ヲタク流、オラリオの生き方。 (ケモミミ推し)
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第一話「プロローグ的に始まる唐突な自分語り」

 

2022年12月9日。18歳の冬。

主人公の彼は現在、大学受験を控えている高校3年生であり、今まさに自身の机に向かっている状況である。

 

 

 

 

...いや、嘘だ。訂正、というか補足しよう。

私は受験勉強をしている訳ではない。だいたい私は既に国立大学の公募推薦を貰っており、残り少ない高校生活を半隠居状態で過ごしているに過ぎないただの優等生だ。

私は昔から外面のクオリティと教師からの評価だけは高かった。先生にいい顔をして損をすることはないと、子供ながらに知っていたからだ。

 

だから今頃必死に受験勉強をしている同級生諸君、威風堂々「○大の推薦受かった〜」と報告した私を恨む暇があるなら、今までピンキリ私立高校の中で遊び呆けてきた自分たちを恨むが良い。

...いや待て、たしかに受験勉強シーズン真っ盛りなこのタイミングで口を滑らせたのは悪かったと思ってる。しかしこの世には「努力は実る」という嘘臭くもありがてぇ格言があってだな、私はなにも全く努力してこなかった訳ではなく努力の方向性の違いというか音楽性の違いというか...

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

そんな多感な隠居ワイは今、ノートパソコンでニコニコしそうな某動画投稿サイトを開き、最近見始めたアニメの切り抜きを漁っている。

 

 

「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」

 

 

これほどの面白いアニメは今まであっただろうか。いや、ない。(反語)

緻密なストーリー展開、いい塩梅でまとめられた各種設定。

タイトルがなろう系のように見えてしまうことだけ気になるが、食わず嫌いを発症する人間が増えるだけだろう。内容が腐るわけではない。

 

しかしながらナイアガラ(激ウマギャグ)、私には友だちが少ない。正確には、趣味の傾向が他人とかけ離れているせいで、趣味の話など出来ようもないのだ。

そのような歪んだ人間関係が、私のような隠れオタクを生み出してしまうのである。これぞ現代社会の闇と言うべきか否か.......。

 

大体、先程も言ったとおり私も努力していないわけではない。持ち前の素直さと愛され精神を生かして先生に気に入られてきた自負がある。しかも私は天然だが、好きでやっている訳ではない。どこか人とズレた思考ルーチンを持って動いているように思える。「若干電波で先生に好かれる」という自分のキャラ属性も、自分で望んではいない。狭い学生社会の中で生きるための知恵というか生存本能というかそんな感じなのだ。

 

そのため、少しは何かしらの褒美があっていいように感じる。せめてダンまちの世界に転生する夢を見せてくれ某神っぽい龍よ、それか完全に腹をかっさばいて話せる友達の夢もいい。とにかく俺の日常に変化をくれ変化を。隠居生活も楽じゃないんだぞ。

 

 

.....もう2時半か。そろそろ寝るかなぁ。明日は朝から担任のとこに行かんといけんし。

 

せめていい夢見れますように......。

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず思いついた文だけ書き殴りました。
まだコマンドとか全ッッ前わかんねぇけど何とかやってみます。

私はオリキャラで春姫さんとイチャコラしたいだけ魔人なので、アニメ一期が主人公育成パート、二期がメインストーリー、三期からは書かず閑話やオリ話をコショウ少々...と垂れ流していく予定です。

かなり短編になるか前倒すか、そもそも長期間書かないなんてこともあるかもわからんので、完結したらラッキー程度に思っていただければ...

それでは、また後日お会いしましょう。



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第二話「ここは何処か」

朗らかな日差しと適度に乾いた空気。

 

ファンタジー趣向のテーマパークにありそうな色とりどりな中世風の建造物。

 

大通りに所狭しと軒を連ねる露店の数々が、活気に溢れる街である事を裏付けている。

 

 

 

 

 

 

 

妙に冷静に、状況を確認する。

薄っすらとではあるが、ここが夢の世界であると察しているからだろうか。

ふと思い出したように、自分の姿を確認する。目に入ってきたものは、慣れ親しんだスウェットではなく、綿か何かで作られた緑のシャツに黒いズボンとブーツ。そんな服は持っていないし、何より雰囲気が()()()()()()すぎる。まるで異世界アニメの登場人物ではないか。

 

だんだん背中に冷や汗が浮かんできた。表情も固まる。道のど真ん中でそんな醜態を晒しているのだから、通行人には白い目を向けられていることだろう。

 

そうだ。現実的に考えて、こんなことが起ころうはずもない。

そうだ、冷静になれ。某サマータイムレ○ダで言ってたろ、状況を俯瞰して見ろって。

 

俺は確か、ダンまち1期の名場面集的な動画を見た後2時半くらいにベッドインして、今はここに、なぜか妙に見覚えのある街に立っている。しかも見たのはかなり最近。

 

さすればここは、アニメ「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」の舞台である『迷宮都市オラリオ』ではなかろうか。つかそうだわ確定だわ、なんかエルフにドワーフのみならず小人(パルゥム)もいるし。他の異世界アニメじゃ小人(パルゥム)なんて中々お目にかかれる代物ではない。しかもあそこに売っているのは...ありゃ”ジャが丸くん”*1だな。神ヘスティアが店番してるし間違いない。

 

 

......ヘスティアがバイト?しかも「今日から宜しく」って言ってる。

ンてこた今はダンまち第一話が始まってちょうどくらいのタイミングな訳か。少なくともソード・オラトリアとかの時間軸にいるわけではなさそうだ。あそこは食人花とかなんとか色々物騒だもんな。まぁ時間軸的にはそこまでズレてないから一概には言えないが.....。

 

よし、段々落ち着いてきた。まぁなんとかなるよな!

それにどうせ夢だし、この状況を楽しんでみても良いかもしれんし。

それに、この夢が長く続けば、俺の”推し”と話せる日もそう遠くないかもしれん。そのためにはある程度強くならねば(使命感)。

 

 

よし、取り敢えず目標は決まったな。

まず最終目標、「推しと会う」。これ。これが今の所のゴール。ぶっちゃけそのためだけにダンまち転生したかったわけだし。

んで、その障害。俺の推しはサンジョウノ・春姫さん一択なんで、「イシュタル・ファミリアから救い出す」必要がある。だがこれがなかなか難しい。ベルくんが大立ち回り見せてくれたけど、実はあそこ結構強いトコだからな。だからといって他のでかいファミリアに今から入っても、物語の中であそこに喧嘩売れるのはベルくんとこだけですからね。

てことで「ヘスティア・ファミリアに入る」これは差し当たっての目標かな。

 

で、だよ。こっからが一番難関だな。「ベルと同じくらい強くなること。」これ成長系スキル取るかブラック会社もびっくりな社畜冒険するかの二択しかないんだよなぁ...。まぁ最低限レベル2になれればレベルブースト込みで戦えんこともないだろうし、最悪ベルくんのコバンザメになろうそうしよう。

というか俺に戦闘の才能があるかどうか分からんし、魔法とかも使えるかも。まぁ確かな事は何も言えないし、ここらへんは後から後から詰めていきやしょう。

 

とりあえずヘスティアのバイトが終わるまで待って、入団させてもらいましょうか。今は人が少ないて言ってたし、ベルくんと二人きりの状況に満足しているヘスティアはともかく、ベルくんには喜んで迎えてもらえるだろうよ。知らんけど。(責任放棄)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらバイトは終わったみたいだ。なんか疲れてるように見えるけど、激ニブな下界の人間風情にそんなことは分からないのでグイグイ行きましょうかね。

 

「あの、すんません。ちょっとお話を伺っても?」

「ん?なんだい、君は。まさか僕をナンパしているのかい?」

「いえいえ、滅相もない。俺はただ、冒険者になりたくて今日ここに来たものなんですけど...」

「...! 本当かい!?なら所属できるファミリアを探していないかい?!」

「もしかして、神様ですか?」

「そうさ、ボクは神ヘスティア!こんなナリだが立派な神様なんだぜ!」

「ではその、もしよければ....俺をあなたの眷属にしていただけますか?」

「えぇッ!いいのかい!?」

「そりゃぁもう。神様から貰う恩恵(ファルナ)に差はないと聞きますし。何より、」

 

厚い外面に二カっと笑みを浮かべ、

 

「これは多分運命ですから。」

「おぉ、君はなかなかのロマンチストだねっ。」

「恐縮です笑。」

 

 

 

そうして道をしばらく歩くと、例の教会が見えてくる。過去には栄えた時期があったかもしれない教会も、寂れてしまった今では見る影もない。

 

「あんな啖呵を切られておいて申し訳ないんだえけど...ここが我々のホームだよ。」

「? いい所じゃないですか。霊験あらたかそうな感じするし。」

「そうかい?なら良かったよ...。」

 

ホッと胸を撫で下ろす。

やっぱりこの神可愛いな。流石cv.水瀬いのりなだけはある。

 

そんなこんなで地下室に入ると、そこには本物の主人公、ベル・クラネルがいた。アニメ通りの白髪に赤い目、そしてその柔らかな雰囲気。今のままではとても冒険者とは思えない。

 

 

「神様、おかえりなさい!...その人は?」

「フッフッフッ...。聞いて驚け、ベルくん!なんとこの子は、我がファミリアの新しい家族だ!」

 

なんかむず痒いな。自分が家族といわれるのは。

 

「えぇっ!そうなんですか!?」

「えー、はじめまして、団長さん。俺は...」

 

そこで言葉は止まる。そういえばまだ一度も名前を言っていなかった。神ヘスティアにも聞かれなかったから失念していたのか。しかし、なんと名乗るべきなのだろうか。ダンまち世界には極東の民もいるし、日本語の名前も別におかしくはないが...。

 

「? どうしたんですか?」

「あ、そういえば君にはまだ名前を聞いていなかったね。君の名前はなんだい?」

 

いや、嘘は付くまい。彼らは”家族”なのだから。

 

 

「俺は....シロカネ・右京(ウキョウ)です。これから、よろしくおねがいします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
オラリオの特産品のコロッケ。様々な味のバリエーションがある。




はい、またもや登場しました作者です。
ようやっとオリキャラ主人公の名前が出ましたが、私オリキャラ作るの好きなんですよね。(唐突)戦闘シーンとか書くよりも設定集を書き続けていたい野郎でして....。

次の回からもストーリーに沿った内容を書いていきます。しかしながら当分戦闘シーンは出てきません。出るのは2話分ほど進んでからかなぁ。序盤は面倒な描写が多いからね。しょうがないね。

また書きたい欲が出てきたらぼちぼち書き始めるので、ぜひお楽しみに。それでは。


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第三話「戦闘準備シーンってワクワクするよね」

 

オラリオ生活が、2日目に突入した。

 

そう、2日目なのだ。一度寝ても夢が覚めないということは、ここは夢ではなく現実なのかもしれない。少なくともその可能性は跳ね上がった。

 

ところで皆さん、当然で悪いんですが、俺は今、ついに、かの有名な”アレ”をやっています。

 

ロリ巨乳の異名で呼ばれる神が、俺に跨っているのだ。

...いや、何もやらしいことをしている訳ではない。

ただ彼女の眷属となるための()()をしているだけだ。それすらもやらしく聞こえてしまうのは、俺の心が汚いからであろうか。

 

神の手から落ちた一滴の神血(イコル)が右京の剥き出しの背中に落ちる。

光り輝く血は瞬く間に広がり、背中に模様を描き始めた。

しばらくして光が収まると、我が新たな主神、神ヘスティアは息をつく。

 

「よし...。できたよ、右京君。」

「ありがとうございました、ヘスティア様。」

 

下界に降りるに際して殆どの力を封印した神々が、唯一子供達に与えられる力である恩恵(ファルナ)

俺は感情の高ぶりと共に、改めて異世界に来たという実感を噛み締めていた。

 

「.......うーん...。」

「ん、なんかありましたか?」

「いや、何でもないよ。それより右京くん。早速今日からダンジョンに行くのかい?」

「そうですね。俺も早く稼がないといけませんし。」

「そっか...ベルくんがいるから大丈夫だとは思うけど、気をつけるんだよ。」

「はい!」

「...あっ! そうだ、これ渡さないといけなかったね!」

 

そう言って神様が渡してきたのは麻の袋。

曰く、貯金していたヴァリス*1を、俺のために引っ張り出してきてくれたらしい。その額9000ヴァリス。細かい相場は分からないが、ヘスティア・ファミリアの貯蓄からみると結構な金額だろう。

 

「悪いですよ、こんなに」

「何を言っているんだい!それで死んでしまったら世話ないじゃないか!本当はもっと多くても良いんだよ?」

「いやいや、十分ですよ。ありがとうございます。」

 

そうして、右京は人生で初めての”冒険”に出発する。

 

 

 

 

「うぅぅ〜〜〜ん.........」

 

二人の眷属が出発してからしばらく、神ヘスティアはその小さな頭を抱え、混乱の中で頭を抱えていた。

 

「...()()、どう説明したらいいかな...」

 

悩みの種は、ヘスティアの手に握られた、右京・城兼のステイタスが写し取られた羊皮紙。

ステイタス自体に異常はない。

問題は、彼が最初から所持していた『スキル』だ。その名は、

 

【愛想一極(セリゲート・バージェン)】

 

 

 

 

 

 

ではでは、ファルナもお金も貰ったことですし。

ここからは、これからの生き方について考えてみよう。

 

まず第一目標としては変わらず、「強くなること」。将来、屈強なアマゾネス達と闘うためには高い防御力か機動力のどちらかで圧倒する必要がある。俺は、装備でブーストできる防御力に特化した構成(ビルド)で行きたい。

俺は運動神経はあるが戦闘経験はない。「運動できる=戦える」なんて上手くは行くまい。

 

加えて、ちょいとばかし無茶をしないと成長系スキル持ちのベルくんに簡単に置き去りにされてしまう。俺も成長系スキルがあればいいんだが、ないものねだりをしてもしょうがない。しぶとくダンジョンに潜り続けてカバーしよう。持久力のある防御系ビルドに決めたことには、そういった理由もある。

 

んで2つ目は、「ベルくんと仲良くなること」だ。ストーリーに深く関わることで未来が変わって、不意打ちでベルくんが春姫救出に出向いてしまうかもしれない。バタフライエフェクトってやつだ。

それを防ぐために、ベルくんの近くに居続けることで動向を探っていきたい。そのためには仲良くなったり、「こいつが居れば頼もしい」と思わせるのが一番だ。最悪側にいられなくても呼んでくれるかもしれないし。なんかRTAみたいになってきたな.....

 

 

「.....ョウ、右京?」

「あぁはいはい、どうした?」

「右京は、どんな装備を買うの?予算は多めだけど、慎重に選ばなくちゃ。」

「そうだなぁ俺は....前に出たいから、盾とメイスかな。」

「え? 盾はともかく、なんでメイスなの?」

 

もっともな質問である。といってもこの世界、棍棒に限らず鈍器を使う人物はあまりいない。某ゴブリンを殺す系アニメの主人公曰く、「剣は使い方を誤れば折れてしまうが、技量があまり必要ない棍棒なら見習いでも使い易い」的なことを言っていた。

 

「メイスは剣と違って安物であっても刃こぼれしにくいんだ。武器が壊れたらまずいだろ?」

「へぇ、そうなんだ...。確かに、戦えなくなったら困るよね。」

「まあ、そもそも刃がないと困ることもあるだろうし、錘付きの斧とかが現実的かな。」

「なるほど...。あ、あそこの露天に武器が売ってるよ!行ってみよう!」

「フッフッフッ...何を言っているんだ、団長。」

「えっ、だ、団長!?」

「そこらの武器屋より、もっといい得物が売っている場所があるだろう!」

 

我らが団長の肩を組むと、オラリオの中心部に屹立(きつりつ)するバベルを指差す。ベルくんの顔がみるみる青ざめていくのが分かる。

 

「あそこに行くぞ!俺にふさわしい武器が、あの場所に眠っているッ!」

「いや、右京、あそこにあるのはヘファイストス・ファミリアのぶ...」

「イグゾーーーッ!!」

「ウワアァァァーーーーー!!!」

 

頼りない団長を引きずりつつ、バベルに居を構えるヘファイストスファミリアの店に突撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな店があったんだね...。」

「ベルは知らなかったのか?」

「うん、アハハ...。」

 

薄暗い店内には、剣や槍、斧、フルプレートアーマーのような重装鎧から軽装のガントレットまで、多種多様な武具や防具が所狭しと並べられている。ここの商品は見習い鍛冶師の作品を置く店のため総じて安い。そして何より、ここは()()()()()()()()()()()()()()()だ。たまに掘り出し物があることも...

 

「右京〜!」

「なに〜?」

「ここに面白い形の斧があるよ〜!」

「おっ、どれどれ〜...」

 

しばらく店内を物色していると、どうやらベルがカウンターの側で良いものを見つけたようだ。ちょっと見てみよう。

 

それは、変わった形の片手斧だった。少し長めの柄にハルバードのような刃と穂先がついており、刃の反対側にはハンマーがついている。おそらく斬撃、打撃、貫通全ての攻撃に対応したものだったと思われる。素人目から見ても秀逸な作品だ。

しかし、値段を見て驚いた。お値段なんと2500ヴァリス。そこらに置いてあった斧と大して変わらない値段であったのだ。なにか訳ありなのか?

 

「...ああ、その武器か。」

「? あんたは店長さんかい?」

「そうだ。その武器は曰く付きのものでな...」

 

引退した冒険者であろうドワーフの店長曰く、それは大型のハルバード...だったものだと言う。柄が半分のところで折れており、握り(グリップ)柄頭(ポメル)を付け直したことで片手斧として再生した一品らしい。

しかし、優れた武具だったから修理したものの、それが冒険者の遺品だったために縁起が悪いとされて売れ残り、この店まで流されてきたという。

 

「なるほど、そういうことでしたか。」

「この武器はやめとけ坊主。どうせ捨てるのも忍びなくて形だけ売ってるだけだしな。」

 

彼は酒を呷りつつそう言うが、この武器は俺にとっては素晴らしく都合が良い。この性能でこの値段。買わない手はない。

 

「いや、この武器、俺にくれないか?」

「いやいや、やめとこうよ!右京!」

「大丈夫大丈夫。俺こういうの信じないタチだから。」

「本当に良いのか?坊主。」

「ああ、武士に二言はないぜ?」

「...そうか。」

 

店長は、そう呟くと一滴だけ涙を零した。

 

「...その武器はな、俺の(せがれ)*2の武器だったんだ。」

「...そうだったか。」

「お前のように勇敢な若者に使ってもらえて、嬉しいよ。あいつも喜ぶだろうさ。」

「ああ、ありがとう。じゃあついでに、こいつらももらおうかな。」

 

そう言って俺は先程からずっと手元にあった金属製の中型円盾(ミドルバックラー)、チェストプレート、ガントレット、レガースやチェインメイルといった、ガンメタルグレーで統一された軽装鎧一式ををカウンターに置いた。

 

「おう、これなら...しめて7000ヴァリスだな。」

「あれ、随分と安いですけど...」

「なぁに、サービスだよ。息子の形見持って死なれちゃぁ堪らんからな!ガッハッハ!」

「! ありがとうございます、店長さん!」

「助かるよ、おやっさん!」

 

 

二人は気のいいドワーフに礼を言うと、軽い足取りで店を後にした。

 

 

 

 

「...うん、これでやることは全部かな。」

「ポーションも買ったし冒険者登録と説明も受けた。後はダンジョンに潜るだけだな。」

 

 

あのあと俺たちはバベルの付近にあったポーション屋でポーションを買い、冒険者組合(ギルド)で冒険者登録を終わらせた。担当してくれたのは皆さんご存知エイナ・チュールさん。ベルと一緒にダンジョンに潜ると言ったら、色々と親切にしてくれた。

 

その後、ギルド内部の図書館で1〜5層のモンスターについて調べ、知識を頭に叩き込んで今に至る。ここまでで計4時間ほど経過しており、現在は正午に近い。

 

 

「昼飯食ったら、早速ダンジョンに潜るかな。」

「あんまり無茶しないようにね、右京。」

「わーってるよ、先輩冒険者さん。」

 

 

昼飯は何にしようか...

食いすぎると動けなくなるし、軽く何かつまむだけにしておくか。

 

 

 

 

 

 

 

*1
オラリオでの通貨。1ヴァリス=約1円

*2
息子。




はい、懲りずに登場、作者でございます。
次からようやく戦闘パートに入ります。お前ら、オリ主人公の戦いっぷり、見とけよ見とけよ〜?(五代雄介)

こんなペースでやってたら完結まで何十年と掛かりそうなので、次回からはパッパといきたいですねぇ。それでは、Chao~♪


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第四話「戦闘開始!」

シロカネ・右京

Lv.1

STR I 0
VIT I 0
DEX I 0
AGI I 0
MAG I 0

MAGIC:
SKILL:
愛想一途(セリゲート・バージェン)
・経験値獲得量の増加。
・試練の誘引。
・特定の人物に対する想いの強さで効果向上。








近くの屋台で軽い昼食を摂った俺とベルくんは、足早にバベルへと足を運んだ。

探索予定時間は1時〜4時の計3時間。かなり短いが、ベル曰くダンジョンに慣れるには時間がいると言う。俺は知識はあるが実地経験は皆無なので、先輩に素直に従うのが身のためだろう。

 

実際問題、いざダンジョンに繋がる大穴を目の当たりにすると、先程までの余裕は消し飛んだ。ここから先は死地であると、ひしめく冒険者たちの目が物語っている。

俺は、ある程度の情報を知っているだけでダンジョン(未知)を知った気になっていたと、改めて認識した。

 

 

 

「右京。まずは僕がお手本を見せるから、そこから少しずつ慣れていこう。」

「了解、団長。」

「...やっぱりそれ、ちょっとくすぐったいなぁ。」

「何が?」

「団長って呼び方」

「事実だろ?」

「そうかもだけど...」

 

ダンジョン第一階層。

主に少数のゴブリンが出現する、ダンジョンの中で一番難易度が低い場所を歩いている。入って数分立つが、今の所はエンカウントなし。

ダンジョン特有の空気にも少し慣れた。そろそろ敵を見たい所だが......

