黒崎凪は不純物である (三世)
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原作開始前
−2 黒崎凪は憶えている


 

 あの日は、確か雨が降っていた。

 梅雨特有のジメジメとした空気の中、母と共に兄を迎えに来ていた。

 空手の道場の中は汗臭く、けれど余り不快感もない、人が頑張ったあとの香りがした。

 兄は女の子と話していて、私たちに気が付くとぱあっと笑顔になり、女の子に別れを告げるとこちらへと駆けてきた。

 兄は少し泣き虫であり、空手の道場ではよく泣いてばかりだと聞いたことがあったため、自分たちに見せてくれるこの笑顔が、私は好きだった。

 お揃いの雨合羽を着て、母を道路側に立たせないように二人で守りながら歩いたあの道は、今でも思い出せる。

 車から跳ねた水の塊で2人揃って濡れてしまったが、兄は母を守れたからか、嬉しそうに笑っていた。

 

 そんな時だった

 

 道路を横切った先の河川敷、傘も差さずに小さな女の子が佇んでいるのを見た。

 兄と目が合い、2人して道路を横断する。道路の横断は危険だとよく学校でも注意されていたけれど、その時はそんな事、全くと言っていいほど考えていなかった。

 

 きちんと記憶しておけばよかったと、今でも後悔している。

 

 先に河川敷にたどり着いたのは兄だった。兄は女の子に話し掛けようと近づく、その時だった。

 見たこともないような大きさの、見たこともないような顔をした化け物が、女の子の後ろにいた。

 

 兄はそれに気付いて居ないのか、女の子へとどんどんと近づいていった。

 兄の名前を叫ぶ声が聞こえた。

 其れが母の声だと気付くのに数秒掛かった。

 

 兄を呼ぶ、返事は無い。

 

 母を呼ぶ、声は届かなかった。

 

 雨は、雨合羽のフードを煩く叩いていた。

 

 

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 母の葬式の時の記憶はほとんど残っていない。

 覚えているのは、死んだような顔をした兄と、声を押し殺すかのように泣く2人の妹。

 あの日の3人を思い出すと、今でも罪悪感で胸が張り裂けそうになる。

 

──あの時自分が止めていれば

 

──あの時河川敷に行かなければ

 

──あの時、自分が一緒に行くと駄々を捏ねなければ

 

 母は、死ななかったのだろうか

 

 

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 その日から、不思議な夢を見るようになった。

 兄と同じ蜜柑色の髪を持った、優しそうな青年が様々な物を護るために戦う夢だ。

 何故あの時にこの夢を見たのかは分からないが、私はこの夢をどこかで見たような、知っていたような気がしてならなかった。

 普段の自分であれば、たかが夢と笑っただろう。

 けれど、その時だけは違った。

 夢だろうと何だろうと、その時の私は縋ることしか出来なかったからだ。

 ️例えそれが、地獄への道であろうと。

 





短くてごめんなさい


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−1 黒崎凪は弟子入りする

 

 母の葬式から1週間、あれから兄とは余り話していない。

 私も兄も学校に行かず、兄はあの河川敷で母を、私は夢で見た駄菓子屋をずっと探していたからだ。

 夢が本当ならこの町の何処かにあるはずだが、未だに見つかっていなかった。

 

「……無いな」

 

 ムシムシとした熱気の中、地図を片手に持ち町を闊歩する。路地裏も大通りもくまなく探したが、未だ件の駄菓子屋は見つからずにいる。

 

「暑い……」

 

 泣き言を言っている暇など無いのだが、どうしてもこのジメジメとした暑さには応えるものがある。

 

「……いッ!!」

 

 片手の地図を見ながら歩いていると、頭を揺れるような痛みが襲ってきた。

 痛みに耐えかねていると怪しげな服を着た、知らない大人の声が聞こえた気がした。

 

「あの〜……大丈夫ッスか?」

 

 暑くて幻影か幻聴に襲われたのだろうか、どちらにせよ知らない大人ならば気をつけなければと考え、更にこの大人からどう逃げようか考えていたその時

 

 私は地面に倒れていた。

 

 大人の焦った様な声が頭の奥に響く。ザマアミロ不審者めが、この状況を見た大人の人が通報してくれればこの大人は捕まるだろう。

 何故ここまで自分がこの大人を嫌うのかは分からないが、もう既に、私の意識は消えかけていた。

 

 

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「……知らない天井だ」

 

 木造の、私には余り馴染みの無い和室で私は起き上がる。

 すると布団の足側にいた、厳つく、筋骨隆々としたおさげの男性と目が合う。

 何故だろうか、私はこの人のことを知っている気がする。

 

「起きましたか、私は店長を呼んでくるので少し待っていてください」

 

「あ、はい」

 

 厳つい見た目の割に少し理知的な感じがするのは掛けた眼鏡のおかげだろうか、だがそれも首から提げたエプロンが崩し、何処かチグハグな雰囲気を醸し出している。

 

 目の前にいた男性の見た目について考えていると、カラカラと襖が開く音がして、薄い金髪の白と緑の縞模様をした帽子で目を隠した男が入ってくる。

 

「おはようございますお嬢サン、体調はどうです?」

 

「あ、不審者の人」

 

 まずい、思っていることをそのまま口に出してしまった。

 

「ふ、不審者? アタシってそんなに怪しげに見えますかね?」

 

「怪しいって言うか、胡散臭い」

 

「うぐっ……これまたヒドイこと言う子ですね……」

 

 思ったことを率直に言っただけだ、私は悪くない……ハズだ。

 

「で、どうです? 治りましたかね」

 

「……多分、治りました」

 

「そうっスか、よかった……それならお家まで送り届けましょう、どこら辺ですか?」

 

 それにしても、何故だろうか……私はこの顔を1度何処かで見た事があるような気がしてならない。

 

「……? あの〜、大丈夫ですか?」

 

 もっと小さな頃に会ったことがあるのか? ……いや、私がこんな胡散臭い人間に会ったら絶対に忘れないだろう。

 ならば夢か……? もしかすると最近の夢の中で見た事があるのかもしれない

 

「ありゃ、もしかしてまだ完治して無い感じですかね……やっぱ黒崎サンとこに連れてった方がいいですかね? ……」

 

 待てよ……? 目まで隠した白と緑の帽子に薄い金髪……? もしやこの人

 

「……浦原……喜助?」

 

「……!?」

 

 飄々とした態度が崩れ、驚愕したような表情が此方へとむく。なるほど、目を見ると確かに分かる……私は確かにこの人が、大きな女の人を背に戦っているところを夢で見た。

 

「……鉄裁さん、この子にボクの名前教えました?」

 

「まさか、私の名前すらも教えておりませんよ」

 

「……ですよね」

 

 おさげの人はテッサイと言ったか……てっさい……鉄裁! 

 やはり、この人も夢で見た人だ、確か名前は

 

「握菱……鉄裁」

 

「……アタシは名前しか読んでないハズですけど」

 

 男の持つ空気が少し変わる。

 

「お家まで送ろうかと思いましたけど、このまま返す訳には行きませんよね……お嬢サン、アナタ何者ですか?」

 

 成程、胡散臭い訳だ……鉄裁さんの名前を言葉にしても、そこまで焦った様子もない。

 少し癪だし、カマをかけてみるか

 

「……黒崎凪、私は貴方の過去を知っている」

 

「……!」

 

 やっぱり、私が夢で見たこの人の過去は本物の様だ。

 

「……へぇ……気になりますね、それなら他に一つ教えてくれませんか? ボクの過去について」

 

 まあ、それは聞かれると分かっていた。何しろ私は元々この人に会いに来たのだから

 

「平子真子等隊長格八人の虚化の疑惑をかけられ現世への追放、その後浦原商店を開店」

 

「……成程、因みにその事件の犯人は誰か分かります?」

 

 この質問、確実に私の事を疑っている

 

「……藍染惣右介、及びに市丸ギンと東仙要の三人の隊士」

 

「……少なくとも尸魂界の人間ではありませんね」

 

「私を疑ってるの?」

 

 まあ無理もないだろう、浦原喜助からすれば私はいきなり現れて自身の過去を淡々と話す、怪しさしかない様な少女である訳だし

 

「まァ、そうッス貴方が藍染隊長の回し者の可能性だって十二分にあり得るんですから」

 

「私の名前、聞いてなかったの?」

 

「……黒崎サンの娘さんですか」

 

 本当にあの夢が現実ならば、私の両親はこの胡散臭い人と少なからず関わりがあるはずだ。

 

「分かりました、アタシの負けです」

 

「……勝負なんてしてないよ?」

 

「子供なのか大人なのか分かりませんねぇ……」

 

「あなたよりは子供……です」

 

「そりゃあそうでしょうよ」

 

 浦原喜助は帽子を外し、私の目の前へと腰を落とす。

 

「で、何かアタシに用ですか?」

 

 そう、本題である

 

「……私を、死神にして」

 

「そりゃ随分と笑えるお願いッスね」

 

 言葉とは相反して目は笑っていない、無理を言っているであろうか、少なくとも()()()()は大丈夫だったはずだが

 

「一応、理由を聞かせて貰えますかね」

 

 決まっている

 

「家族を護るため」

 

「……それだけですか」

 

「足りなかった?」

 

「……いえ、十分です」

 

 何故だろうか、此方を見る目が少し変わった様な気がする。

 

「分かりました、そのお願い……アタシに出来る範囲であれば叶えて差し上げます」

 

「本当!?」

 

「ウソなんて吐きませんよ……ただし、一つ条件があります」

 

「……なに?」

 

「一心サン……貴方の親御さんには黙っていて貰えますかね」

 

 ここで父だけしか名前が出なかったという事に、少し胸が締め付けられる。

 泣くのはダメだ、全部私のせいなのだから

 

「……分かった」

 

「お願いしますね、じゃあ……早速ですが始めますか」

 

 畳をずらし、地下へと通じる梯子が顕になる。

 

 待ってて、一護(おにぃ)

 

 私が護るから

 



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0 黒崎凪は不純物である

 

あの日から、6年。

 

おにぃは高校生に、遊子と夏梨は小学生に、私は中学生になった。

 

おにぃはいろんな人を助けていた。

困っている人が居れば、人間でも幽霊でも、誰にでも手を差し伸べていた。

小さい頃に“色々な人を護りたい”と言っていたことを思い出す。

 

遊子は家事を出来るように、夏梨は姉らしく凛とした性格に変わっていった。

 

私は、私だけが何も変わっていない。

死神の力を手に入れて、何かが変わった訳でもない。

ただ虚を倒していても、心の孔は埋まらない。

家族の中で私一人だけが、過去に取り残されている。

 

…わかっている。

小さい頃からずっと見ているあの夢の中に

 

()()()()()()()()()

 

私は、本来この物語に居るべき人間では無い

黒崎凪は、本来存在しない

 

携帯電話から、けたたましい音が鳴る。

 

…この物語の全てが終わったら、消えよう。

どこか遠く、誰も知らない場所で、静かに死ぬことにしよう。

 

右手に握られた白い刀を振り払い、携帯電話を見る。

 

(だから、それまでは)

 

目の前の白い仮面から、赤い眼がギラギラとこちらを睨み付ける

 

(どうか)

 

仮面を割ると、憎悪に塗れた表情を覗かせる

 

(死なないで)

 

目の前の怪物が腕を振り上げる

 

(一護…)

 

────黒崎凪/14歳

    髪の色/ブルー

    瞳の色/ブラウン

    特技/ユウレイが見える

    職業/

 

「GYAAAAAAAAAA!!!」

 

「うっさ」

 

最後の抵抗も虚しく、怪物は灰のように消えて行った。

 

       中学生:死神

 

 

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────西空座町 浦原商店

 

「喜助さん、伝令神機壊れた」

 

「またっスかぁ…この頻度だと流石に故意かと疑っちゃうんですけど…」

 

「流石に次は壊さない…多分」

 

「多分じゃ困るんですけどねぇ…」

 

時刻は午後4時、割れた画面を前に目の前の男は頭を捻っている。

 

「もっと丈夫な画面にしてくれないと、戦ってる最中に割れちゃうんだけど」

 

「う〜ん…それなら値段は張りますけど、もう少し丈夫なヤツもあります…けど…」

 

「じゃあそれ下さい」

 

「大丈夫ですか?このくらいしますけど」

 

紙に書いて見せてきたのは、考えていたよりも0が2個ほど増えた数字。

 

「…考えます」

 

「そッスか」

 

これ以上その話はするつもりが無いのか、紙を仕舞い此方へ顔を向けてくる。

 

「そういえば最近、新しい死神の方がここの担当になったらしいっスよ」

 

暗に、“バレたら面倒臭いから余り動くな”と言っているんだろう。

前の担当だった死神はサボり癖があったのか、余りこの町で活動しているのを見た事が無いが

 

「分かった、じゃあ暫くはあんまり動かないようにする」

 

「助かります…お礼と言っちゃ何ですが、『勉強部屋』使って行きます?」

 

「良いの?」

 

『勉強部屋』浦原商店の地下にある修練の為の部屋。

 

「悪い理由がないですよ、どうぞどうぞ、使っちゃって下さい」

 

だがここで気付く、この男なにか怪しい

 

「…つまりここで私を『勉強部屋』に行かせて、あなたに何か得することがあるわけだ」

 

「…な〜んのことスかねぇ〜」

 

「分かってるよ、夜一さん来てるんでしょ」

 

ビクンと、肩が大きく跳ねる

 

「……いや〜バレたなら仕方ありませんねぇ」

 

「なんでこっち来んのさ、ちょっと待て何その縄」

 

縄を両手に持ちジリジリと近づいてくる様は、格好も相まってまさに不審者にしか見えない。

 

「離せ!あの修行は服が消し飛ぶから嫌なんだ!」

 

「許してください凪サン…!これも全部ボクのためなんです…!」

 

「どうせアンタが勝手にお菓子食べたとかだろ!私は関係ない!!」

 

気がついた頃には縄に巻かれており、身動きが取れなくなる。

クソっこの程度の縄が私に外せないはずがない…!

 

「別に服は消し飛ばん、両肩と背の布が消し飛ぶだけじゃ」

 

「!?」

 

いきなり後ろから声がする、猫の鳴く声の様な綺麗な声だ。

 

「…お、お久しぶりです…夜一さん」

 

「三日ぶりじゃなあ…しかし貴様前回、よくもまあぬけぬけと儂の修練から逃げ出しおって…逃げ足の良い弟子を持って儂は嬉しいのお」

 

「……ははっ…お褒めに預かり誠に光栄デス…」

 

「別に褒めてはおらんが」

 

あっやべっこれ完全に答え方ミスったやつだ、殺される

 

「殺しはせん、死ぬまで修練するだけじゃ」

 

…!?コイツ心を読んで…!

 

「別に心など読んどらん、お主がわかり易いだけじゃ」

 

「読んでるじゃないですかぁ!!!」

 

今日が命日かなと、呑気なことを考えることも出来ずに縄で縛られたままに連れていかれる。

取り敢えず喜助さんは後でぶん殴ろう。

 



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死神代行篇
1 黒崎凪は霊媒体質である



多分、というか絶対設定がよく分からないと思うので後で前日譚を書いときます。なんなら今後追加する可能性すらあります、すんません



 

 この世界で初めて見た人の顔は記憶に残っている。

 

 にへらと笑った口に、蜜柑色の髪がよく似合う、まだ3歳にも満たないであろう男の子。

 

 直ぐに、私はその笑顔に見とれてしまっていた。

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

────空座町 午後七時十三分 金曜日

 

「なんだァ!? いきなり出てきて山ちゃん蹴倒しといてその上俺らにココをどけだァ!?」

 

 五人組の不良達の中、同じく不良のような見た目をしたオレンジ髪の少年は面倒臭そうな顔をし、カリカリと頭の横を指先で搔いていた。

 

「何考えてんだてめぇ? 死ぬか? あァ!?」

 

────黒崎一護/15歳

 髪の色/オレンジ

 瞳の色/ブラウン

 職業/高校生

 特技/

 家族構成/

 

「何とか言えこの……ぉプッ

 

 仲間を蹴られ激昂し、掴みかかろうとしたところに少年の靴底が不良とキスをする。

 

「ああッ!」

 

「トシりんがやられた!!」

 

 理不尽、第三者から見ればそれ以外の言葉では言い表せないだろう。このオレンジ髪の少年は見ず知らずの人間を蹴倒し、ましてやそれに激昂したその仲間の顔すら蹴飛ばしたのだから。

 

「な……なんだか知らんがヤベェ……あんな理不尽な暴力見たことねぇ……」

 

「あいつ絶対アレだ……あんなのと()ったら確実に()られる……!」

 

 いきなり現れ、理不尽極まりない暴力を振るわれたなら、幾ら喧嘩慣れした不良でも普通の感性を持ってさえいれば怖気付くことは明白だろう。

 

「ギャーギャーうるせぇ!!」

 

おフッ

 

 倒れた不良へ追い討ちをかけるかの様に、少年は不良の頭を踏み付ける。ゴンッと鈍い音が道路に響いた。

 

「お前ら全員あれを見ろ!!」

 

 少年は傍にある電柱を指差す。そこには、倒れて口の方が少し割れた、模様もない無骨な花瓶が転がっていた。

 

「問1!!」

 

 ビクッと体のはねる不良二人に構わず、少年は問いかけを続ける。

 

「アレは一体なんでしょうか!? ハイそこの一番臭そうなお前!!」

 

「え……? お……俺?」

 

 困惑しながらも臭そうな自覚があるのか無いのか、ニット帽を被った臭そうな不良が答える。

 

「あ……あの……こないだココで死んだガキへのお供え物……」

 

「大正解!!」

 

 先程の不良と同様、顔への横蹴りが極まり、後ろへと倒れ込む。

 

「ミッちゃーん!!」

 

「問2!!!」

 

 倒れた不良に対して目もくれず、少年は無慈悲にも質問を続ける。

 

「じゃあどうしてあの花瓶は……倒れてるんでしょうか?」

 

 ────黒崎一護/15歳

 髪の色/オレンジ

 瞳の色/ブラウン

 職業/高校生

 

「そ……それは……」

 

「俺らがスケボーして倒しちゃった……から?」

 

 ―───特技/

 

「そうか……」

 

 

 “ユウレイが見える”

 

 

それじゃコイツに謝んなきゃだなァ!! 

 

 少年の後ろから、顔半分を血で濡らし、眼をぎょろんと上へと向けた少女が現れる。

 

いやあああああああ!! 

