幼馴染が主人公っぽかったので俺はライバル枠に収まることにする (アウグスティン)
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番外編
VSグルーシャ1


遅筆すぎて本編終了がいつになるか分からないので。
時系列としてはゲームのストーリー終了後になります。


 連日雪続きのナッペ山にも晴れの日はある。今日はそんな珍しい日だった。

 積もった雪に反射する眩しい日光に目を細めつつ、グルーシャは仕事場であるジムを目指していた。

 

 ザクザクと夜のうちに積もった雪に足跡が残る。彼の後ろでは楽しそうにアルクジラが駆け回り、足跡を消しては遊んでいた。マフラーで緩んだ口元を隠すように持ち上げる。

 

 しばらく歩けば全面ガラス張りのとんでもない建造物、ナッペ山ジムが見えてきた。

 

「ああグルーシャさん、おはようございます。お客さんが来てますよ」

 

 ジムへと続く道の雪掻きをしていたスタッフの一人が、持っていたシャベルを雪に刺し、言う。

 

「客? こんな朝早くから誰が来てるんだ」

 

 グルーシャは不思議に思った。覚えている限りでは来客の予定はないはずである。

 抜き打ちでポケモンリーグの人間が来ているにしても、さすがにジムの営業開始前から訪れるようなことはしないだろう。

 

「ほら、あのチャンピオンランクの子ですよ」

 

 なるほど。と合点がいく。

 グルーシャの頭に思い浮かんだのは一人の子供の顔だ。

 先日最強のジムリーダーである彼に勝利し、そしてポケモンリーグをも踏破して最年少チャンピオンランクの肩書を勝ち取った子。

『またおいで』などと言ったのはグルーシャであるが、まさかこんな時間から来るとは思ってもみなかった。

 

 あの子もたいがいに変わり者なのかな。

 と、見知った他のチャンピオンランクの顔が脳裏をよぎる。

 あまりにもキャラが濃い。

 

 ともあれグルーシャにとっては大切な、数少ない知人でもある。

 少し気分を高揚させつつ自動ドアを潜った。

 

「ひゃー、手がちべたい! こんな体が冷たくって寒くないのかー、うりうりうり〜」

 

 危うくそのまま帰るところだった。

 冷静に考えてみれば、時間や都合を無視していきなり現れるようなチャンピオンランクの来客だ。こいつに決まっている。

 頭に手を当ててため息を吐き、ユキワラシに頬ずりしているその男に声をかけた。

 

「何しに来たんだ?」

「あれ、グルーシャ? こんなとこで奇遇だな。どうしたんだ」

「ここはぼくのジムだし、用があって来たのはあんたの方だろ」

 

 あいも変わらずのとぼけた様子で客人、レトは首を傾げていた。

 

「オモダカさんの使いで来たんじゃないか?」

 

 特にそんな話は聞いていないが、可能性として一番高いのはこれだろう。

 意外、でもないがレト自体はナッペ山で度々目撃されているらしい。だがそれは野生のポケモンや、雪山すべりが目的であり、彼がジムへと訪れるときは大方リーグ関係の仕事が理由だった。

 なので今回の訪問もそういったものなのだろう、グルーシャはそう考えたが、口を開いたレトは完全に想定外な訳を語った。

 

「そうだそうだ。お茶しにきたんだった。お土産と土産話持ってきたよ」

「は?」

 

 どこから突っ込めばいいのだろうか。

 まずそもそも一緒にお茶するような仲ではないし、よしんばそうだとして事前連絡無しで来られても困る。

 

「仕事あるんだけど」

「手伝うよ。何するんだ、挑戦者ぶっ倒せばいい?」

「違うから。データを送るからこれ倒してきてくれる」

「任せろ! 即行で終わらせてくるよ」

 

 だがその手のことを言われて、引き下がるような人間ではないことをグルーシャは知っている。

 諦めて面倒をレトに押し付けることにした。

 

 ■◆■

 

 ジムリーダーの仕事は多岐にわたる。その中で最も有名なのはポケモンリーグへ挑む者の壁として、その腕を試す関門のような役割だろう。

 しかし実際、最難関のジムとして知られるナッペ山ジムへ訪れる挑戦者はそう多くない。

 したがってグルーシャの主な業務は治安維持。一般トレーナーの手に余るポケモン関連の事件事故を解決することであった。

 

 そんなわけでレトへテラスタルにより暴走したポケモンのうち、反応の強かったいくつかへの対処を押し付けたことで手持ち無沙汰になるグルーシャ。

 急ぎでもなく、そう数も多くない事務仕事に手をつける。

 

 正直なところ、グルーシャはレトが苦手だった。

 あのマイペースな性格はもとより、他二人と異なってジムリーダーやポケモンリーグに興味を示している点がグルーシャには都合が悪い。

 実力もあり、現チャンピオンであるオモダカの覚えもいい。リーグは常に人手不足なのでレトが希望すれば、すぐに採用されるだろう。

 

 そうなったらあるいは、立て続けに三度敗北したパルデアリーグ最強のジムリーダーである自身が降ろされ、代わりにレトが立てられる、などということになるかもしれない。

 

 順当に考えればジムリーダー、あるいは四天王に据えられるとして、人の二倍位リーグの仕事をしているとある社畜男の業務を引き継ぐという形になるのだろうが、ジムリーダーであることを心の拠り所としているグルーシャには、十分恐ろしい存在だった。

 

 ■◆■

 

「ただいまー。次何すればいい」

 

 あっけらかんと、戻ってきたレトはそう言った。

 時間を確認する。想定していたよりも遥かに早い帰りだった。

 スマホロトムを確認すると、レトに渡したテラスタルポケモンの反応はすべて消えている。まざまざと見せつけられる実力差に眉をひそめた。

 

「もう任せられるものはないよ」

「じゃあ終わるまで待ってるから、手が空いたら呼んで」

 

 そう告げると、出しっぱなしだったグルーシャのアルクジラを構い始めるレト。

 懐いたアルクジラに複雑な感情を抱きながら、仕事を再開する。

 

「ポット借りていい?」「いいよ」「お茶置いとくね」「ありがとう」「アルクジラ餌付けしていい?」「ダメ」

 

 そうしてしばらく、元々多くもない業務が尽きた。

 手を止めて机を片付け、レトへ呼びかける。

 

「ほら、終わったよレト」

「ようし。それじゃ話そっか。グルーシャも興味あると思うよ」

「へえ。こおりタイプの面白いポケモンでも見つけた?」

「……、…………。アレの話はまた今度ね」

「アレ?」

「やったのは俺じゃないから」

「あんた何やらかしたんだ……」

「俺じゃないから。言い訳じゃなくてほんとに俺じゃないから。ちゃんと止めたから。ともかくこれは置いておこう」

 

 とりあえずオモダカさんには報告しておこう。最低限のホウレンソウが出来るグルーシャはそう決めた。

 

 ■◆■

 

 レトが話し始めたのは確かに興味のある話題だった。

 友人であるあの子の話だ。

 あの子はどうやらポケモンジムに挑む傍ら、他にも様々なことをやっていたらしい。そのうちの一つについて、レトは語った。

 

 パルデアの各地に生息しているヌシと呼ばれる強力なポケモンたち、それらを打ち倒し、その力の源であるひでんスパイスを集めたのだと。

 

「あの子、そんなことしてたんだ」

「すごいよね。それで集めたひでんスパイスで見事! マフィティフは復活! ハッピーエンドだ」

 

 なるほど、面白い話だった。

 後遺症が残るほどの大怪我をしたが、みんなで頑張ってそれを治療する。

 未だ後遺症を引きずるグルーシャ、優しい彼はモヤモヤした気持ちを抱えながらも、自分とは異なり乗り越えることができた冒険譚を素直に讃える。

 

「で、はいこれお土産のひでんスパイス」

 

 コトン。とピンク色の粉が入った小瓶が机に置かれる。

 

「人間が食べても大丈夫なのはあいつらが検証してるからさ。スキー? スノボー? スケート? 忘れたけど何かで怪我したんでしょ。あげる」

「え?」

「治るといいね」

 

 予想外の話の流れに困惑するグルーシャ。

 

「どうしてこれをぼくに?」

 

 思わず口をついて出たのはそんな言葉だった。

 他の目的でもあるのか、と。

 

「あれ、要らなかった? やっぱ自生してるスパイスとか口に入れたくない?」

「……。人生で一番無駄な数秒だった」

「そこまで言う!?」

 

 自分に擦り寄ってくる理由なんて、いくらでも思い浮かぶ。

 だがその尽くが、レトにとっては的はずれなものなのだろう。

 

 仕事で数度会った。チャレンジャーとして、リーグの使いとして、様々な立場でやって来るレトを迎えた。曲がりなりにも有名人であるレトの話も何度か耳にした。

 

 プライベートだとこういう人間なのか。

 

「そんな嫌だった、これ?!」

「ありがたく頂くよ、レト」

「……おー」

 

 小瓶を手に取る。

 

「じゃあ俺はそろそろ行くから。またスパイス見つけたら持ってくるよ」

「今度来るときは先に連絡を入れてほしいな。ぼくも何か用意しておくから」

「あー、忘れてた。次は気をつける」

 

 ぐいっとお茶を飲み干し、レトは部屋を出ていった。

 小瓶の蓋を開けてみる。指先に少し取ってスパイスを甜めた。

 

「あま」



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VSナンジャモ1

注意
展開を全部書いてると膨大になってしまうのでコメントが挟まる事にターンが飛んでいます。なんかいい感じに戦ってるイメージをお願いします。
え? ポケカやったことないからイメージ湧かない?
じゃあやりましょうか。


「皆の者〜、準備はいーい? あなたの目玉をエレキネット! 何者(なにもん)なんじゃ? ナンジャモです! おはこんハロチャオー! ドンナモンジャTVの時っ間だぞ〜」

 

 ・おはこんハロチャオー

 ・キター! 

 ・生きがい

 ・こんばんは~

 

「今日は告知した通りコラボ回だぞ。本日のコラボ相手はレト氏だー!」

「あ、どうも。皆さんこんばんは……じゃなくておはこんハロチャオ。レトです」

 

 ・誰? 

 ・パルデアのポケモントレーナー

 ・ポケモン博士

 ・ポケモンブリーダー

 ・ポケモンレンジャー

 ・何してる奴なんだw

 ・ポケモンだいすきクラブの人

 

「いやぁ、レト氏もこれで三回目の登場だね。そろそろ慣れたかな?」

「あ、はい。そうですね」

「レト氏なんかテンション低くない? お腹痛い?」

「いやあの、企画的にうちの子たちはボールの中だし、今回はネモもいないしでテンションが上がらなくって」

「えー、もうしょうがないなー。じゃあテンション上がるものを貸してあげるよ」

「頭のダブコイル貸してくれんの?」

「ボクの髪飾りに変なあだ名をつけないでってば。レト氏にはこれを貸してあげるよ。はい」

「わーい。ハラバリーのぬいぐるみだー」

 

 ・子供扱いされる新チャンピオンwww

 ・用意がいいですねダブコイルさん

 ・ぬいぐるみ見て顔に生気が戻ったな

 ・チャンピオン? 

 ・パルデア新チャンピオンのレト氏だぞ

 

「ダブコイルはこの子の名前だから! ……この子の名前でもないよ! とにかくレト氏も復活したことだし、早速今日の企画始めてこー!」

「おー」

「よし勝負だレト氏!」

「いいだろう。かかってこい!」

「ボールを構えないで! あれ、ちゃんと企画は事前に説明したよネ!?」

「ポケモン勝負をするのでは?」

「前回キミの幼馴染みに散々ボコボコにされたから今日はちょっといいかな……じゃなくてコレだよコ・レ! カードで遊ぼって誘ったよね、ボク」

「ついつい。勝負だって言われたらどうしてもね。オーケー、やりましょう! セルフシャッフルでいい?」

「なんでもいーよー」

 

 ・よかったね対戦相手できて

 ・レト氏ポケカもやってるのか……

 ・ルール知らねぇ

 

「いやぁ、レト氏がいてくれてほんと助かったよ! 昨日カード弄ってたら急にやりたくなっちゃってさ。でもボクの知り合いって基本みんなリアルのポケモンの相手で忙しくってカードやってくんないんだよねー。レト氏ならワンチャンやってるかなって連絡したらビンゴ! 二つ返事でコラボを承諾してくれたぜい!」

「朝起きたらビックリしたわ。ロトムがメッセ来てるよって言うから確認したらさ、深夜二時くらいに『ポケカしよー!』って送られてたんだもん」

 

 ・告知が唐突だったのってサプライズじゃなくって今日決まったからなのか

 ・ナンジャモさまはそういうところあるから

 

「じゃあ早速バトろっか」

「さっきカットで済ませてたけどさ、もしかしてナンジャモ、カード扱えないのでは?」

「ふふん。あまりボクを見くびらないでよねレト氏! ボクはこれまで様々な企画をこの萌え袖のままでこなして……あっ!」

「フラグ回収がはやいって。袖まくれ袖!」

「ボクの、ボクのプライドを捨てなければバトりの舞台にも立てないというのか……」

「そんな大事だったのか」

「え? かわいいよね萌え袖?」

「それはまあ。コジョンドみたいで超かわいい」

「こじょ……? ああ。パルデアにいないポケモンの名前出すから、一瞬混乱しちゃったよ。仕方ないのう。袖めくっちゃるか。レト氏、なんか止めるもの持ってない?」

「髪ゴムならあるよ」

 

 ・なんであるんだ

 ・稀によく見る萌え袖を諦めたナンジャモちゃん

 ・最近のゲーム配信は最初からめくってきてるのに成長を感じる

 

「これで完璧! じゃあ始めようか。じゃ〜んけ〜ん、ぽん! よしボクの先行。初期手札は七枚、たねポケモンを裏側で出してゲームスタート!」

「デュエルッ!!」

「ボクのポケモンは当然ズピカ!」

「乗ってくれよ。俺はもちろんパモ」

「おぉ〜、お互いに相棒デッキだね! これは楽しくなりそう!」

「ほんとかどうか、ちょっと怪しいぞ」

 

 ■◆■

 

「ハラバリーexに進化!」

「おおSRだSR! キラキラしてる〜」

「あれれ、レト氏のパーモットexはSRじゃないねぇ」

「パーモットexはこれしかないんだよ。でも優遇されてるから、もう三種類もあるからなパーモット」

「残念、ハラバリーは四種類あるんだなーこれが。公式にボクのハラバリーのほうが人気だってことだよレト氏、ニヒヒ」

「馬鹿な! 俺のパーモットが敗北するなど……」

 

 ・お前がぷるぷる震えるのか

 ・ナンジャモちゃんが楽しそうでなにより

 

「じゃあ技撃っちゃうぞー、パラライズボ〜ル! 160ダメージを与えてパーモットの残りHPは」

「170です」

「140だよ!」

「ぐぬぬ」

「さらにパラライズボールの追加効果でかみなりエネルギーを二個トラッシュすることでマヒにします!」

「おっとそれでもでんきタイプのジムリーダーか? でんきタイプのポケモンはマヒにはならないぜ!」

 

 ・そうなんだ

 ・じめんにも効くへびにらみがたまに効かないのってそういう理由だったのか

 

「じゃあマヒね」

「おのれポケモンリーグ。大多数は知らないと思って!」

「でんき……じゃなくてかみなりタイプもマヒになるし、ほのおタイプもやけどになるからネ。レト氏のパーモットは一ターンの間、ハラバリーの魅力でビリビリっと痺れさせて封印だぜ!」

「技と逃げるが使えないんだよね」

「ふっふっふ、その通り。さあレト氏! パーモットexは逃げエネがゼロのポケモンだけど、交代させるためのカードは入れてあるかな?」

「えー、あー? どうだったっけなー? 覚えてないけど入ってないんじゃないかな、覚えてないけど」

 

 ・勝ったな風呂入ってくる

 

「じゃあ俺の番。カードを引いてモミを発動」

「にゃぁ〜〜っ!」

 

 ・負けたな風呂入ってくる

 ・熱い手のひら返し

 

「進化ポケモンのHPをすべて回復! エネルギーをトラッシュするデメリットがあるんだけど、ついてないから関係ないな」

「技撃つとすっからかんになるもんね」

「いつでも全力なんでね。オマケでベンチにミニーブも控えていてもらうぜ」

「ミニーブ? オリーヴァってどんなカードだったっけ」

「入ってないよ。枠が余ったからこの子はかわいい要員」

「絶対嘘だと思うケド、レト氏だからなぁ」

「さぁ状況はひっくり返ったぞ! ハラバリーを支えるかみなりエネルギーはマヒ効果を使用するたびに急速に消耗する。逃げエネがゼロの俺と違ってエネルギーの補充も容易ではないはずだ。それまでにパーモットを倒せるかな?」

 

 ・雷のエネ加速は基本ベンチ限定だからな

 ・デッキに賑やかし要員入れてきてるのか……

 ・わりとやりかねないw

 ・確かオリーヴァも回復効果じゃなかったっけ? 

 ・他の手持ちポケモンも入れてんのかな

 

「手張りして返すよ」

「ボクの番。レト氏に合わせてボクも二匹目の相棒を出しちゃるゼ!」

「ここで出すポケモン? なんかいたっけ?」

「ネストボールを使って山札からムウマを連れてきます」

「お前ふざけんなよぉ!! なーんで相棒とエースでテーマデッキ組んでそんなことになるんだ!」

「あっはははははっ!」

 

 ・ムウマージってどんなカード? 

 ・何枚かあるけどだいたい嫌がらせ効果のはず

 ・すらすらマイナーカードの効果が出てくるのな

 

「ぐぬぬ。そんなんだから炎上系扱いされるんだ」

「やめて! 一言多いせいでしょっちゅう炎上するとか言わないで! てか文句言ってるけどレト氏にはそんな効果ないでしょ、ムウマージ」

「まあそれはそう」

「う〜ん厳しい」

 

 ・エレクトリカルストリーマー(ほのおタイプ)

 ・ちゃんと毎回鎮火させてるから

 ・毎回燃えてるってことなんだよなぁ

 

「もっかいハラバリーexで攻撃! マヒ効果も使っちゃうよ〜」

「俺の番。ふしぎなアメを使ってオリーヴァに進化! 特性まんたんオイルでパーモットexのHPを全回復」

「そんなカードばっかり!」

「俺のパーモットは倒させないぜ! でも殴れねぇ。博士の研究、手札をすべて捨てて七枚引く。う〜ん、エネつけて、パモをパモットに進化。モココの特性エレキダイナモでパモットにかみなりエネ付けておしまい」

「おっと困ってるみたいだね」

「ナンジャモもこのターンは攻撃できないだろ」

「それはどうかな! ポケモンいれかえでハラバリーを引っ込めてムウマを前に。そして進化! ムウマージ〜」

「おおARだAR! かわいい〜」

「特性マジカルフリック! パーモットexに付いてるエネルギーを剥がして後ろの……モココでいいかな。そっちに付け替えちゃって!」

 

 ・知らねーカードで戦ってるよ

 ・こういうエンジョイ対戦が一番楽しいよな

 ・エンジョイとは? 

