Der letze PanzerIV (ZK)
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登場人物紹介のような何か

ガルパンRTA(風実況)の外伝作りで行き詰まって、ほんの出来心で描いたので初戦闘です。

2023/01/24
その他に追記
2023/02/08
その他にアルデンヌ攻勢編の人物を追記
2023/03/26
ちょっと追記


・世界観(?)

ほとんど史実の第二次世界大戦。(学園艦とかの設定は・・・思いつかなかったです。)

戦車道という武道が誕生すること、それのもととなった陸軍女性騎兵隊が存在し、戦車兵、或いはそれ以外の兵種も女性の進出が大きい。特に戦車兵は女性軍人の花形とされ、名誉とされた。

なお特殊カーボンや特殊な砲弾なんて便利なものは(まだ)無い。

 

つまるところ、戦車がまだ"戦争の機械"だったころの物語です。

 

 

・登場人物紹介

 

【プロフィール】

エリカ・ホフマン

ドイツ国防軍のIV号戦車の戦車長と小隊長を務める少尉。北アフリカからの古参兵で、歴戦の兵士として部下の信頼が厚い。しかし奔放な性格で自他共に認める変人でもある。

例えば戦車兵以前に、兵士である癖にすべて戦車で解決しようとする節があり、その度に副官や先任下士官から叱られている。だが面倒見の良さを見せたりスタイルも良かったりと、何だかんだで部下や上官からは慕われている。

実家は農場。黒森峰の新隊長とは関係ない。

朝はギリギリまで寝てたいタイプ。

【経歴】

7月30日生まれ(24歳)

身長:168cm/体重:51kg

好きな物:バウムクーヘン

嫌いな物:権力で威張り散らすタイプの奴

銀髪のセミロング

 

【プロフィール】

シャルロッテ・シュミット

エリカのIV号戦車の砲手を務める曹長。エリカとは北アフリカ戦線からの付き合い。スラッとした長身だが、3サイズが控えめなのがコンプレックス。性格も、普段は大人しく引っ込み思案気味。だが、仲間と認めた人には幾らかフランクになる。優秀な砲手として沢山の命を刈ってきた為と、少しバーサーカーに片足を突っ込んでいる罪悪感から、戦場で果てることを密かに望んでいる。

朝は余裕をもって起きるタイプ。

【経歴】

5月1日生まれ(23歳)

身長:172cm/体重:52kg

好きな物:ザワークラウト、祖国に残した親きょうだい

嫌いな物:数学、どこかで殺しを楽しんでる自分

丸メガネに1本結びの銀髪

 

【プロフィール】

エマ・クラウゼ

階級は伍長。エリカのIV号戦車の操縦手。エリカとは幼なじみで、エリカの後を追って戦車兵となった。巻き毛が特徴で空間把握能力に長ける。古参兵3人中では1番まともなツッコミ役(のはず)。明るく社交的な為ハンナと妹のように接する。

朝は余裕をもって起きるタイプ

【経歴】

9月27日生まれ(24歳)

身長:157cm/体重:50kg

好きな物:チーズケーキ

嫌いな物:代用コーヒー

黒髪ロング

 

【プロフィール】

マリア・シュナイダー

階級は一等兵。エリカのIV号戦車の装填手を務める。元は整備中隊の整備士だったが、人員不足と北アフリカでの師団の壊滅の混乱で戦車兵となった。後輩たるハンナの着任が嬉しいらしく、歳が近い先輩として振舞おうとする。5人の中で1番IV号戦車の構造について詳しく、力も強い。

朝は直前まで寝てたいタイプ。

【経歴】

12月20日生まれ(21歳)

身長:154cm/体重:45kg

好きな物:ソーセージパン

嫌いな物:揚げ物

栗色のショートヘア

 

【プロフィール】

ハンナ・ノイマン

階級は二等兵。エリカのIV号戦車の通信手になった新兵。元々は電話交換手をしていたが、戦線の拡大に伴い戦車隊に配属された。まだ実戦経験はない。

恐慌の中、0から電話や無線のことを学んで電話交換手になる程の精神力があるからか戦場への慣れは極めて早く、仲間とも打ち解けて認められるが、他方異常な早さでの慣れに関して心配もされている。

朝は時間に余裕をもって起きるタイプ。

【経歴】

8月31日生まれ(19歳)

身長:141cm/体重:41kg

好きな物:チョコレート菓子全般

嫌いな物:虫系全般

金髪碧眼、三つ編み

 

 

・その他

ドイツ軍

╬エミリア(ノルマンディー編)

エリカ戦車小隊の4号車の車長。北アフリカ戦線では補充として来るはずが船を沈められてイタリアで留守番をしていた。とはいえエリカに次ぐ実力者。

上手く生き残っていたが、チャーチル歩兵戦車の砲弾を砲塔後部に受けた際にミンチになった。

 

╬SS偵察大隊長(ノルマンディー編)

ファレーズで死にかけのエリカたちを救った女神の長。あそこに来るまでにヤーボ(戦闘爆撃機)の攻撃をSd.kfz252/2のドリフトで躱してたりする。

がその後バストーニュの戦いでシャーマンジャンボの重装甲に呆然としたところを愛車ごと50口径ブローニングで蜂の巣にされミンチよりひでぇことになる。

 

╬新米砲手(死の森編)

ファレーズで死にかけたシャルロッテの代わりに戦場へぶち込まれた戦闘処女その1。どこかのシャルロッテみたいにはならず、人を殺すのを躊躇う。しかし「殺らなきゃ殺られる」と念じたお陰で撃てた。が、覚醒しきる前に頭に風穴を開けられて戦死。

 

╬新米装填手(死の森編)

操縦手になったマリアの代わりに装填手として放り込まれた戦闘処女その2。仲良しの同期の新米砲手が討死した光景で覚醒して某シャルロッテ方向にふっきれた。後に別の車両へ異動。砲手となり今もウォーモンガーとして恐れられている。

 

╬降下猟兵の少尉(アルデンヌ攻勢編)

エリカ達のIV号戦車隊にデサントして進撃した降下猟兵の少尉。マルタ島での戦いに参加した古株の猛者だが、英語が壊滅的に出来なかった為に特殊作戦には呼ばれなかった。

エリカ小隊と別れた後、バストーニュへ北上する米第3軍のM4に対してパンツァーファウストで数両撃破するなど奮闘したがVT信管付き重砲で粉微塵にされた。

 

╬中隊長(アルデンヌ攻勢編)

エリカ達の戦車中隊の長。少々堅物なところがある。中隊が壊滅したことからヤケ酒に手を染めつつある。

 

英軍

☆英国淑女(ノルマンディー編)

チャーチル歩兵戦車Mk.VIIの車長の人。紅茶キチな為、ダンケルクからの撤退でも紅茶を欠かさなかったとか。ちゃっかり脱出したので生存。最近は難所を踏破して補給部隊を潰しまくってるという。

チャーチルクロコダイルにも興味を示しているとか。

聖グロリアーナ女学院の隊長は(多分)無関係。

 

米軍

☆金髪ウェーブの指揮官(仮)(アルデンヌ攻勢編)

短砲身75mm型のM4A1の車長。北アフリカで初実戦を迎え、騎士道精神に則って同数で戦おうとして危うく戦線を突破されかかるという戦犯一歩手前のことをやらかすが、その後は各所で転戦しつつ、活躍して挽回する。

が、数で押しつぶすのは好みでは無い模様。

 

☆ベリーショート(仮)(アルデンヌ攻勢編)

M4A3E8の砲手。まだ車両転換から日が浅いものの、金髪ウェーブとは北アフリカからの戦友。V号戦車パンターのショットトラップでの連続撃破記録がいつ途切れるかで賭けが行われている。好物はチューインガム。

 

☆(味方の)無線傍受してた車長(仮)(アルデンヌ攻勢編)

76mm砲搭載型のM4A1(76)Wに乗る車長。よく敵無線や電話を傍受しての待ち伏せ、先回りetcを行う為、盗聴癖を疑われている。もちろん、傍受も含めて戦術的にも策士である。最近彼氏が振り向いてくれないのが悩み事。

 

demnächst・・・

(Coming soon・・・)

 

(逐次更新)




正直これがどうなるかは分かりません。さらに原作の項にガルパンと打っておきながら多分あまり関係なくなってしまうと思います。(少し映画Furyに寄るかも。)
それでも良ければどうかよろしくお願いいたします。


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着任

IV号戦車が好きなのでパソコンの背景をIV号戦車にしたらIV号戦車乗りのお話が描きたくなったので初戦闘です。


ー1944年6月6日ー

ノルマンディー地方特有の生垣の横に、IV号戦車の小隊と、乗員達が身を休めていた。彼らは近く行われるであろう連合軍の上陸に対応する為にここに集っていた。

 

「ブリトンたち、ほんとにくるのかな?」

 

装填手のマリア一等兵が呟く。最近の彼女らは平和そのものだったからだ。

 

「どうせすぐ来るよ。」

 

砲塔に座っていた砲手、シャルロッテ曹長が丸メガネを拭きながら応える。

 

「このままIV号戦車とのんびりしてるのも良いけどねぇ。」

 

操縦手のエマ上等兵が車体ハッチの上に寝そべる。通信手ハッチも塞いでしまうが、通信手は補充されていないので問題ない。

すると彼女らと小隊を纏める車長、エリカ少尉がやって来た。

 

「まぁ、そう言わずに待とう。来たらすぐに出迎えられるように。」

 

「あぁ、そうだ。補充の通信手は?その後ろの人?」

 

エマが尋ねると、エリカは頷き、後ろにいた新兵を前に出させた。

 

「あ、あの、ハンナ二等兵です。よろしくお願いします。」

 

ハンナ二等兵はまだ幼さが残る金髪碧眼の少女だった。

 

「こちらこそ、よろしくね!」

 

マリアは後輩が嬉しいのか真っ先に反応を示した。

 

「へぇ、よろしく。」

 

シャルロッテが丸メガネを押し上げた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ハンナちゃんかー、じゃあハンナちゃんだね。私はエマだよ。」

 

「私はシャルロッテ。よろしくね。」

 

「わ、わたしはマリアです!よろしくおねがいね!」

 

三人が自己紹介を始めると、ハンナは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ、みんな良い人達ですね。」

 

ハンナの言葉に三人とも照れたように笑う。

 

その時、無線機から声が聞こえた。

 

『敵襲!!敵襲!!至急戦車の支援を要請する!!』

 

「来たぞ!!」

 

小隊全員に緊張が走る。

 

『敵は空挺兵多数!コマンド共だ!』

 

「全車戦闘準備!!」

 

エリカが叫ぶと同時に、全員が行動に移る。

 

「各員、乗車完了しました!」

 

「よし、行くぞ!!」

 

IV号戦車が動き出す。

 

「戦車前進!!」

 

彼女らにとっても、1番長い日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

「あれが噂の……!」

 

連合軍空挺部隊の兵士の一人が双眼鏡越しに、ドイツ軍の機甲部隊を発見した。ドイツ軍の装甲兵力は、連合軍にとってまさに悪夢だった。彼らはドイツ領内深くまで侵入しており、もはや退路はないに等しい状況にあったのだ。そして何より、彼らにとっては目の前にいる戦車こそが恐怖の対象であった。

 

「fuck!戦車だぞ!」

 

同僚の兵士に声をかけられ、彼は双眼鏡を手に取る。

 

「あぁ、クソっ!おい誰かPIAT持ってこい!」

 

「私やるよ!」

 

「いや、ここはあたしがやる!」

 

「お前らはいいから早くしろっ!!」

 

彼らが慌ただしく動く中、ドイツ軍部隊は進撃を続けていた。

 

 

 

「なんだか騒がしいね……。」

 

「そうですね……」

 

IV号戦車の中で、車内通話装置を通して二人の少女の声が聞こえる。装填手のマリアと通信手を務めるハンナである。彼女達は狭い空間で息苦しそうにしながら会話をしていた。

 

「どうしたもんかねー。」

 

「うぅ、なんかちょっと怖いです……」

 

「大丈夫だよハンナちゃん。いざとなったら私が守るからね。」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

二人がそんなやり取りをしているうちに、

 

「いや、マリアは装填手なのにどうするってのさ?」

 

とエマがツッコミを入れた。

 

「別に良いじゃないですか。・・・その為の拳?」

 

「でも、確かにこの狭さだと厳しいかも。」

 

ハンナが言うと、マリアはむっと頬を膨らませた。

 

「えー!?ハンナちゃんまでそんなこと言うの〜?」

 

「ごめんなさい、そういう意味じゃなくて・・・!」

 

ハンナが慌てて否定すると、マリアが笑いながら言った。

 

「冗談だってば。でも、実際そうなった時の為に、覚悟決めておいてね。」

 

「よし、ちょうどお話が終わったところで、奴さんをおもてなしするぞ。小隊各車、撃て!」

 

途端、エリカ少尉麾下の4両のIV号戦車は主砲と機銃を闊達に撃ち始めた。

 

砲弾が敵の歩兵部隊のど真ん中に着弾し、爆発が巻き起こる。榴弾が炸裂して吹き飛ばされた兵士が宙を舞う。

 

「ひゃあ、すげぇ・・・!」

 

エマが感嘆の声をあげる。

 

「当たった。ハハハハ!」

 

シャルロッテが照準器を覗きながら言う。

 

彼女の父は元々砲兵科の将校であり、彼女自身も北アフリカで磨いた射撃の腕は確かだった。

 

「・・・」

 

しかし舞い上がった兵士の残骸を見たハンナは息を呑んだ。あれが今まで生きてた人間なのか?と。

 

「大丈夫、慣れれば平気になるさ。」

 

エリカのその言葉を聞いたハンナはぎゅっと目を瞑り、心を落ち着けようとする。

 

するとIV号戦車の砲弾や機銃弾に混じって、何か飛翔体が飛んでくるようになった。

 

「PIATだ!シャルロッテ、今から言う辺りに榴弾を撃ち込め!」

 

エリカの指示に、シャルロッテが返事をする。

 

「小隊各車、PIATの返礼が来るから榴弾でつっ返すよ!」

 

「了解!」

 

「わかりあした!」

 

「アイ!」

 

3両の小隊各車長も返事をし、PIATを持った歩兵を探す。

 

 

「ちぃ!流石に当たらないか!」

 

未だ遠いのもあってIV号戦車は回避運動を行う。それを見た連合軍の兵士の一人が舌打ちをした。

 

「もっと引きつける。合図するまで堪えてPIAT兵は隠れてろ。」

 

「無理だ!75mm砲でふっ飛ばされちまう!」

 

「あぁくそ、わかった。おい、そこの3人!余ってる対戦車火器を持ってついてこい!」

 

兵士は仲間を数人連れて、陣地を離れた。

 

 

「ほらほらー、美味そうなIV号戦車がいますよー?」

 

エリカがキューポラから外を見ながら言うが、なかなか敵の対戦車兵が出てこない。

 

「美味そうって・・・。」

 

ハンナが困惑しているのも気にせず

 

「砲塔1時、距離300。榴弾装填。」

 

と指示を出していく。

 

「照準よし!いつでもどうぞ!」

 

「撃て!!」

 

ドォン!という音と共に、榴弾が発射される。放物線を描きながら飛ぶ榴弾は、見事に敵兵がいる地点に着弾した。

 

「ぐあぁっ!」

 

「畜生!まだだ!」

 

何人かの兵士が叫び声を上げながらも反撃してくる。だが、IV号戦車にダメージを与えるには至らない。

 

「よし、次いくよー。」

 

と、次の攻撃目標を定めようとしたその時だった。

 

「!?10時に敵兵ッ!!!」

 

エマが叫ぶ。

 

「チィッ!車体、砲塔回せ!弾種榴弾!!」

 

エリカが咄嵯の判断はエマもシャルロッテも予想していたようでIV号戦車がぐわんと旋回する。ハンナの目に、収束手榴弾を構える兵士が映る。

 

「間に合え・・・!!」

 

ハンナは咄嗟に目の前のMG34の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

「・・・ハンナ、良い判断だよ。」

 

シャルロッテの言葉で目を開けたハンナは、機関銃で撃ち抜いた敵兵が倒れているのを見つけた。

 

「・・・え、あ、ありがとうございます。」

 

ハンナは一瞬呆然として、とうとう自分も命を手にかけてしまった。という罪悪感と、生き残ったことの安堵と、複雑な気持ちを抱いた。

 

「気にしないの。ハンナちゃん。」

 

エリカはそんな彼女を慰めるように言った。

 

「私達は軍人だからね、戦わなきゃいけないんだ。そうしなければ殺されてしまう。」

 

ハンナはその言葉を聞いて少し落ち着いたのか、再び照準器を覗き込んだ。

 

「・・・はい!」

 

そして、先ほどと同じように近付いてきた歩兵に向かって機銃を撃ちかける。今度は隠れられてしまうも、

「シャルロッテ!」

 

「発砲!」

 

今度は75mmの榴弾が残った敵兵を吹き飛ばす。

 

「奴ら対戦車装備で固めてたぞ。よくやった。」

 

エリカが言うと、

 

「小隊長!敵兵が後退していきます。」

 

と2号車が報告してきた。

 

「追撃するから全車突っ込んで、ケリを付ける。」

 

途端、無線機から声が響く。

 

「少尉殿、中隊本部から、・・・カーンへ集結せよ。と。」

 

ハンナが報告するとエリカはため息をつきながら言った。

 

「わかった。各車、撤退していく敵を深追いしないように。」

 

「了解しました。」

 

IV号戦車はその場で最後に1発ずつ榴弾を発射すると、エリカはIV号戦車の後ろについていた歩兵に

 