 

 不良達は甲高く喧しい叫び声を上げ、その場から走り逃げて行った。

 

「ふー……あんだけ脅しときゃもうここには寄り付かんだろ」

 

 少年は浮いている少女へと体を向け、話しかける。

 

「……悪かったな、こんな風に使って」

 

「ううん、あの人たち追っ払ってってお願いしたのあたしだもん、このくらい協力しなきゃ」

 

 傍から見た場合、この少年はどの様に見えるのだろうか、壁に向かい独り言を呟く異常者な見えるかもしれない。

 

 まあ、私には関係の無いことだが

 

 

()()()

 

 

「あ? なんだ(なぎ)、いたのか」

 

 ────家族構成/父、妹()()

 

「うん! おにぃが一人目をぶっばすところから!」

 

「……ほぼ最初からじゃねぇか」

 

 黒崎凪(わたし)は、不純物である

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「ただいまァ「遅ーい!!! 」」

 

 家の扉を開いた瞬間、待ち伏せをしていたのか、父の飛び蹴りがおにぃへと炸裂する。

 

「わぁ、お父さん……今日は一段と情熱的だね」

 

「そうだろう! 俺は我が家の家族団欒を乱すのならば例え息子に対しても血の制裁を下す!」

 

「うーん、そう言うこと言ってるんじゃないんだけど……ま、いっか」

 

 皮肉が通じず、起き上がったおにぃと父の喧嘩を横に見ながら私はリビングの椅子へと腰を落とす。

 

「もーやめなよ二人ともーご飯冷めちゃうよー」

 

「ほっときなユズ、おかわり」

 

「夏梨の言う通り、ほっときなユズ……あ、私もおかわり」

 

「お姉ちゃん食べるの早くない?」

 

 妹二人に同調しながらテレビをつけると、最近流行りの霊媒師の特集がやっていたが、興味が無いので直ぐに消した。

 

「あれ、おねえちゃんもう新しいヒトついてるよ」

 

「うげっ! ホントだ、お祓い行こっかな?」

 

 背中側を見ると小太りのサラリーマンの様な見た目の幽霊が憑いていた。

 

「だけど一兄は効果無かったっていってたよ」

 

「詐欺じゃん」

 

「世の中の霊媒師なんざ殆ど詐欺だろ」

 

 父との乱戦を終え、服がしわくちゃになったおにぃがリビングへ入ってきてそう言う。確かに()()は詐欺だろう、私は一人だけ本物を知ってるけど

 

「おにぃにもついてるよ」

 

「コイツッ! いつの間に!」

 

 見ると、眼鏡を掛けたサラリーマンのような風貌の幽霊が憑いていた。

 

「見える触れる喋れる上に超A級霊媒体質の四重苦。大変だねぇ、一兄と凪姉はハイスペックで」

 

「でもさーちょっとうらやましいよねお兄ちゃんたち、私なんてぼんやりとしか見えないし」

 

「……そんな楽しいものでもないけどね、コレ」

 

 ただついてくるだけならいいだろう、けれど耳元で知らない人への恨み言とかを 呟きまくるのはやめて欲しい。頭がおかしくなる。

 

「凪姉の言う通り、それにあたし幽霊とか信じてないし」

 

「? 夏梨は見えるんじゃなかったっけ」

 

「見えようが何しようが信じなきゃ居ないのとおなじ」

 

 部屋の中に吹雪が吹いたような気がした、まだ夏なのに

 

「それよりさ、新しい企画思いついたんだけど」

 

「なになに?」

 

「“初夏の風と共にユウレイ達と戯れて見ませんか”5月限定企画『軽井沢ゴーストピクニック』」

 

「去年はお花見だったよね」

 

「夏梨、人でお金稼ぎをするのはやめようか」

 

 冗談じゃない、先月のだっておにぃに全部押し付けなきゃ危うく見世物にされるところだったんだから

 

「ごちそーさま、私もう寝るね」

 

「えーもう寝るの? まだ沢山あるのに」

 

「後は全部お父さんに無理やり詰め込んどいて」

 

「了解した凪、よし夏梨やるぞ」

 

「なっ!? 凪ちゃん!? お父さんもうはらパンパン……ギャア!!」

 

 おにぃがやる気になりお父さんと追いかけっこを始め出した……冗談で言っただけなんだけどな

 

 ……今日が本当にあの日なら、後でおにぃの部屋に行こうかな

 

 ……本当に、()()()()なら今日は

 

 ……おにぃが『死神』になる日だ

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 騒がしい家の中、コンコンとドアを叩く音が部屋に響く。

 

「おにぃ、入っていい?」

 

「あ? 凪か、なんか用か?」

 

 最初に目に入るのは蜜柑の色をした髪、これのせいで学校では不良の様に扱われていると前話していたのを覚えている。

 ……けれどそれでも染めない辺り、気に入っているのも確かなんだろう。

 

「……どうした、突っ立って」

 

「あ、ごめん髪に見とれてた」

 

「……? そうか」

 

 あまり言われ慣れていないのか、よく分からない表情をしている。逆にわかりやすい。

 

「で、なんの用だ?」

 

「明後日さ、除霊行かない?」

 

「……さっき夏梨と話してたの聞いてたが、俺は効かなかったぞ?」

 

「ウッ」

 

 確かにそうだ、言われたし憶えている。

 

「で、本当の目的はなんだ?」

 

 尋問かな、心做しかおにぃの目がニヤついている気がする。

 

「……一緒に出かけたいです」

 

「そうだったら最初からそう言え、別に俺は断らないんだからよ」

 

「だって恥ずかしいんだもん」

 

 もうすぐ15歳になるのにこんなお願いをしていると、姉の威厳というものがだね

 

「俺の方が年上なんだからそんな大人ぶらなくてもいいんだよ」

 

「いてっ」

 

 頭をコツンと小突かれる、全く痛くは無いが反射的に声が出る。

 

「またそうやって年上ぶって……1歳しか違わないくせに……? ……黒揚羽?」

 

「あ? 一体どこから入って……」

 

 瞬間、時が止まったかのような静寂が訪れる。黒装束の少女がおにぃの机の上に立っていた。

 何秒たっただろうか、もしかしたら何時間も止まっていたのかもしれない、それくらいに部屋の中は静かになっていた。

 

「……な……」

 

 最初に口を開いたのはおにぃだった、いきなりの見知らぬ人の来訪に驚いているのだろう、私も驚いている。まあ、()()()()()()()()()()()

 

近い……! 

 

 初めて少女が口を開く。その瞬間、やっと状況を飲み込めたおにぃが少女を蹴飛ばした。

 

近い……! じゃあるかボケェ!!」

 

「ちょっおにぃ! 女の子だよ!?」

 

「? ? ?」

 

 少女は困惑したように固まり、倒れた姿勢から元に戻らずに居る。

 

「き……貴様ら……私の姿が見えるのか……? ていうか今蹴り……」

 

「? 何訳分からんこと言ってんだ? そんなもん見えるに「うるせえぞ一護2階でバタバタすんなァ!!」あ」

 

 お父さんが部屋に入って来て、いつもの如くおにぃへとドロップキックを決めようとした。

 がしかしドアからの直線上には私しか居ないわけで……

 

「「あ」」

 

 ゴドンと鈍い音が脳まで響き、少しクラクラする程の衝撃が来た。すごいなおにぃ、毎日これを食らっていたのか

 

「ギャアアア!! てめぇ何やってんだクソ親父!!」

 

「わ……悪ぃ凪ちゃん! 本当は一護を狙うつもりだったんだが……」

 

「お父さん」

 

「ハイッ」

 

「明日から一週間家族と接触禁止ね」

 

「えっいや、それは「返事は?」アッハイ」

 

 お父さんは目に見えて顔を青くして部屋から立ち去ろうとする、が

 

「ちょっと待て親父! コイツ見えねェのかよ!」

 

「あ? 見えねえって……何がだよ」

 

「何って……このサムライ姿の」

 

「侍……? ……あァそうか……()()()()か」

 

「あ? 何言って」

 

「一護、俺は今ものすごく落ち込んでる所だから幽霊なら後にしてくれ……うぅ、ちゃんと確認してから蹴りゃ良かった……」

 

 ドアが音も立てずに閉まる。あれだけの事をしておいて一週間だけだぞ? 寧ろ良心的だとさえ思うのだが。

 

「もしかしてお前……幽霊なのか?」

 

「……違う」

 

「あ? じゃあお前一体……」

 

「私は───『死神』だ」

 



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2 黒崎凪は傍観している


1話と2話書くためにBLEACHの1話読んできたんですけど、ギャグキレッキレですね、卓袱台の下りとか
BLEACHの疾走感のあるギャグ本当に好きなんでどんどん出したい今日この頃



 

「……そうか」

 

 卓袱台を挟んで座る制服姿の男女と侍衣装の少女、絵面は宛ら気狂いした昭和ドラマだろう。

 

「つまりあんたは死神で、その『ソウル・ソサエティ』とかいう所からはるばる悪霊退治に来たって訳か」

 

 先程少女の話した内容を要約し反復するおにぃ、腕を組み胡座をかく姿は中々様になる。

 

「よし! 信じよう!」

 

 信じちゃったよ、どうしよう……これじゃうちの兄どっかで詐欺に引っかかっちゃうかも。

 

「……って信じられるかボケェ!!」

 

「うおッ!?」

 

 見事なノリツッコミ、からの綺麗な卓袱台返しだ。芸人にでもなったらいいんじゃなかろうか。

 

 ……それにしてもソウル・ソサエティ、ねぇ

 喜助さんの見せてくれた漢字だと、尸魂界と書いただろうか。

 喜助さんの件を知っている私からすれば、あまり良い印象は抱けない。何しろあのヨン様のいる場所だ、警戒するくらいが丁度いいような気もする。

 

いててててぇッ!! 

 

 と、考え事をしているとおにぃが鬼道で縛り付けられているのが横目に見える。

 

「フフ……動けまい! こいつは『鬼道』と言ってな、死神にしか使えぬ高尚な呪術だ!」

 

 高尚……高尚なのか、まあ本職の方がそう言ってるならそうなんだろう、夢ではみんなポンポン使ってたけど

 

「わあ、おにぃ女の子に組み伏せられてるじゃん」

 

 携帯電話を取り出し写真を撮ると、死神は写らないためそういうプレイをしているようにしか見えない。

 

「おい凪! 写真撮るな!」

 

「少し見せてくれ……成程これは、フフッ……無様なものだな」

 

「てめぇ何笑ってんだ! 良いから消しやがれ!」

 

 ケラケラと笑う私をよそに、死神の少女はおにぃの背後に目を向ける。

 

「……貴様、憑かれやすい体質か」

 

「あ? なんでそんなこと……! なんで刀抜いて……ちょっ……」

 

 トンッと、刀の柄を幽霊の額へと優しく押し付ける。

 

「……い……嫌です、私は……地獄へはまだ行きたくない……!」

 

「臆するな、お主の向かう先は地獄では無い、尸魂界だ」

 

 刀の柄を額から離すと印が見え、床からは光が溢れた。

 

「地獄と違って、気安い所ぞ」

 

 そう言うと、幽霊は光の中へと消えていった。

 

「……あれって、成仏したの?」

 

 それとなしに聞いてみる、魂葬に関しては私もよく知らないのだ。

 

「『魂葬』と言う、貴様らの言葉で言うとそうなるな」

 

 やはりか、虚だけを狩っているから魂葬はしたことが無かったのだが

 

「尸魂界へと(プラス)を送る、これも死神の仕事の一つだ」

 

「プラス?」

 

 縛れれたままのおにぃがそう聞く

 

「そうか、知らんのだったな……良いだろう、私は寛大だからな、貴様のような餓鬼にも優しく教えてやろう」

 

 あ、これ長くなるやつだ

 

「……長くなりそうだから私は下降りてるね」

 

「あっおい凪!」

 

 ガチャ、とドアの閉まる音が廊下に響く。

 時刻は午後9時、恐らくそろそろ虚が来る。

 夢では家族全員が怪我してたっけ……なら絶対に護らないと。

 音もなく階段を下りる、虚の気配はまだ遠い。

 

「お父さん、アイス買ってきて欲しいんだけど」

 

「な、凪ちゃん……こんな夜中にか?」

 

「さっき私にドロップキッ「あー! わかったわかった! お父さんなんでも買ってきちゃう!」」

 

 情けない声を上げながら玄関へと走る父の背が見える。

 

「夏梨と遊子も、今ならお父さんなんでも買ってきてくれるだろうから一緒に行ってきな」

 

「凪姉は行かないの?」

 

「私が行ったら罰じゃないし」

 

「罰……? まあいいや、じゃあ行ってきます」

 

「ん、いってらっしゃい」

 

 何故か目尻に涙が浮かぶ、大丈夫だ、私は多分死なない……多分! 

 

 車のエンジン音が去っていったのを確認し、同時に虚の叫び声が耳を劈く。

 

「さて、ちゃっちゃと死神になってよ……おにぃ!」

 

 凄まじい音を立てて壁が崩れる、ドアから入れよおたんこなすが。

 

「GYUAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 体を掴まれると、初めて虚と戦った日を思い出す。あの日もこんな人型のヤツだったっけ。

 

 階段を急いで下りる音が後ろから聞こえる。おにぃだ

 うーんここは何か怯えた表情した方がいいのかな? ……ヨシ!! (指差し確認)

 

「……おにぃ……!」

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 結果から言うと、成功である。

 死神の少女……ルキアさんは死神の力を無くし、おにぃは死神の力を手に入れた。

 おにぃのためだけに死んで行った魚頭さんには涙を禁じ得ない、黙祷

 

「凪ッ!!」

 

 地面に叩き付けられた私を抱え込むおにぃ、怪我をしてないか見ているけど、まぁ雑に回道で回復させといたし、なるようになんでしょ

 

「おにぃ……?」

 

「凪ッ! 大丈夫か!?」

 

「あはは、おにぃの声ちょっと頭に響くかも」

 

 静かに、申し訳なさそうな顔でルキアさんが此方へ近づいてくる。

 

「……本来なら記憶の改竄をするのだが、貴様も死神が見えるのだったな」

 

「うん、邪魔になるならそのくらい大丈夫だけど」

 

 というかむしろ、殆どは私が仕組んだ様なものなのだからあまり申し訳ない様な顔をしないで欲しい、その顔は私に効く。

 

「いや、貴様には共犯者になってもらおう」

 

 まて、思ってた展開と違うぞ、なんでこんなことになってんだ。

 

「……共犯者?」

 

「そうだ、貴様らにはこれから……」

 

 言葉を列ねようとしたその時、車の音が道路の方から聞こえてくる。

 

「やばい、お父さん達帰ってきた……朽木さん! 話はまた明日!」

 

「おい……! ちょっと待て……」

 

 続く言葉を聞かずに家の中へと入る。

 これ以上は流石に行動が制限されてしまう、共犯者になんてなってたまるか。

 

「おい凪、この壁親父にどう説明すんだ?」

 

 ……トラックが突っ込んできたとか言えばいいんじゃない? 

 



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3 黒崎凪は死神代行手伝いである

 

 あれから数日、おにぃはルキアさんへの恩を返すため、そして私も同じ理由で死神の仕事を手伝うことになった。

 ……渋々、だが

 まあ、おにぃの死神の力の覚醒の為の引金になってもらったこととか、実質私のせいで死神の力を失ったりとか、私のせいで怪我しちゃったりとか……迷惑しかかけてないな私

 まあ流石にこれだけの事をしておいて恩返しも何も無いとなると、流石の私も人が廃る。

 

 というわけで私は今、学校を早退し公園にいる訳なのだが

 

「もう終わってんじゃん」

 

「ムッ……凪か! 遅かったな!」

 

「そりゃそっちよりも学校遠いですからね」

 

 おにぃの通う高校はここから数百メートル程だが、私の通っている中学はここから1キロほど離れている、先に来いと言う方が無理な話だ。

 

「別に無理に来いとは言っていないだろう、暇なら来いと言ったんだ、学業を優先した方がいいのでは無いか?」

 

「おにぃ心配で学校どころじゃないよ」

 

「……兄妹と言えど他人だぞ」

 

 ……随分と悲しい事を言う、貴方にも兄はいるだろうに

 

「それでも大事なものは大事だよ」

 

「……そうか」

 

 納得したのか、それ以上追求してくることは無かった。

 

「なんだ、来てたのか」

 

 おにぃの声が少し離れた所で聞こえる。虚は倒したようだ。

 

「おにぃが心配でね」

 

「妹に心配される程弱かねぇよ」

 

「この前ルキアさんに組み伏せられてた癖に」

 

 そう言い私は開いた携帯を見せる。そこにはこの前撮った、おにぃが腕を組んで床に寝そべっている姿が、待ち受け画面に写っていた。

 

「おまっ! 消せ! それ今すぐ消せ!」

 

「無駄だよ、さっきたつきちゃんに送っちゃったし」

 

「終わった! 俺の高校生活!!」

 

 別にたつきちゃんは広めたりしないと思うけど……あっ井上さんとかにだったら見せるかも

 

「まあ今から急いで帰れば誤解くらいは解けるんじゃない?」

 

 写真が消されるかは知らないけど

 

「クソっ! お前帰ったら憶えてろよ!!」

 

「あはは、がんばれー」

 

 ルキアさんを連れて、おにぃは走っていく。

 私は早退したし、寄り道して帰ることにしようかな

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「バッター4番花刈(はなかり)ジンタ───かっこいいフルスイングからの……」

 

 昼下がり、小学生程の背丈をした男児が大きく箒を振りかぶり、目の前に浮かぶゴムボールを打ち飛ばそうとしていた。

 

「だらっしゃア!! 殺人ホームラン!!」

 

 見事に空振り、ゴムボールは虚しく地面へと落ちる。

 

「ジンタくん……ちゃんとおそうじしないとテッサイさんに怒られるよ……?」

 

 艶のある黒髪をツインテールにした少女は、箒を両手で持ちながら、遊んでいる男の子を咎める。

 

「うるせえぞウルル! テッサイが怖くて掃除なんかできるか!」

 

「じゃあ、私は怖くないのかな?」

 

 スっと後ろにたち、女の子……(ウルル)へと穂先を向けた箒の持ち手の端を握る。

 

「凪お姉ちゃん!」

 

「げっ!」

 

 雨は此方へと駆け寄り、ジンタは後ずさる……何故だ、何故掛け寄らないのだ

 

「喜助さんに用事? だったら呼んでくるけど……」

 

「ありがと雨、けど私が今日用事があるのは鉄裁さんなんだ」

 

「テッサイに? なんでだよ?」

 

 不思議に思ったのか、ジンタが箒を両手に持ち直しながら聞いてくる。

 

「呼びましたかな」

 

「あっ、丁度いいところに」

 

 眼鏡とエプロンを着けたおさげの男性……鉄裁さんが店から出てくる。

 

「これはこれは黒崎様、本日は何用で?」

 

「ちょっと話したいことがあって……勉強部屋使っていい?」

 

「……どうぞどうぞ、それでは奥へ参りましょうか」

 

 言葉にしなくても感じ取ってくれたりとか、やはりこの人と話すのは楽でいい。

 畳を横へずらし、 梯子を降りていく。

 

「……して、()()で」

 

 念入りに鬼道で壁を作り、周りに音が漏れないようにする。

 

「……()()()、動いてるかもしれない」

 

「それは何時、気づかれました?」

 

「数日前、かな……霊圧を無理矢理抑えた様な、そんな感じがしました」

 

 数日前、おにぃが死神として覚醒した日、強い霊圧を遮断した時の、独特な感覚がした。

 

「相も変わらず、鋭いですな」

 

「よく神経質って言われますよ」

 

 喜助さんの事を警戒しているのか、姿自体は見せないがあれだけ強い霊圧を隠したら逆にバレバレだ……いや、もしかするとわざとバレるようにしている可能性もあるか。

 

「それでなぜ、私に報告しようと?」

 

「……ついでに鬼道を教えてもらおうと」

 

「……それだけですか」

 

「それだけです……」

 

 まあ実際仕事をほっぽり出してここにいるわけだ、流石にそう上手く行かないか

 

「前に鍛錬した時は、何番台まで行きましたかな」

 

「えっ? ……確か破道は五十番台だったはずだけど……えっ?」

 

「でしたら五十四番の『廃炎(はいえん)』から行きますかな……どうしたのですか? そんな惚けた顔をして」

 

 まさか了承してくれるとは思っていなかったので変な声が出てしまう。

 というか仕事あるんじゃないの? 大丈夫なの? 

 

「え、いや仕事あるんじゃないんですか? 今も結構無理して時間作ってもらってる訳ですし」

 

「いえいえ、先程浦原殿が“そろそろ来そう”と言って逃げていきましたから、来るのはわかっていましたし」

 

 あの下駄帽子、会ったらぶん殴ろうと思ったのに

 

「それはまた……でもいいんですか? お客さん来ちゃうんじゃ……」

 

「……この店はですね、開店以来死神関連のお客様以外にお客様が来たのが数える程しかないのですよ」

 

 ……確かにこの店に客が入っているのを余り見たことが無いかもしれない……これまた辛い話だ。

 

「なんか……すいません……」

 

「いえいえ……本当に……では、始めますか?」

 

 鉄裁さんはエプロンの姿のまま、構えを取る。

 

「それじゃあ、胸をお借りしますね」

 

 その後喜助さんが戻る頃には腕も振れないほどに疲れきってしまい、結局は殴れずに終わったのだった。あんにゃろめ、これが狙いだったか

 



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4 黒崎凪はド下手である

 

「……わかっているのよお姉さま……全てはその(はこ)の中に隠されているのでしょう? お母様に託されたその翡翠の小匣に……!」

 

 目の前の少女は漫画本を目の前に、迫真の表情で音読をしている。

 

「……それ、楽しいの?」

 

「その匣を渡して! マリアンヌお姉様! さあ!!」

 

「無視は酷くない? 泣く? 泣くか」

 

 えーんえーんと声を上げ泣き真似をするが、それでもルキアさんは此方を見もせず、視線は漫画へと集中させている。

 

「だめよ! その匣をあけてはだめ! フランソワ!! ああっ……!」

 

「……何してんだお前ら」

 

 特訓を終えたおにぃが戻ってきて言う。表情には困惑の色が見えた。

 

「……泣き真似してたらルキアさん反応してくれるかなって」

 

「……アホか?」

 

 ええそうですとも、アホですよ私は……クソっ、これだけ話していても全く此方を見ない!!! 