 ・ナンジャモちゃんの笑顔見てみろよ。エンジョイしてるだろ

 

「パラライズボール!」

「うわぁぁああ!」

「これでパーモットexを倒してサイド二枚もーらいっ! 長かった〜、でもこれでボクのサイドはあと一枚! もう少し! もう少しで初めてレト氏に勝てる!」

「俺のサイドは残り三枚」

「そう! 次のレト氏の番で取りきらないと負けだけど、ハラバリーを倒したって二枚しか取れないからね〜」

「ああ、だからこっから運ゲーだ」

「運ゲー? なになに? 回復以外にもなんか入ってるの?」

「俺の最後の手札はボスの指令。こいつと組み合わせることでサイドを取りきって勝てるカードが一枚だけデッキに入っている。ここで俺がそいつを引けたら面白いよなぁ?」

「えー? なんだっけ……ほざけぇ!」

「うろ覚えすぎる……。よし、いくぞ! 来い! exじゃない方のパーモット! …………。ヤベェ、ほんとにexじゃないパーモットだ! すげぇ、俺すげぇよ!」

「うげげ!? マジに引いちゃったの! レト氏引き強!」

「パモットをパーモットに進化! そしてボスの指令、対象はモココ。技エレキフィストで攻撃、モココに100ダメージを与えて撃破! さらにベンチポケモン一匹にも60ダメージを与える!」

「ど、どの子にダメージ? ムウマージかな?」

「ハラバリーexに決まってるだろ。残りHPはぴったり」

「70デス」

「60だろ。さっき俺がやったよ、その小ボケ。これでサイドを取りきって俺の勝ちだ!」

「そんなバカなー!」

 

 ・これがチャンピオンの力か! 

 ・いい勝負だった

 ・負けちゃったけど面白かったよー

 ・カードのチャンピオンではないんだよな

 

「いやぁ、今回は完全にやりたかっただけだから皆の者が楽しんでてくれてうれしー!」

「チャンネル登録、高評価、やってるのかは知らないけどSNSもなんかあったらフォローしてあげてね〜」

「それじゃあレト氏がもっと有名になったら、またコラボしよーね〜!」

「まーたそんなこと言って」

「レト氏は怒んないもん。それじゃーみんなの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ? ナンジャモでした〜! まったね〜」

 

 ■◆■

 

 オマケ

 

 ドッキリ回

 

「う〜ん、賭けるか。ネオラントVをベンチに出して特性ルミナスサイン。山札からサポートカード、博士の研究を持ってくる」

「お? いいのかなレト氏。ネオラントはかみなり弱点だからハラバリーに一撃で倒されちゃうよ?」

「でも俺はここでネオラントを出すしかないんだよな。なぜならそう、生贄が足りないからな」

「ほえ?」

「俺は三体のモンスターを生贄に捧げぇ! 起動せよ! ラーの翼神竜!!」

「あはははは! え、なに!? 今日そういう回!?」

「ラーの効果発動! 俺のライフが100になるように支払い、その数値がラーの攻守となる! ラーの翼神竜、攻守7900。焼き払え、ゴッドブレイズキャノン!」

「7900ダメージってこと? ヤバヤバのヤバじゃん!」

「HPも7900だからな。ナンジャモのデッキに果たしてラーを攻略できるカードが入ってるかな?」

「ど〜しよ〜皆の者? みんな攻略法を送って〜!」

「神でコメ稼ぎすな」

「じゃあボクのターン。ボスの指令でミニーブを前に」

「無駄だ! やられたらマズイ奴らは生贄にしたからな。ミニーブを倒したところで……」

「レト氏。レト氏のライフって100なんだよね?」

「え? あ、うん。そうです」

「ミニーブのHPが60で、ハラバリーの技の威力は160なんだけど、この攻撃が通ったらつまりレト氏に100のライフダメージが入るってことなのでは?」

「ふざっ、ふざけるなよヲー! 返せ! 俺のライフを返せ!」

「パラライズボール!!」

「うわぁぁああっ!!」

 LP100→0

 




レト→ナンジャモ

楽しさ重視のポケモン勝負をしてくれるのでわりと好き。
有名人であることを気にするような人間ではないのでこれ以降カード持って遊びに行くし、ピクニックしたいって配信で言っていたから、ちょいちょい誘う。

ナンジャモ→レト

有名人がよく言ってる『対等に接してくれる友人』ポジション。
らしくない言動をしてもまったく気にしないレトにちょいちょい愚痴る。配信中、たまにレト君と呼びそうになる。


■◆■

「挫折したこともないくせに」と怒ったら心を病んだ人間を理解するためボロボロになってきたレト。
年上として叱らないと、とか、謝らないと、とかそんな思いと同時に、基本人間に興味を示さないレトがそこまでしたという事実に承認欲求が満たされる。

みたいな病みルートは回避されました。


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VSレト

注意)私の趣味で書いたポケモン×現代の番外編です。


『ヒトとポケモンは共にあるべき。貴方もそう思いますよね』

「はい!」

『ええ、貴方ならそう答えると思っていました。では後はお願いします』

「はい?」

 

 ■◆■

 

 息を潜めてじっと隠れる。辺りからはコツコツ、と硬いものが歩き回る音が鳴っていた。逃げ込んだホームセンターの中を、我が物顔で散策しているのであろう怪物を思うと泣きそうになってくる。

 ホラーやスリルとは違う本物の命の危機を前にして、私は口を両手で押さえてただ縮こまるしかなかった。

 

 時折何かが崩れて音を立てる。

 あの金属の怪物は、果たしていつまで隠れていれば立ち去ってくれるのだろうか。十分? 一時間? それともここに巣でも作られたり? 

 恐怖で時間の感覚も無くなっている中で、余りにも場違いな、能天気にすぎる声が響いてきた。

 

「もしも〜し! 誰かいませんかー!」

 

 少し高い子供の声だ。声は続けて呼びかける。

 

「も〜しも〜し!」

 

 大声で騒ぎ続ける少年。

 可能な限り早く立ち去って欲しいという私の願いとは裏腹に、どうやら少年は辺りを散策しているようだ。

 

「なんか音……誰かいるのかな。こんにちはー、ハロー、オラー……あとなんかあったっけ?」

 

 私は手元に置いておいた鉄パイプを握り締める。

 こんなものが役に立つとはちっとも思わないが、それでも武器になるものがあるというだけで少しは気が紛れる。

 そんなお守りを手に、私は意を決して隠れていた従業員用の控室から出た。

 

 これ以上、あの少年に騒がれるわけにはいかない。

 キョロキョロと慎重に周囲を見渡しながら声のする方へ歩を進める。

 曲がり角から顔だけ出して覗き込む。

 

 奇妙な格好をした少年だ。日本語を話していたが日本人のようには見えない。

 彼はこちらに気がついたのか顔を向けると、また声を出そうとする。

 慌てて私は指を立てて口元にあて、黙るようにジェスチャーで伝えた。少年も私の真似をしながら黙ってこちらへ歩いてくる。

 

「小声ならいいですか? って言葉通じてるのかな」

「大丈夫、わかるから静かに、すぐ隠れる──」

 

 カンッ──カンッ──

 入口側の通路から金属音がした。

 少年の手を引っ張って反対に向かって走る。裏口か何かあるはず。ここを捨てることになってしまうけれど、留まって襲われるよりはマシだ。

 そんな目論見は、始めからいた一匹目の登場で潰えた。

 

『ん? ココドラじゃないか。街中で二匹も……珍しい』

 

 母国語なのだろう、謎の言語で独り言をこぼす少年。

 その態度には微塵も緊張感がない。

 この怪物の恐ろしさを知らないのだろうか。いや知らないんだろう。

 大きな奴ばかり取り沙汰されるものだから、小型のコレがどれほどの力を持っているのかなんて、私だって直に見るまでは知らなかった。

 

 子犬くらいの大きさのこの怪物目掛けて、轢き殺そうと突っ込んだトラックが軽く跳ね除けられて逆にスクラップにされた、なんて。

 人伝に聞いたって信じられるものではない。

 

 その時の光景がフラッシュバックし、意味がないという前提すら忘れて、私は無我夢中で握っていた鉄パイプを振り回した。

 

「わ、ぁぁあ──こ、来ないでっ……!」

「ちょっと君。そんなことしたら危ないって」

 

 カプ、と振り回していた鉄パイプを小さな怪物が咥える。

 重たい。びくともしない。

 

「離して! はな……きゃっ」

 

 怪物が鉄パイプをもぎ取るように首を動かした。

 それでグルンと天地がひっくり返って、私は葉っぱのように吹き飛ばされる。

 背中から落ちて、肺の空気を吐き出した。痛みで悶える私のところへ少年が駆け寄ってくる。

 

「あぁもう、大丈夫ですか?!」

「けほっ……う、ぐ……に、逃げ、て」

 

 二匹目は入口側から来た。

 きっとこの少年についてきたのだろう。

 だが恨んだ所でどうなるものでもない。怪物たちは鉄パイプを齧るのに夢中になっている。今ならばきっと。

 あ、これなんだかすっごく物語のヒロイン。

 

 馬鹿なことを考えて自分を誤魔化す。

 それで少年はこの場を立ち去る、なんてことはなく、そのまま踵を返すと怪物らの方へ歩いていった。

 本当に物語だったなら、この少年が不思議な力で全てを解決してくれるのかもしれない。でもそうはならない。

 現実は物語のようにはいかない。

 不用意に怪物に近づいていった少年は金属製の頭にペチンとチョップする。

 ……は? 

 

「こらっ。そんな乱暴にしたら危ないでしょ」

「ココド?」

 

 困惑した様子を見せる怪物。

 少年は膝をついて視線を合わせると優しい声音で喋りかける。

 

「まったく。どうしたんだ? お腹でも空いて街まで出てきたのか?」

「ココ?」

「ココドラ」

「え? あ〜、産まれたばかりなのかな。ええとね、これはご飯の山じゃなくて俺達みたいな人間っていう生き物の巣なんだよ」

「ココド!?」

「うん。だから出来ればあんまり食べないでくれると助かる」

 

 怪物達は頭を下げると、半分くらいの長さになった鉄パイプを小突いてこちらに転がしてくる。

 呆然と鉄パイプを拾い、怪物と戯れる少年を眺める。

 クソ重たい怪物を本当に子犬を持ち上げるみたいにして抱きかかえ、軽々と金属を破壊する力を込めた怪物が腕の中でバタバタと足を動かしているのに堪えた様子はない。

 しばらくじゃれ合った後に怪物を解放する。

 

「親御さんによろしくね〜」

 

 ブンブンと手を振って怪物達を見送る少年。

 怪物の姿が見えなくなると、彼はこちらを振り向いた。びくりと思わず体が震える。

 

「そうそう。当初の目的を忘れるところだった」

「目、的?」

「変なこと聞くかもしれないけど……この荒れた街並みって前衛芸術ってわけじゃないよね?」

 

 ■◆■

 

「はぁ。異世界」

 

 少年。もといレトと名乗った彼が語った話をまとめると──怪物をこの世界に送り込んだ邪神から、人間と怪物の橋渡し役として引っ張ってこられた異世界人だという。

 

「創造神」

「そうね。創造神」

 

 面倒くさい奴だなこいつ。別に信徒って口振りでもないのに。

 

「それでこの世界では何が起こってこんなことに?」

「神様からは聞いてないの?」

「細かいことは気になさらないんだ」

 

 といっても説明するようなことはほとんど無い。

 怪物。レトの言うところのポケモンがこの世界にある日突然現れて、人間は彼らと上手くやっていくことが出来ずにこうして衝突を繰り返している。

 基本的に、というかずっと人間は敗北を続けている。世紀末系ソシャゲくらいボコボコにされている。

 

「大変だね」

 

 めちゃくちゃ他人事みたいな口調だった。

 

「う〜ん。でも話を聞く限りだとやっぱ一番の問題は食料事情だよな」

「それはまあそうだろうけど……そこはどうしようもなくない?」

 

 今回街を襲ったココドラとかいうポケモンは金属を食べていた。

 幼体は子犬サイズだったが、成体はかなりの巨体と聞いている。

 そんな生物が何体もいては地球の資源が持つわけがない。

 

「こういうのってポケモンと一緒に出てきたりした?」

 

 レトが大振りな果実を取り出す。

 ブツブツした青色の果実だ。ちょっぴり気持ち悪い見た目をしている。

 

「うちの世界にあるふしぎ植物のきのみなんだけれど……どう」

「別に私は専門家じゃないから詳しくないけど……異世界産の植物なのよね。そんな話は聞いたこと無いかな。それが何か?」

「なんとビックリ! こいつは完全栄養食なんだ。肉食でも草食でも魂食でも無機物食でも、これさえ食べてればバッチリという、うちの世界が共存できてる理由の半分くらいは占めてる素晴らしい代物だ。しかもハーブ並みにモリモリ増える」

「それもポケモン?」

「いやこれはポケモンじゃない」

「どういう原理?」

「知らない」

 

 得体が知れないすぎる外来種だった。

 

「たぶんアルセウスも困ったんだよ。いろんなポケモン創造ったはいいものの、食料どうしようって。それで生まれたんだと思う」

 

 曲がりなりにも神がそんなに適当な調整をするわけないだろう。

 と思ったがこの惨状の原因だった。

 さもありなん。

 

「というわけだからこの廃墟を全部畑にしてくるね」

「ダメだよ?」

「くさタイプのポケモンと……あまごいやにほんばれができる子も欲しいな。ボスゴドラは帰っちゃったかな。手伝ってくれそうなんだけど」

「ダメだからね?」

 

 こうして私の世界で一番苦労させられるガールミーツボーイは幕を開けたのでした。

 

 



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本編
1話


「俺とお前。バッジを8個集めた同士、ここに立っているわけだ」

 

 と、俺は言った。指の上でモンスターボールを回す。練習した甲斐もあって、様になっていることだろう。

 日々の鍛錬の合間を縫い、続けてきた成果といえよう。

 ここはポケモンリーグの正面だ。旅の果てにここ、パルデア地方の隅っこまで行かなきゃ無いものだと思っていたら、普通に通っている学園の側にあってビビったものである。

 

「ここ最近はチャンピオンランクに上がれた奴はいないらしいが……まあ俺もお前も挑めば勝てるだろうぜ」

 

 俺の台詞に誇張はない。

 事実として俺は強い。

 ことここに至るまで、8つのジムバトルを苦戦することなくくぐり抜けられる程度には。

 目の前の化け物じみて強いこの女以外、パルデア地方の誰にも負けないくらいには。

 さて。

 

「だから先にここでケリを付けよう。勝ったほうが先にリーグに挑み、名を刻む」

「負けたら?」

「好きにすればいいさ。俺はただ俺の最強を気分良く証明したいだけだからな」

 

 啖呵は切った。ボールを構える。

 手の中のボールが微かに震えていた。戦意はバッチリらしい。

 楽しい楽しいライバルごっこの集大成だ。

 ストーリー的にはこれが俺のラストバトルだろうよ。

 勝てる気はしないが、負けるつもりもない。

 トレーナーとしての魂をすべて賭け、この一戦に臨む。

 

 ゲームと違って、俺は勝ったらこのまま進ませてもらうぞ。

 

「さあ、行くぞネモっ!」

「うん! 楽しいバトルにしよう!」

 

 いつものように、俺は勝負をしかけた。

 

 ■◆■

 

 俺がポケモントレーナーとしてどの程度のやつだったかと言えば、ガチ勢のライト層って感じだろうか。

 下の上くらい。沼にハマった中では比較的浅瀬という意味で。

 ガチ対戦のために孵化厳選をしたり、努力値振ったりして、でもってマスターボール級に上がるくらいを目標にしてプレイしていた。

 高順位を狙おうとかしたことはなかったし、やってもできなかったろう。

 

 ぶっちゃけ色違い粘ってた時間のほうが長かったしな。それも気になったのをいくらか、というレベルだが。

 

 俺よりふさわしい人間くらいいくらでもいただろうに、という疑問は生で動くポケモンを見た途端に全部吹き飛んだ。

 そんでもってたぶんもう戻ってこない。手違いだろうがなんだろうが、俺はこの幸運を享受するだけである。

 サンクス、アルセウス様。 

 

「おっ、おぉ! おぉぉお! 動いてる! すげぇ、生きてるよマジで!」

 

 危ないから草むらに入らないように、という恒例の忠告をさらっと無視して俺は野生のポケモンと戯れにきていた。

 知っているポケモン、知らないポケモン。いろんなポケモンが命ある生物として、現実に目の前にいる。

 

 群れを成したヤヤコマが木の枝から飛び立つ。

 その下を見ればぶらんと糸の塊みたいなものがぶら下がっていて、中にはポケモンらしき影が覗いていた。

 プゴプゴと鼻を鳴らしながら野生の黒毛和牛が地面をほじくり返し、ハネッコが集まって呑気に日向ぼっこをしている。

 

 俺の知らない地方、俺の知らないポケモン。

 ああ素晴らしきかな、未知との遭遇! 

