ダンジョンに「くっ、殺せ!」を求めるのは間違っているだろうか。 (最強オーク)
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くっころ0 プロローグ
ここは地図に載っているかも怪しい農村。
多種多様な野菜が畑いっぱいに広がって、収穫時なのか充分に実りきっている。野菜以外にも足をバタバタしている老人が上半身丸ごと埋まっていた。
そんな風景を縁側に腰掛ける二人の女性。
子供がようやく寝静まった時に、落ち着いて話がしたいと金髪女性に切り出された灰髪の女性は、静かに耳を傾けた。
「私はね、『くっ、殺せ!』がしたかったんだ」
「·········は?」
普段から意図的に目を閉じているのだが、この時ばかりはあらんかぎり開かれる。さらに90度頭を急回転させたせいで、ゴキリという痛々しい音がした。
「オークに女騎士、触手にエルフ、拘束監禁を是として始まる肉欲の宴。この世界に生まれ落ちてから、私はあらゆる凌辱を追い求めて来た」
「お、おい、少し待て。本当に、頼むから」
「でもね。私が思っている以上にこの体は強すぎた。ロリッ娘時代に村に現れたオークに勝てたんだ」
「いや、充分凄いじゃないか。うん。良いことだ」
都市外のモンスターは弱体化しているが、恩恵を授かっていない人間には難しい相手である。ましてや子供なら負けてしまう。
目の前の凛々しい女は、子供の時から才気に溢れていたらしい。中身はとんでもねぇが。
「本当は········負けたかった······!」
心の底から悔しがる彼女に最早返す言葉が見つからない。数秒後にようやく捻り出した言葉が、
「······負ければよかったんじゃないか?」
自分でも最悪な言葉を選んだと分かる。敗北は死以外無い。オークが人間に···なんて聞いたこと無いし。
「駄目なんだ!駄目なんだよ、それは······!」
「おおう」
「ワザと負ける、なるほど。これなら確実にくっ殺(略)に持っていける。だけど、それはくっ殺ではなくただの甘えだ。私の求めるものじゃない!」
「お、ジジイが這い出た」
感情の起伏が激しい変態に着いていけず、現実逃避に勤しむ事にする。まだ長くなりそうだ。
「本気の勝負がしたい。どんな敵も全力で挑みたい。取り敢えず切り捨てて、倒したと思い背後から···それで敗北を味わいたい」
「ジジイが突っ込んで来た。『義姉妹丼じゃあ!!』えいっ」
「なのに、どうして現れるモンスター全てが灰に変わるんだ。どうして闇派閥はすぐに気絶するんだ。見込みあった【殺帝】も、私みたら何故か撤退を決めるし。大衆の面前で犯すとか、綺麗な面を切り刻むとか言ってたじゃないか」
彼女の嘆き。生憎共感が一つもできない。散っていった闇派閥やモンスターに唯々同情。
「強くなりすぎた。もう団長殿とタメを張る強さだよ?もうすぐ次に進む。そうなればチャンスは来ないだろう」
「来なくていい。そんなもの」
「はぁ·········ダンジョンに『くっ、殺せ!』を求めるのは間違っているだろうか」
「間違っているぞ」
クロナ・コロン Lv.6 22
力:A865
器用:C633
耐久:B728
敏捷:D580
魔力:C603
発展アビリティ
騎士D
堅守F
魔防F
耐異常G
魔法
【フル・バースト】
・特攻魔法
・精神力全消費で発動
【ダメージ・コントラクト】
・指定した者の傷を請け負う
・自動発動
・永続発動
スキル
【騎士道精神】
・全能力の高補正
・騎士の理想の姿を思い浮かべるほど効果上昇
【騎士団結成】
・自分を敬う者の全能力に補正&発展アビリティを付与またはその一段階強化
【不折の刃】
・耐久に超補正
・武器に不壊属性を付与
・状態異常の無効化
前世では抑圧された環境で育ったオリ主は、偶然見つけた古本屋で『くっ殺』を見つけて感動する。なんやかんやで人生が終了し転生する。
転生後は夢を叶えるため、オラリオに上京する。暗黒期だと聞いて胸を高鳴らせるが思うようにいかない(滅茶苦茶人を助ける、なんなら盾になる)。人望が高まるのは嬉しい。
自身を喰らうと言った【暴食】に期待するが、思わぬ邪魔が入り断念する。
くっ殺がしたいのに長々できず、レベルが上がっていくことに焦りを覚えるが、それを打ち負かすほどの強敵に負けた時の達成感を味わいたいと思っている。
なし崩し的に助かった【静寂】と友達になり、彼女の義息子を可愛がる。田舎によく行く。
秘密を知っているのはアルフィアだけ。
生粋の変態にして畜生。凌辱趣味だが未だに純潔。いや、その日が来るまで純潔を守っている。
金髪青目の凛々しい美女。頭以外は鎧で身を包むという騎士っぽい格好。かなりモテる。たぶんスタイル良し。自分磨き良し。
ロリッ娘時代、オークを討伐。故郷で神童扱いされる。
LV.1、上層に通常種のミノタウロスを撃破。約半年という速さでLV.2。
LV.2、同レベルの闇派閥と激闘しまくる。ダンジョンでも同様に。
LV.3、アイズに襲い掛かるフリュネと戦う。その半年後のアストレアレコードでLV.4。アイズに懐かれる。
LV.4、アンフィスさんとジャガーさん相手に死闘を繰り広げLV5に。この時、左腕を切られた。アイズが病んだ。
LV.5、アレン急襲。オッタルとバロール退治に行く。右腕がぐちゃぐちゃになる。アイズに監禁された。
LV.6、またもやアレン急襲。楽々勝ててしまった。
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くっころ1 気になるあの人
私こと、アイズ・ヴァレンシュタインには守りたい相手がいる。
誰よりも優しくて、誰よりも強くて、誰よりも危なっかしくて。
泣いている迷子がいるならば手を取って導き、
危険なモンスターが相手でも勇敢に挑み、
助けを叫べば例え遠く離れていても駆け付ける。
皆が憧れる偉大な英雄クロナ・コロン。
私がフリュネ・ジャーミルに襲われた時、盾になるように守ってくれたクロナに、亡くなった両親の背中を重ねてしまった。そこからは止まれなかった。
都市外に出掛けると言えば、周囲の目を気にせず駄々こねたり。
地獄と化した27階層で左腕を切られたと聞いた時、主神団長を無視してクロナにくっついたり。
【猛者】と深層の階層主バロールに挑んで右腕潰されたと聞いた時は、部屋に連れ込んで数日間籠ったり。
今思えば嫌われてもおかしくない行動だ。それでも彼女は怒ることも、呆れることもなく付き合ってくれた。
『心配をお掛けしました。なので、私に出来る範囲でお願いを聞きますよ』
クロナが欲しい。
この一言が言えなかった。
『······じゃが丸くん』
『分かりました。今から全店制覇しましょう!』
夕食が食べられなくなって、二人してリヴェリアに怒られたのは良い思い出だ。
そんなおり、
『······くっ、殺せ!』
クロナの部屋で一緒に寝た時。何か悪い夢を見ているのか、うなされているクロナが発した言葉。その声は苦しそうで、何かを嘆いているとも聞こえた。
クロナに伝えてみたら、
『······私の、私が乗り越えなければいけない試練みたいなものです。この事は誰にも言わないでください、お願いします』
そう言ってクロナは頭を下げた。その表情にはいつもの明るさがなかった。それがひどく悲しかった。
彼女は今も苦しみの中にいるのなら。彼女に助けられた私は、彼女のためなら命を懸けられる。
だから、クロナを守りたい。自身の復讐を先延ばしにしてでも、クロナの闇を晴らしたい。
そのために愛用の剣を握る。彼女を守れるぐらいに強くなるために。
場面は変わって。
先の戦いで命令を無視して先走った私は、団長のフィンから呼び出され説教を受けていた。
副団長のリヴェリアとガレスからのフォローがあり、何かしらの罰を貰う事もなく終了した。
「ええ。そのテントはあちらにお願いします······おや?説教は終わりましたか?」
「うん」
ここは深層の50階層でモンスターが生まれない休憩地点。憧れのクロナ・コロンは拠点作りの手伝いをしていた。
ベートさんからは他の奴にやらせとけ、ラウルさんからは自分達でやるッス!と言われていたのだが、テコでも動かないクロナにもう諦めたのか何も言わない。
手伝いに一段落ついたのか、私を見つけたクロナは微笑みながら話し掛けた。
「そうですか。フィン達から言われたかもしれませんが、無茶はいけませんよ。貴方に何かあったら悲しいですから」
「ごめんなさい······でも、クロナも同じだよ」
「うぐ、そ、そうですね。私もアイズと同じでした」
気まずそうに苦笑いを浮かべるクロナに、思わずクスリと微笑む。
ちゃんとしているようでどこか抜けている。私が気付いた彼女の性格。私だけの秘密にしたかったが、主神のロキが言いふらしたせいで最早誰もが知っている性格になった。
この後の予定は食べて寝るだけ。だから、同じテントで寝たい!小さい私も添い寝!添い寝!と叫んでいる。
思い立ったが吉日。アイズの行動は都市最速よりも速かった!