 

「普通に呼べばいいだろうが……オラァ!! こっち向きやがれルキア!!」

 

「きゃあっ!!」

 

 何……だと…………? 

 

「おおおどろかすなたわけ!! 現代語の勉強中だぞ!!」

 

 現代語の勉強……? ……匣とかってあんま使わんくない? あ、使いますか? そうですか

 

「……む。特訓は終わったのか?」

 

「胡椒入りボール100本ノックだろ? 終わったぞ!」

 

「たわけ! 胡椒入りはハズレボールだけだろう」

 

「ハズレボール?」

 

 ん? 

 

「……あれ? おにぃそれ全部打ったの?」

 

「おう!」

 

 ちょっと待て

 

「頭の描かれたボールだけ狙えって、私言わなかったっけ」

 

「ん? あ、そういや言ってたような……」

 

「」

 

 言葉を失う、それじゃあただの打球トレーニングでは無いか、なんの意味もない

 

「たわけ! あれほど頭の描かれたボールを狙えと言っただろう! 何のための特訓だ!!」

 

「だからなんの特訓か分からねえって! そもそもお前の絵で頭とそれ以外を見分けられるワケねーだろ!!」

 

 おにぃは頭と右手のボールを持ちながらそう言う……あれ、それ私が描いたのじゃ

 

「……む? それは私が描いたボールでは無いぞ?」

 

「あ? だったら誰が……?」

 

 ……私、絵下手なんだった

 

「……あ〜、凪? そう落ち込むな? 俺は今ルキアに対して言ったわけでな?」

 

「ううん、大丈夫だよおにぃ……私が絵が下手クソだってよくわかったから……」

 

 事故とはいえここまでどストレートに言われると流石に凹む、そういえばそうだった……私絵、ド下手なんだったわ……

 

「……? だけどちょっと待「こんにちは黒崎くんっ!!」うわあ!! 

 

 ビクッと、私とルキアさんも肩を跳ねさせる。この栗毛の女の子は……

 

「いっ……井上か! ななななにしてんだこんなとこで!?」

 

「えへへ、ちょっと晩御飯用の買い物でした」

 

 井上織姫さん、おにぃの同級生で、私も何度か顔をあわせたことのある人だ。

 

「今日はね、ネギとバターとバナナとようかんを買ったの!」

 

 な……何を作る気だろう……

 

「……おい」

 

「? なあに?」

 

「奴は何者だ?」

 

 服の端をちょいちょいと引き、聞いてくる。あれ、けど同じクラスじゃなかったっけ

 

「おにぃと同じクラスの、井上織姫さん。クラス一緒じゃないの?」

 

「クラスに?」

 

 と、おにぃと話をしていたであろう井上さんの顔がこちらへ向く。

 

「あれっ! 朽木さんと凪ちゃん!?」

 

「……あら井上さんご機嫌麗しゅう!」

 

 ……??? 誰だ? この人は?? 

 

「え……あ……はい、ご機嫌麗しゅう!」

 

 つられちゃったじゃん! あの快活な井上さんがつられて変な言葉遣い始めちゃったじゃん!! 

 

「凪ちゃんも! ご機嫌麗しゅう!!」

 

「え、あ、はい……ご機嫌麗しゅう……?」

 

 何故か兄の視線を強く感じる気がする……が、気の所為だろう。多分、きっと、きのせいだ

 

「……? その腕……どうしたんですか?」

 

「ん? あ、これ? はねられちゃって!」

 

 ……? はねられた?? 

 

「……まさか、車に?」

 

「うん、昨夜ちょっと買い物出かけられた時にゴチーンって……最近よくはねられるんだよね……」

 

 可愛い擬音でごまかさないでくれ、それは普通に事故だぞ

 

「……おにぃをボディガードにつけますね」

 

「大丈夫大丈夫!」

 

 大丈夫ではないだろう……しかもいま()()とか言ったよな? これが初めてじゃ無いんだよな? 

 

「……気をつけてくださいね?」

 

「大丈夫大丈夫! 次からは()()()()()が着いてきてくれるから!」

 

 井上さんの兄、井上昊。……()()()()()()()()()()だ。

 

「あー、そういや昊さん元気か? 偶に会った時挨拶すんだけど前より痩せててよ、見てて不安になるんだよな」

 

「元気だよ! そりゃもう元気すぎるくらいに!」

 

「……お、おう、とりあえず腕を静かにしてくれねえか?」

 

 ブンブンと腕を振り回しながら答える井上さんに、おにぃは少し引き気味になりながらも答える。

 そういえばそうだった、()()()はおにぃがドアを開けたから面識があるんだ。

 

「あっ! もうこんな時間! 私先に帰らなきゃ! さよなら黒崎くん!」

 

「おー! 車に轢かれないようになー!」

 

 笑点が始まっちゃう! と言いながら走り去っていく。言っては悪いが、随分とジジくさ……ン゙ン゙ッ!! 御年寄のお好きそうなものを見てらっしゃりますわね。まあ私も笑点好きなんだけど

 

「ああそうだ、それでさっきの続きなんだけどよ」

 

「さっき? ……何話してたんだっけ?」

 

 なんだったか、完全に忘れてしまった。

 

「お前の絵に関する話だよ、お前確か昔は絵上手くなかったか? それも県とかのデカい賞を取れるくらいによ」

 

「……フォローありがとうねおにぃ、けど今の私は生粋のド下手だから、その気遣いは私に効くかな」

 

 やめろおにぃ、その気遣いは私に効く

 

「いや俺はそんなつもりで言ったんじゃなくて……」

 

「……ちょっと今日はあんまし気分良くないから帰るよ、晩御飯はカレーにしとくね……」

 

「あ、おい!」

 

 うーん辛い、いやまあ自覚はしてたけどさ、やはり直接言われるのは凹むなあ……あーつら、きすけさんなぐろ

 

 

 ▽△▼▲▽△▼▲▽△▼▲▽△▼▲▽△▼▲▽△

 

 

「……行っちまった」

 

 自身の失言により、とぼとぼと家へ帰っていく妹の背を見つめながらそう呟く。

 

「……一護、凪は本当に絵が上手かったのか?」

 

「ん? ああそうだな……たしか小一の時に宿題かなんかで推薦貰ってお袋と一緒に都心まで行ってたっけな」

 

 そうだ、確かに小さい頃には絵が上手かった、それも()()()()()()()()()()()()()()()には

 

「むう……絵の師になって貰おうかと思ったが、これでは厳しそうだな」

 

「……ヘタなの自覚してたんだな」

 

「……嫌々な」

 

 嫌々、認めたくは無いが認めざるを得ないとでも言ったところか……知っちゃいたが、やっぱりコイツプライド高ぇな

 

「……? それならば何時から絵が下手になったのだ? 小さい頃にそれだけ上手いのなら何かしらあったのではないか?」

 

「何時っつったって……あいつの絵なんか久しぶりに見たし……」

 

 待てよ? そういえばここ数年、全くと言っていいほど凪が絵を描く姿を見ていない気がする。

 

「最後に見たのは……小学生の頃だったか? ……たしか……」

 

 そういえば昔はよく絵を描いていた様な気がする。確かリビングでお袋と話しながら……お袋? 

 

「……ああ、そう言うことか」

 

「ムッ? 何か分かったのか?」

 

「いんや、昨日見た落語のオチが今わかったところだ」

 

「何っ!? オチが分からなかっただと!? クッ……! これだから現世の人間は!」

 

 咄嗟に思いついた嘘でその場を誤魔化す。

 そうだ、あいつが絵を描かなくなったのは

 

 

 お袋が死んだ日からだ

 

 

 



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5 黒崎凪は██である


超短いです、文がよォ…!思いつかねぇんだよォ!!



 

「……はぁ」

 

 明朝、住宅街の間から見える日が、町を照らしている。

 

「さすがに言いすぎたかなあ……」

 

 昨日おにぃに絵を批評されてからおにぃとは話していない。

 

「……帰ったら謝るかあ」

 

 さすがに引きずりすぎるのもあまり良くない、帰ったら直ぐに謝るとしよう

 

「そういえば……」

 

 おにぃは私が子供の頃は絵が上手かったと言っていたが……

 

「……そうだったっけ?」

 

 思い返す限りはそのような事はない、寧ろ良く絵の下手さを友人からいじられる事の方が多かった気がする。

 

「まあ、フォローしてくれただけかな」

 

 というかそれしかありえないだろう。おにぃに限って昔の事を忘れることはないだろうし

 

「ちょっといいかな」

 

「?」

 

 こんな朝から何か用事だろうか、まあ顔を見ないことには始まらない……と、これは……

 

 

アハッ……

 

 

「……誇り高き滅却師(クインシー)様が()()()に何か用事ですかねぇ?」

 

「……君は変わらないな」

 

 眼鏡を掛けた黒髪の、いかにも真面目な雰囲気を醸し出した青年……石田雨竜が、そこにはいた。

 

「で、何さ……またケンカでもしようっての?」

 

「君自身に興味は無いよ、僕が興味があるのは君の兄……黒崎一護だ」

 

 ふむ……さすがに滅却師、もう嗅ぎつけたか

 

「随分と鼻がいい事で、で? あたしの少年(おにぃ)になんか用?」

 

「……彼、死神だろう」

 

「うん」

 

「僕が滅却師だと言うことは君はよく知っているはずだが」

 

「うん、まあそうだね」

 

「……僕は彼を殺すよ」

 

 

「は?」

 

 

 この男は今何を言ったのか、少年を、殺す? 嗚呼、使えそうだから生かしておいたが……もういいや、ここで……

 

 

 

 ……? 

 

 私は今、何をしていた? 

 

 あれ、思い出せない……なんで私の前に石田さんがいるんだ? 

 

「じゃあね、僕はそれだけ伝えに来たんだ」

 

「あ、ちょっ」

 

 伝えた? え、何を? ……やっぱあの人、ヤバい人じゃないのか? 

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

「黒、貴様なぜ外に出た」

 

「……だって“凪”はあいつ生かそうとするんだもん」

 

 ある一軒家の中、青髪の女性と黒髪の女性が険しい顔をして言い合いをしていた。

 

「主の判断が間違っていると言っているのか貴様は」

 

「じゃあ青ちゃんはそれで“凪”が死んでもいいわけ?」

 

「……それは、違うが…」

 

「ほら言った!」

 

「それとこれとは話が違うだろう!!」

 

 煽るような言い方をする黒髪に対し、青髪は憤慨する。

 

「違わないよー、ね〜白ちゃん?」

 

「……どうでもいい」

 

「おい! 逃げるな!!」

 

 黒髪は白髪の少女を抱えながら逃げ回る。

 

「別にいいでしょ? どうせ白ちゃんも青ちゃんも“凪”も、()()()の名残りってだけだし」

 

「……私の主は“凪”だけだ」

 

「堅苦しいなあ〜そんなんだから青ちゃんは最近“凪”に使われないんだよ?」《b》

 

「死ね」

 

「あー! 冗談!! 冗談だから!!!」

 

 2人の女性が駆け回る姿を、白髪の少女は静かに眺めていた。

 





最後のとこ、分かりにくくて大変申し訳ない…
補足致しますとこれが白髪で、これが青髪、これが黒髪になります。大変申し訳ない…


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6 黒崎凪は復讐する


大分無理やり捩じ込んじゃいました…ごめんなさい…



 

「あ、ごめんルキアさん、私とおにぃ明日死神の仕事できない」

 

「なっ!? 馬鹿を言うな! 個人的な理由で虚の退治を疎かにしていては……!」

 

 まあ、そう言うと思っていた……と言うか正直ルキアさんは正論しか言っていない……が

 

「ごめんなさい、明日は本当に無理だから」

 

「なっ……!」

 

 明日は、母の命日なのだから

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 拝啓お母さん、お久しぶりです。そちらでは元気ですか? 

 私は……

 

「さあ今年も始まりました! 黒崎家恒例墓石倒し!! 先発は一護からァ!!」

 

「ちょっとお父さん! うるさいからやめて!」

 

 ……髭がうるさくてそうでもありません

 

「……お父さん」

 

「あ? なんだ凪ちゃおプッ!!」

 

 ドロップキック、前された物の5倍くらいの威力だ、死ぬがよい

 

「前のお返しね」

 

「……あれまだキレてたんだな」

 

 おにぃが隣から話しかけてくる。

 

「当然、あ、おにぃのは怒ってないからね?」

 

「お……おう、あれを見たあとだとありがてえな……」

 

 おにぃの視線は、坂道を転がっていくお父さんの方へと向く。

 

「まあ自業自得だし……あれ? 遊子と夏梨は?」

 

「ん……そういやいねぇな」

 

 先程夏梨が泣いている遊子のことを慰めていたのを見たが、いつの間にか居なくなっている。

 

「俺が探してくるよ、お前は親父を頼む」

 

「OK、顔ボッコボコにしてくるわ」

 

 おにぃが私とは反対の方向へ走っていくのを見届けた後、私はお父さんが転がって行った道を歩く。

 

「……もう6年か」

 

 私の罪から、もう6年……あの時河川敷にいた虚は、未だにこの町の何処かにいる。

 

「私が、殺すべきじゃないんだろうけど」

 

 殺したいのも確かだが……私にそんな資格は無い

 

「けど……」

 

 断言出来る。見つけたら直ぐに殺してしまう。

 

「……いた」

 

 坂を降りていくと泥だらけの服を着たお父さんが大の字で道の真ん中で寝ていた。

 

「……轢かれたいならロードローラーくらい手配してあげるけど」

 

「凪ちゃん、最近一護に似てきたな……」

 

「そう? 嬉しいな」

 

「別に褒めちゃいないんだが」

 

 実の父がそう言うのなら似ているのだろう

 

「……そういや一護達来ねぇな」

 

「私見てこよっか?」

 

「ああ、頼んだ」

 

 坂を登りながら一昨日のことを思い出す。

 

「……石田さんの口調だと、私と話した後っぽかったんだけど」

 

 だが現に私はあの人と会話はしていないはずだ

 

「単にあの人の頭がおかしいのか、それとも……」

 

 まるで、誰かと会話したあとのような

 

「……ま、いいや」

 

 とにかく今はおにぃ達を…………!? 

 

「……この……感じ……!」

 

 あの日と同じ霊圧だ、つまり

 

「グランドフィッシャー……!」

 

 私の、おにぃの仇が近くにいる

 

「ッ!!」

 

 駆け足で坂道を登る

 

「凪!」

 

「ルキアさん!!」

 

 上から駆け下りてくるルキアさんと合流し、目的地まで走る。やっと、やっとだ、6年探し続けた仇が、すぐ近くにいる

 

「……? ……凪?」

 

「何?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 そして林を抜けた先、崖の近くでおにぃとあの日の虚が戦っているのが見える。

 

「おにぃ!!!」

 

「……凪!?」

 

「……! そいつは……グランドフィッシャー……!」

 

 おにぃが虚と距離を取り、こちらへゆっくり下がってくる。

 

「あの日の……!」

 

 私の目の先には、あの日見た少女が……姿形も変わらずにいるのが見える。

 

「……お前がお母さんをやったのか」

 

『なんじゃ、お前もわしの姿が見えるのか……カカカッ! 大量大量……ひい、ふう、みい……こりゃワシの腹におさまりきるかの!!』

 

「聞いてんだよジジィ……お母さんをやったのはテメェなのか!!!」

 

『ひひひっ!! 怖い怖い、気になるのならばそこの小童に聞いてみい、その間にワシが全員殺すがの! カカカカッ!!!』

 

「……凪、下がってろ」

 

「おにぃ……」

 

「頼む、コイツは俺だけでやらせてくれ」

 

「なっ! 馬鹿を言うな! 奴は強い! 50年以上は死神を退け「ルキアさん」」

 

 これはダメだ、こいつには、手を出しちゃダメなんだ。

 

「これは……おにぃの戦いなの」

 

「……!」

 

「だからお願い」

 

 ルキアさんは静かに俯き、おにぃの体のある場所へと走っていった。

 

「おにぃ」

 

 夏梨と遊子を担ぎながら声を掛ける

 

「分かってる」

 

 言葉は要らない、今はただ

 

 目の前の仇を、打ち破るだけ

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「ガッ!!!」

 

『残念だったな小僧!! お前にワシは殺せない!』

 

 おにぃは地面へと倒れ、グランドフィッシャーは勝ち誇ったように裂けた口角をあげる。

 

「クソッ……テメェなんかに……!」

 

『誇れ小僧!! お前はワシが会った死神の中でも特に厄介な相手じゃった!!』

 

「テメ……ェ……」

 

『じゃから……味わって喰ろうてやろう! ひひひひひっ!!』

 

 嗚呼本当に、この老いぼれは随分と私の癇に障ることを言ってくれる奴だ。

 

「……おにぃ」

 

「……なぎ……来るな……!」

 

『なんじゃ、最後の言葉でも交わすか?』

 

 ごめんなさい、おにぃ……私は今から、貴方の誇りを踏みにじる。

 

「お疲れ様、少し休んでていいよ……あとは、私が何とかするから」

 

「……やめろ……! なぎ……!」

 

「破道の一『(しょう)』」

 

 衝撃を受け、おにぃは意識を失う。義魂丸を飲み、凡そ数週間ぶりとなる死神の姿へと変わる。

 

「おにぃを坂の下まで運んで、もしおにぃが目を覚ましたらグランドフィッシャーは逃げたって言っといて」

 

「……了解しました」

 

 これで、心置きなく殺せる。

 

『なんじゃ、お前も死神なのか……ひひひっ! 今日は本当に運がいい! 死神を2人も食せるなんてのお!!』

 

 運がいい? 悪いだろ

 

「……グランドフィッシャー」

 

『あ?』

 

「私はおにぃみたいに優しくないよ」

 

『……言うね、餓鬼が』

 

 さて、その減らず口はいつまで開いたままなのか、殺して確かめようか。

 

「破道の三十一『赤火砲(しゃっかほう)』」

 

 まずはあの忌々しい撒き餌から潰さなくちゃ

 

『カカッ! 言うだけのことはあるみたいだねぇ!』

 

 グランドフィッシャーは上に高く跳び上がり赤火砲を避ける。馬鹿正直で大変助かる。

 

「縛道の九『 (げき)』」

 

『鈍いよ、小娘』

 

「ッ!」

 

 さっきの戦いを見ていても分かる。コイツは相当に速い

 

『カカカッ! 哀れ哀れ、無能な兄を持つと苦労するねぇ』

 

「あ?」

 

 ダメだ、乗せられたら相手の思うつぼだ。

 

『お前の兄は確かに強かったが……お前は弱いね! カカカッ! じわじわといたぶってあの小僧の前で嬲り殺しにしてやろう!』

 

「……殺す」

 

 ダメだ、加減出来ない、ごめんなさい喜助さん、約束破ります。

 

「後々命乞いとかすんなよ、老いぼれ」

 

『それはお前の方じゃろう! ひひひっ!』

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

『貴様ァッ! 何をした!!!』

 

 地面に叩きつけられ、身動き1つも取れない状態で、グランドフィッシャーは叫んでいる。

 

「……こんなのにお母さんがやられたって思うと、哀しくなるね」

 

 コイツは弱い、本当だったらお母さんが負けるなんて絶対に考えられないくらいに

 

「……もう、お前の声を聞くのも疲れた」

 

『まっ……待』

 

 ザクンと、いとも簡単に、容易く首を落とし、目の前の虚は灰のようにサラサラと消えていった。

 

「……ごめんね、こんな物を斬るのに使っちゃって」

 

 復讐のためにこの子を振るうつもりなんて無かったのに、嫌われても仕方の無いことを、私はしてしまった。

 

「……帰るか」

 

 嫌にあっさりとした、さっぱりともしない復讐だった。

 

 ……けれど何でか、胸が軽くなった様な、そんな気がした。

 





戦闘描写書くの難しいよ…こんだけ短くても大分四苦八苦しちゃった…今後どうすんだこれ…


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7 黒崎凪は怒り狂う

 

「……あんのクソメガネェェエエ!!!!」

 

 空座町上空、数日ぶりに死覇装を着て楽しく虚を殺すつもりが、どうしてもあの忌々しい滅却師に対しての怨嗟が口から零れる。

 ……どうしてこの様な事になっているのかは、昨日までに遡る。

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 ────昨日 空座町廃墟にて

 

