進め歩兵よ!大砲片手に! (チチメカ)
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地獄編
第0発目・石原砲代という男


好評ならできるだけ続けていきたい。


 

 

酷い悪臭。

薄暗い部屋。

男が一人、胡座をかいていた。

 

1944年✖︎月✖︎✖︎日フィリピン・マニラ

 

わしは独房にぶち込まれた。

こんな蒸し暑い、汚い独房に。

理由は単純じゃ、上官を殴った。

思いっきり。

追い討ちもした。

どうせ座学程度しかやらんかったんじゃろ、馬乗りになってボコボコにしてやった。

 

後悔はしとらん。

奴さん、現地の女子を言い詰めて犯そうとしておった。

それが許せんかった。

だから殴った。

13人くらいの憲兵やら、一等卒やらがわしを止めようと躍起になった。

全員殴った。

全員倒した。

 

落ち着いた頃には、周りが銃で囲まれとった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーー

 

わしはすぐに軍法会議にかけられた。

じゃが、結果は目に見え取った。

後で聞いた話じゃが、あの上官はまぁまぁお偉いやつだったそうじゃ。

 

「ーよって、被告、石原砲代を独房送りにする。」

 

「なんじゃぁ!このタコが女子襲おうとしとったんじゃぞ?!軍規に違反しとるのはこいつじゃ!」

 

傲慢に奴さんはわしを見下してとる。

意味が分からん。

百歩譲ってわしが裁かれるのは分かる。

じゃが…

 

何故このクズはお咎めなしなんじゃ!

 

頭に血が昇る。

許せん。

一体何が悪いんじゃ。

こんのハゲズラ。

 

「黙れ!上官を殴る奴があるか!ましてや馬鹿などと……ヒィ!?」

 

裁判官…いや、大佐が怯える。

なんでじゃ。

なんでお前が怒る。

頭に血が昇る。

きっとわしは般若みたいな顔になっとんじゃろ。

それ程許せん。

許せん。

 

「ンッ…ヴッン…これは決定事項だ。憲兵連れて行け。」

 

後ろから憲兵が来る。

 

「邪魔じゃぁ!触るな!触るな!…許さんぞぉ!貴様それでも東亜を解放する皇国の皇軍かぁ!」

 

右に、左に憲兵が飛ばされる。

まさに鬼だ。

鬼がいる。

 

「ヒィッ?!!憲兵ェ!何をしてる!押さえろぉ!こいつをぉ!」

 

「じゃぁかぁー」

 

その時は背後から音がする。

“ドン”その瞬間火薬のにおいが鼻に当たる。

 

「しぃ…」

 

撃たれた。

それだけは理解できた。

…気づけば、わしは独房の中じゃった。

 

「許せん…あのハゲズラ…」

 

独り言が独房にこだましよる。

わしはずっと、ここからどう出るかを考え取った。

少なくても、あのハゲズラがここにおる時にわしが出されることはない。

それは分かる。

じゃが、許せんのだ。

あのクズを。

 

「カァァー、神さん、仏さん!なんなら悪魔でもいい!あのハゲズラを殴らせろぉ!」

 

ー壁を殴れば殴るほど怒りが増していく。

血が溢れるが、痛みは鈍く、もはや何が何だか分からない程である。手は血だらけ、顔は真っ赤になり、鬼のような形相でひたすら怒り続けている。

 

これは違う世界。

この世で終わるお話。

しかし、それを気に食わないと言う者もいる。

 

「―力を貸そうか?そこのお前。」

 

「?!、誰じゃぁ!」

 

―怒りながら辺りを見渡す。

誰もいない。それはそうだ。この部屋は独房で個室の設計をしている。

ましてや、ドアの開く音もしていない。

この部屋には、いやこの付近には今誰もいないはずなのだ。

 

「お前だ、そこの兵士。」

 

「だから誰じゃぁ?!」

 

―怒りが収まる事はないにしても、奇妙な状態になっている事は理解できる。

しかし、この石原砲代という男。

理解はできても、応用の利く男ではないのだ。

彼は理解してもきっと怒り続けるだろう。

 

「さっさと面を見せんかぁぁ!!」

 

「静かにしろ。力を貸すと言っているのだ。復讐がしたいんだろう?」

 

「…ほうじゃ。許せんのじゃ、あのクズを。」

 

せめて一発、いや二発。

殺めるまではせんとも、半殺しにはしたい。

 

「じゃぁ、"契約"しよう。」

 

「なんじゃぁ〜契約ゥ?書類でも出さなきゃならんのかぁ?」

 

それは困る。

わしは書類作業には向かん人間じゃ。

 

「いや、お前と私との間で口約束をするんだ。」

 

「ほぉー。で、なんじゃ。わしは何をすればいいんじゃ?」

 

わしは脚を組み、座禅をする。

なんじゃ、面白そうな話じゃねぇか。

 

「…話が早いな。」

 

「おうよぉ!わしはなぁ、"これだ!"って思った事には全部、賭けることにしとるんじゃ!今の所全部当たっとるからのぉ!」

 

―自慢げに話す砲代の間には、何処かゆるい空気を感じる。

何処か抜けた男だ。

ーーーはそう感じた。

 

「まぁ、いい。契約の内容は簡単。俺はお前がここから自力に出れるほどの力をやる。その男に復讐をした後、私の頼み事を聞いてくれればいい。」

 

「ほう。」

 

なーんじゃ、胡散臭いのぉ〜

じゃが…

 

「…ええじゃろう。乗ってやろうや、その話。」

 

ーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

―男は気分が悪かった。

理由は自分の幾つも下の階級の男に殴られ、犯すつもりだった女にも逃げられたからだ。

この男、幾度もこの手の犯罪を犯しては、自分の階級やコネを使って事件を揉み消す畜生である。

 

「…くそ…あの下士官め…」

 

―赤く膨れた頬を抱えて、男は次の女を探す。

胸の大きい女…尻のでかい女…髪の綺麗な…

 

「お!」

 

あれは上玉だ!

いいもんを見つけたァ〜

 

―ニヤついて男は女に近づく。

 

「おい、そk「おぉぉい!そこのハゲズラァァァァァォ‼︎」

 

「?!」

 

あれはなんだ…

あれは…

あれは…?!

 

「ぶち殺させろォォォォォ‼︎こんのぉ〜屑やろォォォォォ!」

 

「ヒェェィィィイィ?!!!!」

 

なんであいつが…!

なんで!

 

―すぐ逆方向に走り出し、砲代から逃げ始める。

しかし、それは無駄であった。

 

「なぁぁんでぇ!あんな足が速いんだよぉ〜!」

 

―先ほど目視では200メートルは裕にあった距離を、もうすぐ後ろというところまで来てしまった。

 

「捕まえたぞ…このボケが…」

 

襟をしっかりと掴んでは、その腕の筋肉だけで持ち上げていく。

 

「け…憲兵ェェェェェ‼︎助けt」バコーン!

 

すぐそばにあった露店の壁を壊し、その奥の茂みに吹き飛ばされる。

男は這いつくばり、どうにか逃げようと匍匐を行う。

しかし、

 

頭が痛い…

血も出てる…

なんてやつだ…人間じゃない!

鬼だ!

鬼が来やがった!

 

鬼の前では、逃げられない。

「反省せぇ…反省せんかぁ!!」

 

―男の胸ぐらを掴んでは地面に叩き伏せる。

そこからは前の時と同じであった。

馬乗りになって、殴る、殴る、殴る、殴る。

血を吐き、目が白目になってしばらくした後、砲代の拳は動きを止めた。

 

「このくらいでいいじゃろ。いやぁ〜良いことをすると気分がよくなるのぉ〜」

 

「なんだ。もう良いのか?」

 

―また辺りを見渡すが、誰もいない。

しかし、直ぐに人はやってくるだろう。

憲兵の声が少し遠くから聞こえる。

 

「…まずいのぉ…よし!」

 

―彼は白目のを剥いた服を全て脱ぎ、帽子、拳銃、軍刀を持ってその場を立ち去る。

後のその場には、ふんどしのみのハゲた男のみが残っていた。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

「ぉうぉう!来とるのぉ〜!」

 

―後ろからは銃声と、怒号がやってくる。

どうせ、自動車も出しておるのだろう。

脱走兵一人の為とはいえよくやる者だ。

 

「でー、何処なんじゃぁ!?おまえさんの言うドアとやらは?!」

 

「もうすぐだ。」

 

―ジャングルをぐんぐんと進む。

足場が悪いせいか、先程の身のこなしもうまく使えない。

 

「待てぇ!「うぉ!失せんかい!」

 

―武器を引ったくり、兵を吹き飛ばす。

 

これでもう後戻りはできんの。

取り敢えず、前線に出て敵拠点を単騎で制圧くらいしないと、生かしてもらわれんじゃろ。

 

「ここだ。」

 

―そんなことを考えていると。

少し、薄暗い洞穴にたどり着いた。

少なくても、ここに例の"ドア"とやらがあるとは思えなかった。

 

「お前さん…わしに嘘をついたのかぁ〜?」

 

「早く行け。追っ手も来てる。」

 

「ドコダァ!」 「サガセェ!」

 

「…わかった。行ってやるわい。」

 

――本の薄暗い洞穴、壁にはところどころ壁画のようなものが見える。

奥に行けば行くほど、それは増えているのだ。

 

「なんともキミの悪い場所じゃ……ん?ありゃぁ?」

 

―そこには一つの木製の扉があった。

黒い、ひたすら黒い扉。

少し塗装が外れているが、その黒の塗料は明らかに彼が見た中で一番黒く、暗い色をしていた。

 

「ここじゃな?で、わしにどうしろと――

 

「日 本 を 救 え 。 こ れ は 契 約 だ 。 」

 

 

その瞬間。

わしはドアに引き摺り込まれた。

 



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第一発目・こちら石原、ただいま地獄なり

感想やお気に入りをしてくれると、やる気が上がって投稿スピードが上がります。(諸説あり)

あと、謎方言注意です。


 

 

「なんじゃここは…」

 

――体感で言えば数十秒だった。

気づけば、草原にいたのだ。

空にはドアが延々と続いている。

少なくとも、地上ではないのは確かであった。

 

「よく分からんのぉ〜。」

 

―延々とした草原。

普通、不思議と少し恐怖を感じるその場は異常なほどの静寂があたりに存在していた。

しかし、"例外"がそこにいた。

 

「てーんに変わりて不義を討つぅ〜♪」

 

―そう。こ の 男 で あ る。

この男、石原砲代は「そこら辺を探してたら、帰りの道くらいあるじゃろ!」という勢いで、この地獄を探検していたのだ。

しかし、それも長くは続かないものである…

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「腹減ったのぉ…」

 

一体どれくらいの時間が過ぎたろうか?

一日?二日?いや、もしかしたらまだ数時間かもしれない。

たまにある池の様な場所の水を飲み、また歩くを繰り返す。

もしかしたら、出口などないのではないか?

そんなことも頭によぎり始めた。

 

「一体何処に出口があるんじゃ……ん?」

 

なんじゃ?あれは?

牛?

じゃが、顔が三つ?

 

ー石原の脳内には幾つが疑問があった。

石原と言う男は一応教鞭を取った事もある程、教養は深く、そして軍人としての精神も優れていた。

しかし、この男にはその疑問を疑問としてさらに考える精神は持ち合わせてはいなかった。

そう。

つまり。

 

「肉ジャァァァァァァァ‼︎」

 

―全速力で走りながら、姿勢を低くし刀を抜き出す。勝負は一瞬。無闇に刀を振り回さず、一撃。

 

「な「シィヤァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」

 

ー真っ二つ。

綺麗に縦に胴体から頭は割れ、瞬間、血がその体から吹き出した。

服は血まみれ、気分は最高。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「ふぃ〜〜〜〜食った!食った!」

 

―火を起こし、焚き火を囲む。

肉の味はそこまで悪くは無かったが、いかんせん量が多く食べ切るのには時間がかかった。

 

「さて…どうしたもんかのぉ〜」

 

―腹を満たし、喉も満たしている。

これでようやっと深い思考に潜れるのだ。

 

「状況確認からするか…まー」

 

刹那、爆裂音が聞こえる。

姿勢を低くし、砲代は周囲を見渡す。

 

「なんじゃぁ?!」

 

遠くからじゃ!

そして、聞き覚えのある音!

 

「待避じゃぁァァァァァァァ‼︎」

 

直ぐ様その場を離れたその瞬間ー

 

爆発音…先程まで飯を済ませていた場所に、小さなクレーターができていたのだ。

 

「こりゃぁ、爆撃…いや…これは砲撃じゃ!」

 

ー同じ様な爆発音が遠くで起こる。

 

「そっちか!」

 

ー次は音が聞こえた瞬間、そちらの方向に全速力で加速する。

ぐんぐんとスピードは増す。

先程いた場所など、あっという間に遠くなる。

300mほど進んだ頃、先程いた場所で着弾音が聞こえた。

 

「誰じゃ!人かぁ?!」

 

走りながら、叫ぶ。

 

「見つけたぞ!」

 

―そこで脚を止め、正面に相対する。

そこでこの男はようやく気づいたのだ。

 

「顔が…大砲?」

 

―ここに人間はいないと。

 

「…お前、人間だろ。」

 

「ほうじゃ…だからどうした。」

 

ー刀を構える。

この距離ではまだ切れぬ。

 

「お前、ここが何処だかわかってるのかよ?」

 

「知らん。」

 

―ゆっくりと、ゆっくりと近づく。

回りながら、ゆっくりと。

 

「なんじゃ、お前さんは知っとるのか?」

 

「…人間に教えてやる義理はn「ほうか、なら死ね。」

 

―瞬間。

相手の腕を切った。

 

「?!なんだ!この人げ「よそ見か。」

 

―刀を持ち直し、さらに距離を詰める。

振り落とした刀をそのまま上にあげ、下から切り上げる様に持つ片方の腕を切る。

 

「これで、両手じゃ。」

 

「…アァ…」

 

―膝をつき、頭を下げる。

勝負は決した。あとはこの首を断つだけ。

 

「じゃが、お前さんに質問がある。」

 

「…」

 

「答えんかいや?」

 

「答えれば、助けてくれるのか?」

 

「なんじゃ?お前さん何を言っておる?そんな重症じゃ持って10分じゃろうに。」

 

「…何も知らないんだな。」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「―つまり、ここは地獄で?お前さんは悪魔で?ここからは出られないって?」

 

「そうだ。」

 

「なんじゃとぉぉぉ?!」

 

なんてことじゃ?!

そんな絶望的な状況だったんか?!

わし今絶対絶命になっとるんか?!

 

「お前さーーーん!!なんか、なんか出れる方法はないのか?!」

 

「知るか!俺は答えたぞ!ここから逃げさせてー「待たんかい。」

 

―悪魔の後ろには、鬼がいた。

 

「ここから出る方法を教えろ。そしたら助けてやらんこともない。」

 

「なんだと?!卑怯だぞ!話がちが「悪魔に卑怯言われとぉないわい!」

 

「いいか?何か知っとることはぜぇーんぶ、わしに教えろ!―そうじゃ!さっきの話によると、その腕を治すためにはどっちみち血がいるんじゃろう?」

 

「…そうだ。」

 

「なら、話は早い!これは契約じゃ!」

 

「なんだと?!」

 

―驚いたような声をあげる。

それはそうだ。これは人間が悪魔に持ちかけているのだ。しかも、人間が優位に立って話を進めようとしているのだから。

 

「ワシの願いはこの地獄から出ることじゃ!お前さんはなんじゃ?」

 

「俺は契約するなんt シャキーン 「なんか言ったか?」

 

「…します。します。」

 

―ここに石原と悪魔の間に、明らかな格差が生まれた。

 

「で、どーするんじゃ?」

 

「…何処まで叶えてくれる?」

 

「―なんじゃ?ワシを疑っとるのか?」

 

「いや!いや!…いや、その俺の願いは…最強の悪魔になること…だ。」

 

―ここに、一人の歩兵と、一匹の悪魔との物語が始まるのだ。

 




もうちょい進みたかった。
感想やお気に入り待ってます。


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第ニ発目・百発百中

挿絵あった方がいいんでしょうか…?
感想やお気に入り待ってます。


 

 

ーあれからどれくらいが経ったじゃろうか?

ワシのヒゲは伸び続け、今では仙人のようになっとる。髪の毛は長く、今では腰あたりにまでになっとる。

 

そんなことを頭の隅で考えながら、目の前の悪魔と戦っておる。

なんじゃ、また見たことのある顔じゃぞ。

 

切る。切る。切り伏せる。

 

一体なんの悪魔かは知らんが、殺し続けとる。

多分さっき殺したのは馬の悪魔じゃが…

 

地獄に来て結構な時間が経った。

体感では四年は堅い。

この髭もここまで伸びとるが、二、三回切っとる。

 

「おい!ドン太郎!一体どこにその"チェンソーの悪魔"とやらがおるんじゃ!」

 

「うるさい‼︎俺が知ってたら、とっくにここから出れてるだろ!」

 

この、ワシに偉そうに反抗しとるのはドン太郎。

聞いたところによると、"大砲の悪魔"とか、言うらしい。

じゃが、そんな大層なもんじゃない。

明らか名前負けしとるし、最初の頃なんぞ戦術も知らんかった。

今ではワシの至高の教育のおかげで、なんとか面目を立たせとるがー

 

「チェンソーの悪魔じゃが、言う奴はとっくに死んだんじゃないんか?!そうじゃったら、ここにおらんのも納得じゃが…」

 

こいつの願いは"最強の悪魔になること"らしい。

最初はワシの特別訓練でどうにかできると思ったが、どうやら違うと言うんじゃ。

"悪魔は恐怖される事で強くなる"と言う。

だから、多くの人間に恐怖されなくちゃならん。

 

が、ワシはわかっておった。

ここに人間はおらん。

そうなりゃ、ドン太郎の願いは一生叶わない。

 

じゃが、ワシは天才じゃ。

どうすればいいかは直ぐに思いついた。

この地獄で悪魔から恐れられればいい。

"大砲の悪魔"として、その発射音を聞けば誰もが頭を抱え。

祈り、直撃しないことを願うだけしか出来なくすれば良いのじゃ。

この地獄で恐怖を蔓延させれば良い。

 

そう思いついたのが、確か四年前あたりじゃ。

じゃが…

 

「そんなことあるわけないだろ!チェンソーの悪魔は、この地獄でも最強クラスに強いんだぞ!」

 

「知るかぁ!出てきてないもんは出てきてないじゃろ!あと、クラスってなんじゃ!分からん言葉を使うんじゃないわい!」

 

そう。

こいつだ。

"チェンソーの悪魔"。

ドン太郎が言うには"目指すべき頂"と言うておるが、こいつ自体がこの悪魔に恐怖しておる。

なんとも、ヘタレな奴じゃ。

そもそもチェンソーってなんじゃ!!

変な名前しておって!

 

…じゃが、こいつは強くなってきとる。

それは間違いないんじゃ。

最初は成れんかったはずの火砲、榴弾砲、加農砲にも成れとる。

弾の切り替えもできるんじゃ、今では殆どの悪魔を倒せるようになっとる。

ワシは結局こいつを信用しておる。

きっと勝てる。

チェンソーだか、なんだか言うが、きっとワシらの前ではアリンコ同然じゃ!

 

「…別にチェンソーの悪魔とか言う奴じゃなくても、いいじゃろう?地獄にはもっと強い悪魔が居ると聞く。ここはでっかく!銃の悪魔でも倒しに行かんか?!」

 

「ばーかいえ!差がありすぎる!無理に決まってんだろ!」

 

こんな馬鹿話をしても意味がないと言う事も気づいてはおるが…

じゃが、こいつと居ると気分が良いのも確かじゃ。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「また強くなったんじゃないかぁ?」

 

「そうかもな!」

 

ーそう言って、寄ってくる悪魔達を殺していく。

これが、この二人にとっての日常だった。

だったのだ。

 

「おい、砲代こいつはなんの悪魔だと思う?」

 

「ツノがいっぱいあるんじゃ!きっと鬼の悪魔じゃなぁ!ガハハハぁ!」

 

ーそう言って高笑いを始める。

 

「ワシらに会うとは運が悪いのぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーそう。絶望は唐突にやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?聞こえるかドン太郎?」

 

「何がだ?」

 

「なんか、ゴーッて音が「?!」

 

 

銃弾が当たる。

 

 

「ウッ!」

 

ー咄嗟に刀で防御する。

だが、ドン太郎は撃たれたようだ。

銃撃だ。

何処かからの銃撃だ。

咄嗟に振り向き、大砲の悪魔を担ぐ。

 

「おい!ドン太郎?!逃g「終わりだ…なんてこった…」

 

「…?!」

 

ーそう言って振り向いたその目の前には、無数の顔、腕に位置する多数の銃器、そして巨大な銃口の顔を持つ…銃の悪魔がいたのである。

 

「クソォ!!」

 

ー直ぐ様ドン太郎を投げ出し、刀を構える。

銃の悪魔はこちらを見た瞬間、一斉に銃を撃ち始める。

それは、まるで吹雪のように。

 

「ングルァルァァァァォァォァ‼︎」

 

ー弾く、切る、防ぐ。

それは人間の限界をはるかに超えていた。

砲台の体は悲鳴をあげ、刀も嫌な音を出している。

しかし、そうは言ってられない。

後ろのこいつを守ってやらねばならぬのだ。

 

「手伝えぇぇぇ!ドン太郎ォ!」

 

ー目が覚める。

気が付いたの方が適しているだろうか、瞬間ドン太郎も後ろからその火砲を撃ち始める。

迫撃砲・野砲・榴弾砲、どんどんとその大きさは増していく。

 

 

しかし。

 

右肩を銃弾が貫く。

 

「ガァっ!」

 

バシュ

バシュ

バシュ

バシュ

バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ

 

ー現実は無情だ。

 

最初は肩が、次に腹が、次にまた腹が、胸が、足が、手が、そして、心臓が。

その瞬間、銃の悪魔は撃つのをやめた。

そこには死体と化した一人の人間と、瀕死のドン太郎のみが残っていた。




感想やお気に入り待ってます。
あると作者のモチベが上がって、作品が長生きします。


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第三発目・大砲の悪魔

気分が乗れば数時間以内に連続投稿しちゃう。


 

 

俺が生まれたのはまぁまぁ昔の事だ。

少なくともチェンソーよりかはずっと前。

俺は最強だった。

あの四騎士と互角の時もあったんだぜ?

一度俺が音を発せば、誰もが耳を塞いだ。

誰もが蹲って、神に祈るんだ。当たりませんように。神様、助けてくださいってな。

大砲は恐怖の象徴だった。

銃なんかよりもよっぽど兵士達にも恐れられた。

だが、時代は変わった。

大砲は廃れ、何故か今では銃が脅威になってやがる。

きっと、俺が一度も最盛期の時期に外に出なかったのも原因だろうが、それだけじゃねぇ。

あいつだ。

あのチェンソーの悪魔のせいだ。

 

俺の最盛期は二度に渡った。

一つ目は第一次世界大戦

これは言わずもがな。

塹壕で祈る兵士なんかがいっぱいいたらしい。

俺も見たかったがな。

この時の俺は凄がったが、次ももっとすごかった。

それが問題だ。

 

二つ目は第二次世界大戦

これだ。

これが問題だった。

…いいや、これ自体に問題があったわけじゃない。

この時の俺は最強だった。

ナチスドイツとやらが戦車とか言う物を使って暴れ出した時、戦車の悪魔も生まれたがそれを食った事でまた強くなった。

四騎士の内の戦争の悪魔と暴れまくったよ。

銃だって強かったが余裕で倒せるほどだったはずだ。

 

しかし、

事件は起こった。

突然俺の力が誰かに奪われた。

綺麗さっぱりだ。元から俺はそんな力を持ってないように。

 

"誰も覚えてなかった"

覚えてないのだ。誰も。第二次世界大戦を。

最初はまだ大丈夫だった。前の大戦の保険があったんだろう。しかし、どんどんと力を失っていた。最初に切り札が出せなくなった。次に体の大きさが変わった。そのあとは使える砲が無くなった。またその後は弾が…

 

最後には大砲の名前だけが残った。

 

かろうじて、一部のマニアだけが俺の名前と、その強さだけを理解していたおかげか消滅はしなかったが…

 

"恐怖"

 

それが悪魔の強さだ。

恐怖されれば強くなる。

だから、俺はチェンソーの悪魔を羨ましがったし、今でも腹が立つほど羨ましい。

そう。俺はもう終わりだったんだ。とうの昔に、終わりだったはずだった。

だが…

 

『見つけたぞ!』

 

あいつが来た。

俺が知る人間とは思えなく強く。俺が知る人間とは思えなく勇ましい。

あいつは、俺にここ(地獄)を出るのを手伝えと言いやがった。

正直言って無理だと思った。

あんなに強くても、流石に無理だ。地獄の悪魔は悪魔の中でも強い分類に入るし、代償だって用意できないだろう。

 

『これは契約じゃ!』

 

そう。

結局俺は契約をした。

脅された事も…まぁそれがきっかけである事は違いなかったが、俺はその後、後悔をしたことはなかった。

 

この砲代と共に悪魔を狩り続ける日々。

クソみたいで、バカみたいで、初めての経験だった。最高に楽しくて、最高に馬鹿らしい。

ある日俺は砲代に聞いた。

 

『おいバカ。』

 

『バカとはなんじゃ。わしゃ天さ『うるせぇ。』

 

―砲代は顰めっ面をする。

 

『…俺たちって、どう言う関係なんだ?』

 

『はぁ?なんじゃぁ〜?そんな女子(おなご)みたいな事いいよって。』

 

『うるせぇ!…ちょっと気になっただけだよ。』

 

『カッァ!そうかい。でもまぁ―』

 

すると突然肩を急に組まされる

 

『"親友"じゃろぉ!』

 

…そうだよな。俺たちは親友だ。

親友だって言ってくれた。

だからさ。

おい。

俺の親友ならさ…

砲代なら…

 

 

 

 

 

 

 

「まだ立てるだろ?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「なんじゃここ。」

 

―気がつけば、そこは無数の砲弾が薄暗い外灯に照らされ、部屋の中に陳列する空間だった。

 

「おい砲代。」

 

―声の聞こえた方に振り向くと、そこには鉄の扉が一つ

 

「なんじゃドン太郎…おい、あの悪魔はどうし―「黙って聞け。」

 

―部屋に静けさが留まる。

埃が舞う。街灯が薄暗く砲代の背中を照らし、扉に暗い影を落とす。

 

「俺はよ、お前が好きだったぜ。親友として、初めて俺と向き合ってくれたお前がよ。」

 

「…なんじゃ、藪から棒に。」

 

「だから、契約してくれよ。俺の心臓を…お前のかけちまった体を俺が埋めてやる。だからさ。」

 

 

電灯が不自然に消えかかる。

 

 

「 俺 の 夢 を お 前 が 叶 え て く れ 」

 

 

「おい!」

 

ーーーーー

 

       「ドン太郎!…ア?」

 

―気づけばそこはあの草原だった。

血だらけの草むら、削られた地面。

そして、少し遠くに見える銃の悪魔と―

 

「…このこめかみから出てる、紐は―」

 

ほうか

ほうか…ドン太郎…

 

「お前サンの夢か…最強の悪魔じゃったなぁ?」

 

―ロープを掴む

たった20cm程の、白いロープ。

きっと、こうすればいい。

砲代にはなんとなくそう感じた。

 

「ワシがやりゃいいんじゃなぁ!ドン太郎ォ!」

 

―掛け声と共に…引っ張る!

 

「バーン!!」

 

 

 

ドカーン‼︎

 

 

―その砲撃は、銃の悪魔の肩にある銃に当たり爆発を起こす。

 

「?!」

 

―咄嗟に振り返れば、そこに立っていたのは。

 

 

「こっちを向いたのぉ…くそ(つつ)野郎…!」

 

顔を大きな大砲に、両腕に火砲、背面にもまた大砲をつけた悪魔…そして…

 

「仇討ちじゃぁ!天誅‼︎」

 

親友の仇に燃える鬼の姿があった。




感想とお気に入り待ってます!
もらうとモチベが上がります。


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公安新人編
第四発目・地獄の砲声/石原、ただいま帰還ス


実は四話書き終わって直ぐ書きました。


 

 

頭、右腕、左腕…備え付けられたその大砲を全て銃の悪魔に向け、一斉に大砲を発射する。

効果は少しはあるように見える。

だが、

 

「決定打にはならん…」

 

―砲代は体の向きを変え、銃の悪魔の周囲を回り始める。銃の悪魔も負けじと、それを追いながら銃を乱射するが、当たる気配はない。

 

「うむ。ここは一旦―」

 

―すると90度方向を変えると突然、一直線に逃げ出す。

銃の悪魔もそれに続く。

銃の悪魔の速度ば尋常ではない。普通ならば、直ぐに追いついて走り去るだけで、敵を葬るのだ。

しかし、それができないのだ。

銃の悪魔は思い出していた。

思い出さざるえなかった。

あの鬼の形相をした大砲を。あの殺戮者を。

いったい何故忘れていたのかが分からない。あれは危険だ。そう認識した。

だからこそ、慎重に葬らなければならないのだ。自分が持つありったけで。

 

やはり、ワシの戦い方に引き込むのが一番じゃ。

"一撃必殺"それがワシの流儀。

ありったけじゃ。

ありったけを一発ぶちかます!