 

「見つけた」

「マジ?」

「ゴブリンが一匹。じゃ、ちょっと見てて」

「おう」

 

そう言うや否や、金属製のダガーを構えて走り出す。ゴブリンは直ぐにベルの接近に気づき、右手に持った小振りなナイフ_おそらく投擲用ナイフだろう_を振り回して応戦。

ベルはそれを冷静に弾き、隙ができたタイミングで首を撥ねて終了。見事なものだ。

 

確かこの時点でのベルはダンジョンに潜り始めて一ヶ月ほどのはず。最初はゴブリン一匹倒すのでやっとだったのが、随分と成長したものだ。それを実際に見ていない俺が言うのもおかしい話だが。

 

「こんな感じだけど...どう?」

「おぉぉ、凄いな。さすが団長。」

「えへへ...」

 

だが教えるのは下手だ。ダーッと行ってズバーンとか言わないだけまだマシな部類かもしれないが。

 

「じゃあ、次は俺の番だな。」

「え、もう少し見てたほうがいいんじゃ...」

「故人曰く、百聞は一見に如かず、と言う。」

「? 何を...」

「結局、実際にやってみないとなんもわからんっつー訳よ。」

「えぇ、大丈夫かな...」

 

体を灰に変化させたゴブリンが落とした魔石を回収しつつ、探索を再開すると、時間を置かずに再度ゴブリンを発見した。今度は2匹。両方とも素手なのが救いか。

 

「何かあったらすぐ助けるからね!」

「おう、まかした」

 

返事をしつつ、即興のメタ○ギア作戦を開始する。

ポケットから小石を取り出し、奥にいるゴブリンが向こうを見た瞬間、片方のゴブリンの足元に転がす。

案の定興味を引かれた手前のゴブリンは、無警戒にこちらに近づいてくる。ここまでは計算通り。

十分に引き付け、曲がり角から顔を覗かせたゴブリンが声を上げる前に、振りかぶった多目的斧槍「アーモリー*1」で頭をかち割る。その音で仲間がやられたことに気付いたもう一体が駆けてくるがもう遅い。拳の振り回しを慎重に盾受けしつつ、槍部分で首を一突き。

ダンジョンでのモンスターとの初遭遇(ファーストエンカウント)は、つつがなく終了した。

 

 

「すごいね、右京! ああやって敵を誘き出すなんて!」

「昔習ったんだよ。」

「誰に?」

「心の師匠。」

「こ、心の?」

 

しかし、これでは魔石は稼げても経験値(エクセリア)は手に入るまい。もっと危険を冒して戦わなければ、ここに来た意味はない。

勿論、一番大切なのは死なないことだけど、安全に冒険できれば誰も苦労しないのだ。

 

「次はもう少し真面目にやるかな。これじゃ”冒険”にならない。」

「ダメだよ右京!エイナさんが『冒険者は冒険しちゃだめ!』って言ってたし!」

「なんじゃそりゃ」

「右京は今日始めてダンジョンに入ったんだし、無茶は駄目だよ」

「無論気を付けるさ。でも第五階層までなら降りてもいいだろ?そこまでは勉強したし。」

「...言ってるそばから」

「こんなの無茶にならんわい。それに、装備代も含めてしっかり稼がなくちゃいけんしな。」

「むぅ...分かった。」

 

 

 

二人の新米冒険者(ルーキー)は探索を再開するべくダンジョンの奥、階層を下る階段目指して歩く。

その先に途轍もない試練が待ち構えていることも知らずに........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲いかかってくるモンスター達は、進むごとに段々と強くなっていった。ゴブリンの群れは数を増やし、鋭い爪や牙で出血攻撃を繰り出すコボルトや、舌で中距離攻撃してくるフロッグシューター、天井に張り付き、ボディプレスで奇襲してくるダンジョンリザードが出現するようになる。特にダンジョンリザードの方は一度のしかかられると一人では抜け出すことも攻撃することも難しく、そのまま殺されることも多いのだという。全くもって恐ろしい。見つけ次第引きずり下ろしてタコ殴りに......

 

「右京!敵が来る!」

「は!?どこから!?」

「壁!」

 

その瞬間、前後の壁がひび割れ、中から大量のモンスターが溢れ出できた。その数コボルト5体、フロッグシューター3体。この現象が()()で発生した。つまり合計数は16体。狭い一本道にいる今の状況から考えると、逃走は難しい。

 

「やっ...ばいねぇ、これは。」

「右京は前を!僕は後ろの奴を片付けて退路を開く!」

「! 心強いね!頼むぜ!」

 

そうして右京は、侵入を阻むように出現したモンスターの群れに立ち向かって行く。

 

 

 

まず向かってきたのはコボルト2体。一匹目の首をを斧槍で切り飛ばし、もう一匹にはヤクザキックをぶちかます。蹴られたコボルトは宙を舞い、残り3体のコボルト達に突っ込んだ。

 

「すっげ...」

 

ここでようやく気がついた。恩恵(ファルナ)を授かったことで、Lv.1とはいえ身体能力がめちゃくちゃ上がっている。これが神の力なのか。

 

「とぅっ!」

 

ダッシュジャンプでコボルト達を飛び越え、まずはノロノロと展開していたフロッグシューターを仕留めにかかる。後衛から潰すのは定石である。

 

「でぇぇぇい!!」

 

跳躍の勢いも利用し、横一列に並んだ蛙共に右手の斧槍を振り下ろす。渾身の一撃は真ん中にいた単眼のカエルに命中し、灰になって消える。そのまま左の奴に注意しつつ、右の奴に乗っかり、逆手に持った斧槍で脳天を一突き。右の奴が舌攻撃で反撃するも、盾で危なげなくガード。これも斧槍の一振りで消滅させる。

ここまででかかった時間は、わずか5秒。体が思い通りに動くだけでここまでテンポよく戦えるのか、と再び驚く。

 

そこに、追い抜かしたコボルト達が襲いかかる。少し反応が遅れたが、斧槍を振り回して距離を取る。盾を構えて後退しつつ、束の間の思考。

 

_斧槍の利点はリーチと威力。ならば一体ずつ相手して一撃で仕留めれば..._

 

考えついた作戦を試すべく、盾を上げたままタイミングを見計らう。そして、不意に前に出て突きを繰り出す。その突きは痺れを切らして飛びかかったコボルトの喉を貫通し、右京の得物にブランと垂れ下がる。その死にかけを片方に投げつけて動きを止めつつ、リーチの短いコボルト達を一匹ずつ仕留める。

こうやって後の先*2や死体を投げつける戦い方も、全て格闘技漫画やファンタジー漫画で知ったものだ。それが、まさかこんなに上手くいくとは思わなんだ。

 

「終わったぞ〜!」

「こっちも大丈夫だよ〜!」

 

いつの間にか、俺達の距離は10メートルほど離れてしまっていた。群れを飛び越えたり下がりつつ戦ったから仕方ないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

先程と同じようにモンスターの群れが出現する。しかも今回はベルの周りだけ。途端にベルは身動きが取れなくなった。

 

「ベルッ!」

 

 

 

 

不幸とは、一気にやってくるものである。そんなことを最初に言ったのは誰だったか。

 

 

その状況に畳み掛けるように、後ろから圧のようなものを感じて咄嗟に振り返る。

 

前方の暗闇からゆらりとこの層には出現しないはずの人型モンスターが現れた。影のように黒い体のモンスターはたしか”ウォーシャドウ”。本来第六層に出現するモンスターだったはずだが、戦闘音に釣られて階層を越えてきたのか。しかし、聞いていたものと随分様子が違う。

 

身長は180センチをゆうに超え、のっぺりとしているはずの体には闇が固まったかのような鎧も着込んでいる。本来は存在しないはずの赤い双眸(そうぼう)*3から放たれる鋭い威圧感が肌に突き刺さる。

しかし、特筆すべきは両腕と一体化した二振りの剣だろう。丁度ポケモンSVのソウブレイズのようなカンジだ。

実際には初めて目にしたが、あれが所謂”強化種”というやつだろう。

 

 

「ハハッ...俺が相手しないと駄目かよ」

 

退路は後ろ。しかし大量のモンスターで封鎖されている。ベルがそれらを一掃するまで、少なからず時間が必要だ。

 

「時間を稼がなくちゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

..........いや、違うだろう。

 

 

お前はなんのために此処(ダンジョン)に来た?

 

 

金を稼ぐため?

 

 

ベルの動向を見ておくため?

 

 

違うだろう。

 

 

俺の目的は、強くなること。

 

 

”冒険”を重ね、死地をくぐり抜け、自分の殻を破るため。

 

 

なら、

 

 

 

 

 

 

今立ち向かわなくてどうする!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っし」

 

気合を入れ直す。斧槍を握り直し、盾を前に押し出す。古代ヨーロッパの重槍歩兵によく似た構えを取った右京は、目の前の敵を睨みつける。

 

「来いよ木偶の坊!格の違いを見せてやる!」

 

鋭く啖呵を切り、その勢いのままに(ウォーシャドウ)に突撃した。

 

 

まずは小手調べに、盾の裏で構えた斧槍を突き入れる。しかし鋭い突きは左腕であっさりと弾かれ、間髪入れず右手の突きを返してきた。

右京はそれを盾で正面から受け止める。

 

が、早くもここで想定外が発生する。

 

なんと、攻撃を受けた盾の内側に黒い剣が貫通してしまった。どうやら盾の硬度が足りなかったらしい。

 

「クッソ、速えし鋭い!!」

 

咄嗟に体を捻って避けるものの、掠っただけで左腕から血が噴き出す。この感じだと、直撃すれば自分の四肢くらいなら簡単に両断されてしまうだろう。

盾で正面から受けるのではなく、上手く受け流すしかない。

 

「やってやるよこの野郎ッッ!!」

 

連撃を繰り出し続ける影の攻撃を、ひたすらに盾で受け流す。

しかし、速度を上げ続ける剣戟(けんげき)に対し、ついに方向を合わせることすら困難になってきた。

未だに五体満足でいられるのは、攻撃を寸での所で避けられているからに過ぎない。もっとも、いつそれが崩れるか分からないが。

実際、体のあちこちには細かい傷が生まれ、盾には抉られたような跡が無数に残っている。

 

...盾はそろそろ限界か。

なにか策を講じなければ死ぬ。奴の弱点はないか?隙を突けるような穴はないか?

 

 

そんな最中、奴と眼が合った気がした。同時に、妙案を思いつく。

 

(もし奴が目で物を見ているなら......)

 

成功すればいいが、失敗すれば頭から真っ二つにされてしまうことだろう。

これは大いなる賭けだ。

 

 

 

「男は度胸...ってな!!!」

 

そう言って俺は、左手の盾を影の顔面に向かって思い切り投げつけた。

唸りを上げて飛んだ盾は、影の水平切りで真っ二つに引き裂かれる。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()、全身全霊の上段斬りを影に叩き込む。

 

影も片方の剣で受け止めるも、薄く切れ味のある剣は、重厚な斧槍には勝てず粉砕される。

 

 

 

ハアァァァァッッッ!!!!

 

 

 

気迫の乗った斧槍の一撃は、自分より格上であったであろう影を、頭から真っ二つに叩き切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い武器買ってて良かった...」

 

先程まで影がいた場所には、大きめの魔石と30センチほどの刀身が落ちていた。

少なくともアニメでは見たことがないドロップアイテム。あのウォーシャドウの剣先だろうか。

 

 

「右京!!!」

 

切り傷を治すためポーションをイッキしていると、モンスターの灰で汚れたベルが駆け寄ってくる。

あの数のモンスターを相手にしたベルも勿論無傷ではなく、体中から出血している。

 

「大丈ムグっ」

「バカ!早くポーション飲め!」

「...ぷはっ、右京だって全身傷だらけじゃないか!」

「掠り傷だわ!問題ない!」

 

 

束の間の死闘を繰り広げた俺たちは、緊張の糸が切れたのか、同時に膝から崩れ落ちる。

 

「・・・」

「・・・」

「「ハアァァァァァァァ.......」」

 

ダンジョンの中である事も忘れ、二人は地面に突っ伏す。

 

「生きててよかった...」

「ダンジョンってのはこんなのが毎日起こるのかよ...?」

「普通起こんないよ!」

「じゃあ、これが異常事態(イレギュラー)ってやつか?」

「...多分そうだけど、こんなのは僕も初めてだよ...」

 

 

状況を思い出した右京はのっそりと起き上がると、魔石やドロップアイテムをを集め始める。

 

「これが終わったらもう帰ろうぜ。疲れちまったよ。」

「うん、そうだね...」

 

ベルの方も、自分の屠ったモンスターの魔石を集め始めた。

 

「サポーターが欲しいな。」

「サポーター?」

「冒険者とは違って戦闘はせず、こういう回収作業や荷物持ちをする人たちのことさ。」

「なるほど、頼りになりそうな人たちだね。」

「まぁ...そうだな。」

 

 

 

サポーターになる奴らの多くは、ファミリアの見習いや自分自身で戦えるほど強くない奴らがほとんどだ。

だから、サポーターの立場は冒険者よりもかなり低い。顎で使われるだけならいい方で、時には真っ先に見捨てられることも......

 

 

まぁ、ベルくんはまだ知らなくてもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
この前買った斧槍にに自分で銘を付けた物。意味は英語で「武器庫」。

*2
相手の動きを見てからカウンター気味に動く事。

*3
2つの目




はい、投稿者です。
途中まで書いてたデータが消えて意気消沈だったところを自動保存機能に救われました。ハーメルン最高!!

主人公くんのスキル、どうですかね。名前はまあいいとして、効果やらが憧憬一途と被っちゃうのは仕方ないと思うのです(萌声)。まぁ主人公の宿命だと思っておいてもろて。

ところで、そろそろメインストーリーを書くのが面倒なところに入ってきましたので、そろそろ細かい描写を大幅にカットするかもしれません。(主要なイベントだけ書く感じ)

ご理解よろしこです。それでは。


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第五話「原作再現」

長らくお待たせいたしました、投稿者です。
大学受験と勉強疲れで意気消沈していたところを、名もなきファンメールに助け出されて復帰しました。感謝!

今回はダンまちの設定、具体的には「モンスターの魔石の相場」について触れています。どれだけネットで調べても出てこなかったので、「Lv.1の冒険者5人が一日に稼ぐ金額が25000ヴァリス」というリリ助のセリフを元に、モンスターの強さ、冒険者のスケジュール予想なども駆使して自力で考えてみました。だから原作とはお金の価値がかなり変わっているかもしれませんが、これは私の物語なので何ら問題ありません。許してね!




 

 

「...では、こちらの魔石、ドロップアイテムで...11560ヴァリスになります。」

 

「えっっ」

「...?」

 

 

初戦闘&初冒険を終えた俺たちは、手に入れた魔石やドロップアイテムをギルドで買い取ってもらっていた。ベルのこの反応から見て、ベルにとっては(つまり駆け出し一人の稼ぎにしては)結構な金額だったのだろう。

 

しかし...相場がわからない。

 

 

「ベル、結構稼げたのか?」

「うん...うん! すごい金額!いつもの何倍も稼げてる!」

「お、おう。良かったな。」

「きっと右京がいたおかげだよ!ありがとう!」

 

正面向かって純朴なこと言われると照れちゃう。嬉しいけど。

 

「そ、そうだ。エイナさーん!」

「ん、何かなー?右京君ー。」

 

そういえば、俺にはヴァリスを使う時の金銭感覚が全くない。日常生活で覚えるといっても、どの程度の稼ぎがあるのかも聞いておかねば。

俺は気恥ずかしさを振り払うように、アドバイザーであるエイナさんに質問を投げかける。

 

「モンスターの魔石って、どのくらいの相場なんですか?」

「魔石? そうね、魔石の需要やモンスターの強さ、つまり魔石の大きさも関わってくるけど大体......あった、これに載ってるわよ。」

 

そう言ってエイナさんはモンスターごとの魔石の相場リストを取り出してくれた。

 

「毎年ギルドが色々な調査をして、サイズごとの魔石の相場の上下率を計算するの。今年はほとんど上下してないから、書いてあるままの相場はずよ。」

「おぉ、ありがとうございます、エイナさん。」

 

(ギルドも色々考えてるんだな。こういう裏設定みたいなもの、大好物だぜ。)

 

 

ギルドの魔石相場表には、モンスターの強さごとの、正確には階層や種類ごとの魔石の相場が書かれていた。

あと蛇足かもしれないが、なぜか異世界の文字は普通に読めた。まるで()()()()()()()()()()()()()()。人と普通に会話できている時点で薄々勘付いてはいたが、話せても読めない系の異世界転生も知っているのでとりあえず安心。

 

...そういえば俺、値段とか普通に読んでたな。何で気付かなかったのか。

 

 

〈相場表〉

「1〜10層」

ゴブリン:10

コボルト:10

ダンジョンリザード:20

フロッグシューター:20

ウォーシャドウ:500

キラーアント:700

ホーンラビット:200

パープルモス:300

ブルーパピリオ:400

オーク:900

インプ:40

バットパット:60

  :

  :

 

 

今の所必要なのはこんなものだろう。金額の差が極端に開いているのは、群れで出てくるやつはその分魔石が小さいからだろうか。キラーアントも仲間の危機を伝える音波を聞けば群れを作ることはあるが、あれはノーカンだろう。

11560ヴァリスという金額も、まあまあ高い方であろう事もなんとなく分かってきた。

 

 

「...よし、ありがとうございました。」

「うん、もしまた分からない事があったら、すぐお姉さんに相談してね。」

「はい、ぜひ!」

 

「右京、終わったの?」

「あぁ、バッチリ。」

「すごいね、右京は。僕、数字とかは難しくて。」

「あんなん楽勝よ。今度教えようか?俺も一応、12年真面目に勉強したしな。」

「え...右京、もしかして学校に行ってたの?」

「おう」

「えっ!? ってことは、右京って貴族なの!?」

「んな大層なもんじゃないよ。普通の家。」

 

「そ、そう...。(普通の人は読み書きや計算しか習わないよ...。なるほど、右京がお昼にかなり高い食べ物を買おうとしてたのも、魔石の値段についてすごく見ていたのも、金銭感覚がズレてるからなのかな...。右京は自分の家について言いたくなさそうだし、聞かないでおこう。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そうこうして昼下がりの帰宅中。私は重大なミスを冒していることに気付いているのでした。

 

それはズバリ、”原作改変”。

 

本来ならこの日、つまりヘスティアがジャが丸くんの売り子のバイトを始めた次の日、ベルは「豊穣の女主人」の店員である少女、シルから弁当を貰っているはずだったのだ。それを俺が邪魔してしまったため、夕食を食べに行く約束ができていない。これは非常にまずい。ここで豊穣の女主人とのフラグが立たなければ、例のベートにバカにされて強くなりたくなるアレも、魔導書(グリモア)からのファイアボルト取得も、全て無かったことになってしまう。これはひどいガバですね。

 

とりあえず、帰ってからベルを夕食に誘わなくては。

 

 

 

「ベル! せっかく稼いだんだしさ、ちょっと祝勝会に行かないか?俺良い店知ってるんだよ!」

「...いい店?」

「そうそう!ちょっと値は張るが、結構イケるんだぜ? 店員さんもかわいい女の子だし!」

「う〜ん...(貴族基準で”値が張る”となると...)」

 

不味い、何故か乗り気じゃないぞ。なぜだ、ナチュラル女たらしベルくん。

 

「いいんじゃないかい?ベルくん。」

「あ、神様!」

「ヘスティア様!」

「二人はは高かった装備代をゆうに超える金額を一日で稼いでくれたし、多少の贅沢は許さなきゃ。それに...」

「それに?」

 

「...何でもないさ!二人で豪華な夕食にでも行くがいいさ!(ベルくんめ、あんなにステイタスが上がっているなんて!そんなにヴァレン某がいいのかい!)」

 

どうやらベルのスキル、「憧憬一途(リアリスフレーゼ)」のことで怒っているらしい。お可愛い嫉妬だこと。

 

「行ってきます!」

「あー、行ってらっしゃい...」

「大丈夫かな...」

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとかベルを説得して、「豊穣の女主人」までたどり着いた。道順はなんとなく。教会跡とダンジョンの最短ルート上の大通りを探したら、すぐに見つかった。いい立地にあって助かったぜ。

 

「こんばんわ〜」

「あっ、いらっしゃいませ!こちらの席にどうぞ!」

 

看板娘に案内されるままに、キッチン横のカウンターに座る。

 

「中々いい店だろ?」

「うん、そうだね...(ここのメニュー、やっぱり高い...!)」

 

と、そこに恰幅の良い女主人(マスター)が割り込んで来る。

 

「いらっしゃい、坊主共!駆け出しがここに来るなんて、気前がいいんだね!」

「今日はえらく稼げたんで!それに、ここの料理がとびきり美味いと聞いたもんですから、気になっちゃって。」

「ハハッ、いいねぇ、ガキンちょ!特別に大盛りにしてやろう!」

「おっ! 嬉しいっす!」

 

 

...なんとか原作者通りにこぎつけた。隣でなぜか青い顔してるベルくんも見れて、満足満足!

 

「はい、今日のおすすめだよ!」

 

厨房から2つ、クソデカスパゲッティが出てきた。まだ頼んでないのに。でも美味そうだから許す!

 

「お、いただきまーす!」

「いや、頼んでないですって!」

 

お、案外イケるな。いや普通に美味い。今日の昼の焼串みたいなのは塩とハーブみたいな味だったが、こっちは出汁っぽい旨味を感じる。飯は美味くないと悲しいし、今日くらいは多少の贅沢も許されるだろうさ、知らんけど!

 

 

 

その時、店員の声と共に店内がざわつき始めた。その言葉に、俺は本日二回目のガバを突きつけられることになる。

 

「ご予約のお客様、ご来店ニャ!」

 

思わず麺を吹き出す。美味い飯に気を取られて、完全に失念していた。そういえば、今日がロキ・ファミリアが遠征から帰ってきて、例の「ベートにボコボコ言われるイベント」が起こる日だったな。俺はあんまり好きじゃないけど、イベントのためだ、許せベルくん。

そうして麺を啜りながら、チラチラと双方の様子を伺う。

 

ベルはアイズさんに見惚れたりシルさんと話してて順調、俺も適当に話を合わせる。

ロキ・ファミリアの方は遠征帰りの宴と言って騒いでいる。

 

 

そして宴もたけなわとなると、いよいよベートが動き出した。

 

 

 

「よっしゃぁ! アイズ、そろそろ例のあの話、みんなに披露してやろうぜ!」

「あの話?」

「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末したろ? そんでほれ、その時いたトマト野郎の!」

「......!」

 

 

その時。

 

イラッ、と、何故か心が苛立った。

 

「いかにも駆け出しのひょろくせえガキが、逃げたミノタウロスに追い詰められてよ! そいつ、アイズが細切れにしたクッセぇ牛の血を浴びて、真っ赤なトマトみてぇになっちまったんだよ!」

 

ただの戯言だ。気にすることはない。

 

「それでだぜ? そのトマト野郎、叫びながらどっかに行っちまって。うちのお姫様、助けた相手ににげられてやんの。はははっ! 情けねぇったらねえぜ!」

「あの状況では、仕方がなかったと思います。」

「っ......!」

 

どうせすぐエルフの人にシバかれる。

 

「いい加減にしろベート。そもそも17階層でミノタウロスを逃したのは、我々の不手際だ。恥を知れ。」

「あ? ゴミをゴミと言って何が悪い!」

 

 

......だが。それはそれとして。

 

なぜだか知らんが、物凄く。

 

 

...腹が立つ。

 

 

 

 

 

 

そう自覚する前に、俺は無自覚に席を立ち。

 

第一級冒険者(ベート・ローガ)に牙を剥かんと、彼らのテーブルに足を乗せているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

...なんで?

 

 

 




ここからいいとこだろって所で。どうも、投稿者です。

ファンメールから元気を頂いたのが1月26日の夜8時半。
そこから久しぶりに爆速でキーボードを鳴らして3時間半。

...中身のない物語ではありますが、できてしまいました。元よりただの自己満で書き垂れていただけの時とはモチベーションが桁違い。馬力が違いますよ。(某スリラーより抜粋)

ということなので、高評価やらメールやら、イタズラ半分でもいいので送ってくれると嬉しおす。ほな。


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第六話「諸刃の剣」

「あぁ? 何だてめぇ。」

「失礼、連れを侮辱した言葉が聞こえたもんですから。」

 

...なんでだ?

 

「これは...。私の仲間が失礼した。彼に代わって謝罪させてくれ。」

「なぜあなたが謝るんです?彼が本人に謝罪するのが道理では?」

「あぁ? 俺に謝れってか?」

「聞こえなかったのか? 随分耳が遠いんだな。」

「...あ?」

 

自分でもよく分からない。なぜ静観を決め込んでいたイベントに割り込んだのか。なぜ足をテーブルに乗せるなど行儀が悪い挑発をしているのか。

 

「そんなんだからそこの金髪の人にも呆れられているんじゃないかい?」

「なっ...! テメェ!」

 

メタ知識を出してまで煽りたいほど、こいつのこと嫌いじゃないだろ。

 

「やめろベート。酒が不味くなる。」

「ジジィは黙ってろ!」

 

なぜ俺は()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ちょ...ちょっと、右京!」

「邪魔すんなベル。俺は今猛烈にこいつを殴りたい。」

「余計ダメでしょ!」

 

「離せジジィ!こいつぁ一発ブン殴る!」

「やめておけベート。お前が殴ったら死んでしまうぞ。」

「そうやでベート。そこの子もや。あんた駆け出しやろ。ホンマに死ぬで?」

 

「...すみません。行儀悪かったですね。」

「いやそういうことやあらへんし...」

 

 

正気を取り戻した俺は恐怖していた。俺を叱った神にではない。

自分の意志ではない行動を起こした自分自身に恐れていたのだ。

 

何らかの魔法か?それとも呪術(カース)? いや、もしかすると...

