鈍色の銃は射抜かない (諸喰梟夜)
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主人公(ハリカ)のプロフィール(随時加筆、ネタバレ注意)

一応あった方がいいかなと思ったので設置
タイトルの通り加筆あり、機能活用とはいえネタバレ注意(基本最新話読んでる前提)です OK?








*はオリジナル設定だよ


 

・名前(フルネーム)…稲梓(いなずさ)ハリカ

・学園…第四高校(?)⇒連邦生徒会?2年生

・所属…連邦捜査部"S.C.H.A.L.E"

・年齢…16歳  CV:小岩井ことり

・誕生日…9月10日

・身長…161cm

・趣味…散策

・連邦捜査部"S.C.H.A.L.E(シャーレ)"で保護されている、キヴォトスの外から来た少女。

・黒髪を白いリボンでまとめている。瞳は紫。

・生身の耐久性は先生と変わらないようだが、"魔法"と呼ぶ特殊なスキルを持ち、ほぼ無意識に発動されるその防御によってほとんど傷を負うことはない。

・時折手にする『スターリィ・ストリーム』は銃ではなく、"魔法"を補助する「CAD」という特殊な道具。彼女が言うには「あくまで小銃形態なだけであり、またそこまでスペックの高いモデルではない」らしい。

・冷静で思慮深いように見えて迂闊な行動も多い。

・概ねツッコミ担当。また人に対する洞察力が高いが、自覚はない。

・空間把握能力が高く、例えばはじめて来る場所でも地図があればあまり迷わない。

・積極的に業務を手伝う姿勢で先生から信頼され、シャーレへ所属することとなった。恩義を大切にするタイプなのでやる気に満ちている。

食の好き嫌いは特にない。強いて言えばワッフルにハマってる程度。辛味への耐性が高いが特に好きではない。

・自身の出自や過去についてはあまり語りたがらない。

・前線に飛び出しがち。あくまでも耐久性は先生と同じなので、一部生徒には心配されている。

 

 

*所持品・装備品について

○制服

白のガウンに白とグレーのブレザー。ブレザーの左胸には、八角形に四つ片喰のようなマークがついている。

シャーレの一員として動くときは支給された青いネクタイをつけるが、そうでない時はグレーのネクタイに戻している。

○携帯端末

基本左ポケットに入っているが、たまにナップサックに入れていて通知に気づかないことがある。

モモトークには少しずつ名前が増えていっている。

○ナップサック

二本の紐で背負うタイプ。紫一色に金色の星のワンポイントと「Polaris」の文字がある。出先ではずっと背負い続けており下ろすことは滅多にない(置き去り防止のため)。

当初の中身は筆記用具・メモ帳・財布・タブレットと付属のコード類。

▶️ノート類

一応まだ学生の身なので、シャーレの業務の合間に勉強はしている。

▶️メモ帳・タブレット

詳細は不明。かたくなに人には見せようとしない。

○『スターリィ・ストリーム』

常に右ポケットに入っている。銃ではなく、"魔法"を補助する「CAD」という特殊な道具であるという。

電源を入れると側面に青い光がちらつくデザイン。

○エンジニア部謹製ヘアクリップ

ヘイロー投影機能付き。

ヘイローがないのが目立って大変、こんなのあったら楽かな…というささやかな願望がエンジニア部まで届いた結果、本人の与り知らぬところで製作されていた。

投影されるヘイローは制服の胸のマーク…を、45°傾けたもの。

Bluetooth機能も搭載されているらしい。

 

 


 

*周囲との関係について

◦連邦生徒会・連邦捜査部"S.C.H.A.L.E(シャーレ)"

先生 prologue~

シャーレの顧問。

本作では名無しで続けております一応。

ハリカは保護(身元を保証)されている立場なのだが、実質直属の上司と部下のような関係になっている(※ただし従順とは言ってない)。これ以上の関係になる気配はない。

互いに互いをそれなりに信頼しており、魔法についてもある程度明かされている。

ただ、ハリカが身元を保証してもらっている恩から先生を積極的にサポートしていく所存であるのに対し、先生はハリカも(所属校未定とはいえ)生徒の一人であり、自分の隣に縛りつけ続けることはよくないと考えている。

・アロナ ep.3~

先生が持つ『シッテムの箱』の、かなりしっかりしてるメインOS。ハリカは管轄外なのでよく知らない。

 

◦ゲヘナ学園

¶風紀委員会*1

火宮(ひのみや)チナツ 1年 prologue~

シャーレ初期メンバー。ゲヘナの中ではもっとも関わりが深い。比較的常識人枠のため、後輩ではあるが割と頼りにしている。

こっそり立ち聞きしたのがバレた結果、魔法についてはある程度明かされている。

空崎(そらさき)ヒナ 3年 prologue~

風紀委員会委員長。

飛び出して守ろうとしたらその必要がなかったのはハリカにとっていい思い出(悪い意味で)。

一方でハリカの強さを何度か目にしたヒナは、不審に思いつつもあまり踏み込まないことにしている。面倒事の気配。

(あま)()アコ 3年 prologue~

風紀委員会行政官。

常識人かと思いきやかなりぶっ飛んだところ*2が見え隠れして、(服装の件も含めて)若干引かれていた。

そして先生を狙ってアビドス突撃したことで人知れず悪化していたが、一度全力で蹴飛ばされることで(一方的に)清算された。不憫。

そんな諸々もあって、アコはハリカに「マトモそうに見えて嵐のような人」という印象を抱いている。

銀鏡(しろみ)イオリ 2年 prologue~

(ネームドの中では)初めて明確にエンカウントした割に関係は薄い模様。猪突猛進な点が判明してからはちょっと引かれ気味。

芥附(くぐつけ)フユコ* 2年 prologue~

なんとなくネームドにした風紀委員モブ。ハリカを送り届けたあと、成り行きでシャーレに加入

ハリカとはシャーレでたまに顔を合わせて話す程度。

ちなみに同い年なのに「フユコさん」と呼んでいるのは見た目の威圧感に気圧されたため。フユコ本人はわざわざ言うのもな、と放置している。

魔法が使われる瞬間を見ているが、面倒事を最大限避けるタイプなので何も言わない。

¶救急医学部

()(むろ)セナ 3年 ep.3~

過激な単語が素で飛び出すのでかなりドン引きされている。

¶便利屋68

陸八(りくはち)()アル 2年 ep.1~

(自称)社長。

ハリカにはけっこう早い段階で見栄を張りがちな点を見抜かれている。たぶんそのうち後方保護者面される

(あさ)()ムツキ 2年 ep.1~

ハリカには早い段階で目を付けていた一人。お気に入りになる予感。

面白そ~!とシャーレに加入。ハリカからは小さい子どものように思われるようになる。

()(ぐさ)ハルカ 1年 ep.1~

今のところ接点は薄い。たぶんお互いにビビりがちな感じになりそう。

鬼方(おにかた)カヨコ 3年 ep.1~

周囲がこんなんなので、対照的に「まともな人…!」と見られている実際にまともな人。

顔立ちで怖がられがちだが、ハリカはあまり怖がってない。雰囲気が(ツグミ)に似てるから。

猫好き仲間でもある。

ハリカには早い段階で目を付けていたもう一人。…制服が違うのは、てっきり編入したばかりかと。

ムツキを追うようにシャーレに加入。ただ他意はなく、止めに入ってくれるわけではない。

¶美食研究会

現状補習授業部と撃退した関わりしかなく、まだ接点は薄い。

黒舘(くろだて)ハルナ 3年 ep.3~

鰐淵(わにぶち)アカリ 3年 ep.3~

獅子(しし)(どう)イズミ 2年 ep.3~

(あか)()ジュンコ 1年 ep.3~

¶給食部

愛清(あいきよ)フウカ 2年 ep.3~

公式不憫枠。まだ接点は薄い。

¶その他

降旗(ふりはた)チサキ* 2年 閑1~

フユコの友人で、フユコの紹介でシャーレに加入

シャーレでたまに顔を合わせる程度だが…

 

◦アビドス高等学校

¶アビドス廃校対策委員会*3

小鳥遊(たかなし)ホシノ 3年 ep.1~

仲間のために身を(なげう)とうとしていたが、仲間とシャーレの力で救われた

ノノミのシャーレ加入に伴い、時おりノノミについていくようになる

理由は不明ながら、ハリカの魔法を視認できる一人。ただあくまで滲むような青い光として見えているだけで、中身(魔法式)まではわからない。

十六夜(いざよい)ノノミ 2年 ep.1~

ハリカからは戦場での火力にドン引きされがち。

アビドスを代表してシャーレに加入。仲良し。

(すな)(おおかみ)シロコ 2年 ep.1~

クールで真面目…かと思いきやとんでもねぇ過激さを発揮してハリカをドン引きさせた。

ハリカは彼女の洞察力の高さに警戒している。今のところ魔法はバレてない。先生との関係性はちょっと気にされてる。

(くろ)()セリカ 1年 ep.1~

(とても健全な意味で)可愛がられてるのすごく微笑ましい…と見守られている。

(おく)(そら)アヤネ 1年 ep.1~

おとなしいようで意外と活動的な人なんですね…

ハリカからは年下ながら支援能力の高さに感嘆されている。

 

◦ミレニアムサイエンススクール

¶『セミナー』*4

(はや)()ユウカ 2年 prologue~

シャーレ初期メンバー。『セミナー』だけでなくシャーレでも会計を担当しており足繁く通っているため、シャーレで顔を合わせる機会が多い。

チナツにつられて立ち聞きしたのがバレた結果、魔法についてはある程度明かされていた。そしてep.2での騒動をきっかけに、もう少し深いところまで明かしてもらえるようになった。

同い年であるためか、生徒の中ではもっとも打ち解けた存在になりつつあるし、誰よりもハリカのアレコレを知る感じになりそう。ごめん忙しいのに…。事実誰よりも早く呼び捨てが解禁されている。前線に飛び出してほしくないがほぼ諦めている。

先生の浪費癖には共に頭を悩ませている。

¶『ヴェリタス』*5

各務(かがみ)チヒロ 3年

『ヴェリタス』の副部長。頼れるしっかり者。ハリカはシャーレの仲間として主にハレをよろしく頼まれている。

(おと)()コタマ 3年 閑1~

シャーレに加入してきた、口数の少ない少女。

ただしモモトークではよくしゃべるので、先生やハリカと打ち解けること自体はけっこう早かった。

盗聴を危惧したユウカの提案で、魔法について直接明かされている。無表情ながら興味津々。この事に限らず、日々盗聴魔っぷりで先生とハリカを辟易させている。

()(まがり)ハレ 2年 ep.2~

ep.2の騒動のあとシャーレに加入。先生と同じくらい健康状態を心配されがち。

()(ぬり)マキ 1年 ep.2~

現状接点は薄め。

¶エンジニア部*6

白石(しらいし)ウタハ 3年 ep.2~

エンジニア部部長。現状接点は薄いというか、ハリカが控え気味。

猫塚(ねこづか)ヒビキ 1年 ep.2~

上記のヘアクリップの制作者。ハリカの中ではかっこ可愛い枠。1年に見えねェ

(とよ)()コトリ1年 ep.2~

説明や解説でお馴染み。ハリカとの接点はまだ薄い。

¶ゲーム開発部*7

(さい)()モモイ 1年 ep.2~

溌剌な姉。

思い付きで行動しがちであり、周囲はたびたび置いていかれる。

時おり妹に連れてこられてはハリカに勉強を見てもらっている。ハッキリ怒られはしないけど、無言の笑顔が怖いよぉ…!

(さい)()ミドリ 1年 ep.2~

冷静な妹。

時おり姉と一緒にハリカに勉強を見てもらっている。ノートの図解に食いつく。あとパズルゲームでならハリカと趣味が合うのがちょっと嬉しい。

花岡(はなおか)ユズ 1年 ep.2~

対人恐怖症な部長。

先生もハリカもしっかり配慮してくれるのが嬉しいような、ちょっと申し訳ないような…

ハリカは距離感を大事にして接してるけど、一度UZQueenモードのユズを見たときは言葉を失った。知らない世界。

天童(てんどう)アリス 1年 ep.2~

不思議な新規部員…その正体は精巧に作られた機械少女。

めちゃくちゃ無邪気でいい子…!(感嘆するハリカ)(ただしゲーマー(重度)のノリにはついていけないハリカ)

ハリカはパーティメンバーになってくれた、大切な仲間です!

ハリカの魔法を視認できる一人。本人および部活仲間は何かしらの機能だと思っている。

¶Cleaning&Clearing*8

(いち)之瀬(のせ)アスナ 3年 ep.2~

01。ep.2ではミレニアムタワー内で初対面。

ほぼ直感で行動するため、ハリカには完全に苦手意識を持たれている。

ep.2の騒動のあとシャーレに加入ハリカが何か特殊な力を持つことを半分直感で見抜いてしまった。秘密にはしてくれている。

角楯(かくだて)カリン 2年 ep.2~

02。ep.2ではゲーム開発部との同行には気づいていた。

ep.2の騒動のあとシャーレに加入

C&Cの忙しさもあって成績が振るわなかったが、ハリカの協力もあって順調に遅れを取り戻している。

室笠(むろかさ)アカネ 2年 ep.2~

03。ep.2ではミレニアムタワー内でエンカウントしていたが気づかず。なんだか情報が集まりませんね…気になります。

()(かも)ネル 3年 ep.2~

00。調べてもあまり情報が出てこないハリカを少し気にしている模様。

 

◦トリニティ総合学園

¶ティーパーティー*9

()(その)ミカ 3年 ep.3~

ハリカが先生と同じくキヴォトスの外から来た存在であることは自力で見抜いた。ゲヘナに…ふぅん……

かつての友人と同じ名前・声・性格でハリカを激しく動揺させたものの、当然ミカにその自覚はない…ばかりか、ミカとしてはまだ面識を持った感覚がない。

(きり)(ふじ)ナギサ 3年 ep.3~

生徒会長権限を持つ"ホスト"。

ゲヘナ風紀委員会と繋がりを持っているハリカの動向は密かに注視。

ハリカからの心証が最悪になっていたが、ハナコとアズサによる仕打ちを受けた結果、ハリカが向ける感情は憐憫に変わっている。

百合(ゆり)(ぞの)セイア

¶正義実現委員会

羽川(はねかわ)ハスミ 3年 (prologue~)

正義実現委員会副委員長にしてシャーレ初期メンバー。シャーレでたまに顔を合わせる程度。

…だったのだが、楽する効率のために魔法を使っていたところを目撃。頼み込まれて秘密は守っている。現状魔法を明かされているメンツの中では一番持ってる情報が少ない。それでもどういうものかはだいたい察した。

¶救護騎士団

鷲見(すみ)セリナ 2年 ep.3~

ep.3以前より何度かシャーレに出入りしており、面識はずっとあった。補習授業部の一件のあと現場を離れたハリカを保護し、その際にハリカが外の人であることを知る。

ep.3の騒動が一段落してから改めてシャーレに加入した。

¶トリニティ自警団

守月(もりづき)スズミ 2年 (prologue~)

シャーレ初期メンバー。シャーレでたまに顔を合わせる程度。

ハリカには生真面目な仕事人だと思われている。

¶補習授業部*10

阿慈(あじ)(たに)ヒフミ 2年 ep.1~

初対面はブラックマーケットにて。それからしばらくハリカをアビドスの生徒だと勘違いしていた(距離感が近かったので)。

部長を任された補習授業部への助っ人として再会し、頭のいい同輩としてそれなりに尊敬するように。

ハリカからはとてもいい子だと思われているが、ペロロ様への深い愛に関しては引かれ気味。

(しも)()コハル 1年 ep.3~

補習授業部の助っ人としてハリカと初対面。

頭のいい先輩として慕ってはいる。ハナコより安全だし

えっちな本については触れないよう気を遣われている。

(うら)()ハナコ 2年 ep.3~

初対面は上に同じ。

頭はいいが口を開けば変態なので若干距離を置かれている。ハリカ「隙を作った側の負けなんだと悟った(諦念)」

ハリカの言動には数々の不審点を見出だしていた。そこから魔法について肉薄した結果、ハリカの口から直接明かしてもらった。

ep.3のあとにシャーレに加入した。

(しら)()アズサ 2年 ep.3~

初対面は上に同じ。

図解がとても分かりやすくて衝撃を受けた。

学びに積極的なところに好感を持たれているが、少々好戦的すぎやしないかと引かれてもいる。

過去を知っても対応は変えないことに決めている。

¶シスターフッド

歌住(うたずみ)サクラコ 3年 ep.3~

本編登場前にシャーレ業務(ボランティア手伝い)で知り合っていた。生真面目な人。親しみやすさについては普段あまり意識してないので力になれそうにないです…と告げて愕然とされたりしていた模様

()(おち)マリー 1年 ep.3~

補習授業部の滞在先であるトリニティ別館にて初対面。今のところ接点は薄い。

¶放課後スイーツ部

縁あってお茶した仲。

()(とり)ナツ 1年

(きょう)(やま)カズサ 1年

栗村(くりむら)アイリ 1年

()(ばら)()ヨシミ 1年

 

◦百鬼夜行連合学院

¶忍術研究部

久田(くだ)イズナ 1年 閑1~

シャーレに加入してきた、キヴォトス最高の忍者を目指すキツネっ娘。

ハリカにはめちゃくちゃ強いけど手のかかる子だと思われている。忍術…使えてる……霊子(プシオン)は視認できないからなんか別のやつだこれ………ナニコレ……………!?

¶修行部

春日(かすが)ツバキ ep.3~

補習授業部と関わっている時期にシャーレに加入してきた生徒。すぐ寝落ちする割に問題が起きない。えぇ…(困惑)

¶その他

(つじ)イコイ* 2年 ep.3~

ツバキと同じく、補習授業部と関わっている時期にシャーレに加入してきた生徒。小柄なケモミミっ娘。

ハリカが百鬼夜行を(ミレニアムの次くらいに)気に入っていることもあり、持ち前の人懐っこさでかなり早く打ち解けつつある。

()(さか)ワカモ 3年?

「七囚人」の一人。停学中。先生に会うためたびたびシャーレに現れるようになる。

 

◦ヴァルキューレ警察学校

¶生活安全局

(なか)(つかさ)キリノ

ep.3の後のタイミングでシャーレに加入してきたが、巡回でしばしば顔を合わせる機会はあった。真面目でやる気に満ちている点に好感を持っていたものの、加入後判明したトラブルメーカー体質に苦笑している。

 

◦葦之原高等学校*

¶中書寮*11

月橋(つきはし)ククリ* 1年

ミオに推薦され連れられる形でシャーレに加入

時々話についていけなくなる不思議な後輩。

¶大理寮*12

千躰(せんたい)ミオ* 2年

イズナ(とイコイ)の推薦により、ep.3の後のタイミングでシャーレに加入した。

陽気で話しやすくハリカはすぐ打ち解けたが、好戦的な一面には引き気味。

(かり)宇田(うだ)ホムラ* 2年

 

◦アリウス分校

¶アリウススクワッド

(じょう)(まえ)サオリ 2年

(いまし)()ミサキ 2年

 

 

 

 

 

【 ⇒✳】

 

 

 

○稲梓玻璃花(ハリカ)

・国立魔法大学附属第四高校2年A組(2096年時点)。9月10日*13生まれ。身長161cm

東海の魔法師家系・稲梓家*の出。三人きょうだいの末っ子。

温厚で真面目だが、時おり考えなしに行動してしまうこともある。基本的に受動的で聞き手に回りがち。

また意外にもフットワークが軽い一面もある。部活は写真部。

自己肯定感は低いが魔法の実力は本物。家系的に適性の高い収束系は彼女も得意。ただ吸収系と振動系は苦手としている。

収束(もはや意のまま)>加重=加速(上手)>移動=発散(そこそこ)>放出(限定的)>吸収(苦手)>振動(論外)

自己肯定感が低いのは厳しい家と優秀な兄姉が強いコンプレックスになっているため。得意分野についてはそれなりに矜持があるが、そこにも「兄や姉に比べれば…」はある。

 

進学にあたって実家を離れ、一人暮らしをしていた。

ブレスレット形態の汎用型CADのほか、小銃形態の特化型CADも所持。最も得意とする収束系単一の魔法式を入れている。

 

*使用魔法

空気甲冑(エアー・アーマー)・硬化魔法(収束系)

主な防御手段。なお、空気甲冑は兄が改良した持続性の高いもの(未発表)*。加速系の減速魔法を用いることもある。臨機応変

・密度操作(収束系)

収束系魔法の基本。ハリカは特に気流操作を得意とし、その高い腕前から"()分媛(わきひめ)"と呼ばれたこともあった*14。また、物質の指定もある程度融通が利くようで…

偏倚(へんい)解放(収束系)

密度操作の一例。空気を圧縮し、それを一方向に放出する。比較的安全な攻撃手段として重宝している。

輻輳点(コンバージェンス)*(収束系)

指定した範囲の固体のみを、その中心に移動させる領域魔法。指定する範囲によって様々な使い方ができる。なお、一部だけ領域に巻き込まれたとしても裂けたりちぎれたりすることはない。ハリカ本人としては、姉が完成させて得意とするものを模倣しているという気持ちでいる。

ぶっちゃけ収束系をマクロの領域に持ってこれるかは不安ですが…

・拡散(収束系)

光や音などの分布を均一にする。上位互換の"極致拡散"を目指したが、干渉力が足りなかった。

・窒息領域**15

低酸素の空間を作って失神させる領域魔法。物はシンプルだが、特化型に入っている中では対人で一番の頼みの綱。

・重力操作魔法(加重系)

スムーズに使えるのは引力の増減くらい。

・疑似射撃*(複合。移動系+加速系)

怪しまれない程度に弾丸は飛ばせるようにしておこうと試行錯誤の上考案。名前は適当につけた。

・自己加速術式(加速系)

・疑似瞬間移動(複合。加重系+収束系+移動系)

理論と理屈さえわかれば習得は早かった。ただ消耗激しめなので乱用は控えている。

・ベクトル操作(加速系)

反射障壁(リフレクター)(加速系)

ベクトル操作が組み込まれた領域魔法。未登場。十八番の収束系ではない分、習得に時間がかかった。キヴォトスに来てからは「これかなり頼みの綱になりそうだな…」と思っている。

 


 

*キヴォトスに来てからは、保護されたS.C.H.A.L.E(シャーレ)という機関で手伝いをしている。…が、実質上所属しているものとして給料まで出ている。

まだいち学生であり、勉強は教えたり教わったりしている。理系に関しては教える方が多い。

平和に過ごすのは難しいと判断し、魔法については大ごとにならない程度に使っていく所存。

 

*所持品・装備品について

○制服

白のガウンに白とグレーのブレザー。キヴォトス広しといえどどこともかぶらなさそう。ブレザーの左胸には第四高校の、八角形に四つ片喰のような校章がついている。

シャーレの一員として動くときは支給された青いネクタイをつけるが、そうでない時はグレーのネクタイに戻している。

○携帯端末

基本左ポケットに入っているが、たまにナップサックに入れていて通知に気づかないことがある。

気づいたときには既にキヴォトスのネットワークに接続できるようになっていたが、従来のアプリの多くは使えなくなっていた。

先生協力のもとキャリア回線を結び直した。

モモトークには少しずつ名前が増えていっている。

○ナップサック

二本の紐で背負うタイプ。紫一色に金色の星のワンポイントと「Polaris」の文字がある。出先ではずっと背負い続けており下ろすことは滅多にない(置き去り防止のため)。

当初の中身は筆記用具・メモ帳・財布・タブレットと付属のコード類。

▶️ノート類

一応まだ学生の身なので、シャーレの業務の合間に勉強はしている。

色々勝手が違うことはあって困惑中。その点理系科目は変わりないので安心感がある。

▶️メモ帳

覚えている限りの原作(魔法科)の展開がメモされていて、誰にも見せたことはない。

▶️財布

来た時点では5000円ほど入っていた。通貨が同じと判明したときは本当に安心したらしい。

ちなみにハリカはとりあえず貯金しておくタイプ。物欲に乏しく散財することはほぼない。

▶️タブレット*

簡易型のCAD調整機器。あくまで簡易なので本格的なものではないが、最低限のことはできる。地味に彼女の命綱。

○汎用型CAD

ブレスレット形態。左手首に装着。

○特化型CAD『スターリィ・ストリーム』*

常に右ポケットに入っている。小銃形態の中ではそこまで高級なブランドではない。電源を入れると側面に青い光がちらつくデザイン。

○エンジニア部謹製ヘアクリップ

ヘイロー投影機能付き。

ヘイローがないのが目立って大変、こんなのあったら楽かな…というささやかな願望がエンジニア部まで届いた結果、本人の与り知らぬところで製作されていた。

投影されるヘイローは四高の校章…を、45°傾けたもの。

Bluetooth機能も搭載されているらしい。

 

 

 

 


 

実は転生者であり、"稲梓玻璃花"と"稲梓玻璃花ではない(前世の)自分"の区別がしっかりとできている。

後者は文中で『私』と表記して区別してるあれ。

しかしなにぶん稲梓玻璃花として16年生きているため、前世の自分のプロフィールについてはほとんど覚えていない。少なくとも同性で、でも同じ名前ではないことは確からしい。

ブルアカはファンアートだけ見かけた程度。興味がなくほとんど知らない。

 

 


 

稲梓(タケル)…父

厳格な当主。

稲梓祀里(マツリ)…母

冷静で寡黙な人物。

稲梓晶彦(アキヒコ)…兄

身内には甘い秀才。玻璃花には「晶兄」と呼ばれていた。

稲梓(ショウ)()…姉

温厚な癒し系。玻璃花には「硝子姉」と呼ばれていた。

宇佐美(うさみ)(ツグミ)…幼馴染。

玻璃花とは違ってちゃんと冷静沈着。同じアパートに越してきており、頼れる親友としてすっかり玻璃花の心の支えになっていた。

伊縫(いぬい)水歌(ミカ),(その)啓一郎(ケイイチロウ),出屋(でや)(しき)(トモ)()…級友。

無邪気で溌剌な性格の水歌と、博識だが人見知りが激しくプレッシャーに弱い啓一郎は、玻璃花や鶫を何かと頼りにしていた。

写真部の同輩であり、誰とも分け隔てなく交友を広げる朋樹は玻璃花の人脈に大きな影響を与えており、玻璃花にとっては想い人でもあった。

貴布祢(きぶね)(うるう) …先輩。

写真部の部長。

(くろ)()亜夜子(アヤコ)…後輩。

転生者としての玻璃花が知っていた数少ない人物。裏を知ってしまっている玻璃花は、当初は内心ビクビクしながら接していた。意外にすんなり打ち解け、技術を盗んだり盗まれたりする間柄になった。輻輳点は守り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

故人。

2097年2月、鎌倉市内某所にて死体で発見された。倒木の下敷きになったことによる圧死。

前世について話せないとはいえ友人に何も言わずに逝ってしまったことを、ハリカは深く、深く悔やんでいる。

 

 

 

 

 

*1
ハリカが最初に(どちらかと言えば友好的に)お世話になった場所。直接出向く機会は少ないものの関係はずっと続いている。

*2
主にヒナ委員長関連

*3
ep.1の舞台。アビドス生徒5名全員がここに所属している。顧問になった先生と同様に、ハリカも積極的に交流を続けている。

*4
ミレニアムサイエンススクールの生徒会。

*5
生徒会非公認のハッカー集団。

*6
機械の製作・修理をする専門家『マイスター』が集う部活。ただ変わり者が多く、ハリカはユウカからCADを見せないよう厳命されている。

*7
ep.2の舞台。ハリカもミレニアムに来たついでとかで時々見に来るが、自身はゲームにあまり馴染みがない&操作が不慣れなので見てるだけのことが多い。

*8
ミレニアムの凄腕エージェント集団(公然の秘密状態)。

*9
トリニティ総合学園の生徒会。最大派閥から選出された三人の生徒会長がいる。

*10
ep.3の舞台。ハリカは教師役の助っ人として参加。

*11
生徒会

*12
風紀委員

*13
魔法科本編最終巻(32巻)発売日を設定。特に深い意味はないけど

*14
本人がかなり嫌がった

*15
複合魔法の一部に含まれることはあるけど単体は見当たらないので名称は独自です。念の為






2023/4/1順番がちょっと気になってたので修正しました 嘘じゃないもん!
2023/8/4思い立って周囲との関係の面々を所属ごとに整理しました。見やすくなってっかな…


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その他オリキャラのプロフィール(上同)


関係性の中に混ざってるのもどうかと思ったため別枠設置
けっこう前に青い鳥(現:平面交差)で垂れ流したツイートの件がこっそり始動したりしています…
表記別はなんかやりたくなっただけなので気にしないで(イズナとかそうなるんだ…って知って面白かったので)




 

フユコ

名前(フルネーム)…芥附(くぐつけ)フユコ /芥附冬子

学園…ゲヘナ学園2年生

部活…風紀委員会

年齢…16歳  CV:衣川里佳

誕生日…8/7*1

身長…169cm

武器種…HG

趣味…B級映画鑑賞

・ヘイローは、七つの矢印が外側に渦を巻くように円形に並ぶ。アクティブに移動するイメージ。一応風紀委員モブなので円に寄せてる

・肩までの黒髪で前髪ぱっつん

・血のように真っ赤な瞳(デフォでハイライトオフ)と169cmの高身長で目立つ。ダウナーな雰囲気を漂わせる面倒くさがり

・後方支援部隊所属のため前線にはあまり出向かない。携帯している銃も一律支給のもので、射撃の腕前もあまり良くない。戦闘より運転の方が得意。

・成り行きでシャーレに加入しており、時たまシャーレに赴いている。委員会の方でもある程度融通してもらっている模様。

・必要なコミュニケーションはとるが、それ以外の雑談にはあまり積極的でない。

オフの時は「溶ける」と表現されるほどだらけているらしい…

あまり口調に特徴はない(当社比)。(何事もなければ)多少間延びした気だるげな話し方をする

 

*周囲との関係

・チサキ

幼馴染みの腐れ縁……と称しつつ心の底から信頼している模様。チサキの一番の理解者だという自負もある。

・イオリ

チサキのことで助けを求めてくることがしばしばある。

・チナツ

シャーレの仲間にもなったことで交流は増えたが、あまり大きく変わってはいない。

・ヒナ

仕事への真摯さについて純粋に尊敬している。

・マコト

高身長のせいで勝手に脅威に思われ警戒されていた時期があるため鬱陶しく思っている。

 

 

 

チサキ

名前(フルネーム)…降旗(ふりはた)チサキ /降旗智咲

学園…ゲヘナ学園2年生

部活…無所属(帰宅部)

年齢…16歳  CV:千葉千恵巳

誕生日…6/28*2

身長…155cm

武器種…SR

趣味…鎮圧

・ヘイローは黄緑、雷マークの左右に3つずつ、計6つの矢印が放射状に並ぶ。とにかくシンプルに攻撃性を表現する

・赤髪を後ろでまとめ、いつも黒いキャップをかぶっている。瞳は紫。目つきが鋭いのはデフォルト

・ゲヘナ自治区で自警団じみた活動を行う、一匹狼気質の生徒。射程に縛られない戦闘スタイルが特徴的で、交戦経験のある一部生徒からは「鎮圧屋」と恐れられる。

・退屈としがらみを嫌うが、自分からことを起こすことはほぼなく、「趣味は鎮圧」と公言してはばからない。「自分で作る混沌じゃ面白くない」、「解決のほうが楽しい」とのこと。

・冷徹な雰囲気を漂わせる一方、性格としては気分屋、また享楽的な一面もある。

意外とコスプレ趣味的な、着道楽を楽しむ一面もあるとか

ぶっきらぼうで冷たい印象を感じさせる口調

☆固有武器『シルバースピア』*3

チサキが常に携えているスナイパーライフル。名前はその状況における銀の弾丸(Silver bullet)になるとともに、ただの弾丸どころじゃ済まさないという意識から。

ただしSRを得物にしていながら距離にとらわれない尖った性能持ちで、近距離だろうと容赦なく撃つこともあれば前後を持ち変えて銃床(ストック)で殴ることもしばしば。大は小を兼ねる(ドヤ顔)

 

*周囲との関係

実は自治区規模で見れば出不精。ゲヘナ自治区から出たことはほとんどない。自警団じみた活動を行う前からこの状態なので、「鎮圧屋」としてのチサキを知る者は自治区外にはほとんどいない。

◦風紀委員会

勝手に治安活動を行っているため仲は険悪…と思われがちだが、風紀委員会に協力する姿勢をとっているため関係は良好。

・フユコ

幼馴染みの腐れ縁。と言いつつなんだかんだお互い信頼しているようで、風紀委員会と良好な関係を築けているのには彼女の存在も大きい。

・イオリ

なんならこっちも割と仲のいい同級生。とは言ってもフユコと違って普通に振り回されがち

・ヒナ

互いに譲歩し合うような形であまり接触しない。なお普通にヒナの方が強い模様

・アコ

お互いに苦手意識があり、チサキは関わり合いになろうとしない。

・チナツ

とはいえ、委員会には彼女のようにチサキの名前しか知らない生徒の方が多い。

シャーレの仲間となり、話す機会は増えたものの関係性はあまり変わっていない模様。

◦万魔殿

集団としてはさほど気にしてはいない。

・マコト

風紀委員会に対抗できる駒として引き入れようとしたことがあったが、まともに相手にされなかった。

・イロハ

同級生として立場を抜きにした交流はある。

・イブキ

可愛がっていればマコトが大人しいので紳士的に扱うが、それ以上の情はない。

◦便利屋68

因縁の相手のひとつではあるものの、状況的に味方に回ることも多く、相対しても余程のことがなければ勝てるため脅威とは思っていない。

・アル

でも正直彼女の狙撃はなかなか厄介なので、積極的に相手したいとは思わない。…ことを、アル本人は(もちろん)知らない。

◦美食研究会◦温泉開発部

天敵。

 

 

 

イコイ

名前(フルネーム)…(つじ)イコイ /逵憩

学園…百鬼夜行連合学院2年生

部活…無所属(帰宅部)

年齢…16歳  CV:高槻かなこ

誕生日…6/28*4

身長…150cm

武器種…AR/GL

趣味…人との交流

・ヘイローは薄ピンク、桃の花(多重弁で前後5枚ずつ)。犬か猫か判然としない獣耳がある。

・暗い茶髪を三つ編みおさげにしている。瞳は黄色でたれ目気味

・人懐っこいが掴みどころのない性格。

・前線に飛び出すのは苦手で後方支援に徹することが多い。ドローンも飛ばすしオペレート機器も扱える。

・ミオには「イココ」と呼ばれている。

「~なのです」口調。間投詞に「む」が多い

☆固有武器『夜道のお供』*5

イコイの相棒であるアサルトライフル。こんな名前だけどもちろん(?)日中も持ち歩いてる。戦闘スタイルの都合で擲弾発射器の出番が多い。

 

*周囲との関係

人との交流を楽しむ性格や、配達のバイトをしていることもあって顔が広い。

◦忍術研究部

時おり勝手に部員の一人として扱われることもあるが、「忍術は使えませんよ」と笑って否定する。

・イズナ

一番可愛い後輩。

◦修行部

・ツバキ

よく街中で寝てるところに出くわしては叩き起こしてる。

◦お祭り運営委員会

実は上記2部活よりも仲がいい。

◦陰陽部

それなりに交流はある。特にチセ。

 

 

 

ミオ

名前(フルネーム)…千躰(せんたい)ミオ /千体澪

学園…葦之原高等学校*2年生*6

部活…大理寮**7

年齢…16歳  CV:佳村はるか

誕生日…7/31*8

身長…163cm

武器種…AR

趣味…散策、水泳、人助け

・ヘイローは、円の内側上部に下向きの三角▽、下部に三本の横線。澪標+三神

・青髪ポニテ(かなり長い)、瞳はオレンジ色。どことは言わんがハナコくらいでかい

・快活で大雑把な性格。おおらかなようで好戦的な一面も。

・同級生以下の一部には独特なあだ名をつけている。なおあだ名をつけるか否かはだいたい気分の問題らしく、例えば大理寮での相棒であるホムラはそのまま呼び捨てにしている。

関西弁(努力目標)で喋る

☆固有武器『濤声』

ミオが常に肩から下げているアサルトライフル。波のような塗装がなされており、完璧な防水加工が施されている。

 

 

 

ククリ

名前(フルネーム)…月橋(つきはし)ククリ /月桥琥琥里

学園…葦之原高等学校*1年生

部活…中書寮**9

年齢…15歳  CV:市ノ瀬加那

誕生日…5/6

身長…152cm

武器種…HG

趣味…読書、パズル

・ヘイローは白灰色、三重線の正三角形。線は内側に向かうほど細くなる。モチーフの由緒+ご神紋

・腰まである長い銀髪が特徴的。

・気弱な性格で押しに弱い。

・ミオには「くぅちゃん」と呼ばれている。

やや難解な言い回しを多用する。君本当に1年生?

☆固有武器『闇路の灯火』

ククリが携帯しているハンドガン。整備は一応ちゃんとしてるけどあまり出番はない。というかなくなるように心掛けている。

 

 

 

 

 

ホムラ

名前(フルネーム)…(かり)宇田(うだ)ホムラ /刈宇田焰

学園…葦之原高等学校*2年生

部活…大理寮*

年齢…16歳  CV:豊口めぐみ

誕生日…3/18

身長…157cm

武器種…SMG

趣味…散策、鍛練

・ヘイローは、三つの炎が渦を巻く。名前そのまんまだけど強さの表現。三つで渦を巻くのは神紋由来

・赤髪ツインテ、瞳も真っ赤

・普段は冷静で物静かだが、その様子からは想像できないほどの強さを誇る。

・大理寮ではミオと行動を共にすることが多い。本人は自己主張が強い方ではないので振り回され気味だが、相棒として信頼している。

直感が鋭く、友人や部活仲間からはとても信頼されている。

☆固有武器『残燹』

ホムラの得物である二挺一組のサブマシンガン。軽い取り回しと身のこなしで反撃の隙を与えない。

 

 

 

ニチカ

名前(フルネーム)…山浦(やまうら)ニチカ /山浦日佳

学園…葦之原高等学校*2年生

部活…十穀寮**10

年齢…16歳  CV:赤﨑千夏

誕生日…3/1

身長…158cm

武器種…HG

趣味…料理、球技

ヘイローは、上向きに生えた2本の稲穂が円を作る。ご神紋+モチーフ

栗色の長髪を後ろでまとめている。

明るく活発。

ミオには「にっちー」と呼ばれている。

十穀寮の食堂部門の主要人物。

☆固有武器『』

 

 

 

ミタケ

名前(フルネーム)…科沢(しなざわ)ミタケ /科泽美岳

学園…葦之原高等学校*2年生

部活…中書寮*

年齢…16歳  CV:和久井優

誕生日…8/14

身長…160cm

武器種…AR

趣味…鍛練、相談に乗ること

・ヘイローは、正三角形の上の頂点に円が重なる。完全なるモチーフ準拠

・青緑色の短髪、瞳は緑

・物静かでおとなしいが意外と行動的。

・ミオには「みーたん」と呼ばれている。

・人脈が広く、生徒会たる中書寮の窓口のような形で多くの生徒たちに慕われている。

☆固有武器『月下の遠吠』

ミタケが携帯するアサルトライフル。普段は消音器で抑えているがけっこう大きな発砲音が鳴る。

 

 

 

サイカ

名前(フルネーム)…昼神(ひるがみ)サイカ /昼神才华

学園…葦之原高等学校*2年生

部活…中書寮*《/blur》

年齢…16歳  CV:真堂圭

誕生日…10/14

身長…156cm

武器種…HG

趣味…温泉巡り

・ヘイローは、内部右寄りに縦の曲線がある円。天岩戸開きの神話より

・黒髪、瞳は深緑。

・物静かだが頭が回る参謀タイプ。

・生徒会たる中書寮では基本的に会計を担当しているが、知恵を貸す名目で他部署にも頻繁に出入りしている。

☆固有武器『機知の化身』

 

 

 

クモリ

名前(フルネーム)…美袋(みなぎ)クモリ /美袋九毛里

学園…葦之原高等学校*1年生

部活…無所属

年齢…15歳  CV:石原夏織

誕生日…10/4

身長…148cm

武器種…SMG

趣味…探検、人助け

ヘイローは、円の下に二枚の紅葉。伝承関連+現在の市の木

栗色の短髪。あまり手入れはしておらずボサボサ気味。丸みを帯びたケモミミがあるが埋もれ気味で、左耳は少し欠けている。

好奇心旺盛で、葦之原の自治区を駆けずり回っては色々なところに顔を出している。

ただ遠く離れた学区から越してきたらしく、葦之原の地理には疎い。

☆固有武器『クモリ流二挺火器』

 

 

 

ユスラ

名前(フルネーム)…(いわい)()ユスラ /祝户梅桃

学園…葦之原高等学校*2年生

部活…図書寮*

年齢…16歳  CV:田澤茉純

誕生日…2/5

身長…154cm

武器種…SR

趣味…調べもの♡

・ヘイローはピンク、縦に四分割の線が入った六角形。ご神紋+青柴垣

・青みがった髪で左肩にまとめたおさげ、瞳もピンク

・図書寮の仕事の時は真面目だが、普段はセクハラや下ネタ発言が多い問題児。ちなみに本人のプロポーションは控えめ

・博識であるため知識を求めて訪ねてくる生徒もいるが、上記の悪癖のため敬遠されがち。

☆固有武器:『』

 

 

 

キョウカ

名前(フルネーム)…津秦(つわだ)キョウカ /津秦镜华

学園…葦之原高等学校*3年生

部活…図書寮*

年齢…17歳  CV:清水理沙

誕生日…9/26

身長…155cm

武器種…HG

趣味…調べ物

ヘイローは、横並びで重なりあう二つの円。二枚の鏡から

幅広い知識と高い支援能力を持つ秀才。ただ重度のあがり症のため、人前に姿を見せることは少ない。

 

 

 

 

 

 

*1
ドイツの運輸省的なところから日付を拾ってきたはず…詳しくはもう覚えてない…

*2
ヴェルサイユ条約。でもあんまり深い意味はない

*3
モデルはワルサーWA2000にしています。wikiを参照して出てきた中から比較的軽く、有効射程も長めの自動小銃を選んだ次第です。ミリタリー疎いからゆるして…

*4
犬の日と猫の日のちょうど中間。チサキと被ったのはほんとに偶然

*5
引き続きwikiのお世話になり、20式5.56mm小銃(擲弾発射器付き)になりました

*6
ついにオリジナルの学校を考えるに至ってしまった…

*7
警察権を持つ治安維持組織。要は風紀委員

*8
例大祭。以下同じ

*9
生徒会

*10
自治区内の一次産業の管理・振興を司る組織。要するにほぼ農林水産省。学内の食堂も運営している。





未開封の子に関しては気長に待っててくださいね


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prologue:迷子は奇妙な銃を持って
銃声響く、見知らぬ街



ちょっとwiki眺めただけで沼る癖をいい加減治すべきなんだけど何科だかわかんないね
とりあえず魔法科じゃないことは明らk((殴



 

「委員長!!」

「…どうしたの?」

 パトロール中、息せききってやって来た同級の風紀委員。突然の大声に内心驚いたのはさておき。委員長が先を促すと、息を整えた彼女が伝えてきたのは「街中でチンピラが乱闘を繰り広げていた」という過去形の報告でした。

「…既に解決済み、ですか?」

「いえ、解決済みというか…乱入してきた生徒が鎮圧したのか…」

 ヒナ委員長の気迫に押され気味とはいえ、いくらなんでも歯切れが悪いように思えます……一度落ち着かせて聞いた話をまとめると、鎮圧に入ろうとしたところで突如「ケンカはやめなさぁーい!」という声とともにチンピラたちが吹き飛ばされ、声の方を見ると見慣れない制服を身にまとった生徒が走り去っていったとのこと。

「白いロングガウンにグレーのブラウス…確かに、この辺りの学校ではありませんね」

「どこへ行ったかはわかる?」

「それが、後を追った面々が…イオリさんまで吹き飛ばされてしまい、撒かれてしまったと」

「…何だって?」

 

 

【チナツ⇒ハリカ】

 

「んっとになんなのここ…」

 どうも。お初にお目にかかります私、稲梓(いなずさ)玻璃花(ハリカ)という者です。ちょっと特殊な高校に通う女子高生でした…が現在、見覚えもないよくわからない街中の路地裏に身を潜めております…。

「幸いなのは魔法が使えることか…学校騒ぎになってるかなぁ~…」

 右手で鈍色に光る小銃…形態の特化型CADを見つつ、ほうっとため息をついた。

 

 前述の"ちょっと特殊な高校"、その名は「国立魔法大学附属第四高校」。魔法とは事象に付随する情報体エイドスを書き換える……簡単に言うならば()()()()()()()()技術。私はそれを身に付け使いこなす魔法技能師のタマゴということです。

 まだ勉強中の身の上、ホントは(みだ)りに使いまくるものではないんですが…なにぶん今は非常事態なので…。

 

「こんな女の子達がドンパチしてる場所が当たり前みたいにあるわけないし……というかいつの間に眠ったのか記憶ないし………これ、まさかトリップって奴では…?」

 …もっともそれ以前に、私はいわゆる転生者。第四高校なんてモブもいいとこだけど、これが…本で読んでた魔法…!ってものすごく感動した。いやもう理論は割と理解できてた方だから色々試したよね。振動系がからっきしで色々ダメだったのが残念だけど。…それがふと目を醒ましたらこんにちは見知らぬ世紀末☆とは?なんなのこれ??

「あぁ~…探されてる…探されてるよぉ……」

 表から聞こえてくる、どたばたという慌ただしい足音と怒鳴り声。探しているのは「白とグレーの制服」を身にまとい、「黒髪を白いリボンでポニーテールにした」生徒…やっぱり私だ…!ひとまず髪はほどいてリボンも仕舞ったけど、このままここにいたら見つかるのは時間の問題。あまりにもドンパチが怖すぎたとはいえ、介入しちゃうのはいくらなんでも浅慮が過ぎた、と反省してももう遅い。

 …なんか追いかけ回されて怖くて魔法使いまくったけど、皆様無事だろうか?どうしよう今更不安になってきた。

「殺傷性ランク信じるしかないなぁ…」

 数を相手取るために規模を大きくしたけど、あの魔法…『偏倚(へんい)解放』は記憶が正しければCランクだったはず。傷害性しかないやつ。だからたぶん大丈夫…だと信じたい。

 人通りがなくなった瞬間を見計らって、息の詰まる路地裏を抜け出すことにした。…もっとも、どこに向かえばいいのかなんてわからないんだけど。

 

 

【ハリカ⇒ヒナ】

 

「手も足も出なかった…面目ない…」

 合流したイオリは砂埃にまみれたまま悔しげな顔でポツリと呟いた。

「面目ないのはいいから。状況を詳しく聞かせてくれる?」

「あ、あぁ…向こうは追手を片っ端から全員吹っ飛ばす勢いだったから、あたしが出ることにしたんだけどな」

「イオリのことですから、おおかたいつも通り大声で呼び掛けて警戒させたんでしょう」

う…

「チナツ」

「失礼しました。…それにしても、イオリが手も足も出ないなんて珍しいのでは?」

 チナツの言葉に、うつむいて「確かに"止まれ!"とは言ったけど…」とこぼしていたイオリが顔を上げた。…らしくない神妙な顔で。

「それがさぁ…何をされたのか、よくわからないんだよ」

「…どういうこと?」

「あいつの銃は妙に薄っぺらいピストルだった。それを向けられて身構えたけど、引き金の音だけして弾は出なかった。それで弾切れかと思ったら…ものすごい風で吹っ飛ばされたんだ」

「弾が出ずに、突風だけ…ですか?」

 確認するような質問に無言の首肯を返されて、チナツはすっかり考え込む姿勢になってしまう。…私も人のことは言えないけれど。突風だけを起こす銃?安全性は高いかもしれないけれど、ここキヴォトスで銃に安全性を求める人間なんて数少ない。キヴォトス人は頑強なのだから。

「…何かしらの違法武器かもしれない…けど、今は行方を追うのが最優先。制服の特徴は聞いているけれど、もう少し情報が欲しい。例えば、ヘイローとか」

「ヘイローか……ヘイロー………」

「……あの、イオリ?」

 今度はイオリが沈黙してしまった。ようやく復帰したチナツの声にも全く反応がないので、

―――BANG!!

「ぅおっ!?」

 弾丸を抜いて空砲を鳴らしてやった。

「急に固まっちゃってどうしたの?」

「いや…なかったかもしれないって」

「なかった、って?」

「…ヘイローが」

「………は?」

 

 

【ヒナ⇒ハリカ】

 

 しばらく街を彷徨ってわかったことがある。なんか、見渡す限り女の子しか見当たらないのだ。まさか本当にいないなんてことはないと思うんだけど、居住区が別とかそんな感じなんだよね?なんだろう妙に不安。

 あとみんなが頭上に浮かべてる輪っかはなんですか?なんか黒い翼がついてる子もいるし……あ、仮装?ハロウィン?カボチャとか見当たらないけどハロウィンだな?なるほど、ここのハロウィンはずいぶんと過激なんだなぁ…

「…で納得できるわけないでしょ!

 いや、本当に治安が悪い。戦中っぽくはないのにここまで銃弾と爆発音が飛び交う風景、二次元でも見たことあるかどうか。

 …今気づいたけど、「風紀」の腕章をした子達が慌ただしく走り回ってる。たぶん治安部隊的な役割なんだろう…何人か吹っ飛ばしちゃったかも。ごめん。

 

「…あ」

 その時、一人の小さな女の子の姿がふと目についた。全体的に黒い出で立ちに白い髪。何事か騒ぐ集団に向かって歩いていく……気付いてない?いやまさか。じゃあどうして?と思案するうち、女の子に銃口が向けられて――

「危ないっ!!」

 考えるより先に足が動いて、女の子の前に飛び出した。背中に弾丸の感覚。やっぱり圧縮空気だけじゃ衝撃を抑えきれなかった。ぐっ、と苦悶の声を漏らしてうつむいて、気がついた。女の子の左肩に「風紀」の腕章

「…え」

 それと、女の子が持つ厳つい機関銃

 言葉を失ったところで、横からぐいっと腕を引っ張られる。振り向けば女の子が機関銃を構え、騒いでいた集団を蹴散らしていくところ……ねえ嘘でしょめっちゃ強いじゃん。

「本当にヘイローがありませんね…薄いとかではなく」

「おい!あんた大丈夫か!?」

「…はっ!あ、大丈夫です失礼しましたぁ!!」

「あっ!?おい待て!!」

 

 妙に恥ずかしくなって逃げ出してから、行く宛がないことを思い出したけどもう足が止められない。プライドとかそういう問題じゃないけど、ああでもこの状況で身を寄せるならやっぱりあそこがいいのか…?

「見つけたぞ!あいつだ!撃てぇ!!」

うわあああもおおおお!!

 たくさんの銃口に出迎えられて細い路地裏に駆け込んだ。あのヘルメット、最初に吹っ飛ばした集団じゃないですかやだー!!ごめんなさーい!!でも正当防衛はさせてくださーい!!と背後に向けてCADの引き金を何度も引いて…

「っあ…はぁっ、やっ、ば……!」

 がくりと足の力が抜け、地面に手をついた。…想子(サイオン)枯渇。ゲームとかで言うMP(マジックポイント)0みたいなもの…しまった、考えてみれば半分無意識に防御をし続けていたから、その分消費が早かったのか。膝に手をついて体勢を立て直したけど、頭痛と眩暈(めまい)で足元がおぼつかない。どうしよう、追っ手が、まだ…

「――見つけました」

 …正面からやって来た誰かに抱き止められた。上げた視線の先には、とがった耳と薄桃色の髪。何か"後は任せて"的なことを言われた気がするけど……そこからの記憶はない。

 

 

 

 

 





・ハリカ
魔法科世界からこんにちはオリ主
そこそこ強め()な四高モブ
収束系カンスト防御に自信ネキ。振動系は家系的に苦手

・チナツ
ゲヘナ風紀委員
常識人枠と聞いて語り手&MVPに選出

・ヒナ
ゲヘナ風紀委員長
予想外の報告続きの末、当人が目の前に飛び出してくる展開に直面した
とりあえず面倒事が増えたことはわかった

・イオリ
ゲヘナ風紀委員
一回吹っ飛ばされた


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秘密と去就

物々しく章作ったけど二話だけになったよ


 

 引き金を引くと、カチリと音が鳴る。……けれど、それだけ。

「……………何も起きませんね?」

「今度こそ弾切れ、なのか…?」

 聞いていた突風は起こらず、仮の的にした木も無風の外気の中で静止したまま。後輩二人の声を背に、手の中で鈍色に光る銃に目をやった。…例の少女が持っていた異様に平たい銃。性能を試すつもりで使ってみたけど結果はこの通り。持ち主に聞くのが早いけれど、当人は別室で今も眠っている。

 

 あのあと逃げ出した少女をチナツが見つけたが、ヘルメット団に追い回されたらしい少女は疲弊しきっており、抱き止めたらすぐに眠ってしまったらしい。それで、ひとまずここ、ゲヘナ学園風紀委員会本部まで連れて帰ってきたのだ。

「一応、シャーレの先生には伝えておきました」

「わかった。…本当にこの銃なのよね?」

「そのはずだけど…他にそれらしい持ち物もなかったし」

 少女はナップサックを背負っていたが、中身はタブレット大の謎の機器と財布、筆記用具とほとんど真っ白なメモ帳のみ。あとはこの見慣れない銃と、ポケットにハンカチと携帯端末。持ち物はこれで全部だった。ハンカチやブラウスの裏にあった刺繍から"ハリカ"という名前はわかったものの…

「ヘイローがない以上、キヴォトスの中を調べても出てくる可能性は低いですね…」

「…アコ」

 思考の続きを接がれて少し動揺した。「ところで委員長、私もその銃を見たいのですがよろしいですか?」というアコに、まだ未知のものだから気を付けるようにと伝えて渡しておく。

「…弾丸が入るような厚みすら無し、撃鉄の部分は…ボタン?これ、ほんとに銃なんですか?形だけのおもちゃにしか見えませんけど…」

「でも、実際にそれでヘルメット団を圧倒して逃げおおせた。ただのおもちゃじゃ説明がつかない。ヘイローもない丸腰…なのに……」

 

 そこまで言って、はたと思い出した。そんな丸腰の状態で…あの少女は、私の前に飛び出して…?イオリも気づいたようで、「あ」と短い声を落とした。

「待てよ?…あいつ、被弾してなかったか…?」

「それなんですけど…妙なんです」

 小さく手を挙げて言ったのはチナツ。

「妙、とは?」

「背中に弾丸を受けたのは私もはっきりと見ました。そのとき顔をしかめたのも。ですが彼女の背中、ブラウスすら無傷で…被弾した痕跡がないんです」

「そうなのか?」

「まるで、本当にヘイローがないだけみたいじゃないですか…」

「…わからないことが多すぎるな」

 本当に、今日最大の面倒事だ。呑気に眠ってないでさっさと目を覚ましてほしい……通知音に顔を上げると、チナツが自前の端末を見ていた。シャーレの先生から返信があったらしい。

「…別件で忙しいのでこちらには来られそうになく、申し訳ないが連れてきてほしい…とのことです」

「…そう」

「そういえば、チナツは明日またシャーレに赴くんですよね?その際に連れていってはどうですか?」

「そうですね。もとより先生が来られない場合はそのつもりでしたので」

 …目の前で勝手に方針が固まりつつある。

 でもまあ、こちらが抱え込まずに済むならその方がいいか。そう思ったから、窺うようなチナツの視線に無言でゴーサインを出した。ゲヘナの生徒は自由すぎるから、風紀委員は忙しいのだ。

 

 

【ヒナ⇒チナツ】

 

 日を跨いだ明け方になってようやく目を覚ました少女(医療部の生徒が付き添ってくれていました)は"稲梓(いなずさ)ハリカ"と名乗りました。彼女はやはり外から来たようですが、ゲヘナ学園はおろかキヴォトスという都市名すら知らない様子でした。またどんな目的で、どのようにしてやってきたかもわからないそうです。

 一方で彼女が所属していたのは"第四高校"とのこと。ナンバリングしかない学校なんてあるんでしょうか…それはそうと二年生とは。先輩だったんですね。

「…ちょっと変わった体質、くらいに思っててください」

 そして、彼女を中心に起きている不可解な現象についても尋ねましたが、とても言いづらそうな様子でそう言われただけでした。加えてあの風変わりな小銃はそれを補助するものだと。…それ以上の詳しいことは、いくら聞いても教えてはくれませんでした。「実戦になればわかるんじゃないですか?」と愛銃(ホットショット)を取り出したアコをなだめて、早めにシャーレへ向けて出発して…そして現在に至ります。

 

「装甲車を運転できる高校生とは…?いやでもブランシュの時…あれオフローダーだけどやってたな…」

「どうかしましたか?」

「いや…こんな護送されてるみたいなの初めてで…」

「みたいではなく護送ですよ、念のためです」

「そ…そっか」

 兵站部提供の軽装甲機動車の中。ハリカさんは慣れない環境に緊張しているようです。…入学当初の私もこんな感じだったんでしょうか。返却された紫のナップサックを胸に抱いて縮こまる姿は…やはり、ヘルメット団を圧倒した人物とはとても思えませんでした。

「なんというか…こんな治安悪いの?キヴォトスって」

「毎日ではないですよ…一応。ゲヘナ自治区が特別ということもありますし」

「運悪いんだなぁ私…」

「そのようですね………あの、ハリカさん」

「何?」

「…やはり、教えてはいただけないでしょうか?"体質"について」

 

 声を落として問うと、ハリカさんは少し顔を上げて「んー…」と唸る。

「…やっぱり、そう軽々と話せるものじゃない…かな」

「そうですか…おや」

 端末に着信が入って、そういえばハリカさんの端末は繋がるんでしょうか?などと考えつつ画面を見ると、差出人はシャーレで待っているはずの先生。

『チナツ、今こっちに向かってる?』

『どこかシャーレの近くで揉め事が起きてるみたいだから、巻き込まれないように気を付けて』

「…近くが戦場になってる?」

「え゛っ」

 ちらと見ると、ハリカさんは思いっきり顔をしかめていて。思わず吹き出しそうになるのをなんとかこらえました。

「大丈夫です。たとえ出くわしたとしても、この機動車は頑丈ですから」

「そ…れは、そうだろうけどさ?わ、私はヤだよ?こんなの全然慣れてなんか――」

「ぅわっ!?」

 

 不意に運転手(二年の先輩)が叫んだ次の瞬間、ドカンッ!という大きな音と共に車体が大きく揺れました。

「っ!?」

「わ、っ!?」

 顔を上げ、後部座席から身を乗り出して前方を確認するとヘルメット団の姿。何やらわめいているようですが…

ウチらのケンカに水を差すなんていい度胸じゃねえか!!

「知らないよそんなの…こんなところでケンカなんかしないでよ!」

「聞こえてないと思いますよ」

「知ってる!ああもう、この辺りまで来たら平和だと思ってたのになぁ…」

 ハンドルを握ったまま愚痴る先輩をよそに、少し不安になりました。なにぶんゲヘナの外は中に比べれば本当に平和ですし、加えて私たちにとっては天敵といえる温泉開発部が冬でもないのにやたら活発化してきていたのもあって、戦闘要員を連れてきていなかったのです。

 あいにく私は回復要員。私も先輩も戦えなくはないですが…やはり、無理を言ってでもイオリを引っ張ってくるべきだったのでしょうか。

 …などと考えていた意識は、突如響きだしたバラバラという激しい音に引き戻されました。

「うわっ、マジで撃ってきた!」

逃げるんじゃねぇー!!

「なんて理不尽…とにかく、早くバックを」

「いえ!合間を縫って突っ込んでください!」

「っ、ハリカさん!?何を言って…」

 はたと隣を見ると、ハリカさんはあの鈍色をした薄い銃を構えていて。

「…チナツちゃん、これだけは話しておきます」

「えっ?」

「ちょ、ここ車内っ!?」

「私がこれを使うときは、大技です」

 カチリ、と引き金が引かれて―――弾は出ず。

 

 …代わりに、バラバラという音が()()()()()()()()ました。

「…え」

「今です!」

「わ、わかった!」

 はっと前を見た私が固まったのをよそに、機動車は誰もが凍りついたように動かない戦場の真ん中を駆け抜けました。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()の下をくぐるようにして。

 

 

【チナツ⇒ハリカ】

 

 …この世界のことが本当にわからない。なんか、いろいろぶっ飛びすぎてる気がする。はっきり言って理解が追い付かない。

 事前にざっくりと、かなりざっくりと説明を受けていて、いま改めて説明を受けてるんだけど頭の中に宇宙が広がる。「数千の学校が連合する超巨大学園都市」。中枢は「連邦生徒会」。その直属の「連邦捜査部"S.C.H.A.L.E(シャーレ)"」。もうわけがわからないよ*1

 

「…つまり、君はどこか、ここじゃない世界から来た、と?」

 そして目の前のこの人は、シャーレの顧問を勤める『先生』らしい。ここに来て初めて男性を見た気がする。ついでにキヴォトス人の頑強さについてと、先生が外から来たという点では私と同じらしいことも聞いた。チナツちゃんはかなりの信頼を寄せている様子だったけど、親身に話を聞いてくれる姿勢から何となく納得できた。

 チナツちゃんから紹介されて自己紹介も済ませたあと、チナツちゃんと運転手さん(フユコさんというらしい)は別件で出ていき、現在シャーレのオフィスに二人きりで面談を受けている。

「…はい。突拍子もない話ですけど、"超巨大学園都市・キヴォトス"だなんて聞いたこともなくて…」

 迷ったけど信頼できそうな大人だと思ったので、私は今の境遇について素直に話すことにした。ここまで見聞きした情報から言葉は通じるし通貨も同じらしいとわかったけれど、まだ衣食住が完全に確保された訳じゃない。それらを整えるためには、やっぱり頼れそうな人にちゃんと理解してもらう必要がある。

 …などと一丁前に考えつつ。私は先生がそんな馬鹿な、と笑うこともなく聞いてくれたことにひとまずほっとして、

 

「…本当に突拍子もない話じゃないの」

「っっ!!?」

 …突如として背後から聞こえた声に、思いっきり肩を跳ねさせた。

「ユウカ、それにチナツも…立ち聞きはよくないよ」

 振り向くとオフィスのドアが開いて、数分ぶりのチナツちゃんと、青髪をツーサイドアップにした少女が入ってきた。

「すみません先生。やはりどうしても気になってしまって」

「あ、あたしはたまたま聞こえちゃっただけだから!」

「まあまあ。ハリカさん、この子は」

「自己紹介なら自分でする!えっと、私はミレニアムサイエンススクールの2年、早瀬ユウカよ」

 気の強そうな青髪少女はそう名乗った。どこかゲヘナ学園で会ったアコさんと似たタイプなのかもしれない。服装はこっちの方が圧倒的にしっかりしてるけど。…あと、この子に対してなんだか引っ掛かりを覚えてる。魔法師としての私じゃなく、転生者としての『私』のセンサーに。

 

「あ、はい…魔法大学附属第四高校2年、稲梓ハリカです。よろしくお願いします…?」

「……まほう…?」

「あっヤバ」

 とっさに口を押さえたけどもう遅い。ついつい同じように学校名乗っちゃった。でも目の前のユウカちゃんより先に、チナツちゃんが口を開いた。

「それってもしかして、"体質"と仰っていたことと何か関係が?」

「そ…そう!そうなんだ!」

 さすがチナツちゃん。…とはいえ、失言一発で抜き差しならなくなってしまったので、私は観念して自分が使う魔法についてざっくりと、かなりざっくりと話すことにした。適性がなければ視認もできないということも含めて。…そう、()()()()()()()()なのだ。だから"体質"と言ったのも嘘じゃない。

「一応、超能力みたいなものが使える生徒はいるらしいけど」

「そうなんですか?でもあんまり大っぴらにはしたくなくて…まあ、既にけっこう使っちゃってはいるんですけど」

「そういえばここに来る途中も、揉め事に巻き込まれて使ってましたよね?」

「ぅぐ…」

「あ、結局巻き込まれちゃってたの?」

「はい…結局避けられませんでした」

 

 肩をすくめるチナツちゃん。ちなみにユウカちゃんもあの揉め事については把握していたようで、今はまだ大丈夫だけどあれを何とかしないと自治区に戻れなさそう、とため息をついていた。

「でも切り抜けられたのね…チナツは見たの?魔法とやら」

「ええ、すごかったんですよ?飛び交っていた弾丸がいきなり全部一ヵ所に集まってしまって」

「は!?えっ何それ!?」

「ま、待ってチナツちゃんあんまり言わないで…!」

 ここに来る途中の出来事をすらすらと語り出すチナツちゃん。声のトーンはあまり変わらないけど、瞳はらんらんと輝いているように見えた。どうも私の行動は彼女を少なからず興奮させちゃったらしい。

 思い返せば妙に格好つけてたなあのときの私…と思って顔が熱くなった。「これだけは話しておきます。これを使うときは、大技です」って…だめだこれ以上は恥ずか死しちゃう。振り返らないでおこう。

 まあ、大技だったのは事実だけど…。あのとき使ったのは収束系魔法『輻輳点(コンバージェンス)』。指定エリア内の固体をその中心に集める領域魔法。銃弾の運動エネルギーを圧倒できるかはやったことないからわからなかったけど、なんとか(サマ)になって安心した。ちなみにそのあと下をくぐり抜けられたのは、重力を弱める魔法をかけ直したからだ。

 …けど、これは姉譲りのまさしくお家芸ってやつで、私はそれを模倣してるだけにすぎない…じゃなくて。

 

「あっあの、少しいいですか?話しておきたいことがあるんですけど!」

「うん。何かな?」

「…私を、ここに置いていただけませんか?」

「…ここって、シャーレに?」

 きょとんとして問う先生に、力強くうなずき返した。

「えっ待って、ここに?」

「これでもちょうどいいと思ったんですよ?同じように外から来た人がいて、業務内容について聞いた感じ中立な立場なんでしょう?」

「まあ、それはそうね」

「自衛はできますけど、やっぱり体質上どこかに編入するのは悪手でしょうし。情報が押し寄せて忙しそうなここを手伝えば、常識の違いも手取り足取り教わるより早くカバーしていけると思うんです」

 

 大まかに考えを伝えると「なるほど…確かに、筋は通ってるわね」の評価をいただけた。…生々しいことを言えば、安定をより確実に手にしておきたいというのもあるけれど。これでも地方の名家出身、衣食住に妥協するのはやっぱりどうしても抵抗感があった。

「…こういうこと言うのもなんだけど、ほんとに忙しいよ?大丈夫?」

「…まあ、頑張りますよ。帰り方が見つかるかもしれませんし」

「…やっぱり、帰りたいんですか?」

 少しためらいがちに尋ねてきたように聞こえたけど、チナツちゃんの表情は特に変わりなかった。

「…まあ、そうだね」

 大切な友達がいる。あと家族もいる。治安うんぬんを差し置いても、いるべき場所にいるべきだろうから。

 

 

 

 

 

 仮眠室のベッドをひとつ使わせてもらうことになって、ようやく平和な眠りに就けた真夜中。

 全身にじっとりと嫌な汗をかいて飛び起きた。あたりを見渡して、そこが自分一人しかいない仮眠室であることを確かめると、そのままベッドの上で頭を抱えた。

 悪い夢を見た。そう、所詮は()()()。そのはずなのに、そこには嫌に現実味があって、境界を突き破る説得力があるように感じて、…私は感覚的に理解してしまった。

 

「そっか………私、死んだんだっけ」

 

 

 

 

 

*1
(^◦ω◦^ )





・ハリカ
起きたらゲヘナ学園、そこからシャーレという場所に移動することになった迷子
色々と軽率にやらかすタイプで、結局魔法についても明かすことにした。簡単に見せられるものってなるとやっぱり振動系だよなぁ…と思いながらユウカを浮かせてみせるなどする
※輻輳点はオリジナルです。理論上いけるのだろうか…。
そのうち原作(魔法科)に登場してないとおかしいくらいのレベルになっていくかもしれない。それくらい生身で切り抜けるのはシビアな世界なもので……知ってるかこれ兄姉はもっと優秀なんだぜ………

・チナツ
シャーレまで同行したのもあってけっこう打ち解けてきてる
内心ではハリカに興味津々

・ヒナ
チナツに任せた
口調が掴めない…。他人の銃を勝手に触ることはしないと思うけど、誰かにやってほしかったので

・イオリ
ただただ困惑するだけの立場になってしまってる。申し訳ない

・アコ
遅れて登場なゲヘナ風紀委員行政官
ただ立場としてはおおむねイオリと同じ。ハリカには服装の点で密かにドン引きされていた

・ユウカ
とんでもねえことを聞いちゃったミレニア(略)スクールのセミナー会計
ちょっとジャンプしてみてと言われ、何事かと思ったら宙に浮かんだままなかなか着地できない…という体験をさせられる子

・フユコ
なんとなくネームドにした風紀委員会兵站部モブ。今後の登場は未定
あとが面倒そうなので誰にも話さないタイプ

・先生
チナツに頼られたシャーレの主
ゲーム見てると人格者なのか変人なのかわからなくなってくることでお馴染み


・作者
殖やしすぎてモチベ管理が大変(^ω^≡^ω^)
誰かに想子光視認させちゃおうかなと考えるなど


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Ep.1:廃校対策委員会
砂の都市にて


こやつモチベーションの吸引力がすごいの


 

「ごめんくださーい!」

 カタカタヘルメット団を退けたあと。校舎で話し合っていると、外からそんな声が聞こえた。窓の外を見ると、校門に女の子が一人。

「あれ?誰か来ましたよ」

「何?まさか残党?」

「いえ、そういった感じでは…」

「あの青いネクタイ…連邦生徒会ですかね?」

「あれ、ハリカ?」

 耳慣れない名前を口にしたのは先生。外の女の子を見てきょとんとしている。

「およ?先生はご存じ?」

「ああ、諸事情でシャーレが保護してる子だよ。でもなんでこんなところに…おーい!」

 先生が手を振ると、「今行きまーす!」と叫んだ女の子が校門から入ってきて、迎えにいくという先生に私たちもついていくことにした。

 

「連邦捜査部"シャーレ"から来ました、稲梓ハリカです」

 そうハキハキと挨拶した彼女は私と同い年らしい。ノノミに詰め寄られて動転していたのはさておくとして。なんでも先生をサポートするように言われてここに来たんだとか。

「連邦生徒会直々に?」

「はい、というかワケあり同士一ヵ所にまとまってた方がいいってことでしょうけど。一応、端末にもメッセージは出してましたよ?」

「え?あぁ、ほんとだ…いや、ちょっとさっきまで立て込んでてさ」

 端末を見た先生がごめんね、と頭をかく。どうやら彼女…ハリカからのメッセージは、さっきカタカタヘルメット団を相手取っている間に来ていたようだ。

「…ん?あれ、ハリカ早すぎない?迷わなかった?」

「迷いはしましたけどまあ…企業秘密ってことで。物資も多めに持っていった方がいいって言われたけど、こういうことなんですね」

「追加物資ってことかな。助かったよ~」

「そういうことでいいと思いますよ、どういたしまして。特に弾薬は私関係ないので…」

「?…どういうこと?」

「あー…私、外から来た迷子みたいでして。こういうものの扱いは不慣れで」

「…気になってたけど、ヘイローが見当たらないのはそういうことなのね」

 セリカの言う通り、ハリカの頭には私たちにあるようなヘイローがない。私も気になってた。自衛には自信あるので安心してください、というハリカも交えて、再び話し合いに戻ることにした。

「…そうそう、ここでひとつ作戦を練ってきたんだよね~」

 

 

 

【シロコ⇒ハリカ】

 

 アビドス対策委員会でヘルメット団とやらの前哨基地を壊滅させに行くらしい。

 …こんなこといきなり言ってもわからないよねごめん。正直私もついていけてない。

 来る途中に気づいたけど、ここアビドス自治区はほとんどゴーストタウン同然。それもあってかアビドス高等学校にも現在、全校生徒で5人しかいない。3年はのんびりした性格で一人称おじさんなホシノさん。2年は物静かで無表情なケモミミ(白)ことシロコちゃんと、おっとりとした性格で…同い年とは思えないモノをお持ちなノノミちゃん。1年はキリッとしてるケモミミ(黒)ことセリカちゃんと、しっかり者で一人だけメガネなアヤネちゃん。そしてこの5人全員が協力して、アビドスの廃校を食い止めようというのが"アビドス廃校対策委員会"とのこと。

 一方のヘルメット団というのは、その名の通りヘルメットを被った武装集団。…ゲヘナで見たけどそんな安直なネーミングでいいんだあれ。それで、カタカタヘルメット団という派閥がここアビドス高等学校を繰り返し襲撃してきているらしく、物資が底をつきかけていたけど私たちの補給でなんとかなったので、向こうも油断しているだろう今のうちに…ということだそうだ。

 

「殺伐としてるわぁー…」

「それでは、引き続き戦術指揮をお願いします!」

「うん、任せて」

 アヤネちゃんの言葉に、先生はためらいなく頷いた。戦術指揮ができる先生すごいな…話には聞いてたけどこうして見るのは初めてかもしれない。

 …あ、私は二人と一緒に校舎で留守番。銃器は使えないってさっき言っちゃったし。こっちに万が一のことがあればその時は、くらいの気持ちではいる。

 

 

 …さて結果から言うと、アビドス&先生は大勝利を納めた。なんというか…月並みなことを言うけど凄かった。ドローンカメラ越しに見る感じになったけど、ホシノさんはガンガン攻めていくし、セリカちゃんもうまく遮蔽物を見つけて前進していくし、シロコちゃんに至ってはアヤネちゃんとはまた別にドローンを駆使していた。…けど、何より強烈だったのはノノミちゃんだろう。あのふんわりとした笑顔でマシンガンを振り回す姿には私の語彙力も蜂の巣にされた。

 そんな具合でカタカタヘルメット団の前哨基地は壊滅され、前線に出た四人は軽い足取りで意気揚々と戻ってきた。出迎えに行った先生&アヤネちゃんとの間でねぎらいの言葉が交わされる。

「火急の問題だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね!これで一息つけそうです!」

「そうだね、これで重要な問題に集中できる」

「うん!先生のお陰だね!これで心置きなく、全力で()()()()に取りかかれるわ!」

 

 ………ん?今、なんか聞き捨てならないことが聞こえたような?と思ったら、先生がさっそく「()()()()って?」と聞いて…話そうとしていたのを、セリカちゃんが止めた。…なんか4対1になって揉めてるみたいだけど、部外者の私にはどうにも…

「で、でも!さっき来たばっかりの大人でしょ!?今まで大人たちが、私たちの学校がどうなるか気に留めたことなんてあった!?…この学校の問題はずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん。なのに今さら大人が首を突っ込んでくるなんて…私は認めない!!」

「セリカちゃん!?」

「私、様子を見てきます!」

 そうこうしているうちに、セリカちゃんはとうとう走って出ていってしまった。ノノミちゃんがあとを追って出ていき、私たち四人と気まずい空気が部屋に残された。

 

 

 

9億!!?」

 ホシノさんから事情を聞くことにしたわけだけど、衝撃の数字を聞いて椅子から落ちた。9の後ろに0が八つ。どころかアヤネちゃんからの訂正で四捨五入したら10億と判明した。宝くじの一等(キャリーオーバー発生中!!)じゃん…。なんでも学校の借金が先にあって、諦めて去っていく生徒が続出した結果、この五人だけが残る結果になったとのこと。

 そしてその理由というのが…以前、アビドス自治区の郊外の砂漠からの猛烈な砂嵐に襲われて町が砂に埋もれてしまい、そこからの復興のために借金を作った。⇒けれどそこが悪徳業者で、今では利息を返すので精一杯…なのだとか。

「地平線のほうが妙に黄色いなと思ったけど、砂漠だったのか…」

「地平線?」

「ナンデモナイヨー」

「まあ、そういうつまらない話だよ…でも今回、ヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、ようやく借金返済に着手できるってわけ~」

「とんでもないことをのほほんと仰る…」

 …ここはただの高校どころじゃなく、自治区の中枢まで担ってるのね。なるほど。わたしおぼえた。…え、中枢がたった5人って限界過ぎない?

 明かされた想像を絶する窮状に唖然としたけど…それよりも気になったのは、彼女たちが助けを求めようとしないこと。ヘルメット団を追い払ってくれただけで十分、と口々に言うのだ。…アヤネちゃんとは話す話さないで意見が割れていたけど、不信感というか…自分で何とかするって考えは皆同じなんだろう。

「…この状況を見捨てて帰ることは、僕にはできないよ」

「私も同感ですね。気にするなと言われても、はいそうですかとは言えません」

 …もっとも、じゃあ仕方ないねとかって退いたりはしないけど。

 

 

 そんな話をした翌日、私と先生はアビドス対策委員会の面々と一緒に…

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもかわいいです☆」

「いや~セリカちゃんってそっち系かぁ。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

「ちっ違うって関係ないし!こ、ここは行きつけの店だったし…」

 …ラーメン屋に来ていた。

 経緯を簡潔に言うなら、「セリカちゃんを探し回った結果」だ。先生が早朝に出くわしたけど逃げられてしまったらしい。それで対策委員会の面々に掛け合い、ホシノ先輩がここだろうと見当をつけてやってきたらビンゴ、という流れ。

 セリカちゃん、ここのバイトは割と最近から始めたらしく、対策委員会の他メンツすらまだ知らなかったらしい。…店主が二足歩行の犬っぽいの気になるけど放っとこう。これ気にし出したらキリがないやつだ。

 なお、ノノミちゃんとシロコちゃんが先生隣空いてますよアピールをしてたのは余談。隣で若干むくれてるシロコちゃんをなだめつつ…今はそこまでお腹空いてないから小さいのでいいや。

 

「ところで…みんなお金は大丈夫なの?またノノミ先輩におごってもらうつもり?」

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードならまだ限度額まで余裕ありますし」

 セリカちゃんが名前を出した本人を何の気なしに見たら、その手には黒光りするカード…!?は、初めて見た…!いや、でも周囲の反応からしてそれほどなのか?価値観の違い?それとも慣れ?うーんわからん。

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよ~。きっと先生がおごってくれるはず。ね、先生?」

「ホ、ホシノ?先生初耳なんだけど…?」

「今聞いたからいいでしょ~?」

 …あれ、流れ変わったな…?顔をひきつらせた先生はおもむろに席を立って距離を取り始めたけど、ホシノさんがあっという間に「逃がさないよ~」と隣に移動していた。ハヤァイ!

「…私は自分の分出しますよ。大した額じゃないですし」

「…ありがとう」

「いえいえ、礼を言われるようなことでは」

 か細い声に思わず苦笑してしまう。…先生は結局、生徒たちの分は自分で支払っていた。

「早く出てって!二度と来ないで!仕事の邪魔だから!」

「あ、あはは…セリカちゃん、また明日ね」

 そして、客商売にあるまじきお見送りを受けながら、私たちは『柴関ラーメン』をあとにしたのだった。

 

 

…その翌日、セリカちゃんと連絡が取れなくなったんだけど。

 

 

 

 

 





・ハリカ
連邦捜査部シャーレに保護されているが、所属も同然の状態なので連邦生徒会の青いネクタイを着用している。ネクタイ以外は四高の制服のまま。黄色っぽくなってきたのは砂か…。
異世界ギャップにいまだ目を白黒させている
魔法は大っぴらにはしたくないが、有事となれば使う気満々ではいる。もちろん来ないほうがいいんですけどねぇ。
何がとは言わんが彼女はシロコ並み

・シロコ
アビドス高校2年、対策委員会の行動班長。
ハリカにはしばらくただのクールな少女だと思われる模様

・アヤネ
アビドス高校1年、対策委員会所属。
先生を呼んだ。もう一人来てくださるとは思いませんでした。

・セリカ
アビドス高校1年、対策委員会の書記。
口の悪さに定評のあるツンデレ
学校を飛び出したのち、バイト先に突撃される

・ノノミ
アビドス高校2年、対策委員会所属。
重量級ガトリングガン振り回す系おっとりお姉さん(意味不明な日本語)。とてもフレンドリー

・ホシノ
アビドス高校3年、対策委員会の委員長。
のんびり屋ムードメーカー先輩。ただし最前線に出る

・先生
アヤネに呼ばれた。
ハリカも来るとは思ってなかった。




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救出作戦と大事なピース

大変だ、輻輳点でモチベを収束させられている


 

「バイト先では定時に店を出たみたい」

「そこから家に帰ってないってことか…」

 …セリカちゃんが学校に来ない。電話も繋がらない中、柴関ラーメンまで向かってみたらしいシロコ先輩の言葉に不安がつのります…。

「こんな遅くまで帰らないなんてこと、これまでありませんでしたよね?」

「まさか…ヘルメット団の連中?」

「えっ、ヘルメット団がセリカちゃんを?」

「とりあえず待とう。ホシノ先輩と先生が調べてくれてるから」

 

 

「みんなお待たせ~」

 しばらくして、ホシノ先輩と先生が戻ってきました。ホシノ先輩いわく、シャーレの権限…でも始末書案件な方法でこっそりネットワークをたどり、セリカちゃんの端末の位置を割り出したそうで…。

「それはまた思いきったことを…」

「大切な生徒のためだよ、問題ないさ」

「それで…連絡が途絶える直前の位置、ここだったよ~」

「これは…砂漠化が進んでる、市街地の端の方ですね…」

「住民もいない、廃墟になってるエリア…治安が維持できなくてチンピラが集まってる場所だね」

「このエリア…以前、危険要素の分析をした際に、カタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できた場所です!」

「これは…答え出ちゃったかなぁ」

 ハリカ先輩の言葉に、自然と顔がこわばりました。セリカちゃんはバイトの帰りがけに拉致されて、カタカタヘルメット団のアジトまで連れていかれた…そういうことなのでしょう。

「学校を襲うだけじゃ物足りなくて、人質をとって脅迫しようってことかな」

「考えていても仕方ありません!すぐにセリカちゃんを助けに行きましょう!」

 …そんなノノミ先輩の鶴の一声で、救出作戦が始動しました。

 

 

「セリカちゃん発見!生存確認しました!」

 シロコ先輩が爆破したトラック。その荷台から探していた仲間が飛び出してくる姿を認めて叫びました。すぐに起き上がって辺りを見渡していて…無事なようです。それがわかって、ひとまず安堵のため息がこぼれました。

「こちらも、半泣きのセリカ発見」

「なにぃ~うちのかわいいセリカちゃんが泣いてただとぉ?そんなに寂しかったの?ママが悪かったわぁ、ごめんね~」

「ぅうわああぁ!?う、うるさい!泣いてなんか!!」

「嘘、この目でしっかり見た」

「泣かないでくださいセリカちゃん!私たちが、その涙を拭いて差し上げますから!」

「あぁもううるさいっての!違うったら違うから!黙れーっ!!」

「ふっふふ…めちゃくちゃ愛されてるね、セリカちゃん。…ほら」

「えっ?」

「心配してたんでしょ?そういうことは言ってやるべきだよ」

 にこりと笑うハリカ先輩。よく見てたんですね…背中を軽く叩いてきたのにうなずいて、先輩方につつき回されているセリカちゃんに駆け寄りました。

「っセリカちゃん!私、セリカちゃんに何かあったんじゃないかって…」

「アヤネちゃん…」

「…けど、まだ油断は禁物。トラックは制圧したけど、ここは敵陣のど真ん中だから」

「!…前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!」

 シロコ先輩の言葉に意識を引き戻されて、顔を上げると確かにヘルメット団が集まりつつありました。となれば、ここからはお仕事モードです。

 

 

【アヤネ⇒ハリカ】

 

「半端ないわ…」

 …はい。人生初、現場で肌で感じる銃撃戦なうです。魔法科世界も治安がいいかと言われれば微妙なところはあるけど、ここまでの体験はさすがにない。一生忘れらんないな…と、先生とともにアヤネちゃんのそばで待機しつつ思った。

 今回もこっち側で待機です。今回は砂漠なんか当然歩き慣れてないってのが大きいけど。アヤネちゃんは「私も戦えますから」と言うけれど、私としてはやっぱり不安なものは不安なので…先生は言わずもがな。

「…え?待ってあれ戦車!?」

「キヴォトスではよくあることですよ!」

「いやよくあっちゃ…あ、破壊しちゃった」

 

 

 …今回も、アビドス勢は見事勝利を収めましたとさ。ノノミちゃんの火力怖…

「皆さんお疲れさまです!セリカちゃん、怪我はない?」

「うん、私は大丈夫。見てよ、ピンピンして…あれ…」

「「セリカちゃん!?」」

どさりと倒れたセリカちゃんに、一気に肝が冷えた。…けど、

「Flak41の対空砲を食らったんだもん、歩ける方がおかしいって。ゆっくり休ませてあげよう」

「…そういうものですか…」

「そういうもんだよ~」

 ホシノ先輩の発言で肩の力が抜けた。ハリカちゃんも保健室行く?というノノミちゃんに断りを入れて、空いた椅子を見つけて座った。…というか、この状況でも保健室は機能してるんだ…。先生の株が爆上がりするのを微笑ましく眺めていると、アヤネちゃんが「あの」と手を挙げた。

「どうしたの?」

「これを見てください。戦闘中に回収した、散らばった戦車の部品を確認したところ、キヴォトスでは使用が禁じられている違法機種と判明しました。もう少し調べる必要はありますが…ヘルメット団は、自分達では入手できない武器まで入手しているようです」

「あれま…急にきな臭くなったね」

「この武器の流通ルートを分析すれば、ヘルメット団の裏にいる存在を探し出せますね!」

「はい。ただのチンピラが、なぜここまで執拗にこの学校を狙っているのかもわかるかもしれません」

 …アヤネちゃんみたいな子が「ただのチンピラ」って言うの、ギャップがすさまじいわ~まあそれはさておき、とりあえずもう少し調査を進めていこうということになった。

 とはいえ調べものに関しては先生やホシノさんに(かな)わないので、明日からも先生に言われた通り、四人についててあげることぐらいしかできないけれど。

 

 

 

「…さてと」

 寝泊まりしている部屋で一人、ポケットから取り出したチャック袋を膝に置く。

「やっぱりなぁ…後ろから眺めてるだけなんて柄じゃない。私だって…さ」

 誰が聞くでもない独り言をつぶやきながら、私は袋の中に集めた、火薬を燃やし尽くして軽くなった弾丸を眺めた。

 

 

 

 

 





・ハリカ
名目上は先生の護衛でもある傍観者。よく人を見てるタイプ(割と重要)
まだまだキヴォトスの常識に困惑中。当たり前のように出てくる戦車に目が点になった
おや?ハリカのようすが…

・アヤネ
今回の語り手チャレンジ。できる子な後方支援担当
なんか現場に出てる感じで書いちゃったけどたぶん違う、でも直すとなぁ…なので放置した。ごめんね
やっぱりキヴォトスの民なんだなぁとおもいました、まる

・セリカ
今回のヒロイン。完全にいじられキャラでほほえましいかぎりですね
この後めちゃくちゃ寝て回復した

・シロコ
寡黙かつアグレッシブ

・ノノミ
火力EX

・ホシノ
調査にも出張る先輩。ムードメーカーとして優秀

・先生
戦術指揮だけでなく調査も担当。少女として同じ立場に立てるのはハリカの特権だね…


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お騒がせな少女達

視点の切り替えがない回


 

【ハリカ】

 

「それでは、アビドス対策委員会定例会議を始めます」

 アビドスの五人と、特別ゲストなシャーレの二人。アヤネちゃんの宣言で物々しく始まったはいいものの少しばかり雑談で緩んできた。その空気を、バンッと机を叩いて引き締めたのはセリカちゃん。

「対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産寸前としか言いようがないわ!」

 いわく、…毎月利息だけで788万…?はっ!ヤバイまた背後に宇宙を広げるところだった。

「このままじゃ埒が明かないってこと!何かこう、でっかく一発狙わないと!」

「でっかく一発って…たとえば?」

「これこれ!街で配ってたチラシ!」

 そしてアヤネちゃんの質問に対し、セリカちゃんは待ってましたと言わんばかりに一枚のチラシをテーブルの真ん中に置いた。

「…"ゲルマニウム麦飯石ブレスレットで一攫千金"…?」

「前に街で声をかけられて、説明会に連れていってもらったの!運気の上がるブレスレットっていうのを売ってるんだって!」

「「「「「「…」」」」」」

「これ、身に付けるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの3人に売れば…」

「「却下」~」

「ええっ!?なんで!?」

 …完全にマルチ商法ですありがとうございました。食い気味に却下したつもりがホシノ先輩とかぶった。仲間たちに諭されるセリカちゃんに、思わず先生と顔を見合わせた。残念な子だったか…

 

「えっと…それでは、他にご意見のある方…」

「はいはーい」

「はい、ホシノ委員長。…なんだか悪い予感がしますが…」

 ひょいっと挙手したのはホシノ先輩。

「わが校の一番の問題は、全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよねぇ。生徒の数イコール学校の力…トリニティやゲヘナみたいに、生徒数を桁違いに増やせれば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはず」

「そうなんですか?」

「そういうこと~。だからまずは生徒の数を増やさないとねぇ。まずはそこからかなー…そうすれば議員も選出できるし、連邦生徒会での発言権も得られるしね」

「ああ…そういえばそういうシステムでしたね、ここって」

「鋭いご意見ですが…でも、どうやって…?」

「簡単だよ~?他校のスクールバスを拉致ればOK!」

「ちょっと待って」

 あれ私急に知能落ちた?なんか理解が追い付かなくなったんだけど。さっきまで真面目な話をしてたホシノ先輩が急に変なことを言い出したような。いやいや、まさか…

 

「スクールバスをジャックして、転入届にサインしないと降りられないようにするの!」

「あの、本当に待ってもらえません?どこの脱出ゲームですか?」

「興味深いね、それ」

「シロコちゃん!?」

 現実は非情だった。それどころかシロコちゃんが乗っかる始末…シロコちゃん!?寡黙で冷静な女の子だと思ってたんのにそっち側なの!?いやあの真面目に作戦練らないで?