 

―両者とも、考えることは同じであった。

 

ワシの知る最大の火砲。

ドン太郎(心臓)が覚えとる、最強最強の大砲!

ここは―!

 

―加速の勢いを殺し、一瞬で反転する。

瞬間…腕の大砲を無くし背中へ移す。体は四つん這いに、衝撃を抑えるために。

 

銃の悪魔は走りながら思い出していた。あの悪魔の行動を。幸い、一度も殺されなかったが、その惨状は目撃していた。

連射される大砲。

両手に六門、頭には戦艦の主砲が一門、そして背中に最恐の列車砲が一門。

まさに殺戮者の名に相応しい物であった。

あれ(殺戮者)が帰ってくる。ここで始末しなければ、戻ってきてしまう!

 

 

 

しかし、遅かった。

 

 

 

「待ってたぜ。」

 

背中に巨大な大砲が一門。

 

「ワシが知っとる中の最強じゃ…とくと食らえぇ!!」

 

ドカーーーーーーーン

 

―爆音が響く、地獄中に響く。

 

―銃の悪魔はすぐさま防御したが、それも無駄であった。

しかし、幸いな事に狙いは少し右にずれていた。

 

「…!!」

 

―気づけば、自らの右手が綺麗さっぱり千切られていた。風穴を開けられ、血が吹き出している。

 

 

 

―銃の悪魔は恐怖した。

 

 

―いいや、

 

 

―この音を聞いたどの悪魔も思い出し、理解した。

 

 

―帰還の音色を。殺戮者(大砲の悪魔)の復活を。

 

―直ぐ様、銃の悪魔は進路を変える。

逃げなくては…!この場にいてはまずいのだ!次の装填が来れば確実にやられてしまう!

誰にも追いつけないスピードで、血を吹き出しながら逃げる。射程距離から逃げる為に、もう見つからない為に。

 

 

 

 

 

 

 

…その後、そこには大の字になった砲代のみが残った。

 

 

「…やったぞ。わしゃぁぁ!!やったぞぉぉぉぉぉぉ!」

 

やってやった!

わしの勝ちじゃ!

あの腰抜け(銃の悪魔)め、尻尾巻いて逃げよった!

 

「クックククク…!ガハハハハハ‼︎」

 

―雄叫びと、高笑いが響く。

今だけは笑いたい。私の心臓になった親友に届くほどの声で。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

―それからまた一年程度が経った。

あれからやっていた事は変わりはしなかった。

適当に悪魔を見つけ、殺し、殺し、殺し続けた。

なんだか、銃の悪魔を撃退した後から急激に強くなっていた。

そうして、ようやっと見つけた。

 

「お前さんじゃな?地獄の悪魔は?」

 

―燃え盛る身、馬のような体に上裸の目の無い男。

 

「…ほら、言わんかい。契約じゃろ?"ワシが殺さない代わりに、あれを言え"と!」

 

「はっはイィ!」

 

なも知れぬ悪魔に伝える。

震えながら、そいつはしゃべる。

 

「地獄の悪魔よ。わたたしの全てを差し上げます!!ますので、この方を!現世へお戻しください!!」

 

―その瞬間

その悪魔は爆散する。

 

「うわ!ばっちぃのぉ!!…んお?」

 

―すると、その目の前には一つの扉が出現した。

いつかのあの扉の様には見えないが、確かに扉だ。

 

―意を決して、扉を開ける。

瞬間―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―日差しが眩しい。

青い空、耳障りな雑音、そして…目の前に映る溢れんばかりの人の群れ。

 

「…来た。戻ってきたぞぉぉぉぉおおぉぉぉ!!!!!!」

 

―自然と涙が溢れていた。

五年ほどの努力が遂に叶ったのだ。

 

ボロボロの軍服、伸び切った髭、長髪の男、そして背中に背負った三八式。

 

―市民は誰もが怪しがったが、銃など、ましてや大戦中のものなど誰も知らないので、よく分からぬ木の棒を持った怪しい男にしか映らなかった。

 

「ここは皇国なのか?いいやぁ、それにしてはあり得ない程知らぬ所じゃノォ…もしかして…アメリカに占領されたのか!!」

 

しかし、その考えも束の間、突然近くの窓ガラスが大きく割れる。

 

「「「「うわあぁぁぉぁぉ!!!」」」」

 

「なんじゃ!!」

 

―市民が慌てふためくなか、目の先には悪魔がいた。見たことのある悪魔だ。たしか…

 

 

「あ!あいつは前殺した鬼っぽい悪魔じゃなぁ!!」

 

「「公安を呼べぇ!「助けてくれぇ!「誰かぁ!!「逃げろぉ!!」」

 

―誰もが、パニックになりその場から離れる。

しかし、この男は違う。

一瞬で飛び上がり、近くにあった壁を蹴り一直線に敵に向かう。

紐を抜き、姿勢を決める。

 

「バーン!」

 

「こちら公安ニ課の高木!ただいま現場に到着しました!推定ですが、鬼の悪魔です!至急応援「くぃらぁぁぁぁぉぁぁ!!!!!」

 

爆発音、それがビルの間に広がり続ける。

 

―血が吹き出し、その血が高木にかかる。

 

「ワシの勝ちじゃぁ!!」

 

―そこには血に染まった大砲の悪魔が雄叫びを上げていた。




感想とお気に入り待ってます。
モチベをください。


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第五発目・友軍攻撃

少し短め。


 

 

―喧騒に塗れた東京・渋谷。

其処には血だらけの軍人と、二人の男女。

 

「なんじゃぁ?お前さんら?」

 

「…おい、クァンシ。」

 

「黙れ。分かってる。」

 

―二人は武器を構え砲代と対峙する。

 

…なんじゃぁ!臨戦体制じゃなか!

めんどくさいのぉ…絶対勘違いしておるぞ…

 

「お前さんら、ちょっt「フッ‼︎」

 

「なんじゃ!!!急に切り掛かるとは!」

 

「へぇ〜」

 

―瞬間、女が急に間合いを詰め刀で切り掛かる。

しかし、砲代もそれを弾き間合いを取る。

 

「待て、待て。ワシは味方s「うるせぇ。」

 

―瞬間、後ろに回り込んだ男が砲代の頭を目掛け刀を振る。

しかし、これも回避する。

 

「話を聞かん若ぞう共じゃのぉ!」

 

―三八式に銃剣をつけ、銃剣道の姿勢を取る。

先に仕掛けたのは、男の方であった。

 

―敵はおおよそ武器人間。話は通じるかも知れないが、この男にそんな余裕はなかった。

クァンシの攻撃を止めたのだ。少なくとも、弱い悪魔では無い。

 

―攻撃をする刹那、相手が視界から消える。

 

「?!「ここじゃ阿呆」

 

―男の頭に銃の銃床を当て、気絶させる。

 

「……」

 

「…ワシは女は殴らんぞ。」

 

「なら私に一生殴られればいい。」

 

―女が構えを取る。

が、砲代は小銃から呑気に銃剣を外し背中に背負い直す。

その瞬間―

 

「クハァ?!」

 

「お前サン…その力、人間じゃ無いな?」

 

―相手を切るため低い姿勢を取り、間合いに入った瞬間―気づけば地面に叩きつけられていた。

 

なんてやつだ。

 

―直感的にそう思う。

相手は臨戦体制には見えない。しかし、其処には明らかに隙のない五体がある。

間合いを取るが、それも無駄だろう。聞いたところによれば、相手の悪魔は遠距離から攻撃し、直撃した場所が爆発するらしい。

 

「…面倒だな。」

 

「お前さんら…敵軍(メリケン)か?味方(友軍)か?」

 

「…私達は公安だよ。知らなかったの?」

 

「コウアン〜?」

 

なんじゃぁ?コウアン…?見たところ一丁前に洋服着おって…

いや!あの服見たことあるぞ!

 

「なんじゃ!お前サンら葬式帰r「公安警察‼︎ 公安対魔特異課だ!」

 

―後ろの男が起き上がり、怒鳴る。

よく見れば強めに殴ったはずなのに血も出ていない。

 

「警察ぅ?なんで警察がワシを殺そうとするんじゃ。」

 

「そりゃ、お前…」

 

「お前が悪魔だからだ。」

 

「……はぁ?!」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「…と言うわけで、ワシは悪魔じゃない!」

 

―少し光が入ってくる薄暗い部屋。

二人に連れられ来たのはこの"公安特異課"の本部。

砲代の前の机にはまた知らない男と、傍にさっきの男女…

 

「地獄から出てきたとはね…流石に信じられない」

 

「そんなにやばいとこなの?地獄って?」

 

「ほんじゃぞぉ〜、やばい悪魔がわんさかおってなぁ〜いろんなのを倒してきたぞぉ!」

 

―自身ありげに砲代は話す。

しかし、女が眉間に皺を少し寄せたのを砲代は見逃さなかった。

 

「なんじゃ、お前サン。ワシが倒してきた悪魔でも聞きたいのか?」

 

「…あぁ、聞きたいね。どんなの倒してきたの?」

 

「グフフ!驚くなヨォ!!多分今まで倒してきた悪魔は1000は超えててのぉ!」

 

「お前…!本当になんで生きて来れた!!」

 

―机の前にいる男が驚愕する。

ここにいる誰もが戦慄していた。明らかにおかしいのだ。この男、地獄から帰ってきたと言い放ち、ましてやクァンシに一撃喰らわし余裕の表情を見せている。

 

油虫(ゴキブリ)のじゃろぉ〜鬼のじゃろぉ〜幽霊っぽいのも倒したぞぉ〜」

 

「…へ、へぇ〜じゃぁ、一番強かったのって何?」

 

―後ろの男が砲代に聞く。

少し顔には冷や汗をかいてる様にも見える。

 

「ぉーん?そりゃ、銃のやつだったのぉ!!」

 

「「「?!」」」

 

「それは強敵でのぉ……ワシの親友を撃ち殺しおった…いや、実際はワシの心臓になっただけで原因はあいつにあるわけじ「採用!」

 

「は?」

 

―机の前の男が立ち上がる。

 

「君…今日からここで働いてくれ。」

 

「はぁ〜?!」

 

―日差しが眩しく、目まぐるしい一日。

未だに夜は訪れない。




感想とお気に入り待ってます。
モチベ上げ上げになりますよぉ〜
あと、投票の結果原作前からスタートです。


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第六発目・初仕事

キャラの口調を再現する事が一番難しい事だと思う。


 

 

―蛍光灯の光が天井と部屋を照らしている。

無数にあるロッカーの一つが開き、男二人が部屋にいる。

 

「はい、これ制服ね。」

 

「ん?…ってこれがぁ?!」

 

「?何か問題あった?」

 

「あー、わしのぉ…背広を着たことが無いんじゃ。」

 

―慣れぬ手つきで着替え始める。

ズボンやシャツはどうにかなったが、ネクタイは結べない。

 

「あー、貸して。」

 

「お。」

 

―ネクタイの紐を背中の襟に通し、前に持ってくる。あとは、慣れた手つきで結んでいく。

 

「これで完成。」

 

「お、おぉ!ありがとう!岸…岸辺くん!」

 

「どういたしましてー。」

 

―そう言うと、扉を開き手招きをする。

奥には先程の女…クァンシも待っている様だ。

 

「早くして。」

 

「ほらほら行くよ。」

 

「うむ!それじゃぁ、初仕事行くかぁ!」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「なーーーーーーんも、おらんじゃないかぁ!!」

 

―日差しが照りつける日中。

三人は街中を巡回していた。特に問題がない日はパトロールをするのが公安であるが、この男はそんなものは無縁だった。

 

「いつもなら、ここで二、三体の悪魔がどこからか襲ってくる筈じゃ!!」

 

「…そんな事ここ(現世)では起きないよ。」

 

―すかさずクァンシが突っ込む。

二人は薄々気づいていた。この男の流れに乗せられてはまずいと。明らかに常識破りな男であると。

 

「暇じゃ〜!暇じゃ〜!」

 

「…うるさい「!…危ないのぉ!」

 

ー突然クァンシが足蹴りを砲代に行うが、寸前のところで飛んで回避する。

クァンシの眉間に少し皺が寄っている事に、ようやく砲代も気づいた。

 

「落ち着けよクァンシ、砲代は新人なんだぜ?」

 

「ッチ…」

 

「あーら、怒らしたかのぉ〜。そんなときはのぉ!」

 

―チラリと時計を見る。

ちょうど1時をまわり、昼飯時である事がわかる。

 

「飯でも食うか!わしが奢っちゃろぉ!」

 

「おお〜いいね。」

 

「…今何円持ってるの?」

 

「おうおう。今はのぉ〜たし

 

―なんじゃぁ?!」

 

―爆発音が街中を駆け巡る。

視界を目まぐるしく動かせば、そのビルの端で大きな尻尾が鞭打っている事がわかる。

クァンシは直ぐ様近くの公衆電話に入り、公安本部に連絡を入れ始める。

 

「おい、岸辺くん。何をしとるんじゃ!」

 

「ぇ?あれ(悪魔)を殺しn「馬鹿言うなぁ!」バゴーン

 

「イテェ!」

 

―岸辺の頭に拳骨を入れる。

 

なんてやつだ…

 

―岸辺は瞬間、中学時代の担任を思い出していた。

 

「上官からの命令が無いのに、突撃する馬鹿がおるかぁ!」

 

「はぁ…?」

 

「準備はしていいが、上官の突撃許可はおりとらんじゃろ!」

 

「いや、俺はしら「馬鹿モーン!」

 

しらをきる岸辺に、頭に拳骨を喰らわせる。

 

「イテェ!!」

 

「…おい何してる。本部から許可が降りた、行くぞ。」

 

―クァンシの視界には頭を抱えるバディ(岸辺)とそれに怒鳴り散らす砲代の姿があった。

正直思った。

 

面倒くさい…

 

と。

 

「よし!なら行くぞ岸辺くん!!」

 

「…なんでお前が仕切ってんだよ。」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「あいつは私とこいつ(岸辺)で、どうにかする。お前は市民の保護をしてて。」

 

「なんじゃ、ワシは後方支援か。」

 

「なんか不満でもある?」

 

―またクァンシが目つきを悪くする。

 

「いいや、上官の命令じゃ!しっかりやってくるぞ!」

 

―そう言うと砲代は走り出していく。

 

久しぶりじゃ…

こんな喧しい戦いは!!

 

ー人の波を一つのジャンプで器用に避けながら、逃げ遅れたものを探していく。

敵の方に視界を送れば、二人が戦い始めていることが分かる。見れば優勢の様だ。

 

「大丈夫そうじゃの。」

 

―悪魔が破壊してできたであろう、瓦礫を乗り越えていると。

 

「助けテェー!」

 

「んぉ!」

 

―瓦礫の中に手が見える。

咄嗟に刀をしまい、声をかける。

 

「誰じゃぁ!聞こえとるかぁ!」

 

「助けてぇ!助けて!」

 

「おうおう!待ってろ!」

 

―拳に力を込める。

見る限り、子供の元までにあるのは大きな瓦礫とまばらなのが数個。

ならば、この目の前にある大きな瓦礫をぶん殴ればいい。そう男は思った。

 

「んじゃぁ!おらぁ!」

 

「よし!あとはガキを助けるだけじゃー

 

瞬間、吹き飛ぶ瓦礫

 

…あ。」

 

―そう言って、見た視界の先には瓦礫によって大きく潰れた巨大な異形のトカゲと、こちらを睨みつけるクァンシと呆れる岸辺の姿だった。

 

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「許してくだせぇー!」

 

―平謝りをする砲代。

前には腕を組んだクァンシと、どこか苦笑いを浮かべた岸辺だった。

あの後、敵…トカゲの悪魔は警察に引き取られ三人は公安の本部に戻っていた。

 

「…奢ってくれるんでしょ。それで、ちゃらにしてあげる。」

 

「お!俺もよろしくー。」

 

―そういう二人の言葉に砲代は安心する。

この男、内心で本当に焦っていた。五年前、上官を殴った時も非常に面倒くさい事態になったからだ。

殴った事に後悔はひとつたりともしていないが、五年間地獄に居た事もあり反省は少ししていた。

だからこそ、この男誓っていたのだ。

 

面倒事はあまり起こさん!!

 

…が、数時間後。

 

「もう食べれない…」

 

「俺もぉ〜」

 

―満足そうな岸辺と、本当に満足しているのか分からないクァンシを見た砲代は店員を呼びつける。

 

「食ったぁ!よし!会計じゃぁ!」

 

「はい!1万と200円です。」

 

「…ん?万?円?ワシ…そんな大金持っておらん…」

 

―この後、土下座して二人に出してもらった。

 




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モチベが上がって砲代が祝砲を打ってくれますよ。


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第七発目・楽しい圧迫面接

今日は少し短め。


 

 

外は生憎の雨だった。

砲代はクァンシに呼び出しを食らい、人のいない廊下を歩く。

この公安に所属してから砲代は驚きの連続であった。「コウアン」や「デビルハンター」などの知らない言葉、「千」や「万」桁が大きすぎる通貨、「ボスニア」や「ソマリア」などの知らない国…そして、何より"知らない歴史"これが、砲代をより一層困惑させた。

 

砲代は教鞭を取っていた時期もあった。

軍事や社会に関する事で現在の社会情勢などは新聞を通して理解しており、自信もあった。

 

砲代が現世に帰還して真っ先に行ったのは、図書館に行く事であった。そこで、年表と近代の歴史を学ぶためだ。

そこには…

 

「ない…無い…無い?!」

 

無いのだ。

第一次世界大戦終結後、日本で起こった2.26事件、アメリカで起きた大恐慌、そして…

 

「大東亜戦争…が"記されておらん..."」

 

―そこでようやく理解した。

アメリカの小説で見た事がある。

これは。

 

「未来に来た…?いや違う…ワシは…ワシは違う世界に来たのか…」

 

―砲代は頭を抱えた。

小説の中でしか起こり用のない事が実際に起きているのだ。どこにも日中戦争(支那事変)太平洋戦争(大東亜戦争)の事を記していない。

砲代だけが、世界から取り残されているのだ。

 

「…ワシは亡霊なのかもしれんな。」

 

いつのまにかドアは目の前にあり、それを開け中に入る。

クァンシは書類仕事中の様だ。

 

「…ん。」

 

こちらに気づいた瞬間、机の上の書類の束から器用に一枚紙を取り出し砲代に渡す。

目を通せば、政府のお偉い方が砲代と面会したいと書いてある。

 

「んじゃぁ?こりゃ?」

 

「知るか。」

 

砲代に目もくれず、クァンシは書類を片付け続ける。砲代はますます眉間に皺がよる。

まぁ、しかし考えていても仕方がない。クァンシに一声掛け、部屋を出ると外へ出るため傘を取り一階へ降りる。

 

外に出れば曇った雲から雨が降り続けている。

公安本部は東京の中心にあるため、雨が降っていても多くの人が公安本部前を通っていく。

人の波に逆らいながら、道を出るとタクシーを止め呼び出された場所まで向かう。

 

今日はあまり気分のすぐれない日だった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「君が石原砲代君だね。」

 

「はい、そうです。」

 

白い部屋にはのっぺりとした照明が部屋全体を照らし出し、七人の男達を照らしている。

正面の長机には上層部の人間が向かって座っている。それに対峙するかの様にポツンと置かれていた椅子に座り、砲代は質問に答えていた。

 

「君は"銃の悪魔"を倒したと言うが、それはどう言う意味でだ?」

 

「あー、申し訳ありまへ…せん。それは、倒したんじゃなくて追っ払ったんです。」

 

「報告と食い違っているが。」

 

「すいません。大雑把に言い過ぎました。」

 

砲代は内心この状況を怪しんでいた。

"上層部との面会"そう言われてここまで来たものの、これではただの尋問ではないか。

正面の男達は誰もが真顔で、表情を殺しきっており、そこには一抹の不安感すら覚える。

 

「まぁいい。銃の悪魔が本当にこの現世で生まれたなら、甚大な被害が予測されていた。君はよくやったよ。」

 

「はぁ…ありがとうございます。」

 

書類をペラペラと見て、横の男と耳打ちで話し始めたと思えば直ぐにこちらを向いてまた話し始める。

 

「…質問してもよろしいでしょうか?」

 

「なんだね?」

 

「銃の悪魔は一度も現世に来たことはないんですか?」

 

「…?そうだが?」

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

しばらく砲代を見つめたと思えば、また書類をペラペラと見てこちらを見つめる。

そして、急に全員が立ち上がり砲代に向かって話し始める。

 

「決まった。私達は君をさらに"利用"する事にした。…入りなさい。」

 

そう言うと後ろの方からノックがする。

 

「失礼します。」

 

振り返る。

そこに居たのは、ピンクの髪、渦巻きの様な目、スーツを着た一人の女子。

砲代には見向きもせず、正面の男達の前に立つ。

 

「お呼びでしょうか。」

 

「うむ。マキマ、あの男を支配しろ。」

 

「はい。」

 

「…おい、どう言う事じ「私に服従しなさい。」

 

振り返り、目を合わせる。

黄色い、渦巻きの目。

そして、一言。

 

「 こ れ は 命 令 で す 。 」

 

 

 

 

 

 

訪れる静寂。

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?()じゃが?」

 

反抗の声が室内に響いた。

 




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第八発目・子供と大人

クァンシと岸辺の喋り方を少し変えました。
似てたらいいんだけどなぁ。


 

 

「は?()じゃが?」

 

「…何?」

 

「…」

 

目の前の男達は全員、砲代の方を見ては眉間に皺を寄せ怪訝そうな顔でこちらを見つめる。

砲代は訳が分からなかった。

急に中学生程度の子供が出てきたと思いきや、こちらに対する第一声は「服従しろ、命令だ」などと言われているのだから。

 

「さっきから優しく聞いておったが―」

 

その後、砲代には一つの感情が湧いてきていた。

"怒り"だ。

 

この男達はワシをコケにしたいんか…!

 

慣れない敬語をやめ、いつもの口調で喋り始める。足を傲慢に組み、顔は尊大に、そして時慣れた故郷の方言で。

 

「なんじゃ、お前さんら。面会があると言うから階級昇格かなんかかと思いきや、尋問か?!」

 

「面会だと伝えた筈だ。」

 

「いや、じゃからこんな面会があるかって言う話じゃ!」

 

先程の"面倒事は起こさない"という考えはどこにいったのか、砲代は喋り続ける。

 

「それになんじゃ!ワシを"利用"じゃなんだの、いいおって。それに!」

 

先程の子どもを見る。

どこか落ち着いていて、こちらに薄い笑みを浮かべている。

 

「この女子(おなご)じゃ!こんな女子(おなご)をここに持ってきよって何をする気じゃったんじゃ!」

 

「おい!お前触るんじゃ―」

 

「じゃあかあしぃ!!」

 

先程まで仏頂面をしていた男達の一人が慌てて、止めようとするが砲代の声で一喝される。

すると、男はたじろぎ黙りこける。

砲代は一瞬その男を睨みつけるが、直ぐに視点を移し女子に目を向ける。

 

「…お前さんなんでここにおる。ここは難しい大人のところじゃ、女子(おなご)が来ていい場所じゃないぞ。」

 

頭を乱暴に撫でながら、姿勢を下ろし目を合わせる。すると、女子は少し驚いた顔でまたこちらを見合わせる。

 

「君、変な匂いがするね。」

 

「なんじゃ〜風呂は入ってきたぞ?」

 

マキマの後ろにいる男達は誰もが二人を見ているが、どうもしない。

 

 いや、"できない"。

 

「ううん。混ざってる匂い。」

 

「混ざっとるぅ〜?」

 

「うん。人でもないし、悪魔でもない。でも悪魔の匂いも一つだけじゃない。」

 

「…どう言うことかは分からんが、なんかあまり良くはなさそうじゃのぉ〜」

 

そう言うと撫でていた手を止め、立ち上がる。

女子は砲代に撫でられていた頭を触り、砲代を見上げる。

どこか、先程の目より優しくなった気もする。

 

「嬢ちゃん、名前は?」

 

「私の名前?私はマキマ。」

 

「ほぅ、ええ名前()じゃの。」

 

砲代が笑顔で答えると、またマキマも優しい笑顔で答える。それを見た後、砲代は顔を上げ前の男達を見つめる。

その顔は明らかマキマに向けた顔より堅くなっている。

怒りと真剣が混ざった顔だ。

 

「お前さんら大人じゃろ、大人なら子供をこんな所に連れてくるんじゃない。」

 

目付きをさらに強くする。

怒りを抑え、声を振るわせながら喋る。

 

「…ワシは公安に所属しとる兵士(もん)として、命令は聞きやす。じゃが、大義もなく…こう言う子供を利用して死地に行かせるなら―――」

 

固唾を飲む。

この男はやる。誰もがそう言う"凄み"をこの男から感じていた。

 

「 ワシはお前さん達を殴り飛ばさなきゃならん。 」

 

呆然とする男達を横目に、じゃぁこれでと言って砲代は部屋を出る。

男達は少し慌てた様子で話し合い始めるが…

 

 

 

マキマは砲代の背中をただその目で見つめていた。

 

「ホウダイ…砲代さん…だね。」

 

どこか不敵な笑みを浮かべて。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

日差しは炎天下を物語る様に燦々と東京を照らしいている。

あの面会(圧迫面接)から二日後、砲代はクァンシと岸辺に呼び出され、仕事部屋までやって来ていた。

 

「お、来た。遅かったね。」

 

「なんじゃ〜、"大切なイベント"がなんだか…そもそもイベントってなんじゃぁ?」

 

「…うるさいな。」

 

「落ち着けよクァンシ。」

 

「すまんのぉ〜声がデカくて、でなんじゃお似合いさんどもに呼び出されるとか気まずくて仕方ないぞ。」

 

「え!まじ?!そう見「うるさい」ドシ

 

「イテェ…」

 

岸辺が浮ついた瞬間、クァンシが岸辺を殴り地面に屈させる。

ここではよく見る光景だ。

そして…

 

「さっさと本題に入らせろ。」

 

「「すいません(へん)」」

 

この二人が平謝りをするのも毎度の光景でもあった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「で、話ってなんじゃ?」

 

気を取り直し、砲代が聞く。

岸辺とクァンシも立ちながら砲代に目を合わせる。

 

「それな、話なんだけど「黙れ岸辺。私が話す。」

 

「入ってこい"井伊乃"。」

 

ガチャ

ドアの開ける音と共に人が入ってくる。

ショーカットの赤い髪、丸い真っ黒な目、そして緊張しているのかぎこちない歩き方。

高校生の様な身長と雰囲気を流しているその女は井伊乃と呼ばれ部屋に入ってきた。

 

「おいクァンシ…何故ここに女子(おなご)がおる。」

 

少し威圧感のある顔でクァンシを見れば、すんとした顔で井伊乃を見ている。

 

「あのぉ〜…私21です。」

 

「…は?その雰い「砲代〜それ以上はやめた方がいいぞ〜。」

 

岸辺が砲代の声を遮り、呆れた様にため息をこぼす。井伊乃も苦笑いだ。

 

「いいか砲代。今日からお前は、そこにいる井伊乃がバディだ。」

 

「バディ〜???」

 

部屋の外からは燦々と光る太陽の光がまだまだ、入ってきていた。

日はまだ沈まないみたいだ。




やっとバディ出せた。
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第九発目・ニューバディ!!

少し短めです。
ここから少し新しい展開ですよ〜!