「あの、クロn「おーい!クロナーアイズゥー!!」···」
「あ、ティオナ」
失敗。
自分と同じレベルであるアマゾネスのティオナ・ヒリュテに阻まれた。彼女の後ろにはティオナの姉のティオネ。後輩であり、リヴェリアの後任のエルフであるレフィーア・ウィリディスが、こちらに歩いてくる。
「私ももっと勇気があれば···」
「貴方はよくやってますよ。」
相談に乗ったり、談笑を始めたりするクロナを見て私は察した。今日はもう二人で話せないと。
クロナとは別のテントになってしまったと落ち込むが、
「そうだアイズ」
「?」
「もしよければ一緒に寝ませんか?」
「······え?」
「人肌恋しいのですが······アイズが嫌なら別に「大丈夫。一緒に寝る」ええ。貴方ならそう言うと思ってました」
食いぎみに答えた事が恥ずかしくなり、顔が熱くなる。クロナはニッコリとしていた。
今晩はぐっすり眠れた。
次の日。
懇意にしている派閥からの依頼で、51階層で湧き出る泉の水を採取する事になっている私達は、少数に分けて目的地に来ていた。
「何あれ······」
「カドモス、よね···?」
泉の水はカドモスと言われる強力なモンスターが陣取っているので、泉の水を得るにはカドモスを倒す事になる。
なるのだが·····。
「いつもと肌の色が違う。あの爛れた痕は火傷痕。周りの灰を見ると、多数のモンスターと戦闘して勝った事になる」
「え~と、つまり?」
冷静に分析を始めるクロナにティオナが尋ねる。
「強化種です。それも、カドモスを負傷させる力を持つ魔石を取り込んだね」
その言葉に重たい緊張感が漂う。
カドモスは出会ったモンスターの中でも強敵の部類に入る。そんなモンスターを負傷させる?無理だ。少なくとも51階層には存在しない。
今より下の階層に潜む未知のモンスターならば、それ以外で強化種なら可能なんだろう。
憶測しか立てられないが、あのカドモスは魔石を取り込んだ事は分かる。
「撤退します」
「ええ。団長からも言われてるしね」
そんな矢先。
「うああああぁぁぁぁ!!」
「「「「「!?」」」」」
悲鳴が鳴り響く。同じく泉の水を採取しに向かった他のメンバー。
声からして第二級冒険者のラウルだ。
「急ぎましょう!!」
クロナが切羽詰まった声で号令を掛けるが、
「ガアアアァァァァ!!」
悲鳴に反応した強化種のカドモスが怒声を上げ、全身の毛を逆立て今にも襲い掛かってくるのが分かる。
急いで武器を構えるが、
「急いでフィンと合流を!私が時間を稼ぎます!」
「なっ!?」
「だ、駄目だよクロナ!あれが強化種なら一人で戦える相手じゃない!」
「私も戦う······!」
ティオナが否定するが、
「向こうで現れたのは、カドモスを傷付けるほどのモンスターです。それがフィンのチームだけでなく、待機のリヴェリア達の前にも現れたとしたら相当不味い」
「で、でも···」
「最悪なのは、このカドモスに時間を費やして壊滅的な被害を被ることです。急いで!」
「~~~ああもうっ!!行くわよ!クロナの判断に従うわ!!」
「ティ、ティオネ!?」
ティオネが撤退を促す。想い人が絡まなければ持ち前のリーダー気質を発揮する彼女は、クロナの最もな意見を聞き入れたのだ。
ティオナはティオネに引っ張られ、アイズは自分の気持ちを押し殺し、レフィーヤは自分の無力を呪いながら指示に従う。
「助かります」
「必ず戻って来なさい。あんたに何かあったら、この先団長に合わせる顔が無いんだから!」
「ええ。約束します」
ティオネに礼を言い。目の前のカドモスに集中する。
カドモスは背を見せる冒険者を喰い殺そうと、血の付いた鋭い爪を前に出すが。
「来い!!この先には一歩たりとも行かせない!!」
自分より背丈が低い女の威圧に動きを阻まれる。雌だろうと、体格が劣ろうと、格下だとは思わない。侮れば喰われるのは自分だと本能で察したから。
英雄たる女の冒険が始まった。
ティオネは良きリーダーになれるよなぁ、とつくづく思う。
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くっころ2 獣より虫と戯れたい
どもども、転生者兼女騎士のクロナ・コロンです!
今の状況を簡潔に話せば遠征でイレギュラーに遭遇しました。
泉の水を採取しようとした矢先、カドモスの強化種と遭遇。戦闘後なのか、所々に負傷が見られました。
『いつもと肌の色が違う。あの爛れた痕は火傷痕。周りの灰を見ると、多数のモンスターと戦闘して勝った事になる。(ドヤァ』
誰でも分かる事を内心ドヤ顔で答えました。ティオナ(妹)のおお!!と感心する顔が嬉しい。
まあ冗談はさておき、
『撤退します』
深層のイレギュラーは割りと冗談になりません。べ、別にひよったわけじゃないです!断じて!
・仲間を危険に晒さないため
・くっ殺が出来ないから
大まかに分けてこの二つになります。私をただの戦闘狂だと思いました?違います。私はくっ殺狂いです。
だから、くっ殺に関係ない戦闘は基本的に無視です。
あのカドモスに勝ったら、成長間違いなしなので。これ以上成長したくないので。まじで。
私の撤退にティオネ(姉)が賛同してくれました。よし撤退!!
『うああああぁぁぁぁ!!』
!?
おいいいいぃぃぃぃ!!
あんな大声で悲鳴を出したらお前!!いやまだだ!!まだ気付かれず逃げられる!!
『急ぎましょう!!(焦り』
現実は非常だ。
『ガアアアァァァァ!!』
はい、見つかったぁ。
あーあ、あんなに毛を逆立てちゃって。今にも食べちゃうよーという幻聴が聞こえます。
皆も皆で武器構えるし。
『急いでフィンと合流を!私が時間を稼ぎます!!』
皆で戦うよりこれが一番だよなぁ。ええ、イヤだ。本当にヤだ。
ティオナが反対し、妹分のアイズが一緒にと言う。ええ娘や。くっ殺に出会わなければ純粋に、綺麗な心で可愛がってましたよ。
アイズが入団してから、罪悪感が芽生えました。これをくっ殺に活かせるか、それとも性癖を腐らせるのか。
ごめんなさいと謝りながらの凌辱は定番なので前者ッスね!(ラウル風)
ラウルと言えば、さっきの悲鳴はラウルの物。彼の耐久は決して低くないので、向こうも心配です。
だからこのカドモスをここで倒します。誠に遺憾ですが。ここに戦力を傾けるのは不合理ですからね。
ティオネが音頭を取り、皆が撤退を決めてくれます。これで心置きなく集中できます。
私の糧となり、くっ殺の阻害をしてくれたカドモスにはお礼をしなければ。
さあ、お仕置きの時間ですよ♪
勝てました。
戦闘描写がないって?ありません。別に見所が無いですし。
どんな戦いだったのかと言うと。
①爪で胴の鎧の上から裂かれる。
②酸性液?腐食液?が分泌されているのか、肌が爛れて火傷状態になる。
③喰われる。
④さらに液を喰らうが、渾身の力で舌を引っこ抜く。
⑤自分の武器で滅多斬りにする。
はい、終わり。
ね?別に見所がないでしょ?
やはり強化種という事もあり、私が知るカドモスではありませんでした。恐らく取り込んだ魔石を持つモンスターの特性だったのでしょう。
白色の白濁液が厄介でした。白色の白濁液が(意味深)。
まあ、その液は溶けるんですけどね。エロを求めて頭部から掛かれば肌が爛れますし、頭皮が禿げます。
私の【不折の刃】は武器に不壊属性。耐久に超補正とレア中のレアスキルなので、何とか倒せましたが、これを相手に出来る者は少ないでしょう。
あーあ、偉業達成ですわ。
動く度に爛れた肌がジンジン痛むので、上級回復薬を服用。耐久に超補正っても、痛みがないわけじゃない。武器に不壊っても、防具には付加しない。
今回の遠征は気持ち的にも修理代としても赤字です。
最悪だ、最悪だと不貞腐れながら帰り道を歩くと。
おやおやおやおやおやおや?
『二体目だと!?』
『クロナも帰って来てないんだぞ!』
『アイズ、すまないが···』
向こうに見えるのは新種。遠くから聞こえるセリフから察するにあれが二体目ととして現れ、一体目はアイズが倒し後と言うことになります。
ふむ、触手がうにょうにょ。
······楽しそうじゃないのぉ(ねっとりボイス
「ただいま帰りました(ひょっこり」
「「「「「「!!!??」」」」」」
皆が皆、違う反応を見せます。
リヴェリアとアイズはこちらに駆け寄り、傷を心配してくれます。まあ、今は鎧が8割方損傷し、下に着ている服が破れて治りきっていない火傷がチラリと見える状態ですから。顔の傷は······うん。火傷ですわ。
「大丈夫です。回復薬を飲みましたから。それより状況を」
「簡潔に話せば新種に襲われた。何とか退けるも、損害が激しくて撤退を決めたら他の新種が現れた。アイズが一体目を撃破。そしたら」
「二体目ですか」
「ああ」
フィンの意見は、このまま放置は出来ないとの事。
「私も放置は反対です。聞けばあれは厄介ですから」
「だからアイズ、すまないが「私がやります」は?」
フィンは目を見開く。
確かに相性で言えば、アイズが有効だ。魔法を使えば液を無効化出来ますからね。
しかーし!
触手を前にして撤退という意見は私にはない!
「分かった」
「フィン!?」
「ただしクロナ。君の魔法で仕留めろ」
げぇ!?そう来ましたか。
私は【フル・バースト】という魔法を所持しており、全精神力を消費して放つ最終手段に等しい切り札です。
これを獲得した時は嬉しかったなぁ。『やったか!?』からの『くっ、殺せ!』という理想のシチュエーションが出来ますし。
まあ、これ使ったらたいがい塵一つ残らないんですがね(泣)
時は戻って。
反対する理由はないので、
「※詠唱省略します【フル・バーストォォォォ!!】」
あらんかぎりの怨念を込めて放ちました。そして意識を手放す。精神力枯渇の時の頭痛は嫌いです。二日酔いみたいで。
誰かがこちらに駆け寄って来ますが、目の前が真っ暗になるので誰だか分かりません。
さーて、誰におぶられるのか?
