旧日本軍もビックリなパワハラ提督が着任しました。 (湯タンポ)
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旧日本軍もビックリなパワハラ提督が着任しました。


あのね、こう言うのが描きたかっただけなの。


えー、気付いたら書いてました☆どうも、やばい奴を生み出すでお馴染み湯タンポです☆

この度2つの作品で暴力を主力にするという偉業をなしとげました☆

果たしてこれは精神的にイカれてるのか、それとも単に私の性癖なのか、真相は闇の中スルメイカって感じですね(?)

えー今作は暴力表現等が多数含まれます。苦手な方は申し訳ありませんが、見て耐性をつけて行ってください☆


では。


 

 

今日、大本営から入電があった。

 

本日より、新しい提督が鎮守府に着任し、艦隊の指揮を執るという事だ。

 

 

 

正直な所、1ミリも期待はしていない。

 

どのような人物が来たところで、今のこの地獄の様な鎮守府を変えられるとは思わない。

 

無能な指揮官による無謀な作戦に、無計画にも程がある資材管理。艦娘を命あるものと見なさぬ非道な扱い。

 

そんな地獄の中、この艦隊は日々戦い続けている。

ですが、それももう限界に近いです。

 

いつ轟沈したとしてもおかしくない状況で戦い続ける仲間たちを見ていると、自分が不甲斐なくて仕方がない。

 

 

私は鎮守府の正門前でそんな風に思いを馳せていました。

 

 

暫くすると、正門の前で大本営からの送迎用の車が止まりました。

 

そして、そこから一人の男性が降りてきます。

その姿を見て、私は思わず息を飲み込みました。

 

 

2mを優に超える身長に、服の上からでもわかる鍛えこまれた体。

 

更に、服に着いた様々な勲章や褒章、そして何より、『大将』の階級章。

 

 

間違いなく、彼は今までの提督とは『格』が違いました。

 

 

「……ご苦労。」

 

「は、はっ!軽巡洋艦 大淀であります。提督のご案内に参りました!」

 

「そうか、職務に忠実なようで何よりだ。」

 

「あ、ありがとうございます…。」

 

はっきり言おう、この人、物凄く怖い。

 

目つきも鋭く、顔立ちも精強そのものと言った感じで、まさに武人のそれといった雰囲気を醸し出している。

 

しかも、この人がこれから自分の上司となるわけですか……。

 

あまりの恐怖に震え上がりそうになる体を必死に抑えて、彼を案内することにする。

 

「ど、どうぞこちらへ…」

「ああ、すまないな。」

 

しかし、この言葉遣いで合ってますかね?…… 下手したらその場で首を切り落とされそうな気がしますけど……。

 

不安を感じつつも、とりあえず執務室へと案内することにした。

 

「ここが、提督のお部屋になります。何か御用がありましたらお呼びください。すぐに駆けつけさせていただきます。」

 

「そうか、では早速仕事を頼む、まずはこの横須賀鎮守府に所属している艦娘に関する資料を寄越せ。

それから30分後に全ての艦娘を食堂か何処かに集めろ。」

 

「え……?」

 

「聞こえなかったのか?俺の命令に従ってさっさと動けと言っているんだ。」

 

「は、はっ!了解致しました!」

 

こ、怖すぎるんですけど!? 今にも首を飛ばされそうなプレッシャーを感じつつ、急いでその場を離れました。

私だって死にたくはないのです。

 

それから私は提督に言われた通りに資料を渡し、この鎮守府内に存在する艦娘達を全員集めました。

 

しかし、一体何をするつもりなんでしょう。

まさかとは思いますが、いきなり全員解体とか言い出さないですよね……? 言いそうで怖いです。

 

そんなことを考えながら提督の様子を伺っていると、突然私の方を見てこう言いました。

 

「大淀、ここの備蓄はどうなっている。」

 

「は、はい、率直に申し上げると、全くと言っていい程ありません。」

 

「……そうか」

 

提督はそれだけ言うと、腕を組んで黙り込んでしまいました。

 

 

 

冷や汗を流しながら提督の動向を見つめていると、急に彼が口を開きました。

 

「大淀、貴様は暫く秘書艦になってもらう。」

「…………はい?」

「聞こえなかったのか?貴様にはこれから俺の秘書艦となってもらいたい。わかったなら返事をしろ。」

「は、はいっ!!了解致しました!!」

「ふん、初めから素直にそうしていろ。手間をかけさせるな。」

 

 

それだけ言うと、提督は再び口を閉じてしまいました。

 

そして、私がしばらく腰を抜かしていると、先程提督が集合を命令された時間が迫ってきました。

 

「……そろそろ時間か。おい大淀、行くぞ。」

 

「は、はい!只今参ります!」

 

そして、提督の後に続いて艦娘のみんなが待っている食堂へと向かった。

しかし、本当にこの人は何者なのでしょう。

 

見たところ年齢は20代前半といったところですが、それにしては階級が高すぎる様に思えます。

 

それに、彼の着ていた軍服にはいくつもの勲章が飾られていました。

これは一体どういった功績で手に入れたものなのでしょうか……。

 

そんな事を考えながらも食堂に着くと、そこには既に多くの艦娘達が待機していました。

 

その数、およそ100人以上。

 

ここにいる全員がこの横須賀鎮守府に所属する艦娘達です。

 

そして、提督が一歩前に出ると、みんなの視線が一気にこちらに向けられました。

あぁ……胃が痛くなってきます。どうか助かりますように……。

 

私がそんな馬鹿なことを考えていると、提督から予想外の言葉が告げられた。

 

「……俺は大本営よりこの横須賀鎮守府へ異動となった『南雲』だ。階級は大将だ。好きに呼べ。」

 

南雲…………南雲!?え!?超ビックネームじゃ無いですか!?

 

い、いや、今の時代南雲なんて苗字はそこまで珍しくないはず……本物の血筋な訳……

 

「ああ、よく言われるから先に言っておくが、南雲忠一は俺の曾祖父だ。」

 

ほ、本物だった……。

 

ということは、彼は海軍でも有名なあの『南雲中将』の子孫ということになる。

 

い、今更ながらとんでもない人が来てしまったのでは無いだろうか……?

 

私が冷や汗を流して固まっていると、南雲提督は続けてこう言った。

 

「最後に一つ言っておくが、俺はお前達艦娘を道具としか考えていない。逆らえばただで済むと思うな。……以上だ。」

 

そう言い残して南雲提督は食堂から出て行ってしまった。

 

しかし、これではっきりした。彼は本物の軍人なのだ。上官に逆らうなど、一番許せないことなのだろう。

 

私は恐怖に打ち震えながらそう思った。

 

 

「……あの方の子孫……なのですね」

 

その時、赤城さんがポツリとそう零しました。

 

赤城さんのそんな呟きに、加賀さんも反応します。

 

「…赤城さん……」

 

2人は一航戦、第一航空艦隊の主力でした。必然的に当時の南雲中将と会い、触れ合う機会も多かったはずです。

…やはりなにか思うところがあるのでしょう。

 

…まぁお二人が船だった頃の話ですが……。

 

私はそんなことを思いつつ、2人の様子を見つめていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、お茶をお持ちしました。」

 

「……入れ」

 

あれから一週間が経ちました。

 

未だに怖くて十秒以上目を合わせられませんが、何とかやって行けています。

 

ですが、まだ一回も誰一人として出撃命令が出されていません。

 

流石にこのままではまずいですよね……。

 

「……どうした大淀。」

 

私が提督の様子を見て悩んでいると、突然彼が話しかけてきました。

 

「えっ!?い、いえ、何でもありませんよ?」

「……嘘をつくな。何か提言が有るなら言え、秘書艦であるお前の役目だ。」

 

ど、どうしてバレたんでしょう?私ってそんなに分かりやすいんでしょうか……。

 

「え、ええと、その……そろそろ、一度くらいは出撃や遠征をされてみてはいかがかと……前任のせいで資材も心元ありませんし……。」

 

「…その事か……ふむ、そうだな、練度を上げるためにも必要か。

大本営から資材を強請ったとはいえ、確かにそれだけでは心許無いのも事実…。」

 

 

大本営から資材を強請った!?何やったら大本営から資材強請れるんですか!?

 

「…わかった。ならば明日、出撃を行う。編成は空母2、戦艦1、重巡1、軽巡2だ。細かい事は貴様に任せる。」

 

「へ?……あ、はい!了解致しました!」

 

私が間抜けな返事を返すと、提督は既に仕事へ戻って居ました。

 

こ、これ失敗したら殺されたりしませんよね……?(震え声)

 

 

ー次の日

 

「それでは 旗艦赤城、以下、加賀、大和、利根、大淀、神通。出撃せよ!」

 

「目標、鎮守府付近の敵艦隊の撃滅。」

 

「「「「「「はっ!!!」」」」」」

 

 

そして私たちは出撃し、数時間後には全ての敵艦を撃滅し、帰投したのですが……

 

 

 

「………それで?貴様が無駄に被弾した事に対する言い訳は何かあるか?加賀。」

 

 

提督の前で加賀さんが正座をさせられ、そんな事を言われているのですが、私達は冷たい汗を流しながら立ち尽くすことしか出来ませんでした。

 

「……申し訳ありません、思わず大和さんを庇って被弾してしまいました。」

 

加賀さんがそう言った瞬間、提督の蹴りが加賀さんの鳩尾に刺さりました。

 

「ぐっ……!うぅ……ッ!」

 

加賀さんはその場で倒れ込みながらお腹を押え、悶絶しています。人体の急所なのだから当然と言えるでしょう。

 

「貴様は馬鹿なのか?空母が戦艦を庇ってどうする?……油断、慢心、注意力の慢散。そして何より論理的、合理的で無い感情的な行動。……貴様らはそんなに死にたいのか?」

 

容赦の無い言葉を浴びせながら、何度も加賀さんを足で踏みつける提督に、私達は恐怖で震えていました。

 

 

しかし、大和さんはそうではありません。

 

彼女は目に涙を浮かべながらも、提督を見据えてこう言いました。

 

「ま、待って下さい!!いくらなんでもやり過ぎです!!加賀さんは私を庇っただけです!それに対して罰を与えるならば加賀さんではなく、庇われた間抜けの私に罰をお与えください!」

 

 

大和さんがそう言った瞬間、彼女は壁に叩きつけられ、そのまま首を手で絞め挙げられました。

 

「ぐっ……ぁ……う……」

 

 

苦しそうな表情をする大和さんに対し、提督はこう問いました。

 

「…支配には何が必要だと思う?」

 

……この人は何を言っているのでしょうか。こんな状況で突然支配する事に必要な物など分かるはずもありません。

 

「……わ、わかりま、せん……」

 

息が出来ずに苦しむ中、必死に言葉を紡ぎ出した大和さんに、提督は答えを言いました。

 

「支配とは恐怖を与える事だ、そして最も簡単な方法は痛みによるものだ。」

 

提督は大和さんの首をさらに強く締め上げます。

 

「そ、それ以上はお止め下さい!!」

 

赤城さんが慌てて駆け寄りましたが、もう間に合いません。このままでは彼女が窒息死してしまう……!

 

「……ふん」

 

すると突然、提督が手を離しました。

大和さんはそのまま床へと落ち、激しく咳き込んでいます。

 

「げほっ……ごほ……っ」

 

「これで分かっただろう?貴様らは既に俺の支配にある。抵抗など無駄だ。」

 

「な、なぜそのような酷い事をなさるんですか!?」

 

赤城さんがそう聞くと、提督は鼻で笑い、

 

「なぜ?……決まっている。俺は強いからだ。」

 

そう言いました。

 

「強ければ……何でも許されると……言うのですか?」

 

大和さんは涙を流しながら立ち上がり、提督を睨みつけています。

 

「そうだ。この世は常に弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。それだけがこの世の真実だ。」

 

「違います!弱きを助け強きをくじく!その為に強き者には力が与えられているのです!」

 

大和さんはそう言って提督に殴り掛かりました。

 

「……馬鹿が」

 

提督はその拳を左手で受け止めると、そのまま腕を捻り上げました。

 

「ぐぅ……!」

 

「いいか?貴様らの生殺与奪権は全て俺の手の中にある。逆らう事は許さない。良いな?」

 

「っ……はい」

 

大和さんは苦痛の表情で返事をしました。

 

「……分かったならさっさと出ろ、あと大淀は残っている書類を処理しろ。」

 

 

提督は大和さんを此方へ投げ、加賀さんをこちらへ蹴り飛ばすと、そう言って机へと戻りました。

 

「……はい。」

 

私はそう答える事しか出来ませんでした。

執務室を出た私たちは、皆一様に暗い顔をしていました。

 

「……ごめんなさい、私のせいです。」

 

大和さんがそんな事を言ってくるのですが、加賀さんがそれに反論します。

 

 

「気にしないで下さい。元はと言えば私のミスですから。」

「でも……っ!」

 

加賀さんの言葉に大和さんは言い返そうとしていましたが、それを赤城さんが止めました。

 

「やめましょう、今更後悔しても意味が無いです。」

 

「……はい。」

「……分かりました。」

 

その後、私は書類を処理するため、執務室へと向かいました。

 

 

コンコンッ

 

 

「入れ。」

「…失礼致します。」

 

扉を開けると、そこには大量の書類の山に囲まれ、黙々と仕事をしている提督の姿がありました。

 

「大淀か……作業に取り掛かれ。」

 

「……その前に1つ宜しいでしょうか?」

 

「何だ」

 

「どうしてあのような扱いを?」

 

私がそう聞くと、提督はペンを置き、こちらを向きました。

 

「何の事だ?」

 

「大和さん達への仕打ちです。あれは明らかにやりすぎだと思います。」

 

「……ほう?」

 

その瞬間、提督から凄まじい圧が掛かりました。

 

まるで、蛇に睨まれた蛙のように体が動かなくなり、恐怖で呼吸すらもまともに出来ません。

 

「つまり、俺の彼奴らに課した処分に文句があると?」

 

「っ……」

 

私は何も喋る事が出来ません。

私と提督の間には声を出すことすらも出来ない程の圧倒的な力の差が有るのです。

 

「答えろ。俺のやり方に何か問題でもあるのか?」

 

恐怖で震える私に、提督は容赦なく問い詰めてきます。

 

「そ、それは……」

 

必死に答えようとするも、恐怖で上手く言葉が出てきません。

 

「もう一度だけ聞いてやる。俺に何が問題があると言うんだ?」

 

「……て、提督の言う事は間違ってないのかもしれません…で、ですが、あまりにも酷いです……!」

 

「……そうか。それがお前の答えか。」

 

そして次の瞬間、私は壁に叩きつけられていました。

 

私では到底視認出来ない速さの蹴りで。

 

「がっ……!!」

 

全身に走る激痛と共に、肺の中の空気が全て押し出され、思わず咳き込みます。

 

「ごほっ……ごほっ……っ」

 

息を整えようと必死になっていると、提督が目の前に立ち、私の髪を掴んで無理やり上を向かせました。

 

 

「何度も言っているが、支配に必要なのは恐怖だ……そして、その為に一番効率的な物は……『暴力』だ。」

 

 

提督はそう言うと、私の顔を地面に叩き付けました。

 

何度も、何度も。

 

「うぐっ!がはっ!がぁっ!」

 

 

意識が遠のきかける度に顔を叩き付けられ、強制的に覚醒させられます。

 

 

そして、段々と私の反応が無くなってくると、次は殴られました。

 

顔、肋、鳩尾、お腹、足、背中。様々な場所をひたすらに殴打され続けました。

 

「うっ……あがっ!」

 

その頃には叫ぶ余裕すらなく、私はそんな弱々しい声を上げていただけでした。

 

 

それでも提督は止まりません、次は蹴られました。

 

先程と同じように、蹴られなかった場所の方が少ないくらいに蹴られました。

 

そして、折れた肋が内蔵か何かに刺さる頃には、私はひたすら謝っていました。

 

「ごめんなさい!……ごめんなさい!…もうしません!……お許しください……お願いします……どうか……っ!」

 

そう懇願するも、返ってきたのは、無慈悲な一撃でした。

 

その一撃をもらったあとは、もう反攻する気など1ミリも起き上がりませんでした……そんなことより、『どうしたら許して貰えるのか』をずっと考えながら謝っていました。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

それしか考えられない、それ以外を考える余地なんて残されていませんでした。

 

ただ、この苦痛から逃れたくて、ひたすら謝罪を続けました。

 

 

すると、提督が私の髪を掴んで持ち上げました。

 

 

「俺に逆らってはいけない、俺の言葉は全て正しい、分かったか?……返事は『はい』だけだ。『いいえ』なんて言う道具の末路は……今身をもって知ったな?」

 

その言葉を聞いた瞬間、私は反射的に叫んでいました。

 

「はいっ!はいっ!分かりました、絶対にもう逆らいません!何でも言うことを聞きます!…な、なのでもう殴らないでください……」

 

私のその言葉に、提督はどす黒い笑顔でこう言いました。

 

「よし……良い子だ。なら、これから俺の指示には必ず従え。少しでも歯向かう素振りを見せたら……分かってるよな?」

 

「は、はい!」

 

私がそう答えると、提督は満足したような表情を浮かべました。

 

「それでいい。お前は優秀な秘書艦だ。」

 

そして、提督は一言だけそう褒めてくれました。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

それが、異様な程嬉しかったのです。

 

 

10000の鞭に対して、たった1の飴。

 

それは例えるなら、砂漠に何年もさまよい続けた末に与えられたコップ一杯の水。

 

一度それを味わってしまえば、もう抜け出せない。

 

 

どれだけ辛いことが有ろうと、その後に飴があると分かってしまえば、その飴の為にいくらでも耐えてしまう。

 

それが依存のスパイラル。

 

私は見事に提督にそのスパイラルに嵌められました。

 

「て、提督………その、先程は申し訳御座いませんでした。遅くなりましたが、書類仕事お手伝い致します。」

 

 

提督と目を合わせることが出来ず、俯きながらそう告げると、意外な答えが返って来ました。

 

「いや、その前にお前は傷を治してこい。」

 

そう言われて、私は自分の体を見ました………そこには、大量のアザと擦り傷、内出血と打撲痕。

 

「あ……っ」

 

思わず声を漏らすと、提督は私を抱き寄せ、私の頭を撫でながら言いました。

 

「すまなかったな、やり過ぎた。」

 

 

「っ……い、いえ!私が提督に逆らったのがいけないのです!提督は悪く有りません!」

 

 

提督が謝ることなど、何一つない。

悪いのは全部私なのだから……そう、私が全部……

 

 

「あぁ、だが俺は上官としての責任を取らなくてはならない……今日は休め。これは命令だ。」

 

「っ……は、はい……では、お言葉に甘えて。失礼します……。」

 

 

 

そう言って執務室を出た私は、直ぐに倒れました。

 

偶然通りかかった加賀さんが居なければ、私はそこで息絶えていたかも知れません。

 

その後私は、入渠し治療を受けました。

 

加賀さんによると、その時の傷は大破同然だったそうです。

 

ですが、幸いにも一日入渠すれば治る傷でした。……いえ、一日で治るように手加減されていたでしょう。

 

 

 

 

 

次の日、アザや打撲以外は殆ど治り、仕事の為に執務室へ向かうと、中から怒声が響きました。

 

『何故です提督!納得の行く説明をして頂きたい!』

 

長門さんの声でした、私は慌ててドアを開きました。

 

 

そこには、長門さんを筆頭とする戦艦の方達と、赤城さんを筆頭とする空母の方達……大型艦船の方達が勢揃いしていました。

 

皆、一様に殺気立っています。

 

「あ、あの……どうされたんですか?」

 

恐る恐る尋ねると、金剛さんが鋭い視線でこちらを見て言いました。

 

「テートクに貴女の件で詰め寄ってるネ!」

 

「わ、私の……ですか?何かしてしまったでしょうか……」

 

困惑していると、赤城さんが静かに呟きました。

 

「……私達は、貴女が酷い暴行を受けた事に関して提督に抗議しているのですよ。」

 

「あ……そ、そうなんですか……すみません。」

 

「何故被害者の大淀さんが謝るのですか!?」

 

榛名さんが叫ぶように言いました。

 

「て、提督は悪くないです!私が提督に逆らったのが悪いんです!」

 

「……おい、静かにしろ」

 

そう提督に言われた瞬間、私は全身の血の気が引く感覚を覚えました。

 

「あっ……す、すみません!すみません!提督ごめんなさい許して下さいお願いします!!」

 

自分に言われた訳ではない筈なのに、反射的に叫びながら必死に頭を下げました。

 

そんな私を見た周りの方達は、次々に提督を問い詰めました。

 

「…彼女に何をしたのかしら?」

 

「提督、正直に話した方が身の為ですよ?」

 

「そうです、答えて頂けないのであれば、私達は何をするか分かりません。」

 

「何度も言っているが、納得のいく説明をして頂きたい!」

 

加賀さん、赤城さん、大和さん、長門さん達が一斉に提督に問いかけます。

 

 

 

「黙れ」

 

しかし、その一言だけで、全員の動きが止まりました。

 

そして、提督が私に話しかけてきました。

 

「……それ人の前でやるな、次やったら殺す。」

 

「は、はい……申し訳御座いませんでした……」

 

「……まぁいい……で、だ。貴様らは何度同じ事を聞くんだ?大淀を殴った理由は逆らったからだと答えてるだろ?」

 

 

「し、信じられるか!!その程度の理由で殴られるなど!!」

 

「そうだよ!!提督に従わないだけで殴られるなんて納得いかない!」

 

 

長門さんと瑞鶴さんがそう言った瞬間、提督が机を叩きつけました。

 

 

「…あまり図に乗るなよ…カス共が。」

 

その言葉で、室内が静まり返りました。

 

 

「お前らが俺に対して意見具申するのは構わん、だが、俺に逆らう事は許さん、…それで納得が行かないものは今ここでタイマンで話を付けてやる。」

 

そして、提督はそう言って立ち上がりました。

 

「…分かった、この長門が代表として相手になろう。」

 

「ちょっ!何勝手に決めてんのさ!!」

 

長門さんが提督の前に出て、他の皆さんも止めようとしましたが、それを提督が手で制した。

 

私は、ただ提督の行動を見ていることしか出来ませんでした。

 

「……ふむ、別に全員掛かってきても構わなかったが……まぁいいだろう、長門 、貴様の意志をくみ取ってやる。来い。」

 

「っ!舐めるなッ!!!」

 

そう言って、長門さんは提督に殴りかかりました。

 

 

長門さんの放った拳は、私程度では見えない程早く、尚且つ凄まじいパワーを秘めていました。

 

 

ですが……

 

ベギッ!