 …アヤネちゃんの制止でもちろん却下になった。ホシノ先輩は冗談半分だったみたいで叱られてる。アヤネちゃんの悪い予感当たるんかい……風紀委員といえばチナツちゃん、ゲヘナの外も全然特殊みたいだよ…。

 

「私にいい考えがある」

「シロコちゃん…」

「はい、2年の(すな)(おおかみ)シロコさん」

「銀行を襲うの」

「…」

 無言で頭を抱えたけど、あろうことかシロコちゃんは目的とする銀行を選出済み、警備員の配置や現金輸送車のルートまで全部調査済みの準備万端だった。すごいこの子、遵法精神以外が完璧。

「5分で1億は稼げる。覆面も用意しておいた」

「おお~いいね~!人生一発で決めないと!ね、セリカちゃん!」

そんなわけあるかー!却下、却下ーっ!!」

「そうです!犯罪はダメです!」

「…むう」

「そんなふくれっ面してもダメなものはダメです!」

 …すみません、もうキャパオーバーなのでこの姿勢*1を続けることにします。正直倒れそうですが無用な心配はかけたくないのでリアクション放棄だけにします。心が折れました。もはや折り鶴になって芸術点を狙う―――。

 なお、この後ノノミちゃんがスクールアイドル「水着少女団」なるものを考えて却下され(徹夜で考えたって…それ深夜テンションって言うんじゃない?)たり、あまりのグダグダ具合にアヤネちゃんがキレたりしていた。真面目な子が怒ると怖かったです。

 

 

「…なんでもいいんだけどさ、なんでウチに来たの?」

 呆れ顔でそう言うのは、店のユニフォームに身を包んだセリカちゃん。そう、私たちは柴関ラーメンを再訪していた。ホシノさん達がアヤネちゃんをなだめる目的で。…アヤネちゃんのラーメンにチャーシューが集まってる。アヤネちゃんそんな現金なタイプとは思えないけどな…言わないけど思いつつ塩ラーメンをすする。

「あっ、いらっしゃいませー!」

 接客のために離れていったセリカちゃんを何の気なしに目で追った。店の入り口でライフルをしっかりと抱き締めた紫髪の女の子に話しかけてる…あの服暑そうだな…。不躾に見てるのもアレだから、視線を前に戻すことにした。

 それにしても、本当にこの街はなんなんだろう?いくら店が空いているとはいえ、向かいの先生以外にヒトの男性が見当たらない。女の子orヒト以外なのだ。あんまり触れない方がいいのかもしれないけど……待って、なんかさっきのあの子声がデカいな?

 

「そんな、お金がないのは罪じゃないよ!胸を張って!」

 思わず見るといつのまにか隣のテーブル、しかも三人増えていて、セリカちゃんが紫髪の子をなだめるというか、説得するというか…している最中だった。

「そもそもまだ学生だし!それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ?そういうのが大切なんだよ!もう少し待っててね、すぐ持ってくるから!」

 まあ、学生の身分ってそういうものだよね…たぶん。私の常識が通用するかはわからない。でも私の常識ではそう。(シャーレ)の私の財布がけっこう潤ってるのは棚に上げる。

 

「お待たせしました~!」

 そして、戻ってきたセリカちゃんを何気なく見たらその手には立派な大盛りラーメン…!?

「こ、これオーダーミスなのでは!?こんなの食べるお金、ありませんよぅ…」

「いやいや、これで合ってますって!580円の柴関ラーメン並。ですよね?大将!」

「ああ、ちょっと()()()()()()量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」

 …凄いこれ、滅多にお目にかかれないリアル施しだ…心暖まるやつだ…!いつの間にか私だけじゃなくホシノさん達も、四人がラーメンを口に運ぶ様子を無言で見つめていた。

「おいしい…!!」

「なかなかイケるじゃん!こんな辺鄙な場所なのに、このクオリティなんて!」

「でしょうでしょう?美味しいでしょう!?」

 あ、ノノミちゃんが話の輪に飛び込んだ。コミュ力高いとは思ってたけど躊躇ないな?

「ここのラーメンは本当に最高なんです!遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ?」

「ええ、わかるわ。いろんな所でいろんなのを食べてきたけど、このクオリティのラーメンにはなかなかお目にかかれないもの!」

「えへへ…私たち、ここの常連なんです。他の学校の皆さんに食べていただけるなんて…なんか嬉しいです」

「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」

 アヤネちゃんとシロコちゃんまで…。結局、テーブル二つの間で会話がとても弾んでいた。

「あはは…伸びちゃう前に食べなよー?」

 …白っぽい二人がひそひそ話してたのがちょっと気になったけど。

 

 そして、数十分後。

「あれ?ラーメン屋の…」

「うぐぅ…っ!」

「誰かと思えばあんたたちだったのね!?ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!」

「あっはは、その件はありがと~!でもそれはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさあ?」

「残念だけど、公私ははっきり区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす」

 アビドスは彼女たちと、敵同士として対面していた。

 

 

 

「こ…これで終わりと思わないことね、アビドス!」

 …いかにも悪役然とした台詞を残し、「便利屋68(シックスティーエイト)」と名乗る彼女たちは去っていった。もはや安心と信頼のアビドス。爆発する鞄投げてくる子にはヒヤッとしたけど…やはり先生の判断が早いのもあってか、みんなうまいこと避けて回ってた。

 …それにしても、「傭兵」。向こうの原作(魔法科)でさんざん読んだ気がするけど、ガチで耳にするときが来るとは思わなかったな…。

「妙な便利屋にまで狙われるとは…先が思いやられます。何が起きているんでしょうか」

「まあ、少しずつ調べてみよう。まず、社長のアルって子の身元から洗ってみたら?何か出てくるよ、きっと」

「はい。皆さん、お疲れさまでした。一旦帰還してください」

 りょーかーい☆とよく通るノノミちゃんの返事を聞きつつ、…手は自然とポケットの中に向かっていた。なんか…本当に、私はここにいる必要があるんだろうか。

 

 

 

 さて、次の日。この日はちょうど利息の返済がある日らしい。いつも通り先生より早く学校を訪問したらホシノさんやシロコちゃんがすでにいて、準備があるとかで慌ただしくしていた。

「それにしても、どうしてカイザーローンは現金でしか受け付けないんでしょう?」

 …で、今はやって来たカイザーローンとかいう業者に現金¥7,883,250支払い、走り去る車を見送ったところ。ノノミちゃんがふと口にした疑問についてぼんやりと考えた。なんか金額とは別に途方もない数字*2が聞こえた気がしたけど気のせいとして…確かに、向こう(魔法科)ではキャッシュレスが一般的だった。普通に考えてその方が迅速に済むし。それなのにわざわざ嵩張る現金で、輸送車まで用意して…

「シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだよ」

「うん、わかってる」

「計画もしちゃダメ」

「うん…」

 脳裡をよぎった頃には、もうセリカちゃんが先手を打っていた。シロコちゃんはしょんぼりしてる。日頃の行いってやつだぞ。

 

 

 さて、色々と調査の結果。

 まず、昨日傭兵を率いて襲撃してきた「便利屋68」。ゲヘナ学園の中でも素行不良な問題児集団として名が通っているらしい。…となると、あの風紀委員にとってはまさしく天敵になるわけか?…ゲヘナにいる間はそんな名前聞かなかったけど、たまたまなんだろう。代わりに「温泉開発部」ならめちゃくちゃ名前が出てた。どういうこと?何もわからん。

 

 そしてもうひとつ、セリカちゃんを襲ったヘルメット団…その黒幕について。

「ブラックマーケット…」

 セリカちゃん救出作戦の中で回収した向こうの兵器。それらを分析したところ、現在は取引されていない型番だったらしい。そんなものを手に入れられる場所といえば、"ブラックマーケット"しかないとのこと。

 …それは闇市ということでOKですか?ねえゲヘナが特殊って聞いてたんだけど嘘じゃない?改めてキヴォトス全体の治安レベルが不安になってきた。無法地帯こあい…

 …こんなこと言うのもなんだけど、防御特化型の私でよかったよ。ことによってはあの優等生の妹でも厳しいかも…いや、なんとかしちゃうのかな。どうだろ。お兄様は無問題(No problem.)として。

「それから便利屋68も、ブラックマーケットで何度か騒ぎを起こしていると聞きました」

「あ、そこ繋がるんだ…」

「では、そこが重要ポイントですね!」

「はい。二つの出来事の関連性を探すのも、ひとつの方法かもしれません」

 無法地帯で騒ぎ起こすあの子達すごいな…と変に感心してしまった。…まあそんなこんなで、ブラックマーケットの調査に向かうことになったよ!全然不安なまんまだけど頑張るよ!!(白目)

 …それでは、生きてたらまた会いましょう。

 

 

 

 

 

*1
(Γlll-_-)7

*2
309年





・ハリカ
色々とキャパオーバー。しんどいよね、ごめんね。もっとしんどくなるよ☆
完全に言及し忘れていたのに気づいたけど特化型(小銃形態)のほかに汎用型(ブレスレット)も持ってる。ブレスレットは怪しまれなかった。特化型は決まった系統(ハリカのは収束系単独)しか入れられないので…
便利屋とエンカウント。立ち位置はまだ先生の隣。まだ。

・アヤネ
ちゃぶ台返しをしっかりと決めた。真面目さんが怒ると怖い
後方支援担当なのはわかるんだけど度々わからなくなる彼女の立ち位置ェ…

・セリカ
攫われるわポンコツが盛大に判明するわ恩が仇で返ってくるわここまでさんざんな目に遭い続けている。残念なツンデレ

・ホシノ
悪ノリするタイプの先輩だった…

・シロコ
【急募】倫理観、遵法精神
"クールなようでアグレッシブ"もいくところまでいっている

・ノノミ
それ深夜テンションって言うんじゃない?(大事なことなので二回言いました)

・先生
苦笑するほかなかった。そして悪ノリに乗っかってアヤネを怒らせた。ハリカはあきれたカオしてる

・便利屋68
残念美人・愉快犯・狂信者・クール&ドライの四人でお送りする公認コメディリリーフ
カヨコは一人だけ違う制服の生徒がひそかに気になってた




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潜入!ブラックマーケット

年内にどこまで行きますかねぇ…(予約投稿を活用する図)


 

「わぁ~☆すっごい賑わってますね!」

「こんな街一つくらいの規模だなんて…」

「連邦生徒会の手が届かないエリアがこんなに巨大化しているとは思わなかったよ」

「うへ~普段私たちはアビドスばっかりにいるからねぇ。学区外はけっこう変な場所が多いんだよ?」

 学校を取り巻く謎を調査するために、やって来ましたブラックマーケット!思ったより規模が大きくて賑やかで、そんな場合じゃないとわかっててもちょっとワクワクしちゃいます。

『皆さん、油断しないでください。ここは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起きるかわからないんですよ?何かあったら私が…きゃあ!?』

「ひゃっ!?」

 慎重なアヤネちゃんに釘を刺された…ところで、タタタタタタッという軽い銃声がいきなり響きわたって、アヤネちゃんとハリカちゃんが悲鳴を上げました。なんでしょう?何やら騒がしいですね?

 

「わあぁ、ちょ、ちょっとそこ、どいてくださーい!!」

 銃声のほうから大声がして、見たらなにやら大荷物を持った女の子が一人、こちらに走ってきて…

「え…!?

 ドシン!とシロコちゃんにぶつかってしまいました。その後ろからマシンガンを構えた、見るからにチンピラといった感じの二人。シロコちゃんに介抱される女の子を見ていたアヤネちゃんが「あ!」と何かに気づいたようです。

『思い出しました…その制服、キヴォトスいちのマンモス校のひとつ、トリニティ総合学園ですね?』

「そう、そしてキヴォトスで一番金を持ってる学校でもある!だから拉致って身代金をたんまりいただこうってわけさ!」

 チンピラは、アヤネちゃんの指摘に呼応するように堂々と…なるほどわかりました。悪人は懲らしめないとですね☆

 

 トリニティ学園の生徒でヒフミちゃんという彼女から、困惑しつつもお礼を言われました。彼女が「今はもう生産されていないものを探していた」というので、ちょっぴり身構えましたが……彼女が探していたのは限定生産のぬいぐるみだったそうで。

「わぁ、モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよね!私はミスター・ニコライが大好きです!」

「わかります~!ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて!」

 差し出されたのは、真っ白な体にぱっちりお目目が特徴的なペロロちゃん。アイス屋さんとの限定コラボとのことで、お口にミントアイスをくわえた姿に私も癒されました!それで共通の話題が見つかって、ちょっと盛り上がっちゃいました。

「というわけでグッズを買いに来たのですが、先ほどの人たちに絡まれてしまって。皆さんがいなかったら今ごろどうなっていたことやら…ところで、アビドスの皆さんはどうしてこちらへ?」

「私たちも似たようなもんだよ?探し物があるんだ~」

 …まあ、モノ自体は似ても似つかないんですけどね☆あきれ顔のハリカちゃんとセリカちゃんには「しーっ」としておきます。

『皆さん、大変です!四方から武装した人たちが向かってきています!』

 そこでアヤネちゃんから報告が入りました。先程のチンピラの仲間とみられるとのこと…報復でしょうか?仕方のない人たちですねぇ…

 

「ハリカちゃん、さっき銃持ってませんでした?」

「あー…まあ、ね」

 チンピラたちはどんどん増援を呼ぶ様子でしたが、「下手に騒ぎを大きくしてブラックマーケットの治安機関に目をつけられるのはまずい」というヒフミちゃんの意見に従って、私たちは退散することにしました。そのさなか、隣を走るハリカちゃんに少し気になったことを聞いてみました。

「最初会ったとき、扱いは不慣れって言ってましたよね?」

「うん…でも、やっぱじっと眺めてるのは性に合わないなってさ」

「なるほど、ずいぶんお上手でした。思わぬ才能見つかっちゃいましたね!」

「それは…あっやばい、はぐれる前に早く!」

 顔を上げたら前のみんなとけっこう距離ができちゃっていて、急いで駆け出しました。ちょっとおしゃべりが過ぎましたね。

 …ハリカちゃんのほうから銃声がしなかったことが、少しだけ気になりますけど。

 

 

【ノノミ⇒ハリカ】

 

「ここまで来れば大丈夫でしょう」

「ありがとう…」

 …稲梓ハリカ、無事生きております。いや、性格にはまだブラックマーケットの中らしいから気を抜けない。若干緩んでいたネクタイ(ブラックマーケット潜入のためにアビドスの制服を借りた。今だけアビドス)を締め直した。

 それにしたって広すぎない?ショッピングモールで迷子でもさすがにもう外に出てるぐらいには走り回ったよ?

 

「…ここをかなり危険な場所だって認識してるんだね」

「えっ?と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所のひとつですから。ブラックマーケットだけでも学園数個分の規模に匹敵しますから、決して無視できませんし…それに、いろんな企業がここで様々な事柄をめぐって利権争いをしているとも聞きます。ここ専用の金融機関や治安機関もあるほどですし」

「え?それって、銀行も警察もあるってこと?」

「そ、それって…認可されてない違法な団体なのよね!?」

「はい…そうです」

 Oh…なんて巨大な無法地帯…なかなか出られないと思ったら、ブラックマーケット(都市名)でしたか…。なんてこった。

「特に治安機関は退けるのが厄介です。騒ぎを起こしたら、まずは身を潜めるべきです」

「ふ~ん…ヒフミちゃん、ずいぶんここのことに詳しいんだね?」

「えっ、そうですか?危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか…」

 

 きょとんとするヒフミちゃん。その一方でホシノさんはニヤリと笑った。…あ、これはもしや。

「よぅし決めた!助けてあげたお礼に、私たちの探し物が見つかるまで一緒に行動してもらうねー♪︎」

「えっ?ええっ!?」

 ほらやっぱり。「ヒフミちゃんの方が詳しいだろうから」のあたりからこうなるかもなとは思ってたよ。…さっきチンピラを撃退したとこだけど、これも「絡まれる」に該当しないか私心配です。

「わあ☆いいアイデアですね!」

「うん。()()だね」

「いや遠慮のなさ」

「誘拐じゃなくて、案内をお願いしたいんでしょ?まあ、ヒフミさんがよければ、だけど」

 セリカちゃんがちゃんと言い直してくれた。頼れる後輩です。「?」って顔しないでシロコちゃん。

「あうう…わ、私なんかでお役に立てるかわかりませんが…アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます!」

 …というわけで、私たちはヒフミちゃんにブラックマーケットの案内をしてもらうことになった。

 

 

 

 そして数分後。

「ほらそこ、伏せなさい!下手に動いたらあの世行きよ!」

「皆さんじっとしててください…あうぅ…」

 私たちは銀行を襲撃していた。

 

 

 

 

 





・ハリカ
連邦生徒会が来てるとわかると厄介なことになるのは目に見えてるので、アビドスの制服に着替えた。一日アビドス生
また、学校で使われていないピストルを借りたが、装弾はしていない

・ノノミ
今回の語り手チャレンジ。意外と掴みどころがなくて難易度高かった
ハリカにもフレンドリーに接するけど、あんまり心を開いてくれてる実感がなくて気になってる

・シロコ
安定のやばみ

・ホシノ
普通に年齢を疑われたりしたおじさん

・アヤネ
(たぶん)学校で待機。ハリカにとっても通信音声なので『』になった

・セリカ
がんばれ常識人…あ、ダメそう(達観)

・ヒフミ
何気に本作では初登場のトリニティ生。しばらくかわいそうな感じになる
ハリカの制服が違うのは気になるけど、アビドスに転校したばかりかな…?と思ってる

・先生
たい焼きのくだりでようやく「あ、現地組なんだ」ってなった作者です。戦術指揮が上手設定からアヤネ側にいるとばかり…本作品ではそういうことにしておきます。現地組はハリカです。むしろよくついて回れるな先生…身体スペック的に。




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騒乱!ブラックマーケット

当初は前後編にしてた後編の側。せっかくなので連続で投げる


 

【ハリカ】

 

前回までのあらすじアビドス高校を襲撃するヘルメット団の背後関係を調べるためブラックマーケットに潜入し、そこで出会ったヒフミちゃんという女の子と一緒に、私たちは銀行を襲撃した。

 

 …ダメだ、意味不明すぎる。順を追って話そう。

 

 ヒフミちゃんの協力を得て戦車の流通ルートを調べていたものの、不思議なほど情報は出てこなかった。…まるで、誰かが意図的に隠してでもいるかのように。

「…そんなに異常なことなの?」

「ここの企業は…ある意味開き直って悪さをしていますから、逆に変に隠したりはしないんです」

「そうなんだ…聞けば聞くほどタチ悪いの嫌だな…」

「たとえば…あそこのビル。あれはブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です」

 遠慮がちに指さす先には、5階建てほどのビル。

「闇銀行…!」

「あれがか…」

「聞いた話だと、キヴォトス全体の盗品のうち15%はあそこに流れてるとか…」

 犯罪で得たお金がここに預けられ、また別の犯罪に使われる…そんな悪循環が起きてるとか。…深い、闇が深すぎるぞキヴォトス。治安の悪さで差をつけないでいただきたい…

「ひどい!連邦生徒会は一体何をやってるの!」

「ホフン」

「理由は色々あるんだろうけどね~。どこもそれなりの事情はあるだろうからさ」

 …いけない、変な声が出てしまった。私は一日アビドス生、今は連邦生徒会と無関係。これ大事。

 まあ、私はあくまでシャーレのお手伝いだから(連邦生徒会)のことはあまりよく知らないけど…なにぶん色々と余裕がなさそうなのは知ってるもので。

 

 そうこうしていると、アヤネちゃんからまた武装集団の接近を知らされ、急いで身を潜めたところ、

「あれはマーケットガードです…ここの治安機関の中でも上位に位置する組織です」

「よかった、こっちには見向きもしない…というか、警護してる感じだね」

「あれって…現金輸送車?」

「闇銀行に入っていきましたね…」

 

「見てください、あの人…」

「あれ?な、なんで?あいつは毎月うちに来て利息を受け取ってる…」

「ほ、本当ですね!車もカイザーローンのものです!今日の午前中、利息を支払ったときのあの車と同じようですが…なぜブラックマーケットに……」

 

 …とんでもないものを見てしまった。それだけじゃない、「カイザーローン」の名前に驚いた様子のヒフミちゃんいわく、カイザーローンの運営元"カイザーコーポレーション"は合法と違法の間(法的にグレーなゾーン)でうまく振る舞うタイプの企業で、トリニティの生徒会(ティーパーティーというらしい)も目を光らせているとのこと。

「そういえば、いつも支払いは現金だけでしたよね…それってつまり…」

「私たちが支払ったお金が、闇銀行に流れていた…?」

「じゃあ何、私たちはブラックマーケットに犯罪資金を提供してたってこと!?」

 …セリカちゃんの言葉に、沈黙が降りる。否定できる要素はない。でもアヤネちゃんが口にした通り、確証もない。

「さっきサインしてた書類、あれを見ればわかるんじゃないですか?」

「なるほどそれだ!ヒフミちゃん天才だね~」

「あはは…で、でもここでもトップクラスのセキュリティを誇る銀行に入る方法なんて…」

 

 悪い予感を察知―――。

 

「ホシノ先輩、ここは例の方法しか」

「シロコちゃん?」

「なるほど~あれか~。あれなのか~」

「ホシノさん??」

「あ~!そうですね、あの方法なら!」

「ノノミちゃんまで…」

 三人の顔が生き生きしてきたのを見て私の目が死んだ。…セリカちゃん、残念だけどたぶん思ってるその方法だと思うよ。

「あ、あのう…全然話が見えないんですけど…"あの方法"って何ですか?」

銀行を襲う

 ほら~…

 

 

 で、現在に至るというわけ。定例会議の時はセリカちゃんとアヤネちゃんが止めに入ったけど、セリカちゃんは衝撃の真実に怒りの炎をふつふつとさせているようだし、アヤネちゃんも仕方ないと折れてしまった。ストッパー…なくなっちゃったね…私は外部の人間だもの…。

 私も巻き込まれるのか…と思ったけど、当たり前のように巻き込まれることになったヒフミちゃんが可哀想すぎて何も言えない。たい焼きの袋から急(ごしら)えした覆面を被らされて「貫禄だけは黒幕」とか言われてるもん。私は黒マスク持ってたからいいとして。

「よく持ってたねハリカちゃん、もしかして予定あった?」

「こんな予定があってたまるか…」

 …一応言っておくと、体調崩したときのために一枚常備する習慣があったのだ。こっちの世界来たときは持ってなかったけど。色は気分で選んだから深い意味はない。そしてノノミちゃんがサングラスを提供してくれた。今はありがたいが何故持っている。

 

 そして銀行の周囲にいたマーケットガードを蹴散らし、ロボットみたいな行員たちに銃口を向ける。ちなみに初っ端停電させたとき、ホシノさんが自動通報システムを落としていたらしい。手慣れていらっしゃる…何故……あと「覆面水着団」って何?水着要素ないが??

「監視カメラの死角、警備員の配置、銀行内の構造、すべて頭に入ってる。無駄な抵抗はしないこと」

 あの、シロコちゃんが怖いです。だって定例会議で名前出したの別の銀行だったよね?いつの間に…?

 対する行員はこういう事態を想定していなかったのか、もうかわいそうなくらいガタガタ震えて書類の束を差し出していた。普通想定した訓練とかしないかと思ったけど…まあ、武装集団頼りな無認可の銀行だもんなぁ……

 

「シロ…いや、ブルー先輩!ブツは手に入った?」

「あ、う、うん」

「それじゃ撤収~!」

「アディオ~ス☆」

「ま、まあ、せいぜい教訓にすることね!」

「すみませんでしたー!さようならー!」

 ひとまず目標は達成したようなので、銀行からの逃走を図る。…ほんと、こっちに来てから体験が濃すぎて…

「おっとぉ、警備兵のお出ましだねぇ」

「はわ…ま、マーケットガード!」

「なんかデカブツあるんだけど何あれ!?」

「関係ない。突破すればいいだけ」

「マーケットの外まで逃げちゃいましょう☆」

「はぁ…しょうがないなぁもう…!」

 一斉に手持ちの銃を構え、引き金を引いた。

 …私のこれはダミーだけどね。

 

 

「封鎖地点を突破。この先は安全です」

「やった!大成功!」

「はぁ…」

 応援ありがとうございます。逃げ切りました。…冗談はさておき。なんとか逃げ切れたもののため息が止まらん。マスクは蒸れるし息苦しいから外して…買い直すかぁ。そしてサングラスは返却ということで…

「ええっ!?シロコ先輩、現金盗んじゃったの!?」

 素っ頓狂な声が上がって肩が跳ねた。セリカちゃん!声が大きい!

「ち、違う…目当ての書類はちゃんとある。このお金は、銀行の人が勝手に勘違いして…」

「あぁ…シロコちゃんめちゃくちゃビビられてたもんね…」

「うへ~軽く一億はあるね。ほんとに5分で一億稼いじゃったよ~」

 

 ホシノさんの言葉に呆然としつつ、でも借金はその10倍なんだよね…という事実はなるべく考えないようにする。数字が大きすぎて私倒れそう。むしろまだ立ててるのが不思議でならない。

 そして、これを借金返済に使うか否かで揉めていらしたけど…

「今必要なのは書類だけ。お金じゃない」

「今回はいいとしてこの後は?…こんな方法を繰り返してたら、きっとこの先ピンチになったとき、「仕方ないよね」ってしちゃいけないことをしてしまうようになる。かわいい後輩がそんなことになっちゃうのは嫌だなぁ~」

 …といったホシノ先輩の説得で治まった。…よかったよこの人が人格者で。また笑顔で煽りおるかと身構えちゃった。

「だからこのバッグは置いてくよ。いただくのは必要な書類だけね。これは委員長としての命令だよ~」

「うああああもどかしい!意味わかんない、こんな大金置いてく!?」

「まあ、委員長としての命令なら…」

 

 このあと、なにやら便利屋68のリーダーがやって来て茶番が繰り広げられたりしたけど、精神的に疲れてたからあんまり聞いてなかった。…いたわ~そういえばさっき、闇銀行に…。

 

 

 

 

 





・ハリカ
目が回るような一日だった。
ツッコミに徹してはいるが、あくまで仕事上の付き合いのつもりでいる。だから深く追及することはないし、(先生と違って)意志決定の最後の砦にもならない。あくまで自由度の高いシャーレの人員
あとそろそろネタバレをしておくと、射撃は移動系+加速系の魔法で行っている。線形座標をガイドにして慣性に任せるイメージ

・シロコ
安心と信頼のやばみ
行員にガチビビりされて逆に困惑した

・ホシノ
やっぱり頼れる先輩。バスジャックのくだりは蒸し返さないであげてください

・セリカ
柴関ラーメンの外だと残念な面しかピックアップできてない気がする。もうしわけない…(土下寝)
即興コードネームは見事でしたね
借金返せる!と目を輝かせてたけど、たぶんそれもブラックマーケットに戻っちゃうんだよね…と思いつつ

・ノノミ
ネーミングの面における戦犯。悪人は懲らしめないとですね☆
でも現金についてはホシノ先輩側

・アヤネ
有能な後方支援…いや覆面あるんかい…

・ヒフミ
かわいそう

・先生
笑顔がひきつっている

・便利屋68
これが真のアウトロー…! (アル)
あれ、なんか多い…? (カヨコ)
ほんとだねぇ、ラーメン屋で見た子がいるよ (ムツキ)
あの、私たちはどうすれば…? (ハルカ)




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予期せぬ再開と再会

こっちがめちゃくちゃ進んじゃってる


 

「なっ、何これ!どういうことなの!?」

 バンッ!と机を叩いて大声をあげたのはセリカちゃん。帰ってきたアビドスの教室で、私たち(一緒についてきてくれたヒフミさんも含む)の視線は机の上の一枚の書類に注がれていました。

「アビドスで788万円集金した、って書かれてる。私たちの学校に来たあのトラックで間違いない」

「その直後に"カタカタヘルメット団に対し任務補助金500万円提供"、と…これは…」

 ゆっくり顔を上げたハリカ先輩…これは、から先は口にしませんでしたが、答えはとっくに出しているような据わった目で…代わりにギリッと歯軋りをしたセリカちゃんが、その答えを口にしました。

 

「あたしたちからお金を受け取った()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことよね?」

「ヘルメット団に、任務…まさか、ヘルメット団の背後にいるのはカイザーローン!?」

「そのまさかだろうね…」

「ど、どういうことでしょう!?理解できません!学校が破産したら、貸し付けたお金も回収できないでしょう!?」

「なんか…何か、もっとでっかい意思が働いてる感じがあるな…」

「うん、銀行単独の仕業じゃなさそう。カイザーコーポレーション全体が関わってるとしか思えない」

「はい…そう見るのが妥当ですね…」

 ハリカ先輩とシロコ先輩の意見、そこににヒフミさんからも肯定があり、にわかに不安になります。…私たちは、思っていたよりも巨大な陰謀に囲まれている。そういうことなのでしょうか…

 

 そのあと、帰るヒフミさんをみんなで見送ったのですが…ヒフミさんが自校の生徒会に伝えておくと言ったのに対して、ホシノ先輩はあまりいい顔をしませんでした。

 いわく、「トリニティほどの規模の生徒会なら既に知っているはずだし、それで打開策が出るとも思えない」「仮に悪意を向けられても、廃校寸前のうちはマンモス校の力に逆らえない」との考えだそうで…。

 

「そう、ですね…その可能性も、否定できません」

「でも、いくらなんでも悲観的に考えすぎではありませんか?ホントに助けてくれたりとか…」

「うへ~私は他人の善意を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってね~。…「万が一」ってのを考えなかったから、アビドスはこうなっちゃったんだよ」

 ぽつりと呟かれたその言葉。そのとき、ホシノ先輩が普段とは違うどこか悲しげな顔をしたのが…なんだか印象に残っています。

 

 

 

 突然の轟音と爆風。機器を見ると学校から10km圏内で大爆発が起きたよう。

「何、まさか襲撃?」

「衝撃波の形状からするとC4爆弾の連鎖反応のようです。砲撃や爆撃ではないですね…もう少し調べてみます」

「心臓に悪いキヴォトス…!」

 

 ハリカ先輩のうめき声を背に、解析作業を進めます。不測の事態には、迅速に…

「爆発地点確認、市街地です!正確な場所は………柴関ラーメン!?」

「はあ!?どういうこと!?なんであの店が狙われるのよ!!…まさか、また私を狙って…?」

「憶測はあとでもいい、とにかく何か手を打とう」

「そうですね、今はそれどころじゃありません!向かいましょう!」

 ノノミ先輩の提案で出動していく皆さんを見送りつつ、私はホシノ先輩に連絡するため端末を取り出しました。…それで、気づかなかったのです。私や先生のそばにいたハリカ先輩が、いなくなっていることに。

 

 

【アヤネ⇒ハリカ】

 

 駆けつけた柴関ラーメンは綺麗さっぱり跡形もなくなっていて。

 黒煙が(なび)く中、アビドスの面々が相対していたのは………便利屋68だった。あ…あんたらか~~~い!!

 …聞くところによると大将は無事、退避済みらしい。不在のホシノ先輩には連絡を取っている最中とのこと。そして、

 

「あんたたち…許さない!!ぜぇったい許さないから!!!」

 …セリカちゃんが、揺らめくオーラが見えそうなほど激怒していた。どうしよう飛び出したはいいけど味方が怖くて近寄れない。…怒ってる人に近寄れないのはもはや私の習性と言っていい。治したほうがいいとは思うんだけど。

 

「そっ…そうよ!これでわかったでしょうアビドス!?私がどんなに悪党かを!!」

 対する便利屋…あれがアルって子か……ふぅん………?

「みんな、覚悟はいい?」

「それはこっちのセリフよ!真のアウトローがどんなものか、見せてあげるわ!!」

 …なんだか引っ掛かりを覚える私を置き去りに、戦い…アビドスvs.便利屋68【ROUND2】の火蓋は切られてしまった。

 

 

「お、押してる…危なげなく…まあ、二回目だもんな…先生もいるし…」

 どうも…私・イン・ザ・銃撃戦でお送りしております。ホシノさんは別件で手が離せないのか来る気配がないけど、それでも三人だけで便利屋+傭兵集団を圧倒できちゃっているアビドス。ノノミちゃんが際立つけどシロコちゃんも火力強めなんだよな…そしてセリカちゃんは怒り心頭だし。すさまじいバフだ…

 しかし私はやっぱりどこか引っ掛かりがあって、便利屋の面々に弾丸を飛ばせずにいる。とりあえず小柄な子が投げてくる爆発する鞄を撃ち抜いたりはして―――

 

「わ、ひゃあっ!?ちょっ…!?」

 いきなり降り注いだ爆撃。その爆風にたたらを踏んだ。なんだこれ!?あの子じゃない、鞄構えてなかったし、そもそも一度にいくつも投げられないだろう。アビドスにもここまでのことをできる子は…

「迫撃砲、ですか…?」

「それも、狙いは便利屋って…」

 ノノミちゃんたちの不思議そうな声が聞こえた。えっ、迫撃…なんだっけ?あいにく私はミリタリーに暗い。こっちの世界に来ても全然覚えられない。なんならブラックマーケットのとき借りてたやつもなんなんだか…

「…へっ!?ゲヘナの風紀委員会!?」

「…は?」

 

 

 

 

 





・ハリカ
思いがけない闇の気配に遠い目をした
激怒している人にはなかなか近寄れない。治したいとは思うけどどうしても…ネ
最後方からささやかな火力支援タイプ。それはそうと彼女の状況、違和感にお気づきだろうか
そしてまさかの名前を聞いてフリーズ。え、……は??

・アヤネ
もっと大きな闇の気配に漠然と不安を抱く。
(ブラックマーケットは例外として)普段はこっちにいたハリカがいないことにはあとで気づく
総合的に分析能力高すぎるけど具体的に何してるんだろ…

・セリカ
怒りでバフ発生

・シロコ
今回は影薄め

・ノノミ
行きましょう!って言うのは大体彼女よね

・ホシノ
何かを抱え込む先輩。今回から次回にかけてほぼ不在。どこかに行っているようだが…?

・ヒフミ
母校へ帰還

・先生
今回は現場に出張ってる。

・便利屋68
引くに引けなくなった&面白いことになった&切り替えていこう&アル様のためならなんなりと!の四人でお送りしております。


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Hide-and-seek at a battlefront (前)

 

 

「…ユニット起動」

「覚悟しなさい!!」

「全弾発射~☆」

 

「…」

▼とっさに かくれてしまった!

 …いや、その…全く予想だにしなかった衝撃を頭に受けて*1、「あ~そういえば"ゲヘナ学園でも問題児集団として名が通ってる"んだったな…」と気づくのに時間がかかってしまった。その間になぜだかアビドスと風紀委員会で交戦状態になっていて完全に出ていくタイミングを見失った。

 …エーーーッ!!?ナンデ!?アビドスナンデ!!?………あれか、もしかしなくてもまたシロコちゃんか…?

「どうなってやがる…?向こうは三人だぞ?」

 ワッ…ワァ……めっちゃ久しぶりのイオリちゃんだ…あ、後ろにチナツちゃんもいる…でも私、眉をひそめて首をかしげてるイオリちゃんしか知らなかった…そんなアグレッシブガールだったなんて知りたくなかった……あ、でも吹っ飛ばされた…ノノミちゃん……!

 

 

『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』

 …戦況が落ち着いたと思ったら、向こうの通信と繋がったらしく…アコさんの声が聞こえてきた。久方ぶりの。

 そして、今は武装解除して話し合い中。…どうしよう。独断で通信も無しに出ちゃったから戻るに戻れないけど今出ても大丈夫か…?同じく出てきていた先生に頼ろうにも、なんか先生最前線あたりまで出ちゃっててどうにも…近寄れない…!

 

「…このまま大人しく引き渡すわけにはいかない」

「そうですね、彼女たちの背後にいる方の正体もまだわかっていませんし、先にお話を聞かせてもらいませんと」

 …悩んでたらいたら交渉が決裂したらしいねえ嘘でしょ。便利屋の処遇について揉めに揉めている。あー…でもそうか、襲撃の背後関係は知りたいよなぁ…ノノミちゃんの言う通りだ。でも、それってまたドンパチ始まる?それはちょっとさすがに勘弁願いたい…

 

「っ!?」

 若干遠くで聞こえる爆発音と悲鳴。風紀委員が倒されてる?ふとみると、イオリちゃんが連射をくらって倒れるところだった。…あれ、便利屋!?紫髪の子だ…!

「嘘をつかないで、天雨アコ。偶然なんかじゃないでしょ」

 そう言って現れたのは同じく便利屋の…なんか白黒の子。ラーメン屋で見たときはとても寡黙だった記憶がある。それが今は、風紀委員相手に…。

「こんな非効率的な運用、風紀委員長のやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断に違いない」

 え、そんなことする人だったの…?確かにアコさんにはどことなく言い知れぬやばみを感じてはいたけど。服装を抜きにしても。…それなら、"偶然なんかじゃない"って…

 

「私たちを相手取るにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば説明がつく。…とはいえこのアビドスは全校生徒集めても5人しかいない。なら結論は一つ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…」

どうする? ▶️かおをおおう ためいきをつく

 

 一瞬、ゲリラ豪雨かと思って顔を上げたら、どうやらそれは大勢の足音…風紀委員の増援!?なんだこの人数アコさん吹っ切れたか!?

「先生を連れていくって!?それであたしたちがはいそうですかって言うと思う!?」

 セリカちゃんがまたキレて…えっ何、連れていくって何!?あ、え?便利屋と手を組んで…???

 …全くついていけないまま、戦闘が再開されてしまった。

 

 

「にゃーん」

 わたしはことばをうしないました。さすが便利屋、さすが問題児集団として名を馳せるだけある。第一中隊がどうの、第三中隊がどうの、壊滅報告が飛び交っているようだ。わたしこんどはなにもしてない。戦場戦場しすぎてて気圧されてるもの…。

 冒頭の発言はことばをうしなった末の絞り滓。ほらよく言うじゃん、"追い詰められたら「にゃーん」とでも言っておきなさい"って。…え?言わない?そう……冗談はさておきまあ、これでアコさんが懲りてくれたら…

 

『第八中隊、後方待機をやめて、突入してください!』

「なっ…!?」

「ま、まだいるの!?」

 またぞろぞろとやって来る風紀委員。どんだけ人員投入してるの!?いくらゴーストタウン化してきているアビドスとはいえ、この辺りは無人街というわけではないのに…さしものアビドスも、便利屋68の面々にも顔に疲労の色が出てる。セリカちゃんやノノミちゃん、ムツキちゃんというらしい鞄を投げる子も肩で息をしてるし、ハルカちゃんという紫髪の子はもうしゃがみこんでる。

 …でも何より、こんな望まぬ形で争いの火種になってしまった先生の顔が、本当につらそうで…でも、風紀委員はお構いなしに銃を構えて―――

 

「…いい加減にしろぉーっ!!

 矢も盾もたまらず引き金を引いた。

 私史上最速だったと思う。

 

 

【ハリカ⇒セリカ】

 

「っ!!?」

 後ろから聞こえた叫び声。それとほとんど同時に、ボンッ!とか、そんな感じの音がしたように思う。…何が起きたかはよくわからない。ただ前方、向こうの隊列の場所にものすごい砂煙が立って、何人もの悲鳴が上がった。…そして煙が晴れると、風紀委員の陣形は完全に崩れていて、どうやら射撃姿勢を保てた生徒は一人もいなかったらしい。

『な…なんですか今のはっ!?いったい誰が…』

 ゲヘナのアコ行政官もものすごく困惑してるみたい。…でも、私たちの方にもまったく心当たりがない。…先生なら何か知ってるかしら?

 

『アコ?』

 そう振り向いたとき。向こうの通信に別の声が入って。

『えっ…ひ、ひひヒナ委員長!?』

「委員長?ってことは…」

「風紀委員のトップ…!?」

 私たちも風紀委員も一斉にざわついた。後ろから悲痛な叫びが聞こえるけど気にしない。

『アコ、今どこ?』

『わ、私ですか?私は…そ、その…ゲヘナ近郊の市内の通りです!風紀委員のメンバーとパトロールを…!』

「思いっきり嘘じゃん!」

「やっぱり独断だったんですね…」

 

 …さっきまでの司令塔としての威厳はどこへやら、行政官はいっそ面白いくらいに慌てふためいている様子。

『それより委員長なぜこんな時間に?出張中だったのでは?』

『今帰ってきた』

『そ、そうですか…その、私、今すぐ迅速に処理しなければいけない用事がありまして!後程またご連絡いたします!今はちょっと立て込んでいまして…!』

『立て込んでる…?パトロール中に珍しい。何があったの?』

『そ、それは…』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 …え?…今、通信と同じ声が、別の場所から……

「え、あれっ!?」

「い、いい委員長!?いつの間に!?」

『え…えええええっ!?』

 …見上げたビルの上、身の丈ほどもある機関銃を抱えたゲヘナ生がそこにいた。

「…アコ。この状況、きっちり説明してもらう」

 

『ゲヘナの風紀委員長…空崎ヒナ。外見情報も一致します。間違いなく本人のようです…ですが…』

「…っ」

 今回は行政官の独断とはいえ、委員長がどう判断するかはわからない。相手はゲヘナでもトップの戦闘力を持つ生徒。もし戦闘になるなら…勝ち目がない。いつの間にか便利屋は逃げ出してるし!

 行政官との通信が切れ、現場の私たち(+アヤネ)だけになった。風紀委員長と向かい合う。

「じゃあ、改めてやろうか」

『なっ!?ま、待ってください!ゲヘナの風紀委員長といったら、キヴォトスの中でも匹敵する人を見つけるのが難しいくらい強者中の強者ですよ!?ここは下手に動かず交渉するのが吉です!』

 …血の気の多いシロコ先輩を引き留めて、アヤネちゃんが交渉に乗り出した。

 

 

 

 

 

*1
比喩





・ハリカ
とっさに隠れてしまってドツボにはまるも、泥沼化していく戦況に業を煮やして偏倚解放をぶちかました
偏倚解放は空気を圧縮して一方向に放つもの(今更解説)。今回は地面へ斜めに向けたので、前例と結果が異なる
勝手に飛び出してきたので通信が繋がっていなかった。そのためアヤネの発言は現場の三人経由でしか聞いていない
地味に名前一文字違いが二人という憂き目(?)に遭っている

・セリカ
!?
今回の語り手チャレンジ

・シロコ
!?
それはそうと日頃の行い…

・アヤネ
!?


・ノノミ
!?

・先生
偏倚解放については聞いたことしかなかったので、頭の中では繋がってない。でももしやハリカ?とは思った

・便利屋68
今の何!?とは思うものの、風紀委員長来訪のためやむを得ず逐電
カヨコまじMVP

・イオリ・チナツ
同じような現象を見たことがある二人。また次回

・アコ
先生争奪戦を勃発させた策士。以前(第二話)自分で言った通り実戦でわからされたことを、謹慎になった本人はまだ知らない

・ヒナ
来ちゃった


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Hide-and-seek at a battlefront (後)

年内ここまでにしとくか…♣️


 

 

「何回見てもびっくりだな…風紀委員長」

 アビドスと話し合いを始めたらしい小柄な白髪の少女を見やる。…身を挺して守ったつもりがトンデモ強者だったのはいい思い出です。悪い意味で。いまだにちゃん付けしてしまいそうな自分がいる。あれでも先輩なんだぞ…!

 あああでも険悪だ…完全に意地の張り合いになりつつある…!待ってよ一発ぶっ放したのに水の泡とか泣くんだけど!?

「…ホシノ?アビドスのホシノって…もしかして、小鳥遊ホシノ?」

 ん?何だろう、ホシノさんの名前が出たとたん、空気が変わっ…

 

「うへ~こいつはまた何があったんだか、すごいことになってんじゃん?」

 …唐突に飛び込んだ声に、見ればすたすた歩いてくるホシノさん本人の姿があった。…深刻な遅刻ですよ先輩…。

 

「事前通達なしでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと…私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する」

 …ヒナちゃんさんが頭を下げている。すらすらと出てきたのは、几帳面な謝罪の言葉。無用な戦いは望まないらしい。し、しっかりしてる…!みんなも見習おうね…特にシロコちゃん

 イオリちゃんをひと睨みで黙らせつつ、風紀委員の面々を撤収作業に動かせて…ヒナさんはその場に残った。なんだろう?

「ただ、ひとつ気になることがある。…そこに隠れてるのは誰?」

 ヒナさんがそう言って、手にした機関銃を…え?待ってあれこっち向いてない?

「出てこないなら―――」

「ちょ、ちょっと待っ――にゃあああ!!?

 

▼ハリカ は やけだされてしまった!

 …正しい言い方ではないけれど、隠れ場所として頼りにしていた廃車が無惨な姿になった。ありがとう、君のことは忘れないよ…向こう数分くらいは。

「ハリカ!?」

「ハリカちゃん!」

「…あなた、こんなところに居たの?」

「えっ…まさか知り合い!?」

 …とかふざけてる場合じゃないんだけどね!

 

 

【ハリカ⇒シロコ】

 

「弁明をさせてください」

「その前に大丈夫!?ハリカ先輩、外から来たんでしょ!?」

「大丈夫、大丈夫…私は先生とは違うからさ」

 へたりこんだままスムーズに土下座に移行したハリカに、慌てた様子のセリカが駆け寄った。…少なく見積もっても25発ほど。それを撃ち込まれていながら…廃車の陰に隠れていたことを考慮しても、不自然なほどにハリカは無傷だった。()()()()()()って、どういう意味だろう?

「そ、それなら…まあいいけど…」

『ハリカ先輩、通信聞こえてますか?』

「あー…今聞こえた。勝手に飛び出してごめんねアヤネちゃん」

 私たちが爆発音に学校を飛び出したあとから、ハリカとはずっと通信が繋がっていなかったらしい。

「来てるのはわかってたけど…」

「まさかハリカちゃんも独断とは思いませんでしたね~」

「僕は知らなかったんだけどね…」

「だって先生、前線に出ていっちゃうし…私が出たら何が起きるかわからないなって…」

「…ハリカさん」

「久しぶり、チナツちゃん…それと、ヒナ委員長も」

「…申し訳ない」

「構いません。私にも非はありますし」

 裾を払って立ち上がったハリカは、ゲヘナの生徒と…風紀委員長とも平然と話し始めて…

「ま、待ってハリカ先輩!?」

「ハリカちゃーん?置いてきぼりにされるのはおじさんちょっと悲しいな~?」

 

 

『…つまり、当初はゲヘナの風紀委員会が保護していたと?』

「そう。それでチナツちゃんの仲介でシャーレに来て、今は実質所属してる」

 私の話してる場合じゃなくない…?とぼやきながらも、ハリカはつらつらと自分のことを話し出した。目を覚ましたときにはゲヘナの路地裏。そこからトラブルに巻き込まれて、風紀委員会と出くわした。その件で、ゲヘナ風紀委員とは短いけれど付き合いがあるらしい。

 …そういえば、ハリカは私たちの会話に入ってくることはあっても、自分から話し始めることはなかったと思う。部外者とはいえあまりにも知らなくて、だからちょっとびっくりした。

「先生も知ってたなら…ああ、でもそれどころじゃないですよね…」

「聞かれなかったら話しませんよこんなこと…はいはいこの話はおしまい!」

「うへ~こりゃ厳しいや。この際いろいろと聞きたいことあったんだけどなぁ~」

「それはもっと余裕があるときでお願いします…」

「そうだね~」

「はぁ…もう…」

 ため息をついたハリカが先生に駆け寄っていく。…そういえば、ハリカは先生のことをどう思ってるんだろう。おたがい信頼し合ってるみたいだけど、それ以上のことは…あるのかな。

 ふいにそんなことを考えていたら、ホシノ先輩が「ふへ~」と深い息をついた。

「…それにしても、みんな無事そうで安心したよ~…大丈夫?体調悪いとかない?」

「ん、それは大丈夫」

「疲れてはいますけど、それだけですね」

『私はいろいろと頭が痛いですけど…何かあったんですか?』

「いやぁ…青い光が見えてさ」

「…青い光?」

「そ。建物の隙間から青い光が見えてて、何か新型兵器でも出てきたのかと思ったらみんながいてさ~」

「…」

 誰からともなく顔を見合わせる。そんな、青い光だなんて…?

『…私は気づきませんでしたけど…皆さんは見ました?』

「いえ…まったく」

「別の通り?でも、それだって気づくだろうし」

「たぶん気のせいだったと思うよ~音もしなかったし。だから気にしないで。でも安心したのはホントだよ」

 ホシノ先輩はなんでもないように笑って言った。

 

 気がつけば、風紀委員会の生徒たちは撤収してしまったらしく、ほとんど見当たらなくなっていた。

「もったいない…強い人と戦えるチャンスだったのに…」

「シロコちゃんさては怖いもの知らず…?」

 こんな機会はそうそうないと思っただけに残念。ぼやいたらハリカに信じられないという目を向けられた。心外。

「うへ~結局私は状況がいまいちわからないんだけど、何があったの?」

「説明したいところなんですが、私たちもよくわからなくて…」

『そうです!わからないのは私たちだって同じなんですよ!そもそもホシノ先輩も、こんな時間までいったいどこで!?』

「ごめんごめん~」

『はぁ…なんだか、さらに大ごとになってきている気がします…慌ただしいことばかりで、わかってないことだらけです…』

 通信の向こうで、アヤネがため息をついた。…アヤネがここまで疲れて滅入ってるのは初めてかも。

「色々なことがありましたし…今日はこれくらいで休憩しませんか?」

「そうですね…それでは今日は一旦解散して、明日また学校で状況の整理をしましょう」

 ノノミの提案をきっかけに、今日は解散することになった。みんなすごく疲れてる。…私も他人のことは言えないか。

 …あ、でも。

 ちょっと気になることがあって、私はハリカと話している先生のもとへ向かった。

 

 

 

 

 





・ハリカ
やけだされてしまい、その後観念してゲヘナとの関係を明かした。

・シロコ
来てることには気づいてた。言われてみればハリカのことは気になる。先生との関係とか…
このあと聞きに行ったのは風紀委員長と話してた内容についてだけどね
なお、にぶにぶ先生と歳の差気にする系女子なので何も起きない模様(鮮やかなフラグ破壊)

・セリカ
目を白黒させてばっかな気がする。

・アヤネ
いろいろと頭が痛い。

・ノノミ
やっぱり提案する側の人なんだわ

・ホシノ
深刻な遅刻。
色々と事情をお持ちのようだが…おや?

・先生
安心・安全のにぶにぶ先生
ヒナから気になる情報をもらう

・イオリ
満身創痍でさらにまさかの再会をするなどした。今回の不憫枠

・チナツ
こんな形で会いたくはなかったですね…。

・ヒナ
隠れている便利屋か、第三勢力か…と警戒したら思いがけない人物だった件


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全貌は少しずつ

明けましておめでとうございます …今年は忙しくなりそうで…執筆が息抜きとして機能したらいいな…



 

【ハリカ】

 

『これはパンデモニウム・ソサエティもティーパーティーも知らないことだけど、あなたには伝えておいた方がいいかもしれない』

『アビドスの捨てられた砂漠…あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでる』

 ヒナさんが先生に伝えていった情報。私はその場に居合わせたから勝手に共有されてたけど…

 

「カイザーコンストラクション…カイザーコーポレーションの系列ですか!?」

 アビドス自治区の土地の多くが、カイザーのものになっている。そんな衝撃の事実に、何やら気まずい雰囲気で入ってきた先生たち四人も、地籍図…土地の所有者も確認できる地図を覗き込んで唖然としている。

 そして大将のお見舞いに行っていた二人によると、柴関ラーメンにもずいぶん前から退去命令が出ていて、近々店を畳む予定があったらしい。砂漠に埋もれた地域から、まだ無事な地域まで、カイザーの手が伸びている?

 …というか待って、アビドス高校って砂漠に埋もれた本館があるの?初耳。

 

「で、ですがどうしてこんなことに!?自治区の土地を取引だなんてそんなこと、できるはずが…」

「いったい誰がこんなこと…」

「…アビドスの生徒会、でしょ」

 聞き慣れない低い声。その出所は…ホシノさんだった。

「学校の資産の議決権は生徒会にある。それが可能なのは普通に考えて、その学校の生徒会だけ」

「…はい。その通りです。取引の主体は、アビドス前生徒会でした」

「学校が手放した、ってこと?」

「嘘でしょ…!?」

「それぞれの学校の自治区は学校のもの…あまりにも当たり前の常識です。あまりにも当たり前すぎて、借金の方にばかり気を取られて…気づくことができませんでした。もう少し早く気づけていたら…」

「…ううん、アヤネちゃんが気に病むことじゃないよ」

 いつものトーンに戻ってきたホシノさんは、けれど寂しげな声で。

「これはアヤネちゃんが来るよりも…対策委員会ができるよりも前のことなんだから」

 …そうして、最後の生徒会に所属していたというホシノさんの話が始まった。

 

「…では、なぜ前の生徒会はカイザーコーポレーションにアビドスの土地を売ったのでしょう?」

 前生徒会長とホシノさんの二人っきりだったという前生徒会。さすがに限界過ぎると思ったけど、これまでのでっかい数字の数々を考えるとまあ…ね?となってしまう自分がいる。感性…壊されちゃったね…。

「最初から裏で繋がってたとか?」

「いえ…それは違うと思います」

「そうだね~私もしっかりとは関わってないからただの憶測だけど…ちゃんと学校のことを思って頑張ってた人たちだと思うよ。たぶん、最初はただ借金を返そうとして…だったんだろうねぇ」

「はい。当時、すでに借金は膨れ上がっている状態でした。…しかし、こんな土地に高値が付くはずもなく、少なくとも借金自体を減らすまでには至らなかった…」

「それで繰り返し土地を売ってしまう負の循環に…という感じでしょうか…」

「…何それ、おかしくない?最初からどうしようもないっていうか…」

 セリカちゃんの言う通り。よほどの切り札がなければ出口がない状況が完成してる。…こういうのって、…でも…。

「…そういう()()もあるよね」

「先生?」

 思わず横を向いたら目が合った。いつにもまして真剣な目。…そんな顔されたら何も言えない。

「言い方を気にしてる場合じゃないでしょ。…アビドスは、悪質な罠にはめられたのかもしれない」

 

「お金を貸したのも…カイザーコーポレーション…それなら」

 新しく判明した情報。おそらくこれで、ピースが揃った。はじめからかなり太っ腹な投資をしてくれたのだろう…あとで返済に困窮させるために。土地を売ることを提案したのも恐らくはカイザーローン。そうやって…

「…アビドス自治区は、ゆっくりとカイザーコーポレーションのものになる」

「だいぶ前から計画してた罠だったのかもね…それこそ、何十年も前から…」

「何それ…ただただカイザーコーポレーションの奴らにもてあそばれてるだけじゃん…!生徒会のやつらどんだけ無能なの!?こんな詐欺みたいなやり方に騙されてなければ…」

悪いのは騙す方だよ、セリカちゃん

「っ…」

 激昂してるところ悪いけれど、食い気味に遮らせてもらった。単に言い返したくなっただけじゃない。元生徒会役員のホシノさんがここにはいるから。…本人は思ったほど気にしてない様子だったけど。「僕も、ハリカと同意見だよ」という先生の言葉を受けて、セリカちゃんは思いっきり視線をさ迷わせた。

「…わ、私も分かってるわよ!たまにゲルマニウムのブレスレットとか買ったりするし、下手したらここの誰よりも分かってる!悪いのは騙す方だって!…でも、悔しい…どうして?ただでさえ苦しんでるアビドスに、どうしてこんな酷いことを…」

「…分からなくていいですよきっと。わかってしまったら、人の心なんてありません

「お~ハリカちゃんが怒ってる。…まぁ、困ってる人って、切羽詰まりやすくなるからねぇ…」

 指摘されて口を押さえた。言い過ぎたかも…と思ってたら、ホシノ先輩はなんだかしみじみとした口調で独り言のようにつぶやいた。

「切羽詰まると、人はなんでもやっちゃうものなんだよ。…ま、よくある話だけどね。それだけのことだと思うよ」

「…そうですね」

 切羽詰まると人はなんでもやる。脳裡に浮かんだのは九島家の末っ子。…対面したことはないけどね。

 …そして考えるに、生徒会がなくなったことでいよいよ学校の土地を奪うためにヘルメット団を雇った、ということ。…つまり、カイザーの狙いは土地のほう?…そうなるとまた疑問が浮上するんだけど。

「アビドスの自治区は、ほとんどが荒れ地と砂漠、砂まみれの廃墟になっているというのに…」

「確かに…こんな土地を奪ったところで、何か大きな利益になるとは思えませんが…」

「…砂漠と言えば…先生」

「あぁ、そうだ。実は、ゲヘナの風紀委員長が気になることを言っていたんだ」

 

 

「何がなんだかわからないけど、この目で直接確かめた方が早いでしょ!?」

 …ヒナちゃんさんから来た情報を伝えたあと、そんなセリカちゃんの発言で今後の方針が決まった。それはそうとなんかめちゃくちゃいじられるセリカちゃん。ずいぶんと可愛がられてる。私も可愛く思えてきたからわかるけど。

 それで、準備ができ次第アビドス砂漠へ赴くことが決まった。

 

 …決まったんだけど…。

「…これは…」

「…ホシノ先輩のバッグの中から見つけたの」

 先生を呼び止め、私にも同行を許可してくれたシロコちゃんが見せてくれたのは…ホシノ先輩の、対策委員会からの退()()()()だった。

「…勝手に取り出すなんて、手癖が悪いですよ」

「う…ん。悪いことだとはわかってる。というか…バッグを漁ったこと自体は、ホシノ先輩にはバレてると思う。でも…ホシノ先輩があそこまで長い時間席を外すこと、今までなかった。それに、風紀委員会からあんなに追い詰められて、先輩が来ないなんて……それが、どうしても引っ掛かって」

 シロコちゃんは、最初は歯切れ悪そうだったけれど、次第に強く訴えるような口調に変わっていった。表情はあまり変わっていないように見えるけれど、瞳が震えている。普段のクール(でヤバい奴)な彼女とは印象が違って…もともとあまりなかった怒る気も、すっかり失せてしまった。

「…確かに、私も妙だなとは思ってました。いくらなんでも行動的すぎるけど…それで、先生…どうします?」

「…とりあえず、保留にしておこう。一旦これは秘密で。いたずらに悩みの種を増やすべきじゃない」

「わかった…」

「煮えきらないようにも思えますけど、そうですね…」

 ただでさえ問題が多い。そのうえシロコちゃんの言う通り、ホシノさんは何か隠し事をしてる。…そういえば、ノノミちゃんも含めて気まずい空気で戻ってきたのはこの件なのか?…ノノミちゃんに聞けばわかるかな。

 

 

 

 

 





・ハリカ
当初思っていたよりも大規模な話になってきて茫然とした
セリカの怒りが伝染するなど

・アヤネ
調査も得意な後方支援担当。

・セリカ
柴大将からの情報に誰よりもショックを受けた
とかく火が点くのが早い

・シロコ
ここまでいろいろと日頃の行いの悪さが目立つクール(でヤバい)ガール

・ノノミ
今回は出番控えめ
このあとハリカが話しかけに行った

・ホシノ
やはり何かを抱え込む先輩

・先生
あくまで冷静な大人



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アビドス砂漠




 

[ 手前まで電車で行ける砂漠 とは ] [検索]

 

「…砂漠だ…」

 開幕早々語彙力が失われてしまって申し訳ない。"アビドス"の駅を出ると、そこには一面の黄色い砂が広がっていた。とはいえこの辺りは砂嵐で埋もれたエリア。本来の「アビドス砂漠」まではもう少し歩く必要があるらしい。

 …壊れた警備ロボット等がうろついてて危険とか聞こえた気がするけど気のせいだな。うん。とにかく今は、カイザーが砂漠で何を企んでいるかだ。

 

「けどさ、アヤネちゃん。よく考えたらおかしくない?その情報をくれたのってゲヘナの風紀委員長でしょ?いくら風紀委員長とはいえ、どうして他の学校の生徒がうちの自治区のこと、そこまで知ってるわけ?」

『うーん…あくまで憶測にすぎないけど、ゲヘナの風紀委員長はかなり情報収集能力に秀でてるって聞いたことが…』

「あぁ…あそこって風紀委員会だけで別棟があるくらいの規模だったしなぁ…情報網が桁違いでも不思議じゃないと思う」

「お~現場を見た人の貴重な意見」

「あまり多くは知りませんけどね…」

 ゲヘナの風紀委員会は…本当に、びっくりするくらい大きな組織だった。風紀委員会なんて普通教室一つだろう、別棟があるなんて聞いたことがない。いくらこの学園都市(キヴォトス)が特殊だからといっても、あんな警察機構と言っていいレベルのものはさすがに珍しいんじゃないかと思う。

 

『委員長という立場でしたら、委員会が把握する情報は全て集約されてくるでしょうし…それにあのとき、あちらの行政官は確か「他の学園自治区()()()」と言っていました…「自治区の中」ではなく』

「…そっか、アコさんはもう、土地の情報を知ってたのか」

『はい、だからこそ、「まだ違法行為とは言い切れない」…苦しい言い訳かと思っていましたが、本当に不法侵入の意図はなかったのかもしれません』

 そうかぁ…いやまあ、あくまで侵入した件についての話だから、アビドスと揉めたことには変わりないけど。シロコちゃんがアヤネちゃんを慰めている(?)のを傍目に、小さくため息をついた。

「…やっぱあとで蹴るか…」

 ヒナさんには伝えてあるからたぶん問題ないだろう。

 

 

「砂漠だぁ…」

「ハリカちゃん、さっきから言ってること同じですよ?」

 そうは言うけれどノノミちゃん、失われた語彙力を取り戻すのは大変なんだよ…ただでさえ慣れない砂漠歩きだし…一張羅が黄色く染まってきたけど大丈夫かな…。

 それはさておき、この辺りからいよいよ本来の砂漠であるらしい。みんなもあまり来たことが…

「いやぁ~久しぶりだねぇこの景色も」

「…先輩はここに来たことがあるの?」

「うん。生徒会の時に何度かね。もう少し進めばそこにはなんと、かつてアビドスの砂祭りが開かれていたオアシスが!」

「え、オアシス!?こんなところに!?」

「うん、まあもう干上がっちゃってるけどね」

 …ホシノさんにはあった。軽いノリで言うけど()()()()()()()()()って相当なことじゃない…?詳しくないから知らないけど。昔は船も浮かべられるほどだったというならなおさら。

 "砂祭り"というのはアビドスでも一番有名だった祭りで、往時は他の自治区からも人が集まったとか。…それが今や、この黄色一色の景色か…

 …感傷を抱きつつ、時たま攻撃してくる徘徊ドローンや徘徊ロボットを蹴散らしつつ進む。先生を守ることも忘れずに。…徘徊ドローンや徘徊ロボットって何だよ老人かよ。

 

『…!皆さん、前方に何かあります!砂ぼこりがひどくてよく見えませんが…巨大な町…いえ、工場?とにかく、何か大きな施設のようなものが…』

 アヤネちゃんからそんな通信が入った。…こっちからはただただ黄色い景色しか見えないけど…アヤネちゃん側の視点って高いからなぁ。

「こんなところに施設!?見間違いじゃなくて?」

『恐らく見間違いではないのですが…とりあえず、肉眼で確認できるところまで近づいてみてください』

 周囲のみんなの顔に一気に警戒の色が出る。それを見つつ、私は怪しまれないよう慎重に、右ポケットから小銃形態のCADを取り出した。…この鬱陶しい砂埃を、そろそろなんとかするために。

 

 

【ハリカ⇒ノノミ】

 

「…っ!」

 ごうっ、と風が吹いて、唐突に砂埃が晴れて…そこには、

「…何これ…」

 …なにやら、広大な施設が広がっていました。

 

「この有刺鉄線、優に数キロメートルはありそう…」

「工場…?石油ボーリング施設…ではなさそうな…何なんでしょう、この施設…?」

「…こんなの、昔はなかった」

 ホシノ先輩は、辺りを見渡しながら呆然としていました。先輩も知らない、新しい施設…?と不審がる私たちに、突如として弾丸が飛んできました。

「っ!?」

『前方から、正体不明の兵力が攻撃を仕掛けてきます!』

「よくわからないけど…歓迎の挨拶なら、返してあげた方が良さそうだね?」

 あら…珍しく、ホシノ先輩がとってもやる気ですね?私も手持ちの機関銃(リトルマシンガンV)を抱え直しました。掃討開始です☆

 

「うへ~…結局なんだろこいつら」

「侵入者だ!とか叫んでましたけど…」

「こんなところで、いったい何をしているのでしょうか…?」

 次々に現れる兵士を退治し一息つけた頃。『あ…』とアヤネちゃんが何かに気づいたみたいです。

『施設に何らかのマークが見えます!…このマーク…』

「…カイザーPMC」

 ホシノ先輩が口にした直後、ふわりと砂煙が晴れた先、三角のロゴマークの下には"KAISER PMC"の文字列が確かにありました。

 

「もうどこに行ってもカイザー、カイザー、カイザー!いったい何なの!?」

「それに"PMC"ということは…」

「Private Military Company…民間軍事会社、か…」

「ぐ、軍事…!?」

 目を丸くするセリカちゃん。あとシロコちゃんも。…ハリカちゃんが知っていたのは、ちょっと意外かもです。

『ヘルメット団のようなチンピラとは格が違います…本当に組織された、プロの軍隊のようなものです!』

「軍隊ぃ!?」

「カイザーには…退学した生徒や不良の生徒を集めて、兵として雇っているという噂がありましたが、まさか…」

「思った以上にヤバイ会社だった…っ!」

 

 …どこからともなくブザーの音が鳴り響きました。おそらく警報が作動したのでしょう。

「…ねえ、これ大ごとになりそうな予感なんだけど…」

「警報鳴るの遅くない…?」

「侵入者側が言うことじゃないですけど、手動ですかね…?これ、ヘリの音?」

「それにこの地響き…おそらく戦車」

『大規模な兵力が集まっています!そちらの言う通り戦車やヘリまで…!』

「これがプロの仕事ってコト!?」

『包囲が完成する前に離脱してください!まずは急いで、その場から脱出を!先生、お願いします!』

「わかった。抜けられそうなルートは?」

『今、ノノミ先輩がいるほうです!』

「了解。急ぐよ~」

「はい!」

 左隣の路地に駆け込みました。すぐにまたカイザーの兵士が現れますが…

「シロコ、奥を狙って」

「ん」

「セリカ、」

「言われなくても!」

 …やっぱり、先生の指揮があるととてもスムーズですね☆前衛のホシノ先輩を、シロコちゃんとセリカちゃんが的確にサポートする構図があっという間に出来上がりました。…私のとっておきの出番はまだのようです。

 

 そうやって順調に切り抜け、少し広い通りに出たその時。

「うわ、戦車――」

「おっとぉ!」

 ホシノ先輩の盾の陰で大きな爆発が起きました。ハリカちゃんが言った通り、増援の向こうから現れたのは一台の重戦車……これはちょっと、てこずりそうです。

「ノノミいけそう?」

「遮蔽物が多くてて難しいですね…ですがやってみ「待って」えっ?」

 後ろからハリカちゃんの声。

 …その直後、ドンッ!と戦車が爆発しました。

「えっ何!?」

「故障?…よくわからないけど、これはチャンスだよ」

「この調子で突破するよ~」

「…ハリカちゃん?」

 みんながひょいひょいと進んでいく中、私は少しだけ振り向きました。

「故障してたんじゃない?だいぶ汚れてたし」

「…そうですね」

 ほら行こ、というハリカちゃんと先生と一緒に、みんなを追いかけて倒れた兵士の横を駆け抜け、戦車の残骸を飛び越えます。…ハリカちゃんの左手首、ブレスレットが光った気がしましたけど…気のせいでしょうか。

 

 

 

 

 





・ハリカ
人生初の砂漠行はやけに風が強くて、少なくとも楽しくはなかった
そして敵方が思ってた以上にヤバイ連中な件(随時更新中)。ヮ…
砂嵐を晴らすためにしれっと密度操作を使用
そして戦車の爆発も彼女の仕業。ヒントは加速系

・ノノミ
なんだか不思議な現象が多いような気が…

・アヤネ
有能後方支援

・シロコ
ノリノリ(ただし真顔)

・セリカ
誰よりも感情的で目立つ

・ホシノ
世代間ギャップというか…アビドスについてみんなと違うことをたくさん知っている

・先生
どこにいらっしゃるんですか?(大混乱する作者)

・ヒナ
ハリカになんか伝えられてる。どころか承諾してる


廃線っぽい…?まあいいか()




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切羽詰まると、人は


Ep.1、下書きは出揃った(ここからが長そうだけども)



 

「はぁ…はぁ…っ」

「いや~キリがないねぇこれは…」

 さっきまでの地点に比べれば、辺りはちょっと開けてきた。けれど倒せど倒せど湧いてくる兵士。私はまだやれるけど、セリカとハリカが見るからにへとへとだ。

 

『…せい!聞こえますか、包囲網を抜け……また、…………が不安て…』

「あれ?アヤネちゃん?」

「ここに来て電波状況が…」

『早く、退却し……が接近……』

「接近?接近って…」

「…みんな。包囲されちゃったみたい」

 

 ハリカの言葉にふと見回すと、どこを見てもカイザーの兵士。…そんな中、大柄な人物が近づいてくるのが見えた。

「…侵入者とは聞いていたが、アビドスだったとはな」

 周囲の兵士たちの反応を見るに、序列の高い人物だとはわかる。でも、誰だろう…警戒する私たちをよそに、ホシノ先輩がスッと一歩踏み出した。

「あんたは、あの時の…」

「ん?確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長…いや、副会長だったか?」

「…?」

 何…?いきなり知らない単語が出てきた。いや、それより…狙われてる?ホシノ先輩が?それに()()()って…思わずシャーレの二人を見たけれど、呆気にとられていて何も知らない様子。

 

「…ふむ、面白いアイデアが浮かんだ。便利屋やヘルメット団を使うよりも良さそうだ」

「便利屋…何言ってるの?」

「…あなたたちは誰なんですか?」

「…まさか私のことを知らないとは。アビドスの君たちならよく知っている相手だと思うのだがね……私は、カイザーコーポレーションの理事を務める者だ。そして君たちアビドス高等学校が借金をしている相手でもある」

「っ、」

 明かされた正体に、息が詰まった。

 

「私たちはアビドスのどこかに埋められているという宝物を探しているのだ」

 カイザー理事は、ここにカイザーが勢力を広げている理由をそう話した。…けれど、

「…そんな出任せ、信じるわけないでしょ!?」

 セリカが叫ぶ通り、到底納得できる答えじゃない。

「もしそうだとしても、これだけの兵力が集まっていることの説明がつかない。この兵力は、私たちの自治区を武力で制圧するため。違う?」

「遠慮ないな二人とも…!?」

 …少しばかりの無言の睨み合い。破ったのは、カイザー理事のため息だった。

「…数百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士たち、数百トンもの火薬に弾薬。たった五人しかいない学校のために、これほどの用意をするとでも?あくまでもこれは、どこかの集団に宝探しの妨害をされたときの為のもの。…君たち程度、いつでもどうとでもできるのだよ。こういう風にな」

「…?」

 どこかへ手短に電話をかけたカイザー理事。…次に聞こえたのは、アヤネのすっとんきょうな叫び声だった。

 

 

【シロコ⇒ハリカ】

 

「悪い大人の本気…見たくなかったなぁ~…」

 帰ってきましたアビドス高校。深い深いため息を、なんとなく廊下の窓から吐くことにした。振り返れば教室の中はちょっと荒れ気味。

 カイザーの理事だというあの恰幅のいいロボット(!?)はかなり強かった。…権力と弁舌が。不法侵入の一点張りだけでなく、あろうことか利子の額を9000万まで吊り上げられ、さらに保証金として3億円を請求され、それができないなら転校すればいいとまで(のたま)われて…それで私たちはこれ以上話していてもどうにもならない、と帰ってきたわけだ。

 何なんだ3000%って…3億円って…!日常生活で見られない数字なんだよ!感性がおかしすぎる…()()()()()()と心底思ったけど、外見がそれに説得力を与えてしまうのが…もはや笑う他ない。

 

「ほらほらみんな落ち着いて~?頭から湯気が出てるよ~」

 そんな最中、ホシノさんが大きいけれど穏やかな声で制止を入れた。アヤネちゃんやノノミちゃんまでも声を張っていたのが、それだけで一気に落ち着いた。

 教室に戻ると、ホシノさんはシロコちゃんをなだめているところ。…こんな時でもすごい先輩だ。

「まあ、とりあえず今日はこの辺にしとこう。解散解散~。一回頭を冷やして、また明日集まることにしようよ」

「…そうだね。とりあえずみんな、一旦帰ろう」

 …ありゃ、解散するところでしたか。

 

 

「どうしたの~?ハリカちゃん、そんな暗い顔して」

 みんなが帰路に着いて、先生も出ていって、私とホシノさんの二人きり。たまたまなった状況だけど、ホシノさんはすかさずそんな風に話しかけてきた。

 暗い顔…してたのか。まあ…アビドス砂漠での一連の出来事に立ち会っていたから、部外者(シャーレ)といえどあおりを受けたのは確かだけど。…それよりも。

 

「…すみません、力になれなくて…私、みんなと一緒にいたのに」

「…気にすることないよ。先生だって何もできない状況だったんだし」

「……そう、ですね」

 でも、と言おうとしてやめた。ただでさえ慣れない長距離砂漠行で疲れていたのもあった。それに外から…あの世界から来た私だけにできることは確かにある。でもそれは(おおやけ)にはしないことを決めているし、何よりあの状況を好転させられるものじゃない…

「…私、本当にここにいていいのかわからなくて……あ。すみません、こんな」

 頭をよぎった不安が、即座に口から出てしまっていた。はたと顔を上げて、謝罪を述べ…ようとした口に、人差し指が当てられた。

「もしハリカちゃんが来なかったら…私たちが先生を受け入れるのにはもっと時間がかかったかも。もちろんそれだけじゃないよ~?誰よりも率先して先生を守ってくれるし、それに…銃の扱いは不慣れだって言ってたのに、わざわざ前線まで出向いてくれたでしょ?」

「…はい」

「だから、大丈夫。できれば先生と一緒に、みんなを支えてほしい。…うへ~こんなの柄じゃないんだけどなぁ~」

 あはは、と照れ笑いするホシノさん…ふふ、と私も笑みが浮かんだ。やっぱりいい先輩だなぁ…そう思っていたところで、がらりとドアが開いて、先生と…シロコちゃんも戻ってきた。

「あれ、シロコちゃんはまだ何かやることがある感じ?」

「先輩、ちょっといい?」

「うへ~おじさんと話したいことがあるの?照れるな~」

「僕もだ。ハリカもここにいて」

「?…はい」

「先生も?うへ~おじさんモテモテだ~…でもさ、今日は色々なことがあって疲れたじゃん?また明日話そうよ」

 …なんだろう?私は何も聞かされていない。なんだか頷き合ってるけど、そちらお二人だけでいったい何を…?あ、シロコちゃんは帰っちゃうんだ??

 

「先生…?」

「うへ~先生やるねぇ。私の可愛いシロコちゃんと、いつの間に目と目で意志疎通ができる仲になったんだ~?いやいややっぱり侮れない大人だなぁ。おじさんさっぱりついていけなくて、なんだか寂しいよ~?」

「…ホシノ、聞いてもいい?」

「ん~?何を?」

 饒舌なホシノさんに対し、先生は静かに一枚の紙…あの退会届けを見せた。

「っ…!!」

「うぇ、いつの間に…これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね?まったく…いくらなんでも先輩の鞄を漁るのはダメでしょ~。先生、ちゃんとシロコちゃんを叱っといてよ?あのままじゃとんでもない大悪党になってもおかしくないって」

「うん、それはまた今度ね。今は、この退部届けについて聞きたいんだ」

「……そっかぁ…その静かさ、ハリカちゃんも知ってたね?」

「…すみません」

 …正直忘れてました。その、悪い大人の本気があまりにも強烈すぎて…。

「んー…逃がしてくれそうには…ないよね~。はぁ。仕方ないなぁ……面と向かってってのもあれだし、ちょっとその辺一緒に歩かない?」

 

 

 その辺というのは本当にその辺で…三人で廊下を歩く。外はすっかり暗くなった…どころか、いつの間にやらもう星が見える時刻。友人の居残りに付き合ったことはあったけど、ここまで暗い時間帯の学校にいたことはなくてちょっとワクワク…しそうなものだけど、靴底のざりざりという音でなんだか台無し。

「…砂、多いですね」

「うん、まあしょうがないんだけどね~。掃除しようにも、人数に対して建物の規模が大きすぎて…せめて砂嵐が減ってくれればいいんだけど。うへ~せっかくの高校生活が全部砂色なんて、ちょっとやるせないと思わない?」

「ホシノは、本当にこの学校のことが好きなんだね」

「今の話の流れでそう思う?うへ、やっぱり先生は変な人だね~」

 にやりと笑みを浮かべた…と思えばホシノ先輩は立ち止まって、寂しげな目で窓の外を見やった。

 

「…砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど…そんな記憶も実感も、おじさんには全然ないんだよねぇ…最初からめちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった…おじさんが入学したとき、アビドス本館はもう砂に埋もれちゃってたし、当時の先輩たちだってもうみんないなくなった。今いるここは、砂漠化を避けて何度も引っ越した…ただの別館」

「…言ってましたね。確かアヤネちゃんが」

 そういえば、ここは被災地なんだな…。天候操作とかいう夢物語は頻繁に語られるけど、いつだって自然はアンコントロールで、こっちの都合なんか聞いちゃくれないわけで…『事象を情報と捉えて書き換える』なんて考え方が普及したって、天候は相変わらずカオスの領域だったね。

「でもここに来てシロコちゃんやアヤネちゃん、ノノミちゃんにセリカちゃんと出会えたから…やっぱりここが好きなのかもしれないな~」

 

「…正直に話すよ。私は二年前から、変な奴らから提案を受けてた」

 "カイザーコーポレーションからスカウトを受けている"。それが、真面目な顔で向き直ったホシノさんが教えてくれた、彼女の隠し事だった。

「…アビドスに入学した直後からずっと、何回もね。ついこの間もあったなぁ…"私たちの企業に所属すれば、借金の半分近くを補填する"ってさ」

 狙われていたのはホシノさんだった…ってことなのか?それにしても()()()()。大部分じゃないのがなんともいやらしく思えてくる。

「当時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってたけど…あいつら、PMCで使える人材を集めてるみたい」

「その相手って…何者なんだい?」

「私も、あいつの正体はわからない。ただ、私は『黒服』って呼んでる」

「黒服…」

「何となくゾッとするやつで…キヴォトス広しと言っても、あんなタイプのやつには会ったことがなかったし…怪しいやつだけど、特段問題は起こしてなかった」

「得体の知れない存在か…」

「なんなんだろうね…あのカイザーの理事でさえ、黒服のことは恐れてる感じだったし」

「…それで、この退部届けは?」

「うへ」

 

 …あ、怪しいやつの話から強制的に引き戻した。強気の力業。まあ目下の問題は今ホシノさんの手にあるそれだものね。ホシノさんは気まずそうに頬を掻いて、視線をさ迷わせている。

「…まあ、1ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし…ちょっとした気の迷いというか…うん、もう捨てちゃうか」

 目の前で一枚の書類が、ビリビリと音を立てて左右に分かたれた。

「いやぁ、余計な誤解を招いてごめんね。でもこんな話をみんなにしたところで、心配させるだけでいいことも何もなさそうだったからさ~」

「それは…確かに…」

「でもまあ、可愛い後輩にいつまでも隠し事ってのも良くないし。明日、みんなにちゃんと話すよ。困らせちゃうだけだと思うけど、隠し事なんてないに越したことないだろうし。……実際のところ、あの提案を受ける以外の方法は思い付いてないんだけどね」

 ここに来て、ホシノさんの暗い顔を初めて見たように思う。時にムードメーカーとしてのんびりと、時にリーダーとして気丈に振る舞ってたけど、それはあくまでも、先輩としての…

「…きっと何か、方法があるよ」

「…そうだね~奇跡でも起きてくれたらいいんだけどさ~」

 冗談めかした笑顔を浮かべたホシノさんの提案で、三人きりの散歩はそこでお開きに…

 

ホシノ!

 呼び止めた先生の大声にビクッとした。…いや、先生が大声出すこと自体滅多にないからつい…。見れば、ホシノさんも驚いた顔でこちらを向いている。

「僕が、大人としてどうにかする。だから…!」

「…うへへ、私そんなに元気無さそうだったかな?……ありがとう、先生。それじゃね」

 照れくさそうにそれだけ言って、ホシノ先輩は去っていく。…その背中を、先生は複雑な表情で見つめていた。

 

 

 

 そして翌日。

 …対策委員会の机に…予備があったらしい、破かれたはずのあの退会届けと、みんなに宛てた手紙が置かれていて。

 ホシノさんは、学校に来なかった。

 

 

 

 

 





・ハリカ
悪い大人の本気にげんなり。ここまで派手に権力を振りかざす大人を見るのは初めてで…
力になりたくてここにいるけど、ちゃんとなれているのか不安になった
私の魔法は四角四面ですから…起こせる奇跡には限界があります

・シロコ
知っている戦い方では太刀打ちできなかった。むぅ…
退部届けの件は先生に任せた

・セリカ
もう実力行使しかない!

・アヤネ
先に借金を何とかしませんと!

・ノノミ
右往左往
そういえばブラックカードの域はさすがに越えたのだろうか…?

・先生
▼つよい しめいかん を おぼえた!
ハリカを立ち会わせることが多いのは同じ少女としての見解や共感があるかもと考えるから。もちろん住む世界が違ったことは承知の上

・ホシノ
シャーレの二人だけに隠し事を打ち明けた。けれど
…奇跡、かぁ…


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攻防戦と救いの手


どこで切るか悩んだ結果こんな感じに



 

 

何なのっ!!?

 私は思わず声を張り上げていた。叩いた机からイヤな音がしたけど、気にしちゃいられない。

 

 ホシノ先輩はアビドスとシャーレと別々に手紙を残していて…そこには借金の大半を肩代わりする条件でスカウトされていたこと、その話に乗ると決めたこと、アビドス高校をよろしく頼む…なんて書かれていて。

あれだけ偉そうに説教しておいて!切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分でわかってたくせに!!こんなの、受け入れられるわけないじゃない!!

「助けないと…私が行く。対策委員会に迷惑がかからないように、一人で」

「落ち着いてください!足並みを揃えないと…うわぁ!?

 

 突然の地響きと爆発音。窓の外を見れば煙が上がっていて、機器を確認したアヤネちゃんが「…うそ、」と声を震わせてる。

「…こちらに向かって数百人規模のPMC兵士が接近中、同時に市街地へ無差別攻撃をしています!」

「カイザーPMC!?どうしてこのタイミングで!?」

「応戦しないとです!何にしても、アビドスが攻撃されているのを見過ごすわけには…!」

「考えてる時間が惜しい、早く行こう!」

「で、ですが私たちが相手するにはあまりにも数が…!とにかくまずは、市民の皆さんを避難させましょう!」

 何か、たくさんのものがぶつかり合うような音が下階から聞こえて、いつの間にか教室を出ていたハリカ先輩が勢いよく戻ってきた。

「みんな、PMCの兵が校内まで…!」

「っ!?…確かにアビドス高校周辺にカイザーPMCの兵士を多数確認、すでに校内にも侵入されています!」

「まじか…っ、とりあえず、学校に侵入したやつからやっつけよう!アヤネちゃんお願い!」

「わかりました!」

 アヤネちゃんが機器を見ているかたわら、持ち物を確かめる。弾薬は十分、整備も欠かさずやってる。

「先生」

「なんだい?」

「屋内は任せます。それと今回、私はここに」

「わかった。ハリカ、行ってらっしゃい」

「えっ?」

 見れば廊下を走り去っていくハリカ先輩の姿。ノノミ先輩も気づいたみたいで、ハリカちゃん?と声をかけたけど、ハリカ先輩は振り向かずに階段を駆け上がっていった。

「…先生?」

「大丈夫、ハリカは強いし、最大限やるべきことをやってくれる。僕らも行こう」

「…ん。わかった」

 …よくわからないけど、シャーレの二人の間だけで通じるところがあるのかな…?

 そこでまた大きな地響きがしてわれに返った。こんなことしてる場合じゃないんだった!とにかく、この学校を…アビドスを、好き勝手になんかさせてやらないんだから!

 

 

【セリカ⇒ハリカ】

 

「うわ…」

 アヤネちゃんの言う通り、外はカイザーPMCの兵士だらけだった。

 ホシノさんがいなくなったタイミングで、こんな…いや、そういえば、カイザー理事はホシノさんと対峙したとき、スカウトについて言及しただろうか?もしかしたらその辺り、食い違いがあったのかもしれない。

「今考えててもしょうがないけどなぁ…っと」

 どちらにせよ向こうに同情の余地はないし。…確か、校舎内の兵士をどうにかしたあとは街へ出ると言っていた。それなら負担は少しでも減らしておくべきだろう。身体を窓の下に潜め、そっと外を窺う。

「さてと…」

 手にするのは特化型。相手は大勢、とはいえあまりド派手なことはしたくないけど。窓を薄く開けて、外気の様子を確かめて。

「…少々、手荒にいきますか」

 

 

『新しい学校の名前は…そうだな、『カイザー職業訓練学校』とでもしようか』

「っ、」

 突然の乱気流(砂嵐)に外が大混乱に陥ったのを確認したあと。そっとアヤネちゃんのもとへ戻ると、現場と繋がった通信からあのカイザー理事の声が聞こえていた。…あの正論と権力でねじ伏せれば勝ち、みたいな姿勢がどうにも鼻につく。あぁ~ヤバいまたセリカちゃんの怒りが伝染しそう…に私はなってたけど、ふとアヤネちゃんがうつむいていることに気がついた。

「対策委員会は、公式に許可を受けてる委員会じゃない…対策委員会ができたとき、もうアビドスには生徒会がなかったから」

『えっ!?』

「ぁ…」

『そう、所詮非公認の組織、公式に書類の承認も下りていない。君たちの存在を示すものは何もない。…だが喜べ、アビドス高等学校がなくなれば、君たちはあの借金地獄から逃れられるのだからな』

「…」

 

 沈黙が下りた部屋から、そっと廊下に出た。いたたまれなくなったから。みんなの努力が水の泡になりそうなことが、じゃない。

「…部外者なのが悔やまれる…っ」

 みんなを支えているのは、きっとこの学校、この街に対する愛着なんだろう。…私が持ち得ないもの。

 正直なところ、私はみんなが必死に足掻くのを、心の底からは応援できないでいた。()()()()()()()()()()()()()()の付き合いであって、どこか他人事な自分がいた。

 …その認めたくなかった事実が、本当の窮地にある今になって私の心を責め(さいな)んでくる。薄情者になんかなれやしない。そんな環境で育ってないもの。

 

「…今ここで戦ったところで、何かが変わるんでしょうか……今も、凄い数の兵力がこちらに向かっています。たとえ戦って勝てたとしても…その後は、どうすれば……」

 部屋の中から聞こえるアヤネちゃんの声は、か弱いものになっていた。どうやら、最後方で頑張っていた彼女の心が、誰よりも先に折れてしまったらしい。背後で絶望したような言葉が並ぶ中、左から不躾な足音。ちらと窺えばロボットみたいなPMC兵士。

「うざい」

 引き金を引くだけで、そいつは開いた窓の外へ吹き飛んでいく。それでもたった一人だけ。砂山の一粒にすぎなくて、趨勢は何も変わらないらしい。

「…支えてほしいって言われたけど……私も、そろそろ限界かも…」

 

 

 

 

 

「…!?」

 …そんな状況を変えたのは、通信の向こうから聞こえた大きな爆発音だった。

『まったく…おとなしく聞いていれば、何を泣き言ばかり言っているのかしら』

 アヤネちゃんのいる部屋に戻ると、通信の向こうから聞こえてきたこの声…聞き覚えしかない、アルちゃんだ。何がどうなってるのかわからないけど…便利屋68。彼女たちが来たんだ。

 

『何をどうすればいいのかわからない、なることなすこと全部失敗に終わる、ここを切り抜けたところで、この先も逆境と苦難しかない…だから何だって言うの!?仲間が危機に瀕してるんでしょう?それなのにくだらないことばっかり考えて、このまま全部奪われて…それで納得できるわけ!?』

 そして熱い説得をされている…アルちゃんめっちゃいい人じゃん…初見の違和感はやっぱりこれか…なんというか無理してるというか、たぶんあれは本当のアルちゃんじゃないなとは思ってたんだ。

『目を開けなさい?腑抜けた顔のあなたたちに今、真のアウトローの戦い方を見せてあげるわ』

 まあアウトローは諦めないみたいだけど…通信の向こうから再び響きだした爆発音。あの便利屋、だいぶ爆発物の扱いに長けてるよね…。

 

 

『…おかげさまで目が醒めました。私たちにこうしている暇はありません』

『そうよ!何よりもまず、ホシノ先輩を取り戻さないと!』

▼アビドスのみんながふっかつした!