フィンは······ないな。身長的に(クソ失礼)。
リヴェリア······可能性大。みんなのお母さんですし(暴論)
ガレス······可能性中。しかし、盾役の前衛だから戦闘しなければならない。
アイズ······可能性小。戦闘狂いなので運んでたまるか!なーんて。これを好感度が高ければワンチャン?
ティオネ······可能性大。持ち前の優しさ&フィンからの指示。
ティオナ······可能性大。まあ、おんぶをする姿が予想出来ませんが。
ベート······可能性中。舌打ちしつつ、ツンデレながら運ぶ。私の胸の感触楽しみたいという男心を発揮すれば···?
多分ですがこの中の誰かがおんぶしてくれます。
わがままを言うわけじゃありませんが、個人的にはリヴェリアかアイズがいいです。私好みのいい匂いするので。
リヴェリアは置いておいて、アイズはきっと良い母になる。確信です。
まあ、誰でもいいや。
それでは皆さん、おやすみなさーーーい!!
クロナが何をしたのかを聞いて、あの人ヤベェと戦慄しました。
もちろんオカンから説教は確定です。
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くっころ3 恐いのはモンスターではなく説教です
「あの~、アイズさん?」
「?」
「そろそろ降ろしてくれませんか···?」
「駄目」
「ええ···」
私は皆が各々の仕事を頑張っている中、一人美少女におぶられて悠々自適に過ごしていた。
最初は楽でいいやと思っていたんですがね、周りの視線が痛いんスわ。見られながらのくっ殺は有りですが、これは違う。断じて私の求める快楽ではない。
だからアイズに頼んだのですが、駄目の一点張り。アイズは頑固な所がありますからね、こうなったらテコでも動きません。
ちなみに私が目覚めたのはさっきです。さっきと言っても分からないと思うので、具体的に言えば50階層を経って現在25階層。ずぅーーーと寝ていた事になりますね。
いつの間にか火傷などが治されており、服装も予備に変えられています。もう戦闘出来る程に回復したので、アイズに頼んだわけです。
「ははは。君はもうしばらく休んだ方がいいよ」
近くに居たフィンが、一連のやり取りを見て軽快に笑いながら言う。
「その気遣いに感謝しますが、このまま何もしない訳には······それに、アイズにも無理をさせていますし」
「平気だよ」
「第一級冒険者だからね。持ち前の"力"で何とかなるさ」
「それは私が重た」
「ティオネやベート達のお陰で戦闘面は何とかなってるよ。指揮は後学としてラウルに任せてる。こうしてアイズが君を背負っているのがその証拠だ」
休んで大丈夫なのは、充分分かりましたが······。
「それでもサポーターの護衛くらいはさせてください。この階層のモンスターなら、今の私でも戦えますから」
「却下だ」
え――――――···?
「あの、理由を聞いても······」
「ん」
「え?――――なるほど休ませていただきます」
フィンが顎で示す場所に居たのは、表情では分かりづらいが般若の如く怒気を放つ我らがオカン、リヴェリア・リヨス・アールヴ。
聞けば単独でカドモスと戦った事に怒っているようです。18階層で説教ですね。経験からして長引きます。だから今の内に休めとフィンは言ってたのか。
ヤベェ、震えが止まらねぇ。
「大丈夫?震えてるよ?」
「アイズが隣に居れば」
「ごめんなさい」
振られました。私が頼みごとをすれば嫌な顔せず了承してくれる良い子ちゃんなのですが、リヴェリアの説教だけは別。彼女も常習犯なので、身を持って恐ろしさを知っているのですね。
気付けば18階層でいつものキャンプ地に。え?なんでそのテントだけを優先に?あ、リヴェリアがここに入れって言ってます。周りを見れば、表情から御愁傷様と言ってますね。これは。
「······で、私が言いたい事は分かるな?」
「う、まあ、はい···」
「そうかそうか」
にこやかに微笑まないで。釣られて微笑むくらいに怖いッス。
すぅーーーと表情が変わり、
「何をやっているんだお前はぁぁぁぁぁぁ!!」
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!」
後に団員は語る。
物語に登場する騎士みたいでカッコいいクロナさんは、副団長の前では子供みたいになりますよね(笑)
リヴェリアの怒号は、私の必死の謝罪とともに18階層を突き抜けた。
「はぁ、はぁ······」
走る、走る、走る。
息切れが激しい。足腰が悲鳴を上げる。それでも走らなきゃいけない。
何故なら······
「ヴゥモォォォォォ!!」
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
だから走る。力の限り走って生にしがみつく。
義母の鬼特訓で鍛えられた
じゃあ何故逃げるのか?
答えは単純。
「武器が脆すぎ···!!」
ギルドから支給されたナイフは、ミノタウロスに一太刀喰らわせた瞬間にポキッと逝った。
当然だ。支給品は上層の中でも比較的浅い階層用に設定された武器。中層の中でも硬い部類に入るミノタウロスには通じなかった。
でも諦めたわけじゃない。
もうすぐで小部屋に到着する。そこで義母譲りの魔法を使えば勝機はあるはずだ。
大好きな義姉ならば立ち向かう。ならば僕だって。
誓いと覚悟を固めた時、
「あっ―――――ぐえっ!?」
小石に躓いた。受け身が取れず顔面から着地する。立ち上がろうとするが、
「な、なんで···」
足に力が入らない。ぶっ通しで逃げ回っていた事に加え、格上から貰うプレッシャー。予想以上に無意識下で疲弊していたみたいだ。
「あ、あは、あはははは」
笑いが止まらない。
目の前のミノタウロスは拳を振り上げ―――――
「は?」
ビシャァ!!
真っ赤な液体が飛んできた。咄嗟の事で避けられなかった冒険者は諸に赤色のシャワーを浴びた。
「大丈夫、ですか?」
「だ」
「だ?」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ミノタウロスを斬った目の前の金髪美少女を直視出来ず、たまらず逃げ出した。
恩人はポカーンとし、一部始終を見ていた狼人は腹を抱える。
帰るぞと言う狼人の後を歩く。
「あれはベル?そうですか。あの子も冒険者に······いえ、まずは謝罪をしなくては」
遠目で見ていた女騎士は独り言を呟いた。
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くっころ4 時に甘く、時に厳しく
「――――
そう言って、クロナは宴会の席を外した。酒場に残されたのは、彼女の発言に衝撃を受けた面々の静寂だけだった。
時は遡る。
「今夜は宴やぁ!呑めぇ!!」
『巨人殺し』などの偉業で知られる最大派閥の一角、【ロキ・ファミリア】の宴会が行われていた。内容は遠征を労うものだった。
各々が楽しみ、騒ぎ、時には王族妖精の胸を賭けて飲み比べるなど、充実した宴会が行われていた。
「アイズは何か食べたい物はありますか?」
「これ。クロナは···?」
「私もです。足りないみたいですし、この際注文しましょうか」
クロナは目の前の料理を食べつつ注文する。見た目によらずよく食べるのだ。よく食べるのに、太らないしあのスタイル。女冒険者は羨む視線をよく送る。本人は気付いてないが。
『そんなに食べて太らないの?』
『ええ。太らない体質みたいです······何故か胸が大きくなりますが』
『うがぁぁぁぁぁぁ!!』
『ど、どうしました!?』
テンプレである。
そんなこんなで食事を楽しんでいると、隣のアイズが話し掛ける。
「私も、次の遠征でランクアップ出来るかな···?」
「
歯に衣着せぬ。姉以上の感情を抱いているクロナに、はっきり言われた事でアイズはショックを受けるが、
「
次の遠征は、階層の更新を目的とした遠征になる。Lv.6成り立てがLv.7になるには、それを達成しつつ、敵として万全のアルフィアと戦う···嫌だ。全滅するし、アルフィア相手にくっ殺は通じない。
全然美味しくない展開だ。
「そっか···」
そんな思惑も露知らず。アイズは近い内にランクアップする事を教えられ、頬が緩む。まあ、仲が近しい人以外は気付きにくいのだが。
そんな時だった。
「おいアイズ!そろそろあの話をしてやろうぜ!!」
仲間の狼人であるベート・ローガが、声を大にして喋る。
皆に教えたいあの話とは。
「牛の返り血を浴びたトマト野郎が、助けられたアイズにビビって逃げ出したんだぜ!」
「少し席を外します」
酒場に笑い声が響く。【ロキ・ファミリア】だけでなく、それ以外の客さえ情けないと笑う。
副団長であるリヴェリアは、彼を叱責するが、ベートは止まらない。
「すみません、水を貰っても?」
「あのガキに好きだの愛してるだの言われたら、お前は受け入れるのか?そんなはずねえよなぁ。雑魚にお前の隣に立つ資格はない。あるわけがねえし、何よりもお前が認めない」
「これは迷惑料です。少ないですけど」
アイズはなにも言えない。クロナの隣にも立ててないのに、そんな余裕はどこにもない。
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねうおっ!?」
誰かが椅子を蹴飛ばしながら立ち去るのと、冷水を浴びせられたのはほぼ同時だった。
先程の笑い声が嘘のように消え去った。冷水を浴びせられたベートは、状況を掴めず放心状態。それは彼の仲間も、他の客も同じだった。
「···いい加減にしろ。お前が、お前達が何をしているのか分かっているのか?」
「クロナ···?」
普段の丁寧な口調ではなく、威圧感を漂わせる口調に面々は驚きを隠せないでいる。だって、こんなクロナを見たことが無いのだから。
正気になったベートは、ギロリとクロナを睨む。中堅の冒険者でさえも怯む目に、彼女は意に返さなずまっすぐ見据える。
「酒に溺れる愚か者には丁度いいだろう?」
「テメェがやったのか!クロナァ!!」
「そうだと言っている!我々の不手際でミノタウロスを逃しただけではなく!あまつさえ死に掛けた冒険者を笑うなど言語道断、水を掛けられて当然だ!恥を知れ!!」
それを聞いて、【ロキ・ファミリア】は己の仕出かした事に顔色を変える。それだけではなく、他の客も申し訳なさそうに顔を反らした。
······一人を除いて。
「それの何が悪い!悪いのは弱っちい雑魚だ!俺達が笑っても何も問題ねぇ!!」
「弱者が悪だと···?ならば、ミノタウロスごときを取り逃がした私達は何になる?答えはそれ以下だ!それ以下のゴミだ!!」
「っ!!」
クロナの正論にベートは言葉を詰まらせる。格下のミノタウロスに逃げられた。例え最大派閥ではなくても、こんな失態を犯さない。
自分が笑った雑魚以下のゴミ。これがベートの心に重くのし掛かった。
「だがしかし、私もミノタウロスを取り逃がした戦犯である事に変わり有りません。だから――――」
深呼吸して落ち着いたクロナは、一泊置いて言葉の爆弾を投下する。
「――――私は彼に報いるために、このファミリアを脱退します」
クロナは立ち去った。酒場は彼女の放った衝撃発言により静寂が満ちていた。
クロナ・コロン Lv.6(7)
力:A865→S901
器用:C633→C652
耐久:B728→B788
敏捷:D580→C606
魔力:C603→B703
発展アビリティ
騎士D→C
堅守F→E
魔防F
耐異常G
魔法
【フル・バースト】
・特攻魔法
・精神力全消費で発動
【ダメージ・コントラクト】
・指定した者の傷を請け負う
・自動発動
・永続発動
スキル
【騎士道精神】
・全能力の高補正
・騎士の理想の姿を思い浮かべるほど効果上昇
【騎士団結成】
・自分を敬う者の全能力に補正&発展アビリティを付与またはその一段階強化
【不折の刃】
・耐久に超補正
・武器に不壊属性を付与
・状態異常の無効化
信じられるか?コイツ、成長補正のレアスキルを持っていないんだぜ···?