 

 

一つの結論に至った俺は、事態を収集したあと夕飯を詰め込み、急いで店を飛び出した。もちろんお代は二人分置いて。

原作改変など、もう考える余地もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘスティア!!!」

「うわぁ!! なんだい右京君、びっくりしたじゃないか!」

「俺から変な気配とか感じないか!? 魔法とか呪術とか!」

「...何も感じないけど、何かあったのかい? 」

「じゃあステータス更新してくれ!」

「ちょ、ホントにどういうことなんだー!?」

「説明は後! とりあえずやってくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「...えっ」

 

遅れて帰ってきたベルの目の前には、ベッドの上に正座したヘスティアを尻目に、隣に腰掛ける男の姿があった。

 

「あんたが()()を隠したせいで、結構怖い目に遭ったんだが?」

「隠し事をしていたことは謝るよ....でも仕方ないじゃないか、こんな弊害があるなんて知らなかったし!」

 

 

俺が恩恵(ファルナ)を得た直後から発現していたというスキル ”愛想一途(セリゲート・バージェン)”。

 

確かに、「経験値獲得量の増加」「特定の人物に対する思いの強さで効果向上」などの強力な効果を得られていた事は嬉しく思う。しかし、問題はそれに代償が付いているという点だ。

 

この「試練の誘引」。これが中々厄介で、飯屋での一件やダンジョンでの強化種との遭遇など、字面に当てはまりそうな状況はあるが、詳細は全く分からない。

最初は因果律の操作かと思ったが、人間一人のスキルにしては強すぎるしベートに喧嘩を売った理由にもならない。効果が出る条件もさっぱり分からないし、ひとまず保留にするしかないか...。

 

 

「何がなんだか分からないけど...右京は大丈夫なの!? 」

「なんともなかったよ。ちょうど今神様にも調べてもらったし。...でも面倒くさいスキルが出てきちまったんだよ。」

「いきなりスキルが発現したの? すごいじゃん右京!」

「別に凄くないさ。ベルにもすぐ生えてくるだろ。」

「その言い方、何か嫌だよ...。」

 

実際にレベル一つ上とも戦えるスキルを手に入れるし、それだけでは飽き足らず速攻魔法やそれをチャージできるスキルまで...。見れば見るほどチートだな。(褒め言葉)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、一匹行った!」

「うわっ!?」

 

 

飯屋騒動から一夜明けた現在、俺たちは昨日の遅れを取り返すべく、朝早くからダンジョンに潜ってから4時間経つ。疲労のためか注意は疎かになっており、丁度今、足元をコボルトが走り抜け、ポーションを飲むベルに襲いかかった所だ。

 

「クッソ!」

 

毒づきながらも斧槍を振り抜き、コボルト共を蹴散らす。そしてベルの援護に...

 

「こっちは大丈夫!」

 

素早く脳天にナイフを突き立てる。

 

「すまん!」

 

...行く必要はなさそうだ。頼もしい先輩だこと。...というものの、こっちはこっちでかなり面倒くさい状況であることも確かなわけで。

ウォーシャドウが2体に、パープル・モスの希少種であるブルー・パピリオが1体。単純だが素早い前衛に、回復効果を持つ鱗粉を飛ばす後衛。早めに前衛を倒さなければ、ジリ貧になる可能性が高い。

 

「2対1か......分が悪いな。」

 

前衛が2枚いるのは厄介だ。片方と戦っていてももう片方に背後を取られてしまう事もあるだろう。ベルのように敏捷が高ければ撹乱もできたのだが、今の俺は力と耐久に特化したタンクビルドになっているから難しい。

ならば、脳筋は脳筋らしく...!

 

「押し通るッ!」

 

俺は盾を背負い、両手で握り直した斧槍...の槌の部分を、フルスイングで手前の奴に叩きつける。これで一対一(タイマン)をする猶予が生まれた。

 

「まずはお前じゃぁい!」

 

緩い放物線を描いて飛んでいく手前の奴には見向きもせず、すぐさまもう一方に唐竹割りを打ち込んであっさり撃破。こいつらはその高い攻撃力こそ脅威なものの、動きは単調だし大して早くもない。複数体で湧くから「初心者殺し」と呼ばれるのであって、各個撃破できるなら結構弱かったりもする。

 

「次ィ!」

 

帰ってきたもう一体の剣戟も、買い替えた葉形盾(カイトシールド)で難なく弾き返す。この前の()()()に比べれば(にぶ)すぎる。

 

「これで、」

 

最後は斧槍を高く掲げ、

 

「終わり!!」

 

振り下ろす。

相手もクロスガードで対応したが、やはり奴らの剣は脆い。魔石ごと叩き割って討伐した。

 

残りはブルー・パピリオのみだが、あれはドロップアイテムが超高額で取引されるため、できれば斧槍で叩き切りたくはない。

ということで、新しく買った小振りのナイフで仕留めてみる。

 

......よし、ちゃんと正中線*1に沿って斬れたな。

 

ドロップアイテムもモンスターの体の一部だ。複数人で囲んで殴るなどして無駄に傷を付ければ、ドロップアイテムはボロボロになってしまう。だからこそ、冒険者は少ない手数で効率的に魔物を屠る(すべ)を模索する訳なのだが...

 

「出なかったか。」

 

ドロップアイテムは常に落ちるとは限らない。運が良ければ落ちる程度に考えておけば良いだろう。

そのため、稀少種のドロップアイテムは高価になる傾向がある。例えばブルー・パピリオの羽は、その美しさと価値から貴族のドレスの装飾などに使われるらしい。需要と供給のバランスが崩れていると、価格は大きく上下するという良い例だな。

 

 

「右京、そっちは終わった?」

「おう。さっきは悪かったな。」

「気にしなくていいよ。そろそろお昼だし、疲れちゃったよね。」

「じゃ、昼飯にするか。先に食っていいぞ。」

「ありがとう、右京。見張りよろしくね。」

「了解。」

 

壁にもたれて周囲を見渡していると、ベルが今まさに食べている弁当が目に入る。

 

「随分気合の入った弁当買ったんだな。高かったろ。」

「そっか。右京は武器買いに行ってたもんね。」

「...どゆこと?」

「これ、今朝シルさん...豊穣の女主人の店員の人に貰ったんだ。」

 

「......まじか。」

 

あそこでフラグを立てましたか、シルさん。原作と変わらずたくましいことで。

というか、俺がフラグをへし折ったせいで出会い方が変わったのか。その程度じゃ大した改変にはなってない...よな? まぁとりあえず......

 

「また今度食べに行くか。」

「うん、そうしよう。」

 

そんなこんなで昼食の後、3、4時間ほど狩りをした後、俺たちは帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってバベルの大穴。他の冒険者に混ざって螺旋階段を登る中...

 

「右京、あれはなんだろ?」

「あれか? 別に俺もオラリオに詳しいわけじゃないんだが...」

「知らない?」

「...いや、知ってる。そういえばもうアレの季節か。」

「アレって?」

怪物祭(モンスター・フィリア)だよ。簡単に言うと...闘技場でモンスターをテイムする催し物(イベント)、って感じかな。」

 

 

怪物祭(モンスター・フィリア)”。 それはオラリオにて開催される様々な催しの一つであり、アニメ一期第2話の舞台でもある。

第2話と言ったら、ベルがこれからの冒険の相棒である武器、通称”ヘスティアナイフ”を初めて使うシーンが印象的だ。

 

「行ってみるか?」

「えっ、ダンジョン攻略はどうするの?」

「一日くらい休んでも影響はないさ。むしろ、こういう時こそ体を休めないと。いざって時持たんぞ?」

「そ、そこまで言うんだったら、楽しんじゃおうかな。」

「じゃ、決まりだな。その日はちゃんとシルさんに弁当いらないって言っとけよ?」

「うん、わかった!」

 

 

......ナニこの天使。超カワイイんですけど。

 

*1
人体の体に通った、重心の傾きを表す糸のようなもの。この場合では「体の中心の線」という意味で使われている。(詳しくは、上山道郎先生の作品、「ツマヌダ格闘街」を参照!)




どうも、投稿者です。ハーメルンのコピー機能の勝手が分からず四苦八苦なう、な現在からお送りいたします。助けて。(迫真)

なんかカットするって言った割には全然グダグダしてますね、はい。
怪物祭の後はリリルカとヴェルフの話と魔法の件だけなのに、どうも手が込んじゃうんですよね。これは雑にカットとかできないかもしれません。だってしょうがないじゃん。伏線張るとかなんとかで楽しくなっちゃってるんだもの。

ということで、もう少しだけ面倒な話が続くかもしれません。全国津々浦々の春姫ファンの皆さん、もうちょっと待ってね。それでは。


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閑話「ちょびっと前日譚~美神の陰謀を添えて~」

ベルくん成長期の件とかをすっかり忘れていたので、変則的で匂わせ風味のストーリー展開っぽく仕立て上げながら書き綴ってみました。
あくまでも今回は補足や演出がメインの回なので、「閑話」とさせていただきます。ぶっちゃけおまけ回ですね。

それでは、お楽しみください。


これから語るのは、豊穣の女主人での騒動の日の夜の事。

 

 

 

「うむむぅ...」

「どうかしましたか、神様? ...良くなかったですか?」

「いやぁ、そうじゃないんだけどね...。」

 

 

 

俺がソファで(くつろ)いでいる目の前で、我らが団長の上に馬乗りになったロリ神が悩ましげに声を上げている。字面だけ見ればアブノーマルで危なげな状況かもしれないと、これを読む幼気(いたいけ)な少年少女達は邪推せざるを得ないかもしれない。

 

しかし、私の目の前には色気もへったくれもない顔で少年の背中を叩き続けている哀れな処女神がいるのみであり、思春期の子供達が幻想する爛れた楽園など有りはしないことを突きつけられる。現実は非常であった。

 

 

 

「俺もベルも、ステータス馬鹿みたいに伸びてたりして。」

 

そう。ステータスだ。

 

今行っているのは決して(やま)しい事ではなくステータスの更新であり、実際、ベルの背中は神秘的な光りに包まれ、複雑な文字_恐らく神々の使う数字であろう_が映し出されている。

 

先ほど俺も更新して頂いて、麗しき我が神が何とも可愛らしい奇声(cv.水瀬いのり)を上げられたものだから、てっきり俺も成長期認定されると踏んでいたのだが...

 

 

 

「ゥエッホン! まずは結果から言おうか。...二人のステータスが、特に右京君のステータスがものすごく上がっていたんだ。」

「えっ、俺ですか? ベルじゃなくて?」

「うん。ベルくんも上昇値トータルが600超えで凄かったけど、右京君はそれ以上。」

 

え、それ言っちゃっていいんですか神様。原作では結構ぼかした気がしますけど。また俺の影響か?

 

「なんと、トータル900に届くほどだった。」

「900!? すごいね、右京!」

「二人は恐らく...」

 

()()()()()()()()()?」

「...! そうだね!そういうことさ!」

 

よしよし、ヘスティア様がスキル*1のことを隠しておきたいのは原作通りみたいだし、しれっと誘導しとくべきだよな。

 

 

 

...そういえば、俺とベルの成長の原因となったスキルの効果、「早熟する」と「経験値獲得量の増加」の違いは何だろうか。。

 

「早熟する」という効果の仕組みは、「経験を効率的に吸収できる」というものだろう。原作ではステイタスの成長だけでなく戦闘技術も向上していたのがその証拠だ。

 

しかし、俺の「経験値獲得量の増加」は恐らくステイタス上昇値を直接(いじ)っている。だから成長チートのベルよりも効率的にステータス()()が伸びているのだろう。

まるでスキルに「手っ取り早く強くなれ」と言われているような...。実際に「試練の誘引」の効果もスパルタトレーニングを強要してるようにも見えるし。

 

それならば、当面の課題は戦闘技術の向上、もっと言えば「剣の師匠を見つける」ことだろう。ステータスばかり伸びても、俺本人が上手く戦えるようにならなければ必ずどこかで(つまづ)く。近いうちにいい感じの師匠を探さなくては...

 

 

 

「あ、そうだ!ベル君、右京君。僕は今夜から2,3日留守にするよ。」

「何か用事でも?」

「フッフッフ...♪」

 

確かこの後はベルの主武器”ヘスティアナイフ”の依頼と”ロリ巨乳vsロキ無乳”の話があるんだったか。俺の武器も作ってもらえるのか?

 

...いや、駄目だろ。ナイフ一本で2億ヴァリスするというのに、それに斧槍まで追加するとなると...これからここに来る予定のヤマトやヴェルフすら逃げてしまうかもしれない。

 

「チョイチョイ」

「なんです?」

「ちょっと来たまえ♪」

 

そう言って廊下まで引っ張られるや否や、

 

「つかぬことを聞くんだけどね、右京君?」

「...なんです?」

 

「君、欲しい武器なんてあったりするかい?」

「買ってくれるんすか?」

「いやぁ、ベル君だけ、なんて君に悪いだろう?」

 

それが2億の借金を作ると知らんからそんなことが言えるんだよ神様。

 

「俺はいいですよ。冒険初めて2,3日しか経ってませんし、これから武器を変えるかもしれませんから。」

「おぉ、なるほど...」

「その分、うちの団長にいい武器見繕ってやってくださいな。」

「うん、わかったよ!」

 

 

よし、修正完了。

後は何かのイベントもないし、メインストーリーはベルとヘスティア様に任せてしまってもいいかな。

 

何気にここに来て初のお祭りだし、稼ぎを存分に使って楽しまなければ無作法というもの。

明日くらいはこれから先の懸念も忘れて遊ばないとな!

 

あ〜、何も気にしなくていいのは気分がいいな〜!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れて祭り当日の朝。ベルは忘れ物の財布を預かり、俺は屋台巡りに精を出し、ヘスティアは将来のベルの愛剣(ヘスティアナイフ)を作っている時の事。

 

原作と全く変わらない状況で、怪しい密会を行う神物(じんぶつ)が二人。

 

 

「...で、今度は何を企んどるんや。」

「あらあら、何も企んでなんていないわよ?」

「嘘こけ、この色ボケ女神が。どうせまたよそのファミリアの眷属(こども)引き抜こうっちゅうんやろ?」

 

「あら、バレちゃったかしら。」

「...で、どないな奴や。お前の狙とる、その子供っちゅうのは。」

 

 

美神は、恍惚と憂鬱を混ぜ込んだような表情で話し始める。

 

「とても頼りなくて、少しのことで泣いてしまうそんな子。」

「でも、綺麗だった。透き通っていた。私の見たことのない色をしていた。」

「見つけたのは偶然。たまたま視界にはいっただけ。もっとも...」

 

言葉はそこで途切れる。

 

「どないした。」

「ごめんなさい。急用が出来たわ。」

「ハァ?お前いきなり......」

「また会いましょう。」

 

「なんやアイツ...って勘定もこっちかいな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の心内がそれ以上話される事はなかった。

 

透き通るように白い彼の隣に、対象的な「不透明な青年」がいることも。

 

白とも灰とも表し難いその男は、神の目を持ってしてもその本質が測りきれなかったことも。

 

...その秘密に包まれた謎の青年にもまた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

いずれ”兎”に”鬼”と語り継がれる彼らは、未だ不完全で、未成熟。

 

しかし、一人の青年によって歪められた歯車は、歴史の舵を何処へと知れぬ場所へと切り、

 

 

 

 

 

 

少しづつ、動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

*1
ベルの「憧憬一途(リアリスフレーゼ)」や右京の「愛想一途(セリゲートバージェン)」などの成長促進スキルの事。あまりにも規格外なため、原作ではずっと隠し続けられている。




どうも、投稿者です。
メインストーリーの進め方について悩んでいるうちに閑話でお茶を濁すという発想に至り、思いついた言葉や言い回し、伏線を詰め込んだ文書を錬成いたしました。

その甲斐もあって、現在は順調に趣味のガンプラ作りが進んでおります。最近はヅダの制作が一段落ついたので、久しぶりにLBXでも魔改造してやろうかと材料集めしている最中でございます。
無論、ちゃんと小説も書いてますよ? ......ガンプラの合間に。

さて、小説の方もそろそろ指針が決まりつつあるので、次回の更新は近いうち(3月上旬)になると思います。ではでは〜。


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第七話「出会い 」

怪物祭(モンスター・フィリア)当日、だいたい明朝8時くらい。

 

路地裏にて男がひとり。

襤褸切れに身を包み、倒れ伏す()()()()()がひとり。

 

「おおぅ...まじか。」

 

驚き、一度は後ずさるものの、足を踏み出しその顔を隠す布をめくる。ガサガサの髪に浅黒く変色した肌。そして彼女の目は...

 

「え......」

 

次の瞬間、男はさらなる驚愕に陥ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇なんだよなぁ...」

 

 

男...いや、俺はひとり街を歩き回っていた。両手には屋台で買った飯が、五指を駆使して絶妙なバランスで保持されている。

 

なぜ俺が一人寂しく祭りを満喫しているのか。早速だが、状況を説明しよう。

 

 

ベルくんとヘスティア様は、原作通り美少女の忘れた財布を届けたり馬鹿強いナイフを作ったりデートしたりと忙しそうにしている。

それは先程、実際にストー...偵察を行って確認している。

 

ここまでで大体のストーリーを正しく進めていることに安堵した俺は、早速お祭りムード全開の街に繰り出した。

朝飯を抜いてきたスカスカの胃を満足させるべく、美味そうに見えた屋台飯を片っ端から買い漁り、頬張っている最中であった。

 

 

唐突だが、俺は祭りが好きだ。特に射的とか的当てとかのアクティビティ系のものが大好きだ。金魚すくいはわざわざ金魚を飼いたくなかったから、釣ったそばから釣れなかった子供に配ったりしていた。

...祭りを一緒に回る友達はいないこともなかったが、皆ノリが悪かった。最近の子はあんまり祭り行かないのね...

 

 

 

 

 

 

祭りを満喫していた俺だが、ここに来てふと気付く。

 

...()()()()()()()()()()()()()()()

 

我が故郷である日本の風景を、似ても似つかないオラリオに重ねてしまうのだ。

 

一体何故だろうか。

 

 

 

 

 

 

それはずばり、ホームシックだ。

両親は、兄は、妹は、今どうしているのか。俺を探しているのか。それとも元々いなかったことにされたのか。

心からの友達こそいなかったものの、だからこそ繋がりの強い者をより大事にしようとするのだ。

 

そんなことを悶々と考えていると、浮かれた心も次第に落ち着いていく。

 

人生で、本当の意味で心を通わせられる人間がいったい何人いるだろうか。立ち止まって考え込んでしまう。

 

 

「はぁぁぁーー...」

 

そんな時。

祭りどころではなくなった俺に人の津波が襲いかかる。その拍子に右手のオニオンリング(的な何か)を落とし、それが決定打となった。

 

妙に冷めた感情と残りの貴重な屋台飯を抱えながら、俺は安寧の地を探すべく、路地裏へと足を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在に至るわけだ。

 

茶色の髪と、布の合間から見える細すぎる腕。

 

「おいおい、まさか...」

 

俺は、この少女_か細いうめき声を聞くまでは性別も生死も判別できなかったが_が、この後のストーリーで仲間になるはずの小人族(パルゥム)の少女「リリルカ・アーデ」ではないかと考えた。

もし仮に自分がここに来たことで物語が変わってしまったのならば、それを修正するのもまた自分の責任だ。

 

 

しかし、それは少し違う形での影響となった。

 

「碧眼?」

 

倒れ伏した彼女の目は、濁っても尚その美しさを失わない碧眼であったのだ。何なら短めのケモ耳まで付いている。小人族(パルゥム)ではなく獣人だったか。

しかも、丸まってたから気づかなかったが、リリ助よりも少し体格が大きいようにも見える。本人が変身した姿でもなさそうだ。少なくとも本人ではない事がわかって一安心。

 

 

 

「..........い..」

「!?」

 

驚いた。この状態でまだ意識があるのか。もう助からないかと思っていたのに。

 

「......すいた...」

「...ん?」

 

なぜか俺の磨き上げたギャグ感知スキルが働くんだが。こいつ、もしかして......

 

「...お腹空いた...」

「さいですか......」

 

 

どっと力が抜ける。てっきり誰かの死に直面してSAN値チェック! とかになると踏んでいたんだけど。

ま、取り敢えずは...

 

「食うか?」

 

と言って屋台飯を差し出す。

日本人は、こんな状況で目の前で飯を食ってやるほど残酷ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文字通り「死ぬほど」空腹だった彼女に食事マナーなんてものがあるわけもなく、描写できないほどのひどい食べ方だったので大幅にカットさせてもらおう。

 

本人がたどたどしく話す情報としては、以下の通りだった。

 

・年齢10歳。

・種族は猪人(ボアズ)。力が強いのが特徴。

・ある日いきなり両親がダンジョンで死に、身寄りも兄弟もいなかったため天涯孤独となる。

・生き延びるため、両親に少しだけ教えてもらったサポーターとしての知識一つを頼りにしてなんとか小さなファミリアに雇ってもらうも、すぐに捨てられる。

・その後も様々なファミリアを転々として、その度に捨てられた。現在は改宗待ち状態。

・しばらくは仕事がなくても家の貯蓄で生活していたが、それもすぐに尽き、2日前、ついに家を失う。

 

 

ここまで聞いた限りでは、ダンまちの世界によくいる孤児に見える。無論この少女を捨てた人でなし共には腹が立っているし、その判断を下したロクでもない神達には熱湯でも浴びせて心も体も熱湯消毒してやりたい気分だ。

 

しかし、何度ファミリアに捨てられてもめげずに歩き続けたこの少女の胆力は10歳のものとは思えないし、それは大きな才能の裏付けでもあるだろう。

 

 

 

正直、この少女をファミリアに招き入れたいと思う自分がいる。しかしそれと同時に、これ以上物語を捻じ曲げてはいけないと警告する自分もいる。

 

悩みつつ彼女の前にしゃがみ込んだ時。

じっと考える自分の目線とと彼女の碧眼がぶつかった。その目には涙が溢れている。

 

「うぐ、ひっぐ...あ、ありがとう、ございます...」

「気にすんな。ほっとけなかっただけだ。」

 

 

 

(もしかして、この子を助けたいと思ったのは、()()と同じ碧眼だからって理由なのかもしれない。)

 

「...なあ。」

「ぐす..は...はい..」

「もしよかったら、うちのファミリアに来ないか?ちょうど、サポーターを雇おうとしていたところなんだ。」

「え.......」

 

(たまたま()()のことを思い出せたから情けをかけたのかもしれない。)

 

「うちには頼れる団長がいるし、食いっぱぐれる心配はないぜ? 実際、屋台で豪遊できるくらいの金は持ってるし。」

「うぅ...」

 

(なんならこの後入ってくるリリルカ・アーデにも影響があるだろう。)

 

「入りたいです...入れてくださぁい......」

「よしよし、そうか。じゃあまずは...」

 

(だが、それは今置いておいて。)

 

「体を洗うぞ。」

「...へ?」

 

 

 

 

 

 

 

言うのを忘れていたが。

 

実は俺は、結構な綺麗好きなのだ。

 

 

 

「こんなに汚い奴をうちのファミリアに入れるわけにはいかん!!!まずは洗え!!!」

「は......はい...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝自分用に買ったディアンケヒトファミリアの石鹸(結構な値段がした)を使い、近くにあった井戸の水で少女を洗うこと約3時間。ようやく許せるレベルになってきた。

浅黒かった肌は白さを取り戻し、ボサボサだった髪もなんとか手櫛できる程度には回復した。

そこからは体の至るところにある生傷をポーションで治し、ボロボロの服はとりあえず近くの雑貨屋で買った生成りのシャツと半ズボンに買い変える。

 

「我ながら良い仕事をした...!」

 

個人的には大勝利である。彼女の素顔は幼さと芯の強さを内包しており、しかも結構な美人だ。流石に幼女に手を出すほど堕ちてはいないが、あと3年遅かったら危なかった。

 

「あ...あの...」

「ン、どした?」

「せ、石鹸なんて高価なものを使っても、よろしかったのですか?」

「いーのいーの。水洗いじゃほぼ効果なかっただろうし。」

 

そう言いつつ、頭を撫でてやる。

 

「んぅ...」

 

やっぱり可愛いな。あと3年と言わず、2年でもギリギリ...