「ダメじゃないか、死神が虚を逃しちゃ」

 

 いつものように虚退治をしていた時、彼は話しかけてきた。

 

「……あ? お前一体何して……」

 

 突如、彼の腕から光が溢れる。

 光は瞬時に形をなし、そのまま弓矢の形へと変わっていき……

 

「……フッ」

 

 小さな吐息と共に、光の矢は飛んで行き上空を浮いていた虚へと当たる。

 

「……なっ!? 虚の反応が()()()だと……!?」

 

 虚の反応が消える、本来ならばそんなことは有り得ない

 

「……テメェ……何者だよ……!?」

 

「……石田雨竜、滅却師」

 

「……! やはりか……」

 

 ルキアさんは納得したように呟く。

 

「僕は、死神を憎む」

 

 と、まあ数年前に同じく、私もまだもう少し幼い彼に絡まれた……ボコボコにしてやったけど

 

「勝負をしようか、黒崎一護」

 

「勝負ゥ?」

 

「ああ、僕の滅却師としての誇りと、君の死神としての誇りを賭けてだ」

 

 それはまた随分と、まあ此方有利な条件な気もするが

 

「……おにぃに死神としての誇りってあるのかな……」

 

「……おれはまだ死神になって数ヶ月とかなんだが……それでもやんのか……?」

 

「へえ、逃げるのかい」

 

「やってやるよ眼鏡神父」

 

 ちょっろ

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 それで勝負に虚が必要なのは分かる、だからと言ってわざわざ虚の撒き餌を使う必要はあるのだろうか

 

「次会ったらぶん殴る! いや殺す!!」

 

 巣から這い出でる蟻の如く、無尽蔵に現れる虚はこちらへ遠慮も無しに襲いかかってくる。

 

「よ……よし、気配が消えた! これで……」

 

 背後から虚の気配、クソが

 

「少しは休ませろよクソが!!!」

 

 無限に湧き続ける虚に対し、どうしても口が悪くなってしまうのは許して欲しい、だが見て欲しい、この地獄絵図を、石田雨竜はこの町を崩壊させる気なのだろうか

 

「ねェ喜助さん! 滅却師の撒き餌ってこんな効果あんの!?」

 

『──いえ、流石にこれは異常ッスね……』

 

「……あの人が絡んでるとみてッ! 間違いないね!!」

 

 最近買い換えた伝令神機を死覇装の袖に入れ、会話をしながらも虚を狩る。

 それにしても私は眼鏡を着けた人に嫌がらせをされる運命でも背負っているのだろうか、喜助さんに見せてもらった写真を思い出しながらもそう思う。

 

「あ〜これじゃもう拉致あかない! 喜助さん! 始解しちゃダメ!?」

 

『駄目ッス、アナタ前もボクに許可なく解放したでしょう』

 

「だってあれは! ……ううう仕方ない、鬼道で何とかするよ!!」

 

 先日のグランドフィッシャー戦、私は怒りに身を任せ始解をしてしまった訳だが、これがまた帰った後にめっぽう怒られた。

 

『アナタの能力は彼に見られると良くない』

 

「ぅー……むず痒い」

 

『我儘言わないでください、一護サンにもバレたくないんでしょう?』

 

「クソっ!」

 

 ……と、かれこれ1時間ほど狩っているが、何時になっても消える気配がない

 

「これ……大虚(メノス)いるんじゃないですか?」

 

『十分考えられます、その場合……一護クンたち、マズイッスねぇ……』

 

「いや別におにぃの心配なんてしてないよ」

 

『えっ?』

 

 こんな素っ頓狂な声を出す喜助さんも珍しい、だって当たり前だろう、おにぃだよ? 

 

「私が心配してるのは“倒しちゃった場合”、その場合尸魂界から隊長格の死神が送られてくるかもしれない」

 

『……嗚呼、残念ですがそれでしたらもう手遅れだと思います』

 

「えっ?」

 

 今度は私が素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

『大虚が出てきた時点で尸魂界は探知しているでしょう……恐らくもう手遅れです』

 

「……マジか」

 

 まあ、どちらにせよ尸魂界からの死神はいずれ送られて来ただろうから……いい……のか? 

 

「……!!」

 

 真っ暗な谷から聞こえる風の音のような、(かな)しい叫び声が、おにぃ達の方向から聞こえてくる。

 

「……よりによってそっちかよ!!」

 

 不味い、非常に不味い、おにぃが死ぬわけがないが、このままじゃ現場に()()()()()()()()()()()()()

 

「……ッ喜助さん!」

 

『分かってますよ!』

 

 おにぃのいる位置に近いのは私よりも喜助さんだ。それに私は、まだおにぃに死神の姿を晒す訳にはいかない。

 

「……むず痒いな……!」

 

 本当は、今すぐにでも助けに行きたい、死なないと確信していながらも、なるべく危険なことはして欲しく無い……

 

「人生って上手くいかないもんだねぇ!!」

 

 ムカつく、イラつく、助けに行けない自分が怨めしい

 

「……あとは、見守ることしかできないや」

 

 幸い虚は全員、大虚の下に集まっていて襲って来る虚は一匹もいない。

 

「それじゃいいとこ見せてよ、おにぃ」

 

 高まり続けているおにぃの霊圧をぴりぴりと感じながら、私は身体へと戻った。

 



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8 黒崎凪は暗躍する

 

「凪よ、そなたは何故一護のことを慕っている」

 

 大虚が現れてからまた数日がたった頃、ルキアさんはこんな事を聞いてきた。

 

「……いきなりどうしたの?」

 

「いいから答えてくれ」

 

 ルキアさんは、まるで急いでいるかのように話す。

 

「……私の事を護ってくれるから」

 

「……!」

 

「本当は私が護ってあげたいんだけどね」

 

 脳裏には、おにぃが死神になった日の光景が現れる。

 

「そうか……」

 

「何かあったの?」

 

「……いや、少し気になっただけだ」

 

 何かあったようだ

 

「ルキアさんにはさ、兄弟とかいないの?」

 

 いやまあ知ってるんだけど

 

「……兄様が居る……義兄だがな」

 

「仲は良いの?」

 

 我ながら酷い質問だと思う。けれど気になるのだ、ルキアさんはどうしたいのかが

 

「余り良くは無い……のだと思う」

 

「けどルキアさんはそのお兄さんのこと好きなんでしょ?」

 

「……そうだな」

 

「だったら大丈夫だよ! そのお兄さんもルキアさんのこと大好きだろうから!」

 

 ルキアさんは驚いた様な顔をして、嬉しそうにはにかんだ。

 

「……そう、だな!」

 

「そうだよ! ルキアさんが大好きになる様なお兄さんなら絶対にルキアさんのこと大好きだろうし!」

 

 実際、油断していたと思う。大虚を追っ払ってそんなに直ぐに来るなんて思っていなかったし、何ならあと1週間くらいは来ないとさえ思っていた。

 まあ、何を言いたいのかと言うと

 

 

 それから直ぐに、ルキアさんは消えた。

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

「……喜助さん」

 

「分かってますよ……彼には一度、敗北を知って貰わなくてはいけない」

 

 助けに行けない歯痒さを何とか抑えながら、おにぃの治療のための準備をする。

 

「護るために手に入れた力なのに……全然役に立たない」

 

「……すみません、ボク達の事情で貴方を利用しちゃって」

 

「別に愚痴ってるわけじゃないよ、ただ少し寂しくてさ……」

 

 護られてばかりと言うのも、少し辛いものがあるんだ。

 

「……先に行ってるね、後はよろしく」

 

「分かりました……気をつけてくださいよ、()の狙いは貴方かもしれないんですから」

 

 小さく返事をして、おにぃの倒れているであろう場所へと向かう。

 

「……何でこう、上手くいかないんだろ」

 

 分かっている、何故こんな事になったのか

 

 ……分かっている、何故こんな事をしなくては行けないのか

 

 ……分かっている、こんな事してもおにぃは喜ばないって

 

「……馬鹿だなあ……私って」

 

 結局は自己満足なんだろう

 

「……けど」

 

 後戻りは出来ない

 

「……ごめんね」

 

 私の我儘で、この人を傷つけたくない

 

「馬鹿だなあ……私も、君も」

 

 自己犠牲が過ぎるんだ、キミは

 

 血溜まりが見える、その中で倒れているおにぃが見える。

 

「……ダメだなあ、少年」

 

 家族を護ると言ったキミの姿を思い出す

 

 ごめんなさい、お兄ちゃん

 

 私は貴方の大事なものを傷つけます

 



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9 黒崎凪は死神である

 

 雨が降っている。

 

 あの日と同じ、煩い雨だ。

 

 あの死神にやられてから、意識が嫌に朦朧とする。

 

 俺は、ここで死ぬのだろうか

 

「ダメだなあ、少年……」

 

 雨の音が、消えた気がした

 

「……キミは未だ弱いってのに」

 

 知ってる声が、聞こえた気がした

 

「それじゃあ私のことなんて一生護れないよ?」

 

 うるせえ、と叫びたい

 

 声は出なかった

 

「……少年(おにぃ)が傷つくのは、見たくないんだよ」

 

 温かく、包まれた心地がして

 

「眠っちゃいな、後は私が何とかするからさ」

 

 雨が、止んだ気がした

 

「……ごめんね」

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「……眠ったかな」

 

「お疲れ様ッス」

 

 後ろから、下駄の音がする。

 

「喜助さん」

 

 傘を渡し、おにぃのことを担ぐ。

 

「……本当にいいんスか? 彼に正体を教えないで」

 

「……おにぃが知るにはまだ早いから」

 

 帽子で隠れた目が、見開かれたような、そんな感じがした。

 

「……そうッスか、じゃあ一護クンを死ぬほど扱いても文句は言わないでくださいね」

 

「うん、ボロ雑巾になるまで扱きまくっちゃって」

 

 そのまま、彼と同じ方向へ歩き出す。

 

「それなら、コレを渡しときますね」

 

「……? 何これ」

 

 渡されたのは、義魂丸に似た、飴のような球だ。

 

「ボイスチェンジャーみたいな物ッス、仮面だけじゃ絶対気づかれますから」

 

「……わかった」

 

 直ぐに口の中にほおり込むと、喉が変な感覚になる。

 

「……なんか変な感じ」

 

 声が低く、男性のような声へと変わる。

 

「あ、それ10日間ずっとそのままなんで」

 

「は?」

 

 それを最初に言えよ

 

「……やっぱりアンタは胡散臭い」

 

「そんな睨まないでくださいよ、別に10日間は家に帰んないんスから」

 

 だとしても……はあ……

 

「鉄裁さんに頼んで夕飯抜きにしてもらお」

 

「凪さんがスか?」

 

「ぶっ飛ばすよ?」

 

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 ……痛くねえ……? 

 

 やべえ、俺もいよいよ死ぬのか

 

 多分これ死にかけて痛みも何もわかんなくなってんだ俺

 

 そういえばさっきまであんなに冷たかった体も、なんか温かい気がする……

 

 ……あったけえ……

 

「ムッ」

 

 ……!?!?!? 

 

ウぎゃあああああ!!! 

 

「おお! 素早い反応! いいですな!」

 

 なんだ!? なんだコイツ!? 何でこんなに顔近づけてんだこいつ!!! 

 

「店長! 黒崎殿が目を覚ましましたぞ店長!」

 

「テメー見たことあんぞ!! ゲタ帽子の仲間だろ! なんで俺のフトンに入ってんだよ!? 出てけっ!!」

 

 布団の上で格闘すること数秒、目の端に死覇装が写る。

 

「……鉄裁さん、とりあえず離れてあげて」

 

 男の声、何故か死覇装に羊の仮面を着けた、小柄な人が見える。

 

「ムッ、分かりました」

 

 ……やっと離れた……

 

「ホラダメですよ黒崎さん、傷なんてまだまだ塞がっちゃいないんだ」

 

「……ゲタ帽子……!」

 

 そういえば……ここ、オレの家じゃねえ……? 

 

あんまり動くと死にますよン♡

 

 襖に畳、少なくとも俺の家でないことは確かだ、つまり

 

「……そうか、ここあんたの家か」

 

「ご名答♡」

 

 扇子をパチンと鳴らし、こちらへ指を向ける。

 

「……私は出てますね」

 

 男の声が襖から出ていくのが見える。

 

「……あんたが俺を助けたのか」

 

「おや? 心外っスねえその言い方、まるで助けて欲しくなかったように聞こえる」

 

 ─────…………

 

 目の奥に、あの後ろ姿が見える

 

「……石田は、どうしたんだ」

 

「彼は帰りましたよ、元々彼は血さえ沢山出ていましたが傷自体は大したものじゃなかった、あのまま放っておいても丸2日くらいは死ななかったでしょう」

 

 脳裏には、血を流して倒れている石田の姿が映る。

 

「だから傷自体はあの場で殆ど治せました」

 

「……そうか」

 

「で、どうするんスか?」

 

 どうする……ハッ、俺にどうしろってんだ

 

「……俺にどうしろってんだよ……ルキアは尸魂界に帰っちまったんだぞ!! どうやって尸魂界に行けってんだ!? どうやって助ければいいんだよ!!」

 

 叫んでも、何も意味をなさないのは分かっている

 怒りの矛先を間違っているのも分かっている

 だけど、もうどうしようも出来ないんだ

 

「……本当にないと思いますか? 尸魂界に行く方法」

 

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「……さて、と」

 

 あの後直ぐに義魂と入れ替わって、勉強部屋にいる訳だけれども

 

「私は何すればいいのさ」

 

 明日にはおにぃの勉強会が始まるため、今はその下準備……と言うかほぼ打ち合わせをしている

 

「凪さんには、黒崎さんと一度手合わせをして頂きます」

 

「……手合わせ?」

 

「ハイ、彼が死神へと戻ることが出来たのなら、一度アナタと戦わせます」

 

 手合わせ、まあ確かに実践練習が一番いいのだが……

 

「……私、おにぃのこと殺しちゃうよ?」

 

 多分、私は手加減が出来ない

 

「まあ、その時はその時っス」

 

「無責任だなあ……」

 



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10 黒崎凪は名を隠す

 

 

「……今何時間経ったんだっけ」

 

「凡そ36時間っスね」

 

「おお、丁度半分じゃん」

 

「外はそろそろ朝っスかねぇ」

 

 穴の上から、浦原さんとあの羊の仮面の話し声が聞こえる。

 

「ほらそこ、涎垂らさない」

 

 遊子と同じくらいの子供たちが穴の縁から垂らして来た唾に四苦八苦していた頃に、その2人を諌める声が聞こえる。

 

「ヨダレじゃねぇ! ツバだ!」

 

「どっちも同じだよ、ほら散った散った」

 

 穴の縁から羊の仮面が見える

 

「……ありがとよ、アンタが誰かは知らねえけど」

 

「……お腹減らない?」

 

「話聞けよ!?」

 

 無視、まあ聞かれたくないと言う事だろう。

 

「……腹なんか減るわけねぇだろ、今の俺魂魄だぞ」

 

「…………そりゃ、よかった」

 

「おい待てなんだ今の間!!?」

 

「…………」

 

「無視すんな!!」

 

 先程と同じく無視……間が怖い、何があるってんだ

 

「そんな聞きたいの?」

 

 口を噤む、変な威圧感がする。

 

「……もし魂魄の状態でお腹が減ったら危険信号、虚になる1歩手前ってこと」

 

「……!!」

 

「まあ精々頑張れよ、少年」

 

 羊の仮面から茶色の目が見える……気のせいか、その目は微笑んでいる様にも見えた。

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

オアアアァアァアアあァアアアア

 

 叫び声と共に、おにぃの顔に白い仮面が構築されて行く

 

「おいおいおォ! やっぱあいつ虚になっちまったぞ!」

 

 順序がめちゃくちゃだ、普通は霊体が爆散してから組み変わるもののはず、つまり

 

「……『救済措置』に入ります」

 

「待った」

 

 これは、抵抗の証だ

 

「お姉ちゃん……?」

 

「よくごらん」

 

 まだ、諦めるはずがないのだから

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「……どこだ、ここ」

 

 目の前には、空が見える。

 自身が何処に座っているのかも分からない。

 

『こっちだ』

 

 突如人の声が聞こえる

 

「だれだ、あんた」

 

 黒いコートにサングラス、見たこともない人間が其処にいた。

 

『“誰だ”? 何を言っている、私だ、██████だ』

 

 ……? 聞こえない

 

『……そうか、まだ私の声は届かないのか……』

 

 細い棒の上に立っている彼は、背後の空も相まって浮いているようにも見える。

 

『悲しい事だ、一体幾度声を鳴らせば私の声はお前に届く?』

 

 ……何を言っているんだ? 

 

『お前以上に私を知るものなど、もうこの世の何処にも居はしないのに!』

 

「? ……何言ってんだ? 悪りーけどあんたみてーな陰気な知り合いはいねえん……」

 

 そこで気付く、アイツは()()()()()()()()? 

 

「───! アンタどうやって……!?」

 

 靴の底が見える、縦に立っていた棒に、アイツは()()()()()()()

 

『驚いたな、何故そんな処に座っていられる?』

 

 不意に、後ろから引っ張られる様な感覚がする。

 

「……ッな……!」

 

 地面の方向が、変わった

 

「……お……うおああああああ!! 

 

『絶叫とは余裕だな! 頼もしいぞ!』

 

 さっきの黒コートが落ちてきて、横に並ぶ

 

『安心しろ! 死神は死を司るもの! 多くの霊なるものを支配する!』

 

 本来ならばそうだろう、だが、今は違う

 

「俺は今死神じゃねえっ!!」

 

『そう! 大気中に無数に飛び交うこの霊子でさえ、足下に固めれば踏み台とすることが出来るのだ!!』

 

「聞いてんのかテメェ!!」

 

 デジャヴだ、先程もこんな事があった気がする。

 

『思い出せ! 死神であった時お前は無意識のうちに空中に足を止めていたことを!』

 

 ふと、脳裏に過ぎるのは死神であった頃の記憶

 

『そして知れ! 朽木白哉に消された“死神の力”は、朽木ルキアから譲り受けた“死神の力”()()だったと言うことを!!』

 

「……なに……?」

 

 だけ、だと? それではまるで

 

『当然だろう、奴は()()()()に狙いを定めていた、奴は油断した!』

 

 それではまるで

 

()()()()の“死神の力”を奴は見落としたのだ!!!』

 

 俺自身に“死神の力”があるようでは無いか

 

「俺自身の“死神の力”……?」

 

『そうだ、朽木ルキアの“力”によって目覚め始めていたお前の“力”は、朽木白哉の攻撃の寸前に魂の奥底へと身を隠したのだ』

 

 地面が段々と近づいてくる中、上から何かが降ってくるのが見える。

 

『さあ、探せ』

 

 あれは、(はこ)

 

『隠れ去った“死神の力”を探し出せる時があるとすれば、それはこの世界が崩壊を始めた今を於いて他に無い!!』

 

 上空から匣はどんどんと降ってくる

 

『今降ってきている無数の匣、この中のたった1つにお前の“死神の力”が隠れている、それを見つけ出せ!』

 

「……ム……っ……ムチャクチャ言うな言うなよ! ……どうやって……」

 

 どうやってあの中から1つを見つけ出せというのか

 

『言い訳は聞かない、時間は無い、この世界が完全に崩れ去る前に見つけなければ……』

 

 上空からは、絶えず匣が落ちてくる。

 

『……お前は虚となるのだ』

 

 男の顔は、嫌に哀しそうに見えた。

 

 



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11 黒崎凪は加減しない


やっと出せた……やっと出せたわあ…



 

 轟音と共に、おにぃが穴から出てくる。

 

「……死覇装に……仮面……!?」

 

 どっちつかずの不安定な状態だ、霊圧も虚のような死神のような、違和感がする

 

「……」

 

 背中の鞘から折れた斬魄刀を抜く……だが、これではっきりとした。

 

「浦原さん……」

 

「……分かってます」

 

 ガッと音がし、おにぃが斬魄刀の柄で仮面を剥がす。

 

「……ふうっ」

 

 成功だ

 

「……いやーおめでとうございます黒崎さん!」

 

「…………」

 

 おにぃが静かにこちらへ歩いてくる……ご愁傷さま、浦原さん

 

「これでステップ2! クリアふっ!! 