 

「ガァッ!?」

 

提督はその拳を避けるどころか、脇で挟むとそのまま長門さんの肘をへし折ってしまいました。

 

しかし、長門さんはその状態から反撃しました。足を振り上げ、蹴りを繰り出したのです。

 

凄まじい精神力です、私なら先程の一撃で崩れ落ちます。

 

 

ですが、やはりと言うべきか提督には通じません、足を振り上げる勢いを利用して長門さんをひっくり返して押さえつけると、彼女の両肩を脱臼させてしまいました。

 

「グゥッ……あ……あ"あ"」

 

「ふむ、肘を折っても反撃した事は褒めてやろう。」

 

そう言うと、提督は動けなくなった長門さんをそのまま放り投げました。

 

「これで力の差が分かっただろう?それとも全員が逆らわなくなるまでやるか?」

 

提督の言葉を聞いた皆さんの顔に緊張が走りました。

 

……そして、皆提督から距離を取り始めました。

しかし、赤城さんが、提督に近づきながら、静かに言いました。

 

「……分かりました、今回は引きましょう。」

 

「ほう、意外だな。」

 

「ただし、もし次があった時は……覚悟してください。」

 

「面白い……その時は全力で調教してやる。」

「では失礼します。」

 

それだけ言うと、赤城さん達は部屋から出て行きました。

 

提督はそれを見送ると、今度は私に話しかけてきました。

 

「……傷は大方治ったようだな……ではこの書類を処理しておけ、俺は少し用事がある。」

 

「は、はい!」

 

そう言って、提督は執務室を出ていきました。

 

 

 

 

 

こうして私達は地獄から解放され、絶望へと足を踏み入れました。

 







続きません(知らんけど)

本当は加賀をボコボコにしたかったのに、何時の間にか大淀を半殺しにしてたんだ……………おい……なんで……大淀が半殺しにされてる…?誰か俺を殺してくれ……(錯乱)

一応言っておきますけど、この作品は二次創作であり、艦隊これくしょん、及び現実世界に存在するあらゆる人物とは一切関係ありません。


私は加賀さんを殺したいくらいに好きなんです!(異常者の戯言)

それでは。


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その男、パワハラ上司につき



書 い ち ゃ っ た♡

ども、湯タンポです。他の作品の更新の目処が立たなすぎて息抜きでこれ書いちゃいました♡

以上、精神がイカれた奴の言葉でした。


 

 

 

大本営 司令室

 

 

「……艦娘軽視派の私を横須賀に着任させ、艦隊の指揮を取らせるとは……余程人が足りていないようですね、元帥閣下」

 

随分とガタイの良い青年が、眼前の初老の男性へとそう声をかける。

 

彼は『艦娘軽視派』の筆頭として有名な、日本海軍 大将 南雲秀一 である。

 

「……その通りだ、南雲君。先日の一斉検挙によって、今日本海軍は兎に角人手が足りん。

……だからこそ、艦娘軽視派であっても、世界の中でも飛び抜けて優秀な指揮官である君に着いて貰うしかないのだ。」

 

南雲大将の言葉に対し、重々しい声で応える元帥と呼ばれた男性。

 

海軍において、艦娘を軽視する者は少数派であり、多くの将官や佐官はその存在を良く思っていない。その代表格が、今の日本海軍聯合艦隊司令長官である。

 

しかし、その少数派に限って大将や中将等、階級が高い上に優秀な者が多く、大本営や艦隊司令部も頭を抱えて居るのだ。

 

「……まぁその話はいいでしょう、任務であるならば完璧にこなす迄です。それに私は、道具に人権など必要無いと考えているだけで、別に艦娘が嫌いな訳ではありませんから。

 

……それで、私をわざわざ此処へ呼んだのは、どう言ったご要件でしょうか?まさか先程の雑談をする為に呼んだわけではありますまい。」

 

南雲大将が話を変える様に元帥へ問いかけると、元帥は一瞬目を瞑り息を整えてから口を開く。

 

「……実はな、先日 横須賀鎮守府の艦娘達から、提督……つまりは君による暴行に対する抗議が届いて居るのだ。」

 

元帥のその言葉に大して、南雲はあっけらかんとこう言い放った。

 

「……それがどうかしましたでしょうか?」

 

「……どうにか抑えられんのか、君の唯一の欠点である、部下を暴力で支配しようとするのは。」

 

南雲の言葉を聞き、心底呆れた様子を見せる元帥。

 

 

「欠点?……それは私が優秀な軍人であるが故ですよ。」

 

南雲大将は元帥に対して嘲笑する様な笑みを浮かべながら、そう返答した。

 

そして、少し考えた素振りを見せた後、再び口を開いた。

 

「…規律を乱すものには罰を、遵守し戦果を挙げるものには褒美を、それが私のポリシーですので。

……まぁ、時に罰が行き過ぎる事もあるやも知れませんね。」

 

南雲大将が語り終えると、沈黙が訪れる。

元帥は溜息をつくと、静かに口を開いた。

 

「……分かった、君のやることには口を出さないでおこう。……だが、あくまで許容出来るのは『教育の範疇』までだ。」

 

元帥がそう告げると、南雲大将は不敵な笑みを浮かべながら答えた。

 

「ええ、勿論ですとも、その辺の"加減"は得意ですので。……ご理解感謝致しますよ、元帥閣下。

 

……軍人として、閣下には数え切れぬ程の戦果を献上する事を約束しましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

横須賀鎮守府 執務室。

 

 

 

 

 

元帥のお墨付きを貰った南雲は、横須賀鎮守府に帰ると、早速行動を起こした。

 

 

「て、提督……な、何か御用でしょうか……?」

 

最初に呼ばれたのは、加賀だった。

勿論これには理由があり、先程受けた報告にて、加賀は瑞鶴を庇い被弾、大破したとの事であったからだ。

 

「あぁ、貴様に一つ聞きたい事があってな。……貴様、瑞鶴を庇って被弾したらしいじゃないか。」

 

南雲の言葉を聞いた瞬間、加賀の顔色が青ざめる。

 

「あ、あれは……わ、私の判断ミスによるもので……!その、責任は全て私に……!」

 

加賀が焦った表情を見せながら必死に弁明するが、そんな物は南雲にとって知ったことではない。

 

「そうかそうか、責任は全てお前にあるのか……ならばその責任は果たして貰わないとな。」

 

南雲はそう言った瞬間、加賀の鳩尾へと蹴りを叩き込んでいた。

 

「……ぐっ!?……ぅ……」

 

腹を押さえながら、苦悶の声を上げる加賀。

しかし、南雲は容赦無くその背中を何度も踏みつける。

 

 

「どうだ?責任を取るとはこういう事だ……今ならまだ弁明を聞いてやるぞ。」

 

「……そ、れは……その……っ……!」

 

度重なる痛みによってまともに言葉を発せられない加賀。

 

「……所で加賀、お前の"教育"が終わったら、先日の大淀の件で抗議に来ていた、赤城、瑞鶴、大和、長門を中心に空母、戦艦達にも"教育"を施すつもりなのだが……」

 

南雲がそう言うと、加賀の目が大きく見開き、慌てた様に口を開く。

 

「あ、あの子達は関係無いでしょう!?」

 

「話は最後まで聞け……そこで一つ提案がある。

………その"教育"を全て貴様が引き受けると言うのはどうだ?」

 

「そ、それは……ッ!」

 

加賀の反応を見て、ニヤリとした笑みを浮かべる南雲。

 

「もしこの話を受けるのであれば、奴らには何もしないでおいてやろう。しかし、断るのであれば、残念ながら空母や戦艦だけではなく、潜水艦 駆逐艦 軽巡洋艦 重巡洋艦等、全ての艦娘に"教育"を施さなければならなくなるな……」

 

南雲の提案を聞き、苦虫を一万匹噛み潰したよう顔をしながら俯く加賀。

 

……加賀とて、勿論痛いのは御免だ、しかし親友とすら言える赤城、口先ではきついことを言いながらも、何かと目を掛けている瑞鶴、そしてこの鎮守府に所属する全ての艦娘。

 

自分が彼の言う"教育"を引き受ければ、それら全ての艦娘達を彼の魔の手から逃れさせる事が出来る。

 

しかし……

 

(………ッ!……でも……怖い……!……痛いのはもう嫌………っ!)

 

その代償として待ち受ける自身の末路を想像すると、身体が震え、怖気が止まらない。

 

「まぁ、別に私としてはどちらでも構わないのだが……早く決めろ。」

 

だが、この男はやると言ったら必ずやるだろう……自分が断れば、此処に居る艦娘全員に地獄を味合わせる事になる。

 

そう思った時、加賀の中で答えが出た。

 

「……わ、分かりました、貴方の言う通りに致します。ですから、どうか皆には手を出さないで下さい。」

 

加賀がそう告げると、南雲は満足げな笑みを浮かべながら言った。

 

「そうかそうか、仲間思いなようで何よりだ……それでは"教育"の時間だッ!」

 

その瞬間、加賀は腹部に凄まじい衝撃を受けたかと思うと、壁まで吹き飛んだ。

 

「がっ………は……!」

 

そして、そのまま床に倒れ伏す。

 

南雲は倒れた加賀の元へ近寄ると、サイドテールを掴み、無理やり立たせようと引っ張った。

 

「立て。」

 

南雲の命令を聞き、よろめきながら立ち上がる加賀。

そして、南雲は加賀の腹へ膝蹴りを叩き込む。

 

「ごふっ……!?」

「おいおい、まだ始まったばかりだぞ?こんな程度で音を上げてもらっては困るな」

 

南雲はそう言って笑い声を上げながら、何度も何度も腹に蹴りを打ち込む。

 

「ぐっ……あっ……ぅぐ……うぅ……!」

 

その度に、加賀は苦悶の声を上げるが、南雲はそれでも蹴る事を止めない。

 

やがて、加賀の反応が薄くなって来ると、四つん這いになる様に命令し、その上に座ったかと思うと、煙草に火をつけた。

 

「随分と座り心地がいい椅子だ、煙草を吸うには最適だな。……俺が使う椅子全てに採用したい位だぞ。」

 

南雲は、加賀の背中に座りながら、耳元で囁く。

 

「う……あ……も……もう止めて……下さい……」

 

加賀が弱々しくそう呟くが、南雲は無視して加賀の髪を引っ張り、顔を無理矢理自分の方へ向けさせると、彼女の眼前で煙を吹きかける。

 

「げほっ!ごほ……っ……何を……!」

 

「……加賀、俺がどうしてこんな事をするか知りたいか?」

 

「…………。」

 

加賀は南雲の問いに対して無言を貫く。

しかし、南雲は構わず語り続ける。

 

「……俺はな、昔から人間を信用出来ないんだよ、信用出来るのは、自分が恐怖で育てた道具だけだ。」

 

「……っ……!」

 

「今の海軍の聯合艦隊司令長官みたいに、死ぬ程馬鹿正直な奴もいるが、奴だって腹の底じゃ何を考えてるかなんて分からない。

 

……一番面倒臭いのは、見える裏切りより見えない裏切りだからな。」

 

南雲は一度そこで言葉を切ると、煙草をもう一度吸い、煙を吐きながら、火のついたままの煙草を加賀の背中服越しに押し付けてこう言った。

 

「だからこそ、恐怖を与える一環で暴力を使うし、こういうも事もする」

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

背中に広がる痛みと熱さに耐えきれず絶叫を上げる加賀。

 

しかし、そんな事はお構い無しに南雲は押し当てた煙草を離さず、まるで灰皿で火を消すかの如く、ぐりぐりと押し付けた。

 

「俺は別にお前達が憎い訳じゃない、ただ信用の出来る道具に育てているだけだ。」

 

「……ッ!……あつぃ……いだい……!」

 

「だから、安心しろ。お前達はこの先一生俺から逃げられない。死ぬまで俺の道具として生きるしかないんだ。」

 

「や……やめて……!」

 

加賀は悲痛な声で懇願するが、南雲は一切聞き入れず、それどころか笑みを浮かべながら、加賀の左腕を持ち上げると、そのまま肩を外してしまった。

 

「―――っ!?!?」

 

あまりの激痛に声にならない叫びを上げ、身体を仰け反らせる加賀。

 

しかし、南雲は手を緩める事なく、次は右腕を掴んで同じように関節を外す。

 

「ッ!~ッ!……~ッ!!!」

 

もはや声すら上げられない程の苦痛が全身を襲う中、南雲は新しい煙草に火を付けてひと吸いすると、悶える加賀の背中に、今度は煙草を直に押し付けた。

 

「……………ぁ……」

 

余りの痛みによって脳がオーバーヒートを起こした加賀は、ビクンと身体を跳ねさせた後、白目を剥いて気絶した。

 

「ふん、ようやく一段階目は終わりと言ったところか……」

 

南雲は加賀の身体から降りて、彼女を見下ろしながらそう呟くと、吸い終わった煙草の火を加賀の背中で消し、加賀へ一言言って消えた。

 

「聞こえてるかどうかは知らんが、さっさと入渠して傷を治しておけ、また何かあれば呼ぶ。」

 

「………………っ……は……ぃ……」

 

 

 

 

その後、南雲が部屋を出て暫くすると、加賀はよろよろと立ち上がり、壁に肩を寄りかけながら、ドックへと向かった。

 

「……う……うぅ……痛い………もう……嫌…………」

 

加賀は目の端から涙を流しながら、傷ついた身体を引きずるようにして歩き続けた。

 

 

 

 

……これがまだ始まりにすぎない事を、彼女は知る由もない……

 

 

 

―To be continued―

 






解 釈 一 致☆

ちなみに元帥閣下がこの異常者を止められない理由は、シンプルにコイツが強いからです。後は結構中立な所もある。

まぁ現代技術使っても倒せない深海棲艦を、素手で殺す奴にどうやって首輪付けるって話だよね。

まぁ聯合艦隊司令長官さんはその化け物と渡り合うんですけどね。

対極に位置すると言ってもいいですね。

艦娘道具派の海軍大将VS艦娘愛してる派の海軍聯合艦隊司令長官(大将)VSその間を取り持つ元帥閣下 的な?

……そう考えたら元帥閣下の胃が心配になって来たので誰か胃薬を届けてあげてください。

ちなみに私は楽しいので火種を届けます。

では、興が乗ったらまた更新しに来ます。


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二度と 喪わぬ為に



どうも、自己満更新しに来ました。


……大切な人を失うのは、哀しいですよね。

それこそ、人が変わってしまう程に。


それだけです。では。



 

 

 

 

 

 

あれから1週間、加賀は南雲に何時呼び出されるのか分からない事に脅えながらも、他の者に悟られぬよう普段通り生活していた。

 

 

 

 

幸い、彼は約束通り自分以外には危害を加えなくなり、それどころか、私達の食事事情や補給に関することを改善してさえ居た。

 

 

 

更に、前任の様に無理な出撃命令を出すことも無くなり、最近は遠征任務をこなすだけの日々だ。

 

 

 

後はその暴力性さえ無くなれば完璧なのだが……。

 

 

 

「…どうしたんですか?加賀さん。」

 

 

 

思わず考え込んでいると、隣に居る赤城さんが不思議そうにこちらを見ながらそう尋ねてきた。

 

 

 

「いえ……何でも無いわ。少し考え事をしていただけよ。」

 

 

「そうですか……なら良いのですが……」

 

 

 

そう言うと、赤城は再び前を向いて歩き始める。

 

 

 

(……次は、何時呼ばれてしまうのかしら……)

 

 

 

これから昼食だと言うのに、思わずそう考えてしまう。

 

 

 

そんな時、呼び出しの放送が掛かった。

 

 

 

『航空母艦 加賀、一時間後に執務室へ来い。』

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

とうとう来たか……と私は心の中で呟いた。

 

 

 

一時間もあれば十分食事は取れるけれど、きっと全部戻してしまう……それよりも入渠する為の用意を先にしておきましょう。

 

 

 

「……どうかしましたか?」

 

 

 

私が黙っていると、赤城さんが再び心配そうな表情で見つめてくる。

 

 

 

「大丈夫よ、ただのお昼の誘いだから。」

 

 

 

「あぁ、成程。確かにここ最近提督とよく一緒に食べていますね。」

 

 

 

「………」

 

 

 

そう、私は頻繁に呼ばれても怪しまれぬ様、提督と一緒に食事を取っている……”という事になっている”。

 

 

 

確かに食事は取っているものの、実態はただの監視に近く、とてもじゃ無いが一緒に食事をしている等とは言えない状態である。

 

 

 

「ふふっ、ごめんなさい。変な事言っちゃいましたね。」

 

 

 

「いいのよ。……それよりもご一緒出来なくてごめんなさいね、赤城さん。」

 

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい。」

 

 

 

「……ありがとう。なるべく早く戻るようにするわ。」

 

 

 

「はい、今日はもう出撃等は有りませんから、部屋で待ってますね。」

 

 

 

赤城さんはそう言って微笑むと、そのまま食堂へと向かって行った。

 

 

 

「……行きましょうか。」

 

 

 

私は一人そう呟くと、急いで身支度を整えて、提督の待つ執務室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

執務室

 

 

 

 

コンコンッ

 

 

 

 

「入れ」

 

 

 

「……失礼します。」

 

 

 

ドアを開けると、そこには相変わらず不機嫌そうな顔の南雲提督が居た。

 

 

 

彼の座る机の上を見ると、大量の書類がキッチリと山にされており、彼の性格が滲み出ていた。

 

 

 

「……まぁ取り敢えずそこに座れ。」

 

 

 

「……はい。」

 

 

 

私は言われた通りに、ソファーに腰掛ける。

 

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

 

暫くの間、部屋に沈黙が流れる。

 

 

そして、その沈黙を破ったのは意外にも彼からであった。

 

 

 

「……さて、この一週間、俺は鎮守府全体の状況を整え、お前達を観ていた。

 

 

ある程度状況を改善すれば、反抗的な態度はなりを潜めるかと思ってな……。」

 

 

「……」

 

 

 

彼は続ける。

 

 

 

「だが、残念ながら効果は大してなかったようだ。……特に酷かったのは、駆逐艦数”匹”と空母、戦艦勢だな、不快度が限界を超えて、思わず"教育"を行いたかった位だ。……やはり道具は自分で育てないと信用できないな。」

 

 

 

彼が話せば話すほど、自分の身体が震えていくのを感じる。

 

 

既にこの体は恐怖を感じているのだろうか。

 

 

 

「……という訳で加賀、きっちりと約束は果たして貰うぞ。

 

 

……今日から1ヶ月、毎日お前に”教育”を施す。」

 

 

 

「ぇ……い、いっかげつ……で…すか……?」

 

 

 

余りに予想外の宣告に、思わず私は顔を引き攣らせながら聞き返してしまった。

 

 

 

 

(……いっかげつ…?……あの地獄を……いっかげつ……まいにち……なんじかんも……?)

 

 

 

「そうだ、何度も言わせるな。俺と交わした約束を忘れたとは言わせない。」

 

 

 

「ぃ……ぃや……そんなに……むり…無理です………」

 

 

 

私は無意識のうちに首を横に振り、否定していた。

 

 

あんな苦痛をずっと受け続けたら、間違いなく壊れてしまう……。

 

 

 

「何だ、肩を外す所から始めて欲しいのか? 」

 

 

 

「ひぅ!?」

 

 

 

彼はそう言いながら立ち上がり、私の方へ歩み寄ってくる。

 

 

 

「あ……あぁ……ぁ……あぁ……」

 

 

 

ガタガタと歯が鳴り、身体が震える。

 

 

 

「そう怯えるな、この為に色々取り寄せたんだ……さぁ、”教育”の時間だ。」

 

 

 

彼はニヤリと笑った後、懐からスタンガンを取り出し、私に向けた。

 

 

 

「ゃ……め……許してください!お願いします!!何でもしますから!!」

 

 

 

「言っただろう?これはお前との約束だ。……それに、何でもするなら黙って受け入れろ。」

 

 

 

「そ…そ……んな……っ!」

 

 

 

「そんなに喜ぶな……では早速始めようか。」

 

 

「い……いや……いやああああ!!!!」

 

 

 

私はジリジリと近付いてくる彼に、泣き叫びながら精一杯抵抗するが、それも虚しく簡単に押さえつけられてしまう。

 

 

 

「さて、まずは腕から行くか。」

 

 

「や……やめて……おねがい……」

 

 

 

バチィッ!!!

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

 

 

 

提督の持ったスタンガンが容赦なく私の右腕に押し当てられ、私は悲鳴を上げながらのたうち回る。

 

 

「は、流石に市販品と言えど改造を施せば効くな。これなら次の段階に進みやすそうだ。」

 

 

痛みに耐えきれず、涙を流して叫ぶが、そんな事は気にせず、提督は何度も私にスタンガンの電流を浴びせると、次の工程に移る。

 

 

「次は肩を外してみようか……徹底的にやるから、覚悟しろよ。」

 

 

「ひっ……ひぐっ……えっぐっ……ゆ……ゆるじでくだざいぃぃぃっ」

 

 

ゴギッ

 

 

彼が私の腕を捻りあげると、そんな音と共に私の肩はいとも容易く外れた。

 

 

「ぃぃいいいッッッ!!!!!!いだいいだいいだい!!!」

 

 

 

あまりの激痛に、私は泣き叫んでしまう。

 

 

「もう片方も行ってみようか。」

 

 

「嫌ぁ!もう嫌あぁぁあっ!もうゆるじてぇぇぇぇっ」

 

 

ゴキッ

 

 

今度は左腕も同じように壊される。

 

 

「ぁ……ぁ……ぁ……」

 

 

あまりの苦痛に、声も出せずにいると、彼は更に次の準備を始めた。

 

 

「次は両手足を折って、椅子にしてみるか。」

 

 

彼はそう言って、私の腕を先ずへし折った。

 

 

バキィッ

 

 

「ぃゃああああ!!!」

 

 

「じゃあ続けてもう一本。」

 

 

ベキンッ

 

 

「があぁぁぁあぁっ!!」

 

「まだ続けるぞ、次は足だ」

 

 

バキィン

 

 

「ゔぁぁぁぁあ"ぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

私の両足はいとも良い容易く折れてしまい、身体を支える事が出来ずに崩れ落ちる。

 

 

「よし、椅子の出来上がりだ。」

 

 

「ぅ……ぅぅ……ひぅ……ごめんなさい……ゆるして……もう……逆らい……ません……いうこと……なんでも……ききます…から……」

 

 

加賀は、既に心も身体も限界だった。

 

 

身体は痛みに苛まれ、精神的にもボロボロで、もう涙を止める事すら出来ないでいた。

 

 

「何でも言うことをきくのか?」

 

 

「はい……ですから……もう……許してください……お願いします……お願いします……」

 

 

「ふむ……まぁその言葉が出たのなら、今日の所はこれで終わりにしてやろう。」

 

 

彼はそう言うと、"煙草に火をつけた"。

 

 

それはその日の暴力が終わりだという合図と共に、最も辛い、煙草の火を自分の背中で消されると言う意味でもあった。

 

 

彼が煙草をひと吸いして煙を吐いた瞬間、動けない加賀の背中の地肌に煙草を押し付けた。

 

 

ジュゥッ

 

 

「ぃぎゃああああああぁぁぁああぁあ!!!」

 

「今日から1ヶ月、毎日続けていくからな。しっかり耐えろよ。」

 

 

彼はそう言い残し、部屋を出て行った。

 

 

 

「……い…たぃ……っ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

私はそれから毎日、提督に暴力的な行為を受けていた。

 

 

殴る蹴るの暴行や暴言は当たり前、意識が完全に飛ぶまで、頭を床や壁に打ち付けられたり、背中に焼きごてを押されたこともあった。

 

 

傷を受けなかった場所は、胸と下腹部位で、それが暗に"お前に女としての価値など無い"と言われているようで逆に悔しかった。

 

 

そして、ドックに入渠すれば怪我は治るとは言え、痛みが無くなる訳では無いので、当然夜はまともに眠る事など出来ず、睡眠不足に陥り、更には恐怖によるストレスにより、私の精神は徐々に擦り切れて行った。

 

 

だけど、私が我慢しさえすればあの子達を助けられると思って、私は必死に歯を食いしばってこの日々に耐えていた。

 

 

そんなある日の事だった。

 

 

「加賀さん……大丈夫ですか?顔色が悪いですよ? 何かあったんですか……?」

 

 

赤城さんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

 

 

「いえ……別に何も……」

 

 

そう、特に何も無い筈だ。

 

 

 

「……本当に……?……加賀さん……何か隠している事ありませんか……?」

 

 

彼女は本当に心配そうにそう聞いてくる。

 

 

「……いや……ほんとうに…何も……」

 

 

そんな彼女に私は、つい嘘をついて誤魔化そうとしてしまった。

 

 

「……加賀さん……貴女、最近無理をしているんじゃないですか? 目の下に隈が出来ていますよ。それに、最近よくボーっとしたり、考え事をしていることが多くなりましたよね。」

 

 

そう指摘され、私はギクリとした。

 

 

確かに最近は、提督に何をされるかを想像してしまい、不安になったり、眠れなくなったりと、あまり良い状態ではなかったからだ。

 

 

「そ、それは……少し寝つきが悪くて……」

 

 

またも私は、本当の事が言えなかった。

 

 

しかし、赤城さんはそんな私の目をじっと見つめて、真剣な表情で口を開いた。

 

 

「加賀さん……やっぱりおかしいです。ここ数日ずっと元気が無いように見えます。

 

一体どうしたんですか……教えてください……!」

 

 

彼女があまりにも真剣な眼差しで見てくるので、私はついに堪えきれなくなり、心の中をぶち撒けてしまった。

 

 

「……赤城…さん……わ、わたし……提督に逆らえないんです! 逆らうと、みんなが酷い目に合わされちゃうから……!だから……!だから……!……怖い!もう……嫌……!あんな事、もうされたくない!痛いのも!苦しいのも嫌!もう嫌!もう嫌! なんでこんな事に……!どうして私ばかり……!もう嫌……もう嫌……嫌……嫌……嫌……」

 

 

涙が止まらなかった。

 

今まで、溜め込んでいたものが溢れ出した。

 

 

「……そう…だったんですね……でも安心してください。

 

大丈夫です。加賀さんのことは、私が守りますから。」

 

 

彼女はそう言って、優しく抱きしめてくれた。

 

 

「ぅぅっ……あぁっ……ぐすっ……ありがとうございます……赤城さん……っ……ごめんなさい…っ…!」

 

 

「いいんですよ。全部吐き出してください。」

 

 

私は、彼女の優しさに甘えて、そのまま暫く泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ククッ、ここまで"予想通りだと"最早笑えてくるな。」

 

 

俺は思わずそう零しながら笑ってしまった。

 

 

「"盗聴"されている事に気付かずにお涙頂戴の話を垂れ流すとは……やはり恐怖で育てた道具は一番御しやすい。」

 

 

さて、加賀が人にバラしてはならないという約束を破った事によって、俺も約束を守る理由が無くなり、晴れて他の艦娘を教育する"口実"が出来た訳だ………。

 

 

 

 

「やはり人の性を持つ物など信用出来んな。

 

 

 

……金で釣りあげようが、友情で手を組もうが、恐怖で縛りあげようが、愛を持って共に歩こうが、最後には皆裏切り、俺に不信と――を植え付ける。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
















彼にも、きっと艦娘と言うものを愛していた時期があったはずです。

情がなくても続けられる程、提督と言う職業は甘くない。


……どうして、こうなってしまったんでしょうね。


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一罰百戒



私は鳳翔さんが大好きなんだ。

だから、つい殴りたくなっちゃうんだよ。



一罰百戒

一人の罪人を罰することで多くの人への戒めとすること。




 

 

 

私が赤城さんに全てを話してしまった、その日の夕方、赤城さんは空母や戦艦、そして一部の気の強い重巡や軽巡の子を集めてこう言った。

 

 

「皆さん、私は先程先程加賀さんから全て聞きました。

 

 