 

「あ、そういえば。」

「は、はい...」

「自己紹介がまだだったな。俺はウキョウ・城兼(シロカネ)。」

「え、えっと.........”ラーマ・ノニト”です。」

「じゃあラーマ。しばらくここで待っていてくれないか?」

「え...」

 

そう言った途端に青ざめるラーマ。

 

「いやいや、捨てるわけじゃないから、俺はちょっと武器を取りに帰らなくちゃいけなくて...」

 

(いや、どうせ教会まで行くなら連れて帰ったほうが...)

 

「そうだな、じゃあ付いてきてくれないか?うちのホームでお留守番していて欲しいんだ。」

「ど、どうしてですか?」

 

ラーマは腰に抱きつきながら上目遣いで訪ねてくる。お前わざとかよ...

 

「これから、行かなきゃいけないところがあるんだ。」

 

 

 

そう、こんなことをしてすっかり忘れていたが、物語が正しく進むのであれば、今日の昼過ぎにどこぞの女神様のせいでモンスターの大脱走が始まる。日の上りから見てあと1時間あるかないか...

もしまた自分のせいでモンスターの数が増えてでもいたら、被害が増えてしまう。それだけは避けなくては。

 

「時間がない。急ぐぞ!」

「は、はいっ」

 

 

...急ぐのだからこそ(はし)るッッ!!!

 

ステイタス全開にしながら、少女を抱えてホームへと駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が走り始めた、少し後のこと。

 

「フフ、あなたに決めたわ...」

 

闘技場のモンスター倉庫にて。見張りを無力化したある女神が、白い大猿(シルバーバック)に命令を与えていた。

 

「”小さい私を追いかけて”」

 

鉄籠の鍵を開け、モンスターを解き放つ。

 

 

 

「さて、後は...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...ウキョウの影響は、特に神フレイヤの心情に、大きく響いていた。

 

不透明で、全く見通せない謎の青年。

 

そんな不確定要素の塊に、彼女が興味を引かれないはずもなく。

 

 

 

「...あなたがいいかしら。」

 

 

 

結果、原作では未登場のままに終わった、

 

 

 

「”黒髪の青年(私の想い人)を襲って”」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、投稿者です。

いい感じにやる気が出てきたのでストーリーを書き、ついでにオリキャラをぶち込んでみました。やっぱオリキャラ作るの楽しいわ。

しかし若干出し切った感はあるので、次の投稿こそ遅れるんじゃないかなぁ、なんて思っちゃってます。では。


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第八話「街中にて」

「よし、ラーマ。ここで留守番しとくんだぞ。」

 

地下室まで連れてきたラーマに言い聞かせる。

ここなら原作でも被害はなかったし、ラーマを守るには最適だろう。

 

「じゃあ行って...」

 

そう言うと、ラーマに服の裾を掴まれる。

 

「...どこに、行くんですか?」

「いや...ちょっとしたパトロールだよ。」

「ぱと..?」

「あー、街を見て回るのさ。今日はモンスターを調教する催し(イベント)があるから、モンスターが逃げたりするかもしれないだろ?」

 

それを聞いた彼女は、何故かいきなりポロポロと泣き出し始めてしまった。

 

「す、すてないで...」

「え!?」

 

一体どういうことだ?

 

「いやいや、捨てないよ。実際に俺たちの拠点(ホーム)まで連れてきた訳だし...」

「え...?」

「気づいてなかったのか?流石に鈍すぎ......あっ。」

 

 

...なるほど。この子はここが適当に入った廃教会だと思っているのか。確かにオンボロだけど、生活感はあるだろ?

 

「...言ってなかったけど、ここが俺たち、”ヘスティア・ファミリア”の拠点(ホーム)だよ。」

「こ、こここ、ここがですか?」

「まぁ、気持ちは分かる。俺も最初はそうだった。」

「...今までのファミリアのどこよりも酷い...」

「いや、まぁ、なんだ...。数ヶ月も経ったら、きっといい物件が見つかるさ。」

 

まぁ、そのうちどこぞの太陽神(アポロン)から奪うんだがな。

 

 

「...じゃぁ、そろそろ行ってくるな。時間がない。」

 

そう言って装備_鎧まで着込む時間はないので斧槍だけ_を携え、足早に階段を登る。

 

「あの......」

 

「必ず、帰ってきて、ください...」

 

「...大丈夫、軽く街を見て回るだけだから。危なくなったらすぐに帰ってくるよ。」

「わかり、ました...。」

 

こんなことしか言えないのは歯がゆいが、今は確認が優先だ。許してくれ...!

 

 

「それじゃ、行ってくる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街に出るや否や、とりあえずは闘技場に向かう。

モンスターは全てそこから脱走するだろうし、暴れ回った痕跡から後を追うことも可能だろう。

 

と、思ったのだが。

 

「うぉっ!?」

 

 

裏路地から表通りに出てきた俺の前に、オークが背を向けて立っていた。

まだ闘技場からは遠いのに、もうこんな場所までモンスターが広がっているのか。

 

「なっ...まずい!」

 

背を向けたオークの奥に、へたり込んで動けないであろう女性が一人いた。

オークはその女性ににじり寄り、そこらで拾ったであろう(はり)のような角材を今にも振り下ろさんとしている。

 

「チッ、こっちを見やがれッ!」

 

叫んでタゲを取りつつ、斧槍を構える。本当は不意打ち(バックアタック)を仕掛けたいところだが、そう悠長なことは言っていられない。

 

「ちょっと付き合ってもらうぜ!」

「ブモォォォォォォ!!」

 

武器を持つ俺を脅威だと感じたのか、オークは3m近い巨体を揺らしながら重々しい角材を振り回す。しかし...

 

 

「お...っそい!」

 

横薙ぎに振り抜かれた()()は、お世辞にも速いとは言えないものだった。

後ろにあった家の外壁を抉ったものの、体勢を低くすれば簡単に掻い潜ることができる。おまけに隙も大きい。

 

「でぇぇぇい!」

 

俺がその隙を逃すはずもなく、穂先で正確に胸の中心を貫かれたオークは魔石を失い、あっさりと爆散した。

 

 

「っと...大丈夫ですか!?」

「あ、ありがとうございます...」

「えっととりあえず、ギルドまで案内を...」

 

その瞬間。

頭の奥を殴られるような轟音とともに、後ろの家が粉々に吹き飛んだ。

 

その衝撃と土煙に、思わず目を瞑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

恐る恐る顔を上げると、その先に立っていた()()()()()()と目が合った。

 

 

 

「あれは...インファントドラゴン!? なんでこんなやつが!」

 

 

インファントドラゴンと言えば11〜12階層に稀に出現する、体長4M(メドル)ほどの小竜型モンスター...だったはずだ。

 

というか、なんでこんな奴が地上に!? いや、大方(おおかた)調教の大トリ用に連れてこられたんだろうが......

こんなやつ原作に出てきたっけ!? また改変かよ! バタフライエフェクトってやつか!?

 

 

 

「だぁぁークソッ!おいあんた!死にたくないなら早く逃げろ!」

「は、は、はいっ!」

 

 

ギルドの方角に逃げ出す女性を確認した後、改めて目の前の竜種と相対する。

 

相手はダンジョン上層の階層主と言っても良いレベルのモンスターだ。正直、一人で勝てる可能性は皆無。しかし......

 

 

 

 

「まぁ、一人逃がせただけでも良い方かな...」

 

 

戦いの火蓋は、唐突に切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この状況。実は自分にできることはほとんどない。

 

 

というのも。先程記述した通り、インファントドラゴンは上層での実質的な階層主であり、確か11〜12階層の攻略可能ステイタスはB〜Sくらいだった気がするので、こいつと戦うためにはほぼレベル2になれるほどのステイタスが必要になる。

しかし、自分のステイタスは比較的高い基礎アビリティの「力」と「耐久」ですらCに届く程度しかない。少なくとも数値上で勝ち目はない。

 

 

「勝てるわけねぇ...」

 

 

幸い奴はそこまで足が速いわけではないので、全速力で逃げ続ければ死ぬ可能性は少ない。しかしブレスを吐くこともあるので絶対ではない事と、建物を破壊しながら追いかけてくるため街の被害はむしろ広がってしまう。

だが、今は確かガネーシャファミリアと「剣姫」がモンスターを倒して回っているはずだ。轟音を聞きつけて増援が来てくれれば......

 

 

 

 

 

 

 

...本当にそれでいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

ベルは(恐らく)今、ヘスティア様をかばいながらモンスターと戦っているはずだ。たとえ逃げ続けていたとしても、決して諦めずに。そんなベルに追いつきたい、追い抜いてやりたいと願っているこの俺が逃げるのか?

 

 

_そんな様子じゃあ、いつまで経ってもあいつに追いつくことなんてできないぜ。_

 

 

分かってる。でも相手は滅茶苦茶に強い。戦って(かな)う相手じゃない。

 

 

_別に俺は「正面から勝て」なんて言ってないさ。武器、地形、多めに貰えたステイタス。使えるものはいくらでもある。_

 

 

そんなに運が良いことなんかあるかよ。

 

 

_あるさ。そういうモンだからな。_

 

 

...そこまでいうなら、少しくらい前向きに逃げ回ってみるか。

 

 

_あぁ、そうしとけ。きっと上手くいく。_

 

 

 

 

 

 

 

「...よし...。」

 

腹は括った。後はやるだけやってみるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、投稿者です。

パソコンを買い替えてフォントが変わったので、指の動きがぎこちなくなった気がしています。

さて、ストーリーの件ですが。割としっかり書いているつもりなんですが、一向に話が進みません。第八話にしてまだアニメ二話のとこですからね。ペースアップして、早く魔法とか改変要素とか披露したいんですけどね。

こちらはそんな感じです。では。


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第九話「決着」

ここで、奴の戦い方を整理してみよう。

 

 

インファントドラゴンの主な攻撃方法は、踏みつけ、嚙み付き、尻尾による殴打。そして一番警戒すべきは、炎の吐息(ファイアブレス)だろう。

 

強烈な近接攻撃を嫌って距離を取れば容赦なく吐いてくる上に、火妖精の護布(サラマンダーウール)がない現状では完全に即死攻撃だ。まずはあの炎を封じる必要がある。

 

 

...確か火って酸素を奪えれば消せるんだったっけ。砂とか水とか、消火器の中身もなんかの粉だったような。

 

あと、身動きも封じたいよな。足を集中的に狙ってみるか。

 

尻尾はどうやって対策するかな。立ち回りを意識してみるか。

 

あとは...

 

 

 

散発的に生まれる思考を、急速に繋ぎ合わせていく。

眼前の竜は今にも襲い掛かろうと鼻息を揺らしているにもかかわらず、警戒を切らさずも冷静に作戦を練ることができているのは、その飛び抜けた度胸のためか。

 

引き延ばされた数秒の思考の末。

やがて、一つの突飛なアイデアが出来上がった。

 

 

「よし......いっちょ試してみるかぁ!!!」

 

 

吹っ切れた俺は、思いついた作戦を実行できるある場所に向けて走り出す。

それと同時に、そびえ立つ竜は猛々しい咆哮をまき散らし、

 

次々に建物を粉砕しながら行進を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは、奴のブレスを封じる。

 

そのために、まずは目的地までの道を思い出さなければ。この前聖地巡礼しといて良かったーマジで!!

 

 

目的地までの最短ルートをはじき出し、後ろに迫るバケモンに踏み潰されぬよう必死で大通りを駆け抜ける。

住民も音を聞いて避けてくれるし、その音で応援が来てくれるかもしれない。

 

 

 

そんなこんなで作戦の要である目的地...

 

()()に到着した。

 

小舟が行き交う浅い運河に飛び込むと膝下まで浸かるが、動けないことはない。

 

ここならあれができる。

 

と、ここで俺はようやくインファントドラゴンと向き合った。

数分間に渡り振り向きもせず逃げ回っていた俺に辟易していたのか、追いついた竜は早速その顎の中に炎を溜め込んでいた。

 

_ブレスの予備動作(プレモーション)!_

 

そう意識するや否や、両手で握った斧槍を大きく振りかぶり...

 

「ッせぇぇぇぇい!!!」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

衝撃が伝わった水面は吹き飛び、彼我の間に水のカーテンが形成される。

その瞬間、竜の炎が解き放たれた。

 

 

水のカーテンはあっさりと蒸発し、炎が眼前に迫る。

巻き上げた水飛沫程度で竜種のブレスが受け止められる訳がなかった。

 

 

 

 

しかし炎が通り過ぎた時には、()()()()()()()()()()()

 

ブレスによって発生した大量の水蒸気に紛れて、目の前の竜へと接近していく。

水飛沫と蒸気によって視界が塞がれ、ブレスの軌道がズレたのだ。

 

 

竜がそれに気づく頃には、男は竜の股の下をくぐり抜けていた。狙いは長い尻尾。本体に比べて低い位置にある()()に手をかけ、一本の道となった坂を駆け上がる。

 

(これならブレスも踏みつけも怖くない!)

 

背中を踏みつけられた竜は身をよじり振り落としにくるが、バランスを崩す前に空高く跳ぶ。

 

 

足りない力は知識と度胸でカバーする。

 

「それが......冒険者だオラァァァァァァ!!!!!!」

 

 

 

雄叫びと共に、首を上げた竜の脳天に斧槍の刃を叩き付ける。

 

「グオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

 

さすがに無防備な頭に食らった一撃は痛かったのか、川に転げ落ちた俺にも聞こえる爆音の咆哮が浴びせられた。

 

「うグッ、ゲホッゴホッ......」

 

水を飲みながらも何とか素早く起き上がったが、奴はまだ倒れていない。むしろ、頭に刺さった斧槍のおかげか貫禄も殺意もえらいことになっている。

加えて、体力もいい加減キツくなってきた。

 

「クソッ、ここまでか...」

 

 

 

 

 

 

 

「全員、突撃!!!!」

 

その刹那、オレンジを基調とした服を着た集団が竜目掛けて突撃をかけ始めた。

 

「来てくれたか...ガネーシャファミリア!」

 

一人で奴を倒すのが難しいとは考えていた。だからこそ、少しでも目出つように広い場所かつ街道から近いここを選んだ。さすが、「都市の憲兵」と呼ばれるだけはある!

 

「そこの君!早く離れろ!」

「助かります!さすがに一人じゃキツかった!」

「な...アレを一人で抑えていたのか!?」

 

抑えていたっていうか、追いかけっこをしていただけなんだよな。とりあえず、後は本職に任せることにしよう。

 

 

 

 

 

 

その後、奇跡的に無傷でインファントドラゴンから逃げおおせた俺は、ガネーシャファミリアの人達に「レベル1であいつに喧嘩売ったのか?すげぇなお前!」とか「なおさら無茶しちゃ駄目じゃない!!」とか色々言われたが、安堵感と疲労感の極地にいたせいでよく覚えていない。

とりあえず奴の頭に刺した斧槍は返してもらっていた。

 

その日の夜のことは、飯も食わずに寝たからかあまり良く覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、右京!神様ー!右京が帰ってきましたよ!」

「何〜!?よし右京君、ここに直れ!こっちは色々と聞きたいことが山盛りなんだよ!」

 

「あー...」

 

朦朧としつつ何とか家に帰り着いた右京の受け答えは、それはもう酷いものだった。

 

「いったいどこに行っていたんだい!」

「...川でドラゴンと戦ってました」

 

「け、怪我はないんだね?」

「多分...」

 

「じゃあ、そこの隅にいた小さい子は誰なんだい!事情は聞いたけど、勝手に連れ込んじゃ駄目じゃないか!一応はファミリアの拠点なんだぜ?」

「...そんな大層なもんじゃないでしょうよ」

 

「もーーー!!!!ちゃんと答えるんだーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、知能を取り戻した俺はようやく昨日起こったことのの説明と、新しくサポーターとして雇ったラーマを紹介した。

 

「なるほど、事情はよくわかったけど...」

「ご迷惑おかけ致しました...」

「そうだよ右京!右京が帰ってこないから、この子もずっと怖がってたんだよ!」

「いや、お前がいるから大丈夫かなって」

「帰ってこないから、心配しました...」

「...遅れてごめん」

 

子供に泣かれちゃ、謝るしかないよな。

 

 

「ええっとそれで...。右京君、彼女をどうするつもりなんだい?」

「どう、とは?」

「これからのことさ。」

 

女神の声が真剣な雰囲気を帯びる。

 

「彼女はサポーターをやっていたそうだけど、これからもダンジョンに行くのかい?」

「あぁ、そういう話だったしな。」

「...ベルくんにすら相談してないのに?」

「ウッ」

 

 

そこからはヘスティア様に色々と説教を食らった。

本当にダンジョンで戦っていけるのか。なにもダンジョンに行かなくても、彼女の働いている屋台で雇ってもらえるかもしれないこと。

 

「もちろん、屋台よりダンジョンに行ったほうが稼げるとはおもうけどね。なにも無理をしてダンジョンに行く必要は無いんじゃないかな?」

 

それに関しては、本当にぐうの音も出ない。

 

 

「...でも、僕は大歓迎ですよ!ちょうどサポーターが欲しいって話してたところだし..!」

 

どうやらベルは乗り気のようだ。その様子をじっと見つめていた彼女は頷き、

 

「なるほど、君たちの気持ちは分かったよ。後は...」

 

少し離れた位置で小さくなっているラーマに目を向ける。

 

「君がどうしたいか、だね。」

「わ、私は...」

 

 

迷うような仕草を見せつつ、それでも尚毅然とした顔で

 

「私も、皆さんのお役に立ちたいです」

「...何より、お父さんとお母さんが教えてくれたことを、無駄にしたくないです!」

 

と、言い切ってみせた。

 

「...それなら、僕から言うことはないね。」

「なら...!」

 

 

「あぁ、ようこそヘスティアファミリアへ!」

「歓迎するぞ、盛大にな!」

「これからよろしくね、ラーマ!」

 

「...はい!」

 

「よし、そうと決まれば早速恩恵(ファルナ)を刻もうか!おっと、男の子は見ちゃ駄目だぜ!」

「じゃあ、少し出ときます」

 

そう言って、団長と共に地上階まで出る。

 

 

 

 

 

「良かったね、ラーマのこと」

「おう、良いサポーターが見つかって何よりだ。」

「明日からは3人でダンジョンに行くんだよね?」

「いや?」

「え?」

 

ニヤリと笑う。

 

「しばらくは俺とラーマの二人で動くから、そこんとこよろしく。」

「え、どうして?」

「あの子をサポーターにすると決めるのはまだ早い。まだ幼いし、育て方次第じゃいくらでも強くなれるはず。」

「...?まだ早いって...」

 

自分自身で試行錯誤して強くなりながら、そこで得たノウハウを教える。その間はサポーターとして経験値(エクセリア)を稼がせる。隙を生じぬ二段構え計画だ。

 

「とは言っても、やっぱりサポーターは欲しいよな。だからベル、お前には現役のサポーターを見つけてきて欲しいんだ。」

「僕がサポーターを?」

「おう、バベル前の噴水のところで武器の代わりにリュック背負った奴らがいるはずだ。そういう奴らは大抵、冒険者と組んでダンジョンに潜りたがってるサポーターだから...」

 

などとサポーターについてベルに言い聞かせる。ラーマをサポーターに、と考えたときは「ヤベぇ!リリ助のこと忘れてた!」と焦ったが、これでベルがリリ助を連れてくる...はずだ。大丈夫だよな?

 

 

 

「お〜い、終わったから降りておいで〜!」

 

ラーマの改宗(コンバージョン)が終わったらしい。何か面白いスキルか、せめて基礎アビリティが育ってればいいけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、改宗時ステイタス

 

ラーマ・ノニト

 

Lv.1

 

STR I 65

VIT I 48

DEX I 8

AGI I 31

MAG I 0

 

MAGIC:

SKILL:

 

 

 

 




どうも、膨大な課題と神アニメに忙殺されていた投稿者です。すまねぇ!(五体投地)

だってdアニメストア強すぎるし...スキップとローファーが尊すぎるんじゃ...魂が浄化される...


次はもう少し早く上げられると嬉しい!ほな!



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第十話「二人の転機(ジョブチェンジ)」

 

「ということでラーマよ」

「はいっ」

「今からバベルに行くわけだが」

「はいっ」

 

 

怪物祭の翌日、祭の熱気の残る街を歩く。目的地はもちろんダンジョン…ではなくバベル。ラーマの装備を整えるため、ついでに俺も掘り出し物を探しに行く。

 

「当面の方針を覚えてるか?」

「えっと、サポーターをやりながらいろんな武器を使ってみる、です」

「正解!ラーマは賢いなぁ!」

 

褒めて伸ばすのは楽しいなあ。いきなり親代わりが務まるか不安だったが、この調子なら何とかなりそうだ。

...反抗期っていつ頃来るんだ?俺は反抗期とか無かったからそこは心配。

 

「ラーマにどんなことが向いてるか分からないからな。ま、色々試してみよう。」

「あの...」

「ん?」

「ほんとに、ありがとうございます。こんなに良くしてくれて…わたし、頑張ります!」

 

こちらに晴れやかな笑顔が向けられる。

 

 

…言えない。このあと加入する本来のサポーター(リリルカ・アーデ)のために、この子を役被りのサポーターにできないなんて。やめろそんな信頼しきった目で俺を見るな!罪悪感で軽く2回は死ねるから!

 

彼の苦い顔の意味を少女が知るのは、しばらく後になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ポーション類はミアハファミリアで買うとして...よし、これで全部かな。」

 

バベル上層階にある駆け出し向けの店にて。サポーター用のバックパックや解体用のナイフ、その他ロープや杭、ハンマーに至るまで片っ端から手に取っていく。

 

「ラーマ、使い方とか分かるか?」

「はい!それはバッチリです!」

 

任せてください、と胸を張ってみせる。

運用に関しても問題無しか。あとから俺も教えてもらおう。

 

「じゃあ、いよいよだな。」

 

と、ラーマのいる方角へ足を運ぶ。ラーマには一足先に武器を見ていてもらったのだ。

 

「なんか気にいるのあったか?」

「...ごめんなさい、よくわかりません。」

「そりゃそうか。じゃあギルドで借りていこう。」

 

そりゃあ一般人にいきなり武器選べ、なんて言っても分からんわな。俺?俺はフィーリングで選んだから良いんだよ。ダクソ2ならある程度履修済みだから。

 

ま、ラーマもしばらく潜ってれば何とかなるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし予想は外れ、ここからが一番長かった。

理由は単純。彼女は絶望的に近接戦闘に向いていなかったのだ。

 

剣を持てば刃の向きを考えず、刀身の横っ腹でゴブリンを殴る。ならばとメイスを持たせれば、殴りつけた時の鈍い音と重い感触に足をすくませる。離れた位置から突くだけの槍もろくに当たらず、すぐに近づかれてはやたらめったらに振り回す。力はそこそこ強いようだが、モンスターを過剰に怖がっているせいかまともに戦えない。

...正直お手上げだった。

 

加えて、ホームに帰ればベルからサポーターに声をかけられただの、キラーアントを倒しただの、挙句の果てには魔法を覚えただのと無自覚な自慢を浴びせられる始末。俺やヘスティア様のフォローもむしろ逆効果らしく、表情は最初に会ったときのように暗い。

 

...ベルよ、今更気付いたか。そんなワタワタしても遅いぞ。あとからシバく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ起きてたのか、ラーマ。」

「あ、ごめんなさい、すぐ寝ます!」

「いやいい、それよりこれは?」

 

廃教会に入り込む月明かりの下、解体用のナイフで作っていたのは木の人形。

 

「これは...ベルさんです。」

「おお、あいつの人形か。上手いな。」

 

薪を削って作ったのだろうか。はねた髪やあどけない表情までデフォルメされて再現されている。おしゃれな()()()って感じだ。

 

「これ、いつから作ってたんだ?時間かかったろ。」

「さっきです。」

「え?」

「ご飯のあとから作り始めて、さっき顔ができました」

「......まじ?」

「今から服を縫うんです」

 

そう言って、側に置いてあった小さな箱からハサミと茶色の布切れを取り出して手慣れた様子で切り取っていく。

 

「この人形作り、いつからやってたんだ?」

「物心付いたときからやってました。わたしの家、新しい服が買うお金がなかったから、せめて余った布でちっちゃい服と、それを着せる人形を作れないかなって...」

 

 

それを聞いた瞬間、俺はようやく気付いた。俺は、彼女のことを見ていなかったのかもしれないと。

力の強い獣人だから近接戦闘に向いているとか、ゆくゆくは壁役(タンク)にもなれるかもしれないとか...