おまけ。
「つい飛び出しちゃいましたね···」
クロナは走りながら頭を回す。別に後悔していない。後悔してないが···。
「荷物どうしましょう?お金はダンジョンで稼げるから良いとして。装備は整備に出してるから直り次第受け取れる。問題はどこで寝泊まりするか、ですね」
セキュリティの面で安全とは言い難いが、無難なのは宿で宿泊だろう。が、しかし。
「ここは一つ、あの子のホームに泊めて貰いましょうか。知らない仲ではありませんからね」
あの子とは、都市外で知り合った義弟の事。主神とは昨日謝罪に伺ったので顔見知りだ。
稼いだお金を宿泊代として、他には彼への訓練で手打ちにして貰おう。
クロナの足取りは軽かった。
オリ主は自分以外はマトモでいて欲しいと思ってる。これは前世が少なからず関係している。くっ殺が性癖になるほどだからね。仕方ないね。
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くっころ5 己の眷属
強くなりたい。
己の眷属が、誓いに等しい覚悟を決めた事で決心したヘスティアは、普段なら赴かない神の宴に参加していた。
目的は鍛冶神で神友あるヘファイストスに、武器作成のお願いするため。そして、
「なんやと?もう一度言ってくれるか?」
「だから、君の所のクロナ君は僕のファミリアに居候してるよ」
新たに同居人として加わったクロナ・コロンの状況を伝えるためである。
当然、クロナの主神であるロキに伝えたら、今みたいにすんごく睨まれるわけだが。細目が見開くのは少し恐い。
「そう言えば、【光の騎士】は退団したんですって?」
クスクスと美の女神フレイヤはロキに言う。どこか愉快そうだ。
ちなみに【光の騎士】とはクロナの二つ名である。
「違うわボケェ!うちはそんなん認めてないわ!おいドチビ!!」
「な、なんだい!?」
「クロナを返せ」
「!」
マジのトーンになるロキに少し後退りするが、
「お断りだね」
「はぁ!?」
一歩前へと前進する。恐れないその姿勢に、彼女をよく知る神々は感心する。
「···ふん。しかしなぁドチビ」
「?」
「恩恵を書き換えない限り、お前の所に改宗は出来へん。ステータスの更新も出来ん。困るんはクロナや」
「クロナ君は『関係ありません。恩恵を書き換えなくとも、ギルドで書類上の手続きをすれば改宗出来ます。これでももうLv.6ですし、ステータスも伸ばしたいので』だってさ」
ごもっとも。ギルドの受付嬢に改宗の手続きをすれば関係ないし、クロナはフィン達とタメを張れるLv.6だ。ダンジョンで充分稼げる上に、それこそ【猛者】が相手ではなければ負けないだろう。
困るのはそんな戦力も逃した【ロキ・ファミリア】だ。
「···うちが強行手段に出るかも知れへんで?それだけやない。ここにいる神々がお前に攻撃を仕掛けるで」
最大派閥に居た事で手出し出来なかったクロナは、現在弱小で零細派閥に居る。周りをよく見れば、神々が下卑た笑みを浮かべてこちらを見ている。
それに、退団した事という面白い展開は神々が見逃すわけない。
しかしヘスティアは動じない。
「『誰が相手でも、例え恩人だとしても。挑んで来るのならば立場や外聞も捨てて迎え撃ちます』それに、『一人ではもしもの時があるので、知り合いに頼んでます』」
この発言に正義の女神はニッコリ、象の神は決めポーズを取る。他にもアクションを取る神々が居た。
この神は嘘を付けない。
事実ならば我々【ロキ・ファミリア】に刃を向けるという事。ましてや他所の派閥までもが。それは駄目だ。駄目なのだが···。
「おい」
「ん?」
「なんでや?なんでドチビのファミリアに居候しとんのなんや?」
クロナは他派閥に応援要請が出来るほどの人脈を形成している。ならば、居候するなら零細でなくとも構わないはずだ。
「それもそうね。なんでヘスティアの所なのかしら?」
「ええ。来るなら私の所に···」
「行かせるかド阿呆!」
ロキだけではなく、フレイヤやヘファイストスも理由が分からなかった。疑問が尽きない。
「···弟が居るからだよ」
「·········はぁ!?」
「まあ、本当のじゃなくて、義理の弟なんだけどね」
ヘスティアはため息を溢した。本当は伝えたくない。何故なら···
「おい聞いたか!」「ああ!あの【光の騎士】に弟が居たのか!」「それに血の繋がりが無い義理のときた」「なにそれオネショタ?」「私達にとって美味しい展開じゃない!」「あのお胸で甘やかされたい!」「それな!!」
狂喜乱舞。義弟の存在だけでこの有り様だ。心労でいつかハゲそうだ。
「そ、そんなん初耳や!いつの間に義理の弟なんて···は!?まさか!」
クロナは半年に一度都市外へと経つ事があった。ファミリアの誰かが聞いても内緒だと言っていた。外出の理由が義弟ならば謎が解ける。
「それにね。ミノタウロスを知ってるかい?」
「舐めんなや!そんなんイレギュラーにおうたから知っとるわ···まさか」
「そのまさかだよ。ミノタウロスに襲われたのはクロナ君の弟だ」
僕の眷属でもあるよ、と言う。
「そこまではよかった。いやよくはないけどダンジョンに不測の事態は付き物だしね」
「ウチらが笑ったのが···」
「うん!」
「うわぁぁぁぁ!!やってもうたぁ!?」
間抜けにも特大の地雷を踏み抜いた事に、深い自責の念に囚われるロキ。後悔してももう遅い。何より恐いのが、
『クロナ、今日は何しようか?訓練?うん、いいよ』
『ご飯美味しい?よかった。私のも分けてあげるね。え?自分の分はちゃんと食べなさい?ん、ごめんなさい』
『クロナ、一緒に寝よ?いいの?ありがとう』
『クロナ、クロナ。何で何も言わないの?私の事嫌いになっちゃった?嫌だ、悪い所は治すから、お願い···!』
人形をクロナに見立てて話し掛けるアイズの図。
クロナ大好き剣士のアイズにとって、クロナの脱退発言は気絶しかねないほど衝撃的だった。現実を直視出来るほど大人ではないアイズは、現在妄想に逃避している。
ファミリアの面子は、そんなアイズに同情しており、どう接すればよいのかリヴェリアさえも分からないようだ。
今日ロキが神の宴に参加したのは、アイズのためにクロナの手掛かりを得るため。無事、所在を掴めたが義弟という爆弾を抱えていた。
「どないしよ···」
「あ~うん。もしよければホームに招待するよ。君のヴァレン何某を」
「ヴァレン何某?···それよりホンマか?」
「あ、ああ!」
「ありがとうな。それとすまなかった」
いつもと違うロキの対応にたじろく。
まあ、青ざめるロキを見ていられなかったヘスティアは、流石に可哀想だと判断し客として招く事にした。本当は嫌だ。ロキは嫌いだし。何よりヴァレン何某と会わせるのが!!