 …いやもう、セリカちゃんのきゃんきゃん言う声(セリカちゃんは猫耳だけど)を聞いて安心してる自分がいる。こりゃあれだけ可愛がられるわけだ…。

『…よくも、私の大事な生徒を…ホシノのこと、返してもらうよ』

 そして先生がちょっと怖い。一人称が変わっていらっしゃる…大人が相手っていうのもあるだろうけど。あれは十中八九キレてる。久々に見たな…

 

 その後、アビドス&便利屋+先生による反撃により、カイザーは退却していった。…最後どうやら理事が操縦しているらしいデカブツが出てきたけど、アルちゃんの一撃がすさまじかった。当たったあと爆発したよ何あれ??

 けど、これで光明は見えてきた。みんなの目に光が戻った。…私も、こんなもだもだしてる場合じゃない。愛着がないから何だ。どうせ乗りかかった船…と言うのは失礼かもだけど、せめて最後まで見届けさせてもらおう。

 

 

「…どうするんだこれ…」

 …そう思いながら、私は校舎内で倒されたPMC兵士たちを外へ投げ出す作業をしていた。そして現在、体育館内部で煙をあげて静止している戦車(!?)の前に立ち尽くしている。…これはいいや、みんなが戻ってくるまで待とう。

 

 

 

 

 





・ハリカ
単独行動に入り平然とCADが登場。空気の密度操作が得意中の得意なので風を起こしまくる
ほんとは内心ずっと思い悩んでたよ。いかんせん抱え込むのは得意なタイプなもので

・セリカ
なんだか、考えるほどハリカ先輩って不思議よね…

・シロコ
たびたび一人で立ち向かおうとするアグレッシブガール

・アヤネ
アビドス勢の中では二番目にメンタルピンチだった
なにやらムツキに気に入られているようで内心困惑してる

・ノノミ
今回は影薄かったね…()

・先生
ハリカに学校を任せ、現場に出た指揮官

・便利屋68
(ほんとはラーメン食べに来ただけだけど)激アツ展開に盛大な拍手。

・ホシノ





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反撃の烽火


またしても一日に二話投げゆ
(唐突に投稿時間で遊ぶ図)



 

「"おかえり"って言って、"ただいま"って言わせよう」

 つまり、ホシノさん救出作戦を決行することが決まった。どこかへ出掛けていた先生が、ホシノ先輩の居場所について掴んできたようだ。

 

「でも、今の私たちだけじゃ勝てない。誰か協力者がいれば…」

「便利屋は?」

「確かに私たちのことを助けてくれましたが…またお願いしてもいいんでしょうか?」

「大丈夫だって!またどこに行ったのか知らないけど、これまでさんざん迷惑かけられたんだから、これくらいのお願いは聞いてもらわないと!」

「あはは…まあ、それは確かに」

「その協力者の件なんだけど、僕に考えがある」

 真剣な顔の先生がした提案は、突飛で…とても魅力的なものだった。

 

 

 

「…会ってたんですか…『黒服』とやらに」

 シャーレに帰って早々、先生はいきなり今日出掛けていた先のことを明かしてくれた。『黒服』は、キヴォトスの外部の存在である『ゲマトリア』の一員であるという。

「交渉は決裂した。でも、ホシノの居場所は教わったんだ」

「…取り返せるなら取り返してみろ、ってことですかね?わかりませんけど…」

 黙り込む先生。…どうやら本題じゃないらしい。

「…どうしてその話を、私に?確かに私は先生と同じように外の人間ですけど、大人同士の話に入っていけるほど出来た子じゃないですよ?」

「…『黒服』は、ハリカのことも把握してる」

「っ!?」

 

―――『ゲマトリア』は常にあなたのことを見ていますよ。

―――あの迷い子…『稲梓ハリカ』のこともね。

 

 別れ際、そんなことを言われたらしい。

 【悲報】ヤバそうな大人に目をつけられた。ウワ…今の状況下で一番避けたかった状況に一発でなっちゃっいや待ってどういうこと!??

「わ…私そんな、そこまで目立つようなこと、少なくとも表立ってした覚えはないですよ!?なのになんで!?」

「それはわからない…ただ、『ゲマトリア』は"観測者"だと言っていたから…恐らく、本当に()()()()いるのかも」

「居直りストーカーじゃないですかヤダー…それで、私も狙われるかもしれないということですね?」

「話が早くて助かるよ」

「まあ…」

 …しかし、ただの迷子を気にかけますかね?と思いはしたけど口には出さなかった。相手は得体の知れないやつだというのに、そんなフラグにしかならないこと言うのは自殺行為が過ぎる。思うだけでもアウトかもしれないけど。

「…それじゃ、私はそろそろ」

「うん。…明日もよろしくね」

「もちろんですよ。では」

 

 

 さて、翌日…

「…いけない、危うく「ただいま」って言うところだった」

 私が先に言っちゃってどうする…とまあそんなわけで、私はゲヘナ学園を再訪していた。何をしに来たかというと、

「…先生。それにハリカも」

 …目の前にいる風紀委員長が答え。あ、隣に倒れている行政官はおまけ。

「ハ、ハリカ…?」

 先生は横で固まっている。そりゃまあ、部下が急に相手方の秘書のお尻を全力で蹴飛ばしたらそうなるか。

「ヒナさんには先に話を通していたので大丈夫です。そんなことより、本題に入りましょう」

 床から睨まれた気がするけど知らない。気にしてる場合じゃないもの。

 

 

【ハリカ⇒ 】

 

『先生に教えていただいた情報によりますと、ホシノ先輩はカイザーPMCの、第51地区の中央辺りにいるはずです。一番安全なルートで案内します、行きましょう!』

 ホシノを取り戻すため、アビドス砂漠に戻ってきた。態勢は万全、補給も十二分。取れる手立ては尽くした。

そして実際、ゲヘナの風紀委員会が動いてくれている。チナツがモモトークで伝えてくれた。

 

『前方に敵を発見しました!距離は2km、もうすぐ接敵します!戦闘の準備を、っ!?』

 ズドン!!と大きな音を立てて前方で爆発が起きた。…PMCの一団が、ほんの一瞬で混乱状態に陥っていく。

「支援射撃…?」

『あれは…L118、トリニティの牽引式榴弾砲です!一体どうして…』

『あうぅ…わ、私です…』

 アヤネが驚いているところへ、通信に飛び込んだ気弱そうな声。…よかった、どうやら狙いは成功したらしい。

 

「その声…もしかしてヒフ『ち、違います!私はヒフミではなくファウストです!』…うん」

「わぁ☆ファウストさんお久しぶりです!ご自分で名前を言っちゃってましたが、そこはご愛嬌ってことで!」

『あ、あれっ!?あうぅ…』

「…まあ…やりましたね、先生」

 隣のハリカが小声で、ぐっと親指を立てて言うのにうなずき返して、わいわい通信している様子に意識を戻す。これくらいしかできなくて申し訳ない、とヒフミは言うけれど、充分助かったよ。

『敵は砲撃で混乱状態です、今のうちに行きましょう!』

 

 

『目標の座標地点に到着…この辺りに、ホシノ先輩が閉じ込められているはずです!』

ここが目指していた"カイザーPMC第51地区"、その中央部。砂嵐に埋もれた旧市街地の一部で、一見しては他の旧市街地と同じように見える。

 しかしアヤネの言葉に立ち止まった僕たちの視線は、自然とひとつの建物に向かっていた。それは

「これって…学校?」

「もしかして、これが…」

 

「ああ、ここが本来のアビドス高校本館だ」

 第三者の低い声。…忘れもしない、砂漠のただ中で聞いたもの。

「っ…あんたは…」

「よくぞここまで来たものだ…アビドス対策委員会」

 カイザーの理事が、僕たちの前に再び立ちはだかった。

 

 

 

 

 





・ハリカ
先生の言い回しいいよね~
ゲヘナを再訪、せっかくなのでついでに別の用事も済ませておいた。トリニティには関わってない
オープンストーカーこあい…と思いつつ若干の開き直りもあったりする

・先生
初語り手回
とれる手立ては尽くした
ハリカ同行のお陰で足舐めイベントは発生しませんでした。よろしくお願いします

・対策委員会
▼ケツイがみなぎった。(それは別のゲーム)

・ゲヘナ風紀委員会
先生の要請を受け出動した。アコの件は3話前を参照。

ヒフミファウスト
ピクニック(意味深)に来た模様
L118はトリニティのものですが、トリニティは無関係ですから!


・ゲマトリア
ハリカについてはまだ様子見。




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おかえりを言いに

 

『敵の増援多数…この数字、恐らく向こうの動ける全兵力が…!』

「こんなところで総力戦か…アタリっぽいね」

 かつてのアビドス高校校舎の前に立ち塞がったカイザー理事は、ゲマトリアの要求でここに実験室を立ち上げたのだという。…ここにホシノさんがいる、ということは恐らくその"実験"の被験者にされているということだろう。

 居場所を教えてくれるという謎の優しさ(?)を発揮しつつ「既に実験が始まっているかもしれないが」とか言って逆撫でしてくるこいつ…。

 

「彼女の元に行きたければ私たちを振り切って行けばいい。君たちにそれができるなら、の話だが」

 強気な言葉を合図にするかのように、大勢のPMC兵士たちが一斉に銃口を向ける。

「そりゃ簡単には通してくれないか…」

「ん…じゃあ、ここは私が」

 名乗り出たシロコちゃんが、ドローンを起動

 …する前に、居並ぶ兵士たちの真っ只中で爆発が起きた。

 

「っ!!?」

『こっ、今度はなんですか!?』

 アヤネちゃんが叫ぶ間にも、PMC兵士めがけて銃撃が、黒い鞄が……鞄?

「じゃーん!やっほ~☆」

「…べ、」

『便利屋の皆さん…!?』

 そう、現れたのは何度目かの便利屋68。みんなが驚いてるということはお願いしたわけではないらしい。

「やっと追い付いた~!けどなんかみんな集まってるし、大事なシーンに割り込んじゃった感じ?」

「…ふん、こっそり助太刀しようかと思ったのに、そう上手くはいかなかったわね」

 きょろきょろ見渡してるムツキちゃんに澄まし顔のアルちゃん…が、なにやらくつくつと笑いだす。

「ふふ…勘だけはなまっていないようね対策委員会。私たちが来た理由なんて決まってるでしょう?……ここは私たちに任せて、先に行きなさい!

 

 

「あ!アナタもまた会おうね~!」

「え?あ、はい!?」

 走り出したアビドスの面々を追いかけようとした矢先、ムツキちゃんから声をかけられてびっくりした。当の彼女はくふふ!と笑いながらひらひら手を振って戦場に身を投じていく…アルちゃん百面相してる。また後に退()けなくなってるな?

 

 そして、なんとか兵士たちを切り抜けたところで、

『ホシノ先輩の位置、確認できました!あのバンカーの地下です!』

 アヤネちゃんの通信が入った。バンカー…頑丈な防空壕みたいなそれが前方に見えた。なんだっけ、掩体って言うんだっけ?とにかく、あの先にホシノさんがいるらしい。

 …けれど。

 

「カイザー理事…!」

「ああもう!どこまで邪魔すれば気が済むの!!」

「どいてください!さもないと、」

「対策委員会…ずっとお前たちが目障りだった」

 …なおも立ち塞がる理事は、しかし今度は様子が違った。

「これまであらゆる手段を講じてきた…だがお前たちは滅びかけの学校にいつまでも残って、しつこく粘って、どうにか借金を返済しようとして…!

「…っ!」

 ギシッ…という音は、理事の握りしめた拳から。…怒っている。さっきまでのあの余裕を、理事はもうすっかりなくしている。

…あれほど懲らしめたのに、徹底的に苦しめたのに、毎日毎日楽しそうに!!…お前たちのせいで、計画が……私の計画がぁぁ!!!

 感情的に吼える理事…対する私たちは毅然と戦闘準備に入る。だって心は決まってるから。セリカちゃんでさえ、静かに口を開く。

「あんたみたいな下劣で浅はかな奴が何をしようと、私たちの心は折れたりしないわよ」

「ホシノ先輩を返してもらうよ」

「あなたみたいな情けない大人に、私たちは負けません!」

『戦闘に入ります…先生、お願いします!!』

 

 

「先生…すみません、少し離れていいですか」

 通信を一旦切って、隣の先生に声をかけた。戦場のただ中で、私は基本的に先生の身を守る動きをする。他のみんなも同じことは考えてくれてるけど、私は同じシャーレとして第一に。

 …ただ、今回はじっとしていたくない自分がいて。

「…みんなの負担、増やしちゃうかもしれませんけど」

「大丈夫だよ、あの子達なら。それに僕も何もしない訳じゃないし…ハリカがよくうずうずしてるのは知ってるから。行っておいで」

「知られてましたか……ちゃんと戻ってきます」

 頬が熱くなるのは気にしないようにして、左手首の汎用型から、ここに来て以来二度目となる起動式を呼び出した。突拍子もないように見えて仕組みは単純。加重系…体にかかる慣性を消し、収束系…周囲の空気を動かし、最後は移動系。

「よっ…と」

 瞬きの合間に、広範囲を見渡せる場所に移動した。これが『擬似瞬間移動』。遮蔽物さえなければ自由自在…とはいえ、消耗は大きいから控えてる。…考案者かどうかはわからないけど、やっぱり()()()はすごいな。

 上から見れば、三人が力強く突き進んでるのがよくわかる。時おりアヤネちゃんの支援を受けながら、気持ちいいくらいにPMCを蹴散らしている。

「先生から離れちゃってるし…負担減らしてあげないとね!」

 左ポケットから出したチャック袋を開封。この際全弾放出してしまおう。好都合なことに、なぜだかこんなところにまで弾丸が散らばってることだし。

 

「…あ、出た」

 そして再びお目見えした白いデカブツ。パワードスーツって言うのかな?ああいうの…けど、アビドスがだいぶ押してる。あのすさまじい砲撃に耐えられる身体が本当にわからないのはさておき、もうほぼ戦況は確定と言えそうだ。

 …なんて、静観するわけがないけれど。私だって怒ってるから…ここはひとつ、ささやかな大技を捧げよう。

「せめて、これくらいの奇跡は起こしてあげますか」

 静かに特化型を構える。狙いはもちろんパワードスーツ、あれを()()とする。

 タイミングを計るため、通信を入れ直す。狙うはノノミちゃんのとっておきが炸裂した直後…

「―――ここだ」

 

 

 集中砲火を受けたパワードスーツが沈黙し、それを確認した私たちは全力で駆け出した。ヘリの音がしたけれど、気にしてなんかいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ハリカ⇒ホシノ】

 

―――先輩はすぐそこにいるはずです!

―――ここです!でもドアが開かなくて…

―――こんのぉっ!!

 

 …大きな音がして、世界が揺れた…気がする。

 気がつけば辺りは真っ暗。拘束は解けて、私は床に倒れ伏していた。…いや、そんなわけない。夢でも見てるのかな……みんなの声が聞こえたような。じゃあ、やっぱり夢か…

「…声」

 ゆっくりと手を伸ばして、体を起こした。…これは、きっと夢だけど。

「あれ?こ、こっちも!?」

「いや、こっちは歪んでるみたいです…たぶん、さっきので」

「悪かったわね!!」

 …夢でもいいから。…最後に、もう一度だけ…

「私がやる」

「えっ…でも、」

「任せて、こういうときは…」

 

                       

 

「…へ」

 見覚えのある青い光。それが目の前で広がって、真っ暗だった空間を照らした…ように思った。次の瞬間には、目の前に見えた扉が実際に開いて。

「「「「ホシノ先輩!!!!」」」」

 …シロコちゃん…ノノミちゃん…セリカちゃん…アヤネちゃんまで。…対策委員会のメンバーが。

 ふわりと吹いてくる外の風…さっきまでこの部屋にはなかった、砂と硝煙の匂い……夢じゃ、ない?

「あ、れ…どうやって…?だって、私は…」

「ホシノ」

 顔を上げると、扉のわきに立つ先生と目が合った。…あぁ、そっか…

「…みんなと、先生…大人が、ね…はは」

「お、おかえり、先輩」

「あ~!セリカちゃんに先を越されちゃいました!恥ずかしいから言わないって言ってたのに、ズルいです!」

「う、うるさいうるさい!順番なんてどうでもいいでしょ!!」

 赤い顔のセリカちゃんは、ノノミちゃんにからかわれて耳まで真っ赤にしてる。…いつものセリカちゃん。

「…無事でよかった」

 シロコちゃんはやっぱりクールに、簡潔に…でも、目が潤んでるよ。

「ホシノ先輩、おかえりなさい!」

 アヤネちゃんなんてもう泣いちゃって…え、おかえりなさい、って…

「おかえりなさい、です!」

 うへ、ノノミちゃんも?

「おかえり、ホシノ先輩」

 …シロコちゃんまで。

「あはは…なんだかみんな、期待に満ちた表情だけど…求められてるのは、あのセリフ?」

「あぁもう!わかってるなら焦らさないでよ!」

 セリカちゃん、まだ顔赤くなるの…はは…みんな私の言葉を待ってる。…勘弁してよ。頬が緩んじゃうじゃんか。

「うへ~…まったく、かわいい後輩たちのお願いだし、仕方ないなぁ」

 

 

「ただいま、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 





・ハリカ
アビドスにささやかな奇跡(魔法)を送る。
擬似瞬間移動はEp.1初回で疑問に思われてたやつ。お待たせしました。しれっと輻輳点(コンバージェンス)の応用法も登場。
最後にいないのは部屋の外で待ってたため

・対策委員会
アヤネはヘリで現着。
おかえりを言えた

・先生
なにげにヘリの手配までしてたのね…
目標を達成できてよかった

・便利屋68
大人気コメディリリーフ。ハリカと戦場で対面したのは初

・ホシノ
夢じゃなかったね
ただいまを返した



もうちっとだけ続くんじゃ…


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嵐は去って


ミトドケタ━(゚∀゚)━!
ちらほら小難しかったけどいい話でしたね



 

 

 

 みんなが対策委員会の部室で休息をとる中、シャーレの二人と三人きりで話がしたい、と言うホシノと一緒に廊下に出た。いなくなる前の晩を思い出してしまうけど、あのときと違って外はまだ明るい夕焼け空。

「ホシノさんも、今日はゆっくり休んだほうがいいんじゃ…」

「大丈夫だよ、おじさんは身動きとれなくなってたし。むしろハリカちゃんが心配だけど…ちょーっと放っておきたくないことがあってさ。…ねえ、ハリカちゃん」

「…はい」

 ホシノはくるりと振り返り、ハリカの正面に立った。表情はのんびりしている時とは違う、真剣そのもの。

「単刀直入に聞くよ。ハリカちゃんってさ、本当は何者?」

「………えっ?」

「私がいた部屋のドア…ハリカちゃんが何かしたんじゃない?開ける前に」

「っ!?えっ、えっ…と、それは、どういう…?」

 

 ホシノの質問に対して、ハリカは…ものすごく動揺しつつ、質問を返していた。あぁ…あのときやけにすんなり扉が開いたと思ったけど、やっぱり何かしてたんだ…と思うくらいにはバレバレの態度。…ホシノも、ちょっと震えてる。

「いや~…あのとき、青い光が見えてさ」

「…え…見えたん…ですか」

「それから扉が…え、なに?」

「見えたんですか!?想子(サイオン)光が!」

「さい…えっ?」

 ポカンとしたホシノを見て、ハリカはしまった、という顔で口を押さえた。…すごく見覚えがある。

 

 

「…魔法は本来、普通の人には実際の変化と結果しか見えないはずなんです。たまに余剰想子光が現実の光に変わることはありますけど…私はそこまでの浪費をしないよう心がけてますから」

「そっか…要するに、ハリカちゃんの隠し事をおじさんは見抜いちゃったってことか。うへ~こりゃ大変だ」

 結局、ハリカは魔法についてホシノに明かした。ハリカは「失言がなくても、視られた以上話さざるを得ない」と言っていたけど…

 …そう。以前ハリカが魔法について、『適性がなければ視認もできない』と語っていたまさにあの件………ん?待って?…ということは…?

「…いえ、気になりますけど、やめておきましょう。ホシノさんを信用しないわけじゃないですけど…」

「へ?なんの話?」

「…()()()()()()()()()使()()()()()()()()()って話です。視えるとはつまりそういうことでもあるので。…でも、ホシノさんはただでさえ狙われてた立場ですし…私としては、見えるだけって方が嬉しいです」

「そうなの?」

「はい…ここまでイレギュラーな火種は、私だけで充分でしょう

「うへ~はっきり言うね~。まあ、それもそっか」

 気がつけば、ホシノはいつもののほほんとした雰囲気に戻っている。ハリカはまだ顔が固いけど。

「…すみません、新しく隠し事を作ってしまって…でも、お願いします。みんなには秘密で」

「わかったよ。ないに越したことはないとはいえ、お願いされちゃしょうがないや」

「ありがとうございます。…じゃあ、そろそろ戻ります?」

「そうしよっか~」

 ほっと安堵の息をついたハリカと、ホシノの先導で来た道を戻る。

 …きっと、アビドス最大の苦難はこれで去った。あと、対策委員会のために僕ができることは…

 

 

 

 

 

【 ⇒ハリカ】

 

「おはようございます、先生」

「ああ…おはようハリカ」

 シャーレのオフィスに入ると、今日も見慣れた顔に出迎えられ…る……

「…先生、ちゃんと夜寝てます?」

 見慣れた顔の目の下には、炭を擦り付けたようなものすごい隈ができていた。なんだか最近どんどん濃くなる一方な気がする。

「うん…寝てるよ。30分くらい」

「短い!?全っ然足りない!もっと寝た方がいいですって!?」

「大丈夫大丈夫、一回泥のように眠ったら元通りだから」

「じゃあ今すぐそれやってくださいほら書類置いて立って!」

 でも仕事が、とか反論が来たけど、耳を貸さずに仮眠室に押し込めておいた。心配しなくても、おかげさまでもう書類の整理くらい造作もありませんよ。それに、ここに来るのは私たちだけではないですし。

 

「…あれ、これは…手紙?」

 ふと執務机の上にある便箋に気がついた。差出人は…アヤネちゃんだ。

「アビドス……そっか…」

 手紙の内容はアヤネちゃんからのお礼だった。先生の尽力で対策委員会が正式に部活として認められたことは知っている。実質生徒会になるとも。ただホシノさんは生徒会長になるつもりはないらしいけど。

 あと、カイザーに連邦生徒会の捜査が入るというのも聞いていた。それに関連して、アビドスが抱えていた借金…そこに付けられていた暴利もなくなり、むしろ元の額より少なくなったとか。…借金そのものや土地の権利については違法な取引じゃなかったからそのままだけど、それでもだいぶ楽にはなったそうだ。

「理事は指名手配と尻尾切りくらって行方不明か…御愁傷様だことで」

 まあ、言うほどかわいそうとは思わないけど。是非とも人の心を手に入れる旅になってほしいとは思う。

 その他には、柴関ラーメンが屋台で復活したとか、便利屋は新しく事務所を構えたらしいとか、『黒服』も調べたけどよくわからなかったとか…

「…ふふ、結局元通り、ね…」

 相変わらずセリカちゃんは残念な子で、シロコちゃんは過激な子で、ホシノさんはのんびりやってるらしい。…でも、よかった。それはきっと、日常が守られたってことだ。何気なくても、それが宝物ってことを、私も…

「………いけないいけない。仕事しよう」

 

 

【ハリカ⇒ユウカ】

 

「…ハリカ?」

「あ、ユウカちゃん」

 シャーレのオフィスを訪れると先生は不在で、ハリカが一人で書類の整理をしていた。その姿を見て、思わずジト目になってしまう。視線の先には…重力を無視してふよふよ浮かぶクリアファイル。

「あなた、その魔法とやら…あまり軽率に使うものじゃないんじゃ…」

「いやぁ便利でつい…ね?これくらいなら負担もほとんどないし」

「負担とかじゃなくて…またハスミ先輩のときみたいにバレたりしてないわよね?」

「……………」

「その沈黙は何?」

 

 顔をそらされた。そう、彼女の魔法、実はトリニティ総合学園の羽川ハスミ先輩には既にバレている。単純にシャーレで油断してて目撃されたらしい。ハスミ先輩は真面目でしっかりした人だから、秘密はちゃんと守ってくれるだろうけど…

「そのぉ…言いにくいんだけど…」

「バレたのね?」

「…ハイ」

 猫背になって縮こまったハリカから、弱々しい肯定の返事が…ちょっと、この飛んできたファイルは私に渡すってこと?嘘でしょ今このタイミングで!?

「アンタね…」

「待ってき、聞いて!今回、その…バレ方が問題で!」

「これ以上の問題って何?」

「見られたの、()()()()()()()()の!」

「…………は?」

 思わず数秒フリーズした。だって、聞いてた話と違う…適性がなきゃ見えない、って…

「あ、相手は?」

「アビドスのホシノさん…青い光についてはみんなに話してたけど、私ってことは秘密にしてくれてる。適性どうこうは試してないからわからない」

「試してないって…ああでもそうか、使えたら使えたで大ごとよね…」

「察しがよくて助かる…」

 

 …確かに、ただでさえ大事にはしたくないって言ってるのに、使い手が増える事態は避けたいわよね。

「…それって、問題が起きたけど保留ってこと?」

「まあ…ホシノさんも、今のままでいいって言うから」

「…そう」

 色々と気にはなるけど…本人たちがこれでいいと言うなら、私には何も言えない。この話に私が踏み込めるのはここまでだ。

「そういえば、先生は?」

「まぶたにすごい隈作ってたから寝かせた」

「あぁ…なるほどね。まったく……あっ、そうだ先生といえば!聞いたわよ、前線に出て体張ったらしいじゃない」

 日頃から忠告していることに触れると、ハリカは「げ!」と苦い表情をした。と思うと、また顔をそらされる。

「そ、れは…私の勝手じゃん?いいでしょ別に、防御には自信あるんだよ?今ならウトウトしてても張れるんだから」

「そういう問題じゃないわよ、いくら自信があるって言っても私たちとは違うんだから!リスキーな行動は避けるべき!」

「っ…それを、言われちゃうとさぁ…」

 

 …さすがにちょっと言い過ぎたかな…と目に見えてしゅんとしてしまったハリカを見て思った。書類整理の手は止まってないけど…その作業もすぐに終わったらしい。コンパクトにまとまったファイルを胸に抱えて、空いた右手は後頭部へ。後ろにまとめた髪と白いリボンを揺らしながら、おもむろにその口が開いた。

「…いくらリスキーだろうと、やらなきゃいけないことはあるんだよ」

「…ハリカ」

「悲しませたくなかったし…()()()()()()()()()()()()()以上、後悔はしたくなかったから、さ…」

 うつむくハリカがつぶやいた言葉が妙に引っ掛かった。でも言うべきじゃない、と思ったときには、もう口を衝いていて。

「…帰りたいんじゃ、なかった」

「もう帰れないから」

「…えっ?」

「…何でもない。忘れて」

 思いがけない即答に顔を上げた…けど、足早にオフィスを出ていくハリカの顔を見ることはできなかった。

 

 

 





・ハリカ
押されると弱かった。以後気を付けます…
まさかの見えちゃう人登場で取り乱した。同じものを使えるかも、というのは魅力的ではあったけど、あまりにもハイリスクすぎるので追いかけないことにした。
歪んでたドアは発散系か何かで整形したと考えといてください
もう帰れないことは先生にも明かしてない

みんなが救われてよかった。
…え、私?

・ホシノ
見えちゃった人。ことの重大さもハリカの心遣いも承知したので秘密は守る。
使えるか否かは今は保留にしておく
けどたぶん使えはしないほうに行くと思う

・対策委員会
▼かけがえのない にちじょう が まもられた。(これ本来2章のほうでやる演出だよなぁと思いながら…)

・先生
大切な生徒のため、できることを模索し続ける大人
見えるときって青い光なんだね…※使い手や種類によります。

・ユウカ
シャーレに頻繁に来るし、同い年なのもあってすっかり打ち解けてる。見えるときって青(ry
ハリカは外の人間であり、肉体は先生と同じらしいのであまり無茶はしないでほしい

・作者
時系列はベテラン先生にもよくわからないようなのでコノアトドウシヨウカナー状態














「…やらなきゃいけないことがあるとか、啖呵切っちゃったけど…なんてことない、ただの向こう見ずじゃんか」
 屋上に続く階段に座り込む少女が一人。膝に顔をうずめたまま、ぽつりとつぶやいた。
「…はぁ、バカは死んでも治らなかったな」




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閑話①:精彩と陰翳

^^*


 

彩りが増える話

 

【ハリカ】

 

「そういえば先生、ここの空きテナントを改装してカフェにするんだって言ってましたよ」

 シャーレの一階にあるコンビニ『エンジェル24』…私の知ってるコンビニとは違って弾薬とか普通に売ってるけど。世界線ギャップにはさすがに慣れてきた。ここに来ると、よくソラちゃんという見るからに年下の女の子がレジを任されているのを見かける…というか他の人を見たことがない。大丈夫?と思うけど本人いわく「お客さんもあまり来ないので」とのこと。

 シャーレの業務にもだいぶ慣れてきたある日。お客さんも来ない微妙な時刻、暇つぶしがてら雑談に付き合っているとソラちゃんがそう教えてくれた。

「え?私聞いてない…そうか、伏せられたか…」

 一瞬フリーズしたけど、すぐに納得した。そりゃそんな案件…伏せるよなぁ。ただでさえユウカちゃんと同じ対応されつつあるし…。

 ちょっと怯えてる様子のソラちゃんをなだめて、支払いを済ませる。新品のボールペンとペットボトルのストレートティー、すっかり推しになったワッフルサンド、合わせて¥550…ちょっと悩んだけどこれだけにしておく。また来るね、と告げて足早にオフィスへ向かった。

 

 

あーっ!

 オフィスに入ったら叫び声で出迎えられた。思わず硬直したところへ、デスクの前から駆け寄ってくる女の子が一人。黒い制服に白いポニーテールを揺らすこの子、便利屋68の…

「…ムツキ、ちゃん?」

「覚えててくれたんだ~!ハリカちゃんだよね!」

「えっ、そ、うだけど…なんでここに…?」

「ムツキ、落ち着いて。困らせちゃってるから」

 困惑していたら、デスクのほうからもう一人、聞き覚えのある声がした。…カヨコさん、だっけ?風紀委員の行政官に啖呵を切ってた人。

 便利屋が来てる?と思ったけどあとの二人は見当たらない。というかいつにもまして人が多い。前から入り浸ってるスズミちゃんとチナツちゃん、フユコさんがいるのはさておき知らない子が三人。そして、

「あ!お久しぶりです、ハリカちゃん!」

「ノノミちゃんまで…?」

 はるばるアビドスからノノミちゃんまで来ていらっしゃる。呆然としていると、先生がデスク下から身を起こすのが見えた。そんなところにいたのか。

 

「あ、お帰りハリカ」

「はい、ただいま戻りました…あの、この状況はいったい…?」

「この子たちはシャーレの新入りだよ」

「新入り…?」

「私たちはここと兼部する、ってことですよ」

 ノノミちゃんが付け足すように教えてくれた。…そういえばここは「キヴォトスに存在する全学園の生徒を制限なく加入させられる超法規的機関」だったか。この手のキャッチコピーってよく忘れちゃう。

 なおミレニアムのユウカちゃん、トリニティのハスミさんとスズミちゃん、ゲヘナのチナツちゃんとフユコさんはすでに所属になっていたらしい。やたら来てくれるなぁとは思ってたらそうだったのか。

「で、今回…何人ですか?」

「6人だね」

「思い切りましたね?」

「4人は自己申告だから…」

「まあ、先生の負担が減るかもって考えれば、いいことですけど」

 先生によると、見知った顔の三人…便利屋の二人*1とノノミちゃん。それと、

 

「百鬼夜行連合学院1年、久田(くだ)イズナです!」

 …なんか強烈な名前の学校から来たイズナちゃん。この四人は自己申告らしい。

 先生いわく、百鬼夜行連合学院を訪問した際、ひょんなことからイズナちゃんに懐かれたそうだ。私は行ったことないからもちろん同行してない時である。何があったのか本人に尋ねると「(あるじ)殿(どの)はイズナの夢を応援してくださるので!!」とのこと。呼称がすでにフルスロットルしてて背後に宇宙が広がった。あと大きい尻尾めっちゃ振ってるのはかわいいけど、悲しい事故が起きそうで心配です。

 そして、あとの二人はというと…

 

「…ミレニアム学園、音瀬(おとせ)コタマ、です」

 コタマさんはデスク横に移動させた椅子に座ったまま、資料から顔を上げてそう言った。丁寧口調だけど年上の3年生。先生はユウカちゃんに便りになりそうな協力者について問うたところ、ミレニアムの『ヴェリタス』という集団を()()()()()()()()紹介されたらしい。とりあえず会ってみては、という感じで。あまりユウカちゃんとは良好な関係ではないのかも…。あとで本人に聞こう。

 そんなコタマさん…コミュニケーション苦手オーラがかなり出ているので、ひとまず「よろしくお願いします」だけで済ませておいた。…なんか、久々に見るなあの感じ。(けい)君ももともとあんなだったし…

 

降旗(ふりはた)チサキ。ゲヘナの2年。退屈しのぎに名前だけ貸す。以上」

 もう一人は…ものすごくふてぶてしかった。ソファに腰かけるフユコちゃんに背後からのしかかったまま、ひらひらと手を振っている。白黒のキャップから覗く赤い髪が揺れて目を引いた。

「チサキ、そういう言い方…」

「だって事実だし。正直どっかに所属とかしたくないけどまあ、現場の人手くらいにはなるよ。よろしく…じゃあ、帰る」

「え、ちょっと?チサキー?」

 チサキちゃんを追って、フユコさんの背中も廊下へ消えていった。…苦笑している先生いわく、フユコさんの推薦だけど「現場以外では期待しない方がいい」とは言われていたらしい。

「…なんか強烈な子来たなぁ…」

「チサキ先輩…噂には聞いていたんですが…」

「噂?」

「独断で騒ぎの鎮圧に出る姿がよく見られるんです…風紀委員の厄介にならない程度に。その上で見返りを求めるような行動をとるわけでもなく…」

「あぁ…いわゆるヴィジランテ、かな…」

 つまりは自警団*2。チナツちゃんから聞いたチサキちゃんの人物像はそんなところ。確かにそういう人って、往々にしてれっきとした治安維持組織とは揉めやすいよね…。

「しがらみを嫌う一匹狼って聞いてたけど、こんなところに来るとはね」

「ほんと。私こないだも出くわしたけど睨まれちゃってさ~」

「ムツキはたぶん、社長以上に目つけられてるから…」

「便利屋の二人も知ってるの?ゲヘナではけっこう有名な子なのかな」

「うーん…トラブルに巻き込まれなきゃ、知る機会もないだろうけど…そうなると、知ってる子のほうが多いんじゃないかな?」

「言ってて悲しくならない?その治安の悪さ」

「くふふ☆」

「…」

 笑ってごまかされた。先程まで慌ただしく書類の整理をしていた先生も、落ち着かない様子のチナツちゃんに数枚のファイルを預けて会話に入ってくる。…便利屋と風紀委員は折り合い悪いらしいし、先生なりの配慮だろう。

 

「ところで…便利屋のあとの二人も来るのかい?」

「いや~?私はこの際便利屋みんなでシャーレ入らない?って言ったんだけど、アルちゃんが乗り気じゃないみたいでさ~」

「ハルカは社長にべったりだからね…一緒には来てない」

「アウトローと絡めたら来たりしません?」

「あは、ハリカちゃんったらわかってるじゃ~ん」

「ははは…でもそれはちょっと難しいね」

「そうなんですよねぇ…ところで先生」

 さっきまでちょっと忙しそうだった先生に余裕が出てきたようなので、あやうく忘れるところだった当初の目的について切り出すことにする。

「私、カフェとやらについて聞いてないんですけど?」

「あ…ごめん、タイミング逃してた。カフェっていっても、コーヒーマシンを置いてセルフで提供する形だよ。僕も使うから」

「ああ、そういう…」

 なるほど。カフェという呼び名ではあるものの、実態としてはドリンクコーナーか。コーヒーマシンをレンタルしてコーヒーカプセルが定期便で送られてくるサービスを使い、調度品は追い追い取り揃えていくつもりらしい。

「それくらい相談してくれてもいいじゃないですか…まあ、わかりました。払える分は私からも出しますよ」

「いやいいよそんな、僕が何とか」

「それは散財癖をどうにかしてから言ってください」

「ユウカと同じこと言ってるよ…」

「事実ですから仕方ないでしょう。とりあえず、カフェにする部屋ってどこですか?」

 …ひとまず目下の疑問は解消されたから、そのカフェにする部屋の下見にでも行くことにした。手渡された内装案の資料で、一気に賑やかになったシャーレを眺めてゆるんだ口許を隠しつつ。

 

 

 


 

蟠りに悶える話

 

【ハリカ⇒カヨコ】

 

 

「…」

 シャーレ、オフィスの向かいにある仮眠室。廊下に出て後ろ手にドアを閉め…パーカーが汚れるのも構わず、ずるずると座り込んだ。

 …他人が秘密にして、抱え込んでいるであろうことに触れてしまった。それも不可抗力的に。名状し難い落ち着かない気分で、だけど人に話せることではなくて、私はほとんど放心状態になっていた。

 

「カヨコ殿?」

 不意に降ってきた声に顔を上げると、シャーレのオフィスのドアから狐耳の生徒が顔を出して、私をきょとんと見つめていた。…イズナ。百鬼夜行の、天真爛漫な1年生。そんな後輩が大丈夫ですか?と声をかけてくる。

「…大丈夫。何でもないよ」

「そうですか…では、イズナはちょっと学校に戻る用事がありますので!」

「…うん」

 ぱたぱたと廊下を走り去っていくイズナをなんとなく見送って、オフィスの扉に手を掛けた。…妙な話だけど、他人から心配されたことでいくらか落ち着いた気がする。とにかく、今回は事情を知っていそうな人がいるから…まずは聞いてみるべきだろう。

 

「ね~ぇ~遊ぼうよ先生~」

「何寝ぼけたこと言ってるのムツキこの仕事の山が見えない!?二桁じゃ済まないのよ!?あんたもちゃんと手伝いなさい!」

「…あ、カヨコ…」

「………はぁ…」

 そう思ってオフィスに入ればこれだ。…いや、今私とイズナが出ていったらこうなるか。山のような資料をさばくユウカと、それをテーブルに頬杖をついて眺める我らが室長(ムツキ)が言い合いになっている。間で板挟みになっている先生は助けを求める目。思わずため息がこぼれた。

「邪魔しちゃ駄目だよムツキ。私も手伝うし」

「はぁーい…あれ、ハリカちゃんは?」

 身を起こしたムツキが、私を見て目をぱちくりとさせた。…私がオフィスを出たのは、仮眠室で眠っているハリカをそろそろ起こしてきてほしいと言われたから。…けれど今、ここにハリカの姿はない。

「それなんだけど、先生…それと、ユウカも」

「なんだい?」

「私も?」

 名前を呼べば、二人とも顔を上げて私を見る。…作業を止めてしまう形になるけれど、なんだか放っておきたくはなかった。

「…ハリカがうなされてるの、知ってる?」

 

「…んん…っうぅ…っ」

 仮眠室に入って真っ先に聞こえたのはそんなうめき声。見ればベッドの上で毛布を胸元までかぶったハリカは、額に玉の汗を浮かべて…悪夢にうなされているようだった。

 

「うなされてる、って?」

「…知ってるよ」

「…私も、一応は」

 眉をひそめるムツキの横で、真面目な顔の先生と、暗い顔のユウカがぽつりと答えた。…やっぱり。

「えっ?それって、何回もってこと?」

「うん…来てすぐの頃から、ほとんど毎日うなされてるみたいで…」

「「毎日!?」…ちょ…それは私も知りませんでしたよ!?」

「本人に止められてたから…あと、ハリカはアビドス高校に寝泊まりしてたこともあるから、ノノミも知ってるかも」

「そんなにずっと悪夢を見るなら、寝るのが嫌になったりしそうなものだけど…」

「不思議とそれはないみたいなんだよ。だから気になって内容を聞いてみたこともあるんだけど、話してくれなかった。…もしかして、何か言ってたかい?」

「…寝言」

 

「ハリカ?ハリカ、起きて…っ」

 よくわからないけど、起こした方がいい。そう考えて体を揺さぶったら…布団の上に置かれていた手が伸びてきて、袖をぎゅうっと掴んできた。

 それと同時に、ハリカの目がゆっくり開いて…ぼんやりと視線を彷徨(さまよ)わせると、私の顔を見た。まだ覚醒しきっていない、寝ぼけた眼。でも、それは私の顔をしっかりととらえていて…

「…()()()、ごめん…悪い子で……」

「…っ」

 それは、私じゃない…いや、そもそも誰のこと?

 言いたいことはあったけど、とっさのことで凍りついたように動けなかった。そんな私をよそにハリカはまた目を閉じて、すぅすぅと寝息をたて始めた。…それで、もう一度起こす気にはなれなくて、私は仮眠室をあとにしたんだ。

 

「…ツグミ」

「どこかの生徒にはいそうだけど…来てすぐの頃から、ですよね?」

「うん…だから、たぶん」

「すみません、寝すぎちゃったみたいで…」

 話し込んでいた私たちの背後でドアが開く音がして、振り向けばまさに渦中の人物が入ってくるところ。寝癖もそのまま、ふだん髪をまとめている白いリボンも手に持ったまま、でもさっきと違って目はしっかりと開いている。

「ハリカ…」

「…大丈夫だよ。おはよう」

「…なんか、水差しちゃった感じですね」

「ハリカ、ツグミって誰?」

「カヨコちゃん!?」

 ムツキに信じられないというような目を向けられたけど知らない…このモヤモヤした気持ちは、さっさとどうにかしてしまいたかった。髪を結びながらドア横の棚を見上げていたハリカはその手を止めて、私を見て目を丸くしている。

「そ、の名前…」

「寝言」

「えっ?あ…も、もしかして起こしに来てた?」

「覚えてない?」

「覚えてない…ごめん、たぶん寝ぼけて」

「それはいいから」

 

 食い気味に遮ったら、ハリカはうぐっ、と言葉に詰まった。多分はぐらかそうとしてるんだろうけど下手すぎる。

「…ハリカ、言いにくいことなら無理しなくても」

「いえ、大丈夫です…昔の友達、ってだけですから…」

 そして言いにくそうにしていた割にあっさりと、ハリカはそう明かした。

「昔の…ってことは、キヴォトスに来る前にいた場所ってこと?」

「そういえば迷子なんだっけ?アヤネちゃんに聞いたけど」

「うん…それで、どうにも帰れそうにないからここにいるわけで…すみません、あまり…話したくない、です」

「…わかった」

 ()()()()()()()、という部分は気になったけど、すっかりしおらしくなってしまったハリカを見たら折れざるを得なかった。…あくまで気になっただけ。これ以上は尋問だ。そこまでするほどじゃない。

「…でも…カヨコさんは雰囲気が似てて、なんか勝手に懐かしいです」

「…え」

「まあそれは今どうでもいいことですね…さ、仕事しましょう仕事!」

 そう言ってあっという間にふだんの顔色を取り戻したハリカは、意気揚々と紙の山に手をつけている。

 …ちょっと待って、私はまだ衝撃が抜けてないんだけど。にやにやするなムツキ。

 

 

 

 

 

*1
浅黄(あさぎ)ムツキちゃんと鬼方(おにかた)カヨコさん。この度フルネームは初めて聞いた

*2
一人だから団とは言えないけど…





・ハリカ
人が一気に増えたので、さすがに今後はオフィスでの魔法使用を控える所存。賑やかになるなぁ…ちょっと嬉しいかも
悪夢の正体は心残り。辛いけど、もうここでしか会えない人たちがいる

・先生
所属メンバーが増えた。みんなよろしくね
ハリカは有能なので信頼しているものの、ちょっと不安なところもある

・ソラ
ゲームのショップでお馴染みの店員ちゃん。シャーレができてから、けっこう一気にお客さんが増えてきましたね…

*シャーレ加入メンツはある程度お世話になってる実況動画準拠だよ
・カヨコ
実質ムツキについてきた感じ。だからといってムツキを止めに入ってくれるわけではない
もしかしたらハリカの秘密に迫っていく感じになっちゃうかもしれない最年長

・ムツキ
来ちゃった☆な小悪魔系爆弾魔(投げるタイプ)。今後ハリカにとって手のかかる子(※ただし同級生)ポジションに落ち着く

・ノノミ
アビドスから早くも再登場を決めた。
先生の言う通り、ハリカがうなされてることは知ってる。あとホシノも。悪夢について聞いたけど教えてもらえなかった

・コタマ
☆1からピックアップ。ユウカが(盛大に躊躇しつつ)ヴェリタスもといチヒロに話を通す→チヒロがコタマを選任、みたいな流れになるんじゃないかな多分

・イズナ
初回からこの子が注目されてた、と言えば誰の実況かわかるかもしれない
桜花爛漫は時系列的に済ませても大丈夫そう…?らしいので…
今後ハリカにとって手のかかる子ポジション(ムツキとは違う意味で)に落ち着く

・チサキ
もう一人くらいオリキャラ入れたいなーと思ったわけだが、癖を詰め込んだ結果スピンオフ主人公みたいな子になってしまった。書く予定はないです
一見生意気だけど相応の実力はある。ちなみに距離不問の突スナタイプなので実装できない。大は小を兼ねる(ドヤ顔)

・フユコ
今後の登場は未定だと思っていた時期もあった。あくまで後方支援の人なので前線には出ないけどね
同い年だけどさん付けされてる。チナツの呼び方がうつったのもあるが、フユコがひときわ長身(169cm)なのが主な要因。

・ユウカ
安心と信頼の会計。ムツキは天敵
実は先生との間で悲しいすれ違いが起きている。詳しくは次回

・作者
プロフィール(随時更新)の運用を考えた結果、予約投稿は使わない方がいいという結論に至る
エピ2…ドウシヨ……また書きために入りますかね………
追記:2023/6/28、8/28、1/12
タイトル変更しました。よく考えたら同じ一日の話とは限らないので………いまだ悩み続けております。




・ツグミ
ハリカの親友で同じ四高生徒
眼光鋭く表情も乏しいため怖がられがち。得意魔法は振動系


















「…わかってる。いくら無二の親友だって、言えないことの一つや二つ、あって当たり前だって」
 直方体の箱の傍らで、真っ黒な装いをした少女が口を開く。さっきまで、動転した友人のために我慢していた涙をこぼして。
「でも…でも、だからってこんなの、許されるわけないじゃない…!」
 小窓から見えるのは、慣れ親しんだ…にしては白すぎる顔。
「…顔は綺麗でよかった、とか…そんな救いがあってたまるかってのよ…」


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Ep.2:レトロチック・ロマン
The frontiers of science



とりあえず章は作っておく企画~
完全オリジナル回だよ

最前線って原則複数形なんだね…




 

「そうだユウカ、今度ミレニアムまで案内頼んでいい?」

「え?」

 シャーレにて業務が一段落ついた休憩中、テーブルにコーヒーの紙コップを置いたハリカがしれっとそんなことを言い出して驚いた。

「案内くらいはいいけど、どうして急に?そもそも、よその学校に入るときは手続きが要るけど」

「前さ、ヘイローがないと色々ややこしいって話したでしょ?」

「…ええ、したわね」

 ちょっと前、作業の合間に雑談でこぼしていたことだ。驚かれたり不思議がられたり、とにかくヘイローがないことに反応されるのがさすがに鬱陶しく思えてきたらしい。これがキヴォトスの外から来たこと、すなわち私たちとは違って肉体が脆弱であることを何より雄弁に示すことは重々承知しているけれど、先生と違って魔法があるから守られるほど弱くもない…とかなんとか。でも、その話がどうしてここで…?

 

「あれ、コタマさんにも話してたんだけどさ…なんか、エンジニア部ってところまで話が行ったみたいで」

「………なるほどね」

 おおかた察して、思わず顔を覆ってしゃがみこんでしまった。コタマ先輩は、セミナー非公認のハッカー集団『ヴェリタス』の一員…いや、確かに私は先生にシャーレ加入メンツについて相談を受けて…ものすごく、ものすごく躊躇しつつ副部長たるチヒロ先輩を紹介したけど!私はチヒロ先輩本人を紹介したつもりだったのにどうして!?

 …いけない、取り乱してしまった。ともあれそんなコタマ先輩なのだけど、実はハリカはこの先輩にも魔法について明かしているのだ。理由は先輩の()()()()()ということから察してほしい。…けど、それがはるばるエンジニア部まで…

「というか、コタマ先輩とそんなに仲良かった…?」

「あの人モモトークではけっこうよく喋るから…さすがにここまでは予想外だったけど」

「…まさか、ね」

「どうかした?」

「いや…なんでもない」

 もしやとは思ったけど、ヴェリタスに私一人が狙われる道理はない…はず……可能性は限りなく低いだろう。なら単純に仲がいいだけか…よその交友関係まではさすがに把握してないし。

 

「それから手続きの件だけど…先生が言うには私はしなくても大丈夫って。特別部員になったから」

「特別部員…って…」

「連邦捜査部の。それで学校への入構手続きはパスできるようになったし、一人で外回りもできるようになったの」

「負担軽減策ってこと…?けど、その言いぐさだと事前に聞いてなかったんでしょ?いいの?」

「うん。私、常識が違いすぎてどこにも所属できないからさ…これは負担軽減と同時に、先生なりのご厚意なんだろうと思うよ」

「あぁ…そういう…」

 …こうして一緒に何気ない話をしていたら忘れてしまいそうになるけど、ハリカはキヴォトスの外から来た存在、それも先生みたいな大人じゃない、一応連邦生徒会の末端に名前を置く生徒。…ハリカは連邦生徒会に所属してるつもりはないみたいだけど、その辺りどうなってるのかしら…考えてみれば、学生登録どうこうの話を私は聞いてないし。

 ともかく、ハリカはにこにこ笑顔で言ってるけどこっちは全然笑えない…重いって……。

 

「それに、これで心置きなく活動範囲を広げられるからね!聞くところによるとミレニアムってめちゃくちゃ広いらしいし楽しみ!」

「…全部歩いて回るのはオススメできないわよ。学校の中だけでモノレールの駅が3つあるんだから」

「そんなに!?」

 珍しく目を輝かせたかと思えば、私の言葉に目を丸くして叫ぶ。そんなハリカの様子に思わずふ、と笑いがこぼれた。すると、ハリカが不意に顔を覗き込んできて。

「…ユウカ、なんかお疲れっぽいね?」

「…そう?」

「今日あんまり笑ってない…というか、表情があんまり変わってない。ふだん面白いくらい百面相してるのに」

「ナチュラルに一言多いわね」

「あとだいたいそういうときに出してる算盤(そろばん)も今はないし」

 …まさか見抜かれるとは思わなかった。演技力に自信があるわけじゃないけれど、それなりに繕ってはいるつもりだった。…私のこれは今、シャーレとは関係のないことだから。

 

「うーん…その…ハリカ。ミレニアムサイエンススクールについて、今どれくらい知ってる?」

「え?…その名の通り科学(Science)に重点を置いてて、エンジニアやプログラマーが多い、『最先端』『最新鋭』といえば…な場所でしょ?それで、ユウカは生徒会の一員なんだっけ」

「そうよ。私はミレニアム生徒会『セミナー』の会計」

会計…あ~察した。要するに"プロは妥協を許さない"的な話ね?」

「…ええ、そう…ハリカ、時々すごく察しがいいわよね?」

「論理パズルは得意だと思ってるからね」

 一足飛びに結論を提示されて、ちょっと動揺してしまった。…ハリカが指摘した通り。例えば前述したエンジニア部なんかはかなり予算遣いが荒い。あそこはそれでいてちゃんと結果を出してくるけど。

「…それだけじゃなくて後始末とかもあるけど、まあそういうこと…」

「財務は大変だね…大丈夫?先生の家計管理までやってて」

「大丈夫よ、私がやるって決めたことだから。それにしても先生はほんとに…」

 …そうして結局、その日の30分ほどの休憩時間の多くは愚痴に費やされていった。

 

 

 

「ここが、キヴォトスの科学の最前線(フロンティア)…テンション上がる…!」

 数日後、果たして私はハリカにミレニアムサイエンススクールを案内していた。ハリカはやっぱり目を輝かせてる。そんな大袈裟な…って言うところかもしれないけど、まぎれもない事実だから胸を張っておく。

「ええ、そうよ。…魔法とか言うからには、科学と相性悪いのかと思っちゃうけれど」

「中身はちゃんと科学だからねぇ。CADも科学技術の賜物だし…」

「はいはいそうやって軽々しく出さない」

 

 ポケットから軽率に平たい小銃を取り出すのを慌てて制止。この『スターリィ・ストリーム』というらしいハリカの銃は本当によくわからない。口径とか装填とかの概念が崩壊してるし、ハリカも「ユウカぐらい頭よかったら分かりそうだけど…」とか言いつつ濁してばかりいる。知られたくないのなら、誰が見てるかわからない場所で出すなんてなおさらダメでしょう。

「そうでした…それにしても、ここが四高に一番近いかもなぁ…まだ一部の学校しか見てないけど、元いた日常の気分になれそう」

「…私はその日常を思いっきり乱されたんだけど?」

「それはホントにごめんて」

 だいぶ反応に困ることを言われたけど嫌味で返しておいた。…"今度"とは言われていたものの、モモトークで急に「今からミレニアム行くね!」って来たから思わず大声出してセミナーの同僚を驚かせてしまったのだ。本当に反省してほしい。

 ちなみに、ハリカの入構は本当に顔パスと言っていい早さだった。先生がどこかに入構するのを直接見たことはまだないけど、たぶんあんな感じなんだろうと思う。

 

「それで、製品そのものはホログラムでヘイローを投影する髪留め、ってことよね?」

「そうそう。見かけだけでも取り繕っておきたいな~って」

「ふぅん…行き先はエンジニア部の部室?一番近い駅で降りたけど」

「んー…とりあえずそう、だけど相談先の本人に会えれば話が早くていいな」

「…念のため聞いておくけど誰?」

「1年のヒビキちゃんだって。年下に依頼するのは意外だったけど、なんか一番安全な選択肢とか言われてて…」

「…そうね、一番安全な選択肢よ」

 むしろその名前を聞いて安心した私がいる。これで部長だったら全力で止めてたわ。ハリカの後頭部で爆発が起きる事態はなんとしても避けないと。…というか、

「…いるわね、そこに」

 

 

【ユウカ⇒ハリカ】

 

「…ほんとにヘイローがないんだね。昨日来た先生みたい」

「あ、昨日先生来たんだ?」

「うん、ゲーム開発部と一緒に。ハリカ先輩もシャーレから来たんだよね?」

 モモトークで聞いていたエンジニア部のヒビキちゃんは、犬っぽい耳と尻尾、そして網タイツが目を引くクールそうな女の子だった。服装のせいかひとつ下とは思えない。

 ちなみにユウカちゃんは用事があるからと言ってどこかへ走っていった。道は覚えてるから、でなくてもモノレールの駅を探すのは割と簡単だからいいけど。

 

 そして、ヒビキちゃんは左手に抱えていたアタッシェケースを置いて開くと、中から手のひらサイズの小箱を取り出した。

「とりあえず髪型も聞いて、クリップにしておいた」

「あ、ありがとう…まさかすぐに出てくるとは」

 箱の中には、黒一色の簡素な髪留めがひとつ。凄い、ちょうど思い描いてたくらいのサイズだ…意図的かはわからないけどシンプルなデザインも好みだし。

「直接会って渡す方が効率がいい。本当に簡単なものだから、対価とかも気にしなくていい」

「えっいや…無償はさすがに悪いよ」

「…ほんとは、ヴェリタスのコタマ先輩からもうもらってる。うっかり無断で話遠しちゃったから、って」

「あぁ…コタマ先輩…」

 お詫びの方向性よ…まあいいけど。ありがとうございます本当に。側面のスイッチを押せばヘイローが出せるという言葉通りにすると、淡く光る模様が中空に浮かび上がった…けど。

「これかぁ~…」

 灰色の、四つ葉のクローバーみたいなシルエット、その真ん中に白い十字の線があると思えば、よく見ると紫の✕印も重なっている…めちゃくちゃ四高の校章だった。今私の左胸に同じものがある。

「その服についてる柄を参考にさせてもらったけど…マズかった?」

「いやマズくはないけど…まぁ…いいかな。ありがとう」

 あるとはいえきっかり45度傾いてるし、そもそも気休め程度にあったらいいなというほどのものだ。その気休め程度にこんな完成度の高いものを作ってくれたヒビキちゃんには脱帽してしまう。しかも本当に簡単なものって言ってたねさっき…ホログラムって灰色出せるんだってところから驚いたよ…?

「礼を言われるほどのことじゃない…けど、役に立ってくれたら何よりだよ」

 ヒビキちゃんはふ、と微笑んでそう言う。ほんとに第一印象そのままにクールな子って感じだな…尻尾がとても正直だけど。

 

「あとそのヘアクリップ、Bluetoothも搭載してて」

「どういうこと???」

 

 

 

 

 





・ハリカ
ふしぎなヘアクリップ を てにいれた!
実はだいぶややこしいタイミングで来訪していた

・ユウカ
何気に一番ハリカから色々と開示されてる生徒だと思う。正直すまん忙しいのに
数字を多用するのは知ってるんだけど難しいね…
ハリカがヒビキと話していた頃、彼女はゲーム開発部に突撃しており、

・ヒビキ
若き天才マイスター(※ただし何にでもBluetoothを搭載する女)
この程度もはや片手間だと思う

・コタマ
先手を打つ形で魔法云々を明かされた盗聴少女
たわいない愚痴からひらめいて行動に移した。チヒロ辺りは経由してるかも

・先生
実はミレニアムに来ている。また次回





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聖典(Bible)を求めて


オリ主しばらく情弱ムーブ…仕方ないね……ごぬんね………



 

 

「おぉ…ふふ、いい感じ」

 鏡の前。リボンに隠す形でクリップを止めると、頭上に浮かぶホログラム。本当に私がこの世界出身で、元からこうだった…みたいに違和感がない。これは知ってる顔に出くわしたら驚かれるな。それどころかそっくりさんだと思われるかも。

 ゆるみそうな口を押さえつつ何食わぬ顔でトイレを出て、目的は済んだけど、せっかくだからいろいろ適当に見て回ろうかな…とか思っていると、

「あれ?ハリカ…だよね?」

「あ、先生。こんなところに」

 背後からよく知っている声。振り向けばそこには予想通りのシャーレの上司(先生)…と、初めて見る四人の女の子がいた。

「先生知り合い?」

「シャーレのメンバー、だけど…ハリカ、それ」

「あ~…ちょっと、エンジニア部のお世話になってました」

「なるほど、それで来てたんだね」

 初対面がいる手前、ちょっと曖昧な言い方をしたけど先生には通じたらしい。まあヘイロー問題はもちろん先生にも話してたからね。それで先生を取り囲む四人に簡単な自己紹介をしていたら、先生は何かを思い付いたような顔をする。

「そうだ、よかったらちょっと一緒に来てくれない?」

「はい?」

 

 

 

 

 

「いっぱい説明してください」

 私with先生and初対面の生徒四名into荒れ果てた廃墟群now. 文法が死んだ。この人でなし!

 

 冗談はさておき…まず初対面の四人は、まさしくさっきヒビキちゃんから聞いた「ゲーム開発部」だった。

「私はモモイ!ゲーム開発部のシナリオライターだよ!」

「お姉ちゃん、この人先輩…すみません。妹のミドリです。イラスト担当です」

 まず、名前通りの色で対になってる双子の姉妹のモモイちゃんとミドリちゃん。全体的にペアルックだけど性格は対照的みたい。

「…ゲーム開発部、部長…ユズ、です」

 こちらは鮮やかな赤い髪とは裏腹に人見知りオーラ全開のユズちゃん。ミドリちゃんの背後でおどおどしてるけど、その手にはやはりしっかりと銃が握られている。…独特なデザインだけど、配色に見覚えがあるような…。

「私はアリス、タンク兼光属性アタッカーです!」

 そして、地面につくほど長い黒髪と一人だけ異様な大きさの武器が印象的なアリスちゃん。ゲーム用語の乱舞で目が点になったけど、「ぱんぱかぱーん!ハリカが仲間になりました!」がとても微笑ましかった。みんな1年生なんだね?

 先生がこの頃しばしばミレニアムに出向いているのは知っていたけど、このゲーム開発部からの要請だったらしい。先生を「勇者」と呼び、助けを求められるのは貴方だけです!とかいう独特な文面の依頼が来たとか。…でも、何がどうなったらゲームを開発する部がこんな廃墟探索に乗り出すのかがわからない。

「私たちが廃部を乗りきるための切り札…"G.Bible"がここにあるんだよ!」

 気になって問えば、モモイちゃんが元気いっぱいにそう答えた。

「ここに?」

「ちゃんとした調査の結果ではあるらしいよ。もともとここは連邦生徒会直轄の…説明は難しいけど特殊な場所だったみたい。だけど今は…ね」

「はぁ…まあわかりました。でも、私がついていく理由って」

「あっヤバ」

「うわ来た!」

 

 叫ぶ双子の視線をたどれば、何やらすらりとしたシルエット。どこぞで見たPMCみたいなロボットが、銃を構えて続々と…

「危ない伏せて!」

「なるほどね!?」

 慌てて物陰に隠れれば降り注ぐ弾丸の雨。…なんでも、連邦生徒会直轄の間は危険地帯として立ち入り禁止になっていたとか。でも連邦生徒会()が混乱中の今は立ち入り制限が形骸化しちゃったので乗り込める、と…

「そこだけ聞くと火事場泥棒ですけどね…」

「ダンジョン解放って言ってほしいかな!」

 あっけらかんと言うモモイちゃんにあきれ…てる場合じゃないわ待って、なんかデッカイの用意してるやついる!?軽率に立ち上がろうとした先生の裾をを慌てて引っ張るが早いか、

―――ズドォォォン!!

 すさまじい爆音爆風砂嵐。視界が…!仕方ない、ちょっと使おう…無難にブレスレットの方で。

 

「思ったより火力が…先生、大丈夫ですか?」

「大丈夫…ありがとうハリカ」

「いえ…」

 砂煙をどけると景色が変わっていた。ねえ一発でこうなるの何?私まだ全然武器種わかんない…アリスちゃん以外は尻もちをついていたけど、すぐさま体勢を立て直していた。

「来た、ロボットたち…!」

「大丈夫、まだ引き付けられる」

「…よし、じゃあアリスちゃん、やっちゃって!」

 ミドリちゃんの合図にうなずいたアリスちゃんはあの大物を構えて、えっ今気づいたけど大きいだけのの銃じゃないんだ何あれ?何か光って…

「今日の私の役割は、光属性広域アタッカー…前方のモンスターたちを、殲滅します!」

 …ちょっと待って、この空気感身に覚えがある…確か、慣れない放出系魔法に悪戦苦闘していたときの…

光よ!!

 

―――ドカアアァァン!!!

 

「…よっし!成功!」

「アリスちゃんすごい!」

「…」

 何が起きたんだろう。まず電気系統なのは間違いないけど…とりあえず視界が白く染まったこと、正常な光量が戻るとロボットたちが綺麗に吹き飛んでいたことをお伝えします。ほんとに何?ノノミちゃんとは別の意味で火力が怖い。

 とはいえ、どこからともなく次から次へと増援が来ているけれど。全体はどれだけいるのやら…。

「…ここで退くわけにはいかない、突破しよう」

「えーっ!?」

 一旦撤退した方がいいのでは?と私も思ったけど、モモイちゃんはそう言った。…まあ確かに、どうせ突撃するのならこれ以上警備が厚くなる前にした方がいいか…私も思考回路が染まってきてるなぁ。

「で、でも…」

「大丈夫です。私たちはこれまで一緒に、27回のダンジョン探索と、139回のレイドバトルを成功させてきました!今回もきっと、このパーティなら勝利できるはずです!」

「そ、それはゲームの話でしょ!?」

 ゲームの話かい!待って今、いやでもアリスちゃん真剣そのものだわ…天然だ…!

「どう転んでも、危険はある…私も、頑張るから」

「せ、先生は!?私たちと違って、攻撃を受けたら…」

「安心してください、どれだけ危険な状況であっても、アリスが先生を守ります!」

 わお…アリスちゃんがまっすぐな瞳でそう言い放って、ちょっと驚いた。

「頼もしい後輩だよ…私も、できるだけ支援するからね」

「先輩…わかった。私も覚悟を決める。ゲーム開発部、突撃するよ!」

 

 

【ハリカ⇒ミドリ】

 

「潜入成功、ミッションをクリアしました!」

 そう言うアリスの隣でほっとため息をついた。ここは廃墟の中の『工場』。なんとかロボットたちをくぐり抜けて、目的地にたどり着くことができた。ほんとに冷や冷やしたしちょっと疲れた…そしてお姉ちゃんだけがやたら元気。

「ねえねえ!私たちってもしかして、実はすごく強いんじゃない!?C&Cとか、他の学校の武力集団が相手でも勝てちゃうかも!」

「C&Cは絶対に無理だと思うけど…確かに、自分でもちょっとびっくり。きっと、先生の指揮のお陰ですね」

「わたしもそう思う…先生がいると、安心感が違う…」

「何度か見てますけど、本当に指揮能力高いですよね先生…」

 お姉ちゃんは威勢のいいことを言うけれど、先生の存在が大きいと思う。私たちの得意なことを見極めて、的確にタイミングを教えてくれる。直線上を吹き飛ばすアリス、数人まとめて倒せる部長、面で制圧するタイプのお姉ちゃんと、点で狙う私。ハリカ先輩は私と同じみたいだけど、立ち位置が最後方だからわからない。やけに静かだけれど…何を持ってるんだろう。

 とはいえロボットたちをかいくぐったことで残弾数に不安があるし、アリスのレールガンもそろそろバッテリーが危ないみたいだから、極力戦闘は避けていくことにして…

 

「アリスちゃん?」

 ハリカ先輩の声に振り向いたら、アリスちゃんはぽつんと立ち尽くして

「どうしたの?」

「…分かりません…ですが、なんだか見慣れた景色です。こちらの方に行かないといけません」

「行かないとって…アリスちゃん?」

 行かないといけない、って…?不思議に思ったけど、アリスは工場の中のどこかを目指して歩いていく。慌てて追いかけることになった。

 

「アリスの記憶にはありませんが…セーブデータが存在するようです。この体が反応しています」

 そう言って、アリスはある部屋で立ち止まった。"チュートリアルや説明がなくても進められるような"、そんな感覚らしいけど…どういうことだろう。

「あれ?何か電源点いてる…?」

 そんなとき、ハリカ先輩が不思議そうにつぶやいた。見れば、テーブルの上に一台のコンピューター。画面は真っ黒だけど、確かにバックライトが点いてる。おそるおそる近づくと、ピピッと音が鳴って、思わず身構えた…けど、画面に文字が表示されただけ。

 

[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]

 

「おお、まさかの親切設計!G.Bibleについて検索してみよっか!」

「いや、さすがに怪しすぎない…?」

 お姉ちゃんは使う気満々…だけど、いくらなんでも都合がよすぎると思う。…それと、"ようこそお越しくださいました"ってことは、『Divi:Sion System』というのがこの工場の名前?

 あたりをきょろきょろと見回していた私は、アリスがキーボードを叩いていたのをうっかり見逃していた。それで、何か出た!とお姉ちゃんが言ったのを見ると…画面にはデタラメな記号が並んでいた。

「え、何?文字化け?」

「壊れた!?アリス、何入力したの!?」

「い、いえ…まだ、エンターは押してないはずですが…」

 わたわたする私たちをよそに、再び真っ黒になった画面…そこに、今度はシンプルな文章が表示された。

 

[あなたはAL-1Sですか?]

 

「「っ!」」

「これって…?」

「…いえ、アリスはアリスですが…?」

「待って…何かおかしい。アリスちゃん、今はとりあえず何も入力しないほうが…」

 

[音声を認識、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S]

 

「お、音声認識付き!?」

 おかしい、明らかにこのコンピューターが勝手に進んでる。そう思って一度止めようかと思ったけど…そういえば、挙動がおかしくなったのはアリスちゃんが触ってから。キーボードで入力します…とか言って、その声を拾ったんだろう。

「えっと…AL-1Sっていうのは、アリスちゃんのこと…なの?」

「わ、私もそれ、わかんないんですけど…」

「ご、ごめん、そういえば言ってなかったかも…」

「…あなたは、AL-1Sについて知っているのですか?」

 部長と先輩の"状況が飲み込めない"という顔を見て、手短にでも説明するべきかと思ったけど状況が許してくれなかった。アリスちゃん…!

 …けど、画面は真っ暗、コンピューターからの返事はなし。…お姉ちゃんの言う通り、処理に詰まってる?

 すると、ゆっくりとテキストが入力され始めた。…けど、

 

[そうで$◇!÷€;*^&)□#%!!"÷@!!!]

 

「えっ??」

「何何怖い怖い」

「何これ…どういうこと?」

 

[緊急事態発生]

 

[電力限界に達しました。電源が落ちると同時に消失します。残り時間:51秒]

 

 明らかに挙動がぎこちなくなったと思えば、今度はそんな…消える?消える!?話が急すぎない!?

「ええっ!?ダ、ダメ!せめてG.Bibleのことを教えてからにして!!」

 

[あなたが求めているのは、G.Bibleですか?〔YES/NO〕]

 

「YES!!」

 けど、お姉ちゃんが悲鳴をあげたら反応した。残り一分を切った中で探してくれるらしい。とっさに叫んだら、少しの沈黙。早く…消える前に、早く…出た!

 

[G.Bible…確認完了。コード:遊戯…人間、理解、リファレンス、ライブラリ登録ナンバー193、廃棄対象データ第1号。残り時間:35秒]

 

「廃棄!?どうして!?それはゲーム開発者たちの、いやこの世界の宝物なのに!!」

 言ってる場合じゃないよお姉ちゃん…あっ、また別の文章が…

 

[G.Bibleが欲しいのであれば、提案します。データを転送するための保存媒体を接続してください]

 

「えっ?在り処を知ってるの?」

 

[貴方たちも知っています。今、目の前に]

 

「ど、どういう…」

「あなたが持ってる、ってことね?」

 …食い気味に確認したハリカ先輩の言葉にハッとした。そして、画面に表れたのは肯定の返事。

 

[はい、私の中にG.Bibleがあります。しかし現在私は消失寸前、新しい保存媒体への移行を希望します]

 

 

 …というわけで、G.Bible…〔G.Bible.exe〕はとっさに用意したゲームガールズアドバンスSPに保存された。容量を確保するためにお姉ちゃんのセーブデータが消されたみたいだけど、きっと必要な犠牲というやつだ。

 …まあ、さっそくファイルを開けようとしたらパスワードを要求されたんだけど。

「大丈夫。普通のパスワードなら、ヴェリタスが解除してくれるはず…!」

「そ、そうだね…これがあれば…!」

「これさえあれば、本当に面白いゲームが…『テイルズ・サガ・クロニクル2』が…!」

「よし、作れる!待っててねミレニアムプライズ…いや、キヴォトスゲーム大賞!!私たちの新作は今度こそ、キヴォトスのゲーム界に良い意味での影響を与えてやるんだから!!」

「お、お姉ちゃん声大きすぎ!そんな大声で叫んだら、ここにいるって言ってるようなもの……」

 ふと思い出して振り向いたら、外にいたロボットがもう廊下にいた。ぴろぴろ何事か言いながら銃を構えて…

「わぁぁ撃ってきた!早く逃げよう!!」

「お姉ちゃん、その前に!」

「うん!ゲームガールズアドバンス確保!私とアリスがしんがりを務めるから、みんなで蹴散らしながら脱出しよう!」

 お姉ちゃん、こういうとき本当に頼りになる。とにかく、まずは無事に部室まで戻ること。せっかくG.Bibleを手に入れたのに、こんなところで倒れるわけにはいかないからね…!

 

 

 

 

 





・ハリカ 【ヘイロー装備中】
巻き込まれた。話についていけない
妙に人間臭いPCに半目になるなど
魔法をしれっと行使するのも銃声してないのを怪しまれるのはもはや恒例行事

・ミドリ
冷静な妹

・モモイ
溌剌な姉

・ユズ
対人苦手な部長

・アリス
正体不明の少女
火力が異常

・先生
ハリカに…ヘイローがある…?⇒エンジニア部の名前を聞いてだいたい察した
ちょうどいいやとハリカを巻き込む

・ヴェリタス
次回

・C&C
次々回




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解読のための大作戦


…(これといって主人公の見せ場がないエピソードになりつつある、と憂える顔
頑張りますとも…



 

 ロボットたちの猛攻をかいくぐり、なんとか無事に帰り着いたゲーム開発部の部室。みんな思い思いに休息をとっている…と思う。なにしろ求めていたもの(G.Bible)が手に入ったわけで、モモイちゃんなんてさっきまでよりもテンションが高い。元気が有り余ってて何よりです。

 ちなみに当のG.Bibleとやらはここにない。『ヴェリタス』…って、確かコタマさんがいるところだよね?そこにさっそく解析を依頼しているらしい。今はその結果待ちというわけ。

 

「はぁ…そういうことくらいは先に言っておいてほしかったです…」

 …そんな傍ら、私は先生からこれまでの経緯を聞かされた。ゲーム開発部廃部の危機、そんな折に廃墟の中で機械少女を見つけ、シリアルナンバーとおぼしき"AL-1S"から「アリス」と名付け、廃部を取り下げてもらうため生徒に偽装…結果としてまず出たのはため息だった。

「あんまり驚かないんだね…」

「んー…ヒューマノイド、って言うんですかね?向こうには家事代行サービスみたいな感じで普通にいましたし…かなり珍しい例ですけど、意志疎通ができるようになった個体もいる、という話は知ってるので…」

「そうなんだ?」

 きょとんとする先生にはええまあ、と返しておく。家事代行サービスみたいな、というのは"3H"…ヒューマノイド・ホーム・ヘルパーというやつだ。…実際に見たことはないけどね。名家とはいえ地方のお屋敷程度、もちろん近所にいたこともなかった。四高にもいなかったし。

 そして"珍しい例だが意志疎通ができるようになった個体"は一高のピクシーのこと。何も嘘はついていない。

「…むしろ、学生証の偽造とかのほうが、よくやるよって思いましたよ」

「モモイの行動力はすごいよね…」

 ストレートに犯罪だぞ犯罪…思わず頭の中にイマジナリーホシノ先輩が登場した。あれだ、「かわいい後輩がそんなことになっちゃうのは嫌だなぁ~」のやつ。聞いたところどうやらモモイちゃんの独断らしく、先生も苦笑いしてる。呼んだー?と振り向いたモモイちゃん(ご本人)にはなんでもないよ、と返しておいた。

 

「…あれ?」

「ん?どうしたのミドリ?」

「なんか、ヴェリタスの部室に来てほしいって。解析できたのかな」

「おぉ、じゃさっそく行っちゃおっか!」

「はい!行きましょう!」

 どうやらそろそろ出発するらしい。ほらほら早く!というモモイちゃんの元気いっぱいな声に、私たちも腰を上げた。

 

 

 

 モモイちゃんに先導されて訪れた『ヴェリタス』の部室は、壁に多種多様なモニターがずらりと並ぶ圧巻の眺めだった。すごいな学校でも見たことないぞこんなの…あれだ、放送局の裏側とかがこんな感じじゃないか。そしてパッと見、室内には二人の生徒がいた。

「わ…あ、コタマさん」

「先生、それにハリカも。三日ぶりかな」

「あれ?いつの間に知り合い?」

「コタマは何度かシャーレに来てるからね」

 一人はシャーレにも在籍してるコタマさん。もう一人はちょうどモモイちゃんが話しかけている白髪の少女。私は()(まがり)ハレ、と簡潔に自己紹介をしてくれた。周囲をふよふよ飛び回っているのはお手製の球形ドローンらしい。

 

「…知っての通り、私たち『ヴェリタス』はキヴォトス最高のハッカー集団だと自負してる。システムやデータの復旧については、それこそ数えきれないほど解決してきた…その上で、単刀直入に言うね?」

 そして、ハレちゃんは真剣な顔で言う。…その言い方だと、もしかして…

 

 

「…モモイ、あなたのゲームのセーブデータを復旧させるのは無理」

うわあぁぁぁんもうダメだぁーーっ!!

 

 

 ……………ん??

「えっそっ、そっち!?モモイちゃんが依頼したのって!?」

「そっちじゃないでしょG.Bibleのパスワードの解析はどうしたのさ!?」

「それならマキが作業中ですよ」

「マキちゃんが?」

「んー?あ、おはようミド!来てくれたんだね、ありがと!」

 ミドリちゃんが名前を反芻するのに合わせるかのように、居並ぶPCの陰から鮮やかな赤髪の子が顔を出して手を振った。なるほどあの子がマキちゃん。席を立って近寄って来たマキちゃんは、orz(こういう)状態のモモイちゃんを見下ろして不思議そうにしてる。そっとしといてあげなさい。

「それより、G.Bibleはどうだった?」

「ちゃんと分析できたよ。あれは噂の伝説のゲーム開発者が作った神ゲーマニュアル…G.Bibleで間違いないね」

「やっぱりそうなんだ…!」

 断言するマキちゃんに、ミドリちゃんの顔が一気に明るくなった。さらにマキちゃんいわく、データは一回*1しか転送された形跡がない…つまり、()()()()()()G.Bibleだろうとのこと。ゲーム開発部一同のボルテージがぐんぐん上がっていく…その一方、マキちゃんはついと目を伏せた。

「でも問題があって…ファイルパスワードの解析はまだできてないの」

「えぇ!?じゃあ結局見られないってことじゃん!がっかりだよ!」

「だ、だってあたしはあくまでクラッカーであって、ホワイトハッカーじゃないし…」

 うわモモイちゃん早い、反応が早い。噛みつかんばかりの勢いに私…どころかコタマさんも驚いたし後ろのユズちゃんまでびびってる。当然マキちゃんもたじたじ。

 

「とにかく!そうは言っても方法がないわけじゃない。パスワードを直接解析するのはたぶん不可能。でも、セキュリティファイルを取り除いてまるごとコピーする…って手段ならきっとできるんじゃないかな。で、そのためには『Optimus Mirror System』…通称『鏡』ってツールが必要なの」

「セキュリティ以外全部コピーってこと?そんなことできるんだ…?」

「つまり、G.Bibleを見るためにはその『鏡』って言うプログラムが必要なんだね?どこにあるの?」

「あたしたちヴェリタスが持ってた」

「…過去形?」

「そう、今は持ってない。生徒会に押収されちゃったの!こないだ急にユウカが押し入ってきて、「不法な用途の機器の所持は禁止」って!!」

 

 ここにも来てたのかユウカちゃん…本当に忙しいね、っていうか押収は管轄外の業務なのでは?

 それと、ぷくーっと頬を膨らませるマキちゃんがさっきまで生真面目に説明してたときとの落差が激しくて頭がバグ起こしそうです。閑話休題(まあそれはいいや)

「『鏡』ってそんな危険なものなの?」

「そんなことはないよ、ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ。ただ世界にひとつしかない、私たちの部長が直々に製作したハッキングツールで」

「部長っていうと、ヒマリ先輩?」

 あ、今ここに部長はいないんだね。ミドリちゃんの説明によるとヒマリ先輩、体は不自由で車椅子を使っているけれど頭は天才そのもの、ミレニアム史上三人目の『全知』という学位を持つすごい人らしい。

「けどそれはそうとして、その先輩がせっかく作った装備をどうして取られちゃったのさ?」

「…私はただ、先生のスマホのメッセージを確認したかっただけです。そのために『鏡』が必要で…」

「コタマさん???」

 しょんぼりとした様子で言い訳をし始めたのはコタマさん…えっあなたが原因?それも天才謹製の高性能ツールを、今背後にいる先生のスマホに??…今つけてるヘアクリップのこともそうだけど、この人意外と思い付いたらなりふり構わないタイプだな…?

「不純な意図は全くなかったのですが…」

「私には不純な意図しか感じられないけど…?」

「まあまあ…」

「とにかく、整理すると、私たちも『鏡』を取り返したい。それにG.Bibleのパスワードを解析するために、あなたたちにとっても『鏡』が必要。そうでしょ?」

「なるほどね~。呼び出された時点で何かあるんだろうなーとは思ってたけど、だいたいわかったよ」

 

 先生本人に慰められて(?)いるコタマさんはさておき、ハレちゃんとモモイちゃんの間でそんな会話が…モモイちゃん?なんか悪い予感がするんだけど?さっきマキちゃんの説明にはフリーズしてたのに今回は何をわかったって?っていうか、そのマキちゃんも不敵な笑みを浮かべてる…

「ふふ、さすがモモ!話が早いね」

「目的地が一緒なんだし、旅は道連れってね!」

「あの…お姉ちゃん?もしかして、だけど…」

 ミドリちゃんがおそるおそる…たぶん私と同じこと考えてる。まさか…

「まさかヴェリタスと組んで、生徒会を襲撃するつもり!?」

 …まさか。いやまさか、ね?

 

 

【ハリカ⇒ 】

 

「諦めよう!!ゲーム開発部、回れ右!!」

「待って待って待って!諦めちゃダメだよモモ!」

 くるりとターンしたモモイ、その肩をマキががっしりと掴んで引き留める。…『鏡』を確保するために、生徒会の差押品保管所に忍び込む…そんな話になっていたところだけど、「そこを警備しているのがメイド部」という情報が出たとたん一気にこうなった。

 メイド部、というのは正式な名前を”Cleaning&Clearing”という部活だろう。メイド服を身にまとい学園に奉仕する、ここミレニアム最強の武力集団。凄腕のエージェント集団であることは伏せられていると聞いていたけど…どうやら公然の秘密となっているらしい。話についていけない、というハリカに軽く説明すると遠い目をした。世界があまりにも違いすぎるそうだ。

 

「廃部は嫌だけど話の次元が違う!C&Cの()()()によって壊滅させられた過激集団や武装サークルは数知れず!知ってるでしょ!?」

「…最後には痕跡すら残さず、きれいに()()される。有名な話だね」

「そりゃ部活は守りたいけど…ミドリにアリス、ユズの方が圧倒的に大事!危険すぎる!!」

 モモイがちょっと、初めて見るくらいの剣幕になっている。本当に仲間を大切にしているらしい。…うん、わかるよハリカ。武装サークルってなんだろうね。

「待って待って、何も真っ正面から喧嘩しようってわけじゃないよ?あくまで差押品保管所から『鏡』を取ってくるのが目的なんだから!」

「そんなに変わらないじゃん!」

「でも、不可能な話じゃない」

「ええ、私の盗ちょ…情報によると、現在のメイド部は完全な状態ではありません」

 ごねるモモイとは対照的に、ヴェリタスにはどうやら勝算がなくはないらしい…コタマ今盗聴って言いかけたね?先生もう何も言わないよ?

「もちろん、メイド部はミレニアム最強の武力集団。どうして最強と呼ばれているか、それはもちろん素晴らしいエージェントのメイドが揃ってるからっていうのもあるけど、何よりも大きいのは部長…コールサイン・ダブルオー、ネル先輩の存在。でも今、彼女は学校にいない」

「最強がいないからまだマシ、と…?」

「それにさっきも言った通り、正面から喧嘩する必要はないからね。正面衝突を避けて、『鏡』だけ取って逃げるのが理想的なプランだよ」

「正面衝突を避けて、『鏡』だけ取って逃げる…」

「……やってみよう、お姉ちゃん」

 

 不意にきっぱりと提案したのは、さっきまで黙り込んでいたミドリ。

「えっ!?で、でもネル先輩がいないったって、相手はあのメイド部だよ!?」

「わかってる。でも、ゲーム開発部を無くすわけにはいかない。ボロボロだし狭いし、たまに雨漏りするような部室だけど、もう今は、私たちがただゲームをするだけの場所じゃない。…みんなで一緒にいるための、大切な場所だから」

「ミドリちゃん…」

「だから、ちょっとでも可能性があるなら、私はやってみたい。たとえメイド部と対峙することになったとしても、それがどんなに危険なことだとしても、守りたいの!ユズのために、アリスのために、私たち全員のために」

 …ミドリの目には、しっかりとした決意が宿っているように見えた。そして、それに誰よりも早く呼応したのはアリス。

「できます、私たちなら。伝説の勇者は…世界の滅亡を食い止めるために、魔王を倒します。アリスは計45個のRPGをやって、勇者が魔王を倒すために必要な、一番強力な力を知りました」

「強力な力?レベルアップ?あ、装備の強化?」

「盗聴ですか?」

「EMPショックとか?」

「やめてあげなさいみんな」

「ち、違います…()()()()()()()です!」

 周囲の言葉に戸惑いつつも、言い切ったアリスは無邪気な笑顔を見せた。…確かに、現実でも仲間は大切だ。…以前あったアビドスの危機だって、外からの救援が不可欠な要素だったね。

 

「…うん、よし…やろう!生徒会に潜入して、『鏡』を取り戻す!ハレ、なんかいい計画とかない!?」

「任せて。ただ、いくつか準備は必要だね…さっき言ってた盗聴もそう、EMPショックもそう。あとは仲間かな」

「仲間?」

「ただ私たちとは親しいわけじゃないから、先生にお願いしないとね」

「ん?僕かい?」

「…エンジニア部。彼女たちの協力なしに、この作戦は成功しない」

 

 

 

「わかった、協力しよう」

 ところ変わってエンジニア部。部長のウタハから返ってきたのは、ほとんど二つ返事と言っていい承諾。思わず隣のミドリと顔を見合わせた。

「…本当にいいんですか?エンジニア部は実績もたくさんあるし、こんな危ない橋を渡る必要は…」

「そうだね。そうかもしれない」

「なのにどうして、メイド部と戦う、なんていう危険な計画に乗ってくれるんですか?」

「その方が面白そうだから、かな」

「そうです!それに私たち、先生ともっと仲良くなりたいですから!」

「それもあるし……いや、今はいいさ。よろしく」

 横から割って入るヒビキとコトリ。ウタハはアリスを見て何か言おうとしていたけど…アリスに託したレールガンのことかな。

 

 こうして、『鏡』を確保する作戦は着々と準備され………静かに始まった。

 

 

 

 

 

*1
たぶんゲーム機に移したあの時





・ハリカ【ヘイロー装備中】
ようやく情報の擦り合わせができ……いや間に合わない
基本出しゃばらないためしばし地味。次回以降に期待…?

・先生
色々と苦笑いしつつも、生徒のために動く大人

・モモイ
テンションの上下動が激しい
有頂天から転落、でも部活の存続のためには…やるっきゃないね!

・ミドリ
▼ケツイがみなぎった。(だからそれは違うゲーム)

・ユズ
どうしても影が薄くなりがち…

・アリス
何回見ても無邪気で健気な癒やし枠

・コタマ
再び登場。今度は本編
ハリカのヘイローにに関しては当事者なので驚かない

・ハレ
初登場のヴェリタス①
※あくまでモモイが馴れ馴れしいだけであって2年生です
フルネーム一目で読めた人いない疑惑…だけど実在するレア苗字なのね……

・マキ
初登場のヴェリタス②
専門家と歳相応の落差がすごい
ちなみにEMPはElectroMagneticPulseの略、電子機器をお釈迦にする電磁波のことらしい。へー

・エンジニア部
協力者
ウタハの懸念は本作では省略してるシーンにて

・C&C
次回

・ヒマリ
登場はまだまだ先




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『鏡』のクエスト(前)


時系列反復横飛びでほんと大変でしたわ…



 

「アリスが連れていかれちゃった…!」

「落ち着いてモモイ、計画通りだよ」

「とりあえず、一つ目の仕掛けはうまくいった感じかな…」

 セミナーの猛攻に倒れたアリスが身柄を確保されるのを、私たちは遠目に見ていた。

 お姉ちゃんがユズになだめられている横で、なにやら話し込んでる先生とハレ先輩を見る。…大丈夫、あの二人が主導する作戦だ。きっとうまく行く。

 

 私たちはこれから、生徒会(セミナー)の差押品保管所に『鏡』を取りに行く。G.Bibleを読むために、そして最高のゲームを作るために。

 そのための作戦として私たちはバラバラに動くことになって、突撃するのは私とお姉ちゃん、それに先生と…ものすごく嫌そうな顔をしつつも、万が一のためについていくというハリカ先輩。

「エンジニア部から連絡は?」

「ちょうど来てたよ~"トロイの木馬を侵入させることに成功した"って」

「それはひと安心!もし失敗してたら、アリスが意味もなく監禁されただけ…ってなるところだった!」

「じゃあ、次のステップに移ろうか」

 ハレの言葉を合図に、一旦解散。次のステップのためにまた調整とか準備が必要らしいから。待っててねアリス、そしてG.Bible…!

