったのだ。

 

 しかし、流石にハンターβはある程度は持ちこたえたものの、攻撃力以外ではハンターαとさして変わらない事もあってか、他の武装教団員と同様にG36の銃弾を前に倒れた。

 

 そして、そのような強引な進撃を行って、どうにかのび太は夏音が閉じ込められている牢屋の近くまで辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太は目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来たな。その褒美として、裏切られて死ね恐怖を味わって貰おうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って嘲笑う赤い色をしたドラえもんと──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラーガに操られた証である紅く光った目でこちらにニューナンブM60の銃口を向ける夏音の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その直後、1つの銃声がその場に鳴り響いた。





本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(13発)、コルトガバメント(5発)、FN Five-seveN(14発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(6発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(6発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(1発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾3個、M84スタングレネード6個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン3つ(60発)、12ゲージ弾(12発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー3発(焼夷弾2発、硫酸弾1発)、30発箱型弾倉3つ(90発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)

装備防具・・・バイオアーマー

補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ2つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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戦闘ヘリ

◇西暦2013年 7月29日 未明 

 

 

「危ない!」

 

 

 ニューナンブM60を発砲するほんの直前、夏音は支配されかけている精神の中で確かにそう言った。

 

 それは本来ならば、ほとんど聞こえないほどのか細い声の筈であったが、何故かのび太の耳にはしっかりと届く。

 

 

「!?」

 

 

 それを見たのび太は慌てて先程自らが通ってきた曲がり角に身を隠すが、その前に夏音の持っていたニューナンブM60の38スペシャル弾がのび太を襲う。

 

 しかし、バイオアーマーに身を包むのび太には拳銃弾程度では少し衝撃があるくらいであり、効果はほとんど無い。

 

 これがのび太のようにヘッドショットを決めたのなら話は別なのだが、夏音にそんな腕は元からないし、操られている今の現状ならばそれより更に腕は落ちる。

 

 よって、銃弾は頑丈なバイオアーマーへと当たり、吸収されるという結果に終わったのだ。

 

 そして、2発目の38スペシャル弾が発砲された時には、既にのび太は曲がり角に身を隠しており、その弾丸は空しく壁に当たるだけだった。

 

 

(確かニューナンブM60の装填弾数は5発だったから、残りは3発かな?・・・予備の弾薬を渡してなくて良かった)

 

 

 のび太にとって幸運だったのは、夏音に予備の弾薬を渡していなかった事だろう。

 

 逆に言えば、装填弾数が満タンで渡したことは紛れもない不幸だったのだが、それでも2発撃った今、残りは3発。

 

 それも相手の腕から推察するに、よっぽど運が悪くない限り、当たらない確率の方が高い。

 

 

(でも、問題はその後どうするかなんだよね)

 

 

 状況から見て、夏音のプラーガへの同化はかなり進んでいる。

 

 それだけでも問題だが、おそらく敵であろうあの赤いドラえもんの近くに夏音が居る以上、こちらから手出しは出来ない。

 

 夏音が全くその場から動かないということを前提にするならば、彼女を避けて相手に銃弾を当てられる自信はあるが、プラーガで操られていることを考えれば、逆に夏音を盾にして銃弾を受け止める、などということをされる可能性もあるのだ。

 

 そもそもあの赤いドラえもんに銃弾を当てたとしても効くかどうかも分からない。

 

 RPG─7でも使えば分からないが、もちろんこの状況で使うのは論外である。

 

 

「さて、どうしたものかな?」

 

 

 のび太は言葉は余裕そうだが、頭の中では必死にこの状況の打開策を練っていた。

 

 しかし、そんなのび太の思考を遮る形で、のび太の居る廊下の奥から、武装教団員達が現れる。

 

 

「あそこだ!殺せ!!」

 

 

「!? 不味い!」

 

 

 のび太はここに来てかなり焦った。

 

 ここは曲がり角の一本道しかなく、当然、出た先には夏音たちが居るのだが、現在はその反対側の道からも武装教団員達が殺到している。

 

 つまり、挟撃状態なわけだ。

 

 

「こうなったら・・・」

 

 

 のび太は使いどころが無くなっていた3発の40×46ミリグレネード弾の内、焼夷タイプの物を2発とも取り出すと、それを武装教団員達の方に向かって投げる。

 

 そして、彼らの足元にそれが転がると、のび太はそのグレネード弾にベレッタの弾丸を一発ずつ撃ち込んだ。

 

 すると、爆発が起きて炎が飛び散り、その付近にいた彼らの体は燃え上がる。

 

 

「よし!あとは・・・」

 

 

 のび太はこうなった以上、一か八か、短期決戦のためにあの赤いドラえもんに接近戦を挑むことに決めた。

 

 どのみち、夏音のことを考えれば時間はないし、時間をかければあの武装教団員達の増援がやって来るだろう。

 

 ならば、そうなる前にここで決着を着けた方が良い。

 

 そう考えたのび太は、右手にデザートイーグル・44マグナムバージョンを、左手に貫通力の高いFN Five-seveNをそれぞれ持つ。

 

 

「よーし。1・・・2の・・・3!」

 

 

 のび太はその掛け声と共に飛び出す。

 

 しかし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そこに夏音とあの赤いドラえもんの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サドラー様」

 

 

「もう芝居は止めだ。本来の名前で良い」

 

 

「・・・失礼致しました。それでドラえもん様、この状況如何致しますか?既に野比のび太とこの世界のドラえもん様が別々なルートでここに近づいているようですが」

 

 

「決まっている。先にも言ったように、全戦力をもって迎え撃て」

 

 

「・・・よろしいのですか?既に戦力の7割近くが消耗していますが」

 

 

「構わん。どのみち奴等を倒すことが出来なければ、この世界の征服など夢のまた夢だ。その後の再建など後で考えれば良い。今は全てを失う覚悟で挑まないと奴等には決して勝てん」

 

 

「分かりました」

 

 

「なにがなんでも勝ちきるのだ!奴がジャックポットを引く前に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドド

 

 

 

 平行世界のドラえもんが覚悟を決めていた頃、のび太は雨の降りしきる中、機関銃を連射しているトーチカの前で足止めを食らっていた。

 

 

「くそっ・・・どうすれば良いんだ?」

 

 

 のび太は悩む。

 

 本来ならば、RPG─7を使えば良いのだが、先程別のトーチカを潰すのに使ってしまったのだ。

 

 しかも、入手した2つのグレネードランチャーも既にこれまでの戦闘で破壊されてしまっている。

 

 グレネード弾なら1つだけ余っていたが、先程と同じ戦法を取ろうにも、それには相手に自分の姿を晒してトーチカの中へと投げなくてはならない。

 

 当然、そうなれば敵も機関銃を撃ってくるし、のび太のノーコンな投球ではまずトーチカの中へと入れられないだろう。

 

 そういったこともあって、のび太はその戦法を取らなかったのだ。

 

 しかし、残った火力ではトーチカを破壊するには足りない。

 

 だが、時間がない。

 

 こうしている間にも、夏音の同化は更に進んでいるのだから。

 

 どうするべきかとのび太が考えていたその時だった。

 

 

 

バババババババ

 

 

 

 トーチカとは反対側の方向から1機のヘリがやって来た。

 

 

「ん?あれってスネオの家で見た・・・確か戦闘ヘリだったかな?・・・・・・戦闘ヘリ!?」

 

 

 そう、やって来たヘリはただのヘリではない。

 

 AH─1 コブラ。

 

 ベトナム戦争の頃に登場したアメリカの戦闘ヘリだ。

 

 現在でも自衛隊や中小国の国などでは現役となっている機体である。

 

 しかし、のび太にとっては現役だろうが、旧式だろうがその存在が脅威であることには違いない。

 

 その武器の1つでものび太に牙を剥けば、のび太がミンチにされる運命に変わりは無いからだ。

 

 思わず大量の冷や汗を流してしまうのび太。

 

 そんな彼に、上陸する前にドラえもんから貰った無線機から通信が入った。

 

 

『──やあ、のび太君。無事かい?』

 

 

「あっ、うん、ドラえもん。・・・え~と、さよなら」

 

 

『のび太君?』

 

 

「ちょっと今戦闘ヘリとトーチカに挟まれちゃっててね。たぶん数秒後には僕も眼鏡だけしか残らないと思うんだ」

 

 

 テンパった結果、思わず変な言葉を発してしまうのび太。

 

 しかし、その言葉に間違いはない。

 

 戦闘ヘリにはそれだけの攻撃力があるのだから。

 

 だが、ドラえもんが発したのは意外な言葉だった。

 

 

『──OK、分かったよ。ちょっと待っててね』

 

 

「えっ?」

 

 

 のび太はその言葉に戸惑う。

 

 しかし、その直後、戦闘ヘリは移動していき、トーチカの近くに寄る。

 

 すると、いきなりロケット弾ポッドを使ってトーチカを攻撃し始めた。

 

 

「!?」

 

 

 のび太は潜んでいた戦闘員ごと破壊されたトーチカを呆然と見る。

 

 しかし、その直後に再びドラえもんから通信が入ってきたことで我に返った。

 

 

『──あのヘリは僕が操作しているんだよ』

 

 

「ドラえもん!!」

 

 

『さあ、行こう。早く夏音ちゃんを助けるんだ』

 

 

「ああ、援護頼むよ。親友」

 

 

『任せといて!』

 

 

 二人は無線越しにそう言い合って再び進撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後ものび太はドラえもんが操作するヘリと共にトーチカや敵を撃破していった。

 

 しかし──

 

 

(不味いな)

 

 

 敵が待ち構えていた場所にのび太は不用意に突っ込んでしまっていた。

 

 おまけに、向こうにはM134ミニガンを装備したあの大男まで居る。

 

 

「・・・やるしか、ないよね」

 

 

 のび太はそう思い、敵を撃破するべく障害物から躍り出ようとするが、その前に再びドラえもんから通信が入る。

 

 

『──のび太君、伏せて』

 

 

「えっ?」

 

 

 のび太はその言葉の意図が分からなかったが、取り敢えず親友の言葉を信じてその場に伏せる。

 

 すると──

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド

 

 

 

 たった今、のび太が撃破しようとしていた敵は、ドラえもんが操作するコブラから発射された20ミリM197ガトリング砲によって文字通りの意味で粉砕された。

 

 そして、一通りの掃射が止むと、のび太は顔を上げる。

 

 

「・・・凄いな」

 

 

 のび太は目の前の光景を見てそう思う。

 

 なにしろ、先程まで機関銃やライフルを元気に発砲していた敵が物言わぬ肉片となっているのだから。

 

 これがもし自分であったらと思うと、のび太はゾッとする感情を抑えることが出来なかった。

 

 それでも助かったのは確かなので、ドラえもんに一言礼を言う。

 

 

「ドラえもん、援護ありがとう」

 

 

『──お安いご用だよ』

 

 

「あとでどら焼き買ってあげるね」

 

 

『良いね!良い店を知っているんだよ』

 

 

 二人はそんな冗談を言い合った。

 

 しかし、二人とも分かっているのだ。

 

 それが叶うのは当分先、下手をすれば永遠に叶うことはないということを。

 

 何故ならば、この戦いが終われば、彼らはアンブレラとの戦いに身を投じなければならないからだ。

 

 だが、今だけはそんな冗談で気を紛らわしたかった。

 

 

 

ドッガアアアアアン

 

 

 

 だが、そんな思いも、何処からともなく飛んできたロケット弾によってヘリが撃墜されたことで踏みにじられた。

 

 

「! ドラえもん!!」

 

 

 のび太は叫ぶが、ヘリは無情にも落ちていき、そのまま地面に墜落すると、燃料や弾薬に引火したのか、大爆発を起こして完全に破壊された。

 

 

「そ、そんな・・・」

 

 

 のび太はその光景を見て呆然とした。

 

 無理もない。

 

 先程まで陽気に話していた親友がああなってしまったのだから。

 

 

『──やあ、のび太君。仲の良い友達が撃ち落とされた気分はどうかね?』

 

 

 しかし、その時、無線機から耳障りな声が聞こえてきた。

 

 

「お前は・・・サドラー。いや、あの赤いドラえもんか」

 

 

『そうだ。ところで、ずいぶんとイラついているようだが、何を怒っているのかね?』

 

 

 白々しい。

 

 のび太はそう思いながら、怒りで顔を真っ赤にさせながらこう言った。

 

 

「よくもドラえもんを!!」

 

 

『何を言っているのだ?お前だって、目の前を虫が飛んでいたら殺すだろう?』

 

 

「ふざけるな!僕らは虫じゃない!!」

 

 

『・・・ああ、そうだとも。お前は人間だ。だが、これから先、私は全てを犠牲にしてでもお前を殺す。殺してみせる』

 

 

「やれるものならやってみろ!」

 

 

 それが二人の宣戦布告の言葉だった。

 

 やがて、無線機から赤いドラえもんの声が消える。

 

 

「・・・」

 

 

 そして、のび太は無言のまま、夏音を助け、教団に止めを刺すために足を前へと進めた。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(7発)、コルトガバメント(1発)、FN Five-seveN(8発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(5発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(24発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(0発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン3つ(60発)、12ゲージ弾(7発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー1発(硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)

装備防具・・・バイオアーマー

補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ2つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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可能性

◇西暦2013年 7月29日 未明

 

 

「! 夏音!!」

 

 

 サドラーへの改めての宣戦布告の後、のび太は襲い掛かってくる武装教団員やBOWを倒しながらも進撃を続け、その先の部屋で大きな椅子に座らされている状態の夏音を発見した。

 

 

「の・・・びたさん?」

 

 

「喋らなくて良いよ。今助けるから」

 

 

 そう言うと、のび太は夏音に肩を貸す形で支えながら立ち上がらせる。

 

 だが、その直後──

 

 

 

 

 

「どうあっても邪魔をするようだな」

 

 

 

 

 

 

 のび太達が入ってきた入り口からあの赤いドラえもんが入ってくる。

 

 

 

 

 

「その娘は連れていかせない。お前にはここで死んで──」

 

 

 

 

 

 

 

ドガアアァン

 

 

 

 

 

 

 

 だが、言葉を言い切らない内に、更なる存在が赤いドラえもんの後ろから出てきて、その存在の砲撃によって赤いドラえもんは若干前のめりに転倒しそうになる。

 

 

「誰だ!?」

 

 

 赤いドラえもんの視線が背後に向く。

 

 すると、そこにはのび太の大親友である青いドラえもんが居た。

 

 

「ドラえもん!?無事だったんだね!!」

 

 

「あのヘリはラジコン操縦なんだ。落とされたって僕は大丈夫だよ。それよりのび太君、夏音ちゃんを早くプラーガ除去装置に!」

 

 

「うん、分かった!頼んだよ、ドラえもん!!」

 

 

 のび太はドラえもんにそう言うと、足早にみほを連れて入ってきた時とは別な入り口から出ていく。

 

 

「待て!」

 

 

 

ドガアアァン

 

 

 

 当然、赤いドラえもんは出ていったのび太達を追いかけようとするが、直後に再度青いドラえもんの発砲した空気砲によって足止めされる。

 

 

「お前の相手はこの僕だ!」

 

 

「ちっ。ポンコツロボットめ」

 

 

 空気砲を構える青いドラえもんに、赤いドラえもんは忌々しげにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プラーガ除去装置・・・これだ!」

 

 

「ほ、本当にこれなのですか?随分、古くさい感じがしますが・・・」

 

 

 遂に発見したプラーガ除去装置を発見したのび太達だったが、夏音はその機械を見て若干顔をひきつらせていた。

 

 何故なら、その機械はなんとなく古臭いような外観をしていたからだ。

 

 

「もう時間が無いんだ。これに頼るしかない。大丈夫、僕を信じて」

 

 

「・・・分かりました。お願いします」

 

 

 機械の外観に若干の不安を感じた夏音だったが、取り敢えずこれまで自分を助けてくれたのび太の言葉を信じることに決め、機械の中へと入る。

 

 そして、のび太はプラーガ除去装置の操作に少々苦慮しながらもどうにか起動を成功させ、プラーガ除去装置による治療が始まった。

 

 

「あっ・・・ああ・・・」

 

 

 中から伝わってくる夏音の苦悶の声に本当に自分の操作が正しかったのか一瞬疑問に思ったのび太だったが、下手に更なる操作をすると悪化するのは目に見えていた為に何も手を付けずに無事に除去が行われるのを待つ。

 

 そして、それから数秒後──

 

 

「あああああぁぁぁああ!!!!!」

 

 

 大きな悲鳴をあげた後、扉が開いて中から夏音が出てきた。

 

 

「大丈夫!?」

 

 

「ええ、大丈夫です」

 

 

 そう言いながらも胸を抑え続ける夏音。

 

 ふとモニターを見ると、『除去完了』という文字が浮かんでいたので、どうやらプラーガ除去そのものは成功したらしい。

 

 

「除去は成功したみたいだ。もうプラーガに怯える心配はないよ」

 

 

「そうですか。苦しい思いをしましたが、それは良かったです。・・・でも、ごめんなさい」

 

 

「えっ?」

 

 

「先程、あなたに銃を撃ってしまって・・・本当にごめんなさい」

 

 

 そう言って泣きながら謝る夏音。

 

 夏音としてはプラーガに支配されていたとは言え、命を懸けて守ると誓ったのび太に守るどころか、銃を向けてしまったことに強い罪悪感を感じていた。

 

 それを聞いたのび太は彼女を励ますために何か言葉を紡ごうとしたが、その直前──

 

 

 

 

 

ドッガアアアアアン

 

 

 

 

 

 

 上の方で爆発音が聞こえた。

 

 

「・・・夏音、今から言うことをよく聞いて」

 

 

 いよいよ最終決戦の時が近づいてきた。

 

 そう感じたのび太は夏音を励ますのを後回しにすることに決め、彼女に対して必要な指示を行う。

 

 

「今から僕は奴等と最後の決着をつけにいく。夏音はこの近くにある船着き場まで行って島田さんと合流して」

 

 

 島の反対側に行ったドラえもんと合流出来たということは、そこに至るまでの退路は確保されている筈だ。

 

 更に言えば、敵の殆どは自分とドラえもんによって既に撃破されており、夏音捕縛に割く兵力はもはや存在しない可能性が高い。

 

 もっとも、敵が自分の撃破ではなく夏音捕縛を優先してその退路に生き残りを待ち伏せさせて夏音を捕らえる可能性も有るには有ったが、自分と一緒に居ては確実に命に関わるので、その辺りは夏音に何とかしてもらうしか無かった。

 

 そう思い、夏音から離れようとしたのび太だったが、彼女はのび太の服の裾をギュッと握り締めたまま離さない。

 

 

「夏音?」

 

 

「・・・嫌、です」

 

 

「えっ?」

 

 

「のび太さんも一緒に逃げましょう。島田さんも居るなら、あの時の約束は既に果たしている筈です!」

 

 

 夏音は殆ど涙声で懇願するようにそう言った。

 

 彼女からすれば、ここまで頑張ってきたのび太にこれ以上無茶をして欲しくなかったからだ。

 

 だが、のび太はその主張を受け入れることは出来ない。

 

 何故なら、それはドラえもんを見捨てるということを意味するからだ。

 

 

「ごめん、夏音。それは出来ない。ここに連れてきた僕の親友──ドラえもんはね。自分だって大変だというのに僕をわざわざ助けてくれて、更には君を助けたいという願いですら聞いてくれたんだ。そんな素晴らしい友達を見捨てることは僕には出来ない」

 

 

 のび太は優しくそう告げると、尚もすがり付こうとする彼女を半ば無視する形で部屋を出ていき、音がした方向、すなわちこの島にある山の頂上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山の頂上。

 

 そこでは2体のドラえもんが居た。

 

 しかし、1体は倒れていて1体は立っている。

 

 そして、立っていたのは赤いドラえもんであり、倒れていたのは青いドラえもんだった。

 

 

「・・・・・来たか。思ったより早かったな」

 

 

 赤いドラえもんは何かに感付いたのか、倒れている青いドラえもんに止めを刺すのを止め、そちらの方に向き直る。

 

 そして、その視線の先にはここまで登ってきたのび太の姿があった。

 

 

「ドラえもん!?」

 

 

「スイッチを切って気絶しているだけだ。あいにく、とどめを刺す前にお前が来てしまったのでな」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太はそれに応えず、赤いドラえもんを無言のまま睨み返す。

 

 

「ほう、良い顔つきだな。だが、それで勝ったつもりか?最後に正義が勝つというのは所詮映画の中のクリシェでしかない。お前はここで死に、我々が勝利する。・・・だが、ここまで我々を追い詰めたのだ。その報酬代わりに、君に見せたいものがある」

 

 

 赤いドラえもんはそう言うと、指をパチンと鳴らす。

 

 すると──

 

 

「!? これは教会で見た」

 

 

「そう。この世界のサドラーに姿を似せて紫のローブを羽織っているが、中身は別世界のお前だ」

 

 

「なんだって!?」

 

 

 思ってもいなかった事実を告げられ、のび太は驚愕する。

 

 しかし、考えてみれば、平行世界のドラえもんが居た以上、彼らと同じ平行世界から来た自分が居たとしても、なんら可笑しくはないのだ。

 

 だが、改めてこうして突き付けられると、やはり感慨深いものがある。

 

 

「もっとも、プラーガの母体をその身に纏い、もはや原型を留めていないがな」

 

 

 赤いドラえもんはそう言って彼──平行世界の野比のび太の状態を説明しながら、言葉を続ける。

 

 

「そして、我々は本来ならば教団の人間達と共にこの世界を征服している筈だった。お前のせいで半分は滅茶苦茶にされたがな」

 

 

 赤いドラえもんは苦々しげにそう言うが、のび太はある点が気になって尋ねた。

 

 

「・・・1つだけ聞くよ。何故、わざわざこの世界、いや、別の世界を侵略しようなんて考えたの?」

 

 

 のび太はずっとその点が気になっていた。

 

 自分の世界なら兎も角、わざわざ平行世界まで行って侵略する理由がよく分からないのだ。

 

 もっとも、それは赤いドラえもんからすれば簡単な理由だった。

 

 

「それは簡単だ。自分達の世界の過去を変えてしまうと、タイムパラドックスが起きて、元の世界の22世紀で生まれた私自身が存在しなくなってしまうからだ。しかし、時間軸が独立している平行世界ならば幾ら過去を変えようが、その心配はない」

 

 

「・・・つまり、未来が変わることを気にせずに悪さが出来るからここへ来たのか?」

 

 

「簡単に言えばそういうことだ」

 

 

 のび太の要約を赤いドラえもんは肯定する。

 

 そう、簡単なことだったのだ。

 

 自分達の世界を征服して過去を変えてしまうと、どう上手くやろうが自分が未来に存在していたという事実まで変わってしまい、自分は消滅してしまう。

 

 つまり、過去改変などというのは、自分にとっても自滅行為な訳だ。

 

 しかし、独立した時間軸の平行世界ならば、自分はその世界で生まれるという未来そのものが無いので、好き勝手して未来を変えたとしても自分に被害は及ばない。

 

 それが赤いドラえもんが平行世界に来た理由だった。

 

 

「だが、この世界にも当然、平行世界ののび太とドラえもんが居る。それは私にとって非常に喜ばしくないことだ」

 

 

「だから僕を殺そうとしたと?」

 

 

「そうだ。だが、この世界のドラえもんは脅威にならない。22世紀の存在だから未来を変えてしまえば消滅してしまうからな。しかし、お前は別だ。お前だけはこの場で始末しておく必要がある」

 

 

 そう言って赤いドラえもんは殺気を身に纏うが、のび太はあと1つ聞きたいことがあった為、そんな状況でも敢えてそれを尋ねた。

 

 

「・・・もう1つ聞いて良いかな?」

 

 

「なんだ?」

 

 

「何故この世界なんだ?平行世界と言えば、他に幾らでも有るんじゃないの?」

 

 

 そう、平行世界というのはもしもボックスにあるように色々と存在する。

 

 ドラえもんがのび太の元に来なかった世界、科学ではなく魔法が常識となっている世界、もしくは人間ではなく、犬が進化して発展させた文明の存在する世界、などがあるかもしれない。

 

 しかし、そんな幾多の平行世界にあって、何故この世界がこの赤いドラえもんの侵略先に選ばれたのか分からなかったのだ。

 

 だが、この質問に対して、赤いドラえもんはあっさりとこう答えた。

 

 

「それもまた簡単だ。平行世界の持つ可能性は、この途方もなく広い宇宙が許す限り幾らでもある。1つの世界や時代なんぞ比にもならん程にな。その中でテロリストを志す我々が生まれ、お前たちはその異世界からの襲撃を受けるという世界に生まれた。ただそれだけのことだ。つまり、運が悪かったのだよ」

 

 

 そう、運が悪かった。

 

 言ってしまえば、ただそれだけのことなのだ。

 

 もっとも、のび太からしてみればそれだけで納得できるものではないが、ただ事実だけを述べるのであれば、そういうことだった。

 

 

「・・・しかし、お前がまさか最後に残って我々の元まで辿り着くとはな。まったく、“可能性”というものは恐ろしいものだ」

 

 

「可能性?」

 

 

「そうだ。私は誰一人として他人を信用しない。セワシも島田千尋も、部下のガナード共も。何故だか分かるかね?それは人間が可能性の生き物だからだ。あらゆる事象をありそうなものにしてしまう存在だからだ」

 

 

 赤いドラえもんは、可能性という事象への恐怖を口にする。

 

 

「私は確かに多くの人間から信仰されている。信仰とは素晴らしいものだ。しかし、それだけでは確実な服従は得られない。人間というものは気紛れで簡単に裏切る。そう、あの島田健太のように」

 

 

 その言葉に、のび太は複雑そうな顔をする。

 

 感情の面では島田に世話になったこともあり、反論の言葉は色々とあるが、事実だけを示唆すればその通りだったからだ。

 

 そして、そんなのび太を他所に、赤いドラえもんの言葉は続く。

 

 

「私は可能性に何度も裏切られ、幾度となく時を渡り、こうして別世界まで追いやられた。だが、そんな折に私はプラーガに出会った。私が唯一信用し、信頼し、信仰するもの。プラーガは私が憎む可能性を微塵も残らず駆逐してくれる。何故なら、彼らはそうして生きているからだ。可能性を殺すために何度も何度も進化と退化を繰り返して、今まで生き続けたからだ。プラーガこそ絶対にもっとも近い存在なのだ!!」

 

 

 赤いドラえもんはそこで一旦言葉を切り、のび太から視線を外す形で東の空を一瞬だけ見つめ、またのび太に向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もうじき夜が明ける。しかし、それはただこの世界を再び照らすためだけのものではない。プラーガが確率を完全に凌駕し、世界に新たな秩序を作り出す。その夜明けなのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるな!そんなことは絶対にさせない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太はその言葉に激怒し、銃──ベレッタM92を赤いドラえもんに向ける。

 

 しかし、それを向けられた赤いドラえもんは平然としていた。

 

 

「貴様さえ倒せればあとはどうにでもなる。ガナードは少しずつ増やせば良い。私に残る脅威は貴様だけだ。我々が数百という絶対の剣ならば、お前はたった1つの可能性の剣なのだろう。そして、貴様は私の持つほぼすべての剣を弾き飛ばし、ついに私の左胸に刃を向けている。だが、残念だったな。私は貴様と違い、鎧を身に着けているのだ」

 

 

「鎧?」

 

 

「その通り。その馬鹿な頭で考えてみろ。私の装甲はそんなちゃちな拳銃程度では抜けない。つまり、私を倒すことは絶対にあり得んのだよ!!・・・それでも貴様は打ち勝つのか?私の信仰そのものすらはね飛ばし、夜明けへのジャックポットを引くか?そんなことが出来るわけがない。勝つのは私だ。大人しく死ね」

 

 

「・・・」

 

 

 その言葉にのび太は沈黙する。

 

 確かに赤いドラえもんの言う通り、ドラえもんの装甲はああ見えて強靭だ。

 

 それこそマグナム弾でも破壊できるかどうかはかなり怪しく、通常の拳銃であるベレッタ程度では尚更破壊できる筈もないのだが、今更銃を変えるとなると、その間に自分は赤いドラえもんから攻撃を受けてしまうだろう。

 

 

(なにか無いか!考えろ、考えるんだ!!)

 

 

 のび太はそう頭の中で思いながら、赤いドラえもんをじっと観察する。

 

 すると、ある点に気づく。

 

 

(・・・!・・・左胸!!)

 

 

 赤いドラえもんの左胸に僅かながら、電流が漏れていた。

 

 のび太は知らないが、それは青いドラえもんとの戦いで偶然そうなったものだ。

 

 しかし、当の赤いドラえもんは気づいておらず、空気砲のピストルバージョンのようなものをこちらに向ける。

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤いドラえもんは念仏を唱えるかのようにそう言い、そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──1つの銃声がその場に響き渡った。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(6発)、コルトガバメント(0発)、FN Five-seveN(18発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(3発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(2発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(0発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾1個、M84スタングレネード4個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン2つ(40発)、12ゲージ弾(2発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー1発(硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)

装備防具・・・バイオアーマー

補助装備・・・救急スプレー3つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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夜明け

◇西暦2013年 7月29日 未明

 

 

 

 

 

ビリっ、バリッ

 

 

 

 

 

「ば・・・かな・・・!?な・・・ぜ・・・!?」

 

 

 赤いドラえもんは目の前の現実に驚愕していた。

 

 自分は障害にもならないと判定していた拳銃程度の弾丸に左胸にある心臓部を撃ち抜かれたのだから。

 

 

「さあ、なんでだろうね」

 

 

 のび太は惚けるようにそう言いながら、銃口を下にして、不敵な笑みを溢す。

 

 

「・・・運が良かった。それだけじゃないかな?」

 

 

「運が・・・良かった・・・だと!?」

 

 

 赤いドラえもんはその発言に目を見開くが、次いて何処か陰りのある笑いを発する。

 

 

「くっ・・・ははは。そうか・・・・・・ここでもか・・・ここでもなのだな。そうは・・・させんぞ!貴様もここで朽ち果てるのだ。絶対にな!!」

 

 

 

 

 

 

 

ドガアアアァアアン

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に赤いドラえもんは爆発して消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・絶対、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見届けたのび太は、赤いドラえもんが最後に発した言葉を呟く。

 

 

「悪いけど、この世に絶対なんて有りはしないのさ。今まで散々不運に見舞われ続けてきた僕が言うんだ。間違いない」

 

 

 絶対などこの世に存在しない。

 

 それが赤いドラえもんの“絶対”という言葉に対するのび太の意見であり、今までの人生や大冒険、そして、このバイオハザードを生き抜いた者の感想だった。

 

 そもそも絶対などという言葉はのび太からしてみればただの甘えだし、仮に絶対などというものが存在すれば、今までの人生はおろか、大冒険やバイオハザードはなんの苦労もせずに切り抜けることが出来ただろう。

 

 しかし、現実にはそうなっていない以上、絶対などというものはこの世には存在しないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

バリッ、バリッ

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことをのび太が考えていた時、この場に残っていた紫のローブを羽織った存在──平行世界ののび太の方からそのような音が聞こえ、次いてその体が徐々に膨張し始める。

 

 しかし、のび太が慌てることはない。

 

 これから最後の戦いが始まるのだと悟っていたからだ。

 

 

「・・・まあ、これで終わりなわけないよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グチュグチュ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。暴れろ。存分に暴れれば良いさ。こっちは何百という化け物と戦ってきたんだ!今更あと一匹増えたところでなんだって言うんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グオオオオオオオオオオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、最後の戦いだ。お前を倒して、僕は夜明けを手に入れる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 ──その宣言と共に、この島での最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太が最後の戦いを始めた頃、夏音はのび太に言われた船着き場ではなく、山の頂上付近へと向かっていた。

 

 自分にも何か出来ることがある。

 

 そう確信していたからだ。

 

 

(私は・・・護られるだけのお姫様ではありません!!)

 

 

 彼女は怒りの感情を覚えていた。

 

 もっとも、それは言外に邪魔だと言ってきたのび太に対してではない。

 

 のび太の事を自らの命を使ってでも護るという誓いをしながら果たすどころか害しか与えなかった自分自身の不甲斐なさに、だ。

 

 そもそも今まで彼女がのび太に護られるだけだったというのは事実だったので、それを指摘されれば言い返しようが無かったし、戦闘に使えない自分を遠ざけようとするのび太の判断も間違っていない。

 

 立場が反対ならば、自分でもそうするからだ。

 

 しかし、今まで大丈夫だったからと言って今回の戦いも大丈夫であるとは限らないし、万が一のび太が負ければ脱出したところで自分はどのみち終わってしまう可能性が高い。

 

 彼女には頼りになる家族や仲間も近くには居なかったし、船着き場で待っているという島田ですらのび太に比べれば無条件で信用できる人物ではなかった。

 

 ・・・いや、このような遠回りな言い方はよそう。

 

 夏音はのび太に死んで欲しく無かったのだ。

 

 それ故に、自分の全てを賭けて彼を助けるつもりであり、万が一、自分が敵によって人質に取られそうになった時はのび太から貰った拳銃で自決するつもりだった。

 

 それはある意味でのび太が今まで彼女を守ってきた成果を無にするような考えであったが、のび太を助けることしか頭にない今の彼女にはその認識は全くない。

 

 ──本来ならば夏音の判断は間違いだ。

 

 のび太の戦闘についていけないものが彼の戦いの助けが出来る道理はない。

 

 だからこそ、彼女はのび太の判断に従い、船着き場まで行ってそこで待っている島田と共に船で待機するべきだったと言える。

 

 だが、運命というのは非常に奇妙なものであり、今この時に限っては夏音の判断の方が正しかった。

 

 そして、それはほんの少し先に他ならぬのび太自身が実感することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、足の踏み場が少ない!!」

 

 

 のび太は状況の不味さに思わず舌打ちをしてしまう。

 

 最初の第一形態の時は良かった。

 

 8方向に展開される波動をかわして、本体にダメージを与えるだけで良かったのだから。

 

 取り巻きのブラットゾールや本体そのものの頑丈さには少々手こずらされたが、それでもそれほど難なくクリアできた。

 

 しかし、更に巨大化して進化した第二形態。

 

 これにはのび太もこれまでにない苦戦を強いられている。

 

 その理由は幾つか存在した。

 

 1つ目は、第一形態と違って攻撃手段が圧倒的に多いこと。

 

 2つ目に、その攻撃手段の威力がかなり大きいこと。

 

 3つ目に、弾薬が尽きかけていること。

 

 そして、最後にこれが一番問題だが、そもそも足場そのものが少なかったことだ。

 

 第二形態はあまりに巨大化しすぎて山の頂上を埋め尽くしており、のび太の足の踏み場が少なく、移動できる場所がかなり制限されていた。

 

 更にその数少ない踏み場にも、敵の広範囲な苛烈な攻撃が加わっている。

 

 それ故にのび太はかなり苦戦していたのだ。

 

 

「あの目のような部分が弱点だと思ったんだけど・・・」

 

 

 千尋の時のように、化け物の目の部分が弱点だとのび太は一度は推察したが、通常の拳銃はおろか、デザートイーグルの44マグナム弾を撃ち込んでも堪えた様子はなく、途方に暮れていた。

 

 ・・・実際のところ、あの目の部分はコアの部分でもあるので、致命傷ではないにしろ、この怪物にとってそこそこ痛い打撃を食らわせていたのだが、悲鳴のような声を上げていない事もあってか、のび太がそれに気づくことはない。

 

 

「・・・いや、何か弱点があるはずだ」

 

 

 のび太は諦めず、弱点を探そうとひたすら相手の攻撃をかわしながら機会を待った。

 

 すると、いきなり昆虫のような頭部が出てきてのび太に向かってくる。

 

 

「ッ!?」

 

 

 少し驚いたが、得意の早撃ちによってベレッタM92の弾丸を叩き込む。

 

 すると── 

 

 

 

 

 

グギャアアアアアアアア

 

 

 

 

 

 悲鳴のような雄叫びをあげ、首はあっという間に引っ込んでいった。

 

 

「・・・あそこが弱点か」

 

 

 手応えあり。

 

 そう感じたのび太は更に追撃を行おうとしたが、問題があった。

 

 もう強力な武器がほとんど残っていないのだ。

 

 G36は第一形態を倒すのに使いきってしまったし、デザートイーグルも先程弾薬が尽きた。

 

 コルトパイソンも装填されているのが通常の拳銃弾である38スペシャル弾の為、威力は普通の拳銃とそうは変わらない。

 

 手榴弾は残っているが、この状況では投擲する時間など無いだろう。

 

 あとはショットガンくらいなら残っているが、連射が出来ない上に、足の踏み場が少なく、攻撃を受け続けているこの状況では酷く使い勝手が悪いのだ。

 

 一応、拳銃弾でも手応えがあるので、それらでも通用はするのだろうが、やはり強力な武器を使った方が確実性は高い。

 

 

「どうすれば・・・」

 

 

 のび太は必死にどの武器を活用するか考えていた、その時、のび太の近くの地面に触手が叩き付けられ、コンクリートが砕かれた結果、その破片がのび太に向かって飛び散った。

 

 

「うわっ!」

 

 

 のび太はどうにか体を転がすことでそれを回避するが、所々に擦り傷を負ってしまう。

 

 

(不味い!急いで起き上がらないと・・・ん?)

 

 

 のび太は転がった先で何か銃らしき物が落ちているのを見つけてそれを手に取る。

 

 しかし、その時、またもやあの昆虫のような頭部がのび太を襲ってきた。

 

 

「うおっと!」

 

 

 のび太は慌ててそれに向かって銃を撃つ。

 

 しかし、のび太が驚いたのは昆虫のような頭部がのび太を襲ってきたことにではない。

 

 この銃の反動に驚いたのだ。

 

 S&W M500。

 

 それがこの銃の正体だった。

 

 本銃は全ての拳銃の中で最強の威力を誇るとされ、自動拳銃で最大の威力を誇るデザートイーグル・50AEバージョンすら凌ぐ威力を持つと言われている。

 

 しかし、この銃はデザートイーグル・50AEバージョンが自動拳銃最強と言われている事からも分かるように、リボルバータイプの銃だ。

 

 それ故にデザートイーグルのような自動拳銃の発砲時の反動を逃がす機構であるマズルブレーキは搭載されておらず、衝撃はそのまま伝わってくる。

 

 まあ、早い話がこの銃は大の大人ですら扱うのが難しく、まだ10歳の子供であるのび太が扱える道理はないのだ。

 

 本来ならば。

 

 ・・・しかし、何故かのび太はこの銃をなんの影響もなく軽々と(少し反動に驚きはしたが)扱い、その強力なS&W M500マグナム弾を頭部にぶつけることに成功した。

 

 まあ、重量が130キロ近くあるドラえもんを片腕で持ち上げたこともあるので、このぐらいのことはのび太にとってなんの問題もないのだろう、きっと。

 

 

 

 

 

グギャアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 

 

 

 

 そして、化け物は先程よりも更に甲高い悲鳴をあげる。

 

 

「これは使えるな!」

 

 

 のび太は先程とは違い、不敵な笑みを溢した。

 

 更にS&W M500の攻撃の後、化け物の攻撃は更に苛烈になっていたが、その攻撃場所はかなり疎らであり、全くのび太と関係のないところまで及んでいる。

 

 しかも、心なしか、苦悶の声もあげており、断末魔の時が近いこともその様子からすぐに分かった。

 

 あと一息。

 

 のび太はそう思い、攻撃をかわしながら再びあの頭部で攻撃してくる時を待つ。

 

 そして、攻撃を交わし続けること数分。

 

 遂にそれが現れた。

 

 

 

 

 

「! 喰らえ!!」

 

 

 

 

 

ドオオン

 

 

 

 

 

 のび太はそう言いながら、得意の射撃の腕でS&W M500から発射されたS&W M500マグナム弾を頭部へとぶちこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまでより更に大きな悲鳴をあげる。

 

 その声の大きさに、のび太は眉をしかめながらある焦りを感じた。

 

 

(・・・足りない)

 

 

 攻撃が効いているのは分かる。

 

 しかし、あと一歩、何か決定的な攻撃が足りないのではないか?

 

 のび太はそう思ったが、それは所詮無い物ねだり。

 

 その“決定的な攻撃手段”が無い以上、現有装備でどうにかするしかないということもよく理解していた。

 

 よって、のび太は残った武器で再度の攻撃を仕掛けようとする。

 

 ・・・だが、そんな時だった。

 

 

「──のび太さん!!」

 

 

「ッ!? 夏音!!」

 

 

 その声に反応してそちらを見ると、船着き場に行くように伝えた筈の夏音が高台の上に居るのが見えた。

 

 

「これを使ってください!!」

 

 

 そう言うと、夏音は何処にそんな力があったのか、ロケットランチャーらしきものを放り投げる。

 

 そして、それはのび太のすぐ傍まで落ちて着地した。

 

 

「! これは!?」

 

 

 それは正真正銘のロケットランチャーだった。

 

 しかも、のび太は知らないが、その弾種にはある特殊弾頭が装備されている。

 

 

「よし!これを使って・・・!?」

 

 

 その時、化け物から触手攻撃が来た。

 

 

 

 のび太は難なくこれをかわすが、装備していたベネリM3にそれが突き刺さり、更にショルダー付きであった為か、のび太まで一緒に引っ張られてしまう。 

 

 

(!? しまった!!)