悲しいかな。善神としての性格により自業自得だと笑えず、手を差し伸べる形になった。
「じゃあウチはアイズたんに伝えてくるわ!アディオス!」
一気に元気を取り戻し、退散したロキに苦笑いを浮かべる。まあ、元の調子に戻ったんならいいんだけど。
「ねえヘスティア。これからどうする?暇なら今から飲み直す?」
「あ、そうだ。ヘファイストス、君にお願いがあるんだった!」
「?」
ようやく今回の本題を切り出せた。
一方その頃。
「甘い!」
「ほげぇ!?」
「ありゃ、やり過ぎましたね。もう夜は遅いですからこのまま眠らせますか」
力加減を誤り気絶させたクロナは、ベルを担ぎ上げ寝床に連れていく。
クロナはベルの体重に成長を感じて思わず頬が緩んだ。
現在、夜中の0時である。
クロナ視点を書かねば。
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くっころ6 女騎士の助けになりたい
冒険者通りとも言われる、メインストリートを歩く二人の男女。
一人はまだ幼さが残る少年であり、容姿の白髪紅目が兎のような小動物を思わせる。駆け出し当然の装備を身に付けている事から、彼はきっとLv.1の冒険者だ。
もう一人は頼もしく凛々しい女性であると同時に、姉のような柔らかい笑みを浮かべている。瑞々しく美しい金髪に、ブラウス越しから分かる抜群の胸。ロングスカートがよく似合うスラリとした長い足。完璧なプロポーションに、老若男女誰もが見惚れていた。
見惚れていたものだから、女神に並ぶ美女の正体は判明される。
【光の騎士】クロナ・コロン。
先の遠征で偉業を達成し、
この噂を不味いと思った【ロキ・ファミリア】は、関係各所に事情説明したりと走り回っていた。また、人形に話し掛ける(病んだ)【剣姫】が目撃されたり、罰として都市中の清掃活動に勤しむ【凶狼】が目撃された。
クロナの方でもある程度事情を説明したため、懇意にしている生産系派閥との関係が悪化する事は無かった。
それでも悪意ある噂は流れているが、人の噂も七十五日。いずれ消え去るだろう。
メインストリートを人々の目の前で歩くクロナ・コロンは、そんな噂を感じさせる事なく優雅に歩いていた。
場面は変わって。
今日も今日もとて視線が集まりますね。いつもの鎧姿だと畏敬?が勝りますが、今日は私服です。それも自分の体型が際立つ服装です。
くっ殺騎士の私は、私服にも拘ります。狙って視線を集めてます。凄いでしょう(ドヤァ!)
「あ、あの···義姉さん」
「ん?どうかしましたか、ベル?」
隣を歩くベルが恥ずかしそうに話し掛けて来ました。彼も私に見惚れたのでしょうか···はい、違いますね。人々の視線が気になってるようです。
耳を少しだけすませば、羨ましいと悔しがる人、俺じゃない事に嘆く人、抱かれたいと願う人がいます。最後が普通に気持ち悪いです。ですが、そんな人に私は屈服させられたいです。
いかんいかん。
「私は数少ないLv.6ですからね。視線を集めてしまうのは当然なのです」
適当に誤魔化します。誤魔化すついでにからかいましょうかね(クズ)
「不安なら手を握りましょうか。懐かしいです。一緒に寝た時はそうでしたね」
「!?」
「「「「!!?」」」」
そんなこんなありつつ、辿り着いた先はダンジョンの出入口があるバベル前。私は用事があるのでここでお別れです。
一人にしたら暴走する
「忙しい中すみません、
「団長の指示だから気にするな。それに俺達はあんたに助けられた。恩に報いるならなんでもするぜ!それと俺は
「よろしくお願いします!モダーカさん」
「おう!それと俺はモダーカ···今、何て言った?」
「え?よ、よろしくお願いします、
「おう、おう!俺はモダーカだ!」
「ちょ、何で泣いてるんですか!?モダーカさん!」
彼は【ガネーシャ・ファミリア】所属の冒険者で、実力も申し分ありません。ベルを任せられます。
私が協力要請をしたのは都市の憲兵である【ガネーシャ・ファミリア】です。第一級冒険者の数はロキやフレイヤの派閥より多いです。我々のような探索系ならば、三大派閥になっていた事でしょう。控えめに言って、凄いです。
まあ、彼は快く受けてくれましたが、協力要請と言うより脅迫に近いですね。あれは。
『私の義弟がピンチなので助けてください』
訳)このままじゃあ義弟が危ないのでHELP!!え?断るって?守るべき市民が危機に陥ってるのに、あなた方は動かないんですかぁ?
『俺が!ガネーシャだぁぁぁぁ!!』
『任せてくれ。お前には恩がある』
こんな感じです。神ガネーシャも団長のシャクティもさぞ迷惑だったでしょう。謝ります。ごめんなさい。
他にも頼んでおいたので、ベルは大丈夫でしょう。私?私は強いし、むしろウェルカムなので不要です。
ベルと
視点が変わって。
私の名前はリナ。鍛冶師であるお爺ちゃんに鍛冶を学び、技術向上のためにオラリオに上京して、【ヘファイストス・ファミリア】に所属した。種族はエルフだ。
あのエルフが?なんて疑問を抱くだろう。それはそうだ。鍛冶師になるエルフは珍しいらしく、お爺ちゃんも当初は反対していたし、女神様もファミリアの皆も驚いていたし。
仲間からも客からもエルフなんかに、なんて見下されて嫌がらせを受けていた私は、心が折れそうになりながらも鍛冶に集中していた。それしか無いのだ私には。
そんな中、団長から冒険者を紹介された。お主の武器を求める客がいると。
私は半信半疑だった。私の武器を求めてくれる人がいるという嬉しさ半分、どうせこの人も同じだという諦め半分。
でもどうだろうか?
『私は貴方の作品の虜になりました』
嬉しかった。
『エルフなのに、ですか?あまり見くびらないでください。私は種族ではなく、誰に命を託せるかで決めます。差別はしませんよ』
まっすぐ見据える目に、心を打たれた。嘘偽りのない発言に私は――――泣いた。
それからは、彼女とパーティを組んでレベルを上げたり、前より美しさと機能性を両立させた武具を造って見返せたりと色々あった。
中でも印象に残ったのは、
『専属鍛冶師になりたいと?私はあの日からそのつもりでしたよ。ああでも、確かに契約とかしてませんね。では改めて言いましょう。
――――私だけの鍛冶師になってくれませんか?』
はい。と私は返事をした。短くないか?素っ気なくないか?と思うかもしれないけど。
二言しか捻り出せなかったの!同性でもアレは反則でしょ!?惚れるわ!!
んんっ。キャラが変わっちゃった。ごめんなさい。
現在は鍛冶に集中して、冒険は気晴らし程度に留めている。度々無茶をする彼女を守るため、武具作成に研鑽しているのだ。
目の前には修繕中の武具と、新たな装備。
壊れた武具を見たら、また無茶をしたんだと思うけど。無茶をしたのはきっと仲間を守るためだったのだろう。
冒険者である前に、一人の騎士なのだ。
ならば私はそんな騎士の助けになりたい。鍛冶師として素晴らしい武具を提供して助けたい。
だから折れようが壊れようが絶対に直す。なんなら新しく作り直す。それも性能を引き上げて。
···費用は結構掛かるが、彼女なら大丈夫だろう。派閥を脱退して義弟に現を抜かしてるなんて噂を聞くけど···大丈夫よね?払えるよね?
信じよう。たった一人の顧客を。
コンコン、ガチャリ。
「クロナです。リナ、修繕に掛かる費用はいくらですか?」
「ん」
「げ」
珍しく口調を崩すクロナに、自然と笑みが溢れた。
リナ Lv.4 24
幼少期に捨てられたリナは、人間のお爺ちゃんに拾われリナと名付けられた。
鍛冶師であるお爺ちゃんに憧れ、技を学んで、オラリオに上京した。
エルフなのに才能があった事が気に入らなかった同僚が、自身の客にあらぬ噂を流し嫌がらせをした。完全な妬みである(全員ではない。実行した者は後々主神にバレて厳しく罰せられた)
心が折れそうな時、クロナと運命の出会いを果たす。その数年後、専属の鍛冶師になってくれとプロポーズみたいなお願いをさせる。
クロナとはビジネスパートナーであり親友である。薄々何かを抱えている(くっ殺)事に気付いているが、彼女が話すまで待つ事にしている。仮に打ち明けられたら、すんごい困惑する。困惑するが受け入れる。
外見は肩まである黄緑色の髪に、髪の毛と同じ色の瞳。小柄で背丈は低い。
性格は穏やかで口数が少ない。悪意に敏感で昔は折れやすかったが、今はクロナという支えがあるお陰で折れずに受け流せるようになった。
余談だが、数年前とある少女からストーカー被害を受けていた。クロナに相談したらめっきり無くなった。
次回はお祭りです。お祭りといえばアレですね。
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くっころ7 予期せぬ辱しめ
「装備は···」
「うん。剣はもう大丈夫。でも防具は···」
それは案に防具を直せないと言っている様なもの。それはそのはず。強化カドモスによってズタボロにされたのだから。
リナは直すと誓ったのだが···うん。これは無理だ。かの団長殿でも不可能の芸当だ。
「だから新しく造る。その分費用は掛かるけど」
「はい。貴方の仕事に間違いなどありませんから」
クロナは納得して···否、現実を受け入れて立ち直った。
「修理費は6000万···ええと、貯金は3300万だから···」
「残り2700万。貴方ならおよそ半年あれば返せる」
「はい!では、いつもの貸金庫に振り込んでおきますね」
「ん」
手渡しが主流の世の中で、クロナが始めた画期的な支払い方。現代における銀行ATMを参考にしたもので、今ではこのやり方を真似する冒険者も少なくない。あのギルドも取り入れようか決めかねているぐらいだ。
やり取りは終了したから、帰ろうかと扉に手を掛けようとして――――
「クロナ」
「? わぷっ···!」
リナが投げた布?が頭に被さった。剣を壁に立て掛けて確認すると、
「これは···戦闘衣ですか?」
「ん。私からの餞別だから、代金はいらない」
「いいんですか?見るからに高そうですけど···いや、深層の素材ですよねこれ?明らかに高いですよね?」
「ヘファイストス様から素材を貰った。『クロナ・コロンによろしくね』だって」
「神ヘファイストスが···!ええ。今度礼を言わねばなりませんね」
着てみて、と言うリナに促されブラウスの上から羽織る。あれ?