 

 

 

「はあ…緊張する…」

 すっかり日も暮れた頃、私はミドリ、先生、ハリカ先輩の三人とミレニアムタワーの下に戻ってきた。こんなに緊張するのは、古代史研究会の建物を襲撃したとき以来かも。

気が重い…」

「ハリカ、大丈夫?」

「…やりますよ。乗りかかった船からは飛び降りないことにしてますから」

「ヒビキとウタハ先輩は?」

『もう「お客さん」を出迎える準備はできてるって』

「良いね、さすが!」

「やってるのは決していいことじゃないけどね…」

 …エンジニア部の二人からのメッセージ。要するに、少なくともセキュリティですぐに追い出されることはないってことだ。

「マキとコトリの方は?」

『こっちも準備OK、完璧だよ~』

『お任せください!理論上、この作戦が成功する確率は2()%()です!』

「うぇ!?ほぼ間違いなく失敗じゃん!なんで自信満々なの!?」

『えっへへ、場を和ませる冗談ですよ!逆です、 9()8()%()成功するでしょう!』

 し、心臓に悪い…とにかく、二人も準備万端ってことか。

「コトリちゃんとマキちゃんの準備も終わったなら…」

「第2段階、だね!」

 

 


 

「こんばんは。いい夜ですね。お二人のここまでの行動は、監視カメラですべて見せていただきました。うすうすお察しかと思いますが、あなた方の作戦は既に失敗しています。早いうちに投降することをおすすめしますよ?」

「「!」」

 

「改めまして、私はC&Cのコールサイン・ゼロスリー。本名は秘密ですので、謎の美女メイドとでもお呼びください」

「あ、アカネ先輩!」

「えっ、"特技が暗殺"で有名なあのアカネ先輩!?」

「うーん…一応秘密のエージェントのはずなのですが、いつの間にそんな知られ方を…正体を明かさない系ヒロインは、もう時代遅れなのでしょうか…」

 

「色々知ってるよ~?コタマ先輩いわく、最近体重が」

「待ってください?その情報漏洩はさすがに問題がありますよね!?その情報に関しては永久に黙っていていただきます…さあ、そろそろ姿を見せていただきましょうか、モモイちゃん、ミドリちゃん!」

 

「ふっふっふ…まだ気づいてない感じかな?失敗してるのはそっちの計画の方だよ?」

「………!?あなたたちは…!」

 


 

 

 

「そろそろ録画だってことがバレた頃合いかなぁ」

 隣で、お姉ちゃんが天井を見上げながらぽつりと呟いた。後ろには先生とハリカ先輩。私たちは、まだエレベーターホールにいる。向こうのモニターに録画映像を流して、それに合わせてコトリちゃんとマキちゃんが先行していたのだ。

「…今さらだけど、平和な状態の映像を流しておいた方がよかったんじゃ?」

「人の出入りが頻繁なところだったし、何もない方がむしろ不自然かもしれないでしょ?それに、こうやって…C&Cの先輩たちを分散させておいた方が、最終的にミッションの成功率は高くなるはず!」

「ずいぶん考えてるね…」

「やるからには本気だからね!…あ、エレベーター来た。それじゃ、()()()入るとしようか!」

「あ、待って…先生、はぐれないように手を繋いでおきましょう。ハリカ先輩も…」

「あ、私は大丈夫。先生の後ろにちゃんとついてくから覚えててくれれば」

「?あ、はい…では、行きましょう」

 エレベーターにも指紋認証がついてたりするけど、今は問題ない。けたたましく鳴り響く警報も、今だけは気にしなくていい。

 

 

「ハレ先輩から連絡。アカネ先輩を閉じ込めるのに成功したって」

「よし!指紋認証システムも()()()作動したね!」

 外の光が差し込む廊下で、お姉ちゃんと笑い合う。本来ならもうセキュリティに弾かれているところ、私たちは何事もなくミレニアムタワーの中を早足で駆け抜けていた。

 

「生徒会役員も全員隔離できたはずだし、これで今タワーの中を自由に動き回れるのは私たちだけ…本来のエンジニア部製よりほんの少しだけ弱そうに見える最新型のセキュリティ、うまくいったみたいだね」

「名前を隠してたし、まさかあれもエンジニア部製だとは思わなかっただろうね~」

 …そう、最初にアリスが大暴れしたのはこのためだ。セキュリティシステムを壊して、新品と入れ換えさせるため。エンジニア部はセミナーが自分たちを怪しんで避けることまで考えた上で、名前を隠した下位互換のシステムを用意して、それを採用させたんだ。…ほんとよく思い付くよね…。

「さすがはエンジニア部。じゃ、堂々と行くとしよっか~」

「どうせならアスナ先輩も封じ込めておきたかったところだけど…」

「居場所がわかってないんだっけ?」

「うん、ハレ先輩ができるだけミレニアム全域を調べてくれたけど、見つからなかったって。ミレニアムの外にいるのかな…」

 C&Cの四人のうち、ネル先輩は自治区外、アカネ先輩はさっき封じ込めたけど、あとの二人の居場所がわからない。カリン先輩は狙撃手だから直接対面する心配はないけど、問題はアスナ先輩…。

「いっつも神出鬼没の先輩だし、簡単には見つからないんじゃないかな~なんか任務中に急にパフェ食べに行ったりするらしいし。ま、今のところ順調なんだから気にしない気にしない…」

「誰!?」

 前方から鋭い叫び声がして、見れば…見慣れた制服に身を包んだ、名前も知らない生徒会役員。慌てて警備ロボを呼び寄せてるみたい…

「ひゃ!?って生徒会じゃん!まだいたなんて!」

「ど、どうしよう先生!」

「ここまで来たら突破しよう、ここまで来て後戻りはできないよ」

「…そうですね。行こうお姉ちゃん!」

「うん!行くよミドリ!」

 

 

 

【ミドリ⇒ハリカ】

 

Q:今なにしてる?

A:ミレニアムの校舎に侵入していろいろ迎撃してる

 

「いや~なんとかなったね!」

「ありがとうございます先生、とても心強いです」

「どういたしまして。ハリカは大丈夫?」

「ええまあ…痛いのは良心だけです」

 気が重い…でも、あんまり引きずってネガティブを感染させてしまうわけにもいかないから、ひとまず取り繕っておく。…ほんと、あとでユウカになんて言おう…

 私たちは今、とても念入りに綿密に練られた作戦の中で動いている。今のところイレギュラーはない。タワーのセキュリティ側は、今ごろハッカー集団(ヴェリタス)の本気にてんやわんやだろう。

 警備ロボットの一群を撃破したばかりの、きっと束の間だろう静寂の中で、パーカーのフードの紐を握りしめた。季節外れの装いだから少し暑いけど、これが一番効率的だから仕方ない。

 

 …そうして、しばらく進んだ頃。

「最後のシャッターを解除…ふっふっふ、生徒会専用フロアも今や私の思うがまま!さてと、もう少しで『鏡』がある差押品保管所に『モモイ、伏せて!』…えっ!?」

 突然通信に入ってきたハレちゃんの声。とっさに言われた通り伏せると、ドカンッ!!と轟音がした。

「ひょえ!?いっ今頭の上を、なんかすさまじい威力の弾丸が…壁に穴開いてるんだけど!?」

「対物狙撃用の13.97mm弾!?」

「狙撃…!?」

「…もう狙撃ポイントに入ってるってことだね…C&Cの狙撃手、カリン先輩の…」

 狙撃手…そうか、言われてみればそういうポジションもいるよね。アビドスでは見たことがなくて、シャーレには…ハスミさんはそうかも?

 っていうか、()()ってなってるんだから人に向けるな!!先生がいるんだぞこっちは!?私だって危ないし、っでも迷ってる暇ないか…!

「先生は私が!…ったくこんな命の危険にさらされることそうそうないよ…!」

「ミドリ伏せて!また来る!」

「いっそ駆け抜けたほうがいいんじゃない!?…うわぁ!?」

 また轟音とともに壁に穴が…ほんと見えないものって怖いよね!

 自分の身を守るのを一旦やめて、ブレスレットをフル稼働させる。わからない、これでも突破されて、誰も守りきれないかもしれない…万が一が来ちゃったか?いやでも、狙撃手の存在が割れてるんだから、誰も対策を考えないわけが…

『みんな大丈夫?』

「っ、ヒビキちゃん?」

「カリン先輩は私と部長で押さえ込むよ。任せて」

「押さえ込むって…」

 ズドォン!という音が外から響いた。窓を見つけて覗き込むと、少し遠くに見える建物の屋上から煙が上がっている…まさか、狙撃手を狙撃?そんな馬鹿な。

「とにかく、今のうちに急ごう!」

「そうだね…うっ、わ!?」

 走り出したところで、突然地響きとともに建物が揺れた。

「何!?地震!?」

「爆発だと思うけど、まさか…アカネ先輩?」

「無理矢理こじ開けたかも…ってこと!?それじゃあ――あっ」

「ん?」

 ふと足を止めたのは、建物が真っ暗になったから…停電だ。きっと、作戦会議の時に言及があった「ハッキングの隙」だろう。

「…よし、走るよみんな。足元に気を付けて」

「了解!」

 

 

 

 …ずいぶん奥まで来た。双子によると、目的地の差押品保管所はもう目と鼻の先らしい。

「お、やっと来たね!」

 …なんだけど、そうスムーズにいくはずもなく。私たちの前に、亜麻色の髪のメイドが姿を…

「遅かったね~だいぶ待ってたよ?ようこそゲーム開発部!それに…えっと、せんぱい?だっけ?」

 …ん~~~??なんかすごく引っ掛かるぞこの子…転生者としての『私』のセンサーに…なんだかすごく久しぶりな感覚。ユウカちゃん以来か…いや、ユウカちゃんよりもっと…

「あ、違う違う!思い出した、先生だ!ずうっと会えるのを楽しみにしてたんだよ~?あとあと、後ろの子もはじめましてだね!」

「バレてる!?」

 【悲報】『拡散』、突破のお知らせ

 …いやまあ、『極致拡散』じゃないから見破られるのはわかるけど!薄暗いっていう絶好の環境下で、しかも先生の後ろに隠れてたのに…!?

 

「あ…アスナ先輩!?どうしてここに!?」

「どうしてって言われても~…なんとなく?予感とか直感とか、そういうのってあるでしょ?ここで待ってたらなんとなく、あなたたちに会えるんじゃないかな~って!」

「難しい言葉じゃないのに何言ってるかわからない…!」

 ミドリちゃんは口をぱくぱくさせている。私もわからない。だって理論型だもん…直感型は対極の存在だもん…!なんて誰に向けるでもない言い訳をしながら、フリーズしてるモモイちゃんを揺さぶる。この人がさっき言ってたアスナ先輩とやら…なるほど、これは確かに封じ込めておきたい。

「さて、じゃあ始めよっか?」

「えっと、念のために聞くのですが、何を…?」

 頬をひきつらせるミドリちゃんに対して、アスナさんは満面の笑顔で。

「戦闘を!私、戦うのが大好きなの!」

 …さ、最悪だー!!直感型でバトルジャンキーとか最悪でしかない!

「あ、自己紹介がまだだったね?…C&C、コールサイン・ゼロワン、アスナ。いくよ!!」

「やっぱりぃ!!?」

 

 

 

 

 





・ハリカ【ヘイロー装備中】
ユウカを敵に回すことになって気が重い。あとでなんて言おう…でも優先するのは先生のほう。
やっと『拡散』を出せた……ある空間の光や音を均一化する魔法。薄暗い周囲により溶け込むため、グレーのパーカーを持ち込んでいる。『極致』は完全に気配が消える上位互換

・ミドリ
語り手チャレンジ二度目
ゲーム開発部の中では一番書きやすい気がする。慎重派なので

・モモイ
軽薄なようでちゃんと考えてるお姉ちゃん
一回モモイ視点で書こうとして挫折しますた

・アリス
▼アリスはつかまってしまった!><

・ユズ
どこにいるんだろうね…?

・先生
ちゃんと同行してると思うんだけど何度か立ち位置がわからなくなることに定評がある

・ヴェリタス・エンジニア部
心強い協力者

・アカネ
03。おっとり爆弾魔系メイド(意味不明な日本語)
騙されて閉じ込められた

・カリン
02。必殺仕事人系スナイパー…兼メイド
たぶん先生を撃ち抜いてはまずいことぐらい知ってるだろうし、もう一人いるのに気づいたけどあまりにも先生に近すぎて撃てない
ウタハとヒビキの二人がかりで足止めされる

・アスナ
01。直感型大型犬系バトルジャンキーメイド(意味不明な日ry)
ハリカの(転生者としての)センサーが反応する理由は言わずもがな

・ユウカ
省略してるけどずっと裏で翻弄されてる
カメラ越しには『拡散』が効いていて、まだハリカに気づけていない
…仮に気づいたとしても…




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『鏡』のクエスト(後)


ウッまたオリキャラ追加したい発作が
鎮まりたまえ…鎮まりたまえ……



 

 …私たちを足止めしたアスナさんは、とんでもなく強かった。とにかくめちゃくちゃ避けまくる上に攻撃も多い…せめてもの救いは、先生に当たらないように調整してくれているらしいことだろう。じゃあせめて私も!と思うけどこれは私がヘアクリップつけっぱなしなのが悪い。あとで泣く。

「でたらめに強い…これがC&Cのエージェント…!」

「ああもう、まさかここでアスナ先輩と出くわすなんて!」

「お姉ちゃん、一旦退こう!」

「私も、その方が――」

 このままではまずい。一旦退却を…そう思ったとき、ズドンッ!!という轟音とともに壁に穴が。

「ひゃあ!?」

「これ、カリン先輩の…!?」

「っ…ハレから連絡!カリン先輩を抑えられなくなって、ウタハ先輩が捕まっちゃったって!」

「この状況を見ればわかるよ!」

「あ、マキからも!アカネ先輩がシャッターを爆破して脱出したみたい!…あと、すごい数のロボットがこっちに向かってるって…」

「えぇ!?」

「一気に逆境じゃん…!」

「あはは!何がなんだかわかんないけど、私たちが優勢って感じ?あなたたちの計画はもう失敗寸前?」

 通信から続々とやって来る悪い知らせ。動揺を隠せなくなった私たちの前で、アスナさんがころころと笑う。…けど、双子の瞳からまだ光は消えない。

「…違う、まだ失敗じゃない」

 

 …停電に乗じてのハッキングで、捕まったアリスちゃんを解放する。そう、『鏡』を取ってくるのはアリスちゃん。その存在を失念させるために、今度は私たちが陽動をする番…ということらしい…そういう情報は共有しておいてほしかった。私聞いてなかったぞ?味方まで欺く必要は…いや、私がユウカと親しいからか?

 あと捕まっても謹慎くらいなら部室でゲーム製作ができるとかなんとか…。「物語·伝説·年代記」みたいな妙なタイトルが聞こえた気がするけど、そっとしておこう。うん。

「うーん…なんの相談かなぁ?」

 ちなみにひそひそ話とはいえ声には念のため『拡散』をかけていたので、向こうに内容は全く聞こえてないだろう。…未だかつてないほどにこの魔法を使ってる。えぇ私にもありましたよ、あんまり役に立たないかなぁとか思ってた時期が…

 

「この状況なら、諦めた方が賢明だと思うけど?」

「う゛…ユウカ!」

 …そんな思考は、突然飛び込んできた声にぴしりと固まった。ゆゆユウカ!?嘘!!?今出会いたくなかった!どんな顔すれば、やばい、空気にならないと…!

 

 

 

「もうイタズラじゃ済まないわよ。一週間の強制的な停学か、拘禁ぐらいは覚悟しておいた方がいい」

「停学!?拘禁!?」

 …先生の背に隠れる私(※blur(にじみ度):8)が冷や汗を流す眼前で、ユウカと双子のやり取りがなされている。はっきり言って耳を傾けるどころじゃない…けど、なんだか「やっぱり突破するしかない!」みたいな流れになったみたいだ。

 そしてメイドがもう一人増えた。メガネをかけた柔和そうな…そんな彼女に双子がびびっている。どうやら彼女がアカネさんらしい…見た目がどうだろうとエージェントはエージェントってことね。…先生何照れ笑いしてるの?ロボットもめちゃくちゃ集まってきてる状況だが?ユウカちゃんもずいぶん深いため息をついてる。

 

 …そんな中、ふと背後から聞き覚えのある音がするのに気づいた。そしてこの空気感…

「お姉ちゃん、伏せて!」

 不思議そうな顔をするユウカ&メイド二人の前で、双子が身を低くするのが見えた。私も念のため先生を後ろに下がらせる。そして、

 

光よ!!

 

 

 

 

 

 …みなまで言わなくてもわかる?わからない?了解。

 アリスちゃんがやって来て、それで…またしても、視界が真っ白に染まった。そして、結構すぐに戻ってきた正常な視界にはアスナさんの姿がない。押し寄せるロボットもだいぶ減っていた。

「アスナ先輩!?大丈夫ですか!?」

大丈夫じゃないよ~!あっはは、思いっきり当たっちゃった!何これめっちゃ痛い!頭のてっぺんからつま先まで今1ミリも動かしたくな~い!

「…大丈夫そうですね」

 …アカネさんが呼び掛けたら、ちょっと遠くから返事が来てた。あの高火力が直撃しておきながらとても元気そう。

 

 一方こちらはアリスちゃんが合流…したけど、なんか別行動って話じゃなかったっけ…?

「モモイ!ミドリ!」

「アリスちゃん!?」

「どうしてここに!?」

「差押品保管所に行く途中、考えていました。…『ファイナルファンタジア』、『ドラゴンテスト』、『ドールズ・オブ・フェイト』、『竜騎伝説』、『英雄神話』、『アイズエターナル』…そして、『テイルズ・サガ・クロニクル』…どんなゲームの中でも、主人公たちは決して仲間のことを諦めたりしませんでした。なので、アリスもそうします!試練は、ともに突破しなくては!」

「アリスちゃん…」

 …と、友達想いの良い子…!すごくゲーム一色だけど…まあ、良い学びを得てるってことだね。私も感動したし、先生も満面の笑顔。今日のこの人妙に図太くて怖い。

「捕まったら全部終わり…行こう、ゲーム開発部!」

 まだ閃光による混乱が収まらない中、双子+アリスは力強く踏み出した。…と、飛び出したくない…!けど、先生を追わないと!

 

 

 

 

 

「なんとか、逃げ切れた…?」

 一体どこから湧いて出るのか、とにかく押し寄せる警備ロボットの群れでほとんど混戦と言っていいような状態から抜け出し、私たちは雑然とした部屋に滑り込んでいた。モモイちゃんの安否確認に、全員から無事である旨が戻ってくる。

「ここが、差押品保管所…ですね、書いてありました」

「だいぶめちゃくちゃだけど…」

「管理がなってないとかじゃないな…戦闘のあおりを受けたんだろうね」

 …部屋の中は、壁には穴が開き棚が倒れてぐちゃぐちゃの様相だった。まあ外であれだけドンパチやってたし、そもそもここはタワーの最上階…下の爆破でよく揺れるだろう。

 今のところ追手が来る気配はない。アカネ先輩はアリスちゃんが吹っ飛ばしてたし……モモイちゃんいわく、アリスちゃんが『鏡』を確保して部室に戻ってるとミスリードできてるはず!"とのこと。

 

「あとは『鏡』さえ見つかれば…」

「…ここから探すの?大丈夫?」

「だいじょぶ、どんな見た目かは聞いてる…えーっと…」

「あった、『鏡』!これさえあれば…」

 …まさかここに来てわからないとかそんなありがち(?)な…と不安になったけど、ミドリちゃんがすぐさま見つけていた。

「よっし、じゃあ帰ろ帰ろ…んむ!?」

「っ、静かに…ミュートでお願いします…誰かがこちらに向かってきています。足音からして、おそらく一人」

 …不意にアリスちゃんが、モモイちゃんの口を塞いでそう言う。すぐ振り払われてるけど、表情が固い…誰かが来てる?

「んー…このままここにいてユウカとメイド部が戻ってきちゃったら困るし、一人くらいなら突破しちゃう?」

「ちょっと待って、ハレ先輩から連絡が来てる…『逃げて、いや隠れて早く!』って…?」

「どういうこと?」

「誰か、対面することすらまずい人が来る…とか?」

「この状況でそんな人…まさか?いや、でも…」

 あのクールなハレちゃんが言うなんて相当なことだ。ミドリちゃんが眉を寄せる横で、目を閉じて動きを止めていたアリスちゃんが、おもむろに口を開いて。

「接近対象を確認、ミレニアムの生徒名簿を検索…」

「え、そんなことまで?」

「…対象把握。…身長146cm、ダブルSMG、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「隠れて!!」

 ミドリちゃんが悲痛な叫び*1を上げた。

 

 

 可能な限り身を縮めた私たちの前で、ドアを開けて入ってきたのは…アリスちゃんの言う通り、メイド服の上に龍柄のスカジャンを着込んだ小柄な少女。…聞いたときは何それと思ったけどマジなのか…私、まずアリスちゃんの口から「スカジャン」が出たところから驚いたけど。

ね…ネル先輩だ…

な、なんで!?どうしてあの人がここに!?

落ち着いて二人とも…大声さえ出さなきゃ…

 ネル先輩、という名前は確かに聞いた。でも、自治区外にいるって聞いてたけど…?

 さっき一人なら突破すれば~とか言ってたモモイの顔がここまで真っ青ってことはよっぽど強いらしい。体格と強さが比例しない例はアビドスで見たけど、こっちもいるのか…

 …今『拡散』を最大限張ってるんだけど、ホントに限界迎えて悲鳴を上げるとかやめてよ!?(かば)いきれなくなるからね!?

 

「ん?今なんか声が聞こえたような…」

ヒッッ!?

 …いや駄目だ。そもそも外のドンパチが止んだ今、この部屋は無音そのもの。こんな『拡散』程度じゃ…いや、『極致拡散』だってこん狭い部屋に踏み込まれて見つからないように、なんて原理的に無理だ。アリスちゃんも顔が青い。その光の剣とやらでも無理な感じか…

「ふぅん?確かに気配が…机の下か?」

「「「「「っ!!?」」」」」

 的確に当てやがったそしてこっちに来てる!?本格的にやばい…あんまり近づかれたら『拡散』の範囲内に入られて即バレする…!

 アリスちゃんはフリーズ、双子は涙目で先生の裾を掴んでる。どうする…いけるか?想子(サイオン)残量と要相談だけどイレギュラーの私なら、あるいは―――

 

 

「…あ、あの!」

「あん?」

「ね、ネル先輩!大変です!」

 緊張がピークに達したその時、廊下からネルさんを呼び止める控えめな声…ゆ、ユズちゃん!?え、どこから…!?

「あんたは?」

「せ、生徒会『セミナー』所属のユズキです!戦闘用ロボットが暴れまわったせいで今、あちこちがめちゃくちゃなんです!アカネ先輩とカリン先輩が制圧を試みていますが…!」

「なんだ、暴走か?あれを差し押さえたのはもうかなり前だってのに…まだ整備が終わってねぇのか」

 あ、とっさの嘘が通じてる…二人に面識が一切無いのか、それともユズちゃんが変装してるのか…とにかくすぐ近くにいるネルさんと、たぶんまだ廊下にいる()()()ちゃんの会話が続いている。

「じょ…状況的に、助けが必要かと思い…それで、ここにいらっしゃると聞いたので…!」

「はぁ…仕方ねぇな」

「わっ私はここの整理をします…その、戦闘は苦手で…経験も、あまりないですし…」

「んなこたどうでもいいが……それよりあんた、覚えときな。戦闘で一番大事なのは、武器でも経験でもねぇ」

「は、はい…?」

()()だ。その点で、あんたに素質がないとは思わねぇ。自分がどう思われてるかぐらいあたしにも分かってる。そんであんたが結構ビビリなのも分かる。その上で、初対面であたしに声をかけられるってのは、それなりに度胸が要るだろうからな」

「あっ…は、はい!あ、ありがとうございます!?」

 

 …ネル先輩めっちゃいい人だ、とわかった辺りで部屋を出ていく足音がして、そっと(うかが)うと部屋の入り口にへたりこむユズちゃんがいた。

「し…死んじゃうかと思った…」

「ユズ~~~!」

「ユズちゃんすごい!おかげで命拾いしたよ!」

 双子に抱きつかれているその姿を見て、私と先生も安堵の息をついた。よく勇気振りしぼって頑張ったよユズちゃん…!

 いろいろ気になることはあるけどさておくとして…これでゲーム開発部が集結、そして『鏡』も無事確保。となれば、あとは脱出するだけ…さすがに飛び降りるわけにはいかないから、来た道を戻らないといけないんだけどね…。

「この先は戦闘用ロボがたくさんいる…気を付けて」

「そうだね、まだ任務は終わってない」

「私たちの目的は『鏡』じゃなくてG.Bible…早く、ヴェリタスの部室に行かなきゃ!」

「そうだね、みんなで無事に部室まで戻ろう!」

 ともかく、任務完了にはまだ遠い。ここからまた気を引き締めていかないと。

 

 

 

 

 

*1
一応小声





・ハリカ 【ヘイロー装備中】
一部情報共有ができていないなどした
そしてまさかのユウカ現着にかなり動揺するも、迂闊にボロを出すこともなくちゃんとハリカになった。たださすがに存在はバレた模様
『極致拡散』、たぶん均一な値を出すための母数を増やす(強い干渉力でもって範囲を広げる)のではないかと思われるので、となると閉鎖環境では不向きなのでは…と推測した次第。原作(魔法科)で使われてたのも確か屋外だったし…

万が一の切り札を出しかけたが引っ込めた。たぶんもうしばらくは引っ込んだまま。

・先生
図太い。あまりキャラを出さないようにはしてるけどこれはたぶん確実にそう

・モモイ
本当に見れば見るほどしっかりしたお姉ちゃんだよ

・ミドリ
今回は割と翻弄され気味な印象がある妹

・アリス
やっぱり仲間を見捨てることなんてできません!


・ユズ
本日のMVP。よく頑張りました
しかしホントにどこにいたんだろう

・アスナ
直感型バトルジャンキーメイド、世界の法則崩壊を受けて元気いっぱいに戦線離脱(熱の時に見る夢みたいな日本語)

・カリン
ウタハを抑え込んだが、エンジニア部のが一枚上手だった模様

・アカネ
おっとり爆弾魔系メイド。光の剣に討伐される

・ユウカ
まさかの現着したので焦った。ゲーム開発部の三人と先生、そしてもう一人も目撃したが…

・ネル
恐れられる圧倒的強者…且つ、とてもいい先輩
一部の先生によるとだんだんかわいく見えてk

・作者
あまりゲームに詳しくはないけどタイトルが際どいのはわかった
発作に負けそう




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クリアとリザルト


主人公……………まあしょうがないな………



 

「ヴェリタスまで『鏡』を届けました…クエストクリアです!」

「よぉっし!あとは部室に帰るだけ!」

 ヴェリタスの部室から廊下に出て、モモイたちと喜びを分かち合いました。今回のクエストは難しいものでしたが、こうして力を合わせ、クリアすることができて…大きな達成感を覚えました。これまでのどのゲームも及ばないかもしれません。

 …ただ…

 

「家に帰るまでが、遠足…ってやつね…はぁ…はぁ…っ」

 …ひとつ気になるのは、ハリカが苦しそうにしていることです。言葉には出していませんが顔は青白く、足取りもよろよろと不安定です。ここまでずっと仲間として一緒にいてくれただけに、どうしても…不安です。

「ハリカ…大丈夫?」

「いえ、大丈夫、です…私のことは、いい…から……っ」

「うぇ!?ちょっ…」

「ハリカ先輩!?」

 先生が話しかけると、ハリカは…そのままふらついて、ばたりと倒れてしまいました。黒髪が床に広がるのと一緒にパチンと音がして、ヘイローが…

「えっ!?」

「ハ、ハリカ先輩!?ヘイローが…!」

 …ヘイローは、こんなふうに外れるものだったでしょうか?

 

 

「…キヴォトスの外から来た人?」

「うん。経緯は違うけど、僕と同じだよ」

「えぇ!?そんなの聞いてないよ!?」

「言うタイミングがなくてね…」

 無事に戻ることができたゲーム開発部の部室で、先生はハリカの秘密を明かしてくれました。…正しくは秘密にしていたわけではないそうですが。

 ちなみにハリカ本人は、まだ先生に背負われたまま…眠っているようです。

「連邦生徒会の人だとばっかり…」

「肩書きはそうなってるけどね。だから、ヘイローはもともとないんだよ」

 先生の手には、ハリカが倒れたときに落とした髪飾り…アリスの手にも収まりそうな小さなものですが、側面の小さなスイッチを押せば、先ほどまでハリカの頭上に浮かんでいた、灰色の花のようなヘイローが中空に映し出されました。

「ホログラム…?しかもこんなコンパクトなのって…」

「…エンカウント時、ハリカは『エンジニア部のお世話になった』と言っていました。この髪飾りのことでしょうか?」

「そうだろうね。僕は大人だから分かりやすいけど…ハリカはみんなと年格好が変わらないから、ヘイローがないのをやたら気にされて悩んでたみたい」

「あぁ…」

「私も、それは聞いちゃってたかも…」

 

 つまりハリカがヘイローを()()していたのは、周囲と馴染むため…アリスが学生証や『光の剣:スーパーノヴァ』をもらったのと同じようなことでしょうか。

 …と、少し考え込んでいた様子のミドリが「あれ?」と言いました。

「ミドリ?」

「…でもハリカ先輩、戦闘に参加してたよね?」

「そういえば確かに…それって危ないんじゃ…!?」

「あーっと…ハリカ、そこは僕ともまた違うみたい。体質というか…とにかく丈夫なんだって」

「丈夫って…」

「耐久値が高い?でも私たちとも違う…?」

「…それはもしかして、()()()()()()()()()()()()()()()と関係しますか?」

 それは、アリスの計算に基づいた推測でした。しかしそれを言うと先生どころか、モモイやミドリ、ユズまでも目を丸くして黙ってしまいました。

「…あ、あの…?アリス、何かまずいことを言ってしまいましたか…?」

「…青い光って…ミドリは?見えた?」

「そんなの全然…ユズも?あ、先生は?」

「…僕にも見えないよ」

「あ、アリスにしか、見えていないのですか?」

 今、先生に背負われているハリカには見えませんが…クエスト中のハリカはずっと、ぼんやりとした、けれど綺麗な青い光に包まれていました。そればかりか、差押品保管所でネル先輩とエンカウントしかかったとき、その光はアリス、モモイ、ミドリ、先生までみんなを、優しく包み込んでいました。…単なる(機体)の異常とは、とても思えません。

 

「ああでも…なんか、アリスちゃんにしか見えないものがあるのかな?」

「アリスにしか…?」

「あそっか、確かに!名簿の検索とかできるんだってビックリしたし、その辺も何か違うのかもね」

「なるほど!アリスの機能のひとつ、ということですね。そうかもしれません!」

 …確かに、そう考えれば謎は解けます。どういったものかは不明ですが、まだ自分では把握していない機能があるのかもしれません。

 …先生のどこか複雑そうな表情が、少し気になりましたが。

 

 

 

 

 

 翌朝、マキがプレゼントと言って持ってきたのは、モモイがヴェリタスに預けていたゲームガールズアドバンス。…新たな武器(『鏡』)によって、ついにG.Bibleの封印が解かれたのです。一緒に正体不明のファイルが入っていたそうですが、そちらはまたヴェリタスが挑戦するとのこと。

 そうして今、明らかになったG.Bibleの正体を目の前にして…

 

 …ゲーム開発部は、いつもとはかけ離れた静けさに包まれていました。

「あ…あの、モモイ?」

「ふふ…ふへへ…全部終わった…!おしまいだぁ……!」

 モモイはうつろな目で椅子にもたれ掛かっていて、

「ミ…ミドリ?その、大丈夫ですか?」

「…アリスちゃんごめん…今は何も話したくない気分なの…」

 ミドリは逆に、うつむいて頭を抱えていて、

「…えっと……ユズ…」

…怒り…破滅…腐食…絶望…虚脱……世界は今、破滅に向かって…

 ふらふらとロッカーに閉じこもったユズとは、会話ができる気配がありません。

 

「…あ、あの!私はあまり理解ができてないのですが…もしかしてこの状況は、G.Bibleのせい…ですか?」

 …返事はかえってきませんが、"沈黙は肯定"ということでいいのでしょうか。しかし…

「えっと…G.Bibleは、嘘は言っていないと思うのですが…」

「そういう問題じゃない!!」

 突然の大きな声に機体が震えました。さっきまで脱力しきっていたモモイはいまや体を起こし、椅子をぐるりと回転させてアリスをまっすぐと見ています。

「いや、いっそのこと嘘って言ってくれた方がまだマシ!!…うわぁぁん終わった!もう廃部なんだぁ!!」

 …と思えば、わんわんと泣き出してしまいました。ど、どうすればいいのでしょう…?画面をうかがえば、そこにはまだG.Bibleが開かれています。

 

 [ ゲームを愛しなさい ]

 

 …この一文こそ、G.Bibleがアリスたちに伝えたかったことのようです。しかし、ずっと求めていたG.Bibleを読めたというのに…モモイもミドリも、正気がログアウトしたみたいになってしまいました。これでは…

「仕方ないじゃん!最後の手段だったのに!!それがあんな誰でも知ってるような言葉ひとつ入ってるだけだなんて、釣りにもほどがある!!」

「ごめんねアリスちゃん…私たちは…"G.Bible"無しじゃ、良いゲームが作れない…」

「…いいえ。否定します。…アリスは、『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います。あのゲームは、面白いです」

「…えっ?」

「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが、このゲームをどれだけを愛しているのかを…そんなたくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると、胸が高鳴ります。仲間と一緒に楽しい世界を旅するあの感覚は…()()()()とはどういうことなのか。その感覚を、アリスに教えてくれました」

「…」

「だから、待望のエンディングに近づくほどに…あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです。この夢が覚めなければいいのに…と」

「アリス…」

 …思いをまっすぐに伝えれば、モモイも、ミドリも顔を上げて、ユズもロッカーから出てきてくれました。…ミドリは今ユズに気づいたみたいです。

「…作ろう」

 そして、ユズは静かに話し始めました。ユズの思いを、まっすぐに。

 

 

「私の夢は、私が作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと…でも、私がはじめて作った『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプは…四桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって…それが辛くて、ゲーム開発部にこもってたとき…二人が訪ねてきてくれた」

 

「…一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』を作って…今年のクソゲーランキング一位になっちゃったけど……」

 

「そのあと、アリスちゃんが訪ねてきてくれて…面白いって、言ってくれた。それで、私の夢は叶ったの。…心の通じ合う仲間たちと一緒に、ゲームを作って、それを面白いって言ってもらう…ずっと一人で思い描いてただけだった、その夢が」

 

「…これ以上は、欲張りかもしれないけど…叶うなら、私はこの夢が…この先も、終わらないでほしい」

 

 

「ユズちゃん…」

「…ねえ、今からミレニアムプライスまで時間どれくらい残ってる?」

「6日と4時間38分です!」

 いつもの顔色を取り戻したモモイが立ち上がりました。カレンダーを参照して答えれば、モモイは少し思考を巡らせた様子で。

「それだけあれば十分!さあ、ゲーム開発部一同!『テイルズ・サガ・クロニクル2』の製作、始めよう!」

 

 

 

【アリス⇒ハリカ】

 

「本っ当に、勘弁してよ…」

 シャーレビル内、カフェスペースにて。私は目の前に浮かぶ立体的な黒い輪っかを眺めていた。何かというと、机に突っ伏したユウカのヘイローだ。冒頭の台詞もユウカのもの。

 こんな状況になっているのは、今の私の格好が原因。グレーのパーカーを羽織り、例のヘアクリップをつけた…ミレニアムタワー侵入時の格好だ。いつまでも黙っているのは忍びなくて、結局明かすことにした。その結果がこれ。

 

「ヘアピンとか…私そんなの聞いてないんだけど?」

「ヴェリタスしか経由してなかったみたいだから…というか、もしかして…気づいてなかった?」

「…悪い?」

 ユウカちゃんがジト目で睨み付けてくるけど、妙に覇気がない。セキュリティも警備も全部突破されるとかいう大敗を喫したわけだし、そりゃそうなるか…まあ、今突っ伏してるのは違う理由だけど。

「ハリカはその格好で、あの場にいたってことよね?先生と…ゲーム開発部と一緒に」

「そうだね…」

「それじゃ、()()()()()()C()()C()()()()()()()ことになるじゃない…!」

 …そう、ユウカが凹んでいるのはこれ。別にユウカは知らなかったわけだし、差し向けた人がどうとかも私はどうでもいいと思ってるけど…実際カリンさんの対物狙撃には命の危険を感じたし、結果としては想子(サイオン)枯渇で倒れちゃったからなぁ。

 

「…ユウカが悪いわけじゃないよ。私も…反省してるし」

「…じゃあ、前線に立つのやめてくれる?」

「それは無理かも」

「でも、つい昨日まで寝込んでたじゃない」

「そ…れは、そうなんだけどさ」

 ユウカほんと的確に痛いところを突いてくる…あの日はさすがに魔法の使いすぎで想子枯渇を起こしてしまい、廊下の途中で倒れてしまった。目を覚ましたらシャーレの仮眠室。先生がここまで送ってくれたらしい。

 そこまではいい。想子はいつも通り休養をとれば戻ったんだけど…心労が祟ってか、しばらく熱を出して寝込むはめになってしまった。やっぱり不慣れなことはするべきじゃないね…これからゆっくり慣れていかなきゃいかないかもしれないけど。

とにかく、ユウカは私を本気で心配してくれているらしい。それはよくわかる。…けど。

 

「…悪いけど、やっぱり安全地帯に居続けるのは無理。大っぴらにはしたくなくても、黙って見てなんかいられないから…ノブレス・オブリージュ、とはまた違うけど…私は引き金を引くのをやめられないよ。ユウカのお願いでも…ごめん」

「…いいわよ、あんたはそう言うと思ってた。きっと、ハリカをちゃんと止められるのは先生しかいない。そこはもうほとんど諦めてるけど…確認したいことがあって」

「確認したいこと?」

「ハリカ、あのとき何を倒れるほど使ってたの?」

「…えっと、それは…魔法について知りたい…ってこと?」

 

 顔を寄せてきたユウカの質問に、そっと周囲をうかがいながら確認をとった。…今、ここには私たちしかいないから、話せないことはないけど…

「私ならわかりそうって言ってたじゃない」

「そうだけど…いいの?ユウカ忙しそうだし…あんまりこう、抱えるもの増やしちゃうのもさ」

「今更でしょうそんなの。それに、私があなた…あの場における五人目に気づいたのは現場に出てからだった。ミレニアムタワーの監視カメラにはちゃんと人を、その顔まで識別できる機能がついてるのに…それをほとんど突破されて、気にならないわけないでしょ」

「えっそんなに?ちょっと嬉しい…」

 も、もしかして私、ミレニアムの科学を越えちゃいました?…"極致"に及ばないただの『拡散』だったんだけど、パーカーで色を合わせにかかったのが効いたかな…。思わず口が緩んだらすごく睨まれた。ごめん。

 えー…どこから話したものか。イデアエイドス想子のくだりは独特の概念だからかっ飛ばすとして。

 

「要点だけ言えば…私が得意なのは"密度"を扱う種類の魔法。あのときは身のまわりの光の分布を平均化して、景色に溶け込んでた、ってとこ」

「光の…分布…?」

「あー難しいよね…なんて言うか…」

「…解像度を下げると、画素(ピクセル)は多数派の色になる」

「「っ!!?」…えっ、ま、まあそういうことですけど…いつの間に…?」

 突然割り込んできた声に顔を上げると、テーブル横にコタマさんが立っていた。完全に気配が消えてましたよ…そんな色々と身に付けてるのに……?

 いやでもよかった。声でわかるとはいえ、明かしてない他の人だったらどうしようかと。

「タワーの監視カメラの話辺りから…珍しいね、魔法の話は」

「えっと、まあ種明かしというか、お詫びというか…」

「…なんとなくわかった」

「なるほど、『中身は科学』ね…どちらかと言えば物理学?そんなことができるだなんて…」

 

 気づけばユウカはいつもの真面目な顔に戻っていた。話を振ったのはユウカの方だけど、気が(まぎ)れたみたいでよかった。

「…何よ?そんなニヤニヤして」

「別に~?いつものユウカが戻ってきたなあって。じゃ、そろそろ戻る?」

「………そうね。どうせ先生は忙しくしてるだろうし」

「私はしばらくここにいるから…いってらっしゃい」

 コタマさんに見送られながら、足早に先生がいるオフィスへ向かうユウカを追いかける。…コタマさん、たぶんまた盗聴器を仕掛けに来たんだろうな…一応先生に言っておくべきか。どうせならヴェリタスのみんなも何か言ってくれればと思うけどあの感じ、共犯になってるかもしれないね…。

 

 …そういえばヴェリタスで思い出したけど、私は熱を出して寝込んでいたからあのあとの顛末をよく知らない。ゲーム開発部のみんなはどうしてるだろう…今ごろ、部活の名前通りの活動に取りかかってるところか。気になるけど今のユウカに聞くのはあまりにも酷だし、また見に行こうかな。

 

 

 

 

 

 





・ハリカ 〔ヘイロー落下〕
久々の想子枯渇で倒れた。比較的使い慣れてない『拡散』を乱用したのが敗因。倒れた拍子にヘアクリップが外れたが、説明の猶予もなく失神
そして熱を出して寝込むはめになっていた。無茶はするべきでない。まあハリカはしちゃうけど
そんなわけであとの顛末を知らない
このあとアリスの件を知らされる

・アリス
今回の語り手チャレンジ
The純真無垢…。いいこと言うのでついつい長台詞になりがち
そしておやおや

・モモイ
G.Bible…そんな……と意気消沈するも、アリスとユズの言葉で復帰
頑張るぞーっ!!

・ミドリ
一回おめめからハイライトが消えた。怖い
アリスちゃん、ユズちゃんのためにも!

・ユズ
▼ゆうき を みにつけた!
もしかして:ヒロイン

・先生
倒れたハリカに代わって説明係
ハリカの高い耐久性の説明に悩む。先生も詳しくは知らないし

・ユウカ
真相を知りました。SAN値チェックです
説得を諦めた分、別角度から踏み込んでみることにした模様
ほんとはコタマとのやりとりを書きたかったけど呼称表の必要性を強く感じたということで…

・コタマ
無表情だけど実は魔法に興味津々だったりする
ちなみに当番で来てたわけではなかった。盗聴器はこのあと探し出された



まだ一話あるんじゃよ…




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ボーナスステージと小さな願い


ミトドケタ!(´∀` )
締め方迷子でした…


 

 …で。久々にミレニアムに行ったら、ゲーム開発部with先生が襲撃されていた話する?

 まあするけど。

「何やってんですか!?」

「あ、ハリカ!?」

「わかりません!部室にいたらいきなり狙撃されて…あ、『T(テイルズ)S(・サガ・)C(クロニクル)2』はミレニアムプライスにエントリー済みです!」

「よかったねよくわかんないけど!?」

 状況が全く読めないが、とりあえず部室がめちゃくちゃになるのは避けたいということで逃げ回っているらしい。そうして逃げ込んだ先は旧校舎だという建物*1

「な、なんとか逃げ切れた?」

「これからどうする?」

「もうミレニアムプライスへの出品は終わったし、とりあえず結果が出るまで、このまま逃げ続けよう」

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 そんな声と一緒に弾丸が飛んできた…ぅわあっぶな!?空気甲冑(エアー・アーマー)が間に合ってよかった!けどミドリちゃんが被弾した。

 

「なるほどな…どうりでいちいち良い判断だと思ったぜ」

 …この声、どこかで…確か、どこかの薄暗い部屋の中で…!

 

「さっきこのチビたちを指揮したのも、ミレニアムの差押品保管所を襲撃したのもあんただったか……先生、って呼べばいいのか?」

 …あハイ、まどろっこしい前置きは要りませんね。

 私たちを追ってきたのはC&Cの部長、ネルさんだった。というか、アカネ先輩に先生の調査とか依頼してたんだ…

「身長はこっちのみんなと同じくらいじゃ…」

「先生??」

 この状況で命知らず??いやこの人割と図太いんだったわうん。思わずスンッと真顔になってしまった。

「んなこたねぇよあたしは3年生だぞ!!?あたしの身長に言及したやつが最後にはどうなったか教えてやろうか!!?」

「落ち着いてリーダー」

「なんだかもはや新鮮ですね~まだネル先輩に対して身長の話ができる人がいるなんて…」

 一方、向こうにはメイドが三人到着しており、(うち一人が)真っ赤になるネルさんをなだめていた。あの褐色金目の人は対面してないけど、携えている大きなライフルからして彼女が狙撃手のカリンさんだろう。…身長の話ができる人……()()()されちゃったんだろうな………

 

「…危うく冷静さを失うところだったが、そんな話はどうでもいい…おい、そこの無駄にデケェ武器持ってるあんた」

 ネルさんは割とすぐ元の顔色に戻ってそう言う。…無駄にデケェ武器…それのことだろうな、"光の剣"とかいう名前の……持ち主もきょろきょろしてるけど。

「あんただよあんた!」

「?…アリスのことですか?」

「そうだ、あんたには用がある。C&Cに一発食らわせてくれたらしいじゃねぇか…ちっと(ツラ)貸せや」

 あ、分かったそういう用事か…そしてなんということでしょう、町中でヘルメット団の相手をしていたときにも聞いたことのない不良(ワル)語録がこんなところで現れました少なくともメイドの格好で言うことじゃない。…それに対し、アリスちゃんはというと……

 

「ア…アリス、このパターンは知っています……『私にあんなことしたのは、あなたが初めてよ』…告白イベントですね!ちびメイド様はアリスに惚れていると…スチル獲得です!」

 

 わたしはくずれおちました。

 

ふっざけんなこの野郎!!ってか誰が()()()()()()だぶっ殺されてぇのか!!?

 

 ネルさんはまた顔を真っ赤にして、アリスちゃんはたじろいでいます。ほほえましいですね。

 …とりあえず、アリスちゃんが恋愛ゲームも履修済みであることは明らかになった。先生笑うの耐えて。確かにメイド二人くらいもう撃沈してるけど耐えて。

 

 

「はぁ…なかなかイラつかせてくれるじゃねぇか…まあいい。誤解してるかもしれねぇから一応言っとくが、別にC&Cに一発食らわせた分の仕返しって訳じゃねぇ」

 閑話休題。混沌とした空気がどうにか鳴りを潜めた辺りで、ネルさんはそう告げた…あれ、違うんだ…てっきり仕返しかと……。

「あちこち怪しい部分はあったが、こっちとしては正当な依頼の中での出来事だった。そっちはそっちで、あたしたち相手に目標を達成しただけだ…そこに恨みはねえが、俄然興味が湧いてきてな。確認、といった方がいいかもしれねぇが」

 あーそういう感じか…ニヤリと不敵な笑みを浮かべて発せられた言葉からなんとなく察した。…要するにこっちもバトルジャンキーと。

「さあ、ちょっくら相手してもらおうか!あたしと戦って勝てたらこのままおとなしく引き下がってやる。お互いをよく理解するには、これが一番手っ取り早いからな。どうだ、難しい話じゃねえだろ?」

 そう言って両手に銃を携えるネル先輩…威圧感がすごい。えっ怖…差押品保管所ではめっちゃいい人だと思ってたけどこんな「分かりました」…え?

「一騎討ちのイベント戦闘みたいなものですね、理解しました!」

「イベ…何つった?」

「あの時は狭かったですし、『鏡』を持って帰るという使命もありましたが、今なら…」

 あれ、アリスちゃんやる気?なんか前は対面もしてないのに真っ青になってたような、っていうか待って?

「あ、アリスちゃ

「行きます!魔力充電100%………光よ!!

 

 

  ドカアアァァァン!!

 

 

 

「す、すごい…」

「こんな火力、見たことない…!」

 わーまぶしいなー……………はっ、いけないいけない。頭まで真っ白になってた。"魔力充電・100%"とやらの威力はもはや凄まじいの一言に尽きた。今まで見てたのはまだ本気じゃなかったのか…ユズちゃん尻もちついちゃったよ。

 そしてアリスちゃんは、毅然とした表情で…

「やったか!?」

「アリスちゃん!その台詞はむやみに言っちゃダメ!」

 …おめでとうございます立派なフラグが立ちました。いやそれこの戦いが終わったら結婚するとか、殺人鬼のいる屋敷になんか居られるか俺は帰らせてもらうとかの系列!どこで覚えてきたの…いや覚えてたらわかってるか…?

「あ、ネル先輩は3年生でした。言い直します…や、やっつけられましたか?」

「いや敬語の問題じゃなくて…!」

「むしろ悪化した気がする…っ!」

「ひゃあっ!?」

 ほら弾丸が返ってきた!この煙がもうもうと上がる中で撃ち返してくるのすご…いや、精密に狙いを定めてるわけではない…かも?その場合私と先生がいる問題があるんですがまあ守るけど。

 

「確かに並大抵の火力じゃねぇが…それだけだ」

 ともかく、煙が晴れた先にはネルさんが平然と立っていて……充電を待つ必要があるアリスちゃんめがけて勢いよく距離を詰めてきた。

「っ、きゃあ!?」

「てめぇの武器は確かに強い、だが一度引き金を引けば、次の発射まで最低でもコンマ数秒はかかる!その上強すぎる火力のせいで、ある程度間合いを詰められたら撃てねぇ!爆圧にてめぇまで巻き込まれるからな!」

「っ…!」

「そしてこの間合いであたしに勝てる奴なんざ、キヴォトス全体でもそう多くは…いや、一人もいねぇ」

 …状況は一気にアリスちゃんの防戦一方になった。"光の剣"を盾のようにして銃弾の雨を凌いでいるけど、かなり苦しそうだ。モモイちゃんが叫ぶのもわかる…!?

「ぐっ…!」

「うっわ」

「銃身を振り回した!?」

「は、近接戦としちゃ悪くない判断だ、けどな、相変わらずこの間合いならあたしが圧倒的有利…てめぇは発射しようにも、あたしに照準を合わせられねぇ!」

「…照準は、必要ありません……行きます!!」

 えっアリスちゃん、その状態で…あっ、まさか!?

「だから無理だって…ん?おいまさかてめぇ、あたしじゃなくて……床に!?」

光よ!!

 

 

 

 …た、立ってられなかった…!数分ぶりの強い光、だけど向きが違ったから、如何とも形容しがたい轟音と一緒に衝撃波とか色々がこっちにも来て、怪我は…してない。先生も大丈夫そう。

 顔を上げればさっきよりも濃い砂煙。急いで引き金を引いて取っ払えば、床が崩れてぽっかりと開いた大穴に双子が駆け寄っていく。

「アリス!!」

肉体損傷、48%……後退を望みます…

「僕が背負う」

「あっ先生!?」

 先生は止める間もなく穴に飛び降りて…ヒヤッとした私をよそに、宣言通りアリスちゃんを背負って素早く上がってきた。危ない、と思ったけど…ぐったりしたアリスちゃんを見たらそれどころじゃなかった。

「保健室だね?」

「お願いします、急いで!」

 ともかく、今はアリスちゃんが後退を望んだならそうするのみ。追撃に気を付けつつ、私たちは旧校舎から飛び出した。

 

 

 

【…】

 

「リーダー!」

「だ、大丈夫でしょうか!?」

「さっき一瞬アリスちゃんが見えたけど、だいぶダメージ受けてたよ?今ごろきっと、うちのちっちゃいリーダーもぺっちゃんこに」

「誰がちっちゃいって!?」

「わお☆さすがうちのリーダー!全然ピンピンしてるじゃん!」

「てめぇは一体どっちの味方なんだよ…!」

「リーダー、今のアリスは戦闘力を失った状態だけど、このまま追いかける?だいぶ負傷してたし、保健室に向かってるはず」

「はい、ミレニアムには二桁以上の保健室があるとはいえ…すぐに見つかるでしょう」

「………」

「…リーダー?」

「…ああ。いや、いい。追撃は無し。もう戻る。一通り暴れたらスッキリしたしな」

「「「…」」」

「目的はおおむね達成した。リオがゲーム開発部に興味を持つ理由もわかったし、それに」

「わかった!気になっちゃったんでしょ、先生のこと!」

「ば、違ぇよ!そういうんじゃなくてだな…!」

「ええ、気持ちはわかります。でも少し心配ですね、あの子達の体躯を見るに、先生の好みはおそらく…」

「少なくともリーダーにとっては悪い知らせじゃない」

「うるせぇいつまでもそういうこと言ってっとブッ飛ばすぞ!!だいたいもう一人いただろうがアカネぐらいのが!」

「あの子?そういえば私ミレニアムタワーで会ったけど、名前聞いてなかったなぁ」

「確かシャーレの一員で、"ハリカ"という名前なのはわかっているんですが…あまり情報が出てこないんですよね…」

「私も見た。どうやっても先生を巻き込みそうで撃てなかったけど、シャーレの仲間か…」

「マヌケそうな(ツラ)して実態はブラックボックスってことか?しかもまだ素性がよくわかってねぇシャーレに?」

「もちろん、調査はこのまま続行するつもりですよ?…まあ、もっと手っ取り早い方法もありますけど」

「…あぁ、なるほどな」

「ええ。ただ、シャーレはどうやらスカウト制を採っているようなので、簡単な話ではありませんが」

「真っ正面から敵対する形になっちゃってたし、難しいかもね」

「確かにこれでスカウトが来たら、あの先生はとんだ能天気野郎だ……さてと。思いっきり暴れたら腹減ったなぁ。ラーメンでも食いにいこうぜ」

「いいですね」

「賛成賛成~!」

「そういえば、リーダーは成長期だった」

「いい加減にしろやぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

【 】

 

ええーっ!?

 昼下がりのゲーム開発部室。いつもより二人多い部屋に、大声がこだました。画面から顔を上げると、モモイがさっきまで手にしていたコントローラーを投げ出して、激しく困惑している相手…ハリカ先輩に詰め寄っていた。

やったことない!?ゲームを!?こんなに来てるのに!?

「いやまだ片手で数えられると思うけど…うん。あぁいや、パズルゲームなら…やったことあるけど、それでもあんまり…」

「信じられない…いったいどんな人生を送ったらそんなことに…!?」

「それもしかしてユウカのモノマネ…?あ、お家が厳しかったとか…ですか?」

 かたかた震えるモモイをよそに、ミドリがもしかして、と質問した。…それに対し、ハリカ先輩は少し考え込む様子で。

「んーまあ厳しいと言えば厳しい家だったけど…どっちかというと、勉強が楽しかったからかな!」

ぐはぁっ!?

 …あ、モモイにクリティカル。勉強苦手だもんね…ミドリも愕然としてるけど。アリスは不思議そうに先生を見上げて、先生は苦笑いしてる。

 この6人が揃ったのは、C&Cの襲撃以来だっけ…思い出しながら何の気なしに顔を上げたら、賞状の入った額縁が視界に入った。

 

 ギリギリで滑り込んだミレニアムプライス。私たちゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』は、受賞することができなかった。

 ……通常の七枠では。

 『T(テイルズ)S(・サガ・)C(クロニクル)2』は、今回新しく設けられた特別賞を受賞することになった。それで、正規の賞ではないから「保留」という形だけれど、ゲーム開発部の廃部は撤回してもらえることになって…私も、アリスちゃんも、当面の間はここにいられることが決まった。

 …嬉しかったな。"RPGの根本的な楽しさがしっかり込められた作品"…審査員からはそんなコメントがもらえた。それから、ユウカも『TSC2』をプレイして、良いゲームだって評価してくれた。昔ゲームをプレイしていた頃のことを思い出した…って。

 それに、何より…

「あれ?ミドリこれ得意だったよね?」

「お姉ちゃん集中できないから黙って!えっハリカ先輩、ほんとに初心者ですか!?」

「いやこれはなんか見覚えがあって…タイトルは違った気がするけど」

「そんなこと…うわぁ!?なんでコンボがそんなに!?」

「すごいなーあのミドリがこんなに押されてるなんて」

「お姉ちゃんうるさい!!」

 気がつけばミドリとハリカ先輩とでパズルゲームの対戦が始まっていて、劣勢のミドリと煽るモモイで口喧嘩になっていた。

「…ユズ?どうかしましたか?」

「ううん、なんでもないよ。ちょっと思い出してただけ」

 少し心配そうに声をかけてきたアリスには、そう答えておいた。口に出すのはやっぱり照れくさいけど…

 

 …この四人で一緒にいられる、こんな賑やかな日々が、いつまでも続けばいいな。

 

 

 

 

 

*1
でも全然近代的





・ハリカ
今回は完全に巻き込まれ。ユウカと同じくらい百面相する
そして今回が本エピソードに於いて申し訳程度の特化型使用になっちゃった…ナンカスマン
ちなみにパズルゲームならやったことがあるのは中の人(『私』のほう)。"稲梓玻璃花"には全く経験がない

・アリス
ネルから熱烈な告白(違)を受ける。なお我々はスチル獲得できた模様。ミレニアムプライス当日には(身体は)完治してた
特別賞に歓喜。これからもよろしくお願いします!

・モモイ
特別賞に歓喜。いよっしゃあーーーっ!!
テストの点数が振るわないらしい。次元が違った…!

・ミドリ
特別賞に歓喜。やったよお姉ちゃん!!
思いがけないパズルゲーム仲間が。再戦したらなんとか勝てた

・ユズ
特別賞に歓喜。本当によかった…!
▼かけがえのない にちじょう が まもられた。

・ネル
再登場なC&Cリーダー(00)
アリスに告白肉薄した
途中で入ってきたやつが思いがけないブラックボックスで眉をひそめる

・アスナ
自由人な01
シャーレに興味津々

・アカネ
爆弾魔な03
私の中で認識が調査&爆破担当になりつつある…いやどういう担当???

・カリン
狙撃手な02
口調がわからない
めちゃくちゃリーダー煽るやん…

・先生
アリスを背負って保健室までダッシュ
なお、とんだ能天気野郎




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閑話②:才媛と怪傑


気がつけば一月もブランクが空いてしまった…なおそのうち二週間くらいはいつもの締め方迷子でした
シャーレの増員と、現状本編とはあまり関係ないけど書くことにしたあの子の話

また書きため期に入りますかね…リアルが忙しくなりそうだけど…



 

 

 

問題が増える話

 

【ハリカ】

 

 

 …ものすごく今更だけど、『私』の話をしようと思う。"稲梓玻璃花"じゃない、その中にいる『私』の話。

 

 以前*1にも述べた通り、『私』はいわゆる転生者というやつだ。死んで気がついたら、愛読…していた魔法科の世界に生を()けていた。トラックに跳ねられるのが一般的?なのかもしれないけど私は違った気がする。よく覚えてない。たぶん即死なんだろう。

 覚えてないといえば、『私』のプロフィールだってそうだ。なにぶん「稲梓玻璃花」として10年以上も、しかもノリノリで暮らしていたから忘れてしまった。というか、似ても似つかぬ新しい人生を送る上では邪魔にしかならないからしょうがない…あ、でも同性ではあったはず。その辺の戸惑いがあったら忘れてるとは思えないし。

 でも、プロフィールを除けば『私』の知識は結構残ってるほうだと思う。比較対象がないからほうとか言うのはおかしいけど。だから魔法科の世界とわかったときは感動したし、記憶を頼りに使える魔法を増やしていったし*2、なんならもし突然忘れてしまったら、なんて律儀にメモだってしていた。四高を選んだから知ってるキャラにはあまり出会わなかったけど、スバルちゃんの先天性スキルに翻弄された九校戦や、存外普通にかわいい後輩になった亜夜子ちゃんのことは鮮明に覚えている。

 まあ…残念ながら読破はできてなかったんだけど。多忙でどうしても。後ろ二巻は表紙しか把握してない。…どのみち、軽率な思い付きで行動した結果として途中退場することになったから、もう関係ないけど…

 

 

「ご主人様~!」

「何か、早速手伝えることはあるだろうか?」

「うん、ちょっと離れて…とりあえず、資料の整理を手伝ってくれる?この後追加で来るらしくて」

 …あぁいけないいけない。暗い話になっちゃった。さて、どうして急にこんな話を始めたかというと現在、目の前、定位置のデスクにつく先生に構っている二人が原因だ。…というか、

「なぜここに…?」

「あ!調()()()()()()()()()()()()()ハリカちゃん!」

「ぶふっ!?」

 唐突な身辺調査しました宣言*3に思わず吹き出してしまった。けど当の発言者…アスナさんはにぱーっと笑っているし。傍らのカリンさんはアスナさんにジト目を向けている。…今ここでこの二人が並んでるのを見てようやく、今私がいる世界の見当がついたんだ。…けど、うん。一旦あとにしよう。

 

「…いや、もしかしてシャーレ所属に?」

「そうだよ~先生が新しいご主人様になるの!よろしくね!」

「もちろんミレニアム所属は変わらないけど、ここでは先生がご主人様だ。…そういえば、私は自己紹介してなかった。私は角楯(かくだて)カリン」

「あぁ…はい。稲梓ハリカです」

 ちょっと先生の呼び方に戸惑ったけど、これはあくまでも二人がメイドであるからだろう…その服装が示す通りに。あとシャーレにはもう「主殿!」(イズナちゃん)がいるからね…あのファーストインパクトに比べればなんてことはない。

 

「あ、それと…今日はまだ来てないけど、ヴェリタスのハレもお迎えしたからね」

「まだ来てないというか…二人がいるから避けたのでは?」

「あー…それもそうだね」

 それもそうだねじゃなくて。えっと、つまり…これでシャーレに所属する生徒は、私も含めるなら…15人?

「順調にメンバーが増えていきますね…」

「正直、仲間はたくさんいてくれた方が嬉しいからね。忙しいのもあるし」

「まぁ確かに、先生がぶっ倒れることは減りましたね」

「え、前はよく倒れてたってこと?」

「私の他に数人程度じゃまだまだオーバーワーク気味だったので…」

 そうなんだ~と言うアスナさんと……えっと、カリンさんはオフィスの外に出ていったのかな?ちょうど会話が途切れたから話を戻すと、この二人…どうも『私』には見覚えがある。

 しかし生身で会った人ではなく、画面の中…絵で描かれていた人だと思う。となると、『私』は魔法科世界からまた別作品の世界に来てしまった、ということなのか?なんて言うっけ?トリップ?…ともかく、文字通り()()したってことになる……のか………?

 

「ハリカちゃーん?」

「…あ、はい。なんです?」

「気になったんだけど~ハリカちゃんって、なんか()()()()()とか持ってたりする?」

「ぶふっ!?」

 名前を呼ばれて顔を上げれば、唐突な核心を突く質問に思わず吹き出してしまった。けど当の質問者…アスナさんはにぱーっと笑っ

「なっ…!?え、ど」

「あれ?もしかして当たり?」

「っ……………」

 確認をとられて言葉に詰まった。あぁダメだ…やっぱり私はこうして詰められると弱い。誤魔化しや言い逃れのタイミングを簡単に失ってしまう。思わず目配せすれば先生は唇をへの字にして首を振っていた。万事休す。…幸いなのは、カリンさんがすでに部屋を出ていたことか…

「あの…一体どうして」

「んー……なんとなく?」

「なん…っ、いや、でも…………えぇ……?」

 そうだこの人相容れない直感型だった…言い返そうとした口からは間抜けな声が出るばかり。先生も苦笑いしてる。でも、アスナさんの口からは「あ、」と言葉が続いた。

 

「本当になんにもないってわけじゃないよ?あのとき、ハリカちゃんには何発打ち込んでも手応えがなかった。何か着込んでるのかと思ったけど、そうだとしてもずぅっと難しい顔して眉ひとつ動かさないなんておかしいでしょ?」

「う、それは…」

「それに、ハリカちゃんのほうからは銃声もぜーんぜん聞こえてこなかった。あのときハリカちゃんはそこのガンラックにかかってる拳銃(ハンドガン)を持ってたけど、あとから考えると射程も弾速も合わないんだよね」

「…参りました…けど、その観察眼がありながら()()()()()に着地するのは…」

「そこは直感かな!」

「きゅう…」

 

 ハリカ は しんでしまった!

 

 …冗談はさておき、ともかくバレてしまった(……と言っていいのかわからないけど)のは事実。仕方なく、アスナさんにも魔法について最低限だけ明かすことにした。私のこれは体質に基づくもので、詳しいメカニズムは難解だから省くけど万能ではない…まあ、ハスミさんにしたのと同レベルの説明だ。めちゃくちゃお目目キラキラさせて聞いてくれるのがとても複雑。

 …大っぴらにしたくはないとずっと思ってはいるけれど今回の件といい、アリスちゃんも魔法を視認できた件*4といい、我ながら本当に先が思いやられてしまう。

 …それにしても本当、この体たらくでよく前世のことを隠しおおせたよ…いや、それはむしろオーバーテクノロジーなあの世界だからか。

 

「ハリカちゃんは魔法使いなんだ~!素敵だね!」

「あの…本当に、誰にも言わないでくださいね?」

「誰にもって、リーダーにも?」

「ネルさんにも、ミレニアム上層部にもです…ほんと、ややこしいことになるのは目に見えてるので」

「一応僕からもお願いしておくよ。実のところ、詳しいところは僕も明かされてないから」

「んー…そうだね、ご主人様もそう言うなら、秘密にしててあげる!」

 少し考える様子を見せたアスナさんは、また満面の笑顔に戻ってそう言った。…なんだか先生の助け船がなかったらダメだったみたいな言い方に聞こえるんですけど?不安を隠せないまま目を合わせてもアスナさんは微笑むばかり。私やっぱりこの人苦手だ…。

「…ハリカ、お疲れみたいだしちょっと休んだら?」

「そうします…先生もちゃんと休憩はしてくださいね」

 そんな私のゲンナリははっきりと(おもて)に出ていたようで、先生からお気遣いの言葉をもらってしまった。まあ気疲れしてるのは事実だから、おとなしく従うことにするけど…それで手にした書類をまとめて棚にしまってから廊下に出ると、

「…あ」

「ん?どうかした?」

「ああいや…私今から休憩入るから、よろしくね」

 …ちょうどユウカがやってくるところ。思わずこぼれていた間抜けな声をごまかして、横を通り抜けて仮眠室に向かった。何も話さなかったのは長くなりそうだったからだけど、まあどのみちこのあとオフィスでユウカ・アスナ・先生の間で紛糾するんだろうな…。

 

「…いいや、目覚めたあとの自分に丸投げしよう。絶対後悔するだろうけど」

 ドアを開けて仮眠室に入り、なんとなく廊下から一番遠い簡易ベッドに倒れ伏す。

 …そういえば、アビドスの件といいゲーム開発部の件といいずいぶんと濃い経験をしてきたからか、この世界の夢も見るようになってきた。就寝中の自分なんてオカルチックな幽体離脱でもしないと見れないわけで自覚はあまり持てていないけど、うなされる回数は少し減ってきているらしい。ユウカが笑顔で教えてくれた。

 …まあ、いい傾向なんだろうな……外から見れば。

 程なく訪れた眠気に呑まれてとりとめもない思考の中、深くなる呼吸にまぎれて言葉がこぼれた……気がする。

 

 

「………忘れたくないな…」

 

 

 


 

問題児を語る話

 

【ハリカ⇒カリン】

 

 

『一旦シャーレに戻る?じゃあ今いる場所教えて。迎えに行くから』

 

 そんな通信からわずか2分足らず。建物を下りた私の前に一台のバンが停まった。運転席の窓から先ほどの通話相手…ゲヘナ学園のフユコが顔を出す。

「お待たせ。右後ろが空いてるから」

「わ…わかった」

 …そこそこ混んでいる時間帯のはずなのに、ずいぶんと早い到着だ。少し面食らいながら相棒(ホークアイ)を抱え直し、スライドドアを開け放つと同時に、

「本当になんなのアイツは!!」

 車内から響いてきた叫び声に思わず固まった。

 

「ユウカ、声が大きい。驚かせちゃってるよ」

「っ…失礼。だけど、叫びたくもなるじゃない」

 助手席のハリカから注意され、ユウカはおとなしくなった…が、苦虫を噛み潰したような表情はあまり変わらない。…今回の任務は暴動を起こしていたヘルメット団の鎮圧で、メンバーはたまたまシャーレに所属している二年生ばかりになった。先生の補助に入ったハレも含めて。それが現在、ハリカ、ユウカ、スズミ、ノノミ、私と、運転席のフユコ…一人足りない。

「チサキか…」

「強かったから助かったけど…ハリカに通信機器投げ渡して、勝手にどっか行っちゃったのよ!」

「止める暇もありませんでしたね~」

 降旗チサキ。ゲヘナ学園に籍を置く、赤髪の一匹狼。シャーレに来ることも少ないそうで、私だけでなくユウカとノノミも作戦行動を共にするのは初めてのことらしい。

 ユウカは怒り心頭というふうだった。普段リーダーと揉めているときと違うのは、怒りを向ける相手がここにいないということくらいだろう。…しかし……

「確かに、強かったな…」

「落ち着いてカリン、あれはチサキが異常だから。スナイパーライフルは移動しながら撃つものでも片手で撃つものでも棍棒にするものでもないから。本来」

「それはわかってる。まず私の銃でできる芸当じゃない。…けど」

 同じS(スナイパー)R(ライフル)を使う者として、チサキの戦い方には少なからず衝撃を受けた。

 

 

 …最初のうちは、特に問題は起きなかった。前衛にユウカ、中衛にスズミ、後衛にノノミとチサキ、最後方に私という布陣*5で臨んだ私たちは、ヘルメット団を順調に掃討していた。一介の不良集団が巡航戦車を持ち出してくることに少し驚きはしたけど、私にとってはたいした相手ではない。すぐさま行動不能に追い込み、前線部隊がヘルメット団を制圧。任務は無事に完了した。

 …かと思われたそんな折、ハレから通信が入って。

『みんな気を付けて。4時の方向から15人ほど、向こうの増援が来てる』

『えっもう倒しちゃったけど!?延長戦ってこと!?』

『ずいぶんお寝坊さんみたいですね~』

「…目標を捉えた。一発で、っ!?」

 確認すれば、確かに前線部隊から見て後方に十数人ほど。遮蔽物は少ない、ならばここは私が――そう考えて構えたスコープの視界に飛び込んでくる人影を見て、思わず絶句した。

『えっちょっ、チサキ!?』

『任せて、この程度3分で終わる』

 通信も混乱する中、さらりと言い放ったチサキはその時点ですでに一人倒していて。

『仕方ない。カリンは一旦待機』

「…了解」

 先生からの通信を受けて引き金から指を離したあとも、しばらく私はスコープから目を離せないでいた。思い返せばはしたない体勢をしていたかもしれないが、…チサキの制圧が、あまりにも鮮やかな手際だったからだ。

 後衛向きのSRを相棒にしておきながら近接戦なんて、と思いはしたものの、本人は高い瞬発力と軽い身のこなしで難なく懐に飛び込んでは相手を一撃で気絶させていた。今考えると、うち(C&C)のリーダー…ネル先輩に似ているようにも思える。…さすがに銃把(グリップ)で殴るとは思わなかったけれど…

 …そうして、最後の一人が顎を蹴りあげられて倒れるのを見届けた辺りでふと我に返り、スコープから目を離した。だからそのあとチサキがどのような行動をとったのかは知らなかったんだ。ちなみに通信から漏れ聞こえてきていたけれど、3分どころか2分半もかからなかったらしい。

 

 

「一応、先生の側にはゲヘナに帰る旨が報告されていたそうですが…」

「私たちには無しでしたね~」

「本っ当に意味がわからない…なんであれで後衛なの…」

 話を現在に戻すと、ユウカはぐぬぬ…とうなりながら頭を抱えていた。合理的、効率的に重きを置くタイプの彼女にとってはやはり度しがたいことなのだろう。

「少しでも射程圏でアドバンテージを得たいんだってさ」

 そして、そんなユウカの独り言のようなうめき声には、運転席から回答が提示された。

 

「フユコちゃん、よく知ってるみたいな言い方ですね?」

「みたいも何も実際よく知ってる。付き合いは長いから」

「…そういえば、シャーレに推薦したのはフユコだったわね」

「いい加減羽を休める場所くらい作っとくべきだって説き伏せたんだよ。たまに出動要請が入るくらいなら苦じゃないでしょって」

 言われてみれば二人は同じ学園に通う同級生…しかし、どうもそれだけの関係性ではないらしい。

「…チサキは、フユコから見てどういう生徒なんだ?」

「私も聞きたいわね。あそこまでつかみどころのない奴だとヒントがほしい」

 純粋に湧いた興味から問えばユウカが乗っかってきた。少し視線が交錯したけど、特にそれ以上のことは起きない。…想定外の返事に起こせなかったとも言う。

 

「んー…一口に言うなら、『まだまともな会話が成立するバーサーカー』かな」

「…へ?」

「バ…」

「…その言い方は、ちょっと酷いんじゃないか?」

「大丈夫大丈夫、公認だから」

「公認だった…」

 恐る恐る確認したら公認だった…そんな困惑する車内には見向きもせず*6、フユコはチサキについて語りだす。

 

「チサキはなんというか、変なところでゲヘナらしいんだよね」

「ゲヘナらしい?」

「そう…あ、ちょっと揺れるからどこか掴まってて。目も閉じた方が」

「えちょ、まさか」

「何…うわわあっちょっっと!!?

っっ!?

 脈絡なく入った注意に身構えれば、バンが大きく上下左右に揺さぶられた。ユウカがひときわ大きな悲鳴を上げる中、慌てて愛銃を強く抱き締める。この感じ…何かでこぼこしたものの上を走っている?まるで岩場のようだが、ここはビルの立ち並ぶD.U.の街中のはず…

 車体の振動は割とすぐに…体感10秒くらいで収まった。…本当に、事前に知らされていなければどこかに頭を強打していただろうとは思うけれど…体をめちゃくちゃに揺さぶられた感覚は、体からなかなか抜けてくれない。

「な、何!?」

「チンピラが変なバリケードみたいなの作ってたから踏み越えた。それで話を戻すけど、『自由と混沌』…ゲヘナの校風。チサキは誰にも縛られない自由と、好きなように暴れまわれる混沌を欲する。そういうタイプってこと。だから無所属の帰宅部」

「話戻されたっ!?…というか、それだけ聞くと普通に危険人物なんだけど??」

「確かに、バーサーカーの部分には納得できましたが…」

 そんな中でも、話は平然と続いている…助手席のハリカは放心状態、隣のノノミはまだ目を回しているというのにどうしてこの二人は平気なんだ…ポジションの違いか?…まあいいか。

 実際、チサキとまともに会話は成立するし、フユコの表現が間違いではないことがわかったものの…

 

「だから()()()()()()って言ったの。『誰にも自由に文句をつけさせないため』って理由であれだけの強さを身に付けたわけだし。ゲヘナじゃ自警団じみたことしてるけど、言ってしまえばあれも建前。『自分で作る混沌じゃ何も楽しくない』んだってさ」

「な、なるほど…」

「安心していいのか悪いのか…」

「安心しなよ、戦闘以外は壊滅的だけど悪いやつじゃないから」

「いい人とは言わない辺りが問題だと思うんですよね…」

「ははは」

「…」

「まあ、私から言えるのはこのくらいかな。あとそろそろ着くから起こしてあげて」

 気がつけばもうシャーレビルの目の前まで来ていた。結局言いようのない不安感は拭いきれないけど…フユコがチサキをひいき目なしに高く評価していることは察した。放心状態から復帰したハリカの指摘は笑ってごまかしていたけど。

「…一度、面と向かって話してみたいかも」

 隣で脱力しているノノミを起こしながらふと考えた。興味が湧いたのは、やっぱりうちのリーダーを連想したからだろう。内面は似ても似つかないし、気難しそうではあるけれど。

 

 

 

 

 

*1
初回参照

*2
振動系が壊滅的なのは悲しかった。とても

*3
事後報告とも言う

*4
搭載されている機能のひとつでは?という結論に落ち着いたらしい

*5
ハリカはバンの傍らで待機

*6
運転中なので





・ハリカ
悩みの種がとどまるところを知らずため息をつく。
悪夢にうなされることは少し減ってきたものの………

・アスナ
好戦的直感型アタッカー兼大型犬系メイド(属性渋滞事故)
脳内で別の某ゲームの論外ウツボと≒で結ばれつつある。おやおや(困惑)
この度シャーレ加入に加えて、"知ってる側"にも仲間入りした

・カリン
スナイパー兼メイド。この度シャーレに加入。ハリカにいろいろ勉強を教えてもらう未来はあるし、チサキと打ち解ける未来もある…かも?
登場即語り手チャレンジで難航したけど悔いはない。文字通り現場の空気を俯瞰できる立場がいいと思ったんだ…

・ユウカ
ハリカの予想通りあのあとアスナとひと悶着あった
2話連続で登場。…結局つかみどころがないまんまなんだけど?

・チサキ
性格に(ヘキ)を詰め込んだ濃いオリキャラ。まだまともな会話が成立する狂戦士(バーサーカー)にして、任務には不向きな圧倒的ソロプレイヤー
持ってるSRは軽量級。使い方が使い方なので銃架が仕事してない
本格的な活躍まではもうちょっとかかるかも

・フユコ
現場の後方支援を担当する、背丈(カリンに匹敵する)以外は地味な(はずの)オリキャラ
いろいろ見て見ぬふりをしながらチサキの説明役に徹した

・スズミ
任務に同行。見せ場のない初登場でごめんな…

・ノノミ
任務に同行。おめめぐるぐる

・ハレ
この度シャーレに加入
よく考えたらドローン飛ばす子だったわ…

・先生
とんだ能天気野郎(じっくり二回言う)。まあ生徒を信じる大人だからね



・『私』
ハリカの()()
やらかした転生者
ブルアカのことは興味がなかったのでよく知らない


追記:2023/6/28→8/28→1/12
タイトル変更しました。よく考えたら同じ一日とは限ry



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Ep.3:補習授業部
平穏な再会



いやー経っちゃいましたねひと月が
下書きをゆるゆる進めてる間に周囲にはどんどん新しい小説が増えていくよ すばらしいね

サブタイは変えるかもです




 

 

 暖かな日差しが降り注ぐ、レンガで舗装された道。見上げれば白い雲がぽつぽつと点在する青い空…あ、ハトが横切っていった。平和の象徴だったか…じゃあ、今の状況にぴったりだ。

 

「…めちゃくちゃ静かだ……」

 

 とても平和。

 ここはトリニティ自治区。トリニティ総合学園…シャーレ所属メンツではハスミさんとスズミちゃんが所属する学校のお膝元。なんでも、キヴォトス最大規模を誇る"お嬢様学校"らしい。…あのダブル仕事人からは正直あんまり想像つかないけど。

 ちなみに、三つの大きな学園を中心として合併したので「トリニティ」らしい…もうちょっと何かなかったのかと思う反面、確かにこれがシンプルかつコンパクトで最良な気もしてくる。それでなんか生徒会長も三人いるとか。どういうこと?

 そんな街中に、私は一人。決して迷子というわけではない。むしろ、シャーレのあるD.U.に比較的近いこのあたりはもう慣れたもの。

 それにもともと私は目的もなくぶらぶら歩くのが好きなタチで、たとえば途中下車して一駅歩くみたいなことはよくやっていた。ツグミには「旅番組ごっこ」とか散々な言われようで不評だったけど、まあ体力もつくし。

 

「…ん?」

 ふと聞こえた通知音に端末の画面を見やれば、先生からのモモトークが来ていた。

『ハリカ、今大丈夫?』

『予定は未定ですけど、どうかしましたか?』

『ちょっと力を貸してほしいことがあって。今どこにいる?』

 …私に、力を貸してほしいこと…何だろう。できることならいいけど…いや、あの先生に限って、できないことを頼んだりはしないか。まあ悪い気はしないので素直に答えておく。

『トリニティ自治区ってところです』

『ちょうどよかった!とりあえず印をつけた地図を送るから来てほしい。迎えに行くから』

 あぁ…日々いろんな学校に足を運んでる先生だけど、今日はちょうどここだったのか…。

 送られてきた地図から現在地を確認。今いる場所から…トリニティの校舎を挟んだ反対側?結構遠いな…まあ体力に自信はあるから大丈夫だと思うけど。本当に困ったら何か乗ろう。

 それにしても…この巻き込まれる感じ、久々だなぁ…。

 

 

 さて、道中"総合学園"の名前に負けないとてもおおきい*1トリニティの敷地に沿って歩き、その裏門と思われる辺りで先生が手を振っているのが見えた。さすが気付くのが早い。

「あれ…ハリカさん?」

「そういえばここだったね…久しぶり」

 そして先生の隣には、…何よりもその肩に掛けられた、ニワトリみたいなキャラクターのカバンに見覚えがありすぎる女の子…ヒフミちゃんがいた。こうして顔を合わせるのはアビドスの件以来か。

「助っ人ってハリカさんだったんですね…でも、その服装は?」

「ああ、これが私の正装だよ。あのときはノノミちゃんの制服の予備を借りてたから…さすがに連邦生徒会みたいな格好でブラックマーケットに入るのはまずいってことで」

 そうだったんですか?とヒフミちゃんは目を丸くして先生のほうを向いた。…この感じ、どうやら私は本気でアビドスの生徒だと思われていたらしい。…『五人しかいない』なんてインパクトある情報だから知ってるかと思ってたけど、考えてみればここには幾千の学園があるわけだから無理があるよね。…私の感覚で言うなら「北陸の一般高校のことまでわざわざ知らない」感じになるだろうか。

 

「それで先生、用件はなんですか?」

「あれ?一応モモトークで送ったんだけど」

「え?」

 慌てて端末を確認すれば確かに通知が数件。通知バーのプレビューに『ハリカの知識を借りたいんだけど、…』と途切れた一文を認めて、顔を上げた。

「すみません気づかず…でも先生、私にできないことは頼まないでしょう?」

「ハリカってそういうところあるよね…」

「?」

 …正直に思うところを言ったつもりが、先生には困った顔をされてしまった。思わずヒフミちゃんを見ると「あはは…」と苦笑された。解せぬ。

 

 

「なるほど、つまり私は家庭教師役ということですね?」

 二人から受けた説明の要点をかいつまんで確認をとれば、両者から肯定の返事がかえってきた。私たちは現在移動中、目的地はトリニティの別館。先生には申し訳なさそうに体力面を心配されたけど問題ない旨を伝えておいた。

 なんでも、先生は『ティーパーティー』…トリニティ生徒会直々に「補習授業部」の顧問になるよう頼まれたらしい。「補習授業部」は臨時で設置される、その名の通り補習授業を受ける部活。生徒会は他校との条約の件で忙しく*2、補習の面倒を見るには時間も人員も足りないとのことで、先生に依頼することを決めたのだとか。

 そしてヒフミちゃんがここにいるのは「補習授業部」の部長を任されたからだそう。…でも…

 

「ヒフミちゃんって、あまり成績が悪いようには見えないけど…」

 アビドスの件で少し関わった程度だけど、ヒフミちゃんはどちらかと言えば聡明なほうだと思う。ブラックマーケットに踏み込むに当たってしっかり前情報を押さえていたから案内役に徹することができていたわけだし、(不憫枠ではあれど)残念な子ではなかった。そんな何気ない疑問をぶつけたところ、

「私はその…ペロロ様の、ゲリラライブで…」

「そ、そっかー…」

 …ペロロ様。ちょうど彼女が抱えているカバンのキャラクターのことだ。有り体に言うなら「舌を出して目を回してるニワトリ」だろうか…なんか、前の世界はともかく『私』にはこういうの見覚えがある。なんだっけ…サ○スター?だっけ?*3

 まあそれはなんでもよくて、彼女がペロロ様に注ぐ愛の深さの程はブラックマーケットでも目の当たりにしていたけど。していたけど……()()()()()()って何??

 …めちゃくちゃ気になるけど、気まずそうに大きなカバンを抱きしめるヒフミちゃんを見て、深く追及するのはやめておくことにした。ちょっと強引だけど話題を変えよう。

 

「…なんか、ちょっと独特ですね…補習まで部活にしちゃうって」

「あぁ…まあ、それはそうかもしれません」

「私はやっぱり…部活といえばあんまり学業とかとは関係ない、趣味に近い立ち位置って印象が抜けなくて」

 例えばミレニアムのゲーム開発部とか、百鬼夜行の忍術研究部とか…これは結構ずっと新鮮に感じていることなんだけど、キヴォトスの学校における"部活"の認識は少し変わっている。他にもエンジニア部とかあの辺ならまだわかるんだけど、チナツちゃんの風紀委員会や、ユウカちゃんのセミナーなんかまで「部活」になるらしい。

 …そういえば、チサキちゃんがどこにも所属しないのは束縛が嫌いだからとか言ってたな。役職持ちじゃなくても束縛を感じるなんていうのも、私の部活観とは食い違っていて気になっていたのだ。

「ここでいうなら、放課後スイーツ部みたいな感じでしょうか」

「うん、放課g()()()()()()()()!?