 

 

 のび太はすぐにベネリM3を放り投げようとするが、それは少し遅い行動であり、ショルダーを外して放り投げたのとほぼ同時に、のび太の体は近くの壁へと叩き付けられた。

 

 

「・・・・・・う・・・あぁ」

 

 

 あまりの痛みに、のび太は意識が遠のくような感覚を覚える。

 

 しかし、化け物はそれを見逃すことなく、更に触手をのび太に突き刺そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──全てがスローモーションの動きとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太はそんな感覚を覚えながら、目を閉じようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『のび太さん!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その前にある声がのび太の脳裏へと響いてきた。

 

 

 

 

 

 それは自分が守ると誓った少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そうだ。僕は夏音を守ると誓ったんだ!なら、約束は守らなきゃ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声にのび太は奮起し、再び意識を取り戻した。

 

 そして、離さなかったロケットランチャーを化け物へと向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで最後だ!くらえぇぇえ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、発射された特殊弾頭ロケット弾は化け物へと直撃し──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドシャアアアアアアアアン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そのまま化け物を木っ端微塵にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 薄明

 

 夜明け。

 

 それはどんな日にも必ず起こりうるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ああ、夜が明ける」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この日の夜明けはのび太にとって特別なものであったのは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──何故なら、これは彼にとって勝利を掴み取った証でもあったのだから。




本話終了時ののび太の装備

武器・・・ベレッタM92(5発)、コルトガバメント(0発)、FN Five-seveN(12発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(0発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(0発)、H&K MP5(15発)、ロケットランチャー・RPG─7(0発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾1個、M84スタングレネード4個、MK─3手榴弾2個

予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン2つ(40発)、12ゲージ弾(2発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー1発(硫酸弾1発)

装備防具・・・バイオアーマー

補助装備・・・救急スプレー2つ、ミックスハーブ1つ、アンブレラの資料、謎のメモ。


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The Dawn

◇西暦2013年 7月29日 早朝

 

 

「ここを、こう引っ張れば・・・」

 

 

 のび太はドラえもんを起こすために、尻尾の赤い丸のような物体を引っ張る。

 

 すると── 

 

 

 

カチッ

 

 

 

「う~ん・・・あれ、僕は一体?」

 

 

 スイッチが入った為か、ドラえもんは起きた。

 

 

「ドラえもん、無事で良かった!」

 

 

 のび太はドラえもんの無事を喜んでいた。

 

 なにしろ、彼はのび太にとって唯一無二の家族であり、親友なのだ。

 

 無事を喜ぶのは当然だった。

 

 そして、そんな彼が起き上がったのが嬉しかったのか、のび太は更なる朗報を彼に伝える。

 

 

「全部終わったよ。夏音のプラーガは取り除いたし、平行世界のあの悪いドラえもんは僕がやっつけた」

 

 

「なんだって!そりゃ良かった!」

 

 

 ドラえもんもまたその報告に驚いた。

 

 自分が意識を失う前に懸念したのは、正にその事だったからだ。

 

 

「さあ、みんなでこの島を脱出しようよ」

 

 

「そうだね、そうしよう!!」

 

 

 のび太の意見にドラえもんが賛同する。

 

 しかし、その時──

 

 

 

 

 

『──警告します。管理者の判断により、施設の維持が不可能となりました。証拠隠滅のため、研究施設は順次爆破されます。緊急時のため、全てのドアロックを解除しました。職員は速やかに施設から脱出してください』

 

 

 

 

 

 ──とんでもなく物騒な警告が二人の耳に入った。

 

 

「施設を順次爆破だって!?」

 

 

「たたっ、大変だ!!」

 

 

 二人は慌てる。

 

 まあ、いきなり施設が爆破されると伝えられたので、当然と言えば当然の反応だったのだが、意外にものび太は早く立ち直り、ドラえもんに向かってこう指示する。

 

 

「落ち着いて、ドラえもん!君は先に行って、入り口に泊めてきた船をすぐ動かせるようにしておいてくれ。僕は夏音と合流してからそっちにすぐに向かうよ」

 

 

「う、うん。分かったよ!」

 

 

 ドラえもんはのび太のその冷静な反応に若干戸惑いながらも、のび太の言う通り、船の準備を行いに山を降りていく。

 

 

「絶対に脱出してみせる!!」

 

 

 そして、それを見送ったのび太もまた、そう宣言した後、夏音を迎えにドラえもんの後へと続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、のび太さん!!」

 

 

「夏音!!」

 

 

 のび太が夏音の方に向かうおうとすると、彼女はちょうど良いタイミングで高台から降りてきた。

 

 

「もうすぐこの島は爆破される!!早く僕たちが乗ってきた船に乗ろう!!着いてきて!!」

 

 

「分かりました!」

 

 

「うん。じゃあ、こっちに」

 

 

 のび太はそう言って、夏音を案内する形で船着き場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガアアアアアアアアアアン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆煙を上げる先程までのび太達が居た島。

 

 のび太達は間一髪で脱出が間に合い、その被害を受けることなく船にて日本本土に向かっていた。

 

 そして、何かを考えていたのか、海をボーと見つめていたのび太に夏音が話し掛けてくる。

 

 

「ねぇ、のび太さん」

 

 

「・・・ん?どうしたの?夏音」

 

 

 ボーとしていたのび太は少し間を置く形ではあったが、夏音の声に反応して、そちらに顔を向ける。

 

 すると、そこには顔を紅くした夏音の姿があった。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

「えっ、何が?」

 

 

 いきなりお礼を言われたのび太は、何故そんなことをされるのか分からず、首を傾げる。

 

 しかし、その理由は夏音の次の言葉で判明した。

 

 

「その・・・守ってくれて」

 

 

「ああ、なるほど。でも、そんなにお礼を言われることなんて・・・」

 

 

 のび太は自分の行動にお礼を言われるほどの価値はないと思っていた。

 

 何故なら、守ると言っておきながら、結局、一度は自分の元から拐われてしまったのだから。

 

 こうして夏音を奪還したから良かったものの、もし奪還できず、あるいは奪還してもプラーガに完全に支配された状態だったらと思うと、ゾッとしてしまう。

 

 故に、この島での活躍はあくまで汚名返上であり、お礼を言われるほどのものではないのだ。

 

 しかし、夏音はそうは思わなかったようだった。

 

 

 

「いえ、正直、私はもう助けに来ないって思っていました。あの島から離れちゃったのもそうですし、のび太さんにこれ以上迷惑を掛けられないって諦めていました」

 

 

「・・・」

 

 

「でも、のび太さんは約束通り、ちゃんと助けに来てくれました。本当ならお礼なんかじゃ済まないんだろうけど」

 

 

「いや、そんな・・・」

 

 

 のび太は恐縮してしまう。

 

 前述したように、あの島まで助けに行ったのは汚名返上の為なのだ。

 

 ・・・いや、単純に夏音を助けたかったという理由もあるが、やはりそれを加味してもお礼をされるに値しないとのび太は判断していた。

 

 

「だから、改めて言います。ありがとうございました!」

 

 

 夏音は精一杯の笑顔を込めてお礼を言った。

 

 それが自分にできる最善のものであると思ったからだ。

 

 

「ど、どういたしまして」

 

 

 のび太はその笑顔に顔を赤らめながらそう答える。

 

 ちなみに、この船に乗る残りの2人はそんな二人の様子を生暖かい目で見ていたが、二人はそれに気づいていなかった。

 

 そして、礼を言ったところで、夏音はのび太はあることを聞く。

 

 

「それで、あののび太さんはこれからどうするのですか?」

 

 

「どうって・・・そうだなぁ」

 

 

 どう答えるべきかとのび太は少し考えた。

 

 まだ直に見ていないために実感が湧かないことであったが、ドラえもんの言うことが正しければのび太の故郷であるススキヶ原は日向穂島で起こった事と同様のバイオハザードによって既に壊滅している。

 

 帰ろうにも帰れないし、ここはススキヶ原を脱出した仲間と合流するしか道はない。

 

 だが、それを夏音に言って言いべきか、のび太は迷っていた。

 

 しかし、のび太が何かしらの回答を返す前に夏音は彼に向かってこう告げる。

 

 

「私は・・・あなたと一緒に居たいと思っています」

 

 

「えっ!?でも、夏音のお父さんとかは・・・」

 

 

 母親とは言わない。

 

 そもそも夏音の母親が亡くなっている事をのび太は既に知っているので、それは彼女の心の傷口に塩を塗り込むような真似に他ならないからだ。

 

 だが、夏音の方はそのようなのび太の気遣いを感じ取ったのか、彼に向かってこう言った。

 

 

「良いんです。元々、父は一度も会ったことがなく、顔すら知りません。そして、母が亡くなっていることも既に知っています。のび太さんを撃ってしまった直後の意識のあった時に教団の方々が話していましたから。あと申し訳無いですが、あなたの故郷であるススキヶ原が壊滅してしまったこともお聞きしました」

 

 

「・・・そっか」

 

 

 どうやら知らなかったのは自分の方らしい。

 

 のび太はそう思いながらも、自分についてくることの危険性を彼女に伝える。

 

 

「別に一緒に行くのは良いんだけど、今度はアンブレラとの戦いになるだろうから、しばらくは平穏な日常を過ごすことは出来ないよ?」

 

 

「構いません。元々、学校生活はこの容姿のせいで肩身が狭かったですし、友達も居ませんでした。唯一、愛してくれた母も死んでしまいましたし」

 

 

 そう、元々、彼女にとってこの島での生活は非常に窮屈だった。

 

 日本人離れした容姿のせいで小さい頃は虐められていたし、成長したら飽きたのか虐めはなくなったが、依然として友達は居らず、家庭でも母親は自分を愛してはくれたが、帰りが遅いことが多く、彼女は日々寂しい生活を送っていたのだ。

 

 そして、母親が亡くなった今、頼れるべき相手はのび太しか居なかった。

 

 ・・・いや、一応、島田やドラえもんも居たが、彼らは少女にとって無条件に信用できるほどの相手ではなかったのだ。

 

 

「分かった。じゃあ、一緒に行こう。これからよろしくね、夏音」

 

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

 2人はそう言って朝焼けの海原をバックにした船上にて握手を交わした。




◇本章登場人物(ただし、のび太とその味方限定)のバイオハザードの生存者と死亡者

・生存者(3人と1体)

野比のび太、有宮夏音、島田健太、ドラえもん。

・死亡者(0人)

無し。


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第一章・外伝 ススキヶ原バイオハザード
ススキヶ原の異変


この章では外伝作品としてススキヶ原バイオハザードを描いています。ちなみに本作は複数の主人公によって語られるストーリーで、この章での主人公が原作のびハザキャラの1人である桜井咲夜です。のび太は(時系列的に当たり前ですが)不在となっています。


 日常が崩壊する時。

 

 それはあっという間だった。

 

 あの7月下旬の夏。

 

 私は小学校最後の夏休みを迎えた翌日に親友である○X小学校の生徒会長──緑川聖奈を誘って親戚の家に遊びに行った為に、初期の災害に巻き込まれずに済んだ。

 

 ――しかし、それはあくまで災害に巻き込まれる時間を少なくしたにすぎなかった。

 

 それを私は街に帰ってきた直後に思い知らされることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2013年 7月28日 日中 東京 練馬区 ススキヶ原

 

 それは朝と言うには遅く、昼と言うにはやや早い午前10時30分頃のこと。

 

 聖奈と共に街から帰ってきた咲夜は目の前の光景に絶句していた。

 

 

(なによ・・・これ)

 

 

 まるで映画に出てくるゾンビのような見た目をした人が人を喰っている。

 

 その凄惨な光景を見た咲夜は吐き気が込み上げて来たが、それをどうにか抑え、隣に居る親友を見ると、彼女もまた目の前の光景を見て呆然とその場に立ち尽くしており、不謹慎ではあったがその様子を見た咲夜は若干落ち着きを取り戻し、まず周囲を見渡して現状の把握に努めていた。

 

 そして、改めて周囲を見渡した彼女は現在の状況が非常に不味いものであることに気づく。

 

 

(兎に角、今はここから離れないと)

 

 

 ゾンビが徘徊しているだけに留まらず、街のあちこちに火災が発生しており、本来ならそれを消化するべき消防も機能している様子がなく、火災はどんどんと拡がっている。

 

 早くこの場から移動しなければ自分達の命にも関わるだろう。

 

 自分や聖奈の両親の安否は気になるが、今はそんなことを気にしている余裕はない。

 

 そう判断した咲夜は聖奈の手を引きながら、こう言った。

 

 

「急いでここから逃げるわよ!何時までもこんなところに居たら死ぬわ!」

 

 

「あっ。う、うん」

 

 

 咲夜の言葉に聖奈は戸惑いながらも、彼女に腕を引かれた状態のまま走ってその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇一時間後 倉庫

 

 あれから一時間程走り回った後、咲夜と聖奈の2人はどうにか隠れられそうな倉庫へと辿り着いた。

 

 しかし、そこには大量の血を流しながら壁にもたれ掛かる警察官の男が1人居り、聖奈はその容態を確認する。

 

 

「酷い・・・どうしてこんな・・・」

 

 

 聖奈は口許を抑えながらその警察官の治療を行おうとするが、咲夜はそんな聖奈の肩を叩き、首を横に振った。

 

 

「この人はもう助からないわ。病院に行くことが出来ればもしかしたら助かるかもしれないけど、こんな状況じゃ無理よ」

 

 

「でも──」

 

 

 冷たいようにも聞こえる咲夜の言い分に、聖奈が何か言葉を返そうとする。

 

 だが、その時──

 

 

「うっ・・・うぅ・・・だれ、か・・・居る、のか?」

 

 

 もたれ掛かっていた警察官は意識を息も絶え絶えといった感じでありながらも意識を取り戻した。

 

 

「大丈夫ですか!!」

 

 

「う・・・はぁ、はぁ・・・まともな、人間のようだな?」

 

 

 警察官は近づいてきた聖奈に一瞬警戒したが、まともな人間と分かるとすぐにその警戒を解いて力を抜いた。

 

 

「ずいぶんと声が幼いようだが・・・子供・・・かい?・・・いや、そんなことはいい・・・ここは危ない・・・早く逃げなさい」

 

 

「一体何があったんですか!?あの人達は何者なんですか!!!」

 

 

「私にも・・・分からない。・・・一昨日辺りから・・・街中を・・・徘徊し・・・ている不・・・審者が・・・報告・・・されて・・・私も・・・不審に・・・思って声を・・・しかし・・・いきなり・・・噛み付かれて・・・目をやられて・・・あ・・・あぐぐ」

 

 

 聖奈の質問に答えていた警察官だったが、話の途中で傷が痛み出したのか、苦悶の声を上げる。

 

 

「血が・・・早く手当てしないと!」

 

 

「私に構わず──

 

 

 

パリン

 

 

 

「「!?」」

 

 

「な・・・なんだ?」

 

 

 

ヴアァァア

 

 

 

 警察官の男が何かを言おうとした時、窓ガラスが割れる音が倉庫内に響き渡り、直後に一体のゾンビが中へと入ってくる。

 

 しかも、入ってきた位置は咲夜達にとって最悪なもので、左右は障害物に囲まれていて、丁度出入り口となっていた場所にゾンビが立ち塞がる格好となってしまっていた。

 

 

「ま、不味いわ!」

 

 

「どうしたんだ!?奴等が来たのか!?」

 

 

「ど、どうしたら・・・」

 

 

 警察官の呼び掛けに対し、咲夜達はろくに返事を返すことが出来ない。

 

 それもその筈。

 

 現在の状況は誰がどう見ても最悪なもので、仮にここに居たのが日頃大冒険に慣れているのび太だったとしても、パニックになる事は避けられなかっただろう。

 

 彼女達は生徒会長という責任ある立場であったり、海外にも進出している武道家の両親の娘という普通の家庭とは少々掛け離れた環境で育っていたりするが、それでも大冒険のような非日常を過ごしているわけでもないので、普通の小学6年生の延長線上の存在にすぎない。

 

 だからこそ、普段は絶対にならないような危機的状況下で混乱してしまうのはある意味で必然と言えたのだ。

 

 だが、目が見えないながらも状況をなんとなくだが把握した警察官はそんな二人に対してこう言った。

 

 

「君達。私の・・・右ポケット付近の・・・ホルスターに・・・銃と・・・弾がある」

 

 

「えっ!?」

 

 

「早く・・・取るんだ!」

 

 

 そう、警察官が行ったこと。

 

 それは子供に自分の携帯する拳銃を与えることだった。

 

 本来なら、それは当然いけない事なのだが、このような状況下ではそんな事に拘っていられる余裕は全く存在しないと警察官は判断したのだ。

 

 とは言え、彼女達にとって拳銃は普段全く目にしないもの。

 

 そもそもここは銃社会のアメリカではなく、日本。

 

 加えて、彼女達は当然の事ながら猟師や警察、自衛官という訳ではないし、大冒険をしてきたのび太達のように、実戦を経験してきた人間というわけでもない。

 

 それ故に警察官の言葉に戸惑ったが、ゾンビが尚も自分達に接近してきたことで武道家の娘として育った咲夜は逸早く仕方ないことだと割り切り、その警察官の右ポケットから拳銃を手に取った。

 

 

「・・・君は、射撃とかの経験は?」

 

 

「見たことはあるけど、撃ったことはないわ。それどころか、触ったこともない」

 

 

 初めて本物の拳銃を持ち、その重さに触れた為か、銃を持つ咲夜の手は震えていた。

 

 ちなみに彼女の持つ銃の名はニューナンブM60。

 

 日本の警察官が装備する一般的な拳銃であり、奇しくも数時間後に某島にて彼女の1つ下の年齢の少年が拾い、半日後には銀髪の少女の手へと渡る銃と全く同じタイプのものだった。

 

 

「そうか・・・落ち着いて、撃ちなさい。・・・相手を人と思わなくて良い。それに・・・震えたまま撃つと・・・当たらない上に、危ない」

 

 

「そんなこと言ったって・・・」

 

 

 警察官の言うことは分かる。

 

 だが、実際に出来るかどうかは話は別だ。

 

 現に自分はゾンビに銃口を向けたまま、震えて引き金を引けないでいる。

 

 だが、そんな咲夜の手に聖奈はソッと自分の手を当てた。

 

 

「咲夜、大丈夫。私も手伝うから」

 

 

「聖奈・・・」

 

 

 その言葉に、スッと肩から力が抜けるような感覚を覚える。

 

 しかし、そうこうしているうちにゾンビは彼女達の5メートル先程までに迫っていた。

 

 

「頭を・・・撃ちなさい。それ以外を撃っても・・・こいつらは・・・ううっ」

 

 

 警察官はそう言うと、再び苦悶の声を上げて喋らなくなる。

 

 だが、2人の少女は先にゾンビを片付ける方が先だと、ニューナンブM60の銃口をゾンビの頭部へと向け、全ての神経を射撃に集中させた

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニューナンブM60の銃口から一発の38スペシャル弾が発射され、ゾンビの頭部へと向かっていく。

 

 知能の低下に加え、既に距離3メートルにまで近づいていたゾンビにそれを交わす術はなく、弾丸は吸い込まれるようにゾンビの頭部へと命中した。




本話終了時の咲夜の装備

武器・・・ニューナンブM60(4発)


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学校到着

◇西暦2013年 7月28日 昼 日本 東京 練馬区 ススキヶ原

 

 

「どうやら・・・上手くやったようだね。・・・君達のように・・・上手くやれれば・・・私達もこんな・・・事には・・・うぅ」

 

 

「しっかりしてください!」

 

 

 遂に血を吐き出した警察官に聖奈はそう言うが、その警察官は自分はもう助からないと悟ったのか、警察官として最後の務めを果たすために2人の少女に向かってこう言った。

 

 

「・・・ここを出たら・・・まっすぐ・・・人の集まりやすいところを・・・目指しなさい。・・・君達の・・・友達や・・・家族も・・・きっと・・・そこに・・・居る・・・筈だ・・・よ」

 

 

「分かりました!」

 

 

「銃は・・・持って行きなさい。・・・気を・・・つけて・・・な」

 

 

「お巡りさん!?」

 

 

 最後にそう告げた後、警察官は意識を失う。

 

 慌てて聖奈が声を掛けたが、その時にはもう息を引き取っていた。

 

 

「・・・行きましょう。このままだと、私達まで死んでしまうわ」

 

 

「でも・・・」

 

 

「私達が死ねば、お巡りさんの死まで無駄になるのよ!?聖奈、お願いだからしっかりして!!」

 

 

「!? ・・・ごめんなさい」

 

 

「いえ、こっちこそ怒鳴って悪かったわ。・・・兎に角、今はお巡りさんの言ったように人の集まるところ・・・そうね。丁度ここは私達の小学校の近くだからそこに行きましょう」

 

 

「うん。・・・ありがとう、咲夜」

 

 

 2人はそんなことを言いながら、学校を目指すために倉庫を出て行こうとする。

 

 そして、倉庫を出ていく直前──

 

 

(お巡りさん。私達は必ず生き残るから、心配しないでね)

 

 

 咲夜はそんなことを思いながら、警察官の死に報いるためにも聖奈と共に生き残ることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇40分後 ○X小学校 保健室

 

 あれからゾンビを避け、更には途中に居た警察官の死体が持っていた拳銃と弾薬、そして、とある死体の側に落ちていたコンバットナイフなどを拾いながら、どうにか母校である○X小学校に到着した咲夜達。

 

 何故か階段の防火シャッターが閉じていた為に上の階に登ることが出来ず、仕方なく立て籠るのに丁度良い保健室に入ったが、そこには先に到着していた何人かの生存者達が待っていた。

 

 

「よう、お前らも無事だったか」

 

 

 そう言って保健室に入ってきた2人を出迎えたのは金髪に色黒という不良っぽい容姿をした少年──翁蛾健治。

 

 2人のクラスメートであり、悪い人間ではないのだが、その容姿から生徒会長である聖奈に幾度となく注意を受けている少年でもあった。

 

 

「なんとかね。それより、この学校に逃げてきた生存者ってこれだけ?」

 

 

 咲夜はあまりにも少ない生存者の数に眉をしかめる。

 

 保健室に逃げ込めた生存者は警察官や咲夜達を含めても合計7人。

 

 その内、咲夜の同級生は咲夜自身と聖奈に健治、そして、もう1人の同級生である白峰の4人。

 

 残る3人の内、2人は見るからに警官で、最後の1人は正確な学年こそ分からないが、明らかに咲夜達よりも年下、それも低学年の少年だった。

 

 街があんなになっているとはいえ、警官を除けば大人の生存者が1人も居ないというのは幾らなんでも異常に思える。

 

 

「ああ、取り敢えず今日避難してきた奴はこれだけだ」

 

 

「今日避難してきた人間だけ?それってどういう意味?」

 

 

「なんでも先に避難した奴が居たみたいなんだが、そいつらが上の階に避難して防火シャッターを閉めちまったらしい。で、その防火シャッターは電子ロックらしくてな。それを解除できる奴が誰も居ねぇから仕方なく上に行くのは諦めているといった状況だ」

 

 

「籠城か。でも、なんでわざわざ防火シャッターを?相手がゾンビならバリケードを作るだけでも十分じゃないの?これじゃあ、避難してきた人が逃げ込めないじゃない」

 

 

「さあ、そこは分からないが・・・大方、前の日かなんかに避難してきた奴に感染者が居たんじゃねぇか?それで締め出したとか」

 

 

「・・・なるほど」

 

 

 その理由は十分に納得できた。

 

 咲夜も逆の立場ならばそうするであろうからだ。

 

 もっとも、締め出される立場となった身としては堪ったものではなかったが。

 

 

「まっ、考えようによっちゃ良かったかもしれんがな。この学校の保健室には窓は無いから、少なくとも窓からゾンビが入ってくる心配は無い」

 

 

「ええ、そうね。でも、食料とかは調達しないといけないから、どのみち何時かは外に出ないと」

 

 

「・・・まあ、そうだな。本来なら警官を宛にしたいところだが、たった2人じゃあれだからな」

 

 

 そう、たった2人ではどうにもならない。

 

 どうにかなっているのなら、いま自分達がここに居ることも無かったのだから。

 

 

「だが、今のところはそれほど余裕がないって訳でもねぇから、休む時間くらいはあるだろう。お前達は逃げてきたばかりだから、今のうちに休んでおけよ」

 

 

「ありがと。是非、そうさせてもらうわ。聖奈はどうする?」

 

 

「そうね。私も少し休もうかな。ちょっと疲れちゃったし」

 

 

「そう。じゃあ、あっちのベットで少し横になりましょう。健治くん、見張り頼んだわよ。言っておくけど、何かしたら承知しないから」

 

 

「おう、任せとけ」

 

 

 健治がそう言ったのを確認した後、聖奈と咲夜はベッドに横になり、その疲れを僅かながら癒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇一時間後

 

 聖奈と咲夜がベッドに横になってから一時間。

 

 2人は騒がしくなってきた保健室内の騒音に目を覚まし、何事かと少々寝惚けた顔で見てみれば、いつの間にか新たな生存者4人が保健室の中へと入って来ており、その生存者4人はいずれも咲夜達より一学年下の小学5年生の面々であったが、咲夜達はその顔に見覚えがあった。

 

 

「おう、起きたか。すまんな、急に人数が増えて騒がしくなっちまった」

 

 

「いえ、大丈夫です。それよりあの子達って・・・」

 

 

「ああ、“お騒がせ世代”だな。こんな時にまでしぶとく生き残るところは流石だな」

 

 

 お騒がせ世代。

 

 それは咲夜達6年生の間で広まっていた一学年下の○X小学校5年生、もっと言えばのび太達の事を表す異名であり、常日頃、彼らの周りで可笑しな出来事が起こることからそう呼ばれるようになっていた。

 

 

「そうですね。しかし、出木杉君が合流したのは大きいと思います」

 

 

「知ってるの?」

 

 

「うん。私の次の代の生徒会長の最有力候補だから」

 

 

「ああ、そう言えばそんなことも言われていたな」

 

 

 お騒がせ世代には様々な人材が居る。

 

 特に有名なのはのび太で、“ライパチ王(万年ライトで下位打順)”“マスター・オブ・ゼロ(0点を取りまくってる)”“廊下の守護神(廊下によく立たされる)”という様々な異名を持っているが、それ以外にも学校一のガキ大将(ジャイアン)大金持ち(スネオ)バイオリンの死神(源しずか)、そして、学校一の秀才(出木杉英才)など、一世代としてはあまりに異色な人材がてんこ盛りだった。

 

 その中でも出木杉英才の名は生徒会でも有名であり、その優秀さから聖奈の後継者として見込む者が多く居たのだ。

 

 ・・・もっとも、この状況下では“次の生徒会長”というものが出現できるかどうかも怪しくなってしまったが。

 

 

「・・・ねぇ、なんだかお巡りさんと少し揉めてるみたいなんだけど、どうしたの?」

 

 

「ああ、あいつら、今後の予定を考えていたみたいなんだが、さっき学校を探索するグループと食料を調達するグループ、そして、保健室で待機するグループの合計3つのグループに分けて行動することを提案したんだ」

 

 

「なかなか良い案じゃない。何か問題でもあるの?」

 

 

「いや、案そのものに問題はねぇんだよ。下級生の意見だからって従わないなんていう小さい事も言うつもりもねぇ。ただ、警官は2人しか居ないからな」

 

 

「あっ」

 

 

 そこで聖奈は問題となっている点を理解した。

 

 保健室という拠点の確保、探索、食料調達、この3つはいずれも欠かせない重要な仕事だ。

 

 おまけにゾンビがあちこちを徘徊している今、あまり時間はかけられないので、3つの仕事を同時にこなす必要がある。

 

 そして、今ここに居る人間は合計11人だが、その内最年少の山田太郎は小学1年生という幼さから保健室に待機してもらうしかないので、実質10人で3つの仕事は分担されることになるのだが、警官は2人であり、3等分に配置することは当然の事ながら出来ない。

 

 その為、必然的にどれか1つの仕事は大人抜きでやる必要があるのだ。

 

 おそらく、その点で揉めているのだろう。

 

 

「・・・取り敢えず、私が仲介に入ってみます」

 

 

「何か良い案があるの?」

 

 

「いえ。ですが、このままだと話が拗れて終わりそうなので」

 

 

 そう言うと、聖奈は議論を交わすお騒がせ世代の小学5年生達と警官達の下へと向かっていった。




本話終了時の咲夜の装備

武器・・・ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・38スペシャル弾(6発)


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探索

◇西暦2013年 7月28日 昼 ○X小学校 校内 二階 

 

 

「・・・上の階には誰か逃げ込んだって聞いたけど、少なくとも二階には誰も生存者は居なさそうね」

 

 

 咲夜はそう呟きながらも、二階の探索を続ける。

 

 30分程前、聖奈が仲介に入ったことで3つのグループは以下の通りに分けられることとなった。

 

・食料調達係

 

前田(警官)、源しずか、翁蛾健治、白峰、緑川聖奈。

 

・探索組

 

桜井咲夜、出木杉英才、骨川スネオ、剛田武。

 

・居残り組

 

久下(警官)、山田太郎。

 

 結果的に食料調達に一番人数と年長者の多くが割り振られることとなり、探索組は咲夜を除けば5年生で占められることとなった。

 

 もっとも、準備がある程度整えば人や動物の少ない裏山に隠れて救助か事態が治まるのを待つという話になったので、保健室に長居するつもりはなく、食料調達は一度か二度で終了する予定だが、それまではこの4人で学校内を探索することとなるだろう。

 

 ちなみに咲夜が今、防火シャッターで閉じられていた筈の二階を探索できているのは、スネオが防火シャッターを制御するセキュリティにアクセスして防火シャッターを開けたからだ。

 

 つまり、ハッキングしたという事で、思いっきり犯罪行為だったのだが、非常時ということもあって2人の警官達は敢えて目を瞑っていた。

 

 

「それにしても、2階にもゾンビが居たってことは、防火シャッターが閉じられていた状態でそうなったってことだから・・・さながら逃げられない地獄が現出したってところかしら」

 

 

 そう考えると、ゾッとする。

 

 この学校は4階建てだが、ハッキングしたスネオが言うには一階から二階、二階から三階、三階から四階の3つの防火シャッターが全て閉じられていたと言っていた。

 

 ということは、この階の人間は二階で孤立していたということになる。

 

 ある意味、街中を逃げ回るよりも生存率は低く、生存者が居ないのも道理と言えば道理だった。

 

 もしかしたら、健治が言った『防火シャッターが閉じられていたのは考えようには良かったかもしれない』というのは全く以て正しかったのかもしれない。

 

 

「・・・二階をこれ以上探しても無駄ね。三階に行ってみようかしら?」

 

 

 生存者こそ見つかっていないが、二階を探索した成果は全く無かった訳ではない。

 

 臨時の武器庫となっていた場所から無線機やケブラースーツにMP5、ベレッタM92などのサブマシンガンや拳銃、そして、その弾薬・弾倉(マガジン)を回収できた。

 

 銃器の方は両方とも一応、日本警察で採用されているものの、一般的な武装ではない筈なのだが、久下達が言うにはこの学校はススキヶ原警察によって避難指定場所に指定されており、配置されている警官隊は選抜警官隊という精鋭で成り立っている部隊らしく、装備している武装も一般警察官の比ではないらしい。

 

 ちなみに久下達がこの学校の保健室に居たのは、今日の未明頃に学校に配置されていた筈の選抜警官隊と連絡が途絶えた事でススキヶ原警察上層部から伝令として派遣されることになり、ゾンビの群れを掻い潜ってやっとの思いで学校にやって来てみれば防火シャッターが閉じて上に進めず、そうこうしているうちにゾンビがやって来た為に保健室に先に到着していた健治や太郎と共に籠城していたという訳だ。

 

 その後、上の階に居る筈の選抜警官隊や自分達をこの学校へ派遣したススキヶ原警察上層部に無線で連絡を取ろうとしたが、どちらも無線が通じなかったらしく、久下達は実質孤立無援状態になってしまったとの事だった。

 

 そして、無線機が通じなかったこと、更には二階にもゾンビが居たことから考えるに、上の階に逃げ込んだ生存者はもう生きていない可能性が高い。

 

 しかし、同時に二階より上の階は無事で無線が通じないのは単に無線機が壊れているだけだったり、何処かに隠れている可能性も少なからず有るので、咲夜はこの探索が無駄であるとは全く考えていなかった。

 

 

「・・・いえ、一旦、保健室に戻りましょう。拾った“これ”もみんなに渡しておきたいし」

 

 

 咲夜はそう言いながら、拾った人数分の無線機や武器庫の存在を皆に伝えるために一旦保健室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 ○X小学校 校内 一階 給食室 休憩所

 

 咲夜が二階を探索していた頃。

 

 一階校舎西側の探索を担当していたジャイアンとスネオは給食室の奥にある給食員用の休憩所で、肩から血を流して窓際の壁にもたれ掛かるクラスメート──はる夫を発見していた。

 

 

「はる夫!大丈夫か!?」

 

 

「ひどい怪我だな」

 

 

「そ・・・その声は・・・スネオ?それにジャイアンも」

 

 

 スネオとジャイアンの呼び掛けに対し、はる夫も息も絶え絶えといった感じにそう応える。

 

 

「目が・・・何も見えないんだ。・・・死にたくないよ・・・助けて」

 

 

「はる夫!しっかりしろ!この傷は一体どうしたんだ!?」

 

 

「ジャイアン・・・スネオ・・・気をつけろ。・・・体育館の中に・・・巨大な化け物が・・・うぅ」

 

 

 最後に言い残し、はる夫は意識を失う。

 

 

「はる夫!?・・・駄目だ、死んでる」

 

 

「くそっ!!」

 

 

 スネオは脈を確認して首を横に振りながらそう言い、それを聞いたジャイアンは悔しげに地団駄を踏む。

 

 はる夫はジャイアン達にとってのび太やしずかのような幼馴染みほど深い関係ではなかったが、それでも大切なクラスメートであったし、親しい仲ではあったのだ。

 

 そんな人間が死んでしまったことに、ジャイアンとスネオはこの理不尽な状況に対して、改めて怒りと哀しみの感情を覚えていた。

 

 

「・・・肩に噛まれた傷があるね。でも、こんな大きな噛み跡を残す動物なんて居るのかな?」

 

 

 もはや遺体となってしまったはる夫の体を改めて調べたスネオは肩の噛み跡に関してそんな感想を口にする。

 

 はる夫の肩に着けられた噛み跡は随分と大きい。

 

 どう見ても人間の歯形では無かったし、動物だとしても町で見たゾンビ犬ではこのような大きさの傷は着けられないだろう。

 

 いや、そもそも噛まれただけで死ぬというのもなんだか可笑しい。

 

 腕が丸ごと引きちぎれたり、噛まれてから数日経っていてなんの治療もしていなければ話は別だろうが、この程度の出血量では普通致命傷には至らないし、傷口を見るに噛まれたのはどう長く見積もっても精々数時間前といったところだ。

 

 

「・・・そういや、はる夫の奴、気になることを言ってたな。化け物とかなんとか」

 

 

「化け物、か。ライオンやトラのゾンビでもこの近くに居るのかな?」

 

 

「さあな。まあ、なんにしても、はる夫を殺した奴にはきっちり落とし前を着けてやらねぇといけないのは確かだな」

 

 

「・・・流石に今の僕らの持っている物じゃ無理じゃないかな?」

 

 

 現在、2人の手持ちの武器はジャイアンが金属バット、スネオは刃渡りの短いナイフのみ。

 

 ジャイアン達は咲夜と違って最低限の武装を身に付けた後は一直線に学校へとやって来たので、拳銃などの武装は身に付けていなかったのだ。

 

 これではとてもではないが、スネオが想定するようなトラやライオンのゾンビには対抗できないだろう。

 

 

「ああ、悔しいがその通りだな。せめて空気砲とかショックガンでもありゃあな」

 

 

「空気砲にショックガンか。そう言えば、ドラえもんは今ごろどうしているんだろう?のび太もだけど」

 

 

「さあな。ドラえもんはロボットだからゾンビに噛まれようが大丈夫だろうから無事だろ。のび太の方は分からねぇが、あいつもあいつで案外しぶとい。多分、何処かで生き残っているさ」

 

 

「・・・そうだね。と言うより、どこでもドアが有るんだから危険に陥るような事態はそもそも考えられないか」

 

 

 そう、どこでもドアが有れば街の外に逃げられる。

 

 ドアが壊れたりでもしていれば話は別だろうが、少なくとも今日無人島から帰ってくるまではドアはちゃんと機能していたのだ。

 

 なので、のび太達は街の外に逃げている可能性が高いとジャイアンとスネオは考えており、その内彼らが救助してくれるのではないかと淡い期待を抱いてもいた。

 

 ・・・実際のところ、彼らの予想は3割程しか当たっていない。

 

 確かにのび太はこの時点で街の外に居たが、そこはバカンスを楽しんだ無人島ではなく、スネオ達に負けず劣らずの地獄であったし、そもそもドアそのものものび太が忘れ物を取りに行ったタイミングで壊れてしまっている。

 

 故に、スネオ達を助けるどころか、自分達の事に手一杯な状況に陥っていたのだが、そんなことを彼らが知るよしも無かった。

 

 

「まあ、取り敢えずドラえもん達が助けに来てくれるまで俺達は俺たちで出来ることをやろう。助けられる前に死んだりしたら洒落にならねぇからな」

 

 

「うん、そうだね」

 

 

 2人はそう言い合いながら、改めてこの地獄から生き残ることを決意した。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(13発)、ベレッタM92(12発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン2つ(64発)、ベレッタM92・マガジン3つ(45発)、38スペシャル弾(6発)

防具・・・ケブラースーツ


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怪物の脅威

◇西暦2013年 7月28日 昼 ススキヶ原 街中

 

 咲夜が二階を探索を終え、ジャイアン達がはる夫の最期を見届けた頃。

 

 5人の食料調達班はゾンビを避けながら、コンビニへと辿り着き、食料調達を行っていた。

 

 

「あっ、白峰君。カップラーメンとかはお湯がないと沸かせないから、積んでいくのはやめた方が・・・」

 

 

「ちっ、分かったよ」

 

 

 聖奈の言葉に舌打ちをしつつも、白峰はバッグに積めたカップラーメンを床へと放り投げて、別の商品棚の方へと向かった。

 

 

「私・・・白峰君に何かしちゃったのかな?」

 

 

 言葉遣いは乱暴ではあったものの、悪い人間ではないというのはなんだかんだで言うことを聞いてくれるところからも分かる。

 

 しかし、彼はこのバイオハザードが始まる前から何故かクラスの中で自分にだけは当たりが強かったので、聖奈は自分は白峰に何かしてしまったのではないかと不安に思っていたのだ。

 

 

「聖奈さん、食料以外にも消毒液とかそういうのも持っていった方が良いと思うんですけど・・・どうしたんですか?」

 

 

 自分の用件を言おうとしたしずかだったが、聖奈の元気が無いことに気づき、思わずそう尋ねた。

 

 

「いえ、白峰君。何故か私にだけは当たりが強くて。私、何かしてしまったのではないかと」

 

 

「そうですか。でも、やることはちゃんとやっているようですし、そこまで気にしなくとも良いと思いますよ」

 

 

「そうでしょうか?」

 

 

「ええ。こういう時は変に気を回すと、却って拗れますから。脱出に成功した後でゆっくり話し合った方が良いんじゃないかと」

 

 

「・・・そう、ですね。まず生き残ることが先決ですね」

 

 

 言われてみれば、生き残れさえすれば幾らでも話す機会は作れるのだ。

 

 その時にゆっくりと腹を割って話し合えば良い。

 

 聖奈はしずかの言葉を聞いて、そう思い直した。

 

 

「はい、きっと生き残れますから大丈夫です。それで、消毒液とかの医薬品についてなのですけど──」

 

 

「ああ、じゃあ、それも持っていってください。一応、保健室にはそれなりの物が揃っていますが、この人数だと早晩足りなくなるかもしれませんから。それとこのコンビニの隣は薬局ですから、申し訳ないですけど、そこからも使えそうな医療品を取っていってください。ああ、特に救急スプレーは最優先で」

 

 

「分かりました」

 

 

 そう言ってしずかは医薬品を積めるためにその場から立ち去っていくが、それと入れ替わる形で今度は健治が聖奈に対してこう尋ねてくる。

 

 

「緑川、ちょっと良いか?」

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

「この近くに猟銃とか売ってる店があるのを思い出してよ。そこから武器を調達したいんで、白峰を連れてそこに行きたいんだが・・・ここはお前に任せて良いか?」

 

 

「猟銃、ですか。確かに必要になりそうですが、嵩張りますし、そもそもその店に置いてあるものは私達に扱えるでしょうか?」

 

 

 基本的に猟銃店というのは、ショットガンやライフルなどの大型の銃器が揃えられている店で、ハンドガンなどの使いやすい武器は置いていない。

 

 それ故に自分達にそれらの銃器を使いこなせるかは疑問であったし、更に言えば、食料も持っていかないとならないため、そういった嵩張る物を持っていくと、移動速度が遅くなる上に逃げづらくなるというデメリットもある。

 

 ──しかし、この状況下で銃器は喉から手が出るほど欲しい代物であるということも確かだ。

 

 だからこそ、聖奈は悩んでいた。

 

 

「大丈夫じゃねぇか?持っておいて損はねぇだろうし、俺達で使えないなら、久下のおっさん達に使って貰えば良いしな。それに今回は食料調達が優先だから、あんまり多く持っていかねぇよ。いざとなったら、また改めて来て持っていけば良いんだしな」

 

 

「・・・分かりました。では、今回は健治君と白峰君でそれぞれ銃を1つずつ、弾は10発から30発くらいを持ち出してください」

 

 

「分かった。じゃあ、行ってくる」

 

 

 健治は聖奈の了承を得ると、白峰に声を掛けにその場を立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇30分後 ○X小学校 校内 一階 保健室

 

 一階の探索を終えたジャイアン、スネオ、出木杉の3人は保健室へと戻り、先に二階の探索を終え、通信機を保健室へと運んで待っていた咲夜と共に今後の探索について話し合っていた。

 

 

「──じゃあ、学校でまだ調べていない場所は三階と四階だけか」

 

 

「ええ、校内はね。裏山の脱出経路と潜伏地点の確保についてはまだだけど、それは聖奈達が帰ってきてからでも出来るわね」

 

 

「しかし、銃があるってのは正直助かるな。飛び道具が有るのと無いのとじゃ全然話が違うからな」

 

 

「そうだね。それでその武器庫の武器も二階からこの保健室に運び出すの?」

 

 

「う~ん。そうだね」

 

 

 スネオの問いに対して、珍しく出木杉は悩んだ。

 

 現在の状況では武器の確保が必要なのは明らかであり、そちらの方に人員を割くのには出木杉も異論はなかったが、問題なのはどれ程人員を引き抜くかだった。

 

 実は出木杉は一階校舎の東側を探索していたのだが、体育館を調べた際にはる夫を襲ったと思われる巨大なカメレオンに遭遇しており、あんな化け物が居るのでは探索にしろ、武器の輸送にしろ、1人で校内を行動するのは危険だと考えるようになっていたのだ。

 

 そして、少し考えた末、出木杉が出した結論は──

 

 

「よし。僕とスネオ君で武器の移動をやっておこう。武君と桜井さんは残る三階、四階の探索を頼んでも良いかな?」

 

 

「分かったぜ。じゃあ、俺が三階で咲夜さんは四階で良いか?」

 

 

「それは──」

 

 

 駄目、ペアで行動して。

 

 そう言おうとした出木杉だったが、ふと現在の状況を思い返す。

 

 確かにあの化け物は脅威だし、あれに遭遇した場合を考えれば単独行動は非常に危険だが、あの化け物以外にもゾンビなどの脅威がある以上、あまり校内の探索に時間は掛けられない。

 

 となると、手分けした方が早く終わってリスクも結果的に小さくなるだろう。

 

 

「・・・そうだね。それで頼むよ。ただし、僕の言ったカメレオンみたいな怪物が現れたら、すぐに逃げてくれ。今の装備で戦うのは非常に危険だ」

 

 

「ちっ、分かったよ。はる夫の仇が取れないのは残念だがな。・・・ああ、そう言えば聞くのを忘れていたけど、咲夜さんはそれで大丈夫ですか?」

 

 

「えっ?ああ、大丈夫よ。別に異論があるわけではないわ。ただ・・・」

 

 

「どうしました?何か気になることでも」

 