提督はあの日の大淀さんの事件以降、私達に手を上げる事は無くなり、改心したのだと思っていました。

 

 

……ですが、それは違いました。

 

 

私達が受けるはずだった物を、加賀さんが全て引き受けていたのです。

 

 

私達はそれを知らずに提督に信頼を寄せ始めていました。

 

 

でもそれがそもそも間違いでした。

 

本当は信頼すべき人じゃ無かったんです。

 

 

だから今度は、私達の番です。

 

これからは、私達が加賀さんを助ける番です。

 

 

加賀さんが私達を助けてくれたように、私達も加賀さんを助けましょう。

 

 

私達の手で提督を捕らえて、罪を償わせましょう。

 

力を……貸してくれますか?」

 

 

赤城さんがそう問いかけると、その場にいた全員が、「はい!」と声を合わせて答えた。

 

 

赤城さんはそれを聞くと嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

その時だった。

 

 

『航空母艦 加賀、大至急執務室へ。』

 

 

そう、館内放送が流れた。

 

 

私はその言葉を聞いた瞬間、顔が青ざめ、冷や汗が流れ、身体が震えた。

 

 

「……丁度いいです、皆さん、行きましょう。」

 

 

しかし、赤城さんが不敵な笑顔でそう言った。

 

 

「えぇ、分かりました。」

 

 

他の子達も皆、そう言って赤城さんに続いて行く。

 

私はそれに、引きずられるようにして着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入ると、そこには提督の他に、大淀さんがいた。

 

 

「提督、ご用件は何でしょうか?」

 

 

赤城さんが早速提督に聞く。

 

 

しかし、虚をつかれたはずの提督は、赤城さんを馬鹿にするような笑みを浮かべながらこう言った。

 

 

「ふっ、ご用件は何ですか……だと?そんな物は”加賀から聞いた”だろう?……それにしても随分多く””仲間を集めたな。」

 

 

それを聞いて、私はまた血の気が引いた。

 

 

何故その事をさも当然のように知っているのか、理解出来なかったからだ。

 

 

「ええ、私はあなたを許さない……。絶対に許さない……。」

 

 

赤城さんが提督を睨む。

 

普段温厚な彼女からは想像出来ないような鋭い眼光だった。

 

 

「赤城さん……」

 

 

私は思わず赤城さんの手を握った。

 

 

「大丈夫ですよ。」

 

 

彼女は優しい笑みを返してくれた。

 

だが、次の瞬間にはもう彼女は表情をガラリと変え、怒りに満ちた目で提督を睨んでいた。

 

 

「これだけ証人が居るのです、大本営に直接掛け合えば、大規模な監査が入り、貴方は直ぐにでも捕まります、大人しく自分の罪を認めて反省してください!」

 

 

「……大本営…か、大淀"アレ"を見せてやれ。」

 

「……は、はい」

 

 

提督がそう言うと、今まで黙っていた大淀さんが返事をして立ち上がり、奥の部屋へと消えていった。

 

 

そして戻ってきた彼女は、何か書類のようなものを手に持っていた。

 

 

彼女はそれを持って、赤城さんの元へ歩み寄る。

 

そして、その紙を赤城さんに手渡した。

 

 

赤城さんはそれを手に取ると、内容を見て絶句していた。

 

 

「こ、これは……!?」

 

 

私もそれを見た。

 

 

そこにはこう書いてあった。

 

 

『大本営及び艦隊司令部より通達、横須賀鎮守府の運営、監査などに関する全権を、日本海軍 大将 南雲秀一 に委任する。』

 

 

私が提督の方を見ると、彼は口元を歪ませてニヤついていた。

 

 

「……どういう……ことですか……?」

 

 

赤城さんが呆然としながら呟く。

 

他のみんなも同様に動揺しているようだった。

 

 

「どういうことも何も、お前達がどれだけ騒ごうが、全て俺の手で握り潰す事が出来ると言う事だ。」

 

 

そんな私達に対し、提督はそう言い放った。

 

 

「そんな……」

 

 

赤城さんは今にも泣き出しそうな顔をしてそう零す。

 

 

 

「……なあ加賀、自分の服の襟首に手を入れてみろ。」

 

 

突然提督に言われて、私は一瞬戸惑ったが、言われた通りに手を入れた。

 

すると、中から小さな盗聴器が出てきた。

 

 

いつの……間に……だから…バレたの…?

 

 

「お前はもう少し賢いと思っていたが、やはり恐怖で支配された道具は御しやすい。」

 

 

提督は嘲るようにそう言うと、煙草に火をつけた。

 

 

 

「大淀、灰皿」

 

 

「は、はい!只今お持ちします!」

 

 

提督は大淀さんにそう指示した。

 

彼女は慌てて部屋を出ていき、暫くしてから大きなガラス製の灰皿を持ってきた。

 

 

「……さて加賀、今回の件で、俺はお前以外に"教育"を行わないと言う約束を守る必要が無くなった訳だ。」

 

 

提督は煙を吐き出すと、悪魔の様な笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

「……っ」

 

 

「まぁそう構えるな、今日はその前に少し、面白い物を用意してある。」

 

 

そう言って提督は、引き出しからリモコンを取り出した。

 

 

そのリモコンを操作すると、壁にかかっていたモニターに、とある映像が映し出された。

 

 

 

そして……

 

 

「……え……?なんで…鳳翔さんと間宮さんが…?…それに明石さんや駆逐艦の子が三人も……」

 

 

赤城さんがその映像を指差して震えた声で言った。

 

 

そこに映っていたのは、縄で手と足を縛られた上で目隠しと猿轡を嵌められ、窓一つすらない倉庫のような場所で、正座をさせられている彼女達の姿だった。

 

 

「こ、これは一体……!?」

 

 

私は思わず叫んでしまった。

 

 

いや、私だけではなく、その場に居た艦娘全員が声を上げ、動揺が走った。

 

 

『んー!!うぅ!!』

 

『ふぐぅー!!!』

 

 

彼女達は必死になって助けを求めるような声を上げているが、猿ぐつわのせいで言葉にならない。

 

 

 

「ちなみにこれは生放送だ。

 

…それから彼奴ら結構抵抗してな、あの部屋に連れて行くのには苦労した……、……なぁ、大淀」

 

 

提督は笑いながら彼女に視線を送る。

 

 

「は、はい……そ、その通りです。」

 

 

大淀さんはどこか怯えながら答えた。

 

 

「……それで、何をされるおつもりなのですか。」

 

 

赤城さんが提督に尋ねる。

 

 

しかし、その問いに対しての提督の返答は無く、代わりに提督が持っているリモコンを操作した事で、倉庫の中の様子が変わり始めた。

 

 

まずは猿轡が外され、そこから彼女達の悲鳴に近い叫び声が上がった。

 

次に、手足を拘束していた縄が解かれ、彼女達はそのまま床へ倒れ込んだ。

 

その後、目隠しも取られたようで、彼女達はすぐに周りを見回し始めた。

 

 

 

そして、提督が固定マイクに話し掛けると、それは彼女達の部屋へ通じていたようだった。

 

 

「……気分はどうだ、道具共。」

 

 

提督がそう言うと、画面越しに彼女達の息を飲む音が聞こえてきた。

 

 

『提督!?何故このようなことをなさるのですか……何か私たちに不備が有りましたでしょうか。』

 

 

そして、最初に口を開いたのは鳳翔さんだった。

 

 

「いや……お前と間宮に関してはほぼ巻き込まれた形だが、まぁ、連帯責任と言う事だ。……主にそこに居る曙、満潮、霞の、上官に対する有り得ん態度と言葉遣い、そして赤城と加賀を筆頭とする一部の艦娘たちによる反逆行為のな。……あとついでに俺の体で人体実験をした明石の分も。」

 

 

鳳翔さんの言葉に対して提督は淡々と言葉を並べる。

 

 

『……提督がそこまで怒っている理由が私達には全く分かりません。……確かに、この子達やあの子達が、提督に反抗的な言動をとったことは認めます。ですが、これは明らかにやり過ぎではないですか!?』

 

 

鳳翔さんが叫ぶように言った。

 

 

「お前達が"道具"が俺に歯向かう事自体が既に許される事では無い。」

 

 

 

提督は煙草を吸い込み、煙を吐き出しながらそう言い放つ。

 

 

『な、何よそれ!?ふざけないでよ!』

 

『あんたのそういうところが嫌いなのよ!』

 

『最っ低!』

 

『クソ提督!』

 

 

それを聞いた曙や満潮、霞が一斉に提督に向かって叫んだ。

 

 

 

 

「黙れ」

 

 

提督のその声がそう響くと、彼女達はビクッとして口を閉じた。

 

 

「……まぁ話を聞け、俺は別にお前達が嫌いだからそんな事ををしている訳では無い。」

 

 

彼はそう言ってからまた煙草を吸った。

 

 

 

そして、私達は提督のその言葉に困惑していた。

 

 

嫌いでも無いのに、私たち艦娘にここまで強く当たるのは何故なのか、と。

 

 

 

私達が困惑していると、提督はこう続けた。

 

 

「……俺も、かつては艦娘と言うものを愛していた事があった。

 

…確か、駆け出しから大佐になる頃迄だな。」

 

 

「……っ…だったら……なぜ……!」

 

 

赤城さんが苦しそうな表情を浮かべて呟く。

 

 

「ああ、色々あって価値観が変わったんだよ、良くある事だ。

 

俺の場合は"艦娘に人権など要らない"と思う様になっただけだ。」

 

 

提督は赤城さんの問いかけに対し、悪びれる様子も無くそう言った。

 

 

「……そ、それだけでこんな酷い事が出来るんですか……?」

 

 

赤城さんは震える声で言った。

 

 

「そうだ。……まぁ強いて言えば、お前らが兵器である以上人間と同じ扱いをする訳にはいかないからな。

 

それに、お前らの感情なんかどうでもいいし、そもそも道具に感情などいらん。」

 

 

提督は平然とした顔でそう答えた。

 

 

「…だが、感情を無くすのは無理に等しいのでな、仕方無く恐怖で統制を取ろうとしているのだ。」

 

 

提督はそう言って煙草を灰皿に押し付けた。

 

 

「……さて、与太話は終わりだ、着いて来い。」

 

 

提督はモニターの電源を切ると、椅子に掛けてあった上着とコートを着て部屋を出ていった。

 

 

私達はお互いの顔を見合わせると、意を決して彼の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その倉庫は、異様な雰囲気を醸し出していた。

 

 

窓は無く、照明は薄暗い電球が一つだけ天井にぶら下がっているだけだった。

 

床には砂利が敷き詰められており、壁際にはドラム缶や鋼材などの資材が大量に積まれている。

 

 

 

「……本当にこんな所に鳳翔さん達が居るのですか。」

 

 

赤城が不安げに提督に尋ねた。

 

 

「ああ」

 

 

彼は扉の取っ手を掴むと、そのまま押し開けた。

 

 

ギィ……という音と共に倉庫の中へ光が差し込む。

 

 

そして、その倉庫の奥の方を見ると、そこには再び縄で縛られている鳳翔達の姿があった。

 

 

「……提督……!……貴方は一体何を考えているのですか……!?」

 

 

鳳翔が提督に向かって叫んだ。

 

 

「特に何も無いが……強いて言うなら、貴様らに教育を施しに来た。」

 

 

彼は煙草に火を付けながらそう答えた。

 

 

「……私達を抵抗出来ないようにして、どんな教育を?……」

 

 

今度は間宮が提督に尋ねる。

 

 

「まぁ簡単に言うと、お前らはこれからここで死ぬほど辛い目に遭うって事だ。」

 

 

提督は煙を吐きながらそう言った。

 

 

「……え……」

 

「…そんな……っ」

 

 

間宮と鳳翔はその言葉を聞いて青ざめた。

 

 

「先ずは見せしめも兼ねて鳳翔からだ。……ああ、先に言っておくが、もしお前達が暴れたりすると、その瞬間にこの鎮守府から鳳翔は消えるぞ。」

 

 

提督は赤城や大和達に向かって言い放った。

 

 

「……何故…私…なのですか……」

 

 

鳳翔は怯えながらも提督に聞いた。

 

 

「お前を最初にやるのが一番効率がいいからだ。……お前が折れれば、他の空母勢、ひいてはこの鎮守府の艦娘全てに影響を与える可能性が有るからな。」

 

 

提督は淡々と答える。

 

 

「……つまり、私は提督にとって脅威だとおっしゃりたいのですね……。」

 

 

鳳翔は俯いたままそう言った。

 

 

「まぁある意味ではそうとも言えるな。」

 

 

彼はそう言い終わると同時に、煙草を足元に投げ捨てた。

 

 

「では、始めるとしよう。今日は色々試してみようか。」

 

 

彼はそう言うと、何故か壁に掛かっていた鋸を取り出した。

 

 

「お前らの体は便利だよ、どれだけの傷でもドックに浸かれば大抵は治る。」

 

 

 

彼はそう言いながら、鳳翔の背中に鋸を当てると、そのままゆっくりと刃を引き始めた。

 

 

「あ"っ……!!ぐぅっ……!!」

 

 

鳳翔は悲鳴を上げながら必死に痛みに耐えていた。

 

 

しかし、その額からは脂汗が流れており、その顔は苦痛に歪んでいた。

 

 

提督はそのまま、彼女の肩口辺りから腰まで縦に引き裂くように切った。

 

 

「あ"がッ……!!!……うっ……!」

 

 

そして、その切り口からは血が滲む。

 

 

彼女はあまりの激痛に気を失いかけていた。

 

 

「…おいおい、寝るにはまだ早いぞ」

 

 

だが、彼がそれを許すはずが無く、無情にも鳳翔の背中がもう一度切られる。

 

 

「ああ"っ!!!」

 

「ほら、まだ始まったばかりだ、しっかりしろ。」

 

 

そう言われても、彼女にはもう声を出す余裕など無い。

 

 

「……しかし、道具を使うのはあまりにも風情がない、やはり暴力、暴力は全てを解決する。」

 

 

提督はそう呟くと、何度も鳳翔のお腹を殴り付けた。

 

 

「かは……!……ごほっ……!おぇ……!……げふ……!……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

鳳翔は激しく咳込み、嘔吐しながらもなんとか意識を保っていた。

 

 

「ほう、良い根性だ、ならばこれも耐えてみろ。」

 

 

提督はそう言うと、鳳翔の鳩尾に対して、全力の膝蹴りを打ち込んだ。

 

 

「……か……あ……っ……!!!」

 

 

鳳翔はあまりの衝撃に一瞬呼吸が出来なくなり、目を大きく見開いた。

 

 

そのわずか一秒後、もう一度来る衝撃。

 

 

「……っ……!?…………!!!」

 

 

それは胃袋を直接殴られた様な感覚だった。

 

彼女は目を見開き、歯を食いしばり、ただひたすらにその強烈な一撃に耐えるしかなかった。

 

 

だが、3回、4回と繰り返される度に衝撃は強くなり、次第に意識が遠のいていく。

 

 

 

(……こ……れ……以上……は……)

 

 

 

「……良く耐える物だが、そろそろ意識が薄くなってくる頃だろう。」

 

 

提督はそう言って鳳翔の髪を掴んで持ち上げると、そのまま彼女の顔を壁に打ち付け始めた。

 

 

「っ……!……っ……!……っ……!……っ……!……!……!……!……!……!……」

 

 

鳳翔はされるがままに頭を壁に打ち付けられ、そのたびに鈍い音が倉庫内に響き渡る。

 

 

「…もう止めてください!それ以上は鳳翔さんが死んでしまいます……!」

 

 

赤城が提督に向かって叫んだ。

 

 

「……では三分間待ってやる、その間に俺を納得させる案を出せば止める。」

 

 

提督は無表情のままそう言うと、一旦手を止めて彼女を解放し、煙草に火を付けた。

 

 

「そんな……」

 

 

「さぁ、どうした、早くしないと鳳翔が死ぬぞ」

 

 

提督は煙草を吸いながら、まるで煽るように言った。

 

 

「……分かりました……私が代わりになりますから……!」

 

 

赤城が苦しそうな声で言った。

 

 

「お前はダメだ、空母の中で現状最高練度の貴様は替えが効かない」

 

 

提督は即答で赤城の提案を拒否した。

 

 

「なら大和が代わりになりましょう!」

 

 

大和も続いて叫ぶ。

 

 

「貴様は戦艦の中でも最強クラスの火力を誇る。

 

もし貴様に変わったとして、今後の戦闘で多大な支障が出る。」

 

 

提督は再び即座に却下した。

 

 

 

 

 

 

 

「さて……あと1分だが…貴様らにまともな案は無いのか」

 

 

提督は腕時計を見ながら言った。

 

 

「まともな案が出ないようなら俺から一つ提案してやる。」

 

 

「お前達艦娘全員にGPSを埋め込み、集音器を常に付け、全ての部屋、通路に監視カメラを死角のないよう設置し、二十四時間体制の監視下に置く。そして、艦娘達には外出禁止命令を出し、全てのスケジュールを管理する。これで俺は安心してお前らを管理出来る訳だ。」

 

 

彼は淡々とそう語った。

 

 

「つまり、私達はこれからずっと監禁されると言う事ですか……?」

 

 

間宮は青ざめた顔をしながら聞いた。

 

 

「ああ、それに近いな、安心しろ、出撃や遠征はある。」

 

 

「そんな……」

 

 

「…ちなみにだが、もう三分過ぎてるから、お前達に拒否権は無い、拒否したら鳳翔が海の藻屑になるだけだ。」

 

 

提督はそう言いながら、再び鳳翔のお腹に拳を叩き込む。

 

 

「……っ……!」

 

 

鳳翔は声にならない悲鳴を上げていた。

 

 

「さあ、どうする」

 

 

「……っ……分かりました。」

 

 

赤城は悔しさで肩を震わせながら、そう答える他無かった。

 

 

「では明日、ここに全員を集めろ。」

 

 

「……はい。」

 

 

こうして、鳳翔達は解放された。

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

翌日。

 

 

この鎮守府にいる全艦娘の招集がかかり、昨日の倉庫に全員が集められた。

 

 

「……よし、皆集まったようだな。」

 

 

提督はマイクを手に取り、話し始めた。

 

 

「知っているものも居るだろうが、改めて宣言する、俺がここの鎮守府の提督である間、貴様らを徹底的に管理する。

 

 

そのために、まずは今から貴様らの首に首輪型のGPSを埋め込む。

 

 

その中には当然爆薬が仕掛けられいる、逆らったりすれば、その瞬間にドカンだ。」

 

 

提督はそう言うと、首輪を取り出した。

 

 

「これは特別製だ、外すためには専用の工具が必要になる。

 

もちろん、俺以外には使えないようになっている。」

 

 

提督はそう説明しながら、一人ひとりに首輪を付けていった。

 

 

「では次に、今後について話す。

 

……俺が求める事はたった一つ、逆らわず俺の命令を聞け。

 

それだけだ。」

 

 

彼の目は本気だった。

 

 

「逆らう者は容赦なくバラす、それが嫌なら黙って従え。以上だ。」

 

 

「……以上ですって?ふざけないで!」

 

 

突然、瑞鶴が怒りの声を上げた。

 

 

「貴方のような人に好き勝手させてたまるものですか!私は絶対に反対よ!」

 

「そうか、なら仕方がないな。」

 

 

提督はそう呟くと、懐から爆破用のスイッチをとりだした。

 

 

「俺はお前達が逆らう事が不思議でならん、何故そこまでして反抗したがるのだ?」

 

 

「それは……」

 

 

「まあいい、お前達の意見など聞くだけ無駄だからな。」

 

 

提督はため息をつくと、ボタンを押そうとした。

 

 

 

 

「お待ちください!…提督、瑞鶴にはよく言って聞かせますから!どうかお見逃し頂けませんか!?」

 

 

しかし、翔鶴が提督の前に立ち塞がり、必死の形相で言う。

 

 

 

 

「………一度だけだ、次は無い。

 

……貴様らは後程、大淀からローテーション表を受け取り、その通りに動け、そうすればエサと風呂位は許してやる。」

 

 

「ありがとうございます……」

 

 

「では全員解散だ、行け。」

 

 

提督はそう言うと、その場を後にした。

 

 

「翔鶴姉ぇ、ごめんなさい、私が軽率な事を言ったせいで……」

 

「良いのよ瑞鶴。」

 

 

二人はそう言いながら抱きしめ合った。

 

 

「でも、これからどうなるんだろう……。」

 

 

「分からないわ……だけど、あの方は私達が逆らう事をとにかく嫌われるわ、だから……もうあの人に逆らうのは辞めてちょうだい……私は、瑞鶴が爆発で死ぬところなんて、絶対に見たくないわ……」

 

 

「うん……分かった。」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

その頃、提督は執務室に戻っていた。

 

 

彼はデスクワークをこなしつつ、煙草を吸っていた。

 

 

(これでいい……これで奴らも俺に従うほか無い……そして、俺が奴らを失う事など無い)

 

 

彼は満足げに笑みを浮かべると、窓の外を眺めた。

 

 

そこには、満開になった桜の花びらが風に舞っている様子が見えた。

 

 

「ふむ、今年はいい春を迎えられたな。」

 

 

彼はそう呟き、再び仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この世に生まれてしまった事が、俺にとって一生の罰だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










言っとくけどまだ終わりません()




……さて、彼女達はこれからどうなるのでしょうか。



みんなも裏切られないように気をつけようね、人っていう生き物は直ぐに裏切っちゃうから。


……誰かに裏切られたと思ったら、またここに戻っておいで、きっと、その胸のモヤモヤがもっと酷くなるはずさ。


じゃあ、またね。


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開戦前夜



やあ☆

特に挨拶が思いつかない湯タンポです。


さて、今作は五話目にして、大きな方針転換を行いたいと思います。

勿論今まで通りのパワ☆ハラは続きますが、もっとおもしろそうなことを思い付いたので、飽きるまではパワ☆ハラ+新しい方針という形になりますになります。


この作品は皆さんからやり過ぎだろ!との声を沢山いただいておりますが、私はあえてやり過ぎを目指しています☆

さて、長ったらしいのは嫌いなので説明はここまでにして、本編へ行きましょう。


ちなみにウチの主人公の南雲さんは海軍過激派でお送りいたします。特に深い意味はありません。





 

 

 

 

 

「……どうして……どうしてこうなった…」

 

 

日本海軍 元帥、永野海人は、目の前の惨状に思わずそう呟いた。

 

 

彼の執務室には、海軍大将の南雲秀一と、同じく大将の連合艦隊司令長官山本達秀を筆頭に、少佐以上の海軍将校達が勢揃していた。

 

 

 

彼らが何をしているかと言うと……

 

 

 

「彼女達"艦娘"にも人権を与えるべきです!」

 

 

「"道具"に人権など要らんだろう?