 

「改めて自己紹介しますね。」

 

日本人とは思えない赤く染まった髪の毛、黒い目、そして高校生の様な雰囲気を漂わせる少女が砲代の方へ振り向く。

 

「私は本日より砲代さんのバディとなりました!"井伊乃三咲"です。井伊乃とお呼び下さい!」

 

「ほぉ〜井伊乃さんか!こりゃ、親切に。」

 

公安特異課のリビングホールに元気な声と、喧しい男の声が広がる。人が多くいるこのホールでも二人は少し異質な存在感を放っていた。

 

「よし!自己紹介おわり!」

 

そう言い終わった瞬間、振り返り玄関口へと進み始める。

しかし、砲代がついてきていない事に気づくと振り向き様に声をかける。

 

「それじゃあ、砲代さん…行きますよ!」

 

「行くってどこへじゃ?」

 

「それはもちろんー」

 

玄関からの日が井伊乃を照らし出す。それは逆光の光であり、影を纏った形に砲代には写って見える。すると、どこからか一枚の書類を取り出し砲代に見せながら宣言する。

 

「バディ初仕事です!!」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「井伊乃嬢ちゃんは、どれくらい公安におるんじゃ?」

 

「私ですか〜?私は砲代さんと同じ新人ですよ。」

 

車内が揺れる。

車内には助手席で腕を組んで尊大に座っている砲代と、車を運転する井伊乃の姿がある。

二人での初仕事であるが、二人の間に蟠りはないが、暑い夏の日差しが車内に入り、二人ともシャツにひっつく汗に気分の悪さを感じていた。 

 

「じめじめしてて暑いですね〜。夏だって気分です。」

 

「ほうじゃのぉ…こんなじめっとした暑さはフィリピンを思い出すな。」

 

窓の外に目をやると、外には青々とした緑が外に広がっている。山の方へと車を動かしているからである。

 

「え!フィリピン?!旅行にでも行ってたんですか?」

 

「いや…あー。」

 

口篭る。

流石に言えない。言えるはずがない。

流石にこの(バカ)にもそれは分かっていた。

 

こことは違う世界からきましたーなんて、誰が信じるんじゃ…

 

「…?どうしました?」

 

「いや、少し前の仕事があっての。海が綺麗じゃったぞぉ〜輸送船から塩の風を浴びながら〜」

 

「船…?まぁ、行き方は人それぞれですもんね。」

 

一瞬怪訝そうな顔をするが、顔を元に戻し前を向く。

 

「あ!後さっき私のこと"嬢ちゃん"っていいましたぁ?!」

 

「あー!間違えた間違えた!井伊乃さんじゃったのぉ。」

 

不機嫌な井伊乃を宥めながらふと、窓の外を覗く。日はそろそろ沈みかけていた。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

車が目的地に着いた頃には日は沈みきり、時計の張りは午後8時12分を指していた。

車を通報主の家の前に止め、外に出る。

 

不気味な風が山の中を駆け巡り、二人の背中を押している感覚になる。

暗く月は出てきていない。新月であったかは覚えてはいなかったが、そんな夜に砲代はひどく違和感を覚えていた。

しかし、そんな暗闇の中でも家には灯りがついている様であった。

 

「ごめんくださーい。」コンコン

 

井伊乃が声をかけるが、一向に返事が来ることはない。あたりの風は一層強さを増し、木々は風に靡く音で不気味に音を奏でている。

気づけば、時刻は8時16分になっていた。

 

「おかしいなぁ…「おい!公安じゃ!早く出てこんかい!!!」

 

「うわぁあ!そんな声出したらダメですよぉ!」

 

井伊乃は慌てて砲代の背中を掴み、戒める様に揺らすが子供を相手にする様に砲代は手を離させる。

 

「…おかしいぞ…」

 

風が吹く。

夜の闇が辺りを埋め尽くし、木々が不気味な音を奏でる。

部屋の中から光が出ていることは分かる。

しかし、砲代は気付いていた。

 

「音がせん…今の時刻からして、本当に中に人があるなら何かしら飯の準備やらしてあるはずじゃ。」

 

「…!もしかして!」

 

井伊乃は急いで扉を開けようと扉へ駆ける。

扉を開き中を覗く。砲代も後に続いて、玄関を覗くが、何もない。そして音もない。

一帯には沈黙だけが漂っている。

 

「行くか…井伊乃嬢ちゃん…」

 

「はい…あと、私は子供じゃありません。」

 

冗談を投げ合いながら、中に入れば家の中の不自然さを感じる。沈黙…ひたすらに沈黙している。

聞こえてくるのは、外の風と二人分の足音だけ。

人がいる様には感じないのだ。

一抹の不安を感じながらも、井伊乃は廊下を過ぎたドアが目に入る。

ドアにはリビングと書かれた木の札があり、子供がいたであろうイラストが札を飾っている。

 

「砲代さん…こっち。」

 

「よし。ワシが行く。」

 

砲代は瞬間扉を蹴破り、中に入る。バゴーンという破壊音は先程無音だった部屋全体を埋め尽くす。

すかさず、刀を抜き臨戦体制になりながら部屋に突入する。井伊乃も後に続き中に入るが…

 

「公安じゃ!通報があってここに…」

 

「あうぇ?!」

 

部屋には綺麗に整頓された部屋の家具に、出来立ての調理済み料理達、針が壊れている時計、のっぺらと部屋を灯る白熱電球…そして

 

 

 

 

…干からびた老夫婦の遺体だけがそこに存在していた。




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やってくれると井伊乃ちゃんと砲代の挿絵を描くかもしれません(適当)

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次弾装填中・散髪

幕間のようなものです。
現世に帰って来たばかりの砲代が散髪に行きます。


 

 

7月下旬、ようやっと地獄から戻って来た砲代はクァンシや岸辺と共に臨時のチームを作り行動していた。

そんなある日…

 

「お前…髪切りに行ってこい。」

 

「そう言われてみれば、砲代ってヒゲも髪も長いよな。おっさんみたいだぞ。」

 

「ん?あぁ〜そうじゃなぁ。」

 

別におかしなことではなかった。

地獄では剃刀はないだろうし、ハサミもない。現世に来たばかりの頃はもっと酷く、これでも匂いも風貌も良くなった方である。

 

「そうか…床屋にでも行くかぁ。」

 

そう言って自分の髪を触る。

少しゴワゴワとしていて、お世辞にも清潔感がある様には見えない。

肩甲骨を跨ぐ程の大きさの髪は、何度か戦闘でも邪魔になっていた。

 

「よし!俺がいつも言ってるとこに連れてってやるよ。」

 

そう言ったのは岸辺であった。

この男、顔に巨大な傷はあるがその清潔感と美貌により女子からはモテモテである。

そんな男が行く床屋と言うのであるから、砲代も納得せざる得なかった。

 

「お〜、なら行くか!」

 

日差しは夏を匂わせる様な淡い光をしていた。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「こんちはー。」

 

店の扉を開き岸辺が中に入る。

中はレトロな雰囲気を醸し出す理髪店であり、清潔な格好をした店員と客がちらほらといる。

 

「「あ!岸辺君だ〜。」」

 

「お、みんな元気してた?」

 

突然、店員の何人かが岸辺に寄ってたかる。全員女だ。

軽い口調で会話をし、女達も面白そうに会話する。

 

「岸辺君今日は髪切りに来たの?」

 

「いや、俺じゃなくてこいつの髪。」

 

「「わぁ…」」

 

女達が砲代を見た瞬間、驚きと何処か侮蔑している様な目線で見られる。

 

「おい、岸辺また冷やかしか?」

 

「よぉ、ソウタ。違う、同僚の散髪の為だよ。」

 

「ならいいけどよ。」

 

すると、奥から男が一人やってくる。

これまた美形の男だ。パーマを掛けた髪にサスペンダーをつけた男。

二人は仲が良さそうに言い合うと、砲代の方に近付いてくる。

 

「こんにちは、ソウタです。」

 

「おう、ワシの名前は砲代じゃ。」

 

「じゃあ、砲代さん。こちらにお掛けになってください。」

 

席まで案内され、少し待つとソウタがやってくる。椅子を下ろし準備は完了だ。

 

「どんな風にしましょうか?」

 

「おー…髪はある程度で良い。後ろで括れるくらいじゃ。そんでもって、髭は全部剃って欲しい。」

 

「分かりました。」

 

そう言うと、散髪を始める。

チョキチョキ…チョキチョキ…バッサリと髪の毛を切られるのは結構新鮮である。

そこからは、雑談であった。

公安の危険な職務や、岸辺とは高校の頃の同級生であること、岸辺が毎度一人の女に殴られていること。

そんなくだらない雑談である。

 

「―結構スッキリして来ましたね。あれ?砲代さんって何歳なんですか?」

 

「ワシか?にじゅ〜…29じゃ!多分。」

 

「本当ですか?!いや、顔がまだ25歳くらいに見えますよ!」

 

「なんじゃ、お世辞かぁ〜?」

 

楽しげな会話は終わり、ようやっと散髪は終わった。

立ち上がり一言二言会話をした後髪を括る。

 

「待たせたの。」

 

そう言って岸辺の元に戻っていく。岸辺は若干驚いた表情だ。それを見ていた女達も振り返り砲代を見る。首元まである括った髪に、彫りの深い顔、そして若いその男には先ほどは皆無であった清潔感が蘇っているのだ。

 

「「ほんとにさっきの人ですか?!」」

 

「ん?あぁ、岸辺くんと話してた子らか。」

 

先程の表情とは打って変わって驚きの表情だけが見える。

 

「凄いだろ、いや俺も驚いたけどさ。」

 

ソウタが後ろからやってくる。

何処か楽しそうで、スッキリした表情だ。

 

「29ってマジだったんだな。いや、29より若く見えるぞ。」

 

「なんじゃ、お前サンら!同じ様なこと言い寄ってからに!」

 

そう言うと岸辺は笑う。

それを呆れた様な顔で砲代は見つめるのであった。

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは、(公開可能な)キャラ紹介です。

 

石原砲代

 

年齢:29歳(?)

身長:178

体重:79

血液型:O

出身地:神戸

 

趣味:食べ歩き、鍛錬、ドライブ、新聞を読むこと

 

特技:ハンドジェスチャー、オランダ語、スペイン語

 

口癖:「なんじゃ〜」「じゃかあしい」

 

性格:短気で大雑把。陸軍の中でも相当な変人として名を馳せていた。しかし、あり得ないほどの直感の持ち主で最初の銃の悪魔の攻撃を防いだ時の刀での防御は殆どが直感によるもの。

頑固な部分もある一方で、仲間や友人には優しく大体のことは許してくれる。子供や女性にも優しく、陸軍時代では一部の仲間達から「兄貴」と呼ばれていた。

 

契約悪魔:大砲の悪魔(ドン太郎)・???

 

 

岸辺

公安対魔特異1課の狂犬。

しかし、クァンシに出会って2年が経過した今では少し狂犬度合いは抑えられて来ており、軽薄な行動も抑えられて来ている。

 

最近ではよく砲代と共にクァンシに絞られてる。

 

クァンシ

公安対魔特異1課のエース。

最初のデビルハンターとも呼ばれており年齢は不詳。岸辺とは出会って2年が経過しており、打ち解けあってはいるが求婚されるのがめんどくさい。

 

最近面倒なやつ(砲代)が増えてストレスが増えてる。

 

マキマ

内閣直下の機関に入れられ教育されている。

まだ、大丈夫。




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井伊乃ちゃんのプロフィールは次の機会に。


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第十発目・違和感

少し短め


 

 

「どうなってるんでしょうか…」

 

死体を見て井伊乃は呟く。

そう思うのも無理はない、不自然な点が多すぎるのだ。まず死体が干からびている点である。まず人間は普通に死ぬだけで干からびる事もないし場所も普通の家の中である。そして、砲代が一番不審に思ったのは――

 

「あったかいままの飯…こりゃ、死んでまだ時間が経ってないぞ。」

 

「…!と言う事は!」

 

「気をつけろ井伊乃。わしらはもう敵地の中心じゃ。」

 

砲代を見る。

臨戦体制を崩さず、刀を構え辺りを見渡している。リビングには外の木々と窓が揺れる音しかしない。今では先程、何も感じなかった部屋の照明すら不気味に思えてくる。

一歩、一歩と後退りをしながら井伊乃も辺りを見渡す。

 

「なんの悪魔でしょうか…」

 

「しらん。じゃが、死体を見ると蚊か…注射器あたりじゃろ…」

 

辺りを見渡す。しかし、部屋に音はなく砲代は少し焦りを感じていた。

自分の事ではない。井伊乃の事である。

 

わし一人だけなら、ここら全部破壊すれば気が済むが…ここには井伊乃のお嬢ちゃんもおる。

 

砲代は肝心の大砲と言う武器を使えないのだ。

大砲化には周囲の安全を考えなければならない。砲代にとってはバディ…引いては井伊乃が自分の攻撃に巻き込まれることを一番危惧していた。

 

「次はどう―「…!家を出るぞ井伊乃嬢ちゃん!」

 

瞬間、井伊乃を抱き抱え部屋を飛び出し廊下を出る。井伊乃もはぇ?!などとおかしな声を出すが、すぐに理解した。

 

―ゴゴゴォゴゴゴゴゴ!!

 

土砂崩れだ。

音が聞こえた瞬間、家には土砂と岩が雪崩れ込み家を更地に変えていく。家の前にあった車も壊され、何もかもを壊し流していく。

井伊乃が絶句をする間に砲代は安全な場所に井伊乃を下ろし、土砂崩れを見つめる。

 

そして、終わった頃には一帯に月明かりもない山には闇が残り続けていた。

風は一層強くなっているのか木々はまた音を鳴らし続けている。

 

「やばいですね…暗すぎて状況がわかりません。」

 

「まずいの…取り敢えず山を降りるぞ。」

 

「え?!悪魔は「だからこそじゃ。」

 

砲代はポケットから懐中電灯を取り出し、一瞬だけ道を照らす。山を登る道は塞がっているが、下る道はまだ大丈夫な様だ。

電灯の灯を消して、下山を始めていく。だいぶ上の方まで車で上がって来たのだ、1時間以上はかかるだろう。

井伊乃も砲代の後にゆっくりとついていく、悪魔の気配はない様に感じた。

 

「井伊乃の嬢ちゃん。敵に位置がバレてる時、嬢ちゃんならどうする?」

 

「私を子供扱いしないで下さい!…わたしならまず敵の位置をさが「ダメじゃ。」

 

道伝いに歩きながら二人はしゃべる。

暗闇と木々の揺れは未だ現在だ。

 

「撤退じゃ、敵さんと不利な状態で戦ってどうする?敵に位置がバレてるなら、その場に止まったり、そのまま戦おうとすることが一番ダメじゃ。」

 

「…随分と慣れてますね。本当に私と同じ新人ですか?」

 

「これくらいは普通じゃ、先輩方もやっとる事じゃろうて。まぁ…(陸軍時代)は撤退なんてさせてもらわれんかったが…」

 

木々が揺れる音がする。

そのせいか足音も聞こえない。闇夜はその黒さをはさらにまし緊張感を高めていく。

砲代はこの夜に明らかな違和感を感じていた。山には一切の動物の鳴き声はない。ただそこには闇夜に鎮座する山が砲代たちを内包しているのだ。

 

「そういえば井伊乃嬢ちゃん、武器は持ってないんか?」

 

「お嬢ちゃんじゃないです!!もぉ〜…武器ですか?それならもってますよ?」

 

腰から一丁の拳銃を取り出す。

視界が闇のせいで見えないがきっとハンドガンあたりであろう。

 

「ほぉ〜拳銃か。自動か?それとも回転?」

 

「自動です。こっちの方が多く入りますしね。」

 

「ほうか…それなら安心じゃ。」

 

歩く。歩く。

もう1時間は経っているだろうか。

木々もどんどん強く音を鳴らす。しかし…

 

「おかしい…やっぱりおかしいぞ。」

 

何故さっきから動物の鳴き声がせんのじゃ…鳥も虫もないとらん。

 

それに、何故"風は強くなっておらんのに木はこんなに音を鳴らしとるんじゃ!"

 

空を見上げれば、木はしなり続けている。

が、風は少し髪を靡かせる程度。明らかに異常であった。

枝は鞭の様にしなり、葉は振り落とされんほどの木々の暴走にもまるで、接着剤を塗りたくっているかのように頑丈に張り付いている。

こんなことが出来る悪魔…こんなことが起きる悪魔…思考を巡らせれば一つの悪魔が思い当たる。

地獄にて、ドン太郎共に倒したあの悪魔。

苦戦し、ようやくの思いで倒したあの悪魔。

 

「まずい…!おい!井伊乃嬢ちゃん!走…!」

 

異常に気づいた瞬間後ろを向く。

 

 

 

 

 

 

…そこには永遠と暗い暗い闇のみが広がっていた。




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実は今日プロットを書き上げました。
これで大丈夫です(?)


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第十一発目・暗闇ランデブー

井伊乃ちゃんの魅力を伝えたい。
それと、一応伏線みたいなやつも小説全体に盛り込んでるけど気づいてる人いるのかな?


 

 

「ハハハハハハ!!」

 

―絶体絶命

井伊乃の頭の中にはそんな言葉が浮かんでいた。

砲代の後ろを歩いていたその時、まるで自分が神隠しにあったかの様に気づけば獣道の往来に自分が存在していたのだ。そしてなにより、彼女を一番悩ませていたのは…

 

「人間だ!血だ!生贄だ!」

 

そう。この目の前の悪魔である。

まるで布団を頭からかぶっている様なその表面には苔と岩肌の様なものが露出しており、大量の人間の足によって直立をしている。

異様なテンションはもはや不気味さを通り越して、気色悪さすら覚えてくる。

 

「あなたさっきの家の人を殺した悪魔?」

 

「そうだったら?そうだったらどうする?ンフフフフ!!」

 

「そうだったら…」

 

バン!バン!バン!!

 

「―殺します。」

 

「フハハハハハ!!やってみろ!!」

 

先制で攻撃するが、あまり傷はつかない。

そもそも暗闇のせいで敵の急所もわからない。これが明らかに不利である事は井伊乃自身理解していた。これはやばい…冷や汗が背中に走る。

敵は目の前に未だ気色の悪い笑い声をしながらこちらを見ている。

 

「ハハ!女だね!女だな!」

 

木々が揺れる。ありえないほどの強さで。

まるで嵐が来たかの様に揺れ、地面は地割れでも起きそうなほどの音を出している。

 

「男の方は後で殺そう!ここは山の反対側、さっきの場所からここにはどうやっても追いつけないぃーヒヒヒヒ!」

 

「嘘でしょ…」

 

「さ、まずはどこから「コン。」

 

ドカーン!

 

何処からともなくキツネの尻尾が現れ悪魔を吹き飛ばす。

 

「―かかった。アンお願い!」

 

―瞬間

吹き飛ばされた悪魔は十字架の針によって地面から動けない様にされてしまう。目、腕、足、それぞれに十字架が刺さる。

ここで仕留めるしかない。井伊乃は分かっていた。高い知能に、山全体に与える影響力…この悪魔は明らかに公安が担当する中でも強い部類にはいる。

 

「 罪状は 」

 

上空から震える女の声がする。

人間的ではなく、それは刺されている悪魔にも聞こえており山全体にアナウンスの様に流れていた。

 

「老夫婦二人殺害…」

 

震えた声で呟く。

いつのまにか木々の揺らめきはどんどんと小さくなっていている。

決めるならここしかない。

 

「判決!魔「アハハハハハ!!!」

 

バーン‼︎

 

「?!」

 

―吹き飛ばされた。

それを理解するには数秒の時間を要した。詰まるところ失敗したのだ。デビルハンターに置いて一度の失敗は大きな傷となる。

 

「負けぇ!お前の負けぇ!!」

 

まるでガキの様に井伊乃の元に近づき、飛び跳ね煽る。無数にある足はまるでおもちゃをもらった時の子供のように無邪気に踊っている。

砲代に助けを呼ぼうにもここからじゃ遠すぎる。

 

「コン!」

 

敵を吹き飛ばし、咄嗟に逃げ始める。

獣道を辿り下へ下へ下りるのだ。体勢を立て直すのだ。しかし何処かおかしい。井伊乃は何処か違和感を感じていた。下っている感覚がないのだ、右も左も…上も下も…方向感覚が狂い足元が歪む。

瞬間、脚をつまずき転倒してしまう。

 

「やば「アハハハハハ!!見つけたぁ!!」

 

やばいやばいやばい!!

銃を咄嗟に構え撃ちづける。弾薬が切れるまで…しかし、全て打ち終えても悪魔はピンピンとしている。

これは―

 

「バーン!」

 

土が捲られ、砂埃が起こる。

新しい敵かと井伊乃は一瞬勘繰るが、直ぐに気づいた。慌てているのだ。いや、恐怖しているの方が適しているだろうか。

暗闇からでも分かる程大きな目は黒目をぐるぐると回転させ、先程まで笑いって余裕のあった声も嘘の様である。

 

「あぁ!!やばい!!逃げ「待たんかい…待たんかいぃ!」

 

安堵する。来てくれたのだ!彼が!私のバディか!

 

井伊乃が振り返ればそこには。

 

「すまん大丈夫か井伊乃の嬢ちゃん。」

 

頭が大砲になっている悪魔がいた。

 

「ギィやあああああぁぁぉぉぁぁ!!」

 

「待て待て!わしじゃわしじゃ!」

 

「ァァァァァァァ!!!砲代さんが悪魔にぃぃ!」

 

「じゃかあしい!これは契約してる悪魔のせいで「…そろぉ〜」

 

「おい待て。」

 

「ふひぃ?!…俺は通りすがりの優しい悪「んなわけないじゃろ、さっき思い切り井伊乃殺そうとしとったじゃろ。」

 

―静まり返る。

よくわからない空気のまま逃げようとする悪魔を呼び止め撃つ準備をする。

 

「うるさい!うるさい!俺は優しい悪魔なんだぁ!」

 

木々が揺れる。

すると、自分が立っていた地面も揺れだす。

 

「なんですか!こいつ山の悪魔とかですか?!」

 

「違う…奴さんは森じゃ!森の悪魔じゃ!」

 

「ここは俺のテリトリー!地獄では散々な目に遭ってたけど…ここではぶっ殺してやるよぉ!アハハハハハ!!」

 

さっきの優しい悪魔という発言は何処へやら、地面から出た操っている根を鞭の様にしならせ威嚇する。

 

「井伊乃嬢ちゃん、行けるか?」

 

「もちろんです!!」

 

武器を構え二人は構える。

 

後退はない。

 

ここで仕留めなければならない。

 

二人の心は一緒の想いを持っていた。




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やると井伊乃ちゃんが喜びます。


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第十二発目・森と魔女

こう書いていると、自分の文才のなさがわかってしまう。
語彙力が欲しいと思う今日この頃。


 

ーわたしは公安に入った。

しかも、普通の人より死にやすいと言われてるデビルハンターとして。

別に復讐とかお金が欲しいとかではない。両親はまだ生きてるし、お金と言えば奨学金という名の借金がある程度だ。

だけど、わたしはデビルハンターになった。

 

理由は単純だ。わたしはきっと死なない…"アンがわたしを守ってくれる"からだ。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

砂埃が舞う。

埃と暗闇のせいで視界は最悪になっている。砲代は右手の大砲化だけを解除し、左手の大砲を盾がわりに刀で戦っている。

木の根の鞭を使った攻撃は全方位からやって来ており、近接武器を持っていない井伊乃のカバーで砲代は精一杯であった。

 

「小賢しぃい!!さっさとやられんかい!」

 

「ンフフハハァ!!お前の顔をなんで忘れてたのかもわからないけど!その悪魔の姿で思い出した、出した!!」

 

「そうじゃのぉ!あんときはどぉも!」ドォン!

 

近距離で放たれたその一発は、森の悪魔の腹部を貫通する。しかし、その傷はすぐに再生しまた鞭での攻撃を始める。

 

「俺の勝ちぃ〜俺の勝ちぃ!」

 

「クッソォ!じゃかあしい奴じゃ!」

 

「こっちも忘れないで下さいよ!」バンバン

 

「無駄〜無〜駄〜アハハ!」

 

砲代も一度井伊乃の元に反転する。

このままでは埒が開かない。

 

「…砲代さん。倒せる方法…思いつきました?」

 

「いいや、まだじゃ…めんどくさい奴じゃの」

 

「なら、私に賭けてくれませんか?」

 

「…ほう?」

 

井伊乃の方を見ると、その顔は何処か自信がある様に見える。すると、井伊乃はポーチから四つ十字架上のナイフを砲代に渡す。

背中伝いに悪魔に見えない様に…すると背中をトントンと叩き、目を合わせ見つめる。

 

「その数の分だけ、あいつに突き刺して下さい。刺した後は…私がやります」

 

「ほうか…信じるぞぉ!」ドォン!

 

すぐ様戦いに戻る。

森の悪魔も回復を終えまた攻撃を始める。

 

「作戦ン?そんな事しても「喰らってからその続きを言え。」

 

鞭を切り近づいていく。

左の大砲を火砲に変える。貫徹弾と砲代が叫ぶとガチャリと大砲が音を変えて準備する。

 

「一発喰らってけ!」ドォン!‼︎

 

また体に穴が空く。すかさず砲代は内側から殴るが、鞭で体を打たれ距離を取られてしまう。

 

「まだそんな元気なのぉ??」

 

「そうじゃろ。わしの取り柄じゃ。」

 

「砲代さん!さっさと4本刺しに行ってください!」

 

「わかぅとる!」

 

すると、砲代は大砲化を収め元の姿に戻る。

ナイフを両手に持ち、構える。

 

「準備はいいか…森の。」

 

「アハハハハハ!来てみろよぉ〜。」

 

鞭をナイフで器用に切る。

しかし…

 

「捕まえた!!」

 

「ぬわぁ?!」

 

左手を根っこに掴まれる。

最後の足掻きの様にナイフを投げ2本が刺さるるが左手に持っていた物は奪われ、地面に落とされてしまった。

 

「ざぁーんねーん!これで本当ーに俺の勝ちぃ!!!」

 

「…いまじゃ」

 

遂には右手と両足も根っこに掴まれる。

少しずつ縛る力は強くなり、キリキリと骨の軋む音もする。

 

「アハハハハハ!死んじゃ「アン!もう一度お願い!」

 

「んがぁ?!」

 

地面から十字の針が生える。

しかし、先程よりも大きく…そして"赤かった"。

 

「なんで!さっき4本って!まだ2本しか刺さってー「わしの勝ちじゃのー!森のぉ!」

 

「 罪状は 」

 

空から声が聞こえる。

暗闇で染まっていた空はいつの間にか少しずつ明るくなってきている。

 

「老夫婦二人殺害!あと、私と砲代に対する殺人未遂!」

 

「 判決は 」

 

「判決は魔女!火炙りの刑に!」

 

ー瞬間

森の悪魔の体に火がつく。

黒い…黒い…黒い火が。

 

断末魔と共に燃えゆくその悪魔は、その夜と共に二人の前から消えた。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「ふぅ〜助かったぁー」

 

「疲れたのぉ〜」

 

「お客さんご注文は?」

 

「あ、わたしチャーハン定食で」

 

「わしは親子丼を頼む」

 

ここの食堂を切り盛りしている奥さんであろうか、はいはいと言う言葉と共に裏にいる主人に注文を伝えにいく。

二人は下山した今、こうやって朝食をとりに来ているのである。

日差しが当たる窓側に腰を下ろしスーツを脱ぐ。

 

「帰りの車が来るまで待っていましょうか。」

 

「そうじゃの〜。」

 

「というか、さっきのナイフ捌き凄かったですね!2本は見えましたけど、後の1本は何処に刺したか分かりませんでしたよ」

 

「そりゃそうじゃ、あいつの腹に穴開けた時に、体の内側に刺してやったからのぉ」

 

二人は笑顔で語り合う。

夜の闇はなんだったのか、二人はそんな事を思ってしまうほどの太陽の日差しを浴びながら朝食を待つ。

その時、砲代はある事を思い出す。

 

「そうじゃ、井伊乃のお嬢ちゃん。さっきの悪魔はなんじゃったんじゃ?」

 

「だからわたしの事は…ってもういいです…さっきの悪魔って私の契約してる悪魔ですか?」

 

「ほうじゃ。」

 

「あー…あれはですね。魔女裁判の悪魔です。」

 

「ほぉ?魔女裁判の?なんとも局所的じゃの。」

 

魔女裁判…悪名高きキリスト教における法的根拠も持たない刑罰であり、魔女狩りとも呼ばれるそれは「12世紀以降キリスト教会の主導によって行われ、数百万人が犠牲になった」とも呼ばれる程悲惨なものであった。

砲代は不審に思いながらも井伊乃の話を聞く。

 

「わたしですね…魔女裁判の悪魔…わたしはアンって呼んでるんですけど、アンと契約したのは中学生の頃だったんです。

 

わたしってこの赤い髪を持ってるじゃないですか?だから、いじめられてたんです。

親もどっちも日本人でしたし、大人達からは不倫してできた子供なんじゃないかって。

 

わたしは孤立しました。家には親がいるけど、迷惑をかけたくないわたしは毎日学校に行っていました。

いじめはエスカレートしましたし、大人達は見て見ぬ振り…でもそんな時にアンが来てくれたんです。

 

アンは私に言ったんです。

「貴方を助けてあげましょう。魔女の様な貴方を…魔女ではない貴方を。」って。

…その日から、わたしはいじめられなくなりました。」

 

「そりゃまたなん「はい!お待ちどう様!!」

 

「わぁ〜美味しそう!…食べましょうか。」

 

「…そうじゃな。」

 

朝日が二人を照らしいている。

しかし、砲代には太陽の光に照らされた井伊乃が少し……恐ろしく見えたのだ。

 




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第十三発目・新人ちゃんとお酒

書いてて楽しい。
これからもっと楽しくなる。

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ありがたやぁ…!