 

「いえ、その出木杉君が見たっていう化け物が帰ってくる聖奈達を襲うなんてことはないかなって」

 

 

 その咲夜の言葉に、場の雰囲気は凍り付くかのように静まった。

 

 そう、今までは化け物が校内に居ること前提の話し合いを行っていたが、よく考えてみれば校外から帰ってくる聖奈達食料調達班を襲撃する可能性も十分有り得るのだ。

 

 

「そ、そういえばそうだったな」

 

 

「うん、自分達でなんとかすることに頭が行っててすっかり抜け落ちていたよ。確かにその可能性も有ったね」

 

 

「で、でも、どうするの?向こうに連絡が着くとは言っても、帰ってくるなと言うわけにはいかないし」

 

 

「・・・やっぱり、いっそ俺達で倒しちまうのが一番じゃねぇか。丁度、武器を調達できる宛も有るわけだし」

 

 

「う~ん。せめて相手の場所が分かればなぁ」

 

 

 食料調達班が帰ってくる前に怪物を倒す。

 

 それは食料調達班を怪物の脅威に晒さない一番有効的な方法で、ぶっちゃけ戦って死傷するリスクを無視すれば、これ以上の選択肢は無いと言っても良いだろう。

 

 だが、相手の場所が分からないのではどうしようもない。

 

 

「・・・仕方ない。方針変更だ。今から4人で二階の武器庫に行って出来る限りの装備をする。それから手分けをして怪物をまず見つけるんだ。僕が一階、スネオ君が二階を担当、武君と咲夜さんはさっきも言ったように三階と四階の探索を行ってくれ」

 

 

「「了解」」

 

 

「え~。僕、今度は1人でやんなきゃいけないの」

 

 

「つべこべ言うな!二階は咲夜さんが大体のゾンビをやっつけてくれたみたいだから危険がすくねぇ。俺たちに割り当てられた階なんか、まだどうなっているか確認すらされてねぇんだぞ!!それとも俺と担当を代わるか!?」

 

 

「い、いえ。是非、やらせてください!!」

 

 

(強引だなぁ)

 

 

 そんな4人の話し合いを見ていた久下は、半ば呑気にそう思っていた。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(13発)、ベレッタM92(12発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン2つ(64発)、ベレッタM92・マガジン3つ(45発)、38スペシャル弾(6発)

防具・・・ケブラースーツ


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安雄の危機

◇西暦2013年 7月28日 昼 ○X小学校 校内 四階 

 

 

「・・・どうやらここは選抜警官隊の本部が置かれていた部屋のようね」

 

 

 部屋に置かれてある書類と既に死体となっている選抜警官隊の警察官達の姿を見ながら咲夜はそう呟く。

 

 あれから武器を持たないジャイアン、スネオ、出木杉の3人を2階の武器庫まで送り届けた後、咲夜は予定通り四階へと上った。

 

 すると、案の定、四階にも少数ではあったものの、ゾンビが居り、咲夜はそれを掃討しつつ、手近にあった部屋へと入ったのだが、そこにあったのは生存者ではなく、死体となった警察官、そして──

 

 

「それにしても、なに?この緑色のゴリラみたいな化け物」

 

 

 咲夜は警察官同様、死体となって転がっている緑色のゴリラのような化け物を見て首を傾げた。

 

 周りに落ちている薬莢と警察官の傷口などから見て、ここで警官隊がこの緑色の化け物と交戦したのは間違いない。

 

 しかし、緑色のゴリラのような風貌をした動物など、咲夜は初めて見たし、それどころかこうして実際に見るまではそんな動物が存在していることすら知らなかった。

 

 

「新種の動物?それとも、何処かのゾンビが変異したとかかしら?・・・分からないわね」

 

 

 自分では幾ら考えても分からない。

 

 そう考えた咲夜はこの生物についてな詮索を止めることにした。

 

 そもそも自分は頭を使うことがあまり得意な方ではない。

 

 勉強は出来る方ではあったが、あくまで“そこそこ”と言えるレベルで生徒会長を務める聖奈にはとても及ばないのだ。

 

 

「取り敢えず、弾だけ頂いていきましょう。銃は全部壊れちゃってるみたいだし」

 

 

 咲夜はそう言って、ロッカーの中に残っていた弾を回収し、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数分後 ○X小学校 校内 三階 理科準備室 

 

 咲夜が四階を探索している一方、装備を整え、三階の探索を行っていたジャイアンは理科実験室の隣にある理科準備室にて、はる夫と同様に肩に怪我を負ったクラスメート──田中安雄と彼を介抱するドラえもんを発見していた。

 

 

「安雄!それにドラえもんも!!」

 

 

「ジャイアン!?無事だったんだね!!」

 

 

「ああ。それより安雄はいったいどうしたんだ!?」

 

 

「ジャイアン、この学校はマジでヤバい。早く町から出るんだ。とんでもない化け物が居るぜ」

 

 

 苦しげな表情をさせながら、安雄はそう警告する。

 

 

「喋っちゃ駄目だ!安雄君!じっとしているんだ!!ジャイアン、安雄君は何か巨大な生き物に噛まれたみたいなんだ。おまけに衰弱の具合から毒が体に回っているみたいで・・・」

 

 

「毒だと!?なんとかならねぇのか!」

 

 

 毒。

 

 それならば、本来なら治療すれば助かるレベルの怪我しか負ってなかったはる夫があっさりと死んだ理由にも納得が行く。

 

 そして、はる夫の死を実際に目の当たりにしたからこそ、ジャイアンは安雄をここで死なせたくはなく、それ故にドラえもんになんとかならないかとすがっていた。

 

 だが──

 

 

「無理だ。秘密道具の殆どは修理中で残った道具の中にお医者さんカバンはないし、回っている毒も蛇とかそういうレベルじゃない。なんだろう、いったい・・・」

 

 

「あれは地球上の生物じゃねぇ、バケモンだ。オバケ嫌いの僕にはゾンビなんてチビるほど怖かったが、もう慣れちまった。でも、あのバケモンを見た時は本当に腰を抜かしたよ」

 

 

 つまり、ゾンビなど可愛く思えるほどの化け物だということだ。

 

 それが出木杉が体育館で遭遇した化け物と同じであるかどうかまでは分からないが、少なくともこの学校に怪物が居るということは確からしい。

 

 

「そいつはまるでカメレオンのように体の色を変えて襲ってくるんだ」

 

 

「カメレオン・・・ってことは、出木杉が遭遇した奴と同じか。まさか、校内に入り込んでくるとは」

 

 

「このままじゃ安雄君が危ない。速やかに血清を打つ必要があるんだ。でも、安雄君から離れるわけにもいかないんだ。いつゾンビが中に入ってくるか分からないし・・・」

 

 

「おう。じゃあ、俺が取りに・・・あっ、いや、待て」

 

 

 自分が取りに行くと言おうとしたジャイアンだったが、ある人物の存在を思い出し、無線機をその人物に繋がる無線の周波数に調整して、通信を試みる。

 

 すると──

 

 

『───ザッ、こちら出木杉。どうしたんだい?』

 

 

「出木杉か。いま何処に居る!?」

 

 

『えっ?今は東側の校舎を見終わって西側校舎に移動中だけど・・・』

 

 

「丁度良かった!!実は安雄がお前が遭遇したっていう化け物に噛まれて重傷なんだ!毒が回ってて、早く血清を打つ必要があるって!!」

 

 

『血清?・・・ああ、分かった。取り敢えず、保健室に一旦戻って血清を取ってそっちに行くよ。ところで、武君はいま何処に居るの?』

 

 

「ああ、三階の理科準備室だ。いま、安雄がドラえもんが介抱してる」

 

 

『ドラえもんも居るのかい?分かった、すぐに行くよ』

 

 

 そう言ったのを最後に通信は切れ、武は無線機をドラえもんに渡すと、銃を手にしながらこう言った。

 

 

「ドラえもん。俺は出木杉を迎えに行く。万が一、道中でゾンビと鉢合わせでもしたら大変だからな」

 

 

「分かった。僕はここで安雄君を見てるよ」

 

 

「頼んだぜ。じゃあ、行ってくる」

 

 

 ジャイアンはそう言って理科準備室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 ○X小学校 校内 四階

 

 ジャイアンと出木杉が安雄を助けるために行動を開始した頃。

 

 安雄の危機など知るよしもない咲夜は四階の探索を更に進め、とある教室の中へと入った。

 

 すると──

 

 

(!? 生存者!)

 

 

 その教室では部屋の中央部分にバリケードが築かれていて、窓側の方には十数人の生存者が居り、その殆どがこの学校の教師だったが、中には町内会長である金田政宗の姿もあった。

 

 そして、咲夜の存在に気づいたのか、1人の教師が声を掛けてくる。

 

 ちなみに咲夜は知らなかったが、その教師はのび太達の担任の先生だった。

 

 

「君はこの学校の生徒かね?」

 

 

「はい。6年生の桜井咲夜です」

 

 

「そうか。他の生存者は?」

 

 

「私を除けば10人ほど居て、今は保健室を拠点に活動しています」

 

 

「他にも生存者が居るのか。・・・ところで、これは私情かもしれないが、その中に5年生の者が居たら、その名前を教えてくれないか?私の教え子かもしれんのだ」

 

 

「構いません。5年生は4人。名前は出木杉英才君、剛田武君、骨川スネオ君、源しずかちゃんです」

 

 

「そうか。あの4人は無事だったか」

 

 

 その眼鏡を掛けた教師は顔を綻ばせる。

 

 このような状況下では自分の教え子はみんな死んでいても可笑しくないと思っており、教え子の中でも特に見知った顔の少年達が生きていたという情報は彼を喜ばせるには十分だった。

 

 

「はい。今は食料調達や校内の探索を行っているところです。あの、もし良ければ合流しませんか?こちらは警官の人を除けば子供ばかりなので」

 

 

「それは──」

 

 

「おい!そいつは本当にゾンビに噛まれたりしてないのか!?」

 

 

 咲夜の問いに答えようとした先生の言葉を遮るかのように、金田政宗はそんな言葉を口にする。

 

 更に──

 

 

「そうだ!2日前は噛まれた奴が噛まれたことを隠していて大惨事になったじゃないか!!ここで噛まれた可能性のある奴と合流なんかできるか!」

 

 

「それに俺たちが生き残るだけでも色々と限界なんだ!ここでお荷物が増えるのは御免だ!!」

 

 

 金田に続く形で他の生存者達もまたそのような言葉を咲夜に浴びせ始める。

 

 その敵意の視線にさしもの咲夜もたじろいだ。

 

 当然だろう。

 

 彼女からしてみれば、何故合流しようと提案しただけでそこまで敵意の視線を向けてくるのか全く分からなかったのだから。

 

 だが、そんな彼女の疑問に答えるかのように、先生は咲夜に向かってこう言った。

 

 

「すまんな。2日前に防火シャッターを下ろした後にゾンビとなった者が居て、そこで大勢の者が犠牲になったことでみんな疑心暗鬼になっているんだ。特に金田さんは奥さんと娘さんを目の前で亡くしていてな」

 

 

「そんな・・・」

 

 

「そういう訳だから、今は合流することは出来ない。また後で来てみてくれ」

 

 

「・・・分かりました」

 

 

 今は何を言っても無駄。

 

 そう思った咲夜は先生に言われたように踵を返して教室を後にしようとする。

 

 

 

パリーン!

 

 

 

 ──だが、教室を出るためにドアを開けたその瞬間、突然、教室の外側の窓ガラスが割れ、外から大量のカラスのゾンビ──クロウが中へと入ってきた。

 

 

「きゃああああ!!!」

 

 

「た、助けてくれ!!」

 

 

 教室の中へと大挙して入ってきたクロウは次々と窓側に居た生存者達を襲撃していく。

 

 しかも、バリケードを築いていたことから逃げることすらままならず、一部バリケードの突破を試みた者も居たが、その者もまたバリケードを潜りきる前にクロウにその体を貪り喰われて絶命する。

 

 先程まで生存者達が小さいながらも確かに築いていた安全圏は一瞬にして地獄となった。

 

 

「ッ!?」

 

 

 その様子を見た咲夜は交戦することなく、素早くその教室から離れていく。

 

 幸い、侵入してきたクロウ達は生存者の肉体を貪るのに夢中で咲夜の存在に殆ど興味を示さず、彼女は教室に居た生存者達を囮にする形で生き延びることに成功した。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(5発)、ベレッタM92(5発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン3つ(96発)、ベレッタM92・マガジン5つ(75発)、38スペシャル弾(16発)

防具・・・ケブラースーツ


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怪物の声

◇西暦2013年 7月28日 昼 ○X小学校 校内 三階 理科準備室

 

 

「これで良いかな?」

 

 

「助かったよ、出木杉君!」

 

 

 出木杉が持ってきた血清を受け取ったドラえもんは早速、偶々理科準備室にあった注射器を使ってそれを安雄に打つ。

 

 すると、安雄の顔色はみるみるうちに良くなっていった。

 

 

「・・・本当に血清で治るんだね。カメレオンの毒に血清が効くなんて聞いたことがないけど」

 

 

「まっ、なんにせよ安雄は助かったみたいだから良いじゃねぇか」

 

 

「そうそう。そんなことは後で考えれば良いんだよ」

 

 

 出木杉とジャイアン、そして、保健室から途中で合流したスネオがそんな会話をしていると、意識を取り戻した安雄がこう話し掛けてきた。

 

 

「あ、ありがとう。ジャイアン、出木杉。恩に切るぜ」

 

 

「良いってことよ」

 

 

「ジャイアン、俺、ジャイアンの事を見直したよ。普段はいじめッ子で乱暴な奴だと思っていたけど、こういうときには頼りになるんだな」

 

 

「ははッ。何時もならギタギタにしてやるところだが、今日ばかりは許してやるよ。感謝しろ」

 

 

「やっぱりジャイアンは何時ものジャイアンなんだね。なんだろう、今はそれが凄く安心す、る」

 

 

「安雄!?おい、どうした安雄!?」

 

 

 急に意識を失った安雄にジャイアンはそう叫んだが、ドラえもんは素早く安雄の脈を確認すると、ジャイアンに向かってこう言った。

 

 

「大丈夫。どうやら気絶しただけみたいだ」

 

 

「・・・そうか。まったく驚かせやがって」

 

 

「それより安雄君を保健室に連れていこう。そこにあるベッドに寝かせるんだ」

 

 

「じゃあ、僕とドラえもんで運ぶよ。出木杉とジャイアンは僕たちの護衛をお願い」

 

 

「おうよ」

 

 

「分かった。任せて」

 

 

 スネオの提案にジャイアンと出木杉は頷き、4人は安雄を運ぶために動き出そうとした。

 

 しかし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グギャアアアアアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その動きは如何にも怪物のものといった鳴き声が響いてきたことによって止めざるを得なくなった。

 

 

「・・・今のは?」

 

 

「隣の理科実験室からだ。どうやら、思ったより化け物って奴は近くに居たみたいだな」

 

 

「ど、どうするの!?」

 

 

「やるしかねぇだろう。ここで誰かが殿を務めなきゃ、奴が追ってきて場合によってはここに居る誰かが死ぬことになるからな」

 

 

 既にジャイアンはやる気満々だった。

 

 ようやくはる夫の仇を取れると張り切っていたのだ。

 

 出木杉も殿を残していくという事には異論はなかったが、ジャイアンだけに任せるのは危険だと考えていた。

 

 その為──

 

 

「武君、僕も武君と一緒に戦うよ。やっぱり1人だけでやるのは危険だ」

 

 

「いや、お前は駄目だ。ここでお前を万が一にでも失うことになったら、損失がでかすぎる。それにスネオとドラえもんの2人で安雄を運ばなきゃならない以上、誰かが護衛しなきゃならないからな」

 

 

 三階までの敵は大体掃討されているとは言え、それでも生き残っているゾンビが0とは断言できない。

 

 そして、子供ばかりなので当たり前だが、安雄を安静にした状態で(・・・・・・・・)1人で運べるような人間はこの場には1人も居らず、絶対に2人で運ぶ必要があった。

 

 だが、運んでいる間は無防備になってしまうので、誰かが護衛に就く必要があるのだ。

 

 

「・・・分かった。あの化け物の相手は武君に任せるよ」

 

 

「出木杉!?」

 

 

 まさか出木杉がそう言うとは思わず、スネオは困惑する。

 

 しかし、出木杉は続けてこうも言った。

 

 

「その代わり、四階に居る咲夜さんに連絡して彼女をすぐに向かわせるから、それまでは絶対に無茶して突っ込んだりしないでくれ」

 

 

「分かった」

 

 

「僕達も安雄君を運んだらすぐに駆け付けるよ。その為にもドラえもん、スネオ君。すぐに安雄君を保健室に運ぶんだ」

 

 

「うん。ほら、スネオも」

 

 

「ええい、分かったよ!ジャイアン、僕達が戻るまで絶対に生きててくれよ」

 

 

「任されよ」

 

 

 ジャイアンはそう言うと、理科実験室に赴こうとするが、その前にドラえもんが一旦呼び止める。

 

 

「ちょっと待ってジャイアン。これ、安雄が持っていた武器なんだけど、良かったら使ってくれ」

 

 

「おう、ありがてぇ。助かったよ」

 

 

 ドラえもんが差し出してきた武器──M79グレネードランチャーを受け取ったジャイアンは今度こそ化け物と戦うために理科実験室へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 ○X小学校 校内 保健室

 

 ジャイアンが怪物との戦いに赴いた一方、食料調達組は無事、保健室へと帰還し、手に入れた食料や医薬品、武器・弾薬を部屋の中へと運び込んでいた。

 

 

「ふぅ、これで全部だな」

 

 

「うん。でも、思ったより食料は手に入らなかったわね」

 

 

「そりゃ、医薬品とか武器とか、持って帰る予定のなかった物まで持ってきちまったからな。まあ、これだけでも2、3日は持つだろう」

 

 

「それに学校までの道程に思ったよりゾンビは居ませんでしたし、もう一回行けば必要な量を確保できますよ、聖奈さん」

 

 

 思ったより食料が手に入らなかった事を嘆く聖奈に対して、健治としずかはそう言って慰める。

 

 実際、持ってきた食料は健治の言うように11人が目一杯食べたとしても2日は持つ量であったので、食料調達組の遠征は完全に失敗したというわけではなかった。

 

 その為、聖奈もしずかの言う通り再び遠征に出て食料を確保すれば良いと思い直す。

 

 

「そうですね。では、あと二時間、いえ、三時間ほど休んだらもう一度行きましょうか」

 

 

「三時間か。向こうに着く時間や帰ってくる時間を考えるとギリギリになっちまうな」

 

 

 今は午後二時を少し過ぎた頃。

 

 そこから三時間後となると午後5時だが、幾ら夏で日没の時間帯が遅いと言ってもその時間に出かけるとなると日没ぎりぎりに帰ってくることとなる。

 

 

「仕方ありません。休憩も必要ですし、こういうのは出来るうちにやっとかないと。それに・・・あまり言いたくはありませんが、日が経つ毎にゾンビも増えるかもしれませんし」

 

 

「・・・そうだな。そうなったら、食料を手に入れるのは難しくなっちまうか」

 

 

 聖奈の言葉に、その場は微妙な雰囲気となった。

 

 ゾンビが増える。

 

 それは命の危険は勿論のこと、彼らの日常が更なる崩壊へと進んでいくことを意味していたからだ。

 

 

「・・・それはそうと、探索組はいったいどうしているんだろうな。久下のおっさんが言うにはさっき出木杉が血相を変えた様子で帰ってきたかと思えば、血清を取って出ていったと聞いてるが」

 

 

「血清?あの蛇の毒に効くので有名な奴ですか?そんなものがなんで学校の保健室に・・・」

 

 

「それは、あれだ。この学校の裏は山だからな。そこに住んでる蛇に噛まれた時の備えじゃねぇか?」

 

 

「ああ。そう言えば、生徒会の活動をする過程でそんな感じのことが書かれた文書を読んだことがあった気がしましたね」

 

 

「そうなのか?まあ、血清が必要になったってことは仲間の誰かが蛇にでも噛まれたってことだろ。・・・その蛇がゾンビ化していなければ助かるだろうな」

 

 

 健治はボソリとそう言った。

 

 人間でなく、猫や犬のゾンビは学校に来る時や食料調達の際に見てきている。

 

 それ故にゾンビ化するのは蛇も例外ではないと思っており、もしゾンビ化した蛇に噛まれでもしていたら、血清を打ったとしても助からないだろう。

 

 

「・・・そうね」

 

 

「大丈夫ですよ、きっと助かります!別に根拠とかは有りませんけど、なんとなくそう思えるんです!」

 

 

 徐々に暗くなり始めた場の雰囲気の中で、しずかは2人に対してそう言った。

 

 流石に今回のような血生臭い地獄こそ初めてであったものの、彼女は何度も大冒険を経験している身であり、こういった事態は何度も経験している。

 

 そして、彼女の経験上、こういう一応の対処手段が見つかった時というのは大抵助かるケースが多く、それ故に彼女は少々楽観的に事を受け入れていた。

 

 

「それより、今のうちにその人が帰ってきた時、迎える準備をしておきましょう。それが今の私たちが精一杯出来ることです」

 

 

「・・・そうですね。しずかさんの言う通りです」

 

 

「ああ。悲惨な状況が続きすぎて頭が少し可笑しくなってたみたいだ。確かに生き残ってる奴を1人でも救うためにも、俺達は俺たちで出来ることをやっておかないとな」

 

 

「じゃあ、早速、そのベットのシーツを取り換えておきましょうか。清潔にしなければなりませんし」

 

 

 聖奈がそう言うと、二人もまた頷き、しずかはベットのシーツの替えを用意し始め、健治と聖奈の二人は古いシーツを剥がしに掛かる。

 

 その様子を見ていた白峰は場の雰囲気をあっという間に明るくしたしずかに驚きつつ、羨ましげに彼女を見つめていた。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(5発)、ベレッタM92(5発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン3つ(96発)、ベレッタM92・マガジン5つ(75発)、38スペシャル弾(16発)

防具・・・ケブラースーツ


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バイオゲラス

◇西暦2013年 7月28日 昼 ○X小学校 校内 三階 理科実験室

 

 

「ちっ、また透明になりやがった!」

 

 

 ジャイアンはそう叫びながら、景色に溶け込んだカメレオンのような怪物を探す為に周囲を見渡す。

 

 理科実験室に入った直後、ジャイアンはいつの間にか部屋に侵入していたカメレオンのような怪物──バイオゲラスに襲われ、交戦状態に入っていた。

 

 バイオゲラスはカメレオンのように体を透明にすることが出来る上に動きが素早いためになかなか捕捉が困難であったが、癖か習性かは分からないものの襲撃のタイミングでは透明化を解いており、反射神経に優れたジャイアンからすればかわせない程の攻撃ではなかったし、またその体躯が犬や人間などと比べて比較にすらならないほど大きいが為に、ジャイアンが放ったグレネードランチャーやショットガンは簡単に命中する。

 

 ──しかし、そうやってダメージを与えてもバイオゲラスが倒れるその時まで自分が不利であるということをジャイアンは自覚していた。

 

 何故なら、バイオゲラスは毒を持っており、それを一度でも喰らってしまえば終わりだからだ。

 

 おまけにかわせると言っても、なんとかギリギリでかわしている状態であり、これでダメージを与えたからと言って油断できるような人間が居たらその人間はまず間違いなく頭が可笑しいと言えるだろう。

 

 

(何処だ?何処から来る?)

 

 

 あちらこちらに視線を向けながら、ジャイアンは神経をギリギリまで研ぎ澄ませる。

 

 実のところ、バイオゲラスは透明となった状態のステルス性はかなりのものであったが、よく目を凝らせば空間が若干歪んでいるのが分かる。

 

 まあ、それでも見にくいのは確かであったが、少なくともドラえもんの透明マントのように全く見えない相手ではない。

 

 故に──

 

 

「! そこか!!」

 

 

 若干、左側の空間が揺れるのを見たジャイアンはそこに向かってレミントンM870・ショットガンを発砲。

 

 発射された12ゲージ弾は内包されていた9粒の弾丸を弾道の途上で散らし、3発程が外れたものの、残り6発がバイオゲラスに命中。

 

 すると、バイオゲラスは苦しんだように唸り声を上げ、透明化が解けて姿を現す。

 

 

「よし!こいつでとどめだ!!」

 

 

 ジャイアンはそう叫ぶと、武装をショットガンからM79グレネードランチャーへと変更し、バイオゲラスへと向ける。

 

 苦しんだ声を上げて透明化が解けたということは、(ジャイアンはこの時まだ名前を知らなかったが)バイオゲラスの限界が近いということ。

 

 ならば、威力の高いグレネードランチャーを使えば致命傷に近い手傷を負わせることが出来る可能性が高い。

 

 そして、既にグレネードランチャーの再装填は終わっている。

 

 あとは引き金を引いて弾頭をバイオゲラスの体へとぶつけるだけ。

 

 少なくとも、ジャイアンはそう推測していたし、実際、それは正しかった。

 

 ──だが、同時にショットガンからグレネードランチャーに持ち変えたその三秒弱ほどの時間が重大な隙となってしまっていた。

 

 これがゲームだったならば、武装を変更するためにメニュー画面を開く際に敵の動きが止まるので問題は何も発生しなかっただろう。

 

 しかし、これは現実。

 

 自分が武装を変更するまで敵が待ってくれる筈もないし、むしろ、武装を変更することは敵に攻撃までの時間を与えることにもなる。

 

 故に、バイオゲラスはジャイアンがグレネードランチャーの引き金を引くほんの一秒前に舌を伸ばしてジャイアンを攻撃。

 

 そして、既に攻撃体制に入っていた上に舌攻撃そのものが初見であったことが重なり、ジャイアンはその攻撃をかわすことが出来なかった。

 

 

「ぐおっ!」

 

 

 舌攻撃を鳩尾に受け、ジャイアンはくぐもった声を上げながら突き飛ばされる形で背後へと吹っ飛び、教壇机に激突。

 

 更に後頭部を強打したことで脳震盪を起こし、気絶してしまう。

 

 

 

グガァァアアア

 

 

 

 それを見たバイオゲラスはチャンスだと思い、止めを刺そうとする。

 

 ──だが、ジャイアンもまた数々の大冒険を潜り抜けてきた人間の1人。

 

 そして、この手の輩は大抵悪運が強く、その直後に出木杉からの連絡を受けてやって来た咲夜が理科実験室へと突入してきた。

 

 

「喰らえ!!」

 

 

 咲夜はH&K MP5・サブマシンガンの銃口をバイオゲラスへと向けると、即座に発砲する。

 

 現在のバイオゲラスはこれまでのジャイアンとの戦闘で弱っており、尚且つ今は透明化も解除している。

 

 更にこれまでの戦闘でサブマシンガンの扱いに慣れた咲夜にバイオゲラスへの銃撃を外す道理はなく、銃弾はバイオゲラスに次々と命中する。

 

 しかし──

 

 

(!? 弾切れ!そんな!!)

 

 

 5発程撃ったところで、MP5は弾を発射しなくなった。

 

 これまでの戦闘で消費していたのに加えて、大慌てでここまでやって来た為に弾倉(マガジン)を再装填するのを忘れていたのだ。

 

 部屋に入ってきた時とは一転して焦りの色を見せる咲夜。

 

 だが、バイオゲラスの方は当たった5発の弾丸に怯んだのか、そのまま理科実験室の窓を突き破り、外に出ていった。

 

 

「・・・」

 

 

 バイオゲラスが出ていった事で先程焦った際の緊張が急に抜けた為か、咲夜は崩れ落ちるようにへたり込む。

 

 しかし、視界の片隅で気絶しているジャイアンを見ると、四つん這いの状態で彼へと近づいていく。

 

 

「武君、大丈夫?」

 

 

「うっ・・・うぅ」

 

 

 咲夜の呼び掛けにどうにか意識を取り戻したジャイアンは辺りを見渡すと、バイオゲラスが居ないことに気づく。

 

 

「あれ?あいつは?」

 

 

「逃げていったわ。多分、暫くはここに来ないと思う」

 

 

「そうかぁ。・・・結局、仇は取れなかったか」

 

 

「気にすることはないわ。生きていることが重要だもの。それにまた機会は有るかもしれないし」

 

 

「それもそうか。ところで、咲夜さんは何処か怪我してないか?」

 

 

「ええ、大丈夫よ。でも、ちょっと腰が抜けちゃって」

 

 

 苦笑しながらそう言う咲夜の言葉を聞いたジャイアンはすぐに立ち上がると、彼女に手を差し出す。

 

 

「じゃあ、捕まってください」

 

 

「ありがと」

 

 

 咲夜はそう言うと、ジャイアンから差し出された手を取って立ち上がる。

 

 ──仲間が救援のために理科実験室へとやって来たのは、その数分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇30分後 ススキヶ原 某所

 

 

「ふんっ。まだ生き残っているか。何故か野比のび太は居ないようだが、この辺りは流石と言うべきだな」

 

 

 ここはゾンビの巣窟となったススキヶ原のとある家の屋根。

 

 そこでは黒いスーツにサングラスをした如何にも外国人といった風貌の男がそう言いながらモニターに映る○X小学校保健室の様子を見ていた。

 

 

「しかし、ここまで派手に歴史を改変した(・・・・・・・)にも関わらず、タイムパトロールはなんの動きも見せないとはな。これは流石に想定外だったな」

 

 

 男は本来なら(・・・・)バイオハザードが(・・・・・・・・)起きる筈がなかった(・・・・・・・・・)ススキヶ原でバイオハザードが起き、歴史的に重要な人物が危機に晒されているという重大な事件が既に発生しているにも関わらず、全く動く様子がないタイムパトロールの反応に若干驚かされていた。

 

 無論、タイムパトロールが動いたからといって自分は捕まらない自信があったが、流石になんの反応もないというのはあまりにも不自然だと男は考えていたのだ。

 

 

「・・・まあいい。タイムパトロールの連中が何を企んでいるかは知らんが、なにもしないならなにもしないで、こっちも計画を続行するだけだ」

 

 

 だが、だからと言って男は計画を変更するつもりはない。

 

 全ては自分、そして、自分の元となった人間の理想を実現する。

 

 その為に自分はこの時代へと(・・・・・・)やって来た(・・・・・)のだから。

 

 

「さて、2ヶ月後にはラクーン事件が起こる。そうしたら、保険のためにもあの男に接触せねばならんな」

 

 

 男は炎上するとある家の二階の様子を見ながら、不敵な笑みを浮かべてそう言った。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(0発)、ベレッタM92(5発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン3つ(96発)、ベレッタM92・マガジン5つ(75発)、38スペシャル弾(16発)

防具・・・ケブラースーツ


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○X小学校迎撃戦

◇西暦2013年 7月28日 夕方 ○X小学校 保健室 

 

 

「・・・うん、これで大丈夫だよ」

 

 

「サンキュー、ドラえもん」

 

 

 ジャイアンは手当てをしてくれたドラえもんに対して、そう礼を言う。

 

 ちなみにジャイアンよりも重傷だった筈の安雄は既に意識を取り戻しており、バイオハザード発生前のような全くの健康といった顔色でジャイアンがドラえもんに手当てされる様子を見ていた。

 

 

「心配したよ、ジャイアン」

 

 

「すまねぇ。だが、奴は学校の外に行ったから取り敢えずここは大丈夫になった。やったことは無駄じゃねぇ」

 

 

「そういう問題でもないだろう!今は1人でも欠けたら大変なんだよ!特にジャイアンみたいな戦える人が欠けるのは」

 

 

「スネオ君の言う通りだよ。殿を務めるように言った僕が言うのもあれかもしれないけど、今回は少々無茶しすぎだ」

 

 

「まあまあ、ジャイアンのお蔭で校内の安全は少しは確保できたんだから。今のうちに脱出する準備を進めよう」

 

 

 無茶をしたジャイアンを責めるスネオと出木杉にドラえもんはそう言って宥めるが、そこで何時ものメンバーやそのクラスメート以外の空気が非常に微妙なものになっていることに気づく。

 

 

「あれ?みんな、どうしたの」

 

 

「あの・・・1つよろしいですか?」

 

 

「ん?」

 

 

「えと・・・この青い方は・・・中に誰か入っているのですか?」

 

 

「・・・・・・!」

 

 

 ドラえもんは一瞬何を言われてるのか分からなかった。

 

 まあ、今まで初対面の人間相手にすらそんな反応をされたことがなかったのだから当然と言えば当然であったが、客観的に見ればむしろ今までそのような突っ込みをされなかったことの方が不自然だったと言えるのかもしれない。

 

 そして、その言葉に対し、言葉を返したのはドラえもんではなくジャイアンだった。

 

 

「ああ、そうか。そう言えば、うちの学校で明確にドラえもんと交流があるのは俺達のクラスだけだったな」

 

 

「うん。面識だけなら、他のクラスもそうだろうけど、それでも同級生の範囲に留まるね」

 

 

「こいつはドラえもん。まあ、色々あってここには居ないが、のび太って奴のお守りをしているロボットだ」

 

 

「ろ、ロボット!?しかも、のび太ってもしかして“廊下の守護神”の野比のび太か!?」

 

 

「「「「「プッ!」」」」」

 

 

 その異名に、ジャイアンを初めとしたのび太のクラスメート達は全員吹き出してしまった。

 

 自分達の学年ではあまり聞いたことのない異名であったが、その異名の意味するところは一瞬で理解出来てしまったからだ。

 

 

「プッ、ハハハ。ま、まあ、ドラえもんは未来から来た猫型ロボットでね。現在の科学じゃ考えられないことだけど、本当のことなんだ」

 

 

「ね、猫・・・型?でも、何処にも・・・耳なんて」

 

 

「あっ!?そ、それはちょっと言っちゃ・・・」

 

 

 それは禁句だった。

 

 出木杉とてドラえもんが猫型であることには色々と突っ込みどころがあったが、本人がその事にコンプレックスを抱いている以上、少なくとも口に出さないのが礼儀だと考えていたのだ。

 

 そして、ドラえもんの方を見れば、やはりと言うべきか普段ではしないような凄い顔でどうにか怒りを抑え込んでいる状態となっていた。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

「えっ!?ご、ごめんなさい!!」

 

 

 出木杉の言葉にドラえもんのあまりに凄い顔に自分が何か地雷を踏んでしまったことに気づいたのか、聖奈は慌てて謝った。

 

 

「良いよ。・・・ハハハ・・・気になんてしてないさ」

 

 

「取りあえず、ドラえもんは俺達の仲間だ。ちょっと抜けてる所もあるけど、頼りになる存在さ」

 

 

「よろしくね、聖奈さん」

 

 

「よ・・・よろしくお願いします(結局、中の人は居ないってことなの?)」

 

 

 あまりにも非現実的な事が多すぎて混乱しているのか、聖奈はそんなことを思いながら必死に頭を整理しようとしていた。

 

 もっとも、それは他の面々も同じであったが。

 

 ──だが、そんなギャグのような会話のやり取りが行われた直後、事態は大きく急変することとなる。

 

 

「おい!君たち、不味いことになったぞ」

 

 

 慌てた様子で保健室に入ってきたのは、探索組と入れ替わる形で周辺の哨戒に出ていた警察官2人だった。

 

 

「どうしたんだ!?」

 

 

「凄まじい数のゾンビがこちらに向かってきている!!5分もしないうちに校門に到着する!」

 

 

「!!」

 

 

「なんだって!?」

 

 

「そんな・・・」

 

 

「マジかよ・・・」

 

 

「それだけじゃない!裏庭には例のでっかいカメレオンみたいな奴がいる!!」

 

 

「あいつか。本当にしつこいな。しかも、最悪な位置に居やがる」

 

 

 ジャイアンは状況の不味さに大きく舌打ちをした。

 

 凄まじい数という事はどんなに少なくとも数十体は居るという事だ。

 

 それだけのゾンビが来るようになったとなると、すぐに学校を放棄して当初の計画通りに裏山に逃げるしかない。

 

 だが、裏山に何日か籠る事になる可能性が高いことを考えると、今すぐ身の着着のままで逃げるというわけにもいかないので、必ず食料などの荷物を持っていく必要がある。

 

 よって、こちらの撤退の準備が整うまである程度は時間稼ぎをしなければならない。

 

 しかも、退路である裏庭にはあのカメレオン──バイオゲラスが居座っているとのことなので、こちらの方にも戦力を割いて退路を確保しなければならないだろう。

 

 ・・・ということは、取れる選択肢は1つしかない。

 

 

「どうしよう!逃げ場がないよ!!」

 

 

「みんな落ち着け。こうなったら、手分けして時間を稼ぐぞ!」

 

 

 ジャイアンはそう宣言すると、それぞれの者達に指示を下す。

 

 

「まず、咲夜さんを除く女の子達と安雄、太郎は食料や医療品を運び出せるように適当なバッグやらカバンに詰めておいてくれ!」

 

 

「分かりました!」

 

 

「分かったわ」

 

 

「うん、任せて」

 

 

 その言葉に安雄以外の3人は頷くが、安雄は頷かずにこう反論した。

 

 

「ジャイアン、俺は戦うぜ」

 

 

「安雄!?お前はまだ体の傷が癒えてねぇだろ!!」

 

 

「あのカメレオン野郎はかなり強い。1人でも戦力は必要だし、退路を確実に確保できなきゃ、どんなに荷物を纏めたって無駄だ」

 

 

「・・・分かった。時間もないことだし、それで良い。ただし、無茶はするなよ!」

 

 

「おうよ」

 

 

「よし、それじゃあ安雄と今呼ばれた以外の奴は正面で時間を稼ぐ奴と裏庭でカメレオン野郎と戦う奴に分ける。それで戦力配分だが、俺、安雄、咲夜さん、ドラえもんでカメレオン野郎。警官2人と白峰さん、健治さん、スネオ、出木杉の6人は正門のゾンビを迎撃して時間稼ぎをして、聖奈さん達の荷物纏めが出来次第、撤退してくれ。そして、正門の指揮は出木杉、お前が執れ」

 

 

「分かった」

 

 

「よし!迎撃開始だ!なんとしてもこの場を潜り抜けるぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数分後 ○X小学校 裏庭

 

 

「こっちだ、化け物!」

 

 

 ジャイアンはそう叫びながら、ショットガンを発砲して化け物の気を引いていく。

 

 裏庭でのバイオゲラス討伐作戦はかなり上手くいっていた。

 

 理科実験室で戦った時に比べて人数が居ることに加え、安雄のグレネードランチャーや咲夜のサブマシンガンという頼もしい支援火力も存在する。

 

 ただ1つ誤算があったとすれば、バイオゲラスの周囲にゾンビ犬が複数居たためにドラえもんの空気砲の支援をそちらに割かなくてはいけなくなったことだろう。

 

 しかし、逆に言えばそれ以外に問題は出ず、順調にバイオゲラスにダメージを与え続けた。

 

 そして──

 

 

「! 今だ!撃ちまくれ!!」

 

 

 安雄のグレネードランチャーの攻撃を受けて足に重傷を負い、動きを止めたバイオゲラスを見たジャイアンはそう叫び、本人と咲夜は持っているショットガンとサブマシンガンの弾丸をマガジンに装填されている弾丸が尽きるまで撃ち続け、安雄もまた信じられない速度でグレネードランチャーの発射と装填を繰り返し、バイオゲラスに止めを差していく。

 

 そして、それらの弾薬が撃ち尽くされる頃、遂にバイオゲラスは血を垂れ流しながら倒れ伏せ、ピクリとも動かなくなった。

 

 

「やった・・・遂にやったぜ!」

 

 

 その様子を見ていた3人はバイオゲラスを倒したという事実が信じられず、呆然とした様子で倒れ伏したバイオゲラスを見ていたが、真っ先に我に返ってそれを実感した安雄は、そう言って喜びの言葉を口にする。

 

 それに遅れた形でジャイアンと咲夜、そして、ゾンビ犬を片付けたドラえもんもまた歓声を上げてバイオゲラス討伐を喜んだ。

 

 

「これで退路が確保できたわ。良かった」

 

 

「うん、これで裏山に脱出できるね!」

 

 

「はる夫・・・仇は取ったぜ」

 

 

 3人はそれぞれそんなことを言い合う。

 

 そして、勝利の熱がある程度冷めると、次いて4人は校庭や保健室への増援と裏山へと続く道の確保などの行動に移ろうとするが、その直前に保健室組と正門組が彼らの元へとやって来た。

 

 

「よう、無事に討伐が終わったぜ。お前らの方はどうだった?」

 

 

「「「「「・・・」」」」」

 

 

「・・・どうした?」

 

 

 勝利の熱に浮かされた自分達裏門組とは違い、保健室や正門組、特に正門組は意気消沈していた。

 

 その事を不審に思ったジャイアンが問い詰めようとするが、その前にある事実に気づいた。

 

 

「あれ?前田さんは?」

 

 

 正門での迎撃を指示した時、正門組は6人の筈だった。

 

 しかし、ここに居る正門組は5人で、1人、具体的にはあの眼鏡を掛けた警察官が居ない。

 

 まさかと思い、ジャイアンは正門組に視線を送ると、皆、その視線から目を剃らす。

 

 ・・・つまり、そういうことだった。

 

 

「・・・そうか」

 

 

「・・・取り敢えず、準備も出来たし、ジャイアン君の言う通り、裏山へ逃げて潜伏場所を決めよう。幸い、キャンプ道具はドラえもんが持っているみたいだしね」

 

 

「分かった。じゃあ、行くぞ。お前ら」

 

 

 そのジャイアンの言葉に従い、皆は裏山へと進んでいく。

 

 ──その表情にはバイオゲラスを討伐した時の裏門組のような喜びの感情はなかった。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(0発)、ベレッタM92(5発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン2つ(64発)、ベレッタM92・マガジン5つ(75発)、38スペシャル弾(16発)

防具・・・ケブラースーツ


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裏山の旅館

◇西暦2013年 7月28日 夕方 日本 東京 練馬区 ススキヶ原 裏山

 

 

 

ガアァアアア!!

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

キャウン!

 

 

 

 襲い掛かってきたゾンビ犬に対して、咲夜はベレッタM92の銃口を向けて発砲。

 

 その攻撃を顔面に受けたそのゾンビ犬は悲鳴を上げながら倒れ伏す。

 

 だが、すぐに別のゾンビ犬が襲い掛かってくる。

 

 

「キリがないわ!」

 

 

「くそっ!なんでこうなってるんだ!裏山には動物はあまり居ない筈じゃなかったのか!?」

 

 

 次から次へと襲ってくるゾンビ犬を迎撃しながら、久下はそんな悪態をつく。

 

 ○X小学校から脱出した後、咲夜達は学校の裏山を登り続け、潜伏場所として使えそうな場所を目指した。

 

 この裏山は標高が小学生の体力でも頂上に登れる程度に低いのに加えて、学校の行事で使う登山ルートが存在するため、特に頻繁にこの山を訪れるジャイアン達が迷う筈もなく、咲夜達はジャイアン達が以前見つけた洞穴やキャンプ地点を目指してひたすら進んだ。

 

 しかし、咲夜達が裏山を登り始めた直後から突然降り始めた土砂降りの雨によって登山ルートの途上で土砂崩れが発生した事で道は閉ざされ、更に追い撃ちを掛けるようにゾンビ犬が襲ってきて咲夜達は交戦を余儀無くされた。

 

 しかも──

 

 

(こいつら、明らかに町や学校で出くわしたゾンビ犬とは違う!!)