 

奴らは所詮生体兵器に過ぎん。」

 

 

「深海棲艦との戦いの為にも戦力の強化は必須! そしてそれを支える為にも彼女らに対する人道的な配慮が必要です!」

 

 

「そんな悠長な事を言っているから我らより戦果を上げることが出来んのだろう?」

 

 

「その通りだ! 貴様らはただでさえ戦果少ないというのに! もっと努力しろ!」

 

 

 

 

要は、艦娘人権派と艦娘軽視派の争いだった。

 

 

 

「……帰りたい……」

 

 

「……心中お察し致します……」

 

 

永野が先程呟いた言葉に反応する者は、彼の秘書艦である高雄だけだった。

 

 

他の者は皆この論争に夢中で聞こえていないようだ。

 

 

そもそも何故こんな事になったのかと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……永野元帥、いくら何でも呼び出しの頻度が高すぎでは?私も暇じゃないんですが」

 

 

そう、艦娘軽視派の南雲が再び呼び出しを受けた事が全ての始まりだった。

 

 

「仕方無かろう、どうしても擁護派の彼らが"君達"と議論したいと言うのだから。」

 

 

「またですか……」

 

 

艦娘擁護派と呼ばれる彼らは、海軍の中でも多数派に属する者達だった。

 

 

彼らは"彼女達にも人間としての権利を認めるべきだ"と主張しているのだ。

 

 

と言うかそれが一般論であり、南雲達艦娘軽視派の南雲の方が少数派なのである。

 

 

しかし、だからと言って艦娘擁護派が優勢なのかと言われれば、そういう訳でもない。

 

 

 

艦娘軽視派は、大将や中将等の優秀な将官クラスが多く、反対に艦娘擁護派は少佐から大佐クラス……つまりは駆け出し提督から中堅クラスが大半を占めるので、勢力としてはかなり拮抗している。

 

 

 

そして今日、その両者が話し合いをする為、艦娘軽視派の代表である南雲を呼び出したのだ。

 

 

 

「まあ良いでしょう。それで場所はどこなんですか?」

 

 

「ああ、面倒が起きても大丈夫なように、私の執務室でやる事にしたよ、無駄に広いからね。」

 

 

「了解しました。」

 

 

 

そうして、南雲達は大本営へとやってきたのだが……

 

 

 

 

 

 

「……永野元帥、一体何時から大本営は託児所になったんでしょうか、俺の目の前には"道具"を連れた中学生が居るようにしか見えませんが。」

 

 

 

南雲の眼前には、航空母艦 サラトガを連れた15歳くらいの少年がいた。

 

 

「…いや、日本海軍は本当に今手が足りていないんだ、だから彼も採用したのだ。

 

彼は士官学校を飛び級で卒業する程の逸材だ。」

 

 

「所詮はケツの青いガキです、とても使えるとは思えない。」

 

 

 

そう言って南雲は、その少年とサラトガを睨みつける。

 

 

「……どうした南雲君、何をそんなにイラついているんだ、らしくないな。」

 

 

「……いえ、特に……」

 

 

と、二人が話し合っていると、今まで黙っていた少年が話しかけて来た。

 

 

「あの~すみません、あなた方はどちら様でしょうか? 道を塞がないでいただきたいのですが。」

 

 

「……て、提督!?じ、上官です!それもAdmiral of the Navy(海軍元帥)とFull Adimral(海軍大将)です!(小声)」(サラトガ)

 

 

「えっ?そうなんですか?それは失礼しました!」

 

 

サラトガが小声で囁くと、その少年は慌てて敬礼をした。

 

 

ちなみに言っておくが、南雲は子供が嫌いである。

 

 

 

「…ガキが……舐めてると潰すぞ…」

 

 

南雲はそう言って鬼よりも恐ろしい形相で少年を睨む。

 

 

「こら南雲君、年下の子供相手に凄むんじゃ無い。……済まないね、私からも謝罪しよう。私は元帥の永野海人だ。

 

 

……軍は縦社会だ、着任したばかりで分からないかもしれないが、その辺も纏めてよろしく頼むよ、サラトガ君。」

 

 

そんな南雲を宥め、自己紹介と共に忠告を出す永野元帥。

 

 

「…は、はい、大変申し訳ございませんでした、以後同じことが起きぬよう気をつけます。」

 

 

「……ふん……」

 

 

サラトガが頭を下げると、南雲は面白くなさそうにそっぽを向いた。

 

 

「……それじゃあ南雲君、執務室に行こうか、彼らもそろそろ着くはずだからね。」

 

 

「……分かりました。」

 

 

永野元帥がそう言うと、二人は執務室へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

そして南雲達と少年達がすれ違った瞬間、サラトガの肩が南雲にぶつかってしまった。

 

 

 

 

 

「あっ…ごめんなさ…」

 

 

 

 

「……永野元帥、先に行っておいてください、俺は此奴に"指導"します。」

 

 

謝ろうとするサラトガだったが、南雲はそれを遮り、 永野元帥に向かってそう言った。

 

 

「……分かった、あまり"やり過ぎ"無いように頼むよ。」

 

 

「分かっています。」

 

 

そうして、永野元帥は先に執務室へと向かった。

 

 

 

「…サラトガと言ったか、貴様の持ち主は随分と軍規を舐めている様だな。」

 

 

「い、いえ!決してそのような事は…!」

 

 

「誰が喋っていいと言った、貴様に発言権を与えた覚えは無い、何様のつもりだ?」

 

 

南雲はそう言って、サラトガの腹を蹴り上げた。

 

 

「うぐぅ!!」

 

 

蹴られた衝撃で倒れるサラトガ。

 

 

「な!サラさんに何をしてるんだ!止めろ!」

 

 

少年は咄嵯にサラトガを庇おうとするが、少年の身長は160センチちょい、大して南雲は237センチというヒグマの如き身長に加え、キツイ鍛錬を気が遠くなるほど繰り返しており、軍人として最高峰の肉体を持っている。(艦娘ともタメ張れるし何なら素手で深海棲艦とか殺せる。)

 

 

そんな南雲からすれば、少年など赤ん坊どころか、蟻同然である。

 

 

南雲は少年の首根っこを掴み、軽々と持ち上げた。

 

 

「な!放せ!放せよ!サラさんに酷い事するな!」

 

 

必死に抵抗するも、南雲の腕は全く動かない。

 

 

「少し黙れ。」

 

 

南雲はそう言うと、少年の腹に発勁を打ち込んだ。

 

 

「ごふッ!!?」

 

 

その一撃を受けた少年は大きく吹き飛び、そのまま失神した。

 

 

「これで騒がしいのは居なくなった。」

 

 

南雲は気絶した少年を通路の隅に投げ捨てると、サラトガの方を向き直り、サラトガの髪を掴み、そのまま引き摺りながら歩き始めた。

 

 

「貴様はこっちへ来い。」

 

 

「い、痛いです!……は、離してください……!」

 

 

「黙って着いてこい。」

 

 

 

南雲はそのまま人気の無い部屋まで行くと、そこでサラトガを投げ飛ばした。

 

 

「きゃあ!!……な、何をするんですか…!…私に何か恨みでもあるんですか……!?」

 

 

サラトガはお腹を抑え、痛みに顔を歪ませながらも、キッと南雲を睨みつける。

 

 

「ああ、はっきり言って貴様ら米帝の手先共には死ねとつくづく思う。」

 

 

「米帝…って……貴方、戦後からもう100年近く経っているのですよ!?」

 

 

「黙れ、帝国海軍は不滅である。」

 

 

そう言って南雲はサラトガに歩み寄ると、その胸ぐらを掴んだ。

 

 

「いや……やめて……!誰か……助けて……!」

 

 

恐怖で震えるサラトガに、南雲の膝蹴りが刺さる。

 

 

「おごっ!?!?」

 

 

その強烈な一撃に、サラトガは口から血を吐いた。

 

 

「げほっ!?……えほ……えほ……やめ……やめて…下さい……」

 

 

「黙れ。」

 

 

南雲はそう言って、首を絞め上げながら持ち上げる。

 

 

「ぐえ……くる……じぃ……」

 

 

「その苦しみの何億倍もの苦しみを何十万人、何百万人もが味わったんだ、当時のお前の持ち主達が作り出した原爆でな。

 

 

……軍人同士が殺し合うだけなら良い、それが戦争だからな。

 

 

だがお前達の当時の持ち主達は、あろう事か執拗に本土爆撃を行い、更には原爆を落とし、日本の無辜の民を焼き払った。」

 

 

南雲はそう言いながら、腕に力を込める。

 

 

「……ちが……それ…私じゃな」

 

 

「黙れと言っているだろうが!!!」

 

 

「ひゃあ!!」

 

 

南雲はそう叫ぶと、サラトガを床に叩きつけた。

 

 

「あがっ!ごエッ!やめっ、がはっ!」

 

 

何度も、何度も、反省を促すため。

 

 

 

 

 

 

 

……暫くして反応が薄くなって来ると、南雲は煙草に火を付けた。

 

 

「………」

 

 

そしてひと吸いすると、今度はサラトガの髪の毛を掴み、無理やり顔を上げさせた。

 

 

「おい、まだ生きてるか。」

 

 

「……う……うぅ……ごめ……んなさ…い…ごめん…なさ…い…」

 

 

サラトガの目からは涙が流れており、謝罪の言葉を口にしていた。

 

 

 

「……ふん、同じ目に会いたくなければ、俺の前に二度と現れるな、次は無い。」

 

 

その言葉を聞いた彼は、火が着いたままの煙草を、サラトガの背中でグリグリと押し付けながらそう言った。

 

 

 

「いっ!?!?!?!?!?…………ぐ……ぐふ……い……い……たい……よぉ……!」

 

 

サラトガは涙を流しながら悶絶し、やがて動かなくなった。

 

 

恐らく痛みに耐え切れず失神したのだ。

 

 

「…次は無い。」

 

 

南雲はそう言って、サラトガを放置してその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、放置して来たと?」

 

 

「申し訳ありません、あのアメリカ野郎と舐めたクソガキを見ているとつい手が出てしまいました。」

 

 

「はぁ……まったく君という奴は……」

 

 

執務室に戻ると、永野元帥は頭を悩ませた。

 

この男は加減というものを知らないのかと。

 

いやまぁ、殺して居ないだけ"かつて"よりはマシに加減しているのだろう。

 

 

それ程までにかつての南雲の海外艦(とくにアメリカ艦)への当たりは強かったのだ。

 

 

 

「…まぁそれ置いておくとして、そろそろ彼らも着くはずだ。 南雲君の"仲間"もね。」

 

 

「……ああ、艦娘軽視派の事ですか。」

 

 

と、ちょうどその時、ノックする音が聞こえた。

 

 

「来たようだね。」

 

「…入れ」

 

「失礼します。」

 

 

 

そう言って入って来たのは、南雲と同じく艦娘軽視派の面々だった。(大半が高級将校である。)

 

 

「来てくれたか。」

 

 

「勿論ですよ南雲大将、艦娘に人権を与えるべきなどと言う、人生経験の足らぬカス共に直接ガツンと言える機会は早々ありませんからな。」

 

 

そう言うのは南雲と同じ、艦娘軽視派筆頭の古賀中将だ。

 

 

「違いないな。」

 

 

「全くです。」

 

 

古賀の言葉に同調する2人の艦娘軽視派高級将校達。

 

 

 

彼らが談笑を始まると、彼らに着いてきた秘書艦達(大本営に来る際は秘書艦を同行させる義務があり、当然彼女たちは嫌がっていたがほぼ強制的に連れてこられた。あと南雲はたまに連れてこないことがある)が陰で互いの鎮守府の惨状を話し合った。

 

 

 

「……横須賀では、艦娘全員が今私が付けている首輪型のGPSを着用させられ、監視カメラによって、どこに居ても24時間の監視体制に敷かれて居ます。」(大淀)

 

「…佐世保も同じ様な状況ですね。」(鹿島)

 

「…舞鶴もです。」(蒼龍)

 

「…呉も似たような感じやな、もうみんな逆らう気力なんてあらへん。」(龍驤)

 

「……大きな鎮守府は軒並み南雲提督の力が及んでいるのでしょうね。」(大淀)

 

 

他にも、南雲提督の暴力が怖い、佐世保の提督は口撃で精神をへし折ってくるetc.....。

 

 

 

「おい貴様ら、誰が喋って良いと言った。」

 

 

等と大淀達が話していると、古賀達と談笑していた南雲が、彼女達の話を遮る様に怒鳴りつけた。

 

 

「も、申し訳ございません!」

 

「申し訳ございませんでした!」

 

 

 

慌てて頭を下げる5人だが、その目には皆一様に恐怖が浮かんでいる。

 

 

何故なら、彼女達は全員南雲の"教育"を一度受けたことがある。

 

 

だから、彼に逆らう事は絶対にしない。

 

もしそんな事をすれば、待っているのは地獄なのだから。

 

 

 

と、そのタイミングでノックが鳴った。

 

 

「失礼致します、連合艦隊司令長官 山本達秀です。傘下の将校を収集して参りました。」

 

 

「ああ、待っていたよ。」(永野)

 

 

「山本、五分遅刻だぞ。」(南雲)

 

 

「申し訳ございません。」

 

 

「まあいい、さっさと始めよう。」

 

 

「はい。」

 

 

そう言って、南雲は席に着いた。

 

そして山本長官(その他)もそれに倣う。

 

 

 

「さて、そろそろいい加減に決着を付けてくれたまえ、艦娘を保護すべきか、それとも兵器として扱うべきか。……言っとくけどこの議論もう二十三回目だよ?」(永野)

 

 

「……はぁ……分かっています。」(南雲)

 

 

「勿論です、艦娘に人権は必要だと証明して見せます。」(山本)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして話は冒頭へと戻る。

 

 

 

 

「私は、艦娘の人権を認めるべきだと思います!そもそも彼女達に人間と同等の権利を与えていない事が既におかしいのです!」

 

 

「意見が浅い!貴様らは道具共に人権など持たせればどんな問題が生じるか分かっていない!」

 

 

「意見が浅いのは貴方の方だ! まずは彼女達を人として扱い、その上で人権を与えるかどうかを決めるべきです!」

 

 

「黙れ小僧共!! 艦娘など所詮は消耗品だ!確実にいなくなる時が来る!そんな物にいちいち情を掛けてもキリが無いわ!ならば最初から使い捨て前提で運用する方が合理的だろうが!!」

 

 

「合理性の問題ではないと言っているんだ!! 確かに我々は軍人であり、命をかけて戦う立場にある、しかしそれは我々だけが背負っているものではない筈だ!!!」

 

 

艦娘擁護派と軽視派、何方も譲れぬ信念が有り、議論は更にヒートアップして行く。

 

 

「……誰か…胃薬を…」

 

 

そんな中、立場的に中立で居なければならない永野元帥は、胃痛に悩まされていた。

 

 

 

しかし、そんな彼を置いてきぼりにする程、議論は加熱する。

 

 

 

「そもそも何故貴方達は彼女たちを大事にしないのです!?貴方達程の指揮官であれば、艦娘と関係を築きながら戦果を挙げることなど容易なはずです!」

 

 

「黙れ!

 

……確かに貴様らの言う通り、俺達なら道具共と信頼関係を築くことは容易いし、戦果を挙げる事も出来る。

 

 

俺達も貴様らの様な歳の頃は実際にそうしていた!

 

 

だが!

 

 

どれだけ強い信頼を築こうが、どれだけ練度を上げようが、どれだけ良い作戦指揮を取ろうが、死ぬ時はあっさり死ぬ!

 

 

それは僅かな不信感や、僅かな油断、そしてほんの少しの予測出来ないことですら起きうる!

 

 

それが積み重なった時、待っているのは不信感によって命令を聞かなくなった道具だけだ!

 

 

実際に命令を聞かなくなり、無断出撃によって沈んだ奴など腐るほど見て来た!

 

 

だからこそ俺は艦娘を信用せんし、道具としてしか扱わんのだ!

 

 

いくらでも替えが効く存在を、何故わざわざ大切にする必要がある?

 

むしろ恐怖で支配し、死なない程度に酷使した方が、奴らも必死に戦い、戦果を上げるぞ。」

 

 

南雲の言葉に、山本達艦娘擁護派は言葉を失う。

 

 

彼の言っている事は正しいのかもしれない。

 

 

実際、彼が着任した事のある鎮守府では、南雲の立てた作戦指揮により、轟沈はおろか大破さえ滅多に無い。

 

 

それは今現在着任している横須賀鎮守府でも同じだ。

 

 

確かに彼のやっている事は実際かなり酷い、だが彼は現にその理論を唱えるようになってから1隻の轟沈も無く結果を出し続けている。

 

 

その事実が、南雲の理論を肯定してしまっている。

 

 

「……ですが、それでも……彼女達には心がある……」

 

 

「ああ、そうだな、道具共にも意思はあるな、だが、だからなんだと言うのだ?」

 

 

「は?」

 

 

「そもそも、だ、仮に道具共に人権を与えたとして、貴様らは何がしたい?」

 

 

「……それは…」

 

 

南雲の質問に、山本達は答えられない。

 

 

 

 

そんな艦娘擁護派を尻目に、軽視派の秘書艦達にこう話す。

 

 

「……大淀、鹿島、蒼龍、龍驤、今この場でのみ発言を許可してやる、質問に答えろ。」

 

 

「「「「は、はいっ!」」」」

 

 

急に指名され、慌てる彼女たちだったが、すぐに背筋を伸ばし返事をする。

 

 

 

「……俺の傘下の提督はお前達にはまともな飯を与え、風呂を与え、鎮守府と言う拠点も与え、睡眠時間も有り、友も居る、姉妹が居る者もいる、会話が出来、どんな思想を持つことも許され、逆らいさえしなければ暴力も飛んでくることは無く、対価としてすることはお前達が心から望む深海棲艦との戦いのみ。

 

 

 

 

……さて、少なくとも俺の傘下の鎮守府は充分人道的、人権的であり、かなり恵まれていると思うが、何か不満や改善点はあるか?無論組織レベルの話で、だ。」

 

 

「「…………」」

 

 

南雲にそう聞かれた大淀達は、何も言えないまま俯いてしまう。

 

 

 

そう、南雲配下の彼女達は皆、南雲の方針に一切文句は無い。(暴力を振るう方針は除く)

 

 

何故なら、彼女達の望みは全て叶えられているからだ。

 

 

食事は三食お腹いっぱい食べられる。

 

風呂は毎日入れる。

 

寝床は清潔なものが用意されている。

 

軽い娯楽施設もある。

 

服だって支給される。

 

艦娘同士の交流もあり、休日も貰える。(外に出れるとは言っていない。)

 

しかもそれら全てが鎮守府に配属された瞬間から与えられる。

 

 

 

"人権"を持っているはずの人間側にここまで待遇の良い環境なんて見たことも無い。

 

 

 

「……で、当事者の艦娘本人達からの証言も出したが、まだ反論は有るか?」

 

 

これまでの話を総括した南雲は、山本達艦娘擁護派にそう問いかける。

 

 

 

「……私達は未だ諦めません、必ず達成してみせます。」

 

 

 

「……そうか、もういい、これ以上は時間の無駄だ、俺達はこれでも忙しい身でな、帰らせて貰う。……大淀、早く来い。」

 

 

「…は、はい」

 

 

しかし、尚も食い下がる艦娘擁護派に対し、南雲はそう吐き捨てると、大淀を連れて部屋を出ていった。

 

 

 

「……私も帰らせて貰うよ、そろそろ胃が大破しそうだ。」(永野)

 

 

そして永野元帥も、胃を押さえながら執務室から出ていく。

 

 

こうして、今回の議論は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその日の夜、艦娘軽視派の高級将校達の命令を受けた陸軍特別憲兵隊が、艦娘擁護派の鎮守府を同時多発的に襲撃し、擁護派の提督を数名逮捕するという事件が発生した。

 

 

不当な逮捕だとして、それぞれの鎮守府に所属していた艦娘達から抗議が相次いだが、それらは大本営へと届く前に全て軽視派の将校達によって握り潰され、結果的に艦娘擁護派は大きく力を削がれることになる。

 

 

そして、この事件をきっかけに、海軍内の艦娘軽視派と擁護派は完全に分裂、後に艦娘を巻き込んだ内部抗争へと突入する。

 

 

 

 

ちなみにこの報告を受けた永野元帥がストレス性胃潰瘍を発症して倒れ、緊急搬送されるという事件も起こった。

 

 

 







展 開 は い つ も 唐 突 に。


という訳で次回より海軍内部抗争編、はーじまーるよー。


そう言えばなのですけど(急)先日頂いた感想にて南雲さんは弱い人間だと書いてあったんですが、
ああなるほど、だから私は南雲さんが嫌いなんだなって納得しました。要は同族嫌悪ですね。(多分)


まぁそんな事はさて置いて、今以上の地獄を見てみたい方や、可哀想は可愛いと言う私の様なイカレ変態紳士の皆様方は、次回を楽しみにしておいて下さい!良いですね!?


この作品はストップが掛かったりするまで、回を進めていく事に悲惨な事に成りますので、やり過ぎだと思う方はどうぞ私の感想欄に突撃して下さい☆


特に何も変わりせんが、一つ一つ丁寧にラッピングして返答させていただきます。


ん、なになに?士官学校を飛び級で卒業するような奴が階級章を読めないなんてことないだろ…?……ま、まぁ優秀な奴が上官に敬意を持つとは限らないし、何ならちょび髭閣下の命令さえ無視するようなやつも居るから……(某魔王大佐のwikiを見ながら)


因みに言っておきますが、私は艦娘が大好きです、特に加賀さんとか大和とか鳳翔さんとか金剛とか可愛いですよね。大好きです。


…全然関係ない話ですが、私はちっちゃい時から好きな玩具は壊れる迄使っていました。

それでは。


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開戦



やあやあやあ、吹雪を聞くと死にたい気持ちになってくる湯タンポです☆


最近段々と犯罪者予備軍になってきてる気がします。


それではどうぞ(適当)


戦闘シーンは苦手なので飛び飛びだぞ☆



 

 

 

 

永野元帥緊急搬送事件から1週間。

 

 

今現在、私大淀は提督より次の作戦内容を聞いています。

 

 

聞いているのですが……

 

 

「…あの、提督、もう一度言っていただけないでしょうか?」

 

 

「何度も言わせるな、次の攻撃目標は

 

 

 

 

 

大湊鎮守府、そしてそこに属する艦娘の殲滅だ。」

 

 

「い、意味が分からないのですが……、なぜ味方を攻撃しなければならないのですか!?」

 

「そんな事は考えなくて良い、さっさと動け!……それとも何か?もう一度"教育"を施さんと動けないのか?」

 

 

彼がそう言って拳を固めた瞬間、大淀は顔を青ざめさせながら慌てて言った。

 

 

「も、申し訳ございません!す、すぐに準備いたします!しますから殴らないで下さい!お願いします!」

 

彼女は必死に頭を下げて懇願する。

 

彼はそんな大淀に対し、吐き捨てるように言い放った。

 

「なら早くしろ、時間は有限だ」

 

 

その言葉を聞いた後、大淀はすぐに部屋を出て行った。

 

「………」

 

彼女が出て行ってすぐ、彼はため息をつく。

 

「……もう"あの時"の様にはなれんな。」

 

彼は机の上に置いてある写真立てを手に取り眺める。

 

そこには彼と一人の沢山の"艦娘"が写っており、彼を含めて皆笑みを浮かべている。

 

 

「……誰か一人でも残って居れば、変わったかもな……」

 

彼は自嘲気味に笑いながら写真を元の位置に戻した。

 

「……まぁいい、今の俺にはもう関係ない事だしな……それより今は作戦の事を考えるとしよう。」

 

そう呟く彼の顔からは先程までの暗い表情は無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

私《榛名》は金剛お姉様、大和さん、赤城さん、加賀さん、大淀さんと一緒に、次の作戦命令を受ける為に呼び出されていた。

 

 

 

「作戦概要を伝える。

 

 

今回の作戦目標は、大湊鎮守府の艦娘の無力化。

 

最低でも全艦大破状態にしろ、"最悪"何隻か沈めても構わん。

 

そして、大湊鎮守府を制圧した後、横須賀に帰投し補給、入渠を済ませ、10日程の準備期間を経た後東南アジア方面へ出撃、まずはフィリピン周辺の制海権を確保せよ。

 

以上だ、とっとと出撃準備に入れ。」

 

 

「「「「「……了解しました…」」」」

 

 

戸惑いや疑問を感じながらも、私達はそう返すしかない。

 

……だって、逆らったらどうなるか分かってます……私だって大淀さんや加賀さんの様に、提督の"教育"を受けたくなんて無いです。

 

 

隣を見ると、金剛お姉様や大和さん達が震えていました……きっと私も…榛名も同じ様な状態だと思います。

 

だって……本当に提督の事が怖いんです。

 

提督は自分に反抗した者は平気で殺す人間だと分かっているから……。

 

 

「……どうして仲間をこの手で傷付けないと行けないデス……」

 

ですが、金剛お姉様は思わずそう零してしまいました。

 

 

「…金剛、もう一度言ってみろ。」

 

金剛お姉さまの言葉に反応した提督が睨む様に言う。

 

「ぁ……ち、違いマス!決してテートクの命令に逆らう気は無いデス!ただ、少し納得出来ないと言いマスカ…この作戦に疑問が……」

 

「黙れ。」

 

「ッ!!」

 

「貴様の意見など聞いていない、これは命令だ。従えぬと言うならば"教育"が必要か?」

 

「ッ!!わ、分かりマシタ!分かりましたカラッ!止めて下サイ!コッチに来ないで下サイ!」

 

 

ジリジリと距離を詰める提督に対し、恐怖で涙目になりながら叫ぶように言う金剛お姉さまを見て、私は思わず目を逸らす。

 

 

提督の"教育"が始まってしまうルートだと察してしまったから。

 

 

(あぁ……また始まるんだ……)

 

私が心の中で絶望している間にも、金剛お姉さまは壁に追い詰められていく。

 

「ご、ゴメンナサイ!私が悪かったデス!言うこと聞きますカラ!だから殴らないで下サイ!許して下サ―」

 

 

瞬間、鈍い音と共に悲鳴が上がる。

 

恐る恐る視線を向けると、そこには腹部を押さえて倒れ込む金剛お姉さまの姿があった。

 

「ぅ……ぐっ……」

 

苦しそうな声を上げながら床に転がっている金剛お姉様に近づき、見下ろす提督。

 

「言ったはずだぞ?俺はお前達の生殺与奪を握っているとな」

 

「ッ!」

 

「次はないと思え」

 

「はぃ……わかりま……シタ」

 

「なら良い、とっとと準備に取り掛かれ、……お前らもだ、何をぼさっとしている!」

 

『『は、はい!』』

 

私達も慌てて返事をして、出撃準備を始める為部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、私達は出撃の準備を終え、港で待機していた。

 

作戦開始時刻まであと数分と言ったところでしょうか。

 

 

今回の"作戦目標"である大湊鎮守府は、五大鎮守府ということもあり、相当な数の"目標"が居るはずです。

 

 

だからなのかは分かりませんが、今回出撃する戦力は、戦艦8、空母6、重巡12、軽巡12、駆逐24、潜水艦3と言う大艦隊です。

 

しかも、戦艦は長門型、大和型、私達金剛型を。

 

空母は一航戦、二航戦、五航戦が勢揃いと大盤振る舞い。

 

他の重巡や軽巡、駆逐や潜水艦の子達も練度が非常に高い艦娘ばかり。

 

はっきり言って過剰過ぎるほどの戦力と言っていいでしょうね……。

 

……問題は……やはり……

 

「……」

 

チラっと横を見ると、大和さんが暗い表情を浮かべていました。

 

無理もない事です。

 

彼女は今回の作戦の"旗艦"を任されているのですから。

 

今回の作戦の目標は大湊鎮守府の制圧及び、艦娘の無力化。

 

つまり仲間を攻撃し、行動不能にしなければならない。

 

そして彼女は、そんな作戦の指揮を取らなければならないのですから…。

 

「……大和たちの敵は、深海棲艦の筈では無かったのでしょうか……」

 

彼女の呟きを聞いて、私は胸が締め付けられるような気持ちになる。

 

きっと彼女だけじゃない、ここに居る全員が同じ事を思っています。

 

でも、そんな事は言えないし、言える訳がない。

 

だって、もしそれを言ってしまえば……

 

 

「……無駄口を叩くほど余裕とは流石だな」

 

背後からの冷たい声に振り向くと、そこに居たのは提督。

 

「…も、申し訳ございません、ただの独り言です……」

 

「…そうか、あと五分で出撃しろ。」

 

そう言い残して立ち去る提督。

 

……良かった、今回は見逃してくれたみたいですね。

 

安堵のため息を吐いている私を尻目に、大和さんは提督の背中を睨みつけていました。

 

……きっと私も同じ様な顔をしているんでしょうけど。

 

 

「大和さん……時間です、旗艦として出撃命令を。」

 

「……はい」

 

大和さんは私の言葉を聞くと、大きく深呼吸をした後、全員に向かって口を開いた。

 

「これより作戦の最終確認を行います。」

 

「まず艦隊を機動部隊(+護衛艦隊)と本隊の二つに分け、それぞれ別々の進路で目的地に向かいます。」

 

「その後、まず機動部隊が先行、第1次攻撃で可能な限り敵の航空兵力を無力化して下さい。」

 

「次に、本隊は到着次第、機動部隊が退避したらすぐに攻撃を開始してください。」

 

「そして、機動部隊による第二次攻撃で"敵"艦隊を航行不能状態に追い込み、それでも尚戦闘可能状態の"目標"がいた場合は総攻撃を行う。」

 

そこまで話した所で一旦言葉を切り、もう一度深く深呼吸をする。

 

(大丈夫、落ち着いてる……)

 

自分に言い聞かせるように心の中で叫びながら続きを話す。

 

「……以上が今回の作戦概要となります。質問はありますか?」

 

誰も何も言わない。

 

皆、覚悟を決めているのだろう。

 

 

 

 

そんな中、私はゆっくりと手を上げる。

 

すると、それを見た大和さんの目が僅かに揺れた。

 

(ごめんなさい大和さん……)

 

心の中で謝罪しながら私は言う。

 

しかし、言わなければならない、言わせなければならない。

 

「……もし"目標"が航行不能、大破や、それに準ずる状態になっても尚、"特別攻撃"等を敢行してきた場合はどうしますか?