 ふらふらと餌におびき寄せられる虫のように、頭の葉っぱを揺らしているハネッコに近づいてゆく。

 

「かわえぇ……ピンクだ、葉っぱだ。触っていい? 触っていいのかな?」

 

 比較的安全そうな植物のポケモンを選んだのは理性が働いている証拠だろう。

 見るからに捕食生物な毛玉クモとか、怒らせたらヤバそうな火の鳥よりかはハネッコは危険度が低いと思う。

 手をワサワサさせながら見つめていると、短い足でてちてちとハネッコが歩いてきた。触られに来たのかな。よーし、撫でてやろう。

 

「すごい、ほんとに葉っぱだ」

 

 頭の双葉を触ってみる。たんぽぽだ、思った以上にたんぽぽだよこれ。

 葉脈というんだっけ。近くで見たプロペラは想像以上に植物だった。

 ピンクの胴体にも手を伸ばす。

 質感は植物の茎のようで、うっすらと産毛が生えている。そしてなんとそこには生物のような弾力があった。

 

「生命の神秘ですよこれは」

 

 葉っぱを気持ちよさそうに動かして、すり寄ってくる。なんだこのたんぽぽネコ。甘えるとか覚えてるのか、可愛い奴め。

 

「あの、危ないですよ」

 

 背後からいきなり声をかけられた。ポケモンワールドは距離感が近くて困るね。

 振り返ってみると幼女がいた。俺も幼男だが。

 同い年くらいかな。肩より少し下くらいまで伸びた黒髪、特徴的なのは前髪の一部が緑色なところか。

 

「あ。自分のポケモンを連れてらしたんですね」

「うん? いやこいつは」

 

 そう言いかけたところでハネッコは葉っぱを回転させて飛び立ってしまった。

 

「あら」

「ごめんなさい、あなたのハネッコを怖がらせてしまったみたいで。わたし探してきますね」

「いいよいいよ。俺のってわけじゃないし。運が良ければまた会えるでしょ」

 

 あの黒豚は序盤ノーマル枠っぽいよなぁ。

 次行くならこいつか。

 

「連れ戻さなくていいんですか?」

「うん。野生のポケモンだし」

「え?」

「とりあえずありがとね。心配してくれたんでしょ。じゃ」

 

 お嬢様の幼体みたいな子に会釈して、俺は黒豚を構いに行くことにした。

 あ、なんかハーブの匂いする。ごくり。



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2話

「ただーいまー」

「おかえりなさい」

 

 ハーブの香り、もとい昼になってお腹が減った俺は一旦帰宅していた。

 ここパルデア地方の南端に位置している新たな俺の実家は、なんというか日本人の感性としてはかなりいい家だ。

 というのもポケモンが生活の前提としてあるこの世界は、ゲームがそうであったようにそこまで人間の数が多くない。それゆえ単純に都会以外の人口密度はとても低く、特別裕福でなくとも大きな家に住めるのだ。土地次第だが。

 

「手洗っておいで。もうすぐお昼ご飯ができるから」

「やったね。お昼なに」

「サンドイッチよ」

「ママのマイブームなの?」

 

 朝はパン。昼もパン。パンパンパン。

 お米が恋しくなってくるな。

 

「手洗ったら手伝ってくれる?」

「は〜い」

 

 野生のポケモン触ったからな。ちゃんと洗わないと怖い。ポケモンだからじゃなく、野良の生き物だからだ。清潔とは言えないだろう。

 自分のポケモンが欲しいなぁ、トレーナーになりたい。好きなポケモンを愛でたい。

 妄想を繰り広げながら念入りに石鹸で洗い、サンドイッチ作りに加わった。

 

 食材をカットし、半分に切ったパンの上に綺麗に並べる。そして上半分をもこみちの高さから落とす。

 ポケモン世界特有の謎調理法なのかも知れないが、たまに溢れるし意味はわからない。

 パルデアの伝統的な調理法とかなんだろう。

 

「今日はなにをしてたの」

「なんか知らない女の子と遊んでた」

「女の子?」

「そうそう。前髪だけ緑色で他は黒髪な子」

「あぁ、ネモちゃんね。ほら、あっちの方に大きな家があるでしょう。あそこの子よ」

「ほへ〜」

 

 ほんとにお嬢様の幼体だったのか。

 サンドイッチにピックを刺しながらネモの顔を思い出そうとする。

 うぅん、ポケモンの姿しか思い出せない。そういえばまともに顔見てなかったな。なんなら名前も聞いてないし、名乗ってもない。

 

「あっきれた。まったくこの子は。いい、今度あったらちゃんと挨拶するのよ」

「は〜い」

 

 会ったらね、会ったら。

 

 ■◆■

 

 数日後。

 紙の図鑑とフォークを手に、俺は再び草むらへと繰り出していた。

 流石にスマホロトムは買ってもらえなかったが、ポケモン図鑑を見たいだけならと、本を買ってもらったのだ。

 

 パルデアに住まう四百近いポケモンたちをみんな載せているだけあって、一つ一つの説明は少ないがこれで十分。

 知らないポケモンもわんさかといて、眺めているだけでもめちゃくちゃに楽しい。

 

「あ。お久しぶりです」

 

 この間の黒豚はグルトン、毛玉はやっぱりクモでタマンチュラ。

 今日はグルトンを構うつもりでやってきたが、タマンチュラはなにしたら喜んでくれるのかな。

 ヤヤコマはどうなんだろう。餌付けでいけるか? 

 

「あれ? 聞こえてます? もしも〜し」

「うん?」

「よかった、あはは。また会いましたね……探してたわけじゃないですよ」

 

 ……、…………? ………………。

 あ、前会ったお嬢様か。

 

「久しぶり。なにしてるんだ」

「いえ特にはなにも。あなたは?」

「ポケモンと遊びに」

 

 俺がそう言うとお嬢様はなにやらそわそわし始める。

 母親に名前聞いたと思うんだけど、なんだったかなぁ。

 

「一緒に来る?」

 

 誘うと簡単に付いてくるお嬢様。

 拐われないか心配になるな。

 まあいいか。その辺の教育は親とか家庭教師とかがやってくれることだろう。

 歩きながらペラペラと図鑑を捲る。

 

「えーと、なになに。グルトン、ぶたポケモン……安直すぎないか? 一日中餌を探して、鋭い嗅覚はそのためだけに使う」

 

 そう言えば最初見た時もごそごそなにかやっていたな。

 あれはどうやら餌を探していたらしい。今も、あの時とは別の個体だが同じように餌を探しているようにみえる。

 木の実とか持ってきたほうがよかったかな。

 とりあえず試すだけ試すか。俺はフォークを構える。

 

「? それでなにをするんですか?」

「フォークの使い方も知らないのか? 食ぁべるためさぁ!」

「ぐ、グルトンを食べちゃうんですか?!」

「オレサマ、アイツ、マルカジリ!」

「丸かじりなのにフォークを?」

 

 うるさい。

 俺はグルトンの元へとダーッと駆け寄り、騒ぐ俺らに構わず呑気に土を穿っていた彼の背中をフォークで撫でた。

 突き立てないよう注意しながら、身体に先端を沿わす。

 つつーっと往復させていると、次第に動きが鈍っていき、くてんとへたり込んだ。

 

 ふはは、ポケモンといえど所詮は子豚ちゃんよ。

 ここかー、ここがエエのんかー。

 眠たそうに目をパチパチとさせて、くぁ、と大きくあくびをするグルトン。目元の涙みたいな模様の上にうっすらと本物の涙が浮かんでいる。

 

「はい交代」

「いいんですか?」

「どうぞどうぞ。優しくな」

 

 ひとしきり愛でて満足したので、フォークをお嬢様に渡す。

 彼女は恐る恐るフォークを寄せていって撫で始めた。

 中断されてこちらに顔を向けていたグルトンも再び気持ちよさそうに寝転がる。

 

「ふわぁ」

 

 グルトン、グルトンね。

 グルメと(とん)だと思うんだが、グルメなものを食ってる豚なのか、それともグルメになる豚なのか。

 

 いつの間にか他のグルトンたちも何匹か近くに集まってきていた。彼らの放つハーブの香りで満ちる。

 案外後者なのかもしれないな。ニ○テ○ドー、ブラックジョーク好きだから。

 などと考えながら、俺は手近にいた一匹の頭を撫でた。

 

「……そうだ、挨拶しろって言われてるんだった」

「グルトンにですか?」

「お前にだよ。名前も知らないだろ、お互いに」

 

 俺は聞いたはずだけど、忘れてるから互いだ。

 

「んじゃ、改めて。俺はレト、よろしく」

「わたしはネモっていいます。よろしくお願いします」

「ネモね、ネモネモ。なんか響き似てるな。覚えやすくていいや。仲良くやろう」

「はい!」

 

 元気がいいな。つられてこっちも楽しくなってくるくらいだ。

 これはゲームなら人気になるな。

 きっとリーリエ枠とかだ。

 というか、うん? あれ、俺は今もしかして。

 

「まさか俺は今、友達ができたのか?」

 

 ポケモントレーナー、永遠の課題を解決してしまったのか俺は。



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3話

 地面に座って木にもたれ掛かる。するとたちまちにわちゃっと野生のポケモンたちが集まってきて取り囲まれた。

 懐かれたもんだ。何が面白くてやってくるんだか。

 タマンチュラの糸玉をグニグニと揉んでやる。癖になる弾力だ。ぴょこんと飛び出た糸の一本ですら切れない強度なのに、どうしてこうも手触りがいいのだろう。

 

 さすがにそんな詳しい説明は図鑑にないので、いつか知れる日を楽しみにして本を開く。

 ゲームとは違い料理がミニゲームでも面白要素でもなくて生活に必須である以上、ポケモントレーナーになったとて、なんでもかんでも好きだからで捕獲するわけにはいかない。

 

「爪痛いから頭の上はやめてくれ」

 

 頭頂に止まったヤヤコマを払い除ける。鳥ポケモンだけあって爪が鋭い。ひっかく覚えないくせして着実にダメージを与えてくるんじゃねぇよ。

 肩に飛び移ったヤヤコマがピリリリリとさえずる。ASMRかな? すべてを許そう。

 

「ビビヨンいるのか、この地方」

 

 話を戻して、実際トレーナーになるとしたら育てるポケモンの数は絞らないといけない。

 今見つけたビビヨンは見た目も綺麗だし、強い戦法も確立されている。

 が、現実でオーバ戦法はマジで顰蹙を買いそうだな。

 

「アーマーガア、サーナイト系統……馬鹿なキノガッサがいるだとこの地方」

 

 やっぱり強いのかお前は。

 いやでも催眠は。……クリア後のやりこみ要素的なバトルのための施設とかなら許されるかな。

 

「なにか悩みごとですか」

「お、ちょうどいいところに来たな。キノガッサってどういうイメージ?」

「はい?」

「キノガッサってどういうイメージ?」

「ええと……キノガッサというとキノココの進化系のポケモンですよね? かわいいポケモンだと思いますよ。進化したらこんな姿になるんだ〜ってびっくりしましたが」

「悪いイメージとかないの」

「? いえ別に」

 

 対戦が発達していないのか害悪ムーブが嫌われていないのか、単にネモがポケモンバトルに詳しくない可能性もあるな。

 

「どうしたんですか、急に」

「トレーナーになったらどんなパーティーを組もうかなって図鑑とにらめっこしてたんだよ」

「なる、ほど? そうだ、でしたらわたしの家でバトルを観ませんか? 録画してあるのがいくつかありますので」

「マジ? 行く行く」

 

 図鑑を閉じて立ち上がる。

 いやぁ楽しみだ。うちにテレビなかったからな。

 親のスマホロトム借りて見るのもだいたいは癒やし系だったし。

 ズボンの土を払っていると双葉を回しながらハネッコが飛んできた。

 

「あー。なんだ、遅れたけど構って、てか」

「ハネ〜」

 

 足元に降りたかと思えばズボンを咥えてひっぱり始める。

 ちょっと頭を撫でてやって、それで終わりにしようかと思ったのだが、どうにも違うらしい。

 

「ごめんネモ。先にこっち済ませてくる」

「わかりました。この子たちと遊んでまってますね」

「オーケー、すぐ戻るよ」

 

 ネモに手を振ってハネッコを促す。

 パタパタパタとハネコプターで飛びながら先導するハネッコに小走りで付いていく。

 俺になにをさせようというのか。

 少し走らされるとハネッコが数匹集まっていた。

 

「なんだ、ハネッコ祭でもやって──」

 

 中心に横たわっていたのはポケモンだ。オレンジ色をした、確かパモという名前のポケモン。

 それが傷ついて倒れていた。

 

「え、ちょ、どういう……た、助ければいいのか?」

 

 困惑しながらも駆け寄る。なんだ、どうすればいいんだ。手当て、家にキズぐすりあったよな。

 俺が近づいたことに気づいたのかパモが威嚇を始める。

 

「ええと、触っていいか? 治療しないと」

「うるる……!」

 

 しゃがんで、ゆっくりと手を伸ばす。

 ──ガブッ

 

「いっ、った!」

 

 パモが噛みついてきた。急いで手を引く。指からは血が出ていた。ペッと血を吐き捨てるパモ。

 

「お前やりやがったな! ちょっと待ってろよ! すぐ戻ってくるからな!」

 

 傷のない左の指をパモに向けて、そう言い残し、俺は急いで家に戻る。道中ネモに呼びかけられた気がするがとりあえず無視した。

 裏庭の物置を漁って軍手を引っ張り出す。靴を脱ぎ捨てて家にあがり、薬箱を開いてキズぐすりを探す。

 

「おかえり。怪我でもしたの?」

「俺じゃない。怪我したポケモンがいたから……あ、使っていい?」

「いいわよ、早く行ってあげなさい」

 

 許可を貰ったのでスプレーを持ち出す。走りながらブカブカの軍手を付けた。

 猛ダッシュでパモのところへ戻る。

 道中ネモに呼びかけられた気がするがとりあえず無視した。

 そしてハネッコの囲いを抜けようとしているパモを怒鳴る。

 

「ハーッハッハッハ、ほうら防具をつけてきてやったぞお前! これでもう噛みつきは効かな痛い痛い痛い!」

 

 軍手の上から貫通してダメージを与えてくる。キズぐすりを吹きかけようとするものの、暴れて話にならない。

 滅茶苦茶元気じゃねぇか。仕方ない。

 

「ハネッコたいあたり」

「……。ハネッ?!」

「ハネッコたいあたり」

 

 一瞬戸惑っていたが俺の指示通りにハネッコは動いてくれ、パモをどついた。

 ぱむぅ、と断末魔をあげてひんし状態になるパモ。

 ヨシ。

 さて、治療するか。



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4話

 倒れたパモが縮み、あっという間に手のひらサイズになった。

 掬い上げてみると明らかに軽い。見た目相応の小動物のような重量だ。

 ポケモンには小さくなる能力があるとされているが、実際に目にするのはモンスターボールからの出し入れを除けば、これが初めてだ。

 

 すげぇ、どうなってんだ。マジでちっちゃくなったよ。

 不思議な生き物すぎる謎生態はさておいて、静かになったパモにキズぐすりを吹きかける。

 さすがに不思議生物といえ、ゲームみたく元気の欠片や塊じゃないとひんし状態から復帰できないなんてことはないだろう。

 それだと野生のポケモンがどうやって回復しているのかわからなくなるし。

 

 荒かった息が少しずつ落ち着いてくる。

 少し考えて、とりあえず俺はパモをこのまま家に連れ帰ることにした。

 

「後はこっちでなんとかしとくよ。教えてくれてありがとう」

 

 ここまで連れてきてくれたハネッコをひと撫でし、そーっとパモを持ち運ぶ。

 帰り途中、なにやらいじけているネモを拾いながら家へととんぼ返りした。

 

「上がって上がって」

「お、お邪魔しまーす」

 

 客人用のスリッパを出してネモの足元に転がす。

 一応「ただいまー」と母親に声だけかけて、手を揺らさないようゆっくりと階段を上がった。

 

「おかえり、ってあらネモちゃん。いらっしゃい」

「お邪魔します。あ、入ってよかったですか?」

「えぇ、もちろん。レトは……あ〜、面倒くさい子でごめんなさいね」

「あはは〜」

 

 二階の自室に入り、ベッドの上にパモを下ろす。

 外で放置するよりかはこの方が安全だろう。むしろ危険なのは俺の方だな。

 起きたらまた襲ってくるかな。

 防御、防御。軍手よりかは分厚くないとだよな。

 押入れの布団を体に巻き付けていると、コンコンとドアがノックされた。

 

「入ってもかまいませんか?」

「誰に遠慮してんだよ」

「じゃあ遠慮な……えと、なにをしてるんです?」

 

 部屋に入ってきたネモが引き気味に尋ねてくる。

 

「パモ対策。また攻撃されるのは嫌だなぁって」

「また?」

「うん、また」

 

 血の滲んだ軍手をひらひらと振ってみせた。

 

 ■◆■

 

「あ、起きた」

 

 母の愛ある拳骨を食らった頭を押さえながら俺は言った。ネモにチクられて、ここまでの経緯を話したらゴツンとやられたのである。

 これ以上アホになったらどうしてくれるんだ。まったく。

 ともあれ目を覚ましたパモは一瞬混乱したように辺りを見渡した後、こちらに向かって牙をむき出しにした。

 

「だから言ったでしょう。この子は……レトには懐かないのよ」

 

 ポンポンと肩を叩かれる。

 うん? ……あぁ〜、うん。なるほど。パモが起きる前に「人を嫌っているんだと思う」みたいなことを母は言っていたが、そういう方向性なのか。

 どうするか、どうもしなくていいか。

 ベッドの側にしゃがみこんで目線を合わせる。

 

「別に懐かなくってもいいよ。ただ心配だから治療だけはさせてくれないか。どう?」

「うるる」

 

 唸るパモ。じーっとしばらく見つめていると、諦めたようにクルンと丸まった。

 よし勝った。

 

「ママ、こいつしばらく部屋に置いてていい? ちゃんと面倒はみるから」

「え、えぇ……。言うことを、聞き入れた?」

「よっし。しばらくよろしくな、パモ」

 

 伸ばした手はこちらを見もせず叩かれた。

 悲しい。ちょっとくらい懐いてくれてもいいのよ。

 

「その子に構うのもいいけど、レトの手当てもしないとね」

「はぁ〜い」

 

 ポケモン世界の治療といえば、ポケモンセンターに連れていって『テンテンテテテン』のメロディーと共に一瞬で完全回復するイメージがある。

 実際この世界の医療技術はそれに近い。というよりかは人間含めて生物がありえないほど生命力に満ちている、と言うべきか。

 

 俺の方の手当てはすぐに終わった。

 なにせキズぐすりを吹きかけたら、目に見えてというほどではなくとも、しばらく注意が逸れてるうちに薄く皮が張っていたのである。

 そうか、俺はスーパーパルデア人だったか。

 

 パモは俺より傷は深いようだったが、こちらも近いうちに治ることだろう。いいことだ。

 この共同生活もそう長続きはしなさそうである。

 モソモソと消毒液代わりのラムの実をかじりながらそんなことを考えた。

 

「口の中にカオスフィールドが展開されてるわ。……マズぅ」

「……ぱむぅ」

「俺のもあげる。重症でしょ?」

 