 

 

 街や学校で戦ったゾンビ犬は銃の発砲音などの大きな音にはそれなりに怯んだし、連携などせずにバラバラに向かってきた。

 

 しかし、この裏山で出くわしたこのゾンビ犬──ケルベロスは銃声にも全く怯まず、明らかに仲間と連携してこちらを襲ってきている。

 

 更に犬そのものもドーベルマンという犬の中でも戦闘能力が高い事で知られる種族で構成されており、通常のゾンビ犬などとは比較にならない厄介さだった。

 

 

「ねぇ、出木杉君。これ以上の交戦は難しいよ。何処か隠れる場所を見つけるか、いっそ山を降りるかしないと」

 

 

「分かってる!でも、どっちも現実的じゃないんだ!!」

 

 

 そう、この状況を切り抜けるためには確かにドラえもんの言う通り、隠れる場所を見つけるか、山を降りるかのどちらかの行動を取る必要がある。

 

 しかし、前者は土砂崩れによって道がグシャグシャになったことで只でさえ手探りで探している状態であり、この状況でのんびりそんな場所を探している余裕はない。

 

 後者はもっと論外で、その行動を取ったところでゾンビ犬を振り切れるとは限らないし、例えそれによってこの状況を切り抜けられたとしても、今度はゾンビが蔓延る街中に突っ込む事になる。

 

 つまり、現状はほぼ詰みなのだ。

 

 だが、出木杉とて伊達にのび太達とこれまで付き合ってきたわけではなく、このような状況下でもどうにか打開策を捻り出そうと必死に頭を回転させる。

 

 

(なにかないか!僕達が身を隠せてあの犬から逃れられるような都合の良い場所が!!)

 

 

 そんなものは無いと思いながらも、それ以外に思い付かなかった出木杉は半ばすがるように目を凝らして周囲を見渡す。

 

 すると──

 

 

(・・・ん?あれはなんだ?)

 

 

 土砂降りの雨の中で視界はかなり悪かったが、出木杉は確かにそこに大きな建物が在るのを確認した。

 

 

(あれは洋館?いや、和風だから別荘か何かか?)

 

 

 出木杉はそう考えるが、この際、なんでも良いとすぐにその思考を打ち切った。

 

 どうせこのままではここで全員死ぬこととなるのだ。

 

 ならば、その建物に入ってやり過ごす以外に自分達に選べる選択肢はなかった。

 

 

「みんな!あそこに建物がある!そこに逃げ込もう!!」

 

 

「はぁ!?こんなところに建物なんてあったか!?」

 

 

「そんなことは後で考えれば良い!建物は確かに存在してるんだ!!今はとにかく、こいつらを振り切るためにも走れ!!」

 

 

「分かったよ!」

 

 

 ジャイアンの言葉に健治はそう言いながら、太郎の手を繋ぎ、皆と共に出木杉が発見した建物の方に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数分後 裏山 旅館 休憩室

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ。どうにか逃げ切ったみたいだな」

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・うん。でも、中にもゾンビが居たせいで健治と太郎とははぐれちゃったよ」

 

 

「そうだな。あいつら無事だと良いんだが」

 

 

 ジャイアンはそう言いながら、途中ではぐれてしまった2人の安否を気に掛ける。

 

 この休憩室にどうにか逃げ込めたのは12人の生存者の内の10人。

 

 残りの2人はスネオが言ったように、旅館の中ではぐれてしまい、安否が不明となってしまっていた。

 

 

「・・・出来ることなら探しに行きたいんだがな。情けないことに○X小学校と裏山での戦闘での疲労で今すぐ動ける状態じゃない」

 

 

 久下は悔しげにそう言った。

 

 警察官である久下は、当然の事ながら常日頃から体を鍛えており、その体力は小学生などとは比較にならない。

 

 だが、今日の午前中まで無人島でバカンスを楽しんでいたジャイアン達や親戚の家に居た咲夜達と違い、久下はここ数日間、バイオハザードを生き残っており、更には一時間程前にはこれまで自分と共に行動してきた同僚を失って遂に自分一人になったことで、その精神的・肉体的な疲労は限界に達していたのだ。

 

 

「良いんだよ。あんたはさっき同僚を亡くしたばかりだってのに殿まで務めてくれたんだ。動けないからって責めることなんて出来ねぇよ」

 

 

「・・・すまない」

 

 

 白峰の励ましの言葉に、久下は涙を溢しそうになるが、どうにかグッと堪える。

 

 それは子供が頑張っているのに、大人である自分が泣くわけにはいかないという大人としてのプライドだった。

 

 

「それはそうと、この旅館のゾンビの数を考えると、健治と太郎を早く救出しなきゃならねぇんだが、誰が行く?」

 

 

「私が行くわ。まだまだ余裕はあるの」

 

 

「わ、私も行きます!」

 

 

「・・・そうかよ」

 

 

 聖奈が行くと言った瞬間、白峰は忌々しげに舌打ちをしそうになったが、流石に友人である健治が危機に陥っているのに『助ける』と言っている彼女に悪態をつく訳にもいかず、彼女に対する嫉妬心をどうにか心の中に押し込んだ。

 

 

「ということは、俺も行くから、6年生は全員か」

 

 

「待て。俺も行く。体力は余っているからな」

 

 

「いや、お前はここで他の奴を守ってろ。丁度、限界そうな奴も居ることだしな」

 

 

 白峰の視線の先には肩で大きく息を吐いている安雄の姿があった。

 

 元々、安雄はバイオゲラスに肩を噛まれて大量の出血をしていたのに加え、バイオゲラスとの戦いに参戦したり裏山でも戦ったりしていたので、既にその体力は限界を迎えている。

 

 更に言えば、久下も戦える状態ではないので、ここでジャイアンを抜けば、まともに戦えるのは出木杉とドラえもんくらいしか居なくなってしまう。

 

 旅館の状況を見るに、この部屋も安全とは言えない事を考えると、それは大変危険な選択肢だった。

 

 

「・・・分かった。健治さんと太郎を頼んだぞ」

 

 

「ああ、任せろ」

 

 

「チーム分けはどうする?確かさっきここに来るまでに通ったところは十字路だったから、二組に分かれるのが良いと思うんだけど」

 

 

「そこはお前と緑川の2人と俺が1人で分ければ良いだろ」

 

 

「でも、この中で一番戦闘能力が高いのは私よ。それを考えたら、あなたと聖奈で組むべきじゃない?」

 

 

「・・・」

 

 

 白峰は考える。

 

 大変業腹な話であったが、咲夜の言っていることは正しい。

 

 なにしろ、咲夜は武道家の娘なだけあって両親から相当鍛えられており、小学生はもちろん、中学生の武道大会でも良い成績を出せるだけの実力を持っている。

 

 白峰も喧嘩はそれなりに強い方であったが、“その程度の実力”で咲夜と本気でやりあえば、間違いなく瞬殺されてしまうだろう。

 

 そして、そんな強い咲夜が単独行動で、自分は聖奈と組んで行動。

 

 その理屈は間違っていない。

 

 しかし──

 

 

「はっきり言えば、俺は緑川とは組みたくねぇんだよ。まあ、そんな我が儘を言っている場合じゃねぇってことは分かっているけどよ」

 

 

「ふーん。前から気になっていたんだけどさ。なんでそんなに聖奈の事を避けるの?」

 

 

「別に。優等生に対する劣等生の僻みって奴さ。お前は意識せずに緑川と付き合っているんだろうが、俺にはそんなことは不可能なんでね」

 

 

 咲夜の問いに対して、白峰はあっさりとそう答える。

 

 別に深い理由は特になかった。

 

 ただ何となく自分は聖奈の事が嫌い。

 

 白峰が聖奈を嫌う理由など、それだけだったのだ。

 

 

「そう。でも、あなた自身も言った事だけど、今はそんなことを言っている場合じゃないの。とにかく、あなたは聖奈と行動してね。私は先に行くから」

 

 

「あっ!おい、ちょっと待て!」

 

 

 そう言ってドアを開けて先に行ってしまった咲夜を白峰は呼び止めようとするが、直後に閉めていったドアの向こうから咲夜のものと思われる銃声が聞こえてきたことでそのタイミングを逸してしまう。

 

 

「ああっ、くそ!仕方ねぇ、緑川。俺達も行くぞ!!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 2人はそう言うと、咲夜に続く形で部屋を出ていった。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(18発)、ベレッタM92(12発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン1つ(32発)、ベレッタM92・マガジン4つ(60発)、38スペシャル弾(16発)

防具・・・ケブラースーツ

補助装備・・・救急スプレー2つ。


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フローズヴィニルト

◇西暦2013年 7月28日 夕方 裏山 旅館 館内

 

 

「それにしても、やっぱりなにか可笑しいわね。この旅館」

 

 

 宣言通り、単独行動をして健治と太郎を探していた咲夜は捜索を進める過程でこの旅館の探索を行っていたが、改めてこの旅館の存在は可笑しいと感じていた。

 

 こんなところに旅館があるということもそうだったが、それ以上に各部屋で見つけた誰かが書いたと思しき日記には、まるで化け物やゾンビの存在を事前に知っていたかのような記述が見られる。

 

 しかも、倒したゾンビの服装をよく見てみると、研究社風や警備員の服装をした人間が異常に多く、本来、旅館にあるべき客や従業員の服装をした人物は殆ど居ない。

 

 ここまで来ると、旅館というよりは何かの秘密研究所の宿泊兼偽装施設と言った方がしっくり来る。

 

 

「さっき見たエレベーターだって、地下一階に繋がっているみたいだったけど、直通ってことはそこになにかが在るってことよね」

 

 

 エレベーターが地下の階に繋がっている施設は別に珍しくもなんともないが、地下一階と地上一階の直通のエレベーターは非常に珍しい。

 

 何故なら、そんなものをわざわざ作るよりは階段でも作って登り降りした方が遥かに経済的だからだ。

 

 しかし、それをわざわざ作っているということは、地下に在るのは相当巨大な施設か、あるいは秘密裏に何かを研究・開発している秘密研究所のどちらかだろう。

 

 いや、この旅館の外観やエレベーターを使用するのにカードキーが必要であったことを考えれば、後者の可能性が非常に高い。

 

 まあ、どちらにしても咲夜は肝心のカードキーを持っていないので、確かめる術は無かったのだが。

 

 

「・・・私の方にある部屋で調べていないのは後はここだけか」

 

 

 もしここに居ないとすれば、聖奈達の方か、あるいは何かの間違いでエレベーターを降りて地下に行ってしまったのかもしれない。

 

 咲夜はそう思いながら、途中拾った鍵を使って大広間へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜!!」

 

 

 咲夜が大広間へと入った直後、肩から血を流した健治がそう叫びながら、ヨタヨタとこちらに向かってきた。

 

 

「! 健治君!!」

 

 

「咲夜・・・早く逃げろ・・・この部屋は危険だ。・・・早く!」

 

 

「どういうこと?それより早く手当てしなくちゃ!」

 

 

「この旅館は──」

 

 

 健治が何か言い掛けた直後、“ドシン”という大きな物音が上から(・・・)聞こえ、咲夜が視線をそちらに向けると、そこにはシャンデリアに乗っかる皮をひんむいたゴリラのような生物──フローズヴィニルトが居た。

 

 更にその個体とは別に天井にぶら下がっているもう一体の個体が居り、計2体のフローズヴィニルトは健治の左右へと飛び降りて挟み撃つように展開する。

 

 

「・・・咲夜、太郎を頼んだぜ」

 

 

 死を悟った健治は最期に咲夜に対して、この部屋の物置に隠した太郎の事を頼む。

 

 そして、その直後、2体のフローズヴィニルトは健治へと飛び掛かり、それぞれ健治の上半身と下半身を持つとその強靭な力で健治の体を2つに分断した。

 

 

「健治君!!」

 

 

 その光景を見た咲夜はそう叫ぶが、健治の体を分断した2体のフローズヴィニルトの視線は次に彼女へと向けられる。

 

 

「やるしかないようね・・・」

 

 

 逃げ場はない。

 

 そう確信した咲夜はMP5を構えながら、2体のフローズヴィニルトと戦う事を決意した。

 

 そして、MP5を構える咲夜に2体のフローズヴィニルトは先程の健治同様に襲い掛かるが、咲夜は出し惜しみ無しと言わんばかりにMP5をフルオートで発射し、その内の一体に対して装填されている弾丸を全て発射する。

 

 火力が小さい拳銃弾とはいえ、サブマシンガンで10発以上の弾丸を立て続けに喰らったフローズヴィニルトは堪らず、その場に引っくり返って倒れ込む。

 

 更にもう一体の攻撃を咲夜は身を低くしてかわすと、ベレッタM92とニューナンブM60をそれぞれ右手と左手に持ち、二丁拳銃状態で発砲する。

 

 二丁拳銃は見た目とは裏腹に命中精度は物凄く悪い。

 

 まあ、両方の銃に意識を割かなければいけないので、当たり前と言えば当たり前だが、これで2つの目標に同時に当てられるのはそれこそのび太のようなチートじみた射撃能力を持つものだけだ。

 

 しかし、咲夜はナイフなどの近接武器の扱いこそ優れていたが、射撃に関しては平均よりちょっと上なレベルであり、到底のび太と同じような事は出来ない。

 

 が、この至近距離、更には目標が1つな上にその目標が人間より巨大という前提条件が揃えば、逆に当てられない方が難しく、二丁の拳銃から放たれた弾丸はフローズヴィニルトの体に次々とダメージを与えていく。

 

 そして、フローズヴィニルトに当たった十数発の弾丸の内、一発がフローズヴィニルトの弱点である頭部へと命中し、二体目のフローズヴィニルトは絶命して先程のフローズヴィニルト同様に引っくり返って倒れた。

 

 

「・・・ふぅ、なんとか倒したわね」

 

 

 咲夜はそう言いながら、ベレッタM92をホルスターへと仕舞い、空となったニューナンブM60の弾丸を再装填しようとした。

 

 しかし──

 

 

 

ガアアアアァァァウ

 

 

 

 先程MP5で倒された筈の一体目のフローズヴィニルトがその高い再生能力で蘇り、再び咲夜へと襲い掛かってきた。

 

 

「!?」

 

 

 それに驚いた咲夜は慌ててかわそうとするも、完全にはかわしきれずにフローズヴィニルトの爪が咲夜の左肌を掠めるように切り裂いた。

 

 

「痛っ!」

 

 

 掠めただけなので左腕の機能に重大な支障が出るような事は無かったが、元々、爪が大きいだけにその傷口は意外に大きく、その傷口から迸る激痛に咲夜は眉をしかめた。

 

 そして、そこからフローズヴィニルトは咲夜を更に追撃するが、咲夜は先程ホルスターへと仕舞ったベレッタM92をもう一度取り出して、マガジンの中に残された数発の弾丸を全て撃ち込む。

 

 それらはフローズヴィニルトからすれば致命的な打撃ではなかったが、至近距離でいきなり銃撃を浴びせられたフローズヴィニルトは一瞬怯んでしまい、その隙に咲夜はベレッタM92を放り出すと、今度はコンバットナイフを取り出してフローズヴィニルトの頭部目掛けて投擲する。

 

 弱点である頭部にナイフが突き刺さったフローズヴィニルトは今度こそその生命活動を完全に停止させて倒れ込んだ。

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

「・・・・・・・・・どうやら今度こそ本当に死んだようね」

 

 

 念のために再装填を完了させたニューナンブM60の弾丸を三発ほど撃ち込んでも復活する気配を見せないフローズヴィニルトを見てようやく完全に死んだと確信した咲夜は、放り出したベレッタM92を拾い、次いて頭部に突き刺さったコンバットナイフを回収する。

 

 

「・・・さて、と。健治君は太郎くんを頼むと言っていたけど、頼んだってことはまだ生きているってことよね?でも、これまでの部屋は全部見てきたからこの部屋以外だとすると・・・」

 

 

 そう言いながら目を向けた先には物置らしき部屋があった。

 

 

「一応、見てみましょうか。他に行くところもないし」

 

 

 咲夜はそう言って切り裂かれた肩の傷に救急スプレーを当て、それぞれの銃の再装填を終えると、物置らしき部屋へと足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!咲夜お姉ちゃん」

 

 

 物置らしき部屋のドアを開けた先には、案の定、太郎の姿があった。

 

 太郎は最初は強張った顔をしていたものの、相手が咲夜だと分かるとすぐに警戒を解いて駆け寄ってくる。

 

 

「もう大丈夫よ。さあ、行きましょう」

 

 

「健治兄ちゃんは?」

 

 

「・・・もうこの世には居ないわ」

 

 

 少々返答に迷った咲夜だったが、結局、真実を伝えることに決めた。

 

 ここで嘘を言ったとしてもいずれはバレるだろうし、変なタイミングで話が拗れても困るからだ。

 

 

「・・・!!」

 

 

「さあ、行きましょう。・・・気にする必要はないわ。次やられるのは私達かもしれないからね」

 

 

「・・・」

 

 

「太郎君?」

 

 

「お姉ちゃん。僕の事は良いから、もう行ってよ」

 

 

「なに言っているのよ!?」

 

 

「僕なんかが居たから、健治兄ちゃんは死んじゃったんだ。パパだってママだって・・・化け物と戦えない僕なんか居たら、咲夜お姉ちゃんだって死んじゃうよ!」

 

 

 太郎は健治が死んだことに対して、責任を感じていた。

 

 そもそも太郎はあまりに幼すぎて武器を満足に扱えないために戦力として数えられておらず、本人も足手まといになっていることを自覚しており、それ故に自分の存在があったから健治が死ぬことになったのだと強く思っていたのだ。

 

 

「だから僕なんて・・・置いていってよ」

 

 

「太郎君・・・」

 

 

 咲夜は一瞬、なんて言葉を掛けて良いか分からなかった。 

 

 当然だろう。

 

 幼い頃から両親より『常に強くあれ(Be Strong)』と教えられてきた咲夜にとって戦えない者の気持ちはあまり分からなかったからだ。

 

 だが、それでも咲夜に太郎を見捨てる気は更々ない。

 

 既に亡くなってしまった健治から太郎の事を頼まれているのだから。

 

 それ故に、自分が出来る精一杯の言葉を掛けて説得することにした。

 

 

「あのね、太郎君。確かにあなたは足手まといよ。と言うより、この地獄のような空間の中で戦えない人間はみんなそう」

 

 

「・・・」

 

 

「でもね。私達はあなたを見捨てたいと思ったことは一度もないわ。何故だか分かる?」

 

 

「ううん・・・」

 

 

「それはね。戦えないあなたが安全である場所ならば、私達も安全。そう思ったからよ。云わば、あなたはある意味私達の道標なの」

 

 

「えっ?」

 

 

 太郎は驚いた。

 

 まさかそんな風に思われているとは思わなかったからだ。

 

 そして、咲夜もまたお世辞で太郎にそう言っていた訳ではない。

 

 太郎は確かに戦力にはならなかったが、逆に言えばそんな戦えない太郎が安全だと思える場所では、みんな安心感を得られていたのだから。

 

 

「だからね。もう少し私たちについてきてくれない?私たちが生き残るためにも」

 

 

 そう言って咲夜は手を差し出す。

 

 そして、差し出された手を太郎は暫しじっと見つめていたが、やがて泣き笑いを浮かべながらもその差し出された手を取ってこう言った。

 

 

「うん、分かった!僕、また咲夜お姉ちゃん達についていく!そして、生き残るよ。健治兄ちゃんのためにも」

 

 

「良かった。じゃあ、行きましょう」

 

 

「うん。・・・咲夜お姉ちゃん」

 

 

「ん?」

 

 

「僕、もう泣かないから」

 

 

「そう」

 

 

 2人はそんな会話をした後、改めて生き残る決意を固めつつ、手を繋ぎながら部屋を出ていった。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(32発)、ベレッタM92(15発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・ベレッタM92・マガジン3つ(45発)、38スペシャル弾(8発)

防具・・・ケブラースーツ

補助装備・・・救急スプレー1つ。


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地下坑道

◇西暦2013年 7月28日 夕方 旅館 地下坑道

 

 時はほんの少し遡り、咲夜がフローズヴィニルトと交戦していた頃。

 

 咲夜とは別な場所を捜索していた聖奈と白峰の2人組は偶然地下に繋がる階段を発見し、その先にあった坑道を探索していた。

 

 

「まさか、この旅館の地下にこんな坑道があったとはな。こりゃ、いよいよただの旅館じゃなくなってきたな」

 

 

「そうですね。あの日記もそうでしたけど、普通の旅館に地下坑道なんて有るわけありませんからね」

 

 

 白峰達は既に旅館内で咲夜が発見したのとは違う研究員が書いた日記を発見しており、その日記に『逃げ出そうとした者が射殺された』という物騒な記述があったことで、この旅館がなにやらヤバい施設の隠れ蓑であるらしいということには感付いていた。

 

 そして、この地下坑道を発見した時、改めてこの旅館がただの旅館ではなかったことを確信した白峰達はこの地下坑道の存在をジャイアン達に知らせるために一度戻ろうかとも考えたのだが、未だ太郎達の安否が確認できなかった為に、結局、先に探索を行うことにしたのだ。

 

 

「健治君と太郎君は本当にこんなところに逃げ込んだのでしょうか?」 

 

 

「さあ、分からん。だが、ゾンビに追い掛け回される過程で逃げ込んだ可能性も無くはない。だから、こうやって調べてるんだろうが」

 

 

 そう、前述したように白峰達がこのような場所をたった2人で調べているのは健治と太郎が中に居て仲間を連れてくるまでに危機に陥る可能性が少なからずあるからだ。

 

 でなければ、こんな薄気味悪い坑道をたった2人だけで調べる筈もなかった。

 

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

「いや、良い。それよりお前、弾はあと何発ある?」

 

 

「えっ?あっ、はい。さっき上で拾った銃ならあまり撃っていないので、まだ余力が有ります」

 

 

「そうか。俺は猟銃店で手に入れたこのショットガンしかない。こいつの弾が切れたらお前に頼ることになるから、頼んだぞ」

 

 

「分かりました。あの・・・それとは別に1つ良いですか?」

 

 

「なんだ?」

 

 

「なぜそんなに私の事を嫌っているんですか?あなたに特別何かした覚えは無いと思うんですが」

 

 

「桜井との会話、聞いていなかったのか?」

 

 

「聞いていました。ですが、今一つよく分からなくて」

 

 

「ちっ」

 

 

 その聖奈の言葉に、白峰は舌打ちした。

 

 暗に『出来損ないの人間の言葉なんか優等生の自分には分からない』と言われた気がしたからだ。

 

 勿論、聖奈の表情からそういう意味ではなく、本気で分からずにいることは明らかだったが、その事実もまた白峰の怒りを助長していた。

 

 

「桜井にも言ったが、優等生に対する劣等生の嫉妬・・・いや、はっきり言おう。俺はお前が気に入らねぇ」

 

 

「どうしてですか?」

 

 

「お前の優等生ぶりが嫌なんだよ。生徒会長、文武共に成績優秀者、美人。まるで完璧すぎるくらいに完成されてる。だからこそ、成績もあまりよくない俺にとっては気に入らねぇんだ」

 

 

「・・・」

 

 

 それを聞いた聖奈は困った顔をした。

 

 白峰の自分を嫌う理由があまりにも理不尽であり、尚且つ自分ではどうしようもないものであったからだ。

 

 

「もっとも、言っておいてなんだが、俺だって自分が言ったことがお前にとって理不尽なことであるのは自覚してる。だが、要するにお前と俺は水と油なんだ。必要以上に関わらない方が良い」

 

 

「・・・それは無理ですよ」

 

 

「あ?」

 

 

「今の話を聞いたら、益々あなたと仲良くなりたいと感じました。これからもよろしくお願いします」

 

 

「おいおい。話は聞いていたか?俺はお前の事が嫌いだと」

 

 

「ええ、十分に分かりました。あなたの中で私への心象が最悪だということは」

 

 

「だったら──」

 

 

「しかし、だからと言って仲良くしないままというわけには行きません。仲良くしないまま死んだら、もしかしたら後悔するかもしれないでしょう?」

 

 

「・・・」

 

 

 否定されもなお自分に関わろうとする聖奈に、白峰は呆れた視線を向けていたが、同時に何処か憧憬のような感情を抱き始めた。

 

 

(やれやれ。こいつ思ったより頑固だな。少なくとも俺が思っていたような貧弱な優等生という訳ではなさそうだ)

 

 

 これまで白峰は聖奈のことを“ダメな事は簡単に諦める優等生のイメージそのものな存在”だと考えていた。

 

 だが、それはどうやら間違っていたようであり、少なくとも相手に否定されても尚、それに向かい合っていく根性を持った芯のある人間であったようだ。

 

 普通なら益々嫉妬してしまいそうな話であったが、何故か悪いようには思えなかった。

 

 どうやら自分は聖奈の事を心の何処かで認め始めているようだ。

 

 

「・・・分かったよ。そこまで言われちゃ仕方ない。今すぐには無理だが、なんとかお前と仲良く出来るように努力してみるよ」

 

 

「それは良かったです」

 

 

 白峰の言葉に、聖奈はニッコリと笑いながらそう言った。

 

 その笑顔に、白峰の顔もまた綻びそうになる。

 

 だが、その時──

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

 

 洞窟内で地響きが起き、天井や側面の岩がポロポロと下に落ち始める。

 

 如何にも落盤が起きそうな気配となり、2人の緊張は高まるが、その直後、遂に落盤が起き、崩れて落下した岩が聖奈に直撃しそうになった。

 

 しかし──

 

 

 

 

 

「聖奈!!」

 

 

 

 

 

 ──直前で白峰が聖奈を突き飛ばし、彼女はどうにか落盤に巻き込まれずに済んだ。

 

 だが、その代償として白峰が落ちてきた岩の下敷きとなってしまった。

 

 

「白峰君!!」

 

 

 突き飛ばされたことによって尻餅を着いた聖奈だったが、慌てて立ち上がると下敷きとなってしまった白峰へと駆け寄る。

 

 しかし、白峰は既に息絶えており、彼女の言葉に反応することはなかった。

 

 

「そんな・・・白峰君」

 

 

 白峰があっさりと死んでしまった事に聖奈は大きなショックを受けた。

 

 確かに自分との仲は良いとは言えなかったが、先程の話し合いで和解一歩手前というところまで行ったのだ。

 

 それが全て無駄になるどころか、彼の命まで無くなってしまうというあまりにもあんまりな結果に、聖奈は現実をなかなか受け入れることが出来ずにいた。

 

 

「努力するって・・・言ったじゃない!死んじゃったら、もう・・・努力なんて・・・出来ないんだよ?」

 

 

 聖奈は遺体となってしまった白峰の体にすがりつき、涙を溢しながらそう言ったが、それで白峰が蘇ることはやはり無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇一時間後 旅館 一階 休憩室

 

 

「そんな・・・健治さんと白峰さんが?」

 

 

 休憩室に残っていた面々は咲夜と聖奈からもたらされた報告に、大きな衝撃を受けていた。

 

 当然だろう。

 

 一緒に学校や裏山での戦いを生き抜き、脱出した面々がこの旅館に着いた途端に2人も一気に亡くなってしまったのだから。

 

 特に久下はやはり自分が行くべきだったと二時間前の自分の決断を盛大に後悔していた。

 

 

「やはり、俺が無茶してでも行くべきだったんだ。そうしておけば・・・」

 

 

「止めてください。終わったことをどうこう言っても仕方ありません。それに2人の話を聞くに、久下さんが行ったとしても犠牲者が代わるか、あるいは今生きてる聖奈さんか咲夜さん、太郎が亡くなった可能性もあります」

 

 

「だが──」

 

 

「なあ、久下のおっさん。確かにおっさんは行くことを拒否したけど、あいつらが行くと決めたのは強制じゃなくて、自分の意思だ。おっさんが責めを負う必要はねぇ」

 

 

 落ち込んでいる久下に対して、出木杉とジャイアンはそう言って慰める。

 

 二人とて、白峰と健治が死んだことを悲しんでいない訳ではない。

 

 だが、健治と白峰が死んだのは前者は化け物のせい、後者は偶然起きた落盤のせいだ。

 

 この中に居る誰が悪いというものでもない。

 

 そうである以上、誰かを責めるのは筋違いであり、そのようなことを考える暇があるのであれば、彼らの死を無駄にしないためにも、なんとしても生き残って町を脱出するべきだと2人は考えていたのだ。

 

 

「・・・それはそうと、咲夜さんや聖奈さん達が見つけてくれた日記と地下坑道にエレベーター。これはいよいよキナ臭くなってきたね」

 

 

「うん。日記を見るに、たぶん町がこうなったのはこの施設に原因がありそうだね。流石にこれだけじゃ具体的に何がどうなってこういうことになったのかまでは分からないけど」

 

 

「分かったところで、今さらどうということもないだろ。それよりもこれからどうする?ここも危なくなってきてるよ」

 

 

 スネオはそう言いながら、咲夜達が探索している間にこの部屋を襲撃してきたカラスのゾンビ──クロウや緑色のゴリラのような化け物──ハンターαの死体を見る。

 

 幸いにしてこれらの化け物による死者はおろか、怪我人すら出ていなかったが、こんな化け物が入ってくるようではここも安全とは言えず、何処か別の場所に移動する必要があるのは確かだった。

 

 

「・・・聖奈さんが見つけたという洞窟に行くしかないな」

 

 

「でも、あそこは落盤が・・・」

 

 

「今の状況じゃ何処に居たって危険度は対して変わらないよ。だったら、進めるところに行くしかない」

 

 

「だな。咲夜さんが見つけてくれたエレベーターはカードキーがないと使えねぇみたいだが、この状況じゃのんびり探している時間なんてねぇ。俺は出木杉に賛成だ」

 

 

「私もよ。もうすぐ夜だし、外になんか出たら自殺行為だわ」

 

 

 ジャイアンと咲夜はそう言って出木杉の意見に賛成する。

 

 そして、2人が賛成したのを皮切りに、静観していた他の面々も徐々に賛成していき、残ったのはスネオと久下だけになった。

 

 

「スネオ、お前はどうだ?」

 

 

「分かったよ、行く。どうせ僕一人じゃ生き残れないし」

 

 

「久下さんは?」

 

 

「君達が行くなら行くさ。ただし、先頭は俺に任せてくれ。少しは警官らしいことをしないとな」

 

 

「・・・あんまり思い詰めるなよ。じゃあ、10分後に出発だ。みんな、準備を進めてくれ」

 

 

 ジャイアンの言葉に、他のメンバーは各々の返事を返した後、出発の準備を始めた。




本話終了時の咲夜の武装

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(32発)、ベレッタM92(7発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ

予備弾薬・・・ベレッタM92・マガジン3つ(45発)、38スペシャル弾(8発)

防具・・・ケブラースーツ

補助装備・・・救急スプレー1つ。


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アンブレラ研究所

◇西暦2013年 7月28日 夜 地下坑道

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

ドドドドドドド

 

 

 

キシャアアアア

 

 

 

 銃弾を雨霰と浴びせられた昆虫のような生物──ブレインディモスは断末魔の悲鳴を上げながら息絶えた。

 

 

「・・・ふぅ、これで全部かしら?にしても、まさかこんな洞窟でも化け物に遭遇することになるとはね」

 

 

 仲間と共に周辺の警戒を行いながら咲夜はそう呟く。

 

 聖奈達が見つけた地下坑道。

 

 結論を言えば、この地下坑道にはゾンビの姿はなかった。

 

 しかし、その代わりに白峰が死んだ場所から更に進んだ先には今さっき倒した昆虫のような生物や蜘蛛のような怪物、更には学校の4階で見掛けた緑色のゴリラのような生物がうようよ居り、おそらく落盤がなく、白峰が死ぬことがなければ聖奈達はこの怪物達とかち合う事になっていただろう。

 

 そうなれば装備に乏しい2人は死んでいた可能性も高く、それを考えれば聖奈が引き返す原因となった白峰の死は全くの無駄では無かったと言えるのかもしれない。

 

 まあ、それはともかく、咲夜達は途中襲い掛かってくる化け物達を倒しながらも奥へ奥へと進み、つい今しがた坑道内部としてはやけに広い場所に居た多数の化け物達の掃討を完了させていた。

 

 

(でも、不味いわね。弾薬がもう残り少ないわ)

 

 

 地下坑道を探索中に化け物と遭遇してから今までの間の戦いで、咲夜はMP5の弾丸を全て使いきってしまい、ベレッタのマガジンも残り2つとなってしまった。

 

 まあ、それでもゾンビ相手には問題無かったし、いざとなればベレッタの弾丸をMP5のマガジンに詰めれば数体程度のBOWなら倒せるだろう。

 

 だが、逆に言えばそれで終わりだ。

 

 どうにか弾薬を調達しなければ、いずれはナイフでの戦いを強いられることは間違いない。

 

 

(流石にそれは勘弁して欲しいわね)

 

 

 銃よりも近接戦闘の方が得意な咲夜であったが、日本刀ならいざ知らず、流石にナイフではゾンビやBOWと戦うのは難しい。

 

 なにしろ、間合いが短すぎて止めを刺すには脳天にナイフを突き刺すしかないのだから。

 

 

(と言っても、他の人も事情は大して変わらないでしょうから、みんなから貰うわけにもいかないし)

 

 

 さて、どうしたものかと咲夜が考えていたその時、付近を調べていたスネオがあるものを見つけ、皆に対してこう叫んだ。

 

 

「みんな!ここに梯子があるよ!!」

 

 

「なんだって!?」

 

 

 そのスネオに反応してまず出木杉が駆け寄り、他のメンバーもまたそれに続く形でスネオが見つけたという梯子へと駆け付ける。

 

 

「本当だ。しかも、梯子の下から明かりみたいなのも見える。どうやらこの地下に部屋かなにかがあるみたいだ」

 

 

「行ってみようぜ。咲夜さんが見つけたっていうエレベーターの先にも繋がる所だろうしよ」

 

 

「そうだけど、たぶん、化け物はこの先から来てる。気をつけていかないと、やられちゃうよ」

 

 

「それなら私が先行するわ」

 

 

「咲夜さん・・・良いんですか?」

 

 

「無理しなくて良いんだぞ。ここは俺が・・・」

 

 

「大丈夫。私、反射神経には自信があるから、もし襲われたとしてもすぐに反撃できるわ。久下さんはここでみんなを守ってて。あなたが下に行ってここで万が一、化け物が襲撃してきたら本末転倒になっちゃうから」

 

 

「わ、分かった。・・・気をつけてな」

 

 

「ええ、じゃあ、行ってくるから」

 

 

 咲夜は久下にそう言って、梯子に手を掛ける。

 

 

(さて、と。行きますか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇アンブレラ研究所 地下一階 

 

 

(・・・どうやら入り口付近には化け物は居ないようね)

 

 

 梯子を伝って無事に地下一階へと降りた咲夜は周囲を見回しながら銃を構えるが、そこには如何なる化け物の気配もなく、少なくとも入り口付近は安全であるということが伺えた。

 

 だが、念のためと咲夜は慎重に10メートル程先を進んでいくが、やはり化け物の気配はない。

 

 その事に咲夜は安堵しつつ、皆を呼ぼうと梯子の近くに戻ろうとするが、踵を返そうとしたところであるものが目に入ったことによってその動きを止めた。

 

 

(これは・・・何処かで見たことあるわね)

 

 

 そこに在ったのは赤と白の傘を模したマーク。

 

 咲夜は何処かで見た覚えがあり、じっくり十秒程考えた末にようやく思い出した。

 

 

(そうだわ。これは確か・・・アンブレラ社のマーク)

 

 

 アンブレラ。

 

 それは製薬業界でナンバー1のシェアを誇るアメリカの1大企業であり、西暦1999年には日本にも支社であるアンブレラ・ジャパンが設立され、西暦2002年には独自の研究所も創設されているという話を聞いたことがあった。

 

 

(まさか、ここがその研究所?なんでこんなところに・・・いや、今はいいわ)

 

 

 どっちにしろ、この施設は怪しかったので調べるつもりだったのだ。

 

 であれば、今は皆を呼ぶのが最優先であり、詮索は後でも出来る。

 

 そう考えた咲夜は梯子の近くへと戻り、安全が確認されたという旨を上へと伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇十分後 

 

 

「エレベーターは2つか。1つはカードキー抜きでも使えるみたいだけど、上には上がれないようになっているみたいだね」

 

 

「でも、上っていうとあの旅館だろう。今さら戻る気はねぇんだから構わねぇよ。それより武器があったのは幸いだったな」

 

 

 ジャイアンはそう言いながら、先程、武器庫で手に入れたロケットランチャー──RPGー7を持ち上げる。

 

 そう、一階にはどういうわけだか、都合よく扉が開け放たれた状態の武器庫が存在しており、半分以上が持ち出されていたものの、それでも9人(生存者は10人だが、太郎は戦力外のため)が使うには十分すぎるほどの量があった為に、ジャイアン達は大量の武器・弾薬、救急スプレーなどの医薬品を手に入れることが出来ていた。

 

 

「たぶん、あの化け物が脱走した時にすぐに処分しなければならないから、一階に武器庫が置かれていたんだろうね。まさか、ロケットランチャーまで置いてあるとは思わなかったけど」

 

 

 出木杉はこの部屋にある武器庫の中身とあの化け物が入れられていたと思わしき破れた檻を見た時、言い知れぬ不安を感じていた。

 

 武器庫の中には拳銃は勿論のこと、前述したロケットランチャーを始め、アサルトライフルやPDWにサブマシンガン、各種手榴弾にグレネードランチャー、火炎放射機(流石にこれは危ないと思って持ってこなかった)、更には見たこともない兵器(マインスロアーや高周波ブレード)などの強力な殺傷力を持つ兵器すら存在していたのだが、アサルトライフルはあの緑色のゴリラのような化け物などのことを考えれば分かるが、流石にそれら相手にロケットランチャーはそれらを相手にするには過剰であり、使うに相応しい相手と言えばあのカメレオンくらいしかない。

 

 つまり、あのカメレオンもここから脱走した可能性が高いということだ。

 

 そして、こんな生物が自然に存在しているわけもないし、日記などの集めた情報から考えるにここで飼育されていたのは間違いなく人為的に作られた生物兵器であり、少なくともアンブレラがそれに関わっているということは疑いようのない事実だった。

 

 

(でも、1つだけ分からないのはあのゾンビだな。あればっかりはどういう原理でそうなっているのか全然分からない。・・・まあ、今は良いや。重要なのはそこじゃない)

 

 

 そう、重要なのはそこではない。

 

 一番重要なのは、みんなが生きている(・・・・・)人間を撃てるか(・・・・・・・)ということだ。

 

 なんせ、自分達の社員ですら逃げようとしただけで射殺する組織だ。

 

 部外者である自分達は尚更口封じのために殺されてしまうだろう。

 

 もっとも、(こう言ってはなんだが)生存者がいなければ発生しない問題ではあったが、逆に居た場合、話が面倒なことになる。

 

 

(ただでさえ、ギリギリの精神状態のみんなに流石に人殺しなんてさせられないからな。本当にどうしよう?)