「集結命令が来た。悪いけど下がらせてもらうよ。」

 

と言うと、歩兵は少し残念そうな顔をしたが、

 

「まぁ聞いた話じゃ、海岸にも敵が来てるようだしな。・・・了解、支援感謝する。よしよく聞け!今度こそ我々でここを守り通すぞ!」

 

そう言うと歩兵達は塹壕へ戻っていく。その後、エリカ達のIV号戦車小隊も、カーンへ向けて移動を始めた。

 

 

 

 

「・・・カーンまで戻ってきたのに、まだ反撃しないのか?」

 

シャルロッテが言うように、カーンに戻り、補給を済ませたエリカ達は未だに待機を命じられていた。

 

「さっきまで師団長がサン・ローでパーティと洒落こんでたんだって。他の装甲師団も動けていないらしいし。」

 

ハンナと共に無線を聞いていたエマが言うと、

 

「はぁ、天候が悪かったとはいえ、うちらの師団はどんだけ呑気なんだか。」

 

とマリアは呆れた。

 

「まぁ、いいじゃないですか!今はこうして無事待機してるんですから!」

 

そう言うと、通信手席のハンナは地図を広げた。

 

「それにしても、まさか大西洋の壁のある海からの上陸とは。・・・考えもしませんでしたねぇ。」

 

ハンナはしみじみと言った。

 

「ん?もしかして大西洋の壁がちゃんとしたものがあるとでも?」

 

エリカが言うと、ハンナは驚きの目で海岸の方を見た。彼女を初め、多くの新米のドイツ兵は知らなかったが実際には大西洋の壁と呼ばれた要塞線はほとんど完成していないお粗末なものだったのだ。

 

「えぇ!?無いんですかあれ!!」

 

「うん、ないよ。」

 

ハンナの問いに、あっさり答えるエリカ。

 

「そもそも今ドイツは東でも戦ってるからこっちに回される資材が限られる。ま、何もないよりはマシってところかな?」

 

「そ、そりゃそうですけど・・・。」

 

ハンナは困った顔をしながら言った。

 

「大丈夫だよ、壁はなくても壁はあるからね。」

 

「はいぃ!?」

 

またもやわけのわからないことを言うエリカにハンナは困惑した。

 

「ほら、見てみなよ。」

 

とエリカはシャルロッテの胸を触った。

 

「ひゃっ!?」

 

「ほら、絶壁。ハッハッハッハー。」

 

エリカは笑うが、場はしーんとした。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・コロス」

 

無言の圧力が場を支配する中、シャルロッテがボソッと呟き、ホルスターに手を伸ばす。

 

「ごめんなさい許してくださいお願いします。」

 

即座に早口で謝るエリカ。

 

「じゃあ北アフリカ戦線からのよしみということで1億万マルクで手をうちましょう。ローンも可です。」

 

シャルロッテはそういった直後、

 

「・・・今ライヒスマルクだ。アハハハハハ!」

 

と笑い、エリカやエマも笑い始めた。

 

 

「あれ・・・なんか意外と変な人達かも・・・?」

 

疑問を呈するハンナ。

 

「じきに慣れるよ。」

 

とマリアに言われる。

 

「あ、もうすぐ作戦開始時刻ですって。」

 

ハンナが無線からの情報を言うと、皆が静まり返った。

 

「そうか。私達も行くとするかね。」

 

「はい!」

 

エリカの言葉で全員戦車に乗り込むと、IV号戦車の群れは海岸へと向かって隊列を組んだ。

 




ハンナ殿はFury号のノーマン君みたいにしても良かったかなと思ったんですがめんどくさいので鋼の(心の)女にしました。
詰まったところをAiのべりすとに支援してもらいながら書いたのでたまに変なことになってるかもしれませんが読者大将殿お許しください。


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D-day(2)

Furyみたいになってきたので初戦闘です。


「各車、敵は近いはず。気をつけて。」

 

エリカがそう促す。

 

「了解。」

 

と2号車が返事をすると同時に、前方のボカージュから発砲炎が見えた。

 

「来たぞ!全車散開!」

 

その言葉とともに、IV号戦車達は一斉にバラバラに動き出した。

 

「各車、戦闘用意!」

 

エリカはそう叫ぶと、双眼鏡を覗く。

 

「Pakだ!榴弾装填、砲塔1時。」

 

草むらに隠蔽されている6ポンド対戦車砲は防楯の大きさが見えない為、エリカ達は距離を判定できずにいた。

 

「撃て!」

 

エリカの指示で榴弾が発射され、同時に車体を左へ滑らせる。それのお陰で直撃コースだった敵の砲弾は地面に突き刺さるに終わった。

 

直後にこちらの砲弾が着弾する。

 

「クソッ、外れた!仰角0.5上げ。」

 

とエリカが悔しそうにしていると、無線で連絡が入る。

 

「こちら3号車、11時方向距離800に敵戦車をかくに!きゃああああ!!!」

 

砲弾が突き刺さった3号車が火を吹きながら明後日の方向へ曲がる。車体の操縦手は即死してしまったのだろう。

 

 

「ぎゃああああ!!!熱い!!!熱いよぉぉぉぉ!!!!」

 

絶叫と共に砲塔から燃え盛る乗員が転がり出てくる。随伴していた歩兵が駆け寄るも、もう手遅れの様だった。ハンナは悲痛な叫びに、ただ耳を塞ぐしかできなかった。

 

「クソッ!やられた!奴らの砲撃が正確すぎる、もっと距離を詰めるんだ!」

 

とエリカが指示を出すと、

 

「り、了解」

 

という声と共に小隊は前進し始めた。

 

「小隊各車へ、3号車の仇討ちだ。距離200、弾種煙幕弾。目を潰したる。」

 

「照準よし。」

 

「装填良し!」

 

「撃て!」

 

放たれた煙幕弾は煙を上げながら飛んでいき、少しして炸裂した。

 

「うわっ!?」

 

「なんだこれ、前が見えない!!」

 

対戦車砲兵達が混乱している間に、エリカは小隊に

 

「各車一気に距離を詰める!」

 

と前進を命令した。

 

 

 

 

「煙幕!?突っ切りますわよ!」

 

アメリカからのレンドリース品のM10GMCを駆る英軍兵士は撃ち込まれた煙幕を避けるため迂回し始めた。側面装甲は薄く、砲塔旋回速度も遅いが、IV号戦車程度なら一撃で粉砕できる火力を活かすためだ。

 

「あいつら、バカか?こっちには煙幕があるのによ。」

 

とドイツ兵が嘲笑すると、別のドイツ軍兵士が言った。

 

「いや、あの車両は確か・・・。」

 

「ん?」

 

「あぁくそ、敵戦車だ!」

 

ドイツ軍の兵士たちはオープントップのM10に手榴弾を投げ込もうとするが、なかなか上手くいかない。

 

「なんでこんなに接近されてるの!?」

 

ハンナは焦りの声を上げる。

 

「落ち着いて、まだやられちゃいないよ。」

 

とマリアが落ち着けるように言う。

 

「そうですけど・・・」

 

「大丈夫。その前に粉微塵にしてあげる。」

 

シャルロッテはそう言うと同軸機銃を撃ち、ドイツ軍歩兵を銃撃していたM10の車長を制圧した。

 

「弾種徹甲弾!距離至近!撃て!!」

 

エリカの命令によって発射された砲弾は吸い込まれるように命中、M10を炎上させた。

 

「やった・・・のか?」

 

撃破を確認する間もなく次の目標に狙いを定める。

 

 

「次はあそこ、あの茂みに隠れてるやつ!」

 

とエリカは指示を出し、榴弾を放った。

 

「うおおお!」

 

「助けてくれぇ!」

 

と叫びながら出てきた敵兵を射撃しつつ、更に前進させる。

 

「今のうちだ、突っ込め!」

 

煙幕が晴れてきて発砲炎がはっきり見えるようになると、IV号戦車は英軍の対戦車砲の目の前にいた。

 

「うわ!退避!退避ー!」

 

「そのまま踏み潰せ!」

 

兵士が逃げ出して無人になった6ポンド対戦車砲を踏み潰す。

 

「各個自由射撃!シャルロッテ、3時方向の敵対戦車砲を!」

 

エリカは次々と指示を出すと、2両目の6ポンド対戦車砲を撃破した。

 

「隊長!7時方向から砲撃!今度はM4です!」

 

「チィ!また面倒な奴が来たね!全車、散開!徹甲弾装填、砲塔1時!」

 

とエリカが指示を出

 

し、シャルロッテが砲塔を指向する。

 

「装填完了!」

 

「撃て!」

 

放たれた砲弾は真っ直ぐ飛び、M4シャーマンの正面装甲に命中し、内部の弾薬庫を巻き込んで炸裂した。

 

「撃破だ!次、3時方向のM10!」

 

とエリカは叫ぶが、その前に敵弾が飛来する。

 

「危ない!!」

 

咄嵯の判断で車体を左へ回し回避するも、車体に砲弾が着弾した。

 

「クソッ!頭が回らない!砲塔旋回装置破損!」

 

シャルロッテが悪態をつく。エリカが舌打ちをすると、更に凶報が来た。

 

「こちら2号車!敵の増援gグギャ!」

 

「こちら4号車、敵の増援です。2号車が吹っ飛びました!」

 

と無線が入ってくる。2号車は弾薬庫の誘爆で一瞬にして全滅したようだ。

 

「クソッ!撤退だ!撤退!全速で離脱しろ!」

 

エリカがそう指示すると、2両に減ったIV号戦車はありったけの発煙弾で煙幕を張った。

 

「乗れ!撤退するぞ!」

 

周囲に残っていた歩兵もかき集めてエリカ達はその場を後にした。

 

 

「こちらグローリア3。ドイツ軍が逃げていきます、追撃しますか?」

 

「いえ、既に彼女らも私たちもかなり血を流したわ。今の追撃は危ないのでは無くて?」

 

増援としてやって来たチャーチル戦車の戦車長はそう言って紅茶をあおった。この時、エリカ達の所属する師団は海岸への突破を目指すものの失敗。一方的に戦車20両近くを失い後退した。

 

 

 

「こちら4号車。車体の損傷自体は戦闘に支障はありませんが、乗員全員大なり小なり負傷しています。」

 

「了解。せっかく生き残ったんだから、ヤバくなったら言いなさい。」

 

エリカはそう最後の僚車に言った。

 

「隊長、これからどうするんですか?」

 

とハンナが聞くと、

 

「とりあえず、近くの町に行くよ。そこで修理と情報の整理。それから本隊に合流するわ。」

 

エリカはそう答えた。

 

「それにしても、あの煙幕は効果大だったね。」

 

とマリアが言うと、

 

「歩兵達も発煙手榴弾で追い煙幕してくれて助かった。」

 

とシャルロッテも続けた。

 

「俺らも拾って貰えて助かった。あのままじゃミンチにされるとこだった。」

 

デサントさせた味方歩兵も言った。「まぁ、何にせよ生き残れてよかったですね・・・」

 

ハンナは安堵の声を出した。

 

エリカ達一行は近くの村落にたどり着き、小休止を取ることにした。無線によると、どうやら他の隊も強力な英軍に当たって一方的に大損害を受けて、師団は混乱している様だ。

 

IV号戦車に草木を被せて偽装して、一行はようやく一息ついた。

 

「しかし、本当に酷い目にあったな・・・。まさかこんなところでイギリス軍にぶち当たるとは思わなかったぜ。」

 

とデサントさせていた歩兵の一人が愚痴る。

 

「師団の他部隊が負けたのも納得ね・・・。あれだけの戦車に、対戦車砲まで持ってたらそりゃ勝てない・・・。」

 

とエマが言うと、皆同意するようにため息を吐いた。

 

「ま、とりあえず今日は生き延びた。それだけよ。」

 

エリカはそう言って、ワインを取り出して掲げた。どうやら村落で買ってきた様だ。

 

「皆で飲もう。」

 

そう言ったエリカに、

 

「1人分は?」

 

とハンナが聞いた。

 

「あんたのぶんは無いよ。だって未成年でしょ?」

 

とエリカが返すと、

 

「ひどい!私はちゃんと成人ですッ!」

 

とハンナが叫んだ。

 

「冗談だよ。ほら、これでも飲みな。」

 

そう言ってエリカは自分のグラスを渡した。

 

「隊長優しい・・・」

 

とハンナが呟くと、エリカはニヤリと笑って、

 

「何か文句あるかい?ん?」

 

と返した。

 

「いえ!何も無いです!」

 

とハンナは慌てて首を横に振った。

 

「まぁ、私も今日はちょっとキツかったかなと思ってたんだよ。」

 

「そうですね。」

 

とハンナはうなづいた。

 

「2号車のマルタ達も、3号車のイルゼ達も良い奴だったよ。・・・それより、この村で情報収集しよう。明日からどうするか考えないと。」

 

エリカはそう言って、話題を変えた。

 

「そうですね。無線で何か情報あるか探してみます。」

 

とハンナが無線を手に取った。

 

「いや、待ってくれ。無線は使わない方が良いかもしれない。」

 

とデサントしていた歩兵の一人が言う。

 

「どうしてですか?」

 

とハンナが尋ねると、

 

「傍受される可能性があるからさ。ここはフランス領内だからね。何なら敵軍も近くにいるからな。」

 

と言った。

 

「なるほど。確かにその可能性はありますね。」

 

とハンナは無線を戻した。

 

「とりあえず、今晩はこの村に泊まって明日の早朝、カーンに出発だ。」

 

エリカが指示すると、全員が了承した。




ちなみに所属の装甲師団にはモデルがあります。ノルマンディー上陸作戦当日に反攻、北アフリカで一時壊滅・・・


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カーン防衛戦

COD:WW2のキャンペーンのアーヘンで戦車で救援にいくあれがやりたかったので初戦闘です。


「撃て!」

 

放たれた榴弾は、通りの向こうを右折してきた敵の歩兵集団を文字通り消し炭にした。

 

「敵歩兵は後退!助かったぜお嬢さん方!」

 

MP40を持っていた分隊長と思しき歩兵が礼を述べる。

 

「これは貸しにしとくよ。」

 

とエリカは言うと、無線からまた声が聞こえる。

 

 

「こちら第3小隊!攻撃されてる!直ちに戦車の支援が必要だ!」

 

声の後から銃声や砲撃の音が聞こえる。

 

ハンナはエリカに取り次ぐ。

 

「了解、Kameradin!今向かう。」

 

そうエリカは返すと、先の反攻時に唯一残った4号車に

 

「よし、第3小隊の救援要請だ。敵の配置は不明。エミリア、左折して向かう。前進!」

 

と指示する。

 

「了解、小隊長。」

 

「エヴァ、私たちが戻るまで、第1小隊とここを守って。」

 

「りょ、了解ですっ!」

 

補充された新2号車は頼りなさげな返事を返すが、ここにいる第1小隊は4号車と同じく共に生き残った歴戦の兵士だ。きっと彼女らを援護してくれるはずだ。

 

 

「行くぞ!Panzer vor!」

 

エリカがそう言うと、

 

「まだ戦闘ですか!?」

 

とマリアが疲れを隠さずに叫ぶ。確かに、ずっと75mm砲弾と同軸機銃の装填をしてきたのだ。

 

「ハハハ。仲間を助けに行くのさ。」

 

とエリカは言った後で、こう付け加えた。

 

「それに、私たちは戦車兵でしょ?」

 

エリカ達一行は第3小隊の元へ廃墟と化した市街地を進んだ。途中、幾度か銃撃を受けるが、どれも小口径の豆鉄砲で、戦車を傷付けるほどの威力は無かった。

 

「敵戦車は見えませんね・・・」

 

とハンナが言うと、

 

「そりゃこの視界だもの。多分、あっちも苦労してるわ。」

 

とエマが返す。ハンナは車体の機銃で、無謀にもこのIV号戦車に小火器で立ち向かってきた敵兵にMG34の弾幕を見舞う。

 

「そういやさハンナちゃん、戦場に慣れるの早くない?」

 

とシャルロッテが照準器から目を放さずに言った。

 

「え、そんな事無いですよ。」

 

とハンナは答えたが、事実であった。彼女はつい2週間程前までは新兵だったのだが、今の彼女からはそのような雰囲気は全く感じられない。

 

「まぁ、それだけ死線をくぐり抜けてきたってことだろうね。」

 

とエリカが言った。

 

「そうですね・・・」

 

ハンナは少し複雑な表情を浮かべながら答える。

 

「今思えば、着任当日に連合軍が上陸して、2回も戦って、初めて人撃って、そして僚車の死を見るってなかなかハードスケジュールですよね・・・。」

 

とマリアが言った。

 

「そうですねぇ、私もあの頃は、度々嘔吐したり、眠れなかったりしたんですよ。」

 

とハンナは思い出す様に話す。

 

「でも、慣れていく。どんな状況も。最初は怖くて仕方無かったけど、今はそうでもないです。」

 

とハンナは続けた。

 

「ハンナ、良い顔するようになったじゃない。」

 

とエマが言うと、

 

「いやぁ、それほどでも・・・」

 

とハンナは照れる。

 

「いや、褒めてないからね?」

 

とエマは呆れながらも笑った。

 

 

「もうすぐ第3小隊の所へ着きますよ!」

 

と4号車が言った。

 

「お、あそこの廃墟突っ切れば短縮できる。エミリア!突っ込むよ!」

 

とエリカは言った。

 

「敵がいないといいんですが・・・」

 

とマリアが心配そうな声を出す。

 

「大丈夫よ、あの辺りにはもう敵はいないはず。」

 

とエリカは返した。

 

しかし、4号車からの報告でそれが変わる。

 