 

「……まあ、そりゃそうだよね」

 

 拳が浦原さんの顔にクリーンヒットする。そりゃそうだろう、たまに穴の中から怨み言が聞こえたし

 

「……ひ……酷いっすねぇ」

 

「あ?」

 

「おー怖い怖い」

 

 威圧感がすごい、だから不良と間違われるんじゃないのかな

 

「……えー改めて、おめでとうございます黒崎さん! ステップ2、クリアっス!」

 

「おう」

 

「それじゃそのままステップ3へと入りますね!」

 

 あれ、もう入るのか……もうちょっと後だと思ってたんだけど

 

「で、今度は何すんだよ」

 

「今度は……彼女の仮面を落としてもらいます」

 

「……彼女?」

 

 はいはーい、私でーす

 

「私のこと」

 

「……アンタ女だったのか?」

 

 あ? 

 

「浦原さん……殺していいんだっけ?」

 

「ダメっスよー半殺しでお願いします」

 

「了解」

 

 話している内容とは裏腹に、おにぃは余裕の笑みを浮かべている。

 

「アンタが相手でも容赦はしねえぞ」

 

「そうして、じゃなきゃ本当に殺しちゃうから」

 

 腰に添えた鞘から久々に彼女を抜く。

 

「私も、容赦はしないからね」

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 岩を砕く音がする、地面が剥がれる音がする、人の駆ける音がする。

 

「ほらほら、逃げてばっかじゃ死んじゃうよー」

 

「……や……やるじゃねえか、そんな細っこい剣でよ!」

 

「あれ、褒められちゃった」

 

 だからといって手加減しないけど

 

「……クソッ」

 

 折れた斬魄刀を振り払い、おにぃが私と距離を置く

 

「あれ、離れられちゃった」

 

「はっ、安心しろ、今すぐそっちに行ってやるからよ!」

 

 真っ直ぐに突っ込んできて、懐に入られる

 

「気、緩めたね」

 

 だけど、甘い

 

「!?」

 

 下から振り上げ、おにぃの仮面を弾く。

 

「自分の方が刀が短いから懐に入る、そこまではいいけど、私が攻撃出来ないと思って気緩めたでしょ?」

 

 つくづく甘い

 

「浦原さん、いいんだっけ」

 

「ハイ、やっちゃってください」

 

 許可が降りた……じゃあ、やろうか

 

「それじゃ、尸魂界で死んじゃうよ?」

 

 久しぶりだね

 

 

 

  ─()え─

      ─捩月(れいげつ)

 

 

 

 

 形が変化していく。

 柄は伸び、刀身は太く短く、みるみるうちに矛の形となる。

 

「……!?」

 

「……この子は真面目でさ、油断した敵を逃がすほど優しくないんだよ」

 

 片手で捩月を廻し、鋒をおにぃへ向ける。

 

「行くよ、『捩月(れいげつ)』」

 

 轟音と共に岩が崩れる、砂埃が舞い上がりその奥へとおにぃが転がっていく。

 

「ほら、長さ(リーチ)違うんだからよく見る!」

 

 手首を使い捩月を廻しながら、おにぃを追い込む

 

「ッ!!」

 

「……よく止めました」

 

 上から斬りかかった刀身を、折れた斬魄刀で受け止める。よくもまあそんなに短い斬魄刀で受け止められたものだ

 

「けど」

 

 けれど

 

「そんな斬魄刀(かたな)で扞ぎきれるほど、捩月は優しくないよ」

 

 刀身に捩月がめり込む

 

「……ッ!!」

 

 ガッと音がして刀身が折れ、斬魄刀がさらに短くなる。

 

「……クソッ!」

 

 おにぃは奥へ走っていく

 

「言われたでしょ?」

 

 けど、瞬歩もできないなら直ぐに追いつく。

 

「なっ!?」

 

(おお)きいだけで霊子が詰まってないんだ、ただ膨張してフワフワと刀の形になってるだけ」

 

 斬魄刀を振り上げ応戦してくるが、やはり短い

 

「だからこうして簡単に砕け散る」

 

 捩月の()で刀身を叩く、すると一瞬で、残っていた刀身と鍔が弾け飛ぶ。

 

「…………!」

 

「……さて、どうする? まだ()()で向かってくるかい?」

 

 もう刀身は無い、残っているのはただ短い柄だけだ

 

「別に私を倒そうってんじゃない、仮面を落とすなんてその柄だけでも十分可能だ」

 

 ……意地悪な役だ、こんな事するだなんて

 

「けど、それはもう勇気とかじゃないって話」

 

 おにぃがこちらを向く、嗚呼嫌になる、何故、私がそんな顔をさせなくてはいけないのか

 

「先に言っとくね」

 

 つくづく自分が嫌になる、甘さを捨てろったってこれは無理な話だろう……だから

 

「まだその瓦落多(がらくた)で戦うつもりなら、私は貴方を殺すよ」

 

 ……だからそんな顔をしないでくれ

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 情けない

 

 何なんだ、俺は? 

 

 何故逃げる? 

 

 そんなもんだったのか、俺の“覚悟”なんてもんは? 

 

 情けねえ

 

 情けねえっ! 

 

 全く

 

 救いようの無え甘ったれだ

 

 

『お前は』

 

 

 目の前に、あの時の男が現れる。

 

「……おっさん……!」

 

『何故逃げる、一護』

 

 時が止まったような感覚がする。

 

「!!」

 

 霧のような物が、周りを包む。

 

『お前はまだ私を呼んでいない』

 

 男の声が、後ろからする。

 

『前を向け一護、今のお前になら聞こえる筈だ』

 

 サングラスの奥に、男の目が見える。

 

『お前の耳を塞いでいるのは、取るに足らない恐怖心』

 

 足が止まる

 

『敵は一人、お前も一人、何を畏れることがある?』

 

 身体を覆っていた恐怖が、消えていく気がする

 

『恐怖を捨てろ、前を見ろ、進め、決して立ち止まるな』

 

 体が火照る、力が溢れる

 

『退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ!』

 

 柄を握り直す、もうこれは瓦落多じゃない

 

『叫べ!! 我が名は……』

 

 前を向く、恐怖はもう無い

 

 

「『斬月(ざんげつ)』!!!」

 

 





捩月の形ですけど、海燕殿の「捩花」がそのまま矛になったみたいなイメージですね


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12 黒崎凪は嘘を吐く


ランキング、ルーキーに10位以内入りました!本当にありがとうございます!!!!



 

 

「斬月!!!」

 

 

 霊圧の渦がおにぃを中心として立ち上り、地面から巻き上がった砂塵が周囲を包む。

 

「……」

 

 砂埃が晴れ、少しずつ、斬魄刀の姿が現れていく。

 

「……すごい」

 

 霊圧が、ある程度は離れているここからでも感じ取れる程に高い、総量だけで言えば私と同等かもしれない。

 

「……それじゃレッスン3、本格的に始めようか」

 

 ……久しぶりに、滾ってしまう

 

「……わりぃ」

 

「?」

 

「うまく避けてくれよ」

 

 ……まさか

 

「多分、手加減できねえ」

 

 突如霊圧が急上昇する。

 まさか、この状態であれを出そうと言うのか

 

「……ッ()らせ! 『捩月(れいげつ)』!!」

 

 噴火のような霊圧の爆発と共に、仮面の端を斬撃が掠める。

 掠っただけだ、だがそれだけで仮面は吹き飛ぶ。やがて霊圧は収まり、おにぃの霊圧も元に戻った気配がする。

 

「…………ふう……」

 

 正直、直撃していたら腕くらいは持っていかれていただろう

 

「『捩月』が逸らしてくれなきゃやばかったかもね」

 

 コトンと、仮面が地面に落ちる音が聞こえる。

 

「……壊れちゃった」

 

 斬撃の掠った部分がひび割れてしまっている、早めに作り直さなきゃな

 

 ……それにしても

 

「一振でこれか」

 

 背後を向くと、勉強部屋の地面に深々と、ものすごく大きい切れ込みが入っている。

 

「凄いなあ、こりゃ」

 

 おにぃはそのまま斬魄刀を杖として寝てしまっている。

 

「……喜助さん、クリア?」

 

「……はい、レッスン3、クリアっス!」

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「ほらほら、そんなんじゃ当たんないよ」

 

「クソッ!」

 

 おにぃの斬魄刀が出てきた次の日、早速修行を続けていた。

 

「それにしても、『斬月』か」

 

 捩月(れいげつ)と同じく月の入る名前だ、やはり血の繋がりがあると似た名前になるのだろうか

 

「『月』を『斬る』か……いいね、君らしい」

 

「……アンタの名前はなんてんだよ」

 

「……私?」

 

 そんなに必要なものだろうか、

 

「アンタも尸魂界に着いてくるんなら、名前くらい分からねえと面倒だろ?」

 

「……名前、名前かあ」

 

 ……正直言うと考えてなかった、いやそのまま行けるかなって思ったんだもん

 

「……『時化(ときばけ)』」

 

「時化さんか、それじゃ宜しくな」

 

「……ん」

 

 なんというか、変な罪悪感がある。

 

「……なあアンタ……」

 

「ハイハーイ! 集合してくださーい」

 

 ふと、喜助さんの声が響く。

 

「……呼んでる、行こっか」

 

「あ、ああ」

 

 ……なんか、勘づかれそうだなあ……

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 八月一日、晴れ

 夏祭り、フルーツジュースの屋台にて

 

「……お父さん、それお酒入ってないよね?」

 

 目の前には、顔を赤く染めてだらしのない笑みを浮かべる女児が2人、夏梨と遊子だ。

 

「入ってるぞ?」

 

「殺すぞクソ親父」

 

 やはりお墓参りに行った時に確実に潰しておくべきだったか。この所業、生かしておけぬ

 

「死ぬがよい」

 

「わー待て待て待て!!!」

 

 こいつ……避けやがった!? 

 

「故意じゃない、故意じゃないんだ! あの屋台のおっちゃんボケてるから薄めるための水が酒になっちまってたんだよ!!」

 

「お父さんそれ前夕飯の時に話してたよね」

 

「ああ」

 

「だから気を付けろって前言ってたよね」

 

「……あ、ああ」

 

 故意じゃねえか

 

「吹き飛べ」

 

ギャアアアアアア!!! 

 

 1回……2回……3回バウンドをし、河川敷へと転がっていく。新記録だ、やったね

 

「……おにぃのとこ行くか」

 

 夏梨と遊子はお父さんの所へ走って行ってしまったし、多分お父さんの所にいたらろくな事にならないだろう。

 

「……1週間後か」

 

 10日間に渡るおにぃの修行も終わり、今は言うなれば浦原さん側の準備期間だ。

 

「……本当にあの名前使うのか」

 

 まあ確かに、おにぃの言う通り名前が分からなければ不便な事も多いだろう、言うまでもない……だが

 

「……気に入らないなあ……」

 

時化(ときばけ)

 咄嗟に決めたにしてはまあ、まだマシと言える……だがやはり罪悪感と言うか、偽っていると自覚してしまう分名乗るには少し勇気がいる。

 

「……あ、いた」

 

 おにぃだ

 

「おにぃ」

 

「あ? なんだ凪、お前も来てたのか」

 

「……お父さんと一緒にね」

 

「……そりゃまあ、大変だったな」

 

 おにぃにはこの大変さが分かるだろう、小さい頃はよく連れ回されてたし。

 

「……もしかして凪? 久しぶり!」

 

「そんなに久しぶりでも無いよたつきちゃん」

 

 多分1年ぶりとかか……いや、割と離れて……い……る……

 

「たつきちゃん、その腕は?」

 

「あーこれ? インハイ行ったらやられた」

 

「……?????」

 

 たつきちゃんの腕を折るって……どんなバケモノが相手なんだ……? 

 

「お、お大事に……」

 

「? うん、ありがとね」

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「……おにぃ、そろそろ代わろうか?」

 

「いや……大丈夫だ……!」

 

「……そっか」

 

 時刻は夜、お父さんに酔わされた2人を背に背負い、家への帰り道をおにぃと並んで歩いている。

 

「親父はなんでか河原で寝てやがるし……あのヤロー絶対ぶっ飛ばす」

 

「……いやーホント、ナンデデショウネ」

 

 一体何処の黒崎さんのせいだと言うんだ……! 

 

「……なあ凪」

 

「ん?」

 

「お前は、俺が居なくても大丈夫か?」

 

 ……いきなり何を言うかと思えば

 

「……どうしたの、らしくもない」

 

「うっせ」

 

 そんなの、決まってるじゃん

 

「おにぃはさ、私が大丈夫って言った方が助かるよね」

 

「…………」

 

「……けどごめんね、私はいじわるだから、そんな事言えない」

 

 おにぃが居なくなったら、私は

 

「大丈夫じゃないよ。たくさん泣くし、たくさん悲しむ」

 

 生きる事を選べないから

 

「たくさん悔しがるし、たくさんさみしくなるかな」

 

 だけど、大丈夫

 

「けどさ」

 

 (あたし)が、死なせない

 

「それでも私は、お姉ちゃんだから」

 

「……ああ」

 

「遊子と夏梨を残してなんて逝かないよ!」

 

「……ああ」

 

 だから

 

「だから」

 

 貴方は

 

「心配しなくて大丈夫だよ! お兄ちゃん!!」

 

 そんな事は、考えなくていいのだから

 



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尸魂界篇
13 黒崎凪は暇である



アニメBLEACH面白過ぎだろ!!!
休日潰れましたね、許せるッ!



 

「……暇だ」

 

 ────尸魂界 双極の丘の下『遊び場』

 

「……こんなんなら先行するんじゃなかった」

 

 事の顛末は、昨日まで遡る

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 ────瀞霊廷白道門前

 

「通れ! 白道門の通行を兕丹坊が許可する!!」

 

 尸魂界にたどり着いて直ぐに戦闘となり、思っていたよりもあっさりとおにぃが勝ってしまい門番の男……兕丹坊と言ったか、彼が門を開けてくれることとなった。

 

「……夜一さん」

 

「? どうした」

 

 大男とおにぃ達が話しているのを横目に見ながら夜一さんに話しかける。

 

「おにぃをよろしく」

 

「……? どういう」

 

 大きな音をたてて門が開き、瀞霊廷の中が顕になる。

 

「……縛道の二十六『曲光』」

 

 姿を消し、体から出る霊圧を一時()()()()する。

 体が軋む音が聞こえるが、『遊び場』まで行けばアレがある筈だ。

 

「それじゃ」

 

 足元で霊圧を爆発させる

 

 門の前には、白い羽織を着た白髪の男が見える。

 

「……あァ、こらあかん」

 

 ……男と目が合ったのは気の所為だと思いたい。

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「……そろそろ治ったかな」

 

 霊圧の完全遮断、相手の霊圧感知をすり抜けることが出来る便利なものだが、体には随分と負担がかかってしまう。

 そのため喜助さんに教えて貰った『遊び場』で傷を癒すことの出来る温泉に相当長い間入る必要があった。

 

「じゃ、始めるか」

 

 自身の斬魄刀を抜き、『転神体』を取り出す。

 

「やるよ……──結え『捩月』」

 

 立たせた転神体に捩月を突き刺すと、捩月と共にみるみるうちに形が変わって行く。

 長い青い髪を後ろで結い、和服を着た少女が、そこに現れた。

 

「……こうして会話をするのは何時ぶりでしょうかね」

 

「あれ、拗ねてる?」

 

「拗ねてませんが」

 

「いや拗ねてるね、私にゃ分かる」

 

 どれだけ付き合いが長いと思っているんだ、相棒の考えることくらいは分からなくちゃ

 ……だがまあ確かに長い期間会話が出来なかったのも事実だ、まあ最近はおにぃの修行に付き合ったりしてたし……まあ多少はね? 

 

「取り敢えず対策考えなきゃ」

 

「……()()()の、ですか」

 

「そ、対策無しで勝てるわけないし」

 

 未だ会ったこともないし、何なら夢の中でしか見ていない彼だが……それだけでも化け物だと言えるのは分かる。

 

「……まず斬魄刀を使われたら終わり、と思っていた方が良いでしょう」

 

「始解されたら終わり、鬼道使われたら終わり、まず目つけられたら終わり……無理ゲーすぎない?」

 

 どう考えてもスペックが化け物過ぎる、どう頑張っても勝てる未来が見えない。

 

「……最悪はあっちにつくのもありかもね」

 

 別にあの人が何をしようとどうでもいい、おにぃが生きているのならそれだけでいいのだから

 

「……正気ですか?」

 

「まあ、ほんとに最悪の場合だけど」

 

 だが、何方にせよあの人は負ける運命だ。それが分かっているのに下につくなど、狂気以外の何でもない。

 

「……私は、主の示す道に従います」

 

「やっぱちょっと重いよね、捩月」

 

 私も人の事を言えないが

 

「では、時間も推しています、そろそろ始めましょうか」

 

「あれ? 対策は?」

 

 対策考えるって私言わなかったっけ

 

「出したでしょう、斬魄刀を使われたら終わりだと」

 

「……もしかして始解する前に倒すとか言わないよね」

 

「逆に何をしようと?」

 

「脳筋だこの子」

 

 能力に反して脳筋なんだよな、この子……一体誰に似たのか

 

「ならば他に方法があると?」

 

「いやあるでしょあなたの能力なら」

 

「そうですか?」

 

 くっ……これだから脳筋は……

 

「……まあ取り敢えずは実戦あるのみか」

 

 机上では分からないことも多いし、実戦に勝る修行は無いだろうからね

 

「では、始めましょうか」

 

「お手柔らかにね?」

 

「無理なお願いですね」

 

 あ、これ死んだかもしれん

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

(あやつ……やりおった……)

 

 四楓院夜一は頭を抱えていた、許可も取らずに単身突撃した黒崎凪にだ。

 

(そう簡単に捕まるわけが無い……が)

 

 霊圧の隠蔽に関しては異常なまでに上手かった……が

 問題は、その方法である。

 

(あれほどするなと言っておったのに……)

 

 霊圧の完全遮断

 

 本来死神は両手首の排出口から霊圧を体外に出し続ける。そうしなければ自身の霊圧により体内から灼かれ死んでしまうからだ。

 死に直結する自殺行為、本来ならば考えつくこともないだろう……だが、彼女は違った。

 

 一度目は5年前、まだ死神の力を手にしたばかりのことだ、何を思ったか霊圧の排出口を強引に塞ぎ、霊圧遮断を試みた。不幸中の幸いと言ったべきか、その結果は失敗に終わり大怪我を負うだけに留められた。

 二度目は3年前、大怪我を負ったのを忘れたのかこれまた強引な方法で排出口を塞ぎ大爆発を引き起こした。悪運が強いのか、これまた大怪我を負うだけに留められた。

 三度目は2年前、過去二度も大怪我を負った要因を忘れる筈も無いのに、それはまた訪れた。幸いにも過去の2回程の強引さは無く、運が良かったか怪我を負うだけに留められた。

 四度目は去年、ここまで来ると最早呆れを通り越して恐怖すら覚えるが、三度の失敗から学んだのかその方法には強引さは塵も感じられなかった。遮断した体内で暴走する霊圧を体内での流れを作り出し短時間であるが身体が灼ける事を防ぐと言う方法だ。当然と言うべきか、軽傷を負うだけに留められた。

 そして五度目は先程起こった。 過去四度の経験を生かしてか、 『曲光』との組み合わせによりそこにいた全員の目を欺くことに成功した。それにより単身での突撃は成功、そして未だに護廷十三隊には存在がばれずにいる。

 

(焦りおって)

 

 そうとしか見えないだろう、自身の身体を傷つけてまで家族が護りたいか……そう考えると家に置いてきてしまった弟の顔が思い浮かび、考えることを止めた。

 

(無理をするでないぞ)

 

 過去四度に渡り自殺と称せるほどのことをしてきた彼女に対したその言葉には、少しの呆れと労いが込められていた。

 





霊圧遮断の話は自己解釈入ってます


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14 黒咲凪は煽りカスである


すみません…最近リアルで色々あってあまり投稿出来ていませんでした。
今回、少し性的描写に近いものがあるので苦手な方はブラウザバック推奨です。



 

 遊び場に、刀の弾ける音が響く。

 捩月の刺突を避けると、岩が抉れる音が耳に入る。

 頭に掛けた仮面が()れる、肌が()れる、身体が()ける。

 何故か笑みが(こぼ)れる、それと同時に自身の霊圧が跳ね上がる。

 

「『月牙』……」

 

 捩月の柄を振り上げ、距離をとりながら霊圧を溜める。

 

「『天衝』ッ!!!」

 

 捩月の先から斬撃が飛ぶ、確実に避けられないだろう……

 

「『逸らせ』」

 

 この子以外だったらの話だが

 

「今のは中々良かったです……が、溜めが長いです。もうワンテンポ早く月牙を出せれば当たっていました」

 

「解説……ありがとね」

 

 私の首には捩月の先が掛かっており、斬ろうと思えば直ぐに殺される様な形になってしまっている。

 

「……自分で言うのもなんだけどさ、捩月(あなた)の能力……ちょっとインチキじゃない?」

 

「……私の性格(せい)でこれになった訳ではありません」

 

 そう言うと同時に地面に捩月を突き刺す。すると地面が()()、周りに小さなヒビが入る。

 

「……“捩る能力”だから『捩月(れいげつ)』、やっぱ安直な気もするよね、名前」

 

「だから私がつけたわけではありません!!!」

 

 そう言うと、先程捩月を突き立てた場所に……今度は先程よりも強い力で突き立てる。すると

 

「うわっ!!」

 

「あっ!」

 

 目の前の景色が反転し、地面に倒れる。

 

「……起こして貰ってもいい?」

 

「……はい」

 

『捩月』の能力はその名の通り“捩る能力”。さっきのは月牙天衝の軌道を捩り、結果として月牙を避けられた。

 で、今のは

 

「……拡大解釈が過ぎない?」

 

「ですから私に言われても困ります!!」

 

 地面を何度も突き刺した事により地面の“役割”が()()、地面に倒れ伏した訳だ。

 

「まあ捩月は“卍解”の方が好きそうだしね」

 

「皮肉ですか? 殴りますよ?」

 

「えっ怖」

 

 いやはや誰に似たのか……直ぐに暴力に頼るのは良くないぞ! 