 

 

 そんな風に出木杉が考えていると、そんな彼を不審に思ったのか、ジャイアンが声を掛けてきた。

 

 

「おい、出木杉・・・出木杉!」

 

 

「あっ。ご、ごめん。ちょっとボケッとしてた」

 

 

「たくっ。しっかりしてくれよ。のび太じゃないんだから」

 

 

「ごめんね」

 

 

「もういい。それより、この施設の探索はどうする?これだけ狭い施設だとあまり多い人数で纏まって動くのは却って危険だと思うから、分かれて探索するべきだと思うんだが」

 

 

「うん、そうだね。じゃあ、ここは地下五階まであるみたいだから、二人一組に分かれよう。あっ、久下さんはここで太郎くんの護衛をしていてください。戦えない彼が一番危険ですので」

 

 

「分かった。お前らも気をつけてな」

 

 

「はい。それで、残り8人だけど僕が分配しちゃっても構わないかな?」

 

 

「おう。お前の提案だったら信用できるからな」

 

 

「僕も異論はないよ」

 

 

「私もです」

 

 

「俺もだ」

 

 

「僕も」

 

 

「私もよ」

 

 

「私も」

 

 

「ありがとう。じゃあ、二階の探索はジャイアンとスネオ君の二人、三階の探索はドラえもんとしずか君、四階の探索は聖奈さんと安雄君、五階の探索は僕と咲夜さんでやるけど、良いかな?」

 

 

 その出木杉の提案に、他のメンバーは皆、快く了承する。

 

 五階に戦力の比重が少々片寄ってはいたが、概ね妥当な判断だと考えられたからだ。

 

 

「ここは無線機も通じるみたいだから、無線で定期的に連絡を取り合おう。分かってると思うけど、何かあったら、すぐに報告するように。では、行動開始だ!」

 

 

 出木杉はそう宣言し、まず自分が目標の地下五階に向かおうと、咲夜と共にエレベーターに乗って下へと降りていった。




武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(32発)、ベレッタM92(14発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ、高周波ブレード、M67破片手榴弾3つ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン3つ(96発)、ベレッタM92・マガジン5つ(75発)、38スペシャル弾(8発)

防具・・・ケブラースーツ

補助装備・・・救急スプレー3つ。


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BOW

◇西暦2013年 7月28日 夜 アンブレラ・ススキヶ原研究所 地下二階 プラットフォーム

 

 地下二階の探索を担当していたジャイアンとスネオ。

 

 そこは施設こそ広かったが、一本道で探索する場所は少なく、2人はあっさりと最奥へと辿り着き、そこでとある物を発見していた。

 

 

「おい、スネオ。見ろよ、これは使えるんじゃねぇか」

 

 

 2人が見つけたもの。

 

 それは緊急脱出用の列車だった。

 

 

「ほんとだ。ちょっと待ってて。動かせないかどうか向こうの端末で試してみるよ」

 

 

「おう。だが、無人のまま出発させるなんて間抜けなことはするなよ?」

 

 

「のび太じゃあるまいし、そんなことするわけないでしょ。それより、ジャイアン。みんなに連絡を頼んだよ」

 

 

「おう、任されよ」

 

 

 そう言ってスネオから通信機を受け取ったジャイアンはまず出木杉に報せようと、出木杉の無線の周波数へと合わせる。

 

 

『───ザッ、どうしたの、武君』

 

 

「出木杉か。実はこっちで緊急脱出用の物らしき列車を見つけてな。これから動かせないか試してみるところだ」

 

 

『本当かい?分かった。じゃあ、2人はそこを確保していてくれ。それと一階で待機している久下さん達をそちらに向かわせて。太郎くんは足が遅いから、あらかじめ脱出手段の傍に寄せておいた方がいい』

 

 

「分かった。じゃあ、一旦切る。そっちも気をつけてな」

 

 

 ジャイアンはそう言って一度通信を切り、出木杉に言われた通りに久下に連絡を着けるために、久下が持っている無線に周波数を合わせようとするが、その前に端末を動かしていたスネオがこう話し掛けてきた。

 

 

「ジャイアン、電源の入れ方が分かったよ」

 

 

「本当か!?」

 

 

「うん。ただ──」

 

 

「どうした?」

 

 

「どうやら、この列車。自爆装置を作動させないと、電源が入らない仕組みになっているみたいなんだ」

 

 

「なんじゃ、そりゃ?」

 

 

 その明らかな欠陥的な仕組みに、ジャイアンは首を傾げた。

 

 秘密基地に自爆装置というのは漫画や映画などではお約束の展開であったが、流石に自爆装置を作動させないと脱出手段が機能しないというのは聞いたことがない。

 

 

「他の手段では起動させられないのか?」

 

 

「やってみたけど、ダメだった。ウンともスンとも言わないよ」

 

 

「そうか。くそっ、厄介な話になったな」

 

 

 ジャイアンは歯噛みする。

 

 こうして自爆装置を作動しての脱出手段がある以上、その自爆装置とやらはおそらく即爆式ではなく、時限式なのだろう。

 

 しかし、万が一列車が機能しなければ自分達は吹っ飛ばされることになるので、この列車での脱出は本当に他に選択肢がなくなったときの最後の手段ということになる。

 

 

「どうする?ジャイアン」

 

 

「・・・・・・いや、予定に変更はねぇ。このままこの列車で脱出する準備を進める」

 

 

「でも、他の脱出手段とかも有るかもしれないよ?」

 

 

「こんな欠陥システムを導入しているくらいだぞ?そんなものがあったとしても、ここと似たようなもんに決まってる。だったら、ここで脱出の準備を進めておいた方が良い」

 

 

「・・・分かった。ジャイアンの言う通りにするよ」

 

 

「ああ。・・・ところで、いま気づいたんだが、お前、列車の運転なんか出来るのか?」

 

 

「一応ね。もっとも、仮に出来なかったとしてもここの列車は自動操縦だから問題はないみたいだよ」

 

 

「そうか。じゃあ、俺は無線で太郎と久下さんを呼んでくるから、お前は念のために列車の中を調べて自爆装置以外でも作動させられないか、もう一度チェックしてみろ」

 

 

「了解」

 

 

 そう言うと、スネオは列車の操縦席へと向かい、ジャイアンもまた今度こそ久下に連絡を着けるために無線を弄り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇30分後 地下四階

 

 ジャイアン達が列車での脱出準備を始めてから30分が経過した頃。

 

 地下四階を探索していた聖奈と安雄はとんでもない物を発見していた。

 

 

「これは・・・ヤバイな」

 

 

「ええ。まさか、こんなものがあるなんて」

 

 

 2人はプロジェクターによって映し出される映像に絶句していた。

 

 そこには裏山で襲ってきた狂暴なゾンビ犬──ケルベロス、緑色のゴリラのような化け物──ハンターα、皮をひんむいたゴリラのような化け物──フローズヴィニルト、学校で見たカメレオンのような怪物──バイオゲラス、昆虫のような化け物──ブレインディモスなどが映し出されており、更に最後尾の部分にはT─ウィルスの最高集大成であるタイラントについての情報もある。

 

 つまり、今まで聖奈達が戦ってきた怪物は、全てこの研究所で研究されていた生物兵器──BOWであり、このプロジェクターに映し出された内容はその決定的な証拠でもあったのだ。

 

 

「T─ウィルスというのが何かは知らないけど、取り敢えず健治君が死んだのはこの研究所の研究の成果とやらで間違いなさそうね」

 

 

 そう言いながら、聖奈はギュッと拳を握り締める。

 

 健治は生徒会長である自分とは正反対のタイプのクラスメートではあったが、それでも悪い人間ではなかったし、白峰のように全く馬が合わない人間というわけでもなく、保健室で出会った後は命を預け合う大切な仲間だったと言えた。

 

 そんな大切な仲間がここで開発されていた生物兵器によって殺されたのだ。

 

 怒りを覚えるのも無理はなかった。

 

 

「・・・これはあくまで個人的な考え方だけどさ。このT─ウィルスっていうの、街の惨状と何か関係があるんじゃないかな?」

 

 

「えっ?」

 

 

「いや、だってさ。T─ウィルスってこういった生物兵器を作るのに必要なものみたいだけど、ウィルスって言うからには人にも感染するんじゃないですか?」

 

 

「まあ、それは否定出来ませんが・・・では、安雄君は街の人達がゾンビ化したのはこのT─ウィルスの感染が拡がったからだと言うんですか?」

 

 

「そこまでは・・・ただ、ゾンビがどうして発生したのかなっていうのと、この生物兵器が街に出たした時期が重なってるから、なにか関係があるんじゃないかなって思って」

 

 

「・・・」

 

 

 その言葉を聞いた聖奈は考える。

 

 そもそも人間がゾンビになるという非現実的な出来事が起きたところから、自分達はこの現象を魔法のようなものだと考えていた。

 

 だが、これがウィルスによってゾンビになるとすれば一気に科学的に説明がついてしまう。

 

 人間がゾンビに噛まれることで、ゾンビの仲間入りを果たすのは何故か?

 

 ゾンビの歯などからウィルスが体内に入ってきて、感染に至ってしまうから。

 

 何故、数日前からゾンビなどのウィルスの元が多数居るにも関わらず、基本的に噛まれた人間しか発症しないのか?

 

 感染経路が空気感染ではなく、経口感染や接触感染などに限定されている、あるいはウィルスに対する自然な抗体を体内に宿しているから。

 

 そう考えれば、今までの事に辻褄が合う。

 

 

(でも、これはあくまで推測。T─ウィルスの詳細な資料を見たりすれば、その真偽がはっきりするんだけど)

 

 

 あいにく、この階で見た部屋にはそれはない。

 

 もっとも、まだ全体の半分しか見ていないので、残りの部屋にそういった資料が存在する可能性は少なからずあったが。

 

 

「・・・残りの部屋の探索を急いで進めましょう。T─ウィルスの情報が欲しいです」

 

 

「そ、そうですか。探索を進めましょう。あっ、そうだ。この事、先にみんなに伝えた方が良いんじゃないですか?」

 

 

「そうですね。T─ウィルスについての情報はともかく、BOWとかいう存在は確かに存在しているわけですし」

 

 

 そう言って聖奈は無線機を取り出すが、最初に誰の無線の周波数に合わせるかは少しだけ迷った。

 

 メンバーの中で一番頭脳面で頼りになるのは出木杉であったが、一応のリーダーはジャイアンであったからだ。

 

 だが、真っ先にリーダーに伝えておくのが筋と、聖奈はまず最初にジャイアンに通達することにし、無線の周波数をジャイアンの無線の周波数へと合わせる。

 

 ──そして、後で分かることであったが、この判断は大正解だった。

 

 何故なら、正にこの時、出木杉達はとある強大な敵と対峙していたのだから。



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T─ウィルスの集大成

◇西暦2013年 7月28日 夜 地下三階

 

 聖奈達がBOWに関しての情報を知ったのとほぼ同時刻。

 

 ドラえもんとしずかは聖奈が探し求めていたT─ウィルスに関する機密データを発見していた。

 

 

「ドラちゃん、やっぱり私たちの街がこうなったのは・・・」

 

 

「うん、アンブレラの仕業みたいだね。・・・でも、可笑しいな」

 

 

「なにが?」

 

 

「規則で未来の事は詳しく言えないから概要だけ話すけど、実は未来では日本でアンブレラがバイオハザードを起こしたという歴史は存在しないんだ」

 

 

 ドラえもんは今から丁度100年程後の時代で生まれ育ったロボットだ。

 

 当然、自分達のような高性能ロボットが登場する前の人類史も学んでいる。

 

 そして、ドラえもんの記憶が正しければ、今から4日前に起きた洋館事件が切っ掛けとなってアンブレラの所業が外部へと知れ渡り、そこから2ヶ月後のラクーンシティ事件という決定的な事件が引き起こされたことによってアンブレラはアメリカ政府から業務停止命令を言い渡される。

 

 その後、裁判となるが、BSAAの前身であり、洋館事件の生き残りを中心として構成される私設対バイオハザード部隊の活躍によって最終的にアンブレラは裁判で全面敗訴したというのが本来の歴史だ。

 

 だが、その一連の歴史の中にアンブレラが日本でバイオハザードを起こしたという歴史は存在しない。

 

 確かにアンブレラ・ジャパンというアンブレラ日本法人は存在したが、それがバイオハザードを起こしたことは一度として無かったのだ。

 

 いや、それどころか、今まで敢えて言わなかったが、今から22世紀に至るまで日本、それもススキヶ原でバイオハザードが起きたという事実そのものすら存在しなかった。

 

 

「じゃあ、もしかしてこれは未来人の仕業?」

 

 

「そうかもしれない。でも、歴史なんて些細なことで変わるものだからね」

 

 

 そう、歴史というものは世界大戦などの大筋は兎も角として、個人の歴史については本当に些細なことで変わるもので、別に未来の人間が関与しなくても過去で勝手に変わる例というものは存在する。

 

 なので、今回の一件もまた過去が勝手に変わったのか、それとも未来人による改変であるのか、真相は分からない。

 

 なにしろ、バイオハザードはたった1人の人間がT─ウィルスを誤って下水道か何かに流し込んだだけでも発生するのだから。

 

 

「でも、どっちにしてもアンブレラがやらかしたことは確実だね。ここを脱出したら、その事を外部の人間に伝える必要がありそうだよ」

 

 

 そう言いながらも、ドラえもんはそれだけではアンブレラは完全には潰れないだろうと見なしていた。

 

 確かに2ヶ月後に起きるラクーンシティの時とは違い、今回はちゃんとした証拠も存在するし、これを使えばアンブレラを追及することは可能だろう。

 

 だが、それで処罰されて潰れるのは良くてアンブレラ・ジャパンだけだ。

 

 アンブレラという会社自体が関わっていたという証拠が見つけられない限り、アンブレラ全体を潰すことは出来そうにない。

 

 

「そうね。生き残ることが出来たらそうするべきでしょうね」

 

 

 しずかは半ば皮肉げにそう言うが、それも無理はなかった。

 

 なにしろ、現状では生き残れるかどうかすらも分からなかったし、仮に生き延びることが出来たとしてもそこに以前までの生活は確実に無いことは確定しているのだから。

 

 

「ねぇ、ドラちゃん。タイムマシンでこの街の出来事を無かったことには出来ないの?」

 

 

「・・・一応、出来なくもないよ。ただ、それにはのび太君の部屋まで僕たち自身が自力でたどり着かなくちゃならない。なにしろ、移動系の道具はほとんど修理に出してて使えないし、唯一、使えたどこでもドアですら壊れちゃったみたいだから」

 

 

「タイムベルトとかは?」

 

 

「そっちは電池切れ。この前、南極行った後で予備の電池を買っておかなかったからね。・・・こんなことならすぐに買っておくべきだったな」

 

 

「・・・まるでピー助ちゃんを送り届けた時のような状況ね」

 

 

「だけど、逆に言えば元に戻せる見込みは全くない訳じゃないから──」

 

 

 

ビー、ビー、ビー

 

 

 

 ドラえもんが何かを言おうとした時、それを遮るかのように警報音らしき音が鳴り響いた。

 

 

「な、なに!?」

 

 

「さ、さあ?僕たちの侵入を感知したコンピューターが警報を鳴らしたのかな?」

 

 

 そんな推測を口にするドラえもんだったが、次に聞こえた放送には流石に動揺することとなった。

 

 

『警告。自爆装置が発動が確認されました。関係者職員はただちに地下二階のプラットフォームから脱出してください。繰り返します。自爆装置の発動が確認されました。関係者職員はただちに地下二階のプラットフォームから脱出してください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇少し前 地下五階 最奥

 

 ドラえもん達や聖奈達がT─ウィルスやBOWに関する機密を発見する少し前。

 

 咲夜と出木杉は最下層となる地下五階の最奥にて、ホルマリン入りの1つの巨大なケースの中へと入れられたT─ウィルスの集大成──タイラントを発見していた。

 

 

「これはなんなの?」

 

 

「おそらく生物兵器の一種だ。それも飛び切り強力な」

 

 

「ゲームとかでよくあるラスボスみたいなものかしら?」

 

 

「・・・笑えないけど、その解釈はたぶん間違っていないよ」

 

 

 なにしろ、こんな地下の最奥に閉じ込めてあるくらいだ。

 

 どれほどの強さかは知らないが、凶暴性は間違いなく自分達がこれまで出会って戦ってきたどの生物兵器達よりも上だろう。

 

 

「とは言え、目覚めてはいないみたいだから、今のうちに武器庫で手に入れた爆弾で吹き飛ばして──

 

 

 

ドン!

 

 

 

「「!?」」

 

 

 突然、ケースの内部から音が響き、2人は咄嗟に銃をカプセルへと向ける。

 

 

「・・・どうやら少し遅かったようね」

 

 

 咲夜は内部からへこんだケースの様子を見ながらそう呟く。

 

 2人は戦闘体制を整えながらゆっくりとケースから離れていくが、その間にもケースのへこみが多くなっていく。

 

 そして──

 

 

 

 

 

ドッゴオオォォォオオオン

 

 

 

 

 

 ──轟音と共に内部に閉じ込められていた人体模型のような怪物──タイラントが2人の前に現れた。

 

 同時に──

 

 

『扉がロックされました!』

 

 

 ピーという音と共にこの部屋の扉がロックされたという内容の放送がスピーカーから鳴り響く。

 

 これで化け物と咲夜達は、共にこの部屋に閉じ込められたことになる。

 

 

「・・・どうやら倒すしか道はなくなったようね。行くわよ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 タイラントと共に閉じ込められるという状況に動揺した2人だったが、すぐに気を取り直し、まず目の前の脅威──タイラント排除のために動き出す。

 

 

 

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 

 

 

 まず様子見と言わんばかりに、咲夜のベレッタM92と出木杉のH&K USPが発砲し、タイラントへと着弾する。

 

 だが、これで倒せるとは2人とも思っていない。

 

 これまでの戦訓から、こういったガタイの大きい敵を拳銃程度の弾丸で倒せる可能性は低いと分かっていたからだ。

 

 それでも撃ったのは、倒せる可能性は低いにしても2人がかりで弾丸を浴びせればそれなりのダメージを与えられると考えたからだったが、確かに着弾している筈なのに一切堪えた様子もなく進撃しているところを見るに、どうやら耐久力はこちらの想像以上のものらしいと2人は判断した。

 

 

「ダメね!」

 

 

「ええ、・・・おっと!」

 

 

 突然走ってきたタイラントによる爪攻撃を出木杉はどうにかかわし、右側のカプセルの裏側へと隠れていく。

 

 幸いにして、この部屋には障害物となりうるカプセルが沢山存在しており、タイラントはその強大な力で盾となったカプセルを次々と破壊するが、その間に2人は上手くタイラントとの距離を離すことに成功し、2人はそれぞれ武器を拳銃からショットガン(モスバーグM500)サブマシンガン(H&K MP5)へと変更する。

 

 そして、タイラントが2人の射線に出た瞬間、それらの銃器が一斉に火を吹いた。

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドド

 

 

 

ドォォオン!ガチャン、ドォォオン!ガチァン、ドォォオン!ガチァン

 

 

 

 ショットガンとサブマシンガンの集中砲火。

 

 拳銃の弾に容易く耐えたタイラントもこれには堪らず、その身体に大きなダメージを負うことになったが、そこは流石T─ウィルスの集大成と言うべきか、どうにか耐えて再び立ち上がろうとする。

 

 だが──

 

 

「やぁぁぁあああ!!」

 

 

 そこで止めと言わんばかりに、咲夜が高周波ブレードをタイラントの剥き出しとなっていた心臓へと突き刺す。

 

 ──そして、それが致命傷となったのか、タイラントは崩れ落ちるように仰向けに倒れた。




本話終了時の咲夜の装備

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(0発)、ベレッタM92(8発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ、高周波ブレード、M67破片手榴弾3つ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン3つ(96発)、ベレッタM92・マガジン5つ(75発)、38スペシャル弾(8発)

防具・・・ケブラースーツ

補助装備・・・救急スプレー3つ。


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絶体絶命

◇西暦2013年 7月28日 夜 日本 東京 練馬区 ススキヶ原 アンブレラ研究所 地下五階

 

 

「・・・完全に死んだみたいね。ラスボスにしては随分呆気なかったけど」

 

 

 フローズヴィニルトの時と同様に死亡確認のために数発のベレッタの弾丸を撃ち込んで安全を確認した咲夜は、高周波ブレードをタイラントの心臓から引き抜きながらそんな感想を口にする。

 

 

「いや、向こうは目覚めたばかりで本調子じゃなかったのかもしれませんし、そうじゃなくともこっちの装備が充実していなければこうはならなかったでしょう。運が良かったんですよ、僕たちは」

 

 

 そう、出木杉の言ったようにタイラントは目覚めたばかりでまだ本調子ではなく、ショットガンやライフルを使えば倒せる状態だった。

 

 まあ、それでもこの研究所に来る前の装備であれば勝てたかどうかはかなり怪しかったので、そういう意味でも出木杉達は運が良かったと言える。

 

 

「それより、扉のロックが閉まったままなので、あのパソコンを使って解除してみます」

 

 

 もしダメであったら、仲間に連絡して外から開けて貰い、それがダメなら荒っぽい方法ではあるが、ジャイアンにロケットランチャーを撃ち込んで貰って扉を破壊して貰おう。

 

 出木杉はそう考えながら、パソコンを操作しようとした。

 

 だが、その直前──

 

 

『扉のロックが解除されました!』

 

 

 その音声と共に、再びピーという音が鳴り、扉の上にあるランプの色がロックされていることを示す赤から、ロックが解除されたことを示す緑へと変わる。

 

 

「あれ?勝手に開きましたね」

 

 

「ええ。もしかしてこいつが死んだからかしら」

 

 

「このタイミングってことは、その可能性が高いですね。この怪物の生命反応が扉の開閉のキーになっていたのかも──」

 

 

 

ビー!ビー!ビー!

 

 

 

 出木杉が自分の推測を口にしようとした正にその時、突如として警報音が鳴り、何事かと2人の視線はスピーカーの方へと向くが、その次にされた放送に2人の体は凍りつくこととなる。

 

 

『警告。自爆装置の発動が確認されました。関係者職員はただちに地下二階のプラットフォームから脱出してください。繰り返します。自爆装置の発動が確認されました。関係者職員はただちに地下二階のプラットフォームから脱出してください』

 

 

 自爆装置の作動。

 

 あまりに突然降り掛かってきた凶報に出木杉の頭は少々パニックとなってしまう。

 

 

「な、なんで、いきなり自爆装置が・・・もしかして誰かが誤って作動させたんじゃ・・・」

 

 

「そんなこと、今は後で良いわ!今はとにかく逃げましょう」

 

 

「そ、そうですね」

 

 

 2人はそう言うと、放送にあった地下二階のプラットフォームへと向かうため、速やかに部屋を出ていく。

 

 ──だが、2人は慌てて出ていったがゆえに気づかなかった。

 

 

 

 

 

ガァァァァ

 

 

 

 

 

 ──タイラントが再起動を開始したことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇10分後 地下二階

 

 

「スネオ!発車準備はどうだ?」

 

 

「うん。電源も入ったし、何時でも大丈夫。あとはみんなを待つだけだ」

 

 

 ジャイアンの問い掛けに対し、スネオは冷静にそう返答する。

 

 自爆装置作動のアナウンスは当然の事ながら、この地下二階のプラットフォームでも行われており、流石にいきなり自爆装置が作動したという放送がされた時は動揺したものの、直後に列車の電源が入ったことですぐに持ち直し、スネオは列車の発射準備を進め、つい今しがたそれを完了させていた。

 

 

「でも、この列車、行き先が分からないんだよね。まあ、それほど長い距離を走るとは思えないけど」

 

 

「なんでも良い。今は脱出することが先決だ!何処に着こうが、自爆に巻き込まれるよりはマシだ」

 

 

「・・・そうだね。確かにその通りだ」

 

 

 ジャイアンの言葉にスネオは確かにその通りだと納得したようにそう言った。

 

 そして、その直後、地下三階を調査していたドラえもんとしずかが列車の中へと入ってくる。

 

 

「ジャイアン!もう発車準備は出来てる?」

 

 

「当たり前だ。しっかり準備は完了してるぜ」

 

 

(やったのは僕なのに・・・)

 

 

 ちゃっかり自分の手柄のように言うジャイアンに、スネオは内心でそう愚痴るが、何時ものことだと敢えて口には出さない。

 

 その後、地下四階を調査していた聖奈と安雄が列車へと乗り込み、残るは出木杉達だけととなったその時──

 

 

『爆破10分前です!』

 

 

 自爆まで残り10分となった旨のアナウンスがスピーカーより流された。

 

 

「残り10分!?出木杉達はまだ来ないの!」

 

 

「落ち着け、スネオ。焦ったってしょうがねぇだろ」

 

 

 焦った様子のスネオをそう言って宥めるジャイアンであったが、実のところ、彼も内心ではスネオと同じような事を思っていた。

 

 だが、口に出して言わなかったのはスネオの慌てぶりを見て却って落ち着いたからで、もしスネオが慌てた様子を見せなければ、ジャイアンが代わりにその台詞を言うことになっていただろう。

 

 ・・・要するに、焦っていたのはジャイアンも同じだったのだ。

 

 そして、それから3分程が経ち、ようやく出木杉と咲夜はやって来た。

 

 

「やっと来たか。早く乗れ!」

 

 

「うん、分かってる!」

 

 

 出木杉はそう言いながら、咲夜と共に列車へと乗り込もうとする。

 

 しかし──

 

 

 

 

 

ドッゴオオォォォオオオン

 

 

 

 

 

 ──その直前、突如天井が破壊され、先程出木杉達が倒したタイラントが現れた。

 

 

「あっ、あれは!さっき倒した筈の怪物!?」

 

 

 出木杉はタイラントがまだ生きていたことに驚愕する。

 

 当然だろう。

 

 倒れた後、拳銃の弾を何発か撃ち込んでもなんの反応もなかったのだから。

 

 だが、彼らにとっての災難はそれだけではなかった。

 

 

『爆破5分前です!』

 

 

「よりにもよって、最悪なタイミングで現れてくれたわね!!」

 

 

 咲夜はあまりの状況の悪さに内心で舌打ちをした。

 

 現時点で列車が唯一の脱出手段である以上、万が一にもタイラントが取り付いて列車が破壊される、あるいは列車が発車できないようにされるなどということがあってはならない。

 

 とすれば、ここで倒しておく必要があるのだが、自爆までの時間という名の時間制限が課せられている以上、咲夜達は5分以内にタイラントを倒さなくてはならないのだ。

 

 だが、やるしかない。

 

 そう思いながら、咲夜は銃を構えながらこう言った。

 

 

「出木杉君、先に列車に乗って。あいつは私が倒す」

 

 

「えっ?でも・・・」

 

 

「悪いけど議論している時間はないの。早く!」

 

 

「・・・分かりました。ですが、気をつけてください」

 

 

 そう言いながら、出木杉は咲夜に言われた通りに列車の中へと引っ込んでいく。

 

 ──そして、それを待っていたかのように、タイラントは咲夜に向かって襲い掛かってきた。

 

 

「ふっ!」

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

 先程と同様、まずは挨拶代わりと言わんばかりに咲夜はベレッタM92を発砲する。

 

 狙いは心臓。

 

 さっきの戦闘からタイラントの弱点が心臓であると気づいた咲夜は、心臓ならば拳銃弾でもある程度は通用すると確信しており、実際、それは正しかった。

 

 ・・・さっきまでは。

 

 

 

ガキン、ガキン、ガキン

 

 

 

 いつの間にか心臓付近に存在していた装甲のようなものがベレッタM92の銃弾を弾き返す。

 

 

「えっ!?」

 

 

 それを見た咲夜は大きく目を見開くが、拳銃の弾を受け止めたタイラントは平然と進撃し、咲夜を切り裂こうと心なしか先程よりも鋭くなった爪を横に振るう。

 

 咲夜は避けようとしたが、完全に避けきる事は出来ず、左肩、それも数時間前にフローズヴィニルトに傷つけられた部分を僅かに切り裂かれてしまった。

 

 

「うぐっ!」

 

 

 元からあった傷口を更に拡げる形となったその攻撃は数時間前の比では無く、咲夜はあまりの激痛に苦悶の声を上げるが、どうにか体を必死で動かし、タイラントと距離を取ることに成功する。

 

 

「・・・はぁ、はぁ・・・はぁ。不味ったわね」

 

 

 咲夜はそう言いながら、現在進行形で激痛に苛まれている左腕を上げようとするが、ほんの少ししか上がる様子がない。

 

 それを見た咲夜は、どうやらこの局面ではこれ以上左腕を使うのは難しそうだと判断し、残った右腕でどう戦おうかと考える。

 

 

(サブマシンガンはさっきの戦いで再装填を忘れたままだったから使用不能。かといって、拳銃では効果は薄いし、ナイフは論外。おまけに時間もない。・・・なら、取りうる手段は1つね)

 

 

 咲夜はそう思いながら、ベレッタM92をホルスターへと仕舞い、代わりに高周波ブレードを取り出す。

 

 

「一か八か、心臓を狙うだけよ!」

 

 

 そう叫びながら、咲夜はタイラントに向かって突撃しようとする。

 

 だが、その時──

 

 

「伏せろ!咲夜さん!!」

 

 

 突然、ジャイアンの叫び声が聞こえ、咲夜は困惑しつつも咄嗟にジャイアンに言われた通り、その場に伏せる。

 

 すると──

 

 

 

ドッガアアアアアアン

 

 

 

 突如、タイラントの右胸辺りで爆発が起き、タイラントは右上半身を丸ごと吹き飛ばされる。

 

 その光景に驚いた咲夜が列車の上を見てみると、そこにはRPG─7を構えるジャイアンの姿があった。

 

 

「どんなもんだ!思い知ったか、化け物!!」

 

 

 ・・・どうやら彼の撃ったロケットランチャーが自分の窮地を救ってくれたようだ。

 

 咲夜はそう理解すると、苦笑しながらも視線をタイラントへと戻す。

 

 一方のタイラントはまだ生きてはいたものの、再生途中で動ける状態ではなさそうだった。

 

 だが、咲夜は完全に再生するまで待ってやるほどお人好しではなかったし、そんな時間的余裕もない。

 

 故に──

 

 

 

 

 

「───さよなら」

 

 

 

 

 

 高周波ブレードを傷口である右胸から横に一閃し、タイラントは体を横に真っ二つにされる形で、今度こそその機能を停止させた。




本話終了時の咲夜の装備

武器・・・H&K MP5・サブマシンガン(0発)、ベレッタM92(5発)、ニューナンブM60(5発)、コンバットナイフ、高周波ブレード、M67破片手榴弾3つ

予備弾薬・・・MP5・32発マガジン3つ(96発)、ベレッタM92・マガジン5つ(75発)、38スペシャル弾(8発)

防具・・・ケブラースーツ

補助装備・・・救急スプレー3つ。


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ススキヶ原の生存者

◇西暦2013年 7月28日 夜 列車内

 

 

「───終わったわね」

 

 

 聖奈から負傷した左腕の手当てを受けながら、咲夜は安堵したようにそう言う。

 

 タイラントを倒して咲夜とジャイアンが列車に乗った後、列車はスネオが発車させたことによってすぐに出発したが、その僅か30秒後に研究所は自爆し、咲夜達は間一髪のところで助かった形となった。

 

 

「うん、僕達は助かったんだ」

 

 

「でも、これからどうするんだよ?全てを失った今、一体何をして生きていけば良いのか・・・」

 

 

 そう、彼らは確かに命は助かった。

 

 だが、同時に全てを失ったのだ。

 

 これから何をしようと家族が生き返るわけではないし、仮に新たな生活を始めるにしてもそれで全て元通りと言うわけにはいかない。

 

 

「そうね。頼る人も居ないし、事の全てを誰かに伝えても信じてもらえないわ」

 

 

 スネオの言葉に、咲夜の手当てを終えた聖奈は同意するようにそう言った。

 

 聖奈にはススキヶ原の郊外にこれといった親しい親戚は居ない。

 

 このバイオハザードを経験する前には咲夜の親戚の家にお世話になっていたが、それはあくまで咲夜の親戚であって聖奈の親戚ではないので、無条件に頼るという訳にはいかないのだ。

 

 加えて、ススキヶ原でのバイオハザードの事を誰かに話しても、非現実的だと信じてくれないだろう。

 

 それは例え、大人であり警官でもある久下が言ったとしても変わらない。

 

 

「そんなことは後で考えようぜ。俺達にはまだ明日があるんだ!今は助かったことをみんなで喜び合おうぜ!」

 

 

 ジャイアンはそう言って暗くなり始めた場の雰囲気を払拭しようとする。

 

 その言葉の内容は楽観主義的なものであったが、同時に一理はあった。

 

 なにしろ、彼らの家族は明日を迎える権利すらなくなってしまったのだから。

 

 

「・・・そうだね」

 

 

 スネオがそう言って頷いた直後、列車がガタンという音を立てて止まった。

 

 

「・・・どうやら着いたみたいね」

 

 

「ようやくまともな人に会えそうだ」

 

 

「だね。まずは警察に行こうか」

 

 

「そうだな。俺も今回の事を報告しなきゃならんからな」

 

 

 そんな会話をした後、ススキヶ原から脱出した10人の生存者達は列車から到着した先の駅へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・静か、だね」

 

 

「そうだな」

 

 

 列車を降りた生存者達だったが、そこには迎えの人間どころか、物音1つ聞こえなかった。

 

 

 

オォォオン

 

 

 

アアァァァア

 

 

 

 ・・・否、音は聞こえたし、迎えの人間も居た。

 

 ただし、生存者達が期待した方向ではなかったが。

 

 

「・・・どうやら、俺達の進む道は決まったようだ」

 

 

 ジャイアンはそう言いながら、やって来たゾンビに対して既に再装填済みのロケットランチャーを向ける。

 

 その表情に絶望の色はない。

 

 むしろ、進むべき道が明確となったことで不敵な笑みすら浮かべている。

 

 

「・・・そうね、はっきりしたわね」

 

 

 聖奈もまたジャイアンの言葉に同意するように、拳銃をやって来たゾンビに向けながらそう言った。

 

 彼女もまたこの出迎え(・・・)によって気持ちが吹っ切れたらしく、ジャイアン同様、不敵な笑みを浮かべている。

 

 

「アンブレラ・・・必ず、追い詰めて見せる!」

 

 

 そう言いながら、ショットガンを構える出木杉。

 

 先の2人のような不敵な笑みこそ浮かべてはいなかったものの、彼もまたその戦意に折れた様子はなく、自分達の故郷を無茶苦茶にしたアンブレラに対する闘志に燃えていた。

 

 

「僕はみんなについていくさ。アンブレラと戦うなら・・・一緒に、ね」

 

 

 そう言ってスネオもまた手持ちのライフルの銃口をゾンビへと向ける。

 

 彼は普段の大冒険においても自分から積極的に危険に飛び込むことは滅多になく、それは今回の場合においても例外ではなかった。

 

 だが、それは彼に戦う意思が全く無いという事を意味しない。

 

 でなければ、こうしてゾンビにライフルを向けたりはしない筈なのだから。

 

 

「僕の居た22世紀には無かった出来事だ。未来人の仕業か、それとも過去の世界の人間がミスったのかは知らないけど、歪んだ歴史は元通りにしないとね」

 

 

 ドラえもんもまた戦う意思を携えて、空気砲の砲口をゾンビへと向けた。

 

 未来人の介入があったのならともかく、正真正銘、過去の人間がやらかした分には、ドラえもんがそれを修正しようとするのは犯罪となる。

 

 だが、この際、ドラえもんにとってそんなことは些細な問題だった。

 

 何故なら、付き合いのあった者達の街が無茶苦茶にされ、今もこうして苦しい戦いに赴かざるを得なくなっているのだ。

 

 ならば、今までの大冒険同様、力を貸してあげるのは友達として当然の事だった。

 

 

「なーんで、こんなことになっちゃったんだろうな?」

 

 

 そう言いながら、グレネードランチャーを構える安雄。

 

 その軽薄な言葉とは裏腹に、彼もまたアンブレラの所業に怒りを覚えており、相手が如何に強大であろうと戦う事に異論はなかった。

 

 

「私だって・・・みんなと一緒に頑張るわ」

 

 

 そう言って護身用にと持たされていた銃を構えるしずか。

 

 彼女はススキヶ原のバイオハザードにおいて、唯一、銃を発砲しておらず、その持ち手は震えてはいたが、その心に宿る闘志は本物だった。

 

 

「・・・私も、みんなと同じ考えよ」

 

 

 そして、咲夜もまた無事な右手でホルスターから引き抜いたベレッタM92を構える。

 

 

「やれやれ。止めることは無理そうだな。まっ、俺もこの場を乗りきるまでは付きやってやるさ」

 

 

 久下は半ば悟ったような顔でそう言いながら、銃を構える。

 

 本来、警察官である彼は彼らを止めなくてはならない立場だ。

 

 だが、アンブレラの所業を知った今、彼もまたアンブレラの事を許せなかったし、なによりあの場であまり役に立たなかった自分には彼らを止める権利はないと思っていた。

 

 しかし、同時に彼らのようにアンブレラとの戦いに加わろうという気はない。

 

 確かにアンブレラは彼にとっても許せない存在であったし、叶うのなら彼もまた彼らと共に戦いたいと思ってもいたが、この場には戦いにはとても役立てそうにない程、幼い太郎という存在がいる。

 

 彼を戦いに巻き込むわけにはいかないので、誰かが面倒を見なければならず、その役目は自分が行うべきだと考えていたのだ。

 

 そして、そんな久下の言葉を汲み取ったジャイアンは彼に向かってこう言った。

 

 

「久下さん。太郎を頼みます」

 

 

「ああ、任せておけ」

 

 

「ジャイ兄ちゃん、僕は一緒に行っちゃいけないの?」

 

 

 太郎は泣きそうな顔でジャイアンに向かってそう言う。

 

 彼もまた自身が戦いに役立てそうにないということは幼いながらも理解していた。

 

 だが、理解と納得は別で、太郎は自分のために死んだ健治のために、自分も何かするべきではないかと考えていたのだ。

 

 しかし、そんな太郎の問いに答えたのは意外なことにスネオだった。

 

 

「悪いね。この戦いは小学校高学年の特権なんだ。低学年である君は参加させられない。どうしても参加したいんなら、あと3年は待つんだね」

 

 

「・・・そうだよね。僕じゃ無理だよね」

 

 

「久下さんの言うことをちゃんと聞いて勉強するんだぞ?くれぐれものび太みたいなバカになっちゃあ、いけない」

 

 

「うん、分かった。必ず僕も追い付くから!その時はお兄ちゃん達の仲間に入れてね!」

 

 

「・・・期待して待っているよ」

 

 

「スネオ、たまには良いこと言うじゃねえか!」

 

 

 ジャイアンは笑いながらスネオの肩を叩く。

 

 それなりに強く叩かれたらスネオは若干咳き込むが、すぐに真剣な表情に戻ると、ジャイアンに向かってこう言った。

 

 

「たまにはは余計だよ。それより、ジャイアン。何かみんなに言ってあげなよ。気合いの入る言葉をさ」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

 ジャイアンはスネオの言葉に頷くと、再び不敵な笑みを浮かべながらこう言った。

 

 

「これは半ばのび太の奴の受け売りだがよ。俺たちはここまで頑張って生き残ってきたんだ。今度もみんな一緒ならきっと乗り越えられる。だから、頑張ろうぜ!」

 

 

「ああ!」

 

 

「そうだね!」

 

 

「ええ!」

 

 

「おう!」

 

 

「当たり前よ!」

 

 

「よし!行くぞ!!」

 

 

「「「「「おお!!!!」」」」」

 

 

 生存者達はそう叫びながら、多数のゾンビが待ち構えているであろう駅の出口に向かって突っ込んでいった。




◇本章登場人物のバイオハザードの生存者と死亡者

・生存者(9人と1体)

桜井咲夜、緑川聖奈、剛田武、骨川スネオ、源しずか、出木杉英才、田中安雄、久下真二郎、山田太郎、ドラえもん。

・死亡者(3人)

前田、翁蛾健治、白峰。


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幕間
合流


◇西暦2013年 7月29日 昼 日本 東京 某所  

 

 

「おう、のび太。久し振りだな」

 

 

 東京の某所にある廃ビル。

 

 そこを一先ずの拠点としていたジャイアン達は、自分達と合流するためにやって来たのび太達を歓迎するために総出で出迎えていた。

 

 

「うん、久し振りだね。ジャイアン」

 

 

 ジャイアンの言葉に、のび太もまたそんな言葉を返す。

 

 もっとも、実際には久し振りと言うほどの時間は経っていない訳だが、ほんの半日前に濃い経験をしていた両者は別れてからたった1日程しか経っていないにも関わらず、何日も経過したような感覚を覚えていた。

 

 

「で、ドラえもんから無線で聞いたが、そいつらが新たに加わる仲間か?」

 

 

「ああ、島田さんは名家のお婿さんらしいんだけど、今さら実家には帰れないから協力するって言ってた。夏音の方は・・・まあ、色々あるけど協力するとは言ってたし、信用できるから大丈夫だよ」

 

 

 のび太は夏音のこと、もっと言えば彼女の家族の事についての情報は伏せることにした。

 

 なにしろ、夏音はアンブレラ研究所に所属していた研究員の娘だ。

 

 決して仲間を信用していない訳ではなかったが、アンブレラに故郷を無茶苦茶にされてカリカリしている状況の中で皆が夏音の家族の事を知れば、面倒ないざござになりかねなかったし、のび太としても折角生き残った仲間達と仲間割れを起こすのは御免だった。

 

 それ故に、夏音の家族に関しての情報は伏せることにしたのだ。

 

 

「・・・そうか。お前がそう言うなら、信用するぜ。よろしくな、島田さん、夏音ちゃん」

 

 

「は、はい!よろしくお願いします!!」

 

 

「よろしく頼むぜ。ところで、お前達の中には大人は一人も居ないのか?」

 

 

「まあ、そうだな。ここに居る聖奈さんと咲夜さんの小学6年生が最上級の年齢だ。と言うか、小五と小六しか居ねぇな。何か問題でもあったか?」

 

 

「い、いや。そんなことはないが・・・」

 

 

 そうは言ったが、島田は高学年とはいえ、小学生にすぎない彼らが戦うことを選んだことに驚いていた。

 

 そもそも生き残って脱出したならば、警察、あるいは自衛隊に保護を求めるのが普通だ。

 

 少なくとも、酷い目に遭って尚戦おうなどという意欲が出てくることは自分のような極一部の例外的な大人を除けば有り得ない。

 

 だが、彼らの目には絶望の色合いも、やけくそになった感情も感じられず、確かなアンブレラへの復讐の闘志に燃えている。

 

 

(のび太と言い、こいつらと言い、一体何者なんだ?)