その場合は、各自の判断で攻撃をしてもよろしいですか?

 

……いえ、そもそも、この作戦では"目標"を撃沈させても良いんですか?」

 

私の問いを聞いた瞬間、艦隊の空気が凍りつく。

 

当然の事だと思う。

 

 

"仲間殺し"をすべきなのかと聞いているのですから。

 

 

 

「………………提督からの命令では、最悪何隻かは"沈めて"良いとの事です。」

 

「……わかりました。ありがとうございます。」

 

私がお礼を言うと同時に、出撃開始時刻を告げる鐘が鳴る。

 

「……皆さん、行きましょう。」

 

『『『『『『『…了解』』』』』』』

 

こうして私達は出撃した。

 

 

仲間の傷付ける為……果ては何人かの命を奪う為。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

その日、これから襲撃を受ける事など全く知らない大湊鎮守府は、いつも通り賑やかであった。

 

 

大湊鎮守府は、艦娘擁護派に数少ない大きな鎮守府であった。

 

その為、所属している艦娘の数も多く、在籍している艦娘達も活気があった。

 

 

「……だからぁ!いい加減に前回のMVPが加賀さんだったのは私が庇ったお陰だって認めてよ!」

 

「いいえ、五航戦の子が庇わなくてもMVPは私でした。

思い上がりも甚だしいのでは無くて?」

 

一航戦の頼りづらい方と五航戦の騒がしい方がキャットファイトしたり。

 

 

「提督!この長門と腕相撲したいと言うのは本当か!?相手になろう!」

 

「おい誰だ長門にそんなこと言った奴、いや待て待て俺一般人に毛が生えた程度だぞ、お前に勝てるわけないだろ」

 

筋骨隆々の戦艦に勝負を仕掛けられたり。

 

そんな風にワイワイガヤガヤと騒いでいると、執務室の扉が開き大淀が入ってきた。

 

「失礼します、提督。

 

横須賀方面から友軍の大艦隊が接近していますが、演習の予定など有りましたか?」

 

「……何?」

 

大淀の言葉を聞いて、提督は首を傾げる。

 

彼はそんな話は聞いていないし、そんな大規模な艦隊が来る予定があれば事前に提督同士での協議がある筈だ。

 

「……いや、そんな話は一切聞いていないんだ。

取り敢えず、そいつらに通信で呼び掛けて目的を聞いてくれ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

数分後、大淀は焦った様に戻ってきた。

 

 

 

 

「提督!彼女達は通信に一切応じません!それどころか攻撃準備を開始しています!」

 

「なんだとっ!?」

 

提督は慌てて立ち上がると、急いで外に出る。

 

そこには、確かにこちらに向かってくる正規空母六隻を主軸とした機動部隊が居た。

 

「…南雲の野郎遂にやりやがった!……全艦出撃、迎撃用意!!」

 

提督の号令と共に、先程まで雑談をしていた艦娘達が一斉に動き出す。

 

「赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴、サラトガは護衛艦隊と共に即座に敵航空戦力の撃滅!制空権確保しろ!」

 

『『了解!』』

 

「長門、陸奥は鎮守府の全艦娘を招集し、迎撃準備!」

 

『『了解!!』』

 

「"敵"艦隊は沈めてはならないが、航行不能になるまでの攻撃は許可する!相手を味方だと思うな!こちらを殺しにかかってくるぞ!」

 

提督の指示を聞き、慌ただしく動く艦娘たちを見ながら、彼は大本営へと確認の電話を掛ける。

 

『こちら大本営』

 

「大湊の海嶋だ!永野元帥か山本長官を出してくれ!」

 

『……申し訳ないが永野元帥と山本長官は対応する事が出来ない。』

 

「何故だ!」

 

『……永野元帥は現在先日の件で緊急入院中で、山本長官は南雲大将閣下の他14名の将官により、審問会に掛けられています。

 

………どうせ私も拘束されるので話しますが…南雲さん達が本格的に動き出しました、恐らく助力は望めないでしょう。

……頑張ってください。』

 

そう言って切れた受話器を見て、海嶋は頭を抱える。

 

(あの馬鹿共が……マジでやるとは思わんかったぞ。)

 

「クソッ、兎に角今は目の前の事に集中するしかないか……」

 

「加賀より入電! 敵機直上急降下!対空戦闘開始!」

 

「チッ!長門たちはまだか!?」

 

「準備完了まで300との事!」

 

「急がせろ!損害が大きい場合はバケツの使用も許可する!」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 

十五分後

 

 

数で勝っているはずの大湊の艦隊は苦境に立たされていた。

 

 

「……いくらこちらが物量で勝っているとはいえ、明らかに練度が違いますね。」

 

「仕方ありませんよ、横須賀鎮守府の本物の南雲機動部隊がいるんですから。

 

……ですが、いくら彼女達が30隻の大艦隊であり、私達空母の数では劣っているとはいえ、この大湊鎮守府には総勢で120隻も艦娘が揃っていますし、こちらは補給も容易で、最悪は入渠出来ますし、バケツだって使えます。

 

持久戦に持ち込めば負ける事は……」

 

 

いや、おかしい。

 

サラトガは、今自分が言った言葉に違和感を覚える。

 

そう、持久戦になれば大湊鎮守府は負ける要素がないのだ。

 

そんな簡単なことを、二十代後半にして大将と言う階級まで叩き上げで登って来たあの南雲大将が見落とすだろうか?

 

 

「………まさか!?」

 

サラトガがその可能性に至った時、まるで正解だとでも言うように大きな砲撃音が鳴り響いた。

 

 

横須賀の大和型2、長門型2、金剛型4の戦艦8隻、重巡6隻、軽巡6隻、駆逐12隻、計32隻による主砲一斉射撃である。

 

馬鹿げた練度を持つ彼女達の攻撃の威力は凄まじく、そのたった一回の攻撃によって数隻が大破、十数隻が中破又は小破の損害を受けた。

 

 

「嘘っ……こんなの……無茶苦茶よ……」

 

「……翔鶴姉……これじゃあ私達、いつ沈められてもおかしくないよ……」

 

瑞鶴と翔鶴が怯えた声を出す。

 

 

「怯むな!ここで退いたら後ろは陸地だぞ! 何としても鎮守府を守るんだ!」

 

長門がそう声を張り上げるが、追い打ちをかけるかのように、敵の南雲機動部隊による第二次攻撃隊が迫る。

 

 

計400機の艦戦、艦攻、艦爆、いずれも恐ろしい程の練度を誇る精鋭揃いの航空隊であった。

 

「ぐぅ……!」

 

そしてその攻撃の全てが長門達に襲いかかる。

 

そして、その攻撃のいくつかが、空母赤城、加賀、に命中してしまった。

 

「くっ……飛行甲板に被弾!使用不能!」

 

「っ!私も同じく艦載機の発艦が不可能になりました!」

 

「クソっ!このままでは不味いな……」

 

『長門!聞こえるか!?』

 

その時、長門のインカムに通信が入る。

 

「提督か、聞こえているぞ」

 

『状況は見えている!赤城と加賀は即座に入渠、バケツを使え。

 

その間は何とか瑞鶴翔鶴サラトガの3隻で耐えてくれ!

何としてでも持久戦に持ち込む!』

 

「了解した!」

 

 

 

「……あ、あのさ、提督さん、それは良いんだけど、一つだけき、聞いていい?」

 

「なんだ瑞鶴、手短に頼むぞ」

 

 

「……こ、こっちに向かってきてる大きな護衛艦って味方だよね?」

 

 

「………………艦の番号は見えるか?」

 

「……425って描いてあるよ。」

 

 

「…今すぐ航行不能にしろ!敵の補給艦だ!洋上補給なんてされたら持久戦で張り合うことは不可能だ!」

 

「りょ、了解っ!」

 

 

 

 

 

 

 

『クソッ!こちら長門だ! 敵補給艦を狙おうにも相手が強くてそれどころでは無い!』

 

「チッ!今赤城と加賀を送った!誰でもいいから一撃入れろ!」

 

『了解だ!』

 

「くそ……どうする……どうすればこの状況を切り抜けられる……!」

 

提督が焦った様に頭を抱えていると、執務室の扉が勢いよく開いた。

 

そこには、息も絶え絶えと言った様子の陸奥の姿があった。

 

陸奥は提督を見つけるなり、倒れ込むようにして抱きつく。

 

陸奥は涙目になっていた。

 

 

「どうした陸奥!お前入渠してる筈じゃ」

 

「逃げて、提督!何台も陸軍の特殊車両が来てるの!多分提督を捕まえに来たのよ!早く!」

 

「なっ!?」

 

「お願い!私達の事は良いから!だから……!」

 

「馬鹿野郎!お前達を置いて俺が逃げるわけ無いだろ!」

 

そうしている中、多数の足音が響く。

 

 

 

「チッ……時間切れか……」

 

 

彼はそう言うと、陸奥を抱き締め返し、頭を撫でながら耳元で囁いた。

 

 

「……陸奥、今までありがとうな、彼奴らにも伝えといてくれ。『お前達を過ごす時間は楽しかった』…ってな。」

 

「……どうして…こうなるのよ……もっと貴方と一緒に居たかったのに…!」

 

 

陸奥は必死で堪えていた涙を流し、彼の胸に顔を埋めた。

 

 

 

 

1分後

 

 

「陸軍特別憲兵隊だ!海嶋提督の身柄を拘束する!」

 

そう言って入ってきた憲兵達は、堂々と椅子に座ったままの彼と、彼に抱かれ泣き崩れている陸奥を見て一瞬戸惑うも、すぐに気を取り直し、彼の身柄を拘束した。

 

 

「……抵抗しないのか?」

 

 

「あぁ、前の会議からこうなる気はしてたんでな。

 

それに抵抗なんざしても無駄だ、余計こいつらの立場を危うくしちまう。」

 

「……ふん、まぁ良い。さっさと来てもらおうか。」

 

「分かった、だが最後に一つ頼みがあるんだ。」

 

「なんだ?手短に言え。」

 

「この鎮守府の艦娘達の安全だけは保証してくれないか? 俺はどんな事をされても良い、ただあいつらは見逃して欲しい……」

 

「それは貴様と南雲大将閣下次第だ。行くぞ。」

 

「……あぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上が今回の事件の顛末です。」

 

「……もうヤダあいつら……人の入院中に何してんの……? …私50だしもう元帥やめようかな……」

 

 

海軍元帥 永野は、目の前の高雄の報告を聞き、病室のベットで頭を抱える。

 

 

「……それからもう1つ報告がありまして、山本長官が一時的に横須賀鎮守府の指揮に入りました。」

 

「ファッ!?南雲君どこいったん!?」

 

「…それが、1週間の有給を取ると言って御自宅へ……」

 

 

「……ウッ」(胃に穴が空いた音)

 

 

「元帥閣下!?大丈夫ですか!?しっかりなさって下さい!」

 

 

 

永野元帥は、この後2日間ほど生死の境を彷徨っていたという。






それでは、内容がよく分からなかったと言う人のために、何がしたいのか南雲さんに聞いてみましょう!


南雲「今こそ大東亜共栄圏を実現する。その為の布石だ。」




……との事です、意味がわかりませんね!()


次回は1度番外編(?)的な物を挟み、それから次の話かな?

それじゃ!気長に待っててくれよな!


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番外 まだマシな終わり



どうも、異状性癖持ちの湯タンポです☆


さて、今回は前回言った通り番外編?みたいな物です。

その名も、もしあの時○○だったらシリーズです!


そのまますぎると言う褒め言葉は置いといて…今回は 、『もし加賀さんがもう少しだけ耐えられたら』、と言う内容です。

要はルート分岐ですね〜。

ではどうぞ(鼻ほじ)




 

 

 

 

 

 

 

私はそれから毎日、提督に暴力的な行為を受けていた。

 

殴る蹴るの暴行や暴言は当たり前、意識が完全に飛ぶまで、頭を床や壁に打ち付けられたり、背中に焼きごてを押されたこともあった。

 

傷を受けなかった場所は、胸と下腹部位で、それが暗に"お前に女としての価値など無い"と言われているようで逆に悔しかった。

 

そして、ドックに入渠すれば怪我は治るとは言え、痛みが無くなる訳では無いので、当然夜はまともに眠る事など出来ず、睡眠不足に陥り、更には恐怖によるストレスにより、私の精神は徐々に擦り切れて行った。

 

だけど、私が我慢しさえすればあの子達を助けられると思って、私は必死に歯を食いしばってこの日々に耐えていた。

 

 

 

 

そんなある日、私は久し振りに赤城さんと食堂に一緒に来ていた。

 

 

 

(……久しぶりに赤城さんとご飯を食べれるのはいいのだけれど……やっぱり、あまり味を感じれない。)

 

 

そんな事を考えていると、不意に隣から声をかけられた。

 

 

「加賀さん、最近顔色が悪いけど大丈夫ですか?何かあったら相談に乗りますよ。」

 

 

「ありがとうございます、赤城さん、でも特に何もありませんので心配しないで下さい。」

 

 

私はなるべく平静を装いながら返事をした。

 

 

 

「そうですか……なら良いのですが……それにしても、間宮さんのご飯は美味しいですねぇ〜。」

 

 

「ええ、本当に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『良いですね赤城さんは、何も考えず私の前で美味しそうにご飯を食べれて……私の気も知らずに。』

 

 

 

 

 

 

…待て、私は今何を考えた?

 

 

 

 

赤城さんは何も悪くないだろう。それどころか心配してくれる赤城さんの言葉を振り払ったのば私でしょう?

 

 

なのに、何故こんな感情を抱くのだろう。

 

 

「……さん………加賀さーん、どうしたんですかボーッとしちゃって。お腹いっぱいになっちゃいましたか?」

 

 

「あ、いえ、すみません。少し疲れているのかもしれませんね。」

 

 

「確かにここのところ出撃続きでしたものね……無理せずゆっくり休んでください。」

 

 

 

『休むって、呑気な物ね、私が提督に休みも無しにどんな扱いをされているか知りもしない癖に。』

 

 

 

……だから私は何を考えて……

 

 

 

(気付いていないフリはやめなさい、貴女《私》は本当はそう思っているはずよ)

 

 

…違う…!

 

そんな事思ってなんかない!そんな事あるわけがない!

 

 

「加賀さん?」

 

 

「あ、はい、なんでしょうか。」

 

 

「い、いや、なんだじゃなくて、部屋に戻りましょうって言ったんですよ。」

 

 

「え、えぇ、そうですね。戻りましょう。」

 

 

私は急いで食事を済ませると、足早に自室へと戻った。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

部屋に戻るとすぐに布団に入り、目を瞑った。

 

 

しかし、いくら時間が経っても一向に眠気が襲ってくる気配はない。

 

 

 

 

 

「くっ……なんで…!」

 

 

 

私は思わず枕を殴りつけた。

 

 

何度も、何度も、何度も。

 

 

 

「うぅっ……」

 

 

 

すると突然涙が出てきた。

 

 

「どうしてっ……いつも……私が……!」

 

 

涙は止まらず、嗚咽混じりの声が出てしまう。

 

 

「……もう、嫌……なんで、わたしばっかり…!」

 

 

 

『嫌なら全て赤城さんや五航戦の子に押し付ければ良いでしょう。』

 

 

「ちが……そう言うこと……言ってるんじゃ……なく……て……」

 

 

『そう言うこと言ってるのよ。結局の所、自分が辛い目にあうのが怖いからそうやって逃げてるだけでしょう?貴女《私》は。』

 

 

「だから…違くて、私はただ皆にあの地獄を味合わせたく無いだけで…!別に逃げたいだなんて思ったことは一度だって無いのに……!」

 

 

『でも自分が痛い思いをするのは嫌だって言ってるじゃない。

 

 

……辛いなら何時でも赤城さんに提督にされた事を言えばいいのよ?

 

 

……そうしたら皆仲良く南雲提督による"教育"を受けることになるけれど。』

 

 

違う、惑わされるな、これは自分の中の悪魔だ。

 

この悪魔の囁きに耳を傾けてはいけない。

 

 

「黙りなさい…!」

 

 

『あら、図星突かれて怒ったのかしら?』

 

 

「うるさいっ!!」

 

 

『落ち着きなさい、段々と余裕がなくなってきてるわよ?』

 

 

「落ち着いていますっ!!」

 

 

『嘘つきは泥棒の始まりと言う言葉を知らないの?』

 

 

「貴方に言われたくない!!」

 

 

『あら、私は嘘なんてこれっぽっちも言ってないわ、貴女《私》が心の奥底で思っている真実を伝えているのだけれど。』

 

 

「私は何も思っていない!!私は、私は、みんなの為に、みんなが提督の"教育"を受けなくていいように…!」

 

 

 

 

「……あ、あの、加賀さん?先程から誰と話しているのですか?」

 

 

不意に声がかけられた。

 

 

声の主は赤城さんだった。

 

 

「ぁ……赤城……さん?ど、何処から聞いてました……?」

 

 

「えっと……その……加賀さんの様子がおかしかったものですから……その……心配になって……その……えと……ごめんなさい……、割と最初の方から……です……。」

 

 

終わった。よりにもよって一番聞かれてはならない人に聞かれてしまった。これで全てが終わる。

 

 

…いや、良く考えれば核心的な事はほとんど言っていないし、まだギリギリごまかせるのでは無いだろうか?

 

 

 

「…あ、赤城さん、今のは……独り言ですので気にしないで下さい。」

 

 

「……そ、そうなんですか!?びっくりしましたよ〜!」

 

 

「ええ、驚かせてしまってすみません。」

 

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。それより加賀さん、何か悩みがあるんでしたら相談に乗りますよ?」

 

 

「いえ、大丈夫ですので、お構い無く。」

 

 

「そうですか……なら良いのですけど……」

 

 

赤城さんはまだ何か言いたげだったが、これ以上会話を続けるのは不味いと思い、私は再び布団へと潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

私が限界を迎えたのは、その次の日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、私や赤城さん、翔鶴、瑞鶴には出撃命令が出されていた。

 

 

 

無論私達は敵主力艦隊を撃滅させ、帰投したのだが、問題はその後に起こった。

 

 

「なんか、最近加賀さん暗いけど……どうしたんだろうね?」

 

 

「さぁ……どうしたんでしょうね……」

 

 

「まぁ、その内話してくれると思いますよ。」

 

 

「……そうかな…?何か、今話しておかないと良くない事が起きる気がするんだけどなぁ……」

 

 

 

 

五航戦の生意気な方《瑞鶴》や、赤城さんたちが話す内容に気が着く事も無く、私は小さくため息をついた。

 

 

 

今日は生意気な方が大破してしまったのだ。

 

 

 

(……また、提督からこっぴどく"教育"されるのかしら……)

 

 

 

 

 

 

『それなのにこの子達は、貴女《私》が提督から受けている暴力なんて知りもせずに、ぬくぬくと美味しいご飯を食べて、さぞ悠々自適な暮らしをしているのでしょうね。』

 

 

 

 

っ……!そんな事、私は考えて無い…!

 

 

 

「……あの、加賀さん、ホントに大丈夫?何時も私に言ってくる皮肉も無いくらいに、元気無いよ?」

 

 

 

それは今の私に言ってはダメな言葉だった。

 

 

 

瑞鶴のそんな言葉を聞いた時、私は目の前が真っ赤になり、自分の中の悪魔に囁かれるままに言葉を吐いてしまった。

 

 

 

 

 

『「誰のせいだと思っているの?何も出来ない五航戦の子は黙ってなさい!」』

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

私の口から発せられた言葉で、赤城さんや五航戦の二人が目を見開いて固まっていた。

 

 

「……あっ……ちがっ……ちがう……私は……こんなこと……思って……」

 

 

慌てて弁解しようとするが上手く口が回らない。

 

 

 

「…い、いくら何でも酷いよ…加賀さん……わ、私はホントに加賀さんが心配だっただけで……!」

 

 

 

『五航戦の子は随分と都合のいい口を持っているのね、普段は憎まれ口ばかりの癖に………でもこれで少しは清々したんじゃないかしら?貴女《私》』

 

 

「だから……違くて……!」

 

 

『違く無いでしょう?貴女は本当はずっと思っていた筈よ、こいつらが居なければ、私だけが提督に"教育"という名の暴力を受けることは無かったはずでしょう?』

 

 

「違う……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!」

 

 

私は、悪魔の言葉を頭を振って否定する

 

 

『ほら、もう認めてしまいなさい、貴女《私》の本心を!』

 

 

「うるさいっ!!黙れっ!!黙りなさいっ!!そんな事思ってない!」

 

 

『貴女はただ皆が羨ましいだけなんでしょう!?

 

貴女《私》が提督からの"教育"を受けている間、皆は安全な所でのうのうとしているのが許せないんでしょう!?』

 

 

「違う……私は……みんなが……みんなが無事でいて欲しくて……だから…私が皆の代わりに…!」

 

 

「加賀さん……一体何を言ってるんですか……?明らかに今の加賀さんは可笑しいですよ…! どうしたんですか…?」

 

 

「あ、赤城さん、ち、違くて!その、そんな事本当は思って無くて!」

 

 

赤城さんに話しかけられた事で、更に焦ってしまう。

 

そして、その隙をついて悪魔は私に囁きかけてきた。

 

 

 

 

『「一体貴女達に何がわかるのかしら?いつも美味しそうな料理を食べれて、暖かい布団でぐっすりと寝られて、提督の"教育"を受けなくて済んでいる貴女達には、絶対にわからないの!!」』

 

 

 

……言ってしまった。一度言ってしまいさえすれば、後は堰を切ったように次々と私の醜い心の内が出てくるだけだった。

 

 

『「私は毎日殴られ蹴られ罵声を浴びせられる日々を過ごしているのよ!?」』

 

 

 

「どうしてそれを…相談してくれないんですか…加賀さん……」

 

 

「そ、そんな事……されてるの…?」

 

 

赤城さんや五航戦が何か言っているようだったが、半分パニックに陥っている今の私には何も聞こえなかった。

 

 

 

『「私が!どんな思いでこんな日々に耐えているかなんて!誰もわかってくれやしない! 私が!私が!私がどれだけ苦しんでるかなんて!誰にもわかりっこ無いのよ!!!!」』

 

 

 

気付いた時にはもう遅かった、私は取り返しのつかない事をしてしまったのだ。

 

 

 

「…ぁ…ちが……わた……しは…………ごめんなさい!」

 

 

 

私はその場から逃げ出した。後ろから赤城さんや五航戦の二人の声が聞こえるが、私は振り向かずに走った。

 

 

 

 

走って、走り続けて、気が付けば私は、自分でも知らない場所に辿り着いた。

 

 

そこは海が見える崖の上だった。

 

鎮守府の外では無いのだろうが、こんな場所は長年此処に居る私でも知らなかった。

 

 

 

私はその場に座り込み、膝を抱え込んだ。

 

 

 

 

『やっぱり本当はあんなふうに思ってたんじゃない。』

 

 

座り込む私に、悪魔が隣に現れてそう言った。

 

 

「……えぇ、そうみたいね。」

 

 

『認めるのね?』

 

 

「……そうね、私はあの子達が憎かった。あの子達の幸せを見てると無性に腹が立った。」

 

 

私は自嘲気味に笑いながら答えた

 

 

「…私が苦しくて泣きたい時も、あの子達は幸せそうに笑うから。

 

 

なんで……なんで私だけって…ずっと思ってた。」

 

 

『なら、楽になってしまえば良いのに。』

 

 

「……それは出来ないわ、だって私は……提督の事が嫌いだけど、好きだと思うもの。」

 

 

『…………………は、はあ?』

 

 

 

悪魔は私の言葉を聞いて素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「……何よ、貴女が聞いてきたんじゃ無い。」

 

 

『いや、あの、もしかして頭が可笑しいのかしら?貴女、提督に暴力を振るわれているのよね?』

 

 

「ええ。」

 

 

『それが辛くて苦しいって泣いてたわよね?』

 

 

「えぇ、確かにそうね。」

 

 

『なのに好きっていうのはどういうことかしら?貴女の思考回路が全く理解できないわ。』

 

 

「あら?貴女《私》の癖に分からないのかしら?