 

彼女はまだ幼い。しかもこんな、満足に訓練もしていない彼女がモンスターに怯え、竦むのは当たり前ではないか。そんな彼女に色々なものを押し付けてしまっては、ラーマを捨てた奴らと同類だ。

 

「...すまん、ラーマ!俺が悪かった!」

「え?え?」

「いきなり武器を持たせて戦わせるなんて、馬鹿な真似をした!すまん!」

 

地面に膝を付けて謝る俺に、椅子の上であわあわと慌てる少女。傍から見たら珍妙な光景であることに違いないが、幸いにも寂れた教会にわざわざ入ってくる物好きはいなかった。

 

 

そんなやり取りをしばらくした後、少女が、諦めたように話し出す。

 

「...右京さんは、いい人です」

 

「私が戦えなかったらすぐに助けてくれますし、その後はいつもわたしを守りながら戦ってくれます。」

 

「この前なんて、わたしがモンスターの前でこけちゃったのをかばって怪我したじゃないですか」

「それは、サポーターは守らんといかんだろ」

 

口をついて出た言葉に、少女はかぶりを振る。

 

「普通の冒険者の人は、そんなことしません。いつもおいていかれそうになるのを、必死についていってました。」

 

「でも、右京さんは絶対に見捨てなかった。まるで、お父さんが帰ってきてくれたみたい...」

 

表情は未だ晴れない。だが、少しだけ腹を割って話せたからか雰囲気は良くなった。もう一押しで元気になりそうだが...

 

と、そこで一つの妙案を思いつく。

 

 

「じゃあ、今日から俺がお父さんだな」

「...え?」

「言質は取ったぞ?『わたしのお父さんになって♡お願い♡』ってな!」

 

俺はおどけて笑う。笑ってみせる。

 

「い、いいい、言ってないです、そんなこと!ただちょっとお父さんに似てる、かなぁ〜〜......って思っただけですー!」

「またまたぁ〜!嘘つかなくても良いのよ、ラーマちゃ〜ん!」

「ちょ、やめ、抱きつかないでくださいよ!暑苦しいです!」

「嘘ッ、もう反抗期!?パパは心配よ!」

「誰がパパですかーー!!!」

 

 

 

 

 

騒ぎ立てる師弟の後ろには、あまりの喧しさに起こされた神と団長が隠れていた。

 

(さすがに心配だから声をかけようと思っていたけど、あの様子じゃボクが出る必要もなさそうだね。)

 

神も杞憂に胸を撫で下ろし、

 

(やっぱりすごいなぁ、右京は)

 

少年は純粋な感心を抱く。

 

 

 

 

廃教会の夜は騒がしく更け、やがて静かに明けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、時にラーマよ」

「はいっ」

「俺はお前のことを誤解していた」

「はい?」

 

あれから一夜を明かした後、俺たちは再びダンジョンに来ていた。ラーマの手には、最近試したものとは別種の武器が握られている。

 

 

「ラーマは手先が器用だ」

「あ、ありがとうございます」

「ということで、()()を持たせることにした」

 

彼女の持つ武器...「長弓」を指して言葉を続ける。

 

「手先が器用で集中力もある。その上猪人族(ボアズ)の筋力も合わされば...」

 

最後まで言い終える前に、目の前の通路にゴブリンが現れた。それをいち早く察知したラーマが、慌てつつも矢をつがえる。

 

(やっぱり、どんくさいけど鈍いわけじゃないんだよな...)

 

彼女はのんびりとした性格だが、目は良いし、注意力もあるのだ。

 

「い、いきます...!」

 

 

身の丈を越える_といってもラーマ基準だが_長弓を構えたラーマが、硬い弦を引き絞る。ここに来る前に訓練や試し撃ちは一通り済ませてあるから、おそらく...

 

 

 

「...ッ!」

 

放たれた矢は空中に美しい線を描き、見事に目標の頭部に命中させた。頭を射抜かれたゴブリンは絶命し、灰と化して消えた。

 

「やった...!やりました!」

「すごいじゃないか、ラーマ!」

 

 

ようやく、彼女の強みに気づくことができた。こいつには弓矢が向いていたのだ。器用さと集中力、そこに腕力も加われば、長弓や弩級(バリスタ)の射手と相場がきまっている。

 

「や、やっと、倒せまし...たっ」

「お、おいおい、大丈夫か?」

「あはは...腰が抜けちゃったみたいです」

 

喜びも束の間、緊張の糸が切れたせいか腰から崩れるように座り込んでしまった。

 

「しゃあねぇ、今日は切り上げるか。」

「わ、わたし、まだやれます!」

「阿呆ゥ、今のお前にはサポーターも任せられんわい。大体お前、しばらく立てそうにないだろ。」

「うっ」

 

俺の厳しい言葉にギクリと肩を震わせるラーマ。

 

「大人しく甘えとけ。ほら、帰るぞ。」

 

へたり込む少女の前に、背を向けて屈む。

 

「...なんですか、それ」

 

「おんぶ。言ったろ、甘えろって」

「...ありがとうございます」

 

顔を(うつむ)かせ、か細い声でなんとか礼を言う。隠した顔がほんのりと赤く染まっていたことは、彼女以外が知ることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日から、ラーマの経験値稼ぎ(レベリング)を再開した。ラーマの体調状態(コンディション)はかなり良く、プレッシャーが消えたこともあいまって、すこぶる機嫌も良い。一度成功させた後は、流れるように狩りを進めていった。ゴブリン、コボルトのみならず、集団に対しても物怖じせず矢を放てるようになっている。

 

開始から2週間も経ってくると、到達階層も1,2層から6,7層にまで進んできた。ここらに来るとキラーアントが弓使いの天敵となってくるが、そこはご安心。筋力+金属矢の合わせ技で貫通力を底上げしている上、あまり自分から離れないように立ち回っているため護衛も完璧。まさに盤石の布陣だ。

 

 

「援護射撃、上手くなったな。」

「まだまだです。もっと、殻の隙間とか狙えるようになりたいです」

 

フンス、と息巻いてこちらを見上げるラーマ。...あぁダメ、超カワイイ!さすがはヘスティア様が「私はこの子のママだったのかもしれない...」と血迷ってたほどの可愛さ!

 

「じゃ、どんどん行くか!」

「はいっ!」

 

 

と意気込むと、早速数体のキラーアントが走ってくる。声をかけ、警戒して構えるが、襲い掛かってきたのは4体の内の1体のみ。盾に叩き落されたもの以外は素通りし、通路の向こうに向かって行く。同時に、男の甲高い断末魔が響く。

 

「な、なに!?」

「なんだ...?一体何が...」

そこで気付く。

ある!思い当たる節が!

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして階層中から一箇所に集まるキラーアント。つまり...!

 

「行くぞ、ラーマ!」

「い、行くんですか!?」

「嫌な予感がする!」

 

振り返って、ラーマの手を引く。

 

「大丈夫、ちゃんと守るさ!」

「...信じますからね!」

 

 

まぁ、野次馬根性が半分、保険をかけておきたいってのが半分なんだけど。万が一死なれたら嫌だしな!

 

 

 

 

 

 

 

 

近づくにつれて、蟻の数も増えてきた。邪魔なものや襲い掛かってくるものは切り払って進む。

地面を見やると逃げ遅れたであろう冒険者の死体も転がっているが、今は気にしている時間も余裕もない。

そして、遂に小部屋(ルーム)に到達した。

 

 

「おい、大丈夫か!」

 

大声と共に突入した二人の目に入ってきたのは、おびただしい量の蟻と倒れ伏した小人族(パルゥム)の少女。そして...

 

 

「ベル!!」

 

我らがお人好し団長(ベル・クラネル)がいた。

 

「ウ、右京!何でここに!?」

「勘だ!」

「えっ!?」

「話は後!」

 

いつの間にか抱えていたラーマを降ろしつつ、指示を飛ばす。

 

「ラーマ、援護射撃頼む。この数だ、当てなくていい。とにかく近づけさせるな!」

「は、はいっ」

 

一気にまくしたてるように指示を出し、それを受けたラーマが倒れたサポーターの前に立ち構えるのを見ると、前へと向き直る。

 

 

「崩れるなよ、ベル。なまじ数が多いから、一度崩されれば一気に持っていかれるぞ。」

「うん、分かった!行こう!」

「あ、数少なかったほうが明日の飯オゴりな。」

 

と言いつつ、目の前の蟻の頭を踏み潰す。

 

「あ、ちょ、ずるいよ右京!」

 

ベルも慌ててナイフを薙ぐ。

 

 

斧槍とナイフが宙を舞い、蟻共が次々に粉砕されていく中、朦朧とする意識の中で小人族(パルゥム)の少女は問いかける。

 

「な、なんで......なんで、リリを助けるんですか...!」

 

少女の悲痛な叫びは、恥辱や罪悪感を帯びていた。

 

「うるっせー知らねぇーーー!!!」

「「「えっ」」」

 

その返しに、リリルカどころかラーマもベルも、当人を除いて思考が固まる。

当の本人はそんなことは全く気にせず、謎の高揚状態(ハイテンション)がキマってしまった彼は、高らかに唄う。

 

 

 

「死んだらぁぁぁーーーー!!!」

 

振りかぶる。

 

「命がぁぁぁーーーー!!!」

 

振り下ろす。

 

「勿体ないだろがぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」

 

蹂躙する。

 

 

啞然とするサポーターの前に立った少女は、諦めたような口調で語りかけた。

 

「あの人は、ああいう人なんです。」

「...えっ」

 

さらに続ける。

 

「見ず知らずの女の子を助けてくれたり。役に立てなくても見ててくれて。お父さんになる、なんてことも言われました。」

「お、おと...?」

「とにかく、変な人なんです。」

 

器用に蟻を撃ち抜きながら、優しい声音で語り続ける。

 

「ここに来たのも、ただ困っている人を助けたかっただけなんだと思います。」

「...なんですか、それ。そろいもそろって、バカなんじゃないですか...」

「あはは、そうかもです。」

 

蟻の大軍を一通り一掃して、何かを言い合いながら帰ってくる二人に向かって吐き捨てる。

 

「でも、いい人たちです。」

「...!」

 

「おーい、ラーマぁ!僕のほうが多かったよねー!」

「おいおい、俺のほうが多かっただろうが!」

「あれは最初の一匹分だけでしょ!」

「馬ァ鹿、それも含めて勝負だろうがよぉ!」

 

 

兄弟のように競い合う二人の姿を見ていると、段々とバカらしくなってきた。

 

 

「もう......いいです...」

 

ようやく、いつの間にか流れてきた涙に気付く。

 

「......なさい」

 

涙は止まらない。

 

「...ごめん、なさい」

 

泣きじゃくる少女に、ベルが寄り添う。

 

「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ...」

「うん、うん」

 

 

「...行くか」

「...はい」

 

 

 

 

お邪魔虫は、とっとと退散しましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十一話「後日談と神の赦し。」

 

名も無き冒険者達から贈られた怪物進呈(パスパレード)を蹴散らした四人は、早々に帰路についた。

言わずもがな、彼らの間に漂う空気は重い。

 

溜め込んだ罪を告白し、それを快く許したとはいえ、モンスターに囲まれるという極限状態の中で些かハイになっていた事も否めない。気分が落ち着いてくると、滅茶苦茶なことを口走った事が急に恥ずかしくなってきた。

 

 

「その...右京様。」

 

その別れ際、リリルカに声を掛けられた。

 

「ン、どうした?」

「本日は、本当にありがとうございました。このお礼は...」

「礼なんていい、俺が勝手にやった事だ。」

 

小さな体を深々と曲げ、謝罪の言葉を掛けられる。

しかし、俺は礼を言われる立場ではない。リリルカの窮地を助けたとはいえ、逆に勝手な事情でラーマを危険に晒してしまった。これは非常に良くない。

 

「それより、明日は予定空いてるか?」

「は、はい。」

 

「...実は、うちの主神がリリルカに会いたいと言っていてな。」

「...っ!」

 

それを聞いた直後、その背中が硬直する。

 

「お前のことは前から調べていたらしいぞ。色々と話を聞きたいんだと。」

 

これは原作通り、『ソーマファミリア』の人間のことを怪しいと考えたヘスティア様が主にエイナさんから情報を集めていた所に繋がる。

俺が気づいて向かう前にベルを8階層辺りまで逃がしてくれた()()も、相談を受けていたエイナさんのおかげで駆けつけることができたのだ。

 

「何も取って食おうって訳じゃない。大体の事情や、うちのお人良しが全部許したってことも報告しとく。あとは、お前と直接話したいって言うだろうからさ。」

「......」

「今日は疲れたろ。帰ってゆっくり休みな。明日、ベルをお前の宿まで迎えに行かせるから。」

 

罠にかけた奴のホームに出向くってんだ。心を許したベルのほうが緊張せずに済むだろう。

 

「頼めるか、ベル?」

「もちろん。リリも、それでいい?」

 

少し間を置き、こくりと頷く。

 

「じゃあ、宿の場所憶えるついでに送ってやれ。俺は先に帰って神様に報告しとくから。」

「うん、分かった。」

 

 

 

そこまで話して一旦別れる寸前になってやっと、リリルカが口を開いた。

 

「......あのっ!」

 

フードを目深に被ったリリルカが、少しだけ覗いた口元から和らいだ表情を見せる。

 

 

「...ありがとう、ございましたっ」

 

「おう、また明日な。」

 

 

 

 


 

 

 

 

その後、ホームに帰ってすぐにリリルカ・アーデの件をヘスティア様に報告した。

と言っても、俺が言えたのは精々自分で見聞きしたことのみで、原作知識を出すことができなかったのは少し面倒だった。

 

「...っていう感じで、トラップアイテムやらなんやらで冒険者を騙して稼いでいたようです。』

「そうか...。ありがとう、右京君。」

「うす。」

 

どうやら、彼女のリリルカへの印象はかなり低そうだ。結構怖い表情で不機嫌そうにソファーにもたれている。

まぁ、そうなるよな。俺もラーマが騙されたとなったら絶対カチコミに行くし。

 

「でも...」

「何か言うことが?」

 

その雰囲気に少しだけ気圧されながらも、一歩前に出てハッキリと述べる。

 

「俺は、ベルに彼女は必要だと思いました。あいつも俺も、オラリオの()()()()()には疎い。」

「それにあいつ自身、根っからの悪人って訳じゃない気がするんです。...確証は、ないんですけど。」

 

「...そうか。」

 

神はただ頷く。

 

「......まぁ、本人と会ってから決めることにするよ。重ね重ねありがとうね、右京君。」

「...うす。」

 

 

 

 

......原作ではこんなにキレてなかった、よな?

 

 

 

 


 

 

 

 

帰ってきたベルの説明とともに普段の調子に戻っていくヘスティア様に安堵した後は、修羅場に一日で二回も遭遇して疲れたせいか、寝床に直行した。

しかし、いざ寝台(ベッド)に寝転んでみても中々眠りにつくことはできなかった。ふと思いついた思考が頭の中を駆け回っていたからだ。

 

 

(...ベルの魔法、直接見ると凄かったな。)

 

そう、『魔法』である。

 

(俺にもあんな魔法があれば、あいつみたいに活躍できるようになるのか...?)

 

(確か魔法は本人の資質や願いに反応して発現するって話だけど、そもそも魔力の存在しない世界から来た”部外者”の俺に魔力は宿るのか?)

 

(いや...それなら...)

 

 

 

まだまだ思考の種は転がっていたものの、疲弊した脳の働きは曖昧になり、やがて緩やかに眠りの中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、久しぶりに夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

「力が欲しいのか?」

 

_急に何聞いてんだ?欲しいけど。_

 

 

「何のために?」

 

 

_もちろん、強くなるため。_

 

 

「何故そんなものを望む?」

 

 

_...まだ見ぬ彼女を救うため。_

 

 

「その力に何を望む?」

 

 

_それは..._

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝、いよいよ対談の時が来た。

部屋には朽ちた長椅子の一つに座る女神と、神妙な面立ちで壁に寄り掛かる青年が一人居るのみ。

 

......正直気まずい。てか顔怖いんですけど。

 

「神様、お待たせしました!」

「入ってくれ。」

 

そこには、白髪の少年と犬耳の少女が.........犬耳?

 

そうか。そういえばリリは身バレ防止のために変身魔法を使ってたな。すっかり忘れていた。それにしても...

 

「いいな...」

「...? なにか言った?」

「あぁいや、何でも無いよ、なんでも。」

 

ケモミミは昔から好きだけど。まさか、不意打ちとはいえリリ助にドキッとする日が来るとは...。

 

 

 

 

 

「リリルカ・アーデです...」

「君が噂のサポーター君か。彼等から話は聞いているよ。」

 

「あー...ちょっと茶でも淹れてくる。」

「あ、僕も行くよ。でも、コップが三つしか...」

「なぁに、気にすることはないさ。ボクと君が一緒に使えば良い♪」

「はは、神様もそんな冗談言うんですね。」

 

そう言って下に降りるベルに、慌ててついていく。あんな(空気の重い)所に居られるか!俺は下に降りさせてもらう!

 

 

 

 

 


 

 

 

...空気が重い。顔が上げられない。

この女神は、私に罵詈雑言を浴びせるだろう。

当然だ。私は到底許されない事をしたのだから。

 

彼等は...私を助けてくれた冒険者たちは、私を責めてはくれなかった。まるでそれが彼等からの罰とでも言うように。

なら、眼前の神は何を...?

 

 

 

 

 

「さて、まずは君の覚悟を聞こうじゃないか。」

 

「君は、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓うかい?」

 

その問いに、心の内にあった言葉で即座に答える。

 

「はい、誓います。ベル様に、ヘスティア様に。何より、リリ自身に。」

「リリは、お二人に救われました。もう二度と、あの方達を裏切たくありりません。」

 

 

「...うん、分かった。その言葉は信じよう。」

 

「正直に言うよ、サポーター君。僕は君が嫌いだ。」

「散々ボクのベル君を騙しておいて、今度は取り入ろうなんて。本当に嫌な奴だよ、君は。」

 

(......)

 

「右京君達が助けに行ってなかったら、最悪の事態に陥っていたかもしれなかったんだ。だから僕が君を裁く。」

 

(...一体、何を?)

 

 

「...ベル君達を手助けしてやってくれ。」

「え...?」

 

(それを私に...?)

 

罪悪感に苛まれ続けたリリルカ・アーデにとって、罰は自分自身を許すための唯一の薬になるはずだった。

そのため、二度とベルとは関わるなという旨を伝えられるとばかり思っていた。

 

所謂(いわゆる)お目付け役さ。彼らが悪い奴に捕まらないように、守ってやってくれ。」

「言っとくけど、君のためじゃないからな!」

「僕は今回の件で確信したんだ!あのまま放っておけば絶対ベル君は騙されるし、右京君も割りと頼りない!」

 

ビシッと指を指し、はっきりと言い切る。

 

「もし君が罪悪感に押し潰されそうになっているなら、行動で挽回してみせろ!それが君への罰だ!」

 

「はい、ヘスティア様!」

 

 

 

「神様、お待たせしました!」

「おまたせーっす...」

(良かった...なんかいい話っぽく終わってくれて...)

 

 

「そうだ、サポーター君。」

「はい?」

「パーティーを組むのは許可する。お守りも任せる。だけど...」

 

すぐさまベルの腕に抱きつき、どことは言わないがチャームポイントを押しつけつつ宣言する。

 

「ボクのベル君に手を出すなよ!」

「なっ...!」

「か、神様!?」

 

しかしリリも負けてはいない。すぐに態勢を整え、空いている反対の腕に絡みつく。

 

「いえいえ、リリは()()()、ベル様に優しくしてもらっていますから〜!」

(たとえ相手が神様でも、絶対負けません...!)

 

 

 

 

 

 

 

 

(良かった...。ようやく平和になった。)

 

これから長く続いていく二人の因縁が生まれる瞬間を数歩離れたところから眺めつつ、予定(チャート)通りに進む物語を見て、一人安堵するのだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「そういえば右京君。今日の予定はあるのかい?」

 

ベルもリリもいなくなった教会の中で、唯一残っていた俺に話しかける。ちなみにラーマは朝からお使いに行ってもらってます。

居ても気まずいかもしれないからね。仕方ないね。

 

「いや、今日は準備しつつ、ゆっくり休むつもりです。」

 

昨日は色々あったしな。

 

「なら右京君。久しぶりに、ステイタス更新してみないかい?」

「おお、確かにあんまやってなかったですね。」

 

最近はラーマの修行につきっきりだったし、一区切りという意味でも丁度いいだろう。

 

「んじゃ、お願いしますわ。」

「...おいおい右京君、これじゃありがたみってものがないじゃないか!」

 

上着を勢い良く脱ぎ、背中を向けてヤンキー座りをかました俺に、神様は不満げにぼやく。

 

「いいんすよ、どうせ今回もステイタス上がってるだけでしょ。なんか大きな変化でもないと、期待も薄れるってもんですよ。」

「悲観的だなぁ。そんなに心配しなくても、君には立派なスキルがあるじゃないか。」

 

「いやいや、あんな使い勝手悪いやつ、全く有り難くなんて......ないことはないですけど。」

「やっぱり嬉しいんじゃないか〜!」

 

ひとしきり笑った後、俺をなだめるように語る。

 

「なに、問題ないさ。右京君はまだまだ成長期だし、すぐに新しい力が.........」

「あれ、どうかしました?」

 

「.........だ」

「...ん?」

 

 

「魔法だーー!!!!!!」

「ン゙ゴァァァー!!!!!」

 

不意に背中に衝撃を与えられ、前に突っ伏すことを余儀なくされてしまう。

 

どうやら驚きのあまり暴発した神の張り手(ゴッドブロー)をモロに喰らったようで、それはそれは綺麗な体勢で石畳に顔を埋めていた。

 

 

 

この日を以て、俺はある面白い魔法を獲得した。

 

 

しかし、成長期か。

...どうやら、少しは楽しくなりそうだ。

 

 

 

 

 




おひさ〜、投稿者だよ〜!(気さくな挨拶)

ようやく課題も一段落ついて、やっと書き終えました。
夏休み入るまでに、せめてあと2話は書き上げたいですね。

さて、次回は魔法習得回となります。アンケートを取っていますので、意見を頂けると嬉しいです。ほな!


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第十二話「第二の脚(ブリンク)」


「あの子は強くなる。いずれは淀みも消し去る程に。けれど...」
「...冒険しない者に、殻を破る事などできますまい。」
「任せるわ、オッタル。......ついでに彼も、ね。」




 

某日、大体朝8時くらい。

バベル前に、我らがパーティの4人が集結した。

 

高速型攻撃役(スピードアタッカー)のベル・クラネル。

盾型壁役(ウォール)筋力型攻撃役(パワーアタッカー)のシロカネ・右京。

弓型射手(アーチャー)のラーマ・ノニト。

補助役(サポーター)のリリルカ・アーデ。

 

前後衛が二人ずつ、良いバランスではないだろうか。

勿論(もちろん)リーダーはベルが務め、今はダンジョンに潜る前の最終確認を行っている。

 

「皆、準備はいい?」

「はい、リリはバッチリです!」

「矢は...うん、全部ある。大丈夫です。」

「うん、分かった。右京は?」

 

後ろでウキウキしていた俺にも、団長からの声がかかる。

 

「おう、問題ない。さ、早く行こうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

時間は一週間ほど遡り.........