 …とか思ってたらヒフミちゃんの口から出てきた単語に目を白黒させることになった。放課後スイーツ部…甘美な響きもいいところ。さすが平和の園、そんな部活まで…。

「そういえば、ハリカは入ってた部活とかあるの?」

「私ですか?写真部ですよ」

「そうなんだ?ちょっと意外だね」

「まあ、こうやって歩き回るのは大好きなので、ちょうどいいなって思ったんです。だからってカメラに詳しいというわけではないですけど」

 先生からの質問で久々に思い出したけど、前述したぶらり歩き趣味との兼ね合いがいい感じにできることもあって、四高では写真部に所属していた。片手に収まる人数の小さな部だったけど、楽しかったな…

「あ、着きましたよ!ここがトリニティの別館です!」

「お、ここが別館……別館……?」

 ちょっとセンチメンタルになってたら目的地に到着した…んだけど。

 …さすがとてもおおきい*4トリニティ、別館とやらも規模だけ見れば普通の学校だった。体育館まであるし、これだけでアビドスに匹敵するかもしれない。なるほど…ホシノさんが身構えてたのも、わからなくもないな…。

 

 

【ハリカ⇒ヒフミ】

 

 困ったら助っ人を呼ぶ…補習授業部の顧問を引き受けてくださった先生から、そんな話は結構早い段階で出ていました。実際にはハナコちゃんのアズサちゃんに対する教え方がうまいことや、コハルちゃんが自信満々なこともあって、まあ大丈夫そうかな、という感じにはなっていたのですが…結局、一週間の強化合宿を行うことが決まり、先生も助っ人を呼ぶことにしたそうです。

 その助っ人というのが誰か、そういえば聞いていませんでした。先生は「ヒフミはもう会ったことあるよ」と言っていましたが…

「そういえばここだったね…久しぶり」

 待ち合わせ場所にしたトリニティの裏門にやって来たのは、ブラックマーケット以来に見るハリカさんでした。

「でも、その服装は?」

「ああ、これが私の正装だよ。あのときはノノミちゃんの予備の制服を借りてたから」

 ただハリカさんは以前見たときとは違う、ゆったりとした白いロングワンピースにグレーのガウンを羽織った姿をしていて、気になって聞いてみたらそんな答えが返ってきました。

 思わず先生にも確認したところ、ハリカさんの所属はシャーレで、率先して先生のサポートをしてくれる生徒だそうです。あのときはアビドスの件で同行していたのだとか…あまりにも馴染んでいたものですから、すっかりアビドスの一員だとばかり…

 

 それから移動する最中、ハリカちゃんが呼ばれた理由を把握していなかったことが判明したり、部活についての話をしたりして……私たちは今、トリニティ別館の部屋のひとつで、ほかの補習授業部のメンバーと合流していました。

「連邦捜査部『S.C.H.A.L.E(シャーレ)』から来ました、稲梓(いなずさ)ハリカです」

 ハリカちゃんの自己紹介を、私も一旦みんなと一緒に対面して聞くことにしました。既に知り合いとはいえ、教えられる側になりますから。…所属もそうですけど、なにぶんブラックマーケットからアビドス高等学校までの付き合いだったもので、改めて考えてみればハリカさんのことを全然知りませんでしたね。同じ二年生なのも今初めて知りました。

「それじゃあ、えっと…改めまして、補習授業部の部長を任されてる阿慈(あじ)(たに)ヒフミです」

「私は(しら)()アズサ。よろしく頼む」

(しも)()コハル…。言っとくけど、ここに長くいるつもりはないから」

(うら)()ハナコです。よろしくお願いしますね、色々と♡…それで、助っ人ということは、めいっぱい頼ってもいいということでしょうか?」

 私たち四人も簡潔に自己紹介を済ませると、ハナコちゃんがそのまま質問に移りました。

「まあ、主に理系科目中心で。…まだ半端者なので、どれだけ力になれるかはわかりませんけど」

「そんなに謙遜しなくても、たまにシャーレで勉強見てる感じでいいよハリカ。ゲーム開発部の子たちも、ちゃんと成績よくなってるってさ」

「ゲーム開発部…というのは、ひょっとしてミレニアムでしょうか?」

「えっ!?」

 きょとんとしたハナコちゃんの言葉に、思わず大きな声が出てしまいました。…ミレニアムって、すごく頭のいい学校だったんじゃ?それも理系の…

「ああうん、でも一年生相手だからね?ゲーム開発部に関しては」

「それに、セミナーの会計とも仲良しだし。たまに二人の話ついていけなくなるよ」

「あの先生ハードル上げに来てます…?確かに理系仲間ですけど普通にユウカのほうが上ですからね?」

「ま、まあまあ…お二人とも…」

 …謙遜するハリカさんと笑顔の先生との間でいきなり攻防戦が始まってしまいました。…とりあえず、ハリカさんは先生にとって本当に頼れる生徒であるようですね。アビドスの件で同行していたくらいですし。

「…そういえば、ヒフミとはもう知り合いなのか?」

「あ、うん、まあたまたま知り合った程度だけど…こんな形で再会するとはね…」

「あぅ…」

「そういうわけでよろしくね。えっと、先生はしばらくここに通うってことですね?」

「いや…最大限面倒を見るつもりでいるから、むしろここからシャーレに顔を出す感じになると思う」

「それでいいのか顧問…いやいいのか。うちの顧問もその辺いい加減だったしな…じゃあ、私はシャーレから通う形にします」

「えっ、泊まっていかないんですか?部屋もベッドも、まだ余裕はありますけど…」

「あまりオフィスを開けておくべきではないしね。それに、極力慣れてる場所で寝たいタチだから」

 気になって尋ねてみると、ハリカさんはやれやれという顔で先生を見ながらそう答えてくれました。そしてその先生から「悪いけどよろしくね」と告げられ、ため息をついています。

「そこで先生も連れて帰るって選択肢はないのね…」

「先生はこういう人だからしょうがないかな」

「…言われてますけど」

「ははは…」

 

 

「そしたら、荷物を片付けて早速お勉強を…」

「あら、でもその前にやることがあると思いませんか?ヒフミちゃん」

「えっ?」

 ペロロ様バッグをベッドの上に置いたところで、ハナコちゃんの言葉に顔を上げました。やること…なんでしょう?コハルちゃんは顔を真っ赤にしていますが…

「なるほど、敵襲を想定してトラップの設置を?」

「いえ、そうではなく…お掃除、ですよ♡」

「お掃除…ですか?」

「はい。管理されている建物とはいえ…長い間使われていなかったこともあって、埃なども多いように見えませんか?」

「…言われてみれば?」

「、…まあ確かに、ちょっと埃っぽくはあるかな。学校で言うなら準備室みたいな感じ?」

 見回してみれば…さっきバッグを置いたからでしょうか、埃がちらちら舞っている様子が視界に入ります。アズサちゃんの発言でフリーズしていたハリカさんも、部屋を見回してぽつりと呟いていました。

「このままここで過ごすのも健康によろしくなさそうですし、今日はお掃除からはじめて、気持ちのいい環境で勉強を始める、というのはいかがでしょう?」

「なるほど…確かにそうですね。まずは身の回りの整理整頓から始める、というのは定石ですし、そうでないと途中で気になってしまいますし…」

 にこにこ笑顔でハナコちゃんがした提案…正直なところ、真っ当なものだったことに安心した自分がいます。なんと言いますか、初対面がかなり鮮烈だったもので…。

「勉強を放り出して掃除に夢中になっちゃう、とかあるよね…」

「あぁ、よく聞きますねそれ…そっちの二人はどう?」

「確かに衛生面は大事。実際戦場でもすごく士気に関わりやすい部分だ」

「お掃除…?えっと、まあ、普通のお掃除なら…」

 ハリカちゃんに話題を振られたアズサちゃんとコハルちゃんも、乗り気とまでは言わないまでも前向きではあるようです。

「…確かに、ハナコちゃんの言う通りかもしれません。やる気が空回りしても困りますし……私たちがするのは一夜漬けではなく、きちんと用意された環境での試験勉強。つまりは長距離走みたいに順番やペース、作戦も考えないとです!」

「おお、いい例え」

「えへへ…じゃあまず大掃除から…各自汚れてもいい服装に着替えて、10分後に集合としましょう!」

 

 

 

*1
(語彙力)

*2
?????

*3
サ○リオ。サ○スターは文房具

*4
(語彙力)





・ハリカ
頼られるのが嬉しくて詳しく聞いてなかった。そういうとこだぞ
シャーレで時おり同級後輩の勉強を見てる。一番恩恵を受けてるのはカリン。シャーレ所属だけでなくたまに遊びに来た生徒も相手にしてる

・ヒフミ
メインの立ち位置で再登場
語り手チャレンジで地味に悪戦苦闘したりしてました

・アズサ
思考回路が物騒
これは余談だけど最近書店で著者が「白洲梓」の小説があって二度見した

・コハル
プライド空転ガール(最年少)
ムッツリ具合が微笑ましいことに定評がある

・ハナコ
あらあらうふふ系問題児
全員集合以来誰よりも発言してるけどまだ本気は見せていない
言い回しを模倣できるか不安です(純粋な目)

・先生
シャーレ激務って聞いてたけど、そこんとこ擦り合わせどうなってんだろうな…と思いつつ…


誤字報告機能は初めて使ったかも ありがとうございます
生えるもの…




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合宿初日

\\\滑り込み五月///

大変長らくお待たせしました…このまま話を進めていく上での懸念点とか色々考えてたらひと月超えちまった…
そして書きためもあまりないのでまたお待たせする感じになると思われ…
流石ハイライトにしてハイカロリーな3章…まあ楽しいので頑張りますとも……



 

 

 

「お待たせしました!皆さん早かったですね?」

アウトーーーーー!!

 トリニティ総合学園の別館に、コハルちゃん渾身の叫びが響き渡った。一方で叫ばれたハナコちゃんは「あら?」と軽く首をかしげている……一人だけ水着姿で

 合宿を始める前に大掃除をしよう、という提案を受けて、まず汚れてもいい服層に着替えようという運びで今に至るんだけど…提案した本人……

 

「なんで掃除するのに水着なの!?バカなの?バカなんでしょバーカ!!

「ですが動きやすいですし、何かで汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単で」

「そういう問題じゃないでしょ水着はプールで着るものなの!!っていうかだっ、誰かに見られたらどうするの!?」

「誰かも何も、ここには私たち以外いませんよ?」

 ぎゃんぎゃん吠えかかるコハルちゃんに対して、ハナコちゃんはふんわりと笑顔を浮かべたまま、まるで効いてる様子がない。

「先生…これ、止めに行った方が…?」

「いや…コハルとハナコはだいたいあの調子なんだよね…」

 先生もあきれたカオしてる…ちょっと赤面してるけど。まあハナコちゃんはなかなか暴力的なプロポーションしてるからそれは仕方ない。少しの間ヒフミちゃんと苦笑し合う時間になった。アズサちゃんはきょとんとしてる。

 

 

 さて、コハルちゃんに背中を押されて戻っていったあと、ハナコちゃんはしっかり体操服に着替えてきた。…なんかほんと、突拍子もないことする子だと思ってたけど、ヒフミちゃんいわくハナコちゃんは校内をあの格好で徘徊して正義実現委員会に拘束され(お縄になっ)ていたらしい。とんでもない問題児です本当にありがとうございました。閑話休題(まあいいや(良くはない))

 

「ところで、ハリカさんは着替えなくてもよろしいのですか?」

 まず屋外の掃除から、ということで移動する最中、当のとんでもない問題児がにこやかに問いかけてきた。確かに私は来たときと同じ真っ白な四高制服のまま。けれど、ここは私もにこやかに答えさせてもらう。

「知ってるハナコちゃん、私ここに教師役で呼ばれたんだよ」

「まあそれも知らずに来てたけどね」

「それは言わなくていいですから…」

 …だって仕方ないでしょう数十分前までは平和ダナーなんて言いながら散歩してたんだから…背中のナップサックに余裕はあるけど、そこに着替えを入れる習慣なんてないんですぅー…誰にともなく心の中でそんな言い訳をした。余計な口を挟んでくる先生をひと睨みしつつ。あと先生も普段通りの装いだし…。

「要するに先生側ってことです。まあ、汚れすぎない程度に手伝いますよ。どうせ一度は砂で真っ黄色になった服ですし」

「砂…アビドスですか」

「そうそう。叩いても叩いても出てくるから、さすがにクリーニングのお世話になったよ」

 いやはや砂漠地帯というのは恐ろしい。服を叩けば際限なく出るわ出るわ…カイザーがこんな感じかとは思ったけど言わなかった。それだけでなく生身で砂嵐に巻き込まれたりしていたから髪の間から砂粒が出てきたりもして大変だったけれど。まあ今その話はいいか。

 

 そんなこんなでまず外の雑草駆除を終え、それからいよいよ建物内の掃除へ移ることとなった。…外の雑草駆除からすでに六人でやる分量じゃないと思うんだけどなー。ここからはある程度手分けして作業する感じになるらしい。

 まあ、私にとっては悪い知らせじゃない。なにげに立ち座りの動作が多い雑草駆除がこの中で一番大変な作業だっただろうし、それに…。

「私、食堂と簡易キッチンの方行ってくるよ」

「ハリカちゃん、一人でですか?」

「うん、他とは勝手が違うだろうし、割と慣れてるから任せて」

 わちゃわちゃしてる面々から離れて、一階のひときわ大きな空間に向かう。掃除に必要なものは…まあ向こうに置いてあるだろう。さっきも言った通り勝手が違うだろうし…無かったらその時か。

 

 

 

「うわっと!?」

「あ!?…先生、すみません」

 長テーブルを魔法で一気に滑らせていたら、がらりと開いたドアの向こうから悲鳴が聞こえて驚いた。

 けどその声の主が先生で、そして特に怪我もしていないようだとわかって、ほっとして肩をすくめた。

「何かあったんですか?」

「あぁいや、何も…ずいぶん綺麗にしてくれたねハリカ」

「ええまあ、使用人さんのお手伝いをしてた頃から掃除は好きなので」

「そうなんだ…使用人さん?」

 先生の声を聞いて駆けつけたらしいヒフミちゃんを見て、こっそりブレスレット(型CAD)の電源を落としておく。ヒフミちゃんはすぐに戻っていったけど…もう大きなものの移動はないから別にいいや。ちなみに簡易キッチンは優先的に手をつけて完璧に綺麗にしておいた。別に汚かったわけではないけどつい慣れで。

 私はあの広大な屋敷にいた頃もそうだけど、進学を期に一人暮らしに移行していたから、掃除のみならずそれなりに生活能力が高い自負はある…そもそも『私』が一人暮らししてたのかも。よく覚えてないけど。だから正直、これくらいは大したことじゃない。まあ、褒められて悪い気はしないけど。

「もしかして…魔法、使ってた?」

「ええまあ、そのための単独行動でしたし…あ、あとは並べ直すだけなのでお気になさらず」

「そんな。手伝うよ」

「そう言いつつ他のみんなのことも気にしてますよね先生?私の優先度は下げてもらってもいいですよ?」

「わかった。でも、今はハリカといようかな」

「こっぱずかしいこと言いますよねぇ…」

 

 呆れつつ先生の手から椅子を奪って並べていく。…地道な作業は無心にできていいけど、やっぱり広いからもうちょっと使うかな。

 ブレスレットに再び光が灯ると、それを見ていたらしい先生がおもむろに口を開いたのがわかった。

「…ハリカはあまり魔法のこと、大っぴらにしたくないんだっけ」

「そうですけど…急にどうしました?」

「そういえば、はっきりと理由を聞いたことはなかったなって…正直、意外と大丈夫じゃないかなと思ったりもしててさ」

 …確かにまあ、強靭な肉体には目を瞑るとしても妙な現象を起こす生徒はいるにはいる。イズナちゃんとか「忍法!」ってまじで何かできちゃってるし…

 …でもなぁ………

「…先生は、未知のものって怖くないですか?」

「未知のもの?」

「魔法は本当にいろんなことができるもの…それはつまり、如何様(いかよう)にも悪用ができるってことですよ」

「韻を踏んだね」

「踏みましたけど。…ここまではまだいいです。結局は使い方、って言うのはなんでも同じですから…問題は、()()()()()()()()()()()ってことです」

 

 例えば魔法を好き勝手撃ちまくるテロリストが現れたとして、対処法はあるだろうか?同じ魔法師なら、力量は問われるけどそれなりに対処法がある…いわゆる対抗魔法というやつが。対象物の今の状態を上書きする情報強化や、ある一定の領域の情報改編を許さない領域干渉、あとは…ちょっと力業になるけど、魔法式を吹っ飛ばしてしまう術式解体(グラム・デモリッション)とか。

 けれどそれは()()()の話であって、ここは違う。特別な方法(魔法式)世界(イデア)に干渉し、世界の情報(エイドス)を直接書き換える…それに対抗できる手段なんて、たぶんないだろう。対処法のない攻撃はただの蹂躙。そういうわけで、正直あまり魔法を使う気にはなれない…

 

「でも、ハリカはしないでしょ?悪用は」

 ぎ、と動きが止まった。思わず。見ればにこにこ笑顔の先生。…うん。こういう人だった。知ってた。こちらも苦笑いで返すほかない。

「そりゃまあ…先生は、そう言うでしょうけど…みんながみんなそうはいかないだろうっていうのが、第一の理由です」

「第一の、ってことは他にもあるんだ」

「はい。それに…()()()()()、でしたっけ」

「あぁ…」

 その単語を口にすれば、先生の表情が少し固くなった。まあ、そういうことだ。

「少なくともああいう大人がいることはわかりましたから。生徒にもいる可能性は拭えませんし…まあ、用は実験台に縛り付けられるようなことがないようにってことです」

 …ホシノさんが捕らわれていた場所。外との明度差がありすぎたのもあって詳しくは見てないけど、ああいう場所に私が、と思うとゾッとする。被験体番号で呼ばれるのは避けたいよね…。

 …こうして考えると、アビドスでの一件は意外と私に影響を与えていたらしい。…今度また行こうかな。だからってわけじゃないけど。

「その…結構容赦ない言い方するねハリカ」

「こんなところで容赦しても意味ないでしょう」

 

 

 

「それじゃあ行こっか。みんなもそろそろ終わる頃だろうし」

「そうですね…ん?…あっ」

 さて。綺麗に整った食堂を出ようとしたところで、ポケットから振動を感じた。取り出した端末の電源を入れると、通知のポップアップが表示されている…そうだ、リマインダーを設定していたんだった。

「ハリカ?」

「…すみません先生、ちょっと…」

 

「さてと、こんなところかな?」

 集合場所に指定していた正面玄関に来ると、全員が揃っていた。…確かに、来たときとは見違えたように見える。もちろんここに来るまでの廊下も含めて。

「いいんじゃない?ずいぶんキレイになった気がする」

「うん、悪くない」

「あ…っとみんな、ちょっといい?」

 コハルちゃんもアズサちゃんも満足そう…にしているところ悪いけれど。控えめに手を挙げたらみんなの視線が集まってくる。大丈夫、ダメ出しとかじゃないよ。

「私、このあとちょっと別の用事があるからもう行かなきゃなんだ…ごめんね」

「あら、そうなんですか…謝ることではないと思いますよ?」

「ああ、ハリカはシャーレから通うんだろう?」

「いやぁ…家庭教師役として来たのに、全然できてないの申し訳ないなって…」

「そんな、大掃除を手伝ってくれただけでも十分ですよ!助かりました!」

 ちょっと主目的の教鞭が執れなかったので肩を落としていたけど、嬉しいことを言われて背筋を伸ばした。…もじもじしてるコハルちゃんからは気持ちだけ受け取っておくことにした。素直じゃない子は微笑ましいね。あんまり身近にはいなかったけど。

 そんなわけで…私は所用で百鬼夜行に向かうため、トリニティの別館()をあとにした。…しかし方角としては本校舎の反対側、ちょっと行くのが大変だな…頑張るしかないか。フユコちゃんをこんな場所まで呼び出すのはさすがに迷惑だろうし。

 

「じゃあ僕らも、これで大掃除は終了にする?」

「そうですね、お疲れさまでした!」

「あ、でも皆さん、まだ一箇所だけ残ってますよ?」

「あれ、そうでしたっけ?」

 

 

【ハリカ⇒ 】

 

「そういえば、水を入れるのは結構時間がかかるものでしたね…すみません、失念していました」

「謝ることはない。十分楽しかった」

「綺麗…」

「そうですね…真夜中のプールなんて、なかなか見られない景色で」

 

 ハリカが帰ったあと、ハナコの提案でプール掃除をすることになった。濡れてもいい格好で、と言った本人が制服を着たままでひと悶着あったりしたけど、みんな楽しそうにプール掃除を進めて、終わらせて…

 …けれど、プールに水を張るのに予想外に時間がかかって今に至る。あたりはすっかり日が暮れて、澄みわたる空には星が瞬き始めている。

「あら…コハルちゃん、おねむですか?」

「そ、そんなことないもん…でも、ちょっとつかれた…」

「確かに、今日は朝から大掃除でバタバタでしたもんね…では、そろそろお部屋に戻って休むとしましょうか。明日からは本格的に勉強合宿が始まってしまいますし、そろそろ寝ないと明日に支障が出てしまうかもしれません」

「そうですね。では、今日はこれくらいで」

 

 

 

「?…どうぞ、入って」

 お疲れさま、おやすみなさい、また明日。補習授業部のみんなとそう挨拶を交わしたあと。自分一人だけ別にしておいた部屋に戻って考え事――ナギサの真意について――をしていると、コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた。

「失礼します…その、夜中にすみません…」

 入室を促すと、開いたドアの向こうには申し訳なさそうな顔のヒフミがいた。

「ヒフミ、どうしたの?」

「その、眠れないといいますか…あれこれ考えていたら、その…あうぅ…」

 …どうやら、ヒフミは心配事で眠れなくなっていたらしい。あまり誉められたことじゃないけど、少し夜更かしに付き合うことにした。

 

「今日はお疲れ様でした、先生」

「うん、ヒフミもお疲れ様」

「まあ、本格的な強化合宿は明日からですけどね…ハリカさんもせっかく来てくれたのに、ちょっと申し訳ないような…」

「ハリカも楽しんではいたと思うよ?掃除自体は結構好きみたいだし」

「そうなんですか?」

「今はシャーレビルに住んでるけど、一人暮らしの経験があるんだって」

 以前、洗濯や掃除についてやけに詳しいのが気になって聞いてみたら得られた答え。普段あまり自分のことを話そうとしないハリカが珍しく話してくれたことでもある。一人立ちのきっかけについては濁されてしまったけど。

「明日からも来てくれるらしいから、大丈夫だよ」

「明日…」

 

 …ヒフミの表情は晴れない。不安を打ち明けるか迷っているよう。

 ここは無理に話させないで、本人のタイミングに任せるほうがいいな…そう思っていたら、ヒフミはためらいがちに口を開いた。

「先生…その、明日から、本格的な合宿…なのですが……私たち、このままで大丈夫なんでしょうか…?」

 

「もし、一週間後の2次試験に落ちてしまったら、3次試験…万が一、それにも落ちてしまったら…」

「…全員、退学」

「…やっぱり、先生も知っていたんですね…」

 中断された言葉を接いだら、ヒフミは目を丸くした。まあ、ヒフミはナギサから部長に任命された身の上、そこまではまず聞かされているだろうとは思っていた。それが眠れないほどの不安の種になってしまっているようだけれど。

「まだ誰にも言っていませんが、そもそも言っていいことなのかどうかもわからなくて…学力試験なのに、どうしてこういう"全員一斉に"みたいな評価システムなのかもよくわかりませんし、試験のためだけにわざわざ合宿施設を提供してくれるなんて……それに……」

 

 不安が堰をきって流れ出したような様子のヒフミは、そこまで言ってふと口をつぐんだ。目が泳いで、口許に伸びた手が所在なさげにさまよっている…何か、気まずそうな。

「…ヒフミ、他にもナギサから何か言われたりした?」

「いえ、そ、その…ナギサ様からは、えっと………『誰にも言わないように』と言われていたのですが、…私の手に負えるような話では、なくって……なんと言えばいいのか……」

「…『()()()()()()()()()()を見つけてほしい』、って?」

「っ!?…先生も、そう言われたってこと、ですよね…?」

 

 

『ヒフミさん。補習授業部にいる()()()()を探していただけませんか?』

『正直なところ、今回の補習授業部について、試験の成果など特に気にしてはいません。試験に合格できなければ退学というのは、つまるところ最終手段…ヒフミさん、できる限り彼女たちの情報を集めて、できる限り早く、裏切り者を見つけていただけませんか』

『…他に選択肢はないのです。それにやむを得なかったとはいえ、失敗してしまった場合はヒフミさんも同じことになってしまうのですよ?』

 

 

 …そんな脅迫じみたことを、ヒフミはナギサから言われていたらしい。私だけでなくヒフミにも話していたのは、彼女がシャーレと繋がりを持っていたからだという。シャーレという第三勢力がついている限り、裏切り者は下手な動きができないから…と。

「裏切り者だなんて、そんな話…みんな、同じ学校の生徒じゃないですか…今日だって、みんなでお掃除をして、一緒にご飯を食べて……これで、誰が裏切り者なのか探れだなんて、そんな…そんなこと……私には………」

「…ヒフミは、優しいね」

 正直に思ったことを口にしたら、本人は目を丸くしてうろたえ出したけど…ヒフミは優しい。他人を思いやって親身になれる子だ。…優しいからこそ、この案件はヒフミに背負わせるべきじゃない。

 

「その件は私に任せて。私がどうにか解決するから、ヒフミは気にしなくて大丈夫」

「先生…?」

「ヒフミは、ヒフミにできることを頑張ってほしい」

「…分かりました。えっと、私に何ができるのかはまだわかりませんが、ちょっと考えてみようと思います!」

 なんだか心が軽くなった、と頭を下げて出ていくヒフミを見送って、僕はまた思考を巡らせる。

 

 「そもそも補習授業部は生徒を退学させるためのもの」…ナギサは僕にそう話した。"エデン条約"――長きにわたる対立があるトリニティとゲヘナの間で結ばれる不可侵条約――の締結を目前に、「条約締結の阻止を目論む裏切り者」がいる疑惑が持ち上がり、調査の果てにその容疑者を集めたのが補習授業部であると。そして、「裏切り者を探し出してほしい」と僕に持ちかけてきた。

 でも、僕は断った。先生として、生徒を信じ、生徒と信頼を築き合う大人として、彼女とは違うやり方で対処していくと決めたのだ。…それにナギサもきっと、ヒフミを…

 

 …そろそろ寝ないと明日が辛くなるとわかっていても、すっかり目が冴えてしまっていた。でも仕方がない。補習授業部のみんなのためにも、本気で向き合わないと。

 

 

 

 

 





・ハリカ
結局家庭教師役できなくてなんか申し訳ない…と思いつつ一日目を終えた
お察しの通りエデン条約ミリしら勢です。よろしくお願いします
魔法の使用についてこの機会に一度明文化してみた。状況的にはチートだけど、それを楽しめるタチではない

・ヒフミ
重たいものを抱え込まされていた部長
なお次回

・ハナコ
頭も舌も回る問題児。これから先の執筆もなかなか苦労しそうです(澄んだ瞳)

・コハル
ことあるごとに赤面してる最年少。今のところ最年少が一番キレッキレのツッコミしてるよここ…

・アズサ
まだ淡々としてる印象が強い転校生。なんか全然出せてなくてごめん

・先生
生徒みんなに平等に接する。もちろんハリカも生徒だよ?あまり個を出さないようにはしつつもガチめの聖人設定になってる
ナギサの思惑について思考を巡らせる

・ナギサ
ゴミ呼ばわり怖すぎわろた(真顔)




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お騒がせな少女達@トリニティ

合宿二日目ちょっと長くなりそうだったので分割
おことわり:これは健全な二次創作です



 

 駅を出て、石畳の上を小走りで進む。はい二日連続でやって来ましたトリニティ。なにげに連続で来るのは初めてかもしれない。いつ来ても圧倒的な本校舎はガン無視し、別館を目指す。

 こんな朝っぱらから来ている理由は単純。外に滞在するにしてもシャーレの先生はシャーレの先生なので、どうしても本人確認の必要な書類は存在する。それで、シャーレに戻る…どころかそもそもシャーレに居着いている私がその手の書類を届けにいく手筈になったのだ。

 まあ、ちょっと色々あって今回は朝イチ訪問とはならなかったけど。とりあえずムツキちゃんとイズナちゃんを当番でご一緒させてはいけないことを学んだ。

 これといって何事もなく平和にたどり着いた別館の門をくぐる…今更だけど、こうやって複数の学校を出入りする経験って『私』まで遡ってもないな。進学に伴う引っ越しはあったけど転校の経験はないし。なんかちょっと変な気分だな…。

 そうして、声がしている教室を見つけて来てみれば。

 

 

「こ、こっちは?この長いのは?イモリ…いや、キリン?なんだか、首に巻いたら温かそうな…」

「それはウェーブキャットさんです!いつもウェーブして踊っている猫なのですが、おっしゃる通り最近ネックピローのグッズが…」

「これは?この小さいのは?」

「それはMr.ニコライさんです!いつも哲学的なことを言って不思議な目で見られてしまう方ですね!今回ご褒美としてその方が書いた『善悪の彼方』という本も用意しているんですよそれも()()!!

「すごい、すごい…!これを貰えるのか?ま、まさか…選んでもいいのか!?」

「はい!アズサちゃんが欲しいのを持っていってください!」

 

 …なにやら机の上に並べられたぬいぐるみを前に、見たことのない盛り上がりを見せているるヒフミちゃんとアズサちゃんがいた。コハルちゃんはポカンとしていて、ハナコちゃんと先生は苦笑い…してたところで私に気づいたらしい。先生が手招きするので、なんとなく足音を抑えて歩み寄る。

「モモフレンズ、ですか…」

「あら、ハリカちゃんはご存じで?」

「まあ一応、シャーレにも好きでグッズを持ってる子はいるし…それでもあれほどではないけど」

 正確に言えば、ヒフミちゃんのあの盛り上がりよう…もうちょっと落ち着いてたのなら、見たことがある。場所はブラックマーケットで、相手はノノミちゃんだったけど。

 なんでも現在、補習授業部は定期的に模擬試験を実施することに決めたらしく、そのモチベーションを上げるためご褒美としてあれを用意したらしい。それでハナコちゃんコハルちゃん*1はいまいち惹かれることはなかったけど、

「やむを得ない。全力を出すとしよう…いいモチベーション管理だ、ヒフミ。約束しよう、必ずや任務を果たして、あの不思議でふわふわした動物を手にしてみせる!!」

 …アズサちゃんにクリーンヒットした、というわけらしい。この子表情に乏しい仕事人みたいな印象でいたから、あんなに目を輝かせることあるんだってすごく意外…あるいは仮面が溶かされたと言うべきか…?

えへへ…えへへへへ……

 ヒフミちゃんも同士を見つけてご満悦…というか随分とだらしない顔になっていらっしゃる。一回落ち着こっか。

 このあと私の存在に遅れて気づいたことによるちょっとした騒ぎがあったりしたけど…まあ大したことじゃないからいいや。ちなみにウェーブキャットはかわいいと思うよ私は。

 

 

「ハリカさん、どう思いますか?」

「私もちゃん付けでいいよ、同い年だし…そうだなぁ…」

 …さて。今は出題側で別の教室に集まって、ヒフミちゃんがかき集めてきた過去問を整理中。ようやく実際に勉強を見る段階に入ったわけだけど…改めて、補習授業部の面々についてまとめておこうと思う。

 まず今隣にいるヒフミちゃん。一次試験は72点、本日行なった模擬試験は68点。合格ラインは60点なので、危なげない…とまで言えるかは微妙な気がするけど、とりあえず特に問題はない。だから今は私と先生の側にいるわけで。そもそも試験をサボタージュしちゃった件でここに放り込まれたっぽいからねこの子。

 次にアズサちゃん。聞いたところによると正義実現委員会に追われた末に弾薬倉庫を爆破したとか…マジですか……まあ今は措いておこう。一次試験は32点、模擬試験は33点。転校生らしく、同じ二年生だけど前の学校とは学習進度の差があって一年生用の試験をしているらしい。そんな差が出ることあるっけ?私普通の学校じゃなかったからわかんない…ともかく本人の学習意欲は高い*2ので、特に問題はないと思う。

 そして、唯一の一年生であるコハルちゃん。一次試験は11点、模擬試験は15点。元はハスミさんと同じ正義実現委員会の所属であるらしく、真っ黒な制服を着込んでいることからも"絶対に復帰する!"という気概が感じられる。けれども、エリートを自称するものの本人の学力は結構残念らしい。なるほど、(ツグミ)が言うところの「プライド空転型」というやつだろうか。まあ私たちが見たことある奴よりはずっと可愛らしいけど。

 最後にハナコちゃん。一次試験は…2点。そして模擬試験は4点。点数が倍になった!といえば聞こえはいいけど限りなく最悪に近いパターンです本当にありがとうございました…。何がおかしいって、勉強中は教える側だったのにこの点数ってことだ。ヒフミちゃんいわく、一年の頃の記録を見れば学年トップに躍り出るほどの秀才だったらしい。そこからこんな落ちるところまで落ちるのって逆に難しいと思うんですがそれは??…まあ、今後の課題だね。頑張ろう」

「そ…そう、ですね!」

「…あれもしかして声に出てた?どの辺から?」

「アズサちゃんの辺り、ですかね…」

「急に一次試験は32点、って言い出すから何かと思ったよ」

お恥ずかしい…」

 思わず顔を覆う。頭の中ではだいぶ砕けた感じなのが垂れ流しになってしまった…でもまあ、思うところは大体伝わったようなのでよしとするか。うん。

 ついでにちょっと懸念事項があるので、回答やマルバツからは目をそらしてざっと問題だけ見てみることにしたけど…まあ見たところ、世界線ギャップについてはあらかた問題ないかな。物理法則に関わる数値が同じなのは確認済み。でなきゃ魔法がうまく発動しないので。ちょっと不安なのは歴史系統か…

「…私大丈夫かなこれ…」

「えっと…そういえば、ハリカちゃんの成績ってどんな感じなんですか?」

「本当に大したことないよ?学年10位台止まりだし」

「…いや学年10位台はけっこう大したことでは!?」

 

 

 

【ハリカ⇒ヒフミ】

 

 

「じゃ、午後にはまた来るからね!」

 そう言ってハリカちゃんがいそいそと出ていったあと。…お昼をうっかり6人分用意してしまったり、途中でモモフレンズの文房具についてアズサちゃんと盛り上がってしまったりしつつ、私たちはまた勉強にいそしんでいました。ふと気がつけば、もう西側の窓から夕日が差してくるころ。

「コハル、質問」

「え、私に?私に!?

「そう、コハルに。今同じところを勉強しているはずだ。この問題なんだけど…」

「う、うん…あ、これ知ってる。これは確か、下のところと90°になるように線を引いて…そうすると、この三角形とこの三角形が一緒。わかった?」

「なるほど、そういうことか…助かった。これは確かに、正義実現委員会のエリートというのもうなずける」

「そ…そうよ!私はエリートだもの!も、もし何かまたわからなかったら私に聞いてもいいから!アズサはその、特別に!」

「ありがとう、助かる」

 …合宿が始まって以来初めて教える側になれて嬉しそうなコハルちゃんと、その様子に微笑みながら純粋に感謝を述べるアズサちゃん。不意に訪れたそんな瞬間に、私も先生も思わず頬が緩みました。

「あらあら。さすが裸の付き合いをしただけはあると言いますか、もう深いところまで入った仲なんですね…♡」

「なっ何言ってんの!?そういうアレじゃないから!!」

「うん?ハナコも体を洗ってほしいのか?」

 ハナコちゃんはやっぱりにこやかにコハルちゃんをからかっていますが…なんのことかわからなくて先生に聞いたら今朝、私が起きてくる前のことだそうです。

 …昨日の晩は、不安で眠れなくて先生のところに行って、

『ヒフミは、ヒフミにできることを頑張ってほしい』

 先生にそんなことを言ってもらえて。それでちょっと張り切って考えた結果、模試を作ることを思い付いて、しっかり夜更かししちゃって…今朝は寝坊してしまったんですよね…。

 

「…あ、コハル、もうひとつ聞きたい」

「ん?この問題は、えっと……」

「コハルも知らない問題か?」

「んん…たしか、参考書で見たような……ちょっと待ってね、確か持ってきてたはず…」

「…!?」

 よいしょ、とコハルちゃんがカバンの中から取り出した本の表紙には…なにやら頬を赤くして向かい合う二人。それも一糸まとわぬ姿で…えっ?えっ!?

「この参考書に載ってるのか?」

「うん、この参考…あれ?」

 きょとんとするアズサちゃんの横で、カバンの中を整えてからテーブルの上を見たコハルちゃんは、一瞬ぎしっと音をたてそうな感じで固まって…

()()()()()ですねぇ…」

「…うわああぁぁぁっ!?な、なんでぇ!!?

 …ハナコちゃんの指摘を聞いたとたん、顔を耳まで一気に赤くして、目にも止まらぬ早さで本をカバンに押し込みました。…み、見なかったことにしたほうがいいのかな、と思いましたが…ここにはそんなことを絶対に許さないひとが一人。

「コハルちゃん、それエッチな本ですよね?まあある意味参考書かもしれませんが。隠しても無駄です、R-18ってハッキリ書いてありましたよ?」

「ち、違う!見間違い!とにかく違う、絶対に違うから!!」

「私の目は誤魔化せませんよ、確実に()()なことをする本でしたそれも結構ハードな…トリニティでも、いえキヴォトスでもなかなか見ることができないレベルのものとお見受けしました!きっと肌と肌とがこすれ合い敏感な部分を擦り合わせ、嬌声が飛び交い理性が飛び去るような!

 あぅ…ハナコちゃんが目をキラキラさせて詰め寄ってます…!コハルちゃんは湯気が見えそうなほど真っ赤ですし止めた方がいいですよねこれ!?

「ハ、ハナコちゃ「どうしてそのような本を持っているのですか?確か校則でも禁止されていたような…」

「いや、その、こっこれはほんとに私のじゃなくて」

「でもそれ、コハルちゃんのカバンの中から出てきましたよね?それに合宿所まで持ってくるなんて…お気に入りなのですか?そうですか、あの真面目なコハルちゃんがエッチな本を…」

「~~~~~っ!!」

「…いえ、なるほどそうですね、考えてみたらそれほどおかしな話でもありませんね?()()()()もバッチリ…つまり、合宿のために必要なものなんですね。コハルちゃん?」

「こっ、これは違うんだってばああぁぁぁぁぁーっっ!!!」

 …結局、ハナコちゃんの勢いを止められないまま、教室から一目散に逃げ出したコハルちゃんの背中を見送ることになりました。

「コハル、いったいどうしたんだ…?」

「ハナコちゃん…」

「あら…やり過ぎてしまったかもしれませんね…本当にごめんなさい。話が合うかと思ったのですが…」

 

 

 

 

 

*1
何があったか知らないけどむしろドン引き

*2
しかもさっきモモフレンズでブーストがかかった





・ハリカ
トリニティ滞在する先生とシャーレとの繋ぎ状態になった
自己肯定感が追い付いてない優等生
なおたまの不在が今後に響いてくる模様…

・ヒフミ
》》溢れるモモフレンズ愛《《
語り手再来。やっぱり普通()の子な分やりやすさがある

・アズサ
沼にドボンした。特殊な訓練でも避けられなかった()
そうですこれがいわゆるギャップ萌えです
純真無垢。並み居る先生方も「そのままでいて♡」と仰っています。

・ハナコ
ペロロ様に対する認識が急にひどくて笑った
本領発揮()。問い詰めるシーンめちゃくちゃ目が輝いてるんだろうなぁ…と思った(実況での読み方の影響もあるかも)

・コハル
不憫枠。死因:エ駄死(※生きてます)
なお、えっちな本はいつもはちゃんと隠…じゃなくて、持ち歩いたりはしてないらしい。

・先生
Staying in trinity(別館)
でも先生としての仕事は普通にあるよね…と思った結果上記の状態に

・ムツキ・イズナ
相性悪くはないと思うけど朝イチで何かやらかしてる模様



コハルちゃんのえっちな本のくだりには触れようと思ってました…ただでさえ「なっ、なななっ何ですってぇーーっ!!?」とかすっ飛ばしちゃってるので……




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能ある鷹


さて、筆者はオリキャラの誘惑に対しあまりにも貧弱でした。以上です。
登場はまだだけどね



 

 

「えっと…コハルちゃん?その、正義実現委員会の活動中に差し押さえた品をうっかり入れたままにしてたとか、そういう感じなんですよね?」

 同じ階のほぼ反対側に位置する部屋で、すんすんとすすり泣くコハルちゃんを見つけました。なだめるつもりでそう聞いてみたら、コハルちゃんはこくこくとうなずいて、押収品の管理を任されていてうっかり入れっぱなしだった…という旨を話してくれました。

「であれば、押収品ってできるだけ早く返してしまったほうがいい気がするんですが、どうしましょう?」

「数が合わなくて騒ぎになる前に、返しに行ったほうがいいかもしれませんね…」

「今のうちにこっそり行って、バレないように正義実現委員会のところへ戻してくれば大丈夫じゃありませんか?」

「えっ、今?」

 …という流れで、コハルちゃんと先生が出ていったあと…

 

「先生出てったんだ?じゃあ入れ違いか…」

 5分ほど経って、ハリカちゃんが宣言通りにまた来てくれました。

 

「そういえば、と思って取ってきたものがあるんだけどさ」

 ハリカちゃんは体をよじって、背負っていた紫のナップサックを机に下ろしました。ドスン、と結構重たそうな音。そして手早く袋の口を緩めると、中から数冊のノートを取り出しました。

「これって…ハリカちゃんの?」

「そうそう、私もヒフミちゃんハナコちゃんと同い年な訳だし、役に立つかなって」

「…これはまた、ずいぶんと工夫が凝らされていますね」

 ハナコちゃんはさっそくノートを開いて見ていて、私も一冊手にとってパラパラとめくってみました。教科は物理。…ハリカちゃんのノートには色分け下線を引くといったよくある工夫だけでなく、簡単な図やイラストまで散りばめられていて。

「あっこれ、すごく分かりやすいです…!」

「論理的といいますか、理屈さえわかれば…っていうところがしっかり図解されてるのが良いですね」

「そう言われると嬉しいな。私も前は大概教える側になってたからね、こういうとき図解は正義だよ」

 

 …ただ一人、アズサちゃんだけは難しい顔をしていましたが。

「すごい…のは、わかるけど、内容がわからない…」

「あぁそっか…内容はだいたい二年生のだから…」

「あら、これとかアズサちゃんたちのお勉強にも良さそうですよ?」

「これは…まさか、年表を丸写ししたのか?」

「わわっ!?こ、こんなの見たことないです…成績がよかったとは聞いてましたけど、ここまで…?」

「あーまあ、ちょっと気合いが入っちゃったというか…だけどこれはこれで、試験の範囲と照らし合わせるのがちょっと大変だね…」

「そうですねぇ…これ、三年の範囲まで入っちゃってますし」

「えっ!?」

「え、気づかなかった」

「気づっ…!?」

 

 その後しばらくして戻ってきた先生とコハルちゃんも加わって、夕食の時間まで勉強会が続きました。…戻ってきたとき、先生がなんとも言えない表情を浮かべていたのが、少し気になりますけど…。

 

 

 

【ヒフミ⇒ハリカ】

 

 先生不在二日目に突入したシャーレ。昨日はそこそこ忙しかったけど、今日は割と平和だった。現場に出向かなきゃいけないのが二回あったけど、なにぶんこちらは戦闘力の高い三人(スズミちゃん・アスナさん・チサキちゃん)支援能力の高い二人(フユコちゃん・ハレちゃん)なので呆気ないものだった。そして、用事もあらかた片付いた頃。

 …少し思うところあって、私はもう一度トリニティ別館に戻ってきた。まあ他にもっと明白な目的はあるけど。

 

 玄関を開けて入るも反応がない…いや、そういえば夜間だからか妙に()(しつけ)な視線に晒されるのが気になって、久方ぶりの『拡散』を発動したんだった。声がする部屋を探して、そこかな、と当たりをつけたとき。

バカバカバカバカ考えちゃダメ想像しちゃダメそういうのはダメ!!アズサを変な風に染めるな!トリニティの変態はあんた一人で充分だから!!

 コハルちゃんの悲鳴に近い絶叫に熱烈なお出迎えを受けて、

「そういえばコハルちゃんも全裸で泳ぎたい派ですよね?」

 ハナコちゃんの爆弾発言にフリーズした。

 

脈絡全無視!?無敵なの!?そ、そんなこと言ってないから!!プールでは普通に水着、それが正義なの!あんただって昨日はちゃんと着てたじゃん!!」

 あっ違うのね?タチの悪い冗談なのね?…昨日、というのは私が去ったあとのプール掃除のことだろう。先生からざっくりとは聞いた。

「あら…よく思い出してみてくださいコハルちゃん?昨日、私がプールで着ていたものを……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 …!?

 

「ッ!!?…み、水着じゃなかったら何なのよ…?」

「最近の水着はデザインがずいぶん充実していますし、一目で水着かどうか見分けるのは難しいと思いませんか?それに、ボディペイントという線も…♡」

「ッッ!!?…え、うそ?…って、いうことは…」

「あら、どうしたんですかコハルちゃん?あれが水着じゃなかったとして、何かが変わってしまうんでしょうか?」

「っえ、だ、だって」

「例えば、水着と下着の違い…それはなんでしょう?防水機能?お肌の保護?デザイン?露出の範囲?コハルちゃんは見た目でわからなかったですよね?あの場、あのときは"水着"だと信じられていましたよね?…もしあれが下着だったとして、その真実かもしれない何かは、どうすれば証明できるのでしょう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう思いませんか?」

 

 …あれ、軽くフリーズしてるうちになんか難しい話になってる?どうしたのハナコちゃん…

「な、何言ってるのかわかんない!結局どういうこと!?」

「あの水着可愛かったですよね、というお話です♡」

「はぁ!?全部冗談…っ!?」

 わたしはくずれおちました*1。くずれおちた拍子に床と膝とで結構な音が鳴って、それでようやく私は存在に気づかれたわけで。

 

「は、ハリカちゃん!?いつから!?」

「いやまだついさっきだけど…入りづらいってこの雰囲気…」

 室内にはツヤツヤで上機嫌そうなハナコちゃんと、赤面しつつもげっそりしてるコハルちゃん。この構図よく見るな。そして苦笑してる先生と目を白黒させてるヒフミちゃん…

「なるほど…五つ目の()()か」

 …そんな中で、至って通常運転な一人(アズサちゃん)がぽつりとそう呟いた。

「五つ目?」

「えっと、アズサちゃん?なんのお話ですか?」

「ただの聞いた話だけど、キヴォトスに古くから伝わる"七つの古則"。確か、そのうちの五つ目だったはず。…『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』…そんな感じだった気がする。残りは知らないけれど…」

「えっと…いわゆる、"楽園証明のパラドックス"ってやつ?楽園からわざわざ出てくる人はいないはずだから、外からは本当に楽園なのかどうか知ることができない…っていう。脈絡がよくわからないけど」

「ああ。つまり、誰も証明できない楽園は存在しうるのか…そんな禅問答みたいなものだったと記憶している」

 確認したらそうらしい。脈絡がよくわからないけど*2。もっとも、外の世界との繋がりに固執する変わり者がいれば話は変わってくるだろうけど…という感じで題材にした短編を『私』は読んだことがあって、印象に残っていたのだ。

 …ところで、ハナコちゃんはどうして急にそんな本気(ガチ)の顔をしてるのかな。私初めて見た気がするんだけど…?

 

「アズサちゃん、どうしてそれを…?その話を知ってるのは……もしかして、セイアちゃんに会ったことがあるんですか?」

「…」

「セイア?」

「それって、ティーパーティーのセイア様のことですか?」

 …なんて思っていたら、ハナコちゃんの口から知らない名前が飛び出した。ティーパーティー…この学校(トリニティ)の生徒会の一員らしい。そういえばティーパーティーの皆様にはまだ会ったことがないな…先生はちょっと驚いたような顔をしてるから知ってるのか。

 それでハナコちゃんが驚いてるのは…人前には滅多に現れないとかかな。なんかありそうだよねそういうの。九島老師みたいな。

 そんな中、静かに目を閉じたままのアズサちゃんは…

「…わからない。この話はただ、どこかで聞いた記憶があるだけで」

「…そうですか。そういえば、アズサちゃんは転校生でしたね。…"vanitas vanitatum"、ということは…」

「…?」

「…いえ、なんでもありません。もう遅い時間ですし、そろそろ寝た方が良さそうですね」

 では、今日も一日お疲れさまでした。すっかりいつもの笑顔に戻ったハナコちゃんの言葉でその場はお開きになった。…なんか、何かをはぐらかすように切り上げられた気がする。というか何?たかだか補修でこんなシリアスな空気感になることある?私の気のせいかな…?

 

 

 

「ハリカちゃん、大丈夫ですか?シャーレに戻るんじゃ…」

「いや、ちょっと思うところあってわざと夜に来たから。今日は空き部屋借りて泊まって、朝イチで戻る」

「思うところ…って?」

「なんとなくだけど、一緒なんじゃない?ハナコちゃんのことでしょ?」

「っ!」

 …さて。みんなは寝静まった(と思う)けど、私たちはまだ眠れない。場所は移って先生が泊まってる部屋。先生、ヒフミちゃん、私の三人による深夜の密会だ。

 …思うところあるとはいえ、同じ学校に所属するヒフミちゃんの方が情報は多いだろうから私は本当に顔を出してるだけになるだろうけど。

 

「…模範解答を集めているとき、なぜか束になって保管されていたんです。珍しいことだから保管されていたのか、理由はわかりませんが…昨年の試験、一年生から三年生までの全ての試験における回答用紙がまとまっていました。どういうわけか、その全てを回答していた方がいたようでして…」

「…それが」

「はい、ハナコちゃんでした。…昨日見た一年生の時の成績に続けてまた盗み見る形になってしまったんですが…ハナコちゃんは去年の一年生の段階で、三年生の秀才クラスでも難しいとされる課程も含めて、()()()()()()()()を出しています…本当に、完膚なきまでに秀才といえるレベルです」

「…」

 開いた口が塞がらない、というのはまさにこのことだ。いやもうホント額面通りに。一年の時点で三年の試験まで満点だなんて、あまりにも格が違う。それこそこっち(魔法科)の某兄妹だってそこまでは…なかっ、た…よね?うん、そこまでいくかは怪しいと思う。

「一年生の分の試験結果を見て、ハナコちゃんはきっと今年になって急に成績が落ちてしまったんだと思っていました…でも、この結果を見る限り…」

「去年の段階で、もう全部解けてしまうはず…」

「…つまりハナコちゃんは、()()()()()()()()()()、か…」

 ハナコちゃんにずっと覚えていた違和感は、突き詰めればそういうことになる。私もこの事について相談するためにここまで来たわけで。

「ハリカも同じ意見だったんだね」

「だってずっと教える側にばっかりいて点数は一桁のまんまとか、いくらなんでも無理があるでしょうよ…人に教えることによる学習効果は馬鹿にできないっていうのに。それでいて家庭教師役で呼ばれたはずの私が豆知識を追加される始末だし。で、決定打はあれです。歴史のノート」

「あぁ…三年の範囲」

「私も気づかなかったのに、なんでわかっちゃうんだろうって思ったけど…そんな桁違いの秀才だったって言われたら納得しかないね」

「ハナコちゃん、どうして…」

「…まあ、私も提示できる解決策とかまでは用意できてないんですけど…本人に聞いてみるのが一番早いでしょうね。明日にでも」

 たぶん心因的な何かではあるんじゃないかな…天才の思うことはというか、結局は他人のことだからわかりようもないけど。…ただ、二人は妙に深刻な表情をしているような気がした。

 

 

 

 

 

 

*1
デジャヴ

*2
大事なことなので二回





・ハリカ
ちょっとかわいそうになってくるくらいのミリしら。またしても何も知らないハリカちゃん(16)
やっと呼ばれた当初の目的らしくなってきた
試験範囲との照合は自分でやるつもり

・ヒフミ
多難な部長
ハリカのノートにびっくり、ハナコの事実にもやもや

・アズサ
わけあって範囲が違う転校生
ハナコの本領発揮()の中でも平常運転

・ハナコ
実は格の違う秀才
本領発揮()延長戦、からの意味深ムーブ発動。ある意味こっちも本領発揮…なのか…?

・コハル
現状いじられ役
えっちな本を返しに行った先でハスミと出くわし…何か、内輪の話をする

・先生
生徒のために動いてる大人
今回は比較的影薄めかも
断片的にしか聞こえなかったけど、コハルとハスミは何の話してたんだろう…



・既に何度か描写してて超今更ですが本作のシャーレは複数人当番スタイルを採用しています。現状は実質来れたら来るに近い状態ですが。
・しばらく勘違いしてたけど"古則"って"古人が残した法則"であって規則みたいな意味ではないのね…あと一発で変換しようとすると「姑息」しか出ないのが難儀。
・ちなみに「楽園のパラドックス」では全然別件が出てくるから気を付けようね
・それはそうと"良い感じに誤魔化す。"で笑っちゃったな…


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天使が来りて


………(情報の海に溺れる音)



 

【ハリカ⇒ 】

 

「わぁ!水が入ってる~!」

 補習授業部の合宿、三日目の朝。僕より少し早く起きていたらしいハリカがシャーレに戻っていくのを見送ったあと。僕はある生徒からの呼び出しに応じて、ここトリニティ別館のプールに来ていた。

「フフ、水が張ってあるのなんて久しぶりに見たなぁ。もしかしてこれから泳ぐの?それともみんなでプールパーティー?」

「…ミカ、用件を聞いてもいいかな。」

 呼び出しの主は、透明な水で満たされたプールを見て無邪気にはしゃいでいた。()(その)ミカ。トリニティ生徒会『ティーパーティー』の一員にして、パテル分派のトップ。こうして顔を合わせるのは、はじめに補習授業部に関する依頼を受けたとき以来になるけど…

「えへへ…先生はうまくやってるかな~って思って」

 ミカは、権威ある立場を思わせない、屈託のない笑顔を見せた。

 

「ナギちゃんもずいぶん入れ込んでるみたいだね~。こんな施設まで貸し出しちゃって。それで、合宿の方はどう?遠いのをいいことになんか面白いことしたりしてない?みんな水着でプールパーティーとか!」

「…」

「…そこまで警戒されちゃうのは心外だなぁ。私こう見えても繊細で傷つきやすいんだよ?…ところでここ、食事とか大丈夫?もしよければなんか送ろうか?ケーキとか紅茶とか」

「…」

「…ふふ、ごめんね?先生もあんまり長い前置きは好みじゃないかな。じゃ、本題に入ろっか」

 …少し申し訳ないけれど、補習授業部の顧問を拝命している以上、早く彼女たちのもとに戻ってあげたい気持ちがあったから。ハリカを引き留めて頼んでもよかったかな、と思うけど、ハリカにはシャーレを任せてしまっているから仕方がない。

 

「…あ、ちなみにここにいること、ナギちゃんは知らないよ?見ての通り、付き添いもナシの単独行動」

「…じゃあ、ミカも早く戻ってあげた方がいいかもね」

「ふふっ、そうだね。それで、改めて本題だけど…先生、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?」

「取引?」

「例えば…そうだなぁ、『()()()()()()()()()()()()()()()()()』、とか?」

「…」

「…やっぱり。もう、ナギちゃんったら予想通りなんだから。」

 口をつぐんだ僕をよそに、ミカは探るような表情からあきれ顔になった。沈黙は肯定、と受け取られたらしい。まあ図星だったからその通りだけれど。

 

「何か詳しい情報とかは?そういうの一切なしで、ただ探してって言われた感じ?理由とか、目的とかは?どうして補習授業部がこういうメンバーで構成されてるのかとか、ナギちゃんは教えてくれなかった?」

 一歩また一歩と近寄りながら、ミカはそう問うてきた。距離感が近い…確かに、補習授業部の名簿は渡されたけど、そういう踏み込んだところは何も聞いていない。…でも。

「そっかぁ。もう、先生に何も教えずにこんな重荷を背負わせるなんて…」

「…その提案は、断ったよ」

「え、そうなの?どうして?」

「それは自分の役目とは違うかな、と思って」

「そっかぁ、確かに先生は『S.C.H.A.L.E.(シャーレ)』の所属で、トリニティとは無関係の第三者で…なるほどね。まあ、私たちにとってはずっと"トリニティ"そのものが世界の中心みたいなものだからアレだけど…面白い答えだね、新鮮かも。…それはそれで、正しいよね…

 

 ミカは少しうつむいたように見えたけど、すぐにまた僕と視線を合わせてきた。

「それじゃあ、先生は誰の味方?…もしトリニティの味方じゃないんだとしたら、ゲヘナの味方?連邦生徒会の味方?…ハリカちゃんの味方?」

「…!?」

「先生とおんなじ、()()()なんでしょ?ヘイローのない頃の写真があった。どうしてゲヘナなんかに、って思ったけど」

 唐突に飛び出した名前に、思わず息を呑んだ。…ミカは、自力でその真実にたどり着いたらしい。訳アリだろうから一応情報は止めてるけど、という一言に内心安堵しつつ、でもどこか(かげ)りのある表情のミカに向き直る。

 

「それとも先生は、誰の味方でもない…とか?」

「私は、生徒たちの味方だよ」

 …この答えに、迷いなんてない。先生として、生徒を導く大人として当然のことだから。

「そっ、かぁ…()()()()()()()…それはちょっと、予想外だったな…」

 対するミカは…なんだか目が泳いでいて、激しく動揺しているようだった。けれどもじもじと人差し指を合わせて、恐る恐るというふうに上目使いで、それでも言葉を続けてきた。

「…あ、あのさ。っていうことは…その……先生は一応、私の味方でもある、って考えてもいい、のかな?私もこの立場とはいえ、生徒に代わりはないんだけど…

「もちろん。ミカの味方でもあるよ」

「…わーお。さらっとすごいこと言ってのけるね先生…大人だねぇ。そういう話術?って思っちゃう気持ちもあるけど、…うん、ちょっと純粋に嬉しいかも。えへへ……でも、それを額面通りに受けとるのは、難しいかな」

「そうかい?」

「うん…だってそれは同時に、誰の味方でもないって解釈もできるよね?だからそのまま受け取るんじゃなくて、私からも先生に取引を提案させてもらおうかな」

「取引?」

「…ナギちゃんの言う『裏切り者』が誰か、教えてあげる」

「…っ」

「ナギちゃんが必死に探して退学させようとしてるその相手。実際のところ、もうちょっと複雑で大きい問題もあるんだけど…今このまま、先生がナギちゃんに振り回されてるのをただ見てるだけっていうのも申し訳ないな~って。そもそも、先生を補習授業部の担任として招待したのは私だから」

「ミカが…?」

「うん、ナギちゃんにはずっと反対されてたけどね…せっかくの借りをこんな風に返すのはどうとかこうとかで」

 

 色々あったんだね?とミカはいたずらっぽく笑う。…ナギサの言う"借り"というのはきっと、アビドスに牽引式榴弾砲を引っ張ってきたあの件だろう。

「…まあ、私も色々あって、トリニティでもゲヘナでもない第三の立場が欲しかったの。…それより、『裏切り者』の話だったよね」

 …そうして、補習授業部にいるという『トリニティの裏切り者』。その名前が、居ずまいを正してキリッとした顔になったミカの口から告げられた。

 

「…()()()()()、だよ」

 

 

 

「…アズサが…?」

「うん、知ってるかもしれないけどあの子、最初からトリニティにいた訳じゃないんだ。ずいぶん前にトリニティから分かれた、いわゆる分派…『アリウス分校』出身の生徒なの。…まあ、生徒って呼べるかどうかはわからないけど」

「わからない、って?」

「何かを学ぶ、ってことが無い子のことを生徒って呼べるのかな~って」

「…この事を、私に教えてくれた理由は何だい」

 『アリウス分校』。「学ぶことがない」。…気になることは多いけれど、今目の前にいるミカの目的が先決だろう。

「…ふふ、いい眼だね。期待しちゃうな…あれこれ誤魔化しても仕方なさそうだし、端的に言うね。…先生には、あの子を守ってほしいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミカを見送って、補習授業部のみんなのところへ戻る。

 あのあと、ミカは自分達が抱える事情についていろいろと話してくれた。はじめに語ったのは、アズサの古巣である『アリウス分校』について。

 そもそも「トリニティ総合学園」はパテル・フィリウス・サンクトゥスの三つを中心に、たくさんの分派が集まってできた学校である。けれどもそれらの分派は元々敵対関係にあり、紛争が絶えなかった。

 そこで、"もう争いはやめて仲良くしよう"という歩み寄りのために『第一回公会議』が開かれた。「トリニティ総合学園」箱の結果として生まれた学校だが…「第一回公会議」は平和裏に終わったわけではなく、最後の最後まで反対し続けた分派があった。それが『アリウス』。

 強大な連合になった「トリニティ総合学園」は、アリウスを徹底的に弾圧し始め*1…アリウスはトリニティ自治区を追放され、姿を消した。完全に滅んだわけではないようだが、どこにいるのかは連邦生徒会すら知らないのでは、とのこと。

 

『…それで、アズサがそこの出身』

『うん。…それで、ナギちゃんが今進めてる『エデン条約』。言ってみればあれは、さっき話してた「第一回公会議」の再現なの。大きな二つの学園が、これから仲良くしようって約束』

 エデン条約、というものについては当然僕も聞いている。先生として、連邦生徒会の一組織の顧問として…いや、そもそも当事者はどちらもキヴォトス屈指のマンモス校なのだ。むしろ知らない方が無理があるのではとも思える*2

 けれど、話しながらミカは眉をひそめた。

『…なんだか、いい話に聞こえるよね?でも、本当のところはどうだろ?だってその核心は、ゲヘナとトリニティの武力を合わせた『ETO』…『エデン条約機構』っていう、()()()()()()()()()()()()()()()()なのに』

 …そうだ。ナギサから聞いた。『エデン条約』は、その機構をもって両者間で起こった紛争を仲裁するもの。しかし…ゲヘナとトリニティの戦力を集めた、ひとつの大きな武力集団。そんな圧倒的な力を持つ集団が生まれる。それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ミカは、その力が外に向いたら、ということを考えていた。

 サンクトゥムタワーを襲撃して、連邦生徒会長の座に就く?

 ミレニアムっていう新しい芽を摘む?

 並べられた推論を否定できる根拠は確かにない。…ないけれど。

 

『もちろん、細かい目的はわからないけど…これだけは確実に言える。そんな強大な力を手に入れたらきっと、自分の気に入らないものを排除しに行く。昔、トリニティがアリウスにしたみたいにね。…あるいはもしかしたら、セイアちゃんみたいに…』

 そこで不意に、ミカの口からティーパーティーの別の生徒の名前が出てきた。夢の中で会った、小柄な狐耳の生徒。今は入院中であるという生徒…気になった私は、思わず詳しく聞こうとした。

『………先生、本当に知りたい?これ以上話したら、私は戻れない。この先の真実を知った先生が、私のことを裏切ったら…私は、もう終わり』

『裏切る、だなんて…』

『…ううん、でも大丈夫だね。先生はさっき私の味方だって言ってくれたもん。それにもしこれで裏切られたって、…何て言うのかな、それはそれで悪くない気がする』

『…』

『…セイアちゃんは、入院中なんかじゃない……()()()()()()()()()()

 

『冗談なんかじゃない、本当のこと。去年、セイアちゃんは何者かに襲撃された。対外的には入院中ってなってるけど、そっちの方が真実。私たちティーパーティーを除けば、このことはトリニティの誰も知らない。もしかしたら『シスターフッド』には知られてるかもしれないけど。あそこの情報網は半端じゃないからね…とにかく、それくらい機密事項なの』

『……犯人は、まだ』

『…うん、わかってない。捜査中というか、何もわかってないというか…もともとセイアちゃんは秘密の多い子だったってのもあってね。まあ、そういうわけなんだ』

 

 

「あ、先生!どこ行ってたんですか?」

「あぁ、シャーレのほうの用事が色々とあって、ね…」

 はち合わせしたヒフミにはとっさに誤魔化しつつ、僕はまたミカとの会話を思い返す。思い返して、考える。

『それで話は戻るんだけど、白洲アズサ…あの子をここに転校させたのは私なの』

『ミカが?』

『うん。ナギちゃんには内緒でね。生徒名簿とかそういう書類も全部捏造して、入学させちゃった』

『…それはまた、どうして?』

『そう思うよね…アリウス分校は今もまだ、私たちのことを憎んでる。私たちはこうやって豊かな環境を謳歌してるのに、自分達は劣悪な環境で、「学ぶ」とは何かもわからないままでいる。私たちが差し伸べる手も、連邦生徒会からの援助も拒絶し続けてる。過去の憎しみのせいで。…私は、アリウスと和解ができたらなって思った。でもその憎しみは簡単には拭い去れないほど大きくて、積み上がった誤解と疑念もあまりにも多い。私じゃ手に負えないくらい』

 …だからミカは、アリウスから一人…中でも優秀な生徒だったというアズサを転校させてきた。和解のための第一歩として。アリウスの生徒でも、トリニティで暮らしていける…そんな、和解の()()として。

『エデン条約が締結されたら…その時はもう今度こそ本当に、アリウスとの和解は絶対に不可能なものになっちゃう。だからどうにかその前に実現させたかった。…でもそんな中で、ナギちゃんが「裏切り者がいる」って言い出して…』

 

 ヒフミと戻った教室にはすでに全員が揃っていて、各々が机に向かっていた。

『…ナギちゃんが、どうしてそんなこと考え始めたのかはわからない。私がうっかり何かやらかしちゃったのかもしれない。とにかくナギちゃんは条約を邪魔させまいとして、「補習授業部」を作ったの。あそこにいるのは、ナギちゃんが疑った子』

 

「あら…おはようございます、先生♪︎」

『ハナコちゃんはすごい変わったところもあるけど、本当に、本当に優秀な生徒。もちろん成績って意味でも。なんなら生徒会長、つまりティーパーティーの候補として名前が挙がってたくらい。『シスターフッド』もあの子を引き入れようと頑張ってたって聞いたな。うまく行かなかったみたいだけど……でも、あんなに優秀で将来を見込まれてたのに、あの子は急に変わっちゃった。落第寸前になるくらいまで。…それで探りを入れたくなる気持ちはわかる。あの子は既にトリニティの上層部とかいろんな所と交流があって、たくさんの秘密を知っちゃってるから…ナギちゃんにとっては、気にせざるを得ないだろうね』

 

「ヒフミちゃん、アズサちゃんが呼んでましたよ」

「わ…私、どっちかといえばヒフミのほうが」

「何か言いましたか?」

「な、何って」

「大丈夫ですよコハルちゃん。私が手取り足取り、心ゆくまで教え込んであげますから♡」

「なッ!?あっ朝っぱらから何言ってるのよこのヘンタイ!!」

『コハルちゃんは…ドロドロした政治とかとはなんにも関係ない、純粋でいい子なんだけど…そういう意味ではあの子は「疑われたから」じゃないかな。直接的な原因は本人じゃなくて、ハスミちゃんたちだね。巨大な武力を持った存在…それもハスミちゃんみたいに、ゲヘナに強い憎しみを持ってる生徒がいる存在が、自分の統制下にないっていう不安。ナギちゃんはそれに、何かしらの備えが欲しかったんだと思う。正義実現委員会だったら誰でもよかったんじゃないかな…ただとりあえず成績が悪かったから、あの子が選ばれた。つまりあの子は人質。退学の件は、たぶんハスミちゃんも知ってたはず』

 

「あはは…えっと、アズサちゃん?」

「この問題なんだが…」

「えっと…あ、ちょっと形を変えたら公式に当てはめられるみたいです。ここをこっちに…」

「…おお、なるほど。ありがとうヒフミ、助かった」

「いえいえ…私も、ちょっとこの辺は見直しておきたいですね…」

『ヒフミちゃん、優しくてかわいくて、いい子だよね。ナギちゃんもすっごく気に入ってる。でも…それでも、ナギちゃんの疑いの目が向いちゃったの。こっそり学園の外に出て、怪しいところに行ってたみたい。トリニティの生徒は出入り禁止になってるブラックマーケットとか、あちこちにね。…それに、どこかの犯罪集団と関わりがあるって情報も流れてきた。あんなに善良そうで、純粋な子に見えるのに…ナギちゃんだってヒフミちゃんがかわいいのに、それでも疑いの目が向いた。まあそれもナギちゃんらしいっちゃらしいけどさ』

 

「…先生、入らないのか?何かあったのか?」

『…"裏切り者"が何を指すのかを多少はっきりさせたら、ちゃんと答えは出せるの。ナギちゃんはきっと、「トリニティを騙そうとしているスパイがいる」って考えてる。そういう意味ではナギちゃんの言う"裏切り者"は、身分を偽って入り込んでるあの子…白洲アズサ、ってこと。あの子はさっき話した通り、トリニティと敵対してるアリウス出身の子だから…あの子は何も知らないまま、こんな複雑で政治的な争いの真っ只中にたつことになっちゃって…でも、こんな形であの子を退学なんてことにはさせたくない。だから守ってほしいの。それは今、先生にしかできないことだから』

 

「…いや、なんでもないよ」

 ふいに視線がかち合ったアズサに、僕はそれだけ返しておいた。僕が彼女たちに心配をかけさせるのはいただけない*3

 …それでも、外は繕っても中は。思考はまだ止められない。

 まだわからないことは多い。あくまでミカは多くの可能性を話したに過ぎない、と言えるだろう。

 "『裏切り者』は、エデン条約に賛成の立場でない私(ミカ)でもある"。

 "『裏切り者』は、トリニティを変質させつつあるナギサとも言える"。

 少なくとも確かなのは、ナギサとミカは意見が違って、互いに隠し事をし合っていて、あまつさえナギサは疑心暗鬼にとらわれている…ということか。

 

『まあ、全部全部私からの一方的なお話でしかないよ。だから、最終的には先生が決めて。白洲アズサを守るのか、裏切り者を見つけるのか…ナギちゃんを信じるのか、それとも私を信じるのか』

 寂しげに笑うミカのその言葉に、僕は………いや。悩むことなんてない。必要もないだろう。

 生徒を信じる。ただそれが、僕の勤めなのだから。

 

 

 

 

 

*1
おそらく強大な力を試すための体のいいターゲットになったんじゃないか…という

*2
実は身近にいる、ということを彼はまだ知らない

*3
なお、多忙な身の上における不摂生に関する件は棚に上げておくものとする





・先生
生徒のために動き続ける大人

・ミカ
何気にまともには初登場のティーパーティー
ハリカちゃんについては、まあティーパーティーくらいなら押さえてるだろうなってことで。ただでさえヘイローもどきはEp.2入ってからだし

・補習授業部
何かあったのかな?とは思いつつだいたいは流してる。だいたいは

・ナギサ
生徒会長 in 明確な疑心暗鬼

・セイア
夢中(物理)な謎多き人物だが…

・ハリカ
ほとんど無登場回になってしまった
※ここにいます。いまだ何も知らない稲梓さん(16)
一方その頃…の話が次回なのでヨロ



…濃厚な情報の濁流回で地の文にかなり苦労しました。腹九分目。




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和装と修道服


誤字報告ありがたいね…



 

【 ⇒ハリカ】

 

 …さて、先生不在三日目のシャーレに朝帰りを決めたわけだけども。そんな私にはまったく予想だにしなかった用事が待ち受けていた。

 何かというと、目の前にいる初対面の二人が答え。

 

「いやほんとこのタイミングで新メンバー受け入れとか正気じゃないでしょ先生…」

「大丈夫です?」

「あぁうん大丈夫、気にしないでいただいて」

 そう、シャーレ部員増員であった。いやまあ先生の名誉のため?に言っておくと、本日シャーレで顔合わせ、という予定が先生不在になる前に決まっていたわけなんだけど。それで代わりに私が対応することになった。

 …なんだか、暗黙のうちに私がシャーレのナンバー2にされている気がする。シャーレ当番としてはユウカちゃんたちの方が先輩なんだけど、シャーレに常駐して「特別部員」の肩書きをもらっているのが大きいようだ。私としてはせめてユウカちゃんたちと対等くらいがいいんだけど。それはさておき。

 

「そうですか。それでは…おそらくもうご存じでしょうけど、百鬼夜行2年の(つじ)イコイなのです。主に後方支援を担当する予定です。先生ご本人にお会いできないのは予想外でしたがまあ、今日からよろしくなのです。むふふ」

 そう言って、目の前の小柄な少女は人懐っこい微笑みを浮かべた。三つ編みおさげにしたダークブロンドに、いまいちなんの動物か判然としない三角のケモミミが揺れている。既にシャーレに所属している百鬼夜行の後輩…まあ言うまでもなく現状一人しかいない、今まさに隣で目を輝かせているイズナちゃんの推薦により来た子だ。しかし浴衣にしか見えないんだけどそれ制服?

 じゃあ忍術研究部なのかと思って尋ねたところ、「これといって籍を置いてる部活はないのです」らしい…なんかただの無所属じゃないような言い回しが気になるけどまあいいか。

「それで…ちょっと、起きるのです、今二つ名発揮するタイミングじゃないのですよ」

んぇ…あぁごめん、寝ちゃってた…春日(かすが)ツバキ。百鬼夜行の……おんなじ…」

「そうですけど同じ2年生ですけど。せめて今は頑張って起きるのです」

「えぇ…」

 で、私と同じくらいの背丈のほうが春日ツバキちゃん…割と本気で先輩かなと思った。なんか2年生多くない?先生の配慮だったりする?

 それはさておき、私の口からあきれ声が出たのはツバキちゃんが立ったまま寝てた、なおかつ二度寝しようとしてるから。修行部という部活の部長らしいのだが、いつでもどこでも寝られちゃう「眠り姫」として有名なのだそう。えぇ…(二回目)

 そして何とは言わないけど『寝る子は育つ(直球)』ですかそうですか…閑話休題。

 

「えっと…まあよろしくね、二人とも。じゃあこれからシャーレの案内をしなきゃいけないんだけど、あいにく私はちょっと忙しいから、当番のみんなに頼むね。すでに一人いないけど」

「はい!」

「了解。チサキはしょうがない」

「ええ。けど、誰か一人はオフィスに残った方がいいわよね?」

「じゃあ、私が残る。任せた」

 不誠実と思われるかもしれないけど、とりあえず最低限挨拶は済ませたのでさっさとシャーレと先生の繋ぎ業務に移ることにしよう。本日の当番…ユウカ、イズナちゃん、カヨコさんの間で話が進んでいくのを横目に、私は必要書類をファイルにまとめてナップサックに突っ込んで、オフィスをあとにした。

 

 

「ところで貴方、その感じで後方支援なのちょっと意外ね」

「どの感じか知りませんが…まあ、カワイイお顔を傷物にしたくはないので」

「かわ…っ」

「むふ、冗談ですよじょーだん。単に戦場真っただ中は性に合わないだけなのです。だからグレネード主体ですしドローンも飛ばしますよ」

「イコイ殿はとっても頼もしいサポーターですよ!」

「そうはっきり言われると照れちゃうのです。というより、ツバキちゃんがガンガン前線に出ていくタイプ、っていうほうが意外なのでは?本人寝てますけど」

「え、またですか?」

「ちょっと待って歩きながら寝てる!?」

「ええ、正直ワケわかんないですよねこの人」

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、朝帰りからのとんぼ返り。すなわち三日連続の石畳を踏んでトリニティの別館に向かってたら。

「…えっ?今の…っ!?ちょっ、何事!?」

 目的地の方向から爆発音、それも立て続けに二回。それを聞いて、思わず私はブレスレット()ほう(CAD)から自己加速術式を引っ張り出した。…他所かもしれないとはもちろん思ったけど、トリニティは比較的治安のいい場所なので。

 そうしてたどり着いてみれば…

 

「だ、大丈夫ですか?怪我とかは…?」

「…きょ、今日も平和と、安寧が…けほっ、けほっ…あなたと共に…けほっ、ありますよう、に…」

「まずご自分の安寧を心配してください!?」

「…何事??」

 (すす)けた玄関にて、黒いヴェールを被ったケモミミらしき少女と即興漫才を繰り広げるヒフミちゃんがいた。

 

 

「びっくりしました…入った直後に、何かが作動して…」

「アズサちゃん…」

「…ごめん、てっきり襲撃かと」

「え、ええっと…?」

 かわいそうな目に遭ったケモミミ黒ヴェール少女、『シスターフッド』の一年生で()(おち)マリーちゃんというらしい。そうかこれ修道服か。

 …そういえば、アズサちゃんが防犯を目的にトラップを仕掛けているんだった。私は説明を受けて引っ掛からないように出入りしていたけど、初見の客人であるマリーちゃんはそんなこと知るよしもないから…ね。

 

「と…ところで、どうしてシスターフッドの方がこんなところに?」

「あ、それはその…こちらに補習授業部の方々がいらっしゃると聞きまして。ただ、ハナコさんがここにいらっしゃるとは存じておりませんでしたが」

「私も、成績が良くありませんので」

「そう…ですか、はい…」

「ハナコ、知り合いなの?」

「まあ…少しだけご縁があって、といいますか」

 はにかむハナコちゃん。なにげに「ふふっ♡」以外の笑い方を初めて見る気がする。というかやっぱりハナコちゃん、隠し立てしてるけどワケアリ感が拭い去れないな…マリーちゃんの反応からして"少しだけご縁が"程度じゃなさそうなんだけど。

 

「マリーちゃんは私を訪ねて、というわけでは無さそうですね。補習授業部にどんなご用事で?」

「はい、本日は補習授業部の白洲アズサさんを訪ねてこちらに参りました。伺ったところここにいらっしゃると聞きまして」

「私?」

「はい。実は、先日アズサさんに助けていただいた生徒の方が感謝をお伝えしたいとのことでして。諸事情ありまして、こうして代わりに」

 諸事情とは?と思ったけど、マリーちゃんの話によると、その……陰湿ないじめの現場を、たまたま通りかかったアズサちゃんが助けた、のだとか。えっ待ってハナコちゃん()()()()()()で済ませていいの?

 こう…そういう話くらいは聞いたことあるけど、私には縁がなかったからな…そう考えるとだいぶ平穏な暮らし送ってたんだな私…

「そういえば、そんなこともあったな…ただ、数にものを言わせて弱い対象を虐げる行為が嫌いだっただけだ」

 唐突なお嬢様学校の闇に真顔になった私をよそに、アズサちゃんはさらりとそんなことを言ってのける。強い。

 

「ただそのあと、アズサさんに怒られた方が正義実現委員会に連絡を取られて…どこで情報が歪曲されたかわかりませんが、何やら正義実現委員会とアズサさんの間でそれなりの規模の戦闘に発展してしまったとか…それでアズサさんは催涙弾の倉庫を占拠し、正義実現委員会を相手にトラップを駆使して、3時間以上戦い続けたと」

「!?…それってあの時の!?」

 そして追加情報にはコハルちゃんが思わずといった風に叫んだし私も驚いた。「あの時」というのは補習授業部の初対面時、私にとっては3話くらい前*1の"聞いた話"の件。やだ意趣返しのやり方が陰湿…私の中でトリニティの株が下がっていくのを感じる。よりにもよって今そこにいるんだけど嫌すぎるなこの感覚…

「何がどうあれ、売られた喧嘩は買う。あのときも弾薬が切れさえしなければもう少し戦えたし、あれ以上に道連れも増やせたのに」

 …当のアズサちゃんはふぅ、と息をついてそんなことを言い出した。うーん片鱗は見え隠れしてたけどやっぱめちゃくちゃ物騒だこの子…やめなさい、ヒフミちゃんとコハルちゃんがドン引きしてるでしょ。

 

「それで、その方が報告も兼ねて私たちのもとを訪れてくださり、アズサさんに感謝をしたいと。ただ学園では見つけられずに、ここに辿り着いた…という次第です」

「…そうか。別に、感謝されるようなことじゃない。私も最終的に捕まったわけだし」

「後半はあんまり関係ないと思いますけど…」

「それにあの事態は気の毒だけど、いつまでも虐げられてばかりじゃ駄目だ。それがたとえ虚しいことであっても、抵抗し続けることをやめるべきじゃない」

 …いや、ほんとに強いんだなアズサちゃん。凛々しいお顔に少々見とれてしまった。それはマリーちゃんも同じようで、ほぅと息をつくのが聞こえた。

「…そうかもしれませんね。はい、あの方にもそう伝えておきます。…アズサさんは、暴力を信奉する"氷の魔女"…だなんて噂もありましたが、やはり噂は噂ですね」

「ぇ」

「ふふ♡それはそうですが、アズサちゃんには意外と"氷の魔女"らしいところもありますよ?他の方からするとちょっと表情も読みにくいですし」

 …や、私としてはこのトリニティ総合学園にそんな(あだ)()つける人がいるのが意外だったんだけど…そんで当人の前だぞハナコちゃんよ。アズサちゃんがちょっとムッとしてるぞ。

 もっとも、そんな心の声を載せた私のジト目は気づいてもらえなかったけど。

 

「ハナコさん…」

「マリーちゃんが元気そうでよかったです」

「はい、私は…ですが…」

「玄関まで送りますね。さあ、一緒に行きましょう?」

「あ、はい…で、ではみなさん、お邪魔いたしました。それでは」

 そのまま背を向けて、並んで玄関まで歩いていく二人…いやだから隠しきれてないんだってワケアリ感が…。けど、あの笑顔ですっかりうやむやにされてしまっているような。

 うーん…モヤモヤするけど火急の案件かと言われると……それに、ここまで隠し立てするなら触れてほしくないってことだろうし………まだ、そっとしておこうかな…?

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
急なメタ発言





・ハリカ
外からの迷子で部外者なのに働きがよすぎてそういう待遇。これが…器用貧乏……?

・ヒフミ
影薄め
モモフレンズ以外だと完全にツッコミ担だな…モモフレンズ以外だと()

・アズサ
》》†氷の魔女†《《

・ハナコ
Ms.意味深ムーブ。ハリカにめちゃくちゃ疑念を抱かれている

・コハル
今回はほぼ空気①

・マリー
開幕不憫シスター。ハナコと何かありげ

・先生
今回はほぼ空気②
どうしてこのタイミングで生徒受け入れしたのか

・イコイ
急遽追加されたオリキャラ四人目。これから人脈の面でキーになってもらう予定
主人公と同レベもしくはそれ以上のフッ軽。固有武器はARだけど付属の擲弾発射器がよく仕事してるタイプ
浴衣の百鬼夜行モブ実際にいるから大丈夫だよ。たぶん
図らずも誰かに似た口調になったと思ったらたぶんトガヒミコだこれ

・ツバキ
せっかくなのでという感じで同じ百鬼夜行から追加された(おい)。まあ参考実況主さんよく起用してるし…むしろ遅いぐらいだと思ってる

・ユウカ
当番①。このあと振り回される感じになる
・イズナ
当番②。友人知人を積極的に案内して回る
・カヨコ
当番③。オフィス待機
・チサキ
当番④。事務作業は苦手で行方をくらましがち


ここまで人数多いの久々だよ
なお設定上投稿日はオリキャラのうち二人の誕生日だったりする…これといって何もできなくてスマンノ……片方名前しか出てないし………
あ、合宿3日目はまだ続くよ




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三度目の密会


オリジナル挟むと難航しがち



 

 

「銃の使い方とかまで問題あったんだ…」

 ヒフミと以前の模試の見直しをしていると、覗き込んできたハリカが苦々しげな声を漏らした。

「そういえば、この辺りはハリカちゃんにはお願いしてませんでしたね。アズサちゃんはむしろ得意みたいですし…ハリカちゃん、ひょっとして苦手なんですか?」

「そう…うん、そうなんだよ。シャーレに所属しておいてお恥ずかしい限りなんだけど、正直見分けもつかなくて…この際聞いておきたいんだけど、アズサちゃんのそれってサブマシンガン?」

「いや、AR(アサルトライフル)だ」

「違った…!ユウカの銃に似てるからそうかと…」

 背中に担いだ相棒を下ろして見せたら、ハリカはばたりとテーブルに伏せた。ユウカ、という名前はハリカが来た日に出てきたな…ミレニアム、というところの生徒だったか。それにしても、まさかSMG(サブマシンガン)に間違われるとは…

「あら、銃の話ですか?」

「そうですハナコちゃん…」

「ああ…ハリカは銃に関しては弱いらしい」

「あ、あはは…えっと、私とアズサちゃんとハナコちゃんがARで、コハルちゃんはSR(スナイパーライフル)なんですよ」

「たしかにコハルちゃんのだけ長いのはわかる…あ~でもムツキちゃんのそういう形だけどマシンガンだったような…だめだ全っ然わけがわからない…」

「ムツキ…?」

 

 知らない名前に思わずヒフミと顔を見合わせたけど、ハナコの「シャーレの部員さんですか?」という問いに頷いたのを見て、ひとまず納得した。ハリカや先生の仲間ということらしい。

「確か、シャーレにはどこの生徒も制限なく加入させられるんでしたよね?」

「そうだねぇ、まあ近頃は実質推薦制にもなりつつあるけど」

「正直応募制も考えたんだけどね、そうしたらたぶんもっと忙しくなるって意見が多くて」

「っ…そういえば先生いるんでした…すみません忘れてて」

 先生がいきなり会話に割り込んできて、ハリカの肩がびくりと跳ねた。…急な事象への対応力はそれほど高くないらしい。先生は「いやまあ、しばらく無言だったからね」と申し訳なさそうにしていたけれど…ハリカはあまり気にしていないふうに、無言で笑顔に切り替えていた。

 

「ところで先生、シャーレの新入部員受け入れがこんなタイミングになってしまった件についてなんですが」

「ああ…えっと、ツバキとイコイだっけ。どうだった?」

「どうだったって…ツバキちゃんがすぐ寝落ちするタイプなのに目を(つぶ)れば特に問題ないですけど。一度は先生ご自身の目で…と思いますけど、一度顔を出すのも難しいですか?」

 気がつけばみんな*1勉強の手は止まっていて、シャーレの二人の間で交わされる会話を眺める時間になっていた。…すぐ寝落ちするのはかなり致命的じゃないか?目を瞑っていいのか?

「いっそ手伝いに呼びます?少なくともイコイちゃんは来てくれると思いますよ」

「あら、そうなんですか?」

「宅配のバイトやってるから、ある程度いろんな場所の土地勘があるんだってさ」

「うーん…でもわざわざ百鬼夜行からここまで来てもらうのは、ちょっと申し訳ないような…」

「…や、やっぱり一度はシャーレの様子を見に戻った方がいいのでは…?」

 

 腕組みをして真剣な表情の先生に、ヒフミがおずおずと手を挙げた。確かに、先生はシャーレと補習授業部の間で揺らいでいるらしい。

 迷いがあっては高いパフォーマンスを発揮することなどできようもない。それなら一度発散しておくべきだろう。今回の件においては、それは難しいことではないようだし。だから、私もヒフミに同意する旨を首肯で示した。

「あぁ…やっぱり?」

「ええ。そういう交わり、触れ合いは大事にした方がいいと思いますよ?」

「ま゜っ…交わりとか触れ合いとか、じゃなくてもっと他の言い方があるでしょ変態!?」

「正直、大事だと思いますよ私も。縁あって…とも言いますし」

「なんだっけ…あれでしょ?ええっと、"()()()()()()()()()()"!」

「っ、」

「"()()()()()()"、ですよ?コハルちゃん」

「ちょ…ちょっと言い間違えただけだもん!」

 ハナコから指摘を受けて顔を赤くするコハル。その様子に苦笑するヒフミと先生。補習授業部ではよく見る光景。

「ハリカ?」

 だからこそ、浮いて見えた一人が気になった。虚を突かれたと言うのか、そんな様子で固まったハリカが。…声をかければ、かちりと視線がぶつかる。

「いや…シスターさんがいるような学校で耳にするとは思わなくて、ちょっと驚いただけ」

「ふふ、そうですね。語源までは普段あまり気にしませんから」

 視線はすぐに逸らされ、虚空を見つめながら返事がもたらされる。同調するハナコをよそに、私は妙な引っ掛かりを覚えていた。あんな反応をすることだろうか。

 いや…私は未熟で知らないことが多い。ハリカのこともまだ詳しくは知らない。…きっとハリカにとってはそうなのだろう、としか言えないか。

 

「…まあ、そうだね。時間を見つけて一度戻ろうかな。今すぐは難しいけど」

「私もそこまでの無理は言いませんよ…シフトと突き合わせると明後日辺りですかねぇ」

「突き合っ…!?」

「え、どうしたのコハルちゃん」

「な、なんでもない」

 気づけば先生とハリカの話には結論が出ていた。その時間帯だけハリカが滞在する運びになったらしい。

「さて、勉強に戻りましょうか」

「そうだな」

 

 

 

【アズサ⇒ 】

 

『あの…先生、ちょっとお話が…あとでお部屋に行ってもいいですか?その、ハナコちゃんのことで』

 就寝時間になって解散するとき、ヒフミからそう言われていた。だから、ノックの音を聞いて、はいと返事をしながらドアを開けた。んだけど…

 

「こんばんは、先生」

「………」

 …水着姿のハナコがいて、思わず閉めてしまった。

 

「あら、先生?どうして閉めるんです?」

「…ハナコ?どうしてここに…いや、まずなんで水着か聞いてもいい?」

「ああ、これについてはお気になさらず。パジャマですので」

「何を言ってるの?」

「うふふ♡それより先生、ちょっと相談したいことがありまして。そろそろ開けてくださいませんか?」

「ああ、うん」

 改めてドアを開けてもハナコはやっぱり水着姿で、それにしてもあんなに簡単に開けちゃうなんて、不用心ですね♡と言いながら部屋に入ってきた。

「えっと、それで相談したいことって?」

「そうですね、実は…アズサちゃんのことなんですが」

「アズサ?」

 ハナコが口にしたのはあまり予想していなかった名前で、思わず(おう)()返ししてしまう。確かにまあ、色々と気になるところはある生徒ではあるけれど…とまで考えたところで、

 

「し、失礼します…先生、いらっしゃいますか?昨日より遅い時間になってしまっ…て……えっ………?」

「あら」

 …本来の相談相手が来てしまって、部屋の雰囲気はたちどころに気まずいものになってしまった。

 

 

 

 何やら勘違いしたらしく動転して出ていこうとするヒフミと、何やら勘繰ったらしく「昨日より遅い時間」について掘り下げようとするハナコの二人を落ち着かせて誤解を解くのに十数分を要し、なんとか三人腰を据えて話せるようになった*2。とはいえ、落ち着いたと言えるかは若干微妙だけれど。

「で、ですがどうして水着で来るんですか!?水着がパジャマって、どういうことですか!?」

「心が落ち着くんですよね♡ですので私は、礼拝堂での授業にも水着で参加しましたよ?一度もっと、色々柔らかく考えてみましょう♪︎」

「あうぅ…」

「…ハナコ、さっきの話の続きは今じゃない方がいい?」

 ヒフミにすがるような眼差しを向けられたけど僕にもわからないので、白旗代わりに話題を元に戻すことにした。ハナコが相談しようとしていた、アズサについてのこと。

 

「そうですね…大丈夫です。ヒフミちゃんも、一緒に聞いていただければと思います。実はアズサちゃん…毎晩のように、どこかへ出掛けては夜明けごろまで戻ってこないことが続いていて」

「そう、だったんですか…?」

「はい。最初は慣れない環境で寝付けないのかと思ったのですが、そうではないようです。…私は、アズサちゃんが夜にちゃんと眠っているところをほとんど見ていません」

「確かに私も…アズサちゃんはいつも先に起きてますし、私より早く寝ていることもなかったような…」

 …アズサは夜、ほとんど寝ていないらしい。言われてみれば…夜は就寝時刻を過ぎればこの部屋を出ないからわからないけど、朝は誰よりも早く起きて活動している印象がある。

 とはいえ勉強中に眠そうにしていることもあまりないから、ショートスリーパーと言われればそれまでかもしれないけれど…

「アズサちゃんが一体何をしているのかはわかりません。ですがそろそろ、多少無理矢理にでも寝かせてあげないといけないのでは、と。なんだかアズサちゃん…どこか、すっごく不安そうで…その不安を少しでも軽減してあげたくて」

 伏し目がちになったハナコは本当に不安げだ。この数日間で見てきた彼女にしては珍しい…と思っていたら「先生とヒフミちゃんも、ですよ?しっかり寝ないとダメです」と水を向けられて背筋が伸びた。

 

「確かに試験も大切ですが、ただ落第というだけです。身体の健康と比べられるようなものではないと思いませんか?」

「…普通だったら、そうかもしれません。ですが、()()()()で済む話ではないあとんです!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()なんです!私たちは、トリニティを去らないと…っ」

 うーん正論…などと考えていたら、かっとなった様子のヒフミがカミングアウトをしてしまっていた。…ショックが大きいだろうからまだ言わない、そう決めていたことを中途で思い出したらしく口を押さえている。

 

「…退()()?ヒフミさん、それはどういう…?そ、そんなこと、校則的に成り立ちません。退学には色々な理由と手続きが必要で、そんな簡単には…」

 一方でハナコはやっぱり動揺しているようだったけれど、ぱちり、と僕と視線が合うと動きが止まった。

「…連邦生徒会の権限を借りれば、あるいは?いや、まさか……先生、詳しくお聞かせ願いますか?」

 緑の瞳にまっすぐ見据えられ、僕は補習授業部について知っていることを全て話すことにした。こうなった以上、伏せておく必要もないだろうと思って。

 

 

「なるほど。すべて不合格なら、退学…この仕組み自体がそもそもおかしいですが、やはり『S.C.H.A.L.E.(シャーレ)』の超法規的権限が…」

 情報を開示したあと、ハナコは口元に手を当てて静止してしまった。…片鱗は何度か見え隠れしていたけど、やっぱりハナコには思慮深い一面があったらしい。

「ハナコちゃん…そ、そういえば、ホントは成績いいんですよね?1年生の時にはもう、3年生の試験まで全部満点だったんですよね!?」

「…」

「あの、ごめんなさい…模試のために昔の試験を見返してたとき、見つけてしまって……どうして今は、あんな点数を?その…わざと、なんですよね…?」

「ごめんなさい、知らなかったんです。失敗したら全員が退学だなんて…いえ、知らなかったからで済まされることではありませんね。皆さんには申し訳ないことをしてしまいました…ごめんなさい」

「いえ、その、ええっと…」

「…じゃあ、本当に?」

 ヒフミが急にしおらしくなったハナコにたじろいでいる傍ら、確認のように問えばハナコはこくりとうなずいた。

「…はい。ヒフミちゃんの言った通り、私のあの点数はわざとです」

「や、やっぱり…ハナコちゃん、どうしてそんなことを…?」

「…ごめんなさい、言えません。私のすごく個人的な理由なので…ですが、それで皆さんが被害を受けてしまうのは望むところではありません。なので安心してください、最低限皆さんが退学にはならないよう、今後の試験は頑張りますので」

「ありがとう、ハナコ」

「いえ…先生にそこまで感謝していただくようなことでは…むしろ私が感謝するべきことです、裸で手をつくだけで足りますでしょうか…♡」

「むしろ過剰だからそれはやめてね?」

「そ、そうです…!今後頑張ってくださると聞けただけで、私は安心しましたから」

 裾に手を掛けたハナコを慌てて制止。…まあ表情も柔和なものになって、やっと普段のハナコに戻ったみたいだ。普段の、コハルを赤面させるハナコに。

 

「そうですか、ありがとうございます♡…ところで、この事実を知っているのはヒフミちゃんと先生だけですか?」

「そう…あ、でもハリカちゃんは」

「いや、ハリカにも伝えてないよ。シャーレを任せてしまってる以上、巻き込むわけにもいかないから」

「なるほど…となると、アズサちゃんの不安は試験のことではなさそうですね何かまだ私の知らないことがある、と……いえ、それ以上に今は()()()()()()()()()()()()()()が気になりますね」

「存在そのもの…?」

「ミカさん…は無理でしょうし、まあこんなことを企むのはナギサさんでしょうか。ですがどうしてエデン条約を目前にしてこんな……いえ、むしろ目前にしているからこそ………?」

 

 さらりと出てきたナギサの名前に、思わずヒフミと顔を見合わせた。…どうやらハナコは思慮深いだけでなく、とんでもなく鋭いらしい。試験結果に現れていた規格外の聡明さがなせる技だろうか…ひょっとするとこのまま、あっけなく真実に辿り着いてしまうかも

 

「…なるほど。つまりこの補習授業部は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、といったところですか」

 …あっけなく辿り着いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
会話には参加していないコハルも

*2
ハナコにはちゃんと体操着も来てもらった





・ハリカ
いまだに銃種に弱く、見た目だけではわからないものが多い。筆者と同じ
ちなみにアズサの相棒(Et Omnia Vanitas)は見た目で言えばシロコのそれ(WHITE FUNG 465)やセリカのそれ(シンシアリティ)の方が近いのだが、さすがにそこまで詳細には覚えていない
後半パートはお休み。いまだ何も知らないハリカちゃん(16)

・アズサ
初語り部チャレンジ(難しい)。キャラを掴めている自信がないでござる
ろくに寝てないことが判明した。天性のショートスリーパーはきわめて稀なのだそうだが果たして…あ、そういう問題じゃない?