「Scheiße!(くそ!)9時方向にM4!車体、砲塔回して!」

 

4号車の車内無線で敵戦車の存在を知る。位置関係で考えれば、こちらからM4が狙えない以上、4号車は側面に攻撃を受けて爆散するだろう。と推察したハンナは、その自らの薄情ぶりに気付き、罪悪感を覚えた。「撃てぇ!」

 

4号車から聞こえた声は震えていた。

 

「命中!」

 

「よし!次弾装填急げ!」

 

「間に合うか!?」

 

ハンナの予想とは違って、あちら側にとっても不意遭遇だったようで、先手を取られたM4シャーマンは煙を吐きつつ発砲するが、その砲弾を弾いた4号車の砲弾が命中した次の瞬間、爆発炎上し、残骸へと姿を変えた。

 

「やったぜ!」

 

と4号車の乗員が叫んだ。が、直後追いついたエリカは、

 

「エミリア!まだ敵戦車がいる!」

 

と、撃破したM4の他にもう1両いることを知らせた。

 

「嘘でしょ!?」

 

と4号車の乗員が驚く。その時、建物の裏を迂回してきたと見られるM4が現れた。

 

「砲塔1時!4号車の背面の盾になる!」

 

というエリカの指示で、エリカ達のIV号戦車が車体を斜め、通称昼飯の角度にして射線に割り込み、M4の砲弾を弾いた。

 

「助かりました!」

 

と4号車から無線が入る。

 

「発砲!!」

 

直後シャルロッテが徹甲弾を至近距離からM4の正面装甲に撃ち込んだ。

 

「撃破!撃破!!」

 

エリカはそう言うと、付近に敵戦車がいないことを確認して再び進み始めた。

 

「こちら第3小隊!援護はまだか!」

 

「今右翼の敵勢力を排除してる。状況は?」

 

エリカが無線で会話するも、一瞬相手の反応が途絶える。がしかしすぐに

 

「戦車だ!戦車と交戦中!砲塔が箱みたいな奴だ!」

 

と返ってきた。

 

「了解した!そいつのことはよく分からんが、もう少しでそっちの敵の側面に出る!もう少しだけ耐えて!」

 

「わかった!野郎ども!良いとこみせてやろうぜ!」

 

第3小隊と話しながら、エリカ達は第3小隊が交戦中の場所まで向かった。すると、前方に2両のM4戦車が見えた。第3小隊への攻撃に気を取られて、側面を晒している。

 

「弾種徹甲弾!撃て!!」

 

「発射!」

 

エリカのIV号戦車と4号車の75mm砲弾はM4の側面を易易と食い破った。

 

「こちら第3小隊!敵戦車2両の撃破を確認!あと火を吐いてるドラゴン奴が1両いる。頼めるか!?」

 

「マリア、砲弾の残数は?」

 

エリカに尋ねられたマリアは砲弾ラックを確認する。

 

「徹甲弾2発、榴弾3発、あと発煙弾が1発です。」

 

その答えを聞いてエリカは

 

「よし!引き受けた!弾薬と燃料があれば戦車はすべて解決できる!」

 

と返答した。

 

「はい!?」

 

反応したのはハンナだ。戦車を撃破するには徹甲弾が必要だが、2発では到底敵わないと思ったからだ。

 

しかし、そんなハンナを無視してエリカは指示を出す。

 

「エマ、M4がいたところを左折して。シャルロッテ、砲塔9時。」

 

「あいよ。」

 

「砲塔9時、了解!」

 

エマもシャルロッテも特に言わずに指示に従う。

 

「でも一旦戻って補給を・・・」

 

言いかけたところでエリカが

 

「うるせえIV号戦車ぶつけんぞ。」

 

言った。

 

「うぇ・・・」

 

ハンナは黙り込むしかなかった。エリカはそれを見てバツが悪そうに、

 

「・・・やっぱりさ、戦ってる仲間を置いてけないよ。」

 

と続けた。ハンナはそれを聞いて、はっとした。仲間を助ける。どうして前までは当たり前だったことを私はもう忘れていたのか、と。

 

「すまん。言い方も悪かったよ。ちょっと焦ってた。」

 

エリカが頭を掻きながら言う。

 

「装填よし!」

 

「そうですね。覚悟決めました!」

 

ハンナはそう言って笑った。

 

「照準良し!」

 

そして先程のM4と同じく第3小隊に気を取られている敵戦車の背面に、必中の間合いから徹甲弾が放たれた。

 

「ん?こいつなんか荷車引いてるよ?」

 

エマの発言通り、敵戦車の後ろに荷車のようなものがくっついており、そこに命中した徹甲弾は、その荷車を巨大な火柱に変えた。

 

「な、なんだ!?チャーチルの奴、ケツに火がついたか!?」

 

シャルロッテが焦ったように言うと、敵戦車が回頭してきた。その車体正面からは火炎放射器が放たれていた。

 

「なるほど、火炎放射器戦車かぁ。次弾装填。決めてシャルロッテ。」

 

感心したようにエリカが言うと、

 

「もちろん!」

 

とシャルロッテが返事をする。

 

「装填良し!」

 

「撃て!!」

 

シャルロッテの放った徹甲弾が火炎放射器戦車の側面装甲を貫いた。

 

「うわ!燃えてます!」

 

「マジですの!?消火しますわよ!」

 

「いやここは脱出・・・!!?」

 

敵戦車を撃破した後、火炎放射器の燃料が誘爆したのか、敵戦車は爆炎に包まれた。同時に車内から炎に焼かれて火だるまの状態敵の戦車兵が飛び出してきた。

 

「ぎゃあああ!!!!」

 

「ひいい!!」

 

「早く!!誰か助けてぇ!!」

 

「熱いよぉ!痛いよぉ!!死んでしまうよおおぉぉ!」

 

「水!水をぉぉ!」

 

そんな叫び声を聞きながら、エリカ達はその場を去ろうとした。

 

・・・が、ハンナはMG34の引き金を引いて、未だ火だるまでのたうち回る敵戦車兵を撃った。

 

「ハンナ・・・」

 

「・・・すみません。でも、戦車に乗っていた兵士は、きっとこんな風に苦しんで死ぬんだとわかったんです。だけど、私は同じ戦車兵として、彼女らを苦しませないでおきたいんです。」

 

そう言うと、ハンナは震える手でなおも銃を撃ち続ける。敵味方の死には慣れた。しかし、いつか生きて焼かれるのかもしれないと考えると、ハンナは震えが止まらなかった。

 

「ハンナ・・・ホントに大丈夫か?」

 

エリカが呟くと、

 

「私は大丈夫です。行きましょう少尉。今はただ前を向いて進むだけです。」

 

ハンナがそう言った。

 

「・・・そうだね。行きましょう。」

 

マリアの言葉で、エリカ達はまた進み始めた。

 

こうして第3小隊と合流したエリカ達は、第3小隊の面々から歓喜の声で迎えられた。

 

「戦車だ!」

 

「天使の降臨だ!」

 

「ちくしょう!助かったぞKamerad(戦友)!」

 

湧き上がる歩兵達に、エリカがキューポラから身体を乗り出し、

 

「待たせたな!戦車様のお通りだ!!ハハハー!」

 

と拳を突き上げてみせた。シャルロッテやエマも口角が上がっている。

 

「あ、危ない!」

 

エリカを狙ってか、キューポラ辺りに何発か敵の小火器の弾が当たる。マリアはエリカを車内に引き戻そうとしている。

 

ハンナも、ペリスコープ越しに見える歩兵の喜びぶりに、少し得意になった。

 

しかし流石に徹甲弾が尽きた為、その後1度補給に帰ることにした。

 

「じゃあ私はここで失礼するよ。また会おう。」

 

「あぁ!助かったぜ!今度1杯奢らせてくれ。」

 

「いや、お易い御用さ。ふふふ。」

 

第3小隊と別れたエリカ達は補給物資の集積所へ向かった。徹甲弾を撃ち尽くし、燃料も沢山は残っていなかった。

 

「あー、結構弾薬消費したねぇ。」

 

シャルロッテが少し疲れたような声で言った。

 

「そうですね。榴弾も残り少ないですし。」

 

マリアが言った。

 

「ま、仕方ない。弾薬と燃料があれば戦車は全て解決できるからね。・・・にしても、北アフリカでもそうだったが、あの歓喜の声を聞く瞬間はたまらねぇ、へへへ。」

 

そんな会話をしながらエリカ達と4号車は物資集積所へ戻ってきた。

 

 

「補給を頼む。弾薬がほとんど空なんだ。」

 

「はいよ。」

 

補給担当の兵士と協力して、先程までの装填作業で、命が刈り取られそうな顔になったマリア以外で砲弾と燃料を補給する。エリカはふと思い出したかのようにハンナに尋ねた。

 

「そういえばさ、ハンナってなんでこの部隊に入ったの?志願?」

 

「え、私ですか?」

 

ハンナは少し戸惑った表情を見せた。

 

「うん。私も気になる。」

 

シャルロッテも便乗する。

 

「・・・正直言うと、私はあまり戦いが好きではありません。本当は、通信科に希望を出したんです。でも、先に入隊した友人達が、紙になって戻ってきたり、大怪我して帰ってくるのを見ました。それを見て私は、自分だけ後方任務の兵科になるのが辛くなって、友達に胸を張れるようになるためにも、戦車兵に・・・!」

 

ハンナは静かに答えた。

 

「そっか・・・。ごめん、嫌なこと思い出させたかな。」

 

エリカがそう言うが、

 

「いえ、全然平気ですよ!」

 

とハンナは笑ってみせた。

 

「よーし、これで全部だな。」

 

補給担当の兵士が言う。

 

「ありがとうございます。。」

 

敬礼するエリカに、補給科の兵士は辺りを一瞬見回すと、小声で言った。

 

「あまり大きな声じゃ言えないが、まともな補給が受けられるのは今日中だけかもしれない。」

 

と言った。

 

「・・・どういうこと?」

 

「実は昨日、司令部への無線連絡の時にちらりと聞こえたんだが。英軍はヴィレル・ボカージュも攻撃して、こちらを包囲する気らしい。今はまだ備蓄があるが、敵機のせいで補給も滞ってる。」

 

補給科の兵士は淡々と語った。

 

「・・・うーん。」

 

エリカは思わず言葉を失った。

 

「だから、早めにここを出た方がいいと思うぞ。」

 

「わかった。忠告ありがとう。」

 

補給を終えたエリカ達はすぐに出発した。また救うべき戦友が現れたのだ。

 

それから3日間、エリカ達はカーン市街地で激戦区を転々としながら戦った。戦車の装甲を貫く対戦車砲や、M4戦車などの敵も撃破したが、この3日間の戦闘で、敵は圧倒的な物量と航空攻撃による補給路の遮断で、ジワジワとエリカ達ドイツ軍を退けていった。

 

そしてついに、カーン近辺を始めとするドイツ軍の大部分は包囲される危険に陥った。そこでドイツ軍はなけなしの機甲師団で包囲の突破を計った。




次回はファレーズポケット(のような何か)編です。戦闘描写が拙い(絶望)。


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チャーチル戦

区切りを上手くやれず、長くなりすぎたので初戦闘です。


「よし、よく聞いて。」

 

IV号戦車の近くで、エリカは自らの小隊車の車長を集めてブリーフィングを開いていた。

 

「はっきり言って、私たちは包囲されている。」

 

補充されてきた新兵達は顔を強ばらせる。

 

「だからこそ、私たちはその包囲の網を食い破る。」

 

地図に指を乗せ、エリカは街道に沿って進ませる。

 

「私たちはこの十字路を確保して、友軍の退路を確保する。味方は重装備をかなぐり捨てて、早ければ明日にはここを通過する。」

 

重装備を放棄、つまり砲兵による支援砲撃も望めない。

 

「でも大丈夫。明後日には武装SSの装甲師団が外側から来てくれる。

 

私達はこれまで沢山の戦闘を乗り越えてきた。きっと生きて帰ろう。」

 

「了解!!」

 

全員が一斉に返事をする。

 

「良し!じゃあ行こう!」

 

こうして、エリカ率いるIV号戦車の小隊は前進の準備を整えた。なけなしの弾薬と燃料を分配したが、完全に腹を満たす量では無かった。

 

 

「私たち、死んだも同然では?」

 

マリアがボヤくように言った。

 

「うるせえ、戦車ぶつけんぞ。戦車はすべて解決できるんだよ。」

 

エリカが戻ってきて言った。

 

「そうだね。まだ諦めるのは早いよ。私たちが道を開いてくれてると信じてる味方がいるんだ。」

 

とエマが言った。

 

「その期待に、応えなきゃいけませんね。」

 

ハンナもにこやかに答えた。

 

「味方の命も掛かるとなれば、尚のこと外せないねぇ。」

 

とシャルロッテが言う。

 

「・・・そうですね。そしてハンナちゃんがやる気なのに、先輩としてカッコ悪いもんね!」

 

とマリアも納得した様子だった。

 

「・・・さぁ、行くよ!」

 

そしてエリカの合図と共に、再び4両となったIV号戦車のエンジンが一斉にかかった。

 

「「「「Panzer vor!!」」」」

 

 

 

「・・・良かった。ヤーボは飛んでない。」

 

エリカは空を見ながら呟く。

 

「そいつは良かった。流石に飛行機には当てられないしなぁ。」

 

シャルロッテが言った。

 

「今の内に十字路が見える範囲位までは近付きたいわね。」

 

とエマも続ける。

 

 

「あ、近くに家屋もある様ですからマトモな布団で寝れるかもしれませんね。」

 

とハンナが地図を見ながら言った。

 

「・・・いや、それはどうかな。」

 

エリカは少し考えるような仕草を見せると、

 

「敵はその十字路を確保して待ち伏せてる可能性もある。もしその家屋に敵が籠ってたら榴弾で吹き飛ばさなきゃならない。」

 

と言った。

 

「・・・確かに、それもそうですね。」

 

ハンナは残念そうな表情を浮かべる。

 

「でも、まずは十字路まで行かなきゃ。このままじゃジリ貧だしね。」

 

エマが言うと、

 

「・・・だな。」

 

とシャルロッテもうなづいた。マリアは手を合わせて何か唱えている。

 

「ベッドで寝れますように・・・。」

 

IV号戦車の砲塔上、エリカはキューポラから身を出して偵察している。戦車の中というのは、どうしても視界が狭くなるからだ。

 

 

「やっぱり居たか。」

 

M4が2輌ほど左手の林の向こうを進んでいた。その片方はかなりの長砲身だ。

 

「どうする?1発撃ち込む?」

 

とシャルロッテが聞いた。

 

「うーん、ちょっと待ってて。」

 

エリカは双眼鏡を取り出すと、敵の方をじっと見つめる。そして、M4に変わった動きが無いのを確認すると、

 

「砲撃に自信のある奴は?」

 

と無線で問いかけた。

 

すると、意外にもすぐに返答があった。

 

「こちら4号車、私なら大丈夫ですよ!」

 

「任せてください!」

 

と、4号車の車長と砲手、2人の声が聞こえてくる。

 

「分かった。じゃあ頼むわね。」

 

そう言ってエリカは

 

「今、左の林の向こうに2両いる。4号車は前の奴、短砲身の方。私たちは後ろの長砲身の奴をやる。」

 

と言って指示を出した。

 

「了解!」

 

4号車のが答える。

 

「弾種、徹甲弾。目標、先頭の敵車両。」

 

そしてゆっくりと息を吸って、

 

「撃てっ!!」

 

と叫んだ。

 

ドンッ!!という砲撃音と共に、砲弾が先頭のM4の側面を撃ち抜いた。

 

「撃て!」

 

「待ってました!」

 

続けて放たれた砲撃も、もう1両のM4を撃破した。エリカは4号車に賞賛を送る。

 

「命中!命中!よく当てたよ。」

 

「はい!ありがとうございま・・・。」

 

しかし4号車の返信は直後聞こえた風切り音で途絶えた。

 

 

続いて、 ドォン! という爆発音が聞こえる。

 

「・・・え?」

 

呆気に取られたエリカだったが、

 

「全速後退!!」

 

と叫んで車内に戻った。

 

「何が起こった!?」

 

「砲撃です!4号車が吹っ飛びました!」

 

「多分3時方向です!」

 

僚車の報告を元に、3時方向を探ると、チャーチル戦車がいた。

 

「見つけた!3時方向、発煙弾装填!」

 

 

そして発射しようとした瞬間、

 

「敵、発砲!」

 

「回避!」

 

エマは咄嵯に車体を右へ急旋回させる。砲弾は砲塔側面のすぐ側を通過した。

 

「撃て!」

 

「了解!」

 

シャルロッテが発煙弾を撃ち出す、僚車の発煙弾も加わり砲撃が止んだ。だがチャーチル戦車を倒した訳では無い。またすぐに攻撃してくるだろう。

 

「・・・クソッ。」

 

エリカは小さく毒づく。

 

「どうしますか?」

 

ハンナが聞く。

 

「十字路まで行くには奴を始末しないと。」

 

エリカは答える。先程の4号車みたいに後ろから撃たれることはなんとしても避けたい。

 

「でも相手は1両で鈍足。撒こうと思えば撒けるのでは?」

 

「・・・奴の正面装甲は150mm程ある。奴を放っておけば、撤退する味方に被害が出る。」

 

「・・・そうですか。」

 

ハンナは残念そうな顔を見せたが、すぐに元の表情に戻ると、

 

「分かりました。やりましょう。」

 

と言った。

 

「・・・分かった。エリカが言うならしょうがない。」

 

エマは静かに答えた。

 

「ただ、回り込むには距離がありすぎる。それまでに・・・」

 