 

 

 

久しぶりに取った休日にて、俺とヘスティア様は一枚の羊皮紙を睨みつけていた。

 

「これが俺の"魔法"...?」

「そうみたいだね。ただ......」

 

 

 

 

「ブリンク」

・空間属性

・射程、重量限界は魔力量に比例。

 

法則(さく)を破りし其の一歩≫

 

 

 

 

「空間属性ってなんだ...?」

 

女神にとってその魔法は、魔法名、属性、詠唱に至るまで、どれもこれもが()()だった。

 

「ベルも大概だが、君は別の意味でとんでもないね...」

「...あざっす」

「せっかく魔法が発現したのに、さっぱりしてるなぁ。」

「だって、もう少し派手派手な名前でもいいじゃないですか...」

 

対して右京はそれが何なのか、なんとなく予想できていた。聞き覚えのある魔法名。「空間」という属性。そして何より、詠唱の中の「一歩」の表記。

 

「とりあえず、ちょっと試してみますか。」

「うぇ!?ちょちょ、ちょっと待ってくれよ〜!」

 

よいしょと立ち上がると共に、変な声を上げた主神はツインテを振り回しながら遥か後方に逃げてしまう。

 

「...何をそんなにビビってるんですか?」

「ビビるだろ普通!もし爆発でもしたらどうするんだ君はー!?」

「んなもん出てたまるか!?」

「とと、とにかく!もう少しだけでも離れてくれ!」

「あぁー、分かりましたよ、もー...」

 

 

即席の椅子の盾(バリケード)の裏で警戒しっぱなしの神様を尻目に、早速詠唱を...

 

「神様、俺って魔法使えるんですかね?」

「...?恩恵(ファルナ)に出てるんだから、使えなきゃおかしいさ。」

「そっ......すよね。」

 

 

異世界から来た人間が、この世界にとって異物であることは自覚していた。だからこそ、自分に魔法が、長く長く憧れていた超常的な力に触れることが許されるのか、少し不安だった。

 

 

 

深く呼吸を挟み、ほんの少し震える声で詠唱を開始する。

 

「【法則(さく)を破りし其の一歩】」

 

定められた言の葉を唱えると同時。

掘ったばかりの溝に初めて水が流れるような衝撃と、燃え上がるほどの熱量がじわじわと身体に巡るような充実感が生まれる。

 

_これが...魔法!_

 

掛け値なしに、今までの人生で一番感動した。

 

「よし...!」

 

溢れる魔力を、魔法名によって収束させる。

 

「【ブリンク】」

 

 

瞬間。微細な光粒子を置き去りに、その場から彼の姿が掻き消える。

そして間髪入れず、彼の視線の先、元の場所から5mほどの距離に再び現れた。

 

「よっ......しゃオラァァァー!!!成ッ功ォー!!!」

「...わぁ」

 

魔法一つで幼児のようにはしゃぐ眷属(こども)と、予想外の子の成長に言葉を失う主神(おや)の姿は、非常に対照的であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後一週間の間で試行錯誤を重ね、この魔法が何なのかが分かってきた。

 

端的に言えば、これは所謂(いわゆる)「テレポート」というやつだ。それも、短文詠唱で発動できる短距離ワープ。

 

しかも、魔力を練るほど移動距離は伸び、最高飛距離は20mを少し超える程になっている。

魔力を上げればもっと伸びるらしいし、いくつかの()()()も身に着けた。

 

うむ。総評としましては...

 

「一見地味だけど便利ですね、コレ!」

 

という感じだ。もう少し派手でも嬉しかったんだけどね!

 

「...全くとんでもないね、うちの子供達は。」

 

 

 

 


 

 

 

 

「そういえば右京、魔法はもう使えるの?」

「おう、今度ばかしはキッチリ検証しまくったかんな。」

「右京様、"また"とは一体...?」

「右京さん、何かあったの?」

 

「...何も無かったよ、何も。」

 

今思い出しても恥ずかしい、イキリ気味に馬鹿狼(ベート)に突っ掛かった時の黒歴史を思い出しかけ、記憶の蓋をそっと閉めた。

 

 

 

 

 

迷宮の最上層付近、洞窟を超えた9階層までたどり着いた彼は、遅まきながらダンジョンの異常に気づいた。

 

 

「...?」

「どうかしましたか、ベル様?」

「リリ、何か感じない?誰かに見られてるような...」

「さぁ。ただ何か、この階層には違和感があるような気がします。」

「確かに、モンスターが少なすぎるな。」

 

モンスターが、少ない......?

あっヤッベ。

そういえばこの感じ、あれじゃん!

ベルがミノタウロスと戦うやつ!!

とりあえず、邪魔しないように立ち回るか...?

 

あぁクソ最悪だ、魔法の事で浮かれて、すっかり忘れてた...!

 

「い、行こう、皆。」

 

ベルが、急に焦ったように歩きだす。

 

「お、おいベル!何か...

 

 

ヴモォォォォォォォォォォォォッッ!!

 

お約束とばかりに遠くから響く怪物の咆哮。瞬間、ベルの背中が硬直する。

 

「ま、まさか...」

 

ズン、ズン、と足を踏み鳴らし、握られた大剣が地面に鋭く線を引く。

威圧的な唸り声と暴力的な紅い体躯が、彼らの体を否応もなく縮み上がらせる。

 

「な、なんで9階層にミノタウロスが...!?」

 

眼前に現れたのは、中層に出現するありふれたモンスター。

しかし、駆け出しにとっては十分な脅威(ぜつぼう)になり得る。

 

「ベル様、逃げましょう!!...ベル様?」

 

ベルは動かない。いや、()()()()()()。明確な敗北のトラウマが、彼の動きを縛り付けている。

 

しかし、もう一人の青年の動きは迅速だった。

 

「ラーマ、リリ!上から助けを呼んできてくれ!俺たちが残って引き付ける!」

「...ッ!?そんな、お二人を残して行けるわけ...!」

「いいから行け...ってオイ、ベルッ!!!」

 

眼前には、短い問答の中で剣の攻撃範囲(レンジ)まで近づいたミノタウロスが。目下の白兎(えもの)を叩き斬らんとばかりに、右手の刃は既に振り上げられている。

 

「動けや、クソッッ!!!」

 

俺がベルを、危機を感じ取ったリリがラーマを突き飛ばし、奴の目の前にいるのは俺のみとなった。

 

「耐えろよッ...!」

 

自分自身に無理矢理言い聞かせつつ、盾を構える。その直後、自動車でも突っ込んだかのような途方も無い衝撃を一身に受け、為す術もなく吹き飛ばされる。

 

「グボァッッ!!!」

 

斜め後方に立っていた鍾乳石(はしら)に叩きつけられ、一拍遅れて血反吐を吐く。盾も完全にひしゃげており、もう使い物になりそうもない。

 

(おいおい、一撃喰らっただけでこれかよ...!)

 

震える手で取り出したポーションを呷りつつ、あまりの壁の高さに絶望しかける。

しかし時間は、特に怪物(モンスター)は待ってくれない。

こちらの絶望など一笑に付しながら、今度はベルに歩み寄っていく。

 

「おいリリ、ラーマ!!早く下がれ!」

 

潰れかけた喉から声を張り上げ、前方に居た少女達を怒鳴りつける。もしも彼女らが狙われて、最悪死に至ろうものなら、予定(チャート)という意味でも精神衛生的な意味でも、修復不可能なダメージが生まれるだろう。

 

「右京様...!」

「右京さん...!」

「...早く行けッ!!!」

 

誰も死なせたくない。だからこそ今は...!

 

()()()()()()()()ッ...!」

()()()()()...()()()()......!!」

 

「......は?」

 

 

嫌な予感がした。途轍も無く。

 

断片的な情報が、窮地の最中の閃き(アイデアロール)によって、急速にその形を現していく。

 

ミノタウロスを送り込んだ人物、その主人と彼女(めがみ)の望み。俺は全てを知っていながら、ある一つの可能性にたどり着くことができずにいた。

 

嗚呼、何故こんなありふれた可能性に気づけなかったのか。

 

まさか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"この俺すらも、女神(フレイヤ)に気に入られていた"とは。

 

 

 

背後に現れたのは、黒い毛皮を金色(こんじき)の長爪で飾った、異形の(モンスター)であった。

 

 

 

 

 

 

 




やっはろー!(気さくな挨拶)
どうも、投稿者です。

ついに出せましたね、魔法!
種類についてはアンケート結果を参考に、空間操作系の魔法を採用させていただきました。
別途追加していく予定なので、良さげなアイデアがあったらどんどんコメントで教えて頂ければ幸いです。それでは。


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第十三話「身命を賭す」

 

「...嘘...だろ?」

 

 

退路を塞ぐように現れたのは、本来は中層域から出現するはずの虎型のモンスター、「ライガーファング」だった。しかし目の前に佇むソレは、白い(はず)の体躯を黒い毛並みに包み、真紅の瞳を(ぎら)つかせている。

おまけに最大の武器である牙と爪は黄金色(こがね)に光り、そのサイズも明らかに巨大化しているときた。あれは間違いなく...

 

「『強化種』かよッ!」

 

毒を吐きながらも、ほとんど反射のような動きで、少女達の前に躍り出る。斧を構えた次の瞬間には、既に目と鼻の先に奴の爪が迫っていた。

 

_こいつ、早すぎッ...!_

 

白くなっていく頭をギリギリ保ちながら、

 

「オォォォォォッ!!!!!」

 

ほんの一瞬だけ捉えた爪の軌道を見定め、全霊の力を込めて斧槍を振るって何とか攻撃を弾く。

 

_よし、弾ける!!_

 

少なくとも今の一撃を防げるなら、大きくパワー負けしているわけではないだろう。

虎のスピードは圧倒的でも、これならギリギリ戦える...はずだ。ならば、ひたすら後手に回ってでも負傷を最小限にして、隙を見てラーマ達を逃がせば...

 

 

...逃がして、どうするんだ?

助けを呼んでもらう?今ならロキ・ファミリアが遠征のため降りてきているはずだから、このまま耐え切れば生き残ることができるかもしれない。しかし。

 

後ろからは、自分で立ち直ったベルが勇敢に戦っている。リリに助けられていた原作の時よりも強くなっているのだ。

 

彼は諦めていない。蛮勇でも、無謀でも、眼前に立ち塞がる怪物(モンスター)に立ち向かっている。

 

「あ、当たれぇぇぇっ!!!」

 

さらに、すぐ後ろから放たれる矢がライガーファングに迫る。

虎には難なく避けられてしまうものの、力強く踏み込んで斧槍を突き込み、その隙を狩る。

 

「いいぞ、ラーマ!」

「...はいっ!!」

 

そうだ。ベルもラーマも、まだ戦っている。

 

俺だけ尻尾巻いて逃げられるかよ...!

 

 

 

 

 

「...ラーマ様。」

「な、何でしょう?」

 

援護射撃の機会を伺うラーマは、目線はライガーファングから離さぬまま、リリの細い声に応える。

 

「私は、隙を見て上に救援を頼みに行きます。...リリは、それしかお役に立てそうにありません。」

「っ!それは...分かりました。援護しますね。」

 

自分を役立たずと罵るリリルカに言葉を上げつつも、ライガーファングに矢を放ち、右京と共に注意を引く。

 

「ありがとうございますッ!」

 

その後ろを、小さな身体ですり抜けて通路へと滑り込む。虎もそれに反応して後ろを向きかけるが、右京が割り込んでカバー。

 

「予備のナイフです!使ってください!」

「助かる!」

 

唇を噛みながらも、出来る限りの策を残して上層への階段へ走るサポーターを見届けながら、虎へと向き直る。

 

「さて、そろそろお前の相手してやらんとな。」

 

余裕しゃくしゃく、といった様子で構えたは良いものの、正直勝てる気はしていない。...最近こんなことばっかだな。

 

そもそも、素のステータスで負けている上に強化されており、能力の差は絶望的。牙や爪のリーチや切れ味も上がっているように見えるし......あれ、割と詰んでる?

 

と、思ったが。分かったのは悪い事だけではなかった。

奴はおそらく、ステータスは高くとも技量は大したことはない。

動きそのものは目で追えない程に早かったのに、動きを読んで対応できたのが何よりの証拠だ。であれば、つけ入る隙はある。

 

 

「さぁ、来いッ!!!」

 

威勢よく啖呵を切ると同時に、虎の爪牙(やいば)と青年の斧槍(えもの)が衝突し、勢い良く火花を散らした。

 

 

 

 


 

 

 

彼我の打ち合いは、まずはライガーファングの強襲(アタック)によって幕を開けた。

左前方から打ち出された神速の爪撃を、目の端に映った輪郭で捉えて斧槍の側面で受け止める。

 

続く攻撃も、次々に弾き、流し、いなし、受ける。単調で直線的な動きとはいえ、四方八方から繰り出される猛攻(ラッシュ)を的確に捌いているのは見事。

しかしながら、防ぐだけではジリ貧だ。

 

「くっ...!ヤバい、()()()...!」

 

相手は疲れ知らずのモンスターだが、こちらは脆弱なただの人間。体力の限界を迎えるのは、こちらのほうが早い。

疲労で鈍った体はゆっくりと、しかし着実に速度を落とし、遂にこちらの斧槍が弾かれた。

 

「しまっ...!」

 

右京は決定的な隙を晒し、虎はそれを見逃すわけもなかったが________動くことは無かった。

 

その原因は、彼我の間に躍り出た一人の少女。

 

「君、大丈夫ー?」

 

今までの緊張感に到底似合わない呑気な声をかけて振り返った華奢な少女の手には、大剣を二つ繋げたような頭の悪い武器_たしか大双刃(ウルガ)という名前だったか_が握られており、そのアンバランスな見た目からは彼女が絶対的な"強者"であることがありありと伝わってくる。。

 

「グル......」

「あー、ライガーファングかぁ。よし、アタシに任せといて!」

 

少女は双剣を横に構え、眼前の虎に刃を向ける。

彼女にとっては俺どころかこの虎ですら、吹けば飛ぶような矮小な存在でしかないのだ。

 

…そうだよな。雑魚なんて眼中にないよな。

 

だけどよ…

 

退()け」

「え?」

 

尊敬も物怖じの欠片もない物言い。

 

「あれは、俺の獲物だ。」

「ちょ、バカなの?死んじゃうよ!」

「うるせぇ、あんたも冒険者なら分かるだろ」

 

自棄のように吐き捨てる。

続いて眼前の弱者の叫びが、少女の耳朶を打つ。

 

()()()()()()()()()()ッッ!!」

「…ッ!」

「分かったら退いてくれ。俺より…」

 

視線は虎から外さず、親指をラーマのいる後方に向ける。

 

「あいつを守ってくれ」

「...うん、分かった。」

「右京さん!駄目です、私も一緒に...!」

「駄目だよ、猪人族(ボアズ)ちゃん。邪魔になっちゃう。」

「うぅ...」

 

 

青年の覚悟を見た弓の少女はそれ以上何も言わず、アマゾネスの少女に連れられて後ろに下がる。

 

「ティオネ〜、余計なお世話って言われちゃった〜。」

 

それを見ていたもう一人のアマゾネスは、側にいた小人族(パルゥム)の男に疑問を投げかける。

 

「団長。アレ、助けなくてもいいんですか?」

「…本当は、彼らが拒否しても助けるべきなんだろうけど」

 

「本人が自身の殻を破ろうとしているんだ。冒険者として、手を出すことはできない。」

 

無茶をしている彼らを救うことは、命を助けると同時に、成長の機会を奪うことにもなる。

 

「それに、アイズもそうするみたいだよ。」

 

離れた場所に居た白い少年も同じく、差し伸べられた手を払って一人で戦うという選択を取ったようだ。

 

彼らの行動は勝利を手にする大勇か、それとも地獄へと走る蛮勇か。それがどちらになるかは、誰にも分からない。

 

 

 

 


 

 

 

 

さて、彼らの戦いもいよいよ佳境に差し掛かってきた。一撃離脱を繰り返していたライガーファングは、獲物に動きを読まれている事に気づいてからは付かず離れずの間合いで爪牙を繰り出してくる。切り裂くというよりは動きを制限しているように見える連続攻撃(コンボ)に相対した青年は、虎の成長速度に驚きながらも耐え続け、機会を伺っていた。

 

...逆転の一手を打つために。

 

 

_まだだ。もっと引きつけろ!_

 

しかし無情にも、何度も盾代わりにされ爪牙を叩き付けられた斧槍は亀裂の走る甲高い音と共に、いよいよ根本からへし折れようとしている。

 

_おいおいマジかよッ!!_

 

その刹那、例の()()()を使うべく早口で詠唱を開始する。

 

「【法則(さく)を破りし】、グッ...【其の一歩】ッ!」

 

刃の根本が綺麗に折れたことで形を保った柄を、今にも体を噛み砕かんと迫った顎にねじ込み、つっかえ棒の要領で固定する。

 

「グォォッ!?」

 

さすがのライガーファングも奇策紛いの機転には驚いたのか、面食らった顔(?)で一瞬固まる。さらにダメ押しで、リリから受け取ったナイフを虎の前足に突き刺して踏みつけ、地面に縫い留める。

 

「【ブリンク】ッ!!」

 

それらの行動から得られた猶予は一瞬であったが、今は奴の動きさえ止められれば十分。座標を決定し、手にしていた斧槍の破片を()()()()()()()()()()

 

これが俺の奥の手、「体内転送」だ。『転送した物質は、転送先の物質を押しのけて転移する』という特性を活かし、相手の防御力を無視した一撃を叩き込む必殺技。しかし...

 

「グルゥァッッ!!!」

「はぁ!?ふざけてんなマジで...!!」

 

それも当たればの話だ。ライガーファングは、俺の詠唱が完成する寸前に危険を感じ取り、すぐにその場から飛び退いたのだ。

この技の弱点は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

まさか知っていたわけではあるまいが、恐ろしいのはその野生の勘。直前に光の粒子を纏った破片を()()()()避けてみせた。

おまけに、攻撃を回避しただけでなく魔法のタネも割れてしまった。もう同じ手は通じないと思ったほうが良い。

 

「ただでさえ手が付けられんってのに、これ以上物を覚えたら面倒になるな...!!」

 

相手は技を習っていないだけで、学ばないわけではない。先程から戦い方を変えたのがいい例で、強化種とはこちらが思っている以上に頭が良い。

加えて、今の武器はナイフ一本のみ。勿論「転送」を警戒しているから、相手は決して動きを止めようとしない。強襲(アタック)緩急(フェイント)連撃(ラッシュ)、ありとあらゆる手札を惜しみ無く使いながら、確実に俺の命を削ってくる。

 

そして、たった数撃防いだだけであっさりと均衡は崩れた。

 

ナイフは砕け、暴力的なまでに逞しい前足に両腕を押さえつけられる。もちろん腕はビクともしないどころか、ミシミシと骨にヒビが入る音さえ聞こえる。

 

虎は無駄な抵抗を繰り返す人間(エサ)を睨め付け、その肩口にサーベルタイガー以上に太長く伸びた口牙を突き立てた。

 

「ク......ッッそがァァァァァァァァ!!!」

 

痛みを追いやるために雄叫びを上げるものの、大した効果は見込めない。冷静さを欠いた状況の中、彼は熱に浮かされた頭を抑えつけながら必死に思考を巡らせていた。

 

 

(どうする、どうするどうするどうする!?この状況、武器も無い、腕も使えない、もちろん足も!!!魔法で逃げられたとしても、態勢は整えられない!ましてやここらに飛ばせる物なんて......)

 

 

__いや、ある。お前の直ぐ側、目の前に。触れずとも転移させられる克つ体積も大きく、文字通り一撃必殺となり得る物体が!__

 

 

おそらく非常に強力で、しかし限りなく危険な選択肢に気づいた彼は、ノータイムで詠唱を開始する。

尚も肩を穿たれる痛みに喘ぎながらも、掠れた声で言葉を絞り出す。

 

「【法則(さく)を】...【破】ッ【りし】、【その一歩】...」

 

やはり、この虎はまだまだ未熟だ。こいつが隻角のミノタウロスのようにオッタルに修行をつけられていたのなら、俺の勝率は砂粒程度にも満たなかっただろう。

こいつは、素手で組み伏せられている俺を前に、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前...」

 

未知の行動への恐怖で脂汗を浮かせながら不敵に笑いかける。

 

「頭回るくせに、バカだよなぁ!!」

「【ブリンク】ッ!!!」

 

瞬間、虎が乗っていた人間の感触が消える。しかし困惑する前に、()()()()()()()()()()()()()()()()によって、明確な異変に気が付いた。

 

 

「......クボァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」

 

 

()()()()()()()()()

 

虎は、一瞬にして()()()()の殆どが失われた激痛に身を捩りながら、その感覚すらも急速に消えていく事を理解できずにいた。

 

...魔石は、とっくに体内から消え失せていたのだ。

 

「術者本人が腹の中に転移した」

 

その事実に辿り着く前に思考は色を失い、その身のほぼ全てを白く輝く灰に変えた。

 

 

 

 

「......何が起こった?」

「わ、わかんない。あの子の斧の破片がいきなり()()()ってだけでも意味分かんないのに、今度はライガーファングを即死させちゃうなんて..!」

 

右京の方に釘付けになっていたエルフとアマゾネスは、空間属性の特殊な魔法について全く理解できずにいた。神ですら飲み込めない超弩級の"未知"を、一介の人類風情が受け入れられるはずもない。

 

 

 

「......ファイアボルトォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!」

 

それとほぼ同時に、もう一人の冒険も終わったようだ。終始静かだった青年の戦いとは対象的に、少年の戦いは非常に眩しく、痛快で、ドラマチックであった。精も根も尽き果てて、立ったまま気絶してしまう程に。

 

 

命を燃やし尽くすような激闘に圧倒されたのか、ロキ・ファミリア一同はしばらく動けずにいた。

炎をミノタウロスの体内に直接お見舞いした少年と、自身の肉体そのものをライガーファングの腹にご馳走した青年。Lv.1の駆け出し冒険者である双方が成し遂げた偉業は、このオラリオでも全く類を見ないほどに異質だ。

 

 

「フィン、そっちの彼も終わったのか?」

「リヴェリア。凄かったよ、あの少年は。」

 

それもそのはず、神聖文字(ヒエログリフ)が読めるエルフが白髪の少年のステイタスを読んだところ、ほぼ全てのステイタスが軒並み900以上、魔力の数値すらも700を超えており、その異常な強さが分かる。

 

 

「アイズ、彼の名前は?」

「ベル。"ベル・クラネル"。」

「じゃあ、あっちの彼は?」

「...ごめん、あの子のことは知らない。」

 

獣の血に塗れて倒れ伏す彼の耳にその言葉が入ると、抗議の声と共にのそのそと起き上がる。

 

「......それはちょっと、酷くないですか...?」

 

屍人のように力無くズルリと起き上がる姿には、さすがのロキ・ファミリアの面々も驚愕した。

 

「き、君は…動けるのかい?」

「はい、何とか...。それより...」

 

 

滝のように出血している左肩を押さえながら、やつれた様子で声を上げる。

 

 

「あー…誰かポーション…持ってません?いい加減死にそうで…」

 

その他人事のような物言いに、堅物エルフが珍しくツッコミを入れる。

 

「そう思うのならば、動かないほうが賢明なのではないか…?」

 

 

 

 


 

 

 

 

その後、朦朧とする中で魔法による治療を受け、何とか歩けるようになった後。ロキ・ファミリアの方々の善意で、ティオナさんという方にギルドの治療施設まで送って頂けることになった。

 

 

フラフラと歩く俺とベルの腕に泣きながら抱きついて離れなかったラーマとリリルカには困らされたが、心配をかけてしまったからには甘んじて受け入れようと思う。

 

 

地上まで戻って速攻治療院に叩き込まれた俺とベルは、数秒で深い深い眠りについた。極度の疲労と魔力の激しい消費のダブルパンチで、それはそれは良く眠ることができた。

12時間も寝たからか、何故かいい夢も見れた気がするけど......駄目だ、よく思い出せない。

 

だが、起き抜け一番に神様から聞いた言葉だけは、鮮明に覚えている。

 

 

 

 

「おかえり、右京君。」

 

「おめでとう。......ランクアップだ。」

 




ドウモ、投稿者=デス。

試験週間のプレッシャーから逃れるためか、筆がノリノリのノリになってしまいました。テスト前に掃除したくなるアレですね。

次の投稿は2週間ほど先になるかも。それでは。


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第十四話「二つ名と中層」

 

 

「...なあ、ベル。」

「なに、右京?」

「いや、そんなに楽しみか?」

「もちろん!だって"二つ名"だよ!」

「ン...良かったな。」

 

顔を綻ばせる彼に声をかけたものの、こちらとしては素直に喜べない。

 

「右京は嬉しくないの?」

「嬉しいというか、不安というか...。」

 

自身の眷属が偉業を成し遂げた時に与えられる、神からの褒美という形で始まった"二つ名文化"だが、娯楽に飢えた神々にとっては最高の遊び場だったようで。

 

暁の聖竜騎士(バーニングファイティングファイター)」「未来銀河(フォーチュンギャラクシー)」「神々の嫁(オレたちのよめ)」など、時代が進めば黒歴史となりそうな恥ずかしい二つ名を子供達に与えるのは神々の良い娯楽となっている。

 

原作ではヘスティア様が_おそらくフレイヤ様もサポートしたのだろうが_尽力して無難な二つ名を勝ち取っていたが、果たして俺まで庇えるのだろうか。無理に守ろうとした挙げ句共倒れ、なんてのはゴメンだが......