 

「貴方に言われたくはありません」

 

「なんかソレ私が直ぐ暴力振るう乱暴な女って言ってるように聞こえる」

 

「そう言っているのですが?」

 

「いやそんなわけないよね! 私はおしとやかな女の子だから!」

 

「程遠いですね、寧ろDVをする女性に似通っています」

 

「私そんなことしてた!?」

 

 やめて、逆の方面で怖いからそれ

 

「……似通っていると言っただけでされたとは言っておりませんが」

 

「あらツンデレ……いやダメだ、似合わなすぎて吐きそう」

 

「墓標は此処に立てましょうか?」

 

 寧ろ私の方がDVされてない? 

 

「墓標を立てるだけ有難く思いなさい」

 

「ごめんなさい、謝るからその拳下ろして」

 

 何故かは知らないが捩月の掲げた拳からヤバそうなオーラが立ち上っている。絶対死ぬ奴だあれ

 

「……まあ、今は許してあげましょう」

 

 この女、チョロい……やはりちょろい女を持つと楽だぜ! ガハハ! 

 

()()()

 

 ガハハ! 

 

「この鬱憤は貴方で晴らす事にします♡」

 

 ハハ! ハハハ! ……は? 

 

「ちょっと待って、いま聞き捨てならない言葉が聞こえた」

 

「貴方は今からサンドバッグです、騒がず静かに斬られてくださいね♡」

 

「わぁ、これまでに無く怒ってらっしゃる」

 

 許すって言ったじゃん!!! 

 と言うかサンドバッグは斬ったら駄目な気がするんだけど(天地明察)

 

「ね、ねぇ……捩月? ちょっと考え直したり……」

 

 刹那、自分の髪を斬撃が掠める……月牙だ

 

「……え?」

 

「外しましたか、次は確実に仕留めなくては♡」

 

 怖い、多分私が今まで見てきた何よりも怖い。

 

「ちょっと待って捩月、考え直して」

 

「サンドバッグは喋りません♡」

 

 駄目だ、会話は成立しない……ならば

 

「逃げる!!」

 

「逃がすとお思いで?」

 

 地面に何かが突き刺さる音が聞こえる。まずい

 

「ぐえっ!!」

 

 地面に倒れてしまう。不味い、本当に殺される

 

「フフ……捕まえた♡」

 

 私の上に馬乗りになり私のことを見下ろす、こんな状況じゃなけりゃ喜んでたかもね

 

「まって! 死んじゃう! ほんとに死んじゃうから!」

 

 修行中に自分の斬魄刀を怒らせて殺されたとか、目も当てられない

 

「……まあ、確かに」

 

 あれっ……何とかなりそう

 

「ソウダヨ! 強い強い捩月にやられたらかよわい私は死んじゃうヨ! (棒)」

 

「確かに、それもそうですね……では……」

 

 あれっ勝った? 勝ったかな? ……ヨシ!! (指差し確認)

 勝った!! 第14話! 完ッ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、あの温泉の中でシましょうか♡」

 

 ……え? 

 

「少し移動しますね……よいしょっと」

 

 背中と膝の間に腕を差し込み、私の体を持ち上げる。お姫様抱っこの体制になった。

 

「えっ今の完全に諦める流れじゃないの?」

 

「私が貴方を諦めるわけがないでしょう?」

 

 今この状況じゃなかったら容姿も相まってイケメンにしか見えないだろう、けどこの状況だとどう見ても猟奇殺人犯だ。

 

「やだ!!」

 

「だめ♡きまり♡」

 

「痛い! やだ!!」

 

「はいしか言っちゃダメ♡」

 

「痛いもん!!!」

 

「罰だから♡」

 

 あれダメだ、正論にしか聞こえねえ

 

 バシャンと音を立て、温泉の中に叩きつけられる。地味に痛い、もうこれだけで良くない? 

 

「……凄い、死覇装の上からでも傷治るよここ」

 

 純粋に感動してしまう、流石は喜助さんだ。

 

「じゃあどれだけ激しくシても大丈夫ですね♡」

 

「あっ」

 

 

 拝啓おにぃへ

 

 お元気ですか? 霊圧のコントロールも少し難しくなってきたかも知れません。お身体に気を使って瀞霊廷に侵入して下さい。

 私は今、自分の斬魄刀に殺されかけています。

 いえ、私が原因なのですが少しやり取りで喧嘩となってしまいまして、気にすることではございません。

 次会う時には、生きて会える事を祈っています。

 

 敬具

 





こんな感じのを書いてみたかったから書きました、後悔はしてません


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15 黒崎一護は見誤らない


たぶん前回のあらすじ

凪「捩月がツンデレ…?オ゛エ゛ッ」
捩【殺す♡】
凪「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前(天下無双)」
捩【クソザコナメクジ♡自分の斬魄刀にやられちゃう♡】
凪「ファッ!?」
捩【オラ抵抗すんな(杓変)】
凪「あっ(絶命)」

…煽りカスなのは捩月では?



 

「もうお嫁にいけない…」

 

【本当に行けなくしてあげましょうか】

 

「怖っわ」

 

ゾッとしたぞ

 

「というかそうだ、こんなバカなことしてる場合じゃないんだ」

 

【その通りです、おそらくもう少しで……!】

 

突然、浴び慣れた霊圧を感じる。

 

「…来たか」

 

【はい、我々はどうしますか?】

 

「おにぃが来るのは多分もう数日かかる、修行を再会しよう」

 

【了解しました…では、次のステップに入りましょうか】

 

捩月を手元に引き寄せ、両手で柄を掴む。

 

「容赦は無し、本気で来て」

 

【…分かりました】

 

霊圧の上昇を、身体で感じる。

実質一年ぶりの解放だ、何が起きるかも分からない

だが、何故か口元からは笑みが溢れてしまう。

やはり私も、戦いが好きなのかもしれないな

 

【「“卍解”」】

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

遮魂膜を抜け、瀞霊廷の中で一護は死神…斑目一角と相対していた。

 

「…解せねえな」

 

「あ?」

 

斬り掛かるよりも先に、斑目一角が口を開く

 

「振る舞いはまるで素人、とてもじゃないが戦士にゃ見えねえ」

 

「…そりゃどーも」

 

それなりに場数を踏んできたと思っていた一護は、自身を“素人”と称した死神に対し少し苛つきを覚える。

 

「だが反応は上等、体捌きに至ってはこの俺に近いと言ってやってもいい」

 

「あ?」

 

ふんぞり返りながら自身を親指で指し、中々に上から目線な言葉を列ねる一角に対し苛立ちが募る

 

「そう怖い顔すんなよ、褒めてんだぜ?」

 

「…」

 

自身を少し落ち着かせ、相手を睨みつける。まだ動く気は無さそうだ。

 

「ただの戦い好きの奴の“本能”で片付けるには出来すぎだと思ってな」

 

「…何が言いてえんだよ」

 

斬月の柄を持ち直し、鋒を相手に向ける。

 

「師は誰だ、一護」

 

予想外の質問だった、少し目線が緩むが持ち直し斬月を持つ手に力を入れる。

 

「──…十日ほど教わっただけだから、師と呼べるかはわかんねぇけど…戦いを教えてくれた人なら居る」

 

「…誰だ」

 

ふと思う、彼女の名乗っていた名前は()()()()()()()()()

 

「……時化(ときばけ)

 

「知らねえ名だな…だが覚えたぜ、その名前」

 

「そんなこと聞いてどうするつもりだよ」

 

「ハッ…決まってんだろ」

 

一角は片手ずつにに持つ刀と鞘を顔の前で繋ぐと、目線をさらに強くして此方を睨む。

 

「テメェを倒して、そいつとも戦うためだよ!!」

 

「…!!!」

 

()びろ!!『鬼灯丸(ほおずきまる)』!!!

 

鞘と刀が溶けるようにして繋がり、みるみるうちに一角の刀は姿を変える。

 

「……槍か!!」

 

「驚いてるヒマぁ無えぞ一護!!見誤んなよ!!!」

 

一瞬の踏み込みと共に一角の刺突が一護を襲う…が

 

「…遅せぇッ!!!」

 

刺突を避けると共に一角へと反撃を加えるが、槍の柄で防がれまた距離を取られる。

 

「長物相手はもう慣れてんだよ!」

 

脳裏にはあの羊の仮面が映る。一角の刺突も速いが、あれに比べてしまえば十分に鈍く見える。

 

「長物?違うぜ」

 

瞬間、一角は一気に距離を詰め、また一護の顔目掛け突きを放ってくる。

…妙だ、何故距離を詰める?槍ならばある程度の距離を取りを活かして攻撃してくる筈、ならば何故?

ふと、時化の言っていた事を思い出す。

 

『映画とかでもよく言ってんじゃん、“目に見えるものが全てじゃない”って』

 

「裂けろ鬼灯丸!!!」

 

これは、()()()()()

 

「…横か!!」

 

「!?」

 

何故か顔の横にまで迫っていた槍の刃を弾き返し、また間合いを取る。

 

「…初めてだぜ、鬼灯丸が()()()だって気付いた奴はよ」

 

「いや、そこまでは分からなかった」

 

「潔いな!?しかも気付いて無かったのかよ!?」

 

斬月を両手で持ち直し、 狙いを定める。

今度は、此方の番だ。

 

「ふっ!!!」

 

一角の前へと跳躍し、一気に距離を詰め斬り掛かる。

避けられてしまい斬撃は後ろの壁へと。

 

「…なっ!?」

 

壁は威力を殺すことが出来ずに抉れ、ガラガラと崩れる。

 

「こっからだぜ一角、見誤んなよ」

 

「…言うじゃねぇか…餓鬼が」

 





一護は十日間捩月の相手をしていたので長物相手はある程度経験があります。


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16 黒崎凪は回復する


一護の戦いとかは結構飛ばして書きます、ご容赦ください



 

「……!」

 

「黒崎一護が()()勝利したようですね」

 

「うん、けどこりゃ大分酷くやられたみたいだね」

 

 卍解を解除し、捩月を鞘に収める。

 

「やっと治ってきましたね」

 

「ん、ありがとね付き合ってくれて」

 

 自身の霊圧が()()()()()()()のを感じる。ここまで戻せたなら問題は無いだろう。

 

「他ならぬ主の為ですから」

 

「……やっぱ何時もはイケメンなのにな」

 

 さっきのアレは気の所為だったのだろうか、うん、そうに違いない。

 

「それで、どうするのですか?」

 

「うーん……私も動こうかな」

 

 変に動き回ったら目つけられるかも知れないし

 

「それでは私は戻らせて頂きます」

 

「了解、ありがとね」

 

 ゴトンと音を立て、捩月のいた場所には転神体だけが残っていた。

 

「……さて、行きますかね」

 

 目指すはおにぃのいる場所だ。

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 ───瀞霊廷 地下水道路

 

 阿散井恋次との戦いを終え、なんとか勝利したものの一護は想定以上の怪我を負ってしまっていた。

 

「……治癒能力?」

 

「はい、他の死神は戦闘にしか霊力を使えませんが僕ら四番隊だけは治癒能力を持っているんです」

 

 ほとんどそれしかできないですけど……と自身を卑下するかのような言葉を続けて列ねる黒髪の死神、花太郎は、目の前に倒れる一護に対し回道を使用している。

 死神であり護廷十三隊に属する彼が、何故旅禍である黒崎一護を治癒しているのか、其れは一護達と同じく朽木ルキアの救出を彼自身が望んでいるからだった。

 

「そうか……で、どんな具合だ? 一護は……」

 

「……酷いです、一晩で治るかどうか……」

 

「……そうか」

 

「でも、絶対に治します」

 

 強い目をしながら傷を治すため奮闘する彼を、岩鷲は敵が来ないようその入口から見守っていた。

 

 その時だった。

 

「こっぴどくやられたねえ、少年」

 

 羊の仮面に死覇装を着た、謎の死神がいつの間にかそこに現れたのだ。

 

「……っ!? 誰だ!!!」

 

「敵じゃないよ、寧ろ彼の味方だ」

 

 ふとそこで岩鷲は一護が言っていたもう一人の仲間の事を思い出す。

 

「羊の仮面……まさかアンタが……」

 

「多分君の想像通りかな、けどごめんね、自己紹介してる暇なんてないんだ」

 

 そう言うやいなや、死神は突然斬魄刀を抜く。

 

「……何してっ!」

 

 死神は音も無く、一護の身体へと斬魄刀を突き立てた。

 

「なっ!?」

 

「ちょっと黙ってな」

 

 死神はブツブツと何かを呟くと、斬魄刀から淡い光を出しそれを抜く。

 

「これで怪我は多少マシになったと思う、後は君が……あれ、気絶してる?」

 

 花太郎は突然現れた死神に驚き、色々な事を思い浮かべた末に気絶してしまっていた。

 

「……仕方ない、私が治すか」

 

「アンタもしかして……一護の仲間か……?」

 

「君は……志波家の人かな……うん、混乱するのも無理ないよね、少し話そうか」

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「……やっぱりアンタが時化って人だったのか」

 

「うん、彼の霊圧が不安定になってたから心配になって来たら案の定……ね」

 

 おにぃの傷はある程度まで良くはなっているが、それでもやはり私の想定していた以上に傷を負ってしまっている。

 

「……さっき、何したんだ」

 

 ん、そりゃまあ気になるよね、彼からすればいきなり現れた味方がおにぃの事をぶっ刺したんだから、気が気じゃないだろう。

 

「私の斬魄刀で彼の傷を減らしたんだよ、まあ気持ち程度だけどね」

 

「……そうか……ありがとな」

 

「ううん! 寧ろお礼を言うのは私の方だよ、彼をここまで連れて来てくれてありがとね!」

 

 凪ちゃんの悩殺スマイル(見えてない)を見せると岩鷲君は何故か固まってしまった、どうした、見惚れちゃったか? 

 

……兄貴そっくりだ

 

 あ? なんて? 

 

「……? どうかしたの?」

 

「……いや、なんでもねえ」

 

 さいですか……というか誰だこの死神

 

「ねえ岩鷲君、この死神って……」

 

「ああ、そいつは味方なんだ」

 

 味方? 死神が? 寝返ったってこと? 

 ……寝返っても得無くない? 

 

「そいつも朽木ルキアを助けたいんだってよ」

 

「嗚呼なるほど、ルキアさんのためか」

 

 成程合点がいった、ルキアさん可愛いもんね、仕方ないね。

 

「さて、と私もそろそろおいとましようかな」

 

 おにぃの大きめな傷はもう殆ど治せたし、後はおにぃが安静にしてれば自然治癒するだろう。

 

「ついてこねえのか?」

 

「うん、私が着いてっちゃこの子は成長出来ないから」

 

 まあそれでも見守ってるんだけどね

 

「それじゃ、少年によろし……く……?」

 

 ふと、裾を摘まれた……

 

 

「……な……ぎ……?」

 

 

「……????」

 

 待て、待て待て待て…………

 気付かれた? 

 ……いや有り得ない、今は仮面も付けてるし声も……

 

 ……声? 

 

『ボイスチェンジャーみたいな物ッス、仮面だけじゃ絶対気づかれますから』

 

 あれ? 私あの飴玉食べたっけ? 

 

「……少年? 私は凪じゃないよ? 時化、ときばけだから」

 

 ヤバい、あの飴玉食べるの忘れてた

 

「少年? 復唱しようか? 私は時化、私は時化だからね?」

 

 不味い、ここで気付かれるのは非常に不味い

 

「……な、なあ、ソイツ寝てるぞ?」

 

「え?」

 

 見ると、さっき少しだけ開いていた目が、今はきちんと閉じている。

 

「……寝言?」

 

「……だろうな」

 

 …………

 ……

 ……

 

あ ほ く さ

 

 

 じゃあ何? 私は寝言に対してこんな慌てふためいてたの? 

 

「……岩鷲君?」

 

「はっはいっ!?」

 

 なんで敬語やねん、バカにしてんのか

 

「君は何も見なかった? 良いね?」

 

「えっでも」

 

「い い ね ?」

 

「はいっ!!!」

 

 ヨシ(指差し確認)、これで万事OKだわ! 