シャルロッテがそこまで言いかけて止める。

 

「誰かが犠牲になる・・・ですか。」

 

そう続けたマリアは一瞬天を仰いだ。

 

「でもね、作戦があるわ。」

 

エリカがそう言うと、全員の視線が向かった。

 

 

 

「あら、茶柱が立ったわ。こんなことわざを知っている?『茶柱が立つと、素敵な訪問者が現れる。』」

 

一方、IV号戦車を1両撃破したチャーチルMk.VII戦車に乗る英国淑女は紅茶を飲んでいた。

 

「お言葉ですが、もう5名ほどヴァルハラに送られました。素敵かはさておいて・・・本当に向かってくるでしょうか?」

 

紅茶のお代わりをつぎながら装填手が言った。残った3両のIV号戦車は発煙弾を撒いて十字路まで無理やり進むのではないかと心配だったからだ。

 

「さぁ?どうかしらね。」

 

ティーカップを片手に持った車長が答える。

 

「でも、もし来たら・・・。」

 

「えぇ、歓迎してあげないと。」

 

そう言うと彼女は口元を歪めた。

 

「戦車前進!」

 

チャーチル戦車は排煙を吐きながら前進を始めた。

 

 

「まだ撃たないで。もう少し引きつけてから。」

 

「了解。」

 

エリカの指示通り待つと、チャーチル戦車はじわりじわりと距離を詰めてくる。

 

「よし今だ!撃て!!」

 

3両の戦車が一斉に徹甲弾を放った。その全てが狙い通りに直撃する。

 

しかしそこはチャーチル戦車。正面の152mm装甲にその砲弾は受け止められてしまう。

 

「流石は英国製ね。」

 

エリカは少し感心すると、

 

「全速前進!回り込めた奴は側面か背面にぶち込んで!」

 

と言って、突っ込むように命令を出した。

 

「了解!」

 

シャルロッテは素早くギアを入れると、アクセルを踏み込んだ。

 

だが、敵も黙ってはいない。砲塔を旋回させると、こちらに向けて砲弾を放つ。

 

ドォン! 車体が大きく揺れる。

 

「大丈夫?」

 

「問題なし!」

 

シャルロッテはそう返すと、すぐに照準を合わせて射撃を行う。

 

ドン!という砲撃音と共に放たれた砲弾は、チャーチル戦車の正面装甲を傷つけるのみに終わった。

 

「チッ!」

 

舌打ちをしながら、次の装填を待つ。

 

その間に、チャーチル戦車の砲塔は3号車へと向きを変えていた。

 

「・・・3号車!狙われているぞ!!」

 

「!!?」

 

砲弾が着弾して、砲塔から顔を出していた車長の頭が吹き飛んだ。

 

「・・・サンドラが殺られた!」

 

砲塔上から車長が吹き飛ばされた3号車を見て、エリカは呟く。

 

「・・・クソッ!」

 

エマは悪態をつく。

 

「チャーチルの砲塔を狙え!距離450!」

 

「やってみる!」

 

エリカの指示にシャルロッテが答える。

 

「撃て!」

 

砲弾はチャーチルの砲塔に当たったが、その厚い装甲に阻まれた。

 

「クソっ!硬芯徹甲弾でも試すかい!?」

 

シャルロッテが言うように、このIV号戦車には硬芯徹甲弾Pz.Gr40、APCRが1発積んである。貫通力は通常の徹甲弾より上がるものの、貫通後の加害力で劣る。何よりこの西部戦線では貴重だ。

 

 

「いえ、やめましょう。貴重な砲弾です。それに今は・・・」

 

ハンナの言葉にエリカが続ける。

 

「・・・そうね。無駄遣いはできないわ。」

 

そう言うとエリカは通信機のスイッチを入れた。

 

「全車に通達。これより敵に突撃し、これを撃破する。」

 

「良いね、最高だ。」

 

シャルロッテが口角を上げながら言う。

 

「無茶苦茶だな!」

 

エマが叫ぶ。

 

「でもそれしかないでしょう?」

 

ハンナが言った。

 

「そうね。・・・皆、覚悟はいい?」

 

エリカが聞く。

 

「とっくに覚悟完了!」

 

「はい。」

 

「もちろんです。」

 

マリアと僚車2両からの返事も聞いてエリカは静かにうなずくと、

 

「行くわよ!パンツァーフォー!!」

 

と叫んだ。

 

3両に減ったIV号戦車は一斉に動き出した。

 

ありったけの燃料でエンジンをふかし、発揮できる最高速度でチャーチル戦車に迫る。

 

 

 

「来るわね。」

 

英国淑女はキューポラのハッチを開けると、上半身を出して双眼鏡で敵を捉えた。

 

「・・・あら?あれは・・・」

 

彼女の視界に入ったのは、上陸作戦当日に、自分が逃がした小隊長車のIV号戦車だ。その右端にいるIV号戦車の車長もこちらを睨みつけている。

 

「・・・ふぅん。目標、左端のIV号戦車。」

 

彼女はニヤリとすると、車内に戻った。

 

 

「撃て!」

 

エリカの命令で3両のIV号戦車が砲弾を放った。

 

ドォン!と砲弾が着弾する。

 

「・・・ダメか。」

 

「硬いですね。」

 

3両の戦車が放った徹甲弾は、チャーチル戦車の正面装甲を貫けなかった。

 

「側面に回り込め!」

 

エリカの命令通り、3両の戦車は方向転換をして側面を狙う。

 

「攻撃。」

 

今度は英国淑女の声と共に放たれた75mm砲弾が車長を失った3号車の砲塔装甲を撃ち抜き、3号車は砲塔内の弾薬が誘爆し砲塔は紙細工のように吹き飛んだ。

 

「チッ!」

 

エリカはその光景を見ながら、再びチャーチル戦車に向き直った。

 

「次弾装填急げ!」

 

「はい!」

 

「もう1発喰らわせてやる!」

 

シャルロッテが叫びながら、マリアが砲弾を装填する。

 

その間にも、2両は側面を狙いつつ距離を詰めていく。

 

「距離300!」

 

シャルロッテの報告を聞いて、エリカは

 

「よし、奴の左から突っ込め!私は右から、これで終わらせる!」

 

と言った。2両のIV号戦車が同時に2方向に別れる。

 

 

「装填完了!」

 

「撃ち方始め!!」

 

2発の砲弾が放たれ、チャーチル戦車に命中するが、またしても正面装甲は75mm砲弾を受け止めてしまう。「クソッ!硬すぎる!」

 

「まだ!もう少し!」

 

エリカの叫び声に、シャルロッテが反応して、車体を大きく揺らしながら、更に距離を縮める。

 

「・・・あと少し・・・」

 

シャルロッテが呟いた時だった。

 

 

「IV号戦車近付いてきます!」

 

操縦手の動揺に英国淑女は

 

「慌てる必要はないわ。落ち着いて対処なさい。」

 

と冷静に答えた。

 

「は、はい・・・」

 

「目標、11時方向のIV号戦車。弾種徹甲弾。」

 

「了解しました。」

 

彼女が指示を出すと、砲塔が旋回して照準が合わさる。

 

「攻撃。」

 

その言葉と同時に、チャーチル戦車の主砲が火を吹き、砲弾が放たれる。

 

「避けろ!!」

 

砲弾は一直線に2号車に向かっていくと、正面装甲を食い破った。

 

そしてそのまま弾薬庫まで進み、爆発を引き起こした。

 

 

「・・・やられた。」

 

そう呟くとエリカは車内に戻る。

 

「最後は私たち!?」

 

エマが焦りを隠さず叫ぶ。

 

「それともチャーチルが先か。ですね。」

 

ハンナも冷や汗をかいている。

 

「シャルロッテ、どう?」

 

エリカの問いにシャルロッテは砲塔を旋回させながら、

 

「そろそろ側面が見える。この距離なら抜ける。」

 

と答えた。

 

「・・・行くわよ。」

 

エリカは覚悟を決めた表情でそう言うと、

 

「エマ、そのまま突っ込んで!」

 

と叫んだ。

 

「さっきのお返しだ!」

 

そう言ってシャルロッテが放った砲弾は、チャーチル戦車の左側面に命中し、貫通こそしなかったものの、フェンダーの一部を削り取った。

 

「次弾装填急いで!このまま押し切るわよ!」

 

エリカ達のIV号戦車は再び速度を上げて突撃した。

 

「なかなかやりますのね?」

 

チャーチル戦車車長、英国淑女は衝撃でも紅茶をこぼさず言った。

 

「敵が真っ直ぐ向かって来ています!」

 

「右へ回頭。脇は見させてはいけないわよ。」

 

英国淑女は冷静な声で答える。

 

「は、はい!」

 

運転手の返事を聞くと、彼女はハッチから頭を出し、敵を見た。IV号戦車の車長と英国淑女は互いを睨みつけた。

 

「狙われています!」

 

ハンナはそう叫び、MG34を撃ち放った。当然装甲板は貫けないで、数多の火花が散るのみだ。

 

「攻撃。」

 

英国淑女の声とともにチャーチルが撃った。その砲弾はIV号戦車の砲塔右側面のシュルツェンを弾き飛ばしたが、撃破には至らない。

 

「うおおおおぉ!?!?」

 

マリアが叫び声を上げるが、装填が終わった。

 

 

「ハッチだ!ハッチを撃て!」

 

エリカの命令で75mm砲弾が放たれ、チャーチルの車体側面のハッチ付近に命中する。

 

「次弾装填急げ!」

 

「は、はい!」

 

「装填完了!」

 

マリアの報告にエリカは

 

「撃て!」

 

と言った。砲弾はチャーチル戦車の側面装甲に着弾し、装甲板の一部を破壊するが、やはり撃破には至っていない

 

「!?、停止!!」

 

エマが急ブレーキをかけると同時に砲弾が車体前面装甲を跳ねていく。

 

「危な!?」

 

エリカが珍しく驚いた表情をするも、

 

「弾種発煙弾!」

 

と、すぐに指示を出した。

 

「目標は砲塔正面、撃て!」

 

今度は発煙弾を砲塔に直撃させた。着弾直後、煙幕が辺り一面に広がる。

 

視界を奪われた英国淑女のチャーチルは砲撃を中断する。

 

その隙に、IV号戦車はチャーチルの背面に回り込む。チャーチルが発砲するも、発煙弾のお陰で外れた。

 

「シャルロッテ!ケリを!」

 

エリカの言葉に、 シャルロッテはチャーチルの後ろ側を狙う。

 

だが、それを察知した英国淑女は即座にチャーチルの向きを変えようとする。しかし、それを許すほど、北アフリカからのエリカ達は許さない。シャルロッテが車体側面後部の駆動輪を撃ち抜いて履帯を壊した。英国淑女も諦めず砲塔を回すが、砲塔を旋回させるより早く、IV号戦車が砲身を向ける。

 

そして、 ドンッ!! と、2発の砲弾が放たれた。

 

1つは、英国淑女が乗るチャーチルのエンジン部分に、もう1つはエリカ達が乗るIV号戦車の砲塔天蓋を跳弾し

た。

 

結果、チャーチルはエンジン部から出火し、IV号戦車から放たれた2発目の砲弾で完全に動かなくなった。

 

 

「脱出!総員脱出!」

 

チャーチルの砲塔正面で未だ白煙を上げる発煙弾とエンジンからの黒煙の中、英国淑女達が脱出するのがうっすら見える。

 

「・・・終わったの?」

 

エマはまだ状況を理解していないようだ。

 

「えぇ、私たちの勝利よ。」

 

エリカは安堵のため息を漏らしながら答えた。

 

「や、やった・・・!!」

 

エマが歓喜の声を上げた。

 

「勝った!!!」

 

「やりましたね!」

 

シャルロッテとマリアがハイタッチする。

 

「あぁ、やったんだ・・・私たちは・・・」

 

ハンナもそう言い、皆喜びの声を上げている。

 

「・・・ハンナちゃん?」

 

エリカがふと、ハンナの方を見ると彼女は泣いていた。

 

「ごめんなさい、安心したら涙が出てきて・・・」

 

そう言って手で目元を覆うハンナを見て、

 

エリカは優しく微笑む。

 

「良いのよ。あなたはよく頑張ってくれたわ。皆も、よくやったよ。お陰でここの5人は生きてる。」

 

そう言って彼女や他の3人を慰めるエリカ。

 

「・・・エリカさんってこんなに優しかったんですね。もっと怖い人かと思っていました。」

 

「失礼ね。私だって人間よ。」

 

そう言ったエリカにシャルロッテが

 

「ホントかぁ?」

 

と言うと、エリカはムッとして

 

「何?文句あるの?」

 

と言い返す。とそこでエマも加わって、

 

「だって、北アフリカでセクハラしてきた上官のキ○タマ蹴って病院送りにしてたじゃん?」

 

と言った。

 

「あれは正当防衛。でもあの悶絶顔はちょっとクセになったかも。」

 

エリカはそう言って笑いだした。それにつられて他の4人も笑った。

 

「さて、これからどうするかしらねぇ。」

 

ひとしきり笑うと、エリカが口を開いた。

 

「ま、十字路確保じゃない?」

 

シャルロッテが言う。確かに、司令部からの命令である十字路の確保は最優先事項だ。

 

「1両で?私たちが送られるってことは敵も十字路にいるはず。」

 

と言うのはエマ。確かに、と5人は未だ炎上したままの僚車だった残骸を見やる。撃破された3両のIV号戦車には生存者はいないようだった。

 

「なら、ここで待ち伏せしてたらどうですか?」

 

マリアが提案する。

 

「それはダメ。この辺りに草はあっても遮蔽物なんてないし、下手したらヤーボに爆撃されることになる。」

 

とエリカが反対すると、

 

「じゃあ、やっぱり行くしかないんじゃないですか?ここで散った仲間の為にも。」

 

 

とハンナが言った。

 

「・・・そう、ね。」

 

エリカはそう呟くと、戦車のハッチから上半身を出して、双眼鏡を使って辺りを確認する。

 

そして、

 

「敵影無し。じゃ、さっさと十字路盗って、また味方にとっての天使様と洒落こもう。」

 

と、笑顔で言った。

 

「「了解!」」

 

5人の声が重なる。

 

彼女たちは、まだ知らない。

 

自分たちの前に圧倒的に数で優勢な英軍がいることを。

 




Furyのようにしたかったけど難しいです。


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ファレーズ・ポケット、入口こじ開ける編

アクション映画の主人公の倒し方を考えてみていたせいで進まなかったので初戦闘です。


「・・・行きましたわね。」

 

一方、十字路へ去っていく、エリカ達のIV号戦車を、チャーチル戦車の車体の下で窺う英国淑女は言った。

 

「はい、おそらく十字路へ向かうかと。」

 

と答える装填手。

 

「よろしいですわ。通報はしておいたから、多数の友軍が待ち受けることでしょう。」

 

 

英国淑女は、あのIV号戦車が多数の対戦車砲や戦車駆逐車に蜂の巣にされる姿を想像したが、現実はそうは上手くいかなかった。

 

 

「はい、報告ですと4両の内1両を撃破、その後、計3両撃破との報告が来ました。」

 

「えーと、つまり、全滅だな!ヨシ!」

 

そう、通報をした奴と受け取った奴との連絡に齟齬があったのだ。一応名誉の為に言っておくと、現在十字路は、ファレーズポケットを塞がんとする英軍の渋滞が起きて、交通整理に忙しかったのである。

 

 

つまり、エリカ達のIV号戦車はその渋滞中の十字路に突っ込んだ訳である。

 

「さぁ、行くよ皆。」

 

エリカはそう言って、キューポラから半身を乗り出して前方を見る。

 

「了解。」

 

4人が応える。

 

「エマ、とにかく動き回って敵に狙いを絞らせないで。」

 

「わかった。」

 

「シャルロッテ、敵が撃ってきたら反撃お願い。」

 

「任せて。」

 

「ハンナちゃんは・・・」

 

「わかってます。私は機銃を撃ちつつ、別命まで待機します。」

 

エリカは一呼吸置くと、

 

「それでは、戦闘開始!」

 

と言って、エンジンをかけた。

 

エンジンがかかり、前進を始めたIV号戦車はボカージュを踏み倒し、英軍の車列の横っ腹をつく形となった。

 

「敵戦車だ!」

 

「応戦しろ!!」

 

ボカージュからの突然の奇襲に混乱した英軍戦車は、慌てて砲塔を向ける。しかし、

 

「遅いよ!!」

 

と叫びながら、シャルロッテが撃鉄を落とした。砲弾は、見事にシャーマン ファイアフライの側面装甲を捉え、大爆発を起こした。

 

「よし、シャルロッテは長砲身の奴を優先的に、エマは回避優先、ハンナは歩兵を蹴散らして。マリアは、頑張って!」

 

「了解。」

 

「了解!」

 

「わかりました!」

 

「・・・え?」

 

4人は返事をして、それぞれ行動を開始する。

 

「目標、シャーマン長砲身!撃て!」

 

シャルロッテが叫ぶと同時に発砲する。その砲弾は吸い込まれるように側面に命中し、

 

「撃破確認。」

 

とハンナが言う。

 

「次、またシャーマン長砲身!照準合わせて!」

 

シャルロッテの言葉に、ハンナが素早く反応し、照準器を覗く。

 

「今だ、撃て!」

 

放たれた徹甲弾は、見事ファイアフライの正面装甲を貫く。

 

「やった、撃破したぞ!」

 

「まだ、気を抜いちゃだめですよ。」

 

喜ぶ4人にマリアが言う。確かにそうだ。敵はまだ残っている。

 

「次の目標は・・・」

 