 

 

「新人歓迎会ぃ〜?」

 

「そーですよ!やりませんか?特異1課の皆さんで!」

 

ハイテンションで井伊乃は喋る。

あの戦い(森の悪魔戦)から一ヶ月、この二人は順調に仕事をこなしていた。そして、八月…この八月は夏の大規模な人事異動や新人加入が毎度のこと起きており、公安全体でこう言う歓迎会と言うのはよく行われていたのだ。

 

先輩達が後輩達を歓迎し、親睦を深め合う…後輩達は先輩デビルハンター達から生き残る方法などを聞き、学び社交の場としてだけではなく仕事の場としての側面も持ち合わせる。

 

 

 

―が、それは建前のお話。

 

 

 

「おい…井伊乃嬢ちゃん、飲みたいって顔に書いてるぞ」

 

「うへぇえ?!あれ?そんなに出てましたか!」

 

「あぁ、それもうハッキリとな」

 

「へぇ〜歓迎会?いいじゃん、俺も呼んでよ。クァンシお前は?」

 

「…行く」

 

何処からともなく岸辺が顔を出してくる。

抜け目のない奴だ。

いつのまにか後ろにいたクァンシも参加すると言って井伊乃は余計にテンションを上げる。

 

「やったぁ!わたしほかの新人ちゃんたち呼んできまーす!!」

 

「おい!お嬢ちゃん走るな〜危ないぞ!」

 

「…うまく行ってそうだな」

 

岸辺は二人の背中を見ながらそう呟くのだった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「さぁ〜新人ちゃん達の入社を祝ってぇ〜!」

 

「「「「「かんぱ〜〜い!!」」」」」

 

「わはぁ〜!!すみませぇ〜ん!生四つぅ!」

 

「井伊乃先輩…俺たちの分ですか…?俺下戸だから飲めませんよ?」

 

「何言ってんの新人君、全部私が飲むんだよ?」

 

「えぇ…」

 

歓迎会が始まれば皆は思い思いに喋り始める。

新人同士で飲み合うもの、後輩達をおちょくるもの、

一人でただ飲みまくるもの(井伊乃)

バディに絡み殴られるもの(岸辺)

皆が楽しく時間を過ごす。

 

「あ、そうだ!新人ちゃん達さ?自己紹介しようよ。初めての人もいるでしょう?」

 

そう言ったのは2年目の佐々木と言う男であった。

佐々木はマイクに見立てた筆箱を新人であろう子に渡し始める。

 

「それじゃ!まず君!」

 

「は、はい!俺は三島ソウジです。契約悪魔は…狐とメリケンサックで趣味はトレーニングです!」

細身な体に金髪、ピアスを開け不良少年にも見える風貌だが、その言葉遣いには何処か育ちの良さが見える。

 

「ソウジ君!元気があっていいねぇ〜じゃぁ次!」

 

「よし!俺の名前は丸山ヒルコっす!契約悪魔はまぁ、秘密で趣味は山登りっすね!」

 

ガッチリした体格に、顎髭の生えた体育会系男子といった所だろうか。

しかし、どちらかといえばラグビーをしてそうな雰囲気の人間に見える。

 

「山登りぃ〜イヒヒ!見えねぇ〜」

 

「よく言われるすよぉ〜」

 

「アハハハハハ!アハハハハハ!!!」

 

「あれ?先輩?」

 

「ンフフ!山登りぃぃいひひひひひ!!」

 

「…こりゃダメだね、佐々木って笑い酒しちゃうから。ここからは私が仕切ってあげよう。」

 

そう言って出てきたのは、これまた先輩であり岸辺の同期である花御と言う女性デビルハンターだ。

 

「よ!姉御!」

 

「うるさいぞ岸辺!ほら次君でしょ?」

 

「あ!はい!江島奈江です…契約悪魔は髪と本で…趣味は読書です。」

 

丸メガネにショートボブ、服は明らかサイズを間違えたものを着ている様な女の子である。

 

「奈江ちゃんかぁ〜可愛いねぇ〜」

 

「おい井伊乃嬢ちゃん、絡み酒はダメじゃろ…」

 

井伊乃の襟を掴み自分の席まで引き寄せる。

顔を赤くしてる井伊乃は砲代の砲代の方を見るが、砲代の机には既に瓶が3本開けられていた。

 

「うわ!…砲代さんってもしかしてザルですか?」

 

「おお!すげぇ!砲代さんって言うんすか!?」

 

「本当だ…こりゃヤベェな…」

 

新人男子二人が砲代の席にやってくる。

二人とも空き瓶に驚いてる様だ。

 

「なんじゃ?若造共ぉ…飲むかぁ?」

 

「お!やっちゃいますぅ?」

 

「俺もお供します!」

 

砲代は三島と丸山と飲み比べをしながら世間話に花を咲かせる。

砲代にとっては久しぶりの宴会だ。

 

「ほらほらぁ〜奈江ちゃ〜ん」

 

「井伊乃先輩…顔真っ赤、飲み過ぎですよ」

 

「ほら、井伊乃!お前サンはそろそろ飲むのをやめろ!」

 

「あぁ!私の酒瓶がぁ!」

 

誰もが笑ってる。

誰もが楽しんでる。

砲代はこんな日常が酷く楽しく。 

 

 

しかし

 

この楽しみを親友と分かち合えないのが酷く寂しく思えるのだ。




まだ続きます。
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第十四発目・「兄貴」として

さぁ!新人編のラストです!


 

「地獄にいたんすかぁ?!」

 

「嘘ですよね…?」

 

「いやぁ、ほんとじゃぞぉ〜」

 

「マジかヨォ〜!!え?なんか証拠とかあるんすか?!」

 

「…こいつはどうじゃ」

 

砲代は耳にかけていた紐を持ち上げる。

いつもは右耳にかけており、あまり気にならない様にしてあるのだ。

 

「頭から紐…?」

 

「こいつはのぉ…ワシの親友が残したもんでの、こいつを引っ張るとワシは一時的に悪魔になれるってわけじゃ」

 

「すげぇえええぇええ!!やってみてくださいヨォ!」

 

「バカ言え!こんな所で出来るかって「―ほい」

 

ー瞬間

顔から大砲が現れ悪魔と化す。

感嘆の声をだす三島と丸山を他所に、江島はひぇぇええ!などと素っ頓狂な声を出している。

皆も驚くがすぐさま砲代が状況を説明しなんとか鎮静化する。

 

「おいクァンシ!何をするんじゃ!」

 

「…ん?あれ薬玉…」

 

「クァンシ、お前もう飲むな」

 

岸辺がクァンシの頭を掴み次席に戻す。

顔は一切酔ってるふうには見えないが、どうやらしっかり酔ってしまってるらしい。

 

「砲代さんすげぇスねぇ!!兄貴って呼んでもいいスか?!」

 

「俺も呼ばせて下さい!」

 

三島も丸山も赤い顔でそう叫ぶ。

砲代はその光景が酷く懐かしく思えて来た。

軍学校時代の後輩や同級生からも呼ばれたそのあだ名は、砲代のアイデンティティでもありあり方そのものでもあった。

 

「…懐かしい呼ばれ方じゃの~」

 

「ん?なんスか?」

 

「いいやなんもない!よしお前サンら呼べ呼べ!ワシが今日からお前サンらの兄貴じゃ!」

 

「おお!カッケェス兄貴!!」

 

「よ!日本一!」

 

「グハハハハハ!!」

 

「砲代君達良くやるね…」

 

「新人の心をしっかり掴んでんなぁ〜」

 

新人を迎えようやっと慣れ始めた砲代と井伊乃を見て安堵する。

そんな二人を先輩達は温かい目で見てくれていたのだった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「え?!これ全部砲代さんの奢りだったんですか?!」

 

「えぇ、えぇ!ワシの奢りなんじゃら、黙って奢られろ!」

 

「丸山君、この男ね、公安に入ってから一度も休暇を使った事ないのよ…?」

 

「本当ですか?!いや、それが公安の常識ってこと…「ないない!」

 

「なんじゃ?花御の姉さんと丸山君?」

 

店員に会計を済ませたあと、砲代は二人に目を向ける。他の皆も帰る支度をして騒がしくなっている。時刻は22時に差し掛かろうとしている。

 

「いや、砲代君は一体いつ休むのかな〜て」

 

「休みか?休み…ワシのぉ〜前の仕事(陸軍軍人)には休みなんてなかったからのぉ」

 

「ブラック企業じゃないですか!」

 

「は?なんじゃ?ふらぐきぎょう?」

 

「ブ ラ ッ ク 企 業 ! おじいちゃんかよ!」

 

どっと笑いが起こる。

困った顔をする砲代をみて丸山も笑い出し始める。こうして、新人歓迎会は終わりを迎えたのだった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

ここは砲代の借りている一つのアパート。

 

 

建物自体は最近建てられたらしく、全体的に綺麗な様式をしている。電車から徒歩12分、砲代はようやっと自分の部屋に戻って来たのだ。

 

カツカツと階段を登り部屋の前に立つ、その時砲代はある異変に気づいた。

 

部屋に灯りがついておる…?

 

砲代と言う男は、これでも元帝国軍人。

朝は午前6時、夜は午前0時には寝ている。軍人時代からのルーティンとも言えるものであるが、最も重要な事は部屋の戸締りや清掃等である。

 

地獄に落ちる寸前では偉くなっていたので、問題はなかったが入隊時など何度叱られた事だろうか。

 

故に、砲代は几帳面とも呼べるほど部屋の整理整頓や外出時の戸締りは完璧であった。ましてや電気を消し忘れることなんてあるであろうか。

 

砲代は刀を肩から手に持ち変え、ゆっくりとドアノブを握る。どうやら鍵もかかっていないらしい。部屋の壁は結構薄いので怒鳴るとダメなのだが、このアパートはまだ砲代以外誰もいない。

 

砲代は扉を勢いよく開け土靴のまま部屋にずけずけとは言っていく。

 

「誰か!ワシの部屋に無断で入る不届者わァ!」

 

刀を構え突入する…しかし

 

「おかえり。ご飯は作ってるよ」

 

「……?!なんでお前さんがここにおるんじゃ!!」

 

驚愕する。

何故ならその場に居たのは―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マキマ…!!」

 

「フフ、いい反応だね。砲代さん?」

 

―――あの面談(圧迫面接)の時に会った少女であった。




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これにて公安新人編を終えまして、次のパートに入っていきます。
公安と新たな敵対組織との大規模な対決…そして家にやって来たマキマの考えとは?!
乞うご期待!


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カルト教団編
第十五発目・朝ごはんを食べた後


遅れた(1日)
みんな待たせたね!ロリマキマの時間だよ!


時刻は23時前、住宅地は寝静まり誰もが明日のために英気を養い夢の中に安楽を求める。

が、そんな時にこのアパートは例外的な状態となっていた…深夜…アパート…男女が二人…何も起きないはずもな「じゃかあしい!何も起きんワイ!!」

 

「どうしたの急に?」

 

「あぁ?!なんでもないわい!それよりもじゃ!」

 

慌ててマキマに指をさし、大きく足踏みをする。

 

「なぁーんで、お前サンがおるんじゃ?!」

 

「あぁ、その事だね」

 

 

 

 

 

 

 

「ほうじゃ!なん「私とあなたは家族でした。私を信じなさい、これは命令です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マキマは砲代の目を見る。

その目には矮小な人間のすがたが―

 

「は?()じゃが?」

 

静まり返る。

砲代は眉間に皺を寄せマキマをじっと睨みかける。

 

「……やはり効かないね」

 

「何がじゃ?!あと前も同じようなこと言った記憶があるぞ」

 

「そう?じゃあコレ」

 

そう言ってちゃぶ台の上にあった封筒を渡される。そこには"公安警察・上級委員会"と石原砲代殿へと記されている。十中八九公安のお偉さんからの手紙であろう。

訝しみながらも封筒を破り中身を見る。

 

「ぇーと…?『マキマの教育を石原砲代殿に委任する』じゃとぉ?!」

 

「うん。実質的な養子みたい感じかな」

 

「…………かな?じゃなぁい!!」

 

「本当に面白いリアクションを取るんだね」

 

頭を抱え絶句している砲代を横目にマキマは微笑んでいる。不気味なほどに美しくそして…魅惑的…

 

「ワシにガキの子守しろと言うんかぁ!?」

 

には見えていなかった…

 

「…これも効かない…?」

 

「なんじゃ!効くだの効かないだの!飯はもう食べたぞ?」

 

「私の作ったご飯が食べれないというの?」

 

「あぁ、腹一杯じゃ」

 

「……」

 

その顔はどこか驚いているようにも見えるし、怒っているようにも見える。

 

「…………あぁ!そんな顔するな!食べるから!!」

 

そう言って、目の前のカレーを食べる。しかし…

 

「うぇぇ?!なんじゃこのまずさァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「アハハハハハ!!」

 

ー時刻は23時、この日の夜の住宅街では男の絶叫と女の笑い声が響いていた。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「朝じゃ、起きろマキマ」

 

目を覚ませば部屋には美味しそうな匂いがする。卵と…ウィンナーであろうか?そう考えながら布団を畳み、着替え始める。砲代は後ろを向いて料理に夢中だし、着替えている事も察しているだろう。

 

着替えが終わり、布団を仕舞うために押し入れを開けるとそこには古い銃が置いてある。

弾薬もないし、もうボロボロになっているけど綺麗に手入れされている。気がつけば砲代がちゃぶ台に料理を置いて朝ごはんの準備を始めている。

 

彼は特殊だ。

私の支配が効かないのだ。条件を満たしていないわけではない。彼は私より明らかな地位の差があるし、内閣直属の人間である私は明らかに彼より上に立っている。

しかし、彼には効かなかった。

あの時、彼は私だけではなく公安の上層部に対しても啖呵を切った。それは、驚くべきことだったし、何より興味深かった。

 

私はその時思ったんだ。

もしかしたら、彼は私の―

 

「マキマ、お前サンこれからどうするんじゃ?」

 

「どうするって何?」

 

 

 

 

―午前7時、東京のとあるアパートでは一人の大人と子供が朝ごはんを食べていた。

 

 

 

 

新聞を読みながら彼は朝ごはんを食べている。

行儀は少し悪いけど、口に入れる時はしっかり机に一旦置いてるし、特に口出しはしていない。

砲代は何か心配気に私を見る。

 

「学校じゃ」

 

「学校…?私行ってないよ?」

 

「……もう何も驚かんぞ…」

 

そう言った彼は食事を止め部屋にあった電話機に手を出す。すると何やら一言二言話した後、受話器を元に戻す。

すると、彼は急いで朝ごはんをかき込み味噌汁で流し込む。

 

「マキマ!出かける準備をせい!」

 

「…?どこに行くの?」

 

「……公安じゃ!」

 

砲代はマキマを元気づけるように笑った。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

ーそうしてワシとマキマは部屋を出て公安警察本部まで向かった。

その姿はスーツではなく軍服姿、まるで何処かの軍人が子供を連れて殴りこみでもしに来たのかと思えるようだった。

 

「ちょっと君!待ちなさい。許可もらって「じゃかぁしい!ワシは公安対魔特異1課の石原砲代じゃぁ!」

 

「おい、お前!うるさいぞ!」

 

「…道を開けなさい。これは命令です。」

 

その瞬間、警備隊が凍りつく。砲代はなんじゃ?と暴れるのをやめ警備達を見るが、そこにはいつぞやの死んだ表情をした警備員達がいた。

 

「な、なんじゃ〜キモ〜…」

 

「早く行こ」

 

そう言うと、ズンズンとフロントを抜け受付に入る。そこでまた一言二言話すとエレベーターに入りあの部屋を目指す。あと面会(圧迫面接)を行ったあの会議室にだ。

 

エレベーターを降り、長い廊下を抜けた先にあった扉を開けた瞬間、砲代は頼もぉ!と声を荒げ中に入る。

中にはあの時の男達がいた。

 

「なんだね砲代君。急に呼び出したかと思えばマキマを連れてくるなんて。あの手紙に不服でもあったのか?」

 

「そうじゃないわい、ワシは一つ許可をもらいに来ただけじゃ。」

 

あの時と変わらぬ怒りで満ちた顔で、男達と顔を向ける。目の前にある椅子には座らず、大きく壁のように立ち足は肩幅に合わせて背筋を伸ばす。

確実にこれはお願いをする素振りには見えないものであるが…

男達は思い思いに机の上の資料のような物を見ている。少なくとも話を聞く体制でもないだろう。

 

「君は随分とマキマ君に肩入れするね。」

 

男の中の一人が喋る。

 

「何かね?もしかして情でも湧いたか?」

 

「当たり前じゃ。バカかお前は?」

 

―部屋が凍る。

その発言には後ろで不敵な笑みを浮かべていたマキマですらその表情を歪ませるほどだった。バカか?バカかと言ったのか?

 

「ワシはコイツ(マキマ)を養子にしておる。つまりはワシは今コイツ(マキマ)の父親じゃ。」

 

「なるほどね…」

 

マキマが呟く、先程からやけに優しくされていたのはこう言うことかと、そう思う。

悪魔である私を子供と言い、ましてや自分を父親と言うこの男にマキマは不快感を感じるどころかどこか安心感を抱いていた。

砲代は続けて言う。

 

「そろそろ本題に入らせてくれ。ワシの願い事じゃ。」

 

「なんだね…現実的で無ければ脚下するが?」

 

「問題ない。現実的も現実的!ワシは願うのは一つ、こいつに義務教育をさせてやれ。」

 

「……悪いが―「 な ん じ ゃ ? 」

 

部屋に緊張が走る。

まるで電気が体を巡るように…目の前に爆弾があるように…男達は次々に砲代の方を見る。

先程から体勢は一つも変えていない。しかしそこには明らか、先ほどとは違った人間がいる。

修羅がいる。顔は明らかに歪んでおり、目は今にも人を殺しそうなほどにギラついている。

 

「 な ん じ ゃ ? 」

 

「…正当な理由を聞きたい。」

 

「単純じゃ、コイツ(マキマ)がまだ中坊くらいだからじゃ…この年で学校に行かんとなると、色々と問題が起こる。」

 

「……教育ならもう済んでいるが?「何を言っとるんじゃこのタコ?」

 

どんどんとプレッシャーは強くなっていく。

顔を合わせていないマキマにすらその迫力が伝わってくる。

 

"髪が逆立っている"…

 

そう見えるような程の迫力だ。

 

「学校で学ぶんは勉強だけじゃない、人との関わり方や常識、自己のあり方を学ぶ場所じゃ!そこにおらんと言うのは…最悪人間を理解できぬ魔物になる…」

 

「?!」

 

「…何を驚いとる?大人ならわかるじゃろ!」

 

男達はその後反論などできなかった。

砲代の般若の様な怒り様…そして何より…

 

 

マキマのその目を見た瞬間、何も…何も言い返せなくなっていたのであった。

 

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「降りちゃったね。許可。」

 

「降りるじゃろ。そりゃ〜」

 

「分かってたの?」

 

マキマは砲代の方を見る。

その目はどこか子供が興味を持った時にする目に見えた。

砲代にはそう見えていた。

 

「そりゃのぉ〜ワシはこういうのには慣れとるしのぉ」

 

「ふぅん」

 

 

フロントを抜け外に出る。

まだ12時半ごろ…外には車や多くの人達が歩いている。

 

「そう言えば、"なっちゃったね"」

 

「何がじゃ?」

 

「砲代さんの子供に」

 

「…まぁ、そうじゃの。ワシのことは好きに呼べぇ…」

 

砲代は照れくさそうに歩き始める。

きっと昼ごはんを食べれる場所を探しにいくつもりだろう。マキマは柄にもなく子供らしく砲代の背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「"待ってお父さん"」

 

 

 

 

 

 

 

午後1時、東京のとある喫茶店では二人の親子が昼ごはんを食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平等な社会が欲しかった。

 

 

 

だけどその前に、私は家族が欲しかったのかもしれない。




過去一長いね。
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さて、ここから第三章!
楽しんで行こう!


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第十六発目・ラーメンは豚骨派/転校生はグルグル目

一日二本達成!


 

 

「協力捜査ァ〜?なんすかそレェ〜?!」

 

「うるさい丸山。(上層部)からの命令だ。」

 

クァンシが睨みを効かせる。

丸山もすぐに引っ込み、背筋を伸ばしていまう。

 

事情はこうだ。

日本国内で一時期人気を博していた宗教が、カルト化し国家転覆を図っているらしい。

公安は以前からソレをマークしていたが、遂にそれらしい情報を手に入れる。しかし、カルト側もソレを察したのか警戒を強め、昨日公安の者がカルト教団の関係者に殺害されたと言うものらしい。

 

「で、ワシらは何をすればいいんじゃ?」

 

「それは…」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

ー東京某所

開発が進む東京の街を公安の男達は歩いていく。

ここには老若男女様々な人間が交差し、ひしめき合う。そんな所に…

 

 

「なーーーーーーんじゃ!!!結局変わらんじゃねぇかいな!」

 

ひたすらキレ続ける男が一人…

 

「まぁまぁ、結局俺らにできることなんてこれぐらいっスよ。」

 

「そうですよね。俺もなんかカチコ…家宅捜査とかするのかと思いましたけど。」

 

新人二人を引き連れる砲代。

結構クァンシが上層部から言われた具体的な仕事内容とは"パトロールの強化"しかなかったのだ。

砲代はこの新人二人の研修ついでにパトロールを行っているのであるが…

 

「なんもないっすね。」

 

「ですね。」

 

「じゃのぉ〜」

 

何も起きないのだ。

20人に7人が悪魔によって殺されるこの世界は東京でも1日に何体かの悪魔が発生する。

しかし、この日は"当たり日"と言われる仕事が少ない日なのかも知れぬと砲代は思っていた。

 

「あぁ、そう言えば砲代さんは聞きました?」

 

「なんじゃ?」

 

三島が砲代に話を振る。

信号待ちの時間を縫って話を始めた。

 

「二課の方でまた殉職者が出たらしいですよ。」

 

「…それがどうした?」

 

「どうしたって…悲しくなんないんですか?」

 

三島がその悪い目つきをさらに凶悪にする。

しかし砲代はその目を見て逆に優しな目で、そして乱暴に三島の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「いいか三島君?ワシは戦いで死ねるのは本望じゃ。」

 

「というと「じゃが、これはワシが昔兵士として生きてたから言える事じゃ。」

 

三島と丸山が目を見開き砲代を見る。

しかし、砲代は二人に目もくれず、どこか遠くを見ながら話を続ける。

 

「じゃが、お前サンらは違う。お前サンらは兵士じゃない。軍人じゃない。ただの憲兵もどき共じゃ。」

 

「「……」」

 

「仲間が死んで悲しむのは当たり前じゃ、それは腹が減ったから飯が食いたくなるのと同じじゃ…当たり前のことなんじゃ…まぁ、ワシも本当は悲しいがな。」

 

「そうですか…」

 

「顔に出さぬ、人に見せぬ、泣くなら人前じゃなく誰もいない墓の前でやれ。それが男じゃ。」

 

三人の沈黙は賑やかな街並みに飲み込まれる。

するとそこから少し歩いた頃、丸山の腹が鳴った。ぐぅ〜とまるで子供の様な腹の虫を聞いて砲代は噴き出す。

時刻は午後12時半、飯時だ。

三人は考える。何が食いたいのか…

すると何処からだろうか中華の匂いが砲代達を包み込む。三人の脳内はとある一つの料理に占領される。

 

「ラーメンが食いてえす…」

 

「ラーメンですね…」

 

「ラーメンじゃな…」

 

三人は歩き出した。

まだ見ぬ希望(ラーメン)を追い求めて…!

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

男が、石橋晴明は緊張していた。

それはすごい程に。

男として生まれてきて、ここまで緊張したのは近所の幼馴染の美幸ちゃんに告白をした時くらいなものである。

結局振られたが。

 

理由はその横にいる美少女のせいである。

ピンクの髪、グルグルの不思議な目、そしてどこか世間知らずの様なその行動は石橋の心を見事にいとめていた。

 

これは石橋がこうなる数時間前…

 

「転校生ィ?」

 

「そうそう。なんか女らしいよ!」

 

「マジかヨォ?!最高じゃん!!」

 

「男子達またやってるよぉ〜さいてぇ〜」

 

市場地中学校の2年3組はそのドアが開いた瞬間、一瞬にして沈黙した。

 

先生と共に入ってくる、一人の女の子の為に…

ー瞬間

 

「「「「「ぅぉぉおおおぉぉぉぉぉおお!!!!!!」」」」」

 

盛り上がる男子達、耳を塞ぎ、うるさいと連呼する女子達、そして何が何だか分からず少し不安がるマキマ。

 

「はい静かにぃー、自己紹介するぞ。はい、どうぞ」

 

「はい。」

 

チョークで黒板に名前を書く。

ついでに年齢も、住所も、そして今日食べたご飯「マキマ君?黒板には名前だけでいいぞ?」

 

「え…?あーー」

 

そう言って名前以外を黒板で消す。

教室はなんだか和んだ雰囲気になっていた。

 

「石原マキマです。みんなと同じ14歳です。趣味は映画を見ることとご飯を作ること。よろしくお願いします。」

 

ー瞬間

 

「「「「「かぁわあいいいいいいいぃぃぃいい!!」」」」」

 

盛り上がる女子達、耳を塞ぎ、なんだなんだと連呼する男子達、そしてまたもや、何が何だか分からず少し不安がるマキマ。

 

「おい静かに!静かに!…よし、マキマ君の席は…石橋の横だな。いろいろ教えてやれよ〜」

 

「は、はいぃ!」

 

席に座り石橋によろしくと囁く、石橋はそれに何も言わず、こくりと頷くとマキマは無邪気に笑顔を送るのであった。

 

ー彼女の学校生活は始まったばかりである。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「砲代さん。」

 

「なんじゃ?」

 

「喰ったら死にますよ…それ。」

 

砲代のラーメンは常軌を逸していた。

圧倒的チャーシュー!圧倒的背脂!圧倒的麺量!圧倒的にボリューム!!!!!

少なくとも、パトロール中に食べる者ではなかった。しかし、そんなラーメンを砲代がガツガツのかきこんでいく。

これには先程からテレビを見ていた店主も、目を見開いてこれ見ている。

 

「いいんじゃ、ワシはまだ歳食っておらんし。」

 

「でも、砲代さんってもう三十路っスよねぇ?」

 

「……丸山くん、お前サンちょいと言うこと考えんか?」

 

「ウヒ…すいません…」

 

そんなゆるい感じで三人はラーメンを食べる。

薄暗い下町の本格中華、店主のおっさんと店の端っこで流れているニュースのテレビからは最近のカルト教団の話が出ている。

 

「なんじゃ、結構暴れとる様じゃの。」

 

「らしいっスね。」

 

「公安も全勢力使ってますからね。」

 

ズルズルと食べるラーメンを横目に、店主は店の常連と話しいている様だ。カルトが怖いだの、ここも危ないだの、知り合いが入会から姿を消しただの。怖い話だらけだ。

 

砲代は危惧していた。

それはカルトとの戦いではない。新人二人についてだ。二課の事もあり最近では新人の研修が必須事項となっている。

 

ー砲代はそこで思いついた。

 

「おい二人とも、もう少し多めに食っとけ。」

 

「なんでっスか?」

 

「それはまた。」

 

「……聞いて驚くな?ワシがお前サンら直々に稽古をしてやる。」

 

ーこれが後の砲代特別ブートキャンプと公安で伝説化されるとはまだ誰も知らないのであった。




感想やお気に入り登録をよろしくっス!!
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絶対飽きさせないっスよぉ!!

あと、お気に入りが300人を突破しました。
感謝感激あめアラレ!!


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第十七発目・特別訓練と黒塗りの男

訓練についてはあまり書かなくてもいいと思うこの頃。
感想で意見とか聞かせて下さい。


 

 

 

三島が拳を突き出し、砲代に右フックを仕掛ける。しかし、ソレを間一発で右にそれては刀の踵でみぞおちに当てひるませた。

クフッ…!と腹を抱えれば、そこから回し蹴りを喰らい吹き飛ばされてしまう。

 

そう思えば、丸山が木斧を振り翳し後ろから襲い掛かる。しかし、砲代は振り返ると同時に間合いより一つ詰めにかかったかと思えば、アッパーカットで丸山を気絶させる。

 

砲代は"まだなっとらん"と小声で呟くと地面に置いてあった背広を拾い着込む、そして扉を開け室内に入っていくのであった…

 

「三島ァ…俺たちこれで何戦目っスか?」

 

「…105戦目。」

 

「マジかぁ…まだ一本も取れてねぇのかよ。」

 

対魔特異課本部の屋上、この二人はまたもや模擬戦に負けてしょげていた。

三島はふと、自分のつけていた腕時計を見る。

すると、ゆっくりと立ち上がり丸山の手を取って起き上がらせる。

 

そろそろ日が暮れる。

 

砲代も家に帰り始める頃なので二人は砲代に挨拶をしに行く。階段を駆け下り、ボロボロの姿のまま少し汗をかいている砲代を捕まえる。

 

「砲代さん!」

 

「お、二人とも!〜今日はいい感じじゃったぞ。」

 

「そうですかね…特別訓練が始まってもう一ヶ月が経ちましたけどまだ一本も取れてませんよ?」

 

「当たり前じゃろうて!ワシは二人の何百倍も訓練しとるからのぉ〜。」

 

元気そうに自慢をする砲代を見て三島と丸山は複雑な気持ちになる。この男は一体どれ程努力と修羅場を潜ってきたのか、そして俺たちはいつになったらこの男に一泡吹かせることができるのか。

 

そもそも砲代の履歴はどう言ったものだったのだろうか。二人は実の所、砲代と言う人間を理解していないのではないのだろうか?