 満面の笑みと善意への回答は爪だった。




ラムのみ
からい、にがい、しぶい、すっぱくない。
でもあまい。

知らないけどたぶんまずい。
甘味で誤魔化そうとしてる薬のイメージ。


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5話

 最初の方はなんとか撫でようとしては弾かれていたネモもずいぶん大人しくなった。

 部屋にあるポケモンの本を読んでは、不意にパモへ絡みにいく。そして拒否られる。

 

 そんなことを繰り返しているうちに日も落ちてきて、窓からは夕焼けの光が射し込んでいる。

 いい加減ネモを帰らせないと、ということで俺が送ることになった。

 

「うぅ、結局触らせてくれませんでした」

 

 肩を落としたネモと並んで道を歩く。

 

「しゃーないしゃーない。ママも懐かないって言ってたしね」

「残念です。かわいいのに」

「わかる、めっちゃかわいいよね」

 

 さすがは暫定偽ピカ枠のポケモンというべきか。

 でもどうなんだろう。電気だしネズミポケモンだしでピカ枠だと思うんだけど、進化するらしいんだよなぁ。

 ピカチュウ以外で進化するピカ枠なんていなかったはずだから別物なのかな。

 かわいいし、どうでもいいか。

 

「レトはいいですね、ポケモンたちに好かれて」

「羨ましいだろー?」

「くぅぅ、羨ましいです!」

「ははは」

 

 子供らしく素直な反応を返すネモ。

 ネモの家まではわりと近い。駄弁っているうちにもうデカい柵が見えてくる。

 いやほんと豪邸だな。ゲームだと微妙に強くて賞金いっぱいくれるおぼっちゃまとかおじょうさまとかが出てきそうなお屋敷である。

 

「わたしもいつかポケモントレーナーになって、自分のポケモンと旅をしてみたい」

「いいんじゃないか。楽しそうで」

「なれると思いますか?」

「いけるいける。ネモは凄いトレーナーになるって当たると話題の俺の勘が言ってる」

「どこで話題なんですか、それは」

「俺の心の中」

「あはは」

 

 トレーナーになるのはそう難しくない。ポケモン連れてりゃポケモントレーナーだしな。

 それを仕事にできるほど成り上がるのが死ぬほど厳しいというだけで。

 家庭環境もあるし、ネモはまあまあ強くはなれそうだよな。知らないけど。

 

「じゃあまたな」

 

 手を振って、屋敷の前で別れる。

 それにしても旅か。ジムはあるんだよな、この地方にも。バッジを集めてチャンピオン目指して、ってか。

 ゲームのようには勝てないんだろうな。主人公はあっさり勝つけれど、だいたいは途中で脱落する設定だったし。

 夢のある話だ。ネモがいいところまでいったら祝ってやろう。

 

 ■◆■

 

 これが何かの物語だったら、しばらーく傷を癒すためにパモはうちに滞在するんだろうが、三日もすれば完治してしまった。

 してしまったはおかしいか。完治した。いいことだ。

 その間、短いながらも濃ゆい出来事がいろいろとあった。

 

 例えば「ようし風呂だ風呂! あれ? パモって濡れて大丈夫なのか?」とみんなが入った後、最後に風呂場へとパモを連れて行ってやったりした。

 シャワーで湯を出すところを見せてみるが、逃げなかったので問題はないのだろう。

 そう判断し、傷口に気をつけながらそっと洗ってやる。やはり汚れていたのかだいぶ泡立った。

 

「パモっ」

「はっはっは、気持ちい──いった、バチってきた!」

 

 くすぐったそうに身をよじるたびに、ビリっと静電気が走るのは難点だ。なんとか人間が地面タイプになる方法はないのだろうか。

 人間も戦闘経験積んでレベルを上げたら進化しないかな。……地面になったら呑気に風呂入れねぇわ。

 

 それで風呂からあがってパモを乾かしたらもうやることもなくなった。ダラダラ弄るようなスマホロトムもゲームもない。

 さっさと寝ようとしたのだが、最初にそこへ寝かしたからだろう、自室に戻ると即行でパモにベッドが占拠されてしまった。

 

「パモさん、パモさーん」

「……ぱむ」

 

 くるんと体を丸めたまま眠たそうな返事をするパモ。

 仕方ない。持ち上げて少しずらしスペースを作る。

 ワクワクでベッドに潜り込んだ瞬間にパモがぴょんとベッドから降りてしまった。そそくさとベッドの下に陣取ったパモに呼びかける。

 

「ベッドの上の方が寝やすいよ〜」

 

 ぺちっと鼻にネズミパンチを食らった。

 しくしく。押入れから掛け布団を出して床に敷いてやる。

 

「せめてこっちで寝な」

 

 初日は夕方までダラダラしていたこともあり、こんなところだった。

 で、次の日。

 一夜過ごしたパモはもうほとんど全快していた。

 早い早い。ストーリー性もクソもないって。

 

 ともあれこの日はなんとビックリ。パモに触れることに成功したのである。ちょいちょい持ち上げてはいたけれどそうではなく、少しだけど撫でることができたのだ。

 俺がではないが。ネモでもない。ご飯を用意していた母が、だ。

 

「餌か! 餌なのか結局! このいやしんぼめ! 俺もラムあげようとしたじゃん!」

「パモパモっ!」

 

 懐かなくていいとは言ったけれど、俺以外に懐かれるとこう、微妙な気分になる。

 それで、あとはそう。お使いの最中のことだ。

 メモを見ながら食材を買い揃えた帰路で、グルトンがまとわりついてきた。トコトコ足元をうろついては、ついてこいと言わんばかりに離れて何度も振り向いてくる。

 すわ、また怪我したポケモンか。と、ついていってみると、そこは巣のようで、グルトンはコツンと鼻で小突いてこちらに青い木の実を転がした。

 

「オレン? なんだ俺にくれるのか?」

「グル」

「……? もしかしてパモにか」

「グルっ」

「おぉ〜う、いい子だなぁお前。任せとけ、バッチリ渡してやるからな」

 

 この日の俺のおやつはグルトンへのお礼として消えた。

 

 そうして迎えた最終日、とうとう別れの時がきた。とうとう? そうでもないか。

 昨日来られなかったネモは名残惜しそうにしていた。

 

「元気でな。これお土産」

 

 モモンの実を持たせてパモを見送る。

 

「元気になって本当によかったです」

 

 しゃがんだネモにパモがためらいながらも近づいていく。ネモは驚いた様子だったが、恐る恐る手を伸ばした。

 

「ほわぁ……」

「お前俺以外にばっかり懐くんじゃねーよ」

 

 ママン以上に絡み少なかったろうが。

 俺も撫でようとしてみると、ひらりとパモが身を躱す。

 おのれぇ。

 なんて思っていると、ころころと楽しげに笑ったパモがやり場を失った俺の手にすり寄ってきた。

 それからモモンを咥えて走り去っていく。

 頭をかいてため息をついた。

 

「お前ふざけんなよ、まったく」

「こんなに早くお別れだなんて」

「そうだな。って俺も昨夜へこんでたんだけど」

「……けど?」

「いや、こいつご近所さんだよなって」

 

 そう言って、しれっと見慣れた近場のポケモンたちに混ざって生活を始めたパモに指をさした。

 会いに行けるアイドルポケモンである。




後で書き足したい


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6話

 パモを拾う前に俺はネモとポケモン勝負を見る約束をしていたらしい。

 まるで記憶にないがネモが言うのならそうなんだろう。

 指定された昼過ぎの時間帯にネモ家を目指して家を出る。天気は良好、道すがら日向ぼっこしているであろうハネッコを一目見ていこうと寄り道を選んだ。

 

 いつもの草むらの方へと歩いていくとなにやら賑やかな声が響いてくる。

 身を隠しながら覗いてみると子供たちがはしゃいでいた。

 知らない顔だけど、たぶんご近所さんなんだろうな。

 うん……なんか、近寄りがたいな。

 ポケモンを追いかけているようだが、乱暴に扱っているようにも見えない。わざわざ出ていって俺がなにかしなきゃいけないような状況でもないだろう。

 そうと決まれば逃走逃走、はやく離れよう。

 

 ■◆■

 

 正門を抜けた俺は思わずキョロキョロと辺りを見渡す。実際に足を踏み入れたネモの実家は想像を超える威容を誇っていた。

 うわぁ、広。敷地内に花壇が広がってるよ。いくらでもポケモン飼えそう。

 語彙力なくなるわ、これが経済格差か。

 花壇を抜けて、これまたきれいに装飾された扉にたどり着く。ステンド……グラス? これ玄関だよな。

 インターホンがあったのでおっかなびっくり押してみる。

 

「はーい」

 

 大人びた声音の返事があった。ネモのお母さんだろうか。

 あちこち宝石つけた人とか出てきたら面白そうだな。

 すごいのが出てきた時のため身構えていると、ガチャリと扉が開きエプロンをつけたおばさんが出てくる。

 ネモのお母さん、じゃないよな。似てないし。というかもしかして。

 

「あぁ、お嬢様のおっしゃっていたレト様ですね」

「あっはい」

 

 使用人かぁ。

 

「お嬢様がお待ちしております。こちらへ」

「あっはい」

 

 言われるがままに付いていく。なんか高そうな絵とか装飾品とかいっぱい飾ってる。パルデアの骨川家かな、税金すごそう。

 緊張しながら使用人さんの後ろを歩いていると、パタパタと足音を鳴らして廊下の先からネモが走ってきた。

 

「いらっしゃい!」

「あぁ、ネモ。よかったわマジで、広すぎて緊張してたんだよ」

 

 ホッと胸を撫で下ろす。ネモは使用人に礼を言ってから、俺の手を引いて部屋に引っ張っていく。

 

「んジャカパーン! シアタールームへようこそ!」

 

 両手を大きく広げて自慢げにネモが笑った。

 

「テンション高いな! いやすごい部屋だけども」

 

 でっかいスクリーンが上から垂らされていて、柔らかそうなソファーがその手前に並べられている。

 ネモは手慣れた様子でリモコンを操作してスクリーンに映像を映し出す。

 

 世界観の違いをひしひしと感じているよ。

 ポケモンがどうとか関係ない、もっと現実的な違いを。

 ネモがソファーに座り手招きする。俺も隣に座った。

 

「うーん、どれがいいでしょうか?」

「まったく知らないからなぁ。オススメは?」

「最近あったポケモンリーグ戦とかどうでしょう」

「そんなのあったんだ。じゃあそれで」

 

 カーソルを合わせてネモがボタンを押す。

 再生された映像の最初の方をいくらかスキップして、勝負の直前まで進める。現場が映ったモニターの横には人が立っていて、勝負の様子を解説していた。

 

 四天王の一人らしい緑の長髪と挑戦者の男は少し会話してポケモンを繰り出す。

 

「ナマズンとはまた渋い……」

 

 水、じゃないな。地面の方専門か。ダイパのキクノを彷彿とさせるな。

 解説によるとこの四天王の人はチリという名前らしい。

 対する挑戦者の先発は、確かオリーヴァというポケモンだったはず。葉っぱのリースみたいな容姿のままに草・ノーマルのポケモンだ。

 俺と違い四天王のことを知っていたのだろう。ちゃんとメタってきてる。

 

 とはいえ苦手タイプを出されるのは統一パの宿命みたいなものだ。

 それらへの対策は万全ということだろう。ナマズンを落とされながらもふぶきで削り、二匹目のバクーダで撃破していた。

 

 一進一退の攻防。やや挑戦者有利といった戦況か。

 追い込まれたチリが五匹目に繰り出したポケモンはドオー。パルデアのヌオーだ。

 泥のような茶色をしたドオーにチリがどくどくを指示する。可愛いおっとりとした鳴き声とは裏腹に、盛大にぶち撒けられた猛毒は回避する隙もなく相手を蝕む。

 

「あー……いいんだ、これ」

 

 さらりとどくまもを始めた四天王を見て、思わず呟く。

 関西弁、もといコガネ弁の熱血お兄さんかと思っていたらとんでもない奴だった。

 パルデアではこれアリなんだ。

 

「あ、ほらレト。ここからが見どころですよ!」

「見どころ?」

 

 ドオーがゴルダックを毒殺したところである。次に挑戦者が繰り出したのは色違いのキリンリキ、じゃなくてリキキリン。

 弱点をつけるエスパータイプのポケモンだ。

 このまま一発ぶん殴って終わりのような気もするが。

 

『ドオー! 隆起せぇ!』

「お? おぉ?!」

 

 黒いモンスターボールのようなものをチリが取り出す。光がそこへ集まっていき、ボールが輝く。

 ポンとドオーの頭上へ光を放り投げる。

 ドオーが結晶に包まれた。光に呼応するように生えてきたきらびやかな結晶はたちまち砕け散り、ドオーの体を覆う。

 

「なになになに! なんか光ってる! ガラス細工になった!」

 

 頭に宝石の大地が形づくられる。煌めくドオーはリキキリンの目からビームを耐え、じしんで反撃した。

 

「あれはテラスタルっていうんですよ」

「へぇ〜! どういう効果なんだ?」

「え? え〜と……え〜と」

「やっぱ後でいいよ」

 

 そう、後にしよう。今は難しいことは考えず、この勝負を楽しみたい。

 有効打を失ったのだろう、等倍での殴り合いを始める。

 ドオーはその耐久力と技構成でしばらく持ちこたえていたが、とうとう挑戦者側のテラスタルによって打ち倒される。

 カシャン、と結晶が粉々に飛び散った。

 

 感嘆の息が漏れる。

 いつもなら短い手足で這いずるナマズンやドオーに気を取られていたんだろうが、集中してしまった。激しい戦いとテラスタルの光に。

 数分の解説と休憩が入り、四天王の二人目が顔を見せる。

 勢いそのままに挑戦者は四天王を突破していき、ぬらりひょんの孫みたいなチャンピオンに敗北した。

 

 五戦合わせて二時間くらいの映像だった。

 いいものを見た。あるいはとんでもなく悪いものを。

 これはダメだよ、猛毒だ。

 俺もやってみたい。画面のこっち側じゃない、向こう側でポケモンたちと一緒に戦ってみたい。

 抗いがたい熱に浮かされていた。




リーグの再戦が無いのを、勝負が盛んな他地方では四天王やチャンピオンが一周目の挑戦者には手加減してるけど、そうでもないパルデアではあれが全力って設定を考えてたんですが
初手レベル90のキラフロルでステロするオモダカがDLCで追加されたら困るので一旦保留。


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7話

明けましておめでとうございます(遅)


「俺と一緒に最強を目指さないか」

 

 簡単に触発された俺は翌日、早速ポケモンの勧誘に来ていた。

 まだボールも持っていない俺だが共に旅する仲間を探すくらいのことはしていてもいいだろう。なんて思って草むらに繰り出したわけだが。

 

「ぐるぐる」

「あんま乗り気じゃないかな?」

 

 この間木の実をくれたグルトンを見かけたので声をかけてみたものの、あまり反応はよろしくない。まあこの辺はゲームで言えば序盤の町ってレベル帯だ。

 そこまで勝負が好きなわけじゃないんだろう。

 

 この子を誘うのは諦めて、もはや定位置のようになった木の根本へと向かう。座った俺の足に、トコトコと付いてきたグルトンが乗っかった。

 撫でてやると目をトロンとさせて、すぐに寝息を立て始める。

 これはなかなかなかなか大変だな。仲間集めが進む気がちっともしないぜ。

 

 身近なところに戦いたがりのポケモンがいなさそうってのもあるが、図鑑を見る限り魅力的な子も多いんだよなぁ。

 この間見たドオーやリキキリンだってビジュアルがよかったし、あのキリンリキが進化した姿ってだけでなんかもう面白い。

 尻尾に頭を食われて進化ってなんだよ。あ……ヤドキング……、なんで前例があるんだ。

 ポケモンの層の厚さを感じるな。

 

 まだ見ぬパルデアのポケモンたちに思いを馳せていると、次第に見慣れた奴らが集まってくる。

 

「お〜、なんだ? 俺と旅してくれるのか?」

 

 タマンチュラは知らないが、ヤヤコマはファイアローの進化前だし、ハネッコは風に流されて旅をするポケモンだ。

 一緒に居てくれるってんなら心強い、心づよ、心。

 

「あ、ちょこら、集まっ、集まりすぎ! 重いって!」

 

 じゃれつく攻撃。レトは倒れた。

 見かけよりは力のある俺だが、体格の問題で支えきれずに押し倒される。

 宙に羽ばたいて避難していたヤヤコマが頭に降りてきた。もう好きにしてくれ。

 

「懐いてくれるのは嬉しいけど加減しろよ、潰れちゃうだろ」

 

 トドメになった二匹目のグルトンを持ち上げる。わりと重いんだよな、こいつら。

 足をパタパタさせるその子を横におろしてやった。

 

「あっ! トレーナーのひとだ!」

 

 と、声が聞こえてきた。

 寝そべったまま声の方へ顔を向ける。なにやら子供たちがはしゃいでいた。

 トレーナーってのはポケモントレーナーのことか。俺も一目見ようと辺りを見渡す。

 

「ねえねえ、この子たちさわっていい?!」

 

 なんでこっち来んだよ、トレーナーのとこ行けよ。

 

「別にいいけど蝶よりも花よりも優しく扱えよ」

 

 ポケモンたちを子供らに預ける。なんだか見たことのある三人組だな。昨日この辺で遊んでた奴らか? 

 麦わらを被ったむしとりしょうねんの幼体みたいな子。タマンチュラに惹かれるのかしゃがみこんで視線を合わせている。

 グルトンを抱えてふらつくこいつは短パン履いてるからたんぱんこぞうの幼体だろう。

 ハネッコを抱きしめているのは……ポケモンごっこの幼体、かな。幼女のキャラが他に思いつかなかっただけだが。

 どういう集まりなんだろうか。ご近所付き合い? 我々ハブられてる? 