エリカがそう言いかけると、歩兵の1人が梱包爆薬を持っているのが見えた。

 

「敵工兵!」

 

気付いたハンナがそう報告しつつ車体機銃を放つも、ちょうど弾切れを起こしてしまった。

 

「正面に敵兵!弾切れですッ!」

 

「後進!!」

 

エリカはそう言って、ハッチから身を乗り出して拳銃を抜いた。

 

敵工兵が梱包爆薬を投げる体勢に入る。

 

エリカと工兵の目が合う。

 

しかし一瞬工兵の方が早く、撃たれると同時に梱包爆薬が投擲された。

 

「きゃっ!?」

 

幸いにも手前に落ちた梱包爆薬は数多の破片を周りに吐き出し、IV号戦車の正面を叩いた。貫通したものは無いが、IV号戦車の中は衝撃と爆音に包まれた。

 

「エマー!?」

 

「い、生きてるよぉ!」

 

「ハンナー!?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「シャルロッテー!?」

 

「大丈夫!」

 

「マリアー!?」

 

「問題ありません!」

 

全員の無事が確認できると、IV号戦車は再び前進を始めた。機銃弾や徹甲弾、榴弾を四方八方に撃ち放ち十字路を確保した。

 

IV号戦車の他には、そこかしこに6ポンド砲やユニバーサルキャリア、ダイムラー偵察車の残骸が残り、2両のファイアフライも撃破していた。

 

「どうしようか、これ。」

 

と、IV号戦車を降りたエリカが呟く。

 

「とりあえず、放置しておけば良いんじゃないでしょうか?いずれ土に還りますよ。」

 

と、ハンナが言った。

 

「そっか。じゃあ放置で。」

 

エリカがそう言うと、全員が同意した。

 

そして、十字路の先へとファレーズポケットを閉じに向かった英軍は、退路を遮断されかけていることに気付いた。

 

 

「!?全車反転!部隊集結後、来た道を戻って十字路を奪回する!敵は後ろだ!」

 

指揮官の指示で、ファレーズ・ポケットを塞がんと前進していた英軍の先遣隊は逆に包囲される恐れありと判断し、十字路の奪回へ動き始めた。

 

 

一方エリカ達はというと、十字路の確保に成功した後、ありったけの偽装を自車に施した後、すぐそばの無事だった家屋を訪れていた。住民は既に避難したようだった。

 

「さて、これからどうするかだけど・・・」

 

と、エリカが言う。

 

「友軍が来れるかはともかく、まずは生きてここを確保するべきだよ。」

 

とエマが言う。

 

「その通りだと思います。友軍の為にもあのチャーチル戦車を撃破したんですもんね。」

 

とハンナも続ける。

 

「うぅん、でもこのままだと、私たちがここにいる事がばれてしまうかも知れませんよ?」

 

と、マリアが不安げな顔で言う。

 

「それは・・・」

 

「まぁ、その時はその時だよ。」

 

ハンナの言葉を遮って、シャルロッテがそう言った。

 

「うん、私もそう思う。」

 

エマも続けて言う。

 

「違いない、戦車はなんだってできる!それに北アフリカ戦の生き残りが3人もいるんだ!」

 

と、エリカが言う。

 

「・・・分かりました。みんながそれでいいなら、私はもう何も言いません。」

 

マリアが苦笑いを浮かべながら言う。

 

「よし!そうと決まれば善は急げ!行動開始だ!」

 

「善・・・?」

 

こうして、彼女たちの戦いは続く。

 

「でもやっぱその前に休憩!」

 

続く・・・のか?




もう少し上手い戦闘描写増やせるように頑張ります。


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ファレーズ・ポケット、入り口閉じさせない編

ようやくノルマンディー編が終わるので初戦闘です。


「十字路が近い。各車、警戒を厳とせよ。ファイアフライはいつでも撃てるようにしとけ!」

 

英軍戦車長はそう僚車に警戒を促すと、十字路へと近づく。

 

「十字路に多数の残骸を視認。」

 

「・・・何?」

 

突然の報告に驚く。十字路には煙が上がっており、そこに何かがいることは確実であった。

 

「敵か?」

 

「おそらく・・・いや、待て。あれは友軍車両の残骸だ。・・・手酷くやられたな。」

 

「隊長、タイガーの仕業なんじゃ・・・。」

 

「ばか、こんなところにあいつらが来るわけ無いだろう。きっと別の奴等だ。」

 

「しかし、この辺りで交戦しているのは我々だけですよ。」

 

「・・・確かにそうだが、今はそれどころじゃない。早く十字路を確保せねば。」

 

そう言って、彼らは十字路に近づいていった。

 

 

「うあああ、こっち見てるぅ・・・!!」

 

シャルロッテに照準器を借りて外を見ていたマリアが小声で言った。

 

「だから、ここに潜ませる必要があったんですね。」

 

エリカが人差し指をピンと立てて言った。

 

今、エリカ達のIV号戦車は藁の山に潜っていた。藁を被せて近くの藁の山に擬態している。英軍の車列は十字路に差し掛かっている。

 

「・・・そろそろかな。」

 

と、自身も頭に藁をつけてキューポラの上から外を見ているエリカが言うと、

 

「そうですね。」

 

と、ハンナが答える。

 

そして、車列の先頭の戦車との距離が50m程になった時、その戦車の車長とエリカの目が合った。

 

「・・・ッ!?」

 

一瞬にして顔面蒼白になった英軍戦車長に対し、エリカは口角を吊り上げて

 

「シャルロッテ!」

 

と叫ぶ。

 

「待ってました!!」

 

とシャルロッテが砲弾を放った。距離は50m以内。必中の距離だった。英軍戦車長が気付いた時には、既にその体は砲塔ごと吹き飛んでいた。

 

「ハハハハハ!ヒーハァ!!」

 

「エマ!」

 

「任せといて!」

 

シャルロッテの笑い声の中、エマは即座にIV号戦車を前進させ、藁の山から這い出る。

 

「戦車前進!敵戦車を撃破するぞ!」

 

「了解!」

 

エリカの合図で、IV号戦車が飛び出した。

 

「なっ!?敵戦車!応戦しろ!!」

 

「どこだ!?」

 

「お前が邪魔で撃てない!射線からどけ!」

 

初撃で隊長車を撃破された英軍は混乱に陥った。

 

「さあ!狩りの時間だ!かかってこい!」

 

と、シャルロッテが言うと同時に、徹甲弾が放たれ、その先にいる2両目の戦車に命中した。

 

「やられた!脱出!」

 

「大変だ!エミリー!敵はタイガーだ!」

 

「違う!あれはIV号戦車だぞ!」

 

2両目はエンジンから火を吹き上げ、乗員が大急ぎで飛び出した。

 

「あぁ!エミリーがやられた!!」

 

「落ち着きなさいメアリー、あなたが指揮を引き継ぎなさい!」

 

「り、了解です!」

 

と、答えた3号車は残骸の影に隠れ、英軍の戦車隊も指揮統制が復活した。

 

 

「目標、2時方向のシャーマン!」

 

「てぇ!」

 

エリカ達のIV号戦車はまたM4を撃破すると、機銃で歩兵隊を蹴散らし、縦横無尽に走り回った。

 

「もっと戦果を!もっと戦果を!!ハハハハハ!!」

 

と、シャルロッテが興奮した様子で言う。

 

「ああ!戦車はなんだってできる!」

 

と、エリカもそれに呼応する。でもどこか、またかよ。と言いたげな表情だった。

 

「・・・シャルロッテさん、いつもあぁなんですか?」

 

ハンナがエマに聞くと、

 

「仲間内じゃ無いとあぁはならないから、認めてくれたんじゃない?」

 

と返ってきた。その後も、エリカ達のIV号戦車は、残骸を上手く盾に立ち回り、次々と敵戦車を火だるまにした。

 

「・・・ん?」

 

と、そこでふと何かが見えた気がして、エリカは目を細める。すると、

 

「・・・あれは!」

 

そこには、1両の戦車がこちらに向かってきていた。

 

「シャーマン長砲身!砲塔回せ!」

 

「・・・あれ?」

 

シャルロッテはとっさに照準を合わせる。だが、マリアが徹甲弾を掴もうとした手は空振りした。徹甲弾はもう残っていなかった。

 

「あ・・・」

 

ファイアフライが放った砲弾は咄嗟に車体を回して回避行動をとったエマの奮闘虚しく、砲身を撃ち抜き、勢いそのまま砲塔正面の左側3分の1を吹き飛ばした。

 

 

「うわあああ!!?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

エマが振り返ると、腹部を朱色に染めたシャルロッテが呻いていた。

 

「シャルロッテー!マリア!救急キットを出せ!」

 

エリカも血にまみれた左腕を抑えながら叫ぶ。

 

「わ、わかりましたッ!」

 

マリアは急いで救急箱を取り出す。

 

「いでで・・・」

 

「シャルロッテ曹長、動かないで。」

 

マリアは布を当てて止血処置を行い、エリカは自らの傷口に布をキツく巻いた。

 

「これでよし・・・」

 

「エマ!ここから早くずらかるよ。」

 

「了解!」

 

すぐに後進をかけるエマだが、ファイアフライはまだ狙ってきていて、残骸の影から動けなくなってしまった。

 

「クソッ!あの野郎まだやる気か!」

 

と、その時、砲弾が幾つか飛来し、地面を抉った。

 

 

「Shit!敵の増援だ!退却しろ!!」

 

英軍を退却に追い込んだのは明後日到達予定のはずのSS装甲師団の装甲偵察大隊所属のsd.kfz234/2プーマ装甲車とハーフトラックに分乗した歩兵達だった。

 

英軍にとっては撃滅できない相手でもなかったが、包囲される危険を1層感じた為か、残った部隊も煙幕を張り逃走に移った。

 

 

「逃すな!掃討しろ!」

 

SSの小隊長がそう言うと、歩兵部隊は周辺を掃討し始めた。

 

「・・・やれやれ、危なかった。」

 

と、IV号戦車のキューポラから顔を出したのはエリカだった。

 

「救援、感謝します。案外近くにいたんですね・・・。」

 

近付いてきた大隊の指揮官車両にエリカが敬礼する。被弾した際の破片やらでボロボロだ。

 

「はは、砲声が聞こえたんでね、飛ばしてきたのさ。」

 

と大隊長は笑ってみせた。

 

「しかし、随分派手にやりましたな。」

 

「えぇ、まぁ。」

 

「おかげでこっちも本隊を置いてきちまった。ははは。」

 

と、大隊長は笑ったが、負傷しているエリカ達を見るや、その笑いはすぐに止まった。

 

「って、衛生兵!早く負傷者を後送しろ!」

 

すると白地に赤十字の衛生兵が数人で担架を持ってかけてきた。ハンナとマリアが、出血で顔面蒼白、瞳孔が開きかかっているシャルロッテを半壊した砲塔から運び出した。

 

「うぅ、ありがとう・・・。」

 

弱々しく吐き出された言葉に、

 

「お救い料、後で貰いますからね。」

 

とマリアは笑ってみせた。彼女も、エリカやシャルロッテ程では無いが、怪我をしている。

 

「ハンナー。」

 

シャルロッテが呟くようにハンナを呼ぶ。しかしハンナは彼女の目の前にいる。ハンナが返事をすると、

 

「あ、あぁ。ごめん。もうほとんど見えなくて。・・・今までたくさん殺してきたバチかな・・・?」

 

「縁起でもない事言わないでくださいよ!」

 

とハンナは少し怒ったような口調で言った。

 

「あぁ、エリカ、エマ。共に戦えて良かったよ・・・。」

 

シャルロッテは力なく微笑むと、そのまま気を失った。

 

「シャルロッテさん!?」

 

「あぁ、大丈夫、気絶しただけ。」

 

と、衛生兵が落ち着かせるように答えた。

 

「よかった・・・。」

 

「ただ、安心はできないけど。」

 

と、エマは顔を曇らせる。

 

「・・・曹長、私は?」

 

マリアはボソリと呟いた。

 

「少尉殿も。」

 

衛生兵にそう促されて、エリカも運ばれていった。

 

「・・・どうします?」

 

運ばれていくシャルロッテとエリカを見ながら、ハンナが切り出す。

 

「さぁね。砲手も車長もいないんじゃあ、ねぇ?」

 

とエマが答える。

 

「じゃあ・・・。」

 

「・・・いいんじゃない?このままで。」

 

とマリアは言う。

 

「いいんですか!?」

 

「だって、私達がいても足引っ張るだけだし・・・。」

 

「でも、それならそれで、って、それ大丈夫なんですか?」

 

ハンナはマリアの怪我のことを指摘する。

 

「んー、まぁ、平気だよ。ありがと。」

 

と言いつつ、彼女は左手を押さえている。

 

「うわ、血が。」

 

「ちょっと痛いかも。」

 

「そりゃそうですよ!早く手当しないと!」

 

「うん。わかってるんだけど、ちょっと疲れちゃったかな・・・。」

 

と、マリアはため息をつく。確かに疲れ切った様子だ。そのまま力無く倒れた。

 

「うわああああああ!!!」

 

「・・・大丈夫、寝てるだけみたい。」

 

エマはマリアの状態を確認すると、

 

「じゃ、とりあえず戦車に載っけるから手伝って。」

 

と言い、ハンナとエマは、寝息を立てるマリアを引き摺って、砲塔が半壊しているIV号戦車へ戻っていった。

 

 




次回からはヒュルトゲンの森編です。アーヘンでも良かったんですが、市街戦はカーンでもうやってしまったのと、wikiで装甲師団の投入が確実なのがヒュルトゲンの森の戦いだったので。


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死の森 前編

2022年内に滑りこもうとおもったけど計画が2転3転した挙句、War Thunder始めたせいで手につかなかったので初戦闘です。
(なお視力検査と位置取りで負けてボコボコにされてる模様)


ファレーズでの戦闘から数ヶ月経った。

 

「なんでわざわざこんな森まで・・・?」

 

と、不満げな声でそう言うのは、左腕に破片を受けたエリカの代わりに車長となったエマだ。

 

「そりゃ、本国侵入を防ぐ為では?」

 

今や操縦手に配置が変わったマリアが答える。

 

「なんか薄気味悪いですね・・・。」

 

無線に関しては今のIV号戦車内では1番だったことから、3人の中で唯一役割が変わらなかったハンナが呟く。

 

彼女らがいるのはヒュルトゲンの森。ドイツ本国への侵攻を図る連合軍に対抗するべく、増派されてきていた。

 

「まぁね。」

 

と、エマは同意する。

 

「頼むよ新兵ちゃん達。」

 

と、運転席のマリアは言う。新たな砲手と装填手は新兵で補われている。

 

「は、はい!」

 

と、新兵達は返事をした。が、緊張は解けないようだ。

 

 

 

「味方部隊が反撃を行う。第3小隊は援護しろ。」

 

無線から聞こえてきた命令に、ハンナは慣れた手つきで応答する。

 

「了解です。」

 

新兵達は、戦闘の予感に、尚更顔を引き攣らせるのだった。

 

 

 

「敵歩兵多数!」

 

とハンナが叫ぶ。木々の間を縫うように這う道を進んでいたが、突然、茂みの向こう側から、銃撃音が鳴り響いたのだ。

 

「前進!歩兵隊の盾になる。」

 

エマに言われるとマリアがアクセルを強くいれる。履帯が朽木を踏み潰して乗り越える音が聞こえる。

 

「こちら2号車!敵の攻撃を受けている!」

 

と、エマからの無線が響く。その間銃弾は車体を叩く。どうやら敵の火力は思ったより強いらしい。

 

「大丈夫なんですか!?」

 

と装填手が狼狽えるが、

 

「相手は小火器だ。あんな豆鉄砲じゃ撃ち抜けないさ。」

 

とマリアが返した。実際、数発当たろうとも、まだ装甲を貫通していない。

 

「そうだといいんですけど・・・。」

 

「心配性だねぇ君は。ほら前見なさい。もうすぐ接敵だよ。」

 

前方を見ると、数名の兵士が見えた。

 

「砲塔1時方向の機関銃巣、距離100。榴弾装填。」

 

エマがそう指示すると、装填手が動き、いつでも撃てるようになった。

 

「撃て!」

 

エマがそう言うが、砲弾は放たれない。よく見れば、砲手はガクガク震えながら固まっている。

 

「どうした!?」

 

とマリアが尋ねると、

 

「こ、怖い・・・怖いんです。」

 

と砲手は答えた。その瞬間、敵の兵士の1人が、少し大きな筒をこちらに向けてきた。

 

「敵対戦車猟兵!撃て!!」

 

エマが焦りを見せるが、砲手はまだ震えたままだ。

 

「ハンナ!」

 

「私が撃ちます!」

 

マリアの叫びとハンナの応答から1秒と経たずに車体機銃が掃射され、敵の対戦車猟兵は地面に倒れ伏した。

 

「目標、沈黙。」

 

ホッとしたようにハンナが報告すると、砲手に向かって

 

「仕事しろ!」

 

とマリアが怒鳴る。砲手は慌てて

 

「ご、ごめんなさい。ひ、人を撃つのが、こ、怖くて・・・。」

 

と言った。エマは黙り込んだ。

 

 

 

森の中の連合軍を蹴散らしながら進み、目標地点を確保した一行は一時野営することとなった。

 

「・・・・・・。」

 

無言で夕飯を食べていたハンナに、

 

「あのさ、私、話したいことあるんだけどいいかな?」

 

とエマが言った。

 

「良いですよ。私で良ければ。」

 

とハンナも返した。

 

「ありがとう。・・・新しい砲手の子。今日の反応が普通なんだろうね。」

 

「・・・と言うと?」

 