 

 

 島田はそんなことを思ったが、それはある意味当然の反応と言えた。

 

 いや、そもそも想像する方が無理と言えただろう。

 

 まさかこのグループの主導権を握っている小学5年生の半分程がバイオハザード以前にも幾度も実戦を経験してきた歴戦の猛者であるという事など。

 

 

(一度、協力すると言っちまった以上は協力するつもりだが・・・一応、こいつらについて調べた方が良さそうだな)

 

 

 島田はそう考えた。

 

 そして、島田がそのような事を考えているとは露知らず、ジャイアンとのび太は更に会話を続ける。

 

 

「あれ?しずかちゃんと安雄は?」

 

 

「ああ、その2人なら病院だ。安雄が例のカメレオンみたいな奴に噛まれたから、病院に行かせたんだ。で、しずかちゃんはその付き添い」

 

 

「そっか。なら良かった。・・・ああ、そうだ。ついでに聞きたいんだけど、これからどうするのかっていう予定はもう決まってるの?」

 

 

「まあ、大体のところは午前中のうちに出木杉が決めてくれてな。一先ず、活動拠点と資金の確保。あと俺達のチームの名前決めだ」

 

 

「チームの名前決め?」

 

 

「俺が出した提案でな。ほら、これからアンブレラと戦う訳だろ?だが、名前のない集団なんて俺から見ても寂しいからな。そういった格好いい名前があったりすればみんなのモチベーションが少しでも上がるかと思ったんだ。それで、今、それを募集中だ」

 

 

「・・・意外だね。ジャイアンズにでもするかと思ったけど」

 

 

「俺も最初はそうしようかと思ったが、それだと負け続けで縁起が悪いだろ。半分はお前のせいだけどな」

 

 

「あははははは・・・」

 

 

 のび太は苦笑するしかなかった。

 

 確かにジャイアンズが負けた試合の3割ほどはのび太がミスしたせいだし、その他にものび太のせいで酷い負け方をした試合は沢山ある。

 

 もっとも、のび太がいなければそもそも人数が足りずに試合すら出来なかったという事実も存在するのだが。

 

 

「ま、まあ、良い名前が思い付くと良いね。うん。そ、それはそうと、活動拠点と資金の確保を先にやるって言ってたけど、具体的にアンブレラと戦う方法についてはまだ決まってないの?」

 

 

「そうだな。まあ、俺達が集めた証拠を久下さんが持っていったから、それで警察が動いてくれれば話は楽なんだけどな」

 

 

 とは言うものの、ジャイアン達は然して警察が動くことを期待していなかった。

 

 なにしろ、ススキヶ原で起きたことは直接見ていない者にとっては信じがたいことであったし、文字通りの動かぬ証拠たる研究所も自爆によって吹き飛んでしまったのだ。

 

 そんな状況で動くことを期待しろという方が間違っていたし、更に言えば、これまでの大冒険で登場した警察は肝心の戦いには終盤や後始末にしか役に立っていなかった為に、ドラえもん達は警察をあまり信用していなかった。

 

 故に、今回もまた大冒険同様に自分達が中核となってアンブレラを潰す必要があるとドラえもん達は見なしていたのだ。

 

 ・・・そのあまりに警察という機構を全く信用しない思考は、普通の人間が聞けば目を剥いただろうが、前述したようにドラえもん達が経験した大冒険では警察はあまり役に立っていなかったので、彼らがそういう結論に至るのは当然と言えば当然だった。

 

 

「・・・やっぱり、僕達がやるしかないんだね」

 

 

 のび太はボソリとそう呟く。

 

 あのアンブレラの研究島から脱出し、こうして皆と合流するまでの間でのび太の心の中にあった熱は大分冷めており、その結果、本当に自分がアンブレラとの戦いに身を投じるべきなのか?という疑問が頭の中で浮かび上がっていた。

 

 確かにみんなが言う通り、アンブレラは日向穂島や自分の故郷を破壊した憎い敵なのだろうし、そうでなくともロス・イルミナドス教団のように自分や仲間に襲い掛かってきたならばなんの躊躇いもなく潰すことに同意していただろう。

 

 しかし、直接、故郷の崩壊する様を見ていないのび太にはアンブレラの所業に今一つピンと来ていなかった。

 

 確かに日向穂島の惨状は見てきたが、それとてのび太からすれば他人事の騒動に巻き込まれただけに等しい。

 

 それ故に、のび太はアンブレラと戦うことに若干の躊躇いを感じていた。

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「あっ、いや、なんでもないよ。それより、日向穂島にあったアンブレラの研究所から僕もそれなりに資料を拾って持ってきたんだ。良かったら使ってよ」

 

 

「サンキュー。ありがたく貰っておくぜ」

 

 

 そう言うと、ジャイアンはのび太が差し出したアンブレラの資料を受け取る。

 

 

「あっ、そうだ。そう言えば、咲夜さんと聖奈さんの紹介がまだだったな。咲夜さんと聖奈さん、改めて紹介するよ。こいつが野比のび太。ちょっと、いや、かなり間抜けだが、銃の射撃の腕なら天下一品だ」

 

 

「初めまして、緑川聖奈です。あの・・・もしかして、のび太君ってもしかして廊下の守護神の?」

 

 

「えっ?私はマスター・オブ・ゼロって呼ばれてるって聞いたけど・・・あっ、私は桜井咲夜。よろしくね、のび太君」

 

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 

 聖奈と咲夜の自己紹介にのび太はそんな言葉を返すが、その表情はかなりひきつっていた。

 

 上級生からそのような異名で呼ばれていることは知らなかったが、“ゼロ”と“廊下”の部分からしてどういう意味で呼ばれているのか、のび太の頭でも分かってしまったからだ。

 

 だが、のび太にとっては大変残念なことに、話はそれだけでは終わらなかった。

 

 

「へ~。のび太さんって学校ではかなりの有名人なんですね。凄いです!」

 

 

「ウワァッ!」

 

 

 その純粋な言葉による追い打ちにのび太は胸に何かがグサッと突き刺さったような感覚を覚える。

 

 当たり前のことだが、夏音は○X小学校の生徒ではなく、のび太の学校生活など全く知らない。

 

 そして、異名というのは余程あからさまな悪口でない限り、良い方向のものだと考えるのが普通だ。

 

 だからこそ、夏音は純粋にのび太の事を褒めたつもりでそう言ったのだが、残念なことにその異名が悪口であった為に逆効果だった。

 

 

「ププッ、クク。そ、そうだな。の、のび太はすげぇよ。本当に。グハハハハハ」

 

 

「ま、まったくだよ。アハハハハ」

 

 

 のび太の異名の本当の意味を知る面々(特にジャイアンとスネオ)は夏音の言葉とのび太の反応に思わず笑ってしまい、それに釣られる形でドラえもん達もまた笑みを溢してしまう。

 

 ──何もかもを失った末の再会。

 

 それは生存者達にほんの僅かながらの笑顔と日常を取り戻させていた。



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出木杉の相談

◇西暦2013年 7月29日 夕方 日本 東京 某所 廃ビル 食堂

 

 

「ああ、野比君。ちょっと良いかな?」

 

 

 出木杉は夕飯を食べ終え、食器を流し台に持っていこうとしていたのび太に対してそう声を掛ける。

 

 

「どうしたの?出木杉」

 

 

「実は君と一対一で話したいことがあってさ。一時間くらい後に僕の部屋に来てくれないかな?」

 

 

「まあ、良いけど・・・」

 

 

「それじゃ、また1時間後に」

 

 

 そう言うと、出木杉は食堂から出ていった。

 

 

(出木杉が僕と話?珍しいな)

 

 

 基本的にのび太と出木杉は友人ではあったが、かといってジャイアン達ほど親密な訳ではなく、会話をする時はのび太から出木杉に話し掛けることが大半で、出木杉側からのび太に話しかけることは滅多にない。

 

 それ故に今回、出木杉から話がしたいと言ってきたことを怪訝に思っていた。

 

 

(まあいいや。なにか僕に関わる重要なことかもしれないし、取り敢えず、出木杉に言われたように1時間後に出木杉の部屋に行こう)

 

 

 のび太はそう思いながら、食器を流し台へと置くために再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇1時間後 

 

 

 

コン、コン、コン

 

 

 

「出木杉!約束通り、来てやったよ!」

 

 

「うん、入っても良いよ」

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 そう言いながらのび太は出木杉の部屋へと入る。

 

 

「悪いね。呼び出しちゃって」

 

 

「いや、大丈夫。それより話っていうのは?」

 

 

「そうだね。まあ、難しい話じゃないんだけど、1つ君に質問をしたくてね」

 

 

「質問?」

 

 

「ああ。単刀直入に聞くよ。アンブレラの人間と戦う事が出来る?」

 

 

「へ?」

 

 

 のび太は出木杉の質問に間の抜けた声を出すのと同時に、内心でドキッとした。

 

 まさか、自分の内心にあるアンブレラとの戦いの迷いを見透かされたのかと思ったからだ。

 

 ──しかし、それは次の出木杉の言葉で杞憂だとすぐに分かった。

 

 

「あっ、ごめん。流石に言葉が足りなかった。君はアンブレラの人間と戦う事になった時、引き金を引ける?」

 

 

「えっ?あっ、ああ、そういうことか。それは勿論、戦いになればね。ただ、無抵抗の人間を撃つのはたぶん無理だろうなぁ」

 

 

 のび太は安堵しつつ、出木杉の質問にそんな言葉を返す。

 

 ちなみにその返した言葉には別に嘘も見栄も含まれていない。

 

 アンブレラの人間がもし武器を持って襲ってくれば、躊躇いなく発砲できるし、なんなら殺せる自信すらあったのだから。

 

 

「・・・そっか。君は大丈夫そうか」

 

 

「? それはどういう意味?」

 

 

 出木杉の思わぬ反応に、のび太は首を傾げる。

 

 そもそもよく考えれば、質問からして意味が分からなかった。

 

 アンブレラとは当たり前の事だが、人間で構成される組織であり、それと戦うとなれば、人間と戦う事は当然避けられない。

 

 なのに、何故そのような当たり前すぎる質問をするのか、のび太には全く分からなかったのだ。

 

 

「実はね。どうやら君と咲夜さんを除いた殆どの人が出来ていないみたいなんだよ。人と戦う覚悟を」

 

 

「えっ?」

 

 

 その発言にのび太は困惑せざるを得なかった。

 

 それはそうだろう。

 

 アンブレラと戦おうなどという話になっているのに、人と戦う覚悟が出来ていないなど、話が矛盾しているのにも程があったのだから。

 

 

「もしかして・・・みんな、本当はアンブレラと戦いたくないの?」

 

 

「いや、そんなことはないよ。武君達の闘志は本物だ。でも、流石に“生きた人間”を撃つことには躊躇いがあるみたいなんだ」

 

 

「・・・ああ、なるほど」

 

 

 のび太はようやく納得した。

 

 要するに、ゾンビやBOWなどの生物的には死んだ人間や異形の生物を相手にする分には問題ないが、自分達と同じ“生きた人間”を殺すことには躊躇いがあるという事だろう。

 

 

(気持ちは分からないでもないんだけどねぇ)

 

 

 生きた人間を殺すことを躊躇う感情は、のび太からしてみても分からないことではない。

 

 と言うより、日向穂島のバイオハザードを潜り抜けるまではのび太もジャイアン達と同じ心情だったと言える。

 

 だが、のび太は文字通りの意味で物理的に洗脳されていたとはいえ、確かに生きている人間であるガナードを100人程殺したことで無意識のうちに精神が鍛えられており、生きた人間を殺す理性のハードルはジャイアン達よりも低くなっていた。

 

 それ故に、のび太はアンブレラ側の兵士と戦闘になった場合において、殺すことをまず真っ先に選択肢に入れるようになっており、そこが今現在のジャイアン達とのび太の根本的な論理感の違いだったのだ。

 

 

「で、その覚悟が出来ているのは僕とあの6年生の咲夜さんしか居ないってことか。でも、咲夜さんの方はどうしてその覚悟が出来ていると分かったの?」

 

 

「実は午前中に君と同じような問いをみんなにしたんだ。君の時みたいに一人ずつ呼び出してね。そしたら、殆どの人が言葉に詰まったんだけど、君と咲夜さんだけがちゃんと答えられた。・・・ああ、そう言えば、ドラえもんと安雄君はまだだったな」

 

 

「ドラえもんはおそらくちゃんと撃てるよ。あの島でもそうだったからね。それと他の人達だけど、ジャイアンは何か切っ掛けが有れば撃てると思う。スネオもなんだかんだで自分の身に危険が迫ればやるだろうね。問題は──」

 

 

「その他の面子、特に聖奈さんとしずかちゃんが問題だね。・・・念のために聞くけど、夏音さんは?」

 

 

「う~ん。微妙だけど、たぶん状況によっては撃てると思う。とは言え、あくまで僕の主観だし、戦闘能力は殆ど無いから戦闘員としては期待しない方が良いよ」

 

 

「そうか。じゃあ、島田さんは・・・こっちは聞くまでもないか」

 

 

 出木杉はそう言いながら、これからの事を考える。

 

 今現在活動している自分達のグループは、合流したのび太達を含めて11人で、その内、戦闘が出来そうなのは8人だ。

 

 人数としてはかなり少ないが、現在、自分達が有している装備とのび太達の戦闘能力を考えれば、冗談抜きでその辺のちんけな暴力団程度なら容易に潰せるだろう。

 

 だが、アンブレラは海外に手を広げる(と言うより、海外が本拠地の)大企業だ。

 

 簡単に潰せる相手ではない。

 

 なにより、もう1つ今の自分達にはとんでもなく不利な要素がある。

 

 それは──

 

 

(僕達が島田さんを除けば子供だということだ。お陰で日中活動するのは土日を除けば難しい)

 

 

 そう、言うまでもなくのび太達は学生、それも小学生の年齢だ。

 

 平日の日中に出歩いて大人、特に警察官に見つかれば補導は免れない。

 

 これは土日を除けば行動できる時間帯に制限がつくという事を意味している。

 

 とは言え、現在は夏休み。

 

 あと1ヶ月程は平日に出歩いても問題ないだろうが、それ以降は祝日などを除けば、冬休みまで平日の日中を出歩くことは難しい。

 

 

(あとは武器の調達をどうするかだな。資金と拠点についてはスネオ君がなんとかしてくれるみたいだけど、こっちの方はどうすれば解決できるのか、皆目検討もつかないよ)

 

 

 日本は銃に対する規制は厳しい。

 

 それ故に武器を調達することは裏社会の力を借りなければ難しいし、そんな裏社会の人間ですら持っているのは拳銃やサブマシンガン程度で、ロケットランチャーなどの高火力な武装の調達はまず不可能だ。

 

 だが、出木杉には当然の事ながら裏社会に伝などない。

 

 まあ、裏社会の手など借りずとも、警察署や自衛隊の基地などを襲撃すれば確実に武器が手に入るだろうが、これはもちろん論外である。

 

 

「・・・のび太君、ダメ元で聞きたいんだけど、何処かに無いかな?武器を調達できる場所とか」

 

 

「武器?武器って銃とか、そういうの?」

 

 

「そう。一応、今ある装備だけでもそれなりに余裕はあるけど、訓練とかを考えるとね」

 

 

「訓練?それって必要あるの?」

 

 

「いや、君の場合はそうなのかもしれないけどね。残念なことに他のみんなはそうはいかないよ」

 

 

 出木杉は苦笑しながらそう言った。

 

 確かにのび太のような圧倒的な実力があれば、多少訓練をしなくとも問題は少ないだろう。

 

 だが、現実にはのび太以外の者は素人か、それに毛の生えたようなもの。

 

 訓練をしなければ、せっかくあのバイオハザードの際に身に付けた実力があっという間に最低限まで落ちてしまうのだ。

 

 

「そうは言ってもなぁ。アンブレラの研究島は自爆で吹き飛んでしまったし、日向穂島の研究所にあった武器も全部僕が持ってちゃったからなぁ。ドラえもんの道具が使えれば、フエルミラーとかで増やすって手が使えるんだけど、それも無いみたいだし」

 

 

「そっか。困ったな・・・」

 

 

「あっ、そうだ。いっそのこと、空砲でやるのはどうかな?それなら弾薬も消費しないし」

 

 

「・・・それしかないか」

 

 

 射撃の訓練にはならないが、取り敢えず銃に慣れさせることにはなり、ブランクは最低限に抑えられる。

 

 根本的な解決にはならないだろうが、少なくともやらないよりはましだ。

 

 

「ありがとう。のび太君」

 

 

「いや、大丈夫。それより、もう部屋に帰って寝ても良いかな?昨日、全く寝られなかったから眠くて仕方がなくて・・・」

 

 

「良いよ。じゃあ、おやすみ」

 

 

「おやすみ」

 

 

 のび太はそう言って出木杉の部屋から出ていった。



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雪花隊

◇西暦2013年 7月30日 未明 日本 東京 某所 廃ビル 

 

 廃ビルを拠点とする少年・少女達が寝静まった頃。

 

 島田健太は昨日の午後のうちに持ってきたノートパソコンを使って少年達の事について調べていた。

 

 

「ブラックホール消滅事件を解決、か。なるほど、俺が知らなかっただけで、世間では結構有名人だったのか」

 

 

 それは今年4月のとある新聞社の記事だった。

 

 ブラックホール事件。

 

 それは満月博士を中心とした天文学者達が観測したブラックホールが日本に接近した事件で、それを解決に導いた人間の中にあの少年達(何時もの大冒険のメンバー)が居たのだ。

 

 

「どうやって解決したかは知らんが、こういう事件を解決できるほどの頭脳と実力が有るのなら、酷い目に遭ったにも関わらず、尚闘志を燃やす理由も説明がつく」

 

 

 島田はそう考察する。

 

 ──しかし、実のところ、ジャイアン、スネオ、しずかの3人はともかく、ドラえもんとのび太はブラックホール事件には一切関わっていない。

 

 何故なら、ブラックホール事件が発生していた頃、ドラえもんとのび太はもしもボックスによって魔法世界に居り、デマオン率いる悪魔族との戦いに魔法世界のジャイアン、スネオ、しずか、そして、美夜子と共に赴いていたからだ。

 

 では、この写真に映るのび太とドラえもんは誰なのかと言うと、それは丁度この世界ののび太とドラえもんと入れ代わる形でやって来た魔法世界ののび太とドラえもんだった。

 

 彼らは魔法世界の道具やのび太の優れた計算技術(魔法世界ののび太は科学世界ののび太とは違って計算が得意。ただし、射撃は苦手)などを活用して、地球をブラックホールの脅威から救ったのだ。

 

 だが、そのような事情を島田が知るよしもなかった。

 

 

「まっ、悪い奴等ではないと分かっただけ良いか。約束通り、あいつらに協力してやろう」

 

 

 島田はそう決意した。

 

 彼は他の人間と違って、アンブレラに恨みも、個人的な因縁もない。

 

 だが、日向穂島をゾンビだらけにしたのは許せなかったし、なにより教団に協力して大勢の人間に迷惑をかけてしまった以上、このままノコノコと帰るのも気が引けた。

 

 

「さて、協力と言っても、俺に出来ることなんて殆どねぇが・・・まあ、武器の調達くらいならそれなりに出来るから、それで貢献するべきだろうな」

 

 

 島田はそう言うと、携帯電話を取り出し、とある相手に電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 昼 会議室

 

 

「みんな集まってくれたね?じゃあ、今後の方針について話そうと思う」

 

 

 会議室に集まった皆の前で、出木杉はそう言って説明を始める。

 

 

「まず活動拠点と活動資金についてだけど、こっちはスネオ君の協力のお陰でなんとかなった」

 

 

 出木杉がそう言った直後、スネオは立ち上がり、笑いながらピースサインを決める。

 

 スネオは骨川財閥の御曹司であり、その立場はスネオの両親が亡くなってしまった今も変わらない。

 

 更に骨川財閥は戦後に誕生した新興の財閥ゆえか、親族経営の大企業にしては珍しく親戚同士の仲が良く、子供の誕生日などでは互いにプレゼントを贈り合ったりしており、スネオの無事を聞いた骨川家の者達は安堵し、次いてススキヶ原の真相を聞いて激怒した。

 

 だが、アンブレラは骨川財閥以上の大企業であり、日本国内限定ならともかく、世界的に戦うには分が悪すぎる。

 

 その為、直接的な対峙は出来ないが、日本国内で活動する分にはスネオ達に全面的に協力することを確約してくれた。

 

 こうして、のび太達は活動資金と活動拠点を手に入れることに成功したのだ。

 

 

「次に武器や弾薬の事なんだけど、こっちは島田さんの伝手で手に入れられることになった。これで射撃訓練が出来そうだよ」

 

 

 そう言いながら、出木杉は射撃訓練という最大の問題を解決出来たことに安堵していた。

 

 島田が提供する武器と弾薬の量は決して多いとは言えなかったが、それでも最低限の射撃訓練をすることが可能となったのは大きい。

 

 ちなみに射撃訓練は流石に本土で行うには無理がありすぎるので、骨川財閥の私有地である無人島で行う予定だった。

 

 

「そして、三つ目。これは示しをつけるために全員でやって貰うことになるんだけど・・・射撃訓練と平行して体力トレーニングを行う予定だ。特に野比君は僕の用意した特別メニューでやって貰う」

 

 

「えぇー!!!」

 

 

 のび太は出木杉の無慈悲な発言に悲鳴を上げるが、この方針を決めたジャイアンと出木杉からすれば、これは当然の措置だった。

 

 そもそものび太は体力がこの中で一番無いにも関わらず、戦闘能力はトップクラスという非常に歪な立ち位置に居る。

 

 もしこれでのび太に戦闘能力が無い、あるいは逆に体力が人並み以上にあれば、出木杉達も諦めて無理に鍛える必要はないと判断したのだろうが、体力さえなんとかすればかなり使える人材であることが期待されていた点がこの特別扱い(笑)へと繋がっていたのだ。

 

 とは言え、のび太だけこの訓練をやらせると、普段の性格から訓練に身が入らない事は十分考えられたので、出木杉はもう1つ保険を掛けていた。

 

 それは──

 

 

「あら、面白そうね。それ、私も参加して良いかしら?」

 

 

 そう言ったのは咲夜だった。

 

 

「ええ、構いませんよ」

 

 

 突然の申し出にも関わらず、出木杉はすんなりとそれを了承する。

 

 実は咲夜とは事前に話をつけており、出木杉がこの話をのび太にした際に自分もやると宣言してくれるように頼んでいた。

 

 一人でやらせるならば抵抗はあるだろうが、もう一人、それも可愛い女の子がやると言えばのび太も否とは言わないだろうと出木杉は踏んでいたのだ。

 

 ──そして、その予想は全く以て正しかった。

 

 

「・・・分かった。僕もやるよ」

 

 

 渋々といった感じではあったが、出木杉の目論見通り、のび太は特別訓練を承諾する。

 

 

「良かった。じゃあ、最後にアンブレラとの戦いについてだけど──」

 

 

 その言葉を言った瞬間、皆は先程よりも真剣な顔になる。

 

 それは特別訓練を受けることになって不貞腐れていたのび太でさえも例外ではない。

 

 

「ススキヶ原の時と同様、証拠を手に入れてそれを世間に知らしめるという方針で行こうと思う。ただし、ススキヶ原の時手に入れた情報は久下さんに渡しちゃったから、また新たに手に入れなくてはならない。もっとも、そうなる前に警察が動いてくれればその必要も無くなるんだけど・・・」

 

 

「あまりあてにはしない方が良いな。だが、出木杉。新たな証拠を手に入れて、そこからどうすんだ?また警察に渡しても同じことになるだけだぞ」

 

 

 そう、それが問題なのだ。

 

 例え証拠を手に入れても、それを活用できなければ意味がない。

 

 先日、久下に渡した証拠で警察が動いてくれれば、自分達の活動は追い風になるだろうが、そうでなければまた新たな証拠を手に入れたとしても同じことになるだけなのが現実だ。

 

 しかし、そのようなことは出木杉も百も承知だった。

 

 

「骨川財閥を通して骨川財閥系の新聞社に送り付けるんだ。そうして日本の世論を動かせば警察も動かざるを得なくなる」

 

 

「なるほど。それは効果的だな」

 

 

 島田はそう言って頷く。

 

 確かにマスコミが報道を行えば、日本の世論に反アンブレラ感情を植え付けることができ、如何に腰の重い日本警察や政府も動かざるを得なくなるだろう。

 

 その際に問題となるのはアンブレラの情報操作だが、日本での影響力という点では、アンブレラよりも骨川財閥系の方が優位に立っているので、骨川財閥が裏切らない限り、渡したアンブレラの所業に関する証拠は確実にマスコミの報道によって世間に流されることとなる。

 

 

「しかし、骨川財閥は世界的に見れば影響力という点でアンブレラには及ばない。日本国内ならともかく、海外では事前にバレれば確実に情報操作を受けることになるぞ。そこはどうするんだ?」

 

 

「日本国内のマスコミと同じように海外にも骨川財閥と関わりのあるマスコミに情報を流すつもりですが・・・それでダメならアンブレラを日本から追い出すことで良しとして諦めるしかありませんね」

 

 

「・・・ふむ。みんなはどうだ?」

 

 

 そう言って島田が皆の方を見ると、その表情は出木杉の言葉に頷く者、納得がいかずに不満を顔に出す者、そもそも言っていることの意味が分からない者、難しい表情をしたまま黙り込んでいる者の四つに分かれていた。

 

 

「私は賛成です。あのアンブレラが日本から追い出されるだけでも、十分だと思います」

 

 

「僕も賛成かな。流石にアンブレラそのものを崩壊させるのは骨が折れるし、僕達にそれが出来るとは思えない」

 

 

 出木杉の意見に好意的な姿勢を見せているのは、現実主義者の聖奈と大冒険メンバー一の常識人であるスネオだった。

 

 彼らはアンブレラを完全に崩壊させるとなれば、骨が折れるし、場合によってはこのメンバーの内の誰かが死ぬかもしれないと考えており、それは避けたいと考えていたのだ。

 

 ──だが、そうは考えない者も存在する。

 

 

「俺は反対だな。俺たちの故郷を破壊してくれた奴は徹底的に潰すべきだ」

 

 

 ジャイアンはそう言ってアンブレラを徹底的に潰すべきだと主張する。

 

 彼は故郷を滅茶苦茶にして母親と妹、そして、友人を多数殺したアンブレラに憤っており、その感情からアンブレラを徹底的に潰したいと考えていた。

 

 その為、出木杉の対アンブレラ方針は彼からしてみれば不十分に見えたのだ。

 

 ──そして、この意見に賛同する者は他にも居た。

 

 

「そうね。そもそもアンブレラが存在する限り、ススキヶ原と同じことが起きる可能性は存在し続けるわけだし、武君の言うように徹底的に潰すべきかもしれないわね」

 

 

「僕も、かな。例えアンブレラを日本から追い出せたとしても、後でとんでもない手段で仕返しされるかもしれないし」

 

 

 咲夜、そして、意外にものび太までもがジャイアンの意見に賛同する形でそう言う。

 

 彼らは例えアンブレラを日本から追い出せたとしても、それは問題の根本的な解決にはならないと考えていた。

 

 特にのび太は以前にアンブレラと同じような大きな力を持つ企業(ガルタイト鉱業)の手下達を叩いて中途半端に追い詰めた結果、最終的にとんでもないこと(惑星破壊未遂)をやらかされた経験を持っているので、そうならないようにアンブレラという組織そのものを完全に消滅させるまで戦うべきだという考えを持っており、その事からアンブレラを徹底的に潰すべきだというジャイアンの意見に賛同していたのだ。

 

 ジャイアンと同じ意見でも感情的ではないその理路整然とした主張に、聖奈とスネオ、そして、出木杉は言葉を詰まらせてしまう。

 

 

「三対三。見事に分かれたな」

 

 

「あの・・・島田さんはどちらの意見に賛成しているんですか?」

 

 

「俺か?・・・そうだな、俺個人の意見としてはどちらかと言えばのび太側だな。バイオハザードなんて大それたことを起こす輩相手には徹底的にやった方が良い。だが──」

 

 

 島田はそこで一旦言葉を切り、次いてこう言葉を紡ぐ。

 

 

「そこら辺はいま決めなくても良いんじゃないか?取り敢えず、日本から駆逐する点では一致している訳だし、そこから先の事はアンブレラを日本から駆逐した後で考えれば良い」

 

 

「・・・そう、ですね」

 

 

「言われてみれば、確かに」

 

 

「俺達、考えすぎていたんだな」

 

 

 皆は口々にそう言いながら、島田の言葉に納得する。

 

 

「まっ。人が集まって色んな意見があればこうなることもよく有るもんさ。それは大人だって例外じゃない。良かったな、お前らはガキで今のうちに学ぶことが出来て」

 

 

「はい!勉強になりました!ありがとうございます」

 

 

「ああ。それで、話はこれで最後か?」

 

 

「ええ。あっ、いえ、もう1つ有りました。実はこのチームの名称が決まったんですよ」

 

 

 その言葉に、この事を事前に聞いていたジャイアンやスネオを除く面々はどよめいた。

 

 まさかこんな早く決まり、このタイミングで発表されるとは思わなかったからだ。

 

 だが、そんな皆の喧騒を他所に、出木杉は丸めていた紙を広げてこう発表した。

 

 

「──雪花隊。それがこのチームの名称だよ。ちなみに予定となるエンブレムはこれ」

 

 

「それは──」

 

 

 そのエンブレムを見たのび太は、目を大きく見開いた。

 

 ──何故なら、そこに描かれていたのはのび太が持っている“雪の花”の紋章であったからだ。



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◇西暦2013年 7月30日 夜 

 

 

「・・・ふぅ」

 

 

 ランニングを終えたのび太は軽い息を吐きながら、拠点とされている廃ビルの近くにある芝生へと座り込む。

 

 何時もなら部屋でゴロゴロしているか、あるいはさっさと寝ていた時間帯であったが、のび太はアンブレラと戦うことを迷う心を誤魔化す為にこうしてランニングを行っていたのだ。

 

 

「のび太君」

 

 

 そして、そんなのび太に声を掛けてきた存在。

 

 それはのび太の一番の大親友──ドラえもんだった。

 

 

「ドラえもん・・・」

 

 

「隣、良いかな?」

 

 

「うん、もちろん」

 

 

 のび太の許可を得たドラえもんは、その横に座り込んだ。

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 その後、数分ほどの間、沈黙していた両者だったが、やがて意を決したように、のび太はドラえもんに対してこう言った。

 

 

「何も、聞かないんだね」

 

 

「うん、こればっかりはのび太君自身が解決しなきゃいけない問題だからね」

 

 

 そう、ドラえもんは気づいていた。

 

 のび太が普段の大冒険の時とは違い、何処か無理をしているような振る舞いをしていることに。

 

 そして、のび太もまたドラえもんが自分の内心を察していることに薄々ながら気づいていた。

 

 だからこそ、のび太はドラえもんにこんな形での問い掛けをしたのだ。

 

 

「・・・アンブレラと戦うことが怖い訳じゃないんだ。ただ、やっぱり実際にススキヶ原を見た訳じゃ無いから実感が沸かなかったし、この戦いに勝利したところで僕達は元の日常に帰れる訳じゃない。だったら、いっそのことススキヶ原の僕の部屋を目指して過去を改変すべきじゃないかとも思うんだよ」

 

 

 のび太は内に秘めていた考えをドラえもんに打ち明ける。

 

 そう、今までの大冒険と違うのは、この戦いに勝利したところで、のび太達に元の日常は戻ってこないという点だ。

 

 であれば、無理をしてでものび太の家に帰ってタイムマシンでススキヶ原のバイオハザードを無かったことにした方が良いとのび太は考えていた。

 

 

「・・・」

 

 

「もちろん、歴史改変が不味いのは理解しているよ。でも、こんな何の得もない戦いに命を賭けるよりはマシだと思うんだよ」

 

 

「・・・そうだね。僕だってススキヶ原の一件での真相が未来人の仕業であれば、すぐにでも歴史改変を行いたいよ」

 

 

 ドラえもんはそう言ったが、続けてこうも言った。

 

 

「でも、これが過去の人間の仕業であれば別だ。過去というものはそんなポンポン変えて良いものじゃない」

 

 

 意外なことだが、過去の人間が未来を変え、その歴史を修正しようと未来人が動けば、それもまた未来人がタイムパトロールに無許可で歴史改変をした時と同様、立派な時間犯罪となる。

 

 これは個人単位の歴史に介入することは単なる過去の人間に対する人権侵害であるし、過去の人間の決断は過去の人間に責任を持たせようというのが、未来の人間の大半の考えだからだ。

 

 また、多少未来が変わったとしても、いずれは歴史の修正力によって本来の世界線で産まれる筈だった人間が産まれてくる事も確認されていることがこの考えを後押ししていた。

 

 もっとも、のび太のように“よっぽどの事情”がある場合はその限りではなかったが、それでもドラえもんは基本的に未来世界の大半の意見に賛同している。

 

 だからこそ、ドラえもんはのび太の言うタイムマシンによる歴史改変にあまり良い顔をしていなかったのだ。

 

 ・・・逆に言えば、過去を遡る以外の歴史改変であれば、ドラえもんも全力で手伝うつもりであったのだが。

 

 

「・・・そうだね。過去改変なんてそれが良い方向に転がるかどうかは分からないし、転がったとしてもそれまで過ごしてきた存在が居なくなっちゃう場合もあるからね」

 

 

 過去改変と聞けば、必ず良い方向に転がるという印象がありがちであるが、のび太はそうならない場合もあることもよく知っている。

 

 なにしろ、数ヶ月前にはのび太自身が実際にそれをやって(ぼくを止めるのび太)痛い目に遭っているのだから。

 

 ついでに言えば、過去改変により今まで過ごしてきた存在が無くなってしまう悲しさもピッポの時に経験している。

 

 まあ、後者に関してはあの状況を考えれば仕方のないことだったと理解していたし、仮にあの時に時間が戻ったとしても結局は同じ事をしていただろうが、それでも悲しいものは悲しい。

 

 

(ああそっか。過去改変というのは、今まで過ごしてきた思い出を全部無くしちゃう事なんだね)

 

 

 今までのび太は過去改変の事を何処かゲームのリセットと同じようなものだと軽く見ていた。

 

 だが、無人島で過ごした時のような全く思い出が何もない場合ともかく、如何に辛いとはいえ、皆と過ごしてきた思い出を無くすのはよく考えれば悲しいものだ。

 

 そして、今回の場合もまた過去を改変するということは、夏音達と出会った思い出も無くしてしまうということを意味している。

 

 もちろん、過去を改変してから新しい思い出を作るという選択肢もあるだろう。

 

 しかし──

 

 

「ありがとう、ドラえもん。少し気持ちが楽になったよ。やっぱり、過去改変なんて選択肢はおいそれと選ぶべきじゃないね」

 

 

 のび太は敢えてその選択肢を捨てることにした。

 

 みんなと共に進むために。

 

 

「決めた。僕はアンブレラと戦うよ。みんなと一緒に」

 

 

「良いの?さっきはああ言ったけど、あれはあくまで簡単に過去を変えてはいけないよっていう忠告で、別にアンブレラとの戦いから逃げちゃダメだよって意味じゃないんだよ?」

 

 

「そうなんだ。・・・でも、それでも答えは変わらないよ。だって、ここで僕だけ逃げたりしたら、例え生き残れたってその後の人生でみんなを見捨てたことを一生後悔するだろうからね」

 

 

 そう言うのび太の瞳には先程とは違って迷いの色はない。

 

 彼は覚悟を決めたのだ。

 

 例え行き先が地獄であろうと、仲間と共に進んでいく覚悟を。

 

 

「のび太君・・・」

 

 

 ドラえもんはのび太の成長ぶりに感動していた。

 

 それは一見、大冒険と同じ覚悟と見られるかもしれないが、今回の場合は彼は戦いに勝利しても元の日常に戻ることは出来ないのだ。

 

 だが、それを噛み締めてもなお、のび太は前へ進もうとしている。

 

 一年半前に初めて会った頃の自堕落な性格を思えば、その成長ぶりに感嘆するのも当然と言えば当然だった。

 

 

「ありがとう、ドラえもん」

 

 

「ううん。決めたのは君なんだ。僕はお礼を言われる程の事はしてないよ」

 

 

「それでも、ドラえもんが居なきゃ、僕はずっと迷ったままだった。そんな気持ちのままアンブレラとの戦いに身を投じたら、きっとろくな事にはならなかったと思う」

 

 

「・・・そっか。じゃあ、お礼はありがたく受け取っておくよ。何時かどら焼きにして返してね」

 

 

「ドラえもんは本当にどら焼きが好きなんだなぁ。分かった、何時かきっと返すよ」

 

 

「うん、楽しみにしてるよ」

 

 

 2人はそう言いながら笑い合った。

 

 なんだかんだでこの2人はお互い一番の親友なのだ。

 

 地獄を切り抜けた先で両親の死や故郷の壊滅を聞かされるというある意味ジャイアン達よりも心情的なショックが大きかった筈ののび太があっさり立ち直れたのもドラえもんが居たお蔭であるし、散々お世話になった人達が死んだにも関わらず、ドラえもんがこうして普段通りの心情を保てているのものび太が居るお蔭だった。

 

 

「──ところで、のび太君。あの夏音ちゃんっていう子なんだけどさ」

 

 

「ん?夏音がどうかしたの?」

 

 

「もしかして、のび太君。あの子に恋とかしちゃったりしていない」

 

 

「ぶふっ!?」

 

 

 ドラえもんの発言に、思わずのび太は吹き出してしまう。

 

 

「な、何を言ってるのですかな。ドラえもん様は。ぼ、僕は一筋ですよ!?」

 

 

「ほんとに~~」

 

 

「うっ」

 

 

 そのドラえもんの問いかけに、言葉が詰まってしまうのび太。

 

 確かに夏音に心惹かれている者が自分が居るのは事実だったからだ。

 

 これまで大冒険で、何人もの美少女と出会ってきたのび太だったが、その中でしずか以外でこんなにも惹かれたのは初めてだった。

 

 

「た、確かに心変わりしているのかもしれないよ。でも、それが何か悪いことなの!?」

 

 

「いや、そうは言ってないよ。別に君がしずかちゃん以外の子を結婚相手に選ぼうが、それは君の自由さ」

 

 

 と言うより、ジャイ子以外ならば誰と結婚しようと、のび太の未来は変わったことにはなる。

 

 だからこそ、ドラえもんは別に結婚相手がしずかではなく夏音だったとしてもどうというつもりはない。

 

 だが──

 

 

「でも、中途半端はいけないよ。それじゃあみんな不幸になっちゃうからね」

 

 

「・・・分かってるよ」

 

 

 要するに、来るべき時が来たらちゃんと選べということだろう。

 

 真剣そうなドラえもんの表情を見て、そう察したのび太は改めて気を引き締めながらそう答えた。




次話から第二章突入です。


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第二章 R市事件
悪夢の再来


 西暦2013年7月28日。

 

 僕達は夏休みの初日にドラえもんにとある無人島へ連れていって貰った。

 

 誰にも邪魔されず、好きなことをやって思う存分バカンスを楽しんだ。

 

 そして、帰宅の日。

 

 ひょんな事から僕は日本の南東に浮かぶ日向穂島というバカンスを楽しんだ無人島とは全く違う島へと迷い込んでしまう。

 

 その島はアンブレラ研究所から漏れ出したウィルスによってバイオハザードが起きて既に壊滅しており、更に異世界からやって来たドラえもんの率いるロス・イルミナドス教団の暗躍によって、のび太は次々と危機に見舞われた。

 

 それでも途中で助けた少女──有宮夏音を護りながら拾った武器を振り回し、どうにか脱出したのび太だったが、そこで聞かされたのは故郷であるススキヶ原の壊滅だった。

 

 ──その後、夏音をアンブレラの研究島から助け、ススキヶ原から生き延びた皆と合流して雪花隊を結成した僕達はアンブレラを追うべく活動を開始。

 

 そして、ススキヶ原が壊滅し、雪花隊が結成されて5ヶ月が経った頃。

 

 10月上旬に消滅したラクーンシティからやって来た研究者がR市のアンブレラ日本支店に居るという情報を掴み、僕、咲夜さん、ジャイアンの3人はR市へと向かった。

 

 だが、R市に到着してから数日後。

 

 悪夢は再び起こることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2013年12月22日。

 

R市総人口・・・43210人。

 

死亡・ゾンビ化・・・13200人。

 

生存・脱出成功者・・・30010。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2013年 12月22日 昼 廃棄倉庫施設

 

 

「どうやら、落ち着いたようですね」

 

 

 街中を逃げ回り、生存者達と合流してどうにかこの倉庫へと逃げ込んだ小学5年生の少年──野比のび太は周囲を銃をホルスターへと仕舞いながらそう言う。

 

 街中でのバイオハザードはこれが初めてだったのび太だったが、それでもバイオハザード自体を経験するのはこれで2回目ということもあり、比較的落ち着いていた。

 

 しかし──

 

 

「落ち着いた!?これの何処が落ち着いたというのかね!?冗談を言うな!!」

 

 

 のび太の呟いた言葉を耳にした1人の中年男性が錯乱したようにそう叫んだ。

 

 

「俺の息子も妻も祖父も皆あの化け物に喰われちまった!冗談じゃない!!」

 

 

 そう、彼は家族全てを自分の目の前で亡くしていたのだ。

 

 それを考えれば、のび太の言葉は少し不謹慎だったと言えるのかもしれない。

 

 しかし、他の生存者の事情などのび太には預かり知れぬ事であったし、如何にバイオハザードを既に経験していると言っても、前述したように都市でのバイオハザードがこれが初めてだったことに加え、突如発生したバイオハザードに巻き込まれた形だったこともあり、のび太にも精神的余裕はあまり無く、そう呟いてしまったのもある意味では仕方のないことだった。

 

 

「落ち着いてください。まずは現状の把握が最優先です」

 

 

 生存者達を率いていた警察官──久下真二郎はそう言って半ば錯乱している男性を宥めようとする。

 

 久下はあのススキヶ原のバイオハザードを生き残った警察官の1人であり、出木杉から預かったアンブレラの研究に関する情報と証拠を警察上層部に提出した人物でもある。

 

 彼がススキヶ原での一件の真相に関する証拠は確かに警察上層部の目に留まり、すぐにアンブレラ日本支部に対する強制捜査が行われるかと思われたが、事はそう簡単にはいかなかった。

 

 何故か?