 

 まあそれはいいや。

 

 そんなことよりもトレーナーだ。知り合いって呼び方じゃなかったし、見た目でわかるはず。ベルトにモンスターボールぶら下げてるとか。

 

「……いねぇ」

「なにかさがしてるの?」

「トレーナーの人」

「? ちょっと待っててね」

 

 そう言ってちびっ子はハネッコをおろし、首から下げていたポーチを漁り、手鏡を取り出す。ピンク色した子供用のおもちゃだ。

 

「はい」

「これをどうしろと」

 

 鏡に中の世界でもあるのだろうか。ファンタジーやメルヘンが有り得る世界だし。

 いろんな向きに傾けながら鏡を覗き込んでみる。当然のように変わった現象なんて起こりはしない。俺の顔が映るだけだが、こうしているうちに一つ思いついた。

 

「もしかしてトレーナーの人って俺のことか?」

 

 前もやった気がするな、このやり取り。そんなトレーナーに見えるのか俺。

 

「え? ちがうの?」

「違うよ。こいつらはみんな野生のポケモンだ」

「かむ?」

「噛まない噛まない」

 

 少女に抱えられてゆるゆるな表情になっているハネッコに手を伸ばす。

 パクっとハネッコが俺の指を甘噛みした。

 

「ぎゃあ! 噛まれた!」

 

 面白半分で悲鳴をあげてみる。

 

「ひゃああっ!!」

「はっはっは」

 

 投げ出されたハネッコを受け止めた。あむあむと喰まれ続ける指を引き抜く。

 

「う、ぉぉおお! や、やるのか! やるのか?!」

「か、かかってこーい!」

「あっはははは」

 

 ファイティングポーズをとる少年たち。

 よくわかっていない様子で口をモゴモゴさせるハネッコ。

 笑い転げる俺。

 後でめちゃくちゃ怒られた。

 

 ■◆■

 

 長い付き合いになるかと問われればそんなことはない。

 俺は初対面の相手とはそれなりに話せるが、知り合ってからはうまく話せなくなる男。なんとなく波長が合うネモとの会話でマシになりつつあるものの根っこは変わらない。

 ネット上の知り合いと通話しながらとか、そういうのはやらないタイプのゲーマー。

 また草むらで見かけてもこっちから声をかけることはないだろう。

 

 なぁんて思っていたんだがポケモンが俺のところに来ちゃうせいでこいつらも寄ってくる。砂糖になった気分だ。

 でも外を出歩くのを控えない辺り、俺も楽しんでいるんだろうよ。

 

「今日は昼過ぎから雨ロト〜」

「はいは〜い。早めに切り上げて帰ってくるよ」

 

 雨だって言われても出かけるくらいだしな。

 理由のほとんどはポケモンに会いにだが。



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8話

あんまり覚えなくていいオリキャラたち

たんぱんこぞう:ロホ
むしとりしょうねん:ベルデ
ポケモンごっこ:アスル


 曇り空である。まだこちらの雲は薄いが、遠くの方は暗い色をしていた。そう長時間はいられないな。

 ハネッコたちも今日はおとなしめだ。光が足りなくて元気が出ないのだろう。

 いつもならぴょんぴょん跳ね回っているのだが、頭の葉っぱをぺたんと垂らして寝そべっている。

 

 周りからわかりやすいところで適当に図鑑を開いて待ってようか。と、うろついていたところ、タマンチュラが糸玉を補強しているところに出くわした。

 他にやることもないし、とても興味を惹かれるのでこれを眺めて待つことにする。

 古くなった糸を取っ払い、新たに吐き出した糸を器用に背中へ巻き付けていく。

 普段はそんなでもないんだけど、こういうのを見ているとスマホロトムが欲しくなってくるな。撮影したい。

 

「あっ、いた!」

 

 ぼんやり過ごしていると横から呼びかけられた。

 

「ん? おぉ、来たのか」

 

 振り向くと待ち合わせていた三人である。

 

「こんちは、なにみてるんだ?」

 

 と、短パンが聞いてきた。俺はその場を退いて、彼らから見えるようにして答える。

 

「タマンチュラの衣替えだよ」

「うぉぉ〜、すげぇー!」

 

 虫取り少年が食いついた。目をキラキラさせてタマンチュラを見つめる。

 

「あっ、おいベルデ。もー、あめふるからうちであそばないっていいにきたのに」

「まあまあ、そんなに時間のかかるものでもないだろうし、待ってあげたら」

 

 短パン君にそう言って、俺も観賞に戻る。

 ベルデ、ベルデ……。話の流れ的に虫取り少年の名前だよな。会うのは数回目だけど、名前ぜんぜん頭に入らん。

 他の二人も思い出せない。あ〜……タマンチュラかわいいな。進化すると見た目すごくなるけど。

 

「このあとどうする?」

「ゲームしようよ、よにんいるし」

「だな。レト、スイッチもってる?」

「持ってなーい」

 

 そこまでタマンチュラには興味がないのだろう、予定を立てていた二人に返す。

 数分してタマンチュラが糸玉を巻き終わり、自慢げに足を伸ばして見せびらかしてきた。

 潰してしまわないよう気をつけながら頭を指でなぞってやる。

 

「よしおわったな! じゃあかえろうぜ」

「んじゃまた」

 

 見送るべく俺は手を振った。

 ポケモンごっこが不思議そうに首を傾げる。

 

「レトくん、こないの?」

「俺も付いてく感じなのか?」

 

 外で遊ぶって話だったし、このまま降り始める限界までぶらついてから帰るつもりだったんだけど。

 

「ゲームもたのしいよ」

「あ〜、ほら。ゲームはいつでもできるじゃん?」

「いつでもやってるの?」

「やってないけど」

「ならやろうよ」

 

 しまった。幼女に論破されてしまった。ぐぬぬ。

 ポケモンの世界のゲームとか興味あるっちゃあるんだけど、ポケモンのいない場で三対一は心細い。

 言葉を探して目を泳がせると所在なげに佇むネモの姿を発見した。いいところに、こいつ巻き込もう。

 

「おーいネモ!」

 

 手招きをすると困った顔をしながらネモが歩いてきた。

 

「えぇと、お邪魔じゃないでしょうか?」

「ぜんぜん」

「だれ?」

「あ。わたしネモって言います。はじめまして」

「はじめまして! おれはロホ」

「わたしアスル」

「オレはベルデ、よろしく」

 

 ぺこんとお辞儀して互いに自己紹介をすると、ネモはさらりと打ち解けていく。

 明るいし可愛いしさもありなんといった感じではあるのだが、状況が悪化したのではないだろうか。いや、俺以外で四人揃ったことでむしろ立ち去る理由ができたのでは。

 しれっと無言でいなくなってみようか。

 

「?」

 

 ふいに談笑していたネモがあらぬ方向へ視線を向ける。

 

「どうし──」

 

 視線の先に俺も顔を向ける。何もない。いつも通りの林が広がるばかりだ。

 だが、これは。このプレッシャーはよくない感じだ。

 

「なんでしょう。急に寒気が」

「それはいけないな、ネモ。ほら解散解散。みんな帰るよ」

「え〜、ゲーム」

「付き合う付き合う。一緒にやろうぜ。ネモも連れてっていいか?」

「もうちょっとタマンチュラみてたいんだけど」

「大丈夫大丈夫。明日も明後日もその辺にいるから。だから早く」

 

 ザァッ、とヤヤコマの群れが飛び立った。

 さあどうしようか。走って逃げる? ネモは異変に気づいているようだが、他三人は違う。脅威を目の当たりにするまでは逃げ出せないだろう。それはそれで走れないかもだが。

 競争だ、とか言えばワンチャンいけるかもしれないが、それでついてこなかった場合が不味い。

 

「ごめん、手ぇ貸して!」

「ふぇ? て? なんで?」

 

 近くにいた子らに呼びかける。アスルが困惑していたがひとまず放置だ。

 静かに気配の方を見据える。

 木々の隙間から光の粒が舞っていた。

 

「あっ、あのポケモン知ってる!」

 

 そうして、そいつは静かに姿を現す。

 全体的に黒い体躯、太く靭やかな尾、とりわけ特徴的な大きな背びれ。

 結晶を纏っていて分かりづらくなっているがあのポケモンは。

 

「あいつセグレイブって──」

 

 ──SeグラァァAAAアアアァァァ──ッッ!! 

 

「ひっ……あ、ぁ」

 

 ビリビリと空気が震える。冷たい風が叩きつけられた。思わず目を覆う。

 ネモはまだ大丈夫そうだったが、ロホたちはやはり無理そうだ。仕方がない、一旦彼らを落ち着かせてからにしよう。

 たぶん通じるのは最初の一回だけだろうな。

 

「タマンチュラ、奴を捕まえるぞ。糸を用意していてくれ。ヤヤコマ、周囲を飛び回りながら『なきごえ』!」

 

 俺の頼みを聞いてくれたヤヤコマがセグレイブの周りを飛翔し、声を上げて気を引く。

 セグレイブの視線から俺が外れたところで土を掬って駆け出した。苛立たしそうにヤヤコマを追い回し、冷気を吐き出すセグレイブに近づく。

 

 ここで投げれば当たる。

 直感に従い土をぶん投げた。と同時にセグレイブがヤヤコマを追ってこちらに振り向く。

 

「ギッ、ァア」

 

 土が目に入ったのだろう。セグレイブは顔を押さえて暴れ始める。

 

「よし、タマンチュラ! 糸を!」

 

 捕縛用の糸がセグレイブの全身に吹きかけられる。

 高い強度に加え、粘着くクモの糸はあっという間にセグレイブを覆い尽くした。

 勝った、という理性に反して、勘は未だ危機を知らせている。声を荒げないように、余裕を演出しながら避難を促す。

 

「ここは俺たちで抑えておくから大人呼んできて大人。ポケモントレーナーだと嬉しい。ほら行った行った、巻き込むぞ」

 

 持ち直したちびっ子たちを追い払う。ネモも連れて行く手伝いをしてくれて助かった。本当に居てくれてありがたい。

 さて。

 深呼吸をする。

 モゾモゾと蠢く糸の塊から、光が溢れ出た。

 

 轟ッ! 

 と結晶を撒き散らしながら糸が引き裂かれる。

 うわぁ器用。テラスタルってそんな使い方できるのか。

 セグレイブは散り散りに焼き切った糸を振り払う。そうして初めて俺と目が合った。

 

 さあてどうするかなぁ。



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9話

とうとうポケカもSVに突入しましたね。
ありがとうDレギュ! ありがとうクイボ!


 屈んだ俺の頭上を氷柱が高速で通り抜けていく。

 着弾地点を見れば深々と氷柱が突き刺さっていた。掠めるだけでも人間にとって致命的なダメージになることは間違いない。

 ヤバいって。まじ死んじゃうって。

 ポケモン勝負とは違う手加減のない暴力に背筋が寒くなる。

 人体を軽々と木っ端微塵にできる破壊力に戦々恐々。それと同時に、まったく正反対の印象をその攻撃から受けていた。

 

 粗い。これなら増援が来るまでやれる。

 素早く辺りを見渡す。物理はダメだ、距離を取りながら攻撃できる子じゃないと。

 それが出来そうなのは。

 

「ハネッコおいで!」

 

 ふわふわと浮いていたハネッコを呼び寄せ、抱きかかえる。ハネッコの飛行は風に依存している部分が大きい。

 俺が抱えて走ったほうがこの状況では安全だろう。

 いや。

 いやいや。

 何を考えているんだ、俺は。頭おかしくなったのか。バカ? バカなの? 

 我ながら自殺願望があるとしか思えないが、それでも今はこのまま突き進むしかない! 

 

「『すいとる』攻撃! 加減はいらない、思いっきりやっちゃって!」

 

 ヒュポポポと軽い音を立てながら緑色の光がセグレイブの体から放出される。まるで効いていない、だがうっとおしそうにしていた。

 セグレイブ本来のタイプはドラゴン、こおり。くさタイプのわざの効力は半減されてしまう。しかしその前提をテラスタルがひっくり返す。

 

 へんげんじざいやリベロのように、自らのタイプを変更するという単純にして強力なパルデア地方特有の現象。

 

 黒竜の頭上に浮かぶのは一見何のタイプか判別しづらい地球儀のような結晶。奇しくも俺が初めて見たものと同じ、じめんタイプの輝きである。

 黄色い眼光がこちらを睨めつけ、低く唸り声をあげた。

 踵を返し、すいとるの射程から出ない程度に間合いを開ける。セグレイブの攻撃を避けながらグルトンへ指示を飛ばした。

 

「隠れて『チャームボイス』。周りの音に合わせて見つからないように」

 

 全能感とでも言うのだろう。手に取るようにポケモンたちの動きを把握できる。考えるよりも先にどうすればいいのかが浮かんでくる。

 まるで別の何かに操られているようでさえあるが、そこに不快さはない。

 普段ポケモンたちと接している時の延長線上。あたかも意思が伝わってくるかのような感覚を煮詰めたこの感じ。

 

 セグレイブがどうしたいのかがわかる。どうして欲しいのかがわかる。どうされたくないのかがわかる。

 発射の直前に位置をずれて氷柱を避ける。

 跳び上がる前に妨害をしていたタマンチュラに警告を飛ばし、ボディプレスの範囲から逃れさせる。

 苛立ち紛れに尻尾を振り回すのは何も起きな──いわけないって! 

 

 ──ドゴンッッ! 

 筋肉質な尾で勢いよく叩かれた木は粉々に砕け、小さく鋭い木片となって俺に向かって飛んでくる。

 これは間に合わない。咄嗟に抱えたハネッコを庇う。

 バチバチと破裂音が背後で鳴った。予想していた衝撃は来ない。

 

「パモパーモ?」

「お前……ありがとう! ほんと助かった!」

 

 呼ばれて振り向くといつかのパモがいた。側には焦げた木片が落ちている。この子に助けられたのだろう。

 もう抱き締めてキスしてやりたい気持ちでいっぱいだが、そんな余裕のある場ではないので我慢する。

 秒で期待を裏切ってくれたポンコツ第六感に比べてなんて頼もしいんだ。

 

「護衛頼めるか?」

「パモっ!」

 

 そう問いかければ力強い返事が返ってくる。

 戦力的には大した違いはないだろう。でも嬉しいな、うん。

 

「ようし! 増援が来るまでみんな……なんだこれ?」

 

 光の波。テラスタルのエネルギーだろう。どこからともなくザァっと集まってきたそれは吸い寄せられるようにセグレイブにまとわりつく。

 オーロラのようなそれが侵入していき、セグレイブは苦しそうな咆哮をあげた。

 結晶が瞬く。

 テラスタイプを象徴する地球儀が噴火する。

 

「全員跳べぇッッ!」

 

 セグレイブが拳を振り下ろした。大地が揺れる。放射状に衝撃波が放たれた。

 警告を発して俺もジャンプする。パモも俺の方に飛びかかってきて胸にしがみついた。上に掲げたハネッコが一生懸命にプロペラを回すが、完全に重量オーバーである。

 なんとか揺れが収まるまでホバリングしてくれていたが、糸が切れたかのように浮遊をやめ、俺たちは投げ出された。

 

 いったぁ。くそう、インチキすんなよお前。さっきまで出来なかっただろうがそんなの。

 爆心地で暴れるセグレイブを睨む。

 地上にいたタマンチュラとグルトンの姿は見えない。ひんしになって小さくなっているのだろう。

 ヤヤコマは無事。

 パモもとりあえずは無事。

 ハネッコも無事だが疲労困憊。

 

 想定外の展開。勝負の最中にいきなり強くなるとか反則にもほどがあるだろう。

 なんとかなるという太鼓判は揺らぎつつある。

 荒れ狂っている今のうちなら逃げ出せるか? 

 でもそれは置いていくことになってしまう。どうする、どうすべきだ。

 

 数秒、迷った。

 ポツリと頭に冷たいものを感じた。ポツポツ。水滴が体を打つ。

 予報されていた雨だ。

 急速に雨脚は強くなってゆく。

 

「……降る前に帰るつもりだったんだけどなぁ」

 

 濡れたことでテラスタルの力が弱まったのだろうか。

 悶えていたセグレイブの声が落ち着く。

 要するに周りが見えないくらいの暴走状態から、目につくものをぶん殴ろうとする暴走状態になったというわけだが。

 

 神はここで死ぬ運命セウスと言っているのか、はたまた逃げずに戦えセウスと言っているのか。どちらにせよ逃走の隙は消えてしまった。

 やるしかないか。雨で暴走が薄れたなら、どうにかしてダメージを与えられれば止まるかもしれない。

 セグレイブが倒立する。

 

「は? ん??」

 

 戦う覚悟を固めたところで奇妙な姿勢になったセグレイブに、思わず変な声が出てしまった。

 え? なに? なんか俺の直感があまりにもシュールすぎる攻撃手段を予期しているんだけど、これ信じていいやつのか? 

 さっき外してたしほんとに信じていいのかこれ!? 

 

「のわぁぁあああっ!」

 

 セグレイブがブレスを吐く直前、パモを掴んで射線から逃れる。

 後先考えずにダイブした俺のすぐ側を、逆立ちして背中を向けたセグレイブがかっ飛んでいった。

 

 え、な、なにその攻撃手段! 

 それはひょっとしてギャグでやっているのか?! 

 

 ブレスを吐き終えたセグレイブがそのまますっ転ぶ。

 そりゃそうだ。どんな体勢で攻撃してるんだお前。というか攻撃なのかそれは? 

 

 しかしふざけきった絵面に反して威力は凶悪そのもの。後隙を補うには十分なパワーである。

 なに食らっても一撃だし関係ないな。

 むしろ残心という概念を知らないかのような攻撃後の無防備さ、そこを殴れば通る、か? 

 

「パモ。あの木、あそこまで誘導していくから準備して待っててくれ」

「……パモぅ」

「行った行った。こっちは平気だから全力で頼むよ」

 

 俺を心配しているのだろうパモを急かす。

 でんこうせっかで消えたパモを尻目に、俺は地面を蹴り、手頃なサイズの凍った土を拾う。

 気を引くためにそれをセグレイブにぶん投げてから俺は逃げ出した。

 

 背を向けて走る。

 怒声が聞こえるが振り向く必要はない。攻撃の予兆はつかめる。

 先の反省を活かし、危機感を覚えない攻撃にだけ視線をやりながらパモの待つ地点まで進む。

 

 指定した箇所、その近くに身を潜めるようにしてパモがいるのが見えた。

 いける、後少し。

 ドンッと強く地を叩く音がした。その場を飛び退く。俺の居たところへセグレイブが落ちてきた。バランスを崩した俺に向けて赤い爪を振り上げる。

 俺は何も持っていない手で投擲するような素振りを見せた。セグレイブが目を庇う。

 

 危ねぇ、殺されるところだった! 