そう首を傾げたハンナの元に、マリアもやってきた。

 

「なんの話ですか?」

 

「分かったよ。マリアにも話す。」

 

そう言ったエマは、まず自分の話をすることにした。

 

「私の親は労働者で、呑んだくれだったんだよね。家にはいないしいたら酒臭いし暴走するし。」

 

そう語り始めたエマに、2人は静かに耳を傾けた。

 

「そんな私の面倒を見てくれたのはエリカの家族でさ。優しい人達だったんだよ。でも、ある時から周りの友人達が軍に入隊したんだ。もちろんエリカも。」

 

そう言ってエマは俯きながら話を続ける。

 

「しばらくしたら、戦争が始まって、エリカと共に入隊した友人達が負傷したり、紙になって帰ってくるようになったの。とても心配になった。エリカが、死んでいるかもと考えるとね。」

 

「えっと、そのエリカさんはあのエリカ少尉のことですか?」

 

ハンナがきくと、

 

「・・・他にいるかしら?まぁ、そうだけど。」

 

と、エマは答える。

 

「それでね、ある日決心したの。私もエリカと同じところに立つんだって。」

 

「同じ場所に行くために、戦車兵に志願したんですか?」

 

「うん。幸いなことに成績は良かったからね。ただ、エリカが士官だったのは想定外だったけど。」

 

ハンナと問いにそう返したエマは、『AFRIKA』と書かれた袖章を見せた。

 

「北アフリカでの従軍の証ですね。」

 

マリアが言うとエマはうなづいた。

 

「エリカと初めて会えた。その時シャルロッテも一緒になったな。」

 

そう懐かしむエマに、ハンナは何の話がしたいのかわからなくなってきていた。

 

「それでね、初陣が終わった後、皆震えてた。私やシャルロッテ、エリカだって例外じゃなく。『殺した』というのが怖かった。」

 

エマは一呼吸おいて続けた。

 

「だから、今日あの砲手の子が躊躇ったのも、仕方ないことなのかもね。」

 

その言葉にハンナは何も返すことができなかった。




シャルロッテとエリカのキャラはなんとなく頭の中で安定していたのでハンナ達3人の登場にしました。
(キャラがブレたりしないとは言ってない)
新人ちゃんさん2人に関しては、ハンナの初期案を元にしました。


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死の森 後編

WarthnderでBf110目指して重戦闘機ルート(のDo217の戦闘機型とか)進めてますが無理やり昇ってくるMiG- 3とかにボコスカ落とされてるので初戦闘です。
(当たり前っちゃ当たり前ですが)


翌日、一行は川にかかる橋を奪還する歩兵隊を援護することになった。

 

「斥候によれば、橋に戦車はいない。歩兵隊がいるが、対戦車猟兵に気をつけろ。」

 

エマが無線でそう伝えると、

 

「了解!」

 

と応答があった。

 

「気をつけて。火あぶりにされたくなかったら周りを見回して。」

 

ハンナが緊張している新兵達に言う。

 

「はい!」

 

彼女らは元気よく返事をした。

 

「敵火点!撃ってきた!」

 

機関銃の曳光弾が空を裂いて飛び回る。

 

「弾種榴弾。距離100の機関銃陣地

 

。」

 

エマの指示で装填手が榴弾を砲尾に押し込む。

 

「距離100の機関銃陣地!撃たなきゃ殺されるぞ!」

 

砲手が復唱し、照準を合わせる。

 

「てぇ!」

 

「ッ!!」

 

轟音とともに放たれた砲弾は弧を描きながら飛んでいき、目標地点に着弾した。

 

「目標沈黙!」

 

その声を聞いて、ハンナはホッとした。しかし、安心するのはまだ早い。まだ戦闘は終わっていないのだ。

 

「進め!」

 

そうエマが命じると、履帯音が鳴り響く。

 

「こちら3号車。前方より敵の増援を確認!」

 

無線機から声が届く。

 

「こちら2号車。歩兵が煙幕弾を要請してます。」

 

「わかった。その代わり支援射撃は難しいと伝えておいて。」

 

「了解!発射!」

 

各車から煙幕弾が発射され、視界が悪くなる。

 

「前進!敵との距離を詰めるぞ!」

 

エマが叫ぶと同時に、先鋒をかって出てバリケードの隙間の道を走っていった数人の歩兵が爆発の中に消えた。

 

「ほ、砲撃!?」

 

マリアが言うとエマが、

 

「いや、これは地雷だ。」

 

と答えた。

 

「地雷原ですかね?」

 

ハンナが尋ねると、

 

「恐らく。」

 

とマリアが答えた。

 

「地雷踏まないよう注意しろよ!」

 

そう叫んだ直後、また数人の歩兵が吹き飛んだ。

 

「地雷だ!こちら3号車、履帯破損!行動不能ですッ!!」

 

「随伴歩兵が少なくなってきました!」

 

次々に損害報告が入る。

 

「ちくしょう!!どうするんだこれ!?」

 

マリアが毒づくと、装填手が

 

「このままじゃ死ぬだけだ・・・。」

 

と呟き、車内は混乱に包まれている。そんな中、3号車に対戦車火器特有の尾をひいてロケットが飛んでくる。

 

「敵の対戦車猟兵です!」

 

ハンナがそう言った時、ハッチを誰かが叩いた。エマがキューポラから味方だと確認して開けると、歩兵がいて、

 

「悪いが歩兵は退却する!」

 

と言ってきた。

 

「了解したが、3号車が履帯をやられてる!見捨てられない!」

 

エマが銃声に負けずに声を張り上げる。

 

「なら置いていけ。こっちはもう保たん。」

 

そう言って歩兵は走り去った。

 

「どうします?」

 

ハンナが聞くと、

 

「・・・。」

 

少し考えてからエマは、

 

「3号車、撤退する!こっちで回収するから戦車を放棄して戻ってきて。」

 

と言った。

 

「了解ですッ!」

 

そういうと3号車の乗員は銃撃戦の最中を突っ切り、エマ達のIV号戦車の上に飛び乗った。直後、別の対戦車ロケットが命中し、3号車は吹き飛んだ。

 

「これで全員!撤退!撤退!!」

 

「走れ!走れ!」

 

マリアがそう叫びながら、めいっぱい後進してエマ達は戦場を離脱した。

 

 

 

 

「歩兵の奴ら、どこまで逃げたんですかね?」

 

後退したは良いものの、歩兵とはぐれてしまった、エマ達のIV号戦車隊が森を進んでいた。マリアの問いに、

 

「まだヴァルハラに行ってなきゃ良いけどね。」

 

とエマが返す。

 

「・・・すいません、少し外の空気吸って良いですか。」

 

砲手がそう言った。気分が悪そうな顔だ。

 

「良いよ。でも気をつけてね。」

 

エマが言うと、砲手はハッチから身を乗り出した。人を撃ったのが堪えたのだろう。とハンナは思いつつ、機銃の残弾を数え始める。

 

「ん?」

 

ペリスコープの視界の隅がキラリと光ったと感じた時、その光の正体がわかった。

 

「うわあああ!!」

 

装填手の絶叫に振り返ると、ハッチから身を乗り出したまま体をぐったりとさせた砲手の姿があった。

 

「スナイパー!!」

 

エマが叫び、全員が車内に体を引っ込めた。

 

「場所は!?」

 

マリアが車外をペリスコープで見ながら言う。

 

「1時!1時方向の丘上です!!」

 

スコープ特有の反射光を見つけたハンナが位置を通報する。

 

「よしとっちめてや・・・」

 

「よくも!よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも!!!!!」

 

と、エマを押しのけて装填手が砲手席に座る。そういえば砲手と装填手は同期だからかとても仲が良かったとエマ達は思い出す。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

轟音とともに榴弾が発射される。その弾は丘上で逃げようと立ち上がった狙撃兵に直撃し、この世から細胞単位で消し飛ばした。

 

「ざまあみろ!!」

 

興奮して叫ぶ装填手に、

 

「落ち着いて!ハンナ、マリア、他に何かいる?」

 

とエマが蹴りを入れながら言う。

 

「いえ。」

 

「何も。」

 

と2人は返して、再びIV号戦車の列は退却していった。

 

 

 

その後、何とか友軍と合流したエマ達は補充を受けることになった。頭を撃たれて即死していた砲手は埋葬した。

 

戦友を失ったエマ達だったが、ある人物と遭遇する。

 

「お?久しぶり。」

 

「あ!エリカー!!久しぶり!!」

 

エマが即座に駆け寄ったのは、ファレーズで負傷して後送されていた、エリカだ。

 

「元気にしてたか?」

 

「まあまあかしらね。」

 

「そっかー。」

 

「えっと、そちらの方は?」

 

ハンナに装填手が恐る恐るといった感じで尋ねると、

 

「ああ、前の車長のエリカさんだよ。」

 

と返した。と、マリアが尋ねる。

 

「少尉がいるってことは、曹長も・・・」

 

「シャルロッテはいないよ。」

 

と、エリカは即答した。聞けば、重傷だったシャルロッテは本国の病院へ送られたらしい。

 

「結構傷が深そうだったしね。」

 

エマが言うと、

 

「ま、シャルロッテの戦闘狂も多少は落ち着くでしょ。」

 

エリカが笑いながら言った。それに続いてエマとマリアも笑う。

 

「えっと、それって・・・?」

 

ハンナが尋ねるとマリアが、

 

「あぁ、曹長が戦闘中にテンション上がってる時のことだよ。」

 

と答える。そういえばファレーズの十字路でシャルロッテ曹長のテンションが高かったと思い出したハンナは納得する。

 

「そういえば、あんたらどこ行ってたのよ?」

 

「ちょっと連合軍への反撃に駆り出されてた。」

 

「で、その盛り土は・・・。」

 

「・・・。」

 

エリカの質問に、一瞬の間を置いて答えたエマに、マリアとハンナ、装填手は何も言えなかった。

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「何で黙るのよ。いや、何があったかはわかるけど。」

沈黙を破ったのはエリカだった。

「あ、そうだ!エリカさんはどうしてここに?」

ハンナが空気を打破しようと話題を逸らす。

「なんでかって?また皆と一緒に戦うためよ。」

 

そうエリカは言って帽子を被り直した。

 

こうしてまたエリカと共に戦うことになったエマ達は、エリカが小隊長兼車長。エマが操縦手、マリアが装填手、ハンナが通信手、新入り装填手は砲手に据えた。そして再編を済ませた部隊は、村落を占領した米軍の側背への突進を命じられた。

 

 

 

 

 

「それでさ、シャルロッテの奴、さっさと前線に帰るって言うもんだから、脱走防止の為にベッドにふん縛られててさ。」

 

「ははは!あの人らしい!」

 

「だろ?」

 

「うんうん!」

 

そんな会話をしながら、エリカ達は進撃していた。

 

「見えた!敵戦車です!」

 

前を走る僚車が停車する。

 

「止まるな!狙い撃たれる!」

 

交代で小隊長になったエリカは僚車にそう指示を出し、エマは戦車を動かし続ける。

 

「目標、M4戦車。距離400!」

 

エリカの指示を復唱しながら、新入りが照準を合わせる。

 

「撃てっ!!」

 

発射された砲弾はM4へ吸い込まれるように飛び、一瞬で爆炎に包んだ。

 

「撃破!やるね新入りちゃん。」

 

エリカが言うが、新入りは目をギラつかせながら照準器を覗いている。

 

「・・・フフフフフ、ハハハハハハ!!!」

 

燃え盛るM4から転がり出てきた戦車兵を同軸機銃で撃ちながら新入りは笑っている。

 

「え、大丈夫この人。」

 

とマリアが心配する中、

 

「シャルロッテみたいだ。」

 

とエマ達は苦笑いした。

 

その後も前進を続け、戦車数両を撃破した部隊は、村落を占領する米軍の退路を遮断した。

 

「よし、これで終わりだ。」

 

とエリカが呟くと、狂ったように笑っていた新入りはスッと元に戻った。

 

「うお、戻った。」

 

マリアが呟くとエリカは

 

「おかえり新人ちゃん。」

 

とだけ言った。

 

 

 

その後部隊は別の作戦区域へ転戦することになった。同時に、砲手をしてた新入りは別の車輌へ異動になった。

 

「お世話になりました!」

 

そう言ってビシッと敬礼する新人に敬礼し返したエリカが

 

「おう、また会おう!」

 

と言うと、エマが続いて、

 

「元気でね。」

 

と言い、マリアが

 

「ま、気をつけてな。」

 

と少しそっけなく言い、

 

「こういうの、生き残るのが大事だからね。」

 

とハンナが付け足した。

 

「はい!先輩方もお元気で!!」

 

そう言って、新入りはにこやかに去っていった。

 

 

 

「なぁ、砲手って皆あんなになるのかな?」

 

新入りが去った後、エリカが言う。

 

「知りませんよ。」

 

マリアが返すが、

 

「ま、人の死を見ても平然とできる私たちもたいがいでしょ。」

 

とエマが言う。

 

「・・・私たち、おかしくなってしまったんですかね。」

 

ハンナが不安げに尋ねる。

 

「どうだろうね。でも、私たちは今生きてる。それで十分だよ。」

 

とエリカが答えた後、全員押し黙った。




次は病院から脱走されないうちにシャルロッテ曹長も復帰させます。なんか戦闘狂のキャラって良いですよね(唐突)。


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乾坤一擲の大作戦編

現代版を入れようかとか、幕間を入れるかとか考えてたと思ってたらWar ThnderとかEnlistedやってて遅れたので初戦闘です。


「雪だーッ!!」

そう叫んだエリカは動物のように雪の中へ飛び出していった。

「・・・少尉・・・?」

マリアが、なんだあれは?と言った顔で呟く。ハンナもいきなりの出来事に呆然としている。

「エリカ、雪が好きなの。」

エマが恥ずかしげに言った。現在、エリカ達の部隊は鉄道に載せられ、次の任務地へ配送されている。が、日中は敵機の危険が付きまとうため、トンネルの中等で待機している。ハンナとマリアは、それが暇だったんだろうな、と考えていた。エリカは雪だるまを既に1つ作りあげていた。

「・・・なんじゃありゃ。」

そう言いながらやってきたのはシャルロッテだ。ファレーズでの戦闘で17ポンド砲の破片で負傷して、後送されていた。

「あ、曹長殿。」

マリアが言うと

「怪我、大丈夫ですか?」

とハンナが訊ねる。それを聞いたシャルロッテは服の裾をあげて、

「はらわたがぐちゃぐちゃになりかけてたって。よく生き残ったなってさ。」

と笑った。傷口は何針も縫ってあり、未だに痛々しい。

「あ!シャルロッテじゃーん!病院脱走したの?」

雪だるまを作って、雪で真っ白なまま戻ってきたエリカが言う。なんだかテンションが高いというか子供っぽいことに場の全員が困惑するが、

「いやいや、ちゃんと退院したんで。」

とシャルロッテが言う。

「まぁでも、東部戦線で大怪我したのに病院脱走しまくってるスツーカ乗りがいますから、やりそうですよね。」

マリアがそう言うと、シャルロッテは苦笑いして、

「だから、ベッドに縛りつけられてたよ。」

と言った。エリカの言っていたことは本当だったのか、と思うハンナとマリアだったが、エマは何となく分かっていた様子だった。

「よし!シャルロッテ!折角の再開だから、一緒に雪だるま作ろーよ!」

そう言ってエリカがシャルロッテの首根っこを掴む。

「え?ちょ、うわあああああああ!!??」

「突撃ーー!!!」

そう叫びながらエリカはシャルロッテを引き摺りながら再びトンネルの外に飛び出していった。

「・・・なんなんすかあれ?」

「・・・私も分からない。」

マリアがボソリと呟き、そのエマの答えに、ハンナが苦笑いした。

結局、陽が落ちて列車が出発する時間まで、引き摺られていったシャルロッテは帰ってこなかった。

 

 

 

「寒ぃーッ!!」

戦車のエンジンの唸り声の中に、マリアの声が響く。ここは雪が吹き荒ぶアルデンヌ。ドイツ軍が、最後の力を振り絞っての反撃を行うため、何両もの戦車が進撃の時を待っていた。

「何でこんなところに・・・」

「文句言わないの。ほら、もうすぐ前進できるから、頑張ろう。」

エマの叱咤にマリアは渋々といった様子で引き下がる。

「 せめて太陽の光を・・・。」

そうボヤいたのはシャルロッテだ。

「いやー、やっぱり冬はいいねぇ。ドイツ最高。」

相変わらずテンションが高いのは、丁度戻ってきた車長のエリカだ。

「何かムカつくわね・・・」

「ん?なんか言った?」

「何でもないよ。」

エマはため息をつくと、再び操縦席に座り直した。

「反撃の時間だよ。さあ、行こうか!」

エリカがそう言うと、先頭の中隊長車に乗る中隊長が進撃の合図を出し、吹雪の中をIV号戦車、パンター、擲弾兵の乗るハーフトラックが前進する。ドイツ機甲師団の最後かつ最大の攻勢が始まった。

 