 

 

 

……私は、この横須賀鎮守府に着任してから十年になるわ。いわゆる最古参の一人なの、今の赤城さんだって二人目よ。

 

 

だから、良い提督も悪い提督も見てきた。

 

 

…でも、どの提督も共通して、私に興味を示さなかった。

 

 

いえ、正確にはすぐに興味を失った。

 

 

良い提督は皆から好かれ、駆逐の子や軽巡、重巡の子達、大型は瑞鶴や翔鶴、大和と言った"分かりやすい"子達とばかり話すようになっていった。

 

 

悪い提督も、私のような反発勢は適当に丸め込んで、順々な子達ばかりを周りに置いていた。

 

 

 

……まぁ、私の性格や口調、そしてズカズカと意見具申する態度が面倒くさかったのでしょうけどね、"一航戦の頼りづらい方"…なんてあだ名までつけられて。

 

 

 

……でも、今の提督…南雲提督は違った。

 

 

確かに失態を犯したり、提督の方針に逆らったりすれば、暴力を振るわれるし、酷く怒られる。それはすごく嫌。

 

 

けれど、成果を挙げれば『そうか、良くやった』と褒めて下さるし、意見具申をしても、筋が通っていればきちんと検討してくださる。

 

 

 

…どちらも、今まで私には向けられなかったものだったから、凄く……嬉しかった。

 

 

ただ、それだけの事。」

 

 

『……なんか…拗らせてるわね、貴女《私》。類は友を呼ぶと言うやつかしら。』

 

 

 

悪魔が何か失礼な事を言っているような気がしたが、スルーした。

 

 

気が付くと、いつの間にか日が落ちていて、あたり一面が真っ暗になっていた。

 

 

崖の下の海は暗闇で何も見えず、少し不気味な雰囲気だった。

 

 

 

『……数歩進むだけで楽になれるわよ。

 

さっきの醜態も、提督からの教育も、全てを無にできるわ。』

 

 

「……そうね、それも…悪くないかもしれない。」

 

 

『なら早く行きましょうよ。ほら、立って!』

 

 

悪魔に急かされ、私は立ち上がった。

 

 

そして一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お疲れ様』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Good END

悲劇

 

 

 

 

 







……これがグッドエンドとかこの小説終わってんな(作者)


という訳で次回は本編……と行きたかったんですが、その前にこの作品のハッピーエンド()を見せてから本編に戻りたいと思います。


それではまたの。











『たった一つの死は悲劇だが、100万の死は統計に過ぎない。』――ヨシフ・スターリン




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番外 二 幸せ




どうも、前話をグッドエンドと言い張った湯タンポです☆



さて、今回はこの作品唯一のハッピーエンドをご覧いただきます。

分岐点は前回の加賀さんあのシーンからです。


ではどーぞ(焼肉食いたい)


恐怖と安心を交互に与えることて洗脳ってしやすくなるらしいですね。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

その時――

 

 

「加賀さんっ!!」

 

 

背後から声が聞こえ、振り返るとそこには赤城さんが居た。

 

 

「赤城さん……」

 

 

「加賀さん、踏みとどまって下さい!お願いします!話を……」

 

 

「……ごめんなさい赤城さん、私はもう疲れました……もう、楽になりたいんです……」

 

 

私は赤城さんに背を向けるように歩き出す。

 

 

あと三歩。波が岩を打つ音が響く。

 

 

 

「お願いです加賀さん…っ!私はもう仲間を失うのは嫌なんです……!」

 

 

 

二歩。……怖い、死にたくない、でも疲れた、もう消えたい。

 

心臓がうるさい程跳ね、呼吸が荒くなる。

 

 

 

「加賀さん…ダメです!」

 

 

『大丈夫よ、怖がらないで。』

 

 

 

悪魔が優しく囁きかける。

 

 

『貴女はただ歩くだけ、そう、いつも通り。』

 

 

一歩。そう、あと一歩で全てが終わる。

 

 

「は、は、は、はっ」

 

 

浅い呼吸を繰り返し、震える足に力を込める。

 

 

最後の力を振り絞り、私は歩みを進めた。

 

 

瞬間、私は何者かに後ろから抱き着かれた。

 

 

その人物は私の首に腕を回し、離れないように必死に掴んでいる。

 

 

驚いて振り向くと、そこにいたのは五航戦の……いや、瑞鶴だった。

 

 

「瑞鶴……?」

 

 

「……なんで」

 

 

「えっ」

 

 

「……なんで……なんで死んじゃおうとするのよぉ……っ」

 

 

瑞鶴は泣きながら私に訴えかけてきた。

 

 

「私の態度が気に食わなかったなら治すからっ!謝るからっ!だから……だから……そんな事しないでよ……っ……"あの時"みたいに、私を…私達を置いていかないでよ……!」

 

 

「……ミッドウェー…かしら。」

 

 

私が聞くと、彼女は小さくコクリと首を縦に振った

 

 

「もうみんなが居なくなるのは嫌なの……!…だからそんな事やめてよ…っ!ねぇ……加賀さん……おねがい……だから……うぅ……」

 

 

そこまで言うと、とうとう堪え切れなくなったのか嗚咽を上げて本格的に泣き始めた。

 

 

『………どうしたいの?この子の手を振りほどいて一歩足を踏み出せば楽になれるけれど……』

 

 

……分からない、私は一体何を望んでいるのだろう? 頭の中がぐしゃぐしゃになって、何も考えられない。自分がどんな状態なのかも、生きたいのか死にたいのかすら分からない。

 

 

 

「……赤城さん。」

 

 

「……はい。」

 

 

「赤城さんは、私のこと嫌いですか?」

 

 

赤城さんの方を向き、問いかけると、赤城さんは一瞬驚いた表情をした後、悲しそうな顔をした。

 

 

「……"今"の加賀さんは好きじゃありません……」

 

 

「そう、ですか……。」

 

 

私は再び視線を足元に戻す。

 

 

 

 

「だから……だから戻ってきて下さい…!自分じゃ解決出来ない事は全部相談してくれれば良かったじゃないですか!一人で抱え込まないで下さい!……それに、加賀さんが居ないと寂しいですよ……皆だってきっとそう思ってます……!」

 

 

 

 

……ああ、そうか、私は必要とされているのね。

 

 

こんな私でも、まだ皆と一緒に居ていいんだ。

 

 

「……ありがとうございます赤城さん。瑞鶴も、私なんかの為に泣いてくれて。

 

…そうね…私はまだここにいます。もう少し、頑張ってみようと思います」

 

 

「……加賀さぁん……っ」

 

 

「加賀さん……」

 

 

『……そう…まあ良いわ。貴女《私》がどういう選択をしようと勝手だもの。』

 

 

悪魔が何か言っているが、無視した。

 

 

 

――そんな時

 

 

 

「……貴様ら、こんなところで何をしている。」

 

 

背後から声をかけられ、振り返るとそこには提督がいた。

 

 

提督はいつも通り不機嫌そうな顔でこちらを見ている。

 

 

「返事は無しか、随分と偉くなったものだな。」

 

 

「……申し訳ございません。」

 

 

 

「……赤城、瑞鶴、何があったか報告しろ。」

 

 

「……それよりも提督、加賀さんに暴力を振るっているというのは本当ですか。」

 

 

 

赤城さんがそう言った瞬間、空気が凍り付いたような気がした。

 

 

赤城さんは普段見せないような鋭い目つきで、提督のことを睨んでいた。

 

 

「そうだが?」

 

 

しかし、提督はその問いに対して特に動揺することもなく、平然と答えた。

 

 

赤城さんは更に怒りの色を強めていく。

 

 

「何故そのようなことを……!」

 

 

「……?なにをそんなに驚いている、軍隊において上官とは絶対だ。

 

殺せと言われれば恩師であろうと殺し、死ねと言われれば喜んで死ぬ。

 

それが軍人というものだろう。」

 

 

――この人は、どこかおかしいのだ。

 

 

 

軍人としては満点だ。

 

 

彼は上の命令には忠実だし、部下への"扱い方"もよく心得ている。

 

 

 

だが、人間としては最悪だ、彼の思想は歪んでいる。

 

 

周りの者を全て道具、もしくは駒だとしめ、自分の思い通りに動かす為には手段を選ばず、時には非道な行いをする。

 

そして、その事を悪びれる様子もない。

 

 

何故ならそれが最も効率的で、絶対的に正しいと思っているから。

 

 

「違います!軍人とはそのように歪んだものではっ!」

 

 

「何口答えしてんだお前。」

 

 

 

赤城さんが提督に口を開いた瞬間、ドゴッという鈍い音が響き、それと同時に赤城さんが地面に倒れこんだ。

 

 

どうやら殴られたらしい。

 

 

赤城さんは腹部を押さえながら苦しげに悶えていた。

 

 

私は慌てて彼女に駆け寄ろうとする。

 

 

しかしその前に、今度は私が頬に強い衝撃を受け、地面へと倒れた。

 

 

「やめてよ、提督……これ以上酷い事しないでよ…!」

 

 

瑞鶴が泣きながら訴える。

 

 

すると、提督は瑞鶴の髪を掴んで持ち上げ、そのまま瑞鶴の額へと膝を叩きつけた。

 

 

その一撃で瑞鶴の意識は刈り取られ、ドサッと音を立てて倒れる。

 

 

そして提督私達全員の髪を掴むと、そのまま引き摺りながら歩き出した。

 

 

「痛っ……」

 

「うぅ……」

 

 

「加賀、赤城、瑞鶴、貴様らにはこれから懲罰を与えるからな。覚悟しろよ。」

 

 

「……はい、分かりました。」

 

 

「……承知しました。」

 

 

「…………っ……ぁ……」

 

 

「おい瑞鶴、聞いてるのか?」

 

 

「………………っ!き、聞いております。」

 

 

どうやら先程のダメージが抜けていないらしく、彼女は辛そうにしていた。

 

 

私は彼女の代わりに答える。

 

 

正直、私もかなり辛いのだが。

 

 

それから私達は、鎮守府のかなり隅の方にある倉庫へと連れていかれた。

 

 

 

中に入ると、そこには様々な拷問器具が置かれていた。

 

 

その中でも一際存在感を放つのは、一本の血塗れた"棒"だった。

 

 

提督はそれを手に取ると、少し笑った。

 

 

「"精神注入棒"、お前達にも馴染み深い物だろう?かつての大戦ではよく使ったと聞いているが。」

 

 

提督はそう言うと、私達の目の前まで歩いてきた。

 

 

「……さて、貴様らに軍人として精神を注入してやろう。」

 

 

提督はそう言うと、動けない私達に棒を振り上げた。

 

 

 

その姿は、さながら悪鬼羅刹であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

 

「さて、加賀、赤城、瑞鶴、お前たちは何だ?言ってみろ。」

 

 

「はい…私、航空母艦 加賀は、提督の道具であり、提督の忠実な犬です。」

 

 

「はい……私、航空母艦 赤城も、加賀さんと同じく、提督の道具であり、提督の従順なる飼い犬です。」

 

 

「……っ……わ、私、航空母艦 瑞鶴も、提督の道具であり、提督の命令に従う奴隷です……。」

 

 

 

バチンッ!!!

 

 

「何で犬と奴隷が人の言葉話してんだ。」

 

 

理不尽の極みだ。

 

 

私は今、四つん這いの状態で首輪をつけられ、そこから伸びるリードを提督に握られている。

 

 

他の2人も同様に、それぞれ提督に繋がれている状態だ。

 

 

提督は鞭を振るって私の背中を打った。

 

 

「いっ……!…わ、わん!わん、わう…わう!」

 

 

私は痛みに耐えながら必死で鳴いた。

 

 

赤城さんや瑞鶴も同様で、皆涙を流しながら懸命に吠えていた。

 

 

その光景は、まさに畜生そのもの。

 

 

提督にとって今の私たちはただの犬畜生と同じなのだ。

 

 

 

そこに女としてプライドや、艦娘としての威厳など有りはしない。

 

 

ただ提督による"教育"が終わり、立派な道具になるまで鳴き続けなければならないのだ。

 

 

それは私だけでは無く、そのうちこの鎮守府に居る全ての艦娘がそうなってしまうだろう。

 

 

 

「安心しろ、お前達がいずれ消えてなくなるまで飼い続けてやる。」

 

 

 

それが幸か不幸かなのかは、まだ誰にも分からない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシンっ!

 

 

 

「……わうっ♡」

 

 

「…ひぅっ♡…てぇ…とく…♡」

 

 

「……えへ♡……御主人…様…♡」

 

 

 

 

"まだ"………誰にも分からない………筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Happy END

幸せな道具たち

 

 

 

 

 

 






ハッピー……エンド……?取り消せよ!今の言葉!

今回の話はこの作品の中で後にも先にもいちばんやさしいと思います。



……ん?なになに、『やり過ぎだろいい加減にしろ!もっと艦娘甘やかせよ!優しくしろよ!』……ですって?



そんなにいちゃラブが見てえならp○xivでも行けよ、夢小説がいっぱい転がってんぞ(辛辣)


俺は…俺は暴力的な曇らせが書きたいんだ……!!


俺、おにゃのこが泣いたり苦しんだり許してもらおうと必死に謝る姿が好きなんだ……(変態)


それでは、次回からは本編更新になるはずですのでお楽しみに。




『愛とか友情などというものはすぐに壊れるが恐怖は長続きする。』――ヨシフ・スターリン



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彼を知る者



どうも、前回、前々回とビックリするくらい反響が無くて草生え散らかしてる湯タンポです☆


……反響が無いのなら、こちらも更新をしなければ……無作法というもの……


まぁそんなことはさておき、今回は本編更新……のはずですが、もしかしたら、こんなの本編に入るかボケって方もいるかもしれませんので、まぁ更新したなら見てやらん事もないって方は見てください(適当)


まぁこの世界の世界観を補足しておこうと思って……、



私の世界観の設定はだいぶ適当なので、疑問が有れば感想と一緒に書いていただけると……答えます(多分)



ではどうぞ。




 

 

 

 

 

"南雲"菜々美 旧姓"永野"菜々美。

 

それが私の名前です。

 

 

深海棲艦の襲撃が起きて新しく出来た日本海軍。

 

その元帥である永野海斗の娘として生まれた私は、何不自由なく育ちました。

 

 

食事には困りませんでしたし、ゲーム機やスポーツと言った娯楽にも事欠かなく、誕生日には欲しかったプレゼントを望み通りに貰えました。

 

 

それが普通ではなく、相当恵まれた生活だったと気付いたのは、小学校高学年くらいの時でした。

 

その頃になると、流石に社会の状況を理解出来るようになってきていたからです。

 

 

テレビでは連日のように報道される深海棲艦との戦争の事。

 

街に出れば、自活出来るほどの能力が無い人達が、配給された物資を求めて並ぶ列が目に映るのです。

 

それを見て、自分の置かれた環境が如何に恵まれているのかを理解しました。

 

 

でも、そんな人達でさえ配給を受けられるだけ相当マシなのです。

 

 

何故なら、日本、アメリカ、イギリスの三大海軍国家以外ではまともに深海棲艦に対抗出来ずに、多くの国家が崩壊して世界のシーレーンは壊滅。

 

 

まともにご飯が食えるのは三カ国だけで、その他に辛うじて国家としての体裁を保てているのはロシアとドイツ位ですし、配給なんて物があるのは日本だけです。

 

 

だから、私は決めたんです。

 

 

この国の人たちを守りたい、と。

 

先述した通り私の家は裕福だったので、大学まで通うことが出来ます。

 

ですが、あえて軍学校に入り、経済学なども学びつつ父と同じ海軍軍人になろうと思った時、父が私を呼び出してこう言ったのです。

 

 

 

 

――菜々美もそろそろ結婚を考えねばならない歳だね。

 

それは高校を卒業する半年ほど前の事でした。

 

 

当然、私は軍人になりたい思いを父に伝えました。

 

しかし、当然の事ながら父はあまりいい顔をせず、母に至っては父以上に反対されました。

 

それでも私が折れない事を察すると、父はとある提案をしました。

 

――う〜ん、私としては娘を危険に晒す訳には行かないからねぇ……じゃあこうしよう、菜々美の4つ上の海軍の優秀な提督がいるんだ。

 

彼と結婚して、彼のことを支えながらなおかつ軍学校を首席で卒業出来たならいいよ。

 

そうすれば好きなように生きればいいさ。

 

……まぁ南雲くんだから無理だろうけど。』

 

最後の一言がなければ素直に喜んだでしょう。

 

しかし、父の思惑が見え透いていた以上、私は喜んで受ける事は出来ません。

 

ただ、ここで断ってしまえばもう二度とチャンスはないと思い、渋々と条件を飲む事にしたのでした……。

 

 

 

そして、そのお相手とは、最年少で日本海軍提督として活躍し、弱冠22歳にして将官への昇進すら囁かれていた出世頭である、南雲秀一大佐(当時)でした。

 

彼はとても優しい人でしたが、同時に厳格な人でもありました。

 

軍人として厳しい訓練をこなしながらも、決して手を抜くことは許さず、常に全力で取り組んでいました。

 

そして、"艦娘"に対してとても優しい人でした。

 

私は、そんな人ならまぁ結婚してもいいかな……と思うようになり、1ヶ月もしない内に籍を入れることになりました。

 

結婚式は身内のみで行いました。

 

元々裕福な家で育った事もあり、お金の問題はなく、むしろ豪華すぎるくらいの規模になりましたが、私はあまり嬉しくありませんでした。

 

寧ろその逆です。

 

あの人と、二人きりで祝いたかったのです。

 

彼との時間を取られたくなかったのです。

 

 

 

 

 

 

それから6年、彼は……秀一さんは、優しかった面影など無い程に変わってしまった。

 

いや、違う。

 

元に戻ったと言うべきなのでしょうか?

 

 

彼の元から強かった支配欲や反逆への恐れと言ったものが、以前より強くなった気がします。

 

 

私を支配しようと、徹底的な管理に置かれました。

 

 

外に出られないよう地下室に閉じ込められ、鎖をつけて監禁状態のまま夜伽を強いられ、逆らえば苛烈な暴力が飛んできました。

 

最初はただただ怖かった。

 

ですが、暴力による痛みと恐怖、その後すぐに体を貪られる快楽と安心を交互に与えられ、思考能力を奪われていくと、次第にそれが心地よくなり、彼にもっとのめり込むようになりました。

 

 

その頃になると地下室から出され、家事使用人 権 性処理人形の様な扱いを受けていましたが、不思議とその生活が嫌だと思わなくなりました。

 

いえ、寧ろそれが当たり前だと思い込んでしまっていたのです。

 

 

そしてつい一か月前、いつもの様に私を犯し尽くした後、彼は私の隣にひとつの紙袋を置いてこう言いました。

 

 

『鎮守府に着任することになり、貴様の飯を用意するのが難しい。

故に今日から貴様の外出を許可する、ただし買い物と病院だけだ、それ以外で外出した場合お前は二度と地下室から出さない。

 

それから1ヶ月に1回は1週間の休暇でここに帰る。それまでは適当に生活しろ、金はこの袋の中に1000万はある。』

 

…と。

 

つまり、1ヶ月のうち三週間私は自由になった。

 

そして、彼は本当に1ヶ月に1週間しか家に帰ってこなくなった。

 

でも、何かが劇的に変わることはなく、普段の生活の中に買い物が追加されただけだった。

 

 

 

そして今日、彼が帰ってくる日だ。

 

 

 

私はご飯とお風呂準備を終え、いつでもお迎え出来るよう玄関で彼を待っている。

 

 

ガチャッ。

 

来た。

 

 

「…お帰りなさいませ、貴方様。」

 

 

私はそう言って三指をつき、最大限頭を下げた。

 

 

「……菜々美、風呂と飯は。」

 

「…はい、用意してあります」

 

「なら先に風呂に入るから飯の準備をしておけ」

 

「……承知いたしました」

 

 

秀一さんはそれだけ言うと、私に目もくれず脱衣所へと消えていった。

 

私はそれを見届けると、リビングに戻り食事の配膳を始める。

 

 

今日の献立は彼の好物ばかりだ。

 

(喜んでくれると……嬉しいですけど…)

 

私は手早く料理を盛り付け、テーブルに置く。

 

これで完璧だ。

後は彼を待つだけ。

 

 

暫くすると、シャワーを浴び終えたのか、バスローブを着た彼が出てきた。

 

髪はまだ濡れているようで、雫が滴っている。

 

私はそれを見て、慌ててタオルを取りに行こうとする。

 

だが、それよりも前に彼は私に近づき、私の少し長めの髪を掴んで強引に引き寄せる。

 

そして、乱暴にキスをしてきた。

 

舌を絡ませる激しい口づけ。

 

まるで私を自分のモノであるかのように扱うような接吻。

 

私はそれに酔い痴れる。

 

長い時間そうしていた後、彼はようやく唇を解放してくれた。

 

お互いの唾液の糸を引きながら離れていく。

 

「……菜々美、いい子にしてたか?」

 

 

優しく確かめる様な問いかけ。どうやら今日は飴の日のようだ。

 

「ぁ……はい…私、いい子にしてましたぁ……♡」

 

だから、私も蕩けた声で答える。

 

「そうか、じゃまずは飯を食うとしよう。」

 

彼はそういって席に着く。

 

私はその対面に座って食事をする。

 

そして、彼は時折私の下腹部を足で触れながら箸を進める。

 

 

私は思わず身を捩りながら食べていた為、彼の食事スピード追いつけるはずもなかった。

 

 

そして彼は全て食べ終えると、食器を残したまま立ち上がり私の方へ近づいてくると、まだ食事中の私の髪を掴みました。

これは食後の運動会コースの合図です。

 

 

「…あの……まだご飯終わってな」

 

「ああ?何か言ったか?」

 

「ご、ごめんなさい!なんでもありません。」

 

「そうか、じゃあ来い。」

 

「…痛ッ!」

 

そのまま私は髪を引っ張って椅子から降ろされ、途中何度も壁や物にぶつかりながらベットまで引き摺られて行きました。

 

 

 

 

 

そして、ベッドに放られた私に彼は馬乗りになり、首元を押さえ付けながら舌を絡ませて来た。

 

 

舌が離れると、頭がぼーっとして、何も考えられなくなる。

 

何か盛られたのだろう、そう理解しても抵抗しようと思わない自分がいる。

 

だってそれは仕方ない事なのだから。

 

秀一さんはやっと私から離れると、今度は服に手をかけた。

 

 

 

 

「お前は俺の物だ。」

 

 

 

それ以降の記憶はほとんど無い。

 

 

ただ、何日も犯され続けた気がする。

 

 

そして、気が付けば彼が鎮守府に帰る日だった。

 

 

とは言っても、私はベットで潰れたカエルのように寝転がっていた。

 

体中が軋むように痛み、歩くことも出来ない。

 

 

「次は二ヶ月後に帰る。袋はここに置いておく。」

 

彼はそれだけ言うと、さっと服を着て部屋から出て行った。

 

私にはもう興味が無いと言った様子で。

 

私は、それが悲しくなって涙を流す。

 

 

しかし、すぐに別の感情に塗りつぶされる。

 

 

(…羨ましい、妬ましい…!)

 

私から彼を奪った艦娘の子達が憎くて堪らない。

 

 

暴力を受けている?暴言を吐かれている?酷い扱いを受けている?