・ヒフミ
先生の寝室での想定外の光景に当惑し、ハナコの推理力に驚き、このあとハナコによるナギサの「狡猾な猫ちゃん」呼びに目を白黒させる

・ハナコ
深夜の密会にログイン。推理力が冴え渡る
なおわざと悪い点数をとっていた理由は謎のまま
まとめて処理してしまった方が効率的…なんだか私たち、まるで洗濯物みたいな扱いですね。

・コハル
Chu!全然出せてなくてごめん
どうやら夜ちゃんと寝てるのは彼女だけであった模様です
もっともこのあとトイレに起きて鉢合わせするわけですが

・先生
生徒を信じて動く大人
ハナコの冴え渡る頭脳に舌を巻く
"洗濯物"よりも過激な表現を聞いたような…。


原作とはほんのちょーっとだけ展開を変えてるところがある。たぶん問題は起きないと思う程度。
(あっけなく辿り着いてしまうのはガチです念の為)










「あの…」
「ん?」
「すみません、たぶんそこ私の席です」
「え?…あっホントだごめん!うわぁ、私教卓ど真ん前じゃん…」
「それはちょっと、お気の毒としか…」
「意外にハッキリ言うね?えっと……いね…」
「あ、稲梓(いなずさ)です。稲梓玻璃花(はりか)っていいます」
「玻璃花ちゃん?じゃあ~…ハリーって呼ぼっかな!


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突発開催!水着パーティー


お待たせしております
真夜中の大騒ぎが長くなりそうなのでこれだけ


 

【 ⇒ヒフミ】

 

「…とにかくアズサちゃんとは、あとでもう少しお話をしてみた方がいいかもしれません。その他についてもいくつか、私の方でも確認してみます」

「はい、もし何かわかりましたら、教えてもらえると嬉しいです!」

「わかりました。ということは私も、この深夜の密会に参加させていただけるということでよろしいですか?ふふ、嬉しいです♡…真夜中、三人寄り添って秘密の遊びだなんて。ドキドキが止まりません♡」

「そ、その言い方はちょっと…」

「じゃあ、もう遅い時間だし。二人ともそろそろ寝ようか」

「はい。先生も、おやすみなさい」

 そんな感じで、昨夜の密会は終わりました。…退学の件をうっかり話してしまったのは、反省点だと思っています。ですが結果的に、私たちには心強い味方ができました。

 …ハナコちゃん、頭がいいんだとは思っていましたが、探偵みたいなあの推理力には驚かされました。補習授業部の目的について自力でたどり着いてしまって、それぞれどうして容疑者になったのかとか、ナギサ様が言い回しに込めた意図とかも真剣に考えて…私もおそらく容疑者だと聞いてショックを受けましたが…試験の成績だけじゃなくて、こういうところでも秀才なんだと。

 あ、あと…

『先生もナギサさんにしてやられた形でしょうか。『成績の振るわない生徒たちを助ける』、その名目で善意を利用されてこの役割を担い、その実シャーレの超法規的権限が利用されている…ですが逆に言えば、先生は純粋に、私たちのために頑張ってくださっていたのですね…ありがとうございます。先生はやはり良い人ですね、ふふ♡』

 …自然にこれを言えるのもすごいなって思いましたね。ちょっと照れくさそうにしてる先生を初めて見ました。

 

 密会が終わったあとは…廊下でコハルちゃんと鉢合わせして、今度は私たちも誤解を解こうと頑張る羽目になったり、ハナコちゃんが一人アズサちゃんを探しに行ったり…色々ありましたが、なんとか2時までにはベッドに入れました。

 

 

 そして、翌日。

 

「さあでは記念すべき第一回、補習授業部の水着パーティーを始めます♡」

「あうぅ…」

 …私は水着姿で、体育館の床に座っていました。

 

 

 

 

 

 ことの発端は、一夜明けた朝までさかのぼります。

「あぅ…けっこう降ってますね…」

「そうですねぇ…」

 目を覚まして、体を起こしたとき耳に届いたのは雨の音、それもだいぶ強いものでした。

「んぅ…」

「あら…おはようございます、コハルちゃん」

「おはようございます。アズサちゃんは…起きられなさそうですね」

「…どうしたの?アズサ、けっこう早起きだったのに…」

「今までは無理をしていたんじゃないでしょうか?ここは少し、寝かせおいてあげたいですね…」

 

 今まで一睡もしていなかったらしいアズサちゃんは、すっかり夢の中です。…そういえば、そんな状態でずっと勉強もしていたんですね…。

「んん…だめ、かわいいものが……ふわふわ、で……それは、よくない…」

 …それで、こうして眠っているアズサちゃんは初めて見るんですけど…まさか、こんなに寝言を言うタイプだとは思いもしませんでした。とても幸せそうな顔で癒されているようなので、微笑ましいものではあるんですが。

 

 こんこん、と控えめなノックの音がして、ドアを開けてみればそこには先生、と…

「おはよう。いや~すごい雨だよ」

「ハリカちゃん、早いね?」

「まあいつも通りシャーレの用事。余裕があるに越したことはないし」

 

 足元悪くてちょっと大変だったけどね、と笑うハリカちゃんは、たしかに白い裾をちょっとだけ濡らしていました。

「アズサはまだぐっすりみたいだね」

「…あぁ…こんな、ふかふか……」

「寝言すごくない…?」

「低気圧なのもあるかも…それにしても、(うな)されてるように見えてめちゃくちゃ平和そう……うわ」

「ひゃ!?」

「ピッ!?」

 

 いきなり窓から鋭い光が差し込んで、体がこわばりました。…そして、それから数秒ほどで届くゴロゴロという音。

「あ、あうぅ…なんだか雷まで…」

「2秒くらい?だいぶ近いな…」

「700メートルほど、ですか……あら」

「どうしたの?」

 ふだんとは違う固い声が気になって見れば、ハナコちゃんは焦りを浮かべた顔をしていました。

「忘れてました…洗濯物が外に…!」

 

 

 

「ふぅ…たぶん、これで全部だ」

「これは…見事に全滅ですね…。泥も跳ねちゃってますし、洗い直しが必要そうです」

「まさしくバケツをひっくり返したような雨だったなぁ…まだ止みそうにないし、これ一ヶ月分とか降ってるんじゃ…?」

 一階の広間で、私たちは洗濯物を囲んでへたり込んでいました。窓の外を見ればハリカちゃんの言う通り、大雨はまだ止みそうにありません。

あのあと起きてきたアズサちゃんも一緒に、大急ぎで回収したのですが…ハナコちゃんが昨日から干していたらしい洗濯物…私たちの制服は、すでに雨水をたっぷり吸ってしまっていました…それに…

 

「体操服もすごいことに…うぅ、中まで全部びちゃびちゃ…!」

「それはコハルが途中で転んだからだ」

「すみません、失念していて…私がみんな一緒に、と言い出したせいです。ハリカちゃんまで」

 着の身着のまま大慌てで洗濯物を回収しに外へ飛び出したので、四人とも体操着はすっかりずぶ濡れになってしまいました。

 無事なのはハリカちゃんに広間で待っているよう言われていたらしい先生だけで、そのハリカちゃんも来たときとは違い、今は裾から雨水をぽたぽた滴らせています。けれど、申し訳なさそうなハナコちゃんにはいやいや、と手を振っていました。

 

「私は平気だよ。この制服はすぐ乾くし」

「ハナコのせいじゃない。洗濯はもう一度すればいいし、服も着替えればいい。そんなに気に病むことでもない」

「そうですよ。濡れた服のままじゃ風邪をひいちゃいますし、まずは早く着替えましょう!」

「…ありがとうございます。そうですね、髪も乾かさないと…」

 しゅんとしていたハナコちゃんでしたが、またいつもの笑顔に戻ってくれました。こういうところですぐになだめられるアズサちゃん、すごいですね…

 

 そうと決まれば、まずは部屋に着替えを取りに…いや、乾かすのが先ですかね?ちょっと肌寒くなってきましたし、急がないと…

 けれどそこで、部屋に戻ろうとしていたコハルちゃんがぴたりと立ち止まりました。

「…あ」

「コハルちゃん?どうかしましたか?」

「…もう、着るものがないんじゃ…」

「えっ?」

「そういえば私もそうだ…制服もこの体操着もびしょ濡れで、予備の服はない」

「そ、そういえば私も…あぅ…どうしましょう…」

「あらあら♡まあ、()()姿()()()()()…というのも、すごくアリだと思いますよ?」

「何言ってるの!?そ、そんなハレンチなのはダメ!どうしてそういう方向になるの!?」

「でも、話はわかる。下着は多めに用意しているし、靴下も履いておけば体温の維持も問題なさそうだ」

「変に同調しないで!?教室で下着なんてヤ、ヤバイでしょ!?」

「ですがコハルちゃん、想像してみてください?…本来、神聖なはずの学び舎で

もうあんたは黙ってて!!?手早く洗濯して、ドライヤーか何かで乾かせばいいでしょ!?その間はバスタオルでも巻いてればいいし、何かあっても先生に頼めばいいじゃん!それに、この状況で急いで勉強のこと考える必要もないでしょ!?」

「そうだとしても、どちらにせよその間は下着姿なのでは?」

「早く勉強に戻りたいのだけど、洗濯が終わるまで教室には戻れないなら仕方ない。とりあえず脱ごう」

「何今ここで脱ごうとしてるの!?露出は犯罪!!」

「私たちしかいませんし大丈夫ですよ♡先生も、ご自分の部屋に戻られたようですし」

「常識的に大丈夫じゃないの!!…あれ、ハリカ先輩は?」

「さっきお手洗いに行くと言っていたぞ?」

 …そんな感じで、少し騒ぎはありつつも洗濯を待つことにした…んですけど…

 

「えっ!?な、何!?」

 部屋で待っていたら、急に真っ暗になって。

「て、停電…みたいですね」

「落雷による停電でしょうか…」

「…ま、待ってください今の、なんの音ですか…?」

 お互いの顔も見えない中…ドスン、という感じの音がしたのは、近くの部屋…今使っている洗濯機のほう。急いで向かってみたら…

「…洗濯機が止まってる。それに蓋も開かない。…困った」

 

 

 

 

 …そんな事情で、現在に至る…というわけです。

「色々とすごい状況だ…」

「仕方がありませんよ。こうとなっては、パジャマパーティーならぬ水着パーティーくらいしかすることはありません♡」

「知らない文化だ…」

 雨音に包まれた暗い体育館の中、他に着るものがなくなってしまった私たち四人は学校指定の水着姿。ハリカちゃんが端末で天気を確認したときに見えましたが、先生は変わらないスーツ姿で…ハリカちゃんも来たときと同じ制服のままでした。乾かすのが間に合ったみたいです。そういえばすぐ乾くとは言ってましたけど…うらやましいです……

 

「あぅ…何か他にもありそうな気はしますが…」

「なるほど、下着パーティーとかもありそうですね。確かによく考えると他にもいくつかあると思いますが、それで本当にいいんですか?ふふ♡」

「こうなると授業とかもやりにくいし、こんな落雷くらいで全機能が停止するなんて、ひどいセキュリティだ」

「まあ、古い建物ですし…」

「セキュリティの問題かはともかく、非常電源とかもないのは驚いたね…」

「…っていうか待って、流されないわよ!水着パーティーって何!?卑猥!!授業もないし着る服もないのは同意だけど、だったらおとなしく部屋で待ってればいいでしょ!?」

 あ、固まってたコハルちゃんが戻ってきました。

 

「あら、ですがこういう時間こそ、合宿の華だと思いませんか?…みんな寄り添って、お互いの深い部分を(さら)け出し合う…雨も降っている上に停電でよく見えませんし、雰囲気は最高です!うふふ♡…せっかくの休み時間ですし、そうやって有意義に過ごしません?」

「あはは…た、確かに、合宿の定番という感じはしますね」

「言うほど…?」

「なるほど、それがこの水着パーティーか」

「いやいやいや納得するか!水着と掛け合わせる意味は!?」

「ツッコミがキレッキレだなぁ」

「まあまあ、せっかくですし楽しみましょう?とはいってもただのおしゃべりですし、話題もなんでもありということで…ふふふっ♡私、こういうことすっごくしてみたかったんですよね♡なのでちょっと、テンションが上がっていると言いますか…」

 確かに、ハナコちゃんの声はいつもより3割増しくらいで機嫌が良さそうといいますか…相変わらず真っ暗で、表情まではよく見えませんけど。

 

「ハナコ、すごく楽しそうだね…」

「気持ちはわかる。私も…なんなら、補習授業部に入って以来ずっとそういう気持ちだ」

「あら、そうなんですか?」

「うん。何かを学ぶということも、みんなでご飯を食べることも、洗濯も掃除も、その一つ一つが楽しい。…水着は泳ぐときにだけ着るものだと思っていたけど、こんな活用方法があるってことも初めて知った。知らなかったことを知れるというのは、楽しいことだ」

「いやまあ水着は泳ぐときにだけ着るものでだいたい合ってるけど」

「でも、動きやすいし通気性もいい。ハナコがこれを着て学校を歩いていたというのも納得がいく」

「そっかぁ*1

 えっあのハリカちゃん?折れないでください!?アズサちゃん、なんだか変なことまで知っちゃってますよ!?

 

「そうですよね!だから言ったじゃないですかコハルちゃん」

いやそれで外を歩くのは犯罪だから!納得しちゃダメ!

「コハルと一緒に勉強をするのも楽しい」

っ!?!?きゅ、急に何!?何でそんな急に恥ずかしいことを!!?」

「あらあら♡」

「っ…ま、まあ?私みたいなエリートと一緒に勉強して、タメになることは多いと思うけど?」

「うん、本当にそうだ」

「っ」

 コハルちゃん、いきなり嬉しいことを言われて照れが隠せてませんね…それにしても、アズサちゃん…最初はあまり表情の変化も読み取れなくて心配でしたけど、良かったです」

「もちろんヒフミもだ。本当にいつもお世話になってる。ありがとう」

「はう!?あ…アズサちゃん…!うわーん!」

 あっわ、私まさか声に出してました!?そ、そんな急にっ…とにかく、あまりにも感動して思わず抱きついたら、アズサちゃんも抱きしめ返してくれました。

 

「あらあら~♡」

「青春ですねぇ…」

「そうだね…ハリカも同い年だけどね」

「ひ、ヒフミ、少し息苦しい」

 

 

 

 

 

*1
思考放棄





・ヒフミ
今回の語り手。あうぅ…
本とに流されやすいところが見え隠れしてる

・ハリカ
巻き込まれる形(いつもの)。制服はすぐ乾くらしい…
いつになったら諸々を知るのでしょうか

・アズサ
ハナコほどではないけどノリノリ。どちらかと言えば知識欲に近いものの模様
急に照れさせる天然

・ハナコ
一番ノリノリでフルスロットル
隙あらば発言がこう(color:#71006d)なるのほんと草

・コハル
ツッコミほぼワンオペ状態というか、完全にリアクション担当

・先生
黒一点@水着パーティー、でもなんだこの光景…程度で平然としてる。魂から先生なので。




予約投稿にしてたはずだった…(一敗)


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真夜中の大騒ぎ(前)

思ってたより長くなりそうなので分割(なお『新しい視点』まで併呑する模様)


 

【ハリカ】

 

 さて。()ん所ない事情により突発開催された補習授業部水着パーティーは…当初思っていたよりも盛り上がりを見せた。まあ装いに目を瞑れば、ハナコちゃんの言う通りただのおしゃべりなわけだし…そりゃそうか。

 自治区内にある水族館の話を聞いたり、コハルちゃんが怪談話にいい感じのビビり方をして微笑ましくなったり、伝聞の過程で歪曲されまくったらしい覆面水着団*1の話を聞いてヒフミちゃんともども苦笑したり……アズサちゃんの夜更かしの理由が、侵入者を迎撃するトラップの設置だと判明したり。

「なるほど…ですが、それならそれで教えてくれると嬉しいです。どうしても、心配しちゃいますから…」

「そうか。うん、これからは気をつける。私のせいでみんなが被害を受けるのは、望むところじゃないから」

「優しいね、アズサは」

「なっ…こ、子ども扱いしないで先生。私は別に…そんなのじゃない」

 

 不意に、アズサちゃんの声色が変わった。なんだか、とても揺らいでいる。少なくとも私ははじめて聞く、あのアズサちゃんの動揺した声音だった。

「だってこの世界は全てが無意味で、虚しいものだ。だから、もしかしたら…私は、いつか裏切ってしまうかもしれない……みんなのことを、その信頼を、その心を」

「…?」

「アズサちゃん…?」

 

 心配そうなヒフミちゃんの声に答えはなく、夜目に見えるアズサちゃんの影は…俯いて、じっとしている。表情は見えない。唐突に訪れた静寂は………体育館を満たす光で中断された。

「あ」

「電気が…」

「直ったみたいですね?」

「そういえば、雨も止んでるみたい…全然気づかなかったな」

 反射的に目を瞑って、しぱしぱとまばたきをして視線を戻せば、アズサちゃんは天井を見上げていた。同じように天井を見上げて、雨の音がしないことに気づく。…そうか、なんかいやに静まり返ってると思ったら。雲はほぼそのままで明るさが変わらないから、全然気づかなかった。

「では、もう一度改めて洗濯しましょうか」

「うん。じゃあ、第一回水着パーティーはここで閉幕か。二回目も楽しみにしてる」

「二回戦とかないから!こんなの最初で最後なんだから!!」

 

 

 

 そうして無事に洗濯も終わり、着替えも済ませ*2、それじゃあ改めて勉強に戻る…という気にもなれず*3、本日は休養日という形になった。そんな感じで日も暮れて沈んで夜になり、そろそろ就寝時

いいえ、まだです!このまま一日が終わりだなんて、そんなもったいないことはさせません!!

「は、はい…?」

「な、何よ急に?びっくりした…」

 …刻になろうという頃、深夜の密会の件で先生に呼ばれて舞い戻ってきていた私もその待機に入ろうとした頃…ハナコちゃんからそんな高らかな宣言があった。

 

「突然のことでしたが、せっかくのお休みじゃないですか。みんな裸で交わったりしたのに、このままはいおやすみなさい、だなんて」

「いや水着着てたよね??」

「勝手に記憶を捏造しないで!?裸じゃないから!!」

「それはともかく、このまま寝てしまうのはもったいないです!…まだ火照っていると言いますか、物足りないと言いますか…」

 …なるほど、もじもじしているハナコちゃんは今、本気でこの合宿を満喫しようとしているらしい。さては水着パーティーで何かスイッチが入ったな…あの時も「こういうことしてみたかった♡」的なこと言ってたしな…。

「ハナコ、具体的には?」

「うふふ♡そうですね、やはり合宿といえば…()宿()()()()()()()()()、それもひとつの醍醐味だと思いませんか?」

 

 

 

 

 

 ここ最近はずっと一人で歩いていたレンガ敷きの道を、今夜は6人分の足音が進む。

「あうぅ…ほ、ほんとに来ちゃいました…」

「来ちゃったねぇ…」

 ハナコちゃん曰く、トリニティの商店街は結構遅くまで開いてる店が多いらしい。コハルちゃんは校則違反!と反発したけど、校則にありがちなやつでこっそり破ってる子は結構いるものらしい。確かに四高でも寮の門限破りとかよく見かけたな…

 …というか、反応からしてヒフミちゃんがやってるっぽい。そういえば闇市(ブラックマーケット)だったもんね初邂逅…。

 結局、アズサちゃん*4や先生*5の乗り気な様子で敢行が決まったわけで。…私?まあ立場としては先生側だし…。

 

「うふふ♡どうですか?もうすでに楽しくないですか?禁じられた行為をしているというこの背徳感、そして同時にみんなで一緒にしてからこその安心感、この二つが合わさって…♡」

「めちゃくちゃテンション高いね…」

「なるほど…深夜の街はこんな感じなのか。思ったより活気がある」

「そうなんですよ!24時間営業の店も多いですし♡」

 ハナコちゃんがとても生き生きとしているのは水着パーティーからずっとなので置いておくとして、アズサちゃんもテンションの上がりようがすごい。目を輝かせて、背中の翼をぱたぱたと動かしている*6。かわいい。

「ここからもう少し行くと、モモフレンズのグッズショップもあるんですよ!その向かいには限定グッズだけを取り扱う隠れた名店もあったり…」

「ふふ、さすがはヒフミちゃん。詳しいですね」

「あ…あははは…」

 シンプルに墓穴を掘っているヒフミちゃんに苦笑しつつ、ハナコちゃんを盾にするように縮こまっているコハルちゃんを見た。いかにもこういうことには慣れてませんって感じの、後ろめたさ全開の表情をしてる。…今更だけど、ちょっとは彼女の側にも立ってあげたほうがよかったかもしれない。

 

「うぅ…結局乗っちゃったけど、こんなところ万が一ハスミ先輩に見られたら…すっごく怒られそう…」

「あら、そうなのですか?ハスミさんは後輩たちに優しい方だと聞いていましたが」

「も、もちろん優しいわよ。それに文武両道、さいしょく…けんび?で、品もあってすっごい先輩なんだから!でも、怒るときはホントに怖くて…」

 ちょっと久々に聞く名前が出た。正義実現委員会(通称:正実)の副委員長…いやそうか、コハルちゃんは元々正義実現委員会所属だったか*7。ハスミさん…最近あんまり会ってないな。シフトが合ったとき以外でなかなか会わないし、ここ数日トリニティに通ってるけど意外と出くわしもしない。

 まあ私の話はさておき、コハルちゃんはハスミさんが烈火のごとく激怒している場面に出くわしたことがあるらしい。

 その時キレていた理由は、ゲヘナの生徒会"パンデモニウム・ソサエティー"との会談中に「デカ女」と呼ばれたことだとか。烈火のごとくダイエットを宣言していたらしい。にわかに生まれたシリアスが砂になって飛んでいった。発生学的には異常事態。どうすんだこの空気。

 

「…それ以来ハスミ先輩、あんまりご飯も食べないから心配で…」

「…そんなことがあったのですね…ゲヘナの方々に怒るのも分かります。無理もありません」

 そんでスムーズに処理できるハナコちゃんすごいな…一応所見を述べておくと、その呼び名には身長179cmが一番響いてると思うので、別にダイエットをするほどのことではない気がする。あとパンデミックなんとか*8…なんか風紀委員会で悪評が多いからそういう問題児集団があるんだなと思ってたけど生徒会なのかよ。しかも会談の場で俗語が飛び出す系生徒会…どんな生徒会??

 

「ハスミ、大丈夫かな…」

「でも、ハスミ先輩はいろんな意味で強いから大丈夫!」

「まあ…確かに強いよね、あの人は」

「…あ、ここにもスイーツ屋が…」

 …一度は変な空気になったけど、気を取り直して夜のお散歩に戻ろう。目をキラキラさせるアズサちゃんがかわいいし、視線の先にあるショーケースの中身もキラキラしてる。こういうゼリーみたいなコーティング、なんて言うんだっけ…

「なんだか食べ物の話をしていたらおなかが減ってきましたし、ここで何か食べちゃいましょうか?」

「あ、ここの限定パフェすっごく美味しいんですよ!けど、24時間営業とは知りませんでした…!」

「この時間にパフェかぁ…」

「うん、悪くない。行こう」

 連れ立って入店していく三人を元気だなぁ…と眺めつつ、先生といまだ挙動不審気味のコハルちゃんと三人で後を追うように入店したら…

 

「…せ…先生…!?」

 …縦に長いパフェを三つテーブルに並べて食している、

「は…ハスミ先輩!?」

 と出くわした。若干どころじゃない"噂をすれば影"だった。

 

 

 

「ハスミさん、奇遇ですね♡あら、真夜中にパフェを3個も…確か、ダイエット中だと伺いましたが?」

 厳然たる"やめたげてよぉ!"案件がそこにはあった。言わなかったけど。夜だし他のお客様のご迷惑になるので。

「こ…これはですね、その…」

「はい、心中お察しいたします。こんな真夜中に襲ってきた悪しき欲望に導かれて、ここまで来てしまったのですよね?」

 と思えば、爆速で心中お察ししていた。あと急に何その、名前の両脇に†がつきそうな話し方…?

「えっ?い、いえ、その…」

「そうして欲望のままめちゃくちゃにしてしまったあと、理性を取り戻したときにはもう、取り返しがつかないほど乱れて…

「えっと…夜中って、お腹が空くよね?」

 あっこれいつものやつだ。察した。軌道修正ありがとう先生。

 

「…こほん。その、自分のことを棚に上げるようですが…補習授業部の皆さんはそもそも、合宿中の外出が禁じられていたはずでは…?」

「え?そうなの?」

 なんか思わずハナコちゃんを見ちゃったけど、無言でいつも通りの笑顔しか返してくれなかったので先生を見た。そうらしい。…そうなの??えっ初耳、というか外出を禁じられるような合宿をしたこととかないんだけどこれはどっち?本件が特殊?

「…ここはお互いに、見なかったことにしましょうか」

「は…ハスミ先輩…」

「コハル、お勉強頑張っていますか?」

「え。それは、その…」

「コハルちゃん、順調に成績が上がってきてますよ。ね」

「は、はい!そうです!このままいけば全然合格できるくらい、頑張ってて…!」

 言いよどむコハルちゃんに助け船を出しておいた。事実なんだから特段狼狽(うろた)える必要もないだろうに、と思って。ついでに巻き込んじゃったヒフミちゃんはゴメン。

 それはそうと何だろう、ハスミさんの保護者感がすごいな…。

「そうでしたか…それは何よりです。言ったではありませんか、コハルはやればできると」

「えへへ…は、ハスミ先輩の期待を裏切りたくないですから…」

「はい、引き続き応援していますよ、コハル。早く正義実現委員会に戻ってきて、一緒に任務が遂行できるときを心待ちにしていますから」

「はい、頑張ります…!」

 今度はコハルちゃんが目を輝かせている。補習授業部の時とはもはや別人なんですが。誰…?

 けど、なんとなく察した。これが()()()()ってやつなんだろう…ん?つまり、私が(あき)兄や(しょう)()姉と話してる時もこんな感じだったんだろうか?………まあ、それはいいか。もう確認のしようがないし…

 

「…?こんな時間に連絡?…イチカ?どうかしましたか?…問題…詳しく聞かせていただけますか?」

 ふいにくぐもった低い音が鳴ったのは、ハスミさんのスマホのバイブレーションだったらしい。取り出したスマホに耳を傾けるハスミさん…が、みるみるうちに険しい形相になっていく。

「襲撃?ゲヘナの…風紀委員会ですか?それとも万魔殿がついに本性を!?誰であれ、きっとエデン条約を邪魔しようとする意図に違いありません…!規模は何個中隊ですか?場所は、その施設はどこですか!?

 いや、えっ怖…これ、たぶんコハルちゃんが話してた剣幕が図らずも目の前でリプレイされてるな?あの冷静沈着なハスミさんのこんな姿、初めて見た…当のコハルちゃんが隣で「ヒィッ!?」と縮こまってるのはさておくとして。

 ただ、再び聞く姿勢に入ったハスミさんは、今度は逆再生みたいに真顔になっていき…

「…風紀委員会ではなく…4名?…アクアリウム?どうしてそんなところを…?」

 …困惑してる。なんかすごく困惑してらっしゃるし、断片的に情報を得た私も困惑してる。突然の水族館(アクアリウム)is何。あと…()()ゲヘナの4名……まさか、ね…。

 そんなふうに困惑が感染(うつ)った私たちの傍ら、ハスミさんの口から飛び出したのは…

 …私がまさかと思ったのとは別の、でも確かにどこか(某風紀委員会)で聞き覚えのある固有名詞だった。

「…美食研究会?」

 

 

 『美食研究会』。それはゲヘナ風紀委員本部にお世話になっていたとき耳にした名前だし、シャーレに入ってからもフユコさんの愚痴の中で聞いた名前だった。

 曰く、飲食店を爆破するタイプのテロリストとのこと。意味がわからない。これが多様性か…*9

「近いな…ここから1キロ圏内といったところか」

「え、ええっ!?」

 …それはともかく。ハスミさんが通話を終えるのとほぼ同時に届いた爆発音を、アズサちゃんが瞬時に分析した。意外と近いなアクアリウム。街の中心部にはそうそう無いものだと思うんだけど…。

 

「…みなさん。突然のことですみませんが、みなさんの力が必要です。お願いできますでしょうか?」

 ここで、少し考え込む姿勢だったハスミさんが私たちのほうに振ってきた。補習授業部のみんな*10は目をぱちくりさせる。

「わ、私たちですか?」

「今はエデン条約を目前に控えて、いろいろと過敏な時期です。この問題が端から見て『トリニティの正義実現委員会とゲヘナ間の衝突』と捉えられてしまうと、状況が不利になることは想像に難くありません」

 最近ちらほら聞く単語がまた出てきた。『エデン条約』…改めて確認してたけど、ゲヘナ学園とトリニティ総合学園の間で交わされる和平条約…みたいなものらしい*11。長きにわたる確執をいい加減なんとかしよう的な。そんな条約を結ぶ必要があるほどの確執があったこと自体私は知らなかった。鈍い方ではないと自負してはいるんだけど…ほら、シャーレにはトリニティ生がまだまだ少ないし、二人とも仕事に真摯で私情を差し挟むタイプじゃないから。ハスミさんは若干危ういことが判明したけど。

 まあその…いろいろと過敏な時期っていうのは、それこそさっきのハスミさんの剣幕が物語ってたよね。それはもう雄弁に。

 

「そのために、シャーレの存在を借りたい、と?」

「はい、まったく異なる組織である補習授業部の存在も…そういう構図が望ましいのです」

「そっか、わかった。じゃあ行こう、みんな」

「了解した。先生の指示に従う」

「い、いきなり戦闘ですか…?あぅ…」

「ふふ♡まあ、先生がそう仰るのであれば」

 まあ即答ですよね先生なら…確かにそれなら、ハスミさん自身シャーレに所属してるし話が早いか。

 ヒフミちゃんが困惑する一方でアズサちゃんとハナコちゃんは乗り気。いつもの補習授業部ですね。違うのはコハルちゃんがフリーズしてるところ…あ、動いた。

「あっ…わ、私も?先生と……ハスミ先輩と、一緒に…?」

「いつかこうして肩を並べる時期が来るとは思っていましたが…想像より早かったですね、コハル」

「は、はい!頑張ります!!」

 ハスミさんの穏やかな声かけによって、コハルちゃんはフリーズから一転してやる気MAXになっていた。憧れの力は無限大らしい。わからなくもないな。

 

「そういえば、しっかり先生の指揮の下で戦うのはこれが初めてか…先生、遠慮は要らない。私のことは存分に使って

「あらまぁ…」

「あらまぁ♡」

 その一方でアズサちゃんが爆弾発言をかましていた。なんか…水を得た魚のようというか、乗り気どころか前のめり。いわゆる"身体は闘争を求める"タイプ*12なのか…そういえば「弾薬が切れさえしなければもう少し戦えた」とか言ってたもんね……その顔はなんですかハナコちゃん。

 なお先生はぐいっと来たアズサちゃんにやや()け反りつつも「じゃあ、安全第一でね」と告げていた。それはそう。戦闘を前提に集まった集団じゃないから妥当…あれ、そう考えるとちょっと心配になってきたぞ?

 

「ハリカさん」

「え?あぁ…まあ、危なそうだったら動きますね」

 名前を呼ばれ、ぱちりと視線が合う。ハスミさんの言わんとすることはすぐにわかった。ハスミさんにはトリニティの生徒では唯一、私の魔法について共有を済ませているから…まあ経緯としてはただ単に、私が横着して書類の山ごと移動させているのを目撃されてしまっただけのことなんだけど。

 伝えた通り全然万能ではないことも承知の上で、助力をお望みなのだろう。断る理由もないので応えておくことにする。不思議そうな顔をするコハルちゃんにはこっち(シャーレ)の話、と誤魔化しておくとして。

 

 

 

 

 

*1
まあこんな名前じゃ仕方ない気もする

*2
私と先生はあまり関係ないけど

*3
私以外は。あれ私もしかして異常?

*4
驚異の早着替え

*5
こっちはたぶん『生徒の自主性を尊重する』的なアレ(意図)だと思う

*6
あ、「翼がある!?」の段階はずいぶん前にシャーレにてハスミさんで済ませてる

*7
若干"噂をすれば影"感がある

*8
不正解

*9
そんなわけはない

*10
一部を除く

*11
私はこの、「学園自治区ひとつひとつが国みたいなもの」っていう概念がいまだにしっくり来なくて苦戦してるところがある

*12
誤用。アーマードコアの新作が出る





・ハリカ
今回は終始受動的
深夜の密会参加予定が夜のお散歩参加になったし、最近会ってない人とかなり強烈な再開を果たすし、急遽大捕物に巻き込まれる

・ヒフミ
無断外出でドキドキ(でも割とノリノリ)だし、突然の戦闘には困惑を隠せない普通の子(ただし夜間外出するし事情次第では闇市(ブラックマーケット)にも踏み込む)

・ハナコ
あまりにもノリノリ
そして容赦も遠慮も無さすぎる

・アズサ
なんか意味深だったけど夜の散歩にわくわく
突然の戦闘にはやる気満々

・コハル
イケナイこと()をしてるのでビクビク⇒ハスミ先輩!?!?⇒突然の共闘に張り切る、と反応が明快な最年少

・ハスミ
欲望に負けてるところを見られて固まったけどなんとか取り繕った
ゲヘナに対する修羅感とコハルに対する保護者感の落差よ

・先生
みんなが元気なのはやっぱり良いね
切り替えは早いので指揮モードに入る

・美食研究会
きましたね 本物のアウトロー()が

・パンデミックなんとか(不正解)
現状ハリカからの心証はほぼ最低値


めちゃくちゃ脚注使っちゃったな…(たしかなまんぞく)




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真夜中の大騒ぎ(後)

恒例の締め方迷子でした…とりあえず9月二桁日に突入するまでには間に合った
戦闘描写むずかしい(おめめぐるぐる)



 

 

「――敵を発見」

 アクアリウムから魚を持ち出したという件の美食研究会の姿を捉えたのは、アクアリウムの建物が少し見えてきたころ。つまり、彼女たち四人はすでに結構な距離を逃げてきていたころだった。見れば一人が大きな魚を横抱きにして、尾びれで顔をバシバシ叩かれている。

「あれがゴールドマグロかぁ…」

「うわ剥き身とか正気…?てっきり台車に水槽乗せて逃げてるものだと」

剥き身…ふふ、そうですね♡それでジタバタ(乱暴に)されて苦戦してるようですね」

「そりゃそうでしょ空気中に放り出されて苦しんでるんだから」

 姿が見えた時点でハスミが戦闘態勢を整える一方、ハリカが盗み出した魚の輸送方法について苦言を呈していたりしたけれど…確かに、それならゴールドマグロが被弾しないように、とかも考えなきゃいけないか…?

 

「よし、それじゃあ行こうかみんな」

「先生は私に任せて。だから気兼ねなく、ね」

「ええ、お願いします…では。心は熱く、頭は冷静に。参ります」

「よし…アロナ」

 フォーメーションを整えるため散開していくみんなを傍目に、すぐさまタブレット…『シッテムの箱』に呼び掛ける。そうすればすぐに、空色の髪の少女の姿をとるメインOS・アロナが『はい!』と元気よく返事をしてくれる。起動自体はここへの道中でしていたので、戦闘指揮の準備は万端だ。

「止まりなさい、こちらは連邦捜査部S.C.H.A.L.E.(シャーレ)です!」

「――交戦を開始する」

 ハスミの呼び掛けに対し、美食研究会の面々は半数がうろたえたものの、立ち止まるそぶりは見せず…アズサの静かな宣言から、戦闘が始まった。

 

 

 

 シッテムの箱の画面に、俯瞰した戦場が映る。辺りの暗さも、画面の中では関係ない。こちら側は補習授業部*1とハスミ、そして向かい合う美食研究会。各自の位置の上に、装備をはじめとする情報が解析されポップアップされていく。お互いSG(ショットガン)SMG(サブマシンガン)の使い手がいない分、ある程度距離を保ったままの戦闘になるだろう…というか、実際になった。

「ひゃぁあ!?」

「ヒフミ、こっちだ」

 こちらはAR(アサルトライフル)SR(スナイパーライフル)が二人ずつ、あちらはARが二人にSRとMG(マシンガン)が一人ずつ。開幕早々、たったひとつのMG…美食研究会の獅子(しし)(どう)イズミが持つそれが火を噴いた。安全第一の方針でなるべく物陰に隠れるよう指示していたけれど、見つけるのに手間取ったらしいヒフミがまともに浴びてしまった。近くにいたアズサが自分のところに引っ張り込みつつ、自身は身を晒して応戦し始める。

「大丈夫かい?」

「は、はい!ちょっとびっくりしましたけど!」

 念のため個別で通信をかけたけど、それほど問題はないようですぐ立ち上がって応戦を始めていた。

 

「あうっ…!?」

 ここで向こうの赤髪の生徒、(あか)()ジュンコが狙撃を受けて倒れた。弾道からして狙撃の主は…コハル。そもそも正義実現委員会という治安部隊に所属する(していた)ハスミとコハルは慣れている様子。…コハルについて少しだけ不安はあったけど、こういうところは本当にエリートらしい。

「よっしまずは一人…ヒフミ、ちょっと待ってて!」

「ポジションを移動する」

 そんなコハルはヒフミの近くへ移動、意識を向けさせるためかアズサも移動。コハルは前線に出ながらヒーラーとしても動けるという。素早くカバンを開けて、中から

「えぇっと、あれ!?

 うん、見なかったことにしよう。左から「あらあら♡」と聞こえたのもさておき…アズサは遮蔽物を巧みに利用しながら主にイズミを牽制、ハスミは黒舘(くろだて)ハルナ…黒い帽子の生徒とSR同士の撃ち合いになっている…っ!

 

「先生」

 ヒフミとコハルを狙う榴弾(グレネード)。すぐさま二人に伝えるが早いか、ハリカの声とともにスーツの右の裾が軽く引っ張られた。これはハリカが介入する合図。目線を上げれば榴弾の放物線が見えない何かにぶつかったように折れ曲がるところで、シッテムの箱の画面に出た着弾予測も、まったく違う無人の地点に書き換わった。

「ありがとう」

「いえ」

 礼を言えばそっけなく返されてしまった。「礼はあとにしてください!」とよく言われているけれど、人智を超える"魔法"をただで借りるのはやっぱり申し訳なく感じて、このやり取りはすっかりお馴染みになった。

 戦場では素早く体勢を立て直したヒフミとコハルに、榴弾の主である金髪の生徒…鰐渕(わにぶち)アカリが倒されたところ。残るは二人…だけど、どちらもまだ余裕がありそうだ。イズミの方はさっきから間食が多いのが気になるけど…リアルタイムで回復してるのか?

 

「…そうだ、ヒフミ」

「へ?…あ、わっ忘れるところでした、ごめんなさい!」

 謝ることないよ、の一言は届いたかどうか。ヒフミは先程のコハルと同じようにカバンを開けて中を探りだした。ここまでの道中で共有されていた()()()()()、今がその出番だろう。

「あったっ…ペロロ様、お願いします!」

 まあ、ここまでペロロ様*2だとは思わなかったけど…ヒフミが投げた円盤のようなものから現れたのは、小躍りしながらくるくる回るペロロ様*3。最前線に突如として現れた未知のものに向こうは意識を()かざるを得ない…とてもよくできた(デコイ)戦略だった。

 そうなればあとはもう一転攻勢、さっきまでのお返しをされたイズミが尻もちをついてそのまま倒れる。そして、

「――Vanitas vanitatum」

 アズサの一撃がハルナを仰向けに倒したことで、真夜中の戦闘はここに幕を下ろすこととなった。

 

 

 

「どうやら囲まれてしまったようですね?どうしましょう」

「バラバラに逃げたら生存率上がるんじゃない!?」

「なるほど良いアイデアですね☆では足の速さ次第ですが、弱肉強食ということで!」

「そうですね、運任せになりそうですがそれもスパイスというもの…それでは!」

「うぇえ!?ちょまっ、待って!私だけ置いてかないで~!!」

「小癪な…各自、分かれて追撃を!ここはトリニティ自治区…私たちから逃れることは不可能です!」

 身を起こした美食研究会の面々は、しかし撤退を選んだらしく散り散りに逃げていった。そこに集まってきた正義実現委員会の生徒たちが、ハスミの指示のもと追撃を仕掛けていく。…なんだか見渡す限り衣も油も見当たらないのにゴールドマグロが天ぷらになってるのが見えるけど、気にしないでおこう。

 

「えっと、ひとまずお疲れさま、かな。みんな怪我とかは大丈夫?」

「はい、なんとか…」

 前線から戻ってきたヒフミがふーっと深い息をついた。ようやく緊張が解けてほっとしたらしい。コハルはまだ緊張の面持ちというか、興奮冷めやらぬというか。アズサもいつも通りに見えてそんな感じだ。

「アズサちゃんとか結構被弾してたけど…」

「大丈夫。これくらいは問題ない」

「あ、ハリカもありがとうね」

「いつものことですよ。まあどうも」

 ハリカに改めて礼を言えば、今度はふふ、と笑った。現場ではクールでいたいみたいだけど、嬉しそうなのは隠しきれてない。生真面目で献身的なハリカだけど、こういうところは微笑ましいと思う。

 

 …結局、逃げ出した面々のうち一人は自治区外まで逃げられてしまったそうだけど、三人は5分ほどで捕縛されていた。

「お疲れ様でした。先生、ハリカさん、そして補習授業部の皆さん。お陰様で、事態を無事に収拾することができました」

「あぅ、えっと…途中からはもう、無我夢中という感じでしたが…」

「正義実現委員会の戦術を目の前で見ることができて、良い勉強になった」

「や、役に立てたかどうかは、わかりませんが…」

 慇懃に腰を曲げるハスミに、ヒフミとコハルはすっかりたじたじな様子。あとの二人は平然としてるけど…そのうちのハナコが小さく手を挙げた。

 

「ところで、あの方々はこの後どうなるのですか?」

「本来ならば私たちの方で処遇を決めるのですが…今回は時期が時期ですので、ゲヘナの風紀委員会に託そうかと」

 なるほど。さっきも「トリニティとゲヘナ間の衝突と捉えられるのはまずい」と協力を要請されたわけだし、となると"トリニティの牢獄にゲヘナ生が収監されている図"も好ましくないのだろう。

「そこで、先生にもうひとつお願いがあるのですが」

「うん、何をしたらいい?」

「エデン条約のことを考えると、ここから先も私たちが能動的に動くのは少々避けたいところです。なので、風紀委員会のへの引き渡し…この部分も、先生にお願いできませんでしょうか。この形の方が私たちにとってもゲヘナ側にとっても、政治的な憂慮がだいぶ減るのです」

「わかった。任せて」

「はい…何から何までありがとうございます、先生」

 先程よりも深く頭を下げると、ハスミは正義実現委員会の生徒たちの方へ戻っていった。念のため後方で待機していてくれるらしい。ひとまず美食研究会(+α)の面々と、風紀委員の到着を待つことになった。

 

 

 

【 ⇒ハリカ】

 

「お待たせしました。死体はどこですか?」

「………」

 

【ここまでのあらすじ】補習授業部と夜のお散歩@トリニティ自治区⇒ハスミさんと出くわす⇒ゲヘナの美食研究会が暴れている報せを受け急遽大捕物⇒美食研究会をゲヘナ風紀委員会に引き渡すことになりその到着を待つ⇒見知らぬヤバイ人登場←イマココ

 

「…失礼。死体ではなく負傷者でしたね。たまに混同してしまって。えー…納品リストには、新鮮な負傷者三名と人質一人、と書かれていましたが」

 目の前の真っ白なエプロン、それに真っ白な髪からのぞく黒いツノが目立つ生徒がぺらぺらと資料をめくる。フリーズしてしまっていたけどどうやらゲヘナの人らしい。しかし言い回しでヤバイ人判定が外れない。どう考えても混同していいわけがないし「新鮮な負傷者」とかいうパワーワード初めて聞いたしこの人今「納品」って言った??

「ところであなた方は?正義実現委員会ではないようですが」

「えっと…」

「その二人は連邦捜査部"S.C.H.A.L.E.(シャーレ)"の顧問である先生と、所属生徒のハリカ」

 あまりのファーストインパクトで言葉に詰まった先生&私…そこへ割り込んできた声に目を向ければ、大きな機関銃を背負った白い影。

「ヒナ!」

「久しぶりね先生、ハリカ。いつぶりかしら。ところで、ここで何をしてるの?」

 ゲヘナ学園風紀委員長、ヒナちゃんさんが直々のお出ましだった。…私は半月ぶりくらいかな。

 

「なるほど、このタイミングでお互い政治的な問題にしないために、先生が…」

 美食研究会の赤髪の子*4にけっこうガチめにビビられている傍ら、先生から顛末を説明されたヒナさんは納得した様子。

「確かに、大ごとにしたくないのはこちらも同じ。だからこそ公的には今回、風紀委員会ではなくこっちの『救急医学部』が来てることになってる。私はただの付き添い」

「救急医学部の部長、()(むろ)セナです。以後よろしくお願いいたします」

 こっちの、と説明された(さっきのヤバイ)生徒…セナさんがぺこりと頭を下げた。「死た…いえ、負傷者がいたらいつでもお声掛けください。配送料はいただきませんので」と続けられて心証が元に戻ったけど。なんというか…真面目すぎるタイプの人だろうか。

 ヒナさんいわく救急医学部は政治的な部分ともっとも関わりが薄いから来てもらった、とのこと。まあそれはそうだろう、人命救助がトリアージ以前の部分で片寄るのはいただけない。…それにしても、学校間の交流で「政治」のワードが出てくるのやっぱ慣れないなぁ…。

 

「政治ごっこは風紀委員長にお任せします。私は死体以外に興味ありませんので」

「負傷者、でしょう?それに、本物の死体を見たことはないでしょうに」

 もっとも、セナさんによる衝撃的な宣言で背後に宇宙を広げることになったけど。ヒナさんもそういう問題じゃないと思う…。

「ふふ…ヒナさん、お久しぶりですわね」

「ハルナ、相変わらず…いや、詳しい話は帰ってからで」

「た…助かった…」

「あら、給食部の…今日一日見かけないと思ったらこんなところに?今学園でジュリが…いや、やっぱり説明は帰りながらで…」

「色々と配慮していただいてありがとうございます、先生。今度ゲヘナにいらした際には、何か美味しいものでおもてなし致しますね♪︎」

 忙しそうなヒナさんをよそにハルナさんが話しかけてきていた。でもこの人飲食店爆破するらしいんだよね…先生ともども返答に困っていたら、不機嫌を隠しもしないヒナさんに救急医学部の車両へ押し込まれていた。

「えっと、じゃあまた。気を付けてね…」

 困惑しつつもそう言って、ゲヘナに戻るらしい彼女たちを見送ることにした。

 

 …つもりだったのだけど、発車するかと思われた車両からヒナさんが降りてきた。

「先生、ちょっといい?長くなるかもしれないけれど」

「僕は大丈夫だけど、じゃあ…ハリカ、補習授業部のみんなを送ってくれる?」

「わかりました、それくらいならお安いご用です」

 …顧問は先生なんだけど、話が長くなりそうならしょうがない。今日ははっちゃけたとはいえ試験を控える補習授業部、しかもただでさえ外出制限を破って来てるわけだし。ヒナさんの配慮…なんだろうなぁ。やっぱりあの渾沌(ゲヘナ)の中に居るにしてはいい人だ。だからこそ言い知れぬ苦労人感が抜けないんだろうけど。

 

 

 さて…ハスミ先輩その他に礼を述べておき、6人で来た道を今度は未成年5人で戻り、何事もなくトリニティ別館に戻ることができたあと。先生は各々シャワーと着替えをしている間に戻ってきた。

「なんだか怒涛の一日でしたね…」

 そしてここは補習授業部四人が寝泊まりする部屋。六つ並ぶベッドのひとつに腰かけたヒフミちゃんは疲れた様子でため息混じり。

「そうですね、まさか夜のお散歩がこんなにハードなものになるなんて…」

「うん…でも、楽しかった」

「コハルちゃんはあれからずっと嬉しそうですね?やはり、ハスミさんをしっかり手助けして共闘できたからですか?」

「そ…そうよ、悪い!?ハスミ先輩と一緒に戦えるのなんて初めてだったし…私が役に立てたなんて…嬉しい……!」

 えへへ…と口許が若干だらしないコハルちゃん*5はとても幸せそう。憧れの人に認められる嬉しさってすごいよね。私の憧れはずっと身内だったけど、褒められたときはとても嬉しかった。…私もこんな感じだったんだろうか。コハルちゃんが分かりやすいだけ?

「ふふ、それは何よりです♡あとはハスミさんが願っている通り、落第を免れないといけませんね♡」

「わ…わかってる!大丈夫よ、私はエリートなんだから!」

「はい…私も、頑張らないとです♡」

 意気込むコハルちゃんの横で、ハナコちゃんもいつも通りの笑顔…のように見えて、初日の頃とは違う目付きになっている。何かあったのかな。どこかワケアリっぽかったけど、問題が解消されたとか。

「あはは…ええっと、もう遅いですし、そろそろ寝ましょうか」

「そろそろというかさすがにね…日付変わっちゃってるし。明日朝帰りかな」

甘美な響きですね♡

「ハリカもここで寝るのか?」

「そうだけど、別の部屋行くよ。シャーレの用事でまだちょっと夜更かししちゃうし」

「そ、そうなんですか…えっと、それでは。お疲れさまでした」

「みんな、お疲れさま」

「おやすみなさ~い」

 

 

「ハリカはまだ起きてるの?」

 布団に潜るみんなを尻目に部屋を出て、静かにドアを閉めた。そんなタイミングで、隣に立つ先生が控えめな声量で問うてきた。それに対して私は…とりあえず、廊下の反対側に移動することにした。

「まさか。さすがにそろそろ寝ないと朝帰りもできませんし」

「ああ、そう…だよね、何か、ハリカが無理しないといけないようなことあったかな、って心配になっちゃったけど…」

 …先生の言わんとすることはわかる。嘘はいけないよ、とか(自分のことは棚にあげて)言いそうなタイプだし。だけどなぁ…。

「…別に、ちょっとした方便ですよ。もう(うな)されなくなったわけじゃないですから…今のみんなに心配かけさせるわけにはいかないじゃないですか。…じゃ、先生もちゃんと寝てくださいね。おやすみなさい」

「あ、うん。おやすみ」

 やり取りは手短に済ませ、さっきの向かいの…先生が使う部屋、その隣の部屋のドアの中へ体を滑り込ませた。

「…"魘される"とか、あんまり言いたくないんだけどな…まあ仕方ないか」

 ともかく、明日は二度目の朝帰りtoシャーレだから、さっさと寝てしまおう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ハナコは後方支援のため別枠

*2
シンプルに呼び方が感染っている

*3
シンプルに呼び方がry

*4
ジュンコちゃんというらしい。縛り上げられたまま平然と自己紹介を始めたハルナさんとアカリさん(平然と骨折中)には一緒にドン引きした

*5
前見たヒフミちゃんよりはマシ





・ハリカ
今回のような戦場では先生の横に控えてこんな感じ
エデン条約についてはある程度知ったけど(前回書き忘れてた)、補習授業部の裏についてはまだ何も知らないハリカちゃん(16)

・先生
この視点からの戦闘シーンは初なのでちょっと苦戦した。うまく落とし込めてるかな…
ヒナに色々相談したあと、エデン条約についてゲヘナ側の考えを聞く

・アロナ
たぶん『シッテムの箱』と共に初登場では…?
たまに不思議なことが起こりますね!

・補習授業部
みんなの勝利です!(ヒフミ)
ちなみに見ている実況動画での実際の動きを参考にしていました。ハナコの存在が空気なのも動画の通りですごめんね

・正実、およびハスミ
トリニティの実働部隊、およびその副委員長
シッテムの箱を通しての指揮下に入ったのはハスミのみ
委員長怖すぎわろた(真顔)
ヒナと話してる間もずっと後方待機してた。聞いてはない

・美食研究会
こちらもアカリの榴弾以外はだいたい動画の通り
なお反省はない模様
足が変な方向に曲がっていながら通常運転のアカリが(少なくともゲヘナ側で)一番のホラーだった

・ゴールドマグロ
魔法もお手上げの怪奇現象に調理された。哀れ。

・フウカ
公式不憫枠。※給食部です
なお帰っても不憫延長戦がある模様…

・セナ
初登場のインパクトが強すぎる、真面目にヤバイタイプの救護担当

・ヒナ
prologue、Ep.1から三度目の登場となる風紀委員長
混沌の中の人格者。彼女の株が上がるのに反比例して万魔殿の株は下がっていく
ちなみにゲヘナの中では誰よりもエデン条約に積極的。その理由は…



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博士と甘味

趣味で書くものを増やす+過去作熱が再燃する+オリジナルを挟んで遅くなるやつでした 盛大な自爆で草(真顔)
タイトルにかなり悩むなど



 

 

 第二次特別学力試験まであと2日となった今日、補習授業部は3度目の模擬試験をすることになった。

 そして、結果は…

 

┏━━━━━━━━┓

┃・ハナコ:69点 ┃

┃・アズサ:74点 ┃

┃・コハル:62点 ┃

┃・ヒフミ:77点 ┃

┗━━━━━━━━┛

 

 ―――全員合格!

 

 

「や…やりました…!?」

「ほ、本当!?嘘ついてない!?」

 思わず先生に詰め寄ったら、先生はにこにこ笑顔で採点後の回答用紙を見せてくれた。…こ、こんなに○が並んでる…?これ、夢とかじゃないよね!?

 

「すごいです!アズサちゃん、60点どころか70点を越えてしまいました!本当にすごいです!頑張りましたね…!!」

「…うん!」

 ヒフミは感動のあまりアズサに抱きついていて、アズサもアズサで(あんまり変わんないけど)嬉しそうだった。

「コハルちゃんも、ギリギリでしたがまごうことなき合格です!すごいです!やりましたね!!」

「あは…こ、これが私の実力よ!見たか!」

「はい!これぞ正義実現委員会のエリートです!さすがです!」

 ちょっ…ヒフミが真っ正面から褒めてくれるおかげでにやけるのが止まらない…!ほんとに嬉しいからいっか!

「それにハナコちゃんも…」

「ふふ、運が良かったですね…良い感じの数字です♡」

 …い、良い感じってハナコ、その点数…いやさすがに偶然よね?っていうか前の模擬試験1桁じゃなかった!?何があったの!?

 …まあいっか。おかげではじめての全員合格ができたんだし…ハナコ本人は、感動して泣き出しちゃったヒフミにちょっとおろおろしてた。あんなハナコめったに見れない…これも合格できたからかな。ちょっといい気味。

 

 

 

「それでは!約束通り、モモフレンズグッズの授与式を始めます!」

 …るんるん気分でいたけど、こうなるのを忘れてた。じゃじゃーん!!とノリノリで机の上に並べられたぬいぐるみたちを前に、私は(ちょっと不本意だけど)ハナコといっしょに立ち尽くしてる。アズサは一目散にテーブルへ飛び付いてた。もうなんか怖い。

「さあ!どうぞ!みなさん好きな子を、欲しい子を自由に選んでいいんですよ!!」

「えっと…私は(つつし)んで遠慮しますね?」

「わ、私も…」

「あぅ…そ、そうですか…」

 …うん、ヒフミとうんうん言って悩んでるアズサには悪いけど、ハナコに乗っかって断ろう。よく言ったハナコ、今だけは尊敬する。たぶん次に口を開くまで。

 

「どうしよう…私は、私は………ダメだ、この中から選ぶなんてそんな難しいこと、私には…!」

 …アズサ、めちゃくちゃガチで悩んでる。ほんといつものアズサと違いすぎて混乱するんだけど…これほんとに、初対面でヤバイ問題児だ!って思ったあのアズサよね?

「…む、無理だ…私には…!頼むヒフミ、ヒフミが私の代わりに選んで…!」

「わ、私ですか!?えっと…じゃあ…こちらの、インテリなペロロ博士でどうでしょうか!」

 ヒフミが選んだのは、メガネをかけた………白いぬいぐるみ。それ博士って設定なんだ…インテリがしてていい目つきじゃないと思うんだけど…?

「このペロロ博士は、物知りで勉強もできるという設定なんです!まさに今お勉強を頑張って、すごい成長をしてる真っ最中のアズサちゃんにぴったりかなと!」

 ヒフミ、やっぱりモモフレンズのことになるとものすごく熱が入っ…今「設定」って言った?言うんだ…なんかそういうこと嫌がりそうって思ってたけど。

「なるほど、そうなのか」

「ちょっとだけ勉強しすぎたせいで、少しおかしくなってる…っていう裏設定もあるんですけどね…」

 いややっぱりおかしくなってるんじゃない!!横でハナコがうつむいて…これ笑ってるな!?すっごい声押し殺してるけど!

 

「よかったね、アズサ」

「うん…気に入った。本当に可愛い、好き…えへへ……ありがとう、ヒフミ。これは一生大切にする」

「あ、ありがたいのですが…そこまで言っていただけると、ちょっとびっくりしてしまいますね…。ですが、私も嬉しいです!それは、アズサちゃんがやり遂げたからこそ…ですよ!」

「うん…それでも同時に、友達からもらった初めてのプレゼントだから。これからはこのカバのことをヒフミだと思って大事にする」

「そっ…それはちょっと恥ずかしいです!?それと、ペロロ様はカバではなく鳥でして…!」

「趣味の世界は広いですねぇ…」

 …なんか、すごく気疲れした気がする。困ったように笑うハナコのつぶやきにも反応する気が起きなかった。

 

 

「それじゃあ、あとの子たちはまたの機会に、ですかね」

「いやまたの機会とかないから…」

 ヒフミがテーブルに置きっぱなしになってた他のぬいぐるみをカバンにしまってる。なんかデカいカバンだと思ってたけど…そんなものまで入ってたの…?

「ハリカちゃんが来てたら、ハリカちゃんにも…と思ったんですけど…」

 胴体の長い猫をしまうのに苦戦してたヒフミが、ふと思い出したみたいにそう言った。今ここにはいない、"先生の助手"の先輩。

 ヒフミもアズサも、ハリカ先輩にはすっかりなついてるみたい。同い年だったと思うんだけど…まあ、気持ちはわかる。教え方が分かりやすいし、先輩自身も勉強中だからいつもは持ってこれないらしいけど、あのノートには私も助けられた。…あと、ハナコと違ってまともだし…。

 その一方で、ヒフミの発言を聞いた先生はちょっと気まずそうな顔をした。

「今日のシャーレは忙しいみたいでね…ああそれと、ハリカなんだけど…明日明後日は来られないみたい」

「えっ?そうなんですか?」

「明後日、百鬼夜行のイベントに代わりに行ってもらうことになってて…それ自体はちょっと前から決まってたんだけど、諸事情あって前乗りすることになったみたい」

「そっか、来られないんだ…」

 まあ、忙しいならしょうがない、かぁ………な、何よハナコこっち見て?べっ別に、残念とか思ってないし!?

 

 

 

 

 

【コハル⇒ハリカ】

 

「忙しい…はずなんだけどな…」

 午後、出先のトリニティ自治区。ぽつりとひとりごちた私の目の前には、テーブルに運ばれてきたワッフルプレート。ホイップかムースかの曲線に沿って3枚のワッフルが半分重ねるように並べられ、その上に半分ジャムみたいなイチゴが盛り付けられ、さらにチョコソースもかかっている。わー本格的。

 

「まあいいじゃないですか。確かに用事はありますけどお互い差し迫ってはいませんし、ちょうどお八つ時ですし。むふふ♪︎」

 右隣で微笑んでいるのは、所用でいっしょに出てきたイコイちゃん。ほくほく笑顔で順調に抹茶パフェ食べ進めている。…私はこういうキラキラおしゃれなカフェに全然慣れてないんだけど、トリニティでもひときわ目立つ和装でありながら通常運転なイコイちゃんは本当に強いと思う。

 

「そーそー。焦って仕事を詰め込むのは心身によろしくないよ。たまにはこんなゆったりした時間も楽しまないと」

 そして左隣から投げ掛けられた声の主は、サイドテールにまとめられた淡いピンクの髪と眠たげな目。ついさっき知り合ったばかりの、トリニティ総合学園1年生。

 

「別に、焦ってるわけでは…」

「まあなんにせよ、お店に来たからには出来立てを逃しちゃ損だよー」

 …まあ、それはその通りか。一枚を4分の1に切って口に運ぶと、ワッフルらしからぬふわふわ食感が口の中に展開された。…恥ずかしながら「これが本格派か~」程度の感想しか出てこない…なにぶんワッフルにナイフを使うのすら初めてなものだから、大目に見てほしい。

 

 誰にともなく言い訳をしつつ、騒がしい円卓の向こう側を見た。こちらにもトリニティ1年生が、それも3人いる。

 左の金髪ツインテールの子が()(ばら)()ヨシミちゃん。彼女にウザ絡み(?)されている正面の黒髪猫耳の子が(きょう)(やま)カズサちゃん。右でパフェに夢中な黒髪正統派美少女が栗村(くりむら)アイリちゃん。そして前述した左隣のピンク髪の子が、部長の()(とり)ナツちゃん。…この4人こそ、いつぞやヒフミちゃんの口から聞いた『放課後スイーツ部』なのであった。

 

 

 こうなった経緯そのものはシンプルで…所用を終えてさあシャーレに戻ろうというところで、トリニティ自治区では比較的珍しいという不良生徒たちによる騒ぎが起きているところに出くわした。

 向こう10人前後に対しこちらはたった2人なので、治安組織*1に通報して来てもらえばよかったとは思う。けどイコイちゃんが「ぱぱっと鎮圧しちゃいましょう!」とやる気満々だったから、彼女の作戦*2を実行に移…そうとした。

 したんだけどそこへ放課後スイーツ部の面々が通りかかり、アイリちゃんとヨシミちゃんと、ナツちゃんが持ってた紙箱に流れ弾が命中したのだ。…その、特に後者が逆鱗に触れたようで…私とイコイちゃんが飛び出すまでもなく、不良生徒たちは放課後スイーツ部(主にカズサちゃん)によって、あっという間に鎮圧されてしまった。

 そして、現在。私とイコイちゃんと放課後スイーツ部の6人で、こうしてお茶をしているというわけだ。…いやうん、急展開だと思うだろうけど、私もここの流れはよくわからない。確かなのはナツちゃんとイコイちゃんの波長が合ってこうなった、ってことぐらいだ。

 

「それにしても、まさか噂のシャーレとこうしてお茶することになるなんてね~」

 頬杖をつくヨシミちゃんと目が合った。…噂、とは?ちょっと気になったけど、行動の早いイコイちゃんがすぐさま聞き返していた。

「噂ですか?良い噂だといいんですが」

「だいじょぶだいじょぶ、良い噂だよ!学校ひとつ救った~とかあったし」

「八面六臂の大活躍!だったかな?ニュースサイトとかでよく見るよねー」

「そんな大層な書かれ方してるの…?」

 確かにあらゆる案件に真摯に取り組んではいるけれど、そこまで言われるとちょっと…なんか気恥ずかしいな。私の腰が引けてるだけなのか、どうなのか…。

 

「八面六臂ってリアルに考えると結構気持ち悪いですよね」

「イコイちゃん?」

「失礼、気が散りました。ちょっと大仰すぎる気もしますけど…それだけ期待されてるなら、これからも精進していかないとですね。むふふ」

「そうだね…」

 何気なく窓の外を見れば、とても平和な町並み。シャーレはお悩み相談室に近い所があるけど、回り回ってこの平穏に繋がってると考えれば、なかなか悪くないよね。まあどこもかしこもここトリニティ自治区ほど平穏なわけではないけど…。

 

 

「あ~そういえば私、補習授業部のほうにも顔出さなきゃなんだけどな…」

「ん?補習授業部って?」

 …今日は()し崩し的にこうなってるとはいえ。これまで暇さえあればあの合宿所()に顔を出していて、今日も当初はそのつもりだった。…明日明後日は来られないこと。先生が伝えてるだろうけど、ちゃんと自分の口からも伝えないと…それで口を衝いて出たけど、隣のナツちゃんはきょとんとしている。

「えっ?トリニティ、だけど…補習対象者を集めて所属させてるやつ…あれ、意外と知られてない?」

「ほう…うちの学校にそんなものが……まー現状私たちには縁がないし、そもそもトリニティに部活はたくさんあるから、何か増えても特に気にならないかな」

「なるほどさすが、キヴォトス三大マンモス校の一角は格が違うのです」

「それに第一、私たち放課後スイーツ部は日々全力投球でロマンを追い求めてるからねー」

「ロマンとかなんとか言ってんのはナツだけだけどね…」

 

 結局のところ、スイーツを堪能しながらわいわい過ごす時間になった。トリニティ別館にも行きたいとは思うし、ほんとはワッフル3枚くらいすぐに片付くけど…もう少しこの雰囲気に浸っていたくなってしまって。

 …当初は直球な名前に驚いたりもしたけれど…なんかいいな、放課後スイーツ部。今まで会った部活の中では一番女子高生してる感じがある。なんならアイリちゃんとかカズサちゃんみたいな子、実際にうちの学年にもいた気がするし…。

「ハリカちゃん?どうかしましたか?」

「ん?あぁごめん、考えごと」

「明日からの予定のことでしょうか?」

「んーちょっと違ったけど…まあ、明日明後日もよろしくね、イコイちゃん」

「むふ、当然なのです。同僚ですし、お友達ですから」

 

 

 

 

 

*1
正義実現委員会

*2
榴弾で攪乱し、その隙を突く






・コハル
語り手チャレンジ初出場でした。難しい
モモフレンズ凄い顔で見てて笑う

・ヒフミ
授与式でハイテンション
「設定」とか普通に言うんだな…は実際思ったやつ
趣味でカバンが重たい系女子

・アズサ
授与式でハイテンション(通常比)
屈託のない笑顔に撃ち抜かれる先生が多発してるとかしてないとか。無理もない

・ハナコ
狙い通りの点数を叩き出した(確信)、安定の変態
モモフレ絡みだと困惑する側に回る

・先生
@トリニティ別館
…彼女たちの頑張りが報われるよう、最善を尽くす大人

・ハリカ
第二次特別学力試験には不在予定。(不忍の心ではないです。念の為)
この後ちゃんと補習授業部のほうにも顔を出して自分の口から伝えた

・イコイ
早速再登場かましたオリキャラ
第二次特別学力試験の日はハリカと一緒に@百鬼夜行予定
着々と育つ人脈お化け

・放課後スイーツ部
なんか一回出したくなってきたんだ…キャラがつかみきれず苦戦。



というわけで…これは当初から決めてたんですが、イレギュラー不在の第二次学力試験は原作と同じ流れになります よしなに




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補習授業の真実

お待たせしました(展開的に)
色々考えて今回は短め…とか言いつつ次回も短めになったらスマソ


 

【ハリカ】

 

 

「……………………」

 心なしか、コハルちゃんにビビられている気がする。私今どんな顔してるんだろうな…*1まあ、そんなことはどうでもいいか。

「…なるほど。思ってた以上に()()()ますね、トリニティ

「腐っ…!?」

 …百鬼夜行にて、(あし)()(はら)高等学校舞踊研究会というところと合同で行われたイベントを無事に終えて。二日ぶりにトリニティ別館を訪れたところ、コハルちゃんのわめく声が聞こえて、覗いてみたらお通夜みたいな空気*2だった。

 何事かと聞いてみたところ…どうやら、私がいない間にとんでもないことになっていたらしい。

 

 なんでも、第二次特別学力試験前日になって試験範囲・合格ライン・試験会場・開始時刻が急遽とんでもない条件*3に変更され、慌てて急行したところゲヘナ側には全く情報共有がなかった、どころかコハルちゃんの装い*4からトリニティの襲撃と早とちりされ、美食研究会+αに助けられて*5なんとか会場にはたどり着けたものの…会場は温泉開発部に爆破され、回答用紙紛失により不合格になった……とのこと。なんだこの大惨事フィクションでも聞いたことないぞ。やはり事実は小説より奇…。

「…みんなごめん。私やっぱり這ってでも来るべきだった」

「そ、そんな!ハリカちゃんが謝ることじゃ」

「で、ただの補習授業でこんなこと、いくらなんでもおかしいんですが…先生?私に話してないこといっぱいありますよね?

「…う、うん、いや、はい」

「敬語になってる…」

「ハ、ハリカ…?」

まあ大方シャーレの通常業務もあるのに背負わせるわけには~ってところだったんでしょうけど。さあキリキリ吐いてもらいますよ先生?

「お、落ち着いてハリカちゃん…!」

「私たちからも補足しますから…!」

 

 

 

 曰く、ゲヘナ・トリニティ間で結ばれる『エデン条約』を妨害する裏切り者の噂がある。

 曰く、"補習授業部"という名前は建前で、実態はその容疑者を()()する場所である。第三次特別学力試験にも不合格の場合は退学となっており…今回の件から鑑みても、どうやらティーパーティー…主に立案者の桐藤(きりふじ)ナギサは本気で、『トリニティの裏切り者』が見つからない限りはこの四人を退学させる腹積もりでいるらしい。

 

「思ってた数百倍は厄介な案件だった…」

「ハリカちゃん…エデン条約についても、あまりピンと来てない感じでしたよね…」

「だってミレニアムとか百鬼夜行ばっかり行ってたから、知るよしもないし…あぁでもゲヘナの風紀委員会では何回か聞いたかな」

「ハリカちゃん、風紀委員会にはよく訪れるんですか?」

「うんまあ…だからついていけばよかったって思ったんだよ。なんか、はっきり言って残念な人ばっかだし」

「えぇ…」

 コハルちゃんからガチめの呆れ声が出たけど、実際残念な人ばっかなので仕方がない。某ナンバー2(A雨Aコさん)といい某斬り込み隊長(S鏡Iオリさん)といい。

 まあそれはさておくとして…第一次試験と第二次試験とで事態が急変したのはまあ、十中八九ナギサさんとやらの差し金だろうとのこと。

「よく躊躇(ためら)いなくやったよねぇ…ことによっては回答用紙どころか()()()()()するところだったのに…」

「そ、その言い方はちょっと、どうなんでしょうか…」

「ご無事でよかったってことです。申し遅れましたが」

「はは…正直僕も、よく無事だったなって思ってるよ…。えっと…それで、ひとまず僕は、またナギサと話し合いをしたいと思うけど…ハリカはまだ会ったことないよね」

「そうですね…まあついていきますよ。言いたいことはいろいろとありますし」

 

 …しかしその後、ティーパーティーのナギサさんとやらには、どうやっても会うことができなかった。

 

 

 

 

 

 そうして日も暮れて…先生、私、補習授業部一同はトリニティ別館に戻ってきていた。

「なんだかんだで戻ってくることになっちゃいましたね…」

「もうお別れかと思って出たのに、すぐこうなるなんて…やっぱり、人生はわからないものだ」

「感傷に浸ってる場合じゃないでしょこれからどうするの!?っていうか、本当にティーパーティーの偉い方たちが私たちを退学させようとしてるなら、どうしようもないじゃん!知恵を寄せ合ったところで何したって無駄なんじゃないの!?」

「一応、一週間後にある第三次学力試験が最後のチャンスではありますが…」

「まあまず間違いなく妨害は入るだろうね…それもたぶん昨日とは比べ物にならないやつが」

「あうぅ…」

 忌憚のない意見を申し上げれば、ヒフミちゃんは縮こまってしまった。まあ第二次試験の会場は温泉の湧出を期待して爆破されてしまったそうなので*6、さすがにまたしても@ゲヘナなんてことはないだろうけども……ほんと、ただの補習授業だって思ってた間のなんと楽だったことか。

 

「そもそもどうしてこんなことになってるのよ!なんで退学にならなきゃいけないわけ!?『トリニティの裏切り者』とか意味わかんない!どうして私たちが疑われなきゃいけないのよ!?…もし退学になんかなったら…正義実現委員会には、もう……

 コハルちゃんはとうとう泣いちゃったし…うん、その正義実現委員会の真っ黒制服ずっと着てるもんね。

「…ごめん。僕がナギサにああ言ったせいで」

「いいえ。"私は私のやり方で対処する"…お話を聞く限り、先生は私たちのために言ってくださったのでしょう?むしろ感謝すべきことです。…もし私が居合わせていたら、あの()()()()にはもっと酷いことをしていたかもしれません」

 …ハナコちゃんはこの状況でもしっかりしてる。ハスミさんが荒ぶった話のときもそうだったけど、秀才だからか気配りも早い……というかあの、その"猫ちゃん"ってナギサさんのことだったりする?仮にも先輩なのでは…?*7

 ただ…そうは言っても、立ちはだかる現実は非情なもので。

 

「しかし…この一週間で、90点以上をとれるようになれだなんて…」

「そうですね…それに、これ以上ナギサさんが良からぬことをしないよう見張る必要もありますし…」

「無理、絶対無理よ…ここまですっごい頑張ったのに、これ以上なんて…!頑張ったもん…でもこれ以上、私にはもう無理ぃ…!

 …合格ライン90点。見たことないぞこんなの、どこのスパルタ学習塾…にも存在しないかもしれない。何回見ても絶望的な数字だ…そんなの私だって銃の設問がなくても厳しい。この中でできそうなのは、実績があるハナコちゃんだけか…実際、コハルちゃんはもう心が折れてしまったらしい。

 それで、私は……端末を起動、モモトークを開いて………まあ、こんな感じかな。

「…決めました。私もここに滞在します」

「えっ!?」

「…ハリカ、」

「大丈夫です。人が増えた分負担は少ないですし、特にイコイちゃんが有能なので。近くの案件だったら引き受けるつもりですし…そもそも私は"特別部員"なんて肩書きが立派なだけで、ただのいち部員に過ぎないでしょう?」

 心配そうな、そして申し訳なさそうな先生をそう制しておく。活動の中心になる場所を変えて、ここに関わる時間を増やすだけ。広い目で見れば私がやることはさほど変わらない。…シャーレビルのほうは、主に私よりキャリアが長い4人に任せる形になるけど。

 そう、さっき開いたのはシャーレ部員のグループトーク。驚かれたはしたけど、その程度で済んだ。なにせ先生の身に起きたことも録音して突っ込んでおいたので。一部が殺気立ってるみたいに見えたけどまあ問題ないだろう。

 

「っと、とりあえず今日はもう休みませんか?何か、何かしらきっと方法はあると思います…いえ、あるはずです!頑張って見つけます!それに先生もハリカちゃんも、手伝ってくれますし…」

「ヒフミちゃんもきちんと休むんだよ?」

「ええ、ハリカちゃんの言う通りです。ヒフミちゃん、ここまでずっと無理されてましたし」

「で、ですが今頑張らないと…」

「私も一緒に考えますから。コハルちゃんの勉強も、ヒフミちゃんのことも手伝います」

「苦しい状況こそ、仲間との協力が不可欠…そういうものでしょ?これからは私もいるから、たくさん頼ってくれていいよ」

 思い返せば、アビドスの件もゲーム開発部の件も協力が欠かせなかった。それこそ昨日の百鬼夜行のイベントだってそうか。主にイズナちゃんの機動力とイコイちゃんの人脈が火を吹いていた。葦之原のほうの治安組織までしれっと出てきたときはもう驚いたよね…。

 そして今回…ほんっとつくづく未成年が直面していい逆境じゃないと思うんだけど…力を合わせて模索する。やることは変わらない。…まあ正直、知らなかったとはいえ今まで浅い理解で関わっていたことに申し訳なさを感じているので、そのせめてもの罪滅ぼしみたいなところもあるけども。

「とにかく今日はもう遅いですし、一旦休むとしましょう」

「そう…ですね、はい」

 

 …そんな感じでその日は終わって。

 以前と同じように先生の隣の部屋を借りて、合宿同伴の日々が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
完全に"無"の表情

*2
一部を除く

*3
これまでの3倍90点ゲヘナ自治区深夜3時

*4
正義実現委員会のユニフォームたる漆黒制服

*5
!?

*6
本当

*7
さっき一回呼び捨てにしたことは棚に上げるハリカ





・ハリカ
踏んだり蹴ったりな顛末を知って表情が抜け落ちた
⇒全てを知ってしまった稲梓ハリカさん参戦!!

・ヒフミ
やってること考えると過労気味だからしっかり休むんだよ…

・コハル
ひときわ感情がゆたか
心がポッキリいったけど、みんなに支えられてがんばる

・ハナコ
(下ネタ乱発に目を瞑れば)冷静で便りになる秀才

・アズサ
すっかり存在が空気になってしまった…チャントイルヨ……セリフも一応あるよ………

・先生
配慮で伏せておいた結果、ハリカが怖かった

・ナギサ
株が下がり続けている

・美食研究会+α
強かで物騒すぎる準コメディリリーフ(と作中屈指の不憫枠)。


・【生徒用】シャーレ部員間連絡網
先生が心配になったし、ハリカが決めたことなら…。
ちなみに殺気立ってたのは主に温泉開発部と因縁のあるメンツ。

「流れ星の正体」的タイトル
丁度いいやと思ったので学校名だけフライングするなどした
なお舞踊研の登場予定は未定










【???】

「っ、誰だ!」
「っっ!?すっすみませんあの怪しい者じゃ、いや怪しいと思いますけど…っ、D.U.から来た、」
「稲梓、ハリカ…?」
「へ?なんで知って、ああいやそっかニュースか…じゃなくてあの、ほんと近道になるかなって、たまたま迷い込んだだけで!」
「…本当か?」
「はい、ほんとに…お騒がせしました。…ところで、その…」
「っ…何だ」
「大丈夫、ですか…?すごく、傷だらけですけど…」
「…心配される義理はない。これくらい、いつものことだ」
「そ…うですか…ずっと平和な街だと思ってましたけど、やっぱり裏はあるものですね…あぁ、ほんとに失礼しました!私、用事があるのでこれで!」
「分かっ…速いな……」


「…名前は頭に入れておけ、と言われてはいたが……戦闘慣れしている様子ではなかった。なんだったんだ…?」



「……"大丈夫"、か………」





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こくはく

すまんのう 日付が一気に進むんじゃ
あと他に比べてだいぶ長くなってしまった

これを越えられるタイトルは浮かばぬ…



 

 

 トリニティ総合学園の別館…と称しつつアビドスとそう変わらない規模のこの校舎にて、補習授業部の面々と先生と寝食を共にし、勉強を教える日々は…あっという間に過ぎていった。

 私は一応シャーレとしての業務も最低限続けていて、久々にハスミさんと任務を共にしたり、放課後スイーツ部と再会したり…あと、近道に入った路地裏でボロボロの人と出くわしたりしていたけど。あれ以来一度も会っていないけれど、たぶんそういう立場の人なのだろうと思う。…服装がラフなのがちょっと気になったけど、仕事に真摯そうな人だった。

 

 そしてそんな日々の中で、補習授業部のみんなの成績は驚くほどにぐんぐん伸びていった。通算5回目の模擬試験ではついに全員が90点以上*1をとった。最新の6回目は本当に惜しかった*2けど、もうみんなの顔から絶望の色は薄れている。

 …それにしても、ハナコちゃんが息するように100点取っていくのが凄かったな。これがハナコちゃんの本気か…ともはや畏怖のような感覚すら覚えては、口を開けばお察しの通りなので認識がもとに戻るを繰り返してたけど。

 

 

 

 

 

 …そして、今。

「ついに明日、ですね…」

「はい…」

「…」

「だ、大丈夫よね?また急に色々変わったりしないよね?」

「はい、今のところは…」

「そうですね。試験範囲は前回の通り、合格ラインも変わらず90点。会場はトリニティ第19分館第32教室。本館からは離れてますが、そう遠くはありません。時間も午前9時からで、第一次試験とは変わっていませんね」

 第三次特別学力試験は、いよいよ明日。…ちょっと不安だったもろもろの条件は、現状特別変わっていることはないらしい。一応ひと安心した。これで合格ライン100点とかになってたら、トリニティには失望してもう二度と足を踏み入れなくなるところだ。

 …ただ、ハナコちゃんの表情は晴れないけれど。

 

「むしろ気になる点といえば、昨日から本館が不自然なほどに静かなことです。人気がピタッとなくなってしまったようで…念のため今晩も、私のほうで掲示板を見ておきますね」

「ハナコちゃんも寝たほうが…」

「ふふ、私は大丈夫です。…それに、私にはこれくらいしかできませんし」

「そ、そんなことありません!ハナコちゃんがすごく丁寧に勉強を教えてくれたおかげで、私もアズサちゃんもコハルちゃんも、すっごく成績が上がって…!」

「それは、皆さんが頑張ったからですよ。何日もろくに睡眠がとれなかったのに、頑張ったと思います」

「…きっと、大丈夫だよ」

「月並みなことかもしれないけど…積み重ねた努力は必ず結果に繋がってくれるからね」

 ともあれ今この状況で、私にできるのはみんなの自己肯定感を上げてパフォーマンスを向上させるくらいだろう。

 助っ人…少なくとも教師役としての出番は終わった。みんな充分モノにした。ハナコちゃんには、むしろ私が教えられたか。つよい。…そんなハナコちゃんは、どこかしんみりしてるけど。

 

「…はい。それでも90点はギリギリですけど…明日の試験問題が簡単なら、きっと…」

「ぅ…そ、そんな都合のいいことあるわけない!私、まだまだ深夜まで勉強するから…100点!100点取れれば、誰も文句なんか言えないでしょ!?」

「コ、コハルちゃん…気持ちはわかりますが、今日はもうゆっくり休んだほうが…」

「そうですよ、コハルちゃんが頑張ったのはみんなが知ってます。大丈夫です。今日はもう休んで、明日に備えたほうがいいと思いますよ」

「休むことも戦略のうちだ」

「はい。そしてそれは、アズサちゃんも同じですよ?」

「…うん、今日くらいはゆっくり休もうと思う」

 コハルちゃんは張り切ってるけど、休息は必要だからね…そしてアズサちゃんもしっかり釘を刺されてるな。

「…いよいよ明日、私たちの運命が決まります…」

「…もし…いや、縁起の悪いことはやめておこう。必ず合格する」

「わ、私も!絶対負けないんだから!」

「そ、そうですね…泣いても笑ってもあと一回です。頑張りましょう!」

「はい。ここまでしっかり頑張ってきたのですから、あとは最後まで最善を尽くすだけです」

「みんな、今までの頑張りを信じよう。きっと大丈夫!」

 気合いを入れるみたいに、励まし合うみたいにそう言い合ったあと、解散、各自明日に備えて寝ることになった。

 

 

 

 …なったのだけれど。

「集合してますね…」

「あ、ハリカまで…」

 隣の先生の部屋からしきりに物音。廊下に出てみれば薄く開いた扉から光が漏れていて、覗いてみればアズサちゃん以外の三人が揃い踏みしていた。照れ気味なヒフミちゃん、呆れ気味なコハルちゃんと…一人だけ、真剣な顔のハナコちゃん。そんなハナコちゃんが、まっすぐこっちに向き直ってきた。

「ちょうどよかったです、ハリカちゃんにも共有しておくべきでしょうし」

「え、何…?」

「実は先ほど、シスターフッドの方々に少し会ってきたんです色々と調べたいことがあって…明日私たちが試験を受ける予定の、第19分館についてなのですが」

 ハナコちゃんはこんな時間に出掛けていたらしい。道理で一人だけパジャマじゃないのか…そして、()()()()()()()()悪い予感を察知―――

 

「…ま、まさかまた、場所が変わる…?」

「いえ、そうではないのですが…そこにはこの後、かなりの人数の正義実現委員が派遣され、建物全体を()()する…とのことです」

「隔離…?どういうこと?」

「…『エデン条約に必要な重要書類を保護する』という名目でティーパーティーからの要請があり、建物全体を正義実現委員会として守る厳戒態勢に入ったとか…それから、どうやら本館の方にも戒厳令が出ているようです。昨日から変に静かだったのは、このせいみたいですね」

「かいげんれい…戒厳令??」

 戒厳令って…確か、行政権も司法権も軍に委譲されるとか、だっけ?おかしい、唐突に日常生活…少なくともこんな学園都市でまず聞かない単語が出てきて、全くわけが……いや、わからなくはないか………

「そ、それって…」

「…恐らく、誰一人あの建物への出入りは許されません。エデン条約が締結されるまで、ずっと」

「ま、待って!?じゃあ私たちの試験はどうなるの!?」

「…"()()()()()()()()()()()()"ってことじゃない」

 喉の奥から、自分でも驚くほど低い声が出た…いけない、落ち着かないと。ヒフミちゃんが怖がってるじゃないか。

 

「そ、そんなっ…じゃあ、私がハスミ先輩に事情を説明して…!」

「…難しいと思います。ハスミさんに裏側の事情は知らされていないでしょうし、仮にハスミさんが私たちを助けたらそれはティーパーティーに対する離反と同義…ハスミさんも、正義実現委員会を追放されるのではないでしょうか」

「う、うぅ……」

「まったく…どうやらナギサさんは本当に、私たちを退学にさせたいようですね」

「あうぅ…どうして、そこまで……」

 …おかしいなぁ。あんなに治安の悪い無法地帯と化してるゲヘナ自治区がむしろ恋しくなってくるなんて。私もずいぶんキヴォトスに染まってきたってことか…

 なんて思っていたら、背後で部屋のドアが開く音がして。

「…私のせいだ」

 振り向けば、部屋に入ってきたアズサちゃんが後ろ手にドアを閉めて、ぽつりと呟いた。

「アズサちゃん?」

「みんな、聞いて。話したいことがある」

 …うつむいて目元が見えないまま、アズサちゃんは…

 

「…みんなにずっと、隠していたことがあった…でも、ここまで来たらもう、これ以上隠しておけない……………ティーパーティーのナギサが探している『トリニティの裏切り者』は、私だ

「…え?」

「きゅ、急に何の話…?」

 ヒフミちゃんとコハルちゃんは、呆気にとられた様子。たぶん、アズサちゃんがナギサさんを呼び捨てにしたことも含めて。…正直、私もそっち側……ハナコちゃんと先生は、何も言わない。アズサちゃんはうつむいたまま、続ける。

「私はもともと、アリウス分校出身…今は書類上の身分を偽って、トリニティに潜入している」

「あ…アリウス?潜入?」

「な、何それ?ありうす…?」

 唐突に出てきた知らない単語に戸惑いを隠せない私たちに対して、ハナコちゃんは少し目を(みは)った程度。…あと、先生は不自然なくらい落ち着いてる。もっと知ってるなら私にくらい共有してくださいよ…!