「さて、ここが正念場だ!」

エリカは叫ぶと、砲塔のキューポラハッチから上半身を出し、双眼鏡を手に取った。そして、前方を睨む。

「距離120!機銃陣地!」

エリカが伝達すると、シャルロッテが復唱し、榴弾が飛ぶ。そして機銃陣地が吹き飛ぶ。その間にも敵弾は飛んでくる。しかしそれは装甲によって防がれている。

「装填完了!」

マリアが報告する。それを聞いてエリカは命令を出す。

「撃て!」

砲弾は木に命中し、炸裂。鋼鉄の破片と木製の破片を撒き散らし、破片を受けた敵歩兵が力なく倒れる。

シャルロッテが無言でガッツポーズをした。

「距離50!火点複数!」

「撃て!!」

シャルロッテが撃鉄を落とし、同軸機銃と榴弾で、ろくに対戦車火器を持ち合わせていない敵歩兵を蹂躙する。ハンナも機銃を撃ち、追い討ちをかける。

「敵は混乱している。このまま突き進むぞ。」

「了解!!」

悪天候のため、連合軍のヤーボは飛び立てず、更にドイツ軍はもはや死に体という連合軍上層部の思い込みも手伝い、ドイツ軍は次々と戦線を食い破り、1940年の西方電撃戦を再現すべく西進した。

そして、その時が来た。

「前進せよ!」

「進め進め!!」

攻勢初期に戦線を突破した部隊はまさにその言葉どおり、前進。粘っていた米軍も包囲されるか、撤退し、絶望的になると降伏した。

 

「まさかこんなに上手く行くとは思わなかった。」

シャルロッテが照準器から目を離さず言った。

「でも天候が良くなったら爆撃されて押し戻される。」

マリアがそう返事する。

「まぁ、ほら。ノルマンディーでも大丈夫だったんだからさ。」

「そうですよ。ファレーズでもなんとかなったんですから。」

エマとハンナの言葉に、エリカは

「確かにね。」

とだけ答えた。

 

 

 

「くそっ、くそっ、くそぉっ!!こんなところで死んでたまるかッ!!」

「Shit・・・!」

M4A1(76)Wに乗る米軍戦車長は、傍受した味方の無線を聞いて言う。

「奴らどこにこんな戦力を隠してやがったんだ?」

M4A3E8に乗る、ベリーショートの米軍戦車兵が、チューインガムを噛みながら言う。

「命令が来たわ。ここから北方でドイツ軍が戦線を突破してる。私達の任務は、それを南から突き破ることよ。敵の詳しい兵力は不明。確かなのは、これを止めたら勲章ものってことよ。」

するとそこへ、この部隊の指揮官である、ウェーブのかかった金髪戦車兵が答える。

「・・・北では仲間が助けを待ってるわ。48時間以内に出るわよ。」

「「Yes!ma’am!!」」

彼女らは、そう言いながらエンジンをかけた。

 

 

 

「え!?そのまま前進ですか!?」

「師団司令部は、ただ前進せよ。と言ってきているからね。」

「・・・了解です。」

先鋒を務める中隊は、米軍の大部隊の後方を襲う絶好の機会を得た。が、中隊は前進する。ただ前進した。包囲殲滅の、格好の機会を捨てて。

「中隊長殿、これじゃあ我々が孤立することになりますが・・・」

「仕方ない。命令だ。それに、我々の任務はなんだ?進撃だ。だったらここで進む機会を見逃すわけにはいかない。」

「・・・そうですね・・・。」

進撃自体は順調なので一応は了解を示すが、部隊内の誰もが、背中を撃たれるのでは、と考えていた。

 

 

 

 

「助かるぜ。歩くのは正直面倒くさいと思ってた。」

行軍中、FG42自動小銃を携えた降下猟兵たちをデサントさせて進むエリカたちに降下猟兵の1人が話しかける。

「戦車は何だって解決できるからねぇ。いいってことよ。」

戦車が頼りにされてエリカは嬉しそうだ。

「そういや、降下猟兵はもう空挺降下しないんすか?」

シャルロッテの問いに、少尉の階級章を付けたその降下猟兵は空を指さして言った。

「ああ、お空はもう奴らのものさ。こっちの方が安全だしな。」

「そりゃそうですな。」

そうこう話しているうちに、道路近くで、伏せたりしている降下猟兵を見つけた。そのうちの1人が、エリカたちの戦車に気付くと、手を振ってきた。

「おーい!援護してくれ!」

途端に道路の反対側から曳光弾が幾つも飛来する。

「お前ら行くぞ!」

デサントしていた降下猟兵が戦車から飛び降り、エリカたちも車内に引っ込む。

「敵の火点!撃ち返せ!」

エリカの指示で、ハンナとシャルロッテは車載機銃を道路の反対側に向かって乱射する。

その間に、降下猟兵が、敵陣地に肉薄し、手榴弾を投げ込んだ。

そして、その数秒後、激しい爆発音とともに、敵陣地が吹き飛んだ。

「突撃!目瞑って突っ込め!!」

それを合図に降下猟兵は雄叫びを上げながら陣地に飛び込み、掃討する。

「流石降下猟兵ですね。」

ハンナがそうつぶやくと、

「まぁ、文字通りの精鋭歩兵だし、この戦車に相手の注意を集中させたのもあるんじゃない?」

とエマが言う。シャルロッテは

「主砲・・・。」

と少し未練がましく言った。しかしマリアは、唐突に耳を澄ませ始めた。

「・・・何か聞こえます。」

「雄叫びとか銃声じゃなくて?」

シャルロッテがそう言うと、

「・・・!違います!M4ですッ!!」

とマリアが絶叫すると同時に、米軍火砲特有の発砲音と共にM4戦車

が姿を現した。

「砲塔12時!徹甲弾装填!」

その瞬間、M4が放った砲弾が着弾し、榴弾が炸裂する。その衝撃で、エリカたちは大きく揺れた。降下猟兵達もM4からの攻撃を避け、塹壕に飛び込む。

「装填完了しました!」

「撃てぇっ!」

徹甲弾が飛び、M4に命中する。そして、車体側面から煙を出しながら停止した。

 

「やられた!パンツァーがいるぞ!」

「何とか持ちこたえろ!徹甲弾装填!」

陣地の援護のために駆けつけてきていたM4は即座に対戦車戦の用意をすませる。が、エリカ達のほうが早かった。

「次が来るよ!砲塔1時。徹甲弾。」

「了解!砲塔1時。」

「装填完了!!」

「撃てッ!!!」

再び徹甲弾が放たれ、今度は2番目を進んでいたM4の砲塔側面に直撃した。

「2番車被弾!!クソッ!!あいつらっ!!」

「落ち着いて!このまま後退して、態勢を立て直すわ。」

「・・・了解。」

M4隊は、煙幕を撒くと、そのまま後退した。

「・・・行ったか・・・。」

シャルロッテが言うとエマが反応する。

「ええ・・・。」

「大丈夫か?」

エリカに聞かれ、各自返事をする。

「でも・・・これからどうしますか・・・?」

ハンナの質問に、エリカは即答した。

「進むよ。」

「ですよね・・・。」

こうして、また降下猟兵をデサントさせ、エリカたちのIV号戦車は進んだ。

 

このころ、進撃するドイツ軍の中央部を担当する第5装甲軍等は、北の第12SS装甲師団などの武装SS部隊よりも快進撃を見せていた。

しかし、それらのみならず、攻勢自体にも暗雲が立ち込めてきていた・・・。




バルジ大作戦のあの『戦車兵の唄』のシーン再現しようと思いましたが、それはまた今度にしたいと思います。(入れられるとは言ってない。)

ちなみにエリカ少尉の雪好きは何となくで入れました。それぞれに個性を出さねば(使命感)。


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クリスマスプレゼントは爆弾ですか?編

AIのべりすとで遊んでたので初戦闘です。


「突っ込め!!」

「進め進め!!」

歩兵の迫撃砲が打ち上げられ、機銃による制圧射撃の中、エリカたちのIV号戦車隊は橋を守る最後の抵抗拠点を攻略せんと、歩兵と前進を始めた。

ここで橋を落とされれば、これ以上進攻できなくなる。それはつまり、ドイツ軍の攻勢計画が崩壊することを意味した。

そして、それを阻止しようと、ドイツ軍は猛攻をしかけた。

 

「戦車だ!戦車が来たぞ!!」

「工兵隊が橋を破壊するまで持ちこたえろ!!」

米軍は砲撃の中、持ち場を死守すべく塹壕へ滑り込む。そこへ戦車砲の一斉射が浴びせられる。

「ちくしょう!!」

「早く!長く保たない!!」

「待ってください!」

無線で急かされ、焦る工兵だが、

なかなか爆薬の設置は進まない。

「何やってんだ!?」

「まだです!あと5分!」

「こんなことならもっと爆薬積んどきゃよかった!」

 

 

米軍は焦っていたが、それは攻撃側のエリカたちも同じだった。

「進め!橋を確保しろ!」

前進する歩兵の盾となるように、4両のIV号戦車が進む。

「敵火点、距離200!榴弾装填!」

「了解!」

「撃てッ!!」

榴弾が放たれ、機銃を乱射していた敵陣地を吹き飛ばす。

「よし!次!」

「あい!」

「次も敵火点、距離200!続けて榴弾!」

「装填完了!」

「照準良し!」

「撃て!!」

数秒おきに榴弾が飛び、陣地が少なくなる。逃げ惑う敵兵には歩兵の小火器や戦車の機銃の弾幕が襲いかかる。

「次!右斜め前方の陣地!」

「了解!榴弾装填!」

「装填完了!いつでもいけます。」

「撃て!!」

「装填完了!撃てますッ!!」

「撃てッ!!」

そんなことを数回繰り返していると、ようやく陣地帯を突破した。が、ここで思わぬ事態に遭遇する。

「こちら3号車、ガス欠です!」

燃料の枯渇である。ここ最近補給が滞り気味であり、燃料などは特に不足していた。今までは少ない燃料を分配し直したりしていたが、今回はそうはいかなかった。

「おい、どうした?」

歩兵の1人が登って来ると3号車を指さして言った。

「ガス欠だ!燃料が足りない!」

そうエリカが答えると、通りすがった歩兵の1人がどこかを指さしていった。

「あそこに敵の燃料集積所がある。なんとかなるかもしれない。」

「本当か!?」

「ああ、行ってみる。」

「頼んだ!」

そして歩兵の何人かに空の20L燃料缶を渡す。少しして、1人減っていたが戻ってきた歩兵から受け取った燃料の中身を、整備兵出身のマリアに検分させる。

「これは・・・。」

「大丈夫なの?それ。」

エマが聞くと、匂いを嗅いだマリアは首を縦に振った。

「はい。問題ありません。最近の燃料より上物ですよ!」

そう言うと曹長の階級章を付けた歩兵が、

「連中が焼き残した燃料はまだ残ってます。」

と言った。

「よし、案内して!」

こうして、まだ燃料に比較的余裕のある2号車を先行させ、エリカたちは急ピッチで鹵獲した燃料を補給しに集積所へ向かった。

 

「着いたわ。」

エリカが言うと、皆一斉に降車する。

「まるで宝の山だ。」

シャルロッテが言うと、マリアが興奮した様子で

「本当に宝の山ですよ!この上物使ったときのエンジン音聞きたかったんですよ!」

と言った。するとエリカは、

「ちょっと手伝ってちょうだい。」

と言って、戦車随伴歩兵にも指示を出した。

「もちろんだよ。後でバッチリ援護してもらうからな。」

こうして、戦車用の燃料が運び出され、他の車輌にもガソリンが積まれる。

「お待たせ。これで行けるか?」

「バッチリです。」

歩兵にサムズアップしてマリアが答える。

「よし行くぞ!!Panzer vor!!」

「「「了解!!」」」

再び進撃を開始した。

 

 

「急げ!橋が落とされるぞ!!」

燃料補給を済ませたエリカたちは2号車に追いついた。が、思ったより抵抗が激しく、歩兵が必死に応戦している。

「歩兵が釘付けにされてる!」

「構わん!押し通る!!」

そう車内で言った2号車は、歩兵の前進を待たず、橋に向かって突っ込んでいった。それに遅れて、歩兵たちが橋に差し掛かった。

 

 

「戦車が来た!」

「まずい!早く!!」

「おし!準備よし!!」

「起爆!!!」

工兵の1人がスイッチを入れる。電気式の爆薬はタイムラグ無く爆発した。

 

「うわあああ!!」

橋に突入した歩兵は、爆薬の爆発か、それで起きた橋の崩落に巻き込まれ、2号車も崩壊する橋から、極寒の川へ滑り落ちた。

 

「橋が落ちた!」

エマの報告が、5人が見ている光景を表している。先行した歩兵や2号車の乗員は爆発で即死か、極寒の川に落ちて凍死しただろう。

 

「退却!下がるよ!」

エリカの命令に従い、部隊は後退を始める。歩兵も、生存者がいないことを確認すると、対岸からの銃撃を避けつつ撤退した。

 

結果橋は爆破され、ドイツ軍機甲部隊は足止めを食らってしまった。燃料こそ鹵獲品で補給できたものの、腹を完全に満たす量では無かった。

しかしそんな中でも、ドイツ軍は進んだ。

 

 

「この先で、新たな防衛線が見つかったわ。私たちは歩兵を援護し、これを突破するわ。」

「了解!」

「了解しました。」

3両に減った小隊の戦車は、先遣した歩兵を追いかけて進み始めた。

 

その頃、アメリカ軍はドイツ軍の猛攻の前に苦戦を強いられていた。

「ダグウッド5からローバージョー!敵の攻撃だ!航空支援を要請する!オーバー!」

「ローバージョーよりダグウッド5。現在航空隊は爆撃機を護衛している。手が空き次第そちらに回す。到着時刻は未定。オーバー。」

「クソッ!了解だ!ダグウッド5、アウト!」

 

そんな中、エリカたちのIV号戦車はドイツ軍歩兵を援護すべく戦闘に加わった。

「敵火点、距離500!榴弾装填!」

「装填完了!」

「撃てッ!」

榴弾が放たれ、敵陣地を吹き飛ばす。

「次!右斜め前方のM4長砲身!徹甲弾装填!」

「照準良し!」

「装填良し!」

「撃て!!」

放たれた砲弾は、味方歩兵に気をとられていたのか側面を曝していたM4の側面弾薬庫を巻き込み炸裂した。砲塔部分だけが宙に舞い、残った車体からは黒煙が上がった。

「進め!」

歩兵も前進を再開するが、守備を固めた他の陣地からの機銃掃射に次々なぎ倒される。

「歩兵の盾になる。前進!」

エリカは僚車にそう指示すると、

「対戦車猟兵に気をつけて!」

と言う。

「了解です!」

ハンナは機銃で牽制しつつ警戒を続け、シャルロッテは機銃の発砲炎目掛けて榴弾を直射する。

「前方に味方!左に躱して!」

「わかった!!」

エリカの指示でエマが左折し、伏せていた味方歩兵を躱す。

「装填良し!」

マリアはひたすら砲弾を装填し続ける。

「もうすぐで突破できるぞ!」

エリカがそう言った直後、上空から風切り音が響き渡る。

「ヤーボです!」

ハンナが

叫ぶと、全員が空を見上げた。そこにあったものは、まさしく死神たる、銀翼を連ねた敵機の姿だった。

「まずい!とんだクリスマスプレゼントだ!?」

シャルロッテが叫び、エマが車体を急旋回させると、緩降下していた敵機が投弾した。至近に着弾したそれは、凄まじい爆風を起こし、車体を大きく揺らした。

「うわあああ!!」

「きゃああ!!」

車内では悲鳴が上がる。

「大丈夫!?」

「なんとか・・・。」

「ええ。」

それを聞いたエリカは間髪入れずに僚車に問いかける。

「損害報告。3号車は?」

「い、生きてます。」

「4号車は?」

「・・・。」

「おい、4号車?」

「・・・。」

「・・・殺られたか。」

エリカがそうつぶやくと、航空支援の到着に沸き立つ米兵と、恐慌状態で逃げ惑う味方歩兵の姿を見て言った。

「撤退よ。全速後退。」

「「了解!」」

そう言って後退を始めた時、再び爆音と共にヤーボが現れた。今度は2機編隊だ。

「しつこいよ!!」

「落ち着いて!不規則に動いて、少しずつ下がるのよ!」

エリカたちは、2機のヤーボを引きつけながら下がり続ける。そして、敵機が投弾した瞬間、

「今!」

と言って、エマの肩を蹴る。

「!」

エマはギアを入れ、前進させたことで、敵機の爆弾は、エリカたちの後方に落ちた。

「やった!」

「いい調子。このまま逃げるわよ!」

こうしてエリカたちの戦いは、まだ続く。

 

この攻撃は、米軍の近接航空支援が間に合ったことで退けられ、増援として到着した機甲師団による追撃による攻撃と慢性的な補給不足で、エリカたちの師団は戦車82両、車両その他を失い、残存部隊も戦闘どころでは無くなっていた。

しかし、不運にも撤退中にはぐれたエリカたちは、幸運にも追撃に合わず、2両に減った小隊はバストーニュ近辺で合流した友軍部隊に組み込まれ、バストーニュ攻略に駆り出された。バルジの戦いの最後の戦いが、今始まった。

 

 




一応エリカ少尉達の所属部隊は決めておいていますが、この辺りからちょっと所属部隊が特定不能になるかもです。
あと遅れたのは現代編をつくるべきか悩んでいたのもあります。(ネタバレ?)