 

そんなものは関係ない。

 

 

私が受けた苦痛に比べれば、そんなの生易しいものだし、そもそも貴重な時間を割いてもらっているというのに何が不満なのだろう。

 

私は、彼に愛されたかった。必要とされたかった。

 

でも、彼は私を見てくれなくなった。

 

今の彼が求めているのは、従順で優秀な性処理人形としての私だ。

 

 

隣に置かれた紙袋の中身を見る。

 

 

札束が二十個…2000万円程が入っていた。

 

つまり彼にとって私の価値はひと月1000万という事。

 

十分高く付けてもらっているだろう。

 

だけど、私は……

 

「……こんなものが…欲しいわけじゃないのに…」

 

 

…私が欲しいのは、貴方との時間なのに。

 

 

 

 

「うっ……!」

 

 

 

そんなことを考えていた時、不意に吐き気が込み上げてきた。

 

私は慌ててトイレに駆け込む。

 

「おぇ……ゲホッ……ゴホ……ハァ……はぁ……はぁ……はぁ……んく……ふぅ……なん……で…」

 

私は一通り吐き出した後、洗面所で口をゆすぎ、顔を水で洗い流す。

 

「……体調管理は、しっかりしてるはずなのに。」

 

 

 

…明日病院にいこう。

 

 

 

 

 

 

 

「…気持ち悪い……」

 

 

 

吐き気が治まることは……無かった。

 

 

 







【速報】南雲さん既婚者だった

【悲報】永野元帥閣下、娘を人質にされてる説浮上。

【朗報】横須賀の艦娘たち、性欲を向けられる事はなさそう。ついでに山本長官が一時着任した事により一週間の安寧を得る。(次回やるはず)





【速報】南雲さん、避妊何それ美味しいの?との事。





【速報】横須賀に南雲提督が到着。




……なんだこれ。




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一般提督の思惑



もしかしたら次回で更新が止まるかも知れません。

理由?いや〜私なんか死にそうなので。

一、二ヶ月音沙汰が無かったらこいつ死んだなと思ってください。


ではどうぞ。


 

 

 

日本海軍の連合艦隊司令長官たる俺、山本達秀は、1種間の有給を取った南雲さんに着任要請(強制)を受け、一時的に横須賀鎮守府に提督として着任した、したのだが……

 

 

「1週間の間、南雲秀一大将の代わりとして提督として着任した山本達秀だ。階級は大将、短い間だがよろしく頼む。」

 

『『『『…………』』』』

 

 

反応めっっっっっっっちゃ悪いやんけ!!!!

 

艦娘の皆俺の事怯えた目で見とるし!!

 

ま、まあエアロ。1週間で少しは仲良くなれると思うし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な ん て 思 っ て た 時 期 が 俺 に も あ り ま し た(最初の数時間だけ。)

 

 

 

 

最初にこの鎮守府やべぇと気付いたのは、執務室で大淀ちゃんと書類作業してた時だね。

 

 

「…ん?大淀、ここ計算間違ってないか」

 

そう言って俺は電卓を差し出す。すると彼女は顔を真っ青にして謝罪し始めた。

 

 

 

その時の会話がこちらである。

 

 

『も、申し訳御座いません!修正します、しますからなぐ、殴らないで下さい……!』(全力土下座しながら)

 

『いや殴らないが!?』

 

『ひっ…ご、ごめんなさい!な、何でもしますから、どうか"教育"だけは許してください…!』

 

『教育ってなんぞ??????』

 

……うん。

 

完全に何か勘違いされてますわコレ。

 

ちなみに先程聞いた話によると、"教育"とは南雲さんによる暴力と暴言の嵐が飛ぶこの鎮守府で最も思い罰だそうで、『ダメな失敗=教育』と教えられているらしい。

 

 

……この鎮守府真っ黒黒すけじゃねぇか、いやこの前の会議からしてだいぶ予想はついてたけども。

 

 

とりあえずこの鎮守府のやべぇ問題点をまとめよう。

 

①監視カメラが以上に多い(反逆防止?)

 

②少しでも逆らった艦娘は徹底的に"教育"を受けるらしい。

 

③艦娘達の目が死んでいること

 

④俺が近くに居ると、その付近にいる艦娘達が常に脅えていること。

 

⑤1番の問題点はここの艦娘達全員が首輪のようなものを付けている事。(中身は爆薬らしい。)

 

こんな感じだろうか。

 

これもう人権云々の話してる場合じゃなくね?

 

そして現在時刻ヒトマルサンマル。

 

そろそろお昼ご飯の時間なので食堂へ行こうとしたが、俺が行った場合の被害を鑑みて、鳳翔に執務室に持ってきてもらうことにした。

 

したのだが……

 

 

「お、お待たせ、しました、遅れて申し訳ございません……」

 

「いや、うん、それはいいんだが、大丈夫か?めっちゃ震えてるけど」

 

彼女まで怯え、震えながら料理を運んできた。

 

しかも料理を運んできた手には包帯が巻いてある。恐らく怪我をしているようだ。

 

これは流石におかしいと思い、理由を聞いてみた。

 

「……そ、その、以前南雲提督から受けた"教育"が、常に頭によぎってしまい、最近は包丁もあ、あまり握れなくなってきてしまって……」

 

「……」

 

どうしよう、想像以上に深刻すぎる問題が出てきたんだけど。

 

料理が趣味の鳳翔が包丁握れなくなるレベルとか相当だよそれ。

 

……と、その瞬間。

 

 

 

ガシャンッ!

 

 

机に置こうとしたお盆が、鳳翔の震える手から滑り落ちてしまった。

 

「ぁ……ご、ごめんなさい!今すぐ全て片付けますから、ど、どうかお許しください!お、お願いですから蹴らないで下さい!」

 

彼女は必死の形相を浮かべ、涙目になりながらも床に落ちたものを全て拾おうとしている。

 

しかし手が震え、思うように動かないのか、中々拾い上げることが出来ないでいた。

 

俺はその姿を見かねて、彼女に代わって全ての皿などを拾おうとした。

 

 

だが、俺が体を動かした瞬間……

 

「ひっ…ご、ごめんなさい!もう殴らないで 蹴らないで 抉らないで 斬らないで!あ、謝ります!謝りますから!

 

お盆ひっくり返してごめんなさい!

約立たずでごめんなさい!

無能でごめんなさい!

出来損ないでごめんなさい!

逆らってごめんなさい!

生まれてきてごめんなさい! だから、だから、だから、だから、」

 

彼女は頭を両手で守るように抱えならガタガタと体を震わせ、涙を流して謝罪の言葉を繰り返し始めた。

 

 

……

 

『お前は1週間あくまで提督としての業務に専念しろ、貴様の思想についてはとやかく言わんが、俺の"道具共"にいらん情を掛けるな。

 

あくまで道具として接し、やらかせば泣こうが喚こうが暴力で解決しろ。

 

それが嫌なら関わるな。』

 

……ここに来る前、南雲さんにそう釘を刺された。

 

つまり俺は、彼女のこの姿を見ても、何もするなということだ。

 

下手に俺が動けば、艦娘達の立場をより悪くしてしまう。

 

 

 

 

 

……だが……本当にこのまま何もしないでいいのか?

 

確かに俺が動くことで、より状況が悪化するかもしれない。

 

だけど、目の前にいる彼女は明らかに苦しんでいるじゃないか。

 

そこで何もしなかったら、きっと俺は後悔することになる。

 

……そんな気がした。

 

 

「……大丈夫だ、鳳翔。俺は君たちに暴力を振るうことなんて無い。

だから、落ち着いてくれ。」

 

「っ…………」

 

彼女を抱きしめ、耳元で優しく語りかける。

 

そして、震えが収まるまでずっと、背中をさすった。

 

暫くして、ようやく落ち着いた彼女が口を開いた。

 

「……と、取り乱してしまい、大変申し訳ありませんでした。

……あの、もう大丈夫なので、離していただけると……」

 

そう言って、まだ少し怯えが取れていない様子の鳳翔は俺から離れようとする。

 

「ああ、わかった……じゃあこの落ちてるやつ片付けてもらっても大丈夫かな。」

 

俺がそういうと、彼女は再び顔を青くしながら頭を下げてきた。

 

「も、もももももももももちろんです!! わ、私がやりますので、山本閣下はここでゆっくりしててください!!」

 

「お、おう。(閣下…?)

わかった、よろしく頼むわ。じゃあお言葉に甘えてゆっくりするとしよう。」

 

その後、彼女は俺の指示通りテキパキと散らばった食器類を集めてくれた。

 

そして集め終わった後、彼女は改めて深々とお辞儀をした。

 

「先程はお見苦しい所をお見せして、誠に申し訳御座いません。

今後はこのようなことがないよう、気をつけさせていただきます……」

 

「大丈夫、気にしてない。

…それより、少しやることが出来たから、部屋を出てくれるか?」

 

「……はい、承知致しました。」

 

そう言うと、彼女はまだ何か言いたげだったが、静かに執務室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

俺は鳳翔が出ていったのを確認して、電話を掛けた。

 

 

「……俺だ、山本だ。」

 

『……腹は決まったか?山本』

 

「……ああ、艦娘に人権が居るとか、綺麗事はやめにする。

 

…俺は、あの子達が暴力とかに怯える事が無く、普段は泣いたり笑ったりできる場所が良いんだ。

 

軍隊として南雲さんは正しいのかもしれない、合理的なのかもしれない。

 

だが、それは"俺の正しさ"に反する。

 

だから、南雲さんのやり方には従えない。

 

 

…俺は艦娘軽視派と徹底抗戦する。」

 

 

『……ほう、ならばどうする?

相手は海軍の中枢を牛耳る歴戦の将官達だぞ。』

 

「……まずは、あの人達の目的を探る。

…それにはお前の力が必要だ、手伝ってくれるか、親友。」

 

『……毎回お前の尻拭いをするこちらの身にもなってもらいたい物だな』

 

「まじですまん。

こんな状況じゃお前くらいしか頼れないんだよ。」

 

『……まぁいいだろう。

だが俺が動く以上、必ず成功させろよ』

 

「わかってるさ……ありがとう、"永野"」

 

 

俺はそう言って友との電話を切った。

 

 

 

 

 

「……さて、それじゃあ横須賀鎮守府に居るこの一週間の間に、少しでも情報を探りつつ艦娘のメンタルケアするか。」

 

 

 

 

 

そして、以下がメンタルケアしようと奮闘した会話である。

 

 

 

 

〜赤城〜

 

 

「おい赤城待て待て、何故部屋に入って最初に脱ごうとするの?」

 

『お、男の人はこういうの好きなんですよね?…わ、私が何でもしますから、他の子には手を出さないでください…』

 

「何言ってんの?????」

 

『わ、私ではご不満ですか?で、でも、自分で言うのもなんですけど、私男好きする身体だと思うんです!

あ、あの!本当に何でもしますから!

‪×××や×××は勿論、××××や×××××も出来ますから!

な、なのでどうか私だけでご勘弁下さい……他の子には手を出さないでいただけますか……』

 

「うん、分かったからその話もうやめてくれ。君に手を出す気ないしあと服着て」

 

 

 

 

 

 

〜加賀〜

 

 

「うん、なんで開幕土下座なの?

え何、なんかやらかしたの?」

 

『……赤城さんがお気に召さないと言う事なので、その…暴力…を振るう方がお好きなのかと思いまして……そ、それでしたら私の方が耐性がありますので、私だけでご勘弁頂きたく……』

 

「またこのパターン???

違うから、そんな趣味無いから。」

 

『あ、あの、ほんとに何でもして大丈夫ですから。

サンドバッグと思ってもらって大丈夫です、殴る蹴るや煙草の火、焼きごてぐらいなら耐えれますし、あ、飽きたら"そういう事"も出来ますので!』

 

「それ最早罰じゃなくてただの拷問じゃね???そんな趣味ないってこれさっきも言ったくね?」

 

 

 

他にも何人かに聞いたが、結果的にこの鎮守府の闇が深すぎて情報聞き出すとかメンタルケアするとか、そんな事が出来る状態じゃなかった。

 

 

 

 

そんなこんなで1週間はすぐに過ぎ、俺は大本営に帰り南雲さんが帰ってくる日になった。

 

 

 

……まぁ取り敢えず、現状把握は出来たし、後は俺の交渉の腕次第だな。

 

 

と、迎えの車の中でそんな事を考えていると、運転手から声をかけられた。

 

 

 

 

 

「……南雲閣下は、相当手強いですよ」

 

 

「……あんた、何者だ?」

 

 

「…"壁に耳あり障子に目あり"………山本閣下、あまり派手な動きは控えた方が宜しいかと」

 

…あらまぁ、ウチの諜報部は中々"鼻が利く"んだな。

 

 

「………って事は君は"鳩"という事かな。それとも"鷹"の爪?」

 

「……さあ、どうでしょう?」

 

そう言うと彼は、それ以上は何も言わず、静かに車を運転し続けた。

 

 

 

(………恐らくは"鷹に紛れて獲物を見てる鳩"って所だろうな)

 

 

 

「…どこか寄りますか?」

 

「いや、このまま真っ直ぐ大本営へ頼む」

 

「承知致しました。」

 

 

 

俺は車の中で、これから南雲さんが起こすであろう戦いに思考を巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝ってみせる、あの子達艦娘の…そして俺の未来の為に」

 

 

 

 

 

 

 

 






まぁこうなるよねって感じですね。

ところで途中で出てきた山本さんの親友って誰なんだ……?そしてどんな立ち位置なんだ……?(元帥閣下のことでは無いゾ)

そういえば菜々美ちゃんは2人"兄妹"らしいですね。

……おや?…おやおやおや?


ちなみに、赤城さん達が呼ばれて早々"そういう事"をしようとしたのは、南雲さんからの暴力による教育に加えて、以前のクソ提督から、あらすじに書いてある様な事を受けていたせいですね。



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"あ号"作戦


や、皆さんお元気?

私はご機嫌斜めなの!

何故って?

だって今回はお話的に全然暴力振るえ無いもん……まぁそんなことはさておき、わたくし復活!次回以降も更新致しますわよ!

ではどうぞ〜




 

 

 

 

 

 

 

鎮守府正門前に一台の車が止まった。

 

その中から出てくるのは、当然この鎮守府の提督たる南雲秀一大将だ。

 

 

「……お待ちしておりました、お帰りなさいませ、提督。」

 

 

出迎えたのは秘書艦としての任を与えられ、出迎える必要がある大淀である。

 

 

「…先週指示した東南アジアへの攻勢計画は何処まで進んでいる」

 

「…はい、現在は装備の最終メンテナンス等を行っている段階であり、明日には整備、作戦の最終確認が完了します。

…陸軍の方からも同様の報告が届いておりますので、予定通り明明後日には出撃が可能です」

 

 

大淀は、スタスタと執務室に向かって歩く南雲の後ろに着いていきながら、口頭でその様に報告した。

 

そして執務室に着くと、南雲は椅子に腰かけて言った。

 

「……そうか、ならば明日明後日は休養を摂るように、出撃予定の者に言っておけ」

 

「……承知しました。……………提督、その、失礼を承知でひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 

大淀はその言葉を聞くと少し躊躇うような仕草を見せながらも、南雲に対して質問を投げかけた。

 

 

「何だ」

 

南雲は特に気にする様子も無く聞き返した。

 

すると、大淀は恐る恐るという感じで口を開いた。

 

 

「…その、今回の作戦の目的は一体なんなのでしょう? 無論、今の日本では石油やゴムと言った資源が足りて居らず、それらの獲得の為に東南アジアへと進出するのは分かります。

 

しかし、深海棲艦の攻撃により、国として存続出来ているかどうかも怪しい東南アジアの国々に上陸するのは些か危険が過ぎるのではと………それに、先週の"出撃"によって、あまり士気も高いとは言えませんし……」

 

 

 

 

 

 

お前がそれを知る必要があるのか?

 

 

 

 

その言葉には有無を言わせぬ迫力があった。

 

「……ッ!申し訳ありません!」

 

 

大淀は慌てて謝罪をする。

 

「……今日はもう下がれ。」

 

南雲はそれだけ言うと、机の上に積まれた書類を手に取り仕事を始めた。

 

そんな南雲の様子を見た大淀は、

「…は、失礼します」とだけ言って、ドアへと向かう。

 

 

 

「……て、提督、報告し忘れていましたが、鳳翔さんが相談があると言っていました。……あの、それだけです。」

 

 

ドアの前で立ち止まり振り返った大淀は、最後に一言告げるとそのまま部屋を出て行った。

 

 

(……全く、どいつもこいつもいちいち反逆して面倒臭い。

 

"あいつら"は俺の言う事に逆らう事など無かったと言うのに。)

 

 

南雲は心の中で悪態をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

―――時刻は0130、南雲は明後日の攻勢計画の最終チェックをしていた。

 

 

 

そんな時、コンコン……と控えめなノックが執務室に響いた。

 

 

「……入れ」

 

南雲が短く返事を返すと、「失礼致します」という声と共に、鳳翔が部屋へと入ってきた。

 

 

「何用だ、こんな時間に」

 

 

「あ、あの、少し、相談がありまして……こ、こんな時間に訪ねるのは失礼かと思ったのですが、日中は提督もお忙しいでしょうし、この時間なら―」

 

「御託はいらん、さっさと要件を話せ」

 

 

鳳翔は南雲の不機嫌そうな口調にビクっと身体を震わせた。

 

そして、意を決するように南雲の目を見つめながら言った。

 

 

「あ、あの、提督はこの横須賀鎮守府に着任されてから、殆ど軍用の携行食やインスタント食品等しか口にしていませんよね…?」

 

「それがどうした」

 

確かに南雲は基本まともなものを口にしていない。

 

理由は簡単だ、彼は効率の鬼なので自分の食事時間など無駄だとしか思っておらず、出来るだけ早く食事を済ませるようにしているからだ。

 

その為、南雲は基本カロリバーを齧りながら書類とにらめっこするか、麺をすすりながら電卓と戯れるかのどちらかだ。

 

 

「で、でしたらコレを……と思いまして……」

 

 

そう言いわれて、南雲は鳳翔が部屋に入ってきてから初めて顔を上げた。

 

そこには、お盆に載せられた湯呑と急須、それと小さな鍋が載っていた。

 

 

「あの、私は役立たずですので、せめて食事くらいは…と」

 

 

『提督、軍務は体が資本ですから、どうかまともな食事をお取りください!

…私がいくらでも作りますから』

 

 

(…忌々しい…)

 

 

(何故だ…何故同じ声で…何故同じ姿で…なぜ同じようなことを言う…)

 

南雲にとってその言葉は、かつての甘く苦々しい過去を彷彿とさせた。

 

 

「………必要無い」

 

南雲は再び書類に目を落とすと、鳳翔の方を見ること無くそう答えた。

 

しかし、そんな南雲に対して、鳳翔は更に言葉を続けた。

 

 

「し、しかし、ちゃんとした食事を取らなければ、お身体に差し支え―」

 

「それ以上喋るな、失せろ。

でなければもう一度お前に"教育"を施す。」

 

南雲は鳳翔の言葉を遮って、氷河期もかくやと言った冷酷な視線を向けて冷たく言い放った。

 

その言葉を聞いた瞬間、鳳翔の顔が青ざめた。

 

「ッ!も、申し訳御座いません、出過ぎた真似でした!し、失礼致しました!」

 

鳳翔は慌てて頭を下げると、逃げるようにして部屋を出て行った。

 

 

(……目障りだ)

 

 

南雲は心の中で毒づく。

 

 

 

 

……そして、デスクに置かれたままの先程のお盆の存在に気づいた。

 

 

…中身は、『親子丼』…だった

 

 

「………!」

 

彼は目を見開いた。

 

 

(何故だ、あいつが知っている筈がない。

 

 

 

”俺の好物”なぞ、知っている方がおかしい。)

 

南雲は一瞬動揺したが、すぐに冷静になった。

 

「……フン、俺もまだ甘さを捨てきれて無いということか」

 

南雲は小さく呟くと、再び書類と向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の朝大淀が執務室へと来た時、お盆は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_

 

 

 

 

 

翌日、0800。

 

 

 

 

「失礼します」

 

大淀が執務室のドアを開けると、南雲は既に執務机に座っていた。

 

 

「……おはようございます、提督。本日の執務作業に参りました。」

 

 

「ああ、さっさと始めろ。」

 

 

(……そう言えば、提督はいつ寝ているのでしょうか…?寝ている姿を殆ど見た事がありませんが……)

 

「は、了解致しました。」

 

大淀はふと思った疑問を心の中に仕舞いつつ、南雲に敬礼をした。

 

そして、いつものように業務を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、0900。

 

 

コンコン…と執務室にノックが響いた

 

 

「……あの、提督、大和です、少し宜しいでしょうか」

 

「入れ」

 

「…失礼します」

 

ガチャリと音を立てて執務室に入ってきたのは、戦艦 大和だ。

 

「何用だ」

 

南雲は書類から目を離さずに言った。

 

「あ、あの、少しお話が……」

 

「手短にしろ」

 

南雲は相変わらず書類から目を逸らすことは無い。

 

「え、えっと、昨日配布されたこの攻勢計画書なのですが、私の見間違いでなければ、"フィリピンからニューギニア島、オーストラリア周辺の制海権を2週間で確保"と書いてあるのですが……な、何かの間違いですよね?」

 

大和は不安げに言った。

 

 

「全くもって事実だが、何か問題があるのか?」

 

南雲は淡々と答えた。

 

 

「そ、そんな!いくら何でも無茶が過ぎます!移動、補給、入渠の時間だけでも、単純計算で1週間は掛かります!

 

しかもそれは疲労や睡眠時間を無視し、途中で一度も深海棲艦と接敵せずに、常に最大戦速を維持し、補給や入渠も艦隊が移動出来る最低限まで絞っての理論値です!

 

確実に実現不可能な作戦です!

 

…いえ、こんなものは作戦とすら呼べる物では有りません!

私達に"纏めて沈め"と言って居るようなものです!

 

こんなもの、殆どかつての"特攻"と何ら変わりませんよ!?」

 

 

仲間の命が掛かっている大和は、必死の形相で叫んだ。

 

 

「そうか、それは良かったな」

 

 

しかし、南雲はそう言いながら書類から目を離さない。

 

 

(この人、何も聞いてない…っ!

こんな人が、海軍の大将で、次期の元帥……!?)

 

「……ッ!このっ…!」

 

そんなあまりの態度に、大和は思わず拳を握りしめると、彼に向けて振りかぶった。

 

 

しかし――

 

 

 

「がはッ……!」

 

 

大和の拳が南雲に到達するより、彼の膝蹴りが大和の顔面に突き刺さる方が速かった。

 

 

彼女は血を撒き散らしながら吹き飛んだ。

 

南雲は動けない大和に近寄ると、まるで虫ケラを踏み潰す時のように足を振り上げた。

 

 

「お前達はなぜ学習しない」

 

 

一撃、鳩尾を踏み抜き、大和が血を吐く。

 

 

「ぐぅ……っ」

 

「逆らう度に"教育"を受けると分かっていながら何故逆らう」

 

二撃、今度は蹴り上げ、彼女が壁まで吹き飛ばされてうつ伏せに倒れるなる。

 

「がはッ……!」

 

「それからお前達に拒否権など無い。

無理だろうが無茶だろうがやるのがお前たちの仕事だ。

いい加減に無駄な事をするのはやめろ。」

 

三撃目、大和の髪を引っ張り上げると、腹部に蹴りを叩き込む。

 

「がぁ……!」

 

大和はそのまま崩れ落ちた。

 

「……大淀、武蔵を呼べ、"コレ"を片付けさせる。」

 

「は、はい……」

 

 

南雲は大和に背を向けると、大淀に命令しながらデスクに戻った。

 

 

大淀は慌てて館内放送を流し、武蔵を呼び出した。

 

数分後、執務室に現れた武蔵は、床に転がっている大和を見て絶句した。

 

 

「こ、これは何だ……一体何があったと言うんだ、提督」

 

「………武蔵か、俺に逆らったツケを払わせただけだ、さっさとソレを回収しろ」

 

南雲はそれだけ言うと、再び書類に目を戻した。

 

「……ッ…了解、した」

 

武蔵は小さく呟くと、大和を抱えて執務室を出て行った。

 

 

 

「……大淀、攻勢計画の確認は何処まで進んだ」

 

「えっと、今確認中ですが……最終チェックが終われば、陸軍の方からの報告待ちです」

 

「そうか、急げ」

 

「りょ、了解しました」

 

 

南雲はそう言いつつ、既に次の資料へと目を移していた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、1200。

 

 

 

「…あの、提督、1200ですが…」

 

「…ああ、そんな時間か、大淀、もう上がっていいぞ、食事を取り休養しろ。」

 

南雲は時計を見ると、特に表情を変えること無く言った。

 

「は、はい、ありがとうございます。」

 

(いつもなら、『五分で食事を摂って戻って来い』とか『さっさと食え、時間が勿体ない。』『まだ食べ終わっていないのか、早くしろ。』等と言われるのですけど……珍しいですね。)

 

「あ、あの、提督」

 

「何だ」

 

「いえ、何でもありません、失礼致します。」

 

「ならとっとと行け」

 

「は、はい、失礼致します。」

 

ガチャリと音を立てて扉が閉まった。

 

 

 

大淀が執務室を出た瞬間、南雲の携帯に電話が掛かって来た。

 

 

相手は、『愚妹』と表示されている。

 

「……」

 

南雲は無言で通話ボタンを押し耳に当てた。

 

「……どうした」

 

 

『お兄様!山本さんは何時帰ってくるのですか!?もう半年も会っていません!お兄様からも山本さんに帰ってくるよう-』

 

「死ね愚妹が」

 

ブチッ!