三島は少し疑問に思いながらも、丸山にこそりとそれを伝える。

 

「じゃあ、明日は8時集合じゃ。いつもの全力疾走から始めるからの〜。」

 

「「は、はい!」」

 

日が落ちていく東京の街並み。

二人はこっそりと人事部に顔を出しに行くのだった。

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

早朝7時、二人は聞き込み調査を行なっていた。

理由は砲代の履歴についてである。二人は昨日の夜こっそりと人事部の書類から砲代の履歴を覗き見ようとした。

しかし、そこにあったのは黒塗りだらけの履歴書。二人は頭を抱えながらも、砲代の弱点の情報を手に入れるため聞き込み調査を始めたのだ。

 

ーーー

 

「砲代の事…?あいつは強いぜ、けど女心をわかってないな。」

 

「弱点とかは…?」

 

「弱点?俺は一度もあいつに勝ったことないぞ。」

 

「えぇ?!あの岸辺さんでもですか?!」

 

岸辺はどうでも良さそうに、話しながらも何処か砲代に訝しみを感じている口調であった。三島はそんな岸辺に同調しながらも、何も得れないと分かりその場を後にするのだった…

ーーー

 

「砲代…?あいつは面倒くさいやつ、あとまあ強いよ。」

 

「弱点とか知らないっスか?」

 

「私が知りたい。アイツのこと一回ボコしたいと思ってるんだよ。」

 

「あぁ…。クァンシさんには何度かお世話になってるとか言ってますし、なんかやらかしてるんすね…」

 

どこかイラつきを感じる喋りに丸山はハハと失笑を返していた。しかし、クァンシに聞いても砲代については何も聞き出せないのであった…

ーーー

 

「砲代さん?」

 

「はい。バディの井伊乃さんなら何かわかるんじゃないかなって。」

 

「……実は私もあまり知らないかも。」

 

「マジですか…」

 

「一度お酒に酔わせて、聞き出そうとしたんだけど全く酔ってくれなくて〜」

 

「マジすっかあ?!」

 

一課の中でも酒豪と呼ばれる井伊乃にすら勝ってしまう砲代を恐ろしく感じながらも、結局は何も情報を得れない…

ーーー

 

気づけば時刻は午前8時、結局二人は砲代の事を知ることは出来なかった。

 

「なんも分からずじまいとか…」

 

「ありえねぇってよぉ〜…!」

 

「なんじゃ?お前サンら?」

 

そうして二人はまた一日の訓練を始めるのだ。

 

―しかし、時間はどんどんと減っている…

 

そうとも知らずに二人は東京の街中を走り始めるのであった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

時刻は午後6時半日は沈み、風は秋を近づかせていることを予兆する様に肌寒くなっている。

 

砲代はアパートの階段をゆっくりと登り、右手の荷物を左手に置き換えては鍵を取り出し家に入る。

 

「戻ったぞ〜」

 

「おかえり。今日も新人さん達の訓練?」

 

「おぉ、そうじゃなぁ〜マキマは宿題か。」

 

「うん。今日もいい一日だったよ。」

 

「ほうか。」

 

笑顔をマキマが見せると、それに応える様にまた砲代も自然と笑顔になる。砲代は自分のマイバックから店で買った野菜や肉を取り出し、冷蔵庫に入れていく。

マキマはそれを見ては筆を止め、かがんで冷蔵庫の中身を見る砲代の背中にもたれかかる。

 

「今日の晩御飯でも考えてるの?」

 

「ほうじゃ…モモ肉でもあるからのぉ…唐揚げでも「いいね。凄くいい。それがいい。」

 

「…でもつけるのに時間かかるからのぉ〜」

 

「待ちます。」

 

「待てるか?」

 

「待てます。私を信じなさい。」

 

しかしこの女。

料理中のつまみ食いを良くしてしまうのである。砲代が災害時のために買っておいた乾パンなどは購入から三日後すべて綺麗に食べられていた。

石原家の腹ペコモンスターであるマキマが待てるかどうか…しかし。

 

「うーむ…マキマが言うなら仕方ない。」

 

「いえーい。お父さんの唐揚げだね。」

 

嬉しそうな声が部屋に響き渡る。

砲代は冷蔵庫からモモ肉を取り出し、晩御飯の準備を始めるのだ。

 

アパートの一室では二人の親子の声が聞こえる。

 

―支配の悪魔はすっかり胃袋を砲代に支配されていたのであった。




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おめでたい事にお気に入り登録者が400人を超えました!
有り難い限りですほんとにぃ!!

まだまだ駄文ですし、書きたいけど書けない所とか一杯あるんですけど精一杯頑張っていきますので、何卒応援をお願いします!


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第十八発目・旧友に会いに

ちょい短め。
さて、ここからがこの章の本編ですよ。


 

 

「お出掛けぇ〜?」

 

「うん。行きたいところがあってね。」

 

金曜日の早朝、マキマは砲代と朝ごはんを食べている最中"お出掛けがしたい"と言い始める。

明日はちょうど土曜日、砲代も特に書類仕事もなく溜まりに溜まった有給を使用することができるちょうどいい機会である。

まぁ、いいかと思いながら返事をしようと思うとマキマを見る。

そこには無表情ながらに、しかしどこか笑みとワクワクを抑えられない子供の姿があった。

 

「…ワシも行きたい場所があったしのぉ…よし!いくかお出掛け!」

 

「うん。いく!」

 

マキマは柄にもなく大きな声を出して、喜んでいた。砲代はその姿に驚きながらも、本来子供のあるべき姿に安心感を覚えるのだった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

十月の中旬のとある朝。

この二人の親子は東京の千代田区にやって来ていた。この時間はまだ少し背広をきた男や皇居周りをジョギングしに来た人達が多い。

 

「朝からどこに行こうとしてるの?」

 

「…いや、ずっと行きたかった場所があったんだが、これを機にお前と一緒に行こうと思ってな。」

 

「…?」

 

「ここじゃ。」

 

二人の目の前には巨大な明らかに少し錆びかけた巨大な赤い鳥居。マキマは横を見ると、少し悲しそうにそれを見つめる砲代があった。

砲代はゆっくりと歩き始める。

砲代は思い出していた。軍人時代の事を、フィリピンに異動する前、大陸で戦っていた事を。

突貫(突撃)をする前に友人と交わした約束を。

 

「…ワシの友人はな、一際落ち着いていた男でな。」

 

マキマは砲代の方を見る。どこか遠くを見る、こちらを決して見ずにゆっくりと歩いている砲代の姿。

 

「ワシらはずっと死なんと思っとった。国のために死ぬ事は怖くない。でもじゃ、死ぬ未来は見えなかった。ワシらはずっと生き残って嫁さん貰って100歳で死ぬんやてな。」

 

日はまだ少しでているが、少し肌寒い。

砲代の結んだ後ろ髪が少し揺れるほどの風が吹いている。砲代の足はゆっくりとまた一歩、一歩と進んでいる。

 

「子供が持ったらの話もしとった。アイツはワシに子供が出来たら、その子供は女だろうが男だろうがガキ大将になると言って笑っとった。」

 

マキマの頭を撫でようとするも、マキマはせっかく整えた髪の毛を乱されたくなく、頭を抱えガードする。砲代はそれを見ては少し笑顔になり、話を続ける。

 

「じゃが、アイツは死んだ。」

 

砲代の足がピタリと止まる。

目の前にはサビで青く染まったまた一つの大きな鳥居がある。砲代は門を越え手を清めては話を進める。

 

「相手の数は1000。こちらの数は150程、弾ももうない、援軍もない…そん時ワシらは突貫を言い渡された。」

 

「…どうなったの?」

 

「どうって…ワシは生き残った。半日中敵を殺し回った。数時間くらいでほとんど殺し切って、後は隠れたやつを探し回ってた。」

 

最後の鳥居を越える。

 

「ワシはな、ソイツと約束をしとったんじゃ。」

 

「…どんなの?」

 

「もしどちらかが死んだら、先に靖国に行った方を笑いにここに来ようってな。」

 

砲代は被っていた帽子を取って、本殿にお辞儀をする。マキマも見よう見まねで、それを真似る。

砲代は心の中で近況報告の様な事をしていた、南方に異動になったこと、地獄に落ちたこと、公安に入ったこと、そして…

 

「涼夜、お前サンは驚くじゃろうが…ワシに子供ができた。」

 

マキマはゆっくりと横を見る。

涙目になった男の姿がある。いつもの元気そうな顔ではなく、涙ぐみ旧友に喋りかける男の姿が。

 

「ワシには勿体無いほどいい子じゃ…お前サンが言ってたガキ大将になんかならん程、いい子じゃ…お前サンにも…涼夜にも見せたかったのぉお…!」

 

涙を必死に堪えて、砲代は本殿の方を見つめている。マキマはそれを見て、もう少しだけ深く本殿に頭を下げたのであった…

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「……見苦しいところを見せてしまったの…」

 

「ううん。涼夜さんにも会えたし、いい話も聞けたしね。」

 

二人は地下鉄に入り、次の場所に向かおうとしていた。なんでも、マキマが行きたいと言っていた渋谷のパフェを食べにいくためだ。

マキマはルンルン気分で地下鉄の通りを真っ直ぐ進む。

 

「昼飯は食べんくていいのか?」

 

「パフェをその分食べるよ。」

 

「…太るんじゃ「うるさい。お父さんうるさい。」

 

真顔の顔の眉間には少し皺がより、砲代は両手をあげお手上げのポーズを取った。

地下鉄には平日の昼にも関わらず多くの人間が集まっている。

 

その時であった。

 

キャァャァァァァアアァァァ!!

 

叫び声が響き渡る。

遠くの方で一人、また一人と人が倒れていく。

しかし、そこには悪魔などの姿も見えず、銃声も聞こえない。

砲代の頭の中には公安がマークしていたカルト集団が浮かぶが、武器を持っていない現状では太刀打ちできないと体を反転させ出口へ走り出す。

 

「マキマァ!逃げるぞ!」

 

「!うん。」

 

―騒然とする地下鉄、砲代達の休日は始まったばかりであった…




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さて、突如パニックとなる地下鉄…砲代達の休日やいかに!
乞うご期待!


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第十九発目・地下鉄事件/マキマの悩み

戦闘の描写が一番難しい…
あと、お気に入り登録者が500人を超えました!
目まぐるしい程のスピードだね。みんなありがとう!


 

 

逃げる二人を追いかける様に、見えない敵はどんどんと距離を詰めてくる。証拠に二人より後ろで逃げようとする一般市民は、まるでドミノ倒しの様に後ろから順に倒れていく。

 

二人は地上への階段まで走り切ると、砲代だけが足を止めこめかみの拉縄(りゅうじょう)を握り、敵の来る方に体を向ける。

 

「お父さん!」

 

「いけマキマ、この階段を登るだけじゃ」

 

そう言った瞬間、先ほどとは反対の方向に走り出し、拉縄(りゅうじょう)を引き上げる。

それと同時に、砲代の頭から一本の巨大な大砲が現れ、砲撃が放たれる。

すると、ちょうど敵の真ん中に当たったのか何も見えなかった空間から血を吹き出し、パタリと倒れる音がする。

 

「…危なかったの」

 

そう言うと、敵の死体まで駆け寄る。

悪魔化を解除し、透明な死体の上に立つ。

一体には薄い黄色の煙が舞っており、そこらかしこに逃げ遅れた人間が倒れている。

見る限りその死体から煙が出ている様であった。

公安に呼び助けを求めようと、地上に戻ろうとしたその時であった。

 

ぐ?!うぇぇあ…!

 

一体何故であろうか、その死体から遠ざかった時嘔吐してしまったのだ。

毒ガスだ。砲代はそう直感的に理解した。咳き込む口を押さえながら砲代は出来るだけ走り外を目指す。

しかし…

 

「生き残りだ、殺せ!」

 

バンバンと銃声がすれば肩や腕に被弾する。痛みに耐えながら、道を走り階段を登る。

階段を上がればゲロと血で塗れた服を着た男を、多くの大衆が出迎える。

 

「お父さん…大丈夫?」

 

「ワシは大丈夫じゃ、それより…」

 

上着を脱ぎ、Tシャツだけになる。

カバンから一枚のタオルを取り出し口を覆う。

幾分かマシになるだろうと考えては荷物をまとめる。

上着は人と距離がある階段の脇に置き、近くの公衆電話へ駆け込む。公安に連絡を入れ、直ぐにマキマの元に急ぐ。

その顔は不安を隠せず、心配しているのだと砲代は感じ取っていた。

 

「マキマ、ワシはもう少しだけ戦ってくる。直ぐに戻るからもう少し待っておいてくれ」

 

「いやだ…許さない。」

 

マキマはそう返事をすると、砲代の右腕を強く握った。子供の力で、全力で、その足をどうにか止めようとしていたのだ。

 

しかし、砲代はその腕をゆっくりと解きマキマの頭を撫でた後、無言で階段を飛び降りる様に降りて行った。

 

拉縄を引き抜き、瞬間走り込む。

両手と頭に現れたその大砲は、砲代にとって重りにもならずどんどんと走るスピードは加速していく。道を曲がり、先程の死体の元まで走る。軽く息を吸い地面に溜まっているガスを吸わない様に気をつける。

 

広いホームに出た時、白い服を着た男女が姿を見せた。二人とも顔にはガスマスクをつけて銃を持っておる。

悪魔だ?!とこちらを見て叫んだ瞬間。

 

砲代は一切の躊躇もせず、その砲弾を撃ち放つ。男の内臓は飛び散り柱にベッタリと打ちつかれる。雨の様に女の顔にその血がついた瞬間。

近くまで詰めかかった女の鳩尾に、強烈な右フックを喰らわせる。クハッと嗚咽を吐いた瞬間、女の体はゴムボールの様に壁にぶち当たり血を流して地面に倒れる。

 

 

――砲代はその狂気を酷く冷静に認識していたのであった。

 

ーーー

ーー

 

「なんで、話を聞いてくれなかったの」

 

「いやぁ〜あん時はのぉ〜」

 

二人は渋谷のパフェ専門店に着いていた。あの後、砲代は悪魔化を解除し人混みを隠れて、トイレで口や頭を洗った後、服を買ってここまで来たのだ。その間マキマは、ずっと頬を膨らませ怒りを表していた。

 

「許してくれと言っておるじゃろ〜ぱふぇも一番高いのを買ってやったし」

 

「それじゃダメ」

 

そう言ってマキマは黙々とパフェを食べている。砲代は考えていた。先程のテロの事をである。毒ガスの悪魔であろうか、先程の悪魔といい先程の白い服を着た男女…砲代が聞いていた新興宗教の制服の特徴と合致していたのである。

 

マキマにはこの事を言えないであろうと、マキマがこれを聞けばきっとこの子は俺を止めたであろうと、そう考えていたのである。

 

マキマはパフェを食べ終わると、砲代の手を取っては先程の怒りなど忘れた様に歩き出す。

行こうとマキマが一言言えば、砲代もあぁと返事をして二人の家へと足を運ぶのだ。

 

―砲代は少し微笑んだマキマを見ては、少し枯れ始めた青い木々を鋭い目で見つめていたのであった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

昼休みの教室でマキマは考えていた。

どうすれば砲代を守れるのかと。マキマにとって砲代は自分に日常をくれた、救世主の様な人間であり父親であった。

支配できない対等な関係を夢見ていたマキマにとって、この日常は掛け替えのないものであった。

しかし、マキマは地下鉄の事件から一つのことを危惧していた。

 

それは、砲代の死亡である。マキマは砲代が武器人間である事、そもそも武器人間が不死身であることも知らないのである。そのためマキマは砲代を頑丈な人間であるとは思っていたが、貧弱な人間であるとも思っていたのである。

 

「…私はどうすればいいんだろうね」

 

「どうしたのマキマちゃん?」

 

「何かあったん?」

 

こう質問してくれたのはマキマの友達1号と2号である、沙奈ちゃんと美月ちゃんである。二人ともマキマにとって大切な友達である。

紗奈ちゃんは標準語を使うポニーテールの女の子で、美月ちゃんは方弁を使うショートカットの女の子だ。

 

「ちょっとね、助けたい人がいるんだけど」

 

「"助けたい"〜?ねぇ、ねぇどんな人?」

 

「私の大切な…人?」

 

「うわぁ〜恋バナじゃん!」

 

マキマは少し話が食い違ってるな、と思いつつもそんな事を言う前に話は進んでいく。

この時期の女子の恋バナと言うのは並大抵の事がなければ止めることはできない。まるで防波堤が壊れたダムの様に話は止まる事を知らない。

 

「相手の仕事が心配って事ね!」

 

「う、うん」

 

「いいじゃん!いいじゃん!」

 

「二人はどうすればいいと思う?」

 

「私はぁ〜毎日何したか聞いたりすればいいと思うよ〜、コミニケーションってやっぱ大丈夫だって!」

 

「あっしはね、やっぱり監視じゃないの?」

 

「「監視?」」

 

「うん。何してるのか心配ならさ、尾行でもなんでもして監視すればいいんじゃない?」

 

「美月ちゃん…ちょっと怖いよ」

 

「何よ!」

 

二人が盛り上がっている。

監視…監視か…

 

 

 

 

 

「―命令します。」

 

 

 

 

 

 

ーその時マキマの頭には一つの考えを浮かんでいたのだった。




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正直亀スピードだから毎日投稿みたいな感じで誤魔化してます()


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第二十発目・カルト、決戦前夜

二日間休んでました。
何してたって?TRPGだよ。


 

昨日の信仰カルトによる地下鉄毒ガス事件は日本中を震え上がらせた。日本全体でカルト宗教への対策運動などが起こり、政府もこれに動員された。

 

そして、その波は公安にも届くのであった…

 

 

 

「カルト教の本部への一斉捜索か…」

 

 

 

誰もいない事務室で、クァンシは書類を落ち着いた目で確認していた。しかし、真意を見るならばクァンシが落ち着いているとは言えず、もはやその逆と言えるだろう。

 

クァンシが本部から直接手渡された書類は、毒ガス事件を起こしたカルト教への一斉捜索を警察全体で行うこと。そして、その中心組織として公安対魔課を使用する事が書いてあった。

 

窓の外では鳥が忙しなく鳴き、クァンシの苛つきを増させていく。仕方ないと思いながら椅子から腰を上げ皆を呼び出す準備をする。

 

ーこれからが本番なのだから。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「カルト教の突入すかぁ?!」

 

「そうだ。お前たちにはその一斉捜索の中心組織としての働きが求められてる。」

 

「…前の事件のせいか」

 

「お前は現場にいたからな」

 

あの事件からたった1週間でこの一斉捜索が決まったのは異例の状態だった。しかし、この急な決定を下せるのは単にカルト教団が"危険な悪魔との契約により事件を起こした実績を持つ"からであろう。

そして、それはデビルハンターによって構成された公安対魔課にこのような大役を担わせる原因となっているのは自明の理であった。

 

「私…人間相手の戦闘なんて初めてですよ?」

 

「井伊乃の言い分も分かるが、上からの命令だ。それに、人間が襲ってくるかは分からないしな。」

 

「でもクァンシ、流石に人間相手の戦闘に慣れてない奴を尖兵(せんぺい)とするのは駄目じゃろ。」

 

「分かってる、だから特訓をするぞ。」

 

「訓練…?ワシはもう丸山と三島を見とるぞ?」

 

「砲代はそのまま二人を見てもらうが、その前に一斉捜索に来てもらう人員を発表する。」

 

全体に緊張が走る、なんせ一斉捜索に参加する人間はつまり人殺しをするかもしれないからだ。公安対魔課は現在の時点では、対人訓練を視野に入れた訓練を受けていなかった。めっきりその名の通り、対悪魔を想定した訓練を受けた人間や民間デビルハンターからやってきた人間で構成されていたからだ。

 

そして、クァンシは一人づつ名前を読み上げていく。面子としては砲代、三島、丸山、井伊乃、花御、佐々木、クァンシ、岸辺の8人であった。

この面々は一課の中でも負傷率や撃滅率が高く、まさに少数精鋭の部類に入る者達であった。

 

「俺もっすか…?」

 

「俺がやれるとは思えないです…」

 

三島や丸山は下を向き、クァンシに申し出る。しかしクァンシは"私は死なないと思った人間しか選んで無い"と言って、二人を激励した後7人以外を職務に戻らせる。

 

「一斉捜索の日は今から2週間後…本当に時間がない。お前たちは、今から訓練だけに専念しろ。」

 

緊張感が溢れる。

新人も先輩も等しくである。

 

「じゃ、訓練の面子を発表する。」

 

クァンシは砲代の肩を引っ張り、自らの元まで引っ張り出す。どうやら、教師役はこの二人らしい。砲代は三島、丸山、岸辺をクァンシは花御、井伊乃、佐々木を担当すると言ったのだ。理由としては単純な実力と、対人戦闘への慣れ具合と言うらしい。

 

話は終わりとクァンシが言うと、砲代は気だるげにいる岸辺のスーツの襟を掴んで引きずる。もちろん、行き先は屋上である。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

やけに鳥がうるさい日、屋上では今日も訓練をしていた。岸辺の容赦のない木刀使いは砲代の二の腕や足の腿に傷を負わせるが、その実、致命傷になるような部位には攻撃できずにいる。

岸辺がまたその木刀で頭を攻撃しようとするその寸前、頭を目掛けて拳が飛んでくる。

 

執念深いほどの拳…いやメリケンサック使いは三島のアイデンティティである。寸前でかがみ、岸辺の鳩尾に拳を喰らわせたかと思えば、右フックを準備していた三島に悶える岸辺を盾にする。

 

三島はそのまま岸辺を殴り飛ばしてしまうが、砲代はまだ力を抜かない。砲代は背面からくる攻撃を、さらりと避け左腕をそのまま後ろにいる丸山に喰らわせる。無事鼻に拳は当たり、丸山の鼻からは鼻血が出てしまった。

 

「…これで、またワシの勝ちじゃな。」

 

「チッ……」

 

「またかぁ…」

 

「負けっすね…あ、ティッシュあります?」

 

丸山にティッシュを渡した後、砲代は屋上の端にある小さな出っ張りに腰を下ろす。

 

「丸山何度も言わせるな、お前サンは大振りすぎる。その斧を振り下ろすのに何故0.5秒も掛かるんじゃ?」

 

「…うっす。」

 

「次に三島お前サンは今日は良かったぞ、岸辺と挟み撃ちにしてしまおうとするのはいい作戦じゃった。じゃが、攻撃が単調じゃ。威力を考え拳でやるのも結構じゃが、足技も使わなきゃならんぞ。」

 

「スー、はい!」

 

「最後に岸辺じゃが…」

 

「なんだよ?」

 

「お前サンはやはり一番強い、今回もよかった…じゃがせめて言うなら、戦闘中に余計なことを考えるな。」

 

「…」

 

砲代はひとしきり助言を下した後、腰を上げ部屋の中に戻ろうと足を運ぶ、もう訓練開始から五日が経とうとしている。

砲代としては焦りなどは一切感じていなかった。岸辺の圧倒的センス、丸山の武器の扱いのうまさ、そして三島のその計り知れないパンチ力は公安屈指であることは間違いないし、岸辺は例外ではあるが新人二人に関しては、訓練開始前から特別訓練を起こっているため明らかにセンスは磨かれている。

 

砲代は今晩の晩御飯を考えながら、ドアに手をかける。その瞬間、後頭部に向かって一本のナイフが飛んでくる。砲代は寸前の所で自分の軍刀を盾にナイフを弾き、ナイフが飛んできた方向に目を向ける。

 

そこには臨戦体制の岸辺が一人立っていた。

 

「まだやれるだろ?」

 

「…あと一戦だけじゃぞ。」

 

その後、夕暮れまで屋上では男達の声が聞こえたのだと言う…

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「教祖様、ご機嫌はいかがですか?」

 

その部屋にはいくつものお香が焚かれ、鼻をつんざく様な匂いと共に、その全体が薄暗くオレンジの淡い色で照らされている。

教室ほどの大きさの座敷の奥には、一際大きな髭の生えた男が座禅を組んでいる。教祖と呼ばれた男は自分を呼びかけた男に目を向けた。

 

「よい。それより、ロシアからの武器輸入は進んでいるか?」

 

「もちろんでございます。悪魔部隊も順調に増兵中です。」

 

そうかと大男が呟けば、質問を投げかけた男は会釈をして部屋から退出する。部屋にはネズミが入り込み、汚れているがその大男は気にしていないのか、それとも気づいていないのか、焦点の合わない目で遠くを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルトの悪魔よ。私と契約せよ。」

 

 

 

 

 

 

 

部屋には薄気味悪い笑い声と、不気味なお香が部屋を満たしていたのであった。




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さて、そろそろ第三章も大詰め…楽しんでいきましょう。


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第二十一発目・出撃

今回は会話少なめです。
文章を見て内容を脳内で映像化して下さい(他力本願)


 

 

街はまだ眠っている。部屋にはカーテンを透過して淡い月の光が、部屋に広がっている。そんな中、砲代はマキマが起きない様に静かに身支度をする。背広に着替え、ネクタイを締める。

 

冷蔵庫にはまだ卵とウィンナーとがある。パンもあるのだから、朝ごはんは大丈夫だろう。そう砲代は考えると、玄関に行き靴を履こうとする。

 

「どこに行くの?」

 

突然、後ろから声をかけられる。

砲代は靴に足を入れようとする指を止め、一言"仕事じゃと"言えば、ギシギシとフローリングの廊下の床が軋む音が近づいてくる。すると、背広の肩を摘んでマキマは行かないで、と砲代を止める。

 

「今日は大切な仕事があってな。」

 

砲代は後ろを振り返らない。自分自身の顔を、戦に向かう男の顔を見せぬために。しかし、マキマも服を離さない。"それって、一斉捜索の事"と、マキマが呟くと砲代は声色を変えて"どこで聞いた"と言葉を放つ。

少しがなりのついた怖い声色。でも、マキマは落ち着いた声で"上の人から"とだけ喋る。

 

砲代がゆっくりと振り替えれば、廊下の後ろからやってくる月光がマキマを照らしている。その表情は暗く、どんな顔をしているのかなんてわからない。

 

「いっちゃだめ。」

 

なんとも言えない声だった。

少し震えてて、少し泣きそうで、だけど落ち着いた声。肩を掴んだ手から震えた振動を感じる。砲代は右足に履かれた靴を脱ぎ、マキマを肩に手繰り寄せる。

子供にする様に、赤子をあやす様に、頭を撫でて抱擁する。肩には少し水の様なものが染みてゆく。

 

「…生きて帰ってくる。決して死なん。」

 

砲代はそう言うと、マキマを離して靴を履いてドアを開ける。振り向けば、砲代の背で光る街灯がマキマの黄色い片目から静かに涙を静かに照らす。一筋のか細い涙。

 

「戻って来てね。」

 

それは、心配の二文字を明確に表した言葉だった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

エンジン音が聞こえる。

黒い大きなワゴン車に男女が8人、一斉捜索の面子だ。いつもはうるさい井伊乃や丸山も、下を向いて何も喋らない。戦う覚悟が明確に決まっているのはクァンシや岸辺、三島や佐々木くらいだと、砲代は思う。

 

さっさと終わらせねばならぬ。

 

そう心の中で誓っているのだ。前の車が止まった時、井伊乃は大きく深呼吸をした。車から降り、ぞろぞろと同じ警察官と歩く。その時、クァンシは井伊乃の背中を叩く。井伊乃は"ヒッ!"と腑抜けた声を出せば皆も吹き出す。

 

皆考えることは同じだ。ならばそれ相応の覚悟と努力をせねばならない。砲代はいつにもない程の強さで、腰にある軍刀を強く握ったのだった。

 

「強制捜索は命懸けになるだろう。」

 

全体取り締まりを行っている男が、出発する時放った言葉である。しかし、死んではならぬのだ。

全員の足が止まる。

 

異様な静けさが周りに漂うそこは、カルト教団の教祖がいると呼ばれる大きな宗教施設であった。

田舎であるはずの小さな村の端にまるで、神社の様に置かれたその宗教施設は異様な雰囲気を漂わせる。

皆が同じガスマスクをつける。門を壊し開け、敷地内に入っていく。2000人ほどの警察官の先頭にはクァンシ率いる対魔課の人員が立つ。

 

「鉄の扉か…」

 

「クァンシさん。電鋸があるようです。」

 

新人警察官がそうクァンシに囁くと、後ろから電動のカッターを持った男達が現れる。

カッターで扉を無理やり開けると、そこは暗闇が広がっている。信者の姿も見えぬ。しかし、廊下の端々で何か吐瀉物の様な濁り切ったものが落ちているのだ。最悪な匂いが鼻に入りながら、中に突入する。

 

「なんか…幽霊とかでそうだよね。」

 

「そうっすよねぇ…」

 

「対魔課の皆さん、大丈夫ですか?」

 

先行部隊として突入したのは対魔課以外にも、得課(とっか)と呼ばれる警察の中でも特殊部隊の様な立ち位置の人々などがいた。

 

「あぁ、あいつらは新人等だ。別に問題ない。」

 

「…こんな大事な任務の時に新人を入れたんですか?」

 

「新人だろうが、強ければ生き残ってこれるのが対魔課だ。その中でも選りすぐりの奴らだ。」

 

クァンシがそう言うと、隊員は押し黙り前を向く。暗い廊下を懐中電灯と銃のフラッシュライトの灯りを頼りに進んでいく。

隊員が階段に足をつけようとした瞬間…

 

「血の悪魔!」

 

そう二階の誰かが叫んだ。

すると、階段近くにいた隊員の二人が赤い槍に上から貫かれてしまう。"伏せろ!"砲代がそう叫び、後ろいた丸山、三島、井伊乃を無理やり伏せさせる。

 

その瞬間、一階の廊下の壁から一斉に銃弾が放たれた。

 

バリバリバリバリと壁を貫通し飛んでくる銃弾は明らかに日本では得ることができない銃火器である事を明確に理解させる。

砲代は飛び回る銃弾の中、辺りを見渡す。

そこで砲代は見てしまう。

 

血だらけになって倒れている得課の隊員の中に、先輩であり、新人歓迎会の時共に飲み交わした花御が同じ様に真っ赤になって倒れているところを。




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Q.おい…なんで人が死んでるんだよ?!この小説は完全無欠のハッピーエンド作品じゃなかったのか?

A.チェンソーマンに何を求めているんだ?


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第二十二発目・黒いカラス

TRPGが楽しすぎて、こっちに力が出せないZE!!