「ちょっとこれ、胸元が···」
まるでコルセット。上着のような物を想像していたのだが、ボタンは下から2つまでしかない。胸部の防御力がないのですが。いや、耐久高めなので大丈夫ですが。
「胸部には新たに造る防具を付けるから。2つで1つ。それがその戦闘衣の本質」
つまり、
「未完成の装備ですか?」
「そうなる。でも、よく似合う···!」
良い顔で親指を立てられたらしょうがない。クロナは観念して身に付ける事にした。
その日、男共が前屈みになる事件が勃発した!
クロナ
「······これはこれで有りですね」
日付けは変わって。
喧騒で溢れ活気あるオラリオは、いつも以上の賑わいを見せていた。
【怪物祭】
年に一回行われる祭りの事で、読んで字の如くモンスターに関する催しが開かれる。
主催者は【ガネーシャ・ファミリア】で、彼らによって地上から連れて来られたモンスターを、客の前で手懐ける技術【調教】を披露するのだ。
ギルドが反対しそうではあるが、意外にも賛同している。謎ではあるが、楽しければ関係ないね!というのが神々の総意。
まあ、どうでもいいんですけどね!
どもども、皆のアイドルこと、クロナ・コロンです!
現在はベルを連れて【怪物祭】を楽しんでいます。デートですね、分かります。
Q.クロナちゃんは一文無しになったのでは?
A.あの後ダンジョンに潜り、一週間生活出来るまで稼いだので平気です。
Lv.6の身体って便利ですよねホント。本気で走れば中層18階層まで1時間も掛かりませんもん。強くなって良かったぁ。
それでも借金は無くならないのが現実です。そう言えば、ティオナはどうしてるんでしょうか。彼女の武器は億に届いてましたよね。溶かされたみたいですから、きっと私と同じ借金人生ですね。
まあ、そんな辛気臭い事は放っておいて。
「さあベル。次はあの屋台に行きましょう!」
「ちょっ、義姉さん!?僕は財布を届けないと···」
そう言えば、猫人であるアーニャから頼まれてましたね。同じ職場で働くシルに届けろと。
「ベル」
「?」
「シルは見つからなかった。いいですね?」
「よくないよ!?最初から諦めたら駄目でしょ!?」
ええ、彼の言う通りです。言う通りですがね?正直に言えばシルが苦手なのです。同性である私にアプローチをする、色におボケになった美の女神みたいな気がして。
フレイヤ味がするんですよね、彼女から。
ただ、魅力されてのくっ殺は中々美味しそうですが、最初から理性が消え去るようですから遠慮します。残したいんですよ、理性。
取り敢えずフレイヤと、その気配を感じるシルには近付かないという結論に至りました。
まあ、ベルが探すって言うなら協力を惜しみませんがね。
「おーい、ベルくぅ~ん!!」
「あ、神様!」
色んな事を考えていたら、ヘスティア様が現れました。数日間留守にしていましたから、二人とも嬉しそうです。
「お久しぶりです」
「あ、クロナ君!ごめんね留守を任せちゃって」
「お気になさらず。義弟を守るのは、義姉の役目ですから」
そんな会話をしつつ。
「では二手に分かれましょうか。私はあっち、ベルとヘスティア様は向こうを」
シル探しです。別に二手に分かれなくても良いのですが、主神と眷属の久し振りの再会です。だから、一家団欒の機会を創りました。
私と離れて大丈夫なのか?問題ありません。大勢の人が行き交う中で好んで問題を起こす人はいませんし、アストレアとガネーシャの両派閥がパトロールをしています。なので恐らく平気ですわ。
私は私で楽しもうと思います。
「モンスターだぁぁぁぁ!!」
はい、楽しめませんでした。
はぁ~、どこかの美の女神(決定)が檻から逃がしたのでしょうね。
お祭りの日にやるなんて全くの野暮だ。だから邪魔してやる!
私は四角く加工された木の棒を掴み、現れるモンスターを殴った。
普通なら折れますが、スキルによって折れません。マジ便利です。このスキル。
「落ち着いて行動を!モンスターは我々冒険者が請け負います!だから、【ガネーシャ・ファミリア】の指示に従ってください!」
「「「おおぉぉぉぉ!!」」」
歓声が響き渡ると同時に、避難が速やかに開始される。これで民間人に被害は行きません。
ランクアップによって強化された聴力を生かし、モンスター退治···ではなく、下手人を探しだします。討伐はあちこちで行われてるので大丈夫です。
私は私で動きます。
「見つけました」
「クロナか」
目の前には筋骨隆々の猪人。放たれる威圧感は強者の証。何より間違えるはずがない。
「お久しぶりです、オッタル。最後に会ったのは、バロールの件ですね」
「ああ。それよりクロナ。俺と同じステージに立ったのか?」
彼が言う同じステージというのは、Lv.7を示す。そういう噂は流れていますけど。
「いえ、残念ながら」
「そうか」
「ですが、ランクアップは可能です」
「そうか···!」
彼の目が光る。やはり同じ土俵に立つライバルが欲しかったようだ。気持ちは分かりますがね。
「だが、今の貴様とは戦わない」
「それはなぜ?」
私の目的は女神の思惑を阻止する事であって、彼と戦う事ではない。ここにオッタルが居るので、十中八九フレイヤが関わっている。目的は私だと推測したが、恐らくベルだ。耳からベルとヘスティアの声が聴こえてくる。
だから今戦えば、ベル達のもとへは辿り着けない。
「それで戦うつもりか?」
「あ」
それ以前の問題でした。私の装備は私服で、木の棒一本。万全の彼とは戦えないッス。
······なんか呆れてね?
「安心しろ」
「?」
「あの子供が死ぬ事はない」
「···言い切るのですね」
「ああ。あの方が見初めた冒険者で、お前が認めた冒険者だからだ」
説得力があった。美の女神が認めるほどの器がベルにはあるし、不思議と賭けてみたくなるのだ。負けるはずがない。
「···分かりました。それでは「待て」何ですか?」
「アレンからの伝言だ。『お前がランクアップしてようが関係無い。殺すのは俺だ』確かに伝えたぞ」
そう言って去っていった。
アレンの伝言を直訳すると、『ランクアップしてもしてなくても俺はお前に勝つ。殺すのは俺だから、それまで誰にも負けるんじゃねえ』なるほど。
「······これは、負けられませんね」
負ける気はありませんけどね。
クロナがさっきまでいた場所に戻ってみると、沢山の人が集まっていた。視線を辿って見れば【ロキ・ファミリア】のヒリュテ姉妹とレフィーヤが居た。その正面には見たこと無い新種のモンスターが。
レフィーヤは魔法を発動するため詠唱を紡ぐ。それを守るようにティオネとティオナが立ちはだかる。
Lv.5二人の鉄壁の守り。誰もが勝利を確信した···一人を除いて。
「! 不味い!!」
勢いよく屋根を蹴り、レフィーヤの前に立つ。
「!!」
「「クロナ!?」」
驚いたのつかの間。
地面から触手が迫る。勢いよく伸びる触手は、そのままクロナの腹を···貫かず弾かれた。
「「「······」」」
『クロナさんのお腹って硬いの?』『まあ腹筋割れてそうだもんね』『胸は柔らかそうなのにね』『全体的に筋肉付いてそう』『ある意味騎士っぽい(笑)』
そんな声がちらほら聞こえる。小声で言ったつもりなのだろうが、強化された聴力は全て本人の耳に入っていた。
「~~~~~~~~っ!!」
顔が真っ赤になる英雄。大衆の前で凌辱されるくっ殺は確かに好きだ。好きだがこれは違う!解釈違いだ!!
「さ、さあ!戦おうか!」
「え、ええ!そうね!」
「は、はい!詠唱始めます!」
気遣いが痛い。物理的な痛みではなく、精神的な。
おまけ。
「!不味い!!」
触手で犯されるのは私だ!エルフだろうと、その役は渡しません!!
→勢いよく前に出るが、触手が自分の腹で弾かれた。→腹筋割れてそう(ヒソヒソ)→ド赤面。
腹筋割れてる女性は割りと好みです。by.作者
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くっころ8 悪夢の先に
少ないです。
「···」
「···え~と、アイズさん?」
「···」
重い空気が部屋に漂う。
目の前に居るのは妹分のアイズ・ヴァレンシュタインで、とある事情により離れた派閥の幹部である。
新種討伐後、アイズは魔法を使用して私を連れ去りどこかの宿に連れ込んだのだ。
代金はまるで風のように速く支払っていた。店主は一瞬目を見開いた後すぐに対応した。プロ過ぎじゃないッスか?
私はベッドに寝かされ(倒され)、アイズはその上に被さる形で(俗に言う床ドン)私の目を見据える。···顔が近いな。鼻が当たりますよ?