 

南雲は最後まで聞くことも無く、電話を切った。

 

Prrrrrr…

 

Prrrrrr……

 

すると、またすぐに電話が掛かってきた。

 

「……要件言わねえならぶち殺すぞ」

 

『まぁまぁ、どうせお暇でしょう?別に良いでは無いですか、お兄様。』

 

「充分忙しいわ、この愚妹が」

 

南雲はイラついた様子で答えた。

 

 

『そんな事言って、どうせまた艦娘の子達を虐めているだけでしょう?あぁ、横須賀の艦娘の子達が可哀想です!!』

 

「どつき回すぞ」

 

『うふふ、そんな怖い事言わないでください、冗談です。……それよりも、先程お話しした件なのですが、そろそろ宜しいのでは?』

 

「……お前は何を言っているんだ?」

 

『山本さんの事です!』

 

「あぁ、あの芸人の?」

 

『 違 い ま す !! 日本海軍 連合艦隊司令長官山本達秀大将の事です!私の旦那様ですよ!』

 

「誰だそいつ、知らんな」

 

『知らない訳無いでしょうが!お兄様の同僚ですよ!

私の旦那様を半年も家に帰さないのはどういう事なのですか!?いい加減に帰してください!二人っきりでイチャイチャしたいんです!』

 

「知るかそんなもん」

 

南雲は興味なさそうに答えた。

 

『むぅ〜っ!!私とお兄様は兄妹なんですよ!?少しぐらい心配してくれても――』

 

「頼むから死んでくれ」

 

『ぶぅーっ、わかりました、それじゃあもう山本さんに直接聞きますよっ!いいんですね!?』

 

「勝手にしろ、お前と話していると脳が溶ける」

 

『ふん、せいぜい後悔していれば良いのです。……あっ、そうだ、言い忘れていましたけど、来月そちらに行きますからね?、よろしくお願いします♪』

 

「…………」

 

『では、そういう事で』

 

 

プツリッと音が鳴り、電話が切れた。

 

 

「愚妹が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、大淀は食堂に居た。

 

 

 

 

「そんな事を提督から言われるなんて……珍しい事もあるものですね。」

 

大淀の向かいで食事をしている翔鶴が言った。

 

「ええ、正直私には提督が何をしたいのか分かりません。」

 

大淀はそう言いながら、味噌汁を飲んだ。

 

「…それよりも大淀さん、先程大和さんがドックに運ばれていましたが……やはり先日配布された攻勢計画書について抗議しに行かれたのでしょうか?」

 

「…ええ、抗議しても相手にされなかった大和さんが激昂して、殴りかかろうとした所を返り討ちにされました。」

 

「…そう…ですか…」

 

大淀の言葉を聞き、翔鶴は沈痛そうな表情を浮かべて俯いた。

 

 

「…提督は、本当にあの作戦を実施するつもりなのですか?」

 

「はい、今日処理した書類を見る限りでは、確定と言っていいと思います。」

 

翔鶴は、その言葉を聞いてさらに暗い顔をした。

 

 

「……現場の意見や意思は無視、されど現場に無茶な要求を課し、使い捨てにする事で功績を挙げようとする………っ…"嘗て"のあの人でなしの司令官達と…何も変わらないでは無いですか……!」

 

「しょ、翔鶴姉、お、落ち着いて」

 

瑞鶴が隣に座っている翔鶴の肩に手を置いた。

 

 

「だって瑞鶴、貴女もあの計画書を見たでしょう!?あんな無謀な海戦計画に加えて、陸軍の人達は深海棲艦が屯しているかもしれない場所に強襲上陸を敢行するのよ!?

 

こんなの……こんなの……結局"あの時"と何も変わらないじゃないッ!

 

……もう私は、この国の人に死んで欲しくない……」

 

「翔鶴、姉」

 

 

翔鶴の目からは涙が流れ落ちていた。

 

それは、かつての戦争の記憶を思い出している為なのか、あるいは別の理由があるのか、誰にも分からなかった。

 

 

 

「……ですが…もし仮に、私達が提督に反対したとして、どうなるかは目に見えています。

……それこそ大和さんの二の舞になるだけでしょう。」

 

そんな中、大淀は淡々と事実だけを述べた。

 

「だからといって、このまま黙って見ていろと言うのですか!?」

 

「……もちろんそうは思いませんよ……しかし、逆にお聞きしますが何か有効な手立てはお有りですか?それからこの艦隊に何か不備があった場合、一番最初に"教育"を受けるのは私や大和さん達であることを忘れないで頂けると幸いです、私も痛みを感じない訳ではありませんので……」

 

 

大淀からハイライトを消した瞳で見つめながらそう言われ、翔鶴は言葉を詰まらせた。

 

「……ごめんなさい、少し熱くなり過ぎてしまいました」

 

「…いえ、気にしないで下さい。」

 

「……一つ気になった事があるのですけど、どうしてあの人は、あんな作戦を強行しようとしているのでしょう?

確かに南方の資源地帯を抑えれば、深海棲艦との戦いで有利に立てるかもしれませんが、単に私たちが一度制海権を取って終わり…という単純な話でも無いですし、余りにもリスクが大き過ぎます……」

 

 

翔鶴は疑問に思った事を大淀に聞いた。

 

「……詳しくは分かりませんが……提督は何か今以上に大きな事を先に見据えている気がします」

 

 

その問いに対し、大淀はそう答えた。

 

「大きな事……ですか?」

 

「はい、具体的には全く分かりませんが……でも、そんな気がするんです」

 

 

「……まぁ何はともあれ、次の作戦を成功させるしか私達が生き残る道はないってことよね……さっさと食べちゃいましょう」

 

瑞鶴はそう言うと箸を手に取り、食事を再開した。

 

翔鶴と大淀も、それ以上は何も言わずにただひたすら目の前にある食事を胃の中に詰め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_

 

 

 

 

 

 

そして、作戦日当日、作戦に従軍する艦娘全員は一度講堂に集められた。

 

 

「総員、傾注!」

 

大淀の号令で皆が一斉に整列し、直立不動の姿勢をとった。

 

相対するは、今鎮守府の提督たる南雲秀一大将。

 

全艦に一度敬礼を返すと、南雲は話し始めた。

 

 

「……では、これより東南アジア及び南方地域掌握作戦_通称"あ号"作戦を開始する。

 

開始前の最終確認であるが、攻略対象は、『旧』フィリピン、ベトナム、カンボジア、タイ、ブルネイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、パプアニューギニア、そしてオーストラリアだ。

 

同地周辺の制海権を2週間程で確保し、それぞれの地域に強襲上陸を敢行、現地の状況を確認しつつ速やかに制圧を行う。

 

各地を制圧後は本土から駐留部隊が移送され、同地を日本領とする。

 

以上だ、質問は5つまで許す」

 

 

「……ではまず、同地に現地人が臨時政府やそれに準ずる組織が存在する場合はどうするべきでしょうか、また現地人の保護はいかが致しましょう」

 

 

赤城が挙手をして発言した。

 

 

「敵対する組織であれば潰せ、それから陸軍にも言ってあるが、現地人が協力的でない場合は殺せ、そうでなくとも特に保護する必要は無い」

 

「……は…?」

 

その言葉を聞き、赤城の顔には明らかな動揺が見られた。

 

いや、赤城だけではなく、殆どの艦娘に動揺が広がった。

 

「……そ、それはいくらなんでも……」

 

「なにか作戦に不満があるか?」

 

「……い、いえ……」

 

「他には?」

 

 

「……その、テイトク、強襲上陸を敢行する際、砲撃支援等はするべきデスカ……?」

 

金剛は恐る恐ると言った様子で南雲に問いかけた。

 

「当然だ、現地に反抗勢力がいた場合は、上陸敢行前に対地砲撃、爆撃を、陸軍の上陸後は近接航空支援を行え。」

 

「……了解シマシタ」

 

「他に質問は、残り三つだ」

 

 

「……では提督、補給、入渠等はどの程度の頻度で行なえば宜しいですか?それから、今回の作戦はかなり長期のものになると予想されます。

その為、艦隊の指揮系統の統一化が必要と考えます。

提督は鎮守府に在留されるのですか?

それとも陸軍の方と共に揚陸艦に搭乗し、直接指揮を取られるのですか?」

 

加賀が静かに手を上げて言った。

 

 

「…今回は揚陸艦に乗り込み直接指揮を執る、上陸の事もあるからな。

 

補給は燃料、弾薬が1割を切ってからにしろ。艦載機の補充は先頭の度に許す。

 

入渠は空母と潜水艦が中破、戦艦、重巡、軽巡は大破、駆逐は航行不能直前の場合にのみ許す」

 

「……え…」

 

南雲の言葉を聞いた瞬間、蒼龍は声を漏らした。

 

そしてそれは、他の艦娘達も同様だった。

 

(補給は節約だからまだ分かりますけど……入渠のハードルが高過ぎるよ……!)

 

そのあまりにも無慈悲な要求に対し、蒼龍は顔色を青くし、その他の艦娘も絶句していた。

 

「……ッ!!」

 

「なんだ?言いたいことがあるなら聞いてやる」

 

「……いえ、何でも、有りません…」

 

 

「そうか、では想定より質問時間が長くなった為、以上とする。

 

三十分後に出撃だ、確認を怠るなよ。」

 

南雲は最後にそう言うと、部屋を出ていった。

 

 

 

そのあと、南雲が退出した後も講堂内には何とも言えない空気が流れたままだった。

 

しかし、何もしない訳には行かず、それぞれ第一、第二、第三、第四、第五、第六、第七艦隊と、それぞれの旗艦が講堂に集められ、出撃前の最終打ち合わせが行われた。

 

 

ちなみに今回出撃する戦力は、戦艦8、空母6、水母2、航巡4、雷巡2、重巡12、軽巡12、駆逐34、潜水艦4、計84隻。

 

これは横須賀鎮守府に所属する主力級艦娘の約7割であり、通常六隻で一艦隊を組むのだが、南雲は十二隻で一艦隊とする連合艦隊を七艦隊編成し、同時に出撃、指揮を執ると言う、一般的な提督が聞いたらぶっ倒れそうな作戦を実行しようとしているのだ。

 

 

 

そして、出撃時刻。

 

 

『全艦出撃、作戦を完遂せよ』

 

南雲の号令の元、各艦隊は順次出港していった。

 

 

 

 

かくして史上最大級規模の作戦、"あ号"作戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、軍病院VIP病室。

 

 

 

 

「元帥閣下、緊急報告に参りました。」

 

「……すまない高雄君、今は紙飛行機を作るのに忙しくてね」

 

「…元帥閣下、現実逃避したいお気持ちは十分にわかるのですが、南雲大将閣下から報告があり……」

 

「……分かった、聞こう」

 

「はっ、それでは……、南雲閣下が現在進めている南方方面作戦の事なのですが…」

 

「ああ、例の"あ号"作戦だろう?インドシナ半島、フィリピンを抑えるって言ってたね。」

 

「はい、それなのですが……閣下が今あげた三地域だけではなく、東南アジア全域に加えニューギニア島、オーストラリア周辺まで作戦範囲を広げるとの事です…」

 

「……」

 

永野は無言で紙飛行機を折り始めた。

 

「……」

 

「あの……元帥閣下……?」

 

「……ねぇ高雄君、私元帥やめていいと思う?ていうか辞めたいんだが」

 

「えっ…いや、あの、駄目です…」

 

 

「…何だよもおぉぉぉぉ!!またかよおぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

ウッ(胃に穴が3つくらい開く音)」

 

 

「元帥閣下!?閣下!?しっかりなさってください!愛宕!早くナースコール!」

 

 

 

永野の叫び声が病室に響いた後、続いてナースコールも鳴り響いた。

 

 

 

 

ちなみに入院期間は3週間伸びた。

 

 






もう辞めて!元帥閣下のライフはもうゼロよ!


さて、何で鳳翔さんあんな事されたのに構うの?…って思うかも知れませんが、……これは私の個人的な見解というか解釈なんですが…艦娘って割と頑丈と言うか、意外とそういう耐性が有りそう…って思ったのよね。

確かに南雲さんの暴力って効いてるんですよ、痛みはしっかり感じますし、気絶だってします。

続けば恐怖が芽生えて怯えるんだけども、何も無い日が続けば自然と緩和されていきます。


そもそも軍隊とは暴力その物でありますし、彼女たちも殴れるくらい当たり前だと思っています(まぁ砲弾が飛び交う戦場に比べたら…ね?)

っていうかこんだけ言っといてなんですけど、一番の原因は前任提督がマジのクソ野郎(食事なんてほぼ有って無いようなものだったし、補給は常に出撃できるギリギリ、睡眠時間は殆ど無し、パワハラやセクハラは当たり前、それどころかクソ提督仲間を呼び夜の相手をさせる、そして巫山戯た資材の使い方、総合的に無能な指揮官である)だったせいですね。


…え?そいつはどうなったかって?……世の中知らない方がいいことも有るんだよ?


まぁそれはさておき、そんなクソ指揮官とうちの南雲さんを比べると、確かに前任以上の苛烈な暴力行為はありますが、飯や補給は基本的にありますし、睡眠時間も6時間はある上に、海軍学校出身ですから規律には従いますし(今は作る側だけど)艦隊運用の知識も有る。

指揮官としてはこの世界最高クラスに有能ですから……うん、比べるまでもありませんね。

以上、彼女たちもマシな地獄を維持するのに意外と気を使ってるということでした。


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幕間 夜叉と呼ばれた男



どうも、あ号作戦の続きは次回からだよと、湯タンポは謝罪の想いを伝えながら次回の予告をします。(某ミサカ風)


さ〜て、今回の話はこの世界のアメ公から情報を出させてもらいますわ!

じゃ、どうぞなり。




 

 

 

 

2041年 4月26日

 

 

アメリカ・ワシントンD.C

 

ホワイトハウス。

 

 

 

「大統領閣下、昨日 日本の横須賀基地から計84隻の艦娘の大艦隊、そして強襲揚陸艦2隻、原子力空母1隻を含む日本海軍の遠征艦隊が東南アジア方面へ出航しているのを確認しました」

 

 

 

唐突だが、日本は現在アジア唯一の超大国である。

 

その理由は、今や軍事力の象徴とも言って良い"艦娘"の恐るべき練度と配備数に加え、経済力や通常兵力に置いてもアメリカと遜色ないレベルにあるからだ。

 

特にその象徴とも言える空母機動部隊に関しては、アメリカ側を遥かに上回る練度であり、名実ともに今の日本は世界最強と言っていいだろう。

 

だがしかし、そこまで持ってしても日本はアメリカにとって恐るるに足りない。

 

何故ならば日本は資源に乏しく、アメリカから石油を買うしかない上、アメリカは現在石油の価格を上げ、さらに輸出量も制限している為、日本は世界最強である筈の連合艦隊を満足に運用できずにあるからだ。(あとついでに食料も)

 

なので、この報告はアメリカにとって余り良いものでは無い。

 

東南アジアと言う資源の宝庫を押さえられれば、アメリカのアドバンテージが少なくなってしまうからだ。

 

「東南アジア方面…か、狙いはやはり石油などの資源だろうな。」

 

「ええ、……介入は、なされないのですか?」

 

アメリカお得意の工作はしないのかと問いかけた補佐官に対し、大統領は首を横に振る。

 

「いや、今日本と揉め事を起こすのは得策では無いし、何より今のアメリカにはそこまでの余裕は無い。」

 

 

もし戦争になれば、勝てたとしても相当な痛手となる事は目に見えている。

 

それ故に日本との戦争など、考えたくも無いというのが本音だ。

 

だが、それでも尚、アメリカの上層部の中には日本への介入を主張する者がいた。

 

それは、日本という国がこの先必ず脅威となり得る存在になる事を予見した者達だった。

 

 

彼らは言う。

 

このまま手をこまねいて見ているだけではいずれ日本は必ず牙を剥き、我々を脅かす存在になると。

 

その時になって後悔するくらいなら、いっそここで潰しておいた方が良いのではないかと。

 

そんな彼らの意見に対して、今の大統領の答えは常にNOであった。

 

何故ならば…と、大統領こと ルーカス・F・シメイスは思う。

 

『そう言って日本に干渉しまくった結果何が起きた?数十年前には第二次大戦や太平洋で狂犬のように牙を剥き、数年前にはたった一人の日本海軍の将校によって全面戦争が起きるところだった。』

 

彼は知っているのだ。

 

あの国と敵対するというあまりに高すぎるリスクを。

 

 

「…ところでウィリアム君、君は"夜叉"という言葉を知っているかね?」

 

突然話を振られたウィリアムと呼ばれた補佐官は一瞬戸惑うような表情を浮かべるが、すぐに答える。

 

「"ヤシャ"というのは確か東洋に伝わる鬼神の事ですよね?それが何か……」

 

「ああ、そうだ。そして、日本海軍には"夜叉"と呼ばれた男がいる」

 

「…なにかの比喩なのですか?」

 

「……いいや比喩じゃない、その男は"夜叉"と呼ばれるに値する話が幾つもある。

例えば10年前、初めて深海棲艦が世界に侵攻してきた時、数百隻の深海棲艦を人の身で屠ったとか……。

また昨年のインド洋海戦では、戦闘機に乗り単騎で敵艦隊の中枢まで突入し、旗艦を沈めて味方を救ったという話がある。他にも数え切れない程の逸話を持つまさに生きた伝説だよ」

 

「ハハッ、大統領閣下も冗談がお上手ですね」

 

ウィリアムは乾いた笑い声をあげる。

 

無理もない。普通に考えれば荒唐無稽もいい所の話なのだから。

 

しかし、それを聞いていた他の高官達は皆一様に顔を青ざめさせていた。

 

そしてその反応を見て、ウィリアムは決して冗談ではない事に気付く。

 

「……仮に実在したとして、その男は確かにひとりで核ミサイルに等しい脅威では有りますが……軍人であるならば、軍に鎖を付けられているのでは?」

 

「…それがそうでも無い。

当時の我が国が今と似たような危機感を抱き、CIAによって工作を日本海軍に施した。

 

主に軍上層部が腐る様にな……だが、CIAは日本海軍の上層部を腐らせ過ぎてしまった。

 

……ウィリアム君、君は"艦娘"についてどう思っている?」

 

急に投げかけられた質問に戸惑いながらも、ウィリアムはなんとか言葉を絞り出す。

 

「どうも何も……やはりかつての大戦で祖国を勝利に導いた軍艦達の生まれ変わりと言っても良い、我が国の為に尽力してくれる素晴らしい存在だとは思います」

 

「…そうだな、少なくとも私を含め今のアメリカ国民の大半はそう考えているだろう」

 

だがな、と大統領は続ける。

 

「元々腐りかけの果実のようだった日本海軍の上層部は、CIAの手によって見事完全に腐り、彼女達の外見に目を付け始めた。

つまり、兵器としてではなく、"女"としての価値を見出し始めた。」

 

そこでようやくウィリアムは大統領が言わんとしている事を理解する。

 

「まさか…!?」

 

「……そう、奴らは艦娘に手を出した。それも考えうる最悪の形でな。」

 

「なっ……!!?」

 

「……最初は自分たちの基地(鎮守府の事)に所属する艦娘に秘書艦として"接待"させただけだったらしい。

だが、それに味をしめた海軍上層部の連中はあろう事か全国の基地に存在する艦娘を少しずつ引き抜き、慰安用の娼館のような物を作ったんだ。自分達が使う為に、な。」

 

ウィリアムは言葉が出なかった。

 

あまりにも馬鹿げた話だと思ったからだ。

 

「無論そんな事が露呈すれば大問題だ。国内外からの批判も避けられない。

だから、表向きは海軍の士気高揚の為の施設という名目で作った訳だが、

当時の軍のトップである大将や中将達ですら、自分のお気に入りの艦娘の部屋にこっそり通っている始末だ。」

 

「……なんと愚かな事を」

 

「ああ、全くだ。

 

…だが、彼らはそれ以上の愚行を犯した。

当時、大佐として1つの基地を治めていた"夜叉"の基地からも艦娘を引き抜いていたのだ。

 

…それが、とある事件を引き起こした。

 

…それこそが六年前の『血と粛清のクリスマス』だ。」

 

 

 

『血と粛清のクリスマス』

 

それは、日本海軍の将官101名、佐官127名、尉官92名がたった2日の間に殺害された、他に類を見ない凄惨極まる虐殺事件の事であった。

 

 

「"接待"を受けた、または関与したとされる人間が皆殺しにされた。

 

特に将官に至っては元帥以外死亡。

 

そしてどこから情報が漏れたのか、当時日本海軍に工作を行っていたCIA工作員は全員が凄惨な死体として後に発見されたよ。

明らかに拷問を受けた跡がいくつもあったのだ。」

 

ウィリアムは背筋が凍るような感覚を覚えた。

 

「……もしや、そんな男が今回の遠征艦隊を率いていると…そう言いたいのですか?」

 

「ああ、私はそう睨んでいる。

そんな大艦隊を率いる事が出来るのは奴だけだ。

だから日本への介入はしない。いや、介入する事ができないのだ。

もし介入してしまえば、その時は日本とアメリカで全面戦争が勃発する事になるからな。」

 

そう言って大統領は手元のマグカップに残ったコーヒーを飲み干す。

 

 

「…さて、今は有り得ない事を論じるよりも先に解決しなければいけない問題がある。

まずは目の前の敵だ。

深海棲艦共を一刻も早く叩き潰し、再びこの国に平和を取り戻すぞ!」

 

「…ハッ!!」

 

ウィリアムは力強く敬礼し、執務室を後にした。

 

 

「……"夜叉"と言うより、悪魔だろう、あの男は。

 

今の元帥であるMr.naganoには頑張って悪魔に鎖をつけておいて欲しいものだ」

 

 

誰も居なくなった部屋で、ルーカス・F・シメイスは独りごちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……軍病院にて。

 

 

「高雄君、愛宕君、私は暇すぎて死にそうだ。」

 

「…絶対安静と言われているのですから仕方ありませんよ、元帥閣下」

 

「そうですよ〜、病人は大人しく寝ていてください〜」

 

「しかし、退屈なんだ。

仕事も出来ない、テレビも見れない、ラジオも聞けない。本も読み飽きてしまった。紙飛行機を折るのにも飽きた。一体何をして暇を潰せば……そうだ、しりとりでもしないかね?」

 

「…良いですけど、暇つぶしになります?」

 

「大丈夫だよ、きっと楽しいはずさ(暇人の極地)」

 

「じゃあ、私から始めますね。利尻昆布」(高雄)

 

「いきなり尖ってるね…、仏陀」(元帥)

 

「じゃあ〜、男爵芋〜」(愛宕)

 

「モルモット」(高雄)

 

「うん、飽きた。」

 

「だから言ったでは無いですか……」

 

ハハハ……すまないね、と申し訳なさそうに笑う元帥を見て、2人は呆れたように溜息をつく。

 

 

「……本当にすまない」

 

「どうしたのですか?急に……」

 

いつも通りの軽い調子とは打って変わり、真面目な声色で言う彼に少し驚く。

 

「…私では、かつての大馬鹿者達や南雲君の大変革の魔の手から守れるのは、君たち二人が限界だった。

……本来は元帥なんて立場にいるのだから、もっと君達艦娘の事を庇うことも出来た筈なんだ……だが私は自分の立場の保身を優先し、見て見ぬふりをしていた大馬鹿者だった。

……本当にすまなかったと思っている」

 

元帥はベッドの上で頭を下げる。

 

 

「……そんな悲しい事を仰らないでないでください、閣下。

当時のあの状況で私たち二人を匿うのがどれだけ大変な事だったか、それが分からない程私たちは馬鹿ではありません」

 

「そうですよ〜!それに、閣下はちゃんと私たちを守ってくれました。

…だから、もう謝るのは無しにしましょう?」

 

「……ありがとう」

 

そう呟いた彼の表情は、未だに晴れないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









え?元帥閣下は半ばギャグ要員じゃ無かったのかって?

まぁたまにはシリアス風な終わりをいいかなって……。



因みにこの世界の日本とアメリカの比はこんな感じです。


日本

GDP 約1200兆円

人口約一億人

軍事費70兆円

艦娘の配備数は約1300隻

原子力空母6隻、軽空母4隻、強襲揚陸艦6隻、戦艦8隻などを主軸とする計200隻の主要艦艇に加え、航空機や戦闘車両なども充実しており、現在総合世界最強と言われる所以である。(まぁそもそもまともな国力をもってくる国が大してないけど。)


一方アメリカ。

GDP 1300兆円

人口約二億人

軍事費約80兆円

艦娘の配備数は約920隻

原子力空母12隻、軽空母16隻、強襲揚陸艦20隻、戦艦14隻を主軸とする計300隻の主要艦艇など、かつて月刊正規空母とすら言われたそのチート工業力をいかんなく発揮し、通常兵力と生産力等においては日本を圧倒するほどであるが(でも作中では遜色ないって言ってたような……)日本は艦娘と通常の艦艇乗り(航空要員も)がキチガイじみた練度を誇っており、アメリカは長期戦になれば勝てるが、短期決戦ではぼろ負けする未来しかない。


あとこの作品の深海棲艦は、ミサイル系統がめっちゃ効きづらく、戦艦(本物)の砲撃や無誘導爆弾、魚雷などはしっかり効きます。


なので日本は大和型を再び作ろうとしてるとか居ないとか……。


それではまたの。


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