 

「……じゃあ、私は先に行くから、くれぐれもこのことは少年に話さないようにね?」

 

「はいっ!!! 了解致しました!!!!!」

 

 よし、楽しく話せたな

 





ぱーふぇくとこみゅにけーしょん


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17 ███は███である


だいぶ短いです



 

「ここ……どこだ?」

 

 地の果てまで見えるのではないかと言うほどまでに、何も無い空間。いや……ただ一本だけ、一護のすぐ後ろに、粉白色の実のなった巨木が生えていた。

 

「あ! やっと起きたんだ!」

 

「!」

 

 木の後ろから、鈴を鳴らしたような、綺麗で少し幼くも感じる声が聞こえた。

 

「……誰だ?」

 

「さあ! 誰でしょう?」

 

 そう言いながら姿を現したのは、まだ10歳にもならないであろう少女だった。少女はスキップをしながら此方へ近付いてきて、一護のすぐ近くまで寄ってくる。

 

「ここがどこか気になるみたいだね!」

 

「ああ」

 

「しりたい?」

 

「……まあな」

 

「じゃあ私と遊んで!」

 

「はあ?」

 

 少女はまた木の後ろまでかけ足で行くと、1枚の紙を持ってきた。

 

「……絵か?」

 

「そう! 夏の絵!」

 

 上手い、少女の見た目から出されてはどうも納得の行きにくい程に上手い絵だった。……ただ、一護はその絵に対して言いようの無い違和感を感じてしまう。

 

「……上手いな」

 

「でしょでしょ!」

 

 何処か見覚えのある様な、不思議な感覚だった。

 

「いまはこの一枚しかないけど、これからどんどん色んな絵を描くんだよ!」

 

「……ああ、頑張れよ」

 

 

 その時ふと思う、自分はここに居て大丈夫なのだろうか? ……と

 

「悪ぃ、俺行かなくちゃならねえ」

 

「……お友達が待ってるの?」

 

「……ああ、大切な友達だ」

 

 少女はしゅんと落ち込んだような顔をしているが、直ぐに顔を上げ笑顔を見せてくる。

 

「じゃあ次はそのお友達ともいっしょにお絵描きしよ!」

 

「……ああ」

 

 その笑顔は何処かで見た事がある様な、何時も見ているかのようにも感じる、少し哀しげな笑顔にも見えた。

 

「久しぶりに会えてうれしかったよ、じゃあね ! おにー……────」

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「……ここ……は」

 

 真っ白な天井が目に入り、部屋の外からは花太郎と岩鷲の寝息が聞こえる。

 

「……寝てんのか」

 

 今がどれくらいの時間なのかは分からないが、ここまでフラフラになりながら治療してもらった手前、無理に起こすことは出来ない。

 

「……もう少し待つか」

 

 先程の夢のことも気になってしまい、一護はその場に座り込んだ。

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 ……さて、これで私のすることは三分の一くらいは終わった訳だが……やはりさっきのことが気になる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 私の夢の中では、あそこまでの深手を負っていなかったはずだ。つまり、あそこまでやられる何かがあったと考えるのが妥当だろう。

 

 …………私以外いないよな、その何かって

 

 実際夢の中では喜助さんがおにぃに修行をしていた……つまり、その相手が私になることでおにぃの戦闘の仕方が少しだけ変わり、想定以上に深手を負うことになってしまったと言ったところか。

 

 ……自分を刺し殺してやりたい

 自分を罰するのはあとからでもできるとして、問題は他の()()だ。

 石田さん、井上さん、チャドさん。この中で唯一夢の中であまり傷を負っていないのは井上さんだけで、石田さん、チャドさんの二人は隊長格にやられて捕縛されていたはずだ。

 つまり、怪我が大きくなりそうなのは今の所この二人で、あまり傷を負っていない井上さんは、悪いが後回しにさせてもらおう。

 確か一番近くて最初にやられるのはチャドさんだったはずだ、ならばそこから行くのが妥当だろう。

 

 ……けど、チャドさんの相手ってあの人なんだよなあ……

 



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18 黒崎凪は戦わない

 

「貴方がチャドさん?」

 

茶渡(さど)だ」

 

 初めて会ったのは去年、おにぃがケンカをしている前でチャドさんが椅子に縛り付けられてるのを見掛けた時だった。

 

「……脚長いですね、羨ましい」

 

「……取り敢えずワイヤーを解いてくれないか?」

 

 あの時おにぃはケンカした後だったから地面に寝転がってて、少し怪我をしていた筈だ。

 

「おにぃ、救急車呼ぶ?」

 

「いや、もう呼んだ」

 

「何台?」

 

「5台」

 

 おにぃの周りには5人の不良が倒れていて、その人たちの分の救急車だと分かる。

 

「チャドさんの分は呼んでないんだね」

 

「別に必要ねえだろ、なあチャド」

 

「……茶渡だ」

 

 おにぃの手を掴んで立ち上がらせてから、チャドさんのワイヤーを解きにかかる。

 

「いいじゃないですかドミニク・チャドみたいで」

 

「知らない……だれだ?」

 

「似てますよー、目が隠れてるとことか」

 

「……ユージン・チャドボーンなら知ってる」

 

「……誰?」

 

 ギタリストらしい。

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

「……キミは、何者なのかな?」

 

「どうでもいいでしょう、敵の情報なんて」

 

 女物の羽織を着て、二振りの斬魄刀を此方へ向ける男……京楽春水は話しかけてくる。

 ……私の後ろには、チャドさんが倒れてる。

 やはり私が思っていた以上に重症だ。チャドさんは死ぬことはないだろうけど、こうなると石田さんが心配になる。

 

「死神は、一人だけって聞いてたんだけどねえ……」

 

「私が見つかってなかっただけですよ」

 

「こんな可愛いコ斬るなんて、心が痛むよ」

 

「冗談、顔見えてないでしょ」

 

 羊の仮面を触りながら捩月の鋒を向ける。

 

「いやいや、女の子はみんな可愛いもんさ」

 

「随分と紳士(へんたい)的で素晴らしいですね、可愛いかどうかは死体で判断して下さい」

 

 余裕な表情は崩さない癖に、私が鋒を向ける前から抜刀している。隙がない

 

「……戦らないって選択肢は?」

 

「舐めんな」

 

 隙がないなら、作ればいい。

 

「縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

 

「……鬼道まで使うのかい!!」

 

 避けられた、けど想定内だ。

 

「六十番台を詠唱破棄かあ! 是非ウチの隊に欲しいねえ!!」

 

「残念、セクハラする男は好みじゃないんで」

 

  ─()え─

      ─捩月(れいげつ)

 

「ッその形……!?」

 

「隙を見せたな、京楽春水」

 

 何に動揺してるのかは知らないが、戦場での其れは命取りになる。

 

「『月牙天衝(げつがてんしょう)』ッ!」

 

「ッ!!」

 

 防がれるが、これも想定内

 

君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ……

 

 この距離でノータイムで()()、あの男にブチ込む。

 

雷鳴の馬車、糸車の間隙、光もて此を六に別つ縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

 

「……っ二重詠唱か!!」

 

 光の帯が京楽の周りに現れ、動きを抑え込む。

 

散在する獣の骨、先塔・紅晶・鋼鉄の車輪……

 

 そして、二重詠唱ではない。

 

心理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ! 

 

動けば風、止まれば空、槍打つ音色が虚城に満ちる! 

 

 三重詠唱だ。

 

「破道の三十三『蒼火墜(そうかつい)』! 破道の六十三『雷吼炮(らいこうほう)』!!」

 

 右手からは蒼火墜、左手からは雷吼炮、どっちも本来は片手で放つものじゃないから腕がジンジンする。

 

「縛道の八十一『断空(だんくう)』」

 

 京楽春水ではない、女性の声が響いた。

 

「いやあ、ありがとねえ七緒ちゃん」

 

「……縛道は、避けられたはずですよ」

 

 分かっちゃいたけどさ、こうも簡単に防がれるとヘコむんだけど。

 ……やっぱり習いたての鬼道は使い難いな

 

「いやね、力量を見てみたくてさ」

 

 完全に舐められてた、確かに今霊圧抑えてるけどさ

 

「霊圧隠蔽は席官レベル、さっきの技も異常に強かったし、鬼道に関しては……」

 

「……隊長レベルです」

 

「七緒ちゃんがいなかったら不味かったかもねえ」

 

 嘘こけ、縛道は避けれたって今言ってただろ

 

「それに、其の斬魄刀の形も気になるね……キミ、何処の出自だい?」

 

「……現世の一般家庭ですが?」

 

 何かを疑う目を向けられる、何か罪を疑うとかではなく、何かが気になるらしい。

 

「……本来なら貴方と戦うつもりは無かった、悪いけどここは引かせてもらいます」

 

 流石に隊長格二人はキツイ、其れに早く石田さんの所に行かなきゃいけないんだから。

 

「……ならなんでさっきすぐに逃げなかったんだい?」

 

「私がなんで貴方にすぐ斬り掛からなかったか、分からない?」

 

 京楽さんの手前から、赤色の煙が一気に立ち上る。

 蒼火墜に乗せた鬼道が、やっと発動したみたいだ。

 

「縛道の二十一『赤煙遁(せきえんとん)』、ただの攻撃のために隊長格に三十番台なんて撃たないでしょ?」

 

『曲光』を私とチャドさんに掛けて、肩に担ぐ。

 霊圧を完全遮断して距離を取ってから、京楽さんへと話しかける。

 

「次は味方として会えることを願ってるよ! 京楽隊長!!」

 

 取り敢えずチャドさんを遊び場まで運ばなきゃ

 





戦闘させようか迷ったんですけど、京楽隊長と戦って勝てるとは思えないので引かせました。
関係ないけど多分京楽隊長は敵なら女の子でも斬ると思う。


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19 黒崎凪は絡まれる

 

「そこの君、少し良いかい?」

 

 初めて石田さんと話したのは、確か私がまだ小学生くらいの時だったはずだ。

 

「……何ですか? ナンパ?」

 

「ちがっ! そんなんじゃない!!」

 

 ただ、その時既に私は彼のことを知っていて、出来るだけ関わらない様にしていたのを覚えている。

 

「じゃあなんですか、カツアゲ? お金なら持ってませんケド」

 

「だから違う!!」

 

 とにかくこの時は私も早く逃げたくて、適当にあしらってた、ここまで人間にしつこく追われるのは初めてだったから少し焦ってたのもあると思う。

 

「君、死神だろう!! 滅却師の誇りをかけて勝負しろ!!!」

 

「私はそんなの持ってないからかけるものなんてないよ」

 

 実際、死神としての仕事に義務感を感じていても、誇りを感じることはその頃の私には無かった。

 

「……っふざけるな!! お前には大切な人を失う痛みは分からないだろう!!! 死神のような冷たい心を持つ者にはな!!!」

 

「あ?」

 

 だから、別のことに義務感を感じていて、それを踏み躙られるのは私の最大の地雷だったわけだ。

 

「……気が変わった、後から泣き言言っても止めないからなクソガキ」

 

「……っ! ああ良いだろう! 望む所だ!!」

 

 まあその後きっちり私が勝ってあの言葉は撤回させたのだけど、その後やけに石田さんに絡まれる様になったのが少し面倒くさかった。

 

 

 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「初めまして、ですかね、東仙要さん」

 

「……まさか、貴様が来るとはな」

 

 ゴーグルの奥には、光を失った目が此方を覗いており、其れは何も映っていないように感じさせるほど、虚しく哀しい色だった。

 

「……いいんですか? 貴方は()()、尸魂界の人間でしょう?」

 

「……何処までも見通している訳か」

 

「何もかも見えてるわけじゃないですよ、知ってるだけです」

 

 霊圧は出来るだけ抑え、石田さんを背にして向かい合う

 。どう考えても、この人と戦うのは愚策だろう。

 

「……貴様は、私と良く似ている」

 

「褒め言葉として受け取っときますけど、どんなとこがですかね?」

 

 先に私と石田さんに曲光を掛けておく、彼相手では殆ど意味を為さないと思うけど

 

「自身以外に対する、その純粋さだ」

 

「……私純粋なんかじゃないですよ」

 

「純粋な者は引かれ合う、今貴様が此処に来たようにな」

 

「あの、話聞いてます?」

 

 スタンド使いかな? 

 ……未だに隙は見えないが、逃げる算段は既につけてきた。あとは隙を伺って逃げるだけだ。

 

「だが、だからこそ哀しい」

 

「?」

 

「貴様を、此処で傷付け捕えなくてはいけない事がだ」

 

 ……もしかして、やる気満々? 

 

「其れは尸魂界の隊長として、ですかね?」

 

「あの方の命令でだ」

 

 

 ……めっっっちゃ目付けられてんじゃん

 喜助さんがあんだけ頑張って隠してたのにもうバレてんじゃん、どういう事よ。

 ……にしても不味い、京楽さんの場合は元々あっちに追う気が無かったから逃げきれたけど、この人相手だと霊圧遮断もほとんど意味が無いし、戦闘して勝てる確率なんて今の状態じゃ五分五分だろう。

 

「……似たもの同士の好で見逃してくれたり、とかは?」

 

「愚問だな」

 

「あはは、冗談ですからそんなに怒らないでくださいよ」

 

 やっべキレさせちゃった、どうしよ、土下座したら許してくれるかな? 

 

「……一つ、聞かせてください」

 

「なんだ」

 

「貴方たちは、如何して私を捕らえたいんですか?」

 

 正直、目を付けられたのが何時なのかが検討もつかない、出来るだけ外では始解をしないよう心がけていたし、一目見ただけで捩月の能力を理解するのは至難だろう。

 ……いや、あの人だったら普通に理解しそうだな

 

「……そこまでは私は聞いていない、ただ貴様を捕えろとの命令だ」

 

「……あくまで教える気は無いわけですか」

 

 まあ多分、知ってても教えてくれなかっただろうけど

 

「それじゃあ、聞きたいことは聞いたんで帰らせてもらいますね」

 

「巫山戯た冗談だな……鳴け『鈴虫』」

 

 瞬間、鈴のような音が辺りに響いたかと思えば、私の身体は地面へと倒れ伏していた。

 

「……許せ、黒崎凪よ」

 

 此方へ足音が向かってくるのが微かに聞こえる。

 意識が薄くなって、今にも気絶をしてしまいそうだ。

 

「貴様が起きた頃には、戦いは終わっていることだろう」

 

 意識が薄くなっていく、足音が止み、恐らく今東仙要は私の目の前に立っておるのだろう。

 

 

 チャンスは、今だけだ。

 

 

「……温いよ、東仙要」

 

「……何故、意識がある」

 

「さあね」

 

 恐らく、彼らが知っているのは捩月の能力だけだろう。

 ……ならば、幾らでも打開する方法はある。

 

「貴方達は、私の事を舐め過ぎてますよ」

 

「……」

 

「斬魄刀の能力が分かれば、何とかなるとでも?」

 

 それなら、少しガッカリだ。

 

「私は、そんなもんじゃないよ」

 

 ……お帰りなさい、だね

 

 

 

  ─手戻(てもど)し─

     ─涙玥(れいげつ)

 

 

 



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20 黒崎凪はまた逃げる

 

「……我儘を言うわけでは御座いませんが、何故彼女を?」

 

「……このままじゃ勝てないからだね」

 

 少し大きめのテーブルを挟み、私と捩月は鏡合わせのように座っていた。

 

「私だけでは、役不足ですか」

 

「捩月とは少し相性が悪いから」

 

 捩月は目を伏せ、口を一の字に噤んでしまう。

 

「……率直に、申し上げます」

 

「……どうぞ」

 

 テーブルにバンと手をつき、椅子を倒しながら立ち上がると、此方をキッと睨む。

 ……少し転び掛けたのは見逃してあげよう

 

「私はいやです!! あのような……不埒な者と凪が一緒に戦うなど……考えただけでも……!」

 

「……」

 

 一気に私に捲し立てた後に、後ろの椅子が倒れているのに気づかなかったのか、また転び掛けていたが、結局倒れなかったのは流石と言ったところか。

 

「……私はあの子の性格は嫌いじゃないけど」

 

「……っ私よりもあんな者の方がいいと言うのですか!?」

 

「そゆこと言ってんじゃないんだよなあ……」

 

 というか

 

「こうボロクソに言うけどさ、結局あの子も捩月の一部なんじゃ……」

 

「主よ、言っていいことと悪いことがあるのは分かりますね?」

 

「……そんな嫌い? あの子のこと」

 

「……嫌いと言うか、少し苦手です」

 

 こうやってはっきりと嫌い切らない辺り、やっぱりこの子は優しい子だ。

 

「大丈夫だよ、逃げる為に使うだけだから」

 

「……そう、ですか」

 

 なんというか、昔から過保護だな、この子は

 

「……ならば、彼女に伝言をお願いします」

 

「出来る範囲なら」

 

「凪に傷をつけたら殺す」

 

 ……過保護が過ぎないか? 

 

 

 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

「どうしたのさ、また此処に凪を呼ぶなんて」

 

「…………」

 

 テーブルの右側の扉から、黒髪の少女が現れる。

 

「本当の事教える気なんて無い癖に」

 

「……」

 

「ねー、だんまりは酷くなーい?」

 

 唇を尖らせ、巫山戯た口調で捩月へと話しかけるが、それに対して捩月の表情は固まっている。

 

「……一つ、いいか?」

 

「なーに?」

 

「“黒”は、何処に行った」

 

「…………勘がいいなあ、青ちゃんは」

 

 否定は無し、ならば答えは一つだろう

 

「貴様……っ!!!」

 

「女の子がそんな顔しちゃダメ、可愛い顔が台無しだよ?」

 

「その巫山戯た口調を止めろ!!!」

 

 斬魄刀を引き抜き斬り掛かる……が

 

 「……残念、少しだけ気に入ってたのに」

 

「……ッ!!!」

 

 首元に当たった筈の刃は、肌に入り込む事は無く……虚しくも黒髪の手に捕えられる。

 

 「正直、あなたも少し、じゃま……眠ってて」

 

「……っ……黒を……どうした……!!」

 

 「……思ってたよりも丈夫、だね」

 

 捩月の首元に凄まじい音と共に手刀が当たり、苦悶の表情となるが、意識は保ったままだ。

 

 「黒は、こうなる運命だった。けど少し不思議、あなたは()()()の彼女が、嫌い、じゃなかった? 」

 

「……っ!!!」

 

 口を開き叫ぼうとするが、声は空を響かなかった。

 

 「丈夫だね……やっぱり、あなたはじゃま」

 

 再度首を……今度は先程よりも強く鋭い速度で手刀を当て、確実に意識を持っていかれる。

 

 「心配、しなくて大丈夫、()()()と戦う時には、起こしてあげるから」

 

 そう零す彼女の髪は、既に白色に染まっていた。

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「……なんだ、その形は」

 

「知りませんか? 盾って言うんですよ」

 

 涙玥を左手で構えながら右手の掌を東仙に向ける。

 チャンスは一度だけ、失敗は死だ。

 

「……何にせよ、気絶をしないのならば斬るだけだ」

 

 だよな、そりゃそうなるだろう

 

「盾持ちに近接戦を挑むなんて、尸魂界の名が泣きますよ?」

 

「ほざけ」

 

 横薙ぎの剣撃が私を襲うが、涙玥に防がれ斬魄刀が止まる。

 

「鳴け、鈴虫」

 

 涙玥を伝って細かい振動が腕に伝わり、涙玥の装甲が少しずつ削れていく。

 そう、削れてしまったのだ

 

「……っ!?」

 

 涙玥が()()()()振動し、斬魄刀をはじき返す。瞬間的に私と距離を取ったのは戦闘慣れしている証拠だろう。

 

「矛盾って言葉、知ってます?」

 

「……現世で使われる故事か」

 

「そうです、絶対に突き通す矛と絶対に防ぐ盾の話」

 

 博識だな、現世と言語は共通しててもこちらに無い言葉もあるし、ただで隊長になった訳では無いのだろう。

 

「……その盾は絶対に防げるとでも?」

 

「まさか、そんなインチキな能力じゃありませんよ」

 

 そんな能力、存在が許されないだろう。

 

「……少なくとも、剣が効かないならば」

 

「鬼道しかない、ですよね?」

 

 死神の戦闘方法は基本的に斬魄刀による剣撃の斬、白打による拳撃の拳、鬼道による攻撃による鬼、瞬歩などの歩法の走、など四つに分けられて、斬拳走鬼と呼ばれている。

 東仙が白打が苦手と聞いた訳では無いが、少なくとも彼は鬼道の方が得意だろう。

 

「……」

 

「やってみてくださいよ、当たるかもしれませんよ?」

 

 見え見えの挑発だ、彼以外なら乗るはずが無いだろう。

 

「……破道の五十四『廃炎』」

 

 ほらね、乗ってくれた

 

「それを待ってました」

 

 廃炎が涙玥に当たると同時に掻き消え、それのすぐ後に私の目の前で大爆発が起こる。

 

「勝負する気なんてハナからありませんよ」

 

 既に曲光を自分に掛けてあるため、後は霊圧の遮断を……

 

 ……バキンッ

 

 …………いま、身体から鳴っちゃいけない音が聞こえたような気がする。

 まあいい、遊び場に戻って温泉に入れば回復するだろう、その時に霊圧の出力も最大にすれば一石二鳥だ。

 

「それじゃあさよなら東仙要さん、もう二度と会わない事を祈っときます」

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「……申し訳ありません、取り逃しました」

 

 盲目の隊長、東仙要は何も無い空間に対し話しかける。いや、護廷十三隊からすれば彼自信すらも見えていないのだが。

 

「構わないよ、彼女の進行度も把握出来たしね」

 

 これまた何も無い空間から声が聞こえ、其れが瀞霊廷に響くことは無かった。

 

「それに、実力が想定以上なのもいい事だ」

 

「はい……やはり、彼女は」

 

「ああ、やはり欲しいね」

 

 何も無かった空間から茶髪の髪に眼鏡を掛けた、如何にも好青年といった所の死神が現れる。

 

「それでは、予定通りに」

 

「宜しく頼むよ、要」

 

「了解致しました」

 

 そのやんわりとした雰囲気とは裏腹に、彼の口元は、実に蠱惑的な、恐ろしいとすら感じさせる程の笑みを浮かべていた。

 



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21 黒崎凪は不安となる


誤字報告、感想ありがとうございます!!!