「アリウス分校…かつてトリニティの連合に反対した、分派の学校です。その反発のせいでトラブルになり、今ではキヴォトスのどこかに身を潜め、ひっそりと過ごしている、と言われていますが…」

「そう。私はここに来るまで、ずっとアリウスの自治区にいた。アリウスとしての任務を受けて、今はこうしてトリニティに潜入している」

 ハナコちゃんの説明に、アズサちゃんはすぐに肯定を示した。…そういえば気になっていた。アズサちゃんの学習進度。学年ひとつ分遅れるなんていくらなんでも異常なんじゃ、と思っていたけど…()()……要するに、C&Cのカリンちゃんの、あのもっとひどい状態ってことだろうか…?

 

「…任務、ですか?」

「…ティーパーティーの桐藤ナギサ、彼女のヘイローを破壊する。それが、私の任務だ」

「「っ!?」…う、嘘でしょ!?それって、つまり…っ」

 ヘイローを破壊する…相変わらず仕組みはとんと見当がつかないけど、破壊のニュアンスからもそれが示すところは自ずとわかる。アズサちゃんの任務は、()()どっかのスピンオフみたいなこと言うじゃん…。

「アリウスは…ティーパーティーを消すためなら、何でもやる覚悟でいる。まず初めにティーパーティーのメンバーであるミカを騙して、私をこの学校に入れた。たぶんトリニティと和解したいとか、そういう嘘をついたんだと思う」

「なるほど、ミカさんを…確かに彼女は政治に向いていないと言われていましたが。おそらく全てが終わったら、罪はまとめてミカさんに着せる…そういう流れを想定しているのでしょう。…アリウスはトリニティを憎んでいるであろう、とは知っていましたが…」

「ま、待って?急になんの話?いや別に嘘だとは思わないけど…それって、今の私たちと関係あるの?…あ、アリウス?のことはよくわからないけど、それが私たち補習授業部とどういう関係があるわけ?…アズサはなんで急に、そんな話してるの?」

 落ち着け私取り乱すようなことじゃない…なんて思っていたら、フリーズしていたコハルちゃんが再起動した。確かに、明朝に試験を控えたこの状況にはあまりにも唐突なカミングアウトだけれど…試験のあとのことを見据えて、とか?

 …アズサちゃんが打ち明けたのは、そんな予想を上回る衝撃の事実だった。

「…明日の朝。アリウスの生徒たちが、ナギサを狙ってトリニティに潜入する」

「っ!?」

「私は、ナギサを守らなきゃいけない」

「っ、え、あ、明日!?」

「うん。私はそれを、どうにか阻止しないと」

 

 

 

【✳⇒ 】

 

 補習授業部、第三次特別学力試験前日…いや、日付はもう変わってるかな…そんな状況でアズサが明かしたのは、アリウス分校から潜入したスパイであるという自分の身の上と、明日…いや今日、アリウスがナギサを襲撃する計画だった。

 …前者はミカから明かされていたけれど。後者は当然初耳で、しかも…

「本館には戒厳令、それでいて最後の試験でのナギサさんの無茶もあって、本館には正義実現委員会が不在…」

「…状況が、出来上がってる…」

「ええ、要人襲撃には最適の日ですね…アリウスも頭は回るようです」

 …そう。ここの治安部隊たる正義実現委員会は試験会場のほうに行く。トリニティには自警団もあるけど、戒厳令のもとで動けるほどの権限はないだろう。だからナギサは完全に丸腰…襲撃ができる状況が、仕上がってしまっている。

 

「えっで、でも、待って?よくわかんないけど…アズサは、ティーパーティをやっつけに来たんでしょ?なのに、守るってどういうこと?」

「それは…」

 そこで、コハルがはっとした表情でアズサに詰め寄った…確かに、さっきアズサははっきり「ナギサを守らなきゃいけない」と言った。詰め寄られたアズサは言い淀む様子で……答えは、違う方向から飛んできた。

「アズサちゃんは、初めからその目的でトリニティに来た。そういうことですね?」

「え…?」

「っ…!」

「ナギサさんを守るために、敢えてナギサさんを襲撃する任務に参加した。言わば、二重スパイ」

 …どこか確信を持った口調で話すハナコ。対するアズサは、虚を突かれたような顔から…ゆっくり目を伏せた。ハナコの言う通りらしい。アズサはどこまでもまっすぐで、だから否定はちゃんと口にするだろうから。

「どうしてナギサさんを守ろうとするんですか?それは、誰の命令で?」

「…これは、誰かに命令されたわけじゃない。私個人の判断だ。…桐藤ナギサがいなくなれば、エデン条約も取り潰しになる。あの平和条約がなくなればこの先、キヴォトスの混乱はさらに深まる……その時また、アリウスのような学園が生まれないとは思えない」

「…だから、平和のために…ということですか?とっても甘くて、夢のような話ですね。今回の条約の名前と同じくらい、虚しい響きです」

 

 アズサが隠していた意思…アズサはアリウスの一生徒でありながら、エデン条約を守るために動いていた。

 …ミカは、そういえば何と言っていたか…アズサは『何も知らないまま、複雑な政治争いの真っ只中に立つことになっ』たと言っていたか。違ったんだ。どうやら、ミカも知らなかったらしい。

 呆気にとられる僕らをよそに、ハナコが言葉を紡ぐ。…その声音には、ハナコにしては珍しく怒気がこもっているように聞こえた。

「…アズサちゃんは嘘つきで、裏切り者だった。トリニティでは本当の姿を隠し、アリウスでも本音を隠していた。アズサちゃんの周囲には、アズサちゃんに騙された人しかいなかった。ずっと周りの全てを騙していた……そういうことで合ってますか?」

「ハ、ハナコちゃん…」

「…いつか言った通りだ。私はみんなのことも、みんなの信頼も…みんなの心も、裏切ってしまうことになる……だから、彼女が探している『トリニティの裏切り者』は、私。私のせいで補習授業部は、こんな窮地に陥っている………本当にごめん。私のことを恨んでほしい。この状況は、私がもたらしたものだから」

 初めて見る、ハナコの鋭い目つき。それをアズサは正面から受け止めて、苦しげな顔で懺悔を紡ぐ。…僕はどうしても、黙って見ていられなくて。

 

「…それは違うよ」

「先生…?」

「本当の原因は、()()()()()()()()()()だと思う」

 ちらりと所在なさげなハリカを見やる。…僕は生徒たちを、子供たちを信じて動く。それは信頼を得るための第一歩だし、良好な関係を築くための第一歩でもあるけど…ハリカの場合はちょっと違ったというか、逆向きだった気がする。ハリカが僕に全幅の信頼を置いてることがわかるから、僕もハリカを信頼できる。

 もちろん僕やハリカのようにとまでは言わないけれど…疑心暗鬼の暗闇に陥る前に、ナギサがもっとみんなを信じていれば。思惑を深読みする前に、ミカがもっとナギサを信じていれば。…互いが互いを深く信じられていたら、きっとこんなことにはならなかった。

 

「…そう、ですね。そうかもしれません。…今のナギサさんのように、誰も信じられなくなった人を変えることは難しいです。人を信じるということは、元々難しいですし……ですが、アズサちゃんは私たちにこうして本心を語ってくれました。黙り続けることもできたはずなのに、謝ってくれました。……ごめんなさい、先ほどのはなんと言いますか、どうしても意地悪したくなってしまったんです。アズサちゃんのまっすぐな顔を見ていると、なんだか心が落ち着かなくなってしまって」

 ハナコの落ち着いた声音が戻ってきた。あんなに眼光鋭くしていた目つきも、普段通り柔和なものになっている。みんな思い思いに口を閉ざす中、ハナコはふっと微笑んだ。

「…補習授業部はちょっと変わった意味で、ある種の舞台のように注目を浴びる存在として生まれました。本来ならアズサちゃんのような『スパイ』は、このような注目される場所に長くいてはいけないはずです。誰にも気づかれずに消える…そんな手段やタイミングは、いくらでもあったはず。」

「…」

「ですがアズサちゃんは、そうしませんでした。その理由を、私は知っています」

 

「…補習授業部での時間が、あまりにも楽しかったから。そうではありませんか?」

 みんなで一緒に勉強したり、ご飯を食べたり、お洗濯をしたりお掃除をしたり。何をしても楽しいことばかりだったから。みんなと目標に向かって努力すること、みんなと知らなかったことを学んでいくことが楽しかったから。

 そう言われて、アズサは少しうろたえていたけど…目を閉じると、ふぅと息をついた。

「…うん…そうかもしれないな………何かを学ぶということ、誰かと何かをするということ…その楽しい時間を、私は手放せなかった……まだまだ知りたいことがたくさんある。海とか、お祭りとか遊園地とか、行きたいところも知りたいことも、まだまだたくさんあって…」

「アズサちゃん…」

 アズサの口から、アズサの思いが堰を切ったようにあふれ出す。それらを受け止める僕らの中で、ハナコはふふ、と微笑んでいた。

 

「なんだか知ったような口を利いてしまいましたが…わかるんです、その気持ち。なにせ…はい。同じように思っていた人が、いたんです。…やけに要領がよくて、何をしても周りからおだてられてしまうようなタイプで……その人にとって、トリニティ総合学園は…嘘と偽りで飾り立てられ、欺瞞に満ちた空間でした。誰にも本心を打ち明けられず、誰にも本当の姿を見せることができないまま…その人は、学校を辞めようとしていました。そんな生活は、監獄にいるも同然でしたから」

 ハナコが語る"誰か"の話…なんとなく誰のことなのかわかった気がするけれど、無粋だから何も言わないでおく。ちょっと申し訳なさそうな顔のハリカも気づいてるんだろうな…自覚はなさそうだけど、洞察力の高さが取り柄だから。

 

「ですが、その人とアズサちゃんは違いました。一瞬話が変わりますけど、アズサちゃんは実際に今回のことが終わったら…この学校での生活は、終わってしまうんですよね?そもそも書類を偽装して入っていたわけですし、アリウスのことも裏切ってしまうのだとしたら、最終的には帰る場所も戻る場所も無い…ということですよね?」

「あっ…」

 思わず全員の目がアズサに集まる。そういえば確かに、その先はどうなるのだろう?ハリカという前例があるから、シャーレで預かることはできるけれど…。ただ、それは本題ではないらしいハナコの話は続く。

「それを知っていたはずなのに、アズサちゃんは補習授業部で、いつも一生懸命でした。その人は試験を台無しにして、学園から逃げようとしていたというのに…一方のアズサちゃんは、短い学園生活に全力でした。どうしてそこまでするのでしょう?そこに何の意味があるのでしょう…アズサちゃんがいつも口癖のように言っていた通り…"vanitas vanitatum"、『全ては虚しい』はずなのに」

 そういえば…何度か口にしていたけど、そういう意味合いだったのか…。英語のvanish*3とかvanity*4のやつですかね、とハリカが小さく呟くのが聞こえた。

「…ですが同時に、アズサちゃんはその後ろに、いつも言葉を付け加えていましたね。全ては虚しい…でもそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

 …そうだ。アズサはよく「虚しい」という単語を口にしたけど、そこで言葉が終わったことはなかった。諦める理由にはならないとか、抵抗をやめるべきじゃないとか。そんな言葉が続いていて、アズサは強い子だなと思ったものだ。

 

「…そうして、ようやくその人も気づくことができました。学園生活の楽しさに……下着姿でプール掃除をしたり、水着で夜の散歩をしたり、裸で色々なことを打ち明け合ったり♡…自分をさらけ出せる人たちに、そういったよくあることを戦力でするということが、こんなに楽しいんだと」

「うん…いや、裸ではなかったけど」

「さ、散歩も水着ではありませんでしたよ…!?」

「全体的によくあるの枠超えてない??」

「えっやっぱりあれ下着だったの!?」

「っ、ははは…」

 …あぁ、やっぱりハナコだった。話の中の"誰か"も、急にこういうこと言い出すのも。かなり強引な手段ではあるけど、おかげで緊張していた空気はあっさり霧散してしまった。

「ふふ♡…アズサちゃんの言っていた通りです。虚しいことだとしても、最後まで抵抗をやめるべきではありませんね?」

「ハナコ…」

「アズサちゃん、もっと学びたいんでしょう?知りたいんでしょう?みんなでいろんなことをやってみたいって、あのとき話したじゃないですか。海に遊びに行くとか、ドリンクバーで粘って夜更かしとか…それを、諦めてしまうんですか?…いいえ、何も諦める必要はありません」

 …いつかの真夜中の散歩を提案する前みたいに、(まなじり)を決した表情でハナコははっきりと言い放つ。

 

「桐藤ナギサさん…彼女をアリウスから守りましょう。そして私たちは私たちで無事に試験を受け、合格するのです。あとからどんな文句も言えないよう、かけておいた罠はそのままに…。それでも試験会場にたどり着き、みんなで90点以上を取って、堂々と合格するのです。それが今の私たちにとって救いとなる、唯一の答えではありませんか?」

「っ……で、でもそんなこと、物理的に不可能なはず…試験は9時から。アリウスの作戦開始もまた、同じ時刻を予定してる」

「ほ、他の方たちに助けを求めるとか…?」

「…それもそうですが……私たちがしっかりと試験に合格するためには、それだけでは足りません。ここは、私たちの方から動きましょう。これまで様々な嘘や策略の中で弄ばれてきましたが、今度は私たちから仕掛ける番です。なにせ今ここには正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます」

「…?」

「へ、偏愛…!?」

「その上、ちょっとしたマスターキーのような『シャーレ』の先生までいるんです。信頼のおける、有能な『シャーレ』部員も一緒です」

「ま、まあ…」

「そ、そんな大袈裟な…」

「この組み合わせなら、きっと…トリニティくらい、半日で転覆させられますよ♡」

「は、はい!?」

「え!?ちょっ、どういうこと!?何をする気!?」

「何をするも何も、試験を受けて合格するだけです♡…作戦内容は一旦、私にお任せください。さあ、今こそ力を合わせる時です。行きましょう!」

「えっと…と、とりあえず頑張ろう!」

 …急にそんな目配せをされても。おかげでなんだか締まりがない号令になってしまった。

 

 

 

 

 

*1
ヒフミ93、アズサ94、コハル90、ハナコ100

*2
ヒフミ89、アズサ92、コハル85、ハナコ100

*3
消滅する

*4
虚栄心・虚無





・ハリカ
まさかゲヘナが恋しくなる日が来るとは…
信頼以前にシャーレという居場所を与えてもらったからには尽くそうという義務感だけどまあ、先生と信頼し合う構図にはなってる

・アズサ
ゲリラ戦の達人
今回の主役①。
抱え込んだ秘密を明かした。ほんと良い子だよ………

・ハナコ
トリニティのほぼ全てに精通した人(自覚あり)
今回の主役②。
全体に能力値が高く、しかしそれゆえに悩みを抱えた子

・ヒフミ
ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人
今回ほぼリアクション役①

・コハル
正義実現委員会のメンバー
今回ほぼリアクション役②

・先生
尽力し見守る大人。マスターキー…何を任されるだろう……
ハリカと互いに信頼し合う図

・ナギサ
疑心暗鬼の暗闇にどっぷり
余談だけど「桐藤」がなかなか一発では変換できなくて困るなどした
さてみなさん きますよ あれが






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火蓋は切られて


各話タイトルを考える能力に低下が見られていますね(他人事)



 

 

【…】

 

 

「…紅茶でしたら、もう結構です。………?」

「可哀相に、眠れないのですね」

「っ!?」

「それもそうですよね、正義実現委員会がほとんど傍にいない状況。不安にもなりますよね、ナギサさん?」

「う、浦和ハナコさん!?あなたがどうして、ここに…!?」

「それはこのセーフハウスをどうして知ったのか、という意味ですか?それはもちろん…すべて把握しているからですよ?合計87個のセーフハウス、そのローテーションまで…ふふ♡」

「っ…!?」

「変則的な運用もおおよそ把握していますよ?例えば…今のように心から不安なときは、この屋根裏部屋に隠れる、ということも♡」

「なっ…「動くな」…!?」

「あぁ、もちろんここまでの間に、護衛の方々には全員眠っていただきました。だからこそこうやって、堂々と来たわけですが」

「…白洲アズサさん、浦和ハナコさん…まさか……!ぅ、『裏切り者』は一人ではなく、二人…!?」

「…ふふ、単純な思考回路ですねぇ♡私もアズサちゃんも、ただの駒にすぎませんのに…指揮官は、別にいますよ♡」

「っ…それは、誰ですか…!」

「そのお話の前に…ナギサさん。ここまでやる必要って、ありましたか?」

「…」

「補習授業部のことです。ナギサさんの心労はよくわかります。ですがこうして、『シャーレ』まで動員して…何もここまでやる必要はなかったのではありませんか?」

「っ…それは……」

「最初から怪しかった私やアズサちゃんはまあ仕方ありません。ですが…ヒフミちゃんとコハルちゃんに対しては、あんまりだと思いませんか?特にヒフミさんは、ナギサさんと仲が良かったじゃないですか。…どうして、こんなことをしてしまったのですか?ヒフミちゃんがどれだけ傷つくのか、考えなかったのですか?」

「…そう、ですね…ヒフミさんには、悪いことをしたかもしれません。ですが、後悔はしていません。全ては大義のため…確かに、彼女との間柄だけは、守れればと思っていましたが…私は……」

「…ふふっ♡では改めて、私たちの指揮官からナギサさんへ、メッセージをお伝えしますね?」

「…メッセージ?」

 

 

「『あはは…えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様との()()()()()()』…とのことです♡」

 

 

 

 

【ハリカ】

 

「目標を確保。至近距離から5.56mm弾を一弾倉分浴びせたから、1時間くらいはこのまま気を失っているはず」

「よ…容赦ない…」

 ハナコちゃんに続いて屋根裏部屋から下りてきたアズサちゃんは、亜麻色の髪の女性を背負っていた。純白のかなり上等そうな制服を着ているこの人がどうやらナギサさんらしい。顔色悪いけど大丈夫?息あるよね?

 

「ふふ♡ではアズサちゃん、ここからは敵の誘導をお願いできますか?」

「了解。これで、まだどこかにいる『本当の裏切り者』に嘘の情報が流れるはず…そのハナコの仮説の通りであれば、アリウスも襲撃を急ぐに違いない」

「はい、私の推測の通りなら…まだはっきりとした証拠はないものの、『本当の裏切り者』については、個人的にはほぼ確信がありますし」

 慎重に近辺の様子を(うかが)いながら、"セーフハウス"であるらしい建物を抜け出す。

 私たちは今、冴え渡るハナコちゃんの頭脳が組み上げた作戦に沿って動いている。ミレニアムでの『鏡』のクエスト以来の作戦行動……もちろん、ただある目的物を目指して進むあれとは違うけど。

 

「…ところで、さっきの最後のあのセリフ、必要だった?」

「あぁ、あれはヒフミちゃんの頑張りの分、勝手な仕返しといいますか…ちょっとくらいショックを受けてもらおうかと。まあ全て終われば、すぐに誤解は解けるでしょう」

 それにしても、うん。聞こえてたけどハナコちゃん、お茶目な顔で恐ろしいことをする。…いろいろ言いたいことがあったナギサさんだけど、なんか今はもう一周回ってかわいそうだ。今アズサちゃんからハナコちゃんに預けられたナギサさんを見る私は、それはそれは憐憫に満ちた表情をしていることだろう。

 それはさておき。この後は、アズサちゃんが陽動として別行動になる。私はハナコちゃんに付いて、合流地点と定めているところまで移動。できれば戦闘は避けたいところ…そういえばアリウスかそうじゃないかはどう区別すれば?と尋ねたところ、アズサちゃんがたぶん全員がこれと同じものをつけて行動しているだろう、と厳ついガスマスクを取り出したので思わず真顔になった。

 

「ところでアズサちゃん、アリウスの兵力はどれくらいかわかりますか?正確に言うと、一人でどれくらい持つか把握したいのですが」

「詳細はわからない。けど備えはもうずいぶん前からしてきたから、どれ程の相手だったとしてもかなり時間は稼げるはず…このために毎晩、学園の周辺にトラップやら塹壕やらを作っておいたから、そこに誘導しつつゲリラ戦で時間を稼ぐ。じゃあ、一旦ここで。あとでまた、合流地点で会おう」

「はい、また後ほど!」

 

 

 

 程なくして、ほうぼうから爆発音が聞こえてきた。さすが陽動派手にやる。

「…さてと。一応確認だけど、私たちは戦闘を避けるんだよね?」

「そうですね…今はアズサちゃんの時間ですし。私もこうして銃を持ってはいますが、アズサちゃんみたいに強くはありませんので。それに、ハリカちゃんも」

「わかった。まあ万が一があったら時間稼ぎくらいはするよ。そのために来てるんだから」

「…あまり、先生を困らせるようなことしちゃダメですよ?」

「しないよ。大丈夫」

 物音に耳を澄ませつつ、ブレスレットの電源を入れる…大丈夫、『拡散』にはもうだいぶ慣れてきた。まさかこんなに活用しまくることになるとは思わなかったけど。やはりステルスは神…!

 

 

「っ…待ってください、広場に何人かいます」

「…ほんとだ」

「迂回して行きましょう。さすがにここを通り抜けるのは」

「…いや、いける。大丈夫」

「…本当ですか?」

「うん。とりあえず声と足音と、転ばないようにだけ気を付けよう」

「っ…わかりました」

 

 

 

 

 

「あ、ハリカちゃん…!」

「き、来たわね…ってことは…」

 アズサちゃんとの合流予定地でハナコちゃんと別れ、駆け込んだ先…トリニティ別館の体育館にはヒフミちゃんとコハルちゃん。もうすぐ、今回の作戦の正念場。私が来たらその合図。そういうことになっている。ハナコちゃんから預けられたナギサさんは、作戦で決めた通りの場所に…

「…っ!?」

「あ、ハリカ!大丈夫、僕だよ!」

「せ…先生、こんなところに…」

「あとから登場してもらいたいって言われたからね…あと、ハリカも」

「わ、私もですか…」

 要するにあれか。『サプラーイズ!』ってやつか。(ツグミ)がぶちギレてる様子が脳裏に蘇るけど、感傷に浸ってる場合じゃないので今はパス。

「…一応、場所は移しましょう。ナギサさんには安全でいてもらわないと」

 

 

「…なるほど、逃げたのではなく待ち伏せだったと」

 騒がしい足音、そして誰かのくぐもった声。…来た。アズサちゃんが、ゲリラ戦を切り抜けたアリウスを引き連れて。

「…だが、それだけか?たった四人で私たち相手に何分耐えられると思っているんだ?こんな退路もない場所で!」

「…その通り、もう退路はない。お前たちは逃げられない」

「ですねぇ…ひとまず仕上げといきましょうか♡」

「うん…待ってたよ」

 …スッと歩き出す先生。あちらからは影の中から突然出てきたように見えるだろうなぁ。すごくざわついてる。

「ご存じかは知りませんが…補習授業部の担任であり、連邦捜査部『シャーレ』顧問の先生です♡」

殲滅戦を始める。先生、指示を」

「じゃあ補習授業部、行こう!」

 先生の一声で、戦闘の幕が開けた。…いやそれにしてもほんとアズサちゃんが物騒。

 

 

 

 迎撃戦で殲滅戦。いや()()()って言い方は殺意が高すぎて私は嫌だけど。こんなに戈が並ぶことある?

 いやまあそれはよくて…私の立ち回りには毎回悩むんだけど、今回はさすがに相手が相手。しかしあんまり派手なことをするのはどうにも気が引ける。…というわけで中間の、派手になりすぎないくらいの戦闘支援をすることに決めた。

 

「そういうわけなので、ちょっと移動しますね!」

「わかった、よろしくねハリカ!」

 先生から離れて、ちょっと高いところ…壇上に繋がる階段へ。ここに来て久方ぶりのチャック袋が開封された。…え?この弾丸は何って?そりゃもう、ずっと呑気に平和の園だと思ってたトリニティだけどそこはキヴォトスクオリティ。道端に目を向ければたくさん落ちてるわけで…ここまで来る傍ら、なんだか久しぶりな『輻輳点(コンバージェンス)』で拾い集めていたのだ。板や棒みたいに細長い領域にすれば想子(サイオン)消費も抑えられるからね。

 まあ、私のことはいいのだ。眼前の戦場では、今まで聞いたことがないくらい爆音が鳴り響いている。あれは…さしもの私にも違いがわかる、グレネードランチャーというものだろう。ユズちゃんが使ってたやつ。

 

「回復完了。ポジションを移動する」

「よしっ…こ、今度は間違えないんだから…!」

「ペロロ様、出番です!」

「ちゃんと受け止めてくださいね♡」

 みんなも、それぞれに頑張ってる。グレネードを巧みに(かわ)しつつ勇敢に突っ込んでいくアズサちゃんも、身を隠しては手榴弾を投げるコハルちゃんも、カバンからペロ…ペロロ様??…が出てくるヒフミちゃんも…うん、あと先生の横で後方支援のハナコちゃんも。私も、中途半端じゃいられない。起動するのは汎用型(ブレスレットのほう)だけど。

「…やりますか」

 取り出した弾丸を宙に弾き上げる。…若干土がついてるけど大丈夫だろう。威力調整は十分だし!

 

 

 

 

 

「はぁ…か、勝った…?」

「全員、戦闘不能」

「あぅ…先生の指揮があって、本当に助かりました…ハリカちゃんも、ありがとうございます」

「いやいや、みんなの頑張りだよ」

 …だいたい、35分くらい?で、なんとかアリウスを蹴散らすことに成功した。

 いやはや…アビドスの時とは勝手が違ってちょっと大変だった。迎撃戦なのもそうだけど、補習授業部には前衛がいない。アズサちゃんはそういう動きができるけど…たぶんなるべく詰められない方がいいだろうと思った。

 

「はい…では難所をひとつ乗り越えたところで、次のフェーズに移りましょうか。このあとアリウスの増援部隊が到着するでしょう。ですが、私たちは時間を稼ぐだけで大丈夫です。正義実現委員会の部隊がここに到着する、それまでは」

「あ、ハスミ先輩には連絡しておいた!すぐ連絡来るはず!」

「はい、ありがとうございます♡…ティーパーティーの命令下にある正義実現委員会が動けるとしたら、それはティーパーティーの身辺に問題が生じたときだけ。定期連絡などもあるでしょうし、きっと今ごろナギサさんの身に何かあったことには気づいたはず。それに合わせてコハルちゃんからの連絡…少なくとも状況確認のために動き出すまで、そう時間はかからないはずです」

「あとは早く来てくれることを願うばかりだね…っ!?」

 

 …建物が揺れる。それに、外から大勢の足音。見えた姿は…ガスマスク。

「増援部隊が、こんなに早く…!?」

「しかも…いや、ちょっと待って…?」

「数が多い、大隊単位だ。恐らく、アリウスの半数近くが…」

「あうぅ…こ、これだけたくさんの方が、平然とトリニティの敷地内に…!?」

「それなのに、正義実現委員会が動く気配がない…?」

 …おかしい。ここはアビドスじゃない、マンモス校のトリニティだ。しっかりとした治安部隊を持ってる…っていうかそもそも今戒厳令出てるじゃんか何してるの軍部(正実)!?

 ハナコちゃんの眉間に皺が寄る…この子の想定外が起きている?いったい何が…

 

「それは仕方ないよ。だってこの人たちはこれから、トリニティの公的な武力集団になるんだから」

 唐突に飛び込んできた第三者の声。見ればそこには…ピンクの長髪をなびかせ、純白の装束に身を包む少女。…どこかで見たことがあるような…と思った私の隣で、驚いた顔の先生が。

「…()()?」

「や、久しぶり先生!会えて嬉しいな!…それと、正義実現委員会は動かないよ。私が改めて待機命令を出したから」

「っ…!?」

「今日は学園が静かだったよね?正義実現委員会以外にも、邪魔になりそうなものは事前に全部片付けておいたの。ティーパーティーの命令が届く限り、いろんな理由であらゆるところを足止めしておいたから…ナギちゃんを襲うときに、邪魔なんてされたら困っちゃうもんね」

「…ティーパーティーの一人…()(その)、ミカさん…」

「まあ簡単に言うと、黒幕登場☆ってところかな?」

 

 

 

 

 





・ハリカ
ハナコに同行し、一足早く合流ムーブ
現地調達で弾丸をばらまくの冷静に見るとヤバイな…

・ハナコ
冴え渡る頭脳
容赦がない

・アズサ
ド派手にやる陽動
容赦がない……どころか知らない可能性がある

・ヒフミ
~勝手に爆弾発言を捏造される自称平凡な子の図~
戦場で踊るペロロ様は何度見てもシュール

・コハル
まだよくわかんないことだらけだけど全力で頑張る
お願いペロロ様!のインパクトが強すぎて霞むけど、この子の手榴弾の効果凄いな

・ナギサ
嬉しくない実績『脳破壊』を解除(※生きてます)。そしてアズサ⇒ハナコ⇒ハリカと荷物のように預けられるなど
あとこれを言うと誰の配信かわかるだろうけど「屋根裏部屋にようこそ!」って言われてて笑う

・先生
サプライズ登場にノリノリ ⇒ 真面目に指揮 ⇒ ミカ…?

・ミカ
黒幕登場☆



メモ:
・火蓋を切る…火縄銃に点火の用意をする。主に戦いを始めること。戦端を開く。
・幕を切って落とす…歌舞伎の開演の際に幕の上部を外して一気に落とす。主に催事を華々しく始めること。
しばらく「切り落とされた火蓋」にしてたって話。混ざってたし思ってたよりだいぶ意味違った…。




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嫌い


この辺はまとめて投稿しようと思って
》半月が過ぎた!!《
ということでお待たせしました

やっぱセリフを削るの苦手だわ…



 

【 】

 

 

「ミカ…?」

「ミカ…様…?」

 ―――私が本当の、『トリニティの裏切り者』。眼前でそう言い放ったのは、ティーパーティーの一人…僕を補習授業部の顧問として呼んだ、()(その)ミカその人だった。

 …コハルの声が震えてる。呆然とする僕らの前で、アリウスの兵を引き連れたミカは、屈託なく細めていた目をぱちりと開く。

 

「というわけで…ナギちゃんをどこに隠したか教えてくれる?私も時間がなくってさぁ。まあ、ここにいるみんなを消し飛ばしてからゆっくり探してもいいんだけど、それは面倒でしょ?」

「…ミカ、どうして…」

「んー?聞きたい?先生にそう言われたら仕方ないなぁ。それはね…()()()()()()だからだよ。私は本当に、心から…心の底からゲヘナが嫌いなの」

 

 嫌い。そうはっきりと言い放っちながらミカは笑う…いや、目は笑ってない。僕らがあっけにとられて何も言えないでいる中…ハナコだけは落ち着いた声で問いかける。

「…だから、『エデン条約』を取り消そうと?そのために、ナギサさんを?」

「えっと…誰だっけ。ごめんね?私人の顔覚えるの苦手でさ…あ、思い出した、浦和ハナコじゃん!礼拝堂の授業に水着で参加さて追い出された!あはは!懐かしいねぇ」

「…」

「まあ、一応答えてあげるとその通りかな。ナギちゃんが『エデン条約』なんて変なことしようとするからさぁ…ゲヘナの、あんな角が生えた奴らと平和条約なんて。冗談にもほどがあると思わない?考えるだけでゾッとしちゃうよ

「っ…」

「絶対裏切られるに決まってるじゃんね?背中を見せたらすぐに刺されるよ!…そんなこと、させるわけにはいかない。ナギちゃんもほんと優しいっていうか、優しすぎるっていうか…創作の中の明るい学園物語じゃないんだし。そんな都合のいい話、現実には存在しないのに。私たちはこういう、もっとドロドロした世界の住人だってこと、そろそろわかってくれてもいい頃なのにねぇ…そういうわけだから、ナギちゃんを返してくれる?大丈夫、痛いことはしないよ?まあ、残りの学園生活は全部檻の中だろうけど」

「…じゃあ、『エデン条約』はやっぱり、れっきとした平和条約…」

「あ、あのときは騙してごめんね先生?それは嘘。あれは本当に平和条約だよ?そもそも素直でおバカなナギちゃんに、エデン条約を武力同盟として活用なんてこと、できっこないからね?」

「…」

 "その核心はゲヘナとトリニティの武力を合わせた『ETO』…『エデン条約機構』っていう、まったく新しい武力集団を作ること"…あのプールサイドでミカが語っていた、その懸念……僕も完全に、ミカの手のひらの上だったってことか………

 

「でも、あのとき話した全部が全部嘘ってわけじゃないよ?私がアリウスと和解したかった、っていうのは本当。この子達は、同じゲヘナを恨む仲間。アリウスだって元々はトリニティの一員だからね。先生にも言った通り、この子達のゲヘナに対する憎しみはすごいよ?むしろ私たちより純度の高い憎しみを持ってると言えるかもしれない…だから、手を差し出したの。志を共にして、ゲヘナと平和条約を結ぼうとする悪党たちをやっつけない?って」

 慌てたように補足するミカ。アリウスと和解したいのは事実、でもその理由は、やっぱりゲヘナ嫌い…ミカは、そんなに。ゲヘナが大嫌いだなんて、そんな素振りは少しも…

 …いや、そうだ。思い出した。あのプールサイドでの会話の中で、気になったことはあった。ハリカに言及したときの「どうしてゲヘナなんかに」…片鱗は見えていたんだ。でもまさか、ここまでだなんて。

 

「ティーパーティーのホスト『桐藤ナギサ』に正義実現委員会がつくなら、時期ティーパーティーのホスト『聖園ミカ』にはアリウスがつく。これはそういう取引。和解へのステップアップ的な?…共通の敵のために、一時的に敵同士が手を取り合う。そういうことだよ。それで私は、アリウスを密かに支援してたの」

「…アリウスは最初から、トリニティのクーデターの道具だった…?」

「うん?…うん、確かに、これはクーデターと言えるかもね。最終的にはナギちゃんを失脚させて、私がティーパーティーのホストになるんだから。あ、あなたのことはわかるよ。ありがとう、白洲アズサ。あなたのことはあまり知らないけれど、私にとって大事な存在であることは変わらない。今までもこれからも…だって今からあなたには、ナギちゃんを襲った犯人になってもらわなきゃいけないからね☆」

「「「「!?」」」」

()()()()()()()って言ったほうがいいかな?罪を被る生け贄がいてこそ、みんなが安心してぐっすり眠れるの。…世の中って、そういうものじゃない?」

 笑顔でとんでもないことを口にするミカ…なんか、こういう画はナギサの時にもあったな…に対して、アズサは目をすうっと細めていた。きっと、怒っている。当たり前だ。でも、ミカは。

 

「でもびっくりしたね~ナギちゃんが何者かに襲撃されたって聞いて、計画が崩れるかもって少し焦ってみたら、まさかそれが補習授業部なんてね!これは予想外だったよぉ」

「ミカ…すべては、ティーパーティーのホストになるため?」

「うん、そうだよ。あぁでも誤解してほしくないな先生、別に権力が欲しいわけじゃないの。ゲヘナをキヴォトスから消し去りたい…本当にただ、それだけだから」

 …どうしてそこまで、と思うけれど、きっと教えてはもらえなさそうだ。確かなのは根本的に部外者である僕が、ゲヘナとトリニティの対立の根深さを見くびっていたことだろう。きっとエデン条約推進派のヒナや、シャーレではゲヘナ生ともうまくやっているハスミを見慣れてしまっていたから。

 

「トリニティの穏健派を追いやって、その空席をアリウスで埋める。もしかしたら新しい連合になるかもね?必要なら新しい公会議でも開いて…うん、それもいいかも!それで、新たな武力集団を編成したトリニティがゲヘナに全面戦争を仕掛けるの!それが私の計画!」

「………っ」

「わ、びっくりした!先生、そんな怖い眼もできるんだね…先生がすごく怒ってることはよくわかった。説明も急いじゃったし、雑だったよね?もっと丁寧にお話ししたいところだけど…まずは色々と邪魔なのを片付けてからにしよっか?」

 ぐっと袖を引っ張られて、見るとアズサが険しい目つきでミカを睨み付けていた。

「…アズサ」

「…気を付けて、先生…こうして見ただけでわかる。すごく強い」

「ふふっ☆そうだよ。先生には前言ったけど、私結構強いんだから!…じゃあ、補習授業部を片付けてくれる?」

 …事態を飲み込みきれないまま、ミカの号令で新たな戦端が開かれた。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……はぁぁぁ…」

「ふぅ…っ、さすがに、焦った…」

「い…今だけはペロロに感謝するわ…」

 …辛勝。その二文字に尽きる。

 3挺のARと1挺のSR、手榴弾にペロロ様*1、各々が持つ技術。…全員が発揮できる全てをフル稼働して、なんとかアリウスの増員を退けることはできた。

 アズサはまだ落ち着きがあるけど、ヒフミとコハルは九死に一生みたいな顔をしてる…みたいなというか、実際そうだったか…。

 

「なるほどねー。そっかそっかぁ…そりゃみんな『シャーレ』『シャーレ』って言うわけだ。厄介だね、大人って」

 ミカは倒れなかったけど、他のアリウス生が全員倒れたのを見ると、はぁ、と息をついて銃を下ろした。…来ない?ついさっきまで、単騎で突っ込んできそうな勢いだったのに…?(いぶか)しむ僕に構うことなく、ミカは「んー…」と考え事をするそぶり。

「…予想外ではあったけど、うん、まあ問題ないかな。ちょっと時間はかかりそうだけど…セイアちゃんもナギちゃんもいなくなるんだし、これでようやく始められるっていうのに。変に邪魔しないでほしいなぁ」

()()()()()()()?…ミカさん?ひとつ聞かせてください…セイアちゃんの襲撃も、あなたの指示だったんですか!?」

「…!あはっ、ハナコもそんな目するんだね?…そうだよ。私の指示。セイアちゃんってばいっつも変なことばっかり言って。楽園だのなんだの、難しいことばっかり…」

 

 アズサにも見せなかった剣幕で詰め寄るハナコに対し、破顔して認めるミカ…けれどだんだんと眉が下がって、その表情は曇っていった。

「……でも、ヘイローを破壊しろとまでは言ってない。ただ卒業するまで、檻に閉じ込めておいたほうがいいなぁって思っただけ。それが、あんなことになっちゃって…」

 あんなこと。プールサイドで話していた、『ヘイローを壊された』…正直なところ理屈はまだよくわからないけれど、つまるところセイアは、もう…

「…これ以上は当事者に聞いた方がいいんじゃないかな……ねえ、()()()()()。なんだか一部誤解があるみたいだし、代わりに説明してくれない?」

「っ…」

「セイアちゃんがあんなことになっちゃったのが、ここまで事態が大きくなったきっかけなんだよ?そこからもう、いろんなことがどうしようもなくなっちゃったわけだし。その辺り、どう思う?」

「それ、は…」

 ミカから急に話題を振られたアズサは、激しく動揺した様子で目を泳がせて、俯いた。今この状況でアズサに話させるなんて、と思ったけど……今のアズサはどこか、それだけじゃない何かを抱えているような気がした。

 

「あ、アズサちゃん…それは、なんのお話ですか…?」

「ち、違う…あれは…」

「…ん?」

 静まり返った体育館にその時、慌ただしい足音が響いてきた。…アリウスの生徒が一人。急いでいる様子でまっすぐミカに向かって駆け寄ってくる。

「どうかした?そんなに焦って」

「トリニティの生徒が一部、こちらに向かってきています!」

「…なんで?ティーパーティーの戒厳令に背くような人たちは、もう…」

「いいえ、いますよ?ティーパーティーにも命令できない、独立した集団が」

 

 ミカの疑問符に答えたのは、にっこりと笑みを浮かべるハナコ。…そして、なにがしか連絡をとっていたアリウス生から追加情報が出る…向かってきている生徒たちは皆、()()()()()

「大聖堂…ってことは、シスターフッド?っ…浦和ハナコ……!」

「まあ、ちょっとした約束をしましたので」

「約束…?」

「あなたは知らなくてもいいことですよ。ミカさん」

 

 ハナコがそうきっぱりと言い放つが早いか、ひとつ大きめの爆発でアリウスのの増援のひとつが蹴散らされ…

「けほっ、けほ…今日も平和と安寧が、あなたと共にありますように…」

「すみません…お邪魔します…」

「シスターフッド、これまでの慣習に反することではありますが…ティーパーティーの内紛に、介入させていただきます」

 その煙の向こうから、修道服に身を包んだ…シスターフッドの生徒たちが現れた。

 

 

 

 

 

*1
シンプルに呼ry





・先生
僕はミカに踊らされていた…?

・ミカ
つよつよお姫様。ゲヘナ大嫌い
フルネーム入れるときに予測変換の「味噌のみか」でかなり笑ってしまいました(土下懺悔)

・アズサ
さすがに焦った仕事人
セイア襲撃に深く関与しているようだが…?

・ハナコ
補習授業部側の主軸たる策士
さすがに余裕が崩れる一幕があったが、さて

・ヒフミ
結局台詞1回のみの登場になってしまった…困惑しきり

・コハル
リアクション担当は現在絶句のため休業中です

・シスターフッド
最後の最後で派手に登場

・ナギサ
いまだ失神中


…?















 補習授業部の面々が桐藤ナギサを連れて立てこもった、トリニティ別館の体育館。その横合いの茂みに身を潜めるアリウスの小隊がひとつ。
 彼女たちの傍らの壁に、ひとつのドアがある。体育館の舞台袖、そのさらに奥に位置する非常口…なのだが、今では鍵がかかっているうえ、跳び箱やピアノといった道具類の陰に埋もれてしまっており、もはやただの壁と見ても構わない状態であるという。

 そう聞いていたから―――そのドアが音もなく開いたとき、誰もが反応に遅れた。
 一人が気づいて、逃がしてはならないと素早く銃を構える。その動きに反応して気づいた周囲も、おのおのが携えていた銃を、
―――――()()()()()、力なく地面に倒れた。初めに銃を構えた一人も同様に、二十余人が全員、一人の例外もなく…急速に、意識を失った。

 倒れたアリウス生たちの間を歩いていく影がひとつ。ふらふらと、覚束ない足取りで、しかし足元に倒れる少女たちには我関せずといったふうに………どこかへ、姿を消した。


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そんな世界も


このタイトルを使いたいがために細分化したところは否めないぜ…結局短めになった
※本日2つ目です



 

【 】

 

 …も、もう、何がなんだか……えっと、アズサちゃんが転校してくる前のアリウスという学校がナギサ様の襲撃を企てているとかで、ハナコちゃんの作戦でそれに先んじて動くことになって……ここまでは、まだいいです。

 そしたら、アリウスと一緒にミカ様が現れて、「私が本当の『トリニティの裏切り者』」だって、セイア様の襲撃にも関わってたって……あぅ…ただでさえ激戦なのにこんな急展開、もうわかりません!助けてペロロ様…!

「ティーパーティーの聖園ミカさん。他のティーパーティーメンバーへの傷害教唆および傷害未遂で、あなたの身柄を確保します」

 それでいて、今度はシスターフッドまで…いえ、ハナコちゃんが呼んでくれた味方らしいんですが……唐突に人数が増えたこちら側を見て、ミカ様は。

 

「…あはっ、さすがにシスターフッドと戦うのは初めてだなぁ…なるほどね、これが切り札ってこと?ねえ浦和ハナコ、どうやってシスターフッドを動かしたの?仲がよかったのは知ってる、でもあの子達が何の得もなく動くはずがない。ねえ、何を支払ったの?」

「…」

 目が笑ってないミカ様に対し、ハナコちゃんは…笑顔のまま、何も言いません。ぴりぴりしたにらみ合いは、ミカ様が目をそらしたことで終わりました。

「…うん、興味深いね。さて、片付けないといけない相手が一気に増えちゃったなぁ~」

「…ようやく顔色が変わりましたね、ミカさん♡」

「そうかな?…まあどうせホストになったら大聖堂も掃除しようと思ってたし。うん、一気にやれるチャンスだと思うことにしようかな」

「あくまでも戦うつもりですか…ミカさん、この状況での勝算がどれくらいのものか、わからないあなたではないですよね?」

「…うん、そうかもね。でもここまで来て"おとなしく降参します!"なんてわけにはいかないでしょ?…私はもう、行くところまで行くしかないの」

 

 その言葉を合図にしたみたいに、ミカ様の背後でアリウスの部隊が動き出しました…やっぱり、戦うしかないみたいです。

「みんな、まだいけるかい?」

「は、はい!」

「問題ない」

「ぜ…全っ然!まだまだ!」

「はい!任せてください♡」

「私もサポートいたします…!」

 先生の落ち着いた、でも芯のある声で気が引き締まりました。声が増えたので少しだけ振り返ってみると、どうやらマリーちゃんが私たちの援護に入ってくれるみたいです。

 すでにシスターフッドの皆さんがアリウスの生徒たちを相手していて、こちらに回る人数を減らしてくれています。…ここまでお膳立てしていただいて、頑張らないわけにはいきません!

 

 

 

 

 

「…何これ。洒落にならないなぁ…どうして?セイアちゃんが襲撃されたときだって、動かなかったのに…今このタイミングでシスターフッドが介入してくるなんて、冗談にもほどがあるよ…」

 ぽつりと、覇気のない声でつぶやくミカ様…その周囲にはアリウスの生徒たちが倒れ伏していて、ミカ様ご本人も満身創痍でへたりこんでいます…ぐったりとしたご様子は、さながらペロロ様ぬいぐるみXLサイズ*1のようです

 そ、それはそれとして…なんとか、切り抜けました……先の激戦で遮蔽物もろくに残っていなかったのでとても怖かったんですが、マリーちゃんの『加護』にとても救われました。あとでちゃんとお礼を言っておかないと…。

 

「何を見誤ったのかなぁ…ハナコちゃんのことを見くびったから?…ううん、"浦和ハナコ"がとんでもない存在なのは知ってた。でも、いつのまにか無害な存在になってた…変数として計算する必要がないくらいに。…アズサちゃんが裏切ったから?…ううん、アズサちゃんは操り人形。裏切ったとしても、私の望む結果に影響はなかった…ヒフミちゃんはただ普通の子で、コハルちゃんはただのおばかさんで、変数になるような存在じゃなかった……それなのに、どうして負けるかなぁ。どこからズレちゃったんだろ…」

 …さっきまでの戦場が嘘だったかのような静寂の中で、ミカ様の独り言が続いていて…えっと、その……正直、ここまで理知的な方だとは思っていませんでした。いえ、まあティーパーティーのトップにいらっしゃる以上、優秀な方なのだとわかってはいましたが…。

 私がそんな考え事をしている一方で、ミカ様はしばらくうなだれていましたが…おもむろに顔を上げると、私たち…の、後ろに視線を投げかけました。

 

「…いや、一番大きな変数を忘れてたね。…シャーレの先生。うん、そうだね。きっと、あなたを連れてきた時点で私の負けだった。…ナギちゃんが裏切り者がいる!って騒ぐから、仕方ないなぁって、ちょうど良さそうだなって思って『シャーレ』に連絡して……あのときかぁ。ダメだなぁ、私…」

 …いまだに何がなんだか、理解できている自信はないんですけど……ミカ様が考えていた計画は、先生が関わった時点で詰んでいた、ということのようです。当の先生は目を伏せて、何も言いません。

 …耳が痛いくらいの静寂を破ったのは、足音でした。ハナコちゃんがふいに、いつもより小さく見えるミカ様へ歩み寄って…。

 

「…ミカさん。セイアちゃんは…」

「本当に…本当に、殺すつもりじゃなかったの……今の私が何を言っても言い訳になるけど…たぶん、事故だった。もともと体が弱かったし、それに」

()()()()()()()()()()()()

「…へっ?」

 顔を上げたミカ様が、目をぱちくりさせて…えっ?えっあの…は、ハナコちゃん?セイア様の身に何か…そういう話だったと思うんですが…!?

「ずっと、()()していたんです。襲撃の犯人が見つからなかったので、安全のためということで…トリニティの外で、身を隠しています」

「…セイアちゃんが…無事……?」

「はい。傷の治りが遅く、まだ目も覚めていないのですが、救護騎士団の団長が今もすぐそばで守ってくれています」

「…ミネ団長、が」

「はい。そしてあのとき、セイアちゃんを助けてくれたのが………いえ、これは直接ご本人の口からがいいでしょう」

「…そっか。生きてたんだ……良かったぁ………」

 ハナコちゃんの口から、すらすらと明かされる情報…どうしてそれをハナコちゃんが?と思いましたが、と、とにかく…安堵で肩の力が抜けたらしいミカ様は天井を見上げると、そのままぱたりと後ろに倒れてしまって。

「…降参。私の負けだよ。おめでとう、補習授業部。そして先生。あなたたちの勝ちってことにしておいてあげる。もうなんでもいいや、私のことも好きにして」

 すっかり脱力しきった声で告げられた降参宣言で、夜通し行われた激戦はようやく終わりを迎えたのでした……あぅ、もう空が白んできてます………

 

 

【 】

 

「今はちょっと、先生の口からは何も聞きたくないなぁ」

「やっぱりシャーレを巻き込んだのが、私の最大のミスだった…うん。でも」

『もちろん、ミカの味方でもあるよ』

「…あの言葉を聞いたときは本当に、本当に嬉しかったんだ」

「…あのとき、もし……」

「…ううん、やっぱりなんでもない。…バイバイ、先生」

 

 

 

 

 

*1
あまりにも大きいので自室のすみっこから見守ってもらっています。





・ヒフミ
さすがに三連続先生視点はなんか気が引けたのでこのタイミングで語り手になった
持ってる情報が少ない側なので困惑しきり(継続)になったけど

・ハナコ
自称トリニティのほぼ全てに精通した人は伊達じゃなかった

・アズサ ・コハル
今回は影薄め

・先生
大きな変数(自覚はあまりなさげ)

・ミカ
破れかぶれになっていたところもかなりあった模様
なお実際の実況動画の戦闘では結構早めに倒れちゃってたので対応に困るなど…


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最後の大仕事


※本日3つ目です
※一気に投げすぎです
あとはまた書きため期ですかね…



 

【 】

 

「あうぅ…も、もう色々ありすぎて、疲労困憊です…」

「ようやく落ち着きましたねぇ…」

 正義実現委員会の生徒たちに連行されるミカを見送って、僕らはようやく一息つくことができた。結局一睡もせずに激戦をくぐり抜けることになったけど、アリウス…延いてはミカが立てたナギサ襲撃計画はなんとか阻止することできた。

 そのナギサも、身を隠していた倉庫から正義実現委員会の子たちに連れられていって…今は後始末とか、現場検証とかそんな感じだ。

 

「…っと!?こ、コハルちゃん!?」

「ご、ごめん、なんだか力抜けちゃって…あ、ありがと…」

 がくっと崩れ落ちそうになったコハルに一瞬血の気が引いたけど、安堵で膝の力が抜けたらしい。…あぁいや、それだけが原因でもないか。

「それもそうですよね…一晩中走り回りましたし」

「それにここ一週間、あまりまともに睡眠もとれていませんでしたしね…これでようやく」

「何を言ってるのヒフミ、ここからがスタートだ」

「…はい?」

「あー…」

「…そ、そうでした…試験が……!」

「わ…忘れてた…」

 ここからがスタート。アズサの言葉に一瞬疑問符が浮かんだけど……そうだ、()()()()()()()()()……あまりにも怒涛の展開だったけれど、この集まりの本来の目的はそれだ…。

 サーッと蒼白になるヒフミとコハル、苦笑いするハナコ。そんな中で、アズサはやっぱり通常運転だった。

「現在時刻は午前7時50分。試験会場まで1時間で着かないと。走ろう」

「えぇっ!?走るんですか!?待ってくださいアズサちゃん早っ!?こ、ここから走って着く距離ですか!?」

「全力で走ればギリギリでしょうか…。さぁヒフミちゃん、コハルちゃん!ファイトですよ!」

「も、もう歩くだけで足痛いのに…!待ちなさいよぉ!」

「ど…どうして最後の最後までこんなことに~!?」

 

 ばたばたと走っていく四人に苦笑いしつつ…いや、僕は試験監督もやるんだったな。じゃあ急いで行かないと。そう思ったところで、ふと違和感が……

「………()()()?」

 …静かすぎる背後から返事はなく。振り返っても、現場の調査と事後処理に(いそ)しむ正義実現委員とシスターたちの姿があるばかり…ハリカの白い装いは、どこにも見当たらなかった。

 

「…アロナ」

 取り出したタブレット…『シッテムの箱』に呼び掛ける。…補習授業部はこれから試験を受けなければいけない。それも、彼女たちの今後を左右する大事な試験。だからこれ以上、彼女たちに負担はかけさせられない。

『はい!なんでしょう!』

「ハリカの居場所、わかる?」

 すぐに『シッテムの箱』のメインOS、アロナが画面にひょっこりと現れた。彼女を呼んだのは、いつも戦術指揮を取る際『シッテムの箱』で各自の状況を俯瞰しているのを思い出したから。

 このいたく高性能な『シッテムの箱』のおかげで、僕は生徒たちを支えてあげられる。それはきっと今回も…そう思ったのだけれど、アロナは目をぱちくりとさせた。

 

『えっと、シャーレの名簿にある、稲梓ハリカさんですか?』

「そうだけど…」

『ごめんなさい先生…ハリカさんは現状、『シッテムの箱』の管轄外となっているんです』

「そう…なのかい?」

『はい…キヴォトスの外の人なので、どうしても。初めに先生がしたように認証をしてもらえれば、適用できるかもしれませんが…』

「…たぶん、ハリカもアロナのことはわからないだろうね…」

 ふだん仕事をしているときの様子から、それは何となく察した。…確かに、戦術指揮を取っているとき、ハリカが画面内に現れたことはない。それはハリカが大抵僕のそばにいて、最前線まで飛び出していくことがないから。

 でも、思い返してみれば……例えば、アビドスでホシノを救い出したとき、ハリカは魔法を使ったらしい。カイザー理事のパワードスーツを沈黙させた決め手。その時、魔法の射程の都合で一度僕のもとから離れていたけれど…ハリカがどこから魔法を使ったのか、『シッテムの箱』では把握していなかった。射程の都合というなら僕よりも戦場に近かったはず。…ハリカを信じて送り出したとはいえ、どうして気づかなかったんだろう。

 …いや、思考の海に沈んでも仕方がない。行かなければ。

 

 

 

「そういえば先生…ハリカちゃんは?」

「あぁ…さすがに今回こんな大騒ぎになったからって、急いでシャーレに戻っていったよ」

「そうなんですか…ちょっと残念です」

 そうして、教室にはなんとか開始時間前に…息を整えるのには十分な時間を残してたどり着くことができた。ヒフミがハリカについて問うてきたけど、ここはごまかしておくことにした。…心配だけど、きっとハリカなら大丈夫だと思うから。

 そういえば、試験会場は戒厳令下で厳重に守られていたはずなのだけれど、いざ着いてみれば補習授業部一同は無事に中に入れてもらえた。ミカの命令が上書きした形になったからだろうか?それにシスターフッドのあとに到着して、ミカを連行していたし。

 ともあれ…並ぶ四つの机に補習授業部の四人、それぞれに問題用紙と回答用紙。いよいよ舞台が揃った。

 

「…これが、最後の試験だね」

「あぁ…泣いても笑っても、この結果で全てが決まる」

「あぅ…」

「…ここまで、色々ありましたね」

「…気持ちはわかる。けど、感傷に浸るのは試験が終わったあとにしよう」

「そうですね…とにかく、私たちの努力の成果をしっかり発揮しましょう!」

「最後まで諦めない」

「はい、私もです。せっかくアズサちゃんに教えてもらいましたから」

「私、今度こそ満点取るから!」

 席について、裏返しの用紙を前にして。…みんな、ずいぶん顔つきが変わった。大丈夫。今のみんなならきっと、遺憾なく全力を発揮できる。

「では…第三次特別学力試験、開始!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そして。

 

 

┏━━━━━━━┓

┃ハナコ…100点 ┃

┃アズサ…97点  ┃

┃コハル…92点  ┃

┃ヒフミ…94点  ┃

┗━━━━━━━┛

―――――全員合格!!

 

「や…やっったぁーーーっ!!やりましたよアズサちゃんコハルちゃんハナコちゃん!!」

「はい!ヒフミちゃんもです!」

「……ゆめ?」

「夢じゃないです!92点ですよコハルちゃん!まぎれもなく合格です!!」

「う…っ、よ…よかったぁ~~~っ!!

「それに、みんな過去最高点ですよ!特にアズサちゃん、すごいです!」

「う、うん……えへへ、っ…」

 喜びに包まれる補習授業部のみんなを、微笑ましく眺めながら…大きな仕事を無事にやりきった、そんな達成感を確かに噛みしめつつ……

 

 ……うん、忙しいだろうけど、ここはハスミに頼もう。どんな理由であれ、この空気に水を差すのは気が引ける。

そう思ってシッテムの箱を開けば、一番上にはついさっき届いたモモトーク。

 そこには…虚ろな表情でうつむいて、噴水に腰かけるハリカの写真が添えられていた。

 

 

 

 …それにしても……セリナ。確かに君と僕は面識があるけど、モモトークは交換してたっけ…?

 まあ、僕が忘れてるだけだったらいいんだけど。

 

 

 

 

 





・先生
うっかり僕も忘れてたよ…
生徒たちを導けた大人

・補習授業部
一睡もせず激戦後にテストというハードスケジュールをこなした
㊗️無事合格。 
通常運転のアズサが強い。知ってた。そしてギャップ萌え枠でもある…。

・セリナ
ラストは白衣の天使が全部かっさらっていきましたとさ

・ハリカ
トリニティ分校近くの公園にて、セリナとハスミが保護


最後とは言ったけど補習授業部編自体はまだ続くよ




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秘密と独白


お待たせしました
回収までにずいぶん時間がかかってしまった…



 

【アズサ】

 

 

『…アズサちゃん。自分が何をしてるのか、その結果これからどうなるのか、それはわかってるんだよね?』

『もちろん』

『トリニティが、あなたのことを守ってくれると思う?これからずっと追われ続けるよ。ずっと、どこに行っても………あなたが安心して眠れる日は来るのかな?』

『それに、サオリから逃げ切れると思う?アリウスの出身なら、もちろん知ってるよね?et omnia vanitas…』

『うん、わかってる。それでも私は最後まで足掻いてみせる。最後の、その時まで』

「…うん、そっか」

 

 

 

 アリウスを阻止する電撃作戦、そして第三次学力試験を終えて。

 あのあと、私は何時かぶりに正義実現委員会に連行され、今回のことの顛末について取り調べを受けることになった。…アリウスによるナギサ暗殺は阻止できた。その目的を果たせた今、もはや何を隠す必要もない。聞かれたことにはすべて嘘偽りなく答えた。

 そしてそれから、私は自身の処遇が決まるまで、正義実現委員会の詰め所で謹慎となった。

 

 …はずなんだけど。

 私は今…補習授業部の仲間と一緒に、トリニティの本校舎を歩いていた。先導するのは先生。正義実現委員会には、どうしても連れていかなければならない場所があるから…と許可をもらったらしい。私にはなんのことだかさっぱりわからず、ヒフミやハナコに聞いても急な話だったのでわからないという。正義実現委員の見張りも、先生の頼みでコハルとハナコがその役目を引き継ぐ形になっているらしい。

 人影はまばらな時間帯らしく、廊下はしんと静まり返っている。…そんな中、先生が足を止めたのは、

「…保健室?」

「あの…先生、どうしてここに?」

「…先に謝っておくね。みんなごめん。僕はみんなにひとつ、嘘をついたんだ」

「嘘…?」

 

 (おう)()返しに問いかけるヒフミには答えず、先生は保健室の引き戸を開けて中に入っていき、私たちもそのあとに続く。…数日前にも世話になった保健室も今は静かで、ベッドを囲うカーテンの前に、淡い桃色の髪の生徒が一人立っていた。確か、ここを拠点とする救護騎士団の…

「お待ちしていました、先生」

「ごめん、セリナ。こんなことに巻き込んでしまって」

「構いませんよ、私はいつでも、困っている人の味方ですから。こちらです」

 セリナ、と呼ばれた生徒に案内されて、私たちは保健室の奥の方へ進んでいった。

 そうしてたどり着いたのは、保健室の一番奥のベッド。セリナが「失礼します、面会のお客様ですよ」と声をかけ、カーテンをさっと開く。

「っ…!?」

「あ…みんな」

 ベッドの上には…ハリカが、上体を起こしてそこにいた。

 

 

 

「先生から聞いたよ。特別学力試験、合格おめでとう。一緒に行ってあげられなくてごめん」

「い、いや…えっ?」

 頭を下げるハリカに、私は何も言えなかった。だって、ハリカは先にシャーレに戻った、と先生は言っていた…それなのに。

 

「は、ハリカちゃん…?どうしてここに?」

「いやぁ…その、ちょっと無理が祟って倒れちゃって…ねぇ先生」

「ハリカは…本当は、あの戦闘中、急に行方をくらましてたんだ」

「あ、あれ!?先生!?」

 激しく動揺するハリカ…どうやらごまかすための嘘をついたらしい。けど、"行方をくらました"ってことは…

「先生にも、何も言わずに…ってこと?」

「せ、先生…ここは適当に誤魔化すところじゃ…!?」

「あんまりそういうことはっきりと言わないほうがいいよハリカ…無言でいなくなられたこっちの身にもなってほしい、と言ったところかな」

「ね、根に持つタイプ…」

「こればかりは根に持たないほうがおかしい案件に思えますけどね?…つまり、先生が私たちについた嘘というのは『ハリカちゃんがシャーレに戻った』ことで……学力試験に挑む私たちに、無用な負担をかけないための配慮だったんですね」

 

 瞬時に理解したらしいハナコがそう言えば、先生は無言でうなずいた。…まさか、私たちが試験に臨んでいる裏で、そんなことが。

人のための嘘(ホワイト・ライ)ってやつだね…本当に大変ご迷惑お掛けしましたみんな試験控えてたのに…」

「あ、謝らなくても…!」

「ハリカちゃん、もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ、ちょっと()()しただけだし。もう落ち着いた。シャーレのみんなにはモモトークでしこたま怒られちゃったけど」

「錯乱…っていうだけでも、大丈夫ではないような…」

「ん~まあ、そう…なんだけどね?」

 

 表情が晴れないヒフミに困り顔のハリカ…確かに、()()なんてただ事じゃない。でも今のハリカに、おかしなところは特に見受けられない…それが、かえって不気味に思える。

「ハリカ…どうして、急にいなくなった?」

「あ、アズサちゃん!?いいんですか、踏み込んじゃって…!」

「まあ、そうなるよね…」

 不気味に思えて…気になったことが、口を衝いて出てしまった。ヒフミに驚かれてとっさに口をつぐんだけど、対するハリカは…はは、と苦笑する程度で、意外にも平然としているようだった。…ただ、思案顔のまま、あとの言葉は続かない。

「あっあの、ハリカちゃん…言いにくいことだったら、無理しなくても」

「いや、大丈夫。もう落ち着いてるのは本当。なんだけど…説明しようとすると…」

 うーん…と首をかしげるハリカ。…いや、それはそれで言いにくいことじゃ。方向性は違うのかもしれないけど…そう思ったところで、ハリカが顔を上げてふぅ、と息をついた。

「…まあ、みんなにならもういいかな」

「へ?もういい、って」

 独り言のようにつぶやくと、ハリカはおもむろに自らの後頭部へ手を伸ばして…

「……っ!?」

 …その手の動きに従って、その頭から()()()()()()()()()()()

「「え…えぇぇぇぇぇっ!!?」」

 

 

 

「…つまり、そのヘイローは()()()で、ハリカは先生と同じ、外の人…?」

「そう。まあ先生とは違って、迷い込んできたみたいなものなんだけど」

 …それが、ハリカがずっと抱えていた"秘密"らしい。

 クリップ型の髪留め*1はミレニアムサイエンススクールという場所で作ってもらったものだという。この名前にはヒフミとハナコが驚いていた。曰く、かなり卓越した技術力を持つ学校らしい。

 わざわざこんなものを装備したのは、シャーレの任務に支障を来さないよう溶け込むため…先生とは違い、被弾などのダメージについては「体質的にほぼ問題ない」のだという。

「髪留めからホログラムを…こんなに小さな投影装置を作れるのは、さすがはミレニアム…といったところでしょうか…」

「そうだね…というか、ちょっと言いにくいんだけど…ヒフミちゃん」

「へっ?な、何でしょう…?」

 

 …言いにくそうに声を落としたハリカは、複雑な表情で…ふい、と手に持ったままの髪留めに視線を落として。

「…ヒフミちゃんと初対面の頃は、この髪留めはまだなかったよ」

「…え?そ、そうなんですか!?

 …そういえば、ヒフミは私たちより前に面識があるんだった。詳しい経緯は聞いていないけれど。いわく髪留めはシャーレに来てひと月ほど経った頃に入手したものらしい。ヒフミとの初対面はそのひと月の間のことのようだ。

「うん…まあちょっとゴタゴタしてたし、仕方ないけどね」

「あぅ…」

「あら。ヘイローに気づかないくらい、夢中になるようなことが?」

「いやまあ、夢中というか…っていうか驚かないんだね、ハナコちゃん」

「あら、そう見えますか?」

「まあ…ハナコちゃん、図太いけど表情は豊かだし。驚いたときはちゃんと顔に出るだろうから」

「あらあら…ふふ♡そうですね。正直なところ、予想はしていたので」

「え!?」

「はあ!?ど、どういうことよ!?」

「ハナコ…知ってたのか?」

 

 問いかけるも、ハナコはふふっと笑うのみ。…こういうところでミカを出し抜いたんだろうな。先生は少し驚いた顔で、ハリカは苦笑いを浮かべている。

「ええと…私そんなに分かりやすかったかな」

「あくまで予想ですよ?違和感から立てた、ただの仮説でした」

「違和感?」

「ハリカちゃんが今も着ている、真っ白な制服です」

 制服?…そういえば、ハリカは普段通りの真っ白な制服のままだった。よれたりもしていないし、着替えたばかりなんだろうか。…私も思うところがなかった訳じゃないけど、ハナコはこの制服からどう考えたんだろう。

「これ…って、連邦生徒会のじゃないんですか?」

「そ、そうよ!あそこの制服って、確かこんな感じだったし…」

「私も当初はそう思いましたが…連邦生徒会の制服なら、どこかに「連邦生徒会」の五文字が書いてあるはずなんです。私たちの制服に、トリニティの校章がついているように」

「…!」

「そ、そういえば…全然、気づきませんでした…!」

「ふふ、まあ仕方ないとは思いますよ?なにしろ先生とお揃いの青いネクタイは視覚的にインパクトが強いですから、うまくカモフラージュになっているようですし」

 

 …なるほど、ヒフミとコハルはそう思っていたのか。私は連邦生徒会の制服に馴染みがないから、違うことを考えていたんだけど…

「でも、ハナコ。ハリカの制服には、左胸に校章らしいものがあるけど…よその学校じゃないのか?」

「そうですね。「連邦生徒会」の文字こそないものの、別の校章らしきものがあります。聞くところによれば、連邦捜査部『シャーレ』は「キヴォトスに存在する全学園の生徒を制限なく加入させられる超法規的機関」とのことですから、もちろんその可能性もありました。ただ…その校章が()()()()()()()()()()()()()()()()、というのは、どうにもできすぎているように感じましたので」

「あー…うん。さすがに安直すぎちゃったよね、これは」

「それにハリカちゃんは連日のように私たちのもとを訪れ、最終的には合宿に本格的に参加、までできていましたから…ここまでいくとさすがに、他校の生徒というよりはシャーレ専属であると考えるほうが自然でしょう?」

「確かに、それはそうか…」

「ハリカは真面目だからね…」

 

 改めて考えると…いくら学習にはBDを用いるのが主流とはいえ、ハリカはシャーレとしての仕事もこなす傍らで、あまりにも私たちに付きっきりだったように思う。他人に教えることの学習効果についてよく口にしていたから、それで問題ないのかと思っていたけど…。

「ほんとハナコちゃんには敵わないや…」

「ふふ♡それで…話が逸れてしまいましたね。本題に戻りましょうか…つまり、あのとき体育館からいなくなったのは、ハリカちゃんがキヴォトスの外部から来たことと関係がある、ということでいいですか?」

「まあ、うん…今思えば本当にくだらない理由だよ。笑ってくれてもいいくらい」

 …初めて見る自虐的な笑みを浮かべて、ハリカはぽつりぽつりと話し出した。

「…前の。ここに来る前にさ…()()、って友達がいたんだ」

 

「もちろん別人だよ?フルネームは()(ぬい)水歌(ミカ)。同じ学年の同じクラス。体格ももっと小柄で、それこそコハルちゃんくらいだった。…まあ、それだけならいいんだよ。"ミカ"なんてたぶんそんなに珍しい名前じゃない。1年の時の生徒会にもいたし…」

 

「…でも、あの場では話が別だった。私、ずっとシャーレに所属してるけど、実はここの生徒会…ティーパーティーにはほとんど関わったことがなくて。だからあの場で初めて聞いたんだ。ミカさんの声……()()()()()()()()()()()()()調()()

 

「それが、みんなを消し飛ばすとか、ゲヘナを消し去るとか、アズサちゃんを生け贄に、とか…不思議だよね。人間、視覚で得る情報のほうが強いはずなのに、駄目だった。立ち位置が遠かったからかな」

 

「…今はもう、なんの関係もない別人だってはっきり割り切れてるから、こうして話せてる。だから、もっと早くに面と向かって話す機会があったら…ショックは受けただろうけど、みんなと同じくらいで済んだ。それだけの話だよ」

 

 

「まあもう回復はしてるし、ちょっと検査受けたらまた通常業務に戻るよ」

「ハリカちゃん…大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。先生ほど不摂生じゃないし」

「先生…?」

「流れ弾が飛んできた…」

 …思わず、全員で先生のほうを見た。それで少し離れた位置にいるセリナにも気がついた…微笑んでるけど目が笑ってない。

 けれど、「それに…」と続いた声に視線を戻せば、セリナと似たような顔をしたハリカと不意に目が合って、心臓が跳ねた。すぐに目線は外れたから、たぶんたまたまだと思う、けど…。

「…キヴォトスに来たときのことは覚えてないけど。来たとき…いや、来る前かな。そこからずっと抱え込んでるものだから、もう慣れっこだよ。むしろ、今はこれに支えてもらってるとこがあるから」

「えっと…何の話ですか?」

「んー…まあ、なんというか……友達は大事にね、って話かな」

「えっ、えっと…?」

「な、何急に…わかんない…」

「…っ」

「うん、ごめんねこんな湿っぽい雰囲気にしちゃって…窓開けよっか!それと私の話はこれくらいにしてさ、みんなの話聞かせてよ。ね?」

 …突然、ハリカは煙のように掴みどころがなくなった。はぐらかされたと言うのか…これ以上は駄目だ、という線を突きつけられたように思えた。

 先生が窓を開ける傍らでハナコが話し始めて*2、ヒフミ*3とコハル*4が慌てて口を挟んで。そうしてさっきまでの暗い雰囲気はあっという間に流れていったけれど……「友達は大事にね」、と言ったハリカの悲しげな目が、妙に印象に残った。

 

 

 

 

*1
リボンで結んだ上から挟んでいたようで、ハリカの髪型は変化しなかった

*2
こういう内容

*3
ハナコちゃんも急に何言ってるんですか!?

*4
エッチなのは駄目!死刑なんだってば!!





・アズサ
謹慎中から突然連れ出され、保健室で予想外の再会をする
ハリカの言葉が今後に関わるかはまだわからない

・ハナコ
何も知らされてなかったけど瞬時に察した
推理パートに力が入ってしまった…反省はしないが()

・ヒフミ
何も知らされてなかったので困惑しきり
ハリカの頭上については気づいてなかった。チンピラから逃げたり紙袋被ったりしてたからね仕方ないね

・コハル
何も知らされてなかったので困惑しきり。というかセリフを挟むタイミングがあまり作れなかった。ごめん

・セリナ
救護騎士団に所属する白衣の天使。ストーカー疑惑でお馴染み
ハリカが外の人であることを先生とハスミから明かされた

・先生
何も知らせなかった人。さすがにハリカについて他の人から明かしすぎなので今回は本人に任せたところもある
いなくなった理由については先に、ハリカを落ち着かせながら聞いてた

・ハリカ
落ち着いたところを引き合わされた
取り繕ってはいるが未だに前の世界を引きずっている

ずっと考えてたこのエピソードをようやく書くことができて達成感がすごいですがEp.3はまだ続きます。(ノンブレス)
本当はTwitterの「言いにくいことをいう日」にあやかって昨日出すつもりでいたんだけどな…



・水歌
ハリカの友人で同じ四高生徒。無邪気で活発なムードメーカー。得意魔法は加重系








「玻璃花ちゃん?じゃあ~…ハリーって呼ぼっかな!私は伊縫水歌!気軽にみかみーって呼んでね!」
「いや…いきなりそれはさすがにハードル高すぎません…?」
「そんな固いこと言わないでさ~ほらよく言うじゃん、"振り袖合うも多生の縁"って!」
「…"袖振り合うも"、では?」
「あれ、そうだっけ?」




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ポストモーテム(前)


お待たせしております。終盤にだいぶ手間取っております。後編はもうちょっと待って
それにしても言うほど鈍色の銃出せてねぇ今日この頃……



 

【ハリカ】

 

 

 整然と並ぶ石畳。見上げれば雲ひとつない青空…あ、ハトが横切っていった。…デジャブだ。

 …学園のトップの一人が別の一人を消そうとクーデターを起こし、激戦の末に鎮圧された。そんな出来事がついこの間あったというのに、相も変わらずトリニティ自治区は長閑(のどか)だった。

 

「…いや、私の感覚が狂ってきただけかも。確実に染まりつつある……どうせ帰れはしないしいいか…」

 …あ、どうも。稲梓ハリカです。この前は大変お騒がせしました。本当に思い返せばお恥ずかしい限りでしばらく自主謹慎しようかとも考えましたが、どうせなら仕事で発散することに決めました。人手不足を引き起こしたところでメリットないし、事情を知らないみんなの優しさがもう温かいのなんの…

 …まあ、さておき。皆様きっとお察しの通り、私はトリニティに舞い戻ってきた。…この広大なキヴォトスにおいて騒動はもはや日常茶飯事だけど、今回のティーパーティーの件はキヴォトス基準でもかなり大きな騒動だったようで、補習授業部の活動が終了しても先生はなかなかトリニティから離れられずにいる。そんなわけで、私のおつかいtoトリニティも継続しているというわけだ。

 ただし、前までと違って今回の目的地はトリニティ本館側。校門をくぐれば広大な敷地…確実に四高より広いよなこれ。下手をすれば(?)あの浜名湖に匹敵する可能性もある…地図必携が過ぎるな……

 

 

 

「ここかぁ…すっごい立派」

 はてさて辿り着いた目的地はこちら、トリニティ大聖堂。…こういうところに立ち入るのは人生初だな。海外旅行はしたことがないし、言うほど信心深いわけでもないから…魔法はある意味信仰してると言えるかも、だけど。

 入ってすぐの広々とした空間…たしか身廊というんだったか…を通り*1、途中で左に折れた先、両開きの扉の前で足を止めた。

 

「失礼します。シャーレより参りました、稲梓ハリカです…先生がここにいると聞きまして」

「ああ、来ましたか…お久しぶりです、ハリカさん。…先生?」

 踏み込んだ部屋の中は…会議室と書いてあったから大きな机をイメージしたけど、丸いテーブルを椅子が囲んでいたり革張りのソファもあったりして、意外にもシャーレカフェに近い状態だった。壁は本棚に覆われていて…なんか、図書館の一室って言われても信じてしまう感じ。

 そして、その中のひとつのテーブルに3人が集まっていた。銀髪のシスターは歌住(うたずみ)サクラコさん。シスターフッドの代表をしている人で、以前…あの水着パーティ前後くらいの時期に地域ボランティアの手伝いに行ったことがあって、そこで知り合っていた。その後ろにはこちらも久々のマリーちゃんが付き従っていて、テーブルには先生が…突っ伏していた。あ、起きた。

「ぅ…あぁ、ごめん。ちょっと寝てた……何か、夢を見たような…」

「お忙しいのは存じておりますが、もう少し集中していただけますと」

「ごめん…」

「確かにここしばらくずっと、後始末といいますか…色々奔走されていると聞きました。あなたの管轄外のことまで」

「力不足でね…やりきれなかったこととか、たくさんあって」

 私としては、先生は日頃から十分すぎるくらい働いてると思うんだけど本人にとってはまだまだらしい。どうしようもないくらい勤勉で、献身的というか、博愛的というか…私は仕事を増やしてしまった立場なので何も言えない。

 

「そうでしたか…立て続けに色々なことがありましたし、今一度、少し整理しておきましょうか」

「うん…ハリカはどうする?」

「なら、私も同席します。把握できてないことが多いし、ここまで関わった以上知らぬふりは無理なので」

「分かりました…退屈なお話になるでしょう。少なくとも面白くはないことだと思いますが…整理することで、先に進めるようになることもあります。『ポストモーテム』と呼ばれるものです」

 まあいつも言ってる通り、乗りかかった船ってやつね。…中途で放り出せない私も、なんだかんだ言って献身的か。

 …しかし、ポストモーテム(postmortem)。死後の、みたいな意味合い*2になると思うんだけど、容赦ないな…。

 

 

 サクラコさんの話によると、セイアさんが襲撃されたのは丑三つ時、深夜3時頃。そこへ誰よりも早く現着したのが救護騎士団の団長、蒼森(あおもり)ミネさんだった。…救護騎士団、セリナちゃんにはお世話になったけど他の人は知らないな…

 まあさておき。現場の状況を確認したミネさんは、セイアさんの身を守るためにティーパーティーに「セイアさんはヘイローを破壊された」という()()報告を済ませると、同じ救護騎士団の仲間にも黙って行方をくらましたのだとか。

「ずいぶん思いきったことをしたね…」

「ティーパーティーのメンバーが襲撃されるという異常事態ですから、誰を信じるべきかと考える前にまず自分で…と、そう考えたのではないでしょうか」

「やれる自信があってこそですね…」

「ええ…実際のところ犯人が、本来であれば情報が集約されるティーパーティーのミカさんであったことを考えると、彼女の判断は結果的には正しかったと言えますが……しかしまだ、セイアさんは目覚めていません」

「あれ…そうなんだ」

「傷は癒えたものの、ずっと眠り続けている状態で…ミネ団長にも原因はわからないそうです」

 そっちはまだ落ち着ける状況ではないのか…。そんなわけで、セイアさんとミネさんは今もまだ潜伏を続けているらしい。

 それにしても…派閥ごとに独立した情報網を持っていて、今回はシスターフッドが他を出し抜く形になったそうなんだけど……ややこしいなぁ()()()()()()()って…。物理的に治安が悪いゲヘナに対して、こっちはどうも頭脳戦的な意味で治安が悪いらしい。

 四高には一科二科もなければ変な派閥とかもあんまりなかったから、私にはよくわかんないや…頭脳戦は天才が恋をしてポンコツになるやつくらいで充分です。何がとは言わないけど。

 そんなことを考えていれば、背後の扉がノックされる音がして。

 

「…あ、ハナコちゃん」

「あら、ハリカちゃんもいらしたんですね。あまり面白くもないサクラコさんに捕まって苦しんでいるのではないかと思い、先生を助けに来ちゃいました♡」

 扉を開けて入ってきたのは…なにやらちょっとご機嫌そうなハナコちゃんだった。…面白くもないと言われたサクラコさんは渋面をつくってるけど、先生がちょっと嬉しそうなので何も言えないな…。

「…冗談を言うタイミングではありませんよ、ハナコさん」

「サクラコさんは相変わらずですねぇ…今度一緒に、過激な本でも読みませんか♡サクラコさんはそういった方面に免疫がなさそうですし…うふふ♡」

「…ハナコさん。あの時の約束、忘れていませんよね?」

 なにやら婉然と微笑むハナコちゃんを、サクラコさんはとりあえず(かわ)すことにしたらしい……()()?って、何だろう…

「もちろんですよ?……『登校時の服装は裸のみを認める』。そんな校則を作り、トリニティを『裸の楽園』へと変える計画に手を貸してほしい…そういうことでしたよね?」

 、

「ええ、そう…はい??」

「まさか、シスターフッドがこんな()を企んでいただなんて…さすがサクラコさん、謎に包まれた秘密主義集団の長ですね♡それに、あの例外に関する条項…『シスターフッドのみ、登校時にベールの着用を認める』…流石の私も驚きましたよ?裸にベールだなんて…なんという新しい世界♡」

「は、はいぃ!?

 …ハッ完全に思考止まってた…これあれだ、いつものやつだ。シリアス*3が挟まったから完全に忘れてた…。眼前では相変わらず、口を挟む間もない熱弁*4に修道服の二人が激しく動転していらっしゃる光景が展開されていた。

「さ、ささサクラコ様!?そ、そんな計画を!?

違いますよ!?

「そんな…」

そんな、ではありません!いきなり何を言っているのですかあなたは!?『私たちがハナコさんの頼みを聞く代わりに、ハナコさんも私たちからの頼みをひとつ聞く』、そういう約束でしょう!?」

「あぁ、そんなお話もありましたね」

 そんなお話しかなかったのでは?

 

 

「今回の事件を契機として、私たちのこれまでの無干渉主義も変わっていきます。政治的なことにも徐々に関わっていくことになるでしょう…その過程で、きっと色々なことがあります。そんなとき、ハナコさんのような方から助けてもらえるというのは、大きなキーになり得ます。あくまでそういうお話ですよ」

 サクラコさんが若干ムッとした顔で説明したところによると、とてもまともな約束だった。いやまあ当たり前だと思うけど。

「まあ、その程度なら構わないのですが…はぁ……」

「どうしてそう残念そうな表情をするのですか…いえ、もう話をそちらに戻さないでほしいのですが……無理矢理に、という手段は取りません。どちらにせよハナコさんには「手伝っていただく」という形ですし、無茶な要求をするつもりもありませんから」

 まあ確かに、ハナコちゃん優秀そのものだもんな…それでいてちやほやされるのは苦手らしいけど、そのあたりも(しん)(しゃく)した対応になっている。

 どうやらマリーちゃんがサクラコさんに掛け合ったようだけど…ここの関係はなんなんだろうな。マリーちゃん相手だとハナコちゃんすっごいまともだし。

 

「話が逸れましたね…本題に戻りましょうか。えっと…」

全裸登校についてのお話でしたね♡」

「はい、その話…ではありません!戻さないでと言ったでしょう!?

「あら…仕方ありませんね。()()()()()()()()()()()、その話に戻りましょうか。実行犯はご存じの通り、アズサちゃんだったようです」

 …すさまじい急ハンドルで話が戻った。まあさておき……実は、アズサちゃんがセイアさんの部屋に侵入したのは午前2時頃だったらしい。部屋が爆破されるまで1時間ある。その間のことは…ハナコちゃんがアズサちゃんの取り調べに同席して*5、大まかにだけど聞いていたという。あと、アズサちゃん周辺の指揮系統*6についても。

 

「つまり…アズサちゃんはアリウスを騙しきるために、セイアさんの協力のもと隠蔽工作を行った、ってことか…」

「そうですね…とにかく、白洲アズサさん…彼女がトリニティに転校してきて、そして実際にナギサさんを守り抜いた。その事は明白です。その過程で様々なことがあったとはいえ、特別学力試験も合格。補習授業部は彼女を含めて全員、明確な結果を残しています。…もはや文句のつけようなどないでしょう。彼女の書類は、私が()()()()()にしておきます。シスターフッドが保証します。誰にも異議申し立てなどさせません」

「…ありがとうございます、サクラコさん!」

 あっそっか、そういえばアズサちゃん、「書類上の身分を偽って」って言ってたな。これからどうするんだろう、シャーレで引き受けるって手もあるけど、とは考えてたけど……そっか、受け入れてもらえるんだ。しかも確固たる後ろ盾まで……よかった。これでひと安心かぁ…。

「本当にありがとう」

「これで白洲アズサさんは、正式にトリニティの生徒となりました。…まだ問題は山積みですし、特にアリウスのことは何も解決できていませんが…取り急ぎ、目の前の問題だけは落ち着いたと言えるかもしれませんね…。お疲れさまでした。ハナコさん。そして先生、ハリカさんも」

 

 

 

 

 

*1
神社の参道と違うのはわかってるんだけどなんとなく端を歩いてしまう…

*2
①検死 ②事後の分析・検討

*3
激戦その他

*4
(意味深)

*5
!?