「······んで」
「え?」
「なんで、置いていったの?」
「それは···」
言葉に詰まる。どう答えてもアイズを納得させられる答えを私はもっていない。尚も傷付いてしまっている彼女をさらに傷付けてしまう。
「私は、クロナが好き。大好き。クロナになら全て差し上げてもいい。でも···。それでもクロナに捨てられるのは嫌だ···!」
そう言って少女は、泣きながら私を抱き締めた。
私は自分の浅はかな行動に後悔した。相手の気持ちを理解しているつもりだった。アイズはもう自立して心身共に強いと勝手に思い込んでいた。その結果がこれだ。
「······すみません、アイズ」
それでも
「私は私の選んだ道を往きます。例え誰かを傷つけても」
それでも私は、私が定めた
『お前に自由は無い。ただひたすらに才能を示せ』
『貴方に期待してるの。だからね?私達に恥をかかせないで』
今でも夢に見る。
父親には家のために自由を奪われ習い事に拘束される日々。時には叩かれ、狭くて暗い部屋に閉じ込められる時もあった。
『一位だからどうした。当たり前の事を嬉々として報告するな』
母親は周りに自慢するために見栄を張り、私に過度な期待をよせ無理難題を突き付ける。失敗すれば父と同じように叩き、理不尽に叱る。
『○○ちゃんに負けた?何をやってるの!?私は貴方に大金を注ぎ込んでまで習い事をやらせてるの!たかが下級市民の子供に負けてどうするのよ!?···ああもう、私の立場が危うくなったらどうしてくれるのよ···!』
生涯一度たりとも褒めてくれる事はなかった。親らしい事も一度もしてくれなかった。私にとって親とは恐怖の対象である。
この世界にあの人達はいない。なのに、目を閉じればいつだって鮮明に映り出す。
私は忘れたい。
この
それが出来るのは。
「······くっ殺だけ、なんですよ···」
「え···?」
純粋な愛では満たされなかった。今世の両親も、派閥の皆からも、よくしてくれた友達も、仲良しの義弟からも、そしてアイズからも。
だからこそ歪でそこに愛はなくとも、この体を無茶苦茶にされ求められて、この生涯を終えたい。
「アイズ」
「?」
「
コクリと頷いた。アイズからの問いに答えられなかった私からのせめての償い。それが彼女の傍に居る事だ。
目を閉じればいつもの悪夢だろう。
「派閥を抜け出したのは、私のわがままです。アイズはこんな私を許してくれますか?」
「駄目。許さない」
「そうですか···」
「でもね」
「?」
「クロナはいつもと同じように、私を助けてくれる?」
「約束します。一人の騎士として貴方を守ります」
「なら、許す。たまにね、たまにでいいから、私と一緒に···私の傍に居て欲しい、な···」
うつらうつらと、私を抱き締めながらアイズは言った。半ば夢の中だったのだろう。セリフが途切れていた。
「ええ。それが貴方の望みなら」
頭を撫でると、気持ちよさそうに眠りについた。腕の中で眠るアイズはとても幸せそうだった。
私もつられて眠る。
どうか。
今回だけは耐えられる悪夢でありますように。
一応アイズから許しを得ました。オリ主の頭がおかしいのは、前世の出来事からでした。
次回は外伝。ハシャーナさんの運命は如何に···!
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くっころ9 親しき仲にも礼儀あり
その割には中身薄っぺらです。後半なんて文字稼ぎですし(笑)
どもども皆さん、【光の騎士】クロナ・コロンです!
激動の祭りが終わり、アイズと仲直り?を果たして、いざお金を稼ごうとダンジョンに潜ったら。
『久しぶりだなクロナ・コロン。いきなりだが君に依頼したい』
「······私は忙しいので」
目の前に死神染みた格好の不審者が現れた。この人の依頼は割りとキツイので遠慮したいのですが···。
『失礼な事考えたか?まあ、いい。金がいるのだろう?』
「ぐっ」
『···あーあ、いつかの誰かさんが無茶したせいで、後処理が大変だったなぁ』
「ちょっと待ってください、キャラ違いませんか?」
『冗談だ。あの時の君を感謝する事はあれど、責めはしないさ』
心臓に悪いですね、コイツ。
『まずは彼等と合流してくれ。内容はその時に』
「待ってください、まだ受けるとは···」
『
ぐぬぬ。
まあ、そんなこんなで受ける事にしました。お金が必要なのもまた事実。防具なんてあの戦闘衣だけですし、借金生活なんて息苦しくて気分が滅入る一方ですから。
彼等にも会いたかったのもありますし、お金がかなり貰えるから受けたんですが···。
「つ、疲れた···」
辿り着いた先にいた階層には、壁やら天井やらにびっしり張り付いている新種がおり、一斉に迫ってきたんですよ?
彼等を時折守りつつ数を間引く。一体一体が無駄に硬いからしんどくてしんどくて。
何とか目的地に着いたら、気味悪い水晶が置いてあり、中にはモンスター?が入ってましたね。絶対何かあるやつじゃあないですかー。
今は別に依頼を受けた【泥犬】に渡して依頼完了。宿を取って寝ようと思います、はい。
「おい」
「?」
「私を買わないか?」
「···女ですよ、私」
「構わん」
ええ。
場面も視点も変わって。
どこかの女騎士と同じく、修理費が必要な者で構成された【ロキ・ファミリア】のパーティは18階層に到達した。
Lv.5以上を中心に構成された豪華なメンツ。それ以下のレベルの者もいるが、魔法や
「······妙だな、街の様子が少々おかしい」
「そういえば人が少ないような······」
18階層にある冒険者の街にして、無法地帯のリヴィラ。
モンスターが生まれない安全地帯に設けられたこの街は、冒険者の多くが探索に必要な物資の補給目的で活用している。
実際は地上より
宿を予約するため訪れた【ロキ・ファミリア】は、普段とは違うリヴィラの雰囲気を感じ取った。
「ボールス!」
「【ロキ・ファミリア】か!ちょうどよかった!」
団長のフィンが、リヴィラの元締めであるボールスに声を掛けると、目に喜びを浮かべ駆け寄ってきた。いつもなら不機嫌になるけど、何かあったのだろうか?
「殺人だ」
「「「「!!」」」」
「お前らのところの【光の騎士】が被害者だ」
「――――」
何が起きているか分からず言葉を失った。【勇者】も【九魔姫】も、当然ながら【剣姫】でさえも。
「ああいや、言い方が悪かったな。被害者は【光の騎士】だが、奴は生きてるぜ」
「······ボールス···」
「わ、悪かったって!言葉足らずだった!すまない!」
リヴェリアの一睨みで怯んだボールスは、深く頭を下げその上で両手を合わせた。
クロナからの忠告を聞き入れたボールスは、街で活動する冒険者に注意を促した。だからいつもより人が少なかったらしい。
「次から気を付けてくれ。うちのお姫様に殺されたくなかったらね?」
「な、何を――――ひいっ!?」
アイズ・ヴァレンシュタインが見せる無表情の顔から、深層域のモンスターでさえ逃げ出すほどの鬼が覗いていた。
その顔に腰を抜かしたボールスに、フィンは事情を聞くべく話し掛ける。
「で?被害者の【光の騎士】は今どこにいるんだ?」
「ああ、ビリーの宿で寝ている。何でも、思いの外痛いのを貰ったからとか···」
「っ!」
「ちょっ、アイズ!?」
「我々も行くぞ!」
「やれやれ···心配なのは分かるけど少し落ち着きなよ」
フィンはそう言っているが、槍を握る手にいつも以上に力が入っていた。
ビリーの宿で眠るクロナのもとへと、アイズは風のように速く駆け出した。
宿の場所を知らないアイズだが、第六感とも言える獣の如く感性により見事辿り着いた。控え目に言ってやべぇ。
「クロナっ!」
扉を無力強く開く。無礼にも程がある行為だが、今の彼女にはそんなもの頭に無かった。
開けた先にいたのは寝込むクロナではなく――――
「あ、アイズ!?」
衣服を脱ぎ捨てた(上半身裸の)クロナ・コロンだった。
慌てて服に手を伸ばすが、アイズの方が速い!服を着る間もなくガバリと抱き着かれた。
「良かった、クロナぁ···!」
「ちょっ、アイズ」
「クロナが、ヤられたって聞いたから···」
「ええ。間違ってませんが離r」
「無事だったんだね」
「腹パンが決まったぐらいですね。だから離れて」
「腹パン···?あれ···?」
心に余裕が出来たのか、アイズはある事に気付いた。いつもより柔らかい――――···?
「クロナ、服は?」
はて?寝る時は脱衣派なのだうか?私と寝た時は脱いでなかった。ならばそういう趣味···?
「違います。汗拭くために脱いだら貴方が来たのです。決して露出狂ではありません」
「あ、はい」
「だから服を着るので―――アイズ?」
少女はクロナの胸に注目していた。自分より豊かに育った胸。自分が知る限り誰にも触らした事がないであろう胸。
······
「······えい!」
「アイズさん!?何を···んっ」
「柔らかい···!」
もみもみもみもみ。
擬音が付くのならきっとこうだ。女騎士を無視し、ド天然は
私の勝ちだ!
柔らかさに感心しつつ、どこか誇らし気なアイズは。
「何をやってるんだお前はぁぁぁぁ!!」
「あうっ!?」
後ろにいるリヴェリアの存在に気が付かず、過去一番を誇る拳骨によって意識を失ってしまった。
愚者及び異端児とは面識あります。
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くっころ10 ちょっ、待てよ
新年初めての投稿です。
これからもよろしくお願いします!
時は遡る。
目の前の女性は、私の前に現れこう告げた。
「私を買わないか?」
何度目でしょうか?
男性に告白されるならともかく、女性に告白されるのは。
「···女ですよ、私」
このセリフも何度目でしょうか?
···勘違いしているのかな?と思い、確認を兼ねて使うのですが。
まあ、今は胸部装甲が無ですから、勘違いのしようもありませんが···無いですよね?『それ胸じゃなくて筋肉ですよね?ご立派なモノをお持ちなんですね(笑)』なんて言われたら、ショックで暴れますよ、ホント。
ても初めて告白された時から、返答は変わらなかったけ。
「構わん」
ええ。
やっぱ何度告白されても慣れませんね。
「――――て、騙されると思ってるのですかぁぁぁぁっ!!」
私は
「っ!!」
「やはり、ですか···」
私の
第一級冒険者以外が、いや第一級冒険者だとしてもただではすまないでしょう。
なのに、目の前の女は
正確には両腕がへし折れ、スザーッ(※効果音)と後退するだけに留まっている。
一目見た時から、足運びや身体の動き、そして雰囲気。どれを取っても強者のソレだったので、かなり怪しかった。
「何者ですか?」
両腕がへし折られたのにも関わらず、ただこちらを見据えるだけで、苦痛すら見せない不気味な彼女に問うた。
第一級冒険者なら今頃オラリオでは有名人のはずだし、(私ほどではないが)かなりの美女。神々が放っておかない。
ではレベルの偽装?その線は半ば無意識的に捨てていた。そして、私が導き出した答えは――――
ひえー、怖っっっっわ!