 

 

「...ま、俺が気を揉んでも仕方ないか。」

 

今は少しでもマシな名前が貰える事を祈っておこう。

と、手を合わせて南無南無やっていたのも束の間。

 

「あ、神様帰ってきたよ!」

「げ、マジか。」

 

待ちきれない様子のベルが階段を駆け上がり、我らが女神を迎え入れる。しかし、いざ入ってきたヘスティア様の表情は芳しくなく...もっと言えば気まずそう。いや、申し訳無さそうといった顔か。

 

「すまない右京君...!」

「俺かぁ...。」

 

どうやら、神々の遊戯の標的は俺になったらしい。

 

「まずは弁明をさせてくれッ...!」

 

 

 

 


 

 

 

 

定例通り行われた神会(デナトゥス)は、やはり(悪い意味で)盛況を極めていた。

 

「じゃあ、タケんところのヤマト・命ちゃんの二つ名は『絶✝影』に決定〜〜〜〜!!!!」

「ぐぁぁぁぁぁっっ!!!」

「悪いなタケミカヅチ。」

「恨むなら己の天然ジゴロを恨め!」

 

酷すぎる名付け、あまりの痛さに絶叫する主神、醜い嫉妬のあまり追い打ちをかける男神達。今日の神会(デナトゥス)も平和であった。

 

「よし、最後はヘスティアんとこの奴らだな!」

「ファミリア初のランクアップが二人同時、しかも世界新記録(ワールドレコード)だろ?」

「なぁヘスティア、一体どんな裏技使ったんだ!?」

「ぼ、ボクは何もしてない!全部彼らの努力の賜物だよ!!」

 

遠慮くヘスティアに()()()神々と、それをツインテールをうねらせながら振り払うヘスティア。しかし、今日の彼女は一味違う。

 

「ところで皆!少しだけでいい、話をさせてくれないか!!」

「お、どうしたヘスティア!この期に及んで命乞いか〜?」

 

尚も揶揄う神々にも怯まず、下界(ここ)ではまだ新米の女神は気丈に声を張り上げる。

 

「彼等はボクの初めての眷属なんだ、少しは手心を...」

「別にいいじゃん、眷属達(こどもたち)は喜んでるんだしさ〜!」

「ウッ...!」

 

確かに、神々やそれに近い感覚を持つ者にとってはイタい名前だが、あくまで子供達には好評だ。

 

「で、でも、右京君は心配してたんだ!自分の二つ名が酷いものになるかもしれないって!」

「ほぅ、我らのセンスが分かる奴がいようとは......将来有望だな。」

「俺達のネーミングセンスにさぞ感動する事だろうな!」

「うむむむぅ〜〜〜...!」

 

その辺りで、暖簾に腕押しの対応にヤキモキしていたヘスティアに助け舟が入る。

 

「ちょっといいかしら?」

 

その張本人は、なんと女神フレイヤ。天界でも、勿論オラリオでも屈指の美貌を誇る彼女の参戦に、その場の全員がざわめく。

 

「え...フレイヤ?なんで君が...」

「あら、お邪魔だったかしら?」

 

眉を物憂げに下げた彼女に「その通り」なんて事を言える変神(ヤベーやつ)がオラリオに居るはずもなく。

一瞬でその場の空気を支配した女神は、(あで)やかな美声で言の葉を紡ぐ。

 

「私、あまり適当な名前ばかり付けすぎるのもつまらないと思うのよね。だから、たまには主神の親心を汲んでみるのも面白いと思うのだけれど。」

 

にこやかに微笑む彼女の前では、己の悦楽を是とする男神達も従順な良い子に早変わり。

 

「賛成〜〜!」

「確かに俺も飽きてたんだよな〜」

 

女神の参戦により、一気に流れに乗れたと思うのも束の間。

 

「でもねぇ。()()()()()()()()()()()()()()というのは、少し贅沢過ぎるんじゃないかしら?」

「えっ」

 

少しずつ雲行きが怪しくなってきた。

 

「そうね...どちらかの名前を決めて良い代わりに、もう一人の名前は他の神に一任する、というのはどうかしら?」

「な、そんなの...!」

 

この女神(ひと)も結局、娯楽好き(ひまじん)である。

 

「賛成ーー!!」

「さすがフレイヤ様、今日も美しい!!」

「ちょっと!ホイホイ尻尾振ってんじゃないわよ!」

「まぁ......面白そうだから良いか。」

「フレイヤ様、美しいだけじゃなく頭も良いのか...。」

 

他意(したごころ)を隠そうともしない男神共、フレイヤが気に食わず反対する女神派閥、面白そうだからとりあえず乗ってみる神々、と3つのグループに別れ、場は混沌と化す。

 

「それに...」

 

「私、黒髪の彼に良い二つ名を考えたのよね。」

 

男神達を魅了する美貌、女神の嫉妬の矛先を逸らす立ち回り、そのどちらにも属さない神々をもまとめて丸め込む口の上手さ。

 

稀有な能力を幾つも持ち合わせた美神(かのじょ)にとって、我らが炉神(おや)を下すことなど、それこそ容易であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「右京君の二つ名は、その......................

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』...。」

 

「...........................................おぉぅ。」

 

てっきり『火炎爆炎火炎(ファイアーインフェルノフレイム)』みたいなアホっぽいやつになるかと思ってたが、思いの外まともで驚き。

 

なるほど、由来は俺の空間魔法(ブリンク)か。ロキ・ファミリアの前で使った時にロキ経由で漏れたのか?

 

 

「本当にすまない!!ボクが不甲斐ないばっかりに、こんな...!」

「いやいや、思ってたよりだいぶマトモっすよ!」

 

まぁ、無難とは程遠いが。

 

「...じゃあ、気に入ってくれたかい?」

「......。」

「何故顔を逸らす!?」

「...オレハケッコウスキデスヨ」

「やっぱり駄目なんじゃないかー!?」

 

 

 

 

 

 

 

.........言えない。

 

ちょっと一瞬かっこいいと思ってしまったなんて...!

内なる中学生が目を輝かせているなんて...!

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「...『未完の少年(リトル・ルーキー)』、ですか?」

「まぁ、アレだよな。」

 

「地味ですね。」

「...ですね。」

「だよねぇ!」

 

各々(おのおの)の二つ名を頂いたその夜。二つ名の祝い兼今後の方針を決める会として、『豊穣の女主人』にて卓を囲っていた。

 

「地味でいいじゃんよ。俺なんて『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』だぞ。厨二全開だぞ。」

「でも、私はかっこいい二つ名だと思いますよ?『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』。」

 

我々の座る団体用の円卓には、俺とベルの隣にそれぞれシル・フローヴァと謎の緑髪エルフ美人。一体何リオンなんだ...。

 

ちなみにシルさんは、俺を挟んでベルの斜め前に陣取り、左8度で可愛さいつもの2割増と名高い『魔法のアングル』を保持している。飲みの席でもコスパ最強のさりげない仕草を忘れぬ辺り、やはり流石としか言い様が無い。

 

というかシルさん?ベルのこと結構本気でオとそうとしてない?原作よりアタック強いよね?

 

「というか、お二人はここにいていいんですか?」

「『私達を貸してやるから存分に笑って飲め』と、ミア母さんから伝言です。」

「金を使えって?」

「そういうことです。」

 

状況確認を済ます中、隣のシルさんはいつの間にかラーマの口に料理を運んで存分に可愛がってくれている。ラーマも恥ずかしがってはいるが、満更でもない様子。かわいい(脳死)。やはりケモミミか。

 

 

 

 


 

 

 

 

「では、クラネルさん達は迷宮(ダンジョン)の中層へ向かうおつもりなのですね。」

「はい、もちろん調子を見ながらですけど。」

「そうですか。」

 

終始一貫してクールなトーンで話す彼女の言葉で、場の雰囲気は少しだけ引き締まる。

 

「クラネルさんのパーティーは、一般的な三人一組(スリーマンセル)を達成しています。壁役(タンク)攻撃役(アタッカー)弓手(アーチャー)裏方役(サポーター)もいる。その内三人は同じファミリアであり、連携も問題なく取れるとなれば、中層でも十分戦えるでしょう。」

 

「ですが、上層と中層は違う。モンスターの質も、その出現頻度も。ですので十二分に注意を...」

 

そこまで突発授業(アドバイス)を受けた所で、ずかずかと中年の男が割り込んできた。

 

「オウオウ、パーティーの事でお困りか?『新人野郎(リトル・ルーキー)』。」

 

鈍い俺でも感じ取れる嫉妬と悪意を孕んだ声。彼の名はモルド・ラトロー。熟練のLv.2、上級冒険者である。

 

補足すると、オラリオにいる冒険者の過半数はLv.1の下級冒険者であり、彼はこの街では割と上澄みに近い。それより上はオラリオでも10%に満たず、Lv.3、Lv.4は『第二級冒険者』、Lv.5から上は『第一級冒険者』と呼称されるが、アレのほとんどは只の「規格外の逸材(かいぶつ)」。

 

という訳で、登場してすぐの間は「新進気鋭のルーキーをいびるチンピラ先輩」といった風体(ふうてい)であった彼も、(人間基準では)十分強い方なのだ。最初は只のチンピラだが、後々ダサカッコイイおじさんになるので俺は結構好きなキャラだったりする。

 

「俺達はLv.2だ。中層に行くなら、俺達のパーティーに入れてやってもいいぜ?ただ...」

 

リューさんに向けた下卑た視線を隠そうともしない。うーん、まだクソ野郎だな。

 

「仲間なら分かち合いだよなぁ...?」

「おいおい、勝手に決めんなよ()()()()。」

 

机の向かいでキレ顔を隠そうともしない純情エルフが爆発する前に、椅子を引きつつ立ちはだかる。

 

「いい年して若い奴にちょっかいかけてんじゃねーよ。加齢臭で飯が不味くなるんだが?」

「あぁ?何だテメェ、ふざけんじゃnゴンッッ

 

冒険者(ゴロツキ)を黙らせるように響いた鈍い音。その正体は、青年の魔法で頭上に()()()椅子の角が、男の脳天に突き刺さる音。決して低くない天井スレスレから落とされたソレは、奇跡的なバランスで数秒間静止した後、落とした本人にあっさりと回収された。その直後、痛覚と驚愕で固まっていた男の顔も、みるみる赤くなってゆく。

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!!」

「う、右京!」

「あぁ何だやるかぁ?でもアンタ...」

 

今にも殴りかかって来そうな男を我らが団長が抑えるが、俺の方は一切の遠慮無し。だってここは『豊穣の女主人』。騒ぎなんて起こそうものなら......

 

 

ドゴォォンッッッ

 

 

"女主人が動く"。

 

「騒ぎを起こしたいなら外でやりな...。」

「ここは、飯を食って酒を飲む場所さぁッ!!!」

 

この店を支える柱は、泣く子も黙る第一級冒険者(大ベテラン)。又の名を、『小巨人(デミ・ユミル)』。正真正銘の強者(バケモノ)

 

「げっ...オイ、行くぞ!」

「アホタレェ!!ツケは効かないよ!!」

「は、ハイィィ!!!」

 

騒ぎなんて起こそうものならこの始末。これが、この店が『オラリオ(いち)安全な店』と呼ばれる所以である。

 

「...おっかねぇ〜」

「アンタも大概だよ、『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』。」

......これでも穏便に済ませた方だっての。

なんか言ったかい?

「ヴェッマリモ!!!」

 

 

 

 

かくして、酒場の小競り合いは終結した。一方......

 

 

 

「私、完っ全に蚊帳の外ですね...。」

「...わたしもです。」

 

一連の騒動の静観しつつちびちびと酒や果実水を口につけていた少女達は、円卓の隅で小さくなっているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




我が名は投稿者!一ヶ月ぶりに新話を届けに参った!
夏バテとコロナのダブルラリアットで死にかけておったのだ!
決してサボっていた訳ではないから許して頂きたい!

〜閑話休題〜

後編の流れは既に作ってあるけど、オリキャラ出すかどうかで悩んでるので次回は未定です。アンケート貼っておくので、皆様の意見を取り入れられたらと考えてます。
また一ヶ月後に会いましょう。では。


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第十五話「鍛冶師、到来。」

酒場での小競り合いの翌日。

俺達は中層進出の準備のため、バベルの武器屋に訪れていた。

 

「ベル、今日もあの店か?」

「うん、前の鎧を買ったとこ。あの鎧使いやすかったから、同じ人のが買えるといいな。」

 

ベルが例の白い軽装鎧を買った店のことか。この感じだと、近いうちにヴェルフと出会う事になるか?

 

「右京は何買うの?」

「防具はまだ使えるし、肝心なのは武器かな。斧槍は粉々になっちまっ.........」

 

「?」

 

急に押し黙る青年に、少年が(いぶか)しむ。

 

 

「あ......あれ、誰かの形見だった気がするんだが...」

「...ァァァァァァ!!!」

 

(くだん)の斧槍_たしか銘は"アーモリー"だったか_は、あの時寂れた武器屋の店番をしていたドワーフが、息子の形見と言って売ってくれたものだったはずだ。

それをわずか一ヶ月でぶっ壊したとなると...

 

「...右京。僕、ポーションをいくつか買い忘れてたんだった。」

「いや、後から『青の薬舗』に用があるから、俺が行ってくる。」

「いいよそんな、悪いよ。」

「いやいや、気にすんなって。それよりほら、武器屋見てくんだろ?もう目の前だぞ。」

 

「......。」クルッ

「......。」ガッ

 

残像を刻みながら高速Uターンするベルと、絶対に逃がすまいと肩を掴む右京。

 

「いいだろ一緒に殴られろよ家族だろ!?」

「いや僕巻き添えだし!!それにもう殴られるって言っちゃってるじゃん!!!」

「うるせぇ!!二人で殴られれば痛みも半分だろ!!」

「開き直った!?」

 

店の目の前で取っ組み合いながら騒音を撒き散らす二人。その姿は、まるで『一緒に叱られてくれよ』と友情を盾にしていたずらに二次被害を広げようとする学生のソレ。

この場合の二次被害とは、叱られる人数を増やす愚かな所業のみならず、店に対する営業妨害も指す。

 

 

「...何やってんだ、坊主共。」

「げっ」

「ひょえぇ!?」

 

噂をすれば影ありと、騒ぎを聞きつけた件の店主が顔を出した。

 

「右京!僕あっちの店見てくるね!」

「あ、オイ待て...って速ッ!!」

 

突然の事に驚いて注意がそれた隙に、ベルは敏捷値の限りを尽くしたダッシュで離脱を図る。

青年が必死に伸ばした手も(くう)を切り、逃亡を許してしまう結果となった。

 

「この前ぶりだな、坊主。何の用だ?」

「あ、アハハハ......」

 

いよいよ、噓の付き方を思案しているところではなくなってきた訳だ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「大変、申し訳ございませんでしたッッ!!!」

 

至る所に分厚い埃が積もり、奥まった立地の中でも特に寂れた店中に、青年の謝罪が木霊(こだま)する。

 

ドワーフは険しい表情を崩さず、微動だにしない。

 

 

(...絶対怒ってるじゃんコレさーーー!!!)

 

 

「お前...」

 

そこで、反射的に右京が動く。

 

「この度は、武器を壊した事の謝罪と新しい武器の購入のため伺いました!でも壊したと言っても正確には不可抗力だったといいますか、中層にも入ってないのにライガーファングに襲われまして、必死で抵抗しているうちに折れてしまった次第であります!つきましては深く謝罪を申し上げると共に、これ以降このような失態を起こさぬよう精進していきたいと考えております!!」

 

直角90度に腰を折り頭を下げ、超高速で言い訳を捲し立てる。

 

(どうだ?一応先手は取れたけど...!)

 

「...そうか。」

 

少し間が空き、ふと重々しく口を開いたかと思えば、やはりその雰囲気は恐ろしい。あまりの恐怖に子兎のように震えることしかできなかったが......

 

「そうか、折れたか。」

 

続いて出た言葉は意外にもあっさりとしたものだった。

 

「あの、怒って...いないんですか?」

 

存外柔らかいドワーフの反応に、青年は若干気の抜けた質問を投げかける。

 

「あぁ。元々、使い古した武器を仕立て直しただけだからな。元はそこそこの業物だったが、壊れちまっても不思議じゃない。強化種と戦ったのなら尚更な。」

「...!ご存知で?」

「あぁ。お前さん達、(ちまた)で噂になってるぞ。ライガーファングと...さっきの坊主はミノタウロスだって?」

 

たしか、ライガーファングの攻撃は上級冒険者でも致命傷になり得る、って聞いたことがあるな。

...なら良いのか?

 

「あれは長持ちしない筈だった。まさか一ヶ月足らずで壊すとは思わなかったがな。」

「うっ...本当に申し訳ない...」

 

「...そうだな。そこまで言うんなら、少しばかり俺の我儘を聞いて貰おうか。」

 

老人は丁度いいとばかりに、カウンターの下を漁り始める。

 

「おい坊主。」

「ハイ」

 

革布に包まれ、机上に重々しく置かれた()()は恐らく、とびきり大きい長柄武器。

 

「こいつを買え」

「ハイ?」

 

緊張も解けぬまま、話ばかりが進んでゆく。

しかし包みの正体を目にすると、些細な不信感など吹き飛んだ。

 

自分の身長を超え、2mに達するほどの長さ。

強靭さを威圧的に振り撒く、艶消しの黒鉄色。

刀身との対比(コントラスト)が映える金色(こんじき)の刃先。

 

そして何より、殺傷力に溢れる存在感を放つ刃。

方や無骨にして獰猛、叩き斬ることに特化した半月斧(バルディッシュ)

方や単純だが凶悪、有り余る破壊力と無類の突破力を秘めた重撃杭(スレッジハンマー)

本来は噛み合わない筈の2つを、奇跡的なT字のバランスを描く武器として高度に成立させている。

 

「おやっさん、これは...!」

「俺の新作だ。」

「...アンタ、鍛冶師だったのか。」

「応。つっても、随分前に引退したがな。この武器も、昔の弟子に手伝わせて打った物だ。」

 

いや、前の斧より数段...どころか格段に業物なんだが。

とてもブランクのある鍛冶師が打ったとは考えられない。

 

「...ちなみにおいくらで?」

「締めて1500万ヴァリス。」

「イ!! イッセンゴヒャ...」

 

ベルが隣にいたならば間違いなく卒倒するであろう値段に、右京は素っ頓狂な奇声を上げるだけで耐えた。

 

「もちろんツケでいいぞ。出世払いってヤツだ。」

「あの〜...ほんの少しだけでもマケて貰えたりとか...」

「何言ってる。コイツは材料費、加工費諸々で本来は3000万ヴァリスはする業物だぞ。マケにマケて半額まで落としてやってるんだから、文句言うんじゃねぇ。」

「うぐぐ...にしたって今の俺には手に余るんじゃ...」

 

諦め悪く反撃を試みるものの、既に負けは濃厚。

 

「何言ってる。さっきの坊主だって相当な得物を持ってたじゃねぇか。」

 

ドワーフが話題にしたのは、ベルが腰に差していた『ヘスティアナイフ』。彼は既に、鍛冶神の打った武器(二億円ナイフ)の価値に感づいていた。

 

「それにな。いくら形見とはいえ、万全でない武器を渡して死地に行かせるってのは、鍛冶師として失格だった。」

 

「だからこれは、不甲斐ない仕事をした俺への罰と、それに巻き込んだお前さんへの償いだ。どうか受け取っちゃくれねぇか。」

 

「そこまで言われちまったら、断れねぇよな。」

「お、だったら...」

 

「あぁ。ありがたく受け取っておくよ、おっちゃん。」

「よしきた、ローンはこの口座に振り込みな。なに、しばらくは搾り取りゃしねぇから安心しな。」

「...お手柔らかにな。」

 

どこか楽しげな老人の様子に歯噛みしつつも、相当な業物が手に入ったのも事実。

 

......もうヘスティア様のこと()()()()言えねぇな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「...良かったのか?師匠。酷い赤字ではないか。」

 

終始騒がしい客が帰った直後。暖簾(のれん)の裏から顔を出した者がいた。

 

「構わん。久方(ひさかた)ぶりに()()()()()()()()()からな。」

「本当に...ワシの時といい、師匠も物好きな御方よ。」

「流石の俺もお前ほど変態ではないぞ、椿。」

 

物置(バックヤード)にて一部始終を立ち聞きしていた人物。

彼女こそ、「都市最高の鍛冶師」と名高い「椿・コルブランド」その人。

 

「にしても、師匠がワシを呼び出したときは驚きましたぞ。まぁ、ただ仕事を手伝わされただけでしたがな。」

「なんだ、稽古でもつけて欲しかったのか?」

 

天下の最上位鍛冶師(マスタースミス)を雑に扱うこの老人。

 

ヘファイストスファミリアの()()()である彼の名は、『ギムリ・トールキン』。

第一級冒険者(レベル5)でありながら鍛冶の道も歩み、初めて不壊属性(デュランダル)を作り出した彼に付けられた二つ名は『不壊伝説(スプリガン)』。

数年前に酷く腰を痛めて隠居したものの、最盛期には『地上の鍛冶神』とまで謳われた本物の才人である。

 

「さて、奴はどこまで強くなるのか...楽しみだな。」

 

薄く開いた瞳に、幾年ぶりに鋭い光を灯した老人...いや、老兵(ロートル)に、かの『単眼の巨匠(キュクロプス)』さえ肩をすくめることしかできずにいた。

 

...どうやら彼は、とんでもない人間に気に入られてしまったようだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

【第一等級武装】に匹敵する業物を与えられた青年。

精々「丈夫そうな斧」程度にしか考えていない彼は今、革布に包まれた大戦斧(バトルアックス)を担ぎ、先ほど見事に脅威から逃げおおせた少年を探し歩いていた。

しかし...

 

「いない。」

 

以前、ベルが_確か兎鎧(ピョンキチ)とかいう銘の_軽装鎧を買った店も。

 

「...いない。」

 

同階、他階問わず虱潰しに回った店舗にも。

 

「...どこまで逃げやがったんだ?アイツ。」

 

かなり重い荷物を背負って歩いていたからか、いい加減疲れてきた。どこを探しても見つからないならとっとと帰ってしまおうかと思いつつ、バベル内の広場に通りかかった時。少し離れた位置で騒ぎ立てる謎の人だかりに遭遇した。

 

 

「なぁ『未完の少年(リトル・ルーキー)』!この短刀(ナイフ)買わねぇか?」

「いやいや、こっちの湾曲刀(ククリナイフ)のほうがよく斬れるぜ?」

「馬鹿、そんな変な武器誰も買わねぇよ!」

 

自分の武器を買わせて実績(ハク)をつけるために期待の新人に群がる有象無象達。さながら飯時の犬猫の如く、恥も外聞もなく声を張り上げている。物を売り込む立場としては立派なものなのだろうが...