 

 

銃声が止んだ瞬間、クァンシと岸辺は左右の壁を壊しそれぞれ部屋の敵を殲滅しにいく。

 

「砲代、お前は上だ!」

 

「わかっとる!」

 

死体を乗り越え、刀を素早く抜刀し階段を飛び越え、二歩で駆け上る。

登った先には、口から明らかに吐瀉物を吐いたであろう満身創痍の男が、狂気の顔でこちらに目を向ける。

 

「教祖様!教祖…教祖サマァ!!」

 

「な、なんじゃこいつぅ〜?!」

 

すると自分の腕をナイフで切り裂き、血を流し始める。血はゆっくりと地面へ滴り落ちようと、男の腕から一滴が地面へ落下する。しかし、それは地面に落ちることはなく、その血液は西洋剣の形へ変化する。

 

「敵じゃな?」

 

刀を構え、襲いかかる男の隙を見る。

瞬間、男の首は胴を外れ地面へと落下していく。吐瀉物を吐くほど辛い状況にも関わらず、武器を取ろうとする根気がこの男にあるのだろうかと、思いつつ。二階の扉達を片っ端から開けていく。

しかし、中には……

 

「なんじゃ…これ……?」

 

中には部屋一杯に詰められた、ダンボールかプラスチック製の箱に男や女がぎゅうぎゅうに敷き詰められていた異様な光景であった。

部屋の中には、吐瀉物による異臭が漂い、誰もが"助けてくれ"や"薬をくれ"ともがき苦しんでいる。

 

「おい、砲代何をして……」

 

後ろからやって来た岸辺も押し黙る。

砲代は何も見なかったと、今は見なかったことにしようと扉をしめる。

さっさと大将を捉えなければ、と次の階層に足を踏み込む。その瞬間…

 

「グルゥァァァァアァア!!!」

 

「砲代さぁん!」

 

後ろから凄まじい怒鳴り声と共に三島の叫び声がする。何があったと下に駆けつけようとすると、岸辺に肩を掴まれ"お前は上に行け"と呟き、階段を降りていく。

そうだ。岸辺とクァンシがいる。それにワシが育てた二人もいるのだ。そう友軍を信じ、階段を登る。一回と同じ様な何もない廊下とその向こうにある木製の扉。

軍刀を鞘から抜き出し、扉を蹴破る。

 

「……酷いな君は、人がいる部屋の扉を蹴破るだなんて。」

 

「阿呆を吐かせ、ワシは鬼畜に対して礼節を重んじるほど大層な精神は持ち合わせておらん。」

 

教室二つ分はあるであろうか、その広い部屋にはたった一人の男しかいなかった。その顔は髭に塗れ、目はうつろ、そして不潔な黄色い服を着ては、尊大な喋り方をする鬱陶しい男。

 

「神妙にお縄につけ、この阿呆。」

 

「……君はわたしが捕まると思っているのか?」

 

瞬間、扉の後ろから音がする。

ゾロゾロと、一人や二人の人数ではない。階段を駆け上って来たのは、銃や剣を握り、顔を真っ青で目の焦点も定まらぬ信者達の姿であった。

 

「お前サン……悪魔と契約しとるな?」

 

「いいや?これは信者達の意思だよ。」

 

その時、信者の一人が発砲する。その銃弾は明らかに砲代の肩を掠め、教祖の方への飛ぶ、しかしその銃弾が教祖に当たるかと思えば、瞬間信者の一人が血を吹き出し倒れる。

 

「わたしの残機はつまり、信者の人数。しかし、君たち警察は彼らを容易に殺してはならないし、わたしを生け取りにしたいはずだ。」

 

「……本当にお前は鬼畜じゃの…!」

 

後ろからは信者が、襲い掛かかる。

教祖を殺してもならないし、信者も容易には殺せない。しかも、砲代は気づいていた。信者にもう意識はない事を。

 

涎を吐き、ゲロを吐き、焦点も合わぬその目からは明らかに常人のそれとは異なっている。

 

"これではどうしようもないではないか"

 

そう、砲代は考えていた。この男はデンジの様に合理的にはなれない、なっては行けない男であった。そして、それはいつも通りの残虐性を発揮する事なく蹂躙させられる。

手刀や刀の柄などで気絶させても、意識を失った状態で攻撃してくる、ゾンビの様なそれは砲代の体を打ち抜き、差し抜き、そしてついには……

 

 

 

 

 

…絶命するにあたった。

 

 

 

 

 

「やっと死んだか。」

 

「起きろ、砲代。」

 

「契 約 は ま だ な っ て な い 。」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

「ハッ?!」

 

気がつけば、そこは無数の砲弾が薄暗い外灯に照らされ、部屋の中に陳列する空間だった。

そうだ。数年前、自分(砲代)が銃の悪魔に殺され、連れてこられた場所。

 

「砲代、何故死んでいる?」

 

後ろからの急な声に、砲代は驚き振り向く。そこには一匹の黒いカラスがいた。しかし、そのカラスは明らかに現世のそれではない。足が三本とあり、その大きさは中学生ほどに大きいものであった。

 

「……ワシは死んだのか?」

 

「そうではない。」

 

「じゃぁ、何故ここにワシはおる?!」

 

「私が呼んだからだ。」

 

薄暗い蛍光灯は今に消えそうなほど、不安定に光り輝き、部屋の埃は砲代が怒鳴ると共に砲代の動きに合わせて舞い踊る。

 

「私との契約はまだ履行されていない。」

 

「契約ゥ…?ワシはドン太郎としか……あ?!」

 

「思い出したか?」

 

カラスは面白そうにこちらに顔を覗かせる。嘴から出てくる、その子供を見て笑う様な声は砲代を少しイラっとさせるのだ。

 

「私の力を貸してやる。いや、もう前から貸していたが。」

 

「なんじゃと?!」

 

「私の名前はヤマト。お前の魂に存在する悪魔だ。」

 

羽を大きく広げ、部屋中に羽が舞う。その瞬間、蛍光灯は割れるように光を止め、室内には闇が広がる。

 

「私の力を呼べ!名前を呼べ!その刀の赴くままに!」

 

砲代は長く、暗い穴に落ちる様に意識を失ったのだ。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

「やったな。この警察…犬どもめ。」

 

教祖はその肉で潰れた視界を、ふと前に向ける。

ゾンビの様に動き回る、信者に手を向ける。"行け"と一言はっすれば、下で戦っている暴力の悪魔への増援として信者を肉壁とする気であろう。

 

 

 

 

しかしその時、砲代が起き上がる。

 

 

 

 

 

目をギラギラとさせた、血だらけの武士が。




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第二十三発目・覚悟

ちょい短め


 

 

「待たせたのぉ……野郎…!」

 

「ふはぅつ?!なんだとぉ!」

 

素っ頓狂な声を出して、驚く教祖を横目に砲代は右手に握った軍刀を強く握る。もう分かっている。何をすればいいのかなど、この男を成敗するための言葉を。

 

「ヤマトよ!」

 

その瞬間、地面に線が走る。

砲代を中心に放射状に…まるで太陽を描く様に。

 

「やぁやぁ、我こそは〜!」

 

「なんなんだお前ぇ!?」

 

先ほどの尊大な態度はどこへやら、小物の様に喚き散らす。どこから取り出した拳銃を構え、砲代の方に向ける。しかし、砲代の声はやまぬことはない。

 

「我は公安対魔特異一課の石原砲代!尋常に勝負いたせ!」

 

刀を構え、走り出す。後ろの信者達はまるで壁に阻まれる様に砲代には触れることもできず、ただうめき続けている。

 

教祖もなんだなんだと叫び続けながら発砲するが、砲代は顔色を一つも変えず銃弾を刀で弾き距離を近づける。

 

そして……

 

「御免!」

 

…教祖の両腕を切り落としたのだ。

 

痛みにもがき苦しむ教祖を横目に、砲代は頭を踏みつけては刀を目に近づける。

 

「悪魔と契約を切れ、さもなくば首を切り落とすぞ。」

 

「すみません!すみません!」

 

「じゃかぁしい!謝罪なんぞ求めとらん!」

 

「すみませぇん!!」

 

呆気なく倒された教祖はついに悪魔と契約を切る。しかし、教祖の背中から幽霊の様に現れた悪魔は不意打ちをするがごとく砲代の背中に襲いかかる。

 

「無駄じゃ。」

 

斬撃音と共にサイコロステーキの様に落ちる肉塊、この時完全に教祖の戦意は喪失したのだった……。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

砲代が二階に駆け上がり、クァンシが花御を避難させていた頃、三島は壁に偽装していた隣の部屋に突入し、形勢を立て直していた。

 

その頭の中には、砲代のもとに行かなくてはと言う強い使命感と共に、どこか戦果を上げなくてはと言う焦りもある。メリケンサックをもう一度握り締め、2階に行く階段がある廊下に戻ろうとした時。

 

「グルゥァァァァアァア!!!」

 

「?!」

 

地面を突き破り、一人の男が姿を現す。

アアア!と声をあげる男の姿は目を四つ持った化け物の姿であった。

 

「魔人か?!」

 

拳を振り翳し、腹部に瞬間的に三発の拳を当てる。しかし、魔人は弱る事なく廊下に向かって三島を蹴り飛ばす。壁はまるで土壁の様に脆く砕け散り、三島はその隣の部屋まで吹き飛ばされる。

 

「「三島君?!」」

 

「どーしたん三島!」

 

佐々木と丸山、井伊乃が心配したのも束の間、壁をぶち壊し廊下に半裸の魔人がやってくる。

佐々木は瞬間、手持ちの警棒を魔人に当てようとする。しかし、魔人は佐々木をも蹴り飛ばし隣の部屋に送る。

 

「砲代さぁん!」

 

慌てて三島は叫ぶ。

その心はぐちゃぐちゃだった。砲代の訓練はなんだったのか、自責の念に駆られる。

だが、その迷いはすぐに晴れた。

 

「おい!佐々木こっち手伝え!」

 

戦っているのだ。丸山が、俺と共に戦った丸山がだ。途端に恥ずかしくなった。何故俺は諦めているのだと、砲代さんに助けを求めているのだと。

 

"覚悟を決めろ三島ソウジ!!"

 

すぐに、瓦礫から体を戻し拳に力を入れる。メリケンサックの悪魔は身体能力を程よく強化してくれるのだ。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

廊下に向かう時三島は思い出していた。

自分の荒れ果てていた学生時代を、大井松高校の番長として地域を縄張りにし、毎日悪どもと喧嘩をしていたあの頃を。

見た目通りの風貌で、ヤクザ相手にも喧嘩を仕掛け勝っていたあの頃を。

 

そして…焼けた校舎、散らばる肉片、そしてボロボロの1人の男。

 

「なんで……!なんで俺なんかを!」

 

「それが公安さ……」

 

自分の慢心のせいで襲われた悪魔により、死にかけていた自分を命をかけて助けてくれた一人の公安デビルハンターの事を。

 

"彼の様になりたい!"

 

その一心で、番長の席を空け渡し勉学に明け暮れ、ついには公安デビルハンターへのなった。

相棒のメリケンサックと共にあの時のデビルハンターになるのだと。

 

助走をつける。

 

走れ、走れ、走れ!

 

「死ねぇ!このボケェ!」

 

魔人がついに丸山の頭に狙いを定めた時、三島は魔人の顔にその渾身の拳を振り翳した。

 

 

 

 

 

 

「俺が…三島ソウジじゃ!このタコォ!」

 

 

 

 

 

暴力と暴力の戦いが始まる……




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さてさて、暴力君と三島君の喧嘩はどうなるやら…
後半へ続くー


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第二十四発目・鬼畜

今回はすごく短め、
すごく遅れてすみません!しかし…これ実は不定期投稿なんだよね。
もう少しで頻度復活すると思うのでお待ちを!


 

 

 

「俺が…三島ソウジじゃ!このタコォ!」

 

隣の部屋に吹き飛ばされた魔人は、埃に塗れて床に屈している。しかし、三島という男はここで暴力を止める様な男ではなかった。

名乗りをあげたかと思えば、すぐに床に這いずる魔人の頭に蹴りを入れたのだ。渾身の蹴りは魔人の鼻を潰し、喉や胸にも当たる。

 

だが、魔人もただでは倒れぬと三島の蹴り上げた右足を片手で掴み、立ち上がると同時に右足を持って投げ飛ばす。偽装された壁はもう穴だらけになっており、なんの障壁もなくそれは隣の部屋へと吹き飛ばされ、ついには部屋の壁すら貫通し三島は外に放り投げ出される。

 

そこで待機をしていた警察官達は、驚きを隠せないながらも、三島に近づく。だが、三島は近づいて来る警察官の手を振り解き、助走をつけ始める。

 

三島にとっての喧嘩とは、つまりは勝負であった。そこには"勝ち"と"負け"しか存在しない。

 

 

だからこそ三島はこの戦略を思いついたのだ。

 

 

「丸山ァ!あれやるぞぉ!」

 

「えぁ?おお!あれっすね!」

 

明らかに、口調から何まで全て変わった三島に動転しながらも、的確に対応する丸山。丸山の事だ、きっと井伊乃や佐々木先輩にも作戦を教えてくれるだろう。そう思い、魔人と再び対峙する。

 

「おい、魔人。これはタイマンや!」

 

「アァァァ……」

 

「どっちかが倒れるまで殴り合う…それでいいなぁ?!」

 

「アァァァァァ!!!」

 

了承とも取れる声を聞いた瞬間、三島は拳を構える。それは先ほどの力任せではない、砲代との訓練で培った新たなスタイル。

メリケンサックを握り締め、拳を前に突き出す。

その瞬間、拳と拳がぶつかり合う。

壁の外装は風圧で剥がれ、機会を伺う3人の髪の毛が靡く。

 

拳に重点を置いた三島の喧嘩スタイルは、砲代に「あいつは化ける」と言わせたほどのものであった。だが、相手も"暴力"の名を冠する悪魔である。

その強烈な足蹴りや拳を回避しながら攻撃するなど、まず不可能である。いや、"不可能であった"

 

「オラ!おせぇんだよ!ウスノロ!」

 

しかし、当たらない。"当たらない"のだ。

一撃でも防御なしで当たれば、頭蓋は揺れ、骨は折れるのが必然。一撃でも当たれば、あとは追い討ちをしておしまいのはず。

しかし、攻撃は一切三島に当たることはない、掠ることはあるにしろ、直接的な打撃は打てないのだ。まるで、子供に相手をするプロ選手のように手駒にとっては、脇腹や顎を重点的にメリケンサックで殴り飛ばす。

 

……魔人は恐怖していた。

 

ただの人間に、なぜここまで圧倒されているのか。怒りと暴力に身を任せたその脳内で薄らとあったその思考は、どんどんと加速する。

 

しかし、同時にこの喧嘩とも呼べる戦いに一種の高揚感を感じていた。

だからこそ、ありったけを。

この身に溢れる暴力の為だけの喧嘩を。

 

その瞬間、魔人は大きく構える。

この一発で、こいつを仕留めると言うその意思を胸に。三島も構える。これを顧みんとばかりに。

 

ーその刹那

 

 

 

 

 

 

……魔人の体は拘束されていた。

 

よく見れば、自身の体には釘の様なものが四本、背中や脚に刺さっていた。

それと同時に足を投げ斧で斬られ、その御体を磔にされてしまったのだ。

魔人は狼狽する。

二人きりの喧嘩であるはずなのに、そう宣言したはずなのに。

 

「引っかかったなぁ〜このクソ野郎!」

 

瞬間腹を殴り飛ばす。

カハッと空気を吐き出す魔人を横目に、三島は大きく笑っていた。

 

……魔人は恐怖した。

これが"理不尽な暴力"かと…

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

その後は円滑に進んだ。

階段を降りてきた砲代と、サンドバッグにされ消沈した魔人の首を掴んで引きずる三島達と入れ替わり、警察達が内部に突入。

 

ついに、この事件は終息を迎えるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、"筈であった"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり。チェンソーマン」

 




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さあ、次で原作前最後の章です。
張り切っていこう!


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次弾装填中・お正月

あけましておめでとうございます!
2023年も『進め歩兵よ!大砲片手に!』をよろしくお願いします!


 

 

「……ピンポーン」

 

砲代家に鳴り響く一つのインターホン。いつもなら砲代が出るとこであるが、砲代は焼き芋の屋台の音を聞いた瞬間、小銭を握りしめて外へ出たため、ここにはマキマしかいない。

 

外は寒く、雪が降っている。1月3日…正月休みは砲代とマキマは家でコタツを囲み過ごすと決めていたのだ。

しかし、扉からはインターホンが鳴り響きマキマをコタツの外へ誘う。いつもなら誰だろうと格別感情の起伏のない様に考えるマキマの脳内は、私をコタツから出させるなんて、と言う一種の怒りに満ち満ちている。

 

「…はーい」

 

抜けた声を出してコタツを出ては、可笑しいほどに冷たい床を裸足で駆けていく。ゆっくりと開けるつもりで、扉の鍵を開ける。

見たところ5人ほどだろう。マキマは取手に手をかけ開けようとする。

しかし、そんなことはお構いなし。

勢いよく扉が開く。

 

「ほぉ〜だぁいさぁ〜ん!お正月休み楽しんでますぅかぁ?!!!」

 

「……え?」

 

「あれ?」

 

そこには硬直するマキマとビニール袋と酒瓶片手に硬直する井伊乃の姿出会った。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

「戻ったぞぉ〜…って!なんじゃお前らぁ?!」

 

「「「「「お邪魔してまーす(ス!)」」」」」

 

あっけらかんとした砲代を横目にそこには三島、丸山、井伊乃、佐々木、そして……

 

「もう傷は塞がったんか!"花御"の姉貴!!」

 

「おうよ〜!危なかったけどね、なんとか大丈夫だったよ!」

 

そう、あの事件の後クァンシにより緊急搬送された花御はなんとか一命を取り止め、歩けるほどになったのだ。

扉を閉めて、鍵をかけた砲代は手に持っていた焼き芋の入った袋を机に置いて、こたつに入る。

 

「でも、辞めちまうんだろ?公安?」

 

「そうだよ。このバカ(佐々木)から、一緒に民間に移ろうって誘われてね。」

 

「本当ですか!男気ありますねー!」

 

三島は佐々木を褒める。しかし、佐々木はどこか顔を赤くしている。

 

「佐々木先ぱーい…あれいっちゃっていいですか〜?」

 

「おい!井伊乃、やめろ!」

 

「なんじゃ!なんじゃ!佐々木先輩の笑い話かぁ?」

 

先程赤くした顔をもっと赤くしては、井伊乃を止める。結局口を出したのは花御の方であった。

 

「こいつ、病院で告白しやがったんだよ。」

 

「おい!花御ィ!」

 

男性陣は感嘆の声を上げる。

丸山も三島と砲代と同じ様に何も聞いていなかったらしい。これは愉快だと、手を机に何度も当てて花御は大きく笑い始める。

 

「ハハ!私の看病してる時にさ!急に真剣な顔になったかと思えば…フフ」

 

「おい!花御ィ〜やめろってぇ」

 

「"俺はお前が傷つくところはもう見たくない!"ってさ!フハハハハハ!」

 

「「おぉー!」」

 

「漢じゃないっすか!佐々木先輩ィ!」

 

「カッコいいですよ!」

 

「……もうやめてくれぇ…」

 

耳まで真っ赤にした男は机に顔を屈して、ア"ーと断末魔のような声をあげている。アハハハハハと、部屋中に広がる笑い声はどうも砲代には優しく、暖かいものを感じさせるのであった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「砲代さんって娘がいたんだね〜」

 

そう言って井伊乃はマキマのほっぺを優しくつまみ始める。なされるがままのマキマは、井伊乃の脚に乗ってはゆらゆらと小さく揺れている。

 

「あーの、まぁ、そうじゃ。」

 

「マキマちゃんは今何歳なの?」

 

「15だよ。」

 

「中学生ッスかー」

 

時刻はもう午後3時になっている、日は天頂を通り過ぎ、窓からは光が入ってきている。

流石に皆も養子である事は察しているらしく、これ以上は話を深めなかった。

 

「最初私がマキマちゃん見たとき事案かと思いましたよ~」

 

「なーんでじゃ!ワシがそんなやつに見えるんか?!」

 

「ハハ!まぁ、砲代ってなんか彼女とかいなさそうだからね。」

 

「なんじゃ〜?おったぞ?ワシにも!」

 

「え?」

 

これにいち早く驚いたのは、意外にもマキマであった。少し驚いた顔で砲代を見たかと思えば、急に少し眉間に皺を寄せ、こたつの下から砲代の脚に蹴りを入れてくる。

 

「いたい、いたい…どうしたんじゃマキマ?!」

 

「……なにも。」

 

「アハハ、マキマちゃんは嫉妬してるんですよ。」

 

「なんじゃ〜?嫉妬じゃとぉ〜?」

 

無言でマキマは砲代を見つめる。

砲代からしてはちんぷんかんぷんだが、皆はそれを可笑しく笑うのだ。

 

「じゃぁーそろそろ帰りますか。」

 

井伊乃はそう言ったかと思えば、こたつから足を出し、荷物をまとめる。

 

「もうそんな時間っすか!」

 

「本当だ、もう結構経ってるね。」

 

そう言って、ついにあっという間ににぎやかな正月休みは終わってしまった。

扉を開け、外へ出るとき。

 

「じゃあ、またね砲代くん、マキマちゃん!」

 

「うん、またね井伊乃さん。」

 

どちらも笑顔で、手を振って別れたのであった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

マキマは感じていた。

この生活への幸福を。

この生活への喜びを。

しかし、何処かで、心のどこかで、こうとも感じていた。

 

 

 

"足りない。足りない。彼が、彼の存在が。"

 

 

マキマにとって彼は自分の全てであり、もっと言えば彼に喰われたりすることを望む悪魔であった。

だからこそであろう。

この生活に何処か引っ掛かっていたのだ。

優しい友人、優しい父の同僚、そして愛しい父。

だが、彼の存在が何処か引っ掛かって……

 

「痛い……なんで…?なんで…?」

 

胸を苦しめ、そして押さえ込まれる様な…

それは、マキマとしても支配の悪魔としても、初めての感情…あまりにもマキマにとって劇薬であった。

 

「助けて…お父さん……」

 

静まり返った部屋の中砲代の背中に手を当てて、うずくまるように眠りにつくのだった…




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花御は死んだんじゃなかっただって?
トリックだよ…!

追記
ー石原砲代くんの挿絵が完成しました!!
私が描きました(自慢)
注意としては解釈違いがあるかもなので、お気を付けてください。

【挿絵表示】


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公安某重大事件編
第二十五発目・そうだ旅行行こう


もちろんですが、最終章といってもまだ続きますよ。
第一部みたいなものです。



「マキマァ!一週間ほど学校を休め!」

 

「……え?」

 

鍵を開け扉を開けた瞬間、同時に砲代が堂々とその言葉を発する。その左手には一枚の紙切れを握り締め、凶悪な笑みを浮かべ家の中に入っていく。

 

「どうしたの?」

 

「旅行じゃぁ!一週間の北海道旅行を掴みとってきたゾォ!!」

 

「え、でも学校……」

 

「なんじゃ〜あ?考査でもあるんか?」

 

「……3日前に終わったけど…」

 

「な〜らヨシじゃ!」

 

まさに怒涛の勢いで、物事が決まっていく。夕食の準備をしながら、片手間でキャリーケースに衣類を入れていく。

鼻歌を歌いながら準備する砲代を横目にマキマは、突然決まったこの旅行に大きな疑念を抱いていた。

 

「ねぇ、お父さん。」

 

「なんじゃ?」

 

砲代は手を止める事はなく、衣服を選びケースに入れていく。

 

「どうしたの?急に。」

 

「……気分じゃ。最近面倒くさいこともあったしノォ〜。」

 

「…そう。」

 

 

ー分からない。分からないことがもどかしい。

 

 

マキマのその心の底には、その言葉が永遠とこびり付いていた。石原家の娘となって数ヶ月が経ち、マキマは無意識のうちに支配の力を使わなくなっていた。

 

しかし…最近おかしいのだ。

まるで心の中が縛り付けられている様に、磔にされている様に、苦しい。相手の行動が私と思うものと違う。相手のあり方が私と思うものと違う。

マキマは人間と言うものが分からなくなっていたのだ。

 

人間と触れ合うことで学んだ新たな価値観は、劇薬で、"支配の悪魔のマキマ"は"石原マキマ"へと変わりつつある状態はあまりにも不安定だったのだ。

 

「それにしても、なんで北海道にしたの?」

 

「あー、それはのぉ〜。」

 

答えようとした瞬間、突如電話が鳴る。ジリリリとなる電話をマキマは取り、耳に当てる。

電話からは、正月に家に来た丸山という男が出てきた。

 

『もしもし、石原さんのお宅っスか?』

 

「はい。」

 

『ありゃ、マキマちゃん?砲代さんはいるっスか?』

 

「いるよ。今から変わるね。」

 

受話器を荷造り中の砲代に渡し、マキマはグツグツと煮込まれたカレーを見る。

背後からは、「そうじゃ〜」や「お前サンの車が〜」がなどと話している。

それをマキマは儘ならぬと思いながら見ていたのであった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

朝、二人は荷物をまとめ扉を開ける。外からは冷たい空気と共に、明るい日が二人を出迎えた。マキマがアパートの下に目をやると、そこには私服の丸山が車から降りてきていたところであった。

 

「おぉ〜!丸山、おはよーぉうさん。」

 

「おはようございますっス!」

 

少しチャラついた服装をした丸山は、また二言ほど砲代と話すとマキマに目を向ける。

 

「おはよ、マキマちゃん!」

 

「おはよう。」

 

「荷物はこっちスッよ。」

 

荷物を車に乗せ、車に乗り込む。これから長い旅路の始まりだ。

少ししたら、車は高速に乗り始め、3人の会話も盛り上がる。

 

「あー、そういえばマキマちゃんは、旅行の目的を知ってるんスか?」

 

「……知らないよ。」

 

静寂が訪れる。

頭をまるで錆びた機械の様に、ガクガクと動かし砲代を見る。

 

「え…砲代さん?」

 

「……すまん。忘れとった。」

 

「かぁー!砲代さんしっかりして欲しいっスよ?!」

 

「カハハハ!すまん、すまん。」

 

「目的ってなんなんですか?」

 

「あー、それはっすね。実家帰りっス。俺のね。」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

"トンネルを抜けると、そこは雪国であった。"

なんて言うこともなく、既に青森で見た雪と同じ様な雪がフェリーを降りた先に見られた。砲代はすっかり寝てしまい、この時起きていたのは二人だけだった。

 

「ここって…」

 

「北海道っスよ。やっとっスねー。」

 

「…後どれくらいかかるの?」

 

「あと、2時間くらいっスよ。」

 

窓の外を覗くと一面の雪景色であった。聞いた話によると、今日は姉の家に泊まるらしい。

丸山の姉は既に結婚しているらしく、苗字が丸山ではなく、もう息子が二人いるという。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

程なくして、目的地に着いた。

砲代はやっと"んが?!"と言う、変な声と共に起きた。荷物を車から下ろし、家の前に行く。

インターホン越しに丸山は声をかける。

 

「姉ちゃん!来たよぉー。」

 

「姉ちゃん呼びか、丸山わぁ!」

 

「うるさいっスねぇ!」

 

ハハハと笑い合うと同時に扉が開く。

30歳ほどの少しのうなじほど髪のある女性だ。

 

「いらっしゃい。ヒルコ。」

 

「ただいま姉ちゃん。」

 

「あら、その二人がヒルコが言ってた石原さんですね!」

 

「そうです。石原砲代といいます。」

 

「マキマと言います。」

 

「親切にどうもぉ〜」

 

屈託のない笑顔で、丸山の姉は出迎えてくれた。

家の中に入ると、廊下で前髪を下ろした二人の少年が立っていた。3人が家に入ると、一人の男の子は"ヒルコ兄ちゃんだぁ!"と大きく喋り、丸山に近づいてきた。

 

「おぉ!いい子にしてたっスかぁ?」

 

「うん!!」

 

すると、もう一人の少年も歩いてやってくる。

 

「ヒルコ兄さん。久しぶり。」

 

「おう!いい子にしてたっスか?」

 

「うん。」

 

靴を脱いだ3人はリビングへと足を運ぶ、まだ父親の方は帰ってきておらず、部屋の中は少し暴れたのか汚れている。

 

「ごめんなさいね、掃除できてなくて。」

 

「大丈夫ですじゃ、子供はそう言うもんじゃからのぉ!」

 

そう言うと、砲代の足に二人の少年がやってくる。活発な少年は砲代にキラキラと目を向けては質問をかけてくる。

 

「おじさんはなんて人?」

 

「お!ワシは砲代じゃ!そこのヒルコの先輩じゃ。」

 

頭をぐしぐしと撫でては、二人を見る。

マキマはそんな砲代をみて、また複雑な顔をしている。

 

「そいじゃ、二人の名前はなんじゃ?」

 

「「僕(オレ)?」」

 

二人は顔を見合わせる。

そして、堂々と言うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは早川アキ。」

 

「僕は早川タイヨウだよ。」

 

 

……外では雪が降り積もっていた。

 




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さぁ、マキマもアキも、どっちも凄いことになっですね。
凄いことですよ!(語彙力無し)


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第二十六発目・タイヨウとアキ

いやぁ、少しイベントと重なりましたが、なんとか投稿できましたね。


 

オレの名前は早川アキ。

9歳だ。

 

オレには弟がいる。名前はタイヨウ。体が弱くてずっと父さんや母さんにずっと守られてる。

オレはお兄ちゃんだから、一人で遊ばないといけないらしい。でも、なんか…嫌だ。

オレもお兄ちゃんとして頑張ってるし、何よりタイヨウよりも先に生まれたのに。

 