*6
『アリウススクワッド』という精鋭部隊の直属、というか一員であったらしい





・ハリカ
ベッドを下りて即動き出す社畜精神…
シャーレのみんなに怒られたり心配されたり安堵されたりしてから来た。次回は…もっとちゃんと喋る……かな………。

・先生
寝落ちして夢を見ていた
次回はかなり喋る

・サクラコ
ちゃんと出るのは初。台詞だけなら4話前
はじめましての遣り取りが面倒になったので(正直)、面識に在ってもらうことにした
ハナコに遊ばれるかわいそうな先輩

・マリー
部長の付き人
ほぼ居るだけ…と思いきや、ハナコに深く関係する人物
ここの関係ほんとに何なんだろうな…

・ハナコ
帰ってきた通常運転
あまりにもこういう発言のインパクトが強すぎて、ぬるっとポストモーテムに参加してることに違和感を抱けないと話題に

・ミネ
3話前に名前が出た救護騎士団長。全面的につよい

・アズサ
本人は謹慎中。確固たる身の上を手に入れた




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ポストモーテム(後)


当初考えてた流れを忘れて組み直すなどした
メモしとくって大事だよね…



 

【ハリカ】

 

 さて。所用があると出ていったサクラコさんとマリーちゃん*1を見送って。

「ふぅ…アズサちゃんの書類については、これでなんとかなりましたね」

「お疲れ様、ハナコ」

「はい。先生もお疲れさまです。…ですがまだ、色々残っていますね。…ナギサさんのことも、ミカさんのことも」

 

 …「あ、そういえば」とハナコちゃんが語り出したことによると、ヒフミちゃんがナギサさんと対面したらしく、(やつ)れた様子で真剣に謝罪されたらしい。…あと、どうもハナコちゃんのアレ*2がしっかりとトラウマになってる様子だった。おいたわしや…。

「うーん…誤解はもう解いたのですが……少し、やり過ぎてしまったみたいですね…それにナギサさんは、どうやら他の方にも謝罪して回っているようです…私も謝られました。酷いことをしてしまったと」

「あぁ…実を言うと、私のところにも来たんだよね…」

 …セリナちゃんが驚いてた。学園のトップであるナギサさんがわざわざ保健室まで出向いてきたこととか、私に頭を下げたこととか。私も私で困惑を隠せなかったけども。

 …確かに補習授業部に茨の道を用意するばかりか、危うく回答用紙と一緒に先生まで紛失するところだった事案で私から見たナギサさんの心証は最低値*3を記録したけど………あの夜のハナコちゃんの精神攻撃*4からのアズサちゃんの物理攻撃*5はすさまじかったし、何よりあのときの顔色ほぼそのまんまなのを見たら、もう憤りも覚えなかった。

 というか、そもそも私はそんな激情家じゃないし。知ってる?怒り続けるのにはスタミナが要るんだよ。今回はただでさえ主に精神疲労で倒れたんだから、そんなの保つわけがなかった。

 

「…疑心暗鬼の闇からは、()け出せつつあると思います。ただその代わりではありませんが、ナギサさんは…」

「…精神的に参ってしまった、と」

 …まあ、なんというか。あえて突き放して言うなら「高い授業料だった」ってやつだろう。

 とは思うものの、そもそも学園のトップ、それどころかこの世界(キヴォトス)の学校は自治区の中心でもある。トリニティはこれからがんがん荒れるだろうな…というか、ここまで来たときの平穏もおそらくは表面上だけのものだろうと思う。

 

「それに、もちろんミカも」

「ミカさん…」

 …うん、大丈夫。今はもう平静にその名前を聞ける。だから、少し不安そうな顔をしたハナコちゃんにひらひらと軽く手を振っておく。一瞬後には、ハナコちゃんはもう先生のほうを向いていた。

「先生は…ミカさんの動機について、どう思いますか?」

「…"心の底からゲヘナが嫌い"とは、言っていたけれど」

「…ナギサさんとミカさん。親しさというものは外から判断できるものではありませんが、お二人は長い時間を共に過ごした幼馴染みです」

「へ?そうなんだ」

 なんか意外…かな。同じ場所に同時にいる様子を見たことはまだないけど、あの似ても似つかない二人が……いやまあ、似ても似つかないのは私と(ツグミ)も同じか。

「はい。…真面目すぎるほどに真面目で、慎重に慎重を重ねるタイプのナギサさんと、活動的でアクティブなミカさん。性格はほとんど真逆で、端から見ても安易には仲良しと断定できないお二人でしたが……"ゲヘナが嫌い"という理由だけであの事件を起こしたとは、到底…」

「まあ…確かに。ずいぶん飛躍してるように思える」

「はい、それで…実はこの前、シスターフッドの手を借りて、ミカさんに会いに行ったんです」

 …ハナコちゃん、意外と動き回ってるんだな…と思いつつ、ハナコちゃんの報告に耳を傾ける。

 

 

 

 トリニティ総合学園の監獄*6に入れられていたミカさんのところには先客…ナギサさんがいたという。ナギサさんはじめのうちはアリウスについて話していたけれど、歯切れ悪い様子をからかわれ、「結果的にこれでよかったんじゃない?」なんて言われたことで本音が爆発した。…ティーパーティーの一角が失われ、()()()()()()()と思った。だからその前に、あるいは自分が殺されてミカさん一人になってしまう前に、犯人を見つけ出そうと躍起になっていた。……ナギサさん、どうも幼馴染みであるミカさんのことは一切疑っていなかったらしい。

『…どうして…私は……』

『"私はあれだけ長い間一緒にいたのに、気づけなかったのか"?そんなの私よりも、ナギちゃんの方がよくわかってるでしょ?…"私たちは他人だから"、ね。分かるわけないじゃん』

 そんなナギサさんに対し、ミカさんは…半ば何もかも諦めたような雰囲気で、ナギサさんを(なだ)めていたという。

 

 それでナギサさんが去ったあと、ハナコちゃんは…ミカさんの行動についての自身の推測を、思いきって本人にぶつけてみたらしい*7

 その推測は、曰く…初めはミカさんがティーパーティーのホストになる計画で、セイアさんは幽閉するくらいでよかった。でもそこで殺る気満々だったアリウスと食い違いがあって、さらにセイアさんが自身の死亡を偽装したことで計画が狂い出して…そしてあの体育館で、ミカさんは黒幕として名乗り出た。…確かに、考えてみれば隠れているから黒幕なのに。その理由は…

『ミカさんは、"アリウスがナギサさんを殺すのが()()()()"。そうではありませんか?』

―――だから、ナギちゃんを返してくれる?大丈夫、痛いことはしないよ?まあ、残りの学園生活は全部檻の中だろうけど。

 …私はとっくに去っていた頃だけど、ミカさんがナギサさんについて直接した発言。前に並んでいた残酷な言葉についつい引っ張られてしまうけれど…確かに、()()()()()とも受け取れる。そして、"セイアさんが無事"と聞いてすぐに投降したことからも…

 

『…全然違うよ、私は裏切り者。友達も仲間も売り飛ばした、邪悪で腹黒な人殺し…その事実から目を背ける気はないよ。こんな私、嫌われたって仕方ない』

 ただ、ミカさんにはそう否定された…むしろ拒絶と言うべき様子だったとのこと。そしてセイアさんの様子を聞かれたけど、目を覚まさないことは伝えずにハナコちゃんは帰ったらしい。…まあ、そのタイミングで話すのはさすがに残酷か。…誰にも言わないといっておきながら、今私たちに話していることはツッコまないでおくけども。

 

 

 

「まあそうは言いつつ、こうしてお二人には全部伝えてしまったわけですが♡」

「やっぱりツッコミ待ちだった??」

「うふふ♡…少しだけ、ミカさんには意地悪をしようと思ったのですけれど…なんだか最後のほうは本当に、嫌がらせになってしまった感じもありました。…頭に血が昇ってしまったようです。今度謝らないと…」

 反省ですね、としおらしくなるハナコちゃん*8は、けれどすぐに顔を上げた。

「ですが今のところ、顛末はこういった形になるしかなさそうです。…ゲヘナを嫌いだったミカさんが、ホストになるためにティーパーティー襲撃を企てた。指示を出したのは聖園ミカさん、実行したのはアリウススクワッド。そして最終的に、セイアちゃんがいた部屋を爆破したのは白洲アズサちゃん。各々違う目的があり、その行動の結果が次から次へと連鎖し、誤解と不信が絡まり合い、今ここにたどり着いた……これが結論、なのでしょうか」

 …まあ、そうなるかなぁ…。まだ何か隠されてることがあるようにも思えるし、ハナコちゃんも自信がなさそうだけど、今ここで得た情報のほうが多い私は口を(つぐ)む。…そしたら、「…たとえば」と先生が口を開いた。

 

「…たとえばミカも、最初はただセイアに意地悪したかっただけ…とか?」

「…先生?それは…いくら仮定の話としても、かなり極端な想定になると思いますよ?一応考えてみますけど……実際のところはさておき、端から見るとミカさんは『政治に向かない』と言われるくらい、あまり計算などせずに行動するタイプです。セイアちゃんとは、馬が合わないでしょうね…ですがそこに意地悪をしようとしてアリウスを、となるとさすがに無茶と言いますか、恣意的過ぎる形になってしまうと思いますが…」

「あるいは本当に、ミカはアリウスと仲直りするのが目的だったとか」

「……仲直りが真の目的で、その意図を利用された…?ゲヘナに対する憎悪を煽られる方で………いえ、先生が仰りたいのは…"私たちにはミカさんの本心を察することなどできない"…そういうことですか?」

「『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』…そういうことだよね」

 5つ目の、とハナコちゃんが呟く。それはいつかアズサちゃんが唐突に話題にしていた、楽園証明のパラドックス。まさかこんなところで戻ってくるとは思わなかったけど…

 

「もし本当に"他人の本心"に辿り着いたのなら、それはもはや他人ではなく。辿り着けないのなら、やはり本心などわかっていないということで…楽園も、人の本心も一緒だと。そういうお話ですか?」

「…あぁ」

 なるほど、そういうアプローチ。間抜けにキョロキョロするばかりだったけど、ようやく二人の会話に追い付けた気がする。…あれだな、そう整理されると床屋のパラドックス*9も彷彿とさせられる。お仲間(パラドックス)どうし実に親和性が高い。

「確かに、そうかもしれませんね。私たちは誰かの心にじかに触れる方法も、それを本物だと証明する方法も持ち合わせていません。『誰かの本心を理解し(楽園に辿り着い)た』という言葉も、どうすれば本当と証明することができるのか……無いのでしょうか。他人の本心を理解する方法は…」

「…無さそう、ですね」

 

 …"()()()()()()()()()"。ミカさんがナギサさんに言っていたというその言葉は、一見浅いように見えるけれど正鵠(せいこく)を射ている。どんなに思い悩んだって、最終的にはそこに収束してしまう真理だと思う。

 私こういう哲学的なのに弱いから自信ないけど。頭がパンクしそうになる。『悲しみも怒りも全て因数分解してやるわ!』とは言うけどね、人心は論理や数学だけじゃどうにもならないもんだよ?…いやそんなこと今はどうでもいいんだわ。当人(ユウカ)もいないのに。

「無いんだろうね…。きっと、それはもう不可能な証明…だとすればもう、信じるしかないのかもしれない。そこには楽園がある、って」

 そんでもって、先生はこういうとこさらりと言い切るタイプだよね。ハナコちゃんがフリーズしてしまった。数秒で再起動したけど。

 

「…そう、ですね。考えてみれば、先生は最初からそうでしたね。この疑惑と疑念に満ちたお話の、一番初めからずっと…"先生は、生徒たちを疑わない"。そういうことですか?」

「そうだね」

「…例えその結果として、誰かに裏切られても?」

「その時はきっと、何か事情があるに違いないから」

「…」

「…わかるよ、強いよね先生って」

 とりあえず、困惑を隠しきれない様子のハナコちゃんにそう声をかけておく。ほんっとなんなんだろうねこの人…懐の広さが富士の裾野のそれ。誰のことも思いやって気にかけて、平等に事情を()み取って真摯に向き合って、献身的というか、博愛的というか…これさっきも言った気がするな。

「どうして先生は、そこまで」

「僕は大人で、先生だからね。みんなを信じたいんだ。みんなにはそんな夢物語、と思われてしまうかもしれないけれど」

 先生の優しい眼差しが中空を見やる。まだ見ぬ未来に想いを馳せるみたいに。

 

「…ナギサとミカがいつかまた、お互いに本音を打ち明けられる日が来てほしい。そのために、僕も…エデン条約が終わったらすぐ、会いに行くつもりでいるよ。ミカにも、ナギサにも」

「…そうですね。全てが片付いたらまた、みんなでもう一度…どうなるかは分からずとも、私たちはお互い手を伸ばして、努力していかなければなりません」

「そうだね。きっとそれが、私たちにできる唯一のことだから」

 …まだまだ問題は山積みで、下手をすれば重大な見落としもありそうな感じも否めないけど…確かに、あったらいいな。トリニティにも、アビドスみたいなハッピーエンドが。

 

 

「その前にハリカちゃん、少しいいですか?」

 その後、今日は解散…という雰囲気になったと思ったけど、ハナコちゃんはまだ話があるみたいで。

 

 

 

 

 

*1
なぜだかほとんど面識がないはずの私まで再会の約束をされた

*2
『あはは…えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様との()()()()()()

*3
温泉開発部と同列

*4
『あはは…えっと、そ(ry

*5
至近距離から5.56mm弾を一弾倉分

*6
パワーワード

*7
ちょっとミカさんがかわいそうになった。前後で相手のメンタリティの落差が凄い

*8
結構珍しい気がする。

*9
「自分の髭を剃らない人の髭を剃る」と掲げている床屋。では、彼の髭は誰が剃る?というやつ





・ハリカ
ただでさえ情報面では出遅れてたので頭パンクしそうだったけど意地で食らい付いた
幼馴染み、と聞いて瞬時に鶫が思い浮かぶタイプ

・ハナコ
戦闘では後方支援(SPECIAL枠)の割に行動的
容赦も遠慮もないなぁと思いました(小並感)

・先生
ひたむきに信じ続ける大人

・ナギサ
石橋を叩きすぎて壊した感があるティーパーティー(生徒会)ホスト()。実績『脳破壊』を所持
謝罪行脚を済ませてなお心的外傷は健在

・ミカ
監獄のお姫様。何もかも諦めたような雰囲気を纏う


ミトドケタ…(*´-`)古則の話になると難しくて難しくて
まあ一応まだあるんだけどね オリジナルは難航するいつものやつなので年明けになりそう




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種明かし


年明けになりそうと言ったな、間に合っちゃった^^



 

 

 びしゃびしゃと叩きつける水の音。トリニティ総合学園の広大な庭園…その一角にある噴水に腰かけて、ハリカちゃんが待っていてくれました。

 本当はあの大聖堂の会議室で話してもよかったんですが、思うところがあったので日を改めて会う約束をしたのです。できればと提案した通り、隣には先生の姿。タブレットを開いて何か作業中のご様子……ご多忙でしょうに、ありがたいことです。一方のハリカちゃんは、そわそわと落ち着かない様子で指を絡ませていました。

 

「お二人ともすみません、お待たせしてしまったようですね」

「やあハナコ。大丈夫、僕らもさっき来たからね」

 声をかけると二人とも顔を上げて、先生は柔らかく微笑みました。やはりこの人はこういった対応が上手です。その一方で、ハリカちゃんは固い表情のまま。警戒しているような…それでいて、どこか覚悟が決まっているような。

「ハナコちゃん…さっそくで悪いけど、本題、聞いてもいいかな」

「あらあら、せっかちさんですね♡…少し、気になってしまったんです。ハリカちゃんの…保健室でも一切触れなかった、()()()()()()()()()が」

 

 

「…一応聞いてもいいかな。それがあるって、思った理由…」

 ふぅ…と細い息を吐いて、ハリカちゃんはうつむいたまま問いかけてきました。否定もしなければわかりやすい動揺もなし。…ある程度予想は立てていた感じでしょうか。やっぱりか、と心の声が聞こえてきそうです。…理由はもちろん話すつもりでいました。不思議でたまらないものですから。

 

「最初は、ハリカちゃんの制服ですよ」

「えっ…ま、また…?」

「はい。ただ、アプローチは異なりますが…これはアズサちゃんも(いぶか)しんでいたことですよ。ハリカちゃんの服装が、()()()()()()()()()だ、と」

 合宿中…ちょうど、ハリカちゃんが銃の種類に疎いという話をしていた日でしょうか。シャーレに帰っていくハリカちゃんを見送ったあと、アズサちゃんがふと口にしたんです。『そういえば、ハリカ自身は銃を持っていないのだろうか』と。確かにこの合宿の間、ハリカちゃんが銃を持っているのは見たことがありませんでした。…それどころか、そもそもあの装いのどこに携帯するんでしょうか?という話になったのです。

「それは…あぁ……うん…」

「ハリカちゃんの制服はアオザイのようなワンピースで、裾にスリットもありませんからね。ただ、ヒフミちゃんはハリカちゃんが銃を扱うところを見たことがあるそうです。その時は借り物の銃だと仰っていたとか…」

「うん…それは、間違いないよ」

「つまり、やはりハリカちゃんはふだん銃を持っていないということですね」

「そう、だね…正直、そこまで必要かなって…」

「第一に護身は大切ですからね。少なくとも、普段からあまり前線に出ることのない私でもこうして携帯していますよ?…まあ、それはまだいいんです。まだ。ハリカちゃんは常に先生の隣に立ち、補佐をする。だから武器は必要ないのだと、そう考えていました。……あの、第三次試験の日までは」

「えっ?えっと…私、何かまずいこと言ったっけ…?」

「言ってましたね。覚えてないんですか?…先生は体育館で待機していましたから、知らないでしょうけど…アズサちゃんと別行動を始めてすぐのことですよ?」

「えっ…と……?」

 

 きょとんとするハリカちゃん。どうやら本当に覚えていないようで…まったく、あのときとは大違いですね。

「…『万が一があったら時間稼ぎくらいはする。そのために来てるんだから』。こんなこと無意識に言えちゃうなんて、ズルいですよ?」

「っ………ぁ、言っ…た、かも…」

「思い出せましたか?あの日のハリカちゃんは、ずっと後方支援だと思っていた私からしてみれば明らかに異様な行動ばかりでした。…アリウスと相対したとき、ハリカちゃんはあっさりと先生から離れて、どこかに行ってしまいしましたし」

 

 戦場でよそ見はご法度、ましてや相手は重武装した集団…ということで、わざわざ目で追うことはしませんでしたが…私や先生よりも後ろから飛ぶ弾丸に気づいたところで、私のハリカちゃんに対する見解は崩れてしまったのです。

 ハリカちゃんは戦える、それも恐らくは狙撃手(SR)の射程で。けれどハリカちゃんが武器を携行しているようには見えない…SRなんて大きなもの、果たしてこの素朴な制服姿に隠しきれるのでしょうか?

 気まずそうな顔でうつむくハリカちゃんの傍ら、私は再び記憶を手繰り寄せます。

「…思い返せば、ハリカちゃんがいる時にはよく不可解なことが起こりました。水着パーティーの時。私たちと同じくらいびしょびしょになったというのに、ハリカちゃんの制服はあっという間に乾いてましたね」

「あ、あぁ…」

「まあ、見たところ速乾性に優れたシルクのような生地ですし、さほど気にはしていなかったんですが…そういえば、脱衣所や洗濯機の近辺ではハリカちゃんを見なかったように思います」

「た…たまたまじゃないかな~なんて…」

「そうですか。では美食研究会と交戦した際、榴弾(グレネード)の軌道が急に逸れたのもたまたまですかね♡」

「ん゛んっ…ね、ねえハナコちゃん、記憶力よすぎない!?」

「不思議だったから鮮烈に覚えているだけですよ♡…しかし実のところ、これでもまだ序の口でしかありません。…ハリカちゃん。あの体育館からは、ミカさんに驚いて逃げ出してしまった、と言っていましたよね?」

「う、うん…」

「そうですか…不思議です。ミカさんと、アリウスと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…どうやって、外に出ることができたんですか?」

 

 …そう、これこそが最大の疑問でした。ヒフミちゃんたちは気づいていないようでしたが、あのとき既に前線にいたハリカちゃんが誰にも気づかれず外へ出ることなど、不可能と言って差し(つか)えないことなのです。

 あら、ハリカちゃんは頭を抱えてしまいました。ちらりと先生の方を見て…先生は首を横に振って。やはり先生が把握していることは間違いないようですね。

「うぅ…やっぱ隠し事苦手なんだな私…これで三人目なんだけど……」

「あら、先を越されていましたか」

「でもここまでサクサク詰められたのは初めてなんだよね…」

 …突拍子もない話だと思うけど。そんな前置きをして、ハリカちゃんは話し始めました。

 

 

 

 

 

【ハナコ⇒ハリカ】

 

「…『魔法』、ですか」

「まあ、ゲームとかであるやつほど神秘的じゃないけどね」

 …はい、やっぱりデジャブは信じるべきですね。稲梓ハリカです。ハナコちゃんに状況証拠で詰めに詰められてしまったので、"知ってる側"に仲間入りしてもらうことにしたところです。…なんですか先生、苦笑することですか。

 説明はやはりひとまずハスミさんとかアスナさんのときみたいな最低限のラインにとどめたけど、ハナコちゃんまじで才媛だからな…結構すぐにユウカのレベルまで自力でたどり着いてしまわれそう。

 それにしても、ミレニアムのゲーム開発部と関わったおかげでこの世界における『魔法』という言葉の理解を知ることができたのは結構ありがたかった。残念ながらわれらが『魔法』は無から有を生み出したり、別の物質に変えたりということまではできないんです。一般人視点からはエフェクトも無くて地味だし。おかげでこうして、悪目立ちすることもなく溶け込めてるんだけど。

 

「…ごめんねハナコちゃん、抱えるもの増やしちゃってさ」

「ふふ♡やっぱり、ハリカちゃんは優しいですね…構いませんよ。先生と私だけ、というわけでもないようですし」

「…気付いてた?」

「ええ、ハスミさんですよね?なんだか意味深なやり取りがありましたし、ハリカちゃんを迎えにここまで来たのもハスミさんだと聞きましたから」

「ここ…うん……なんとなく、そうじゃないかとは思ってたけど…」

 

 ここは…この噴水広場はあの日、行方をくらました私が保護された場所だ。あの日はミカさん関連で混乱したあと、迷惑にならないようにも一人になりたいと思って…そこからの記憶は(おぼろ)()だけど、辛うじて風景には見覚えがあった。

 …そういえば……

「あのさ…私、体育館の舞台袖のほうから出てさ…そのとき、アリウスを倒してった記憶があるんだけど…」

「舞台袖…ということは、体育館南西側に倒れていた小隊でしょうか」

「たぶんそれ…あの、その人たちって…」

「正義実現委員会によって、25名全員が捕縛されていますよ。倒れた当時の記憶は曖昧なようですが」

「そ、そっか…よかった、やり過ぎたかもって思って…」

 

 急に気掛かりになってきたけど、ひとまず無事ではあるみたいでほっとした。…いや、まだ懸念がきれいさっぱりなくなるわけではないけれど。

「やり過ぎ…あの場に倒れていたアリウス生全員が、被弾どころか銃を発砲した形跡すらもないそうで、大層不思議がられてしましたが…『魔法』を使った、ということですか?」

「うん…仕組み自体は単純。私は空気に干渉するのが得意だから…大気の組成を変えて、酸欠で昏倒させた。普段は全く使わないタイプの魔法だったけど…ガスマスクから、無意識に連想したんだと思う」

 右ポケットから特化型CADを取り出して見る。あら、魔法を使える銃があるんですね?という声に生返事を返しつつ…曖昧な記憶の中でも、この引き金を引く感覚ははっきりと覚えていた。

 使ったのは『窒息領域』。低酸素の空間を作る魔法。いくらみんなの身体の強度がおかしいとはいえさすがに呼吸の仕組みは同じだろうという考えのもとだった。それで実際、アリウスには覿面(てきめん)だったわけで…原作(魔法科)ではさらに酸素濃度の低い空気塊を動かす魔法『窒息乱流(ナイトロゲンストーム)』があったけど、私は仮想領域を扱うほうが得意なのでそこまで踏み込むのはやめておいた。かなり難しいし……まあ、そんなこと今は関係なくて。

 

「…怖いよね、そんなことが私にはできちゃうんだよ。アリウスの人たちにも、後遺症は残しちゃうかもしれない……私の魔法は普通の人には見えないし、見えたとしても」

「怖くなんてありませんよ」

 惰性で冗漫になる言葉を食い気味に遮られて、顔を上げたら柔和に微笑むハナコちゃんと目が合った。

「だって、ハリカちゃんですから」

「っ、」

「これまでハリカちゃんが魔法を使ったと思われるタイミングを思えば、ハリカちゃんはきっと、力の使い所を誤る人ではない…私には、そう思えますよ」

 ―――でも、ハリカはしないでしょ?悪用は。

 …そこでニコニコしてる先生からだいぶ前に言われたことが、まさかハナコちゃんに補強されて帰ってくるとは。ふふ、と勝手に笑いがこみ上げた。

「…今回は間違えたよ。黒幕から逃げちゃった」

「それは今は言わない約束ですよ♡…あまり抱え込まないでください。私が言うのもなんですけど、やはり適度なイキヌキは大事ですからね♡」

「うん…ハナコちゃん、今日の話は」

「秘密、ですよね?もちろんわかっていますよ。なんだかゾクゾクしちゃう響きですよね♡」

「ソ、ソウカナー…」

 

 …ともかくこうして、魔法について共有する仲間が増えることになった。先生含めて8人か…そろそろ過去形の「大っぴらにしたくなかった」にする頃合いかもしれない…。ハナコちゃんと別れ、今日は救護騎士団のほうに用があるらしい先生とも別れ、予定が空いた私は…

「ミレ…いや、アビドスのほうが近いか…」

 …とりあえず心労をいたわるため、癒しを求めて駅を目指すことにした。

 

 

 

 

 





・ハリカ
詰められた。仲間が増えたよ!やったね()
『窒息領域』の危険性は理解しているので「…怖いよね」のくだりが出た。全員が倒れた時点で解除し(て、自身の吸気確保に回っ)ていたけれども、酸素欠乏症は想像以上にあっさり命を奪うので…

・ハナコ
詰めた。推理パート再来。個人的には思慮深い人視点のほうが書きやすくていい
しかし感情面はまだキャラを掴みかねてる。正直未だに「こんなこと言うかなぁ…」が抜けないところはある

・先生
ほぼ存在感がなくなってる保護者。せっかく出しといてすまない…。何かしら助け船出させるつもりだったけど大丈夫そうだった。優秀な部下…


次々と新作が押し寄せてくる様子に震える作者です
とりあえずEp.3はこれ(とあと恒例の閑話)で閉じるつもりです。閑話は難航気味なので今度こそ年明けになります。その後どうしようかな……悩み中。
先行して書いてた閑話の影響でけっこう難しい言葉を多用してしまった気がするze…




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閑話③:新星と巧者


明けましておめでとうございますを言い忘れる痛恨のミスに気づくまで一週間以上かかりました。土下座。
ついに本格始動しましたよ あれが
確認したらTw……》》X(旧Twitter)《《で呟いてからほぼ1年なのか…そうか……



 

 

新しい者の話

 

【???】

 

 

「はぁぁ…緊張する…」

 慣れ親しんだ自治区を出て、一時間あまり電車に乗ったあと。高層ビルの立ち並ぶD.U.の或る駅で降りて、歩くこと数分。目的地のビルがいよいよ近づいて、改めて息が詰まってくるのを感じた。

 …とにかく、うっかり(はぐ)れてしまわないように気を付けないと、と顔を上げて、目の前で揺れる先輩の青い髪を見る。…それにしても、

「なんで私が…しかも、よりにもよって……」

「"()()()()()()()"はさすがに傷つくで、くぅちゃんよ」

 …軽く振り返った先輩の困り顔を見て、内心思ったことがうっかり口から零れ落ちてしまったことに気がついた。

「す、すみません…あと、"くぅちゃん"はやめて頂けると…」

「えーなんでよ?かわええやんか」

「かわいいから恥ずかしいんです!」

「大丈夫やって!あんた自身がかわええんやから」

「うぅ…」

 

 …呵々(かか)と笑う先輩に押され気味。(もと)より主張の強い方ではない私は、いつもの学舎をあとにしてからずっとこの調子だ。

 私たちが今向かっているのは、連邦生徒会のもとに新たに立ち上がった組織・"連邦捜査部S.C.H.A.L.E.(シャーレ)"。制限なく生徒を加入させられる権限を持っていて、基本スカウト制をとっていると噂で聞いていたそこから、私は全く(もっ)て想定外のご指名を受けた。この先輩と一緒に。

 この先輩が出向させられるのはわかる。普段は連れ立つ相棒が強すぎて霞んでしまっているけれど実力は高いし、何より臆することを知らないような高い社交性は、もはや彼女の象徴と言って差し(つか)えない。

 …それに比べて私はこの為体(ていたらく)だというのになぜ選ばれたのか。そもそもまだ1年の若輩だし、か弱い後方支援側の人間だし…

「…うわっぷ!?す、すみません!」

「いや…なんやろあれ…?」

 ぐるぐると思考の沼に()まっていたので、ふいに立ち止まった先輩の背中にぶつかってしまった。けど先輩は振り向きもせず、何かが気になるようで、そちらを見たら…

 

「でも、これだってちゃんと学校指定の制服ですよ?」

「そ…っれは、そうかもしれませんけど!」

 …目的地(シャーレビル)の真正面で、なぜだか水着に身を包んでいるピンク髪の生徒と、銀髪の警官が何やら揉めている光景があった。

 

 

 

 

 

同僚になるんですか!?

 …状況が動いたのは、大人の男性…写真や映像で見覚えのあるシャーレの先生がビルの正面玄関から、純白の制服を(まと)った黒髪の生徒に手を引かれて出てきた時だった。少し離れたところにいたからはっきりとは聞き取れなかったけど、先生は両者を説得してビルの中へ案内し、それから「あぁ、そっちの二人もおいで!」と私たちにも声をかけてきた。

 そして案内された3Fシャーレオフィスにて、銀髪の警官が素っ頓狂な叫び声をあげ、現在に至る…というわけで。

「ふふ…ええ、そのようですね♡」

 今はちゃんと白いセーラー服を着ている、先刻のピンク髪の生徒が嫣然(えんぜん)と笑う…なんかもう、先輩と思われるこの人のメンタルが怖い。珍妙な先輩ならうちの自治区でも覚えがあるけどここまでじゃない。シャーレの中には私たちの他にも生徒がいたけど、この人ほぼ全員から生暖かい視線を向けられて怯みもしてないなんて…。

 

「ほどほどに節度は守ってね…とりあえずまあ、初対面の子もいるから自己紹介はしてもらっていい?」

「はい。トリニティ総合学園、2年の(うら)()ハナコです。よろしくお願いしますね♡」

 ピンク髪の浦和先輩…抜群のプロポーションからてっきり3年生かと思ったけれど、考えてみればそれ自体は今隣にいる先輩もそう変わらないか。ただこう…色気というか、艶やかさというか…それだけに限らない格の違いが犇々(ひしひし)と感じられた。

 携行する荷物が少ないところを見るに、私と同じ後方支援タイプだろうか。先生や、ハリカさんというらしい最初に見た黒髪の生徒と面識があることはなんとなく察した。

 

「…ヴァルキューレ警察学校1年、生活安全局の(なか)(つかさ)キリノです」

 一方の銀髪警官さんも気圧され気味…というか、こっちはこっちで意外にも同級生だったとは。背丈は浦和先輩と同じくらいなのに…いやまあ、私が平均と比べれば低いほうなのは知っているけれど。

 こちらも前述した二人とは面識があるようだ。そもヴァルキューレはここD.U.を主な管轄とするし、()()()()()という名前からして、巡邏(じゅんら)に勤しむような()(せい)に近しい部署なのだろうと思う。

 

「じゃあ先輩のウチから…(あし)()(はら)高等学校2年、千躰(せんたい)ミオです。よろしゅうお願いします!」

 簡潔な自己紹介のターンが続いているので、あっという間に私たちの番が回ってきた。そして、ミオ先輩はいつもの調子で軽く手を振りながら済ませてしまう。もう少し時間稼ぎをしてくれてもよかったのに、と恨めしげな視線を…じゃなくて。

「お、同じく葦之原高等学校から来ました1年の、月橋(つきはし)ククリといいます…よろしく、お願いします」

 緊張で上ずりそうな喉をなんとか抑えて、私も定型文めいた自己紹介を済ませる。所属は言わないことにした。先輩もすっぽかしてたし、何より今は普段以上に噛みそうなので。…ひとまず、受け入れられはしたらしい。

 敵ではないとわかっていても、こういう知らない人の多い場所はやっぱり苦手だ。気後れしないミオ先輩が羨ましい…その先輩がぽんぽんと背中を軽く叩いてくれて、ようやく肩の力を抜くことができた。

 

 

「ミオ殿~!」

「イズナちゃ~ん!元気しとったか~?イココもそこで見とらんと、ほらこっちこっち!」

「むう…私は飛び付いたりするほど子供じゃないのですよ」

 場の雰囲気が緩むと、ミオ先輩はさっそく百鬼夜行の子に飛び付かれていた。イココと呼ばれた小柄な生徒もミオ先輩のもとへ歩み寄っていき、頭を撫でようとした先輩の手をつかんで下ろしていた。

「ふふ、イズナちゃんもともと人懐っこいけど、すっごい懐いてるなぁ」

「あ、っと…ハリカさん、でしたっけ」

「あ、自己紹介まだだったね。私は稲梓(いなずさ)ハリカ。2年生だから先輩で合ってるよ。えっと、ここ直属で先生の補佐をさせてもらってます。よろしくね」

 するりと隣に並ばれて、驚いて見上げると先述した黒髪の生徒。髪を束ねる白いリボンの上で灰色の花が揺れている。

「月橋ククリです…さっきも言いましたが。…まさか、数多ある学校の中から葦之原が選ばれるとは。少々意外でした」

「まあ、今のシャーレはまだまだ推薦制に近いからね。イコイちゃんの提案をイズナちゃんが猛プッシュした感じたから…」

「そうなんですか?」

「うん。だから…舞踊研究会ってところの人には百鬼夜行のイベントで会ったことあるけど、正直私もあんまり知らないんだよね、葦之原。どんなところなの?」

「どんな…まあ、自然豊かなところですよ。風光明媚、山紫水明といいますか。それと…今のミオ先輩が分かりやすいと言いますか」

 

 先生や部員と思しきメイド服姿の(!?)生徒と話しているミオ先輩は、いまだに百鬼夜行の二人を伴っている。葦之原は百鬼夜行と親しい。学校ぐるみで昵懇(じっこん)の間柄というやつだ。付き合いはかなり長く、安定していて自治意識も強く百鬼夜行の連合に加わることはなかったけれど、その辺りで不可逆的な軋轢(あつれき)が生じることはなかったらしい。具体的に何をしたかは定かでないけれど、先達(せんだつ)の手腕には敬意を表さざるを得ない。

「地形的にも、ここに来るまでに百鬼夜行自治区を通過していくような形で…キヴォトス全体で見ても自治がしっかりしてる方、という自負は私たちとしてもあるので、その分シャーレには知られてないのかもしれません」

 シャーレは幅広く生徒や学校のトラブル解決に動く機関と聞いた。うちでは外で聞く不良が跳梁(ちょうりょう)(ばっ)()するような事態もほぼ起きなかったし、それこそ風紀の砦たる『大理寮』…ミオ先輩たちの活躍が目覚ましいわけで。

 

「ククリちゃん」

「は、はい!…えと、」

「たぶん初めましてですね、百鬼夜行2年の(つじ)イコイなのです」

「あ…せ、先輩でしたか…すみません、てっきり」

「のんのん、小柄な自覚はありますし慣れてるので気にしませんよ。むしろこれは私の機動力の要なのです。むふふ」

 ふと声をかけてきたのは、先ほどミオ先輩が「イココ」と呼んでいた百鬼夜行生。私よりも小柄だけれど2年生の先輩だったとは…キリノさんとは逆の事象が起きているだけか。懐の広い人のようで、謝罪は優しく制されてしまった。

「体格の話なら、もっと小柄な三年生も何人かいるからね…」

「そ…うなんですか?」

「なんといってもキヴォトスは広いのです。それよりククリちゃん、設備案内をしたいのでこっち来てください」

「あ、はい」

 

 稲梓先輩を見れば「私も一緒に行くよ」とのことなので、並んでミオ先輩たちのもとへ向かう。そのついでに(と言ってしまうとかなり悪いけれど)、逵先輩の後ろにいた短いピンク髪の生徒にも挨拶をしておいた。

「トリニティ総合学園2年の鷲見(すみ)セリナです。よろしくお願いします…といっても、私も入部してまだ一週間と経っていないんですけどね」

「と言いつつ付き合いは長いんだけどねセリナちゃん。忙しくて入部は控えてただけで」

「困っている人は放っておけない性分なんです。部員が少なかった頃は、よく倒れていらしたので」

「それってあなたの方が過労なのでは…」

「…ふふ♪︎」

 …何かをはぐらかされた気がする。

 

 

 

 その後、シャーレ入部に際する重要事項を色々と教わった。シャーレビルの施設案内(しか)り、業務の割り振り然り。前線よりも裏方のほうを希望する旨を伝えれば、思いの(ほか)快く受け入れてもらえた。浦和先輩が「お揃いですね♡」と声をかけてきて、つい着物の帯を押さえて身構えてしまったけど。

「ウチはがんがん前線に出てくつもりやけどな」

「なんだか正反対なんですね、お二人とも」

「所属は別々なので…ミオ先輩は風紀、私は生徒会です。ほんとはもっと小難しい名前ですけど。私は戦闘になると本当に弱いし、そもそも戦闘にならないのが一番だと思ってます。いくら備えたところで、弾薬は一度燃えたらおしまいの消耗品なので」

「なんや会計さんみたいなこと言うとるな」

「実際半分くらいサイカ先輩の影響ですからね」

 生真面目を絵に描いたような先輩を思い浮かべる。…私は、たぶん周囲に感化されやすい質なんだろうと思う。いちおう(きょう)(げき)な方面には進む気配も、その積もりもないけれど…。

 …(いわ)く、「キヴォトスに存在する全学園の生徒を制限なく加入させられる超法規的機関」。生徒をなんの隔たりもなく広く受け入れ、社交と協同、折衷が行なわれるこの場所(S.C.H.A.L.E.)でもまた、私の中で何かしら変じるところが出てくるんだろうな…なんて漠然とした予感がした。

 

 

 

 

 

 電車に揺られながら、端末の画面を見る。モモトークに増えた名前と、二つのグループ。

 シャーレに部員として籍を置く生徒たちはみな、モモトークのグループを二つ使っている。先生がいる方といない方。いくら立場も異なる大人とはいえ()け者にするのはどうかと思ったけれど……なんでも、多忙な先生が何もかも抱え込まんでしまわないよう、備品の出納(すいとう)・管理だとか、事前の大掴みな調査だとか、そういうちょっとしたことは生徒間で済ませてしまおう、というのが目的らしい。

 それでうっかり間違えないよう、先生がいる方*1とは名前*2もアイコン*3も違っているし、いちおう先生もグループの存在は知っているらしい。

 …それにしても。所属メンバーの一覧を開けばずらりと出てくる名前…ミレニアムサイエンススクールの生徒会『セミナー』。ゲヘナ学園の『風紀委員会』。トリニティ総合学園の『正義実現委員会』に『救護騎士団』…様々な学園の、様々な生徒たち。多くは先輩で、仕様上それらの一番上に出てしまう自分の名前と比べると…やっぱり、見劣りしてしまう気がする。

 

「なんで自分が、って思っとるやろ」

「っえ」

 ふいに振り向いたミオ先輩の発言に、思わず小さい声が漏れた。

「くぅちゃんずっとそういう顔しとったで?まあわからんでもないけどな。うちかて1年ときに同じ体験したらそう思てたわ」

「…そう、ですか」

「そうそう。…実はな?うちがシャーレからお声掛けいただいたとき、くぅちゃんのこと推薦したんよ。みーたんの代わりに」

「み…ミタケ先輩?」

 脳裏に浮かぶのは同じ生徒会の、青緑色の髪が特徴的な先輩。人格者という言葉が相応しく、いつも人に囲まれているあの先輩が、私を?

「元々相談は受けとってん。期待の新人だから是非ともここだけでなく場数を踏んでほしい~って。けど場数を増やす方法なんかそうそうないし、志願して生徒会に加わったらしいから他部署の仕事まで…ってのはある。そこにシャーレのご指名が来て、よっしゃ渡りに船や!って流れやな」

「そう…ですか」

「あー…勝手にやってもうたんはゴメンな?」

「いえ…困惑はしましたけど、嬉しいです」

 

 部活の内外を問わず慕われるミタケ先輩…それは私とて例外ではなく。そんな先輩に「期待の新人」だなんて言われると…むず痒くて仕方がない。

「すみません先輩今ダメな顔してると思うので見ないでください」

「大丈夫大丈夫かわええよ」

「そっ…いう問題ではなく…!」

「うれしくて口角上がるとか別に普通のことやんか~」

「しゃんじゃけっとぉ…!」

「あー出た出た。ふふふ…あちょ、痛い痛い」

 …もう恥ずかしくて、背中をポカポカ叩くことしかできなかった。

 

 

 

 

 


 

囂しい街の話

 

【ククリ⇒チナツ】

 

 

 ご存知ですか?この無法地帯の風紀委員会に、オフなんて有って無いようなものなのです。

 …失礼しました、つい。今日はたまたまオフが被ったイオリと出掛けているのですが…まあ、いつもとあまり変わりません。自由と混沌が校風とはいえ、ここの生徒はあまりにも自由が過ぎますので。というかイオリもイオリで挑発に乗らないでください。おかげで物資が順調に減っていきます…。オフなんですよ?解ってますか?……はぁ…。

「…ハリカさん?」

「あ、チナツちゃん」

 そんな最中、見知った顔が見えた気がして足が止まりました。コンビニの前のベンチに腰かける二人、その横顔に見覚えがある気がして。

 …ただ、普段とは違うパンツルックの装いだったので、他人の空似のようにも思えましたが…ふとこちらを見た顔は、確かにハリカさんでした…若干やつれていますが。加えて、隣には浴衣のような装いの…確か、イコイさんといいましたか。あいにくまだ二度ほどしか当番でご一緒したことがなく。

 

「おや、奇遇ですねチナツちゃん。そういえば風紀委員会でしたね」

「はい…なんだか珍しいですね、ハリカさんの私服って」

「ちょっと諸事情あって…わぁイオリちゃんだ、すっごい久々」

「イオリというと、あなたが銀鏡(しろみ)イオリさんですか。チサキちゃんから聞いたことあります」

「ああ、そう…だけど、よりによってあいつか……何て言われてるんだ私…?」

腕は確かだけど猪みたいな向こう見ずで台無し

 いきなり割り込んできた冷徹な声…聞き覚えしかないそれに目を向ければ、

「げ!チサキ!?」

「相変わらずね、イオリ。人の顔見て「げ!」は失礼でしょう」

 話題に出ていたチサキさんが、コンビニから出てきたところでした。これが、いわゆる"噂をすれば影"でしょうか…ただ、その…チサキさん、なんだかいつもに比べて機嫌が良さそうに見えます。口角は上がっていて、イオリを(たしな)める言葉にも普段のような冷たさはなく、あたかも軽口かのようでした。

 

「で、私服で腕章もないってことは、二人ともパトロールではないのね?」

「そうだけど…チサキお前まさか、着いてくるとか言わないよな?!」

 そういえばフユコさんから聞いていましたが、このお二人は「割と仲はいい方」なんでしたね。客観的にはあまり相性が良いように見えないんですが、思いのほか軽い調子で会話が進んでいます。

「お互い暇でしょう?そっちは普段以上の荷物ないじゃない。私も本命の用事は終わったし」

「そうですね。よければご一緒してもいいですか?」

「お、おい!?チナ「この人がすぐ挑発に乗ってしまうので困っていたところなんです。このままでは普段と変わりませんので」

「ふぅん…?」

「ぅ…」

「それじゃあ決まりですね!どこに行きましょうか」

 隣から抗議の声が聞こえましたが、チサキさんに絶対零度の視線を浴びせられて沈黙していました。放っておきましょう。そんなことより、今からどこへ行くかです。イコイさんがおすすめを訊いてきたので、端末で地図を開きました。

 

 

 

 …さて。場所は移って、ショッピングモールのフードコートでひと休みです。ここに来るまでの間にも不良が絡んできたりしていましたが、チサキさんが突っ込んでいって蹴散らしたり、イコイさんがグレネードで吹き飛ばしたりして、速やかに鎮圧されていきました。モールの中ではさすがにそういった騒ぎも1件しか起きなくて、純粋にショッピングを楽しむことができました。

 そもそも、チサキさんに怯んで逃げていく方もいましたね。イオリがとても複雑そうでした。わかります。

 

 まあそんなわけで…心に余裕が出てくると、色々と気になることが出てきます。

「ところで…ハリカさんとイコイさんは、どうしてゲヘナまで?」

「あー…それはねぇ……チサキちゃんの用事で…」

 ハリカさんは少し言い淀んで…ちらり、とチサキさんに目配せをしました。

「…自分で説明しろって?まあそれもそうね…仕立て屋に行ってたのよ。ハリカの制服はこのキヴォトスじゃ一点ものだから、()()してもらうためにね」

「だから、今私の制服がここに入ってるんだよね」

 ここ、とハリカさんが指差すのは自身の背負うナップサック。制服を持ち運んではいるんですね。

「手に持っただけで材質がわかるのはさすがプロと思いましたね。なかなか見ていて楽しかったです。むふふ」

「…しかし、なぜそれをチサキさんが?」

「決まってるでしょ?趣味よ」

「趣味…?」

 他人の衣服を複製する趣味とは…?よくわからず首をかしげましたが、

「意外かもしんないけど、チサキはコスプレ趣味があるんだよ」

「コスプレですか?」

 

 横合い…イオリから説明が入って、思わずまだご機嫌そうなチサキさんを見ました。…意外です。とても。ストイックな仕事人とばかり思っていましたから。ハリカさんやイコイさんも同じだったようで、揃って目を丸くしています。

「何よ、そんなに驚くこと?」

「いや…なんというか、チサキちゃんにしては俗っぽいというか…」

「聖人だと思われてたの?」

「その気持ちはわからなくもないけど、こいつはマジだぞ。私の格好もできるからな」

「イオリの…?」

 …イオリの格好をしているチサキさん。あまり想像できませんが…それって、つまりイオリは見たことあるんですよね。正直ちょっと気になります。…そんな気持ちがにじみ出ていたようで、苦い顔のイオリが首を横に振りました。残念です。

「外に着ていくことはまずないけど。あんたよくそのうっすいスカートで出歩けるわよね」

「年中ショーパンのやつに言われたくない…あとあの、便利屋の3年とかも」

「カヨコさんです?」

「そう…っていうかこの際聞くけどチサキ、便利屋と仲良いのか?あいつらは指名手配中の規則違反者どもだぞ?」

 

 出ましたね、イオリのこれが。もう使命感の強いあまりに出る発作みたいなものだと私は思っていますが。…内心ため息をつく私の一方で、チサキさんは眉ひとつ動かしませんでした。

「仲って言うほどのものは無いわよ。ただ目くじら立てるほどの相手じゃないだけ」

「…こう言うのは癪だけど…あいつら、結構強くないか?」

「それはあんたらが委員長に頼りすぎ。それに、なんだかんだ10:0で便利屋が悪い案件には言うほど出くわさないし。せいぜい1年の火薬庫にさえ気を付けていればいい程度よ、まだ意志疎通ができるだけよっぽどマシ

「んぐぅ…」

 頼りすぎ…要するに、()()()()。バッサリと言い切られてしまいましたね…。私はあくまで後方支援に回っていることが多いですが、それでも耳が痛いです。

 

「意志疎通のできない存在を匂わせる言い方ですね?」

「ええ、いるのよ。悲しいことに…っ!」

「うわっ」

「ふぇっ!?」

 ふいに、爆音とともにモールが揺れました。耳を澄ませば「開発だぁ!」と音頭をとる…。

「噂をすれば影、ね…来たわよ意志疎通できない狂人の集いが」

「温泉開発部、ですか?…その名目で街じゅう所構わず爆破して回る、と噂には聞いたことがありますが…」

「まあ概ねその通りですね…おっと」

「かなり近いな…被害が広がる前に押さえるぞ!」

「ええ、今日という今日こそ殲滅してやるわ」

 それぞれ得物を構えて、フードコートを飛び出していく2人。紙コップは私が捨てとくから先行ってて、と言うハリカさんにあとは任せて、私とイコイさんもあとを追います。…やれやれ、結局こうなるんですね。束の間の休息になってしまいました。…ですがまあ、有意義な時間だったと思いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

*1
『連邦捜査部S.C.H.A.L.E.』、アイコンはシャーレロゴ

*2
『【生徒用】シャーレ部員間連絡網』

*3
先生が不在時のデスク





・ハリカ
シャーレ常駐。窓の外にハナコ(スク水)の姿を認めて数秒フリーズした人
二話連続で登場。私服はパンツルックを選びがち。ロングスカートの制服に慣れていて生足を出すのが苦手なため

・ククリ
ついにオリジナルの学校を考えるに至ってしまった…①
生真面目で言葉遣いも難解な後方支援職。ルビ大活躍
Q.君本当に1年生?⇒A.時おり言われますけど、(まぎ)れもなく1年です。言い振りは…まあ、本の虫を(こじ)らせたといいますか。

・ミオ
ついにオリジナルの学校を考えるに至ってしまった…②
明るく快活でちょっと好戦的気味な関西弁(努力目標)キャラ

・ハナコ
この度シャーレに加入。ククリにはがっつり警戒されている
ククリの被害経験者っぽい動きがちょっと気になった

・キリノ
この度シャーレに加入。これから色々大変そうだけど頑張ってね…

・セリナ
この度(よりちょっと前に)シャーレに加入。チナツと被るしなぁ…と思ってたけどもっと早く入れといてもよかった(イコイ・ツバキと同じタイミングで入れるか悩んだけど延期してた)
ちょうど当番の日。色々と不思議な医療担当

・サイカ・ミタケ
名前だけ登場な葦之原の生徒(オリキャラ)。二人とも生徒会所属。「連れ立つ相棒」とか「珍妙な先輩」とかと一緒にプロフィールは開けてる

・イズナ
忍術研究部はイコイ経由で葦之原と交流があり、たびたび「遠征」にも出ている。残念ながら忍者メイトは見つかっていないが
この日は当番。ちなみに名前が出てないもう一人の当番はカリン

・イコイ
自然豊かな葦之原の環境を気に入っておりよく入り浸っている模様。彼女を登場させた目的の半分がこれ
ちなみに当番の日ではないけど来てた
二話連続で登場。配達でいろいろ駆けずり回ってるけどゲヘナにはまだ馴染みがない

・先生
あんま出てない…頼もしい仲間が増えてにっこり。

・チナツ
最近出せてなかったネ…ということで後半語り手で登場していただきました
「モールの中では1件()()ない」あたりがゲヘナの悲哀ポイント

・イオリ
公式不憫枠なポンコツ強者なのでついついこう扱いがち
チサキは同級生。訂正しておくと、仲がいいというより「一方的に気に入られてる」が近い

・チサキ
抑止力が若干あるけどヒナにはまだ遠く及ばない
普段から冷徹な声音(※オコッテナイヨー)だけど嫌いな相手には本当に口が悪い
隠し要素「着道楽」が解禁されました。プロフィールにはもう出てたけど
イオリの"強いけど残念なやつ"なところを面白がってるふしがある模様。
ちなみに仕立て屋は某マトリアとは関係ないです念の為。




久々の閑話にちょっと手こずってました
本作におけるシャーレの設定をちまちま詰めております…他のブルアカ二次文字書き様方の影響をかなり受けている気がする
余談ながら後半タイトルは「かし(が)ましい」のつもり。声よりもやかましい物々(銃・爆弾・その他)があるのでなんとなく"姦しい"は避けた感じ
そして3章前にイベスト挟もうと思ってでもかなり悩んでます……ゲヘ夏、さてはハリカ入れるとストーリーの根っこの部分から崩れるな………?




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Ev.1:ヒナ委員長のなつやすみっ!
ある夏のシャーレ



たいへんお待たせしております この話組み直して書くだけでも時間かかったのにこの期に及んで新しいシリーズ(原作も違う)を始める馬鹿ムーブをやっております

悩んだけどやるだけやってみるヒナ夏 でも無関係の視点からスタート
そして某一人称に様つけちゃう系議長が実装されたけど身長(169cm)と固有武器(WA2000)でゲヘナのオリキャラ二人と見事にかぶってしまった こうなるともはや笑うしかありませんなアッハッハ



 

【ハレ】

 

 

[【生徒用】シャーレ部員間連絡網(22) ]

 

ミオ:ゆーゆゴメン!(;>_<)

ミオ:電車30分くらい遅延しとって

   だいぶ遅なりそう~!(;>人<)

 

ユウカ:大丈夫、速報で流れてるのを確認

    済みよ。それに今はそこまで忙し

    くもないし          

ユウカ:けどその「ゆーゆ」はやめてくれ

    ない?            

 

               なんか顔みたい>

       速報になってるのは「沿線で暴動>

       が起きて点検」ってやつだね  

 

ミオ:あ、ほんまや

ミオ:え待ってこれ最悪来られへん感じ

   のやつやったん?(;ゆーゆ)   

 

                 そうみたい>

 

ユウカ:さっそく顔文字に取り入れるのも

    やめてくれない!?      

 

       監視カメラ見たけど、あわや走行>

       中の電車に流れ弾が直撃って感じ

       だったよ           

 

ミオ:思ったよりガチ

 

ユウカ:待ちなさいハレ、あなたまさかま

    た片手間でハッキングしたの? 

 

ミオ:ほんまやん怖

ミオ:しかも常習なん?

 

       ちょっと借りただけだし大丈夫だ>

       よ              

 

ミオ:ほんまか…?(Φ_Φ)

ミオ:でも行けそうで良かったわ~やっ

   ぱ頼られた以上は応えたいやん?

 

キリノ:ここ全体トークですよ先輩方…

キリノ:それはそうと、コーヒー豆ってカ

    フェの備品ですよね?これはどこ

    に運べばいいですか?     

 

       3階第二資料室入ってすぐ左の棚>

       だったかな          

        カフェの備品は全部そこのはず>

 

キリノ:ありがとうございます!

 

ミオ:焦らずゆっくりなー(・ω・)ノシ

ミオ:それにしてもユウカ毎日おる気が

   するんやけど         

ミオ:気のせい?

 

ユウカ:毎日はいないわよ、セミナー会計

    の仕事もあるし        

 

       積極的には来てるけど毎日ではな>

       いね             

 

ユウカ:ハレ?

 

ノノミ:なんだか賑やかですね?

 

            お、外回りおしまい?>

 

ノノミ:はい、これから戻ります♪︎

 

ミオ:のんちゃんおかえり~

ミオ:そういや、のんちゃんはあんまり

   来てないような気するけど   

 

ノノミ:なるほど、そういう話題でしたか

 

       アビドスは生徒数が少ないところ>

       だからね…          

 

ノノミ:少ないどころか廃校寸前でしたか

    らね             

ノノミ:それをシャーレに救われたので、

    今ここにいるんです☆     

 

ミオ:結構デリケートな話やった?ごめ

   ん(-人-;)           

 

ノノミ:ぜんぜん大丈夫ですよ!

ノノミ:ちなみに、シャーレに来るだけだ

    ったら、たぶん今はイコイちゃん

    のほうが多いかもしれませんね 

 

キリノ:そういえば、さっきもイコイさん

    から受け取りましたけど…   

キリノ:イコイさんの配達って毎日来てる

    んですか?          

 

ユウカ:ほら、部員になったらIDカードを

    かざすだけで入構できるようにな

    るでしょう?         

ユウカ:それをいいことに、シャーレ宛の

    荷物は片っ端から引き受けてるら

    しいわ            

 

キリノ:なるほど!そうだったんですね!

 

ミオ:ほんま仕事熱心でええ子やわ

 

ユウカ:…まあ、シャーレにはそもそも来る

    以前の問題なのが一人いるんだけど

    ね               

 

   ・

   ・

   ・

 

 


 

 

 

「…はっ!?」

 ブーン…という感じの小さな低い音をたててドアが開けば、空調でほどよく冷やされた空気が漂ってきて、広々とした空間が立ち現れる。ここはシャーレビル1階にあるカフェ。少し離れたテーブルに伏していたキリノがガバッ!と身を起こすのが見えた。

「あ、あれ?みなさんお揃いで…」

「今日の分の書類はおおむね片付いたよ」

「もうあと残ってるんは先生本人の確認待ちだけやさかいな…ふわ…っ」

「おーミオちゃん大あくびだ」

「ええやろ~別に…この子なんか立ったまんま寝とるし」

「す、すみません私、すっかり眠ってしまっていて…」

「大丈夫大丈夫!キリノちゃん外回りでお疲れだったじゃん?すっごく頑張ってたもんね!」

 わたわたするキリノをすぐさまムツキがフォロー。この子こういう対応が早いよね…。足早に横を通り抜けたミオがソファに飛び込んでいくのを見送っていたら、背中にドシンとぶつかる感覚があってよろけた。

「ぁ…ごめん」

「いや、大丈夫…」

 背後に立っていたツバキの寝ぼけ眼*1と目が合ったけど、交わすやり取りはこの程度。こういうものだとすっかり慣れてしまったから…とりあえず、ミオに任せておこう。

 今日のシフトはこれで全員。ヴァルキューレ、ゲヘナ、葦之原、百鬼夜行、ミレニアム…と所属校のかぶりがないのは、実は割と珍しかったりする。そしてそこに先生がゲヘナ主張で半日ほど不在、が重なるのはなおさら……まあ特にギスギスしたりすることもなく、業務は滞りなく進んだけどね。

 ムツキが言ってた外回りではヘルメット団の暴動があったけど、前線の半分(ムツキとミオ)が好戦的すぎてあっちが可哀想なくらいだった。キリノも感化されたのかすごく張り切ってたし。それで電池切れになっちゃってたけど。

 

「まあこんな涼しいんやったら寝てまうよなぁ…」

「わかる~事務所に戻れなくなっちゃいそう」

「節約しとるんやっけ?カヨコさん言うてたけど…もういっそこのビルに事務所構えたらどうなん?」

「すっごく魅力的だけどね~アルちゃんは遠慮しちゃうだろうなぁ」

 だらだらした会話が展開されているのをよそに窓の外を見れば、日が傾いてきた白い空…季節はすっかり夏になった。夏至を過ぎてから気温は腹立たしいほど順調に上がり続けていて、今朝来たときは天気もよかったから直射日光で融けるかと思った。…帰りは地上の余熱の中か…嫌だなぁ……。

 

「あれ…ハリカさんは?」

「先生への連絡やってくれとるよー。その先生は…早ければ何時言うてたっけ?」

「5時。…もうそろそろだけど」

「まあゲヘナだからね~」

「先生ちょうどゲヘナを出たとこだって。いや~涼しい…」

 ドアが開く音がして割り込んできた声に振り向けば、ちょうどハリカが来たところ。ムツキがさっそく駆け寄ってる。元気が有り余ってて羨ましいな…。

「なんでも今年の風紀委員会の夏期訓練は先生も協力するとかで、今日はその打ち合わせみたいなものだったって」

「え、先生あれに行くの?ついていくだけでけっこーハードじゃない?たしか去年は、ヒノム火山のふもとでやってたと思うよ?」

「そうなの…?向こうからの依頼って言ってたけど…さては二つ返事で安請け合いしたな…?…あ、あと直帰じゃなくてサンクトゥムタワーに寄り道するってさ」

「ありゃ、じゃあお仕事追加かな~」

「あんまゆっくりもできん感じかぁ~ほなまあ、それまでおしゃべりでもして待っとこか。ツバキちゃん寝てもうたけど」

「え?」

 ミオの発言に、見ればさっきミオが飛び込んでたはずのソファにツバキが横たわっていて…ほんとだヘイロー消えてる。早すぎない…?

「わぁほんと早い」

「よくこんなに寝るよね…」

「一番の癒しみたいだからね~ツバキちゃんにとって。そっとしといてあげよ」

「そうだね…それはそうと、急におしゃべりって言われてもさ…」

「別に話題はなんでもええやん?この際ずっと気になってたこと聞こ~とかでもええし」

「…あ。それでしたら、気になってたことがあるんですけど…ハリカさんのことで」

 

 ここで、すっかり聞き役に徹していたキリノが控えめに手を挙げた。名前を出されたハリカも、私?と言いつつ居ずまいを正す。

「この前モモトークで話してましたけど…ハリカさんがシャーレに住んでる、って本当ですか?」

「あぁそれね?そうだよ。5階だけどね」

「ご、誤解?」

「そうじゃなくて、ふたつ上の5階」

 困惑するキリノにハリカは天井を指差してみせて……ん?待って、アクセント同じじゃなかった?よく気づいたね?

 

 

 

 シャーレビルは天を()くほど高い。聞くところによると48階まであるというその全貌を、私はまだ知り尽くせてはいない。せいぜい行ったことがあるのは地下1階のサーバールームと射撃練習場から4階の第三資料室と視聴覚室までで…1階は今いるカフェとコンビニ『エンジェル24』、2階は図書室、第一資料室、3階はシャーレオフィスと第二資料室、仮眠室…ぐらいかな。会議室とか応接室とか多目的室とか色々あるけど、私は入ったことはない場所が多い。無邪気にドア開けて回るタイプじゃないからね。

 あと一応知ってるのは、南東側の分館が居住区になっていて先生は普段そっちで暮らしてること、そっちに近い東側のいくつかの部屋が非常時泊まれるよう整備されてること、それから地階は駐車場のぶん手狭になってること。あと屋上にヘリポート、それから実は地階はもっと下まであるらしいとか。

 …そういえば、ドローンを操って外周ぐるっと見たことがあったな。その時見た印象としては……上、だいたい25階辺りから上はあんまり普段使いされてる感がなかった。まあ利用者数に対してあまりにも大きなこの高層ビル、半分も使われてたら御の字かもしれない。

 そんなことを思いながら、プルタブを引……こうとした妖怪MAXの缶がするりと奪われて、顔を上げたら目が笑ってない顔。

「ちょ、ハリカ…!」

「ハレちゃん?今日何本目?」

「いや、まだそんなに…」

6本目だよ~

「っ!?」

 ハリカのジト目って妙に威圧感あるんだよね…とか思ってたら、割り込んできた声に肩が跳ねた。声の主はソファに…あれ?やっぱり寝て、あっいやヘイロー出てる!?うっすら開いた目と目が合って、私たぶん今すごく間抜けな顔してるんだろうなじゃなくて何その短時間睡眠!?

 

「…私が把握してるより一本多いんだけど」

「外回りの時、開ける音聞こえてたから…」

「え、ほんま?気づかんかった」

 いや、えぇ…確かにドローンで支援射撃する都合上、音声を繋げてはいたけど…合間の移動中だったとはいえ、聞き取られてるとは思ってなかった……

「まったく…すぐやめろとは言わないけど減らしてったほうがいいよ?ユウカも本気で心配してるし…こないだチヒロさんと会う機会があったけど、そこでもこの話になったからね?」

「ぅ…い、いや、でも…」

「でもじゃありません。サイクル早すぎ。話を戻すけど、まあ単に居住区…南東の方ね。その上層階を割り振ってもらったんだよ」

 

 あぁ…妖怪MAXを奪われたまま、話を戻されてしまった。いやまあストックはあるし冷蔵庫まで取りに行けばいい話なんだけど、真横に立つハリカがそれを許してくれないことは想像に難くない……いいか。まだ我慢できないほどじゃないし…。サイクル早すぎと言われても、私にとっちゃ当たり前だからなぁ……私も話を戻そう。

「ほな元から居住区住みとちゃうかったんやな…元々はどうしとったん?」

「最初のうちは仮眠室の隅っこのベッドを占有してたんだよね…ムツキちゃんが来た頃はまだそうだった」

「懐かしいね~。朝一番に来て仮眠室に行ったら、一番奥で毛布にくるまってるの!」

「あの手この手で叩き起こしてきたよねムツキちゃん」

 そういえば、この中で(ハリカを除けば)一番古参なのはムツキだったな。…悪戯好きなムツキのことだから、「あの手この手」がどんなだったかは想像するに余りある。目がまったく笑ってないハリカの表情が本当に切実そう。

 

「私はシャーレに拾われて、最初のうちは"あくまで居候させてもらってる"程度の認識でいたんだよ。だから寝床は仮眠室があるしここにはシャワールームもあるし、それで特に問題ないやと思ってた。1階の『エンジェル24』は品揃えがいいし」

「確かに…楽園かも」

 …ハリカは先生と同じ、キヴォトスの外から来た人間だ。これはヴェリタスとして入手した情報で、本人はあまり話したがらないみたいだけど…謎が多い。こちらで調べた限りでもハリカの足跡は唐突にゲヘナから始まってるから、誘拐されてきたんじゃないか?って話になったりしてるけど…元の場所に帰りたがっていないハリカから得られる情報はほとんどない。とりあえず、先生と違ってそれなりに耐久力はあるから問題はないらしい……うーん。まあ、今は置いとこう。

 シャーレはあくまでもオフィスで、私も泊まる必要があれば整備された東側の区画に行くけど…言われてみれば、確かに最低限の住環境は成立してる。それで率直な感想を述べたら、ハリカからは二度目のジト目をもらってしまった。

「これに関してはミレニアムもそんなに変わらないんじゃ…?ただまあもちろんというか、いろいろ問題が発生しまくったんだよね」

「問題って、具体的にはどんなん?」

「んー…まあ、決定打になったのは、()()()()()()()()()()()()()したやつかな」

「「「え!?」」」「…え?」

 

 …予想外の爆弾が落とされて、キリノとミオと声が揃った。あとさすがにツバキも起きた。…ムツキはにこにこしていて、知ってるらしい。当時既にいたらしいしそれはそうか…いや、それにしたって……

「は、ハリカさん!?それってまさか…み、見られて…!?」

「いや、さすがにちゃんとタオル巻いてたけどね?そこはしっかりしてたから…とはいえ恥ずかしいものは恥ずかしいし、さすがになんとかしたほうがいいなって」

 あはは、と苦笑いを浮かべてるハリカだけど、当時を思い出したのか顔が赤い。…さらっと言われてびっくりしたけど、さすがに羞恥心はあるみたいでなんかホッとした…いや、なんで私がホッとしなきゃいけないのさ。

「それでまあ、先生から居住区の上のほうは使ってないからって提案されて、今に至るって感じなんだよ」

「へぇ~なぁなぁ、今から見に行ってええ?」

「え…いいけど、何もないよ?」

「いやいや~そないなんにもないことないやろ~」

「それがねぇ、ホントになんにもないんだよ、ハリカちゃんのお部屋。最低限でさ~」

「…あ、来た」

 ハリカを挟んでミオとムツキが盛り上がり始めて、私とキリノが手持ち無沙汰になってきたとき、ツバキがむくりと起き上がった。つられて私も、その視線のほうを見れば…

 

「あれ、みんなこっちに揃ってるんだね?」

「あ!おかえり先生!」

「おかえりなさーい…」

「うん、ただいま」

 例のごとく低い音をたてて開いたドアの向こうに、先生の姿があった。

「お疲れ様です先生。直接こっちに来るの珍しいですね?書類はどうしました?」

(にぎ)やかだったからね。書類はまだ鞄の中だよ」

 肩にかけた鞄を軽く叩いて、喉乾いてるからね、このあとオフィスに持ってくよ、とドリンクサーバーのほうへ歩いていく先生に、ハリカがぴったりとついていく……あの距離感、だいぶ見慣れちゃったけどやっぱ近いよね?ハリカのことだし、他意はないんだろうけどさ…。

「あ、あと先生?風紀委員会の夏期訓練の件ですけど…ちゃんと内容確認しました?」

「内容確認?もちろんしてるよ?」

「本当ですか…?ついていくだけでもハードなやつらしいですよ?」

「信用されてないね…それなんだけど、今回はちょっと趣向を変えていくらしいんだ!」

 そしてさっきムツキと話していたことをぶつけていたけど、なんか急に先生の機嫌がよくなった。まるでワクワクを抑えきれないみたいに…パチンと指を鳴らして、珍しいキメ顔まで見せて。

「行き先は…海だよ!」

「…はぁ」

 …ハリカ、そこはもうちょっと乗ってあげようよ。

 

 

 

*1
変な話だけど、彼女の場合むしろこうじゃない時のほうが珍しい





序盤の[【生徒用】シャーレ部員間連絡網]とは別日(翌日ではない)

・ハレ
語り手初登場
弊キヴォトスでは心配の声が多いエナドリ中毒
先にヴェリタスとしてハリカの情報を得ていた。すでに二人シャーレに所属してるのもあって現状保留

・ハリカ
大仰な「特別部員」の肩書きにもだいぶ慣れてきた
前々から考えてたエピソードようやく消化できたよ…色々トラブルもあって自室を確保することになった
お部屋は物欲に乏しいためミニマリスト状態。ヒフミに押し負けたウェーブキャットの抱きまくらが目立つ
先生と距離感近いけど自覚はないので別に(恋愛感情は)ないし(正妻では)ないです。でも弊シャーレはハリカのお陰で湿度が低いかもしれない…知らんけど

・キリノ
仕事熱心なお巡りさん。本日は張り切りすぎて電池切れになってた

・ムツキ
このメンツでは最古参
便利屋コミック入手したけど解像度が上がったかと言われると自信ないかも…

・ミオ
このメンツでは一番おしゃべり
動かしやすいなと思ってたけどオリキャラだからだわ 当たり前だ

・ツバキ
この子が寝る一方で他のみんなが喋る喋る……という状況に危機感覚えたので何度か動いてもらった

・ユウカ・ノノミ
序盤のモモトークのみ登場
しっかり者とおっとりお姉さん

・先生
ウェミダー!!
詳細はまた次回


シャーレとハリカについての話
もともとこれも含めて閑話を3本立てにしようかと思ってたけどさすがに長くなりすぎるのでお預け⇒閑話とこっち初回で2話連続チナツ視点…やっぱなんか緩急つけたいな……この話組み直すか!という流れでした
しかしダラダラ長くなりすぎて草…。



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緊急特務命令


章タイトルを縮めてサブタイトルに引っ張ってくるマジック
懲りずに容赦なく新シリーズを始めてしまったのでちょっと失速気味ですがよろしくお願いします



 

 

バカンスに行きます!!

 ゲヘナ学園、風紀委員会本部。呼び出しを受けて向かった一室にて、呼び出しの主…アコ行政官は堂々とそう言い放ちました。…呼び出された私たちはというと、思わず顔を見合わせるしかありません。

 

「…はい?」

「…?」

「バカンス…?また急だね…?」

「あら…反応がいまいちですね?特に冗談ですとか、そういう訳ではないですよ?」

「いまいちも何も…」

「緊急の呼び出しと聞いて、何のことかと思ったら…。バカンスに行かれるのは構わないのですが、私たちには関係ないと言いますか、それを聞かされても困ると言いますか…」

「帰っていい?」

「ダメですよ!?」

チッ

「舌打ち!?いま舌打ちしましたよね!?」

 ゆらりと身を翻すフユコさんを大声で引き留めるアコ行政官…本当に、これは何の時間なんでしょう…と思っていましたが、

「まあいいけど…で、アコちゃんはどこへバカンスに行くの?」

 イオリにそう尋ねられたアコ行政官が目を丸くして、どうやら認識が違うことがわかりました。

 

「…何を言っているんですか?私の休暇の話ではありません!…というかもしかして私、自分の休暇を自慢するために呼び出したと思われているんですか?」

 ショックです…と肩を落とすアコ行政官…本当にショックを受けているみたいですね。しかしすぐに姿勢を正して咳払いをひとつ、すぐ真剣な表情に戻りました。確かにこのままでは話が進みませんからね。

「今回の『バカンス』というのは、私たち風紀委員会――正確には、()()()()バカンスのことを言っているんです!」

 

 

「委員長の…どうして、出し抜けにそんなことを?」

「それは…最近、委員長の様子がおかしくって……」

 先ほどまでの剣幕をしまったアコ行政官の打ち明け話によると………なんでも書類仕事をこなしていた際、コーヒーをアコ行政官の分と取り違えた上、「アコが淹れてくれたコーヒーは美味しい」と言ったのだとか。…あなたが幻聴を聞くほど疲れているのでは?と思いましたし言いましたが、「しっかりとこの耳で聞いたことです!」とのこと。

 …客観的にはそれの何がおかしいのか?と思われるかもしれませんが、本当なら異常事態なのです。冷徹で寡黙でストイックなヒナ委員長が他人を褒めるところなど、私よりも風紀委員のキャリアが長いイオリやフユコさんも滅多に見ないのだそう。しかも褒めたのは訓練で見せた成果などではなく、コーヒーの味…となると。

「非常事態ですよ!このままでは風紀委員会の存亡に関わります!」

「え、どういうこと?」

「もし仮に委員長が過労で倒れてしまったら……その日のうちに、私たち風紀委員会は壊滅してしまっても不思議ではありません!!」

「いつも言われてるやつね…」

 フユコさんがポツリとつぶやくのが聞こえました。…フユコさんのことですから、誰にとは訊くまでもありません。私たちも遠回しにですが言われましたから…チサキさんに、実力不足だと。

 

「それに、委員長が不在の風紀委員と聞いて、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)が黙って静観しているとは思えません。ゲヘナにおける主導権を握ろうと、嬉々として私たちを押さえ付けにかかるはずです!」

「あぁ~…」

「そうなれば、ゲヘナ学園は…いえ、キヴォトスは史上かつてない混乱に陥ってしまいます!…つまりこれは、キヴォトスの命運がかかった事案なんです!!」

 万魔殿……はぁ、とため息が出るのを抑えられません。いろいろと内憂の多いゲヘナですが、最大の悩みの種と言っていいでしょう。よりにもよって生徒会が。フユコさんもうんざりした表情を浮かべて……今、「あのイブキチャン大好きクラブが…」って聞こえましたね。おおむねその通りでしょうけど言ってて悲しくなりますね…。

「とにかく、何よりも今の委員長にはお休みが必要です!ゆえに、ゲヘナ風紀委員会の行政官たるこの私…天雨アコは、ここに宣言します。すべては委員長と風紀委員会、そしてキヴォトスの未来のために!風紀委員会の行政官として、ここに()()()()()()を発令します!なんとしてでも、あの忙しい委員長にお休みを!!

 まあ、万魔殿はさておいて……アコ行政官はびしっ!とこちらを指差して、高らかに宣言しました。…妙にテンションが高いというか、ずいぶん張り切っているようです。

そんな大袈裟な…」

アコ行政官は委員長のこととなると、時々こうなりますよね…」

「…お休みが必要なことには全面的に同意しますが」

 

 …ただ。おもむろに手を挙げたフユコさんが口にしたのは、この特務を遂行する上で最大の懸念点でした。

「委員長がおとなしくバカンスに行ってくれるとは思えませんね。今まで休暇をとってるところすらほとんど見たことありませんし」

「確かにそうですね…無理に休暇をとってもらっても、数時間後にはなぜか学園にいますし…」

「そうなんですよね……いくら休息の話をしても、いつも『休みならとってる、一日に5分くらい』と…」

「筋金入りのワーカーホリックだからな…」

「もはや動けてるからいいやって感じすらあるよね…」

 …思わず、揃って遠い目をしてしまいます。委員長ご自身が、休もうとしてくださらない…厳密には休憩をとっているつもりのようなのですが…さすがに一日5分だなんて、誰もがそう(休憩とは)意識せずに休んでいるものでしょう。

 …医療行為とてそうですが、まず第一に本人の意思がなければどうにもできないものです。

「…この作戦、開始前からすでに破綻しているのでは…?」

「いえ!…理由がないなら作ればいいのです。委員長も納得するような、特別な理由を…!」

 

 

 

 

 

「…で、シャーレに」

「はい…」

 フユコさんの運転する車内にて、いきさつを聞いたハリカさんはなるほどね…と深くうなずきました。やはりこの人は理解が早くて助かります。

 特務遂行はもはや絶望的では…?とまで思ったものの、アコ行政官は"委員長も納得するような特別な理由"を既に考えていたらしく。それが、今現在こうして先生とハリカさんをお連れして移動している理由になっています。

 

 発端は、先立って万魔殿から要請されていた夏期訓練の計画書でした。…これは額面通り万魔殿が私たちに訓練してほしいのではなく、ただ風紀委員会に無用な労力を()いる嫌がらせの一環だと思われるのですが、まあ無視しても面倒なので毎回従うようにしているものです。もう割り切っていますので、そんな憐憫の目を向けないでください。

 それで、普段は委員長の方針もあって暑熱地域でのかなりハードな訓練が恒例となっていたそうですが…今回はそれを利用し、普段とは違う、海辺での訓練…()()()()、風紀委員長に休暇をとってもらうことにしたんです。

 

「シャーレに依頼を出したのはアコ行政官ですが…普段と訓練場所が違うことを万魔殿から怪しまれないよう、シャーレの超法規的権限を借りた形ですね」

「あぁ…そうなんだ」

「…というか、ハリカさんは先生から聞いていなかったんですか?」

「あんま詰め寄って詳細に聞くほどのことではないかなと思って…。予定は把握してたけど、来ないか打診されて二つ返事だったからさ」

「二つ返事だったんですか?」

「そこはほら、ヒナさんにはなかなか会おうとしても会えないから…けっこう前、美食研究会がトリニティまで出張ってたとき以来になるかなぁ。今の聞いてなおさら戻る気なくなったよ…今日の当番は書類仕事ドリームチームだし、心配はしてないけど」

 書類仕事ドリームチーム…ユウカさん、ハナコさん、イコイさん、ククリさんでしたか。なるほど確かに、言い得て妙ですね。

「あ!見えてきたよ!」

 ふと先生の楽しげな声につられて窓の外を見やれば、建物の合間に空よりも濃い青色が見え隠れし始めていました。…はい。お察しの通り、本日がその夏期訓練の当日なんです。

「あれがキヴォトスの海…」

「ハリカさん、海にはよく行かれるんですか?」

「いや…実はあんまり。私どっちかというと山派だから…川に沿って上流に向かうほうが多かったかな」

「あれ、そうなんだ?なんかテンション低いとは思ってたけど」

「先生が高すぎるんだと思いますよ…。ただ前の学校が海に近かったので、割と見慣れてはいましたけど」

「…そういえば、ハリカさんも外の人でしたね」

「そうだよ、ごめんね溶け込んじゃってて」

 …うっかり忘れてしまっていました。なんだか気恥ずかしい私に対して、当のハリカさんは何でもないようにさらりと流してしまいます。そんな軽い感じで言われては反応に困るのですが…その髪飾り(ヘイロー)の存在からしても、別に構わないということでしょうか。

 

「それはそうと…ヒナさんが重度のワーカホリックなのはわかったけど、今回この海でそれにどう対処するの?」

「今回の訓練計画はアコ行政官とイオリが主体となって練り上げたものです。なのでヒナ委員長は海辺のホテルに()()して、私たちだけでそれを行う予定です」

「なるほど…待って今幽閉って言った??」

「はい…アコ行政官が。そもそも仕事を渡さないことで強制的に休ませるそうです」

「それ本当に休暇…?」

 あきれ顔のハリカさんから、奇しくもイオリと同じ言葉が出ました。確認を入れるみたいに先生のほうを何度か(うかが)っていましたが、先生は苦笑したまま何も言いません。

「確かに、それは私も思いましたが。…委員長はもう何日も寝ていないようなので、やむを得ないかと」

「ソ、ソウナンダァ…こんなにやむを得てほしいことなかなかないけどな……」

「正直、私もそう思いますよ…」

 はぁ…と誰にともなくため息をついて、再び窓の外に目をやれば、青い海は先程よりも近づいてきていました。…先生、窓に張り付きすぎでは?

 

 

 

 

 





・チナツ
一年生ながら呼び出されている有能医療班
考えてみれば最初もサンクトゥムタワー行ってたりするしかなり特別な一年生なんだろうな…っていう
今回(章)は彼女視点が増えそう

・アコ
クール枠の後輩から雑に扱われる行政官

・イオリ
残念っぷりはなりを潜めている実働部隊斬り込み隊長

・フユコ
兵站部の中でもちょっと特殊な立場にある有能ドライバー
もはや当初考えてた"名有りモブ"の欠片もない
なお万魔殿とは若干折り合い悪めな模様
後半にもいるけど普段あまり通らないルートなので集中してる

・ヒナ
やべぇワーカホリック
行政官の提案をのんで海での合宿に向かう、まだ幽閉されるとは知らない風紀委員長(17)

・ハリカ
実家は伊豆半島東岸、四高は浜松。しかし山派
水着衣装の登場予定はありません

・先生
ウェミダー!!(続投)




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閑静な海(ゲヘナ基準)


魔法科のッ!!!TVアニメ3期がッ!!!!来るッッ!!!!!(クソデカボイス)(突然興奮しはじめる著者)
あ、ブルアカは映らない地域です(うわぁ!急に冷静になるな!)



【ハリカ】

 

「ほら、ボーッとするな!企画部と情報部はそこの機材を、5階で作ってるオペレーションルームのところに!」

 白い砂浜に響きわたる声。海を臨むホテルの前に風紀委員一同が集まって、イオリちゃんの指揮のもとテキパキと動き回っている。…この感じ、どうやらホテルは貸し切りになっているらしい。

「みんな手慣れてる感じだね」

「そりゃもちろん。これくらい当然のようにできてもらわないと、ゲヘナの風紀は守れない」

 先生の言葉に少し振り向いて即答するイオリちゃん…ちなみに、この子だけは一足早く水着姿になっていたりする。やる気に満ち溢れてるのかなんなのか…さすがに露出多くない?

「毎週とは言いませんが、訓練は定期的に行なっていますから。まあ、今回の訓練は特殊な形になりそうですが…」

「ああ、ここにいらっしゃいましたか」

 

 ふと横合い…私から見ると先生の向こうから飛び込んできた声。先生の陰から覗き込むと、久々に見る顔があって…私を見て一瞬目を丸くしていた。

「やあアコ!」

「ええ…ハリカさんも、ご一緒なんですね」

「せっかくの海だからね!」

 短めの青い髪に、胸元が(こころ)(もと)ない独特なファッション…風紀委員会行政官のアコさんである。にこやかな笑みを浮かべているけど口許が引きつっている。顔を会わせるたびにこうなんだけど…周辺の人に、というかずいぶん前ヒナさんから聞いたところによると、アビドス関連でお尻を蹴っ飛ばして以来、私はアコさんから苦手意識を持たれているらしい*1。私の方が年下なんたけどな…*2

 …それはそうと、マジで先生のテンションが高すぎる気がする。なんか不安だ…

「…こほん。ともかく、臨時のオペレーションルームの設置が終わったようなので、そちらに移動しましょう」

 

 

 臨時オペレーションルームはホテル内の一室を借りて整備されていた。シャーレ以外のこういう施設ってあんまり見たことないけど、ある程度機器を揃えてしまえばこうやって即席で組めるものなんだな…。

「準備のほうはいかがですか?」

「問題ない。もう準備が終わったところにはとりあえず休憩してもらってる」

「兵站部はもうほとんど終わってるから、何人か他のヘルプに回ってるよ」

「こちらも、医療部の運び込みはおおよそ完了しています」

「では大丈夫そうですね、良かったです。…それでは、始めるとしましょうか」

 アコさんは、懐から「極秘」と書かれたファイルを取り出す。…今ここに集まっているのはアコさん、イオリちゃん、チナツちゃん、フユコさん、そして先生と私。つまり、今回の訓練の真の目的を知る面々のみ。

「うん…それにしてもここ、なかなかいい感じの場所だね?」

「はい、なんといってもここ『アラバ海岸』は、ゲヘナの中でも閑静な場所でして…この1年で発生した事故の数も100件以下。ここ最近で起きた事件といっても海の家での無銭飲食無許可の爆音ライブ建造物建築…それくらいでしょうか」

「それはもう閑静ではないんじゃ…?」

 得意げに言ってるけど、なんか閑静とは真逆のやつが混ざってなかったか…?ただイオリちゃん曰く「これくらいなら子供のイタズラみたいなもの」らしい。ぅゎゲヘナ基準っょぃ…。

「まあとにかく、静かなところがよかったので。なにせ表面的には夏期の合宿訓練ではありますが、私たちの真の目的を忘れてはいけません…静かな場所であればあるほど、ヒナ委員長もゆっくり休めるはずです!」

 おっと、一気に熱がこもってきた。なるほどこれが「ヒナ委員長のこととなると…」のやつ。もちろん、立案者として張り切っているのもあるんだろうけど……ほんと、普段の落ち着いてたり落ち着けてなかったりしてるときとは違う気迫があるな…。

「体裁としての風紀委員の訓練も、まあ何も起きなきゃ私たちだけでなんとかなるか…」

「まあ…そうですね」

「はぁ、しょうがないな」

「しょうがないなんて言ってますがイオリ?貴方どうしてもう水着なんですか?」

 …あ、さすがにツッコミが入った。よかった違和感抱く人他にもいた。当人のファッションもどうかと思うけど。

 なおこのアコさんによる詰問は、先生の「そういえば言いそびれてたけど、水着似合ってるよ!」に遮られることになった。先生…

 

「こ、これはあくまでもその、今回の訓練が海辺だってことで、それに合わせようとしただけで…!その…夏の海に自然な格好じゃないと、問題児たちに警戒されるだろうし…」

「イオリちゃんそれでも結構目立つと思うけどな…」

 木を隠すなら森の中、水着姿に溶け込むなら水着姿…的な?私の髪留めみたいな論理展開だけど、あいにくビーチは閑散としてるんだよね…。それにイオリちゃんはただでさえ"風紀委員会の斬り込み隊長"として広く認識されてるみたいだし、さっきまでホテル前で大声で指揮とってたし…。

「はしゃぎたい気持ちはわかりますが、今回大事なのは皆さんの夏休みではありませんよ!」

「だから違うんだってアコちゃん!?」

「とにかく、今回のメインはヒナ委員長の休息です!皆さんはそれを成立させるためのだと思ってください!」

「うーん言い方」

「今回の計画においては各位の意思も言葉も必要ありません!この夏はただ全力で、委員長を休ませるための歯車になってください!!」

「そ、そこまで言うことある…?」

「ははは…」

 うーん言い方(二回目)。先に聞き及んでいた「ホテルに幽閉」といい、アコさん割と容赦ない言い方するタイプなのか…それともこれがゲヘナクオリティなのか。先生も苦笑い。…もっとも、やる気が(みなぎ)っているアコさんに届く様子はないけれど。

 

「いいですか、委員長を(わずら)わせる事象を限りなくゼロにするのです!どんな騒音も問題も、委員長のお耳に届かせてはなりません!!」

「…そういえば、その当人のヒナはどこに?」

「委員長でしたら、今はもうホテルに。この後4時間はお部屋で…と伝えています」

「4時間も…?」

 よ、4時間……4時間ひとりぼっちは、あまりにも寂しいのではないかと思うんですがそれは??大丈夫?ちゃんと論理的な説得した?

「はい、4時間後にはちょうど戦術訓練が終わって、次の歩行訓練に移る頃合いです。委員長はそのタイミングでお呼びしようかと」

「あ、一応呼ぶのは呼ぶんだね」

「ええ、さすがに怪しまれてしまいますから。ただし、この『歩行訓練』もあくまで名目上のこと…言ってしまえばこれは、ゆっくり海辺を散歩していただく時間です!」

「まあずっと休みっぱだと体力落ちるしね~」

「委員長はそれで納得したのか…?」

「しっかり歩くことも訓練の一種だと、それはもうかなりの勢いで主張しておきましたから!ですので戦術訓練は手早く済ませて、急いでビーチの掃除と整備を行なう予定です!」

 …窓の向こうに負けないくらい熱くなってるアコさんの様子を見るに、よほどの勢いで言いくr…主張、もとい説得したらしい。それってヒナさん納得したというより折れたのでは…?まあ、計画に支障がないならいい……のか………?

 

 

「ところで行政官、ひとつ疑問が…」

「チナツ?どうしましたか?」

「その…良いことではあるんですが、この辺り、あまりにも静かすぎる気がするのですが…ここまで来る途中も、訓練の準備をしている間も、ほとんど誰ともすれ違いませんでしたし…」

「ただのタイミングの問題じゃないか?」

 …そういえば。言われてみれば確かに、このアラバ海岸へ近づくほど人通りも車通りも減っていったように思う。あのビーチに関してはてっきりホテル管理のプライベートビーチなのかと思ってたけど、言いぶりからしてそんな感じじゃなさそうだったし…。

 うーん……目の前のイオリちゃんみたいに水着でうろつけるほどの夏真っ盛り、そんな中でビーチがここまで無人になるか?…これはまさか……いやいやいや。そんな縁起でもないこと考えるのは()そう………なんてぐるぐると考えを巡らせていたら、誰かの携帯が鳴る音。

「失礼、はいもしもし…うん……え?本当?そんなこと……マジで?」

「フユコ?何かありましたか?」

「あぁ…物資調達で外回りしてる子からだけど、この近辺のお店がひとっつも開いてないんだって。コンビニすら臨時休業らしい」

「はい?どうしてそんな…?」

 

 その時、部屋のドアがノックされた。…支配人が直々に?チナツちゃんが入室を促すと、入ってきた正装のロボット*3は表情を明るく(?)した。

「おぉ…フロントでお聞きした際は耳を疑いましたが、本当に来てくださったんですね!ゲヘナ風紀委員の皆様!」

「は…?どういうことだ?」

嫌な予感がする

奇遇ですね、私もです

 思わず目をぱちくりとさせ、顔を見合わせる面々。かく言う私も先生と顔を見合わせたけど…そんな私たちに対し、支配人ロボは困惑した表情*4に切り替わる。――厄介事の気配を察知―――。

「えっと…皆様は、私どもの()()()()を受けてこちらに来てくださったんですよね?」

「…行政官?」

「…へっ!?いえ、私は何も…!?」

「あー…何かすれ違ってるようなので、初めから説明をお願いできますか?」

 ざわつく風紀委員の面々と困惑する支配人ロボ…ちょっと混沌としてきた空間に、判断の早い先生が助け船を出した。…()()()()。なんか物騒なワードが飛び出してきたぞ…?

 

「はい…今、この辺りは大変なんです。もともとスラム街を占拠していたヘルメット団と、最近になって急に現れたスケバンが衝突してまして…。はじめは小競り合いだったのがどんどん過激になってきていて……それで、どちらがこの地域を牛耳る存在となるか、今日…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っているんです!」

「は?」

「それがネット上でも騒ぎになって…方々から面白半分で見物客が集まるとか、どちらが勝つか賭けになっているだとか……それで逆に、この噂を聞いたこの辺りの方々は軒並みお店を閉めて、逃げ出してしまったんです!これでもし、見物客も巻き込んで大暴れなんてことになってしまったら…!」

「………」

 …肩を落とし沈痛な面持ち*5で話す支配人ロボ。一方、こちら側はすっかり無言になってしまった。アコさんがこの世の終わりみたいな顔してる。

「どうか、お願いします!彼女たちの全面戦争を止めてください!」

「「「「全面戦争!!?」」」」

 …さっきは縁起でもないって放棄したけど……まさか、本当に()()()()()()()だったなんて…。

 

 

 

 

 

*1
当たり前

*2
そういう問題じゃない

*3
誤変換ではない

*4
(○○u)

*5
推測





・ハリカ
キヴォトスの海にやってきた。やっぱり海水の組成とかも同じなのかな…詳しくないけど
ヒナ委員長強制休暇大作戦に先生共々協力中。大丈夫かな…とか思ってたら斜め上の方向から大丈夫じゃなくなった。これが嵐の前の静けさか~(遠い目)

・イオリ
中心的存在の2年生
驚異の早着替え中

・チナツ
医療部の中でどういう立ち位置なんだろうな…

・アコ
委員長(トップ)ガチ勢のナンバー2
委員長のために張り切るあまり表現力のストッパーが故障中
しかし前途多難……ガンバ☆

・フユコ
兵站部長ではないです。念の為。シャーレが風紀委員会にある程度認められてる証左みたいな特例扱い。本人は特になんとも思ってない模様

・ヒナ
このあと4時間ほど幽閉される

・先生
ウェミダー!とか言ってる場合じゃなくなってきたなこれ




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