“告白してきた女性が私の命を狙う美人局だった件”
思考放棄だ。
「······ちっ、おい」
「·········うぇ?」
間抜けな声が出た。
「――――あの宝玉はどこだ」
「宝玉······は!」
あの女が言う宝玉とは、冒険者依頼で獲得した不気味な宝玉の事だろう。それを奪還すべく、私の前に現れたのだ。
ではどうやって私だと特定したのだろうか?あの場には協力者と私、それと新種しかいなかった。
【泥犬】がチクった···ないな。だって彼女が持ってるし。
思い付くのは
······カメラで撮られた動画を、仲間達に観られ···。
「考えごとか?」
「! しまっ」
一瞬の刹那。私は女同様腕をクロスし防御の姿勢を見せるが、
「遅い」
「っ!!」
腹に拳が突き刺さった。
まあ、それだけなんですけどね。
目測ではあるが、アイズ達に匹敵するほどの力だ。力だけならガレスまでとは行かなくとも、Lv.6のフィンとリヴェリア、【女神の戦車】に届くかもしれない。
それでも。
「なに!?」
「クロナさんのお腹は
「ぐはぁっ!?」
初撃は防御された。しかし二撃目は?
攻撃から防御に入るまでのラグを、歴戦の冒険者たる【光の騎士】が見過ごすはずがない。
華麗な回し蹴りが顔面に決まり、誰もいない建物を突き破って森へとブッ飛んだ。
「乙女に対してデリカシーが無さすぎですっ!」
お前は乙女じゃない。
灰髪閉目の魔法使いなら、きっとこうツッコミを入れる。
「おいおい!なんの騒ぎだ!」
「なんかツッコミが聞こえたけど······た、建物がっ!?」
「あそこにいる女は【光の騎士】!?お、お前がやったのか!?」
ゾロゾロと現れましたね。冒険者が。
まあ、しょーがないですよね。あれだけ騒げば。
私とあの人だけで、誰もいなかったのが奇跡でした。もし誰かいた場合、人質にされていたでしょう。そうなれば厄介でした。
「ボールスはいますか?彼と話がしたい!」
取り敢えずボールスに警告をっと、そう言えば、壊した建物って修理費ださなきゃダメ?
······うん、寝よう!
~これまでのあらすじ~
目が覚めて汗を拭こうとしたらアイズが登場。抱き着かれて揉まれるが、妖精女王によって沈められた!
着替えを手早く済ませた後は、目撃されたリヴェリア達と気まずい空気になるが、
後から来たフィンの登場で破られた!勇気ある団長に敬礼!
そして現在。
「それが事の顛末かい?」
「はい。私の攻撃を受けて尚も健在だと思い、殺人鬼がいるとボールスに警告をしました。その後はここで仮眠を」
「なるほどね。君は傷が痛むから寝ていたのではなく」
「依頼の前から寝ていなくて···」
私はフィンとリヴェリアから尋問···もとい、質問をされていた。
話せることは全て話したが、宝玉のことは迷いに迷った末に、依頼主から許可を得てからと自分の中で結論付けた。
・ドロップアイテムを欲しがっていた。
・持っているのは褐色肌の犬人族。
・私は何も喋ってないですよ?でも【泥···なんちゃらさん】が喋ってしまったら仕方ないですよね。ええ、仕方ないですよね!
でも話さないわけにもいかないので、すこーしボカしました。なんかリヴェリアは額を押さえていましたね。
話しの内容は私と戦ったあの女に変わりました。
「んー、にわかに信じられないね」
「ああ。Lv.6上位のクロナの攻撃に耐えるほどの打たれ強さか」
ちなみに、剣を使わなかったのは出血多量で殺さないため。素手喧嘩にしたのは私なりの手心だ。
······今思えば、剣でも別に良かったのでは?足の腱を切れば無力化でき······
あ。
「そう言えば」
「どうかしたかい?」
「···魔法も使わず、怪我を治してました」
「「!!」」
自動再生と言うべきか。
私が砕いた腕で殴っていた。ああそうだ。女が健在だと思った理由は、あの再生力があったからだ。
危ない、危ない。流してましたわ。
「フィン、どうする?」
「ボールスに頼んで冒険者を集めよう。簡単な身体検査をしようか。成果は得られなさそうだけどね」
「分かった」
フィンは提案し、リヴェリアと一緒に外に出た。
残された私は手持ち無沙汰になったので、自分の膝の上でスヤスヤ眠るアイズの頭を、取り敢えず撫でておいた。
殺人鬼がいる→宝玉目当てなら殺す。だから殺人鬼と言った。
質問責めでボロは?→細心の注意を払いました。多分、何かしら見抜かれてる。
フィン達は脱退について問い詰めようとしたが、アイズは納得しましたよと答えたら、詳しい話しは後日にねとなりました。とりまラッキー!
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くっころ11 思うようにいかない日もあるさ
文字数少ないし、多分「は?何言ってんだ?全く意味分からん」てなる。指摘しないでください!
「フィン、どう思った?」
「どう、とは?」
「クロナだ。あの子の話についてだ」
部屋から退室したリヴェリアは、同じく話を聞いていたフィンへと確認をとる。クロナの話をどう感じたかと。
「···嘘はなかった。そもそもあの子は嘘を付けない。誰かの命に関わることなら絶対ね」
フィンはリヴェリアを一瞥した後、自身の感想を伝える。リヴェリアもその感想に同感だった。
「でもね」
「引っ掛かるのは冒険者依頼だ。何故隠すような真似をした?」
「それは―――」
「依頼主との守秘義務があるのは分かる。誠実な彼女ならそれを確実に守る」
「なら···」
「
「――――」
言葉が出なかった。
彼女はボールスに殺人鬼が現れたと、手を打たなければ自分達の命が危ぶまれるぞと警告している。にも関わらず。
「依頼内容を明かさなかったんだ」
フィンは足を止めて振り返り、クロナがいるであろう宿を見る。
「まさかお前はあの子を、クロナを疑っているのか?」
このリヴェリアの問いに対して、
「ははは」
フィンは笑ってみせた。
「昔も今も、クロナは誰かを傷つけるような子じゃないよ。恐らく依頼主も」
「依頼主も?ならばお前は何を疑っている?」
「それは―――おっと、その前に」
フィンは発見する。
先ほどの二人と同じように、クロナの宿を見つめている褐色肌の少女を。
「げっ!?」
『【泥···なんちゃらさん】が喋ってしまったら仕方ないですよね』
「この街でのクロナの立ち振舞い」
「それら全ては―――
「なるほど···」
リヴェリアは腑に落ちたように納得した。
「やあ【泥犬】、奇遇だね······おや?その荷物には何が入っているんだい?代わりに持つよ」
「あ、ああ······」
数多の女性を惚れさせる【勇者】の微笑みは、【泥犬】には悪魔や魔王の類いだと錯覚させた。
リヴェリアは一連のやり取りにやれやれとため息を溢して―――
「っ!!避けろ!!」
「!!」
「うわぁっ!?」
投擲された大剣から二人を守った。
「ちっ、躱されたか」
機嫌を悪くし、舌打ちしながら現れたのは赤髪の女。
体格、服装、言動。クロナが言っていた殺人鬼と特徴が一致する。
「コイツが例の···」
「んー。これは幸か不幸、どっちかな」
この周りには誰もいない。
冒険者の多くは、ティオネ達やボールスがいる場所に集まっている。単体や数人で行動するよりも、集団で行動するほうが安心だからだ。
だからここで暴れても大した被害は出ないし、敵の思惑が知れる。これが幸。
逆に言えば、もし彼女以外にも敵がいた場合。それは遠征と怪物祭でその姿を現した新種が控えていること。
間違いなく混乱する。それを鎮め、指揮を取れるのは【勇者】の二つ名を冠するフィン・ディムナだけだ。
目の前の敵が自分と同等の力を有している場合、フィンとリヴェリアは彼女によって分断されていることになるし、取り逃がす恐れがある。これが不幸にして最悪。
「リヴェリア、彼女を連れてティオネのもとへ行け」
「分かった。行くぞ【泥犬】」
「ちょっ、な、【九魔姫】!?う、うわっ!!」
敵を前にして縮こまる彼女を片手で担ぎ上げ、この場から立ち去った。
「追いかけないのかい?」
「構わん。誰が持っているのかが分かった。だから―――
行け
女の一声で続々と現れる新種を尻目に、目の前の女は殺人鬼であると同時に
「···これでしばらく邪魔者は現れない。その間にお前を殺す」
「やってみろ···と、言いたいところだけどね」
「?」
「あの宿に
フィンは宿を指差す。誰が来ても同じだ。逆転の可能性があるならそれこそ―――
「っ!? まさか!」
「そのまさか、さ」
本能的に身構える。
自分の攻撃が通じない、それでいて一撃だけで自分を沈める化物を。
昨晩の事を思い出したら最後、震えが止まらなかった。
「震えているのかい?なら上着を貸そうか?」
「だ、黙れ!まずはお前を」
「あれが例の殺人鬼です。アイズ、行けますか?」
「うん、行けるよ」
しくじった。
目の前の小人族ならいざ知らず、新たに現れたヒューマンの剣士に、恐怖を植え付けられた女騎士。
調教師の殺人鬼―――レヴィスは、自分の判断を誤ったと後悔した。
レヴィス→混乱させて一人づつ殺すつもりだったが、クロナがすぐ近くにいると知らず、事を起こした。
フィン→彼女はクロナを恐れているのでは?予想が当たって嬉しい。クロナに任せて混乱を鎮めに行こうかな。
リヴェリア→絶賛統率中。はよ来いフィン!
クロナ→あー!昨晩の殺人鬼だー!
アイズ→いくよ
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