お兄ちゃんとして、早川アキとして生きる。

 

それがオレの日常。

 

でも、今日は違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、"今日から違った"

 

 

 

 

 

爆風と、涙で満ちたあの日を境に。

 

 

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「タイヨウにアキかぁ!いい名前()じゃのぉ〜!!」

 

そう言うと砲代はまた、二人の頭を乱暴に撫で回す。"うわぁー"や"あぁー"などと腑抜けた声を出す二人を、ぐしゃぐしゃと、ひとしきり撫で終わると、ソファーに腰を下ろす。

 

「ねえねぇ、砲代さんはデビルハンターなんでしょ?!」

 

「おお!そうじゃぁ〜?」

 

タイヨウはソファーに座った砲代に近づいたと思えば、膝の上に腰を下ろし、振り返る様にして砲代に問いかける。

格別、砲代は気にしていない様子ではあるが、アキはせっかくの久しぶりに来た客をタイヨウに取られたため、マキマは砲代に容易に近づくタイヨウに対して、どちらも"むむむ"と眉間に皺を寄せるのであった。

 

「おい、タイヨウ!お客さんにそんな迷惑かけちゃ、ダメだろ?!」

 

「いいもん。」

 

タイヨウは一向に、自分の席を譲ろうとせず、二人の眉間にはもっと皺がよる。

見兼ねたマキマは、砲代に近付いて、砲代の右側を占領する。

 

「お父さん?」

 

「な、なんじゃ〜?マキマ?」

 

右腕に力を込める様に、抱きしめる。

そのマキマの目は、いつにもなく強く、どこか一種の強い感情を感じるものだった。

 

「……ちょいと、そこを退こうな。」

 

「あー。楽しかったのにィー。」

 

タイヨウの脇に手を入れ、ゆっくりと左側の空き位置にタイヨウを置く。

名残惜しそうに見るタイヨウの視点を掻い潜る様に、砲代はテーブルの上にあったリモコンを持ち、テレビをつける。テレビでは、アメリカの重要なビルがテロリストによって、テロにあったと緊急報道されていた。

 

「や、やばいっスね。」

 

「これ子供に見せるもんじゃないかもね…!!」

 

慌てて、砲代はチャンネルを変えるが、どこもかしこもテロの話題でいっぱいだ。

 

仕方なく、テレビの電源を切り、砲代は3人を見つめる。

 

「そうじゃ!お前サンら、外で遊んできたらどうじゃ?」

 

「ダメよ、砲代さん!うちのタイヨウは体が弱いんです。」

 

慌てて、丸山の姉が止めにかかる。

しかし、砲代は"少しの間だけだし、マキマもついているから"と、外に行かせることにした。

 

マキマは少し、初めての雪遊びに気分が上がっているのか、微笑を浮かべている。

 

「うん!行きたい!」

 

「……アキ、しっかりタイヨウのこと見てあげるのよ?」

 

「…うん。」

 

そう言うと、二人は着替えるために二階へと駆け上がっていく。マキマは壁に立て掛けていたハンガーから服を取り、準備を始める。

ふと、マキマが手袋を手に付けていると、砲代が肩を軽く叩く。

 

「マキマ、楽しいか?」

 

その時、マキマは理解した。

何故、急に北海道旅行などと言うものを企画したのかを、何故自分を連れてきたのかを。

 

それは、誰でもない自分が原因なのだと言うことを。彼とこの日常について悩み続ける、マキマはここ最近、表情を固く、重くしていたのだ。

砲代はそれを、勘か何かで察知して、マキマを連れてきたのであろう。気分転換にはちょうどいいと考えて。

 

「……楽しい、楽しいよ、お父さん。」

 

とびきりの笑顔で、答えたマキマに、砲代もまた笑顔をこぼすのであった。

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

「お姉ちゃんの名前はなんて言うの?」

 

「私?私はマキマ。石原マキマって言うの。」

 

家の前の一本道を、3人の子供が歩いている。

歩いた後には、雪を踏んだ後が残り、足跡がくっきりと見える。

 

「二人はタイヨウ君とアキ君だね?」

 

「「うん。」」

 

「私のことは好きに呼んでいいよ。」

 

「じゃあ、マキマお姉ちゃん!」

 

「オレはマキマさんって呼びますね。」

 

自己紹介を終えると、マキマは何をしようかと考える。マキマにとって初めての雪遊びは、やりたい事が多すぎたのだ。

 

「雪合戦、かまくら作り、雪だるまに、お城作り……っぷ!」

 

瞬間、マキマの背中に衝撃が走る。

振り返ってみてみれば、タイヨウが雪玉を作って遊んでいたのだ。いち早く、タイヨウとアキは雪合戦をし始めている。

マキマは、少しの沈黙の後、地面に積もっている、雪を丸く形を整え、固め、二人に投げ始める。

 

「っぱ!」「いて!」

 

「アハハハハハ!!」

 

雪合戦だ。

3人は、雪玉を投げ合う。

頭に、肩に、胸に、背中に、足に、顔に、雪玉を当てては、笑い合う。

ひとしきり投げ終わった後、三人は雪に寝転がる。

 

「あー!手がつめたぁーいーー!!!」

 

「あれ、タイヨウ君、手袋持ってないの?」

 

真っ赤になったタイヨウの手を、マキマは握りしめる。"ちべた!"と声を上げると、すぐに手袋を履き直す。

 

「家に忘れてきちゃった!」

 

「おい、タイヨウ、しっかりしろよ。」

 

「ごめん、すぐとってくるねー!」

 

そう言うと、タイヨウは家へと走り始める。

ぼすぼすと、雪を踏み締める音を鳴らしながら玄関まで足を運ぶ。

ふと、アキが目をやると、玄関まで来たタイヨウと目が合う。

 

タイヨウは手を振り、アキも手を振りかえす。

それを見ると、タイヨウが玄関を開ける。

しかし、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん!逃げてェ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー目の前で、早川家は爆音と衝撃と共に、木っ端微塵に吹き飛んだのだった。




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タイヨウー!砲代ー!何やってんだお前ぇぇぇぇ!!


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第二十七発目・雪、涙、そして風

短めです。
それと、少しグロ注意。


 

日常の崩壊というのは、案外突然のものである。

それをマキマは今、自覚した。

 

目の前に広がる、爆風と飛び散る建物の破片を、マキマとアキは呆然とみていた。先程まで、あったはずの温かな団欒の象徴であった、家はその原型を消す程に崩壊し、吹き飛ばされてしまったのだから。

 

「嘘……」

 

そこに残ったのは、荒れた木々と、剥き出しになった地表、そしてどこかの子供の鳴き声だった。

 

「タイヨウ!何処だ!」

 

ふと正気になったアキは声がする方に歩を進める。吹き飛ばされ、荒地が少し剥き出した、木々の裏。

 

「おにぃ〜…お兄ちゃぁ〜〜ん!!」

 

ここにあったのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………下半身の無い人間に抱かれた、タイヨウの姿であった。

 

その死体の切れた上半身の切れ目からは、内臓が露出し、ぐちゃりと白い雪を真っ赤に濡らしている。目は虚で、しかし、まだ生に縋り付かんと、こひゅー、こひゅーと微かな息遣いだけが聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫です……か…ぁ……ぁあ!!」

 

アキは気づく……気づいてしまった。

 

 

 

 

 

この人間、見窄らしく、生にしがみつき、下半身を吹き飛ばされた哀れな人間。

 

 

 

アキには、その顔に覚えがあった。

 

 

 

 

出会ったばかりとはいえ、タイヨウやアキを宥め、マキマの父であった、男。

 

 

 

紛れもない。

 

石原砲代、その人であったのだ。

 

 

 

 

「誰じゃ……」

 

出血で、もう脳に血も上らず、目も見えなくなっているのだろう。砲代は右手を何度も、頭の方へ動かそうとする。

 

「オレです!アキです!」

 

「……アキ…か……」

 

まるで、希望を見た様な、オアシスを見つけた様な声。

すると、砲代はその死に体の表情を、おかしくニヤリとさせ、アキの方向に顔を向ける。

 

「アキ…ワシの……頭の…ひも……を抜け…!」

 

目はもう見えていないのにも関わらず、ギラギラと闘志を見せ、口を凶悪にニヤリとさせる。白く濁った目は、強く、鋭い眼光を見せている。

アキは何が何だか、分からなかった。

 

これが夢なのか現実なのか、自分の知り合いが真っ赤になって、死にかけの状態で、頭にある紐を引っ張れというこの状況が、酷い悪夢の様に感じたのだ。

ひどい悪夢だ。幼いアキはそんなことを思う。

 

「あ…?…え?……うん。」

 

戸惑いながら、アキは砲代のこめかみにある拉縄を引っ張る。

 

 

一帯にはタイヨウの泣き声と、ゴォーと言う風の流れる音と共に……

 

 

 

爆音が広がった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

荒野を見つめて、一人の少女が泣いていた。

冷たい雪に膝をつけて、その目から大粒の涙をなん度もこぼした。頭はぐわんぐわんと、まるでジェットコースターに揺られる様な感覚になり、胸はまるで誰かに心臓を強く、強く握りしめられている様に痛かった。

 

「ぁ…ぁあ!!うわぁあああ!!」

 

閉め出した喉から出てくる声は、異様に震える。咽び泣く声があたりに響く。

 

「嫌だぁあ!なんで!なんでぇ〜!」

 

涙をこぼして何度も地面を殴る。自らの打ち付け用のない不甲斐なさを吐き出す様に、一心不乱に何度も、何度も。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

ー痛い。痛い。痛い。痛い!!

なんで!なんでこんなに、なんであんなに。

胸が苦しい…!胸が痛い…!

 

マキマには見えていた、いつもの日常が。

夕食を一緒に食べる記憶が、水を溢して怒られる記憶が、裸を見られて砲代をビンタする記憶が。

いつもの日常。変わらない平穏。

マキマが本当に求めていたもの。

 

それを。

たった一瞬で。

風と共に吹き飛ばされたのだ。

 

監視用の小鳥が吹き飛ばされた、その瞬間。声を上げ、逃げろと言った瞬間。爆風と共に消えた愛すべき人。私の父親。私の唯一。私の…

きっと、死んでしまった。

きっと、生きてない。

きっと、戻らない。

 

私の。私だけの。私のための日常。

マキマの脳内は一種の精神崩壊を起こした。

 

そして…

 

「………もう。いいや。」

 

たまる。溜まる。心の闇。

いつしか涙は止まり、ぐるぐる目は黒く濁る。

表情は死に、そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の悪魔が立っていた。

 

ヒュゴーとなる荒地中、それには爆発音など聞こえていなかった。




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ps.なんと、ついに三十話を迎えました!
本当にありがたい限りです!!これからもどうぞ「進め歩兵よ!大砲片手に!」にご期待下さい!


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第二十八発目・風と硝煙

急な鬱展開に、誰もがびっくりしてる。
私も驚いてる。


 

ー急げ、急げ、このままではもっと被害が出てしまう。

 

海上を大砲ほどのスピードで加速しながら、砲代は敵の後を追う。自分が倒れていた時の誤差は、明らかに致命的で、もしかしたらもう既に大陸に到着しているかもしれない。日本海を南下し、台湾海峡を通過する。着水と同時に、また大砲を海面に撃って加速する。

 

南シナ海を通過し、マラッカ海峡を通過する。行く先の海面には、大きな波紋が残っており、幾つもの転覆した船や、炎上している船がある。

 

ー急げ、急げ、大陸に上陸してしまう!!

 

腕の大砲を、足に移しては、より加速させる。

しかし、悲しいかな。

見えてきた大陸では、もう既に煙が上がっている。インド南部にできた一直線の、荒廃した通過後を通る。耳にするのは、多くの人の叫び、怒号、号泣。

目を向ければ、炎や煙に混じって、褐色肌の人々が、泣きながら瓦礫を退けている。唖然としながら荒廃した地を見ている。叫びながら家族の名を呼んでいる。

 

「クッッ…ソォォォォォォォ!!!!!」

 

ー飛べ!飛べ!なお早く!!

 

山を越え、谷を越え、国境を越える。

屍と瓦礫の山を越え、平野部が見え始める。

いつか見た地、満洲の地を越える。ここまで来ると、どんどん気温も下がっていく。ロシアの極東の寒さはその日マイナスを優に越え、砲身には氷が少しずつ付着してきている。

 

氷結する砲身、近づく火薬の匂い、そして……!

 

「……見えぞ!」

 

足の火砲をぶちかます。

浮上する体を大きく開き、腕を曲げ背中におくる。そして、頭の火砲に全てを移す。

 

あの時の再戦。

そして、因縁の消滅。

 

「死に去らせぇぇ〜!!この阿呆ンダラァ!!」

 

……爆音が走る。

 

その巨大な銃口で出来た頭に火花が走り、地面に落下していく。

だが、まだ足りぬ。

 

両腕の火砲を肥大化させる。

 

それは もはや大砲と言うには 

 

あまりにも大きすぎた

 

大きく 長く 強く 

 

そして 大雑把すぎた 

 

それはまさに 艦砲だった。

 

右手には全長を25mを超える砲と左手に30mを超える砲を構える。そして、発砲。

その衝撃はまるで、世界を揺るがした様に錯覚するほど。砲弾は地面に落ち、頭を最後の気力で砲代に向ける銃の悪魔に直撃する。

 

爆発と同時に飛び散る肉片と、銃弾。

砲代が、地面に着地した頃には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……絶命した銃の悪魔と、血だらけの砲代が君臨していた。

 

「……今度こそ仇は取ったぞ…ドン太郎。そして…」

 

砲代は後ろを振り返る。

銃の悪魔が通り過ぎた、惨たらしい程の荒野。そして、そのずっと向こうで死んだであろうヒルコと早川家の存在を、砲代はただ感傷に浸りながら思い出していた。

 

もう一度、体を戻し、銃の悪魔の死体を見る。砲代は感じていた。違和感を、何か重要なものを見落としている、つっかえを。

明らかに弱っていた(銃の悪魔)そして、この死体にある刃物で抉られたような傷跡。

 

…その時であった。

 

「…?なんじゃ?」

 

音が聞こえる。

ヴヴヴヴヴと言う機械音が。何故か、心に響く音が、何処か待ち望んでいた音が。

咄嗟に、砲代は振り返る。まるで、親に呼ばれた子供のように。

 

「……!お前サン…」

 

銃の悪魔の死体を切り上げ、這い出てきたのは、一匹の悪魔。臓物のマフラーを首に巻き、黒い体をし、そして。

 

「身体中の電鋸…!」

 

四本の腕についた電鋸。

そう。

ここに存在したのは。

 

風穴だらけのチェンソーマンであった。

 

「お前サン…大丈夫か?」

 

「……ヴァ?」

 

こちらに顔を向け、目と目を合わせる。

チェンソーマンはまるで品定めをする様に、砲代を直視する。

その瞬間。

 

「…ヴァァア!!!」

 

チェンソーを回し、臨戦体制を取り始める。

 

「……ここで、お前サンに会うとはのぉ…」

 

砲代も、もう一度、頭の拉縄を引き抜くのであった。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

ー私は駆けつけられた公安デビルハンターに保護された。その時には、涙は枯れて、もう"石原マキマ"はいなかった。

 

私は戻ったんだ。

 

ただの"マキマ"に。

 

次に記憶があったのは、公安上層部の前だった。

閑静な部屋の中、男達と椅子に座った私。

 

「砲代君は死んだのかね。」

 

とても酷い匂い。

これは、きっと公安部長(トップ)であろう。

 

「はい。」

 

「…なんだぁ〜、そんなに落ち込んでいないな。」

 

「……悪魔ですので。」

 

「そうかい。まぁ、飼い主の手を噛む狂犬が消えた事は喜ばしいな。」

 

その醜悪な顔をくしゃりと変え、笑顔を見せる。

その後、つられて上層部の面々が笑い始める。

何も感じない。

何も。

何も。

 

「これから、君の管轄は内閣になる。」

 

「分かりました。」

 

「内閣直属のデビルハンターになるんだ。嬉しいだろぉ?」

 

「……学校は、どうなるんですか。」

 

そう言うと、眉間に皺を寄せる。

マキマの目の前に座った男が、まるでつまらぬ冗談を聞いたように、鼻で笑う。

 

「なんだ。行きたいのか?」

 

睨みつけられる。

私はそれを、表情のない顔で返す。

 

「はい。」

 

「何故?」

 

「人間社会に溶け込む為に、必要だからです。」

 

感情の起伏のない声で、返答する。

その男は、またフと鼻で笑うと、醜悪な顔で笑う。

 

「まぁ、いいだろう。では、これからもよろしく頼むぞ、支配の悪魔。」

 

「はい。」

 

手が痛い。

血が少し滲む手のひらを見て、言い聞かせる。

 

私は戻ったんだ。

私は、戻ったんだ。

これが、普通だったんだ。

 

これが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けてよ…お父さん……」

 

虚無の中、私はそう呟いた。

 




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さぁ、ついに対面した、因縁の二人。
次回もお楽しみに!

ps.章の名前を変更しました。


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第二十九発目・大砲と電鋸

いやぁ、暗い雰囲気が続きますね。


 

鉄が重なり、金切り声が鳴る。

満身創痍のチェンソーマンを、0距離発射の砲弾が襲うのだ。砲身と刃のぶつかり合いは、けたたましい音を上げる。砲代は、器用に砲身を使ってチェンソーマンの足を狙い、はらい上げる。

転けそうな体を支える為、四本のうちの二本の腕を、地面に突き刺す。

 

「かかった!」

 

瞬間、砲代の頭から火花が走る。発射された球は、瞬間的に防御しようとしたチェンソーマンの右手をぐちゃぐちゃに抉り飛ばし、砲代はすぐさま距離を置く。

 

「ヴゥゥゥ…!」

 

低い声で威嚇する様に、チェンソーマンは起き上がる。血がないのか、その右手の一つはスターターを引き抜いても再生せず、すぐさま臨戦体制に戻る。

 

砲代の両手から火花が散る。しかし、今度は姿勢を急に低くする事で、これを回避する。その瞬間、チェンソーのチェーンを引き延ばし、砲代はその両手を地面に向けられてしまう。

これを好機と見たチェンソーマンは、飛躍し砲代の背面に周り残りの一本のチェンソーで攻撃をせんとする。が…!

 

「…!二本目じゃあ!」

 

砲代の頭の砲身は刹那、180度回転しチェンソーマンの左手であったチェンソーを吹き飛ばす。

またもや、ヴァァア!と断末魔をあげ、チェンソーマンは砲代に距離を置く。

 

…これだけ見ると、砲代が圧勝している様に見えるが、そう言うわけでもない。

実際、砲代はチェンソーマンにカウンターでのみしか攻撃を与えられておらず、血の回復も出来ない現状。一度の攻撃が命取りになってしまうのだ。

 

緊張が走る。

居合いの距離ではないが、その状態は確かに、この二人の間に存在した。

チェンソーマンが次の一手に動こうとした、その時。

 

「……もういい。やめじゃ。」

 

疲労、焦燥、後悔。そんな感情が砲代の頭の中を駆け巡る。

瞬間、砲代は足に大砲を回し、飛び上がる。 

その右手には、いつ間に抉り取っていたのか、銃の悪魔の肉片を持って日本の方向へと飛び立つ。

殺した証拠がないと、死んだと分からないからだ。

 

飛び去る中。砲代の頭によぎったのは、未だ自分が死んだと思っているであろうマキマの姿であった。

チェンソーマンとの因縁など、後からでも終わらせることができる。しかし、家族の仲はそうではない。

早く帰らなければ、面倒な事になる。

そう思い、一刻も早く帰ろうとしていたのだ。

しかし…!

 

足に痛みがする。

刃物で刺される様な痛みに気づき、後ろを振り向けば、自分の足にチェーンを絡み付かせ、チェンソーマンがついてきてるではないか。

 

「なんて、小賢しいやつなんじゃあ!」

 

振り解かんと、不安定に砲弾を撃つもあたることはない。それもそのはず、この男こんなことを想定した訓練などもしておらず、その上、脳に血が登っていないときた。

 

とどのつまり、満身創痍だったのである。

 

チェンソーマンは、まるで余裕と言わんばかりに、繋がりながら大きくあくびをしている。

日本海を超え、東北にあたる所、砲代は遂に限界を迎えた。

 

「ぁぁぁぁぁぁああ!!うっっとぉしいいぃ!」

 

足の大砲をしまい、両手を上にしたかと思えば、思いっきり空砲を飛ばし地面へ落下する。

それと同時に、砲代はその砲身を使い、チェンソーマンにタックルをかますのであった。

 

地面に砂煙を撒き散らし、地面に落下する。

その時、砲代もその意識を飛ばしてしまうのであった。

 

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

砲代とヒルコが死んだらしい。

この一報が届いた時、一番最初に泣き出したのは井伊乃だった。バディだったことも相まって、相当心にきたんだろう。次に泣き出したのは三島だった。

あいつに取って、ヒルコは最高のバディだっただろうし、砲代はあいつの師匠でもあった。

 

その次は、佐々木だ。あいつ、クァンシの部屋に殴り込んで、怒鳴りながら事情の説明を要求したらしい。すぐに、取り押さえたらしいが、流石にあの顔は凄かったな。

 

そんで持って花御だが、あいつは手紙を送ってきた。俺や三島達にだったが、現状が飲み込めないと言うここと、詳しい話を聞きたいと言うことらしい。

 

クァンシはいつも通りだ。いや、どうだったろう。いつもより無口だった気もする。

 

俺は……あいつは、後輩と言うにはあまりにも鬱陶しくて、なんと言うか……まぁ、泣きはしなかったよ。

 

特異一課は、お通夜ムードだ。

俺も、あいつが死んだなんて考えられない。

 

「……砲代さん、ほんとに死んじゃったんですか?」

 

「目撃者もいる。死体はまだ見つかってないが」

 

クァンシが冷めた声でそう話す。

井伊乃はそれっきり黙りこけてしまった。

コーヒーを入れ、飲み始める。その時。

 

「…あ!そう言えばマキマちゃん!あの子はどうなるんですか?!」

 

突如として、井伊乃が思い出した様にクァンシに問う。

 

「…?マキマ?」

 

クァンシが疑問を浮かべる。

まるで、そんな物がいないと言うかの様に。

 

「いや、砲代さんの娘の…」

 

「……砲代は独り身だぞ。養子の話も聞いてない。」

 

「「「はぁ?!」」」

 

混乱は加速する。

未だ眠る砲代を捨て置いて。




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さぁ、なんともまぁ、複雑な食い違い。
砲代さんはこれからどうするのでしょうか!


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第三十発目・最悪の空気

文才がない私をお許しください…!
さて、何転もする最終章。
砲代の帰還は何を生み出すのか?!


 

…額に水滴が落ちる。

 

砲代が目を覚ますと、そこは霧に囲まれ、雨が降り頻るとある山の中であった。山内では雨が降りザァザァとした山の声の様なものが、森全体に響き渡っている。

起き上がれば、二月の冷たい風が木の葉を揺らし、自分が山の中にいる事を、再認識させる。

砲代は、顔に降ってきている雨水を拭き取り、木陰に隠れる。

 

「……腹が減ったのぉ〜」

 

あれから何時間…いや何日、眠っていたのだろうか。日付もわからぬ。

爆風に巻き込まれ下半身が吹っ飛んだ後、直ぐに拉縄を引っ張ってもらった為か、今は全裸である。空腹、焦り、寒さ、そんなものがどっと砲代に襲いかかる。

 

おもむろに拉縄を引き上げるが、血が足りていないのだろう。眉間から少し砲身が出た程度で、完全に悪魔にはなれない。

 

「…カァ〜……歩くかぁ…」

 

そう言って、砲代はふらふらと足元もおぼつかないまま歩き始めた。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

木陰を移りながら移動し、山を降りていく。

5日も遭難したが、やっとの思いで人里に降り、服を貸してもらい、ヒッチハイクと徒歩で東京へと向かう。

 

そんなこんなで、東京に戻るのに一週間の時間を費やしたのだ。

 

「お疲れ様、砲代君。ここまでで大丈夫かな?」

 

「いやぁ!本当にありがとうございやす!!」

 

深々と九十度のお辞儀をする。

そうすると、車に乗った女性は少し笑みを浮かべる。

 

「よかった。強く生きてね!」

 

そう言うと、フロントドアを閉めて車はいってしまう。それをひとしきり見送った後、砲代は後ろを振り返る。

 

「……ようやくついたノォ…!」

 

目の前には公安特異課の本部。最初、一度服を取りに戻った方がいいとも思ったが、それよりも早く自分の帰還を連絡するべきであると、事を急いだのだ。

晴天を表すほどの、青空の中、大きなリュックをもう一度、肩に直して扉の中へ入る。が、この男、肝心な事を知らないのである。

 

そう……

 

「ほーだい様が、も〜どったぞォ〜〜!ガハハハハハ!!!」

 

そう、"知らない"のである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?なんじゃ、面白くなかったか?」

 

扉を開けた先の人間は、懐疑的な目、不審者を見る様な目、そして……死人を見たかの様な目をしていた。

全体がシーーーんとなる。誰も喋らない、静寂の時。しかし、静寂は一人の女によって解かれる。

 

「ほ……砲代さんンンンン???!?」

 

「おー井伊乃かぁ、9日ぶりじゃのぉ〜!」

 

ヘラヘラと笑う砲代をまるで、何も知らないカカシの様だった。しかし、そんな砲代に反して、他の者は誰も笑っていない。いや、笑えない。

 

「……本当に砲代さんなんですか。」

 

すると、何処からか三島が現れる。両手にはメリケンサックを携えて、その目は懐疑的で、信用をしていないと、はっきり訴えてくるものだった。

"そんなにつまらなかったのか"と、一瞬勘繰るが、よく見ればそうではない。証拠に周りにいた同僚のデビルハンターも皆、同じ様な目を見張りいつのまにか、裏にも回り込まれている。

 

「砲代か。」

 

人混みをかき分けて、砲代にそう言ったのはクァンシであった。呆れた様に、哀れそうにそう呟くと、刀を引き抜き砲代の目の前に立つ。

何事かと、砲代は勘繰るがその前に手を上げ、抵抗の意思がないことを伝える。

 

「…余計なことはしゃべるな。私達の質問にだけ答えろ。」

 

「……ほうか。」

 

「お前の名前は?」

 

「石原砲代」

 

「お前のバディの名前は?」

 

「井伊乃三咲」

 

「石原のいつも頼むラーメンは?」

 

「……?濃厚岩盤割れラーメン」

 

「佐々木が飲んだ時にする行動は?」

 

「笑う。すごく笑う」

 

「最近公安を抜けた佐々木のかの

「いい加減…どういう事か説明せぇい!」

 

「……まぁ、いいだろう。」

 

その瞬間。

 

「ほぉぉだぃさぁぁああんん!!!!」

 

井伊乃はまるで、栓が外れたように泣き出し抱きついてくる。それを慌てながらも、しっかりと支え、砲代は頭を撫でる。

しかし、やはりその顔には状況が飲み干せない、困惑の表情がくっきりと現れていた。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「わしが死んだ事になっとるじゃとぉぉお!?!」

 

白い部屋に対面に置かれたパイプ椅子と机が一つ。まるで、取調室の様な部屋で砲代は絶叫する。

 

机を叩き、思い切り立ち上がる。椅子は、その衝撃により地面に倒れ伏し、衝突音が部屋全体に広がる。が、砲代はそんな事を気にしない。

頭を抱え、なんじゃ!なんじゃ!と狼狽している。

 

「……最後まで聞け砲代」

 

すると、クァンシは一枚の紙を砲代に渡す。んあ?と声を上げ、紙を受け取り、椅子を下の位置に戻し座っては、読み始める。

そこに書かれていたのは、公安に所属するものとして、いや砲代として最悪なものであった。

 

「…わしが…敵対魔人じゃと……?!」

 

それは、死亡後の砲代への処理であった。

砲代と言う人間は死亡したのであるから、もしこれが万が一にでも蘇ったならば、魔人になったと言う他ないと言うものである。

だが、これはおかしいと言わざるおえない。

 

たしかに、自分は一度死んでも蘇る力があると言うことは、同僚には公言していないし、クァンシにも伝えていない。

しかしながら、カルト教団との戦闘で一度死亡した後、よみがったと言うことを、砲代は公安上層部に伝えているのだ。

 

「…これはまだ、全体に伝えてない情報だ。まぁ、これ自体は今日の朝に、上から来たもんだけど。」

 

「……わしは、"切られた"わけじゃな…?」

 

「そうだ。」

 

残酷に、その冷淡な目でクァンシは砲代に伝える。死刑執行を伝える言葉の様に、いや実際そう言っても過言ではないであろう。公安に悪魔であると言われたならば、日本中のデビルハンターに狙われると同義なのだから。

 

「マキマはどうなっとる…?」

 

「お前の娘とか言う女の子か?」

 

「ほうじゃ。井伊乃や佐々木から教えてもらっとるじゃろ。」

 

顔を下に向けて、砲代はただ呟く。

表情は見えず、クァンシにとって次の言葉を発することは少々、いやあまりにも恐ろしさを感じるものであった。

 

「………引き取られた。」

 

「誰に。」

 

「公安…いや政府に。」

 

「ほうか。」

 

そう呟くと、砲代は立ち上がりドアノブに手をかける。たが、寸前、その肩をクァンシに掴まれる。

 