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練度って大切やな編

相変わらずAiのべりすとで遊んだり、自分の他の小説の外伝考えたり、スランプに陥ったり、漫画執筆に挑戦しようとしていたりしていたので初戦闘です。


「これより私たちは、バストーニュから北上し、敵の側面をついて包囲するわ。これで終わらせるわよ。」

未だ包囲戦時の傷跡が残るバストーニュで、M4A1を駆るウェーブのかかった金髪の米軍士官が言う。

「あぁ。やり返してやろう。」

M4A3E8に乗るベリーショートの戦車兵が言う。

「ペイバックタイムよ!」

そう言って興奮するM4A1(76)Wの車長を落ち着かせつつ、その他の各員も準備を終え、エンジンをふかす。

「出発!」

 

 

その頃、ドイツ軍は追い詰められていた。西部戦線全域に渡って攻勢を仕掛けたドイツ軍は、補給の停滞とかけつける連合軍の増援の到着により押し戻されつつあり、バストーニュから北上する米第3軍と、更に北から南下してくる英第21軍集団により退路を遮断されかけていた。

そしてバストーニュを出発した米第3軍と、バストーニュ攻略を目指し装甲兵力を再編した独第5装甲軍が激突するのは必然といえた。

 

「敵戦車発見!距離200!」

エリカがM4に気付き、シャルロッテは情報と、経験を元に照準する。

「装填完了!」

その間に、敵戦車の報を受け、マリアが徹甲弾を装填する。

エマは車体を敵に対し斜めに向け、実質的な防御力を上げる。

「撃てッ!!」

放たれた砲弾は、斜め前方のM4戦車に命中し爆発した。

「撃破!次!!」

「どーぞ!!」

「左前方!距離300!」

ハンナは機銃で牽制射撃を加え、シャルロッテはその隙に徹甲弾を叩き込む。撃たれたM5A1軽戦車はひとたまりもなく爆散した。

「ヒィィィィハァ!」

シャルロッテが雄叫びを上げ、次の獲物を探す。

 

◇◇◇

一方、米軍戦車長たちも、迫り来るドイツ軍を認識していた。

「パンツァー撃破しました!」

短砲身75mm砲のIII号戦車N型を撃破したM4A1(76)Wの戦車長が報告する。弾薬の誘爆で火柱を噴き上げるそのIII号戦車を横目に、

M4A3E8が、ちょうど木陰から出てきたIV号戦車に砲塔を向ける。

「パンツァーマーク4、撃破。」

76mm砲に貫かれたIV号戦車は、ガクンと動きを止めた。砲弾の炸薬と破片で乗員は即死だろう。

「サンダー4からサンダー1!敵戦車2両発見!援護を!」

僚車からの報告に、M4A1の金髪ウェーブの戦車長が

「わかったわ。小隊Go ahead!」

と応え、M4の隊伍が前進し始めた。

 

◆◆◆

「しまっ・・・!!」

無線から聞こえた友軍の死を告げる声に、エリカは舌打ちをした。

「すっかり戦車戦でも優位性は無い、か。」

シャルロッテがそう言う。

「しょうがないですよ。今や兵の大半は青年組織から引っこ抜いてきたような子供ばかりですし。」

マリアがため息をつく。

「まあ、ね。」

エリカは苦笑すると、ハンナが

「・・・子供まで動員して皆死んでしまったら、私たちは何を守るんですかね?」

と言った。

「そんなこと分かってるわよ。でも、私たちには戦う理由がある。生きてりゃ、戦争に負けたってどうにでもできる。だから、私たちは生き残るよ。」

「・・・そうですね。」

ハンナがそう言って、しばらく沈黙が流れた。

「せめて、この5人で生き残ろう。戦争終わったら、また皆で会おうよ。」

そうエマが言ったその時だった。

「少尉殿!敵戦車発見!2時方向です!」

3号車の通報で、全員が戦闘態勢に戻る。

「確認した。援護するから、無理しないで。徹甲弾装填!」

「了解!」

そう返事が来ると、エリカたちのIV号戦車は砲塔を旋回させる。

「照準良し!」

「装填良し!」

シャルロッテとマリアがそう報告する。

「撃て!」

エリカの号令で放たれた砲弾は、M4の砲身を叩き割った。そしてそれを逃さず、僚車が仕留めた。

「まだここらにいるかもしれない。」

エマがそう言うと、風切り音が聞こえ、光の矢にも似た砲弾が3号車を貫き、弾薬を誘爆させた。

「10時にM4長砲身です!」

ハンナの報告に続いて飛来した2発の砲弾を見て、エマは手近な薮の影にIV号戦車を滑り込ませた。

「これはまずいなぁ。」

エリカが、撃破された3号車をチラリと見て言った。

「この近辺の友軍戦車は先程壊滅。敵は少なくとも3両。そしてこっちを捕捉してる。」

シャルロッテの言葉に、ハンナも同意する。

「この辺り一帯も敵の支配地域になってます。退路も限られるでしょう。」

「どうする?エリカ。あなたについてく。」

エマに言われながら少し考えて、エリカは決断を下した。

「よし。ここで敵を一発殴り返すよ。」

エリカの指示に、他の4人もうなづいた。

「そう来なくちゃ。」

「やってやりましょう!」

「またこうなりますか・・・。まぁ良いですけど。」

「腕の見せ所って感じかしら?」

そうして、5人は、IV号戦車1両で3両のM4を相手取ることを決めた。

 

◆◆◆

「パンツァーがまだいます。動きが良かったので、ベテランでしょう。」

M4A1(76)Wの車長が報告すると、M4A1に乗る隊長は

「そのようね。厄介だわ。」

と呟いて、各員に指示を出す。

「私が仕掛けるわ。他は側面から回り込んで挟撃して。」

「「「了解」」」

そう言い残して、隊長は茂みの中に隠れたM4の隊列から静かに自車を出した。本来、数の利で殴るのは彼女の美学にはそぐわないが、彼女が今までの戦闘で喪った戦友の顔を思い浮かべると、そんなことに拘ってはいられない。

「・・・これはスポーツじゃない、戦争よ。」

彼女はそう言いきかせつつ乗車を前進させた。

 

 

「・・・来たわね。エマ、出るよ。シャルロッテ、射撃用意。」

こちらに近づいてくる気配を感じ取り、エリカはエマとシャルロッテに指示を出して車体を潜ませていた藪から出す。

「距離300。撃て!」

「喰らえ!」

シャルロッテが放った砲弾は、見事にM4の砲塔を直撃した。しかし角度が悪かったのか、相手の防楯と砲身を破壊しただけに終わった。

「あ、徹甲弾が切れました!」

マリアがそう報告すると、エリカが

「残りは!?」

と間髪入れずに問いかける。

「榴弾1、発煙弾・・・」

「じゃあ榴弾装填!どっちか狙いやすい奴の砲を撃って!」

と、マリアの報告を最後まで聞かないまま指示を出す。

「装填完了!って、他のシャーマンの音がします!」

マリアがまたしてもM4のエンジン音を聞き分けて言う。同時にエリカが後方から回り込もうとするだろうと考え、指示を出す。

「車体、砲塔6時方向へ!ケツを掘らせないでよ!」

「了解!」

「撃て!」

M4の砲撃を、車体をフェイントで後進する素振りをして紙一重で避け、シャルロッテの放った砲弾がM4A1(76)Wの砲塔に着弾する。

「まだいるよ・・・!」

「しつこいねぇ・・・!!」エマの報告にエリカが答える。もう徹甲弾も榴弾も残っていない。

「マリア、発煙弾装填。エマとシャルロッテ、少し難しい注文するよ。」

エリカはそう言って、3人に指示を出した。

 

「大丈夫!?」

「えぇ、何とか・・・榴弾だったようです。」

一方、金髪ウェーブの指揮官に被害を問われたM4A1(76)Wの車長は、頭を抱えつつ報告する。76mm砲は榴弾の衝撃でねじ曲がっているが、内部に特段被害は無かったようだ。

「榴弾・・・?奴は徹甲弾を撃ち尽くしたか。」

M4A3E8の砲手は即座に、敵戦車が弾切れだと看破した。

「なるほどね。とはいえ仕留めて。」

「Yes ma’am。」

指揮官の命令に、M4A3E8の砲手はうなづくと、再び射撃体勢に入る。が、弾切れのはずのIV号戦車の砲身もまた、こちらに向いていた。

「なっ・・・!?」

直後、IV号戦車のマズルブレーキが光り、直後車内に衝撃が走る。

「大丈夫か!?」

「生きてるよ。」

「大丈夫・・・。」

とそこで、彼女らは違和感に気付いた。

「・・・!アイツらっ!!・・・やるじゃないか。」

照準器やペリスコープの中の視界は、煙幕で覆い隠されていた。放たれた砲弾は発煙弾だったのだ。

 

 

 

***

 

「ファレーズを思い出すよ、あのチャーチル戦車との戦い。」

シャルロッテが照準器を覗きながら言う。上手く行ったからか、その口角は心做しか上がって見える。

「でもあの後みたいに撃たれるんじゃないよ。」

「分かってますよ。」

エリカの言葉にエマがそう答えながら、ジグザグにIV号戦車を動かす。一応3両のM4は事実上無力化できた訳だが、最後のM4の砲自体はまだ生きているため、油断は出来ない。

「この煙が晴れたら、また撃ってくるかもしれませんね。」

ハンナが無線機で友軍の無線を探りつつ言う。

「そうだね。早く逃げないと、発煙弾も在庫切れです。」

マリアが不安そうに報告する。

そう言った矢先、煙幕の向こうから砲弾が飛来し、至近で爆発する。

「うおっ!?中々近い!」

エリカが少し頭を引っ込めつつ言うと、シャルロッテが

「凄い凄い!中々骨のある相手だよ!」

と興奮気味に返す。

「・・・相手は本気だね。こっちも本気で行こう。」

エリカは真剣な表情で呟くと、マリアが

「あの、砲弾もう無いですけど。」

と言った。

「・・・あぁ、うん。知ってる。」

エリカはそう言うと、

「ちゃんと策はあるよ。とっておきの。」

と続けた。

ゴクリ・・・

とエマ以外の3人が唾を呑む。少しの間もったいつけてエリカは、

「逃げるんだよー!!全速前進!!」

と叫んだ。

「「「えぇ・・・」」」

「やっぱりそうだと思った。とっくに全速だよ。」

と、エマが呆れたように言う。

「発煙弾ももう無いですし、煙幕もきれますよ。」

とマリアが言うが、エリカはキューポラから後ろを見張りながら

「大丈夫、エマとこの子を信じよう。」

とIV号戦車をトントンと叩く。

直後、エマがIV号戦車を急に右へ方向転換させる。途端に砲弾が左を掠めていく。

「ひゃあっ!?」

「危なかった・・・!」

「よく分かったねぇ。」

「・・・何でそんなこと分かるんですか?」

ハンナの問いに、

「勘。」

と、あっさりエマは答える。

「えぇ・・・」

「ま、本当は前見たM4の残骸を調べて、どれくらいで装填、照準ができるかとか考えてみたりしたの。」

「えぇ・・・」

「あ、そろそろ煙幕切れる。」

シャルロッテがそう言うと同時に煙幕が晴れ、M4A3E8の砲門がこちらに向けられているのが見えた。

「来るッ!!」

エリカが叫ぶ。

「それっ!!」

とエマが阿吽の呼吸で回避させる。直後、砲弾が砲塔のシュルツェンの一部を弾き飛ばした。

「今のは危なかった!!」

マリアが冷や汗を流しながら言う。

「このままじゃヤバいから、煙幕使おう。」

エリカが言った煙幕とは、砲弾の発煙弾では無く、車体後方にある煙幕弾投射機のことだ。後ろに転がす形式な為、このように撤退する時にはこの上なく便利なのだ。

コロコロと煙幕弾が後方に転がり、煙幕を発生させる。

これで少しの間は時間を稼げるだろう。

「さて、あちらさんはどうするかね・・・」

エリカは煙幕の中を見つめながら言った。

 

 

 

「煙幕です。が、砲弾は残っていないでしょう。追撃しますか?」

M4A3E8の砲手は念の為指示を仰いだ。そして彼女の予想通り、指揮官は

「・・・やめておくわ。」

と答えた。

「良いんですか?敵は徹甲弾を撃ち尽くしています。仕留めるなら今ですが・・・」

M4A1(76)Wの車長が問うが、指揮官の判断は変わらない。

「わざわざ仕留めに追いかける必要は無いわ。」

「・・・了解。」

彼女は納得した様子ではなかったが、とりあえずは引き下がったようだ。

「・・・それにしても、あのマーク4、中々の手練だった。まだあんな奴らが残ってるんだな。」

M4A3E8の砲手はそう呟き、照準器から目を離して、後ろの戦友の胸にもたれかかった。

 

 

こうして、後に『バルジの戦い』と呼ばれることになるドイツ軍の最後で最大の反攻作戦は失敗と終わった。

またしても小隊壊滅と同時に、それに伴い友軍からはぐれたエリカ達は、ヤーボの空襲と燃料不足と格闘しながら、ひたすらドイツを目指した。

幸いだったのは、彼女らが友軍と出会ったのはそれから数日後の範囲ですんだことだった。

 




バルジの戦い編、完!
もう1945年、エリカ少尉たちは引き続き西部戦線でヤーボとヤンキーたちと戦うのか、はたまた東部戦線で赤い津波と戦うのか。彼女らの明日はどっちだ?
あと、作戦前にパンツァーリートかエーリカを唄うシーン入れてないやんけ(呆れ)と気付きました。今後の作戦計画書(プロット)に加えいれておきます。


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転戦辞令は突然に編

とりあえずまだ生きてるので初戦闘です


「おーっ!!生きてたか!?」

そう中隊長に言われ、エリカ達は大きく安堵のため息をつく。

「はい、なんとか。・・・そういえば他の戦車は?」

エリカが疲れを隠しきれないまま尋ねると、中隊長は

「ヤーボと燃料不足で全滅だ。お前らは運が良いなぁ!」

と、どこかやけっぱちに笑った。その言葉を聞いて、エリカ達は顔を見合わせる。

「まぁ、なんだ。無事で良かったよ。この後は再編を待つ予定。なんせ戦車が1両しか残ってないからね。休むと良いよ。」

そう言うと中隊長は伝令に呼ばれて小走りで去っていった。

「ようやく休める!おやすみー。」

ずっと運転しっぱなしだったエマは早速操縦席でそのまま寝始めた。

「わ、私も。おやすみなさ・・・。」

燃料や整備関連でエマと同じ位馬車馬の如く働いていたマリアもそう言って、装填手席で眠り始める。

「・・・眠っちゃいましたね。」

ハンナがそう言うとエリカは軍帽を脱いで背伸びする。

「ま、しょうがないよ。・・・シャルロッテは?」

「とりあえずは寝・・・」

シャルロッテも欠伸をしたその時、

「皆、手紙が届いたぞー。まずはえーっと、シャルロッテ・シュミット曹長ー。」

という、手紙を配る声が聞こえてきた。

「!!!」

途端、シャルロッテは半ば転げ落ちるような格好でIV号戦車を降りると、手紙を受け取りに走っていった。

「また家族からか。筆まめな親だなー。」

とエリカが呟くと、ハンナは苦笑いしつつ

「ま、まあ良いじゃないですか。」

と言った。

「まぁね。」

と、エリカが言った。その視線の先で手紙を開封したシャルロッテは満面の笑みを浮かべている。

「・・・シャルロッテさん、嬉しそうですね。」

「シャルロッテは親の背中見て軍人になったらしいしね。多分、嬉しいんじゃないかな。」

と、エリカが言うと、1人の兵士がやって来て、

「少尉殿、中隊長殿がお呼びです。」

と、言った。

「あ、うん。すぐ行くよ。」

エリカはそう返すと、2人に手を振って、その場を離れた。

「・・・さて、これからどうなるのかな。」

エリカは小さく呟いた。

しかしその後、エリカたちにはまだわずかなる安寧すら訪れないのであった。

 

「・・・は、配置転換ですか?」

呼び出されて出頭したエリカは、中隊長から言われた言葉を復唱する。

「あぁ、そうだ。実はな、この前ソ連軍の攻勢があって、中央軍集団が壊滅してなぁ。戦力再編の為にこの中隊からも稼働車両を出すように言われてね。」

「・・・つまり、唯一残ってる私たちが抽出される・・・と?」

「そうそう。でも、中尉に昇進だよ。」

中隊長は腕を組みながら言った。

「・・・。」

つかの間の休息すら無いことにため息が出そうになるエリカだったが、それをこらえつつ敬礼をする。

「了解しました。では、いつ出発でしょうか?」

「ん?あぁ、今日の深夜にだよ。」

「・・・へ?」

エリカは思わず目を丸くした。

「そ。だから整備と鉄道に載せる準備と、旅支度は済ませておいてね。」

「わ、分かりました。失礼します。」

そう言うと、エリカは再び敬礼をして、踵を返した。

(・・・ちきしょうめ。)

そう思いながら、エリカは寝ていたエマとマリアを叩き起して、5人で何とか整備と身支度と戦車の積み込み用意を済ませることとなった。そして、その日の深夜、エリカ達は疲労困憊で倒れかけながらも、IV号戦車と共に列車に乗った。

 

「うー、もう無理・・・。」

そう言いながら、IV号戦車の積載で神経を更にすり減らしたエマは操縦手席でグッタリとしている。

「私も限界です・・・。」

そう言い残してマリアも装填手席で眠り始める。力仕事を更にやった為に当然であった。

「・・・。」

エリカはと言うと、既に爆睡していた。

シャルロッテも手紙を読みながら寝落ちした様であった。

「はぁ、やっと一息つける。」

ハンナはそう言って、大きく息を吐くと、自分の座席にもたれかかった。

「・・・あれ?」

ふと外を見ると、遠くの方に明るい場所が見える。オレンジ色に地表近くが光り、上空へ向けて数本の光の束が投げかけられている。

「・・・連合軍の夜間空襲かな。」

ハンナはポツリと呟いたが、他の全員は寝ているのもあって、それを確かめる術は無い。ただ、彼女はぼんやりとその光景を見つめることしかできなかった。

「お父さん、お母さん、元気かな?」

彼女は、家族に手紙を書こうと思い立ったのだった。

 

 




現在、プロットを組み立てつつはあるので今しばしお待ちを。


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