 

小さい頃、お母さんと都心に行った時、迷子になったことが、未だ記憶に残っている。

何せその時はまだ…6歳位だったはずだ。自分で言うのもなんだけど、その歳にしては大分ちゃんとしていた子だったと思う。

まあだから、迷子になるなんて初めてだった…最初はお母さんを探して回っていたのが、自分が何処にいるのかも分からなくて、だんだん不安になってきて、その場で泣き出しちゃったわけだ。

実際そこはなんと言うか、路地裏みたいな、少し薄暗い場所で…人は居ないものの別の何かが出そうな、不気味な雰囲気がしていた。

 

それで泣き出して何分か立ってから…人の声が聞こえて、何度か声を掛けられて私に話しかけてるんだってやっと気づいてから顔を上げると、男の人が立っていた。

まあもう9年も前のことだ、その人の顔なんて覚えてないし、私が今わかるその人の情報なんて、茶髪で眼鏡をかけていたくらいなのだが…なんと言うか、正に好青年と言った感じの、優しい雰囲気を出している男の人だったことは覚えている。

 

で、その男の人は私が一人で泣いているのが気になったのか、優しい口調で話しかけてきて、気づいたらなんか家の前に立ってた。

…そんな目で見ないでくれ、それ以降の記憶が曖昧なんだ。

で、家の前でぼーっとしているとお母さんが凄い勢いで出てきて、その勢いのまま私は抱きしめられた。

いきなりの事だったし、抱きしめられるなんて初めてだったから、ちょっと呆然としちゃって…けどそのうちに不安だったのを思い出して、その場でまた泣いちゃった訳だ。

因みにその後知った事だけど、私が迷子になってから三週間くらい経っていたらしい。

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

私の居ない間に卍解の修行を始めてしまったおにぃを横目に見ながら私は石田さんと向き直る。

 

「戦線離脱!?」

 

「君達はもうまともに戦える状態じゃない、このまま戦うのは死にに行くのと同義だよ」

 

既に目に見えるほどの傷は癒え、見てくれだけは全快になった石田さんを前にして、私ははっきりと言い切る。

 

「…っまだ僕は戦える!」

 

「そのヨレヨレの霊圧で言われてもな…」

 

ヨレヨレなのは霊圧だけでなく、今でも立っているのがやっとのように見える。

 

「確かに、君達が居た方が勝率は上がるかもね」

 

「…ならなおさら!!」

 

「けど其れで君達の一人でも死んだら、ルキアさんはどう思うかな」

 

語気を少しだけ強めると、口を噤んで後退る。

 

「……分かったなら少し離れた方がいい、ここじゃあ…」

 

危ないから、そう言おうとした瞬間に私の後ろの岩が凄まじい音を立てて崩れ去る。

 

「…危ないから」

 

「……ああ、身で学んだよ」

 

そう言うと背を向け、チャドさんがいる場所まで歩いて行った………意外と話聞くんだなあの人、第一印象がアレだから少し見くびってたかも。

 

「…さて」

 

捩月を鞘から抜き、目の前で掲げる。

 

「どうしちゃったのさ、捩月」

 

返事は聞こえない、さっき東仙と戦った時からずっとだ、何かが消えてしまったかのような喪失感が、ずっと私の中で渦巻いている。

 

「……結え『捩月』」

 

みるみるうちに、捩月の形が矛へと変わって行く。だが、何時もと全く同じ形の筈なのに、何かが足りない気がするのだ。

 

「…やっぱり、あの時なにかされたのかな」

 

東仙と対峙した時、ずっと何処かから視線を感じていたのだ。霊圧は感じないのに、視線だけがそこに感じる、そうなるとあの人以外に考えられない。

 

「…胸糞悪い」

 

数年は一緒に過ごして来た半身がいきなり消えたのだ、殺意よりもドロドロとした感情が腹の底から湧き出てくる。

 

「……卍解は…できるか」

 

少し霊圧を込めてみると、卍解をした時の独特の感覚がする。

…ならば尚更分からない、如何して捩月と話せないのに卍解はできるんだ。

 

「…クソッ」

 

…悔しい

捩月に何かあったことに私が気付けなかったことが

数年来の相棒に手を出されたことが

捩月が居ないと何も出来ない自分が

理由すらも解らない自分自身が

 

「……殺してやる」

 

正直、今まであの男に対してはふんわりとしか殺意を抱けなかった。彼と敵対する理由だって“おにぃが危険だから”と言った不純な理由だし、おにぃに手を出さないのなら、私自身彼と敵対することは無かっただろう。

 

…だが、あの男は捩月に手を出した

殺す理由は、それだけで十分だろう

 

「…夜一さん、手合わせお願い」

 

捩月を鞘に納め、安全な足場に安置させる。

 

「む…構わないが、捩月は使わなくてよいのか?」

 

「少し調子が悪いみたいで」

 

ごめんね、私がちゃんとしてないから

 

「…なら、白打か」

 

「ん」

 

貴方がいなくても私は戦えるって、教えてあげる

 

「…いいのか?アレは嫌いなのでは…」

 

「この状況で好き嫌いなんてしてる暇無いでしょ」

 

…だから、早く起きてよ、捩月

 





尚例のその人自身は何もしていない模様


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22 黒崎凪は話される

 

「……どこだ、ここ」

 

 辺り一面真っ白で何も無い空間、数時間もいれば人間ならば発狂してしまいそうな程に何も無い世界だ。

 

「あれ、来ちゃったんだ」

 

 突如、視界の外から声が聞こえる。普段の私ならば直ぐに刀を抜いたのだろうけど、何処か聞いた事のあるような……親しみのあるその口調と声は、私の闘争心を枯らしていた。

 

「あなたとは初めまして……かな?」

 

「……だれ?」

 

 短く切った艶のある黒髪に、それとは反対に真っ白く塗りつぶされた、外国のものであろうドレスを着た姿の人間が、そこに居た。

 

「あれ、思ったより弱ってる?」

 

 自分自身にその自覚が無かった為か、それとも気付かないようにしていた為か、些細なその言葉に心が揺らされてしまう。

 

「いや〜酷いことするもんだねえ白ちゃんも、いくらかまって欲しくてもここまでしちゃあ……」

 

「あなたは……だれなの?」

 

「ん? ああごめんね、自己紹介がまだだったか」

 

 笑顔を浮かべながら、その口振りにも少し嬉しさを滲ませて話し出す。

 

「あたしはねえ……なんだろ、まあ一応“ブラック”なんて名前はあるけど……この名前嫌いだからさ、気軽に黒ちゃんって呼んで!!」

 

「……くろ、ちゃん」

 

 ほんの少しの間を置いて復唱する。

 

「そ、黒ちゃん……で、あなたの目的だろう青ちゃん……捩月はね」

 

「っ! 捩月はどうしたの!?」

 

「うおっ……まあそう焦りなさんな……」

 

 手で少し押され、その場に座らされる。

 

「捩月はね、今眠らされてる」

 

「ッなんで!!」

 

「ううお、そんないきなり大声出さないでよ」

 

 耳を塞ぎながら此方へ訴えてくるその声で我を取り戻し、私は小さい声でごめんと呟くことしか出来なかった。

 

「……理由はあたしにも分からない」

 

「……」

 

「見当なら着くけど」

 

「……それは?」

 

 ……いつもの私の性格ならば、ここまで怪しい相手の答えに期待する事なんて有り得なかっただろう。

 ……けれど、今この状況で、何か知っていそうな相手から何も聞かないほどに私は馬鹿でもない。

 

「……捩月はね、主であるあなたを害さないようにあたしたち……あたしと白ちゃんの力を制限してくれていた……けれど、それは同時にあたしたちの行動を制限することにも繋がっててね、だから今まであなたに会ったことがほとんど無かったんだ」

 

「……制限?」

 

「そう、本来あたしたちは……いや、あの子……白ちゃんはそれで納得していた……けれど時間が経てば心変わりもする」

 

 確かに私はこの人のことは記憶に無い筈だ……そして心変わり、とは

 

「……あの子がね、あなたに会いたくなっちゃったの」

 

「……は?」

 

 聞き間違えだとも最初は思った。だがここまで深刻な顔で言われてしまうと、子供の我儘のようなどとは言えなくなってしまう。

 

「……本来なら、それよりも主の安全に従う筈なんだよ、()()()()()()()()()はね」

 

「……?」

 

 性質上? 

 

「けど()()()()の霊圧に当てられて、心変わり……そう表すのが正しいのかは分からないけど、彼女は昔の性格に少し戻っちゃったわけ」

 

 前の主、思い付くのは二人だけだ

 

「まさか、東仙要……?」

 

「……半分正解かな」

 

「……っじゃあやっぱり……!!!」

 

「そう怖い顔しないの、可愛い顔が台無しになっちゃうよ?」

 

「っでも!!!」

 

 そのまま紡ごうとした言葉は、口を塞がれることで止められてしまう。

 

「まあ、霊圧に当てられただけで、実際はあの子が勝手に起こした事だからあなたの考えてる人はほとんど関係ないんだよ」

 

 口を解放され、今彼女の言った言葉をよく考える。

 

 あれ? じゃあ私あんま関係ないのに殺意向けてたって事? 

 

「まあ関係無くても結局はあの人が悪いんだけど」

 

 ……それでいいのかな

 

「うん、それでいいんだよ」

 

 ……もうええわ、考えるのやーめた

 

「普通に心読んでることは気にしないんだね」

 

 捩月で慣れてますから

 

「それって慣れていい事なのかなあ……」

 

 そう彼女が呟くと同時に、私の指先が煙のように消えて行く。

 

「そろそろ時間みたいだね」

 

「……ありがとう、黒さん」

 

「黒ちゃんって呼んでよ!!!」

 

 そう不満そうな顔を見ていると、何故か懐かしく感じてしまう。

 

「……まあ、私は時間稼ぎにもなったし、従者冥利に尽きるかな」

 

 その瞬間、遠くに見覚えのあるような少女が見える。

 

「……あれは……」

 

「……バレちゃったか」

 

 少女は、私の方へ走って来ている様だが、遠くであるからか、彼女が幾ら走ろうともこちらへと距離が縮まっているようには見えない。

 

「……じゃあね、()()()話せて楽しかったよ、“凪”」

 

「……あの子と話すのは、駄目なの?」

 

 黒さんは、少し迷ったような表情を浮かべたが、直ぐに表情を元に戻す。

 

「……ダメなんだ、あなたのためにも、あの子のためにもならない」

 

「……でも」

 

「時間が無い、早く行って」

 

 そう彼女が言うと同時に、私の体は霧散した。

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 白い死覇装を着た少女は、走っていた。

 幾年も追い続け、会うことを、話すことを夢見続けてきた対象が、今目の前に居るのだ。

 会いたい、話したい、ただそれだけの事が、見える位置に居るのに出来ない歯痒さに、涙が溢れそうになる。

 距離が縮まっていない訳では無い、走り続ければ会えるのだ、話せるのだ、その希望だけを目指して少女は走っていた。

 ……だからこそ、隣の黒髪に気が付かなかったのだろう。

 

 会いたいと願った、愛しい人物が、煙のように消えて行く。

 話したいと夢に見た、恋しい人物が、また自分から離れていく。

 

「……っ!!!」

 

 名を呼びたい、名で呼んでもらいたい、また()()()のように、二人で話したいだけなのに

 

「……っなんで!!!」

 

 少女の口を割って出たのは、単なる疑問、理不尽に挑む子供のような、分かっていても認められない大人のような、辛い疑問だった。

 

「なんで!! あなたが会えて私が会えない!!!」

 

「……」

 

「私は! あの子と、もう一度話したい! ただそれだけなのに……!!」

 

「……」

 

「何とか、言ってよ……!!」

 

 対して、黒髪の少女は黙ったままであった。

 自分にも思い当たる節があるからか、何も言えずに固まっている。

 

「……やっぱり、あなたは()()()完全に、消すべきだった」

 

「……白ちゃんは、あの人の影響を受けすぎてる」

 

「……よく言うよね、あなただって元は、あの方の道具、なのに……!」

 

「……ほら、今もだ」

 

 彼女にとっては無意識なのだろう、“あの方”と言う言い方は、随分と昔に変えていた筈だ。

 

「それでもやり方が雑すぎる、そんなことしたって“凪”に嫌われるだけだよ」

 

「そうでもしないと、あの子は私に、気付かないからだよ!!!」

 

 事実そうだろう、だが彼女はそれを承認していたはずだ。

 

「……不意をついて私の力の大半を盗っていったのは驚いたけど、詰めが甘いね」

 

「……どうでも、いいでしょ? どうせここで、死ぬんだから」

 

「……どうせこうなる運命だった訳だし、それもそうかな」

 

 迫り来る少女を眺めながら、かつての“凪”を思い浮かべる。

 

「……ごめん、凪」

 

 その言葉は、ただ虚空へと響いただけであった。

 





餅は醤油が美味い、異論は認める


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23 ██は忘れたままである


凪の話ばっか書いて全然進まねえ…()



 

 真っ黒に染まった空間に、少女の啜り泣く音だけが虚しく響く。

 長い時間を過ごした仲間も、場所も、記憶さえもが闇の中に消え、少女は自身が何者なのかすら忘れかけていた。

 

「……どうして、会えないの……」

 

 彼女が会いたいと願うその人物は、もうその少女の事は微塵も覚えていないだろう。

 

「……どうして、連れて行ってくれなかったの……」

 

 靄がかかったかのように薄れてしまった記憶に、ほんの少しだけ残っている()()の記憶、それは到底楽しい記憶とは呼び難い。

 

「……答えてよ、

 

 もう少女の真の名を呼ぶことは出来ない、棄てられた名を取り戻せるのは本人だけなのだから。

 

「……たすけてよ、“凪”」

 

 もう()()()()()()()その少女の名を呼んでしまうのは、過去の記憶が微量ながら残っているからだろう。

 

「…………淋しいよ……」

 

 それを和らげてくれた存在は、少女自身が消し去ってしまった。

 

 自業自得である事は、既に理解している。

 これが自身に対する罰だということは分かっている。

 けれど、だからこそ

 

「…………わかん……ないよ」

 

 それを理解してしまえば自分を許せなくなってしまう事を、少女は理解してしまっていたのだ。

 

 

 

 ██████████████████████

 

 

 

「……っ!!!」

 

 起きた瞬間、理解してしまった。

 自分の中から()()が欠落してしまったこと、そして

 

「……黒に、会いましたか」

 

 捩月が、起きていることを。

 

「……あの子達は、何者なの?」

 

「……それは、私には答えかねます」

 

 目を伏せ、唇を強く噛んでいる。私と同じく、それだけに黒さんが消えたのが堪えるのだろう。

 

「私からは、あの二人について話すことは出来ません」

 

「……どうして?」

 

 こういう時には、私の言うことを聞いてくれた筈なのに

 

「……約束、だからです」

 

「……そっか」

 

 短く答え、捩月の体を私の腕の中に引き寄せる。

 

「……ごめんね、私のせいで」

 

「……っ違います!! 貴方は何も……っ!!」

 

「いいんだよ、そんな気がするんだ」

 

 さっき黒さんと会った時、白髪のあの子を見た時、何処か懐かしさを感じた。

 どちらの顔も雰囲気も、記憶にはないはずなのにだ。

 

「とにかく今は、戦いに備えなきゃ」

 

「……はい」

 

 私が寝ている間に、おにぃはルキアさんを助けに行ったみたいだ。

 

「……後一時間くらいかな」

 

 処刑が早まるのは折り込み済みだ。

 

「小賢しいことしやがって」

 

 それならこっちも小細工で応えてやるよ、クソ野郎が

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「……ッ!!」

 

 膝をつき、円形に凹んだクレーターの中で荒い息を吐く一護。そしてそれと対照的に、クレーターの外側から一護を見下ろす朽木白哉。どちらが優勢かなどは見ればわかるだろう。

 だが、霊圧はそうとも限らない

 

「……なぜここまで追い込まれていながらそれだけの霊圧が出せる、黒崎一護」

 

 霊圧の高さだけで言えば、一護と白哉は同列に立っていると言えるだろう。

 

「……さあ……っ! 何でだろうな……!!」

 

 ついた膝を上げ、斬月の鋒を白夜に向けかざす。

 

「……今思えば、相手は卍解してんのに俺がこのままでまともに戦えるわけがなかったんだ」

 

「……言葉に気をつけろよ、その言い方では兄が既に卍解に至っている様に聞こえるぞ」

 

 片手で持っていた斬月の柄を両手で握り直し、再び白哉に向け意識を向け直す。

 

「そう言ってんだよ」

 

 突如、一護を中心に霊圧の渦が巻き起こる。

 

「……まさかッ!」

 

「そのまさかだ!! 朽木白哉!!!」

 

 ……卍解とは、斬魄刀戦術の最終奥義であり、そこに至った隊士は未来永劫尸魂界の歴史に名を刻まれる。

 それだけに習得には基本100年ほどの月日が掛かり、その戦闘力の推移は

 

 

()()()5()()()1()0()()()()()

 

 

「 卍 解 ッ!!」

 



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24 一匹の獣


 お久しぶりです、1年近く更新を放置しておきながら他の作品に手を出し始めたクソカスです。
 もう内容を覚えていらっしゃる方がいるかも分かりませんが、このような駄文で宜しければ読んでいただけると幸いです。

 それと、久しぶりの更新のついでに既に投稿されている話の内容や設定を少し弄りました。読んだ際に違和感を感じさせてしまったら申し訳ございません。


 

 

「 卍 解 ッ!!」

 

 霊圧の嵐と共に周囲に砂塵が巻き起こり、白哉の目から一護の姿が隠れる。一瞬の後に砂は晴れ、一護の卍解の姿が顕になって行く。

 

 

 

      ─天鎖斬月─

 

 

 

 斬月の包丁を思わせるような大きな形とは対照的に、細く小さな形へと変わり、色は夜空よりも濃厚な黒色に染まっていた。死覇装はコートの様な形へと変化し、そこから放たれる霊圧は濃密な存在感を発していた。

 卍解以前よりも格段に高くなった霊圧は白哉の肌をピリピリと焼いている。

 

「……なんだ、それは」

 

 だが、白哉は一護の変化した姿を見て解せなさそうな声を響かせる。その言葉には静かな怒りが宿っており、今すぐに斬りかかりそうなほどにも見える。

 

「その様な小さな刀が、“卍解”だと?」

 

 ……本来であれば“卍解”とは、100年近くの歳月を掛けることで漸く習得出来るかどうかの物であり、一護の様に()()()()()()()()数ヶ月程で習得が出来る様な物では決してない。

 それ程までに習得が大変であることから、卍解を習得した死神は尸魂界の歴史に永遠に名を残すとまで言われており、だからこそ白哉は、その境地に数ヶ月程で至ったと語った一護に対し怒りとも呆れとも取れない感情を向けていた。

 

「旅禍風情が卍解に至ることなどありはしない」

 

 だが、その言葉には

 

「死神を愚弄するなよ……小僧……!」

 

 言い表せない程の怒りが包まれていた。

 

「別に、バカになんてしてねぇよ」

 

 だがそれとは対象的に、一護は酷く冷たい目をして白哉の姿を眺めていた。

 

「これが卍解かどうかなんてのは」

 

 黒い霊圧が、一護から溢れ出す。

 

「俺が勝手にきめることだ!!」

 

 今再び、火蓋は切られた。

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「……漸く、目覚めたか」

 

 ただただ広い部屋の中、一人の青年がぽつりと呟く。

 

「思うたより早かったなあ、あの子、もう少し手こずると思うとったのに」

 

「何、計画が早まるのは寧ろ好都合だよ」

 

「……それもそうですねぇ」

 

 その後ろから、ふらりと、銀髪の男が姿を現した。

 

「本当はもう少し後にしようかと思っていたんだけれどね」

 

「二つとも、ですか」

 

「ああ、浦原喜助の()()()は、もう機能を停止しているだろうからね」

 

 落ち着いた大人のような声色とは裏腹に……その顔には飢えた獣のような、獰猛な笑みを浮かべている青年。

 

「おーこわ、ほんと、あの子()もかわいそやな」

 

 言葉では心配していても、軽薄な声色からそれが本心でないことが見てわかってしまう銀髪の男。

 

「ほな、そろそろ行きましょか」

 

「ああ、あともう少しで、彼らの決着も着くことだろうしね」

 

 死人であるはずの青年と、本来ならば護廷の任を背負っているはずの銀髪の男。永年纏い続けていた嘘は、その殆どが剥がれきっていた。

 

 

 化けの皮は剥がれた。

 

 

 もう、この獣達は止められない。

 

 

 檻から放たれた獣を止められる者など、少なくともこの部屋には居なかったのだから。

 

 

 



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