「…逃げろ。」

 

「なんのことじゃ。」

 

「今日、ここに戻ってきたことは喋らない。だから、どこか遠くに

「何を言っとる?」

 

砲代が振り返る。

そこには、今まで以上に目つきを凶悪にさせた人間がいた。"鬼"を思わせるその凶悪な覇気は、クァンシに緊張を走らせる。

 

「……クァンシ、お前さんはの、自分の職務を全うすればいいんじゃ。」

 

そう言うと、扉を開き砲代は姿を消す。

部屋には、ひっそりとした静寂と、先の事件を思わせる凶悪な空気だけが残ったのであった。




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第三十一発目・決別、そして激突

またランキングに乗れたぁ!やったぁぁあ!!
それと、お気に入り登録者が1000人を突破しました!
ありがたい限りですなぁ…




 

「戻った。」

 

ドアを開け、部屋の中に入る。

部屋の中は静寂が支配し、一歩を踏み出せば背後からは扉が閉まる音のみが一瞬、その場に広がる。部屋は少々埃くさく、どこか広々としていた。

 

沈黙内、砲代は靴を脱ぎ廊下に足を置く。もとよりこじんまりとして居て小さかった部屋を、やはり何処か広くなったと錯覚してしまう。

リビングに自身の存在を見出した時、その理由をはっきりと理解させられる。カーテンにかかってあった中学校の制服。部屋の隅の本棚にあった教科書、久しぶりの外出時に買ったカバンや服の数々。

 

そこには、ぽっかりと人一人分の穴が大きく存在して居た。

 

「……ハァ…」

 

小さくため息をして、押入れの戸を開ける。

そこには二人分の毛布があり、砲代はおもむろにその毛布を外に出すと、その奥にあった長物を引っ張り出す。

 

陛下からの賜り物とされた、小銃であった。歩兵銃を取り出しては、それを手にリビングのちゃぶ台の前で胡座をかきそれを眺める。

 

薬室付近のその上面、そこには陛下の紋章でもあられる、菊の御紋が一つそれが歩兵の象徴である事を明らかにさせる。

 

砲代にとって、これは決別の儀であった。

 

キッチンから1枚分のやすりを取り出し、その菊の御紋をあろう事か、削り始めたのだ。

自分としての歩兵という生き方を、放り投げるかの様に。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

この男の生活は、家族を中心に回って居た。

家族を守り、愛すべき物を守る為だけにこの男は生を受けたのであると言うのが、この男の持論であった。

 

故に、戦争には自ら志願した。1937年の支那事変(日中戦争)が、始まった際、以前からの夢であった教員を投げ出し、自らこの戦争に志願したのだ。

口では「皇国を守る英霊になるため。」などと言いながら、その芯には「戦争から家族を遠ざける」と言う確かな大義がそこにあった。

 

銃声、怒号、叫び。

阿鼻叫喚の地獄を経て、戦友を失い、親友を失い、遂には自らの正義を象徴する物すら砕け散った。砲代は今思う。そう言えば、わしにとっての歩兵はあの時(上官を殴った時)には、もう死んでいたのかも知れぬと。

 

砲代にとってのこの大義の対象は、ずばりこの世界に来てからドン太郎とマキマに置き換わって居た。地獄に来てから、もう既に家族に会えると言うことは諦めて居た矢先の親友、そして娘。

砲代にとって、これほど喜ばしく、内心を震え立たせたものはなかった。

しかし、これが劇薬であったのだ。

 

この男はもう既に壊れている。

 

戦争で疲弊し、地獄で親友を失い、家族をも失った。いくらなんでも、常人には耐えられない物である。知らず知らずのうちに、一つ、また一つのこの男を構成する心の部品は、外れ、緩み、そして壊れて居た。

 

 

「……これでいい。」

 

磨き終わった菊の御紋の跡を見る。そこには綺麗さっぱり、やすりによって削られた筒があった。

それをなんの感情もなく見て居た時。

 

「失望したぞ。砲代。」

 

窓の方に目を向ける。睨みつける様に。そこには一匹のカラスが鎮座して居た。いつの間にか、外ではカァカァとカラスの鳴き声が蔓延しており、耳をつんざく様なその鳴き声で奴らは歌う。

 

「契約違反だとはな。」

 

「じゃかぁしい。わしはやると言ったらやる男じゃ。」

 

「だから、国を、公安を裏切るのか?」

 

「裏切ったのは奴さんじゃ。」

 

「ハハ、そうか。」

 

「……武士に有るまじき話方じゃな。」

 

やかましい程のカラスの歌は、二人の間に異質な空間を産ませる。方や悪魔、方やデビルハンター。

 

「契約に則れば、お前は私がこれまでやった力を失う。」

 

「……わかっとる。」

 

「ハハ。ならいい。」

 

そう言って、カラスは飛び立つ。

見切りをつけた様に。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「支配の悪魔」

 

呼ばれ、起き上がる。

簡素な白い部屋。有るのはベッドと机と、カバンとクローゼットだけ。

 

「なんですか?」

 

「移動だ。」

 

そうとだけ言われると、扉から二人ほど黒い服の男とお偉いさんの一人が入ってくる。少々ピリついた空気に、マキマは違和感を感じる。

 

「何かあったんですか?」

 

「君には関係ない。」

 

扉を超えて廊下を渡り歩く。公安も辿れば結局は警察庁に上層部が鎮座する。

ビルになっているこの警察庁は何時もは、堅苦しい空気はあっても、ここまでギスギスしたピリついた空気をしたことはない。

マキマはビルの高層階から、外を横目で見る。見渡す限りの人、人、人。

まるで何かを待ち構える様に。

デビルハンター達が警察庁の前に陣取って居たのだ。

 

「…何があったんですか?」

 

「静かにしろ支配の悪魔。外を見るな。」

 

「いやです。」

 

足が止まる。

両脇で歩いていた男達と、前を歩いて居た男も立ち止まる。

 

「話が理解できないのか?」

 

「いや、私がしたくないだけです。」

 

「……ッチ…これもあの死に損ないのせいか。」

 

「……?!それってどう言うー

 

瞬間、痛みの後マキマの視界が暗転する。

だが、マキマ目を閉じる瞬間、一つの音が聞こえたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼方から、一発の砲弾が飛ぶ音が。




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第三十二発目・公安デビルハンターvs大砲の悪魔

戦闘描写が一番苦手な二次書きさんが、
ランキング狙って、頑張りますヨォ!


 

「…来たか」

 

「おう。ワシはやると決めたら、とまらん男じゃ」

 

警視庁の眼前。

その広場には50人以上のデビルハンターと、たった1人の男が対峙して居た。抹茶色の軍服に、茶色の鞘を持つ軍刀。この装いを見た事のある2人以外には明らかに、いつもの砲代とは似ても似つかないその服装と、表情はここに結集したデビルハンター…もとい公安の面々にとてつもないプレッシャーを与える。

 

「……来たからには、もうあの話は無理だよ」

 

「ほざけクァンシ。わしはもう昨日その返事をしたはずじゃ」

 

「そう」

 

クァンシが刀を引く。それと同時に砲代も己の拉縄に手を掛ける。

右手には刀を握りしめ、左手だけを大砲し身構える。

 

「……これより大砲の悪魔の討伐作戦を開始する」

 

「 帝国陸軍第十四方面軍、100師団兵長…石原砲代……吶喊する!」

 

この瞬間。

戦いの火蓋が切られた。

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「コォン!」

 

どこの誰が言ったかも知れぬ声が、キツネの尻尾を呼び出す。しかし、直線的に動く攻撃を横にいなし切り落とす。距離を詰めたデビルハンターに近づき、腹に空砲を撃ち放つ。

すると、それは少し飛んだかと思えば気絶してしまう。しかし、それだけでは済まない。

砲代の元にはどんどんとデビルハンター達がやってくる。しかも、50人だけではない。続々と応援が呼ばれるのだ。

 

戦局はハッキリ言って砲代の劣勢であった。

 

「諦めたらどうですか…砲代さん」

 

「……三島か」

 

「今からでも間に合います。大人しく降参を

 

「じゃかぁしいぞ、このタコ。このまま捕まって仕舞えば、どうなるかくらい分からんのか?」

 

「…それでも死ぬよりかは

 

「"死ぬよりも"、じゃ」

 

砲代は空砲を撃つ。しかし、三島はそれを躱し距離を置く。

砲代も右手の刀を鞘に戻し、その右手でもう一度拉縄を引く。

 

「これなら、躊躇せんじゃろ?」

 

「…最悪ですよ。本当に。」

 

全身を悪魔化する。凶悪な表情を見せる三島に表情もわからぬ悪魔がそう言い放つ。三島が距離を詰めんと、一歩を出す。それと同時に、砲代も距離を詰める。片腹に一発、頭に一発連続で拳を当てる。ふらつく砲代にトドメの一撃を鳩尾に入れようとした瞬間、三島は吹き飛ばされる。

 

なんだと、もう一度焦点を合わすとその眼前は暗い穴をとらえて居た。

 

ー違う!!

 

とてつもない空気と音に押し出されて、三島は気を失う。

 

「カァー!強くなったのぉ…三島ァ!」

 

ハハハと笑う砲代を横目に、すぐさま違うデビルハンターが襲ってくる。皆顔見知り、皆知ってる。共に酒で語り合った奴もいれば、水を奢った奴もいる。休憩時に談笑した奴もいれば、特訓をしてくれと頭を下げに来た奴もいる。

 

「カハッ?!」

 

「イッッ!?」

 

「ア"アッ?!」

 

「グッハッ?!」

 

「…なっとらんの」

 

悪魔化を一時的に解き、刀を抜こうとする…が、その瞬間、右足に激痛が走る。

どくどくと流れる血を確認し、すぐさま飛んできた方向に目をやる。

 

「前なら回避できてましたよね」

 

「井伊乃ォ…!」

 

「いい加減!諦めてください!!」

 

「無理な、話、じゃのぉ!」

 

刀を抜き、距離を詰める。井伊乃もすぐさま構えるが、瞬間、銃を刀で弾き飛ばしてしまう。

その直後に砲代は右足を使って、井伊乃を蹴り飛ばし気絶させる。

 

「おうおう!こんなもんか公安デビルハンター共ぉ!」

 

「いや、ここでしまいだな」

 

身構える正面のデビルハンターを押し除けて、軍勢から出てきたのは2人の男女であった。

 

「…クァンシと岸辺か」

 

「いい加減、諦めろ」

 

「そうそう、クァンシもこう言ってんだから

 

「黙れ岸辺」

 

「……相変わらずじゃな」

 

刀を構える。

 

「おい、その紐に手をつけなくていいのか?」

 

「戯け、そうすれば一瞬で手を切るじゃろ」

 

「おお、よくわかったな」

 

いつもはニヤついた岸辺も、ここでは無表情であった。きっと、躊躇でもしてしまうのだろう。この男はいつもそうだ。

 

「……甘ったれた馬鹿共に教えてやる」

 

刀を投げる。槍の様に飛ぶ刀をすぐさま、クァンシは叩き切る。刀が完全に折れた時、瞬間大きな爆発音が一体を揺らした。

 

…近代の戦場において大砲と言うのは…ましてや爆発音と言うのは自分の死がいつ起こるかわからないと言う事を、強く実感させる物であった。

破片、爆風、高熱…どれかに当たれば重傷は免れない。悪くて死ぬ。

 

この大砲の悪魔が地獄の悪魔達に酷く恐れられた理由…それは単純な暴力だけでは収まらない。死を本能的に近づける、その境界線を曖昧にし、戦場へと無理矢理意識を連れ戻す。

恐怖をその深層心理から引っ張り上げられるのだ。それは、まさに地獄の来襲。恐怖を根源に持つ悪魔達にとって、まさに悪魔的…である。

 

 

それが、大砲の悪魔の本質であった。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?!?!」

 

「キャァァァァァァァアア?!?!」

 

気がつけば辺り一体で叫び声がこだまする。

先程まで、砲代を討ち取らんとして居たデビルハンター達は頭を抱え地面に這い蹲る。泣きながら神に助けを求める者がいれば、歯をガタガタと揺らし体を丸くするものもある。

 

「…これは…!」

 

「マジかよ…クソ」

 

岸辺は自分の手を見る、震えている。

明らかに。

よく見れば足もだ。

呼吸は速くなり、目もチカチカする。

 

「おい、クァンシ…」

 

「私もだ」

 

その目は平生の姿を保たんとしているが、良くれば手が少し震えている。岸辺のものよりかはよっぽどマシで有るが。

 

「岸辺、クァンシ!いいことを教えてやる」

 

大きく声をあげて、その砲口を2人に合わせる。

 

「バカになれ!敵と戦う時は、それが一番いい!」

 

「……ほんとお前は最悪だよ」

 

「…クァンシに同感だな」

 

刀を構える。

ここに最強達の戦いが始まろうとして居た。

 




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第三十三発目・暗闇

よぉ、待たせたな(大遅刻)
受験勉強中です。更新スピードが亀以下になってます。ご了承下さい。


 

大砲の砲口を直線に、ストレートを打ち込む。

それを向けられた岸辺はそれを難なく避けて、砲代の腹に刀を打ち込もうとする。

が、瞬間。

砲代の足から空砲が放たれ、バク転をするようにそれを回避する。着地と合わせて、クァンシが後ろ蹴りをするが、姿勢を低くしそれを回避すると同時に砲代は、頭の大砲を至近距離で放つ。

 

「……やはりか」

 

しかし、クァンシは気絶する事なく、砲代にそのまま膝蹴りを加える。うわ事を呟いた砲代の顎に、うまく当たり砲代は1メートルほど後ろへ飛ばされる。

起き上がれば、2人は臨戦体制の構えを取り、次の動きを待っている。

 

「弱くなったな」

 

「なんじゃと…?」

 

クァンシはその無感情の目を冷たく向けては、そう呟く。クァンシはこの戦闘が始まってから一度も傷はついておらず、言ってしまえば岸辺も少しはついているものの、未だ健在であった。

 

「少し前なら私は兎も角、岸辺はもう倒れてるだろ」

 

「…あー、俺もそう思ってた。訓練の時よりも隙が大きい気がする」

 

2人はそう言いながら、砲代にジリジリと距離を詰めていく。震えはするものの、この2人には格別問題になるものでもなかったのだ。

だから、こそ砲代は考えた。

 

2人が、攻撃をしようとしたその瞬間、砲代は勢いよく腕を横に振り回しクァンシに狙いを定める。

 

しかし

 

「ガァッ?!」

 

「これで終わりだな」

 

砲代の左脚が見事に横に切れている。

攻撃をせんとした瞬間、頭を下げ切り落としたのだ。膝から下のない足では、まともに攻撃などできない。

何ともあっけないほどの戦いだった。

 

脚を飛ばされた砲代を2人は囲み、それに続いて他のデビルハンターも近づいてくる。

 

「ここで選べ砲代」

 

クァンシの刀が砲代の頭から伸びる砲身に向けられる。

 

「ここで死ぬか、政府に飼われるか」

 

「"飼う"じゃと?今更、ワシをか?」 

 

ケラケラと笑い声が響く、この世に及んで一体何を笑っているんだと誰もが思っている。

 

「…じゃあ死ぬか」

 

刀を振り上げ、首を断とうとしたその時。

 

「ほざけガキンチョ、勝った気でおるな」

 

剥き出しになった歯茎をニカリとさせ、次の瞬間砲代の周りは衝撃が響いた。

 

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

閑静な白い正方形の部屋、奥にベットと小物が一つある部屋にてマキマは目を覚ました。

あたりを見渡すと、奥にはビルにあるまじき厳重な鉄の扉が鎮座し、無音の世界が広がっていた。

こんな所では、小動物を使った偵察もできないだろう。そんな事を頭に浮かべて、ベットの上で膝を抱えていた。

 

「死に損ない…」

 

私をここに入れたであろう男が呟いていた一言だ。どうも、その言葉が私の頭を強く揺らしてならない。そして、あの時聞こえた爆発音も。

 

ベットを出て、鉄の扉を覗いてみる。

 

これまた白い廊下が、奥の扉まで続いており、この狂気に私は呑まれてしまいそうと感じていた。

狂気に呑まれる…昔では考えられない様な感覚を感じている。

 

いつの間にか弱くなっていたのだろう?

 

恐怖・失望・後悔・懺悔…昔は感じなかった、いやよく分からなかった感情が強く、ひたすら強く心の中で蠢いている。

 

白一色の狂気の廊下から目を背け、ベットに踵を返す。そして、つまらなそうにまたベットに飛び込む。外の音は何一つ聞こえない、聞こえるのは部屋の中にある時計の針の音と、マキマの微かな息遣いだけであった。そうして、また目を瞑る。

 

「お父さん…」

 

体を丸めてそう呟く。死んだと言われた自分の父を思ってそう呟いた。あの時、あの場所で、ああすればと言う自責の念がいつまで経っても彼女を蝕む。悪魔としての彼女がそうさせるのか、砲代の娘としての彼女がそうさせるのか。

中途半端に人になった彼女はまた目を瞑る。

 

目を閉じて瞼の裏を除けば暗闇がある。何もない。何も聞こえない。まるで暗闇の地獄のように。

 

目を閉じて。

 

 

 

何も感じず。

 

 

 

 

何も…

 

 

 

何も…

 

 

 

 

…?

 

 

 

ー匂いがする。

どこかで嗅いだ匂いがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーよく嗅ぎ慣れた匂い。

でも、分からない。

 

思考する。彼女の脳内が思案する。暗闇の中で、何かを探るように。地獄で一筋の糸を登らんと足掻く罪人ように。必死に、懐古し、思い出そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーいつか嗅いだあの匂い。

公園で、街中で、雪の中で、木々の中で、駅の中で、建物の中で、私の家の中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

思考する。思案する。忘れられない思い出と共に、懐古して、思い出して、暴き出して。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…爆発音がした。あの白い廊下を塞いでいた鉄の扉はひしゃげて、埃と共に壁へと叩きつけられた。かつかつと足音と共に、廊下の影に照らされてあの人が部屋に入ってきた。あの人が私を見つめた。

 

 

 

ベットから起き上がり、駆け出す。

足には何も履いてない。裸足のままだけれど、そんなことも忘れて、冷たい白いタイルに足をつけて、彼へと向かう。

久方ぶりの抱擁は彼の匂いと私の涙でぐちゃぐちゃだった。

 

「おかえり、お父さん。」

 

「待たせた。マキマ。」




おかえり(笑顔)
だけど、まだ終わってないよ!!!(無慈悲)

感想と評価のほどよろしくお願いします!


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第三十四発目・さようなら、また会う日まで

久しぶりに自分の書いたやつ読み返してきたら、書きたくなっちゃった


「くそ…やられた」

 

ー爆音と、砂埃が晴れた瞬間クァンシとオレは建物の階段へと踵を向けた

 

砲代はあの瞬間、右足から爆発を起こして数回上の警察庁の窓ガラスから侵入したのだ。してやられてたと、そう岸辺は思いながらも、階段を全速力で駆け上がる。

 

「おいクァンシ、お前奥の手使わないのかよ」

 

「無理だ、ここで使うと面倒事になる」

 

扉を開け、腰の抜けている職員の肩を掴む

 

「おい、お前さっき悪魔が来ただろ」

 

「そ、そうだ!助けてくれ!」

 

「黙れ、どこに行ったかだけ答えろ」

 

割れたガラスが散らばった廊下の真ん中で、クァンシが尋問する中、岸辺はふと空から降る埃に目を向け天井を凝視する。

 

「おい…クァンシ…砲代の居場所がわかったぞ」

 

「何…ッ?!」

 

顔向けた先の天井には、4階を堂々と貫く穴が存在した。詰まるところ、この4階上に砲代がいるのだろう。

 

心の中で舌打ちをして、また階段を駆け上がる。4階に上がり、長い廊下の先に目を向けた時、またもや大きな爆音と破壊音が全体に鳴り響いた。

 

そして、その爆音と目線の先には、一人の少女を担いだ砲代の姿があった。

 

「おう、遅かったのクァンシィ!」

 

今から走っても、刀を投げても間に合わないだろう。クァンシはそう考える。

 

また…損な立ち回りを取らされたわけだ。

 

「おい、砲代。お前これからどうするつもりだ」

 

砲代にそう声をかける。これは時間稼ぎにもならない。意味もない。

だが…最後の挨拶くらいはしても良いだろう。彼女はそう思った。

 

「どうするも何もここから逃げ

「逃げてどうする」

 

冷徹に、だが芯を持った声でクァンシは言い放つ

 

「ここから逃げても、日本中のデビルハンターはお前を血眼になって探すだろ」

 

「だから…だからどうしたんじゃ…」

 

「お前、本当に死ぬぞ」

 

睨みを利かせて、いつもの変わらぬ様な表情で言い放つ。しかし、真顔で、死んだ魚の様な目の彼女の精一杯の慈悲と元同僚への抑止であったことは砲代自身にも伝わった。

 

 

 

だが。

 

 

 

「もう、戻れんのだよ」

 

 

 

いつもと声色を変えて、砲台は呟く

精一杯の優しさを込めた丁寧な声で、先生が生徒に言い聞かせる様に。友人に諦めを付かせるために。

 

「じゃぁな、クァンシそれに岸辺!次はわしの首をしっかり切ってみせろ!ガハハハ!」

 

いつもの様に、あの時の様に、岸辺とふざけ、酒を飲んで、談笑したあの様子のまま砲代は歯茎を見せてクァンシに笑顔を見せる。そうして、担いだ少女に一声をかけたかと思うと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発音と共に砂埃が廊下と暗い部屋を埋め尽くした。少し経って、クァンシと岸辺が部屋に入ると、そこにあったのは埃だらけの一室。

 

そして、壁に開けられた巨大な穴から見える青々とした空が映った。

 

「クァンシ…」

 

「岸辺、今すぐに上層部に連絡しろ。悪魔を逃した。日本中に通達して、すぐに捜索を開始させろってな。」

 

変わらぬ顔で、また穴から空を見上げる。

あの砲代と初めて会った日の様に、その日は冬には珍しい快晴であったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳥が鳴き、葉が風に揺られ、木々がそれに同調する。

樹海の中、二人は森の中でたまたま見つけた洞窟で体を休めていた。

 

「ねぇ、これからどうするの?」

 

マキマがそう言った。あれから、砲代は空を飛び回った末、静岡あたりで体力と血が尽きてしまっていた。

 

「これから…そうじゃな。国外に出るのもいいかもしれん。日本を出ればまた話も変わる、きっと平和に過ごせるじゃろ!」

 

「……」

 

マキマが言いづらそうに口籠る。

彼女は分かっていた。きっとそれが不可能であると言うことが。支配の悪魔の力がどれほど強力であるか、どれほど人間がそれを欲しているか…彼女はそれを理解していた。

そして、彼女はその真実を…自身が悪魔である真実を語る時が来たのであると、そう察していた。

 

「どうした、マキマ?」

 

彼女は、恐れていた。

この家族の関係が崩れると言う事を。悪魔と自白するとこで、砲代の愛を受けられなくなると言う事を。

 

しかし、現実は非情だ。このまま真実をひた隠しのうのうと過ごせる事は無理であるし、そうではないからこそ、こうなってしまったのだろう。

 

もういっそ、このまま愛を受けられないのなら、砲代自身の手で殺されてしまっても良いとマキマは感じていた。悪魔として殺されるなら、家族として見られるうちに、殺して欲しい。

 

ー私も…私の父である砲代もきっと何かを隠してる。でも、それを聞いてこの関係が崩れてしまいそうで…

 

 

 

 

 

 

 

「うん…そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

結局、彼女はその日。

真実を打ち明けることはできなかった。




評価とコメントよろしくお願いします!
やってくれると、マキマさんが完全に育ちます。


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第二部プロローグ
第三十五発目 わたる世間に…


久しぶりですね


早朝、朝日と共に砲代とマキマは樹海を抜け出した。体力の温存の為にと、出来る限り大砲の悪魔になる事なく、程よい港町に行くつもりであった。

 

あの後から、マキマはあまり喋らなくなった。砲代はそんな彼女を気にして、公安の奴らに何かされたのかと、声をかけたりする。しかし、マキマの答えはいつだって、"大丈夫"か"別に"と、そっけないものであった。

 

静岡県の中心に差し掛かった頃、砲代はマキマを担ぎ、大砲の悪魔となって空を飛んだ。

あの事件から砲代もマキマもまともに、食事という食事をしていなかった為か、あっという間に体力は尽き、奈良の山岳部で一度足を止めた。

 

「お父さん、お腹へった」

 

「…金は少ないが…ファミレス程度なら行けるじゃろ」

 

人目を気にしながら、山を降りて二人は近くのハンバーガー屋…ファミリーバーガーにて、昼食をとっていた。

 

ーおかしい…何故こんなにもマキマは静かなんじゃ…

 

いつも食べているお気に入りの照り焼きチキンフィレオを頬張っているのにも関わらず、その顔には暗く、曇りがかっている。

マキマの異常は砲代が一番感じ取っていた。目を空に、ずっと何かを熟考している様であった。あの場所からマキマを救い出してからであったが。

 

ーやはり…何か嫌なことでもされのか…?!

 

砲代は心の中で大きく舌打ちをする。こう言う時に限っては相手の心への干渉は、慎重にならなくてはならない。それが年頃の自分の娘となると、よりそうである。砲代自身、思い当たる節がないわけではなかった。これから逃げる事に対して不安を持っているのか…それとも、もう学校に行けないかもしれないと考えているのか…

 

 

 

…ワシのこの体についてか

 

 

 

不器用な事に、この男…砲代も真実を打ち明ける時が来ていると自覚していながらも、それを語る勇気は出ていなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また野宿はきついだろうと、少し経った後近くの民宿になけなしの金を使って、泊まる事にした。

少しボロついた、奈良でも山側の民宿だ。

 

「おやまぁ…可愛いお嬢ちゃんだねぇ」

 

シワの多い老婆が出迎えてくれ、部屋に入った後すぐマキマを風呂へと入れてくれた。

部屋は2階にあった。少し、呆然と部屋を眺めた砲代は少しすると窓を開けて、ただ暗闇を見つめた。この後のこと、マキマのこと、公安のクァンシや岸辺、井伊乃達のことを思って遠くの暗闇を覗いていた。しかし、暗闇を見ているからと言って、それらに対する明確な答えや、解決策は浮かばなかった。

 

結局、最後にはこの闇…家の灯りの届かぬ場所に悠々と広がるこの黒に対する恐怖心すら抱いてしまったのだ。

それから10分程度が経ったであろうか。

 

「ただいま、お風呂上がったよ」

 

バスタオルを肩にかけて、髪の毛を少し濡らしたマキマが砲代に声をかける。チラリと、マキマの方を見て闇から目を背くと、窓を閉めてドライヤーを手に取る。

 

「ほい、こっちに…

「いい、お父さんすごく汗臭いもん」

 

「ガッ?!」

 

予想外の一言をくらい、胸に重傷を負った砲代を横目に、マキマはドライヤーをひったくり髪の毛を乾かし始めた。

 

仕方なく砲代も、マキマの一言を胸に風呂に入る為、階段を降りて一階に行く。妙に暗い階段をゆっくりと降り、渡り廊下に出ると老婆がいるであろう居間からテレビの音が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

…緊急速報です。

昨日未明、東京で大きな危険度をもつ魔人が公安警察との戦闘の末、逃亡。現在、近畿地方に向かっているとのことです。魔人は先日の銃の悪魔出現の際に死亡した、石原砲代氏の遺体を使用している模様です。近くで魔人らしきものを見つけたら、すぐに公安警察までお知らせ下さい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやまぁ…あなた魔人なの?」

 

後ろからの声に、驚きすぐさま振り向く。そこには、砲代の分のバスタオルを持った老婆が、弱々しい目を砲代へとむけていた。

 

「…そう言われとる」

 

「言われてるだけかい?」

 

「信じてもらわれんかもしれんが…言われてるだけじゃ、ワシは悪魔でも魔人なんかでもない」

 

「そうなの」

 

そう言って頷いた老婆は、居間へとつながる障子を引いて砲代に入る様に促した。砲代はそんな彼女にどうしたものかと悩んでいた。ここで公安に通報されて仕舞えば、これからの動きもバレてまうし、先回りだってされてしまう。きっと、逃げることは叶わなくなる。しかし、かと言ってこの老婆を喋られなくするなどと言う、非人間的行為をする度胸も砲代は持ち合わせていなかった。

 

「話を聞かせてくれないかしら」

 

「話じゃと…?話してどうなるんじゃ」

 

「どうなるなんて…私はそんな事は知らない」

 

「じゃぁ

「でも、貴方の悩みを聞いて、貴方自身の話を聞いてあげる事はできる」

 

嗄れた声で老婆は、優しそうに砲代に呟く

 

「私は生い先短いもの、ここで死んでも、結局変わらないわ」

 

「殺されても良いというんか…」

 

「そうじゃないけど…老人のおせっかいだと思ってくれたらいいのよ」

 

ちゃぶ台に正座した老婆と向かい合わせに、砲代は胡座を描いて座った。そこから、ポツリポツリと老婆に話をした。

 

 

 

 

 

 

話の終わった後、砲代は風呂に入って部屋へと戻った。ドアを開けた向こうには暗闇に包まれた、黄色い目をこちらに向けるマキマの姿があった。




評価とコメントのほどよろしくお願いします!
そろそろ第一部が終わるのかと、自分でもセンチになってるのを感じる


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