 

「「プライドのねぇ奴らだな...」」

「「...ん?」」

 

全く同じタイミング。全く同じ言葉を吐き出した人物が立っていた。

燃えるように赤い髪、若々しくも厳つい顔に黒の着流しを身に着けた硬派な男。隣に立っていた彼は、奇しくもベルの次に探していた人物だった。

 

「あ!!」

「...お。」

 

加えて直後の反応も全く同じときたものだから面白い。

 

「お前、もしかして『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』か?」

「え、なになに俺って有名人?」

「オラリオでアンタの噂を聞かないのは、精々本人くらいなもんさ。」

 

...そう言われると悪い気はしないな。やっぱり二つ名はイタいけど。

 

「そういうアンタも有名だろ?」

「俺が?俺はただの鍛冶師で...」

「魔剣嫌いの鍛冶師、『ヴェルフ・クロッゾ』。その髪色でピンと来たぜ。」

 

そう言って青年は男の頭を指差す。燃え滾る炎にも似たその髪色を、彼が見間違えるはずもない。

 

「そこまで知ってるなら話は早いな。俺は頼まれても魔剣なんぞ打たねぇぞ。」

「知ってる。でもなぁ〜...」

 

面白くて仕方ないとばかりにニヤニヤと口角を釣り上げ、人混みの禍中に閉じ込められた人物に目を向ける。

 

「うちの団長様が、『ヴェルフ・クロッゾの防具が欲しい』って聞かなくてさぁ。アンタのこと探してたんだよ。」

「なに!?本当か!?」

「おう、ホントホント。」

 

『新進気鋭の有望株に、自分の作品が認められた』

終始不機嫌だった彼も、その事実を耳にしてからの勢いは凄まじかった。

 

「おーーい、ベルーーー!!」

 

されるがままに揉まれている少年に、輪の外から声をかけた。幸い声は届いたようで、窒息死寸前だった相棒は涙目になって手を振った。

 

「う、右京、助けてェェ〜!!」

「ったく、仕方ねぇなぁ。おらどけ有象無象共、こちとら今から商談の時間なんだ。とっとと道開け...

 

唐突に、ベルに押し寄せる職人達の勢いが半減した。その視線は、今まさに割り込んできた一人の男に注がれている。

 

「...黒髪黒目。」

「...背の高い男。」

「お、おい。なんだ急に...」

 

じわじわと、ベルに押し寄せていた波の向きが変わってゆく。...正確には正反対、つまり俺のいる方向に。

 

「...デカイ斧が得物で、」

「何よりその顔。」

「おい、顔が何だって?」

 

いや、確かに顔は微妙だけど。APP9とか言うんじゃねぇライン越えやぞ。

 

「...『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』か!?」

「すげぇ、本物だ!二人目の世界最速記録(ワールドレコード)だろ!?」

「なぁ『虚空を歩む者(ヴォイド・ウォーカー)』、その得物は斧だな!?もし良かったら研いでやろうか!?」

「いや待て、俺まで囲ってんじゃねぇ、やめろ、オイ、コノヤロ離せェェ!!」

 

まさかの"二人目"が参戦した事で完全にテンションが振り切れた職人共は、俺ごと人混みの中に取り込んでしまった。話題の人物、期待の新人が二人も集まった結果、遂には囲われるどころかゾンビの如く手足を引かれ、所謂"引っ張りだこ"状態にされてしまったのである。

 

可愛いケモミミ美少女達にすり寄られるなら大歓迎だが、むさ苦しい上に半分鍛冶オタク気味な職人共にベタベタと触られるのは、生理的に受け入れ難いものがあった。

 

「やめ、ヤメロォォォォォ!!!」

「うぐぐ...右京、僕もう駄目かも...こんな所で死ぬなんて...」

「ハッ!おいベル!気を...気をしっかり持てッ!」

 

押し潰されるあまり、遂に首が締まりかけて意識を落とす寸前のベルと、必死の形相で相棒に手を伸ばす右京。

さながらダンジョンに追い詰められた冒険者達の決死行のような光景だが、ここは天下の往来。

 

「...何やってんだ、あいつら。」

 

冷静な人間が(はた)から見ている分には、非常にシュールな光景であったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 




本当に一ヶ月ぶりの投稿になりましたね。どうも、投稿者です。そろそろ大学の夏休みも明け、単位という現実を目の当たりにすることとなりました。ちなみにフル単は無理でした。

ところで、皆さんはパソコンorスマホorタブレット、どのような媒体で小説を読んでいますか?少しでも読みやすい物語を執筆するために、ご意見があれば是非コメントしてください。
素人ながら精進させて頂きますので、気が向いた時にでも読んで貰えれば幸いです。


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第十六話「新パーティー結成」


現在のステータス

シロカネ・右京

Lv.1→Lv.2
力:SS 1081   →I 0
耐久:SSS 1102  →I 0
器用:S 927   →I 0
敏捷:A 891   →I 0
魔力:D 558   →I 0

魔導 I (レベルアップにより発現)

MAGIC:
「ブリンク」
・空間属性
・射程、重量限界は魔力量に比例。
≪法則を破りし其の一歩≫

SKILL:
「愛想一途(セリゲート・バージェン)」
・経験値獲得量の増加。
・試練の誘引。
・特定の人物に対する想いの強さで効果向上。




「いやぁ悪いな、ヴェルフさん。色々と助けてもらっちまって。」

 

あの後、てんやわんやの騒動に割り入って収拾をつけた鍛冶師に礼を言う。

なお、俺達を取り囲んでいた職人達に専属が決まっている旨を伝えると、各々が寸分狂わず舌打ちをかました後、蜘蛛の子を散らすが如く去ってしまった。

「魔剣が打てる」っていう特別な才能を持つヴェルフに嫉妬する気持ちは、まぁ分からんくもないが。

 

「何、良いってことよ。こんな大物の顧客、逃がすわけにもいかねぇしな。」

 

しかしハハハと豪快に笑う姿は、いかにも気のいい兄貴分といった様子。やはりいいヤツだな、コイツは。

 

「は、はじめまして!ベルクラネルです!」

「おう、知ってるぜ。最近、アンタの名前を聞かない日はないからな。」

「あ、あはは...そう言われると、なんだか照れちゃいますね...」

 

…なんか原作よりも謙虚…というか女々しくなったか?

 

「で、天下の『リトルルーキー』が俺の防具をご所望だって?」

 

と、彼の背負っていた木箱が開かれる。そこには深い金属光沢を湛えた白い軽装鎧が。

 

「わぁ、凄い...」

「勿論コイツは売る。だがよ、ベル・クラネル。買い物ついでに、ちょいと頼まれ事をしてくれねぇか?」

「頼み事…ですか?」

「あぁ、この鎧を気に入ってくれたら...俺をお前の専属鍛冶師にして欲しいんだ。」

「はい、よろしくお願いします!」

 

鍛冶師の真摯な願い出に、兎は嬉しげに即答する。

 

「お、おいおい。即答かよ。」

「だって、前の鎧も凄く戦いやすかったので...僕は、ヴェルフさんの防具を使いたいです。」

 

しばらく呆気にとられたように呆けていた鍛冶師も、ここまでの答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう。

 

「くく...ハハハハッ!!そうか、そんなに気に入ってもらえたんならしょうがねなぁ!」

 

恥ずかしくなるほど純真なベルの言葉を聞いて開けっ広げに笑いながら、ベルをえらく気に入ったようだった。

 

「...そうだ、ならよ、ヴェルフさんや。」

「おう、どうした?まさかアンタも契約するってか?」

「あぁ、是非お願いしたいね。と言っても武器はもう買っちまったからな。しばらくは防具専門の契約になるが...」

 

本日二度目の呆け顔。続いて、今日一番の笑顔。

 

「...おいおい、今日はなんだ!?贅沢にも程があるぞ!!」

「お、じゃやめとくか?」

「上等だ、やってやる!お前ら二人の装備、まとめて作ってやろうじゃねぇか!!」

 

立ち上がった彼の目は、燃え上がる焔を幻想させる程の熱い輝きを灯していた。

 

「じゃ、よろしくな。ヴェルフ!」

「よろしく、ヴェルフさん!」

「...ッ、おう!!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

色々とゴタゴタはあったが、遂に原作最初のパーティーメンバーがベルの下に揃った。もっとも、二人ほど新顔が混じってはいるが。

 

「...私はまだ納得していませんからね、ベル様。ましてや鍛冶師、しかも"クロッゾ"なんて。」

「うっ...ご、ごめんってリリ。相談しなかったのは謝るから...」

「おいおい、そんなに俺が嫌いか?リリ助。」

「だーかーらー!私はリリ助ではなくリリルカですってばー!!」

 

リリがリーダーであるベルに文句を垂れつつ、鍛冶師の青年にを抗議の声を上げる。確かに、最近パーティーの指揮も担うようになってきたリリにとっては、断りもなくメンバーを増やすのは思わしくないかもしれない。

...ついでに反りも合わないかも。まぁすぐに慣れるさ。

 

「そんなケチケチすんなよリリ。経緯はどうあれ仲間が増えたんだ。なぁ、ラーマ。」

「...いきなり知らない人が来て、ちょっと怖かった。」

「すんませんしたぁぁっ!!」

 

自分としては別に構わんだろう、と高を括っていたが、愛するラーマを怯えさせてしまったとなれば話は別。ラーマのみならずリリにも向けて頭を下げる。うちの子かわいいもんね、仕方ないね。

 

「...右京様、少しよろしいですか。」

「ん、どした。」

 

歩きながら周囲を警戒していたところ、後衛から出てきたリリに小声で声をかけられる。

 

「今日はまだ"魔法"を使っていませんか?」

「おう。ヘスティア様にも口酸っぱく言われたからな。耳タコだぜ。」

 

何故かは分からないが、始めて《ブリンク》を使ったあの日からヘスティア様には色々と言い含められていた。

 

『...いいかい右京君。君の魔法のことは()()()()話しちゃ駄目だぜ。』

 

『君の魔法の「空間属性」っていうのはね...なんというか...空間そのものを......説明が難しいなぁ...』

 

『まぁとにかく!!怖い人たちに捕まったりしないように、人目につく場所では絶対に使わないこと!いいね!』

 

 

...まぁ、言わんとしていることは分かるけども。"空間魔法"なんて得体の知れない稀少魔法(レアマジック)、悪用しようと画策する輩が出てきても不思議はない。実際、壁や結界をスルーしたり対象の強度を無視して物を突き刺したり、何かを"突破する"ことに関しては最強の魔法だ。悪用の余地しかない。

 

 

「他派閥の人間にバレていい代物じゃない、って話だろ?」

「はい。本来なら私も知ってはいけなかったのですが...」

「リリのことは信頼してる、ってヘスティア様も言ってただろ。俺も気にしてない。なんならウチに改宗(コンバージョン)してもいいってのに。」

「...っ!」

 

リリの肩が強張る。しまった、今のコイツに派閥(ファミリア)関係の話はマズかったか?

 

「...確かに、そうすればもっとベル様のお傍にいられますね。右京様にしては名案です。」

「あんだとコラ」

 

狼狽する青年をよそに、しかし少女の反応は意外にも明るかった。

 

「真似事とはいえ、このパーティーの指揮ができるのはリリだけですもんねぇ。」

「何を言う、俺だって......おっ。」

 

原作に比べて随分と自信家になった少女と言葉の応襲を繰り広げていると、前方から何者かの気配を察知する。すぐに少女達を下がらせ、おニューの大戦斧(バトルアクス)を構えた。

 

「来たぞ。」

 

眼前には、11階層を代表するモンスターであるオークやインプ、ハードアーマードなどが徒党を組んで立ち塞がっている。

 

「オークは任せろ!あれなら俺の腕でも当てられる!」

「じゃあ、僕はインプを!」

 

押し寄せる怪物に鍛冶師の大刀が唸り、少年の短刀が閃く。

 

「おうおう、二人とも頑張れ〜」

「えぇ、右京様も戦ってくださいよ!」

「いやいや、俺は...」

 

足を上げ、リリの後ろ...正確には爪を振り上げたインプを蹴り飛ばす。

 

「ガキのお()りがあるんでな。殿というやつさ。」

「いつの間に後ろに...」

 

インプは弱い。それこそゴブリンと大して変わらないが、同じそれよりも悪知恵が働く。弱いからと油断していると、不意打ち(バックアタック)を食らうか、最悪の場合オークなどを呼ばれる可能性もある。

 

「でも...そうだな。数が多いし、俺も加勢したほうが良いか?」

「いや、大丈夫です...わたしが援護しますから。」

 

獣人の少女が身の丈を超える大弓を構え、同じく大振りな矢をつがえる。

先程までは少し不機嫌だったラーマだが、ドン!ドン!と暴力的な音を上げながらオークやハードアーマードの強靭な皮膚を次々に撃ち抜いていく。

 

「悪い、助かる!」

 

援護を受けた鍛冶師が、大刀を振り回しながら些か乱暴に礼を飛ばす。

寄られれば()(すべ)がないラーマも、距離を保つことさえできれば結構強い。やっぱこの子才能あるでしょ(親バカ)

...もっとも、彼に及ぶべくもないが。

 

 

「ベルさんには......いらないみたいです。」

 

最前線に立つ少年を見た少女が嘆息する。

そこには白の突風に蹂躙されたモンスターが残した灰と魔石が転がっていた。恐らく、あの大群との戦闘で、全ての急所を正確に斬ったのだろう。

 

「全く...末恐ろしいな。」

 

こちらを振り返り満足そうに手を振る少年を見て、その成長ぶりに青年は少し肝を冷やすのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

戦闘を始めて数時間が経過した現在、何度か小休止を取り、男衆も前衛を交代制でこなしている。

今前に出ているのはベルと右京。

 

「ズオォォリャァァァ!!!」

 

大戦斧を薙ぎ、オーク3体をまとめて両断する。

 

「うん、やはり良い得物だ。大枚はたいた甲斐があったな。」

 

 

今日だけで何度も、何体もモンスターを屠ってきたが、オークを両断した刃も、ハードアーマードの硬殻を貫いた破砕杭も、刃こぼれどころか曇り一つない。

鈍色の輝きを失わない相棒を掲げ、満足そうに呟いた。

 

「右京ー!リリがそろそろ大休止を取るってー!」

「はいよー!」

 

定期的に謎のビーム__おそらく新しいスキルで強化されたファイアボルト__を撃って疲労が溜まり気味なベルを見たのか、リリが長時間の休止を提案したようだ。

丁度自分も腹が減ってきたところだ。飯だ飯だと小踊りしつつ、仲間の声が聞こえた場所へと戻る。

 

「お疲れ様です、ベル様...あと右京様も。」

「おいコラ、俺はオマケかよ。」

「オマケついでに小言も一つありますよ、右京様。」

 

不満顔のリリに続いて、後ろのラーマも頷いている。

こうなってしまうとどうにも弱い。

 

「ベル様もですが、特に右京様は前に出すぎです。霧の中で声すら届かない所まで離れるのは良くありませんし、魔石の回収も面倒です。」

「うぐ...」

「霧の中だから、わたしの弓も遠くまで届かないです。」

「うぐぐ......すまん、気をつける。」

 

身長的にも年齢的にも下の彼女達に正論で殴られるというのは、少々心にくるところがある。

ポーションでも治らない痛みってあるんだなぁ...

 

「さて。小言もこのくらいにして、そろそろ食事にしましょうか。最初の見張りは...右京様、お願いします。」

「俺かよ。わりとサボリ気味だったからか?」

「そうかもしれませんね...っと!」

 

ドスン、と重い音と共に、冗談だろとツッコミを入れたくなるほどデカいカバンを地面に下ろす。

 

「なぁそれ、毎回思ってたんだけど...重くねぇの?」

「え?しっかり重いですよ。」

 

アニメ視聴時代から長年感じてきた素朴な疑問に、驚くほど簡素な答えが帰ってきた。

 

「やっぱりか。」

「はい。スキルのおかげで背負って走ったりはできますけど、結構疲れますよ。」

「そんだけ重いもの持てるならさ、コレとか振り回せるんじゃねぇの?」

 

そう言って青年が少女に大戦斧を差し出す。

しかし、少女が首肯することはなかった。

 

「大きな武器はそれだけ高価ですし、そもそも私に戦闘の心得はありません。だから私には精々、ありったけのアイテムを詰め込んだ重いカバンを持っていく事しかできなかったんですよ。」

 

リリのスキル__たしか《縁下力持(エーテルアシスト)》といったか__は、荷重が増えるほど筋力が強化される類のスキルだったはずだ。しかし、戦闘に活かせるほどの強化幅がある訳ではないのかもしれない。

 

「なるほどねぇ...魔法のカバンでもあればいいのに。」

「魔法のカバン...?なんです、それは?」

 

ついゲーム感覚で呟いてしまった青年の言葉に、少女が反応する。

 

「いやほら、カバンにいくらでも物が入るとか、そういうのだよ。四次元ポケット的な。」

「よじ...?そんなもの、ある訳ないじゃないですか。そんな物があれば荷物持ち(サポーター)なんて誰も雇いませんよ。」

 

確かに、そりゃそうか。もし可能性があるなら、例の『空間属性』の魔法とか...

 

「...ハハッ!」

「何か、面白いことを言いましたか?」

「...いや、何でもない。」

 

一瞬頭をよぎった妄想を流石にあり得ないと笑い飛ばすが、脈絡のない笑いに、お怒りな様子の少女から咎められる。

いや、誤解なんですリリルカさん、許してください。アンタそこまで怖い顔できたのかよ。

 

次の瞬間、満面の笑みで礼を言う白髪の少年(ベル・クラネル)の声が聞こえなければ、きっと私は殺されていただろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「右京君、この後ちょっといいかな?」

 

ダンジョンから帰還し、魔石やドロップアイテムも換金した後。新しいパーティーでも問題なく戦えたという旨や最高到達階層を伝える際、アドバイザーであるエイナさんから呼び止められる。

 

「ン、どうかしました?」

「実はね、右京君のアドバイザーが変わることになったの。」

「えぇ、そりゃまたなんで?」

 

申し訳無さそうに口ごもったエイナさんの様子に、少し不信感を感じた。原作じゃこんなこと無かったよな。

 

「あー...それがね...」

「アンタ()がおかしいからよ。」

 

眼前のアドバイザーの初めて見る表情を眺めていると、その後ろからもう一人、美しい女性が現れる。

 

エイナさんよりも少し背の高い麗人だった。薔薇のような真紅の髪を背中まで伸ばし、その下から耳__恐らく狼耳だとケモナーの嗅覚が叫んでいる__が見えている。

 

...名は体を表す、ってこのことかぁ。

 

「アンタたち二人がとんでもない速度でレベルアップしたもんだから、ギルド長が『何としてでも強さの秘訣を解明しろ!』ってうるさくてね。」

 

「通常業務に加えてそんなことまでしてたら、流石にエイナ一人じゃ回せなくなるのよ。だからある程度ヒマしてた私に(しわ)寄せが来たって訳。だから...って聞いてる?」

「あ、はい。」

 

原作にもほとんど登場していないレアキャラに、少し呆けてしまっていた。決して目の前のキツめクールビューティー狼人(ウェアウルフ)に見惚れていた訳ではない。いや違うって。俺は春姫さん一筋だから。

 

「とにかくよろしく。私はエイナみたいに親切じゃないけど。」

「あぁ、分かりました。よろしく...えーっと...?」

「ローズよ。」

「あぁ、ローズさん。よろしく。」

 

動揺のあまり若干童貞臭い振る舞いをした感は否めなかったが、とにかくサポーターが変わったらしい。なんで?

 

「あ、そうだエイナさん。座学についてなんですけど...」

「うん、そっちの方は引き続き私が対応するね。」

「...座学って?」

 

薄々面倒な予感はしつつ、狼人(ウェアウルフ)の麗人は同僚の言葉に質問する。

 

「私が個人的にやってることなんだけどね、ギルドの資料から階層ごとの地形とかモンスターの特徴について教えてるの。」

「なんでそんな面倒な事を...」

 

辟易として聞き返すが、対象的に彼女はどこか嬉しそうな様子。

 

「えー、だってねローズさん。ベル君もだけど、授業を聞きたいって言ってくれる人なんていなかったから...」

「...アンタ、受けたの?エイナのスパルタ授業。」

「う、けましたけど。元々勉強は得意なんで、結構楽しいですよ。」

 

動揺した麗人の問いに、青年はあくまで飄々として答える。

ここじゃ勉強くらいしか取り柄ないから、少しでも努力しなくちゃな。

 

「...私は手伝わないわよ、面倒臭い。」

「あはは...私が勝手にやっている事ですから...」

 

勉強狂い(スタディホリック)共に呆れ果てた麗人は、巻き込まれまいと足早に去ってしまった。...尻尾も良いな。

 

「...右京君?」

「ハイ、ごめんなさいッ!!」

 

一歩ごとにふわふわと揺れる尻尾を__ついでに尻も__隠しもせず眺める青年は流石に怒られると確信して先手を打ったが...どうやら早とちりだったようだ。

 

「...?今日の勉強会はどうするのかなって、思ったんだけど...」

「あ、なんだそっちかぁ良かったマジで」

「...ベル君はもう始めてるけど、右京君も来るでしょ?」

 

先程連行されていったベルは、既に奥の部屋に拘束...もとい案内されている。

 

「すみません、この後は予定があって...」

「えーなになに、誰かと会うの?」

「会うには会いますけどねぇ...ちなみに女性と。」

「わー、右京君も隅に置けないなぁー、このこの〜」

 

眼前の乙女全開ハーフエルフからは、かつてのスパルタ鬼教師の気配など欠片も感じられない。人って分からんよなぁ...。

 

「でも、今回はただの買い物ですよ。」

「えー、なんだぁ。」

「今日行くって言っちゃってるんですよ。すみません。」

「いやいや、約束ならしょうがないよ。」

「あ、でもベルと同じ宿題は欲しいです。ベルに持たせて貰えますか?」

「...うん!勿論!」

 

ほんとこの人、世話焼きだよなぁ。

 

「...言い忘れてたけど、右京君。」

「ン、どしたんすか。」

「...いくら好きでも、人の耳や尻尾をじろじろ見るものじゃありません。」

「そ...いや......スミマセン。」

 

いや、バレてたのかよ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「え、今日はヴェルフさん休むの?」

「あぁ。ちっと頼み事をしててさ。」

 

翌日。バベルの前に集まったのは、ベル、右京、ラーマのみだった。

 

「頼み事?」

「防具だよ。この前買ったコイツ、まだ使えんことはないけどさ。中層に行くにはかなり心許ないんだよな。だから、ヴェルフの在庫にあった鎧の調整と...ついでに副武装(サブウェポン)とラーマの防具も依頼したって訳。」

 

傷だらけの軽装鎧に触れながら、鍛冶師が不在の理由を説明する。

史実通りならば、中層初進出の時点でいきなり18階層まで降りなければならなくなる可能性が高い。何が起こるか分からんし、やれることは全てやっておかねば。

一気に仕事を頼みすぎたせいでヴェルフはてんてこ舞いなようだが、本人が充実していそうなので良しとしよう。

 

「じゃあ、今日は3人だけなんだね。リリも休みだし...」

「下宿先の親父さんの看病でしたっけ。...わたしも手伝いに行ったほうが良かったのかな。」

 

倒れたノームの店主を看病するという旨を伝えて休んだリリに、ラーマが心配する素振りを見せる。

 

「あんま大人数で押しかけるのも迷惑だろ。ま、今日は緩くやろうぜ。丁度"例の魔法"も試しておきたかったしな。」

 

彼が言及したのは、昨夜突然ステイタスに発現した、とある空間魔法。

 

「いいなぁ、右京。これで魔法2個目でしょ?」

「いやいや、確かにかなり便利だけどやっぱ地味だろ。もうちょっとこう、雷とか炎とか、派手な魔法がさぁ...」

 

 

 

幼女神は、彼が新しく発現させた"空間魔法"を以下のように呼称した。

 

()()()()()()()()()

 

彼に秘められた才能を、発露する無限の可能性を、彼も神すらも、未だ知らない。

 

 

 

 

 

 




「急いては事を仕損じる」
逆もまた然り。


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