 でもたどり着いた。雨で流されて記憶と場所が変わってしまってるが、そこは位置を調整すればいいだけのこと。

 二歩下がる。背びれタックルの時と同じ距離感。

 セグレイブが攻撃の体勢に入る。

 うまくいく。いく、いくよな。いってくれよ頼むから。もう待ちの姿勢になっちゃったからこれは避けられないぞ。

 巨体が迫ってくる。妙にそれがゆっくりに見えた。

 黒と白の大剣で俺を八つ裂きにせんとばかりに吶喊し、不安定な頭部にタマンチュラが脱ぎ捨てた糸束を巻き込んで盛大にスリップした。

 

「ぶっ飛ばせパモ──っ!」

「パーモパモパモ、パーモ──っ!!」

 

 臨界まで電気を溜め込んだパモがセグレイブに突撃する。

 閃光が走り爆発が起きた。

 

 ■◆■

 

 電撃で瞬時に熱され、水蒸気が立ち昇る。

 衝撃で吹き飛んできたパモを受け止めた。

 視界が悪くセグレイブの姿は見えない。だが俺の勘が告げている。

 

「やったか!?」

 

 煙が晴れた。竜は立っている。

 カシャンと結晶が砕けた。

 背びれが赤く明滅する。

 特性、ねつこうかん。あの背びれは熱を吸い上げて力へと変換する機能を持っている。

 漂っていた高温の水蒸気がたちまちに水に戻され、凍りつく。

 

「セグルゥ」

 

 テラスタルは解けた。パモの電気が効いたのか、それともパワーアップして制御出来るようになったのかは知らないが、ともあれセグレイブの眼差しには理性が戻っているように思える。

 

「あー、体平気? なんか後遺症とかない? 後もう襲ってこないよな?」

「グレェブ」

 

 セグレイブの視線が下がる。パモを見ているのだろう。

 集中力が落ちたのか、神懸かりの予感はなくなっていて行動が読めない。

 このまま第二ラウンド始めたりしないよな。こいつ。

 

 セグレイブが下を向く。大きく口を開くと冷気を吐いた。

 

「んなっ! お前なにするつもりだ!」

 

 もう戦う力なんて残ってないぞ。

 焦る俺を余所にセグレイブは放射の勢いを強めていく。背びれタックルの時のような出力にその巨体が浮いた。

 ロケットのようにセグレイブが飛翔する。

 ぽかんと俺はそれを見送った。

 

「……、…………、……世界って広いんだなぁ」

「ぱーも」

 

 ああやってここまでやってきたのかな、あいつ。

 カクンと足の力が抜けてその場にへたり込む。

 ちょっともう限界だわ。完全に切れた。まぶたが重い。

 腕の中のパモもぐったりとしている。セグレイブはもういなくなったが、後で誰か来るだろうし、このまま落ちちまおう。

 

 そうだ。まだこいつには、パモには聞いてなかったな。

 起きたら、旅に誘ってみよう。

 口元を緩めながら俺は気絶した。




バトル物書いてる人ってすごいなって思いました。


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10話

活動報告の方に感想にあったifルート置いておきました。
一週間くらい前ですが……。
ポケカが悪いよポケカが。


 いつになくしっかりと目を覚ました。そうしてまず真っ先にカーテンを開ける。

 そんな習慣は持っていないのだが、今日は特別だ。

 空はまだ薄暗いものの天気は良さそうである。よかったよかった。めでたい日なんだ、天気もいいに越したことはない。

 

 ゲームにおいてはだいたいどの世代においてもトレーナーズスクールという施設があった。ガラルにはあったっけ? なかった気すんな。

 ともあれ序盤の方の街で開かれていることの多いこの施設は、その名の通りにトレーナーを育成するためのものであり、タイプ相性や状態異常など、ポケモンというゲームの基礎知識を教えてくれる場所だった。

 

 まあ慣れたプレイヤーにとってはあまり意味のある施設ではなかったかな。塾みたいなサイズの建物がポツンと立ってるだけで、ストーリーに絡んでくることもなかったし。

 

 しかしここパルデアでは違う。

 今日から俺が転入することになっているトレーナーズスクール、オレンジアカデミーは超巨大だ。

 文字通りのマンモス校、もといマンムー校。幅広い年代を生徒として迎え入れているトレーナー養成校だ。

 そのデカさたるやアカデミーを中心に街が出来ているほどである。学園都市かな? 

 

 なんか何ヶ月か前に教育体制を一新するためとかで教職員を総入れ替えしたらしいし、きっとより新しく、より楽しくなった学園生活が待っていることだろう。

 期待を胸にベッドでぐでーっと眠りこけるパモの体を揺する。

 

「起きろーあーさだぞー」

「ぷゃぁ」

 

 奇妙な鳴き声とも言えない声を上げた。

 すっかり馴染んで野生の欠片もない姿である。

 セグレイブとの戦いの後、俺はこいつを旅に誘った。友情かなんかが芽生えたと思っていたのは俺だけではなくパモもそうだったようで、快く提案を受け入れてくれて今に至る。

 しかしまあ気持ちよさそうに寝やがって。

 お腹に顔を埋める。柔らかな毛並みと薄く残るシャンプーの香りが、すぅ〜はぁ〜。

 

 起きたパモがモゾモゾと俺の手から逃れようと藻掻く。バチンと寝ぼけたまま俺に電気を流してきた。

 

「あ痛ぁ!」

 

 可もなく不可もなし。いつも通りの威力である。不調がないようでなによりだ。

 

 パモも起きたので準備をすることにする。

 リュックの教科書を確認し、アカデミーの制服に袖を通す。腰にはホルダーを巻いて、大事に飾ってあったモンスターボールの埃を払って取り付けた。

 よぉし、どこからどう見てもポケモントレーナーだ。ホルダーがスッカスカなのはご愛嬌。

 

「もう着替えてきたの? 気が早いわねぇ」

 

 リビングに向かうと母にそう言われた。

 

「そりゃあもう楽しみすぎて眠れないくらいだからね。準備はバッチシ」

「それじゃあついでに髪も整えておいで」

「あ〜い」

 

 電気で逆立った髪を直す。超パルデア人2ってとこかな。これの手入れも慣れたものだよ。

 飯食って、歯磨いて、朝の雑事をこなして時間を潰す。

 時計の動きが妙に遅く感じられたが、ともあれ約束の時間が近づいてきた。同時期に転入するネモと一緒に登校することになっているのだ。

 

 早めに出ろとネモに言われていることだし、そろそろ出発しようか。荷物を持って立ち上がる。

 

「じゃ行ってきます!」

「レト、ちょっと待って……はいこれ、入学祝い」

 

 何かを頭に被せられる。取って見てみるとオレンジ色したキャップだった。

 おお! 帽子だ帽子! 主人公っぽさあってテンション上がるなぁ、これ! どっち向きで被ろうか。

 

「そんなに気に入った?」

「超気に入った! 大事にするよ」

「あはは、うん。そうしてね。じゃあ改めていってらっしゃい、気をつけてね」

 

 帽子を前向きに深く被る。パモが肩に飛び乗った。

 

「落ちんなよ」

「パモっ」

「オーケー、しゅっぱ〜つ!」

 

 ■◆■

 

 コサジの小道に出ると遠くに人影が見えた。見慣れた黒髪だけれど服装が違うな、誰だろう。

 

「あ、レト! おはようござ……じゃなくておはよう!」

「おはよう」

「パモ」

「パモもおはよう」

 

 ネモ、ネモか? 前髪だけ緑だしネモだよな。

 服違うのは、そりゃそうか。俺だって制服着てるもんな。男女どっちもズボンなのか。

 

「口調どうしたんだ? 学校デビュー?」

「ポケモントレーナーになるのに敬語のままじゃ締まらないかなぁ、と思って」

「なるほど。似合ってるよ」

 

 普段との雰囲気がだいぶ違っていて違和感あるけれども。

 

「ありがとう。後は実力がついてくれば」

「ははは。がんばれ」

 

 それは自分でなんとかしてくれ。

 

 アカデミーはパルデア最大の街、テーブルシティに建てられている。

 俺の故郷であるコサジタウンからは二つ隣の街だ。道なりに走っていって南一番エリア。隣町に繋がる道でもある。

 少し離れるだけで生態系はガラリと変わるもので、ご近所さんたちとはぜんぜん異なる顔ぶれが揃っていた。

 

「見てコダックだよコダック! かーわいいなぁ」

 

 例え火の中水の中。水遊びするポケモンたちにじゃれつこうと川めがけて突き進む。

 

「これから学校なんだから水に入ろうとしないでください」

「はい」

 

 決意表明から数分、もう敬語が出てきたネモであった。

 ゲームならどれだけ寄り道しても問題ないだろうが残念なことにここは現実だ。さすがに水場に突撃するのは辞めておいたほうがいいかもしれない。

 泣く泣くこの場で戯れることを諦める。

 

「あ、ププリン」

「レトー」

「はい」

 

 たしなめられた。

 いやまあ、日頃ふざけ倒しているだけで、これでも俺は転生者。見た目通りに子供というわけではない。

 俺がフラフラと寄り道していくことを考慮して早く来いとネモは言っていたんだろうけれど、間に合うと思っているからふざけているわけで。

 時間がないなら寄り道はしないって。たぶん。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 お、ラルトスだ。人気あるのも納得の見た目、遠目にも愛くるしい。

 黄色いわんこは確かパピモッチってやつだ。パンの犬とかすげぇポケモンだよ。

 黒いウパーもいる。こんな近くにも住んでたのかドオーの進化前。

 

「……ふぅ……ふぅ……」

 

 あっという間にすれ違って、後ろに流れていくポケモンたちを目で追う。

 そうこうしている間に隣町、プラトタウンだ。鮮やかな石造りの家が並んだ、小さいながらも華麗な町である。

 

「ぜぇぜぇ……」

「大丈夫か? ネモ」

「だいじょうぶ……だいじょうぶ……だいじょうぶじゃない」

 

 ポケモンセンターに立ち寄り、備え付けの椅子に座るネモ。

 体力ないなぁ。

 オレンジアカデミーは寮があるから毎日この道を登下校するわけじゃないけども、確かパンフレットによればアカデミー自体、前世準拠ならヤバげな立地にあったはずだ。

 果たしてネモは通い続けることができるのだろうか。

 というかもしかして出発時間を早めたのって、ネモ自身の体力が理由だったのだろうか。

 

 ネモが復帰してくるまで時間かかりそうだな。さて。

 

「よーしよしよし」

「わんわん!」

「はっはっは。そこはパピって鳴いとけよ」

 

 犬だぁ。思ったより犬だよこの黄色。なんかパンの匂いもするし。ちょっと齧ってもいいかな。

 わしゃわしゃとパピモッチを撫で回しているとパモが肩から飛び降りて、こちらを見上げてくる。回復したらネモが呼びに来るだろうし、このまま遊んでやることにした。

 

 ■◆■

 

「おまたせ」

「意外と早かったな」

「そんなことはないですけどね」

 

 ネモもとりあえず動けるようにはなったみたいだ。屈んだ状態から立ち上がる。

 

「ぷぷりる?」

 

 俺の動きを追ってププリンが顔を上に向ける。そうしてそのまま後ろに転がった。

 

「あはは。気をつけろよ〜」

 

 笑いながらププリンを立たせてやる。パモを肩に戻して道の先に向き直った。

 

「さあもうひとっ走りいこうか」

「……うん」

「荷物持とうか?」

「お願い」

 

 プラトタウンの中を通り抜ける。道は二本あったが、どちらもテーブルシティへと繋がっている。

 緩やかで長い坂道を登り切ると大きな門が見えてきた。

 

「やっと……テーブルシティについた!」

「お疲れ様〜」

 

 ギシギシと門が開いていく。

 どっかに人がいるのか、この古めかしい見た目で自動ドアなのか。

 ともあれ目的の街に到着した俺たち。

 さあ、後は。

 

「パルデア最大の街の反対側まで行って長ーい階段登ったらアカデミーだぞ」

 

 門からまっすぐ、歴史ある街並みのそのまた先に、遠く見えるのは一際大きな城のような建造物。

 遠目にも結構高いところに建っている。

 ちなみにエスカレーターやエレベーターはないらしい。




「一緒に冒険しよう!」
「パモ」
「ヤダ! 聞こえなかった! 一緒に冒険しよう!」
「パモ」
「うなずいてくれるまで負けない! 一緒に冒険しよう!」
「パモ」
「え! 俺たち相棒だよね!?」
「パモ」
「相棒!?!?」


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11話

 息も絶え絶えなネモを引っ張るようにして階段を登りきる。ファンタジーRPGで出てきそうなトンガリ屋根のお城のような校舎だ。

 見慣れない顔だからか、ネモが疲弊しているからか、多少視線を集めながらパモをボールに戻して校舎へと入った。

 

 正面玄関からすぐのところにあった受付で校長室の場所を聞いて向かう。転入にあたって、なにやらやることがあるらしい。

 転入なんて前世含めても初めての経験だから知らないんだが、こういうのって校長直々にやるんだなと少し驚いている。

 

 重たそうな木製の扉を開けると、白髪のおじいさんが座って待ち構えていた。

 資料で見た校長だ。スラリとした体格にメガネをかけたやり手っぽい老人である。もっと言うなら頭脳派の黒幕っぽい容姿。

 

「おや。来ましたか」

 

 優しげな声の彼は椅子から立ち上がるとこちらへ向かってきた。

 

「ようこそ、オレンジアカデミーへ。あなた方を歓迎します。早速ですが事前にお渡しした教科書などは持ってきていますか?」

「はい。カバンの中にちゃんと入ってますよ。ほらネモ。荷物返すぞ。持てるか?」

「大丈夫、ありがとう」

「仲がいいようで何よりです。さて、実は他にもう一つ、これから入学するあなた達に渡さなくてはならないものがあるのです」

 

 そう言うと校長は三つのモンスターボールを取り出した。さすがに室内でポケモンを出すことはせず、ボールを机に並べる。

 

「アカデミーに入学する生徒にはポケモンを渡す決まりとなっているのです」

 

 くさねこポケモンのニャオハ。

 ほのおワニポケモンのホゲータ。

 こがもポケモンのクワッス。

 

「みずがもではなくて?」

「クワッスさんはこがもポケモンですよ。この中から一匹、パートナーとなるポケモンを選んでもらいます」

 

 屈んでボールに目線の高さを合わせる。

 おぉ~、御三家だ。パルデア地方の御三家! 

 ボールのカバーからうっすらと姿が見えているが、どの子もかわいいなぁ。悩ましい! 

 

「あの、校長先生」

「どうかしましたか?」

「わたし、この子を連れているんです」

 

 モンスターボールを取り出すネモ。え。

 

「お前いつの間に」

「あはは。後で勝負しようね」

 

 クスクスとこっちに笑いかけると、ネモは校長に向き直る。

 

「それで、この子のお世話だけで今は手一杯なので遠慮します」

「わかりました。レトさん、あなたはいかがですか?」

 

 それアリなのか。

 しかしどうしたものかな。いやもうネモを無視して誰か一匹連れていきたいところではあるんだけど。

 しばらくはパモだけでってのも悪くはない。

 

「ちなみにここで貰わなくても、また後でってできます?」

「ええ、構いません」

「三回貰いに」

「それはダメです」

 

 残念。

 

「じゃあ俺も遠慮しときます。絶対、絶対にまた迎えに来ますから」

 

 名残惜しいが後回しにすることにした。

 ネモが隣でこの子に集中したい、みたいなこと言ってるのに、じゃあ俺は貰う〜、とは言えないって。

 校長がモンスターボールをしまう。

 あ〜、見えなくなっちゃう。

 

「それでは教室の近くまで案内しましょう。ネモさんはA組、レトさんはB組です」

 

 ■◆■

 

 放課後。

 割り当てられた寮の自室で、遊びに来たネモとのんびりおしゃべりをしていた。

 

「ほいこれ、合鍵。で、授業初日どうだった?」

「わたし持ってきてないや、また持ってくるね。授業ね、すっごく楽しかった!」

 

 ネモのクラスはゆったりした生物教師が担任をしているらしく、ポケモンの話が聞けたのだとか。

 

「なにそれ楽しそう。いいなぁ」

「レトのクラスはどうだったの?」

「こっち? こっちはこっちですごいのが担任やってるよ。全身あちこちに伝説のポケモンのアクセサリーつけた歴史クラスタ」

 

 古代のポケモンについては造詣が深そうであるし、その辺りの話は聞いてみたい。

 

「なんか俺とは別方向の変人って感じ」

「あっ、変人の自覚あったんだ」

「はっはっは、上等だお前表出ろポケモン勝負だ!」

「いいよ! やろうか!」

 

 ボールは持ってきていたらしく、俺たちはそのままグラウンドに直行する。

 放課後ということもありグラウンド、というよりかはバトルコートには結構人が集まっていた。しばらく見物しながらコートが空くのを待ち、とうとう俺たちの番である。

 両端に立って向かい合う。

 

「初めてのポケモン勝負。わたし負けないからね」

「お前に俺が倒せるか? ネモ」

 

 ベルトからボールを外す。

 なんて言って俺も対人戦はこれが初めてだからなぁ。楽しんでやろう。

 パモにデレデレしてたし、かわいい系が好みと見た。候補は何匹かいるが、さあて何で来るか。第一候補はハネッコ。

 

「いけっ、パモ!」

「おいで!」

 

 ネモがボールを投げる。閃光が伸び、格納されていたポケモンが姿を現した。

 

「スナバァ!」

「ばぁ〜」

「おまっ、フザケンナよォ!」

「絶対に負けたくないという強い思い!」

「全力の身内メタやめろお前ェ!」

「『おどろかす』攻撃!」

 

 もう十分驚いとるわい。

 

「あぁぁ! 噛め噛め! 噛みつけ! お前のアゴを見せてやれ!」

 

 人生二度目となるポケモン勝負。

 俺はまたしてもでんきタイプ連れてじめん相手に戦う羽目になった。

 こいつ後でしばく。

 

 ■◆■

 

 思ったより苦戦しなかったな。

 目を回すスナバァとほとんど無傷のパモ。じめん技を使えないってのもあったが、それ以上に動きが読みやすかったというのが理由だろう。

 

「くぅ〜、負けたぁ。やっぱレトは強いなぁ」

「ちょっとトレーナーとして先輩だからな。まだまだ負けてあげない」

「『かみつく』なんてまだ使えないと思ってたのに」

「ご飯はちゃんと噛むよう躾けてたからな」

 

 パモには活躍した褒美に後で美味しいものでも用意してやろう。

 

「次は勝つからね!」

「ははは、百万回返り討ちにしてやるよ」




レト「先生、そのアクセサリーってどこで売ってるんですか? 伝説や幻のポケモンモチーフのって見たことなくて」
担任「ほう? どれがわかる?」
レト「全部わかりますよ。カントーのフリーザーに、アローラのカプ・コケコにルナアーラ。マーシャドー」
担任「貴様、なかなか博識だな」
レト(主にポケモンについて早口で話している)
担任(主に歴史について早口で話している)

クラスメイト(またクラスに変なのが増えた)


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12話

一周年記念で待望のブラマジ強化!
待ち望んでいたイリュージョン・オブ・カオスがとうとう実装されましたね(違


それはさておきSVのDLC来たー!