 

 それはアンブレラという企業がアメリカ国籍の企業であったからだ。

 

 これが日本の企業であれば、相手がどれ程大きかろうと多少強引な捜査が行われただろう。

 

 既に多大な被害が出ている以上、これだけの証拠と根拠があって動かなければ日本警察としての名誉にも関わってしまうのだから。

 

 だが、アメリカ企業となると流石に強制捜査は及び腰となり、捜査そのものどころか、捜査方針すら定まらない有り様だった。

 

 その後、ラクーンシティ事件が起こった事で状況は一変し、日本警察はアンブレラ日本支部の強制捜査に乗り出したのだが、その頃には証拠となるものは消去されるか、何処かに隠蔽されるかしており、捜査は遅々として進まなかったのだ。

 

 ちなみに久下は上層部への証拠提出後、R市の警察署に配属されることとなり、そこで現地の刑事達と共にアンブレラ日本支店の捜査に加わるように命令され、ススキヶ原の借りを返す意図もあってか、張り切って捜査を行い、あと一歩で決定的な証拠を掴むというところまでいった。

 

 だが、そんな矢先に今回のバイオハザードが起きてしまい、久下は生存者達を引き連れて○X小学校での時と同様にこうして倉庫に立て籠る羽目になっていたのだ。

 

 

「現状!現状ははっきりしているじゃないか!地獄だ!!それ以外に何かあるのか!?」

 

 

「それは・・・」

 

 

「俺はもうここから一歩も出んぞ!!救出の自衛隊や警官隊が来るまでは絶対に動かん!!」

 

 

 宥めようとした久下に逆上した男性はそう言って奥の部屋に入っていき、鍵を掛けて閉じ籠ってしまった。

 

 

「・・・困ったもんだな。このままだと、皆パニックを起こしてどうなるか分からなくなる」

 

 

 ススキヶ原の時とは大違いだ。

 

 久下はススキヶ原で同行したあの少年少女達を思い出しながら、内心でそう吐き捨てる。

 

 あの時は少年少女達が勝手に目的を決めて行動し、自分の出る幕は全くない程だった。

 

 

(まあ、いま思えばあれが異常だったんだろうな。むしろ、ここに居る面子のような反応が普通か)

 

 

 となると、今回、自分以外で頼りになりそうなのは、あの眼鏡の少年だけ。

 

 しかも、避難民達が完全に足手まといになっている分、状況はススキヶ原の時よりも格段に悪い。

 

 加えて、複数居る大の大人より1人の小学生くらいの少年の方が頼りになりそうという情けない現状も久下の士気を下げていた。

 

 ・・・ちなみにのび太と久下は同じススキヶ原の出身であり、“ススキヶ原バイオハザードの生存者の仲間”という点で繋がりがあるのだが、お互いにその事には気づいていない。

 

 何故なら、久下がドラえもん達と別れた時にはのび太は居なかったし、のび太の方も久下の事については名前だけしか知らなかったからだ。

 

 

(兎に角、ずっとここに閉じ籠っているのも不味い。自衛隊が出動しているようだから、ススキヶ原の時よりは救助に期待が持てそうだが、こんなところを探しに来ようとは思わんだろうからな)

 

 

 この時、久下は既に自衛隊が今回のバイオハザードに対応するために出動していることを知っていた。

 

 しかし、ただ救助すれば良いだけの通常の災害とは違い、バイオハザードは敵の排除も同時に行う必要がある。

 

 更に言えば、自衛隊がバイオハザード下の街に本格的に部隊を投入するのは今回が初めて──ススキヶ原や日向穂島の時は封鎖のみで街中に投入されていない──だ。

 

 おそらく、救助範囲もかなり限定されると思われる(と言うか、下手をすれば撤退する可能性すらある)ので、無線で連絡を行わない限りはこのような所を探そうとする可能性は非常に低い。

 

 そして、その肝心な無線はここに来るまでの戦闘で壊れてしまったので、自衛隊に連絡するためには探す、あるいは別な無線をどうにかして調達しなければならなかった。

 

 どうしたものか。

 

 そんな風に考えていた久下だったが、そんな彼に対してのび太はこのような提案をする。

 

 

「あの、僕が外の様子を見てきましょうか?」

 

 

「ん?そりゃ助かるが・・・良いのか?」

 

 

「はい。このままずっとここに居るわけにはいかないでしょうから。なんとか脱出する手段を探さないと」

 

 

 久下の言葉に、のび太はそう答える。

 

 自衛隊の事こそ知らなかったが、のび太もまたずっとここに居るわけにはいかないと考えていた。

 

 なにしろ、この場には食料も医薬品も、ついでに言えば武器もろくにないのだ。

 

 こんな状態で長持ちするなどとはのび太にはとても思えず、リスクを犯してでも脱出の手段を探した方が生存の確率も高くなると踏んでいた。

 

 

「そうか、助かる。あっ、そうだ。どうせなら警察署に向かってくれないか?無線が壊れて何処にも連絡が出来ないんだ。それとまだ組織的な行動が出来ていれば、応援に来てくれるように言ってくれ」

 

 

「分かりました。でも、警察署の場所が・・・」

 

 

「ほら、これが地図だ」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 のび太はそう言うと、受け取った地図を読み込み、警察署の位置を確認する。

 

 そして、確認し終えると、それをポケットに仕舞い、久下に向かってこう告げた。

 

 

「では、行ってきます」

 

 

「ああ、気をつけてな」

 

 

「はい!」

 

 

 そう言って倉庫を出ていこうとするのび太。

 

 だが、そんなのび太に対し、倉庫内の避難民の1人がこう声を掛けた。

 

 

「あの・・・それ、私も同行しても構いませんか?」

 

 

「えっ?」

 

 

 その声に反応し、のび太はそちらの方に顔を向ける。

 

 すると、そこには金髪に翡翠の瞳という日本人離れした容姿をした少女が居た。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(20発)、ベレッタM92(9発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン2つ(40発)、ベレッタM92のマガジン1つ(15発)。

防具・・・無し。


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咲夜との再会

◇西暦2013年 12月22日 昼 天候・曇り 日本 東京 R市 

 

 

「今更だけど・・・本当に良かったの?」

 

 

「はい。私も麻美ちゃんを探さなければなりませんので」

 

 

 のび太の言葉に、少女──川瀬由良里はそう答える。

 

 そう、川瀬がのび太についていったのは空気の悪いあの空間に居たくなかったというのもあったが、一番の理由は親友である少女──八島麻美を探す事だった。

 

 

「そっか。友達を探すためなら仕方ないけど、今から向かうところは警察署だから、そこに居ないのであれば一旦倉庫に戻っても良いかな?」

 

 

「任せます」

 

 

 なかなか思い切りの良い少女のようだ。

 

 のび太は少女に対して、そんな感想を抱く。

 

 ――この時、のび太も彼女自身も全く知らなかったが、実はこの川瀬由良里という少女は『のび太がしずかと結婚した未来』における出木杉の嫁だったりする。

 

 その世界線では最初、彼女はのび太のことを好きだったのだが、親友である麻美に背中を押される形で告白するも振られてしまい、好きな人に振られた者同士と言うことで出木杉とくっついたという経緯があった。

 

 ちなみに『のび太とジャイ子が結婚した未来』の世界線においては、彼女はそもそものび太や出木杉とは出会っておらず、『のび太がしずかと結婚した未来』において麻美の旦那だった唐沢浩太と結ばれている。

 

 

「助かるよ」

 

 

「いえ。ところで、戻った後はどうするつもりですか?」

 

 

「う~ん。それは警察署の状況次第かな。警察署が無事、あるいは無線機が獲得できる状況なら倉庫の位置を伝えて救助が来るまで籠城。逆にそうじゃなければ──」

 

 

「そうじゃなければ?」

 

 

「・・・僕たちとあの倉庫に残っている人達で周辺の探索を行って脱出ルートが定まったら脱出だね。もちろん、警察署から調達した武器は渡すつもりだけど」

 

 

 そう言うのび太だったが、その口調には何処か自信がなかった。

 

 倉庫の皆のあの様子では、武器を渡したところで探索に出ようとするとはとても思えなかったからだ。

 

 しかし、それでも自分と由良里だけでは探索できる範囲にも限度がある(ましてや、のび太はこの辺りの地理をあまりよく知らない)以上、どうにかしてやって貰うしかない。

 

 

「・・・思ったより、色々考えているんですね」

 

 

「まあ、こういう状況は一度経験しているしね」

 

 

「? それはいったいどういう──」

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

「「!?」」

 

 

 由良里が何かを言い掛けた時、近くのモーテルから銃声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数分後

 

 

「ごめんなさい」

 

 

「いえ、不用意に入ってきた僕の方にも問題がありましたから」

 

 

 咲夜の謝罪の言葉に、のび太は内心では冷や汗を掻きつつも、表面上では苦笑げにそう答える。

 

 あの銃声が聞こえた後、銃を発砲している人物が探している咲夜かジャイアンかもしれないと思ったのび太は由良里を置き去りにする形でこのモーテルへと駆け付けた。

 

 そして、のび太がそのモーテルの中に入ってみると、そこにはゾンビを殲滅し終えた咲夜が居たのだが、緊張が中途半端に残っているタイミングで不用意に声を掛けてしまい、そのせいでのび太はゾンビと間違えられて咲夜に撃たれてしまったのだ。

 

 幸い、持ち前の驚異的な反射神経によってどうにかかわしたものの、先程の咲夜の行動はのび太の肝を冷やすには十分だった。

 

 

「それより、咲夜さんの方は大丈夫ですか?」

 

 

「ええ、大丈夫よ。カラスが入ってきたからちょっと危なかったけど、一応、なんとかなったわ。・・・ただ、残弾が少し心許ないわね」

 

 

「良かったら、僕のを使ってください。まだ予備の銃とそのマガジンが有りますから」

 

 

「良いの?ありがとう」

 

 

 咲夜はそう言って、のび太が差し出してきたベレッタM92のマガジンを受け取る。

 

 

「これで銃の問題は少しは解決できたけど、外がこの有り様じゃ出来るだけ戦いを避ける方向で動いた方が良さそうね」

 

 

「そうでしょうね。・・・ところで、咲夜さん。街のこの惨状ってやはり・・・」

 

 

「間違いなく、ススキヶ原の時と同じね」

 

 

「ススキヶ原の時とは?」

 

 

「「わあぁ(きゃあ)!!」」

 

 

 突然気配もなく、声を掛けてきた少女──川瀬由良里の存在に、のび太と咲夜は驚いたのか、軽い悲鳴を上げる。

 

 

「ゆ、由良里?いつの間に・・・」

 

 

「少し前からここに居ましたが?それより、あんな場所に置き去りにするのは酷いです」

 

 

「うっ。ご、ごめん」

 

 

 由良里の(無表情だが)冷たい視線と言葉の内容に、のび太はそう謝罪せざるを得なかった。

 

 よくよく考えてみれば、今自分達が居るのはバイオハザード発生中の街のど真ん中。

 

 幾ら銃声の元が気になったとはいえ、そんな中に武器を何も持っていない由良里を置いていったのは、明らかに自分のミスだったとのび太は考えたのだ。

 

 

「本当にごめん!もう二度としないから!!」

 

 

「・・・まあ、良いでしょう。今回だけは許してあげます」

 

 

 由良里は(上から目線で)そう言うが、実のところ、今回の場合は日向穂島の夏音の時とは違い、彼女が勝手についてきているだけだったので、本来ならのび太には由良里を守る義務は特にない。

 

 その点は由良里もなんとなく気づいていたのだが、のび太に守ってもらわなければ麻美を探すどころか、自分の命の保証すらないので、敢えて黙っていた。

 

 ・・・そう、決してのび太の人の良さそうな性格に漬け込んで、由良里が麻美を弄る時のようにのび太を弄って遊んでみようという意図など、これっぽっちも無かったのである。

 

 

「ところで、先程の話に戻りますが、ススキヶ原の時と同じというのは?もしかして、この現状と同じような事が過去にあったのですか?」

 

 

 その言葉にのび太と咲夜は顔を見合わせながら、お互いの顔を寄せてこう囁き合う。

 

 

「どうする?」

 

 

「話さないと不信感が芽生えそうですので、ススキヶ原の事自体は話した方が良いと思います。ただ、アンブレラの事については・・・」

 

 

「そうね。確かに戦いに巻き込まないためには黙っておいた方が良いかもね。でも、こんな状況になっちゃ、もう遅いんじゃない?」

 

 

「! それは・・・」

 

 

 のび太は言葉に詰まった。

 

 これがこの街でバイオハザードが起こる前であれば、アンブレラとの戦いに巻き込まないためにもアンブレラの事については話すのを控えた方が良かったのだろう。

 

 しかし、起こってしまった後では咲夜の言うように、もう遅い。

 

 既にR市はバイオハザードによって壊滅しており、この街の住民である由良里がこれまでの日常を過ごせない事は確実だ。

 

 加えて言えば、何かの間違いで由良里がアンブレラに助けを求めるといった事があっても不味いので、むしろ話してアンブレラという存在を警戒させた方が良いのかもしれない。

 

 そんな考えがこの時、のび太の頭に浮かび上がっていた。

 

 

「まあ、そこら辺はあなたに任せるわ。あなたと共に行動するわけだし」

 

 

「? 咲夜さんは一緒に行かないんですか?」

 

 

「ちょっと気になることがあってね。私は同行できないわ。ああ、大丈夫。街を脱出した後はちゃんと合流するから。ところで、あなた達はこれから何処に行くの?」

 

 

「あっ、はい。警察署に向かおうと思っています」

 

 

「そう。でも、気をつけた方が良いわ。さっきまで大通りで激しい銃声がしたけど、もう何も聞こえない。残念だけど、警官隊は壊滅状態にあると見て良いと思う」

 

 

「そうですか。でも、無線ぐらいは拾えるでしょうから、取り敢えず行ってみることにします。・・・ああ、そうだ。無線と言えばここの南の廃棄倉庫にいま僕が身を寄せている生存者達が居るんですが、良かったらそこに立ち寄って僕達の無事を伝えて貰えませんか?心配になって外に出てこられてもあれなので?」

 

 

「分かったわ。その代わり、彼女への説明はよろしくね」

 

 

「はい、任せてください」

 

 

「じゃあ、さよなら」

 

 

 咲夜はそう言うと、先程のび太達が入ってきた扉から外へと出ていく。

 

 そして、それを見届けたのび太は改めて由良里の方に向き直る。

 

 

「さて、由良里。さっき君はこの街と同じようなことがあったかと聞いたね?」

 

 

「はい」

 

 

「実はあったんだ。今から丁度5ヶ月くらい前なんだけどね。ススキヶ原で──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 R市の街中。

 

 既にバイオハザードが発生している街中では、人間のゾンビだけではなく、クロウやゾンビ犬の姿もあちらこちらで見られている。

 

 

 

グルルル

 

 

 

 だが、そんな街中に存在するとある建物の屋上にはゾンビ犬と呼ぶには知能が高く、ケルベロスと呼ぶには異質な三本の首を持つ化け物が居る。

 

 そして、その6つの瞳はとある建物内に居る1人の眼鏡を掛けた少年を捉えていた。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(20発)、ベレッタM92(5発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン2つ(40発)。

防具・・・無し。


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狙撃

◇西暦2013年 12月22日 昼 天候・曇り 日本 東京 R市 街中 モーテル

 

 

「──なるほど、ススキヶ原ではそんなことがあったんですか。それで、あなた方はアンブレラの調査をするためにこの街にやって来たと」

 

 

「うん。でも、この街に来てから僅か数日でバイオハザードが起きるなんて思いもしなかったよ。まだろくに調査もなにもしていなかったのに」

 

 

 のび太はそう言うが、実のところ、由良里に話した内容には若干の嘘が混じっている。

 

 確かにこの街に来てからの活動については全部本当のことであったが、のび太はススキヶ原バイオハザードの生還者ではない。

 

 まあ、同時期にススキヶ原バイオハザードとほぼ同等の地獄を潜り抜けてはいたので、“バイオハザードを経験した”という点では間違ってはいなかったのだが、ススキヶ原バイオハザードの生存者かと言われると、それは違うというのも事実だったのだ。

 

 ちなみにどうしてこのような嘘をのび太がわざわざついたかというと、本当の事を話しても話がややこしくなるだけだと思ったからだった。

 

 

(・・・この感じからして、嘘は言っていなさそうですね。しかし、彼らがここに来てから僅か数日でこの一件が起きたというのは本当に偶然でしょうか?)

 

 

 そして、そんなのび太の事情など知るよしもない由良里は彼の真剣な雰囲気から、彼が嘘をついていないと判断して、そのようなことを考えるが、同時にこうも思った。

 

 

(まあ、真相がどうであれ、あまり興味はありませんけどね。今は麻美ちゃんを探す方が先決です)

 

 

 冷たいようだが、由良里にとってはのび太達が直接的な原因でなければ、真相がどうであろうと、はっきり言ってどうでも良かった。

 

 何故なら、彼女は1年程前にとある理由から友人やこれまでの生活環境を捨てさせられた上に完全な自由の身ではなくなってしまい、半ば絶望していたところを親友である麻美に(本人が意図せぬ形ではあったものの)救われ、それ以来、由良里は麻美に恩を感じていて、今回の一件でも彼女の事を第一優先にして動いている。

 

 のび太や唐沢といった異性を好きになる先の未来と違い、この頃の彼女は麻美に完全に依存しており、それゆえに麻美さえ無事であれば仮にのび太達が今回の一件の間接的な要因であったとしても、彼らを責める気は更々無かったのだ。

 

 ・・・逆に言えば、麻美が死んでいた場合、のび太の事を恨むか、あるいはのび太が麻美に代わる新たな依存対象になるかのどちらかの道となるのだが。

 

 

「話してくれて、ありがとうございます。のび太君」

 

 

「いや、良いんだ。それよりそろそろ警察署に向かおう?どうやら急いだ方が良いみたいだから」

 

 

「はい。時間を取らせてしまってすみませんでした」

 

 

 そんな会話をした後、2人は先程咲夜が出ていった扉とは反対の出口から警察署に向かって歩いていった。

 

 ・・・その様子を見る“追跡者”の存在に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇20分後

 

 

「・・・ん?」

 

 

 モーテルを出てから20分。

 

 途中、ベレッタの弾丸が切れてしまうというハプニングに見舞われつつも、それ以外は順調に警察署に向かって進んでいたのび太と由良里の二人は、警察署までの最短ルートである大通りに足を踏み入れようとした。

 

 しかし、その直前に瀕死の状態ではあったものの、まだ息のある警察官らしき制服を着た男を発見し、のび太はその警察官の下へと駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 のび太はそう言いながら、その警察官の容体を見るが、そこでとあることに気づく。

 

 

(あれ?これ、ゾンビとかに噛まれたりして出来た傷じゃない。この傷跡は・・・もしかして、弾痕?それも結構大きい)

 

 

 そう、警察官を瀕死に追い込んでいたのは、ゾンビによる攻撃でも、何らかの事故によって負った傷でもなく、明らかな銃、それもライフルクラスの銃弾を叩き込まれたことによって出来た傷だった。

 

 誤射、あるいは自分のような銃を装備した民間人に撃たれたのか?

 

 のび太がそんなことを考えていた時、その警察官は最期の言葉とばかりにのび太に向かってこう告げる。

 

 

「うぅ・・・ど、同僚の特殊部隊の奴が発狂して・・・見境なく狙撃しているんだ。・・・そこの通りを通るなら気を付けろ・・・いきなり撃ってくるからな」

 

 

 そう言い残すと、その警察官は息を引き取った。

 

 

「・・・死んじゃったか」

 

 

「ええ。しかし、最後に残した言葉が気になりますね」

 

 

「うん。この警察官の人の言っていたことがもし本当なら、この通りに出た途端、僕達はたぶんライフルか何かで狙撃されることになるね」

 

 

 とは言え、もし発狂してからある程度時間が経っているのならば、そろそろ頭も冷えているだろう。

 

 ならば、確認して自分が人間であることを示せれば撃たれることはない・・・と思いたいところだったが、先程、咲夜に間違えて撃たれたばかりということもあり、のび太としてはあまり楽観視する事は出来なかった。

 

 

「・・・念のために聞くけど、ここ以外に警察署に進む道はないの?」

 

 

「さっきの火事の道以外にはこの辺り一帯には。数キロという単位ならば有りますが・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 論外だった。

 

 普段ならば、狙撃される危険性のある場所を通るのと数キロの道程を迂回するのとでは、当然、後者を取るだろうが、ゾンビがうようよしているこの状況下ではその後者の方が危険性が高い。

 

 となると、やはりこの道を通るしかないだろう。

 

 

「・・・由良里。悪いけど、ここは僕が先行して様子を見てくるから、ちょっとここで待っててくれないかな?」

 

 

「分かりました。気をつけてください」

 

 

 その由良里の励ましを受けた後、のび太は宣言通りに先行し、丁度、曲がり角の近くにあった車の陰に隠れながら様子を伺おうとした。

 

 だが、その直前、のび太はあるものを発見する。

 

 

「・・・ん?頭が半分・・・無いゾンビだ。小口径の銃じゃこんなことには・・・」

 

 

 既に倒されてはいるようではあったものの、異様な状態となったゾンビ。

 

 数秒程それを観察していたのび太だったが、その直後、『ドォン!』という銃声と共に残っていたもう半分のゾンビの頭が吹き飛んだ。

 

 

「な、なんだ!?わっ!」

 

 

 いきなり自分の目の前で、ゾンビの頭が吹き飛んだ事に驚いたのび太だったが、その数秒後に再び着弾音と発砲音が聞こえてきたことで、慌てて車の陰に身を潜めた。

 

 

「!? ね、狙われてる!もしかして、あの警察官の人が言っていたスナイパー!?」

 

 

 先程の警官の言葉を思い出し、のび太は悪い方の予感が的中してしまったことに嘆いたが、その間にも何発もの弾丸が車の周囲に着弾する。

 

 

(この撃ち方からして、あの警察官の言っていたように完全に発狂してる。とにかく近寄ってゾンビじゃないことを伝えないと)

 

 

 狙撃から10秒程が経ち、なんとか落ち着きを取り戻したのび太はそう思いながら、スナイパーに近づく手段を考える。

 

 幸い、発砲されている方角には障害物が多数存在しており、“盾”には事欠かない。

 

 更に──

 

 

「雪?」

 

 

 そう、このタイミングでR市に雪が降ってきたのだ。

 

 ゾンビがうようよ居るこの状況では、視界の制限されるこの天候はあまり良いニュースとは言えなかったが、いまこの時に限っては幸いと言えた。

 

 何故なら、視界が僅かでも制限されたことで、のび太がスナイパーに近づける確率がほんの少しでも高まったからだ。

 

 加えて、発砲の感覚からおそらく相手が撃っているのはボルトアクション式のライフルであるため、映画のように頭を低くして慎重に行動すれば、銃撃の合間を縫って近寄ることは可能。

 

 のび太の頭脳はそんな算盤を弾き、すぐさま行動に移すために体勢を整える。

 

 そして──

 

 

「──今だ!」

 

 

 相手が発砲を終えた直後、のび太は駆け出し、別の車の陰に隠れる。

 

 スナイパーは再装填を行いつつも、動き回るのび太に照準を合わせようとするが、そうして発砲する頃にはのび太は別の車の陰へと隠れており、発射した弾丸はのび太に命中することなく外れた。

 

 その後ものび太は発砲を終えたタイミングで別の車の陰や曲がり角に隠れるといった動作を何度か繰り返し、徐々にスナイパーが居る方へと近づいていく。

 

 そして、もう少しで声が確実に届くと思われる距離まで近づいたその時──

 

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

 

「!?」

 

 

 突然、スナイパーらしき人物の悲鳴が聞こえ、のび太が恐る恐るといった感じに顔を出してそちらを確認すると、そこには背後からゾンビにのし掛かられて喰われているスナイパーの警察官の姿があった。

 

 

「こっちに夢中で後ろに気づかなかったのか。・・・気をつけないと、半狂乱になった人にも襲われるかもしれないな」

 

 

 この状況下でゾンビだけではなく、人間すら敵に回る可能性を改めて見せつけられたのび太はため息を吐きながらも由良里を迎えに行くために元来た道を戻っていった。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(18発)、ベレッタM92(0発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン2つ(40発)。

防具・・・無し。


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追跡者

◇西暦2013年 12月22日 昼 天候・雪 警察署前

 

 狂った警察官スナイパーによる狙撃を潜り抜けた後、由良里と合流したのび太は再びあの道を通り、遂に目的地であった警察署へと辿り着いた。

 

 

「ここがこの街の警察署です」

 

 

「そっか。改めて言うけど、ここまで案内してくれてありがとう」

 

 

「いえ。・・・それにしても、分かっていたことですが、全く人気が有りませんね」

 

 

 由良里はそう言いながら、人気が全く感じられない警察署を見つめる。

 

 普通、警察官が警察署に全く居ないという状況はまず有り得ないが、この状況下では警察官が全滅するか、あるいは生き残った警察官達が警察署を放棄するという行動を取ればあり得てしまうのだ。

 

 そして、今回の場合、咲夜の話やこれまでのび太が見てきた警察官達の様子から見るに、前者の可能性の方が圧倒的に高い。

 

 

「・・・この分だと、やっぱり警官隊は全滅か、それに近い状態になっているんだろうね」

 

 

「考えなくなかった可能性の1つが現実味を的中してしまった訳ですか。こうなると、街の外からの警官隊による救援も期待できなさそうですね」

 

 

 曲がりなりにも街の警察署が僅か1日足らずでこうなってしまっているのだ。

 

 街の外の警官隊がこの事をどれだけ把握しているのかは知らないが、全く応答がないとなると、慎重な判断を下さざるを得ないだろうし、下手をすればススキヶ原の一件の事も合わさって出てこない可能性すらある。

 

 

「そうだね。となると、あと頼りになるのは自衛隊ぐらいか」

 

 

「ええ。流石に自衛隊ならば、連絡さえ取れれば救援に来てくれるでしょう」

 

 

 自衛隊は他の先進国の軍隊と比べると、法律や小火器類(特に小銃や機関銃)や軍用ヘリの旧式化などの問題を抱えているが、腐ってもアサルトライフルなどの装備が標準化された強力な武装集団であり、警官隊の武力など比較にすらならない。

 

 勿論、災害救助や治安出動といった何らかの理由で出動していることが前提ではあるが、逆に言えば出動さえしていれば、連絡を取って救援部隊を出してもらうことも十分に期待できる。

 

 

「その為には無線や電話をまず調達しなくちゃね。早速中に入ってみよう」

 

 

「分かりました」

 

 

 2人はそう言いながら、警察署の中へと入ろうと足を進める。

 

 だが──

 

 

 

 

 

グルルルルル

 

 

 

 

 

 その背後から聞こえてきた唸り声に足を止め、咄嗟に背後を振り向く。

 

 すると──

 

 

「「!?」」

 

 

 2人はそこに居た存在の姿に驚き、目を大きく見開いた。

 

 何故なら、そこに居たのは、まるでギリシャ神話に出てくるケルベロスのように首が3つ存在する(・・・・・・・・)犬の化け物であったからだ。

 

 そして、直感的にその生物──ティンダロスが味方ではないと判断したのび太は、すぐさまホルスターからFN ファイブ・セブンを引き抜いて発砲する。

 

 

「喰らえ!」

 

 

 

ガチャっ、ドォン!

 

 

 

 のび太の十八番であるクイック・ドロウ(早撃ち)による発砲。

 

 雪花隊の結成後、のび太もまた島田が調達してくれた武器と弾薬を使って射撃訓練を何度か行っていた。

 

 もっとも、元々の出来が良すぎたせいで大して腕は上がらず、精々早撃ちの速度が0、1から0、08に上がった程度であったが、それでも大冒険時代よりも更に磨き上げられたその早撃ちによる必殺の一撃は、防ぐことはともかく、かわすことは相手の視線と銃口の向きで弾道を予測することが出来るような超一流の戦士ですら不可能に近い。

 

 ましてや、今回の場合は化け物との距離は10メートルもなく、銃を引き抜いてから弾丸が目標に到達するまでの時間は1秒にも満たないのだから尚更だった。

 

 だが──

 

 

 

 

 

ヒュン

 

 

 

 

 

 ──そののび太自慢の一撃は、ティンダロスにあっさりとかわされてしまった。

 

 

(なに!?)

 

 

 自慢の早撃ちをかわされたことが信じられず、のび太は大きく動揺するが、そんな彼の心情に構うことなく、ティンダロスはお返しと言わんばかりにのび太に攻撃を仕掛けてきた。

 

 

(不味い!!)

 

 

 そのティンダロスの動きはまるで瞬間移動のように早く、のび太の目では全く捉えることが出来ていなかったが、背中にゾクッとした感覚を覚えたのび太は咄嗟にバックステップを取り、ティンダロスを一撃をどうにかかわすことに成功する。

 

 そして、攻撃をかわされたティンダロスは一撃で仕留められなかったことに警戒したのか、追撃をすることなく、一旦のび太から距離を取った。

 

 

(危なかった・・・)

 

 

 のび太は戦闘中であるにも関わらず、盛大な冷や汗を流す。

 

 先程、ティンダロスの一撃をかわしたのは殆ど偶然で、これまでの大冒険やバイオハザードで鍛えられた戦闘本能が回避を選択させたにすぎない。

 

 それ故にのび太は自分の悪運の強さに安堵すると共に、同時に今の一撃に当たった自分を想像してゾッとしてしまう。

 

 だが、かわしたのは事実。

 

 結果的になんのダメージを負うこともなかったのび太は徐々に冷静さを取り戻し、ティンダロスに銃弾をかわされて動揺したことで狭くなった視野が再び広くなっていく。

 

 すると、まだ近くに居る由良里の存在に気づいた。

 

 

「由良里!急いで警察署の中に入って!!こいつは僕がなんとかする!」

 

 

「わ、分かりました!」

 

 

 そう言うと、由良里はすぐに警察署の中へと駆け込んでいく。

 

 その間、ティンダロスが由良里を背後から攻撃しないか警戒していたのび太だったが、幸いにもティンダロスは由良里に興味を示すことなく、由良里が逃げている間ものび太の方に視線を集中させていた。

 

 

(こいつはヤバい。というか、銃弾をかわす奴なんて初めて見たぞ)

 

 

 のび太はそう思いながら、冷静にこの怪物(ティンダロス)とどう戦うかを考える。

 

 実のところ、弾丸を回避する存在と対峙するのはこれが初めてだった。

 

 今までの敵は相手が人間であれ異形の存在であれ、のび太の射撃を回避できる者は全く居なかったのだ。

 

 

(いや、迷うな。取り敢えず、戦いながら考えよう。何か回避にパターンがある筈だ)

 

 

 そう考え、のび太は構えていた銃の引き金を引こうとするが、それよりも一足早く、ティンダロスが再びのび太に攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

グオゥゥゥウウ

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

ドォン!ドォン!ドォン!

 

 

 

 ティンダロスの攻撃は突然であったが、のび太は驚きながらも反撃し、3発の銃弾を発射する。

 

 流石にこちらに飛び掛かっている時には回避することが出来ないらしく、最初に発射された弾丸は吸い込まれるようにティンダロスへと命中するが、残り2発の弾丸はその驚異的な反射神経を用いてかわされてしまう。

 

 ──だが、当たらないと思っていた弾丸が命中したことに、のび太は確かな手応えを感じていた。

 

 

(行ける!なるほど、こっちに飛び掛かってきた時は回避できないんだ。なら、上手くタイミングを合わせれば・・・)

 

 

 そう思ったのび太だったが、ティンダロスも先程銃弾が当たったことで警戒しているのか、睨み付けるだけで飛び掛かってくる様子はない。

 

 そのまま膠着状態に陥るかと思われた両者だったが、のび太の視界にあるものが入ったことで、それはあっという間に幕を閉じる。

 

 

(あれは・・・大丈夫かな?)

 

 

 ほんの一瞬だけ迷ったのび太だったが、他に打開策はないと、すぐにファイブ・セブンの銃弾を2発程発砲する。

 

 その発砲された弾丸をティンダロスは回避しなかった。

 

 当然だろう。

 

 回避する必要すらなく、その銃弾は外れたのだから。

 

 ──だが、同時にその行為がティンダロスにとって命取りとなった。

 

 何故なら、その外れた弾丸の到達先はティンダロスの後ろにあったパトカーの後部のガソリンタンクであったからだ。

 

 そして、ガソリンタンクに銃弾が到達するまでの過程で起きた摩擦によって極僅かではあったが火花が飛び散り、その火花にガソリンが引火し──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッゴオオオオオオオン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──大爆発を引き起こした。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(12発)、ベレッタM92(0発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン2つ(40発)。

防具・・・無し。


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警察署内の攻防

◇西暦2013年 12月22日 夕方 天候・雪 警察署 正面玄関

 

 

「あっ、のび太君。無事でしたか」

 

 

 由良里は警察署の入口から入ってきた存在を見てホッとした。

 

 先程、駐車場で大爆発が起きたことで、もしかしたらのび太がやられたのではないかと不安に思っていたからだ。

 

 

「うん、大丈夫。なんとか無事だったよ」

 

 

「良かったです。それで、あの犬は?」

 

 

「たぶん、やっつけたと思う。仮に生きていたとしても、あれほどの爆風を至近距離で浴びたんだから、簡単には復活できないよ。それより、早いとこ武器や無線を探そう。あれだけ派手にやったから、ゾンビが寄ってくる可能性がある」

 

 

「はい」

 

 

 のび太の言葉に由良里は頷き、2人は警察署内の探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇1時間後 武器庫

 

 

「う~ん。思ったより、武器が少ないな」

 

 

 夜も間近に迫っていた頃、署内に居たゾンビを掃討しながら、のび太は由良里と共に探索を行い、武器庫を発見していた。

 

 本来なら、開けるには専用の鍵が必要な部屋だったのだが、不用心にも鍵を掛け忘れたのか、武器庫には鍵が掛かっておらず、2人は簡単に武器庫へ入ることが出来たのだ。

 

 しかし、この異常事態で武器が大量に持ち出された影響か、武器庫には武器が殆ど残っておらず、ベネリM3・ショットガンとベレッタM92Fが1つずつとそれぞれの弾薬とマガジンが幾つかある程度だった。

 

 

「由良里。君は拳銃とか使える?」

 

 

「使えるわけないでしょう。私はこう見えてもか弱い女の子ですよ?」

 

 

「・・・」

 

 

 自分でか弱いとか言っちゃうのか。

 

 のび太はそう思ったが、口には出さず、黙々と弾丸が空になっていたベレッタM92のマガジンを交換し、由良里へと差し出す。

 

 

「はい、これ。一応、護身用に持っておいて。由良里ならたぶん大丈夫だと思うから」

 

 

 日向穂島ではプラーガに寄生された夏音に銃を渡して、その渡した銃で銃撃された経験があるのび太だったが、今回の場合、由良里はプラーガに寄生されているわけではなかったし、先程のティンダロスとの戦いのように彼女に注意を払っていられないような状況がこれからも続く可能性は非常に高かったので、のび太は自分が持っていた銃を護身用に渡すことにしたのだ。

 

 

「・・・分かりました。一応、持っておきます」

 

 

 そう言うと、由良里は渋々ながらのび太が差し出した拳銃を受け取る。

 

 そして、のび太は武器庫に残っていたベネリM3とベレッタM92Fを装着し、次にマガジンや弾薬を拾う。

 

 

「さて、一先ず武器は手に入ったけど、これだけじゃ心許ないな。他に武器が調達できる場所はないかな?」

 

 

 そんなものは早々あるものではないと思いながらもそう呟くのび太だったが、その言葉を耳にした由良里はあることを思い出す。

 

 

「・・・もしかしたら、有るかもしれませんよ?」

 

 

「えっ?なにが?」

 

 

「だから、武器です。確か警察署とかには銃刀法違反などで押収された武器が証拠品として集められている筈です」

 

 

「ああ!そう言えば、そうだった」

 

 

 由良里の言葉に、のび太は納得したようにそう言った。

 

 そう、警察署などにはその警察署の署員が使用する銃器の他にも、銃刀法違反などで押収された証拠品が保管されている。

 

 もっとも、こちらの方もこの非常事態ゆえに持ち出されているかもしれないが、確かめてみる価値は十分にあると言えた。

 

 

「ありがとう、由良里。じゃあ、早速行ってみよう」

 

 

 そう言ってのび太は武器庫を出ていこうとする。

 

 だが、その時──

 

 

 

 

 

パリン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グルルルルル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明らかにこの近くから響き渡るガラスの割れる音。

 

 ──そして、それに続く聞き覚えのある唸り声に、のび太は顔を強張らせる。

 

 

「・・・今のはもしかして」

 

 

「うん。たぶんあの犬だ。まさか、こんな早くにやって来るなんて」

 

 

 のび太は表面上でこそ冷静であったが、内心ではかなり驚いていた。

 

 まさかこのような短期間で再び襲ってくるとは思っていなかったからだ。

 

 あるいは別の個体かとも考えたが、どちらにしても何か手を打つ必要があるとのび太は考えていた。

 

 

(さっきと違ってショットガンもあるし、ここは室内だ。流石にあの犬も回避することは出来ないだろう。・・・でも、それはこっちも同じか)

 

 

 良くも悪くも室内という場所は動きに制限が掛かる。

 

 となると、この場で選ぶべき戦い方は(のび太はその単語を知らないが)見敵必殺(サーチ&デストロイ)ただ1つであり、会敵したその瞬間にショットガンを当てることが出来れば、敵を撃破、最低でも撃退することは出来るかもしれない。

 

 のび太はそう考えつつ、由良里にこんな指示を出した。

 

 

「由良里。僕が出たらこの部屋の扉を閉めて鍵を掛けてくれ」

 

 

「えっ?でも、そんなことしたら・・・」

 

 

「大丈夫。なんとか撃退して見せるよ。あの犬が居なくなったら2回ノックをするから、それで開けてくれ」

 

 

「・・・分かりました。2回ですね」

 

 

 一瞬、自分も迎撃に出ようかとのび太に提案をしようとした由良里だったが、拳銃の扱いに全く慣れていない以上、足手まといになってしまうと判断し、のび太の言うことに従うことにした。

 

 

「うん、そうだよ。じゃあ、行ってくる」

 

 

 のび太はそう言って扉から出ていく。

 

 ──だが、出ていった直後、扉のすぐ近くまでやって来ていたティンダロスと遭遇してしまう。

 

 

「!?」

 

 

 まさか、出ていった直後、それも5メートルという至近距離で出くわすとは思っておらず、のび太は思わず体を膠着させてしまう。

 

 しかし、予期せぬ事態で体が膠着してしまったのび太とは違い、ティンダロスの方はこの事を予期してある程度の精神的余裕があったのか、のび太と目が合うや否や、すぐさまのび太に向かって飛び掛かった。

 

 

「ぐっ!」

 

 

 その行動に我に返ったのび太は迎撃が間に合わないと判断し、すぐさまバックステップを取った。

 

 ──ここでのび太に幸運なことと不運なことがそれぞれ1つずつ起きる。

 

 幸運だったのは、武器庫の扉がまだ開いていて、のび太はそこに後ろから飛び込む形となり、『下がった先が行き止まり』という状況を避けることが出来たこと。

 

 そして、不運だったのは、のび太が部屋に飛び込んだタイミングで扉を閉めようとしていた由良里とぶつかり、共に倒れ込んでしまったことだった。

 

 

「うわっ」

 

 

「きゃっ」

 

 

 のび太は背中に伝わる衝撃に、由良里は倒れ込んだ痛みにそれぞれ悲鳴を上げた。

 

 だが、敵が尚もすぐそこに居るのを見たのび太は、すぐに態勢を建て直し、ファイブ・セブンをティンダロスに向けて発砲。

 

 その銃弾はかわされてしまうが、発砲したのび太本人の狙いは部屋の出入り口から遠ざけるための牽制であり、ティンダロスが一旦視界から抜けたのを見たのび太は一旦態勢を整えるためにも武器庫に立て籠ろうと、扉を閉めようとする。

 

 しかし、その直前でティンダロスが自らの足を扉と壁の間に挟み込み、扉を閉められない状態にしてしまった。

 

 

「不味い!!」

 

 

 それを見たのび太は焦りながらも、なんとか扉を閉めようと力任せに扉のドアノブを引くが、ティンダロスの方も足を引っ込める様子はなく、尚も武器庫へと入ろうとしてくる。

 

 ──そして、そんな両者の攻防の幕を降ろしたのは、先程、のび太の下敷きになる形で倒れてしまった由良里だった。

 

 

「この!!」

 

 

 

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 

 

 

 由良里はそう叫びながら、既に彼女の手によって安全装置が外されたベレッタM92をティンダロスに向けて発砲。

 

 本来の状態なら避けられたティンダロスだったが、流石に足を差し込んで位置を固定された状態ではかわすことなど出来ず、立て続けに放たれた5発の銃弾は至近距離から撃たれたこともあって、その全てがティンダロスへと命中する。

 

 

 

ギュルルルル

 

 

 

 これには堪らず、ティンダロスは挟み込んでいた足をすぐさま引っ込めると、のび太達から逃げていき、そのまま窓ガラスを割って警察署の外へと去っていった。

 

 

「・・・ふぅ。どうやら逃げていったみたいだね」

 

 

 窓ガラスが割れる音によってティンダロスが警察署の外へと逃げたと判断したのび太はそう言って戦闘態勢を解く。

 

 

「ありがとう、由良里。助かったよ。それとさっきぶつかっちゃって、ごめん」

 

 

「い、いえ」

 

 

「でも、あいつが入ってきたとなると、ここも安全とは言えないな。武器を探したかったけど、それは止めてすぐに警察署を出て倉庫のみんなと合流しよう。無線とかも無いみたいだし」

 

 

「・・・」

 

 

「由良里?」

 

 

「あっ、すいません。ちょっと腰が抜けちゃって」

 

 

 由良里は何処か緊張した様子でそう言った。

 

 どうやら初めて拳銃を撃ち、ほんの一瞬とはいえ戦闘に参加したことに動揺しているらしい。

 

 

(・・・そう言えば、僕が初めて本物の拳銃を撃った時もこんな感じだったが。少し配慮が足りなかったかも)

 

 

 思い出してみれば、のび太が西部の時代(19世紀のアメリカ)に行って初めて本物の拳銃を撃った時も、人を殺す威力を秘めた武器であることを改めて実感させられて気絶したことがある。

 

 それほど平和な空間で育った人間にとって“銃を撃つ”という事実は重いのだ。

 

 ましてや、撃った人間は女の子。

 

 気絶までした自分と比べればマシとはいえ、そんな人間に簡単に銃を渡したのは少し迂闊だったかもしれないとのび太は反省していた。

 

 ・・・もっとも、そのお蔭で助かったのは事実なので、後悔まではしていなかったが。

 

 

「そっか。じゃあ、掴まって」

 

 

 女の子座りをしたまま立ち上がる様子のない由良里に、のび太は手を差し出す。

 

 本当は精神的に回復するまで休ませてあげたかったが、あの犬がいつまた襲ってくるか分からない以上、それは危険だとのび太は判断したのだ。

 

 そして、そんなのび太の意図を察したのか、由良里は彼の手を掴みながら立ち上がる。

 

 

「すいません。迷惑を掛けちゃって」

 

 

「いや、大丈夫だよ。これくらい」

 

 

「では、行きましょうか」

 

 

 2人はそう言って、武器庫を出ていった。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(5発)、ベレッタM92F(15発)、ベネリM3(7発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン2つ(40発)、ベレッタ15発マガジン2つ(30発)、12ゲージ弾8発。

防具・・・無し。


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絶望と決意

◇西暦2013年 12月22日 夜 天候・雪 東京 R市 廃棄倉庫近辺

 

 

「すっかり遅くなっちゃったけど、ようやく倉庫に着けそうだね」

 

 

 警察署を出て数時間。

 

 ティンダロスの再度の襲撃を警戒して慎重に行動したのび太達だったが、結局、ティンダロスの襲撃は無いまま、行きの倍近い時間を掛けて倉庫の近くへと到着していた。

 

 

「そうですね。今は8時ちょっと前。倉庫を出たのが1時ちょっと前くらいなので、あれからだいたい7時間くらい経っています」

 

 

 由良里は腕時計に標された時間を確認しながらそう言った。

 

 

「・・・みんなガッカリするだろうな。これだけの時間を掛けて結果的になんの収穫も無かったんだから」

 

 

「それは・・・否定することは出来ませんが、命あっての物種です。それに近くにあったスーパーから少量ではありますが、食料や医薬品は持ってこれました。今はこれだけで満足して貰うしかありません」

 

 

「それはそうなんだけどね・・・」

 

 

 のび太も由良里の言っていることが正しいということは分かっていた。

 

 そもそものび太達は命懸けで警察署まで行ってきたのだ。

 

 倉庫に引きこもっていただけの人間にとやかく言われる筋合いはない。

 

 が、こんな状況下では誰もが皆、そんな理屈を弁えてくれる訳ではないということはのび太も分かっており、それ故にのび太は倉庫に帰った後に“面倒事”が起きることを危惧していた。

 

 

(こんな状況でもし仲間割れなんか起きたら、厄介なんて話じゃ済まなくなるぞ)

 

 

 ただでさえ大の大人が我儘を言って倉庫の一室に引きこもっている状況なのだ。

 

 そんな状況で一度仲間割れが起きれば、とんでもないことになる可能性は非常に高い。

 

 ──もっとも、現状では倉庫に戻る以外の選択肢がないという事もまた確かだったのだが。

 

 

(・・・まあ、なるようになるしかないか)

 

 

 のび太はそう思いながら、由良里と共に廃棄倉庫までの道程を歩いていく。

 

 ──だが、いよいよ倉庫の出入り口が間近へと迫ったその時、のび太達はその顔色を一気に変えることとなる。

 

 

「のび太君。この子ってもしかして・・・」

 

 

 そこに在ったのは、壁にもたれ掛かるようにして倒れている女子学生の姿。

 

 流れている血の量と怪我の数からして死んでいるのは明らかであったが、最大の問題はそこではなかった。

 

 

「・・・うん。間違いない。この子、倉庫に居た女子学生だ」

 

 

 そう、その女子学生は昼間に倉庫で見かけた避難民の一人だった。

 

 更に出入り口の方を改めて見てみれば、そこには開けっぱなしの扉がある。

 

 このゾンビや化け物がうようよしている状況下では、まともな思考さえ出来ていれば、出入り口の扉を開けっぱなしにするという自殺行為をする事はまずあり得ない。

 

 そして、外に倒れて死んでいる女子学生の遺体。

 

 これらの要素は、のび太の脳裏に最悪の可能性を過らせるには十分だった。

 

 

「・・・取り敢えず、倉庫の中に入ってみる。由良里は──」

 

 

「私も中に入ります。・・・せめて、状況を確認しないといけませんから」

 

 

「・・・分かった」

 

 

 その発言からして、どうやら由良里は倉庫の中で最悪の事態が起きていることを覚悟しているようだ。

 

 それに倉庫の中がもしアレ・・な状態となっていれば、中も外も大して危険度は変わらない。

 

 そう判断したのび太は由良里の言葉を了承し、持っている銃を構えるように促しながら、倉庫の出入り口右側の壁に寄り掛かる。

 

 

 

グチャ、グチャ

 

 

 

(・・・咀嚼音。どうやら最悪の可能性は当たっちゃったみたいだ)

 

 

 のび太はそう思いながら、由良里が自分の側に居てくれたことに心底感謝した。

 

 町中にゾンビが蔓延っていることに加え、錯乱した人間に狙撃された上に変な犬には追いかけ回され、挙げ句の果てには帰る場所である倉庫ですら壊滅。

 

 仮にこの場に居るのが自分1人だけであったならば、きっと錯乱していただろう。

 

 

(こうして考えると、由良里が側に着いてきてくれたのは今日一番の幸運だったのかもしれないな。なら、絶対に失うようなことは避けないと)

 

 

 その為にも、まず自分が最初に突入してゾンビを掃討しなければならない。

 

 そうすれば、由良里の安全はひとまず確保されるし、あわよくば部屋に引き籠って生きているかもしれない人間を助けられる。

 

 のび太はそう考えながら、ベレッタM92Fをホルスターから引き抜く。

 

 

「じゃあ、僕が中に入るから、由良里は外からゾンビが入ってこないように外で出入り口を守ってて。何かあったら、大声で呼んでね」

 

 

「分かりました」

 

 

 由良里がそう答えた直後、のび太は一回だけ深呼吸をする。

 

 そして、改めて意を決すると、部屋の中へと突入し、ゾンビの掃討を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇8分後

 

 

「・・・ここもダメだったか」

 

 

 倉庫内に居たゾンビを全て倒し終えたのび太は、そう言いながら銃をホルスターへと仕舞う。

 

 のび太が倉庫内に突入してから10分弱。

 

 あの中年の男が引きこもっていた部屋を含めて倉庫内の全ての部屋を捜索したものの、結局、生存者は見当たらず、のび太の行動は徒労に近い形で終わってしまったが、同時に全く収穫が無かったという訳では無かった。

 

 

(さっき倒したゾンビと遺体の中にあの警察官と咲夜さんの姿は無かった。という事は、あの二人は逃げたのか?)