 俺がオレンジアカデミーに入学して何日かたち、ついに冒険に出る日がやって来た。

 朝からアナウンスが流れ、生徒一同グラウンドに呼び出される。

 

「皆さん、集まりましたかね。それではこれから課外授業の説明をおこないます。課題のテーマは『宝探し』! 皆さんには世界を旅して自分だけの宝物を探していただきます」

 

 クラベル校長の演説により始まった大イベント。

 長い歴史を持つオレンジアカデミーの伝統行事である。生徒たちはそれぞれ思い思いの宝物を探し、パルデア中を駆け回る。

 ちなみにトレーナー志望の生徒たちの多くはポケモンジムを回るらしい。ガラルのジムチャレンジみたいなものだろう。

 

「ってレホール先生が言ってた」

 

 教師陣も皆、何ヶ月か前に総入れ替えされたということもあり、教職として宝探しに関わった者はいない。

 というわけで伝統行事とか大好きそうな我がクラスの担任に聞きにいったのだ。長時間拘束されそうになったので要点だけかい摘んでもらった。

 

「レトももちろんジム回るよね?」

「そりゃあもちろん。目指すはチャンピオンランクだ!」

 

 チャンピオンランクとは他地方で言うところの殿堂入りトレーナー。現チャンピオンを降したすっごいトレーナーに与えられる称号なのだー。

 トレーナーになったのであれば誰もが夢見る頂。

 正直俺は才能ある方だと思うから、案外良いところまでいけそうな気がしている。

 

「くぅ〜、やっぱりそうだよね! 目指せ最強トレーナー! ジム巡りにしゅっぱ~つ!」

「イェイイェイ!」

「……パモ」

 

 呆れた様子のパモを置いて、ハイテンションなネモに乗っかる。

 わかる、わかるよその気持ち。

 待ち構えるのは目も眩むような冒険の予感。一人のトレーナーとして、これで昂らなきゃ嘘ってものだろう。

 

「じゃあどっちが先にチャンピオンランクになるか、競争でもする?」

「うん。やろうやろう! わたし負けないからね!」

 

 グッと拳を握りしめるネモ。

 西門の方に向けて走り始め、途中でこちらに振り向く。

 

「途中で会ったらまた勝負しようねー!」

「わかった、頑張って追いつくよ」

 

 手を振ってネモを見送る。さて、俺もちょっと準備したら旅立つか。

 アカデミーから一番近いのはセルクルタウンにあるポケモンジムらしい。慣例として最初に挑むジムに選ばれることが多いのだとか。

 地図によるとネモの向かった西門から出て、道なりに行けばあるみたいだ。

 

「ボールでしょ〜、回復アイテムでしょ〜。あとなんかいる?」

「パモっ!」

「あぁそうかそうか。ご飯は必須だよな。なんか食べながら見て回ろうか」

 

 サンドイッチのチェーン店、まいど・さんどに入ってジャムサンドを購入。仲良く分け合いながら城下町もとい校下町を散策する。

 

 とはいえバッジ無しの俺が買えるポケモン関連の道具はそう多くはない。完全に対戦用の持ち物まで売ってたのは驚きだが、こちらは値段の問題で見送りだ。

 

 まずはモンスターボールを十個! プレミアボールのオマケ付きだ。

 キズぐすりをたくさん! 持ってて困るものではないし、なんだかネモとはあちこちで勝負することになる気がするし。

 サンドイッチ用のパンにピック、具材をたんまり。売ってる具はまともなのに、どうして店頭に並ぶサンドイッチはイロモノなのか。パルデア七不思議の一つだ。

 

 そしてこれは個人的に必須だと思って購入したのが、ともだちてちょう! 忘れちゃいけない相手のことはこれに書き込んでいこう。

 とりあえずクラスの隣の席の人くらいは書いておこうかな。……あー、えーと、また今度かな。

 

 旅に使うものは一通り揃っただろうか。

 わりと無尽蔵に物が入るバッグの中身を確かめてみる。

 

「これでいいっすかね先生」

「パモ」

「うし、お墨付きも出たことだし出発……っと、あれは」

 

 ふと目についたのはガチャガチャの台だ。

 こういうのも置いてあるんだ。学生の街だし、やっぱり売れるのかなぁこういうの。かく言う俺も回したくなってるし。

 軍資金はまだ残っている。一回くらいいいだろうとスマホをかざしてガチャガチャを購入。

 

「モ?」

「これ? これはガチャと言って多くの人間を破滅させてきたシステムだよ」

「ぴぃっ!」

 

 悲鳴をあげて肩から飛び降り、パモが俺の後ろに隠れる。

 

「あはは、冗談冗談」

 

 よいしょっとパモを抱えあげてガチャガチャの前に付き出す。

 

「そこのハンドルを回して……そうそう。するとランダムで景品が出てくるんだ」

 

 他の人に回してもらったガチャはなんか当たりやすいの法則。別にそんなことはないんだろうけど。

 パモがちっちゃいおててでガラガラとハンドルを回転させる。コトンとカプセルが受け取り口に落ちてきた。

 

「さてさて何が当たったかなっと」

 

 早速取り出して開けてみる。中から出てきたのはモンスターボールを模した缶バッジだ。

 別に要らないところまで含めてガチャガチャって感じだよな。

 なんとなくやったけど、どうしようかこれ。

 どこか付けられそうなところ。帽子にでも付けておくか。

 

「これでよし。行くぞパモ……パモ、パモさーん。もうガチャガチャはやりませんよー」

 

 筐体を目をキラキラさせて見つめるパモを引きずっていく。

 危ない危ない。アホ……じゃなくて純粋なポケモンにガチャなんてやらせるべきじゃなかったな。今度から気をつけよう。

 

 ともあれこれで万事オーケー。勇んで俺は門を潜った。

 

 ■◆■

 

「メリ〜」

「よしよしよしよし、よ〜しよしよしよし。お前かわいいなぁ」

 

 勇んで門を潜り、すぐその辺りにいたメリープを俺は撫で回していた。

 宝探しの目的はパルデアを見て回り成長することだから! 

 寄り道こそ本懐! 

 

 なお撫で回したことにより静電気がたまり、後で感電させられた。

 

 

 

 ■◆■

 

 オマケ

 

 転入初日

 

「お、なんか見たことない顔だな。そういや一年に転入生が来たとかなんとか。あれがそうか? 二人共結構やるなぁ。男の方、あれは……未来でも見えてるのか? サイキッカーってやつ? 羨ましいな、初めて見るけどあんなことが出来るのか」

 

 二日目

 

「今日もやってるのか。微笑ましいな、俺も初心者の頃は勝負に明け暮れてたっけ。しかしあの女の子も大変だな、あんなのが同期とか」

 

 三日目

 

「お〜、やってるやってる。毎度毎度ボコボコにされてるのに折れないもんだ。……あれ、あの子のスナバァ、あんな動き良かったっけ?」

 

 四日目

 

「あいつ俺より強くねー?」

 

 だいたい一ヶ月後

 

「チャンピオン……かー」




前まで後書きに入れていたオマケを本編に入れるようにしました。


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13話

久しぶりな上に短いけれど許して……許して


「さっきは負けちゃったけどキャンプをして元気いっぱい! ぼくのポケモンと勝負だー!」

 

 誰かに負けたっぽいトレーナーを再びキャンプ送りにしつつ、先へと進む。

 道中ちょいちょい見かけるご飯を食べたり、ポケモンセンター目がけて走ったりして回復を図ろうとしている子らは俺と同じように宝探しの題材にジム巡りを選んだ同期なのだろう。

 

 しかし流石は世界中からトレーナーが集まるらしいオレンジアカデミーの生徒といったところか。

 出会うだいたいのトレーナーがすでに戦闘不能だったような気もするが、それはそれとして戦った何人かはそれなりに優秀だった。

 読みが上手く働かないんだよなぁ、指揮役が付くだけでほんと厄介になるものだ。

 

 意気揚々と俺が最強ぐらいの気持ちで出てきたのだが、存外やり甲斐があるな。

 

 まあそんなことは置いといて、ポケモンだポケモン。

 一面茅色の大草原、そこには見慣れたハネッコやヤヤコマ、つい先程構い倒して感電したメリープ、ひっそり隠れてじっとしているヒマナッツなどたくさんのポケモン達がいた。

 

「おぉ、ムックルだムックル!」

 

 見かけたそいつらに思わずテンションが上がる。

 ダイパではお世話になった小鳥だ。そらをとぶ、きりばらい……は必要ないか。パルデアでひでんわざの話聞いたことないし。なんかリメイクでは使わされた気がするけど。

 数匹のムックルたちは群れをなして地面をちょこちょこ飛び跳ねている。

 

「ムック!」「ムック!」「クルクル!」「ムックル!」

 

 図鑑にやかましいと書かれるだけあって、非常に賑やかである。なんかこの中から一匹連れて行くって可愛そうだな。

 少し離れた位置から彼らを見守る。

 家族なのかな、羽を繕ったりすり寄ったり。

 かわいい。そうか、一家全員捕まえればいいんだ。空のモンスターボールを構える。

 

 ……、……。……いや、飼えねぇわ。

 ぐぬぬ、仕方ない。今は見逃してやる。

 ゲームみたいに片っ端から捕まえられたらなぁ。と、手にしていたボールをバッグにしまう。

 名残惜しいがジムも気になるし、ネモがどこまで行ってるのかも気になる。きのみを何個か投げ渡し、踵を返した。

 

「っと」

 

 足元にいた小さなポケモンを慌てて避ける。危ない危ない、踏んじゃうところだった。

 スボミー、じゃなくてミニーブか。

 オリーブのポケモンだ。オリーブの実みたいな体の上には、葉っぱとオリーブの実が追加でもう一つ付いているお得ボディ。

 近くでわちゃわちゃやっていた俺のことは意に介さずぼーっと虚空を見つめている。

 

「大丈夫? 当たってない?」

「ミニ〜」

 

 平坦な鳴き声をあげる丸っころ。ふむ。

 

「よいしょっと」

 

 ラクダのコブみたいに頭のオリーブに栄養を貯め込むらしいこの子は、抱えてみると小さな見た目に反した意外な重量がある。

 頭部の葉っぱを撫でてみる。反応は薄い。本当の植物であるかのように、いや本当に植物ではあるんだけどね。これが激しい喜びも深い絶望もない植物の心というやつか。

 めちゃくちゃ元気だったハネッコとはだいぶ方向性が違うな。これはこれで良き。

 

 しばし足を止めてミニーブを撫で回す。甘いオリーブの匂いが漂ってきて心が落ち着く。

 あ〜、旅が進まねぇ。

 これ俺宝探しの期間中にどこまで進めるんだろう。

 

「パモ!」

「あと十分だけ! 十分だけ浸らせて!」

 

 はよ進めとパモに怒られてしまった。お前も構ってやるから許してほしい。

 たぶんこうやってツッコミ入れてもらわないと、本気で進捗が死んでしまうからな。ストップがかかったら素直に応じることとしよう。

 

 なんて立ち止まった俺たちのところへ、近くにいたポケモンたちが集まってくる。

 

「一匹につき十分だっけ?」

 

 ペチっと肉球でしばかれた。

 

 ■◆■

 

 アカデミーに通い始めてからはこうして野生のポケモンと戯れる時間も減っていた。

 そう日付が空いたわけでもないが、今までが息を吸うように草むらに繰り出していたからか、久々という感じだ。

 ミニーブを地面に置き、大きく伸びをした。

 気分爽快、心なし体調も良くなったような気がする。

 

 集まった子らをひとなでし、ミニーブをバッグにしまう。

 草原を抜ければセルクルタウンだ。

 気力はばっちり。さあ一息に行ってしまおう。



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14話

お久しぶりです。
忙しくてしばらく離れていたら再開の機会を見失いまして……。

更新止まってる間に文章力が落ちたような、前からこんなもんだったような。


 カツカツとはしごを伝って物見塔を登る。塔自体の古臭さとは反対にしっかりと手入れされており、足場としては申し分ない確かな感触がある。

 二段重ねの漏斗みたいな塔のてっぺんまで来れば、辺りを見渡すには十分な高さだった。

 

「おお〜っ」

 

 パルデア十景が一つ、オリーブ大農園。

 起伏の激しい地形に間隔を開けて広がるオリーブの木たち。それらにぐるりと囲まれて人間の街がある。

 あれがセルクルタウン。ひときわ大きな白い建物がポケモンジムだろう。

 

「初めてのジム、胸が踊るな!」

「パモ!」

「ミニ〜」

「ようし行こう!」

 

 景色の観賞には向かない性分だ。

 ひょいと落下防止用の出っ張りを乗り越えて塔から飛び降りる。地面スレスレでスマホロトムに掴まり安全に着地。

 登るのは若干面倒だったが、降りるのは楽でいい。

 ゴツンと俺の頭を一発小突いたロトムが懐へと戻る。服の上からロトムを撫でつけ、俺たちは道に戻った。

 

 ■◆■

 

 街を区切るように積まれた石垣や、黄土で建てられた家々と、サークルという意味があるにしては四角いセルクルタウン。

 コサジやテーブルとは随分と街の様相は異なっていた。

 ジム以外で気になるものといえばやはり一風変わったツリーハウスだろう。物見塔から見たときには生い茂る葉っぱに隠されてわからなかったが、大木を支柱にして巻き付くように木で階段が組まれている。

 

 大木の根本には店が建っていた。

 ツリーハウス自体がこの店、パティスリー『ムクロジ』の飲食スペースであるらしい。パティスリーってなんだろう。

 螺旋階段を登っていけば一段目の踊り場に辿り着く。クモの巣みたいな模様の広い空間で、花壇を中心に机と椅子が設置されている。

 

 ひらひらと花の上を蝶のポケモン、ビビヨンが舞っていた。風土によって翅の模様が変わる綺麗なポケモンである。

 目の前のビビヨンたちが持つピンクと緑の翅はファンシーな模様と呼ばれる種類の柄だ。

 

 これ確かゲームだとレアな柄じゃなかったっけ。

 パルデア柄だったんだ、この色。

 馴染み深い我らがパルデア図鑑は見栄を張っていたわけではないらしい。

 

 コフキムシはともかくとして、野生のビビヨンを道中見た覚えはないし、生息地もズレていたはず。誰かのポケモンなのだろうか。なんとなく力強さを感じる。

 

「あまいミツとかあればよかったんだけどなぁ。ケチャップとかマヨネーズとか舐める? 舐めないか」

 

 翅を見せびらかすようにくるくると回るビビヨンたち。

 もうちょっと見ていたいな。なんかムクロジで買ってくるか。

 一度階段を降りて店に並ぶことにする。さっきはちゃんと見てなかったから気づかなかったけど、店のガラスもクモの巣柄だった。

 

「あら〜、アカデミーの学生さん。はじめましてよね?」

 

 前の人が捌けて俺の番がくる。ショーケースを眺めていると、おっとりした雰囲気の店員が話しかけてきた。

 

「ええ。初めまして」

「ジムに挑みにきたのかしら。宝探しの時期だものね」

「ビビヨ……あ、はい。そうですそうです。これが初挑戦なんですよね〜」

 

 そんな話をしながらオススメだというあまいみつのケーキを注文する。

 手際よくケースから取り出す店員。ほのかに甘い香りが漂ってくる。

 

「ジムならもう一時間もしたら開くわよ〜」

「おぉ。時間調べてなかったから助かります」

 

 当たり前だけどゲームと違って、二十四時間営業じゃないポケモンジム。時間はついてから合わせればいいや、と思っていたが待ち時間がそれなりにあって助かった。

 トレイに載せられたケーキを受け取る。

 

「ところで店員さん。強そうですけどひょっとして上にいたビビヨンのトレーナーですか?」

「そうよ〜、かわいいでしょう。ビビヨンちゃん」

「とっても! あの子達は触っても構いませんか?」

「えぇ。優しくお願いね」

「はぁい」

 

 許可も取ったところで階段へ戻り、踊り場の空いていた席に座る。

 一緒に渡されたスプーンは店のものだから俺が使うとして、カバンから二本、自前のスプーンを取り出す。

 ケーキを掬い、肩口へと持っていく。目を輝かせたパモは慌てたようにスプーンに食いついた。よっぽど美味しいらしく、スプーンごともぎ取られてしまう。

 

「もっもっも」

「こぼすなよ〜。ほうらミニーブ、出ておいで。おやつだよっと」

 

 ミニーブをカバンから取り出して隣の席に座らせる。

 

「はい、あーん」

 

 一口分取り分けたケーキをミニーブに差し出す。ぬぼーっとしていたが、すぐそこでパモが食べているからだろう、これが食べ物だとわかったらしくパクンと咥える。

 目を白黒させながらもごもごと口を動かすミニーブ。ゆったりさはどこへやら、小さい足で俺の周りを駆け回り始める。

 

「こーら、周りに迷惑かかるだろ」

 

 走るミニーブを捕らえて膝に乗っける。まだバタバタと足を動かしていた。

 初めて食べた、とかもあるんだろうがこれは期待しかない。

 いざ実食、とろりと垂れる蜜が溢れないようすくい上げる。

 

「……いやあげないよ? 俺も食べてみたいんだから」

 

 キラキラした目を向ける二匹を無視して口に運ぶ。

 

「おぉ、美味しい。食レポはできないけど」

 

 口の中で……え〜、あ〜、甘くて美味しい。

 うん。うまいうまい。

 二つ目、三つ目とジムバッジ手に入れたらご褒美として買いに戻ろうかなって思うくらいにはグッド。

 はよこっちにも寄こせとばかりにアピールするパモたちとともに甘味に舌鼓を打つ。

 

 一人と二匹分の量じゃなかったな。ちょっと少なかったかも。

 物足りなさはあるものの、それはそれ。十分いいおやつだったしそれに、俺はまだ何もやっていない。買い足すならせめて勝ってからにしよう。

 

 ジムの受付時間を調べるとまだ余裕があった。

 よしじゃあビビヨンと戯れてくるか。

 きゃー、ビビヨンちゃ〜ん。でっかい虫なのにこんなキュートなの世界が歪んでるでしょ。

 

 ■◆■

 

 案の定、受付開始時刻をしばらく過ぎてからジムを訪れた俺。

 

「ようこそセルクルジムへ! 挑戦者のお名前を登録します」

 

 タブレットに名前とトレーナーカード記載のIDを入力する。

 

「では手持ちのポケモンを登録します。モンスターボールをこちらへどうぞ」

「はい、これと。あと……あれ……?」

 

 手持ち登録されたボールがない。この子はうちの子だったはずでは? 