 

 

 倉庫内に居たゾンビや遺体の中にあの警察官──久下と咲夜の姿が無かった事実を、のび太はそう推察する。

 

 もちろん、こんな状況下なのですぐに出ていく予定だった咲夜はともかく、立場上この場を離れられない筈の久下がゾンビとなって外に出た可能性は存在するが、それでもこの倉庫内に居なかったという事は、この場から逃げて何処かで生きている可能性は少なからずあるとのび太は踏んでいた。

 

 

「・・・でも、探している余裕は今の僕達にはない。生きていることを祈るしかないな」

 

 

 そう言いつつも、のび太は今後の方針を話し合うために外で待っている由良里を中に入れようと声を掛けようとする。

 

 だが、その直前──

 

 

 

ドン!ドン!

 

 

 

「きゃあ!!」

 

 

「なんだ!?」

 

 

 轟く銃声と女の子の悲鳴。

 

 誰が何処で撃ったのか、それが誰の悲鳴なのかは考えるまでもなく、のび太は慌てた様子で倉庫の外に出る。

 

 すると、そこには警察署で遭遇して以来、しつこくのび太達を追い回す三本の首の犬──ティンダロス、そして、血を流しながら倒れ伏している川瀬由良里の姿があった。

 

 

「由良里!? お前!!」

 

 

 由良里の惨状に激昂したのび太は両腰のホルスターに仕舞われていたベレッタM92FとFN ファイブ・セブンを両手で引き抜き、二丁拳銃状態でティンダロスに向けて発砲する。

 

 二丁の銃からほぼ同時に放たれた2発の銃弾を交わそうとするティンダロスだったが、二丁拳銃で射撃範囲が広かったせいか、完全にかわしきる事は出来ず、ベレッタM92Fの9×19ミリパラベラム弾がティンダロス右前足をかすった。

 

 しかし、直撃したわけではなかった為か、戦闘に然して支障はなく、お返しとばかりにのび太に向けて襲い掛かってくる。

 

 

「くっ!」

 

 

 のび太は地面を転がってギリギリのところでその攻撃をかわしつつ、咄嗟に左手に持っていたファイブ・セブンをティンダロスに向けて2発発砲する。

 

 偶々死角の位置から発砲した為にティンダロスは反応が遅れ、2発の5、7×28ミリ弾がティンダロスの脇腹を直撃。

 

 全ての拳銃の中で一番貫通力の高いファイブ・セブンの銃弾はティンダロスの体を貫通することは無かったものの、それでも相応のダメージにはなったらしく、あまりのダメージに怯んだティンダロスはその場から逃げていく。

 

 そして、それを確認したのび太は銃をホルスターへと仕舞うと、すぐさま由良里の安否を確認する。

 

 

「・・・脈はある。取り敢えず、生きてはいるみたいだ。・・・傷も致命傷という程深くはない」

 

 

 座学で夏音から教わった応急医療知識を基に、由良里の脈と怪我の具合を確認したのび太は一先ずそう安心するが、すぐに顔を引き締める。

 

 確かに致命傷という程の深傷は負っていないが、大怪我には違いないわけだったし、そもそも自分では本当に簡単な応急治療しか出来ず、根本的に彼女を助けるためには医療関係者と接触する必要があると思ったからだ。

 

 もっとも、この状況下では医療関係者に出会える可能性は低いし、それ以前に医療関係者が生きているかどうかも怪しかった訳なのだが、それでものび太の頭には彼女を助けることを諦めるという選択肢は微塵も存在しなかった。

 

 

「・・・僕が絶対に何とかして見せる」

 

 

 バイオハザード下の町の雪空の下、のび太はそんな強い決意を宿した言葉を呟いた。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(3発)、ベレッタM92F(3発)、ベネリM3(7発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン2つ(40発)、ベレッタ15発マガジン2つ(30発)、12ゲージ弾8発。

防具・・・無し。


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自衛隊

◇西暦2013年 12月22日 夜 天候・雪 日本 東京 R市

 

 

「くそっ。これはかなり不味いな」

 

 

 由良里を背負いながら慎重に町中を進むのび太は、一時間経っても医療関係者どころか、生存者すら見つけられない現状に焦りの色を浮かべていた。

 

 一応、廃棄倉庫にあった簡単な医療道具を使って傷口は手当てしたし、出血も今は止まっている。

 

 だが、このまま放置しておくと不味いことは医療に関しては本当に初心者なのび太でも分かってしまうために、早めに医療関係者か、その知識がある者を見つけて手当てして欲しかったのだが、由良里をおぶさっている関係上、どうしても動きが鈍くなっていたし、医療関係者そのものが何処に居るのか検討もつかない状態だ。

 

 おまけにそもそものび太はこの街の地理に明るくなく、闇雲に歩いた為にいまR市のどの辺りに居るのかも分からないという有り様だった。

 

 幸いだったのは、あの犬がまた襲ってくる様子がなかったこと、そして、途中で死体となって倒れていた兵隊らしき男から貴重なファイブ・セブンのマガジンを調達できたことだが、それでは根本的な問題の解決にはなっていない。

 

 

「・・・いっそ、由良里を何処か安全な場所に置いて僕だけで探しに行くか?・・・いや、駄目だ。そんな時間はない」

 

 

 こんな状況下、しかもススキヶ原のような勝手知ったる町という訳でもないのに、安全な場所を探すというのは結構骨なのは、のび太もよく知っている。

 

 実際、日向穂島の時も安全な場所を見つけるのには苦労したし、この町でバイオハザードが発生してから曲がりなりにもあの廃棄倉庫に立て籠れたのはR市の住民がそこに逃げようとしていたところについていったからで、のび太が自力で見つけ出した訳ではない。

 

 まあ、のび太が背負っている由良里はR市の住民だが、いま意識を失っている彼女に『この辺りで安全な場所は何処?』などと聞くわけにもいかないので、もし彼女を安全な場所に置いていくとしたら、まずのび太が自力でその安全そうな場所を探し出さなければならないのだ。

 

 だが、地の利のないのび太がそれをするとなると時間が掛かってしまう。

 

 今はそんな事をする時間すら惜しいのが現実である以上、のび太にその選択肢を選ぶことが出来よう筈もなかった。

 

 

「どうすれば良いんだ・・・」

 

 

 八方塞がりな現状にのび太は頭を抱えていたその時、1つのビルが目に入った。

 

 

「・・・少し休んで頭の中を整理するか。このままじゃ無駄に時間を浪費するだけだ」 

 

 

 のび太はそう考え、暫しの休息を取るためにビルの中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、凄い熱気だ。そうか、だから防火シャッターが閉まってたのか」

 

 

 ビルに入った後、一階では安心できないと2階に上がろうとしたのび太だったが、2階に続く階段は防火シャッターで遮蔽されており、仕方なく銃を使って無理矢理抉じ開けた。

 

 ──そして、これは後に本人も自覚したことであったが、この時ののび太は明らかに冷静さを失っていたと言えるだろう。

 

 何故なら、もし冷静だったのならば防火シャッターが降りている時点で火事か何かが起きているかもしれないということに思い至っていただろうし、そもそも外に居た時点でビルの2階辺りから黒煙が立ち上っていたことに気づいた筈だ。

 

 

「・・・開けてしまったものは仕方ないか。取り敢えず、行ってみよう」

 

 

 ──もっと言うなら、上の階で火事が起きていると分かった時点で、階段を上って上の階に行こうなどとは考えなかっただろう。

 

 だが、のび太本人、そして、彼に背負われる由良里にとっては不幸なことに、この時の彼はその行為が異常であるということを全く認識していなかった。

 

 まあ、この緊迫した状況下に加え、あの廃棄倉庫から由良里を背負ってきた肉体的・精神的疲労による思考力の低下などを考えれば、こうなるのも無理はなかったし、そもそも如何に大冒険を経験してこの五ヶ月間、特訓して体力を養ってきたとは言え、小学5年生の体で殆ど休みなしで半日以上この異常な状況下で動き続けて(それも途中から由良里という荷物を背負って)疲労が全く無いという方に無理がありすぎたのだ。

 

 不幸中の幸いだったのは、2階の火災がまだ大して広がっておらず、通路を通るのに支障はなかった事であり、そのお蔭でのび太は建物の3階まで上がることに成功していた。

 

 

(よし!ここまで来れば・・・あれ?)

 

 

 そこでのび太は自らの目がどんどんと霞んでいることに気づく。

 

 バイオハザードから起こってから動き続けてきた疲労により、遂に身体が体力的な限界を迎えてしまったのだ。

 

 

(こんな・・・ところ・・・で)

 

 

 意識を失って堪るか。

 

 そんな思いで必死に気力を振り絞ったものの、それを嘲笑うかのように体は言うことを聞かない。

 

 そして、意識が完全に暗転する直前、のび太は3階の通路の先にあった扉から斑模様の服を着た男が出てくるのを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇少し前 某ビル 3階

 

 

「ここもダメか・・・」

 

 

 陸上自衛隊中央即応連隊所属の榛名三佐(少佐)は、そう言って溜め息をつく。

 

 彼等の部隊は東京都知事からの災害救助要請を受けてこの町にやって来たのだが、待っていたのはこの地獄だった。

 

 本来なら、こういった災害救助の場合、今年になって全国各地での陸上自衛隊基地・駐屯地で編成が終了したばかりの初動対処部隊(ファスト・フォース)が事前に偵察活動を行う手筈になっている筈なのだが、不幸なことに榛名の上官である連隊長が無能であったことでこの初動対処部隊の特性を生かしきれないまま、連隊本隊はR市での一件にあたることになってしまったのだ。

 

 それは普通の災害ならば少々のミスで済ませられることであったかもしれないが、残念なことにこの状況下では致命的なミスであり、市内に突入した連隊本隊は保護した筈の市民から攻撃を受けて大打撃を受けることとなった。

 

 それでも壊滅まで追い込まれなかったのは、この中央即応連隊という部隊が攻撃性の高い部隊であり、自衛隊の部隊で一番射撃訓練を多く積んでいたこと、更には隊員の3割がレンジャー、あるいは空挺等の特殊資格を持つ精鋭の集まりだったからだろう。

 

 ちなみに榛名自身もレンジャー資格を持っており、こうした単独行動も問題なく行えている。

 

 もっとも、壊滅まで行かずとも(半ば無能な連隊長のせいで)半壊同然の被害を被っていたのは事実であり、その結果、榛名の部隊は散り散りとなって今年になって部隊に配属された新米の部下2人の安否しか確認できないような状況になっていたのだが。

 

 

「まさか、市民の救助どころか、自分達の撤退すらまともに出来んとはな。派遣された時は思いもしなかった」

 

 

 日本版レンジャー連隊が聞いて呆れる。

 

 榛名は出動前は到底思わなかったであろうことを呟きながら、このどうにも出来ない現実を前に無力感を感じていた。

 

 彼は現在北の駅の列車に居る部下2人とは違い、上官である連隊長を然程悪感情を抱いてはいない。

 

 確かにあの上官は榛名からしても有能とは言えなかったが、元々、中央即応連隊の人員は全て合わせても700人程しか居なかったので、幾ら精鋭部隊と言ってもたったこれだけの人員でこの地獄に対応しなければならないとなると、おそらく誰が指揮官であっても早かれ遅かれ同じような結果に終わったであろうからだ。

 

 

「っと。いかんいかん、今は脱出することに集中せんとな」

 

 

 勿論、途中で生存者を拾ったならば助けるつもりだ。

 

 だが、今のところ、全くと言っても良いほど生存者とは遭遇していないので、少なくともこの辺りにはもう生きている人間は居ないのかもしれない。

 

 榛名はそう思いながら、2階の火事が本格的に燃え広がらないうちに出ていこうと部屋の扉を開けた。

 

 すると──

 

 

「むっ」

 

 

 その先に居たのは金髪の女の子を背負った1人の少年の姿だった。

 

 足下がふらついており、意識が朦朧としているのは傍目にも分かる。

 

 

(生存者か。見たところ、小学生といったところか)

 

 

 そう思いながら、声を掛けようとした榛名だったが、その直前に少年が突然倒れたことで、慌てて駆け寄ることになった。

 

 

「おい!大丈夫か!!しっかりしろ!」

 

 

 そう声を掛けながら、榛名は2人の脈を確認する。

 

 

「・・・2人とも生きてはいるな。少年は少し休ませれば問題ないだろうが、少女の方は怪我が酷い。一刻も早く浪波に見せなければな」

 

 

 しかし、まずはこの建物の火災に巻き込まれないように一階に連れていかなければならない。

 

 

(2人が小学生くらいの子供で助かった)

 

 

 榛名はそう思いながら、片手で少女を背負い、もう片方の手で少年を脇に抱え、建物の階段を降りていった。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(18発)、ベレッタM92F(12発)、ベネリM3(7発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン3つ(60発)、ベレッタ15発マガジン1つ(15発)、12ゲージ弾8発。

防具・・・無し。


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北の駅へ

◇西暦2013年 12月22日 深夜 天候・雪 某ビル 一階

 

 

「・・・・・・・・・ん」

 

 

 このビルの3階で気絶してしまって数時間。

 

 のび太は遂に目を覚ました。

 

 

「ここは・・・」

 

 

 寝かされていたソファーから体を起こしながら、周りの様子を把握しようとするのび太だったが、見覚えのある場所であったことですぐに自分があの気絶したビルの一階に居ることに気づいた。

 

 

「確か気絶する直前に緑の服を着た人が見えて、それから・・・」

 

 

 その先は覚えていない。

 

 ということは、状況から考えるにその緑の服を着た人物が自分をここまで運んだのだろう。

 

 そこまで考えたところで、のび太は由良里の存在を思い出す。

 

 

「あっ、そうだ。由良里、由良里は何処だ!」

 

 

 まさか、あの緑の服の男に連れ去られたのか?

 

 のび太はそう思い、冷や汗を掻きながら焦りの色を浮かべ、慌ててソファーから立ち、彼女を探しに行こうとする。

 

 だが、その直前、1人の男がビルの中へと入ってきた。

 

 

「ッ!?」

 

 

「!?」

 

 

 その男を見て敵だと思ったのび太は、咄嗟に右のホルスターからベレッタM92Fを取り出し、男に向けて構える。

 

 一方、男の方もいきなり少年に銃を向けられて驚いた様子を見せたが、その少年が先程自身が保護した少年だと分かると、慌ててこう声を掛けた。

 

 

「ま、待て!撃つな!!怪物じゃない!!」

 

 

「えっ・・・」

 

 

「私は榛名三佐。自衛隊の災害救助派遣部隊だ!!君達を救助しに来た!!・・・と言っても、部隊は散り散りの上に死体が襲い掛かってきたせいで、今は部下2名しか安否が確認できない状態だがね」

 

 

 そこまで言われたところで、のび太はようやくその男が自衛隊の装備と制服をしていることに気づき、銃口を下へと向けた。

 

 

「じ、自衛隊の方ですか・・・助かった」

 

 

「部下が今、脱出のために近隣の駅で電車を動かそうとしている。君も一緒に来てくれ」

 

 

「・・・その前に1つ聞きますけど、このビルの3階から気絶した僕を運んできたのはあなたですか?」

 

 

「ん?ああ、そうだが」

 

 

「じゃあ、僕が背負っていた女の子はいったい何処に居るんですか?」

 

 

「あの金髪の子か。君と違って怪我が酷かったから、君をそこに寝かせた後に先程言った列車に居る部下の衛生隊員の下に連れていった。流石にこの状況で2人とも連れ出すのは少々無理があったから、悪いが君の方は後回しにさせて貰った」

 

 

「そうですか。なら、良かったです」

 

 

 のび太はベレッタM92Fの安全装置を着け、銃をホルスターへと仕舞いながらそう言った。

 

 自分を列車に連れていってくれなかったことを責める気はのび太にはない。

 

 むしろ、由良里を置いて自分を連れていったという展開にならなかっただけ良かったとすら思っている。

 

 そうなったら、おそらく悔やんでも悔やみきれず、自衛隊の人達を責めていたかもしれないからだ。

 

 

「ところで、話は戻りますけど、その列車というのは何処に有るんですか?」

 

 

「北の駅だ。・・・それと先程一緒に来てくれと言った手前、本当に申し訳ないが、私はしばらく生存者を探す。1人で辛いかもしれないが、自力で北の駅の列車まで行ってくれ。列車まで着けば、大鷹と浪波という2人の隊員が居るから、そいつらから何か聞かれたら榛名からここに来るように言われたと言ってくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

「・・・強い子供だな。気をつけていくんだぞ」

 

 

 榛名は無茶ぶりを言ったにも関わらず、即座に了承するのび太を見て感心しつつ、軽くそう忠告してビルの中から去っていった。

 

 

「・・・さて、北の駅だったな。そこに行けば、列車があるらしいから、それに乗れば脱出できるかも」

 

 

 R市の地理こそ詳しくないが、コンパスは一応持っているので方角くらいは分かる。

 

 このような状況下なので、走り出した列車が何処に向かうのかは分からないが、先程の榛名の口振りからするに、おそらく町の外へは繋がっているのだろう。

 

 そう考えたのび太だったが、そこであることに気づく。

 

 

「あれ?列車って確か車とは違った運転の仕方をしていた筈だけど、自衛隊の人に操縦できるのかな?」

 

 

 のび太の中での自衛隊員は車両やヘリを動かしているイメージはあっても、電車を動かしているイメージはない。

 

 それ故に自衛隊員に本当に電車を運転することができるのか疑問に思った。

 

 

「・・・まあ、いっか。取り敢えず、行ってみればなんとかなるでしょ」

 

 

 懸念はあったが、のび太は敢えて楽観的に考えることに決め、榛名に続く形でビルを出て北の駅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 某島

 

 のび太が北の駅へと向かい始めた頃、R市の現状をテレビで知った出木杉達は、安雄を除いた居残り組を召集して緊急会議を開いていた。

 

 

「・・・じ、じゃあ。出木杉君はのび太達を救助するべきじゃないって言うの?」

 

 

 スネオは動揺した様子で、出木杉に向かってそんな言葉を口にする。

 

 持ち込まれたテレビに映されたニュースによってR市でバイオハザードが発生していることを知った出木杉達だったが、意外なことにR市に居るのび太達を救助しようという意見は少なかった。

 

 その理由は──

 

 

「残念だけどね。そもそも僕たちは彼らがR市のどの辺りに居るのかも分からないんだ。既にバイオハザードが発生している現状では現地に行って闇雲に探索するって訳にもいかない」

 

 

 そう、出木杉達が憂慮していたのは、救助できる可能性の低さと二次被害だった。

 

 そもそもの話、出木杉達はのび太達の生死はおろか、R市のどの辺りに居るのかも把握していない。

 

 電話は繋がっていなかったし、無線機などはそもそも持たされてもいなかったからだ。

 

 そんな状況で探しに行くのは非常にリスクが高い。

 

 出木杉はそう判断していたのだ。

 

 

「それに何も完全に見捨てるって訳じゃない。何人かに町の周囲に向かって貰って情報は逐一収集するつもりだし、もしアンブレラに捕まっているようならこっちで救助も行う。ただ、町の中には入らないって言っているんだ」

 

 

「で、でも。それじゃあ、何時まで経っても安否が分からないんじゃ・・・」

 

 

「分かってる。だから、あらかじめ期限を設ける」

 

 

「期限?」

 

 

「そう。年末、つまり、12月31日までに安否が確認できない場合、僕たちは彼らを死亡したものと判断する」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 その出木杉の言葉には、彼の意見に賛成した者達も驚かされた。

 

 確かに自分達は二次被害を恐れて救助には反対したが、流石に出木杉がそこまで思い切った決断を下すとは思っていなかったからだ。

 

 

「みんなの言いたいことは分かるよ。僕だって彼らが無事であることを願ってる。でも、君達もバイオハザードを一度は経験しているから分かると思うけど、バイオハザード下で1週間以上生き残るのは不可能に近い」

 

 

 そう言われて、その場に居る出木杉以外の面々は自分達が経験したバイオハザードの記憶を頭に思い浮かべる。

 

 夏音は日向穂島、それ以外の面々はススキヶ原とそれぞれ場所の違いこそあったが、いずれにしても彼らがバイオハザードを経験した時間はほんの1日足らず。

 

 まあ、今は居ない太郎や久下はその倍以上の時間を経験しているが、それとて1週間は経っていないのだ。

 

 そして、彼らは知らないことだったが、正史やこの世界の歴史で伝説的な活躍を見せる事になるジル・バレンタインやレオン・S・ケネディなどもラクーンシティのバイオハザードで活動した時間は、前者は5日間(しかも、2日程眠っていたので、実質活動していたのは3日)、後者に至っては一晩とかなり短い。

 

 つまり、バイオハザード下で1週間以上生き残るのはプロどころか、超一流の戦士ですら不可能に近いのだ。

 

 それを考えれば、12月31日まで待つという彼の決断は十分に温情的だと言えただろう。

 

 

「この件に関しては僕が全面的に責任を取る。だから・・・今は我慢してくれ」

 

 

 出木杉はそう言って頭を下げる。

 

 彼とてこのような事をみんなに言うのは嫌だったのだ。

 

 しかし、もし下手に救助に行って彼らを助けることが出来ずに誰かが死に、その後に救助対象である彼らがひょっこり現れたとしたら、せっかく助かった彼らに余計な罪悪感を与えてしまう事になる。

 

 出木杉としてもそんな事になるのは御免であり、だからこそ、彼らが死んでいた場合は全面的に責任を取って自決でもなんでもするつもりだった。

 

 ・・・逆に言えば、彼は彼らが生きていることに己の命のチップを賭けたとも言えるのだ。

 

 ──そして、彼の決意の重さを感じ取った他の者達はそれ以上何も言うことが出来ず、R市に向かった面々の無事を祈りながら俯いていた。



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走らぬ電車

◇西暦2013年 12月22日 深夜 天候・雪 R市 

 

 榛名の言葉に従って北の駅に向かっていたのび太。

 

 だが、その駅に向かう途中、のび太は自らに執着した様子を見せるティンダロスと再び遭遇していた。

 

 

 

グルルルル

 

 

 

「またこいつか!」

 

 

 そのしつこさにげんなりしながらも、のび太はショットガン・ベネリM3を構えながら戦闘態勢を取る。

 

 一瞬、無視してそのまま駅に向かって逃げることも考えたのび太だったが、唯一の脱出手段であり、怪我した由良里も居るであろうその場所にこの犬を近づけるのは不味いと思い直し、むしろ、手持ちの弾薬の大半を費やしてでもこの犬をここで倒すことに決めた。

 

 

「くらえ!!」

 

 

 拳銃よりも大きい発砲音が響き渡り、発射された弾丸から9発の散弾がほぼ同時に前に向かって飛び散っていく。

 

 当然、その先に居たティンダロスにその弾丸が殺到するが、ティンダロスはそれを余裕をもってかわす。

 

 

「これもかわすのか・・・」

 

 

 この距離でのショットガンの銃撃は流石にかわせないだろうと思っていたのび太は自分の見積もりが甘かったことに内心で舌打ちしつつ、ポンプアクションを行い、2発目の弾丸を発砲する。

 

 これもかわされてしまったが、広範囲に飛び散る銃弾で攻撃されるという初めての経験に警戒したのか、ティンダロスはのび太から一旦距離を取った。

 

 それを見たのび太は再びポンプアクションを行って次弾装填を行いながら考える。

 

 

(拳銃どころか、ショットガンでも駄目か。やっぱり、こいつにまともに弾を当てるには避けるのが難しい室内じゃないとダメだな)

 

 

 ショットガンは複数の子弾を一定の範囲に散布するように発射することで、多少照準が荒くとも確実に相手を仕留めるといった主旨で作られた銃だ。

 

 まあ、複数の弾丸を一度に発射できる代償として長距離射撃には向かない(と言うか、出来ない)という欠点こそ出来てしまっていたが、それでもこのような10メートル以下の至近距離では絶大な効果を発揮する銃でもあった。

 

 ・・・逆に言えば、この銃でちゃんと撃っても当てられないということは、他の種類の銃では当てるのはもっと無理だということを意味している。

 

 

(少なくとも、ここじゃ仕留めるのは難しいか)

 

 

 とは言え、まだ何らかの怪我を負ったわけではない。

 

 仕留めるのは無理でも、倉庫の時のように撃退するくらいならば出来るだろう。

 

 そう考えながら、ティンダロスと睨み合うのび太であったが、その時、思わぬ乱入者が両者の近くへと現れる。

 

 

 

ヴァアアアアアア

 

 

 

「!?」

 

 

 その聞き覚えのある唸り声に驚いたのび太がチラリとそちらを見ると、そこには明らかに10体を越えているゾンビの群れが居た。

 

 

(! しまった。ショットガンの銃声を聞き付けてやって来たのか)

 

 

 どうやら先程撃ったショットガンの銃声がゾンビを誘き寄せてしまったらしい。

 

 本来なら、それでも問題なく倒すなり逃げるなりすることが出来たのだが、今は目の前にティンダロスが居る以上、どちらの選択肢も危険だ。

 

 いつの間にか絶対絶命となってしまったこの状況に、のび太は思わず冷や汗を流す。

 

 

「こうなったら、一か八かティンダロスにショットガンを・・・ん?」

 

 

 そこまで言い掛けたところで、のび太は目の前で発生した光景に驚いて言葉を止めざるを得なかった。

 

 何故なら、一か八かの賭けで素早く倒そうと思っていたティンダロスが急にその場から逃げていったからだ。

 

 

「なんだ?」

 

 

 その突然のティンダロスの奇行にのび太は困惑しながらも、武器をショットガンから拳銃に持ち換え、寄ってきたゾンビの掃討を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇10分後 駅構内

 

 ティンダロスがのび太の前から去って10分。

 

 ゾンビの掃討を完了させ、再び北の駅へと向かったのび太はティンダロスの再度の襲撃もないまま、榛名に指定された駅に泊まる電車の前までやって来ていた。

 

 

「これが榛名さんが言っていた電車かな?随分、小さいような気がするけど」

 

 

 のび太は電車を見てそんな感想を口にする。

 

 目の前の電車は見た感じ、二両編成。

 

 田舎ならともかく、R市という十分都会と言っても良いこの街で二両編成の電車というのは非常に珍しく、のび太がそう口にしてしまったのも無理はなかった。

 

 

「まあ、脱出できればそんなことは関係ないか。取り敢えず、中に入ろう」

 

 

 そう言いながら、のび太は列車の中へと入った。

 

 しかし──

 

 

 

ガチャッ、ガチャッ

 

 

 

 ──入った途端、2人の斑模様の服を着た男達が手に持つそれぞれのアサルトライフルの銃口がのび太に対して向けられた。

 

 

「・・・ふぅ。びっくりしたぁ」

 

 

「ゾンビ擬きじゃ無さそうだな・・・」

 

 

 ・・・どうやらゾンビと間違えただけらしく、のび太が人間と分かるとあっさりと銃を下ろした。

 

 

「大丈夫か坊主?怪我はないか?」

 

 

 2人の自衛官の内の1人──大鷹一士(一等兵)がそう問い掛けると、のび太は今しがた銃口を向けられた衝撃もあって、しどろもどろになりながらもこう答えた。

 

 

「は、はい。榛名という人からここに来いと言われたので・・・」

 

 

「おっ、三佐殿はまだ生きておられたか。一時間も連絡がないから死んだと思ったよ」

 

 

「帰ってきたら問題を伝えないとな・・・」

 

 

 もう1人の自衛官──浪波二士(二等兵)が発した“問題”という単語にのび太は反応して、こんな質問をする。

 

 

「問題?どうしたんですか?」

 

 

「子供に言ってもしょうがないが・・・まあ、いっか」

 

 

 渋々といった感じではあったが、大鷹はのび太に対して自分達が現在抱えている問題点を説明する。

 

 

「俺達は災害救助の要請を受けてこの街に派遣されたんだが、見ての通り災害というか暴動に近い状態だ」

 

 

 そう、彼らは都知事からの災害救助の要請を受けてこの街にやって来たのだが、実際に街に着いてみるとそこで起こっていたのは暴動に近い状態だった。

 

 通常、こういう場合は災害救助ではなく、治安出動といった形が取られるのだが、それが災害救助となっている時点で如何に都知事や国がR市の状況を把握していなかったかが分かるだろう。

 

 まあ、治安出動の場合、国会の承認が必要だったりと色々と法律上面倒なことが多いので、ぶっちゃけ災害派遣の方が自衛隊にとっては自由に動きやすいというのも事実だったのだが。

 

 

「分隊の仲間も行方不明になったり、食われちまったりで生き残っているのは多分、俺と二士と三佐殿だけだ。ひとまず連隊に戻って報告しないといけないのだが、ここは都市の中央で電話は断線しちまってる。・・・隊の通信士は真っ先に行方不明だ。そんな中、俺達はこの電車を見つけたというわけさ。こいつを使って街から脱出する」

 

 

「だけど、整備中放棄された車両のようで何個か必要な部品が足りないんだ」

 

 

 大鷹の説明を引き継ぐ形で、浪波はそう説明する。

 

 

「ここを離れるわけにはいかないし・・・」

 

 

「まあ、三佐殿が帰ってきたら報告するさ。坊主はここで休んでろ。あとは俺達が守ってやる」

 

 

「は、はぁ。ところで、話は変わりますけど、ここに金髪の女の子が運ばれている筈なんですが、彼女は今何処に?」

 

 

「金髪の女の子?ああ、あの三佐殿が連れてきた子か。・・・そう言えば、置いてきた子供が居るから迎えに行くと言っていたような気がするが、それはもしかして坊主のことか?」

 

 

「あっ、はい。多分、そうだと思います」

 

 

「あの子なら、手当てしてあそこの座席で寝かせてる」

 

 

 そう言って浪波が親指で指した座席を見てみると、そこにはあのビルの三階で自分が気絶するまで背負っていた筈の金髪の少女が居た。

 

 それを見たのび太が少女の傍に駆け寄って脈を確認すると、確かに少女が生きている証である『ドクン、ドクン』という鼓動がのび太へと伝わってくる。

 

 

「ああ・・・良かった」

 

 

 のび太は彼女が生きている姿を見るなり、安心して涙を流しながらその場に崩れ落ちた。

 

 何時、誰が死んでも可笑しくないこの状況では、由良里が生きているという事実はのび太にとってなによりも嬉しい朗報だったのだ。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(7発)、ベレッタM92F(8発)、ベネリM3(5発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン3つ(60発)、ベレッタ15発マガジン1つ(15発)、12ゲージ弾8発。

防具・・・無し。


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脱出するために

◇西暦2013年 12月22日 深夜 天候・雪 R市 電車内

 

 

「しかし、なんの因果か、リアルハンニバル状態だな。坊主の奴、よく生きてたなぁ」

 

 

「そう言えば、俺達の分隊にしつこく襲い掛かってきた化け物が居たな。こっちに来なきゃ良いけど・・・」

 

 

 2人の自衛官のそんな会話をする中、のび太は今後の事を考えていた。

 

 

(ここは自衛隊の人も居るから取り敢えず安全そうだけど、やっぱり電車が動かないというのは不味いよな)

 

 

 部品を集めれば動くらしいが、その部品とやらはおそらくこの駅の中には無いのだろう。

 

 有るのならば、当の昔に手に入れている筈なのだから。

 

 

(ということは、誰かが外に出て探しにいかなきゃならないってことか。・・・自衛隊の人達だけで大丈夫かな?)

 

 

 一応、装備こそのび太より遥かに整っているし、訓練をやっているだけあって体力も戦闘能力も有るのだろうが、部隊が散り散りとなってしまったところを見るに、あまりあてになるとは言い難い。

 

 まあ、それでも戦闘能力が無いどころか、震えるだけでしかなかった倉庫の人達よりはマシだったが、それでもあの犬(ティンダロス)に出会せばひとたまりもないだろう。

 

 

(・・・やっぱり、僕が出て探しに行くのが一番なんだろうな。由良里もこんな状態だし)

 

 

 そう思いながら、のび太は由良里の様子を見る。

 

 この電車以外に他に脱出のあてもない以上、気絶していて意識のない彼女をこの場から連れ出すという選択肢はない。

 

 しかし、そうなると動けない彼女を守るために誰かが残らなければならず、このままならば先程の自衛官の反応からして行くのは榛名となるだろうが、流石に榛名1人で集めるのは難しいだろうとのび太は思っていた。

 

 

(そうとなれば、早速行動しないとね)

 

 

 そう思い、のび太は装備している銃の状態とマガジンを軽く確認すると、浪波に対してこう声を掛ける。

 

 

「あの・・・この電車を動かすのに必要なものってなんですか?」

 

 

「ん?ああ、電力ケーブルの予備とヒューズ、それからマシンオイルだな。あとこのホームには電力が回ってきていないから、回線を操作してこっちに回す必要があるな」

 

 

「分かりました。じゃあ、行ってきます」

 

 

「は?」

 

 

「いやいやいや。ちょっと待て、坊主。お前、何するつもりだ?」

 

 

「僕が電車に必要な物を探してきます。今動けるのは僕だけみたいですし」

 

 

「いや、そんな頑張らなくて良いんだぞ。これは大人の仕事──」

 

 

「任せてください。これでも一度はこんな状況から生きて帰ったことがありますから」

 

 

 大鷹の言葉を遮るように、のび太ははっきりとそう言う。

 

 まあ、正確にはのび太はバイオハザードそのものは一度経験していても、都市でのバイオハザードは初めてだったのだが、そんなことを大鷹や浪波が知るよしも無かったし、そもそものび太もそれが問題点だとは思っていなかった為に、わざわざその点は言わなかった。

 

 

「? まあ、止める権限はないから・・・」

 

 

「助かるっちゃ助かるが・・・絶対に無茶するなよ!」

 

 

「はい!」

 

 

 大鷹の忠告に対して、のび太はそう答えながら電車を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇30分後

 

 電車から出発して30分が経過した頃、部品を探していたのび太はようやくそういったものが有りそうな車の整備などを行う店へと辿り着き、締まっていた防火シャッターを半ば無理矢理抉じ開けた。

 

 そして、中へと入ると、先に店へと入っていた榛名三佐と出会う。

 

 

「おお、君か。話は大鷹から聞かせて貰ったよ。民間人なのに協力させてしまってすまない」

 

 

 榛名はそう言ってのび太に軽く謝罪しつつ、この店に入ってからの自身の現状を説明し始める。

 

 

「生存者を探している最中に防火シャッターが誤作動を起こしてね。中から開けられそうになくて途方に暮れていたんだ。助かったよ」

 

 

「いえ」

 

 

 大したことはしていない。

 

 そう言おうとしたのび太だったが、その言葉は建物内に響き渡ったゾンビらしき存在の盛大な唸り声によって掻き消された。

 

 

「・・・探し物があるなら、私が警戒していよう。君はその間に用事を済ませるんだ」

 

 

 そう言うと、榛名はゾンビなどが入ってこられないように店の入り口へと立つ。

 

 のび太はそんな榛名に感謝すると共に、用事を済ませるべく店の中を物色し始めた。

 

 そして、それから数分ほど経ち、冷蔵庫に入っていた整備用オイルを回収した直後、入り口を警戒していた榛名がのび太に向かってこう叫んだ。

 

 

「坊主!!」

 

 

 その叫び声に反応して、何かあったのかとのび太は窓の外を見るが、そこには大量のゾンビがこの店に向かって押し寄せようとしている光景が存在した。

 

 

「気づかれたようだ!大勢、ここ目掛けて押し寄せてきている!!」

 

 

「お、追い払わないと!」

 

 

 かなり数が多かったが、倒さないことには店から出られない。

 

 そう判断したのび太は榛名と協力してゾンビを掃討しようとしたが、それに対して榛名はフッと笑うとこう言った。

 

 

「坊主。それは私の仕事だ」

 

 

「榛名三佐!」

 

 

「もし私がやられてもすぐに出てくるんじゃないぞ!奴らの声がしなくなるまで隠れていろ!!」

 

 

 そう言うと、榛名は店の前に出て自衛隊の主力小銃である89式小銃の銃弾を向かってくるゾンビの群れに向けて発砲する。

 

 一方、のび太はといえばアサルトライフルを持っているのなら大丈夫だろうと榛名の言葉に従い、車庫の方に行って車の影に隠れようとしたが、偶々そこに存在した死体の腕の辺りにオイル添加材が有るのを見つけ、それを回収した。

 

 しかし、その直後──

 

 

 

ボオオオオオオ

 

 

 

 何かが燃える音が外で響き渡る。

 

 

(な、なんだ!?)

 

 

 なにやら不吉な音にのび太は動揺を露にしていたその時、榛名がこんな警告をしてきた。

 

 

「坊主、早く逃げろ!車が燃え出した!!タンクに引火するとそこは吹っ飛ぶぞ!!早く出るんだ、急げ!!」

 

 

 そう言われ、更にはパリンというガラスが割れるような音が聞こえたこともあり、のび太は慌てて店の外へと出ていく。

 

 そして、店を出てから僅か数秒後──

 

 

 

ドッガアアァァァアン

 

 

 

 ──盛大な爆発音と共に、店は跡形もなく吹き飛んだ。

 

 

「あ、危なかったぁ。もう少しで僕も巻き込まれるところだった」

 

 

 そう言いながら、助かったことに安堵するのび太だったが、ふと辺りを見回すと榛名が居ないことに気づく。

 

 

「あれ?榛名さんは何処だろう?・・・まさか、あの爆発に巻き込まれたんじゃ」

 

 

 のび太は爆発に巻き込まれたのではないかと榛名の安否を心配するが、辺りは火の海であり、少なくとも目視では無事がどうかを確認することできなかったし、叫んで呼び掛けることもゾンビを呼び寄せてしまうので当然できない。

 

 

(・・・今は脱出したことを信じるしかないか)

 

 

 そう思い、電車で待つ由良里達の為にも今は立ち止まるわけにもいかないと、のび太は次の部品を集めるためにその場を移動することを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 由良里は夢を見ていた。

 

 それは自身の過去。

 

 まだ由良里とその母親が自由の身であった頃の夢だった。

 

 

『お母さん』

 

 

『なぁに?由良里』

 

 

『私にはお父さんは居ないけど、お母さんが居て十分幸せだよ』

 

 

 それは以前、自分が不用意に『なんで私にはお父さんが居ないのか?』と質問してしまった翌日の話。

 

 その質問をした直後、一瞬だけであったものの、母が悲しそうな顔をしていたことに、由良里はその質問をしてしまった事を後悔し、翌日にそう言って母を慰めた。

 

 誤解のないように言っておくが、母に言ったその言葉は由良里の本心であり、決して嘘ではない。

 

 その事は母も分かっていた様子だったが、父親のことはよほど地雷であったのか、無理して笑顔を作っていたのは明らかで、由良里はその時から二度と父親の話題を出さず、母を幸せにしようと誓った。

 

 だが──

 

 

『なんですか!?あなた達は!』

 

 

『お母さん・・・』

 

 

 その願いは1年前に踏みにじられ、由良里は不本意な形で父親と顔を会わせることになった。

 

 

『あなたがあの泥棒猫の娘?』

 

 

『お母さんを侮辱しないでください!』

 

 

『黙りなさい!』

 

 

 強制的に連れてこられた家では、その家の夫人に罵声を浴びせられた。

 

 更に──

 

 

『悪いけど、君を家族として迎え入れるつもりはないから』

 

 

『生きていられるだけ感謝してよね』

 

 

『子供を作っていたなんて、どんな神経していたんだか』  

 

 

 夫人の家族はおろか、長年その家に勤めていたらしい使用人にすら冷たい目で見られた。

 

 そして、今年の春──

 

 

『いやぁ!止めて!痛いよ!!』

 

 

 夫人の子供の末弟に陵辱され、辱しめられた挙げ句、立場の弱さもあって泣き寝入りを強いられた。

 

 ──その後、絶望していたところを麻美に会って心を救われたわけだが、過去のトラウマを掘り起こされた今の由良里にはその思い出すら黒く塗り潰されていく。

 

 

『助けて・・・』

 

 

 ──その言葉を拾う者は居ない。

 

 今は、まだ。




本話終了時ののび太の装備

武装・・・FN ファイブ・セブン(7発)、ベレッタM92F(3発)、ベネリM3(5発)。

予備弾薬・・・FN ファイブ・セブン20発標準マガジン3つ(60発)、ベレッタ15発マガジン1つ(15発)、12ゲージ弾8発。

防具・・・無し。


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