 おかしいな。モンスターボール無くしでもしたかな。

 仕方ないので空のボールをミニーブの前に差し出す。

 

「とりあえずこれに入る?」

 

 そう言うとボタンに触れて大人しくボールに入るミニーブ。

 よしよし。問題なく使えたな。

 

「じゃあこれも登録をお願いします」

「野生のポケモンを街中で連れ歩くのは危ないので、今後はやめてくださいね」

「あ、はい」




???「トレーナーだ! トレーナーだよね!? ねぇトレーナーでしょきみ!!」


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15話

この小説のためにスカーレット二周目をレトと同じ手持ちでプレイしてるんですけど、難易度高いんですよねぇ。

レトならわざわざ道を外れてトレーナー探してバトルしたりしない! ってやってたら普通に負けましたし。


 セルクルジムのジムテストはその名もオリーブころがし! 

 セルクルタウンでは昔から豊作を願って収穫祭を行っているらしい。そこから引っ張ってきたこのテストでは、オリーブを模した大玉を転がすのだという。

 受付さんによるとテストは街の北で行われているらしい。

 

 言われるがままに街の外にあるイベント会場へと向かう。

 先に来ていたらしい制服姿の老若男女が何人か説明を受けていた。早足にそこへ合流する。

 スタッフ曰く──

 

 オリーブころがしとは、巨大なオリーブ玉に体ごとぶつかってころがしていく体力勝負! 

 いくつもの障害物を乗りこえてゴールのカゴにオリーブ玉を入れることができたらクリアです! 

 

 ──とのことらしい。

 全員まとめて挑戦できるほどコースが広くはないので一人ずつ順番にオリーブを転がすことになった。

 当然登録が最後だった俺は後回しというわけで、コースの脇で見学することにする。

 

 またしてもクモの巣柄なコースロープで区切られた簡素な迷路には、説明通りのでっかいオリーブが置かれていた。

 楕円形のオリーブ玉は横幅だけなら俺と似たりよったりだが、高さは俺の倍くらいはある。

 それにしてもまたこのデザイン。よっぽどクモが好きなんだろう。

 

 参加者たちは思い思いの方法でこのテストに臨んでいた。

 コース内に配置された二人のジムトレーナーをしっかり倒してから進む人や、反対に遠回りしてでも戦いを避ける人。

 

 ともあれ参加者たちの多くはジムテストを無事に攻略し、どこか別のところへと向かっていっていた。

 

 しかしなんだろうか。ジムトレーナーが手を抜いてるからかな。妙な違和感がある。

 やってみれば分かるか。

 

「それでは次の方どうぞ〜」

「は〜い。よっしゃ行くぞ」

 

 俺の番が回ってきたのでスタート地点に立つ。

 オリーブ玉は触ってみた感じ、そんなに重くはない。子供もいっぱい来るからだろう。

 

「よーい、スタート!」

 

 掛け声に合わせて玉を押し始める。

 おててが大玉に届かないパモ、おててが存在しないミニーブ。

 二匹とも押すの大変そうだな。

 

「パモ……パモっ」

「ミニニっ?!」

 

 作り物じゃなかったら齧るのにっ。

 食べられぅ?! 

 的な会話をしている気がする。

 

 ゴロゴロとオリーブを道なりに転がしていくと、ミニーブの群れが道を塞いでいた。

 群れの真ん中にはジムトレーナー。

 

「ごめん、ちょっと通りたいから横に避けてくれる?」

 

 さぁーっと捌けていくミニーブたち。

 よし。

 

「待った待った! びっくりしちゃうわ、もう。ここを通りたければ私と勝負よ!」

「テレレレレポォ────ゥ!」

 

 お前はその鳴き声なのか、コロトック。相変わらず耳に残るな。

 といったところで初のジムトレーナー戦。

 弓のような前脚を振り上げて威嚇してくるコロトックたちを一蹴し、先へとオリーブを転がすのだが。

 

 なんだろう、こう、なんというか……弱い。

 バッジ0にしてはレベルを上げすぎたのかね。心当たりがあるだけになんとも言えない。

 脳裏に緑メッシュを浮かべながらヌルゲーと化したジムテストを攻略していく。

 

「シュートっ!」

 

 二人目のトレーナーも難なく倒し、ゴールめがけてオリーブ玉を蹴っ飛ばしてあらぬ方向へ飛んでいったので慌てて取りに行って手で押し込む。

 無事にテストはクリア。コースから出るとスタッフの人がやってきて、結果を受付まで報告に行くよう言われる。

 

「ジムリーダーとの勝負もファイトです!」

 

 激励の言葉を受けてジムの建物へと戻った。

 施設内には俺より先にテストを受けていたメンバーのうち何人かが休憩していた。

 彼らを尻目に受付さんに結果を伝えに行く。

 

「レトさんには当ジムリーダーと勝負する資格が与えられます」

 

 テストに合格したことを報告すると、そう言われた。受付さんが続ける。

 

「お菓子の虫……ジムリーダー、カエデに挑みますか?」

「もっちろん!」

 

 二つ名なのかな。ジムトレーナーもむしポケモン連れていたし、むしタイプのジムだったか。

 道理であちこちクモ柄なわけだ。

 

「それではバトルコートに案内します」

 

 そうして連れられた先は、一時間ほど前にケーキを食べたツリーハウスの天辺だった。こんなところにバトルコートがあったとは。

 コートにはエプロンをつけ、いかにもケーキ屋の店員といった女性がビビヨンと戯れながら待っていた。

 

「うふふ〜。自己紹介がまだだったかしら〜。ジムリーダーのカエデです〜。びっくりしたかしら〜」

「……? …………、あっ、ビビヨンのトレーナーさん。さっきはありがとうございました!」

「いえいえ〜。ビビヨンちゃんたちも喜んでたわ〜」

 

 手を合わせてほわほわと微笑むカエデ。穏やかな人だな。

 

「いけないいけない〜。今はジムの時間だったわ〜」

 

 そう言ってモンスターボールを取り出す。

 

「口に入れて幸せなお菓子も草木にひそむむしポケモンも小さいけど大きな力を持ってます〜。足をすくわれないようふんばってくださいね〜」

 

 ジムリーダーのカエデが勝負をしかけてきた! 

 繰り出されたのはマメバッタという大きな脚のバッタポケモンだ。

 あ、この子、ネモと動画で見た子じゃないか。ジムリーダーのポケモンだったのか。カッコいいな。

 

「よし頼んだ、パモ」

 

 指示を出し、パモを舞台に進ませる。

 

「むしポケモン、甘く見てたら痛い目見ちゃうかもですよ〜」

「当然! 思いっきりいきます。左に、それから『でんこうせっか』」

「マメバッタちゃん『むしのていこう』」

 

 飛びかかってきたマメバッタを躱してパモが高速で体からぶつかる。

 ポコンと跳ね飛ばされたマメバッタはくるくる回って着地し、こちらに向き直った。

 まだまだ元気そうだ。

 

「『じゅうでん』」

「パモちゃんの周りを飛び跳ねて〜あら?」

 

 こちらの狙いを撹乱するように高く跳ね回るマメバッタ。すごいジャンプ力だ。手のひらに乗せられるくらいの大きさなのに何メートルも跳んでいる。

 パモにはそんな機動力は無いので素直に迎え撃つことにし、準備を始めさせる。

 クシクシと頬に手のひらを擦りつけててかわいい。電気がバチバチいってるけど。

 

 ここからマメバッタはパモの気を逸らすためにわざと音を立てるように正面に着地してきて、後ろに回り込んでからにどげりをしてくるから。

 

「後ろ、斜め上に『でんきショック』」

「『にどげり』あらら〜?」

 

 バチンと弾けた閃光が再びマメバッタを吹き飛ばす。

 あ、ちょっとズレた。やっぱり戦闘中の短い言葉だけで指示を伝えるの難しいな。

 でもこれ以上早く指示を出すと、見て避けられるのはネモで学んだ。やっぱり某生ける伝説さんの言葉は不要戦法は正しかったんだな。

 俺も出来るようになりたい。

 

「『でんこうせっか』」

 

 もう一度小突いて戦闘不能にする。

 ようし。まずは一勝。

 

「よくやったパモ! 後でめーっちゃ撫でてやる!」

「パモパモ!」

 

 誇らしげにするパモ。

 カエデが倒れたマメバッタをボールに戻す。

 

「お疲れ様、マメバッタちゃん。タマンチュラちゃん、お願いね〜」

 

 二匹目はタマンチュラか。馴染み深いポケモンだけれど、背中の糸もなんだか太いように見えるし強そうだ。

 

「それじゃあいくわよ〜」

「あ、ちょ、ちょっと待って。えーとどっちだっけ? こっちか」

 

 ベルトからモンスターボールを外して構えた。

 開閉ボタンを押してパモをボールにしまう。

 

「戻れパモ! んで、行くぞミニーブ!」

 

 相性は悪いけどなんだか今ならいける気がするんだ。




コサジで見つけたパモだけでゲーム進めるのが厳しくて、ゲーム内でミニーブ捕まえたから小説の手持ちにも追加されたという裏話


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16話

未来のお話

「キタカミの里での林間学校です」
「ワクワク」
「レトさんは出禁ですよ」
「え……?」


 ゲームならば絶対に取らないような選択肢に、選ばれるとは思っていなかったのだろう、ミニーブが口をモニャモニャさせている。

 相手のタマンチュラはタマンチュラで、眠たげな目をしているし、絵面がとっても呑気だ。

 しかし愛くるしい容姿に絆されている暇もなく、タマンチュラたちは先制攻撃を仕掛けようとする。

 

「オリーブオイル出して」

「タマンチュラちゃん、むしくい」

 

 くわっ、と小さな牙を剥いて飛び掛かってくるタマンチュラ。ビクンと震えたミニーブは俺の指示に従い、頭部の実からバシャアと油を浴びせる。

 大口を開けていたタマンチュラはモロにそれを食らって顔を真っ青にしてひっくり返った。

 

 ミニーブ系列の進化形たちは香り高く、美味しいオイルを出すことで知られているが、実はミニーブだけは違う。

 図鑑によると『とびあがるほど苦くて渋い』オイルを飲んでしまい、ペッペッとオイルを吐き出しながら悶えるタマンチュラ。

 ごめんよ。心の中で謝りながら、ミニーブに攻撃を指示する。

 

「ミニーブ『たいあたり』!」

「あぁ! タマンチュラちゃん!」

 

 体全体でぶつかりにいったミニーブ。オイルに塗れたタマンチュラは踏みとどまることが出来ずに吹き飛ばされる。

 

「よぉし、もう一発!」

「……っ! あっちの柵に『いとをはく』よ〜」

 

 滑る足元でふらふらになっていたタマンチュラに動揺が見えた。

 それでも足の遅いミニーブの体当たりが届くよりも早く、タマンチュラはフィールドを囲む柵に糸を吹き付け、それを引っ張るようにして攻撃から逃れる。

 距離を取ることに成功したタマンチュラは体を揺すってオイルを落とし、再び戦闘態勢に入った。

 

「カエデさん、今ジムリーダー的なルール違反しました?」

 

 やらないはずのことをやれ、って指示されてびっくりしたように見えたのだが。

 

「うふふ〜、なんのことかしら〜。わたしがリーグから言われているのは〜、トレーナーさんに実力を合わせることだけですよ〜」

「なるほどなるほど」

 

 穏やかな人だと思っていたけれども撤回だ。

 ネモと同じ、ポケモン勝負大好き人間の気配。

 

「じゃあ続けましょうか。思いっきりやりますね」

 

 ■◆■

 

 手加減を緩めたカエデに対し、そのままタマンチュラを撃破。

 続く三番手にしてエースのヒメグマ。

 

 むしタイプへとテラスタルしたヒメグマに対し、動きは変わらず読めていたもののミニーブではレベルが足りず敗北。

 記念すべき初黒星を付けられてしまったが、その後無事にパモとのコンビネーションでヒメグマを打倒した。

 触角のような結晶が砕けて、ヒメグマが倒れ伏す。

 

 これで終わり。

 初めてのジムバトルは大勝利。

 日課のようにネモをぼこぼこにしていたあの戦いとはまた違う、達成感で胸がいっぱいになる。

 あぁ、楽しいな。ポケモン勝負。

 

「わたしのポケモンたち、み〜んなむしの息です〜」

 

 とんだブラックジョークだった。

 勝利の余韻の中に突然投げ込まれた小ボケに苦笑する。

 

「あなたの強さ、勝負の最中でもパンケーキみたいにふくらんでいきました〜。わたしもも〜っと進化しないと! ですね〜」

「それは楽しみですね。また戦りましょう。……チャンピオンになった後とかに」

 

 気の長い話ですね〜、と微笑むカエデ。

 

「改めまして合格で〜す! ジムリーダーに勝った証としてジムバッジをさしあげます〜。カエデ特製手作りケーキも一緒にたーんとめしあがれ〜」

 

 バッジをカエデから受け取り、裏から出てきたスタッフがカップケーキを持ってくる。

 キラキラと目を輝かせたパモがもぎ取ろうとするのを制止して、ミニーブにげんきのかけらを使い復活させる。

 カエデに宝探しのレポート作りのために記念撮影を依頼すると快く引き受けてくれた。事前にジム挑戦を課題に選んだ人はそうすることが多いらしい、とは聞いていたのだが手慣れた様子である。

 

 思わぬ形でのおかわりとなったケーキを食べ終えて、これで本当に初のジムは終わりだ。

 カップケーキを食べている間に観客たちも捌けている。

 舞台を降りる前にカエデは言葉をくれた。

 

「これからあなたの進む道が甘く優しくありますように〜。それではまたお会いしましょ〜」

 

 ひらひらと楽しそうに手を振る。

 俺も軽く頭を下げてからバトルコートを去った。

 

 ■◆■

 

 ポケモンセンターでの治療を受けて、ようやくほっとため息をつく。

 ジム戦は終わった。勝ち抜いた。

 今やるべきことを全て終えた。

 つまり草むらに飛び出していいということだ。

 

 オリーブころがしの時、会場周りにいっぱい可愛い子たちがいたんだよね! 

 その時は流石にジムを優先しなくてはいけなかったけれど、もう関係ない。俺は自由だ。街の外を目指して駆け出す。

 

 若干奇異の目を受けた気がするがそんなことも関係ない。

 草原までやって来た俺は早速とことこのんびり歩いていたパピモッチに駆け寄る。

 近づくとよだれの出そうなパンの香りが漂ってきた。

 黄色の渦巻パンみたいな耳、つぶらな瞳。家と学校の間にもいたけれど、相変わらず凄い見た目だ。マジでこれ生き物なのか? ってポケモンはいっぱいいるけれども、まさかパンとは。

 

「わんわん」

「いい匂い……お腹鳴りそ。さっきケーキ食べたのに」

 

 両手で抱え上げて膝の上に乗せた。ペロペロと顔を舐めてくるパピモッチ。唾液もパンの香りがしてる。

 ぎゅうっと抱き締めてみると沈むようにもちもちで、まるで骨がないかのように柔らかい。

 

 むにむにとパピモッチを揉んでいたら、そのお仲間なのだろう。二匹、三匹と集まってくる。

 パッピパピでモッチモチ。これはもう何かの法に触れてしまうのではなかろうか。弾力過剰罪みたいな。

 ああ、生きてるって感じるわ。この時間が一番楽しい。勝った時より楽しい。

 

 そうやってじゃれ合っていると、ひょこひょことやって来たプリンが俺達の前に陣取る。

 

「やぁ、プリン。どうしたんだい」

「プ、プリ〜」

 

 大勢集まっているこの状況を好機と捉えたらしいプリンはどこからともなくマイクを取り出すと唄い始めた。

 

「プ〜プリル〜プ〜プル〜」

 

 ピンク色の身体をゆっくりと揺らしながら愛らしい声で唄う。

 流石はプリン。とっても綺麗な歌声でグゥ……。

 

 ■◆■

 

「レトー、レトー。ほら起きてー」

 

 体を揺すられている。ネモの声がする。

 起こしてなんて頼んだ覚えはないんだけれど。

 

「……う、あと五回」

「一回で起きてよ」

「くぁ……おはよ、ネモ。今何時? なんか用事とかあったっけ」

 

 寝ぼけ眼をこすりながら上体を起こした。

 

「ポケモン勝負……の前に顔洗おっか。なんかすごいことになってるよ」

 

 そう言いながら手鏡を渡される。なんだろうと思いながら手鏡を覗き込んでみると、俺の顔は無残な落書きに塗れていた。

 

「あー、そうだ。プリンの歌を聴いてて寝ちゃったんだった」

「気をつけないとだめだよ。草むらで無防備に寝てるなんて危ないんだから」

「俺なら大丈夫」

「そう言って何度もゴーストポケモンに連れて行かれそうになってるんじゃん」

 

 バッグから水とタオルを取り出し、湿らせたタオルで顔をゴシゴシと擦り落書きを消していく。

 これ油性だ。落ちねぇ。

 

「しゃーない。せっかく描いてもらったんだ。落ちるまで残しとこ」

「レトがいいならそれでいいけど……」

 

 スマホロトムを取り出して記念にパシャリ。

 写真をお気に入り登録してからネモに聞く。

 

「ところでネモ。ジムはもう行った?」

「ふふ、じゃじゃーん! セルクルバッジ!」

「やるなネモ。じゃあバッジ一個同士、戦うか」

「レトから言い出してくれるなんて。いいよ戦ろうか!」

 

 楽しそうにボールを構えるネモ。

 俺もミニーブを繰り出して戦いの準備をする。

 

「任せたよ、カイデン!」

 

 

 

 ■◆■

 

 オマケ

 

「カイデン可愛いなぁ」

「レトがくさタイプやみずタイプを連れてくると思って。……あとジム戦の対策にもなるし」

「特性もちくでんだしね」

「それは見た目じゃわからないはずなんだけど」

 

 オマケ2

 

「ぶいっ!」

「イーブイ? イーブイだ! 本物のイーブイだよ、もう感激!」

 

 じゃれ合った後、イーブイをバッグにしまう。

 ネモがバッグからイーブイを解き放つ。




パシオで余計なことを学んだネモ

「わたしは間違ってたんだ。ずっと相手に実力を合わせて戦うのがいいことだと思ってた。でも違ったの。これからは全力でやるね!誰が相手でも!」


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